【本編完結】銀髪幼児体型でクーデレな自動人形《オートスコアラー》が所属する特異災害対策機動部二課 (ルピーの指輪)
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原作開始前
プロローグ


主人公の人となりを軽く紹介するために、フィリアがニ課へ入ってしばらくした後の生活を先に描きます。
自己紹介みたいなものです。
次回から本編を開始しますのでご了承ください。
これは自動人形(オートスコアラー)にされた元人間の物語です。
それではよろしくお願いします。


 自動人形(オートスコアラー)とかいう人形になってどれくらいが過ぎただろうか?

 真っ白い肌に関節に継ぎ目のある疲れない体……。

 睡眠という習慣を失ったあたしは夜が明けるのを感じて朝の仕事に取りかかる。

 

 コーヒーを淹れて、朝食を作る。今日はベーコンエッグが良いかしら?

 

「おはよう、司令。相変わらず時間通りに起きるのね」

 

「おはよう。おおっ、今日は洋食か。フィリアくんが家に来てから朝から食卓が華やかだ」

 

 赤髪で筋肉質の養父、風鳴弦十郎は朝から暑苦しい笑顔で食卓につく。

 

「別に、普通よこれくらい。司令の普段の食事が簡素すぎなのよ」

 

「むっ、そうか。しかし、誰かに作ってもらう飯はいいものだ」

 

 美味しそうに朝食を食べる彼を尻目にあたしはいつも通りのセリフを返す。彼は彼なりにそれを流す。

 

「じゃ、あたしは先に行くから」

 

「ああ、気をつけて行くんだぞ」

 

 子供がおつかいに行く前みたいな言葉を背中に受けて、あたしは外出の準備に取りかかる。

 人形の見た目を隠すための特殊な塗料を念入りに塗り込み、仮初めの人間の姿にカモフラージュする。

 そして、あたしは私立リディアン音楽院の制服に着替えて通学を開始する。

 

 まったく、小学生くらいの大きさになったせいで、高校では常に年下扱いをされるのはストレスだわ。2年生になった今でも、同級生や先輩はもちろん、後輩にまで子供扱いされるんだから。

 

 

 特に遠慮がないのが……。

 

「フィリアちゃーん、おっはよー」

「おはようございます。フィリア先輩」

 

 黄色い髪の元気な子、立花響と黒髪の大人しそうな子、小日向未来が挨拶をする。

 この響は何度、あたしが先輩だと注意しても改めないので諦めている。

 本当に距離感の詰め方が急で遠慮がない子。誰とでも手を繋げるって本気で信じてる呆れるほどお人好しな子なの。

 趣味を大真面目な顔して「人助け」って言ってのけたときは、あ然としちゃったわ。

 

「あら、珍しいのね。あなたが遅刻しないなんて」

 

「ふぇあっ、そりゃーないよー、フィリアちゃん。まるで私が遅刻しない日のほうが少ないみたいじゃん」

 

「大体、半分ぐらいだもんね。響の遅刻」

 

 オーバーなリアクションをとる響と微笑みながら皮肉を言う未来。

 この二人はびっくりするほど仲が良い。

 

「フィリアちゃーん、実は課題を今度手伝って欲しいんだけど……」

 

 響は申し訳なさそうな顔をして、私にお願いのポーズをとる。

 

「はぁ、いくらあたしが眠らないからって、暇じゃないのよ。でも、しょうがないわね。未来がこのままだと、睡眠時間削られちゃうんでしょ、付き合ってあげるわよ」

 

「さっすがフィリアちゃん。大好き!」

 

「はいはい、調子がいい子ね」

 

 響が遠慮なく抱きついたとき、ただならぬ視線を未来から感じたけど無視をする。

 

「響がいつもすみません」

 

「そう思うのなら、せめてもう少し宿題をさせるように急かしなさい。お好み焼きを食べる時間を削ればもうちょっと何とかなるでしょ。何だかんだ、響に甘いのよ、あなたは」

 

「善処しますね」

「そりゃないよー。未来ぅ」

 

 こんなやり取りをしながら、1年生の二人と登校して、そしてあたしは自分のクラスに到着した。

 

 コミュニケーション下手なあたしだけど、それ以上に一匹狼を気取ってる子がこのクラスにはいる。

 

 妙にこの子とはウマが合うのよね。

 

「おはよう、クリス。相変わらず、早いのね。余程、学校が居心地がいいのかしら?」

 

「なっ、お前まであのバカみたいなこと言ってんじゃねーよ」

 

 顔を真っ赤にして否定する彼女をからかうのはあたしの最近の日課になっている。

 白髪の言葉遣いが悪い彼女は雪音クリス。あたしのクラスメイトだ。

 

「あら、響と同類とは心外ね。あたしはそんなお人好しじゃないわ」

 

「けっ、あたしからすりゃ、一緒だよ。ガキみてぇななりの癖に年上ぶりやがって」

 

 そう言ってそっぽをむくクリス。あたし以上に素直になれない意地っ張り。

 

「あなたのそういうところを見てると、ほっとけないのよね。出来の悪い妹を見てるみたいで」

 

「いっ妹だぁ? どっちかと言うとフィリアの方が妹だろ? どう見たって小学生じゃねーか」

 

 あたしの妹発言が余程気に入らなかったのか、クリスはあたしの肩を掴んでグラグラ揺らしてきた。

 

「そういう可愛らしいところが、妹っぽいのよ。すぐに感情的になるところも」

 

「うっうるさいな。もう知らねー、どっかいけよ」

 

 拗ねるクリスとしばらく雑談をして、あたしは授業の準備をした。

 

 

 

 

 授業が終わり放課後、今日は二課へ顔を出す日だ。

 

 

 セキュリティ厳重な扉の前にたどり着いたとき、後ろから声をかけられた。

 

「フィリア、このあと鍛錬に付き合ってほしいのだが……」

 

 青髪の凛々しい顔立ちの子の名前は風鳴翼。

 あたしの義理の従姉妹になる子だ。

 

「別に構わないわよ」

 

 この子もあたしも武器が剣ということで、よく一緒に鍛錬を積んでる。

 まぁ、人形のあたしは鍛えたところで身体能力は上がらないんだけど……。

 

「いつもありがとう。あなたが居たから、私は強くなることに前向きになれた」

 

 翼は改まってそんなことを言う。

 

「バカね。あたしだって、あなたが居たから戦えてるのよ。早くいくわよ」

 

「そうね……、でもお礼を言いたかった」

 

 翼は少しだけ微笑んで、歩きだした。

 

 こうしてあたしは今日も特異災害対策機動部二課に足を踏み入れる。

 

 

 人形になったあの日、あたしは人であることを諦めた。

 だけど、変わり者のお人好しはあたしを人間として、仲間として扱ってくれる。

 

 そう、全てはあの日から始まったのだ――。




次回から物語が開始します。


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記憶喪失、そしてオートスコアラー

「あら、随分と可愛らしい姿になってるじゃない。もしかして、あなたの趣味かしら?」

 

 鏡の前には白い肌の銀髪の少女の人形が突っ立っている。これが自分の姿だと認識したとき、あたしは酔狂な実験を成功させた白髪の大馬鹿者に話しかけた。

 様々な器具のある白い部屋に何人もの白衣を身に着けた男女があたしを興味深そうに見ている。

 

 

「ははっ、目覚めて最初のセリフがそれか? 相変わらずだな、フィリア。調子はどうだい?」

 

「調子? 調子って、人形にされた調子ってこと? こんなことを最初に言いたくなかったけど失敗よ。あたしは全部忘れちゃったもの。あなたが馬鹿な男であたしを人形にした張本人ってこと以外。ふーん、あたしってフィリアという名前なのね」

 

 これは本当のことだ。あたしは記憶というものをほとんど無くしてしまっていた。

 だから、あたしは何者なのか、目の前にいる彼は何者なのか、そしてなぜこのような姿にされたのかも覚えていない。

 目の前の白髪の男だけはどうも強烈な印象だったらしく馬鹿な男だということと、あたしをこの姿にした主犯だということだけは何となく覚えていたのだ。

 

 さらに眠りにつく前にあたしは実験で人形にされるって認識をしていたことも覚えている。

 だから、関節の部分に継ぎ目のあるこの身体は自分の体で、あたしの意識をコレに埋め込まれたということだけは目覚めてすぐに推測できた。

 

 この人形の容姿は小学校高学年くらいに見える。ボブヘアカットの銀髪に琥珀色の瞳はおそらくうろ覚えだけど、人間だったときのままだ。

 

 驚いたのは、五感は人間のときとあまり変わったような感覚はないことだ。視覚も聴覚も嗅覚も触覚も……おそらく味覚もそうだろう。

 

 だから、この姿を見るまで自分が人形だってことに気付かなかった。長い眠りから覚めたような感覚だったのだ。

 

 

「そうか、記憶がないのか。それじゃあ教えよう! 僕の生命力を注ぎ込んで君は完全体の自動人形(オートスコアラー)になったのだ! すべての災厄を払う光となる為に! 人間と人形の中間の存在になることで、君は完全な存在になった! 君の使命は僕を英雄にすることだぁぁぁ! そして、僕は君のマスターぁぁぁ! 天才錬金術師ぃぃぃ――。がはっ――なぜだぁぁぁぁ!?」

 

 そこまで叫んだ彼はあたしの目の前で真っ黒な炭になる。突如現れた奇怪な生物に押しつぶされることによって……。

 

 何が起こったのか理解できないが彼が死んだことは理解できた。彼がやはり大馬鹿者だということも……。

 

 最期に錬金術師とか言ってたけど、あたしはそんな訳のわからない力でこんな姿にされたのだろうか?

 

 

 

 しかし、困ったことになった。目の前で人間が炭になるという現象。そして、それを引き起こした奇っ怪な姿をした生き物。

 人に触れて次から次へとその人間を触れた場所から炭に変質させていた。

 それも、一体だけではない。この部屋にはすでに五体ほどの奇怪な生物が侵入していた。

 

 

 この現象についても以前は知っていたのかもしれないが、まったく思い出せない。

 ただ、周りの人間が次々と消えていくのと、奇っ怪な生物を見ると胸の中が熱くなって仕方がなかった。

 

 

 

“Code:ミラージュ・クイーン――人類の敵を滅ぼす光――”

 

 その熱さに耐えきれなくなったとき、あたしの頭にあるワードが浮かび上がってきた。

 

「コード、ミラージュ、クイーン?」

 

 思わずその言葉を呟く――。

 

「くっ、なんだって言うの……、胸が……、身体が……」

 

 すると、あたしの身体は灼熱の業火に焼かれたように熱くなり、胸の中から銀色の筒状のものが出てきた。

 

「何よ……、これ……」

 

 銀色の筒を見つめながら言葉が溢れる。

 あたしは自分の身に起こったことが理解できないでいた。ただ一つ、自分がやはり人間ではなくなったことだけは、実感した。

 そして、さっきまで無感動だった自分に人間を助けなくてはという気持ちが沸き上がって来たのだ。

 

「助けてぇぇぇ」

「うわぁぁぁ」

「嫌だよぉぉぉ」

 

 誰かが爆弾を使ったのか、壁に大きな穴が空き、隣の部屋には泣きわめく幼い子供たちがいた。

 さらに、そこにも奇怪な生き物たちは進行していく。

 その光景を見て私は無意識に銀色の筒を握る。何の意味があるのかわからなかったけど……。

 

“じっ、人類の敵……、滅ぼすべき……”

 

 筒を握ると、また頭に変な声が流れる。そして、その刹那、筒からは銀に輝く光の刃が出現した。

 

「また、随分と悪趣味ね……」

 

 そんなことを呟きながら、あたしは走る。人形になった影響なのかわからないが、スピードは人間の限界を遥かに凌駕する上に疲れない。

 

「この刃が人類の敵を滅ぼすというのなら……」

 

 あたしの意思に呼応して、ひとすじの閃光が人類の敵を両断した――。

 

「これがあたしが創られた理由? 本当に悪趣味じゃない……。バカみたい……」

 

 妙な虚無感に襲われつつ、私は奇怪な生き物を駆逐することを決めて、部屋の外に出た。

 白い通路に銃火器の音が響き渡り、不愉快な絶叫が鼓膜を揺らす。

 

 この人形のような身体を晒すのは耐えられなかったので、途中でベッドのシーツを適当に千切って身体に羽織ることにした。

 

 ここがどこなのか、この生き物の目的も何もわからない。ただ、頭の中の声に従って閃光の刃を淡々と振っていた……。

 

 一体、二体、三体……。何なの、これ? きりがないわね……。

 

 そんなことを思っていると、目の前に出口と人だかり見えてきた。

 

 ふぅ、ようやく終わりかしら。さっきまで全く疲れなかったのに、ちょっとだけ身体がだるくなってきた気がするわ。

 

「ダメだ!」

「逃げられないっ!」

「くそっ!」

 

 しかし、出口付近の人たちは我先にとこちらの方に必死の形相で駆けて来る。

 

「そういうこと……、逃げ場を封じて来たというわけね」

 

 あたしはそんなことを呟きながら、走って出口から外に出る。

 

 案の定、外には大量の人類の敵という奇怪な生き物が蠢いていた。

 

「はぁ、掃除はあまり好きじゃないのよ……」

 

 ため息をついて、あたしは意識的にスピードを上げる。

 音が置き去りにされたことから、音速を超えたことを理解する。

 銀色の閃光と化したあたしは縦横無尽に無差別に奇怪な生き物を屠っていく。

 

 そんな中、ふと少しだけ離れた場所から歌が聞こえた――。あたしは反射的にその方向を向く。

 

「あれは……、何かしら。へぇ、この生き物に対抗する手段は他にもあったのね……」

 

 私は少しだけ離れた位置でオレンジ色の鎧のようなものをつけた赤い髪の少女と、白と青の鎧のようなものを身に着けた青い髪の少女が、それぞれ、槍と剣を使って人類の敵を仕留めている様子を目にした。

 歌いながら舞うように戦う姿は幻想的に見えた。

 

「あたしのミラージュクイーン(これ)とは似てるけど違うみたい。火力も向こうの方が強いわ」

 

 あたしの銀色の筒(ミラージュクイーン)は射程も短いし、一撃で一体を切り裂くことしかできない。

 

 でも、彼女たちは実に多彩な攻撃方法で複数の敵を一掃している。歌は何かに関係しているのかしら?

 

 なんだ、あんな強いのがいるなら、あたしなんていらないじゃない。

 

 

 そう思っていたら、オレンジの髪の子が急に苦しみだして鎧が消え去り倒れてしまった。そして、そこにあの生き物が彼女に襲いかかる。

 

 まさか、制限時間付き? 青髪の子も助けようとしてるけど、あのスピードじゃ追いつけないんじゃない?

 

「……仕方ないわね」

 

 私は最高速度であろうスピードで燃えるような赤い髪の少女に肉薄し、奇怪な生き物を両断する。そして、彼女を抱きかかえて、戦場から距離を取る。

 

 

「えっ、あたし……、助かったのか? なっ、何だお前は……」

 

 赤い髪の少女は驚いたような顔をして、あたしを見た。

 

「はぁ、やっぱりまだ子供じゃない。こんな子に戦わせるなんて……」

 

「ん……、子供って、お前の方が子供だろっ! って、何だその腕は?」

 

 あたしの言葉に反応して彼女は元気な反応を見せたが、私の左腕の部分を見てギョッとした顔をしていた。

 

 ああ、助けた拍子にシーツが千切れて人形の腕の部分が剥き出しになってしまっていたのか。

 普通はこんな姿見たら驚くに決まっている。

 

「驚かせちゃったわね。安心なさい、こんな姿でもあなたに危害を加えるつもりはないわ。立てるかしら?」

 

「ん、ああ。大丈夫だ」

 

 あたしはオレンジ色の髪の少女を地面に立たせて。あたしは残り少なくなった人類の敵を殲滅した――。

 

 

 どういうことかしら? 身体が動かなくなってきたわ……。まさか、あたしにも……、時間制限が……。

 

「あっ、あの、奏を助けてくれて、ありがとう」

 

 先ほどまで奇怪な生き物たちの殲滅に勤しんでいた青髪の少女があたしに話しかける。

 オレンジの髪の子は奏というのね。ちゃんと、お礼が言えるなんて偉いじゃない。

 

「礼には及ばないわ。感謝されるために助けたわけじゃ――」

 

 あたしがそう返事をしようとしたとき、目の前の景色が闇色に染まり――意識が深いところまで落とされてしまった。

 

 人形にされて、何もかも忘れて――訳もわからないうちに、こんな目に――まったく、やっぱりバカみたいじゃない――。




ミラージュ・クイーンはライトセイバーみたいな感じのイメージです。
自分の力を把握してないので、シンフォギア奏者に火力では劣りますが、オートスコアラーなので身体能力は若干勝っている感じです。
次回はフィリアの身体のことがいろいろとあの人に解明されます。


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風鳴弦十郎と櫻井了子

オートスコアラーになったフィリアの身体の秘密が少しだけ解明されます。
それではよろしくお願いします。


「――あっあたしはまだ生きてる?」

 

 人形に死ぬという概念があるのか分からないが、あたしは身体中にいろんな器具を当てられた状態で目を覚ました。

 

「ほら、大正解だったでしょ。まぁ、私の頭脳にかかれば、このくらいの解析は簡単よ」

 

「驚いたな。生きた人形とは……」

 

 あたしの目の前には髪を束ねた茶髪の眼鏡の女と赤いツンツン頭の筋肉質の男が立っていた。

 

「気分はどうかしら? あなた、とっても面白い身体をしてるわねー。悪いけど隅々まで調べさせてもらったわよ」

 

 眼鏡の女はニコリと笑ってあたしに話しかける。

 

「それはどうも。で、さっそくなんだけど、あたしは今、助けられているのかしら? それとも実験材料になっている最中なのかしら?」

 

 あたしは率直に質問した。自分で言うのもアレだが、こんな人形だ。

 人格があっても、そんなのとは関係なく拘束されて実験材料にされる可能性が高かった。

 

「いや、君には我々の大切な仲間が助けられ、さらに何人もの人が救われている。そんな君を誰がなんと言おうとも危害を加えさせようとは思わないさ」

 

 赤髪の男は優しい言葉をかける。嘘は感じられないわね。少なくともあたしを創った馬鹿よりは信頼できそう。

 

「そっ、なら助かるわ。ちょっと困っていたのよね。あたし、元々人間だったみたいなんだけど、気付いたら人形になっちゃってて、その上、記憶まで無くなってるの。助けるなら、きちんと責任を持って助けなさい」

 

 あたしは身の上の出来事を手短に話した。もしかしたら彼らはあたしについて何か知ってるかもしれない。

 記憶を失ったと言えば何らかの情報が入るかもしれないと考えたのだ。

 

「そっそうか。それは辛かったな」

 

「へぇ、無機物に意識を定着させるなんて無茶苦茶をやってたのねー。あの施設……。無くなっちゃって残念だったわ」

 

 赤髪の男は素直に同情し、眼鏡の女は施設が無くなったことを悔やんでいた……って、ちょっと待ちなさい。

 

「あの施設が無くなったってどういうこと? そもそもあそこはなんだったの?」

 

 あたしは眼鏡の女に質問した。

 

「その反応、本当に何も覚えていないのね。あの施設は大爆発を起こして吹き飛んだわ。だから、私たちも詳しく知らないのよ。あそこが研究施設で対象が聖遺物と錬金術ということぐらいしか……」

 

「錬金術……。あたしを創った男もそんなことを言っていたわ。あたしを完全体の自動人形(オートスコアラー)と呼んでいた。そのあと直ぐに死んじゃったから名前は知らないけど……」

 

「オートスコアラー……、自動人形……、ふうん。やっぱり興味深いわね。ねぇ知ってる? あなたの心臓にあたる部分は浄玻璃鏡(ジョウハリキョウ)という、聖遺物の欠片、つまり現代の科学では解明できない超常的なアイテムの欠片で構成されているの。それが核となって、あなたは人形でありながら、ほとんど人間と変わらない神経や器官を構成している。見た目以外はほとんど人間と言っても良いってほどにね」

 

 眼鏡の女は小難しいことを言っていたが、要するにあたしは人形っぽい見た目だけど、限りなく人間に近い組織構成をしてるらしい。

 

「そう。慰めにもならないけど、自分のことが少しだけわかって嬉しいわ。名前くらいしか分からなかったから――」

 

「ん? 名前はわかるのか? 記憶を無くしたと言っていたが……」

 

 今度は赤髪の男が質問する。

 

「ええ、フィリアって呼ばれたから……。多分、あたしの名前でしょ」

 

 本当の名前かどうかは知らないけど、それを調べる術はない。

 

「そうか、俺の名前は風鳴弦十郎。特異災害対策機動部二課の司令官をやっている。特異災害というのは、先ほど君が倒していた人間を炭素に変える現象物などのことだ。我々はそれを《ノイズ》と呼んでいる。人類をその驚異から守るために特異災害対策機動部は存在する」

 

 風鳴弦十郎と名乗った男は先程の奇っ怪な生き物たちを《ノイズ》という特異災害と呼び。自らをその驚異から人類を守る司令官だと称した。

 

「ふーん、ご立派ね。子供を戦わせて」

 

 あたしは思ったことを口に出した。皮肉を込めて。

 

「……っ。痛いところをつく……。確かに、俺が《ノイズ》と戦えるのなら、当然、彼女たちを前線に出そうとは思わん。現在の人類が《ノイズ》に対抗できる手段は《シンフォギア》を纏える彼女たちだけなのだ……。まぁ、今日、君という例外を発見したのだが……」

 

 弦十郎は拳を握りしめて、震わせながら説明をした。少しだけ意地悪なことを言ってしまったようね。

 

「シンフォギア? もしかして、あの子たちが身につけてた鎧みたいなやつのことかしら?」

 

 あたしは思い当たった節を述べてみる。

 

「正解、正解よー。フィリアちゃんって賢いのねー」

 

 眼鏡の女があたしの頭を撫でながらニコニコ笑った。この人、なんか苦手だ。

 

「あたしは一応、成人してたはずよ。多分だけど……。子供扱いしないでほしいわね」

 

「あらら、そうだったの? まぁ、細かいことは気にしない。可愛いんだからいいじゃない」

 

 あたしは不快感を顕わにしても彼女は撫でることを止めなかった。

 

「了子くん!」

 

「もー、わかったわよ。じゃあ、特別にシンフォギア・システムの開発者である、この私、櫻井了子がシンフォギアについて講義してあげましょう」

 

 櫻井了子と名乗った眼鏡の女がペラペラとシンフォギアについて説明をする。

 

 長い説明でどうにかわかったことは、シンフォギアとは聖遺物とかいうオーバーテクノロジーの結晶を身に纏うことで戦闘力を上げて《ノイズ》を打ち倒すということ。

 

 そして、誰もがシンフォギアを纏えない。適合者というごく僅かな人間のみがシンフォギアを使いこなすことができるということ。

 

 それが、赤髪の少女、天羽奏と青髪の少女、風鳴翼の二人ということ。

 

 歌を歌いながら戦うことでさらに戦闘力を増すこと。

 

 これらのことを理解すると、弦十郎が悔しそうな顔をした理由がよくわかった。

 

「そういうことだったのね。弦十郎さん、無神経なことを言って悪かったわ」

 

 あたしは先程の非礼を詫びる。

 

「いや、むしろ俺は嬉しかった。君があの子たちのことを想う気持ちが伝わってな。優しいんだな、フィリアくんは」

 

「優しい? あたしが? それは間違いなくあなたの勘違いでしょうね。あたしは、単純にあなたに意地悪をしただけよ」

 

 あたしはまっすぐにあたしの目を見つめる弦十郎から目を背ける。

 優しさなんてあるんだったら、人が目の前で死んだら涙の一つも零すものでしょ。

 

 もう、あたしは泣くことも笑うことも出来なくなってしまったんだから――。

 

 少しだけ沈黙して、あたしは気になったことを質問した。

 

「ねぇ、そういえば、あたしが意識を失った原因って何なの?」

 

 あたしは目の前が真っ暗になった原因を尋ねてみた。

 また、あんなことがあったら困るし、対策が出来るならそうしたい。

 

「ああ、あなたが倒れた原因は単純にエネルギー不足よ。いろいろ試したけど、これが一番よく効いたわ」

 

 そう言って了子は液体の入った試験管を出してきた。

 特殊な薬剤を使ったのね。これから薬に頼って生きていかなきゃならないのかしら。

 

「まさか、ただのブドウ糖で意識を取り戻すと思わなかったぞ」

 

「もう、弦十郎くん、ネタバレ禁止よ。もう少しこの子のリアクションを観察したかったのに。あなたのエネルギーは主に糖分の分解から得られるようなの。しかも、ご丁寧に口からも摂取出来るようになってる――」

 

 了子はつまらなそうに説明をする。

 それは、つまり……。

 

「つまりだ、フィリアくんは普通に食事をすればエネルギーは供給される。甘い食べ物がより効率がいいようだ……」

 

「はぁ、なんだか、急激にお腹が空いた感覚になってきたわ――」

 

 あたしはため息が出てしまった。こんな見た目になっても、食事はしなきゃいけないのね……。

 

 異常に白い肌と継ぎ目を見て、あたしは人形だと、実感したが、それでいて人間らしい生活を強制されるのは少しだけ虚しかった。

 

「フィリアくん、これは直ぐに結論を出してほしいというわけではないのだが……、君に特異災害対策機動部二課に所属してほしい。《ノイズ》に対抗する手段を少しでも増やしたいんだ――。このとおりだ……。もちろん、君のプライベートは完全に保証する」

 

 弦十郎はあたしに頭を下げる。何よ、この人。

 こんな化物みたいな人形に頭を下げて仲間になれってどうかしてるわよ。

 

「あなたはあたしみたいな得体のしれないやつを仲間にしたいって言うの? どう考えたって化物よ、あたしは!」

 

「いや、君は信頼の出来る人間だっ!」

 

「バカなの? あたしが人間なわけないじゃない! この見た目のどこが人間なのよ!」

 

「シンフォギア装者が、子供だということに嫌悪感を表した。それだけで君が人間らしい感情を持ち、信頼のおける人間という理由には十分だ! それに、奏くんを救ってくれた! 誰がなんと言おうと、君がどう言おうと、俺は君を人間として扱う!」

 

 弦十郎は力強い視線をあたしに送った。

 本当にバカなのね、この人は……。

 いいわよ、出来るものならやってみなさい。あたしを人間として扱うなんて……。

 

「バカと討論するのは嫌いなの。考える時間なんていらないわ。その代わり給料を頂戴。それくらい出るんでしょ、司令官さん」

 

 あたしは特異災害対策機動部二課とやらに入ることに決めた。どのみち行く場所なんてないし、《ノイズ》とやらを駆逐することがあたしの存在価値なら、彼らの元にいたほうがその価値を満たすことが出来るはず。

 

 

 この日、特異災害対策機動部二課に一体のオートスコアラーが所属した――。




フィリアが特異災害対策機動部二課に所属しました。
人間に限りなく近いオートスコアラーのフィリアにはまだ本人すら知らない秘密があります。
次回は奏や翼との交流回です。


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ようこそ2課へ

フィリアの歓迎会です。
奏や翼と絡んだり、食事をしてみたりします。
それではよろしくお願いします。


 弦十郎と了子に連れられて、あたしはセキュリティが厳重な施設に入る。服装は了子が選んだ、趣味の悪い、真っ黒なヒラヒラのケープ付きの人形が着るような衣装。まぁ、人形なんだから、仕方ないのかもしれないけど……。

 

 とんでもなく長いエレベーターを降りて、その先に見えるのは重厚感のある扉。

 さすがは国防において重大な施設ね。ここは日本という国で、あたしが話してるのも日本語という言語らしい。

 つまり、この場所は日本を守るための最重要拠点。一体なかはどのような……。

 

 

《ようこそ2課へ! 熱烈歓迎フィリアさん!》

 

「…………」

 

 扉の先は文化祭みたいな飾りつけの立食パーティー会場だったわ。えっ? なんなのこれ? 歓迎会ってこと?

 

 クラッカーの音が鳴り響き、弦十郎さんが満面の笑みであたしを歓迎するって言ってきた。

 後ろの職員たちや了子もみんな笑っていた。

 

 どういうこと? なんで、ここの職員たちはこんな風体の人形をあんな笑顔で迎えられるのかしら。

 

「あの、弦十郎……。いえ、司令。これはどういうことなのかしら?」

 

 たまらず、私は弦十郎に質問した。ちょっと、状況が追いつかない。記憶喪失でなんにも分からないが、この状況がヘンだということくらいわかる。

 

「何って、フィリアくんが二課へ入ってくれると言ってくれたからな。当然、我々は全員で歓迎するに決まってるだろ」

 

「そういうものかしら?」

 

「ああ、そういうものだ」

 

 有無を言わせない、力強い弦十郎の言葉にあたしは反論する気を失わされた。

 もう、勝手にしなさいって感じよ。

 

 

 

「おお、やっと来たか! あたしを助けてくれたあとに倒れたのを見て、焦ったよ。無事でよかった!」

 

 赤髪の少女、天羽奏があたしの肩に腕を回す。

 この子も馴れ馴れしいわね。さっきはあたしの腕を見て少しだけ引いていたのに。

 

「すっかり元気みたいね。体と命は大切になさい。いつこんな風になるのか分からないんだから」

 

「あっああ。聞いたよ、人形の身体にされたってさ……。許せないことするやつが居るんだな」

 

 奏は怒りを顔に出しながら、声を震わせた。

 まったく、他人のために怒るなんて、お人好しな子。早死しなきゃいいんだけど。

 

「ほら、翼もこっちに来いよ! 今日からフィリアが仲間になるんだ。いっぱい話そう」

 

「ええっ、わっ私は……」

 

 奏にグイッと腕を引っ張られる青髪の少女。風鳴翼があたしの前まで連れてこられた。

 

「かっ風鳴翼です。奏を助けてくれてありがとう」

 

 うつむきながら、二度目の礼を言う翼。随分と内気な子ね。奏とは正反対。

 

「だから、礼を言われるためにやったんじゃないわよ。これから一緒に戦うこともあるんだから、それくらいのことで一々お礼なんて言わないでちょうだい」

 

 あたしはぶっきらぼうにそう答えた。《ノイズ》とやらの対抗手段がこんなに少ないのだから、こんな子供が戦わせられる。

 それが避けられないのなら、せめてあたしが出来ることは――《ノイズ》を一体でも多く倒すこと、そして、この子らを守ることくらいだ――。

 

「まぁ、そう言うなって、フィリア。あたしからもお礼を言わせてくれ。ありがとう」

 

 奏は10秒前のあたしの言葉を完全に無視して、後ろから抱きしめながら礼を言ってきた。

 

「はぁ、一つだけいい? あたしは、あなたよりも年上なんだから、フィリアさんって呼びなさいよ」

 

「ええーっ、記憶喪失で年齢もわからないって聞いたぞ。いいじゃん、どう見たってフィリアの方が年下に見えるんだし」

 

 年長者に敬意を持てというあたしに対して、「いいじゃん」の一言ですませようとする奏。この見た目を理由にするのは反則だ。

 

「あっあなたねぇ。ちょっとばかり発育がいいからって、そういう風吹かせてるんじゃないわよ」

 

「そっ、そうだ。奏はいつもそうやって意地悪を言う」

 

「えっ?」

 

 あたしの反論に対して翼がまさかの援護射撃を行う。どうやら、この子も奏の理不尽に付き合わされてるらしい。

 

「じゃあ、翼に聞くけどさ。フィリアって、フィリアさんというよりも、フィリアって感じじゃないか?」

 

 奏は平然とした表情でなんとも言い難い質問を翼にぶつける。

 

「えっと、それは、まぁ、そうだけど……」

 

 一瞬で寝返られた……。というか、簡単に言いくるめられすぎよ。

 

「ということで、これからよろしくな、フィリア」

 

「うん、よろしく。フィリア」

 

「何が『ということ』なのか、一ミリも理解できないんだけど……。もう、どうでもいいわ。好きに呼びなさい」

 

 あたしは途端に面倒になって、年下扱いを受け入れることにした。

 まぁ、これが後々の面倒に発展するんだけど、随分と先の話だ。

 

 二人を適当にあしらって、あたしは料理を食べてみることにした。甘いものがいいって言ってたけど……。とりあえず、目の前のプリンでも食べてみようかしら。

 

「あむ……、へぇー。やっぱり味覚はあるのね」

 

 人形の身の口に運ばれる食べ物から感じる甘味。そして、そのあとに得られる充足感。うん、確かにこれが足りないような気がしてたって感じ。

 

 あたしは食事によって得られるエネルギーの回復を実感していた。

 

 

 

「さっそく装者の二人とも打ち解けて仲良くなれているみたいで何よりです」

 

 爽やかそうな笑顔の茶髪で黒スーツの男があたしに近づいてきた。

 今のやりとり見て、どうやったら『打ち解けて仲良く』なんて言葉が出てくるのよ。

 

「別に、仲良くなんてなってないでしょ。おめでたい頭をしてるのね」

 

 あたしは思ったことをそのまま口に出した。自分ですらこの身が得体の知れない存在だと思っているのに、そんな人形(やつ)と仲良くなりたい酔狂な人がいるなんて考えられない。

 

「そんなことはありません。翼さんも奏さんも、かなり孤独を感じてるみたいでしたから。友達になれそうな仲間が増えて喜んでますよ」

 

 相変わらず笑顔を絶やさない茶髪の男はそんなことを言う。孤独ね、あの歳で二人きりで戦うのは確かにそう感じても無理ないか。

 

「あら、そう。でも、仲間になるのはいいけど、友達は勘弁願いたいわね」

 

「おや、どうしてですか?」

 

「情が移ったら楽しいことばかりじゃないでしょ。まっ、今のあたしには関係ないことかもしれないけどね」

 

「――なるほど。やはり、司令から聞いていたとおり、お優しい方みたいですね」

 

「はぁ?」

 

 弦十郎から何を聞いているのか分からないが、この茶髪の男は甘ったるいことを言ってくる。まったく、どいつもこいつも何を思ってあたしに優しいなんて言葉をくれるのよ。

 

「僕もあなたとは仲間であり友人になりたいと思ってますよ。すみません。自己紹介が遅れました、僕は緒川慎二と申します。主に、機密保護や情報操作、隠蔽工作などを担当してる、いわゆる裏方です」

 

 緒川慎二と名乗った茶髪の男は随分と暗躍をするような仕事をしてるみたいだ。

 

「ふーん、なかなか厄介そうな仕事をしてるのね。だからそうやって気配を薄くしてるのかしら」

 

 この男の身のこなしは他の人間とはかなり違うのはなんとなく理解できた。スキがないのだ。

 

「気付かれてましたか。これは心強いです」

 

 緒川は楽しそうな口調でそう言い残すと、ペコリと頭を下げて、了子の元へと歩いて行った。

 

「はぁ、嫌になるわね……」

 

 あたしはため息をついて、2個目のプリンに手を出した。

 ホントに誰も物怖じしないんだもの。あたしの感覚がオカシイって思っちゃいそうになるでしょうが。

 

 

「おおっ、そのプリン結構高いんだぞ。どうだ、美味いか?」

 

 あたしが3個目のプリンをぱくついてると、弦十郎が楽しそうな陽気な声で絡んできた。

 

「まぁ、悪くないわ……。あなたも食べる?」

 

「そうだな、いただこう!」

 

 あたしは冗談のつもりで勧めたんだけど、このクマみたいな男は、平気な顔をして似合わない食べ物に手を出した。

 

「うむ、やはり美味い。さすがはフィリアくんのオススメのプリンだ」

 

 頷きながらプリンを口に運ぶ弦十郎。本当に似合わないわね。

 

「別に勧めてなんてないんだけど……」

 

「そうだったか?」

 

「そうよ……」

 

 そんなどうでもいいやり取りをしながら、私は4つ目に手を出す。

 別に、気に入ったとかじゃないけど……。

 

「ところで、フィリアくん。折り入って相談があるのだが……」

 

 弦十郎がプリンを食べ終えて、あたしに真剣なまなざしを送ってきた。

 

「なによ、改まって。さっさと言いなさい」

 

「そうだな、率直に言おう。フィリアくん、俺の娘にならないか?」

 

「…………」

 

 言葉が出なくなるってこういう状況なのね。この男は何を言ってるのかしら。

 えっ、あたしを娘って、なに?

 

「……そういう、趣味の方なの?」

 

 いろいろと頭を回転させて出てきた結論がそれだった。人形を娘にしたいなんて、特殊な性的嗜好は知らないけど、知りたくないけど。

 

「趣味? いや、違うぞ。二課へ入るにあたって君の身分を作りたいと思ってな。とりあえず、海外から実験材料として連れてこられた難民ということにしてだな、俺の養子にすれば、君の人間としての身分を確立できる。既に許可も取ったし、事務的な手続きも終わった。あとは君の意思次第だ」

 

 弦十郎が話したことは、趣味以上に異常だと思えることだった。

 確かに彼はあたしを人間として扱うとは言ってくれてたけど、本当に人としての身分を与えようとしてくれるなんて思ってもみなかった。

 

 しかも、自分の養子にしてまでして。こんなバカな大人がいるとは思わなかった。

 

 本気の目をしてるわね。ありえないわ、この人……。

 

「人形なんて、娘にしたら後悔するわよ」

 

「どうかな? 俺はそうは思わん。もちろん、強制はしない。君次第だ!」

 

「そう、だったら後で悔やみなさい。いいわよ、あなたの娘になってあげるわ」

 

 あたしはこの、風鳴弦十郎の娘になる道を選んだ。

 人形のあたしを自分の養子にしてまで人間扱いしようとする大バカに興味を持ってしまったからだ。

 はぁ、好奇心はまだ残ってるみたいね……。

 

「そうか、それなら君は今日から風鳴フィリアくんだ。これで、君は一人の人間としての身分を手に入れたことになるぞ」

 

「はいはい、ありがとうって言っておくわ」

 

「ははっ、じゃあ、俺のことは父さんと呼ぶがいい」

 

「それは絶対にお断りよ、司令……」

 

 陽気に笑う弦十郎と、それを無表情で見つめるあたしは父娘になってしまった。

 まぁ、形式的なものだから、彼だってあたしを娘だとは思わないでしょ。

 

 それでも、あたしはこの瞬間から、風鳴フィリアとなり、新しい生活が始まった――。




フィリアが弦十郎の娘になりました。
これで、翼とは義理の従姉妹になりますね。
翼に年下扱いをされることと、風鳴の姓を手に入れたことは、後の彼女の生活に大きく影響しますが、フィリアは気付いてません。
次回もよろしくお願いします。


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父娘とDVDと初陣

フィリアと弦十郎の父娘としての生活が始まります。
そして初陣……。
それではよろしくお願いします!


「さぁ、着いたぞ。ここが俺の家だ。今日からは君の家でもある」

 

 歓迎会とやらが終わり、どこに連れて行かれるのかと思っていたら弦十郎の家に連れて行かれた。

 

「ちょっと、待ちなさい。どういうこと? あたしはあなたと同じ家で暮らすの?」

 

 あたしは目の前の一軒家を指さしてツッコミを入れる。

 こんな見た目でも一応は女だし、出会ったばかりの男と暮らすのはやはり抵抗がある。

 

「ああ、そうだ。父娘になったんだ、俺と暮らすのが一番自然だろう」

 

 当たり前だと言わんばかりの口調で弦十郎はあたしの質問に答えた。

 そんな言い方、まるで本当にあたしのことを――。

 

「あなた、あたしを本当に娘だと思ってるの?」

 

 あり得ないと思いながら、あたしは彼に質問をする。そんなのバカな話だ。

 

「もちろんだ。フィリアくんは俺の家族になった。ははっ、独り身だし、結婚をせっつかれていたが、先に子持ちになるとはな。人生はこれだから面白い」

 

 朗らかに微笑むこの男からは微塵も偽りの感情が見えなかった。だからこそ、あたしは異常にも思えた。

 なんで、とんでもないこと言っといてそんな顔が出来るのよ……。

 

「ああ、もう! わかったわ。受け入れれば良いんでしょ。あたしはあなたの娘で、あなたはあたしの父親。これからここで世話になるわ」

 

 腹立つくらいに真面目な顔であたしを受け入れた彼のバカさ加減に負けたあたしは、現状を受け入れることにした。

 

「そうだ、フィリアくん。人生は諦めも大切だ。さぁ、中に入ろう!」

 

 諦めって……。あたしの思ってることも筒抜けなんじゃない。これじゃ、あたしが本当に子供みたいじゃないの。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 独り身と言っていたが、弦十郎の家はそれなりに広く、司令官という立場も納得できるものだった。

 

「まぁ、俺としてはもっと簡素な家でも困らないのだが、上司があまりにもみすぼらしい家に住んでいたら部下が遠慮するって言われてな」

 

 本当に一人暮らしなのかを質問すると、彼からはバツの悪そうな顔をしてそう答えた。

 

「だが、フィリアくんが来てくれて助かった。これで少しは無駄がなくなるだろう。使ってなかった部屋をきれいにして、君の私室にしておいた。一通りの物は揃えたが、欲しいものがあったら遠慮なく言ってくれ」

 

 弦十郎はあたしを部屋に案内して、そう言った。

 部屋の中にはデスクとパソコン。クローゼットに衣装ケースにテレビなど、必要なものは十二分に揃っていた。しかし――。

 

「欲しいものは特にないわ。要らないものならあったけど」

 

 あたしはそう声を出した。やはり、あたしは人間じゃない。

 

「ん? どういうことだ?」

 

 弦十郎は不思議そうな声を出す。

 

「ベッドは要らなかったわ。あたし、眠くならないみたいなの。エネルギーさえ供給出来れば疲れないのよ、まったく」

 

 そう、一日中動いても、《ノイズ》を倒すために走っても、エネルギーさえ無くならなければあたしは疲れなかった。

 さっき食事をして感じたのは、最初に目覚めたときを遥かに凌駕したエネルギーの充実感。

 つまり、あのときのあたしはガス欠寸前で動き回っていたのだ。

 

 おそらく今なら数日間動き続けても疲れない自信がある。

 それどころか、定期的に何かを食べさえすれば半永久的に疲れないだろう。

 

 やはり、この身体は化物のカラダだ。

 

 

 

「なるほど、フィリアくんは眠らないのか。ではベッドの使い方を変えよう! ちょっと待っていてくれ!」

 

 あたしの言葉にただ一言『なるほど』とうなずいた彼は何を思ったのか、奥の部屋に行ってゴソゴソと音を立てていた。

 そして、大きな箱を持ってきてあたしの前に置いた。

 

「何よ、これ?」

 

 あたしは訳がわからなくなって、弦十郎に尋ねる。

 

「これは、俺が何度でも観たかったからレンタルでは飽き足らず購入に至った傑作DVDコレクションだ。眠れないのなら暇だろうと思って持ってきた。こうやってベッドの上に腰掛けて観るDVDはなかなかリラックス出来て楽しいんだぞ。どうだ? 一本一緒に観てみるか?」

 

 何? DVDですって?

 これはどうリアクションすればいいの?

 あたしが眠くならない、疲れないという異常な体質を説明したら、彼は『暇だろう』の一言でそれを済まして、暇つぶしの方法を提供してきた。

 

 これにはあたしも呆れるしかない。しかも、大真面目な顔をして言うのだから、文句の言葉も出ないわ。

 

「そうね。せいぜい面白いものを選びなさい。つまらなかったら承知しないわよ」

 

「ふっ、任せとけ!」

 

 白い歯を見せながら微笑んだ彼は、自慢のコレクションから真剣にDVDを選んでいた。

 

 

 結局3本見たけど、ちょっとしか面白くなかったわ――。眠たそうな顔して最後まで付き合うなんて、本当にバカな男ね――。

 

 弦十郎が少し寝ると言って部屋を出ていったので、あたしはパソコンを使って調べものをする。

 調べものと言っても一般常識についてだ。

 

 そもそもあたしの記憶喪失は少しおかしい。

 

 まず、ほとんど完全に消え去っているのが、エピソード記憶……、いわゆる思い出というやつが消失しているのだ。

 

 そして、一般常識のいくつか。

 

 あたしは普通に言語を話せる。しかし、この言葉が『日本語』ということは忘れていた。

 

 テレビもDVDもベッドもなんだったらパソコンの使い方もわかるのに……。

 

 そして、《ノイズ》……。

 

 《ノイズ》は一般常識の範囲なのにも関わらず、私は一切の記憶を失っていた。

 

 身体に刻まれた何かの声によって“人類の敵”という情報だけが入ってきただけだった。

 

 日本、それと《ノイズ》――この2つはあたしの思い出に深く関わっているから、忘却の彼方に押しやられたのではないのか?

 

 その記憶の中にこそあたしがこのような身体になった理由が隠されているのではないか?

 

 根拠はないが、そんな気がしてならないのだ――。

 

 あの男は《英雄》になる為と言っていた。

 だとしたら、この力は――。

 

 これ以上、考えても埒があかないので、あたしは弦十郎のコレクションから適当に一本選んでDVDの電源を入れた。

 

 別に、気に入ったとかじゃないわ。暇つぶしよ、暇つぶし……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ニ課に配属されて一週間ほど経ったある日、《ノイズ》が出現し、シンフォギア装者の出動要請が発動した。

 

 あたしは翼と奏と共に出動し、《ノイズ》の撃退にあたる。

 現場に駆けつける前に、二人は聖詠というシンフォギアを起動させる為に必要な歌を唱える――。

 

「Croitzal ronzell gungnir zizzl……」

 

 奏のガングニールという聖遺物の欠片で出来たペンダントが呼応して、彼女はガングニールのシンフォギアを纏う。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 翼も奏と同様に聖詠を唱えて天羽々斬のシンフォギアを纏った。

 

 奏と翼の違いは一点だけあった。

 奏は聖詠を唱える前にLiNKERという薬を投与しなくてはシンフォギアが纏えないらしいのだ。

 

 シンフォギアを纏うためには適合係数という数値が一定以上ではないとならないらしい。

 

 翼は先天的な適性と訓練によりその数値をクリアした適合者であるが、奏はそうではない。

 

 櫻井了子が開発したという薬物、LiNKERは適合係数を無理やり上昇する効果があるらしいのだが、奏はこれを投与することにより、適合係数の数値を引き上げてやっとシンフォギアを纏うことが出来るらしい。

 

 故に彼女は薬の持続時間の関係で翼と比べて戦闘が可能な時間が著しく短い。だから、あのときも制限時間が来てしまってピンチになったのである。

 

 そんなLiNKERが体に良いはずがなく、彼女はシンフォギアを纏った後に必ず体内の洗浄をしているようだ。

 

 あたしからすると、このような無茶をしてまで戦うことは正気の沙汰ではないと思ったのだが、彼女は「自分達の歌は誰かを勇気付け、救うことが出来る」と信じて戦うのだという。

 

「翼、フィリア、あたしに続け!」

 

 ――STARDUST∞FOTON――

 

 奏が槍を投げると、槍が大量に増えて広範囲に渡って《ノイズ》を貫き殲滅する。

 

 ――LAST∞METEOR――

 

 穂先を回転させた槍が竜巻を生み出し、《ノイズ》を吹き飛ばしながら、殲滅する。

 

 

 適合係数が低いからと言って、奏は翼より弱いというようなことは決してなかった。

 

 あたしはおろか、翼以上に火力の高い技を使いこなし、広範囲でノイズを殲滅する彼女は、苛烈な炎のようで、鬼神の如き強さだった。

 

 ただ、あたしには彼女が生き急いでいるようにも見えた――。

 

「ご苦労さま、あとはあたしたちに任せなさい」

 

 あたしは残り少なくなった《ノイズ》たちを前にミラージュクイーンを構える。

 

 ――超加速から繰り出す高速の剣戟……。

 

 銀色の閃光と化したあたしは一体ずつ確実に《ノイズ》を屠った。

 

 翼もギアを纏っているが疲れている。持久力に関しては人形である疲れ知らずのあたしの方が格段に上のようだ。

 

「これで、最後ね……」

 

 最後の一体を切り裂いたあたしは翼と奏とともに司令室へ戻った。

 

「すごいなー、フィリアはまったく疲れないのかよ」

 

 奏は相変わらず馴れ馴れしく肩を組んで頭を撫でてきた。この子、だんだん遠慮がなくなってきたわね。

 

「ええ、後始末はあたしがやってあげるわ。だから、存分に暴れなさい。あと、撫でるのは止めなさい」

 

 あたしは奏の言葉に返事をした。

 

「えっ、聞こえないなー」

 

 しかし、なにが楽しいのか理解出来ないけど、彼女はあたしの頭を撫でるのをやめなかった。

 

「翼……、この子はいつもこんな感じなの?」

 

「えっと、うん。奏は意地悪なの……」

 

 翼は諦めろというような視線をあたしに送っていた。

 はぁ、仕方のない子ね。

 

 

「みんな、よくやってくれた。フィリアが加わったおかげでかなり効率よく《ノイズ》を殲滅出来るようになっていたぞ!」

 

 司令室に戻ると弦十郎があたしたちに労いの言葉をかけてくれた。

 

 どうやらあたしが後半に残り物のノイズを一体ずつでも確実に倒せていることから、討ち漏らしが無くなり被害の増大をかなり抑えることができたらしいのだ。

 

「ノイズ発生による、被害者の出現範囲、予測より53パーセント縮小を確認」

 

 いつも低血圧なのか、眠たそうな顔をしているオペレーターの藤尭朔也が素早く計算結果を伝える。

 

「フィリアちゃんのおかげで残業が減りそうよ」

 

 明るい姉御肌のオペレーター、友里あおいが残業が少なくなったと喜びを声に出した。

 

「結局、残業はあることはあるのね……」

 

 あたしはそう呟く。

 

「仕方ないよ。ノイズによる被害の後始末からシンフォギアに関する情報の秘匿、あとはフィリアの情報も隠しとかなきゃいけないからね」

 

 藤尭はぼやくように、あたしの声に返事をした。なるほど、あたしの情報も当然機密事項か。

 

「だったら、あたしに出来る仕事を教えなさい。どうせ、眠らないし、疲れないんだから、司令のDVD 見るより働いた方がよほど生産的よ」

 

 あたしは事務的な仕事がもらえないかの話をしてみた。

 

「あのなぁ……。フィリアくん、君には戦ってもらってるんだ、これ以上は……」

 

「えっ、それじゃあ、フィリアちゃんのお言葉に甘えちゃおうかしら」

 

 弦十郎は渋い顔をしたが、結局、友里さんが援護射撃してくれたおかげであたしの意見が通り、あたしは時間を見つけては事務的な仕事を覚えてそれを実践した。

 

 おかげで残業代がたんまり稼げて月収がかなり多く貰えるようになった。

 

 こうして《ノイズ》発生時には三人で力を合わせて戦い。

 事務の仕事が多い日はあたしが助っ人に入るというような生活がしばらく続いた。

 

 

 奏とは何故だか波長が合い、プライベートでは彼女に誘われて、よく翼と共に遊びに付き合うことも多くなった。

 

 そんな中、あたしは奏と翼のもうひとつの顔について知ることとなった――。

 

 




フィリアとニ課のみなさんとのかけ合いはいかがでしたでしょうか?
もう少しで原作の1話に時系列が追いつきます。

ここからが本番ですので次回もよろしくお願いします!


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無印編
ツヴァイウィングと歌の力


いよいよ、後半から原作の1話の部分が始まります。
それでは、よろしくお願いします。


「ツヴァイウィング? 何よそれ?」

 

 あたしは唐突に告げられた言葉を復唱した。

 休日にも関わらず、何が楽しいのか、あたしの部屋に遊びに来てる奏と翼から聞き慣れない言葉を教えられたのだ。

 

「ああ、あたしらが活動してるボーカルユニットの名前だよ。ほらっ、CDだって出してるんだぞ」

 

 奏がニコリと笑ってあたしにCDのジャケットを見せてきた。

 確かに二人がきれいな衣装を着た写真が載った本物のCDである。

 えっ、この子たちプロの歌手活動までやってるの? 奏と翼とひと月くらい付き合った後に、衝撃の事実を聞いてあたしは驚いた。

 

「ていうか、奏はまぁいいとして、翼は人前で歌なんて歌えるんだ」

 

 あたしは意外そうな声を出して翼を見た。

 

「うっ歌えるよ。大丈夫だもん」

 

 翼はあたしの声に反応したが、目は泳いでいた。

 ふーん、本当に大丈夫なのかしら?

 

「へぇ、それに結構売れっ子なんだ、あなたたち。まったく、こんな商売までやってるなんて……」

 

 あたしはパソコンで検索してその結果を見て呆れたような声を出した。

 そして、CDをデスクの上にそのまま置いた。

 

「おいおい、聴かないのかよ!」

 

 奏はあたしが面倒そうに放ったCDを見てツッコミを入れる。

 ああ、これを聴けってことだったのね。

 

 

 逆光のフリューゲルって、洒落た名前をつけるわね……。

 

 歌を聴いたところで、今のあたしは――。

 

 そんなことを思いながら彼女たちの曲を再生した。

 そして、旋律があたしの聴覚を刺激する――。

 

 

 えっ、何よ? この感じ……。歌詞とかメロディじゃないわ……。

 何があたしの胸を締め付けるの?

 

 あたしの核である聖遺物が二人の歌に呼応するかのごとく熱くなる。

 

『二人なら――♪  もっと―― 太陽より――♫』

 

 この身体になって、こんなに感情が蘇ったような感覚になるのは初めてだった。

 何かを思い出せそうで思い出せない、そんな虚しさも感じた……。

 

 

 

「どっ、どうだった? 私の歌、フィリアにはどう聴こえた?」

 

 曲が終わって感想を聞いてきたのは翼の方だった。

 

「……よっ良かったわよ。甘っちょろい歌詞だけど、あなたたちにはお似合いじゃない。別に何を歌ったって自由なんだし……」

 

 素直になれない謎の意地が働いて、そのまま思ったことが言えなかった。

 でも、歌が売れている理由はわかる。こんな人形の感情だって動かせるのだから、人間の心に強くエネルギーを刻み込むことくらいは出来るのだろう。

 

「なぁー、良かっただろ! もっと褒めるがよい! このこの!」

 

 奏はあたしの頭をくしゃくしゃっと撫でて、調子に乗った声を出してきた。

 あたしはこの瞬間、一言でも良かったとかいったことを後悔した。

 

「ねぇ、フィリア。本当に良かった? 私の歌はフィリアに届いたかな?」

 

 翼も翼で、珍しくグイグイくる。どうしたのかしら? いつも内気で引っ込み思案なのに。

 

「ええ、いい歌だったわ。自信を持ちなさい。あなたの歌には人に希望を与える力がある」

 

 そんな翼の圧に負けたあたしは、つい、らしくないことを言ってしまった。

 ダメね、ここのところペースが乱されっぱなしよ。この子たちに――。

 

「ありがとう、フィリア。嬉しい」

 

 ニコッと微笑んだ翼はやさしくあたしの頭を撫でる。もう、奏だけじゃなくて、あなたもなの? いい加減にしなさい。

 

 

「それで、急にそんな話をあたしにしたのには何か意味があるのかしら?」

 

 あたしは気になっていた事を質問した。

 このタイミングでツヴァイウィングについて話を切り出したり、歌の出来栄えを聞いたりするのには理由があると思ったのだ。

 

「おっ、やっぱ気になるよなー。実はさ、こんど、あたしたちでっかいライブをやるんだー」

 

 そう言いながら、今度はカバンからポスターを取り出して見せてくる。

 

 本当に大きなライブ会場じゃない。これって、10万人近く入るんじゃないの?

 

 あたしは思った以上に大がかりなライブだということを知って驚いた。

 

「ちょっと、これ。普通じゃないわよ。こんなに大がかりなライブなんて、あなたたちがする必要あるの?」

 

 あたしは思ったことをそのまま口に出した。

 彼女たちがライブをするのは、大人の商売に付き合わされてるしか思ってなかったからだ。

 

「フィリア、あたしたちはやりたくてやってるんだよ。ワクワクするじゃないか! これだけの人に感動を与えられるんだぞ! なぁ、翼!」

 

「うっうん。私も奏と一緒ならどんなことだって出来るし、どこへだって飛べる」

 

 二人はやる気に満ちた顔付きであたしにそう告げた。

 ふーん、やりたくてやってるのね。理解できないけどそれなら仕方ないわね。

 

「じゃ、頑張りなさい。応援してるわ」

 

 とりあえずあたしはそう口にして話を終えるつもりでいた。しかし、奏はそのつもりはないようだった。

 

「おいおい、他人ごとみてーなこと言うなよ。フィリアもライブに一緒に来ることになるんだぞ」

 

 彼女は思いもよらないことを言ってきた。

 何ですって?

 

「はぁ? なんであたしがあなたたちの趣味に付き合わされなきゃいけないのよ?」

 

 来ることになるという言い方をされて、あたしは訳がわからなかった。

 それじゃ、まるで二課の仕事があるみたいじゃない。

 

「んー、えーっと何でだっけ? 翼ー、覚えてるー?」

 

「…………」

 

 どうやら奏は肝心なことを忘れてしまったらしく、翼に話を振っていた。

 

「もう、奏ったら、あれだけ説明されたのに忘れちゃったの? フィリア、ライブをする目的は二課が実験をするためでもあるのよ」

 

 翼がライブの目的について説明をする。どうやらそれにはニ課が絡んでるらしい。

 

「ある聖遺物が封印された状態で発見されたんだけど、これを起動させるには大量のフォニックゲインが必要みたいなの。あっ、フォニックゲインっていうのは歌の力みたいなもので、シンフォギアもこれで動いてるんだけど……」

 

 フォニックゲインについては前に了子に聞いた気がする。

 歌には力があって、それが高まると聖遺物が反応したりするようだ。

 

「でね、私と奏が大勢の観客の前で歌うことで、私たちの歌が観客たちと共鳴して大量のフォニックゲインが理論上は生まれるみたいなの」

 

「ふーん、なるほど。ライブを利用してエネルギーを量産し、聖遺物を起動させる実験をするってわけね。そりゃ、あたしも一緒に付き合うことになりそうね」

 

 翼の説明を聞いてあたしは納得した。

 まったく、とことん何でも利用するつもりなのね。

 この子たちは戦わされるだけじゃなくて、人に夢を与える大事なことも、実験材料にさせられてるわ……。

 本人が納得してるから、文句を言うつもりはないけど……。弦十郎、あなたはそれでいいのかしら?

 

「あー、そんな話だった、偉いぞ翼ー。よく覚えてたなー」

 

「もっもう。私は子供じゃない。そう言うのはフィリアにしてよ」

 

 ニカッと笑顔で翼の頭を撫でる奏。

 

 あなたはこんな重要なことよく忘れてたわね。

 いや、そうじゃないか。あなたは単純にみんなの前で歌うことが楽しみでならないだけ。

 本当に純粋すぎる子――どこまでもまっすぐで遠慮がないから、人の懐に入り込むことが出来るのね。

 

 人形のあたしにも――。

 

 

 ライブは来月にあるらしい。その後、あたしは裏方で手伝いをして、実験を見守るという仕事を与えられることになった。

 

 そして、もう一つだけ。ライブ会場のような一般人が多いところに出るにあたって、二課の研究チームがあたしのために開発してくれたのが身体の継ぎ目を消す塗料だ。

 これを塗ることであたしの身体はなんとか異様に色の白い人間っぽくは見えるようになった。

 

 この塗料は耐水性には優れていて雨くらいでは落ちないが、耐熱性には少しだけ難がある。

 これはどういうことかというと、ミラージュクイーンを使用する際、あたしの身体の温度はかなりの熱を帯びるわけだが、そうなると塗料が溶けてしまうのだ。

 

 つまり、戦闘時はやはり人形の姿に戻ってしまうということである。

 

 まぁ、それでも塗料の存在はありがたく、あたしはこれのおかげで薄着でも外を出歩くことが可能になった。

 

 

 

 そして、任務をこなしたり、オペレーターの雑務を手伝ったりしていると一瞬で月日は過ぎ去り……、ツヴァイウィングのライブの日を迎えたのである。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「間が保たないっていうか、なんていうかさー。開演するまでのこの時間が苦手なんだよねー」

 

「うん」

 

 白いフード付きのローブのような衣装を着て、翼と奏はライブ会場の裏でスタンバってる。

 

 翼は俯いて緊張気味。奏は苦手とか言いつつ自然体だ。

 

「こちとら、さっさと大暴れしたいのに、そいつもままならねぇ」

 

「……そうだね」

 

 頭を掻きながら不満をもらす奏に同意する翼。あら、翼は本当にガチガチじゃない。

 

「もしかして、翼。緊張とかしちゃったり?」

 

 ニヤリと悪い笑みを浮かべて翼の顔色を覗き込む。

 

「当たり前でしょ! 櫻井女史も今日は大事だって――ふわぁっ」

 

 翼が緊張を肯定すると、奏は彼女を軽く小突いた。

 

「かぁー、真面目が過ぎるねー」

 

 へらりと笑いながら奏は翼の緊張を解そうとしていた。

 

「司令、こっちよ。二人ともここにいるわ」

 

「奏、翼、ここに居たか」

 

 あたしが弦十郎を手招きして二人のもとへ彼を近づける。

 

「フィリア、司令……」

 

「こりゃまた、弦十郎の旦那にフィリアじゃないか」

 

 二人はあたしたちに気付いてこちらを向く。

 

「分かっていると思うが今日は――」

 

「大事だって言うんだろ。わかってるから大丈夫だって」

 

 奏はいつもように飄々としたノリで返事をする。まったく、この子の心臓は――。

 

「ふっ、分かっているならそれでいい。――今日のライブの結果が人類の未来をかけてるってことにな」

 

 弦十郎は少しだけ微笑んで安心そうな顔をした。

 

「司令はこんなこと言っているけど、あたしは人類の未来なんて考えるより、今を楽しんできてほしいわね」

 

 あたしは弦十郎のセリフに水を差した。

 

「おいおい……」

「フィリア……」

「えっ?」

 

 ポカンとしてあたしを見る三人。

 

「先のことなんて何があるのか、わかったもんじゃないわ。あなたたちは、この瞬間を大事にすればいいのよ。特に、翼……、あなたの歌はそんな顔してちゃ楽しめないでしょ」

 

 あたしは翼の顔をまっすぐ見てそう言った。

 あー、らしくないことを言っちゃったわね。今夜辺り後悔しそうよ。

 

「うん、ありがとう。ライブ頑張るよ、フィリア」

 

「あたしはフィリアのそういうとこ大好きだぞ」

 

 翼はちょっとだけ明るい顔で返事をして、奏はいつもみたいに肩を組んで頭を撫でてきた。やっぱり言うんじゃなかったわ……。

 

 

「わかった。すぐに向かおう。フィリアくん、準備が終わったようだ」

 

 弦十郎が声をかけ、あたしは彼と実験場に向かうこととなる。

 

「ステージの上は任せとけ」

 

「うん」

「心配してないわ」

 

 サムズアップのポーズを決める奏にあたしたちは頷いて、実験場へと足を運んだ。

 

 今日が忘れられない日になるなんて、あたしはまだ思いもしなかった――。




ついにライブが始まる直前です。
ここから、フィリアの物語も大きく動きますので次回もよろしくお願いします!


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ライブ会場の惨劇

タイトル通り、ノイズがライブ会場を襲います。
それではよろしくお願いします。


「……気になるのか? フィリアくん、奏と翼が……」

 

 実験場に向かう途中、弦十郎がそんなことを聞いてきた。

 はぁ、相変わらずあたしの心を見透かしたようなことを言うんだから。

 

「ええ、そうよ。あんな無責任なこと言ったんだもの。気になるに決まってるわ」

 

 あたしは変に隠すのも嫌だったので素直に肯定する。

 気になる理由は他にもあるんだけど……。 

 

「ふっ、そうか。今日は驚くほど素直なんだな。では、これを君に渡そう」

 

 弦十郎は今日のライブのチケットを渡してきた。それも良い席のものである。

 

「たまにはこういうサプライズも良いだろうと、了子くんがな。まぁ、君が気になると言えば渡すつもりだったのだ」

 

 あー、了子の差し金か。だったら納得ね。

 この人がそんな粋なことするわけないもの。

 

「あたしが居なくても大丈夫なの?」

 

「おいおい、新参者の君が居ないくらい何でもないぞ。たまには、親の好意に甘えるのも孝行だ、行ってこい」

 

 朗らかに笑う弦十郎を見て、あたしは彼女らの晴れ舞台を生で見ることにした。

 

 って、もう始まる寸前じゃない。

 

「サプライズだか、なんだか知らないけど引っ張りすぎよ。まったく、気が利かないんだから」

 

「すっすまん」

 

 時間を確認して文句を言うあたしに謝罪する弦十郎。

 あーあ、これはもう着く頃には始まってるわね……。

 

 あたしはそんなことを思いながらライブ会場に足を運んだ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「「見たことない――――♪」」

 

 案の定、あたしが席についたときにはライブは始まっていて、奏と翼は息の合ったパフォーマンスを繰り広げていた。

 

 生で聴くと迫力が凄いわね……。ちょっと圧倒されちゃったわよ……。

 

 ステージの大きさに負けないダイナミックな歌声がオーディエンスを魅了し、会場は大興奮に包まれていた。

 

 

 

 ――ああ、胸の奥にあるあたしの核も今までにないくらい反応している。身体が熱くなって塗料が溶け出さないか心配になってきたわよ。

 

 これは実験もきっと成功したと思う。

 理屈はわからないけど、あたしはそう確信していた……。

 

 

 

 しかし、ライブ会場の熱気が最高潮に上がった時である。

 

「「キャーッ!」」

 

「!?」

 

 突如として、観客席の中央で爆発が起こる……。

 

「こっこれは、演出じゃない……」

 

“人類の敵……”

 

 あたしがそう思った瞬間に身体が感じ取ったのは《ノイズ》の気配。

 それも今までとは比較にならないほど大きくて、尋常じゃない数の《ノイズ》の気配を感じ取った。

 

 

 

「くっ、あの子たちの晴れ舞台を……、まったく馬鹿にして!」

 

 あたしは爆発の方向に走り出す。

 

「コード、ミラージュクイーン……」

 

 銀色の筒から光の刃が放出される。

 そして、身体から迸る熱量で塗料が溶けて人形の姿が露わになる。

 そう、あたしは《ノイズ》を滅ぼすための生きた人形……。

 

 銀色の閃光と化したあたしは音速を超えて、観客を無差別に襲う《ノイズ》に滅びの一太刀を浴びせていった。

 

 

「Croitzal ronzell gungnir zizzl……」

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 ――奏と翼の歌が聞こえる。そうよね、あなたたちがこんな状況をほっとくわけないわよね。

 

 いつの間にかシンフォギアを纏った奏と翼があたしとは比べ物にならない火力で《ノイズ》たちを倒す。

 

 特に奏の勢いはいつも以上にすごかった。

 

 ――STARDUST∞FOTON――

 

 槍が大量に増えて広範囲に渡って《ノイズ》を貫き殲滅する。

 

 ――LAST∞METEOR――

 

 穂先を回転させた槍が竜巻を生み出し、巨大な芋虫のような《ノイズ》をも吹き飛ばしながら、消滅させた。

 

「さすがにやるわね……」

 

 あたしは奏の強さに舌を巻いていた。

 

 

 

 しかし、優勢は長くは続かない。奏の時間制限が来てしまったのだ。

 目に見えて衰える彼女に巨大な芋虫のような《ノイズ》が一撃を加えようとする。

 

「奏!」

 

 あたしは自身の最高速度で彼女に接近して《ノイズ》の一撃をミラージュクイーンで受け止める。あたしは威力に押されて足元がぐらつく。

 

「フィリア! だっ大丈夫か?」

 

 こちらに駆け寄る彼女をあたしは手で制する。

 

「下がってなさい。もう限界が近いのでしょう。前にも言ったけど自分の体と命は大切になさい。ここはあたしに任せて……」

 

「だけど、フィリアの攻撃じゃ……」

 

 奏はあたしの身を案じるようなことを言う。

 

 確かに今の衝突でわかった。あの巨大な《ノイズ》にあたしの攻撃が大して効果がないってことが……。

 

 だけど、あたしにはスタミナがある。疲れない身体がある。一撃で倒せないなら――。

 

「何発だって、くれてやるわよっ!」

 

 あたしは《ノイズ》に突撃した。

 

「くっ、奏はどうやってこんなやつを……」

 

 銀色の閃光は脆弱で巨大な《ノイズ》に何度斬りかかってもダメージを与えることは出来ない。

 

 そんな中、奏はあれだけ逃げろと言ったのに、観客の女の子を庇って小さな《ノイズ》を無理をしながら殲滅していた。

 

 

 

 しかし、《ノイズ》は意思があるのかわからないが無慈悲だった。

 彼女の生命力の衰えを感じると、巨大な《ノイズ》たちが集中的に奏を狙いだしたのだ。

 

「ちっ、やらせないわ!」

 

 あたしは奏の前に立ち塞がり、ミラージュクイーンで攻撃を受け止めようとする。

 

「フィリアっ! フィリアっ! うっ腕が……!」

 

 ――あたしの耳に届いたのは衝撃音と奏の叫び声……。

 

 そう、痛みを感じない身体なので気づくのが一瞬遅れたが、あたしは吹き飛ばされて壁に激突していた。

 さらにミラージュクイーンを握っていた右手は千切れて、どこかに飛ばされてしまったのだ。

 

「ちくしょう! こんなもの! ――ぐっ」

 

 巨大な《ノイズ》の追撃を奏はガングニールで受け止めるが、威力が強すぎてシンフォギアが砕け散ってしまう。

 

「なっ、なんてことが……」

 

 あたしは絶句する。

 

 その砕け散ったガングニールの破片が彼女の後ろに居た少女に突き刺さり、少女は胸から血を吹き出して倒れた――。

 そんな……、奏が命がけで守ろうとしていたのに……。なんで、こんな理不尽が?

 

 

「おいっ! 死ぬなっ! 目を開けてくれ! 生きるのを諦めるな!」

 

 奏は少女に駆け寄ってそう声をかける。

 

 奏、あなた……、今後に及んで他人の心配がまだできるなんて……。でも、そんなあなただからこそ、どこまでも果てしなく甘いあなただからこそ、あたしはあなたのことが――。

 

 

 あたしは片腕だろうと立ち上がり、ミラージュクイーンを探す。

 くっ、見つからない! 一体、どこまで飛ばされたっていうの……。

 

 あたしが焦ってる間に、奏はすくっと立ち上がっていた。

 あなた、まだ戦うつもり?

 

「いつか、心と体、思いっきり空っぽにして歌いたかったんだよな……。今日はこんなにたくさんの連中が聴きに来てくれたんだ――」

 

 槍を拾って、奏はそんなことを呟いていた。

 

 その表情(かお)は何? あなた、何をするつもりなの?

 

 あたしは嫌な予感に胸を締め付けられた。

 

「だから、あたしも出し惜しみなしでいく……。とっておきのをくれてやる……、《絶唱》……」

 

 奏は槍を天に掲げた。彼女の頬に一筋の涙が流れる――。

 

「奏? あなたは何を?」

 

「フィリア、翼のことを頼んだ――」

 

 奏はあたしの方を向いて、ニコッと笑った。

 ちょっと、悪い冗談でしょう。

 

 あたしは何が起こるのかわからなかったが、止めないと取り返しがつかなくなるような気がした。

 

「Gatrandis babel――――――……」

 

 奏が歌い出すと周りの空気が変わった――。そして、彼女の身から流星のような大きなエネルギーを感じた。何よ――これ?

 

「いけない、奏! 歌ってはダメー!」

 

 翼が絶叫して奏を止めようとする。

 

「Gatrandis babel ――――――――……」

 

「ダメよ、そんな力を使ったら……」

 

 歌い終えた彼女から猛烈なエネルギーの波動が繰り出され、巨大な《ノイズ》も含めて次々と《ノイズ》たちが消滅していく。

 

「えっ、奏……、あたしは信じないわよ。そんな、あなたが……」

 

 目の前で奏は倒れた……。口から血を流し、力なく微笑みながら、無造作に――。、

 

 翼は急いで彼女に向かって走り出し、彼女を抱きかかえる。

 

 

 

 奏は翼の腕の中で崩れて灰になった――。

 

 あたしはただ見ていることだけしか出来なった――。

 

 

 

 奏、あなたは馬鹿よ。なんで、なんで、あなたみたいな、お人好しがこんなに簡単に逝っちゃうのよ……。

 

 

 

 嫌になるわ、あたしはこんな時でも涙が流れないんだから――。

 

 

 

「翼……」

 

「フィリア……、奏が、奏が……」

 

「ええ、あなたはあたしの分まで泣いて頂戴。そして、奏の分まで必ず生きて――」

 

 あたしはようやく吹き飛ばされた右手を見つけて握られていたミラージュクイーンを左手で持つ。

 

 

「待って、フィリア。あなた……、何を?」

 

「約束したのよ、奏と……。彼女の後始末はあたしがするってことと、あなたを守るってこと……」

 

 そう、奏の《絶唱》とやらは確かに強力だったが、離れた位置にいた巨大な《ノイズ》が数体だけ生き残っていたのだ……。

 

「フィリア、嫌よ! あなたまで居なくなったら、私は――」

 

「大丈夫、あたしは死なない身体なの。そして、奏の歌が思い出させてくれたわ。あたしの中の感情を――。《怒り》と《哀しみ》を……」

 

 あたしの感情に呼応してミラージュクイーンの輝きがかつてない程に強くなる。奏の絶唱はあたしの核である聖遺物を刺激して、蘇った感情と共に頭の中に新たなキーワードを想起させるに至っていた。

 

「コード、マナ、バースト……」

 

 そして、頭の中の声に従い、あたしはキーワードを呟く……。

 

 すると、目の前に漂う光の粒子のようなものが見えるようになった……。これは……。

 

“錬金術こそ、人が神へ抗うために残された、最後の力――。《マナ》は万物の源。その解析こそが神域に踏み込むための一歩――”

 

 頭の声によるとこれは《マナ》という自然界のエネルギーらしい。今日は前と違って幾分と饒舌じゃない。ムカつくくらい……。

 

“《マナ》を自在に操り、無限のエネルギーにより、現象を発現させる。ミラージュクイーンは錬成に必要な媒体にすぎない――”

 

 あたしはミラージュクイーンから《マナ》にエネルギーを送り込む――。

 

“現象錬成……、これが人類の敵を滅ぼすための、大いなる力――”

 

 《マナ》は業火へと姿を変えて、ミラージュクイーンはそれを纏う。

 

 そして加速して《ノイズ》接近――。

 

 ――神焔一閃(カミホムラノイッセン)――

 

 あたしが炎を纏ったミラージュクイーンを振り下ろすと、ノイズは切断面とともに炎上し、灰になった。

 

 

 

 あっけなく、消え去る《ノイズ》の姿はあたしに自責の念に苛まれる。

 この力が、この力が、もっと早く手に入っていれば……、奏が死ぬことはなかったのに!

 

 あたしが、あたしがっ! 彼女を殺したんだっ!

 

 《怒り》の感情に任せて、《ノイズ》に向かって剣を振り、消滅させ、そしていつしかあたしの意識は暗いところに落ちていた――。

 

 だから、友達なんていらなかったのよ――。

 

 奏……、ごめんなさい……。




奏は原作通りの結果に……。書いてて辛かったです。

絶唱でノイズを仕留めきれなかったのは、フィーネがフィリアの分を計算して原作より多めに配置したからです。



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惨劇から二年……

原作1話の後半くらいまでです。
それではよろしくお願いします。


「ここは……」

 

 意識を回復したあたしは見知らぬ部屋で横になっていた。

 

「フィリア! よかった! あなたは助かってくれた。よかった……」

 

 涙を流しながら翼があたしに抱きつく。『あたしは』助かった――。

 でも奏は……。

 

「ごめんなさい。翼、あたしがもっと早く、ちゃんと力を使えてれば……、奏は……。あたしがあの子を、あたしが……」

 

 哀しいという感情はあるのに一滴も流れない涙に苛立ちながら、あたしは翼に謝罪した。

 

 たったの二か月だが、何の思い出もないあたしにとっては彼女と共にいた日々は人生そのものだった。

 

 そして、翼にとってはあたしとは比較にならないくらい……。

 

「ううん、私も同じよ。私がもっと強かったら、もっと力があれば……、奏は死ななかった」

 

 翼も自分の力の無さを悔いていたようだった。目には絶望とともに闘志も宿っていた。

 

「そうね、翼……、あたしたちは強くならなきゃね。奏が救うはずだった命も救うために。そして、もう二度と《ノイズ》なんかに負けないために……。そうじゃなきゃ、あの子が浮かばれないものね」

 

 あたしを突き動かすのは奏を失った《哀しみ》と《ノイズ》に対する《怒り》。

 奏があたしに残してくれた、蘇った《感情》。

 

「うん、私も強くなる。奏が倒すはずだった敵をすべて断ち切れるような、一振りの剣になってみせる……」

 

 翼があたしの言葉に同調する。

 この子、纏う気配が変わったわ……。これは良いことなのかしら……、それとも……。

 

 そして、あたしはある違和感に気付いた。 

 

「ところで、翼? あたしの右腕って千切れたはずなのに、どうして腕があるの? 了子が直してくれたの?」

 

 あたしは普通に両腕があることに気付いて今さら驚いた。

 

「そっそれは、私があなたの身体を抱えようとしたら……、その、急に光に包まれて右腕が再生しだしたの……。櫻井女史によれば、あなたにはエネルギーを消費することでオートで再生する機能が付いているらしいわ。そのせいでエネルギーがほとんどゼロになったみたいよ」

 

 翼の説明を聞いて、ますます自分の化物っぶりがわかって、そんな化物のくせに大切な人ひとりを守れなかった歯がゆさがキツかった。

 

 そんなとき、部屋の扉が開き、弦十郎が入ってきた。

 

「フィリアくん、目を覚ましたと聞いた。その、大丈夫か?」

 

 彼は哀しそうな顔をしてあたしを見ていた。

 大丈夫か? ですって……。

 

「大丈夫なはずないわよ。でも、前を向かなきゃ、あたしは奏に顔向けできないじゃない……」

 

 あたしはそう言って、ベッドから下りて立ち上がる。

 

「でも、身体の方は完全に回復したわ。これだけがあたしの取り柄だもの。今からだって《ノイズ》と戦える。司令、あなただってそうしなきゃ、『常在戦場』って言葉があるでしょ」

 

 あたしは弦十郎の腰を叩いた。

 

「んっ、ああ。まあな」

 

「常在戦場……」

 

 なんだか、翼の反応が変だったけど、あたしはその日のうちに弦十郎と共に家に帰った。

 

 そうよ、あたしには疲れない身体と、あり余ったエネルギーがある。

 もうこれはあたしだけのモノじゃない。あの子との約束と翼の未来を守るためのモノなんだ。

 

 後で聞いた話だが、ライブ会場の惨劇で亡くなった人の数は12000人以上だったらしい。さらに聖遺物の実験は成功したらしいのだが、起動した《ネフィシュタンの鎧》という聖遺物は何者かによって強奪されたそうだ。

 

 あたしはこの日の出来事に何者かの悪意が絡んでいるとしか思えなかった。

 

 

 

 その日から翼は人が変わったように鍛錬をし始めた。

 あたしもそれに付き合ったが、彼女の気迫は凄まじく、とてつもないスピードで強くなった。

 まるで鍛えられた一振りの剣のように――研ぎ澄まされた、鋭い力だった。

 

 さらに彼女は歌うことを止めなかった。アイドルとして活動し、国民的な人気者になったのだった。

 

 あたしはというと、新しい錬金術による力に目覚めたのは良いものの、燃費が驚くほど悪く、強力な技を連発すると強制的に機能が停止するということがわかった。

 

 それなので、気休め程度のエネルギー源だが、あたしは常に何らかの菓子を携帯することとなったのである。

 

 そして、もう一つ。あれから約一年が経って、あたしは高校に通うことになった。翼より一学年下で……。

 私立リディアン音楽院高等科に入学することになった。

 

 翼のプライベートのケアは主に緒川が行っているのだが、さすがに女子校は無理ということで、あたしに白羽の矢が立ったのだ。

 

 こんな体だし今さら学校なんか行きたくはなかったが、奏に『翼を頼む』と託されている私は断ることが出来なかった。

 

 そこからは苦痛というか、痛みを感じないのに頭痛に悩まされそうになる日々だった。

 

 この見た目で高校生というのはかなり無理があるのか、小柄な身長と異常に白い肌のせいで、やたらと子供扱いしてくる子たちが寄ってきた。

 

 さらに風鳴翼が思った以上に有名人になっていたので、同じ風鳴の姓で彼女の従姉妹というあたしは好奇な目でも見られてしまった。

 

 そんなわけで、あたしの高校生活は割とストレスが溜まるものだったのである。

 

 

 まぁ、一年も通えばようやく落ち着いてきたのか、周りが飽きてくれたので、《ノイズ》との戦い以外は平穏な毎日になっていた。

 

 

 

 しかし、翼の心の傷は依然として深く刻まれていて、人形のあたしでは彼女を癒やすことが出来なかった。

 

 それが、あたしには堪らなく悔しかった――。

 

 

 再び春が来て、あたしは二年生になった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「じゃあ、先に行ってくるから」

 

「ああ、気をつけるんだぞ!」

 

 あたしはすでにもう一年以上着た同じサイズの制服で身を包み、通い慣れた道を歩く。

 

 

「何よあれ……」

 

 あたしは自分と同じ制服を着た生徒の奇怪な行動に注意を向けた。

 

 黄色の髪の女の子が木に登って、降りられなくなったであろうネコを助けようとしていた。

 

 まったく、無茶するわね。どっかで見たようなお人好しのような顔しちゃって。

 

 あたしは特に知り合いでもないので放っておくことにした。

 

「ありゃっ! きゃあっ!」

 

 しかし、黄色の髪の子はネコを抱きかかえたまでは良いが、そのまま地面に向かって一直線に落ちてしまう。

 

「はぁ、仕方ないわね」

 

 あたしは瞬時に落下点まで移動して彼女を受け止める。まぁ、このくらいなら常識の範囲内の動きでしょう。

 

「ふうぁっ! えっ、わっ私、あれ?」

 

「ほら、自分で立てるでしょ」

 

 混乱している彼女を地面に立たせて、あたしは学校に向かおうとする。

 

「ええっと、助けてくれてありがとう! もしかして中等科、いや小等科の子なのかなぁ? すんごい力持ちなんだねー。おおっ、なんとびっくり超美少女だっ!」

 

 黄色の髪の子はオーバーなリアクションでネコを抱えながら忙しく言葉を捲し立てる。

 

「あたしはあなたと同じ高等科よ。大体、小中は校舎が全然別のところにあるでしょ。まさか、入学説明をまったく聞いてなかったの?」

 

 小学生扱いされて、ついあたしは面倒くさそうな子に反応してしまう。

 

「ありゃりゃ、ごめんごめん! まさか、そんなに可愛い感じで高校生とは思わなくってさー。でも、人は見かけによらないって言うし、こりゃあ1本取られちゃったかなーって」

 

「……もういいかしら?」

 

 よくしゃべる彼女にうんざりしたあたしは今度こそ学校へ向かおうとする。

 

「あー、ちょっと、ちょっとだけ待って! せめて、助けてもらったんだから名前だけでも教えて! 私は立花響! 15歳、趣味は人助けで、好きな物はご飯アンドご飯!」

 

 あたしの名前を聞いた上で、聞いてもないのに自己紹介する彼女。ふーん、やっぱり新入生か。

 なんか、名前を言わないとずっと付きまといそうね。

 

「風鳴フィリアよ……。これでいいかしら?」

 

「ええっ! 風鳴ってもしかして翼さんの!?」

 

 思ったとおり響はあたしの姓に食いつく。みんなそうだったし、仕方ないわね。

 

「そう、翼はあたしの従姉妹。もう十分よね? 早くしないと遅刻するわよ」

 

 手短に答えてあたしは歩き始めた。

 

「わぁーっ、すごい! フィリアちゃん、翼さんと親戚なんだねー。私、翼さんに憧れてこの学校に入ったんだー」

 

 これ以上付き合いきれないので、あたしは無視して学校に急いだ。まったく、本当に遅刻するところだったわよ。

 

 それにしても、人助けが趣味か……。あの子みたいなお人好し、他にも居たのね……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 その日の夜、あたしと翼は《ノイズ》出現による出動要請がかかった。

 

 すでに一課が応戦しているが、現代兵器では《ノイズ》への効果は薄い。

 

 ヘリコプターで現場に向かい、《ノイズ》を確認する。

 

 なかなか大きな《ノイズ》も何体かいるじゃない。

 以前なら苦戦してたわね――。

 

「行くわよ、フィリア」

「ええ、翼……、油断大敵よ」

 

「ふっ、言われるまでもない!」

 

 あたしと翼はヘリコプターから《ノイズ》たちの正面へ飛び降りる。

 

「コード、ミラージュクイーン……」

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 あたしはミラージュクイーンを構え、翼はシンフォギアを纏う。

 

『翼、フィリア、まずは一課と連携して、相手の出方を見ろ』

 

「いえ、私とフィリアだけで十分です」

 

「ちょっと、翼!」

 

 あたしが翼を諌めようとしたが、彼女は聞く耳持たずに敵陣の真っ只中に駆け出す。

 

 ――逆羅刹――

 

 翼は逆立ちと同時に横回転し、展開した脚部の刃でどんどん《ノイズ》を切り裂いていく。

 

 ――千ノ落涙――

 

 翼は宙に舞い上がり、空間から大量の剣を具現化し、上空から落下させて、《ノイズ》を広範囲で殲滅する。

 

 ――蒼ノ一閃――

 

 大型化させたアームドギア(シンフォギアの主武装)を振るい、巨大な青いエネルギー刃を放ち巨大な《ノイズ》を一刀両断した。

 

 このように多彩な強力な技を使い、翼は一瞬で大型も含めて大量の《ノイズ》を殲滅する。

 

「はぁ、強くなったのはいいけど先走りすぎよ、翼……。コード、マナバースト……」

 

 ミラージュクイーンの輝きが増して、あたしの目は《マナ》が視覚できるようになる。

 

 ――雷霆陥(ライテイオトシ)――

 

 ミラージュクイーンを上段に構えて振り下ろす瞬間に雷を帯びた刃が降り注ぎ、広範囲の《ノイズ》を貫き殲滅する。

 

 ――魔刃国崩(マジンクニクズシ)――

 

 ミラージュクイーンの出力を最大限に上昇させて剣を振ることで、銀色のエネルギーの塊を飛ばし、大型の《ノイズ》を一撃で葬った。

 

 こうして、あたしと翼はノイズを全て殲滅した。

 

 まったく大技は燃費が悪いったらありゃしないわ。

 あたしは持ち歩いている板チョコを一枚平らげて消費したエネルギーを回復する。

 

 それにしても、最近の翼は……、ちょっと話し合う必要がありそうね。

 

 司令室に向かう最中にあたしは翼に話しかける。

 

「翼、あなた、最近スタンドプレーが目立っているわよ。ちゃんと司令の意見を聞かなきゃ……」

 

「敵を一秒でも早く倒すことより優先することは何もない。それが防人としての使命だ。話はそれだけか?」

 

 翼はそういうと、早足で先に行ってしまおうとする。

 

「ちょっと、待ちなさい。二人で頑張るんでしょ。一緒に戦わなきゃ――」

 

「それじゃ、遅いんだ! 奏の分まで私は敵を倒さなくてはならない――」

「翼! まだ話は……」 

 

 翼は大声を出して、そのまま去っていった。

 

 

「ダメね。あたしは……。奏の代わりにはなれるはずないし。人形の風鳴フィリアじゃ、あの子の心を癒せない……」

 

 翼……、あなた、あれからずっと自分を追い詰めているのね……。

 

 あたしは彼女の心の闇を振り払うような光が現れることを願わずにはいられなかった。




フィリアの新技のネーミングセンスは許してください。
二人で鍛練を積んだという設定なので技の発想は似た感じにしています。





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ガングニール再び……

感想と誤字報告ありがとうございます。
原作2話の中盤くらいまでです。
それではよろしくお願いします!


 《ノイズ》出現の警報が鳴り響き、あたしと翼は制服のまま司令室へ駆け込む。

 

「状況を教えてください!」

 

「現在、位置の特定を最優先で行っております」

 

 オペレーターたちは総出で《ノイズ》の出現位置の特定を急ぐ。

 最近、多いわね……。何か悪いことの前触れなのかしら?

 

 

 しばらくすると、司令室内がざわつき始めた。

 

「反応、絞り込みました! 位置特定!」

 

「《ノイズ》とは異なる高出力エネルギーを検知!」

 

「波形を照合――急いで……」

 

 オペレーターたちは《ノイズ》の位置を特定したみたいだが、他にも大きな力の反応を見つけて驚いた声を出していた。

 

「これは、まさかアウフヴァッヘン波形!?」

 

 了子が驚愕して、声を出す。

 

 アウフヴァッヘン波形とは聖遺物、あるいは聖遺物の欠片が、歌の力によって起動する際に発する、エネルギーの特殊な波形パターンのことである。

 聖遺物ごとに波形は異なっており、パターンを照合することによって、その種別を特定する事も可能である。

 シンフォギアを身にまとう時にも発せられているものだ。

 

「ガングニールだとぉ!」

 

 弦十郎は大声を上げて立ち上がる。

 モニターの照合によると、ガングニールのアウフヴァッヘン波形が確認されたようだ。

 

「なっ……」

「ガングニールって、奏の……」

 

 あたしと翼は唖然として固まってしまった。

 

「新たなる敵、もしや……」

「だが、一体どうして?」

 

 モニターにはガングニールのシンフォギアが映し出されていた……。

 

 

「出撃します」

「ちょっと、待ちなさい! 翼!」

 

 翼が駆け出し、あたしもあとを追う。彼女はバイクに乗ったので、後ろにあたしも腰掛ける。

 

 

 ガングニールのシンフォギア……、奏以外がなぜ? 

 翼も同じことを考えてるはずだ。とにかく、現場に行けば何かわかるはず。

 

 バイクは《ノイズ》とガングニールにどんどんと近づいて行った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 バイクが《ノイズ》に直撃して炎上する。

 ったく、乗り捨てるのをやめろと何度言えばわかるのよ。

 

 ガングニールのシンフォギア。本当に居たのね……。

 あれっ? あの子って先日の? あたしは先日、ネコを助けていた立花響がガングニールを身に纏っていることを確認した。

 そう、あなたが……。奏の……。

 

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 翼は空中で聖詠を唱えて着地する。

 

「呆けないっ! 死ぬわよ……。あなたはここで、その子を守ってなさい」

 

「翼さん……」

 

 響に翼はそう語りかけて、《ノイズ》たちに向かって駆け出した。はぁ、またスタンドプレーをするのね……。あなたは……。

 

 

「翼は強いから、大丈夫よ」

 

「ふわぁっ、フィリアちゃん、いつの間に!?」

 

「さっきからずっとあなたの隣に居たんだけど……」

 

「えっ、なんでフィリアちゃんもここに?」

 

 驚き顔の響をチラッとみて、2つ目の質問には答えず、翼に視線を戻す。

 

――蒼ノ一閃――

 

 大型化させたアームドギアを振るい、青いエネルギー刃を放ち《ノイズ》たちを次々と殲滅する。

 

 ――千ノ落涙――

 

 そして、翼は空中にジャンプして、空間から大量の剣を出現させ、上空から落下させて、《ノイズ》たちを貫き消滅させていく。

 

 一騎当千の鬼神の如き強さで翼はひとりで《ノイズ》たちを蹴散らしていく。

 

「すごい……、やっぱり翼さんは……」

 

 翼に羨望の眼差しを送る響。

 ふぅ、この子の前で正体を晒すのは気が乗らないけど仕方ないわね。

 

「あっ、あっ……」

「へうっ……」

 小さな子供と響は背後に回り込んでいた巨大な《ノイズ》に驚いて声を失う。

 

「コード、ミラージュクイーン……」

 

 ――魔刃国崩――

 

 ミラージュクイーンの出力を最大まで上昇させて剣を振り、銀色のエネルギーの塊を放ち巨大な《ノイズ》を貫き消滅させた。

 

「うぇっ、フィリアちゃん……、その体……」

 

 ミラージュクイーンを開放した結果、膝や首の継ぎ目を隠す塗料が溶けて、響の前に一体の人形が姿をあらわす。

 

「ああ、前は言ってなかったわね。あたし、人形なのよ」

 

 驚き顔の響にあたしはそう告げる。引くのは仕方ないわよね。奏だって最初は……。

 

「すっごく可愛い……」

 

「はぁ?」

 

 思いもよらない、響のセリフにあたしは変な声が出てしまった。

 

「あっ……」

 

 響もこの状況で変なことを言ったことに気づき慌てて自分の口を塞ぐ仕草をした。

 なんか、この子って……、ちょっとおかしい。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あったかいものどうぞ」

 

 友里が響にいつもの温かい飲み物を渡す。

 この人はこういう気の利かせかたが上手い。

 

「あっ、あったかいものをどうも……」

 

 響はそれを受け取り一口すすり、なんとも言えないような表情をする。

 

 そのとき、彼女がまとっていたギアが消失して、元の制服姿に戻った。

 そして、その衝撃で彼女はよろめいて転びそうになる。

 

「うっ、うわぁ。――ふぇっ? あっ、ありがとうございます」

 

 響は翼に受け止められ、転ばずに済んだ。

 

 そして、彼女は受け止めた人間が翼だと気付くと嬉しそうな顔をした。

 

「ありがとうございます! 実は、翼さんに助けられたのは、これで二回目なんです!」

 

「二回目?」

 

 立ち去ろうとした翼は不思議そうな顔で振り返り響を見る。響は満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

 向こうでは響に助けられていた女の子とその母親が機密に関する必要事項の説明を受けてるわね。

 

 まぁ、シンフォギアとあたしは国家機密だから、特に海外への情報漏洩防止には徹底してるから、説明時に多少は脅しはやむ無しとされている。

 そうしないと、軽々しく秘密をもらすバカもいるから。

 

 響もちょっとうんざりした顔してるわね。あなたは彼女らとは完全に別待遇だけどね。

 

「じゃあ、私もそろそろ……」

 

「帰れないわよ……」

 

 あたしは響にすぐに帰宅は出来ないことを教えた。

 

「フィリアちゃん? えっ……」

 

 響は自分が黒スーツのニ課の男たちに取り囲まれている状況に気がついた。

 そして、腕を組んでいる翼が彼女に告げる。

 

「あなたをこのまま帰すわけにはいきません」

 

「なっ、なんでですかー?」

 

 翼の言葉に当たり前の反応をする響。

 ガングニールのシンフォギアをまとっていたあなたを放っとけるはずがないでしょ。

 

「特異災害対策機動部二課まで同行していただきます」

 

 淡々とした口調で翼は響に用件を話した。

 

 はぁ、この子のこれからを考えるとため息がでるわね……。

 

「すみませんね。あなたの身柄を拘束させていただきます」

 

 緒川によって、手錠でガシッと拘束された響は特異災害対策機動部二課まで同行という名の連行をされた。

 

「なんでー!」

 

 混乱する響を乗せた車は私立リディアン音楽院へ直行する。

 そして、中央棟へ彼女と共に向かっていく。

 

「あの、ここ、先生たちがいる中央棟ですよね?」

 

 不安そうな顔をした響が質問をする。当然、あたしたちは答えない。

 

「さぁ、危ないから掴まってください」

 

 そして、長いエレベーターに彼女を乗せる。

 

「えっ? 危ないって……、うわぁぁぁぁ!」

 

 促されるままに、エレベーターの手すりに掴まった彼女から聞こえたのは、思ったとおりの絶叫だった。

 

「へへっ、あははっ」

「愛想は無用よ」

 

 愛想笑いを浮かべる響にぶっきらぼうに言い放つ翼。あなた、そんな辛辣な子だったかしら?

 

「もうすぐ、着くから辛抱なさい」

「うう、フィリアちゃん……」

 

 いたたまれなくなって、一声かけると、捨てられた子犬みたいな目で響に見られた。

 本当に表情豊かな子ね……。

 

「これから向かうところに微笑みなど必要ないから……」

 

 翼はそう語る。でも、あたしはあなたには笑って欲しかった。

 あたしには出来ないし、奏も、もう出来なくなってしまったから……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

《ようこそ2課へ! 熱烈歓迎立花響さま!》

 

 

「ようこそ、人類守護の最後の砦、特異災害対策機動部二課へ!」

 

 クラッカーの音と共に、弦十郎が両手を広げて響に歓迎の挨拶をする。

 やっぱり……、あたしがこの身体になった日を思い出すわ……。

 

「ほぇっ……」

 

 響の目が点になっていた。まぁ、文化祭の飾り付けみたいなのをこの状況で見せられたら、誰でもそうなるわよね。

 

「はぁ……」

「あはは……」

 

 呆れ顔の翼と笑みを浮かべる緒川。翼はさっき、あんなこと言ってて恥ずかしいとか思ってないのかしら?

 

「さぁさぁ、笑って笑ってぇー。お近づきの印にツーショット写真ー」

 

 了子はスマホを片手に、響とツーショット写真を撮ろうとしていた。それ、最初にやること?

 

「嫌ですよ、手錠をしたまま、ツーショット写真だなんて、きっと悲しい思い出として残っちゃいます」

 

 拒むのはわかるけど、理由はそこなの? やっぱり変な子ね。

 

「あら、いいじゃない。手錠をつけられるなんて、滅多に出来ない経験なんだから。いい記念になるかもよ」

 

「ええーっ、フィリアちゃーん!? そりゃあないよー!」

 

 あたしが口を挟むと響がガーンとした表情でこちらを見る。

 

「そうよねー。フィリアちゃんもわかってるじゃなーい」

 

 了子はそのまま写真を撮るのを続行しようとしていた。

 

「ちょっと、待ってください。えっと、私の名前ってフィリアちゃんから聞いたんですか? 他の人には言ってないから……」

 

「ん? フィリアくん。響くんと知り合いなのか?」

 

 響の質問を聞いて、シルクハットをかぶってステッキを持った弦十郎はあたしに質問する。

 

「いいえ、知り合いじゃないわ」

 

「うん! 私たちは友達だもんね!」

 

「どうして、そうなるのよ!」

 

 あたしは馴れ馴れしい響にツッコミを入れる。

 何考えてんのよ、この子は。

 

「あれぇ、でもフィリアちゃんからじゃ無いならどうして?」 

 

 頭の中にクエスチョンマークが付いているような表情で彼女は首を傾げる。

 

「我々二課の前身は大戦時に設立された特務機関なのだよ。情報の捜査などお手のモノなのさ」

 

 安っぽい手品を利用して説明をする弦十郎。

 

「ホント、ご立派な仕事よね。女子高生のカバンを漁って情報捜査なんて、素晴らしい仕事だと思うわ」

 

 あたしは弦十郎に向かってそう答えた。

 

「ううっ、フィリアくん、もう少し言い方をだな」

 

「うふっ」

 

 たじろぐ弦十郎の横に了子がカバンを持って現れる。

 

「うわーっ、あたしのカバン! ホントにフィリアちゃんの言ったとおり、カバンを漁ったんですかー!? 何が調査はお手のものなんですかー!」

 

 響は大声を上げて騒ぎ出した。まったく、賑やかな子ね。

 

「緒川さん……」

「はい」

 

 

 そして、翼の言葉でようやく響を拘束から解放した。この子……、大丈夫かしら本当に……。

 

 この子は奏ではない。でも、このガングニールの装者からあたしは、どこかあの純粋なお人好しの面影を感じずにはいられなかった……。




翼の口調が定まらない感じが難しいです。
この辺は原作をなぞりますが、ちょっとずつオリジナルを挟んでいきます。






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新たな適合者

原作3話の最初の方まで。
最後の方でオリジナル展開に入ります。



「ありがとうございます……、ふぅ……」

 

「いえ、こちらこそ失礼しました」

 

 腕を愛おしいそうに見つめる響に緒川は非礼を詫びる。相変わらず笑顔は絶やさないのね。

 

「では、改めて自己紹介だ。俺は風鳴弦十郎。ここの責任者をしている」

 

 朗らかな笑顔で弦十郎は自己紹介をする。

 この人は本当に立場の割に偉ぶらないわ。そういうとこ、カッコいいとでも思ってるのかしら。

 

「そして、私は、うふっ、出来る女と評判の櫻井了子。よろしくね」

 

 自称出来る女、了子はウィンクを決める。歳をもうちょっと考えろと言いたい。

 前に似たようなことを言ったら、容赦なく蹴飛ばそうとしたから、緒川を盾にして逃げた。

 

「あっあの、こちらこそ。よろしくお願いします」

 

 ペコリと響は律儀に頭を下げた。

 

「君をここに呼んだのは、他でもない。協力を要請したいことがあるのだ」

 

 弦十郎がようやく用件を切り出す。

 この子もやはり、戦わせるつもりなのね……。

 

「協力? ――はっ、あのっ、教えてください! あれは一体なんなんですか?」

 

 響は協力という言葉からシンフォギアをまとったことを連想したようだ。

 あれが意図的ではないとしたら……、しかも彼女はギアペンダントも持っていない……、奏や翼とはかなり違うケースになるはず。

 

 それをあの了子が――。

 

「あなたの質問に答える前に二つばかりお願いがあるの。一つは今日のことは誰にも内緒。そして、もう一つは――とりあえず、脱いでもらいましょうか?」

 

 了子が響を抱きかかえながらニコリとつぶやく。みるみる響の顔が青くなった。

 

「えっ? ――だから、なぁんでぇぇぇぇ!」

 

 そして、地下深くに響の声が響き渡っていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「翼……、大丈夫?」

 

 響が帰ったあと、あたしは翼に話しかけた。

 

「大丈夫って、何が?」

 

 彼女はあたしの方を向いてそう答える。ああ、聞いたあたしが馬鹿だ。大丈夫なはずない。

 

「あなた、ガングニールのギアを見てから、ずっとピリピリしてたから、ちょっとね」

 

「……そうか。別に何でもない。ただ……、あれは……、あのギアは奏のモノだ……!」

 

 翼は声を震わせて、小さくともはっきりとした声でそう言った。

 

「そうね、ガングニールが帰ってきて、奏が居ないなんて残酷だと思うわ。でも、聞いてほしいの、翼、奏がもしも――」

 

「黙ってくれっ! フィリア、君のことを嫌いたくない。だからっ! お願い……」

 

 翼は悲壮な顔をして、その場から去っていった。

 

 奏……、あなたのギアは戻ってきたわよ。でもね、このままだと翼は……。

 教えて、あなたならどう声をかけたの? 今の翼に……。

 

 

 

 

「はぁ、らしくないことは出来ないか……」

 

「ん、何か言ったか?」

 

 弦十郎と共に帰宅してる最中にあたしはつい思ったことを口に出した。

 

「あら、口に出してたかしら。ごめんなさい。あたしは所詮人形。翼に付き合って学校にまで行ってるけど、結局、あの子の心は癒せなかったって思ってるだけよ」

 

 あたしは自分の心境を彼に話した。随分とあたしもおしゃべりになったものだ。

 

「またそんなことを言っているのか。フィリアくん、そんな優しい理由で悩んでいる君は間違いなく人間であり、俺の自慢の娘だ! 翼には、いつか君の優しさが届く! それは俺が保証する!」

 

 弦十郎は力強くはっきりとあたしにそう言った。ブレないわね、この人は。自慢の娘とか言っちゃって、こっちが恥ずかしいんだから。

 

「……ありがと」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

「なっ何も言ってないわよ! ちゃんと前を向いて運転しなさい。国防の要が事故ったらシャレにならないわよ」

 

 あたしは思わず口に出した言葉をごまかした。

 はぁ、おしゃべり、直さなきゃ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「それではー、先日のメディカルチェックのぉ、結果発表ー」

 

 参考人とか言って再び拘束した響を翼とともに本部に連れてきて、了子は彼女の体を調べた結果を話しだした。

 

「初体験の負荷は若干見られるものの、体に異常は()()見られませんでしたー♪」

 

「ほぼ……ですか?」

 

 楽しそうな了子に対して「ほぼ」が気になる響。まぁ、それは気になるわよね。

 

「うん、そうよね。あなたが聞きたいのはこんなことじゃあないわよね?」

 

「ええ、教えてください。あの力のことを」

 

 当然そんなことはわかっている了子に対して響はシンフォギアの力について説明を求める。

 

 そして、弦十郎と了子は彼女に翼の天羽々斬を例にシンフォギア・システムについて説明を開始した。

 

 力の源が聖遺物に由来するということ、ギアペンダントには聖遺物のごく一部の欠片が使われているということ。そして、その欠片の力を増幅に必要なものが歌の力だということを……。

 

「そっそういえば、あのときも胸の奥から歌が浮かんできたんです」

 

 響には思い当たることがあったらしい。

 

「うふっ、歌の力で活性化した聖遺物を一度エネルギーに還元し、鎧の形で再構成したのが翼ちゃんや響ちゃんが身にまとう、アンチノイズプロテクター、シンフォギアなの」

 

 了子はシンフォギアの正体を響に明かした。なんか、この説明を理解できてなさそうなんだけど、大丈夫かしら?

 

「だからとて、どんな歌、誰の歌にでも聖遺物を起動する力が備わっているわけではない!」

 

「「…………」」

 

 辛そうな顔をしてそんなことを言う翼から、あたしたちは奏を思い出してしばらく黙ってしまう。

 

 

「聖遺物を起動させ、シンフォギアを纏う歌を歌えるわずかな人間を、あたしたちは適合者と呼んでいるのよ。それが翼であり、あなたなの」

 

 黙っていても仕方ないので、あたしが話を戻す。

 

「えっと、フィリアちゃんは?」

 

「あたしは適合者以前に人間じゃないわ。特殊な塗料で人間のように見せてるだけの人形よ。説明は面倒だから生きた人形とでも思ってちょうだい」

 

「ほぇー」

 

 あたしは自分のことを聞かれたので、手短に答える。響は感嘆したような声を出したが、気味悪がったりはしなかった。

 ニ課の連中といい、この子といい、本当にわからないわ。

 

「どう?  あなたに目覚めた力について少しは理解してもらえたかしら?  質問はドシドシ受け付けるわよ」

 

 了子は響に理解できたかどうか確認する。出来てたらこんなポカンとした顔しないと思うわ。

 

「あのっ!」

 

「どうぞ、響ちゃん」

 

「全然わかりません……」

 

 響の最初の質問は思ったとおり全くわからないというものだった。

 

「だろうね」

「だろうとも」

 

 友里と藤尭は二人ともやれやれという表情で納得する。まぁ、あれだけで理解できるほど利発そうな子じゃなさそうだし、仕方ないわよ。

 

「いきなりは難しすぎちゃいましたね。だとしたら、聖遺物からシンフォギアを作り出す唯一の技術……。櫻井理論の提唱者が、このわたくしであることだけは覚えてくださいね」

 

 説明をぶん投げた了子はドヤ顔で有能アピールする。この人もブレないわね。こういうところが苦手なのよ。

 

「はー、でも私はその聖遺物という物を持っていません。なのに何故?」

 

 響はようやく気になる点を質問する。それはあたしも気になっていたわ。

 

 すると、了子は響のレントゲン写真を見せたきた。何、この心臓の部分に突き刺さっている破片みたいなものは……。

 

「お? ――あっ!」

 

 響は破片のある部分を見て思い出したような声を出した。

 

「これは何なのか、君にはわかるはずだ」

 

「はい! ニ年前の怪我です。あそこに私も居たんです」

 

 弦十郎は破片について響に問いかけると、彼女は二年前の怪我だという。

 

「二年前!?」

 

 あたしは響の言葉に反応した。

 二年前にあそこって……、まさか、あなたはあの時の……。奏が命を懸けて守った……。

 

 翼も辛そうな顔をしている。気づいたのね……。

 

「心臓付近に複雑に食い込んでいるため、手術でも摘出不可能な無数の破片……。調査の結果、この影はかつて奏ちゃんが身に纏っていた第3号聖遺物――ガングニールの砕けた破片であることが判明しました」

 

「やっぱり……」

「くっ……」

 

 破片の正体が予想通りのもので、翼はさらに顔を歪める。

 

「奏ちゃんの置き土産ね……」

 

「――はっ」

「ちょっと、翼! 待ちなさい!」

 

 翼は耐えきれなかったのか、部屋を出ていってしまったので、あたしは翼を追いかけた。

 

「翼、あの日のことを思い出したのね……。でも、あなたの気持ちはわかるけど――」

 

「……聞きたくない。私の気持ちはフィリアにだってわからない」

 

「……そう。悪かったわ」

 

 そして、再び沈黙がこの場を支配した。

 

 

 

 自動ドアが開いた音がしたので、あたしたちはそちらを振り向く。

 

「私、戦います」

 

 響が出てきて、シンフォギア装者として戦うと宣言した。そう、覚悟があってのことなら良いんだけど……。

 

「慣れない身ではありますが頑張ります。一緒に戦えればと思います」

 

響は翼に向かって手を差し出しだした。

 

「ちょっと、翼……」

 

 翼は響の手を無視する。

 

「あ、あの……。一緒に、戦えればと……」

 

 自信なさ気な顔をして、響はもう一度翼に声をかける。なかなか勇気のある子じゃない。

 

 そんな中、けたたましいアラームが鳴り響いて、周りの照明が暗くなる。

 

「「!?」」  

 

「ぼさっとしないで、行くわよ」

 

 あたしは二人に声をかけて司令室へ向かう。

 

 

「《ノイズ》の出現を確認!」

 

 藤尭が解析をしながら報告する。

 

「本件は我々二課で預かることを一課に通達!」

 

 弦十郎が真剣な顔で指示を出す。

 

「出現位置特定!  座標出ます! リディアンより距離200!」

 

 友里が《ノイズ》の場所を特定する。かなり、ここから近いわね……。

 

「近い!」

 

「迎え撃ちます!」

「そうね、被害が拡大する前に行きましょ」

 

 弦十郎の言葉に翼とあたしが返事をする。

 

「あっ……」

 

 響はあたしたちに付いてこようとする。

 

 

「待つんだ!  君はまだ……」

「そうね、何の訓練も受けてないあなたじゃ、まだ足手まといかしら」

 

 弦十郎は響を止めようとする。あたしも立ち止まって彼女を諌める。

 

「私の力が誰かの助けになるんですよね?  シンフォギアの力でないとノイズと戦うことは出来ないんですよね? だったら行きます!」

 

「……っ。この目は……、奏の……。司令、この子のお守りはあたしがやるわ。だから、同行を許可して」

 

 あたしはなぜか響の目が奏にダブって見えてしまい、弦十郎に同行の許可を求めた。

 

「仕方ないな。フィリアくん、響くんを頼んだぞ!」

 

 弦十郎はやれやれという表情で響の同行を許可する。

 

「言われるまでもないわ」

 

「フィリアちゃん。わー、ありがとう!」

 

「ちょっと、抱きつかないで!」

 

 馴れ馴れしく、くっついてくる響にうんざりしながら、あたしたちは翼を追う。

 

 

『日本政府特異災害機動部よりお知らせします。先程、特別警報が発令されました。速やかに、最寄りのシェルター、または退避所へと避難してください』

 

 翼に追いついたとき、彼女の目の前の《ノイズ》は次々と溶け出して融合を開始して、スライム状の巨大な《ノイズ》になった。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 聖詠を唱えて翼はシンフォギアを纏う。

 

 スライム状の《ノイズ》は体の一部を分裂させて翼に飛ばして攻撃する。

 

 それを翼は空中にジャンプしてすべて躱すが、飛ばした部分はブーメランのように戻ってきた。

 

 彼女は足の部分からブレードを出してソレを切り裂く。

 

 着地した翼を背後から《ノイズ》が襲いかかる。

 

「つっ翼さん!」

「待ちなさい! 大丈夫よ!」

 

「たあああああああっ!!」

 

 あたしの制止も聞かずに響は《ノイズ》に蹴りを食らわせる。

 

「翼さん!」

 

「ちっ!」

 

「えへへっ」

 

 《ノイズ》に吹き飛ばされた響を横目に跳び上がる翼。響、なんだか嬉しそうね……。

 

「はあああああっ!」

 

 そして、翼はアームドギアを巨大化させる。

 

 ――蒼ノ一閃――

 

 巨大化させたアームドギアで一閃――《ノイズ》は両断される。

 

 さすがにあの程度の敵には苦戦しないわね。

 

「翼さーん! 私、今は足手まといかもしれないけれど、一生懸命頑張ります! だから、私と一緒に戦ってください!」

 

 響はあれだけ冷たくあたられても、再び翼にアタックする。本当にめげない子……。

 

「そうね……」

 

「翼さんっ」

 

 翼は彼女を肯定するような一言を述べた――しかし……。

 

「あなたと私、戦いましょうか?」

 

「えっ?」

 

 翼は響に剣を突きつける。ちょっと、何を考えてるのよ……。翼……。

 

「そういう意味じゃありません。私は翼さんと力を合わせて……」

 

「わかっているわ……、そんなこと」

 

 響はきちんと意味を説明するが、別に翼はそんなことはわかっていた。翼、あなたは……。

 

「だったら、どうして……?」

 

「私があなたと戦いたいからよ」

 

「え?」

 

 翼のセリフに響は訳が分からないという表情をする。

 

「私はあなたを受け入れられない。力を合わせ、共に戦うことなど風鳴翼は許せるはずがない。 あなたもアームドギアを構えなさい。それは常在戦場の意思の体現。あなたが、何者をも貫き通す無双の一振り、ガングニールのシンフォギアを纏うのであれば――胸の覚悟を構えてごらんなさい!」

 

 そうなのね。あの日からあなたはずっと、ずっと、時間が止まったままなのね……。

 

「か、覚悟なんて、そんな……。私、アームドギアなんてわかりません……。わかってないのに構えろなんて、それこそ全然わかりません」

 

 響は混乱している。無理もないわ。翼が何が許せないなんて彼女に分かるはずがない。

 

「覚悟を持たずにノコノコと遊び半分で戦場に立つあなたが、奏の――奏の何を受け継いでいると言うの!?」

 

 翼の殺気――あのバカ……。本気じゃない。

 

「翼さん……」

 

「はっ!」

 

 翼が跳び上がり剣を投げつける。

 

 ――天ノ逆鱗――

 

 剣は、徐々に巨大化して、響に肉薄する――。

 

「邪魔するの? フィリア……」

「ふうぁっ、フィリアちゃん」

 

 あたしはミラージュクイーンの出力を最大に上げて、翼の剣を受け止める。

 

「あなたが人に向かって、仲間に向かってアームドギアを向けるとは思わなかったわ……。奏も哀しむでしょうね」

 

「奏を語るな!」

 

 翼は激昂する。そうね、奏を失った原因のひとつはあたし。こういう、口出しはしたくなかった。

 

「いつまでも子供みたいに拗ねてるんじゃないわよ! あの日からちっとも成長してないじゃない! あたしは奏にあなたの未来を託された。これじゃ、あたしも顔向け出来ないって言ってるの!」

 

「黙りなさい!」

 

 

 ――蒼ノ一閃――

 

 翼のアームドギアから強力な一撃が放たれる。

 

 

「ちょっと、お仕置きが必要ね……。コード、マナバースト……」

 

 ――神焔一閃――

 

 錬金術から成る灼熱の業火をまとったミラージュクイーンによる一撃――。

 

 翼の蒼い剣とあたしの紅い剣が交錯した――。

 




翼VSフィリアが勃発です。
弦十郎は出鼻を挫かれて出るタイミングを物陰から見守っています。


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天羽々斬VSミラージュクイーン

翼とフィリアの対決からです。
よろしくお願いします!


 あたしのミラージュクイーンと翼のアームドギアが衝突する。

 

「素直に引くのなら、許してあげるわよ」

「あら、ありがたいわね。でも、あたしは自分より弱い子に背中を見せる趣味はないの……」

 

 顔を近づけて力比べのようにつばぜり合いをしながら言葉を交わす。

 

「私より強いつもりか!? フィリア!」

 

「それ以外に聞こえたのならあたしの言い方が悪かったのね」

 

「ほざけっ!」

 

 

 ――逆羅刹――

 

 翼は逆立ちと同時に横回転し、展開した脚部の刃であたしを襲う。

 

「くっ、前よりもキレが良いじゃない」

 

「それはそうだ! 最近は本気を出すまでもないからな!」

 

 そして、あたしのミラージュクイーンは弾かれて飛ばされてしまう。

 

「ふっ、ここまでだな! これで終わりだっ!」

 

 翼が剣で鋭い突きを繰り出した。

 

 ――震脚――

 

 地面を強く踏み、アスファルトを隆起させて翼の剣を止める――。

 

「こっちが武器を失ったと見ると、もう油断? 甘いわね」

 

「くっ、これは司令の……」

 

「こっちはもう二年もつまらない映画を見せられて、映画談義させられてるのよ! 《ノイズ》相手じゃなければ素手でもこれくらいは――」

 

 ――鉄山靠(テツザンコウ)――

 

 体内のエネルギーを爆発させるイメージと共に背中からの体当たり――。

 弦十郎の好きな名前も知らない拳法の技を翼に繰り出す。

 

「なっ、シンフォギアをまとっている私を吹き飛ばすなんて――」

 

 翼は飛ばされながらも着地して、こちらに突撃してくる。

 

 あたしもミラージュクイーンを拾って彼女と再び剣を――。

 

「いい加減にしろ! 二人とも熱くなりすぎだ!」

 

 弦十郎があたしと翼の間に割って入ってあたしの腕とアームドギアを素手でグイッと掴み、それごと持ち上げて投げ飛ばす。

 

 投げ飛ばされたあたしと翼は地面に激突して倒された。

 

 くっ、いつも思うけど何なのこの人は……、正直言ってあたしよりもずっと化物よ……。

 なんで、生身の人間がこんなに強いの……。映画のマネばかりしてるだけの癖に!

 

 間に入ったとき物凄い勢いで地面を踏んだのか、アスファルトにクレーターが出来て、地面が剥き出しになり、地下水が吹き上がっていた。あたしの震脚とはケタ違いね……。

 

 

「あー、こんなにしちゃって……。何やってんだ、お前たちは……、この靴、高かったんだぞ!」

 

 まるで、あたしたちが現場を荒らしたような言い方じゃない。ほとんどあなたでしょ。

 

「一体何本の映画を借りられると思ってるんだ?」

 

「ちょっと、余計なことしないでくれる?」

 

 あたしは弦十郎に文句を言った。

 

「まぁ、そういうな。フィリアくんも止めるのを忘れて熱くなっていただろう」

 

「否定はしないわ。悪かったわね……」

 

 痛いところを突かれてあたしはそっぽを向く。

 

「らしくないな、翼。普段ならこんなに見境なく戦うようなことはしないだろ。んっ? お前――泣いてるのか?」

 

「泣いてなんかいません! ――涙なんて流していません。風鳴翼は、その身を剣と鍛えた戦士です。だから――」

 

「ふむ……」

 

 泣いてないと言いつつも、翼の声は震えていた。ガス抜きをすれば少しは気が晴れると思ったけど、逆効果だったかもね。

 

「翼さん……、私、自分が全然ダメダメなのはわかっています。だから、これから一生懸命頑張って――奏さんの代わりになってみせます!」

 

 そんな翼に対して響は言ってはならないことを言ってしまう。はぁ……、この子は悪意なく人の地雷を踏むタイプだわ……。

 あたしが庇った意味がないじゃない。

 

「このっ!」

 

 翼は怒りの形相で響を平手打ちした。我慢できるはず――ないか。

 

「あっ……」

 

 響は翼が泣いていることに気づいて声を出していた。

 翼……、早く気付きなさい。奏はあたしたちの――。

 

「響、ちょっといいかしら?」

 

「えっ? フィリアちゃん。――痛っ」

 

「奏の代わりになるって、あたしも結構イラッとしたのよ」

 

 あたしは響の手の甲をグイッと抓った。

 

「ごっごめんなさい。フィリアちゃんも奏さんを――」

 

「あたしには謝んなくってもいいわよ。翼には、いえ、あの子にも――とにかく、今のままじゃ、本当にダメよ。死にたくなかったら、力をつけなさい」

 

 あたしは響という人間に危うさを感じていた。先ほど、見境なく突っ込んだような、考えなしのところは死にたがりにも見えた。

 

 奏が命を張って守った命なんだから、死なせないわ。翼はどう考えているか、わからないけど、あたしはこの子は守らなきゃならないと思っている。

 

「フィリアちゃんって、優しいんだねー」

 

「はぁ? なんでそうなるのよ?」

 

 あたしは思いもよらない言葉をかける響の心がわからなかった。

 

「私、頑張りたい。この力で誰かを助けられるのなら、それに翼さんも助けたい、だから――」

 

 

 本当に、甘い子ね……。仕方ない子だわ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「うわぁぁっ」

 

「ほら、また力が分散してるからそうなるのよ。例え、アームドギアが使えなくても、こうやって――」

 

 あたしはミラージュクイーンで《ノイズ》を一体ずつ突き刺す。

 

「一点に力を集中することが出来れば、あのくらいの《ノイズ》なら消滅する」

 

「ほえー、フィリアちゃんってすごいんだねー」

 

「この前、学校でも教えたんだけど、あたしは先輩よ。未来のように、先輩って言いなさいよ」

 

「いやー、最初に会ったときの感じが忘れられなくてつい……。フィリアちゃんだって結構長い間、放置してたし……」

 

 あたしは出撃があれば、なるべく響の側について《ノイズ》の倒し方を教えていた。

 そして、学校でこの子が友達と歩いてるところでばったり会ったときに、二年生だということを伝えた。

 しかし、一切、態度を改めなかった。

 

 

「ふぁー、どーしよー。また、課題やってないよー。このままだと、課題に埋もれて死んじゃう。翼さんも一言も口を利いてくれないし、私って呪われてるのかなー?」

 

「翼のことは自業自得でしょ。でも、課題は確かに気の毒ね。こんな仕事やらなきゃ、課題くらい――いや、あなただったら、どのみち終わらせられないか……」

 

「あー、そりゃあないよー。フィリアちゃん」

 

「ホントに自信があるわけ」

 

「もちろん、自信は――あれ?」

 

 機密保持の性質上、二課の管轄であるリディアンだが、彼女の生活リズムが崩れてもフォローを入れることはしなかったので、響は課題をこなすことが出来ずに悩んでいた。 

 さらに翼はあれから響を完全に無視しており、それも彼女を悩ませていたのである。

 

「わかったわよ。あたしが少しだけ手伝ったげるわ」

 

「えっ、フィリアちゃんが? 悪いよー、だってフィリアちゃんも課題とか溜まってるんでしょー」

 

「あなたと同じにしないで頂戴。あたしは人形だからあなたたちみたいに疲れたり、眠ったりしないから時間に余裕があるのよ」

 

「おおーっ、フィリアちゃんって寝ないんだねー。私なんて、寝てばっかりでこの間なんて授業中に寝ちゃって、そこで先生が――」

 

 手伝うと一言いうと、彼女はペラペラと楽しそうに話しだした。まったく、あたしと会話なんてしても面白くないでしょう。

 

「もう、いいかしら。じゃあ、結局手伝いはいらないのね」

 

 いい加減に長話が終わらなくてイライラしたあたしは話を切ろうとした。

 

「ええっー! お願いだよー、フィリアちゃん。ちょっとだけ、手伝ってー」

 

 そんなわけで、あたしは響の寮に課題を手伝いに何度か行くこととなった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「フィリア先輩、いつもすみません。響ったら、授業中もボーッとすることが多い始末で」

 

 まるで母親のようにすまなそうな顔をして、あたしに謝罪するのは小日向未来。

 黒髪で大きな白いリボンをつけている彼女は響の親友でルームメイトだ。

 

「別にあなたが謝る必要はないわよ。この子が、もうちょっと授業を聞いていればもっと素早くこなせてただけだから。――ほら、ここは基本だって昨日言ったじゃない。授業はともかく、あたしの言ったことも適当に聞くとはいい度胸ね」

 

「ふぇー、フィリアちゃんって、見た目によらず厳しいなー」

 

 響の成績は思ったよりも危機感を覚えるレベルであり、あたしは容赦なく叱咤して課題をこなさせていた。

 

「当たり前でしょう。あたしが教えて、あなたが不合格だったり、補習だったりしたら、こっちの面目が立たないのよ。もう、また同じところで間違ってる……」

 

「未来ー、やっぱり私、呪われてるよー」

 

「もう、そんなこと言ったら駄目じゃない。そのおかげで、この前も先生に授業態度の割には課題はしっかり出来てるって褒められたでしょ」

 

「それはそうなんだけどー」

 

 響はかろうじて期限以内に課題を提出して、それなりの評価を貰っているようだ。まぁ、あたしが教えたんだから当然だけど……。

 

 あら、着信? はぁ、二課ももうちょっと生徒に気を使ってほしいわねー。あたしはマナーモードにしていたスマホのバイブでニ課からの呼び出しに気が付いた。

 

 そして、あたしが呼び出されたということは当然――。

 

「今の音はなに?  まさか朝と夜を間違えてアラームセットしたとか?」

 

 未来は響のスマホの着信音に反応して質問する。

 

「いやー、えっと……」

「こんな時間に用事?」

 

「あはは……」

 

 気まずそうな顔をした響に対して、未来は大体のことを察したようだ。

 

「はぁ、夜間外出とか門限とかは私で何とかするけれど……」

 

「うん、ごめんね……」

 

 いろいろと未来には迷惑かけてるのね。このままだと、彼女の生活にも支障が起きそう。

 今度、弦十郎に相談しようかしら?

 

「こっちの方は何とかしてよね」

 

 未来は獅子座流星群の記事を響に見せてきた。

 

「一緒に流れ星を見ようって約束したの、覚えてる? フィリア先輩のおかげでせっかく課題は順調に片付いているのに、こんな呼び出しがまたあったら……」

 

「ごめん、それだけは何とかするから……」

 

 響は困った顔と笑顔が混濁したような表情で美来を見ていた。

 この子もこの子で悩みが尽きないわね。だから、子供を戦わせるのは――。

 

「あら、響はこれから用事があるのね。だったら、あたしはこれで失礼するわ」

 

 あたしは白々しい態度だとは思いながらも立ち上がる。

 

「すみません。せっかく先輩が来てくれたのに……」

「ごっごめんねー。フィリアちゃーん」

 

 真剣に謝罪する未来と目が泳いでいる響。

 まったく、下手な演技しちゃって……。

 

 こうして、あたしは一足早く二課のミーティングに到着して、少し遅れて響も到着した。

 

 くだらない呼び出しだったら覚悟しなさいよ、弦十郎……。




弦十郎のDVD鑑賞に付き合うことで、拳法が使えるようになったフィリアは実は《ノイズ》相手より装者などの人間やオートスコアラーを相手にした方が強さを発揮できます。

課題をきちんとこなしてる響なので、少しは先生からの風当たりは弱くなっている感じです。
しかし、任務だけはどうにもならないので未来は順調に病んでます……。
次回もオリジナル展開を挟む感じです。





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不穏な影

原作の4話の中盤辺りまでです。
それでは、よろしくお願いします。


「遅くなりました。すみません」

 

 あたしが到着してから数分後、響が到着した。未来には悪いことをしたわね。

 

「では、全員揃ったところで仲良しミーティングを始めましょ」

 

 了子は狙ってるのかいないのか、どう考えてもギスギスしてるあたしたちに対して、彼女はそんなことを言う。

 

「「…………」」

 

 あの日から響はもちろん、あたしも翼とは必要最低限以外のことは話していない。

 

 はぁ、翼に前を向いてほしくて煽るようなことを言っちゃったけど、後悔してるわ。

 

 モニターに映し出されるのは、ここひと月の間に発生した《ノイズ》の反応。やはり、多すぎる……。

 

「どう思う?」

 

「いっぱいですね!」

 

 弦十郎は響に感想を求め、シンプルな返しをする彼女。もうちょっと語彙力つけなさいよ。

 

「ハハハ、全くその通りだ。これは、ここ一ヶ月に渡る《ノイズ》の発生地点だ。《ノイズ》について響くんが知っていることは?」

 

 弦十郎はもう少し踏み込んだ話を響にふってみる。

 

「ええと、まず無感情で機械的に人間だけを襲うこと。そして襲われた人間は炭化してしまうこと。時と場所を選ばずに突然現れて周囲に被害を及ぼす特異災害として認定されていること」

 

「意外と詳しいな。」

 

「今、まとめているレポートの題材なんで、フィリアちゃんから、いろいろと教えてもらいました」

 

 あたしはもう少し専門的な話も織り交ぜて話したのだが、今の響の理解度ではこれくらいが限度だった。

 

「まぁ、いつの間にか、二人はとっても仲良しになっていたのねー」

 

「別に、仲良くなんて……」

「はい、フィリアちゃんって、すっごく優しいんです」

 

 あたしの否定の言葉をかき消すような大声で響はそんなことを言う。

 ちょっと、翼、そんな裏切り者を見るような目でこっち見ないでよ。

 

「《ノイズ》の発生が国連での議題に上がったのが13年前だけど、観測そのものはもっと前からあったわ。世界中に太古の昔から――」

 

 了子の言うとおり、《ノイズ》自体の歴史は古いみたいだ。

 

「世界の各地に残る神話や伝承に登場する数々の異形は《ノイズ》由来のものが多いんだろうな」

 

 弦十郎も持論を展開する。

 

「《ノイズ》の発生率は決して高くないの。この発生件数は誰の目から見ても明らかに異常事態。だとすると、そこに何らかの作為が働いていると考えるのべきでしょうね」

 

 そう、作為的なのは明らか。その目的もおおよその見当はついている。

 

「作為?  ということは誰かの手によるものだと言うんですか?」

 

 響はこの話の論点に気がついたようだ。

 

「中心点はここ。私立リディアン音楽院高等科。我々の真上です。 サクリストD――デュランダルを狙って何らかの意思がこの地に向けられている証左となります」

 

 翼はあたしたちの推察した結論を話した。

 デュランダル……。これも面倒を起こす元凶になりそうよね。

 

「あの、デュランダルって一体?」

 

「ここよりも更に下層、アビスと呼ばれる最深部に保管され、日本政府の管理下にて我々が研究している、ほぼ完全状態の聖遺物。それがデュランダルよ」

 

 響の問に友里が答える。完全状態の聖遺物なんて、希少価値でいうとギアペンダントの比じゃない。それこそ国宝以上のレベルだ。

 

「翼さんの天羽々斬や響ちゃんの胸のガングニールのような欠片は、装者が歌ってシンフォギアとして再構築させないと、その力を発揮できないけれど、完全状態の聖遺物は一度起動した後は100%の力を常時発揮し、さらに、装者以外の人間も使用できるだろうと、研究の結果が出ているんだ」

 

 そう、藤尭の言うように完全状態の聖遺物はそれ自体が兵器と言ってもいいくらいの力を秘めている。

 

「それが、 ワタクシの提唱した櫻井理論! だけど完全聖遺物の起動には相応のフォニックゲイン値が必要なのよねー」

 

「んー?」

 

 了子の言っていることに響はピンと来ていないだ。

 

「あれから2年。今の翼の歌であれば、あるいは……」

 

「「……」」

 

 あの実験、ネフィシュタンの鎧は発動できたけど、紛失している。あのときも何者かが《ノイズ》をけしかけたとあたしは思っている……。

 

「そもそも起動実験に必要な日本政府からの許可って下りるんですか?」

 

 友里はそもそもの疑問を口にする。

 

「いや、それ以前の話だよ。 安保を盾にアメリカが再三のデュランダル引き渡しを要求してきてるらしいじゃないか。 起動実験どころか、扱いに関しては慎重にならざるを得ない。下手を打てば国際問題だ」

 

 藤尭はやれやれという口調で現状を話す。そうね、アメリカが絡んでいる可能性も高いのね……。

 

「まさか、この件、米国政府が糸を引いてるなんてことは?」

 

 友里の推察はあたしも考えていることだった。ただでさえ、シンフォギアという強力なカードを日本は手にしている。さらに完全聖遺物も、となると黙っていないだろう。

 

「調査部からの報告によると、ここ数ヶ月の間に数万回に及ぶ本部コンピューターへのハッキングを試みた痕跡が認められているそうだ。さすがにアクセスの出処は不明。それらは短絡的に米国政府の仕業とは断定出来ないんだ。――もちろん痕跡は辿らせている。本来こういうのこそ俺たちの本領だからな」

 

 弦十郎はハッキングの痕跡から、敵の正体を探らせているみたいだ。しかし、妙ね。痕跡をわざわざ数万回も残すようなことをして……。

 まさか……。いや、そんなはず……。

 

「風鳴司令」

 

「あ、そろそろか」

 

 緒川の言葉に弦十郎は反応する。

 

「今晩は、これからアルバムの打ち合わせが入っています。」

 

「へ?」

 

「表の顔では、アーティスト風鳴翼のマネージャーをやっています」

 

 そう、緒川は翼のプライベートの面倒の傍ら、マネージャー業をやっている。

 というか、最近は異常に力を入れていて、どっちが本業かわからないくらいだ。

 

「おー!  名刺もらうなんて初めてです。これはまた結構なものをどうも……」

 

 響は物珍しそうに名刺を見ている。

 

「緒川、あんまり翼に仕事を詰め込まないようにしなさいよ。あなたの仕事には彼女のケアも含まれてるんだから」

 

「ははっ、気をつけます」

 

 あたしが一言文句を言うと、緒川はいつもとおりの笑顔で誤魔化した。

 

 そして、二人は仕事へ向かった。

 

「私たちを取り囲む脅威は《ノイズ》ばかりではないんですね」

 

「うむ」

 

「どこかの誰かがここを狙ってるなんて、あんまり考えたくありません」

 

 響が言うとおり、人間の悪意のほうがときに《ノイズ》よりも恐ろしいものとなる。

 だからこそ、いつも警戒心を持っていなければならない。

 

「大丈夫よ。なんてたってここはテレビや雑誌で有名な天才考古学者櫻井了子が設計した、人類至高の砦よ。先端にして異端のテクノロジーが悪い奴らなんか寄せ付けないんだから」

 

 了子は自信満々の表情を浮かべた。悔しいけど彼女は本当に天才。じゃないと、あたしは人形になったその日に干からびている。

 

「よろしくお願いします」

 

「うん」

 

 響は了子に素直に頼りにしているという素振りを見せた。

 

 ミーティングが終わってあたしたちは雑談をしていた。

 

「どうして私たちは……、ノイズだけでなく、人間同士でも争っちゃうんだろう? どうして世界から争いは無くならないんでしょうね?」

 

「それはきっと、人類が呪われているからじゃないかしら?」

 

 響が珍しく真剣な顔で話をしてると思っていたら了子は響の耳に噛み付いた。

 

「ひゃぁぁぁぁぁっ!」

 

「あら、おぼこいわね。誰かのものになる前に、私のものにしちゃいたいかも」

 

「うぅ……。フィリアちゃん、お嫁に行けなくなっちゃったー」

 

 絶叫する響に対して全く悪びれない了子。何やってるのよ本当に。

 響はあたしにもたれかかっている。

 

「アホなこと言ってないで、さっさと結婚相手見つけなさい」

 

「んー? フィリアちゃーん、何か言ったかしらー」

 

「って藤尭が言っていたわよ」

 

 異常な殺気を感じ取りあたしは藤尭に罪をなすりつけようとした。

 

「えっ、あっ、違いますよ! 違いますって」

 

 藤尭、ごめんなさい。骨は拾ってあげるわ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 そして、数日後の放課後。あたしはリディアンの近くのクレープ屋に立ち寄っていた。

 エネルギーはこまめに補給しとかなきゃ。

 

「フィリアちゃーん」

「フィリア先輩もここのクレープを?」

 

 あーあ、穴場だと思ってたのによりによってこの子らに見つかるなんて……。

 

「そうよ、あたしがクレープ食べてちゃ悪い?」

 

「誰も悪いなんて言ってないよー。むしろ可愛いし、似合ってるよ!」 

 

 響は満面の笑みで恥ずかしげもなくそんなことを言う。

 

「全然嬉しくないわ……」

 

 あたしはうんざりとした口調で返事をした。

 

「ここって、友達が美味しいって言ってたので、次の予定までの暇つぶしに寄ったんです」

 

「あー、獅子座流星群って今日だったわね。星なんて見て楽しいのかしら?」

 

「未来と見るから楽しいんだよー。フィリアちゃん」

 

「もう、響ったら……」

 

 あたしのそれとない一言に返事をした響だったが、未来は頬を桃色に染めて満更でもない表情になっていた。

 まぁ、何度か彼女らの部屋に行けば誰だって未来のただならぬ響への愛情に気づく。それが、友情を超えたものだということを……。

  

 もちろん、響本人は気付いてないが……。

 

「で、どの味にするの。注文するから」

 

「「えっ?」」

 

 響と未来が顔を見合わせる。

 

「後輩に目の前でサイフ開けさせるはずないでしょ。早くなさい」

 

 私は財布を開いて、彼女たちにどのクレープが欲しいのか、早く決めるように急かす。

 

「おー、フィリアちゃんってカッコイイー」

 

「ありがとうでしょ、響。ありがとうございます、先輩。それでは、お言葉に甘えさせてもらいますね」

 

 こうして、あたしは二人にクレープを奢った。

 まったく、この子らはクレープより甘ったるいんだから。

 

「ふふーん、得しちゃったね」

 

「ふふっ、美味しい」

 

 楽しそうにクレープを食べている二人を横目で見ていたら、あたしのスマホに着信が入る。

 

 あたしはこっそりと二人から離れて電話に出た。

 

「あたしよ。用件は……。はぁ、わかったわ。で、場所は? 規模がそのくらいならあたしで十分よ。ええ、響が出る必要はないわ」

 

 電話を切って、二人の元に戻る。まぁ、今日くらい休んだって問題ないわよ。

 

「ちょっと、用事があるから、先に行くわね。夜道は気をつけるのよ」

 

 あたしは二人にそう声をかける。

 

「はい、ごちそうさまでした。先輩」

 

「あっ、フィリアちゃん……」

 

 頭を下げる未来と何かを察した響。

 

「楽しみにしてたんでしょ? 流れ星、見れるといいわね」

 

「うん! クレープありがとう! フィリアちゃん!」

 

 響はあたしに抱きついてきた。ちょっと、やめなさい。未来から殺気が出てるから。

 

 さて、人類の敵を殲滅しに行きましょうか。翼も仕事中だから、あたしは一人で出撃……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ミラージュクイーンを片手にあたしは《ノイズ》を駆逐する。本当に最近は遠慮がないわね。

 

 

 

『もうひとつの地点でも《ノイズ》が発生した。そちらの様子はどうだ?』

 

「あと、10分てとこかしら。分裂するやつがいるから、少し時間はとられるわ」

 

『わかった、響くんに出撃要請をだそう』

 

「ちょっと待ちなさい――」

 

『ん? どうした?』

 

「いえ、何でもないわ……」

 

 くっ、これじゃ響は小さな約束すら守れないじゃない。確かに人命と比較するなら小さすぎる約束だけど……。

 

「《ノイズ》……、あたしってこんな人形だけどね……。《怒り》の感情は持っているのよ――」

 

――氷狼ノ咆哮(ヒョウロウノホウコウ)――

 

 ミラージュクイーンの出力を最大に引き上げて突きと共にエネルギーの塊を放出して《ノイズ》たちにぶつけて、錬金術により凍らせ、破裂させる。

 

 ――雷霆陥――

 

 ミラージュクイーンを上段に構えて振り下ろすと、雷で出来た刃が宙から降り注ぎ広範囲に渡って《ノイズ》を殲滅させる。

 

「まったく、どこの誰が! 人の小さな約束まで踏みにじっているのよっ! あなたたちに何の権利があるっていうのよ!」

 

 あたしは技を連発して、《ノイズ》を蹴散らしていった。

 

 ほとんどの《ノイズ》を消し去ったとき、巨大な芋虫形の《ノイズ》が5体ほど現れる。今日はやけに多いわね……。響は大丈夫かしら――。

 

 ――神焔一閃――

 

 全力で放った灼熱の剣技で巨大な《ノイズ》をすべて両断した。

 

 はぁ、持ってきたチョコレート、すべて食べきっちゃったじゃない。

 思ったより時間がかかったわね。

 

 響は翼と合流して、上手くやってるかしら?

 

 

 

『フィリアくん、急げるか? 翼と響くんがピンチだ――』

 

 あたしは弦十郎から二人の現状を知り、最高速度まで加速して現場をめざした。

 まさか――ネフィシュタンの鎧が今ごろ……。

 

 翼! 絶唱だけは――早まらないで!

 

 

 

 

 遅かった――あたしがたどり着いたとき、辺りは絶唱の影響で土は吹き飛ばされ、《ノイズ》は一体も残っておらず、例のネフィシュタンの鎧の人物は撤退したあとだった。

 

 そして、翼は目や口や胸からおびただしい量の血を流し、直立していた。

 

「翼ーっ! あなた……、そんな、命を捨てるようなマネ……」

 

「フィリア、これは私の覚悟……、人類を救うための防人としての……。見損なわないで、あなたと鍛練を積んだ私は、これくらいで、折れる――剣ではない……」

 

 そう言い残すと、翼は、あたしの腕のなかに倒れた……。

 

 なんで、あなたはここまで……。奏――ごめんなさい。あなたとの約束――守れなかったわ……。

 

 




意外と後輩にはきちんと奢る甲斐性のあるフィリアです。働いてるので金には余裕が結構あります。
フィリアはネフィシュタンのクリスと接触出来ませんでしたが、最初に彼女と会うのはいつになるのか……。






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自動人形は特訓に付き合う

原作5話の最初くらいまで。
響が弦十郎に弟子入りします。


「かろうじて一命は取り留めました。ですが、容態が安定するまでは絶対安静。予断を許されない状況です」

 

「よろしくお願いします」

「頼んだわ」

 

 翼を抱えてリディアンに猛スピードで戻ったあたしは弦十郎と合流し、翼は集中治療室で手術を行った。

 なんとか、一命は取り留めたが危険な状況は続いていた。くっ、あたしがもっと速ければ……。

 

 

「俺達は鎧の行方を追跡する。どんな手がかりも見落とすな!」

 

 弦十郎はネフィシュタンの鎧の捜索へ向かった。

 

 そうね、落ち込んでる暇はないわ。あたしたちには、やらなきゃいけないことがあるんだから――。

 

 

 

 

 響はうつむいて椅子に座っていた。翼が絶唱を使ったのは自分のせいだと思い込んでいるようだ。

 

「あなたが気に病む必要はないわ。あれは翼が決断したこと、あの子の使命感がそうさせたのよ」

 

 あたしはコーヒーを自販機で買って、響に渡しながら声をかけた。

 

「フィリアちゃん……」

 

「知ってるでしょ? 翼は以前、二人でユニットを組んでアーティスト活動をしてたこと」

 

「ツヴァイウィング……」

 

 響はつぶやくように声を出した。

 

「その時のパートナーが天羽奏よ。今はあなたの胸に残るガングニールのシンフォギア装者。そうね、あたしにとっても数少ない友人と言っていい人物だったわ……。2年前のあの日、あたしも翼も奏とともに《ノイズ》と戦った。しかし、形勢は不利であたしたちは敗北寸前まで追い込まれたの。だから、 奏は絶唱を解き放った……」

 

 あたしはあの日のことを響に話す。あの日のことは一日たりとも忘れたことがない。

 

「絶唱――。翼さんも言っていた」

 

「装者への負荷を厭わず、シンフォギアの力を限界以上に撃ち放つ絶唱は、《ノイズ》の大群を一気に消滅させたわ、でも、その反動で奏は力尽きてしまったのよ。あたしたちの目の前でね……」

 

 あたしは響に絶唱について説明をする。あの光景を思い出すと今も胸が締め付けられる。

 

「それは、私を救うためですか?」

 

「そうね、奏が助けたかった命の中にはあなたも含まれていたわ。それに、あたしや翼もね。奏が亡くなって、ツヴァイウイングは当然解散。あたしもだけど、翼は奏の抜けた穴を埋めるため、彼女が救うはずだった命を救うために必死で戦ってきたの――」

 

 思い出すのは翼との戦いの日々、強くなれば強くなるほど、翼は自分を責めて、追い詰めるようになっていたわ。

 力がつく度に奏が救えなかった無力感が増幅されたからでしょうね。

 

 

「あの子は自分をひたすら追い詰めて、一振りの剣になろうとしてたのよ。人間の彼女が人形のあたしみたいに《感情》を押し殺すなんて、並大抵じゃない。あの歳で彼女は楽しく遊んだり、恋愛で悩んだりなんてそんなこと一切して来なかったわ。そして、あの子は自分の使命を果たすために、命を落とす覚悟で絶唱までしたの……。バカな子なのよ……。まったく……」

 

「そんなの、ひどすぎる……」

 

 翼の話をすると響は青ざめた顔で感想を述べた。そうね、酷いわよ。本当に……。

 

「そして私は、翼さんのこと何にも知らずに、一緒に戦いたいだなんて……。奏さんの代わりなるだなんて……」

 

「そうね、あなたの発言は確実に翼の心を抉った。あたしもムカついたし……。でもね、そんなことより、あなたにして欲しいことがあるわ」

 

 あたしは響に頼みごとをしようとした。

 

「して欲しいこと?」

 

「翼にきちんと立花響として、ありのままのあなたとしてぶつかって欲しいのよ。あたしじゃ、どうしても奏のことで負い目があって踏み込めなかった。遠慮のないあなたなら、それが出来るでしょ」

 

「フィリアちゃん……、全然褒めてないよね?」

 

「あら、気付いたかしら……。でも、頼んだわよ」

 

「うん……」

 

 あたしの頼みごとを素直に受け入れてくれた響。奏の代わりにはならないけど、あなたのその前向きさは、あたしたちにはない。

 翼がそれに気付けば、きっと――。

 

 

 

 

 その後、あたしたちはミーティングで弦十郎たちと意見交換をすることになった。

 

「気になるのはネフシュタンの鎧を纏った少女の狙いが響くんだということだ」

 

 弦十郎が疑問を口に出す。そう、それはある事実を指し示す。

 

「それが何を意味しているのかは全く不明。」

 

 了子はそんなことを言う。でも――。

 

「いいや、そんなことはない」

 

「え?」

 

 弦十郎の言葉に了子は反応する。

 

「個人を特定しているならば、我々二課の存在も知っているだろうな」

 

「内通者がいるってことでしょ。それなら全ての辻褄が合うもの……」

 

 あたしは弦十郎の言葉から、結論を話す。

 

「うむ、考えたくないがな……」

  

 そして、弦十郎はそれを肯定した。内通者の正体を想像したとき、あたしはある人物を想像していた。――あり得ないと信じたいけど……。

 

「私のせいです。私が悪いんです。2年前も、今度もことも。私がいつまでも未熟だったから、翼さんが。シンフォギアなんて強い力を持っていても、私自身が至らなかったから」

 

「だから、あなたが気に病むことはないの。あれは翼が――」

 

 あたしが口を挟もうとするが、響は止めなかった。

 

 

「翼さん、泣いていました。翼さんは強いから戦い続けてきたんじゃありません。ずっと、泣きながらも、それを押し隠して戦ってきました。悔しい涙も、覚悟の涙も誰よりも多く流しながら、強い剣であり続けるために……。ずっとずっと、戦ってきたんです――。――私だって守りたいものがあるんです!  だから!」

 

 響の目に何か闘志のようなものが宿るのを感じた……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「たのもぉぉぉ!」

 

「なんだ、いきなり?」

 

「あら、本当に来たのね。」

 

 先日、響はあたしにもっと強くなりたいと懇願してきた。だから、あたしは今日の朝にここに来るように伝えた。

 

「私に戦い方を教えてください!」

 

 

「この俺が、君に?」

 

「はい!  フィリアちゃんの武術の技を教えたのは弦十郎さんだって、聞きました。だから、私にも教えてほしいんです!」

 

 あたしが素手で翼を吹き飛ばすのを見て、アームドギアが使えない彼女は自分に武術の稽古をつけてくれと、あたしに言ってきた。

 だったら、あたしより強い彼に聞いたほうが早いとあたしは弦十郎に戦い方を習うように勧めたのだ。

 

 

「ふむ……。フィリアくん、君はちゃんと伝えたのか?」

 

「えっ、何をかしら?」

 

「俺のやり方は厳しいってことだ。響くん、付いてこれるか?」

 

「はい!」

 

 弦十郎は響に稽古をつけることを承諾した。あー、これであたしは面倒から解放されるわ。

 

「もちろん、フィリアくんも手伝うだろ? それに、君にも新たな技を教えよう」

 

「はぁ? あたしが技を使えたところで《ノイズ》には……」

 

 そんなあたしの心を見透かしたように弦十郎は待ったをかける。

 

「もしかしたら、ネフィシュタンの鎧とまた戦うかもしれん。その可能性を考慮するなら、君も手札を増やす意味が出てくるだろう」

 

「フィリアちゃんも、一緒なら心強いよ」

 

「仕方ないわね……」

 

 こうして、あたしは響の修行に付き合うことになった。 あー、この人の変な特訓って気疲れするのよね。

 

「ときに、響くん。君はアクション映画とかは嗜む方かな?」

 

「はい?」

 

「フィリアくん!」

 

「はいはい、適当に見繕ってくるわよ」

 

 あたしは自分の部屋に置いている、弦十郎のコレクションのDVDを取りに行った。

 

 

「この足の角度に気をつけろ!」

 

「こっこうですか?」

 

「フィリアくん、手本を見せるんだ」

 

「なんで、あたしが……」

 

「これで、どうかな?」

 

「はぁ、顔のマネまでしなくていいのよ……」

 

 DVDを鑑賞しながら動きをマネするあたしたち。こんな姿は絶対に翼に見られたくないわ。というより、あたしは一体なにをしてるのかしら……。

 

「よしっ、ラスト10キロだ!」

 

「ふひぃー」

 

「腹筋、あと百回!」

 

「腕立て伏せ、残り百!」

 

「あのー、フィリアちゃん。全然苦しくないの?」

 

「当たり前でしょう。人形なんだから、疲れるはずないわよ。その代わり筋力も付かないけど……」

 

「じゃあ、なんで一緒にこれもやらされてるの?」 

 

「司令に聞きなさい……。あたしだって全然分からないわよ」

 

 体操服を着せられて、響と一緒に体力作りのトレーニングをさせられてるあたし。弦十郎の考えが理解できないわ……。

 

「はっ、やぁっ、とぉっ!」

 

「甘いわね。動きをマネするだけじゃ……」

 

「うわぁっと!」

 

「すぐに足元を掬われるわ。頭で考えずに感じるのよ。相手の動き、自分の力の流れを……」

 

「言ってること全然分からないよ、フィリアちゃん」

 

 そして、あたしと響は組手をするようになった。純粋というか、素直なこの子に弦十郎の特訓は合っているみたいで、数日特訓しただけなのに、ドンドン強くなっていった。

 

 ギアをまとわずにサンドバッグ吹き飛ばしたときには戦慄したわ……。

 

「よし、今度は俺とフィリアくんが組手をするから、響くんは見ているんだ」 

 

「ちょっと、あたしはいいでしょ」

 

「まぁ、そういうな。本気の俺と組手できるのは君しかいないんだから」

 

「あなたが本気なんて出したら、あたしはバラバラになってるわよ……。はぁ、少しだけよ」

 

 あたしはそう言って構えを取る。弦十郎とあたしは好きな映画の趣向は若干異なる。

 あたしは合気などの相手の技を受け流したり、素早い動きで翻弄するタイプの武術の方が美しいと思っている。

 

 しかし、弦十郎は見た目どおりの脳筋格闘が好みみたいで、火力重視の拳法を好む。

 弦十郎の拳法は《ノイズ》以外なら無敵って思えるくらい強い。以前、あたしと翼が二人がかりで戦っても瞬殺されたくらい。

 

 まぁ、あれがキッカケであたしは弦十郎と映画談義のついでに身体の動かし方を覚えようと思ったんだけど。

 

 やってみると、自分の身体は精密に動かすことが出来るので、ものすごく武術の修得に適しているということがわかった。

 だから、最近は映画を見て菓子を食うだけで鍛錬してるような気分になっている。

 

 

 

「――いくぞ、フィリアくん」

 

 そう言い放った直後にはすでに弦十郎の右拳が目前に迫っていた。

 ホントに加減しないのね……。

 

 あたしは彼の拳を左手で受け流し、更に掴んで投げ飛ばそうとした。

 

「おっ、腕を上げたな」

 

 しかし、すでにあたしの後頭部に彼の回し蹴りが迫っていたので、上体をそらして躱し、バク転して距離を取り、その勢いで跳ね上がり、空中に避難する。

 

 そこからは地獄だった。人間離れしたジャンプ力であたしの更に上まで跳ね上がった弦十郎は、上から拳の雨を降らせてきた。

 

 あたしはかろうじて受け流していたが、着地の瞬間にバランスを崩す――そして……。

 

「ふむ、ここまでか……」

 

 あたしの顔の一ミリ手前で寸止めする弦十郎。本当にあたしを壊す気かしら?

 

「ここまでか、じゃないわよ! 何これ、大惨事じゃないの。地面が穴だらけよ!」

 

「すまん、つい。ここまでの格闘には誰も付き合ってくれないんでな」

 

「当たり前でしょ! 国防の要が殺人犯になっちゃうじゃない!」

 

 弦十郎との組手の跡は……、ミサイルが何発も落ちた跡みたいになっていた……。まさか拳圧だけで、クレーターが出来るなんて……。どうかしてるわよ、まったく。

 

 

 

「師匠、私もこれができるように頑張ります!」

 

 そして、この大惨事を見ても真剣にそんなことを言うバカな子が一人……。

 

「あなた、人間やめる気なの?」

 

 あたしはため息を交えてそう言った。

 

 あたしは響との特訓で、翼と鍛錬を積んだ日々を思い出していた。

 翼、この子は前を向いて歩いてるわよ。だから、あなたも――。




フィリアは八極拳のような武術も使いますが、合気や柔術も好んで使います。
それでも、弦十郎にはまったく及びませんが、短時間の組手には付き合えるぐらいの強さです。
響とは組手をしているので、彼女の姉弟子みたいな関係になってます。
次回はデュランダル移送くらいまでを予定しております。







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デュランダル

予定通り、デュランダル移送の途中くらいまでです。
それでは、よろしくお願いします。


「はぁー。朝からハード過ぎますよー」

 

「あら、もう弱音かしら」

 

「フィリアちゃんは疲れないから、そんなことが言えるだよー」

 

「頼んだぞ、明日のチャンピオン」

 

 朝の特訓を終えて、魂の抜けかけた顔をしている響。しかし、組手をしているとわかる。彼女は恐ろしく強くなっていることが。きっとギアを纏うとさらに――。

 

 

「はい、ご苦労様。」

 

「あはっ、すいません! ――んっ、ぷはっー」

 

 響は友里に渡されたドリンクを一気に飲み干す。かなり疲れてたのね……。

 

 

「あのー、自分でやると決めたのに申し訳ないのですが。何もうら若き女子高生とか可愛いお人形様に頼まなくてもノイズを戦える武器って他に無いんですか?  外国とか」

 

 響は今さらなことを言ってきた。それが可能ならあたしだって翼だって戦ってないわよ。

 あと、誰が可愛いお人形様よっ!

 

「公式にはないな。日本だってシンフォギアやミラージュクイーンは最重要機密事項として完全非公開だ」

  

 そう、あたしや翼の力は国家機密として守られている。まぁ、諸外国も死にものぐるいで調査はしているけど。

 

「ええっー。私、あまり気にしないで結構派手にやらかしてるかも」

 

 あたしだって、戦いなんだからみんな細かいこと気にしてないわよ。

 

 

「情報封鎖も二課の仕事だから」

 

「だけど、時々無理を通すから――。今や我々のことをよく思ってない閣僚や省庁だらけだ。特異対策機動部二課を縮め、《特機部二》って揶揄されてる」

 

「情報の秘匿は政府上層部の指示だってのにね。やりきれない……」

 

 友里と藤尭は国防のための無茶の責任まで押し付けられて不満のようだ。まったく、上は勝手よね。

 

「どっちにしろ、政府は特にシンフォギアを有利な外交カードにしようと目論んでいるわ。EUや米国はいつも開展の機会を伺っているの。シンフォギアの開発は既知の系統とは全く異なるところから突然発生した、理論と技術によって成り立っているわ。日本以外の他の国では到底真似出来ないから、欲しくて仕方がないのよ」

 

 

 あたしは諸外国の動きについて響に話した。

 

「結局やっぱり色々とややこしいなー。フィリアちゃんは大丈夫なの?」

 

「あたしのミラージュクイーンは情報不足過ぎてそれほど知られてないからね。大したカードにはならないわ」

 

 大体、あたしは生まれてからまだ2年しか経っていない。しかも、了子ですら完全に構造が理解できていない部分もある技術も使われている。

 いまのところ、外交のカードにするにはリスクが高すぎていた。

 

 

「ふーん。そうなんだぁ。――あれ?  師匠、そういえば了子さんは?」

 

「永田町さ――」

 

 響は了子がいないことに疑問をもって弦十郎に所在を尋ねた。

 

 

「永田町?」

 

「政府のお偉いさんに呼び出されてね、本部の安全性、及び防衛システムについて関係閣僚に対して説明義務を果たしに行っている。 仕方のないことさ」

 

 響の疑問に弦十郎は了子が防衛システムの説明に向かったと教える。あの人はこういうことは全部把握してるから――。

 

「ホント、何もかもがややこしいんですねー」

 

「ルールをややこしくするのはいつも責任を取らずに立ち回りたい連中なんだが……。その点、広木防衛大臣は……。――ん? 了子くんの戻りが遅れているようだな……」

 

「そうね、確かに遅すぎる……」

 

 

 

 了子の戻りが遅いことを不審に思ったあたしたちのもとに、広木防衛大臣が何者かに殺害されたという報告が届いたのは、このあとすぐのことだった。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

 

「大変長らくおまたせしましたー!」

 

 了子はヘラヘラした表情で呑気そうな声を出しながら帰還した。

 

「了子くん!」

  

 そんな彼女の元に弦十郎が駆け寄る。

 

「何よ?  そんなにさみしくさせちゃった?」

 

「そんなわけないでしょ。広木防衛大臣が殺害されたのよ」

 

「えぇっ?  本当?」

 

 あたしにオーバーなリアクションをとる彼女。腹立つ顔するわね。

 

 

「複数の革命グループから犯行声明が出されている詳しいことは把握出来ていない。目下全力で捜査中だ」

 

 あたしの言葉に弦十郎がそう続ける。

 

「了子さん、連絡も取れないから皆心配してたんです!」

 

「え? あっ、ほらほら、これ。壊れてるみたいねー」

 

 響がそう言うと、彼女はゴソゴソとスマホを見ながら壊れていると言い放った。このタイミングでなんで携帯が壊れるのよ……。

 

「あははっ……」 

 

「でも心配してくれてありがとう」

 

 苦笑いする響に微笑みかける了子。なんで、ちょっと嬉しそうなの?

 

「そして、政府から受領した機密司令は無事よ。任務遂行こそ、広木防衛大臣の弔いだわ」

 

 アタッシュケースを置いて彼女は真剣な顔つきになった。

 

 

 任務遂行ね……。果たして本当にそれが弔いになるのかしら?

 

 それから、程なくして、特異災害対策機動部二課は政府より任務を与えられた。

 

 完全聖遺物である、デュランダルという名の剣。これを永田町地下の特別電算室。通称記憶の遺跡まで移送する任務が我々二課に課せられたのだ。

 政府が、《ノイズ》の発生が頻繁しているのは、我々の本部の地下にあるデュランダルを狙ったものだと結論づけたからである。

 

 そして、響とあたしは襲撃が来ることが予測されたので護衛として同行する仕事を預かった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あたたかいものをどうぞ」

 

 いつもの張り付いた笑顔で緒川が缶コーヒーを差し出してきた。

 

「はぁ、何度も言ってるでしょ、あたしは飲み物はいらないって。あなただけよ、あたしに飲み物を渡すのは。まぁいいわ、いくらだったの?」

 

 あたしは緒川から缶コーヒーを渡されたので、財布から小銭を出そうとした。

 

「たまには僕から奢らせてくださいよ。――翼さんですが、一番危険な状態から脱しました」

 

 笑顔で翼の容態が良くなったという知らせを緒川はあたしに伝えた。

 

「そう、良かったわ……。まぁ、あたしは翼に嫌われちゃったから、彼女に言葉をかけることは出来ないけど――。翼のこと、よろしく頼むわね」

 

 あたしは缶コーヒーに口をつけてから、緒川に翼のことを頼んだ。なんだかんだ言って、彼女が一番気を許しているのは彼だからだ。

 

「そう言わずに、もう少ししたらお見舞いに行ってあげてください。翼さん、悩んでいたんですよ。あの日、フィリアさんに嫌われてしまったと、本気で相談されましたから。響さんに、フィリアさんを取られたと思ってたみたいです」

 

「そんなバカな……」

 

 緒川の発言にあたしは驚愕した。あたしがあなたを嫌うはずないのに……。

 

「ちょっと離れてみて気が付いたみたいです。フィリアさんが自分のことをどれだけ大事に想っていてくれたことにね」

 

「はぁ、じゃあ、あたしたちは二人とも自分が嫌われたって思い込んでいたってこと? それって、あたしたちがバカみたいじゃない」

 

「まぁ、否定はしませんが。――ぐふっ、何をするんです」

 

 ムカつく笑顔で毒を吐く緒川に弦十郎譲りの正拳を放つ。

 

「そういうことはもっと早く言いなさいよ!」

 

「ですから、容態が安定してすぐに伝えたじゃないですか」

 

「あーもう、うるさいわね! 屁理屈言ってんじゃないわよ! あなたが密かに翼をバラエティ番組に出演させてそのうち、マルチタレントにしようと目論んでいることバラしてやる!」

 

「なんで、それをフィリアさんが知っているんです?」

 

「珍しく焦った顔をしたわね。それくらいここで培った調査能力を使えば造作もないのよ」

 

「友里さんと何かしているとは思ってましたが、まさかそんなことを調べているなんて……。職権乱用ですよ」

 

「あなたに言われたくないわね」

 

 しばらく緒川と言い争ったあと、彼は響にも翼の容態を告げると言って、どこかに行ってしまった。

 まったく、あの忍者は……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 いよいよデュランダルの移送が始まった。 

 

 響は了子と同じ車両に乗ってデュランダルを護衛する。

 車より早く動けるあたしは外から身を隠しつつ、護衛にあたっている。

 

『防衛大臣殺害犯を検挙する名目で検問を配備! 記憶の遺跡まで一気に駆け抜ける!』

 

『名付けて、天下の往来独り占め作戦』

 

 弦十郎が作戦内容を話して、了子はダサい作戦名をつける。

 

 

 了子の車を中心に護衛の車両が4両。了子の車の後部座席に、デュランダルを置いて出発する。

 

 上空からヘリコプターで弦十郎は指示を出す形をとっている。

 

 

 予想通りというか、予想以上の早さで《ノイズ》の襲撃は起こった。

 橋が壊されたり、マンホールから水が吹き出したりして、護衛の車は次々と離脱していった。 

 しかし、やけにピンポイントで狙うわね。

 

『さっきから護衛車を的確に狙い撃ちされているのは、ノイズがデュランダルを損壊させないよう制御されていると思われる! 狙いがデュランダルなら、敢えて危険な地域に滑り込み攻め手を封じるって算段だ!』

 

 弦十郎はデュランダルがこちらにある以上、逆に危険なところに行けば攻撃の手が緩むと読んで指示を出した。  

 また、無茶なことを言うわね。この人は……。

 

『勝算は?』

 

『思いつきを数字で語れるものかよ! フィリアくん、《ノイズ》を操っている者は見つかりそうか?』

 

「ええ、発生場所からいくつか割り出して潰してるわ。そこまで時間はかからないと思う」

 

 あたしは《ノイズ》を操っている者の捜索を任されていた。オペレーターと連携を取りながら場所を特定して音速を超えるスピードで潰していく。

 

 そんな中、大きな爆発が起きて響たちは煙の中に姿を消して安否が一時確認できなくなる。

 

 今のあなたならこれくらい大丈夫よね。信じてるわよ。

 あたしは《ノイズ》の発生源をさらに捜索することにした――。

 

 

 

 そのあとすぐに吉報が届いた。

 響は無事でシンフォギアを纏い戦いを始めたようだ。

 しかも、今までとは格段に違う動きで《ノイズ》を圧倒しているみたい。

 まぁ、当然だけど……。

 

 さて、あたしも仕事を終わらせにかかるわよ。響の頑張りを無駄にしないわ。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「こいつ――戦えるようになっているのか?」

 

「あら、高みの見物とはいい身分ね。ネフィシュタンの鎧、そして、その杖みたいなものが《ノイズ》を操るのね……」

 

 あたしは響を観察しているネフィシュタンの鎧を身に着けた少女の背後に立った。

 

 

「おっお前、何者だ!? どうやってここを!」

 

 少女は問答無用で杖ようなものから《ノイズ》を繰り出してきた。なるほど、完全聖遺物の装備に、《ノイズ》を操る力。

 この子が翼を絶唱まで追い詰めたのね……。

 

「コード、ミラージュクイーン……、マナバースト……」

 

 ――雷霆陥――

 

 広範囲に雷の刃を落として、出現したノイズを一掃する。

 

「やるじゃねぇーか。だけど、スキだらけだー」

 

 少女はあたしに猛スピードで蹴りを加えようとする。なるほど、完全聖遺物の力でパワーが上がっているのね。

 

 しかし、彼女の蹴りは空を切った。

 

「なっ、消えやがった。どういうことだ!?」

 

「あなたの蹴りつけたのは、あたしの残像……。悪いわね、あたしって結構強いのよ」

 

 あたしはネフィシュタンの鎧の少女の首元にミラージュクイーンを突きつけた。




フィリアVSネフィシュタンのクリスです。
弦十郎に教わった技を使って素早い動きで残像を残す……、書いてて割と緒川の忍術っぽい感じがしなくもないですが、武術ってことで。
次回はデュランダル覚醒とかいろいろって感じです。






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お見舞いとフラワー

原作6話の中盤くらいまでです。
それではよろしくお願いします。


「おいっ、テメー、なんであたしを殺さねぇ? まさか、あのバカみたいに相手は同じ人間とか抜かすんじゃねぇだろうな?」

 

「バカね、あたしは人間じゃないわ。それに、あなたには黒幕の正体を聞かなきゃならないでしょう……」

 

「なるほど、妙な見た目をしてると思ったが、テメーが噂のお人形ちゃんか! だが、やっぱり甘い! これで勝った気になるなんてなー!」

 

 こちらが殺さないと知ると、彼女は思い切りよくムチをこちらに伸ばしてきた。

 なるほど、よく調教されてるみたいね。

 

「どうだっ! もう二度と油断はしねぇ! マグレはもうないぞ!」

 

 そう言いながら、今度はさっきよりも広範囲に《ノイズ》をばら撒く。確かに、情報の入手よりも彼女を殺してでも止めるのが正解だったかもね。

 

 あたしもお人好したちに触発されて甘くなったのかしら……。

 

 ――神焔一閃――

 

 炎を纏ったミラージュクイーンを振るって、大型の《ノイズ》を両断。

 

 そして小型の《ノイズ》は音速を超えたスピードで一体ずつ切り刻む。

 

「人形のくせに人間様に楯突いてんじゃねぇー!」

 

 あたしが《ノイズ》を切り裂く瞬間を狙ってネフィシュタンの鎧からムチを伸ばして攻撃をしてくる。

 

「あら、人間だったのね。ご主人様にしっぽ振ってるワンちゃんかと思ったわよ」

 

 ミラージュクイーンでムチを弾き返しながら、あたしはそう返した。

 

「うっうるせぇ!」

 

 少女はさらに激しく、苛烈にムチをしならせる。

 

「いい加減に、面倒になってきたわね……」

「なっ!?」

 

 あたしはムチを掴んで、引っ張り――思いっきり少女を投げ飛ばした。

 

「――っ! ムチを素手で掴みやがった」

 

「バカね、あなた……。痛みを感じないあたしにムチなんて通用しないわよ」

 

 

 

「――ちっ、テメーの相手をしてる暇はねぇんだ! あたしの目的は、あいつだっ!」

 

 投げ飛ばされたショックで冷静さを取り戻したのか、彼女はひたすら《ノイズ》をこちらに照射してきた。

 

 そして、あたしが《ノイズ》に構っている間に少女は響を狙って、ムチを伸ばして攻撃をする。

 

 響は攻撃に反応して、ジャンプすることで避けたが、少女の蹴りを顔に受けてしまう。

 

 響ではまだ、あの少女の相手をするのはやっぱり厳しいみたいね……。それなら……。

 

 あたしは《ノイズ》を倒しながら響の援護に向かおうとしていた。

 

 だが、そのとき、状況が一変する。

 先ほどのショックの影響なのかアタッシュケースがいつの間にか空いていて、中からデュランダルが出てしまったようなのだ。

 

「あれは、なんなの? まさか、デュランダルが起動したとでも?」

 

 あたしはデュランダルの様子を見て、驚いた。

 なんと、デュランダルは光をまとって、宙に浮いていたのだ。

 

 いけない、あれを奪われては……。

 

 あたしはデュランダルに近付いて奪取しようとした。

 

 しかし、《ノイズ》に行く手を阻まれ、響とネフィシュタンの少女が競り合うのを見守ることしかできなかった。

 

「でぇぇぇい! 渡すものかー!」

 

 響が競り合いに勝ち、デュランダルを掴む。

 

「よくやったわ……」

 

 あたしはようやく周りの《ノイズ》を殲滅して、響に駆け寄ろうとした。しかしっ――。

 

「――!? 響! どうしたのっ!」

 

 あたしは響の掴んだデュランダルがまばゆい光を放出しているのを見て、つい、立ち止まってしまう。

 

「うぁぁぁぁぁっ!」

 

 響は雄叫びを上げて、デュランダルを両手で天に掲げる。

 すると、どうだろうか。デュランダルはみるみる刀身が再生していき、完全な姿を現した。

 

 さらに響の体は真っ黒に染まり、目からは赤い光が迸っていた。

 

 なんなの、ものすごい高エネルギーを彼女から感じるわ。

 

 その上、デュランダルからはとんでもない大きさの光の刃を放出している……。

 

 何か良くない予感がする。あたしの直感はそう言っていた。 

 

「そんな力を見せびらかすなー!」

 

 ネフィシュタンの少女は何に腹を立てたのか、《ノイズ》を次々と響に照射する。

 ちっ、次から次へと面倒なことを……。

 

「えっ、響? あなた、何をしてるの?」

 

 あたしは響の行動が信じられなかった。

 

 響はネフィシュタンの少女のほうを向いて、デュランダルを振り下ろしたのだ……。

 巨大な光の刃が彼女を襲う……。

 

「ちっ、仕方ないわねっ……」

 

 あたしは舌打ちして、自身のスピードを限界まで引き上げた――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 響の振り下ろしたデュランダルは見事に薬品工場を破壊した。

 恐ろしい威力――絶唱並、いやそれ以上だ――。

 

 あたしはあまりのパワーに戦慄していた。

 

「おいっ! テメーっ! なぜ、あたしを助けた! それで、あたしが感謝するとでも思ったか?」

 

 あたしに突き飛ばされて、後ろで倒れていた、ネフィシュタンの少女が大声を出す。

 

「はぁ? あなたに感謝なんてされたいわけないでしょ。バッカじゃないの」

 

「ぐっ……」

 

 あたしの返事に少女は口ごもる。

 

「あの子の――響の手をあなたなんかの血で汚したく無かったからよ。良かったわね、命拾いして……」

 

「うっうるせぇ! ガキの癖に偉そうに……。そっそれに、お前、左肩から下が……」

 

 少女はあたしの左半身を見つめていた。ああ、これを見て声を震わせているのね。

 もしかして、この子は意外と――。

 

「ああ、ちょっと避けるのが遅れたから、千切れちゃったみたいね。何? もしかして心配してるの? 平気よ、あたしは人形だから痛みを感じないのよ――」

 

「痛みを感じない? ――くっ、本当に礼は言わねぇぞっ!」

 

 ネフィシュタンの少女は撤退した。あたしは再生に回すエネルギーしか残っていなかったので、深追いすることを止めておいた。

 

 それに、響やデュランダルを守らなきゃならないしね……。

 

 

 

 

「フィリアちゃん!」

 

 二課による原場の事後処理が本格的に行われ始めたとき、了子から何か話を聞いたらしい響がこちらにやってきた。

 

「あら、響、ようやくお目覚め? 《ノイズ》を倒す動きは良くなってたわよ」

 

 あたしは響の健闘を讃えた。本当に短期間で強くなったわ……。

 

「で、でも私はフィリアちゃんを……」

 

 響はあたしの左腕を見ながら悲しそうな顔をする。

 

「ああ、了子のやつ、余計なことも喋ったのね……。大丈夫よ、ほら、見てのとおりきれいに再生してるでしょ」

 

 あたしはきれいさっぱり元通りになった左腕を見せた。

 

「安心なさい、あなたの手を血に染めさせたりはしない。あなたのその手は希望を掴み取るものだから……」

 

「でも、もうこんな危ないことしないで! 元通りになったとしても、私は痛いよ……」

 

 響は自分の胸を押さえながら悲しそうな顔をした。

 

「そっ、悪かったわね。次は下手打たないように気を付けるわ」

 

 あたしはぶっきらぼうにそう答えて、事後処理の手伝いに向かった。

 まったく……、どこまでも、お人好しなんだから……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「相変わらず、酷い有様……。少しは整頓くらい出来るようになりなさい」

 

「フィリア! 入るならひと声かけてからにして」

 

 あたしは集中治療室から出た翼の見舞いにきた。

 翼は異常に整理整頓や掃除が苦手で、入院中の部屋は嵐が通りすぎたように散らかっていた。

 

「調子はどう? 無理に動いて看護師さんを困らせたりはしてないでしょうね?」

 

「どうして知っているの? フィリアはいつも見てきたようにそんなことを言う」

 

 あなたの性格を考えたら大体察しがつくからに決まっているでしょう。どうやら、少しは気分は落ち着いたようね。

 

「でも、フィリアが来てくれるなんて、思ってなかった……。もう見捨てられたとおもってたわ……」

 

 翼はベッドから身を起こして、寂しそうに笑っていた。

 

「バカね、見捨てるわけないじゃない……。別に奏と約束したからじゃないわよ。あなたもあたしの数少ない友人だから……。だから、あなたの未来はあたしにとって大事なものなの」

 

 あたしは泣きそうな顔の彼女を見て、恥ずかしいけど自分の思っていることを吐き出した。

 

「えっ? フィリアは私のことを友人だって思ってくれてるの?」

 

「――思っているわよ。悪かったわね……」

 

 鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして、キョトンとあたしを見つめる翼。確かにそう言ったことはないかもしれないけど、普通言わないものでしょう。

 

「ううん。嬉しいわ……。私は随分とあなたに酷いことを言ったのに。あなたの優しさに私はずっと甘えてた。奏を失っていつの間にか一人で戦ってるつもりになっていた。意地になっていたのよ。夢で奏に笑われたわ――真面目がすぎるぞって……」

 

 翼は奏の分も戦わなくてはならないという義務感でずっと自分を研磨し続けていた。

 あたしは強く止めるなんてできる立場じゃないから、見守ることしか出来なかった。そんな、あたしが優しいわけないじゃない。

 

「いいじゃない、真面目でも――。奏は不真面目すぎるし、二課の連中だってそうよ」

 

「でも、このままだとポッキリ折れるぞって奏が……。だから、私は少しは不真面目にならないと……」

 

「折れないわ。折らせやしない、あたしがあなたを守るもの。あんな不真面目のバカの言うこと真に受けちゃダメよ。あなたはあなたのままで無理に変わらなくてもいいの。だからクソ真面目って言われるのよ。変化なんていつの間にか起こってるんだから」

 

 あたしは翼の愚直さは長所だと思っている。確かに危ういところはあるけど、そんなの関係ない。

 それを補うのがあたしや弦十郎、それに緒川だったりするんだから。

 

「フィリア……、ありがとう」

 

「何度も言っているけど、お礼が言われたいからやってるわけじゃないのよ」

 

「わかってるわ。でも私は友人にお礼が言いたかったの」

 

 翼はそう言って、ニコリと微笑んだ。随分とスッキリした顔しちゃって、心配したあたしがバカみたいじゃない。

 

 そして、しばらく雑談した後に、あたしは緒川からの伝言を思い出して帰ることにした。

 あの子とは二人きりで話したほうが良さそうね。

 

「じゃあ、そろそろ失礼するわ。しばらくはあたしと響で何とかなるから、大人しく医者の言うこと聞くのよ」

 

「わかってるわ。あなたの力は信じてる」

 

 翼はまっすぐにあたしに視線を送った。

 

「そっ、あーこの部屋の様子は……。まぁいいか。この方が親しみやすくなるかもしれないし……」

 

「えっ?」

 

「何でもないわ。それじゃ、この辺で」

 

「ちょっと、フィリア。待ちなさい! 何か企んでるでしょ」

 

 翼は一生懸命立ち上がり、追いかけようとするが、あたしに追いつけるはずもなく、すぐに諦めた。

 

 あら、我ながらいいタイミングね。響、翼の心の壁に踏み込んでちょうだい……。

 まっすぐなあなたなら出来るでしょ?

 

 あたしは病室の前で驚いた顔をしている黄色い髪の少女に友人の心を託した……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ごめんなさいね。未来……。あなたとの約束があるって知らなくて……」

 

「いいんです。先輩にはお世話になっていたんで、響も言い出せなかったんだと思います」

 

 今、あたしは小日向未来とフラワーというお好み焼き屋に来ている。

 翼の見舞いを緒川が響に今日頼むことを知っていたが、まさかその前に未来と約束ごとがあったなんて……。

 

 この前もしし座流星群を見る予定がこっちの都合で壊れているし、なんとも間が悪い。

 

 その上、未来は翼の病室に響が行っているところを見たらしく、かなり落ち込んでいた。

 

 一応、従姉妹の翼を元気づけるために、私から響にお見舞いを頼んだということを未来に伝え、彼女との約束があったことを知らずに悪いことをしたと侘びたところだ。

 

「今日は随分と可愛らしいお連れさんだねー。誰かの妹かい?」

 

 このお好み焼き屋の店主はさっそくあたしの地雷を踏んだ。

 

「いえ、違うんです。彼女は私の先輩で」

 

 あたしが不機嫌になったのを感じ取って、未来は苦笑いを浮かべる。

 

「おや、失礼したねぇ。じゃあ、特別サービスに負けたげるよ」

 

「あら、悪いわね。でも、あたし結構食べるわよ」

 

「あははっ、望むところだねぇ」

 

 そう言って店主はキャベツをたっぷり使ったお好み焼きを作り始めた。

 

「ねぇ、フィリア先輩。友達に隠し事とかってしたことありますか?」

 

 待っている間、未来はあたしにそんなことを聞いてきた。

 

「そりゃ、一つや二つあるんじゃないかしら。知られたくないこともあるし……」

 

 あたしは当たり障りのないことを言った。

 

「隠された方のことって考えたことありますか? 辛い気持ちになるだろうなとか、こう、罪悪感を感じるとかって……」

 

 未来は踏み込んで話を聞いてきた。

 あたしは事情を知ってるだけに答えにくい……。

 

「さぁ、どうでしょうね。あなたはどうなの? 隠し事をする側の気持ちは考えたことある?」

 

「――っ」

 

「あなたが誰のことをどれだけ想っているかは短い付き合いだけどわかるわ。でも、これだけは信じてあげなさい。あなたの想いと同じだけ、相手もあなたのことを想っている。そんな子が隠し事をするんですもの。それが何のためなのかくらいは察することが出来るんじゃないかしら?」

 

 響は未来を誰よりも大事に想っている。だからこそ、危険から遠ざけるために、似合いもしない隠し事をしている。

 まぁ、どっちにしろ彼女に秘密を話させるわけにはいかないのだけど……。

 

「――フィリア先輩。ありがとうございます。少しだけ……、楽になりました」

 

「そっ、なら良かったわ。ほら、冷めると美味しくないでしょう。早く食べなさい」

 

「失礼な子だねぇ。冷めても美味いに決まってるでしょう」

 

「それは、失礼したわね……」

 

 このあとしばらく、未来の愚痴に付き合って彼女とともに帰宅することなった。

 

 

 

 

「それにしても驚きました。フィリア先輩が響より食べるなんて」

 

「粉モノは炭水化物が多いから、割と好きなのよ」

 

「くすっ、絶対にそれ、女の子が言ったらいけないセリフですよ。それにすみません、またご馳走になってしまって――あっ、響だ! 響ーっ!」

 

 こちらに向かって走ってくる響に向かって未来は駆け寄ろうとする。

 

「――着信? 司令から!? まさか!」

 

「来ちゃだめだー!」

 

 未来の手前でムチが炸裂して地面を抉り――彼女は吹き飛ばされた――。

 

 そして、跳ね上がった車が未来に直撃しようとしている。

 助けなきゃ――。

 

「Balwisyall nescell gungnir tron……」

 

 響――あたしに気付いていない!? 今、ギアを纏ったら――。

 

 響は未来の目の前でギアを纏い、車を弾き飛ばした――。

 

 まったく、仕方ない子ね……。

 




自分のことはからっきしなのに、他人にはしたり顔でアドバイスしたりするフィリアです。
次回はクリス戦からです。







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イチイバルの装者

感想や誤字報告、ありがとうございます!
今回は原作7話の最初の方までです。
それではよろしくお願いします!


「響……、どうして……?」

 

 信じられないという表情で響を見る未来。そりゃあびっくりするわよね。

 

「何やってるのよ、未来ならあたしが守れたのに――。まぁ、いつかこうなるだろうと思ってたけど……」

 

 響の隣に高速で移動したあたしはそう声をかけた。

 

「ああっ、フィリアちゃんも居たんだ……。ごめん……」

 

「あたしに謝る必要はないわ。彼女を取っ捕まえるわよ」

 

 響の謝罪を受け流して、あたしはネフィシュタンの少女を見据えた。

 

「ちっ、人形のやつも居やがったか。まぁいい。全員まとめてぶっ飛ばして――」

「とりあえず、ここを離れるから……、破っ――」

 

 ――掌底勁打(ショウテイケイダ)――

 

 あたしはネフィシュタンの少女の間合いに一瞬で詰め寄り、両手の掌底を腹に当てて、拳法の発剄の要領で内部まで浸透するエネルギーの波を当てる。

 

「なっ、バカなっ――」

 

 ネフィシュタンの少女は体をくの字に曲げて森の中に吹き飛んでいった。

 

「響、行くわよ。着いてきなさい」

 

「ひぇっ、フィリアちゃん。喋っているときに攻撃するなんて反則なんじゃ……」

 

「甘いわね。常在戦場……、戦場で油断する方が悪いのよ……」

 

 あたしはそう言って、森の中へ駆け出して行き、響はそれに続いた。

 

 

 

 あたしと響はネフィシュタンの少女が吹き飛ばされたであろう場所まで走った。

 あのくらいじゃ、ダメージはないでしょうね……。

 

「ねぇ、フィリアちゃん。お願いがあるんだけど……」

 

「何? 面倒なことは嫌よ」

 

「あの子と話し合いたい。同じ人間だから、きっとわかり合える」

 

 響はあの少女と話し合いたいとか言っている。

 

「はぁ? あなた、あの子が何やったか見てたわよね? 《ノイズ》を操って大惨事を起こしたのよ。それに翼も……」

 

「でも、あの人は《ノイズ》じゃない! 言葉は通じる、それなら心もきっと通じ合えるはず!」

 

 この子、バカだと思ってたけど大バカね……。

 だけど、あのときの彼女の顔――。《ノイズ》じゃない、か……。

 

「はぁ、あなたって実にバカよね……」

 

「ううっ……、フィリアちゃん、しみじみ言わないで……」

 

 響が落ち込んだような声を出した。

 

「でも、そういうバカは嫌いじゃないわ……。しばらく手を出さないでいてあげる。危なくなったら、手荒なことするわよ」

 

「ありがとう!」

 

 嬉しそうな声を響が出したところで怒り心頭のネフィシュタンの少女と相まみえる。

 

「ちっ、訳わかんねぇ技を使いやがって! いいぜ、二人まとめて相手にしてやらぁ!」

 

 戦闘態勢をとった彼女の前に響が立ちはだかる。

 

「あん!? なんだ、どんくせぇのが一匹でどうするつもりだ!? そっちの人形も見てねぇでかかってこいよ! 舐めてるのか!?」

 

 一人で立ち向かおうとする響を見て、少女はさらに苛立った態度になった。

 

「どんくさいなんて、名前じゃないっ!」

 

「なんだ?」

 

「私は立花響、15歳!  誕生日は9月13日で血液型はO型!  身長は、こないだの測定では157cm!  体重は――もう少し仲良くなったら教えてあげる! 趣味は人助けで好きなものは、ご飯&ご飯! あと、彼氏居ない歴は年齢と同じ!」

 

 響は急に自己紹介をする。体重をこの間あたしに唐突に告げたのって、仲良くなったって勝手にあなたが認定したからなの?

 真面目な顔で何をするかと思えば……。

 

 

「何をトチ狂ってやがるんだ、お前……」

 

 まぁ、そう思われても仕方ないわね……。

 

 

「私たちは《ノイズ》と違って言葉が通じるんだからちゃんと話し合いたい!」

 

「何て悠長っ!  この期に及んでっ!」

 

 響の甘い主張はやはり切り捨てられるわよね……。

 

 ネフィシュタンの少女は次々とムチで響に連撃を加えようとする。

 

「信じられないわ……。あなた、どこまで……」

 

 響がスムーズに攻撃を避ける動きの良さに、私は驚いた。短期間で……、早すぎるっ……。

 

 戦いに覚悟を持って挑んでいる目をしてるわ……。

 

 

 

「話し合おうよ!  私たちは戦っちゃいけないんだ!」

 

「――ちっ!」

 

「だって、言葉が通じていれば人間は――」

 

 響はさらにあの少女に主張する。人間同士だから、戦っちゃいけないと……。

 本当に頑固な子ね……。でも、それが通じるかしら?

 

「うるさいっ! 分かり合えるものかよ人間が!  そんな風に出来ているものか! 気に入らねぇっ、気に入らねぇっ、気に入らねぇっ、気に入らねぇ……! わかっちゃいねぇことをペラペラと口にするお前がぁぁぁぁぁっ!」

 

 ネフィシュタンの少女は激高して響に対して感情をむき出しにした。

 

「お前を引きずってこいと言われたが、もうそんなことはどうでもいい。お前をこの手で叩き潰す。今度こそお前の全てを踏みにじってやるっ!」

 

 少女の殺気がさらに増幅したわね……。大技を使う気?

 

「私だってやられるわけには……」

 

「うぉぉぉっ! ぶっ飛べ!」

 

 ――NIRVANA GEDON――

 

 ムチの先端で巨大なエネルギーの球体が黒い電撃を包み込み、その球体を響に投げつける。

 

 

「くっ!」

 

 響はかろうじて両手でエネルギーの球体を受け止めた。やはりギアの出力がかなり高くなっているわね……。すでに翼に近い力を感じるわ……。

 

「持ってけ、ダブルだ!」

 

 しかし、ネフィシュタンの少女はもう一発、球体を響に投げつけてきた。

 

「響っ!」

 

 あたしは響を援護しようと近くまで駆け寄った。

 

「来ないで! 大丈夫!」

 

 響ははっきりと大丈夫だと言い放ち――爆発に見事に耐えきった……。

 

 間違いないわ。今の響なら、あの子にでも……。勝てる……。

 

「響、前にも話したでしょう? エネルギーを一点に集中よ。今のあなたなら、アームドギアはなくても、それだけで――」

 

「うん、アームドギア生成できなくても、このエネルギーをぶつけることが出来れば――」

 

 あたしのアドバイスで響は両手にエネルギーを一点集中させる。

 

「何を企んでるのかしらねぇが! させるかよぉぉぉっ!」

 

 しかし、そんな響にあの少女はムチを伸ばす。

 

「でぇぇいっ!」

 

「なんだとっ!?」

 

 響はムチを掴んで、それを引っ張る。

 あの、動き……、シンフォギアの力を制御出来るからこそね。

 

 

 

 

 そして、響はネフィシュタンの女目掛けて一直線に突き進む。あのスピード、あのパワー、アームドギアが無くても、あの子は――。

 

「最速で、最短で、まっすぐに、一直線に! 胸の響を! この想いを! 伝える為にぃぃぃぃぃ! はぁぁぁぁぁっ!」

 

 そして、彼女の強力な一撃はネフィシュタンの女を吹き飛ばし、彼女はブロック塀が抉られるほど強く体を打ちつけた。

 ネフィシュタンの鎧に亀裂が見えるわ……。あの子は完全聖遺物に絶唱も使わず、傷をつけたっていうの?

 

 あと、どうでもいいけど、響って話し合うって言ってたけど――殴っちゃったわね……。

 

 

 ネフィシュタンの鎧はすぐに再生を始めて、少女はむくりと立ち上がった。

 

「お前……、バカにしてるのか?  私を――雪音クリスを!」

 

 少女はやはりかなり怒りをためているようだ……。それにしても、《雪音クリス》? 前にそんな名前を聞いたことがあった気がするわ……。確か……。

 

 

「そっか。クリスちゃんって言うんだ。ねえ、クリスちゃん。こんな戦いもう止めようよ。《ノイズ》と違って、私たちは言葉を交わすことが出来る。 ちゃんと話をすればきっと分かり合えるはず……、だって私たち、同じ人間だよ!」

 

 響は殴り飛ばしたことを忘れたかのごとく、争いはやめようと言う。

 呆れたバカね。ホント、ある意味すごいけど……。

 

「お前くせーんだよ……、うそくせー! あおくせー!」

 

 クリスは怒りの形相で響に襲いかかる。

 

 彼女の怒涛の攻撃が響に炸裂する。殴り、ガードをこじ開け、蹴りつける。

 ここに来て、パワーが上がっている。響、そろそろタイムリミットよ……。

 

 あたしはクリスの拘束へ動き出した。

 

 

 

「くっ……、クリスちゃん……」

「響、時間切れよ。ここからはあたしが……」

 

 響の隣に駆けつけて、あたしはひと声かける。

 

「けっ、人形が今さら来たところで……、ぶっ飛べよっ! アーマーパージだっ!」

 

 クリスはなぜか自らのネフィシュタンの鎧を破裂させて破片を飛ばす……。何をするつもりなの?

 

「Killter ichiival tron……」

 

 まさか……、これは……聖詠……? そうだ、雪音クリスは2年前に行方不明になったという装者候補の名前だった……。まさか、こんな形で出会うなんて……。

 あの子は弦十郎がやり残したという仕事の……。

 

「見せてやる、イチイバルの力だ!」

 

 イチイバルのシンフォギアを纏ったクリスがこちらに戦闘態勢を取った。

 

 

「クリスちゃん……、私たちと同じ?」

「驚いたわ。まさか、イチイバルのシンフォギアをこんな形で拝むなんてね……。コード、ミラージュクイーン」

 

 呆けた顔の響を後ろに下げて、あたしはミラージュクイーンを構えて、クリスと対峙する。

 

 

「歌わせたな……あたしに歌を歌わせたな! 教えてやる……、あたしは歌が大っ嫌いだ!」

 

「歌が嫌い?」

 

 歌が嫌いというクリスのセリフに後ろで反応する響。さぁ、どんな攻撃を見せてくれるのかしら。

 

 

 クリスはボウガンを手に光の矢をドンドン放ってきた。

 ちっ、飛び道具……、手数が多いタイプか……。あたしの苦手なタイプね……。

 

 心の中で舌打ちをして、ミラージュクイーンですべての矢を叩き落とす。

 

「テメーに用事はねぇっ!」

 

 しかし、矢に気を取られたあたしは、クリスに蹴り飛ばされてしまう。

 

「フィリアちゃん!」

 

 あたしの方に響が駆け寄る。バカっ、あたしは大丈夫だから目の前の敵に集中しなさい!

 

「仲良く……、くたばれっ!」

 

 ――BILLION MAIDEN――

 

 ボウガンがガトリング砲に変形して、両手から弾丸が放たれる。

 

 ――MEGA DETH PARTY――

 

 そして、さらに腰部からミサイルを連射してきた――。

 

「響、下がりなさい。あたしなら多少のダメージなら再生できる」

「嫌だっ! フィリアちゃんを盾になんてするもんか!」

 

 はぁ……、困った子ね……。マナブースト……。

 

 

「はっ、ざまぁみろっ! 吹き飛ばしてやっ……、なっ!?」

 

 

 ――水鏡ノ盾(ミカガミノタテ)――

 

 剣を下段から振り上げて、錬金術によって生成した水の壁でクリスのミサイルを防ぐ。

 しかし、大量の水を錬成するのでエネルギーの消費が他の技よりも激しい。正直言って、欠陥技……。

 

 

「あれ? フィリアちゃんが盾を……」

 

 

「けっ、そんな貧弱な盾なんて吹き飛ばしてやらぁっ!」

 

 ――MEGA DETH PARTY――

 

 クリスは再びミサイルをこちらに向かって放ってきた。しかもさっきよりも多いわ……。

 

 本当に面倒なタイプ。やりにくいわ。だけど……。

 

 

「どうしたっ! 棒立ちで!? もうあの盾は出せないのかっ!? ――なっ、今度は別の盾か!?」

 

「剣だっ!」

 

 目の前に巨大な翼のアームドギアが降ってきて、あたしたちをミサイルから守ってくれた。

 

 まったく、まだ全快してないのに無理しちゃって……。

 でも、助かったわ……、翼……。




最速で、最短で、まっすぐに……、のところはアニメだと歌っているので、多分口に出して言ってないのですが、カッコいいのでセリフにしました。
錬金術を使えばクリスの技にも対抗できるのですが、燃費の関係でやっぱりクリスはフィリアにとって相性が悪い相手です。
しかし、3対1だとクリスが可哀想になってしまいますね。







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フィーネ

ついにフィーネ登場です。
それではよろしくお願いします!


「はっ!  死に体でおねんねと聞いていたが、足手まといを庇いに現れたか?」

 

「もう何も失うものかと決めたのだ」

 

 翼があたしたちのもとに駆けつけた。

 

「悪いわね、無理させちゃって。あたしだけで終わらせるつもりだったんだけど……」

 

「ふっ、戦友(とも)のピンチに駆けつけられない方が私には無理というものだ……」

 

「そ、ありがとう。翼」

 

「礼を言われるために来たわけじゃない」

 

 あたしと翼は拳を合わせる。

 

「翼さん……」

 

「気づいたか、立花。だが私も十全ではない。力を貸してほしい」

 

「は、はい!」

 

 緒川が響に見舞いに行かせたのは正解だったようね。あいつのおかげと考えると腹立つけど……。

 

「はっ、雑魚の為にまた死にかけるんじゃねぇか?」

 

 クリスは翼を挑発する。

 

「雑魚だと? 読み違っているな。フィリアがお前より弱いはずないだろう。装者の保護を優先して本気を出していないことに、まさか気付いていないとはおめでたいやつめ……」

 

「余計なこと言わないでちょうだい……」

 

 あたしは翼の言葉にツッコミを入れた。確かに大技を控えて守勢に回ったけど……。

 

「はっ、甘いやつ! その甘さが命取りだっ」

 

 クリスが翼に襲いかかる。

 

 翼は巧みな動きでクリスの攻撃を躱して、さらに剣でクリスを斬りつける。

 

 いい動きね……。パフォーマンスは十全じゃない……。けれど、今は後ろにあたしたちがいることを意識して動けてる……。

 

 やっと、前を向くことが出来たのね……、翼……。

 

 

「翼さん、その子は!」

 

「わかっている!」

 

「あたしが陽動するから、あなたが決めなさい」

 

「心得たっ!」

 

 あたしがスピードを最大に上げて、クリスに的を絞らせないように動く。

 

「ちょこまかと、ウゼーっ! くぁぁぁっ!」

 

 苛立つクリスが銃を構える。スキが出来た……。

 

「翼っ!」

 

「任せろっ!」

 

 そのときである、なんと空中から《ノイズ》が降ってきたのだ。

 

 ドリルのように回転して5体の《ノイズ》があたしたちに向かって落ちてくる。

 

 ん? なんで、クリスにまで《ノイズ》が……?

 

 《ノイズ》はあたしとクリスに向かっていた。

 

「この程度、舐めないで……」

 

 あたしは二体の《ノイズ》を切り裂く。

 

 クリスは二体の《ノイズ》に武器を破壊され、バランス崩し、さらに最後の《ノイズ》も彼女を襲おうとしていた――。

 

「クリスちゃんっ!」

  

 響がクリスに向かって飛び出した。

 

「立花!」

「響!」

 

 響は倒れそうになったクリスを受け止めた。この場面で敵を助けられるって……。

 まぁ、あたしも人のこと言えないか……。

 

 

「お前、何やってんだよ?」

 

「ごめん、クリスちゃんに当たりそうだったから、つい……」

 

「――バカにして! お前も前の人形といい、 余計なお節介だ!」

 

 クリスは響に文句を言っている。しかし、どこから誰が《ノイズ》を……?

 

 

 

「命じたことも出来ないなんて……」

 

 声がする方向を見ると、金髪のサングラスをした女が《ノイズ》を繰り出した《あの杖》を持って立っていた。あの女……、どこかで……。

 

「あなたはどこまで私を失望させるのかしら……」

 

「フィーネっ!」

 

 失望したというのはクリスに対してなのか、彼女は明らかに動揺していた。フィーネというのが、あの女の名前なの? ――フィーネ? 心当たりのない名前なのに、あたしの核が熱くなるように反応した……。

 

「くっクリスちゃん?」

 

「こんな奴が居なくたって! 戦争の火種くらいあたし一人で消してやる! そうすれば、あんたの言うように人は呪いから解放されてバラバラになった世界は元に戻るんだろ!?」

 

 クリスは響を見てから、フィーネの方を向き、何やら主張をしている。呪いの解放? バラバラになった世界? ダメだ、何かを思い出せそうなのに……、思い出せない……。

 

 

「はぁ、もうあなたに用はないわ」

 

「えっ? なんだよ、それ!」

 

 フィーネの右手が光り始めると……、ネフシュタンの鎧が光輝き復元して、彼女の元に回収されていった。あの光……、ぐっ……、あたしは……。あの女を知っている……。

 懐かしいような、恐ろしいような……。

 

 とにかく、あたしの核は確実に“フィーネという名”を意識している。

 

 あたしは堪えられなくなって、フィーネの元に駆け出した。

 

「フィリア!」

「フィリアちゃん!」

 

 駆け出したあたしに、あの杖を向けるフィーネ。《ノイズ》ごとき、あたしには――。

 

 “――ドクンッ”

 

「かっ身体が……」

 

 あたしはフィーネに近づいた瞬間に胸の核から供給されるエネルギーが急に乱れて身体が硬直して動かなくなってしまった……。

 

 ダメっ……、避けられないっ……。

 

 フィーネが繰り出した《ノイズ》によって――あたしの腹が貫かれた――。

 

「フィリアーっ!」

 

 翼の悲痛な声が聞こえる……。まったく、あたしがこれくらいで死なないくらい知っているでしょう……。

 

「――フィーネ……、なんだっていうの……」

 

 大量のエネルギーが回復に向かってしまい、身体が動かないあたしは補給することも出来ず……、意識を失った……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「気が付いたー? フィリアちゃんがここまで、やられちゃうなんて久しぶりねー」

 

「――了子?」

 

 あたしがベッドで目を覚ますと、了子がムカつく笑顔であたしを見ていた。

 

「前にあれだけ言ったでしょ。回復にはエネルギーが大量に消費されるから、何か食べるものを持ち歩いて、動けなくなる前に食べなさいって」

 

「面倒をかけたわね。ちょっと、今までにない感覚になって驚いたら、身体が動かなくなっちゃって」

 

 あたしは了子なら何かわかるかもしれないと思って彼女にあの時の感覚を話した。

 

「へぇ、そのフィーネって人を見ると身体の核が反応して、そして、動けなくなったと……。何かされた訳じゃないのね?」

 

「ええ、何かされたような感じじゃないわ。あたしはフィーネを知っている……、それだけじゃない、もっと深い何か繋がりを感じたの……、人形のあたしが言うのも変だけど……、そう……、肉親のような……、そんな感覚……」

 

 あのときの違和感と気配はそう、とても近い感覚だった。

 だからこそ、身体が混乱して動けなくなったのだ。

 

「――あら、そうなの。肉親ねぇ、フィリアちゃんの前の情報があれば辿れそうだけど……。うーん……、とぉっても面白いわねー」

 

 了子は意地の悪い笑顔をあたしに向けた。

 

「あなたに相談した、あたしが馬鹿だったわ……」

 

 真剣な表情から、コロッと人をおちょくるような表情でニヤニヤと笑う了子を見て、あたしは話をしたことを後悔した。

 

「それじゃ、失礼するわね。助かったわ」

 

「いえいえ、どうもー。でも良かったじゃない。何か自分のことが分かる手がかりが見つかって。私も協力するわよ、フィリアちゃんの正体探し!」

 

 メディカルルームを出ようとするあたしに了子はそんな声をかける。

 

「あら、了子は結婚相手を探す方が先でしょ。いい女なんだから、自分の幸せを掴んでからお節介しなさい」

 

「ふふ、フィリアちゃんがそんなことを言うなんて、もう少し異常を調べたほうがいいかしらー」

 

「必要ないわ……」

 

 あたしは了子の戯言を聞き流して、部屋の外に出た。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「フィリア、もう歩いて大丈夫なのか?」

 

 あたしが司令室に向かう道中に、ちょうどこちらに向かってくる翼から話しかけられた。

 

「ええ、大丈夫よ。穴も塞がったし、自己修復にエネルギーを使いすぎただけだから……」

 

「そっそうか。なら良かった……」

 

 翼は歯切れが悪そうな感じだった。この子は昔から悩むとこんな顔をする。

 

「翼、あの子と関わって、心境の変化に戸惑っているのね?」

 

「なっ、どうしてフィリアはいつも私の心の中を読んでくるのだ?」

 

「あなた、割と表情のバリエーションが少なくてわかりやすいわよ……。あなたは、剣になるって意気込んでいたから黙ってたけど……」

 

「そっそうなの? 私はただ、奏が何のために戦ってきたのか、今なら少しわかるような気がして、それを理解するのは正直怖いというか、人の身ならざる私に、受け入れられるのか心配で……」

 

「思ってたよりもバカな悩みでホッとしたわ」

 

「ばっバカ? 私がか? 立花じゃなくて?」

 

 ナチュラルに響をディスる翼。それをあたしの前で悩みごととして話すのって感じよ。

 

「こんな身体のあたしだって、あいつらから人間扱いされてるのよ。あなたなんて、涙も流すんだから、どう見たって人間じゃない」

 

 私は関節の継ぎ目を翼に見せてそう言った。

 

「うむ、そう言われると返す言葉もない……」

 

 翼は言葉がつまったようだ。

 

「それに、変化なんて気にしなくていいのよ。変わる前も、変わったあとも、あなたはあなたなんだから。全部、風鳴翼としてあたしは受け止めるわ。だから、恐れずに前を歩きましょ」

 

「そうは言うが……、前を歩くと言われても、何をすれば……」

 

 翼は俯きながら、困ったような顔をした。

 

「はぁ、こういうときなら、奏はなんて声をかけると思う?」

 

“好きなことすればいいんじゃねーか?  簡単だろ?”

 

 多分、二人とも同じセリフを頭に思い浮かべてると思う。

 

「好きなことか……」

 

「ええ、きっと彼女はそういうでしょうね。翼には自由に生きてほしいと思って、あなたの未来を救ったのだから……」

 

 翼は少しだけスッキリした表情を見せて、立ち去っていった。

 もう心配なさそうね……。

 

 

 

 あたしはその後、司令室に入り、弦十郎にメディカルチェックを終えたことを伝える。

 

 

「フィリアくん、大丈夫なのか? 翼の話だと避けられないはずがないような攻撃をまともに受けたと聞いたが……」

 

「ええ、問題ないわ。体内の聖遺物がいつもと違う反応をして驚いただけだから……」

 

「うむ、そうか……」

 

 弦十郎はそれ以上なにも聞かなかった。聞かれたところで、あたしにもよくわからないことなので、答えようはないが……。

 

「それより悪かったわね。雪音クリスの保護を優先して動くべきだったのに……。あなたのやり残した仕事を助けられなかったわ」

 

「ん? ああ、覚えてたのか? 俺の愚痴を……」

 

「ええ、あなたが愚痴を言うなんて珍しかったもの。で、やり遂げるつもりなんでしょ? あなたの仕事……」

 

「もちろんだ」

 

 バシッと拳を手のひらにぶつけて、彼は力強く頷いた。

 

 弦十郎は二年前に行方不明になった雪音クリスを保護する任務にあたっていた。

 しかし、任務にあたった人間はことごとく死んでしまい、生き残ったのは彼一人となってしまう。

 それだけにこの仕事は彼にとって大きな心残りになっていたのだ。

 

「今回はあたしも協力してあげるわ。感謝しなさい」

 

「ふっ、それは心強いな……」

 

 弦十郎は静かに微笑んで、そう呟いた。

 雪音クリスからフィーネの情報を聞き出したいあたしは、彼とともに彼女を探すこととなった。

 

 フィーネは響を狙ってた。弦十郎の話によると、響の心臓に癒着しているガングニールは融合率がさらに上がっているらしい。

 

 聖遺物と肉体の融合とやらが、あの響の力を生み出しているのなら――彼女はそれを狙っているのかもしれないわ……。

 

 そういえば、あたしの核も聖遺物……。そして、その核をエネルギーにしてあたしは動いている。

 身体と聖遺物の融合という意味では、あたしと響は共通しているのだ。

 あたしの場合は身体は人形なんだけど……。

 

 だからといって何だって話なんだけど、あたしが作られた理由に関係があるような気がしてならなかった。

 

 それに、フィーネについて知れば、自分の身についての真相に近づけるという漠然とした自信だけは、あたしの中に強く残っていた――。




フィリアの過去にフィーネが絡んでいるみたいです。
そして、次回もいろいろとオリジナル展開を絡める予定です。







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未来に怒られ、クリスを探し……

今回は長い上に、原作からかなり逸脱した内容になってます。
それではよろしくお願いします!


「で、緊急事態だからって来たけど、一体何の用事かしら?」

 

 弦十郎と家に帰るつもりだったあたしは、響からの電話でリディアンの寮の前まで呼び出された。

 

「フィリアちゃーん、一緒に未来に説明してよー。隠し事しないでって未来に言われたけど、こんな感じでバレちゃったし……、絶対に未来は怒ってるんだよー」

 

「…………」

 

「…………」

 

「――帰るわ、あたし」

 

 あたしは響に背を向けて帰ろうとした。一大事だと思ってきてみれば、痴話喧嘩に巻き込もうとするなんて。悪いけど、お断りよ……。

 

「そりゃあないよー。あのね、未来はああ見えて、怒ると、もうめちゃくちゃ怖いんだ。未来に嫌われたら、生きていけないよー。お願い、お願いー」

 

 響は本気で未来にビビっているみたいで、切実そうな表情だった。

 

「……だけよ」

 

「へ? 聞こえないよー、フィリアちゃん」

 

「今回だけって、言ってるのよ。もう、二度とくだらない用事で呼び出さないって誓いなさい」

 

 半分くらいは二課にも責任はあると感じたあたしは、彼女の謝罪に付き合うことにした。

 ていうか、あたしも共犯みたいになるわよね……。

 

「ありがとう、今度、すっごく美味しいモノ奢るよ」

 

「はいはい、期待せずに待ってるわ……」

 

 響に手を引かれて、あたしは彼女の部屋に向かった。

 

 

 

「ただいまー、未来。フィリアちゃんも一緒だよー」

 

 響と共に部屋に入ったあたし。未来は机の前で本を読んでいた。

 

「…………」

 

 あー、無視するのね。怒ると黙るタイプって一番やりにくいのよねー。

 翼も似たタイプだけど、余計な気を使うと、またそれが地雷になったりして……。

 

「未来、話を聞いてほしいんだけ――」

 

「どうせ、また嘘つくんでしょ。フィリア先輩も一緒になって、私だけのけ者にして……」

 

 やっぱり、あたしも共犯扱いじゃない。この空気の中に放り込まれるなんて……。大体、こういうのは苦手なのよ。

 友里とか緒川あたりなら上手くやれるんでしょうけど……。

 

「ちょっと、待ちなさい。あたしはあなたに嘘は付いてないわ」

 

「響のこと、知ってて黙ってましたよね? 同じですよ……」

 

「当たり前でしょう。仲間の友人を危険にさらせるわけないじゃない」

 

「危険なんて、どうでもいいです! 私は響に隠し事される方が……、ううん、ただの隠し事なら良かった。私に隠れて響が危険な目にあっているなんて、全部背負い込もうとするなんて、それよりも酷いことってありません!」

 

 未来、愛が重いわよ……。これは、ちょっとフォローしたくらいで何とか出来ないわ……。

 

 なんで、こんな面倒にあたしは首を突っ込んでるのよっ!

 

「未来、あなたは誤解してるわ。響はかなり脅されてたのよ。このことを喋ると、あなたがそれはもう、悲惨な酷い目に遭うってね……」

 

「えっ、響が脅迫? いや、それも嘘に決まってます」

 

 未来は少しだけあたしの言葉に反応した。もうちょっと、押すわよ……。

 

「本当よ、ほら見なさいこれを……。手錠をされて厳しく脅されたの」

 

 あたしは事前に了子から手に入れた、響が手錠で拘束された写真を未来に見せた。

 

「――響……、私がいないときにこんな目に……」

 

 未来の表情から怒りが少しだけ消えたような気がした。もうちょっと揺さぶろうかしら……。

 

「響がどれだけ未来のことを“好き”なのか、知ってる? あたしなんて、もううるさいくらい、あなたとのノロケ話を聞かされちゃったわよ。そんな、未来のことを“大好き”な響はあなたを人質に取られたらどう動くかわかるでしょ?」

 

「響が……、私を……、えっと“好き”って……」

 

 未来はわかりやすいくらい、顔を紅潮させる。

 

「そうよ、ほら、響もはっきり告白なさい……」

 

 面倒になったあたしは力技で押すことにした。

 

「もっもちろん! 未来のことは誰よりも好きだよっ!」

 

「――っっっ」

 

 未来は顔を押さえて首を振っていた。耳まで真っ赤になっているようだ。

 

「みっ未来?」

 

「ずるいよ響……、私、怒ってたのに……。やっぱり、響にはそばに居て欲しいって、突き放せないよ……」

 

 未来は涙目で響を見つめた……。

 

「私、響が黙っていたことに腹を立てていたんじゃないの。誰かの役に立ちたいと思っているのは、いつもの響だから……。でも、最近は辛いこと苦しいこと、全部背負い込もうとしていたじゃない。私はそれがたまらなくイヤだった。また響が大きな怪我をするんじゃないかって心配してたの……」

 

「未来……、そんなに私のことを……」

 

 未来の素直な気持ちを聞いてハッとした表情をした。

 

「だけど、それは響を失いたくない私のワガママだ……。そんな気持ちに気づいたのに今までと同じようになんて出来なかった……」

 

 この瞬間を好機と捉えて、あたしは手早くスマホにある文面を書いて響に見せた。

 

《抱きしめろ!》

 

「――フィリアちゃん?」

 

《いいから、行けっ!》

 

「未来……、心配かけてごめん……」

 

 響は未来を抱きしめて一緒に泣いていた。

 ふぅ、これで一応解決かしら? 大丈夫よね……。

 

 なんか、未来のウィークポイントに付け込んだ感あったから、ちょっと悪い気もしたけど……。二人ともお互いに想い合ってるんだからいいでしょ。

 

 

 

 

 

 

「…………響ぃ」

「…………未来ぅ」

 

「長いっ!」

 

 かれこれ30分くらいボーッと彼女たちが抱き合っている姿を見てたけど、辛抱強いあたしにも遂に限界が来た。

 

「はっ、フィリア先輩……、すみません。あの、私……」

 

 やっとあたしの存在を思い出した未来は謝罪しようと顔をこちらに向けた。

 

「もういいわ。二人ともお幸せに……、帰るわよ」

 

「フィリアちゃん、ありがとう。付いてきてもらって良かったよー」

 

「はいはい、良かったわね」

 

 はぁ、ようやくこの空間から解放されるわ。クリスと戦うより疲れたわよ……。

 

「あっ、フィリア先輩! 一つだけ教えてください。響を拘束して脅したのって誰ですか――」

 

 ――殺気!? しかも、並大抵の殺気じゃないわ……。

 なんで響が絡むとこんなに怖いのよ、この子は……。

 

 

「おっ緒川……、緒川慎次よ……」

 

「フィリアちゃん?」

 

「だって、緒川が手錠付けたし、ほら色々と説明もしたでしょ? 機密とかの」

 

「うー、それはそうだけど。何だかわからないけど緒川さんに悪いことをしたような……」

 

「きっ気のせいよ……」

 

 あたしは緒川にいろいろと押し付けて、足早に響と未来の部屋を出た。なんか、未来が『緒川慎次』って復唱してたけど気にしないわ。

 

 あー、内蔵なんて無いのに胃もたれする。チョコレート食べよ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

『《ノイズ》とイチイバルの反応を第六市街地区で検知したようだ。どうやら、交戦したらしい』

 

「ええ、5分で着くわ」

 

 早朝、弦十郎から緊急の連絡が入り、あたしは高速で移動して現場に直行した。

 

 確かにあのときフィーネはクリスを見放したかのようなことを言っていたわ。

 つまり敵対もしくは粛清されようとした可能性が高い……。

 

 反応はこのあたりだったわね……。

 

『どうだ? 見つかったか?』

 

「ええ、ビンゴだったわ。どうやら交戦した結果、消耗して倒れたみたいよ……」

 

 あたしの目の前には路地裏で倒れている雪音クリスがいた。

 かなり弱っているわね……。

 

『そうか……、すぐにこちらから応援を回そう』

 

《うるさいっ! 分かり合えるものかよ人間が!  そんな風に出来ているものか!》

 

「…………」

 

 あたしはあの後、雪音クリスについて調べた。

 彼女は政変以来国交の途絶したバルベルデ共和国で八年前にNGO活動中に殺されたバイオリニスト、雪音雅律とソネット=M=ユキネの娘である。

 事件後、クリスはその行方が掴めない状態が続いていた。

 そして、二年前に国連軍の介入で彼女は救出されてニ課に保護される予定だった。

 

 南米の過酷な環境で親を殺されて小さな子供が生き抜くってどんなに悲惨だったのかしら……。

 

《戦争の火種くらいあたし一人で消してやる!》

 

『フィリアくん、どうした?』

 

「待ってちょうだい!」

 

『フィリアくん……?』

 

「この子は人間を信じていないわ……。おそらく、何か大きな心の傷が彼女にはある……。だから――」

 

 あたしは雪音クリスが悪人だとは思えなくなっていた。

 あたしが腕を失ったときの表情(かお)

 響の呼びかけに対しての態度……。

 

『ふっ、分かったよ、フィリアくん。君にしばらく彼女を預けよう。しかし、どうするつもりだ?』

 

「そうね、この子は居場所が無いでしょ。とりあえず――」

 

 あたしはこれからすることを弦十郎に話した。彼は快く了承してくれた。

 

「いいの? こう言っては元も子もないけど、あたしは取り返しのつかないことをしてるかもしれないのよ」

 

『ははっ、娘のやる事だ。信じて待つさ。俺は君の補助に回ろう』

 

「まったく、バカな人ね……」

 

 あたしは《雪音クリス》を回収して……、路地裏から姿を消した――。今日は学校は休むしかなさそうね……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ん……、はっ……」

 

「あら、ようやくお目覚めかしら……」

 

 ベッドで寝せていたクリスが目覚めたみたいだったので、あたしは彼女に声をかけた。

 

「てっ、テメーは人形っ! よりによって、テメーらに捕まるなんてっ! ――痛っ!」

 

「ほら、無理に動いちゃだめよ。安静になさい。拘束なんてしてないでしょ」

 

 あたしはクリスにお粥を作って持っていった。

 

「なっ、どういうつもりだっ!? あたしを捕まえて拷問でもかけるつもりじゃねぇのか?」

 

「そんなことするわけないでしょ。貴重なシンフォギア装者に……」

 

「はっ、そういうことか。あたしに媚を売って、お前らに付けって勧誘するってか? ご苦労なこった」

 

 クリスは顔を背けてそう言った。

 まぁ、この前まで敵だったんだからそんな態度になるわよね。

 

「まぁ、あなたの保護はあたしのプライベートで勝手にやったことだから、別に此処から出ていくのも自由なんだけど……」

 

「はぁ? 意味わかんねぇ」

 

「だって、あなたは人間を信じて無いんでしょ? そんなあなたを味方にしようって言っても無理じゃない」

 

「確かに人は信じねぇって言った。味方になるつもりもねぇ。じゃあ、テメーは何を企んでいるって言うんだ?」

 

 クリスはあたしの意図が読めないみたいだ。別に難しい意図は無いんだけど……。

 

「だから、信じて貰えるまで待つのよ……」

 

「へっ、頭ん中お花畑かよ。一体ここはどこなんだ! こんな下らねぇ茶番に付き合えるか! あたしは出ていく……痛っ」

 

「だから、安静にしなさいって言ってるでしょ。大丈夫よ、ここはあなたのマンションだから――。出ていくならあたしの方になるわね」

 

 あたしは乱れた布団をかけ直して、彼女にそう伝えた。

 

「はぁぁぁ? あたしのマンション? トチ狂ったこと言ってんじゃねぇっ!」 

 

「ほら、これがここの鍵だから無くさないようにね。家賃ならあたしの口座から引き落としになってるから気にしなくて良いわよ」

 

「ん、ああ。って、おかしいだろっ! なんで人形の借りた家にあたしが住まなきゃいけねぇんだ。はぁ、はぁ……」

 

 クリスは叫びすぎて息を切らせていた。

 

「あなたが人が信じられないからよ!」

 

「――っ」

 

「だったら、人じゃないあたしが世話するしかないでしょ。あなたは行くところが無いんだから。ほっとけないじゃない」

 

「ほう、人形ってのは嘘はつかねぇのか?」

 

「いや、付くわよ。だって、あたしは元々人間だもん」

 

「じゃー、信じられねぇよっ!」

 

 クリスは忙しそうにツッコミを入れる。だんだん可愛く見えてきたわね……。

 

「つーか、テメーは人間だったってどういうことだよ!? どう見ても人じゃないじゃねーか」

 

 クリスは今さらなことを聞いてきた。彼女にはフィーネのことを聞くつもりだし、質問くらいには答えときましょう。

 

「まぁ、記憶が全部飛んでるから詳しいことはほとんど知らないんだけど、ある日起きたら人形にされてたのよ、身体をね……。それでも、あなたの受けたであろう仕打ちよりはマシな気がするわ……」

 

 あたしはクリスを着替えさせるときに、彼女の体に刻まれた無数の痣を見た。そして、やはりこの子は恐ろしいほど過酷な体験をして生きてきたということを悟っていた。

 それに比べたら、記憶のないあたしの方が本気でマシに思えていた。

 

「人形にされただと? お前、そんなことされて、あいつらと友達ごっこしてられるのかよ」

 

「んー、だからかもしれないわね。あの子たちは、こんな身体のあたしでも人間として接してくれてるから……。世の中にはこんな人形を養子にして、娘だと呼んでくれるバカもいるのよ」

 

「――テメーを娘だと? ははっ、そりゃあ確かにバカ野郎だ。じゃあこの部屋から出てけと言えば出ていくんだな? あたしが出たら追ったりしないんだな?」

 

 あたしが弦十郎の娘になった話はクリスには面白い話だったらしい。

 

「ええ、いつでも出て行くし、あたしが信用できなきゃ、出ていけばいい。一応、お金は持って行きなさい」

 

 あたしは適当に財布から十枚ほど万札を出して封筒に入れて、ベッドの横の椅子の上に置いた。

 

「本当に何考えてんだ? それにこんなに置いて良いのかよ?」

 

「実家暮らしだから、給料が貯まってく一方なのよ。あなたも《ノイズ》倒す仕事したら割りと稼げることに驚くわよ」

 

「いや、それは聞いてねぇ。こんなこと独断でやっていいのかって聞いてんだよ……」

 

 今度はあたしの心配してるの? 割りとお人好しなのかしら?

 

「あなたに心配されることは何もないわ。一応、好きにやっていいって司令から許可は取ってるから、大丈夫なのよ」

 

「ふーん、まぁいい。一応、信じといてやるよ。テメーには一度助けられた。恩人の顔くらい立ててやろうじゃねぇか」

 

 ああ、あのときのこと、恩には感じてたのね……。

 

「そっ、信じてくれるのね。じゃあ、お腹空いてるでしょ? 消化にいいお粥を作ったからゆっくり食べなさい……」

 

「へぇ、テメーが作ったのかよ。不味かったら残すからな……。ガツガツ……」

 

 まったく、ゆっくり食べろって言ったじゃない……。

 ふぅ、少しだけお行儀が悪いのは、目をつぶってあげるわ。でも、キチンと完食するなんて、可愛げがあるわね……。

 

 こうして、あたしはクリスにマンションの一室を与えて彼女が人を信じられるようになるまで待つことにした。

 あたしが変わったように、彼女の閉ざされた心も開くと信じて――。




今までがシリアス多めだったので、未来さんには申し訳ないのですが、コミカルパートに利用させてもらいました。
クリスに部屋をドーンと与えるフィリアは給料やら残業代やらが貯まっているので、自由にできるお金が多いのです。
次回からもオリジナル多めになりますが、よろしくお願いします。







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共闘

《ノイズ》の魔の手がクリスに迫るとき、あの男が駆けつけます。
それではよろしくお願いします!


「それだけ食欲があるんだったら、大丈夫そうね。味には満足してもらって、安心したわ」

 

「まっ不味くなかっただけだ。調子に乗んな」

 

 クリスはそっぽを向いて布団に潜る。

 それにしても――。

 

「でも、意外だった。毒でも入ってるとか警戒するものだと思ってたから」

 

「テメーがあたしに何かしようと思えば、やり放題だっただろ? 別にそれだけだ――」

 

 彼女はそう答える。まぁ確かにそうなんだけど……。

 

「そ、わかったわ。冷蔵庫に適当に飲み物とか入れといたから。あとで、電子レンジの使い方とか教えるわ。晩ごはんも作っておいたから、今日の夜はとりあえずそれを温めて――」

 

「おいっ! 本気であたしを一人でここに置いとくつもりか!?」

 

 あたしが晩ごはんの話をすると、クリスが驚愕した顔でこちらを向いてきた。

 だから、さっきからそう言っているわよね?

 

「ええ、だってあたしにはあたしの家があるし……」

 

「それはさっき聞いた! 普通、もっと何かを聞き出そうとか、監視しようとかするだろっ?」

 

「ああ、そういうのって苦手なのよ……。友達に友達っていうのにも二年かかっちゃったし……。コミュニケーション下手っていうか」

 

 そう実際あたしは困っていた。思い付きで行動したのはいいものの、どう接していけばいいのかわからなかったのである。

 

「友達か……、テメーにはそう呼べるやつがいるんだからいいじゃねーか」

 

「そうね。それは否定しないわ」

 

 

「……」

 

「……」

 

 

「おいっ、マジで会話が続かないじゃねぇか! テメーはあたしと違って一人じゃなかったんだろ? なんか喋れよっ!」

 

 よく分からないけど、まだ帰って欲しくないってことかしら? まぁ、学校休んでるからいいけど……。

 

「そうね、とりあえず、あたしの名前から教えるわ。風鳴フィリアよ」

 

「ん? ああ、さすがに名前くらいあるよな。ふーん、フィリアっていうのか」

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

「なんか、悪いわね。よく知らない人と雑談ってどうやってするのかしら?」

 

「お前、それでよくあたしから信じられるようになろうとか思ったな。正直言ってあのどんくせぇのより酷いかもしれねぇぞ……」

 

 クリスが本気で呆れた顔でそんなことを言われた。響より酷いって、それはあんまりじゃない……。

 

「そうそう、あの子と言ったらこの前ね、友達との喧嘩の仲裁を頼まれて――」

 

 響以下の認定は避けたかったので、あたしは必死で先日の痴話喧嘩の話をしてみた。

 

「――ふーん、友達同士のケンカか……。あたしにはよくわからないことだな」

 

「わからない?」

 

「友達がいないからな、地球の裏側でパパとママを殺されたあたしは、ずっと一人で生きてきたから……、友達どころじゃなかった」

 

 そういえば、この子はあたしに『友達がいて良かった』と言っていた。過酷な環境は友人すら許さなかったんだわ……。

 

「そうよね、ごめんなさい。そういうつもりであたしは……」

 

 あたしは軽率な発言を詫びた。

 

「ああ、別にお前を責めてるんじゃない。ただ、たった一人理解してくれると思った人も、あたしを道具にするだけだったし、誰もまともに相手をしてくれなかったと思っただけだ」

 

「クリス……」

 

「大人は、どいつもこいつもクズ揃いだ。痛いと言っても聞いてくれなかった。やめてと言っても聞いてくれなかった。あたしの話なんて……、これっぽっちも聞いてくれなかった……」

 

 これがクリスの心の傷……。大人はクズ揃いか……。中には頼りがいのある大人も居るって言っても信じそうになさそうね。

 

「……そう。とりあえず、チョコレート食べる?」

  

 あたしは携帯してる板チョコを差し出した。

 

「なっ、なんでいきなりチョコ? お前、あたしの話をちゃんと聞いてたのかよっ?」

 

 クリスはチョコレートは受け取ったが、憮然とした表情だった。

 

「だって、あなたの心の傷が大きくて、あたしじゃどうにもならないかもって思ったから……。あたしなんか、友達にしても嬉しくないと思うし、どうすることも出来ないから、せめて甘いものでもって思ったのよ……」

 

「はぁ? お前、今、何か変なこと言わなかったか?」

 

 クリスはあたしの発言に何か引っかかったみたいだ。

 

「せっせめて甘いものをって……」

 

「ちげーよ、その前だ」

 

「あたしなんかと友達になっても嬉しくないってとこ? だってそうでしょう? あなたの最初の友達が人形だなんて」

 

 翼には奏がいたし、やっぱり可哀相じゃない。人間の友達がいないから、人形を友達にするって……。

 

「いいよ、人形で……」

 

「えっ?」

 

「いいって言ってんだ、バカっ! なんで、ここまでやっといて、変なところで気を使うんだよっ! いいよ、お前くらいしかいねーし、喋れそうなやつ……」

 

 クリスは顔を赤くしてそんなことを言ってきた。

 えっと、ホントに良いのかしら? まぁ、この子が良いならそれでいいけど……。

 

「そう、じゃあ、今からあたしたちは友達と言うことで……」

 

「おっおう。そうだな……、友達か……」

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

「ねぇ、クリス。友達って何を話すのかしら」

 

「だから、あたしが知るわけねぇっつーの」

 

 二人の中に沈黙が暫く流れた……。

 

 そして、この沈黙は《ノイズ》出現の警戒警報の音で破られた。

 

 

『フィリアくん、《ノイズ》を検知した。それもかなりの数だ』

 

「わかったわ。ええ、すぐに現場に向かうわね」

 

 あたしは弦十郎からの出撃命令を受けて現場に向かうことにした。

 

「《ノイズ》が現れたから、ちょっと仕事に行ってくるわ。冷蔵庫のものはなんでも――」

「あたしも行く……、これはあたしのせいだ……、あたしのせいで、関係ねぇ奴らが……」

 

 クリスは自分も同行すると言ってきた。

 少しは回復してるとはいえ……、でも、放置する方が危険よね……。

 

「仕方ないわね……、本調子じゃないんだから無理しちゃダメよ」

 

「はっ、約束は出来ねぇな」

 

 あたしとクリスは現場に共に向かった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 避難が完了して誰もいなくなった商店街にあたしたちは辿り着いた。

 

「コード、ミラージュクイーン」

 

 あたしはミラージュクイーンを片手にノイズたちを殲滅する。確かに数が多いわね。

 響も別の現場だし、翼はまだ出撃できない。

 

 消耗の激しい錬金術は使用を控えなきゃ……。

 そう思った矢先、《ノイズ》が集団で一斉にあたしとクリスに襲いかかった。

 

「下がってなさいクリス。ここはあたしが……」

 

 あたしは《ノイズ》たちに突進した。

 

 

「誰がお前の後ろに! ちっ……、Killter Ic……、ごほっ、ごほっ……」

 

 しかし、クリスは言うこと聞かずに前に出た、そして聖詠を唱えようとしたが……、咳き込んでしまい、失敗したのである。

 

 《ノイズ》たちの攻撃が容赦なくクリスを襲おうとする。

 

「――クリスっ!」

 

 あたしは振り返ってクリスを助けようとした――。

 

 

 その刹那――。

 

「奮っっっっっ――!」

 

 聞き慣れた気合の入った声と共にアスファルトが大きく隆起して《ノイズ》の攻撃からクリスを守る。

 

 まさか、あなたが現場に来るなんて……。随分と久しぶりじゃない。

 

「破っっっっっ――!」

 

 さらにアスファルトが砕け散り《ノイズ》目掛けて飛んでいった。

 

 まったく、相手が《ノイズ》じゃなかったらとっくに終わっている戦いね。

 

「珍しいわね。司令自ら出陣とは……。そんなに、あたしが信じられなかったかしら?」

 

 あたしは駆け付けてきた弦十郎に声をかけた。

 

「ははっ、たまには娘の活躍を生でみたくなったまでだ……。――奮っっっっ!」

 

 朗らかに笑った顔を見せたかと思うと、再び《ノイズ》の攻撃からクリスを守り、人間離れした跳躍力でビルの屋上まで彼女を抱えて飛び跳ねた。

 

 あたしもとりあえず、彼を追ってビルの上まで跳躍した。

 

「大丈夫か……?」

 

「…………っ」

 

 クリスは弦十郎に話しかけられ、パッと距離を置いた。

 

「あーあ、ダメじゃない。娘の前で若い女を急に抱きしめるなんて普通しないわよ」

 

「いやっ、フィリアくん……、あれはだな……」

 

 弦十郎は気まずそうな顔をする。まったく、真面目なんだから。

 

「娘? そういや、このおっさんもそんなことを……。じゃあ、おっさんがフィリアの……」

 

 クリスは驚愕した表情で弦十郎を見た。

 

「ん、ああ。俺が風鳴フィリアの父、風鳴弦十郎だ。娘と仲良くしてやってくれ……」

 

 弦十郎は大きな体を小さくして、クリスに頭を下げた。

 

「…………っ、だからって、お前らと仲良く手を繋ぐ気はねぇからなっ! あたしは大人を信じねぇんだ! ――Killter ichiival tron……」

 

 クリスは弦十郎にそう言い放つと聖詠を唱える……。

 

 そして、彼女はイチイバルのシンフォギアを纏った。

 

「フィリア! こいつらっ、ぶっ倒すんだろっ? こんなところで油を売ってて良いのかよっ!?」

 

 クリスはボウガンでこちらに迫りくる飛行型の《ノイズ》を撃ち落として、あたしに声をかけた。

 

「言われるまでもないわ……、コード、マナバースト」

 

 あたしはシンフォギアを纏ったクリスの戦力を計算して、錬金術を解禁した。

  

 ――紅蓮ノ翼(グレンノツバサ)――

 

 錬金術で錬成した炎をジェット噴射の要領で吹き出して、空中に舞い上がる対空用の技。

 しかし、対空時間はそれほど長くない。

 

 あたしもクリスにならって、空の《ノイズ》から殲滅を開始した。

 

「なかなか、面白ぇ技を使うじゃねぇか。おっさん、ご覧のとおりだ。あたしらがここの連中をやっつけるんだから、他の連中の救助に向かいな」

 

 クリスとあたしは周辺の《ノイズ》を次々と倒していった。

 遠距離戦が得意なクリスと近距離戦が得意なあたしは妙に戦い方が噛み合って、初めて一緒に戦ったにも関わらず、上手く効率よく戦うことができた。

 

 そして、おびただしいほどの数が居た《ノイズ》たちは、またたく間に全滅したのだ。

 

「はぁ、エネルギーをかなり使っちゃったわね。あむっ……」

 

 あたしは持ってきたチョコレートを食べながらそう言った。

 

「お前、菓子好きなんだな。こんなとこまで持ち歩いて……」

 

「ああ、あたしのエネルギー源だから、これ。これさえ食べとけば腕や足が千切れたり、腹に穴が空いても平気なのよ。あなた、先に帰ってなさい。あたしは事後処理とかあるから……」

 

 あたしはクリスに鍵を手渡した。あと、もうひと仕事片付けなきゃ……。

 

「あのさ!」

 

 クリスはあたしを呼び止めた。何かしら……?

 

 

「お前はあのおっさんのこと、本当に父親だと思っているのかよ?」

 

「――思ってるわよ。あたしを本気で娘だと言ってくれて、大事にしてくれてるんですもの……。彼だけは絶対に信頼できる人だって言い切れるわ」

 

「へぇ……」

 

 このクリスの『へぇ』がどんな意味を込めたものなのかわからないが……、あたしは弦十郎に対する気持ちを素直に話してしまったことを猛烈に後悔していたのである。

 

 こういう時だけは、表情に出ない人形の身に少しだけ感謝したいところね……。




クリスとフィリアのかけ合いはいかがでしたでしょうか?
そろそろ無印編も終わりが見えてきました。
次回もよろしくお願いします。







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不器用な父娘

時系列的には原作の9話の中盤くらいまでです。
それではよろしくお願いします!


「そう、未来が協力して民間人を……」

 

 あたしは未来が響を追って外に出ていき、《ノイズ》から逃げ遅れた民間人を響と共に救出したという報告を弦十郎から聞いた。

 

「まぁ、彼女には民間協力者という立場で響くんを助けてもらおうと思っているが……」

 

「そういうところは柔軟よねウチの組織は……。だったら、さっさとそうしたら良かったのよ。それなら、私もあんな痴話喧嘩に巻き込まれずに済んだのに……」

 

 あたしは弦十郎に不満を漏らした。まぁ、そんなことをすると歯止めが効かなくなるのはわかっていたけれど……。

 

「そうだったんですね。僕にも詳しく聞かせてください。フィリアさんが小日向未来さんに何を話したのか……。僕の名前を聞くと物凄い殺気を飛ばしてきて、ずっと響さんを庇うような仕草をしていたのですが……」

 

「…………なんの話かしら?」

 

 あたしは緒川から目を逸らして、知らん顔をした。

 

「はぁ、僕がいつ響さんを手錠攻めにして、激しく脅迫したのですか? フィリアさん、観念してください」

 

「えっと、あたしはそこまでは言ってないわよ」

 

「しかし、未来さんの中ではそうなっているのですよ。フィリアさんから訂正してください」

 

「嫌よ、あたしが嘘つきみたいになっちゃうじゃない」

 

「嘘つきみたいじゃなくて、嘘つきなんですよ――」

 

 あたしと緒川がしばらく言い争っていたら、弦十郎にいい加減にしろって怒られたわ。

 男なら小さいことは気にしないくらいの度量を持ちなさいよ、まったく。絶対に訂正しないわ……。

 

「それで、フィリアくん。雪音クリスくんのことだが……」

 

「彼女、やっぱり人を信じることが出来なくなってるわね。でも……、心の底では信じたいと思っている気がする……」

 

 弦十郎はやはりクリスのことをかなり気にかけているみたいで、あたしに様子を聞いてきた。

 

「ふむ、そうか。心の傷は深いということか……。それでは、俺が会えるようになるにはまだかかりそうだな」

 

「あたしもそう思ったんだけどね。弦十郎、あなたとは一度話してみたいらしいわよ。人形を娘にした酔狂な人間に興味があるんだって」 

 

 別れ際にクリスに言われたことをあたしは弦十郎に話した。

 正直言って意外でしかなかった。まぁ、彼女にとっては動物園のゴリラを見てたいくらいの感覚なのかもしれないが……。

 

「それは、本当か? よし、会おう。いつならいい?」

 

「さぁ、それはあとで聞いてみるわ。このあと、彼女の家に寄るから……」

 

 あたしは弦十郎にそう告げて、クリスのマンションに足を向けた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「悪いわね、夜分にお邪魔しちゃって」

 

「お前、合鍵も作ってねぇのかよ。あたしにわざわざ鍵を開けさせて……」

 

 クリスに呆れた顔をした。えっ、合鍵って普通は作らないわよね……。恋人じゃあるまいし……。

 

「プライバシーって大事よね?」

 

「ん? ああ、そりゃそうだけどよ。あたしの部屋だけど、お前が金出してるんだから、普通は何かのために合鍵くらい作るんじゃねぇか?」

 

「そう、わかったわ。あなたが嫌じゃないなら検討しとく」

 

「別に嫌じゃねぇよ。飯も旨かったし……」

 

 クリスは合鍵を作っても嫌じゃないらしい。最後にボソボソ何かを言っていたけど聞き取れなかったわ。

 

「あと、司令、いや弦十郎のことなんだけど……。本当に会ってくれるの? 別に気を使わなくていいのよ。あなたが嫌なら無理に……」

 

「お前の親父さんに会うだけなら、問題ねぇよ。だからといって今さら、仲間になるつもりもねぇけどな……」  

  

 クリスは照れくさそうに頬を触りながらそう言った。

 

「ええ、わかっているわ。あなたの心の傷はそんなに浅くないもの……。じゃあ、あたしは帰るわね……」

 

「そっそうか、帰っちまうんだな……」

 

 あたしが帰ろうとすると、クリスがなぜか寂しそうな顔をした。

 

「あなた、まさか寂しいわけじゃないでしょ?」

 

「――っ! そんなわけ……、ねぇだろ。ただ、一人でこんな部屋に住んだことねぇから、落ち着かねぇんだよ」

 

 クリスは今までの生活とのギャップに混乱しているみたいだ。

 それは、あたしの配慮が足りなかったみたいね……。

 

「じゃあ泊まって行ってもいいのかしら?」

 

「おっおう、泊まるのは構わねぇけど……。寝床はどうすんだ? まさか、同じベッドで寝る気じゃ……」

 

「大丈夫よ。あたしは寝ないから。この身体になってから睡眠を取ることが無くなったの」

 

「…………」

 

「…………」

 

 そして、何度目かの沈黙が流れる……。

 

 

「お前、その身体は辛くないのかよ? 痛みも眠気も感じないんだろ?」

 

「別に……、もう慣れちゃったから……。クリスは、その、辛いわよね。信じてた人に裏切られて……」

 

「そうだな。フィーネはあたしの全てだった……。あいつの言うとおりにしたら、争いも全部無くなるって信じてたんだ……」

 

「あの女はそんなことを……」

 

 あたしはクリスはかなり心の深いところまで洗脳されていたのだと思った。

 そして、フィーネという女の非情さは警戒せねばならないとも……。

 

「フィリア、あたしはお前を信じちまっていいのかな……。お前にも裏切られたら……、あたしは……」

 

 クリスは不安からなのか急にそんなことを言い出した。裏切るつもりなんて無いけど、口でこの子を納得させるなんてあたしには――。

 

 

 

「――そうね、もしもあたしが、あなたを裏切るようなことがあれば……、躊躇わずに、ここを狙いなさい」

 

 あたしは自分の胸を抉り、身体の中の核をクリスに見せた。銀色の球体――聖遺物の欠片で出来たあたしの核は鼓動に似た動きを脈々と行い、あたしを動かすエネルギーを送っていた。

 

「おっお前、それっ……。ばっバカなことはやめろっ!」

 

「これはあたしの核。あなたのギアペンダントよりも小さいけど心臓のようなものよ。さすがにこれが壊れちゃうと、あたしは死ぬんだって……。だから、この場所をよく覚えるのよ」

 

 あたしはクリスをまっすぐに見据えてそう言った。

 

「バカ! そこまでしろとは言ってねぇ! んなことしねぇでも、あたしは――」

 

「ちょっと待ちなさい。再生が始まるから、食べ物を……」

 

 あたしは用意していたチョコレートを食べながら、胸を再生した。

 

「お前、なんであたしのために、そんなことが出来るんだ? 前もその、デュランダルから敵のあたしを守ってくれたし……」

 

「大したことないわよ。だってこう見えて、本当に痛みも何も感じないのよ。だから――」

「あたしが痛ぇんだよっ!」

 

 クリスの問いに答える前に彼女は大声を出した。

 あたしは口下手だから、器用に安心させるようなこと言えない。だから行動で示そうと思ったんだけど……。引かせちゃったみたいね……。

 

「そう……、悪かったわ。あなたはもう寝なさい。疲れてるでしょ」

 

「…………ああ、そうしようかな。会話も続かねぇし……」

 

 こうして、あたしとクリスは一夜を同じ部屋で過ごした。

 弦十郎、この子は良い子よ……。だから、あなたが大人の強さを見せてあげて――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「――で、何て言ったらあの子が出ていくようなことになったわけ?」

 

 翌日、あたしは弦十郎とクリスを引き合わせた。

 あたしは学校に行ってて、少し遅れて彼と合流する予定でマンションに足を踏み入れたのだが……。

 

 窓ガラスは割れて、クリスは居なくなっていた。

 

「彼女を……、雪音クリスを救いたいと言った――。それが俺の……、大人の務めだと……。少し焦ってしまったようだ……」

 

 弦十郎はやり切れなさが顔に出ていた。

 彼らしく、真正面からぶつかったのね。

 器用に言葉巧みに説き伏せるなんて彼には無理なことだろうから……。まったく不器用な人ね……。

 あたしも人のこと言えないけど……。

 

「すまない。せっかくフィリアくんにクリスくんが心を開いたというのに……」

 

「別に、謝らなくても良いんじゃない? 次にあなたの気持ちをストレートに伝えれば、きっと大丈夫よ」

 

「次か……、そうだな。クリスくんの捜索を再開しなくては……」

 

 弦十郎は気持ちを切り替えたのか、目にはっきりとした意志が宿っていた。

 

「再開もなにも、彼女は戻ってくるわよ……、ここに」

 

「まさか……、シンフォギアを纏ってまでして逃げ出したんだぞ」

 

「それは、多分、葛藤したのよ。あなたを信じたい気持ちもそれなりに大きかったからこそ、今までのことがそれを邪魔して、頭が混乱したのね……。まったく脈無しなら、あなたを追い出して終わりにしてたわよ」

 

 あたしは事前にクリスに弦十郎にはあなたが帰ってほしいと告げればすぐに帰ることを約束させていると話していた。

 無理に説得や勧誘は行わないとも……。

 

 そんなことも忘れて飛び出したということは、何かしら彼の言葉が響いたのに違いないのだ。

 

「そういうものか?」

 

「そういうものよ」

 

 弦十郎は完全に納得はしていなかったが、とりあえず一晩だけあたしからの連絡を待つと告げて去っていった。

 

 はぁ、窓ガラス掃除して直さなきゃ……。

 

 

 

 あたしが掃除をしたり、晩ごはんを作ったりしていると、案の定、クリスは少しだけ気まずそうな顔をして、「腹が減った」と一言だけあたしに告げて部屋の中に戻ってきた。

 

「すまねぇ、フィリア。あたしはどうしても大人は信じられねぇみてぇだ……」

 

 寂しそうな表情で晩ごはんを食べながらクリスはそれだけをあたしに伝えた。

 

「無理に変わらなくったっていいわよ。心境の変化なんて勝手に起こるものなんだから」

 

 あたしはそう言い残して彼女の部屋を出た。

 翼のときと同じで結局見守ることしか出来ない自分の無力さを噛み締めながら……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 家に帰る途中にあたしのスマホに翼から着信があった。確か、彼女のメディカルチェックの結果が出るのは今日だったわね。

 そのことかしら? 何か悪いところでも?

 

 あたしは翼からの電話に出た。

 

『フィリアか、たっ頼みがあるのだが……』

 

 翼の口調から言い出しづらいことということが察せられる。やはり、何かあったのね……。

 

「どうしたの? 何でも言いなさい。あたしなら大丈夫だから」

 

 あたしは何を聞いても驚かないように身構えた。

 

『あの、フィリア! わっ私とデートしてくれっ!』

「はぁ?」

 

 あたしは予想外すぎる発言に変な声が出てしまった。

 この子は戦い一辺倒で色恋も何も知らずに生きてきたけど、こっこれはどういうことなの?

 

「ちょっと、待ちなさい翼。確かにあなたは戦いに没頭しすぎて、今は周りに緒川とかしか男が居ないから焦ってるかもしれないけど、だからといって女に、いや、女だからダメとかじゃないのよ。だけど取りあえず、手近なところで済まそうとするのは……」

 

 とりあえず、あたしは翼を変なプレッシャーから解放しようと早口で話した。

 

『フィリア、何を言っているんだ? 私は君を遊びに誘っているんだ。立花がその……、今どきの女子高生が友達を誘うときは、こうするって……』

 

「えっ、そっそうだったの。まさか翼があたしを遊びに誘うなんて、それはそれでびっくりだけど……」

 

 どうやら、響と未来にオフの日に遊びに誘われて、あたしも一緒にという話になったらしい。

 翼はもちろん鍛錬に誘うことはあっても遊びに誘うなんてしたことはなかったから、響にやり方を質問したらしい。

 

 とりあえず、響は後で説教してやる……。

 

 そんなわけで、なぜか翼たちと次の休みに出かけることとなった。

 

 翼、良かったわね……。

 




次回はデートからスタートです。
フィリアは自分で自分の胸を強引にガバッと抉じ開けて、クリスをドン引きさせました。
こういう部分は危ういのかもしれません。




ここまで、読んでいただいてありがとうございます!
もし、少しでも「面白い」と感じてくれた方は《お気に入り登録》や現時点での《評価》をして頂けると、とても嬉しいです。
特に高評価はすっごく自信になりますし、もっと面白くしようというモチベーションに直結します!

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ダブルデート

原作9話のラストくらいまでです。
それではよろしくお願いします!


「あの子たちは何をやっているのよ……?」

「そりゃあ、響が……」

 

 イライラしながら響と未来の到着を待つ翼。どうせ、響が寝坊したのよ。

 

「はあ、はあ、すみません、翼さーん、フィリアちゃーん」

 

「「遅いわよ!」」

 

 あたしたちは声を揃えて文句を言った。先輩を待たせるとはいい度胸してるわ。

 

「すみません。お察しのこととは思いますが、響のいつもの寝坊が原因でして……」

 

 未来は響と頭を下げながら思ったとおりすぎる遅刻の原因を正直に話す。この子は期待を裏切らないわね……。

 

「「あっ!」」

 

 そして、顔を上げたときに翼の気合の入った格好に気付き声を上げた。

 この子は割と楽しみにしてたのよ……。ずっとソワソワしてたんだから。

 

「時間がもったいないわ。急ぎましょう」

 

 そして、翼は早足で先に行こうとする。

 

「すっごい楽しみにしてた人みたいだ……」

「みたいじゃなくて、してたのよ。それはもう、今朝からこの子は……」

 

 

「誰かが遅刻した分を取り戻したいだけだ! フィリアも余計なことを喋るな!」

 

 響のつぶやきにあたしが答えると、翼は顔を赤くして怒鳴った。だって、楽しみで仕方なかったのは本当でしょう。

 

「翼イヤーはなんとやら……」

「いや、あなた、割と声大きいから気をつけなさい」

 

 あたしは響にそう忠告してあとに続いた。

 

 

 

 ショッピングモールにたどり着いたあたしたちは響たちの普段の遊びとやらに付き合った。

 

 まずは雑貨屋で小物を見に行った。ふーん、このカップ良いわね……。

 

 そして、映画館で安っぽい感動モノの映画を鑑賞……、ってあらみんな泣いているのね……。余計なことをいうところだったわ。

 

 

 ソフトクリーム屋で買ったソフトクリームはまぁまぁ美味しかった。覚えておいてあげる。

 

 アパレルショップは店員に子供服のコーナーを案内されて不愉快だったわ。

 あと、翼の存在がバレて騒ぎになったから大慌てで逃げ出した。なんで、あんなに堂々とポーズがとれるのよっ。

 

 

 そしてゲームセンターで……。

 

「翼さんご所望のぬいぐるみは、この立花響が必ずや手に入れてみせます!」

 

「期待はしているが、たかが遊戯に少しつぎ込みすぎではないか?」

 

「きぇぇぇぇぇっ!」

 

 響は翼がかわいいと言ったぬいぐるみをUFOキャッチャーで取ろうと散財していた。

 そんなに力んだら逆に取りにくいでしょう……。

 

「変な声出さないで」

「やっぱりバカね、この子……」

 

 しかし、何とかなるものなのか、UFOキャッチャーのアームはブサイクなネズミのぬいぐるみを掴んで持ち上げた。

 

 まぁ、結局落っこちたんだけど……。

 

「くっ、このUFOキャプチャー壊れてる! 私呪われてるかも……。 どうせ壊れてるならこれ以上壊しても問題ないですよね! シンフォギアを身に纏って!」

 

「アホなこと言ってないで貸してみなさい」

  

 激高して訳のわからないことを叫ぶ響を見かねて、あたしはUFOキャッチャーにお金を入れた。

 

 そして――。

 

「あっ、簡単にとれた……。うむ、取ってもらえて嬉しいのだが……、これでは立花が……」

 

「フィリア先輩、すごーい」

 

 あたしは人間よりも精密な動きをすることに優れている。こんな玩具を自在に操るのは訳なかった。

 

「ううっ、フィリアちゃん、こんなに簡単に取れるんだったら、なんでもっと早く交代してくれなかったの?」

 

 涙目の響が恨めしそうにあたしを見てきた。そんな顔しても一生懸命に頑張ってたから、声をかけづらいじゃない。

 

「えっ、あたしってほら、口下手だから……」 

 

「絶対に嘘だよぉ。やっぱり、呪われてる私……」

 

「まぁまぁ、良いところ連れてってあげるから、元気出して、響!」

 

 未来がフォローしてくれて、あたしたちはカラオケに行くことになった。

 

 

 

「おぉー! すごい!  私たちってばすごい! トップアーティストと一緒にカラオケに来るなんて!」

 

 響は翼とカラオケに行くことが出来てとてもはしゃいでいた。

 あたしは忘れがちになるけど、翼って一応どころか、ガッツリ芸能人なのよね……。

 

 そして、演歌のイントロが流れた。

 

「ん? 響?」

「未来?」

 

 お互いに指を差して首を振る二人。

 

「まさか、フィリアちゃん?」

「違うわよ……。この歌は……」

 

 立ち上がり、マイクを持ったのは翼。彼女はこの曲が好きだった。理由はわからないけど……。

 

 

「一度こういうの、やってみたかったのよね」

 

「渋い……」

 

 お辞儀をして歌いだそうとする翼に未来はそう呟く。

 

 曲は恋の桶狭間……、タイトルの意味がまずわからない……。

 

「くぅー、かっこいいー」

 

 響は熱唱する翼をカッコいいと聞き惚れている。

 でも、あたしは翼が『裏切ったら切り刻む』とか言っている歌詞を高らかに歌う姿を見て、彼女の将来が心配でならなかった。

 

「フィリアちゃんは、何を歌うの?」

 

「えっと、あたしは――」

 

 あたしは手早く知ってる曲を入力した。

 って、ダメじゃない、この曲は……。

 

「《ORBITAL BEAT》……、ツヴァイウイングの……」

 

「だって、翼たちの曲くらいしか知らないから……、あたし……。響、一緒に歌ってちょうだい」

 

 イントロの最初に反応した響にあたしは懇願した。よりによって、好きだからと言って、あの事件が起きた時の曲をなんであたしは選んだのよ……。

 

「フィリアちゃん、でも翼さんが……」

 

「一回、フィリアとも歌ってみたかったわ。いいでしょ?」

 

「翼……」

 

 《ORBITAL BEAT》の奏のパートをあたしは歌う……。胸の核が熱くなる……、でも、あたしは確かに奏を実感出来た……。

 そうよね、あなたはまだあたしの想い出(ここ)で生きている……。

 

 

 

「「――を越えてー♪」」

 

 あたしと翼は《ORBITAL BEAT》を歌い終える。この曲を一緒に歌うなんて思ってなかったわ……。

 

「ごめんなさい、翼……。やっぱり奏みたいには力強く――」

「楽しかった……。また、フィリアと歌ってみたいわ」

 

 翼はニコリと微笑んであたしを見つめてそんなことを言う。

 歌うことが楽しい……、そうね、それがあなたの好きなことよね……。

 

 

 

 

 

 

 

「翼さーん!」

 

「疲れないフィリアはともかく、二人とも、どうしてそんなに元気なんだ?」

 

 普段から鍛えていて体力には自信のある翼だったが、今日は疲れているみたいだ。

 

「翼さんがへばりすぎなんですよ」

 

「今日は慣れないことばかりだったから」

 

 響の無礼な発言に未来がフォローを入れる。

 

「防人であるこの身は常に戦場にあったからな」

 

「遊びに行くって聞いたときは、本気で耳を疑ったわよ……」

 

 翼とは二年以上の付き合いだが、奏を失って以来、遊びという言葉が飛び出したのは初めてだった。

 

 

 そして、あたしたちは小高い場所にある公園に足を踏み入れた。

 

 

「本当に今日は知らない世界ばかりを見てきた気分だ」

 

 翼は新鮮なものを見たという表情をしていた。

 

「そんなことはありません」

 

「お、おい、立花……、何を?」

 

 響は翼の手を引いて走り出して、街が一望できる場所まで連れて行った。

 

「あっ……」

 

「あそこが待ち合わせした公園です。皆で一緒に遊んだ所も遊んでない所も全部翼さんが知ってる世界です。――昨日に翼さんが戦ってくれてから、今日に皆が暮らせている世界です。 だから、知らないなんて言わないでください」

 

 そう、《ノイズ》から守ってもらった命がこれだけある。この景色は間違いなく翼の剣が守った世界だ。

 

「――そうか……。これが奏の見てきた世界なんだな……」

 

「そうね、奏の救った命も、あなたが救った命も繋がっているのよ。救うということは未来に繋げるってことだから……」

 

「うん……」

 

 翼の顔は何かを決意したように見えた。

 

 

 

 その翌日、あたしは翼から『あの事件』があったライブ会場で10日後に復帰ステージをやるという報告を受けた。

 

「過去は乗り越えられるって立花に言われたよ」

 

「ええ、そろそろ前を向かなきゃ、奏に笑われるわよ」

 

「そうね。それに、私は歌うことがやっぱり好きだから……、自分のために、皆に、世界中の人に歌を聞いてもらえるように頑張りたい」

 

「……そう思えるのなら、良かったわ」

 

 あたしは翼からチケットを受け取って、彼女の心境の変化に安堵した。

 これで翼は未来に向かって歩ける。

 

 

 そして、時間はあっという間に過ぎて、翼のライブ当日になった……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「なんか悪ぃな、晩飯まで作ってもらって……」

 

「別に気にしなくていいわ。これから、出かける場所の近くだから寄っただけだし」

 

 あたしはライブ会場に行くついでにクリスの部屋に寄って夕飯を作った。

 弦十郎の代わりに彼女を見ているのだから、あたしはできるだけ時間を取って彼女の様子を見に行っている。

 

「和食も作れるんだけど、なぜか洋食のほうが得意なのよね……」

 

「お前、記憶がねぇって言ってたけど、マジで料理のプロか何かじゃねぇーか? うちのママはこんなに上手じゃなかったぞ」

 

「別にレシピどおり作っただけよ。司令もよく褒めてくれるけど……」

 

 クリスはなぜか料理はとても喜んで食べてくれる。最初は『不味くない』と言っていたくらいだったのに、最近はこうやって『美味しい』って遠慮なく言うようになった。

 

 簡単に作った、手の込んでない料理で大袈裟なことを言うものだから、彼女の人生がよほど不憫なものだったということは、それだけで予想がつく。

 

「特にこの前のケーキは美味かったぞ」

 

「あー、あのリンゴのケーキ? あれ、簡単に作れるのに二課でも評判良いのよね。すぐに出来るから、また作るわよ」

 

 あたしは暇つぶしの一環で菓子を作ることがある。そして処理に困るので二課のみんなに配っていた。

 最近は響がやたら食べるので、彼女の分は別に用意していたりする。

 

 藤尭なんかは料理が趣味だからレシピを聞いてくるのだが、これだけはレシピはない。

 なんとなく目分量で思いついたままに作っているのだ。だから、あたしに残っている数少ない記憶の一部なのかもしれない……。

 

 

 

 ケーキを作る約束をクリスとした直後に、あたしのスマホに司令からの着信が入る……。

 はぁ、嫌な予感がするわね……。

 

『《ノイズ》の出現パターンを検知した』

 

 弦十郎の非情な報告を受けて、あたしは静かに怒りを燃やした。

 

「最初に言っとくけど、翼には連絡しないこと。あたしと響で殲滅させるわ」

 

『ふっ、響くんにもそう言われたよ』

 

「翼の晴れ舞台を穢すモノは許さない……。すぐに終わらせる……」

 

 あたしは現場に向かおうと玄関に足を向けた。

 

「《ノイズ》が出たんだろ? あたしも行くぞ」

 

「……助かるわ」

 

 短く答えてあたしとクリスは現場に急行した。

 

 

 

 

 

「コード、マナバースト」

 

 あたしは補給をしながら、錬金術を駆使して《ノイズ》を切り刻む。

 

 数が多い……。そして、あの要塞のような巨大な《ノイズ》……。

 

「うわぁっ!」

 

 クリスは大量の《ノイズ》の集中攻撃と巨大な《ノイズ》の砲撃を受けて、吹き飛ばされる。

 

「クリスっ!」

 

 さらに《ノイズ》の凶弾がクリスを襲おうとしたので、あたしはクリスの元に急いだ。

 

「でやっ!」

 

 しかし、あたしより先に響が砲弾を蹴り破ってクリスを助けた。

 

「響っ!」

 

「あれ? フィリアちゃん、クリスちゃんと一緒だったんだ」

 

 あたしとクリスの関係を知らない響は不思議そうな顔をしていた。

 

「そんなことより、敵の数が多い上に、あの巨大な《ノイズ》は一筋縄ではいかないわ。まずは一気に雑魚を殲滅して、大技であのデカブツを沈めるわよ!」

 

 あたしは響に指示を出す。エネルギーを最大に上げてあいつを叩くわ……。

 

「フィリアちゃん、すごく怒ってるね」

 

「当然でしょ、翼の歌が聞けなかったんだから」

 

「うん!」

 

 そして、あたしは音速を超えるスピードで次々と敵を撃破し、響も猛スピードで《ノイズ》を蹴散らす。

 

 途中、響は巨大な《ノイズ》の砲撃を受けそうになったが、クリスのガトリング砲の援護を受けて事なきを得た。

 

「これで貸し借りはなしだっ!」

 

 意外と律儀なクリスの人の良さを感じながら、あたしたちは一気に小型の《ノイズ》を全滅させたのだ。

 

 

「フィリアちゃん、あの《ノイズ》の動きを止められる?」

 

 響は右腕に凄まじいエネルギーを集中していた。

 

「誰に向かって言ってるの? いいわ、トドメは譲ってあげる――。クリスっ!」

 

「そいつの前で馴れ馴れしくすんなって」

 

 クリスはそんなことを言いつつ遠距離から砲弾を打ち出して、《ノイズ》を怯ませる。

 

 ――氷狼ノ一閃――

 

 すべてを凍らせる冷気の一閃が巨大な《ノイズ》を凍りつかせる。

 

「今よっ! 響っ――!」

 

 

「うんっ! うぉぉぉぉっりゃぁぁぁぁっ!」

 

 

 ――すべてを貫く無双の槍のごとく一撃(パンチ)っ!

 

 

 巨大な《ノイズ》は響の拳に身体を貫かれて崩れ去った……。

 

 翼……、あなたの未来(ユメ)は誰にも邪魔をさせるつもりはないわ――。

 だから、安心して突き進みなさい……。

 

 崩れゆく《ノイズ》を見て、あたしは奏との約束をこの先も守り続ける決意を固めた――。

 




フィリアは暇な時間が多いので割と多趣味です。
いよいよ、フィーネとの対決が近づいてきました。
ここから、フィリアが何者なのかという話も絡めますので、ぜひよろしくお願いします!







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OTONAの持つ夢

今回は一気に原作の11話の序盤まで話が進みます。
それではよろしくお願いします!


「何がどうなっていやがんだ……」

 

「あら、クリス。ここに居たの? ひどい有り様ね」

 

 フィーネのアジトらしき城の場所を突き止めたあたしたちがその場所に行ってみると、中には武装した欧米人らしい死体とクリスが居た。

 

「フィリア、違う!  あたしじゃない!  やったのは――」

 

 クリスは動揺しながら、あたしに弁解しようとした。わかってるわよ、それくらい。

 そんなクリスの横を通り過ぎ、弦十郎の率いる二課のエージェントも現場に入って捜査を始める。

 

「あっ……」

 

 弦十郎は困った顔をしているクリスの頭にポンと手を乗せた。恥ずかしげもなく、よくやるわ……。

 

「誰もお前がやったなんてこと、疑ってはいない。全ては君や()()()()傍に居た彼女の仕業だ」

 

「えっ?」

 

 クリスは訳がわからないといった表情だ。

 

「風鳴司令!」

 

 そんなとき、エージェントの一人が弦十郎に声をかける。

 

「むっ?」

 

 弦十郎の視線とあたしの視線がそのエージェントの方に向く。

 死体の上に紙が貼られている。

 紙には――《I Love You SAYONARA 》と書かれていた。なんで、サヨナラはローマ字?

 

 そんなどうでもいいことを考えていた刹那――ベリっとエージェントは紙を剥がした。

 

 すると――。

 

 

 あたり一面で爆発が起こり、建物が崩れだしたのだ……。

 

 

 

「くっ、すみません。フィリアさん」

「うぅ、危ないところだった」

 

 咄嗟に近くのエージェントを爆発から庇ったあたし。

 

 

「どうなってんだよ、コイツは……」

 

「衝撃波は発勁でかき消した」

 

 そして、巨大な瓦礫を片手で受け止め、謎の力で衝撃波を消してクリスを守った弦十郎。

 また、クリスを抱きしめてるし……。

 

 

「そうじゃねえよ!」

 

 クリスは怒鳴りながら弦十郎の腕を振りほどいた。

 

「何でギアを纏えない奴があたしを守ってんだよ!?」

 

 そして、弦十郎をキッと睨みつけて疑問をぶつける。

 

「俺がお前を守るのは、ギアのあるなしじゃなくて、お前よか少しばかり大人だからだ」

 

 弦十郎はまっすぐにクリスを見つめて、堂々と答えた。

 

「大人だとっ? あたしは大人が嫌いだ! 死んだパパとママも大嫌いだ!   とんだ夢想家で臆病者! あたしはあいつらと違う!  おセンチで難民救済?  歌で世界を救う?  いい大人が夢なんて見てるんじゃねえよ!」

 

 クリス……。あなた、それは本心なの? あたしには彼女のセリフからは哀しみしか伝わらなかった。

 

「大人が夢を、ね……」

 

 弦十郎はクリスのセリフをつぶやく。

 

「本当に戦争を無くしたいのなら戦う意志と力を持つ奴を片っ端からぶっ潰していけばいい! それが一番合理的で現実的だ!」

 

「そいつがお前の流儀か。なら聞くが、そのやり方でお前は戦いを無くせたのか?」

 

 クリスの極論に弦十郎はストレートな疑問をぶつける。

 

「くっ! それは――」

 

「いい大人は夢を見ないと言ったな。そうじゃない。大人だからこそ夢を見るんだ。大人になったら背も伸びるし、力も強くなる。財布の中の小遣いだってちっとは増える。子供の頃はただ見るだけだった夢も大人になったら叶えるチャンスが大きくなる。夢を見る意味が大きくなる 」

 

 言いよどむクリスに、弦十郎は大人だからこそ夢を見る価値があると語った。大きなことを成し遂げるだけの力があるからこそ、意味があるのだと。

 

「お前の親は、ただ夢を見に戦場に行ったのか?」

 

「うっ……」

 

「違うな。歌で世界を平和にするっていう夢を叶える為、自ら望んでこの世の地獄に踏み込んだんじゃないのか?」

 

 クリスの両親も力を尽くすことで、大きな夢を叶える意志を持って戦場に行ったのではないかと弦十郎は問いかけた。

 

「なんで、そんなこと――」

 

「お前に見せたかったんだろう。夢は叶えられるという揺るがない現実を! お前は嫌いと吐き捨てたが、お前の両親はきっとお前のことを大切に思っていたんだろうな」

 

「うっ、ぐっ……」

 

 両親の想いを感じとり、クリスは涙を浮かべた。

 そして、弦十郎は彼女を力いっぱい抱きしめた。

 

「うっうっ……ぐすっ……」

 

 クリスは泣いた……。抑えていたモノが爆発したように。子供のように泣きじゃくる。

 涙を流しながら……。

 

 やっぱり、弦十郎、あなたに任せてよかったわ……。

 

 

 

 でも……。

 

 

 

 

「長いわよっ! 弦十郎、いつまで抱きしめてんのよ、クリス、いい加減に泣き止みなさいよ!」

 

 エージェントたちはとっくに撤収して、あたしはさすがに友人と父親を放って置くわけにはいかないと思って静観していた。

 

 この人たちはあたしが見てるのを忘れていたんだろう。30分くらい、このままだった。

 

 

「えっ、あっ、フィリア……! あっあたしは別に……」

 

 クリスはあたしがずっと見ていたことに気付いて、真っ赤に顔を染めて、身振り手振りで何かを否定しようとした。

 

「フィリアくん、このくらいの時間は問題なかろう」

 

「問題しかないわよ! 父親が若い女の子を抱きしめてるのを数十分見させられるって結構な地獄よ!」

 

「すっすまん……。だが……、いや、悪かった」

 

 弦十郎は言い訳を諦めて謝った。

 まぁ、これでクリスも少しは大人を信用するでしょう。

 

 

 

 

 

「まだ、心の整理がつかねぇから――」

 

「それなら、いくらでも待つさ。フィリアくんの友人をな」

 

 クリスを二課に誘ったが、心が追いつかない部分もあるから待ってくれと言われた。

 これでも、大きな進歩だ。

 

「お前はもうひとりぼっちじゃない。お前が行く道を行く道にはフィリアくんだけじゃない、俺たちも遠からず共に行く道となるだろう」

 

「そうかもな……。とりあえず、友達の親父の顔くらい立ててやるよ、手ぶらじゃ格好付かないだろ? 《カ・ディンギル》……、この言葉を調べてみろ……。」

 

「ん?」

 

 クリスは聞き慣れないキーワードを口に出した。

 

 

「フィーネが言ってたんだ。《カ・ディンギル》って。そいつが何なのかわかんないけど、もう完成している、みたいなことを……」

 

「《カ・ディンギル》……、聞いたことないわね……」

 

 あたしも弦十郎も首をひねる。しかし、フィーネの計画を知るための重要な言葉らしい。

 

「後手に回るのは終いだな。こちらから打って出てやる。行くぞ、フィリアくん」

 

 何かを決意した弦十郎は車を出そうとする。

 

「ええ……。クリス、じゃあ、この前渡した携帯にまた連絡するわ」

 

「ん? ああ……。わかった…… 」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 あたしと弦十郎は司令室に戻り、翼と響に通信を繋げた。

 

『はい、翼です』

 

『響です』

 

 翼と響が通信に出た。

 

「収穫があった。了子くんは?」

 

「まだ出勤していません。朝から連絡不通でして……」

 

 友里は弦十郎の問にそう答える。なるほど、朝からねぇ……。

 

「そうか……」

 

 弦十郎は小さく返事をした。

 

『了子さんならきっと大丈夫です。何が来たって私を守ってくれた時のようにドカーンとやってくれます』

 

 響が何やらおかしなことを言っている。了子があなたを守った?

 

『いや、戦闘訓練もロクに受講していない櫻井女史にそのようなことは……』

 

『え? 師匠とか了子さんって人間離れした特技とか持ってるんじゃないんですか?』

 

「そんなわけないでしょ。司令だけよ、人間をやめたのは」

 

「おいおい……」

 

 あたしのツッコミに弦十郎が困った顔をこちらに向けた。

 

『あれっ、了子さんだ……』

 

 了子から通信が繋がった。SOUND ONLY……、音声だけ? 何があったの?

 

『やぁっと繋がった。ごめんね、寝坊しちゃったんだけど、通信機の調子が良くなくて……』

 

「無事か?  了子くん、そっちに何も問題は?」

 

 いつもの軽い口調の了子に弦十郎は何かあったのかと、気にかける。

 

『寝坊してゴミを出せなかったけど、何かあったの?』

 

『良かったー』

 

「ならばいい。それより聞きたいことがある」

 

 了子の安堵する響と、話を進める弦十郎。

 

『せっかちね、何かしら?』

 

「《カ・ディンギル》、この言葉が意味するものは?」

 

 弦十郎はフィーネの作ったという《カ・ディンギル》について了子に質問した。

 

『《カ・ディンギル》とは、古代シュメールの言葉で高みの存在……、転じて、天を仰ぐほどの塔を意味しているわね――』

 

 天を仰ぐほどの塔? そんな建造物なんて作れるかしら?

 

「何者かがそんな塔を建造していたとして、何故俺たちは見過ごしてきたのだ?」

 

 弦十郎も同様の疑問を口にする。大きな塔なんて目立つものがあたしたちの目に入らないはずないからだ。

 

『確かに、そう言われちゃうと……』

 

 響は訳がわからないという表情だった。

 

「だが、ようやく掴んだ敵の尻尾。このまま情報を集めれば勝利も同然。相手の隙にこちらの全力を叩き込むんだ。最終決戦、仕掛けるからには仕損じるな!」

 

『了解です』

『了解』

 

 弦十郎は最後の戦いが近いと読んで、みんなに司令官として檄を飛ばした。

 

『ちょっとヤボ用済ませてから私も急いでそっちに向かうわ』

 

 了子もこちらに向かうとのことらしい。ヤボ用が気になるけど……。

 

 

 

 

 二課の総力を結集して《カ・ディンギル》について情報を集めているが有用なものは中々見つからない。

 

 

「些末なことでも構わん。《カ・ディンギル》についての情報をかき集めろ!」

 

 弦十郎がそう指示を出す中、《ノイズ》出現を知らせる警報が鳴り響いた。

 相変わらず、嫌なタイミングね……。

 

「飛行タイプの超大型ノイズが3体――いえ、もう1体出現!」

 

 藤尭がすばやく報告する。

 

「すぐに、あたしが出るわ! 弦十郎、響と翼に連絡を!」

 

 しかし、あたしが司令室を出ようとすると、弦十郎があたしの腕を掴んだ。

 

「フィリアくんはここで待機するんだ。やってもらいたいことがある……」

 

「待機ですって? そんな悠長なこと言っていると……」

 

「ここは、響くんと翼を信じるんだっ!」

 

 弦十郎は苦渋に満ちた顔であたしにそう伝えた。この人が無意味なことを言うはずがないわね……。

 

「わかったわ。ちょっと、電話だけさせてもらうわね……」

 

 あたしはスマートフォンを取り出してある番号に電話をかけた――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「学校が……、 響の帰ってくるところがっ! 《ノイズ》? 響……、もう私……」

 

 リディアン音楽院の廊下でシェルターに逃げ遅れた未来が三体の《ノイズ》に襲われていた。

 

 ――神焔一閃――

 

 あたしは素早く錬金術で剣に炎を纏わせて、《ノイズ》を切り裂いた。

 

「無事でよかったわ、未来……」

 

「フィリア先輩? 先輩、その体は……」

 

 あー、そういえば未来はあたしが《ノイズ》を倒せるのは知ってたけど、あたしが人形ってことは言ってなかったわね……。

 

 

 結果的に弦十郎の判断は正しかった。

 響と翼、そしてあたしが助っ人を頼んだクリスが《ノイズ》を撃退してる頃、リディアン音楽院もまた、大量の《ノイズ》に襲われてしまっていた……。

 

 あたしは《ノイズ》を撃退していたがさすがに数が多すぎて校内への侵入を許してしまった。

 そして、倒しきれずに学校内に潜り込んだ《ノイズ》を追ってここまでたどり着いたのだ。

 

「とにかく、ここを離れるわよ! 緒川っ!」

 

「分かりました、僕がエレベーターまで未来さんを護衛します。さぁ、こちらに」

 

「…………」

 

 ちょうど、近くにたどり着いていた緒川に声をかけて、彼に未来を連れて逃げるように指示を出した。しかし、未来は緒川を無視する。

 

「未来、この人は緒川慎司じゃないわ。彼の双子の兄の緒川慎太郎よ」

    

 あたしは先日のことを思い出して、咄嗟にでまかせを言った。

 

「えっ、フィリアさん? くっ、――初めまして、慎太郎です……。三十六計逃げるに如かずと言います。付いてきてください」

 

「はい……」

 

 あたしは手早く追ってくる《ノイズ》を撃退して、緒川たちの後を追いエレベーターに乗った。

 

 

『《ノイズ》は大体始末したわ。これから緒川と共に、未来をシェルターまで案内する』

 

「わかった。気をつけろよ」

 

 あたしが弦十郎に現状を報告した。

 

『それよりも司令……』

 

 緒川はあたしから通信機を受け取り弦十郎に話しかける。

 

『むっ?』

 

「《カ・ディンギル》の正体が判明しました。」

 

 なんと、緒川は《カ・ディンギル》の正体を掴んだと言ってきた。なんだかんだ言って仕事は出来るのよねこの人……。

 

『なんだとっ!?』

 

「物証はありません。ですが、《カ・ディンギル》とはおそらく――かはっ――」

 

 驚く弦十郎に《カ・ディンギル》のことを告げようとしたその時……。

 

 超スピードで通信機は破壊され、空からネフィシュタンの鎧を着た女が降ってきて、緒川の首を締める――。

 

「まさか、いきなり降ってくるとは思わなかったわよ……。随分と趣味の悪い格好ね、了子……。いや、フィーネ!」

 

 あたしは未来を後ろに下げて、ミラージュクイーンをフィーネに向けて構えた。




フィリアは司令室に待機して《ノイズ》の撃退してましたが、一人では時間が殲滅に時間がかかってしまったので、それなりに被害は出てます。原作よりはマシですが……。
そして、ついにフィリアVSフィーネが幕を開けます。





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フィリアVSフィーネ

今回は主にフィーネとの戦いです。
それではよろしくお願いします!


「ふん、ガラクタ風情が私に剣を向けるか……。何か妙なことをしてみろ、この男の首を折るぞ……」

 

 了子、いや、フィーネは冷たい視線をあたしに送る。

 あたしと弦十郎は調査部の報告から了子がフィーネだという結論にたどり着いていた。

 彼女がそろそろ動き出すということも……。だから、彼女の陽動に乗って翼と響を敢えてここから遠ざけたのだ。あたしという戦力のみを残して……。

 

「こうも早く悟られるとは……、何がきっかけだ?」

 

「塔なんて目立つ物を誰にも知られずに建造するには地下へと伸ばすしかありません。そんなことが行われているとすれば特異災害対策機動部二課本部、そのエレベーターシャフトこそ《カ・ディンギル》……」

 

「なんですって、これが《カ・ディンギル》……」

 

 あたしはそこまで頭が追いついてなかったので驚いた。なるほど、それなら合点がいく。

 

「そして、それを可能とするのは……」

「櫻井了子ってわけね……。大胆にしてやられたってことかしら?」

 

 あたしは緒川のセリフのあとに続けた。

 

「漏洩した情報を逆手に、上手くいなせたと思ったのだが……」

 

 フィーネがそう言った瞬間、エレベーターは最下層に到着する。

 

 そして、緒川はその瞬間の僅かなスキを見逃さず、フィーネの手から脱出して銃弾を彼女に放つ。

 

 

 しかし、ネフィシュタンの鎧を纏ったフィーネには銃など通じず、フィーネは彼にムチを伸ばした。

 

「やらせないわっ!」

 

 あたしは音を置き去りにして、フィーネと緒川の間に入り、彼女の攻撃をミラージュクイーンで弾いた。

 

「偽物の人形がっ! 私に刃を向けるなっ!」

 

 フィーネはあのときのクリスを遥かに凌駕するスピードでムチを伸ばす。

 くっ、あたしがスピード負けしてる? そんなバカな……。

 

 スピードだけはシンフォギアにも勝るはずのあたしの動きを持ってしても、フィーネの攻撃は捌ききれずに、あたしは遂にバランスを崩してしまう。

 

 錬金術を使った大技もフィーネに簡単に受け止められてしまう。

 

 くっ、エネルギーを使い過ぎた。持ってきたお菓子はまだあるけど、食べるスキがない……。

 

 正直言ってジリ貧だった。フィーネの目的はデュランダルだ……。ここを通すわけには……。

 

 あたしは死力を尽くしてフィーネに立ち向かった――。

 

「姦しい!」

 

「がっ……」

 

「フィリア先輩!」

 

 フィーネの攻撃があたしの胸を貫く――。未来が悲鳴のような声を出した。

 

 あたしの弱点は知ってて当然よね……。辛うじて核への直撃は避けたが、身体のエネルギーが一時的に回復に急速に回された影響で動けなくなり、あたしは地面に伏した。

 

「ダメ……、フィーネ……」

 

 彼女がデュランダルの保存された部屋のドアを通信機で開けようとしている――。

 

 しかし、ドアは開かなかった。

 

「行かせません!」

 

 緒川がフィーネの通信機を狙撃して破壊したからだ。

 

「デュランダルの元へは行かせません! この命に代えてもです!」

 

 緒川がフィーネに向かってそう宣言した。ナイスよ、緒川……。今のうちに回復を……。

 

 あたしが何とか身体を動かして、口の中にチョコレートを放り込んだとき、フィーネの殺気が増したのを感じた。

 

 いいわよ、この身体がどんなに千切れようともあなたを倒すわ。

 

 あたしが覚悟を決めて立ち上がった――。

 

「今度は外さないぞ、ガラクタ――」

 

 フィーネがあたしの胸の穴を見据えてムチを構える。

 

 ――そのとき、壁に突然、穴が空き、大男がフィーネの前に立ちふさがった。

 

「待ちな! 了子……」

 

 風鳴弦十郎がこの場に駆けつけたのだ……。

 

「私をまだその名で呼ぶか……」

 

 フィーネは弦十郎を睨みつける。

 

「女に手を上げるのは気が引けるが……。人の娘の体に穴を空けやがって、お前をぶっ倒す!」

 

 弦十郎はあたしの胸の穴を見て怒っているようだ……。

 

「心配ないわ、もう直るから……」

 

 あたしは弦十郎の隣に立った。

 

「調査部だって無能じゃない。米国政府のご丁寧な道案内でお前の行動にはとっくに行き着いていた。後は燻り出すため、敢えてお前の策に乗りシンフォギア装者を全員動かしてみせたのさ」

 

「陽動に陽動をぶつけたか。食えない男だ。だが!  この私を止められるとでも? お前と家族ごっこをしてるガラクタ人形じゃ、切り札にもならんぞ」

 

 

「応とも! ウチの娘を甘く見るなよ!  一汗かいた後で話を聞かせてもらおうか! いくぞ、フィリアくん! 俺に合わせろっ!」

 

 あたしと弦十郎は同じ構えでフィーネに向かい合う!

 

「小賢しい!」

 

 フィーネは弦十郎にムチを伸ばすが、弦十郎はあたし以上のスピードでそれをジャンプして躱して天井を蹴ってさらに加速し、ミサイルのようなパンチを繰り出す。

 

「くっ――」

 

 フィーネはかろうじて、それを掠らせて避けるが――。

 

「ダメじゃない、あたしから気をそらしたら――」

 

 ――掌底勁打――

 

 弦十郎の攻撃を避けたスキを突いて、あたしは最大出力のエネルギーを込めて、フィーネに掌打を与える。

 

「かはっ――」

 

 弦十郎の掠った攻撃と、あたしのクリーンヒットした掌打がネフィシュタンの鎧にヒビを入れる。

 

「この私をこうも簡単に捉え、完全聖遺物を傷つけるとは……」

 

「お前は家族ごっこだと馬鹿にするが、俺とフィリアくんには血よりも強い絆があるっ! それは信頼だっ! 言葉など無くても俺には彼女の動きがわかる!」

 

「弦十郎……」

 

 フィーネの動揺に弦十郎は当然のような顔をして、あたしとの信頼関係の強さを語った。

 恥ずかしいから、大声でそんなこと言わないでほしい。

 

 

 

「ふん、そんな繋がりなど脆く断ち切れる! お前は何も知らぬから、そこのガラクタを信じられるのだ……。冥土の土産に教えてやろう。お前がこの女の父親と言うのなら、母親は私だ――」

 

 フィーネが突然、あたしの母親だと言い出した。この女、何を……。

 

「――何をいい加減なことをっ! あなたの娘があたしなら、身元なんてすぐに分かったでしょう? ていうか、あなた独身じゃないの?」

 

 あたしは信じることが出来ずに反論した。でも、フィーネの名から感じる懐かしさ、そして、繋がり……、これらがあたしの反論の邪魔をする。

 

「お前を腹を痛めて産んだ母など居ない。お前の人間時代の体は私に創られた、私のクローンだ」

 

「くっクローンだとっ!?」

 

 フィーネはあたしを自らのクローン人間だと言い放った。あたしが……、そんな……。

 

「フィリア計画、被験体、第一号……。聖遺物と融合をした場合、私の体がどうなるのか知りたくてな……、自らのクローンを作って研究をしていたのだ。表向きは孤児として拾われた子の一人としてな……」

 

 フィーネはあたしを自分の知識の糧にするためだけに実験用に生み出したと説明した。

 

「そんな、あなたの実験の為だけに、あたしは生まれたっていうの? じゃあ、人形になったのは……?」

 

 それなら、あたしを人形にしたのはフィーネということなのだろうか。あたしは声を震わせた……。

 

「それは知らん。早く実験をするために10歳程度の身体まで成長を急加速させて作った結果、私の力を1割も引き継いでない欠陥品として生まれたからな。実験は諦めて、捨てる場所にも困ったから米国の研究機関に売り払ったんだ。だから、お前に埋め込んだ浄玻璃鏡の欠片から痕跡を見つけなかったら気付かなかっただろう。思わぬ再会をした上に、面白いことになっていたんでな、今日まで生かしてやってたんだ」

 

「あたしが……、クローン……。そうか、記憶なんて戻っても、あたしは……」

 

 そう、人形以前にあたしはまともな人間ではなかったのだ。ずっとモノとして利用され続けただけだったようだ。

 よく考えたら、まともな人間が簡単に人形にされるはずがない……。

 

「ふっ、どうだ? これは実験用のモルモットみたいなモノだぞ。人格なんて私の残りカスを与えてやっただけのものにすぎん。こんなモノをお前は信じられるのか?」

 

 フィーネはあたしが道具として創られたことを弦十郎に語った。

 

「言いたいことは――それだけかっ! フィリアくんの出生など関係ないっ! この子は誰よりも優しい俺の自慢の娘だっ! これ以上、俺の娘をモノ扱いするなっ!」

 

「まだ言うか! 愚か者めっ! 肉を削いでくれるっ!」

 

 激高した弦十郎にムチを伸ばすフィーネ。

 

 弦十郎はムチをガッチリ掴んで、とんでもない力で引っ張って、フィーネを引き寄せる。

 

 そして、フィーネの腹に向かってミサイル以上の火力の一撃を与える。

 

 

「またも、完全聖遺物を退ける――?  どういうことだ!?」

 

「知らいでかっ!?  飯食って映画見て寝る!  男の鍛錬はそいつで十分よ!」

 

 弦十郎はフィーネの疑問に無茶苦茶な理屈をぶつけた。

 

「なれど人の身である限りは!」

 

 フィーネがあの杖で《ノイズ》を繰り出そうとした。

 

「させるかっ!」

 

 しかし、弦十郎は大きく踏み込むことで瓦礫を浮き上がらせて、それをさらに蹴り飛ばす。

 

 見事にそれは杖に命中し、弾き飛ばされて天井に。

 

「ノイズさえ出てこないのならっ!」

 

 弦十郎はこの瞬間を好機だと捉えてフィーネに肉迫する。

 

 

「これをお前が娘だと言うのならっ」

「きゃっ……」

 

 フィーネは密かにあたしの近くまで伸ばしていたムチで、あたしの身体を巻き付けて、盾のようにして弦十郎の前につき出した。

 

 弦十郎の拳が止まった。

 

「司令、あたしの身体なら大丈夫よ。知ってるでしょ、再生するんだから――」

 

「甘い男だっ!」

 

 フィーネは弦十郎の体をムチを使って貫いた!

 

「がはっ――」

 

 弦十郎はあたしの目の前で大量の血を流して倒れてしまった。

 

「――とっ父さんっ! くっ、離せっ! お前は絶対に許さないっ!」

 

「煩い人形だ……、完全聖遺物と融合を果たした今、お前のような欠陥品に用はない」

 

 フィーネがそう言った瞬間、あたしの胸の核が彼女のムチによって掴まれて……、抉り出された……。

 

 そして、あたしの意識はこれまでにないほど深い暗闇へと叩き落とされた――。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 真っ暗な闇――あたしは――死んだのかしら……。

 

 

「死んだのかしら……、だって? 笑わせないでくれ。君には大いなる力が眠っている。なんせ、僕が創り出したんだから!」

 

 暗闇の中であたしは、あたしを人形にした大馬鹿者の声を聞いた。

 

「あなたはいつかの大馬鹿ね……、そんな力があったとしても意味ないわ。もう手遅れよ……。あのときと一緒、あたしは何も守れなかった……」

 

「馬鹿は君だ、フィリア。これは君が欲した力だぞ! なぜ忘れる!? 君は憧れていたじゃあないか――シンフォギアにっ! 僕は君の望みを叶えたんだ! そりゃあ不可抗力でちょっとばかし身体に変化はあったかもしれないが、性能は完全聖遺物ごときに負けるはずがないじゃないか!」

 

 白髪の大馬鹿者はあたしがシンフォギアに憧れていたとか、訳のわからないことを言う。

 

 

「さぁ、纏うがいい! 聖遺物に僕の(フィリア)を注入した鏡の国の女王の衣(ファウストローブ)――ミラージュクイーンをっ!」

 

 気持ち悪い口調で捲し立てる大馬鹿者……。

 

「コード、ファウストローブ……、これが君を神域に昇華する……。目にもの見せてやれ、君を道具としてしか見なかった哀れな母親にっ!」

 

 最後にそれだけ言い残して白髪の大馬鹿者の声は消えた。

 

 

 何よ、勝手なことばかり言って……。

 

 

 大体、もうあたしは核を抉り出されて……。

 

 あたしの意識はまた途切れそうになった……。

 

 しかし――。

 

 ――フィリアくん、フィリアくん……。

 

 暗闇の中で次に聞こえたのは……、あたしを娘だと呼んでくれた、父の声……。

 

 弦十郎の声……、えっ、弦十郎?

 

 

「とっ、父さん……」

 

「無事かフィリアくん!」

 

 あたしが目を開くと目に入ったのは精悍な父の顔――。

 あたし、まだ、生きてたんだ――。

 




フィリアの人間時代の秘密の一部が明かされました。
しかし、肝心の部分はまだ謎のままです。
少しずつこれから明らかになりますので、その点もぜひ見守ってあげてください。





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ファウストローブ

原作12話の最後までです。
いよいよ無印編もクライマックスです。
それではよろしくお願いします!


「はっ――司令、あたしは……」

 

「フィリアくん、目を覚まして良かった……」

 

 薄暗い部屋で弦十郎はあたしの無事を喜ぶ。

 

「フィリアさんは、核の状態から全身を再生したようで、エネルギーを失って動けなくなっていました。多少強引ですが、糖分の入った飲料を飲ませ続けて回復をはかっていたんです」

 

 緒川があたしが目を覚ます過程を説明した。まさか、核だけになっても再生するなんて……。

 

「――そっそんなことより、現状は? フィーネは?」

 

 あたしは弦十郎に現状の確認をした。

 

「――非常にまずい……。フィーネの目的は――」

 

 あたしは弦十郎から手短に自分が倒れてからのことを聞いて、響たちのもとに急いだ――。

 

 そんな、クリスが絶唱を――。

 

 

 フィーネの目的は月を破壊してバラルの呪詛という人類にかけられた呪いを解くことだったらしく、《カ・ディンギル》はそのための荷電粒子砲だったのだ。

 《カ・ディンギル》の砲撃を防ぐためにクリスは絶唱を使ったみたいだ。

 

 どうして、あの子がそんなっ――。

 

 そして、響もまた、怒りによって融合したガングニールの欠片が暴走してしまってるらしい。

 このままだと、人としての機能が損なわれる危険な状態みたい……。

 

 フィーネ……、あなたを私は許さないっ!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「もうよせ、立花! これ以上は聖遺物との融合を促進させるばかりだ!」

 

「がぁぁぁぁぁっ!」

 

 いつかのよりも更に全身が真っ黒に染まった響が翼を襲う。

 

「コード、マナバースト……」

 

 ――氷狼ノ一閃――

 

 あたしは響の動きを止めるために彼女を凍らせる。

 

「――フィリアっ」

 

「ガラクタっ、何故? お前は私がっ――」

 

 あたしは翼の隣でフィーネに向かってミラージュクイーンを構えた。

 

「翼、遅れてごめんなさい。もっと、早ければ……、いえ、とりあえず、あれを破壊しましょう……」

 

「うむ、しかし、立花は……」

 

 翼は氷漬けになった響を心配する。

 

「安心して……、一時的に凍らせただけよ……。あのまま暴走しっぱなしで放置するより安全なはず……。さぁ、あの抉らせたオバサンやっつけて、あの趣味の悪いデザインのゴミを処分しましょ」

 

「ふっ、創造主たる私にまた刃を向けるか! お前が一番気に食わない! 今度こそ二度と再生できぬようにしてくれるっ!」

 

 フィーネがあたしに向かってムチを高速で伸ばしてきた。

 

「コード、ファウストローブ……」

 

 あたしが合言葉を唱えた瞬間、手元にあったミラージュクイーンが弾け飛び、全身が銀色の光に覆われる。

 そして、あたしの身体は鏡で出来たような鎧を纏ったのだ……。まるで、シンフォギアのように……。

 

 ――雷獣ノ咆哮(ライジュウノホウコウ)――

 

 あたしは手をかざしてフィーネのムチめがけて錬成した巨大な雷撃を繰り出した。

 

 フィーネのムチは跳ね返されて、雷撃の余波が彼女の体をぐらつかせる。

 

「なっ――知らんぞっ!? そんなものっ……。お前に与えた粗悪な聖遺物の欠片ごときがそんな出力……」

 

「あたしだって知らないわよ。馬鹿の考えることなんか……」

 

 そう言いながら、あたしも驚いていた。

 支配出来る《マナ》の量と範囲が格段に上がっている――。

 ミラージュクイーンを武器として使うことは出来ないが、それを補って余りあるほどの火力だった。

 

「フィリア、それは……」

 

「ファウストローブって言うみたい……。翼とこれでお揃いになれたわね。あたしたちが最後の砦よ」

 

「そうだな。今日まで共に鍛錬を積んだのは、この日のためかもしれない。フィリアと私なら――」

 

 銀色と青色の鎧がフィーネの前に立ちはだかる。

 

「ふっ……、はーはっはっはっ」

 

 フィーネは突然笑いだした。そして、体の傷がみるみる再生していった。

 

「フィリアのように再生だと……?」

 

「私と1つになったネフィシュタンの再生能力だ。面白かろう。そろそろ、茶番も飽きてきた……」

 

 フィーネの体の再生が終わった瞬間、彼女の後方の《カ・ディンギル》が発光してエネルギーが収束される――。

 

 

「そう驚くな。カ・ディンギルがいかに最強最大の兵器だとしても、ただの一撃で終わってしまうのであれば兵器としては欠陥品。必要あるかぎり何発でも撃ち放てる」

 

 予想通り、あんな大掛かりな仕掛けが一発なわけがなかった。用心深いこの人が不測の事態を想定しないはずがない。

 

「その為にエネルギー炉心には不滅の刃デュランダルを取り付けてある。それは尽きることのない無限の心臓なのだ」

 

 フィーネは上機嫌そうに丁寧な解説をした。

 

「ねっ、言ったでしょ。早くあのオバサン倒さないと」

「ああ、あの女を倒せばカ・ディンギルを動かす者は居なくなるという道理か。我らにかかれば――」

 

「「造作のないことっ!」」

 

あたしと翼はフィーネに向かって走り出した。

 

「痴れ言を抜かすなっー!」

 

 フィーネは何重ものムチを一斉にこちらに放ってきた。

 

「大技であれを止めるわ! 翼はそのスキに――」

「心得たっ――」

 

 あたしは天に手をかざした――。

 

 ありったけをくれてやるわ……。

 

 ――不死鳥ノ皇帝(カイザーフェニックス)――

 

 最大出力のエネルギーで炎を錬成して決して消えることのない火の鳥を作り出す。

 これが、今のあたしの最大の技よ――。

 

 繰り出された火の鳥は完全聖遺物のネフィシュタンの鎧から繰り出されるムチをも跳ね返し、燃やし尽くす。

 

「なっ、再生が追いつかないっ――」

 

 たまらず、回避行動をとるフィーネの上空に飛び上がった翼が現れる。

 

 ――天ノ逆鱗――

 

 巨大化するアームドギアがフィーネを襲う。

 

 彼女はとっさに三重層から成るバリアのようなものを展開して翼の攻撃を防ぐ――。

 

「翼っ」

「わかってるっ――」

 

 しかし、あたしたちの目的はあの趣味の悪い建造物――《カ・ディンギル》だ。

 

 翼はアームドギアを足場にして飛び上がる。

 

 

 ――炎鳥極翔斬――

 

 炎を噴出して、舞い上がる翼――。これで決めるわよっ――。

 

「始めから狙いは《カ・ディンギル》か!」

 

 しかし、フィーネも黙ってそれを許さない。無事だったムチを素早く翼の方に伸ばす。

 

「くっ、やはり……、私では――」

 

「なに弱気なこと言ってんのよ……」

 

 ――水鏡ノ盾――

 

 あたしは空中に猛スピードで舞い上がり、翼を襲うムチを水の壁を出現させて弾いた。

 

「か、奏? いや、フィリアか……」

 

「翼、あなたの心にはもう一つ翼があるはずよ。あなたと奏、両翼揃ったツヴァイウイングなら――」

 

「どこまでも、飛んでいけるっ――」

 

 翼は炎を纏い、《カ・ディンギル》に特攻する。

 

「あたしは、今度こそ約束を守るっ――」

 

 あたしは残り少ないエネルギーを振り絞って翼の後を追った。

 

 

 《カ・ディンギル》は大爆発を起こして崩れ去った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「バカなの? まさか突っ込んで行くとは思わなかったわよ。とっさに水のバリアーを張らなかったら今ごろ……」

 

「すまない……、確実に破壊せねばならないと思ったからな……」

 

 あたしは翼を抱えて空中に舞い上がって、響の近くに着陸した。

 

「――あれっ、翼さん、フィリアちゃん、なんでそんなにボロボロに?」

 

 凍らせて、刺激を出来るだけ与えないようにしたのが良かったらしく、響は暴走から立ち直ったようだ。

 

 

「えぇぇいっ! どこまでも忌々しい! 月の破壊はバラルの呪詛を解くと同時に重力崩壊を引き起こす。 惑星規模の天変地異に人類は恐怖し、そして聖遺物の力を振るう私の元に帰順するはずであった!」

 

 フィーネは歯ぎしりしながら怒りを顕にした。

 

「痛みだけが人の心を繋ぐ絆! たった一つの真実なのに! それを……、 お前らはっ! この失敗作のガラクタ風情がっ! 私の計画をっ!」

 

 フィーネはあたしにムチを伸ばす。

 

 あたしは錬金術でそれを防ごうとするが――。

 

「くっ、ファウストローブがっ」

 

 バリンっと音がしたと思うとファウストローブが砕けて消えてしまった。

 まさか、エネルギー不足で錬金術を使おうとすると維持できなくなるの? 面倒な仕様ね……。

 

 そして、フィーネのムチによって身体中が穴だらけになってしまう。

 

「フィリアっ」

「フィリアちゃん……」

 

 

「まったく、最後まで親の足を引っ張りおって、そこに生体と聖遺物の融合症例がたまたま出てきたから良かったものの、そもそもお前が生まれてすぐに、キチンと聖遺物と融合を成せば計画実行ももっと早かったのだ。お前はことごとく私を苛つかせる」

 

 フィーネは憎々しげにあたしを見下ろす……。

 再生にエネルギーが更に持ってかれる……。意識はかろうじて残るけど、動くのは無理ね……。お菓子もさっきの爆発で全部なくなったし……。

 

「消えてなくなれっ」

 

 フィーネはあたしにエネルギーの塊のようなものを飛ばしてきた。

 

「フィリアーっ」

 

 しかし、翼があたしの前に立ちふさがり吹き飛ばされてしまう。

 バカ、何をしてるの……?

 

「こんなガラクタを庇うとは、バカな奴だ」

 

「翼さんっ! そんな……」

 

 遥か彼方に飛ばされてしまった翼を見て響は愕然とする。

 

 

「翼さんも、クリスちゃんもフィリアちゃんも酷い目にあって……、学校も壊れて、皆居なくなって……、私……、私は何のために?  何のために戦ったの? みんな……」

 

「お前の意味など、私の実験材料以外にないわっ!」

 

「ぐっ」

 

 フィーネは響を蹴飛ばして頭を踏み潰す。

 

 

「もうずっと遠い昔、あの御方に仕える巫女であった私は――。いつしかあの御方を……、創造主を愛するようになっていた。だが、この胸の内を告げることは出来なかった。その前に、私から、人類から言葉が奪われた。バラルの呪詛によって唯一創造主と語り合える言語が奪われたのだ。私は数千年に渡りたった一人、バラルの呪詛を解き放つため抗ってきた。いつの日か胸の内の想いを届けるために……」

 

 フィーネは創造主とやらに想いとやらを伝えるために月を壊そうとしたらしい。

 

「胸の想い――?  だからって……」

 

「是非を問うだと? 恋心も知らぬお前が!?」

 

 響の言葉に激高したフィーネは彼女の髪を掴んで地面に投げつけた。

 

 

 

 

 

「あなたは休んでなさい。響……」

「えっ、フィリアちゃん……。大丈夫なの?」

 

 あたしは投げつけられた響を抱き止めた。

 

「なっ、お前っ! 動けたのかっ!?」

 

「ええっ、この食い意地の張った子のおかげでね……」

 

 あたしは響のブレザーの裏ポケットを弄って、チョコレートを取り出した。

 

「この子が持ち歩いていたお菓子があたしの側に転がってきたのよ。あむっ」

 

「フィリアちゃん、それ私のおやつ……」

 

 響が蹴飛ばされた瞬間にポケットから菓子が落ちたのは僥倖だった。

 

 

「さぁ、回復したわ。あなたがあたしの母親なら、子のあたしが責任を取ってあげる。抉らせた、バカなオバサンに巻き込まれた人類が可哀想だもん」

 

「どこまでも忌々しいやつっ!」

 

 フィーネは手をかざして、エネルギーの塊を再び飛ばしてきた。

 

「コード、ファウストローブ……」

 

 あたしはファウストローブを身に纏って、響を庇うように手を広げて受け止める。

 余波までは防げなかったので、響は飛ばされて倒れてしまったが、傷はなかった。

 

「完全聖遺物と融合して、ご満悦みたいだけど……、まさかこの程度?」

 

「バカなっ、バカなっ、バカなっー! ガラクタごときが、ネフィシュタンの鎧と完全に融合した私の――」

 

 フィーネはムチを伸ばした上にエネルギーの塊を両手から連発してきた。

 

 ――震脚――

 

 地面の踏みしめて隆起させて、フィーネの攻撃を防ぐ。

 

「ぐっ、これは弦十郎の……」

 

 ――鉄山靠――

 

 最高速度でフィーネに肉迫して、エネルギーを爆発させながら、背中からの体当たりを直撃させる。

 

「なっ――」

 

「ウチの親が世話になったから、仕返しよ……」

 

「小賢しいっ」

 

 フィーネとあたしの三度目の戦いが始まった。

 

 あたしは彼女の攻撃をことごとく防ぎ、フィーネに幾度も攻撃を与えた。

 

「くっ、妙な技で……。こんな、意味のわからん技でこの私がっ……」

 

「あの人とバカな映画を一緒に見た《想い出》の力がっ、あんたのバカみたいな聖遺物との融合とやらより弱いはずがないでしょ!」

 

「戯言をっ――」

 

 どちらの身体も攻撃を受けても回復するので一見キリがないように見えた。

 

 くっ――武術中心でも何とか優勢かと思ってたけど……。

 

「ふはははっ、随分と消極的に戦っている思ったが、その鎧を維持するのにかなりのエネルギーを消費しているのだな? だから、お前は錬金術を使わないっ!」

 

「うっ、うるさいわね! さっさとくたばりなさいよ! 年増のヒステリーで月を破壊するって恥ずかしくないのっ!?」

 

「――っ、減らず口を……」

 

 フィーネの言っていることは的を射ていた。このままでは15分もすればエネルギー切れを起こすだろう。

 

 あたしは敗北を予感した――。

 

 そのとき……、《歌》が聞こえた――。

 

『仰ぎ見よ――♪ よろずの愛を――』

 

 

「リディアンの校歌?  どうして?」

 

「ん? チッ、耳障りな……。何が聞こえている? 何だこれは?」

 

 歌が響き渡る……、そして、そのたびに光の玉が次々と集まってくる……。

 

 この光は……、《マナ》じゃない。でも、エネルギーの波動のようなものを感じる。

 

 そして、倒れている響の元にも光が集まっていた。

 

 

「どこから聞こえてくる? この不快な歌――」

 

「聞こえる……、皆の声が……」

 

 倒れていた響の目に力が宿ったみたいだ。

 

「響、大丈夫?」

 

「フィリアちゃん、この歌が聞こえる? あのね、私を支えてくれてる皆はいつだって傍に居たんだよ。皆が歌ってるんだ……。だからまだ歌える――頑張れる!――戦えるッ!」

 

「響? あなた、その力……」

 

 響は立ち上がる、目に力強い意志を宿して……。

 

「まだ戦えるだと?  何を支えに立ち上がる? 何を握って力と変える? 鳴り渡る不快な歌の仕業か?  そうだ、お前が纏っている物は何だ? 何を纏っている?  それは私が作った物か?」

 

 フィーネは完全に倒したハズの響が再び立ち上がった事に動揺していた。

 

「翼っ! クリスっ!」

 

 再びシンフォギアを身に纏った響が空中に舞い上がって、それに呼応するように、なんと翼とクリスも復活してギアを身に纏って空を飛び、空中で三人のシンフォギア装者が勢揃いする。

 

 ――こっこれは奇跡なの?

 

 

「お前が纏うそれは一体何だっ!?  何なのだっ!?」

 

「シンフォギアァァァァァァァッ!!」

 

 響が雄叫びを上げる。

 

 フィーネとの最後の決戦がついに始まった――。

 




ファウストローブを纏った感じはアガートラームのデザインに近い感じのイメージです。
剣がなくなるので、格闘術と錬金術を合わせて戦うのが基本となります。
次回もよろしくお願いします!




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流れ星、墜ちて燃えて尽きて、そして……

長くなったので、分けようかと迷いましたが、無印編のラストまで一気に投稿することにしました。
それではよろしくお願いします!


「皆の歌声がくれたギアが私に負けない力を与えてくれる。クリスちゃんや翼さんに、もう一度戦う力を与えてくれる。歌は戦う力だけじゃない。命なんだ」

 

 響たちから今までにないほどのエネルギーを感じた。これが歌の力だというの?

 

「高レベルのフォニックゲイン……。こいつは2年前の意趣返し?」

 

「んなこたどうでもいいんだよ!」

 

「念話までも……」

 

 すっごく遠い場所なのにクリスの声が聞こえる……。この光はフォニックゲインということ? 視覚化できるほどの濃度のフォニックゲインがこの力の原因?

 

 

「限定解除されたギアを纏って、すっかりその気か!」

 

 フィーネは《ノイズ》を召喚する。

 

 

「いいかげん芸が乏しいんだよ!」

 

「世界に尽きぬ《ノイズ》の災禍も全てお前の仕業なのか?」

 

 翼は《ノイズ》はフィーネの作り出したものだと推測した。

 

 

「ノイズとはバラルの呪詛にて相互理解を失くした人類が、同じ人類のみを殺戮するために作り上げた自律兵器」

 

 あー、だから人ばかり襲うのね。でも、人形のあたしにも攻撃してくるのには何の理由があるのかしら……?

 

「人が人を殺すために?」

 

「バビロニアの宝物庫は扉が開け放たれたままだ。そこからまろびいづる10年一度の偶然を私は必然と変える。純粋に力と使役してるだけのこと」

 

「また訳わかんねえことを!」

 

 おそらく《ノイズ》のいる空間をあの杖で自在に繋いでいるのね。

 

 《ノイズ》が三人に攻撃するが当然みんなはそれを避ける。

 

 フィーネはそれを見て杖を天に掲げる……。

 

 何をするつもり?

 

「応ぜよ!」

 

 杖から光が大量に照射され、空中で弾ける……。

 

 すると……。

 

 気持ち悪いくらい、大量のノイズが街を埋め尽くすくらい出現したのだ。

 

 

「あっちこっちから……」

 

「おっしゃ!  どいつもこいつもまとめてぶちのめしてくれる!」

 

「フッ」

 

 三人は大量の《ノイズ》を殲滅するのにやる気を出していた。

 

「あたしだけ、仲間はずれなんて、薄情なんだから……」

 

「フィリアっ! いつの間に?」

 

 翼は後ろを振り返ってあたしに声をかけた。

 

「錬金術で上昇気流を錬成して飛んでいるのよ」

 

「なんでも、アリかよお前は……」

  

 クリスに呆れた顔をされる。いや、割とシンフォギアの方が何でもありでしょう。

 

「クリス、無事でいて嬉しいわ」

 

「――おっおう。お前もな……」

 

 クリスは頬を赤らめてそっけなく答えた。

 

「あー、クリスちゃんって、フィリアちゃんにだけ素直だー」

 

「うるせぇっ! とっとと《ノイズ》をぶっ飛ばすぞ!」

 

 あたしたちは《ノイズ》たちの元に飛んでいった。

 

 

 響が拳を振るうと複数の大型《ノイズ》は一瞬で砕け散った。

 更にその余波で小型の《ノイズ》までも殲滅される。

 

 ――MEGA DETH PARTY――

 

 クリスから大量のビームが繰り出されて飛行型《ノイズ》が殲滅される。

 

「やっさいもっさい!」

 

「すごい! 乱れ撃ち!」

 

「全部狙ってるっての!」

 

「えへっ……、――だったら私が! 乱れ撃ちだぁぁぁぁっ!」

 

 響の拳からエネルギーの塊が大量に撃ち出される。何よこれ? 理屈がわからないわ……。

 

「はっ――」

 

 ――蒼ノ一閃――

 

 翼の剣戟は超巨大サイズの《ノイズ》を一撃で屠った。

 

 この子たち……、火力がとんでもなく強化されてる……。

 

 でも、あたしも……。

 

 ――双竜ノ咆哮――

 

 右手から冷気、左手から電撃を広範囲に照射して《ノイズ》たちを片っ端から仕留めていく――。

 

「うわー、フィリアちゃん、すっごく派手だねー」

 

 フォニックゲインの濃度の上昇に伴って、あたしの錬金術のエネルギー効率が格段に上昇してる……。今までもあたしの核が歌に反応することはあったけど……。

 

 

 

 

「どんだけ出ようが、今更ノイズ!」

 

 

 あたしたちの波状攻撃でかなりの《ノイズ》が消滅した。

 

「んっ、あれはっ!?」

 

 翼がフィーネの方に目を向けた。

 

「杖を――体に刺している?」

 

 あたしの目には、フィーネが《ノイズ》を召喚するための杖を自らの体に刺しているように見えた……。

 

 

 そして、杖はフィーネの再生する体に取り込まれ――。

 

 フィーネの体に向かって次々と《ノイズ》たちが集まってきたのだ。

 《ノイズ》の召喚も繰り返され、そのたびにフィーネの元に集まってくる《ノイズ》……。

 

 これは……。何が起こっているっていうの?

 

 

 

「ノイズに取り込まれている?」

 

「そうじゃねえ。アイツがノイズを取り込んでんだ」

 

 フィーネは《ノイズ》を吸収するたびに肥大化していく……。

 

 

「来たれ! デュランダルっ!」

 

 肥大化したフィーネの塊が《カ・ディンギル》の中に入っていった……。まさか、デュランダルすらも取り込む気なのっ?

 

 フィーネは趣味の悪いデザインの巨大な紫色の飛行要塞のような形態に変化した。

 相変わらず、この人のセンスはわからないわ……。ホントにあたし、この人のクローンなのかしら?

 

 と、思っていたのも束の間、フィーネから照射された赤い巨大な光線が街を一瞬のうちに瓦礫の山に変えた。

 

「ああっ! 街がっ……!?」

 

 響の顔が真っ青になる……。ちょっと、あの火力、聞いてないわよ……! 反則じゃない、あんなの……。

 

 

「逆さ鱗に触れたのだ。相応の覚悟は出来ておろうな? フハハハ……」

 

 再び赤い光線が照射される――。

 

「「うわぁっ――」」

 

 あたしたちは直撃を避けたにもかかわらず、余波だけで吹き飛ばされてしまう――。

 

「このっ!」

 

 クリスは光線をフィーネに向かって照射するが、シャッターのようなものが閉じて攻撃を遮断する。

 

 攻撃が一切通らない……?

 

 

「ぐあっ……!」

 

 その上、次にクリスに向かってきたフィーネからの光線は彼女が回避しても追尾してきて、クリスは被弾してしまう。

 

「この剣ならどうだっ!?」

 

 ――蒼ノ一閃――

 

 翼の強烈な一撃がフィーネの要塞のような体に炸裂し、大爆発が起きる。

 

 ――雷獣ノ咆哮――

 

 あたしも翼の攻撃した箇所を狙って雷撃を放つ。

 

 フィーネに付けられた小さな傷は回復していく。

 

 さらにクリスと響が攻撃をするも、再生が早くて決定打に至らなかった。

 

 

「いくら限定解除されたギアであっても所詮は聖遺物の欠片から作られた玩具! 完全聖遺物に対抗出来るなどと思うてくれるなっ!」

 

 フィーネは自信満々の声であたしたちを煽る。腹立つわね……。

 

 

「聞いたか?」

 

「チャンネルをオフにしろ」

 

「傷は付けられるわ。問題はその後……」

 

「ああ、こちらができることと言えば……」

 

 作戦会議をするあたしたち。この中で切り札になりうるのは――。あたしたちは響を見る……。

 

「えっ?」

 

 響は不思議そうな顔をする。

 

「何を企んでいるか分からんがっ! このまま砕け散れっ!」

 

 

「あ……、えっと……、やってみます!」

 

 響の返答に対してあたしたちは頷いた。

 

「あたしが道を切り開くっ! 翼とクリスは手はずどおりにっ!」

 

「「ああっ」」

 

 クリスが囮になり、フィーネの攻撃を集中させる。

 

「完全聖遺物だろうと、すべて燃やし尽くしてみせるっ! 翼っ! スキを見逃したらダメよっ!」

 

 ――不死鳥ノ皇帝(カイザーフェニックス)――

 

 最大出力の紅蓮に燃えさかる消えない巨大な炎の鳥をフィーネの自慢のシャッターに直撃させる。

 

 強固なシャッターを巨大な熱量で溶かし、再生を上回る力で燃やし尽くす――。

 

 シャッターに穴が出来上がる――。

 

 

 ――蒼ノ一閃・破滅――

 

 ウィークポイントが出来たシャッターに翼が極限まで巨大化させたアームドギアで超強力な一撃を加える。

 

 シャッターの穴はさらに大きくなった――。

 

 今だっ――。

 

「くっ、バカなっ……。決して朽ちぬはずの完全聖遺物が紛いもの風情に……」

 

「ねぇ、オバサン。往生際って言葉知ってる?」

 

「フィリアっ! この恩知らずがっ!」

 

 フィーネはバリアーのようなものを展開した。

 

「恩なら返すわ! 父と、みんなと出会わせてくれてありがとうっ! これは……、父に最初に教えてもらった技よ」

 

 あたしは空中で深く腰を落として拳にエネルギーを充満させた。

 

「奮っ―――!」

 

「この力……、あり得んっ――」

 

 あたしの正拳の拳圧はフィーネのバリアを打ち破り、デュランダルを握っていた彼女の右腕をへし折り、デュランダルは宙を舞った――。

 

 

「立花っ! そいつが切り札だっ! 勝機を逃すなっ! 掴み取れっ!」

 

 翼は響に声をかけて、彼女に向かって飛んでいくデュランダルを掴むように促した。

 

 

 そして、響はキチンとデュランダルを掴み取る――。しかしっ――!

 

「ガァァァァっっ――」

 

 響の目が真っ赤に光り、体が黒く染まっていく……。また、暴走……?

 響っ……、ダメ……、さっきみたいに凍らせるわけにはいかない……、どうすれば?

 

 

「ぐっ……、うっ、あっ……」

 

 響の目に生気が戻りかけている……。暴走に飲まれないように抵抗をしているみたいね。

 

 なんとか、彼女を正気に戻さないと……。

 

 

 

「正念場だ!  踏ん張りどころだろうが!」

 

 弦十郎が外に出てきて響に呼びかける。

 

「強く自分を意識してください!」

 

「昨日までの自分を!」

 

「これからなりたい自分を!」

 

 緒川も藤尭も友里も、外で響に声を送った。ホントにみんなお人好しのバカなんだから……。

 

 

 ――でも、あたしもバカになろうかしら……?

 

 

「みっみんなっ――!」

 

 響が意識を少しだけ取り戻したようだ。

 

「屈するな立花……。お前が抱えた胸の覚悟、私に見せてくれ……」

 

「お前を信じ、お前に全部賭けてんだ!  お前が自分を信じなくてどうするだよ!」

 

「どこまでもお人好しのあなたの意地を見せるのよっ!」

 

 あたしたちは響に寄り添い声をかける……。

 

「ぐぅっ……むむっ……!」

 

 

「あなたのお節介を!」

 

「あんたの人助けを!」

 

「今日は私たちが!」

 

 響の友人たちも危険を顧みずに外に出てきて言葉を送った。

 

「姦しいっ! 黙らせてやる!」

 

 フィーネが触手のようなものを伸ばして攻撃してきた。

 

「響を頼んだわよっ!」

 

 ――水鏡ノ盾――

 

 あたしは前に出てきて、巨大な水の盾を錬成してフィーネの攻撃を防いだ。

 

「ぬぅぅっ、しつこいっ!」

 

「それはお互い様よっ!」

 

 あたしはエネルギーを振り絞って、フィーネの猛攻を防ぐ……。長くは保たないわね……。

 

 響っ、早く目を覚ましなさいっ!

 

 あたしがそう思った、その刹那……、とびきり大きな声が聞こえた。

 

「響ぃぃぃぃぃっ!」

 

 未来の声である。

 

 

「――はっ!? そうだ……、今の私は、私だけの力じゃない――」

 

「ビッキー!」

 

「響っ!」

 

「立花さん!」

 

 友人たちも響に呼びかける。

 

 

「そうだ!  この衝動に塗りつぶされてなるものかぁぁぁぁっ!」

 

 響の叫びと共に彼女を取り巻いていた闇が消え去った――。

 そして、3人の装者がデュランダルを構えて、フィーネに向かう。

 

「その力!  何を束ねた!?」

 

「響き合う皆の歌声がくれた、シンフォギアだぁぁぁぁぁっ!」

 

 動揺を隠せないフィーネの元にデュランダルが肉迫して――。

 

 

 ――Synchrogazer――

 

 とてつもないエネルギーに満ちた光の刃がフィーネの巨体を両断する――。

 

「完全聖遺物同士の対消滅っ!? どうしたネフシュタン!  再生だ! この身、砕けてなるものかァァァァァッ!」

 

 フィーネの絶叫と共に、彼女の体は崩れ落ちた………。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「お前、何をバカなことを……」

 

 夕日を見てうなだれてるフィーネ。バカはどっちよ……。

 

「このスクリューボールがっ」

 

 ん? クリス、それどういう意味?

 

「皆に言われます。親友からも変わった子だーって……」

 

「はぁ……」

 

「もう終わりにしましょう、了子さん」

 

 響は優しくフィーネに話しかける。今後に及んで、了子って呼べるところが凄いわ……。

 

「私はフィーネだ……」

 

「でも、了子さんは了子さんですから……。―きっと私たち、分かり合えます。」

 

「《ノイズ》を作り出したのは先史文明期の人間――統一言語を失った手を繋ぐよりも相手を殺すことを求めた。そんな人間が分かり合えるものか……」

 

 同族を殺し合う兵器を作った愚かな人間、人類の敵である《ノイズ》は皮肉にも人間自身が作ったのね……。

 

「人が、《ノイズ》を?」

 

「だから私はこの道しか選べなかったのだっ!」

 

 それを知るフィーネは人を信じることなど出来ない……。

 

「おい!」

「雪音……」

 クリスが前に出てフィーネに向かおうとするが、翼は手で制する。

 

 

「人が言葉よりも強く繋がれること、わからない私たちじゃありません」

 

 それでも響は人は繋がれると信じて揺るがないみたいだ。だから、お人好しなのよ、この子は……。

 

「はぁ……、――でやぁぁぁぁっ!」

 

フィーネが響にムチを伸ばす、そして、響はそれを躱してフィーネの腹に拳を当てようとする。

 

 ――しかし、響は当たる寸前に拳を止めた。フィーネのムチはまだ伸び続ける……。

 はっ……、まさかっ!

 

「いけないっ、響っ、その女を止めてっ!」

 

「ふっ、さすがは私のクローン。思考を読んだのは見事だが、私の勝ちだっ!」

 

 あたしが走って彼女に近付こうとしたとき、勝ち誇った顔を私に向けた。

 

「でやぁぁぁぁっ!」

 

 ものすごい力で引っ張るような動作をすると、ネフィシュタンの鎧が砕け散った。

 

 

「月の欠片を落とす! 私の悲願を邪魔する禍根は、ここでまとめて叩いて砕く! この身はここで果てようと、魂までは絶えはしないのだからな! 聖遺物の発するアウフバッヘン波形があるかぎり私は何度だって世界に蘇る! どこかの場所、いつかの時代! 今度こそ世界を束ねるために!」

 

 フィーネは高らかに勝利を宣言する。

 

「ハハハハッ……、 私は永遠の刹那に存在し続ける巫女! フィーネなのだぁぁぁ!」

 

 本当にこの人は往生際が、悪すぎる……。

 

「うん。そうですよね。どこかの場所、いつかの時代、蘇るたびに何度でも私の代わりに皆に伝えてください。世界を一つにするのに力なんて必要ないってことを……。言葉を超えて私たちは一つになれるってことを……。私たちは未来にきっと手を繋げられるってことを……。私には伝えられないから。了子さんにしか出来ないから……」

 

「お前……。まさか……?」

 

 それでも、響は笑ってフィーネに未来を託した。どこまでもまっすぐに、前向きに……。

 

「了子さんに未来を託すためにも、私が今を守ってみせますね!」

 

 まったく、この子は――放って置けないわね……。どこまでも……。

 

 

 

「――ふっ、ホントにもう……。放っておけない子なんだから……。胸の歌を信じなさい」

 

 フィーネは憑き物が落ちたような表情になり、響の額をかるく小突いた。

 

「――フィリアちゃん、あなた苦労するわよ……。人を愛することを覚えたら……」

 

 そして、かがみ込んであたしの頭を撫でながら呟くようにそう言った……。

 

「ひとつだけ聞いていいかしら? あなたはあたしを何度も殺せたはず……。なのになぜ?」

 

「さぁ? あなたを見ると昔のイヤな自分を見てるみたいでイライラした――でも、あなたは私の――」

 

 フィーネはそう言い残してバラバラになって崩れてしまった。なによっ、最期まではぐらかすなんて……。

 あなたは最低の母親だったわ……。

 

 

 

 ――だけど、あたしの胸は哀しみに満たされていた……。はぁ、一度だけ、お礼を言ってあげる……。

 ありがとう、お母さん……。あたしはみんなと過ごせて幸せだったわ……。

 

 

 

 

「軌道計算出ました。直撃は避けられません……」

 

 藤尭の素早い演算で月の欠片の落下の解析が完了する。

 

 

「あんなものがここに落ちたら、あたしたち、もう……」

 

 響の友達の、確か……、弓美って子が悲壮感のあるような声を出した。

 

「仕方ないわね。あんなのでも一応、生み出してもらった恩はあるわけだし……、尻拭いくらいしてやるわよ。あむっ」

 

 あたしは友里から受け取った、チョコレートを噛りながら上を見上げた。

 

「やっぱり、フィリアちゃんは優しいねー。私も一緒に行くよ」

 

 響があたしの隣に並んだ……。

 

「響……」

 

 そんな響に心配そうな顔の未来が話しかける。

 

「何とかする。――ちょーっと行ってくるから。生きるのを諦めないで……」

 

「えっ?」

 

 心配そうな表情の未来に響は笑顔を向けた。

 こういうところ、カッコいいんだから……。

 

「コード、ファウストローブ……」

 

 再び、あたしはファウストローブに身を包み宇宙(そら)を目指した。

 

 

 

 

「はぁ、あなたたちもお人好しだったわね……」

 

 クリスと翼も駆けつけて落下する月の欠片に向かい合うことなった。

 

 彼女たちは三人揃って絶唱を使うらしい。

 

 あたしはその様子を見て、自分の左腕を千切った。これが思いつく中で一番の破壊力があるはずだ……。

 

 ――電磁加速砲(レールガン)――

 

 ミラージュクイーンでコーティングされているこの腕を砲弾にして、最大出力の電撃で加速させてぶつけてやるわ――。

 

「これがっ! 私たちの! 絶唱だァァァァァっ!」

 

 響の拳がっ、クリスのミサイルがっ、翼の剣が、絶唱により最大火力まで上昇する。

 

「そこねっ、くらいなさいっ!」

 

 四つの極限まで高められた火力の怒涛の攻撃により、月の欠片は破壊された――。

 

 ――しかし、響たちには絶唱のバッグファイアが、あたしは単純にエネルギー切れが起こり……。大気圏で菓子など食べられるはずもなく……。

 

 流星のように落下した――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 未来が女性と共に《ノイズ》に追い詰められている。

 

「私……、もう……」

 

「お願い!  諦めないで! あっ!?」

 

 未来は女性を庇うように《ノイズ》の前に立ちふさがる。

 

 しかし、《ノイズ》は彼女たちに襲いかかる前にバラバラになった。

 

 そりゃ、あたしたちが来たんだからやらせないわよ……。

 

「ごめん。色々機密を守らなきゃいけなくて――。未来にはまたホントのことが言えなかったんだ……えへへ……」

 

 困り顔で笑顔を向ける響に未来が抱きついた。

 お熱いことで……。

 

 

 

 

 

 

 

「響ぃぃ……、やだ、もう離さない……」

「未来ぅぅぅっ」

 

 

「長いわよっ! 家に帰ってからやりなさいよっ!」

 

 あたしたちの日常は再び幕を開けた……。

 

 

 

 無印編 ――完――

 




無印編が無事に終わりました。
この辺りは原作の流れに沿って、フィリアと弦十郎やフィーネ、そして仲間たちとの関係を紹介することが目的で書きました。
このあとは、《絶唱しないシンフォギア》を挟んだ後にG編をスタートさせます。
もし、よろしければ、ここまでの感想の方を一言でも構いませんので、ぜひお聞かせくださいm(_ _)m


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戦姫絶唱しないシンフォギアwithフィリア 前編

絶唱しないの方は台本形式でやります。
まずは前編は月の欠片処理から約2週間編です。
それではよろしくお願いします!


 ――月の欠片処理から約2週間【その1】――

 

響「あぁぁぁぁぁぁっ!」

 

翼「今日も今日とて、立花の様子がおかしいのは相変わらずだな」

 

フィリア「うるさいのよっ! 静かになさいっ!」

 

響「だってだってだってー!  翼さんもフィリアちゃんも何ともないんですか!? こんなところに閉じ込められてもうずっとお日様を拝んでないんですよ!」

 

翼「そうは言ってもだな。月の損壊。及び、それらにまつわる一連の処理や調整が済むまでは、行方不明としておいたほうが何かと都合がいいと言うのが司令たちの判断だ。それに――」

 

フィリア「あなたの親友も危険に巻き込まれる可能性があるのよ……」

 

響「ううっ……わかってるけどぉ……、うわぁぁぁぁ!  未来に会いたいよぉぉぉ!  きっと未来も寂しがってるよぉぉぉ!」

 

翼「小日向が絡むところの自己評価は意外に高いんだな、立花は……」

 

フィリア「この子と未来の仲の良さは、はっきり言って見ているこっちがはずかしいくらいなんだから」

 

響「いやー、照れちゃうなー」

 

フィリア「一ミリも褒めてないから……。未来は案外元気かもしれないわよ?」

 

響「そんなことないよー! そりゃー、冷たい布団を温めるくらいしか役に立たない私だけど、居なくなったら居なくなったできっと悲しむと思うし……、借りっぱなしのお金も返せてないし……」

 

翼「おいおい……」

フィリア「意外でもなく思ったとおりルーズよね……」

 

響「っていうか、ここまで引っ張っていざ無事でしたーってなったらそれはそれできっと怒りますよ。連絡もしないで何してるのって……」

 

フィリア「ああ、彼女ならあり得るわね。この間も怒ったときはかなり怖かったし……」

 

翼「フィリアは小日向に怒られたことがあるのか?」

 

フィリア「ええ、前に一度……。この子の謝罪に無理やり付き合わされて……。本当に地獄だったわ」

 

翼「強靭な精神力を持つフィリアをして、そこまで言わしめる小日向未来……、なかなかのツワモノのようだな」

 

響「そーなんですよ! 未来は怖いんですよ。一緒にご飯食べてても口聞いてくれないというかー。だからと言ってずっとここに居ても退屈だし……。退屈しのぎに未来に怒られるなんて、そこまで上級者じゃないし……、出そびれれば出そびれただけ言い訳みたいな笑顔になるしで止め処なく溢れてくるしで……」

 

フィリア「アホなことで悩んでるなら、解決策を教えてあげるわ」

 

響「えっ、ホントにフィリアちゃん」

 

フィリア「これは、すべて緒川の陰謀と言うことにするのよっ! 彼の脅迫によって、泣く泣く監禁されたあたしたちを演出するの!」

 

響「えと、それは緒川さんに悪いんじゃ……」

 

フィリア「構わないわよ、あのエセ紳士……」

 

翼「フィリア、おい、フィリア……」トントン

 

フィリア「なに? 翼、あなたまで緒川を……」クルッ

 

緒川「――フィリアさん、とても楽しそうな話をしてますね。僕も混ぜてくださいよ」

 

 

フィリア「……」フッ

緒川「逃しませんよ」フッ

 

響「あっ、フィリアちゃんが消えたっ! 緒川さんも消えたっ!」

 

翼「ふむ、この時間をも利用して修行とはフィリアも侮れないな。緒川さんとスピードで張り合えるとは流石だ……。――ところで、立花、何の話だったか?」

 

響「えっと、それはもちろん! ――あれっ?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ――月の欠片処理から約2週間【その2】――

 

クリス(なりゆき任せで一緒に手を繋いでしまったが、あたしはこいつらのように笑えない。いや、笑っちゃいけないんだ。あたしがしでかしたことからは一生目を背けちゃいけない)

 

響「どうしたの? クリスちゃん」

 

クリス(そうしなきゃ、あたしは……)

 

響「さっきから黙ってて……」

 

クリス(あたしは……)

 

響「わかった!  お腹空いたんだよね! わかるよ、わかる! マジでガチでハンパなくお腹すくとお喋りするのも億劫だもんねー! どうする?  あ、ピザでも頼む?  さっき新聞の折込チラシを見たんだけどね!」

 

クリス「んなわけねぇだろっ! お前、本当にバカだなっ! あたしは腹なんか空いて――」

 

フィリア「暇つぶしにりんごのケーキ焼いてたら、作りすぎちゃったわ。食べる?」

 

響「わーい、フィリアちゃんって本当にお菓子作り天才的だよねー。もう、胃袋掴まれてお嫁に行きたいよー」

 

フィリア「それ、絶対に未来の前で言っちゃダメよ。――クリスは食べるかしら……?」

 

クリス「おっおう、食べ――」

響「駄目だよ、フィリアちゃん。クリスちゃんは食べ物の話題をすると怒り出すくらい、お腹空いてないんだからっ! うわぁ、美味しー」モグモグ

 

フィリア「あら、そう。悪かったわね。じゃあ、残りは弦十郎にでも……」

 

クリス「うがーっ! お前は黙れっ! こらっ、そんなにがっつくな! あたしにもケーキを寄越しやがれっ!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ――月の欠片処理から約2週間【その3】――

 

 

クリス(昨日までにやらかした罪は簡単に償えるもんじゃない……。そいつをわかっているからこそ、あたしはもう逃げ出したりしない。そうだ……。あたしに安らぎなんて要らな……)

 

翼「…………」

 

クリス「くっ……」

 

クリス(この身は常に鉄火場のど真ん中にあって……、こそ――)

 

翼「じぃーっ……」

 

クリス(何で今度の奴はずっとだんまり決め込んでるだけなんだ?)

 

クリス「な、なんだよ?  黙って見てないで何か喋ったらどうだ?」

 

翼「――常在戦場」ドヤ

 

フィリア「怖いわよっ!」スパン

 

翼「痛いじゃないか、フィリア、なぜ頭を叩く」

 

クリス「フィリアっ……、こいつ、何なんだ? なんか、やべーぞ、いろいろと……」

 

フィリア「あなたね、クリスはこう見えて人見知りで、恥ずかしがり屋なんだから、もっと朗らかに接してあげなさい」

 

クリス「ちょっと、お前……」カァー

 

翼「ふっ、悪かったな。雪音……」ニマァ

 

フィリア「ちょっと、笑顔が怖いわよっ! なんで、それで芸能人やれてるのっ!?」

 

クリス「とっきぶつにはまともな人間は居ないのかぁぁぁっ!?」

 

フィリア「失礼ね! まともな人間くらい――。あっ……」

 

翼「なぜそこで言い淀む?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ――月の欠片処理から約2週間【その4】――

 

【かんげい。ゆきねくりすさん】

 

 

弦十郎「と言うわけで、改めての紹介だ。雪音クリスくん。第2号聖遺物イチイバルの装者にして心強い仲間だ!」

 

クリス「ど、どうも。よろしく……」

 

弦十郎「さらに、本日を持って装者3人とフィリアくんの行動制限も解除となる」

 

響「師匠!  それってつまりっ!」

 

弦十郎「そうだ!  君たちの日常に帰れるのだ!」

 

響「やったー!  やっと未来に会えるー!」

 

弦十郎「クリスくんの住まいはフィリアの借りていたマンションのままで良いのか?」

 

クリス「えっ、あっ、そうだな……、それでいい」

 

響「えっ、クリスちゃんって、フィリアちゃんにお家を貸してもらってたの?」ウリウリ

 

クリス「――そんなのお前に関係ねぇだろっ!」カァー

 

弦十郎「もちろん、 装者としての任務遂行時以外の自由やプライバシーは保証するぞ!」ドヤ

 

クリス「あっ……うっ……、ぐすんっ」ゴシゴシ

 

フィリア「そういえば、この前、あなたが合鍵を作れって言ってたから作っといたわよ。よほど寂しかったのね」ジャラ

 

クリス「そっ、それは確かに言ったけどよぉ……」

 

翼「なるほど!? 雪音はそれで涙してたのだな!」

 

フィリア「はい、これは翼の分」ジャラ

 

翼「うむ」

 

クリス「はぁ?」

 

フィリア「あと、響に、ついでに未来の分。そして、弦十郎に、緒川でしょ、あと友里に、藤尭……、それから」ジャラジャラ

 

響「おおっ! 合鍵がいっぱいだー! これで寂しくないね! 良かったね! クリスちゃん!」ニコッ

 

クリス「はぁぁぁぁっ!? 自由とプライバシーなんてどっこにも無いじゃねえかっ! てか、知らねぇやつのまであるのかよっ!」 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――月の欠片処理から約2週間【その5】――

 

サイレン『ビィー! ビィー!』

 

弦十郎「こいつはっ!?  ノイズの発生を知らせるものか!」

 

翼「行動制限は解除。ならばここからは防人の務めを存分に果たすまで!」

 

フィリア「はぁ、さっそく仕事ってわけね」

 

響「今日からは一緒に行こう!」

 

クリス「はぁ? お、お手て繋いで同伴出勤とか出来るものかよ!」

 

フィリア「あら、あたしとは一緒に出たりしたじゃない」

 

クリス「あれは、たまたま都合が……。こういうのは違うっていうか……」 

 

響「でも、任務だよ!」

 

クリス「だからって、いきなりお友達っていうわけには……」

フィリア「もういいでしょ。あたしとは友達なったんだから、一人二人増えたって」

 

響「そーだよっ、フィリアちゃんの友達なら、私とも友達だよっ、さぁ行こっ!」グイッ

 

フィリア「ちょっと、ホントに手を繋がなくっても……」グイッ

クリス「お前、責任とれよっ……。どうしてくれんだ、この状況!」グイッ

 

 

翼「何をやってる、三人とも!  そういうことは家でやれ!」

 

フィリア「家でもやんないわよっ」グイッ




台本形式だと、セリフだけになるので、これはこれで面白いです。
フィリアの一人称視点では表せないところも表現できますし……。
後編もよろしくお願いします!


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戦姫絶唱しないシンフォギアwithフィリア 後編

それでは後編のGが始まる少し前編をよろしくお願いします!


 ――Gが始まる少し前【その1】――

 

 

未来「そういえば、前から聞きたかったことなんだけど。戦いながら歌うって、あれはどういう仕組なの?」

 

フィリア「そういえば、あたしも気になってたわ」

 

響「うーん……。手っ取り早く言うと……、シンフォギアってカラオケ装置なんだよね」

 

未来・フィリア「「カ、カラオケ?」」

 

響「私もよくわかってないんだけど、シンフォギアから伴奏が流れると胸に歌詞が浮き上がってくるんだ」

 

未来「胸に歌詞が?」

フィリア「えっと、あたしが戦ってる横でいつもあなたたち、そんな愉快なことになってたのね……」

 

クリス「まあ、そういうこったな」

 

翼「歌詞もまた、装者が心象に描く風景に由来した物だと、かつて櫻井女史が言っていたな。思い返してみろ、《疑問、愚問で衝動インスパイア》なんてところなど、実に雪音らしい」

 

クリス「はあっ!?」

 

響「おまけに《羅刹インストール》だもんねー(笑)」

 

未来「やめなよ響。そんな《傷ごとエグる》ようなこと」

フィリア「傷というより、《見てはいけないもの》のような感じね。隠れて書いていた《恥ずかしいポエム》みたいな……」

 

クリス「がはっ! お、お前らぁぁっ!」

 

翼「ふむ。雪音はどこまでも奔放だな」

 

フィリア「でもね……、歌が心象由来ってことはあたしはあなたが一番心配よ。ごめんなさい、翼……、あたしがあなたを支えてあげなかったばっかりに……。あたしはあなたが不憫で仕方がないわ……」ズーン

 

翼「おっ、おい。フィリア? どうして、そんな悲しそうな声を出すんだ?」アセアセ

 

クリス「自覚がさっぱりかもしれないが、そっちの歌も大概なんだからな! あれが心象由来というのなら、そりゃあ、フィリアが心配するのも無理ないぞ!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ――Gが始まる少し前【その2】――

 

響「リディアン校舎移転に伴って」

 

未来「学生寮もお引っ越し。すみません、先輩に手伝いに来てもらって」

 

フィリア「気にしないで、暇だったから。このダンボール、こっちに置いとくわよ」ドサッ

 

響「という訳で!  さっそく二段ベットをカスタマイズ!  おりゃりゃりゃりゃりゃ……!」

 

未来「前の寮でもそうだったけど、響ってばこういうところ頑張るよね」

 

響「上の段で一緒に寝れば、下の段は収納スペースに使えて便利なんだよ」

 

未来「頓知の利いた収納術だね」

 

フィリア「でも、響、この部屋は前の寮よりずいぶん広いみたいだから、そんなに収納スペースは要らないんじゃ――はっ……」ゾクッ

 

未来「んっ、どうしましたフィリア先輩?」ニコニコ

 

フィリア「とはいえ、これから色々と物も増えるかもしれないし、スペースはあるに越したことないわね……」ドキドキ

 

響「そっ、そうだよねー。いやー、無駄なことしてるかと思っちゃったー」  

 

未来「……」ゴゴゴゴ

 

フィリア(未来の殺気が怖い……。笑顔がこれ以上なく怖いわ……)

 

 

響「フィリアちゃん、未来はね、私にとって陽だまりなんだー。だから未来の側が一番グッスリ眠れるんだよー。アハハハ!」

 

未来「響……」

 

響「だから、今晩も一緒に寝よう! 未来っ!」

 

未来「響ぃぃっ……」ギュッ

 

 

 

フィリア「はぁ……、あたし、もう帰ってもいいかしら?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――Gが始まる少し前 【その3】――

 

 

クリス「知らなかった……。とっきぶつのシンフォギア装者やってると小遣いもらえるんだな……」

 

フィリア「当たり前でしょ、命懸けでタダ働きなんてやってらんないわよ。あなたの部屋を借りたお金だってそこから出てるのよ」

 

クリス「うわぁっ、合鍵使うのはいいけど、勝手に入ってくんなよ」

 

フィリア「あなたが呼んだから来たんじゃない」

 

クリス「それでも、ベル鳴らすのがマナーだろうが」

 

フィリア「まさか、あなたにマナー云々を聞かされるとは思わなかったわ……」

 

クリス「うっ……、そんなことより、お前は給料は何に使ってんだよ?」

 

フィリア「えっ、貯金かしら……。光熱費も食費も弦十郎が出してくれてるし……。お菓子の材料もたまに買ってくれるし……。お金、使わないのよ、あたし」

 

クリス「なんだ、その実家暮らしの独身男みたいなセリフは?」

 

フィリア「むっ……、あたしのことは別にいいでしょ。何のために呼び出したのよ?」

 

クリス「いや、そのう。ちょっと、欲しいものがあるんだけどよぉ。それを買うのにお願いっていうか……」

 

 

 

弦十郎「フィリアくんが俺を買い物に誘うなんて珍しいと思ったが……、クリスくんも居るのか」

 

クリス「どーしても、おっさんじゃないと無理なことがあってな」

 

弦十郎「傑作アクション映画でも探してるのか? だったら、フィリアくんの知識も相当な――」

 

フィリア「御託はいいから行くわよ……」テクテク

 

 

弦十郎「ぶっ仏具店?」

 

クリス「へへっ。一番かっこいい仏壇を買いに来たぜ!」

 

弦十郎「意外というか、なんというか……。想像を絶する渋い趣味をお持ちのようで……」

 

フィリア「かっこいい仏壇の定義が分からないけど、高いものなんだから慎重に選ぶのよ……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ――Gが始まる少し前 【その4】――

 

 

弦十郎「だはぁぁぁ」

 

クリス「わりいなあ、でかい荷物を運ばせちまって。おかげで助かった……」

 

フィリア「まさか、むき出しで仏壇背負ってる人を見るとは思わなかったわ。このクーポン使えば、送料無料でここまで運んでもらえたのに……」

 

クリス「はぁ? じゃっ、このおっさんがやったことは……」

 

フィリア「正直言って無駄ね」

 

弦十郎「オイオイ、なんで早く言ってくれなかったんだ」

 

フィリア「理由ならあるわよ」

 

弦十郎「ほう、なんだ、言ってみろ」

 

フィリア「好奇心……、かしら」

 

弦十郎「君のそういうところ、今思えば了子くんの遺伝子をしっかり受け継いでる気がするぞ……。――しかし、なんだって仏壇なんか?」

 

クリス「あたしばっかり帰る家が出来ちゃ、パパとママに申し訳ねえだろ」

 

弦十郎「はっ!?」

 

フィリア「ここまでの帰り道、7回も職質されたかいがあったのかもしれないわね」

 

弦十郎「君がクーポンを出していれば、その苦労もなかったわけだが……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――Gが始まる少し前【その5】――

 

翼(いつか、世界を舞台に歌を歌ってみたい。だが、この身は剣。ノイズの災厄を振り払うその日までは、防人として戦場に立つのがさだめ……)

 

フィリア「翼!  仕事のオファーが来たわよ」

 

翼「なぜ、フィリアが私の仕事のオファーを……」

 

フィリア「緒川のやつが、休暇をもらったからあたしが代わりにマネージャーをしばらくやるのよ」

 

翼「そっ、そうなの? まぁ、フィリアなら心配ないけど……。それで、仕事の依頼って?」

 

フィリア「クイズバラエティへの出演依頼よ。一応ニューシングルの告知も出来るわ」

 

翼「ク、クイズって、私に何を求めての依頼なの!?」

 

フィリア「それはもちろん、風鳴翼がクイズ番組に出たら面白いからよ。お茶の間は新しい刺激を求めてるわ!」

 

翼「あっ新しい刺激? そんなの無理よ! 意味が分からないけど……」

 

フィリア「問題よ、万葉集にも歌われた九州沿岸の防衛のために設置された……」

 

翼「防人!」

 

フィリア「正解よ、やるじゃない翼」

 

翼「ふふっ、これくらい日常の基礎知識よ」ドヤ

 

フィリア「あなたの日常を想像すると、悲しくなってきたわ……」ショボン

 

翼「ちょっと、フィリア?」アセアセ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

フィリア「しかし、一問くらいで調子に乗らないことね。まぐれは二度続かないわ」

 

翼「なるほど、望むところだ」

 

フィリア「次の問題よ。長岡藩の藩是であり、かの連合艦隊司令長官山本五十六の座右の銘でもあった――」

 

翼「常在戦場!」

 

フィリア「ふぅ、正解ね。翼って意外とクイズ得意なのね。天然アイドル枠での依頼だったのに……」

 

翼「えっ?」

フィリア「……次の問題よ」

 

翼「いや、今、聞き逃してはいけないような、何かが……」

 

 

フィリア「問題よ。辻褄の合わないことを意味する矛盾とは、何物をも跳ね返す盾――」

 

翼「剣だ!」

 

フィリア「いいえ、 正解は矛よ。最後にいいセンスを出してきたじゃない」

 

「くぅっ!  そちらであったか! ん? センス?」

 

フィリア「こっ、こっちの話よ……。意外にいけるじゃない。正直、驚いたわ」アセアセ

 

翼「どうやら開花したようね。私の隠れた才能が……」

 

 

フィリア「じゃあ、出演オファーは受ける方向でスケジュール調整しておくわ」スタスタ

 

 

翼「って、あれ?  ちょっと、フィリア!?」

 

 

フィリア「翼、出演するって。これで、この前の件はチャラにしてくれるんでしょ?」フフン

 

緒川『ええ、ありがとうございます。また、よろしくお願いしますね』ニヤリ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――Gが始まる少し前【その7】――

 

“チーン、チーン、チーン、チーン……”

 

クリス「おはようさん。朝から騒々しくて悪いな。でも、騒々しいのは音楽一家らしいだろ?」

 

“パンパン!”

 

クリス「……」

 

クリス「悪い、待たせたな、フィリア。ん? なんだこれ?」

 

フィリア「弁当……。暇だったから作っといたわ……」

 

クリス「えっ……? あたしにか?」

 

フィリア「当たり前でしょう。――じゃっ、あたしもあなたのご両親に挨拶くらいしようかしら」

 

“チーン、チーン、チーン、チーン……”

 

“パンパン!”

 

クリス(パパ、ママ、こんなあたしにも友達が出来たんだ。これから、騒がしくなるかもしれねぇけど、あたしもパパとママの子だから……、騒がしいのは嫌いじゃないみたいだ)

 

フィリア「さぁ、学校へ行きましょ」

 

クリス「ああ、そうだな。――行ってきます……」




絶唱しないシンフォギアはどうでしたでしょうか?
書いてる側としては、こういう感じも息抜きが出来て楽しかったです!
また、ちょいちょい挟んでみたいと思います。
次回からのG編もよろしくお願いします!






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G編
黒いガングニール、そして……


遂に【G編】がスタートです。
今回からオリキャラを増やしますが、受け入れられるかどうか少し不安です。
それではよろしくお願いします!


「悪かったな、フィリア。緒川さんの代わりに付いてきてもらって……」

 

「別に構わないわよ。任務も響とクリスが元々担当であたしは待機だったし。それにしても、緒川が風邪引くなんて初めてね」

 

「後で何か見舞いの品でも買おう」

 

「そうね……。でも、今はライブを成功させることだけを考えなさい」

 

 今日は翼のライブなのだが、普通のライブではない。

 《マリア=カデンツヴァナ=イヴ》――デビューからたった二ヶ月で全米ヒットチャートの頂点にまで上がった超大物アーティストとのコラボレーションライブなのだ。

 

 もちろん、緒川がマネージャーとして同行するはずだったのだが、彼が突然、風邪を引いて寝込んだ。熱くらいで動けなくなる彼ではないが、翼に感染すわけにもいかないので、彼の休暇中にマネージャー業を代行してた私が翼に同行することとなった。

 

「しかし、立花たちは上手くやっているだろうか?」

 

「あら、こんなときまで、後輩の心配とはあなたらしいのね。大丈夫よ。彼女たちだって、もう一人前なんだから、信じてあげなきゃ」

 

「ふっ、そうだな。少々彼女らに失礼なことを言った……」

 

 立花響と雪音クリスは今、任務にあたっている。

 特異災害対策機動部と、米国連邦聖遺物研究機関F.I.S.が協力体制をとり、最優先の調査対象としている《サクリストS》、つまり《ソロモンの杖》を米軍岩国ベースまで搬送する任務を彼女らは預かっているのだ。

 

 《ソロモンの杖》とは、フィーネが使っていた《ノイズ》を召喚する、あの杖の名称である。

 

 F.I.S.の研究者で生化学者のジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス博士――通称ウェル博士によれば、《ソロモンの杖》の解析こそが、《ノイズ》への新たな対抗手段発見への近道とのことである。

 

 あたしはこのウェル博士との面識はないが、顔写真は見た。

 うーん、どっからどう見てもあの大馬鹿者にそっくりなのよね……。まぁ、世の中には似ている人間が三人は居るって言うけれど……。

 で、今回の搬送任務にはこのウェル博士とやらの護衛も含まれているらしく、響たちは目下任務遂行中なのである。

 

「それより、翼……」

 

 あたしが翼に話しかけようとしたその時である。

 

 ノックの音が聞こえた。

 

「はい、どうぞ」

 

 あたしは返事をすると扉が開き、二人の女性が入ってきた――。

 

 一人は本日の主役のひとり、マリア=カデンツヴァナ=イヴ。ピンク色のロングヘアに青い目の凛とした表情のスタイルの良い女性だ。

 

 もう一人は銀髪のポニーテールで琥珀色の目をした女性。黒いスーツに白いシャツを着ていて彼女のマネージャーのように見えた。彼女もマリアに劣らずスタイルがいいわね。なんか、ムカつくわ……。

 

 二人とも翼よりも長身で、欧米人って感じだった。

 

「きゃー、マリアちゃん。本物の風鳴翼よ、ツバサが目の前にいるなんて、興奮しなーい?」

 

「フィアナっ! はしゃぐな、みっともない! あなたは仕事をキチンとしなさい」

 

「はいはい。もうマリアちゃんはノリが悪い子なんだからぁ。本日、共演させていただきます、マリア=カデンツヴァナ=イヴと、その美人マネージャーのフィアナ=ノーティスでーす。今日はお互いにいい仕事をしましょー」

 

 フィアナはニコニコしながら、名刺を翼に渡した。

 

「これは、ご丁寧に。風鳴翼です」

 

 翼は名刺を受け取り挨拶を返す。

 

「ツバサちゃんって、実物で見るほうが断然可愛いのねー。モテるでしょー?」

 

「いえ、私は別に……」

 

「うっそー、駄目よ、女の子は恋してそして、美しくなるのよっ。――っ、痛ったーい。何するの? マリアちゃん」

 

 ズイッと顔を近づけて、訳のわからないことをまくしたてるフィアナを見かねたマリアは彼女の頭を小突いた。

 

「余計なことを言わないっ! ――今日はよろしく。せいぜい私の足を引っ張らないように頑張ってちょうだい」

 

 髪をなびかせながら高飛車な態度をとるマリアからは大物のオーラを感じた。

 さすがは全米トップに登りつめたアーティストね。

 

「ごめんねー。マリアちゃんったら、ケータリングが美味しかったら急に強気になるのよぉ」

 

「本当に黙りなさい」

 

「ああん、ツバサさんともっとお話したいのにー」

 

 フィアナはマリアに引きずられるようにして、退室して行った。なんか、強烈だった。いろんな意味で……。

 

「で、どうだった? 今夜のもう一人の主役の第一印象は?」

 

 あたしは翼にマリアの印象を尋ねてみた。

 

「なんというか、こう、可愛いタイプだな」

 

「ん? 可愛いタイプ? そうかしら?」

 

 翼の印象にあたしは首をひねる。

 

「彼女はこう、散らかった部屋を片付けられずに、べそをかいているような――手がかかるけれど、かわいいタイプに違いない」

 

「何それ? 似たもの同士ってこと?」

 

 どう考えても、それは翼自身というような印象だったのであたしはそんなことを言ってしまった。

 

「うっ……、そっそれは……。しかし、私が気になったのはマネージャーの方だ。彼女はフィリア、君に実に似ている」

 

「はぁ? 全っ然違うわよ。そりゃあ髪の色と目の色は同じかもしれないけど、性格は全く別でしょ」

 

 あたしは不本意なことを翼に言われて反論した。

 

「いやいや、内面も似てるぞ。世話焼きで、優しいところとか。余計なひと言が多いところとか……」

 

「あなたがあたしのことをどう思ってるのかはよーくわかったわ。あんな、マネージャーのことはどうでもいいから、マリアに負けないように頑張りなさい」

 

 あたしは腑に落ちないが飲み込んで、翼に檄を飛ばした。

 

「ああ、彼女と歌で通じ合える。そんなステージにしたいものだ」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

『この盛り上がりは皆さんに届いていますでしょうか? 世界の主要都市に生中継されているトップアーティスト二人による夢の祭典! 今も世界の歌姫マリアによるスペシャルステージにオーディエンスの盛り上がりも最高潮です!』

 

「状況はわかったわ。翼には……」

 

『そうだな。《ノイズ》の襲撃と聞けば今日のステージも放り出しかねない』

 

「ええ、あたしはいつでも出られるように準備しておくわ」

 

 あたしは弦十郎からの電話を切った。まさか、《ソロモンの杖》を搬送した米軍基地に《ノイズ》が襲撃とは……。

 嫌な予感がするわね……。

 

「司令からは一体何を?」

 

「今日のステージを全うして欲しい、と言ってたわよ」

 

 あたしは翼の質問をはぐらかした。今日は彼女に仕事を放棄させるわけにはいかない。

 

「はぁ、お前は自分の表情の変化に乏しいと思っているかもしれないが……。その瞳に宿る力の変化に長年の付き合いの私が気付かないはずがなかろう」

 

 一瞬で翼に嘘がバレた。まったく、あなたくらいよ、そんなことがわかるなんて……。

 

「ふぅ、かなわないわね。お手上げよ。でも……」

 

「お時間そろそろでーす。お願いしまーす」

 

 あたしが口を開いたとき、係の人が翼にスタンバイをお願いした。

 

「はい。今行きます。あっ……」

 

 そして、翼は反射的に返事をする。やっぱり、あなたは……。

 

「今日はあなたの歌を聞きに来た人たちに歌を捧げる風鳴翼でいてあげて。こっちはあたしに任せなさい」

 

「不承不承ながら了承しよう。詳しいことは後で聞かせてもらうぞ、フィリア……」

 

 あたしが声をかけると、翼は覚悟を決めた表情でステージの方へ向かった。

 

 ええ、今日は思いっきり楽しんで、みんなに希望を与えなさい!

 

 ――QUEENS of MUSIC――

 

 “Maria & Tsubasa”

 

 イントロが流れてきてライブの始まりを告げる。

 

『3、2、1 Ready go Fly!』

 

 爆音とともに翼とマリアが派手に登場する。

 

『果てなき――♪ 譲れない――♪ ――不死なる――』

 

 出だしから会場は大盛り上がりで、この場に遅れている響とクリスが可哀想なくらいだ。

 

 サビまで行くと、熱気が舞台裏まで届いて最高潮の盛り上がりを見せた。

 

『――Phoenix so――♪』

 

 そして、一曲目の不死鳥のフランメを二人は歌い終えた。

 

「ありがとう、みんな!」

 

「「ワァーッッッ」」

 

 翼の言葉に大歓声が返事をする。

 

「私はいつもみんなからたくさんの勇気を分けてもらっている。だから今日は私の歌を聞いてくれる人たちに少しでも勇気を分けてあげられたらと思っている」

 

「「ワァーッッッ」」

 

 翼は観客たちに感謝の気持ちを告げている。やっぱりあなたの歌には素晴らしい力があるわ。

 

「私の歌を全部世界中にくれてあげる! 振り返らない、全力疾走だ! ついてこれる奴だけついてこいっ!」

 

「「ワァーッッッ」」

 

 マリアも負けじとマイクパフォーマンスをする。彼女の歌も凄い力を感じた……。

 

「今日のライブに参加出来たことを感謝している。そしてこの大舞台に日本のトップアーティスト風鳴翼とユニットを組み、歌えたことを――」

 

 リップサービスなのかもしれないが、彼女は翼を称えるような言葉を発していた。

 

「私も素晴らしいアーティストと巡り会えたことを光栄に思う」

 

 翼もマリアを認めて、二人は固い握手をする。

 

「私たちは世界に伝えていかなきゃね。歌には力があるってことを……」

 

 マリアは歌の可能性について語り始めた。

 

「それは世界を変えていける力だ」

 

 翼もそれに同調する。翼の言うとおり似た者同士だったのかもしれないわね……。

 

「そして……、もう一つ!」

 

 マリアがスカートを翻す……。

 

「なっ……、まさか、どうして?」

 

 あたしは目を疑った。なんと、ステージの周りに次々と《ノイズ》が召喚されたのだ。

 

 当然、観客席はパニックになる……。なんてことをしてくれたの……。

 

「うろたえるなっ!」

 

 マリアはそう言い放つ。

 

 くっ、《ノイズ》が動かないってことは制御出来てるってこと。つまり、観客は全員人質……。これじゃ迂闊に攻撃できない。

 

 あたしは何とかこの状況を打破できないか思案した……。

 

 そうだ……、あの、マリアを《ノイズ》をけしかけるよりも、疾く取り押さえることが出来れば……。あたしのスピードなら、何とかできるはず。

 

「コード……」

「おっとぉ、駄目よぉ、お嬢ちゃん。妙なことをすると……、わかってるでしょぉ」

 

 背後にはフィアナが立っていて、あたしにゆっくり忠告する。

 

 ちっ、あたしの情報も漏れてるってこと? 翼、無茶したらダメよ……。

 

 あたしは翼に取り付けている通信機がオンになったのを確認して、向こうの様子を音声を聞きながら見ていた。

 

『怖い子ね。この状況にあっても私に飛びかかる気を伺っているなんて、でも逸らないの。オーディエンスたちがノイズからの攻撃を防げると思って?』

 

『くっ……』

 

 翼はマリアに反撃する機会を伺っていたようだ。

 

『それに、ライブの模様は世界中に中継されているのよ。日本政府はシンフォギアについての概要を公開しても、その装者については秘匿したままじゃなかったかしら?  ねぇ?  風鳴翼さん』

 

『甘く見ないでもらいたい。そうとでも言えば、私が鞘走ることを躊躇うとでも思ったか?』

 

 いや、あなたが全世界にシンフォギア装者ってバレるわけにはいかないわ……。

 

『ふふっ。あなたのそういうところ、嫌いじゃないわ。あなたのように誰もが誰かを守るために戦えたら……。――世界はもう少しまともだったかもしれないわね』

 

『なんだと……?  マリア=カデンツァヴナ=イヴ、貴様は一体……?』

 

 本当に何が目的なの? この子たち……。

 

『そうね。そろそろ頃合いかしら? 私たちはノイズを操る力を持ってして、この星の全ての国家に要求する!」

 

『世界を敵に回しての口上!?  これはまるでっ!』

 

「宣戦布告ってことかしら?」 

 

「ピンポーン、大正解でぇす」

 

 フィアナはニヤニヤ笑いながらそんなことを言ってくる。

 イラっとするわね……。

 

『そして……』

 

 マリアはマイクを放り投げた。

 

『Granzizel bilfen gungnir zizzl……』

 

『バカなっ!?』

「嘘でしょ……。まさか、聖詠を……」

 

 マリアは聖詠を唱えて変身を始めた……。間違いない。あれはシンフォギアだ……。

 

 しかも、あのギアは……。

 

「黒いガングニールって……。何の冗談よ……」

 

「私は……。私たちはフィーネ。そう――終わりの名を持つ者だっ!」

 

 マリアは自分たちの組織の名を名乗る……。よりによって、《フィーネ》とは……。

 あたしの最低の母親の名前じゃない……。

 

「うはぁっ、マリアちゃんカッコいいわぁ! あのキメ顔、最高でしょ?」

 

「うるさいわね! こんなこと許されないわよ!」

 

 あたしはフィアナに向かって怒鳴った。こんな奴らに主導権を取られるなんて……。

 

「そう怒らないの、フィリアちゃんって、()()()短気なんだから……。これを使いこなせなかったときも、怒ってばっかりだったわ……」

 

「昔から? あなた、何を……? そっ、それはギアペンダント!?」

 

 あたしを昔から知っている風な言葉に驚いたが、それ以上にフィアナが胸からギアペンダントを取り出した事にはもっと驚いた。

 

「phili joe harikyo zizzl……」

 

 そして、彼女は当然のように聖詠を唱え……、変身し……、鏡のように銀色に光るシンフォギアを身に纏った……。

 




新キャラのフィアナは如何でしたでしょうか?
彼女のギアはフィリアの核と同じ聖遺物の浄玻璃鏡で出来ています。
デザインは同じ鏡のシンフォギアの神獣鏡に近い感じのイメージで、色はミラージュクイーンと同様の銀色です。
聖詠は一応、「愛の為に生き、そして死ぬ」みたいな意味合いを込めています。
次回もよろしくお願いします!






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銀髪の人形VS銀髪の装者

原作2話の中盤くらいまでです。
それではよろしくお願いします。


「フィリアちゃん、まさか、人形になっちゃってるとは思わなかったけど……。久しぶりに会った私まで忘れてるって、さっきは割とショックだったわぁ……。しくしく……」

 

「――よく、あたしのことを調べてるようね。あなたは誰? なんで、あたしのことを知っているの?」

 

 泣き真似をしながら、あくまでも知り合いだったような口調を崩さないフィアナ。

 彼女はあたしが人形ということを知っている。

 その上、ギアまで纏ってあたしと対峙するってことはこっちの戦力がシンフォギアに近いことくらいは知っているということだ。

 

「うーん、教えてあげてもいいけどぉ。今ってフィリアちゃんは敵側だからなぁ。そっちを裏切って、私たち側につけば教えてあげるわよぉ」

 

「寝言は聞かない主義よ」

 

「ふふっ、やぁっぱりフィリアちゃんはフィリアねぇ……。ノリが悪いぞぉ」

 

 あたしは彼女がどう動いても対処出来るように身構えていた。しかし、人質を盾にされると……。

 

 

 

 

『我ら武装組織フィーネは各国政府に対して要求する。そうだな……。差し当たっては国土の割譲を求めようか!』

 

『バカな!?』

「そんなことが出来るはず……」

 

 あたしが目の前のフィアナに気を取られていたら、マリアが無理難題な要求を突きつけてきた。

 

『もしも24時間以内にこちらの要求が果たされない場合は……、各国の首都機能がノイズによって風前となるだろう!』

 

『どこまでが本気なのか?』

 

 マリアは24時間で無茶を通せと言っている。何考えてるのこの子……。

 

「狂ってるわね」

 

「そう、私たちは正気じゃあないのよぉ。だからこそ、美しいと思わなぁい?」

 

 笑みを浮かべながら戯言を放つフィアナ。

 この女、楽しんでる? この状況を……。

 

 

『私が王道を敷き、私たちが住まう為の楽土。素晴らしいと思わないか?』

 

『何を意図しての騙りか知らぬが……』

 

『私が騙りだと?』

 

『そうだ!  ガングニールのシンフォギアは貴様のような輩に纏える物ではないと覚えろ!』

 

 翼もマリアの要求に怒っていた。無理もない。ガングニールの装者がこんなことをするなんて彼女にとって許されることではないのだ……。

 

『Imyuteus ameno……』

 

「いいわよぉ、止めてきて」

 

 フィアナは聖詠を唱えようとする翼を止めるように促す。くっ、この女の言うとおりに動くのはしゃくだが……。

 

「――っ。待ちなさいっ! 翼っ! 今動けば、風鳴翼がシンフォギア装者だと全世界に知られてしまうわ!」

 

『でも、この状況で!』

 

 

「風鳴翼の歌というのはね、みんなに希望を与える歌なのよ。剣のように敵を倒すだけじゃない!」

 

『くっ……』

 

 翼はなんとかシンフォギアを纏うことを踏み止まってくれた。しかし、それはそれで危険な状況だ……。

 生身で装者に敵うはずがないのだから。

 

『確かめたらどう?  私が言ったことが騙りなのかどうか……。――ふふっ、それなら、会場のオーディエンス諸君を解放する。《ノイズ》に手出しはさせない。速やかにお引き取り願おうか』

 

 なんと、マリアは人質をいきなり解放すると言い出した。

 

「あの子……、何を言ってるの? 人質をこのタイミングで解放するなんて……」

 

「あーあ、マリアちゃんの悪い癖が出たわねぇ。あの子も優しいんだからぁ」

 

 フィアナはやれやれという表情を浮かべるだけで特に動くことはなかった。この子もどうかしてるわね。

 

 

 

『何が狙いだ?』

 

『ふっ、このステージの主役は私。人質なんて私の趣味じゃないわ』

 

 当然、翼もマリアに意図を問うが、彼女は人質は自分の流儀に合わないとか言っている。よく言うわ……。

 

 

「人質とされた観客たちの解放は順調よ、けど……」

 

『わかっている。こちらも二つの聖遺物のアウフヴァッヘン波形をキャッチした。まさか、君や響くん以外から浄玻璃鏡とガングニールの……。しかも、シンフォギアが……』

 

 

「そうね、あたしも驚いたわ。でも人質がいないなら問題ない。翼の方もあたしが何とかしてみせる」

 

『現状、自由に動ける君だけが頼りだ。敵の実力は未知数……。気をつけろよ』

 

「了解……」

 

 あたしが弦十郎と電話をしても黙って見ているだけのフィアナ。ホントにどういうつもりなのかしら。

 

「もう、終わったかしらぁ?」

 

「ええ、怪我したくなかったら、そこを退きなさい。これから行かなきゃならないところがあるのよ」

 

「うふふ、それを私が許すとでもぉ? マリアちゃんの邪魔はさせないわ」

 

 フィアナのシンフォギアから多数の銃口が出てきてエネルギーが充実していく――。

 

「そう、じゃあ勝手に通らせてもらうわ……」

 

「――よーく狙ってぇ、ずどーん」

 

 ――破閃――

 

 フィアナの肩と腰から紫色の光線が幾重にも渡って照射される。

 そして、光に当たった物質は砕けて弾け飛ぶ。

 

 クリスと似た遠距離型で手数が多いタイプ……。

 

「コード、ミラージュクイーン、マナバースト」

 

 ――神焔一閃――

 

 あたしは光線を避けつつ、ミラージュクイーンに炎を纏わせて強力な一撃を放つ。

 

 しかし、フィアナはギアの背中に付いている噴射口からレーザーを噴射して空中に浮かび上がり、それを躱す。

 

「ふーん、フィリアちゃんも強くなったのねぇ。どうやってもギアを纏えなかったあなたが、力を手に入れるために人の姿を捨てるなんて。あなたも十分、狂ってるわぁ」

 

「好きでこんな姿になっちゃいないわよっ!」

 

「ホントにそぉかしら? 今度は大きいの行くわよぉ」

 

 ――流閃――

 

 フィアナが両手をかざして巨大な赤い光線を放つ。

 

「ちっ、コード、ファウストローブ……」

 

 ――雷獣ノ咆哮――

 

 あたしは錬金術で作った雷撃を放ってフィアナの光線を相殺する。

 

 何なの、この子の火力……。ファウストローブを纏ったあたしの錬金術と互角?

 

「へぇ、それがあなたの纏う鎧なのねぇ。その形状はギアを纏えなかったコンプレックスかしらぁ?」

 

「だから、知らないわよっ」

 

 この女に構っている暇はない。早くあの場所に向かわないと……。翼の身が危ないわ……。

 

「だから行かせないわぁ」

 

 ――破閃――

 

 フィアナはさっき以上に紫色のレーザーを乱れ撃ってきた。

 

「捉えたわよぉ。――えっ? 消えた?」

 

 ――仙舞影歩(センブエイホ)――

 

 緒川の忍術を参考に編み出した、残像を残しながら移動する、独特の歩法……。

 

 こういう苦手なタイプと戦うことを想定して覚えた新しい技よ……。

 

「えー、すっごぉい。フィリアちゃんって、ニンジャだったんだぁ。――って、待ちなさぁい」

 

「待つわけないでしょ……」

 

 あたしは音速を超えた最高速度で目的地を目指した――。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翼はマリアに追い詰められ、全世界にシンフォギア装者だということを晒す覚悟で聖詠を唱えようとしていた。

 

『聞くがいい!  防人の歌を!』

 

『Imyuteus amenohabakiri tron……』

 

 ――ふぅ、ギリギリセーフね……。

 

「安心なさい、翼! 全世界への中継は遮断したわ。シンフォギア装者だと世界中に知られて、アーティスト活動が出来なくなってしまうなんて、風鳴翼の友人として見過ごすわけにはいかないもの!」

 

『フィリアっ……! 感謝するっ!』

 

「ええ、ちょっと煩いのを片付けたら助太刀にいくわ」

 

 あたしは何とか制御室に辿り着いて、中継を切ることに成功した。

 

「あらあら、やってくれたじゃなぁい。まっ、いいわ。あっちはあっちで何とかするでしょ。私は私の仕事をこなすだけよぉ」

 

「へぇ、あなたの仕事? それは何なの?」

 

「もっちろん、フィリアちゃんをー、ボコボコにしてぇ。連れて帰ることよぉ」

 

 フィアナはシャドーボクシングのような仕草をした。

 あたしを連れて帰るですって? ホントにこの子……。

 

「舐めないでちょうだい……」

 

「えっ? ――きゃっ!」

 

 あたしは一瞬でフィアナとの間合いを詰めて、殴り飛ばす。

 

「あなたの技は遠距離特化……、こうして距離を詰めての攻撃には弱いみたいね」

 

「たったあれだけの戦いで見切られちゃうなんてぇ。ショック大きすぎぃー。でもぉ、こんなのはどうかしらぁ?」

 

 フィアナがニタリと笑いながら右手を明後日の方向にかざす。

 あたしがその手のかざされた方向を見ると、そこには逃げ遅れたのか、二人の少女が立っていた。

 

 一人は金髪でショートカットで黒っぽい服を着ていて、もう一人は黒髪のツインテールでピンク色の服を着ていた。

 

 まさか、この子、彼女たちを……。

 

「さぁて、優しいフィリアちゃんはぁ、こうするとぉ、どぉするのでしょうか?」

 

 フィアナの手にエネルギーが集まって、赤い光線が放たれた――。

 

「くっ、二人ともっ、伏せなさいっ」

 

 あたしは二人の少女と赤い光線の間に飛び込み――まともに攻撃を受けてしまった……。

 

「あーあ、当たっちゃったわねぇ……。これでおしまぁい……」

 

「何をバカなことをっ――なっ――ファウストローブが……、身体が……」

 

 あたしのファウストローブが突然弾けて、剥がれてしまう。そして、エネルギー切れでもないのに、核からのエネルギーの供給が乱れて力が出なくなってしまった。

 くっ、立ち上がるのもままならない……。

 

「人の優しさに付け込んで攻撃なんて卑怯デスよ、アナ姉」

 

 金髪の少女はフィアナに抗議するように声を出した。あなたたち仲間だったの? それじゃ、あたしはまんまとこの女に嵌められたってわけね……。

 

「あらぁ、切歌ちゃん、私たちは悪の組織なんだからぁ、卑怯もらっきょうもないんじゃあないかしらぁ?」

 

「ううっ、それはそうデスけど……」

 

 ちょっと、簡単に言いくるめられてんじゃないわよ。

 

「このお人形がホントにリア姉なの……?」

 

 黒髪の子はじぃーっとあたしの瞳をまっすぐに見ながら、フィアナに尋ねる。『リア姉』って誰よ!

 

「そうよぉ、調ちゃん。だからドクターの調節した私の浄玻璃鏡を制御する光線がこんなに効いてるのぉ。さすがはドクター、ああ、ドクターは私を褒めてくれるかしら? 力強くドクターに抱きしめられたいわぁ」

 

 フィアナは自分の世界に入ってしまったような感じで、目をキラキラさせながら天を仰いだ……。

 翼、あたしは絶対にこんな子と似てないわよ……。

 

「さいデスか……。アナ姉は男の趣味が悪いデス……」

 

「リア姉……、私たちをまた守ってくれた……」

 

 切歌と呼ばれた金髪の子は呆れた顔をして、フィアナを見て、調と呼ばれた黒髪の子はまた、あたしを『リア姉』と呼んでこちらを見つめていた。

 

 浄玻璃鏡の制御光線なんてものがあるなんて……。

 

「んじゃ、切歌ちゃんと調ちゃんはマリアちゃんを手伝ってあげなさぁい。私はフィリアちゃんを連れてくから」

 

「了解デス」

「わかった……」

 

 くっこのまま、こいつらの好きにさせてたまるか……。

 

「無駄よぉ……、浄玻璃鏡から出るエネルギーの量を制御したんだから……。まだ、抵抗するならもう一発くらい……」

 

「舐めるんじゃ……、ないわよっ……」

 

 あたしはフィアナに掴まれた腕を合気道の要領で投げ飛ばした。

 

「油断しちゃったぁ……。諦めが悪いのも、昔のままねぇ」

 

「知った風な口を利くなっ! コード、ミラージュクイーンっ!」

 

 あたしは何とかエネルギーの乱れを調節して、ミラージュクイーンを出現させる。

 まだ、エネルギーの運用が本調子じゃない……。

 ファウストローブを使うのは危険……。

 

「へぇ、もう動けるようになったんだぁ。これはドクターに報告しなきゃ。――じゃっ、第二ラウンド開始していいかしらぁ。すぐ終わっちゃいそうだけどぉ」

 

 フィアナは両手にエネルギーを充実させながら、余裕の笑みを浮かべた。

 

 




フィアナのギアは遠距離特化の火力重視という尖った性能です。
彼女の想い人はあのドクターで彼に褒められる為に頑張ってます。
次回もよろしくお願いします。


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天敵

原作3話の序盤くらいまでです。
それではよろしくお願いします。


「あはははっ! 威勢よく立ち上がったのに逃げるのが精一杯みたいねぇ」

 

 フィアナは身体中から光線を乱れ撃ちしてくる。紫色の光線は派手に物質を破裂させるし、赤色の光線はもっと危険だ。

 

 あたしはこの女との決定的なほどの相性の悪さを感じていた……。

 

 少しなら錬金術を使っても大丈夫かしら……? いや、やはり今は控えたほうが……。

 

 残像を繰り出しながら、素早い動きで的を絞らせないようにして、あたしはとにかく走った。

 

 ――翼のいる方向が騒がしくなっているようね……。

 なるほど、響とクリスと合流したのは良いけど、あの切歌と調という子もシンフォギア装者で、三対三の戦いになっているみたい。

 

 まるで、シンフォギア装者のバーゲンセールね。

 

 

「それなら、四対四になっても――」

 

 あたしは翼たちとの合流を目指した。とにかく、こいつらに捕まるようなことがあれば致命的だ。

 あたしだけの死なら受け入れるが、悪用されて他人にまで被害が及ぶことには耐えられない。

 

 この女はあたしにとっては天敵だが、他の装者からするとそうでもないはずだ。

 少なくとも翼が負けるイメージはなかった。

 

 そういう打算も働いて、あたしは全力で逃げに徹したのである。

 

 

 

 ――そして、やっとステージ上まで辿り着いた……。

 ん? 響はなんで棒立ちなの?

 

 

 

 

「私は困ってる皆を助けたいだけで……。だから!」

 

「それこそが偽善! 痛みを知らないあなたに、誰かの為になんて言って欲しくない!」

 

 ――γ式 卍火車――

 

 調はヘッドギアの左右のホルダーから巨大な回転鋸を二枚、響に向って放った。

 

「響は痛みを知っている! 何も知らないあなたが、この子の行為を偽善だなんて言うんじゃないわよっ」

 

 あたしはミラージュクイーンで二枚の回転鋸を叩き落とした。

 

「――っ。リア姉……。どうして……、あの人を……」

 

「調っ! リア姉は記憶がないんデスっ! 今は敵だってマリアがっ」

 

 調がうつむき、攻撃をやめると切歌は彼女のもとに駆け寄ってあたしの記憶喪失のことを話していた。

 

 これじゃ、まるであたしが彼女らと……。

 

「フィリア、無事だったか。途中、かなり危なかったようだったから心配したぞ」

 

 翼もあたしの通信を聞いていて心配していたみたいだ。

 

「ええ、妙な攻撃を受けてしまって……。本調子の力が出ないのよ」

 

 あたしは赤色の光線を受けて力を出しきれない現状を話した。

 

「なるほど、おっさんの言ってたもう一人の装者があの女か……。本調子じゃねぇなら、あたしらに任せな。一人くらい増えてもどーってことねぇぜ」

 

「ありがたいけど、疲れはないからもう少し戦わせてもらうわ……」

 

 ミラージュクイーンを構えて、あたしはクリスにそう返した。

 

 

 その時、巨大な光とともに大型の《ノイズ》が出現した。

 

 

「うわぁ……、何?  あのでっかいイボイボ……」

 

 《ノイズ》の形状はブニブニとした形に無数のイボが付いている感じで、不気味だった。

 

「増殖分裂タイプ……」

 

「こんなの使うなんて聞いてないデスよ!」

 

「あらぁ、可愛らしいわぁ」

 

「マム?」

 

 敵側の四人も予定外だったらしく、反応は様々だ。

 つまり、糸を引いてる上が近くに居るっていうことね。

 

 

「わかったわ……」

 

 マリアが何やらつぶやき、両腕を合わせるとパーツが変形して奏のアームドギアを彷彿とさせる槍形の武器が出来た。

 

 

「アームドギアを温存していただとっ!?」

 

 どうやら、この戦いで初めてアームドギアをマリアは使ったらしく、翼は驚いていた。

 

 ――HORIZON†SPEAR――

 

 槍に強大なエネルギーを込めて、それを巨大な《ノイズ》に向って放った。

 

 

「おいおい、自分らが出した《ノイズ》だろ?」

 

「じゃあ、フィリアちゃん! あなたをもう一度、仲間にするのはぁ、また今度のお楽しみにしとくわぁ」

 

 クリスの疑問もそのままに、マリアたちは去ってしまった。

 

「ここで撤退だと!?」

 

「せっかく温まってきたところで尻尾を巻くのかよ」

 

「あっ! 《ノイズ》が!」

 

 砕け散った《ノイズ》はまだ機能を失っておらず動いていて、さらに大きくなった。

 

 ミラージュクイーンで攻撃するも、分裂してドンドン数が増えていく。何この、キリがない感じ。

 

 

「待て、フィリア。こいつの特性は増殖分裂だ」

 

「ほうっておいたら際限ないってわけか、このままじゃここから溢れ出すぞ!」

 

「それはまずいわ。会場のすぐ外には避難したばかりの観客たちが居るの。《ノイズ》をここから出すわけには……」

 

 そう、このままだと外の観客に被害が及ぶ可能性が高い……。

 

「観客!?」

 

「迂闊な攻撃では増殖と分裂を促進するだけ……」

 

「どうすりゃいいんだよ!?」

 

 だからと言って斬ったり撃ったりだと効果は薄い。ならば……。

 

「コード、ファウストローブ……」

 

 身体の違和感が凄いけど、ファウストローブを何とか身に纏う。

 

「あたしが燃やし尽くすわ」

 

 ――不死鳥ノ皇帝(カイザーフェニックス)――

 

 炎を錬成して火の鳥を――って……。

 

「ぐっ、エネルギーは十分なのにっ……」

 

 錬成を開始してすぐにファウストローブは弾けて消えてしまった……。

 

「おい、無理はするな。他の方法を……」

「そんなの、簡単に――」

 

 あたしが翼に反論しようとしたとき……。

 

「絶唱……、絶唱です」

 

 響が口を開いた。

 

「あのコンビネーションは未完成なんだぞ?」

 

「うん」

 

「増殖力を上回る破壊力にて一気殲滅。立花らしいが理には適っている」

 

「おいおい、本気かよ?」

 

 まさか、アレを実戦で使うの? 確かにアレならば……。

 

 

「「よしっ」」

 

 響が、二人と手を繋ぐ。これで準備が完了だ。

 

「行きます!  S2CAトライバースト!」

 

「スパープソング!」

 

「コンビネーションアーツ!」

 

「セット!  ハーモニクス!」

 

 虹色の光が出現して《ノイズ》をどんどん消し去っていく。

 

 しかし、響にエネルギーが集中し、彼女は苦悶の表情を浮かべる。

 

「耐えろ、立花っ!」

 

「もう少しだッ!」

 

 S2CAトライバースト――装者3人の絶唱を響が調律し、一つのハーモニーと化す……。それは手を繋ぐことをアームドギアにする響だけしかできない大技。しかし、その負荷は響だけに集中してしまう……。

 

 

「うぉぉぉっ――」

 

 虹色の光がさらに大きくなる。

 

「今だ!」

 

「レディ!」

 

 響の右手に虹色の光が集まっていく。

 三人分の絶唱のエネルギーを拳に込めた響……。

 

「ぶちかませ!」

 

「これが、私たちのっ! 絶唱だぁぁぁぁぁっ!」

 

 響はそのエネルギーの込められた拳を《ノイズ》にぶつける。

 エネルギーが解放されて、虹色の竜巻が天空へと登っていき、巨大な分裂型《ノイズ》は跡形もなく消滅した。

 

 恐ろしい技を使うようになったわね……。あの力はどうやってもあたし一人じゃ出せる気がしないわ。

 

 

「無事か!?  立花!」

 

「へいき……、へっちゃらです!」

 

 ぺたりと座り込む響に翼が話しかける。響の目には涙が溜まっていた。

 

「へっちゃらもんか!  傷むのか?  まさか、絶唱の負荷を中和しきれなくて?」

 

 クリスも心配そうに響に声をかける。彼女は身体的に異常があるわけじゃなさそうね。

 

「私のしてることって偽善なの――」

「偽善なんかじゃないわ。ホンモノよ」

 

「フィリア……ちゃん?」

 

 驚いた顔の響とあたしの目が合った。

 

「あなたのまっすぐな意志は本物だって言ってるの。知らない人の言葉を真に受けすぎよ。自分を信じなさい」

 

「ありがとう……、でも……、もう少し考えてみるよ……」

 

 かなり心が堪えてるみたいね……。

 しかし、あたしも困ったことになったわ。あの光線は本当にあたしの天敵よ……。

 何か手を打たないと……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 あれから一週間、あたしの身体のエネルギーの調子もだいぶ良くなってきて、ファウストローブも問題なく起動できるまでは回復した。

 

 フィーネと名乗る組織は意外な程に静かで、現在は二課が総力を追って捜索中であった。

 

 そして、リディアン音楽院では秋桜祭が差し迫っており、生徒たちは目下その準備に勤しんでいた。

 

 あたしはというと……。

 

 

 

 

「雪音?  何をそんなに慌てて」

 

「奴らが……、奴らに追われているんだ。もうすぐそこにまで……」

 

「何っ!?」

 

「特に不審な輩など見当たらないようだが?」

 

「そうか、上手く撒けたみたいだな」

 

「誰を撒いたのかしら?」

 

 あたしはクリスの背後から話しかけた。

 

「げえっ、フィリアっ! いつの間に!」

 

「フィリアじゃないか。雪音を追っていたのはお前だったのか?」

 

「ええ、だって、この子ったら秋桜祭の準備を放ったらかして行こうとするから……。せっかく仲良く話しかける子もいるのに……」

 

 あたしとクリスは同じクラスとなり、クラスメイトたちもクリスに友好的に接している。

 しかし、こういう空気にまだ彼女は馴染めないでいた。

 

「うるせぇ! 大体、お前はこっち側だろ? 裏切って、クラスの連中と追いかけ回しやがって」

 

 

「雪音さーん!」

 

「もう、どこ行っちゃったのかしら?」

 

 

「そうよ、あたしはあなたの味方、だから一緒に戻るわよ」

 

 クラスメイトが近くでクリスを探しているので、あたしは彼女に戻るように声をかけた。

 

「ぐっ……、でも、フィーネを名乗る謎の武装集団が現れたんだぞ。あたしらにそんな暇は……」

 

「何言ってんの? ここの常在戦場中の防人だって――」

 

「ふっ、見ての通り。雪音が巻き込まれかけている学校行事の準備だ」

  

 そう、翼もキチンと学校行事に参加しようと努力していた。

 本当に変わったわね……。まぁ、あたしもホントは人のこと言えないんだけど……。

 

「それでは間を取って雪音とフィリアに手伝ってもらおうかな」

 

「なんでだ!?」

「あたしも!?」

 

 翼が唐突にあたしとクリスに作業を手伝うように言ってきた。この人はあたしの話を聞いてたのかしら?

 

「私とフィリアとなら人見知りで照れ屋な雪音でも作業できるだろう。それとも、このままフィリアに連行されたいか?」

 

「むー」

 

「仕方ないわね。少し事情を話してくるわ」

 

 翼にはクリスをクラスに連れて行くのは荒療治だと思えたみたいだ。そうね、ちょっと急いじゃったかしら。

 

「まだこの生活に馴染めないのか?」

 

「まるで馴染んでない奴に言われたかないね」

 

 面倒そうな表情で手伝いながら、翼の問いかけにそう返すクリス。

 

「ふっ、確かにそうだ。しかしだな、雪音――」

 

 翼がそう口を開いたとき――。

 

「あ、翼さん、居た居た」

 

「材料取りに行って、なかなか戻って来ないから皆心配してたんだよ?」

 

「でも心配して損した。いつの間にか可愛い妹とその友達を連れ込んでるし」

 

 翼のクラスメイトの歩と杏胡と瞳子が教室に入ってきた。誰が翼の妹よ……。

 

「皆……、先に帰ったとばかり……」

 

 翼は驚いた表情で彼女らを見た。最近、割と表情豊かになってるわね。

 

「だって翼さん、学祭の準備が遅れてるの自分のせいだと思ってそうだし」

 

「だから私たちで手伝おうって」

 

「私を、手伝って?」

 

 翼を手伝おうとやってきた三人に翼はキョトンとしていた。

 

「案外人気者じゃねえか」 

「ホント、あたしたちの手伝いなんて、いらないじゃない」

  

 あたしとクリスはジトっと翼を見る。

 

「でも昔は近寄りがたかったってのも事実かな」

 

「そうそう。孤高の歌姫って言えば聞こえはいいけれどね」

 

「始めは、なんか私たちの知らない世界の住人みたいだった」

 

「そりゃあ、芸能人でトップアーティストだもん」

  

 翼もクラスメイトと壁があったのは私も知っている。だから、あたしはこの学校に入学したんだし、それもあまり意味なかったんだけど……。

 

「でもね」

 

「うん」

 

「思い切って話しかけてみたら私たちと同じなんだってよくわかった」

 

「皆……」

 

「特に最近はそう思うよ」

 

 翼……、どんな会話をしたのか気になるわね……。割と天然なところが多分バレたんだろうけど……。

 

「フィリア、今なにか、私について失礼なことを考えてなかったか?」

 

「えっ、えっと……、そんなわけ……、ないじゃない……」

 

「嘘だな。最近わかるようになったんだ――」

 

 あたしは最近するどくなった翼に驚いてしどろもどろになった。

 

「ほら、妹とこうやって話してるところを見ると普通でしょ」

 

「だから、妹じゃないわよ」

 

「はいはい。チョコレートあげる」

 

「むぅー」

 

 上級生には完全に子供扱いされているのであたしは不満な顔をしていた。

 

「はぁ……、ちぇっ、こっちもそっちも上手くやってんのかよ」

 

「面目ない……。気に障ったか?」

 

「さぁーてね、だけどあたしも、もうちょっとだけ頑張ってみようかな」

 

「そうか」

 

 クリスは少しだけ前向きになってくれたようだ。

 これからも、変わらずにこんな日常が過ごせれば……、そうあたしは思ってた……。




次回はいよいよ、ドクターとフィリアが!?
ここから、かなりオリジナルな展開も交えます。
マリア達とフィリアの関係も明らかになっていきます。


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勧誘

原作3話の終わりくらいまでです。
それでは、よろしくお願いします!


『いいか!  今夜中に終わらせるつもりで行くぞ!』

 

『明日も学校があるのに夜半の出動を強いてしまい、すみません』

 

 弦十郎と緒川からの通信が入る。

 あたしたちは夜の廃病院に来ている。

 

「気にしないでください。これが私たち防人の務めです」

 

「どうせ、あたしは寝ないし……」

 

「街のすぐはずれにあの子達が潜んでいただなんて」

 

 先日、世界に宣戦布告したテロ組織“フィーネ”……。そのアジトの場所がみつかり、あたしたちは先手を仕掛けているのだ。

 

『ここはずっと昔に閉鎖された病院なのですが、二ヶ月くらい前から少しずつ物資が搬入されているみたいなんです。ただ、現段階ではこれ以上の情報が得られず、痛し痒しではあるのですが……』

 

「尻尾が出てないのならこちから引きずり出してやるまでだ」

 

 クリスの言葉にあたしたちは頷き、夜の廃病院の中に入り込んだ。

 

 

「やっぱり元病院っていうのが雰囲気出してますよね」

 

「あたし、ホラーって好きなのよね。幽霊でも出てこないかしら」

 

「おっお前、変なこというんじゃねーよ」

 

「フィリアちゃんがそんなこと言うから、何だか空気が重いような気が……」

 

 そんなことを話しながら歩いていると、翼が口を挟む。

 

「私語は慎め、出迎えだぞ」

 

 前方から《ノイズ》の集団がこちらに向かってきていた。

 

「コード、ミラージュクイーン、マナバースト……」

 

 あたしはミラージュクイーンを構えて、三人はシンフォギアを纏う。

 

 《ノイズ》達との戦闘が始まった。

 

「やっぱりこのノイズは!」

 

「ああ。間違いなく制御されている。」

 

「立花、雪音のカバーだ! 懐に潜り込ませないように立ち回れ!」

 

「はい!」

 

 苛烈な連続攻撃でドンドン《ノイズ》に穴を空けるクリスに続いて、響も得意の接近戦で応戦する。

 

 どうも、手緩いわね。《ノイズ》にあまりダメージが通ってないような……。

 

 

「ちょっと、あなたたち、動きが悪いわよ……」

 

 

「なんだとっ!? フィリアっ、適当なことを……、なにっ!」

 

 クリスがムッとした声を出した瞬間、《ノイズ》が再生する。

 

「やあっ!」

 

 響が攻撃するも、《ノイズ》は再生する。

 

「はぁぁぁっ」

 

 ――蒼ノ一閃――

 

 翼のアームドギアが巨大化して強力な一撃を《ノイズ》に与える。

 

 バラバラされた《ノイズ》だったが、これも再生した。

 

 

 ――神焔一閃――

 

 あたしの錬金術による炎を纏わせた一撃……。《ノイズ》は一撃で炭化する。

 

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

「なんで、こんなに手間取るんだ?」

 

「ギアの出力が落ちている?」

 

 三人はかなり疲労している様子で、翼にいたっては、アームドギアまで小さくなっていた。

 装者たちの調子が悪い……。出し惜しみするのはやめた方が良さそうね。

 エネルギーの温存は考えないようにしましょう。

 

「コード、ファウストローブ……」

 

 あたしはファウストローブを身にまとって大技を連発した。

 

 ――雷獣ノ咆哮――

 

 巨大な雷撃で《ノイズ》たちを弾き飛ばす。

 

 

 ――不死鳥ノ皇帝(カイザーフェニックス)――

 

 さらに巨大な火の鳥を召喚して残りの《ノイズ》を燃やし尽くした。

 

 

「すまない、フィリア。助かった」

 

「どうしてこんなにダルいの」

 

「ちっ、なんだってんだ?」

 

 なんとか《ノイズ》は全滅させたが、彼女らは肩で息をしていて、かなり調子が悪い。

 何が起こっているっていうの?

 

 不気味な現象に訝しく思っていると、通路の奥から黒い何者かが近づいてきた……。

 

「あっ、あれは……、ダメ……」

 

 あたしはあの黒い生き物を見て、突然、身体が硬直するような感覚を覚えた。

 何? なんでアレを見ると、身体が強ばるの……。

 

「はっ!?」

 

「みんな!  気をつけて!」

 

 響に殴られても、まったく堪えていない黒い生き物。やっぱり、アレは普通じゃない……。

 

「ぐっ……」

 

 翼が黒い生き物の頭を斬り裂くが、斬れない……。

 

「アームドギアで迎撃したんだぞ!?」

 

「なのに何故炭素と砕けない!?」

 

「みんな、あれは《ノイズ》じゃないわ。もっと恐ろしい何かよ……」

 

「《ノイズ》じゃない? じゃあ何だってんだよ?」

 

 クリスがそんなことを言ったとき、拍手の音が聞こえた。

 

 奥から現れたのは、銀髪のポニーテールの女と彼女に腕を組まれている白髪の男……。

 

「ウェル博士!?」

「フィアナっ」

 

 黒い生き物は檻に入っていった。

 

「フィリアちゃん、正解ー。それとも、この子のことは覚えてたのかなー?」

 

「ふふっ、意外に聡いじゃあないですか」

 

 フィアナとウェル博士があたしたちの前に立ちはだかった。

 

「そんな!?  博士は岩国基地が襲われたときに……」

 

「つまり、ノイズの襲撃は全部……!」

 

「明かしてしまえば単純な仕掛けです。あの時既にアタッシュケースにソロモンの杖は無く、コートの内側にて隠し持っていたんですよ」

 

 このウェル博士とやらが全ての《ノイズ》襲来の元凶だったらしい。あの顔を見たときから嫌な予感はしてたけど……。当たってしまったわね。

 

「さっすがぁ、ドクター! 策士だわぁ。まんまとこの子らを出し抜いちゃったってわけねぇ」

 

 フィアナはまるで恋人を見るような目でウェル博士を見ていた。確かに切歌が言うように趣味が悪い……。

 

「ソロモンの杖を奪うため、自分で制御し自分を襲わせる芝居をうったのか?」

 

「バビロニアの宝物庫より《ノイズ》を呼び出し制御することを可能にするなど、この杖を置いて他にありません。そしてこの杖の所有者は、今やこの自分こそがふさわしい。そう思いませんか?」

 

「ええ、ドクター以外の誰がこの杖を使いこなすことが出来ましょうかぁ」

 

 別にあなたに聞いてないと思う。ホントに苛つくわ。

 

「おいっ! お前ら狂ってんのか!? 誰が思うかよ!」

 

 あたしよりも先に堪忍袋の緒が切れたのはクリスだった。彼女の腰パーツが開いてミサイルを放とうとした。

 

「クスクス、やめた方がいいと思うわぁ」

 

「ざけんなっ!?」

 

 クリスがミサイルを放った――しかしっ……。

 

「うぁぁぁっ!」

 

 クリスは本調子ではないのにも関わらず攻撃をした反動のせいか自らもダメージを負ってしまう。

 

 ウェル博士は大量のノイズで壁を作ってミサイルを防いでいた。

 

「ああん、だから言ったのにぃ」

「フィアナは優しいですねぇ」

 

「くそっ、なんでこっちがズタボロなんだよ?」

 

 クリスは苦悶の表情を浮かべて首を捻った。

 

「あなたたちは下がって、ここはあたしが……」

 

 シンフォギア装者の調子が悪いので、あたしが前に出て戦うことにした。

 

「君が噂のお人形様ですか。なるほどぉ! 素晴らしい! 決して死なない不死身の身体に、シンフォギアをも凌ぐ戦闘力……。君をその姿に変えた人間は英雄が何たるものか理解しているようだっ! 僕もそんな身体が欲しいと思ってたんだ。――フィアナ、是非、彼女にはこちらについてもらいたいのですが……」

 

 舐め回すような視線をあたしに向けて、気持ちの悪いことを抜かすウェル博士。

 誰があなたたちの仲間になんてなるものか。

 

「ドクターがそう仰せなら、お任せください。ねぇ、フィリア。あなたぁ、人間の体に戻りたくはなぁい?」

 

「えっ?」

 

 フィアナは唐突にあたしの願いのひとつを提案する。

 

「こちらのドクターは天才なのぉ。彼にあなたの身体の解析をさせればぁ。きっと、人間の体に戻れる方法をつきとめてくれるわぁ」

 

 甘い口調で諭すように彼女はあたしを勧誘する。

 

「フィリアっ! これは悪辣な罠だっ!」

 

「あらぁ、薄情なお友達ですことぉ。確かにフィリアちゃんが人間の体を持ったら戦えなくなるもんねぇ」

 

 馬鹿にするような口調のフィアナ。どこまでも人をコケにするのね……。

 

「ぐっ……。そういうことを言ってるわけではないっ! 貴様らが信用できぬだけだっ!」

 

「私からするとぉ。大事なフィリアちゃんが、よく分かんないところで戦わされている方が不憫だわぁ。どうせ、この子のことも便利な道具にしか思ってないんでしょう?」

 

 フィアナは少しだけ声のトーンを落として睨みつけるような視線を放った。

 

「テメー、言わせておけば! こっちは死線を共に乗り越えた仲間だとは思っても、フィリアを道具だなんて思ったことは一度もねぇ。大体、テメーのどこに信頼とやらがあるんだよっ!」

 

 クリスは疲労困憊な様子なのにも関わらず、怒りを込めて彼女に向って大声を上げた。

 

「6年間……」

 

「はぁ?」

 

「だから、フィリアちゃんと居た期間よ……。私は6年もの間、フィリアと共に育ってきたのよ。この子が皮肉屋で素直になれない性格なのも知ってるし、甘いものが好きなのも、妙にりんごのケーキを作るのが得意なのも知ってるわ」

 

 馬鹿な、あたしがこんなのとそんなに長い間……。ううっ……、でもマリアとフィアナに初めてあったとき妙に苛ついた感覚になったわ。それは彼女らのスタイルを見ての感想だったと思ったけど……。

 

「フィリアちゃんと6年も……」

「りんごのケーキのことまで……」

 

「だからぁ、フィリアちゃんを返してほしいのよぉ。本当だったらフィリアちゃんはぁ、こっち側になってたんだから。ほら、後からこの子が裏切ったほうが辛いと思わなぁい?」

 

 あたしがこの子たち側に……。バカな……。でも、切歌と調を最初に見たとき――守らなきゃっていう気持ちが溢れたの……。

 あたしは本当に――彼女たちの……。

 

「黙れっ! 私とてフィリアとは長い付き合いだ! 決して裏切るような人間ではないっ!」

 

「翼……」

 

 そうよ、あたしの過去が何だって言うの? 今もこれからもあたしは翼の、彼女たちの側にいる……。

 

 

「交渉は決裂……、みたいねぇ。ごめんなさぁいドクター」

 

「ふぅ、仕方ない子ですね。また今度よろしくお願いしますよ……」

 

「任せてくださぁい。ドクターってば、超優しいー。大好き!」

 

 フィアナはそう言って、ウェル博士の肩に頭をすり寄せた。

 

「ふざけないでくれる!」

 

「まて、フィリア! あれを見ろっ!」

 

 翼が空の方を指さす。あれは、さっきのあの黒い生き物の入ったケージ。

 

「ノイズがさっきのケージを持って!? いつの間にっ!」

 

「長話させたのは、この為だったのか!」

 

 飛行型の《ノイズ》がケージを持ってどこかしらに黒い生き物を運んでいた。

 アレは必ず確保しておかないといけない気がする……。

 あたしたちは身構えて空中の《ノイズ》を目で追う。

 

「ところで、フィアナ、この4人を相手にして勝てますか?」

 

「はーい! 絶対に無理でぇす!」

 

「そうですか、では戦うのは上手くないですね」

 

 ウェル博士とフィアナは両手を上げた。くっ、どこまでも食えない奴らね。

 

「響、翼、その男と女の確保とクリスを頼んだわよ」

 

 この4人の中ではあたしが一番速い。

 

 音を置き去りにして最高速度で空中の《ノイズ》との距離を詰める。

 しかし、フィーネとの決戦のときは出来た空中浮遊は今の状態じゃ出来ない。《ノイズ》はもうすぐ海の上まで逃げてしまう……。どうする?

 

 

『そのまま飛ぶんだっ!  フィリアくん!」

 

『海に向かって飛んでください!  あなたなら、それくらい!』

 

 弦十郎と緒川の指示通りにあたしは海に向ってジャンプした。なるほど――そういうことね……。

 

『仮設本部、急速浮上!』

 

 仮設本部である潜水艇があたしの足場になるように浮かび上がる――。これならっ――。

 

 あたしは着地した後に、さらにジャンプする。

 

 ――焔珠(ホムラダマ)――

 

 右手から炎の球を投げつけて《ノイズ》を撃退する。

 

 あとは落ちていくケージを……。

 

 あたしは落ちていくケージに手を伸ばした。もう少し……。

 

 ――しかしっ!

 

「――なっ」

 

 あたしは何かに弾き飛ばされて、ケージを掴み損ねてしまう。

 

 あれは……、槍? あたしは海の中に落ちそうになる瞬間に水中に直立しているガングニールを見た……。




なんか、ウェルとフィアナがバカップルみたいになってしまいました……。
次回はフィリアVSマリアからスタートです。





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潜水艇上での戦い

フィリアVSマリアから、秋桜祭開始までです。
それではよろしくお願いします。


「まったく、仕事を増やしてくれたわね――」

 

 あたしは水中から飛び出してマリアに向かって手をかざした。

 

「あまり、あたしを舐めないでくれる?」

 

 ――雷獣ノ咆哮――

 

 あたしはマリアに向かって電撃を放った。

 

 しかし、マリアはマントでこれを防いだ。

 

「舐めてなどいない!」

 

「そう、どうでもいいわ……」

 

 

 あたしは潜水艦の上に着地した。

 

「ふっ、変わらないわね。そのふてぶてしい態度……」

 

 マリアはケージを上に投げると、ケージは空中でフッと消えてしまった。えっと、あたしってふてぶてしいの?

 割とショックなんだけど……。

 

 そして、彼女は槍からジャンプして、潜水艦の上に乗り移ってきた。

 

 さらに遠隔操作で海の上に浮かんでいた槍がマリアの手に戻った。

 

「フィリア! 友人のあなたが相手でも私は手を抜かない」

 

「あなたみたいな友人なんか知らないわよ――!」

 

「――くっ!」

 

 あたしとマリアの視線が交錯する。なんでそんな悲しそうな顔をするのよ。

 なんで、あたしはこの子を見て優しさを感じてるの?

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 マリアの槍があたしに接近する。

 

「遅い――」

 

 あたしは槍を手でいなして、正拳を当てようとする。

 

 しかし、マリアはマントを伸ばしてあたしを攻撃してきた。私はバックステップでこれを躱す。

 

「信ず我が道の――♪」

 

 そして、歌を口ずさみながら再び槍を構える。

 

 あたしは氷の槍を数本錬成してマリアへと放つ。

 

 マリアはマントを回転させて、それを砕く。

 

「絶対に譲れない――♪」

 

 槍にエネルギーを充填してあたしに向ける。

 

「アームドギアに途轍もない量のエネルギーを集中してるわね――。じゃあ、あたしも見せてあげる。この状態で使える近距離戦用の技を……」

 

 あたしは先日に暇つぶしで読んだ本に書いてあった技を真似てみることにした。

 

 ――千鳥――

 

 右手に電撃エネルギーを集中して、超加速を併用して放つ突き技――。

 ガングニールの一撃に合わせて、これをぶつける――。

 

 

『被害状況出ました!』

 

『船体に損傷!  このままでは潜行機能に支障があります!』

 

 友里と藤尭がこの潜水艇の被害状況を告げる。

 

『ちっ!  フィリアくん! マリアを振り払うんだ!』

 

「了解……」

 

「誇りと――♪」

 

 マリアがエネルギーを集中させた強力な突き技を放つ。

 あたしは「チッチッチッ……」と鳥の鳴き声のような音を発しながら、雷を帯びた右手を彼女のアームドギアにぶつけた――。

 

「――嘘でしょ……。なっ、なんてパワーなの!?」 

 

 マリアはアームドギアごと吹き飛ばされて、驚愕の表情を浮かべていた。

 

「悪いけど、ここから離れてもらうわよ」

 

 ――鉄山靠(テツザンコウ)――

 

 さらに背中からの体当たりをマリアにぶつけて吹き飛ばそうとする。

 

「このっ――」

 

 しかし、マリアはあたしにカウンターの要領で下からマントを伸ばしてあたしにヒットさせた。

 なかなかやるじゃない……。

 

「マイターン!」

 

 それを好機とみて、マリアは再び槍をこちらに伸ばしてくる。

 

「あなたのターンなんてないわ……」

 

 あたしは着地した勢いでマリアに向かっていき、左に腕を盾にして槍を釘付けにし、マリアの腹に一撃を加える。

 

「ぐっ……、なっ何をしているっ! あなた、左腕を……」

 

 マリアは引き下がり、あたしの千切れた左肘から下を見て顔を青くした。

 

「通信で聞いてたけど、あなた本当にフィーネなの? 彼女なんてあたしに穴を空けても顔色ひとつ変えなかったわよ。あむ……」

 

 あたしが特殊な容器から取り出したチョコレートを食べて、左腕の再生に使ったエネルギーを回復した。

 

「――うるさいっ! でも、そんなになってまで戦うなんて……」

 

 マリアの目は慈しむような表情だった。

 

「あなたに憐れまれる言われはないわっ!」

 

 あたしは腰を落として弦十郎仕込みの拳法の構えを取る。なんで、敵のあなたに心配されなきゃならないのよっ!

 

「マリアちゃーん、頑張んなさーい! 私もそろそろ応援するからぁ!」

 

 フィアナが突然大声を上げた。

 

「テメー、何を企んでやがるっ!」

「はっ!?」

 

 突然、上空から鋸が降ってきて、響はウェル博士を突き飛ばし、何とか避ける。

 

「なんと、イガリマーッ!」

 

 翼に切歌は鎌で斬りかかり、翼は剣でそれを受け止める。

 

「くっ、どこから現れた!?」

 

「切歌ちゃん、調ちゃん、グッドタイミーング。じゃ、私もぉ、phili joe harikyo zizzl……」

 

 フィアナも翼から解放されてシンフォギアを身にまとった。

 

「ばぁーんってね」

 

 そして、クリスに向かって人差し指を向けて挑発する。

 

「テメー、あたしに向かっていい度胸じゃねぇかっ! くっ、こんな攻撃っ……」

 

 クリスは怒りの声を上げるが、フィアナのレーザー光線の連射を避けるのが精一杯みたいだ。

 

 防戦一方のクリスを助けようとする響に調が回転鋸を飛ばす。

 

「とぉっ! てぇあっ!」

 

 響はそれを得意の徒手拳で叩き落として防ぐ。

 

 ――非常Σ式 禁月輪――

 

 調は脚部と頭部から体の周囲に円形のブレードを縦向きに展開し、一輪車のような乗り物にしてそのまま響に突撃する。

 

「なっ……」

 

 響もこれには堪らずバランスを崩してしまった。

 

 ――破閃――

 

 フィアナの連続する紫色の光線がクリスを襲い、彼女のギアの一部が弾け飛んでしまう。

 

「痛くしちゃってごめんなさぁい」

 

 さらに接近したフィアナに腹を蹴られて吹き飛ばされるクリス。

 

「ぐはっ!」

 

「雪音っ!」

 

 翼がクリスに駆け寄ろうとすると、切歌が鎌を全力で振るうっ!

 

「チャンスデェェス!」

 

「ちっ、適合係数が落ちて力が発揮できない」

 

 翼はなんとか剣で受け止めて、切歌の攻撃を防御する。

 

「ドクター、ソロモンの杖を取り戻しましたぁ」

 

「さすがフィアナ。仕事が早いですね」

「えへへ、ドクターに褒められちゃったー」

 

 ソロモンの杖がウェル博士の手に戻ってしまった……。

 

 それにしてもマリアたちはどこから現れたの?

 マリアも調も切歌も何もない空間からいきなり現れた。いったいどうやって……。

 

 ――とりあえずは目の前のマリアに集中しなきゃ

 あたしがそう思って身構えたとき……。

 

「ちっ!  時限式ではここまでなの!? フィリア、あなたとの勝負はここで預けるわ」

 

「時限式? まさか奏みたいにLiNKERを……?」

 

 そうだ、マリアはセレナと違って……。何、セレナって誰よ?

 あたしがあっけにとられてると、大きなヘリコプターが突然現れて、マリアはロープに掴まって上昇する。

 

「それじゃあ、フィリアちゃん。私たちの仲間になる件を考えといてねー。バイバーイ」

 

 フィアナはウェル博士を抱えて空を飛んでいって、ヘリコプターに入っていった。

 切歌と調もロープをつかんでヘリコプターに乗り込んで、逃げていってしまった。

 

「ソロモンの杖を返しやがれッ!」

 

 ――RED HOT BLAZE――

 

 クリスはアームドギアをスナイパーライフルに変形させ、ヘッドギアのスコープでヘリコプターを捕捉し狙撃を行おうとした――。

 

 しかし、ヘリコプターは突然姿を消してしまう。

 

「なんだとっ!?」

 

 クリスすら相手を見失ったらしい。

 

『反応……、消失……』

 

『超常のステルス性能――これもまた異端技術によるものか?』

 

 なるほど……、異端技術か……。

 そんな技術があるなら、いろいろな良からぬことが出来そうね……。

 

 

 翼たちは潜水艇の上まで来たが、連中に勝ち逃げを許してしまい、落ち込んで座り込んでいた。

 

 はぁ、珍しいわね。この子達が揃って落ち込むなんて。

 

「無事か!?  お前たち!」

 

「師匠……」

 

 そんな中に弦十郎が声をかけてきた。

 

「了子さんと……、たとえ全部分かり合えなくても、せめて少しは通じ合えたと思ってました……。なのに……」

 

 響はフィーネと再び対立したという事実が受け入れられないらしい。

 あたしにはマリアがあの性悪オバサンには見えなかったんだけどな。

 

「通じないなら、通じるまでぶつけてみろ! 言葉より強いもの。知らぬお前たちではあるまい」

 

「言ってること、全然わかりません。でも、やってみます!」

 

「うむ」

 

「うむ、じゃないわよ。バカ……。会話が成立してないじゃないの……」

 

 あたしはバカ師弟にツッコミを入れた……。

 まぁ、悩んでも仕方ないってことか……。

 

 マリア、そしてセレナという名前……。間違いない、あたしは彼女らを知っていた……。

 その事実はあたしの胸に重くのしかかっていた……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 今日は秋桜祭当日、あたしたちのクラスは屋台を出していた。

 売っている品物はデザート類なのだが、あたしのりんごのケーキも何故か商品にされてしまった。

 

 まったく、こんなことならクラスメイトに食べさせるんじゃなかったわよ……。

 

「フィリア、雪音さん知らない?」

 

 クラスメイトの鏑木乙女があたしに話しかけてきた。同じくクラスメイトの五代由貴と綾野小路も一緒である。

 

「クリスを? さぁ、あたしはずっとここで店番やってたから……。ホントにあの子をアレに出すつもりなの?」

 

「うん、だってフィリアも見てたでしょ、雪音さんがとても楽しそうに歌うところを」

 

 由貴はクリスの授業中のときの話を振る。

 

「そうね。あの子は歌うことが好きだから……」

 

「じゃあ、フィリアも雪音さんを見つけたら説得してね。頼んだよ」

 

「えっ? ちょっと待ちなさい!」

 

 小路がそう言い残して、三人は走り去ってしまった。

 

「――すみませーん。りんごのケーキを二つ」

 

「はい、400円。長持ちしないからとっとと食べるのよ」

 

 あたしはケーキと引き換えにお金を受け取る。

 はぁ、勝ち抜きステージねぇ。ちょうど休憩中だし、見に行こうかしら?

 

 

 

 休憩に入り、あたしは勝ち抜きステージを見に行くことにした。

 

「形が悪かったケーキを包んで持って出ちゃったけど、響と未来にでも渡しましょう……」

 

 そう思って歩いていると、見覚えのある二人組を見つけた。

 

 しゃがんで赤い菊の花を見ていた……。

 

 

 

 

 ――赤い菊……? 調……? 切歌……?

 

「この色のマム(菊)はリア姉が好きだった……」

 

「そうデスね。昔、調と無理をしてリア姉に一輪だけプレゼントしたデス」

 

「うん、怒られたけど……。その後で喜んでくれた」

 

 何よ、そんな話……。なんであたしは懐かしい気持ちになっているの?

 

『はい、お誕生日プレゼント……』

『こっそり抜け出して取って来たデスよ』

 

 ――ズドンと爆発が起きたように、あたしは閉ざされていた記憶の扉が開放された感覚に落ちた。

 

 高圧電流が身体中を駆け巡るような――どうしても、この2年以上もの長い間、思い出せなかった記憶の数々が蘇ってきたのだ……。

 

 思い出した……。あたしはこの二人を知っている……。

 確か、名前は……。

 

「月読調……、暁切歌……。二人とも大きくなったわね……」

 

「「えっ?」」

 

「フィアナ……、マリア……、そしてセレナ……。あたしたちは同じ施設に居た……」

 

「リア姉、まさか記憶が戻ったデスか?」

「セレナの名前も、私たちの名前も伝えてないはず……。間違いない……」

 

 思い出したのは数年前までの記憶――彼女たちとの日々の記憶だ。かつてこの子たちは大切な仲間だった。

 そして、フィアナは――あたしの妹……。フィーネが作ったクローンはあたしともう一体いたのだ……。

 

「ごめんなさい。あなたたちの事をあたしは大事に思っていたのに……」

 

 あたしは切歌と調を抱きしめて頭を撫でた。

 

 

 米国の聖遺物研究機関F.I.S.にフィーネの魂の依代として集められた子供たちがいた。

 レセプターチルドレン――あたしたちはそう呼ばれていた。

 考えてみれば、あそこはフィーネが自らのクローンであるあたしたちを捨てるにはもってこいの場所だったのだろう。

 

 それにしても、この子たちになんてことをさせてるのよ――マリア、フィアナ……。

 

「あたしをあなたたちのアジトに連れていきなさい……」

 

 そして――あたしはある決意を秘めて、二人にそう言った。

 この戦いはあたしがケリをつける。もう、彼女たちの手を血に染めさせてなるものか……。

 

 




やっと、フィリアの記憶の一部が蘇りました。
菊はアメリカでは『マム』と呼ばれているみたいです。
次回もよろしくお願いします!


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チャンピオンに挑戦

原作5話の後半まで。
それではよろしくお願いします!


「それでは、リア姉は私たちの仲間になってくれるのデスか?」

 

「――そうね切歌。そう解釈してくれても構わないわ。あなたたちの後ろには――マム……、ナスターシャが居るのね?」

 

 あたしは切歌の問いを肯定しつつ、情報を聞き出そうとした。

 

 二人は無言で頷く。

 

 ナスターシャはF.I.S.の技術者であたしたちを指導し観察してきた。

 彼女らをまとめて動かすことが出来る人物で想像できるのはこの人しかいなかった。

 

「それで、あなたたちは何でこんな所に、下手くそな潜入のようなマネを?」

 

「うう、リア姉は記憶が戻るなり辛辣デス」

 

「でも、懐かしい……」

 

 切歌と調は素直に理由を話した。この子らは本当に純粋ね……。今のあたしの立場をわかってるのかしら?

 

 なるほど、あの黒い生き物のようなモノが「ネフィリム」という完全聖遺物だったのね……。

 見覚えがあるはずだ……。というか、あたしの記憶はアレが暴走して暴れまくっているところで止まっている。

 

 そのことはまぁいい。「ネフィリム」というのは聖遺物を食らって成長し、エネルギーの無限の増殖炉になることが出来るらしい。

 

 だが、食べさせる聖遺物には限りがあったので、翼とクリスのギアペンダントを狙って彼女は潜入してきたのだ。

 

 なんでそんなモノが必要なのかと聞いたところ、現在、月が落下していて、人類を救うために必要なんだそうだ。

 何それ? SF映画? でも、ルナアタックの影響って考えるとあり得なくはない。

 NASAが大嘘をついてることになるけど……。

 

 何より、あのマリアが悪役になってまであんなことをする理由にはなるわね……。

 

「わかった、食べさせる聖遺物はあたしがなんとかするわ」

 

「リア姉が騙し討ちして、彼女らを血祭りにしてくれるのね……」

 

「しないわよっ! 相変わらず、物騒なことを時々ぶっ込むわね……。そんなことより、お腹空いてるんだったら、これでも食べる?」

 

 あたしは彼女らにりんごケーキを見せた。

 

「リア姉の」

「ケーキデェス」

 

 二人は仲良くケーキを食べだした……。このスキに弦十郎のプライベートメールにメッセージを……。 

 あたしは敢えて司令としてではなく、風鳴弦十郎個人にこの不明瞭な情報とあたしのこれから行うことを送ることにした。

 柔軟な彼ならきっとこの方が……。

 

「ふぅー、美味しかったデス」

「マリアたちにも食べさせたい……」

 

 子供たちのための食事を作るのをよく、年長者のあたしは手伝わされた。

 あたしは筋が良かったらしく、こっそりお菓子の作り方などを教わり、マムの目を盗んでは彼女らに食べさせていた。

 

「それでは、長居は無用デスし、戻るのデスか?」

 

「いいえ、一つだけ寄るところがあるわ……」

 

 あたしは二人を連れて――目的地へと向かった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「さぁーて!  次なる挑戦者の登場です!」

 

 勝ち抜きステージの司会者が次の挑戦者を招き入れようとする。

 

「わっ、とっとっと……」

 

 クリスは誰かに背中を押されたのか、バランスを崩しながら前に出てきた。

 

「リア姉……、あの人は……?」

 

「雪音クリス――あたしの大切な友人よ……」

 

 まさか、本当に出てくるとはね……。彼女なりに前に進んでいるってことね……。

 

 クリスは最初は戸惑っていたが、恥ずかしそうにして歌い出す。

 

「誰かに手を差し――♪ 傷みとは違った――♪」

 

 彼女が編入してきてから、ずっと人の好意に戸惑っていた。

 

 でも、最近は少しずつそれを受け入れるようになった……。

 

「色付くよゆっくり――♪ 誇って咲く――♪」

 

 あたしはそんな彼女を見て、心から願う……。

 胸を張って、ここが帰る場所だって言えるようになってほしいと……。

 

「笑っても――♪ 許してもらえ――♪」

 

「わぁ……」

 

「あっ、あっ……」

 

 一緒に付いてきた調と切歌もクリスの歌を聞き入っている――。

 

「こんなこんな暖か――♪ ――帰る場所♪」

 

 

 クリスが歌い終えると、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

 

 クリス……、あなたはこんなに楽しく歌を歌えるのね……。

 あたしは気が付いたら拍手を送っていた自分に気が付いた。あら、切歌も調も拍手してるのね……。

 

「勝ち抜きステージ、新チャンピオン誕生!」

 

「へ?」

 

「さあ、次なる挑戦者は!?  飛び入りも大歓迎ですよー!」

 

「やるデ――、はっ、リア姉?」

 

 あたしはステージ上に向かってジャンプして飛び降りた。

 

 

 

「――チャンピオンに挑戦よ」

 

 あたしはクリスを指さしてそう言い放った。

 

「おおーっと、派手な登場をして挑戦者が降り立った!」

 

「はぁ? フィリア……、お前……」

 

 クリスは驚いた顔をしてあたしを見た。

 

「どうしたの? クリス、鳩が豆鉄砲食らったような顔してるわよ」

 

「いや、お前はこういうの絶対に出ないっていうか……」

 

「そうね、でも誰かさんが、とっても楽しそうに歌ってたから……」

 

「うぐっ……、勝手にしろ」

 

 クリスはプイとそっぽを向いてしまった。

 

「次の挑戦者は、ご存知、スーパースター風鳴翼の妹! 風鳴フィリアですっ!」

 

「ちょっと、妹じゃなくて、従姉妹だって何度も……」

 

「曲は、風鳴翼の“FLIGHT FEATHERS”! お姉さんの曲を選ぶとは可愛らしいですねー!」

 

「あなた、あたしの声は聞こえてるわよね?」

 

 司会者に苛立ちながらもイントロが流れてあたしは歌う準備をする。

 

 

「Deja-vuみたい――♪ 制裁みたい――♪」

 

 翼、記憶を失って人形になって、可愛げのない態度だったあたしを受け入れてくれた大切な友人……。

 

「Justice空――♪  感情のまま――♪」

 

 響、クリス、共に戦い抜いた仲間……。

 これからどんなことがあっても信じてほしいと思うのは、あたしの勝手な気持ち――。でも……。

 

「一人じゃない――♪  教えてくれ ――♪」

 

 あたしはこれから一人で戦ってくるわ。

 必ずここに戻ってくる。だから――。

 

「信じてMy――♪」

 

 あたしはFLIGHT FEATHERSを歌い終えた。

 

「チャンピオンとてうかうかしてられない素晴らしい歌声でした! これは得点が気になるところです!」

 

 司会が歌の感想を述べる。初めて歌ったけど、悪くなかったようね……。

 

「フィリア、お前もやるじゃねぇか! いい歌だった」

 

 クリスがあたしに手を差し出したとき――。

 

「リア姉、アジトが特定されて、帰還命令が出たデス」

「早くこっちに……」

 

 切歌と調がステージに駆け寄ってきた。何か不測の事態が起きたようね……。

 

「おっお前らはっ! 何をバカなことを……、おいっフィリア、どこに行く?」

 

「悪いわね、クリス。そういうことだから――」

 

「さあ! 採点結果が出た模様です! あれ?」

 

 あたしは結果を待たず二人とともに会場を出た。

 

 しかし、急いで出たにも関わらず、二人を連れて逃げ出すのは容易ではなく――。

 

「くそっ、どうしたものかデス」

 

「はぁ、こういうときの手際はいいのね……」

 

「切歌ちゃんと調ちゃん、だよね? それにフィリアちゃんはどうして?」

「フィリア、これはどういうことだ? 説明してもらおうか?」

 

 翼と響にそして、クリス。三人に取り囲まれてしまった。

 

「簡単に説明するわ。記憶の一部が戻ったのよ。で、あたしはこの子たちの仲間だった。それだけよ。だから、この子たちに付くことにしたの」

 

 あたしは淡々とした口調で翼たちにそう告げた。

 

「おい、それは本気で……」

 

 クリスがあたしに掴みかかろうとしたとき、翼が手で制した。

 

「記憶が? しかし、彼女らの仲間だった過去があったとて、今のお前は……」

 

「ええ、二課の一員よ。離れるのは残念だけど、邪魔しないでね。出来るだけ、あなたたちと戦いたくないもの」

 

 あたしはジッと翼を見据えてそう言った。

 

「フィリアちゃん、本当に……」

「わかった。何処へでも好きなところに行くがいい」

 

「おいっ、お前まで何言ってんだよ?」

 

「ここで、手荒なマネをするほどバカじゃないと信じてたわ。行くわよ、切歌、調……」

 

 あたしは切歌と調に声をかけて、リディアン音楽院から外に出た。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 あたしたちは合流地点であるカ・ディンギルの跡地に到着した。

 

 そこに例の大型のヘリコプターが到着する。

 

 マリアが降りてきてこちらに向かってきた。

 

「マリア、大丈夫デスか?」

 

「ええ」

 

「良かった……。マリアの中のフィーネが覚醒したらもう会えなくなってしまうから」

 

 切歌と調はフィーネの器となったマリアを気遣った。

 

「フィーネの器になっても私は私よ。心配しないで……、それよりも……、フィリアが本当に来るなんてね……」

 

 マリアは切歌たちの後ろにいるあたしに目をやった。改めて見ると、マリアはずいぶんと大人っぽくなったわね……。

 

「ええ、久しぶりは……、変ね。マリア……。今まで忘れていて悪かったわ」

 

「そうね、忘れられていたことはショックだったけど……。今は思い出してくれて嬉しい」

 

 マリアは手を差し出して、あたしは彼女の手を握った。

 

 そして、ナスターシャとウェル博士、さらにフィアナも出てきた。

 

「やっほー、フィリアちゃん。記憶戻ったんだー? 良かったわぁ。フィリアちゃんと戦うのって胸が痛かったんだからー」

 

「フィアナ、あなたも、そのう……色々と大きくなったわね……。大事な妹を忘れてしまってごめんなさい。あなたとも戦ったりして……」

 

「バカねー。私とフィリアちゃんの仲じゃない。昔から取っ組み合いの喧嘩もしたし、お互い様よ。お互い様……」

 

 フィアナは昔からこんな感じで飄々としていた。彼女の明るさには何度も助けられた。

 

「フィリア、記憶が戻った様ですね。しかし、私はあなたを信じられません。話によれば、切歌と調にギアペンダントの奪取をやめるように話したとか……」

 

「聖遺物が欲しいんでしょ? 効率が悪い上にしくじる可能性が高い方法を親切で止めてあげたのよ」

 

 予想通り、ナスターシャはあたしを疑っている。

 

「効率が悪いぃ? ちょっとぉ、フィリアちゃん。ドクターの提案した方法にケチをつけるんだったらぁ、私は許さないわよぉ」

 

「待ちたまえ、フィアナ。僕は興味がありますよ。フィリアさんがどのような代案をご教授してくれるのか」

 

 ウェル博士はフィアナを手で制して、あたしに代案を聞こうとする。

 

「簡単よ……。コード、ファウストローブ……」

 

 あたしはファウストローブを纏った。

 

「ほう」

 

「フィリアちゃん、そんな格好をしていきなり戦闘でも始めようってんじゃあないわよねぇ」

 

 フィアナは腕を組んであたしを見据えた。それをしてあなたたちを取っ捕まえたら、まぁ考えないようにしましょ……。

 

「ほらっ、これで解決よ。この腕は聖遺物でコーティングされてるわ」

 

 あたしは左腕を千切って投げた。

 

「リア姉、何をしてるのデスか!」

「腕を……」

 

「バカね、簡単にこれくらい再生出来るわよ」

 

 あたしはチョコレートを取り出してかじる。すると、いつものように腕が光に包まれて再生した。

 

「ほらね。で、あと何本欲しいの? あなたたちがホントに月の落下とやらを防ごうとしてるんだったら、これくらいするわよ」

 

「ふっふっふ。はぁーはっはっは! 素晴らしいですよ! やはり、君は英雄の素質タップリです! くっくっく、確かにこんなに簡単な方法があるなら、ギアペンダントを掠め取ろうとするなんて愚策と言われても仕方ありませんねぇ」

 

 ウェル博士はご満悦の表情を浮かべていた。やっぱりこの人は好きになれないわね。

 ていうか、フィアナが身内ってわかった瞬間、とっても将来が心配になったんだけど。

 

「聖遺物の提供には感謝します。しかし……」

 

「あら、ずいぶんと疑い深いじゃない。まぁ無理もないけど。でも、あたしを疑う余裕なんてあるの? 本国である米国からも追手が来ていては、計画の実行というのも厳しくなっているんじゃないかしら?」

 

「あなたは昔から自分のペースに相手を巻き込むのが上手でした。それでは、一応聞いておきますが、計画を実行する良い方法とやらがあるというのですか?」

 

 ナスターシャはようやくあたしの話に聞く耳を持ってくれた。

 

「二課に来なさい。あたしの養父は二課の司令官。月の軌道計算さえすれば、すぐにNASAの発表が嘘ということもわかるはず。この絶望的な状況を逆転する一手があるのなら、私の父は協力を惜しまないわよ」

 

 あたしは彼女らを二課に引き込もうと説得した。

 

「……少しだけ考える時間をください」

 

「ちょっとぉ、マム! ここまで来て引くっていうのぉ?」

 

「そうですよ。二課などに頭を下げるなど英雄のする事ではありません。手柄を横取りされますよ」

 

 ナスターシャの発言にフィアナとウェル博士が批判をした。

 手柄の横取りときたか……。面倒なことを言うわね。

 

 だけど、一筋縄にはいかない予感はしてたわ。

 だからこそ、あたしは彼女らの懐に飛び込むという潜入任務をしているのだ。

 武装組織フィーネと二課の交渉のテーブルを作る。これがあたしの目標――。

 

 弦十郎にはキチンとその意図は伝えた。

 翼たちには伝えずに出たのは、あのとき下手なことを言って、切歌と調にいらない警戒をさせない為と、彼女らがあたしが危険な任務をしようとすることを止める可能性があったからだ。

 

 さて、どうしたものか……。




ついにフィーネに潜入を開始したフィリア。
補足ですが、フィリアの記憶はネフィリムが暴走してセレナが絶唱を唱える寸前まで戻ってます。
次回もよろしくお願いします!





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クッキング

タイトル通り、フィリアが料理を作ったりする話です。
それではよろしくお願いします!


「フィリア、何をしているの?」

 

「えっ? 何ってビーフストロガノフの準備だけど……。今度の学校の調理実習で作るから練習しとこうと思って……」

 

 ここに来る前に買ってきた具材を切ったりしているあたしにマリアが話しかけてきた。

 

「それは見たらわかるわよ。マムがあなたを疑っている以上、半分は人質みたいなものなのよ。何、当然のように料理してるの?って聞いてるのよ」

 

「理由は――マリア、あなたがまだ料理が出来ないからよ。というより驚いたわ、調に教えてもらった食料庫、カップ麺やお菓子ばっかりじゃない……」

 

 あたしは思った以上にカツカツの状況で世界を相手取って宣戦布告した“フィーネ”という組織に呆れていた。

 

 ちなみにフィアナはマリア以上に料理は下手だった。だから、昔、私だけ給仕の手伝いをさせられていたのだ。

 

 ケータリングの料理をあの立ち振る舞いをしたあとにちゃっかりタッパーに入れて持って帰ったという話を切歌に聞いたときは正直言ってドン引きした。

 

 というか、こんな状況で計画なんて遂行できるはずないじゃない。

 切歌と調を使ってクリスと翼のギアペンダントを盗み出すなんて計画を立ててる時点で破綻してるのよ。

 

「だからって、普通この状況で作ろうと思う? ――でも、料理……、相変わらず上手なのね。あなた……」

 

「これくらいで上手いとか言わないでよ。マリアとフィアナが下手すぎるの。調にさっきどんな料理を作るのって聞いたら、カップ麺の作り方を説明されて悲しくなったわよ」

 

「うっ……、何か手伝うことないかしら? 私だって少しくらい……」

 

「あら、そう? じゃあ玉ねぎを薄切りにしてくれる? ちょっと、そんな持ち方だと指を切っちゃうでしょ」

 

 危なっかしい持ち方をしてるマリアにあたしは注意した。

 

「えっ、こっこうかしら?」

 

「ちょっと、貸してみなさい。こうやって持てば安全でしょう? なんでガングニールが使えるのに、そんなに不器用なのよ」

 

 埒があかないので彼女からニンジンを奪い取り見本を見せる。

 

「こういうのも、懐かしいわ」

 

「あなたと料理したことなんかないでしょ?」

 

「そうだけど、こうやって私に口うるさくするのってあなたしか居なかったから……」

 

「口うるさくって、あなた、あたしのことそう思ってたの? 何よ、こんな食生活でなんでこんなに育ってるのよっ!」

 

「ちょっと、どこ触ってるの? やめなさいっ」

 

 マリアとは年齢が近いからこうやって小競り合いはよくやってた。フィアナは楽しそうに見てるだけで、セレナがよく仲裁に入ったっけ。

 

 セレナがまさかあのとき絶唱を……。

 マリアの妹であるセレナ=カデンツヴァナ=イヴはシンフォギアの適合者だった。

 

 彼女が適合者だったからこそ、あたしたちは装者の素質を調べられることになったのだ。

 あたしの素質は最低だったけど……。

 

 ネフィリムが暴走したとき、セレナはそれを止めるために絶唱を歌って命を落としたらしい。奏と同じで……。

 あたしはそれすらも忘れていて、未だに思い出せないことがショックだった。

 

 そして、マリアに聞いた話では、その絶唱の凄まじい力でネフィリムを抑えている間に、いつの間にかあたしは行方不明になっていたらしい。

 自分の記憶はその直前で途切れているので、何が起こったのか、そのあとどうなったのかは謎のままであった。

 

 

「ねぇ、マリア……」

 

「何、改まって……」

 

「あなた、どうしてフィーネのフリなんてしてるの?」

 

「なっ、何をいきなり。フリなんてしてるはずないじゃない」

 

 嘘が相変わらず下手くそね。目が泳いでるわよ……。

 

「あたしはフィーネのクローンよ。わからないはずが無いじゃない」

 

「……っ」

 

 マリアは辛そうな顔をして黙ってしまう。

 

「それにね、フィーネは本当に近々転生するわよ。それが、切歌や調やそれにあたしと同じクローンのフィアナになる可能性もあるのよ」

 

「だから、私がそれだって言ってるでしょ」

 

「そう、わかったわ……」

 

 これ以上、彼女を追求しても意味が無さそうなのであたしはこの件について言及するのを止めた。

 

 そして、再び作業に戻った――。

 

「いい匂いデスなぁ」

「リア姉がおさんどんやってくれて嬉しい……」

 

「調、変な日本語をいつの間に覚えたの……? まぁいいわ、ビーフストロガノフを作ったから、みんなで食べましょう」

 

 あたしはビーフストロガノフが完成したことを切歌と調に伝えた。

 

「わっ私も手伝ったんだから」

 

「へぇ、あれを手伝いと言えるあなたが凄いわ……」

 

「頑張ったんだから良いでしょ!」

 

「はいはい、よく頑張って偉いわよ、マリア……」

 

 あたしはマリアの腰を叩いた。

 

「アナ姉とドクターは晩御飯は要らないみたいデス」

 

「せっかくリア姉が作ってくれたのに……」

 

 食事の準備が出来たことを切歌たちに伝えて来るように頼んだのだが、来たのはナスターシャだけだった。

 

「フィリアが晩御飯を作ったのですか?」

 

「言っとくけど、毒なんて入れてないわよ。ねっ、マリア」

 

「ちょっと、フィリア……」

 

 マリアが戦慄した表情を浮かべた。

 

「さすがに私もそこまであなたを疑いませんよ……」

 

「そう、体の調子が良くないなら、マムにはお粥でも作るわよ」

 

「必要ありません。なるほど、隠れて菓子を作ってただけあって上手に作りますね……」

 

「気付いていたのね……。よく見ていらっしゃったことで……」

 

 ナスターシャはひとくち食べて微かに微笑んだ気がした。気のせいだろうけど……。

 

「美味しいデスよっ! こんな素敵な料理があるなんて」

「ビーフストロガノフ……、響きもカッコいい……」

 

 切歌も調も美味しそうに食べている。これだけ好評ならいつか弦十郎にも食べさせよう。

 

「それでマム、フィリアの提案だけど……」

 

「そうですね。これだけ時間が経っても追手が来ないところを見ると、あなたは本当に誰にもこの場所を漏らしてないみたいですね……」

 

「あら、場所を変えないと思ってたけど、試してたのね」

 

 あたしはナスターシャの目をまっすぐに見た。

 

「ふぅ、行方不明になったあなたとこんな形で再会するとは思いませんでした……。よく思い返せば、あなたほど仲間想いの子は居ませんでしたね……。マリア、切歌、調……、あなたたちはフィリアのことを信頼できますか?」

 

 ナスターシャはマリアたちにそんな質問をした。何の意図があってそんなことを……。

 

「私は一度戦ってみて、フィリアの二課に対する位置付けや、信頼関係は理解してるつもりよ。にもかかわらず、記憶が戻ったら私たちの元に来てくれた。さっき話してみてわかったのよ、彼女は昔と変わってないって。信じるわ」

 

「私や調を守ってくれたリア姉を信じられないはずがないデス」

 

「うん、リア姉なら信じられる……」

 

 三人は記憶を取り戻したばかりのあたしを信じると言ってくれた。まったく、昔と変わらずお人好しなんだから……。

 

「そうですか……。わかりました。私たちは所詮は素人の集団……。どちらにしても、本国に目を付けられた今、後ろ盾が必要な状況なのはフィリアの言ったとおりです。フィリア、あなたに私たちを――」

 

 その時である。けたたましいアラームの音が鳴り響いた。

 

「何があったの?」

 

「ネフィリムが持ち出されました。ドクター、何を考えてるの……?」

 

 ナスターシャが焦りをあらわにした。ネフィリムを? なんの為に……?

 

「フィアナとドクターが外で《ノイズ》をっ……」

 

「はぁ? そんなことをしたら二課は気付くわよ、この場所に……」

 

 フィアナとウェル博士がネフィリムを持ち出して、さらに《ノイズ》を出現させて位置を知らせるような真似をしているらしい。

 

「ドクターとフィアナを止める……」

「調が行くなら、私も……」

 

「それは無理よ……、LiNKERまで持ち出されてる……」

 

 マリアが愕然とした顔をしてそう言った。LiNKERが無かったらあなたたちシンフォギアを纏えないじゃない……。

 

「あたしが出るわ……。何を考えてるのかわからないけど……、フィアナたちを連れ戻してくる」

 

「どうやらそれしか手が無いようですね。先日まで敵側だったあなたに頼むのは気が引けますが……」

 

 ナスターシャは気まずそうな声を出した。

 

「マム、あたしはあなたの優しさも厳しさも知ってるつもりよ。だからこそ、あたしは助けたい。あの数年間を生きていけたのはマムのおかげだから……」

 

 あたしはナスターシャにそう伝えて、フィアナたちを止めるために外に出た。こんなところで響たちと戦闘になったりしたら、ナスターシャたちを説得したことが無駄になってしまう……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「何を企てる、F.I.S.!」

 

「企てる? 人聞きの悪い。我々が望むのは、人類の救済! 月の落下にて損なわれる無垢の命を可能な限り救いだすこと!」

 

「月の!?」

 

 遅かった……。既に翼たちは《ノイズ》と交戦中……。

 フィアナもシンフォギアを纏っていた。

 月の落下のことも話しちゃってるし……。

 

「月の公転軌道は各国機関が三ヵ月前から計測中! 落下などの結果が出たら黙って――」

 

「黙ってるに決まってるでしょぉ。バカねぇ」

 

「対処方法の見つからない極大災厄など、さらなる混乱を招くだけです。不都合な真実を隠蔽する理由などいくらでもあるのですよ!」

 

 ここまではあたしも理解できた。情報操作はどこの国もやってることだし……。

 

「まさかっ! この事実を知る連中ってのは、自分たちだけが助かるような算段を始めているわけじゃ?」

 

「だとしたらどうしようかしらぁ? これってヤバくなぁい?」

 

「対する私たちの答えが――ネフィリムっ!」

 

 で、わかんないのが、装者とこのタイミングで争う意味よ……。

 

「何を勝手なことしてんのよっ! ネフィリムの餌はたっぷり与えたでしょう」

 

 本気の正拳でネフィリムを殴りつける。

 

「フィリアっ! お前、ホントに居なくなりやがって!」

 

「クリス、ご苦労さま。ちょっと、こいつら連れて帰るから、あなたたちも帰ってくれるとありがたいんだけど……。――くっ、フィアナっ! 何するのっ? あたしはあなたたちの為にっ!」

 

 フィアナがあたしに向かって光線を放ってきたので、あたしは彼女に抗議した。

 

「うーん、私としてはぁ、フィリアちゃんが帰って来てくれて嬉しかったんだけどぉ。ドクターが、邪魔って言うからぁ」

 

「フィリアさん、あなたの聖遺物の提供には感謝します、が、あなたのやり方だと僕が英雄になれません……」

 

 ウェル博士はどうやら身勝手な理由で暴走しているようだ。だからコイツは信用ならないのよ。

 てか、フィアナのやつ、あたしよりこんな男取るなんて、あとで説教してやる。

 

 

「グォォォォォンッ」

 

 そんなことを思っていると、後ろからネフィリムが恐ろしいスピードで体当たりしてきた。あたしとクリスは吹き飛ばされる。

 

「わざわざ、出てきてぇ、悪いけどぉ……。引っ込んでてねぇ」

 

「フィアナっ――」

 

 赤い光線があたしに当たり、ファウストローブが弾け飛んでしまった……。

 

 さらに、駆けつけてきた翼と彼女に抱きかかえられたクリスは《ノイズ》から粘着性の糸を絡み付けられて動きを封じられてしまった。

 

「フィアナ、お手柄です。ついでに、不死身の身体のお人形様がネフィリムに食われるとどんな反応をするのか試してみましょうか?」

 

「ええーっ、さすがにドクター、フィリアちゃんが死んじゃうんじゃあ」

 

「僕の予想ですと、それでもフィリアさんは平気のはずです。そしてネフィリムもパワーアップする。Win-Winな状態になるはずですよ」

 

 ウェル博士はいやらしい笑みを浮かべて、適当なことを言う。

 そして、動けなくなったあたしにウェル博士はネフィリムをけしかけた。

 

「フィリアちゃんっ!」

 

 響がこっちに駆け寄ってくれるが、《ノイズ》が邪魔をして間に合いそうもない……。さすがに食われて生きてる自信はないわね……。はぁ、あたしは何のために……。

 

“まったく、仕方のない子ねぇ、大人しくしてあげようと思ったんだけど……”

 

 頭の中で声が聞こえたかと思うと、あたしの身体から見覚えのあるピンク色のハチの巣状の盾が飛び出てきた。

 ネフィリムはそれに行く手を阻まれて、吹き飛ばされる。

 

 何、今の? まさか、フィーネの魂があたしに? だって、リインカーネイションって、遺伝子の刻印に関係があるんでしょ?

 人形のあたしが何故……。あたしの頭は混乱してしまっていた……。




響たちは2年生の前半でビーフストロガノフを作ったと思いますが、カリキュラムが違うってことでご容赦ください。
暴走するウェルとフィアナは厄介な方向に進んでいます。
そして、フィーネの魂がまさかのフィリアに……?
次回もぜひご覧になってください。





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暴走した博士と暴走した装者

原作6話の中盤まで。いよいよ原作から少しだけ離れて行ってしまってます。


「いっ今のは一体……」

 

「あっれぇ? フィリアちゃんってば、まだそぉんな力があったのぉ?」

 

 あたしは自らの身体からフィーネのバリアーが出てきたことに驚いた。

 

「ねぇ、ドクター。そろそろ引いたほうが良くないかしらぁ? ネフィリムもちょっとまだ力が弱いみたいだしぃ」

 

「フィアナ、ネフィリムの力はこんなもんじゃあない。確かにフィリアくんは食べ損なったが……」

 

 どうやら、ウェル博士は退く気はないらしい。

 このスキに離れないと……。せめてLiNKERを奪って――。

 

 あたしはなんとか立ち上がり、ウェル博士の近くにあるトランクに手を伸ばそうとした。

 

 ――破閃――

 

 その時である。あたしの四肢がフィアナの紫色の光線によって吹き飛ばされたのだ。

 

「いくらぁフィリアちゃんでもぉ。ドクターに手を出すんだったらぁ……。本気で殺すわよぉ――」

 

 フィアナの目からはこれまでに感じたことの無いくらいの殺気を感じた。この子本気ね……。

 

「ナイスです。肉親をも差し出すとは、君だけは他の有象無象と違う。いい子ですね、フィアナ……」

 

「もちろんよぉ。ドクターの為だったらなんだってしちゃうんだからぁ」

 

「では、今度こそネフィリムに――」

 

 ウェル博士は私に再びネフィリムをけしかけようとした。

 

「フィリアちゃんにぃぃぃ! 手を出すなぁぁぁぁっ!」

 

「ええ、手を出しません。あなたに手を出すことにします――」

 

「てぇぇいっ! ――えっ?」

「響ぃっ――!」

 

 グシャリという嫌な音が聞こえたと、思うと響の左腕はネフィリムに噛み千切られて食べら

 

「ふっ、ふふふ……」

「あーら、大惨事ねぇ……」

 

 

「あっ……。――うわぁぁぁぁっ!」

 

 左腕からおびただしい量の血を流して響は絶叫する……。

 響が、響が……、あたしを庇って腕が……。

 

 

「ふふっ、いったぁっ! パクついたぁ! シンフォギアを、 これでぇぇっ!」

 

 ウェル博士は勝ち誇った表情を浮かべた。この男やはりゲス野郎だ……。

 

「ううっ……」

 

 

「響っ! くっ、再生でエネルギーがっ……!」

 

 響がこのままだと……。こんなときにあたしは何でこんなに無力なの。

 フィーネでも何でも良いから力を貸しなさいよっ!

 

「完全聖遺物ネフィリムは、いわば自律稼働する増殖炉! 他のエネルギー体を捕食し、取りこむことでさらなる出力を可能とする! さぁ始まるぞ! 聞こえるか?  覚醒の鼓動!  この力がフロンティアを浮上させるのだ!  ふははははっ! ふひっ、ふひひひひっ!」

 

「ホントだぁ、ドクターったら、ここまで計算ずくだったのねぇ。すごいわぁ」

 

 ネフィリムは赤い光を放って、体が巨大化する。

 

「ふひひひひっ………、ふぇっ?」

 

 

「うぅぅぅぅっ!  ウガァァァッ!  ガァォァァァッ!」

 

 響の体が漆黒に染まった……。ここに来て暴走……? あたしはかろうじて身体を動かして、口にチョコレートを運び少しだけエネルギーの回復をした。

 

「ウガァァァァッ! グルゥゥゥッ! ガァァァッ! アァァァァァッ!」

 

 あたしみたいに腕を再生したっ!? いえ、あれは……。

 

「ギアのエネルギーを腕の形に固定!?  まるでアームドギアを形成するかのように!」

 

 翼の言うように、響が任意でエネルギーを操って腕の形を作ったという方が正しいわね……。

 

「ガルゥゥッ!」

 

「ま、まさか!?」

  

 響はとんでもないスピードでネフィリムの前に移動した。

 

「ウルァァッ!」

 

「や、やめろー!  やめるんだー!」

 

「ガウガウァァァッ!!」

 

 響の信じられないほどの強力な攻撃でネフィリムはボコボコにされていく。ウェル博士は驚愕した表情で狼狽えていた。

 

「成長したネフィリムは、これからの新世界に必要不可欠なものだ! それを! それをぉぉ! フィアナっ! あの女を止めろぉぉぉっ!」

 

「仰せのままに、ドクター! 」

 

 ――破閃――

 

 フィアナは響に向かって紫色の光線を浴びせた。

 

「あらぁ、効いてないのねぇ……。ぐふっ――」

 

 フィアナの攻撃はまったく効果を見せなかった上に響は彼女をチラッと見たと思うと、一瞬で詰め寄って、腹を蹴り上げた。

 

 フィアナは大きく吹き飛ばされて、地面に倒れる。バカね、喧嘩を売る相手が悪すぎるわ……。

 

「ガルァァッ! ウルァァァッ!」

 

 そして、響はネフィリムをボコボコにする作業に戻って行った。

 

「いゃめろぉぉぉっ! フィアナっ! 寝てる場合ではなぁぁぁいっ! アレを何とか止めろっ!」

 

 ウェル博士はフィアナに声をかけながらソロモンの杖を使い、《ノイズ》を召喚した。

 

 召喚された《ノイズ》たちは合体して巨大な《ノイズ》に変形する。

 

「なっ……、響、なんて……」

 

 響は、自分からノイズの口の中へ入り、内側から《ノイズ》を破壊したのだ。

 

「ウガァァァァァッ!」

 

「ドクター、LiNKERをください。歌います……。絶唱を……」

 

「そうか、そうか、さすがはフィアナ。歌っちゃいなYO! いくらでもぉぉぉっ!」

 

 ウェル博士はフィアナの首にLiNKERを刺した。

 

「ネフィリムはドクターの大切なものよぉ。それを、やらせはしないっ――。Gatrandis babel ziggura ――……、Emustolronzen fine――」

 

 あのバカっ! なんて、無茶を……! なんで、あの男の為にそんなことが出来るのよ!?

 

 

「最大出力! くらいなさぁいっ!」

 

 フィアナは両手を響に向けて超巨大な黄金のレーザー光線を放った。

 

 しかし、響はネフィリムを光線に向かって投げ飛ばして盾にするっ……。

 

 フィアナの絶唱から繰り出された光線が直撃したネフィリムは悲鳴のような絶叫を上げる。

 

「何をやってるっ! ちゃんと狙えよっ役立たずがっ!」

 

「ごっ、ごめんなさぁい。ドクター、もう一回、LiNKERを……。ゲホッ……、ください……」

 

 フィアナは口から血を吐き出しながらLiNKERをもう一回、体内に投与するようにウェル博士に頼む。

 

「クックック、それでいいぃぃぃ! 今度は外すなぁぁぁっ! 奴を吹き飛ばせぇぇぇぇっ!」

 

「いい加減になさいっ! この大馬鹿者っ!」

 

 あたしはウェル博士とフィアナを蹴り飛ばした。ふぅ、ようやく動けるようになったわ……。ファウストローブは使えないけど……。

 

「ふげぇっ」

「きゃっ」

 

 ウェル博士とフィアナは地面に倒れた。

 フィアナ……、こんなに簡単に倒れるなんて……、やっぱり、ギリギリだったんじゃない……。もう一度、絶唱なんてしたら死んでもおかしくなかったわよ。

 

「フィリアちゃん、なんで私の邪魔するのぉ?」

 

「あなたの姉だからに決まってるでしょっ! 死ぬ気なのっ?」

 

「うん、死ぬ気だよ――。ドクターの為に……」

 

「――っ!?」

 

 真剣な目でまっすぐにそんな宣言をされてあたしは絶句した。何考えてるのか解りにくい子だったけど、こんな目をして冗談を言う子じゃなかったからだ……。

 

 

 そんな中、ネフィリムの絶叫が再び耳に届いた。

 響の拳がネフィリムの体内から心臓のようなものを抜き出したからだ。

 そしてブチブチと音を立てて、響はネフィリムの心臓のようなものを掲げた。

 

 

「ひぃぃ! ネフィリムがぁぁぁっ!」

 

 響は心臓を投げ捨てて、上空にジャンプして、右腕を槍のような形に変形させた。

 

「ガルァァァァッ!」

 

 響はネフィリムの背中に槍を突き刺す。

 すると、ネフィリムから赤い光が放出されて大爆発を起こした。

 

 そして、《ノイズ》たちも同時に消え去った。

 

「ちっ、引くしかない……」

 

 フィアナは素早くドクターを抱えて、ネフィリムの心臓を手にして逃げていった。あの子……、マリアたちのところに戻りそうな感じじゃないわね……。

 

 

「よせっ! 立花、もういいんだ!」

 

「お前に、黒いのは似合わないんだよ!」  

 

 さらに暴れようとしている響を動けるようになった翼とクリスが取り押さえる。

 

「ガルッ……、グルァァァァァっっ!」

 

「くっ!」

 

「このバカ!」

 

 響は体から光を発して、そして――元の姿に戻って気絶した。

 左腕……、再生してるですって……?

 

 

「立花!  しっかりしろ!  立花ぁぁぁっ!」

 

「早く、救護の手配をしなさい!」

 

 響に声をかける翼に、あたしは指示を出す。

 

「お前、まだ帰らないつもりかよっ! あのバカがこんなになってんだぞっ!」

 

「ごめんなさい、クリス……。大切な人を、守りたいのよ……。大丈夫よ、すぐに戻るわ……。約束する……」

 

「フィリア……、お前……。はぁ、やっぱ、お前はお前だったか……。好きにしな」

 

 クリスは少しだけ微笑むと、響の元に駆け寄って行った。

 そして、私もマリアたちの元へ戻った。

 マリアから通信が来たのだ、ナスターシャの容態が悪くなったと……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「マム! マム!  しっかりしてマム!」

 

 ナスターシャは血を吐き出してぐったりしていた。まったく、こんな体調で……。何を考えてるのかしら……。

 

「マリアっ! 一刻を争うわ。二課の医療設備なら、マムに十分な医療を受けさせることが可能よ」 

 

 あたしはマリアにニ課に身を寄せることを提案した。

 

「しかしっ! マムの指示も無しでそんな勝手っ……!」

 

「じゃあ、あの男の方が信用できるって言うの? アイツは自分が英雄になることしか考えてない大馬鹿者よ」

 

「くっ……、だけど、ここで私たちが捕まっては……」

 

 マリアは苦渋の表情を浮かべた。迷ってるのね……。

 

「それなら大丈夫よ。あなたたちを拘束するのは全部終わってからにするから」

 

「それは、どういうこと?」

 

「あなたたちは武装組織“フィーネ”としてではなく、あたしの友人の民間協力者として二課に来てもらうから」

 

 弦十郎からのメールを開いて、マリアに見せた。やっぱり、最初にプライベートメールに送って考える時間を作ってもらって正解だったわ。

 

「そんな無茶苦茶でバカなこと……」

 

「出来るのよ、ウチの父もその部下もみんなバカだから。“フィーネ”だって、気付かなかったことにするのっ。既に月の軌道計算は終わってる。あなたたちの主張が正しいってことも大きかったわ。世界を救う方法があるなら教えてほしい……。それがあたしたちの出した結論よ……」

 

 そう、月の落下が事実だとわかった今、この子たちと争うほど無駄なことはない。あたしたちがすべきことは、情報を迅速に収集し、事態の改善方法を模索すること……。

 

「――ふぅ、あなたが居て良かった。このままだと私は壊れてしまいそうだった」

 

 マリアはあたしをギュッと抱きしめて、そう声を出した。優しいあなたには特に辛いことだったのでしょうね。

 

「切歌、調、私たちはマムを失うわけにはいかない! それにこの世界を救わないわけにはいかないっ! 積み重ねたことを崩すことになって申し訳ないけど……」

 

「何を言うのデスか。マリアに負担がない道があるなら、そのほうがいいに決まってるデス!」  

 

 切歌はマリアのことを心配していたらしく、ホッとした表情を浮かべていた。

 

「でも、フィーネの生まれ変わりのマリアが酷いことされないか心配……」

 

 調はマリアの身を案じているようだ。この子も優しい子よね。

 

「ああ、フィーネの魂ならあたしの中にあるからマリアは大丈夫よ。相変わらず、そそっかしいんだから」

 

「「えっ!」」

 

「ちょ、ちょっとフィリア。それは、一体どういうこと?」

 

「ああ、面倒だから後で話すわ。それより応急処置は出来てるみたいだけど、マムをこのまま放置できないでしょう。ウチの救護班の手配をするから、あなたたちも二課に同行してもらうわよ」

 

 こうして、あたしは弦十郎に連絡を取り、民間協力者4名を二課の司令室と緊急救命室に連れて行くことに成功した。

 月の落下防止の為にあたしたちは協力し合うことで同意となったのだ。

 

 

 ――しかし、大きな衝撃があたしに襲った。暴走していた響のことだ。

 彼女の心臓と融合しているガングニールの欠片が、どんどん体中に侵食を開始して彼女を蝕んでるらしい……。

 

“あら、やっぱり響ちゃん、大変なことになっちゃてるみたいね”

 

 響の容態を聞いて愕然としていたあたしに、聞き慣れたムカつく声が再び話しかけたのだった。

 




マリアたちが原作よりも早くニ課へ……。まぁ、ずっとこのままという訳にはいきませんが。
そして、再びフィーネの声が聞こえたフィリアは……。
次回もよろしくお願いします!






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響を救う方法とフィーネの魂

響の体内を蝕むガングニールをどうするかという話とフィーネの魂が同居するフィリアの話です。
それではよろしくお願いします!


「これは――?」

 

「メディカルチェックの際に採取された、響くんの体組織の一部だ」

 

 弦十郎から翼とあたしは金属の結晶のようなものを見せられる。

 

「胸のガングニールが?」

「そんなバカな……」

 

 あたしたちは目を疑う。

 

「身に纏うシンフォギアとして、エネルギー化と再構成を繰り返してきた結果……、体内の浸食深度が進んだのだ」

 

 聖遺物と肉体の融合って聞いたときに嫌な予感がしたけど……、まさかこんな……。

 

「生体と聖遺物がひとつに融け合って……」

「じゃあ、響の異常な爆発力は――」

 

「フィリアくんの言うとおり、適合者を超越した響くんの爆発的な力の正体がこれだ」

 

 響の力の代償は大きすぎるものだった……。

 

「この融合が立花の命に与える影響は?」

 

「遠からず死に至るだろう……」

 

「立花の死……?  死ぬ?  馬鹿な……」

 

「そんな……、あたしを庇って……、響は……」

 

 響の侵食を早めたのは、あたしを庇って暴走したからだ……。あたしが独断専行したせいで、こんな結果になるなんて……。

 

「そうでなくても、これ以上の融合状態が進行してしまうと、それは果たして人として生きていると言えるのか? 皮肉なことだが、先の暴走時に観測されたデータによって、我々では知り得なかった危険が明るみに出たというわけだ」

 

 本当に皮肉な話ね……。どうしたら……。

 

“あら、やっぱり響ちゃん、大変なことになっちゃってるみたいね”

 

「フィーネ……」

 

「ん? フィリアくん、何か言ったか?」

 

 弦十郎が不思議そうな顔をしている。やっぱり、あたしにしか聞こえてないようね……。

 

“響ちゃんの状態を何とかしたいんでしょう? 力を貸したげようか? 彼女のメディカルデータ、私より詳しい人は居ないわよ”

 

“はぁ? あなた、何を企んでるの?”

 

“フィリアちゃん、ママのこと信じられないの?”

 

“拗らせて、月を破壊しようとして、その結果地球を危機に陥れた張本人を信じろって言うの?”

 

“えっ、ダメかしら? そんなことくらいで疑われてるの私……”

 

“あなたみたいな人の遺伝子を使って生まれて来たことが嫌すぎるんだけど……。まぁ、いいわ。どうするの?”

 

“そうねぇ、長々と説明するのも面倒だから、私の知識をあなたに送るわ……”

 

「うっ……、何なのこれ……」

 

「フィリアくん、どうした? 響くんのことがショックなのはわかるが、ボーッとして……」

 

「そうだ、フィリア。さっきから少し変だぞ」

  

 翼と弦十郎が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。

 今、私の意識の中にフィーネの知識が流れ込んでいる。

 響を助けるヒントをくれるって言ったけど……。

 

「神獣鏡……、凶祓いの力……、リムーバーレイ……、聖遺物の力を無効化し、分解……。――確か神獣鏡って、マリアたちのヘリコプターをステルス化させた、聖遺物……。装者不在だけど、ギアペンダントはあるって、言ってたわね……」

 

 神獣鏡には凶祓いの力が宿っており、聖遺物を無効化し、分解する力が眠っている。

 ギアとして纏う者がいれば、その力を利用して、響の体の中の聖遺物を除去することが出来るという理屈だ。

 

「大丈夫か? 今、マリアくんがどうとか言っていたが……」

 

「司令、響を助ける方法があるかもしれないわ。装者を見つけられれば、だけど……」

 

「響くんを救う方法だとっ!?」

「フィリア、それは本当か? 立花をどうやって救うというのだっ?」

 

 あたしはフィーネに教えてもらった知識をそのまま弦十郎たちに話した。

 もちろん、マリアたちにも協力してもらわねばならないし、第一、装者を見つけなくてはならないという最難関クラスのハードルがある。

 

「うーむ、なるほど。確かに難しい条件だが……」

 

「確認されてる装者の数は少ない……。しかし、立花に今後無理をさせねば、時間は作れよう……」

 

 二人は希望が見えてきたという表情となった。

 

「しかし、フィリアくん。随分と聖遺物の知識に詳しくなったようだが、どうしたんだ。まるで――」

 

「了子みたいって言うんでしょ。今、あたしの魂の中にフィーネが居るのよ……」

 

「はぁ? 了子くんの魂だとぉっ!?」

 

「それは本当か? 確かに櫻井女史の知識なら立花の身体にも詳しいし、対応策がすぐに出てきてもおかしくないが……」

 

 あたしの言葉に二人は驚愕の表情を浮かべる。まぁ、そりゃ諸悪の根元みたいな人があたしの中に居るって知ったらそうなるわよね。

 

「そうか……、了子くんが響くんを助けようと……」

 

 ただ、弦十郎は少しだけ嬉しそうな顔をしていた。

 この人、女の趣味が悪いから了子のこと……。

 

“えーっ、なにそれ聞いてないんだけどー。弦十郎くんって私のこと……。あーあ、もっと早くそれを知ってたら私も乗り換えてもよかったのに”

 

“人の思考を覗き見した上に気持ち悪いこと言わないでよ。ていうか、そんなに軽いものじゃなかったんでしょ? あなたの気持ちは……”

 

“まぁね。だけど、弦十郎くんは良い人だから……。まぁいいわ。あと一つだけヒントをあげるわ。響ちゃんを救いたいなら、彼女をトコトン愛する人を探しなさい――。愛の力が適合係数の壁を乗り越えることだってあるんだから……。やりようによってはね……”

 

「響を愛する人?」

 

 あたしは思い当たる人物を思い浮かべた――彼女は確かに愛の力なら誰にも負けないだろうけど……。

 

 とにかく、協力者となったマリアたちと連係することが決まったばかりで、響のことだけに時間を使うわけにはいかないので、彼女には無理をさせないように注意喚起し、神獣鏡の装者探しをしようという話で落ち着いた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ねぇ、フィリア。私たちに住む場所を提供してくれたのは嬉しいんだけど……。ここって二課の司令の自宅よね……」

 

「ええ、広いから部屋が余って仕方ないのよ。あと、あたしの自宅でもあるから」

 

 アメリカからも狙われているマリアを民間のホテルに泊めると色々と危険そうだったので、一番安全そうな場所を思案した結果、二課の司令官、人類最強の男の自宅がもっとも安全だという結論に達した。

 

「あなたが風鳴弦十郎の養子になったのは知っているけど、一緒に住んでるなんて……。いや、私は良いのよ。でも切歌と調を知らない男の家に泊めるのは……」

 

「廃病院は良いのに? そっちの方がよっぽどハードル高いと思うわ……。思い出しただけで不憫なんだけど……」

 

 あのボロボロの廃墟に住んでいたって考えるだけであたしは哀しかった。

 それなのにマリアは小さなことをぶつくさ言ってくる。

 

「まぁまぁ、フィリアくん。マリアくんの言うことは当然の話だ。見ず知らずの男が居るとストレスになるだろう。俺は使ってない離れにしばらく住むことにしよう。こっち側は君たちで好きに使うと良い」

 

 弦十郎は離れで一人で過ごすと提案した。まったく、いつもお人好しなんだから。

 

「一体どうして? あなたの言うとおり、私たちは見ず知らずどころか、先日まで敵だったのよ? こんなに親切に普通しないわよ……」

 

「確かに君の言うとおり、先日までは我々は敵同士だった。しかし、今は同志だ。地球の危機を救うという共通の目標の為に同じ方向を向いている――。それに……、それ以前に君たちは俺の大事な娘の友人と恩人だ。親ならそんな君たちを大事にするのは当然だろ?」

 

 この親バカというか、バカ親はあたしに相変わらず、バカみたいに甘い。

 まったく、恥ずかしいじゃない……。マリアにそんなこと……。

 

「フィリアには良いお父さんが出来たのね……。羨ましいわ」

 

「その代わり母親は最低だけどね。これで何とかバランス取れてるわ」

 

“ちょっと! 酷い言い方じゃない!”

 

 あたしはフィーネの抗議を無視する。いや、普通に考えて人類に迷惑かけまくりの母親って嫌でしょ。

 

「では、ありがたく住居を使わせていただく。私たちは、あなた方に全面的に協力することを惜しまないわ」

 

 マリアは凛々しい顔つきになって力強くそう言った。多分、奮発して買った高級な牛肉のおかげだろう。

 昔からこの子はその日のご飯で力が変わっていたから……。てか、この子って高級食材で固めたメニューを食べさせれば、LiNKERいらないんじゃないの?

 

「マリアー、すごいデス! 調と一緒に使うベッドが大きくてふかふかデス!」

「切ちゃんと暖かい部屋で眠れるの久しぶり……」

 

 自分たちの使う部屋に案内されてしばらくプライベートな空間を楽しんでいた切歌と調が嬉しそうな表情でリビングにやってきた。

 

「「…………」」

 

「何、あなたたちのそのいたたまれない者を見るような視線は! 悪かったわよ! お金がギリギリの状態で武装蜂起なんてしようとしてっ! 切歌と調に我慢させちゃって!」

 

「いや、俺は別に……」

「マリアって、ときどき逆ギレするわよね……」

 

 私は涙目で逆ギレしてるマリアを呆然と眺めていた。

 まぁ、ナスターシャも何もしないで死ぬよりはって感じで決死の覚悟で動いたんでしょうけど……。

 マリアには切歌と調に負い目があったみたいだ。

 

 

「まっまぁ、マリアくん。こちらの都合ではあるが、シンフォギア装者の一人である響くんが戦えなくなってしまった。だから、戦力が増えることはとても助かっているんだ」

 

「でっでも、私たちにはもう、LiNKERが……」

「そうデス。アナ姉のバカとアホドクターが……」

「私たちはもう戦えない……」

 

 弦十郎の発言にマリアたちは悔しそうな表情を浮かべた。

 

「そうね、当面は奏の使ってたLiNKERで凌ぐしかなさそうね。まぁ、近いうちに、あたしが新しいやつを作るわ」

 

「「えっ?」」

 

 マリアたちは驚いた表情であたしを見た。

 

「言ったでしょ、あたしの魂にフィーネが居るって。彼女から役立ちそうな知識をさっき送ってもらったの。そもそも、LiNKERはフィーネが作ったんだから。F.I.S.製の改良型LiNKERのサンプルも、フィアナが落とした奴を持って帰って来たから解析して量産可能よ」

 

 あたしはフィーネを利用するだけ利用することにした。借金はそれでも全然返済できないだろうけど……。

 

「フィーネはマリアじゃなくて本当にリア姉に宿っていたのデスか?」

「でも、それじゃあリア姉がフィーネに……」

 

「うーんと、多分大丈夫よ。この人なりに反省してるみたいだし……。あたしの身体を乗っ取る気なら知識だけ渡すなんてマネしないでしょう」

 

 あたしはフィーネに身体を取られる心配について否定した。迷惑な同居人が増えたけど、仕方ないと割り切るしかない。

 

「では、私たちもドクターなしで戦うことが出来るというわけか。それなら……」

 

 マリアたちの顔が少しだけ明るくなった。

 本当は誰にも戦って欲しくないんだけどね……。

 

 ただ、このまま戦力が少ないって状況になると響のバカが――絶対に無理をしようとする……。

 

 あたしにはそれが堪らなく嫌だった――。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ離れに行くから……。何かあったら連絡してくれ」

 

 弦十郎はあたしたちにそう声をかけて母屋から出ていった。

 

 弦十郎も内心複雑よね。出来れば翼やクリスにだって、いや、あたしにだって戦って欲しくないって思ってるくらいだから……。

 

 本当に甘い人なんだから……。

 

“あれも大好き、これも大好きって、フィリアちゃんは友達想いね。私は恋愛の力が至上だと思ってたけど……、フィリアちゃんの友愛の力もなかなかやるわね……”

 

“うるさいわね。別にそんなんじゃないわよ”

 

 困ったことにこの人(フィーネ)はかなりおしゃべりだった。

 あたしは寝ない身体なので、彼女のお話に死ぬほど付き合わされて……。ついでに科学者としての知識を活かした研究のやり方を教わるのだった。

 

 おかげで、私は早い段階で実用性があり、尚かつ体に負担が少ないLiNKERとより安全な体内洗浄の方法を確立するに至ったのである。

 

 フィーネは戦闘より科学者の資質がある。さすがは自分のクローンだと調子のいいこと言ってた。

 あたしはガラクタって言われたこと忘れてないから――でも、今回に限ってはありがたかった。

 

“あら、フィリアちゃんってば、デレてるのー? 可愛いー”

 

 やっぱりこの人は最低の母親だ……。

 




フィーネが便利キャラになってしまい、フィリアも便利な感じになってしまいました。
これくらい盛っておかないとGX編以降が大変になりそうというご都合主義もありますので、ご容赦ください。
実は了子口調のフィーネが好きなので、復活させることが出来て嬉しかったりします。
次回もよろしくお願いします!


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ひびみくは人類を救う

タイトルからお察しかもですが、完全にコメディ回です。
それではよろしくお願いします。


「依然として、動きは無しか……、こうも静かだと寧ろ不気味だな」

 

 翼はウェル博士とフィアナの動きがないことについて感想をもらした。

 

「あたしらが、こうやってあのバカ見張ったり、気を張ってるのを知ってるんだろ。緩んだところを狙うつもりなんじゃねーの?」

 

「こっちもあいつらのソロモンの杖とネフィリムの心臓を奪取しようと思ってるけど、向こうだって神獣鏡を狙ってるはず。だったら人質を取ったりするような過激な行動に出ると読んだけど……」

 

 あたしとクリスと翼は響が友人たちとリディアンから寮まで帰宅している道中を彼女たちに気付かれないように尾行していた。

 

 

 フロンティア計画――《フロンティア》とF.I.S.が名付けた超巨大遺跡を浮上させ、ネフィリムの心臓を持ってしてそれを操り、月の落下に伴う災厄から人類を救おうとするプロジェクト。

 

 ウェル博士は自らが主導してこれを成し遂げたいと思っている。

 

 この計画のキーは二つある。

 一つはネフィリムの心臓だ。これは、フロンティアをコントロールするのに利用する。

 そして、もう一つは神獣鏡だ。これの力を持ってしてフロンティアをまずは起動させなければならない。

 この辺の見通しはどうだったのか? 意識をなんとか回復したナスターシャにその点を聞いたところ、神獣鏡の力を機械的に高めた程度の「リムーバーレイ」では起動できなかったらしい。

 

 故に、人間がギアを纏わないと起動に必要なエネルギー出力には達しないという結論になったそうだ。

 しかし、ウェル博士にはこの点も克服する手段があると豪語していて、フロンティアの起動の計画は彼に任せていたという話だった。

 

“まぁ、私だったらLiNKERを大量に使ってでも適合係数上げちゃって、手っ取り早く装者を作っちゃうわね”

 

“バカな、LiNKERだって万能じゃない。そんなので適合出来てたら、あたしだってシンフォギアを纏えたわよ”

 

“そこは、愛の力で何とかするのよ”

 

“なぜそこで愛?”

 

“フィリアちゃん、LiNKERというのはあくまでも接合剤なのよ。強い想いの力とシンフォギアを繋ぐためのね……。想いの力で最も強い力は愛情よ……。愛する人への想いを極限まで高めた状態でLiNKERを使用し適合率を上昇させれば或いは……”

 

“シンフォギアを纏えるってこと? 今まで資質が足りないとみなされた人でも……”

 

“多少は可能性はあるわね。まぁ、その段階まで行くんだったら、私なら体のいろんなところを多少弄ったりしちゃったりして無理やりでも適合させちゃうけどね”

 

“あなたってホントに手段選ばないわよね……”

 

“あら、そういうのは嫌いかしら。じゃあ、愛情パワーを急上昇させるプランで行きましょう。名付けて……【ラブラブ大作戦】!”

 

“…………”

 

 フィーネ曰く現時点でもっとも神獣鏡のギアが纏える可能性が高いのは小日向未来とのことだ……。

 リディアンの生徒は元々シンフォギア装者の候補を集める目的で作られており、彼女の適性は一般人と比べて高い。

 

 さらに、未来は立花響を愛している。

 これは友愛ではなく、恋愛という意味でだ……。

 

 あたしだってそこまで鈍くない。そこそこの期間の付き合いがあり、引っ越しまで手伝ったりして、親交はそれなりに深い。

 

 だからこそ、未来の気持ちは割りと筒抜けである。

 ただ、未来にとって幸運なのか不運なのか分からないが、響は一ミリも未来の恋心に気づいてない。

 とても仲の良い大切な親友であることには相違ないが、そこまでである。

 

 響はそんな未来の気持ちをまったく知らないで「一緒に寝よう」とか、「帰ってくる日だまり」とか、そんなことを恥ずかしげもなく言うものだから、未来の心はそれだけで大きく揺れている。

 

“今のままでも、愛情の高さって十分じゃない? なにも、装者にするために恋人同士にするって言うのは――。というか、世界を救うためとはいえ、そんなお節介を……”

 

“だって未来ちゃん可哀想じゃない。あのままだと、響ちゃんの性格上、一生生殺し状態かも知れないわよ”

 

“その可能性は否定しないけど、余計なお世話でしょ。大体、もし響が断ったりしたら、それこそあたしは責任負えなくなるんだけど……”

 

“でも、このまま神獣鏡の装者見つからなかったら響ちゃん死んじゃうわよ。その上、月の落下も止められない。今、まさに、偽善に満ち溢れたあのチャリティー番組のキャッチフレーズな状況ってわけ。《愛は地球を救う》ってね”

 

“あなた、絶対に楽しんでるでしょ? この状況を……。諸悪の根元の癖に……”

 

 しかし、現状、この状況を打破するほどの代案が浮かぶこともなかったので、非常に遺憾ではあるがフィーネの《ラブラブ大作戦》を採用することにした。

 

 この手段を選ばない性格が暴走して《カ・ディンギル》なんて作って月を破壊しようとしたんだから恐ろしい……。

 

 というわけで、恋愛なんてものに疎い私は《ラブラブ大作戦》を実行するためにどうすれば良いのかを会議をすることにした。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「フィリアくん、なんだその気の抜けるような作戦名は……」

 

「聞かないでちょうだい。あたしだって嫌なんだから……」

 

 司令室に集められた、響を除いた二課のメンバー。

 いかにして響と未来をくっつけるかという、本人たちからすると本当に大きなお世話な作戦なのだが、これには人類の未来がかかっている。

 

 もはや、《ラブラブ大作戦》は最重要ミッションとなっており、あたしたちは真剣に話し合うことになったのだった。

 

「それで、フィリアよ。羅武羅舞大作戦とは、どんな兵器を使う作戦なのだ?」

 

 翼が天然を発動させながら、真顔であたしに質問する。

 

「翼さん、ラブですよ、英語です。恋愛ということですよ」

 

「れっ、恋愛? それと、月の落下に何の関係が?」

 

 緒川のツッコミに翼は顔を赤らめて、疑問を呈す。

 

「フィリア、お前、働きすぎて頭がおかしくなったんじゃねぇの?」

 

 クリスには本気で心配そうな顔をされてしまった。

 

 この空気にも耐えられないあたしは手短にフィーネが提案したことをみんなに話した。

 未来に神獣鏡の装者になってもらおうということ、そのために響との恋愛を成就させようという内容を真剣に淡々と伝えたのだ。

 

「愛するという気持ち、響を救いたいという気持ちが高まれば、ギアとの適合率がアップするはず……」

 

「しかしだな、フィリア。本当に小日向は立花のことを……。もし、間違っていたら、我々はとんだお節介どころの話ではなくなるぞ」

 

「つーか、間違ってなくてもお節介だろ。バカバカしい」

 

 こういうことだと、割と戦力外な翼は真剣にな表情で、クリスは若干苛立ちながら、そう答えた。

 

「これが、非常時でないなら、あたしだってこんなこと言いたくもないし、したくもないわよ。でも、このままだと響の命も地球人類の存続も危ないのよ」

 

「未来くんの恋愛成就が、人命と人類の存亡を左右するという状況というわけか……」

 

 弦十郎も渋い顔をしながら、司令官として何かを言わなくてはと必死に考えているようだった。

 

「そもそも、何を持ってして恋愛成就と定義します? あのお二人はいつも一緒に居ますし、仮に未来さんが告白して、成功したとしても、これは二人の仲が進展したと言っていいものなのでしょうか?」

 

 緒川は唯一、表情ひとつ変えずにまっとうな意見を出していた。

 

「何をもって恋愛成就? そりゃあ、いっ、一緒のベッドで寝るとかかぁ?」

 

 クリスが顔を赤らめてそんなことを言う。

 

「それは、もうやってるわ」

 

「はぁ? あいつらそんな関係なのかぁ? じゃあもう、付き合ってるでいいじゃねぇか!」

 

 あたしのツッコミにクリスが大声を上げる。

 そうね、あたしもそう思うわ……。でも……。

 

「やっぱり、キスね。その先は高校生だから、私たちが勧めるわけにはいかないし」

 

 合コンによく行ってる友里は腕を組みながらそんな意見を出す。キスかぁ、なんか生々しい話になってきたわね。

 

「データによると、恋人として一線を超える定義でも《キス》は上位ですね」

 

 女性といい歳して付き合ったことのない、藤尭は何のデータを見てるのかゾッとするけど、いつもどおりの口調でそう言った。

 

「そっ、それでは、我々は立花と小日向を……、せっ接吻させる作戦を立案しなくてはならないのか……? くっ、これも防人の務め……、不承不承ながら……」

 

 顔を真っ赤にした翼はうつむきながら防人としての務めを果たさねばならないとか言ってる。

 うーん、今こそ奏には真面目がすぎるぞって言ってもらいたいわね。

 

「では、最終目標はキスということで。とりあえず未来さんにはどう伝えます? さすがに作戦をそのまま伝えるのは……」

 

 緒川は未来に告白を促すにしても、そのまま作戦を伝えれば彼女がいらぬプレッシャーに押しつぶされるのではと、懸念した。

 

 確かに、あなたの告白の成否が地球の命運を左右するなんて言われたく無さすぎるわね……。

 

「それとなーく、あたしが伝えるしかないわね。この中だと、未来と一番長い時間付き合ってるから……」

 

 ものすごく気乗りしないが、焚きつける役はあたしとなった。

 

「デート行かせるならどこがいいかなぁ、ディナーは夜景の見えるレストランとして……」

 

 だんだん楽しそうな声を出す友里。しかし、デートさせるのは重要ね……。

 

「データによりますと、告白をしたデートで行った場所上位は水族館、映画館、それから――」

 

 藤尭はまたもや謎の統計を出してきた。この人、こんなことやってるから恋愛経験無いんじゃないかしら?

 

「そういえば、この間、知り合いから水族館のペアチケットをもらったぞ。フィリアくんにあげようと思っていたが……」

 

「それなら、その貰ったチケットをあたしが未来に渡すところから話を切り出すわ。レストランは適当に――友里に予約してもらいましょう」

 

 あたしたちは彼女らのデートのための準備を開始することにした。

 失敗は許されない。何としてでも響と未来をくっつける!

 

 

 

 

「珍しいですね、フィリア先輩が私に用事なんて。もしかして、また響に何かありましたか?」

 

 喫茶店に呼び出した未来が不思議そうな顔であたしを見つめる。

 

「そうね、響にも関係のある話よ……。実は――」

 

 あたしは未来に話を始める。彼女が響に告白するように決心してもらうために――。

 

 こうして、人類の存亡を懸けた、《ラブラブ大作戦》が始動したのである。

 

 本当にこれでいいのかしら――?

 




完全にふざけてるようにしか見えませんが、みんな真剣です。
次回もよろしくお願いします!


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続・ひびみくは世界を救う

前回の続きです。
ラブラブ大作戦、ついに始動。
それではよろしくお願いします!


「実は響はもう戦えない体になってしまってて――。彼女も、ああいう性格だからかなり落ち込んでると思うんだけど、どうかしら?」

 

 未来に響の現状をまずは聞いてみる。そこから何とか話をデートに繋げないと……。

 

「そうですね。私は響が危ない目に遭わなくなるってホッとしていますが、いつもよりもボーッとする回数が増えてます……。人助けが出来なくなったからかもしれません」

 

「やっぱりそうよね。私たちも何とか彼女を元気付けたいんだけど、デリケートな問題だし、そもそも私たちを見ると余計に戦えない自分がもどかしくなったりしそうでしょ?」

 

 響が元気がないのは私たちも知っている。なんせ、もうギアを纏うなと、私たちがかなりキツく忠告したからだ。

 

「先輩たちは響の分も戦ってくれてますから、響がそれを気にするというのは仰るとおり辛いと思います。フィリア先輩は響を元気付けたくて私を呼び出したのですか?」

 

「ええ、そうよ。未来なら響のためのことなら力を貸してくれると思ったから」

 

 未来は意外そうな顔であたしを見た。まぁ、らしくないのは認める。

 

 

「フィリア先輩がそこまで響のことを……。それで、私は何をすれば?」

 

 未来……、ライバル出現みたいな表情はやめてほしい。違うからね、それは……。

 

「それは、簡単よ。あなたには響をデートに誘ってほしいの。ほら、水族館のペアチケットあげるから――」

 

「ひっ響をデートにですか? もっもうフィリア先輩も響に影響されすぎですよ。普通に遊びに誘うでいいじゃないですかー」

 

 未来はあたしが似合わないような言い回しをしたと思っているみたいだ。

 当然よね……。普通に考えて本気のデートしてこいだなんて言われるはずないもの。

 

「未来、勘違いしないで……。あたしはあなたに本気でデートしてきてほしいと言っているの。だってほら、あなたって響のこと――」

 

「ほっ本気って何を言ってるんですか? ふざけてるなら、私だって怒りますよ……。そりゃ、響のことは――でも、面白半分で冷やかされるのは腹が立ちます!」

 

 どうやら、思った以上に地雷だったらしく、未来は不愉快だという表情になった。

 困ったわね。最初から躓いたわ……。

 

“もー、下手くそねぇ。そんな言い方、怒られるに決まってるじゃない。普通に男を誘うとかじゃないのよ? しょうがない、ママがフォローしてあげるから、そのとおりに喋りなさい”

 

 フィーネが呆れた口調でダメ出しをしてきた。そんなに酷かったかしら?

 

「ごめんなさい。変なこと言っちゃって。これには理由があるの……」

 

「理由ですか? フィリア先輩が私をからかうのに、何の理由があるというのです?」

 

 やっぱり未来は怒ってるみたいだ。正直、ちょっと怖い……。

 

「実は――私も響のことが好きなのよ……。友達以上の感情を持ってるの……。最初は戸惑ったわ。こんな気持ちは初めてだったから……、でも気付いたら響のことを自然に目で追うようになっていた――」

 

 フィーネのやつ……。何をあたしに言わせてるの? 絶対に面白半分でしょ。大体こんな猿芝居に未来が騙されるわけ……。

 

「えっ、えっ、ちょっとフィリア先輩? 冗談ですよね? だって先輩が――いや、確かに最近、響は先輩に餌付けされていて――」

 

 納得しかけてるんじゃないわよ! いや、これはチャンスよね? こうなったら畳み掛けるしか……。

 

 

「出来るんだったら、あたしが響の恋人として支えたいわ。でも、響にはあなたがいるから……。このまま、響があなたのものになったら諦めようと思ってる……」

 

「フィリア先輩が響の恋人に? 何を言ってるんですか? 女の子同士でそんなこと……!?」

 

 未来はあたしの恋人発言に明らかに動揺していた。女子校だし、彼女を本気で取られることは想像してなかったみたいね。

 

「関係ないわよ、そんなこと。きっと響はあたしを受け入れてくれるわ……。あなたが居なければね……。いい加減、見ていて腹が立ってきたのよ。煮えきらないあなたに……。あなたが行かないなら、あたしが響を貰うわよ」

 

 そう言いながら差し出したチケットに手を伸ばそうとした――。

 

 ――すると、すごいスピードで未来はチケットを掴んで、カバンにしまい込んだ。

 

 

 

「――響は渡しません。フィリア先輩にも……、他の誰にも……。順番を譲ってくれたことと、チケットのことは感謝します」

 

 ギロっと睨まれながら、未来はペコリと頭を下げた。

 

 ――こっ、怖い……。人形の身で表情が顔に出にくくて良かった。人の身だったら、ビビってる表情が丸わかりだったでしょうね……。

 

 未来には会計はあたしがすると言って、先に帰ってもらった。

 

 

 

 

「ふぅ、途中はヒヤッとしたが、上手く乗せたな。しかし、見事な演技だ――一瞬、私もフィリアが立花のことを好いているのかと騙されかけたぞ……」

 

「お前、よく真剣な顔してあんなこと言えるな……」

 

 変装をして近くに座っていた翼とクリスがあたしに声をかける。

 

 なんで二人とも顔が赤いのよ……、やめなさいよ恥ずかしいんだから……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 そして、デート当日、あたしは変装して響たちを尾行しながら監視する――同じく変装してる翼とクリスと共に……。

 

 なんで、あたしは子供服着せられて調みたいな髪型のウィッグを被らなきゃなんないのよっ!

 

「ははっ、似合ってるじゃないか。フィリア」

「ああ、生意気なガキって感じが出てていいじゃねぇか」

 

 そういう翼はホスト風の格好で男装をしており、クリスは金髪のロングヘアのウィッグにギャル風の格好をしてる。

 うん、どう考えても怪しい三人組だ……。

 

 というわけで、響たちの様子を見てみよう。

 

 

 

「うひゃぁぁぁっ!」

 

 響がボーッとしているところに、冷たいジュースの缶を頬に当てる未来。響は驚いて絶叫していた。

 周りの人がジロジロ見ている。

 

「大きな声出さないで」

 

「だっ、だって、こんなことされたら誰だって声が出ちゃうって!」

 

 響の反応に未来は苦言を呈する。

 

「響が悪いんだからね」

 

「私?」

 

「だって、せっかく二人で遊びに来たのにずっとつまらなそうにしてるから」

 

 未来は響がうわの空なのを責めていた。確かに、さっきから響は何か物思いに耽っている様子だった。

 

「あうぅぅ……、ごめーん。でも、心配しないで。今日は未来が誘ってくれた、デートだもの。楽しくないはずがないよん」

 

「響……。じゃあ、罰としてこれからはこうやって歩くから――」

 

 未来は響に密着して、腕を絡ませながら歩き出そうとした。

 あら、なかなか大胆ね……。あたしの演技も無駄じゃかったみたい……。

 

「ちょっ、ちょっと未来ぅ? 歩き難くないかなぁ?」

 

「響は、こうやって歩くの嫌なの?」

 

「そっ、そんなことないよー。未来っていい匂いするね。それに暖かい……」

 

「もう、バカ……」

 

 こうして響と未来は恋人のように腕を組んで水族館デートをすることになったみたいだ。

 

「なぁ、あたしら、なんかすっげー趣味の悪いことしてねぇか?」

 

「言うな雪音。我々は防人として、この二人の逢引を見届ける義務があるのだ……」

 

「そんな義務は嫌すぎるけど……、責任はあるわね……。しかし、思ったよりもキツイわ……。精神的に……」

 

 あたしたちの精神力はじわじわと削られていた。

 しかし、未来のあの目は――あの子は決意を固めてるみたいね……。

 

 あたしは未来の表情から、ただならぬ決意を感じ取っていた――。

.

 

 

 水族館のデートのあとは、しばらくウィンドウショッピングを楽しんで、こちらが用意した夜景が見えるレストランで食事をしていた。

 

 響は旺盛な食欲を見せつけ、最初の方に見せていた憂鬱な表情は消えていた。

 

 そして、その後は夜のスカイタワーで未来は響に大事な話があると言って正面から向かい合った。

 

 

「何を言っているのかここからだと聴こえないな」

「さすがに、大声で告白しないだろうし、これ以上は近づけないから見守るだけにしましょう」

「なんつーか、ここまで来たら謎の達成感みてーなもんが……。あっ――」

 

 未来が顔を真っ赤にして涙ながらに響に告白をしている様子を見ていたのだが、未来の話が終わったあとに、響は彼女をギュッと抱きしめていた……。

 

 これは、どっちなの? ダメだったけど、慰めて抱きしめるパターンもあるわよね……?

 

 

「「あっ――」」

 

 あたしたちは三人揃って間抜けな声を出した。

 

 なんと、目の前で響と未来の唇が触れ合っている――つまり、キスをしてるってことだ……。

 

 てことは……、《ラブラブ大作戦》成功ってこと?

 

 何故かあたしたちは三人揃って手を握って、作戦の成功を喜んでいた。

 あのクリスまで自然と一体感の中にいるのは、共に二人がイチャついているのをただ見守るという苦行を長々と続けた達成感のようなものがあったからだろう。

 

「これで……、良かったんだよなぁ?」

「ええ、これでギアの適合係数さえ上がっていれば……」

「防人の務め、確かに果たした……。感無量だ……」

 

 

 長いキスのあとに二度三度と短いキスをする二人……。正直、そのあとは家でしてほしい……。

 

 

「とりあえず、もう少し離れましょうか? ここで見つかると台無しだし……」

 

 そんなことを言った矢先である。

 

「きゃあぁぁぁっ、響ぃぃっ!」

 

 未来の悲鳴があたしたちの元に届いた。

 

 

 ――何事? あっ、あれは――フィアナ? でも、あの見た目は?

 

 

 いろいろな機材やチューブを付けられたフィアナが気を失っている響を抱き上げて、スカイタワーの窓を割って、そのまま、物凄いスピードで飛び去ってしまった。

 

 何? あのスピードとパワーは……。今までの彼女とは違う? いや、そんなことより響が攫われた――。

 

「気を確かに持てっ! 追いかけるぞっ!」

「おうっ! まだ、そんなに離れてねぇはずだっ!」

 

 あたしたちは、フィアナを追ってスカイタワーから飛び降りた――。

 ここにきて動き出すとは……。まったく……、面倒な状況になってしまったわ……。

 




原作とは逆にさらわれたのは響。
次回もよろしくお願いします!







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クライマックスと新しい装者

フィアナとドンパチしたり、新しい装者が生まれたりします。
それではよろしくお願いします!


『響くんが拐われただとぉっ! わかった、君たちは《ノイズ》に警戒しつつ奪還任務にあたれ! 未来くんはこちらで保護する!』

 

 弦十郎に状況を報告しつつ、あたしたちは空を響を抱えて猛スピードで飛んでいくフィアナを追った。

 

「くっ、響がいるから迂闊に攻撃できない……。そして、あのスピード――」

 

 あたしたちはビルを足場にしながら、走っているが、フィアナとの距離はドンドン広がっていく。

 

「立花を拐った理由――人質にして神獣鏡と引き換えようとの目論見か?」

 

「人質目的なら、わざわざあのバカを狙う理由がわからねぇ! 不意を突いたのかもしれねぇが、もっと楽なヤツならいっぱいいるだろ?」

 

「ええ、あたしも狙うなら未来の方だと思ってた。その方が抵抗されるリスクも少ないし……」

 

 つまり、ウェル博士とフィアナはわざわざ響を狙ったということになる。

 そして、フィアナに取り付けられたあの器具とあのパワー……。良からぬ予感しかない……。

 

 あたしたちは、必死で追いすがったがフィアナの姿がついに見えなくなってしまった――。

 

 

 

「くっ、司令……、目標をロストしたわ……」

 

 先頭を駆けていたあたしは最悪の気持ちで、弦十郎に報告した。

 

『諦めるなぁっ! 前を見ろっ!』

 

 弦十郎が大声を上げた瞬間に、天空へと光が上る――。

 

 ――HORIZON†SPEAR――

 

 マリアのガングニールが居場所を伝えるように天へとエネルギーを照射したのだ。

 

『フィリアさん、見えましたか? 民間協力者のマリアさんたちを応援に出しました。響さんを奪還します』

 

 緒川からの通信が入ってきた。

 どうやら、ヘリコプターでマリアたちをフィアナの進行ルートを予測し先回りして送ったらしい。

 

「急ぐぞ、フィリア! 立花を救いだすのだ」

「目の前で、ちょせいマネしやがって! 許せねぇ!」

 

 あたしたちは、マリアたちの元に急いだ――。

 

 

 

 

「フィアナ! お前はなんのつもりだっ!? 勝手な行動ばかりしてっ!」

 

「排除……」

 

 ――大破閃――

 

 フィアナのアームドギアが無数の球体に分裂して、球体から紫色の光線が照射される。

 

 何よ、あの威力……、少なく見積もっても、絶唱クラスの力……。

 

 

「はぁ、はぁ……、アナ姉、見境なさすぎデスよ」

 

「くっ……、様子もいつもと違う……」

 

 切歌と調はすでにボロボロになって、苦しそうな表情になっていた。

 

 

「人質がいる以上、こちらから派手な技が使えない上に近づけないとは……」

 

 マリアも短時間でかなり消耗しているみたいだ……。

 響を抱えて装者三人をここまで圧倒するなんて……。

 

「ここはあたしが……、コード……、ファウストローブ」

 

 あたしはフィアナの近くまでジャンプして近づいた。

 

「消ヱロ……」

 

 ――大流閃――

 

 今度は赤い光線が無数に照射される……。この技はあたしの天敵……。

 

“フィーネ、力を貸しなさいっ”

 

“仕方ないわね……”

 

 ハチの巣状のバリアが展開されて光線を弾き、あたしは響に手を伸ばす。

 

 

「……ドクターの敵ハ死ネ」

 

 ――衛星――

 

 球体が紫色の光線を束ねて、高出力のビームを放った。

 

“ごめん、フィリアちゃん、あれは無理かも”

 

 フィーネのバリアを破壊して、ファウストローブをも貫き、あたしは下半身が粉々になって地面に落ちそうになる。

 

「フィリア! あんにゃろう、とんでもねぇな……」

 

 クリスがあたしを受け止めて、フィアナを睨みつける。

 

「フィリアは回復に務めろっ」

 

 翼がアームドギアを巨大化させて、踏み台にし、ジャンプした。

 

 ――炎鳥極翔斬――

 

 翼は空高く飛翔して、フィアナよりもさらに上空に移動する。

 

 

「援護は任せろっ」

 

 ――MEGA DETH PARTY――

 

 翼を狙う光線をクリスがミサイルで相殺する。

 

 

「この好機っ! 私たちも飛ぶわよ、切歌、調!」

 

 クリスのおかげで光線の雨が止んだので、さらにマリアたちもジャンプしてフィアナに、肉薄する。

 

「嗚呼ァァァァァァァァァァァッ! ドクターァァァァァァァァッ!」

 

 ――恒星――

 

 無数の球体が融合して、フィアナを包む巨大な球体に変化する。

 そして、全方位に向かって黄色い光線を照射した――。

 

 確実に絶唱をも上回る出力の攻撃にあたしたちは全員吹き飛ばされて……。それでも尚、破壊は止まず、フィアナを中心に同心円状に瓦礫の山が形成された……。

 

 そして……、爆煙が晴れたとき……。フィアナと響の姿は消えてしまっていた――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「フィリアくんと装者たちが六人がかりで奪還出来なかったとは……」

 

 フィアナの行方を見失った、あたしたちは司令室に戻って、響の行方を探ることにした。

 響が身につけている通信機などはすべて壊されていたので、追跡は困難を極めた。

 

「ドクターの狙いは神獣鏡のはず……。ともすれば、向こうからアプローチは必ずあるはずよ……」

 

「マリアくんの言うとおり、フロンティア起動が目的なら神獣鏡の奪取が必須だ。アプローチの方法が通信なら逆探知も可能――」

 

 弦十郎がそう言いかけたとき、けたたましいアラームの音が聖遺物のアウフヴァッヘン波形をキャッチしたことを伝える。

 

「巨大な聖遺物の波形を検知しました――。場所は海上!? モニター出ますっ!」

 

 スクリーンに映し出された海上の風景――そして巨大な要塞のようなモノ……。

 

「マリア、あれはもしかして……」

「そんなはずないデスっ!」

 

「まさか、あり得ないっ! しかし、座標は合っている……。なぜ、フロンティアが起動してるのっ!?」

 

 マリアが驚愕した表情でフロンティアが出現したと大声を出した。

 ちょっと待って、フロンティアって神獣鏡じゃなきゃ起動させること出来ないんじゃないの?

 

“浄玻璃鏡の特性は真実と虚実を写し出すこと……。同じ鏡の聖遺物である、神獣鏡のエネルギーに似せたエネルギーを放出することも調節次第で可能かもしれないわ”

 

“そんな反則みたいなことが可能なの?”

 

“装者にかなーり、無理させればね……。人格や臓器が壊れたり、色々と不具合が起こってるはずよ……。フィアナちゃんは私に似て愛する人の為ならなんでもするタイプみたいだし、無理を何とかしちゃってるかも。健気ないい娘になったものねー”

 

“どこがいい娘なの? 台風みたいな娘になっちゃってるじゃない。――そういえば、フィアナのギアの出力も異常だった。XDモードでないにも関わらず、絶唱級の技を連発することなんて出来るのかしら?”

 

“考えられるのは、脳波を弄った上でのLiNKERの過剰摂取……、私以外にそんなマネができる者がいるなんて……。ウェル博士とやらもやるわね……”

 

 フィアナが無理をすれば、フロンティアの起動は可能だとフィーネは語った。

 まさか、他の聖遺物の特性を真似る力が浄玻璃鏡にあるなんて……。

 さらにあのフィアナのギアの異常なパワーも彼女の命を削った結果みたいだ……。

 

 

「フロンティアが起動したということは、ウェル博士やフィアナはあそこに居るということか……。しかし、わからん。それなら、なぜ響くんを……?」

 

「フロンティアから高出力の光線が――これは? 月に向かって――」

 

 藤尭の声とともに、フロンティアが上昇する様子が映し出される。

 

 

「計測結果が出ました!」

 

「直下からの地殻上昇は奴らが月にアンカーを打ち込むことでフロンティアを浮上させた模様」

 

 友里と藤尭が淡々と現状を話している。

 

「さらに、その影響で月がさらに地球に引き寄せられてしまっています。このままでは――」

 

「本当に地球人類は絶滅してしまう!」

 

 あたしたちは愕然としながら事態を見守っていた。

 

「ウェル博士は何を考えてるの? 人類を救済して、英雄になりたいとか言ってたけど……。あたしには彼の行動が理解できない……」

 

“考えられるのは……、間引きかしら? ノアの方舟を気取って、支配できる人数だけ人類を救済し、英雄となる……”

 

“なにそれ? 趣味が悪いわね……、ホントに……”

 

 フィーネの外道の考えを即座に読む力にも若干思うところがあるが、そんなことより、あんな得体のしれないモノに響がいるかもしれないことが問題だ。

 さらに月がこちらに急接近なんて未曾有の事態まで起こっている……。

 

 一体どうすれば……。

 

“はぁ……、月はあの方が人類から相互理解を奪うために作った監視装置――。だから壊したの……。フロンティアとやらの解析をしなきゃなんとも言えないけど、月の機能不全を解消すれば、元の軌道に戻すことは出来なくもないわ。それ相応のエネルギーは必要だけど……”

 

「フロンティアの解析が出来れば、月を戻せる!?」

 

 あたしはフィーネの発言を声に出してしまった。

 

「それは、本当か!? フィリアくん!」

 

 弦十郎はあたしの方を見て大声を出した。

 

「ええ、あたしが何とかあの中で解析作業をして、方法を導き出すわ! あとは響を救出すれば……」

 

「すべて丸く収まるっつーわけだな」

 

「なんだ、存外シンプルな話じゃないか」

 

 あたしと翼とクリスはお互いの顔を見て頷きあった。

 

「私たちも行くわ。元々、こっちの身内が犯した不始末。責任くらい取らせてもらう」

 

「アナ姉にお仕置きしないと気が済まないデス」

 

「今度は私がリア姉を守りたい……」

 

 マリアたちもフロンティアに乗り込む意向を示した。

 

「ええ、マリアたちが力を貸してくれるなら心強いわ」

 

 これで、六人。力を合わせれば、何とか出来るはず。響を必ず連れて帰る! それに、フィアナも……。

 

 

「待ってくださいっ! 私も、私も連れて行ってください!」

 

 司令室に未来が入ってきて、あたしたちとの同行を志願した。神獣鏡のギアペンダントを首に下げて……。

 

 そう、未来はLiNKERを使う必要があるが、神獣鏡のシンフォギアを纏えるようになったのだ……。

 もっとも、今となっては“ラブラブ大作戦”のおかげか、響が拐われたという事実に対する怒りが原因なのかわからないが……。 

 

「しかし、未来くんは訓練も何も受けていない。最初の出撃にあそこは危険すぎるっ!」

 

 弦十郎は当然のごとく未来の出撃に難色を示した。そりゃ、響だって最初にギアを纏ったときは《ノイズ》一体倒すのにも苦労したんだから……。

 

“フィリアちゃん、アレの出番じゃない?”

 

“えっ? ああ、確かにアレを使えば多少は動けるでしょうけど……。それでも危険なんじゃ……”

 

 フィーネは先日、暇つぶしに制作した装者用のアイテムを使うことを提案した。

 

 

「響が死んでしまうかもしれないときに、見てるだけなんて耐えられないんです。響に気持ちを全部伝えたのに、響にいつも助けられてばかりなのに……。今度は私が響を助けたい!」

 

 未来の気持ちはわかる。しかし、彼女が危険な目に遭うことを響は良しとするだろうか?

 

「それに……、このままフィリア先輩が響を助けたりなんかすると、響が取られてしまうかも……。それだけは嫌……。まさか、尾行してるとは思いませんでした。一瞬、冗談でフィリア先輩は響のことが好きって言っていたのだと思ってしまった自分の甘さに嫌気がします。私が失敗した瞬間に掠め取る準備を整えていたなんて……。先輩、響のポイントを稼ごうったってそうはいきませんよ……。ふふっ」

 

 未来はいつも以上に怖い笑顔であたしを見た。まずい、彼女を置いてくとあたしが殺される……。

 

「未来、あなたにはこの特殊ゴーグルを渡すわ。このゴーグルのAIはシンフォギアの機能を読み取って、あらゆる戦闘データと照らし合わせることで、最善だと思われる行動をアドバイスするの。戦闘経験が多いあたしたちでは邪魔になる可能性が高いけど、あなたの役には立つはずよ」

 

 あたしは自分のデスクの引き出しからゴーグルを取り出して、未来に渡した。

 作ったものの、これは初心者の指導やシミュレーターを使った練習にしかなり得ないものだったので、無駄なものを作ったとばかり思っていたが役に立ちそうだ。

 

「フィリア先輩、ありがとうございます。響を懸けて戦うのは、また後日にしましょう」

 

 いつの間にかライバル認定されてしまった私を尻目に未来はゴーグルを大事そうにしまい込む。

 

 これで、装者6人と人形が一体、合計7人でフロンティアに乗り込むこととなった。

 

 フロンティアではフィアナが先ほどのように攻撃を仕掛けてきたり、様々な罠の存在が懸念される。しかし、もう失敗は許されない。

 

 身勝手なウェルの野望とそれに服従するフィアナ。

 あたしも身内としてフィアナは放っとけない。

 たとえ、彼女が罰を受けることになっても……。命だけは助けたい……。

 そんな甘い思考をしながら、あたしたちを乗せた緒川の操縦しているヘリコプターはフロンティアへと降り立った。

 まさか、フロンティアから我々への攻撃をヘリコプターを分身させて回避するとは思わなかったわ……。

 

 地球の命運を懸けた戦いが今始まった!




一気にG編がクライマックスになりました。
今回は無印編よりも改変エピソードが多めでここまで来るのに苦労しました。
面白く出来るように次回も頑張ります。






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フロンティア

G編のクライマックス、フロンティア編です。
それでは、よろしくお願いします!


「ちっ、やっぱり《ノイズ》共が大量に居てやがる!」

 

「しかし、我らにかかれば《ノイズ》が何体来ようともっ!」

 

「負けるつもりはないわっ! この手で世界を救うの! 調、切歌! 行くわよっ!」

 

「私たちは諦めない……。世界を救うのを……」

 

「月の落下を絶対に食い止めるデスッ!」

 

「響っ! 必ず助け出すからね……」

 

「さぁ、行きましょう。響だったらこう言うはずよ……。最短で最速でまっすぐに一直線にってね……。ここはあの子のやり方で――」

 

 あたしたちはフロンティアの中枢を目指して一斉に駆け出した。

 

 クリスの弾丸と調の鋸で道を切り開き、あたしと翼の剣戟と切歌の鎌で《ノイズ》たちを両断し、マリアも立ちふさがる《ノイズ》たちを貫く。

 

 ――閃光――

 

 そして、神獣鏡のシンフォギアを纏った未来は扇状のアームドギアから紫色の光線を放って、次々と《ノイズ》を屠っていく。

 

 ゴーグルの効果が早速出てくれたみたいね。

 ていうか、強くない? 確か、神獣鏡のスペックって他のギアよりも低かった覚えがあるけど……。

 

“愛の力ね……”

 

“確かに、響を想う力にゾッとしたことはあるけど……、ここまでとは……”

 

 あたしたちはドンドン《ノイズ》を殲滅して行って、中枢へ突き進んで行った。

 

 

 そんな中、巨大な黒い影が上空から飛び降りてきた……。

 

「グォォォォォンッ」

 

 あっ、あれはネフィリム……。心臓だけになってたのに、ここの聖遺物を喰らってあんなに巨大に……。ビルくらいの大きさになってるじゃない。

 

 

 ――天ノ逆鱗――

 

 翼はネフィリムに向かって巨大化させたアームドギアを放つ。

 しかし、ネフィリムはアームドギアを弾き飛ばしてしまった。

 

「ちっ、みんな先に行けっ! ここは私が食い止めよう!」

 

 翼は一人でネフィリムの前に立ちはだかって剣を向ける。

 

 ――QUEEN'S INFERNO――

 

 クリスがネフィリムに大量の光の矢を放った。

 

「連れねぇこと今さら言うなよな。アレは一人で抑えられるもんじゃねぇ! あたしなら()()の技に合わせられる――」

 

「雪音……。ふっ、まさか、こんな殊勝な雪音が見られるなんてな。承知した! フィリアっ! 必ず、フロンティアを解析し、月の機能を復活させろっ! 小日向っ! 君の想いで立花を救ってこいっ! 頼んだぞっ!」

 

 翼とクリスは息のあったコンビネーションでネフィリムに向かって行った。

 

 

 

 彼女たちを信じるしかない……。翼、クリス、あんなデカブツに負けるんじゃないわよ。

 

 

 

 そして、さらに前に進んでいくと……。銀色のギアを纏った装者があたしたちの行方を塞いでいた。

 

 

「侵入者ヲ排除スル」

 

 フィアナが無数の球体からレーザーをこちらに向けて放ってくる。

 

「フィアナ! あの子はあたしがっ!」

 

 あたしは姉として妹の暴走を止めるためにミラージュクイーンを構える。

 

「待ちさないっ! あなたはフィアナと相性が悪いでしょ? フィアナは私たちにとっても大事な仲間よ。必ず、彼女の目を覚まさせるわ!」

 

「アナ姉のことは私たちに任せるのデス!」

 

「リア姉は成さなくてはならないことをして……」

 

 マリアたち三人がフィアナの攻撃を受け止めながら、あたしに先に進むように促した。

 

 

 

「――行くわよ、未来。ここで、立ち止まるわけにはいかないっ!」

 

「フィリア先輩……、はい、わかりました!」

 

 あたしと未来の二人きりで、フロンティアの内部に入っていった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「この中には《ノイズ》は居ませんね」

 

「ええ、中で暴れられると不都合なのかもしれないわね。あたしたちがこの中で戦闘をすることを恐れた――」

 

 もっともエネルギーが集中している中枢の大きな部屋に辿り着こうとしたとき、あたしは未来の疑問にそんな返答をした。

 

「んっんっんー、ちょーっと違うなぁ。君たちごときがいくら暴れたところで、グラつくようなフロンティアではなぁぁぁいっ! この場所は神聖なる場所なんだ。新時代の英雄たるこの僕の居城……。《ノイズ》のようなヤツが居て良い場所じゃないのですよ」

 

 思ったとおりウェル博士はこの部屋に居た。

 おそらくここがフロンティアのコントロールルーム……。

 それにしても、あの腕……、ネフィリムに似ている……。まさか、ネフィリムを取り込んだの?

 

 そして、その隣には――。

 

 

「響ぃっ! 良かった、無事だったのね!」

 

 そう、響が普通にウェル博士の隣に立っていたのだ。目を覚まして、普段どおりの顔をして。

 

「未来っ! 心配させちゃったねー。ごめんごめん。まさか、拐われちゃうなんて、私呪われてるのかなー? あはは」

 

「もう、響ったら!」

 

 未来は響に駆け寄り、響は彼女を抱きしめた。

 

「未来はやっぱり、私の陽だまりだ……。私の帰る場所なんだ……」

 

「響……。うん、私も響と一緒にいると安心する――」

 

 響が未来の目をまっすぐに見つめる。

 そして、口元を未来の耳に近づけて――。

 

 

「――だから、一緒にウェル博士に協力して仲良く二人で暮らせる世界を作ろう……」

 

「響?」

 

「ウェル博士は世界中の人を助けてくれるんだって。私もひとりでも多くの人助けをしたい。やっぱり、人間って話せば分かりあうんだよ」

 

 響はウェル博士を持ち上げて、未来に彼に協力するように求めた。

 どう考えてもオカシイ……。いつもの響に見えるが、発言の端々にウェル博士への絶対の信頼を感じる。

 まるでフィアナのように……。

 

「ええ、響さんが人助けが趣味だと仰っていたので僕らはわかり合えると信じてました。あなたが僕にすべてを捧げてくれると仰ってくれて嬉しいですよ」

 

「あはは、私なんかの力で良かったらいくらでも捧げちゃいます! ウェル博士に褒めて貰うためならなんだってやります!」

 

 響はウェル博士の手を握りながら力強い口調でそう言った。

 

「ドクターウェル! あなた、響に何をしたの!?」

 

「何って、救済者のひとりに選んだのですよ。なんせ、彼女はルナアタックから、地上を救った英雄ですから。それに……、死に体の彼女を放っておけないじゃあないですか」

 

 目を見開いて両手を掲げて、彼はオーバーな動きをつけながら雄弁に語りだした。

 こいつ……、響の体のことまで知ってるの?

 

「感謝してください! あなた方の愛しいお友達の命を救って差し上げたのですから……」

 

「救った……? 響の体内のガングニールを除去したってこと?」

 

 あたしはウェル博士の言葉に対して疑問を口にする。

 

「まさかぁ、勿体ない。せっかく人間を超られる体を捨てるなんて……。聖遺物を喰らうネフィリムを血中から注入したんですよ。こうやって体内の聖遺物の量を調節してやれば、延命出来るはずです」

 

「ネフィリムを血中に!? そんなことをして平気なの?」

 

「さぁ? 知らないから実験しているのですよ。せっかく可愛らしいモルモットをフィアナが捕まえてきてくれたのですから……。いやー、単純な子だったので、実に従順になってくれました。はははははっ」

 

 上機嫌そうに笑いながら、ウェル博士は醜悪な表情で響の頭を撫でる。響は幸せそうな表情で彼に寄り添う……。

 

 

「――許せない」

 

 未来はウェルに向けてレーザーを放とうとした――。

 

「Balwisyall nescell gungnir tron……」

 

「――きゃっ!? 響っ?」

 

 響はガングニールを纏って未来を殴り飛ばした。

 

「ダメだよ未来……。ウェル博士に暴力を振るっちゃ……」

 

「くっ、やはり洗脳……。人の体を何だと思ってるの!? 響の洗脳を解きなさい!」

 

 あたしはミラージュクイーンをウェル博士に突きつける。この外道は絶対に許せない!

 

「おっと、人形さん、響さんの首に付いてるものをよく見てください。僕がこのスイッチを押せば、ドカンですよ……」

 

 ウェル博士のネフィリムのような手には何かの起動装置らしいものが握られており、響の首には金属の輪のようなものが付けられていた。

 

「はぁ、趣味が悪いわね……」

 

「ぐわぁぁぁぁっ! うぎゃっ、てっ手がァァァッ!」

 

 あたしはウェル博士の手首を切り落とした。

 

「あまり、あたしを怒らせない方が身のためよドクター」

 

 あたしは起動装置のようなものを拾って、ウェル博士の首元にミラージュクイーンを向けた。

 

「ひぃぃぃっ! ぼっ僕は新時代の神に等しい人物だぞっ!」

 

「寝言は聞かない主義なの。痛い目に遭いたくなければ――」

 

 そこまで言ったところで、あたしの体は響の拳によって貫かれた。

 速い、そして重い一撃……。加減なしの響ってこんなに強かったのね……。

 

「ふひゃっ! ナイスぅー! ナイスでーす! 響さん、コイツらは僕の理想の背信者です。お引き取りしてもらってください!」

 

「はいっ、言ってること全然わかりませんが、頑張って帰ってもらいますっ!」

 

 響がいつもの構えをあたしに向ける。

 未来は響と戦えるはずがない。ここはあたしが……。

 

「コード、ファウストローブ……」

 

 あたしは腹の穴を再生させて、ファウストローブを身に纏い、響と同じ構えを取る。最初の頃はよく組手をしたっけ……。

 あなたは本当に強くなったわ……。

 

「うわぁぁぁぁっ!」

「はぁぁぁぁっ!」

 

 あたしの拳と響の拳が衝突する。くっ、ファウストローブのエネルギーを持ってしても互角なの?

 

「はっ、やぁっ、とぉっ!」

「相変わらず、足元が甘いっ!」

 

 響を足払いをかけて転ばしたが、彼女は両手のバネを利用して跳ね上がり、ドロップキックを繰り出した。

 

「くっ、パワーはさすがね……、でも……。――なにっ!?」

 

 そう言いながら響に視線を集中した瞬間――ウェル博士のソロモンの杖からフィアナの放っていた赤色の光線と同じようなレーザーが照射された。

 

「バカめ!? フィアナの制御光線は元々僕が作ったんだ。ざまあみろクソ人形! 今度こそネフィリムの餌にしてやるっ! 響さん、この人形にトドメを刺しておいてください!」

 

 ウェル博士の言葉に反応した響がこちらに向かって歩いてくる。

 

「うっ……」

 

 響が突如、うめき声を上げる。

 額から黄色い結晶のようなモノが浮き出ているような……。まさか、ガングニールの融合が止まってない!? このままだと、響は死んでしまうかもしれないわ……。

 

 くっ、せめてミラージュクイーンだけでも出せれば……。

 ダメ……、身体がまったく動かない……。響が近づいて来るが、あたしは指一つ動かせなかった。

 

 しかし――。

 

「未来……」

 

 あたしを庇うように未来が響の前に立ちはだかった。

 

「一緒に帰ろう、響……」

 

「ごめんね、未来。帰れない……。だって、私にはやらなきゃならないことがあるんだ」

 

「やらなきゃならないこと?」

 

「世界中の人を助けて、みんなに幸せになってもらう」

 

 未来の呼びかけに響は微笑みながらそう返した。この子は洗脳されても根っこは変わってないのね……。

 

「世界中の人を助ける?」

 

「私はもっと人を助けたい! それが私の生きがいだからっ! ウェル博士について行けばそれが出来るんだよ!」

 

 響は胸に手を当てて、もっと人を助けたいと主張した。

 

「――人助けを頑張る響が好き。だけど、響も助けを呼んでも良いんだよ? 私のことを暖かい陽だまりって言ってくれたよね? 私はいつだってどんな時でも、響の拠り所になりたい!」

 

「ううっ……、未来……」

 

「だからっ――たとえ響と戦ってでも連れて帰るっ!」

 

 未来は響に向けてアームドギアを向けて、そう宣言した。

 

 親友同士の戦いが始まった――。

 




ウェル博士の外道っぷりが加速してます。
次回、未来が響を救うために頑張ります!






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想い届くその刹那……

未来が響を助けるために頑張ります。
それではよろしくお願いします!


「はぁぁぁぁっ! とりゃあっ!」

 

 ガングニールとの融合の影響か、響のギアの出力は翼やクリスと比べても格段に高い。

 

 比べて、未来の神獣鏡はスペックが低い上、彼女は今日が初めてギアを纏っている。

 

 どちらが優勢なのかは予想するまでもなかった。

 

 響の強力な一撃を受けて未来が壁に激突する。響はさらに連撃を加える。

 

「とりぁぁぁぁっ、とりゃとりゃとりゃとりゃぁぁぁぁッ! ぐっ……」

 

 そんな中、響の額から黄色い結晶が突き破って出てきた。

 

「ちょっと、聖遺物の量を調節したんじゃないの? あのままだと響は――」

 

 ウェルに制御光線を当てられっぱなしで動けないあたしは彼に言葉で抗議する。

 

「んっー、計算よりも融合のスピードが上がってますねー。あのままだと、ガングニールに体が支配されてしまうかも。まぁ、それはそれで、今後の研究対象としちゃあ、面白い」

 

 平然とした表情でウェル博士はそう答える。いつの間にか、あたしが切り落とした腕を再生させて……。

 

「あなた、分かってる? 響が死ぬようなことがあったら、あたしたちがあなたを絶対に許さないってこと」

 

「許さない? ははっ、傲慢な人形ですねぇ。支配者で英雄たる僕は神に等しい存在だ。君たちごときが裁くような口は謹んでもらおう! 地面に君は這いつくばってろよっ! あとで、ネフィリムに食わせて実験するんだからっ!」

 

 ウェル博士があたしの頭を踏みつけながら、高笑いしていた。

 屈辱だわ……。こんな男に……。

 

“殺す――”

 

「はははっ――。ピギャァァッ」

 

 あたしの身体からピンク色の蜂の巣状のバリアが展開してウェル博士が吹き飛ばされる。

 

“死ねっ! 死ねっ!”

 

“バカっ! 止めなさいっ! ホントに死んじゃったらどーするの?”

 

“構わないわよ! 上手に隠蔽すればいいでしょう!”

 

“そういう問題じゃあないでしょ!”

 

 バリアが次々とウェル博士に衝突して、彼は前衛芸術のオブジェみたいに壁にめり込んでしまった。

 

 

「――!? ウェル博士っ!」

 

 フィーネによってウェル博士がボコボコにされていることに気が付いた響はチラリとこちらを見た。

 

「響っ! 目を覚ましてっ!」

 

 未来は響の気が逸れた瞬間に壁から抜け出て、彼女に抱きつく。

 

「こんなになるまで戦って……。もういいのよ……。お願い、正気に戻って……」

 

「みっ未来……。わっ私は……」

 

「響……」

 

「私は正気だよ。それより、未来の方が変だ。なんで、こんなに悲しそうな顔をしてるの? あれ?」

 

 響は首を傾げながら、未来の腹に掌打を与える。

 未来は再び壁に激突しそうになった――。

 

「絶対に響を離したりなんかしないっ! 離すもんかぁぁぁぁっ!」

 

 未来のギアからムチが伸びて響と自分をぐるぐる巻にして密着する。

 

「ううっ……」

 

 響の体から聖遺物の塊が次々と飛び出してきて、彼女はうめき声を上げる。

 

「響、私は響がどうなったって、味方だよ。響が世界中の人を助けたいなら、私は世界中にただ一人しかいない響を助けたいっ!」

 

 未来は涙を流しながら、響に声をかける。

 この子はどんなに殴られようとも、一瞬も響から目を逸していない。

 少しでもいい。想いが通じれば……。

 

「うわぁぁぁぁっ……。ううっ、なんで、なんで、みんなを助けようとしてるのに……。こんなに苦しくて、悲しいんだ。ガァァァァァッ――。――未来、助けて……。うわぁぁぁぁぁっ!」

 

 一瞬だけ響は正気に戻ったものの、苦しそうな表情で暴れだし、そのたびに聖遺物の結晶が体を突き破って外に出る。 

 

「響っ!? 絶対に助ける! でも、このままじゃ……」

 

 未来の顔から焦りが見え始めた。

 

“響ちゃん、あのままじゃ死んじゃうわ。未来ちゃんが早く聖遺物を消滅させなきゃ――”

 

“神獣鏡の出力を最大にしなきゃ、響の体から聖遺物を取り除くことはできない。でも、あの状態じゃ……。エネルギーを収束させたレーザーを当てることは……”

 

 未来が響の動きを止めるために密着しているがために、彼女に高出力のレーザーを当てることが難しくなっていた。

 せめて、もう少し距離を取ってもらわないと……。

 

“一つだけ方法があるわ。フィリアちゃん、ミラージュクイーンを出すことはできる?”

 

“出すことくらいなら何とか……。でも、どうして?”

 

“ミラージュクイーンもまた、鏡の聖遺物でコーティングされたアイテム。エネルギーの波形を変化させて合わせることが出来れば、共鳴させて吸収することが可能なはず。そして、そのエネルギーを束ねて反射することも……”

 

 フィーネはミラージュクイーンで神獣鏡のエネルギーを受け、それを束ねて響に向かって反射させる作戦を立てた。

 

“そんなこと、やったことないんだけど……”

 

“未来のゴーグルから送られてきたデータを解析して、エネルギーの波長を体感で微調整するの。フィリアちゃんなら人間以上に精密な動きが可能だから、きっとできる”

 

“それって勝算はどれくらいなの?”

 

“ふふーん。思い付きは数字では語れないのよ……”

 

 ここで、父の言葉を持ち出すのね……。しかし……。

 

「未来っ! “閃光”をあたしのミラージュクイーンに向かって放ちなさい! そして、それが反射されたら、響をうまく動かして体に当たるようにしてちょうだい!」

 

「フィリア先輩……、はっ、はいっ、ありがとうございます!」

 

 ――閃光――

 

 未来は扇状に展開したアームドギアから、紫色の光線を次から次へと放つ。

 

「エネルギーを全てを受け止めて、収束……」

 

 あたしは閃光のエネルギーをすべてミラージュクイーンに取り込んで収束する。

 高純度の凶祓いのエネルギーが、ミラージュクイーンに充填される。

 

「行くわよ、未来っ! うまく合わせてっ!」

 

「はいっ!」

 

 あたしはミラージュクイーンに充填した神獣鏡のエネルギーを響に向かって放射した――。

 

 

 ――よし、あとは上手く響を突き飛ばして……。

 

 えっ? 未来、何をしてるの……。まさか、あなた……。

 

「先輩、あとは頼みました――。少しだけでも、響のために戦えて良かった……」

 

 未来は微笑みながら、響を抱きしめ、ともに神獣鏡のエネルギーの中に飛び込んだ――。

 

 はぁ……、まったくもって、あなたの愛は本物ね……。愛の力がシンフォギアの力の源って意味を少しだけ理解出来たわ……。

 

 光が、二人の装者を飲み込んでいった――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「痛てててっ……。あれ?」

 

「あら? 思ったよりも早いお目覚めね……。調子はどうかしら? 響……」

 

 ウェル博士を縛り上げて、ソロモンの杖を回収してるとき、響が目を覚ましてあたしを見た。

 

「調子? ええーっと、あのう、フィリアちゃん。ここってどこなの? みっ未来! なんで、未来が倒れてるの?」

 

 響は目を覚まして、正気に戻ったようだ。しかし、洗脳されていた期間の記憶がどうも曖昧らしい。

 

「未来に感謝するのね……。この携帯型のスキャナーであなたの体を調べたけど……、ほら……」

 

「がっガングニールの欠片が無くなってる……。フィリアちゃん、未来は、未来はどうしたの? 何があったの?」

 

 時間はあまりなかったが、響を混乱させたままなのも問題なので、手短にこの場であったことを話した。

 

 

「そんな、私が未来と……。未来……、私を助けてくれたんだ……。こんなになってまで……」

 

「今まで、散々人助けしてきたんだから、たまには助けられたって良いじゃない。未来は大丈夫よ。あとでLiNKERさえ、洗浄すれば……。とりあえず、あたしはフロンティアの解析をしなきゃいけないから、ボディガードを呼んでおいたわ」

 

「ボディガード?」

 

 響がそう呟いた瞬間、目にも止まらぬスピードで二人の男がこの場所に現れた。

 

「響くん、無事か? 未来くんは……、急いだ方が良さそうだな」

 

 弦十郎は二人の状況を確認した。

 

「僕が未来さんを抱えてヘリに乗せます。響さんも僕に付いてきてください」

 

 緒川は未来を抱き上げて、響に付いてくるように言った。

 

「私はここに残ります。未来に繋いで貰った命を役に立てたい! フィリアちゃん、私にも何か手伝わせて!」

 

「はぁ? ギアを纏えないあなたがここに居ても……。――ふぅ、司令、響を守ってあげて……。外には《ノイズ》がまだ居るかもしれないし、この中の方が安全かもしれないわ……」

 

 あたしは響の頑固そうな顔を見て、説得を諦めた。

 この子はいつものどうしてこんな感じなのかしら?

 

「じゃあ、あたしはフロンティアの解析を始めるわ……。へぇ、ネフィリムを支配したウェルじゃないと操れないのね。じゃあ、ちょっと拝借……」

 

 ミラージュクイーンでウェル博士の切り落とした腕を突き刺して、フロンティアの中枢の装置のキー代わりにした。

 

「先ずは、翼とクリスが抑えているネフィリムを沈黙させましょう」

 

 ウェル博士によって、フロンティアの防衛機能代わりにされていたネフィリムの動きを止めた。

 そして、あたしは月遺跡の復帰方法を模索する――。

 

「――フロンティアの機能を使って収束したフォニックゲインを月へと照射し、月遺跡を再起動出来れば月を元の軌道に戻せるわ……。つまり、世界中から歌の力をここに集めれば……」

 

「なるほど、歌か……。しかし、どうやって……」

 

「全世界に向かって歌を発信しましょう。そうすれば、世界中のフォニックゲインを集めることが可能よ」

 

 あたしは全世界に向かって、歌声を届ける提案をした。

 

「では、翼に頼むべきか、それともマリアくんか……」

 

「そうね、世界的な知名度的にはマリアの方が上ね……」

 

 あたしはこの仕事の適任者はマリアだと直感した。あの子の歌で世界中からエネルギーを集めて月に向かって照射すれば、きっと上手くいくはず。

 

「おいっ、貴様等! 何を考えている!? 月が落ちなきゃ、僕が英雄になれないじゃないか!」

 

 ウェル博士が目を覚ますなり大声をあげる。

 もうちょっと殴っとけばよかったかしら?

 

「――残念だけど、あなたは英雄になれないわ。来世まで諦めなさい」

 

「嫌だっ! 僕が英雄になれない世界なんて認められるものか! 僕は絶対に――」

「ドクターは絶対に英雄になりまぁす! ねぇ、ドクター」

 

 フィアナが突然現れて、ウェル博士を抱えて逃げようとする。

 彼女からは変な器具はなくなっており、喋り方もいつもの様子に戻っていた。

 

「フィアナ、助かりました。愛してますよ」

「私もです、ドクター。邪魔が来る前に逃げましょう」

 

 フィアナがそう言って手早くウェル博士の拘束を解く。そして、ウェル博士がネフィリムと融合した手を地面に置くと、地面に穴が空いて、彼らはそこから逃げ出した。

 

「フィリア、こっちにフィアナが来なかったか? フィアナの体を縛っていた装置を破壊したんだけど、そしたら彼女ったらその瞬間に猛スピードでこっちに動いて……」

 

 マリアたちが急いだ様子でこちらに走ってきた。なるほど、マリアたちが、フィアナの奇妙な装置を破壊してくれたのか……。

 

「立花っ! 無事だったか! 緒川さんから報告は聞いていたが……、本当によかった」

「なんだ、思ってるよりピンピンしてじゃねぇか……」

 

 翼とクリスもこちらに合流する。

 

 これで、装者は未来以外が揃った。ウェル博士たちのことも気になるが、月軌道を戻すことかが先決だ。

 

 世界を救うために歌声を全世界に届ける作戦が始まった――。




残すところ、G編もあとわずかっ!
頑張って更新しますので次回もよろしくお願いします!


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ただの優しいマリア

マリアが頑張ったり挫けたりします。
それでは、よろしくお願いします!


「世界中に歌を届けて、フォニックゲインをここに集める。そして、月に向かってそれを照射するの。マリア、あなたにそのための歌ってほしいの」

 

「えっ? 私がここで歌うの? そんな、無理よ。無理無理……。だって、私ってこの前、あんなことをやってるのよ」

 

 マリアは両手を振って泣きそうな顔で拒否をした。

 ああ、これはダメなときのマリアだ……。この子って昔から急に勇ましくなったり、ヘタレになったりするのよね……。

 

「ええっ!? マリアさんって、すごく勇ましく“狼狽えるなっ”とか言ってましたよねー」

 

「うむ、世界中に向けて宣戦布告することに比べれば、歌う事など造作もないことだろう……」

 

 響と翼はこのモードのマリアを初めて見るらしく、不思議そうな顔をしていた。

 

「言わないでー。それは、そうするしか無かったのよー。絶対に世界中で笑われるわ……。誰も私の歌なんか聞いてくれ……。パクッ」

 

 あたしはこんなときの為に用意していた。フォアグラの缶詰を開けて、マリアの口に放り込んだ。

 

「モグモグ……。仕方ないわねっ! 世界の危機に恥も外聞も気にしないわっ! 最高の歌を全世界に届けてあげるっ!」

 

 マリアの表情が嘘のようにキリッと凛とした表情に切り替わる。ポーズまで決めてるし、スターの風格があるわね……。

 

「相変わらず、リア姉はマリアの扱いが上手いデス」

「久しぶりにマリアの口に食べ物を放り込まれるところを見た……」

 

 切歌と調は変なところで感心したような視線をあたしに送った。そんなところ、褒められても嬉しくないわよ……。

 

 

 とにかく、高級食材の力が切れる前に歌ってもらわなきゃ。

 

「よし、全世界に中継を繋いだわ。頼んだわよ、マリア!」

 

 あたしの言葉にマリアは意を決したように頷く。そして――彼女は話し出した。

 

「私は、マリア・カデンツァヴナ・イヴ。月の落下がもたらす災厄を最小限に抑えるために、フィーネの名を騙った者だ――」

 

 マリアはこの世界で起きている災厄について説明をする。

 

「――パヴァリアの光明結社によって隠蔽されてきた。――事態の真相は政界、財界の一角を専有する――」

 

 月の落下のこと、権力者が自分たちの為にそれをひた隠しにしていることを暴露するマリア。

 

「彼ら特権階級にとって、極めて不都合であり、不利益を――」

 

 この説明が上手く通じると良いんだけど……。

 

「全てを偽ってきた私の言葉。どれほど届くか自信はない。 だが、歌が力になるというこの事実だけは信じて欲しい!」

 

 力強く、歌の可能性を語り、マリアは聖詠を唱え始める。

 

「Granzizel bilfen gungnir zizzl……」

 

 再びマリアは、ガングニールのギアを纏う。

 

「私一人の力では落下する月を受け止めきれない! だから力を貸して欲しい!  皆の歌を届けて欲しい!」

 

 そして、歌姫と呼ばれた彼女は歌い出す。自らの想いを乗せて――。

 

「誰が為にこの声――♪ そして誰が為に――♪ もう何も失う――♪ 想いを重ねた――♪ 鼓動打つ――♪」

 

 

 よし、これでフォニックゲインが集まれば――。

 

 そう、思った矢先、あたしがフィーネと共に主導権を握った、フロンティアの管理権が半分奪われてしまう。

 

 ウェル博士……、どこかで、まだ何か企んでいるの?

 

「おいっ? なんだ、この振動はっ!?」

 

「凄まじく、大きな何かが……、こちらに近付いてきてる……」

 

 クリスと翼は大きな振動に反応して厳しい表情を作った。

 どうやら、フロンティアのエネルギーを大量に持っていって、またネフィリムを暴れさせてるみたい……。芸がない奴ね……。

 

「ウェル博士はあたしから、この部屋のコントロールの主導権を奪えないと知って、ここの通信設備を物理的に破壊しようとしてる――。さっきのようにネフィリムを使って……。いや、これはさっきよりも数段強力な……」

 

 あたしは現状で起こっていることをみんなに伝えた。

 

「なるほど、それでは防人の務めは――」

 

「デカブツをこっちに近づけなきゃ良いんだな?」

 

「マリアの歌を止めさせるわけにはいかない……」

 

「絶対にここを守るのデス!」

 

 翼とクリス、そして、切歌と調はネフィリムを止めるために再びギアを纏って、部屋を出ていった。

 

 

「フィリアくん。しばらく響くんを頼めるか? オレはウェル博士を探し出して、ネフィリムを止めさせる」

 

 弦十郎はウェル博士を探し出すために動くらしい。

 

「わかったわ。この下への道筋のマップを今出すから――」

 

「必要ないっ! 奮――っ!」

 

 あたしの言葉を待たずに、弦十郎は聖遺物で出来た要塞であるフロンティアの床を素手で砕いて穴を開けた。

 

「いつ見ても、デタラメな力ね……。あなたがネフィリムを止める役割の方が良かったんじゃないかしら……?」

 

 地割れの起こった床を見て、あたしはそう感想をこぼした。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「――と契れぇぇぇっ♪」

 

 マリアは全力で歌を歌いきった……。確かにフォニックゲインは多少は集まったけど……。

 全世界から集まったと言えるにはあまりにも少ない……。

 

「はあ、はあ……」

 

 マリアは疲れた表情を見せている。せっかくやる気を出して歌ってくれたのに……。

 

「月の遺跡は依然として、起動してないわ」

 

「ぐっ……、私の歌は誰の命を救えないの?

セレナ……。ううっ……」

 

 非情な現実にマリアは辛い表情を浮かべていた。

 

 

「うっ……、ああっ……」

 

「マリア、もう一回よ。月遺跡の再起動を、もう一回チャレンジしましょう」

 

「無理よ!  私の歌で世界を救うなんて!」

 

「マリア!  もうこれしか手は無いのよ! あなたの歌には力がある。それを示してちょうだい!」

 

「ごめん、フィリア……。もう、私……」

 

 高級食材で、一時的に強気になれたくらいじゃ、急場は無理だったか……。

 

「マリアさん、私はマリアさんの歌って、よくわからないけど、信念みたいなものが込められていてすっごくカッコいいと思いました。歌って不思議ですよね? 死にたいくらい辛くても、歌を聞くと生きるのを諦めたくなくなります。マリアさんの歌にもそんな力があると思うんです」

 

 響は挫けているマリアに話しかけた。そういえば、響とマリアってほとんど話なんてしてないわよね……。

 

「融合症例……、いや、立花響か……」

 

「歌には特別な力があるって、みんなに知ってもらいましょう! 私も一緒に歌いますから!」

 

 響はニコッと朗らかに笑って、マリアの肩に触れた。

 

 そのとき、バチッとした音とともに、マリアのガングニール一部が響の体に吸い付くように、装着された……。

 バカな……、聖詠も唱えずに、いや、それ以前に響は融合者であって、適合者じゃないはず……。

 

 

「立花響……、あなた、何者なの? そんなことはどうでも良いわ……。お願い、あなたの胸の歌を聞かせて……。私もそれで希望が持てるかもしれないわ」

 

「はいっ! 頑張ってみます! Balwisyall nescell gungnir tron……」

 

「えっ? 聖詠? ちょっと、立花響……?」

 

 カッと光が輝いて、響の体にガングニールが装着される。あれ? マリアの衣服ってどこに行ったんだっけ?

 

 

 

「…………」

 

「……もう、無理。こんな恥を世界中に晒して、更に歌うなんて。もう無理よ!」

 

 ギアが安定して響に装着された今、マリアの衣服は戻ったが、確かにとんでもない姿を全世界に発信してしまった。

 

 しかし、響は適合者でもあったのか……。うーん……。

 

「響、今はマリアをそっとしてあげて。外の様子なんだけど、翼たちが苦戦してるみたいなの。そっちの助太刀を頼むわ。マリアはあたしが何とかするから……」

 

「うっうん。ごっごめんなさい! まっマリアさん。その、世界中にマリアさんの、はっはだ――」

 

「とっとと、行きなさい! 傷を抉ってんじゃないわよ!」

 

「傷を抉るって、やっぱりフィリアも私が傷を負ったって思ってるんじゃない……。ううっ……」

 

 あー、もうっ! なんで、こんなに面倒な状況になってるのよ!

 

 

 

 

「はぁ……、こうやってると、昔を思い出すわね……。マリア……」

 

「こんなに生き恥を晒したことないわよ……」

 

「そうじゃなくて、ほら、昔にセレナの誕生日にあたしがケーキを作ったことがあったでしょ。あのとき、あなたが躓いて転んじゃって、せっかくのケーキを台無しにして……」

 

 私は昔、マリアの妹であるセレナの誕生日の出来事を思い出していた。

 

「私がへこんだ時の話をしてるの? そうよ、私は昔から肝心なときにダメな女なの……」

 

「でも、セレナは怒らなかったわ。優しく笑って――大好きなあなたの歌を聞きたいって言ったのよ。ほら、なんて歌だったかしら」

 

「何だっていいわよ! セレナ……、私はセレナの歌も死も無駄にしてまう……」

 

 マリアは首を振って涙を流していた。

 

「あの子は、自分を無駄にしないで欲しいとか思わないわよ。優しいあなたに甘えてばかりだったけど、大好きなマリア姉さんには、もっと飾らずに素直になって欲しいって言ってたから――」

 

「素直に? あの子が……、そんなことを……?」

 

「マリア、思い出したわ。ほら、りんごの歌よ、セレナと一緒に歌ってた。確か出だしは……」

 

 あたしはあの日に幼い姉妹が歌っていた歌を思い出した。辛い日々の中の暖かい想い出だった。

 

「りんごは浮かん――♪ りんごは落っこ――♪ 星が生まれて――♪」

 

「マリア……」

 

 マリアは目を瞑って歌い出す――。

 あたしはあの日のことを鮮明に思い出して、まるで、セレナが側にいるような錯覚をしてしまった。

 

「ルル・アメルは――♪ 星がキスして――♪

――どこでしょう♪」

 

 マリアの純粋な皆を助けたいという願いを乗せた歌は、世界中に届いて共鳴していた――。

 

「世界中のフォニックゲインがフロンティアに集まっている……。これだけのフォニックゲインを照射すれば、月の遺跡を再起動させ公転軌道の修正も可能なはず――」

 

 あたしはフロンティアの制御装置から演算して、月の再起動と軌道修正の計算を開始した。

 

「マリア、よくやったわ!」

 

「フィリア?」

 

「あなたの歌に世界が共鳴して、フォニックゲインが十分に高まったの。あとは、あたしに任せなさい。責任を持って月は止めてみせる!」

 

 あたしはフロンティアからのエネルギーを照射する準備に入った。

 

「これは、後で渡そうと思ってたけど……。もしかしたら、今のあなたなら役に立たせることが出来るかもしれないわ」

 

「セレナのアガートラームのペンダント。この前、修復するって言ってたけど……。もう、終わってたの!?」

 

 先日、あたしはセレナの形見であるアガートラームのギアペンダントをマリアから預かり、修復作業を行っていた。

 

「本当はもっとあなたの体に合わせられるように改良するつもりだったんだけどね。それを纏える奇跡くらい起こして見せなさい――」

 

 あたしはマリアに向かって拳を突き出した。

 

「オッケー、フィリア! 奇跡くらい問題なく起こしてみせるわ! 大丈夫よ、あなたが作業を終わらせるまで、この場所は死守してみせるわ!」

 

 マリアはあたしと拳を合わせて、そして、セレナの形見のペンダントを身に着けた。

 そして、響たちの元へと駆け出して行った。

 

 

 

 その後、あたしは手早く処理を行って、あとはエネルギーが完全に充填されるのを待って、発射の命令を出すだけとなっていた。

 

「どうですか? フィアナ、英雄とはどんな逆境も乗り越えてこそじゃあないと思いませんか?」

 

「そうですねー。ピンチをチャンスに変えてこそヒーローですからぁ。ごほっ、ごほっ……」

 

 ウェル博士とフィアナが再びこの部屋に入ってきた。まさか、ここにわざわざ戻ってくるなんて……。

 それに、フィアナは口から血を流しているし、ギアも纏っていない。ああ見えてかなり衰弱してるみたいね……。

 

「ふぅ、まさかあたし一人ならこの場を制圧出来るとでも?」

 

「そうですね。僕はソロモンの杖を失い、フィアナはギアを纏えない。しかしながら、武器ならあるンですよ。このフロンティアがっ!」

 

 自信満々の表情でウェル博士は両手を広げた。この人、頭を打ちすぎてもっとおかしくなっちゃったのかしら?

 

「切り札を最後まで隠すスタイルに痺れるわぁ」

 

「ふふっ、以前、君が切り落としてくれた腕に付着したファウストローブとやら――とても参考になりましたよ。そして、フィアナのシンフォギアも……。二つを研究した結果、僕も聖遺物を纏えるようになりました――。ご覧になってください! 僕の英雄鎧(ヒーロースーツ)を!」

 

 ウェル博士はニヤつきながら、壁に手を触れると、壁がウニョウニョと動き出し、ウェル博士を飲み込んだ。

 

 そして、フロンティアの一部が次々とウェル博士を飲み込んだ壁の一部に集合して、光り輝いた。

 

「どうですか? これぞ英雄に相応しい姿!」

 

 金ピカに塗装された鎧に翼が生えた背中、そして片手にはレイピアが握られていた。

 

 なんだろう? 色々と、とにかく趣味が悪い。

 

「ふふっ、カッコ良すぎて言葉を失ったようですね……」

 

「はぁ……、コードミラージュクイーン……」

 

 あたしはため息をついてミラージュクイーンを右手に構える。

 

「僕は、僕が英雄になるために、その悪徳な制御装置をぶっ壊す!」

 

 自動人形(オートスコアラー)のあたし以上のスピードでウェル博士はあたしに肉薄する――。

 

「なっ――、なんてスピード、そして、パワーも」

 

「フヒヒッ、知らなかったのですか? 英雄とは強いのですよ――」

 

 あたしはミラージュクイーンでウェル博士のレイピアを受け止めたが、あまりの衝撃で吹き飛ばされてしまった――。

 

「制御装置! サヨウナラ! ザマー見ろ!」

 

 そして、ウェル博士が――月の再起動に必須である、制御装置にレイピアを伸ばした――。

 

「破っ――!」

「ピギャァァァァッー」

 

「ん? フィリアくん、無事か? なんだ、今のキラキラした奴は?」

 

 英雄に憧れた男の前に現れたのは、真の豪傑であった――。

 フロンティアでの戦いは佳境を迎えている――。




フィリアと弦十郎の父娘VSゴールデンウェル博士です。
その間に外では、70億の絶唱とかエライことになってます。
次回もよろしくお願いします!

    




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遥か彼方、星が音楽となった――かの日

G編が今回で完結します。
それでは、よろしくお願いします!


「この英雄たる僕を殴り飛ばすだとぉぉぉっ!」

 

 思いっきり吹き飛ばされたウェル博士は亀裂の入った鎧を即座に修復した。

 

「しかしっ! ここにいる限り、僕には無限の力があるぅぅぅ! このフロンティアが自体が僕の纏う鎧だからだっ! ふはははははっ!」

 

「ドクター、カッコいい! ごほっ、ごほっ」

 

 高笑いするウェル博士に、吐血しながら笑顔で声援を送るフィアナ。

 

「うーむ、フィリアくん、時間はあと何分稼げば良い?」

 

「そうね、あと8分くらいってとこかしら」

 

「わかった。奴を装置に近付けないように、俺に合わせて動いてくれ!」

 

「ええ、身体が本調子じゃないけど、何とか合わせてみるわ」

 

 あたしはミラージュクイーンを収めて、弦十郎と同じ構えを取る。

 彼と合わせる場合は剣よりも徒手拳の方が都合が良いからだ。

 

「英雄を相手にぃぃぃぃっ! 人間と人形風情が敵うはずがなァァァい!」

 

 ――GLORY ROAD――

 

 ウェル博士のレイピアが巨大化しながら、こちらに向かって伸びてくる。

 まるで、アームドギアみたいね……。

 

「このまま、あの装置を潰して月を落下させるぅぅぅっ!」

 

「ぬぉぉぉぉっ! 破ァァァァッ!」

 

 弦十郎は切っ先が自分の身長よりも大きくなったレイピアを両手で受け止めた。

 

「フィリアくんっ!」

「わかってるわ!」

 

 あたしはレイピアの上に乗り、ウェル博士の元へと走り出した。

 

「うっとぉぉじぃぃぃじゃないですがァァァァっ!」

 

 ウェル博士はLiNKERを自分に注射して、叫びだした。

 レイピアを持ってない方の手が巨大なネフィリムのように肥大化する。

 

「何もがぁぁも、焼き尽くしてやるぅぅぅっ!」

 

 ――GLORY DRIVE――

 

 巨大なネフィリムの手のひらから、灼熱の炎が放出される。

 

「フィーネっ!」

 

“だんだん遠慮が無くなってきたわね。まぁいいけど……”

 

 バリアがあたしの前に展開されて、炎を防いだ。

 

 ――掌底勁打――

 

 掌底をウェル博士の胸に押し当てて、内部に浸透するエネルギーの波を繰り出した。

 

「ゲホッ、ゴハッ……! バカな、バカな、バカなァァァァっ!? 無敵の鎧を身に着けた僕がァァァッ、なんで痛みをぉぉぉぉっ!」

 

 口からボタボタと血を流しながら、喚き散らした。

 

「それはあなたが人間だからだっ! ウェル博士! 俺たちはただの人間だ。英雄なんて、自分から成りたがってなるもんじゃあない」

 

 人間かどうか怪しい弦十郎が、ウェル博士を諭すようにそんなことを言う。

 

「そっ、そんな……、僕がただの人間だって? そんなはず――」

 

 パキンッと音を立ててウェル博士の黄金の鎧は弾けてしまった。

 

「そんなハズないです! ドクターは私の英雄だ! これから、世界の英雄になる人よぉ! ゲホッ……」

 

 そんなウェル博士に駆け寄って、彼を抱きかかえるフィアナ。

 

「ドクターが居なかったら私はとっくに死んでいた! 私に生きる力をくれたドクターは絶対に英雄になる! phili joe harikyo zizzl……」

 

 フィアナはシンフォギアを纏い、さらにドクターの懐からLiNKERを取り出して注射する。

 

「Gatrandis babel――Emustolronzen fin――l Gatrandis babel―― Emustolronzen fine el zizzl……」

 

 まさか、あの体で絶唱なんて……。本当に死ぬつもりなの?

 

「嗚呼ァァァァァァッ――!」

 

 高出力のレーザー光線がフィアナから照射される。

 

“フィリアちゃん、避けなさい!”

 

 フィーネがそう声をかけながら、何重ものバリアを展開する。

 しかし、バリアは次々と破壊されて行き、制御装置へ向かっていく。

 

「奮ッ――!」

 

 弦十郎の震脚で床を隆起させても、レーザーは尚も止まらず――万事休すと思ったが……。

 

「活ッ――――――!!」

 

 なんと弦十郎は生身で絶唱から繰り出されたレーザーを受け止めて――。

 

「破ァァァァァ――――――!!!」

 

 それを抱きかかえて、腕の中でかき消した……。

 この人、絶唱を受けても平気なのね……。やっぱり人間じゃないんじゃ?

 

『エネルギー充填完了しました。照射開始――!』

 

 そして、その瞬間に世界中から集まったフォニックゲインが月に向かって照射された――。

 

 

「そ、そんな……、ドクターの夢が……。ごほっ、ごほっ……」

 

「フィアナ……」

 

「ドクター……、ごめんなさい、ごほっ、ごほっ……。私は役に立ちませんでしたぁ……」

 

「――はぁ、仕方ない子ですね。じゃあこんな世界とはおさらばしましょうか? 一緒に来てくれますか?」

 

 諦めたような口調でウェル博士はそんなことを言った。

 

「ドクター? はい! どこまでも付いていきまーす! ごほっ、ごほっ……」

 

 フィアナは吐血しながら銀色のボディから、凄まじい光量の光を放った。

 

「――逃がさんぞッ」

「待ちなさい!」

 

 しかし、光が消えたとき、ウェル博士とフィアナの姿は忽然と消えてしまっていた……。

 

「ふぅ、逃げられてしまったか……。やれやれ、これは残業確定だな」

 

「でも、月の公転軌道は元に戻ったわ。落下は阻止できたんだから一件落着じゃない?」

 

 あたしは月の軌道計算の結果を弦十郎に見せた。

 

「うーむ。一件落着といえばそうなるな。しかし、翼たちは大丈夫なのか?」

 

「ええ、ネフィリムの心臓を大人しくさせてくれたみたいだから、こちらの制御に何とか主導権を取り返したところよ。あの子たちにも、苦労をかけたわ。まさか、XDモードまで起動してるなんて……」

 

 ネフィリムの心臓にキツイ一撃を加えるために、彼女らは絶唱を遥かに超えたエネルギーをぶつけた形跡が残っていた。

 あっちは激戦だったみたいね……。

 

「世界中からフォニックゲインが集まったんだ、奇跡を纏うくらいは必然的に起こることだったんだろう……」

 

 すべてが終わった――あたしたちはそう思っていた……。

 

 しかし、これまでにないほどに大きな振動があたしたちの足元で起こった。

 

『動力部で過剰出力の爆発を確認……。フロンティア内の全エネルギーがアンノウンに集中……』

 

「どっ、どういうこと? 今の爆発で……、ネフィリムの心臓があたしの制御から切り離された――。フロンティア全体のエネルギーがネフィリムの心臓に集まっているわ……。このままだとネフィリムの心臓のエネルギー許容量が限界を迎えて暴発し――地球が消滅する……」

 

 あたしは愕然として演算結果を話した。まさか、ウェル博士が……? この世界とおさらばってこういうことだったの?

 

「ちっ、地球が消滅だとぉっ!」

 

 弦十郎は戦慄した表情を浮かべる……。

 

「もう時間が無い……、一体どうすれば……?」

 

 あたしは終わりを覚悟した……。これはもうどうすることも……。

 

『諦めるなッ! 奇跡のついでだ! 私たちがなんとかしてみせる!』

 

『あのデカイ奴を遠くに持っていけば良いんだろっ!? 任せとけっ!』

 

『フィリアちゃんが月の落下を防いでくれたんだ。それを無駄にさせてなるもんか!』

 

『大丈夫だ、フィリア。防人の務めはこの剣が必ずや果たしてみせる』

 

『リア姉の守った世界を壊させない……』

 

『絶対に最後まで守り抜いてみせるデス!』

 

 あの子たち……、どうするつもりなの?

 

“このまま、みんな仲良く蒸発って訳にはいかないでしょう。ちょこっとだけ無理な作戦だけど、乗る?”

 

“あなたが無理な作戦っていうからにはとんでもない作戦なのでしょうけど……。いいわ、何だってやるわよ”

 

 あたしはフィーネから作戦を聞いて外に出た。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 弦十郎たちはヘリコプターでいち早く避難し、XDモードの装者たちは赤く染まり肥大化するネフィリムの心臓を空中で眺めていた。

 

 

「コード、ファウストローブ……」

 

 ようやく、安定して力を出せるようになったあたしはファウストローブを身に纏う。

 そして、ソロモンの杖を――身体に突き刺した――。

 

 大量の《ノイズ》が召喚されては身体に付着する。正直言ってかなり気持ち悪い……。

 

 そう、あたしはファウストローブと再生を繰り返すこの身体を擬似的なネフィシュタンの鎧として、あのときのフィーネの再現をしているのだ。

 

 つまり――黙示録の赤き竜を構成している……。

 

 あー、趣味の悪いことこの上ない見た目になってしまった。

 

 要塞のような神殿のようなものを身に纏ったあたしは、響たちの元まで飛んで行った。

 

「おっお前、なんつー格好してんだよっ!?」

 

 黙示録の赤き竜を身に纏ったあたしを見て、クリスはギョッとした表情をした。

 

「あたしだって、嫌よ。でも、この姿じゃないとあのバケモノに対抗出来ないのよ。みんな、あいつを宇宙空間まで押し上げてくれる? 作戦があるから……」

 

「「了解ッ!」」

 

 それだけの言葉で装者たちは全員がネフィリムに攻撃を仕掛けに行った。

 まったく、どれだけ簡単に信用しちゃってるのよ……。

 

 

 XDモードの規格外の出力でネフィリムの心臓部に攻撃を加えることで、ソレをどんどん吹き飛ばして、上方に押し上げる。

 

 よし、これなら……。高いフォニックゲインの濃度が以前のフィーネとの戦いの時のように、あたしの錬金術のエネルギー効率は極限まで上げられていた。

 

 赤き黙示録の竜の耐久力なら、多少の無茶も出来るはず!

 

 ――絶対零度――

 

 すべての分子運動を停止する冷気のレーザーをネフィリムの心臓に照射する。

 ネフィリムの心臓は冷気によって凍結する。

 

「見事だ、フィリア。これで、爆発は抑えられるのか?」

 

「一瞬だけね……。ここからが本番よ……。ファウストローブと融合して、ソロモンの杖の出力も上がってる……」

 

 翼の質問に答えたあたしはソロモンの杖から、光を照射してバビロニア宝物庫へのゲートを開く。良し、あの大きさなら……。

 

「じゃあ、ゴミ箱に粗大ごみを捨ててくるわ……」

 

 あたしは黙示録の赤き竜を操り、氷漬けのネフィリムを押して、バビロニア宝物庫の中に入れようとした――。

 

「なっ、もう動けるようになったの?」

 

 あたしは、ネフィリムから触手のようなものが氷を突き破って出て来たのを見て驚いた。

 そして、触手は黙示録の赤き竜に巻き付いた。

 くっ、今脱出したら、こいつを中に入れることは出来ない……。こうなったら――。

 

“まったく、あなたの後始末したら、こんなことになったじゃない”

 

“あら、フィリアちゃん。相変わらず、優しいのねー。死んでも守りたいの? この世界を――”

 

“別に世界なんて大きなモノはどうでも良いのよ。でも、あの子たちにはあたしが笑えない分、笑っていてほしいから――”

 

 あたしは黙示録の赤き竜ごと、バビロニア宝物庫に特攻することに決めた。

 最悪、あのバケモノと心中ね……。

 

 バビロニア宝物庫に格納されたネフィリムとあたし。さぁて、ここからどうやって抜けようかしら――。

 ネフィリムの触手でグルグル巻にされて、シャッターを開けられなくなったあたしは、錬金術で内部から燃やそうと考えていた。

 

 

 

「うぉぉぉぉっ! フィリアっ! 無事か!?」

 

「フィリアちゃん、一緒に帰ろう!」

 

 翼と響があたしに巻き付いた触手を取り払う。

 

「翼っ、響っ!? あっあなたたち、どうしてここに?」

 

 あたしはびっくりして二人を見た。

 

「ダチをこんなところに置いてくわけねーだろっ! カッコつけんなよ」

 

「クリスっ!」

 

 クリスが面倒くさそうに頭を掻きながらこちらに近づいてきた。

 

「まったく、マムの目を離れるといつも決まってあなたが無茶をする」

 

「リア姉を守るって決めたから」

 

「もうお別れするのは嫌デス」

 

「マリア、調、切歌……。まったく、バカなんだから……。絶対に生きて帰らなきゃいけなくなったじゃない。あたしが帰り道を切り開く! そしたらみんなで一斉に飛び込むの。ねっ、簡単でしょう?」

 

 あたしはソロモンの杖を使って、地上へのゲートを展開する。

 

 

 しかし、ネフィリムがゲートの前に立ちふさがる。空気の読めなさはフィーネ並ね……。

 

“聞こえてるわよー。どうするの? 見たところ――”

 

「迂回路はなさそうだ」

 

「ならば、行く道は一つ」

 

「手を繋ごう! フィリアちゃんの帰る道を作るんだ!」

 

 響たちは正面突破を選択したみたいだ――。どこまでもまっすぐね。この子たち……。

 

 響とマリアは手を繋ぎ、装者たち次々と手を繋ぎひとつになる。

 

「この手――簡単には離さない!」

 

 マリアはアガートラームのギアから剣を出しながら力強く宣言した。

 

「あいつの動きを一瞬だけ止めるわ! そのスキに突っ込むのよ!」

 

 あたしは再び冷気のレーザーをネフィリムに向かって放った――。今よっ――。

 

「「最速で最短でまっすぐに――!」」

 

 装者たちのシンフォギアが変形して巨大な握り拳のような形に変化して――。

 

「「一直線にぃぃぃぃぃぃぃっ! うぉぉぉぉぉぉっ!」」

 

 ――Vitalization――

 

 巨大な手が装者たちを包み込み、ネフィリムの体を貫いた。

 

 あたしも、黙示録の赤き竜を破裂させてその勢いで、あとに続いて地上へ戻った。

 

「フィリア、杖を早く――。すぐにゲートを閉じなければ、間もなくネフィリムの爆発がって、あなた足が……」

 

「まずったわ。出てくるときの衝撃で足まで破裂しちゃったの……。でも……、あたしには心強い後輩がいるから――」

 

 マリアの心配そうな表情に、あたしは元陸上部の後輩がいることを話した。さきほど、いち早く戦線を離脱した、心強い仲間のことを――。

 

「後輩?」

 

「私の、親友だよ」

 

 不思議そうな顔をするマリアに響が自慢げか表情をみせる。

 

 小日向未来がソロモンの杖を走りながら握りしめて、バビロニア宝物庫目掛けて投げようと力を入れた――。

 

「お願い! 閉じてぇぇぇぇぇっ!」

 

 未来はゲートに向かってソロモンの杖を投げた!

 

 しかし、ネフィリムの氷が溶けて発光し始める。

 臨界点が近いみたいね。本当にあと少しで爆発する……。

 

「もう響……、誰もが戦わなくていいような――世界にぃぃぃっ!」

 

 未来の絶叫とともにネフィリムが爆発した――。

 

 しかし、爆発がこちらに届く前にゲートが閉じてくれた。

 はぁ、最後までギリギリだったじゃない。まったくもう……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 一連の事件が終息し、ウェル博士とフィアナはついに捕まることはなかったが、マリアたちF.I.S.メンバーは事情聴取のために一時収監されることになった。

 

 マリアは響にガングニールのギアペンダントを託して、彼女に会えて良かったと言っていた。

 調や切歌も響たちと打ち解けたみたいで、再会を約束して別れていた。

 

 

「じゃあ、マリア。元気でね」

 

「フィリア、あなたには色々と助けられたわね。また会いましょう」

 

 あたしとマリアは握手をして、別れを惜しんだ。

 

「フィリアちゃーん、帰ったらまたケーキ作ってよー。模擬店で買いたかったけど、買いそびれちゃって」

 

「フィリア先輩、響に餌付けしないでくれます? 響、浮気だけは許さないんだから」

 

「ええーっ、ケーキくらい良いじゃーん。未来のケチー」

 

 バカな二人の声に誘われて、あたしは彼女らの方に歩こうとした――。

 

 

 しかし――。

 

 

 あたしの両手に緒川が手錠をかけた。ちょっと、これは何の冗談よ!

 

「フィリアさん、すみません。一時的にあなたがF.I.S.に入ったという情報がありますので、形式的なのですが、マリアさんと一緒に……」

 

「はぁ? 確かにあっち側に居たけど、一日も居なかったわよ? それに司令にもメールを……」

 

 あたしは理不尽な出来事に抗議した。えっ、あたしもブタ箱行きなの?

 

「フィリアくん、君が送ったのは俺のプライベートメールの方だ。申し訳ない。拘束期間はマリアくんたちより、ずっと短いはずだ」

 

 弦十郎が申し訳なさそうな顔であたしに非情な宣告をした。

 

 

 というわけで、あたしはしばらくの間、マリアたちと収監される羽目になってしまった。

 世界を救ったって、恩着せがましいこと言うつもりはないけど……。あんまりじゃない?

 

「みっ、短い別れだったわね。フィリア」

 

「リア姉と一緒で嬉しいデスなー」

 

「うん、一緒に臭い飯を食べよう……」

 

 気まずそうな顔のマリアと、どこか嬉しそうな切歌と調との収監生活が始まった――。

 

 ――G編完結――

 




G編完結!
フィアナとかいうキャラを出したら、ウェル博士が逃走してしまいました……。そのうち再登場する予定です。
フィリアが収監されましたので、絶唱しないのG編はマリアたちとの生活からスタートです。
今回はナスターシャも生存してますし、フィーネも復活して、色々と変える要素が多かったのですが、如何でしたでしょうか?

絶唱しないの方もまた台本形式でやるつもりですので、是非ともご覧になってください。
こっちもオリジナルエピソード多めで装者とフィリアの日常を描こうと思ってます!
  


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戦姫絶唱しないシンフォギアG その1

G編が完結しましたので、絶唱しないの方を台本形式的でお届けします!
それではよろしくお願いします!


 ――フロンティア事変から約一週間 その壱――

 

マリア「日本食もなかなか美味しいわね」モグモグ

 

切歌「というか、出てくるものがなんでも美味しいのデース」パクパク

 

調「何もすることが無いから、食べることが一日の楽しみになってることも大きい……」ムシャムシャ

 

フィリア「どーでもいいけど、そんなに美味しそうに食べるんだったらあたしのオカズあげるわよ? あたしは何もしなければ、ご飯一膳で十分すぎるから……」

 

マリア「そんな、悪いわよ。フィリア……」モグモグ

 

切歌「リア姉、本当デスかー? エビフライが欲しいデース!」

 

フィリア「良いわよ、ほら」

 

切歌「いやー、美味しいデスなー」パクパク

 

調「私は……、このカニクリームコロッケが欲しい……」

 

フィリア「ふーん、調はこういうのが好きなのね。言っとくけど、どっちも和食じゃあないわよ」

 

調「美味しい……」ムシャムシャ

 

フィリア「本当に美味しいそうに食べるわね……」ジィーッ

 

マリア「フィリアって、昔から人が食べるところ見るのが好きよね? だから、立花響に餌付けしてるの?」ジィーッ

 

フィリア「そっ、そんなことあるわけないじゃない」ドキッ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――フロンティア事変から約一週間 その弐――

 

マリア「ふわぁ、おはよう、調、切歌、フィリア」

 

調「おはよう」

 

切歌「おはようデース」

 

フィリア「おはよう。今日はいつもより起きるのが遅かったのね」

 

マリア「えっ? そうかしら? いつもどおりかと思ったけど」

 

フィリア「マリアの平均睡眠時間は六時間十二分だったけど、今日は六時間三十一分だったわ。だから、最初に寝付いたのに、起きるのが一番最後だったのよ」

 

マリア「えっと、フィリア? 私たちの睡眠時間を毎日測ってるの? 何のために?」

 

フィリア「何のためにって、暇つぶしだけど……。だって、あなたたちが寝てる間、暇なんだもん。だから、誰が一番早く目を覚ますかとか、勝手に予想したりしてるわ。今日はあなたに賭けていたのよ」

 

マリア「――暇つぶしは、ギリギリ理解出来たわ。賭けていたって、誰と?」

 

フィリア「…………」

 

フィーネ“やったー、私の勝ちね。これで、4勝2敗1引き分けよ!”ガッツポーズ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――フロンティア事変から約一週間 その参――

 

マリア「あなたの中にフィーネが居るのよね?」

 

フィリア「ええ、そうよ」

 

マリア「これは、フィーネに成りすまそうとした身としての興味本位なんだけど、フィーネってどんな人なの?」

 

フィリア「簡単に言えば、あたしより性格が捻くれていて、フィアナより、恋愛脳を拗らせてるわ」

 

フィーネ“ちょっと!”

 

マリア「ええーっ!? フィリアよりも捻くれてるって、どっちみち、私には荷が重かったのね……」

 

フィリア「ちょっと!」

 

マリア「でも、恋愛脳拗らせてるってどういうことかしら?」

 

フィリア「例えば、マリアが男の人を好きになるとするじゃない?」

 

マリア「ええ……」

 

フィリア「で、振られるのよ」

 

マリア「えっ、振られるの? 私が……? なんで?」ガーン

 

フィリア「なんで《私が振られるなんてあり得ないでしょ》みたいな顔が出来るのよ? まぁ、芸能業界に飛び込むくらいだから容姿には自信があったんでしょうけど……。とにかく振られるの」

 

マリア「わかったわ……」シュン

 

フィリア「で、それがフィーネが月を破壊した理由よ」

 

マリア「はぁ? それだけ?」

 

フィリア「それだけよ。で、その人の遺伝子を使って生まれたのが、あたしとフィアナってわけ」

 

マリア「確かに、昔から二人ともクセが強いなー、とは思ってたけど……」

 

フィリア「ちょっと! あたしたちのこと、昔からそんな風に思ってたの!?」ガーン

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――フロンティア事変から約一週間 その四――

 

フィリア「…………」カキカキ

 

切歌「リア姉、何を書いてるのデスかぁ?」

 

フィリア「ああ、クリスがあたしの分の学校の課題を受け取ってくれていて、差し入れてくれたのよ。休んでる間の課題を済ませてるってわけ」

 

調「リア姉、学校って楽しい?」

 

フィリア「どうかしら? まぁ、クリスとか響は見てて飽きないし、翼は真面目だけど、時々面白いことをするのよね……」

 

切歌「この前の学校のお祭り楽しそうに見えたデース!」

 

調「うん……、ちょっと羨ましかった……」

 

フィリア「あら、そうだったの? 大丈夫よ、多分来年にはあなたたちの保護観察が決まって、一緒の学校に通えるから」

 

切歌「ほっ本当デスかー?」パァァ

 

調「リア姉と同じ学校……」

 

フィリア「そうだ! 学校に入って勉強に遅れないように、あたしが今から基礎的なことを予習させてあげるわ。任せなさい。出来の悪い響にも教えられたから、上手に指導できるわよ」

 

切歌「えっ、勉強デスか?」

 

調「切ちゃん、学校って、そもそも勉強をするところだよ……。常識人の切ちゃんなら、当然わかってることだと思うけど……」

 

フィリア「さぁ、まずは数学からよ! 中学レベルからおさらいしましょう!」

 

切歌「デェェェス!」

 

調「都合が悪くなると、それで誤魔化すクセは直したほうがいいよ。切ちゃん……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――フロンティア事変から約一週間 その伍――

 

切歌「リア姉、ちょっと相談したいことがあるのデスが……」

 

フィリア「相談? あたしに? いいわよ、あたしは明日釈放だから、あなたともそんなに話せなくなるだろうし……」

 

切歌「やったデス! リア姉くらいしか相談出来る相手が居なかったのデスよ」

 

フィリア「あたしくらいしかって、他にマリアや調も居るでしょう?」

 

切歌「それが、相談内容というのが、恋愛関係の話なのデス……。マリアはあの年齢で色恋には縁はないデスし、調はその……」

 

フィリア「さり気なくマリアをディスったのは聞かなかったことにしてあげるけど、あたしだって多分恋愛経験はないわよ?」

 

切歌「でも、あの立花響と小日向未来をラブりんこマックスなカップルに仕立てたのはフィリアのおかげだと聞いたのデス」

 

フィリア「ちょっと、誰から……? はぁ、まぁいいわ……、で、どんな相談?」

 

切歌「ええーっとデスね。すごく仲は良いのデスが、その、恋愛となると違うというか……。とにかく、私の想いをキチンと伝えるにはどうしたらいいのデスか?」

 

フィリア(困ったわ、思ったよりも重めの相談だった……。切歌の想い人ってどう考えても調よね? だから、響と未来のことを気にしていたのね)

 

フィリア「…………」ソワソワ

 

切歌「…………」ワクワク

 

フィリア(駄目よ……、まったく思いつかないわ……。こうなったら……)

 

フィーネ“あら、呼んだかしら? 想いを伝える方法なんて簡単よ――”

 

フィリア(ふーん。そういうものかしら? まぁいいわ……。あたしの意見よりマシでしょう)

 

フィリア「――手紙を書きなさい。そう、ありったけの気持ちを込めて、丁寧にね……。そうすれば、自ずと気持ちは伝わるわ」

 

切歌「手紙デスか……。よしっ、想いを込めて手紙を書いてみるデス!」

 

フィリア(これで本当に良かったのかしら? 何か取り返しのつかないアドバイスをしたような……)

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――フロンティア事変から約一週間 その陸――

 

フィリア「あー、ようやくシャバの空気が吸えるわー」

 

調「リア姉、行っちゃうの……?」

 

フィリア「ええ、調と離れるのは残念だけどね」ナデナデ

 

調「あの、その……、あのとき、あの人に……偽善者って……」

 

フィリア「ああ、あのときねー。まぁ、調は調で、色々と辛いことがあったのだから、仕方ないわよ」ナデナデ

 

調「でも、何とか謝りたい……」

 

フィリア「あなたも優しい子ね。じゃあ、ここから出たら、あたしがお菓子の作り方を教えるわ。響なんて、お菓子を渡しておけば機嫌なんて直ぐに良くなるんだから」

 

調「リア姉って、本当に立花響を餌付けしてるんだね……」

 

フィリア「えっ……、この前も言ったけど、そっそんなことないわよ」ギクッ

 

調「でも、楽しみ……。切ちゃんにも作ってあげよう。まずは胃袋から掴むと言うし……」

 

フィリア「そういう知識はどこで覚えたのかしら?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――期末考査前日――

 

響「フィリアちゃーん、おかえりなさいっ! 私は、私は、どんなにこの日を待ちわびたことか……」

 

フィリア「響……、そんなにあたしのことを……」ジーン

 

未来「フィリア先輩が手伝ってくれなかったから、課題が溜まって、期末考査の勉強が全然出来なかったもんね。響は……」ジィーッ

 

響「みっ未来ぅぅぅ! それじゃあ、私が期末考査の勉強を手伝って欲しいから、フィリアちゃんを待ちわびてたみたいになっちゃうよー!」

 

フィリア「はぁ、そういうこと……」

 

響「ちっ違うって、違わないけど、違うんだよー!」アセアセ

 

フィリア「こういう時、気の利いた嘘が付けないって損よね。ほら、これをあげるわ。どうせ、あなたはテスト勉強してないと思ったから」

 

響「えっ、何これ? えっ? これって、テストの問題じゃん! フィリアちゃん、まさか学校に忍び込んで……」

 

フィリア「バカね、日付をよくご覧なさい。去年の日付でしょ。過去問よ、過去問。翼のと照らし合わせてみて分かったんだけど、結構、似たような問題が出てたのよ」

 

響「ほぇーっ、すっごーい! ありがとう、フィリアちゃん! 大好きっ!」ダキッ

 

フィリア「ちょっと、止めなさい! 今はそれはシャレにならないから、あたしの命が危ないから」アセアセ

 

未来「フィリア先輩……、わざわざ、()()ためにありがとうございます……」ゴゴゴゴゴ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――クイズ番組 その壱――

 

緒川「ということで、次のクイズ番組は出演者が家族の方と共演という形になっていまして――」

 

翼「しかし、私の家族は――」

 

緒川「ご心配なく、親戚の方でもよろしいみたいですので」

 

フィリア「何で呼ばれたのかわからなかったけど、まさか、あたしにもクイズ番組に出ろってこと?」

 

緒川「察しが早くて助かります!」

 

翼「フィリア、私からも頼む。国内で仕事をするのもあと僅か……。色々と出られる番組には出ておきたいのだ」

 

フィリア「翼に頼まれると弱いわね。いいわよ、クイズ番組くらい出てあげるわよ」

 

緒川「ちなみに、優勝者は曲を丸ごと一曲歌って宣伝出来ますので、是非とも優勝を目指してください」

 

フィリア「戦力外の翼に遠慮なく答えて良いってこと?」

 

翼「ちょっと、待て! 戦力外とは聞き捨てならんぞ!」

 

緒川「問題! 相手の方に自分から押しかけること。または、人のところに訪問することを、謙譲語で何という?」

 

翼「推して参る!」

 

緒川「正解!」

 

翼「どうだ、フィリア。存外、私もやるだろう?」ドヤッ

 

フィリア(緒川のやつ、前にあたしに頼んだように、まだこうやって翼を乗せているのね)

 

緒川「…………」ニヤリ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――クイズ番組 その弐――

 

翼「今度こそ断捨離ッ!」

 

司会者「不正解! 正解はクローゼット収納法でした! これは、風鳴翼さん姉妹チームは厳しいか?」

 

フィリア(思ったよりもクイズって難しいのね……。連続であと三問くらい取らなきゃ厳しいわ……。サービス問題が来ないかしら? 食べ物なら得意なんだけど……。ていうか、従姉妹だって言ってるのに、姉妹の方が面白いからって、チーム名を捏造するなんて……)

 

司会者「次の問題です。北海道の海の幸はとても美味しくて有名です。その中でも「秋味」という別名を持つ魚――」

 

フィリア「鮭!」ピンポーン

 

司会者「おおーっと、風鳴翼さんの妹のフィリアちゃん、正解です。お姉ちゃんのフォローをする姿が健気ですねー」

 

司会者「オスは「鼻曲がり」とも呼ばれている、石狩鍋に必要な魚といえば――」

 

フィリア「鮭!」ピンポーン

 

司会者「前半絶望的だった、風鳴翼さんチームが二位まで追い上げてきたぞー! 次が最後の問題だっ!」

 

 

司会者「親子丼には鶏の卵と肉が使われていますが、海鮮親子丼に使われるのは――。おおーっと、風鳴翼さん、早かった。当たれば、優勝です!」

 

翼(何ということだ……、つい、勢いに任せて押してしまった……。海鮮親子丼? そっそうだ、フィリア……)チラッ

 

フィリア(勢いで押したのね……。チラッて見てるし……。答えは鮭よ、サ・ケ)クチパク

 

翼「むっ、なるほど! 答えはサメだっ!」シャーク

 

司会者「残念ー! 不正解です!」

 

翼「くっ!  何のつもりの当てこすりだ……」ガクッ

 

フィリア「どうでもいいけど、鮭の卸売り業者が、スポンサーなのかしら?」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――もうすぐ卒業シーズン――

 

フィリア「もうすぐ卒業式ねー、翼の……」

 

クリス「ん? あー、この学校から居なくなっちまうんだな。まぁ、寂しくなんかねぇけど……。いつでも会えるし」

 

フィリア「忘れたの? 翼は卒業したらロンドンに行くのよ? 学校どころか、日本からも居なくなるんだから……」

 

クリス「――はっ!? くっ、それがなんだ……。別に寂しくなんか……」ウルッ

 

フィリア「あら、意外とセンチメンタルなのね。顔に素直な気持ちが出てるわよ」

 

クリス「うっうるせぇ。絶対に先輩に言うなよっ! 絶対だかんな!」

 

フィリア「言わなくても伝わるわよ。今、こんな感じなら、きっと、卒業式は滝のように涙を流してるもの」

 

クリス「なっ、誰が泣くもんか! そっそういうフィリアだって、案外泣きだすんじゃねぇか?」

 

フィリア「そうね、それはあり得るかも。じゃあ、賭ける? 卒業式で先に泣いた方が負けで、勝った方の言うことを何でも聞くの」

 

クリス「いいぜ、絶対に負けねー! ――ん、いや待てよ……。よく考えたら、お前って絶対に涙を流さないんじゃねぇーか!」ビシッ

 

フィリア「バレたか……」チッ

 

クリス「そういうとこ、本当に油断ならねーヤツだな」

 

フィリア「まぁまぁ、やっぱりハレの日を賭け事に使うのは良くないわ」

 

クリス「どの口が言うんだよっ!」

 

フィリア「そこで、提案なんだけど、翼の卒業に合わせてお別れパーティーを開こうと思ってるのよ」

 

クリス「お別れパーティー? そりゃいいじゃねぇか! どんなことをやるんだよ!?」

 

フィリア「この前の年末に翼とテレビ局に行ったんだけど、面白そうな番組の収録がやってたのよ。これを二課が総力をあげて再現してみんなで楽しもうって企画よ」

 

クリス「ふーん、まぁ、盛り上がるなら何でも良いけどよー。あたしらも参加するのか?」

 

フィリア「ええ、マリアたちも何とか都合をつけて呼びましょう。名付けて《シンフォギア装者格付けチェック》よ! 一流の装者には賞品を出すの」

 

クリス「ああ、そういや、正月にやってたなー。そういうの……。他は良いとしても、あのバカには負けたくねーな」




絶唱しないシンフォギアGの初回はいかがでしたでしょうか?
次回は某格付けチェック番組っぽいお話をチーム戦でやってみようと思います。
ちなみにナスターシャは病状が良くないので入院中です。





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絶唱しないシンフォギアG編 その2 ――シンフォギア装者格付けチェック前半戦――

前回の予告どおり、格付けチェックです。
すごく長くなったので、前後半に分けます。


 ――シンフォギア装者格付けチェック前半戦――

 

フィリア「風鳴翼、卒業記念、シンフォギア装者格付けチェック。今日は一流の装者たちが翼の卒業を祝って駆けつけてくれたわ」

 

翼「みんな、私の門出を祝うために集まってくれて礼を言う」

 

響「うわー、マリアさんたちも来てくれたんだー」

 

マリア「釈放されて、早々にこんなところに呼ばれて何をするのか全然わからないんだけど……」

 

切歌「この椅子とってもフカフカで気持ちがいいデス」

 

調「王様の椅子みたい……。スリッパもふわふわしてる……」

 

フィリア「切歌様も調様も一流の装者ですから、椅子もスリッパも当然、最高級品をご用意させていただきました」

 

クリス「お前の敬語気持ち悪いな。何企んでやがる」

 

フィリア「……雪音様も一流の装者ですから、その位置にいる限りはそのように扱わせて頂きます。なお、最後まで一流の装者をキープできたチームには願い事を1つ叶える権利を贈呈しましょう」

 

緒川「まぁ、人の手で叶えられる範囲内ですけどね」

 

未来「意外と先輩ってノリが良いですよね」

 

響「よーし未来、一緒に頑張ろー!」

 

弦十郎「おいおい、なんで俺もこっち側なんだ? 俺は装者じゃないぞ」

 

クリス「そーだよ、なんであたしのパートナーだけ、おっさんなんだ? そりゃあ別に良いけどよ」テレテレ

 

フィリア「組織のトップが一流だからこそ、装者も一流なのではということを確認したいからです。弦十郎様も一流の司令官をキープ出来るように頑張って下さい」

 

緒川「尚、今回のチーム分けは以下のようになってます」

 

チームひびみく(立花響・小日向未来)

 

チームマリつば(マリア=カデンツヴァナ=イヴ・風鳴翼)

 

チームきりしら(暁切歌・月読調)

 

チーム弦クリ(風鳴弦十郎・雪音クリス)

 

 

フィリア「現在は一流の装者(司令官)でも、問題に間違える度に……」

 

《一流の装者(司令官)》→《普通の装者》→《二流の装者》→《三流の装者》→《そっくりさん》→《???》

 

緒川「このように、ランクが下がってしまいます。注意してください」

 

クリス「ちょっと待てよ、《???》ってなんだ? 前に見た番組だと映す価値なしみたいな……」

 

フィリア「雪音様、これはお遊びで特に放送とかされませんから、そういうランクは用意できませんでした。なので……ちょっとした罰ゲームのような、そうでないようなモノを用意しております」

 

クリス「どっちだよっ! てか、金がかかってそうな遊びだな」

 

緒川「翼さん、絶対にそこまで落ちてはいけませんよ。絶対にです!」(真顔)

 

翼「えっ緒川さん? わかりました。いや、ちょっと待って、何が起こるの?」ビクッ

 

フィリア「それでは、第一問目は《ギアペンダント》よ!」

 

切歌「リア姉、完全に話題を逸らすときの顔をしてるデス……」

 

調「口調もいつもに戻ってる……」

 

フィリア「これから、チームから一名が2つのギアペンダントを見てもらうわ」

 

フィリア「1つは風鳴翼様からお借りした、天羽々斬のギアペンダント。もう一つは二課の技術者たちが総力を入れて作ったレプリカのギアペンダント」

 

フィリア「どちらが本物なのかはシンフォギア装者の皆様なら簡単でしょう?」

 

マリア「それくらいなら、見極めるのは簡単よ! 造作もないことだわ!」

 

緒川「マリアさん、あまりやる前にそういうことを仰らない方が……」

 

フィリア「それでは、回答者の皆さんは控室に向かってください」

 

◆◇

 

 《一流の装者のおやつタイム》

 

 ――あまおうのストロベリーパフェ――

 

調「釈放されて、早々にこんなに美味しいものが食べられるなんて……」

 

マリア「…………」(黙々と食べている)

 

響「美味しいー、未来にも食べさせてあげたいよー」

 

クリス「まぁまぁだな……モグモグ……」

 

 

◆◇

 

緒川「それでは、回答者の皆さんが控室に入りましたので、こちらの皆さんには先に正解をお見せしますね」

 

フィリア「正解はBよ。まぁ、簡単すぎるわよね……。いつもあれで変身してるんだから」

 

未来「あっ、でも響はまだギアペンダントを使ったのって一回だけのような……」

 

フィリア「それでは、回答者たちの様子を見てみましょう!」

 

◆◇

 

 回答者、チームひびみく(一流)立花響

 

響「どちらかが、翼さんのギアペンダント……。あれだけ一緒に頑張ったんだもん。わからないはずが……」

 

Aのギアペンダント

 

響「えっ? こっちかな? ふーむ」

 

Bのギアペンダント

 

響「うわっ……。さっきと一緒に見えるよー」

 

響「あのー、匂いを嗅ぐのってありですか?」

 

響「よっよーし」クンクン

 

 

 

響「正解はBです。ほのかに翼さんの匂いがする気がします」

 

 響→Bの部屋へ

 

 

翼「わっ私ってそんなに匂う?」クンクン

 

未来「響ったら、他の女の匂いを覚えるなんて」ゴゴゴゴゴ

 

◆◇

 

 回答者、チームマリつば(一流)マリア=カデンツヴァナ=イヴ

 

マリア「最高の回答者というものを見せてあげるわ!」(カメラ目線)

 

Aのギアペンダント

 

マリア「ふむ、なるほど……」

 

Bのギアペンダント

 

マリア「えっ? いえ、大丈夫よ。こんなの今まで乗り越えた戦いに比べたら安いもの!」

 

マリア「正解はAよ!」

 

マリア「本物の聖遺物にはパワーがある。私にはお見通しよっ!」

 

 マリア→Aの部屋へ

 

翼「ああっ……」

 

緒川「翼さん、ちょっと、動いてもらいますよ」

 

切歌「さっそく動くのデスか?」

 

フィリア「何が『なるほど』だったのかしら? パワーも何も『見通せて』ないじゃない」

 

◆◇

 

マリア「ふぅ、あれ? さっそく分かれちゃったの?」

 

響「うわーマリアさん、そっちだったんですかー? さっそくやらかしたー。未来に怒られるよー」←正解

 

マリア「立花響、観察力はまだまだのようね。あなたにはガングニールを託したのだから、もっとしっかりなさい」←でも不正解

 

◆◇

 

 回答者、チームきりしら(一流)、月読調

 

調「自信はないけど、切ちゃんのために頑張る……」

 

Aのギアペンダント

 

調「…………」ジィー

 

Bのギアペンダント

 

調「…………」ジィー

 

調「正解は多分B……。マリアが本物の聖遺物にはパワーがあるって言ってた……」

 

 調→Bの部屋へ

 

切歌「調、凄いデス! マリアのアドバイスで正解に辿り着くなんて!」

 

フィリア「そのアドバイスを送ったマリアさんは間違ってるけどね……」

 

◆◇

 

調「あれ……?」

 

響「あっ、調ちゃんだー。こっち座って」ポンポン

 

マリア「しっ調? なんでそっちに……。いや、まだわからないわ!」←ちょっと不安

 

◆◇

 

 回答者、チーム弦クリ(一流)、雪音クリス

 

クリス「ったく、ギアペンダントなんて、真剣に見たことねぇよ」

 

Aのギアペンダント

 

クリス「ふーん」

 

Bのギアペンダント

 

クリス「へぇ……」ニヤリ

 

クリス「正解はBだ。さすがに先輩の色んな想いのこもったペンダントは見誤らなねぇよ」

 

 クリス→Bの部屋へ

 

翼「雪音……」ジーン

 

弦十郎「クリスくん、見事だ」ガッツポーズ

 

フィリア「……」←正解してつまらない

 

◆◇

 

クリス「げっ、バカも居るのかよ。カッコつけちまったけど大丈夫か?」

 

響「クリスちゃーん! 一緒だねー!」

 

 

マリア「まだわからない。まだわからないわ……。セレナぁ……」←不正解

 

◆◇

 

フィリア「結果発表ぉぉぉっ!」

 

切歌「りっリア姉って大声出せたんデスか?」

 

フィリア「これから、あたしが入った部屋の人が正解者よ」

 

◆◇

 

 Aの部屋

 

マリア「諦めちゃだめ! セレナっ……、力を貸して……」←祈っているけど不正解

 

 Bの部屋

 

響「ドキドキするねー」

 

調「マリアだけ別の部屋なのが不安……」

 

クリス「はぁ、バカと同じ部屋かぁ……」

 

◆◇

 

 Bの部屋

 

フィリア「おめでとう! 正解よ!」ガチャ

 

響「やったぁ」バンザイ

 

調「切ちゃん頑張ったよ……」ニッコリ

 

クリス「おっ、なんだ合ってたのか」

 

 Aの部屋

 

マリア「ううっ、セレナぁぁぁ……」ガクッ

 

 

フィリア「なーんだ、翼もマリアも先輩風吹かせて一流の装者とかアーティストみたいな顔してたけど――普通だったのね……」

 

 チームひびみく、チームきりしら、チーム弦クリ→《一流の装者》

 

 チームマリつば→《普通の装者》

 

◆◇

 

マリア「ごめんなさい。翼……、さっそく椅子もスリッパも貧相になってしまったわ」

 

翼「間違えることは誰にでもあるさ。次に挽回しよう」

 

フィリア「続いて、第二問目は音感よ。装者たるもの音楽のセンスというのは必要不可欠。耳が悪いと胸の奥の歌もキチンと聴けないでしょう」

 

フィリア「今回は皆さんには二種類のバイオリンを用意しました。1つはストなんちゃらバリウス、なんとお値段2億円。そして、もう一つは練習用の10万円のバイオリンです。演奏を聞いて見事、2億円のバイオリンを当ててください」

 

クリス「ちょっと待て、これはあたしの得意ジャンルだ。なんで、おっさんが回答者なんだよ!」

 

弦十郎「そうだぞ。クリスくんの父親は世界的なバイオリン奏者だ。彼女が答えた方が正答率は――」

 

フィリア「これは順番よ。決して不正ではないわ。さぁ、回答者の皆さんは控室へどうぞ……」

 

 《一流の装者のおやつタイム》

 

 ――料理研究家の経営するカフェの最高級チーズケーキ――

 

切歌「うわぁ、こんなに美味しいケーキ初めてデス」

 

弦十郎「うむ、甘過ぎずクドくない。それでいて包み込むような優しい味だ」

 

未来「美味しいけど、翼さんに悪いなぁ」

 

 《普通の装者のおやつタイム》

 

 ――ヨーグレット一箱――

 

翼「くっ、なんのこれしき……」パキッ

 

◆◇

 

 回答者、チームひびみく(一流)、小日向未来

 

未来「バイオリンかぁ、授業で少しだけ触ったくらいだなー」

 

Aの演奏

 

『――♪♫♬』

 

未来「うーん……」

 

Bの演奏

 

『――♫♪♬』

 

未来「むぅー……」

 

未来「正解はBかな? Aは学校で使ってたバイオリンに近い音がしたような気がします。あー、間違ったら恥ずかしいー」

 

 未来→Bの部屋へ

 

 

フィリア「どうですか、雪音様。正解はどちらか分かりました?」

 

クリス「ん? ああ、そんなん簡単だ。パパがよく使ってたのに似ているのはBだ」

 

フィリア「さすが、雪音様ですね。正解はBです」

 

響「すっごーい、クリスちゃん」

 

クリス「よしっ」ドヤッ

 

フィリア「まぁ弦十郎様が間違ったら意味ないんですけど……」

 

クリス「じゃあ、なんであたしを回答者にしねぇんだよっ!」ウガー

 

◆◇

 

 回答者、チームマリつば(普通)、風鳴翼

 

翼「バイオリンか……、しかし、歌だけじゃなく、音楽にも力はあるやもしれん! 風鳴翼、推して参る!」

 

 

Aの演奏

 

『――♪♫♬』

 

翼「なるほど……」

 

Bの演奏

 

『――♫♪♬』

 

翼「これは……!?」

 

翼「正解はAだっ! 防人の戦場の勘がそう言っている」キリッ

 

 翼→Aの部屋へ

 

 

マリア「ちょっと、翼!」

 

フィリア「どうでも、いいけど、早く動いてくれる? 二流のマリア」

 

マリア「もはや、背もたれも無くなってる!?」

 

フィリア「マリアも翼も何が『なるほどっ』だったのかしら?」

 

◆◇

 

翼「むっ、小日向はBの部屋だったか……」

 

未来「えーっ、翼さんと別々になっちゃった。間違ってたのかなー」

 

翼「……」←さっきのマリアを見てて不安

 

◆◇

 

回答者、チームきりしら(一流)、暁切歌

 

切歌「バイオリンの演奏デスかー! 難しそうデス」

 

Aの演奏

 

『――♪♫♬』

 

切歌「いい曲デスなぁ」

 

Bの演奏

 

『――♫♪♬』

 

切歌「同じに聞こえるデス……」

 

切歌「全然、わからないのデスが、正解はAデス! 理由は楽しそうに聞こえたからデェス!」

 

 切歌→Aの部屋へ

 

調「切ちゃん……」

 

緒川「調さん、お手数ですが移動をお願いします」

 

フィリア「まぁ、切歌さんには難しい問題だったわね」

 

◆◇

 

切歌「ああー、良かったデス。一人だとどうしようかとおもいました……」

 

翼「暁か……。うむ、これはいい流れだ」←ちょっと安心

 

 

未来「やっぱり間違ってるのかな?」←正解だけど不安

 

◆◇

 

 回答者、チーム弦クリ(一流)、風鳴弦十郎

 

弦十郎「クラシックか……。映画の知識しか無いぞ」

 

Aの演奏

 

『――♪♫♬』

 

「ふむ……」

 

Bの演奏

 

『――♫♪♬』

 

「ほぉ……」

 

弦十郎「正解はBだ。古くて良い楽器には特有の歪みのような音がある。だからこそ、貴重だし、生きた音色が聞こえるのだ」

 

 弦十郎→Bの部屋へ

 

クリス「よっしゃ! おっさんやるじゃねぇか! ヘンテコ映画も役に立つもんだ」ガッツポーズ

 

フィリア「――ちっ。さすがは弦十郎様、博識ですね」

 

緒川「舌打ちが駄々漏れですよ、フィリアさん」

 

◆◇

 

弦十郎「おっ、未来くんじゃないか。同室だな」←自信満々

 

未来「良かったー。ひとりぼっちかと思いましたよ」←ちょっと安心

 

翼「司令はBの部屋? まさか……」←急に不安

 

切歌「まだ、人数は互角デス!」←でも不正解

 

◆◇

 

フィリア「じゃあ、正解の部屋に行ってくるわね……」

 

 Aの部屋

 

翼「南無三……」

 

切歌「お願いデス!」

 

 Bの部屋

 

未来「どうか」

 

弦十郎「……」(瞑想)

 

◆◇

 

 Bの部屋

 

フィリア「おめでとう!」

 

未来「先輩! ありがとうございます!」

 

弦十郎「ふぅ、クリスくんに面目は保てたな」

 

 Aの部屋

 

翼「生き恥を晒すとはこの事か……」

 

切歌「デェェェェス」

 

 

 

フィリア「切歌さんと調さんは普通でも仕方ないとして……、翼ちゃんとマリアちゃんって、二流だったのねー。もう、勘違いさせないでよー」

 

マリア「やたら、嬉しそうな声を出すわね」

 

翼「こっこれ以上は落ちるわけには……。このスリッパって、トイレの……」

 

 チームひびみく、チーム弦クリ→《一流の装者》

 

 チームきりしら→《普通の装者》

 

 チームマリつば→《二流の装者》

 

 装者たちの運命やいかに!? 後半戦に続く!

 




格付けチェック感は出てましたでしょうか?
後半戦も頑張りますのでよろしくお願いします!






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戦姫絶唱しないシンフォギアG その3 ――シンフォギア装者格付けチェック後半戦――

格付けチェック後半戦!
それではよろしくお願いします!


 ――シンフォギア装者格付けチェック後半戦――

 

フィリア「第三問目はずばりLiNKER!」

 

フィリア「今回は三択問題で、1つはあたしが作ったLiNKER、もう1つは技術部が薬品を適当に混ぜて見た目だけを似せた偽のLiNKER、そして、最後はそこの自販機で買ったメロンソーダよ」

 

フィリア「偽物を選んだら、ワンランクダウン、絶対にアカン、メロンソーダを選んだらツーランクダウンだから……。まさか、メロンソーダは選ばないと思うけど……」

 

響「フィリアちゃん、LiNKERってあんまり見たことないよー」

 

フィリア「立花様、LiNKERにはあたしの心が込められています。決して紛い物に騙されてはダメですよ」

 

響「言ってること、全然わからないよ、フィリアちゃん」

 

未来「とにかく、つべこべ言わずに答えろってことだよ響。とりあえず、メロンソーダは選ばないようにしないと」

 

フィリア「今回は、二人で相談して答えを出して結構です。さぁ、控室へどうぞ」

 

 

 《一流装者たちのドリンクとお菓子》

 

 ――最高級茶葉の紅茶と芋ようかん――

 

響「ぷはぁ、美味しいね、未来ぅ」

未来「うん、美味しい」イチャイチャ

 

弦十郎「ん? いつもフィリアが買ってくる紅茶だ」

 

クリス「あいつ、変なもんに拘るんだよなー」

 

 《普通の装者たちのドリンクとお菓子》

 

 ――ペットボトルの麦茶と麦チョコ――

 

切歌「お茶デスね」

 

調「麦チョコ好き……」

 

 

 《ニ流装者たちのドリンク》

 

 ――紙コップに水道水――

 

翼「次は間違えられん……」

 

マリア「さすがにいつも使ってたLiNKERは間違えないわよ」ゴクゴク

 

◆◇

 

 回答者、チームひびみく(一流)

 

響「うわー、どれも同じに見えるよ、未来ぅ」

 

未来「せめて、メロンソーダがどれか……。ダメ……、全然、わからない」

 

響、未来「「せーの」」

 

響「B」未来「B」

 

響「おー、一緒だね。未来」

 

未来「うん、じゃあ迷うことないね」

 

 チームひびみく→Bの部屋へ

 

◆◇

 

 回答者、チームマリつば(二流)

 

翼「奏もLiNKERを使っていたし、見馴れているはずなのだが、中々どうして、判別しにくい……。マリア、わかるか?」

 

マリア「ととと、当然でしょう」

 

マリア(まずいわ。本物のLiNKERどころか、メロンソーダすらわからない)

 

翼、マリア「「せーの!」」

 

翼「A」マリア「B」

 

翼「よし、それではBにしよう。フィリアのLiNKERを実際使ってるのはマリアなんだから……」

 

マリア「いや、そんなに私を信頼しなくても良いのよ、私はAでも……」

 

翼「私が勝手にマリアを信頼したいのだ。構わないだろ?」

 

マリア「翼……」ドキドキ

 

 チームマリつば→Bの部屋へ

 

◆◇

 

翼「ほら、立花たちもBを選んでるじゃないか。やはりマリアの意見に従って正解だったな」

 

マリア「良かったー。人が居たわー」

 

響「わーい、翼さんとマリアさんが一緒だー」ニコニコ

 

未来(あれ? でもこの二人ってずっと不正解じゃ……)←ちょっと不安

 

◆◇

 

 回答者、チームきりしら(普通)

 

切歌「とりあえず、美味しそうなのがジュースのはずデス」

 

調「リア姉が私たちの為に作ってくれたLiNKERだもん……。きっと見抜けるはず……」

 

切歌、調「「せーの」」

 

切歌「A」、調「A」

 

切歌「なんとなくAが優しそうな感じがしたデス」

 

調「うん、切ちゃんと同じ意見……」

 

 チームきりしら→A

 

◆◇

 

切歌「だっ誰もいないデス」

 

調「もしかして不正解?」

 

マリア「二人ともそっち?」←ちょっと不安

 

翼「これで、分かれてしまったな」

 

響「でも、こっちの方が数は多いです」

 

未来「多数決じゃないんだよ、響」←思いっきり不安

 

◆◇

 

 回答者、チーム弦クリ(一流)

 

弦十郎「LiNKERか……、了子くんが熱心に研究していたのを思い出す」

 

クリス「フィーネか……、あいつは今、フィリアの中に……」

 

弦十郎、クリス「「せーの」」

 

弦十郎「A」、クリス「C」

 

クリス「んじゃ、あたしもAで」

 

弦十郎「ん? 良いのか?」

 

クリス「良いも悪いも、あたしよりおっさんの方がLiNKERには、馴染みがあるだろ? あたしは適当に選んだだけだからさー」

 

 チーム弦クリ→Aの部屋へ

 

◆◇

 

クリス「なんだ、お前らも一緒か」

 

切歌「良かったデス。仲間が増えました」

 

弦十郎「なるほど、LiNKERを使ってるマリアくんはBなのか……」

 

調「マリアが間違えるとも思えないから不安……」

 

◆◇

 

フィリア「さて、回答が出揃ったけど……、先に選択者がいなかったCの回答を公開するわ」

 

緒川「Cは、偽物のLiNKERです!」

 

フィリア「そう、つまりメロンソーダを選んだ組が二組もあるってことよ」ワクワク

 

緒川「フィリアさんは表情が出ないのに、何故か嬉しそうなのが伝わってきますね」

 

◆◇

 

フィリア「あたしが入った部屋が正解よ。不正解だった子たちは2ランクダウンだから……」

 

 Bの部屋

 

 

マリア「やったー! えっ?」

 

翼「開いて閉まったな……」

 

響「あぅー」

 

未来「やっぱり……」

 

 

 Aの部屋

 

切歌「やったデス!」

 

調「嬉しい……」

 

クリス「おしっ!」ガッツポーズ

 

弦十郎「よっしゃあっ!」ガッツポーズ

 

 

 

フィリア「ちょっと、やめてー。誰よ? 風鳴翼のそっくりさんとマリアのそっくりさんを連れてきたの。本物のマリアがLiNKERとメロンソーダを間違えるわけないでしょ」

 

フィリア「響ちゃんも、未来ちゃんも、まだまだ二流だったか。なんか、ようやくしっくり来たわね」

 

 

マリア「もはや、椅子すら用意されないのね……。やだ、このソックス穴が空いてるじゃない」

 

翼「ゴザに座るなんて貴重な経験かもしれん。風鳴翼もどきって……」

 

響「あーあ、まぁこんなもんかー」

 

未来「うん、なんか落ち着くね」

 

 チーム弦クリ→《一流の装者》

 

 チームきりしら→《普通の装者》

 

 チームひびみく→《二流の装者》

 

 チームマリつば→《そっくりさん》

 

◆◇

 

フィリア「さて、残すは一問よ。一流の装者はチーム弦クリ! 素晴らしい! 雪音様も弦十郎様も完璧な回答でここまで全問正解です」

 

クリス「まっ、思ったより問題が簡単だったからなー」

 

弦十郎「大人として、司令官として、負けるわけにはいかないのさ」

 

フィリア「最年少チームながら、大健闘、チームきりしら! 切歌さんも調さんも頑張って!」

 

切歌「最後も正解したいデス!」

 

調「切ちゃんと頑張る!」

 

フィリア「まぁ、あなたたちは二流で良かったわ。なんか喋りやすいし……。響ちゃんも、未来ちゃんも、最後くらい頑張りなさい」

 

響「うーん、確かに三流に落ちるとカッコ悪いよね」

 

未来「ちょっと、響、翼さんたちに聞こえるよ」

 

翼「くっ……、後輩に合わせる顔が……」ガクッ

 

マリア「切歌と調に今まで培った威厳が……。LiNKERとメロンソーダを間違えるなんて……」ショボン

 

フィリア「ええーっと、翼っぽい人と、マリアみたいな人……。あんたたち、何しに来たの?」チラッ

 

翼「今日って私の卒業を祝う日じゃあ……。ダメよ、剣に涙は不要」グスッ

 

フィリア「本物の翼が来てくれたらね。なんで、そっくりさんを祝わなきゃいけないのよ?」

 

フィリア「はぁ、せっかく頑張って新型のLiNKERを開発したのに、自販機で買ったメロンソーダと間違えるなんて……」

 

マリア「ううっ……セレナぁぁぁ……」

 

フィリア「ホントに、最後の問題は正解した方がいいわよ。答えれなかったら――」

 

翼「だから、何なの、《???》って?」

 

フィリア「さあて、最終問題はチャンスステージ! 正解するとワンランクアップよ!」

 

フィリア「しかしっ、外せば地獄のツーランクダウン!」 

 

マリア「完全に話す気ゼロみたいね。がんばるしかなさそうよ……」

 

フィリア「最終問題のジャンルは最高級牛肉を使ったハンバーグ!」 

 

緒川「1つはミシュ○ンで2つ星のステーキ専門店で腕を振るってる一流シェフが作ったハンバーグです。もう1つは今日のために一時退院してくださったナスターシャ教授が20年ぶりくらいに包丁を握って適当に作ったハンバーグです」

 

フィリア「もちろん、当てるのは一流シェフが作ったハンバーグよ!」

 

マリア「ちょっと、マムに何てことさせてんのよ!」

 

切歌「マムのハンバーグ……。想像ができないデス」

 

調「でも、ちょっと食べたいかも……」

 

緒川「それでは、皆さん、控室にどうぞ」

 

◆◇

 

 《一流の装者へのおもてなし》

 

 ――特上寿司と高級玉露――

 

クリス「甘いものが多かったからこういうのはいいなー」モグモグ

 

弦十郎「今度、みんなを寿司にでも連れてくか」パクパク

 

 《普通の装者へのおもてなし》

 

 ――牛丼とペットボトルの緑茶――

 

切歌「十分、美味しいデス」

 

調「切ちゃん、ご飯つぶついてるよ……」ペロッ

 

切歌「調……」

 

 《二流の装者へのおもてなし》

 

 ――藤尭が朝握ったおにぎりと紙コップに入れた水道水――

 

響「白米大好き!」

 

未来(切歌ちゃんみたいに、ご飯つぶ付けないかな)ソワソワ

 

 《そっくりさんへのおもてなし》

 

 ――ペット用の皿に入った三日間放置水――

 

マリア「これって、収容されてた時よりも扱いが大分悪いんだけど……」ゴクゴク

 

翼「迷いなく飲むんだな。マリアのハングリー精神は見習うべきか……」

 

◆◇

 

 回答者、チームひびみく(二流)

 

 Aのハンバーグ

 

響(イケメン風アイマスク)「はふぅん、んっ……、おいひぃ」

 

未来(少女漫画風アイマスク)「んっ……、はむっ……、んんっ……美味しい……」

 

 Bのハンバーグ

 

響(イケメン風アイマスク)「はむっ……、あんっ……、はむっ……おいひっ……」

 

未来(少女漫画風アイマスク)「んんっ……、はむっ……、はむっ……こっちも美味しいね」

 

 

響、未来「「せーの」」

 

響「A」、未来「A」

 

響「おおっ、どっちも美味しかったけど、同じ意見になったね」

 

未来「うん、じゃあ決まりだね」

 

 チームひびみく→Aの部屋へ

 

◆◇

 

 回答者、チームマリつば(そっくりさん)

 

 Aのハンバーグ

 

マリア(こ○亀の両○風アイマスク)「ふぅー、ふぅー、ふぅー、……んっ、あっ……、はむっ……美味しいわ」

 

翼(ゴ○ゴ13風アイマスク)「そんなに熱いか? はむっ……、んんっ……、美味だな」

 

 Bのハンバーグ

 

マリア(こ○亀の両○風アイマスク)「ふぅー、ふぅー、……んんっ、あっ……、はむっ……、こっこれは……、おっ美味しい……」

 

翼(ゴ○ゴ13風アイマスク)「んっ……、はむっ……、んんっ……、こちらも良い……」

 

マリア・翼「「せーの」」

 

マリア「B」翼「B」

 

マリア「どちらもとても美味しかったけど、Bの方が良かったわ。なんかこう、パワーが湧いてくるの」

 

翼「私も同意見だ。ならば迷うことはない」

 

 チームマリつば→Bの部屋へ

 

◆◇

 

マリア「あら、別れちゃった」←既に不安

 

翼「いや、先程は同じ部屋でも不正解だった、まだわからん」←でも不安

 

響「あれー、翼さんたちはそっちですかー」

 

未来「…………」←ちょっと安心

 

◆◇

 

 回答者、チームきりしら(普通)

 

 Aのハンバーグ

 

切歌(変なおじ○ん風アイマスク)「はむっ……、んっ、んんっ……、美味しいデス」

 

調(スーパーサ○ヤ人風アイマスク)「あむっ……、んっ……、はぁ……、美味し……」

 

 Bのハンバーグ

 

切歌(変なおじ○ん風アイマスク)「はむっ……、んんっ……、あむっ……、こっちも美味しいデス」

 

調(スーパーサ○ヤ人風アイマスク)「あむっ……、んんっ……、はぁんっ……、んっ、美味しい……」

 

 

切歌・調「「せーの」」

 

切歌「B」調「A」

 

切歌「Bの方が口に馴染んだ気がしたデス」

 

調「うん……、だから、Bはマムかなって……」

 

切歌「なるほどデスね。では、Aにしましょう」

 

 チームきりしら→Aの部屋へ

 

◆◇

 

切歌「良かった、マリアたちとは別の部屋デス」

 

マリア「ちょっと、切歌ぁ!?」

 

調「切ちゃん、悪気はなくてもマリアは傷つく……」←でも、ちょっと安心

 

◆◇

 

 回答者、チーム弦クリ

 

 Aのハンバーグ

 

弦十郎(歌舞伎風アイマスク)「はむっ……、うむ……、美味いな」

 

クリス(ガチャ○ン風アイマスク)「あむっ……、んっ……、まぁこんなもんか……」

 

 

 Bのハンバーグ

 

弦十郎(歌舞伎風アイマスク)「はむっ……、なるほど……、こちらも非常に美味しい」

 

クリス(ガチャ○ン風アイマスク)「あむっ……、んっ……、はむっ……、うーん」

 

弦十郎・クリス「「せーの」」

 

弦十郎「A」クリス「B」

 

弦十郎「口ざわりが良かったのはこっちだったのだが……」

 

クリス「そうかぁ? あたしはこっちのが食べごたえがあったぞ」

 

弦十郎「なるほど、ではBにするとしよう」

 

 チーム弦クリ→Bの部屋へ

 

◆◇

 

マリア「やったわ! ほら、みなさい翼、こっちにも力強い味方が!」←嬉しそう

 

翼「うむ、これならもしかして……」

 

クリス「げっ、先輩が居るのかよ」←不安

 

弦十郎「翼には悪いが嫌な予感がするな」←不安

 

◆◇

 

フィリア「泣いても笑っても、これが最後の問題!」

 

フィリア「あたしが入った部屋が正解だからね」

 

 Aの部屋

 

響「お願いします!」

 

未来「あはは、響ったら大袈裟だよ」

 

切歌「ここは当てたいデス」

 

調「当てれば一流……」

 

 Bの部屋

 

マリア「お願い! セレナ……、最期に力を……」

 

翼「ふむ、間違ったら嫌な予感しかしないからな」

 

クリス「はぁ……」←諦めモード

 

弦十郎「…………」

 

◆◇

 

 ??の部屋

 

フィリア「おめでとう!」ガチャ

 

 

 

 

 

響「わーいっ!」バンザイ

 

未来「やったね、響」ダキツキ

 

切歌「当たったデス」ダキッ

 

調「うん、良かった……」ダキツキ

 

 

 Bの部屋

 

マリア「あー、せっセレナーっ!」

 

翼「無念……」

 

クリス「やっぱりかよっ!」

 

弦十郎「最後の最後で……、存外悔しいな」

 

 

フィリア「はぁ、結局、弦十郎ちゃんって、司令としては二流だったのねー。クリスも最初は調子が良かったんだけど、素人の作ったハンバーグを美味いって食べるんだから……」

 

フィリア「そして、マリアみたいな人と翼っぽい人は――。良かったわ、本人だったら大問題だもの……」

 

 

翼「何をさせられるんだ」

 

マリア「早く言いなさいよ」

 

フィリア「響さんも未来さんも、最後に普通になれて良かったわね。なかなか優秀だったわ」

 

響「いやー、メロンソーダのときはどうなるかと思ったよ」

 

未来「また、マリアさんの傷を抉るようなことを……」

 

マリア「ううっ……」

 

フィリア「そして、暁様と月読様は素晴らしい! 見事に一流に返り咲きました!」

 

切歌「一流デス!」

 

調「一流だね、切ちゃん……」

 

フィリア「願い事を何か1つ決めておいてください!」

 

 ――最終結果――

 

 チームきりしら→《一流の装者》

 

 チームひびみく→《普通の装者》

 

 チーム弦クリ→《二流の装者(司令官)》

 

 チームマリつば→《???》

 

◆◇

 

フィリア「ホントにダメダメだったわね。二人とも……。まさか、逆にパーフェクトなんて……。勘で答えてももっとマシな結果よ」

 

フィリア「それでは、《???》の内容を発表するわ。シンフォギア装者に必要なモノは【愛】、つまり二人は【愛】が足りないのよ」

 

 

フィリア「つまり、《???》の内容は《愛情の注入》。まずはマリアから……」

 

マリア「えっ? ちょっと、待って! 何をするつもりなの?」

 

ナスターシャ「マリア……」

 

マリア「マムっ! なんで、ここに? いや、一時退院してたみたいだけど……」

 

ナスターシャ「思えば、あなたには特に厳しく接して来たかもしれません。この結果を招いたのも、私のせいなのでしょう」

 

マリア「そんな、マム! それは違うわ!」

 

ナスターシャ「今日は精一杯、あなたを甘やかそうと思います」

 

マリア「ちょっと、えっ、マム? なんで、おしゃぶりとか、ガラガラとか持ってるの? ていうか、その大きなベビーカーは何?」

 

フィリア「それでは……、マリアは思う存分、甘やかされてください」

 

マリア「嫌ーっ! セレナァァァァァァ!」

 

切歌「あれはキツいデス……」

 

調「一流で良かった……」

 

フィリア「さて、翼なんだけど、八紘伯父さんに頼もうとしたんだけどね……。断られちゃったのよ」

 

翼「当たり前だ。というか、そんなことを頼むこと自体、どうかしてるぞ。時々、お前の行動力が怖くなるんだが……」

 

フィリア「もうちょっと押せば、なんとかなりそうだったんだけどな……」

 

フィリア「ということで、翼はマリアからの《濃厚ベロチュー》で《愛情を注入》してもらって、終わりで良いわよ」

 

翼「はぁ? 今、何て言った?」

 

フィリア「だから、《濃厚ベロチュー》。舌と舌を絡ませて――」

 

翼「そそ、そんなの出来るわけないだろっ!」

 

緒川「そうですよ、フィリアさん。さすがにそれはNGです」

 

フィリア「そっ、じゃあ普通にキスでいいわよ」

 

翼「うむ、それくらいなら……」

 

緒川(それくらいならではないと思いますが……。最初に無理難題をふっかけて、後から妥協する形を作って話をあたかも譲歩したみたいな空気を作りましたね……)

 

フィリア「マリア、そっちの用事が済んで早々に悪いんだけど、ちょっと翼にキスしてくれないかしら?」

 

マリア「へっ?」ゲンナリ

 

翼「すまん、マリア……。んっ……」

 

マリア「ふぇっ? んっ……」

 

翼・マリア「ぷはぁ……」

 

翼「これで、文句ないだろ?」

 

マリア「なっ何、なんで今、翼が……」カァァァッ

 

響「うわぁ、他人がしてるのってこういう風に見えるんだぁ」

 

未来(翼さん、上手いわ……。今度、教えてもらおうっと)

 

切歌「マリアの顔が真っ赤デス」

 

調「素敵……」

 

フィリア「まぁ、たまたまマムが来てくれたから、マリアの分だけ付け足して、そもそもチームメイト同士のキスで終わらせるつもりだったのよ」

 

クリス「あー、だから、罰ゲームになんねぇチームがあるって言ってたのか……。ちょっと、待てよ、あたしが負けてたら――」カァァァァッ

 

フィリア「あら、負けてたら良かったとか、思っちゃった?」

 

クリス「そっ、そんなわけあるはずねぇーだろっ」ドキッ

 

フィリア「じゃあ、最後に切歌と調の願い事だけど……」

 

切歌「と言われましても……」

 

調「特に、願い事もないから……」

 

切歌・調「「みんなで美味しいモノを食べに行きたい(デス)」」

 

フィリア「すっごく良い子ね……、あなたたち」ジーン

 

フィリア「じゃあ、司令の奢りでみんなで打ち上げに行きましょう。待ってね、今予約取るから、人数はええと……。緒川、準備をお願い」

 

緒川「司令! ごちそうさまです!」

 

弦十郎「おいおい、ちゃんと美味しい店にしてくれよ! あと、食べ放題の店だ! 遠慮してほしくないからな!」

 

 このあと、弦十郎にめっちゃご馳走になった――。

 




ちょっと趣向を変えてみましたが、いかがでしたでしょうか?
あと、一回くらい絶唱しないを投稿して、GX編を開始します!
次回もよろしくお願いします!



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戦姫絶唱しないシンフォギアG その4

最初にミニ格付けチェックからスタートします。
後半はGX編に関する重要な回だったりしますので、よろしくお願いします!


 ――ミニ格付けチェック――

 

 第一問ギアペンダント

 

フィリア「A」不正解

緒川「B」正解

藤尭「B」正解

友里「B」正解

 

 

フィリア「あれ? おかしいわね……」

 

緒川「さすがにこれは落とせません」

 

藤尭「おっ当たった」

 

友里「良しっ」

 

 第二問バイオリン

 

フィリア「A」不正解

緒川「B」正解

藤尭「B」正解

友里「A」不正解

 

フィリア「えーっ、自信あったのに」

 

緒川「これくらいはわかりませんと。芸能マネージャーもやってますので」

 

藤尭「おっまた正解だ」

 

友里「全然わかんなかった」

 

 第三問目LiNKER

 

フィリア「A」正解

緒川「C」不正解

藤尭「A」正解

友里「B」アカン

 

フィリア「あたしが作ったんだから当然よ。ギアペンダントは間違えたけど……」

 

緒川「技術部の力の入れ方がすごいですね」

 

藤尭「おっ!」

 

友里「めっメロンソーダだったの?」

 

 第四問目ハンバーグ

 

フィリア「A」正解

緒川「B」不正解

藤尭「A」正解

友里「A 」正解

 

フィリア「料理は間違えないわ」

 

緒川「食事は簡単な物で済ませてますので……」

 

藤尭「全部当たった」

 

友里「ほっ……」

 

 結果発表

 

フィリア→《普通の自動人形》

 

緒川→《三流の忍者》

 

藤尭→《一流のオペレーター》

 

友里→《二流のオペレーター》

 

 思った以上に普通の結果でした……。

 それでは、絶唱しないシンフォギアGを開始します!

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――先輩と後輩――

 

クリス「なっ、なぁ? お前はいいのかよ。このままで」

 

フィリア「何よいきなり藪から棒に」

 

クリス「今から入学式だろ? あいつらも入ってくることだし、こういうこたぁ、キチンとすべきだと思うんだ」

 

フィリア「こういうこと?」

 

クリス「だーかーらー、後輩たちに対して、先輩の威厳っつーか。一人いるだろ? あたしらに対して不遜な態度をとってるやつ」

 

響「おーい、クリスちゃーん、フィリアちゃーん! 二人とも入学式見に来たんだー」

 

クリス「ほら見ろ、このバカはあたしらのこと絶対に先輩として見てねぇ! この辺ではっきりとケジメを……」

 

フィリア「ああ、そういうことね。あたしって、ほら、無駄なことしない主義だから」

 

クリス「無駄ぁ? どういう事だよ!?」

 

フィリア「だって、響よ? この子の物覚えの悪さって尋常じゃないんだから」

 

響「来て早々に酷いこと言われてるー」

 

クリス「で、でもなー、あたしはこいつの年上で、先輩で……」

 

響「何言ってるのか全然聞こえないよー、クリスちゃん」

 

クリス「ちゃん付け直せって言ってんだよー!?」ウガー

 

未来「どうしたんです? フィリア()()、どうして()()()が響を怒鳴ってるんですか?」

 

クリス「よっ、呼び捨て……。そういや、なんでお前はフィリアは先輩であたしは呼び捨て何だ!?」

 

未来「えっ、ええーっと、なんとなく? クリスはその方が良いかなって?」

 

クリス「全然良くねぇよっ! くそっ、説明の仕方が分からねぇ! どうすりゃ良いんだ……?」ダンダン

 

響「さっきからクリスちゃんが何が言いたいのか、全然わからないけど、今までどおりクリスちゃんでいいよね?」

 

クリス「……はぁ、もう好きに呼べよ」ヤケクソ

 

フィリア「ほらね」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――新しい後輩――

 

響「調ちゃん、切歌ちゃん!」

 

未来「入学おめでとう」

 

調「あ、ありがとう……」

 

切歌「何だか、まだ慣れないデスよ」

 

クリス「まあ、そんなこったろうと思ってたので、ここは先輩であるあたしが、可愛い後輩に校舎を案内してやろう」ワクワク

 

調「そ、そういうのは、もうオリエンテーションで――」オドオド

 

フィリア「というか、この子たち前に潜入したときに大体ここの造りくらい調べてるわよ」

 

調・切歌「「うっ……」」

 

クリス「えっ……、そっそうか……。あはは、そうだよなー。いや、知ってるなら良いんだ。別に案内したかったわけじゃねぇし……」ズーン

 

切歌「いやー、あのときは急いでいたから全然下調べしてなかったんデスよ」

 

調「そうそう、すぐにリア姉に見つかったちゃったし……。だから、ちょうど知りたいなって……」

 

クリス「何っ!? そうなのか、それを早く言えって、じゃあ早速」ウキウキ

 

未来「優しい子たちだね、響」

 

響「まったく気付いてないクリスちゃんはやっぱり愛されキャラだ」

 

フィリア「まったく、お人好しなんだから……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――立花響は餌付けされてる――

 

フィリア「そういえば、二人が入学するお祝いじゃないけど、ケーキを作ってきたのよ。ちゃんとドライアイスで冷やしているから家に帰ったら食べなさい」

 

切歌「リア姉のケーキデェス」

 

調「ありがとう、リア姉……」

 

響「あー、いいな、イイな、良いなー」ソワソワ

 

未来「こら、みっともないよ。響」

 

フィリア「これ、ちょっと失敗して形が悪くなったやつ。食べる? 響」

 

響「わーい! フィリアちゃん愛してるっ!」ダキッ

 

フィリア「ちょっと! 抱きつかないでよっ!」ソワソワ

 

未来「ふーん、フィリア先輩はお優しいんですね……」ゴゴゴゴゴ

 

クリス「なっ、なんだあいつ? とんでもなく威圧感増してねぇか?」

 

切歌「やっぱり餌付けしてたんデスね」

 

調「ケーキ一つであのリアクションだもん……。楽しくなるのはわかる……」

 

響「いつも、ありがとうフィリアちゃん! この前もドーナツくれたし!」

 

フィリア「バカっ! それは未来には内緒って言ったじゃない」シィーッ

 

未来「へぇ、内緒の関係ですか。これは詳しく聞く必要がありそうですね……」

 

フィリア「いや、違うのよ。あたしは決してその……」

 

クリス「何やってんだ? あいつ……」

 

切歌「食べ物の恨みは怖いデス」

 

調「多分、意味は間違ってるよ、切ちゃん」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――マリアは心配性――

 

マリア『ハロハロ、フィリアー、起きてるー?』

 

フィリア「あたしが寝ないの知っててかけてるでしょ?」

 

マリア『もー、相変わらずノリが悪いわねー。それよりも、今日は入学式だったのよね?』

 

フィリア「ええ、写真を撮ったから後で送るわ」

 

マリア『ありがとう。そっそれで、あの子たちどうだった? 上手くやれそう? イジメられてない?』

 

フィリア「いや、今日はオリエンテーションだけだし……、なんとも……」

 

マリア『ちゃんと、ご飯は食べられてる? 朝はキチンと起きられてるのかしら?』

 

フィリア「小学生じゃないんだから……。大丈夫よ。ああ見えても切歌も調もしっかりしてるし、もう大人になってるわ」

 

マリア『そっそんなことは分かってるわよ。でも、やっぱり心配なのー! そうだ、カメラを付けましょう。そして、リアルタイムで二人のことを見守りましょう。交代で』

 

フィリア「サラッとあたしを巻き込んでアホな提案をしないでよ。二人にだってプライバシーってもんがあるでしょ」

 

マリア『そうね。カメラは諦めるわ……。で、でも、あの子たち2日に1回くらいしかテレビ電話で通話してくれないの……』

 

フィリア「むしろ、多いわよ。そりゃ、マリアは長いこと二人の面倒を見てきたから、心配なのはわかるわよ。でも、今度は二人の自立の手助けをしなきゃ。いつか、独り立ちするんだし」

 

マリア『あの子たちが、独り立ち……。ううっ……。応援しなきゃいけないのに……、寂しいわ……』

 

フィリア「重症ね……。それとも、今の仕事が辛いのかしら? 翼にでも、元気付けるように話してみよ」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――ロンドンで頑張る友人――

 

翼『フィリア! ふふっ、嬉しいな。お前から連絡をよこしてくれるなんて思わなかったぞ』

 

フィリア「翼、元気にしてる? 新天地での仕事はどうかしら? さすがにすぐには大きな仕事は来ないと思うけど……」

 

翼『そっそうだな。一応、いくつかオファーは来ている。どれをやろうか迷うくらいにはな』ビクッ

 

フィリア「あら、すごいわー。世界が風鳴翼を求めていたってわけね。あたし、心配しちゃってた。日本を出る前に緒川とやたら、バラエティの仕事ばかり入れちゃってたから、向こうでもその印象が強くなったらどうしようって思ってたの」

 

翼『えっ?』ドキッ

 

フィリア「じゃあ、向こうからこっちにあなたの歌が届く日を楽しみにしてるわね。翼……」

 

翼『あっ、ああ。楽しみに待っていてくれ。フィリア』ズーン

 

フィリア「そうそう、それで、翼に相談があったんだけど」

 

翼『私に相談か? 何があったんだ? まさか、《ノイズ》が?』

 

フィリア「いいえ、至ってこっちは平和よ。実はマリアの元気がなさそうなの。だから翼に励まして貰おうとおもって……」

 

翼「ふむ、マリアか……。彼女もいきなり国際エージェントとという仕事を押し付けられて辛いということか」

 

フィリア「ええ、多分……。翼も慣れない生活を送っているから共感できることが多いと思うのよ」

 

翼「承知した。後日連絡をしてみよう」

 

 その後、翼とマリアは再びコラボでライブをすることとなる……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――第三期(GX編)開始のちょっと前 その壱――

 

キャロル「いよいよ、計画開始の時が来た」

 

ガリィ「マスター、準備が終わりました」

 

キャロル「ふふっ、後は長年スパイを続けている奴を呼び戻す……」

 

ガリィ「奴? はて、そんなの居ましたっけ? マスター」カクカク

 

レイア「ガリィ、お前また、派手に忘れてるな。マスターが言ってるのは、フィリアのことだろう」

 

ファラ「マスターの為に人間の体を捨てて、我々と同じボディを手に入れるなんて酔狂な方でしたわ」

 

キャロル「そう言うなファラ。奴だけはオレの理解者。記憶喪失を演じて何年もの間、黙々とシンフォギアの情報を集めてくれているんだ。一度もこちらに連絡を入れないという徹底した秘密主義を通してな……」

 

ガリィ「それで、連中と仲良くなったところで、実は敵でしたぁーって、ネタバラシするなんて、とぉっても素敵な趣向ですねー。キャハハハハ」

 

レイア「相変わらず、性根が腐った発想だな。ガリィは……」

 

キャロル「まぁ、根掘り葉掘り境遇を聞かれて、要らん嘘を付くよりも、全部忘れてしまったことにしたほうが都合が良かろう。明日、奴を連れ戻す。そして、作戦を実行する」

 

ガリィ「案外、ホントに記憶喪失になってたりしてぇー」

 

ファラ「だとしたら、マスターがあまりにも滑稽になってしまいますわ」

 

キャロル「うっうるさい! そんなことあるはず無かろう。オレはフィリアを信じる!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――第三期(GX編)開始のちょっと前 その弐――

 

フィリア「あーあ、暇になっちゃった。クリスとの約束の時間まで結構あるから、1回家に戻ろうかしら」

 

キャロル「フィリア……、久しいな……」

 

フィリア(誰? この子? 小さな子供だけど、響の友人の妹かしら? とりあえず、あたしのこと知ってるみたいだから適当に合わせて思い出しましょう)

 

フィリア「ひっ久しぶりね」

 

キャロル「長い間の任務ご苦労だった」

 

フィリア(何なの? いきなり何かの遊びが始まったのかしら? まぁ暇だし、付き合ってあげましょう)

 

フィリア「ええ、あなたもお疲れ様、色々と大変だったでしょう」

 

キャロル「なぁに、お前の任務に比べれば大したことはなかったさ。さぁいよいよ、今夜、計画は実行される。お前にも存分に働いて貰うぞ」

 

フィリア「任せなさい。この日をどれほど待ちわびたか分からないわ。計画は必ず成功させましょう」

 

キャロル「ああ、それでは付いてこい。アジトに一度戻るだろう?」

 

フィリア「申し訳ないけど、それは出来ないわ。このあと予定があるのよ」

 

キャロル「そっそうか。まだ、済ませてないことがあるのだな。承知した。それでは、計画を実行した後に合流しよう」

 

フィリア「わかったわ。じゃあ、あたし、行くから」

 

フィリア(これで良かったのかしら? 台本なしの即興の演劇を始めるなんて、最近の小さな子供の趣味は分からないわ)

 

キャロル(ふふっ、ガリィの一言で少し不安になったが、問題ないようだ。オレは必ず世界を壊す!)

 

 次回! GX編開始!

 




次回からGX編を開始します。
ついにオートスコアラーの登場です!


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GX編
奇跡の殺戮者と記憶喪失者


いよいよ、GX編がスタートです。
それではよろしくお願いします!


「んで? どうしてあたしんちなんだ?」

 

 ずらりと並べられた菓子と飲み物を前にクリスはうんざりとした表情で響とその友人たちに問いかける。

 

「すみません。こんな時間に大人数で押しかけてしまいました……」

 

「ロンドンとの時差は約8時間!」

 

「チャリティーロックフェスの中継を皆で楽しむにはこうするしかないわけでして」

 

 響のクラスメイトの詩織と弓美と創世は少しだけ遠慮がちな声を出した。

 

「気にしなくていいのよ。どうせ、クリスと二人で見ても盛り上がらなかっただろうし……。自分の家みたいに寛いで構わないから」

 

「「はーい!」」

 

 あたしが後輩たちに声をかけると彼女らは笑顔で返事をした。

 今夜はくらいはこうやって騒ぎながらテレビを見るというのも悪くないだろう。

 

「おい、フィリア! 人んちで勝手なこと言うなっ!」

 

 クリスはそんなあたしに肘鉄を食らわす。本当は嬉しいくせに……。

 

「フィリアちゃーん、じゃ、遠慮なく、くつろぐよー。モグモグ」

 

 響は、だらけた姿勢で菓子をボリボリ食べている。相変わらず美味しそうにモノを食べる子なんだから。

 

「お前はちったぁ遠慮しろ! このバカ!」

 

 クリスはそんな響に大声を出していた。

 

「まぁまぁ、クリスちゃん。ここは、頼れる先輩ってことで。――それに、やっと自分の夢を追いかけられるようになった翼さんのステージだよ」

 

 響の言葉にクリスもハッとした表情になる。

 

「皆で応援しないわけにはいかないよな」

 

 クリスは感慨深そうな言葉でそう言った。

 そうね、今日は翼とそして……。

 

「そしてもう一人……」

 

 未来は忘れてならないもう一人について口にした。

 

「マリア……」

 

「歌姫のコラボユニット、復活デス!」

 

 調と切歌もライブを楽しみにしてテレビを凝視していた。

 

 そう、今日のチャリティーロックフェスは翼とマリアのコラボユニットが登場するのだ。

 あたしたちはそれをともに見守るためにクリスの家に集まったのである。

 

「さぁ、そろそろ開演みたいよ。ロンドンまでは遠いけど、あたしたちも応援しましょう!」

 

 そして、翼とマリアのライブがスタートした!

 

 ――星天ギャラクシィクロス――

 

 大歓声の中、翼とマリアが歌い出す。

 

「遺伝子レベル――♪ 絶望も希望も――♪ 足掻け――♪」

 

 翼とマリアは夕日が照らすタワーブリッジが見える舞台で歌う。

 

「光と飛沫――♪ どんな美し――♪ せめて唄――♪ 世界が酷い――♪ せめて伝――♪ 響き飛べ――♪」

 

 翼とマリアは活き活きとして舞台上でパフォーマンスを繰り広げていた。

 

「そして奇跡は待つ――♪ その手で創――♪

♪ 生ある全――♪ ――ギャラクシィクロスぅぅぅ♪」

 

 オーディエンスは大盛り上がりで、翼とマリアがはそれに応えていた。

 

「あーはっはっは! こんな二人と一緒に友達が世界を救ったなんて、まるでアニメだね!」

 

 上機嫌そうな弓美は笑いながらそんなことを言う。まぁ、世界発信であんなことにはなったが、世界を救えたから本当に良かった。

 

「あ、うん、ホントだよ……」

  

 そして、マリアのトラウマを作った張本人の響は苦笑いを浮かべていた。

 響はこの前、マリアと会ったときも、あのときの事を大声で謝罪して、彼女の顔を赤面させていた。正直、マリアはそこには触れてほしくないのだと思う。

 

 とはいえ、マリアの扱いは今や世界を救った英雄だ。

 そう聞けば、あの馬鹿フィアナと共に逃げた大馬鹿者が羨ましがるだろうが、実際のところは――。

 

「あの子には、こんな枷をつけてほしくなかったわ……」

 

 あたしはふと、そんなことをボヤいてしまった。

 

「月の落下とフロンティアに関する事件を収束させるため。マリアは生贄とされてしまったデス」

 

「大人たちの体裁を守るためにアイドルを……。文字通り偶像を強いられるなんて……」

 

 切歌と調は悲しそうな顔で俯いた。しまったわ……。場の雰囲気を悪くしちゃった。

 

「そうじゃないよ。マリアさんが守っているのはきっと、誰もが笑っていられる、日常なんだと思う」

 

 そう思っていると未来が口を開いてマリアが生贄になったという表現を否定する。

 

「そうデスよね」

 

「だからこそ、私たちがマリアを応援しないと」

 

 切歌と調は納得した顔で前を見た。そうね、マリアはどういう立場になってもマリアだもん。

 

「それじゃ、あたしたちはマリアに守ってもらった日常をせいぜい大事にしなきゃね。パクっ」

 

「あー、フィリアちゃん。それ、私がとっておいたのにー」

 

「早いもの勝ちよ」

 

 こうやって菓子の取り合いをしたりするなんて、この身体になったときには考えられなかったわ。

 あたしは奇跡のおかげで生かされている――。

 そう思わずにはいられなかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

 

 ライブも終わって一息付いた中、あたしたちの通信機に弦十郎から着信が入る。

 

『第7区域に大規模な火災が発生。消防活動が困難な為、応援要請だ』

 

「了解、至急現場に向かうわ……」

 

 火災かー、ミラージュクイーンを使わなくても、塗料が剥げちゃうわね。仕方ないけど……。

 

「はい! すぐに向かいます!」

 

「響……」

 

「大丈夫、人助けだから」

 

 心配そうな顔をする未来に対して、響は優しく声をかけた。確かに、ただの火事くらいなら、心配はいらないわ。

 

「私たちも!」

 

「手伝うデス!」

 

「そうね、LiNKERの使用許可申請を出しとくから、一度本部に戻って取りに行きなさい。人命がかかっているけど、あなたたちをそのまま変身させられないわ」

 

 非常時でもない現在はさすがにLiNKERの持ち出しは許可されていなかった。

 まぁ、解析されたからって簡単に作れるような代物じゃないけど、一応アレも機密事項だからだ。

 

「そういうこった。まっ、お前たちが来る前に先輩であるあたしらが終わらせといてやるけどな」

 

 クリスがそういうと、あたしと響もそれに同意して、現場へと出動した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 あたしと響は火事で閉じ込められた人たちの救助。

 クリスは被害状況の確認に動いた。

 

 早期に対応出来た甲斐があって、負傷者はいたが、幸い特に死者は出ずに、火事で閉じ込められた人たちの救助はほとんど終わった。

 

 何か嫌な予感を感じたけど……。何もないなら構わないか。

 この場は響に任せて問題なさそうなので、あたしはクリスに合流しようと考えていた。

 

「ふっ、ようやく来たか。少しばかり人間に構いすぎではないか? フィリア」

 

「あら、さっきのお嬢ちゃんじゃない。この辺りの子だったの?」

 

 あたしはクリスの家に行く前に会ったとんがり帽子を被った幼い金髪の少女に声をかけられた。

 

「演技はもうよい。何年もの間の任務、大儀であった。さぁ、世界の破壊のために共に動こうぞ」

 

「へっ? 世界の破壊……? あなた、変な漫画か何かにハマってるの? 親もこんな小さな子に変なもの読ませない方が良いと思うんだけど……」

 

 あたしは金髪の少女の物騒なセリフに、彼女の親の教育を疑った。

 

「フィリア、あまりオレが気が長くないのを知っているだろう? さっさと、馬鹿な芝居を止めろ!」

 

 金髪の少女は機嫌の悪そうな声を出す。どうやらあたしの発言が気に食わなかったらしい。

 本当にこの子とあたしってどういう関係だったのかしら? 響の友人の妹とか思ってたけど違うの? 昔からの知り合いなんてことあり得ないし……。

 

「あら、ごめんなさい。実はあなたのこと忘れちゃってて、誰とも分からずに適当に返事をしていたの?」

 

「はぁ? まっ、まさか、記憶喪失になったとでも言うんじゃないだろうな!?」

 

 少女はあたしの告白に明らかに動揺して、大声を上げた。記憶喪失って、確かに抜け落ちてるところはあるけど……。

 

「うーん、確かに記憶喪失っちゃ、記憶喪失ね。でも、それは関係ないわ。だって記憶がないのって5年以上前のことだから。あなたには――」

 

「5年以上前だとっ!? じゃあ、何か? 記憶喪失のフリをしてシンフォギアの情報を調べていたんじゃないというのか!?」

 

 何この子? あたしがシンフォギアの情報を調べていたって、何を言っているの?

 

“ちょっとぉ、この子、面白い子じゃない。ただならぬ気配を感じるわ。注意したほうが良いわよ、フィリアちゃん”

 

 フィーネが少女に興味を持った。

 

「あなた、何者? まさか、この騒動の原因は……」

 

「はぁ、どうやら本当に記憶を失っているようだな……、オレはキャロル=マールス=ディーンハイム……、お前のその身体のベースを創った者だ! ちっ、やはり最後まで実験に付き合ってやるべきだったか。しくじりやがって、あの大馬鹿者が」

 

 金髪の少女はキャロルと名乗り、あたしの身体のベースとなる部分の製作者を名乗った。

 まさか、こんな小さな子が……。

 

「フィリア、この計画はオレとお前の悲願だぞ。忘れたのか? 世界を分解し、そしてその後の展望もすべて……、オレと共に考えたではないか!」

 

 キャロルはどうも、あたしと何か計画していた様子なのだが、彼女には悪いが一切の記憶がない。

 

 この感じは前にマリアたちと会ったときのことを思い出す。

 あのときは、彼女らに酷いこと言ってしまったし、何よりこんな小さい子に辛辣な言葉さすがに言えないので、なるべく穏便に済ませようと思う。

 

 しかし、この子がこの騒動を起こしたのだとすると……。あたしの過去はあまり面白いことはなかったようね。

 

「ええと、あなたはキャロルっていうのね? それで、あたしとあなたは知り合いだった……。世界を分解っていうのは何かの比喩かしら? それとも……」

 

「くっ、本当に忘れてしまったようだな。錬金術の副作用か? 想い出の焼却では無さそうだが……。よかろう、オレがお前の記憶を戻してやる。付いて来るがよい!」

 

 キャロルはあたしの記憶を戻すと言う。しかし、流石にそれは……。

 

「ごめんなさいね。ちょっと立場的に、それは無理だわ。あたしは国連直轄のタスクフォース、《S.O.N.G.》に所属してるから……。で、もう一度、聞いておきたいんだけど、この騒動の原因はあなたなの?」

 

「そうだと答えたらどうするつもりだ? フィリア=ノーティス!」

 

 キャロルの目の前に《マナ》が収束する様子が見える。これは――錬金術!?

 それに、《ノーティス》はあたしがレセプターチルドレン時代にフィアナと共に与えられた、ファミリーネーム。

 やはり、この子があたしを知っているのは本当みたいね。

 

“フィリアちゃん、ファウストローブを身に着けなさい! やられちゃうわよ!”

 

 フィーネは彼女の力に警戒心を顕にする。

 

「それなら、力づくで連れて帰るのみ!」

 

「コード……、ファウスト――」

 

 あたしが言い終わる前に巨大な竜巻がキャロルの目の前から放出された。

 

「フィリアちゃんっ!」

 

 響があたしの身体を庇うように飛び出して、突き飛ばす。

 

「――っ! 痛ててぇ……」

 

「響っ! あなた何をっ……!」

 

 響は足にまともに竜巻を受けてしまって負傷してしまう。シンフォギアの防御も貫くなんて……。かなり強力な錬金術のようね……。

 

「コード……、ファウストローブ……」

 

 あたしはファウストローブを身に纏い、響を庇うように立って、キャロルを見据えた。

 

「ミラージュクイーンのファウストローブ………。間近で見るのは初めてだが、完全体自動人形(オートスコアラー)の機能は問題なさそうだな。出力と性能も少しばかり試しておくか――」

 

 キャロルは再びあたしと響に向かって竜巻を放つ――。

 

 ――真空掌底波――

 

 あたしは掌撃から放たれる拳圧にプラスして錬成した真空の波動を竜巻に向かって叩き込み、相殺する。

 

 かなりエネルギーを使ったはずなんだけど、威力は互角……。なかなか厄介ね……。

 

「なるほど、オレの錬金術を相殺するほどの出力は持ち合わせているみたいだな。この強さ、ミカでも破壊されかねん……。やはり、このまま放って置くわけにはいかんな――」

 

 キャロルはそういうと金色の竪琴のようなモノを何もない空間から出現させて、それを奏でた――。

 その後、あたしは初めて目の当たりにする。自分以外のファウストローブを……。




いきなりキャロルが本気でフィリアを潰しにきました。
次回もよろしくお願いします!


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フィリアVSキャロル

前半はフィリアVSキャロルです。
そして、後半からこの作品の核となる部分に突入します。
それでは、よろしくお願いします!


 キャロルが竪琴を奏でると、竪琴は紫色の鎧状に姿を変えて彼女の体に装着された。

 

「ふぅ、これがオレのダウルダブラのファウストローブだ。フィリア、何か感想はあるか?」

 

 キャロルはあたしと同じくファウストローブを纏ったようだ。

 感想って――何かそのう、大きくなってるわね……。色々と……。

 ファウストローブを纏ったキャロルは成人のような体つきになり、見た目からして変わっていた。

 

「何か、腹立つわ……」

 

「はぁ?」

 

 あたしの一言にキャロルは呆れたような表情を浮かべた。

 だって、理由はわからないけどイラッとしたんだもん。

 

「とりあえず、拘束して騒ぎについて聞かせてもらおうかしら」

 

「バカ言え、拘束されるのはお前だ!」

 

 ――氷狼ノ咆哮――

 

 あたしはすべてを凍らせる冷気を錬成してキャロルに向かって放った。

 

四大元素(アリストテレス)……」

 

 キャロルから強力な炎と大量の水が放出される。

 

 炎はあたしの冷気と相殺されたが、水の方は防げず、あたしに直撃した――。

 

「くっ、なんて出力、そして……、錬金スピード……」

 

「フン、お前の未熟な錬金術とは年季が違うわっ――!」

 

 そして、吹き飛ばされたあたしにキャロルは両手から糸を伸ばす。

 あの糸も普通じゃないっ! 恐ろしい硬度とエネルギーを感じる……。

 

 予想通り、糸は地面を裂き、周囲の建物を破壊しながらあたしに迫ってきた。

 

「フィリアちゃん! こんのぉぉぉぉっ!」

 

 響が足を庇いながら、キャロルに拳を繰り出す。

 

「立花響か……、貴様には今は用はないっ!」

 

 キャロルは目を見開くと、凄まじい風圧の竜巻が巻き起こり、響は遥か彼方まで吹き飛ばされてしまった。

 

 ――この子、とんでもなく強い……。いつかのフィーネ並かも。

 

“あら、見くびるわねぇ。私を……。でも、まぁまぁ、やるじゃない。あのお嬢ちゃん”

 

“つべこべ言ってないで助けなさいよっ!”

 

 あたしはフィーネにバリアを展開するように思念を送った。

 

“えーっ、何だか捕まった方が楽しそうじゃない。あなたの記憶も気になるし”

 

“はぁ?”

 

 フィーネのここに来てのまさかの裏切りによって、あたしの身体は凄まじい強度の糸によって拘束されてしまう。

 

「くっ……。なんて力……」

 

「無駄だ! 文字通り手も足も出まいっ! 観念しろっ!」

 

 キャロルの言うとおり、あたしは手も足も出なかった。

 しかし――。

 

「あなたも錬金術が使えるだったら、これは拘束したことにならないんじゃない?」

 

 ――不死鳥ノ皇帝(カイザーフェニックス)――

 

 あたしは巨大な炎の鳥を錬成して、キャロルに向かって放った。

 

 炎の鳥はキャロルを飲み込もうとする。

 

 あれ? 錬金術で防ぐと思ったんだけど……。一応、かなり力は抑えたけど……。

 

 そう思った刹那――。

 

 水の壁がキャロルの目の前に立ち上る。

 あたしが放った炎の鳥は水の壁によって相殺された。

 

「どうしてギリギリまで、アレを防がなかった? ガリィ……」

 

「あら、マスター。これには深ぁい理由があるんですぅ」

 

 上空からキャロルの元に降りて来たのは、あたしのような生きた人形だった。

 ガリィと呼ばれたその人形は茶髪で青いメイド服のようなものを着ていた。

 

「ほう、その理由とやらを言ってみろ」

 

「はーい☆ そのほうが、カッコイイからでーす」

 

「……その性根の腐った性格は何とかならんのか」

 

「イヤですねー、こういう風にしたのはマスターじゃないですかー」

 

 ヘラヘラとした口調でガリィはキャロルの質問に答える。

 まさか、あたしと同じ自動人形(オートスコアラー)

 

「で、こちらが、友達が少ないぼっちのマスターの貴重なご友人のフィリア=ノーティスちゃんですかー?」

 

「お前、いい加減にしないと……」

 

「それにしても、マスター。どうして、ご友人とガチバトルしていたのですかー? ファウストローブまで使われてるなんてー、驚きましたよー」

 

「うっ……」

 

 あたしと戦っていることが、キャロルは気まずいらしく目を逸らす。

 

「そっそれよりだ、想い出の採集はどうなっている?」

 

「順調ですよ。でも、ミカちゃん……。大食らいなので足りてませーん、ぐすんっ」

 

 キャロルはガリィに何やらを質問をして、ガリィは泣き真似をしながら答える。

 想い出の採集? この子たち、何をしてるの――?

 

「なら急げ。オレはこいつを連れて帰る」

 

 そうキャロルが言った途端に糸が強く身体を締め付け、身体にヒビが入る。

 自動修復にエネルギーがドンドン消費されて、あたしは身体中の力が抜けてしまった。

 

「あーあ、マスターってば容赦ありませんねー」

 

 キャロルはだらんと動けなくなったあたしを手元に引き寄せると、ガリィは興味深そうにあたしを見る。

 

「ガリィ、急げと言ったはずだ」

 

「りょうかいでーす。ガリィ頑張りまーす。そいっ――」

 

 ガリィが小瓶を足元に投げる。

 小瓶が割れると錬成陣が出現して、ガリィはその上に乗る。

 

「それでは、いってきまーす」

 

 ガリィはそう言い残して姿が消した。何あれ? テレポートしたとでも言うの?

 

「フィリアちゃんを返せぇぇぇっ!」

 

 吹き飛ばされていた響が猛スピードでキャロルに肉薄してきた。

 

「返せというのは、オレの台詞だ。次は戦ってやる。でないと、お前の何もかもをぶち砕けないからな」

 

 キャロルが小瓶を割ると錬成陣が生まれた。

 そして、響の拳が届く前に、あたしとキャロルはこの場から消えた。

 

 あーあ、まさか誘拐されるなんて……。フィーネのせいだ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「フィリア。記憶が戻るまでそこで拘束させてもらう」

 

 キャロルは玉座のような椅子に座り、その隣であたしは鎖で両手と柱を繋がれて、拘束されていた。

 

「さっきの茶髪の人形……、あたしと同じ自動人形(オートスコアラー)なの?」

 

 黙ってるのもつまらないのであたしはキャロルに質問した。

 

「そうだ。ヤツも含めて自動人形(オートスコアラー)はオレの忠実な下僕……。お前には、あいつらの計画遂行の手助けをしてもらう予定だった」

 

 キャロルとしては、あたしを仲間として数に入れていたみたいだ。

 あー、これは過去に何かやってるパターンなんだろうけど、一切思い出せない。

 マリアたちの時もそうだったけど、初対面ですって顔をすると決まって寂しそうな表情をするのよね。

 

 しかも、この子はさっきは大人の見た目になってたけど、今は小さな子供だから罪悪感がさらに大きい。

 

「ふむ、2つのシンフォギアの破壊に成功したか。お前のおかげで、立花響のシンフォギアの破壊は後回しになったが、概ね計画どおりだ……」

 

「はぁ? シンフォギアを破壊って? あなたたち一体何を?」

 

 あたしはキャロルの言葉に驚き目を見開いた。

 

「記憶が戻ればそれも思い出す。しかし、それは奴らが帰ってきてからだ」

 

 キャロルはあくまでも記憶が戻ったらの一点張りだ。

 

「あなたはあたしの記憶が戻ったらホントにあたしがあなたに協力すると思ってるの?」

 

「無論だ……。そもそも、お前がその身体になったのは、計画の実行の為なのだから……。非力なお前が力を得るためとはいえ、無茶を言うとオレですら思ったものだ」

 

 キャロルはあたしがこの身になった理由まで知ってるらしい。

 

「そう、まぁ確かに記憶を本当に戻してくれるなら悪い話じゃないわ。あなたにお願いしようじゃない。あたしの記憶を戻してくれって」

 

「ああ、待っていろ。――追跡はもうよい。帰投を命ずる。ファラも十分だ」

 

 キャロルがそう言った瞬間に2つの錬成陣が出現して、ニ体の人形が現れた。

 

「レイア、ただいま地味に戻りました」

 

「ファラも戻りましたわ。マスター」

 

 緑の服にベストを着用したウェーブがかった茶髪の人形と、ロングヘアーに緑のリボンを付けた人形がそれぞれキャロルに頭を下げる。

 

「あとは――」

 

 キャロルがそう呟くと、もう一つの錬成陣が出現して、先程のガリィが現れる。

 

「マスター、ガリィも戻りましたー」

 

 ガリィはわざとらしく、両手でほっぺを触るようなポーズでキャロルに帰還を報告した。

 

「よし、みんな揃ったな。さっそくで悪いが、フィリアが記憶喪失らしくてな。こいつの想い出の抽出をしてもらいたいのだが……」

 

 キャロルは部下であるオートスコアラーに、あたしの記憶を呼び覚まさせる作業をさせるらしい。

 

「畏まりましたわ。では、わたくしが……」

 

 ファラと名乗っていた人形があたしに近付こうとする。

 

「ちょっと待ってくださーい。マスター、フィリアちゃんが記憶喪失なんてあり得ないって仰ってませんでしたっけ?」

 

 ファラがあたしの目の前に来たとき、ガリィが唐突に口を開いた。

 

「うっ……」

 

「私もファラも覚えていたが、マスターを気遣ってあえて口に出さなかったのものを……。性根が腐ったガリィらしい……」

 

 レイアと名乗った人形はやれやれというポーズをとる。なんだろう……、オートスコアラーって、いちいち大袈裟なポーズを取るものなのかしら?

 

「だってぇ、フィリアちゃんがホントに記憶喪失ならー、マスターが滑稽だってファラちゃんが……」

 

「なぜ、わたくしに飛び火が? そのことに今触れないで下さいます?」

 

 ファラはビクッとしてガリィの顔を見る。

 

「もうその事は、いいだろっ! ファラっ、早くしろっ!」

 

「はっはい。マスター……」

 

「もう、マスターったら、逆ギレだなんてひどいですー」

 

 ファラはキャロルに頭を下げて、あたしの顔に触れて、顔を近づけてきた。

 

「ちょっと待ちなさい。かっ顔が近いんだけど……」

 

「そりゃあ、口づけをしますから」

 

 あたしが目の前に迫るファラを制止すると、彼女は当然のような口調でそんなことを言う。

 

「くっ、口づけ? どっどうしてそんなことしなきゃならないのよ?」

 

「想い出のエネルギーのやり取りは、わたくしたちオートスコアラーはお互いの口を通してさせてもらってますので……」

 

 ファラは淡々とあたしに説明をする。はぁ? なに、この人形たちは日常茶飯事のように口づけし合ってるの……。

 

 あたしはキャロルの方を見た。

 

「なっ、なんだ? 何が言いたい?」

 

 キャロルは少しだけ赤面して、あたしを睨みつける。

 

「フィリアちゃんはー、初心なんですよー、マスター。マスターのように衆人環視の只中でこれでもかと言わんばかりに睦み合いたい性癖があるわけじゃないので、キッスに抵抗があるんですって」

 

「あっあなたの趣味にあたしは付き合わされてるってこと?」

 

 ガリィの言葉にあたしはキャロルに抗議の視線を送る。

 

「んなわけあるかーっ! ファラっ! とっとと、済ませろ! どうせ記憶が蘇れば、すべて理解するんだ!」

 

 キャロルが大声でファラに指示を出すと、彼女は問答無用であたしの唇を奪った。

 

「んっ……」

 

 ファラに口づけをされると、あたしの胸は燃えるに熱くなり、身体中がバラバラになりそうなくらいの大きな衝撃が走った。

 

 ――そして、あたしの意識はどこか遠いところに吹き飛ばされるような感覚に陥った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 こっここは……。覚えている……。確かF.I.S.の研究施設……。

 

 あたしの目の前にはセレナとマリア、そしてフィアナが居た……。

 

 そして、暴走するネフィリムも……。

 

「わたしの絶唱でネフィリムを起動する前の状態にリセットできるかもしれないの」

 

「そんな賭けみたいな! もしそれでもネフィリムを抑えられなかったら!」

 

 セレナの提案に、マリアが首を横に振る。

 

「その時はマリア姉さんがなんとかしてくれる。それに、リア姉さんやアナ姉さんもF.I.S.の人達もいる。わたしだけじゃない。だから何とかなる」

 

「セレナ……」

 

「ギアを纏う力はわたしが望んだモノじゃないけど、この力でみんなを守りたいと望んだのはわたしなんだから……」

 

「セレナ! ダメよ、絶唱なんて使ったらあなたは……」

 

「リア姉さん、マリア姉さんをお願いします……」

 

 セレナはそう言うと、ギアを纏ってネフィリムの前に立ちはだかる。

 

「Gatrandis babel ziggur――♪ Emustolonzen fine el bara――♪」

 

 セレナは吐血して、体から光が放たれる――。

 

「セレナっ! もういいわっ! やめなさいっ!」

 

 あたしは居ても立ってもいられなくなり、セレナに近づく――。

 

「フィリアっ! 危険です!」

 

 ナスターシャの言葉が耳に届いたとき……。あたしは光に飲み込まれ――。意識を失った……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「お嬢さん、しっかりするんだ、お嬢さん!」

 

「んっ……、うーん、あれ? セレナ? セレナはっ……!」

 

 あたしの目の前で金髪でメガネをかけた長髪の男が腰をかがめて、心配そうな顔をしていた。

 

 こっここは? 森の中? あたしはF.I.S.の施設の中に居たはずじゃ……。

 

「セレナっ! マリアっ! フィアナっ! マムも……! みんなどこに……」

 

「大丈夫かい? お嬢さん。驚いたよ、何もないところから光と共に急に君が飛び出して来たんだ……」

 

 金髪のメガネはあたしが急に光の中から現れたというようなことを言ってきた。

 まさか……。セレナの絶唱に飲み込まれた影響? 

 

 あたしは自分の身に起きたことを想像出来ずにいた。

 

「あっ、あなたは――?」

 

 あたしは、とりあえず状況を把握しようと、あたしを介抱してくれた金髪の男の名前を尋ねた。

 

「僕かい? 僕はイザーク。イザーク=マールス=ディーンハイム。錬金術師さ……」

 

 これがあたしとイザークの最初の出会いだった――。




いきなりの超展開ですみません!
ここからは、しばらくフィリアの過去編に突入します。
次回もよろしくお願いします!


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フィリアの過去 その1

フィリアが出会ったのはキャロルの父イザークです。
ここから、彼女の過去編が始まります!


 イザークに介抱されたあたしは、彼にこの場所のことを聞いたが、まったく聞いたこともない山の名前を言われて困惑してしまっていた。

 彼は錬金術とやらに必要な薬草を取りに行くために偶然ここに来たらしい。

 

「女の子がこんな山奥に一人で居ては危険だ。とりあえず、僕の家に来なさい。明日にでも人里に案内してあげるから」

 

 イザークは優しく微笑み、あたしを起こすのを手伝ってくれた。

 

「あっあの……、あたし……」

 

 外の人間の家に泊まるなんて施設の人に知れたら、この人にも迷惑がかかってしまう。

 あたしはそれをイザークに伝えようとした。

 

「あっああ、そうだよね。男の人の家に年頃の娘さんが行くなんて抵抗があるよね……? だけど、僕の家には小さな娘が居てさ、いや、関係ないかな? そんなこと……」

 

 イザークは頭を掻きながら言葉を探しているようだった。

 

「いや、そうじゃないわ。あたしが行くとイザークに迷惑が……」

 

 彼の優しさを感じながらも、あたしは遠慮がちに声を出す。

 

「あはは、なんだそんなことか。僕は人を助けたいんだ。こちらからお願いするよ。君を助けさせてくれって」

 

 朗らかに彼は笑い、あたしの心配事を吹き飛ばした。

 あたしは、イザークのその顔を見て顔が熱くなるのを感じていた。

 

「この小屋が僕の家だよ。ごめんねぇ、あまりカッコイイ家じゃなくて」

 

 イザークはそう言って小屋のドアを開く。

 

「パパ! もう、遅かったじゃない。あら、そちらのお姉さんはお客様?」

 

 金髪の女の子がイザークに駆け寄って、あたしに気付く。元気そうな子ね……。

 

「キャロル、遅くなって済まない。こちらはフィリア。森で出会ったんだ。今日はここに泊まってもらうから。フィリア、紹介するよ、娘のキャロルだ。ほら、キャロル、お客様にご挨拶なさい」

 

 イザークはあたしとキャロルを互いに紹介する。

 

「こんにちは、フィリア。私はキャロル=マールス=ディーンハイムよ」

 

「フィリア=ノーティスよ、キャロル。きちんと挨拶出来てエライわね」

 

 あたしは腰をかがめて、キャロルの顔を見つめた。

 

「えへへ、パパ! 褒められちゃった!」

 

「あはは、良かったな、キャロル」

 

 キャロルが笑顔をイザークに向けると、彼も彼女を見て微笑んだ。

 親子ってこんな感じなのね。初めて見たわ……。

 

「じゃあ、今日はフィリアの分も料理を作るからちょっと待ってて」

 

 キャロルはそう言って、炊事場の方に歩いていった。

 

「いやぁ、お恥ずかしい。妻に先立たれてね、料理だけはどうしても僕はダメでキャロルに任せっぱなしなんだ」

 

 苦笑いしながら、イザークはあたしに説明をした。

 

「素敵な娘さんね。ホントは自慢なんでしょう?」

 

「えっ? あははっ、参ったなぁ! そのとおりだよ。キャロルは世界一の娘だと思ってる!」

 

「ちょ、ちょっと、パパー! 恥ずかしいことを大声で言わないでよ!」

 

 あたしの言葉に頷きながら肯定するイザークに対して、キャロルは恥ずかしそうな声でツッコミを入れた。

 

「ところで、イザーク。気になっていることがあるんだけど……。この家には電気が通っていないの? 見たところ照明もランプだし、パソコンやテレビとかもないし……。エアコンも……」

 

 あたしはこの家に電化製品が一つもないことに疑問を持った。確かに山小屋だから、電気が通ってないのも頷ける。

 

 しかし、F.I.S.の施設からほとんど出たことはないから、こういう空間は新鮮だった。

 

「電気? 雷のエネルギーってことかい? うーん、君が言ってるようなモノはひとつも聞いたこともないよ」

 

「えっ? 町にはあるはずでしょ? 普通に……」

 

「ふむ、君の服装を見たときから妙だと思っていたんだ。見たこともない材質だと思ったからね。錬金術師の私はあらゆる物質を見ているけど――」

 

 イザークはあごを触りながら、あたしに色々と話をした。

 

 そして、とりあえず分かったことは、この時代はあたしが居た時代じゃない。大体400年くらい前の時代だということがわかった。

 

「――まさか、こんなことが……。これじゃ、もう一生マリアたちと会えないじゃない……」

 

 あたしは愕然としていた。絶唱によって時空間の歪みでも出来たということなの?

 

「君の話から推測すると、未来と過去を繋ぐ切っ掛けがその絶唱とやらのエネルギーみたいだね。確かに簡単ではないと思う。しかし、今研究している錬金術には、あらゆる可能性が秘められてると思うから……、君を元の時代に帰す方法もそこから模索してみるよ」

 

 イザークはニコリと笑って、あたしをまっすぐに見つめた。

 

「あっ、ありがと……。で、でも、あたしは行くところが無いから……」

 

 あたしはなぜかドキドキしてしまって彼と目を合わせることが出来なかった。

 人と話してこんな風になるなんて今までなかったのに……。

 

「だったら、ここに居るといい。キャロルも母親を亡くして、寂しい思いをさせているんだ……」

 

「そっそんな……。悪いわ……」

 

 そうは言ってみたものの、本当に行くところがない。

 あたしは正直言ってかなり参っていた。

 

「キャロルー、しばらくフィリアがこの家に居ても構わないかい?」

 

「うん。いいわよ! フィリア、ほら、私が作ったごはんよ。一緒に食べましょう!」

 

 キャロルはニコッと笑ってあたしを受け入れてくれた。

 

 こうして、あたしはキャロルとイザークと共に生活することになったのだ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「キャロルって、小さいのに難しい本が読めるのね」

 

「ふふっ、だって私もパパみたいなカッコイイ錬金術師になるのが夢なんだもん。だから色んなことを知りたいんだー」

 

 キャロルは、幼くともありとあらゆる知識を吸収するだけの頭脳を持っていた。

 そして、よく笑う天真爛漫を絵に描いたような少女だった。

 

「フィリアだって、料理が上手でびっくりしちゃったわ。毎日パパに料理を作るって言っちゃったけど、私、フィリアに料理を教えてもらいたい」

 

「あたしの得意なことってこれくらいしかないから……。本当にいつも何にも出来なくて……、悲しかった。誰も助けられなかったし……」

 

 あたしはシンフォギアも纏えなかったし、セレナを守ることも出来なかった。

 フィーネという規格外の存在の遺伝子を持ち合わせているのに、同じ存在のフィアナにも数段劣る適合係数に身体能力。

 人と違うのは体に埋め込まれた聖遺物の欠片くらい。

 

 あたしは自分の力の無さが歯痒かった……。

 

「だったら、私がお返しにフィリアに錬金術を教えてあげるわ。パパから習ったことだけだけど……。あのね、錬金術は人を助けることが出来る凄い力なんだよ。だから、フィリアもきっと人を助けることが出来るようになるわー」

 

 キャロルはあたしの悩みを晴らすために、あたしに錬金術を教えると言ってくれた。

 あたしにはこの少女の優しさが嬉しかった。

 

 その日からあたしはキャロルに料理を、キャロルはあたしに錬金術の基礎知識を教えてくれるようになった。

 

 

 

 

「フィリアが来てから、キャロルが前以上に元気になった。君にも懐いてくれているし、感謝してるよ」

 

 イザークは難しい数式とにらめっこしながら、あたしにそんなことを言ってくれた。

 

「べっ、別にイザークが感謝する必要はないわよ。それに、あなたもキャロルも見ず知らずの他人のあたしにこんなに親切にしてくれてるわ。あたしの方こそ感謝しなきゃいけないのよ」

 

 あたしは彼の言葉にそう返した。

 もちろん、元の時代のマリアたちのことも気になっているが、彼らと接してあたしは彼らといる時間が好きになってしまって戸惑っていた。

 

「フィリアー、これ作ってみたのー。味見してみてー」

 

 キャロルはあたしが前に教えたりんごのケーキを作って持ってくる。

 

「あら、上手じゃない。さすがキャロルね。あたしと違って物覚えがいいわ」

 

 あたしはキャロルの頭を撫でた。彼女は少しだけ顔を赤らめてニコッと笑う。

 

「フィリアったら、レシピもないのにこのケーキを作るんだから、再現するのが大変だったわー」

 

「はははっ、そりゃあ、錬金術のどんな命題よりも難問だな。うん、美味しいよ、キャロル」

 

 イザークもキャロルの頭を撫でて、ニコリと笑う。キャロルは照れていたが、嬉しそうだった。

 

 

 施設に居たときでは考えられないくらい、ゆったりとした時間が過ぎる。

 

 いつしかあたしにとってイザークとキャロルはかけがえのない存在になっていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ある日、イザークは話があると言ってあたしを景色の良い場所に呼び出した。

 

「君が来てからもう一年が過ぎた……。今でも、もちろん君を元の時代に戻したいとは考えてる。でも……」

 

 イザークは少しだけ困った顔をして頭を掻きながら言葉を続けた。

 

「見てのとおり、僕は君よりも随分と年上だし、それにキャロルという娘もいる。その上、甲斐性だってそんなにない……。いや、違うな、うーん、一回目のときはもっとスマートだったんだが……」

 

 彼はそこでまたもや言葉を詰まらせた。あたしは黙ってまっすぐに彼を見ていた。

 

「――ええい、言うぞ! きっ君を好きになってしまったんだ。優しくて、キャロルにも好かれている、君のことを……。だから、その、僕と一緒になってほしい。もっもちろん、直ぐに返事をくれとか、そんなことは言わない……」

 

 いつも冷静な彼はこれでもかというくらい顔を真っ赤にしていた。

 でも、あたしの方が赤くなっていたと思う。

 こうやってストレートに好意を伝えられたことが無かったから。

 

 ――それも自分が好意を寄せている男性に……。

 

「別にあたしは優しくなんてないわよ……。でも、嬉しい……。あたしもあなたが好きよ……、イザーク……」

 

 あたしは驚くくらい素直に言葉が出た。そして、その瞬間、マリアたちの顔が浮かんで罪悪感で心が締め付けられそうになる。

 

「大丈夫、君を元の世界に戻す。そして、僕たちも君に付いていこうじゃないか。本気だよ、僕は……」

 

「あなたこそ、底抜けのお人好しじゃない。バカなんだから……」

 

 あたしは彼の優しさに耐えきれずに涙を流していた。

 

 そして、あたしは彼と初めての口づけをした――。

 

 あたしの人生でこの瞬間は一番幸せだったかもしれない……。

 しかし、このあと訪れる悲劇をあたしは全く予想していなかった……。

 




400年前の世界でフィリアはキャロルの父イザークと結ばれました。
次回もよろしくお願いします!


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フィリアの過去 その2

イザークと婚約をしたフィリアですが、彼女に悲劇が襲いかかります。
それではよろしくお願いします!


「よしっ、これでみんなが救われる」

 

 イザークはアルニムと呼ばれる仙草を使って蔓延する疫病の治療法を確立して、病気に苦しむ人たちを数多く救っていた。

 あたしは自分の力で道を切り開く彼のことを尊敬して、そんな彼に愛してもらっていることが堪らなく幸せだった。

 

 しかし、キャロルもまだ幼かったので、彼女にあたしたちの関係を伝えるのはもう少し経ってからということにした。

 

 あたしとキャロルは歳の離れた姉妹のような友人のような関係で共に時を過ごしていた。

 

 

 

 

 ある日、疫病に苦しむ村を救いに行った彼が帰って来なかった。

 あたしとキャロルは心配になって、彼が向かった村に向かった。

 

 

「ちょっと、あの集団は何? って、イザークがあんなところに!」

 

 あたしはフードをかぶった集団と彼らに囲まれて磔にされているイザークを見つけた。

 

「フィリア! パパは、パパはどこに居るの?」

 

 背の低いキャロルはイザークの居る場所が見えないみたいだ。

 

「こっちよ、キャロル!」

 

 あたしはキャロルの手を引いて彼に近付こうとした。

 

「「異端者に裁きを!」」

 

「「資格なき奇跡の代行者に裁きを!」」

 

 フードの集団は磔にされたイザークに火を付ける。

 

「いやぁぁぁぁっ! イザークっ! ちょっと、あなたたち、退きなさいっ!」

 

 あたしはフードの集団を殴り蹴り飛ばし、イザークの元へと走る。キャロルも涙を流しながら彼に近付こうとしたがフードの連中に取り押さえられてしまう。

 

「今、助けるわ! ぐっ、何するのっ! 止めなさい」

 

 しかし、イザークの目前まで来たあたしはフードの連中に捕まり、羽交い締めにされて身動きが取れなくなってしまった。

 

「フィリア! 君は必ず元の世界に戻るんだ! 諦めるな!」

 

「嫌よっ! あなたが居ない世界なんて! 必要ない!」

 

「キャロル! 生きて、もっと世界を知るんだ! それがキャロルの……」

 

 そこで、イザークは炎に飲み込まれてしまい声が途切れてしまった――。

 

 そんな――愛していたのに……。誰よりも大切な人だったのに……。

 

 なんで? なんで、人々を助けて救ったイザークが殺されなきゃいけないの?

 彼が何をしたっていうのよ……。

 

 

 

 イザークは村人たちの疫病を彼の研究の研磨によって治してきた。

 しかし、彼らはそれを奇跡の一言で済ませるばかりか、イザークを資格なき奇跡の代行者として糾弾し、異端者として焚刑に処したのだ。

 

 

 

「奇跡……、パパは奇跡なんかに殺されたんだ……」

 

「イザーク……、あたしは……、あなたが居ない世界でこれからどう生きたら……」

 

 キャロルとあたしは最愛の人を理不尽に奪われて途方に暮れていた……。

 

 

「もう生きていても仕方がない……、キャロル……、あたしは……」

 

 あたしは生きる意思すら失い、死ぬことを考えるようになっていた。喪失感で心が埋め尽くされて、押し潰されそうになる。

 

「フィリア……、私はパパの言ったこと実践するわ。生きて世界の全てを知るの……。そして、もう一つ……、フィリアを元の時代に戻す。これはパパがあなたの為にやり残した命題だから……」

 

 

 そこからのキャロルは人が変わったかのように錬金術の研究に没頭した。

 そして、彼女はたったの一年でイザークがやり残したあたしを元の時代に戻す理論を完成させたのだ。

 

 

「ねぇ? キャロル……、本当にあたしを元の時代に戻すの?」

 

「無論よ。パパの考えた理論を私は実現可能にした。フィリア、私からも頼む。パパのやり残したことを、私にやらせてくれないか?」

 

 キャロルはイザークの意志を継いで、あたしを元の時代に戻したいと懇願した。

 

 あたしはキャロルのただならぬ意志を感じて、その申し出を受けることにした。

 彼女を残すことが心残りだったが、キャロルはあたしに会いに来ると約束してくれたので、それを信じた。

 

「それでは、フィリア。400年後にまた会おう」

 

 ある、洞窟の奥に連れて行かれたあたしは、キャロルのその言葉を聞いたあと、全身が凍えそうなほどの寒さを感じた――。さらにその後、急激な眠気に襲われて、あたしは眠ってしまった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「久しいな、フィリア。父とお前との約束は確かに果たしたぞ」

 

 あたしが目を覚ますと、目の前にキャロルが居た。格好も雰囲気も全然違うけど……。

 

「あっ、あなたキャロルなの? なんか、感じが違うけど……」

 

 あたしはキャロルの一瞬の変貌にびっくりした。今の彼女からは、シンフォギア装者やネフィリム以上の凄みを感じる。

 

「当たり前だ。あれから400年も経ったんだ。変わらないほうがおかしい」

 

「ちょっと待って、その言い方だとキャロルはあたしと一緒に400年後の世界に行ったわけじゃないの?」

 

 あたしはキャロルが400年生きてきたような口ぶりだったのでその点を質問する。

 

「そのとおりだ。もっとも、お前も400年間、錬金術によって出来た特殊な氷の中で自らの時を止めていたに過ぎんから、移動したわけではない。オレには父が遺した命題を解き明かすという使命があったのでな、時を止めるわけにはいかなかったのだ。とりあえず、付いてきてもらおう」

 

 キャロルは小瓶を地面に投げると、それが割れた。

 そして錬金術の書物で見た錬成陣が出来上がった。

 

 あたしとキャロルがその上に乗ると、目の前の風景が一瞬で変わった。

 

 

「ここは……」

 

「チフォージュ・シャトー……、世界を解剖する為の装置だ。もっともまだまだ不完全だ。こいつを起動させる為のプロセスというのが極めて面倒で、オレもそれなりに苦労している」

 

「ごめんなさい、キャロル。言ってること全然分からないわ」

 

「……そうだな。基本的なことから話そう。お前はそれを聞いて自分の道を決めるが良い」

 

 キャロルはそこから、自分が極めた錬金術のことや、イザークの遺した言葉から世界を解剖して全てを知れば、彼からの命題が解き明かせるのではと考えて行動していることを話した。

 

「――とまぁ、こんなところだ。どうだ、何か質問はあるか?」

 

 キャロルが成そうとしていることは常人ではおおよそ理解出来ないことだ。しかし、分かるのはイザークへの想い。

 想い出の燃焼の力を操っていたけど、彼女はイザークやあたしのことは忘れていなかった。

 

 でも、それでも、あたしは――。

 

「それで、キャロルは満足なの? イザークの遺した命題が解けたらそれで……」

 

「なんだとっ――! お前は父の命題を愚弄するかっ!? ――うっ! なんだ、その眼は……」

 

 キャロルはあたしの目を見てたじろいだみたいだ。そんなに酷い顔をしていたのかしら……。

 

「あたしはイザークの居ない世界なんて、どうだっていいわ! 世界のすべてが分かるんでしょ? だったら、あたしが絶唱の力で過去に吹き飛ばされたメカニズムも分かるかもしれない! そうよ、それでイザークを助け出しましょう! きっと、あそこで助からないと思った彼はあたしたちに助けを求めたのよ!」

 

 あたしはキャロルの説明を聞いて、イザークを救うことこそ、彼の言いたいことだったと解釈した。

 

「過去に……、なるほど。それなら、父が最後にオレに命題を託した理由にもなるな。オレ一人ではその発想に至らなかった。お前をこの時代に送ったことにも意味があったということか」

 

 キャロルは口角を釣り上げて笑っていた。

 それにしても、あの可愛かったキャロルとは随分と違う。いや、400歳を超えているなら当たり前なんだけど……。

 

「では、お前にも紹介しておこう。シンフォギアの呪われた旋律を受ける、四体の自動人形(オートスコアラー)を!」

 

 キャロルがそう言い放つと、趣味の悪いオブジェだと思っていた4体の人形がこちらに動き出す。

 

「えっ、えっと、キャロル? 呪われた旋律を受ける人形って動くの?」

 

「あら、お客様。マスターの作ったこの身体は動くだけじゃなくってぇ、こぉんな感じでが可愛くお喋りもしちゃいまーす」

 

 青いメイド服のような人形はあたしの顔を下から覗き込むようにして反応を伺ってきた。

 

「…………」

 

「ガリィ、フィリアが驚いている。自重しろ」

 

 あたしが固まっていると、キャロルはメイド服の人形をガリィと呼んで注意する。

 

「はーい! ごめんなさーい!」

 

 ヘラヘラとした態度で言葉だけの謝罪を述べたガリィはあたしから離れた。

 

「ガリィが失礼を……、わたくしはファラ。以後お見知りおきを」

 

 ロングヘアーの人形はファラと名乗り、優雅なポーズで頭を下げる。

 

「400年の眠りから覚めた姫君とは、なんとも派手なストーリーで羨ましい! 私はレイア、よろしく頼む」

 

 ウェーブがかった髪をした人形はレイアと名乗り、こちらも何やら格好をつけて挨拶をする。

 

「ミカだゾ! マスターの友達なんて初めて見たゾ!」

 

 ツインテールの赤髪の人形はなんだろう……、ユニークな立ち振る舞いだったが、可愛らしかった。

 

「いろいろと凄いのね、キャロルは……。あたしなんて、イザークが亡くなって泣くことしか出来なかったのに……。今のあなたなら出来るわ、何だって。ごめんなさい。それなのにあたしは無力だから……」

 

 あたしはキャロルの400年に渡る錬金術の研磨に感嘆した。

 

「フィリア、これからオレはお前に錬金術を再び教えよう。計画を実行するときはオレはフィリアに側にいてほしいと思っている。お前はオレに残された最後の家族なのだから……」

 

「ええ、あたしもキャロルのことを家族だと思ってるわ。イザークとは結婚の約束までしか出来なかったけど……」

 

 あたしにとって二人は大切な家族だと思っている。

 フィアナという妹は居るが、血の繋がりが無くても深く情愛で繋がることが理解できた。

 

「けっ結婚の約束だと……? おっオレは聞いてないが……」

 

「あっ……、イザークったら、まだ言ってなかったのね。キャロルが家族って言ったから、こっそり伝えてたものだと……」

 

 この時代に戻ってからキャロルが初めて動揺を見せた。

 やっぱり、父親が再婚を考えてたって400年以上生きていてもショックなのね……。

 

「今思えば、オレが眠るのを不自然に待っていたり、時々ふたりで居なくなったりということがあった気がする……」

 

「………」

 

「どうして、無言で顔を赤くするっ!? いや、理由は言わんでいい! 聞きたくないっ!」

 

「あたしのこと、お母さんって呼んでいいわ……、キャロル。責任は取るから」

 

「絶対にお断りだ! 400年越しの秘密を知ってそんなにあっさり受け入れられるか!」

 

 結局、キャロルは気持ちが落ち着くまで友人として接してくれと頼まれた。

 こればかりは秘密にしていた、あたしたちが悪いから仕方がない。

 

 

 こうしてしばらくの間、キャロルから錬金術を指南してもらうこととなる。

 

 

 そして、半年ほど過ぎたとき、あたしはキャロルから仕事を頼まれることになったのだ。

 

「パヴァリア光明結社? なによそれ?」

 

 あたしはキャロルから聞いた言葉を復唱した。

 

「古代より歴史の裏で暗躍している、錬金術師たちの組織だ。オレもいろいろと援助してもらってな、このチフォージュ=シャトーも連中の援助があって建設ができた」

 

 キャロルは簡単にパヴァリア光明結社について説明した。

 

「そのパヴァリア光明結社とやらがどうかしたの?」

 

「連中は神の力とやらを手に入れようと躍起になっているらしくてな。そんなモノには興味はないが、その膨大なパワーの受け皿には興味はある。時空間を自由に跳躍させるためには大きなエネルギーを受ける為の器が必要なはずだからだ」

 

 キャロルは神の力とかいう大仰なものについて語り出した。

 

「いや、それだけじゃない。もしかしたら、擬似的にその神とやらをも創り出す必要すらある。連中がどのようにして神の力を手に入れようとしているのか、お前にパヴァリア光明結社に潜入して探ってきてもらいたいのだ」

 

 キャロルはあたしにパヴァリア光明結社に探りを入れて来るように頼んできた。

 彼女があたしに頼み事をするなんて初めてね……。それでこの子の役に立てるなら――。

 

「安いものね……」

 

「はぁ?」

 

「やるわよ。どこにだって潜入してみせるわ。幹部に取り入って連中の計画のすべてを手に入れる」

 

 あたしはパヴァリア光明結社に潜入することになった。

 すべてはイザークと再会するために……。

 




イザークの死を受けてフィリアは彼を救うためにキャロルと動き出しました。
次回、フィリアはパヴァリア光明結社に潜入します。


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フィリアの過去 その3

フィリアの過去、パヴァリア光明結社でのお話です。
4期、5期を含めて、この先の展開においてかなり重要な回になります。
それでは、よろしくお願いします!


「うーん、いつも魅了されてしまうねぇ、フィリアの淹れた朝のコーヒーに」

 

 白いハットを被り、白い服を着た青髪の長髪の男はコーヒーに口をつけながら、あたしにコーヒーの感想を伝える。

 

「もう、思いっきり昼間よ……、局長……」

 

 パヴァリア光明結社に所属して一年が過ぎた。チフォージュ=シャトーには定期的にテレポートで顔を出してキャロルには逐一こちらで掴んだ情報を報告している。

 

 立場は下っ端のあたしだったが、パヴァリアの局長であるアダム=ヴァイスハウプトはあたしの淹れたコーヒーが気に入ったとかで彼はあたしを自らの秘書にした。

 人生、どこで何が役に立つかわからないものである。

 

「おやおや、これじゃ酷く怒られるじゃないか、まだ何一つ仕事を片付けてないことを、サンジェルマンに」

 

 独特の口調のこの男、びっくりするくらい仕事が出来ない。

 それでも、彼が局長の立場にあるのは、彼が強いからだ。

 規格外の錬金術の使い手。何一つ自分では編み出さないが、覚えれば何でも出来てしまう、この男は人間離れした完璧さを持っていた。

 

「とっくにあなたの仕事は片付けたわよ。あなたに任せると日が暮れるどころか、日をまたいでしまうもの」

 

「辛辣だねぇ、フィリアの言いようはいつも。しかし、いいことだ、仕事が早いっていうのは」

 

 アダムは楽が出来ることを喜び上機嫌そうにコーヒーをすすっていた。

 

「神の力を一刻も早く手に入れるためよ。トップが仕事が出来ない無能だって言われてたら士気に関わるじゃない」

 

 半年も居ればこの組織が異常だということはわかった。

 人の生命を何とも思っておらず、実験を繰り返す。

 エネルギーの為に人を分解する。救済のためならば多少の犠牲は致し方ないという考えは受け入れられるものではない。

 

 しかし、世界を解剖するという計画はそれどころではない犠牲を生む可能性をはらんでいた。

 

 ならばこの自分の感情は偽善でしかない。

 イザークに会いたいという独りよがりの欲望を満たすために動いている自分に彼らを非難する資格はなかった。

 

 このまま突き進むことを迷っている――あたしは弱い自分の心を嫌悪した。

 愛する人の為に動こうとすればするほど、人を助ける為に動いていたイザークの顔が思い浮かび、彼に対する罪悪感で胸が締め付けられるのだ。

 

「ふふっ。優しいんだね、誰よりも君は……」

 

「別に優しくなんてないわよ……」

 

「おかわりを貰おうか、美味いコーヒーの」

 

 アダムはあたしにコーヒーのおかわりを要求した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 連中の計画は大体わかってきた。神の力の器はオートスコアラー。

 しかし、その肝心のオートスコアラーは400年ほど前にパヴァリア光明結社とフィーネが対立したときに破壊されてしまったらしいのだ。

 

 その上、計画を実行したときに、神の門とやらの座標を見つける機能もこのオートスコアラーには搭載されているので、結社の幹部たちは血眼になって、世界中のどこかにあるという、そのオートスコアラー《ティキ》の部品を探している。

 

 そして、その裏でもう一つの計画が進められていた。

 《ティキ》に代わる、いや、それ以上のオートスコアラー――完全体自動人形(オートスコアラー)の作成である。

 

 生化学の分野に特化する新しい錬金術の使い手が入って来てから、こちらの研究も急ピッチに進んでいる。

 

 しかしながら、それにいい顔をしていないのが《ティキ》の捜索をしている幹部たちである。

 そもそも、得体のしれない要素を計画に組み込むことに、難色を示し、さらにはファウストローブの研究を最優先したい彼女らは、そちらの計画は破棄するように近々アダムに談判するのだそうだ。

 

 

「ここの頭の固い幹部たちは英雄が何たるものか理解出来ていない。そうは思いませんか? フィリア」

 

 白髪に眼鏡をかけた錬金術師であり、生化学者でもある、ゲイル博士は研究室で愚痴をこぼしていた。

 

「神というのは完全なものであり、あらゆるスペックが完成されています。人間ではなく、バラルの呪詛から解放されている自動人形(オートスコアラー)を依り代に使うことは良いとしましょう。しかし、タダの人形ではそこまでです」

 

 ゲイル博士はつまらなそうにパヴァリアの計画をそう評価した。

 

「完全であり、不完全でもある、真の完全なもの。つまり成長する完全体。タダの人形じゃあそうはいかない。人間と人形の中間の存在こそがオートスコアラーの完成形であり、神の依り代として、神をも超える可能性をもつ究極の存在になれるのです。なぜなら、人間というものは弱く不完全だからこそ成長するのですから! これぞ、英雄的発想!」

 

 自分に酔ったような発言ばかり繰り返す彼は影で大馬鹿者だと揶揄されている。

 

 しかし、彼のおかげでファウストローブの研究や組織の被験体にされた者たちへの延命措置の研究が一気に加速したので無碍に扱えない。

 

「組織の批判ともとれる危険な発言よ、ドクター。少しは慎んだほうがいいわ。あたしの立場も知ってるでしょ?」

 

「ええ、この発言はくれぐれも局長にはご内密に……」

  

 ゲイルは試験管に入った血液を眺めながらそういった。

 

 

「はっ、フィリアは媚の売り方が上手いぜ」

 

「ミラアルク……」

 

 パヴァリアの人体実験は神話の生物までも創り出そうというところまでエスカレートしていた。

 彼女はその被験体……、そして実験の失敗によりヴァンパイアになり損ねてしまった女性である。

 

 彼女のような被験体たちはこの組織でも特に扱いが悪い。

 そして、新参で下っ端のあたしが局長の秘書に抜擢されているのを知られてからというものよく絡まれるようになった。

 

「あら、ごめんなさいね。何か気に食わないことでもしちゃったかしら?」

 

 別にこの組織で事を荒立てるつもりはないのであたしは特に言い返すことはしない。

 

「わたくしめたちの為に尽力してくれているドクターを局長に売るつもりなのではと言っているのであります」

 

「エルザまで、居るということは……」

 

「私が居たらまずかったかしら? フィリア……」

 

「いいえ、会えて嬉しいわ。ヴァネッサ」

 

 あたしは声がする方向に顔を向けて返事をした。

 

 エルザとヴァネッサ、彼女らもパヴァリアの被験体である。

 

 エルザは常人を遥かに超えた速度やマニピュレーターデバイス『テール・アタッチメント』を使用するために複数の獣のDNA配列が後天的にインプラントされ、見た目は人間に獣の特徴が加えられたような感じになっている。

 

 そして、ヴァネッサはファウストローブの研究中の事故で身体のほとんどが欠損してしまい、全身を錬金術によりサイボーグ化して命を取り留めた。

 

 二人ともミラアルクと同じく、被験体で組織の中で冷遇されている。

 

「とにかく、ドクターは我々の命を取り留めるパナケイア流体の改良に成功し、他にも被験者たちの待遇改善のために動いてくれている私たちの英雄なのです。余計なことはしないでいただきたい」

 

 ヴァネッサはゲイル博士に寄り添うようにしてそう言った。

 

「あのね、ドクターは聞いてもないのにペラペラ勝手に話をしただけなの。別にあたしはなんにもするつもりはないわよ」

 

 まるであたしを、邪魔者扱いするような態度のヴァネッサに向かって一応反論はしておく。

 

「まぁまぁ、ヴァネッサもそんなに目くじらを立ててはいけません。フィリアは局長に何か言うはずがありませんよ。僕はそれを信じているからこそ君には本音が言えるのです。秘密があるのはお互い様ですからねぇ」

 

「ドクター……、あなた……!」

 

 ――どこまで知ってる?

 

 危うく、あたしは口を滑らせそうになった。

 

「僕は並行世界の住人でしたから、君のことも別の世界で知っているのですよ。たとえば、シンフォギアに君が憧れてることもね。レセプターチルドレンの君がこんな所に居るなんて思いませんでした」

 

 ゲイル博士はあたしのプライベートな情報も知っていた。もっとも、レセプターチルドレンだった過去は局長や幹部連中には知られているが……。

 以前に苦渋を舐めさせられたフィーネの魂の依り代になりうるあたしを手元において置きたいという考えも、もしかしたらアダムは持っているのかもしれない。

 

「なるほど、あの噂は本当だったのね。並行世界とこちらを繋ぐ実験が失敗したと思いきや、ひとりこちらの世界に迷い込んだ者が居るって……。F.I.S.であなたと随分と似た顔を見たことがあるわ。ジョン=ウェイン=ウェルキンゲトリクス……、これがあなたの本名ね」

 

 あたしはゲイル博士の正体を今、知った。

 

「んっんー、ご明察です。もっともこっちの僕は錬金術には手を出していないみたいでしたが……。ヴァネッサ、フィリアもまた実験の失敗例として不遇な扱いを受けてきた身です。そんなに敵意を剥き出しにしないであげてください」

 

 ゲイル博士はヴァネッサをなだめて、安価に大量生産を可能にした希少血液型の人工血液を彼女に渡した。

 彼はこれらの功績により、独自の研究が許され、その上でヴァネッサたちの地位の向上を唱えていたので、彼女らから慕われていたのだ。

 

 辺境に追いやられた彼女らが新型の人工血液の実験のためとはいえ、本部への出入りが許されたのもゲイル博士によるところが大きい。

 

 もっとも、ゲイル博士がヴァネッサたちに尽力するのは神話の生き物やサイボーグが英雄っぽいからとかいう安い理由なのだが……。

 

「フィリア、君の体内にある浄玻璃鏡だけど……、使い道がありますよ。力が欲しいなら、いつでもいらっしゃい。君がその気になれば神の力をも超えることが出来ますから」

 

 彼はヴァネッサたちが帰った後にあたしに満面の笑みでそう言った。

 

 力か……。それさえあれば、セレナも、イザークも……。

 

 あたしはその場では何も答えずに必要な書類を持って部屋を出た。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「邪魔するわよ……」

 

「いやーん、今着替え中ー! フィリアのエッチ、スケッチ、ワンタッチ」

 

 緑色の髪をした、スタイルの良いパヴァリアの幹部、カリオストロが着替え中だったらしく、非難めいた目であたしを見てきた。

 

「元男が何を黄色く張り上げてるワケダ? フィリアが困っているだろ。バカバカしい」

 

 黒髪と眼鏡が特徴的でカエルの人形を抱いているパヴァリアの幹部、プレラーティが入って来いと手招きした。

 

「フィリア、局長の尻叩きを感謝している。次の我々の渡航先だが――」

 

「サンジェルマン。シリアスに語ってる中、悪いけど、まずは服を着てくれないかしら? 目のやり場に困るわ。最近、局長にも同じ注意をしたけど……」

 

 あたしは下着姿で仁王立ちしている、薄い緑っぽい色の髪を青いリボンでまとめているパヴァリアの幹部、サンジェルマンにツッコミを入れた。

 

 ていうか、彼女だけは最初から女性のはずなんだけど……。

 

「すまない。君は女性だからあまり気を使わなかった。それより、局長に同じ注意をしたという話だが……」

 

「聞かなかったことにしてちょうだい」

 

「あーしも局長のは見たかないわぁ。ねぇ、大きかった?」

 

「だから、フィリアは聞いてくれるなといっているワケダ。ていうか、流石にモロ出しはないだろう」

 

 あたしが余計な一言を言ったばっかりにおかしな話になってしまった。

 

「一応、《ティキ》のパーツに関する情報をピックアップして、そこから考えられる移動先を256のカテゴリーに分けてみたの」

 

 サンジェルマンに頼まれた書類を作成して彼女たちに見せた。

 

「えーっ、こんなにあるのぉ」

 

「ふむ、私は昨日の晩に簡単にピックアップしてくれと頼んだだけなのだが……」

 

「どこぞの無能とは全然違うワケダ」

 

 一応、仕事はきちんとやってる。あたしは事務処理的なことがそれなりに得意みたいで、こういう点と、怠け者をそれなりに働かせている点は彼女らに好評だった。

 

 もっとも、それもミラアルクからすれば媚の売り方が上手いと言われるところなのかもしれないが……。

 

 

 サンジェルマンとは、真面目な性格というところがあたしと気が合ったのか、仕事の合間によく食事をしたりお茶を飲むようになった。

 

「この身を完全なものにするためにモノに変えて何百年も生きてきたが……、未だに完全には程遠い……」

 

「錬金術の到達点である、完成形というものがもしあるのだとして、神の力を得られればそこに至れるのかしら?」

 

 サンジェルマンは身体を完全なモノへと作り変え、永遠に近い生命力を持っている。

 そして、神の力を手に入れて、人類を神の支配から解放しようという理想を持って何百年も動いているのだ。

 まぁ、そのために何万人もの命を奪っているが……。この人はその人数も律儀に数えている。

 

 彼女のやってることは理解は出来ないが、人同士の付き合いをしてみると波長が合うのはあたしも独善的に生きているからだろうか?

 

「もちろんだ。そのために我々は長い年月を活動をしてきた。フィリアも、この調子で数年も頑張ってくれれば、私の方から幹部への昇進を推そう。局長も認めてくれるだろう」

 

 足がかりというか、スパイで入ったのに……、妙に待遇が良くなっていって逃げ出し辛くなったんだけど……。

 不真面目にはしておけば良かったってこと? いや、それじゃあ情報は手に入らなかっただろうし……。

 

 

「ところで、フィリア。ゲイル博士と最近親しくしているみたいだが……。あまり彼とは付き合わない方が身の為だぞ。彼はよからぬ野心を抱いている可能性があるからな。局長に頼んで何とか閑職に追いやることは出来たが……。一応忠告しておく……」

 

 サンジェルマンはそう言って、あたしの分の会計も済まして店を出ていった。

 

 ゲイル博士と付き合うな、ねぇ……。それは出来ない相談よ……。だって……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「ほう、これがチフォージュ=シャトーですか……。なるほど、僕の新しい居場所を提供してくれて感謝しますよ。フィリア、そして、キャロル」

 

「フィリアよ、お前、本気で言っているのか?」

 

「ええ、あたしは本気よ。あたしたちの悲願のためにあたしは力を手に入れるわ。ドクターの言う完全体自動人形(オートスコアラー)になって……」

 

 あたしは誰もこれ以上失わないために、そして、やりたい事を成し遂げるために、この身を人形に変える決意をした。

 




4期、5期の敵が前倒しで登場しました。
そして、新キャラのゲイル博士は本当に引っ張っておいて申し訳ないのですが、並行世界で錬金術を覚えていたウェル博士でした。
彼の活躍で5期のストーリーにもかなり影響が……。
次回、ついにフィリアがオートスコアラーに!?
次回もよろしくお願いします!





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フィリアの過去 その4

フィリアの過去編はこれで最後です。
それでは、よろしくお願いします!


 パヴァリア光明結社から計画の概要を手に入れたあたしはキャロルの元に戻り、自らが自動人形(オートスコアラー)になり、膨大なエネルギーの依り代になることを伝えた。

 

 そのためにゲイル博士の研究をチフォージュ=シャトーでさせることも……。

 

 キャロルは少しだけ渋い顔をしたが、あたしの決意を知って、ガリィたちの設計図を元に新しい自動人形(オートスコアラー)のベースを作った。

 

 そして、浄玻璃鏡の欠片を元にミラージュクイーンという錬金術を使うための媒体とファウストローブとしての性能を兼ね備えた新たな武器を作成した。

 

「ここまで完成すれば、後はエネルギー循環効率のアップと自動再生機能を重点的に仕上げましょう。なんせ身体は人間に近くさせなくては魂が馴染みませんから――」

 

「糖の分解のエネルギーで動くだと? 貴様の発想は訳がわからん」

 

 キャロルとゲイル博士はとんでもない速度で完全体自動人形(オートスコアラー)を完成に近づけていた。

 

 しかし――。

 

「パヴァリアの連中がお前らの居場所として、ここを嗅ぎつけそうだ。悪いが、日本にある聖遺物と錬金術の研究機関に身を隠してもらえないか? あそこはパヴァリアすら簡単に手出しが出来ぬ、日本の国防機関が裏で非合法の研究をしている場所だ。取引をして、実験が終わるまで、お前らを匿って貰えることになった」

 

 キャロルはあたしとゲイル博士に日本に飛ぶように伝えた。

 確かに、今、パヴァリアとゴタゴタするのは面倒だ。ここは身を隠すのが正解だろう。

 

「わかったわ。どうせ、最終的には日本に行く予定だったんだし……。ついでに日本のシンフォギアについても探ってくるわよ」

 

 日本は秘匿にしているが、《ノイズ》への対抗手段としてシンフォギアを用いていることは、私たちは既に知っている。

 呪われた旋律を刻むのにシンフォギアを用いるなら、日本の特異災害対策機動部の情報は必須だ。

 

「さすがは、フィリア。この状況をも利用するとは……。わかった、そちらはお前の判断に任せよう」

 

「ええ、計画を実行するときに日本で会いましょう」

 

 あたしとキャロルはそう誓って、別れた。

 

 あたしはゲイル博士と日本の国防機関が裏で研究しているとかいう怪しい研究施設に身を潜めながら、体を人形にする実験を行うことになった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「日本での《ノイズ》の出現回数って、こんなに増えてるのね……。一体、何人が犠牲に……」

 

 あたしは日本での新聞記事を読みながらそんなことを言っていた。

 

「フィリア、君は迷ってませんか? 僕は知ってますよ。君がキャロルの計画に手を染めることに迷っていることを……」

 

 ゲイル博士はコーヒーをすすりながら、そんなことを言う。これから、いよいよ実験だというのに……。

 

「迷ってる――のかしら? イザークに会いたいし、救いたいという気持ちは全然消えないのよ。ただ、人が犠牲になったり、親しかった人たちに何かあると考えたら……。イザークが死んだときは、もうどうでもいいと思ってたのに……」

 

 パヴァリアで、目的遂行のために犠牲を厭わないという姿を幾つも目の当たりにしたことが、あたしは今の自分に対する疑問を生んだ。

 

「君は無制限に優しく、そして甘いのです。その上、誰よりも弱い。まぁ、いいですよ。僕は君に力を与えるのが目的ですから。報酬は前に言ったとおり僕を英雄にすることです。さしあたっては、この国で《ノイズ》でも打ち倒しましょうか。そうしたら、愚民たちは我々を神の使いだと思うほど称賛しますし、あなたも目的のシンフォギアに近づける」

 

 ゲイル博士はあたしに対してそんな提案をした。はぁ、確かにこの男を引き込むのに英雄にするという約束はしたけど……。

 

「人からの称賛には興味がないけど、《ノイズ》を倒すのは悪くない提案ね」

 

 あたしはゲイルの提案を飲み込んだ。シンフォギア以外の《ノイズ》撃退方法が出てきたとなると、おそらく特異災害対策機動部はあたしたちを放っておかないでしょうから。

 

「ええ、楽しみにしておいてください。キチンと組み込みますから、人類の敵を抹殺する手段を――。そして、神をも超える力を手に入れる機能も……。しかし、僕はかなりの生命力を消費しますから、そのあとは少しだけ休みます」

 

 ゲイル博士の錬金術の基本は自らの生命力の燃焼である。

 彼いわく、人形に魂ごと意識を定着させるのはかなりのエネルギーを消費するらしい。

 要するに、彼にとっても今回の実験は命がけなのだ。

 

「大馬鹿者よね、あなたもあたしも……。こんなことに命を懸けるんだから……」

 

「ええ、馬鹿で良いじゃないですか。凡人には理解出来ない領域にあるのですから」

 

 彼はそう言って、あたしの頭を右手で触った。そして、材料の調達の関係でかなり小さくなってしまった、新しいあたしの身体の核の部分に彼は左手で触れる。

 

「さぁて、いきますよ。フィリア……」

 

 ゲイル博士がそう言うと目の前に錬成陣が浮かび上がる。

 

「ぐぬぅぅぅぅぅぅぅっ! はぁぁぁぁっ!」

 

「ちょっと、ゲイル! 変よ、あたしの頭の中から……」

 

 あたしは頭の中で何かが閉じ込められるような感覚に陥った。

 

「ふふっ、はははははっ! 君には余計なしがらみが多すぎる! それでは英雄にはなれません。余計な繋がりや、考えはすべてリセットして差し上げます! 僕が再教育して差し上げますよっ! 英雄に必要な気高い精神を!」

 

 ゲイル博士の顔が歪み、高笑いが聞こえる……。

 

 こっ、この男は最初から……。くっ、体が動かない……、このままだと――記憶が消えて――。

 

 あたしは彼の本性を知って愕然としたが、抵抗は出来なかった。

 安易に力を手に入れたいと願ったから……。自分の馬鹿さ加減を呪いながら、あたしの意識は人形へと引きずり込まれた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、随分と可愛らしい姿になってるじゃない。もしかして、あなたの趣味かしら?」

 

 そして、目を覚ましたとき、あたしはすべてを忘れて、この大馬鹿者に話しかけていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 まるで長い夢を見ていたようだった。目の前にはあたしに口づけをしたファラが……、そして、隣にはキャロルが立っていた。

 

“壮絶だったわね。フィリアちゃんの人生って……。まぁ、私の娘らしいっちゃ、らしいけど……”

 

“やっぱり、覗き見してたのね”

 

“あーあ、好きな人から愛されてて、羨ましかったわぁ、娘に先越された気持ちって、わかる?”

 

“あたしの人生を見た感想がそれって、やっぱりあなたはどうかしてるわよ”

 

“それで、イザークくんを、フィリアちゃんは救い出すために世界を分解するのかしら?”

 

“――そんなの決まってるでしょ……”

 

 フィーネの問に対する気持ちは目覚めたときから決まっていた。

 

 

“キャロルを止めるのが義理でも母親としての責任よ! イザークだって、そんなことを望むはずがないっ!”

 

“あら、随分と意見を覆すじゃない。てっきり愛する人のために全てを捨てて頑張っちゃうのかと思ったわ”

 

“記憶を失ってなかったらそうしてたかもしれないわね。でも、あれから……、あのお人好したちと出会ってあたしの考え方までいつの間にか変えられちゃったみたい……”

 

“そういえば、前とは随分と雰囲気が変わったわね”

 

“翼もマリアも大切な人を失っても前を向いて生きている。それに、イザークのように誰かを助けるために奔走してる放っておけない子もいるし……。こんなあたしを慕ってくれる子や、友達だと言ってくれる子、そして、娘だと想ってくれる人もいる……。あたしは守りたい――。だって彼の意志があたしの(なか)でまだ生きてるのだから!”

 

“あの子も大好き、この子も大好きって、我儘な子ねぇ。でも、それがあなたの強さ……。あなたは私のクローンだけど……、弱かったからこそ成長出来たのね……”

 

 あたしは自分の犯した罪と戦い、キャロルを助けるために、彼女を止めることを決めた。

 

 この身体になったのはあたしが望んだことだった。本当に大馬鹿者だと思う。

 でも、だからといって足を止めては何も出来ない。過去から逃げ出さずに、今できることをするしかないんだ。

 

「キャロル、全部思い出したわ……。ごめんなさい。大事なあなたのことを忘れていただなんて……」

 

「想定外の出来事は仕方がない。記憶が戻ったのならそれでいい」

 

キャロルはあたしの拘束を解いてそう言った。よし、身体が自由になった……。

 

 だが、あたしとキャロルの戦力差は大きい。さらに、四体のオートスコアラーの戦闘力もかなり高い――。

 

 確かに、刺し違える覚悟ならあたしは、一体くらいオートスコアラーを破壊することはできる。

 

 しかし、それではキャロルの計画の延期は出来ても阻止は出来ない。

 

 

 ならばこの場は――。

 

「計画をスムーズに遂行するためにあたしは一度、S.O.N.G.に戻るわ。内部からシンフォギア装者をコントロールしてスムーズに動かしてみせる」

 

「そうだな。確かにお前は連中からの信頼も厚い。エルフナインを送り込んだが、奴では不安な部分もある。その方が都合が良さそうだ……」

 

 キャロルはあたしの提案を受け入れた。これで一度、司令部に戻って――。

 

「マスター、ちょっと待ってくださーい」

 

「なんだ? ガリィ……、何か言いたいことがあるのか?」

 

 話がまとまりかけたところで、ガリィが待ったをかけた。

 

「ガリィはフィリアちゃんのことが信用できませーん。もしかしたら、こっちの味方のフリをして、逃げ出そうとしてるかもしれないじゃないですかー」

 

「ガリィ、貴様……! フィリアがオレを裏切るだとっ!?」

 

 ガリィはまさにあたしの考えをピタリと当てた。面倒な奴ね……。

 

「恐れながら、マスター。わたくしも同意見でございます。フィリアが記憶を失ってここを離れていた期間は短くありません。監視の一つも付けたほうがよろしいかと」

 

 ファラもガリィに同調してあたしの裏切りを懸念した。

 

「くっ……、念には念を入れろというわけか……。すまないが、フィリア。貴様のことは全て監視出来るように、身体を弄らせてもらうぞ」

 

 キャロルによって、あたしは彼女に動きの全てと視覚からの情報を監視出来るようにされたしまった。

 さすがに、タダで帰してもらえなかったか……。想定はしていたけど……。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「くっ……、しつこいわね……!」

 

 ――雷獣ノ咆哮――

 

 あたしはファウストローブに身を包み、迫りくるファラとレイアに電撃を放った――。

 

 そして、ガリィからの水攻めと、ミカの炎を避けて走る――。

 

「フィリアちゃん!」

 

 あたしがオートスコアラーたちと逃亡戦を繰り広げていると、響がギアを纏ってこちらに駆けつけてきた。

 

「派手に散れっ!」

 

 レイアがコインをあたしに放つ……!

 

「しっしまった――」

 

 あたしはコインによって胸を貫かれ、その場に倒れた。

 

「フィリアちゃん! しっかりしてっ! 大丈夫?」

 

 響があたしを抱き起こす……。

 はぁ、こんな芝居をしなければならないなんて……。

 

 そして、程なくして響のギアは分解された……。

 

 オートスコアラーたちは撤退し……、あたしたちは、敗戦の空気を抱えながらS.O.N.G.の収容班によって回収される。

 

 響には申し訳ないことをした……。

 

 だが、あたしは帰ってきた、仲間たちの元へ――。

 

 




記憶喪失の期間中の繋がりで、フィリアは暴走から立ち直りました。響が歌えなくなるイベントはカットしました。申し訳ありません。
次回もよろしくお願いします!




ここまで、読んでいただいてありがとうございます!
もし、少しでも「面白い」と感じてくれた方は《お気に入り登録》や現時点での《評価》をして頂けると、とても嬉しいです。
特に高評価はすっごく自信になりますし、もっと面白くしようというモチベーションに直結します!

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エルフナイン

エルフナインが今回は登場します。
それではよろしくお願いします!


「フィリアくん、響くん、無事で何よりだ。特にフィリアくんは敵に捕まったにも関わらずよく逃げ出してくれた」

 

「あの人形たち、シンフォギア以上の戦闘力だったわ。そして、親玉の少女はそれ以上に強力な錬金術師……、さすがに逃げるのに苦労したわよ」

 

 あたしはあくまでもギリギリ逃げ切れたという演出を強要されていた。まぁ、向こうからしたら当然の要求だけど。

 

「響、ごめんなさい。あたしが下手を打たなきゃ、あなたのギアは無事だったのに……」

 

「もー、フィリアちゃん、気にしないで! 私にはフィリアちゃんが無事だったことの方が大事なことなんだよっ!」

 

 響は明るく笑ってあたしに抱きついた。

 

「そう……、ありがとう響……」

 

「ありゃ? いつものフィリアちゃんと反応が違う……?」

 

 あたしは響に抱きしめられるままになっていたので、彼女は不思議そうな顔をした。

 ああ、確かにここは引き剥がす場面だったわね……。

 

「おいおい、フィリア。ホントにどうした? 何か変だぞ」

 

 クリスも響と同じような表情をしていた。

 どうも、記憶が戻った反動からか今まで眠っていた感情の振れ幅が大きくなっているみたいだ。

 

「フィリアくん。どこか調子が悪いのか?」

 

 弦十郎まで心配そうにあたしを見つめる。何も言えないことがこんなに辛いなんて……。

 とにかく、キャロルの指示にはとりあえず従わなきゃ。

 

「さっき攻撃を受けたところが、ちょうど核の部分を掠っていたみたいで、ファウストローブが上手く起動出来ないのよ。再生も遅いみたいで……」

 

 キャロルにはファウストローブの使用が禁止させられた。これを使って戦うとあたしが自動人形(オートスコアラー)を破壊できてしまうからだろう。

 

「なるほど、それは痛いな……。戦闘映像から分析すると装者よりも、フィリアくんと相性の良さそうな相手だったのだが……」

 

「でも、ミラージュクイーンは使えるから……。あたしも戦力には入れときなさいよ。あと――響はいつまでそうしてるの? 未来に言うわよ」

 

「あははっ、みっ未来には内緒で……。なんかフィリアちゃんが遠くに行きそうだったから、つい……」

 

 ようやくあたしから離れた響はそんなことを言う。勘がいいんだか、悪いんだか。

 

「で、フィリアは直せるのか? あたしらのギアペンダントは……」

 

「当たり前よ。マリアのアガートラームだって直したでしょう。でも、連中がシンフォギアを壊せるんだったら、何かしらの強化必要だし、直すのにも時間がかかるわ」

 

 あたしはシンフォギアを強化すべきだという意見を出す。

 おそらくエルフナインも同じような提案をするはずだが……。

 

「ふむ、しかし、まさかフィリアくんと同タイプの自動人形(オートスコアラー)や錬金術師が相手とは……。君が連れて行かれたのは、やはりその辺が関係していたのか?」

 

「ええ、あたしのこの身体のベースを作ったとか言ってたから、それが関連しているはず。仲間になれと勧誘されたし。まぁ、実際に自動人形(オートスコアラー)を運用しているんだから、信じるわ。つまり、あたしは本来は向こう側なのよ」

 

「フィリアちゃんが……、ううん、そんなことない! フィリアちゃんが敵になんてなるはずないよ!」

 

「なんだ、お前の様子が変なのはそれが原因かよ。ちょせいこと気にしやがって」

 

 響もクリスもお人好しな面を見せてくる。クリスだって様子が変じゃない。落ち込んでいるのはわかっているわよ。

 

 クリスが落ち込んでいるのには理由がある。

 切歌と調はクリスを助けるためにLiNKERを使用していて、現在メディカルチェック中なのだが、クリスは後輩の彼女らに助けられたことがショックだったみたいなのだ。

 

 それなのに、あたしのことを気遣う彼女はやはり優しい子なのだろう。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「それで、デミグラスソースを入れたら、すっごく美味しくなったんだよー」

 

「ビーフストロガノフ、リア姉も前につくってくれたデス」

 

「そんなことより、翼とマリアが帰ってきたわよ」

 

 空港で到着を待っていたあたしたちの前に翼とマリアが姿を現した。

 

「翼さーん、マリアさーん!」

 

 響が二人に手を振った。これでシンフォギア装者は全員日本に集まったということね。

 キャロルの目論見どおり……。

 

「挨拶は後! 新たな敵の出現に、それどころではないはずよっ!」

 

 ビシッと凛々しい表情で、マリアは浮ついたムードを一喝した。

 

「ちょっと頼もしくてカッコいいデス」

 

「やっぱりマリアはこうでなきゃ……」

 

 切歌と調がマリアに尊敬の眼差しをおくる。いや、このモードのマリアはどう考えても……。

 

「機内食がよっぽど豪華だったのね……」

 

「ちょっと、フィリア! どうしてそれを!?」

 

 マリアはギョッとした顔であたしを見つめた。付き合いが長いから、大体わかるのよ。

 

 

 

 こうして、あたしたちは全員揃って司令室に顔を出した。

 

「シンフォギア装者勢揃いとは……、言い難いのかもしれないな……」

 

「これは――!」

 

 弦十郎の言葉と同時に映し出されたのは、翼たちのギアペンダントだった。

 

「新型ノイズに破壊された天羽々斬とイチイバルそしてガングニールです。コアとなる聖遺物の欠片は無事なのですが……」

 

 藤尭は失望したような声を出す。

 

「エネルギーをプロテクターとして固着させる機能が損なわれている状態です」

 

「ちょっと前までのセレナのギアペンダントと同じね」

 

 友里の言葉にマリアが反応する。

 

「フィリアが直せるんだろ? それを……」

 

「もちろんよ。でも、前にも言ったとおりそれなりに時間がかかるわ。どうせ直すなら次は破壊されないように改良したいし」

 

 クリスは前のあたしの言葉を確認するように声を出したので、あたしはそれに応えた。

 

「現状、動ける装者はマリアくん、切歌くん、調くんの三人。あとはファウストローブが使えないがフィリアくんが戦力か……」

 

「戦力半減といったところでしょうか……」

 

 弦十郎と緒川も厳しい現状に、かなり参っているみたいだ。

 キャロルの計画は恐ろしいわ。この絶望に対する希望を餌にするんだから……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「ボクはキャロルに命じられるまま、巨大装置の一部の建造に携わっていました。ある時アクセスしたデータベースより、この装置が世界をバラバラにするものだと知ってしまい。目論見を阻止するために逃げ出してきたのです」

 

 キャロルと瓜二つの見た目のエルフナインは、彼女の目論見どおりS.O.N.G.に保護されていた。

 

「世界をバラバラにたぁ、穏やかじゃないな」

 

 エルフナインの言葉にクリスが反応する。

 

「それを可能とするのが錬金術です」

 

「錬金術? フィリアが使っている技か……」

 

 錬金術という言葉に、マリアがあたしの方を見て声を出した。

 

「おっ、オートスコアラー? なぜ、ここに……? それに、フィリアという名前には聞き覚えがあります」

 

「あたしのことは、今はいいでしょう。話を先に進めなさい」

 

 あたしはエルフナインに話を進めるように促した。しかし、必要最低限の知識しか持ってないはずなのに、なぜあたしの名前に反応したのかしら? 

 確か計画の中にもまだ過去の改変は入れてなかったはずなんだけど。

 

「ノイズのレシピを元に作られたアルカノイズを見ればわかるように、シンフォギアを始めとする万物を分解する力は既にあり、その力を世界規模に拡大するのが、建造途中の巨大装置チフォージュ・シャトーになります」

 

 エルフナインはチフォージュ・シャトーの建造目的を話す。

 

「装置の建造に携わっていたということは、君もまた錬金術師なのか?」

 

「はい。ですがキャロルのように全ての知識や能力を統括しているのではなく、限定した目的のために作られたにすぎません」

 

 翼の質問を肯定するエルフナイン。しかし、この子は――。

 

「作られた?」

 

「装置の建造に必要な最低限の錬金知識をインストールされただけなのです」

 

 響は異常ともとれるこの子の言葉に反応した。

 そう、キャロルによって生み出されたホムンクルス。そして、彼女のスペックを引き継ぐ身体に選ばれなかった個体。それがエルフナインだ。

 

 

「インストールと言ったわね?」

 

 マリアはインストールという言葉に引っかかったみたいだ。

 

「必要な情報を知識として脳に転送複写することです。残念ながらボクにインストールされた知識に計画の詳細はありません。ですが、世界解剖の装置チフォージュ・シャトーが完成間近だということはわかります。お願いです! 力を貸してください! その為にボクは《ドヴェルグ・ダイン》の遺産を持ってここまで来たのです」

 

 知識の転写――あたしが人形になった過程と少しだけ似ている。

 

 さらにエルフナインはキャロルの計画を阻止するためにここに来たと言った。

 

 流れは完璧ね。エルフナインも利用されていることに気付いてないからこそ、自然に話している。

 

「ドヴェルグ・ダインの遺産?」

 

「アルカノイズに……、錬金術師キャロルの力に対抗し得る聖遺物――魔剣ダインスレイフの欠片です」

 

 エルフナインは呪われた旋律の元となる聖遺物をあたしたちに見せた。

 まっ、どのみちアルカノイズに対抗できなきゃどうしようもないから、ここは素直に強化しとくべきね。ちょっとだけ、小細工はさせてもらうけど……。

 

 

 

「エルフナインちゃんの検査結果です」

 

「念のために彼女の――ええ、彼女のメディカルチェックを行ったところ……」

 

「身体機能や健康面に異常はなく、

またインプラントや高催眠といった怪しいところは見られなかったのですが……」

 

 友里と藤尭はエルフナインのメディカルチェックの結果を話し始めた。身体的な特徴に何かしら気になる点があるみたいだ。

 

「ですが?」

 

「彼女――エルフナインちゃんに性別はなく。 本人曰く、自分はただのホムンクルスであり決して怪しくはない、と」 

 

「怪しすぎるわよっ!」

 

 エルフナインの言いようにあたしはツッコミを入れた。

 キャロルからある程度の情報は聞いていたけど――思ったよりも個性的な子みたいね。エルフナインは……。

 

「うーむ……。エルフナインくんの言っていた、ダインスレイフとやらは果たしてアルカノイズの対抗策になり得るのか? それはどう思う?」

 

「そうね、魔剣ダインスレイフの特性を利用するとなると思い当たる方法ならあるわ。リスキーなやり方だけど……」

 

 あたしは弦十郎の質問に答えた。ダインスレイフの闇の力を増大させる特性を活かす強化をシンフォギアに施す。

 

「フィリアくんがそう言うのなら、この件は君とエルフナインくんに任せよう」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「温かいものと、甘いものをどうぞ」

 

 あたしはエルフナインにコーヒーとチョコレートを渡す。

 

「えっ、あっありがとうございます。フィリアさん……、ですよね?」

 

 エルフナインは興味深そうにあたしを見つめていた。

 

「ええ、あたしは風鳴フィリア。S.O.N.G.所属の自動人形(オートスコアラー)よ。一応、ギアと錬金術の知識がそれなりにあるから、あなたの持ってきたダインスレイフを使ったシンフォギアの強化を任されたの」

 

「そこです。オートスコアラーが何故ここに? 見たところ、キャロルの作ったものに非常に酷似しています」

 

 エルフナインはあたしの存在に驚いているみたいだった。キャロルから、必要最低限の情報しか与えられてないからだろう。

 

「何故ここに居るのかというと成り行きとしか言えないわね。そのキャロルがあたしの身体を作ったらしいんだけど、あたし自体は記憶がないから、その辺のこと全部忘れちゃったの」

 

 あたしは簡単にここにいる経緯を説明する。

 

「記憶喪失ですか……。しかも、人間が人形に……。確かに錬金術ならそれが可能ですけど……」

 

 エルフナインは一応、あたしの存在に納得してくれた。

 

「まぁ、そういうことだからギアの修復は経験済みってこと。魔剣ダインスレイフの闇の力を利用するってことは、つまり――シンフォギアの暴走の力を利用するってことね」

 

「まさか、そこまで理解されているとは……。とても心強いです。フィリアさん、力を貸してください」

 

 エルフナインは丁寧にお辞儀して、真剣な眼差しをあたしに送った。

 キャロルとは、まったく人格が違うけど……。素直ないい子じゃない。

 

「あむっ。あっ、このチョコレート美味しいです」

 

「あら、口に合って良かったわ。これ、美味しいわよねー。しばらく忙しくなるから、いろいろ買い込んだのよ」

 

 あたしは食料の入った袋をみせて、冷蔵庫に入れた。あとで、晩御飯も作らなきゃ。

 こうして、あたしとエルフナインはこれから数日間研究室にこもることになった――。キャロル……、あなたの思惑どおりにすべてが運ぶとは限らないわよ……。

 




プロジェクトイグナイト始動します。
次回もよろしくお願いします!


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イグナイト

新しいギアの話とか……、原作でいうと5話の終わりくらいまでです。


 あたしたちは司令室に、ギアを破壊された翼とクリス、そして響を呼び出した。

 

「ファラ、レイア、ガリィ、そしてミカがキャロルが率いるオートスコアラーになります。もっとも、ボクが知るのは名前だけで詳細なスペックは記録されていませんが……」

 

 エルフナインは先日のオートスコアラーたちの名前を伝える。

 

「フィリアの身体と同タイプというだけあって非常に強力だった」

 

「戦ってわかったけど、シンフォギアの戦闘力を超えていたわ」

 

「んで、そのキャロルってのは、もっと強かったんだろ?」

 

 あたしたちは肌で感じたオートスコアラーとキャロルの戦闘力について声を出す。

 キャロルに関しては規格外もいいところだし、彼女の本気は現時点では誰も止められない。

 

「超常驚異への対抗こそがオレたちの使命。この状況を打破するために、フィリアくんとエルフナインくんから計画の立案があった――」

 

「フィリアちゃんと、エルフナインちゃんから?」

 

「プロジェクト・イグナイトだ」

 

 弦十郎のひと言でモニターにプロジェクト・イグナイトの文字が表示される。

 

「とりあえず、シンフォギアの基本的な出力上昇と、アルカノイズの分解能力に対するバリアコーティングの設計は完了したわ」

 

 まずは基礎の部分、一番の課題であるアルカノイズの分解に対する対抗策を伝える。

 

「それでは私たちのギアがアルカノイズによって壊されるということは」

 

「ええ、理論上は防ぐことができるはずよ」

 

 翼の言葉をあたしは肯定する。

 

「へっ、チョコレートばっか食ってると思ってたが、やるこたぁやってたんだな」

 

「クリスのギア以外にバリアコーティングを施すことにしたわ」

 

「おいっ、フィリア! あたしが悪かったって」

 

 クリスがあたしの肩を組んで謝罪する。

 

「あははっ、いつものフィリアちゃんだ」

「これが、いつもと言われても……、まぁ性格が悪いのはフィリアらしいが……」

 

 響と翼はあたしたちを見ながらそんなことを言う。

 あなたたちのバリアも抜きにしちゃおうかしら……。

 

「ですが、それでは不十分です」

 

「確かに、これだけでは戦う為の最低条件が整ったというところだな」

 

 エルフナインの言葉に翼が頷いた。

 

「別に十分じゃねーか。分解さえされなきゃ、あんな連中……」

 

「勝てないわよ。絶対にね」

 

 クリスは威勢の良いこと言うがあたしはそれを否定する。

 

「フィリアちゃん、秘密兵器みたいなのがあったりするのかなー? なんちゃって」

 

「バカ! んな都合のいいこと――」

 

「正解よ。ここからはその秘密兵器の話しをさせてもらうわ。エルフナイン」

 

 あたしたちはその秘密兵器について説明を開始した。

 

「はい、ご存知のとおりシンフォギアシステムにはいくつかの決戦機能が搭載されています」

 

「絶唱と……」

 

「エクスドライブモードか……」

 

 エルフナインの言葉に翼とクリスはそれぞれ答える。

 

「とは言え、絶唱は相打ち専用の肉弾。仕様局面が限られてきます」

 

 エルフナインは絶唱は限定的な機能だと断じた。

 

「それならエクスドライブでっ!」

 

「エクスドライブは相当量のフォニックゲインが必要でしょ。そんな偶然とか奇跡みたいな確率に頼ってらんないわ」

 

「役立たずみたいに言ってくれんな!」

 

 エクスドライブの不確実性をあたしが指摘すると、クリスは不機嫌そうに口を尖らせる。

 

「でも、フィリアちゃん。それなら何を――」

 

「シンフォギアにはもう一つ決戦機能があるのをお忘れですか?」

 

 響が言い終える前にエルフナインは残された一つの決戦機能について口にする。

 

「あっ……」

 

「立花の暴走は搭載機能ではない!」

 

「とんちきなこと考えてないだろうな!?」

 

 ハッとした表情の響を見て、翼とクリスは怒りだした。

 

「落ち着きなさい。暴走しろなんて言うわけ無いでしょう」

 

「暴走を制御することで純粋の戦闘力へと変換錬成し、キャロルへの対抗手段とする。これがプロジェクト・イグナイトの目指すところです」

 

 エルフナインは暴走の力のみを戦闘力に変換するという案を出した。

 これこそが呪われた旋律の力……。

 

「ダインスレイフは殺戮の魔剣よ。その呪いは誰もが心の奥に眠らせる闇を増幅し、人為的に暴走状態を引き起こすわ。確かにリスキーだけど、もし人の心と叡智が破壊衝動をねじ伏せることが出来れば――」

 

「シンフォギアはキャロルの錬金術に打ち勝てます」

 

 でも、これって人為的な暴走状態を根性で何とかしろみたいな無茶な作戦なのよね。

 というか、キャロルって敵にも結構な無茶振りを要求しているような……。

 

「使う使わないは、あなたたち次第よ。あたしはとりあえず、機能だけは付けておくから」

 

「フィリア、それを使えば本当に強くなれるのか?」

 

「もちろんよ。じゃないとこんな無茶な提案をするわけ無いでしょう」

 

 翼の質問にあたしは肯定する。単純な戦闘力では確実にキャロルのオートスコアラーを超えるようにはなってるわ。

 じゃないとキャロルたちからしても意味ないし……。

 

「だったら決まりだな!」

 

「うん! フィリアちゃん、エルフナインちゃん、私たちは必ずそれを使いこなすよっ! だからお願い!」

 

「私たちのギアを強化してくれ」

 

 三人はプロジェクト・イグナイトを認めた。

 そして、あたしとエルフナインはイグナイトモジュール搭載の新しいギアペンダントの作成を開始したのである。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「――はっ!? 寝落ちしていました」

 

「あら、もうちょっとくらい寝てても良かったのに」

 

 イグナイトモジュールも調整が最終段階に入り、ほとんど徹夜で作業していたエルフナインが眠ってしまったので、あたしは彼女に毛布をかけて一人で作業をしていた。

 

「いえ、フィリアさんが頑張ってるのにそういうわけには……」

 

「バカね。あたしは寝なくても平気な身体なのよ。オートスコアラーなんだから」

 

 すぐに作業を再開しようとするエルフナインにコーヒーを淹れて渡した。

 

「美味しいです。なんだか、力が出てくるような温かさがあります……。あのう、フィリアさん……」

 

「どうしたの? 改まって……」

 

「いえ、眠っているときにキャロルの記憶が流れていたのですが、そこにフィリアさんが居たのです。姿は大人の女性でしたが、間違いなく彼女はフィリアさんでした」

 

 エルフナインははっきりとあたしとキャロルが一緒に居た記憶について話をした。

 

「ふーん。数百年前のキャロルのところにあたしが……。あなたにはキャロルの記憶も一緒に転送されていたの?」

 

「そう……、みたいですね。フィリアさんとキャロルは姉妹のように仲が良かったです。そして、パパが亡くなったとき……、とても悲しんでました」

 

 あたしの質問をエルフナインは肯定し、そしてあの時の出来事について口を開く。

 

「――大切な人だったんでしょうね……。その人はあたしにとって……」

 

 あたしはあの日の気持ちを思い出しながらも、何とか平静を保っていた。

 イザーク……、ごめんなさい。あたしがあの時、もっと気を強く持っていたら……、キャロルは……。

 

「フィリアさん……」

 

 そんなあたしをエルフナインは何かを言いたそうに眺めている。

 

「とにかく、イグナイトモジュールの完成まであと少し。頑張って完成させましょう」

 

 あたしがそうエルフナインに声をかけたとき、けたたましいアラームが鳴り響いた。

 

 ――アルカノイズか……。さすが、キャロルね。

 あたしたちがこれを完成させる直前を狙い撃ちにするなんて――容赦がないんだから。

 

「あたしは司令室に行ってくる。あなたは完成を急いで!」

 

 あたしはそう言って、司令室に向かって駆け出した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「まさか、敵の狙いは……、我々が補給を受けいてるこの基地の発電施設!」

 

 緒川がそう声を出したとき、モニターにはソーラー発電施設がアルカノイズによって破壊されている光景が映し出されていた。

 

「何が起きてるデスか!?」

 

「アルカノイズに、このドックの発電所が襲われているの」

 

 切歌の質問に友里が答える。まったく、煽り方が上手いわね。真の狙いを隠しつつ、急所を突くなんて……。

 

「ここだけではありません! 都内複数箇所にて同様の被害を確認! 各地の電力供給率大幅に低下しています!」

 

 藤尭が被害状況を伝える。

 

「今、本部への電力供給を断たれるとギアの改修への影響は免れない!」

 

「内蔵電源も、そう長くは持ちませんからね……」

 

 翼と緒川が焦りの表情を浮かべていた。

 

「あたしたちが出来るだけ時間を稼ぐしかないみたいね」

 

「ええ、連中の分解能力には気を付けなきゃいけないし、強敵だけど、引く理由はないわ!」

 

「もちろんデス!」

 

「みんなで力を合わせればきっと守れるはず……」

 

 あたしとマリア、そして切歌と調が発電施設を守るために出撃した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 切歌と調は絶妙なコンビネーションでアルカノイズの攻撃を躱しつつ、殲滅していた。

 

 LiNKER使用という制限時間付きとはいえ、二人の息の合った攻撃は各々の力を何倍にも増加させる。

 

「マリア、あたしたちも負けられないわ」

 

「言われるまでもない!」

 

 マリアとあたしはお互いに銀色に光る刃を構える。

 

 ――雷霆陥(ライテイオトシ)――

 

 あたしは広範囲に渡って雷撃の刃を落下させる。

 アルカノイズたちは刃に貫かれて殲滅していった。

 

「ファウストローブが無くってもこれぐらいは出来るわ」

 

 あたしはあくまでも本気でアルカノイズは止めるつもりだ。

 連中を野放しにしていい理由がないからである。

 

「さすがにやるわね……、私だってセレナのギアを半端な気持ちで引き継いだわけじゃない」

 

 ――SERE†NADE――

 

 マリアは左腕のアーマーに接続したアームドギアを大剣状に変形させ、ブースターで加速してアルカノイズたちを斬り裂く。

 

 四人で出撃した結果、かなり優勢に立ち回りアルカノイズの数はたちまちの内に減っていった。

 

「少し調子に乗り過ぎですわ――」

 

「ファラね……、悪いけどそれなりに抵抗させてもらうわよ」

 

 あたしのミラージュクイーンがファラの剣とぶつかった。

 すると、ミラージュクイーンの光が胡散して消滅した。

 

「――わたくしの哲学兵装ソードブレイカーは剣と名のつくものは如何なるものも破壊する。剣使いのあなたはわたくしには勝て――」

 

「割とがら空きよ、あなたの身体――」

 

 あたしはファラの腹に一撃を加えて吹き飛ばす。

 アルカノイズには効果はないが、オートスコアラー相手なら武術も使える。

 

 しかし、気付けば切歌と調はミカに圧倒され、マリアはガリィに遊ばれている。

 

 スペック差が露骨に出てるわね……。

 

「剣無しでも派手な技が使えるようだな……、しかし……」

 

「あなたは二人で抑えますわ」

 

 レイアとファラの同時攻撃にあたしは防戦一方となり、攻撃を完璧に封じられてしまった。

 

 切歌と調のギアが破壊された――。えっ、なんで、アルカノイズを彼女たちにけしかけるの?

 

 まさか、あたしのことを試している? 切歌と調を見捨てられるかどうか……。

 

 ガリィがニヤリと笑ってあたしを見ている。

 

 

 

 ――見捨てられるわけ無いでしょう。

 

 あたしはファウストローブを使う覚悟を決めた。

 

「コー……」

 

 しかし、轟音とともに切歌と調に襲いかかっていたアルカノイズは破壊された。

 

 現れたのは強化を終えた新しいギアを纏った三人の装者だった。




次回はキャロルVS装者とかそんな感じです。


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抜剣

原作6話に相当する内容です。
それでは、よろしくお願いします!


「翼、クリス、響! 完成したのね!」

 

 私は三人に声をかける。

 

「うん、ここから先は任せて!」

 

「さて、どうしてくれる? 先輩」

 

「反撃、程度では生ぬるいな――逆襲するぞ!」

 

 シンフォギアの強化を終えた三人はアルカノイズたちに向かう。

 

 

「慣らし運転がてらに片付けるぞ!」

 

「綺麗に平らげてやる!」

 

「とりぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 次々とアルカノイズたちを殲滅していく翼たち。

 出力も上がり、バリアコーティングでアルカノイズの分解能力にも対抗できるので、もはやアルカノイズは敵ではなかった。

 

 あらかた、アルカノイズを殲滅した翼たちは次のターゲットをミカにしたようだ。

 

 

 ――蒼刃罰光斬――

 

 翼は蒼く光るニつの刃でミカを切り裂こうとしたが、彼女はそれを躱す。

 

 

 ――MEGA DETH FUGA――

 

 そして、クリスはミカが着地した瞬間を狙ってミサイルを放つ。

 

「へっ!  ちょせえ!」

 

 ミサイルは見事に直撃したように見えた。

 

「いや、待て」

 

「何?」

 

 翼の言葉にクリスが訝しい顔をする。

 

 ミカは無事のようだった。

 

 それもそのはず、キャロルが錬金術によってシールドを繰り出してミカを守っていたのだ。なるほど、この場面で登場したってことは力を試しに来たのね……。

 

「面目ないゾ」

 

「いや、手ずから凌いでよく分かった。オレの出番だ」

  

 キャロルはこちらをチラッと見る。

 

「キャロルちゃん!」

 

「来たわね……、キャロル……」

 

「あの子がキャロル……、見た目はただの子供なのに凄い威圧感」

 

 共に固まってアルカノイズやオートスコアラーを相手にしていた、あたしたちはキャロルの方を向いた。

 

「むっ、マスターが到着されたか」

 

「あら、わたくしたちが不甲斐ないばかりにお手を煩わせてしまいましたわね」

 

「せっかちなマスター。もうちょっと楽しみたかったんだけどー」

 

 オートスコアラーたちはキャロルの元に集った。

 

 

「ラスボスのお出ましとはな」

 

「だが、決着を望むのはこちらも同じこと」

 

 翼とクリスは臨戦態勢を取った。

 

「全てに優先されるのは計画の遂行。ここはオレに任せてお前たちは他をあたれ……」

 

「わかったゾ!」

「仰せのままに」

「畏まりましたわ」

「はーい、ガリィ行きまーす」

 

 各々は転移用結晶を砕いて、撤退する。

 

「とんずらする気かよ!」

 

「まさか、こっちは5人いるのよ!」

 

 クリスとマリアは信じられないという表情をした。

 

「案ずるな。この身一つでお前ら全員を相手にすることなど、造作もないこと」

 

 キャロルはあたしたち全員と対峙してなお、余裕の表情を見せていた。

 

「その風体で抜け抜けと吠える!」

 

 翼はそのセリフに対してムッとした表情になった。

 

「なるほど。ナリを理由に本気を出せなかったと言い訳されるわけにはいかないな。ならば刮目せよっ!」

 

 キャロルが手を伸ばすと錬成陣から先日見た竪琴が出てくる。

 

 そして、彼女は竪琴を奏でて、あの時のようにダウルダブラのファウストローブを身に纏った。

 

 

「これくらいあれば不足はなかろう?」

 

 何故か、自分の胸を触りながらそう言ってのけるキャロル。

 やっぱり腹立つわ。理由はわからないけど何故かイラッとするのよね……。

 

「翼! 挑発されてるわよ!」

 

「フィリア! なぜ、私にだけそんなことを言う!?」

 

 翼がクルリと振り返ってあたしにツッコミを入れる。だって、この場でなんとなく共感してもらえるのは翼だけだと思ったから……。

 

“フィリアちゃんって、私の遺伝子持ってるのに異常にそこだけ育たなかったもんねー。フィアナちゃんと違って”

 

“うるさいわね……”

 

 フィーネがいらないことを言ってあたしを苛立たせる。

 

「翼さん! 別に私は気にしてません! その……、翼さんが控えめなことも含めて魅力的だと思ってます!」

 

 響は響で的はずれな励ましを翼に送る。いや、それは逆効果でしょう。

 

「立花まで、私に喧嘩を売るか!」

 

 翼は剣を響に向ける。あれ? 敵って誰だっけ?

 

「あー、もう! そんなこと、どうでもいいでしょう。クリス! バカなこと言ってるフィリアたちは放って私たちで攻めるわよ!」

 

「たくっ、先輩も変なところで意固地になるなー」

 

「雪音もマリアも妙に余裕だな。そういうことか!」

 

 マリアとクリスがかき乱されているあたしたちに注意してるが、翼とは妙に噛み合わない。

 

「どういうことよ! いいから、集中なさい」

 

 マリアは困ったような顔をして、翼を諌めた。

 

「――もう、攻撃していいか?」

 

 唖然としながら、そのやりとりを見ていたキャロルはそう言った刹那、糸をあたしたちに伸ばしてきた。

 

「ぬっ、何という破壊力!」

 

「これは――」

 

 キャロルの火力にあたしたちは息を呑む。

 

 

四大元素(アリストテレス)……」

 

 キャロルが琴を鳴らすと、大量の水と燃え盛る炎が照射される。

 

「くっ、反則ね。この力……。マリア! 下がってなさい」

 

 ――水鏡ノ盾――

 

 あたしは水の盾を展開して、キャロルの炎を防ごうとした。

 

「甘いな、フィリア! そんな貧弱な盾ごときで防げようものではないわ!」

 

 しかし、水の盾は一瞬で蒸発して、あたしとマリアは炎の直撃を受ける。

 

「マリア――。ダメ……、完全に気を失ってる……」

 

 マリアは倒れてしまってギアが解除されてしまう。

 

「マリアを回収して……、至急よ!」

 

『わかった。フィリアくんは大丈夫か?』

 

「結構エネルギーを消費したけど、今、それを回復させてるところよ。モグモグ……」

 

 あたしは特殊な金属でコーティングされている容器からチョコレートを取り出して口に放り込む。

 

「お前のそれ、ホントに緊張感がねぇーな」

 

「しょうがないじゃない。錬金術って燃費悪いんだから」

 

「それじゃ、キャロルちゃんもどこかにチョコレートを?」

 

 あたしのところに寄ってきたクリスと響が、あたしのエネルギーの補給行為に口を出してくる。

 

「いいえ、エルフナインによると、キャロルの錬金術の力の源は想い出の償却よ……」

 

「想い出の償却?」

 

「キャロルやオートスコアラーの力は、想い出という脳内の電気信号を変換錬成したもの。作られて日が浅いオートスコアラーには力に変えるだけの想い出がないから、他者から奪う必要があるけど……、数百年を永らえて相応な想い出が蓄えられたキャロルの力はあのとおり計り知れない!」

 

 あたしがそう言った瞬間にキャロルから発せられたエネルギーの塊がこちらに飛んできた。

 

 あたしはマリアを抱きかかえて回避する。

 

「フィリアちゃん、その力に変えた想い出はどうなっちゃうの?」

 

「燃え尽きて失われるわ……」

 

「そんな……、キャロルちゃんはどうしてそんなことをしてまで……」

 

「さあ? とにかく、あの子も本気ってことよ。世界を分解することに……」

 

 響の質問にあたしが答えると、彼女は悲しそうな顔をした。

 お人好しな響のことだ。キャロルのためにも彼女を止めたいとか思っているのだろう。

 

 

「その程度の歌でオレを満たせるなどとっ!」

 

 キャロルはあたしに加えて、三人の装者を相手取ってもこちらを圧倒していた。

 

 結局、彼女にお膳立てしてもらった力を使わなきゃ厳しいみたいね……。

 

「クリスちゃん、翼さん! アレを――!」

 

「やるっきゃねーか! ぶっつけ本番!」

 

「土壇場こそ、我々の本領発揮ができる場面。フィリア! 使うぞ、イグナイトモジュールを――!」

 

 響たちはいよいよ、イグナイトモジュールを使用するみたいだ。

 作っといてアレなのだが、キチンと起動するか如何せん不安である。

 

「フッ。弾を隠しているのなら見せてみろ。オレはお前らの希望を全てぶち砕いてやる!」

 

 キャロルは相手を乗せることが上手い。計画を遂行させるためのレールを敷いて見事に彼女たちを乗せたわね……。

 

「一つだけ、アドバイスするわ。あなたたちは必ず闇の中に飲まれそうになるはず。でも、今までだってそんなことはみんなあったはずよ。どうやって乗り越えたのか思い出すのよ……」

 

 あたしはイグナイトモジュールを使う彼女らに声をかけた。

 

「フィリア……。任せておけ、呪いなどに負けてなるものか!」

 

「けっ、急に真面目にアドバイスしやがって! ありがとな、直してくれて……」

 

「うん! 私は信じるよ! フィリアちゃんたちが作ってくれた新しいシンフォギアを! そして、胸の歌を!」

 

「「イグナイトモジュール――抜剣っ!」」

 

 抜剣のかけ声と共にペンダントの羽根が閉じる。そして、ギアペンダントを胸から外すペンダントが剣状の形になった。

 

 剣がそれぞれの胸を突き刺す――。

 

「「あああああああっ――――!」」

 

「えっ――大丈夫なのかしら? これ……」

 

 あたしは自分で作ったものに対してドン引きしてした。ちょっと、普通じゃないわよ、この反応……。どす黒いオーラみたいなものに飲み込まれそうになっているじゃない。

 

「呪いに飲み込まれちゃだめよ! あなたたちは、ずっと切り開いて来たじゃない! 大丈夫! 強いあなたたちなら、絶対に!」

 

 あたしの声が届いたのか、三人の目に活力が戻ってきた。

 

「「――この衝動に塗り潰されて! たまるものかぁぁぁぁぁぁっ!」」

 

 イグナイトモジュールが正常に起動して、彼女らはパワーアップしたシンフォギアを身に纏う。

 

 さあ、あなたの望み通りの展開になったはずよ。キャロル、どう出る?

 

 キャロルはアルカノイズの入った結晶をばら撒き始めた。

 

 次々とアルカノイズが出現する――。

 

『検知されたアルカノイズの反応、約3000!』

 

『3000!?』

 

 司令室からの通信で友里と緒川のこえが聞こえる。

 3000って……、あの子、加減ってものを知らないの?

 

 

 

「たかだが3000っ!」

 

 響が拳で次々とアルカノイズたちを倒していく。

 

 翼もそれに呼応して、力強い剣技で圧倒する。

 

 そして、クリスも今までにない火力をもってして、ミサイルで空中のアルカノイズたちを一気に殲滅した。

 

 そしてアルカノイズたちを殲滅した彼女たちは、今度はキャロルに向かって行った。

 

「ヘソのあたりがむず痒い!」

 

 キャロルは圧倒的な錬金術の力で響たちをねじ伏せようとした。

 

 しかし、パワーアップした響たちは、得意の連携技でそのキャロルをも圧倒する。

 

 響の体が炎に包まれて突撃し、キャロルの腹に強力な一撃を与える。

 

 キャロルは壁に激突してボロボロにされてしまう。

 特に、響の強さは圧巻ね……。これほどイグナイトモジュールが強力だなんて……。

 

「光あれぇぇぇぇぇっ!」

 

 響は空中から、巨大な炎の槍のようにキックを繰り出して、キャロルにとどめを刺す。

 

 

 

 

 

 

 

「キャロルちゃん。どうして世界をバラバラにしようなんて……」

 

 響はキャロルに手を差し伸べる。この子のこういうところはブレない。

 

「あっ……!」

 

「忘れたよ、理由なんて……、想い出を償却。戦う力と変えたときに……」

 

 キャロルは響の手を払いのけ、理由を忘れたと述べた。忘れられるはずがないのに……。

 

「キャロルちゃん……」

 

「その呪われた旋律で誰かを救えるなどと思い上がるな――!」

 

 キャロルはそう言い残すと、奥歯を噛み締めその場で倒れ、そして体が消滅した。

 新しい個体に乗り換えたか……。こうやってこの子は400年以上生きてきた。

 

 しかし、響は自害したキャロルを見てかなり大きなショックだったらしく、絶叫していた。

 

 

「呪われた旋律では誰も救えない。本当にそうなのかしらね?」

 

「フィリアちゃん……。ううん、そんな風にはしないよ。絶対に……。キャロルちゃん見ていて……」

 

 あたしの言葉に対して響はそう答えて、空を見上げていた。

 

 ここから、キャロルの計画が本格的に実行される。あたしは、それがあたしのエゴだとしても、彼女のこの計画を止めるということと、イザークの遺言の本当の意味を突き止めることを誓ったのだった。




今回はほとんど原作沿いでしたねー。
ここから、オートスコアラーとのプロレスが始まります。
面白い内容に出来るように頑張りますので、次回もよろしくお願いします!




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マリアの憂鬱

今回はマリア回です。XVの九話のマリアがカッコ良すぎて長くなってしまいました。



「マリア、フィリア、よく来ましたね……」

 

 入院しているナスターシャの見舞いにあたしとマリアは二人で病院に行った。

 

「体調、良さそうじゃない。安心したわ。調と切歌はちょっと検査があって来れなかったけど、また一緒にくるわね」

 

「マム……、私は……」

 

 ナスターシャの顔を見るなり、マリアは何かを言いたそうにしていた。

 先日の戦いで、オートスコアラーに圧倒された上に最後にはキャロルの錬金術により失神させられたマリアは酷く落ち込んでいるみたいだった。

 

「私は……、弱い……。いつも威勢の良いこと言って自分を奮い立たせるけど……、結局は……」

 

 マリアは俯きながら、ナスターシャにそうこぼした。

 お見舞いに来てるのに、そんな暗い顔してちゃナスターシャに心配かけちゃうじゃない。

 

「マリア、あなたは自分を信じて認めるのです。あなたには、あなたにしかない強さがあります。もう、私はあなたたちを導くことは出来ませんが、見守っていますよ」

 

 ナスターシャは穏やかにマリアに話しかけた。

 マリアにしかない強さかー。

 

 

 

「私にしかない強さって何だと思う?」

 

 ナスターシャの病室から出て二人で喫茶店に入って注文を済ませると、マリアはあたしに真剣な表情で話をしてきた。

 

「えっと、マリアの強さね……。うーん……」

 

 せっかくマリアが頼ってくれているのだ。あたしとしても力になってあげたい。

 あたしは腕を組んで真剣に考えた。

 

「ご注文のケーキセットでーす」

 

 店員さんがあたしとマリアの前にケーキとコーヒーを差し出す。

 あたしは未だに腕を組んでいた。

 

「ねぇ、フィリア……、無いなら無いって、はっきり言ってよ」

 

「ちょっと、待ちなさいって。そんなはずないでしょう。今、頑張って探してるんだから」

 

「そんなに頑張って見つけるほどのものなの!?」

 

 マリアは愕然とした口調であたしを急かす。結構、難易度高い命題だと思うけど……。

 

「マリアって、度胸あるじゃない。ほら、あんなに沢山の人の前で歌えないわよ。普通なら……」

 

「翼だって歌ってるわ……」

 

「あっ……。でも、『狼狽えるなっ』とか『最高の舞台にしてあげる』とかは中々言えないわよ。翼よりもマリアの方が度胸あるわ。絶対に」

 

 何とかマリアを励まそうとあたしは必死で彼女を持ち上げようとした。

 

「あのときの話はヤメて! それに翼だって、『話はベッドの上で聞かせてもらおう』とか言ってたわよ」

 

「あー、通信機で聞いてたわ。あれ、意味分かって言ってるのかしら?」

 

「知らないわよ。あなたの方が付き合い長いんでしょう?」

 

 マリアの強さの話が何故か翼の言葉遣いの話になってしまって脱線する。

 

「――やっぱり、マムの言ってた強さなんて私にはないのよ……」

 

「でも、あたしはそんなマリアのことが好きよ。みんなのために勇ましくなって、時々、弱気になるけど……、それでも持ち前の優しさを力に変えることが出来るあなたが」

 

「フィリア……、あなた……。――って、あなたは昔から、いい感じに纏めて話を逸らせることが得意だったわよね。騙されないわよ」

 

 マリアが納得しかけて首を横にブンブン振って、ジト目で見てくる。

 

「うっ……。そっ、そんなことないわ。でも必ずしも強いほうが良いとか悪いとかそんなのじゃないと思うのよねー」

 

 あたしは両手を振って弁解した。あたしなりにマリアを元気づけたつもりだったが、日頃の行いが良くなかったみたいだ。

 

「ほら、やっぱり……、はぐらかすんだから……」

 

「まぁまぁ、イチゴあげるから」

 

 しょんぼりしているマリアの口にあたしはケーキの上のイチゴを運ぶ。

 

「パクッ……。言っとくけど私はあの子みたいに餌付けされないわよ」

 

「だから、してないって……。それより今度の休暇……、じゃなくて、特訓だけど……」

 

 あたしは弦十郎が提案した、『筑波の異端技術機構での調査結果の受領任務の期間を利用してそこで心身の鍛錬に励め』という、実質的な休暇について、話を切り出した。

 

 マリア、切歌、調のギアはすでに強化させて、彼女らに与えている。

 弦十郎の狙いは心身共にリフレッシュさせて呪いに負けないために必要な精神の回復だということは明らかだった。

 

「ええ、みんなは浮かれても大丈夫だと思うわ……。でも私は――」

 

 マリアは憂鬱そうな顔をして窓の外を眺めていた。こりゃ重症ね……。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「おーい!  マリアー!」

 

「何をやってるデスかー?」

 

 調と切歌がマリアを呼んでいる。しかし、マリアはあなたたちと違って今、悩んでいるのよ。

 海に来たからって浮かれるなんてことは――。

 

 

「求めた強さを手に入れるため……、私は……、ここに来た……」

 

「めちゃめちゃ、浮かれてるじゃないのよ! どこで買ってきたの!? その水着! セリフと見た目が全然あってないわよ!」

 

 あたしはド派手な水着にサングラスをかけたマリアに対してツッコミを入れた。

 

「にっ、似合わないかしら」

 

「はぁ……、似合うから腹立つのよ……。でも、良かったわ」

 

 あたしはため息をついてマリアの背中を叩いた。心配して損しちゃった。

 

「特訓といえば、この私! 任せてくださーい!」

 

「特訓なら、映像として記録しとかなきゃね。しとかなきゃ!」

 

 未来は幸せそうに響の水着姿を写真に収めている。あの子、響と付き合い出してから遠慮がなくなったわね……。

 

 

 しばらくして、あたしたちはビーチバレーをすることになった。シンフォギア装者だけでなく、未来やエルフナインもいるから全部で9人、人数は奇数だから入れ替わりでチームを組んでいる。

 

 今は、あたしと翼がチームを組んで、エルフナインとマリアのチームと勝負している。

 

「なかなかどうして、この鍛錬のメニューはタフなメニューばかり。フィリア、お前の言うオーストラリアンフォーメーションとはこれで良いのか?」

 

「ええ、さすがは翼! スジが良いわ!」

 

「いや、フィリアこそ、戦略を即時に考えるその頭脳には感服する!」

 

 翼はあたしが適当に言ったことを実行して、勝手に感心していた。あー、翼のこういうところが可愛くて仕方ないのよねー。

 

「絶対にフィリア先輩、翼さんで遊んでるよ……」

 

「まぁまぁ、翼さんも楽しんでいるし……」

 

 響と未来にはあたしの悪ノリがバレているみたいだ……。

 

 

「あれっ? なんでだろう?  強いサーブを打つ為の知識はあるのですが……。実際やってみると全然違うんですね」

 

 エルフナインがジャンピングサーブをしようとして失敗していた。

 

「背伸びをして誰かの真似をしなくても大丈夫。下からこう……、こんな感じに」

 

 マリアが優しくエルフナインにサーブのやり方を指南する。ああやって見ると親子みたい……。

 

 なんか、マリアってお母さんっぽいところがあるわ……。

 あたしなんて、婚約者の娘にも上手く母親の顔が出来ないのに……。

 

「ふぅ……。すみません……」

 

 申し訳なさそうな顔をエルフナインはしていた。

 

「弱く打っても大丈夫。大事なのは自分らしく打つことだから」

 

「はい!  頑張ります!」

 

 マリアはそれでも尚、エルフナインに優しくアドバイスしていた。

 

 

「――あっ、今度は上手く入りました」

 

「すごいじゃない。エルフナイン!」

 

 エルフナインは下からボールを打ってサーブを成功させる。マリアも笑顔で手を叩いた。

 

 

「フィリア! ボールを上げるぞ!」

 

 翼はあたしにチャンスボールを上げる。

 

「秘技! 竜巻落とし!」

 

 幾重にもボールが分裂して砂浜を抉るようにしてボールが着弾して、砂煙が舞い上がった。

 

「うむ、特訓の成果が現れてきたな」

 

 翼は満足そうにうなずく。

 

「ケホッ、ケホッ……、フィリアさんのボールの撃ち方も理論を超えています。これが――フィリアさんらしさ……」

 

「ゴホッ……、違うわ。エルフナイン……、あれは大人気ないって言うのよ」

 

 真面目な顔をしているエルフナインにマリアは首を横に振って否定した。

 

「オメーはバカか!? ちったぁ、加減しろっ!」

  

 審判をやっているクリスに頭を叩かれて、以後は加減をするようにと説教をされてしまった。

 

 

 

 

 

「気がついたら特訓になっていた……」

 

「フィリアのバカがバカたちを焚きつけるからだ……」

 

 思いの外、激しいビーチバレーになってしまい、疲れを感じないあたし以外は疲労を顔に出していた。

 響とのアタックの撃ち合いは中々盛り上がった。

 

「晴れて良かったですね」

 

「昨日台風が通り過ぎたおかげだよ」

 

「日頃の行いデース!」

 

 エルフナインの言葉に未来と切歌が笑顔で答える。

 

 

「ところで皆、お腹が空きません?」

 

「だが、ここは政府保有のビーチゆえ……」

 

「一般の海水浴客がいないと、必然売店の類も見当たらない……」

 

「ともすると、やることは一つね。負けないわよ」

 

 響の言葉から私たちはコンビニに買い出しに行く人間を決めるジャンケンをすることになった。

 

「「コンビニ買い出しじゃんけんぽん!」」

 

 

 

「あーあ、負けちゃった……」

 

 あたしはチョキを出して負けてしまった。

 

「あははっ! 翼さん、変なチョキ出して負けてるし!」

 

「変ではない! かっこいいチョキだ!」

 

 翼は親指と人差し指で作る独特のチョキを出していた。かっこいい……?

 

 

 

「斬撃武器使いが……」

 

「軒並み負けたデス!」

 

 負けたのは、調と切歌とあたしと翼……、ミラージュクイーンも斬撃武器だし、確かに……。チョキが出やすい統計でもありそうね……。

 

 

「好きなものだけじゃなくて、塩分とミネラルも補給出来る物もね」

 

 マリアはあたしたちにそう指示を出す。昔から面倒見のいい子だったけど、変わらないわね。

 切歌や調と一緒に悪ノリしてたら、よく叱られたっけ。年下のクセにとか言ったらもっと怒られた。

 

「むぅーっ……、ん? サングラス?」

 

「人気者なんだから、これかけて行きなさい」

 

「母親のような顔になってるぞ、マリア……」

 

 翼の顔にサングラスをかけさせるマリアは確かにお母さんの表情になっていた。

 あたしもキャロルにこんな顔をしたい……。

 

 

 

 

「切ちゃん、自分の好きなのばっかり……」

 

「こういうのを役得と言うのデース! リア姉のオススメのお菓子はハズレがないのデス!」

 

 切歌はぎっしりと好きなものが詰まった袋を持ってホクホク顔だった。

 

「まぁ、スポーツドリンクとか、熱射病対策になるものも買ったから、マリアには叱られないでしょ」

 

「フィリアはマリアに叱られたことはあるのか?」

 

 あたしが自分の袋を見せると、翼が興味深そうにマリアとあたしのことを聞いてきた。

 いや、マリアにはねぇ……。

 

「リア姉なんて、私たちよりもマリアに怒られてたデス」

 

「悪巧みするのは、大体、リア姉かアナ姉のどちらかだったから……」

 

「ちょっと……、昔の話でしょ」

 

 あたしが言い淀んでると切歌と調が昔話を暴露する。

 

「ふふっ、私もマリアに叱られないようにせいぜい気をつけるか」

 

「気を付けなさい。まぁ、マリアが叱るのはあたしたちの為を思ってのことだけどね……」

 

 まぁ、翼がマリアに本気で叱られるなんてことないと思うけど……。キチンとしてる子だし……。

 

 

 しばらく歩いたあと、響たちの居る方向から煙が立ち上っていることにあたしたちは気付いた。

 

「あれはっ!?」

 

「もしかして、もしかするデスか!?」

 

「行かなきゃ!」

 

 おそらく、オートスコアラーの襲撃……。

 この近くの神社を狙って、さらに――。

 

「ここは危険です! 子どもたちを誘導して安全なところにまで!」

 

「冗談じゃない! どうして俺がそんなことを!」

 

 翼が近くで部活動をしていたように見える子供たちの誘導をガソリンスタンドの店員っぽい服装の男に頼んだが、彼は走ってどこかに行ってしまう。

 

「ちょっと、あなたっ! 待ちなさい!」

 

 たまらず、あたしは彼を呼び止めようとしたが無駄だった。まったく、もう……。

 

「大丈夫。慌てなければ危険はない。フィリア、お前がこの中で一番速い。この子たちは私に任せて、援護に行ってくれ」

 

「わかったわ。コード……、ミラージュクイーン……」

 

 翼の言葉に頷いたあたしはひと足先に戦闘が行われている場所に走った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 あたしがマリアの近くまで辿り着いたとき、彼女はイグナイトモジュールを発動して失敗したからなのか、暴走していた。

 

 くっ、マリアが暴走してしまうなんて……。そして、あれはガリィか……。

 

「うがぁぁぁぁぁっ!」

 

 暴走状態のマリアがガリィに襲いかかっている。

 

「いやいや、こんな無理くりなんかでなく――」

 

「ガァァァァァッ!」

 

「歌ってみせなよ。アイドル大統領!」

 

 ガリィはマリアの頭を掴んで抑えつけられ、地面に強く叩きつけられてしまった。

 

「やけっぱちで強くなれるなどとのぼせるな!」

 

 さらに、ガリィは氷の刃でマリアを突き刺そうとする――。

 

「そこまでよ……。ガリィ……」

 

 ミラージュクイーンでガリィの刃を弾いた。

 

「あらイヤだー、人間と友達ごっこしてる可愛らしいお人形さんじゃなーい……」

 

 あたしとガリィが対峙する。

 キャロルのオートスコアラーが相手だろうと、マリアをこれ以上傷付けるのは許さない。

 

 マリアの体が発光してギアが解除される……。

 

「何、マジになってんのか知らないけど……。間違って壊しちゃうかもねー」

 

「誰に向かって口を利いてるの?」

 

 ガリィの氷の刃を躱して、ミラージュクイーンを伸ばす。

 

「フィリアちゃーん、つよーい! ガリィ、負けちゃうかもー」

 

 ヘラヘラとした表情であたしのミラージュクイーンに貫かれたガリィは水に写った幻影で消えてしまう。

 

「残念でしたー」

 

 ガリィはあたしの背後から攻撃を加えようとした。

 

「残念なのは、こんなチンケな手にあたしが引っかかると思ったあなたの頭よ……」

 

 ――鉄山靠――

 

 あたしはガリィの動きを先読みして、彼女に背中から体当たりを加えた。

 ガリィは吹き飛ばされたが、水のクッションを繰り出して、衝撃を和らげ着地する。

 

「あーあ、これ以上、やり合うとマスターに怒られちゃーう。えーん……、マスターには、フィリアちゃんにイジメられたって言い訳しちゃおうっと」

 

 ガリィは泣き真似をしながらテレポートジェムを取り出した。

 

「じゃあ、そこのハズレ装者さんによろしくー」

 

 そう言い残して、ガリィは消えてしまった。

 

 マリア……、ここからがあなたの正念場かもしれないわね……。

 




調子に乗っていろいろと書いてましたら一話にガリィ戦がおさまりませんでした……。
やっぱり日常パートは止まらなくなるから自重しなくてはなりませんね。
次回もよろしくお願いします!


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風鳴フィリアは小日向未来に疑われてる

前半はマリアVSガリィで、後半は洸登場って感じの回です。
それではよろしくお願いします。


「フィリア……、またあなたに助けられたわね……。情けない。私が弱いばかりに魔剣の呪いに抗えないなんて……。私は……、強くなりたい!」

 

 ガリィたちが襲撃から撤退して、しばらく時間が経ったのだが、マリアはとてつもなく落ち込んでいた。

 

「マリア……、あなたは焦りすぎよ。そんな乱れた心では」

 

「わかってる! でも、フィリアだって答えてくれなかった。私の強いところを! マムも答えを教えてくれなかった……」

 

 マリアは拳を握りしめて声を震わせていた。

 

「あっ……、ボールが……」

 

 エルフナインの声とともにボールがこちらに転がってくる。

 

「ごめんなさい。皆さんの邪魔をしないよう待ってたのですが……」

 

「邪魔だなんて……。練習、私たちも付き合うわ。ねっ? フィリア」

 

「ええ、構わないわよ」

 

「はい!」

 

 マリアの一言であたしはエルフナインのビーチバレーの練習に付き合うこととなった。

 

 

 

「それっ! おかしいなぁ……。さっきみたいに、上手くいかないなぁ……やっぱり……」

 

 なかなか上達しないことをエルフナインは真剣に考察している。いつも、この子は生真面目なのよね。

 

「色々な知識に通じているエルフナインなら、わかるのかな?」

 

「え?」

 

「だとしたら教えて欲しい。強いって、どういうことかしら?」

 

 そんなエルフナインを見て、唐突にマリアは質問を投げかけた。いや、それは無茶ぶりなんじゃ……。

 

「それは……マリアさんがボクに教えてくれたじゃないですか」

 

「えっ?」

 

 しかし、マリアへのエルフナインの回答は直ぐに返ってきた。マリアはその答えを既に知っていると……。

 

「おまたせ〜。ハズレ装者」

 

 海から水が吹き出して、ガリィが再び現れる。計画を実行するつもりね……。しかし、マリアは……。

 

「ガリィっ!」

 

 あたしはミラージュクイーンを出そうと手を開いた。

 

「フィリア、待ちなさい!」

 

「マリア……」

「マリアさん……」 

 

 マリアがそんなあたしを手で制する。

 

「ここは、私に預けてくれる? お願い……」

 

 マリアはあたしに手を出すなと要求してきた。

 

「今度こそ歌ってもらえるんでしょうね?」

 

「大丈夫です! マリアさんなら出来ます!」

 

「Seilien coffin airget-lamh tron……」

 

 エルフナインの言葉に頷き、マリアは聖詠を唱える。マリア……、それならあたしは見守るわ……。強さの答えを見つけるところを……。

 

「ハズレでないのなら、戦いの中で示してみせてよ!」

 

 

 マリアは必死の気迫でガリィに挑むが翻弄されっぱなしだった。

 やはり、イグナイトモジュールを使わないとオートスコアラーの相手は厳しそうね……。

 

 

「てんで弱すぎる!」

 

「――っ! やはりこれを……」

 

 マリアは膝を付き、イグナイトモジュールを使おうとペンダントに手を触れる。

 

「その力……、弱いあんたに使えるの?」

 

「くっ! 私はまだ弱いまま……、どうしたら、強く……!」

 

 ガリィの問いかけに、マリアの心は折れてしまいそうだった。

 

「マリアさん! 大事なのは自分らしくあることです!」

 

「前にマムが言ってたでしょ、強ければ良いってものじゃない。あなたにはあなたならではの力があるって」

 

 エルフナインとあたしはマリアに言葉を送る。彼女は気付くだろうか? マリア=カデンツヴァナイヴという人間の強さに……。

 

「弱い――そうだ! 強くなれない私にエルフナインが気づかせてくれた……。弱くても自分らしくあること。それが――強さ!」

 

 ハッとした表情でマリアは立ち上がり、目に力が戻ってきた。

 

「エルフナインは戦えない身でありながら危険を顧みず勇気を持って行動を起こし……、私たちに希望を届けてくれた。マム、あなたの教えてくれたことが少しだけわかったわ」

 

「ふぅん」

 

「エルフナイン、そこで聞いていて欲しい。君の勇気に応える歌だ! フィリア、見ていてくれ! 頼りない私の意地を! イグナイトモジュール、抜剣!」

 

 変形したギアペンダントがマリアに突き刺さった。

 

「くっ、……。うっうっ……、くはっ……、私は、私は――弱いままこの呪いに反逆してみせるっ!」

 

 マリアは呪いの力を克服して、イグナイトモジュールは正常に起動した。

 そして、ここから、マリアの反撃が始まった。

 

「弱さが強さだなんて、トンチをきかせすぎだって!」

 

 ガリィはアルカノイズを放つ。まったく、面倒ごとを増やして……。

 

「コード、ミラージュクイーン……」

 

 あたしはエルフナインを守りながらアルカノイズたちを斬り裂く。

 

「フィリア! そこは任せた! こっちは私がっ!」

 

 マリアの火力が格段と上がり、アルカノイズを一瞬で殲滅する。

 

「いいね、いいねぇ!」

 

 ガリィはニヤリと笑って嬉しそうな顔していた。

 計画通りに事が進んでいることが余程嬉しいのね……。

 

 マリアはそんなガリィを一刀両断するが、それは水の分身で、彼女の攻撃は空振りに終わって、辺りに無数の泡が舞う。

 

 泡の中に分身をいくつも出現させてガリィは得意の相手を翻弄する戦術をとる。

 

 マリアは銀色の矢を次々と放って泡を撃ち抜く。

 

「私が一番乗りなんだから!」

 

 しかし、ガリィはマリアの背後に現れて挑発的なポーズをとる。

 

 マリアはそんなガリィに肉薄して拳を放つ。

 

「ふふっ、貧弱ねぇ」

 

 ガリィはシールドを展開してマリアの拳を防いでいた。

 

 しかし、マリアのアガートラームが発光すると更に力強さを増して、ガリィのシールドは破られた。

 

 さらに、マリアは強烈なアッパーパンチを繰り出して、ガリィを吹き飛ばす。今の彼女はいつもと覇気が違うわね……。

 

 ――SERE†NADE――

 

 マリアは空に飛ばされたガリィよりも高くジャンプしてアガートラームを巨大化して、炎を纏わせる。

 そして、そのまま猛スピードで突撃し――一閃……!

 

「一番乗りなんだからぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ガリィは絶叫しながら爆発した――。これで、彼女には呪われた旋律が刻まれたことになる……。さらにアレも……。

 

 マリア、見事だったわ。あなたらしい戦いだった。

 

「マリアさん! フィリアちゃん!」

 

 響たちがあたしたちの元に駆けてくる。

 

「オートスコアラーを倒したのか?」

 

「どうにかこうにかね……」

 

 翼の質問にマリアは頷き、答えた。

 

「これがマリアさんの強さ……」

 

「いや、弱さかもしれない――。でもそれは私らしくある為の力だ。教えてくれてありがとう」

 

 マリアはエルフナインにニコリと微笑んだ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 夜になり、あたしたちは、元気になったマリアも含めてみんなで花火をしていると、またもやコンビニに買い出しをすることとなった。

 あたしは先ほどの反省を活かして、パーを出したのだけど……。

 

「負けたのは、あたしと響なんだから、未来は良かったのに……」

 

「こんな夜道でフィリア先輩と響を二人きりになんてさせられません。一人よりも危険です」

 

「あなた、あたしを何だと思ってるの?」

 

 割と本気よりの警戒心をあらわにされて、あたしは困惑していた。

 

「だって、フィリア先輩って前に響のことを好きだって言ってましたし……」

 

「えっ? フィリアちゃんが?」

 

 ずっと前にあたしが未来を焚き付けるためについた嘘をまだ未来は根に持ってるみたいだ。

 

「だから、あれは神獣鏡のギアを起動させるために仕方なく……」

 

「私も一度は信じましたけど、フィリア先輩は響に優しすぎます! 手作りのお菓子なんて普通はあんなにプレゼントしません。包装も綺麗にしてますし……」

 

 未来はあたしが暇つぶしに作った菓子を、最近ハマっているラッピングアートの練習も兼ねて響に渡していることを指摘していた。

 

「私は絶対に渡しませんから。響のこと……」

 

「悪かったわ。自重するから……。大丈夫、絶対に響だけは取らないから。命は惜しいもの……」

 

 未来の気迫に押されて、あたしは謝罪した。この子は絶対にイグナイトモジュールより強い……。

 

 

「すごいよ未来、フィリアちゃん! 東京じゃお目にかかれないキノコのジュースがある!」

 

「死ぬほど、どーでもいいわね……」

 

 自販機の前ではしゃぐ響をあたしは横目で見ていた。

 

「えっ!? こっちはネギ塩納豆味!? アンコウ汁ドリンクって!?」

 

「あれ? 確か君は……、未来ちゃん、じゃなかったっけ?」

 

 コンビニから出てきたのは、さっき子供を置いて逃げていった男だった。どうして、この人が未来を……。

 

「え?」

 

「ほら、昔うちの子と遊んでくれていた……」

 

「あっ!」

 

 男の言葉に未来は彼が誰なのか思い出したみたいだ。

 

「どうしたの? 未来ー」

 

「ひっ、響……」

 

 未来の声で、こちらを振り向いた響はハッとした表情をする。

 

「お父、さん……」

 

「はぁ? この人が、響の父親って……。ちょっと、響、どこに行くのよ!?」

 

 響は顔を真っ青にして走ってその場を立ち去ってしまった。

 まさか、響の父親と鉢合わせするとは……。

 確か、前に響の父親って、家族を置いて失踪したって聞いたけど……。

 

「ちょっと、あなたが響のところから失踪した父親なの?」

 

 あたしは男の腕を掴んで、問い詰めた。

 

「えっ、いやぁ……、ははっ参ったなぁ。未来ちゃん、この子は君たちの友達の妹かい?」

 

「いえ、私たちの学校の先輩でして……、そのう……。フィリア先輩、おっ穏便にしてください……」

 

 あたしが怒りをあらわにしていることに気が付いた未来はあたしの肩を叩いて耳打ちをする。

 

「たははっ……、ずいぶんと俺の印象が悪くなってるみたいだなぁ。なぁ、未来ちゃん、響と話し合いたいんだけどさ、連絡先って教えてもらえるかな?」

 

「はっはぁ、それは構いませんが……」

 

「ちょっと、未来! いくら父親でも響になんの断りもなくっていうのは……」

 

 連絡先を教えてほしいという響の父親の問いかけを了承する未来にあたしは待ったをかける。

 

「でも、会うとか会わないとかは響が決めればいいと思うから……」

 

 結局、未来は響の父親に響の連絡先を教えた。

 本当にこれで良かったのだろうか……?

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「じゃー、ちょーっと行ってくるから先に帰ってて」

 

 ニ年生の教室から響が走って出ていく。

 

「さぁ、追いかけますよ。フィリア先輩」

 

「なんであたしもなの? それにこれは響の家庭の問題でしょう?」

 

 未来から連絡があり、彼女のクラスに向かうと、響が父親と会うからこっそり後をつけようと提案された。

  

「フィリア先輩の言うとおりでした。私、余計なことをしてしまったかもしれません! 響、あれから元気が無くなっちゃって」

 

「もう、遅いし、響だって子供じゃないんだから。会うんだったら、あとは拒絶するなり、受け入れるなりするでしょうよ」

 

 あたしは響の後を追うなんて乗り気じゃなかった。それは友達の踏み込んでいい領域ではない気がしたからだ。

 

「お願いします。私、響が心配で、心配で……」

 

「はぁ……、仕方ないわね。待ち合わせ場所は分かってるの?」

 

「それとなく聞き出しました……」

 

 あたしと未来はこっそりと響が父親の(アキラ)と待ち合わせている喫茶店へと向かった。

 

 

 

 

「――前に、月が落ちる落ちないと騒いだ事件があっただろ?」

 

 洸は響にフロンティア事変の話題を出していた。

 

「あの時のニュース映像に映ってた女の子がお前によく似ててな……、以来、お前のことが気になって、もう一度やり直せないかと考えてたんだ」

 

 やはり洸は響たちの家族と復縁を望んでいるみたいだ。

 

「やり直す?」

 

「勝手なのはわかってる。でも、あの環境でやっていくのは俺には耐えられなかったんだ」

 

 未来から聞いた話だが、奏が亡くなったあの悲劇の生き残りの響は酷いイジメにあっていたらしい。彼女だけでなくその家族も……。

 洸はそういう環境に耐えられなくなり失踪したらしい。

 

「なあ? また皆で一緒に……。母さんに俺のこと伝えてもらえないか?」

 

 洸は自分と響の母親の仲を娘である響にとりなして欲しいと頼んだ。

 

「無理だよ。一番一緒に居て欲しい時に居なくなったのは、お父さんじゃない」

 

 しかし、響は当然のように彼を拒絶した。まぁ、大事なときに居なくなった人間を信頼は出来ないわよね。

 

「やっぱ無理か――。何とかなると思ったんだけどな。いいかげん時間も経ってるし……」

 

 その洸の物言いに、響は思わずギュッと拳を握っていた。

 ついでにあたしも……。

 

「フィリア先輩、抑えてください」

 

 未来があたしの拳を慌てて止める。さすがに手は出さないわよ。多分……。

 

「覚えてるか?  響……、どうしようもないことをどうにかやり過ごす魔法の言葉……、小さい頃、お父さんが教えただろ?」

 

 洸は何やら響に話かけているが、響は怒って帰ろうとした。

 

「まっ、待ってくれ、響!」

 

 慌てて洸は響を呼び止めた。意外と食い下がるわね……。本気で復縁は望んでいるのかしら?

 

「持ち合わせが心許なくてな……」

 

 そう言って、洸は伝票を響に差し出した。じゃあなんで、サンドイッチ食ってるのよっ!

 

 響は伝票を毟り取って、走って店を出ようとしていた。

 

「――未来、あいつぶん殴っていいかしら?」

 

「やめてください……。さすがにそれは……響のお父さんが死んじゃいますから……」

 

 あたしは弦十郎仕込みの正拳突きを繰り出そうと立ち上がったが、未来があたしの腕を握りしめて慌てて止めた。

 

「はぁ……、だったらあたしが響を追いかけるわ。あなただと、付けてきたことがバレたら面倒なことになるでしょう?」

 

「――響の弱ってるところを利用して、心まで奪おうとしないですか?」

 

「いい加減、そこのところは信じてもらえない? はい、これで支払っといて」

 

 あたしは未来にお金を渡して、会計を頼み、響を追いかけた。

 




最後までフィリアに洸を殴らせようとか思いましたけど、普通に事件になりそうなので止めました(笑)
次回もよろしくお願いします!



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信頼という力

原作8話の終わりくらいまでです。
それではよろしくお願いします!


「こんなに暑い日にランニングかしら? 響」

 

 あたしは響に追いつき、声をかけた。

 

「――フィリアちゃん? どうして……、ぐすっ……、あっ……」

 

 響は目から涙が出ていることを隠そうとした。弱いところを見せないようにするのは、この子らしい……。

 

「偶然じゃないわ。さっきまで、あたしはあの喫茶店に居たから……」

 

「えっ……」

 

「たまには、弱いとこ見せたって良いのよ。あたしだって、一応あなたより先輩なんだから、話くらい聞いてあげるわ」

 

「フィリアちゃん……、ふぇぇん」

 

 響はあたしを抱きしめながら、泣いてしまった。言ってみたものの、未来が途端に怖くなってしまってるわ……。  

 

「フィリアちゃんには伝わらないかもしれないけどね。昔はカッコよくて、頼りがいがあって、優しかったんだ。ウチのお父さん……」

 

 しばらく泣いて、落ち着いた響はベンチに腰掛けて自分の父親の話をし始めた。

 

「居なくなったときは、ただ悲しくて……、さっき会ったときは……、どうして……、どうしてなんだろうって……、もっと悲しくなった」

 

 響は以前は良い父親だった洸と今のギャップがかけ離れていてショックを受けていたらしい。

 

「なんで、あんなに簡単に……、やり直したいって言えるんだ……? だって、壊したのはお父さんのくせに……。自分のしたことがわかってないお父さん……。無責任でカッコ悪かった……。見たくなかった……。こんな思いをするなら……、二度と会いたくなかった――。でも……、そもそも私があの事故に遭わなかったら――」

 

「もうそれ以上言わないの……。言いたいことはわかってる。でもあなたは悪くない……。それだけは絶対だから……。あたしはあの日、命懸けで奏が守った生命が響で良かったと心の底から思っているわよ」

 

 あたしは響の手を握った。彼女の手は冷たかった。

 

「ありがと……。やっぱりフィリアちゃんは優しいや……。少し楽になった。ホントだよ」

 

「そうは見えないけど……」

 

「フィリアちゃんの作ったケーキ食べたらもっと元気になるかも。えへへ」

 

「まったく、調子いいんだから」

 

 恥ずかしそうに笑みを見せる響を見て、あたしは軽く彼女の頭を撫でた。

 

「どうして、切歌ちゃんや、調ちゃんがフィリアちゃんを慕ってるのか分かった気がする。フィリアちゃんって、大人なんだね」

 

「あなた……、今さら何言ってんの」

 

 一応、あたしはマリアより年上なんだけどな……。

 

 響はいつもの調子がちょっとだけ戻ったようだった。そんなとき、あたしと響の通信機が鳴り出した。

 

『アルカノイズの反応を検知した! 場所は地下68メートル。共同構内であると思われる。フィリアくんと、響くんは、現場近くにいる切歌くんと調くんと合流し、至急現場に突入してくれ!』

 

「わかった、すぐに向かうわ。響、大丈夫?」

 

「平気、へっちゃらだよっ! フィリアちゃん!」

 

 弦十郎の指示により、あたしたちは現場へと急いだ。

 共同構内……。あたしがフロンティアで作ったレイラインマップも盗み出したみたいだし……。キャロルの狙いは間違いなく――。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あっ! ここデース!」

 

 あたしと響が駆けているのを発見した切歌が手を振っていた。

 

「待たせたわね、二人とも。さっそくだけど、現場に急ぐわよ。油断だけはしないこと」

 

「リア姉……、わかってる。私たちだって、弱いままじゃない」

 

 あたしが二人に忠告すると、調はそう返した。それなら良いんだけど……。

 

 

 

 

 

「フフ、来たな! だけど、今日はお前たちの相手をしている場合じゃないのだゾ!」

 

 ミカがアルカノイズを従えて破壊工作をしていた。

 さっさとアルカノイズ片付けて帰ってもらいましょう。

 

「あのオートスコアラーは強いわ。狭いこの場所では深追いはせずに被害を最小限に収めましょう。いいわね?」

 

 あたしは狭い施設内で暴れると被害が大きくなると懸念して、指示を出す。

 どうせ、ミカもそんなに攻めてくるつもりはないでしょうし……。

 

「フィリアの言うとおりにしといた方がいいゾ。特に、お前とお前は弱すぎたんだゾ」

 

 ミカは切歌と調を指さして挑発的なポーズをとる。

 

「くっ……、そうは言っても、これ以上、連中を放っておけないデス!」

 

 切歌は挑発に乗ってミカに向かって突っ込んで行った。ミカ相手にそれは無謀よ。

 

「遅すぎてびっくりしたゾ!」

 

 ミカは切歌の攻撃を軽く躱して、腕から途轍もない威力の炎を繰り出す。

 

「危ないわ! 切歌!」

 

 あたしは切歌を思い切り突き飛ばした。しかし、あたしの下半身は炎の直撃を受ける。

 

「リア姉ぇぇぇ!」

 

 切歌の絶叫が聞こえる。どうやら、あたしの下半身が焼け落ちてしまったみたいだ。

 

 そういえば、この子たちと戦っているときはここまでやられた事はなかったかもしれない。

 

「よくも切ちゃんと、リア姉を……」

 

「調! 引きなさい! 今のあなたじゃ……」

 

 あたしは再生をしながら、調を止めようと叫んだ。

 

「なんだ? 攻撃してるつもりか!?」

 

 調もミカに攻撃をしようとするが、避けられて蹴飛ばされてしまう。

 そして、さらに結晶のようなものを右手から調に向かって飛ばした。

 

「調ちゃんっ!」

 

 響が身を呈して調を守るように間に飛び込む。

 ミカの攻撃はかなり強力で響は大ダメージを受けて、あたしの側まで吹き飛ばされて気を失ってしまった。

 

 調と切歌は気を失った響と、下半身を再生中のあたしの側に駆け寄る。

 

「歌わないのか!? 歌わないと――死んじゃうゾ!」

 

 ミカはさらに文字通り火力を上げた炎を繰り出した。ちっ、補給する暇がない……。

 再生も不完全でエネルギー供給もままならない内に迫りくるミカの炎を止める方法をあたしは思案していた――。

 ファウストローブを纏う時間もないし……。こうなったら――。

 

 ――水鏡ノ盾――

 

 あたしは再生が不完全なまま立ち上がり、残るエネルギーをすべてを費やして水の盾を錬成させた。

 

「調、切歌、響を連れて出来るだけここから離れなさいっ!」

 

 エネルギーが付きかけて朦朧とする意識の中で、あたしは調と切歌に指示を出した。

 

「リア姉を置いていけないデス!」

 

「そこまでして守らないといけないほど、私たちは頼りないの……?」

 

 切歌も調も言うことを聞かない。頼りないとかそういう次元じゃないわ……。

 

「――だからよ!」

 

「「えっ?」」

 

「あなたたちが大事だからよ! いいから急いで!」

 

 あたしは声を振り絞って出したが、そこで意識が真っ暗になった。エネルギーが完全に尽きたのも……。久しぶりね……。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「はぁ……、ここに来るのも久しぶりのような気がするわ……」

 

「調子はどうですか? フィリアさん」

 

 メディカルルームで目を覚ましたあたしはエルフナインに話しかけられた。

 

「大丈夫。問題ないわ」

 

 あたしはそのまま立ち上がってみせて、体調の回復を主張した。

 

「問題大ありデース!」

「リア姉は無茶しすぎ……」

 

 切歌と調は機嫌が悪そうな顔をしてあたしに詰め寄った。

 だって、あの場はああするしか無かったし……。

 

「私たちが弱いからデスか? 昔からリア姉は私たちを……」

 

「切歌……、それは……」

 

 あたしは切歌の悲哀が混じった顔を見て言葉が詰まった。

 

「確かに、私たちは頼りないし、失敗も多いけど……。それを理由にリア姉に無茶をして欲しくない。だから……」

 

「「もう、半人前扱いしないで!」」

 

 あたしは切歌と調に本気で叱られてしまった。彼女たちはエルフナインからLiNKERを受け取って出ていってしまった。

 

 

「――響、未来、あたし切歌と調に嫌われちゃった」

 

 あたしは目の前で一部始終を見ていた響と未来に話しかけた。

 

「よくわからないけど……、切歌ちゃんも、調ちゃんも、フィリアちゃんが大好きだから怒ったんじゃないかな?」

 

 響は切歌と調の気持ちがわかるような口ぶりだった。

 

「私も無茶して未来に怒られてばかりだから。きっと二人もそうなんじゃないかなって思ったんだ」

 

「フィリア先輩も後先考えないことありますから。無茶ばかりしてると、二人とも自分を責めてしまいますよ」

 

 響と未来はあたしの行動の問題点を教えてくれた。そっか、あの子たちはもう、守られてばかりの子じゃないってことか。

 

「あたし……、行ってくる! 切歌と調に謝ってくるわ!」

 

「あっ、フィリアさん、まだ動いちゃ駄目ですよ」

 

 エルフナインの言葉を背に、あたしは切歌と調に謝罪するために駆け出した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「切歌! 調!」

 

 あたしは神社の近くで切歌と調に追いついた。

 

「二人とも、ごめんなさい。あたしはあなたたちを……、勝手に何としても守らなきゃならないって思い込んでたわ」

 

 あたしは二人に頭を下げる。昔からのクセで年下で小さかった二人をあたしは守ることばかり考えて、成長していることを考えてなかった。

 いつか、マリアが二人を心配して監視しようとしてたことを笑えないわね……。

 

「リア姉が……」

「謝った……」

 

 えっ、あたしが謝るのって、そんなに驚くこと? 記憶が戻ったときとか謝ったじゃない。

 

「切歌も調も強くなってるし、背中を預けられる仲間だと思ってるわ。今なんか、あたしより大きくなってるんだから」

 

「それはリア姉が縮んだだけデス……」

 

 切歌があたしの言葉にツッコミを入れる。

 

「じゃあ、私たちを足手まといとか、頼りないって思ったりは……」

 

「してるわけないわよ。二人のコンビネーションはマリアや翼よりもある意味強い武器だと思ってるわ」

 

 調の言葉に、あたしはそう返した。実際、この子たちのユニゾンは破壊力で言えば他の装者を凌駕している部分もある。

 

「私たちがマリアよりデスか?」

「それは言い過ぎかも……。でも嬉しい」

 

 二人は顔を見合わせて笑いあっていた。

 

 だが、その時である――。

 

 

 轟音とともに神社が炎上し、鳥居の上にミカが突然現れる。

 

『至急応援を送る! それまで持ちこたえ……』

 

「応援は必要ないわ。やれるわよね? 切歌、調……」

 

 弦十郎からの通信に対して、あたしはそう答える。この子たち二人が力を合わせれば、ミカだって負けない。

 最初からもっと信じていれば良かった。

 

 あたしは二人の手を握りしめて、この場を彼女たちに託した。

 

「人から信じて託されるって、こんなに力が湧いてくるのデスね」

 

「うん、切ちゃん……、今なら何でもできる気がする……」

 

「「イグナイトモジュール! 抜剣!」」

 

 切歌と調のギアペンダントが刃と化し、二人の体を貫く。

 作ってて言うのもアレだけど、何度見ても痛そう……。

 

「「ううっ……ああぁぁぁぁっ!」」

 

 二人は苦しそうな表情で呪いに抗っていた……。

 

「私たちを……、信じてくれた……、リア姉に……」

 

「カッコいいところを……、見せるデス……!」

 

 切歌と調は見事にイグナイトモジュールを起動させることに成功した。

 

 

 

「あははーっ!」

 

 切歌と調は確かにパワーアップした。しかし、キャロル曰く4体のオートスコアラーで最強のミカは手強く、彼女らを圧倒していた。

 

「最強のアタシには響かないぞ! もっと強く激しく歌うんだゾ!」

 

 ミカの連続攻撃を何とか弾いたり、躱したりしている二人だったが、少しずつ追い詰められていった。

 

「くっ、これはっ!?」

 

 大量の結晶がミカの手から放たれて、切歌の周りに突き刺さる。

 

 

「切歌! 調! もっと連携を意識しなさいっ! そうすればあなたたちは負けたりしないわ!」

 

「連携……」

「調! 合わせてもらってもいいデスか!?」

 

 あたしの声を聞いた二人は声を掛け合って、武器を構える。

 

「えへへへ〜! このままだとジリ貧だゾ!」

 

 ミカは燃える結晶の雨を降らせながら、身体を真っ赤に発光させて、切歌に攻撃を加えていた。

 

「知ってるデス! だからっ!」

 

 切歌は肩から巨大なアンカー付きの鎖を射出した。

 

「こんなの遅すぎるゾ!」

 

 ミカはを余裕をもって鎖を避ける。

 しかし、鎖はミカの後方にいる調のギアに固定される。

 

 そこから、二人は見事な連携で鎖を利用してミカを捉えて地面に釘付けにした。

 

――禁殺邪輪 Zあ破刃エクLィプssSS(キンサツジャリン・ザババエクリプス)――

 

 固定されたミカに対して、調と切歌は同時に非常Σ式 禁月輪と断殺・邪刃ウォttKKKを繰り出して挟撃した。

 

「足りない出力をかけ合わせて!?」

 

 調と切歌の同時攻撃がミカに炸裂した。

 

「ウッキィィィィッ!」

 

 ミカはバラバラになって砕け散った。切歌と調は見事に最強のオートスコアラーであるミカを撃破した。

 

 

 

 

「まったく、お前が独断専行させてどうすんだ」

 

「フィリアくん、君はどちらかというと止める役割だと思っていたが……」

 

 駆けつけてきたクリスと弦十郎にあたしは説教されていた。

 

「切歌と調なら、必ず勝つと信じただけよ。この子たちは自分に出来ることを、きちんと責任をもってこなすことが出来るまで成長していたから」

 

 あたしは切歌と調の背中を叩いて、そう言った。

 

「うーむ、しかしだなぁ」

 

 弦十郎は渋い顔をして切歌と調を見ていた。

 

「リア姉には私たちが我儘を言っただけデス」

「私たちはまだ未熟……。出来ることは限られている……。それを受け入れて少しずつ先輩に追いつけるように頑張る……」

 

 二人はあたしを庇うようにして、弦十郎にそう伝えた。

 

「あ、ああ。わかっているならそれでいい。フィリアくん、後輩を焚きつけるのは程々にな。どっちが先輩だかわからんぞ」

 

 最後に弦十郎はそうあたしに釘を刺して、あたしたちは解放された。

 

 

 

「リア姉の信頼に応えようと思ったら、いつも以上の力が出た」

 

「誰かの義に応える為に、自分を正して責任を果たすこと――それを正義というなら……、調の言った偽善っぽいデスか?」

 

 調の言葉に対して、切歌は首を傾げる。偽善か……。

 

「ずっと謝りたかった……。薄っぺらい言葉で響さんを傷つけてしまったことを――」

 

 響に偽善者と過去に言ったことを、調はずっと気にしていたが、まだ謝れずにいた。

 お菓子を作って謝るみたいなノリは、ちょっと難しかったらしい。

 

「ごめんなさいの勇気を出すのは調一人じゃないデスよ。調を守るのはあたしの役目デス」

 

 切歌は調のおでこに自分の額を当てて優しく、そう言った。

 

「切ちゃん……、ありがとう。いつも、全部本当だよ」

 

 調は切歌に素直にお礼を言った。この子たちは昔からずっと仲が良いわ……。そして、これからもきっと……。

 

「あーあ、どうやら、あたしは邪魔者みたいね。まったく、見せつけちゃって」

 

「りっリア姉……、そんなことないデスよ」

 

「うん……、邪魔だなんて思ってないよ……」

 

 二人は慌てて、あたしと手を繋ぐ。気を使わせるつもりは無かったんだけど……。

 暖かい二人の手の温もりを感じながら、あたしは少しだけ大人びた顔をした彼女たちが誇らしいと思っていた――。




オートスコアラーとの戦いは基本原作寄りになっちゃうので、何とかストーリーだけは違う感じでまとめてみたのですがいかがでしたでしょうか?
きりしらは周りの目を気にせずに仲の良さを全面に出すところが好きです。
次回もよろしくお願いします!



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父と娘の想い

原作9話に当たる話です。
それでは、よろしくお願いします。


「推して参るッ!」

 

 翼の剣があたしの目の前に差し迫る。

 

「へぇ……、随分と速くなったじゃない」

 

 ギリギリ身を反らせてそれを躱して、ミラージュクイーンで翼の胴を狙う。

 

「何のこれしきっ!」

 

 翼はジャンプしてこれを躱す。

 

「「破っ――」」

 

 あたしと翼は同時に突きを放った。

 翼の剣の切っ先があたしの額の前でピタリと止まる。

 

「引き分けだな……。どうも最近、こればかりだ……」

 

 翼は喉元のミラージュクイーンを見てそう言った。

 

「あら、昨日はあたしが勝ったけど」

 

「一昨日は私の勝ちだった……」

 

「そうだったかしら?」

 

「むぅー、もう一回やるか?」

 

 翼は口を尖らせて、もう一ラウンド勝負したいと言ってきた。

 

「いいわよ。引き分けで終わらせておけば良かったと思うだろうけど」

 

 あたしもミラージュクイーンを構え直す。

 

「ふっ、それはこちらのセリフだ! フィリア!」

 

 そんな折である、司令から新たな任務を預かったのは……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ここが?」

 

「風鳴八紘邸。翼さんの生家です」

 

 マリアの言葉に緒川が答える。

 

「10年ぶり……。まさかこんな形で帰るとは思わなかったな……」

 

「あたしはこの前来たわよ。翼の卒業祝いのゲストに来てくれって言いに。断られたけど……」

 

 翼は10年ぶりの実家に感慨深いという表情だった。確かに彼女の境遇からすると……、そう感じるのは無理もないだろう。

 

「はぁ、フィリアよ、私の為を想ってくれてるのかもしれないが、あの場にお父様を呼ぼうとするのはどうかしているぞ」

 

 翼は呆れ顔をしてあたしの行動を改めて咎めた。

 でも、もう少し押せば何とかなるところまでいったのよ?

 

 ――オートスコアラーの狙い。それは2つあった。

 一つは深淵の竜宮――異端技術に関連した危険物や未解析品を封印した絶対禁区。秘匿レベルの高さからあたしたちにも詳細な情報が伏せられている、拠点中の拠点。

 この場所を狙っていることは、オートスコアラーたちが発電施設などを強襲し、電力の優先的な供給地点を割り出しているという行動から推理できた。

 

 そして、もう一つが――明治政府の帝都構想で霊的防衛機能を支えていた龍脈でレイラインのコントロールを担っていた要所である。

 これは神社などが明らかにオートスコアラーに狙われていた事実から容易に推測できた。

 

 ゆえに弦十郎はあたしたちを2チームに分割した。

 深淵の竜宮を守るチームと、風鳴家にある、要石を守るチームの二チームに……。

 

 

「了解しました……」

 

 緒川はそう言って電話を切った。

 

「クリスさんたちも、間もなく深淵の竜宮に到着するそうです」

 

「こちらも伏魔殿に飲み込まれないように気をつけたいものだ」

 

「そんなに気張らないの。あなたの悪い癖よ」

 

 緒川の報告を聞いて拳に力を入れる翼に、あたしは忠告した。

 そして、あたしたちは風鳴八紘邸へと足を踏み入れた。

 

 

「要石――」

 

「あれが……」

 

 風鳴邸の庭に仰々しく祀っている岩をあたしたちは確認する。

 

 すると、家の中から風鳴八紘が出てきた。

 

「お父様……」

 

 翼はハッとした表情で彼の姿を見ていた。しかし、そんな翼を彼は一瞥もせずに緒川に声をかける。

 

「ご苦労だったな。慎司……」

 

 八紘の言葉に緒川は頷く。そして、彼は今度はマリアの前に行く。

 

「それに、S.O.N.G.に編入された君の活躍も聞いている」

 

「あ、はい」

 

 マリアも声をかけられて返事をする。

 

「アーネンエルベの神秘学部門よりアルカノイズに関する報告書も届いている。あとで開示させよう」

 

「はい」

 

 八紘はそれだけを話して立ち去ろうとした。まったく、相変わらずこの人は……。

 

「あ、お父様!――沙汰もなく、申し訳ありませんでした」

 

 翼は堪らず彼の後ろ姿に声をかけた。顔からは何とも言えない悲しそうな表情が見て取れる。

 

「お前が居なくとも風鳴の家に揺るぎはない。務めを果たし次第、戦場に戻るが――」

 

 八紘が翼を冷たく突き放そうとするのを見かねたあたしは、彼が話し終える前に、彼の近くへ駆け出した。

 

「お久しぶりです。八紘伯父様!」

 

「むっ、フィリアか……」

 

 あたしは八紘の手を握りしめて、出来るだけ愛想よく声をかけた。

 

「もう、伯父様ったら、あれでは翼が可哀想ですわ。少しは会話してくださいまし」

 

 弦十郎に連れられて挨拶に行ったときに、くれぐれも無礼な物言いだけは、この日だけは避けてくれと、彼に頼まれた結果のこの口調である。

 

 おかげで随分と可愛がってもらった。翼の話と引き換えに高級な菓子を貰ったこともある。

 

 とどのつまり、この人は本当は翼を愛しているのだ。

 

「ぬっ……、わかった。わかったから、人前で止めてくれ……。ほら、後で渡そうと思ったが、小遣いをやろう。翼……、まぁ、久しぶりの実家だ。ゆっくり出来るなら、そうしていきなさい……」

 

 彼は動揺していたが、何とか厳格な表情は保って、翼の顔を見て声をかけた。

 あたしは八紘からポチ袋をもらって、翼の隣に歩いていった。

 

「はっ、はぁ……。わかりました。お父様……」

 

「ふふっ、良かったですわね。翼お姉様!」

 

 キョトンとしている翼の手を握りしめて、あたしは翼に声をかけた。

 

「おっ、お姉様? フィリア……、お前、一体……。何か変なモノでも食べたのか?」

 

 翼は若干引き気味の表情であたしを見ていた。何よ、あなたの為に精一杯演技してるのに……。

 

 

 

「――あら、この気配」

 

 あたしが庭の池の方へ視線を向けた瞬間に緒川が銃を抜いて撃ち出した。

 

 しかし、風が銃弾を防ぎ、オートスコアラーのファラが出現する。

 

「野暮ね……。親子水入らずを邪魔するつもりなんてなかったのに……」

 

「あの時のオートスコアラー!」

 

 翼は臨戦態勢に入る。よりによってこっちにファラが来るとは……。翼との相性は……。

 

「レイラインの解放、やらせていただきますわ」

 

「やはり狙いは要石か!」

 

 マリアも身構える。アガートラームもあまり彼女に有効じゃないかも……。

 

死の舞踏(ダンス・マカブル)……」

 

 ファラは独特の動きからアルカノイズたちを繰り出してきた。

 

「ああ! 付き合ってやるとも! ――Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 翼とマリアがギアを纏い、あたしもミラージュクイーンを構える。

 

 そして、アルカノイズたちを次々と蹂躙していった。

 

 

「ここは私が!」

 

 翼は父親の八紘を守るように剣を構えて、彼に声をかけた。

 

「うむ。務めを果たせ」

 

 八紘は淡々とした口調で避難していった。やっぱり、すぐには無理か……。翼は悲しそうな顔をしてしまった。

 

 

「さあ、捕まえてごらんなさい!」

 

 ファラは錬成した竜巻に乗って移動し、翻弄してきた。

 

 ――蒼ノ一閃――

 

 翼はファラの突撃を躱して、アームドギアを巨大化させて、強力な一撃を放った。

 

 

 ファラもソードブレイカーから放つ、風を纏った一撃で、翼の斬撃を相殺した。

 

 ――天ノ逆鱗――

 

 翼は空中に高く舞い上がり、さらにアームドギアを極限まで巨大化させて、彼女の技の中でも最も火力のある一撃をファラにぶつけようとした。

 

「ふふっ……、なにかしら?」

 

 ファラはソードブレイカーで翼のアームドギアを突く。

 すると、まばゆい光が発生して、彼女の剣が砕け散っていく。

 

「何!? 剣が砕かれていく!?」

 

 翼のアームドギアは完全に砕かれて、彼女は吹き飛ばされ、気絶してしまった。

 

「翼!」

 

「私のソードブレイカーは剣と定義されるものであれば硬度も強度も問わず噛み砕く哲学兵装。さあ、いかが致しますか?」

 

「だったら、武術はどうかしら?」

 

「フィリアですか……、ふぅ、あなただけは不安要素ですが……」

 

 ファラは風を利用して舞い上がり、空中から、大量のアルカノイズを撒いてきた。

 

「ファウストローブ無しの武術とやらは、アルカノイズには通じないはずです。その間にわたくしはゆるりと目的を果たしましょう」

 

 アルカノイズであたしを釘付けにした、ファラは強力な風で要石を狙う。

 

「せやぁっ!」

 

 マリアはファラに短剣を投げつける。

 

「無駄よ」

 

 マリアが飛ばした短剣はファラの一撃で砕かれる。そして、ファラの攻撃はそのまま要石に直撃して、要石が砕かれてしまった。

 

「あら? アガートラームも剣と定義されてたかしら?」

 

「哲学兵装……。概念を干渉する呪いやゲッシュに近いのか?」

 

 アガートラームを砕いたファラに対して、マリアは戦慄した表情を浮かべた。

 

「ふふっ、ごめんなさい。あなたの歌には興味がないの。剣ちゃんに伝えてくれる? 目が冷めたら改めてあなたの歌を聞きに伺います、と」

 

 ファラはそう言い残すと姿を消してしまった。なるほど、彼女はターゲットを翼にしたというわけね。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「司令、要石の防衛に失敗したわ」

 

 あたしは弦十郎に防衛失敗を報告した。

 

『2点を同時に攻められるとはな……』

 

「そう……、深淵の竜宮にも現れたのね……」

 

『そのとおりだ。セキュリティが奴らを補足している』

 

 弦十郎によれば深淵の竜宮にオートスコアラーが出現したらしい。

 キャロルも共に……。

 まぁ、普通は驚くわよね。目の前で死んだように見えたのだし……。

 

 そちらの対応にはクリスと切歌と調が向かうみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 あたしは倒れた翼が休んでいる部屋に入った。

 

「そうか……。私はファラと戦って――。身に余る夢を捨てて、なお、私では届かないのかっ?」

 

 翼は目を覚まして、ファラとの戦いに敗れたことを悔やんでいた。

 彼女のソードブレイカーとは相性が悪過ぎる。ファラ以外が相手ならもっといい勝負が出来たのだろうけど……。

 

「翼お姉様……。体調はいかがですか?」

 

 あたしは翼の顔を覗き込んで話しかけた。

 

「わぁっ!? フィリア……、お前、まだその口調なのか!?」

 

「何を仰ってるのか分かりませんわ」

 

 翼は目を丸くして、そう言った。だって、戦闘中みたいに地が出るの嫌だもの。

 

「フィリア! バカなマネはしないの。大丈夫? 翼……」

 

「すまない。不覚を取った」

 

 マリアにまで、怒られる。別にふざけてる訳じゃないのよ。八紘がこのキャラを妙に気に入ってくれたから続けているだけなんだから。

 

「動けるなら来て欲しい。翼のパパさんが呼んでいるわ」

 

「わかった」

 

 ということで、あたしたちは八紘の書斎へ向った。

 

 

 

 八紘の書斎にたどり着き、あたしたちは緒川から資料を渡される。

 

「アルカノイズの攻撃によって生じる赤い粒子をアーネンエルベに調査依頼していました。これはその報告書になります」

 

「アーネンエルベ……。シンフォギアの開発に関わりの深い独国政府の研究機関」

 

「報告によると赤い物質はプリマ・マテリア。万能の溶媒アルカヘストによって分解還元された物質の根源要素らしい」

 

 アルカノイズの分解能力についての解析資料……。分解は錬金術の基本だからね……。

 

「物質の根源? 分解による?」

 

「錬金術とは分解と解析、そこからの構築によって成り立つ異端技術の理論体系とありますが……」

 

「キャロルは世界を分解したあと、何を構築しようとしてるのかしら?」

 

 マリアの疑問の答えはあたしがこの身に持っている。完全体自動人形(オートスコアラー)に備え付けられた最後の機能こそ、キャロルの計画の鍵であった。

 

「翼……」

 

「は、はい?」

 

 八紘は翼の名を呼び、顔を見つめると、翼は少しだけビクッとして彼の方を見た。

 

「傷の具合は?」

 

「――はい。痛みは殺せます」

 

「ならばここを発ち、然るべき施設にてこれらの情報の解析を進めるといい。お前が守るべき要石はもうないのだ」

 

 彼は翼の傷の容態を聞いて、冷たい言葉を浴びせる。

 

「わかりました」

 

 翼はやはり悲しそうな顔をして彼の言葉に答えた。

 

「それを合理的と言うのかもしれないけれど、

傷ついた自分の娘にかける言葉にしては冷たすぎるんじゃないかしら?」

 

「いいんだ、マリア」

 

 マリアが八紘の物言いに噛み付いた。さすがにマリアも腹が立つわよね。

 

「そうですわ。マリア姉様の仰るとおりです。翼お姉様をまずは労ってあげてくださいまし!」

 

 あたしもマリアの援護射撃する。マリアと翼には変な顔をされたが……。

 

「はぁ……、翼……。無理はせずにしばらく休んで行きなさい」

 

「――えっ? そ、そういうわけには……」

 

「フィリアの言うとおり、お前は十分に戦った……。少しくらい休んでもバチは当たるまい……」

 

「わっ、わかりました」

 

 翼はいつもと違う父親の態度に、びっくりした表情を再び浮かべた。どちらかと言うと、こっちが素の態度なんだけど。

 

 

 

「どういうことなのだ? 私はお父様に疎まれているはず……。フィリア、お前はお父様に何をした?」

 

 翼は父親の態度のことをあたしに問い詰めてきた。

 

「何もしてませんわ。翼お姉様」

 

「フィリア、その口調を頼むから止めてくれ。蕁麻疹が出そうだ……」

 

 翼とマリアが本当に気味が悪いという表情をしていた。仕方ないわね……。

 

「そう、何もしてないわよ。ていうか、八紘って翼のこと愛してるから」

 

「バカなことを言うな! お父様が私を愛してるなどあり得ん!」

 

 あたしの言葉に翼は首を大きく横に振って否定してきた。まぁ、口で言ってもわからないか。

 

「だったら、翼の子供の頃に使っていた部屋に行きましょう。答えはそこにあるわ」

 

 あたしは翼が幼少の頃に使っていた部屋に二人を誘った。

 

 翼の部屋に入ろうとすると、散らかりきった部屋が顔を出した。

 

「敵襲!? また人形が!?」

 

 マリアが思ったとおりの反応をする。

 

「あっ……、そのう……、私の不徳だ。」

 

 翼は顔を赤らめて、恥ずかしそうな声を出した。

 

「だからって、10年間そのままにしておくなんて……、幼いころにはこの部屋で、お父様に流行歌を聞かせた想い出もあるのに……」

 

 翼は懐かしそうな顔をして想い出を語った。昔から歌が好きなのね、この子は……。

 

「それにしても、この部屋は……。昔からなの?」

 

「私が片付けられない女ってこと!?」

 

 翼はマリアの問いの意味合いを取り違えて、変な声を出した。いや、昔から片付けられない女だけど……。

 

「そうじゃない。パパさんのことだ」

 

「マリア、気が付いた? この部屋、ずーっと、このまんまなのよ。翼が10年前に出ていってからね……」

 

 あたしがこの部屋を最初に見たのは5年近く前だけど、その時から今までも全く変わってない。そのままの状態が()()されていたのだ。

 

「それが何だというのだ!? やっぱり、私のことなどお父様は何も思ってない証拠じゃないか!」

 

 翼は掃除が苦手だから、この部屋にある違和感に気が付かない。

 

「いいえ、そんなはずないわ。この部屋は散らかっていても、塵一つないのよ。翼との想い出を失くさないよう、そのままに保たれているみたいに……。これは、娘を疎んだ父親のすることではない!」

 

 マリアはこの部屋がきれいにそのままにされていることを指摘した。そう、普通は部屋を10年も放置すると呼吸がしにくくなるほど埃が溜まる。

 現状をそのままにしておくなんて、余程大事にしておかなくては無理なのだ。

 

「まさか……」

 

「あたしも風鳴家に入ったからには、この家が抱える事情も、あなたの事情も当然知っているわ。でもね、八紘伯父様はあなたが夢を僅かでも追いかけられるよう、風鳴の家より遠ざけていたのよ」

 

 信じられないという顔の翼に、あたしは八紘から口止めされていた彼の想いを話す。

 今の翼のメンタルには一番必要なことだと思ったからだ。

 

「そんな……、バカな……」

 

「あなたは愛されているの。――ねぇ、八紘伯父様……」

 

 あたしは部屋の側で立ち聞きしてた八紘に話しかけた。

 

「はぁ、お喋りな姪を持ったものだ……。それは言わぬ約束だったではないか。フィリア……」

 

 八紘は観念した表情で翼の部屋に入ってきた。

 

「お父様……、では、本当に……」

 

「翼、これは私の独り言だ……。風鳴の道具にも、剣にもならなくていい。夢を見続けることを怖れるな。お前の歌には力がある。歌い続けろ……」

 

 八紘は翼にそれだけを伝えると書斎の方に戻って行った。

 翼は涙を流しながら呆然としていた……。

 

 

 

「フィリア……、どうして口止めされていたことを翼に話したんだ?」

 

 マリアがあたしに話しかけた。そんなこと決まってるじゃない。

 

「翼のことを……、家族のように想ってるからよ……。マリア、あなたと同じでね……」

 

「どうした? 捻くれ者のフィリアが今日は随分とセンチなことを言うじゃない」

 

 マリアはニコリと笑って、あたしの顔をジロジロ見ていた。

 それは、多分……。あたしがこれから――。

 

 

 

「緒川……。そんなものをあたしに向けても効果がないことは知ってるはずよ」

 

 あたしは頭に銃口を突きつけている緒川に声をかけた。

 

「風鳴フィリアさん、S.O.N.G.の本部に出向してください。あなたには背信の疑いがかけられています。あなたはキャロル=マールス=ディーンハイムから送られた内通者だという……」

 

「なっ、フィリアがそんなことをするはず!」

「緒川さん、何かの間違いじゃないですか? フィリアが……」

 

 緒川の言葉にマリアと翼が驚愕を隠せない顔をしていた。はぁ、なかなかどうして、あたしが居るこの組織の人間は優秀なのだろう。

 

 優秀すぎるのも考えものよね……。

 

「いいわよ、行きましょう。ここで、暴れて翼とマリアの二人を相手にしても楽しくないもの」

 

 あたしはそう言って、緒川に連れられてS.O.N.G.の本部――風鳴弦十郎の元へと戻った。

 キャロルの計画実行まであと僅か……。運命の歯車はゆっくりと動き始めていた。

 




フィリアの不審な行動がさすがにバレてしまったみたいです。
GX編もそろそろクライマックスに突入します。
次回もよろしくお願いします!


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終焉へのプレリュード

原作の10話に相当する話です。
もうすぐGX編もクライマックス!
それではよろしくお願いします!


「あたしを尋問って聞いたけど……。大丈夫なのかしら? 拘束もせずに、司令室に入れちゃって」

 

 あたしはS.O.N.G.の司令室に連れ戻されて、弦十郎と対面している。

 

「フィリアくん。君が敵側だなんてオレは疑いたくない。だから、質問に答えてくれ。なぜ、ファウストローブが使えないと嘘を付いた?」

 

 弦十郎は淡々とした口調であたしに問いかけた。やっぱり、この前、ミカにやられたときに身体のデータを詳細に取られていたか。

 そして、あたしがキャロルのオートスコアラー相手に手を抜いていることもバレているみたいね……。

 

「あたしが守りたい者ためよ……。つまり、自分勝手なエゴってこと。そういう意味ではS.O.N.G.を裏切ったと言われても弁解するつもりはないわ」

 

「守りたい者というのは、キャロル=マールス=ディーンハイムのことか?」

 

「ええ、あたしは大切なあの子を守りたいの。何としてでもね」

 

 あたしは弦十郎の言葉を肯定した。キャロルはあたしの大切な人。そして、最愛の人の忘れ形見……。

 このまま放って置くわけにはいかない。

 

「そうか……、君はもう記憶が戻っているのだな」

 

「さすがは司令。察しがいいわね。あたしはキャロルが目的を果たすために作られた最後のオートスコアラーよ」

 

 あたしは両手を広げて、そう言った。弦十郎を相手に一戦を交える覚悟で……。

 

「おいおい、ここで戦おうってか? 君がそんな短絡的な思考者なはずがない。それに……、君はオレたちの敵じゃないだろう?」

 

「はぁ? 内通者だって疑っているんでしょ? 敵だと思ったからじゃないの?」

 

 あたしは弦十郎が呆れ顔をしているのに対して抗議した。

 

「君が本気でここを潰す気ならとっくにやっている。それに、ギアペンダントの修復と強化もLiNKERの改良にも尽力している。そんな君を敵だと思うはずないじゃないか。装者たちも君から少なからず守られているしな」

 

 当然、というような口調で弦十郎はそう返した。

 

「じゃあどうして、あたしをここに呼んだの?」

 

「だから、わからないんだ。君はキャロルの味方にも見えるし、オレたちの味方にも見える。不確定な要素が多いなら、ここで動かないで居てもらったほうがいい」

 

 余計な動きをさせるくらいなら目の届く場所にってことね。だとしても拘束しないのは……。

 

「甘いわね……」

 

「性分だよ」

 

 あたしたちは、翼たちからの連絡を待ちながらクリスたちの様子を見ることにした。

 

 まずは翼からオートスコアラーのファラを撃破したという連絡が来た。翼がイグナイトモジュールを使用して破壊したとのことだ……。

 

 これで残るオートスコアラーはレイアのみ……。

 

 

 

 そして、キャロルたちはヤントラ・サルヴァスパという、チフォージュ・シャトーの起動に必要な装置を盗み出していて、クリスたちと逃走戦を繰り広げていた。

 

 海底で施設が破壊されると大惨事確定なので、クリスは得意の戦法を封じられて大苦戦しており、キャロルたちの逃走を許してしまう。

 

 その後の追跡も巧みにキャロルたちは躱していた。まるでこちらの動きが読めているように。

 

「俺たちの追跡を的確に躱すこの現状! 聖遺物の管理区域を特定したのも、まさか、こちらの情報を出歯亀して……」

 

「それが仕込まれた毒。内通者の手引だとしたら……」

 

 藤尭はあたしの顔を見た。まぁ、それに関しては何もしてないんだけど、疑われて然るべきよね……。

 

「そんな、まさかフィリアさんが……、キャロルに情報を……」

 

 エルフナインはいまさら驚いた顔をしていた。

 

『フィリアではない、お前だよエルフナイン』

 

 エルフナインの体から立体映像のような形でキャロルが現れた。

 

「これは、一体!?」

 

「な、何で!?」

 

 弦十郎と藤尭は目を見開いて投射されたキャロルを見る

 

「キャロル……、そんな――ボクが、毒?」

 

 エルフナインは泣きそうな顔をして、愕然としていた。

 

 

「お願いです! ボクを拘束してください! 誰も接触出来ないよう独房にでも閉じ込めて! いえ、キャロルの企みを知らしめるというボクの目的は既に果たされています。だから……、だから……、いっそボクを……」

 

「殺しなんかしないわよ。ねぇ、司令」

 

「えっ!?」

 

 弦十郎がエルフナインの頭に優しく手を置いた。

 

「なら良かった。エルフナインちゃんが悪い子じゃなくて」

 

 友里は普段通りの口調でエルフナインに話しかける。

 

「敵に利用されただけだもんなぁ」

 

 藤尭もそれなら仕方がないという口ぶりだ。この二人は常識人っぽいけどこういうところはホントにお人好しだ。

 

「友里さん、藤尭さん……」

 

 エルフナインは涙ぐみながら彼らの顔を見ていた。彼らの優しさが突き刺さったのだろう。

 

「どうせ、フィリアくんはそれも知っていたのだろう?」

 

「もちろん。あたしもエルフナインもキャロルの監視下よ」

 

「そうか、フィリアくんも……」

 

 弦十郎は少し考えるような動作をして頷いた。

 

「とにかく、エルフナインくんの目的はキャロルの企みを止めること。そして、そいつを最後まで見届けることだ」

 

「弦十郎さん……」

 

「だからここにいろ。誰に覗き見されようとも構うものか」

 

「は、はい……」

 

 弦十郎はエルフナインがキャロルの監視下にあっても構わないとはっきりと宣言した。司令としてはどうかと思うけど、この風鳴弦十郎という人間といのは、だからこそ尊敬するべき人だし、あたしはこういう人の娘になれて良かったと思っている。

 

「ちっ……。フィリア、わかっているな……?」

 

 キャロルはあたしの顔をジッと見て……、確認するような表情をしていた。わかってるわよ。そんなに怖い顔しなくても……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ヤントラ・サルヴァスパを手にしたキャロルとレイアに追いついたクリスたちだったが、キャロルだけはテレポートジェムを使って逃げてしまう。

 

 クリスと切歌と調はレイアと戦うこととなるが、やはり海底の施設という場所が邪魔をして彼女たちは苦戦を強いられる。

 

 しかし、クリスがイグナイトモジュールを起動させると形勢は逆転。彼女は見事にレイアを撃破する。

 

 これで、すべてのオートスコアラーに呪われた旋律が刻まれた――。

 

 いよいよ、チフォージュ・シャトーが動き出し、キャロルは世界を分解し、万象黙示録の完成へと行動を開始することとなった。

 

 

 さて、あたしもそろそろと行きたいところだけど……。

 

 

「この海域に急速接近する巨大な物体を確認! これは!?」

 

 藤尭はレーダーを確認して大きな声を上げる。

 

「いつかの人型兵器か! 装者たちの脱出状況は!?」

 

 クリスたちは急いで潜水艇に乗り、脱出しようとしている。

 

「司令! あたしが出るわ! あのデカイヤツの相手が出来るのはあたしだけでしょう?」

 

「――ふぅ、頼めるか。フィリアくん」

 

「ええ、任せなさい。コード……、ファウストローブ」

 

 あたしはレイアの妹という巨大な機械人形を止めるために、ファウストローブを身にまとった。

 

 

 

 クリスたちの乗った潜水艇が着艦した瞬間に本部が急浮上して海上に顔を出す。

 

 あたしは潜水艦の上でレイアの妹が浮上してきたところを迎え撃つ。

 

「まったく、キャロルはあたしもこれに乗ってることを忘れているのかしら?」

 

 あたしは両手をレイアの妹のボディに向けてかざした――。

 

 ――雷神ノ鎚(トールハンマー)――

 

 レイアの妹目掛けて、極限までエネルギーを充填させて、巨大な雷撃を放つ。

 

 雷撃はレイアの妹の上半身を焼き尽くし、消滅させ、下半身は海へと沈んだ。

 

「涼しい顔して終わらせやがって、こちとら大慌てで出てきたっていうのによぉ」

 

 ミサイルと共に空中に出てきたクリスは口を尖らせながら、あたしに話しかけた。

 

「でも、まぁ、あたしじゃ間に合わなかっただろうし……。お前が居てくれてよかったぜ。フィリア、お前もスパイの疑いなんてふざけたもんをかけられてたみたいだが、これで……」

 

「これで……、何かしら? クリス……」

 

 あたしは隠し持っていたテレポートジェムを取り出しながら、クリスに尋ねた。

 

「おいおい、なんの冗談だ? それは、連中の……」

 

 クリスはテレポートジェムを確認すると、みるみる顔が青くなった。

 

「ええ、キャロルにもらったテレポートジェムよ。クリス、楽しかったわ。あなたと夜通し遊んだり、勉強したり、料理を作ったり……。あなたのような子が友達であたしは幸せよ」

 

 あたしはテレポートジェムを投げて、チフォージュ・シャトーへ移動しようと錬成陣を展開させる。

 

「なんで、そんなこと言うんだよ! だったら、これからも一緒に――」

 

 クリスは手を伸ばしたが……、あたしは彼女の呼びかけに応えることが出来なかった……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「フィリア、大義であった。随分と連中と仲が良いのが少し気になったがな」

 

「何もかも簡単に切り捨てられるわけないでしょう。あの子たちはあたしの大切な人たちなんだから」

 

 キャロルの言葉にあたしはそう返した。この点だけはもう嘘を付きたくない。

 

「情が深いお前らしい。しかし、断ち切ってもらうぞ。チフォージュ・シャトーが起動すると、奴らはここを狙ってやって来るだろう。お前にも防衛は手伝ってもらうことになる」

 

「気が進まないけど、務めは果たすわ」

 

 あたしはそう答えて、キャロルがチフォージュ・シャトーを起動させるのを見守った。

 

 

 

 

 

 天が割れて、首都庁の上空にチフォージュ・シャトーを転移させる。

 あとはエネルギーを充填させて、キャロルが世界を壊す歌を歌えばこの世界の分解は開始される。

 

「さぁ、フィリア、お前に刻んだ最後の機能を、開放させるんだ」

 

 キャロルはあたしの身体に搭載された、この計画に必要な機能の開放を指示した。

 

「ええ、最後のキーワード……。コード……、クロノスモード……」

 

 あたしがキーワードを口にすると、チフォージュ・シャトーからエネルギーが流れ込み、銀髪が金色に染まり、身体が黄金の光に包まれる。

 

「正常に起動したわ。もっとも、時を超えて移動するにはまだ、知識不足だけど」

 

 あたしはクロノスモードの起動を確認すると、すぐにこれを解いた。大丈夫……、この力があれば……。

 

「これで時空を操る神の器が完成した。オレが万象黙示録を完成させ、この世界のすべてを知れば思いのままに時を操ることさえ出来るようになるだろう!」

 

 世界の存亡をかけた死闘の時が確実に近付いていた――。

 




尺の都合でクリスの見せ場がカットになってしまいました。竜宮の深淵と風鳴八紘邸のエピソードが同時進行でしたから、仕方なかったのですが……。
次の絶唱しないでは、クリスの出番を増やしてみようと勝手に思案中です。

そしてフィリアの最後の機能、クロノスモードが起動しました。
詳しい能力についてはまた次回……。



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世界を壊す歌と時空の神

GX編も残り僅かとなりました。
それでは、よろしくお願いします!


「フィリア、お前のよく知る人物が近くに居るぞ。父娘揃ってな。さっそくだが、邪魔者を――」

 

 響と彼女の父親の洸の姿がキャロルによって映し出される。

 あの子、もう一度、父親と向き合おうとしたのね……。勇気を振り絞って……。

 

「わかってるわ。排除すればいいんでしょ?」

 

 あたしは近くに来ていた響の元に向かった。

 

 

 

 

 

「こういう映像って、どうやってテレビ局に売ればいいんだっけ?」

 

「いいかげんにしてよ、お父さん!」

 

 携帯をチフォージュ・シャトーに向けている洸に怒りをあらわにする響。

 やっぱり、こいつ殴ろうかしら?

 

「響、もうその男はダメよ。諦めなさい」

 

「フィリアちゃん! なんで空から? 居なくなったってみんな心配してたんだよ!」

 

 響はびっくりした顔であたしを見ていた。記憶が戻ったついでに、空を飛ぶ術もファウストローブを纏った状態なら使えるようになったのよね……。

 

「ごめんなさい。ちょっとだけ、用事があるのよ。で、響にお願いがあるんだけど聞いてくれる?」

 

「えっ? うん、いいけど」

 

 あたしの言葉に響は頷いた。

 

「しばらく、あたしとキャロルを放っておいて欲しいの。翼たちにもそうして貰うように言ってくれないかしら? あたしはあなたたちに怪我して欲しくないから」

 

「あははっ、何言ってるのか全然わからないよ、フィリアちゃん。だって、それじゃあフィリアちゃんが……」

 

「キャロルの味方みたい、ではなくて、あたしはキャロルの味方なの」

 

 あたしの言葉があまり理解出来ていないような響にあたしはそう告げる。

 

「あれは、チフォージュ・シャトー。アルカノイズを発展応用した世界をバラバラにする解剖機関よ……。これから、キャロルは世界の分解を開始する。あなたたちは、これを止めようと動くでしょ? それをやめて欲しいのよ」

 

 響たちは恐らく必死になってキャロルを止めようと戦うだろう。しかし、そうなると圧倒的な力をもつキャロルに彼女たちはやられてしまう。

 あたしはそうなる前に響たちには撤退してほしかった。

 

 

「フィリアちゃんが、そんなバカなこと言うなんて思ってなかった。だったら、私がフィリアちゃんを連れて帰る」

 

 響がギアペンダントを出してきた。聖詠を唱えるつもりね……。

 

「そう、残念だわ……」

 

 あたしは指から風を繰り出して響のギアペンダントを吹き飛ばした。

 

「あっ――」

 

「ギアを纏わせるわけにはいかないわ。ほら、これでわかったでしょ? 早く帰りなさい」

 

 彼方に飛んで行ったギアペンダントを見つめて、響は愕然としていた。これなら、彼女は戦えない。もう、諦めて――。

 

「嫌だ! フィリアちゃんと一緒に帰る!」

 

「うるさいわね! このバカ響!」

 

「バカはフィリアちゃんだもん!」

 

「あなたにバカって言われたくないのよ! 早く帰りなさい!」

 

 あたしは手のひらから、再び加減した風を繰り出す。

 

「危ない! 響!」

 

 そんな折に、洸が響を抱きしめて庇うようにして風を避ける。

 ふーん。少しは父親としての自覚はあるんだ……。

 

「でも、どうせまた逃げるんでしょう? たとえ、響が死ぬとしても……。あたしはあなたを許さないわ! この子、あなたの姿を見て、自分が事故から助かったことさえ呪ったのよ! この意味、わかる!?」

 

 あたしは洸に向けて手をかざした。手に炎を凝縮させながら。

 

「くっ――確かに、俺は逃げてばかりだった。娘の響は本気で勇気を振り絞って会いに来てくれたのに、それからも目を背けて……」

 

「そうよ、あなたはこれから響の父親であることも止めなさい。その方がお互いのためよ。わかったら、そこをどいてもらえる?」

 

 俯きながらも響の前から動かない洸にあたしはそう声をかける。

 

「嫌だ! どんなに、どこまで逃げても、俺はこの子の父親であることだけからは逃げられない。響! 今のうちに逃げろっ!」

 

「お父さん?」

 

「このくらい――へいき、へっちゃらだ……」

 

 必死に響を守ろうとする洸は、後ろにいる響に顔を向けて、響が口癖のようにつぶやいているセリフを言った。

 

「――っ、その言葉……。そっか、あれはお父さんが……」

 

「最後にいいところ見せたら、チャラになるなんて思わないことね!」

 

 あたしは炎纏った拳を洸に当てようと、上空から舞い降りて、彼に肉薄した。

 

 ――そして、彼の顔前でピタリと止める。

 

「ふーん、そんくらいの勇気があるなら、もうちょっと早く出せば良かったわね」

 

「フィリアちゃん……」

 

「……響、ごめんな。俺は大馬鹿者だ」

 

 洸はうなだれるようにして、響に謝罪した。

 

 

「お父さん……。――っ」

 

 響はその言葉を聞いて、一心不乱に駆け出した。飛ばされたギアペンダントの方に……。

 結局、あたしの甘さがいけなかったか。

 

「Balwisyall nescell gungnir tron……」

 

 ギアペンダントを握りしめて、響はシンフォギアを身に纏う。はぁ、この子とは戦いたくなかったわ……。

 

「フィリアちゃん。やっぱり、どこに行っても優しいままだった。だから、絶対に連れて帰るね」

 

「余計なお世話よ。悪いけど、向かってくるなら手加減しないわ……」

 

  あたしは響と同じ構えをとって彼女を迎え撃つ。

 

 響の拳が、蹴りがあたしの身体を捉えようと、とんでもない速さで繰り出される。

 

「へぇ、やっぱり強いわね……」

 

「あっ、当たらない!?」

 

 彼女の繰り出す肉弾を、あたしはギリギリで躱し続ける。そりゃあ、弦十郎と組手してるからこれくらいは……。

 

 ――千鳥(チドリ)――

 

 雷撃を纏った超速の掌底を響に繰り出した。 

 

「負けるもんかぁぁぁぁぁっ!」

 

 響も負けじとギアの出力を上げて拳を繰り出す。

 

 大気を震わせる程の轟音が鳴り響き、あたしの掌底と響の拳がぶつかり合い、二人は共に吹き飛ばされる。

 デタラメな力ね……。しかも、こっちが攻勢に出た瞬間にそれに合わせるなんて、センスもずば抜けている……。   

 

 

 ――それに……。

 

 

 あたしの目の前に巨大な剣が落ちてくる。

 

 

「翼……、それにみんな揃って……」

 

 アームドギアの上に翼が……。ビルの上には他の4人の装者たち……。

 思ったよりも動きが早かったか。

 

「フィリア! お前が何を思ってキャロルに協力しているのかは知らんが! 友として、見過ごすわけにはいかん!」

 

 翼があたしの前まで飛び降りて、厳しい表情でこちらを見ている。

 

「あたしとしては、友人として怪我する前に帰って欲しいわ……」

 

 あたしは翼の言葉にそう返した。帰るはずないのはわかってたけど……。

 

「フィリア、諦めろ……。お前が連中のことを大事にしていることは分かったが、それ以上は看過できん」

 

 あたしだけでは手に余ると判断したのか、キャロルが空中から降りてきたのだ。

 

「一つだけ聞きたい! 世界を分解してその後、あなたはどうするつもりなの!?」

 

 マリアはビルから飛び降りて、あたしとキャロルの目の前に近付く。

 

「時を移動する方法を突き止め、400年の時を遡り! 父を助け出す!」

 

「時間を遡る!? そんなことが可能なの!?」

 

 マリアは思ったよりも荒唐無稽な話をされて、驚愕していた。

 

「可能だ。目の前に居るフィリアがそれを証明している。オレとフィリアは400年前に出会ったのだからな! 原因は確か、お前の妹だったか? セレナ=カデンツヴァナイヴの絶唱の影響で時空に歪みが生じ、フィリアは400年前の欧州に飛ばされたのだ」

 

 キャロルはあたしが400年前に飛ばされた話を口にした。

 

「せっ、セレナの絶唱で? 確かにあの後、フィリアも居なくなったけど……、まさか過去の世界に行っていたなんて……」

 

「嘘みたいな話だが、そんな嘘をついても何の得もない。しかし、キャロルの父とやらをフィリアがこのような事に手を貸してまで助けようとする理由がわからん」

 

 マリアと翼は時を遡ったことは意外とすんなり受け入れていた。

 

「結婚の約束をしていたのよ。キャロルの父親と」

 

「「結婚っ!?」」

 

 その場にいる全員が同時に声を上げた。そんなに驚くところ? 400年前に行ったことの方がよっぽど驚くところだと思うけど……。

 

「フィリアちゃんがキャロルちゃんのお父さんと結婚の約束……?」

 

「だけど、約束をしただけということは……」

 

 響と調が何かを察したような顔をした。

 

「ええ、キャロルの父親、イザークは村で流行っていた病を治していたんだけど……。彼が必死で人助けの為に研究した成果は奇跡で済まされて、彼は資格なき奇跡の代行者として焚刑に処せられて殺されたの。あたしたちの目の前でね……」

 

 あたしはイザークの亡くなった顛末を説明する。だから、キャロルの計画に口も出したし、この身を人形に変えた。

 

「なんつー、救えねぇ話だ……」

 

 クリスは悲しそうな顔をしてあたしを見ていた。

 

「過去に戻ってイザークを救い出す。あたしはその為にオートスコアラーになったの……」

 

 あたしはみんなに自分の過去の話を告げた。

 

 

 ――沈黙が少しの間、この場を支配する。

 

 

 そして、それを破ったのは翼だった。

 

「フィリア、お前の惚れたイザークさんとやらはいい男だったのか?」

 

「ええ、もちろん。どこまでもお人好しで……、人助けにひた向きで一生懸命だった彼をあたしは愛していたわ」

 

 どこまでも、真っ直ぐな翼の視線を見つめ返してあたしは答えた。

 

「そうか――ならばその、イザークさんの為にも私はお前たちを止める! お前が惚れるような男が世界を破壊しようなど、望むはずなかろう!」

 

 翼の言葉にみんなが頷き、戦闘態勢をとる。

 

 まったく、こんな子たちだから……、あたしも目を覚ますことが出来たのでしょうね……。

 

 ――しかし、時間は稼げた。あたしは何の意味もなく身内話をしたわけじゃない。

 

 チフォージュ・シャトーのエネルギーが充填されるのを待っていたのだ。無駄にキャロルと彼女たちが戦わないように……。

 

「もう、遅い! 今からオレたちは本懐を遂げる。どれだけ想い出を償却しようとも!」

 

 キャロルはダウルダブラを奏でてファウストローブを身に纏う。

 

 歌うつもりね……。《世界を壊す》歌を……。

 

 キャロルは世界を分解するための歌を歌い始めた――。

 

「嗚呼、終焉へ――♪ 殺戮の福音に――♪」

 

 キャロルからは信じられない程の量のフォニックゲインを放っていた。

 

 

「宇宙が――♪ ――太陽が……♪」

 

 キャロルが両手を広げて、黄金の竜巻を放つ。

 その凄まじい威力はまるで絶唱のように強力だった。いや、それをも遥かに凌駕する規格外の威力。

 

 それも……、キャロルには全くの負荷はかかっていない。

 あたしがキャロルの計画を中途半端な状態で止めなかったのは、彼女自身の強さが理由だ。

 

 この力に対抗するには、あたしもそれ相応のエネルギーが必要なのだ。

 

 響たちも思った以上のキャロルの強さにたじろいでいた……。

 

 

「愛など――♪ 愛など――♪」

 

 キャロルはニヤリと笑う。いよいよ、あれが発動する……。

 キャロルの歌に共振してチフォージュ・シャトーのエネルギーが高まり――地表へと照射された――。

 

 レイラインマップに沿って、世界中をチフォージュ・シャトーから照射されたエネルギーが覆う。

 

 

 

「フィリア! お前もそろそろ猿芝居を止めたらどうだ!?」

 

「お前がテメーの都合で世界を壊そうとするはずねぇ! 性格が悪ぃ、お前のことだ。何か手があるんだろ!」

 

 翼とクリスがあたしの元に近付き、真剣な顔でそう言った。

 はぁ、あなたたちには敵わないわね……。なんで、無条件にあたしのことを信じられるのよ……。

 

「猿芝居は余計よ。言っとくけど、キャロルを守りたいって気持ちは本当だから……」

 

 このタイミングであたしも切り札を発動する……。

 

「コード、クロノスモード……」

 

 あたしの髪色は銀から金に変わり、黄金の光が身体を覆った。

 

「フィリア! 何をしている!? まだ、世界の分解は終わってないぞ!」

 

 キャロルはギロリとあたしを睨みつけた。計画ではこのモードは万象黙示録が完成後に発動させることになっていたからだ。

 

「世界の分解して、すべてを知れなんて彼は望んでいないわ……。あたしは、彼と同じくらいお人好しで人助けに一生懸命になっていた子を知っている! だからこそ、わかった。彼の命題の答えはそんなものじゃない!」

 

 あたしはキャロルに本心を伝える。言葉でわかってもらえるはずがないことは理解できていたけど……。

 

「まさか、オレを裏切る気か! この状況で……!」

 

「いいえ、あなたを救う! それが義理でもあなたの母親になるって決めたあたしの責任だから!」

 

「母親気取りは止めろと言ったはずだ! 世界の分解はもう始まった! 何人たりとも止められやしない!」

 

 キャロルは怒りの形相を浮かべて、あたしにそう言い放った。

 

「それはどうかしら? 忘れたの? あたしの身体は大量のエネルギーを取り込む依代になるために創られているの。つまり、このシャトーから放たれたエネルギーも……」

 

 あたしはチフォージュ・シャトーから放出された分解の為のエネルギーを吸収し始めた。

 本来、糖の分解で蓄えられるエネルギーの限界値はクロノスモード時に限って大幅に増幅される。

 もっとも、このモードを維持するのにも規格外のエネルギーを消費することになるが……。

 

 世界の分解を始める前にチフォージュ・シャトーの全エネルギーをこの身に集める――。

 

 そして、既に壊されてしまった部分は――。

 

遡行する時間(ループ・ザ・ワールド)……」

 

 あたしはチフォージュ・シャトーによって破壊された部分の時を戻し、元通りに復元した。

 

「壊れされた部分が巻き戻って元に戻ったデス……」

 

「リア姉は本当に時間を操っている……」

 

 切歌と調は目の前で壊されたモノが修復されたことに感嘆していた。

 

「バカな! 確かに、チフォージュ・シャトーからエネルギーを受け取る機能は取り付けたが、一度放出されたエネルギーを取り込めるなど――」

 

「出来るのよ、呪われた旋律を刻み込んだイグナイトモジュールには僅かな量だけどミラージュクイーンでコーティングされた部分があったの。呪われた旋律を元に増幅されたエネルギーをこのファウストローブに共鳴させるために……。以前にフィアナから受けた制御光線に対処するための実験用に作った、特殊な溶接剤が役に立ったわ」

 

 あたしは制御光線に対抗するための手段を考えるために、実験用にミラージュクイーンを溶かして希釈したスプレータイプの溶接剤を作っていた。 

 イグナイトモジュールの製造時にはこれを時折使っていたのだ。

 

 その結果、オートスコアラーたちに刻まれた呪われた旋律にミラージュクイーンの力も組み込まれ、あたしのファウストローブに共鳴して、この身にエネルギーを集中させることが可能となったのだ。

 

「もう、やめましょう。チフォージュ・シャトーのエネルギーの大半はあたしの中。本当はあなただってわかってるはずよ。イザークがこんなことを望んでないことくらい」

 

 あたしはキャロルに戦いをやめるように呼びかけた。

 

「そんなのわかっている! だけど!  殺されたパパの無念をどう晴らせばいい!? まだだっ! まだ終わっていない! フィリアの中にエネルギーがあるのなら、それを奪い返すまでだ!」

 

 キャロルにはあたしの声は届かなかった。そして、あたしに対して殺気を漲らせる。

 

 翼たちはあたしの前に立って身構える。イグナイトモジュールの発動の準備をして……。

 

「お願い! 今回だけは手を出さないで! この子はあたしの娘も同然――あたしが決着をつける!」

 

 あたしはみんなを手で制して、前に出る。

 

「フィリアちゃん……、キャロルちゃんに手を差し伸べるんだね」

 

「ええ、あなたのバカが感染ったみたい」

 

「ふぇぇっ!? フィリアちゃんはこんな時にも辛辣だー」

 

 あたしの言葉で相変わらず大袈裟なリアクションをした。

 

「褒めてるのよ。一応……。響、あなたのおかげであたしは――変わることが出来た。今だから言うけど、あたしはあなたが好きみたい」

 

「えへへ、フィリアちゃんに告白されちゃった。あっ! でも、私には未来が……」

 

「バカ、冗談よ……」

 

 顔を真っ赤にしている響を横目に、あたしは空中に浮き上がりキャロルの元に向かった。

 

 

「フィリア、お前だけはオレを理解していると思っていたが……、残念だ……」

 

「理解しているわ。あなたはとても優しくて、天真爛漫で、賢い子よ。だからこそ、あなたと共にイザークの真意を突き止めたい」

 

 あたしの人生に、もし意味があるのなら――それは自分の愛したヒトの遺した忘れ形見を救うことなのかもしれない。

 

 今、この瞬間だけに、あたしは自分の全てを懸けてもいいと、本気で思っていた――。




このGX編だけはフィリアの人生の集大成とも言えるエピソードなので、本当は原作もリスペクトしたいのですが、彼女が決着をつけるという形になりそうです。
4期と5期は多分、もう少し控え目にすると思いますのでご容赦ください。
次回もよろしくお願いします!



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愛を信じて、抱きしめて

GX編のラストエピソードです。
フィリアとキャロルの戦いに決着がつきます。
それではよろしくお願いします!


「クロノスモード……、エネルギーは十分でも所詮は未完成。万象黙示録の完成を待たずして解き放ったところで時空の神と呼ぶには程遠い存在よ」

 

 あたしを作ったキャロルはもちろんこのモードについても知っている。

 彼女が言ったとおり、未完成品の今のあたしでは出来ることは少なかった。

 

「だとしても! あたしはあなたを止めて、前を向いてもらうわ! あたしにだって出来た。何でもできる優秀なあなたに出来ないはずがないじゃない!」

 

 キャロルの悲しみや怒りは計り知れない。失ったモノの大きさも、やり場のない怒りもわかっている。

 彼女はただ、イザークの無念を何かにぶつけようとしているだけ――。

 

「オレを止めるだと!? お前に錬金術を教えたのは誰だ!? その身体を作ったのは誰だ!? 一人では弱くて何もできなかったお前に何ができる!?」

 

 キャロルは尋常じゃない量のフォニックゲインを込めた黄金の竜巻を放った。

 

「あなたと手を繋げる――あの日のようにっ!」

 

 ――因果ノ捻時零(インガノネジレ)――

 

 あたしは瞳を閉じて視覚からの情報を遮断する。

 この瞬間のみ――あたしは宇宙の時間の概念から解放され独立することが出来る。

 要するに、時間を止めたのだ。体感時間にして0.5秒という極めて短い間のみで、連続して使うには10秒以上のインターバルが必要となるが……。

 

 それでも相手の攻撃を躱して、接近することくらいはできる。

 

 あたしはキャロルの眼前まで迫り目を開いた。

 

「――っ!?」

 

「キャロル、少しだけ大人しくしてもらうわ」

 

 あたしはキャロルの腹に拳をぶつけようとした。

 

「その中途半端な優しさが、お前の弱さだ! フィリア! お前が時を止められることを知らぬわけなかろう! その上、加減までしおって!」

 

 拳はキャロルに届かなかった。何重にも張り巡らされている糸が彼女の体を守っていたからだ。

 

「――お前をバラバラにして、核を回収し、エネルギーを返してもらうぞ! 知っているだろう? オレの歌はただ一人で70億の絶唱のフォニックゲインを凌駕する!」

 

 キャロルは至近距離から、絶唱のようなフォニックゲインを圧縮させたエネルギーの塊を放出した。

 確かにこれは――いつか、響たちがネフィリムに与えた強力な一撃を超えているかもしれない。

 

 

「もちろんよ。あなたこそ、知ってるでしょう? あたしには世界を破壊するだけのエネルギーが内在するってこと――」

 

 ――神ノ息吹(ゴッドブレス)――

 

 あたしは錬成陣を展開させて、すべてを分解するエネルギーを高濃度に圧縮させた一撃を放出する。

 

 巨大なエネルギー同士のぶつかり合いは周囲の空間を歪めて、恒星のような輝きを生じさせ、互いを消滅させた。

 

「確かに、このモードは未完成。時間を操れると言っても大したことは出来ない。でも、あなたの力の大きさには対抗できるのよ」

 

「なるほど、オレを止めると大言壮語を吐くだけはある。だからこそ、憎たらしい!」

 

 キャロルは歌いながら再びあたしを攻撃してきた。それをあたしは尽く相殺する。

 

「思い出して……、あの人は、イザークはあなたを愛していた――そしてこの世界も愛していたのよ!」

 

「はぁ……、はぁ……、煩い! お前とて、一度は世界を壊すことに賛成したではないか! 日和って逃げ出した臆病者がぁぁぁぁっ!」

 

 キャロルは束ねた糸で織り成した緑色の獣のようなモノを作り出した。

 

“碧の獅子機って言ったところかしら。錬金術の究極系とも言えるわね。大丈夫? あの子、恐らくは自らの想い出のほとんどをアレに費やしてるわよ。怒らせすぎたんじゃない?”

 

“かもしれないわね……。まったく、煽ることしか出来なかったわ”

 

“でも、やるんでしょ。私はリスクが高いと思うけど”

 

“ええ、でもこれで駄目なら諦めもつくわ。そのときはあたしもあの子と一緒に――”

 

“まったく、あなたのせいで、私なんて愛する人と結ばれないまま孫を持つ身になっちゃったじゃない。――はぁ、わかったわ。可愛い孫の為に力を貸してあげるわよ”

 

 フィーネがそう言うと、頭の中に錬成式が流れ込んできた――これはアルカノイズのレシピとそして……。

 

“フィリアちゃんたちが戦ってるとき、暇だったからアルカノイズについて自分なりに作り方を考えてみたのよ。で、フィリアちゃんの体内にはその分解エネルギーの元がたっぷりあるから……、作り方さえ分かれば擬似的なソロモンの杖になるってわけ。再生する身体はネフィシュタンの鎧の代わりになるとして――”

 

“はぁ、趣味が悪いけど、アレを作り出すってわけね……”

 

 あたしがキャロルに対抗して身に纏ったのは黙示録の赤き竜――いや、金色だから、黙示録の黄金竜とでも言えばいいのだろうか――?

 

 空中で碧色の獅子と黄金の竜が対峙することとなった。

 

 獅子の口から炎が吐き出され、竜の口からビームが放出される。

 まるでこの世の終わりの如き閃熱が迸り、周囲の建物は瓦礫の山となった……。これは、弦十郎の説教だけじゃ済まなそうだわ……。

 

“出力が足りない! 不完全なまま発動させたから――”

 

“いいえ、出力は足りているわ。でも、あなたが周りを庇うようにして、キャロルの攻撃に合わせて技を繰り出していることが問題なの”

 

“当たり前でしょう。XDモードでもない響たちがあんな技を食らったらひとたまりもないわ”

 

“フィリアちゃんのエネルギー、少しだけ分けてもらうわ。これなら一発くらい防いであげられる。だから、次で決めなさい。じゃないと危険よ、あなたもあの子も……”

 

 フィーネはそう言うと、蜂の巣状のバリアを無数に展開させた。あたしだけでなく、響たちをも守るように。

 

 そうこうしているうちに、キャロルから猛烈な炎が再び吐き出された。

 フィーネの展開したバリアは次々と破壊されていく――。

 

“たかだか400年ぽっちの想い出で私と張り合おうなんて――思わないことねっ!”

 

 しかし、このフィーネも魂のみの存在になったとはいえ、キャロルを上回る化物。

 バリアは次々と増殖されていき、ついにキャロルの炎を防ぎきったのだ。

 

「フィーネ……、感謝するわ……」

 

 黙示録の黄金竜からすべてを破滅させる紫色の光線が吐き出される――。

 

 碧の獅子機の装甲は破壊されて、キャロルの姿が現れた。

 

 今だ! あたしは黙示録の黄金竜を解除してキャロルの元に突撃した。

 

「想い出など要らぬ! すべて燃やし尽くして! 力に変えてやる――!」

 

 キャロルは自身の想い出をすべて燃やし尽くした一撃をあたしに放った。まさか――まだ力が残っていたなんて――。

 

 チフォージュ・シャトーのエネルギーも枯渇してるけど――仕方ないわ……。

 

 ――神ノ息吹(ゴッドブレス)――

 

 あたしは残るエネルギーを燃焼して、キャロルの一撃を相殺する。

 

 しかし、力を出し尽くしたキャロルの碧の獅子機の行き場を無くしたエネルギーが暴走して大爆発を起こそうとしていた。

 

 ――因果ノ捻時零(インガノネジレ)――

 

 時間を止めて急加速したあたしは、キャロルの元に辿りつき、彼女を抱きしめて、その場から猛スピードで退避する――。

 

「ううっ……」

 

 キャロルは元の少女の姿に戻り、すべての記憶を失って虚ろな目をしていた……。

 あなたをこのまま逝かせない――。

 

 ――ループ・ザ・ワールド――

 

 あたしは自分に残されたすべてのエネルギーを使って、この戦いでキャロルの脳内で焼却された想い出を復元した。イザークの想いが伝わることを祈って――。

 

 

 そして、そのままあたしは地面に着地する。キャロルを抱きしめながら……。

 

 

「フィリア――お前は一体何のつもりだ!? なぜ、オレが消し去った邪魔な想い出を元に戻した!? お前はオレの敵じゃないのか!? オレのことなど、お前は――」

 

 キャロルは信じられないという表情であたしを振り払い、睨みつけてきた。

 しかし、その顔は次第に泣きそうな顔に変わっていた。

 

「愛してるに決まってるでしょ! そりゃあ、イザークほどじゃないかもしれないけど、あなたはあたしにとってかけがえのない大切な娘なんだから!」

 

「フィリア……」

 

 あたしはキャロルに気持ちを伝えた。彼女は叱られた子供の様に俯いて小さく震えていた。

 

「あなたと共に暮らしていた時の想い出を邪魔とは言わせないわ。キャロル……、イザークはあのとき何と言ってたの? 本当は気が付いているんじゃないの?」

 

 あたしはゆっくりとキャロルに問いかけた。今の彼女ならあるいは彼の真意に気付いているかもしれないと思ったからだ。

 

「――っ。世界を知って……、人と人が分かり合うためにはどうすれば良いか――この命題の答えを――。ううっ……、パパ……、なんでこんな残酷な命題を……」

 

「賢いキャロルなら、わかるでしょ? そのためにどうすれば良いか?」

 

 キャロルの目から戦意は消え去り、涙が溢れていた。

 張り詰めていたものが弾けたように……。

 

「手を差し伸べて、手を取り合う……。無理だ――もう今さらオレは……、誰とも……、分り合うなど――」

 

「絶対にそれはない。あたしはあなたが例え地獄の果てに行ってしまっても、手を伸ばし続ける。そんなバカな子を知っているから、あたしもあの子のように、手を差し伸べたい」

 

 あたしはキャロルに手を差し出した。小さなことかもしれないけど……、これがこの子ために出来る最初の一歩になると思ったからだ。

 

「フィリア……、なんで、パパがお前に結婚を申し込んだのか……、わかった気がする……」

 

「じゃあ今度、プロポーズされたときの話をしてあげるわ」

 

「――そうだな。それくらいは……」

 

 キャロルがあたしの差し出した手に、手を伸ばしたその時である。

 空中に浮いていたチフォージュ・シャトーが落下してきた。

 

「あっ――チフォージュ・シャトーのエネルギーを全部使っちゃったみたい。だから、あたしもエネルギーがもう切れて……」

 

「使っちゃったみたい、ではない! このままでは、オレとお前は――。おいっ、フィリア! なぜ、そこで倒れる!?」

 

 あたしはクロノスモードによる大量のエネルギーの消費によって意識を失ってしまった……。

 首都庁はチフォージュ・シャトーに押し潰されて、周囲を巻き込む大爆発が起こった――。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「この大馬鹿者がっ――!」

 

 弦十郎の声が司令室で木霊する。既に小一時間あたしは弦十郎から説教を受けていた。

 

 いや、弦十郎だけではない。翼を筆頭にシンフォギア装者、それに加えて未来やエルフナインにも大いに叱られる結果になってしまった。

 

「突然、どこかに行ったかと思うと、怪獣大戦争みたいなことを始めやがって!」

 

「空中からチフォージュ・シャトーが落下したときはゾッとしたわよ」

 

「お前には、計画性というものが無いのか? そもそもだなぁ――」

 

 特にクリスとマリアと翼からの叱責は永遠に感じるくらい長かった。

 まぁ、今回のことに関しては全面的にあたしが悪いから文句は一切ないけど……。

 

「――キャロルがフィリアさんを助け出してなかったら、今ごろ……」

 

 エルフナインによればチフォージュ・シャトーの落下時にエネルギー切れを起こして意識を失っていたあたしをキャロルが救ってくれたらしい。

 

 彼女はあたしを安全な場所に置いたあと、エルフナインに念話で話しかけて、あたしの回収を促したのだとか。

 

「もう一度、世界を回ってパパの言っていたことを考え直すって、キャロルは最後にそう言い残しました」

 

「そう。じゃあまたいつか会える日が来るかもしれないわね」

 

 あたしはエルフナインの言葉を聞いてそう答えた。

 

「かもしれない、じゃないよ。フィリアちゃん。きっとまた会える。だって、フィリアちゃんの差し伸べた手をキャロルちゃんは掴んでくれたんだから」

 

「響……」

 

 あたしは響が確信をもってそう言ってくれたことが嬉しかった。

 そうね、キャロルはきっといつか会いに来てくれる。

 

「その時はリア姉はお母さんになるデスかぁ?」

 

 切歌がハッとした顔をしてそう言った。そうしたい気持ちはあるけど、それはキャロル次第だと思うの。

 

「じゃあ、風鳴司令はお祖父ちゃん?」

 

「おっ、俺はまだ結婚もしてないのにか? うーむ……」

 

 調の言葉に弦十郎は腕を組んで複雑な顔をしていた。

 

「とっとにかくだ。まぁ、フィリアくんのおかげで、世界の分解は防げた。被害は小さくは無かったが、最悪のシナリオは避けられた。よって――今回の独断専行は謹慎一週間ってところで済ませてやろう」

 

 弦十郎から下された裁定は想定していたよりもずーっと甘かった。

 正直、クビになるかと思ってたけど……。

 

「良かったね、フィリアちゃん。夏休みはいっぱい遊べるよ!」

 

「夏休み? ああ、そんなのあったわね。忘れてたわ」

 

 響はあたしに笑顔を向けてそう言ったので、あたしはもう夏休み期間に入ることを思い出した。

 

「あの、夏休みって何ですか?」

 

「楽しいんだって。夏休み」

 

「私たちも初めてデス!」

 

 エルフナインの素朴な疑問に調と切歌がそう答えた。この子たちもよく笑うようになった。

 

「早起きしなくていいし、夜更かしもし放題なんだよ」

 

 ドヤ顔で堕落した生活スタイルを響は三人に教える。切歌と調には響だけは手本にしないように言い聞かせなくては……。

 

「それは響のライフスタイル……」

 

「あんま変なこと吹き込むんじゃねぇぞ」

 

 見かねて、未来とクリスもツッコミを入れた。

 

「夏休みはね、商店街でお祭りもあるんだ! 焼きそば、綿あめ、たこ焼き、焼きイカ!」

 

「食べ物以外にもあるでしょ。ホントにそういうところもブレないわね」

 

 食い意地の塊みたいな発言をする響は何だか楽しそうだった。

 

「何だかとても楽しそうです」

 

「だったら、エルフナインちゃんも一緒に行こっ! みんなで一緒に遊びに行こう! よーしお祭りの日の前日は食べる量減らして、お腹を目一杯減らすぞー」

 

 エルフナインと祭りに行く約束をして、響はまた食べ物の話をする。

 

「ふふっ、響ったら、ホントに食べることが好きなんだから」

 

「ん? フィリア、今笑ったのか?」

 

 翼が驚いた顔をして、あたしの顔をじっと見た。

 

「えっと、そうだっけ? よくわからないけど」

 

「確かに笑ったぞ。立花の食い意地の悪さが、決して笑わなかったフィリアを笑わせたのか」

 

 人形になってから、確かに声に出して笑ったことは無かったかもしれない。この身になってずっと一緒だった翼は少しだけ涙ぐんで喜んでいた。

 

「翼さん、それじゃあ、私がすっごく食いしん坊みたいじゃないですかー」

 

「事実じゃない? 響の食欲って、ものすごいもん」

 

「えー、そりゃあないよー。未来ぅ」

 

 響はそんな翼に不満を言って、未来はジト目で響にツッコミを入れる。

 なんだか、この感じも久しぶりね……。

 

 キャロル、あなたもいつか、こんな日常を幸せに感じられる様になってくれるかしら?

 

 響たちを見て無邪気に笑っているエルフナインの顔を見て、遠い昔の彼女の笑顔を思い出したあたしはキャロルが幸せな日常に戻れる日が来ることを願わずにはいられなかった。

 

「行こっ! フィリアちゃんも! ほら、早く!」

 

「ちょっと、あたしは謹慎中!」

 

「そんなの明日からで良いよな? おっさん!」

 

「まったく。夜には帰ってくるんだぞ!」

 

 響に手を引かれて、クリスに背中を押されあたしは外に連れ出される。平和な日常が再び戻ってきた――。

 

 

 ―― GX編完結――

 




すみません。装者置いてきぼりのオリ主無双みたいなことは、本当はしたくなかったのですが、話の流れ的にフィリアに決着をつけて欲しかったのでこういった形になりました。
感想欄で返事を出したときは普通に全員で戦う予定でしたので、マリアと翼の合体技も出すつもりでしたのですが……、それも出せず終いで申し訳ありません。

言い訳はこの辺にしまして、GX編はいかがでしたでしょうか?
ずーっと引っ張ってきたフィリアの過去の話を明らかにしましたので、4期と5期はこの設定をどう活かすか、というところになると思います。

また、AXZ編を開始する前に絶唱しないシンフォギアを投稿致しますので、こちらの方も是非ともご覧になってください。


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戦姫絶唱しないシンフォギアGX その1

今回も絶唱しないシンフォギアを台本形式にて、お届けさせていただきます。
それでは、よろしくお願いします!


 ――フィリアは謹慎中 その壱――

 

クリス「どーせ、謹慎中で暇してるだろうからって、来てやったら難しい顔して悩んでやがる」

 

フィリア「考えてみれば、人生って選択肢の繰り返しだった。あたしがもしも、その選択肢を間違えなかったら、今ごろは……」

 

クリス「はぁ、そんなのあたしだって一緒だよ。いつも間違ってばっかりで、後悔ばかりだ」

 

フィリア「でも、誰にだって絶対に間違っちゃいけない選択肢ってあると思うのよ、例えば――」

 

クリス「例えば?」

 

フィリア「結婚とか」

 

クリス「けっ、結婚? そっそういや、お前は婚約してたんだったな。エルフナインのやつのパパと。でも、そりゃあ間違いとは思ってねぇんだろ?」

 

フィリア「もちろんよ。クリスだって、きっと結婚を考える時って来ると思う。そういうとき、あなたは何を優先して物事を決めるのかしら?」

 

クリス「はぁぁぁ? はっ、恥ずかしいこと聞くんじゃねぇよ! しかもお前んちで……。そりゃあ好きな奴と一緒に居てぇとか、そんなんじゃねぇの?」テレテレ

 

フィリア「すっごく普通……」

 

クリス「張っ倒すぞ、テメー」

 

フィリア「でも、そうよね。大事なのは自分の気持ちに正直になること……。体裁とか、そういうのも大事かもしれないけど……」

 

クリス「マジで、記憶が戻ったからかもしれねぇけど、最近変だぞお前……」

 

フィリア「ということで、あたしはビアンカを選ぶわ!」キリッ

 

クリス「ドラ○エやってんじゃねーか!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――フィリアは謹慎中 その弐――

 

切歌「と、言う訳で遊びに来たデスよー」

 

フィリア「どういう訳で?」

 

調「リア姉が謹慎中にゲームばっかりやってるってクリス先輩が言ってたの」

 

フィリア「だって、暇なんだもん」

 

切歌「暇なんだもん、じゃないデスよー。ゲームばかりやってると現実とゲームの区別がつかなくなるデス」

 

フィリア「そっそうなの?」

 

調「テレビゲームの世界は現実とかけ離れたことばかりなんだよ。これが現実とごちゃごちゃになると大変」

 

フィリア「でも、結構面白いのよ。後、ちょっとだけ……。ほら切歌も調も一緒にやりましょう」

 

切歌「えっ、確かに少し楽しそうデスが……」チラッ

 

調「しょうがないなぁ。ちょっとだけだよ。切ちゃん」

 

 

 

切歌「デェェェェス! またボ○ビーが憑いたデェス!」

 

調「切ちゃん、適当に動きすぎだよ」

 

切歌「プラスの駅が私を誘惑するデスよー」

 

 

 

調「切ちゃん、キングボ○ビーになってるよ」

 

切歌「こんなの面白くないデース」

 

調「切ちゃんを助けなきゃ! メカボ○ビーを買う……」

 

切歌「調ぇぇ……」

 

 

 

切歌「やったデス! ついに一番になることが出来たデス!」

 

調「良かったね、切ちゃん。もう50年経ってるけど……」

 

フィリア「あなたたち夢中になってるけど、宿題とかは大丈夫なの?」

 

調「どうしよう。もう夜だよ、切ちゃん。私たち、リア姉にゲームを止めるように説得に来たのに」

 

切歌「ミイラ取りがミイラになったデェェェェス!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――フィリアは謹慎中 その参――

 

翼「話は聞いた! お前は謹慎中だと言うのに堕落した生活を送っているようだな! このままだと、立花のようになるぞ!」

 

フィリア「そこはかとなく、響をディスらないであげてくれる? あたしは堕落なんてしてないし」

 

翼「しかし、雪音がお前がテレビゲームなどという不健全な遊戯に熱中していると言っていたぞ」

 

フィリア「テレビゲームくらい誰でもやってるわ。別に変なゲームやってるわけじゃないし」

 

翼「ええいっ! 言い訳は無用! その腑抜けた精神を叩き直す!」

 

フィリア「でも、もうゲームはやってないわよ」

 

翼「そっ、そうなのか? しかし、今も何かピコピコとパソコンを触ってるではないか」

 

フィリア「ピコピコ? ああ、これはゲームを作ってるのよ。もうゲームをすることに飽きちゃったから」

 

翼「ゲームを作るだと? お前はどこに進もうとしているのだ?」

 

フィリア「ほら、これなんかどう? 装者たちのデータを元に作った格闘ゲームなんだけど」

 

翼「ほう、天羽々斬……、これが私か。こっちはイチイバル、雪音というわけか……」

 

フィリア「装者の技も力もデータから完全に再現出来るようになっているわ。例えば、蒼ノ一閃!」

 

翼「すごいな、画面の中の私が動いた……。じゃあ、私が雪音を使うことも出来るのか!?」ワクワク

 

フィリア「もちろんよ。これなら、他の装者の戦闘方法も疑似体験できたりするから、戦略の幅も広がるでしょ?」

 

翼「うーむ、確かに……。一度やってみてもいいか?」

 

フィリア「もちろんよ」

 

 

 

翼「くっ、スマン雪音……。私ではお前のじゃじゃ馬を扱いきれなかった」ガクッ

 

フィリア「ねぇ、翼。なんで、イチイバルでも斬りかかって来ようとするの? あなたはゲームに向いてないわね……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ――みんなで夏祭り その壱――

 

響「いやー、祭りまでに謹慎が解けて良かったねー。フィリアちゃん」

 

フィリア「あー、やっとシャバの空気が吸えるわー」

 

未来「そういうことをあまり外で言わない方がいいですよ」

 

響「じゃあ、さっそく何を食べるー? りんご飴かなぁ、それとも綿菓子?」

 

フィリア「金魚……」

 

響「金魚? そんなマニアックな食べ物はさすがの私も――」

 

未来「いや、フィリア先輩が見ているのは金魚すくいだから……」

 

フィリア「金魚すくいってやったこと無いのよね」

 

響「えーっ!? じゃあみんなでやろっか?」

 

未来「うん、私も久しぶりだなー」

 

 

 

響「ちょわっ! あー、もう破れちゃったー」

 

未来「私は二匹取れたけど……。フィリア先輩が……」

 

フィリア「この容器って、もっと大きいのは無いのかしら?」ミッチリ

 

響「お店の人が青ざめてるよ。フィリアちゃん」

 

フィリア「そうなの? だったら返すわ。こんなに飼えないし……」

 

未来「金魚すくいでギャラリー出るの初めてみた」

 

クリス「おい、こんなところに居やがったのか、みんなもう来てるぞ! って、何やってんだ? お前……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――みんなで夏祭り その弐――

 

切歌「いやー、美味しいデスなぁ」

 

響「あらかた食べ尽くしたねー」

 

未来「二人とも食べ過ぎよ。お腹痛くなっても知らないから」

 

切歌「大丈夫デス! あとは締めのデザートさえ食べれば、出張版うまいもんマップが完成するのデス!」

 

エルフナイン「うまいもんマップ?」

 

クリス「なんだそりゃ?」

 

調「私、そういうのよくわからないから……」

 

フィリア「あー、去年の学祭のときにコソコソ何か書いてたわね」

 

切歌「リア姉……、人の黒歴史を暴露しないで欲しいデェス」

 

エルフナイン「とても興味深いです。完成したら是非とも見せてください」キラキラ

 

切歌「きれいな目で見つめられると心が痛いのデェェェェス!」

 

調「身から出た錆だよ。切ちゃん」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ――みんなで夏祭り その参――

 

未来「花火っていつ見ても綺麗だねー」

 

クリス「まぁ、こういうのも悪くねぇな」

 

響「うん、キレイだねー」

 

フィリア「あれ? 花火に何か文字が書いているわ」

 

調「結婚して下さいって……、プロポーズ?」

 

切歌「大胆デース」

 

エルフナイン「こんなにキレイに結婚を申し込む方法があるなんて、凄いです!」

 

響「ロマンチックだねー」

 

クリス「けっ、臭えことしてやがる」

 

フィリア「それに、断られでもしたら立ち直れないわよ。色々な意味で……」

 

未来「さすがに大丈夫って確信してないとやりませんよ、こんなこと」

 

切歌「あっ、あそこにすっごく落ち込んでいる人が居るデス」

 

調「ねぇ、あの人って藤尭さんに似てるような……」

 

響「似てるというか、藤尭さんだよ、調ちゃん」

 

クリス「おい、あの花火を上げたのって……」

 

フィリア「まさか、前にあたしが連絡先を聞いてきてあげた子に……。何も見なかったことにしましょう……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――夏休みにエルフナインが!? その壱――

 

エルフナイン「フィリアさんが、この前開発したシンフォギア装者たちのバトルシミュレーション、とっても出来が良いです」

 

フィリア「あら、そう? テレビゲーム作りにハマっちゃってて、その延長で作ったんだけど」

 

エルフナイン「テレビゲーム――ですか?」

 

フィリア「ええ、仮想現実の世界で遊ぶみたいなニュアンスかしら」

 

エルフナイン「なるほど! 世界を擬似的に創造して、そこで遊ぶということですか! 錬金術師としては胸がトキメキます」

 

フィリア「うーん、多少は大袈裟な感じがするけど、そんな感じかしら?」

 

エルフナイン「ボクも錬金術師として、ゲームというものを作ってみたいとは思うのですが、やったこともありませんので、何かサンプルになるようなモノをお借り出来ませんか?」

 

フィリア「じゃあ、これはどうかしら? ド○ゴンク○ストってゲームだけど、面白かったわよ」

 

エルフナイン「こっこれがゲーム……。小さいですね……」

 

 

 

エルフナイン「トンヌラ……、ボクもいい名前だと思います……」

 

エルフナイン「ビアンカさんと別れて寂しいです……」

 

エルフナイン「ああ、この世界でもボクのパパが火炙りに……」グスン

 

エルフナイン「仲間になりたそうにこちらを見ている? どんな目つきなんでしょうか……」

 

 

フィリア「思いの外、ハマってしまってるみたいね……。教育上良くない気がしてきたわ……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――夏休みにエルフナインが!? その弐――

 

フィリア「クリス、クリス! エルフナインが大変なことになってしまったわ!」

 

クリス「どっ、どうした? エルフナインのやつに何かあったのか?」

 

フィリア「話は研究室に行って話すわ! とにかく大変なの! みんなは先に行ってるから!」

 

クリス「わかった! すぐ行く!」

 

 

 

クリス「こっ、これは、どういうことだー? 全員揃って変なゴーグル付けて寝ているみてぇだが……」

 

フィリア「実はエルフナインがゲーム作りにハマっちゃって……。みんな、彼女が作ったゲームの世界に居るのよ」

 

クリス「はぁぁぁ? とんちきなこと言ってんじゃねぇ! もっと具体的に教えやがれ!」

 

フィリア「エルフナインが作ったのは、ゲームプレイヤーそのものの脳波をゲームの世界とシンクロさせて、よりリアルにバーチャル空間の中で楽しめるという画期的なゲームなんだけど……」

 

クリス「画期的かどうかわからねぇが、それがどうかしたのかよ?」

 

フィリア「テストプレイでゲームの世界に入ったエルフナインがそのまま帰って来れなくなったのよ。どうやら、バーチャル空間の中で迷ってしまったみたい……」

 

クリス「そんなSF映画みてぇな……。んで、他の連中もなんでゲームなんかやってんだよ!?」

 

フィリア「エルフナインを探しに行ったの。ゲームの世界のどこかに居るはずだから」

 

クリス「そういうことか。よく分かんねぇけど、あたしらもゲームの中にエルフナインを探しに行けばいいってことか?」

 

フィリア「そういうこと。話が早くて助かるわ。こんなことなら、エルフナインにド○クエなんて勧めるんじゃなかった……」

 

クリス「やっぱ、お前の影響かよ! 反省しろっ! まぁいいや、とにかく行くぞ!」

 




次回はRPGっぽい世界に迷い込んだエルフナインを救う為に装者たちが頑張るシンフォギアクエスト編をやります。
面白く出来るか不安ですが、よろしくお願いします!


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戦姫絶唱しないシンフォギアGX その2 ――シンフォギアクエスト編――

今回の絶唱しないシンフォギアは前回の続きでRPGのような世界を冒険する装者たちの物語です。
それでは、よろしくお願いします!


 ✚シンフォギアクエスト✚

 

 ――職業選択で人間性が決まるとは思いたくない――

 

クリス「しかし、エルフナインはすげぇもん作ったな。完全に中世の欧州に来たって錯覚しちまうぞ、これは……」

 

フィリア「こうしとけば、RPGっぽい世界観になるって教えといたから」

 

クリス「ざっくり過ぎんだろ……、それは。とりあえず、何をすりゃあ良いんだ?」

 

フィリア「まずは職業を決めるの。戦闘になったときに合うスタイルの職業が良いわ」

 

クリス「戦闘なら、あたしは飛び道具だな。どんな職業があるのか教えてくれよ」

 

フィリア「1024種類の職業から好きなのを選んでもらえるようになっているから、この本に書いてるヤツから選んでくれる?」

 

クリス「せっ、1024? 多くねぇか? この本も辞典くらいの分厚さだぞ!」

 

フィリア「エルフナインは凝り性だから……。ほら、同じ踊り子でも、その中に社交ダンサー、バックダンサー、コサックダンサーって枝分かれしているのよ」

 

クリス「コサックダンサー? どうやって戦うんだよ!?」

 

フィリア「そりゃあ、蹴り技じゃない……」

 

クリス「あー、なるほど」

 

フィリア「そんなことより、早く職業を決めなさいよ」

 

クリス「うるせぇなー。――じゃあ、あたしは弓使いにするぜ。これが一番あたしらしいや。フィリアは?」

 

フィリア「錬金術師よ。エルフナインが絶対にこれは外せないって意気込んで作った職業だから」

 

クリス「で、あたしらの武器は?」

 

フィリア「これよ」

 

クリス「はぁ? ただの棒じゃねぇか。あたしは弓使いだぞ!」

 

フィリア「プレイヤーの最初の武器は必ず【ひのきのぼう】なの」

 

クリス「1024個も職業があるのに、そこ手抜きかよ!」

 

フィリア「武器は街の外にいるモンスターを倒したらゴールドを落とすからそれで購入すればいいわ」

 

クリス「なるほど、じゃあとっととモンスター倒して弓を買うぞ。エルフナインを見つける前に装備はちゃんとしねぇとな」

 

フィリア「クリスって、意外と真面目よね……」

 

クリス「しみじみ言うなっ!」  

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――最初の城の近くには都合良くスライムが居るけど――

 

クリス「こんな棒っきれで戦えんのかよ」

 

フィリア「まぁ、何とかなるでしょう」

 

 【モンスターが現れた!】

 

 ウィングドラゴン 二体

 

クリス「…………」

 

フィリア「…………」

 

 

 クリスたちは逃げ出した。しかし、回り込まれた。

 

クリス「バッカじゃねぇーの!? 《ノイズ》も真っ青な化物じゃねぇーか! ビルくらいあるぞ!」

 

フィリア「エルフナイン……、恐ろしい子……」

 

クリス「言ってる場合かぁぁぁぁっ!」

 

 ウィングドラゴンは燃え盛る火炎を吐き出した。クリスは50のダメージを受けた。フィリアは65のダメージを受けた。

 

フィリア「これは、ひのきのぼうじゃ、どうにもならないわ……」HP2

 

クリス「当たり前だっ! どーすんだよ、一体!? あたしらのHPもう1割も残ってねーぞ!」HP4

 

???「うぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁっ!」ドゴォン

 

???「グランドサンダーッ」ビリビリ

 

 ウィングドラゴンたちをやっつけた。

 

クリス「おっ、お前らは――」

 

響「やっと見つけたよー。クリスちゃんに、フィリアちゃん」

 

未来「すみません。遅れちゃって。薬草を使ってください」

 

フィリア「助かったわ。響、未来」モグモグ

 

クリス「つーか、オメーら、随分と強ぇぇじゃねぇか。どうしてなんだ?」モグモグ

 

響「私と未来はこの前、夜通しこのゲームで遊んだんだー」

 

未来「だから、私たちはレベルが上がってて……」

 

フィリア「響は武闘家でレベルが68。未来は暗黒魔道士でレベルが70……。レベル1のあたしたちとは違うわね……」

 

クリス「やりすぎだろ……、どう考えても……」

 

響「切歌ちゃんと調ちゃんも、一緒に遊んだから同じくらいのレベルだよ」

 

クリス「げっ、あいつ等よりも弱いのか」

 

未来「まぁまぁ、レベルは簡単に上がるから」

 

フィリア「だったら、早く切歌と調とも合流したほうが良さそうね」

 

響「向こうのお城のある町で合流するって約束したから、みんなで行こっ」

 

クリス「だけどよぉ、あんなバケモンばっか居んだろ? 怖いわけじゃねぇけど」

 

響「大丈夫だよっ! クリスちゃんは私が守るから!」ダキッ

 

クリス「バカッ! そういうことはフィリアにしやがれっ!」

 

未来「ふーん。とっても仲が良さそうで、妬けちゃうなー」ゴゴゴゴゴ

 

クリス「おいっ! フィリア、こいつを止めろよっ! 何か、人に使っちゃダメなやつ使おうとしてっぞ!」

 

フィリア「無茶言わないでちょうだい。あんな大きな炎に飲み込まれたら灰になっちゃうわ……」ガクブル

 

未来「――いでよ! 終焉の獄炎……」

 

クリス・響「「わぁぁぁぁっ!」」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――武器と防具のどちらにお金をかけるかで性格が分かる――

 

町人「ここはカリーメルの城下町だぜぇい!」

 

クリス「やっと着いたぜ。なんだか、どっと疲れちまった……」

 

フィリア「危うく死んでゲームオーバーになるところだったわ」

 

クリス「味方に殺されてゲームオーバーとかシャレになんねぇ……。ん? そういや、ゲームオーバーになるとどーなるんだ?」

 

フィリア・響・未来「「……」」

 

町人「ここはカリーメルの城下町だぜぇい!」

 

フィリア「お金も溜まったし装備でも買いましょ」

 

クリス「おっおう。って、ゲームオーバーの説明がまだだろうがっ! 待てよ、フィリア!」

 

町人「ここはカリーメルの城下町だぜぇい!」

 

クリス「さっきから、うるせぇな、オメーはっ!」

 

 

 

フィリア「ほら、これなんてクリスにピッタリ」

 

クリス「ボウガンか……。まぁ、何もないよりマシだな。あとは防具を……」

 

フィリア「そうね……、予算的に買えるのは、これくらいかしら?」

 

クリス「はぁ? 何だこりゃ?」

 

フィリア「《皮の腰巻き》だけど……」

 

クリス「はぁぁぁ? いや、もうちっとマシなモン買えんだろ? 結構、金拾ったじゃねぇーか」

 

フィリア「無理よ、アレを見なさい」

 

響「ご飯アンドご飯♪」ドッサリ

 

クリス「お前はゲームの中くらい、ちったぁ食欲を抑えろ!」ポカッ

 

響「ゲームの中だってお腹は空くんだよ、クリスちゃん!」

 

未来「だから言ったのに……。でも、そんな響が可愛い……」

 

 

 

クリス「とにかくだ! もっとマシな防具を買うぞ! フィリア、これくらい金があれば問題ねぇだろ?」

 

フィリア「ええ、問題ないわ。それじゃあ、《天使のレオタード》なんてどうかしら?」

 

クリス「なっ、何て卑猥なデザインしてやがる。こんなモン着て歩けるヤツがいるわけねぇだろ!」カァァァ

 

フィリア「シンフォギアとあんまり変わらないような……。というか、ネフィシュタンの鎧の方がハードル高い気がするわ」

 

響「あれ? でもあっちにコレを身に着けて歩いている人がいるよー。うーん、どこかで見たような気がする……」

 

未来「響、見たような、じゃないよ。切歌ちゃんと調ちゃんだよ」

 

フィリア「あの子たち、何て格好してるのよ!」

 

クリス「テメーは、その《何て格好》を勧めたのかよっ!?」

 

切歌「あっ、リア姉デェス!」

 

調「みんな揃ってるみたい……」

 

 

 

フィリア「これで、全員揃ったわね」

 

響「ちなみに翼さんとマリアさんはロンドンに行ってるから居ないんだよー」

 

切歌「いきなり説明的な口調デス!」

 

クリス「んなこたぁ、みんな知ってるだろ」

 

フィリア「切歌が遊び人のレベル65。調が盗賊のレベル71。らしいっちゃ、らしい職業選択ね」

 

未来「みんな揃ったところでエルフナインちゃんを助けたいんだけど……、一体どこにいるんだろう?」

 

調「それなら私たちが既に突き止めた」

 

切歌「エルフナインは魔王の城にいるみたいなのデス」

 

クリス「だったら、帰ってこれねぇのはおかしいだろーが」

 

切歌「魔王に捕まって牢屋に閉じ込められているんデスよー」

 

調「助け出すには、私たちで魔王を倒さなきゃならない」

 

響「よーし! じゃあみんなで魔王を倒しに行こう!」

 

フィリア「面白くなってきたわね」

 

クリス「お前はちったぁ反省しとけ!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――魔王の城って大抵は空が飛べなきゃ行けない――

 

クリス「でっ、魔王の城にはどうやって行くんだ?」

 

響「それは、もちろん……、あれ? どうするんだっけ?」

 

未来「伝説のマスタードルフィンっていうイルカの背中に乗って行くんでしょ」

 

クリス「城みちるかよっ!」

 

フィリア「分かりにくいツッコミするんじゃないわよ!」

 

切歌「しかし、マスタードルフィンは封印されているのデス」

 

調「その封印を解くためには世界中に散らばっている魔法のオーブを見つけなきゃいけないの」

 

クリス「なんだ、割とよくある話じゃねぇか。エルフナインもオリジナリティがねぇな」

 

フィリア「ええ、65535個の魔法のオーブを手に入れれば、マスタードルフィンの封印が解けるの」

 

クリス「はぁ? 今なんつった?」

 

フィリア「65535個の魔法のオーブを――」

 

クリス「65535個!? 誰がこんな面倒くせーことやんだよ! エルフナインのヤツ、絶対(ぜってぇ)クリアさせる気ねぇーだろ!?」

 

響「まぁまぁ、クリスちゃん。みんなで協力すればきっと何とかなるよ」

 

クリス「なるわけねぇー!」ウガー

 

フィリア「じゃあ船でも造って行きましょう」

 

切歌「そんなこと出来るんデスか」

 

フィリア「錬金術に不可能はないわ。船くらい造ってあげるわよ」

 

クリス「船で行けるんだったらそもそもイルカ要らねぇじゃねーか!」

 

調「多分、ロマンだよ。クリス先輩」

 

フィリア「あと、今さらだけど、切歌と調は普通の服に着替えなさい」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――最初の船って大概は沈没する――

 

響「うわー、すっごく立派な船だー」

 

未来「うん、立派な船だね。響」

 

切歌「とってもいい船なのデスが――」

 

調「なんでリア姉はクルーザーを作ったんだろう?」

 

クリス「世界観もあったもんじゃねぇーな。やたら時間だけかけやがって」

 

フィリア「だって、速いんだもん。動力もソーラーエネルギーを利用したエコ仕様よ」

 

クリス「自由過ぎるだろ、このゲーム……」

 

響「じゃあ早速行ってみよー!」

 

未来「良いのかなぁ……?」

 

切歌「気にしたら負けデス……」

 

 

 

 

響「潮風が気持ちが良いねー」

 

クリス「時々、ゲームの中ってことを忘れちまうよなー」

 

切歌「調と一緒に旅行に行った気分になるデス」

 

調「切ちゃん……」ギュッ

 

未来「良いなぁ……」

 

フィリア「あの子たちエルフナインを救うって目的を忘れてないかしら?」

 

 

クリス「なぁ、フィリア。ソーラーエネルギーでこの船は動いてるって言ってたよな?」

 

フィリア「ええ、それがどうかしたの?」

 

クリス「あの、禍々しい感じの場所が魔王の城だろ? すげぇ、暗いけど、この船は動けんのか?」

 

フィリア「…………」

 

響「あれぇ? フィリアちゃん、どうかした?」

 

クリス「こいつは頭良さそうに見えて、バカだから、このバカよりも質が悪ぃぜ」

 

響「全然わからないけど、フィリアちゃんがバカってこと?」

 

未来「話は聞いてたけど、完全にクルーザーを作って裏目に出たみたいだね」

 

フィリア「だとしても、錬金術師に不可能はない」キリッ

 

クリス「どーすんだよ!? この状況!」

 

フィリア「この船を――押す!」

 

響「うわぁっ、フィリアちゃんが宙を浮きながら船を押してるよ」

 

クリス「何でもありかよっ! 錬金術師!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――魔王城を冒険しよう――

 

クリス「如何にもって感じの建物だな」

 

響「フィリアちゃんが叩き落とした、ナントカ・シャトーとかいうのに似てる気がするよ」

 

未来「フィリア先輩が叩き落としたのは、チフォージュ・シャトーだよ、響」

 

フィリア「叩き落としてないから。落ちた原因はあたしだけど、不可抗力だから。――チフォージュ・シャトーはエルフナインも住んでた上に建設に携わってたみたいだから、思い入れは強いんでしょうね」

 

切歌「魔王の城は強いモンスターがいっぱいデス。でも、調は私が守ります」

 

調「切ちゃん……、でも、切ちゃんは遊び人だから……」

 

切歌「楽しそうだから、選んでみたのデスが、確かにびっくりするほど弱いデスよ」

 

クリス「フィリアもあたしもレベルは上がったし、もう足は引っ張らねぇよ!」

 

フィリア「クリスが一番レベルは低いけどね……」

 

クリス「仕方ねぇだろ! さっさと行くぞ!」

 

 【モンスターが現れた】

 

 魔城の門番 2体

 

クリス「うわぁっ! オブジェかと思ってた甲冑が動きやがった!」

 

切歌「見るからに強そうデス」

 

調「でも、速さなら負けない!」

 

 調は魔城の門番から薬草を盗んだ!

 

クリス「盗んでどーすんだっ!?」

 

調「私、盗賊だから……、つい……」

 

切歌「こうなったら私が――」

 

 切歌は石を拾ってお手玉をした! しかし、自分に石をぶつけてしまう! 切歌に20のダメージ!

 

クリス「何やってんだよ、お前はっ!」

 

切歌「ううっ、痛いデース!」

 

クリス「くそっ、ボウガンをくらえっ!」

 

 クリスの攻撃! しかし、魔城の門番はダメージを受けてない!

 

クリス「固ぇなっ!」

 

フィリア「物理攻撃は効果が薄いみたいね」

 

響「とりぁぁぁぁぁっ!」

 

 響の攻撃! 会心の一撃! 魔城の門番を倒した!

 

クリス「物理は効果薄いって言ってなかったか?」

 

フィリア「たまたま、会心の一撃が出ただけよ」

 

響「でぇやぁぁぁぁっ!」(スキル2回行動)

 

 響の攻撃! 会心の一撃! 魔城の門番を倒した!

 

クリス「たまたまっ!?」

 

フィリア「……先を急ぎましょ」

 

未来「ふふっ……、内助の功というのも悪くないかも……。覚えて良かった補助魔法……」

 

 

 

クリス「思ったよりも静かじゃねーか。もっと化物が出てくるかと思ったぜ」

 

フィリア「確かに、妙ね。もっとたくさんの敵が出てきてもおかしくないわ」

 

未来「なんか、嫌な予感がするね。響」ギュッ

 

響「大丈夫! 未来は私が絶対に守るよ」ギュッ

 

 

切歌「そうこうしてる内にすごく趣味の悪いデザインの扉の前に着いたデス」

 

調「ここに魔王が居そう……」

 

フィリア「みんな、魔王を倒せばきっとエルフナインを救い出せるはず! 行くわよ!」

 

全員「「おおっー!」」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――魔王登場――

 

エルフナイン「皆さん! 来てくれたんですね!」

 

響「エルフナインちゃんが鳥籠みたいなのに閉じ込められている!」

 

クリス「ホントに捕まってやがるのか! でっ、アイツが!」

 

魔王「よくぞ来た愚かな人間共よ、お前ら人間はこの俺――」

 

フィリア「不死鳥ノ皇帝(カイザーフェニックス)ッ!」

 

魔王「熱ッッッッ! おい! 貴様ッ、それは反則だから! 俺のセリフ中に攻撃とかマジでねぇーからっ」

 

フィリア「黙りなさい! エルフナインを捕らえて何するつもりなの!」

 

魔王「コイツは俺の好みの女だから、結婚するのだ! お前も見た目は好みだが、性格が悪いからアウトな! おっ、お前は結婚してやってもいいぞ!」

 

切歌「しっ調には手を出させないデス」

 

クリス「気持ち悪ぃヤツだな」

 

響「とにかくアイツを倒そう!」

 

魔王「ククッ、馬鹿な奴らめ! 罠にかかったとも知らずに!」

 

【モンスターが現れた】

 

 魔王 1体

 

 魔王の下僕 3000体

 

クリス「さっ、3000体だとっ!」

 

フィリア「今の司令の言い方に似てたわね。意識してるの?」

 

クリス「うるせぇな! つーか、そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ! 完全に大軍に囲まれちまったぞ!」

 

響「たかだか3000ッ」

 

未来「とは、言えない数だよね……」

 

切歌「絶体絶命デェェス」

 

調「待って、歌が聞こえる」

 

 

???「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

???「Seilien coffin airget-lamh tron……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――そして伝説へ――

 

マリア「このくらいの数に絶望なんて!」

 

翼「まさかしてはいないだろうな!」

 

 マリアと翼の合体攻撃! 魔王の下僕を1052体倒した!

 

クリス「先輩! 確か、ロンドンに行ったんじゃ?」

 

フィリア「一応、ダメ元で呼んだんだけど……。来てくれたのね……」

 

調「でも、ギアを纏ってる……、どういうこと?」

 

マリア「私たちは、シンフォギア装者! この世界の私たちが脳波で築かれているのであれば――」

 

翼「いつもどおりのイメージさえすれば、ギアを纏えぬ道理はない!」

 

クリス「なるほど、ギアさえ纏えりゃこんな連中!」

 

切歌「負けるはずがないデス」

 

響「歌を歌おう!」

 

未来「イメージなら、私だって!」

 

フィリア「コード……、ファウストローブ……」

 

 響たちはギアを纏った。フィリアはファウストローブを纏った。

 

クリス「オラオラ! こちとら、鬱憤が溜まってんだよぉぉぉっ!」ドドドドド

 

切歌「うわぁっ! クリス先輩が凄い気迫デス」ザシュッ

 

調「よっぽどストレスが溜まってたんだね」ズバッ

 

 

 

 

魔王「くそぉぉぉっ! この俺の部下を全滅させやがってぇぇぇっ! だったら、この世界を破滅させてやる!」

 

響「そんなことはさせないっ! エルフナインちゃんを助けて帰るんだ!」

 

翼「みんなっ! 立花に力を! 天羽々斬!」

 

クリス「イチイバル!」

 

調「シュルシャガナ!」

 

切歌「イガリマ!」

 

マリア「アガートラーム!」

 

未来「神獣鏡!」

 

フィリア「ミラージュクイーン!」

 

全員「「うぉぉぉぉぉぉっ!!」」

 

 

響「ガングニィィィィィルッ!!!」

 

 全員攻撃! 《Glorious Break》が発動! 魔王に9999999のダメージ!

 

魔王「馬鹿なぁぁぁぁっ!!」

 

 魔王を倒した!

 

エルフナイン「皆さん、ありがとうございます。やっと、この世界の支配権がボクの元に戻りました。これで帰ることが出来ます」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――ゲームにハマるとロクなことがない――

 

エルフナイン「本当にすみません。皆さんが来てくれなかったら、ボクは魔王にナニをされていたか……」

 

フィリア「ゾッとする話ね……」

 

マリア「まぁ、無事だったんだしいいでしょ」

 

エルフナイン「マリアさんも、翼さんも、ボクの為にわざわざロンドンから……」

 

翼「何を言うかエルフナイン! 例え、地球の裏側だろうと、友の為ならば駆けつけるなど当たり前のことだ」

 

クリス「んでもよ、ゲームのキャラクターに支配権なんて簡単に渡せるものなのかよ」

 

エルフナイン「思いもよらない展開を作ろうとして、AIに独立した思考を許可した結果、簡単に裏切られてしまいました」

 

エルフナイン「ボクにはこんな小さな世界ですら神になるには荷が重かったみたいです」

 

マリア「なるほど、だったら、この世界の神というはかなりの重労働なんだな」

 

調「全員の独立した意思を監視なんて簡単に出来ない」

 

切歌「バラルの呪詛を神とかいう存在がばら撒いたのは、見守るのが嫌になったからデスか」

 

クリス「んな、面倒くせー話はいいんだけどよぉ。一つ気になってんだけど、結局、ゲームオーバーになったらどーなるんだ?」

 

エルフナイン「これは、フィリアさんのアイデアなのですが、ゲームオーバーになると、その人の記憶の中で一番恥ずかしいことが暴露されます。クリスさんの場合は――」

 

クリス「ばっ、馬鹿! 言うんじゃねぇーよ! なんつーゲームを作ってんだ!」

 

フィリア「実際、命の危険が無いんだから、これくらいのリスクは必要だと思って」

 

翼「それにしても、雪音のその慌てようはかなりの恥ずかしいことみたいだな」

 

切歌「先輩だけゲームオーバーにすれば面白かったデェェス」

 

調「切ちゃんは手紙を公開するだけで済んだもんね」

 

フィリア「手紙?」

 

マリア「ああ、調に送ったっていう?」

 

クリス「ほーう、面白ぇ話が聞けそうじゃねぇーか」

 

切歌「しまった……、藪蛇デス……」

 

マリア「とにかく、エルフナイン。もうこれ以上は危ないゲームを作ったらダメよ」

 

未来「確かに楽しかったけど、それ以上に危険だったのはマズイかな」

 

エルフナイン「気を付けます。皆さんを楽しませたかったのですが……」ションボリ

 

響「じゃあ、せっかく翼さんとマリアさんが帰ってきてくれたことだし、みんなでテレビゲーム大会をしませんか? 翼さん、マリアさん、少しだけ付き合ってください」

 

翼「まぁ少しくらいなら……」

 

マリア「仕方ないわね……」

 

 

 次の日……。

 

翼「しまった! つい、熱くなって日を跨いでしまった!」ジタバタ

 

マリア「飛行機の出発に間に合わないかも! このままだと仕事が……。こうなったら、政府専用機をチャーターするしか……」アセアセ

 

フィリア「あたし、当分、ゲームはお腹いっぱいだわ……」

 

エルフナイン「でも、みんなで賑やかに遊ぶのはとても楽しかったです」

 

響「良かったね、エルフナインちゃん」

 

未来「翼さんとマリアさんを見てると良かったとは言えないような……」

 

切歌「やっぱりゲームは……」

 

調「ほどほどにしなきゃダメだね、切ちゃん」

 




よく考えたら後半絶唱っぽい感じのことしてるような気がしますが……、そこはご了承ください。
シンフォギアクエストはいかがでしたでしょうか?
時々、こういった特別編みたいなのを挟めればと思ってます。
次回もよろしくお願いします!


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戦姫絶唱しないシンフォギアGX その3

今回で絶唱しないのGX編は終了です。
それではよろしくお願いします!


 ――夏の風物詩 その壱――

 

エルフナイン「フィリアさん、テレビゲームに続いて、この夏のヒットワードが見つかりました!」

 

フィリア「どうしたの? エルフナイン。今日は随分とテンションが高いじゃない。ヒットワードって何よ?」

 

エルフナイン「流しそうめんです!」

 

フィリア「流しそうめん……。なんでまた?」キョトン

 

エルフナイン「どうして、そのまま食べずに流すのか、その理由が気になります」

 

フィリア「そんなに気になるものかしら? まぁいいわ。ええっと、去年、通販で買った、一人用の流しそうめん機が確かこの辺に――」

 

エルフナイン「流しそうめん機!? 人類とはそんなものまで発明していたのですか!?」

 

フィリア「ふぅ、あったわ」ドン

 

エルフナイン「こっこれは、ボクが見たものとは少し違います。普通の器のように見えますし……」

 

フィリア「スイッチを入れるとほら、水が循環してグルグル回るから」

 

エルフナイン「なるほど、そうめんを入れると、そうめんがグルグル回りながら流れるというわけですね」

 

フィリア「やってみる?」

 

エルフナイン「はい!」

 

 

 

流しそうめん機「グウィィィィン!」

 

フィリア「そうめんが回ってるわね」

 

エルフナイン「ええ、グルグル回ってます。でも……」

 

流しそうめん機「グウィィィン!」

 

フィリア「モーターの音がうるさいわね……」

 

流しそうめん機「グウィィィン! グウィィィィン!」

 

エルフナイン「すみません。実は気になってました」

 

フィリア「一度、切るわね」プツン

 

流しそうめん機「…………」

 

エルフナイン「…………」

 

フィリア「…………」

 

 

フィリア「流しそうめんを流す理由はわかったかしら?」

 

エルフナイン「いえ……、錬金術的に言ってもこれは何かが違うと思います。やはり、本格的に――」

 

響「フィリアちゃん、エルフナインちゃん! 遊びに来たよー! あー、そうめんあるじゃん。えっ、食べてもいいのー? いっただきまーす! うーん、おいひぃー」ズルズル

 

 

フィリア「とりあえず、何でも美味しそうに食べる子が居るってことは分かったわね」

 

エルフナイン「きっと、流しそうめんでも、同じリアクションになりそうです……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――夏の風物詩 その弐――

 

フィリア「ということで、流しそうめん機を作ってみたの。あたしとエルフナインの技術を結集して」

 

弦十郎「ここのところ、研究室に籠もりっきりかと思っていたら、そんなものを……」

 

エルフナイン「ボクたちの持てる錬金術の知識をフル活用した最高傑作かもしれません」

 

弦十郎「出来れば、君たちの技術は別のことに活かして欲しいのだが。まぁ良いだろう……。で、その流しそうめん機とやらはどこにあるのだ?」

 

フィリア「目の前にあるのがそうだけど……」

 

弦十郎「こっこれか? どちらかと言うとネコちゃん用のウォータースライダーに見えるが……。というより、この銀色ってフィリアくんのミラージュクイーンじゃ……」

 

フィリア「ええ、錬金術の触媒となるミラージュクイーンを溶かして塗料として使ったのよ。これで、完成するのが錬金術師式流しそうめんってわけ」

 

弦十郎「まったくもって、訳がわからん」

 

エルフナイン「そして更に環境設定にも拘ってみました」

 

弦十郎「だはーっ!」

 

エルフナイン「トレーニングルームの設備を応用して日本の夏を演出してみました」

 

弦十郎「これってF.I.S.から回収した先端技術なんだけどな……。錬金術師っていうのは発想が自由なんだな」

 

エルフナイン「ボクたちの流しそうめんに死角はありません」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――夏の風物詩 その3――

 

フィリア「さっそく被験者に食べてもらいましょう」

 

調「流しそうめんってよくわからないけど、凄い設備を使うんだね、切ちゃん」

 

切歌「日本の文化は手間がかかるのデスなー」

 

未来「二人が完全に流しそうめんを誤解して帰っちゃうよ」

 

クリス「まーた、アホなもん作ってやがる」

 

響「まぁまぁ、美味しければ何でもいいよー」

 

弦十郎「スイッチを入れるぞー」

 

エルフナイン「歴史的瞬間です!」

 

流しそうめん機「ウィィィィン」

 

未来「凄い冷気……、ひんやりする」

 

フィリア「錬金術の応用で、流れてるそうめんの温度を氷を使わずに急激に下げてるのよ、茹で上がった瞬間の舌触りの良さはそのままにね。ちゃんと、つゆの温度を計算してるから、最適な冷たさを保証するわ」

 

弦十郎「何というか技術の無駄遣いだな」

 

 

切歌「それにしても、全然流れてこないデスね」

 

エルフナイン「おかしいです。全自動でそうめんが次々と流れる設計なのですが」

 

調「切ちゃん、エルフナイン、多分原因は響さん」

 

響「んー?」モグモグ

 

フィリア「食いしん坊、排除システム発動」ポチッ

 

響「あっ、また流れてきたー。あれっ? とりゃっ! ええーいっ!」スカッ

 

未来「そうめんが響の箸を避けてる?」

 

クリス「まるでドジョウやウナギみてぇに動いてっぞ。なんか、気持ち悪ぃ……」

 

フィリア「響の箸に仕込んだ金属を避けるように水流を操っているのよ。こうなると思ったから」

 

エルフナイン「実に錬金術的な発想です。これでボクたちも食べられます」

 

切歌「面白いように箸をそうめんが避けてるデース」

 

未来「でも、響にせき止められないようにしたいんだったら、響を後ろに立たせればよかったんじゃ……」

 

クリス「あたしもそう思った」

 

フィリア「…………」

 

エルフナイン「それもそうですね」ハッ

 

弦十郎「フィリアくんは優秀なのだが、時々、ベクトルがエライ方向になっている時があるな」

 

フィリア「…………」

 

調「でも、面白いと思うよ私は。リア姉のユーモアがあるとこ好きだな」

 

切歌「そうデスよー。こんなヘンテコな動きをする食べ物初めて見たデース」

 

フィリア「痛いわ……」

 

調・切歌「「えっ?」」

 

フィリア「二人の優しさで胸が痛い……」

 

クリス「最近、感情が豊かになって、過剰反応気味なんだよ、コイツ」

 

 

弦十郎「で、どうだエルフナインくん。そうめんを流す理由には辿りつけたかな?」

 

エルフナイン「えっと、美味しいです! あと、すごく楽しいです。その、錬金術的に!」

 

響「さすが、錬金術師。すぐに真実に辿り着いちゃったよ」

 

フィリア「制作費に120万円くらいかけた甲斐があったわ」シミジミ

 

クリス「お前、本当(ほんっとう)のバカっ!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――夏休みの宿題 その壱――

 

エルフナイン「流しそうめん大会、盛り上がりましたね」

 

切歌「この辺で帰って宿題をしないとデス」

 

響「えー、切歌ちゃんも調ちゃんも偉いねー。私なんか全然手を付けてないよー」

 

調「ちゃんと毎日少しずつ宿題をやらなきゃ、響さんみたいになるって、リア姉が……」

 

響「えっ? 私みたいになるって? そんなぁ……」ガーン

 

フィリア「あら、響。どうしたの? 落ち込んで……」

 

響「フィリアちゃん、酷いよ! 宿題しなかったら私みたいになるって!」

 

フィリア「何か間違ってるかしら? じゃあ、響は宿題溜め込んで登校日前日に困らないのね? せっかく手伝おうと思って予定を空けようと思ってたのに……」

 

響「調ちゃん、切歌ちゃん、宿題やらなかったら、私みたいになるから気を付けた方が良いよ!」キリッ

 

クリス「オメーはちったぁ先輩としてのプライドを持て!」ポカッ

 

響「クリスちゃんは成績が良いからそんなこと言えるんだよー」

 

クリス「そりゃあ、先輩がバカだと後輩に示しがつかねぇからな」

 

切歌「しかし、寂しいからって宿題を見るのを口実に、その後輩の家に居座るのは如何なものかと思うのデス」

 

調「来なかった日はリア姉が遊びに来てる日だったみたい」

 

フィリア「あらあら、随分と後輩想いの先輩じゃない」

 

クリス「うっうるせぇ!」カァァァ

 

響「そういえば、フィリアちゃんは前みたいにウチに遊びに来ないね」

 

フィリア「そりゃあ、ねぇ……」チラッ

 

未来「どうしたんですかー? フィリア先輩、どうして私を見ているんですか?」ゴゴゴゴゴ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――夏休みの宿題 その弐――

 

切歌「宿題を見てくれるのは嬉しいデスが……」チラッ

 

調「さすがに二人から監視されるとやりにくいと言うか」チラッ

 

クリス「おい、そこ間違ってるぞ」

 

フィリア「さっき教えたでしょう。必要条件と十分条件がごっちゃになってるわ」

 

切歌「手抜きするとすぐにバレるデス」

 

調「間違ったら基礎からみっちり復習させられるから時間も倍以上かかってるよ」

 

切歌・調「「はぁ……」」

 

 

フィリア「そろそろ、時間じゃない。この前、一緒に見ようって話してた心霊特番の」

 

クリス「おっおう。そっそうだったな。見てぇと思ってたんだ。くっだらなくて、面白ぇから。ははっ……」

 

フィリア「あたし、幽霊って信じてるのよ。霊感がある人が羨ましいわ」

 

クリス「そっそうだなー。あたしだって、見れるもんなら、見てみてぇけどなー」チラッ

 

 

調「私、気付いちゃいけないことに気付いちゃったかも」

 

切歌「私もデス。二人で怖いテレビを見ようとしたら、リア姉が思った以上にノリノリになったから、怖くなってここに逃げて来たのデス」

 

フィリア「でも、この前近くのスーパーマーケットで少しだけ見えたのよ。半透明の足だけがジタバタしてる、幽霊が――」

 

クリス「うげっ、今はまだコワイのはいいんじゃねえか?」ブルブル

 

切歌「リア姉のオカルト好きは筋金入りデス」

 

調「クリス先輩、まだテレビが始まってないのに顔が青ざめてる……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――歌わない歌姫 その壱――

 

翼「快適な夏を過ごすために、お父様が蚊取り線香を送ってくれた――。さっそく使ってみよう」シュボッ

 

 

 

翼「――んっ? こっ、これは錬成陣というやつじゃないか! なぜ、こんなところに!」

 

フィリア「あっ、成功したみたいね。翼、しばらくぶり」

 

翼「なっ――、フィリアじゃないか! どうしたここに?」

 

フィリア「テレポートジェムを作ってみたから試運転がてら翼の様子を見ようと思って。何だかんだ言って翼って生活能力がないから心配なのよ」

 

翼「むぅー私とて、もう大人だ。フィリアに心配されずともちゃんとやっている」

 

フィリア「そうは見えないけど。相変わらずぐちゃぐちゃだし……。その前に、この部屋なんか煙たくない?」

 

翼「お父様に蚊取り線香を頂いたから、使わせてもらっているのだ」

 

フィリア「えっ? ホテルの室内で煙が出るものを焚いたの?」

 

スプリンクラー「ジャーッ!」

 

フィリア「ちょっと、スプリンクラーが止まらないじゃない。とにかく、蚊取り線香消して! 換気して! って、外は雨なの!?」

 

 

翼「すっすまない。私の不徳だ」ショボン

 

フィリア「まったく、翼っておっちょこちょいよねー」

 

翼「ところでフィリア、さっきから気になっていたのだが……」

 

フィリア「何?」

 

翼「いや、左腕はどこに置いてきたんだ? 気付いてないようだから、指摘するが……」

 

フィリア「あら、テレポートジェムの作成に、ちょっした不具合があったみたいね。うっかりしてたわ」

 

翼「片腕がなくなるって、それはうっかりで済む話なのか?」

 

フィリア「まぁ、あたしは再生できるし大丈夫よ。ところで、ノックの音がするけど……」

 

翼「ホントだな、誰か来たみたいだ……」

 

マリア「ハロハロー、翼ー。ちょっと、雨宿りさせてくれるー? って、これはどういう状況なの!?」ギョッ

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――歌わない歌姫 その弐――

 

マリア「ええーっと、翼が室内で蚊取り線香を使ってスプリンクラーが作動。フィリアはテレポートジェムを使ってロンドンに来たけど失敗して、片腕を置いてきちゃった――」

 

マリア「あなたたち、少しは考えて慎重に行動しないと……」

 

フィリア「なんだろう。正論だけど、マリアに言われるとしっくり来ないような」

 

翼「うむ、いきなり世界を相手に国家の割譲を求めるような、マリアらしからぬ台詞だ」

 

マリア「あなたたち、こういう時は息がピッタリなのね……」

 

 

マリア「そういえば、フィリアって前にパヴァリア光明結社に居たことがあるみたいなこと言ってなかったかしら?」

 

フィリア「ええ、一年ちょっとくらいの間だけど確かに潜入してたわよ」

 

翼「お前の行動力は今も昔も変わらないな」

 

マリア「今回の魔法少女事変、実は裏でパヴァリア光明結社が糸を引いてたみたいなのよ」

 

フィリア「確かに、キャロルはパヴァリア光明結社から支援を受けていたわ。連中は神の力を手に入れようと躍起になってたみたいだけど……」

 

マリア「やっぱり……。しかし、表舞台に全く出てこない、パヴァリアの局長、アダム=ヴァイスハウプトの情報とかは、さすがにわからないわよね?」

 

フィリア「人となりくらいならわかるわ……。あたしは彼の秘書だったから」

 

マリア「秘書? アダムの秘書をあなたが?」

 

フィリア「あたしが淹れたコーヒーが美味しいって言ってくれて……。成り行きで……」

 

マリア「あなたって、どこでも餌付けしてるのね。立花響だけじゃなかったか……」

 

フィリア「だから、餌付けしてないって!」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――フィリアとエルフナインと賢者の石――

 

フィリア「やっぱ、簡単には行かないか……」

 

エルフナイン「どうしたんですか? フィリアさん」

 

フィリア「いや、ファウストローブを強化しようと思って、これを作ろうとしたんだけど……」

 

エルフナイン「こっこれは、賢者の石の設計図……。錬金術の最高到達点の一つじゃないですか!」

 

フィリア「全然、未完成だけどね。ラピス・フィロソフィカス……、以前、この研究の手伝いをしたことがあったから、今のあたしなら作れるかもと思ったけど甘かったわ……」

 

エルフナイン「チフォージュ・シャトーに残っていた研究資料を熱心に読んでいたのはそのためだったんですね」

 

フィリア「ええ、あそこに残っていたキャロルの研究資料はどれも目新しかったわ。やっぱりあの子は天才なのよ」

 

エルフナイン「そうですね。キャロルはボクなんかと違って何でも出来ますし……」

 

フィリア「あなたにはあなたの良さがあるわ。エルフナイン」

 

エルフナイン「えっ?」

 

フィリア「力は無くても常に前向きで、自分の信じる道を行こうとしたひたむきさは、キャロルにはない強さよ」

 

エルフナイン「フィリアさん……。――ボクも研究をお手伝いします。きっとその研究は今後の役に立つはずです」

 

フィリア「ふふっ、ありがとう。エルフナイン。じゃあ、ラピス・フィロソフィカスの設計図をもう一回見直すから手伝ってもらえるかしら?」

 

エルフナイン「はいっ! ボクもラピス・フィロソぶ――はうぅっ! ひたを噛じゃひまひた……」

 

フィリア「あら、大変。消毒しなきゃ」

 

エルフナイン「この崇高な研究の名称を噛んでしまうなんて……。錬金術的にもってのほかです……」ショボン

 

フィリア「そういえば、あなたみたいな、超マジメな錬金術師が居たわね……」

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ――パヴァリア光明結社動きます――

 

サンジェルマン「ついに手に入れた、アンティキティラの歯車」

 

カリオストロ「それではさっそく次なる目的地のバルベルデへと」

 

プレラーティ「その前に放っておいてもいいワケダ? 裏切り者のフィリア=ノーティス」

 

カリオストロ「別にいいんじゃないのー? あーしらが不利益被ったわけじゃないんだしー」

 

サンジェルマン「フィリアは裏切ってなどいない」

 

カリオストロ「いや、どう考えてもキャロルの送ったスパイでしょ」

 

プレラーティ「廃案になった完全体自動人形(オートスコアラー)に自らなったところを見ると研究資料も盗んでるワケダ」

 

サンジェルマン「だとしても、フィリアはチフォージュ・シャトーをその力をもって叩き落とした。きっと我々の計画を影から後押ししてくれたに違いない」

 

カリオストロ「考えすぎに一票ー」

 

プレラーティ「さすがに何の連絡も無しにそれはないワケダ」

 

サンジェルマン「それに、今はフィリアには手は出せない。局長命令だ」

 

カリオストロ「あの人、フィリアが居なくなって怠け者に逆戻りしたけど、また秘書にしたいとか言い出すんじゃないのー?」

 

プレラーティ「いや、何か良からぬことを企んでいるに違いないワケダ」

 

サンジェルマン「憶測で考えるな、計画の成功だけを考えろ。そのために必死で努力を積み重ねてきたんだ」

 

プレラーティ「努力を積み重ねる――とても悪役のセリフには聞こえないワケダ」

 

サンジェルマン「悪役じゃなーい! 私たちは正義の味方なの! 何度言えば分かるの!」

 

カリオストロ「ビルの上から夜景を見ながら密談する正義の味方ねぇ……」

 




3度目のシリーズ完結後の絶唱しないシンフォギアはいかがでしたでしょうか?
マリつばの出番が少なった気がしますが、本編で何とか出番を増やしたいと思います。
次回からはAXZ編がスタートします。
シリーズ最後のXV編に繋げる大事なシリーズだと思いますので、頑張ります!
それでは次回もよろしくお願いします!


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AXZ編
束の間の平穏と暗躍する組織


この小説もついに後半戦、第4期であるAXZ編に突入しました。
神の力を手に入れんとするパヴァリア光明結社との戦いがスタートします。
それでは、よろしくお願いします!


 魔法少女事変――キャロルが大立ち回りをして、世界を分解しようとしたあの事件はそう呼ばれるようになっていた。

 それから、数週間の時が過ぎて、あたしたちは夏休みという平穏な時間を過ごしていた。

 

 今日はあたしたちが通うリディアン音楽院の登校日である。

 

「ふひー、眠いよぉ……。今ならアスファルトの上でも熟睡出来ちゃう……」

 

 響は眠たい目を擦りながら、通学路をフラフラと歩く。

 まったく、だらしないわね……。

 

「確かに、あたしは手伝うって言ったわ。だからって、まさか一つも手を付けないとは思ってなかったわよ」

 

 そう、あたしは昨日から日を跨いで今日まで丸一日かけて響の宿題を手伝っていた。

 響は清々しいくらい何もしておらず、あたしと未来の二人がかりで彼女を助け、ようやく15分前にギリギリ終了することが出来たのだ。

 

「まさか、文字を書くのは全部私になるなんて思ってなかったんだよ〜」

 

「私が代わりに書いたら、先生にバレちゃうよ。私の字だって」

 

 ひたすら課題の答えを書く作業をしていたことに対して愚痴をこぼす響に、未来はツッコミを入れる。

 

「そもそも、あなたの下手くそな文字は、あたしは左手で書いても真似できないから。手伝ってもらったことに感謝なさい」

 

 あたしはフラフラと歩く響を支えながら、そう言った。

 

「うん、ありがとう。フィリアちゃん。それに未来も……。大好きだよ」

 

 響はそう言いながら、あたしと未来を抱き締めてきた。

 

「ちょっと、やめなさい。人が見てるでしょ。未来も呆けてないで引き剥がしなさいよ」

 

 響に抱きしめられてだらしない顔をしている未来に声をかけたが届かず、あたしたちは公衆の面前で女三人が抱き合うという異様な雰囲気を醸し出していた。

 

「お前は、人目をちったぁ気にしろ!」

 

 聞き慣れた声と共に、響は頭を叩かれる。

 クリスが見かねて、声をかけてくれたのだ。あー助かった。

 

「痛いよ、クリスちゃん」

 

「うるせぇ! みんな見てっぞ、道の真ん中でバカやってるって!」

 

 頭を擦りながら抗議する響に、クリスは極めて常識的な反論をする。

 最近思ったが、この子が一番真面目なのかもしれない。

 

「先輩たちは朝から騒がしいデスなー」

 

「クリス先輩の怒鳴り声もかなり遠くまで響いてた」

 

 切歌と調は手を繋ぎながら、あたしたちに声をかけてきた。この二人はナチュラルに仲の良さを全面的にアピールしてるわね。

 

「おっはよー、切歌ちゃん、調ちゃん! 今日も二人とも仲がいいねー」

 

 さっきまで眠たい目をしていた響がようやく活動を開始したのか元気よく二人に挨拶をした。

 

「いやー、マジでハンパなく参っちゃったよー。宿題が全然終わらなくてさー」

 

 さらに立ち止まって世間話まで始めてしまうものだから、彼女には困ったものである。

 

 そろそろ、登校時間ギリギリだというのに。

 

「切歌も調も、律儀に響に付き合わなくて良いから。遅刻しちゃうわよ」

 

「オメーは、喋ってないで足を進めろ! バカを後輩に感染すな!」

 

 あたしが切歌と調に声をかけて、クリスが響の背中を押して歩かせる。

 

「もう、響ったら。遅刻したらホントに洒落にならないよ」

 

「わわっ! 未来ぅ、そんなに力を入れると転んじゃうよー」

 

 未来に手を引かれて、響は引きずられるようにして学校に向かって行った。

 

「あたしらも行こーぜ。まったく、朝から騒がしい」

 

「ふふっ、そういうあなたは朝から随分と楽しそうな顔をするようになったわね」

 

「お前ほどじゃねぇーよ」

 

 クリスとあたしはそのまま一緒に教室まで歩いて行った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「あーっ、よーやくかったりぃ話が終わったか」

 

 登校日は午前中で終了した。三年生のあたしたちは主に進路についての話だったが……。

 

「クリスは大学に進学するのね。推薦の資料も貰ってたし」

 

「一応なー。まっ、何がしたいってわけじゃねーんだけどよ」

 

 あたしは後ろの席に座っているクリスに話しかける。彼女は成績優秀だからきっと推薦入試で簡単に大学に通ってしまうだろう。

 

「そういうお前は進学しねーんだな」

 

「そもそも、ここに通うのだって翼の為だったし。今さらモラトリアムを謳歌しても仕方ないわよ。S.O.N.G.でしばらくは異端技術の研究者をやるつもり」

 

 実際、あたしに出来ることって言ったら研究くらいだ。フィーネの知識とキャロルから教えてもらった錬金術の知識、これらを役立てるには研究者として精進するのが一番だろう。

 

「確かに、お前くらいの知識があるんだったら、大学なんて行っても意味ねーよな。まぁ、進路の話はまた今度にして、とりあえず、昼飯でも食いに行こうぜ」

 

「いいわよ。どこ行く?」

 

「近くのファミレスで良いんじゃねーの」

 

 あたしとクリスは帰り支度を済ませて立ち上がり教室を出ていった。そして、二人でよく立ち寄るファミレスへと向かう。

 

 

 

 

「ほらよ、いつものメロンソーダだ。お前ってガキっぽいもんが好きだよなー」

 

「別に良いじゃない。だって美味しいんだもん」

 

「だもん、じゃねーよ。いい歳して可愛い子ぶりやがって」

 

 注文を済ませて、クリスがドリンクバーからジュースを持ってくる。

 最近、何にするか聞かれないのは、あたしがこればかり飲んでいるからだろう。

 

「――なんだかなぁ」

 

「ん? どうかしたの? 難しい顔して」

 

 クリスはドリンクに口を付けて、ふと、言葉を漏らした。

 

「ちょっと前まで学校に通うなんざ考えても居なかったのに、今じゃ進学先まで考えてやがる。不思議なもんだと思ってさ」

 

 クリスはあたしたちと出会う前まで酷い扱いを受けていた。

 ウチのアホな母親もそうだが、特にバルベルデ共和国での彼女の幼少期はあたしの人生が可愛く見えるくらい悲惨なものだったのは容易に想像がつく。もちろん、深くは聞いてはいないが……。

 

 

「別に不思議じゃないわよ。あなたが最後に心から望んだから、あたしもあの子たちもあなたと手を取り合うことが出来たの」

 

 あたしはクリスにそう返した。あの日、クリスが友達になろうって言ってくれたことをあたしは忘れないだろう。

 

「あたしはあなたとこうやって友達になれて良かったわ」

 

「なっ、臭ぇこと言ってんじゃねぇよ。恥ずかしいだろーが」

 

 あたしが素直な気持ちを伝えると、クリスは顔を赤くしてそっぽを向いた。これじゃ、素直になり損じゃない。

 

 

 

「あたしだって、お前には――」

 

 少し間をおいて、クリスが口を開いたその時である。あたしとクリスの通信機が同時に鳴り始めた。

 

 どうやら、何か良くないことが起きたみたいね。

 

 あたしとクリスは顔を見合わせて頷き、通信に出た。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「遅くなりました!」

 

 呼び出しをくらったあたしたちは響、切歌、調と合流してS.O.N.G.の司令室へ入った。

 

「揃ったな。さっそくブリーフィングを始めるぞ」

 

 弦十郎の先にあるモニターには緒川と翼、そしてマリアが映っていた。ロンドンで何かあったのかしら?

 

「先輩!?」

 

「マリア……。そっちで何かあったの?」

 

 クリスと調がモニターに反応する。

 

『フィリアには話したことだけど、翼のパパさんからの特命でね、S.O.N.G.のエージェントとして魔法少女事変のバックグラウンドを探っていたの』

 

 確かにマリアはエージェントとして、魔法少女事変の裏側、つまり暗躍していたパヴァリア光明結社について調べていた。

 組織に短い期間とはいえ所属していたあたしはマリアからよく組織について聞かれていた。あまり役には立たなかったみたいだけど……。

 

『私も知らされていなかったので、フィリアがロンドンに来たときまで、てっきり寂しくなったマリアが勝手に英国までついてきたとばかり……』

 

『だから! そんなわけないでしょ!』

 

 翼の天然に律儀にツッコミを入れるマリア。

 翼のこういうところに可愛らしさを感じるのはあたしだけだろうか?

 

『マリアさんの捜査で一つの組織の名が浮上してきました。それがパヴァリア光明結社です』

 

「チフォージュ・シャトーの建造にあたり、キャロルに支援していた組織だったようです。裏歴史に暗躍し、一部には今の欧州を暗黒大陸とまで言わしめる要因とも囁かれています」

 

 緒川とエルフナインがパヴァリアの名前を出す。自分で言うのもアレだが、よくそんな組織に1年以上も潜入していたと思う。

 

「あのマーク! 見たことあるデスよ!」

 

「確か、あれって……」

 

『そうね……、マムやドクターと通じ、F.I.S.を武装蜂起させた謎の組織……。私たちにとっても向き合い続けなければならない闇の奥底だわ』

 

 切歌と調がパヴァリアのエンブレムに反応すると、マリアがF.I.S.の蜂起のきっかけとなった過去を話す。こう考えると連中は手広く陰謀をコントロールしていると言ってもいい。

 あたしも少しの間だったが、連中のやり口はよく理解したつもりだ。

 

 今、考えると、あたしやキャロルはパヴァリア光明結社の手の上で踊らされていたのかもしれない。

 

 まぁ、あたしは研究資料を持っていったり、冷遇されていたとはいえ、研究者のゲイルを連れ出したりしているから、それなりに恨みを買っているかもしれないが……。

 

「フィリアくん、君は短期間とはいえ、パヴァリア光明結社に潜入していたと聞いたが……」

 

 弦十郎と緒川、そしてマリアと翼にはあたしがパヴァリア光明結社に潜入していた過去のことを話している。

 魔法少女事変やフロンティア事変について調査するだろうことがわかっていたからだ。

 

「ええ、1年ちょっとだけ、局長の秘書をやっていたわ」

 

 あたしはちょうど良い機会だったので、みんなにキャロルのところからパヴァリア光明結社に潜入していた話をした。

 

「お前、大丈夫なのかよ? そんなやべぇ、組織に関わって……」

 

「さぁ、今のところは連中から何のアクションも無いし、あたしも特に連中に不利益を与えてないから大丈夫なんじゃないの?」

 

 クリスの言葉にあたしはそう返した。実際は粛清される対象にされているかもしれないが……。

 

「連中の目的は神の力を手に入れること。この目的が数年でブレていないのであれば、フロンティア事変も魔法少女事変もそのために連中が必要だから起こした、と考えるのが自然ね」

 

 あたしはパヴァリア光明結社が二つの陰謀に関わっていた理由についての考察を話した。

 

『神の力ですか……。でしたら、これもそれに関わっているのかもしれません。マリアさんからの情報を元に調査部でも動いてみたところ、このような映像を入手しました』

 

「「アルカノイズ!」」

 

 緒川がモニターを切り替えると、響たちは一斉にそう声を上げた。

 

 モニターにアルカノイズが映し出されたからである。

 

 

『撮影されたのは政情不安な南米の軍事政権国家――』

 

 緒川の言葉から、さらに画面が切り替わり、軍服を着た男の肖像画が映る。

 

「バルベルデかよ!」

 

 クリスは目を見開いて声を荒げた。まさかここにきてバルベルデとは……。

 

 待って、バルベルデって確か……。

 あたしはパヴァリアに居たころ、サンジェルマンという幹部に頼まれた仕事のことを思い出した。

 

「装者たちは現地合流後、作戦行動に移ってもらう。忙しくなるぞ!」

 

 弦十郎はそう締めくくり。あたしたちは作戦の準備に取り掛かる。

 あたしの仮定が正しいのなら、連中の目的は間違いなく()()だ。

 

 あたしはそのことを弦十郎に伝えることにした――。

 

 バルベルデ共和国――南米の軍事国家にてあたしたちの新たな戦いが始まった。

 

 




今回は日常から有事への移り変わりという感じの回でした。
GX編ではクリスとフィリアが同じクラスという設定を活かせませんでしたので、普段の友達として付き合ってるシーンを入れてみました。
次回もよろしくお願いします。


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バルベルデ地獄変

原作の一話の終わりくらいまでです。
それではよろしくお願いします!


「クリス、大丈夫? さっきから顔色が悪いわよ」

 

 バルベルデ共和国に向かう道中、あたしは深刻そうな表情をしているクリスに話かけた。

 

「ん? なんでもねぇよ……。――って、お前に言ってもしゃーないか。まぁ、色々とあった国だからな。胸がざわついちまうんだ」 

 

 クリスはやはりバルベルデ共和国での事を思い出していたみたいだ。

 この子にとって痛い思いをした国に行くのはかなり酷なことだと思っている。

 

「戦力的にもこちらは十分。もしも出撃が無理なら――」

 

「心配ねぇ! 心配が過ぎるぜフィリア。あたしはお前が思ってるほど、弱くない……」

 

 あたしが出撃を見合わせるように弦十郎に進言してもよいと、言おうとすると、クリスは首を横に振ってそれを止めた。

 

「でも、ありがとな。気持ちだけ貰っとく」

 

「何が気持ちだけ貰っとくよ。痩せ我慢してたら、今度は押し付けてやるんだから」

 

 あたしはクリスの胸をポンと拳で叩いて、立ち去ろうとした。

 

「お前、あのバカに影響され過ぎだぞ」

 

「それは、なんか嫌ね」

 

 背を向けると、呆れた口調でクリスがそんなことを言う。まったくもって遺憾である。

 私はやりかけの研究を済ませるために研究室に向かった。

 

 

 

「やはり上手くいかないものね……。LiNKERの持続時間の上昇をマリアに頼まれたけど……」

 

「無理に持続時間を上げるとバックファイアや体内の汚染が急激に大きくなってしまいます。やはり、この時間が限界なのでしょうか?」

 

 あたしとエルフナインは試験管とにらめっこしながら、どうにかならないものかと思案していた。

 

「フィリアー。ここに居たのね。例の新型LiNKERの開発は進んでるかしら?」

 

 マリアが研究室に入ってきて声をかけてきた。

 

「マリアさん……、すみません。ボクが至らないばかりに……。ぐすっ……」

 

「ごっごめんさない。エルフナイン。あなたが頑張っていることはわかっているわ。プレッシャーをかけるつもりはなかったの」

 

 泣きそうな顔をしているエルフナインにマリアは慌ててフォローする。

 

「悪いわね、マリア。今まで、LiNKERはあなたたちの体への負担をいかに軽減するかに重きを置いて改良していたから……、持続時間については二の次にしていたのよ」

 

 あたしはマリアに研究が遅れていることの言い訳をした。実際、LiNKERの持続時間よりマリアたちの体の方が大事だから、その点を軽視することは絶対に出来ない。

 

「そうよね。切歌や調だって使うんだから、私も配慮が足りなかったわ。でも、お願い。時限式で戦う歯がゆさも、わかって欲しい」

 

 マリアは切実そうな表情でそう言った。

 はぁ、そう言うとは思ってたわ……。

 

「――仕方ないわね。未完成品だけど、このLiNKERを持っていきなさい」

 

 あたしは赤色のLiNKERをマリアに渡す。

 

「フィリアさん、それはまだ……!」

 

「こっこれは何?」

 

 エルフナインは顔を青くして、マリアは不思議そうな顔で赤いLiNKERを見る。

 

「この《Type:R》は従来のLiNKERの3倍の持続時間を可能する上に、適合係数の上昇率も格段にアップしている」

 

「何よ、フィリアもエルフナインも人が悪いわね。凄いものを作ってるじゃない」

 

 あたしの言葉にマリアは表情を緩めて明るい声を出した。

 

「いえ、このLiNKERは未完成品です。これを使えば、おそらくその後の体内の汚染やバックファイアの大きさも従来の比じゃないほどの大きさになるはずです」

 

「だから、出来るなら使わないで。ただ、命の危険にさらされる絶体絶命の場面に限って一度だけ使うことを許可するわ……。三人の中で一番適合係数の高いあなたなら死ぬことはないはずだから……」

 

 あたしとエルフナインはくれぐれも安易に使わないようにマリアに忠告した。

 それでも、彼女にこれを渡したのは、マリアの切実な想いを汲んだからだ。

 

「――そういうことね。わかったわ。どうしてもという場面がもしも来たら使わせてもらう。フィリア、エルフナイン、ありがとう」

 

 マリアは危険性を知った上で、《Type:R》をカバンの中にしまった。

 

「ところで、フィリア。この部屋の中、随分と甘ったるい匂いがするけど……、お菓子でも作ってるの? ん? この液体から匂いがするわね」

 

 マリアはあたしの前に置いてあった、琥珀色の液体の匂いを嗅ぎながら、そう言った。

 あー、それは――。

 

「それは、あたし専用のLiNKERみたいなものよ。《Type:G》とでも名付けておきましょうか」

 

「いや、どう見ても蜂蜜か水飴に見えるんだけど……」

 

 マリアは訝しい顔をして、《Type:G》を眺めている。

 パヴァリアの錬金術師、特にサンジェルマンたち幹部や局長のアダムといつか戦うようなことがあったとき、あたしのファウストローブだけでは戦力不足が否めなかった。

 

 だから、あたしは一種のドーピング薬を作った。これが切り札になれば良いけど……。

 

 

 それからしばらく、《Type:G》と新型LiNKERの研究に没頭していると、弦十郎からバルベルデ共和国に到着したという連絡を受け、あたしは司令室へ向かった。

 

 さて、異端技術を軍事利用している不届き者を懲らしめないとね……。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ホントにアルカノイズを使ってるなんて……。何を考えてるのかしら?」

 

 あたしはバルベルデの軍隊が繰り出すアルカノイズを切り裂く作業を続けていた。

 

「まったくだ。胸糞悪いぜ」

 

 背中合わせでクリスがあたしの言葉に同意する。

 クリスの遠距離攻撃とあたしの近距離攻撃のコンビネーションでアルカノイズはもちろん、バルベルデの兵器にも多大なダメージを与えていた。

 

 

 あらかた、地上を制圧したと思ったら、巨大な飛行戦艦が錬成陣の中から出てきた。

 

 地上はマリアと調と切歌に任せ、あたしと翼とクリスと響はヘリコプターの上に乗り、飛行戦艦と対峙する。

 

「コード……、ファウストローブ……」

 

 戦況も佳境に入ったことを察したあたしはファウストローブを身に纏って、攻撃の範囲を広げた。

 

「フィリア! あのデカブツにデカイのぶつけるぞ!」

 

 翼と響の活躍により飛行戦艦の中に居た軍人を外に連れ出すことに成功したので、あたしとクリスは戦艦にトドメを刺そうと身構えた。

 

 ――MEGA DETA PHOENIX――

 

 クリスの繰り出した巨大なミサイルにあたしが錬金術で錬成した炎の翼を纏わせて巨大飛行戦艦に向けて放つ――。

 

 

 轟音が鳴り響き、飛行戦艦は爆発して炎に飲まれた。

 

 

 

「国連軍が到着したみたいね……」

 

「ああ、とりあえず、あたしらの任務は完了だな」

 

 あたしたちは次の軍事拠点が判明するまで待機となった。

 ストレスが溜まる戦いね……。

 

 

 

 待機中にあたしたちはシャワーを浴びて休憩することにした。

 

「S.O.N.G.が国連直轄の組織だとしても、本来であれば武力での干渉は許されない」

 

「だが、異端技術を行使する相手であれば見過ごす訳には行かないからな……」

 

 マリアと翼の言うとおり今回の我々の出撃は異例の事態である。そもそもシンフォギアを使用しての武力行使など普通の紛争地域ではもってのほかなのだ。

 

「アルカノイズの軍事利用……」

 

 クリスは先ほどからやはり元気がない。無理もないことだが……。

 

「リア姉、LiNKERの持続時間ってもう少し長くならない?」

 

「戦える時間がもう少し長くなれば私たちももっと役に立つことが――」

 

 着替えを始めようとしていた、あたしに調と切歌が声をかけてきた。この子もマリアと気持ちは同じみたいね……。

 

「今、急ピッチで研究を進めてるの。もう少し待ってて。でも心配しないで大丈夫よ。今のままでもあなたたちは十分よくやってるから」

 

 あたしは調と切歌の背中に手を置いて、そう声をかけた。

 

 

 

 みんなの着替えが終わったと思っていたが、クリスがまだシャワールームから出てきていないかった。

 

「どうしたのかしら……?」

 

あたしは心配になり、彼女の様子を見に行った。

 

 

「くっ! クソッタレな想い出ばかりが領空侵犯してきやがる!」

 

 クリスはずぶ濡れのまま体も拭かずに苦しそうな表情を浮かべていた。

 

「クリス……、風邪引くわよ」

 

 あたしはバスタオルで彼女の体を拭く。

 

「ごめんな。さっきは虚勢を張ったけど……、やっぱこの国にはいい思い出がねーから、ちょっと辛ぇや……」

 

 クリスはぽつりぽつりとそう言って、目を瞑った。両親を失って、地獄のような生活を送った彼女にはやはりこの国は精神的に悪影響を与えているようだ。

 

「大丈夫よ。あなたはもう一人じゃないんだから」

 

「――フィリア。悪い……、少しだけこうさせてくれ」

 

「ちょっと、クリス……」

 

 クリスはあたしの胸にもたれるようにして覆いかぶさった。こういうのは(あの子)の方が得意なんだろうけども……。

 

 しばらくの間、あたしはクリスを抱きしめた。

 こうすることで少しでも彼女の心が癒されることを願って――。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「新たな軍事拠点が判明した。次の任務を通達するぞ。目標は化学兵器を製造するプラントだ。川を遡上して上流の軍事施設に侵攻する。周辺への被害拡大を抑えつつ、制圧を行うんだ」

 

 弦十郎が次の任務をあたしたちに告げる。

 

「「了解!(デス)」」

 

 装者たちは声を揃えて返事をして、出撃の準備に向かった。

 

「ねぇ、クリスちゃん。長いことフィリアちゃんと出て来なかったみたいだけど、なーにしてたのっ?」

 

 響がクリスにシャワールームから出てくることが遅かったことについて聞いてきた。

 

「うっ、うるせぇな。何でも良いだろーが」

 

 クリスは顔を真っ赤にして、響の言葉に反応する。仕方ない子ね。

 

「ちょっと、クリスがシャワーを浴びすぎてのぼせちゃったみたいだから、あたしが介抱しただけよ。クリスもそんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない」

 

 あたしはクリスのフォローをした。

 

「クリスちゃん、私もよく湯あたりするから、恥ずかしくないよ!」

 

「雪音、疲れが溜まっているのか? 何かあったら早めに言うのだぞ」

 

「あっああ。悪い……」

 

 響と翼はあたしの話を聞いて納得してそう声をかけた。クリスはキョトンとした顔をしていたが、一言だけそう呟いた。

 

「じゃあ、あなたたちは気を付けて。なるべく犠牲が出なければいいわね」

 

 あたしはそう言って司令室から装者たちを見送った。

 そう、あたしには別に任務があるのだ。

 

 

「藤尭、友里、準備はいいかしら?」

 

「フィリア、大丈夫なのか? やばい連中も来てる可能性があるんだろ?」

 

 あたしが声をかけると藤尭が不満そうな声を出す。オペレーターの彼としては、武闘派の連中に絡まれる可能性は避けたいのだろう。

 

「もう、情けない声出さないの。フィリアちゃん、もしもの時はよろしくー」

 

 肝が座っている友里は拳銃のメンテナンスを終えて、準備万端のようだ。

 

「ええ、任せなさい。命だけは守ってあげるから。藤尭は振られたばかりで死ぬのも可哀想だし」

 

「げっ、フィリア……、どうしてそれを!?」

 

「えー、何なにー。面白そうな話じゃん。詳しく教えてよー」

 

 あたしが祭りの日に藤尭が振られた話をしようとすると彼は動揺して、友里は楽しそうな顔をした。

 

「それが藤尭ったら、お祭りの日に花火で――」

 

「わぁっ! やめてくれっ! 頼むから言わないでくれっ!」

 

 藤尭は慌ててあたしの口を塞いできた。

 彼がここまで動揺するのも珍しい。

 

 こうして、あたしたちとS.O.N.G.のエージェント数人はもう一つの任務へと向かった。

 

 

 

 化学兵器のプラントの制圧はもちろん重要な任務だが、これを陽動としてあたしたちはバルベルデ共和国のあるオペラハウスに来ている。

 

 実はこのオペラハウスを中心にある結界のようなモノが邪魔をして衛星からの補足が不可能になっていたのだ。

 

 つまり、この場所こそバルベルデ共和国が軍事的に重要視している拠点の可能性が高いということになる。

 

 そして、パヴァリア光明結社の狙いのモノがここにある可能性が高いのだ。

 

 なぜなら、パヴァリアがバルベルデ共和国にアルカノイズを提供した理由は我々に彼らを制圧させ、彼らの動きを制限し、このオペラハウスの場所を特定するためなのではないかという可能性が浮上したからである。

 

 あたしは以前にティキの身体や部品の行方について調査したことがある。

 その中の候補地にバルベルデが確かにあった。

 故に、あたしはバルベルデ共和国にティキの身体が隠されていると推理した。

 

 ならば、この騒動の最中にパヴァリアは動く。おそらく、幹部が……。

 

 出来れば、遭遇せずにティキの身体を回収出来ればいいのだけど……。あたしたちはそういう事情でオペラハウスを目指したのである。

 

 

「遅かったみたいね……、連中は既に地下に侵入してるみたいよ……」

 

 オペラハウスに着いたとき、既に時遅く、バルベルデの要人たちはパヴァリアの幹部たちに殺されており、彼女らは地下に侵入していた。

 

 そんなわけで、あたしたちもこっそりと連中の後を追うこととなった。

 

 

 地下に居たのはパヴァリアの幹部、サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティの三人。

 

 そして彼女らが狙っているオートスコアラーの《ティキ》の身体もそこにはあった。

 

 ここでの戦闘は避けたいので、あたしたちは彼女らの写真を撮影するに留める予定だった。

 藤尭のパソコンの音が鳴って彼女らにあたしたちの存在がバレるまでは――。

 

「あっ、しまった!」

「撤収準備!」

 

 藤尭の言葉と同時に友里は撤収を決定してサンジェルマンたちに発砲する。

 

「友里、あなたも逃げなさい。ここはあたしが――」

 

 あたしはエージェントたちを先に逃がすためにサンジェルマンたちの前に立ちはだかる。

 

 

「久しぶりね……、サンジェルマン……」

 

「フィリア=ノーティス……!」

 

 あたしは久しぶりに彼女たちと再会した。

 

 彼女ら三人を相手にどこまでやれるかわからないけど、やれるだけやるしかないわね――。




フィリアとサンジェルマンたちが早くも遭遇しました。
次回もよろしくお願いします!


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フィリアVSパヴァリア光明結社

フィリアとパヴァリアの最初の戦いがスタートします。
それでは、よろしくお願いします!


「相変わらず、元気そうじゃない。カリオストロもプレラーティも」

 

 あたしはミラージュクイーンを構えて、サンジェルマンたちの出方を伺う。

 

「フィリア、一応は確認しておこう。お前は私たちの敵なのか?」

 

 サンジェルマンは意外なセリフを吐く。いや、どう考えても敵じゃない。研究者ごと資料持ち出して逃げたのよ。

 

「あなたは聡明な人だと思ってたけど……、とりあえず敵だと言っておきましょうか」

 

 あたしはミラージュクイーンの切っ先をサンジェルマンに向けた。

 

「言わんこっちゃないワケダ」

「サンジェルマン、あなたがフィリアを気に入ってたことは知ってるけど、ここは……」

 

 なんか、あたしが悪者みたいな言われようね。まぁ、連中にしたら裏切り者なんだから仕方ないけど。

 

「残念だ。お前とは妙に気が合ったのだが……」

 

「それは否定しないわ。サンジェルマン、あなたは良い友達だった。ただ、向かっている方向が違ってた。それだけよ」

 

 サンジェルマンは少し悲しそうな顔をしたが、すぐに厳しい表情であたしを見た。

 

「完全体自動人形(オートスコアラー)とやらの力を見るのにも、これの実験にもちょうどいい。ついでに大統領閣下の願いも叶えましょう。生贄より抽出されたエネルギーに……。荒御魂の概念を付与させる」

 

 サンジェルマンが光り輝く球体を龍の形をしたオブジェに当てた。

 するとどうだろう、それは巨大な龍となり建物を突き破って天に向かって咆哮したのだ。

 

「あれは――まさか、神の力を……」

 

「ご明察ねぇ。さすがにこっちの研究についてもよく調べてる」

 

「これが、人智を超えた錬金術の到達点。ゲイル博士はお前の身体は神をも超えると豪語していたが……、どちらが強いか試してみましょうか?」

 

 神の力と呼ばれる究極の力を持つ龍があたしに向かって体当たりしてきた――。

 

 

 

「――くっ! この衝撃……、シンフォギアに匹敵するパワーね……」

 

 オペラハウスから思いっきり吹き飛ばされたあたしは巨大な龍のパワーに戦慄した。

 

「コード……、ファウストローブ……」

 

 あたしはファウストローブを身に纏って再び龍と対峙する。まったく、RPGゲームを思い出しちゃったじゃない。

 

「グォォォォン!」

 

 雄叫びを上げて、とてつもない勢いでこちらに向かってくる巨龍。

 あたしは巨龍の頭に向かって手をかざした。

 

 ――雷神ノ鎚(トールハンマー)――

 

 以前、レイアの妹を完全に破壊した、高火力の一撃を至近距離で巨龍にぶつける。

 

 巨龍の首は吹き飛んだ――かのように見えた。

 

 しかし……。

 

 

「グォォォォン!」

 

 突如、無数の鏡像が出たかと思うと、巨龍は何事もなかったように吠えだした。

 ダメージが通ってない? そんなバカな……。

 

“フィリアちゃんの攻撃が無かったことになってるのよ”

 

 フィーネは素早くこの現象を分析し、あたしにそう伝えた。

 

“はぁ? 無かったことにって、どういうこと?”

 

“簡単に言えば、無数にある並行世界の同個体がダメージを肩代わりしてるの”

 

“何よそれ……、神の力っていうのは理不尽なのね”

 

 あの龍は無敵と言っていい能力を持ってるみたいだ。

 

“そりゃあ、あの方の力は凄かったわ。これくらい出来て当たり前よ”

 

“じゃあ、あの龍は攻撃したところで無駄なのね”

 

“ええ、あれを倒すのはちょっと難しいわ”

 

 フィーネはあの無敵の力の龍は倒せないという。だったら、あたしが取る方法は一つ。

 

「龍は無視して使役してるサンジェルマンを狙う――」

 

 あたしは空中に浮かび上がり、文字通りの高みの見物をしているサンジェルマンに向かって行った。

 

「なかなか冷静な判断力だ。その牙が私に届けばな……」

 

 巨龍は一瞬でサンジェルマンたちを守るように回り込んで、あたしを再び襲おうとした。

 

「ちっ、うざったいわね」

 

 ――不死鳥ノ皇帝(カイザーフェニックス)――

 

 巨大な炎の鳥を錬成して巨龍の体を燃やし尽くす。

 案の定、一瞬で復活したが……。

 

 そして、何事もなかったかのように、あたしに向って突っ込んできた。

 

「仕方ないわ。作りたてのコイツを使いましょう」

 

 あたしは《Type:G》を取り出し、首元に注射した。

 《Type:G》は簡単に言えば、大量のエネルギーを内在している《糖》である。

 これを注入するとあたしの体内のエネルギー総量は一時的に平常時の限界値の10倍以上になる。

 

 あまりに大きなエネルギーを無理に注入するので、核に対する負担が大きく一度使うと24時間のインターバルを空けないとならない。しかし、これを使うとあたしはあのモードを解放することが可能になる。

 

「コード……、クロノスモード……」

 

 あたしの髪が金色になり、身体中が黄金の光に包まれる。そう、《Type:G》を使えば、あたしはクロノスモードを起動させることが出来るのだ。

 もっとも、エネルギーの消費が大きいこのモードの持続時間は2〜3分がやっとだが……。

 たまには時限式で戦ってみるのもいいだろう。

 

 ――因果ノ捻時零(インガノネジレ)――

 

 巨龍がこちらに迫ってきた瞬間に、あたしは目を閉じて、時を止める。

 

 そして、そのままサンジェルマンの元にもう一度接近する。

 

 時を止めた状態だと、《マナ》を使用出来ないので錬金術が使えない。だから――。

 

「あたしの拳は痛いわよ――」

 

 あたしは、サンジェルマンの腹に正拳突きを放った。

 そして、時が動き出す――。

 

「――ぐはっ」

 

 サンジェルマンは驚愕した表情で吹き飛ばされた。

 

「てっ、テレポート?」

 

「いや、おそらく時間を止めたワケダ」

 

 カリオストロとプレラーティは吹き飛ばされたサンジェルマンを追って行った。

 

「逃さないわよ――」

 

 ――神ノ断罪(エルトール)――

 

 高出力の雷撃エネルギーを天空からサンジェルマンたちに向けて撃ち落とした――。

 

 

「はぁ……、逃げられたか……」

 

 あたしは底が見えなくなった穴を眺めながら呟いた。攻撃が届く寸前に、カリオストロがサンジェルマンの体を抱いて、プレラーティがテレポートジェムを使った様子が見えた。

 しかもサンジェルマンは吹き飛ばされながらも巨龍はキッチリと回収していた。

 

「まったく、油断もスキもない……」

 

 三人の冷静な連携を見て、あたしは彼女らの厄介さを再認識した。

 

「でも、大きな忘れ物をしたようね」

 

 あたしは地下室に戻って、彼女らの忘れ物――ティキの身体を回収した。

 

 これは破壊しておくべきかもしれないわ……。

 あたしはそう思ったが、さすがにそれを実行出来る権限はないので司令の指示を仰ぐことにした。

 

『フィリアくん、かなり大きな戦いだったみたいだが、無事か!?』

 

「ええ、連中の目的のモノを回収したわ。あたしは破壊することをオススメするけど、判断はそちらに任せる」

 

『目的のモノ? オートスコアラーの身体か……』

 

「これがパヴァリア光明結社の計画の要よ。とりあえず、そちらに戻ることにするわ」

 

 あたしはティキの身体を抱えて、本部へと戻った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ご苦労だったな。みんな、無事で何よりだ」

 

 あたしは友里と藤尭と合流し、本部に戻った。弦十郎はあたしたちに労いの言葉をかける。

 

「はぁ、もう少しで怪獣大戦争に巻き込まれるとこだった。やっぱり本部が1番だ……」

 

 藤尭はため息と共にいつものぼやきを発する。

 まぁ、今回は少し派手な戦い方をしたから、彼には刺激が強かったんだろう。

 

「フィリアくんはクロノスモードを使用したみたいだが、そこまでの相手だったのか?」

 

「ええ、無敵の化物って感じでかなり厄介だったわ。とにかく、どんな攻撃も受付けないのよ……」

 

 《Type:G》の副作用か、かなり意識が朦朧としながらあたしは答える。

 

「だからあたしは……」

 

「ん? どうした、フィリアくん」

 

 あたしの言葉に弦十郎が返事をする。駄目ね……。チョコレートでいつものようにエネルギーを回復させたはずなのに、身体が動かないし、舌も回らない……。

 

「大丈夫か? 何があった?」

 

「――うふふ、知りたい? 弦十郎くん」 

 

“ちょっと、なんであなたが……!”

 

 あたしの意識が奥に追いやられて、フィーネの意識があたしの身体に定着してしまった。

 あたしは驚いて、フィーネに抗議した。

 

「まっ、まさか、了子くん!? フィリアくんの身体を乗っ取ったのか!?」

 

「嫌だわ、弦十郎くんったら。私がそんな酷いことするような女に見えるぅ?」

 

“見えるわよ!”

 

 あたしの身体を気持ち悪い動きでくねらせながらフィーネはおどけた態度を弦十郎に見せる。

 

「悪いが、君ならそうしかねないと思っている」

 

「もう、正直なんだからぁ。安心なさい。フィリアちゃんはちょっとお疲れモードだから、その間だけよ、私が主導権を握れるのは」

 

 フィーネはあたしのエネルギーが回復すれば、身体の自由が戻ると言った。

 ――本当かしら?

 

「そうか、それならいい」

 

「ちょっと、司令、いいんですか? だって、あの了子さんですよ!」

 

 藤尭は物分りのいい弦十郎に抗議した。そりゃ、あんなことをやらかしたフィーネを信じられるはずないわよね。

 

「あら、藤尭くん。花火のこと喋っちゃっていいのかしら?」

 

「了子さんだって、今は味方のはずです! 信じましょう!」

 

 藤尭はあっさりと了子に陥落させられる。

 

「まぁ、了子くんはLiNKERの改良やギアペンダントの修復に関するアドバイスをフィリアくんにしていたらしいし、何か事を起こすつもりならとっくにやってるさ。魔法少女事変でも、力を貸して装者たちを守ってくれたしな」

 

 弦十郎はフィーネを信じる理由を付け加えた。まぁ、確かにこの人が本気を出したらとっくに良からぬことの一つや二つやってのけてるでしょうね。

 

「あんなの気まぐれよ、気まぐれ。なんか、フィリアちゃんが急に可愛くなっちゃったのよねー。今さら母性が出てくるなんて、笑っちゃうでしょう?」

 

 フィーネはわざとらしく笑いながら、そんなことを言う。ホントに今さらすぎるわよ。

 

「そうか? オレはそうは思わんが」

 

 弦十郎は真面目な顔でそう返した。この人には冗談が通じないのだろう。

 

「はぁ、弦十郎くんには敵わないわね。あと、フィリアちゃんが可愛く感じるのは、多分、あなたの娘だからかな」

 

 フィーネはあたしの身体で艶っぽく動き、上目遣いで弦十郎を見ていた。

 ちょっと、私の身体で父親を口説こうとしないでくれる?

 

「了子くん、それはどういう? いや、とにかく無敵の龍についてだな。了子くんは何か対策のようなものはあるか?」

 

 弦十郎は脱線した話をようやく戻した。

 

「もう、弦十郎くんったら、せっかちなんだから〜。あれは疑似的な神の力を持っていた。人類がどうこうできるものじゃない」

 

 フィーネははっきりとそう告げた。本当に無敵だなんて……。

 

「フィリアちゃんのやり方は正しかった。使役してる錬金術師を倒しちゃうのが一番現実的よ」

 

「そうか……、厄介だなそれは……」

 

 フィーネの言葉に弦十郎は渋い顔をする。

 神の力を持つ無敵の龍……。面倒ね……。

 

 それに、サンジェルマンたちには切り札がまだある。賢者の石であるラピス・フィロソフィカスから作られたファウストローブ。

 あれを使われたら、シンフォギア装者やあたしでも勝てるかどうか……。

 

 そんな中、バルベルデ共和国内にあるエスカロン空港でアルカノイズを検知したという情報が入った。

 

 そして、LiNKERの持続時間の関係で先に本部に戻っているマリア、調、切歌が先に出撃することになり、翼、クリス、響は怪我人の搬送を終えたあとに出撃することになった。

 

「フィリアくんは、まだ動けそうにないか……。敵の力は未知数……、戦力は大きい方が良いのだが……」

 

 弦十郎はあたしに向ってそう言ったが、あたしは返事は出来ない。

 

「仕方ないわね。弦十郎くん、フィリアちゃんの代わりに私が出てあげようか?」

 

 フィーネがあたしの代役をすると言い出した。

 まさか、そんなこと……。

 

「了子くんが? フィリアくんの代わりだと?」

 

「そうよぉ。こう見えても私だって結構強いんだから」

 

 弦十郎が訝しい顔をしたが、フィーネは本気のようだった。

 結局、弦十郎はフィーネに出撃を依頼した。

 

 終わりの名を持つ最凶の巫女が再び力を振るうこととなった――。

 




フィリアはティキの身体を持って帰ってしまいました。
そして、まさかのフィーネが出陣です。
1期のラスボスがフィリアの身体で戦います。
次回もよろしくお願いします。


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復活のF

フィーネ復活ッ! そんな回です。
それではよろしくお願いします!


 空港では、既にマリアたちがサンジェルマンたちや、アルカノイズと交戦中だった。

 

 彼女らは何を目的に暴れているの? ティキの身体を回収しそこねた腹いせ?

 

「苦戦してるみたいねぇ」

 

“みたいねぇ、じゃなくて助けなさいよ!”

 

 呑気に空中から見物してるフィーネをあたしは急かした。

 

「はいはい、フィリアちゃんの身体にもなれてきたし、そろそろ動こうかしら――」

 

 フィーネはそう呟くと、手のひらから紫色の光線をサンジェルマンたちに向って連射した。

 

「フィリア! 来てくれたのか!?」

 

「フィリア? いや、この攻撃には覚えがある。お前はフィリアではないな!」

 

 マリアとサンジェルマンは同時にこちらを向いてフィーネを見た。まぁ、向こうからしたら、あたしが光線を乱れ撃ちしたようにしか見えないだろうが。

 

「マリア=カデンツヴァナイヴか。貴様、私を騙ろうとした割には、勉強不足ではないか?」

 

 マリアの傍らに降り立ったフィーネは彼女に向かってそんなことを言う。

 

「なっ――!? フィリア、一体どうしちゃったのよ!?」

 

 フィーネはよく分からない口調でマリアに話しかける。マリアは混乱しているようだ。

 まったく、人の身体でバカなことやらないでほしい。

 

「まさかっ――そんな、おっお前は!?」

 

「私の出現にそんなに驚かなくてもよかろう。久しいな、パヴァリアの錬金術師……。そうだ、私は永遠の刹那に存在し続ける巫女――フィーネだっ!」

 

 異常なテンションでフィーネはサンジェルマンたちやマリアたちに自己紹介する。

 だから、そのキャラは何なのよ!

 

「さて、錬金術師共よ……。数百年の間に少しは成長したのか、確かめてやろうぞ」

 

 そう言うとフィーネは再び光線をサンジェルマンたちに乱れ撃ちしだした。

 

「フィーネの魂がフィリアに宿ったというのは聞いてたけど――まさか、身体が乗っ取られるなんて……。うっ……、うっ……」

 

 マリアはあたしがフィーネに支配されたと思って泣き出してしまう。

 切歌と調はアルカノイズと戦ってるし……。なんか、事態が面倒な方向に進んでるんだけど……。

 

「なーんちゃって、マリアちゃん、冗談よ、冗談。フィリアちゃんは、ちょっとだけ休んでるだけだから、直ぐに戻ってくるわよ」

 

「はぁ?」

 

「詳しいことは後で話すわ。とりあえず、今は弦十郎くんに頼まれて助っ人に来た、お姉さんだと思ってくれれば良いわよ」

 

 フィーネの趣味の悪い冗談に呆気にとられたマリアはポカンと口を開けていた。

 

「お姉さんとは、図々しいワケダ」

 

「そうよぉ、結構な年寄りのババァじゃない」

 

 プレラーティとカリオストロがフィーネの攻撃を錬成した盾で防ぎながら、抗議する。

 

 あー、それ禁句だから……。

 

「今、何て言った? 誰が年増の行き遅れだって?」

 

 フィーネが天に手を掲げると、半径50メートルくらいの巨大なエネルギーの塊が浮かび上がっていた。

 

 いや、あんなの落としたらこの空港が木っ端微塵になっちゃうし。マリアたちも巻き添えになるかもしれないんだけど……。

 

“ちょっと、やり過ぎよ。自重しなさい!”

 

「三流錬金術師共! 死んじゃいなさい!」

 

 フィーネが腕を振り下ろした瞬間に、巨大な紫色の光の玉がサンジェルマンたちに向かって落ちてきた。

 

 まったく、加減ってもんを知らないの? ちょっとはマトモになったかと思ってたけど、やっぱり、とんでもない奴じゃない。

 

 

「くっ、こうなったら、無敵のヨナルデパズトーリでっ!」

 

 カリオストロが無敵の巨龍を再び召喚した。

 

 フィーネの放ったエネルギーの玉は、ヨナルデパズトーリとやらを飲み込んで炸裂する。

 

 しかし、案の定ヨナルデパズトーリは復活して何事もなかったかのように咆哮した。

 

「やっぱり厄介ねぇ」

 

「あの威力で効かないの?」

 

 フィーネとマリアはヨナルデパズトーリの無敵性に舌を巻いていた。あんなのどうやって倒せっていうの?

 

「ようやく宿敵であるフィーネを超えることが出来たワケダ」

 

「我々の長年の研磨が実を結んだな。フィーネよ、大人しくティキの身体を返せ。そうすれば、こちらも引き下がってやっても良い」

 

 サンジェルマンたちは形勢逆転したと感じ取ったのか、勝ち誇った顔をしていた。

 

 やはりティキの身体を取引材料に使ってきたか……。確かに、素直に渡してしまうのも手だけど……。

 

「えー、あなたたちの言うことなんて聞きたくないわ。却下よ」

 

 フィーネは手でバツ印を作って、そう言った。この人って、ホントに面倒な性格してるわ。

 もうちょっと考える素振りとかして、時間を稼ぎなさいよ。

 

「ならば、まずはフィーネに死んでもらいましょう。フィリアの身体を破壊するけど構わないわよね? サンジェルマン」

 

「局長はフィリアは殺すなとは言っていたが、フィーネについては言及してない。いや、するまでもない」

 

「とっとと、面倒なことを起こす前に殺したほうが良いワケダ」

 

 パヴァリアの幹部たちはフィーネを倒すことで意見が一致してヨナルデパズトーリをフィーネにけしかけた。

 

 ――その時である。流星のように輝く拳が空中からヨナルデパズトーリに向かって降ってきた。

 

「フィリアちゃんをやらせはしない! てぇやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 響がヨナルデパズトーリに渾身の一撃を与える。

 

「ふっ効かないワケダ……」

 

 プレラーティの言うとおり、いくら響でもあれを倒すのは――。

 

「へぇ、響ちゃん。やっぱり、面白い子ねぇ」

 

 フィーネはニヤリと口角を釣り上げる。

 

 信じられない。響の拳がヨナルデパズトーリを貫き消滅させた――。

 

 あれだけ大火力で攻めても無駄だったのに……。

 

「もしかしたら……、響ちゃんは神殺しの力を……」

 

 フィーネは『神殺し』というワードを出して響がヨナルデパズトーリを倒した理由付けをしようとした。

 哲学兵装とか、そういう概念的な力で倒したとでもいうのかしら? 確かにそれくらいしか考えられないけど……。

 

「そこまでだっ! パヴァリア光明結社!」

 

「こちとら、虫の居所が悪くてね! 抵抗するなら容赦は出来ないからな!」

 

 翼とクリスも空港に到着して、臨戦態勢を整える。

 ちょうどマリアたちの時間制限が近づいてきたから、どうしようかと思ってたけど、これなら大丈夫そうね。

 

「生意気にぃ〜! 踏んづけてやるわ!」

 

 カリオストロが地団駄を踏んだ。無敵の力のはずが破られちゃったから、悔しいのかしら?

 

「フィーネ、そしてシンフォギア。だけどお前たちの力では人類を未来に解き放つことは出来ない!」

 

 サンジェルマンはあたしたちに向かってそう言い放った。

 

「人類を解き放つ?」

 

「まるで了子さんと同じ……。バラルの呪詛から解放するってこと?」

 

「まさか、それがお前たちの目的なのか?」

 

 マリアと響と翼は口々に彼女の言葉に反応した。

 

「カリオストロ、プレラーティ。ここは退くわよ」

 

「ヨナルデパズトーリがやられたものね」

 

「態勢を立て直すワケダ」

 

 サンジェルマンたちは撤退の姿勢を見せた。

 

「未来を人の手に取り戻すために私たちは時間も命も費やしてきた。この歩みは誰にも止めさせやしない」

 

「未来を人の手にって!? 待って!」

 

 響の言葉も虚しく、サンジェルマンが素早くテレポートジェムを使い……、彼女らはサクッと撤退してしまった。

 

 まぁ、これで引き下がるような連中じゃないだろうけど、これで一先ず、この国のイザコザは一段落つきそうね……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その後、バルベルデ共和国で事後処理に追われたあたしたちが日本に戻った頃には、既にリディアン音楽院の始業式が始まっていた。

 

「こうやって、女子高生気分になるのも悪くないわねぇ。クリスちゃん」

 

「うっせぇ。くそっ、なんでフィーネがまだ居んだよ……」

 

 隣で校歌を歌っていたクリスが嫌そうな顔で、あたしもといフィーネを睨んでいた。

 

「クリスちゃんが足を撃っちゃった子の治療をフィリアちゃんに頼んだからでしょう? 昨日の夜にクロノスモードを使ったから、夜には治るわよ」

 

 そう、クリスがアルカノイズに襲われた少年の体の分解を防ぐために、やむを得ず彼の足を撃って、体全体の分解から彼を救ったらしいのだ。 

 

 その後、クリスはずっと思い悩んで、悩んで、ついにあたしのところにやって来て、彼の足の時間を戻して治して欲しいと願い出た。

 

 あたしはその言葉を聞いて、弦十郎に相談して、こちらの管理下において起こった事故ということで特例で、治療のためのクロノスモードの使用許可を出してもらった。

 

 

 こうしてステファンという少年の足は元に戻り万々歳と思ったが、なんと短時間の利用でも、《Type:G》の副作用は理不尽にもやって来て、あたしの身体は再びフィーネによって動かされることになった。

 

「放課後は一緒に女子高生っぽいことしましょうよ」

 

「フィーネ、テメーはあたしにしたこと忘れちまったのかよ!? よくそんな口が利けるな」

 

「あれは私なりの愛だったんだけどなー。クリスちゃんのこともフィリアちゃんと同じで娘みたく思ってるし」

 

 虐待してる親の理屈みたいなことをフィーネは言う。

 この人の怖いところは悪意がなく、こういう事を言うところだ。

 

「ちっ、勝手にしやがれ」

 

 クリスはムッとした顔でそう答えて、終始不機嫌だった。

 

 

 しかし、放課後はS.O.N.G.の本部からの招集がかかったので、あたしたちは弦十郎の元に集うこととなった。

 

 翼とマリアがバルベルデからの資料を持ち帰るところをパヴァリア光明結社に襲撃されたらしいが、彼女らは無事に資料を持ち帰った。

 

 サンジェルマンたちは日本に侵入した可能性が高いみたいだ。

 

 

「フィリアくんが回収したオートスコアラーの身体を解析したところ……、確かに何らかの座標を割り出すシステムが組み込まれた特殊な構造だということがわかった」

 

「異端技術の結集の上に、動力源が失われていますので、この状態での起動は不可能みたいですね」

 

 持ち帰ったティキの身体は破壊はされずに、そのまま保存という形になった。

 どうやら異端技術の結集というのが大きいらしく、貴重品として保護する対象となってしまったのだ。

 

 予想はしてたけど、これだと、完璧にパヴァリア光明結社が本気で取り返しにかかってくるだろうから全面戦争は免れないわね……。

 

「あの方に喧嘩を売ろうとするなんて傲慢ね……」

 

 フィーネは小声でポツリと呟いた。

 

「ん? 了子くん、何か言ったか?」

 

「ううん、独り言よ。独り言……。そんなことより、弦十郎くん、気を付けたほうが良いわ。連中は死ぬ気でそれを回収してくると思うから――。もしくはフィリアちゃんの身体を……」

 

 フィーネは感情を吐き出した事を誤魔化すようにそう言った。

 あたしの身体を? それってどういう?

 

「フィリアちゃんの身体にもティキと同じ機能が付いているのよ。まぁ、フィリアちゃんはティキをベースにして作られてるっぽいから何かのときの為にそういう機能も付けたんだろうけど」

 

 フィーネ曰く、あたしにもティキと同様に神の門の座標を見つけるための機能が付属しているらしい。

 何それ? 聞いてないんだけど……。

 

“どうせ使わないでしょうから、特に言わなかったの”

 

 フィーネは惚けたような口調でそう言った。

 どうも怪しいわね。本当かしら?

 

 あたしにも付いてるというこの機能――これがこの先の戦いをさらに激化させるものになると、あたしはまだ予測すらしていなかった。

 

 




今回は主人公の身体が操られる回なので、フィリアは基本何もしませんでした。ステファンの足は治しましたが……。
次回もよろしくお願いします!


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神の力と大いなる実り

前半はXVの11話を見て急遽入れたエピソードです。特にネタバレにはなってないはずですが、一応ご注意を……。
後半は原作4話に当たる、風鳴機関のお話です。
それではよろしくお願いします。


「連中の目的は神の力を手に入れること……。だからこそティキの身体を取り返そうとするはず。今日の動きは何の意味が……?」

 

 ようやく、フィーネから身体の主導権が戻ってきたあたしは今日あったことについて思案していた。

 

 ブリーフィング後にアルカノイズたちの反応を検知したS.O.N.G.は装者たちを現場に派遣。

 フィーネは予備戦力として待機状態であたしは彼女らの戦いを見守った。

 

 シンフォギア装者たちはサンジェルマンたちによって亜空間に閉じ込められてアルカノイズと戦うも、イグナイトモジュールを使った装者たちの敵ではなく、難なく彼女らはアルカノイズたちを殲滅しつつ亜空間から脱出した。

 

 あたしはてっきり連中が出てくるのかと思ったが、そんな事はなく彼女らも直ぐに撤退してしまった。

 

「まるで……、イグナイトモジュールを使わせることが目的だったような戦いぶり……」

 

“シンフォギアの力の把握をしたいってことは、あの子たちにはあるのでしょうよ。シンフォギアを倒す手立てが”

 

 フィーネがあたしの思考に割り込んできた。シンフォギアを倒す手立て――おそらくはファウストローブか……。

 

 完全な肉体を持つ彼女らが完全な物質であるラピス・フィロソフィカスを使ったファウストローブを身に着けたとすると、単純にシンフォギア装者たちの戦闘力を超えるかもしれない。

 

“それだけかしら?”

 

“それだけって? イグナイト以上の力を手に入れただけじゃないってこと?”

 

“そういうこと。警戒しとくように伝えときなさい。あなたの大事な子たちは跳ねっ返りが多いから”

 

 フィーネはあたしの仲間を気遣うようなことを言い出した。やっぱり変ね……。

 

“あなたたちは私を止めたでしょ? パヴァリア光明結社もまたバラルの呪詛から人類を解放しようと動いている。私にはわからないのよ、あの方の怒りによって人類に撒いた罰を、あなたたちは抗おうとせずに、甘んじてそれを受け入れている理由が……”

 

“あたしたちには、そもそも共通言語が無いことが当たり前だったし、無くてもわかり合うことが出来るって証明した子が近くにいるから――。そんなもの為に犠牲を出すほうが問題でしょ”

 

 あたしはフィーネの疑問に答えた。そもそも、今さら共通言語とやらが復活したとしたら、それはそれでパニックになりそうなものだが……。

 

“というか、変な話なのよね。あなたが言うようにバラルの呪詛がホントに人類に対する罰なのかってことが……”

 

“はぁ? フィリアちゃん、前にも話したでしょう。相互理解が出来なくなった人類がどうなったかということを”

 

“それは知ってるわ。先史文明期の人類は《ノイズ》を創って争い出したって話でしょ。確かに、不利益は被っているけど……。本当に人類を見限ったんだったら、手緩くない? だって、世界には何十億って人間が増えて繁栄してるし”

 

 あたしはそんな神様みたいな《カストディアン》と呼ばれた連中が人類を見放したなら、もっと徹底的に滅ぼすような工作をしそうだと思った。

 

“でも、私の想いを届けようとした瞬間にあんな事になったし。絶対にあの方は怒って、バラルの呪詛を撒いたに決まってるもん”

 

“じゃあ、理由はあなたの想像なのね? その好きだった《あの方》からは何にも聞いてないってことよね?”

 

 このフィーネはあたしの親だけあって、思い込みで突っ走りやすい性格だ。そもそもの考えが間違ってる可能性がある。

 

“そりゃ、聞けるわけないじゃない”

 

“好かれてたかもよ”

 

“へっ?”

 

 あたしの言葉にフィーネはびっくりした様な声を出す。新鮮な反応ね……。

 

“あなたが愛した《あの方》はあなたが好きだったけど、何か別に事情があってバラルの呪詛を撒いた可能性だってある。そうしなきゃ、人類が絶滅しちゃうくらいの大きな事情がね”

 

 そう考えると、パヴァリアが目的を達成すると厄介な事態が起こりそうな予感もする。

 情報が少なすぎるから憶測しか出来ないけど……。

 いっそのこと月にでも行ってみたら何か分かるかもしれない。

 

“別の事情ねぇ……。うーん……、そうね……、そう考えた方が幸せかも……。ありがと、フィリアちゃん”

 

 フィーネは納得したような声を出して、あたしに礼を言った。

 この人は最低の母親だけど……、昔からそうじゃなかったと信じたい。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「6番から58番グループの方はこちらに!」

 

 外では付近の住民の安全確保の為の退去誘導が行われていた。

 あたしたちは、厳重な防備がしてある装甲車で目的地に移動している。その目的地は――。

 

「先の大戦末期、旧陸軍が大本営移設の為に選んだここ松代には、特異対策機動部の前身となる非公開組織――風鳴機関の本部が置かれていたのだ」

 

「風鳴機関!?」

 

 弦十郎の言葉で響とクリスが翼とあたしを見る。そう、あたしたちは今、風鳴機関へと向かっている。

 

「資源や物資に乏しい日本の戦局を覆すべく、早くから聖遺物の研究は行われてきたと聞いている。それが天羽々斬と同盟国ドイツからもたらされたネフシュタンの鎧やイチイバル……、そしてガングニール」

 

 翼の言ったとおり、日本の国防の為に聖遺物の研究をいち早く執り行った機関――それが風鳴機関である。

 

 

「バルベルデで入手したオートスコアラーの内蔵データと資料は、かつてドイツ軍が採用した方式で暗号化されていました。そこで、ここに備わっている解読機にかける必要が出てきたのです」

 

 緒川が風鳴機関に向かう理由を説明する。ティキの内部に記録されてるデータや、手に入れた資料には同一方式で暗号化が施されていた。

 パヴァリア光明結社の動きを、詳細に把握するために、あたしたちは暗号を解読する必要性が出てきたのだ。

 

「暗号解読機の使用にあたり、最高レベルの警備体制を周辺に敷くのは理解できます。ですが……、退去命令で、この地に暮らす人々に無理を強いるというのは……」

 

 翼は強制的に退去させられている住民たちについて考えているようだ。

 

「守るべきは人ではなく、国……」

 

 弦十郎はそう言葉を出した。それは、護国こそ最優先に考える、あの男の考えね……。

 

「人ではなく……」

 

 響はその言葉に違和感を覚えたようだ。

 

「少なくとも、鎌倉の意志はそういうことらしい……」

 

 弦十郎はそう締めくくって、あたしたちは風鳴機関へと足を踏み入れた。

 

 

 さっそく、ティキの身体と資料を解読する作業を技術者たちに依頼し、あたしたちは今回ここに来た目的を遂行することになった。

 

 

「難度の高い複雑な暗号だ。その解析にはそれなりの時間を要するだろう。ティキの身体については、パヴァリアが放っておくはずがない。最大限の警戒を敷く必要がある。そこでだ、翼、そしてフィリアくん」

 

 弦十郎はあたしと翼の顔を見て、確認を促す。

 

「ブリーフィング後、私は雪音、立花を伴って周辺地区に待機。警戒任務に当たります」

 

「あたしは、マリア、調、切歌と共に付近に残っている住民がいないか、確認しつつ、パヴァリアの侵入を早急に探知できるよう警戒するわ」

 

 翼とあたしは装者を引き連れて二手に分かれて警戒態勢を敷くこととなった。

 

「敵がフィリアくん自体を狙う可能性もある。油断はするなよ」

 

 弦十郎はあたし自身にも警戒を怠らないようにと、釘を刺した。あたしをティキの予備として狙ってくる可能性もあるからだ。

 

「リア姉は私たちで守るデス」

 

「うん。絶対に敵に渡したりしない」

 

「ありがとう二人とも。頼りにしてるわ」

 

 切歌と調の言葉にあたしがそう返すと、彼女らは嬉しそうな顔をして笑い合っていた。

 あたしもあなたたちを守ってみせるつもりよ……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「政府からの退去指示が出ています。急いでここを離れてください」

 

「はいはい、そうじゃねぇ。けどトマトが最後の収穫の時期を迎えていてねぇ」

 

 マリアの言葉に農家のお婆さんはそう答える。

 付近の住民が残っていないか、あたしたちが見回っていたところ、トマト農家のお婆さんが収穫をしていたところに遭遇した。

 マリアは彼女に退去を促していたのだ。

 

 

「わぁ!」

 

「おいしそうデス!」

 

「おいしいよ、食べてごらん」

 

 調と切歌はきれいな赤いトマトに目を奪われていた。

 

「あむ。うーん……、おいしいデス! 調も食べるデスよ!」

 

「いただきます。ホントだ……、近所のスーパーのとは違う!」

 

 切歌に促されて調もトマトを食べて、二人は美味しいと微笑み合っていた。

 

「そうじゃろう。丹精込めて育てたトマトじゃからな」

 

「あ、あのね、お母さん……」

 

「なるほど、永田農法……、または、緑健農法と呼ばれる作り方をしてるのね。糖度が極めて高いわ」

 

 あたしもお婆さんからトマトを受け取り、食べた感想を口にした。

 

「ちょっと、フィリアまでトマトを食べてるの!?」

 

 マリアはトマトをパクついてるあたしにツッコミを入れる。だって美味しそうだったんだもん。

 

「おや、お嬢ちゃん、小さいのに詳しいねぇ」

 

「リア姉、そのナントカ農法ってなんデスか?」

 

 お婆さんと切歌はあたしの言葉にそう反応した。

 

「永田農法っていうのは、敢えて必要最低限の肥料と水で栽培する農法よ。そうすると、作物の糖度が上がって美味しく出来上がるの。でも、その塩梅が難しくてね。やっている農家は少ないわ」

 

「あなたって無駄に変なことに詳しいわよね」

 

 あたしが説明すると、マリアがジト目でそんなことを言ってくる。

 夜とか暇だから、本とかよく読んでるだけよ。

 

「お嬢ちゃんの言うとおり、むしろ甘やかし過ぎるとダメになってしまう。大いなる実りは厳しさを耐えたこそじゃよ」

 

「厳しさを耐えた先にこそ……」

 

「ふふふ……、トマトも人間も、きっと同じじゃ」

 

 お婆さんの言葉にマリアは感心したような顔をした。厳しさを耐えた先に大いなる実りか……。

 それが本当なら……、この子たちには当てはまって欲しいものね……。

 

「ほら、半分あげるから、あなたも食べてごらんなさい」

 

「フィリア、あなたは知ってるでしょ? 私はトマトはあんまり……」

 

 あたしの言葉にマリアは小声で反応する。

 

「ふふふ……、美味しいから、食べてごらん」

 

「――うっ……。では、ちょっとだけいただきます」

 

 トマトがあまり好きではないマリアは困ったような顔して、トマトを見つめていた。

 

「――はむっ。あっ、甘いわ……。まるで、フルーツみたい! これが、大いなる実り……」

 

 マリアは目を丸くして驚いた。厳しさを耐えたトマトの味に感動したのだろう。

 

 

 そんなときである――。覚えのある気配が突然に現れた。

 

「芳醇だね。このトマトの香りは。いい仕事をしてるじゃあないか、そこのマダムは」

 

「――っ!? まさか、あなたが直々にっ!?」

 

 独特の倒置法で話す男、パヴァリア光明結社の統制局長アダム=ヴァイスハウプトが勝手に人の農家のトマトを手にしながら、あたしたちに話しかけてきた。

 

「やぁ、フィリア。何よりだ、君が元気そうで。また飲みたいよ、君の淹れた魅惑のコーヒーを……」

 

 アダムはニコリと笑みを浮かべてあたしを見る。

 計算外ね……、てっきりサンジェルマンたちに任せきりにすると思っていたが、こうも早くこの男が出てきたか。

 

『フィリアくん、応援を頼めるか!? 翼たちの前にパヴァリアの錬金術師たちが!』

 

 弦十郎からそんな通信が入る。なるほど、翼たちも狙われているのか。当たり前と言えば当たり前。

 つまり、パヴァリアの最大戦力をもってティキを取りに来たと言う訳か。

 

「司令、こっちはさらに大物よ。統制局長アダム=ヴァイスハウプトが現れた。この男を相手にするのはかなり骨が折れるわ。マリアたちに民間人を避難をさせる。その後に翼の元に応援に行ってもらうわ!」

 

 あたしはマリアたちにお婆さんを守りながら避難するように指示を出した。

 

「フィリア! 一人で戦うつもり!?」

 

 マリアは非難めいた顔であたしを見た。

 

「この男はサンジェルマンたちと比べても規格外……。あたしも敵わないかもしれない。だからっ!」

 

 アダムの近くに一年くらい居たが、彼の力はキャロルやフィーネと比べても遜色ないレベルだった。

 だから、マリアたちは戦いに巻き込みたくなかった。

 

「切歌、調、お母さんを安全な所へ連れて行きなさい。その後、翼たちの応援に!」

 

「わかった」

「リア姉を頼んだデス!」

 

 マリアは切歌と調にお婆さんを、連れて行くように言って、彼女らはその指示に従った。

 マリア、あなたは……。

 

「フィリア、私はもう後悔したくない。誰かに任せて失うのはもう嫌なの! 一人より二人の方が勝率は高いでしょ? あなたの独断専行を止めるのは、昔からの私の役目よ」

 

「はぁ、あなたの目を盗むのには昔から苦労したわ。合わせてもらうわよ。出来る?」

 

 あたしはマリアと共闘することを選んだ。その力強い視線に負けて……。

 

「もちろんよ。Seilien coffin airget-lamh tron……」

 

「コード……、ミラージュクイーン……」

 

 マリアがシンフォギアを、あたしがファウストローブを纏う。

 二人は銀色の光を放ちながら、アダムと対峙した。

 

「おやおや、参ったな。見せつけなきゃならないらしい。格の違いというモノを」

 

 アダムは余裕の表情であたしたちを眺めていた。

 規格外の錬金術師との戦闘の火蓋が切って落とされた――。

 




最近は原作の動きを戦々恐々としてチェックしてます。
予想通りだったり、予想外で軌道修正したり、他の作者さんはどうなのでしょうかねー。
ティキを手中に収めてるので、アダムもいきなり黄金錬成をぶっ放したりしませんでした。
故に全裸の錬金術師というサービスシーンが無くて申し訳ないです。彼が抜剣するのはもうしばらく後になりそう。
次回はフィリア&マリアVSアダムです!


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パヴァリア光明結社の強襲

時系列的には5話の前半くらいまでです。
それでは、よろしくお願いします!


 大地を強く蹴り、アダムに接近してあたしは肉弾の嵐を見舞おうとする。

 

「苛烈だね、君の攻撃は……。だが、生温い」

 

 アダムはポケットに手を突っ込みながら、余裕の表情でこれを躱す。

 あたしの連打をこんな風に避けれるのは、弦十郎くらいなのに……!

 

「援護するわ!」

 

 マリアは次々と短剣を放ちながら、アダムに接近して、アガートラームのアームドギアで斬りかかる。

 

「私とフィリアの同時攻撃が――当たらない?」

 

 とんでもないスピードと体捌きであたしとマリアの攻撃は避けられる。完全に見切られてるわね……。

 

「そのままで良いのかい? あるんだろ? その上が――」

 

 アダムは次々と炎を錬成して、あたしとマリアにこれを放つ。

 

「術式は全然なっちゃいないのに、この威力……! やはり、この男は強い……!」

 

 あたしは両手から炎を錬成して相殺するも、手数が足りずに防戦一方になっていった。

 

「イグナイトモジュール! 抜剣!」

 

 マリアはイグナイトを発動して火力をアップさせる。

 

 ――EMPRESS†REBELLION――

 

 マリアの短剣が蛇腹状になり、不規則な動きでアダムを捉えようとする。

 

「不足だよ。まだ、僕を相手にするには……」

 

 アダムはその動きを見切り、マリアのアームドギアの指で摘んで、そのまま引っ張った。

 

「きゃっ!」

 

 マリアは大きく投げ飛ばされて地面に叩きつけられる。

 イグナイトのパワーをこうも簡単に……。

 

 あたしとマリアは終始防戦一方となってしまった。

 アダムの錬金スピードが異常だからだ……。

 

 ――雷獣ノ咆哮――

 

 あたしはアダムに向かって電撃を放つ。

 しかし、彼は帽子を使ってそれをいなして……。

 

「見せてごらん。神の器としての力を……」

 

 手刀であたしの左腕を切り落した――。

 

 戦力差がここまでとは……。このままじゃ、勝てないかもしれない……。

 

「はぁ、副作用が面倒だからって使わないわけにはいかないか……」

 

 あたしは《Type:G》を首元に注入した。体内に含まれるエネルギーが増大して、千切れた腕は即座に再生する。

 

「コード……、クロノスモード……」

 

 あたしの髪が金色に変化して黄金の光が体から発せられる。

 このモードでもダメなら、あたしは……。

 

「ふははははっ! 楽しませてくれよ! 完全体自動人形(オートスコアラー)というからには」

 

 アダムは上機嫌そうに笑いながら、こちらに手をかざした。

 

 ――因果ノ捻時零――

 

 目を瞑り、時を止めてあたしはアダムに肉薄する。

 コイツには手加減は無用ね――。

 

「いくらあなたでもこれは避けられない……」

 

 ――滅掌雷轟貫手(メッショウライゴウヌキテ)――

 

 数多の残像が発生するほどの超高速の貫手のラッシュを時を止めた状態でアダムの全身に向けて放つ。

 

「――っ!?」

 

 無防備の体に無数の貫手くらったアダムは時が動き出した瞬間に彼方まで吹き飛ばされた。

 

 まだまだ終わらせないわ……。

 

「なるほど、強力だ。時間を止める力というのは」

 

 アダムはさしたるダメージを受けてない様子で空中に浮かび上がった。

 

 ――神掌(ゴッドハンド)――

 

 莫大なエネルギーを掌底に溜めて、アダムの体を目がけてこれを放つ。

 

「良いじゃないか。力強くて」

 

 アダムは帽子を投げつけて、これを相殺してほくそ笑んでいた。

 

「あたしにちょっと気を取られ過ぎじゃない?」

 

「――んっ?」

 

 アダムはあたしの動きを注視しすぎて、マリアの動きを失念していた。

 

「マイターン!」

 

 マリアはアダムよりも遥かに上空に跳び上がっており、彼のスキを完全に突いた。

 

 ――HORIZON†CANNON――

 

 アガートラームを砲身状に変形させて放つ高出力のエネルギー波がアダムにクリーンヒットする。

 

 彼は地面に叩きつけられ、地面は大きなクレーターを作り出す。さすがに堪えたはず……。

 

 しかし、それは甘かった。彼は何事も無かったように起き上がると、天に手を掲げた。

 

「ふむ、ティキの奪還に成功したようだ。サンジェルマンたちが……。だったら用済みだよ。君たちは」

 

 アダムは再び宙に浮いたかと思うと、炎の玉を浮かび上がらせる。その熱量は想像を絶するほどの大きさへと膨れ上がり、彼の衣服が焼失した――。

 

 ――まさか、黄金錬成!? この男、こんなところで核融合を発生させるつもりなの!?

 

「何あれ? あり得ないわ。あんなもの……」

 

 マリアもアダムが発生させた巨大な火球の異常性に気が付いたようだ。

 

 あれは相殺したとしても、爆発によって、それだけで甚大な被害が及んでしまう……。時を止めても大爆発は避けられない。

 こうなったら……。

 

「マリア、あたしがアレを止めるわ。でも、それが限界だから――」

 

「フィリア? 何をするつもりなの!?」

 

 マリアの言葉を背中に、あたしはアダムに向かって跳び上がる。

 

「――終わりだよ。何もかもこれで」

 

「――あとは頼んだわ」

 

 アダムの放った巨大な炎の玉にあたしは手を触れる。すると炎の玉はあたしを飲み込もうとし、瞬く間に大爆発が起ころうとした。

 

 その瞬間にあたしは能力を発動した。

 

 ――ループ・ザ・ワールド――

 

 時間を巻き戻して、黄金錬成の結果できた核融合エネルギーを消失させる。

 両腕は失ったが、何とか被害を食い止めることに成功した。

 

 再生にエネルギーを回したので、クロノスモードの持続時間はここで切れてしまったが……。

 

「待っていた。この瞬間を……。欲しかったんだ。魅力的な身体になった君のことが。恋人にしたいくらいにね」

 

 アダムはそう言いながら近づき、あたしの首を掴む。

 

「ロリコン趣味だとは思わなかったわ。その格好で危ないこと言わないでくれる……?」

 

「分け与えてもいい。神の力を君になら。見せてもらうよ。君の力を」

 

 アダムはあたしの言葉など意に返さず、首を掴んだ腕が発光する。

 

 それに共鳴して、あたしの目から黒い光が天に向かって照射され、空中に黒い天球儀のようなものが浮かび上がった。

 

「フィリアを離せッ!」

 

 マリアが跳び上がって、アダムを攻撃する。

 

「ほう、キレイに映るものだ。昼間だというのに。ここは良い場所みたいだよ。神に喧嘩を売るには――」

 

 アダムはマリアの攻撃を軽く躱して、天空を眺めながらそう呟いていた。この男は何を言っているの?

 

「じゃあ書き換えさせてもらおう。君の人格が僕を愛して従順になるように」

 

 彼はあたしの頭にもう片方の手で触れて、電気ショックのようなモノを流してきた。

 

「――ぐっ!? 頭がっ……」

 

 突如として頭の中に色んなものが侵入してくるような不快感にあたしは襲われた。

 せっ、洗脳しようとしてるの? くっ……、頭が割れそう……。

 このままだと、コイツの良いように操られる人形にされてしまう……。

 

 あたしの意識が断ち切れそうになる瞬間……、頭の中で声が流れた。

 

“貴様、誰に断ってここに入ってきた?”

 

「――っ!?」

 

 アダムは咄嗟に手を離して、あたしを地面に落とした。

 

「忘れてたよ。君の存在を……、フィーネ!」

 

「ほう、私を忘れたというか。ならば、今度は忘れられないようにバラバラにしてやろう」

 

 フィーネの人格とあたしの人格が交代する。いつもより副作用の発動が早い……。

 

『フィリアくん、ティキを奪った錬金術師と交戦した翼たちがやられてしまった。切歌くんと調くんが交戦しているが、形勢は良くない』

 

「ちょっと、弦十郎く〜ん。こっちも手一杯なんだけど……」

 

『ぬっ、了子くんか。そっちの様子も確認済みだ。上手く撤退してくれ』

 

 弦十郎は撤退命令を出しているみたいだった。

 悔しいけど、こっちの敗北ね……。

 

「逃さないよ。君たちは」

 

 しかし、アダムはもう一度、黄金錬成を発動させる。さっきよりは規模は小さいみたいだけど……。

 

「あいつ、まだあんなに力があるの……? こっちはエネルギー不足なのに……。まぁ、多少の被害は仕方ないわね。マリアちゃん、下がってなさい」

 

 フィーネは蜂の巣状の巨大なバリアーを繰り出した。

 どこが、エネルギー不足なのよ……。でも、あれじゃあ、あたしやマリアは身を守ることが出来ても、翼たちが逃げ遅れてたら巻き添えを食らってしまうかもしれない。

 

「文句言わないの。何とか逃げ切れていることを祈りなさい」 

 

 フィーネは諭すようにそんなことを言った。でも、それじゃあ……。

 

「フィリア! 聞こえてるんでしょう? これを使うわ」

 

 マリアは《Type:R》を取り出して、自分の首に注射した。

 ちょっと、躊躇いなく使わないでくれる? それを使ったらあなたは……。

 

「――んっ、くはっ……! はぁ、はぁ……、すっすごいわ……、こんなに大きく……」

 

 マリアは悶えながら、適合係数の上昇を感じ取ったみたいで、アームドギアが巨大化していた。

 

「燃え尽きるといい。何もかも」

 

 アダムは再び火球をあたしたちに向かって振り下ろした。

 

「みんなを……、必ず守ってみせる……! Gatrandis babel――Emustolronzen――Gatrandis――――fine el zizzl」

 

 マリアは絶唱を歌い始めた。アガートラームの絶唱……、あの日を思い出すわね……。

 

 マリアの絶唱のエネルギーがアダムの黄金錬成によって生み出された火球とぶつかり、空中で大爆発が起こる。

 

 爆発の余波はフィーネのバリアによって阻まれて、被害は最小限に抑えられた。

 

「――してやられたよ。見事にね。任せるとしよう。あとはサンジェルマンたちに……」

 

 アダムはそう言い残して、この場から消えて居なくなった。

 

「そうだ、こうしてはいられない。早くみんなを助けに行かなきゃ」

 

 マリアはアダムが居なくなったのを確認すると、調と切歌が戦闘している場所に向かって行った。

 

“行っちゃったわね……。マリアちゃん”

 

“あなたも追いかけなさいよ”

 

“わかってるわ。でも、今のアガートラームの絶唱……、妙な力を感じたの……。魂が共鳴するような……そんな感じが……”

 

“そういえば、あたしが過去に飛ばされた原因もアガートラームの絶唱だった。でも、今はそんなこと、どうでもいいでしょ? 頼むからマリアを……”

 

“はいはい……”

 

 フィーネはそう言って、マリアを追いかけた。

 

 フィーネはアガートラームの絶唱に何か感じるものがあったみたいだ。あたしもセレナの絶唱で過去に飛ばされたとき、不思議な感じを受けた。

 それが、何なのかわからないけど、フィーネの口ぶりはどこか懐かしそうな感じだった――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「敗北だ。徹底的にして完膚なきまでに!」

 

 弦十郎は悔しさで顔を歪ませる。

 

「ついに現れた、パヴァリア光明結社統制局長――アダム=ヴァイスハウプト……、そして……」

 

「錬金術師どものファウストローブ。フィリアにゃ、気を付けろと言われていたが……」

 

「まさか、打ち合った瞬間にイグナイトの力を無理矢理引き剥がされたような衝撃が走るとは――」

 

 あたしとマリアがアダムによって釘付けにされていた頃、翼たちはファウストローブを身に纏ったサンジェルマンたちと戦闘をしていた。

 

 フィーネとマリアが彼女らの元に辿り着いた時はすでに遅く。

 装者たちは皆倒されており、サンジェルマンたちはしばらく二人と交戦した後に、ティキの身体を持って逃げ帰ってしまった。

 

 あたしたちはパヴァリア光明結社に良いようにやられてしまったのである。

 

「ラピス・フィラソフィカス。賢者の石の力だと思われます。ボクとフィリアさんも共に研究していたのですが……」

 

「賢者の石……。確かに言っていた」

 

 エルフナインの言葉に響は反応する。

 

「完全を追い求める錬金思想の到達点よ。その結晶体は病を始めとする不浄を正し、焼き尽くす作用……、つまり浄化する特性がある」

 

「その特性によって、イグナイトモジュールのコアとなるダインスレイヴの魔力は為す術もありませんでした」

 

 あたしとエルフナインは賢者の石、ラピス・フィラソフィカスの特性がイグナイトの力を解除したと分析した。

 これがフィーネの言ってた連中の狙いか……。

 

「とどのつまりはイグナイトの天敵。この身を引き裂かんばかりの衝撃は強制解除によるもの」

 

「決戦仕様であるはずが、こっちの泣き所になっちまうのか!」

 

 翼とクリスはやりようのない歯がゆさを表情に出していた。

 

「東京に搬送されたマリアさんは大丈夫でしょうか?」

 

「新型のLiNKERのプロトタイプ、《Type:R》の副作用で精密検査が必要にはなったけど……、身体に影響は奇跡的に少なくて済んだわ……。本当にびっくりするくらいにね……」

 

 マリアの容態はあたしとエルフナインの予想とは裏腹にそれほど悪くはなかった。

 適合係数の上昇で絶唱のバックファイアは防げたはずだけど、使用したこと自体の負担や汚染はかなり酷くなる見込みだったのに……。

 まぁ、喜ばしいことではあるのだが……。

 

「良かった……」

 

 響はホッとした表情をした。

 

「リア姉とエルフナインが作ってくれたLiNKERは体の負担が小さくなるように出来てるデス」

 

「きっと、そのおかげで……」

 

 切歌と調は勘違いしてるが、《Type:R》はそんなものではない。

 計算外の奇跡で守られたとしか言いようのない事象――二度目はないと思うから……、やはり安全面はもっと強化しないと使用許可を出したら駄目ね……。

 奇跡があるなら、その逆もあるかもしれないし……。

 

「風鳴機関本部での解析任務は失敗した。各自撤収準備に入ってくれ」

 

 弦十郎はあたしたちに撤収の準備をするように指示を出した。

 

 

 そのとき、緒川の通信機が鳴り響き、彼は通信に出た。

 

「――っ!? 司令……、鎌倉より招致がかかりました」

 

「絞られるどころじゃ済まなさそうだ」

 

 弦十郎は緒川の言葉にそう反応する。

 

「――そして、今回はフィリアさんも来るようにと……」

 

「フィリアくんもか? 確かにオレの娘だから、何度か連れて行ったこともあるが……、こういうときに呼ばれるのは初めてだな」

 

 弦十郎は少しだけ驚いた顔をした。そして、翼は物悲しそうな顔であたしを見ていた。

 

 心配しなくて良いわ、翼……。あなたの負担を少しでも軽くすることが……、あたしとあの子の約束なんだから。

 むしろ望むところよ。あの男と対面するのは――。

 

 あたしたちは、日本国家を裏から支える風鳴の一族の長である風鳴訃堂の居る、鎌倉に向かうことになった――。

 




死力を尽くして戦っても、アダムたちには勝てませんでした。
次回は風鳴本家から話がスタートします!


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護国の鬼とパンドラの箱の守護者

風鳴訃堂がいよいよ登場です。考えてみると名前すら前回まで出してなかった気がします。
それではよろしくお願いします!


「――して、夷狄(イテキ)による蹂躙を許したと?」

 

 齢100歳を超えるという、老人、風鳴訃堂は不機嫌そうな声を出した。

 翼は廊下で待機しており、何故かあたしは弦十郎の隣に座らされている。

 

「結果、松代の風鳴機関本部は半壊。大戦時より所蔵してきた機密を多く失うこととなりました」

 

 翼の父、八紘はパヴァリアによる強襲の結果を伝えた。実際、あの黄金錬成をまともに食らってしまっていたら、半壊どころか壊滅してたでしょうね。

 

 

「外患の誘致、及び討ち退けること叶わなかったのは、こちらの落ち度に他ならず、全くもって申し訳――」

 

「聞くに耐えん!」

 

 弦十郎が謝罪の弁を述べようとすると、訃堂がそれを遮る。まったく、この老人は――。

 

「夷狄の目的たる力、そこの人形にも宿るものだと聞く。なれば――奴等より先に護国の力と成すが良い」

 

 訃堂はあたしを指さしてそう言った。まさか、この男の狙いは――。

 

「待ってくれ。フィリアくんは――」

 

「有事に私情は聞くに能わず。得体の知れない人形が風鳴を名乗ることを許した理由を考えろ」

 

 あたしが弦十郎の娘になれたのは――風鳴の道具として利用できるとこの男が考えたからだ。

 当たり前だ。人形を風鳴の養子にしたいなどという弦十郎の我儘が簡単に通るわけないのだから。

 

「人形よ、貴様も風鳴に恩を返す義務をゆめゆめ忘れるな」

 

「もちろんですわ。お祖父様。過分なる待遇を受けたこの身は必ずや護国のために――」

 

「ふんっ! その殊勝な言葉、覚えたぞ――」

 

 あたしはいつもどおり猫を被ってその場をやり過ごすと、訃堂は立ち上がって部屋を出ようとした。

 

「わかっておろうな?」

 

 部屋から出る前に八紘に向かって訃堂は確認するような言葉を吐いた。

 

「国土防衛に関する例の法案の採決を急がせます」

 

「有事に手ぬるい! 即時施行せよ!」

 

 訃堂は八紘に護国災害派遣法――《ノイズ》以外にも、聖遺物や異端技術に起因する災害に対して自衛隊を動かす事が可能にし、予測できない事態にも拡大解釈をすることで、柔軟に対応出来る法律……、この法律の施行を急かした。

 

 この男に脳内メーカー使ったら絶対に護国って言葉で埋め尽くされてそう……。

 

 

 翼が、訃堂が出るのに合わせて障子を開ける。

 

「まるで不肖の防人よ。風鳴の血が流れておきながら嘆かわしい。よそ者の人形風情の戦力以下とは……、恥を知れ」

 

「我らは防人たらしめるは血に非ず。その心意気だと信じております。フィリアは私などよりその心意気が強いのでしょう」

 

「ふんっ」

 

 訃堂は敗戦を喫した翼に苦言を呈したが、彼女はそれに反論した。訃堂はさらに不機嫌さを増して去っていった。

 ホントに相変わらず嫌な爺さん……。あと、翼の中ではあたしも防人なのね……。口調とか変えたほうがいいのかしら?

 

 

「翼お姉様、気にされなくても良いですわ」

 

「フィリアよ、その口調はやめてくれと、何度言えば――」

 

 悲しそうな顔をしていた翼にあたしが声をかけると、彼女は困惑した表情に変化した。

 大丈夫……、あなたはあたしが守るから……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「――というわけで、あたしの力を正確に把握する必要が出来たの。記憶が戻っても、わからないことがまだあるから、その点を探りたいと思ってるわ」

 

 S.O.N.G.の本部に戻ったあたしは、研究室でパヴァリアの目的を潰すためには、連中が神の力を手に入れるための過程を知る必要が出来たとみんなに話した。

 あたしにティキと同じような機能が付随されているのなら、その機能について知ることが出来れば、パヴァリア光明結社の動きも読めるという理屈だ。

 

「んなことどうやって調べりゃ良いんだよ?」

 

 クリスは当然の疑問を口にした。ちょっと危険な方法なのよね。それが……。

 

「これを使います」

 

 エルフナインがゴーグルとヘルメットが一体化した装置を指さした。

 

「これってエルフナインちゃんと前に遊んだゲームだー。えっ? これからゲームするのー?」

 

「フィリアよ、私たちには遊んでる時間などないんだぞ」

 

 響と翼は先日にエルフナインが作ったRPGゲームとこの装置を混同しているみたいだ。

 確かに見た目はほとんど同じだし、あれを元に作ったからあながち間違っちゃいないんだけど……。

 

「違うわよ。ゲームなんかするわけないでしょう。これはウェル博士のダイレクトフィードバックシステムを再現した装置よ。ゲームを作るついでに作成してみたの」

 

「普通、逆デスよ」

 

「ゲームのついでに作るものじゃないでしょ」

 

 あたしの言葉に切歌とマリアがツッコミを入れる。出来ちゃったから仕方ないじゃない。

 

「これであたしの記憶のさらに奥にあるはずの内部データにまでアクセスする。あたしだけで探れればよかったんだけど――」

 

「どうかしたのか?」

 

 あたしがそこまで話すと翼がそう尋ねる。

 本来なら自分で自分の意識の中を解析する予定だった。他人に見せるのも恥ずかしいし……。

 

「何度か使ってみたけど、邪魔が入るのよ……。途中で大きな邪魔がね……。だから、危険は伴うけど誰かにあたしの意識の中に一緒に入って来て欲しいの。その邪魔者を抑えるために……」

 

 そう、あたしの意識の中は迷宮と言えるほど複雑な上に邪魔者までいるカオスな状態だった。

 

「でも最悪の場合、二人の意識は溶け合い廃人となる恐れもあるわ。無理なら他のやり方を――」

 

「良いだろう。私が行こう」

 

 あたしが言い終えるより前に、翼は自らがあたしの意識に入ると言い出した。

 

「この命令を出したのは風鳴の長だ。なれば、この任務は私が遂行するのが筋だろう」

 

 真面目な理由で翼は立候補していた。まぁ、翼だったら――。

 

「エルフナイン、翼とあたしの意識を繋いでくれる? 翼にだったらこの仕事を任せられるわ」

 

「わかりました。フィリアさん、翼さん、くれぐれも注意してください」

 

 ということで、あたしは翼とともに自らの意識の中に入り込むことにした。

 

 私と翼は機材をつけて、準備を完了させる。

 

「それでは、今からフィリアさんと翼さんの意識を共有します――」

 

 エルフナインはダイレクトフィードバックシステムを起動した――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ここは暗い実験室、培養液の中に二人の銀髪の少女が入っていた。

 

「また、ここからか……」

「ここは、どこなんだ? フィリア……」

 

 あたしの隣に居る翼がキョロキョロと辺りを見渡す。

 

「出てこい。廃棄個体ども」

 

 女が培養液の水を抜いて、少女たちに声をかけていた。

 

「あれは、櫻井女史……、そしてこの少女たちはまさか……!」

 

「そうよ、あたしと妹のフィアナ……。フィーネの実験は失敗して、あたしたちはアメリカに行ったの……。F.I.S.にね……。こっちよ、翼……」

 

 あたしが歩みを先に進め、翼は後ろを付いてくる。

 

 

 

 

「今日からあなたたちには戦闘訓練を行ってもらいます。フィーネの器となれなかったレセプターチルドレンは涙より血を流すことで組織に貢献するのです!」

 

 ナスターシャがムチを片手に檄を飛ばす。

 

「まーた、始まった。マムのありがたいお言葉……」

 

「フィリア! 私語は慎みなさい!」

 

 子供の頃のあたしがナスターシャにムチで叩かれる。

 

「――っ!? これは、痛みを共有してるってことか?」

 

「そうよ、このくらいは序の口だから。覚悟してちょうだい」

 

 あたしと翼はナスターシャにムチで叩かれた痛みを感じていた。

 

「あと4発くらい貰っとくわ。先に叩いてもらっといた方が効率的でしょ? ついでにフィアナとマリアとセレナの分くらいは貰っといてあげる」

 

「――まったくあなたという子は!」

 

 反抗的なあたしにナスターシャは困った顔をしていた。

 

「フィリア、バカなこと言ってマムを怒らせないの」

 

 小さい頃のマリアが注意する。この頃から彼女には面倒かけてたわ……。

 

「何というか、お前は昔からあんな不遜な態度だったんだな……」

 

 翼は呆れ顔をしてあたしを見ていた。だから、嫌だったのよ。

 

 

 

「マムに、内緒よ……」

 

「美味しいデス」

「リア姉ありがとう」

 

 切歌や調にこっそりケーキを渡したりと重要じゃない記憶も通り抜けて、レセプターチルドレン時代の記憶を翼と共に進んで行く。

 

 

 そして、あたしは400年前の世界に飛ばされてしまう。

 

「話には聞いていたが、本当に過去に行っていたのだな」

 

「さっさと行くわよ、立ち止まってる暇はないの」

 

 あたしは翼の手を引いて、先へ進もうとする。

 

「ちょっと待て、フィリア。どうしていきなり急ぐのだ? ん? あそこに居るのは、例のキャロルやエルフナインの父親?」

 

 翼にあの記憶を見られてしまった――。

 

 

「――ええい、言うぞ! きっ君を好きになってしまったんだ。優しくて、キャロルにも好かれている、君のことを……。だから、その、僕と一緒になってほしい。もっもちろん、直ぐに返事をくれとか、そんなことは言わない……」

 

「別にあたしは優しくなんてないわよ……。でも、嬉しい……。あたしもあなたが好きよ……、イザーク……」

 

 あたしがイザークにプロポーズされている記憶を翼に見られてしまった。もちろん、いい想い出なんだけど……。

 

 

「――すっ、すまない。フィリア……、お前の、そのせっ接吻を……」

 

「いいわよ、別に……、さっさと進むわよ。もう少し先なんだから……」

 

 顔を真っ赤にした翼と共に、あたしは更に先に進む。

 

 

 

 キャロルの元に行き、パヴァリア光明結社に潜入してゲイル博士と共に逃げ出して、あたしは自らの体を人形にするところまで、記憶の迷宮を進むことが出来た。

 

「この先にあたしの身体の秘密が隠されているはず。ゲイル博士はあたしに各機能のチュートリアルを残していたの。でも、邪魔者が入ってどうしても開けられない扉があるのよ。翼にはそれを止めてほしい」

 

「心得た。しかし、驚いたな。意識の中の空間でもギアを纏えるのか……」

 

 翼はシンフォギアを纏って、戦闘の準備をしていた。

 

「そりゃあ、ゲームのときと一緒の理屈よ。脳波であたしたちが具現化されてるなら、イメージでギアを纏えないはずはない。あたしもファウストローブを」

 

 あたしはファウストローブを纏い、翼と記憶の奥の扉に進む。

 

 もう少しで――奴が出てくる……。

 

「あら、フィリアちゃん。今度はお友達と一緒に来たのね……。この先にあるのは――フィリアちゃんが知らない方が良いことよ……」

 

 フィーネがあたしたちの前に立ちはだかった。

 

「また、櫻井女史!? しっ、しかし、なぜ衣服を着てないのだ?」

 

「フィーネは基本的にあんな感じよ。翼、あの人を止めてもらってもいいかしら? あたし一人だと手に負えなかったのよ」

 

 あたしと翼は臨戦態勢を整えてフィーネと対峙する。

 

「はぁ、まったく……、私は娘のためを思って言っているのよ。帰りなさい。そして、あの力を手に入れようとするのは、止めなさい」

 

 フィーネはそう言うとネフィシュタンの鎧を身に纏ってきた。向こうもイメージで同じような真似を……。

 

「フィリア、ボサっとするな! 約束どおり私が足止めする! お前は急いで奥に行けっ!」

 

 翼はアームドギアを構えてフィーネに向かって走り出した。

 

 ――風輪火斬――

 

 炎を纏った翼のアームドギアがフィーネを襲う。

 フィーネはムチを伸ばしてこれを受け止める。

 

「あら、また腕を上げたのね。翼ちゃん」

 

「フィリアの邪魔はさせん! うぉぉぉぉっ!」

 

 翼の必死な気迫は剣にも現れて、フィーネのムチによる波状攻撃を受け止める。

 

 今だっ――。

 

 あたしはフィーネの奥の扉に向かって走り出した。

 

「行かせないって、言ってるでしょ!」

 

 フィーネはあたしに向かってムチを伸ばしてきた。

 

「私を相手にしながら、他に気を取られるか!?」

 

 ――天ノ逆鱗――

 

 翼はあたしの背中を捉えようとするムチを超巨大化させたアームドギアで防ぐ。

 

「行けっ! フィリアぁぁぁっ!」

 

「フィリアちゃん、戻りなさい! きっと、あなたは後悔する!」

 

 翼とフィーネの声を背中に受けながら、あたしは奥の扉を開いた。

 

 あたしはそのまま、扉の先を駆けていく……。

 

 そして、その先で待ち受けていたのは――。

 

「やぁ、フィリア。よく来たね……」

 

「はぁ、会いたくないけど、会いに来てあげたわ……。ゲイル博士……」

 

 あたしは意識の最深部で大馬鹿者と再会した――。

 

 

 




次回はフィリアの意識の中のゲイル博士がいろいろと彼女の身体の仕様について説明します。
フィリアもまたティキと同様に神の力を受け止めることが出来るので、訃堂は神の力を手に入れようとしています。
次回もよろしくお願いします!


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最低の母親とクーデレな娘

原作の7話の前半くらいまでです。
それではよろしくお願いします。


「ドクター、取り急ぎ質問に答えてくれるかしら? あたしにはティキと同じ機能が付いているの?」

 

 あたしは今まで幾度となく自分の機能の説明をした彼に質問をする。

 ミラージュクイーンも、マナバーストも、ファウストローブもこの男によって教えられた機能だ。

 

「ティキと同じ機能? んっんーっ、違うんだなー、これがっ! 既存のモノと同じモノを付けるなんてノーセンスじゃないよ、この僕は」

 

 相変わらずのムカつく口調で人を小馬鹿にしながらゲイルは話す。

 

「ティキの性能ははせいぜい神の門とかいう高エネルギーの収束ポイントを見つけて、そこに集まったエネルギーを掠め取るくらいで、大したもんじゃあない」

 

「そこが重要なのよ。ていうか、それを邪魔したいからやり方を教えなさい」

 

 ゲイルはティキを軽く見ていたが、その機能こそパヴァリア光明結社が追い求めていた機能だ。

 

 彼は私にも似たの機能が付いているという前提のもとパヴァリア光明結社の計画の全貌を話した。

 この男を閑職に追いやったのは連中の失策ね……。

 

 生命エネルギーを大量に使い、各神社にエネルギーを送り、さらにレイラインを利用して地上のオリオン座というモノを作り出す。

 そして、天地のオリオン座から織りなされる神の力と呼ばれる高エネルギーの収束ポイントをティキが見つける。

 最後にティキがそのエネルギーを身に納めることで、神の力を手に入れる――ここまでが計画の流れみたいだ。

 

 思ったより彼らの計画の詳細があたしの中にインプットされてたのね……。

 これなら連中の企みも防げるかもしれない。

 

「ありがとう。じゃあこの辺であたしは――」

 

「ホワァイ!? 君はバカなのか? ここからが本番だ。君はクロノスモードを使えば生命エネルギーや祭壇設置の儀式なんてモノが無くても術式を発動させて自力で神の門を見つけてエネルギーを手にすることが出来る! 何故なら、君のその身体にはレイラインを完全に掌握する力が組み込まれているからだ!」

 

 ゲイル博士はあたしとティキの違いを話した。

 何その手軽そうな話。こいつ、人の身体にとんでもない機能を幾つ付けたのよ?

 

「しかし、神の力を手に入れたら、君の魂は一年保たないでしょうねぇ。英雄に相応しい力は手に入るから、代償としては小さすぎるぐらいだが」

 

 ゲイル博士は神の力を手にしたときのデメリットを話した。

 

「チフォージュ・シャトーなしで発動するクロノスモードの魂への負担は自覚してるだろ? それと同様だ。そもそも、キャロルが万象黙示録を完成していれば話は別だった……。バカな君は神を超えられるチャンスを自分で潰したんだ」

 

 魂の負担? 確かにクロノスモードを使った後は意識が遠ざかるけど……。

 

「君の同居人に感謝するだね。フィーネが自分の魂をすり減らして君の身体を守って無かったら、今ごろ君は――自分を保っていられたかな?」

 

「フィーネが? あたしの身体を?」

 

 ゲイル博士はフィーネがあたしを守っていたというような事を言った。

 もしかして、彼女があたしを止めていた理由は――。

 

「最後にキーワードを教えとこう。コード、ラグナロク……、それで君は神域に足を踏み入れるだろう……」

 

 ゲイルはそう言い残して消えてしまった。

 

 あたしは呆然としながら、意識の奥から記憶の迷宮に戻った。

 翼は倒れており、フィーネはその傍らで座っていた。

 

「翼ちゃんなら大丈夫よ。ちょっと寝かせただけだか」

 

 フィーネは見たことのないくらい優しい表情だった。この人があたしの為に?

 

「フィーネ、あなたはあたしを……?」

 

「あーあ、こんな顔をするから聞かれたく無かったのよねー。大丈夫よ、フィリアちゃん。これくらいじゃ私は参ったりしないから――。だから……、大切な人を守るために力を使うことを躊躇ったら駄目よ」

 

 あたしの問いかけに、フィーネは微笑みながら、頭を小突いてきた。

 

 ――バカね……、躊躇わないわけないじゃない……。

 

 あたしは翼が目を覚ますのを待って、意識の世界から研究室に戻った。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「フィリアさん、翼さん、戻ってすぐに申し訳ありません。アルカノイズと錬金術師たちが現れました」

 

 ダイレクトフィードバックシステムを解除して早々にエルフナインが慌てた表情であたしたちに声をかけた。

 

「持ち帰った情報を整理したかったけど、仕方ないわね。行くわよ、翼!」

 

「うむ、一刻を争う事態のようだ。急ぐぞ、フィリア!」

 

 あたしと翼はS.O.N.G.のヘリコプターに乗り込み、現場へと急行した。

 

 

 

「フィリア、その篭手は……、何か武器でも仕込んでいるのか?」

 

 翼はあたしが腕に装着した篭手を見ながらそう言った。

 

「ああ、これは賢者の石を作ろうとして失敗した副産物よ。やたら硬い物質を創り出すことが出来て――あたしはそれをオリハルコンって名付けたんだけど……。それを加工して刃状にして篭手の中に仕込んでみたの。ミラージュクイーンで塗装して錬金術を纏えるようにしたから、ファウストローブを装着しても剣術が使えるようになったわ」

 

 あたしが篭手に仕込んだボタンを押すと緑色に光る刃が飛び出す。これなら武術と剣術のどちらも使える。

 

「なるほど、いい剣だ……。しかし、色は銀色じゃないんだな」

 

「フィーネがこの色がいいって煩かったから。まぁ、色くらいは別に何色でもいいし」

 

 翼の質問にあたしはそう答えた。この仕込み篭手を作ろうとしたとき、妙に機嫌が良かったのよね。

 

 

 そんなことを話していると、あたしたちはすぐに現場に到着した。

 あたしはファウストローブを、翼はシンフォギアを身に纏う。

 

 

「あら、アルカノイズたちは全部倒しちゃったのね。じゃあこれで――」

 

「7対3か、少々気が引けるな……」

 

 あたしと翼はサンジェルマンたちと戦闘中の響たちと合流した。

 

「思い上がるな! この程度の人数差など問題ない!」

 

 既にファウストローブを纏っているサンジェルマンは銃口をあたしに向けた。

 

 

「待ってください! 人を支配から解放するって言ったあなたたちは一体何と戦っているの? あなたたちが何を望んでいるのか教えて。本当に誰かの為に戦っているのなら私たちは手を取り合える」

 

 響は殺気を放っているサンジェルマンに手を差し伸べようとした。

 

「手を取るだと? 傲慢な……。我らは神の力を以ってしてバラルの呪詛を解き放つ!」

 

 サンジェルマンの目的はやはりバラルの呪詛からの人類の解放だった。

 

「神の力でバラルの呪詛をだと!?」

 

「月の遺跡を掌握する!」

 

 翼の反応にサンジェルマンは月の遺跡の掌握を宣言する。

 まぁ、月の遺跡の装置を操ることが出来れば、それは可能よね……。

 

「月にある遺跡……、何のために?」

 

「人が人を力で蹂躙する不完全な世界秩序は、魂に刻まれたバラルの呪詛に起因する不和がもたらす結果だ」

 

 サンジェルマンはバラルの呪詛による、人類の不具合について述べた。フィーネも言ってたけど、人類同士が争うようになったのはこれが原因だ。

 

「不完全を改め完全と正すことこそサンジェルマンの理想であり、パヴァリア光明結社の掲げる思想なのよ」

 

「月遺跡の管理権限を上書いて人の手で制御するには神と呼ばれた旧支配者に並ぶ力が必要なワケダ。その為にバルベルデを始め各地で儀式を行ってきたワケダ」

 

 カリオストロとプレラーティはパヴァリアの思想と目的を話す。

 気の遠くなる年数をかけてこの人たちは計画を成そうとしている。説得で何とかなる相手じゃないかもしれない。

 

「だとしても、誰かを犠牲にしていい理由にはならない!」

 

 響の意見は正論だ。しかし、それはサンジェルマンには通じないだろう――。

 

「犠牲ではない。流れた血も失われた命も革命の礎だ!」

 

 サンジェルマンが銃から光線を繰り出してきた。

 そう、彼女には確固たる決意がある。革命の礎となる人間の数を律儀に数えているのは、彼女が命を背負う覚悟があるからだろう。

 

 あたしたちは分散して光線を避けて戦闘に入った。 

 

「フィリア、合わせられるか!?」

 

「何年、あなたの鍛錬に付き合ってるとおもうの? 目を瞑ってもあなたの動きはわかるわ」

 

 あたしは篭手から緑色の刃を出して、翼と共にサンジェルマンに向かって走る。

 

 ――紫焔ノ一閃(シエンノイッセン)――

 

 あたしが炎を纏った刃から神焔ノ一閃を放ち、翼が蒼ノ一閃を放つ。

 全く同じタイミングで放った紅い刃の蒼い刃が混ざり合い紫色の炎刃となりサンジェルマンを襲う。

 

「――くっ、これは!?」

 

 サンジェルマンは錬金術でシールドを出すも、紫色の刃によってそれは破壊され、彼女は吹き飛ばされてしまう。

 

「「はぁぁぁぁっ!」」

 

 翼とあたしの連携技でサンジェルマンに追撃を放つ。

 彼女は体勢を整えて銃を乱射するが、あたしたちは同時に空中に飛び上がり、それを躱す。

 

 ――雷帝ノ逆鱗(ライテイノゲキリン)――

 

 翼が巨大化させたアームドギアにあたしが錬金術で雷撃を纏わせて、それをサンジェルマンに向かってそれを落とした。

 

「錬金術とシンフォギアの連携……、これほど強力とはっ――」

 

 サンジェルマンは素早いバックステップでこれを避けるが、アームドギアが地面に突き刺さった爆発の余波でバランスを崩してしまう。

 

 今がチャンス! もう一度、連携技で……!

 

 と、二人で意思確認をしたとき……。

 

「「イグナイトモジュール! 抜剣!(デース)」」

 

 調と切歌がイグナイトを使ってしまう。

 

「ダメよ! 調、切歌、賢者の石によってあなたたちのギアが――!」

 

 あたしは翼と目で合図を出して彼女たちの元にフォローに回ることにした。

 

「先走るワケダ――」

 

「当たりさえしなければ!」

 

 あたしが彼女らに近づく前に、プレラーティの武器であるけん玉から赤い稲妻が迸り、調と切歌にヒットしてしまう。

 

 

「「うわぁぁっ!」」

 

「ノリの軽さは浅はかさなワケダ!」

 

 案の定、二人はイグナイトを引き剥がされて、地面に付してしまった。

 

「切歌! 調!」

 

 あたしは倒れている二人の前に立ち、プレラーティを牽制した。

 

「足手まといを庇いながらどこまでやれるワケダ!?」

 

「口を慎みなさい! 二人は足手まといじゃない!」

 

 プレラーティの苛烈な攻撃が二人に当たらないようにあたしは必死で刃と打撃を駆使しながらコレを弾く。

 

 

 

 

「明日のために私の銃弾は躊躇わないわ」

 

 あたしと翼がサンジェルマンから離れると響が彼女と戦いだしたみたいだ。

 

「何故!? どうして!?」

 

 引き金を引くことを躊躇わないサンジェルマンに響は投げかける。

 

「わかるまい……。だが、それこそがバラルの呪詛! 人を支配するくびきっ!」

 

「だとしても人の手は誰かを傷つけるのではなく、取り合うために!」

 

「取り合うだと!? 謂れなき理由に踏み躙られたことのない者が言うことだ!」

 

 サンジェルマンは響の呼びかけにまったく聞く耳を持たずに銃を撃った。放たれた弾丸が蒼い狼となり、響に向かって飛んでいく――。

 

 かなりの威力だけど、大丈夫かしら?

 

「言ってること――全然わかりません!」

 

 響は狼を拳で殴って相殺した。この子の馬鹿力だけは、本当に予想を超えてくるわ。

 

「何っ!?」

 

「だとしても、あなたの想い。私にはきっと理解出来る。今日の誰かを踏み躙るやり方では、明日の誰も踏み躙らない世界なんて作れません」

 

「お前……」

 

 響は絶好の機会でも、サンジェルマンの目の前で拳を止めた。

 この子はどこまでもブレずに手を伸ばし続けるつもりなのね……。

 

 

 そんな中、マリアがカリオストロの攻撃を弾き、その攻撃が響とサンジェルマンの方に飛んでいってしまった。

 

「こっち!」

 

 響は迷わずにサンジェルマンの体を掴んでこれを避ける。

 ホントにバカみたいにお人好しなんだから――。

 

 

「――っ、私たちは共に天をいただけないはず……」

 

「だとしても、です……」

 

「思い上がるな! 明日を開く手は、いつだって怒りに握った拳だけだ! これ以上は無用な問答……。預けるぞ、シンフォギア!」

 

 結局、響の想いは通じなかったのか、サンジェルマンは撤退をした。

 

「ここぞで任務放棄ってどういうワケダ、サンジェルマン」

 

「あーしのせい? だったらメンゴ! 鬼メンゴ!」

 

 プレラーティとカリオストロもそれに続いた。

 確かに、変ね……。まだ、余力はあるみたいだし……。あのまま戦いが進むとどちらが勝つかわからなかった。

 

 サンジェルマン……、あなたは……。あたしは一時だけの友人関係にあった彼女のほんの少しの心の揺らぎのようなものを感じた――。

 

 しかし、このままイグナイトが封じられた状態で戦うと、こちらの不利は明らかね……。

 クロノスモードもこのままじゃ駄目だ。

 使えるように何か方法を考えないと……。

 

 この先の戦いを乗り越えるために頭の中をフル回転させる……。

 

“あなた、私まで大切な人リストに入れちゃったの? 仕方ない子ね……”

 

“うるさいわね。あなたも考えなさいよ”

 

 最低の母親でも、いつしかあたしは母親(フィーネ)を失いたくないと思うようになっていた――。




フィリアの新武器によって、ファウストローブと剣術の併用が可能になりました。これで、翼やマリアと剣術で合体技が可能に……。
次回もよろしくお願いします。


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愚者の石と特別訓練

第8話の序盤までです。
それでは、よろしくお願いします!


「パヴァリア光明結社の目的は月遺跡の掌握。その為に必要とされる、神の力を生命エネルギーより錬成しようとしているわ。その計画は――」

 

 あたしは自分の内部データにいたゲイル博士から聞いたパヴァリア光明結社の計画を話した。

 そして、あたしにも神の力を宿す機能が付いていることも……。

 

「なるほど、レイラインを利用する気か……」

 

 弦十郎は納得したように呟いた。

 

「キャロルが世界の分解解析に利用したレイライン。巡る地脈から星の命をエネルギーとして取り出すことが出来ればそれを可能にするということね」

 

「パヴァリア光明結社がチフォージュ・シャトーの建造に関わっていたのにはそういう背景があったということか……」

 

 友里と藤尭は頷きながらキャロルの計画と今回のパヴァリア光明結社の目的が密接な関係にあることに気付いたみたいだ。

 

「取り急ぎ、神社本庁を通じて各地のレイライン観測所の協力を仰ぎます」

 

「うむ」

 

 緒川の言葉に弦十郎は頷く。これで、対策出来ればいいけど……。

 

「もしもの時は、あたしが神の力を……」

 

「それは許さん! 聞けば、魂への負担で君が死んでしまうみたいじゃないか。そんなことは許可できん! 仮に鎌倉の命令があろうとオレは許さん」

 

 あたしが連中の術式を発動する前に神の力を奪えば確実にパヴァリアの計画を潰すことが出来る。

 しかし弦十郎はそれを許さなかった。

 

「はぁ、だったら、事前に計画を阻止しなきゃいけないわね」

 

「無論、そのつもりだ……。あと――」

 

 弦十郎はクロノスモードについても、フィーネの魂への負担が無くなる方法が見つかるまで使用を禁止した。元よりそっちはそのつもりよ……。

 

“弦十郎くんまで私を……”

  

 フィーネは信じられないというような声を出していた。

 

「あとは装者たちの状況だな」

 

「賢者の石による抜剣封殺。その対策も急いで講じなければ……」

 

 弦十郎と緒川は考え込むような仕草をしていた。

 

「それについては、何とかしてみせる。ねっ、エルフナイン」

 

「はい。ボクたちも賢者の石については研究していました。きっとこの状況を打破する方法があるはずです」

 

 あたしとエルフナインはそう言って、研究室に戻って行った。

 イグナイトとクロノスモード、この2つを何とか使用できる状態にしなくては……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「異端技術に関する資料らしい資料はかき集めてきたつもりだ。他にも必要な物があったら何でも言って欲しい」

 

「ハーゲンダッツ」

 

「他に何かないなら、行くぞ」

 

 弦十郎はあたしの言葉を無視して部屋を出て行ってしまった。何でもって言ったじゃない。

 

「フィリアさんは、こういう時でも落ち着いてますね」

 

「そうかしら? アイスが食べたいって言っただけよ」

 

「ボクは焦ってしまってます。早く対策を考えなきゃって……。何かを口にするなんて、考えてませんでした」

 

 エルフナイン……、それはあたしが図太いって言ってるの? そりゃ、母親に似て多少は面の皮が厚くなってるかもしれないけど……。

 

「こういうときは甘いモノで脳を活性化させた方が良いのよ。あなたの言葉を借りるなら錬金術的にも、ね。――ほら、ハーゲンダッツはないけど、パピコがあったわ。半分こしましょ」

 

 あたしは冷凍庫からパピコを取り出して、半分に割ってエルフナインの頬に付けた。

 

「――ひゃっ、つっ冷たい! ありがとうございます。――チュルチュル……、おっ美味しいです。すごく頭が冴えてきた気がします!」

 

 エルフナインは美味しいそうにパピコを食べて、スッキリした表情になった。

 こうやって見ると子供だし、昔のキャロルを思い出すわ……。

 

「フィリアさん、頑張りましょう! ――うわっ!」

 

 エルフナインがやる気満々の顔で張り切って動くと、足を滑らせて転んで弦十郎が持ってきた資料の山を崩してしまう。

 

「ちょっと、気を付けなさい」

 

「すみません……、あれ? こっこれは――」

 

 あたしが手を貸してエルフナインを起こそうとしたとき、彼女は地面に落ちた資料に注目した。

 

 これって、響のメディカルデータ?

 

 そして、偶然というか何というか、この中に賢者の石への対抗策が載っていたのである。

 

 

 

 

「これは?」

 

「以前ガングニールと融合し、謂わば生体核融合炉と化していた響さんより生成されたガーベッジです」

 

「あっ――! あの時のかさぶた!」

 

 以前にガングニールとの融合が進んでいた響が暴走してしまったあと、彼女は手術を受けることになった。

 そのときに採取した、響の体に癒着していた物質の画像をあたしたちは皆に見せた。

 

「とは言え、あの物質にさしたる力は無かったと聞いていたが?」

 

「世界を一つの大きな命に見立てて作られた賢者の石に対して。このガーベッジは響さんという小さな命より生み出されています。つまり、その成り立ちは正反対と言えます」

 

 エルフナインが翼の疑問を受けて、説明をする。

 うん、絶対に響とか理解してないわね……。

 

「今回立案するシンフォギア強化計画ではガーベッジが備える真逆の特性をぶつけることで、賢者の石の力を相殺する狙いがあります」

 

 賢者の石の力さえ打ち消すことが出来ればイグナイトの力を使うことは可能となる。

 強化というより、防御といったところだろう。

 

「つまり、対消滅バリアコーティング。」

 

「そうです。錬金思想の基本であるマクロコスモスとミクロコスモスの照応によって導き出された回答です」

 

 藤尭の言葉をエルフナインは肯定した。

 

 

「誰か、説明して欲しいけれど……」

 

「調、そんなことを言ったらリア姉が――」

 

「調、錬金術に興味を持ってくれて嬉しいわ。マクロコスモスというのはね、大宇宙的な概念で――」

 

「その話は今度の機会にするデェェェス」

 

 調の疑問に答えようとしたあたしは切歌に口を抑えられる。説明して欲しいって言ったじゃない。

 

 

 

「その物質。どこぞのバカの中から出たってんだから、さしずめ愚者の石ってところだな」

 

「愚者とはヒドイよクリスちゃん……」

 

「クリスに座布団一枚〜。山田くん座布団持ってきて」

 

 クリスが命名した愚者の石というネーミングセンスが気に入ったあたしは、翼に座布団を要求した。

 

「誰が山田くんだ。私は剣だっ!」

 

 いや、翼でしょ。

 

「うむ。なるほど。賢者の石に対抗する愚者の石――」

 

「ああっ!? まさかの師匠まで!?」

 

「それで、その愚者の石はどこに?」

 

「マリアさんも!?」

 

 一瞬で定着した愚者の石に対して、響は複雑な顔をしていた。あながち間違っちゃいないけど、本人は真面目な子のつもりなのよね……。

 

「一通りの調査を終えたあと、無用不要のサンプルとして深淵の竜宮に保管されていたんですが……」

 

「――っ! あたしが吹き飛ばしたから……」

 

 友里の回答にクリスは自責の念に駆られたような表情をした。

 

「クリス、気にしなくて良いわよそんなこと。あたしだって首都庁にチフォージュ・シャトーを落っことしたけど、あまり気にしないことにしてるわ」

 

「オレはもう少し気にしてほしいぞ! まったく……」

 

 あたしがクリスにフォローを入れると、すかさず弦十郎がツッコミを入れる。冗談だってば……。

 

「フォローになってねぇよ、バーカ! ――でも、あんがとな」

 

 クリスは顔を背けながらそう言った。

 

 

 

 愚者の石の眠る竜宮の深淵は思った以上に悲惨な状態になっていた。

 サルベージマシンを操縦できるあたしとマリア、それに加えて翼と響が海中で作業を開始した。

 

 途中、カリオストロとプレラーティがアルカノイズを引き連れて強襲してきたが、調と切歌が見事に歌を合わせたユニゾン攻撃が決まり、プレラーティに大ダメージを与え、彼女たちを撤退にまで追い込んだ。

 

 やっぱり、あの二人はやれば出来る子たちだ。

 

 

 そして――。あたしたちは愚者の石を作業員を増員して発掘に取り掛かり――。

 

「見つけたデェェェス!」

 

 大活躍を見せた切歌が、愚者の石を発見した。その勢いで、調の顔に思いっきり泥がかかっているがそんなことは気にしない。

 

「ほら、タオルで顔拭いて。許してあげなさい。あとでシャワーを浴びれば良いんだし」

 

「むぅー。ありがと、リア姉」

 

 ムッとした顔の調にタオルを渡したあたしは、切歌の持っている石を確認した。

 

「エルフナイン、これが愚者の石で間違いないわよね?」

 

「はい! これが賢者の石に抗うボクたちの切り札、愚者の石です!」

 

「うぅ〜、すっかり愚者の石で定着しちゃってる……」

 

 あたしとエルフナインが頷き合っていると、響が複雑そうな表情をしていた。

 

 さあ、シンフォギアをこれから強化するわよ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「今回は特別に俺が訓練をつけてやる! 遠慮はいらんぞ」

 

「訓練室に呼ばれて何かと思ったら……、あたしはシンフォギアの強化をしなきゃいけないんだけど……」

 

 研究室でエルフナインと作業をしていたら、弦十郎に訓練室に来るように言われた。

 言われたとおりにやって来たら、装者たちを前に構えている彼が居た。

 

「まぁいいじゃないか、フィリアくん。研究室に籠りっぱなしだと、身体が鈍るぞ」

 

「――鈍るって……、あたしの身体のこと知ってるでしょ? はぁ、まぁいいわ。試したいこともあったし」

 

 あたしは実戦前に試したいことがあったので、弦十郎の訓練を受けることを飲んだ。

 

「こちらも遠慮なしで行く!」

 

「――マリアっ、そっちに行ったわよ」

 

 弦十郎が超速でマリアに接近して拳の連打を放つ。

 

「――えっ!? うっ! ど、どうすればいいの!?」

 

 咄嗟に直撃を防いだ彼女だが、吹き飛ばされてしまう。これは、ちょっと厳しいか……。

 

「はあああっ! ――闘ッッッ!」

 

「――きゃああっ!」

 

 マリアはさらに吹き飛ばされてダウンしてしまった。

 

 

「人間相手の攻撃に躊躇しちゃうけど……」

「相手が人間かどうか疑わしいのデス」

 

 調と切歌は既にドン引きしていた。あたしはもう何年も疑ってる……。

 

「師匠! 体打をお願いします! はぁぁぁぁっ!」

 

 特訓バカの響やこういう事が嫌いではない翼も案の定やられてしまい、クリスもミサイルを素手で掴まれてあえなく撃沈してしまった。

 

「あんなトンデモに勝てるわけないデス」

 

「どうしよう、切ちゃん。みんなやられちゃったよ」

 

 残った切歌たちは青ざめながら弦十郎を眺めていた。

 まったく、加減を知らないんだから……。

 

 あたしは弦十郎の前に立った――。

 

「ん? 次はフィリアくんか。良いだろう。どこからでもかかってこい」

 

「コード……、ファウストローブ……。――恥をかいても知らないわよ。娘に蹂躙されて」

 

「ふっ――、望むところだ!」

 

 あたしと弦十郎は同じ構えで視線を合わせる――。

 

 静寂がこの場を支配した。しかし、あたしたちの間で行われているのは、深い読み合い……。

 

 

 今だっ――! あたしは音を置き去りにして、弦十郎の間合いに入った――。

 

 ――滅掌雷轟貫手(メッショウライゴウヌキテ)――

 

 残像が無数に現れるほどの超高速の貫手をあたしは弦十郎に放つ。

 彼はあたしの貫手を片手ですべてガードする。

 

「腕を上げたじゃないか。奮ッッッッッッ――!」

 

「あなたの打撃をマトモに受けるバカは居ないわよ」

 

 あたしは弦十郎の腕を取ると同時に足を首に掛け、頭から地面に叩き落そうとした。

 

「――柔術か……、抜け目ないっ!」

 

「ちっ、片手一本で体をっ!?」

 

 弦十郎は落とされる前にもう片方の手で体を支えた。

 

「はぁぁぁぁっ! ぜやっ――」

 

「くっ、さすがに速い……」

 

 あたしは弦十郎の攻撃をギリギリで躱しながら、心の中で舌打ちした。

 

 彼の拳を避け、カウンターで反撃するがそれも見切られて躱されてしまう。

 あたしと弦十郎はかれこれ30分以上に渡って、お互いに決定打を当てられずにいた。

 

「長げぇよ、おっさんもフィリアも、あたしたち待ちくたびれてんだけど」

 

「ふぇ〜、フィリアちゃんって、師匠の攻撃あんなに避けられるんだ〜」

 

「うむ、確かにフィリアの体捌きは見事だが……、このままだと」

 

 みんな、とっくに復活してこちらを見学している。あたしは弦十郎の連撃を段々と躱しきれなくなってきた。

 こちらのリズムが読まれ始めて来たからだ。弦十郎は相手の呼吸を読む術が実に上手い。

 

「どうしたフィリアくん。動きが単調になっているぞっ!」

 

 威力がさらに高まった、拳圧が耳元で轟音を鳴らし、その威力の高さを伺わせる。この速さ……、本気で仕留めようとしてきてる……。

 

「まるでミサイルね……。それじゃ、そろそろ……」

 

 あたしは弦十郎に完全に呼吸を読まれていることを悟って、試したいことを実践した。

 

「スキありっ! ぬっ――! これは了子くんの……」

 

 弦十郎の拳はフィーネのバリアによって防がれる。上手く行ったみたいね……。

 

「正解よ、弦十郎くん」

 

「――何っ!?」

 

 弦十郎の鳩尾にフィーネの拳が突き刺さった――。

 

「がはっ――」

 

「こんな馬鹿力で攻撃して、うちの娘が怪我したらどうすんのよ! このバカっ!」

 

 いや、訓練だからこれ……。あと、あたしは弦十郎の娘でもあるから。

 

 あたしは、あるきっかけで自分の任意でフィーネと身体の主導権を交代させることが出来るようになった。

 そして、これがクロノスモードによる魂への負担を克服するための第一歩となる――。

 




フィリアの任意でフィーネとの入れ替わりが可能になりました。
これがクロノスモードによる負担の克服の鍵になる理由はまた次回です。


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絆のユニゾン

時系列的には原作の8話です。
それではよろしくお願いします!


「はい、あたしの勝ち。思ったよりも気分が良いものね」

 

 あたしは膝を付いた弦十郎にそう言った。実際はフィーネの突然の出現に動揺したスキを突いただけだが、このくらいしないとこの人に勝てる気がしない。

 

「ちょっと待て、フィリアくん。今のはだなぁ――」 

 

 弦十郎はすぐさま立ち上がり弁解しようとした。

 

「あら、弦十郎くんったら、娘に負けた言い訳するんだ〜。男らしくないわよー」

 

「うぐっ、それより、君たちはそんなに簡単に入れ替わることが出来るようになったのか?」

 

 フィーネが再び現れると彼はバツの悪い顔をしながらあたしたちのことに話題を変えた。

 

「そうよ〜。フィリアちゃんの意思で自由自在に入れ替わることが出来るようになってるわ。魂の一部を共有することでねぇ」

 

「魂の一部を共有――だとぉっ!」

 

 弦十郎は驚いた声を出す。

 

 そう、クロノスモードの問題点は大きすぎるエネルギーによって、一人分の魂だと潰されかねない程の負荷がかかることだった。

 ならば、魂の大きさを二人分にすればどうかという話になる。

 フィーネは元々、他人の魂を自分の魂で塗り潰して体を意のままに操ってきた。

 

 それを応用して、あたしとフィーネの魂の境界線のみを共有出来るように組み替えたのだ。

 

 元々、フィーネはこうする事は出来ていたのだが、あたしが彼女を嫌っていたことを知っていたので、そんな提案はしなかった。

 

 確かに人格が混ざりあうなんて嫌といえば嫌だが、今後の戦いで守れた命が守れないなんてことが、また起きるなんてことと比べれば、選択の余地なんてない。

 

 こうして、あたしの身体には二人分の魂が常に宿るという状態になった。

 これならクロノスモードにも耐えられるかもしれない。

 実戦で試さないと、何とも言えないが……。

 

“理論的には上手くいくはずよ。まさか、フィリアちゃんがこんな提案を飲むとは思わなかったけど……”

 

 

 

「――ふむ、クロノスモードについては、安全性を確保するまでは先走るなよ。はぁ、娘に良いのを貰っちまった……。映画を見る量を増やすか……」

 

 弦十郎は少しだけヘコんでいるみたいだ。何十回も戦ってクリーンヒットしたのが、一撃だけってこっちの方が悲しいわよ……。

 

 

「切ちゃん、どうやら私たちのことは忘れてもらったみたいだよ」

 

「よかったデス。リア姉との戦いを見てたら胃もたれしたデスよ」

 

 調と切歌が嬉しそうにヒソヒソ話している。結構大きな声なんだけどなー。

 

「では、切歌くん、調くん、少しかっこ悪い所を見せてしまったが、遠慮はいらん! かかってきたまえ!」

 

「デェェェェェスッ!」

 

 このあと、切歌も調も仲良く吹き飛ばされてしまった。

 

 

「忘れるな! 愚者の石はあくまでも賢者の石を無効化する手段に過ぎん! さあ、準備運動は終わりだ!」

 

「準備運動つっても、おっさんとフィリアが長々と戦ってたから、休憩時間のがなげーよ」

 

「クリスちゃん、師匠にそんなことを言ったら……」

 

 弦十郎の準備運動発言にツッコミを入れたクリスに対して響は嫌な顔をした。

 

 

「ほう、クリスくん。それは悪かった。本番では退屈させないようにしなくてはな」

 

 弦十郎はそう言いつつ、英雄故事のカセットテープのスイッチを押す。この時代になんでカセット?

 

「うげっ……!」

 

「責任取れよ、雪音……」

 

 顔を青くするクリスと、ジト目でそれを見る翼。

 しかし、何をシンフォギアの強化前に何をやろうとしてるんだろう?

 

 特訓を開始して間もなく、その疑問の答えを彼は話してくれた。

 

 

「調くんと切歌くんのユニゾンは強力。だからこそ、その分断が予想される。ギアの特性だけに頼るな! いかなる組み合わせあっても歌を重ねられるように! 心を合わせるんだ!」

 

 ファウストローブを纏ったプレラーティを打ち破った切歌と調がもっとも警戒されることを予測した弦十郎は、どんな組み合わせでもユニゾンが出来るように訓練すべきだと語った。

 

「絆のユニゾンということね……」

 

「ふむ、私とフィリアも連携で押し切れそうだったしな」

 

 正確には装者ではないあたしは歌を歌わないのでユニゾンとは言えないが、錬金術を彼女たちの技と組み合わせることで火力をかなり上昇させることに成功していた。

 

「じゃっ、頑張って」

 

 あたしは手を振って、研究室に戻ろうとした。エルフナインと新発売のチョコレートでも食べながら研究に戻ろうっと……。

 

「ちょっと、フィリア。自分だけ帰るつもり?」

 

 そんなあたしをマリアが呼び止める。

 

「だって、あたしは装者じゃないし……。邪魔したくないから」

 

「いや、錬金術師のフィリアくんには仮想パヴァリアの幹部として実戦訓練に付き合ってもらおう。今、エルフナインくんに確認したら一人でも今日中には強化の準備は終わりそうだとのことだ。それなら、君には装者たちの戦力アップに貢献してもらった方がいい」

 

 弦十郎はエルフナインにまで確認してあたしを装者たちの特訓に付き合わせようとした。

 まぁ、この子たちの戦力アップは必要だし、少しは付き合ってあげようかしら。

 

「わかったわ……、さっさと始めましょ。モグモグ」

 

「あー、フィリアちゃん。それいいなー」

 

「ん? 一つ食べる?」

 

 あたしがチョコレートを食べてエネルギー回復をさせてると、響が羨ましそうな顔をしたから一つ渡した。

 

「ありがとー、よしっ頑張るぞー!」

 

 響がやる気を見せたところで特訓が始まった。

 

 

「ほら、また動きが雑になってるわよ。ここを突かれたら、終わっちゃうでしょ」

 

 あたしはクリスとマリアの連携のスキを突いて攻撃する。

 

「くっ――。お前、容赦ねぇな……、はぁ、はぁ……」

 

「はぁ、はぁ……、武術、剣術、錬金術の三通りで攻撃できるから、近距離、中距離、遠距離すべてにスキがない……」

 

 二人は膝を付いて息を切らせている。やはり最初から切歌と調みたいには行かないわよね。

 

「お互いに遠慮しすぎよ。合わせるってそういうことじゃないでしょ? 信じなきゃ、仲間なんだから」

 

 そう言いながら、あたしは火球を二人に向けて放つ。

 

「ちっ、話しながら攻撃してくんな!」

 

「敵は不意打ちくらい幾らでもするわよ」

 

 こんな感じで一通り装者たちに付き合い、弦十郎と共に彼女らがボロボロになるまでひたすら訓練した。

 その甲斐あって、多少の問題点はあるものの装者たちのコンビネーションは格段に良くなった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 強化版のシンフォギアが完成した次の日、クロノスモードによる足の治療を受けたステファンとその姉のソーニャがバルベルデ共和国から日本に来た。

 時を巻き戻すという治療の経過を記録することが、彼の治療をするときの条件だったからだ。

 

 彼らはクリスとの面会を求めていたので、バルベルデ大使館で彼らと会うこととなり、あたしとクリスは大使館に向かった。

 

 そこを強襲してきたのはカリオストロとアルカノイズ。

 装者たちとあたしは、総がかりで戦うが、マリアとクリスを除いて亜空間に閉じ込められてしまう。

 

 しかし、クリスとマリアは特訓の甲斐あってユニゾンによりカリオストロを撃破。

 あたしたちは勝利をおさめたのであった。

 

 

「特訓の成果が出たみたいね。クリス、マリア」

 

 あたしはクリスとマリアに声をかけた。イグナイトも問題なく起動してたみたいだし……。

 

「へっ、そっちも無事だったみてぇだな」

 

 クリスとあたしは拳を合わせた。何、この挨拶……? 最近、弦十郎から変な映画借りたのかしら?

 

 

 そして、あたしたちは、ソーニャとステファンを空港から見送って帰路に付くことになった。

 あたしはその間、調が浮かない顔をしていることが気になっていた。どうしたのかしら?

 

「ねぇ、リア姉。今日、お菓子の作り方教えてくれる約束だったでしょ? 家に行ってもいい?」

 

 調は思い詰めた顔であたしにそう言った。何か悩みがあるのね。この子がこんな顔をするときは必ず何か言いにくいことがあるときだった。

 

「そうだったわね。じゃあ、材料を一緒に買いに行きましょうか。切歌にプレゼントするんでしょ? まったく、仲が良いわね、あなたたちは」

 

「調が私のためにデスかー? 嬉しいデェス!」

 

 切歌があたしの言葉に顔を綻ばせる。とりあえず、期待を裏切ると悪いからケーキは作っておきましょう。

 

「ええー、良いなー。良いなー」

 

「意地汚ぇぞ、バカ」

 

 羨ましがる響にクリスがツッコミを入れる。はいはい、作るわよ。あなたの分も……。

 

 

 ということで、あたしと調は一緒に帰ることになった。

 

 家に帰る前にスーパーに寄って買い物を済ませるとようやく調が口を開いた。

 

「リア姉……、ありがとう。話を合わせてくれて」

 

 彼女は暗い表情であたしが話を合わせたことについてお礼を言った。

 

「マリアや切歌には言いにくいことがあるんでしょ? ほら、誰にも言わないから言ってみなさい」

 

 相談相手にあたしを選んだということは、彼女の抱えてる事情は特殊なモノだということは察しがつく。

 あたしは調に理由を話すように促した。

 

「ユニゾンの訓練が上手くいかないの……。切ちゃんは誰にでも合わせられるのに、私は切ちゃんとしか合わせられない……。このままだと私は、みんなの足を引っ張る」

 

 調はぽつりぽつりと話し始めた。他の装者と上手く合わせることが出来ないこと、そもそも打ち解けることも難しいということ……。

 

 その悩みは同じ連携の訓練をしているマリアや切歌には言い出し辛かったようだ。

 

「リア姉も昔は私と同じで壁を作るタイプだったから何か分かると思って……」

 

「えっ? あたしって、壁を作ってたっけ?」

 

 調の発言に驚愕してあたしは聞き返してしまった。

 

「切ちゃんが話しかけるまでは怖い印象だった。マムにも噛み付いてたし……。アナ姉は陽気な人だったから誰とでも仲が良かったけど……」

 

 そういえば、やたら絡んできたマリアとその妹のセレナ以外には友達が居なかった気が……。

 確かに、この身体になってからは翼と腹を割って話せるまで二年以上かかったし、クリスと友達になっても上手く喋れなかったりしたから、それは自覚してたけど……。

 

 あれっ? あたしって人形になる前からコミュニケーション下手だった?

 

「でも、今はクリス先輩や響さん、そして翼さんとも仲良くしてるし……。連携も取れてる。どうやったら、私にもそれが出来るようになると思う?」

 

 調は真剣に悩んで居るみたいだった。なるほど、他人と合わせるか……。

 

「調って、切歌が好きでしょ?」

 

「えっ? うっうん、好きだよ。切ちゃんのことは……、誰よりも……」

 

 調は顔を少しだけ紅潮させて頷いた。やっぱり、この子は素直ないい子ね……。

 

「多分、切歌とだけ合わせられるのは、彼女になら自分を曝け出しても受け入れて貰えるって安心感があるからなのよ」

 

「安心感……」

 

 他人というのは何を考えてるか分からない、得体のしれないものだ。バラルの呪詛が撒かれる前は拒絶が怖いとか、そういう感情もなかったのだろうけど、今は――。

 

「あなたは優しい子。他人を傷付けないために気を使っているから……、行動を起こすのに遠慮をしてしまうの」

 

「そう、それが私の悪いところ……」

 

 調はしょんぼりした表情であたしの言葉にそう返した。

 

「別に悪くはないわよ。むしろ、良いところだと、あたしは思ってる」

 

「良いところ? だって、そのせいで私は――」

 

「そうよ、気を使わないバカよりも良いに決まってるわ」

 

 これは本心でそう思っている。優しい彼女は他人に土足で踏み込めない奥ゆかしさがある。

 それは、欠点でなく美徳だ。否定する要素ではない。

 

「でも、このままじゃ、私は……」

 

「そうね、すぐに打ち解けるのは無理かもしれないけど……。ちょっと戦いから離れて考えてみようかしら?」

 

「戦いから離れる?」

 

「ええ、戦いから離れるの。待ってて、良いことを考えたから……」

 

 あたしは調にそう断って電話をした――。

 

 そして――。

 

 

 

「どうした、フィリア。それに月読も……。お菓子を作るんじゃあなかったのか?」

 

 あたしは翼を家に呼び出した。調の悩みを少しでも解決するために……。

 

「翼、お願い。何も聞かずに調と一緒にチョコレートケーキを作ってくれない? それがこの子のためになるから」

 

「はぁ? ちょっ、チョコレートケーキ? なんで私が?」

 

 あたしは翼と調に力を合わせてチョコレートケーキ作りをさせることにした。

 

 ちょっとでも距離が近づくと良いけど……。




次回は翼と調に料理をさせてみせようという、しないシンフォギアっぽいエピソードを入れようと思ってます。
面白く出来るように頑張ります!


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知られざる一面と優しさの連鎖

原作も最終回へと盛り上がってきましたねー。
今回はチョコレートケーキ作りからスタートです。
作者は料理はからっきしなので、多少は大目にみてください。
それではよろしくお願いします!


「ということで、調がチョコレートケーキを切歌に作ってあげたいってことだから、翼、お願いね」

 

「むぅー、これがホントに月読のためになるというのであれば、それもやぶさかではないが……。私は料理は――」

 

「翼さんの太刀捌きは見惚れるほどの美しさだった。きっと料理も上手ですよね? 私が足を引っ張らないようにしないと」

 

「えっ、いや……。その……、私は料理は人並みというか……」

 

 キッチンで材料を出し終わった段階ですでに目が泳いでいる翼と、彼女のハードルを上げている調。

 人並み? 見栄を張らないほうが良いと思うけど……。

 

 

 こうして、二人の調理が始まった。

 

「ええーっと、前にリア姉に教わったときは、最初に敷き紙にココアパウダーを振ってた。翼さん、ココアパウダーを取ってください」

 

「ココア? 月読、のどが渇いたのか?」

 

「えっ? クスッ、翼さんも冗談を言うなんて知りませんでした。今のは切ちゃんみたいで可愛いと思います」

 

 翼の天然が早速炸裂して、調はクスリと笑って彼女を見た。どうやら、冗談で調の緊張をほぐそうとしていると解釈されたようだ。

 

「わっ、私が暁みたい……。可愛いだと?」

 

 翼は顔を真っ赤にして照れていた。なんか、新鮮なリアクション……。

 

「チョコレートとバターを溶かさないと……」

 

「ん? 甘いものを作るのだから砂糖も入れるだろ?」

 

 翼はゴソゴソと容器を取り出しながらそう言った。

 

「チョコレートが元々甘いから、大丈夫ですよ。翼さん、あと、それは食塩です」

 

「へぁっ? そっそうだったな。うっかりしていた」

 

 調のツッコミで翼は自分が食塩の容器を持っていることに気付いたらしい。

 一人で作らせたらこの時点でアウトでしょうね。

 

「ふふふっ、ありがとうございます。私のことを和ませようと気遣ってくれて……。翼さんって、もっと固い人かと思ってました。意外とひょうきんな人なんですね」

 

 調はニコニコして、翼の顔を見る。翼の新しい一面が新鮮だと感じてるみたいだ。

 

「――ひょうきん? それでは、私が立花みたいではないか……。そうだ、チョコレートを溶かすんだったな。ほら、火は危ないからな、私に任せるが良い」

 

 翼はフライパンをガスコンロの上に置いて、火をかけて、その上に安売りで大量買いした、アルファベットチョコレートをばら撒いた。いや、翼の方が危ないわよ。

 

「えっ、翼さん……、チョコレートは湯せんで溶かさなきゃダメですよ」

 

「湯・せ・ん? ――ああ、そうだったのか。湯を沸かせばいいんだったな」

 

 フライパンの上で油分が分離したり、焦げてグチャグチャになったチョコを翼は焦りながら、流し台に流そうとしていた。

 

 前途多難ね……。でも、いい感じだわ……。

 

 

 その後、湯を沸かした翼は、お湯の中に直接チョコレートを放り込む。一体、幾つのチョコレートが犠牲に……。

 調はいよいよ気が付いたみたいだ。

 

「あの、もしかして翼さんって――料理が出来ないのですか?」

 

「うっ――すっ、すまない。月読……、私は見栄を張ってしまっていた。料理はまったくダメなんだ……。出来れば、色々と教えてほしい」

 

 翼は観念した顔をして調に頭を下げた。風鳴翼という人間も昔とは随分と変わったと思う。

 そもそも、調と一緒にキッチンで料理をするようなタイプではなかった。

 

「いえ、良いんです。翼さん。私が勝手に翼さんが料理が出来るって勘違いしただけですし、言い出し辛い雰囲気を作ってしまいました。私こそ、ごめんなさい」

 

 調は翼にペコリと頭を下げて謝った。やはり、彼女は素直な良い子だと思う。

 

「そうか……、月読は優しいな。では、不出来な私にご教示お願いする」

 

「はい。リア姉みたいに上手く教えられるか分かりませんが、やってみます」

 

 そこから翼は調に教わりながらチョコレートケーキ作りに励んだ。

 調は教え方が上手く、翼も不器用なりに頑張ったので、何とか不格好ながらもケーキが完成した。

 

「すまない、月読……、私が至らないばかりに……」

 

「あむっ、もぐもぐ。――うん、とっても美味しい。ほら、翼さんも食べてみてください」

 

 調はニコリと微笑んで、切り分けたチョコレートケーキを翼に手渡した。

 

「――あむっ……。おっ、美味しいわ。甘過ぎずに、フワッと香ばしい香りがして、温かくて優しい味……」

 

 翼が珍しく女の子らしい口調に戻って感想を口にした。

 顔をほころばせちゃって……。なんだか、翼と出会った頃を思い出すわ……。

 

「翼さんと一緒に頑張ったから、思ったとおりの味が出ました」

 

「そんなこと……。私は月読の足を引っ張っただけだ」

 

「いいえ、翼さんと心を込めることが出来たから、美味しいケーキが焼けたのだと思います。これなら、切ちゃんにも喜んで貰えます」

 

 調は随分と翼と打ち解けて話しているようだ。

 

「うぇぇっ? そういえば、暁にプレゼントするんだったな。ちょっと恥ずかしいな、それは」

 

 翼は照れくさそうな顔をして、そう答える。しかし、達成感はあったみたいで穏やかな表情だった。

 

 

「よく分からんが、これで良かったのか? 月読にケーキの作り方を教わっただけなんだが……」

 

「オッケーよ。思った以上の効果だったと思うわ。明日の訓練が楽しみね。わざわざ、ありがとう」

 

 あたしは翼にお礼を言った。今日の彼女には助けられたわ。いろんな意味で……。

 そして、翼は一足先にバイクに乗って帰って行った。

 

 

 キッチンに戻ると、チョコレートケーキを箱に詰めてラッピングに苦戦している調がいた。

 

「どうだったかしら? 翼と一緒にケーキを作ってみて」

 

 あたしは調にケーキ作りの感想を聞いてみた。

 

「不器用なのは私だけじゃなかった。それに、この人はこういう人だって、勝手に決めつけてた」

 

 調はこの短い時間で翼の違った一面を見た感想を口にした。誰だってあんな翼は想像しにくいと思う。

 

「みんな誰かに優しさを与えたり貰ったりして助け合っている。私も翼さんの助けになれたし、助けられた。だから、その優しさを大事にしたい」

 

 調の目からはさっきまでの自信のなさが消えていた。大切なことに気付いたみたい。

 あたしはそれに気付くのに何年もかかったのに、この子はすぐに気が付いた。それが、あたしはたまらなく嬉しかった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「月読! 頼んだぞ!」

 

「はいっ! 翼さんっ!」

 

 翼と調の連携が冴え渡る。切歌とのユニゾンと比べても遜色ない破壊力だ。

 

「――くっ、降参よ……。まったく、随分と仲良くなっちゃって……」

 

 あたしは一本取られて、両手を上げた。たった一日で見違えるほど成長した。

 翼のリードを信頼して頼っている……。

 

 

「これで全員がいかなるパターンで分けられたとしても連携が取れるようになったな」

 

「ええ、戦力の増強としては申し分ないわ。ギアペンダントのメンテナンス不足でマリアとクリスが一時的に出撃が出来なくなっちゃったけど……」

 

 あたしはギアペンダントが反動汚染に侵されたので、その除去をしなくてはならない状況を伝えた。

 

「八紘の兄貴から連絡があったが、フィリアくんの言っていた、神社本庁の調査から地上のオリオン座についての情報がわかったらしい。どうやら神出づる門の伝承と密接に関わっているようだ」

 

 弦十郎はあたしの提供した情報から進めた調査でパヴァリア光明結社の狙いがかなり絞られたらしい。

 

「なるほど、この調(ツキ)神社に神の力の伝承があるということね。調べてみる価値はありそうだわ。多分、ビンゴだと思う」

 

 というわけで、あたしと装者たちは調神社に向かうこととなった。

 

 

 結論から言うと、調神社の伝承は神の力のことと見て間違いなさそうだった。

 

 レイライン上にある調神社を含む周辺7つの氷川神社に描かれた鏡写しのオリオン座に加えて、ここで受け継がれている伝承で、鼓星の神門というものがあり、この門より神の力が出づるとい伝えられているようなのだ。

 これがパヴァリア光明結社の狙いだと考えてほとんど間違いないとあたしたちは結論付けた。

 

 文献から一つでも多くの情報を手に入れようと躍起になっていたら、気付けば夜になり、あたしたちは、神社に一泊することになった。

 

 その夜である。錬金術師が新川越バイパスを猛スピードで北上しているという連絡を受けたのは……。

 付近住民への被害の拡大を防ぐために、機動力の高い調と翼を先行させて、これを食い止める作戦を開始した。

 

 錬金術師のプレラーティと接触した調と翼は見事なユニゾン攻撃でこれを撃破。勝利を飾ったのである。

 

 これで残す敵はアダムとサンジェルマンだけのようね……。

 パヴァリア光明結社との最終決戦はどうなることやら……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 後日、ブリーフィングでパヴァリア光明結社の神の力への対抗手段は《神殺し》の力だという話題となった。

 フィーネがあたしと入れ替わり、ガングニールにその力が宿っているのではという説を話した。

 アダムが風鳴機関に二度の黄金錬成を仕掛けたのもその隠匿が目的ではないかと彼女は読んでいた。

 

 そんな話が終わり、あたしたちはみんなで食堂に来ていた。

 

「ガングニールには、そのような伝承はないみたいだが……」

 

「あたしもそれは知っている。でも、超火力でもびくともしなかったヨナルデパズトーリを一撃で粉砕した事象は哲学兵装のような力が働いたとしか思えない……」

  

 あたしと翼はガングニールの力について話していた。

 

 そんな折である。自分の食事を持って響がこちらにやってきた。

 そのタイミングで楽しそうな顔をした切歌が口を開く。

 

「皆さんに提案デェス! 2日後の13日、響さんのお誕生日会を開きませんかー?」

 

 切歌は響の誕生日を祝おうと提案した。この子も変わらないわね。

 

「ふーん、響の誕生日会ねー。良いんじゃない」

 

「さっすが、リア姉デェェス! ノリがいいデスなぁ」

 

 切歌はニコニコして、あたしの手を握った。

 

「まぁ、やるのは良いけど、気は引き締めないとね。ギアの反動汚染除去の関係で戦えるのがあたしと切歌と響だけなんだから」

 

「そうデスけど、ちゃんとした誕生日は大切デス! きちんと祝わなくては!」

 

 切歌がそう力説する。試験管で培養されたあたしも適当に誕生日を決められた切歌も自分の仮の誕生日しか持ってない。

 だから、昔からフィアナを含めた三人でちゃんとした誕生日の人を祝うのことが恒例になっていたのだ。 

 

「フィリアちゃんも、切歌ちゃんも、私のために……、嬉しいよ。でも、こんな時だし……。戦えるのは私たち三人だけだし……」

 

 響は手を振って遠慮するような動作をした。

 

「そうだぞ、お気楽二人組! 困らせるな! 特にフィリアはいい歳なんだから止める立場だろうが!」

 

 クリスがあたしと切歌を叱責する。そんなのわかってるわよ。仕事はきちんとするつもりだし……。

 

「別に、お気楽でいいじゃない。気を張ってガチガチに緊張してるよりはマシでしょ。あたしはともかく切歌は――」

 

「リア姉、大丈夫デスよ。私のせいで響さんを困らせたみたいデスし……」

 

「切歌……」

 

 なんとも言えない空気が流れてこの場は解散となった。

 

 

 ――その夜である。神の力を巡るとてつもない戦いの火蓋が切って落とされたのは。

 緊急通信により、あたしは響と切歌とともに現場に急行した。

 

 クロノスモード、そして、ラグナロク……。ゲイル博士が仕込んだ、神の力を手に入れるための機能……。

 あたしはこの機能の出番が来るかもしれないと、密かに予感していた。

 

“フィーネ、もしものときは――”

 

“ええ、躊躇うことはやめなさい。中途半端な躊躇いは事態を悪くするだけよ――”

 

 空から見える地上にはオリオン座が光り輝いていた――。

 




いよいよAXZ編のクライマックスバトルが近づいて来ました。
次回もよろしくお願いします!


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天地のオリオン座輝く時――

原作11話の前半部分まで
それではよろしくお願いします!


『レイラインを通じて観測地点にエネルギーが収束中!』

 

『このままでは門を超えて神の力が顕現します!』

 

 司令室からの通信で藤尭と友里の声が聞こえる。もしものときはあたしが……。

 

『合わせろ、弦!』

 

『おうとも、兄貴!』

 

『『決議執行!』』

 

 弦十郎と八紘が同時に決議を執行して各地にある要石が起動した。

 

『レイライン遮断作戦、成功です!』

 

 それによりレイラインは遮断されて神の門が開かれることを阻止した。

 

 そして、あたしたちを乗せたヘリコプターが現場に到着する。

 

「響、切歌、準備はいい? あなたたちが歌を合わせて、あたしは援護するわ――」

 

「うん!」

「了解デェス!」

 

 あたしはファウストローブを纏い、響と切歌はギアを纏って、空から地上へ飛び降りた。

 

 

 

「そこまでデス!」

 

「シンフォギア……、そしてフィリア……! どこまでも!」

 

 サンジェルマンはあたしたちを忌々しげに睨みファウストローブを身に纏った。

 

「サンジェルマン、諦めなさい。今からでも――」

 

「黙れ! はぁぁぁぁぁっ!」

 

 あたしは彼女を説得しようと話しかけたが、彼女は聞く耳を持たず襲いかかってきた。

 やはり、やるしかないようね……。

 

「でやぁぁぁぁぁっ!」

 

 ――響はいち早くイグナイトを発動させてサンジェルマンの攻撃を拳で受け止める。

 

「やっぱり戦うしかないんですか!?」

 

「私とお前、互いが信じた正義を握りしめている以上、他に道などありはしないっ!」

 

 響とサンジェルマンの信念のベクトルが違う方向を向いてるのなら、分かり合うことは出来ないと彼女は持論を展開する。

 

 戦力的にはサンジェルマン一人相手なら三人で負けることはないはずだけど……。

 

 

 あたしたちに向かって火球が次つぎと飛んでくる。

 それをあたしたちはジャンプして避けた。

 

「やっぱり来てたのね。アダム……。随分と働き者になったじゃない」

 

「もう少しで手に入りそうなんでね。かわいい部下たちの悲願が。無駄にしないよ。君の働きは」

 

 アダムが宙に浮いて、サンジェルマンにそう言った。

 

「局長! まさか、あなたが助けに来てくれるとは……」

 

「シンフォギアは任せたよ。サンジェルマン。僕は――遊んでくるよ。愛しい人形と」

 

 アダムはあたしに狙いを定めたみたいだ。いいわよ、やってやろうじゃない。

 あたしは空中に浮かび上がり、アダムと対峙した。

 

「――いいのかな? そのままで。敵わないよ。それじゃ、僕には」

 

「あら、やってみないと分からないじゃない」

 

 あたしはアダムに向かって打撃の連打を放った。

 音速を超えた拳はソニックブームを起こし、風を切る音が夜の神社で木霊する。

 

「わかってるはずだ。それが無駄なのは……」

 

 アダムは余裕の表情でそれを躱して、エネルギーの塊をこちらに向かって放ってきた。

 

「くっ、まだまだっ!」

 

 仕込み刀を繰り出して、アダムに斬撃を繰り出す。

 しかし、太刀筋までも見切られて彼を捉えることはかなわなかった。

 

「非力だよ。そのままじゃ。早くしたまえ。神の力を取り出せるなら」

 

 アダムはカウンターであたしの腹を殴ろうとした。

 

「小物風情が粋がるなっ!」

 

 フィーネに切り替わり、バリアーを展開させてさらに光線を乱れ撃ちする。

 

「――っ!?」

 

 アダムはとっさに帽子を投げて、器用にそれを防御する。

 妙ね……。随分と消極的な戦い方をしている……。黄金錬成に警戒してたのに……。

 

 ――魔刃国崩(マジンクニクズシ)――

 

 フィーネがアダムの逃げ場をなくしたところにあたしは高エネルギーを込めた刃を撃ち出した。

 

「ちっ――」

 

 彼はバリアを錬成してこれを防いだ。やはり、この男は強い……。

 

 アダムはそこから氷の槍を無数にこちらに向かって発射する。

 

「ふむ、小物なりに考えている。貴様、まだ神の門の開放を諦めてないようだな」

 

 フィーネと再び切り替わり、バリアを展開して全ての攻撃を防ぐ。

 彼女はアダムの消極的な攻撃は神の門の開放の為だと指摘した。

 どういうこと? だって、要石の起動でレイラインは遮断されて――。

 

「諦めるはずがないだろう。やっとここまで来たんだから。知っているよ。君が神の門を開けることを」

 

 アダムは笑みを浮かべて手を天にかざした。

 なるほど、あたしが戦いに苦戦して神の門を開いた瞬間を狙い撃ちするつもりだったのか。それでチマチマとした攻撃を……。

 

「もう終わりそうだね。そっちの茶番は……」

 

 そして、彼は地上で戦っている響たちの方に目を向けた。

 

 ――必愛デュオシャウト――

 

 響と切歌の連携技が見事にサンジェルマンにクリーンヒットした。

 サンジェルマンはかなり大きなダメージをうけたらしく、そのまま倒れてしまいそうになる。

 

「この星の明日の為に――、誰の胸にも、もう2度と……! あのような辱めを刻まない為に、私は支配を革命する! うっ……、くっ……」

 

 地面に膝を付き、苦しみながらも尚、サンジェルマンは戦おうとしていた。

 彼女には彼女の譲れないものがあるからなのかもしれない。

 

「私もずっと正義を信じて握りしめてきた。だけど……。拳ばかりでは変えられないことがあることも知っている。だから……」

 

「だから……?」

 

 響はサンジェルマンに近づいて優しく微笑む。

 

「握った拳を開くのを恐れない。神様が仕掛けた呪いを解くのに、神様みたいな力を使うのは間違ってます。人は人のまま変わっていかなきゃいけないんです」

 

 そして、彼女はサンジェルマンに手を差し伸べた。どんなに戦いが激化しても、そうすることが出来る彼女はやはり凄いとあたしは思った。

 

「――だとしても……。いつだって、何かを変えていく力は……、『だとしても』と言う不撓不屈の想いなのかもしれない……」

 

 サンジェルマンが響の差し伸べた手に手を伸ばした――。

 

 その時、アダムは動き出した。

 

「さて、そろそろ始めようか。本番を……。期待していたんだが。フィリアが門を開くことを。どうやら買いかぶり過ぎたらしい」  

 

 彼がそのセリフを吐いた刹那――天空のオリオン座に錬成陣が浮かび上がった。

 

 

“天を巡るレイライン……、あの男はこの星からではなく天の星々から命を集めるため、オリオン座そのものを神出づる門に見立てて、神の力を引きずり出すつもりよ”

 

 

「アダム……、アダムが来てくれた……」

 

 ティキの体が宙に浮かび始めた……。

 

「あれは、まさか、星海で開かれる……、もう一つの神出づる門ってこと!?」

 

 天空のオリオン座からティキに向かってエネルギーが送られてくる。

 

「遮断出来まいよ、彼方にあっては……」

 

 アダムは勝ち誇った顔を見せた。作戦は二重にあったということか……。

 あたしが開かなかったら温存してた自らのエネルギーで門を開くつもりであんな戦い方を……。

 

「止めてみせる!」

 

 響は飛び上がって、神の力の開放を阻止しようとするが、アダムはそこに帽子を投げた。

 

「あぁっ!」

 

「響っ!」

 

 響にそれがぶつかり、彼女は吹き飛ばされる。あたしは彼女を空中で受け止めて、共に地上に降りた。

 

「フィリアちゃん、ありがとう」

 

「いえ、アダムに門を開かせたのは、あたしのミス。悪かったわ」

 

 あたしは自分の無能さを呪いながら謝罪した。

 

「教えてください、統制局長! この力で本当に人類は支配のくびきより解き放たれるのですか!?」

 

「出来る――んじゃないかな? ただ、僕にはそうするつもりがないのさ。最初からね」

 

 やはりこの男はそういう男だったか……。

 

「くっ――! 謀ったのか!? カリオストロを……、 プレラーティを……。 革命の礎となった全ての命を!」

 

 サンジェルマンは怒り表情を浮かべて、彼に抗議した。彼女の気持ちを考えるとあたしも同情してしまう。

 

「用済みだな、君も――」

 

 アダムが指を鳴らすと、ティキが動き出し、口が開き、そこからビームが放たれる。

 

 しまった――。不意を突かれた……。

 

「やらせないデス!」

 

 そのとき、切歌が飛び出して絶唱を繰り出した。

 

「確かにあたしはお気楽デス! だけど、誰か一人くらい何も背負ってないお気楽者が居ないと……、もしもの時に重荷を肩代わり出来ないじゃないデスか!」

 

 

 切歌の絶唱によって、ティキから放たれた攻撃は相殺されたが、彼女は倒れてしまう。

 

「切歌ちゃん!」

「切歌! あなた、なんて無茶を……」

 

「響さんはもうすぐお誕生日デス……、お誕生日は重ねていくことが大事なのデス……」

 

 切歌はこの時も響の誕生日の心配をしていた。あなたらしいけど……、でも、こんなこと……。

 

「こんな時にそんなことは!」

 

「私は本当の誕生日を知らないから……、誰かの誕生日だけは、大切にしたいのデス……」

 

 切歌は誕生日に対しての特別な想いはあたしの想像よりも大きかった。

 

「LiNKERをつかって、絶唱を使ってる。これなら負荷は小さくて済んでるはずよ。でも、体内の洗浄は急がなくては――」

 

 切歌の行動であたしには迷いが消えた。もうこれ以上、あの男の好きにはさせない。

 

「司令、至急切歌の回収を――。そして、あたしの機能を全開にする許可を出して頂戴」

 

 あたしは封印されていた機能の解放の許可を申請した。

 

『切歌くんの件はもう、動いている。大丈夫なんだろうな? ぶっつけ本番なんだろう? 勝算はあるのか!?』

 

「思いつきは数字で語れないんでしょう? あたしとフィーネがやることはやったとだけ言っておくわ」

 

『まったく、君も変わったな。自分を犠牲にしてとか考えるんじゃないぞ! 親より先に死ぬ親不孝だけは許さん!』

 

 弦十郎はあたしのワガママを聞いてくれた。あたしは《Type:G》を首元に刺した。

 

「フィリアちゃん、何をするつもりなの?」

 

「もちろん、アレを止めるのよ。コード、クロノスモード……」

 

 あたしの身体は黄金の光に包まれた。そして……。

 

「フィーネ、合わせてもらうわよ」

「ええ、フィリアちゃんの好きになさい」

 

「「コード、ラグナロク……!」」

 

 要石によって止められていた地上のレイラインをあたしは従属させて、再び起動させる。そして、地上のオリオン座が光り輝いた。

 

「バカな……、要石の妨害を強引に解析して解除するなんて……。この力は明らかにティキの上位互換……。フィリア、お前は……」

 

 サンジェルマンは驚愕した表情であたしを見た。

 あたしはティキと対角線上に浮き上がり、エネルギーを身体に集め始めた。そう、この場所がもう一つの神の力を手に入れることができるポイント……。

 あたしは地上のレイラインを利用してもう一つの神の門からエネルギーの吸収を開始した……。

 

「くっ……、この魂に重くのしかかる重圧……。気持ち悪いわね……」

 

 あたしは巨大なエネルギーの重圧に不快感を覚えていた。

 

「ちっ、あのとき、壊しておくべきだった。やはり君は」

 

 アダムはあたしを破壊しようと構えを取った。チャンスかもしれないわ、あたしに注意が向けば、ティキにスキが生じるかも……。

 

 

「フィリアには、この子たちには、手を出させない!」

 

「ほう、それが答えかな? 君が選択した……」

 

「神の力……、その占有を求めるのであれば、貴様こそが私の前に立ちはだかる支配者だ」

 

「実に頑なだね、君は。忌々しいのはだからこそ……」

 

 サンジェルマンはあたしたちを守るために立ち上がり、アダムと対峙した。

 あなたがこんな行動を取るなんて……。当てられたのね……。きっと、彼女に……。

 

「私たちは互いに正義を握り合い、終生分かり合えぬ敵同士だ」

 

「だけど今は同じ方向を見て、同じ相手を見ています」

 

「敵は強大、圧倒的。ならばどうする? 立花響――」

 

「いつだって、貫き抗う言葉は一つ!」

 

「「だとしても!」」

 

 響とサンジェルマンは共にアダムに立ち向かって行った。

 

 響は『神殺し』の力でもって、ティキを狙おうとするが、アダムはそれを許さない。

 

 しかしアダムは儀式の発動にかなりエネルギーを使ったみたいで、いつものパフォーマンスが出来ずに攻めあぐねていた。

 

「そっちの方が上のようだね。自動人形(オートスコアラー)としての性能は。発動しよう。少しだけ早いが」

 

 アダムはあたしが神の力を完全に手に入れることを懸念して、指を鳴らした。

 

 すると、ティキの身体が真っ赤に発光して巨大な化物のような姿へと変化した。

 

 ――これが神の姿だとでも言うの?

 

「神力顕現――、完全な状態の8割といったところだが……。十分だよ。君たちを捻り潰すには。回収すればいい。残りの力は君たちを蹂躙したあとで」

 

 アダムの判断は正しかったかもしれない。思ったよりも早くに彼がティキに力の回収を止めさせたせいで、あたしはまだ神の力を5割ほどしか、得ることが出来なかった。

 

“いいえ、ラッキーよ。フィリアちゃん。これくらいの量のエネルギーで十分。ていうか、思ったよりも重圧が酷くて完全に吸い取ったら二人とも魂が共倒れしてたかもしれないわ”

 

 確かにフィーネの言うとおり想定以上のエネルギー負荷があたしたちを苦しめていた。このくらいの量のエネルギーなら、魂への負担は軽度で済む。

 5割のエネルギーでもクロノスモードの力も長時間使用可能だし、神の力も使うことができる。

 出力の差はあるかもしれないが、勝算はある。

 

「アダム……、ごめんなさい。思ったよりも時間を取られちゃった」

 

「仕方ないよ。済んだことは……。取り返せば良いのさ。ディバインウェポンの力を持ってして!」

 

 ディバインウェポンと化したティキがあたしに光線を放ってきた。

 

 ――神ノ息吹(ゴッドブレス)――

 

 あたしはチフォージュ・シャトーから力を得た時と同等のエネルギーを込めて、すべてを分解するエネルギーの塊を放った。

 

 ゴッドブレスとティキの光線は互いにぶつかり合い、大爆発を起こして周囲に爆風を撒き散らした。

 

 神の力同士のぶつかり合いが始まった。

 

 




ディバインウェポンと神の力を手に入れたフィリアの戦いが始まりました。
次回もよろしくお願いします!


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神域の闘争と神を殺す力

時系列は11話の最後くらいまでです。
それではよろしくお願いします!


「第二波が来る……、相殺するのはわけないけど……。余波だけでかなりの被害ね……」

 

 ディバインウェポンのビームをあたしはことごとく相殺するが、その爆発により周囲の建物は徐々に破壊されていった。

 

「接近戦で戦うしか……」

 

 あたしはディバインウェポンと殴り合うことにした。

 音速の何百倍というスピードであたしはディバインウェポンに連打を放つ。

 

 しかし、平行世界から無事な身体を持ってくるという体質に邪魔をされて決定打を与えられない。

 

「神の本当の力をみせてやれ。卑小な神のなりそこねにね」

 

「アダムの期待に答える! そして、あたしは愛されるのー!」

 

 ディバインウェポンの巨大な腕があたしに向かって振り下ろされる。

 

 あたしは拳でそれを受け止めるが、力負けして地面に叩きつけられてしまった。

 

 平行世界の新しい身体が入れ替わり、破損箇所は即時に元通りになる。便利なものね……。

 しかし、予測してたけど無敵同士の戦いだと決着がつく気がしない。なんとかしなければ……。

 

「フィリアちゃん、大丈夫?」

 

 響が慌ててこちらに駆け寄る。心配そうな顔をさせちゃったわね。

 

「平気、へっちゃらよ。あなたの魔法の言葉を借りるならね」 

 

「あはっ、フィリアちゃんがその言葉を使うなんて思ってなかったよ」

 

 響は顔をほころばせて、笑っていた。やっぱり、彼女の力を借りるほかなさそうね。

 

「あのディバインウェポンの無敵性……、打ち破るにはガングニールの力が必要。いや、正確には《神殺し》の力が……」

 

「《神殺し》の力? でも、ガングニールにはそんな力は無いって」

 

 響はあたしの言葉に不思議そうな表情を浮かべた。確かに前のブリーフィングのときのフィーネの説は調べても実証には至らなかった。でも……。

 

「響ちゃん、ちょっと違うのよそれは。神を殺す槍が存在するって逸話はずーっと長いことあったの。で、その長い逸話は語り継がれることによって言葉は力を持ったの。言葉の力によって《神殺し》の力が宿った槍こそ――」

 

「それが、ガングニール……。そういうことですか? 了子さん!」

 

 響は合点がいったような表情になった。

 そう、言葉が持つ力の具現化――哲学兵装……。

 まったく、哲学兵装って何でもありの代物よね。もし、言葉の力を操るなんて奴が居たら、それこそ無敵の力を持ってるかもしれない。

 

「ピンポーン! 響ちゃん、ちょっとだけ賢くなってない?」

 

「えへっ、そっそうですか? ――ひゃう、何するんですか!?」

 

 フィーネは照れる響の耳をいきなり噛んだ。ちょっと、人の身体でナニやってんのよ!

 

「ペロッ、こっちは成長してないか」

「――じゃないわよ。バカっ!」

 

 あたしはフィーネを奥に引っ込める。まったく油断もスキもない。

 この映像、未来は見てないわよね……?

 

「さぁ、行くわよ。あたしがディバインウェポンを拘束するから、あなたはそのスキにキツい一撃を与えてあげなさい」

 

「フィリアちゃんと一緒なら、絶対にできる。ねっ?」

 

 差し出す響の手を握りしめて、あたしは上空高くに浮かび上がった。

 ディバインウェポンを見下ろせる高度まで――。

 

「させないよ。無駄な抵抗は」

 

 アダムは《神殺し》を恐れたのか、私たちと同じ高度に浮かび上がり対峙した。

 

「フィリアたちの邪魔はさせないわっ」

 

 しかし、そこにサンジェルマンが素早くアダムに向かって銃撃を放ち牽制する。

 よし、これで邪魔は入ってこないわ。

 

「響、これからあのデッカイのに真っ直ぐに突っ込んでもらうわ。あたしがあなたを守るから、それを信じてくれる?」

 

「うん! 大丈夫だよ。最短で真っ直ぐ一直線に向かってみせる!」

 

 響はニコリと笑ってそう言った。まったく、ひとつも不安な顔をしないんだから。

 

「じゃあ、思いっきり行くわよ」

 

 あたしは十分に勢いをつけて、響をディバインウェポン目掛けてぶん投げようとした。

 

「――えっ、フィリアちゃん? 真っ直ぐにってそういうこと?」

 

 響は投げられると思っていなかったらしく、びっくりしたような声を出した。

 

「せぇぇぇぇぇいっ!」

「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 泣き笑いに聞こえるような大声を上げて響はディバインウェポン目掛けて飛んでいく。

 

 ――因果ノ捻時零(インガノネジレ)――

 

 あたしは目を閉じてその瞬間に時を止める。

 

 そして、投げ飛ばした響を迎撃しようとするディバインウェポンの眼前に迫り、時間を動かした。

 

 ――神ノ息吹(ゴッドブレス)――

 

 ディバインウェポンが響に向けて放ったビームをあたしは最大火力の攻撃でもって、相殺する。

 お互いに余波でダメージを受けるが、平行世界の身体と入れ替わり完全に回復した。

 

「フィーネ!」

「任せなさい!」

 

 フィーネは高エネルギーを物質化した巨大なムチを幾重にも伸ばしてディバインウェポンを拘束する。 

 

「身体はダメージに対して無敵でも、拘束に関してはどうかしら?」

 

「うっ、アダムぅ。助けて〜、動けないよ〜」

 

 ディバインウェポンはとんでもない力で拘束を解こうとするが、こちらも神の力によるエネルギーを集中させているので、ビクともしなかった。

 

 さぁ、今よ! 響、力をみせて!

 

「止まれぇぇぇ! 神殺し!」

 

 サンジェルマンに行く手を阻まれているアダムは絶叫する。

 

「八方極円に達するはこの拳! 如何なるものも破砕は容易いっ!」

 

 響は腕をドリル上に変化させて拘束されたディバインウェポンにまっすぐ向かって行った。

 

 

「ハグだよティキ! さあ! 飛び込んでおいで! 神の力を手放して!」

 

「アダム! 大好きぃぃ!」

 

 アダムは神の力の消失を恐れたのか、ティキをディバインウェポンから射出させた。

 でも、遅いっ――!

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!」

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 響の決死の一撃により、ディバインウェポンは破壊されて――無敵の復元能力も機能せずにそのまま消失した。

 

 響、よくやってくれたわ。あたしじゃ、泥試合確定だったから……。

 

 しかし、アダムの態度が気になるわ……。

 あたしは彼の元へと飛んでいった。

 

「アダム好き。大好き。だから抱きしめて。離さないで。ドキドキしたいの」

 

「恋愛脳め。いちいちが癇に障る。だが間に合ったよ。間一髪。人形へ。神の力を付与させるための――」

 

 アダムは忌々しそうにティキを見ると、彼女を蹴飛ばそうとした。

 

「変ね、そちらのお人形さんは大切なんじゃないの?」

 

 あたしはアダムの足を手で受け止めて彼に問いかけた。

 

「アダム……?」

 

 ティキは不思議そうな顔でアダムを見ていた。

 

「大切だったさ。さっきまでは……。だが、用済みだ。役目を終えたからね。ティキはもう」

 

「どういう事!? ティキがいないと神の力は――」

 

 あたしは神の力がまだこの空間に存在していることを知っている。だから、彼が再びティキにそれを付与させるつもりなのかと警戒していた。

 

「得られるよ。穢れなき魂を持つ僕ならば!」

 

 アダムは自らの腕を千切り、天に掲げた。まさか……。彼は――あたしやティキと同じ――。

 

「人形だったの? あなたは……」

 

「そうさ、フィリア。僕は作られた。彼らの代行者として」 

 

 アダムは自分は作られた存在だという。しかし、遥か昔にこれほどの人形を作った彼らというのはまさか……。

 

“あの方たちの中の誰かかも知れないわね……”

 

「だけど廃棄されたのさ。試作体のまま……。完全すぎるという理不尽極まる理由をつけられて! ありえない……。完全が不完全に劣るなど……。そんな歪みは正してやる。完全が不完全を統べることでね!」

 

 彼は顔を歪めて叫び出した。これがこの男の本性……。

 

「付与させる! この腕に! その時こそ僕は至る! アダム=ヴァイスハウプトを経た、アダム=カドモン! 新世界の雛形へと!」

 

 アダムは神の力を自らに集中させようとした。そんなことはさせないわ!

 

「――っ!?  フィリア=ノーティス! どこまで邪魔をするんだ!?」

 

「せっかく、響が作ってくれたチャンスだもの。あたしがすべての神の力を受け入れる――!」

 

 あたしはディバインウェポンから排出された神の力をこの身に吸収し始めた。

 

「――うっ……、量が思ったよりも――多い……」

 

“当たり前よ。考えてみなさい。既に神の力は限界ギリギリまで溜め込んでいるのに――これじゃ過剰摂取で私たちは――”

 

 フィーネは大量のエネルギーによって、あたしたちが共倒れになることを懸念した。

 

「だとしても、あたしはこれ以上……、誰かが犠牲になって、悲しむ顔を見たくない! だから――」

 

「嫌だよ! 私はフィリアちゃんに犠牲になってほしくない! フィリアちゃんが大好きだから――」

 

 響が涙を流しながら、あたしを抱きしめてきた。なんて、顔してるのよ。あたしだって、あなたが……。

 

「えっ――!? どういうこと? 急に……」

 

 響に抱きしめられた瞬間に、あたしは魂への負担が軽くなったことに気付いた。

 力がドンドン排出されていく……。

 

 まさか……!? 響に神の力が……!?

 

「響! あたしを離しなさい! このままだと、あなたが神の力に――」

 

「嫌だ! 離さない! フィリアちゃんが犠牲になる未来なんて、絶対に嫌だ!」

 

 響は言うことを聞かずに、あたしを抱きしめて離さない。

 くっ、全身の力が抜けて、引き剥がすことも出来ないわ……。

 

 大体、人間は生まれながらに原罪を背負ってるから神の力を受け入れられないはずなのに――。

 

“もしかしたら、神獣鏡の凶払いの力が作用して原罪を浄化したのかもしれないわ”

 

“凶払いが――なるほど。理屈はわかったけど、なんで身体が動かないの?”

 

“響ちゃんが抽出してるエネルギーの勢いが強すぎて、フィリアちゃんの身体機能が硬直してるのよ。神の力が抽出されきるまで抜け出すのは難しそうね……”

 

「響、もうやめなさ――って、何よこれ?」

 

「――っ!? えっ、どうしてこんな――?」

 

 あたしのエネルギーが無くなりかけたそのとき――響とあたしは大きな繭のようなモノに包まれてしまった。

 

 これは……、何なの? 一体……?

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「――うっ……、あたしは……」

 

「ああ、良かったです。フィリアさん! エネルギーがほとんど尽きかけていましたので、気を失っていたんですよ」

 

 S.O.N.G.の本部のメディカルルームであたしは目を覚ました。

 エルフナインが目に隈を作りながらあたしを見ていてくれたらしい。

 

 あのとき、薄れ行く意識の中で、響があたしを突き飛ばしたことは覚えている。

 あの子はあたしの犠牲は嫌だと言って、自分が……。まったく、なんて我儘な子なんだろう。

 

「サンジェルマンさんが、フィリアさんを助けてくれなかったらどうなっていたことか……」

 

「――サンジェルマンが!? 彼女がここに居るの?」

 

「ええ、フィリアさんを連れてきたあと、賢者の石の技術を提供してくれて……、反応汚染の除去作業がかなり捗りました」

 

 エルフナインはサンジェルマンがあたしを助けてくれただけではなく、技術提供までしてくれたと話した。

 

「そう……、彼女と会える?」

 

「サンジェルマンさんも、フィリアさんが目覚めたら話したいと言っていました。案内します」

 

 エルフナインに連れられて、あたしはサンジェルマンに会いに向かった。

 

 

「フィリアくん、体調はもういいのか?」

 

「ええ、心配かけて悪いわね。響のことはあたしが何とかするから……」

 

「サンジェルマンくんのところに向かっているみたいだな。オレも向かおう。娘の恩人にまだきちんと礼を言っていないからな」

 

 ということで、弦十郎を含めた3人でサンジェルマンの居る部屋に入った。

 

「フィリア、無事で良かったわ」

 

「まさか、裏切り者のあたしを助けるなんて思いもしなかった。響はともかく、あたしはあなたに恨まれてると思ったから」

 

 そもそも、響と違ってあたしはパヴァリア光明結社の裏切り者だ。

 しがらみは彼女よりも大きいはずなのである。

 

「別にあなたを恨んだことはないわ。私だけだったのかしら? 向かう道が違うだけで、あなたとは友人だと思っていた」

 

「――サンジェルマン。ありがとう」

 

 あたしとサンジェルマンは手を握り、友情を確認した。短い時間だったけど、あたしが彼女と過ごした時間は気が滅入りそうだった、潜入任務の癒やしになっていた。

 

 こんな形で出会わなければと、思ったものだった。

 

 

「響はあたしから神の力を吸収してしまったの。あの子は凶払いの力で原罪を浄化された人間だから……」

 

「なるほど、響くんに神の力が宿ったのにはそういう理屈が……」

 

 弦十郎は納得したような声を出した。

 

「しかし、フィリア。あの強大な力がまだ動いていないわ。蛹のような状態で眠っている。そんな印象だった」

 

「うーん、神殺しの力を持っているガングニールが神の力との一体化を拒んでいるのかも知れないわね。でも、それも長くは保たないはず。あたしの持っていた神の力に加えてティキに宿っていた力が加わっているんですもの」

 

 サンジェルマンの疑問にあたしも仮説を立てたが、どちらにしても事態は時を追うごとに深刻化しそうだった。

 

 そして、さらに時間の猶予が無くなる事態があたしたちを襲う。

 国連が日本への武力介入を行う最終協議を開始したのだ。

 

 残された少ない時間であたしたちは響の救出作戦を開始することになった。




サンジェルマンはフィリアと友好関係にあるので、原作よりも協力的です。
AXZ編も残り僅かですが、どのような結末になるのか是非ともご覧になってください。


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未来の愛は神の力を凌駕する

原作12話の終盤までです。
少しだけ長いですがよろしくお願いします。


「国連が武力介入を決議すると、あたしたちが動かなくてはならなくなる。それまでに何とかしなくては……」

 

 あたしは何とか響を無事に救出する方法を思案していた。

 ループ・ザ・ワールドで時間を戻そうとしたが、神の力によって阻まれて通じなかったし、うまい方法が見つからない。

 

「フィリアさん、《Type:R》を使うというのはどうでしょうか?」

 

 エルフナインは赤いLiNKERを手にして、そう言った。《Type:R》は適合率を急速に上げる代物……。なるほど、そういうことか……。

 神の力もシンフォギアと同じで依代に高エネルギーを纏わせてる。だから……。

 

「この《Type:R》を元にAnti_LiNKERを生成して、適合率を急激に下げれば、あるいは……」

 

 あたしは新型のAnti_LiNKER――《Type:AR》を生成する作業に入った。

 

 彼女にお願いをする必要がありそうね……。

 

 

 

 あたしとエルフナインは新型のAnti_LiNKERの生産体制を整えた後に弦十郎に作戦を伝えた。

 

「――ふむ、それなら確かに響くんを神の力の癒着から解放できるかもしれない。しかし、人体への影響は大丈夫なのか?」

 

「響の適合率なら問題ないはずよ。マリアの体への影響が少なかった原因の一つが、彼女の適合率の上昇だということがわかったから。まぁ、マリアの場合はアガートラームの特性のベクトル操作によって体内への急激な影響力を分散したというのもあるんだけど……」

 

 あたしはあの後、マリアの体に起こった事象が不思議だったので、研究してこの結論に至った。

 

 かくして、《Type:AR》を響を覆っている神の力に射ち込む計画は司令室に集まった装者たちと、サンジェルマンに伝えられた。

 サンジェルマンはあたしとの友誼を守るために協力をしてくれると言ってくれた。意外と義理堅い人である。

 

「あなたのことだから、手は取り合えないとか言うと思ってたわ。あたしたちの道は平行線だったから」

 

「そのつもりだった。あなたの手を握るまで。でも、これは我儘なの。私は一回くらいはあなたの隣に立ってみたかった。あくまでも、不完全なまま強くあろうとあなたの隣に」

 

 サンジェルマンは穏やかな表情でそう答えた。しがらみとか、過去とか、そういった事を今はこの一瞬だけは全て忘れると言うように……。

 

 

「フィリア先輩! 響は、響は無事なんですか!?」

 

 司令室でそんな話をしていた頃、あたしの呼び出しでやってきた未来は青い顔をして響が閉じ込められている蛹のような物体を見ていた。

 

「安心して、今はまだ無事よ。だからこそ、あなたを呼んだの。響の救出にはあなたの力が必要不可欠だから……。少し危険は伴うけれど……」

 

「私の力が? やりますっ! どんなことだって!」

 

 あたしは未来にこれからの作戦を伝えようとした。

 

 しかし、その時、鎌倉から通信が入る――。

 

『護国災害派遣法を適用した』

 

 風鳴訃堂が静かに最悪を告げる。やはり、この男が動いたか……。護国の鬼……。

 

「護国ぅ?」

 

 クリスはまだピンときてないようだ。

 

「まさか立花を第二種特異災害と認定したのですか!?」

 

『聖遺物起因の災害に対し無制限に火器を投入可能だ。対象を速やかに殺処分せよ!』

 

 弦十郎は非難めいた声を訃堂にかけるが、彼は辛辣に響を殺せと宣う。そんなことは飲み込めない。絶対に……。

 

「ですが現在、救助手段を講じており――」

 

『儚きかな。国連介入を許すつもりか!? その行使は反応兵器…… 、国が燃えるぞ!』

 

 訃堂は反応兵器が日本に打ち込まれれば国が終わると脅してきた。確かにこのままだと、反応兵器を使われる可能性は高い。

 だからといって、響を見捨てるなんて選択があたしたちにあるはずがない。

 

「待ってください! 響は特異災害なんかじゃありません! 私の――友達です!」

 

「国を守るのが風鳴ならば鬼子の私は友を! 人を防人(さきも)ります!」

 

 未来も翼も当然反発する。

 

『翼! その身に流れる血を知らぬか!?』

 

「知るものか! 私に流れているのは――天羽奏という一人の少女の生き様だけだ!」

 

 翼は訃堂の言葉にはっきりと逆らった。

 

『人形よ! ならばお前に命ずる! 神の力を再び手に入れ、アレを破壊せよ。速やかにだ!』

 

 今度は訃堂はあたしに命令をする。とても承服出来ないものだが……。

 

「聞こえませんわ。お祖父様……。わたくし、今は親友を救うことで頭がいっぱいでして雑音は聞こえませんの……」

 

『このっ――』

 

 あたしがそう答えると訃堂は顔を赤くして、あたしを睨みつけてきた。当たり前でしょう。

 

「フィリア……」

「先輩……」

 

 翼と未来は顔を綻ばせる。勢いで親友とか言っちゃったけど気にしないわ。

 

「司令! 響ちゃんの周辺に攻撃部隊の展開を確認!」

 

『作戦開始は2時間後。我が選択した正義は覆さん!』

 

 友里が響に対して軍隊が動いたと報告する。ちっ、動きが思ったよりも早い……。

 

「あれもまた、支配を強いる者……」

 

 サンジェルマンは訃堂を見てそう呟いた。

 

 そうね……。その上、彼からの国の防衛への執着は妖怪レベル……。時々、野放しにして良いのか分からなくなるわ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 響に対しての戦車からの攻撃が始まった。第一波から、第二波……、容赦のない攻撃が響を襲う。

 

 しかし、第三波の準備中に事態は急変した。蛹のような物体が割れて中からディバインウェポンに似た巨人が出てきたのだ――。

 

 まさか、これが神の力を纏った響だとでも言うの?

 

 響から放たれる光線が大地を抉り、周囲の建物を破壊する。

 まずい、このままだと――戦車に!

 

“ええーっ、響ちゃんを攻撃してた奴とかどうでもいいじゃない”

 

“バカっ! 響を助けたとき、死人が出てたら彼女がどれだけ傷つくと思ってるの?”

 

 相変わらず、倫理観がズレてるフィーネと切り替わり、戦車の前に飛び出す。

 

「仕方ないわねー! ええいっ!」

 

 フィーネは何重にも重ねた蜂の巣状のバリアーを展開して響のビームを防いだ。

 しかし、余波が思ったよりも大きく、フィーネは吹き飛ばされてしまう。

 

「――っ!? これは骨が折れそうよー」

 

「あのデタラメな強さ、なんだかとっても響さんデスよ!」

 

 フィーネは響の力に舌を巻き、切歌も驚愕した視線を響に送っていた。

 

 

「この戦場はこちらで預かる! 撤退されよ!」

 

「国連直轄の先遣隊か。我らは日本政府の指揮下にある! 撤退命令は受けていない!」

 

 翼が撤退するように指示を出すが、指揮官はそれを飲み込まない。さて、どうしたものかしら。

 

「理由が必要ならば、くれてあげる」

 

 あたしがそんなことを考えてる内に、サンジェルマンが戦車の砲塔を次々と切り裂いた。

 

「助かったわ。立場的に引き下がってもらうのに苦労しそうだったのよ」

 

「前を向いていろ。助けるのでしょ? お前の親友を」

 

 サンジェルマンはぶっきらぼうにそう答えて銃を構えた。

 

 

 戦車たちは撤退して行き、S.O.N.G.の装甲車が到着した。中には未来がいる。

 

 

「司令! こっちは準備ができたわ!」

 

『よし! 響くんのバースディパーティを始めるぞ!』

 

 装者たちと、あたしとサンジェルマンの二人の錬金術師が響と対峙した。

 必ず、助け出してみせる。

 

「まずは動きを封じましょっ!」

 

「じゃじゃ馬ならしだ!」

 

 あたしとクリスと翼が先陣を切って飛び出した。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 ――影縫い――

 

 翼が小刀を響の影に向かって投げつけて動きを止めようとする。

 

「ガァァァァァッ!」

 

 響は咆哮し、小刀を振り払う。影縫いは効かないみたいね……。

 

「やはり対人戦技では効果が望めぬか!」

 

「だけどこの隙を無駄にはしない! はっ!」

 

 マリアはアガートラームでフィールドを作り、そのまま持って走った。あれで、響を包んで動きを封じるつもりね。

 

「こっちよ、響! 攻撃して来なさい」

 

 あたしは響の眼前に出て、囮になる。

 

「グォォォォッ!」

 

 響はあたしに向かって至近距離からビームを放ち、あたしはそれをギリギリ躱した。

 しかし、その瞬間に響の拳をまともに受けてしまった。

 

「――くっ!」

「まったく、無茶をする。大丈夫か、フィリア」

 

 全身に亀裂が入って飛ばされたあたしをサンジェルマンが受け止める。

 再生にエネルギーを取られちゃったけど……。スキは作れたわ。

 

「ふっ!」

 

 響があたしを攻撃した瞬間にマリアがフィールドを伸ばして響の体を覆った。

 

「止まれぇぇぇっ!」

 

「ウガァァァァァァッ!」

 

 全身が締め付けられた響はビームを放ち建物を破壊した。

 

「ガァァァァァァァッ!」

 

 マリアはどうにか押さえつけようとするが力負けしている。

 

「マリア! 私たちの力を!」

「束ねるデス!」

「1人ではない!」

「皆であいつを助けるんだ!」

 

 みんなでマリアを支えて、一時的に響を拘束することに成功した。

 

「今です、緒川さん!」

 

『心得てます!』

 

 翼の合図に呼応して、特殊車両隊が巨大な注射器が発射されて、響の全身に突き刺さる。

 

 《Type:AR》が響に注入された。これはただのAnti_LiNKERじゃないわ。適合者であっても強制的にギアが解除されるくらいの代物なのよ。

 

 響の全身は一瞬で硬直して、その場に倒れた。

 

「フィリア、やったのか?」

 

「いや、これは一時的に適合係数が急激に下がって活動が停止してるだけ……。上手くすれば、これで何とか出来ると思ったんだけど……」

 

 《Type:AR》を持ってしても神の力を引き剥がす事は敵わなかった。それなら……。

 

「グァァァァァッ!」

 

 響は再び覚醒して叫び出した。やはり、神の力の防衛機能が働いたか……。《Type:AR》を解析して、それを書き換え、《Type:R》に変質させてる。

 

 つまり、適合係数は急激に最大レベルにまで上がったはずだ。

 

「今よっ! 未来っ――!」

 

『響ぃぃぃぃぃぃぃっ!』

 

 あたしの合図で未来が響に呼びかける。すると響の動きが止まった。

 

「適合係数の上昇によって融合深度が増している今なら……。電気信号化された未来の声は依代となっている響にねじ込まれるはず……」

 

 《Type:AR》によって響に纏わりついている神の力を引っ剥がすことが出来なくとも、未来の呼びかけで、彼女を呼び戻すという二段構えの仕掛けになっていた。

 

「逆転の発想だな。しかし、その未来とやらの呼びかけに立花響は応えるのかな?」

 

「あー、まったく心配してないわ。そんなこと」

 

 この時点であたしは作戦の成功を確信していた。だって――あの二人は……。

 

『今日は響の誕生日なんだよ。なのに……、なのに! 響が居ないなんておかしいよ!』

 

 響に未来は必死の呼びかけを開始した。

 

『響――、お誕生日おめでとう。ううん、きっとこの気持ちは……、ありがとう、かな? 響が同じ世界に生まれてきてくれたから、私は、誰かと並んで走れるようになったんだよ』

 

 最初に会った頃から未来の響に対する愛情は誰よりも大きく、何よりも尊いものだとあたしは感じていた。

 だから、怖いところもあったんだけど……。

 

『誰かとなら1人では超えられないゴールにだって届くかもって気づかせてくれた――。響! 私のお日様――!』

 

 響に纏わりついている物質化した神の力にヒビが入り、それが消えていく。

 

「ほら、言ったでしょ。心配ないって、あの二人は特別なの」

 

「手を取り合う絆の力が……、神の力をも打ち破るとは――」

 

 あたしとサンジェルマンは響が無事に出てきたことを確認して、ホッと肩をなでおろした。

 

「響! 信じてた!」

 

 未来は装甲車から走って出て行き。降りてきた響を未来がしっかりと抱きとめた。

 

 

 さて、通信で八紘が反応兵器が使われないという知らせも聞いたし、後は神の力を処分して――。

 

『太平洋沖より発射された高速の飛翔体を確認!  あれは――!』

 

 司令部からの通信で突如、藤尭の叫び声がきこえた。まさか――反応兵器が撃たれた!?

 

『迎撃準備!』

『この距離では間に合いません! 着弾まで推定330秒!』

 

「――あれが反応兵器……」  

  

 あたしは空を見上げてそう呟いた。ホントに撃って来るなんて、ちょっと信じられないんだけど。 

 

「だったらこっちで切り飛ばすデス!」

 

「ダメ! 下手に爆発させたら辺り一面が焦土に! 向こう永遠に穢されてしまう!」

 

 切歌の発言に対して調がツッコミを入れる。そのとおり、それが反応兵器の厄介な所だ。

 

 

 

「私はこの瞬間のために生き永らえてきたのかも知れないな……」

 

「何を言って……」

 

 サンジェルマンの言葉にマリアが反応したとき、彼女の足元に錬成陣が現れて、空へ浮かび上がっていく。まさか、サンジェルマンは――。

 

「まったく仕方ないわね……。コードクロノスモード……」 

 

 《Type:G》を注入して、クロノスモードを発動したあたしは黄金の光に包まれて、宙に浮いた。

 

「フィリア先輩! どうするつもりですか?」

 

「友達を放っておけないでしょう。それにアレも……」

 

 あたしはスピードを上げて、サンジェルマンを追いかけた――。

 

 

 

「一人でやれるか? いや、だとしても。だったわね」

  

 サンジェルマンは空中で立ち止まり、反応兵器を見据えていた。

 

「まったく、一人で飛び出しちゃうなんて。無茶するんだから」

 

「フィリア……。お前……。ふっ、一緒に死んでくれるのか? 長い人生だったが、あの二人以外に終生の友が出来るとは思わなかったよ」

 

 そんな彼女にあたしが声をかけると、びっくりした顔でこちらを振り向く。

 

「バカね。共に生き残るつもりよ。また、一緒にランチをするためにね……。それに……、あたしだけじゃないみたいよ。あなたを追いかけたのは」

 

「えっ?」

 

 あたしの言葉に呼応してサンジェルマンも気配に気が付いたみたいだ。

 

「あーしたちの方が付き合いずっと長いんだし」

 

「正直、少しだけ妬けるワケダ」

 

 カリオストロとプレラーティがあたしたちの後ろに現れる。変だと思ってたのよね。

 如何にユニゾン攻撃が強力でも、賢者の石を使ったファウストローブを纏っている彼女たちが簡単にやられてしまうって言うことが……。

 

「一瞬でいいわ。一瞬だけアレの爆発を抑え込んでくれるかしら? その瞬間にあたしが、アレを処分する」

 

 あたしは迫りくる反応兵器を前に三人にそう指示を出した。

 

「ふっ、そんなこと、訳がないワケダ」

 

「フィリアちゃんが美味しいとこを持ってくわけねー。まっ、サンジェルマンに免じて協力したげる」

 

 カリオストロが頷くと、プレラーティがサンジェルマンに弾丸を渡した。

 

「女の勘で局長を疑ったあーしたちは、身を潜めていて」

「局長に一矢報いるために錬成を高めていたワケダ」

 

 彼女らの錬金術師としての研磨の結晶として生成された弾丸がサンジェルマンの銃にセットされる。

 

「フィリア! 合わせろ! 私たちの錬成の研磨がついに誰かのために――」

 

 サンジェルマンは銃から弾丸を放った――。

 

 

 弾丸は錬成陣を織りなして、巨大化して反応兵器に衝突する。反応兵器は起爆して、すべてを焼き尽くさんと爆発が広がろうとした。

 

 しかし、爆発は抑え込まれる。これが、ラピス・フィロソフィカスの力――。

 

「あれは私の最高傑作だが、長くは保たないワケダ」

 

「早く行きなさい! あーしらが抑えてる内に」

 

「死を灯すことしか出来なかった私が、初めて生きたいと思った。頼んだぞ、みんなを――」

 

 三人に後押しされて、あたしは瞳を閉じた。

 

 ――因果ノ捻時零(インガノネジレ)――

 

 時が止まり、あたしは爆発が抑えられている空間ギリギリまで接近する。

 

「まったく、コイツに触れて何秒持つか……」

「大丈夫、私に任せなさい」

 

 時間停止を解除するとフィーネはあたしの両手をバリアで何重にもコーティングした。

 そして、あたしはその状態で爆発の中に手を突っ込んだ。

 ミシミシと音を立ててバリアに亀裂が入り、砕けようとする。時間はかけられないわね……。

 

 ――ループ・ザ・ワールド―― 

 

 この技は実際に触れたモノの時を戻すことが出来る。神の力の防衛機能は破れなかったが、兵器くらいなら――。

 あたしは爆発の時間を巻き戻し、反応兵器が作られる前の部品の状態まで時を戻した。 

 

 バラバラになった反応兵器の部品をあたしは氷漬けにして、無害な状態にする。

 

 ふぅ、これで日本が焦土にされることはなくなった……。

 あたしは、危機を乗り越えて安堵していた。

 

 しかし、まだ終わってはいない。響たちの元ではアダムとの最終決戦が始まろうとしていた――。




サンジェルマンたちの生存ルートに入りました。
彼女たちは生きて5期にも登場します。
そして、次回はAXZ編のラストバトルです!


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友愛を重ねる度、証明される現実は

今回でAXZ編は完結です!
それでは、よろしくお願いします!


『フィリアくん、良くやってくれた。君が居なかったら今ごろ日本は――』

 

「やめてちょうだい。あたしは仕事をしただけよ。それよりもこの国を守ってくれたのは――」

 

 あたしは対立していたサンジェルマンたちが、反応兵器からこの国を守ってくれたことこそ称賛されるべきだと弦十郎に、言いたかった。

 

『ああ、君の言うとおり理想のために生き方を貫いた錬金術師たちもだな……。後で改めて礼を言いたいと伝えておいてくれ』

 

 彼もそれは理解しているみたいで全て言わずともそれは通じた。

 

「じゃあ、そういうわけで。後で目一杯、お礼を言われると思うわ」

 

「そんなものの為にやったわけじゃないわ……」

 

 あたしの言葉にサンジェルマンは首を振る。そりゃあ、あなたはそうだろうけど……。

 

「だとしても、よ。あたしたちは言いたいの、あなたたちに感謝の気持ちをね」

 

「まったく、最後まで相容れられないな。お前たちとは。――ふぅ、仕方ない。お前の顔を立ててあげるとしよう」

 

 彼女はやれやれという口調で返事をした。なんだろう……、今の彼女は――。

 

「いい顔をしてるワケダ」

「サンジェルマンが笑ってる……」

 

 プレラーティとカリオストロはサンジェルマンを見て感想をもらした。

 

「――笑ってなどいない! 断じてない!」

 

 サンジェルマンは顔を真っ赤にして、手をぶんぶん振って否定する。

 この人にもこんな一面があったのね。

 

「じゃあ、これから――」

 

 あたしがそう口を開いた瞬間に通信が再び入る。

 

『フィリアくん、事態が急変した。アダム=ヴァイスハウプトがその力を開放して装者たちを――』

 

 弦十郎曰く神の力の強奪を企んだアダムだったが、結局響の《神殺し》の力によって阻まれる。

 しかし、それがアダ厶の逆鱗に触れて彼はすべての力を開放して響たちに襲いかかっているのだ。

 現在、彼女たちは劣勢であり、あたしたちに応援を頼んだという状況なのである。

 

「――クロノスモードは時間切れ……。でも、戦えないわけじゃない……。モグモグ」

 

「それで、エネルギーの回復ってずるくない?」

 

 カリオストロはあたしがチョコレートをかじっているのを見て苦笑いする。

 我ながらお手軽だとは思っている。この身体の最もよく出来てる機能はどう考えてもこれだ。

 

「私たちのアホな局長に一矢報いることが出来るワケダ」

 

 プレラーティは殺る気満々の凶悪な笑みを浮かべる。根に持ってるわね……。

 

「私たちの誇りを踏みにじったアダム=ヴァイスハウプトだけは許せない。立花響たちだけには任せるつもりはないっ」

 

 サンジェルマンもアダムには怒りの感情があるみたいで、あたしたちは四人揃って響たちの元に向かうこととなった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 到着したとき、響が反応汚染に侵されて倒れていた。

 

「フッフッフッ……、動けないようだな、神殺し。ここまでだよ、いい気になるのも」

 

「くぅっ、ああっ!」

 

 響は苦悶の表情を浮かべている。急ぐわよ――。

 

「終わりだ! これでっ!」

 

 アダムの口から響に向かってビームが放たれる。響はやらせないわっ!

 

 ――大爆発が起こり、周囲は爆煙に包まれる。

 

「ごめんなさい。ちょっと遅くなったわね……」

 

 響の前でバリアを張ったあたしが、彼女に話しかける。間一髪だったわ……。

 

「――あはっ、フィリアちゃん。来てくれたんだ」

 

 響は横たわりながらも笑顔をこちらに向けた。どうやら、響以外の装者たちもイグナイトの力を限界まで使って満身創痍みたいね……。

 

「統制局長、あなたには落とし前をつけてもらおう」

 

「年貢の納め時というワケダ」

 

「今度はあーしたちが相手をするわ!」

 

 サンジェルマンたちもファウストローブを身に纏い。それぞれの武器を構えて臨戦態勢を取る。

 

「フハハハッ、忘れてるようだ。どうやら君たちは! その理由を! 僕がなぜ局長なのかという!」

 

 アダムはそう言い放つと、全方位に向けて無差別に拡散するビームを出してきた。

 無茶苦茶するわね……。この男……。

 

「ふん、借りをようやく返せるワケダ!」

 

 プレラーティがけん玉でアダムを殴りつける。

 

「利子つけて熨斗(ノシ)付けて!」

 

 アダムがよろけた所をカリオストロが顔面をアッパーで殴り飛ばして、更に腹に連打を加えた。

 

「支配に反逆する革命の咆哮をここに!!」

 

 そして、サンジェルマンが浮き上がったアダムに銃弾を叩き込んだ。

 なんて、連携……。ユニゾンにやられた彼女たちが戦い方を学んだとでも言うのかしら? さすがは歴戦の錬金術師……。

 

「無駄なことだよ。何をやってもね」

 

 しかし、アダムは信じられないスピードでサンジェルマンたちの背後を取り、強靭な拳を振り下ろした。

 

「ぐっ!」

「ぎゃっ!」

「――プレラーティ、カリオストロ! ――なっ!」

  

 彼女たちは地面にクレーターを作るほどの衝撃で叩きつけられ、倒れてしまう。

 

 

「あとは、君だけか。フィリア……」

 

「怠け者のあなたがこれだけ荒ぶるなんて、思わなったわ」

 

 あたしは響を庇うように立って、構えをとる。

 

「案外、触発されたのかもしれないね。働き者の君によって。フィリア、ならないか? 僕のモノに」

 

 アダムは手をあたしに向かって差し出して、そんなことを言う。 

 

「はぁ、唐突に愛の告白? 何考えてんの?」

 

 あたしは彼の言葉に訝しい顔をした。本気でこの男が何を考えてるのかわからない。

 

「そうさ、使える人形だからね。神の力を操れる君だけは。戦力になる。奴と一戦交えるのに。共に支配しようじゃあないか。完全な存在になって」

 

 アダムはあたしを仲間に勧誘しているようだった。ホントに大馬鹿者よ。この男も……。

 

「あたしが惚れたのは、不完全でも、自分の信じた道を貫いて人を助けるために手を差し伸べ続けるような、そんなお人好しよ。あなたみたいなのに靡くほど、安い女じゃない!」

 

 あたしは彼の目を真っ直ぐに見据えてそう言い放った。

 

「――ちっ、残念だよ。もう二度と飲めないなんて。君が淹れた魅惑のコーヒーが……!」

 

 アダムが高速で動き、あたしに殴りかかる。あたしは彼の指を掴んで、柔術を応用して投げ飛ばした。

 

 そして、回転しながら彼の顔を思いっきり踏みつける。しかし、その瞬間にアダムの腕が伸びてきた。

 

「ようやく掴まえたよ。君を! さらばだ!」

 

 アダムに完全に掴まれたあたしは、彼に力を込められて、身体中に亀裂が入った。

 くっ、このままではっ……!

 

 あたしが敗けを意識したその時である――。

 

「てぇぇぇぇいっ!」

 

 なんと、響が鎌を繰り出してアダムの腕を斬り裂いたのだ。あれは、切歌の呪リeッTぉ(ジュリエット)!?

 

「フィリアちゃんをやらせはしないっ! 皆さんの力を借ります!」

 

 なんと、響が装者たちの力を結集して動けるようになっていたのだ。

 

「いいってもんじゃないぞ、ハチャメチャすれば!」

 

 アダムも驚愕して響を見ていた。

 

 ここからは響の独壇場だった。蒼ノ一閃、禁月輪と装者たちの技を次々と披露しながらアダムを圧倒していた。

 

 しかし、一瞬のスキを突かれて彼女は捕まってしまう。

 

「してる場合じゃないんだ、こんなことを。こんなところで! 降臨は間もなくだ、カストディアンの。それまでに手にしなければならない。アヌンナキに対抗し、超えるだけの力を! なのにお前たちはぁぁぁぁぁっ!」

 

 ――神焔ノ一閃――

 

 あたしは最大火力の炎を刃に纏わせて、アダムの両腕を叩き斬る。

 そして、落ちてきた響をあたしは抱きとめた。

 

「フィリアちゃん、えっと、どうして私を抱きしめてるの?」

 

「別に他意はないわ。一か八か! あたしの持てる錬成の力をあなたに授けるだけよ。ラピス・フィロソフィカス……。サンジェルマンたちのモノと比べて小さいけど、創ることが出来た、あたしとエルフナインの研磨の結晶……」

 

 あたしは手を開いて小さなハート型の結晶を響に見せた。

 

「綺麗……、フィリアちゃんとエルフナインちゃんの想いが伝わるみたい……」

 

 響は穏やかな口調でそう溢した。

 

 ――黄金錬成――

 

 あたしは響のギア全体を賢者の石によるエネルギーでコーティングした。シンフォギアに未知の力を付与するのは賭けだけど……。

 

 響のガングニールは黄金の輝きを放つ。まるでクロノスモードを使った時のあたしのファウストローブのように……。

 

「黄金錬成だと!? 何を企んでいる! フィリア!」

 

 アダムは動揺しながら響を襲うが、彼女の動きは先ほどまでとはレベルが違った。

 

「うぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 彼女はアダムの攻撃を見事に躱して、右拳で強力なパンチを放つ。

 

 そして、これが起点となり、響の凄まじい連打が始まった。

 

「オラオラオラオラオラオラオラ! オラオラオラオラオラオラオオラオラ! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ! オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

 

 響のラッシュによって、アダムは段々宙へと舞い上がり、ドームの天井が近づいてきた。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 そして、響の怒涛の攻撃でついにアダムは天井をぶち抜かれて空高く吹き飛んだ。

 

 ――TESTAMENT――

 

 最後は響が両腕を合わせて、フルパワーをアダムの腹に直接ぶつけて、彼に大穴を作ったところで勝負は決まった。

 

「砕かれたのさ、希望は今日に。絶望しろ、明日に……。未来に! フフフフッ、ハハハハッ、ハーッハッハッハッハ!」

 

 最期にアダムは呪いのような言葉を吐いて爆発してしまった。まったく、あの男は何を知っているというの……。

 

“カストディアン、アヌンナキ……、まさか……”

 

“ん? どうしたの? 何か?”

 

“いや、なんでもないわ。それよりも響ちゃんが”

 

 フィーネの声で響が落下してくることにあたしは気づいた。

 

「まったく、今日一番の功労者が転落死なんて、シャレにならないわよ」

 

 あたしは響を抱きとめて、そう言った。

 

「えへへ、私、フィリアちゃんの料理が食べたい……」

 

「任せて、とっておきを作ったげるわ」

 

 あたしは勝利の余韻に浸りながら、響のリクエストを承諾した。その前にメディカルチェックを受けさせなきゃ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それから、3日があっという間に過ぎ去った。

 サンジェルマンたちはパヴァリア光明結社の解散を宣言した。しかし、組織という枷が無くなったということは抑制が効かなくなる可能性も高い。

 末端組織の情報など、彼女らが把握しているものは全て手に入れることが出来たが油断は出来ない状況だった。

 

 カストディアン、アヌンナキ……。アダムが遺した言葉――。

 これは神のような存在を意味することはわかっている。フィーネは何か知っているはずなのにだんまりを決め込んでいるのも気になった。

 今回のアダムの事件は終わりではなくて、何かの始まりなのかもしれない。

 

 

 まぁ、それはおいおい考えるとして――今日は色々あって延期になった響の誕生日会である。

 

「それでは改めて……」

 

 未来が代表して音頭を取る。

 

「「ハッピーバースディ!(デース!)」」

 

 あたしたちはクラッカーを鳴らして、響のバースデーを祝った。

 

「あははっ!」

 

「17歳おめでとう、響」

 

「ありがとう。とんだ誕生日だったよ。でも皆のおかげでこうしてお祝い出来たことが本当に嬉しい!」

 

 響は満面の笑みで未来のお祝いの言葉に返事をした。ホントによかったわ。あのときはどうなることかと思ったわよ。

 

「まあまあ、堅苦しいのは無しですよ。主役はこちらにデース」

 

「おおーっ! すっごーい! さっすが、フィリアちゃん。レストランの料理みたい!」 

 

 切歌がテーブルに案内すると彼女のリクエストした料理がずらりと並んでいた。

 食べ歩きして美味しかった料理のレシピを再現したものだから、味は自信があるわ。そう、錬金術的に。

 

「調も手伝ってくれたのよ。この辺なんてほとんど……」

 

 調は教えた分だけ上手になるから教え甲斐がある。マリアや翼と大違いだ。

 

「これ、調ちゃんが!?」

 

「う、うん。リア姉に教わって。あと、松代で出会ったおばあちゃんから色々と夏野菜を頂いて……」

 

 調は例の農家のおばあちゃんから頂いた野菜を活かした料理を作っていた。あそこの野菜はとても良いモノで、味が良かった。

 

「フィリアと月読が作り、立花が平らげるのなら……。後片付けは私が受け持つとしよう」

 

 翼が大言壮語を吐く。いやいや、それは――。

 

「いやー、先輩。出来もしないことを胸張って言うと後で泣きを見ますって……」

「ていうか、張る胸もささやかだし」

 

「わ、私を見くびってもらっては……、というか、お前に胸のことを言われる筋合いはないっ!」

 

 翼はあたしとクリスを睨み立ちあがった。

 

「ケンカしないの。ほら」

 

「はむ……もぐもぐ。――っ!? なにこれ!? まさかトマトなの!? こんなに甘いの初めて食べたわ!」

 

 マリアによって翼の口にトマトが放り込まれる。彼女はあまりの美味しさにキャラクターが豹変する。

 

「驚きに我を失う美味しさです」

「文字通り、ね」

 

 調とあたしは翼のリアクションを満足そうに眺めていた。

 

 そして、みんなで食事が始まる。概ね、料理は好評みたいね……。

 

「ねぇ、フィリア。あたしも料理したいなー。きっといつか素敵な彼が喜んでくれると思うの」

 

「そうね、じゃあ今度教えてあげるわ。ティキ」

 

「約束だからね。早く会いたいな、運命の人」

 

 ティキの残骸を回収したあたしは、異端技術の解析がしたいという弦十郎からの依頼でこれを修復。初期化したので、アダムに関する記憶も何もなくなり、あたしとエルフナインが彼女の造物主となってしまった。

 

 害意はないから良いんだけど、やたらと懐かれてしまった。まぁ、お互いに人形同士だからかもしれないが。

 

 

 

「お疲れ様です。フィリア先輩」

 

 ベランダで外を眺めてるあたしに未来が声をかける。てっきり、響のところに居ると思ってたけど。

 

「ええ、お疲れ様。未来も色々と大変だったわね」

 

 あたしも彼女を労った。彼女が居なかったら響の救出は無理だっただろう。フロンティア事変の時と同じで……。

 

「先輩、一つだけ質問してもいいですか?」

 

 未来が思い詰めたような態度であたしにそんなことを言う。えっ? あたし、何かしたっけ?

 

「別に構わないわよ。どうしたの、急に」

 

 あたしは未来の言葉に返事をした。

 

「先輩って、私と同じでやっぱり響のことを友達以上に想ってますよね? あのとき、先輩が言っていた“お人好し”って響のことじゃないですか?」

 

 未来はあのとき、私がアダムに言ったセリフが気になってるみたいだ。司令室のモニターであのときのやり取りを見ていたか……。

 

「はぁ……、あなたくらいよ。それに気づくのは……。――似てるのよ。響はあたしの婚約者だった人にね。だから、かもしれないわ。記憶が戻る前からあたしはあの子に惹かれていた」

 

 あたしは未来に正直に気持ちを話した。

 自分の信念を貫いて、人助けのために、人と人が分かり合えると信じて手を伸ばし続ける彼女が、あたしにはイザークとダブって見えていた……。

 

「だけど、負け戦だし、あなたが相手じゃ勝ち目がないでしょ? 大丈夫よ、盗ろうなんて考えてもないし」

 

 あたしは心配そうな顔をしている彼女にそう言った。あたしも命知らずなことを言ったものだ。絶縁されかねないわ。

 

「私、フィリア先輩のことライバルだと思ってます。でも、それ以上に優しい先輩のこと、大事な友達だって思ってますよ」

 

「未来……」

 

 未来の言葉は嘘偽りがなく、穏やかなものだった。

 

「だから、私に気を使わないでください。そりゃあ、響を渡すつもりはないですけど」

 

 未来はニコリと微笑んでそう言った。何度か怖い目にあって、控えてるんだけど……。

 

「ふふっ、何それ? 正妻の余裕ってやつ? あなたたちは、付き合ってるんだから、あたしになんてそもそも勝ち目がないじゃない」

 

「うふふっ、かもしれません。でも、先輩が響を大事に想ってくれるのも嬉しいから。それに……、私たちは、まだまだですよ。響ったら、付き合うとか全然自覚してないんですから」

 

 あたしたちは笑い合って、しばらく雑談した。

 未来は良い子だ。誰よりも気遣いが出来て、そして、誰よりも響を愛してる。

 あたしが彼女に勝てる要素など一つもなく、多分戦っても負けちゃう。それだけ自信がない。

 というより――あたしは未来と戦うなんてことが堪らなく嫌なんだ。まっ、そんなことあり得るはずがないけどね。

 

「未来ぅ、フィリアちゃん。何を内緒話してるのー?」

 

 響はあたしと未来の会話が気になったみたいでこちらにやって来た。

 

「響には教えられないこと、かな。ね? 先輩」

 

「そうね、あなたには内緒の話よ」

 

 あたしと未来は互いに頷きながらそんなことを言った。実際、言えないし……、そんなこと。

 

「ええっ! 私、仲間はずれにされてる!? 誕生日会なのにっ!?」

 

 オーバーリアクションをする響を見て、あたしたちは可笑しくなって、笑みが溢れる。

 

「みなさーん、トランプをするデスよー!」

 

 そんな中、切歌がみんなをゲームに誘っていた。

 

「はーい! トランプだって、未来、フィリアちゃん! 行こっ!」

 

 響はあたしと未来の手を取って歩き始める。あたしはこの繋がれた手の温もりと、もう片方に繋がれた手を、ずっと大事にしようと思っていた。

 未来を繋ぐのはきっと、その差し伸べられた優しい想いだから――。

 

 

 ―― AXZ編完結――

 




AXZ編はいかがでしたでしょうか?
正直、4期は書き始めの頃から鬼門だと思ってました。3期にはフィリアのこと大体書いちゃうつもりだったし、まだ最終回前の5期には繋げないといけないし、みたいな感じで……。
冗長になったり、雑に見えたりしたかもしれません。
XV編は、それを挽回出来るように頑張ります。


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XV編
災厄へのカウントダウン


遂にやってきましたシリーズの完結編であるXV編!
アニメの最終回手前ですが始めちゃいます。 
今回は原作1話の直前の話です。あのキャラクターが久しぶりに登場します!


「コード……、クロノスモード……」

 

 あたしの身体が黄金の輝きを放つ。これで、準備は完了……。

 

「エルフナイン、急ぐわよ。手早く終わらせなさい」

 

「はい、フィリアさん。準備オッケーです」

 

 緊張した表情のエルフナインはあたしの言葉に返事をした。

 それじゃ、行くわよ……。

 

「ねぇ、フィリア。いつまで、あたしは横になってれば良いの〜。暇だよ〜」

 

 少女漫画、『うたずきん』を片手にラボで機材を取り付けられて横になっているティキが不満を口にする。

 

『エルフナインくんが、ティキに付けられているセーフティに気付かなかったら大惨事だったな。下手すればこの施設が大火事になるところだった』

 

 弦十郎もモニターであたしたちのやり取りを見ながら指示を出していた。

 

 あたしたちが行っているのはティキの内部データの更に奥、ブラックボックスの解析である。

 ティキには惑星の運行を観測し、記録したデータを元に様々な現象を割り出す機能があった。

 つまりこれを解析すれば、アダムの言うカストディアンやアヌンナキの正体に辿り着ける。あたしたちはそう解釈したのである。

 

 だが、しかし……。アダムの作ったプログラムは悪辣極まりなかった。たとえティキを初期化したとしても最深部のデータには彼以外が覗くと大爆発を起こすようなセーフティが付けられており、危うくあたしたちはその魔の手に引っかかるところだった。

 

 そこであたしたちは作戦を立てた。ティキのセーフティが発動するギリギリまで解析を続行し、発動寸前であたしが時を巻き戻すという作戦だ。

 

「解析を開始します」

 

『セーフティ発動まで30、29、28……』

 

 エルフナインが大急ぎでデータを回収している間に友里と藤尭がセーフティの発動時間を計算してカウントダウンを開始する。

 

『5、4……』

『フィリアくん!』

 

 弦十郎の合図と共に、あたしはティキの身体に触れてループ・ザ・ワールドを発動した。

 

『2、1……、セーフティ起動前に復帰しました』

 

 私が解析前の状態までティキの身体を戻したのでセーフティの発動は回避出来た。

 問題はたったの30秒でどれくらい解析できたか、だけど……。

 

 

 あたしとエルフナインは解析したデータを検証する。

 予想通り回収出来た情報でめぼしいモノはある座標のみだった。

 

「南極大陸みたいね……」

 

『座標が指し示しているのは、ボストーク湖、南極大陸でも有数の湖です』

 

 友里はモニターを切り替えて検証結果を出した。

 

『よし、至急南極大陸に調査団を派遣しよう。フィリアくん、エルフナインくん、ご苦労だった』

 

 弦十郎の言葉で今回の解析作業は終了した。南極大陸か……。そこには一体何があるのだろうか?

 

 

 研究室から出て、あたしたちは司令室に戻る。ティキは退屈そうな顔はしているが、あたしたちの言うことはキチンと聞く良い子だ。

 

「フィリアくん、戻って来て、早々に悪いんだがサンジェルマンくんから通信が来ている。君にも聞いてほしい話のようだ」

 

 弦十郎は深刻そうな表情であたしにそう伝えた。

 サンジェルマンが? 確か、欧州でパヴァリアの解体に協力しているはずだけど、何かあったのだろうか?

 

「通信を繋いでちょうだい」

 

 あたしはサンジェルマンとの通信を繋げるようにお願いした。

 

『フィリア……、そしてS.O.N.G.の諸君、久しぶりね。単刀直入に本題を伝えるわ。フロンティア事変の主犯であるジョン=ウェイン=ウェルキンゲトリクスと、フィアナ=ノーティスが、元パヴァリアの構成員と接触している。日本である組織をパトロンにして、何かを準備しているようだ』

 

 サンジェルマンがモニター越しに伝えた事実はあたしたちが動くには十分すぎる情報だった。

 妹のフィアナとウェル博士……、この二人はフロンティア事変以降、行方を眩ませていたが、まさかパヴァリアの残党と組んでいるとは……。

 しかも、日本の組織をスポンサーに付けているって……、一体何が起こってると言うの?

 

『おそらく、元構成員は人体実験の被験体だった者たち……。連中の目的はまだわからないが、そちらも気を付けておいてほしい』

 

 サンジェルマンからの通信はそこで切れた。被験体といえば、ヴァネッサたちかしら? 確かに彼女らの恩人であるゲイル博士は並行世界のウェル博士……。手を組む可能性は十分にあるわね……。 

 

 

「ここに来てウェル博士か……、英雄に狂信的な憧れを抱いた男……。パヴァリアの残党と手を組んだとなると良からぬ予感しかしないな」

 

 弦十郎は腕を組んで考え込むような仕草をした。

 あの男も気になるけど、あたしは妹が心配で仕方がなかった。あのとき、多少の乱暴な真似をしてでもフィアナを連れ戻していれば……。

 あの子はウェル博士のためなら平気で命を捨てる。

 

 フィアナがしたことは決して許されることじゃないかもしれないけど……。あたしは彼女に生きていて欲しい――。

 

「日本にいるという、彼らのパトロンとやらも気になりますね。調査員に日本から欧州への黒い金の動きを探らせましょう」

 

 緒川はさっそくサンジェルマンの情報を元に迅速に調査を開始した。とにかく、南極もウェル博士も調査しなくては何もわからない。

 これは勘だけど、ここにも神の力に関連した事柄が絡んでいる気がするわ。

 

『――ならば、オレからも情報を提供しておいてやろう』

 

 突如としてエルフナインからキャロルのホログラムが出てきた。ちょっと、驚かさないでよ!

 

「キャロル=マールス=ディーンハイムか。まさか、エルフナインくんを媒体に通信をするとは……」

 

「キャロル。ボクたちに何か用事ですか?」

 

 弦十郎とエルフナインはキャロルの突然の出現に驚き、彼女を凝視した。

 

『オレの留守の間にチフォージュ・シャトーに何者かがアクセスした痕跡が残っていた。お前たちがちょうどパヴァリア光明結社の残党のことを話題に出していたんでな。そっちを調べるなら、空き巣紛いのことをした連中にも繋がるやもしれんと思ったまでだ』

 

 キャロルはチフォージュ・シャトーに侵入の痕跡があったと伝えた。しかも、それがパヴァリアの残党と繋がると――。

 一気にきな臭くなってきたわね……。

 

「キャロル……」

 

『フィリアか。どうした? オレに何かあるのか?』

 

「あなた、毎日ちゃんと食べてる? 体の調子が悪いところはない? あたし、それが心配で、心配で……」

 

『――毎日食べてる! 心配ない。体もすこぶる健康だ! 急にママみたいな態度をとるな!』

 

 キャロルはイライラした態度でそう答えた。だって、音沙汰ないから心配してたんだもん。それにしても、キチンと答えてはくれるのね……。

 

「わかった。こちらもチフォージュ・シャトーの件も含めて探らせよう」

 

 弦十郎はあたしとキャロルの会話をスルーして、話を本筋に戻した。

 

『そうしてくれ。あと、フィリア……。しばらくしたら一度、日本に行く……。その時にまた会おう』

 

 キャロルはそう言い残してホログラムを消した。今度会ったらあなたの好物をしこたま作ってご馳走するんだから。覚悟しなさい。

 

「チフォージュ・シャトー……。調べる場所は広がるばかりですね」

 

 緒川はやれやれというような口調でそうこぼした。

 

「しかし、点と点を結べば線になる。更に点が増えると浮き上がるはずだ。真実と言う面がな」

 

 弦十郎も一連の事柄がすべて繋がっていると予測しているみたいだ。

 全てはアヌンナキと呼ばれる存在に……。

 

「フィリアくんもエルフナインくんも長く引き止めて悪かったな。後はこっちでの調査しだいだ。今日は休んでくれ」

 

 弦十郎は今日の一連の話を締めようとした。

 

「げんじゅーろー。あたしは? ティキも大人しくしていたんだよ。ねぇー、褒めてー」

 

「ん、ああ。ティキくんもご苦労だった。もう、自由にしていいぞ」

 

 ティキが駄々をこねるような態度を見せると、弦十郎は素直にそれに答える。この子のせいで騒がしいのが増えたわね……。

 

「フィリア、あたし、褒められちゃったよ。弦十郎のお嫁さんになるのもありかもー」

 

「それだけは勘弁してちょうだい……」

 

 うんざりした表情であたしはティキにそう言って、司令室を出た。彼女は基本的にエルフナインと共に暮らしている。 

 そして、二人は周波数が合うのか仲がいい。強大な力を持つ者に作られたという共通点があるからだろうか? 

 

 そういう面で見れば、あたしも一緒。フィーネに利用される為に生まれたクローンで廃棄個体だったから。

 

 だから、誰かに必要にされるということが嬉しく感じるのかもしれない……。 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あら、翼、訓練室に居たのね」

 

 訓練室の前を通りかかったあたしは、そこから出てきた翼に声をかけた。

 

「フィリア、実験は成功したのか? クロノスモードまで使ったと聞いたが……」

 

 翼は先程行なったティキの解析実験について質問してきた。

 

「ええ、問題なく。もしかしたら、近々あたしたちは南極大陸に行くことになるかもしれないわ」

 

 あたしは南極に行くかもしれないと、翼に告げた。

 あくまでも可能性だけど、ティキにわざわざ記録されている座標があった。アダムは神の力を手に入れて何者かと戦うみたいな発言をしていたから……。我々も戦いに巻き込まれる可能性が高いと推測したのだ。   

 

「南極だと? どうしてまたそんな話が……」

 

 翼は顎に手を当てて話を聞き始めた。

 

「ティキの解析を進めた結果――」

 

 あたしは南極のボストーク湖を指し示した座標の話から、サンジェルマンやキャロルから得た情報までを話した。

 

「なるほど、ウェル博士とフィアナがパヴァリアの残党と……、それは厄介だな。しかも日本から資金援助の痕跡があるとは……。そして、チフォージュ・シャトーにも不穏な影か」

 

 彼女も戦いの予感を感じたのだろう。拳にも知らず知らずのうちに力が入っていた。

 

「よし、我ら防人の力が試されるな。共に力を合わせ――。なんだ? フィリア、何か言いたげだな」

 

 翼はあたしの表情の変化に気付き訝しげな顔をする。

 

「いや、翼の中ではあたしも防人なんだなって……」

 

 あたしは今さらな事を口に出した。もちろん翼は一番長く戦ってきた仲間だし、そういう意識はあるが、あたしはこれまで一度も防人だと自称したことはない。『推して参る』とか言ったこともない。

 

「決まっているだろ。フィリアも私と同じで防人の系譜である風鳴家の人間なのだから」

 

 翼は大真面目な顔をしてそう返した。そっか、この子は風鳴の家に生まれてずっとそれに縛られていたから……。

 

「あー、そういう理屈なのね。翼、別に八百屋さんに生まれたからと言って駄菓子屋さんになっちゃ駄目とかじゃないのよ」

 

 あたしは彼女にそう言った。翼にはこれ以上縛られて欲しくなかったから……。

 

「えっ? まぁ、経済のことはよくわからないが、野菜だけを売るというのも大型のスーパーが増えてきて厳しい世の中になっていると聞く。商売を鞍替えするというのも、致し方あるまい」

 

 ――駄目だ、あたしの例えが下手だった。

 

「そうじゃなくって、人の意志は自由ってこと。歌で人を救いたいってあなたは頑張っている。それは翼の自由意志でしょ? だから、無理に防人らしくあろうとしなくても良いのよ」

 

 翼がいつも張りつめていることを、あたしは知っていた。最近は穏やかな表情を見せることが増えてきているが……。

 

「――っ!? ふっ、心配するな、フィリア。私は以前とは違う。ぽっきり折れたりはせんよ」

 

 翼は一瞬だけ驚いた顔をしていたが、すぐに微笑んでそう返した。それなら良いけど……。

 誰よりも強くあろうとする翼には防人としての義務感がのしかかってる。あたしにはソレが彼女を押し潰そうとする呪いのようなモノに見えていた。

 

 

 それから、少しだけ月日が流れて南極大陸の調査結果がある程度こちらに帰ってきた。

 やはり、あたしたちの予想は正しかった。

 

 装者たちは全員、本部へと集合をかけられる。

 そう、あたしたちはこれから南極へ向かう――。

 




久しぶりに登場のキャロルに、加えてサンジェルマンやティキも健在です。
そして、フロンティア事変から身を潜めていたウェル博士とフィアナも間もなく登場する予定です。
生き残らせた人物が多いですが、上手く盛り上げてもらえるように頑張ります!


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時の彼方から浮上する棺

原作1話にあたる時系列です。
それではよろしくお願いします!


「悪いわね、二人共。デート中に……」

 

「もう、フィリア先輩たら、嫉妬ですか?」

「あはは、最近、フィリアちゃんと未来が仲が良いような悪いような……」

 

 緒川の車でやって来た未来と響に声をかける。

 

「あっ、そうだ。響にケーキを焼いたんだった。後で渡すわ」

 

「あはっ、ありがとう! フィリアちゃん!」

 

 響があたしに抱きついて来た。この為に近くのスイーツ店のレシピを完全に網羅したの。錬金術の知識を持ってすれば至高のスイーツを作るなど容易い。

 

「――いつもの餌付け戦法とは芸がないですよ。先輩……」

 

 未来はムッとした表情であたしに毒を吐く。最近は遠慮がなくなってきた。

 

「あら、弱点を突くのは戦術の基本よ」

 

 あたしと未来は睨み合いをする。まぁ、本気で喧嘩してるわけじゃないけど。

 

「つまんねー、張り合いしてんじゃねぇ。このバカの取り合いとか世界一くだらねえ争いだぞ」

 

 クリスが後ろから現れてあたしと未来の頭を小突いた。世界一くだらないとは随分じゃない。

 

「クリスちゃーん、助かったよー。いやー、マジで、未来とフィリアちゃんが怖くてさー」

 

「くっつくなバカ! 面倒を広げてどーすんだ!」

  

 クリスにすり寄る響をあたしたちは呆然と見つめて頷きあう。

 

「一時休戦ね。伏兵が出たわ」

「先輩が同じクラスなんだからちゃんと見張ってて下さいよ」

 

 あたしと未来はとりあえずクリスに警戒をすることにした。

 

 

 未来には司令室の外で待ってもらい、装者たちが全員集まったところでブリーフィングが始まった。

 

「先日、あたしたちはティキに内蔵されているブラックボックスの解析を行なったの。パヴァリア光明結社、と言うよりもサンジェルマンたちですら知らない、アダム=ヴァイスハウプトの目的を探る為にね」

 

「ああ、この間の……」

 

 あたしが先日にクロノスモードを使って行なった解析の話をすると、その話を聞いていた翼が反応した。

 

「この、ティキには惑星の運行を観測し、 記録したデータを元に様々な現象を割り出す機能があります」

 

「えっへん。あたしってすごいんだぞー」

 

 エルフナインに懐いているティキは機能を説明されて得意気な表情をした。

 

 そして、話は本題に入り、モニターに南極の映像が流れる。

 

「これは南極大陸デスか?」

 

 切歌が、モニターを見て質問した。

 

「そのとおりよ、切歌。どうにかして、手に入った情報で唯一手がかりになりそうなのは南極の一地点を示す座標だったの」

 

「ここは南極大陸でも有数の湖、ボストーク湖。付近に位置するのはロシアの観測基地となります」

 

 あたしの言葉に続けて、友里が情報を追加する。このボストーク湖は今、変わった状況に置かれている。

 

「湖ってどれー? 一面の雪景色なんですけど?」

 

 響は真っ白な映像を見て、頭にクエスチョンマークを浮かべていた。まぁ、無理もないか。

 

「その雪景色のほとんどがボストーク湖さ。正確には氷の下に広がっているんだけどね」

 

 藤尭が響の疑問に答える。南極だから、仕方ない。湖だって凍るのだ。

 

「地球の環境は一定ではなく、度々大きな変化を見せてきました。特に近年、その変動は著しく、極間の氷の多くが失われています」

 

 エルフナインは近年の激しい環境の変化で南極や北極の氷が少なくなっている事実を告げた。

 

「まさか氷の下から何かが出てきたってわけじゃないよな?」

 

 頭の回転が早いクリスはすぐに正解にたどり着く。

 

「さすがはクリスね。正解よ。先日、ボストーク観測基地の近くで発見されたものが、この氷漬けのサソリよ」

 

 モニターは切り替わり、画面には氷漬けになったサソリの映像が出てきた。

 

「照合の結果、数千年前の中東周辺に存在していた種と判明。現在では絶滅していると聞いています」

 

 藤尭はモニターのサソリについて説明をしている。なかなかSFチックな話よね。

 

「何故そんなものが南極に?」

 

 マリアは当然の疑問を口にした。

 

「詳細は現在調査中よ。まぁ、先史文明期に何らかの方法で中東より持ち込まれた、と仮定するのが自然かしら?」

 

 あたしは情報から推測した事柄を話した。時代背景的にも、移動距離的にもそうとしか考えられない。この仮説にはあたしはかなり自信があった。

 妙なのは、フィーネがこの手の話になると黙ってしまうことだ。彼女は何か予感することでもあるのだろうか……?

 

 

「気になるのはこれだけではありません。情報部はパヴァリア光明結社の幹部だったサンジェルマンさんの協力を得て、瓦解後に地下へと潜ったパヴァリアの残党摘発に務め、さらなる捜査を進めてきました」

 

 緒川は情報部が密かにサンジェルマンと協力して邁進していたパヴァリアの残党から情報を得たことを伝えた。

 プレラーティやカリオストロも比較的に協力的である。

 そもそも、アダムの乱暴なやり方を抑える役割だったのが彼女たちだから、組織が解体して元構成員たちが暴徒と化すのは見逃せないのだろう。それくらいの責任感はある人たちだから……。

 

「得られた情報によると、アダムは専有した神の力をもって遂げようとした目的があったようだな」

 

 弦十郎はアダムが成し遂げようとした目的について話そうとした。

 

「その目的とは一体?」

 

「この星の支配者となる為、時の彼方より浮上する棺を破壊――」

 

 翼の言葉に弦十郎はそう返した。これを突き止めたとき、フィーネが明らかに動揺していた。なぜなのかは話てくれなかったが……。

 とにかく、その棺とやらが何を示しているか、それがこの話のキーポイントだ。

 

「なんデスと!?」

 

「でも、時の彼方からの浮上って、南極のサソリと符号するようで気味が悪い……」

 

 切歌は驚き、調は冷静に情報を分析する。

 

「次の作戦は南極での調査活動だ。この情報の出処にはあのウェル博士たちが絡んでいた。故に罠という可能性もある。作戦開始までの一週間、各員は準備を怠らないでほしい」

 

「「了解!」」

 

 そう、この情報を得るキッカケになったのは、サンジェルマンの助言で調べたウェル博士とフィアナが絡んでいるというパヴァリアの残党について調査したことがキッカケだ。

 

 つまり、あたしたちを罠にかけるために流したフェイク情報の可能性もあるのだ。

 しかし、ティキから得られた座標は間違いなく南極だったし、例のサソリの件もある。南極を万全を期して調べること自体は決して無駄ではないだろう。

 

「それにしても、ドクターデスかー」

 

「アナ姉も一緒に何か企んでるかもしれない」

 

「仲間として止めるわよ。フィアナがバカをする前に……」

 

 レセプターチルドレン時代からの仲間であるフィアナをマリアたちも心配している。

 彼女らとしてはあたしよりも長く彼女と一緒に居たわけだから、絆は深いのだろう。

 あのバカ妹には絶対にお灸を据えてやるわ。

 

 

「――絶望……、明日に……。未来に……」

 

 ボソリとした声がする方を向いて見ると、響がうわ言のように独り言をつぶやいていた。

 

「響、どうしたの? 浮かない顔をして……」

 

 あたしは彼女の顔を覗き込んだ。

 

「えっ、あははっ……、ええーと、ね。あのときの言葉を思い出してたんだ。希望が打ち砕かれたって……。もしかして、私はとんでもない間違いをしたのかもって、不安になっちゃった」

 

 響はアダムが最後に遺したセリフが頭の中に残ってるみたいだ。

 

「間違ったっていいのよ別に。あなたが困っても手を差し伸べる仲間は沢山いるんだから。その時は一緒に何とかしましょ」

 

 あたしは響に手を差し出してそう言った。

 この子が悩むのなら、あたしも共に悩もう。そして、持てる力を全て使ってでも……、助けてみせる。

 

「フィリアちゃん――うん、困ったら相談するよ! ありがとう!」

 

 彼女はニコリと笑ってあたしの手を握ってくれた。少しは元気が戻ってくれて良かったわ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「寒ぅいっ! しばれるぅ〜! どこの誰だよー? 南半球は夏真っ盛りとか言ってたのは〜?」

 

「デデデ、デース〜」

 

 寒がる響に対して切歌が手を挙げた。南極なんだから年中寒いに決まってるでしょ。

 

「夏だって寒いのが結局南極だ。ギアを纏えば断熱フィールドでこのくらい……」

 

クリスがそう呟いた瞬間に、氷を割ってレーザーが放たれて、空に穴を開けた。

 やはり出てきたか。あれがアダムの言っていた――。

 

「なかなかどうして、心胆寒からしめてくれる……!」

 

「出てくるわよ。準備は良いわね?」

 

 氷を割って、巨大なロボットのようなモノが現れた。なんか、亀みたいな形ね……。

 

「あれが。あんなのが出現する棺!? 切ちゃん、棺ってなんだっけ?」

 

「常識人には酷なことを聞かないで欲しいのデス!」

 

 調はいつものマイペースで、切歌は切歌で平常運転だ。これならいつもどおりのパフォーマンスは出来そうね。

 

「いつだって想定外など想定内! いくわよ!」

 

 ん? 意味がわかるようで、よくわからない。予想外なことが起こることくらい覚悟してるってことかしら?

 

 あたしたちは一斉に飛び降りた。 

 

「コード……、ファウストローブ……」

 

 あたしはファウストローブを身に纏い、装者たちはシンフォギアを身に纏った。そして、棺とやらとの戦闘が始まった。

 

 まずは響が突撃して、棺とぶつかり合う。互いにビリビリと衝撃波を撒き散らして、パワー勝負は膠着した。

 

「互角!? それでも――気持ちでは負けていない!」

 

 マリアがそう呟いた瞬間に、棺が口からビームを放った。あんなエネルギーの波動は見たことないわね……。

 

 あたしたちは飛び上がり、ビームを躱したが、後方で爆発して巨大な結晶が出来上がる。

 

 何あれ? あんな現象は物理の法則的にあり得ないわ。

 

「何なんだよ、あのデタラメは!? どうする、フィリア」

 

「あれは、直撃するとまずそうね。とにかく、被害を最小限に食い止めないと……」

 

 クリスの問いに具体的な回答が出来ないあたし。確かにとんでもない化物が出てきたものだわ。

 

「散開しつつ距離を詰めろ! 観測基地には近づけさせるな!」

 

 翼の指示により、全員がバラバラに飛び上がり棺に向かって攻撃する。

 

 ――雷神ノ鎚(トールハンマー)――

 

 最大級のエネルギーを込めた、雷撃エネルギーの放出。

 ファウストローブを纏ったあたしの技の中でも特に火力が強いこの技でも棺は全くの無傷だった。

 

 このように、あたしたちの技はことごとく弾かれて効果が無いように見えた。

 

 しばらく戦っていると、今度は棺は身体中からトゲのようなモノを飛ばしてきた。

 そして、そのトゲのようなモノは変形してビームをドンドン放ってくる。

 

 まったく面倒な相手ね――。あたしは少しうんざりしていた。

 

「こちらの動きを封じる為にっ!」

 

「しゃらくさいのデス!」

 

 切歌が調を抱え、ノコギリを回転させて棺のトゲを一掃する。

 

 

「群れ雀なんぞに構い過ぎるな!」

 

 クリスが銃撃で次々とトゲを撃墜していく。

 

 

「ならば行く道を! フィリア、合わせろ!」

「ええ、行くわよっ!」

 

 ――千ノ雷霆(センノライテイ)――

 

 翼が青い小刀を、あたしが雷撃の刃を同時に天空から落とし、トゲを次々と撃ち落とした。

 

「今よっ! 響! マリアっ!」

 

「うぉぉぉぉぉっ!」

 

 響の右腕のパーツがドリル状に変形する。

 

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 マリアの左腕のパーツもドリル状に変形した。

 

「「最速で最短でっ! 真っ直ぐに一直線にっ! はぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

 

 

 そして、ドリルが猛スピードで回転して、二人は手を繋いで突撃した。

 

 この攻撃によって、棺の胸の宝石が砕け散り、ようやくダメージらしいダメージが与えられる。

 

 しかし、棺は即座に反撃して、響とマリアを地面に叩きつけてしまう。

 さらにあたしたちが集まった、タイミングで棺はビームを放った――。

 

「間に合えぇぇぇぇぇぇっ!」

 

 クリスが前に出てリフレクターを展開してビームを防ぐ。しかし、それが爆発して――。

 

 

『棺からの砲撃、解析完了。マイナス5100℃の指向性エネルギー波……。――って、何よこれ!?』

 

『埒外物理学による……。世界法則への干渉……。こんなの現在のギア搭載フィールドでは何度も凌げません!』

 

 友里とエルフナインの通信が聞こえる……。

 そう、あたし以外の装者は結晶の中に閉じ込められてしまった。

 

“ごめんね、フィリアちゃん。咄嗟だったからフィリアちゃんしか守れなかったわ――”

 

“大丈夫よ。あたしさえ動ければ――”

 

「神のような力が相手なら……、あたしには、それに叛逆する力があるっ! コード、クロノスモード……」

 

 あたしの髪は金髪に変わり、身体は黄金に輝く。

 そして――。

 

 ――ループ・ザ・ワールド――

 

 響たちを閉じ込めた結晶の時をあたしは戻した。埒外物理学だろうがなんだろうが、関係ない。結晶は消え去り、響たちは解放された。

 

「さぁ、第二ラウンドと行きましょう……」

 

 あたしはエネルギーを両手に集中して、棺と対峙した――。

 




今回は割と原作沿いでしたが、棺による結晶化はクロノスモードで打ち破りました。
ここから、生存キャラもドンドン登場しますので、ぜひ次回もよろしくお願いします!


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天空(ソラ)が堕ちる日

アニメの最終回……、良かったです!こっちも完結まで頑張りますね!
今回は原作の2話の後半くらいまです。
それでは、よろしくお願いします。


「2分よ、2分以内に決着を付けるわ。あたしが決定的なチャンスを作る。あなたたちは歌を合わせて強烈な一撃をあいつの喉元にくれてやりなさい」

 

 あたしはクロノスモードの起動時間内にあの大きな棺に決定打を与えるスキを作ると断言した。

 

「なるほど、立花とマリアによって出来た破損箇所を狙うのだな。しかし、ヤツを1人で相手になど――」

 

 ――神空波(シンクウハ)――

 

 あたしの両手から繰り出される巨大な風の弾丸は周囲のトゲを吹き飛ばしつつ、棺をグラつかせて動きを止める。

 

「ご覧のとおりよ。火力じゃあ負けないわ」 

 

「――お前、段々と何でもありになってないか?」

 

 翼のセリフを背中に受けて、あたしは棺に向かっていく。

 

 ――因果ノ捻時零(インガノネジレ)――

 

 時を止めたあたしは棺に肉薄して、次々と打撃を与えて、基地から距離を離すように棺を吹き飛ばす。

 

「まだまだっ!」

 

 さらに追撃を加えようと間合いを詰めようとするが、棺は先ほどのビームをあたしに向かって放ってきた。

 

 ――神ノ息吹(ゴッドブレス)――

 

 アルカノイズのレシピを元に作り出された、すべてを分解するエネルギーの波動をビームに当てる。

 爆発と共に巨大な結晶の柱があたしと棺の間に出来上がった。

 

 第二波が来る前にっ――。

 

 あたしは棺の懐にまで潜り込み、エネルギーを身体中に充満させた。

 

 ――神皇拳(シンオウケン)――

 

 エネルギーを身体機能の上昇に極ぶりすることで、従来の数十倍にまで機能を上昇させることが出来る近距離戦専用の技をあたしは使った。

 

 アッパー一撃で棺を宙に浮かせる。そこからあたしは宙に舞って、棺の身体に猛烈な連撃のラッシュを与える。

 

 打撃のラッシュにより、棺はドンドン宙に浮かび上がって行った。

 

「――フィニッシュ!」

 

 ――掌底勁打(ショウテイケイダ)――

 

 あたしは内部にまで浸透するエネルギーの波を棺の腹に両手のひらを押し当てて放った。

 

 棺は天高く舞い上がり、弱点の破損箇所を晒した――。

 

「そろそろ時間切れね。頼んだわよ、みんな……」

 

 あたしはギアを外して力を集めている装者たちを見た。

 

「今だ!」

 

 軌道を計算していたクリスが声をかける。

 

 ―― G3FAヘキサリヴォルバー――

 

 プロテクターと固着した外殻部分を再度エネルギーへと変換。拳に集束させた後、任意のタイミングにて発射するまでが一連のシークエンスとなっている。これらを6人同時に、螺旋の一点集束させることで実現する一撃――。

 シンフォギアを脱いでぶつけるという決戦機能を棺に向かって放った。

 

 あたしでは出せない、超火力の一撃が棺の破損箇所に見事に命中し、棺は大爆発を起こしてようやく沈黙した。

 

 

 

 その後、棺の中から包帯でグルグル巻になった遺体が出てきた。あたしたちは本部のモニターでそれを確認していた。

 

 

 

「あれがカストディアン。神と呼ばれたアヌンナキの遺体……」

 

「つまりは聖骸、というわけですね……」

 

 棺の中の遺骸……、これは何を示しているのだろうか……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「へっくし。かー、この寒さプチ氷河期どころじゃないぞ……」

 

「風邪には注意しなさいよ。ちゃんと、手洗いとうがいを念入りにしなさい」

 

「へいへい、ママじゃねぇんだから、まったく」

 

 あたしとクリスは一緒に通学をしている。季節はすでに冬になり、彼女は18歳になった。

 

「クーリスちゃーん! フィリアちゃーん!」

 

 聞き慣れた声にあたしたちが振り向くと、響と未来が共にこちらにあるいていた。

 

「あーあ、ノー天気な二人組が来やがった」

「おはよう、二人とも」

 

 あたしとクリスは同時に声を出す。

 

「先輩、おはようございます。今日も寒いですね」

 

「ああ、寒いな」

 

 未来の言葉にクリスがそう返すと、なぜか響はニヤニヤしていた。

 

「寒いよねー。――でもあったかいよねー。お似合いの手袋……。ふふっ……」

 

「――っ!? 毎朝毎朝押し付けがましいんだよ、バカ!」

 

「あぁーっ!」

 

 響はクリスが誕生日にプレゼントした手袋をつけていることを付けているのをイジる。というか、毎朝やってたの? あの日から……。

 

「調子に乗りすぎ。はしゃぎ過ぎ」  

 

 未来はいろんな意味を込めて響に注意をした。

 

「だってさ、一緒に選んだあの手袋、クリスちゃんに喜んでもらえてるから、つい。手袋して休まず登校してくれるし」

 

「言われてみれば推薦で進学も決まってるのにね」

 

 そう、クリスは志望大学に推薦で入学が決まった。彼女の成績なら当然だが……。

 

「それはだな、あたしは皆より学校に行ってないから、その分をだな……。――だけど、そろそろ呑気に学校に通ってるわけにはいかないのかもしれないな……」

 

「そうね。まだ、暗躍する影は確実にいるから……」

 

 クリスも予感はしているらしい。そう、悪い予感が……。

 

 

 そして、その悪い予感は的中した。聖骸がパヴァリア光明結社の残党に狙われたのだ。

 切歌と調の活躍によりそれは防がれたが、本格的に連中が動いたというわけだ。

 

 映像で確認出来たパヴァリアの残党は見覚えのある人間だった。  

 エルザ――かつてパヴァリアの被験体で、ゲイル博士を慕っていた人間の一人……。

 

 サンジェルマンからもたらされた情報は正しかったというわけだ。

 

 そして、エルザが動いているのなら、ヴァネッサたちもきっと動いているはず。あたしたちは彼女らの次の動きに注意を払っていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それから3日が過ぎて、翼の凱旋ライブの日がやって来た。

 あたしはマネージャー、マリアはエージェントとして翼に同行している。

 

「フィリア、マリア、我々S.O.N.G.も極海にて回収した聖骸の警護に当たるべきではないか?」

 

「気持ちはわかるわ。でも聖骸の調査、扱いは米国主導で行うと各国機関の取り決めだから、仕方ないじゃない」

 

 翼の言葉にマリアはそう返事をする。彼女は真面目だからライブに集中できてないみたいだ。

 

「日本政府やS.O.N.G.に、これ以上聖遺物と関わらせたくない国も少なくないわ。強引に動くわけにもいかないことはあなたも理解してるでしょ?」

 

 あたしも情勢の話を含めて翼を諭した。

 

「せめて私たちが警護にあたれれば、被害を抑えられ……。――あ、痛っ!?」

 

「今やることとやれることに集中するの。ステージに立って歌うのはあなたの大切な役目のはずでしょ」

 

 これだけ言っても、まだ不安そうな顔をしている翼は、マリアに小突かれる。マリアの言うとおり、今はステージに集中すべきだ。

 

「むぅ……。不承不承ながら了承しよう。だが、それには一つ条件がある。フィリア!」

 

「はいはい。ちゃんと準備してるわよ。マリア=カデンツヴァナイヴとのコラボライブの準備をね。ほら、ここに衣装も」

 

 あたしは翼の指示でマリアの衣装を持ってきた。 

 実は翼から相談を受けていて、サプライズを計画していたのだ。

 

「はぁ? そんなの無理よ、出来ないわ」

 

 案の定、マリアは顔を真っ赤にして拒否の姿勢を見せた。まったく、唐突にヘタレになるんだから。いつもは勇ましいのに……。

 

「いつか私と歌い明かしたいと言ってくれたな」

 

「でも、私には……」

 

 マリアは自信なさそうに目を伏せる……。あー、じれったいわね。

 

「私は歌が好きだ。マリアはどうだ?」

 

「つっ、翼……」

 

 マリアは翼の熱意に押されて出演を了承した。あたしはマリアの歌も聞けるので嬉しかった。

 

 

 さて、何も起きなきゃいいんだけど……。

 

 

 

 会場は非常に盛り上がっており、観客席はほとんど満席だった。

 響たちは渋滞に嵌って遅れていると連絡が先ほど入った。

 

 

 ―― Everyonez Diva Tsubasa and Maria ――

 

 マリアの名前が出た瞬間、観客はざわめき熱狂した。やはり、歌姫、マリア=カデンツヴァナイヴの名前は絶大ね……。

 

 

「絶対に折れ――♪ ここに――♪」

 

 ライブがついに始まった。二人の歌声に観客は盛り上がり、そして惹きつけられていた。

 

 滑り台を降りながら、翼とマリアが現れると、観客は更に盛り上がった。

 

「絶え間なく――♪ それでも熱く――♪」

 

 二人のパフォーマンスは見事だった。まったく、ほとんど打ち合わせしてないのによく合わせるわね……。

 

 そんな中であたしは観客席の中に見覚えのある銀髪の女を発見した。人間時代のあたしと瓜二つの顔をした、あの女を……。

 間違いない、あれは――フィアナだ! どうしてこんなところに……。  

 

 あたしは彼女の元に急いで近づいた――。

 

「久しぶりね。フィアナ……」

 

「あらぁ、フィリアちゃんじゃなぁい。ご無沙汰ぁ。ゴホッ、ゴホッ……」

 

 フィアナは相変わらずのノー天気な口調で話していたのかと思うと、苦しそうな顔をして咳き込んでいた。  

 

「フィアナ、あなた大丈夫なの? 体を悪くしたんじゃあ……」

 

「うふっ、変わらないわね。フィリアちゃんの優しいところ……。でも、ね。目的は果たさなきゃ駄目なの。ドクターを神にするために、ね!」

 

 フィアナは首元にLiNKERを突き刺して――聖詠を唱えた。

 

「phili joe harikyo zizzl……」

 

 フィアナは銀色のギアを身に纏う。浄玻璃鏡のシンフォギアを――。 

 

「コード……、ファウストローブ……」 

 

 あたしは銀色のファウストローブを身に纏い、フィアナと戦闘を開始した。

 

 あたしの拳とフィアナの拳がぶつかり合う。

 

「――その、パワー……! 以前とまるで違うッ!」

 

「そりゃあ、ドクターから新型のLiNKERを作って貰ったもん。愛の力は何よりも強いのよっ!」

 

 イグナイトにも匹敵する火力……! ギアも改造してると見て良さそうね……。

 

 

 会場はざわめいて、騒ぎになった。そりゃあそうだ。人形とシンフォギアが戦いを始めたのだから……。

 

 しかし、あたしは少しだけ安心した。フィアナは会場の人間に危害がないように得意のビームを放ったりしていない。

 関係ない人間には被害が及ばないように考えている。

 

 そもそも、こんなところにアルカノイズなんか出されたら、それこそ大惨事だ……。

 

 翼もマリアもギアを纏ってこちらに来ている。これなら簡単にフィアナを取り押さえて――。

 

“フィリアちゃん、上を見なさい!”

 

 そんな中、フィーネが久しぶりに声を出した。

 

 空には大量のアルカノイズの錬成陣が浮かび上がっていた。

 

「何よ、あれっ! フィアナ! あなたはっ――!」

 

 あたしはフィアナを非難した。まさか、本当にコンサート会場にアルカノイズをけしかけるなんて……。

 

「――まさか、聞いてないわぁ……。ドクターがこんな指示出すはず……、ゴホッ、ゴホッ」

 

 いや、出すでしょ。あの人でなしの大馬鹿者なら。しかし、フィアナは聞いてなかったのかもしれないわね……。ならば――。

 

「ボロボロのてめぇは見捨てられたのさ。ドクターに、な。当たり前だろ、ドクターは私らのもんだ」

 

「ミラアルク……がはっ――」

 

 フィアナの腹が赤色の刃によって穴が開けられる……。そして、あたしにその切っ先が向く。

 

「フィアナ……!」

 

「てめぇの弱点は知ってるぜ! お前ら姉妹を葬れるなんて、サイッコーだぜぃ! ドクター特製の浄玻璃鏡の制御光線を喰らえッ!」

 

 そのまま切っ先から赤色の光線が放たれて、あたしにそれが直撃した――。

 

「這いつくばって見てな! てめぇらの無力さを感じながらなっ! フィアナ、フィリアと同じ顔のクセにドクターの特別って顔をしてたのが気に食わなかったぜ!」

 

 ミラアルクは倒れたフィアナの顔を踏みつける。なんか、とんでもない私怨を感じるわ。

 

「さぁ、始まるぜ! コンサートの第二部だぁぁぁ! あっはっはっは」

 

 高らかに笑うミラアルク。翼とマリアも、空に大量のアルカノイズが出現して驚愕の表情を隠せない……。

 

 ――そして、天からアルカノイズたちが落ちてきた……。

 

 ミラアルク……、まだ、あたしは絶望してないわよ!

 

「コード、クロノスモードッ!」

 

 あたしの身体が黄金に輝いた。これで、アルカノイズたちを一掃してみせる。

 

「――なっ、てめぇ動けるのかよ!」

 

 ミラアルクが驚愕してあたしを見たとき……。

 

 コンサート会場を守るように巨大な錬成陣構成された。そして……、落ちてくるアルカノイズを次々と分解して消し去っていった。

 あの錬成陣はまさか……。彼女たちが……?

 

「はぁぁぁ!? どうなってやがるっ!」

 

 ミラアルクは上空の巨大な錬成陣を目を見開いて口もポカンと開けて眺める。

 

 

 

 

「やはりお前たちが動いていたというワケダ……!」

「あーしらが、下手な陽動に気が付かないわけ無いじゃない!」

「ミラアルク! 貴様らの蛮行を見過ごすわけにはいかないわ!」

 

 上空で巨大な錬成陣を作り出したのは3人の錬金術師たち――。

 ライブ会場への奇襲はギリギリのタイミングで回避された。しかし、依然として会場には14万人もの人たちがいる。

 あのような、惨劇だけは二度と起こさせない。あたしは、あの日つかえるようになった錬金術に誓ってそう決意した。

 




次回、補足しますが、サンジェルマンたちがギリギリだったのは、ノーブルレッドからの偽情報で陽動を仕掛けられたからです。彼女たちは独自に情報を掴んでコンサート会場までやってきたので、S.O.N.G.の面々は何も知らずにいました。
フィリアに制御光線が効かなくなった理由も次回に説明します。


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創られた姉妹

最初に謝罪をさせてください。感想欄でのご指摘を受けて再度原作を見返したところ、棺からの遺骸はエンキではありませんでした。これは、本当にやってはならないミスでして、ご指摘には感謝しかありません。
なので、前回の話のフィーネの下りは丸々カットして書き換えました。ホントに油断が招いた結果で白けさせてしまいましたので、申し訳ないとしか言えません。
今後、同じようなミスを犯さぬように、気を付けます!
猛省してます。

それでは、それを踏まえた上で今回もよろしくお願いします!


 ――ループ・ザ・ワールド――

 

 あたしのこの技はだいたい72時間以内の時を戻すことが可能だ。

 フィアナの弱った体を治すことは出来ないけど、せめて傷の治療を……。あたしは妹の傷の手当てをした。

 

「フィリアちゃん……、なんで私を……? 私は裏切ったのよぉ。マリアも切歌も調も……、あなたも……。ドクターに捨てられた私なんてもう生きる価値ないんだからぁ。死なせてよ……」

 

 怪我が治ったフィリアは情けない顔になり、自棄を起こしていた……。

 この子は自分を大事にしない……、少し前のあたしだ……。

 

「例え、あなたがあたしを嫌いでも、関係ない。あなたに価値が無いなんてことはないのよ。たった一人の妹なんだから。あたしには、あなたが大切なの!」

 

 あたしは体が治っても虚ろな顔をしている妹に自分の気持ちを伝えた。

 正確には血の繋がりとかはないけど、生まれたときから大きくなるまでずっと一緒だった。

 子供の頃はこの子の明るさに助けられたことも沢山あったんだ。

 

「フィリアちゃん……、バカな子になったわねぇ……」

 

「いろいろとあったのよ。でもね、今の自分が結構好きなの。あたし」

 

「もぉ、敵わないなぁ。お姉ちゃんには……」

 

 フィアナはクスリと笑って……、ギアを解除してその場に座り込んだ。

 「お姉ちゃん」って、何年ぶりに呼ばれただろうか……?

 

「そこで、待ってなさい。終わらせてくるから」

 

 あたしはフィアナにそう声をかけて、ミラアルクの元へ向かった。

 

 マリアと翼がミラアルクと戦っている。しかし、妙だ……、あたしの知ってるミラアルクはスペック的にシンフォギアに劣る。

 

 しかし、翼とマリアは完全に彼女に圧されていた。

 

「オラオラオラオラッ――! こっちはイラッとしてんだぜ! せっかくの計画を台無しにされてなァ!」

 

 翼とマリアが吹き飛ばされる。あの火力……、イグナイトモジュールを使ったような力強さだ……!

 

 サンジェルマンたちは巨大な結界錬成陣を作ってるから動けないし……。ここは、あたしが……。

 

「ほらほら、不完全なうちよりも、お前らが弱っちぃせいで、関係ない人間共が死んじゃうんだぜ! こんな風になぁ!」

 

 ミラアルクは腕を変形させて、女の子を突き刺そうとする。めちゃくちゃするのね。さっきから……。

 

 ――因果ノ捻時零(インガノネジレ)――

 

 あたしは時を止めて、ミラアルクに接近して殴り飛ばした。

 

「ぐっ――! それが噂の時間停止能力かっ! ドクターの特別を貰いやがって、クソアマがっ! お前だけは許せないんだぜ!」

 

 ミラアルクがあたしをターゲットにして、攻撃をしようと接近して来た。まっすぐ向かって来るなんて……。でも、チャンスね……。

 

 あたしはミラアルクを迎撃しようと、手からエネルギーの塊を放った。

 

 しかし、ミラアルクの前に出てきた巨大な影があたしの放ったエネルギーの塊を飲み込んだ。

 

「――っ!? あっあなたは!」

 

「ドクター! うちを守るためにっ!」

 

「んー、高濃度の錬金エネルギー……、久しぶりに脳が蕩けるような味がしますねぇ。んふっ」

 

 突然現れた影の正体はウェル博士……。

 彼は大きなネフィリムの顔のような右腕であたしの錬金術での攻撃を吸収してしまったようだ。

 

 まったく、出てくる度に厄介な男になっている……。

 

「ミラアルク、困りますねぇ。お仕事を忘れては……。僕は君が使えると見込んでお願いしていたのですよ」

 

 ウェル博士はやれやれという仕草で、ミラアルクに話しかけた。

 

「――面目ないんだぜっ……。ドクター、うちを見捨てないでほしいんだぜ……!」

 

「バカな子ですねぇ。僕は君を見捨てたりはしませんよ。従順で使える内は、ね。さぁ、任務を果たしてください」

 

 異常にウェル博士に媚びる態度のミラアルク……。フィアナとも違う感じがするわ……。

 

 

「承知したんだぜっ! うちのターゲットは――風鳴翼っ!」

 

 ミラアルクはウェル博士の命令で猛スピードで翼の元に向かって行く。行かせないわよっ――。

 

「フィアナ、最後の命令です! 僕のために死になさい!」

 

 あたしが動こうとしたとき、ウェル博士がそんな戯言を述べた。何を言ってるの?

 

「――はい、ドクター……」

 

 フィアナは力無く返事をして、胸の内ポケットからナイフを取り出して……、おもむろに自分の胸を刺した――。

 

「さぁて、フィリア、どうしますかぁ? 再び時間を戻してフィアナを治さないと死んじゃいますよ〜」

 

「――この下衆がっ!」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべるウェル博士の言葉を背中に受けて、あたしはフィアナの元に向かう。

 フィアナは心臓を刺したように見えた。

 ループ・ザ・ワールドは対象に触れなくては発動出来ない。そして、死者は蘇生出来ない……。その摂理は覆すことは叶わない……。

 

 

 

「お姉ちゃん、ごめんなさぁい。暗示にかけられていて……、ドクターの命令は絶対なのぉ……、ゴホッ、ゴホッ……」

 

 胸の脂肪が邪魔をしたおかげで、フィアナの突き刺したナイフは深く内蔵を傷つけるに至ってなかった。

 あたしは間一髪で彼女の命を助けることが出来た。

 

「気にしないで、あなたはあたしが守るから……」

 

 ウェル博士の狙いはわかってる。あたしをフィアナに釘付けにするつもりだ。

 

 そして、そのウェル博士自体はマリアにちょっかいを出していて、その間にミラアルクは翼を集中的に狙って、蹂躙していた。

 

 あの、翼が手も足も出ないなんて……。そんなバカなこと……。エルザは切歌と調が迎撃したというのに……。

 

「風鳴翼……、お前は無力だ! 何も守れないんだぜ」

 

 ミラアルクが腕をふるうと、逃げ遅れた人々が鎌鼬にあったように体中が斬り刻まれて血まみれになる。

 

「うわぁぁぁぁっ! 貴様っ!」

 

 翼は激昂してミラアルクに斬りかかる。

 

「刻印――侵略っ!」

 

 そのタイミングでミラアルクの目が妖しく光る。あれは……、何かしら?

 

 あたしが疑問に思ってると、空中から降り注ぐアルカノイズを片付けたサンジェルマンたちが地上に降りてきた。

 

「ミラアルク……、貴様っ! これ以上の蛮行は許さんぞ」

 

 サンジェルマンは銃口を彼女に向けて、銃弾を連射した。

 

「――けっ! サンジェルマンか! お前らのくだらねぇ研究でうちらは人間じゃなくなったんだぜ! それで蛮行だなんて、どの口が言うんだぜっ!」

 

 翼の斬撃とサンジェルマンの銃弾を器用に弾いたミラアルクは空高く舞い上がり――、テレポートジェムを使って消えてしまった。

 

 多勢に無勢と判断して逃げたか……。いつの間にか、ウェル博士も消えてるし……。

 

 

 ライブ会場は多数の重軽傷者が出たが……、奇跡的に死人は出なかった……。

 

 サンジェルマンたちが来なかったら、どうなっていたか分からないわ……。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「翼くんとマリアくんは検査入院か……、そして、フィリアくんが確保したフィアナ=ノーティス。君の妹も現在、メディカルルームで精密検査中……。洗脳に、体内汚染、内臓の機能低下……、かなり危険な状態だったようだ。様々な生体実験に体を使われていた形跡も残ってる」

 

 弦十郎は翼とマリアの現状とフィアナの容態を説明した。

 自業自得の部分もあるが、彼女の体は生きていることが不思議なくらいボロボロだったらしい。現在は手術を終えて熟睡しているようだ。

 

「それでも、無事でいてくれて良かったわ……。まさか、翼たちのライブであんなことになるなんて……」

 

 あたしは頭を抱えたい気分だった。ウェル博士とパヴァリアの残党……。この組み合わせがあそこまで狂気に満ちた行動をとるとは……。

 

 ラピス・フィロソフィカスを完成させて、核を守るようにコーティングさせてなかったら、最初のミラアルクの奇襲を受けて、おそらくあたしは詰んでいただろう。

 

「サンジェルマンくんたちが居なかったら、我々は多大なる犠牲を許していただろうな。想像するだけで恐ろしい……」

 

 弦十郎の言うとおりだ。普通の人間はアルカノイズに触れるだけで分解されてしまう。

 そんなアルカノイズが14万人もの人間が密集している所に大量に降り注ぐなんていうことを許していたら――。例え、あたしたちが全力でアルカノイズたちを倒したとしても……、大多数の人間は犠牲になっていたに違いない。

 

 怪我人は出たが、死者が一人も出なかったということは奇跡に近いことなのだ。

 

「で、あたしたちはどうして集められたんだよ? おっさん」

 

「アナ姉の体は確かに心配デスが、それだけではなさそうデスね」

 

 クリスと切歌が招集をかけられた理由を尋ねる。

 

「君たちを招集したのは他でもない。新しい仲間を紹介したいからだ。期間限定ではあるが、S.O.N.G.は特例により、ある協力者たちを迎え入れることが許された。入ってくれ」

 

 弦十郎の言葉によって入って来たのは3人の錬金術師……。サンジェルマン、カリオストロ、プレラーティ――パヴァリア光明結社の元幹部である。

 

 彼女たちはパヴァリア残党の始末が済むまでという期間限定でS.O.N.G.の協力者として本部に所属することとなった。

 

「あはっ、サンジェルマンさん! 一緒に戦ってくれるんですね……!」

 

 響はサンジェルマンに手を差し出した。なんだかとても嬉しそうね……。

 

「――立花響か。いや、私は……」

 

 サンジェルマンは手を伸ばすかどうか迷ってるようだ。まったく……、堅物なんだから。

 

 

「ほら、これでいいでしょ?」

 

「――っ!? フィリア……!」

「えへへっ、今日から仲間ですね!」

 

 あたしは強引にサンジェルマンの手を響の差し出した手に触れさせる。

 そして、サンジェルマンは観念して響の手を握った。

 

「ふっ、サンジェルマンも丸くなったわねぇ」

 

「時々、笑うようにもなってるワケダ」

 

 カリオストロとプレラーティは微笑ましいモノを見るような目で彼女を見ていた。

 

「まさかテメーらがあたしらの味方になるのはな」

 

「でも、イグナイトが使えなくなった今、強い味方はたくさん居たほうがいい」

 

 クリスの言葉に反応した調はそう言った。

 そう、アダムとの死闘で無理をした結果、決戦機能としてのイグナイトが使用不可となってしまったのだ。  

 先日の翼やマリアがミラアルクに一方的に蹂躙されたのにはこのような背景もある。

 

「ギアについては私たちに強化する考えがあるワケダ」

 

「フィリアちゃんがパワーアップのヒントを出してくれたもんね」

 

 アダムとの戦いであたしが苦し紛れに行った黄金錬成……、これをヒントにシンフォギアの強化計画が彼女らから考案された。

 あたしとエルフナインを含む5人の錬金術師が総出で尽力する予定である。

 

「顔合わせも終わったところでサンジェルマンくんから、パヴァリア残党について分かった事実を話してもらおう」

 

 しばらくして、弦十郎はサンジェルマンに話を振った。

 

「パヴァリア光明結社の元構成員、ヴァネッサをリーダーに、エルザ、そして先日ライブ会場を襲ったミラアルク。この三人にウェル博士を加えた組織は自らをノーブルレッドと称して活動している。連中の目的は神の力よ」

 

 サンジェルマンは淡々とわかったことを報告した。

 ノーブルレッド……、高潔な血という意味かしら? あたしはそのネーミングに彼女らの本質が隠されている気がした。

 

 

「それでは、本日のブリーフィングを終了する……」

 

 弦十郎がそう言って今日の話を締めた。

 

 実は今日のあたしは人と会う予定がある。故に、本部を出たあと、あたしは待ち合わせの場所に向かって歩いているのだ。

 待ち合わせの場所はあるホテルのレストランだ。

 

 

 

 あたしが待ち合わせ場所に辿り着くと、すでに赤い服を来た金髪の少女があたしを待っていた。

 

「久しぶりね。キャロル」

 

「ああ、久しいな。フィリア……」

 

 規格外の錬金術師、キャロルとあたしは久しぶりに直接顔を合わせた――。

 




どんどん集まる生存した勢力という序盤戦です。
次回もよろしくお願いします。


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渦巻く陰謀

今回はキャロルとフィアナの話を聞く回です。
原作よりも早く黒膜が判明します。



 あたしとキャロルは食事をしながら話を始めた。彼女から日本に来たのはチフォージュ・シャトーへの侵入者を探るためだった。

 

「覚えているか? お前がその身体に魂を移した時に身を寄せていた、この国の研究施設を……」

 

 キャロルはあたしにゲイル博士とともに潜伏していた施設の話を持ち出した。

 もちろん覚えてる。聖遺物と錬金術の研究をしてる施設で日本の国防と関わっていた裏の存在だ。

 

「あの施設に一つ気になる研究資料が存在していた。その資料はお前がその身に魂を移したあの日の前日に他の機関にデータを移動させて、ダミーの研究と入れ替えられていた。実に巧妙なやり方でな、オレも逆から辿って無かったら気付かなかった」

 

 キャロル曰く、あの日の前日に消えた、謎のデータがあの施設にあったみたいだ。

 確かに恣意的なモノを感じるわね。翌日にあの施設は壊滅してほとんど何も残らなかったみたいだし……。

 

「確か、あの施設はフィーネが自らの計画の邪魔になるような研究をしてるという情報を掴んで潰そうとしたはずよ。《ノイズ》をけしかけて、念入りに。ソレは本人から聞いたから間違いないわ」

 

 あたしはフィーネから以前に聞いた情報を伝えた。まぁ、あたしの存在はホントに知らなかったらしいけど……。

 

「フェイクだ。それは、すべて……。裏で糸を引いてる奴がわざと情報を流したのだ。その研究を知る者を皆殺しにするためにな。そして、もう一つの理由は記憶を失ったお前を手元に置くためだ」

 

 キャロルは淡々とした口調でとんでもない事を語る。それじゃあ、あたしが記憶を失ったのはゲイルの暴走じゃなかったってこと? 手元に置くためって、それじゃまるで特異災害対策機動部が……。

 

「お前はそこに入るように仕向けられていたのだ。まぁ、奴は風鳴弦十郎の娘になるまでは予想してなかっただろうがな……」

 

 キャロルの言ってる《奴》について思いつく人物をあたしは一人だけ知っている。

 それは、国防の鬼――。

 

「まさか、風鳴訃堂だとでも言うの? すべてを影から掌握していたのは――」

 

 あたしはキャロルに確かめるように質問した。

 彼の思惑ならあっさりと弦十郎の養子になれたことも納得できる。

 

「そのとおりだ。風鳴訃堂の目的は神の力の掌握。奴はこの国の防衛の為にすべてを手に入れようとしている。そして奴の欲した研究の正体は《神殺し》よりもある意味恐ろしい……。その力は神を隷属せしめる、人に許されざる力――哲学兵装《神隷(シンレイ)》の力……」

 

 キャロルから語られる訃堂の壮大な野望。神を付き従えるって、なんて傲慢な思想なの?

 

「古来より伝わる聖遺物――《アロンの杖》。第二次世界大戦以前には大した力はなかったらしい。しかし、凄惨な戦争により苦しむ人たちの神に助けを求める願いが歪み、その重なり合った言葉には力が生まれた。《アロンの杖》は脆弱な人間が神に頼ろうとする想いを束ねて、神を自在に従属させる力を宿したのだ」

 

 キャロルの語る聖遺物――《アロンの杖》……。これが本当に神を自在に操るものならば、あの男に持たせるのは危険すぎる。

 

「奴は既にアロンの杖の起動に成功している。そして、神の力も何かしらの方法で得ようとしてるはずだ。オレの城にちょっかいをかけたのもその為だろうな」

 

 彼女の言葉から推測できる事柄は一つ……。

 ヴァネッサたち、パヴァリア光明結社の残党のスポンサーっていうのは――。

 

「風鳴機関――。すべての陰謀の元凶はそこにあるのね……」

 

 あたしがそう呟くと、キャロルはゆっくりと頷いた。

 

「灯台もと暗しということわざがこの国にはあるようだな。まさにその通りの現象がお前らの元で起こっていたと言うわけだ。オレはもうしばらく、この国を探る。奴の行おうとしてることは、パパの命題の答えに反するものだからな」

 

 ここまで話をしたところで、キャロルはあたしと別れた。

 S.O.N.G.に来ないかと誘ったが、一人のほうが動きやすいと言われて断られてしまった。

 

 でも――。

 

「お前が困っているときには、必ず力になってやる。お前は、パパが愛した人だから……」

 

 最後に彼女はそう言い残して去って行った。

 

 頼りにしてるわよ。キャロル……。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 翌日……、フィアナは目を覚ました。そして、重要参考人として両手を拘束された彼女があたしたちの前に連れてこられた。

 

「はぁい、久しぶりねぇ。マリアちゃん、調ちゃん、切歌ちゃん」

 

 フィアナはいつもの感じで、マリアたちに声をかけた。

 目に力は無かったが……。

 

「フィアナ……」

 

 マリアが彼女の前に立つ。マリアはあたし以上にフィアナの事を怒ってるかもしれない。あたしよりも長年一緒に居たのに、全部投げ出して、裏切ったんだから。

 

「マリアちゃん、私……。――えっ!?」

 

「――良かった。あなたが生きててくれて、本当に良かったわ」

 

 マリアはフィアナを抱きしめて涙を流していた。

 誰よりも仲間想いでみんなのリーダーだった彼女の器は大きかった。あたしはマリアの思いやりに感謝した。

 

「マリアちゃん……、ありがとう……。――痛だいっ、あにをふるほぉ(何をするの)……?」

 

 そして、マリアはフィアナの両側のほっぺを思いきり抓った。フィアナは口をびろーんと伸ばされて変な顔になる。

 

「でも……、切歌も調も怒ってるのよ! この子たちの見本になるように自覚を持てって何度言ったらわかるのよっ! そもそも――」

 

 以下、10分ほどマリアの説教が続く。あたしもフィアナもマリアに昔から怒られてばかりだった。

 そのせいで、今でも彼女のお説教はついつい姿勢を正して聞いてしまう……。

 

「何でリア姉も緊張した顔をしてるんデスか?」

 

「2人まとめてよく怒られてたからだよ切ちゃん」

 

 切歌と調はあたしが固まってマリアの話を聞いていることにツッコミを入れた。

 

「あたしの素行の話は良いでしょ。最近だとチフォージュ・シャトー落っことした以外に何もしてないもん」

 

「フィリアくん。ちゃんと反省してるんだよな? オレだって、かなり怒られたんだぞ。時々、君のそういうところが不安になる」

 

 弦十郎にジッと睨まれてあたしは口を閉じた。やはり、フィアナが絡むとあたしにもとばっちりがくる。

 

「まぁ、マリアくんもその辺にして、だな。話してもらおうか。ウェル博士の企みとやらを」

 

 弦十郎はフィアナに本題の話を切り出した。

 そう、彼女にはノーブルレッドの目的を話してもらわなくてはならない。

 

「ドクターの目的は神を超える存在になることよぉ……。ネフィリムに神の力を付与させた聖遺物を喰らわせてその力を得ようとしているわぁ」

 

 フィアナはウェル博士の目的を話した。暴食の名を持つ生きた聖遺物、ネフィリムを存分に活かせるように考えて動いてるみたいね……。

 

「ウェル博士はあたしの放ったエネルギーの塊も吸収してたみたいだけど……」

 

 あたしはあの時、ミラアルクを彼が庇ったときの話を持ち出した。

 

「ミラージュクイーンはドクターに一度食べられてるでしょー。お姉ちゃんの錬金術はミラージュクイーンを媒体にしてるから、錬金エネルギーを再分解してるんだと思うわぁ。つまり、錬金術の発動の真逆の運用をしてるってことなのぉ」

 

 つまり、あたしの錬金術はネフィリムに食べられちゃうってこと? 何それ、面倒なんだけど……。

 

「日本からのスポンサーが居たらしいが、それについて思い当たるところはあるか?」

 

 弦十郎はもう一つの大事なポイントをフィアナに質問した。

 

「もちろんよぉ。あなたたちも、よぉくご存知のぉ。風鳴家の当主、風鳴訃堂……、彼があたしたちを支援していたわぁ」

 

 やはり訃堂はノーブルレッドと繋がっていた。昨日のキャロルの話がこれで裏付けられる。

 

「そっそんな、まさか……」

 

 次期当主の翼は驚愕の表情を浮かべていた。この話が本当なら、ライブ会場襲撃も彼の意志によるものとなる。

 

「やはりそうか……」

 

 あたしから昨日のキャロルの話を聞いている弦十郎は苦虫を噛み潰したような表情でそう言った。

 

「最後の質問だ。先日のライブ会場襲撃の目的はなんだ? どうして、あのようなことをした?」

 

 弦十郎はもっとも気になるライブ会場襲撃の目的を話すようにフィアナに促した。

 

「それが分からないのぉ。私はライブ中に適当に暴れて翼ちゃんやマリアちゃんの気を引けとしか指示されてなかったからぁ。アルカノイズを使うことさえ知らなかったわぁ」

 

「脈拍数、心拍数、共に正常。嘘は付いてないようですね」

 

 フィアナの分からないという答えを緒川が分析する。

 どうも、翼に何かすることが目的みたいだったけど……。彼女も何ともなさそうだし……。

 うーん、不思議ね……。

 

「わかった。体調不良にも関わらず、ご苦労だったな。フィアナくん」

 

 弦十郎はフィアナを労うような言葉をかける。

 彼女は包み隠さず話してくれたし、ようやくあの大馬鹿者の呪縛から解放されたみたいね。

 

「お安い御用よぉ。もっとも、ドクターは私から情報が漏れることは当然計算ずくでしょうけどぉ」

 

 フィアナはそう言い残して、緒川に連れられてメディカルルームに戻って行った。

 治療すれば、ある程度は良くなるみたいだけど……、もうギアを纏うのは無理そうね……。

 

「しかし、フィアナくんが言うように我々に情報が漏れてることも計算されているとなると……。早い内に大きな動きがあると見て良いだろう――」

 

 弦十郎がそんなことを言っていたときである。

 けたたましいアラーム音と共に米国から入電があった。

 

「米国、ロスアルモス研究所がパヴァリア光明結社の残党、ノーブルレッドとおぼしき敵性体に襲撃されたとの報せです!」

 

「なんだと!?」

 

 藤尭が入電内容を報告した。やはり、大きな動きがあったか。

 あたしたちはこれから更に大きなことが起こることを確信した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「昨日の入電から丸一日。目立った動きはなさそうだな。兄貴はどう見ている?」

 

 翌日のブリーフィング中、八紘からS.O.N.G.に通信が入った。

 

『ロスアルモス研究所は米国の先端技術の発信地点。同時に異端技術の研究拠点でもある。そちらからの情報も含めて考えると、米国が黒幕の可能性はほぼゼロに等しいだろう』

 

「米国の異端技術って……」

 

「ああ……、断言は出来ないが、ロスアルモス研究所はかつてF.I.S.が所在したと目されているところだ」

 

 八紘の言葉に反応した調に対して、弦十郎がロスアルモス研究所とF.I.S.との繋がりを話した。

 

『かつての新エネルギー、原子力の他……。エシュロンといった先端技術もロスアルモスでの研究で実現したと聞いている』

 

「そんなところを襲ったってことは、やっぱり何か大事なものを狙ってデスか!?」

 

 八紘の話に今度は切歌が質問をする。

 

『伝えられている情報ではさしたる力も無いと思われるいくつかの聖遺物……、そして……』

 

「これって……。やっぱ、そう来るのか」

 

 クリスが画面を凝視してそう呟いた。

 画面に表示されたのは、聖骸の腕に付けられていた腕輪……。

 

『極間にて回収された先史文明期の遺産。腕輪に刻まれた文様を楔形文字に照らし合わせるとシェム・ハと解読出来る箇所があるそうだ』

 

「シェム・ハ――シェム・ハの腕輪」

 

 翼は八紘の言葉を復唱する。シェム・ハというのはあの遺骸の名前かしら?

 

“確かにアヌンナキの中にそんな名前の方も居たわ。とても強い力を持っていてねぇ。特に言葉を――あれ? ――うん、あの御方と並ぶくらい凄い力を持っていたわ”  

 

 フィーネはシェム・ハはアヌンナキの名前だと言った。そんな神様みたいな力を持つ者が何人も居たみたいな口ぶりね……。

 あと、何か言いかけたような……。

 

『事件解決に向け、引き続き米国政府には協力を要請していく。これが私の戦いだ』

 

 八紘は米国との関係改善に尽力している。過労寸前まで働いているから心配になるくらいだ。

 

「恩に着る。八紘兄貴……。あと、鎌倉の件だが……」

 

『うむ、事実無根とのことだ。さしたる証拠もナシに夷狄の発言を鵜呑みにするなと付け加えてな』

 

「そうか……。証拠もナシにか……」

 

 八紘は訃堂がしらを切っていると漏らした。それを受けて弦十郎は何かを決意したような顔をしていた。

 

 どっちにしろ、ウェル博士と訃堂の目的は将来的に対立するはず。ともすれば、あたしたちと三つ巴の戦いになるかもしれない。

 

 神を超える力を手に入れようとする者、神を従えようとする力を得ようとする者……、あたしたちは、またもや神とやらに振り回されてしまうのだろうか――?




ウェル博士と訃堂は共に大きな目的を持ってます。そして、お互いに利用し合ってますが……。
次回もよろしくお願いします!


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レイライン強襲

今回は完全にオリジナルエピソード。
時系列的には原作の4話くらいです。


 

 

 剣を構えた翼が殺気を放ちながら、あたしに突き技を放つ。

 

「――はっ!」

 

 スウェーで翼の剣を避けると髪の毛が数本飛んでいく。

 

「技が素直すぎるっ! はっ!」

 

 視線と僅かな切っ先の向きでフェイントをかけてつつ、あたしは掌底を翼の胸に押し当てる。

 

 そして、彼女がバランスを崩した瞬間にあたしは彼女の首元に刃を向けた。

 

「――ぐっ! また、私の負けか……」

 

 翼は心底残念そうな顔をする。確かに今日は彼女の5連敗だ。

 いつもの精細さが欠けている。

 

「どうしたの? いつもの沈着冷静な動きが出来てないわよ。焦っているの?」

 

「このままだと……、また前のようなことが起こるやもしれん! 防人として、私は強くあらねばならないのにっ!」

 

 どうやら前回のミラアルクとの戦いに敗れたことが尾を引っ張ってるみたいだ。

 

「一人で勝てないなら仲間と勝てばいいじゃない。あなたは一人じゃないんだから……」

 

 あたしは翼にそう言った。ギアの出力も足りてない今はそうやって攻撃力を上げる他ない。

 チームワークで歌を合わせれば、負ける相手だと、あたしは思ってなかった。

 

「――っ!? いつの間にか誰よりも強くなっているお前には、私の気持ちはわからんよ。フィリア!」

 

 翼は突き放すような言い方をした。この余裕のなさは変だ。こんな事を言う子じゃない。

 

「翼、あなたどうしたの? やっぱり変よ……」

 

 あたしは彼女の様子がおかしいと正直につげた。負けたくらいでここまで憔悴するのには、違和感がある。

 

「すっすまない、フィリア。少々取り乱した……」

 

 翼は首を横に振って、鍛錬室から走って出ていった。

 あたしも走って追いかけたが……。

 

「あっ――!」

「えっ!? 響っ!?」

 

 曲がり角であたしと響がぶつかってしまった。

 急いで曲がったから不注意だったわ。

 

「ごめん、響。ちょっと、翼を追っていて……」

 

「えっ、翼さんを? 何かあったの? フィリアちゃん」

 

 あたしが急いでいた理由を話すと、響は当然翼のことを尋ねてくる。

 この子にも相談してみようかしら……。

 

 あたしは翼のことを話した。

 

「翼さんが、そんなことを……。確かに変だね。よーし、じゃあ今度みんなで前みたいにカラオケ行こうよ! 名付けて翼さんを元気付ける会を開こう!」

 

 響は自分なりに考えてモノを行ったのだろう。自信満々な顔してるし。

 うーん、カラオケねぇ……。

 

「翼が乗り気になってくれるかしら?」

 

「大丈夫だよっ! フィリアちゃん。みんなで誘えばきっと付いてきてくれるよ!」

 

 ニコリと笑って響はあたしの手を握ってくれた。この子が大丈夫って言ったんだ。信じてみよう。

 

「ありがとう。響……」

 

「うん! 楽しみにしててね!」

 

 そんなことを響と話していると、警報が鳴り響いた。

 あたしたちは、司令室へ向かった――。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「緊急事態だ! アウフヴァッヘン波形を観測したかと思えば、レイラインから巨大なエネルギーの抽出を観測……。どちらもまったく別の場所で、だ。君たちは2つのチームに分かれて動いてもらおう」

 

 装者たちと、錬金術師たちが集まり、弦十郎の指示に従い二手に分かれる。

 

 結果、連携を取りやすくする為に、シンフォギアチームと錬金術師チームに分かれて動くことになった。

 

 あたしたち、錬金術師チームは以前にサンジェルマンが神の力を得るための儀式を行った神社へと向かった。

 

 

 

「あれは――まさしく神の門……!? まさか、あれをいとも簡単に開けてしまうとはっ!」

 

 サンジェルマンは驚愕した表情で再び光り輝くこととなった地上のオリオン座を凝視していた。

 

「あたしの『コード、ラグナロク』と同じメカニズム……。ウェル博士はゲイル博士と同様の理論を確立してたみたいね」

 

 自分の機能については理解できている。しかし、困ったことになった。こんな事なら《神殺し》の力を持つ響を連れて来るべきだったのかもしれない。

 

「原罪を背負う人間は神の力は拒絶されるハズなワケダ」

 

「あれを見て! あれって自動人形(オートスコアラー)? フィリアちゃんそっくりねぇ」

 

 プレラーティの疑問に対する答えのように、光の柱の中を宙に浮いている人形。

 見た目は黒髪であたしとそっくりだ。まったく、趣味が悪い……。

 

 まさしく、ティキやあたしが神の力を得たときと同じ現象が起こっていた。

 

 

「とにかく、止めるわよ! あれを覚醒させるわけにはいかない!」

 

 あたしたちは神の力を吸収しているオートスコアラーを狙って攻撃しようとした。

 

「フィリア、感謝しますよ! あなたが一度、神の力を得るための過程を見せてくれたおかげでスムーズにそれをなぞることが出来ました!」

 

 醜悪な笑みを浮かべながら、ウェル博士が大声を上げる。

 なるほど、あたしがラグナロクを発動した記録まで取られていたのか……、訃堂が流したのね……。

 

「立花響ナシでこれに勝てますかね〜? これぞ、英雄のための力! 神の力です! 行きなさい、グロリア! あなたの力を見せつけるのです!」

 

 黒髪のオートスコアラーのグロリアは無言で頷き、口を開いてビームをあたしに向かって吐き出した。

 

「まったく、神の力もお手軽になったわね」

 

“だけど、アレはマズイわね。無敵の力に対抗できるのは響ちゃんしか居ない”

 

 フィーネがバリアを何重にも重ねて出したおかげで、ビームを防ぐことが出来たが、火力の強さはラグナロクを発動させたあたしと同等だった。

 

「ならば、ウェル博士を狙えばいいワケダ」

 

「命令者を倒せば、一応は無力化出来るしねぇ」

 

 ヨナルデパズトーリに対してあたしが取った対策をプレラーティとカリオストロは取ろうと考えた。

 

「じゃあ、あたしとサンジェルマンがあのグロリアとかいうオートスコアラーの相手をするから、あなたたちはウェル博士をお願い」

 

 あたしたちは役割を分けた。ウェル博士にはあたしの錬金術は相性が悪いから、足止め役を自分から志願した。

 

「コード、クロノスモード……」

 

 クロノスモードを発動させたあたしとサンジェルマンは、グロリアと対峙する。

 

「連携を重ねて、ヤツに攻撃のスキを与えないように戦うぞ!」

 

 サンジェルマンは銃撃を連発して次から次へとグロリアに当てて行く。

 

 あたしはその間にグロリアの懐に潜り込んで仕込でいる刃を繰り出す。

 

 ――氷狼ノ一閃(ヒョウロウノイッセン)――

 

 絶対零度に限りなく近い凍てついた剣技によってあたしはグロリアを凍らせようとした。

 

「凍らせたところで、やはり無駄みたいね……」

 

 あっという間に氷像と化した身体は並行世界の別の個体と入れ替わり、再びビームを吐き出した。

 

 ――因果ノ捻時零(インガノネジレ)――

 

 あたしは時を止めて、至近距離からのビームを躱して、後ろから地面に向かってグロリアを蹴りつける。

 

「――ッ!? やはりダメージという概念がないのは厄介ね……」

 

 グロリアは吹き飛ばされた瞬間に並行世界の別個体と入れ替わり空中でピタリと止まった。

 そして、手のひらから今度はエネルギーの塊をあたしたちに向かって連射してきた。

 

 あたしもサンジェルマンもバリアを張って、これを防ごうとするが、火力の高さに圧倒されて被弾してしまう。

 

 あたしの右足と左手は吹き飛び、サンジェルマンのファウストローブも亀裂が入った上に本人のダメージも大きそうだ。

 

 ――ループ・ザ・ワールド――

 

 即座に身体を再生させたあたしは、サンジェルマンのダメージの回復とファウストローブの修繕を同時に行う。

 

「時を操る力とは便利なものなのだな。しかし、このままだとジリ貧だ……」

 

 サンジェルマンとあたしは相手との戦力差を体感して戦慄していた。

 やはり響ナシでは厳しいようだ。しかし、響たちは響たちでヴァネッサたちと戦闘して苦戦しているみたいで、応援は期待できない。

 

 こうなったら、カリオストロとプレラーティが……。

 

 

 彼女らが上手くウェル博士を仕留めることを願っていたが、ウェル博士はネフィリムの右腕をかつてバビロニア宝物庫に閉じ込めた化物のような姿に変えて、切り離して2人にけしかけていた。

 

 神の力にも勝るにも劣らない火力に2人は圧倒されて、あたしたちと同様に不利な状況に追い込まれていた。

 

「英雄たる僕が弱いはずがないじゃあないですか! 生半可か攻撃ではネフィリムは倒せませんよ!」

 

 確かにあのサイズはかつて、響たちが70億の絶唱という規格外のフォニックゲインを使いやっと倒せたくらいだ。

 2人は確かに強いけど、相手が悪い……。

 

 これは――勝てないかもしれないわ……。でも、諦めるわけには――。

 

 

 グロリアの相手で手一杯のあたしたちはカリオストロとプレラーティを助けることは出来ない。

 

 ネフィリムは大きな火球を作り出して2人に放とうとしていた。

 

 

四大元素(アリストテレス)ッ!」

 

 その掛け声と共に四つの錬成陣からエネルギーが放たれた。

ネフィリムの火球を炎の錬金術で相殺し、残りの三属性の錬金術でネフィリムを撃ち倒した。

 

「オレの歌は、ただ一人で70億の絶唱を凌駕するフォニックゲインだっ! フィリアには手を出させん!」

 

 ダウルダブラのファウストローブを身に纏ったキャロルが大人の体格になって現れて、糸をウェル博士に向かって伸ばし、それを捉えた。

 

「グロリア! ぐきゃっ……! あがががっ……。モゴモゴ……」

 

 ウェル博士は糸で体を締め上げられて口から泡を吹きながら苦しそうにもがいている。

 

「フン! 急ごしらえのオートスコアラーじゃ、声が出せなきゃ助けにも来ないか! それどころか命令が途絶えると停止するとは、粗悪品も良いところだ」

 

 そう、グロリアは名前が呼ばれると振り返り、そのままウェル博士の指示を待つために停止していたのだ。

 

「では、こちらの人形は貴様を倒した後に処分しよう。立花響の《神殺し》でな」

 

 キャロルはそう言うと糸をグロリアにも伸ばした。

 

 しかし、その時である。

 

 白い光がグロリアに向かって放たれて、それに当てられたグロリアはそのままドコかに飛んで行ってしまった。

 

「ちっ、風鳴訃堂がこの近くに来ていたのか! あれはまさしくアロンの杖の輝き……」

 

 キャロルは悔しそうな声を出した。まさか、訃堂が神の力を持ったグロリアを奪い取るなんて……。

 

「――くっ! 僕のグロリアがぁぁぁ! 栄光の架け橋がぁぁぁぁ! レディ! 何をするんだ!」

 

 ウェル博士はネフィリムの右腕を再生させて、ダウルダブラの糸を噛み千切らせて脱出していた。

 

「オレに何か文句でも? 三流科学者!」

 

「ひぃっ!」

 

 苛ついているキャロルにひと睨みされたウェル博士はテレポートジェムを手早く投げて逃げてしまった。

 

 相変わらず厄介なクセに小物感が凄い……。

 

 しかし、キャロルが来てくれてホントに助かった……。この子はホントにすごい錬金術師だわ……。

 

 でも――。あの子のエネルギーの源は……。

 

「あとで時間を巻き戻して想い出の燃焼で消費した記憶を回復させるわ」

 

 あたしはキャロルに向かってそう言った。

 助けてもらったのだから、これくらいはしたい。

 

「それには及ばん。あのくらいの攻撃……、こうすれば事足りる……」

 

 キャロルはおもむろにチョコレートを取り出して食べだした。

 まさか、キャロルはあたしと同じように……。

 

 

「そうだ、ゲイルのヤツが残した資料を見つけてな。お前と同様に錬金エネルギーを糖分の超分解で賄えるように体をイジったのだ」

 

 キャロルはサラリととんでもないことを言う。彼女の力でそんなこと出来るなんて、ちょっと反則だわ。

 

「もっとも大技を連発するとなれば、想い出の燃焼も使わざるは得なくなるがな。そんなことより、お前に見せたいものがあったんだ……」

 

 キャロルはそう言うと錬成陣の中から氷の塊を取り出した。

 

 その氷の中には銀髪の女が眠るような形で目を瞑り横になっていた。

 

 この人に見覚えはあった。見覚えがあるどころではなかった。  

 

「その体、もしやフィリア=ノーティスの……?」

 

 人間のころのあたしを知っているサンジェルマンたちは興味深そうに氷の塊を見ていた。

 

「そうだ。フィリア、お前の人間の時の体が保管されていた。つまり、魂さえ移せば人間に戻れる」

 

 唐突に告げられた人間の体へと戻れると言う言葉。私は驚のあまり声を失った。




ボスラッシュの前半戦ってカンジです。
キャロルはやはり強かった……。そのせいで、フィリアやサンジェルマンたちが弱く見えたかもしれませんので、申し訳なかったです。
次会もよろしくお願いします!


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再動する鼓動


今回もオリジナル多めの回です。時系列は原作5話の中盤くらいまでです。
それではよろしくお願いします!


 

 

「――でも、この体に戻ったらあたしは戦えない……」

 

 キャロルの言葉から一分ほど黙って出た言葉はそれだった。

 ファウストローブもミラージュクイーンも、この人形の身体だからこそ扱える代物だ。

 その上、身体能力も落ちるとなると、あたしの戦闘力はゼロに等しくなる。

 この状況でそんな勝手は許されない。

 

「ふっ、だろうな。お前はそう言うと思っていた。ならば、その時が来るまでこれはオレが――」

 

「キャロルちゃん、待ってもらえる? そのフィリアちゃんの体をよく見せてちょうだい」

 

 フィーネがどうしても確認したいことがあると言っていたので、あたしは彼女に主導権を渡した。

 

「貴様がフィリアの母のフィーネか。確かこの体は貴様の遺伝子で創られたのだったな。だからこそ丁寧に冷凍保存されていたのだろうが……」

 

 キャロルは一瞬であたしの変化を見抜き、フィーネにあたしの元の体を見せた。

 フィーネは氷の上から体に向けて手をかざした。

 

「やっぱり……、この体の中に私の魂の一部が入っちゃってるみたい。おかしいと思ったのよ。フィリアちゃんの中に入って随分と力が落ちてるって思ったから。きっとリインカーネイションが発動してこっちの体に反応して入ったあと、フィリアちゃんの魂を探した結果、肉体に私の魂の一部を置いてきちゃったのね」

 

 フィーネが疑問が解けたという顔をした。あたしも妙だと思ってた。フィーネの魂が人形のあたしに入ってくるなんて。

 そもそも、あたしの元の体が無事だったからこういった形になったということか。

 

「よしっ、決めた!」

 

 そう言うや否や、フィーネの手のひらが発光してあたしの元の体がそれに呼応するように光った。

 

“フィリアちゃん、ちょっと借りるわね……”

 

“それって、どういう事? まさかっ!?”

 

 魂が千切れるような感覚――それを感じたときには既にフィーネはあたしの身体(ここ)に居なくなっていた。

 

 そして、目の前の氷は弾け飛び、あたしの髪の色は金髪に染まった。

 

 そう、目の前にフィーネが居た。

 

「なるほど、状態は良いみたいねぇ。私のクローンだから魂もよく馴染んでるし。これなら、まずまずのパフォーマンスは出来るはず。ありがとう、キャロルちゃん」

 

 あまりの出来事に絶句しているあたしたち。

  

 何ということだ。キャロルがあたしの体を持って来てしまったが故にフィーネが完全に復活してしまった。

 

「なっ、なっ、おい! 貴様はフィリアの味方になったのではないのか! 何を娘の体を掠め取るような真似をしている!?」

 

 キャロルが至極真っ当なことを言っている。顔を赤くして怒っているところは昔の彼女を思い出させる。

 

「というか、安易にフィーネに触らせたキャロルが悪くない?」

 

「上手くフィーネに嵌められたワケダ」

 

 カリオストロとプレラーティはキャロルが迂闊だと責め出した。

 彼女らはフィーネに一回負けてるし、警戒心が強いのだろう。

 

「うっ、うるさい! お前ら助けてやったのに随分な態度だな!」

 

 二人から責められたキャロルは不満そうな声を出した。

 

「大丈夫よ、本当に借りただけだから。ちゃんとフィリアちゃんに返すわよ。でも、ちょっとこの体って、ボリューム不足よねぇ」

 

 フィーネはそう言うと、あたしの元の体の色んなところのボリュームをアップして、完全にフィーネの体格に変えてしまった。

 

「ちょっと、人の体に勝手なことしないでよ!」

 

 あたしはフィーネに抗議した。もはやあたしであってあたしじゃないからだ……。

 

「大丈夫だって、ちゃんとフィリアちゃんに返すときは、これは戻すから」 

「それはしなくていいわ」

 

「おいっ!」

 

 胸を触りながら答えるフィーネに対して、あたしがあまりにも早く反応した結果、キャロルは呆れた顔でツッコミを入れる。

 

「どうでもいいが、とっとと服を着るワケダ。目のやり場に困るワケダ」

 

 プレラーティは全裸ではしゃぐフィーネに苦情を言う。確かにそうね……。

 

「え〜っ! せっかく、久しぶりの生身を満喫したいのに〜。着なきゃダメ?」

 

「ダメに決まってる! なんで我々はこんな奴に負けたんだ!?」

 

 サンジェルマンは錬成陣から自分の私服を取り出して、フィーネに渡す。確かにサイズは彼女が一番合ってる。

 彼女の私服もそれはそれで、クセが強いデザインだけど全裸よりはマシね……。

 

『フィリアくん、そちらもかなり大変だったみたいだな』

 

 弦十郎から通信が入ってきた。多分、フィーネが服を着たからだろう。

 

「で、響たちはどうだった? 苦戦してたみたいだけど……」

 

 あたしは装者たちの様子を聞いてみた。あのヴァネッサたちもかなり強化されてるみたいだったし……。大丈夫だったのかしら?

 

『確かに全滅寸前まで追い詰められた……。しかし、響くんのギアに封印されていた未認可の決戦機能が窮地にいち早く発動して逆転した』

 

 そうか、実験前だから封印しておいたあれを自力で発動させたなんて、響も大したものだわ。しかし、弦十郎の言葉は暗かった。何かあったのね。

 

「何かあったのね。司令……」

 

 あたしは彼のただならぬ気配を感じ取り、そう尋ねた。

 

『ああ、とにかく戻ってきてくれ。その、了子くんもな……』

 

 弦十郎の指示により、あたしたちは司令部に戻った。キャロルはどこかに行ってしまったが……。

 

 S.O.N.G.の本部は日本政府により制圧されていた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「まさか、本当に……」

「本部が制圧されるなんて……」

 

 クリスとマリアは口々にこの状況に呆然としていた。

 

「制圧とは不躾な。言葉を知らぬのか」

 

 査察官は憮然とした表情でそう返した。制圧じゃない。どう見ても……。

 

 

「護国災害派遣法第6条。日本政府は日本国内におけるあらゆる特異災害に対して、優先的に介入することが出来る。だったな」

 

「そうだ。我々が日本政府を代表してS.O.N.G.に査察を申し込んでいる」

 

 査察官は弦十郎の言葉に辞令書を見せてそう言った。なるほど、政府を動かしたか。あの男は……。

 

「威力による制圧と同じに扱ってもらっては困る。世論がざわっとするから本当に困る」

 

 挑発的な口調で査察官はそう続けた。

 

「どう見ても同じなんだけど」

 

「あの手合いを刺激しないの」

 

 ボヤく藤尭は友里に窘められていたが、あたしも同感だ。

 

「国連直轄の特殊部隊が野放図に威力行使出来るのは、あらかじめその詳細を開示し日本政府に認可されてる部分が大きい。違うかな?」

 

 それはその通りだ。あたしのクロノスモードやラグナロクも事前に許可を通して発動させてる。

 まさか、彼らの口実は――。

 

「違わないが、故に我々は前年に正式な手続きのほどを……。まさか!?」

 

「先程見させてもらった武装。開示資料にて見かけた覚えがないのだが、さて?」

 

 弦十郎がそれに気付いたのと、同時に査察官は勝ち誇った顔をした。

 

「なるほど、アマルガムを口実にしたのね? 確かに未認可だったわ。ごめんなさい。あたしの仕事が遅かったから……」

 

 あたしたち錬金術師はシンフォギアの強化に勤しんでいたのだが、その中で考案されたのが、新しい決戦機能――アマルガムである。

 

 ラピス・フィロソフィカスのファウストローブの特性をシンフォギアと融合させることにより、攻撃力や防御力を急上昇させることが出来るようになる。その分、頭でっかちな極ぶり性能になってしまうが……。

 

 もちろん、認可を取る予定だったが、ここ最近のゴタゴタや日本政府の担当部署が休みを多く取ったりと嫌がらせみたいなこともあったので、遅れてしまっていたのだ。

 

 弦十郎は結局査察を受け入れた。装者とあたしたち錬金術師、ついでにフィーネの自由とギアコンバーターなどの標準装備の携帯の許可を条件に……。

 

 アマルガムの使用は当面禁止になってしまった。ヴァネッサたちやウェル博士との戦いがかなりキツくなりそうね……。

 

 その上、訃堂は神の力を手に入れてしまってる。その力を持ってして、いつ暴走するか分からない。

 油断だけはしないようにしなきゃ……。

 

 というわけで、あたしはそのまま帰宅することとなった。

 

 

 

「悪いわねぇ、弦十郎くん。しばらく独房にでも入れられるのかと、思ってたわ」

 

 フィーネは笑顔を見せながら弦十郎にそう言った。

 結局、フィーネはあたしと弦十郎と共にしばらく暮らすことになった。

 一人暮らしをさせるわけにもいかないし、軟禁しても無駄だし……。

 

「君は公式には死んだ人間だ。残念ながら法律では裁けない……。もし、少しでも罪悪感があるのなら、力を貸してくれ」

 

 弦十郎は肉体を持ったフィーネに改めて協力を頼んだ。

 

「もう、弦十郎くんたら、固いわねぇ。フィリアちゃんの体を借りたんだもん。この子の為に使うに決まってるでしょ」

 

 フィーネは当たり前みたいな感じで言っているが、今までやったことを思い出してほしい。

 いつ暴走するか分からないから、我々は戦々恐々としているのだ。

 

「あたしは普通に戦力ダウンしてるわよ。あなたの魂がないからクロノスモード使えないし」

 

「大丈夫よ。出ていくときにフィリアちゃんの魂の器をクロノスモードの負荷に耐えられる分だけ広げて来たから。まったく戦力はダウンしてないはずよ」

 

 あたしが苦情を言うと、フィーネはまた当たり前のような口調でそんなことを言う。

 やっぱり、この人は色々と常識じゃ計れない力を持っている。

 

 とにかく、この人が味方として戦うのなら戦力の増強としては申し分ない。

 あたしの体を使っているというのは、不快だが我慢しよう。

 

「ねぇねぇ、弦十郎くん。やっぱり若い子の体の方がいいかしら?」

 

 フィーネはグラビアアイドルみたいなポーズを取ってアホなことを言っている。

 何度も言うがそれはあたしの体だ。この人、自重って言葉を知ってるのかしら?

 

「了子くん、はしゃぐのもほどほどにな。オレは離れにいるから、何かあったら電話してくれ」

 

「ええーっ! 一緒に寝てくれないのぉ?」

 

 フィーネのそんな言葉を完全に無視して、弦十郎はリビングを出ていった。

 そして、あたしは思いっきり不安だという視線をフィーネに送っていた。

 

「大丈夫よ、フィリアちゃん。自重くらい出来るに決まってるでしょ」

 

 フィーネは真剣な表情であたしに向かってそう言った。

 それなら、良いけど……。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「櫻井了子、22歳! 歌いま〜す!」

 

「はしゃいでんじゃないのよ!」

 

「まぁ、まぁ、フィリアちゃん。了子さんも楽しんでることだし……」

 

 翌日、オフとなったあたしたちは未来、翼、エルフナインを誘ってカラオケに行こうとしたのだが、フィーネもそれに半ば強引に付いてきた。

 

「エルフナイン、ごめんなさい。変な人が付いてきて」

 

「えっ、ボクは全然気にしてませんよ。錬金術師として、櫻井理論の発案者である櫻井先生と直接お話できるなんて夢のようです」

 

 エルフナインは目を輝かせてそんなことを言っていた。

 あたしはあえて彼女の悪影響にならないようにフィーネを遠ざけていたが、どうもエルフナインはフィーネとずっとゆっくりと話したかったらしい。

 

「先輩、一応は母親なんですよね」

 

「そこだけ記憶喪失にならないかしら……」

 

「半分以上、本気で思っているんですね……」

 

 あたしが本気で浮かない顔をしていたら未来は少しだけ同情してくれた。

 

 

「たまたま予定が空いていたから、立花の誘いに乗ってみたものの……。私も余裕がないのだろうな。今は歌を楽しむよりも防人の業前を磨くべきだと心がはやる。焦るんだ」

 

 翼はうつむきながら両手を震わせた。やはり、まだ引きずっているのだろう。

 

「翼ちゃん、大丈夫よ。すぐに強くなれるし、成長も出来る。今、みんなのギアの強化を急いでるし、何よりこの天才科学者が腕を振るってあげるんだから安心なさい」

 

 歌い終わったフィーネは翼を元気づけるようなことを言った。なんだ、いいとこあるんじゃない。

 

「櫻井女史……」

 

 翼の目に少しだけ光が戻ってきた。

 

「強いだけがすべてじゃない。胸の歌を信じなさい。響ちゃんもね!」

 

 フィーネはウィンクしてそう言った。

 

 つかの間の休暇……、あたしたちは少しだけ癒やされていたように思う。

 

 しかし、この日からこれまでに無いほどの大きな戦いが始まるとは、まだあたしたちは知らなかった――。




フィリアの体を利用してフィーネがほとんど完全に復活しました。
これで、S.O.N.G.陣営の戦力がかなり補強されました。
次回もよろしくお願いします!


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消えた二人の保護対象

時系列は原作7話の序盤辺りまで。
それでは、よろしくお願いします!


 

 カラオケをしばらくしていると、本部から響に連絡が入る。

 

 

『現在、査察継続中につき戦闘司令は査察官代行である私から通達します』

 

『えっ!? どちら様ですか?』

 

 知らない人からの通信で響は戸惑っているようだ。

 どうやら弦十郎は指揮権も一時的に剥奪されているみたいね。

 

『第32区域にアルカノイズの反応を検知。現在、当該箇所より最も近くに位置するSG01、SG03およびAS01は直ちに現場へと急行し対象を駆逐せよ』

 

 通信の内容はアルカノイズの出現に対してあたしたちに向けた出動の要請だった。

 

『じゃあ、了子さんは……』

 

「櫻井了子の身柄は我々が拘束する。このタイミングでアルカノイズが現れたんだ。尋問する必要がある」

 

 先日の査察官が武装した黒服を何人も連れてきてフィーネを拘束した。

 

 ちっ、やはりそう簡単に受け入れるはずがなかったか。一度、自由にしておいて理由が出来たら拘束するつもりだったのね。

 しかし、このタイミング……、ちょっと早すぎない? 

 

 

 ちなみに彼女は一応、二課に所属していたときの身分をそのまま利用することになったので、公式には櫻井了子として過ごすこととなっている。

 

 だからなのか、髪は金髪のままだが、彼女は了子のときの髪型にしてメガネを着用していた。

 

「ふぅん。まぁいいわ。弦十郎くんの立場もあるし、大人の対応をしてあげましょう。うふっ」

 

 フィーネは不敵に笑って、手錠をかけられて連れて行かれた。

 

「了子さん……」

 

 響はフィーネの連れて行かれた様子を心配そうに見ていた。

 

「大丈夫よ。あの人は殺したって死なないくらいしぶといんだから。戦ったあたしたちなら知ってるでしょ?」

 

「櫻井女史の心配よりも、優先すべきことがあるだろう。行くぞ、立花、フィリア!」

 

 あたしたちは響に声をかけて、現場へと向かった。

 エルフナインのことを未来に任せて――。

 

 しかし、これがあたしたちの一番の失策だった……。

 

 

 

 

『SG03に通告。不明武装の認可はまだ下りていません。くれぐれも使用は控えたし』

 

 現場に着いた途端に、アマルガムを使うなと、響に忠告が入る。

 響はそれに応じて標準武装でアルカノイズを駆逐する。

 

 あたしや翼も当然、アルカノイズたちを次々と倒して行った。

 

「ねぇ、フィリアちゃん。これって変じゃない? アルカノイズの動きが……」

 

「確かに違和感があるわね……。ここを襲う意味……、何なのかしら?」

 

 響の言葉にあたしは猛烈に嫌な予感がした。

 

 

「本部! 付近一帯の調査をお願いします! アルカノイズがただ暴れているなんてことおかしいです!」

 

 響は本部に通信をして、違和感を伝えた。ここは研究施設もないし、狙う価値のない場所のはず。

 しかし、連中が無駄なことをするなんて思えない。意味は必ずあるのだ。

 

 

『現在、装者周辺アルカノイズ以外の敵性反応は見られません。SG03はこちらの指示に従ってアルカノイズの掃討に専念されたし。』

 

 管制からの返答はこうだった。うーん。ますます変ね……。エルザかミラアルクくらいは居るとみていたのに……。

 

「立花……。避難誘導が完了するまでは本部からの管制に従うのだ」

 

「でも――」

 

 翼は支持に素直に従うべきだと主張したが、響はそれを躊躇している。

 

 ――そんな中、あたしの頭の中に声が響いてきた。

 

『フィリア! オレだ! 聞こえるか!』

 

 キャロルがあたしにテレパシーを送ってきたのだ。

 

「ええ、聞こえるわ。その様子……、何か緊急の用事みたいね……」

 

 あたしは珍しく彼女の焦った声を聞いたので、ただならぬ事態が起きたのだと察した。

 キャロルほどの者がこんな感じになるなんて、一体何が……。

 

『エルフナインと立花響の友人が襲われている。オレが行ければ良いのだが、戦闘中でな……。ぐっ……!』

 

「エルフナインと未来がっ!? あなたが苦戦するってまさか……!」

 

『ああ、あの人形だ……! チフォージュ・シャトーにちょっかいを出してきた連中を捻り潰そうとしたら、戦闘になった……! オレのことはいい! とにかく伝えたぞ!』

 

 キャロルはチフォージュ・シャトーでグロリアと交戦中。しかし、そんな大きな戦いなのに本部からはまったく通信が入らない。

 

 そして、あたしはエルフナインと未来が襲われているという状況からすべてを察した。連中の狙いは彼女らだ。

 

 未来は響と同じで神獣鏡によって、原罪を浄化した人間。そして、エルフナインはチフォージュ・シャトーを起動させるのに使うつもりだ……。

 

 しかし、神の力なら既にグロリアに付与されて手に入れてるはずなのに……。これ以上、何をしようというのかしら?

 

「響、奴らの狙いは未来とエルフナインよ! キャロルから彼女たちが襲われてると連絡がっ! 今、本部に彼女らの居場所を探らせようと連絡してるんだけど、まったく繋がらないの」

 

 あたしは近くの響に未来たちの危機を伝えた。

 

「そっそんな、未来が!? どっどうしよう!?」

 

「本部からの連絡がない以上、自力で探すしか……。あたしは空から探るわ……」

 

 響の言葉にあたしがそう答えたときである。本部からの通信がようやく入ってきた。

 

 

『フィリアくん、査察は中止となった。連続して通信が入っていたようだが何かあったのか?』

 

 弦十郎から査察中止の報と共に通信が入った。後手に回らされてる。急がなきゃ。

 

「エルフナインと未来が狙われてる。彼女らの居場所を探って。早くっ!」

 

『むっ、わかった。大至急探らせよう』

 

 しかし、私が空から探索しても、本部が監視カメラの映像を追っても二人を見つけることが出来なかった……。

 

 さらにキャロルからもテレパシーが入ってきた。

 

『チフォージュ・シャトーがどこかしらに転送されてしまった……。奴ら、完全にオレに喧嘩を売っている。エルフナインたちはチフォージュ・シャトー内部に居るみたいだが、城自体の場所がわからん……』

 

 エルフナインと未来はチフォージュ・シャトーに連れて行かれたらしいのだが、チフォージュ・シャトー自体がどこかに移動してしまい、場所が分からなくなってしまったらしい。

 まさか、チフォージュ・シャトーごと盗まれるとは――。

 

「キャロル、お願い力を貸して……。エルフナインと未来は大事な仲間なの!」

 

『――わかった。見つけ次第、お前に連絡しよう』

 

 キャロルはあたしの言葉にそう返してくれた。

 あたしたちも早く彼女らを見つけられるように動かなきゃ。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「それにしても、まさかと言うよりやっぱりの陽動だったデス」

 

「あの時、管制指示を振り切ってさえいれば……」

 

 切歌と調はあのときのあたしたちの判断の甘さを言及していた。

 

「月読と暁は私の状況判断が誤っていたとでも言いたいのか?」

 

「え?」

 

「えーと、そうじゃなくてデスね……」

 

 翼は二人の言葉に対してイライラとした口調でそう返した。

 調も切歌もしどろもどろになってしまう。

 

「そうよ……。急ごしらえの管制の指示に安易に従うだけなんて、どう考えても判断ミスだった。それは間違いない」

 

「「リア姉っ!?」」

 

「フィリア! お前っ!」

 

 あたしが状況判断を誤ったことを肯定すると、調と切歌は驚いた顔をして、翼は怒った顔をしてあたしに詰め寄った。

 

「誤解しないでくれる? 判断を誤ったのはあたしも響も含めて3人ともよ。そんなことより考えるべきことがある」

 

 あたしは眼前で睨みつけてきた翼を見据えてそう言った。

 

「フィリアちゃん、考えることって?」

 

「偶然、査察が入ってきたタイミングに偶然、連中が陽動作戦を開始して、偶然居合わせたエルフナインと未来が攫われた。この事実についてよ」

 

 あたしはこの一連の流れは仕組まれていると考えてる。

 

「つまり、日本政府を動かせるような奴が一連の流れについて糸を引いてるってわけか。で、あたしらはそんな奴を知っている」

 

「風鳴訃堂……、国防の鬼が動いている……」

 

 クリスとマリアはこの一連の流れの黒幕を訃堂だと結論を出そうとした。

 あたしもそうとしか思えない。

 

「証拠もナシに憶測で話さないでくれ!」

 

 そんな話をしていたら、翼は大声で威圧的な声を出した。

 やはりここのところの彼女は少し変だわ……。

 

「――っ!」

 

 そして、翼は不機嫌そうな顔をして部屋の外に出ていこうとした。

 

「待ちなさい! 話はまだ……!」

 

 マリアは翼を止めるが、彼女は出ていってしまった。

 

「なんだか物凄く……」

 

「ギザギザハートになってるデス……」

 

 調と切歌は翼のことを心配していた。

 

「そうね。でも、これ以上責めないであげて。翼自身わかっているはずよ……」

 

 マリアは翼を庇うような言葉をあたしたちにかけていた。

 ええ、わかってるわよ。そんなこと……。

 

 

 その後、あたしたちは緊急作戦会議に招集された。

 

「消えたチフォージュ・シャトーに囚われた未来くんとエルフナインくんか……」

 

「あんなデケェもん、どうやって隠せるってんだよっ!?」

 

 弦十郎の言葉にクリスは当然の疑問を言い放った。

 

「キャロルとグロリアが衝突して数分後にシャトーは消失……。しかし、キャロルくんがエルフナインくんを介した視覚情報によるとチフォージュ・シャトー内部の様子が写っていたとのことだ」

 

「つまり、チフォージュ・シャトー自体はどこかに健在しているのは間違いないというワケダ」

 

 弦十郎が伝えた事実に対して、プレラーティがメガネの位置を直しながら答える。

 

「で、あーしらは、ここの機材を存分に使って、大規模な転移錬成陣の気の流れを追ったの」

 

 カリオストロはチフォージュ・シャトー転移の痕跡を3人で追った、と言った。

 さすが錬金知識で言えばあたしやキャロル以上の三人の元幹部たちね……。

 

「場所の特定も出来たわ。少し特殊な場所だ……」

 

 サンジェルマンはチフォージュ・シャトーの転移先を早くも見つけたようだ……。

 

「仕事が早いわね。で、チフォージュ・シャトーは今どこに?」

 

 あたしはサンジェルマンに結論を急かした。

 

「チフォージュ・シャトーは現在、海底にある。特殊な錬金フィールドで守られて、な」

 

「海底だとぉっ!? 思ったよりも厄介な場所にあるのだな。しかし、それでは……」

 

 サンジェルマンの言葉に弦十郎は驚いたような声を上げる。確かにそれでは簡単に手が出せない……。

 

 

「――座標さえ分かれば、オレとフィリアだけなら城の中に入ることが出来る。オレとフィリアは元々あそこに住んでいたからな。テレポートジェムを微調整すれば、かつてマーキングしたところに転移することが出来るのだ。他の連中はオレがシャトーに仕掛けた妨害装置に阻まれるから、テレポートジェムを使っても無駄になるが……」

 

「あら、キャロルちゃんって、なかなか有能ねぇ。見どころあるわ〜」

 

 司令室のドアが開き、キャロルとフィーネが現れた。キャロルも協力者としてS.O.N.G.に一時的に加入することとなったのだ。

 

 そうか、あたしもかつてチフォージュ・シャトーに行き来してたから、あそこに転移することが出来たのか。すっかり忘れてた。

 

「それでは、キャロルくんとフィリアくんに未来くんたちの救出作戦を――」

 

 弦十郎がそう、声を出したときである。

 

「チフォージュ・シャトー座標上空に未確認物体が出現しました! モニター出ます!」

 

 警報音と共に友里の声が司令室に響き渡る。

 

 モニターには蛹のような物体が禍々しい気配を醸し出しながら上空に浮いていた。

 

「神の幼体……。なるほど、復活させるみたいねぇ。アヌナンキ……、シェム・ハを……未来ちゃんを依代にして……」

 

 フィーネは目を光らせてモニターを凝視してつぶやいた。

 ノーブルレッドの計画を阻止すべく、あたしたちは行動を開始した――。

 




ついにキャロルがS.O.N.G.に加入しました。
次回はフィリアとキャロルがチフォージュ・シャトーで共闘します。


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チフォージュ・シャトーでの戦い

今回はちょっと短いですが、キャロルとフィリアの共闘です。
それでは、よろしくお願いします!


 

 チフォージュ・シャトーに着いたあたしはエルフナインをようやく見つけることが出来た。

 案の定、彼女はヴァネッサたちに利用されて、用済みになったところで殺されそうになっていた。

 

 急いで助けなくては――。

 

「あら、自分が原因で世界に仇なしてしまった以上、生きているのも辛くないかしら?」

 

「確かに昔のボクならば世界を守る為に消えていいとさえ思っていました。だけど、皆さんと過ごしてきた想い出がかけがえのないものになってきて、もしもまだ、少しでもボクに何かができるのなら、今はここから消えたくありません!」

 

 ヴァネッサの問いにエルフナインはそう答える。

 

「そう。だけどそれは聞けない相談ね」

 

「どうすれば――。だけど僕では……」

 

 ヴァネッサはエルフナインに殺気を剥き出しにしている。

 

「次ははずさないわ」

 

 そして、腕を刃物状に変形させてエルフナインを襲う。

 

「誰か!」

 

 エルフナインがそう叫んだとき、あたしは既にヴァネッサを殴り飛ばしていた。ヴァネッサは地面に叩きつけられるように吹き飛んでいった。

 

「がっかはっ……! お前は……、フィリア=ノーティスッ――!」

 

「いつの間にか、逞しくなったわね。エルフナイン」

 

 あたしはエルフナインの頭を撫でながら声をかけた。

 

「フィリアさん! どうやってここに……?」

 

 エルフナインはびっくりしてあたしを見ている。助けが来るとは思ってなかったのだろう。

 

「このチフォージュ・シャトーの持ち主に連れてきて貰ったのよ。あなたと未来を助けるためにね」

 

 あたしはヴァネッサたちを警戒しつつエルフナインを後ろに庇うように立たせた。

 

「フィリア! お前だけは許さないわ! よくもドクターを!」

 

「わたくしめらの、目的のひとつはあなたへの復讐であります!」

 

「クロノスモードも使わずに、どこまでうちらと一人で戦えるか、見ものなんだぜ!」

 

 三人は殺気を剥き出しにしてあたしに向かって来ようとした。

 

「ミラアルク……、2つ訂正しておくわ。クロノスモードは確かに強力だけど……」

 

 あたしは彼女らに向けて錬成陣から形成したエネルギーの塊を連射した。

 彼女らは被弾して、一度あたしと距離をとった。

 

「使わなくても、これくらいなら出来るのよ……」

 

 あたしはヴァネッサたちに向かって両手をかざした。

 

「くっ、さすがにシンフォギア以上の火力であります!」

 

「だが、うちらだって身体を強化してるんだぜ!」

 

「力を合わせて、あの人形を打ち砕きましょう!」

 

 三人は連携を取ろうとあたしを取り囲み一斉に掛かってこようとする。

 

「もうひとつは――あたしは一人じゃない……」

 

「この歌声はまさか!?」

 

 ヴァネッサたちが動いたその時、歌がこの空間を支配した。

 

「腹立――♪  不変の世――♪ 解答でき――♪ この感――♪」

 

 ダウルダブラのファウスト・ロープを纏ったキャロルが歌を歌いながら現れた。

 規格外の錬成エネルギーが錬成陣から照射されて、ヴァネッサたちは攻撃を防ぎ切れずに壁に激突する。

 

「フィリア! 合わせろ!」

 

「ええ、分かったわ!」

 

 ――五大元素(アリストテレス)――

 

 キャロルの放つ四つの属性に加えて、あたしの放つ無属性のエネルギーの波動を螺旋状に合成して放つ究極の錬金術――。

 

「オレたちの歌は」

「高くつくわよ!」

 

 アリストテレスはヴァネッサたちを飲み込み、大爆発を起こす。

 彼女らはシールドを張っていたみたいだが、全員がボロボロになっていた。

 

「世界を壊す力がある錬金術師と、ドクターの最高傑作……。さすがに同時に相手できないわね……」

 

「だが、ここで引いてしまうと計画に遅延が起こってしまうんだぜ」

 

「ここでわたくしめらが、全滅するよりマシであります」

 

 三人は撤退しようとしているみたいだ。

 

「オレがそれを許すとでも?」

 

 キャロルの糸がヴァネッサたちを捉えようとする。

 

 しかし、三人は手早くテレポートジェムを使って姿を消してしまった。

 

「ちっ、逃げ足の早いっ」

 

「やられたわね。咄嗟に勝てないと判断して逃げの一手を躊躇なく実行するなんて……」

 

 キャロルとあたしはまんまとヴァネッサたちに逃げられてしまった。

 しかし、追いかけてる場合じゃない。

 

「早く未来さんを救出しましょう」

 

 エルフナインがあたしたちの元に近づいて、そう言った。

 そのとおり、それが最優先……。

 

「しかし、連中が次に戦闘を仕掛けてくれば、お前は邪魔になるな」

 

 キャロルはエルフナインの顔をまじまじと見てそう言った。

 

「そ、そうですね。ボクはキャロルみたいに強くないですから……」

 

「――お前をわざわざ守るのも面倒だ。その仕事はあいつらに任せるとしよう」

 

 落ち込むエルフナインに対して、キャロルはそう言って指を鳴らした。

 すると室内にあった棺のようなものが次々と開いていく――。

 

 

「マスター、ご機嫌麗しゅう」

「あ〜ら、久しぶりですねぇ。マスター」

「派手に戦った後のようですな。マスター」

「マスター、呼んでくれて、嬉しいんだゾ〜」

 

 ファラ、ガリィ、レイア、ミカがキャロルの前に現れて独特のポーズを取る。

 

 あのポーズは必ずやらなきゃいけないものなの?

 

「オレの城に忍び込んだネズミを駆除する。お前たちはエルフナインを守ってやってくれ」

 

「キャロル……」

 

 エルフナインはキャロルからの好意に目を潤ませていた。

 

「マスター、それだけですか? 戦闘になれば我々も……」

 

 ファラは自らの任務がエルフナインの護衛だけでいいのか確認した。

 

「良い。お前たちの身体はスペアボディで本来のスペックとは程遠い。戦闘はオレとフィリアで十分だ」

 

 キャロルはそう答えると歩き始めた。

 

「承知しました。フィリア様、マスターを頼みますわ」

 

 ファラは丁寧にあたしに頭を下げた。相変わらず、創造主への忠誠心は高いのね。

 

「ほ〜ら。エルフナイン。ガリィが抱っこしてあげましょうか〜?」

 

「結構です。自分で歩けます」

 

 ガリィはガリィであれがいつもどおりだし。

 

「うーん。戦えないのはなんだか詰らないんだゾ」

 

「地味な仕事だが。致し方あるまい」

 

 ミカとレイアはそう言いつつもエルフナインの脇を固めた。

 まずは本部との通信をして連携を――。

 

 

 

 あたしたちは未来を発見したが、既に神の力を注入するための儀式が行われており、下手に手出しが行えないようになっていた。

 なので、まずは端末を通じて本部にいる弦十郎たちに連絡を入れた。

 

「司令、チフォージュ・シャトーへの侵入に成功。エルフナインの奪還に成功したわ」

 

『フィリアくん、キャロルくん、ご苦労だった。エルフナインくんも無事そうで何よりだ。それで未来くんだが……』

 

「わかっている。これからオレとフィリアで小日向未来を奪還する。その為にお前たちの暇そうな手を貸してもらうぞ」

 

『その物言いに物言いなのだが』

 

『私たちで手伝えることなの?』

 

 キャロルは相変わらずの切り口で話していたので、翼はムッとしたみたいだが、マリアが大人の対応する。

 

「このデカブツを破壊してもらう」

 

 キャロルはチフォージュ・シャトーの上空に浮かぶ神の力を持つ物体の映像を映し出した。

 

『それが出来ればあたしらも……』

 

「出来る。ここはチフォージュ・シャトー。その気になれば世界だって解剖可能なワールドデストラクターだ」

 

 クリスの言葉にキャロルは出来ると断言する。響の力が欲しいところだけど、彼女は負傷して出撃できないかもしれないと聞いているが……、本当に何とか出来るのだろうか?

 

「確かに僕は聞きました。ヴァネッサたちが、神の力が神そのものへと完成するまでには、もうしばらくの時間が必要だと言っていたことを……」

 

 エルフナインは神の復活にはまだ猶予があることを伝えた。

 

「残された猶予に全てを賭ける必要がある。お前たちは神の力、シェム・ハの破壊を――。そしてオレたちは……、力の器たる依代の少女を救い出す。2段に構えるぞ」

 

 チフォージュ・シャトー内部にいるあたしたちと、外にいる者たちで連携してシェム・ハの復活の阻止と未来の奪還を両方行うという方向であたしたちの話し合いは落ち着いた。

 

「古来より、人は世界の在り方に神を感じ、しばしば両者を同一の物と奉ってきた。その概念にメスを入れるチフォージュ・シャトーであれば攻略も可能だ」

 

『これも一種の哲学兵装。ですが、今のシャトーにそれだけの出力を賄うことは……』

 

 キャロルの言葉に緒川はそう返した。

 

「無理であろうな。だがチフォージュ・シャトーは様々な聖遺物が複合するメガストラクチャー……。――であれば、他に動かす手段は想像に難くなかろう」

 

『フォニックゲイン……』

 

 そう、聖遺物を起動するには一定量を超えるフォニックゲインをぶつけてやればいい。

 かなりの量が必要になるが……。

 

「想定外の運用ゆえに動作の保証は出来かねるが……」

 

『やれる! やってみせる!』

 

『あの頃よりも強くなった私たちを見せつけてやるデスよ!』

 

 調と切歌はやる気になり、装者たちはチフォージュ・シャトーを動かす為に動いた。

 海上から海底まで歌の力が届けば良いけど……。

 

 

「どうやら場外のブサイクは巨大なエネルギーの塊であり……。そいつをこの依代に宿すことが儀式のあらましのようだな」

 

「祭壇から無理に引き剥がしてしまうと未来を壊してしまいかねないわ。神の力が絡むと時間も戻せないし……」

 

 あたしはキャロルの言葉にそう返した。

 

「面倒だが、手順にそって儀式を中断させるより他になさそうだ」

 

「クスッ……」

 

「どうした?」

 

 キャロルが真剣に未来の安全を考えて手立てを得ようとしている様子を見ていたエルフナインはニッコリ微笑んでいた。

 

「意外だなあって思って。僕はまだキャロルのことを全然知らないんですね。フィリアさんと話してるときはこんなに穏やかなんだって……」

 

「そりゃあ、ボッチのマスターの唯一のご友人ですからね〜。クスクス……」

 

 エルフナインの言葉にガリィが楽しそうに笑いながらキャロルの顔を見つめる。

 

「うっ、うるさいな! 余計なことを言うな! ガリィ!」

 

 顔を真っ赤にしたキャロルがガリィに向かって怒鳴った。時々、子供っぽくなるわよね。この子……。

 

「マスターのお父様の婚約者ですから、お母様のような方ということでしょうか?」

 

「あたしはいつでも受け入れるつもりよ、キャロル」

 

「それはないって言ってるだろ! フィリアも異様にワクワクしたような顔をするな!」

 

 ファラの言葉を受けてキャロルにあたしは気持ちを伝えると、彼女は首を振って否定した。

 

「うーん、フィリアは設定盛りすぎだゾ〜」

 

「派手な生い立ちは実に羨ましい!」

 

 ミカとレイアはそんなことを言っているが、そんなに盛っているかしら?

 

「まったく、お前たちは……。それより、連中もおっとり刀で駆けつけて来たようだな。こちらも取り掛かるぞ」

 

 キャロルはヴァネッサたちの接近に気が付き、構えをとった。

 彼女らが無策で再戦するはずがない。警戒する必要がありそうね……。

 




キャロルのオートスコアラーも復活してかなり大所帯になってしまいました。
次回、遂にラスボスが復活!?


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XV

ヴァネッサたちとの第二ラウンドからスタートです。
それではよろしくお願いします!


 現れたのはヴァネッサ、ミラアルク、エルザ……、そしてグロリア……。

 

 神の力を得たオートスコアラーまでこっちに寄越したか……。これは簡単じゃないかもしれないわ……。

 

「コード、クロノスモード……!」

 

 あたしは躊躇わずに《Type:G》を首元に突き刺して、クロノスモードを発動させた。

 

「あのオートスコアラーはあたしが止める。この施設が壊れて困るのは向こうも同じだから、火力は抑えるはずっ!」

 

「わかった。確かに相性はお前のほうが良さそうだ。そっちは任せよう」

 

 キャロルとあたしは戦う相手を分けて彼女らに立ち向かった。その間にエルフナインは未来の儀式を解除しようと動く。

 

 

「…………」

 

 無言でビームを放つグロリア。フィーネがいればバリアが張れるけど……。

 

 ――雷神ノ鎚(トールハンマー)――

 

 あたしはグロリアの攻撃を相殺することを選んだ。

 高出力の雷撃エネルギーがビームとぶつかり互いに打ち消し合う。

 

「神の力は無敵……、動かしているヤツも見つからない。厄介ね……」

 

 グロリアと同種の攻撃を繰り出し相殺して、なるべく辺りに影響がないように、と気を使いながら戦うが、このままだと前回のようにジリ貧になるのは目に見えていた。

 

 そんなときである。キャロルの方で大きな動きがあった。

 

「捕まえたであります!」

 

「「哲学の迷宮でぇぇぇ!」」

 

 キャロルが青色に光るブロックのようなモノに閉じ込められてしまった。

 三人は今のところ《哲学の迷宮》とやらに付きっきりだが、こちらの戦力はガタ落ちだ。

 一体どうすれば……。

 

「さぁて、フィリア! あとはお前をウチらでボコボコにするだけなんだぜ!」

 

「わたくしめらの恨みを受けるであります!」

 

 ミラアルクとエルザが《哲学の迷宮》を発動させつつこちらに向かって、攻撃を仕掛けようとする。

 くっ、躱さないと……。

 

「あ〜ら、フィリアちゃん。どこに逃げようとするのかしら? ドクターを連れて消えたあの日から、あなたを消すことだけを考えてたのよ……。ドクターを殺したのもあなたなんでしょう?」

 

 ヴァネッサはあたしを羽交い締めにして、動けなくする。

 

「はぁ? あの大馬鹿者を殺そうとしたのは、訃堂でしょ! あたしを恨むのは筋違いよ!」

 

「黙れ! そもそも、あなたがドクターに色香を使わなければっ! こんなことにはならなかった! エルザちゃん、ミラアルクちゃん、やっちゃいなさい!」

 

 ヴァネッサの指示で二人はあたしに向かって容赦のない攻撃を加えようとした。色香って、あたしがゲイル博士を誑かしたみたいに言わないでよっ!

 

 しかし、その瞬間である。《哲学の迷宮》は大きな爆発とともに砕け散りあたしを含めて全員が吹き飛ばされる。そして、キャロルは平然として出てきたのだ。

 

「ばかな……、どうやって迷宮を……?」

 

 ヴァネッサの表情は信じられないというものだった。

 

「オレはただ歌っただけだ……」

 

 キャロルは憮然とした表情でそう答える。

 

「歌でありますか?」

 

 エルザがそれに対して復唱する。

 

「ああ、オレの歌はただ一人で70億の絶唱を凌駕する……、フォニックゲインだ!」

 

 通信からは、このキャロルのフォニックゲインに当てられて装者たちがXDモードを発動させたみたいだ。

 よし、流れがきている。

 

 ――ループ・ザ・ワールド――

 

 あたしはキャロルの消費した想い出を戻した。

 さすがに今の出力はちょっと無理をしたようで、糖分の分解で補えない部分があったからだ。

 

「今のうちにエルフナインは未来の元へ!」

 

 あたしは今が好機と読んで、エルフナインを未来の元へ向かわせた。4体のオートスコアラーと共に。

 

「行かせないであります! がはっ」

 

「ぐふっ」

 

「がっ……、グロリアがっ……」

 

 なんと、突然、グロリアがヴァネッサたちを攻撃し始めた。

 容赦なく、殺す気で……。

 

「訃堂ぉぉぉぉっ! 裏切ったわね……!」

 

 血塗れのヴァネッサが吠えたが、グロリアは無慈悲な攻撃を浴びせようとエネルギーを充填していた。

 

 

 

「――英雄登場ッ! この瞬間を待ってましたよ! あなたが馬脚を現す瞬間をっ! 風鳴訃堂!」

 

 突如ウェル博士の声が聞こえたかと思うと、ネフィリムの右腕がグロリアの元まで伸びていき、これをゴクリと丸呑みをしてしまった。

 

 いや、いくらネフィリムでも神の力をもつオートスコアラーを吸収するなんてこと――。

 

 

「ドクターがウチらを助けに来てくれたんだぜ!」

 

「さすがはドクターであります。わたくしめらの英雄……」

 

「遂に計画を実行できたのですね! ドクター!」

 

 ヴァネッサたちがウェル博士を称賛したその時である。

 ネフィリムの右腕が破裂して、中から金色に輝く腕が出てきたのだ。

 この腕は見覚えがある……、響のガングニールだ……。

 

「くっくっく。神殺しはもう一つあったのですよ! あのとき、僕のネフィリムが立花響を食らった、その瞬間から――! そして、この腕はネフィリムの力と融合し、聖遺物を食らう力と神殺しの力を併用出来るようになった。グロリアのエネルギーはすべてこの中にあります。神を殺し、その力のすべてを吸収しましたから」

 

 ウェル博士は右腕を再生すると、自らの左腕を引きちぎって響の左腕をくっつける。

 

 右腕がネフィリム、左腕がガングニールとなったウェル博士から感じられる威圧感は今までに感じたことのないほど凄まじいモノとなっていた。

 

 戦闘になると面倒なことになりそうね……。クロノスモードの可動時間も長くないし……。

 

「ドクター! 命じてください! ともにこの子たちを蹂躙せよと!」

 

 ヴァネッサもウェル博士の凄まじい力を目の当たりにして、調子付いてきた。

 

「いえ、引きますよ。皆さん。もはや、訃堂の目的に加担する意味はありませんから。むしろ邪魔してもらった方が得策です」

 

「しかし、フィリアはっ! ウチらにとって大事なっ!」

 

「ミラアルク……、いいでしょう。では、その素敵な方のために死んで下さい。僕は構いませんよ。君が人間に戻れなくても……」

 

 ウェル博士はテレポートジェムを片手にそんなことを言っている。あの目は本気だ。ミラアルクのことなんか、彼はどうとも思っていない。

 

「すまなかったんだぜ、ドクター……。見捨てないで欲しいんだぜ」

 

「ミラアルクちゃん。気持ちはわかるけど、ドクターにわがまま言っちゃだめよ」

 

「撤退する……、であります……」

 

 ヴァネッサたちとウェル博士はテレポートして消えてしまった。

 

 

「引いたか……。どうやら連中は風鳴訃堂と対立するみたいだな。まぁいい。オレたちはエルフナインを追うとしよう」

 

「ええ……、急ぎましょう」

 

 あたしとキャロルはエルフナインを追って未来が捕らわれている場所へ進んだ。

 

 

 

 エルフナインの元に辿り着いたとき、彼女の顔は青ざめていた。

 

「どうしたの? エルフナイン……。何か不具合でも起きたの?」

 

 あたしがそう尋ねるとエルフナインは頷きながらこう語った。

 

「キャロル、フィリアさん、違ったんです。依代となった未来さんに力を宿してるんじゃない……」

 

 そう彼女が口にしたとき、未来の体が光となって消えていってしまった。

 

「大きな力が未来さんを取り込むことで……!」

 

「未来自身が神に体を乗っ取られてしまう……。まさか……!」

 

 エルフナインの言葉にあたしはそう反応する。

 じゃあ未来は今ごろ……。

 

「上に居るのだろうな……。どれ、見てみるか……」

 

 キャロルがシャトー上空の響たちの様子を写しだした。

 

 

 予想通り未来は上空にあるシェム・ハの幼体の中に居た。そこに響が猛スピードで突っ込んでいる。

 

『未来ぅぅぅッ!』

 

 響が未来に手を伸ばすが彼女はシンフォギア? いや、ファウストローブを身に纏い、彼女の手を避けた。

 

 

『遺憾である。我が名はシェム・ハ。人が仰ぎ見るこの星の神が、我と覚えよ』

 

 冷たい目をした未来は自らを、シェム・ハと称して、海の中に落下した響を見下ろしていた。

 その姿は確かに神を彷彿とさせる神々しさがあった。

 

 しかし、そのシェム・ハはすぐに苦しみだした。

 

『不遜である。人ごときが我を支配するなどと……。ぐっ……』

 

 シェム・ハが覚醒した未来の体から白い光が溢れ出した。あれは、アロンの杖の光……。

 

『…………』

 

 シェム・ハの目から光が消えたかと思うと、背中に翼が生えてそのままどこかへ飛んでいってしまった。

 

 さらに、それを追うような形で翼も飛び去って行った。彼女は任務として追い掛けたのだろうか……? いや、どうやら独断らしい。

 

 あたしたちの未来の奪還作戦は予想外の出来事が頻発して、失敗してしまったのである。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「先輩……」

 

 クリスは憂鬱そうな顔でそう呟いた。

 

「やはり、一連の事件を操っていたのが風鳴機関だった」

 

「知っていて翼さんを止められなかったのは情けないデスよ」

 

 調と切歌はあの瞬間に翼の暴走を止められなかったことを悔いているようだ。

 

「それでもあたしは信じてる。不器用なあの人に裏切りなんて真似、出来るものか」

 

「私だって疑ってない!」

 

「翼さんは大切な仲間デス!」

 

 クリスの言葉に二人は同調した。そのとおり翼は裏切ってなどいない。

 

「翼はおそらく精神的な洗脳を施されていたに違いないわ。エルフナインはミラアルクに変なことをされて、チフォージュ・シャトーを動かしたのでしょう?」

 

「ええ、おそらくは、あの魔眼が原因です……」

 

 あたしはエルフナインに翼が変な行動をとった原因を確認する。確か、ライブ会場でミラアルクに何かされていた。

 

 その時、あたしの通信機に連絡が入った。マリアも同時に何か入ったみたいだ。

 

「招集、至急発令所まで」

 

 書かれていた内容はこんな形だった。

 あたしとマリアだけなのは、何故なんだろう……?

 

 

 

 

「お呼びでしょうか」

 

「あたしとマリアだけって、何があったの?」

 

 マリアとあたしが招集に応じた。

 

「すまないな、君たちを急に呼び出して……」

 

『さっそくだが君たちに新たな任務の通達だ』

 

 弦十郎がそう言葉を発したのとともに、モニター越しで八紘が話を始める。

 どうやら、新しい任務のようだ。

 

「かねてより進めていた内偵と政治手段により、風鳴宗家への強制捜査の準備が整いました。間もなく執行となります」

 

「なるほど、あの狸ジジイにひと泡吹かせられるのね」

 

「フィリアくん!」

 

 緒川の言葉にあたしが反応すると弦十郎が少しだけ大きな声を出した。

 

「そうよ。風鳴宗家って、あなたたちや翼の……」

 

「そうだ。もはや一刻の猶予もない」

 

『風鳴訃堂自ら推し進めた護国災害派遣法違反により日本政府からの逮捕依頼だ。状況によっては殺害の許可も降りている』

 

 弦十郎と八紘は本気で風鳴訃堂を押さえるつもりだ。しかし、殺害って……、穏やかじゃないわね。

 

「殺害って! それは翼に対しても?」

 

「服務規定違反によって謹慎中の響さん並びに、未成年スタッフに任せるわけにはいかないと判断しました。そこで、マリアさんとフィリアさんに……」

 

 緒川の言葉はマリアの言葉を肯定するように聞こえた。そんなバカな任務、認められないわ。

 

「任務とはいえ承服出来ないわ。刃の下に心を置くってそういうこと? 違うわよね? どんな理由があろうと、家族が家族を殺すなんて間違ってる。私は翼を引きずってでも連れて帰る為に同行させてもらうわ! フィリアだって、そうでしょ?」

 

 マリアは凛々しくも厳しい顔付きで弦十郎たちに意見し、翼を連れて帰ると明言した。

 

「もちろんよ。あたしだって翼を取り戻したいし、傷つけるつもりはない。だけど、司令。下手したらシェム・ハなどの神の力とぶつかる恐れがあるけど、あたしとマリアだけで十分なの?」

 

 あたしは司令に戦力の少なさについて話をした。

 

「ああ、それはオレも懸念していた。しかし、サンジェルマンくんたちや、キャロルくんたちは、あくまでも協力者。今回の件はその範囲外だ。だから、S.O.N.G.の正式な一員となった彼女にも同行を願う」

 

 弦十郎がそう言ったとき、ドアが開き彼女が入ってきた。

 

「弦十郎くんに頼まれたら仕方ないわね〜。あなたと一緒に戦うことになんて思ってもみなかったわぁ」

 

 フィーネは楽しそうに微笑みながら弦十郎にそう言葉をかけた。

 こうしてフィーネを加えたあたしたちは風鳴本家に訃堂を確保するために入ることになった――。

 




いつの間にか、ウェル博士がとんでもないことになってしまいました。
そして、風鳴訃堂逮捕へ動くメンバーは原作に加えてフィリアとフィーネが参戦します。
次回もよろしくお願いします!


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I am a friend

今回は風鳴本家での戦いです。
それでは、よろしくお願いします!


『認証――承認』

 

「開門。私の権限のおけるセキュリティは解除可能だ。速やかに風鳴訃堂。および帯同者の逮捕、拘束を――」

 

 八紘が風鳴本家のセキュリティを解除して門を開く。黒服のエージェントたちが中に入るが、アルカノイズたちがそこに触手をのばしてきた。

 

「はぁ、随分な歓迎じゃなぁい。せっかく弦十郎くんの実家に挨拶に来たっていうのに……」

 

 フィーネがバリアを張ってエージェントたちを守る。この反応の速さは、肉体を手に入れたからなのかしら?

 

「すまない……、了子くんっ……! まさか……」

 

「アルカノイズが……」

 

 弦十郎と緒川がアルカノイズの存在に少なからず驚いていた。彼らは強いけど人間だから、アルカノイズに触れたらアウトなのよね……。

 

「コード、ファウストローブ……」

 

「はっ! ここは私とフィリアがっ!」

 

 マリアはシンフォギアを纏い、あたしはファウストローブを纏って応戦する。

 

「いいか、マリアくん。アマルガムは……」

 

「わかってる! 私だって謹慎はごめんよ」

 

「頼むぞ。これ以上の横紙破りはS.O.N.G.の国外退去に繋がりかねないのだ」

 

 弦十郎と八紘はマリアに釘を刺して先に進んだ。謹慎か……、あたしは次にやらかしたら謹慎じゃすまないだろうな。

 

「じゃあ、後は若い二人に任せましょう。あっ、私も今は若かったわー」

 

「人の体使ってはしゃがないで。恥ずかしいわね……」

 

 フィーネにひと言声をかけてあたしはアルカノイズを駆逐する作業に向かった。

 

 

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

「もう少しで、全部倒せそうね……」

 

 マリアとあたしがアルカノイズをほとんど全滅させたとき、大きな音ともに障子が吹き飛んできた。

 

「何っ!?」

 

 あたしたちが音のする方向を見ていると弦十郎と訃堂が戦っている。

 フィーネは手を出していないところを見ると、弦十郎は彼女に手出しをしないように言ったのだろう。

 

「司令!」

 

「あの老人、やっぱり普通じゃなかったか……」

 

 訃堂のあの覇気は老人だとは思えない……。ていうか、弦十郎と戦える人類がいるなんて……。

 

「――っ!? マリアっ! 伏せなさい!」

 

「フィリア!? ――はっ!」

 

 こちらに飛んでくる斬撃をあたしは仕込み刀で受け止めて、屋根の上に目をやる。

 そこには、翼が立っていた。

 

「マリア……、悪いけど下がってて。この子はあたしが……! 翼、目を覚ましてもらうわよ!」

 

「ほざけフィリア! 私の目はハッキリと覚めている!」

 

 あたしの刃と翼のアームドギアがぶつかり合う。

 去年もこうやって喧嘩したっけ。あのときは翼が響にギアをぶつけようとしたんだったな……。

 

「へぇ、その割には剣筋が鈍ってるわよ。迷ってるんじゃない?」

 

「くっ――。この国のために神の力を与することこそ、防人の務め! フィリアこそ、風鳴の名を持ちながら、国の防衛に仇を成すとはなんのつもりだっ!」

 

 翼の多彩な技があたしに向かってくり出される。あたしはそれを躱したり、受けたりしながら翼の目を見る。

 

「あたしは風鳴以前にあなたの友人よ! 風鳴翼! 不器用だけど、どこまでも真面目で、歌が誰よりも好きなあなたのね!」

 

 あたしが翼にそう声をかけた時――。

 

「戦場で甘言を抜かすなぁぁぁぁッ!」

 

 翼のアームドギアはあたしの刃を砕き折った――。

 

「防人としての自覚無き剣に私が負けるはずなかろう! ――がはっ!」

 

「こっちが武器を失ったと見ると、もう油断? 甘いわね! 今のあなたには剣なんて要らないわよ。(これ)だけで十分なんだから!」

 

 あたしは武器が折れてもお構い無しで、翼の腹をめがけて一撃を放つ。

 

「あなた、いつからそんなに余裕が無くなったのよ? 気が付いてるでしょう? 守る力がある自分を保つために大きな力を得ようとしてることに……」 

 

「うっ……! そっそれは……」

 

 翼の剣技がさらに鈍ってきた……。

 

「ここまで、一人で来たような顔をして! あなたの体に流れるのは防人の血だけだとでも言うの!?」

 

 あたしは翼のアームドギアを側面から殴りつけて、吹き飛ばした。

 

「私の体に……?」

 

 翼はハッとしたような表情を見せ、頭を振った。

 

「そうだ、私の体に流れるのは――」

 

「そう、あなたに流れるのは――」

 

「「天羽奏の生き様そのものッ」」

 

 あたしの拳と翼の拳が激しくぶつかり合った。

 翼が人を守りたいと願って戦う理由の一つは奏が守ってきた未来と守るはずだった未来を守るためだ。

 

「だが、私一人の力は非力だ……。防人、防人と馬鹿みたいに繰り返してるのに……、あなたや奏みたいに強くなれないのよ……」

 

 翼は変身を解いて泣きそうな顔でそう言った。

 

「バカね……、何度も言ってるでしょ。だったら頼ればいいじゃない。あなたの片翼はもう奏だけじゃない。あたしもマリアも、みんなもあなたの翼になれる。一緒にどこまでも翔んで行けるわ」

 

 あたしは翼に頼られたいし、困ったら彼女に頼りたい。前は一人で戦っていたあたしたちはもう一人じゃない。

 

「翼、私たち一人ひとりの力は小さいかもしれないけど、歌を重ねればそれが大きな力になる。一緒に歌ったあなたならそれがわかるはずよ……」

 

「マリア……、私は――」

 

 マリアの言葉に翼が返事をしようとしたその時である。

 強烈な爆発音が鳴り響き、弦十郎が訃堂によって蹂躙され地面に大きなクレーターを作り打ち倒されてしまった。

 

 まさか……、弦十郎が……、負けた……? そんなバカな……。

 

 

 

「わしを殺すつもりで突いていればあるいは……。とことんまでに不肖の息子よ」

 

 老人だということが信じられないぐらい筋骨隆々の体格……。ひと目でわかる。こいつは化物だ……。

 

 あたしじゃなきゃ……、勝て――。

 

「儚きかな。人形風情がわしをどうにか出来ると思い上がりおる――」

 

 気付いたときにはあたしは訃堂によって上半身と下半身が分断されていた――。

 

 バカな……。ファウストローブを使ってるのよ!?

 

「風鳴の道具として役に立つから飼ってやったものを! わしが廃棄してや――」

 

「ウチの娘に何してくれてんのよっ!」

 

 フィーネが訃堂の背中を蹴り飛ばしてくれたおかげであたしは訃堂のニ撃目を受けずに済んだ。

 

「ふん、終焉の名を持つ巫女か……。お前の相手は別に用意してやろう」

 

 訃堂が腰に帯同していたアロンの杖を掲げると、赤い光が建物の中から空に向かって照射され、光の中から未来の体を支配しているシェム・ハが現れた。

 

「…………」

 

 シェム・ハは無言でフィーネに向かってビームを放ってきた。

 

「なるほど、あの方と同じアヌンナキだけはあるわねぇ……。これは強烈っ……!」

 

 フィーネの多重バリアはことごとく粉砕されて、彼女はかろうじてビームを避けることは出来たが、地面に底が見えないほどの穴が空いた。

 

 弦十郎より強い訃堂も居て、さらに神そのものであるシェム・ハまで彼の傀儡となっている……。

 

「しょうがないなぁ。私も切り札を使っちゃおうかしら?」

 

 なんと、フィーネは白衣のポケットからギアペンダントを取り出す。

 そして――。

 

「phili joe harikyo zizzl……」

 

 フィーネの唱えた聖詠は、フィアナのものと同じだった。

 浄玻璃鏡のシンフォギアを彼女は纏う。

 

「櫻井女史がっ!」

 

「シンフォギアをっ!?」

 

 翼とマリアは驚いた顔をしてフィーネを見ていた。もちろん、あたしも驚いた。

 

「そりゃそうよ。これは私の実験用に作ったプロトタイプの最初のシンフォギア。私のクローンのフィアナちゃんに適合するのは、私に合わせて作ったからなの」

 

 フィーネはあたしの体にシンフォギアを纏わせた。それならば、あたしってよっぽど適性がなかったのね……。

 

「さて、試運転させてもらうわよ……!」

 

 フィーネが人差し指をシェム・ハに向けると、球体状のアームドギアが次々と分裂して彼女を取り囲み――一斉に紫色の光線を繰り出した。

 

 風鳴本家は光線を受けてまたたく間に崩れ落ちる。

 

「ちょっと、やり過ぎよ! あの体は未来のものなのに!」

 

「大丈夫、大丈夫! 神の力を持ってる彼女にこの程度の攻撃……」

 

 フィーネがそんなことを言ってるうちに爆煙の中から巨大な光弾が放たれて、こちらへと飛来してきた。ちょっと、これは周辺への被害もただじゃ済まないわよ。

 

「コード、クロノスモード……」

 

 ――神ノ息吹(ゴッドブレス)――

 

 飛来してくる巨大な光弾を、あたしは分解エネルギーを凝縮した一撃で相殺する。

 

「訃堂のアロンの杖さえ奪えばシェム・ハの力をコントロールして未来を助けられるかも知れない!」

 

 シェム・ハを放置するとこの辺り一帯が焼け野原になる。その前に訃堂から杖を奪わないと……。

 

 そう思ってると、あたしとフィーネに狙いを定めたシェム・ハは次々とこちらにビームを放ってきた。訃堂のやつ、あたしたち二人をシェム・ハに釘付けにするつもりね……。

 

 

「わしの元へ来い、翼! 防人ならば、風鳴の血が流れているならば!」

 

「出来ません。もはや何を力と変えて立ち上がればいいのかわかりません」

 

 翼はそう言って訃堂を拒絶する。

 

「刻印――起動!!」

 

「――私は……、もう……」

 

 しかし、翼はもう洗脳が解けており、何も効果がなかったみたいだ。

 

「お前もまた……、風鳴の面汚しか……。この親不孝者めが!」

 

 訃堂は翼に向かって銃弾を放った。まずい、生身の翼に銃弾が当たったら……。

 

 しかし、銃弾は飛び出してきた八紘によって阻まれた。

 

「あっ……」

 

「あ……、ああ……、お父様!」

 

 しまった、八紘が撃たれてしまった。治療をしないと――。しかし、ここを離れるとシンフォギアを纏ってるとはいえフィーネが……。

 

「ふん。ここにもまた愚息がおったか」

 

「どうして、お父様が……」

 

「くっ……。私以外の男に、お前の父親面などされたくなくてな。――がはっ」

 

 翼は八紘に庇われて困惑して涙が目から溢れそうになっていた。 

 

 

「フィリアちゃん、もう一段階ギアの出力を上げられるわ。それで、何とか耐えてみせる。八紘くんを助けてあげて」

 

「ええ……、わかったわ……」

 

 あたしはフィーネの言葉を受けて八紘の元へと急いだ。

 

「翼。人は弱いから守るのでは、ない。人には守るべき価値があるからだ。それを忘れるな……」

 

「あぁぁぁぁっ! お父様ぁ!」

 

「どきなさいっ! 翼! 手遅れになる前に!」

 

 あたしは時を止めて瞬時に移動し、八紘の体に触れる。

 

 ――ループ・ザ・ワールド――

 

 間一髪……、彼の命が尽きる直前に彼の体の時を巻き戻すことが出来た。

 

「翼……、フィリア……、私は生きている?」

 

「叔父様の体の時を巻き戻しましたの。翼――今ですわ。叔父様にあなたの、今のあなたの歌を聞かせてあげてくださいまし……」

 

 あたしは翼に歌を思う存分歌うように促した。

 

「フィリア、その口調をやめろと何度言えば……。お父様、私はまだまだ未熟で分からないことだらけです。それでも、私の歌を聞いてください!」

 

 翼は歌うと宣言した。八紘の前だと、もうこの口調がクセになっているから我慢してほしい。

 

「逝き損ねたか! しかし、蘇ったところで同じこと! もう一度……」

 

「Imyuteus amenohabakiri tron……」

 

 翼はギアを纏って、訃堂と戦い始めた。

 

「フィリア! ここは、私に任せて櫻井女史を!」

 

 いつもの覇気が戻った翼は訃堂に引けを取らない戦いをしていた。

 これは――また、この子はひとつ強くなったみたいね……。

 

 

 

 あたしはシェム・ハの猛攻を一人で抑えているフィーネの元へ戻った。

 

「八紘くん、無事で良かったわね……」

 

「あなたが無事じゃないじゃない。ほら、傷を治しとくわ」

 

 フィーネはシンフォギアを纏った状態とはいえ、神の力をディバインウェポンやグロリアとは比較にならないほど発揮するシェム・ハにかなり傷付けられていた。

  

「ありがと、フィリアちゃん。あーあ、かっこいい所見せたかったんだけどなー。ちょっと相手が悪いかも……」

 

「あたしたちは翼たちを信じて出来るだけ時間を稼ぎましょう」

 

 あたしとフィーネはシェム・ハの猛攻に耐えていた。

 

「未来っ! 目を覚ましなさい!」

 

 あたしはシェム・ハの攻撃をいなしながら未来に何度も呼びかけた。しかし全く反応がなかった……。シェム・ハ自体の意思も無いから全てが遮断されているのかもしれないが……。

 

 クロノスモードの維持時間も残り僅か……。

 

 

 あたしが焦りを感じたとき、なんと翼がアマルガムを発動させる。

 彼女は訃堂を圧倒して、彼の剣を砕き、アロンの杖が吹き飛んだ――そして――。

 

 

「そこまでだ、翼。お前を鬼と堕としてしまえば、俺はそこで何とか命を拾ってくれた兄貴に顔向けが出来ん」

 

 翼が訃堂にトドメを刺そうとしたところで弦十郎が割って入って彼女を修羅に落ちそうになった彼女を止めた。

 

「司令! アロンの杖を早く!」

 

 あたしはアロンの杖の回収をするように弦十郎に向かって叫んだ。

 

「好機なり……。我は自由を得たり……」

 

 しかし、弦十郎が反応するよりも早く……。シェム・ハがアロンの杖に向けて赤いビームを放ち、杖は粉々に砕け散ってしまった。

 

「やられたわね。虎視眈々と狙ってた。杖が訃堂の手元を離れて自分へのコントロール権が失われるのを……」

 

「ほう、滑稽である。賢しいフリをするではないか。我に踊らされただけの哀れな巫女よ……」

 

 フィーネの言葉を聞いてシェム・ハは彼女にそう言い放つ。

 何を言ってるの? このシェム・ハはフィーネを知ってる?

 

 完全に意識を取り戻したシェム・ハ……。

 彼女の真の力は先ほどまであたしたちが戦っていたモノとは比べ物にならないほど大きなモノだということをまだ、あたしたちは知らなかった。

 

 全世界の未来を懸けた戦いが始まろうとしていた――。

 




原作の9話のマリアは超カッコ良くて、あの感じを超えるのは無理と判断して翼の説得はフィリアに任せました。
彼女は一番翼と付き合いが長いから適任かと……。
そして、唯一のオリジナルシンフォギアはフィーネが纏う感じで落ち着きました。プロトタイプという言い訳つきです(笑)
これで、残りの敵はヴァネッサたちとウェル博士、そしてシェム・ハになりました……。
ここから、最終回まで突っ走りますので、よろしくお願いします!


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シェム・ハ

ラスボス登場です。
今回はちょっと時間がなくて短めですが、よろしくお願いします!


 

「私を踊らせただと? もしや……! 貴様、あの方に何をした!?」

 

「じれったい。道具の用いる不完全な言語では全てを伝えるのもままならぬ」

 

「どういうことだ?」

 

「もはや分かり合えぬということだ。ああ、それこそが忌々しきバラルの呪詛であったな」

 

 フィーネの問いにシェム・ハは答えず、光の球体を彼女に向かって放ってきた。

 

「――何っ!? はぁぁぁぁっ! ああっ!」

 

 フィーネは光の球体をバリアを張って防ごうとしたが、バリアは粉々に砕け散った。

 

「ふっ、非力なり。所詮は多少長生きしただけのパーツの一欠片……。我に仇なすに能わず……」

 

 シェム・ハがさらに腕を振り下ろすと、赤色の長い刃が超速でフィーネの右肩から下が切り落とされた。

 

「ぐっ……! 貴様っ!」

 

「了子くんっ!」

 

 フィーネは苦悶の表情を浮かべ、弦十郎は

 

「落ち着きなさい! すぐ治せるわ……。クロノスモードはもうそろそろ、限界だけど……」

 

 あたしはフィーネの腕を時間を戻して再生させる。ネフィシュタンの鎧無しだとこういう所は人間的よね……。

 

「ほう、驚愕だな。摂理に叛逆する力か」

 

 シェム・ハはそう言いながら、私に向かって光の球体を次々と放ってきた。

 

「ちっ! 司令、至急撤退を! このままだと、抑えきれない!」

 

 あたしは錬成陣からエネルギーの球体を繰り出して相殺しようとした。

 

「この体を傷付けまいと、手ぬるいことを……。まあ良い」

 

 シェム・ハは腕を振り上げると赤い光が再び舞い上がり、地面から謎の物体がせり上がってきた。

 岩のような物に血管のように赤い管が張り付いてる……。あれは一体?

 

 それとほぼ同時に、あたしのクロノスモードはついに解けてしまう。

 

「まさかこれは、ユグドラシルシステム……? 貴様の目的は……!?」

 

 フィーネは謎の物体を見つめてユグドラシルシステムという言葉を使った。彼女はこれを知っている?

 

「知れたこと。すべての生けるものを完全なるものに改造する。それこそが我の理想よ」

 

 こいつ、何をトチ狂ったこと言ってるの? 改造って……、このユグドラシルシステムとか言うのが、そのための装置ってこと?

 

「人形、お前だけは些か邪魔だな」

 

 シェム・ハはあたしに向かって銀色の光線を放ってきた。

 ちっ、エネルギーが不足して動きが鈍い……。

 

 

「フィリアはやらせない!」

 

 マリアはアガートラームでシールドを展開してあたしを守ってくれた。

 しかし、弾かれた光線は辺り一面を銀に変質させる。

 

「埒外の物理法則……。物質を無理やり変質させるなんて……。錬金術とはわけが違うわ……。言うならば哲学兵装に近いっ……!」

 

 あたしはシェム・ハの起こした驚愕の現象について分析した。

 

「哲学兵装……、シェム・ハ……、言葉の力……。まさか!? あの御方がバラルの呪詛を撒いたのは!?」

 

 フィーネは辺り一面に広がった銀色の景色と、シェム・ハを交互に見つめてハッとした顔をした。

 

「白痴だな。今さらエンキの真意に思い及ぶとは……」

 

「――っ!?」

 

 フィーネは声を失い……、変身が解けてしまう。

 バラルの呪詛はシェム・ハと関係があるみたいね。

 

「マリア! フィーネ! あたしたちも引くわよ!」

 

 あたしはクロノスモードが解けて、フィーネもシンフォギアが解けている。

 シェム・ハは神の力の持ち主で、その上、未来の体を使っている。

 このまま戦うのはどう考えても得策じゃない。

 

 あたしたちは目で合図をすると、そのままシェム・ハに背を向けて撤退ようとした。

 

「人形、お前は逃さぬ……」

 

 シェム・ハはあたしに赤色の刃を伸ばしてきた。ちっ……、仕方ない……。

 

 ――一刀火葬(イットウカソウ)――

 

 あたしは腕を千切り赤色の刃に向かって投げた。

 ミラージュクイーンを媒体とした腕は刃に刺さった瞬間に灼熱の炎を放ちながら大爆発する。

 爆炎に身を隠しながらあたしは戦線を離脱した。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「全ての調査、聞き取りは完了した。現時刻をもって行動制限は解除となる」

 

 翼は緒川によって手錠を外される。

 

「調査と聞き取りだけ? あの、アマルガムの不許可使用についての処断は?」

 

 翼は不思議そうに腕を見つめる。

 

「翼が発動させる直前、使用許可が下りていたのよ。八紘叔父様がずっと推し進めていたみたいだわ」

 

 そう、八紘は裏であたしたちの為に心労を注いでいた。そのおかげであたしたちは最大戦力で戦いに臨むことが出来るようになった。

 

「お父様が!?」

 

 翼は驚いた表情をしていた。

 

「フィリアくん、兄貴が君に礼を言っていたぞ。三途の川が見えていたらしいからな」

 

「私からも礼を言わせてくれ。お父様を助けてくれてありがとう。私はお前に刃を向けたというのに……」

 

 弦十郎と翼に揃って礼を言われる。別に礼を言われる為にやったわけじゃないんだけど……。

 

「翼、あたしたちは友達でしょう。喧嘩もすれば、助け合いもするわよ。月並みだけど、あたしはあなたとそれが普通な関係になりたいわ」

 

「――ふっ、喧嘩か。そうだな。ずいぶんと派手にやってしまったが。確かにお前と拳を合わせたとき、妙にスッキリしたよ」

 

 翼は憑き物が落ちたような顔をして、少しだけ微笑んだ。

 

 そのとき、司令室のドアが開く。

 

 

「翼さん!」

 

「立花か……、その……、私は……」

 

 翼はさすがに気まずそうな顔をしていた。

 

「全部聞きました。未来のことも……。正直、今はまだ頭の中がぐちゃぐちゃで混乱しています。だけど、一つだけはっきりしているのは、翼さんが帰ってきてくれて本当に良かった。嬉しかった」

 

 響はまっすぐに翼を見つめてはっきりと声を出した。響の言葉に嘘はない。彼女はいつだって人を肯定的に捉えることができる。

 

「そうか……、心配かけてすまない」

 

 翼はそんな彼女に頭を下げていた。

 

「わからないことはこれから考えていきたいです。だから明日や明後日、その先のこれからを、また一緒に」

 

「あなたと私、また一緒に……?」

 

 響の言葉をキョトンとした顔で受け止める翼。そして、彼女は差し出された手を見つめて、少しだけ迷っていた。

 

「あたしら全員このバカと手を繋いで来たんだ。先輩だけ無しだなんて許さねえからな」

 

「あたしたちなんて、一緒に手を繋がされたもんね。クリス」

 

「バカッ! 恥ずかしいこと思い出させんじゃねぇ!」

 

 クリスの言葉にあたしが反応すると、彼女は顔を赤らめて大声を上げた。

 

「一緒に戦ってください」

 

「そうだな。立花も私の戦友(とも)になってくれ」

 

「あはっ! 翼さん、これからもよろしくお願いします!」

 

 響の言葉に彼女は応えて、手を握る。

 

 奏……、あたしはあなたとの約束を半分だけしか守れなかったわ……。

 でも、あなたが守った(いのち)は――彼女の中の闇を照らす光になってくれた――。

 

 あなたのおかげよ……。これからも見守っていて……。あたしたちは、不器用なりに前に進むから……。

 

 

 

 

「ところで、エルフナイン。例の計画は進んでいるのかしら?」

 

 あたしは翼の話が落ち着いた後に彼女に話しかけた。

 

「はい。現在、櫻井先生を中心にボクたち錬金術師も技術を出し合って、間もなく実用可能になるはずです」

 

 エルフナインはあたしに進捗状況を伝える。

 

「おい、フィリア。例の計画って何なんだ?」

 

 クリスがあたしとエルフナインの会話に割って入った。

 

「えっ? あなたたちが月に行く計画だけど……」

 

「「ええーっ!」」

 

 あたしの言葉に装者たちは驚きの声を上げる。

 

「フィーネによれば、ユグドラシルシステムとは《惑星環境改造装置》というものらしいんだけどね、それを使ってシェム・ハが何をしようとしてるのか……、その謎を解き明かし防ぐ方法の鍵が月の遺跡にあるかもしれないのよ。だけど彼女は一度やらかしてるから月に行く許可は下りなかった……。だから調査に行くのはあなたたち、シンフォギア装者ということになったのよ」

 

 あたしは彼女たちに月探索の目的を伝えた。

 

「リア姉、月なんてどうやって……? まさかロケットでも飛ばすんデスか?」

 

 切歌は至極まっとうな質問をした。さすがは常識人。

 

「テレポートジェムを使うわ。月の遺跡内に潜入するためには、乗り超えなきゃいけない壁が多いけど何とかなりそうよ……」

 

「しかし、ユグドラシルが可動してる今……。それを放置しておくのは……」

 

 翼があたしに懸念材料である、ユグドラシルについて言及した。

 

「そうね……。だから、余剰戦力としてあたしやキャロル、サンジェルマンたちやフィーネも残るのよ。シェム・ハは神の力を持っているけど、未来の体を響の神殺しで攻撃するわけにはいかないでしょう?」

 

「未来……」

 

「大丈夫よ。響……、未来は必ず助ける。あの子が居ないとあたしは寂しいもの」

 

 あたしは響にそう言葉をかけた。

 

 かくして、月に行く計画は然るべき機関が見届けなくてはならないということになり、種子島宇宙センターで実行されることになった。

 

 そして、この日……、全世界の命運を懸けた総力戦が幕を開ける――。

 

 埒外の力を持つシェム・ハ、そして神を超えたと豪語するウェル博士……。二人の野望は世界を揺るがし、あたしたちはこれまでにない死闘に足を踏み入れることとなった――。

 




装者たちは自作のテレポートジェムで月に行きます。
次回もよろしくお願いします!


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卑しき錆色に非ず

種子島宇宙センターでの戦いです。
装者不在でのバトルをご覧ください!


「急ごしらえなので、戻りはこの転送装置を起動させている状態でないと、テレポートジェムを使っても月の遺跡から戻ることは出来ません」

 

 種子島宇宙センターでエルフナインは装者たちに最後の説明をする。

 

「ねぇ、エルフナイン。もしも、だけど……。その転送装置が壊れたりしたらどうなるのかしら?」

 

 マリアはエルフナインの説明にツッコミを入れた。そりゃ、気になるわよね……。

 

「皆さんが月に取り残されてしまいます」

 

 エルフナインは言い難そうな顔をして事実を伝えた。

 

「うわ〜。もしもそうなったらウサギの代わりに餅つきをしなくてはデスな〜」

 

「さすがは常識人の切ちゃん。建設的な意見だね」

 

「うう、冗談デスよ〜」

 

 切歌が和ませようとお気楽な発言をしたが、効果はないみたいだ。

 

「大丈夫だよ。フィリアちゃんたちが守ってくれるんだもん。何かあっても何とかしてくれるよ!」

 

 響は迷いのない目をしてあたしたちを信じてくれた。あたし以外は元々敵同士だったんだけどな。

 

「まさに昨日の敵は今日の友ということか。敵として戦ったときは心胆を寒からしめられたものだが、味方となるとこうも頼もしい」

 

 翼が言うとおり、フィーネもキャロルもサンジェルマンも敵のときは驚異だったが、味方になった今は心強い。

 

「フィーネ曰く月の遺跡には異端技術による防衛装置があるから、それに対抗出来るのって、あたしたち居残り組を除いたらシンフォギアしかない。リスクが高い任務だけど頼んだわよ」

 

 あたしはシンフォギア装者の彼女らが行く意味について話した。

 

「ちっ、仕方ねぇ。あたしらが帰って来るまでここを死守してくれよ」

 

 クリスは頭を掻きながらあたしたちに背中を預けてくれた。

 

「では、転送装置を起動するわ。準備はいい? 念の為にシンフォギアを纏っておくといい」

 

 サンジェルマンが転送装置を起動する。

 

「帰りの分のテレポートジェムを紛失しないように気を付けてなさぁい。あーしらが迎えに行くのも大変なんだから」

 

「無くして帰れないなんて笑えないワケダ」

 

 カリオストロとプレラーティは小学生の遠足に対する注意みたいなことを言っていた。

 さすがにそんなバカなマネしないでしょう。

 

「さっさと行って帰って来い。オレたちの労力をせいぜい無駄にしてくれるなよ」

 

 キャロルは相変わらずの物言いだったが、実際、この装置を作るのにかなり尽力してくれた。

 やはり、彼女は天才なのだと実感した。

 

 本来、ロケットの発射台となる場所に円形の半径5メートルほどの装置を取り付けており、それが金色の光を放っている。

 装者たちは装置の上に乗って準備が完了した。

 

「じゃあ、テレポートジェムを使うね」

 

 響が錬成陣が描かれてある瓶を装置の上に投げつける。

 

 これで彼女たちが転送されるはず――。

 

「ごめんねー。フィリアちゃん。どうしても月の遺跡に行きたくて、我慢できなくなっちゃったから……」

 

 まさに彼女らが転送される瞬間に、フィーネが装置の上に乗り込んでしまう。

 

「なっ、フィーネ! 命令違反よ! 戻りなさい!」

 

 あたしが声を上げるも、フィーネは手を振りながら消えてしまった。

 あいつ、何考えてるの!

 

 

 

『了子くん……、後で覚えてろよ……。まぁ、行ってしまったものは仕方ない。君たちは装者たちの帰還までその装置を守ってくれ』

 

 弦十郎は半ば呆れながらフィーネの件を甘受して、あたしたちに装置防衛の任務を命じた。

 なんか、あいつがとんでもない事を最後に仕出かしてくれそうであたしは不安でしかないんだけど……。

 

 エルフナインには一足早く本部に戻ってもらった。戦闘になると危険だし……。

 

「月の遺跡に眠る情報がシェム・ハにとって都合の悪い情報なら、おそらく彼女はここを狙ってくる」

 

「神の力に加えて小日向未来の肉体を持つというところが厄介だな。だが、いい加減、神殺しだけに頼るのも錬金術師としては些か癪に障る」

 

「我々はあらゆる現象を解析して、解き明かしてきた。それが埒外の現象だとしても……、それに抗って見せようじゃないか」

 

 あたしたちは激戦の開幕を予感していた。そして、たとえ神と敵対したとしても必ず打ち破って見せるという気概を持っていた。

 

 

「意外なゲストが来たワケダ」

 

「ヴァネッサちゃんたち……、何しに来てくれたのかしら?」

 

 プレラーティとカリオストロが見張っている方向からノーブルレッド……、ヴァネッサ、エルザ、ミラアルクの三人とウェル博士がやって来た。

 

 何のつもりかしら? そもそも、目的が分からないんだけど……。

 

 

「フィリア=ノーティス! お前を壊しに来たわ! ドクターの仇は必ずや私たちが討ってみせる!」

 

 ヴァネッサは殺気を剥き出しにして、あたしを睨みつける。

 

「あなたたち、今のこの状況わかってるのかしら? シェム・ハが世界中の人間に悪さをしようとしてるのよ。人類同士が争っている場合じゃ――」

 

「愚問だぜ! シェム・ハだろうがなんだろうが、ドクターに敵うわけないんだぜ」

 

「ドクターがこの世界を支配した後にわたくしめらを人間に戻してくれると確約してくれたであります! そのために邪魔な神殺しを月から帰還させるわけにはいかないのであります!」

 

 あたしの言葉に被せるようにミラアルクとエルザが目的を語る。

 そうか……、ウェル博士はそんな甘言で彼女らを付き従えていたのか……。

 

 

「立花響が居ない今! 僕に敵う者は誰も居ないのです! 僕はついに天を握ることが出来るようになりました! レディ! いつかの借りは返してもらいますよ!」

 

 ウェル博士はネフィリムの腕をキャロルに向かって伸ばしながら、彼女に恨み節を言い放った。

 

「オレを嘗めるな!」

 

 キャロルは四大元素(アリストテレス)で4属性すべてのエネルギーを束ねてウェル博士の右腕に向かって放つ。

 

 ウェル博士の腕は粉々になって砕け散ったかと思えば、すぐに並行世界の別個体と入れ替わり元通りになった。

 

 

「んっんー! 無敵というのは存外気分の良いものですねー! さて、今度はこちらの力を試させてもらいましょうか! 最速で最短でまっすぐに――一直線にィィィィィッ!」

 

 まさに響を彷彿とさせる突撃を行うウェル博士。

 そのパワーはネフィリムの力に神の力がプラスされ、本家の彼女以上の力に感じられた。

 

「――っ!? がはっ!」

 

 キャロルはファウストローブを身に纏っているにも関わらず腹に一撃を受けて、激しく地面に体を打ちつけてしまう。

 

「ふっふっふ、ざまあみろ! スカッとしたなぁ。一度負かされた相手を蹂躙することがこんなに気持ちが良いなんて!」

 

 ウェル博士は満足そうに笑いながらキャロルを見据えていた。

 

「スキだらけなワケダ」

 

 そんなウェル博士にプレラーティはけん玉で後頭部を思い切り殴りつける。

 

「――はうっ! って、無敵の僕にチンケな攻撃が効くわけないだろっ! がはっ――」

 

「効かないかもしれないけれど、あーしらが本気で連携すれば、あんたに何にもさせないことは可能なのよぉ。痛みは感じるんだから、それなりに地獄は見るはず……」

 

 カリオストロがウェル博士の鳩尾に拳をめり込ませる。

 そして、そこから顔面を全力で殴った。

 

 彼女らに任せておけばウェル博士は何とかなるかもしれないわ……。

 

「よそ見してる余裕を見せるとは気に食わない奴だぜ!」

 

 ミラアルクは無数の蝙蝠をあたしに放ちながらそう言った。

 

「コードクロノスモード……!」

 

 あたしはクロノスモードを開放して目を瞑る。

 

 ――因果ノ捻時零(インガノネジレ)――

 

 時を止めてミラアルクの背後に回り込み、彼女に連打を浴びせる。

 彼女は地面に叩きつけられた。

 

「ぐはっ……!」

 

「ミラアルクちゃん! ちっ、時限式とはいえ、時を操る力は驚異的ね……! こうなったら!」

 

 ヴァネッサは自らの体をロボットのように変形させて巨大化した。ウェル博士にかなり弄られてるみたいね……。

 

「私たちに居場所と命を与えてくれたドクターの邪魔はさせない!」

 

 彼女は巨大なロケットアームをあたしに飛ばしてきた。パワー勝負なら負けないわよ。

 

 ――神皇拳(シンオウケン)――

 

 体内のエネルギーを身体能力の引き上げに集中させて、ヴァネッサの攻撃を片手で受け止める。

 

「この化物ッ! なんで、お前みたいな奴が、あいつらと手を繋いで笑っていられるの!」

 

 ヴァネッサはあたしの顔を悲しそうな顔で見つめながら吐き捨てるように言葉を放った。

 

「ヴァネッサ、あたしだってあなたと同じで人間じゃない身体に絶望したことはあるわ。でも……、不完全で弱かったあたしに手を差し伸べてくれた人がいた……。だからこそ、あたしは前に進めた。進まなきゃいけないと思えた……。あの子はきっとあなたにも手を差し伸べたんじゃないかしら?」

 

 あたしは彼女に向かってそんな言葉をかけた。

 もちろん、自ら望んでこの身体になったあたしと彼女らは違う。だけど、人ならざる身になった辛さは記憶を失ったときに痛いほど感じた。

 

 だからこそ、あたしが彼女らに恨まれようと、何とか卑屈な考え方だけは改めて欲しかった。

 

「わたくしめらに、手を差し伸べてくれたのはドクターだけであります! フィリア! そんな言葉で言い包められるほど、わたくしめらは弱くないのであります!」  

 

 エルザはヴァネッサを取り押さえてるあたしを睨みつけて銀色のケモノのような鎧を身に纏った。

 

「オールアタッチメント! Vコンバインであります!」

 

 そして、猛スピードで装置に向かって駆け出して行った。

 くっ、やらせないわよ!

 

 ――神ノ断罪(エルトール)――

 

 あたしは天から巨大な雷撃をエルザに向かって落とした。

 彼女は天災と同等の一撃を受けて地面に伏した。

 

「よくもエルザちゃんを!」

 

 ヴァネッサは至近距離であたしに向かってミサイルを何発も撃ってきた。

 巨大な爆風によりあたしとヴァネッサは吹き飛ばされてしまった。

 

「ちっ、何て無茶をするの!」

 

 あたしはヴァネッサの無茶苦茶な攻撃に辟易した。

 まったく、自爆技を使うなんてやりにくい……。

 

「くっ、私の最大火力を受けてもその程度なのね……。しかし、神となったドクターが……」

 

「あら、ドクターがどうかしたの? 彼ならもうすぐ……。ただの人よ……」

 

 あたしは神の力を得たウェル博士の方を指さした。

 

「ようやく拘束した。思ったよりも馬鹿力な上に聖遺物を食らうネフィリムの動きを封じるのが厄介だったが……」

 

 キャロルが糸でウェル博士をガチガチに拘束して、その上でサンジェルマンたちが三人がかりでネフィリムの腕の動きを錬金術で押さえつけていた。

 

「ぼっ、僕をどうするつもりだい? 何をやっても無駄なんだぞ!」

 

 ウェル博士は上擦った声でキャロルたちに向かってそう言い放つ。

 

「恐るべきは埒外の物理法則によるダメージを無効化。だが拘束に対してはどうだ? これはかつてフィリアたちがディバインウェポンを相手取ったときに使った戦術だ」

 

「くっ……。悪辣な……!」

 

 キャロルのセリフに彼は苦悶の表情を浮かべる。 

 

「アルカヘスタ!」

 

 さらにウェル博士をキャロルは結界の中に閉じ込めた。

 

「チフォージュ・シャトーに備えられた世界分解機能を限定的に再現し……、応用する。神の力に対抗するための錬金術か……」

 

「キャロルちゃん、一人じゃ足りないエネルギーもあーしらで補えば!」

 

「人以外の構造を不純物……、つまり神と定めて分解出来るというワケダ」

 

 サンジェルマンたちはキャロルのやろうとすることに力を貸すみたいだ。

 

「ヤツの場合はネフィリムとやらも分解される対象になるがな――。オレの錬金術を嘗めるなよ!」

 

 キャロルがそう言い放つと、結界を爆発させた。

 

 そして、爆煙が晴れるとただ一人の白髪の人間が呆然とした表情で膝をついていた。

 

「「ドクター!」」

 

 ヴァネッサたちはウェル博士の元に駆けつける。どうやら本当に神の力の分解に成功したみたいね……。

 その証拠にウェル博士の体は所々に火傷の跡が見える。

 

「――そんな、せっかく手に入れた神の力が……。僕こそこの世の支配者に相応し――。ぐふっ――」

 

 ウェル博士がセリフを言い終える前に彼は赤い刃に身を貫かれる。

 

「傲慢である。我を差し置いて支配者だと?」

 

 無表情でウェル博士に致命傷を負わせたのは、未来の体を乗っ取り、好き勝手に操っているアヌンナキの一人――シェム・ハ……。

 

 世界を懸けた戦いの前哨戦は終わり……、いよいよ、最後の戦いが幕を開けた!

 




原作では失敗した神の力の分解を成功させてみました。
キャロルに加えてサンジェルマンたちがエネルギーを貸したので一人にかかる負担は軽減されてます。
錬金術師が神の力を凌駕するシーンが書きたかったのです。
しかし、先に書いておきますが、ウェル博士はまだ退場しません。むしろここからが彼の活躍の本番ということだけ予告しておきます!
せっかく、設定盛り込んだので、シェム・ハ戦にも残ってもらいます。
次回からシェム・ハ戦です。最終回までよろしくお願いします!


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神VS錬金術師たち

シェム・ハ戦の開幕です。
それではよろしくお願いします!


 

「げふっ……、ぼっ僕はしっ、死ぬのか……」

 

 ウェル博士はおびただしい量の血が体から吹き出して、顔色がみるみる悪くなっていた。

 

「ドクター! しっかりするんだぜ! そっ、そうだ、血だ! こいつで――」

 

「輸血するにも設備がないであります!」

 

「嫌だっ! 私たちの前からまた居なくならないでください!」

 

 ヴァネッサたちは動揺してウェル博士に声をかけることしか出来ていなかった。

 

「はぁ、仕方ないわね……」

 

 ――ループ・ザ・ワールド――

 

 あたしはウェル博士の体の時間を巻き戻した。埒外の存在である神の力に関してはこの能力は干渉できないが、分解されたネフィリムとガングニールの腕は再生してしまった。

 まったく、融通の効かない能力ね……。

 

「はっ……、体が……、治った」

 

 ウェル博士は信じられないという顔で自分の傷口があった場所を眺めていた。

 

「フィリア……、なぜ、ドクターを……?」

 

 そして、ヴァネッサは彼よりももっと驚きながらあたしを見ていた。

 

「知らないわよ。そんなこと。こいつは妹に酷いことをしたし、絶対に許せない大馬鹿者よ! でも、きっとあの子が居たら、助けてほしいって言ったと思うから……。それだけよ。言っとくけど、罪は償ってもらうわ。絶対にね……」

 

 あたしはウェル博士のことを恨んでいる。フィアナを狂わせてボロボロにしたことは本当に許せない。

 だけど、目の前で死ぬ人間をついに見逃すことが出来なかった……。多分、あの子たちの影響なんだろう。

 

 そして、あたしは彼女らに戦意がないことを感じ取り、シェム・ハに意識を向けた。

 

 そのときである。弦十郎から通信が入る。

 

『フィリアくん! 月の遺跡から通信が入った。シェム・ハの目的、そしてバラルの呪詛の役割がわかったぞ――』

 

 シェム・ハの目的は人類を生体端末群として、ユグドラシルを使って星と命を意のままに操れる武器、怪物へと改造することらしい。

 

 かつて人類を見守ってきたアヌンナキたちの中で彼女はそれを目的に反乱を起こした。

 

 他のアヌンナキたちは対抗したが、自身を言語と置き換えることであらゆるシステムに潜伏するシェム・ハを覆滅することは出来なかった。

なので、彼らはやむなくシェムハを封印して、地球の放棄を決めた。

 

 シェムハは全人類の遺伝情報内に記憶され存在し続けていて、事実上の不死身となっている。

 

 ゆえに彼女を無力化するために、バラルの呪詛によって統一言語で繋がれた人類を分断したらしい。

 

 つまりバラルの呪詛は、不和の根源であると共に、人類を今日まで守護してきたのだ。

 

「なるほど、だったらあいつの目的は月の遺跡を破壊してバラルの呪詛を解除すること」

 

 あたしは今までの疑問に合点がいった。

 ていうか、フィーネってかなりやらかしてるわね……。勘違いして月を破壊して、愛した人の好意を無に帰するところだったんだから……。

 

「ふん。ヤツの目的などどうでもいい。ここでオレたちがヤツを倒してしまえば終わりだろう」

 

 キャロルは弦十郎からの通信を鼻で笑っていた。そう簡単にいく相手かしら? ウェル博士に使った手が決まれば何とかならなくもないけど……。

 

「聞き捨てならんな。虚弱な人間がよく吠える。そうさな、少々躾が必要か?」

 

 シェム・ハは光の玉を次々と繰り出してあたしたちに向けて撃ち出した。

 

「装置は必ず守らなきゃ。キャロル! やるわよ!」

 

「わかっている!」

 

 ――五大元素(アリストテレス)――

 

 あたしとキャロルが地水火風に加えて無属性の錬金エネルギーを螺旋状に展開させて繰り出す大技でシェム・ハの放った光の玉を蹴散らす。

 

「驚愕だ。神の力に肉薄するこの威力……。だがしかし……。無意味だ……」

 

 アリストテレスを避けもせずに、それを受けて並行世界の別の個体と入れ替わり無敵性を見せつける。

 

「いい加減、その手品にも辟易してきたわ!」

 

「この弾丸を使うワケダ。サンジェルマン。私が作った特別性なワケダ」

 

「さっすが、プレラーティ。あーしと違って真面目ねぇ」

 

 プレラーティがサンジェルマンに金色に輝く弾丸を渡す。

 

「フィリア! キャロル! 足止めを頼む!」

 

 サンジェルマンは銃を構えてプレラーティとカリオストロの力を借りてエネルギーを充填している。

 

 何かをするつもりね……。

 

「オレに指図をするな、と言いたいところだが聞いておいてやる」

 

「ええ、何か手があるのね」

 

 あたしとキャロルは目で合図して、シェム・ハの両脇に立つ。

 

「不敬である。人形風情が……、これ以上の狼藉は――。――なにっ!」

 

 時間を止めてシェム・ハの背後に回ってあたしは彼女に掌底を押し付けて吹き飛ばす。

 今のあたしのクロノスモードは再起動したチフォージュ・シャトーのエネルギーを使えるようにキャロルに調節してもらって可動時間が大幅にアップしている。

 シェム・ハと戦える時間はまだまだある。

 

「お前はあまりにもオレたちを嘗めすぎだ。高くつくぞ、その傲慢さは!」

 

 キャロルが手を握ると糸を丸めたボール状のものがシェム・ハに向かって次々と飛んできて、彼女を釘付けにした。

 

「よくやった! 二人とも! この弾丸は先程の戦闘によって得られた神の力の組成式を記録しており、それを分解する効果がある!」

 

 ――神滅ノ魔弾――

 

 神の力のみを分解する超圧縮された錬金エネルギーが込められた弾丸をシェム・ハに向かって撃ち出した。

 

「――なっ!? バカなっ!」

 

 シェム・ハは弾丸をまともに受けて、光の十字架に磔にされる。

 そして、体の中心から黄金の光を発して爆発した。

 

 未来の体は……、無事よね……?

 

 そして、爆煙が晴れる……。

 

「まさか……、我々の錬金術を……」

 

「神獣鏡の凶払いの力で……」

 

「無効化にしたというワケダ……」

 

 サンジェルマンたちは愕然とした表情で膝をついてしまった。

 さっきからエネルギーを使いすぎて、力尽きそうなのね……。

 

 

「ふっ、神に肉薄した……。それだけは認めてやろう。そろそろ頃合いだな……」

 

 シェム・ハがそう呟くと、なんと次々とユグドラシルがせり上がってきた。

 

 こっこの近くだけじゃない……!? まさか、世界中で……!? だって、バラルの呪詛は破壊されてないのよ……。

 

「おそらく世界中の演算端末のネットワークを利用してるのだ……。確かに神に相応しい力を持っているようだ……」

 

 キャロルが珍しく焦りを顕にしながら、現状を分析した。

 

 

「さて、茶番は終わりだ……。そろそろ本番を始めようぞ……」

 

 シェム・ハがそう声を発した瞬間……。弦十郎から再び通信が入ってきた。

 

『フィリアくん! 了子くんにシェム・ハの一部が仕込まれていたらしい……。おそらく腕が切断されたときにだろう……。彼女は操作されて、シェム・ハの断章……、つまりウィルスを月の遺跡の装置に埋め込まれた……』

 

 弦十郎から凶報が入る。フィーネの動きが変だと思ってたけど……、まさかジェム・ハに操られてしまってたなんて。

 

「まさか、あたしは時間を戻して治療したのよ……。でも、響のときも確かに神の力は取り除けなかった……。やられたわね……」

 

 あたしは心の中で舌打ちをした。

 シェム・ハの思いのままに事態が進行していることに……。

 

『さらに悪い報せだ。了子くんに宿るシェム・ハの力を除去するために響くんが彼女の頼みで神殺しの力で攻撃した結果……、彼女の体は瀕死の重傷を負ってしまった……。つまり君の体は……』

 

 弦十郎は悲痛な声を出して、あたしに報告をする……。

 

「だったら、早く帰ってきたらいいじゃない。彼女たちはどうして帰って来ないの?」

 

「ふふっ……、愚問だな。人形……。我がウィルスを蔓延させたのだ。座標移動の妨害など容易い」

 

 あたしの疑問をシェム・ハは嘲るように笑いながら答える。

 シェム・ハは月の遺跡の内部からテレポートジェムの使用の妨害をしているようだ……。

 

 くっ、もう駄目なの……? あたしの心は絶望に染まっていた。

 

「ようやくその顔が見えたの。さて、目障りな貴様らを一人ひとり屠ってやろう」

 

 シェム・ハがこちらに向かって光の玉を飛ばそうとしたとき、黒い腕が伸びて彼女を殴り飛ばした。

 

「君が絶望してどうするんですか! フィリア! テレポートジェムが内部から使えないということは外部からは使えるということです。助けに行けばいいじゃないですか! 帰り道はこの子たちが作れますよ!」

 

 ウェル博士がシェム・ハに向かって突撃をしていた。

 

「ドクターの命令だから仕方なしになんだぜ!」

 

「わたくしめら3人が形成する全長38万キロを超える哲学の迷宮は!」

 

「空間を捻じ曲げて地球への帰り道を作ってみせるわ」

 

 三人はなんと哲学の迷宮を応用して月から地球への帰路を作ると宣言した。

 

「散々敵対してきた私たちを信じるかどうかはあなた次第よ……」

 

 ヴァネッサは妙にスッキリしたような表情であたしを見つめていた。

 

「信じるもなにも……、それしか方法がないんだったらあたしはそれに賭けるわ……」

 

 月に行くとチフォージュ・シャトーからのエネルギー供給が受けられなくなる。フィーネの傷を治すのがやっとかもしれないわね……。

 

「キャロル、みんな! 少しだけ留守にするわ! みんなと一緒に必ず戻るから……! 待ってて!」

 

 あたしはキャロルたちに後を託して、テレポートジェムで月へと向かった――。

 

 




きれいなウェル博士が出てきました。今さらですけど……。
そして、フィリアは月に向かいます。
次回もよろしくお願いします!


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7つのシンフォギアが輝く刻

最終話が迫ってきました。
原作13話の中盤までです。
それではよろしくお願いします!


 

 

 テレポートジェムは正常に作動して月の遺跡まであたしを運んだ。

 目の前には泣き崩れている響、そして血まみれで倒れているフィーネがいた……。

 

「フィリアちゃん……、ごめん……、私……、了子さんを……、フィリアちゃんの体を……」

 

 響はあたしに気付くと泣きながら謝罪をしてきた。まさか、フィーネが……。

 

「フィリア……、櫻井女史はもう……」

 

 翼が言い難そうな顔をして首を振っていた。

 

「バカな! あの死んだって死なないような奴よ! なんで二度も――!」

 

 信じられない。神殺しの響の拳を受けた程度で彼女がやられるとは思えない……。

 

「シェム・ハに体を乗っ取られた了子が私たちに襲いかかってきたの。私たちは全員でアマルガムまで使ってようやく彼女を拘束して、この子の神殺しに望みを託したんだけど――」

 

「響さんが攻撃を躊躇ってしまって、拘束が破られてしまったんデスよ……」

 

 マリアと切歌が言うにはシェム・ハに体を支配されたフィーネが彼女らと戦闘をしたようだ。

 

「そしたら、フィーネのやつ……。自分の魂を燃焼させて……、シェム・ハの支配に抵抗したんだ。だが、そのせいで……、神殺しを受けたとき、魂ごと潰されちまったらしい……」

 

「だから、すぐに心臓が止まってしまって……」

 

 フィーネが自らの魂を燃焼させてシェム・ハの支配に抗ったから、彼女は――。

 

 それなら……。

 

「あたしの中にあるフィーネの魂の一部を戻せばあるいは……」

 

 あたしはフィーネの体に触れて、魂の奥底に眠る彼女の魂に語りかけた。

 

“フィリアちゃんなら、きっと私に気付いてくれるって信じてた。さすが、私の娘ね……”

 

“まったく……、調子がいいんだから。早く帰るわよ……”

 

 彼女の体の心臓が微かに動いたとき……。あたしは時を戻した――。

 同時にクロノスモードは解けてしまった。

 

「ありがと、フィリアちゃん。それに、響ちゃん。ごめんね、嫌な思いをさせて……」

 

 フィーネは目を覚ましてニコリと笑った。勝手に逝かせないわ。だってあなたは私にとって最低の――。

 

「了子さん! 本当に良かった……! ぐすっ……」

 

 響はフィーネに抱きついて彼女の無事を喜んだ。

 

「私だって自分のやったことに対しての落とし前がつけられないまま死ぬわけにはいかない! あの御方に報いるためにも――!」

 

 フィーネはシェム・ハへの復讐に燃えていた。

 

「思ったよりも元気そうね。あたしだったらショックで立ち直れないけど……」

 

 あたしがフィーネだったら死にたくなる。だって、何千年もの間、勘違いして暴走してたのよ……。エンキというアヌンナキの真意をずっと真逆に受け取って……。

 

「もちろん……、ショックよ……。でも、ここで挫けてたら……、それこそあの方に合わせる顔がないもの。それに……、私がやったことは許されないことばかりだけど……、1つだけ良かったことがあるわ……」

 

 フィーネはあたしの目を見てそんなことを言う。

 

「それはあなたを創ったことよ。フィリア……。まったく、私の娘がどうしてこんな風に子に育ったのかしら? あなたを生み出したことだけは後悔はない。あなたが、私に生きる力を与えてくれてるの」

 

 何か変なものを食べたのかというくらい、彼女から似合わないセリフを聞いてあたしは困惑していた。

 

「こんなとんでもない反面教師が近くに居たら、嫌でもまともになろうとするわよ。じゃあとっとと地球に戻ってシェム・ハとかいう馬鹿な神様から未来を返してもらいに行くわよ」

 

「そうね。未来ちゃんはこの世界の最後の切り札になりうる子。私の理論が正しければ……」

 

 あたしの言葉をフィーネは肯定する。未来が最後の切り札というのはよくわからないけど……。

 

「しかし、この場所はシェム・ハのウィルスによってテレポートジェムの使用が出来なっている。この状況で地球にどうやって戻ればいいんだ……?」

 

 翼が腕を組んで考え込む仕草をした。そうだ、大切なことを言い忘れていた。

 

「そろそろここまで伸びてくるはずよ……、埒外の迷宮……、哲学の迷宮が……!」

 

 そうあたしが呟いた瞬間に床を貫いて青く光る哲学の迷宮の入口が顔を覗かせた。

 

「これって、あのノーブルレッドとかいう連中が使ってた――」

 

「哲学の迷宮ね……。私たちが閉じ込められた……。なんで、ここに……!?」

 

 クリスとマリアが口々に哲学の迷宮がここまで伸びてきた事に疑問を呈していた。

 

「なるほど、この迷宮が地球までの最短ルートになっているってわけね……」

 

「最短ルート? どういうことですか? 了子さん……」

 

 フィーネはすぐに哲学の迷宮の狙いに気がついた。

 

「つまり、この哲学の迷宮はあらゆる外的な干渉を排除して38万キロメートルの彼方にある地球までの道標を担っているということよ」

 

 彼女は掻い摘んで装者たちに説明をした。

 

「なんデスとぉっ!」

 

「切ちゃん、わかってないのに敢えて大げさなリアクションをしないほうがいい」

 

 切歌はあまり理解してないようだが、概ねの内容は伝わったみたいだ。

 

「つまり、地球までのトンネルが突貫工事で繋がったってわけね。あの連中が作ったものというのが一抹の不安だけど……」

 

「でも、フィリアちゃんがヴァネッサさんたちを信じてここまで来てくれた……。だったら私も信じる。きっと分かり合えたと思うから……」

 

 響はマリアの不安を一蹴して哲学の迷宮に飛び込もうとした。

 

「そうだな。疑心暗鬼にかられて死すよりも……、人間らしく生きてみせよう」

 

 翼も同調して、ついにあたしたちは全員揃って哲学の迷宮へと飛び込んだ。

 

 最短で最速でまっすぐに、一直線に帰るべき場所に帰るために――。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「ほう、驚嘆に値する……、まさか月からの帰還に成功するとは……」

 

 シェム・ハはそう言っていたが、実際にあたしも驚いた……。

 途中でヴァネッサたちの体力が切れてしまって哲学の迷宮が途切れてしまった。

 

 大気圏に突入するにあたって、フィーネを含めた7人のシンフォギア装者は絶唱によるフォニックゲインの上昇によりエクスドライブモードを発動。

 

 無事にシェム・ハの元に戻ってきたのである。

 

「フィリア、よく連れて帰ってきた。7人のシンフォギア装者がいるのなら……、何とかなるかもしれん……」

 

 シェム・ハをウェル博士と共に食い止めていたキャロルがボロボロになりながらも、あたしに話しかけてきた。

 ウェル博士もヴァネッサたちの哲学の迷宮をギリギリまで守るために体を張っていたらしい。

 今は彼女らとともに体力が尽きて、座り込んでいる。

 

「7人のシンフォギア? それに何か意味があるの? まぁ、あたしもそろそろ限界だから見守ることくらいしか出来ないけれど……」

 

 実はあたしもエネルギーを大量に消費して限界が近づいていた。

 あたしが持っていたエネルギー源の菓子は大気圏で燃え尽きてしまい、キャロルもすでに使い果たしたみたいだった。

 

「7つの惑星と7つの音階。世界と調和する音の波動こそが統一言語。 7人の歌が揃って踏み込める神の摂理……。つまり7人の装者が共闘すれば、あの忌々しい埒外物理による無敵の防御も……」

 

「打ち破れるという道理なわけね……。じゃあ、フィーネがシンフォギアを持ち出したのは……」

 

 キャロルの出した仮説を裏付けるようなフィーネの動きに私は納得をする。

 

「おそらく、ヤツに対抗するためだろうな。月の遺跡に同行したのも含めて。まぁ、操られたのは間抜けな話だが、ヤツの悪辣さを考えると仕方ないとも言える……」

 

「なるほど、だからあの人は自分の実験用のプロトタイプを作成したあとに、7つのシンフォギアを作ったのか……。しかし、未来が体を乗っ取られた今は神獣鏡のシンフォギアが使えない。だから、切り札としての自分用のシンフォギアで代用した……」

 

 フィーネがシンフォギアを作った理由もそこにあるのだとあたしたちは確信していた。

 

 なぜなら、あたしたちが会話をしている間にもすでにシェム・ハと装者たちは戦闘を開始しており、XDモードで戦う彼女らはシェム・ハの無敵性を打ち破っていたからだ。

 

 これなら……。

 

「いや、それでもまだ、シェム・ハに天秤が傾いている――。オレとあの三流科学者がヤツに勝てなかったのは……、ヤツが無敵だったからじゃない……。三流科学者は神殺しも持っていた。しかしらヤツの無尽蔵のエネルギーに単純に力負けして及ばなかった……。やはりお前の力が必要になりそうだ」

 

 キャロルはそう言ってあたしの背中に触れた。

 

「オレはパパからの命題をずっと考えていた。世界を調和する波動が統一言語なら……、それを失った今……、何を持って繋がろうとすればいいか……。それは――(フィリア)だ。お前のこの身体には関わってきたすべての人間の愛がこもっている――それを……、力にするんだ」

 

 彼女からエネルギーが流れてくる。残り少ない力をあたしに分けてくれたのか……。

 この子の方があたしよりも強いのに……。

 

「いや、長く連中と関わってきたお前のほうが力になれるだろう。あのシェム・ハはお前だけは計画の邪魔になると言った。嫌がらせは、お前の得意分野だろ?」

 

「人聞きの悪い……、でも行ってくる。未来の体でこれ以上好き勝手させられないわ……。コード……、クロノスモード……」

 

 あたしは戦場へと再び向かった。

 

 

 

「無粋に足掻く。だがせめて散り際は――白銀にきらめくがいい!」

 

 すべてを白銀に変える光線をシェム・ハは倒れた装者たちに向かって発射していた。

 

「相変わらず、上から目線ね。先輩って敬ってくれる可愛い子だったのに……」

 

 あたしは黄金錬成でその光線に対抗した。

 なるほど、これはさっそくキツイ一撃だ……。

 

「フィリアちゃんが黄金錬成を!?」

 

「人形風情が何度も邪魔をする!  実に癪に触る!」

 

 響は驚き、シェム・ハは顔を歪めてあたしを見た。

 

「それはこっちのセリフよ。まだあたしは未来と決着をつけてない! あんたみたいな雑魚はお呼びじゃないんだから!」

 

「決着? なぜ貴様の顔を見ると苛つきが抑えられぬのだ?」

 

 あたしの声を聞いたシェム・ハはさらにムッとした表情であたしを見ていた。

 

「フィリアちゃん!」

 

「響! 知らない奴が未来のこと好き勝手してるのよ。どう思ってんの!?」

 

 あたしは響にそんな質問をする。彼女の気持ちを確かめるために……。

 

「未来を、好き勝手って……、嫌だよ。そんなの……。だって未来は……」

 

「その気持ちよ。その嫌な気持ちはどこから湧き上がってるの!?」

 

「私は……、未来が好きだって気持ちから……! 愛してるから……! うん。だから、勝手なことをされたくない! これは私のワガママむき出しの答えだ!」

 

 彼女はあたしの問いに答えてくれる。何をあたしは自分から振られに行ってるんだろう。

 

「それでいいわ! だったらあなたはあなたらしく! あればいい。自分をさらけ出してぶつかりなさい!」

 

「だけど、繋ぐこの手は呪われて、未来を殺す力が……」

 

「悪い頭を使うんじゃないわよ! いいわ、そこで見てなさい。あたしはもう、未来に遠慮しないわよ!」

 

 あたしはそう叫んで、シェム・ハの光線を押し切った。

 

「忌々しい。だがもう何をしても遅い!」

 

 シェム・ハは頭を振ってあたしたちを睨む。やはりこのときが来てしまったか……。

 

「何をするつもりなの?」

 

 マリアは彼女の言葉にそう返すが、時はすでに遅かった。

 

「さあ、還るのだ。5000年前のあるべき形へ!」

 

 シェム・ハがユグドラシルを操り、全人類を端末化させて繋げたのだ。彼女の野望のために……。

 

“ふぅ、危なかった。あなたの身体の中に避難してなかったらやられる所だったわ”

 

“まったく、要領がいいんだから。でも、あなたが来てくれて助かったわ。これならアレが使えるでしょう”

 

“私が一緒でも使える時間は短いわよ。でも、あのトンデモを相手にするならそれしかないか……”

 

「神殺し! そして、人形……! やはり、接続を免れていたか……!」

 

「未来! あなたと喧嘩してやるわ! コード……、ラグナロク!」

 

 あたしは最後の戦いのために再び神の力を纏うことにした。

 これは世界のための戦いじゃない。

 

 あたしの小さなわがまま……、彼女との意地の張り合いの延長戦!

 

 




響が立ち直るまで、フィリアVSシェム・ハの最終戦。
次回が多分原作シリーズの最終話になると思います!
ここまで読んでくれてありがとうございます!


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神様の知らないヒカリで歴史を創ろう

原作シリーズの最終回、つまり完結ってことですよ。
それでは、よろしくお願いします!


 コード、ラグナロク――レイラインを強制的に可動させて神の門を開きその力をこの人形の身に収めることができる理不尽極まりない機能である。

 

 しかし、あまりのエネルギーの大きさにあたしとフィーネの魂を融合させた状態でも長い時間、神の力を使用すると魂がその力に押し潰されて命に関わってしまう。

 故にあたしにとっては非常にリスキーな決戦機能である。

 

「人形風情が我と同じ領域に足を踏み入れただと? もはや不敬どころでは済まされんな」

 

 シェム・ハはあたしが神の力をもって立ちはだかったことに不快に思っているようだ。

 

「がっつり威厳を保とうとしてるけど、あんたのやってることはただの自己満足のテロ行為よ。あたしの知ってる未来はそんなあんたなんかに支配されない。必ず抗うタイミングを伺ってる」

 

 あたしはシェム・ハを指さしてそう言った。人類を自分のエゴを丸出しにして好き勝手にしようとしてるヤツに負ける気はない。

 

「ふっ、人類の未来を想うからこそ我は痛みから解放し、そして完全な一個体に改造しようとしてやっているのだ。それが我の不完全なる個体の脆く弱いことを知ってるがゆえの愛だ」

 

 シェム・ハは自分こそ人類の為になることを成していると主張する。完全な個体になることこそ人類の為であると。

 

「それはどうかしら? 人間は不完全だからこそ、その中に繋がりがあり、愛を受けて、そして人は成長できる。あたしの中には繋がりの中で培った想い出が、愛が力となっている!」

 

 あたしは弦十郎と一緒に映画談義をしながら彼に教えてもらった構えをとる。

 

「父、風鳴弦十郎は教えてくれた! 大人だからこそ夢を見ると! 自分が出来ることの範囲が広がるから、そのために頑張れると! 成長出来るから、人は次の世代に託すことが出来るのだと!」

 

 あたしはシェム・ハの光の玉の乱打を掻い潜って、正拳を彼女の腹に当てる。

 

「がはっ――。なぜっ――!」

 

 あたしの技でダメージを受けたことにシェム・ハは驚きの言葉を出す。

 

「並行世界のどこかの個体にと入れ替わるなら、すべての個体に一撃を与えたまでよ。神の力が並行世界と繋がるのなら、そんなことは容易いのよ」

 

「驚嘆である。そんな型破りな発想は誰が――?」

 

 シェム・ハはあたしの途方もないやり方に目を見開いた。神の力を得ただけであたしがそんな発想が出来るはずがない。

 

「母、フィーネは教えてくれた。この世の中には常識じゃ計れないものがあると! そして、愛よりも人を狂わせて、そして惹きつけるものはないということを!」

 

 そう、フィーネはとんでもないことばかりしでかしているが、あたしに沢山の知識を与えてくれた。

 

 そして、あたしは1000を超える蜂の巣状のバリアを繰り出してシェム・ハの攻撃を完全に防御する。

 

「――なっ!?」

 

 シェム・ハはフィーネの能力のスキの無さに驚く。

 

「あたしが愛した人の娘、キャロル=マールス=ディーンハイムはあたしに探究心と好奇心を持ち、世界を知ろうと自ら考えて動くことの尊さを教えてくれた!」

 

 

 ――四大元素(アリストテレス)――

 

 彼女があたしに教えてくれた錬金術の集大成。

 四つの元素から成る錬金エネルギーがシェム・ハに直撃する。

 

 

「風鳴翼からは弱きを守ろうとする心意気を! 雪音クリスからは世界から争いごとの火種を無くしたいという信念を! マリア=カデンツヴァナ=イヴからは弱さを認めることの強さを! 月読調からは相手を思いやり、慈しむことができる素直さを! 暁切歌からは他人の苦悩や傷みを共に背負う気楽な心を! あたしは教えてもらった。そして少しずつ変わっていった!」

 

 シェム・ハの繰り出した刃をあたしは仕込み刃にエネルギーを纏わせて受け止める。

 

「戯言を……。そのような小さな変化は進化とは言わぬ。弱者の馴れ合いである! なのに、何故、我の心を食い千切ろうとする――!」

 

 彼女はさらに力を加えてあたしを吹き飛ばす。

 

「天羽奏からは見知らぬ誰かを勇気づけ、救うことの尊さが! セレナ=カデンツヴァナ=イヴからは大切な人の未来を守ろうとする優しさが! 記憶を失った悲しみから引き上げてくれた! 記憶が呼び戻ったときに彼女が残した人の未来を大切にしようと思えた!」

 

 錬金エネルギーを無数の槍と短剣の形に変化させてあたしはシェム・ハが放ってきたおびただしい数の光の玉にぶつけていった。

 

「小日向未来からは、戦いの為の力ではなく、愛する人への想いが大きな力となることを教えてもらったわ。感謝してるのよ。未来……!」 

 

「無駄である。既にこの女の体は我を受け入れている」

 

 あたしはシェム・ハに肉薄して彼女の目を見て語りかけると、彼女はそれを嘲笑う。

 でも、あたしは信じている。この子は簡単に支配されたりしない。

 

「そして、イザークと立花響からは――」

 

 あたしがそこまで話したとき、シェム・ハの目の色が変わった。

 

「最後まで手を差し伸べ続けるひたむきなところ……、ですか? 先輩……。――ぐっ、今さら抵抗を……」

 

 一瞬だけシェム・ハの中から未来が顔を覗かせる。やっぱり、まだあなたは飲まれていない……。

 

「さっさと出てきなさい。じゃないとあたしは響のこと奪ってやるんだから!」

 

「――っ!? 理解不能である。この湧き上がる殺気――!? 人形! 我に何をした!? ――先輩には絶対に……、響は渡さないっ! 渡さないんだからぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 あたしの言葉にシェム・ハは叫び出して、拳を繰り出してくる。あたしもその拳に合わせて自らの拳を突き出す。

 

 二人の拳がぶつかり合ったとき、地球の裏側まで聞こえそうな程の破裂音が鳴り響き、衝撃波が辺りの建物を吹き飛ばした。

 

「――ここまでみたいね。一度、あなたとぶつかり合えて良かったわ……。あとは頼んだわよ……。ひ、びき……」

 

 あたしの身体はいつしか限界を迎えていて、身体中から神の力が抜け出ていく。

 そして、抜け殻のようになったあたしはそのまま地面に向かって落下していった。

 

 ――地面にぶつかろうとしたとき、あたしの身体は受止められる。

 

「フィリアちゃん。ありがとう。思い出したよ。未来は呪いなんかに負けたりしない。私は未来を殺さない。人は成長できる。それなら私は呪いを祝福に――変えてみせる」

 

 そうだ、この表情(かお)だ。あたしが憧れたのは……。

 必ず期待に応えてくれる……。安心感を与えてくれる……。

 

「みんなで一緒に帰りましょう……。信じてる。未来を連れて帰ってくるって……」

 

「うん。待ってて!」

 

 響ははっきりと頷いて空に舞い上がった。

 

 遠退く意識の中、端末化された人類が目覚めていく気配を感じた。

 そして響の声が聞こえた――。

 

 

「私の想い、未来への気持ち! 2000年の呪いよりもちっぽけだと誰が決めた!?」

 

 そう、彼女の未来への気持ちは何よりも強い。

 

「バラルの呪詛が消えた今、隔たりなく繋がれるのは神様だけじゃない! 神殺しなんかじゃない! 繋ぐこの手は私のアームドギアだ!」

 

 ――METANOIA――

 

 見なくてもわかる……。きっと響は未来のことを――。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「目覚めたか。フィリア……。エルフナインがブドウ糖を持っていてよかった。――まったく、お前というやつは無茶をする。危うく神の力に潰されるところだったぞ」

 

 目を覚ましたとき、キャロルの顔が目の前にあった。

 

「キャロル……、良かったわ。無事だったのね……」

 

「ふん。オレだけじゃない。お前の仲間は全員無事だ。残念なことに三流博士もな……。そして……」

 

 キャロルはぶっきらぼうにあたしの言葉に反応する。みんなということは――。

 

「せっ、先輩……」

 

「未来……、あなたが無事で良かったわ……」

 

 未来は隣の布団に座ってあたしを見ていた。あたしは彼女の無事な姿を見て心底ホッとした。

 

「あの! フィリア先輩! ありがとうございます! 先輩の声が聞こえたから……、響が伸ばした手を握ることが出来ました!」

 

 彼女はあたしの瞳をまっすぐに見つめて、はっきりとお礼を言ってきた。

 

「そう……、あたしはあなたに喧嘩を売りたかっただけよ」

 

「じゃあ、私は喧嘩を買っちゃったんですね。ふふっ、やっぱり先輩は面白い人です。あんな恥ずかしいことを叫ぶんですから」

 

 あたしの言葉に彼女は少しだけからかうような口調で言葉を返す。アレは今思い返すと恥ずかしいかもしれない。

 

「うっ、うっ、うるさいわね! 誰にも言ったらダメよ!」

 

「約束出来ません。いいじゃないですか。素直なフィリア先輩も可愛らしいですよ」

 

 あたしの苦情を彼女は目を瞑ってそう返した。やはり彼女はあたしの天敵なのかもしれないわ……。

 

「お前たち、バカなことを叫ぶな! 見てるこっちが恥ずかしい!」

 

「――あっ! フィリアさん……、目を覚ましたんですね。良かったです。あの風鳴司令が呼んでいます。キャロルも一緒に来てください」

 

 キャロルに叱られていると、エルフナインがやって来て、あたしたちは弦十郎の元に向かった。

 

 

 

「フィリアくん。意識が戻ってよかった。まったく君という子はいつも心配させてくれる」

 

「悪かったわね。で、何かあったの?」

 

 弦十郎はあたしの顔を見てホッとしたような表情を見せた。

 

「ユグドラシルはまだ生きていた。現在、6人の装者たちを中枢部に送っているが、果たして破壊できるかどうか……」

 

 弦十郎によるとユグドラシルの惑星の改造が止まっていないらしく、演算汚染が進んでおり、あと7分ほどで人類を守っている論理防壁が突破されるかもしれないらしい。

 

「そう、キャロル、エルフナイン、あれは実用レベルに至ってるわよね? ここにあれは持ってきてるの?」

 

 あたしはフィーネがここ最近、キャロルたちと修理していたあるアイテムについて説明を彼女らに求めた。

 

「もちろんだ。しかし、小日向未来は動けるのか?」

 

「未来さんの体は医学的には健康そのものですが、ギアの運用は精神状態が――」

 

「やります! やらせてください! 私だって先輩たちのように響の隣に並びたい!」

 

 キャロルとエルフナインが返事をして、未来の体調を気遣っていたとき、未来は何を指して話しているのかを察して、大きな声で響の隣に立ちたいと主張した。

 

 

「分かったわ。任せたわよ。未来……。フィーネはあなたが最後の切り札だと言っていた。あたしもそうだと信じてる」

 

 あたしはそう言って未来の目の前に左拳を突き出す。

 

「先輩の想いも受け取って運んできますね。――っ!? 痛たたたっ……。ふぅ……、行ってきます」

 

 未来はあたしの左拳に思いきり右拳をぶつけた。そして、ひとしきり痛がると、スッキリした顔つきで戦場へと足を運んだ。

 神獣鏡のギアを纏って……。

 

「果たして、みんなは上手くやってくれるだろうか?」

 

 弦十郎たちは渋い顔をしてモニターを見守っていた。

 

「いい、みんな。中枢の装置をフォニックゲインで制御して、すべての幹を同時に破壊するの!」

 

「7つの完成形のシンフォギアが揃った今ならそれができる。7つの調和により、隔たりを乗り越えろ!」

 

 あたしとキャロルは彼女たちにそう告げて、彼女たちの歌によって中枢の装置が可動するその様子を見守った――。

 

 

 

「――ちょっと行ってくるわ……。あのままだとおそらく……」

 

 あたしは響たちがユグドラシルを破壊することを確信して、外に出ていった。

 

 

 

「あら、フィリアちゃん。どうしたの、あなたまで出てきて」

 

 外に出たあたしはフィーネに話しかけられる。いつの間にあたしの身体から出てあたしの体に入ったのよ……。

 

「お前もお人好しだな。さすがに見通したか、ユグドラシルが破壊されるということは――」

 

「中枢装置も破壊されるというワケダ」

 

「あの子たちが脱出出来るようにひと肌脱いじゃおうってね」

 

 サンジェルマン、そしてプレラーティやカリオストロもファウストローブを身に纏い準備をしていた。

 

「――オレを置いて一人で出ていくとはいい度胸じゃないか。最後の仕事だ。必ず奴らを無事に地上に帰還させるぞ」

 

 キャロルがあたしを追って出てきた。あたしたちはユグドラシルの中枢に向かって飛び立った。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「やはり大規模な爆発が起こったようだな」

 

「こういうときこそ、錬金術の見せ所よ」

 

 キャロルの四大元素(アリストテレス)とサンジェルマンの銃撃によって爆炎が装者たちに及ぶのを食い止める。

 

「まだまだ、足りないワケダ」

 

「あーしらの力も使うよぉ!」

 

 プレラーティとカリオストロもそれに力を貸す。

 

 しかし、迫り上がる爆炎はまだ勢いが衰えない。

 

 

「やっぱり放って置けない子たちね……」

 

 フィーネはそうつぶやくと、とてつもないスピードで迫りくる爆炎の前に立ちふさがりバリアを展開した。

 

「放って置けないのはあなたの方よ! このまま終わらせないわ!」

 

 あたしもフィーネの隣に立ってバリアによって爆炎を押し止めようとした。

 

「フィリアちゃん! 了子さん!」

 

 響の声が背中越しに聞こえる。大丈夫――。あたしたちの力ならもうすぐ――。

 

 爆炎は押し戻されて無事に外に出られる――そう思ったとき……。

 

 巨大なシェム・ハが現れてあたしたちを飲み込んだ――。

 

 

 

 まるで心の中の空間のように暗いところにあたしはいた。そこに未来と響も……。

 

「答えよ。何故一つに溶け合うことを拒むのか」

 

「私たちは簡単に分かり合えないからこそ、誰かを大切に想い、好きになることが出来る。その気持を誰にも塗りつぶされたくない」

 

 未来はシェム・ハの問いにそう答える。知らないからこそ、推し量ることができて、人を好きになれる。それが尊いのだと……。

 

「それが原因で未来にまた傷つき苦しむことになってもか?」

 

「だとしても、私たちは傷つきながらも自分の足で歩いていける。神様も知らないヒカリで歴史を創っていけるから」

 

 響は人間の可能性を信じていた。未来を築く力があたしたちにはある、と。

 

「人形よ、お前はどうなのだ? 今まで傷みばかりを背負って来たのではないか?」

 

「そうよ。だからこそ、こうしてあなたにも、未来にも喧嘩を売ることが出来た。消せない傷みもまた、あたしには大切な想い出。傷付いても前に一歩踏み出す勇気を得ることが成長というのなら、不完全なままでいい。いつか、その一歩が積み重なれば、あなたの思う固定された完全とやらを追い越すかもしれない」

 

 あたしは大切な人も、体も記憶も失った。深い悲しみに沈みかけた。

 だけど、多くの人に支えられて、前に進むことが出来た。弱い自分を少しずつ変えることで……。

 

 シェム・ハのいうような完全な存在というものがあるのかもしれないけど……、そこには成長という概念がなくなる。そこで止まってしまう。

 

 ならばあたしは不完全でも、前に進むことができる自分でありたい。

 

「ふっ、大言壮語を吐くではないか、人の身を失ってもなお……。ならば責務を果たせよ。お前たちがこれからの未来を司るのだ」

 

 シェム・ハはあたしたちにそう告げて消えてしまった――。

 

 彼女はあたしに何を伝えたかったのか……。それはおそらく――。

 

 人類の未来を託すということ――。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「はぁ、戦いが終わったんだから、人間の体に戻れると思ったんだけど……」

 

「ふむ。了子くん曰く、思った以上に君の体を酷使してしまったために、今のままだと君の魂が拒絶反応を起こす可能性があるとのことだ。まぁ、それでも近いうちに戻れるのなら、朗報ではないか」

 

 あたしの愚痴に弦十郎がそう答える。シェム・ハとの死闘が終わってもあたしの人形ライフはもう少し続くみたいだ。

 

「そっ、そうですよ。あとフィリアさん、就職内定おめでとうございます!」

 

「就職活動もしてないのにおめでとうもないわよ。完全にコネじゃない」

 

 エルフナインが話題を変えようとしてくれるが、あたしは素っ気なく答えてしまう。

 

「はっはっは、たまにはオレだって、根回しくらいはするさ。これで正式に同僚だな。フィリアくん」

 

「オレやエルフナインまで抱え込んでS.O.N.G.というのは、よほど人材不足なのだな」

 

 そう、あたしと同期の扱いでキャロルがさらに研究者としてS.O.N.G.に配属されることも決定した。

 

「あたしは嬉しいわよ。エルフナインとは一緒に今までもやって来たけど、あなたとも一緒に居られるなんて……。それに一緒に生活出来るのもね」

 

「ふんっ! オレは家など要らんと言ったのだ。しかし、エルフナインがどうしてもフィリアと住みたいと言ったから」

 

 そして、あたしは弦十郎の家から出ていき、キャロルとエルフナインと同居することになった。

 

「まぁ、キャロルくんも落ち着きたまえ。オレだって少しは寂しいんだぞ。娘が独り立ちするのは、な。せめて卒業式の後でも良かったんじゃないか?」

 

 もっとも、弦十郎はあたしを引き止めたかったようだが……。

 

「父さんはともかく、あたしはアレと一緒にこれ以上生活したくないの。あたしの体を使って変なことしたらタダじゃおかないんだから」

 

「変なことって、何かしらぁ? フィリアちゃんったら、エッチなんだから〜」

 

 原因はこいつである。フィーネはあれから弦十郎にアタックし続けて、交際を開始したようなのだ。この人は本気である。

 だからこそウザいのだ。もう、嫌になるくらい。

 

「父さん、この人でホントに良いの? 何やったか知ってるでしょ? 核爆弾より危ない奴なのよ?」

 

 あたしは愚かという言葉から生まれたようなこの母を受け止めようとする弦十郎に抗議した。

 この人は、碌でもない人間だということを何度も主張したのだ。

 

「知っているさ。まぁ、危険と隣り合わせの人生なんて今に始まったことじゃない。いい刺激になる」

 

「もう、バカなんだから!」

 

 結局、あたしの父もバカだった。このままフィーネと共に生きる道を選んだのだから。

 

 

「まだ、もう少し続きそうね……。このヤケに騒がしい日常が……」

 

 あたしは喧騒に飲み込まれるこの人生が嫌いではなくなっていた――。

 

 ――銀髪幼児体型でクーデレな自動人形(オートスコアラー)が所属する特異災害対策機動部二課完結――

 

 




ついに完結しました!
毎日欠かさず投稿して、一日くらいサボろうと何度思ったことか……。
いろいろと物足りないところは番外編でも投稿していって補おうと思います。
ここまで本当に読んでくれてありがとうございます!
もう、感謝しかありません。こんなに長いのに……。
何かしら、ご感想があれば一言でも一向に構いませんので、是非ともお声掛けください。非ログインでも対応できるようになっております。

あと、厚かましいお願いではありますが、少しでも《面白い》と感じて頂きましたら、↓の広告の下にある評価ボタンから評価をよろしくお願いします!

それでは、また番外編でお会いしましょう!



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番外編
番外編 その1



お久しぶりです。
番外編は基本的に1話で完結する感じにしていこうと思ってます。
それではよろしくお願いします!


 

 

 シェム・ハとの戦いから2週間が経った……。今日は妹であるフィアナが退院そして釈放される日である。

 彼女はいろいろとやらかしてしまっていたが、大半はウェル博士の洗脳によるもので責任能力の欠如ということで不問となった。

 

 体自体はギアさえ纏わなかったら日常生活に支障のないくらいには回復した。最新鋭の錬金術と生体医学を駆使した結果である……。

 尽力してくれた、キャロルやサンジェルマンには感謝している。ウェル博士は許さないけど……。

 彼からはネフィリムとガングニールを除去されたので、普通の人間としてこれから裁かれる。まぁ、それ自体が彼にとっては一番の罰だろう……。

 

 そして、ヴァネッサたちは――。あっ、フィアナが来ちゃった。

 

「ごめんね〜、待たせちゃって。お姉ちゃんに、ええーっと、クリスちゃんだっけ? いやー、ようやくシャバの空気が吸えるわぁ」

 

 荷物を持ってフィアナはあたしと一緒に来ていたクリスに挨拶した。

 そのセリフ、あたしが釈放されたときと同じだからちょっと恥ずかしいわね……。

 

「出てきて、さっそくふてぶてしい所はお前とそっくりだな」

 

「あら、あたしはあんなにあっけらかんとしてないわよ」

 

 クリスは飄々とした態度のフィアナを見て、あたしに向かってそう言った。

 

「あははっ、やだ〜。お姉ちゃんと似てるって。当たり前じゃなぁい。双子みたいなもんなんだからぁ」

 

 それを聞いたフィアナはニコッと笑ってクリスの背中を叩いた。

 こういうところは似てないけどね……。

 

「こいつって、こんな感じのキャラだったっけ? 前はもっと刺々しい感じだったじゃねぇか」

 

 クリスは敵だったころの印象とのギャップに驚いたような感じだった。

 

「もともと、こういう子よ。こんなふうに気さくな子だったから、切歌や調もあたしよりも先にこの子に話しかけてるわ。あなただって、ほらネフシュタン時代は刺々しかったでしょ」

 

 昔からフィアナは話しやすい感じのいい子だった。悪ノリはするし、あたしにはよく挑発的な態度を取る一面はあったが……。

 だから、恋愛が絡むとあんなに厄介になるなんて思わなかった。

 それもこれも、しっかりと母親の遺伝子を引き継いだ結果なんだろう。

 

「馬鹿! あれを、時代扱いするんじゃねぇ!」

 

 あたしのネフシュタン時代という言葉にクリスが青筋を立てながらツッコミを入れる。

 

「えへへ、クリスちゃんも黒歴史があるのねぇ。じゃあ、私たち黒歴史仲間同士ぃ、仲良くしましょう」

 

 フィアナはケラケラと笑いながらクリスと肩を組もうとした。

 

「そんな同盟組めるか馬鹿! なんで、あたしを誘ったんだよ!」

 

 クリスはムッとしながらフィアナを引き剥がしてあたしに文句を言ってきた。いや、なんでって言われても……。一人だと寂しかったし……。

 

「切歌や調に会うのがやっぱり気まずいって……、この子が……」

 

「絶対にそんなハートの弱いタイプじゃねぇだろ! 大体この前、和解みたいなことしてたじゃねぇか!?」

 

 あたしが理由を話すとクリスはフィアナの方を指さして反論する。

 言われたら確かにそう思わなくもないけど……。

 

「そもそも、あたしじゃなくて、あのバカを誘えよ。こういうのだったら」

 

「ええと、響は未来と予定があったみたいだから、クリスはその代わりなのよ」

 

 クリスの言葉にあたしはそう返事をした。

 響と未来はデートなんだって! 最近は付け入るスキがないのよね……。

 

「誘ったのかよ! あたしはあのバカのバーターかっ! それはそれで、なんかムカつくなっ!」

 

 クリスは響を先に誘っていることを聞いてますます腹を立てていた。余計なこと言っちゃったわ……。

 

「あと、ついでにフィアナなんだけど、クリスの家にしばらく置いとけないかしら?」

 

「はぁ!? 頭打ったのか? お前! なんで、あたしンちにこいつを置いとかなきゃいけねぇんだ?」

 

 あたしがフィアナをクリスの家に置くように頼むとやっぱり駄目そうな反応が返ってきた。

 

「あたしの家、今、すっごく散らかってて恥ずかしいのよ」

 

 引っ越したばかりのあたしの家だが、エルフナインにキャロル、そして5体のオートスコアラーたちが割と自由に使っているので散らかっている上に手狭だ。

 フィアナが泊まるスペースがないのである。

 

「知るか! だったら、それこそ後輩たちの所か、マリアの所にでも置きゃいいだろ!? いい機会じゃねぇか。あいつらだって、コイツのこと心配してるんだから。歩み寄れよ」

 

 クリスはだったら尚更マリアたちを頼れと言ってきた。

 それが一番いいのは間違いないのよね……。

 

「うーん、切歌ちゃんと調ちゃんの所かぁ〜。まぁ、よく考えたらぁ。マリアよりは怖くないわよねぇ」

 

 フィアナも切歌と調なら会っても大丈夫かもしれないというような感じだ。

 

「クリスから歩み寄れなんて言葉が聞けるなんて、あなたも随分と変わったわね。マリアも翼もイギリスだし……、切歌たちの所に行ってみようかしら」

 

「まぁ、あいつらなら大丈夫だろ」

 

 あたしたちは切歌と調の家に向かった。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「ごめんなさいね。突然、押しかけて」

 

 あたしは玄関を開けて出迎えてくれた切歌と調にそう言った。

 

「リア姉に先輩に……、あっ、アナ姉デスか!?」

 

「アナ姉、今日出てくる日だったの? 全然知らなかった……」

 

 切歌と調はやはりフィアナが共にいることに驚いているみたいだった。

 

「言い難くてねぇ。ごめんなさぁい、二人とも」

 

 フィアナは申し訳なさそうな顔をして謝る。

 思った以上に繊細にはなってるのね……。

 

「アナ姉はそんなこと気にするキャラじゃないはずデス」

 

「うん。図太さとノリだけで生きてきた人だし」

 

 そんなフィアナに対して切歌と調の感想はこんな感じだった。

 結構、辛辣なのね。二人とも……。

 

「お前、こいつらにも酷え言われようだな」

 

 クリスも若干呆れ顔でフィアナを見ている……。

 

「シクシク……。二人とも私のことそんなふうに思ってたのね〜。悲しいわぁ」

 

「絶対に嘘泣きデス」

 

 泣くような仕草をするフィアナに対して、切歌はツッコミを入れる。

 

「もうその辺にしてあげなさい。彼女なりに反省はしてるみたいだから」

 

「お姉ちゃん。やっぱり無理〜。マリアちゃんがフィーネの役をやれとかいう無茶振りされたときの気持ちがはっきりわかるわぁ」

 

 あたしがフォローを入れると、フィアナが泣きついてきた。

 あれと、一緒にされるとマリアがまた怒るわよ。

 

「アナ姉。別に私たちは怒ってないよ」

 

「そうデスよ。アナ姉がバカなことやる以前に私たちだってバカなことをやるところだったんデスから。大差ないデスよ」

 

 調も切歌もフィアナに対してとくにマイナスの感情は持っていないみたいだった。

 やっぱりこの子たちも優しいわね……。

 

「調ちゃん……、切歌ちゃん……。ホント、可愛いんだからぁ。もう、大好き!」

 

 フィアナは感極まって調と切歌を抱きしめた。

 可愛いって、あなた……。

 

「あっ、アナ姉!?」

 

「玄関先で大泣きして、抱き着かないで欲しいデスよ」

 

 調も切歌も顔を赤くして恥ずかしそうな顔をしている。

 そりゃ、外から丸見えだからそうよね。

 

「じゃっ、そういうことだから、あとよろしく」

 

 あたしとクリスはそのまま帰ろうとした。

 

「ふぇ〜〜ん」

 

「ちょっ、ちょっと、リア姉!? 何、帰ろうとしてるんデスか!? せっ、先輩も!」

 

 フィアナの泣き声と共に切歌が焦りながらあたしたちを止めようとしてきた。

 あら、ダメだったかしら。

 

「いや、フィアナの住むところがないから、ここにしようと思って」

 

「だとしても、このやり方は強引」

 

 あたしがフィアナの居場所をいろいろと有耶無耶にしながら彼女らの所にしようとしたら、調が珍しく声を低くした。

 

「固ぇこと言うなって。せっかく上手くまとまりかけてんだから」

 

「アナ姉と仲直りすることと、一緒に住むことはイコールじゃないデス!」

 

 クリスも面倒になってきたので、力押しで話を進めようとしたが、切歌も譲らない。

 押せばなんとかなると、思ったんだけど……。

 

「私たち、その最近、ええーっと」

 

「ああ、そういえば、あなたちって恋人同士になったんだったわね。忘れてたわ」

 

 調が顔をさらに赤くなったことから、あたしは大事なことを思い出した。

 

「リア姉! どうして、ここで言うんデス! というか、忘れないで欲しいデス!」

 

「いや、だって何にも態度とか変わってないのよ。響たちと一緒で」

 

 あたしは二人が恋人同士になろうと今までと何も変わってないと、ツッコミを入れる。

 

「心の中はとても変わってるよ。全然世界が違うんだから」

 

「そりゃ、おめでとさん。さすがにそこにコイツをぶっ込むのは……」

 

 調がモジモジしながら俯いてそうつぶやくと、クリスは頭を掻きながら諦めたような顔をした。

 

「そぉ? 私は構わないわよぉ」

 

「「私たちが構う(のデス)」」

 

 フィアナはそれでもいいみたいだが、やはり2人は全面的に拒否してきた。当たり前か……。

 

「ここもダメとなると……。困ったわね……」

 

「そっそういえば、マリアがしばらく日本を中心で活動をするから、こっちに拠点を移すらしいデスよ」

 

「今はイギリスにいるけど、近いうちに日本に来るんだって」

 

 あたしが腕を組んで考え込む動作をすると、切歌と調がマリアの近況を教えてくれた。

 

「なるほど。ねぇフィアナ。もう一回マリアに謝って、一緒に住もうって頼むしかないわよ」

 

 あたしはフィアナにマリアに頼むように促す。

 

「うう〜。マリアちゃんか〜。あの子が優しいのはわかるんだけど、この前も随分と絞られたからなぁ」

 

 フィアナは本当にマリアにビビってるみたいだ。まぁ、気持ちはわかるけど……。

 

「んでもよ、あん時に全部終わった話だろ? 蒸し返して何か言うってことはねぇんじゃないか?」

 

 クリスは前にマリアに会った時にフィアナと和解したことを持ち出した。

 もちろん、マリアだって鬼じゃない。絶対にフィアナを受け入れてくれる。

 しかし――。

 

「昔フィリアちゃんと一緒に、マムのムチをこっそり振ったら花が出るように改造したときは死ぬほどマリアに怒られてぇ、その後も何かある毎に言われたからなぁ。今回のことも――」

 

 フィアナは気まずそうな顔をして昔あたしたちがマムに対してやった悪戯の話をした。

 

「何やってたんだ? お前ら……」

 

 クリスはバカを見るような顔であたしたちを見る。

 

「あれは面白かった」

 

「笑いすぎて、危うく共犯扱いされるところだったのデス」

 

 調と切歌は懐かしそうな顔をしていた。今となってはいい思い出よね……。

 あまり話して欲しくないけど……。

 

「こっ、子供の頃の話よ。まぁ、最近も言われたけど……」

 

 そう、マリアが説教をするときはこの話は必ず持ち出してくる。それだけ、彼女もあのとき青ざめたのだろうが……。

 

「とにかく、マリアがこっちに来るまではお前が面倒見ろよ。姉ちゃんなんだから」

 

 クリスはあたしにしばらくフィアナをあたしの所に置くように言ってきた。

 

「うーん、それも良いけど、だったら今からマリアの家に行きましょうよ。今、ちょうどマリアが起きる時間くらいだし」

 

「はぁ? お前、何を言って……。って、それは……、テレポートジェムじゃねぇか」

 

 あたしがカバンの中からテレポートジェムを取り出すと、クリスは驚いた顔をした。

 

「月に比べたら、イギリスのマリアの家に行くのなんて簡単よ」

 

「すごーい。現代のセキュリティシステムを完全に見直さなきゃいけないね。切ちゃん」

 

「てか、異端技術の塊デスよ」

 

 あたしがこれを使ってマリアの家に行こうと提案すると調と切歌は呆れた表情をする。

 そんなに常識外れなことしてるかしら?

 

「じゃっ! 出発するわよ!」

 

 あたしはテレポートジェムを床に投げた――。

 

 

 

「ふんふーん。今日の朝食はまぁまぁの出来ね。フィリアにあとで写真を送――キャアアアアア!! えっ、何!? フィリアにみんな!? なんで!?」

 

「バカ! いきなり使うな! 巻き込むな!」

 

 マリアは突然現れたあたしたちを見て大声を上げながら、腰を抜かして驚く。

 

 このあと、彼女に今までにないくらい叱られた……。あたしが……。

 

 そのおかげなのか、フィアナはとくに何も言われることなく、マリアのマネージャーになってしばらく一緒に住む方向で話がまとまった。

 

「お姉ちゃん、私が怒られないためにワザとこんなバカなことをやってくれたのね〜。やっぱり、お姉ちゃんは優しいわぁ」

 

「まっ、まあね。当然でしょう……」

 

 マリアに死ぬほど怒られたあたしの顔は引きつっていた――。

 




今回はフィアナのその後の話でしたが、いかがでしたでしょうか?
次回もよろしくお願いします!


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番外編 その2 翼の悩みを解決しよう

お久しぶりです。
今回は翼メインの話です。


「すまないな。夕飯までご馳走になってしまって」

 

 今日は久しぶりに日本に帰ってきた翼があたしの家を訪ねてきた。

 しばらくの間、日本でプロモーション活動をするらしく、ホテル暮らしではなくマンションの一室を借りたそうだ。

 

「気にしないでください。ボクたちも翼さんとゆっくりお話がしたかったのですから」

 

 エルフナインは翼に会えて嬉しそうな顔をしている。

 ちなみに今日の夕飯はオムライス。翼のオムライスにはケチャップで“防人”と書いて出したら、頭を小突かれた。

 

「そういうこと。あなたったら、シェム・ハとの戦いが終わってすぐにイギリスにトンボ帰りしちゃうんだもん。忙しないったらありゃしないわ」

 

 あの戦いが終わって、翼は今までにも増して多くの仕事を入れるようになった。

 イギリスでの活動も軌道に乗って、かなりの知名度になっているみたいだ。

 この子は着実に夢へと進んで行っている。

 

「はは、そう言うな。フィリア。もはや防人としての私は必要なくなったのだ。ならば、後は歌の力を信じて夢を追いかけるただの風鳴翼として生きていきたくもなる」

 

 翼は今が楽しいのだろう。仲間から、父親から、応援されて歌の道を突き進むことが……。

 

 フィアナからの情報によると、また近々マリアとのコラボライブも予定されているみたい。

 フィアナはマネージャーとしての敏腕ぶりを発揮して、マリアも様々なメディアに出ている。

 

 この前は日本の化粧品会社のCMの仕事を取ってきて、大ヒット。マリアが使っている化粧品は品切れが続出するという現象が起きた。

 

「でも、急に帰って来て()()()()()を今さら相談するなんて、思いもよらなかったんだけど」

 

 話を翼に戻そう。ご存知のとおり翼はある悩みを抱えている。

 そして、遂に翼はこの悩みと正面から向き合うことにしたのだ。

 

「いやあ、その……、面目ない。私だって努力したのよ。でも、やっぱり無理なの」

 

 翼は恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、悩みごとが解決しないと言った。

 確かに翼の悩みは筋金入りだ。あたしも何とかしようと努力したがどうしても上手く行かなかった。

 あたしだけじゃない。響と未来、そしてクリスも協力して頑張ってみたこともある。

 しかし、《ノイズ》に打ち勝つよりも、翼の悩みは厄介であり、あたしたちは匙を投げるという結果になったのだ。

 

「大丈夫です。人間誰しも得意なことや不得意なことはあります。だからこそ、皆さんが手を取り合っているのではありませんか」

 

 エルフナインはだからこそ人と人は手を取り合うと口にする。

 そのとおりだ。出来ない事があっても助け合えばいい。

 だから、あたしは最後の砦として彼女にお願いしてみることにした。

 

「フン……。人類同士が手を取り合うか……。まったく、深刻な用件だと話を聞いてみたら実に下らん」

 

 そう、あたしが翼の悩みを解決出来ないかと、相談したのはキャロル。

 彼女は翼の悩みを鼻で笑っていたが、何とかするとハッキリと宣言した。

 

「キャロル、そんな言い方しちゃダメでしょ。翼だって、それなりに悩んでいるのよ。考えてみなさい。例えば、翼に彼氏が出来て初めて家に入れた時……、この惨状を見たら……」

 

 あたしはキャロルの物言いを咎めて、翼の部屋の写真を何枚か取り出してテーブルに並べる。

 

「フィリア! どうやって私の部屋の写真を!?」

 

 すると翼は驚いた顔をして立ち上がり、あたしに詰め寄ってきた。

 そんなに驚かないでもいいじゃない。

 

「えっ? あなたとマリアの部屋にはいつでもテレポート出来るようにしてるからだけど。新しく発明したこの装置なら、ボタン1つでマーキングしたポイントに移動できるわ」

 

 あたしはテレポートジェムに変わる、新しいテレポート装置を発明した。

 そして、もしもの時に翼とマリアが直ぐに招集に応じられるようにあたしの家と彼女らの部屋をボタン1つで瞬間移動出来るようにしたのだ。

 

「お前は一回プライバシーという言葉を辞書で引け! 異端技術を勝手に人の部屋に取り付けるな!」 

 

 翼は結構本気で怒っていて、今後は勝手に彼女のところにテレポートしないと約束させられる。

 そっか、テレポートには抵抗があるのか……。

 

「控え目に言って地獄だゾ」

「これは派手な戦いの後と言っても地味に信じるな」

「というより、これだけ散らかすのは逆に難しそうですわ」

「国際的なスターの部屋がこれだなんて、ガリィ引いちゃいまーす」

「こんな部屋、彼氏に見られたらあたし死にたくなっちゃう〜〜」

 

 翼のお説教を受けている間に、一緒に住んでいる自動人形(オートスコアラー)たちが口々に彼女の部屋についての感想を述べる。

 そう、翼の悩みは部屋の片付けがいつまでも出来ないということだ。

 緒川も最近は別件で忙しいらしく、かなり深刻な状況になっているみたいなのだ。

 

「お、お前ら、いつの間に!? そんなにドン引きする程のことなのか!?」

 

 翼はそのあんまりな反応にギョッと表情を浮かべた。

 まぁ、感情に乏しい自動人形(オートスコアラー)でさえ、ちょっと引いているんだから、よっぽどであろう。

 

「そういう自覚があるから、相談しに来たのでしょう?」

 

 あたしはそんな翼の背中を叩いて、自覚はあるのだろうと確認した。

 

「キャロル、それで出来たのですか? アレは……」

 

「オレの叡智をこんなツマラン話に使うのは遺憾だが、フィリアの身内の頼みとあらば聞かない訳にもいくまい。異端技術を組み合わせて最高峰の“お掃除ロボット”を作ってやったさ」

 

 エルフナインがキャロルに依頼したモノは出来ているのかという質問に彼女は胸を張って答えて、自作の“お掃除ロボット”を披露した。

 

「「おおーっ!」」

 

「名付けて“機械仕掛けの掃除神(デウス・エクス・クリーナー)”だ。この洗練されたデザインは少々自信があってだな――」

 

 “お掃除ロボット”――“機械仕掛けの掃除神(デウス・エクス・クリーナー)”は大きな歯車に紫色の髪をした少女が掃除機を持って座っているという奇抜なデザインであった。

 これは、自動人形(オートスコアラー)ではなくて、電動のロボットみたいだ。コンセントがついている……。

 

 キャロルによれば様々な異端技術により、充電さえすれば、どんな事があっても部屋を自動的に正常なきれいな状態に戻すように作ったのだそうだ。

 

「マスター、話が長いでーす」

 

「ティキに至っては寝ているんだゾ。自動人形(オートスコアラー)は眠らないのに」

 

 その説明があまりにも長かったので、ティキは狸寝入り、ガリィとミカは苦言を呈すに至った。

 

「ほーう。お前たち……、覚悟は出来ているんだろうな」

 

「待ちなさい。キャロル。ここで暴れたら“機械仕掛けの掃除神(デウス・エクス・クリーナー)”を翼の家で使う前にこっちで使うことになるじゃない」

 

 キャロルが二人に向かって四大元素(アリストテレス)を発動しようとしたので、あたしは慌てて彼女を止める。

 

「そういう問題か?」

 

「フィリアも地味に感性がズレているからな」

 

「でないと、マスターの友人にはなれないですから」

 

 しかし、何故だかあたしもズレている人扱いされて甚だ遺憾な気持ちになってしまう。

 

「お前たちも割と辛辣なのだな……」

 

 翼は結構口が悪い自動人形(オートスコアラー)たちを意外そうな顔で眺めていた。

 そりゃあ、人格のベースがキャロルだから仕方ないわよ。

 

「しかし、興味があります。この惨状をキャロルが作った“機械仕掛けの掃除神(デウス・エクス・クリーナー)”が改善出来るのかどうか――そう、錬金術的に!」

 

 エルフナインは“機械仕掛けの掃除神(デウス・エクス・クリーナー)”の力に興味津々みたいだ。

 実はあたしも興味がある……。あの翼の部屋の状態が本当に改善されるのかどうか……。

 

「愚問だな。エルフナイン。この程度の命題も解けないで、世界を知るなど出来ようものか」

 

「かたじけない。私の不徳の為にこのような大仰なモノまで……」

 

 自信に満ち溢れたキャロルの顔を見て翼は彼女に頭を下げた。

 かつては敵同士で戦ったこともあったが、今はこうして手を取り合っている。やっぱり、こういうのって感慨深いわね……。

 

「良かったじゃない。いつまでも緒川の世話にもなれないし。これであなたも独り立ち出来そうね」

 

「ああ! これで、私の憂いは無くなった! 世界に歌女として羽ばたいていける!」

 

「その意気よ! 翼! 頑張って!」

 

 翼は“機械仕掛けの掃除神(デウス・エクス・クリーナー)”を手に入れて悩みがなくなり清々しい顔をしていた。

 彼女はこれから更に飛躍していくだろう。

 

 

 数日後――。

 

 

「珍しいよね〜!? あの翼さんが自分の部屋に私たちを招待してくれるなんて」

 

「部屋を片付けられるようになったのかな? 前に手伝ったときは諦めちゃったけど……」

 

 あたしと響と未来、そしてクリスの三人は翼の部屋に招待された。

 どうやら上手く“機械仕掛けの掃除神(デウス・エクス・クリーナー)”を活用できているらしい。

 

「先輩がきちんと片付け? そりゃあ、全人類が手を取り合うよか、難題なんじゃねぇの?」

 

「でも、翼が気兼ねなくあたしたちを部屋に呼ぶなんて嬉しいじゃない。美味しい紅茶を手に入れたから、ケーキと一緒に楽しみましょう」

 

 クリスは懐疑的な顔をしているが、あたしはキャロルの自信作が翼を助けていることを知っているので、ケーキと紅茶を土産として購入して、部屋の様子を見ることを楽しみにしていた。

 

「さっすがフィリアちゃん。気が利く!」

 

「それにしても、立派なマンションだね。芸能人の住まいって感じ」

 

 翼の住むマンションは都内の一等地で簡単に言えば、家賃が馬鹿みたいに高そうな所だ。

 

「芸能人だから当然だろ。戦いが終わってバイクぶっ壊さなくて済んでるし、金にも余裕が出来たんじゃね?」

 

「あれ、未だにあたしも勿体無いことしてると思ってるわ」

 

 翼のバイク乗り捨ては何度か止めたほうが良いと言ったのだが、こだわりがあるみたいで絶対に止めなかった。

 

「まぁまぁ、それが翼さんだし」

 

「その一言で済ますのもどうかと思うけど……」

 

 響が軽くそれを流すことに未来がツッコミを入れたとき、巨大な爆発音があたしたちの鼓膜を刺激した。

 

「爆発音!? 何事だ!?」

 

「あそこは翼の部屋の辺り……。まさか、新しい敵が――!? 行くわよ! みんな!」

 

 翼の部屋であろう場所の窓ガラスが吹き飛んでいる様子を見て、あたしたちは戦慄する。

 あたしはファウストローブを、装者たちはシンフォギアを身に纏い、素早く翼の部屋に突入する。

 

「や、やぁ……。よく来たな。みんな……。わ、私は普通にコンセントをさしただけなのだが……。何故か爆発してしまってな……」

 

 翼の部屋は見たこともないくらい物が溢れかえった状態になっており、彼女の足元には砕け散った“機械仕掛けの掃除神(デウス・エクス・クリーナー)”の残骸が転がっていた。

 

 その日、キャロルは「あり得ない」と何度も呟きながら、新しい命題に取り組むことになる――。

 そもそも“機械仕掛けの掃除神(デウス・エクス・クリーナー)”が爆発した原因が幾ら残骸を解析してもわからないのだという……。

 

 翼の悩みは解決する日はまだ遠そうだ――。

 




オートスコアラーやキャロルも出してみたくてこんな話にしてみましたが、如何でしたでしょうか?
次はサンジェルマンとかその辺りの話でも書いてみようかなぁ。
予定は未定……。


ここまで、読んでいただいてありがとうございます!
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