兎の知らない銀竜の話 (ちなデ)
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1.灰色の空の下で

贔屓がアホみたいな試合をしてしまったのでブチギレ投稿。
後悔は後でするタイプ


下ろし立ての制服に手を通す。

 

白を基準としたソレは、

制服にしては派手過ぎるんじゃないかと思う。

とりあえず誰かの葬式があったとして、この制服じゃ行けないよなぁとか、どうでもいい事を考える。

 

次は下だ。

 

俺としては最後の抵抗で、ズボンタイプを所望したが、

あのロクデナシと書いて姉と読むが当然の如く却下。

俺の元には当たり前の様にスカートタイプ。

 

交渉の余地は無かった。全身の穴から血を吹き出して絶命すれば良いのに(オブラート)

 

嫌々ながら本当に渋々とスカートを履く。

そんでもって、部屋の姿見にて最終確認。

 

腰ぐらいの長さがある癖の強い銀髪は、

そのままだと不格好なため、後ろで一つに括ってる。

邪魔だから切りたいと言えば、くたばれの一言で返される。括ったのは俺なりの抵抗だ。

 

改造が許されるという学園指定の制服。

個性を出す気が無いので、当然無改造。

そして、膝丈ぐらいのスカート。

 

…どう見てもただの女生徒にしか見えない。

 

近くで見てた、諸悪の根源と書いて姉と読むが嗤う。

これから精々頑張りなさいと。

 

去って行く背中を、俺は強い憎悪を込めて見つめる。

どうかアイツがロクでもないお亡くなり方をします様にと。

 

 

入学前の、1コマだった。

 

 

 

 

1. 灰色の空の下で

 

 

 

 

左の席で、一心不乱に仮想キーボードを叩いている水色髪の少女越しに空を見る。

 

教室から見えるソレは、青一つ無い模様。

今朝観た天気予報曰く雨は降らないらしい。

 

成る程見事な一色だ。

こういうのを灰色の空と言うのだろう。

詩的だ。だが無意味だ。

 

「席に着いてるな。HRを始める」

 

教室に入って来たのは、茶色ボブっぽい髪の女性。

おそらくこの人が担任だろう。

 

「日向(ひゅうが)だ。本日からこの1年4組を受け持つ事となった」

 

教壇に立ち、威風堂々と名乗る。成る程只者では無い気を纏ってる。元は代表候補生だったとか?後でググッてみよう。

 

「私のクラスからは、一人の脱落者も出す気は無い。君達も、そのつもりで着いてきてほしい」

 

と、先生は教壇を降り

 

「よろしく頼む」

 

と、見事な礼をした。

30度。一般的に、敬意を持って行われる礼だ。

 

呆気に取られる教室内。

だがその心意気に胸を撃たれたのか疎らに拍手が起きる。その波は大きくなり、やがて教室全体に巻き起こる。

鳴り響く日向コール。涙してる人も散見される。

何だこの状況。

 

隣の席でひっそりと、仮想キーボードを叩いてた水色眼鏡も、この時ばかりは手を止めていた。

 

かくいう俺も同じく手を叩く。この先生に着いて行こう。心無しか、空の隙間から青が覗いてる様に見えた。

 

「ありがとう。では改めて自己紹介をしてもらう」

 

騒ぎを止め、【あ】から順に…、と言いかけた所で先生が止まる。

 

何かを思案してる顔。伝え忘れが有ったのだろうか。

 

「ふむ、その前に私から一つ」

 

態々自己紹介の時間を削ってまで伝える事だ。

何よりあんな生徒思いの先生が言う事だし心して聞くとしよう。

 

「皆、瑞雲は好きか?」

 

………は?

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

 

「いい加減にして下さい!」

 

日向先生による【楽しい瑞雲講座】は、唐突に現れた女性のお手本通りの3点バースト射撃により終わりを迎えた。ゴム弾だからセーフらしい。

 

既に1限目も半分以上過ぎてるし、そもそも自己紹介前に話す内容なのかとも思ってた訳で、隣の水色眼鏡は再びキーボード叩き始めるし、俺はやっぱり空を見てた。

先程青が見えると言ったな、すまん気のせいだったわ。

 

「副担任の春田(はるた)です。日向先生が謎の体調不良により倒れてしまったので、ここからは私が引き継ぎます」

 

体調不良なら仕方ない。あったかくして寝てほちい。なお現実は冷たい床の上。教室の隅とも言う。

 

「改めて自己紹介……は、時間がありませんね…。では、クラス代表と副代表をこちらから指名させて頂きます」

 

曰く、近々行われるクラス対抗戦に参加する代表者でもあり、生徒会や委員会が開く集まりにも参加する、いわばクラスの顔役。

 

んで、副代表とはその代表のサポーターって事らしい。

 

まぁ、専用機を持ってる訳でも無く国家代表候補生ーー所謂ISバトルの国際大会での国の代表の候補ーーでも無い俺が指名される事はまず無いだろう。自己紹介の時間をすっ飛ばしたおかげで一切クラスメイトを把握して無いけど、2-3人くらい名の知れた人ぐらいいると思うし。

誰が選ばれるか、高見の見物させてもらうわ。

 

「代表は更識簪さんにお願いします」

 

更識って誰?と思ったら、隣の水色眼鏡がものすんごい動揺した。クラス中が思わずこちらを見るレベルに。想像してくれ。俺含めた29人×2の目線が一斉にこっち向くんだぜ。普通にコワイ。水色改め更識もそりゃビビりますわ。(他人事)

 

「それで副代表ですが……お隣の高峯此方(たかみねこなた)さんにお願いします」

 

そんで次に呼ばれた名前に、俺は一瞬遅れて反応してしまう。クラス中の目が一斉に俺の方に向く。他人事と高を括ってたからに、心構えなどしてるはずも無く、情け無くビビってしまった。

 

水色も俺を見る。コイツが高峯か……とか思ってるんだろうなぁ。

 

「代表に選ばれた二人はお互いに協力し、クラスの皆さんは、そんな二人を支える様にして下さいね」

 

チャイムが鳴り、HRが終わる。

 

春田先生は気絶もとい体調不良で教室の隅に放置されてた日向先生の首根っこを引っ張って教室を後にした。

 

春田先生を怒らせてはいけない。

このIS学園に来て、最初に学んだ事だった。

瑞雲は知らん。

 

 

※change

 

ISーーーー正式名称インフィニット・ストラトス。

 

その速さは既存の戦闘機を置いて行き、力は戦車など相手にならず、それでいて搭乗者は、既存の兵器の何よりも安全というチートスペック。

 

既存の兵器を過去にした、戦闘用外骨格(パワードスーツでも可)。それが世間一般の常識。

 

この【世界一安全な兵器】が、元々は宇宙開発用に造られた事を知るのは、機体の作製者とその友人。一部の研究者達だけであろう。これも全て白騎士が悪い。詳しくは【白騎士事件】でググろう。

 

さて、チートスペックじみたISだが、唯一の欠点があった。

 

女性にしか動かせない事だ。

 

この事がきっかけで、女>>>男の図式が出来上がり、所謂女尊男卑の風潮が高まっていったのだが、それはまた別の話。

 

重要なのは、女性にしか動かせない。

 

……はずだった事だ。

 

 

「り…遼来々!」

 

「泣く子も黙るとはどういう了見だ!!」

 

今しがた、少しアレな自己紹介をした少年を、黒スーツの女性が出席簿でしばく。

 

彼こそが、世界初の男性操縦者。名を織斑一夏という。

 

藍越学園に受験する予定だったが、当日道に迷い、彷徨った挙句IS学園の受験用に用意されていたISを起動させてしまったのだ。名前が似てるから仕方ないとは本人談。

ともかく、こうして彼は一人目の男性操縦者として、連日お茶の間を賑わすのである。

 

とあるニュース番組では徹底解剖と称して彼の事がある事ない事取り上げられ、深夜の報道番組ではいつも通り専門家がダニの話をし、ネット掲示板では【二人目発見www】という釣りスレが定期化した。

 

そんな混乱の中、程なくして二人目の男性操縦者が見つかったと発表される。

とある掲示板では、釣りと思われてたスレから本当が出てきてしまい、ちょっとしたお祭り騒ぎになったとか。

これはすこぶるどうでもいい話である。

 

「少し良いかな?」

 

出席簿による物理と衝撃波(担任が有名人という事実に伴うクラスメイトの歓声と悲鳴)による特殊攻撃でHPはほぼ空になり、体力回復のため仕方なく机に突っ伏していた一夏は、突然声をかけられた。

 

「ああ……確か高峯だっけ?」

 

「そうだよ織斑君。一応二人目って言われてる、高峯彼方(かなた)だ」

 

銀の髪を首元で切り揃え、赤い縁の眼鏡をかけた、下手すると少女にも見えるその人は、笑みを浮かべながらその手を伸ばす。

 

女所帯の中で、数少ない…どころか二人しか居ない男。同じ境遇同士、仲良くしない理由が無い。少なくとも、彼ーー織斑一夏はそう思えた。

 

「ああ、彼方。これからよろしくな」

 

彼としては、特に何も考えず自然な笑みを浮かべ、伸ばした手を受ける。所謂握手だ。

 

「っ……うん…よ…よろしくね?」

 

何故か顔をほんのり紅く染めながら、そう答えた。

 

 

この物語は、たまたまISを動かしてしまった二人の異常な少年が、IS学園という全寮制のほぼ女子校で送る、愛と勇気と姉弟の物語ーーーー

 

 

 

 

ーーーに、なるかもしれない

 




【TIPS】
・日向先生
1年4組の担任で無類の瑞雲好き。海軍に所属してる相方が居るらしい。容姿のイメージはスーツ着た艦これの日向。

・春田先生
1年4組の副担任。だが力関係だと担任より上だったする。偶に学園内のカフェでコーヒーを入れていたりする。イメージはドルフロのスプリングフィールド。

・織斑姉弟のやり取り
三国志繋がり。一度使ってみたかった。


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2.運命の足音

単独2位記念
なお今夜の相手


 

突然だが、織斑一夏は良くモテる。

当たり前の様に女性にだが、男性に惚れられる事も、稀によくある。

 

そして彼はドが付く程鈍感だ。故に彼を想う女性からのアプローチは気付かない。彼の友人である、まな板(中国産)からの執拗なアピールも、全スルーしたという経歴を持つ。

兎に角彼は、女性からの好意についてはトコトン気付かない。

 

しかし悲しかな、男性から自分に向けられる熱っぽい視線には何故か敏感だ。

 

これは彼が中学時代に、勘違いしたホモ(ゲイ、同性愛者とも言う)に襲われた事による、哀しき防衛本能なのだ。

 

余談だが、彼はそれ以来自分を襲ってきたホモと同じ体系の全身筋肉質人間を見ると、震えが止まらなくなるという。

 

兎に角彼は、ホモには敏感なのだ。

 

 

「やぁ、さっきは災難だったね」

 

先の時間クラス代表を決める話し合いが行われた。クラス中はこれ幸いと、男である一夏が良いと指名。なお、もう一人は副代表に立候補したため、空気を読んで指名されなかった。

強かである。

 

その流れにイギリスの代表候補生、古き良き縦ロールが眩しい、セシリア・オルコットが反発すれば、男が代表などという反対意見と調子に乗って罵倒の嵐。

 

ブチ切れた彼はすぐさま反抗。そしてなんやかんやあって、己の意地とプライドとクラス代表を賭けて決闘する事となったのだ。どうしてこうなったと、彼は頭を抱えていた。これを自業自得という。

 

「やっちまった…」

 

売り言葉に買い言葉とはいえ、仮にも相手は代表候補生。

ISでの決闘の行方など、結果は火を見るより明らかだ。只でさえ、入試時の模擬戦でしか動かした事が無いのに。

 

「後悔してるの?」

「啖呵切った事に対してな」

 

二人目が問えば、一人目が答える。

 

「じゃあどうするの?今から謝りに行く?」

「冗談じゃない」

 

ーーウジウジしてても仕方ない

 

後悔するのはここまでだ。

自分の頬を思いっきり叩き気合いを入れる。

 

「こうなったらやってやる」

 

ーー逃げ出すなんて男が廃る

 

決意一つ。その目には闘う意思。

 

その姿を見た二人目は、切り替えの早さに呆気に取られつつも

 

「そう…だね。見返してやらないと」

 

熱に浮かされた様な表情で、そう言った。

 

ーー外見だけじゃないんだ。

中身まで……カッコイイなんて…

 

言葉にこそしなかったが、その想いを一人目は、なんとなく感じてしまい

 

ーーコイツ…マジかよ

 

図らずも浮上してしまった二人目の疑惑に、彼は折角の決意が萎んでいくのを感じてしまうのであった。

 

 

 

 

2.運命の足音

 

 

 

お優しい春田先生と瑞雲……違った、日向先生が退出した休憩時間、4組の面々は大きく2つのグループに分かれる。

 

1つは、男性操縦者を見に、1組へ特攻しに行くグループ。クラスの7割は既に教室に居ない。なんという事でしょう、10分休憩とは思えない程、教室ががらんどうだ。

 

この調子だと他のクラスもこんな様子だろう。1組前の廊下とか、通勤ラッシュ時の都内電車顔負けの人口密度になってそう。

 

男女比率が33:4…じゃなかった99:1のほぼ女子校。その中に居る男という異質。一度生で見たいと思うのは必然。とは、今しがた出てった名の知らないクラスメイト談。

 

はたして気分は動物園のパンダか?

それとも満員のスタジアムでプレーする

スポーツ選手?

…否、サーカスのピエロが一番しっくり。

一歩間違えなければ(・・・・・・・)、俺もそっちに居ただろう。そう思うと、彼には心底同情する。強く生きろ。

 

さて、もう一つのグループだが、こちらは単純に、席が近いクラスメートで交友を深めてる者達だ。

 

まぁ、急いで見に行く必要も無いだろうとか、元々興味がないとかいう人達だろう。俺もそうだし。

 

だが、このちらちら見られてる感はどうも慣れない。教室の隅っこに銀と水色が並んでる。俺ら二人、あまり見無い髪色は、教室に残った人らの興味を引くのには十分だった。

 

とりあえず、好奇の視線を華麗にスルー。俺も周りを見習って、となりの水色とよろしくやろう。相変わらずカタカタやってるけど。

 

「少し良いかな?」

 

声をかけると、ビックン!…っと面白い程にわかりやすい反応。

そして恐る恐るとこちらを見る。

 

「……何?」

 

声が冷たい。キンキンに冷えてやがる。

だが気にせず特攻だ。折れたりしない!

 

「更識さん…で、良いんだよね?」

 

そうだけど……と、彼女は呟く。

いや、HRの一件で図らずしも名前を知ったけど、念のための確認だ。ファーストコンタクトで名前を間違えるとか、BADコミュ一直線だし。

 

「ワタシ高峯。よろしくね」

 

俺は警戒心を抱かせない様に、出来るだけ笑みを浮かべながら手を伸ばす。所謂握手の体制だ。

 

「……更識簪…」

 

少しポカンとした後、彼女はおずおずと俺の手を取った。掴みは上々。

 

「クラス代表戦、頑張ってね。ワタシも副代表として、精一杯サポートするから!」

 

「……うん…」

 

話題の一つとして直近のイベントを挙げたが、彼女の返事はなかなかどうして芳しく無い。

 

深く追求しようと思ったが、まだ良いか。

 

とりあえず、隣人とお知り合いになれた俺は、その後の会話の中で彼女が日本の代表候補生という事実を知る事になる。

 

ーーーーー

 

 

瑞雲とはーー水上偵察機を発展させ、急降下爆撃可能な水偵として開発……って違った。

 

何故かあの担任が、授業中にサブリミナル瑞雲をするせいで、ISより瑞雲に詳しくなりそうだ。奇跡的に専用機とか貰ったら、是非搭載してみよう。

 

 

何かに毒された気もするけど昼休みである。

 

 

なんとかメイトだけでお昼を過ごそうとする隣人に対して、焼きそばパンと野菜ジュースをそっと差し入れた後、一人屋上へと足を運んだ。小声でありがとうと言われ、不覚にもキュンときた。俺、卒業したら子犬を買うんだ。

 

それはそれとして、学園の屋上は常時開放してるとの事。

 

だが、お昼は学食派が多く、放課後は基本的に部活か寮かアリーナの三択なため、わざわざ屋上に立ち寄る物好きは居ない。日向先生が言ってた。

 

つまりは、以外と人が立ち寄らない隠れスポットになっていたりする。一人になりたい時にはもってこい。

 

ポツンと置いてあるベンチに腰掛け、購入したコッペパン(税込100円)を頬張る。

 

…うん、ごく普通のコッペパンだ。具体的には、家族市場とか7-11で売られてるのと大差無いのが。

 

国の税金ドバドバのIS学園いえど、ここまでは手を付けなかったらしい。

 

内心ガッカリし、明日から学食にしようと決めた頃、扉の開く音がした。こちらに向かってくる足音。ベンチは扉を背にする設計なので、姿は見えない。

 

「見つけた」

 

背中から声をかけられ、振り向く。

 

深い茶髪に縁なし眼鏡、特徴的な赤いカチューシャにまな板(日本産)を装備ーーー

 

「…失礼な事考えて無い?」

 

「何の事でしょうか」

 

出来る限り澄ました顔で言う。

何故バレたし。相変わらず無駄に鋭い。

 

「そんな事より!」

 

そんな事で済まされた。良い判断だ。

個人的にも、ソコは引っ張る所じゃないと思う。

 

さっさと本題に入ろう。次の言葉は、大体予想出来るから。

 

「何でそんな格好(女装)してるの!?趣味なの!?変態なの!?」

 

「断じて違う!!」

 

国産まな板ーー岸原理子の発した言葉を、俺は全力で否定した。

 

 

※change

 

何故か差し入れられた、野菜ジュースと焼きそばパンを頬張りながら思う。

 

ーー不思議な人。

 

私が彼女に抱いた印象は、そんなんだ。

 

後ろで括った、癖のある銀の長髪を靡かせた、隣の席の彼女

 

授業合間の休憩毎にもずっと話しかけてくるし、カロリーなんとかでお昼を終わらせようとしたら何か買ってきてくれた。

 

曰く、そんなんじゃ足りないとか。

…お母さんかな?

 

兎にも角にも、そんなに気にして世話を焼いてく彼女。当然、意識せざるを得ない。

 

焼きそばパンを受け取る前に、何故こんなにも構うのか聞いてみた。

 

「友達だから…かな? それに、副代表でもあるし」

 

銀髪を靡かせ、見惚れる様な笑顔で、そう言った。不覚にも少しドキッとしてしまった。

 

ーーあの表情はズルイ

 

気づけば私はキーボードを叩く手を止め、彼女の事ばかり考えていたのであった。

副代表の仕事に代表の世話が入ってた記憶は無いけど。

 

…初日からボッチだった私に構ってくれた。

やむを得ない事情があるとはいえ、初日から周りをガン無視してひたすらキーボードを叩く人に、誰が話しかけるのだろうか。私もそう思う。

 

ただでさえ目立つ髪色、そしてあの姉。

更にこの性格と相まって、クラスでも一人で居るだろうなと諦めてた。

 

だが、副代表にもなった銀の隣人は、私の思想など関係無く交流を深めてきた。

 

…私とばかり話すものだから、彼女自身の交友が疎かになってるのは気付いてるのだろうか。

 

話してる最中にも、チラチラとこっちを伺ってる人も散見されたし。目立つ所だと、ピンク髪と金髪とか。勿論名前は知らない。

 

「…友達…か」

 

その一言だけで、彼女の事が頭から離れなくなる。

 

ーー私って…もしかしてチョロい?

 

そんなバカなイヤ違うでもだってそうでもない。

 

結局、疲れた顔の彼女が帰って来るまで、

私は延々とその事ばかり考えていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 




【TIPS】
・織斑一夏
ホモに敏感なだけで別に男嫌いではない

・まな板(中国産)
プロポーズ紛いもスルーされる可愛そうな人

・二人目
ホモでは無く純愛

・33:4
な阪関無

・次の言葉は、大体予想出来るから
変態扱いされるのは予想してなかった

・ピンク髪と金髪
女好きと厨二病のコンビらしい


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3.流れ行く雲に

最近忙しい。
具体的には優勝争いに食い込んできた贔屓の応援と
某炎の紋章の発売で


灰色の空に手を伸ばす。

 

その手は流れ行く雲を掴む事は出来なかった。なお、このポエムに意味は無い。ただの現実逃避だ。

 

「それで?納得出来る理由があるんでしょうね。何も無ければキミはそういう趣味という事になるけど」

 

一気に捲し立てる国産まな板(眼鏡付き)。

そう言った後、ソイツは無駄に良い笑顔で宣言する。

 

「安心して! キミがそういう趣味を隠し持ってたとしても、私達の友情は変わらないから!……でも少し距離は取らせてもらうかも」

 

「距離取った時点で友情に変化が起きてるんだよなぁ」

 

何やら腐れ縁の変わらぬ友情に感涙した、そんな昼下がりである。

 

 

 

3.流れ行く雲に

 

 

 

俺、高峯彼方には2人の姉が居る。

 

一人は年の離れた姉で、長女の高峯乃亜。

数年前に姿を消したはずだが、知らぬ間にアイドルになっていた。

 

芸名は高峯のあ。

サイケデリック系アイドルとして活動していたが、たまたま出演した公演で圧巻の演技力を見せ、それが大受け。

現在は女優業を中心に活動してるらしい。

姉弟仲は悪くない。サインも持ってる。というか押し付けられた。

 

もう一人は双子の姉、次女の高峯此方。

俺の天敵で、こんな所にこんな格好で入る事になった元凶だ。

 

この姉は事あるごとに俺を敵視する。

テストの点数からスポーツテストの項目まで、ひたすらにマウントを取りまくる。姉より優秀な弟はいねぇとか言いたいんだろうか。

 

まぁ、頭で負けても身体能力では負けないんだけどね。

 

兎にも角にも、アレは頭脳を持って、時には権力を持って徹底的に俺を叩き、俺は徹底抗戦を貫く(成功するとは言って無い)

いつしか姉弟の間には、埋める事もそもそも埋める気も無い溝が出来上がった訳だ。

 

さて、そもそも何故俺がISを動かせるのが分かったかと言うと、原因は一つ。

あの姉だ。勿論天敵の方の。

 

 

話は2年くらい前まで遡る。

 

 

 

こんな世の中だから、世の女性達はISを使いこなせるか否かが一種のステータスになっている。それすなわち、IS学園の卒業証を持ってるかどうかで、その後の人生が変わってくると言っても大袈裟ではない。

 

そしてその姉も例外ではない。

 

姉はISの適性検査で「D -」というゴミみたいな結果を叩き出していた。

 

ISの適性は、一番上が【S】そしてそこから【A】〜【E】となっている。精密検査なら、更に+ -が付いてくる。

 

学園に入学する為には、最低でも適性が【C +】は無いと、書類選考時点で落とされる。

 

おわかり頂けただろうか。

つまり姉は、どんなに頑張ってもIS学園に入学する事が出来ないのである。

 

この事を知った後の晩飯は、人生で一番美味かった。

 

その後姉は、父親のコネでIS(ラファ何とか)を借り、適性を上げる為にひたすら訓練を行った。

 

訓練の甲斐があったのかどうかは知らんが、中学3年の春時点で、適性は【C -】まで上がっていた。それでも足りないんですけどね。

 

そしてーーー

 

『くっ…!何で…何で上がらないのよ!』

 

今日も今日とて訓練後、姉は簡易検査を受けた。結果は言わずもがな。

 

父親の使いっ走りで訓練場に用があった俺は、たまたま姉がそう吐き捨てた現場に出くわした。スッゲェ苛ついてる。

 

ソイツと目が会う。会ってしまった。

途端ロクデモナイ事を考え付いた様な笑みをしだした。

 

逃げたいけど逃げられない。

 

あの目だ。

憎悪を込めて俺を見下す、深い闇の目。

その目で見られると、途端に動けなくなる。理由は分からない。ただ、幼い頃からあの目が怖かったのだ。

 

ともかく俺は、姉に引き摺られて無理矢理適性検査を受けさせられた。恐らくは、適性の無い奴が居る中適性のある私凄いを演出したいんだろうか。汚い事に、人は自分より下を見ると無意識に安心するって、何かの本に書いてた気がする。

 

男に適性は無い。空が青い地球は丸い並みの、公然とした常識だ。姉はそんな俺を見て笑いたいだけなんだろう。

 

果たしてそれは上手く行かなかった。

 

 

表示された結果には【A】の文字。

 

その日、俺は理不尽にも姉の逆鱗に触れたのだ

 

 

ーーー

 

 

 

「そんな事があったんだ」

 

いつの間にか隣に座っていた理子が言う。

 

岸原理子。

 

俺と幼馴染。腐れ縁とも言う。

 

初対面は幼稚園の時だ。

その時から姉との仲が悪く、最早定期と化した喧嘩をしてる最中に、二人纏めてドロップキックされたのがキッカケだったと思う。

何故そんな事をしたのか、数年後本人に聞いても覚えて無いの一点張の模様。

 

ともかくそこから俺達は意気投合し始めた。

姉はその輪の中に入らなかった。そらそうか。

 

卒園を気に別れたが、その後世の中が変わるに連れて、俺も姉とは別の学校に転校する事になり、転校先の学校で再会した。小4頃の話である。

 

「しかしなぁ…幼小中と続いて高まで同じかよ」

 

「何年間同じ顔を見続けたと思ってるのよ」

 

これを【親の顔より見た面】と言います。

最も、小4を最後に本家から離されて暮らしてた俺にとっては、比喩でも何でも無いだろう。

 

「こういうのを何て表すんだっけ?」

 

「腐れ縁だろ」

 

風情も何も無いねと笑われれば、

違いないと笑う。

 

流れ行く雲の下。俺達は取るに下らない話に花を咲かせるのであった。

 

 

ーーーーーーー

 

 

「それで、女子として入学した感想は?」

 

「いやーキツイっす」

 

口調は柔らかく。佇まいは女子っぽく。俺口調にがに股なんてもっての他。

 

この半日それを意識しまくったせいで、既にグロッキーだ。

 

アレだ内股意識なんて無理。ワタシ口調ってなんやねん。俺の中の何かが物凄い勢いで削られてる気がする。

 

「そもそもどうしてそんな格好?」

 

「あの()のせい」

 

全てはアレ()のせいだ。アレが妙な事を言い出さなければ、俺は今頃スポーツ推薦を貰った高校に入れただろうに。

 

「…元々は、替え玉受験用だったんだよ」

 

「…ええぇ」

 

流石の腐れ縁もドン引きしてる。俺もそんなん思い付いた屑にドン引きだ。

 

アレの適性は結局【C】止まり。

それではそもそも受験すらさせて貰えない。

 

そこで考え付いたのが、適性【A】を叩き出してしまった俺を代わりに受験させる事。

 

不本意ながら双子という事もあって、顔立ちはそこそこ似てるらしい。短髪と長髪の違いはあるが、そこら辺を補完すればほぼソックリだと言う。誠に遺憾である。

 

適性【A】は貴重らしく、ほぼ確実に受かるとの事。そこに漬け込んだ作戦らしい。現にほぼノー勉強なのに受かってしまった俺。

 

「それで目出度く合格。俺は解放されるはず…だったんだけどなぁ」

 

「男性操縦者……織斑君が出てきてしまったと」

 

ポテチ片手にニュースを見た時は、驚きはしたけどそれだけだった。大変だなぁとか思っていた様な気もする。要するに他人事だった訳だ。

 

 

俺もISを操縦出来る男の一人だというのに。

 

 

その後、本家に呼び出された俺は、開口一番姉に告げられた。

 

『私、アンタとしてIS学園に入学するから。アンタは私として学園に入学しなさい』

 

ちょっと何言ってるか分からなかった。

 

 

「ちょっと何言ってるか分からない」

 

「俺だって分かんねぇよ」

 

両方女として入学するなら、1億歩ぐらい譲って分かるかもしれないけど、性別を逆にして入学する意味が全く分からない。

 

 

「あっ……でもまさか…えぇ…」

 

理子は何かに気付いた様だ。同じ性別なりに、察する事があるのか。

 

「何か分かったのか?」

 

「いやぁ…でも…分からないから…うん」

 

途端に歯切れが悪くなる理子。気になるが、分からないなら仕方ない。

 

ともかくだ。

 

「これで、俺がこんな格好で居る理由を分かってくれたよな」

 

幼馴染は、物凄い顔をしながら凄まじい速度で、大きく頷いた。

だから何でそんな顔してんだよ。

 

 

 

※change

 

 

 

昼休み明けの授業。岸原理子は窓際の席に座る彼…もとい彼女【高峯此方】を見ていた。

 

彼女の幼馴染【高峯彼方】が言うには、窓際の彼女こそ全ての元凶であると言うのだ。

何故、態々男女逆にして入学してるのか。聞いた時は全く意味が分からなかったが、こうして冷静に考えると幾つかの仮説が立てられる。

 

①自らのIS適性を隠すため

この学園の正式資料では、此方の適性が【A】で彼方の適性が【C】になっている。適性検査は毎年やる訳では無く希望制となっているので、よっぽどの事が無い限り適性についてはバレ無い筈だ。適性から替え玉受験疑惑が出るのを恐れて、男女入れ替わりのリスクを負うなど本末転倒な気もする。

 

だが、可能性としての否定材料も無いので保留。

 

②ちやほやされたかった

理子から見てた此方は自尊心が高い人間だった(とは言っても幼稚園の頃の話だが)

その延長で、自尊心を満たすため男装に踏み切ったのでは無いか。

…ほぼ女子校でやる意味。

これが男子校だったらあり得なくないかもしれないけど、生憎そういう訳では無い。彼女が同性愛者なら話は別だが。

 

ちやほやされたいだけで男装に踏み切るのは、どうも根拠としては弱過ぎる気がするので却下。

 

③彼方への嫌がらせ

……あれだけ溝が深い姉弟だ、あり得ないとは言えない。

好きの反対は無関心とはよく言うが、あの姉弟は一周回って憎しみ合ってると言っても良いかもしれない。

もし殺しが合法化されたら、真っ先にお互いを始末しに行くだろう。そんなレベル。

 

あり得そう。

 

まああれこれ考えて幾つか仮説を立ててみたけど、一番の理由は、アレだよなとも思う。

 

 

 

時間は進んで放課後の教室である。

 

朝から何かしら一夏と行動したがる彼ーー

理子視点からだと【彼女】になるが。

 

ともかく彼女は、一夏相手にグイグイ行ってる。近すぎるほど。

 

「織斑君、高峯君、まだ教室にいたんですね。良かったです」

 

この後どうしようか一緒に帰ろうよとか何か話してる所に登場した、1組副担任山田先生。

 

緑っぽい短髪に眼鏡属性ってキャラ被ってない?とか思った理子だが、一部分を注視した結果、生意気言ってすみませんでしたとは本人の談。

 

童顔眼鏡巨乳の山田先生が言うには、二人に寮の部屋が用意されてる事。それぞれ別部屋になってしまった事が明かされる。

 

えー……一緒の部屋じゃないんですかと此方。安全上のため仕方ないですとは山田先生。荷物ねぇよと一夏が言えば、用意してきたぞとは突然乱入してきた担任の弁だ。

 

その後、お手洗いやお風呂に関する話が山田先生と交わされていたが、その間此方は熱に浮かされた様な表情で、一夏を見ていた。

 

その姿に、野次馬とそれに混ざってた理子は同じ事を思う。

 

 

「これは濃厚な薔薇のかほり」

 

「完全にアレですね間違いない」

 

「【朗報】二人目は同性愛者疑惑」

 

「たまげてないからセーフ」

 

 

寧ろ口に出してた。

不幸な事に、山田先生と話していたはずの一夏にも聴こえており、此方との距離をそっととった。だが、気づかない此方。

 

 

ーー1番の理由…これかもね

 

 

この調子だと、彼方が彼方を取り戻したとしてもその後苦労するだろうなぁと。

 

謂れのない風評を払拭する幼馴染の姿を想像しつつ、理子は小さく溜息をつくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【TIPS】
・高峯乃亜
サイケデリック系アイドル。高峯の家督を継ぐ立場に居たが、突如失踪。何故かアイドルになっていた。彼女曰く【口説かれた】らしい。
弟妹が居るのはもちろんオリ設定。

・高峯此方
のあさんが家督を継ぐのを放棄したため、彼女にとばっちりが来る。
苦労人でもあるが、それとは別に幼少期から彼方を虐めてる人。
彼方に対しては当たりがキツイが、それ以外だと割と普通に打算的な人。

・高峯彼方
此方に人生振り回される人。此方とは細胞レベルで仲が悪い。
女尊男卑の風潮が強くなると、此方と父親の策で実家を離れ、祖父母の家で暮らし始める。その先の学校で理子と再会する。

・此方が男装してる理由
ニュースで見て一目惚れした一夏にお近づきになるため。
計画がガバガバなのはご愛嬌。恋は盲目。


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4.風は導く

エタったと思った?
ぼくもそう思いました。




運動部が元気な声を出して校庭を走ってる。

空に掛かるは灰色の雲。辺りは薄暗くなり、春先の所為か少し肌寒い。

 

つまりは放課後である。

 

授業が終わり、何か言いたげな更識を放置して、やって来たのは屋上。俺の聖域。

 

2回目だけど最早俺の特等席と(勝手に)化したベンチに座り一息つく。

 

昼休みに思いっきり愚痴ったけど、やっぱり気疲れするのは変わらない。初日からこんなんじゃ、先が思いやられるもんだ。

 

買ってきた缶コーヒーを口につけ、あまりの苦さに顔を顰める。予想以上に苦い。

 

雰囲気出すために買ったは良いけど、失敗したなぁ。元々俺は紅茶派だ。

 

どうすっかコレ。

 

少しだけ飲んだ缶コーヒーの処分に困っていると、何やらギィ…と、ドアを開ける音が聞こえてくるのであった。

 

 

 

 

4.風は導く

 

 

 

 

今日までとことんツキが無い。と、屋上へと続く階段を登りながら思う。

 

高校受験の会場を間違えたまたま置いてあったISに触れて起動させてしまうわ、その結果希望の高校ではなく、IS学園とかいう実質女子校に放り込まれ、自己紹介では張遼…もとい教師をやっていた姉に頭を叩かれる始末。

あの一撃だけで、俺の脳細胞は幾つお亡くなりになったのだろうか。

 

そんでもってやけに距離感が近いもう一人の男子と交流すれば、久しぶりに再会した幼馴染が何故か不機嫌で、縦ロールイギリス貴族に煽られるという。

 

それで、その煽りの延長戦上で何故か決まった代表決定戦。俺VSイギリス…オルコットだっけな。ちゃっかり副代表に収まった男子…高峯だったな。あの野郎。

 

そして先程の疑惑、まるで野獣の様な眼光を俺に向けるアイツ(高峯)。俺の精神は限界にきていた。

 

山田先生の、道草は駄目ですよという忠告をスルーしていくスタイル。

 

女子と相部屋宣言されてから、とてもじゃないけど部屋に戻る気が起きない。せめて男子とだろ嫌駄目だ、アイツは危険だ。

ナニが危険かわからないけど、なんか危険だ。

 

結局、部屋にも休まる場所が無いと悟った俺は、癒しを求めて屋上へと来た訳だ。

 

 

 

 

扉を開けると、まだ冷たい風が肌を付く。

 

陽が刺さない灰色の空。春先であっても肌寒い。

 

中学の友人曰く、『困ったら屋上へ行け』との事。空の広さに、悩みなど小さな事だと開き直れるぞ。と、何か悟った様な表情で言ってたな。付け加えるなら、その瞬間だけ目が死んでいた。

 

辛い事があったんだろう友人の体験談を元に来た訳だが、思いの他寒い。こんな寒い日に屋上にいる物好きはいないだろうなぁと、辺りを見回すと、銀色が目に入る。

 

背もたれのあるベンチに座り、校庭を見る銀色。ベンチの構造上、俺に背を向ける形になっている。

 

所々癖が目立つ銀色の長髪を一つに纏めた、おそらく女性だろう。

 

風に流され、そよそよと流れる銀。

何故だかソレが無性に気になって、気付いたらいつの間にか、銀が俺の手の中にあった。

 

「えっ…?」

 

手の中の銀を撫でる。まるで高級な絹に触れてる様な錯覚。一本一本が繊細な、それでもしっかりとした感覚。残念ながら俺の語弊が足りないせいか、この触り心地をこれ以上表現するのは難しい。ともかく、触れてるとストレスでささくれ立った心も、そよ風が吹く大草原の様な、穏やかな気持ちになれる気がする。

 

 

もっと触りたい。触れていたい。

 

 

そんな俺から逃げる様に、銀はするりと手の中から消えた。

 

あっ…と、情け無い声を出す俺。手を伸ばしても、銀は掴めない。名残惜しさと共にようやく顔を上げると、困った様な表情をした銀髪の女生徒がこちらを見ていた。先程のは、どうやら彼女の髪らしい。

 

「いきなり他人の髪を触るのは、良くないと思いますよ?」

 

変わらずに困った表情で、そう言った。

 

あれ……俺は一体ナニをしてたんだ?

 

「ご…ごめん!」

 

俺は咄嗟に触れていた髪を離した。

 

…初対面の女性の髪に勝手に触れる。

普段らしくない行動に、自分自身も戸惑い気味だ。こんなん千冬姉に知られたら唯じゃ済まないな。

 

手を離したので、触れてた髪が彼女の元へ戻る。彼女が髪を整えてる間、俺は自然と土下座の構えをしつつ、彼女の出方を伺っていた。

 

「いや…そんな事されても……」

 

癖の強い銀髪は腰ぐらいの長さまであり、それを一つに纏めてる。左目にある泣き黒子と髪の長さを除けば、その表情はつい最近見た顔と重なる。

 

「どうみても通報案件だし……誠意を見せようと」

 

「…されても困りますから。とりあえず座ってください」

 

鉄拳制裁の一つも覚悟してたが、かけられたのは意外にも優しい言葉だった。

 

色々と困惑はあるが、とりあえず彼女に言われた通りに近くのベンチに座る。

 

「これ、あげます」

 

手渡されたのは、少しだけ飲んだ形跡のある缶コーヒー。

渡されたのを受け取らないのもどうかと思い、受け取り、含む。…口の中に苦味が広がる。

 

「やっぱり苦かったですよね」

 

どうやら表情に出てたらしい。

俺に缶コーヒーを渡した銀の彼女は、そう言ってクスリと笑い、同じベンチに座った。

 

「ああ、すこぶる苦かった」

 

千冬姉はコーヒーを好んで飲んでたが、俺はもっぱら緑茶派だ。コーヒーを飲めないわけではないが。

 

「女子だらけの学校に入学した感想はどうですか?」

 

「控えめに言って帰りたい」

 

貰ったコーヒーに再び口を付けようとした際に、唐突に質問が来た。

 

彼女はですよねーと苦笑い。どうやらわかりきった答えの様だ。

 

「初日でそんな状態でしたら、この先持ちませんよ? 気持ちは分からないでも無いですが」

 

「女子なのに? 男が多少居ても、ほぼ女子校には変わりないだろ」

 

「…そうでもないですよ。共学出身のワタシからしてみれば、このレベルの女子校なんて、また別の世界ですから」

 

溶け込むのに時間がかかりそうですと言う彼女。その顔からは、疲れが見て取れる。多分、さっきの俺と似た様な感じだろう。それだけで、彼女が同情などでは無く本心で言ってる事がわかった。

 

「女社会も大変なんだな」

 

「こんな時代ですからね」

 

くすりと笑い、続ける。

その行為に、不覚にもドキッとした。

 

「ここはいいですよ。人気が無いから、気分転換にはもってこいの場所です」

 

確かにいい場所だ。たまには友人の言う事も当たるもんだ。サンキュー弾。

 

「もし、貴方が疲れたりした時には、この場所を使って良いですよ」

 

「良いのか? 君が最初に見つけた場所じゃないのか」

 

「学校の屋上ですよ。誰のものでも無いです」

 

いや、そうなんだけどさ。何か悪いというか、彼女の場所を(許可有りとはいえ)勝手に奪った感があって、あまりよろしくない感情。

 

「まぁいいじゃないですか。ワタシもたまに使わせて貰うって事で」

 

あまり広めないで下さいね。と、そう言った彼女は、ひらりと身を翻し、屋上を後にした。

 

残ったのは、ベンチに座ったままの俺と缶コーヒー。

 

「なんていうか…不思議な人だったな」

 

話しやすく、嫌な感じはしない。

なんとなく気が楽になった気もする。

 

屋上に行けばまた会えそうだし、その時を楽しみにしつつ、すっかり温くなったコーヒーを飲み干すのであった。

 

 

 

…そういえば、名前聞くの忘れてた

 

 

 

※change

 

 

 

 

屋上で唯一の同性と会話したおかげか、いくらか気分が回復した今日この頃。やっぱり女子校って疲れるね。だからって男子校ならOKなのかというと、そうでもない。世の中やり過ぎって良くないと思うの。適量って大事よね。

 

つまり、友情と青春が両立出来る共学が最高ってことで。

 

一人で勝手に結論出し、向かうは我が城、マイルーム。寮にある自室とも言う。

 

二人目の男性操縦者(笑)となっているアレと違い、こっちは普通に入学した平々凡々の女生徒(爆笑)。そして寮は二人部屋だと。

 

ここで導き出される答えは単純で、この女生徒(失笑)の部屋には、確実にルームメイトが居るという。

 

普通に考えて、代表候補生でも無く、有名人の身内でも無い俺が、一人部屋など与えられねーわな。一番上の姉がアイドルやってます!とか言えば何とかなるかな。そんな訳ないな。だからどうしたと返されるのがオチだ。

 

どうでもいい事を考えながら、気づいたら部屋の前。ドアノブに手をかけると空いてない事がわかる。どうやらルームメイトは不在の様だ。

 

部屋に入ると、ベッドが入り口側と窓際に置いてある。

 

窓際のベッドは既にセッティング済みで、先に入ったであろうルームメイトの縄張りと化してた。ベッドの脇に高く積んである、某密林のダンボールがその証拠だ。あの量を捨てるのは苦労しそう。その時は手伝う事にしよう。

 

そうして、俺は既に届いた荷物を、入り口側ベッドの脇に置く。

 

さて、同居人が帰ってくる前に着替えを済ませておかないと。いつまでも制服でいるのもどうかと思うし。

 

ここで唐突だが、俺の履いてる下着について説明しよう。野郎の下着事情なんて知りたく無いと思うがそこは寛大な心で許して。

 

 

はい。俺の下着は「安心安全。男の娘ライフの強い味方」のキャッチフレーズでおなじみのデュノア社製だ。これは酷い。

 

元々は軍事企業で、ISにも手を出したらしい。だが、何をトチ狂ったんだが、急に下着ブランドにも手を出し始めたという。

 

デザインは兎も角、最大の特徴はISの量子変換技術を応用した下着だという。

 

いわゆる、大きすぎる茎(オブラート)や生い茂る草(ビブラート)が下着からはみ出ない様に量子変換して、その周りをスッキリさせてくれる代物なのだ。これで恥ずかしいモッコリともおさらばで皆ニッコリ。

 

更に調子に乗ったデュノア社は、これまたIS技術を利用した「自然に大きく見える胸」という虚乳に優しいブラを開発。世の貧しい者達から絶大な支持を受けたという。

 

発案者であるデュノア夫妻には感謝しかない。ありがとうデュノア社。おかげで、今の所怪しまれずに学園ライフを遅れてます。もうフランスに足向けて寝られませんわ。どっち方面か知らんが。

 

 

閑話休題

 

 

ルームメイトが帰ってくる前に素早くシャワーを浴る。湯船に浸かれないのは残念だが仕方ない。汗を流せるだけ良しとする。

 

しかし風呂か……

パンフレットに乗ってた大浴場を使う訳にも行かないし、どっかのタイミングで本土の銭湯を使いたいなと。

 

 

そんな事を考えながら着替えてた時だった。

不意に部屋の扉が開かれる。

 

「あれ?」

 

特徴的な水色の髪を揺らしながら入ってきた彼女は、不思議そうな声で問うてきた。

 

「…貴方がルームメイト?」

 

「あ…うん。そうだけど」

 

少しだけ難しそうな表情をした彼女だったが、まぁいいかみたいな感じで、何か納得したみたいだ。

 

「改めてになるけど…よろしくね。更識さん」

 

「うん……よろしく」

 

 

 

 

 

 

 

 




Tips

・屋上
学園物の定番。現実じゃ解放されてないのも定番

・缶コーヒー
間接キスになるが、お互いに気づいてないという

・銀髪
アロマセラピー的な効果は科学的に証明されてない

・デュノア社
IS関係者以外からは仏が誇るHENTAI企業として知られる。
IS技術をこんな形で使われるのは、何処ぞの兎は想定してなかったらしい



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