うちの嫁鯖が病んだ件 (VISP)
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プロローグ またの名を共通部分

KEY(ドM)さんとのリクエスト合戦で書いた作品です。

Q つまり?
A FGOでヤンデレもの?できらぁ!

そういう作品です。

「こんなのうちの嫁鯖じゃない!」
「うちの嫁はもっとデレデレだ!」
「うちの嫁がヤンデレな筈がない!」

等の意見をお持ちの方はブラウザバック推奨で。
それでも良いという方のみどーぞ。




 

 

 

 人理修復も終わり、カルデアもその難行を9割方終えた頃の話。

 

 

 「おーうマスター!今夜一緒に飲まねーか?」

 

 人類最後だったマスター、藤丸立香(20)の前に唐突に大人で槍のクー・フーリン(通称五次ニキ)が現れ、そんな事を宣った。

 

 「どうしたの?藪から棒に。」

 「いやなに、マスターも昨日成人して、酒が飲める年になったんだろ?だったら早めに限界覚えといて損は無いと思ってよ。」

 

 くいくいとエアお猪口をする様はまるっきり気の良いあんちゃんだが、彼はこんなでもアイルランドの光の御子(決して太陽の子ではない)、クランの猛犬で、実は結構な教養と気品、それ以上の実力と経験を持った大英雄なのだ。

 今は戦いでなくオフの時間な事もあり、こうして気を抜いているのだが、一度レイシフトすれば常に警戒を怠らず、勇猛果敢かつ平静に戦闘可能な全カルデアの頼れる兄貴なのだ。

 

 「……それに、早めに限界覚えとかねぇと、溶岩水泳部とかがな?」

 「……ちなみに他のメンツは?」

 「安心しな。男だけだ。」

 「よし。折角の兄貴からのお誘いだし、参加してみるよ。」

 「応!んじゃ今夜食堂に集合な!時間は…」

 

 こうして、マスターの人生初の正式な飲酒が決まった。

 だが、楽しい宴が地獄の釜の蓋を開ける様な事態になるなんて、この時は誰も想像していなかったのだ。

 

 

 ……………

 

 

 お子様サーヴァント達や職員ら、そして規則正しい生活をしているサーヴァントらはとっくに寝付いた時刻。

 そんな真夜中にはちょっと早い時刻に、食堂には大勢の男性サーヴァントとそのただ一人のマスターが集まっていた。

 

 「やれやれ。マスター、飲酒の加減を覚えた方が良いのは真実だが、何もこんな遅い時間でなくても良かろうに。」

 「固い事言うなって。それにお前さんだって、何だかんだつまみ作ってるしよ。」

 「これはマスターが悪酔いしないようにだよ。断じて貴様のためではないぞ、クランの猛犬。」

 

 和気藹々と会話と共に楽しむ者。

 静かに少しずつ楽しむ者。

 据わった目で只管ジョッキで呷る者。

 つまみをメインに楽しむ者。

 そして、恐る恐る酒を口の中で味わう者。

 深夜の静かな宴会は、明かりを普段の強めのものを暖かくも目に刺さらない光度に変え、穏やかなBGMを流している事もあって、普段の酒豪共の宴会よりも遥かに慎ましく感じられるものだった。

 だが、派手な宴会よりも色んな酒をちょっとずつ楽しむマスターにとっては、この雰囲気はちょうど心地よいものだった。

 なお、この食堂の調整とつまみの準備等は全てカルデアのおかんことエミヤ(弓)の提供である。

 各種酒類はレイシフト先で集めたものか密造したもの、外部から購入したものを各々で持ち込んだ。

 

 「よーぅマスター。飲んでるかー。」

 「うん、それなりにー。」

 

 陽気な五次ニキの言葉に、僅かに頬を赤らめたマスターが答える。

 

 「の、割には酔ってる感じしねぇな?」

 「そりゃまぁ。マシュと契約してる関係で、対毒スキル持ってるし。」

 

 そのため、マシュ本人よりもアルコールへの耐性は強い(事実、特異点でマシュが酔っぱらってるのに、マスターや耐性のある鯖は無事だった事もある)。

 事実、マスターの前には小さいながらも結構な数のショットグラスが置かれており、酒に弱い成人男性なら既に酔い潰れかねない量を飲んでいた。

 

 「限界覚えようにも、現状これじゃなぁ…。」

 「おーいマスターにお兄さん方!」

 

 現状じゃ無駄みたいだしそろそろお開きにするか?

 そう考え始めていたマスターとエミヤ、五次ニキの所に、一人の好漢がやってきた。

 彼は新宿のアサシン、真名は控えるが、その発見された特異点から新シン(中華鯖だがパンダではない)と呼ばれる男だ。

 特徴的な入れ墨と美貌、気さくで明るく、実力も経験もあり、何より抜け目がない。

 時折うっかりやらかすが、それだってご愛敬。

 召喚されてまだ日が浅い部類だが、するっと皆の輪の中にいるのが彼だ。

 

 「そんなこったろーと思って、持ってきたぜ奇々神酒!」

 

 そして、その好漢は喜々として貴重な素材を宴会の酒として持ってきやがりました。

 

 「こらシンシン!勝手に素材保管庫から持って来ちゃダメでしょ!」

 「だからオレはパンダじぇねーっての!良いだろ、晴れの日位!」

 

 思わずマスターが叱るも、マスターの初飲酒記念日なんだろいーだろ!と言う新シンの言葉に、どうせだから皆で飲もう、瓶一つは多過ぎるとなって以前から興味はあっても素材だからと手を出さなかった酒飲み共から歓声が上がるのだった。

 

 

 ここまでは良かった。

 ここまではこの場の全員が記憶があったのだ。

 ここから先は異性や規律に厳しい人なら眉を顰める様などんちゃん騒ぎにハッテンした覚えがうっすらあるだけで、その場の全員がよく覚えていない。

 しかし、この場にいなかった者達はしっかりと覚えているのだった。

 

 

 ……………

 

 

 きっかけは、マスターの自室での一言だった。

 

 「待ち合わせの時間までは……まだあるか。シャワー浴びて仮眠しとこっと。」

 

 彼の利用するベッドの下と天井裏、そしてクローゼットの中と机の下。

 溶岩水泳部とかわいいくノ一からなる「マスターを陰からお守りし隊」のメンバーは、その言葉に驚くと同時、すぐさま情報収集に走った。

 結果、幾人かのサーヴァント、それも男性のみで夜遅くにマスターの成人祝いの酒宴が催される予定なのだと判明した。

 

 「私達も参加すべきでは?」

 「いえ、これは男性だけの催し。私達が参加してはあの子の楽しみを邪魔する事になります。」

 「私だと、下手に参加しては犠牲者が…。」

 「とは言え、酒の場は暗殺には絶好の場。護衛も無しには…。」

 

 この噛み合ってるのか違うのか分からないが、マスターへの愛と忠義に関しては突き抜けてる面々は、そこで一つの方策を思いついた。

 

 「よろしい。聊か行儀が悪いですが、あの子らの会話を盗み聞きさせて頂きましょう。」

 「それで大丈夫なのでしょうか?」

 「幸い、酒宴に参加するのは皆実力者です。何かあってから駆け付けたとしても最低限間に合うでしょう。」

 「待機するのは勿論隣室で、でござるな。」

 「では直ぐに準備しましょう。」

 

 こうして、「マスターを陰からお守りし隊」はまたいらん事を始めるのだった。

 

 「ほっほーう。」

 

 そして、そんな面白おかしい事を、とある女神が見つめていた。

 

 「見-ちゃった見-ちゃった★ジャガーの戦士は見-ちゃった★」

 

 そう、その名も高きジャガーマン!

 中南米よりやってきた、ジャガーのナワル(精霊っぽいもの)を宿した疑似サーヴァント。

 ☆3なのにガチで☆5相当の火力を有する☆詐欺勢の一角だ!

 なお、選考基準は聖杯戦争関係者の中で最も野生的な者だゾ。

 

 「これはそう、サーヴァントとして見過ごせないなぁ。マスター君の危機かもしれないしー。」

 

 んーと悩んだ末、存在そのものがカオスな神霊鯖(低コスト)は一番やっちゃいけない事をした。

 

 「よっし!桜ちゃんに相談しよーっと!」

 

 なお、現時点(亜種特異点3までクリア)での桜顔のサーヴァントは三名のみ。

 その中で、こんな面白い事に首突っ込みそうなのは、一人だけである(俯き)。

 

 

 ……………

 

 

 「と言う訳で、BBちゃんによる皆のための素敵な盗聴タイム!はっじまっりでーす★」

 

 あっさりと事態を把握したBBはより事態を混沌かつ愉快な方向に持っていくため、万全な状態での盗聴を確保するためと称し、たった数時間で用意を整えた。

 具体的には食堂の隣の空き会議室を勝手に改造し、監視カメラもクラッキングして、お酒やお菓子も持ち込んで、正に万全な状態でマスター達の痴態を楽しむ準備を整えたのだ。

 観客にはマスターラブ勢を始め、大勢の美女・美少女サーヴァントが犇めいている念の入れ様。

 おまけにお酒の中にはチートを駆使して対毒耐性を抜けるものも交ざってます!

 これでマスターが普段隠してる事をあの手この手で入手できる!

 流石はBBちゃん、素敵に無敵でデビルである。

 

 が、後にBBちゃんはこう思う事となる。

 

 「やっべ、私とした事がやり過ぎちゃいました★」

 

 

 ……………

 

 

 小さな宴の内容が、まるで映画館の様な暗室に大画面で表示されている。

 その映像を見るのは子供系サーヴァントや職員、この催しに嫌悪感を見せそうな真面目な人物、そして宴の参加者を除くほぼ全てである。

 勿論、そこには事の発端となった溶岩水泳部+1、そして我らが後輩マシュ・キリエライトも参加している。

 

 (もし先輩にとって不名誉な情報が出回りそうなら、どうにかして途中で中止させないと…!)

 

 が、その内心は彼女らしい義憤に溢れてのものだが。

 勿論、主催者側もそんな事は承知済み。

 

 (だがしかし、事が始まればそんな彼女の決意なんて風船の様に飛んでいくだろーから問題なーし★)

 

 そんなこんなで、遂に盗撮上映会は始まったのでした。

 当初は色んな酒をちょびちょび飲んでいたマスターと色々おすすめするおかんの姿だけだった。

 しかし、新シンの持ってきた奇々神酒を飲んだ辺りから露骨に酔い始めた。

 流石は「大いなる神に捧げるために永い時を費やして造られたこの貴重な酒は人ならざる怪物や魔獣をも陶酔させる」とか言われる酒である。

 マスターが元々それなりに酔っていた事もあるのだろうが、それにしたって凄まじい。

 

 「ごくり……。」

 

 酔っぱらい、頬を赤く染め、普段よりも子供っぽくなったマスターの姿に、幾人かのサーヴァントが生唾を飲み込む。

 さっきまでつまらなそうにおつまみや酒、菓子類をつまんでいた面々もその視線を酔ったマスターの映像に向けている。

 その視線はさながら肉食獣、元々現代っ子で草食よりなのが我らがマスターである。

 彼女らからすれば、今の彼は頂かれるのを待つだけの獲物に見えている事だろう。

 順調に欲望のボルテージが上がる中、遂に致命的な話題が上った。

 

 

 『所でマスター、一体誰が好みなんだ?』

 

 

 ガタガタガタガタ!

 思わず立ち上がった溶岩水泳部。

 しかし、それを止める者はいない。

 この場にいる面々で、王様愉悦部も含めて、それを気にしていなかった者はいない。

 何せもうすぐ彼ら英霊は座へ戻る予定なのだ。

 最後の最後にマスターとのアバンチュールを…!

 そんな欲望を持つサーヴァントは多いのだ。

 

 『おいランサー、流石に下世話だぞ。』

 『固い事言うなって。それに、このまんまじゃずっと抱え込んだままだぞ?』

 『むぅ……。』

 

 このままではマスターは一生告白できなかったという後悔を抱えたままになる。

 それが人生を歪める可能性がある故に、その場にいた面々は酔いが深い事もあってだが、この世界を背負うには未だ若いマスターに本音を吐き出させようと思っていた。 

 

 『すきなひと、かぁ……。』

 

 茫、と視線を宙に向けながら、マスターが呟く。

 上映室のボルテージは既に最高潮、全員が最大限その耳をすませて、一字一句逃さず聞く態勢を整えていた。

 次の一言でカルデアのサーヴァント達は不可逆の変化に見舞われると分かりながらも、それでも全員が聞かずにはおれなかった。

 そして、遂にマスターはゆっくりとその口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ノッブの場合 前編  あとがき追加

今回はダダ甘です。
次回こそヤンヤンです。
文字通り、死んでも離してくれない奴()


  その時、「なんかBBが映画上映するってー!」という茶々の言葉を聞いて、グダグダ組(飲み会に参加してる副長&もう寝た魔神さん除く)はあっさりとお菓子とお茶とお酒を持って、BB主催のこの上映会へと参加した。

 で、そこで漸くリアルタイム盗撮上映会だと知ったのだが、「ま、是非もないよネ!」と言ってそのまま参加した。

 マスターと男サーヴァント達が泥酔し、ついには恋バナ始めるに至っては「女子会か!」と言って大爆笑し、後日これをネタに如何にからかうか楽しみにしながら鑑賞していた。

 だが、

 

 

 『ノッブがいちばんすきかなぁ。』

 「は?」

 

 

 酒に酔って赤い顔でたどたどしい口調で語るマスターの言葉に、知らずノッブの口から疑問の声が漏れていた。

 なお、同じく疑問の声を漏らしていた者は多数いたが、その声は全員底冷えしていたりする。 

 

 

 『ノッブってさ、いつもはぐだぐだしてるけど、ちがうかおがたくさんあるんだ。』

 

 

 そこからは始まったのは、幼気な口調となったマスターの惚気という名の独演会だった。

 上映会を見る女衆も、酒宴に参加している男衆も、見たことのないマスターの姿に興味津々だった。

 

 

 『まじめなときは、かりすまあってごうりてきで、とってもりりしくて。

  かとおもったら、おとこっぽくてめずらしいものずきで、とってもかっこよくて。

  ふだんはぐだぐだーってしてて、でもふとしたしぐさがすごいきれいでさ。

  それにあまいものとかかわいいものすきとか、すごいおんなのこらしいところもあって…。』

 「流石はマスター。伯母上の事よく見てるわー。」

 

 

 叔母と姪の関係である茶々がぽつりと零す。

 天才的で、合理的で、傾奇者で、珍しいもの好きで、身内には駄々甘。

 そして、戦国大名であり、武士であり、女性である。

 そんな複雑怪奇な属性が闇鍋の様に混ざり合い、しかしそれぞれ完全に混ざり合う事なく、奇妙な調和を保っている。

 そんなカオスそのものの内面を正確に言い当て、しかもそれに惚れているのだと微笑む事ができる男がこの世にどれだけいるのだろうか?

 

 「んで伯母上は……言うまでもないか。」

 

 普段のノッブなら、恋の告白なんてされようものなら、笑って誤魔化すか断るだろう。

 或いはちょっと凄んでみせて、相手の怯えた様を見て、未熟者と嗤うだろう。

 だが、今の彼女はどちらも出来なかった。

 ここまで正確に己の内面を言い当てる事が出来たのは、彼女の生前において片手の指に満たない。

 そして、それが出来た者は家臣か難敵で、決して彼女に男女の意味での好意を抱く事は無い関係だ。 

 

 何よりもマスターが自分の事をそうも見事に理解してくれた事に喜びを感じている自分自身に驚いていた。

 

 「~~~っっ!??!?」

 

 知らず赤く染まった頬を両手で抑え、顔を俯かせていた。

 そんな常ならあり得ない自分に茶々を除くこの場の面々から視線が集中するのが分かるが、今のノッブはそれ所ではなかった。

 

 (え、え?なにわたしなんでこんな、え?)

 

 混乱のためか、脳内の口調が遠い昔、吉法師として知られる以前の本当の幼少期、或いは蘭丸と同衾する時位で、ここカルデアでは今はいないが信勝位しか知らない一人称だ。

 人生50年過ぎても、英霊として現界した今の彼女は20も過ぎぬ娘の体。

 思考もまたそちら側に大分引き寄せられている事も加味しつつ、その天才的な頭脳(熱暴走気味)で思考する。

 

 (マスターは私の我儘とか大騒ぎにいっつも付き合ってくれて…あれ?その頻度、他の英霊とかよりも多い?おまけにちょくちょくあっついボイラー室に顔出すか食堂に連れて来てくれるし、レイシフトのメンバーの時はほぼ毎回マシュと一緒にだし…。)

 

 なお、イベントとか相手が槍属性じゃない場合、マシュと共にほぼいつも編成に入っている(後半組だが)。

 これは彼女の持つ神性特攻のためだが、それと同じ位にマスター個人の嗜好でもあった。

 勿論、絆レベルはカンストしてるゾ。

 

 (やばいやばいやばい!アイエエエ、ナンデ!?マスターが私に惚れてるナンデ!?)

 

 脳内で忍殺語が出てくる程度にはテンパっているノッブだったが、続く一言に完全に凍り付いた。

 

 

 『でも、ノッブはオレのことそんなふうにみてないから、いえないんだぁ…。』

 「は?」

 

  

 音自体はさっきと全く一緒なのに、そこに込められた感情と意味は天と地程の違いがあった。

 知らず、その言葉には極寒と錯覚する程の威圧感が込められていた。

 

 

 『ノッブはさ、にほんでいちばんゆうめいなひとで、すんごいだいみょうで、だいろくてんまおーだからさ…。

  おれみたいなふつーのひとがこくはくなんてしたって…。

  それに、みんなもうすぐかえっちゃうからよけいにおもしになるかなって…。』

 「なにそれ。」

 

 

 そこまで聞いて、もう信長は止まらなかった。

 人理を救ったお前が言うのか、英霊達と絆を結んだお前が言うのか、私と共にあったお前がそれを言うのか。

 激情のまま知らず知らずの内に立ち上がり、その身から炎を噴き出し始めていた彼女に、更に追い討ちがかかる。

 

 

 『おーあの第六天魔王様をねぇ…。』

 『確かに高嶺の花だが…マシュでなかったのが意外だな。』

 『ましゅもだいすきだよー。』

 「は?」

 

 

 再び、上映室に極寒の威圧感が満ちた。

 

 

 『ましゅはさーおれとずっといっしょにたびしてくれて、ずっとまもってくれたんだ。

  ほかのみんなにもかんしゃしてるけど、でもやっぱりましゅがいちばんなんだ。』

 『の割に好きなのは盾の嬢ちゃんじゃねーのな。』

 『ましゅはさ、まもってあげたいんだ。まもってもらったぶんだけ、たいせつにしたいの。』

 「………。」

 

 

 マスターの言葉に、ほんの少しだがノッブの怒りも下がる。

 しかし、続いた言葉によってそれも吹っ飛んだ。

 

 

 『だからさーましゅがのぞむことなら、おれはなんでもしてやりたいんだ。

  それくらいのごほーびがあってもよいとおもう。』

 「先輩…!」

 

 

 予想通り、制止そっちのけで感動するメガネの後輩の姿を見て、ノッブはやはり最大の強敵はこやつじゃな、と認識を新たにした。

 マスターがそういう意味で言っているのではないとしても、自分がいなくなれば残るのはマシュだけ。

 結局は出来レースに近い状況であり、マシュは悠々とマスターと恋人としての絆を育める。

 

 それはつまり、今の信長が抱いている感情を踏み台にするという事に他ならない。

 

 「………。」

 

 聞くべき事を聞いた、ならば残るは行動のみ。

 問題に対しては即断即決、果断な判断力を持つ信長は、最適な行動を取るべく上映室の出入り口へと向かう。

 

 「何処へ」

 「行くのですか?」

 

 不穏な気配を察知してか、素早く溶岩水泳部(の中でもヤベー二人)が立ち塞がり…

 

 「茶々、沖田。」

 「おっまかせー!」

 「あーもう!後で奢りですよ!」

 

 カリスマ全開の信長の声に、茶々と沖田の二人が即応し、襲い掛かろうとしていた頼光と清姫の二人を止める。

 

 「く、どきなさい!」

 「どかない!伯母上の恋の行方がかかってるんだから!」

 「シャァぁ!」

 「申し訳ありませんが、斬ります。」

 

 突然始まった戦闘に、一部のサーヴァントが巻き込まれながらも、全員が遠巻きに事態を見守る=野次馬となって観戦する。

 

 ((((だって他人の色恋沙汰って楽しいし。)))))

 

 まぁ英霊って言っても人間で女性だしネ是非もないネ。

 

 「く、邪魔しないでください!」

 「お断り申す!お館様の想いが叶うこの機会!邪魔立てさせる訳にはいきませぬ!」

 

 なお、残りの一名と+αの間では仲間割れ?が起きていた。

 

 「邪魔じゃな。」

 

 戦闘で通れない入口に見切りをつけると、信長は実体化させた火縄銃を連射させ、食堂の方向の壁を破壊した。

 それを数回繰り返して通り抜けると、あっさりと目的地へと付いた。

 即ち、食堂で泥酔中のマスター、藤丸立香の下へと。

 

 「おい、起きろ。」

 

 つかつかと軍靴を鳴らして近づき、うとうとし始めたマスターの胸倉を掴み上げる。

 突然の事態にギョッとしたエミヤ(弓)が止めようとするも、傍らの五次ニキに止められる。

 見れば、周囲には既に火縄銃が20丁近く実体化しており、邪魔をしようものなら即座に発射される状態だった。

 威嚇でも牽制でもなく、一発目から水平射撃である。

 五次ニキなら兎も角、エミヤ(弓)ではこの近距離では流石に危険だった。

 

 「あれ、のっb」

 「少し黙れ。」

 

 マスターが、立香が口に出来たのはそれまでだった。

 まるで食らい付く、否、真実そういった意味合いだった。

 これは自分のものだ、誰にも渡さん。

 断固とした所有欲を、執着を見せつける様に、信長は立香の唇に噛み付く様にして吸い付いた。

 

 「「「「「「「「「おおおおおお!」」」」」」」」」

 「「「「「「「「「ああああああ!?」」」」」」」」」

 

 そこかしこで歓声と悲鳴が上がるが、しかし当人達の視界には今互いの事しか映っていない。

 噛み付き、唇を吸い、開いた口内に舌を捻じ込み、思うが儘に蹂躙し、味わい尽くす。

 逆の立場だったら間違いなく強姦とか性犯罪でしょっぴかれる様な蛮行に、しかし観客らは(戦闘していたサーヴァント含む)固唾を飲んで見守った。

 やがて立香の息が続かなくなった頃、漸く濃厚に過ぎる最初の口吸いは終わった。

 立香の唇からは血が出ており、先程の口吸いで唇を噛み切られた事が分かる。

 

 「っ、げほ!ノッブ、なんで…!」

 「いい立香?一度しか言わないから、よく聞きなさい。」

 

 痛みと酸欠で流石に酔いが覚めたのか、先程よりもしっかりとした言葉遣いと瞳で見てくる立香に、第六天魔王でもなく、戦国大名でもなく、武士でもない信長が、吉法師が満足気な笑みを浮かべ、告げる。

 心からの言葉を、単なる女の子としての思いを、自分を理解してくれた優しい青年に。

 

 

 「貴方は私のもの。私は貴方のもの。天魔や魔王と呼ばれる身ではありますが……どうか幾久しく、この吉めをお側にお置きくださいませ。」

 

 

 軍帽を取り、床に尻餅をついた立香の前に自身も身を正して座り、三つ指ついて頭を下げる。

 誇り高く、情が深い彼女がそうする意味を、立香は遅まきながらも気付いた。

 これが、彼女なりのプロポーズだという事に。

 

 「俺も、ノッブが、吉が好きです。ずっと一緒にいてください。」

 

 立香の言葉に、吉姫はゆっくりと頭を上げると、その美貌に艶然とした笑みを浮かべて宣言した。

 

 「撤回は聞きません。死んでも一緒にいますからね、お前様。」

 

 こうして、深夜の大騒ぎは一応の結末を迎えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なお、その後

 

 「誰ですか。こんな深夜に大騒ぎをして、職員や子供達の健康を害そうとする輩は。」

 

 この後いっぱい治療(物理)された。




く、くそうヤンデレとか久々だから上手く筆が乗らない…!
だが準備は整った。
これで次回こそヤンヤンに入れるぞ!

なお、この話のノッブはLv100、フォウダブルマ、スキルマ、絆10のガチオブガチ仕様です。


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ノッブの場合 後編

なんか思ってたのと違う???
書いてる内に筆が滑った!


 それからの日々は、一見にして平和だった。

 

 最後の亜種特異点の発見を待ちながら、訓練や勉強、親しんだカルデアでの日常を過ごす日々。

 時折、「またか!?」という感じで極小特異点とかを発見してレイシフトしなければならない事もあったが、それ以外は至って平和な日々。

 正式に交際を始めたマスターとノッブも、表向きは一緒にいる時間が以前よりも増えただけで、特に変わっていない。

 しかし、それは表向きだけ。

 裏向きはしっかりと変化していた。

 

「ふふふ……」

 

 夜分遅く、マスターの部屋には今、恋人同士の男女がいた。

 二人の肌には汗が浮き、互いに服を着ていない事からも先程までナニをしていたのかは明らかだった。

 

「我が背の君……」

 

 余韻と疲労に息を荒げる恋人に、普段はノッブと言われている少女はうっとりとした目に艶やかな女の笑みを浮かべながら、ゆったりと彼の頭を撫でている。

 母親や目上の人間がやるものではない、また別の慈しみを込めたそれに、マスターは気持ち良さそうに目を細めた。

 

「吉……大丈夫? 辛くなかった?」

「ふふ、貴方様も心配性ですね。サーヴァントなんだから、体力は私の方が上なのに」

 

 未だ服も着ずにピロートークを語る二人は、極普通の恋人同士のようだ。

 しかし、普段の二人を知る者がいれば目を丸くする事だろう。

 普段は悪友とか戦友のノリな二人。

 それがここまで恋人らしく、しかもノッブの方は普段は一切気取らせない高貴な女性らしい所作や口調をしている等、極親しい身内以外は知る由もないだろう。

 

「さ、寝る前に汗を流しましょう。このままじゃ明日には酷い事になってしまいますよ?」

「ん、そうだね、軽くシャワーでも……」

 

 そうして、もそもそとツインベット(恋人になってからシングルより変更)から二人が起き上がる。

 その時、ノッブもとい吉姫の美しい肢体についつい目が引き寄せられ、風呂場で第二ラウンドが開催されるのだった。

 

 

 だが、二人が備え付けのシャワー室に移動する時、ノッブが天井とクローゼット、ベッドの下に優越感たっぷりの嘲りの視線を向けた事に、マスターは全く気付かなかった。

 

 

 ………………

 

 

「うーん……」

 

 最近、他の人と話す機会が減ったなぁ、とマスターは思った。

 まぁ、自分は現場で動く立場で、他の職員は基本バックアップ、サーヴァント達は思い思いに過ごしているので、会わない日も当然あるのだが。

 

 「それにしたって少ないような…?」

 

 今まではちょっと通路を歩くだけで、誰かしらと遭遇していたのに。

 

 「ん、どうしたんじゃマスター?」

 

 そこに、少しの間だけ別行動していたノッブが現れる。

 いつもの様に上機嫌でハイテンションな、皆の知っているノッブ。

 しかし、その瞳に茶々に向けるそれとはまた違った愛情が込められているのが、マスターには分かった。

 

 「ううん、何でも。」

 

 すっと手を差し出すと、満面の笑みでノッブは手を取り、すっとその身を寄せる。

 その所作は既に先程までの奔放かつ豪胆、果断にして冷徹な戦国武将のものではなく、良家の子女の其れ。

 こういった多面性に、知れば知るほど奥深く味わい深い恋人に、マスターはゾッコンなのだった。

 

 「では行きましょう。」

 「うん。」

 

 仲睦まじく歩いていく二人。

 不意に、ノッブはすっと後ろに視線を向ける。

 そこにはマスターに声をかけようとした職員がいたのだが、その前に浴びせられた殺気に身を射竦められていたのだ。

 まるで蛇に睨まれた蛙、否、龍に睨まれた蛙の様なものだった。

 時代の寵児、戦国大名織田信長にとって、普段は戦う事は決してない職員など、視線一つでどうにでもできた。

 その意味はただ一つ。

 

 

 『邪魔をするな』

 

 

 これに尽きる。

 元より、彼女はこの第二の生というものが奇跡の上に成り立っているのを知っている。

 次なんてない事も、もし召喚されても良い主とは限らない事も知っている。

 実際、帝都に召還された際には召喚した魔術師を殺害している記録もある。

 だからこそ、このチャンスを、この幸福を逃がさず、少しでも満喫するために行動する。

 永遠なんてあり得ないけど、少しでも長くこの恋/夢が続きますように。

 それだけが今の彼女の願いであり、それを邪魔する者は決して許さない。

 他のサーヴァントらもその辺に気を配っているのか、以前よりもマスターに近づく事はない。

 無論、子供系鯖とか例外はいるが、溶岩水泳部とかもいるので、気が抜けない。

 なお、茶々からは「伯母上気にし過ぎ」とため息をつかれていたりする。

 

 「ねぇ貴方様、今夜は水着を着てみましょうか?」

 

 重い重い愛と執着を、しかしそうとは悟らせずに、かつて吉と呼ばれた少女は封じていた女としての幸せを噛み締めるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「? 先輩、虫刺されですか?」

 

 ある日、わいわいと変わらずの大賑わいの食堂で、不意にマシュがそんな事を言った。

 同時に、食堂の喧騒が一瞬だけピタリと止み、しかし直ぐに元の喧騒を取り戻す。

 明らかにその耳をこちらの会話に振り向けているのが分かる。

 特に物見高い連中なんて顔が半笑いだ(特に槍ニキs)。

 

 「あはは、多分昨日ついた奴だね。後で虫刺されシールでも貼っておくよ。」

 「? 私の記憶では昨日は特にレイシフトやシミュレーションを行った記録は無かった筈ですが…?」

 

 マシュの優秀さが今ここでは仇となった。

 で、どんな言い訳すんの君?

 そんな視線が四方八方から突き刺さっている気がする。

 マスターの蟀谷を冷や汗が伝う。

 く、こんな時に役に立ちそうな口の上手い連中は全員観客に回ってやがる…!

 思考が空回りばかりして、上手く口が動かない。

 えぇい笑ってんじゃないよ王様ーズ!

 

 「ん、どうしたお主ら。」

 

 そこに自分の食事をもらってきたノッブが現れる。

 いや、そのニヤニヤした口元を見るに、マスターの困った顔を堪能していたのだろう。

 完全にタイミングを読んでの登場だった。

 勿論座る席はマスターの隣、マシュの向かい側に近い場所だ。

 

 「信長さん、実は先輩の首に虫刺されがあるんですが、何処でついたか見当がつかなくて…。」

 

 ここカルデアは年中雪と氷に閉ざされた僻地、というか極地にある。

 そんな場所に普通の虫、それも人を刺すような虫は入り込めない。

 レイシフト先なら話は別なのだが……無論、これは蚊の仕業ではない。

 

 「あーそれなら簡単じゃよっと。」

 「ッ!?」

 

 一瞬にやりと口の端を歪ませてから、ノッブは隣に座っていたマスターの首、そこにある件の虫刺されの痕へと唇を重ね、かぷりと噛み付いた。

 いきなりの飯時の暴挙に、流石のマスターもビクン!と体を震わせる。

 が、いつの間にか伸ばされていたノッブの腕に体を抑え付けられていたため、それ以上動く事はない。

 誰もが呆然と注目する中、ノッブは思う存分マスターの首筋に暴挙を続ける。

 

 「ふふ甘露甘露。」

 

 ちゅるり、と僅かに出た血をまるで極上の美酒の様に舐め取りながら、ノッブは漸く口を離した。

 マスターの首筋には小さな歯型状の鬱血痕が残っており、件の虫刺され痕を完全に上書きしていた。

 

 「ほら、これで虫刺されは消えたでしょう?」

 

 その後の事は、マスターは思い出したくはない。

 一言で言うなら、マスターlove勢VS聖杯7個持ちによるガチ喧嘩と言えば分かるだろう。

 鎮圧と食堂の復旧に必要となった手間で、その日も疲労困憊になるのだった。

 

 

 ……………

 

 

 始まりがあれば終わりもある。

 そんな当たり前の事、最初から気付いていた。

 気付いていても、それでも目を反らしていた。

 

 織田信長という英霊は、少なくともこのカルデアに召喚された個体は、英雄としての側面で召喚されながらも、その内に若き日の側面と幼き日の側面を持っている。

 その多くの側面を見て惹かれていったのがカルデア唯一のマスターであり、ひたむきで純粋な少年と青年の間にいる彼の旅路を見て惹かれていったのが信長だ。

 だが、彼と彼女は互いにこの関係が死ぬまで続くものだとは思っていなかった。

 英霊とは、サーヴァントとは役割を果たせば座へと帰る存在であり、人間とは未だ生き、しかし老いていく者だ。

 即ち、別れは必然だった。

 

 第四亜種特異点セイレムを解決した後、そして直後の恒例のクリスマス特異点を解決した後。

 多くの英霊が既に座へと退去した頃、二人の恋人は今生の別れを惜しんで、最後の夜明けまで蜜月の時を過ごしていた。

 

 「吉…。」

 「んふふ」

 

 幾度口吸いをしても、その肢体を掻き抱いても、欲望を吐き出しても、それでも立香の涙は止まらなかった。

 かつて一度マシュを亡くしたと思った時と同じかそれ以上に、今の立香の胸には避け得ぬ別離への悲しみがあった。

 

 「あぁ……貴方様、私の背の君…。」

 

 その苦悩する様子を信長という英雄ではなく、最も幼き頃の吉という姫はうっとりと美貌を溶かし、しかし烈火の如き眼差しで見つめていた。

 

 「離れたく、ない…っ!」

 

 立香の腕の中で、苦悩と絶望、愛情と執着に染まった容貌を見て、その内心は歓喜に震えていた。

 

 

 あぁこれだ、これが欲しかったのだ!

 人類史にて最後にして恐らくは最大のマスター、ただ一人の自分のマスターに英雄としての己ではなく、一人の女としての自分を刻む事!

 仮初の肉体でも、仮初の生であっても良いから、自分という女をその生涯に渡って愛させる!

 他の誰でもなく、英雄としてのワシでもなく、女としての私を!

 芯の強すぎるマスターなら、自分を抱えて歩いていく事もあろう、他の女人に愛される事もあろう。

 しかし、彼の心にあるのは何時だって私だ、他の女ではなく私だけなんだ!

 

 

 「大丈夫。いつかまた会える日が来ますから、ね?どうか笑顔で送り出してくださいまし。」

 

 大よそ叶う可能性の低い約束。

 しかし、この一途で凄まじい意志力を持つ立香なら、それは死ぬまで続く契約となる。

 その間、自分と同じ程立香の心に入り込める女は出て来ないだろう。

 

 (まぁ名探偵や大天才やらが何か企んでおるらしいし、そう間を置かず再会できるじゃろ。)

 

 そんな打算を弾きつつ、吉姫は最後までマスターとの一夜を楽しみ、最後は穏やかに黄金の魔力光となって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ハ、まさかワシの男に手を出す小娘がいるとはな。」

 

 半壊し、施設の半分近くが氷漬けになったカルデアに、その英霊はいた。

 赤く、紅く、朱く、轟轟と燃え盛る紅蓮の炎を纏う女武将。

 その名も高き織田信長。

 ここカルデアで人理修復の旅に同行した最古参のサーヴァントであり、最後のマスターの恋人。

 しかし、今ここにいるのはかつての彼女ではない。

 七つもの聖杯を身に宿した結果、彼女は変性した。

 最も強く、最も美しく、最も恐ろしく、最も賢く……

 一騎の英霊でありながら、全ての「織田信長」の可能性と向けられた畏怖や恐怖、怨嗟等の業を内包した概念に近い存在。

 大名であり、武士であり、天才であり、傾奇者であり、魔王である。

 矛盾した多くの可能性を内包し、しかし、全ての信長が持っていた「愛情」という感情を軸に、その存在はこの世界のただ一人のために顕現した。

 今の彼女の名は魔王信長。

 化天を超え変生せし神仏衆生の敵、三千大千天魔王なのだ。

  

 「…ま、さか、まだサーヴァントがいたとはね…。」

 

 ごぽり、と血を吐きながら、白い氷の皇女が言う。

 既にその四肢はズダボロであり、首を握られ釣り下げられた状態で今も出し続けている冷気は魔王信長には通じない。

 そも、彼女は人の形をした炎にも例えられる存在、この程度の冷気は通らない。

 

 「さて、我が背の君は何処かのう?あやつの事だから、どっかで生きてるじゃろ。」

 

 皇女の首を握ったまま、魔王信長は先日まで友軍であった職員らの屍を踏み越えて歩き出す。

 もしも状況が許すなら、それこそ鼻歌まで歌い出しそうな上機嫌で。

 

 「やはり我と背の君の間には、真っ赤な糸が伸びておるようじゃなぁ…。」

 

 うっとりと、艶やかに笑みを浮かべるその美貌は、アーチャーの織田信長の頃と一切相違ない。

 ここまで変わり果てておきながら、彼女の芯は今も一切ぶれていない。

 以前見た記録との余りの乖離に、氷の皇女は背筋に氷柱が入ったかの様にゾッとする。

 

 (カドック、どうやら私達じゃ勝ち目は無さそうよ。)

 

 心中での独白は勿論聞こえない。

 例え聞こえていても、彼女の行動は変わらない。

 

 「あははははははははははははははははははははははははははッ!!二度も奇跡があったのだ!我らが出会えぬ道理無し!」

 

 上機嫌に哄笑し、破壊された施設内を無人の野が如く闊歩していく。

 もう、彼女は誰にも止められない。

 止めるべきサーヴァントは敵味方問わず既におらず、倫理観もこの漂白された世界では意味を成さない。

 或いは、七つもの聖杯を身に宿す彼女なら、彼女こそが新たな異聞帯を作り出す事すら不可能ではない。

 

 

 「今度こそ最後まで添い遂げようなぁ背の君。」

 

 

 逃がしもしない、逃げられもしない。

 そして彼も逃げようとはしないだろう。 

 こうして、真に魔王となった信長は胸に抱いたただ一つの思いのために、漂白された世界へと足を踏み出した。

 

 

 

 




なお、再会後は和服良妻ムーブに戻る模様
夜の生活では美幼女からモデル体型美女までの変身を活かして凄い盛り上がります。


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刑部姫の場合

 「まーちゃんは、ずっと色んな事を抱え込んでたんだね…。」

 

 エリちゃんのお誘いでカルデアに召還された私こと刑部姫にとって、カルデアという場所は想像以上に居心地の良い場所でした。

 そこに暮らす職員らは善人で、尚且つ自分の職務に忠実で。

 召喚された英霊達も何だかんだ気の良い人達が多くて(絶対に反りの合わない人や格上過ぎる人達も多いが)。

 何よりも中心にいるマスターことまーちゃんが、本当の意味で正しい人だったから、この場所はこんなにも暖かいのだと思った。

 

 「まーちゃんまーちゃん、優しいまーちゃん…。」

 

 メル友の玉藻ちゃんや清姫ちゃんも狙ってるのは知ってたけど、それは私もだった。

 すぐに目を奪われ、「ないないこの私が有り得ない」と目をそらして、それでも目を離せなくて、気付けば彼を見ていた。

 でも、ただアタックするだけじゃダメだってのはすぐに分かった。

 私みたいな城化け物、狐とか土地神とか言われてるけど、自分自身でも混ざり合ってよく分からない事になってる化け物じゃ、女神とか女王とかに叶う訳がないもの。

 と言うか、歴史上の偉人、実は女性でしたケース多い、多くない?

 いや、ネタが増えたから良いけどね。

 それは兎も角、ライバルが多くて皆凄いんだったら、それに張り合うよりも持ち味を生かすべきだよね。

 昔って言う程じゃないけど、昔の人は良い事を言ったよね、「競うな、持ち味を生かせ!」って。

 なので、私は私が好きな事で自然とまーちゃんにアピールしてみる事にしました。

 

 そう、まーちゃんの大好きなラノベやゲームに漫画、そして炬燵等の現代日本文化を提供する事にしたのです。

 

 日系の現代文化にも精通しているのはサーヴァントの中でも極一部で、それを提供できるのは私以外誰もいなかったってのも大きいけどね。

 まーちゃんは普通の子で、普通に暮らしてた。

 たまたまそこにいて、適正があり、資格があったから。

 抑止力だっけ?そーゆーののせいで、まーちゃんは英雄なんて修羅道に引きずり込まれちゃった。

 それでもまーちゃんは頑張った。頑張って頑張ってここまで来れた。

 でも、それはまーちゃんが傷ついていない事とイコールじゃない。

 人理が燃えちゃってた間はまともに漫画やゲーム、ラノベの新作を読む事が出来ず、専ら地下の図書室や過去の電子情報を漁ってたって言うんだから、姫にはちょっと耐え難いかなって。

 だから、そんなまーちゃんの少しでも癒しになれば良いと思って、そしてあわよくば私の事を見てくれればって下心で、私のコレクションなんかをまーちゃんに貸してあげたの。

 

 それからはまーちゃん、随分と通い詰めるようになったんだ。

 

 オタクっていうか、そういう人種って無理に誰かとコミュ取る事とか嫌な訳でして、自然に話せるけど必要ないなら話さないのが昔のまーちゃんだって前にちょこっと言ってた。

 だから、ゲームや原稿や薄い本読んでる私や水着の邪ンヌちゃんにくろひーとかが無言でいても、まーちゃんものんびり炬燵で休んでるだけ。

 無理にサバの人達相手にコミュする必要も無ければ、気を遣う必要もない。

 そんなのんびりとした、言ってしまえば職場から実家に帰ってきたみたいな気分をまーちゃんに味わってほしかった。

 

 勿論、まーちゃんが通い詰めてるんだから、他のサバの子達もちょくちょく来たよ?

 でも現代のゲームとか漫画とか薄い本とかの文化なんて、野外で体動かして精一杯生きてきた時代の人達にはあんまり合わないのか、余り通い詰める事はなかったけど。

 例外は征服王さん達とその部下の先生とか、ぐだぐだ系の人達かな?  

 偶に自主ブラック業務終えた賢王様とかも来るけど…あの人は死んだ様に眠るだけだから静かだし。

 

 ん?その状態からアプローチしたかって?勿論したよ。  

 ただし、直接的なものは一切無しで。

 

 だって、そういうのはもう神代の人とかが大抵やってる訳で、まーちゃんはそーいうの全スルー済み。

 加えて、無垢に慕ってくる子供達やマシュちゃんとかも下心無しな訳でして。

 だから、まーちゃんが私の部屋に来たら、必ずまーちゃんの視界の何処かにはいるけど、自分からまーちゃんに積極的に構うことはしなかった。

 でも逆にまーちゃんから構ってくる場合は、積極的に相手をするの。

 勿論嫌な顔せずに、何時間だってお相手するの。

 これを飽きずに繰り返して、繰り返して、繰り返して、繰り返すの。

 

 え、よくそんな根気強く続けられたねって?

 当たり前でしょ。

 恋は戦争で、戦争には基本的に禁じ手なんて無いんだから。

 但し、国際条約は守るけどね。

 他のライバルの子達はどうだったって?

 相変わらず過激なアプローチはしてたけど、まーちゃんにはあんまり効いてなかったみたい。

 勿論まーちゃんだって性欲はあるし、女の子にチヤホヤされるのは好きみたいだけど、限度だってあるし、

 

 何より、そんな全く違う時代と地域に生まれた人と、夫婦としてやっていけると思う?

 

 普通の同じ時代同士の国際結婚だって大変なのに、古い時代の英雄様だよ?

 人格的に問題ないマシュちゃんだって、無垢で世間知らず過ぎて、奥さんとして家の事任せたりするのはかなり不安だよね?

 加えて、マシュちゃんって基本指示待ちな所あるから、まーちゃんに何かあった時はかなり不安もあるし、ね。

 別にそれが悪いって訳じゃないよ?

 ただ、今後の事を考えると、ね?

 

 そんなこんなで、私はマーちゃんに私の存在を刷り込み続けました。

 

 結果が出るのはまだまだ先の事だけど、それでも私なりの努力はし続けた。

 マーちゃんに日本人としての日常生活をずっと意識させ、そこに私も必ずいるようにってね。

 即効性もドラマ性もないけど…まぁ城化け物の私なりに出来るアプローチなんてこれ位だしね。

 そんなこんなで一年以上経過した後、遂にその結果が分かる日が来ました。

 そう、例のBB主催の盗撮上映会!

 主催がBBちゃんって時点であ(察し)なもんだから、私もはらはらどきどきだったよ。

 マーちゃんには悪いけど、皆して固唾を飲んで見てたよねー。

 いつもみたいにタブレット片手にネタにならないかって姿勢をしつつ、内心はホントにもう心臓バクバクだったけど、他の皆も大なり小なりそんな感じだったから、気付かれる事はなかったみたいだけどね。

 

 

 『おっきーがいちばんすきかなぁ。』

 「」

 

 

 あの時は心臓が止まったかと思ったね。

 原因は嬉しさと周囲からの殺気(特にきよひー)。

 その後は即座に逃げ出したんだ。

 流石にこのままじゃグサー待ったなしだったから。

 

 

 でもまぁ、これもある程度は計画通りだったんだけどね。

 

 

 基本的にヒッキーでオタな私がマーちゃんが好いてるからって即おk?

 無いね!絶対にへたれるね!(自慢げ)

 加えて、ここで引いておけば、ちゃんとマーちゃんが自分の気持ちを自覚した上で行動してくれるでしょ?

 ヘタレな私を白服のマーちゃんが迎えに来てくれるって、本当にお姫様みたいだし、我ながらナイスプラン。

 ん?もしマーちゃんが来なかったら?

 マスターっていう職業に就いてるマーちゃんが自分のサーヴァントを、しかも自分が原因で引きこもった子を見捨てる?

 それこそ有り得ないよ、マーちゃんの慈悲と懐はチョモランモとベーリング海峡並に凄いんだから!

 んで、後は前みたく城に引き籠った所をマーちゃんが私を迎えに来てハッピーエンド。

 後の諸々の面倒事は、マーちゃんと一緒に解決っと。

 未だ依代であるお城が現存してる私なら、カルデアがどうなった所で後はどうとでもなるってね。

 

 

 ……………

 

 

 「いやホント、マジでよくやってのけたわねあの子。」

 

 食堂で適当にショートケーキをつまみつつ、鈴鹿御前は呟いた。

 目の前には仲睦まじく食事を共にする刑部姫とマスターの姿がある。

 最近は割と自室(夫婦向けに改装)で食事をする二人だが、ちょいちょいこうして食堂にも出てくる。

 その様子を一部のサーヴァントはぐぬ顔で見るのだが、その一部以外は普通に好意的だったり、話しかけてもいる。

 

 「まさかのハーレム許可とか、予想外よねー。」

 

 ぱくり、と上に載っていたイチゴを一口。

 もし刑部姫がそう宣言せねば、彼女の友人である清姫を中心に、カルデアに血の雨が降っていた可能性すらあった。

 小通連の効果でそれを見通していた鈴鹿はその点を警告したのだが、刑部姫から先の説明と共にあっさりと対対策案を出され、紆余曲折の末に今現在も二人は仲睦まじく暮らしている。

 なお、第二夫人のトップバッターはマシュだったりする。

 流石はデンジャラスビースト、抜け目がない。

 

 「ま、幸せにね。同じ狐系としては応援したげるわ。」 

 

 こうして、カルデアの恋模様はただ一人を除いて予想外の形になったのだった。

 

 

 

 




ひっきーで腐女子なおっきーなら、旦那を薄い本の資料集めのために誰かと絡ませそうだなと思ったのが切っ掛けでした。
同時に、正面から誰かと戦うより、誰も気付かないし毒にもならない罠仕掛ける位はしそうだとも。


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