もし風太郎たちが原作とはほんの少しだけ違う感じだったら (べるぬい)
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第1話 五等分の花嫁

五等分の花嫁での処女作です。原作準拠(若干原作改編してます)に行きます。稚拙な文が目立つと思いますが楽しんでいただけたら幸いです。


原作最新刊までのネタバレ含む予定です。アニメ勢の方はオススメできません。



オリジナル設定


・上杉風太郎

原作とは少し違って体力、力がある。また他人の好意に疎い。ただ、観察眼はとても鋭い。ほんの少し、デリカシーがある。


「起きてください。新婦様のご準備が整いましたよ」

 

 

夢を見ていた。君と出会った高校二年の日。

 

 

あの夢のような日の夢を。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「焼き肉定食、焼き肉抜きで」

「はいよ」

「なんだあいつ」

 

この学食での最安値はライス(200円)と思いがちだが実は違う。焼き肉定食(400円)から焼き肉皿(200円)を引くと、同じ値段で味噌汁とお新香が付くのだ!

学食最高!水は飲み放題だしな!

 

 

「おい!早く行こうぜ!」

「あ、ワリ」

 

 

背中にぶつかってきた上に水をぶっかけてきやがって……学食最悪。

 

 

「上杉くんまた一人だぜ?」

「やべぇ」

 

 

まただ。この体の事は必ず毎日言われている。フン!そんなことは昔から散々言われて来てる。一人の素晴らしさを知らない奴らめ。ま、俺の人生とは関係のない人間だ……。どうでもいいけど!

昼飯のトレーをいつもの席に叩きつけるように置いてしまった。もう1つのトレーと同時に。誰だ…?女?うちの制服じゃない……。

まぁいっか。気にせず席に座ろう。

 

 

「あの!私の方が先でした。隣の席が空いてるので移ってください」

「!ここは毎日俺が座ってる席だ。あんたが移れ」

「関係ありません!早い者勝ちです」

 

 

似てる。

 

 

あの子の顔が脳裏に浮かんだ。5年前、あの時に出会ったあの子に。だがこいつは急にイチャモン付けてきやがった。あの子がこんな奴になるわけねぇよな。なら…俺はイチャモン付けてきた女より先に席を引いて椅子に座る。

 

 

「じゃあ俺の方が早く座りました!はい俺の席!」

「ちょっ」

 

 

少し幼児じみたことだが、相手がそう言ったのだ。仕方ない。なんだこいつ……睨んできやがって。しかし似てるなと、そう思いその女を見ていると向かいの席に座ってきやがった。所謂相席である。

 

 

「俺の席……」

「椅子は空いてました!午前中にこの高校を見て回ったせいで、足が限界なんです」

 

 

そんなことを何も言わず聞いていると後ろの方からざわざわと聞こえてきた。

 

 

「おいおい上杉君、女子と飯食ってるぜ…」

「や、やべぇ…」

 

 

これだから嫌なんだ。俺はこういうことを陰で言われる人間だから仕方がないが…向かいの女子に迷惑が掛かるだろうが。

 

 

「ちっ…あいつら…」

「何か周りが騒がしいですね……」

「あんたが美人だからだろ?」

「えっ!」

 

 

聞こえない程度に悪態を吐きつつ、彼女を褒めてやることを言うと彼女は狼狽えていた。まるで初めて言われたかのようなリアクションだ。様子を伺うと赤面していた。

 

 

「何だ?照れてるのか?」

「恥ずかしながら、そんなこと今まで全然言われたことありませんでしので……」

「なんだそりゃ。今までお前を見てきた男子は見る目がねーな」

 

 

適当なことを言い、俺は昼飯を食おうとする。が、目の前の昼飯につい目が惹かれてしまった。何と相席の女子の昼飯は

250円のうどん、トッピングに150円の海老天×2

100円のいか天、かしわ天、さつまいも天。極めつけにデザートに180円のプリン。合計1030円。

昼食に千円以上とかセレブかよ。

 

 

「いただきます」

「!行儀が悪いですよ?」

「……何?「ながら見」してた二宮金次郎は称えられるのに、俺は怒られるの?」

「状況が違います!」

「テストの復習をしてるんだ。ほっといてくれ」

「食事中に勉強なんて…よほど追い込まれてるんですね。何点だったんですか?」

 

 

彼女はそう言い飯の隣に置いといたテスト用紙を取る。

 

 

「あ、おい!見るな!」

「えぇー…上杉風太郎くん。得点は…」

 

 

不味い見られた!

 

 

「……百点」

「あー!めっちゃ恥ずかしい!!!」

 

 

これみよがしにと大声で恥ずかしいアピールをする。こういうの、一度やってみたかったんだ。ふと彼女を見ると大層怒っている様子だった。

 

 

「わざと見せましたね!」

「なんのことだか」

 

 

俺はすっとぼける。

 

 

「でも凄いですね。…悔しいですが、勉強は得意ではないので羨ましいです…そうです!私良いこと思い付きました!せっかく相席になったんです!勉強、教えてくださいよ」

「ごちそうさま。…いいぞ?その前にさっさと飯を食ってくれ」

 

 

勉強が得意ではないのに頑張ろうとする意思……。いいな。俺も昔はそうだった。こいつと似ているあの子と出会ってから俺は変わったんだ。

 

 

「ええっ!?食べるの早っ…お昼ご飯それっぽっちでいいのですか?私の分、少し分けましょうか?」

 

 

いや…悪いがここは一つ言わせてもらう。

 

 

「むしろあんたが頼みすぎなんだよ。太るぞ?」

「!ふとっ…こ……これは…」

 

 

図星だったのか気にしてるだろうか。また赤面していた。顔が忙しい奴め。だが悪く思うな。決して悪意はない。

そんなこと考えていると携帯の着信音が鳴った。メール?らいはからか。

内容は電話くれ、とのことだ。何だ?帰りに買ってきて欲しいものでもあるのか?

 

 

「あなたみたいな無神経な人は初めてです。もう何もあげません!」

「いらねぇよ……で、早くしろよ」

「……それにしても初対面の相手にいきなり勉強教えて、なんて言われて教えてくれるものなんですね」

「まぁ、俺だって男だ。可愛い女の子に勉強教えるのが嫌なわけねーしな」

「なっ!」

 

 

 

その後また赤面してたあいつに昼休みが終わる直前まで勉強教えた。

あいつと関わりすぎたかな?…ま、いいか。

どうせ、もう話すこともない相手だ。らいはに電話しなくちゃな。トイレでいいか。

 

 

◇◇◆◆◇◇

 

「お兄ちゃん!!!お父さんから聞いた!!??」

 

 

愛しの妹に電話をかけて、かかってきた第一声。でかすぎる。鼓膜がやぶけてしまうぞ。てか何だ。俺は何も親父から連絡来てないぞ?

 

 

「ど、どうしたらいは。落ち着いて話してくれ」

「あ、ごめんね。うちの借金なくなるかもしれないよ」

「は?」

 

 

え、何て?借金がなくなる?昼飯いっぱい食べれるようになるのか?

 

 

「お父さんがいいバイト見つけたんだ。最近引っ越してきたお金持ちのお家なんだけど、娘さんの家庭教師を探してるらしいんだ。アットホームで楽しい職場!相場の5倍のお給料が貰えるって!」

「裏の仕事の臭いしかしないんだけど」

「人の腎臓って片方無くなっても大丈夫らしいよ?」

「俺にやれと!!!??」

 

 

遂に家族にまで嫌われてしまったか……しかも最愛の妹に。お兄ちゃんショック。

 

「うそうそ。成績悪くて困ってるって言ってたよ?でもお兄ちゃんならできるって信じてる!」

「ちょっと待て!やるなんて一言も…」

「これでお腹いっぱい食べられるようになるね!」

 

 

…………そうだな。

 

 

「その娘ってどんな人なんだ?」

「高校生の人だよ?お兄ちゃんの高校に転入するって言ってたし……名前、なんて言ってったっけ…確かね……」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

クラスが騒々しい。

 

 

「午後から転入生来るらしいよ!」

「あー中野さん、だっけ?」

 

 

転入生が来るということで教室内が騒々しかった。対して俺は一切転入生に興味がなかった。そんなことより家庭教師のバイトについてだ。教える相手は女、しかも高校生。同い年か、はたまた年下か年上か。そんなことはいい。どうせ高校生の自分に教えられることを相手はすぐに不服に思うはずだ。どうせ「同級生に教えられるなんて!他にまともな家庭教師はいないの!?」とか「家庭教師なんてぶっちゃけいらないんだよね」とか言われるんだろう。

 

ガラッ、と教室のドアが開かれ噂の転入生だろう、が入ってきた。……ん?見覚えが…

 

 

「中野五月です。どうぞよろしくお願いします」

「……!!」

 

 

クラスがまた騒がしくなる。

 

 

「女子だ!!」

「普通に可愛い…」

「あの制服って黒薔薇女子じゃない?」

「マジかよ!超金持ちじゃん!」

「おいおい何者だよ」

 

 

…この人知ってる!転校生でお金持ち…ということは俺はあいつの家庭教師をするのか!?

 

 

空いている席に行くのであろう。俺の横を通ってきたので挨拶をする。

 

 

「どーも」

「あ、昨日はありがとうございました」

「おう。気にすんな」

 

 

なるほど。中野五月か。後で家庭教師について話してみよう。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、俺は再び食堂にいる。

 

 

「焼き肉定食、焼き肉抜きで」

 

 

トレーを受け取って昨日の転校生を探す。あ、いた。

中野五月に昨日家庭教師について聞こうとしたら、周りにクラスメイトが集まりすぎてて話をしようと入る隙がなかった。今日食堂ならと、探し見つけた。家庭教師の件を確認するのだが……違かったり拒否されたら家庭教師の話がなくなってしまう。

 

 

「お待たせしました」

「も~遅いよ~」

「友達と食べてる!!」

 

 

驚きのあまり大声を出してしまった。くっ、仕方ない。今は諦めていつもの席で飯を食おう。

 

 

「あれ?行っちゃうの?」

 

 

いつもの席に移動しようとしたらショートヘアの女に話し掛けられた。

 

 

「!そりゃ…」

「席探してたんでしょ?私たちと一緒に食べていけばいいよ」

「食えるか!」

 

 

あんな美少女に囲まれて食べるのは悪くないが恥ずかしすぎる。俺なんかが間に入ってたらあまりにも釣り合わなさすぎる。てか俺が単純に羞恥で嫌だ。

 

 

「なんでー?美少女に囲まれてご飯食べたくないの?」

「……」

 

 

思ってたことを言われてしまった。確かに顔面偏差値は高い、と個人的に思う。まぁ俺には関係ないが。

 

 

「彼女いないのに?」

「決め付けんな!」

 

 

何だこいつ……腹立ってきた。無視してさっさと昼飯を食べよう。

 

 

「まぁ待ちなよ。五月ちゃんが狙いでしょ?ん?」

「狙ってるわけじゃ…」

「えっ!?本当に五月ちゃんなんだ!」

 

 

こいつ……何でもかんでも勝手に話を進めていきやがって…。

 

 

「ずばり決め手はなんだったんですか~?真面目なとこ?好きそうだもんね」

「……」

「あ、そうだ。私が呼んできてあげるよ」

「待て。余計なお世話だ。自分のことは自分でなんとかする」

 

 

あまり俺と関わってほしくないし、家庭教師のこととか知られたくないし。

 

 

「ガリ勉くんのくせに男らしいこと言うじゃん!」

 

 

そんなこと言ってショートヘアは思いっきり俺の背中を叩いてくる。

 

 

「うっ!」

 

 

痛い。

 

 

「あ、でも、困ったらこの一花お姉さんに相談するんだぞ?なんか面白そうだし」

「お姉さんって……」

 

 

そう言い残して一花とか言う自称お姉さんは席に戻っていった。同学年だろ?多分……。

しかし困った……。五月…昨日の件を完全に根に持ってやがる。親切心からの言葉だが今回は余計なことに「上杉さーん」なってしまったか。

顔合わせは「上杉さーん?」今日の放課後。時間がない!

 

 

「うーえすーぎさーん!!」

「ん?」

 

 

顔を上げると目の前に女の顔があった。近っっっ!

 

 

「うおぅ!!誰!!?」

「あはは!やっとこっち見た!私は中野四葉です!」

 

 

!!あの悪目立ちしたリボン…。さっき五月のテーブルで見たぞ?というか………この子も

 

 

似てる。

 

 

「なんで俺の名前を知ってるんだ?」

「ふっふっふっ…よくぞ聞いてくれました……それは5年前……じゃなくて!」

 

 

最後の方小声で聞こえなかったな…なんだこいつ。エスパーなのか?

 

 

「ゴホン、私、上杉さんにお届け物を参りました」

 

 

そしてリボンは二枚の紙をポケットから取り出して俺に見せた。

 

 

「あなたが落としたのはこの100点のテストですか?それとも0点のテストですか?」

 

 

あっ、俺のテスト。いつの間に……何が目的だ?

 

 

「右」

「正直者ですね。両方セットで差し上げます」

「いらねぇよ。誰の0点だよ」

「私、中野四葉のものです!」

「よく差し上げる気になったな!?」

 

 

いや本当によく見せれるな。俺は0点は流石に恥ずかしくて見せれたもんじゃないぞ…。

 

 

「それにしても100点なんて初めて見ました!引くほど凄いです!」

「俺は0点を取った奴を初めて見て引いてるよ」

「上杉さんの第一印象は『根暗』『友達いなさそう』『優しい』『かっこいい』でしたが、新たに『天才』を加えておきますね」

「全然嬉しくない」

 

 

俺がかっこいい?優しい?何を言っているんだ?天才は合ってる。さて、昼飯も食い終わったし食器、片付けるか。ごちそうさまでした「どうしたら」

さて、トイレに行くか。「私はですね」ふぅ。スッキリした「早っ」気が乗らないが午後は体育か。更衣室で着替えよう。てか…

 

 

「いつまで付いてくるの!?」

 

 

俺は昼飯食い終わってからずっとくっついてきて、更衣室のドアを半開きにして中を覗いてくるリボンに叫んだ。

 

 

「まだお礼を言われておりません!落とし物を拾ってもらったら『ありがとう』。天才なのにそんなことも知らないんですか?」

 

 

イラッとした。俺は咄嗟にポケットからある紙をリボンに押し付ける。

 

 

「え?私の…」

「たまたま拾っただけだ。これで貸し借り無しな」

「……そっか!ありがとうございます!!」

「お礼言っちゃったよ……そうだ。お前…あの中野五月と仲いいんだろ?俺が謝ってたってあいつに伝えてくれないか?」

 

 

先ほど…一……何だったっけ。あの自称お姉さん。あいつに手助けはいらないみたいなことを言っときながらここで人頼み。

 

 

「?よく分かりませんが…そういうのは直接本人に言わないと!」

 

 

断られた

 

 

◇◇◆◆◇◇

 

 

帰り道。俺は五月の後を追っていた。決してストーカーではない。多分。帰り道なら一人になると思ったのに……美味そうに肉まん食いやがって。

 

 

「五月食いすぎじゃない?」

「そうですか?まだ2個目ですが……」

 

 

いや食いすぎだろう。てか謝るタイミングがねぇ……。

急に五月がこちらを向いた。やべっ、俺に気付いたか!?

 

 

「この肉まんおばけ!男にモテねーぞー?」

 

 

アゲハ蝶のリボンをつけたツインテール女子が五月の腹を揉み始めた。ナイスアゲハ!おかげで気がそっちにいってバレてないみたいだ……。

 

 

「やっやめてください!わ、私だって昨日、だ、男子生徒とランチしたんですからね!」

「マジ!?キャーッ!だれだれ~?一年?先輩?頭文字だけでいいから教えて~!」

 

 

横の友達邪魔だな…あれ?もう一人は…?

 

 

「あ」

 

 

目の前にいた。バレた。

 

 

「一人で楽しい?」

「……割りとね…こういうのが趣味なんだ」

「ふぅん。女子高生を眺める趣味…予備軍…」

「あ、そっちじゃなくてね」

 

 

このパネルに顔はめるやつの方だよ…。っておい!

 

 

「無言で通報するのやめて。あと友達の五月ちゃんにも言うなよ?」

「…分かった。でも、あの子は友達じゃない」

「えー…?」

 

 

仲良く見えるんだけどな。やっぱり人付き合いって大変そうだ。それにしてもこの通りは……だよな。あの如何にも高級そうなタワーマンションがある。あそこが五月の家じゃねーだろうな……マジもんの金持ちじゃねーか。

 

 

「なに君?ストーカー?」

 

両腕を組んで警戒してますアピールをしているツインテールに道を阻まれた。

 

 

「げっ……お前……」

「五月には言ってない」

「五月は帰ったよ。用があるならアタシらが聞くけど?」

「お前たちじゃ話にならない。どいてくれ」

「しつこい。君モテないっしょ。早く帰れよ」

 

 

本日二回目のモテないでしょ発言。恋愛に興味はないのでモテないことについては別にいいが、そんなに俺の見た目がダメか。さて…どうするか……。本当のことを言うか。

 

 

「……中野さんの家庭教師として来たんだ」

「え!?マジ?こいつが!?」

「マジだ」

「こんな人が…?」

 

 

こいつらの反応……どういうことだ?

 

 

「家庭教師なんていらないけど……まぁパパが雇ったし仕方ないわね。案内するわ」

 

 

案内…?本当にこいつら五月とどういう関係なんだ?

 

 

「あ、そ、そうだ!五月!!」

「五月が…どうかしたの?」

「いや、家庭教師の件、まだ何も言ってなくてな」

「あー?もしかしてさっき五月が言ってた、ランチ一緒にした男子生徒って君?あ、ほらエレベーター乗って」

 

 

エレベーターに押し込まれる。30階のボタンを押した……高っ!こんな高い建物は初めてだぞ……。てかエレベーター昇るの速いな。こんな速いのも初めてだ、

 

 

「ほら、ついたわよ。五月いるわよ。聞きたいことがあるんでしょ?」

「あぁ。助かる、サンキュ!おい!五月!!」

「あ、あなたは……なんですか?私に何かご用ですか?」

「……き、昨日は…」

「え?なんて?というかなぜ、あなたがここにいるのですか?」

「えーとな」

「用がないのなら私はこれで」

「わー!待て待て!!」

「何がしたいのですかあなたは!?今から家庭教師の先生が来てくださるので急いでください!!!」

「それ俺。家庭教師、俺」

「えっ」

 

 

何だそのリアクション。俺じゃ嫌か。昨日は教えて欲しそうにしてたじゃないか。

 

 

「そうなんですか!?」

「お、おう。何だ何だ。嫌なのか?だったらこの話は」

「いやいやいやいや!あなたが家庭教師で私は嬉しいです!昨日のあなたの教え方はとても分かりやすかったので!」

「そ、そうか!それは良かった」

 

 

俺は内心ホッとした。家庭教師の話が無くなったら金、稼げねぇからな。

 

 

「この人が…私たちの家庭教師なんて…やりました!」

「!?私たち?」

 

 

ポーン。何の音だ?音のする方に向くとーーーーーーー

 

すれ違ったんだ

 

 

あいつらに

 

 

「あれ?優等生くん!五月ちゃんと二人で何してるの?」

「一花こいつと面識あるんだ」

「あれぇ?上杉さん!みんなもいる!」

「みんな面識あるんだ……」

 

「は…?なんでここにこいつらがいるんだ…?」

「なんでって……住んでるからに決まってるじゃないですか

「へ、へぇー…同級生の友達五人でシェアハウスか。仲が良いんだな」

 

 

この時、急激な負荷をかけられた俺の脳は限界を越えた速度で高速回転。一つの答えを導きだした。

夢だ。これは夢に違いない。

 

 

「違います。私たち……五つ子の姉妹です」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「夢のような日って……ふふっ。風太郎が私たちに会った日でしょ?一花、二乃、三玖、四葉、五月。五つ子だってそこで知ったんだよなね。夢のようだなんて見えなかったけど?」

「そうだね」

 

 

俺はあの瞬間をーーーーー

  大人になってからも夢に見る

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




どうでしょうか。何か感想ありましたらよろしくお願いします。


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第2話 お宅訪問

第1話かなり編集しましたので、良かったら見直してください。


「お兄ちゃん今頃家庭教師頑張ってるのかな?今日は奮発!おかずに卵焼きも作ろーっと……わぁ!黄身が五つ!」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「今日から君たちの家庭教師になります。上杉風太郎です。よろしくお願いします」

「私は中野一花。気軽に一花って呼んでね」

「……中野二乃。よろしく」

「中野…三玖…」

「はいはーい!昨日会った四葉でーす!」

「中野五月です。よろしくお願いしますね」

 

 

自己紹介をし終えた途端プルルルと携帯がなる。電話か、誰からだ?

中野マルオと表示されていた。ここのお父さんじゃないか!!!

 

 

「も、もしもし」

『上杉くんかね?』

「は、はい!そうです!ところで僕が家庭教師になって教えるのって……」

『私の娘たちだ。五つ子だ』

「五つ子!?な、中野さん。娘さんが五つ子って本当なんですか……」

『あぁ、彼女たちは正真正銘の五姉妹だよ。五人の面倒を見てもらいたい。もちろん報酬は五倍だ』

 

 

五つ子の面倒を見ろだと…?冗談じゃない!

 

 

「そ、それはちょっと自信がないかな~って」

『そうかい?君のお父さんに押し切られてしまったのだが…残念だ。それならこの話は「やらせてください!やる気みなぎってきました!娘さんを全員卒業させてみせます!」

『そうか。期待しているよ。ところで娘たちはそこにいるのかい?』

「えぇ。事情を説明して自己紹介して…今リビングに集まってもらってます」

『そうかい。励みたまえ』

「ありがとうございます」

 

 

俺は中野家のリビングにいるのだが……広すぎてびっくりしてるし、未だに五姉妹ということに脳が追い付いていけてない。

 

「あ、それでは早速家庭教師をしたいと思うので…ハハハ……では!」

 

 

ピッ、と電話を切る。しかし中野さん。父さんと知り合いなのか?押し切られたって…どういう関係なんだろうか。

 

 

「ふぅ。緊張した……」

「リラックスしてくださいよー!」

 

 

声がする方へ見上げると悪目立ちリボンがいた。えっと確かこいつは…。

 

 

「四葉、だっけか。0点の」

「えへへ!その通りです!お父さんですよね?今の」

「あぁ。お前ら本当に…似てるな…ちょっと眉間にしわを寄せてみてくれないか?」

「はい?いいですけど……こうですか?」

 

 

なるほど。五月に似ている……というか顔同じじゃないか?本当に五つ子なんだな…。

 

 

「あれ一花と二乃と三玖は??」

「家庭教師なんていらないっ、とか勉強したくないっ!て部屋に戻りましたよ」

「い、五月は?」

「今勉強道具取ってきますって部屋に戻りました」

「五月は大丈夫か…あれ?四葉お前は逃げないのか?」

「し、心外です!上杉さんの授業受けに来たんですよ!」

「!」

「怖い先生来たら嫌だな~って思ってましたが、上杉さんなら大丈夫ですね!楽しそうですし!」

「……四葉」

「はい!何ですか?」

「……抱き締めていいか?」

「えっ……あ、はい…!」

 

 

俺は嬉しさのあまり四葉を抱き締める。……めっちゃいい匂いする……って俺は何をしているんだ!!他の姉妹に見られたら変態と思われてしまう!!

 

 

「あ、あの……恥ずかしいので……」

「す、すまん……」

「何やってるんですか……?」

「げっ、五月……いや、今のは……」

 

 

ま、不味い!しょっぱなやらかしたか……?

 

 

「さ、さー!他のみんなを呼びにいきましょー!」

 

 

 

下手くそな四葉の誤魔化しにより俺は四葉に連れられリビングの端にある階段を上る。ドアが六つ。こいつら五姉妹とお父さんの部屋だろうな。

 

 

「手前から五月、私、三玖、二乃、一花です!それぞれドアの前に線があるのでそれで覚えてください!」

「なるほど。五月は五女。それでドアに5本の線があるんだな?しかし三人集めるところから始めるとはな……」

「大丈夫ですよ!」

 

 

ノックを三回する。ドアが開く。もちろん出てきたのは三玖だ。

 

 

「三玖、だっけか。勉強しようぜ!」

「嫌。なんで同級生のあなたなの?この町にまともな家庭教師はいないの?」

 

 

昨日思っていたことを全部言っていた。予想通りだ。が、対策を考えていなかった。答える間もなくそのままドアを閉められてしまった。マジかよ。

 

 

「つ、次行きましょ?二乃です!二乃は人付き合いが上手なんです!上杉さんともすぐ仲良くなれますよ!二乃~?いますか~?…………いませんね」

「部屋にもいないってどういうこと!?」

 

 

くそ、やっぱりみなぎってきた自信なくなってくる。

五人のうち三人がやる気ないとなると……給料は減るのか!?

 

 

「大丈夫です!まだ一花が残ってます!一花は……………………」

「何その間!!?」

「お、驚かないでくださいね…?一花~?入りますよー」

 

 

驚かないでって…どういうことだ?少し身構える。そして扉が開け放たれた。扉の先には信じられない光景が広がっていた。ごちゃごちゃしている。足の踏み場もないぐらいゴミや荷物が散らばっている。嘘だろ?ここに人が住んでいるのか?

 

 

「人の部屋を未開の地みたくしてほしくないなぁ……ふぁ~おはよ。まだ帰ってなかったんだね」

「もー…この前片付けたばっかりじゃん」

「あははごめんって」

「足の踏み場ねぇよ……」

「まさかフータロー君が私たちの先生とはな。五月ちゃんと話したがってたわけだ」

「いいから。とりあえず居間に戻るぞ」

「あーダメダメ。服着てないから照れる」

 

 

……????????

 

 

「なんでだよ!!」

「ほら、私って寝る時基本裸なんだよ」

「そんなこと!知るか!!」

「あ、ショーツは穿いてるから安心してね」

「そういう問題じゃねぇだろ」

 

 

マジで。こいつには羞恥心というものがないのか?腐っても俺は男だし、しかも同級生だということを忘れてないか?

 

 

「あれー?脱いだ服どこだ?四葉、適当にそこらの服ちょうだい」

「はぁ……お前なぁ少しは片付けろよ。この机なんて最後に勉強したのは……」

 

 

考えて頭が痛くなってくる。こいつは駄目かもしれん。

 

 

「もー勉強勉強って。せっかく同級生の女子の部屋だよ?それでいいの?」

「こんな糞汚い部屋で女子の部屋と言われてもなぁ。特に汚いとしか思えないし、そんなことより勉強しようぜ」

「うわっ!一花こんなの持ってるの?お…大人」

 

 

四葉が驚いて見せたのは……ランジェリーじゃねぇか!一花に羞恥心が一切無いことが分かった。部屋出よう。

 

 

「同じ顔だし四葉にも似合うよ?」

「えええ!?」

「小学生の頃のパンツはもう卒業しないとね」

「わーっ!上杉さんいるから!!シー!シー!!」

 

 

小学生の頃のパンツって……四葉お前、物持ちいいんだな。羨ましいぜ。俺なんかビロビロパンツ穿いてるしなぁ。

 

 

「う~ん……上杉さんはこれ、私に似合うと思いま…あれぇ!?」

「おい、この部屋さっさと出てリビング戻るぞ。……まぁ似合うんじゃねぇの?俺には全然分からないがお前ら姉妹は顔は良いみたいだしな」

「顔はって……フン!上杉さんのデリカシー下級者!!」

 

 

デリカシー下級者って……。とりあえず俺は部屋を出る。

すると人の気配。

 

 

「!三玖…」

「フータロー聞きたいことがあるの」

「何だどうした勉強のことか?よし早速勉強会を…」

「違う。私のジャージが無くなった…赤いやつ」

「そうか…見てないな」

「さっきまではあった…フータローが来る前までは。もしかして盗「ってない!!」

 

 

いやマジで盗ってないです。探すのか?今から?

 

 

「てかもっとよく探せって。そもそも俺お前の部屋に入ってないし……」

「確かにそうですね!」

 

 

四葉もいたし。盗らないしそもそも興味ない。

 

 

「じゃあ…探すから手伝って。ここ」

「は?」

 

 

冗談じゃない。こんなゴミ部屋を今から探すのか?そんなことしてたら日が暮れちまう!

 

 

「おーい!そんなとこで何してんのー?」

 

 

下から声が聞こえてきた。二乃だ。家にいたのか……。

 

 

「あ、あのジャージ三玖のじゃない?」

「あ、本当だ」

 

 

おいふざけんな。とんだ濡れ衣じゃねぇか。

 

 

◇◆◆◇◆◇

 

 

「よし、これで全員揃ったな。まずは実力を測るためにも小テストをしよう!」

 

 

そうだ。馬鹿正直に全員相手する必要はない。赤点候補の奴にだけ教えればいいんだ。

 

 

「えー面倒なんだけどー」

「二乃、そんなこと言わないでやりましょう?」

「わーお五月ちゃんやる気だね~」

「小テストですか!?やりますよー!」

「……合格ラインは?」

「そうだな……60、いや50あればそれでいい」

 

 

50あれば別に良くも悪くもないしな。ちょうどいい設定だろう。

 

 

「はぁ、別に受ける義理はないけど。あんまりアタシたちを侮らないでよね」

 

 

 

◇◆◆◇◆◆

 

 

「採点終わったぞ!すげぇ!100点だ!!

       全員合わせてな!!!」

 

 

こいつらマジかよ。全員赤点候補か!?

 

 

「逃げろ!」

「あ!!!待て!!何で四葉まで!」

「あはは!なんか前の学校思い出すね」

「厳しいとこだったもんねー」

「思い出したくもない」

「あいつ知ってんのかな?私たちが落第しかけて転校してきたって」

「あいつら……!あ?五月は逃げないのか?」

「どう考えても私が馬鹿なのが悪いから、復習しないといけません」

 

 

五月……お前って奴は!五月、と四葉はやる気があると見ていいのだろうか。まぁそれは追々理解していけばいいだろう。あ?もうこんな時間か。帰らないとな。

 

 

「復習に付き合ってやりたいところだが、生憎時間が時間だ。俺は帰るな」

「あ、待ってください。家まで送りますよ」

「え?」

 

 

◇◆◇◆◆◇

 

 

俺は五月にタクシーで家まで送ってしまってもらった。運賃4800円をカードで支払っていた。さすがブルジョワ……。

そして今、何をしているかというと。五月が我が家に来ている。一体どうしてこうなった。

 

 

「わーい!五月さんって言うんですね!今ご飯できますからね!」

「まさか風太郎が女の子を連れてくる日が来るとはな!!ガハハハ!!」

「親父…」

「お?この牛乳消費期限が一週間前じゃねーか。危うく飲めなくなるところだったぜ!」

「親父……やめてくれ……」

「あは、あはは……」

 

 

おいほら見ろ。五月な野郎苦笑いしてるじゃねぇか。くそ…こいつ、というか五姉妹の誰にも俺の家の事情を知られたくなかった……。

 

 

「いやーお兄ちゃんが割りと早く帰ってきたからご飯間に合わなかったよ。家庭教師ちゃんとやってきた?」

「もちろん!バッチグーよ!!」

「そーなんだ!安心したよー!これで借金問題も解決だね!」

「らいは」

「あ、ごめん……」

 

 

そう。何を隠そう我が家には借金がある。これが一番知られたくなかったことだ。同情なんてされたくない。同情するなら金をくれ。

 

 

「はーい上杉家特製カレーと卵焼きでーす!お口に合うといいんだけど」

「ふん!お嬢様に庶民の味がわかるかね」

「コラ。そういう嫌みなところ直した方がいいよ」

 

 

痛てぇ……トレーで叩かれたぞ。妹よいつの間にそんな乱暴な子に……。

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「今日はご馳走さまでした」

「おう!風太郎通りまで送っていけ」

「おう。言われなくても分かってる。面倒だが、こいつ見てくれはいいからな。こいつに何かあったら俺が困る」

「えっ…上杉くんそれって……」

「こいつに何か危険があったら家庭教師の件、無くなりそうだしな」

「はぁ……五月さん。お兄ちゃんはクズで…自己中で最低な人間だけど……」

 

 

え、俺らいはにそう思われてたの?お兄ちゃん泣いちゃいそう。てか泣いていい?

 

 

「でも良いところもいっぱいあるんだ!だから、その…また家に遊びにでもご飯を食べにでも…来てくれる…?」

「もちろん!頭を使うとお腹が空きますから!またご馳走してください」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

夏前とはいえ、流石に夜はまだ少し冷える。コツコツと二人分の足音が静寂に響く。俺は五月を送っている最中だ。すると突然五月が足を止める。

 

 

「ここらで結構ですよ?ありがとうございます」

「タクシーとやらを呼んだのか」

 

 

間もなくタクシーがこちらに向かってきていた。

 

 

「今日は本当にありがとうございます。明日からよろしくお願いしますね」

「おう。言われなくても」

「それじゃあ…おやすみなさい」

「あぁ。おやすみ。気を付けて帰れよ」

 

 

こうして俺の波乱万丈な家庭教師生活が幕を開けた。




地の文が苦手。もっとこう上手く書けるようになりたいところです。


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第3話 屋上の告白

部活の合宿がありまして大変更新が遅れました。許せサスケ。



「ハァ…ハァ‥ギ…ギリギリセー……フ……」

 

 

季節は夏。炎天下の朝。俺は寝坊したおかげで学校に遅刻しないように走ってきた。無論走りながら勉強も俺は欠かさない。ただ、家庭教師と自分の勉強の両立がこんなにきついとは……こんな生活続けられるのか……?

 

と、くそ暑い中自分のことで悩んでいると後ろから車の音が聞こえる。そして俺の少し前で止まった。

 

 

「おおっ、見たこともない外国の車だ。かっけー100万はするんだろうな」

 

 

適当なことぶっこいてたら中から人が降りてきた。てかあいつらだった。

 

 

「!!」

「あ!フータロー!」

「おはようございます」

「な、なんですか?ジロジロ不躾な‥」

「……お前ら!一昨日はよくも逃げて!ああっ!また!よく見ろ!俺は手ぶらだ!!害はない!!」

 

 

俺はどこからどう見ても安心安全だぜ?

 

 

「騙されねーぞ?」

「参考書とか隠してない?」

「油断させて勉強教えてくるかも」

 

 

こいつら俺をなんだと思ってるんだ……。

 

 

「あ、そうだ五月。うちのことだが……」

「あぁ。口外してないですよ?安心してください」

「そ、そうか。サンキュな」

 

 

それならいいんだ。助かる。

 

 

「フータロー君。私たちの力不足は認めるよ?でもね。自分の問題は自分で解決するから~」

「勉強は一人でもできる」

「そうそう。要するに余計なお世話よ」

「そ、そうか……。

  じゃあ一昨日のテストの復習はもちろんしたよな?

……問一、厳島の戦いで毛利元就が破った武将を答えよ」

 

 

一花がどや顔でこちらを向いてきた!答えが分かってるんだ……な……無言!!五月、四葉も含め分かってないんかい!

 

 

「やっぱり……」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

この三日間で分かったことがある。この五人は極度の勉強嫌い。特に一花と二乃、三玖は俺のことをどうも良く思ってないみたいだ。いやまぁ当然か。

一人ずつ信頼関係を築くしかないか……。俺の最も嫌いな分野だ。誰か変わってくれ。そんなことを考えつつ一昨日の彼女等のテストの答えを見ていると……

 

 

「あれ?三玖……一昨日のテストの一門目、つまりさっき出した問題正解してる……」

 

 

だったら何で答えなかったんだ?これは本人に聞くしかないな。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

三玖とは違うクラスなので食堂に来た。ここならいるはずなんだが……あ、いた。

 

 

「よう三玖……ん?350円のサンドイッチに……何だその飲み物」

「抹茶ソーダ」

「逆に味が気になる!」

「の、飲んでみる?」

「あ?いいのか?じゃあいただきます」

「えっ!ちょ、冗談「美味いなこれ」

 

 

俺は未開封だった抹茶ソーダを開け、飲んでみた。これ意外と美味いな。お金に余裕ができたら今度自分で買ってみるかな。

 

 

「ふ、フータロー……へんたいっ!」

「え!なんで!?あ、じゃなかった。聞きたいことが「上杉さん!お昼一緒に食べませんか!?」

「うおっ!?なんだ四葉か。お前はいつも突然すぎだ」

「あはは~!これ見てください!英語の宿題!全部間違えてました!あはははは!!」

「分かった分かった。放課後見てやるから……」

「ごめんねー?邪魔しちゃって」

 

 

と、四葉の後ろから一花が出てくる。お前いたのか……。

 

 

「一花も見てもらいなよ!」

「う~んパス!私たちバカだし…ね?」

「だからってなぁ……」

「それにさ!高校生活勉強だけってどうなの?もっと青春をエンジョイしようよ!」

 

 

 

「恋とか!」

 

 

 

 

「恋?

アレは学業から最もかけ離れた愚かな行為だ。したい奴は勝手にしろ。だがそいつの人生のピークは学生時代となるだろう」

「この拗らせ方……手遅れだわ!」

 

 

恋愛なんて興味ない。特に俺に関しては無関係すぎる。

 

 

「恋愛かぁ…………三玖はどう?好きな男子とかできた?」

「えっ?い、いないよ!」

 

 

三玖が急に走り去ってしまった……。え、ちょっとまだ聞きたいことが聞けてないんだが……?

 

 

「あの表情。姉妹の私にはわかります。三玖は恋、してますね!」

「……」

 

はぁ?

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

三玖に好きな人だと……?四葉の思い過ごしならいいが…。あの二人、人の色恋沙汰ではしゃぎやがって。良くない流れだ。あいつらには勉強をしてもらわないと困るのに。

 

 

「あん?なんだこれ」

 

 

教室に戻り自席へと座り勉強しようと教科書を取ろうとしたら、机の中から三玖からの手紙が出てきた。

 

 

 

ーーフータローへ

 

昼休みに屋上に来て。

フータローに伝えたいことがある。

どうしてもこの気持ちが

抑えられないの

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

 

えっ

 

 

えっ?不味い……不味いぞ。三玖は俺に不快感を抱いている。つまり嫌われているんだ……。もしかしたら先の抹茶ソーダの件について金をせしめられる……?不味い……。

 

 

「何をそんなに思い詰めた顔してるんですか?」

「いっ!五月か……これは真顔だ。真顔すぎるほど真顔だ」

「?」

 

 

 

覚悟を決めろ風太郎。クールになれ上杉風太郎。こんなことにわざわざ付き合ってやる必要はない!

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

のだが、一応屋上来た。夏で暑いかと思ったが、高度もあり、風が強いので案外涼しかった。三玖を待ち続け30分程。あいつが来る気配は一切なかった。

 

 

ほらね!!程度の低いイタズラに乗っかっちまったぜ。まぁ本当に来られても困るんだが。

帰ろうとしようとして歩こうとしたら、屋上の扉が開いた。三玖だった。

 

 

「み、三玖!!何か俺に文句があるのか…?」

「良かった。手紙見てくれたんだ」

 

 

くっ、俺は貧乏だから抹茶ソーダの弁償金さえ惜しい…。不味いぞ…。

 

 

「食堂で言えたら良かったんだけど、誰にも聞かれたくなかったから」

 

 

……?誰にも聞かれたくない?じゃあ金についてではなさそう?瞬間、俺の脳内に四葉の台詞がフラッシュバックした。

 

『あの表情!姉妹の私には分かります!』

 

まさか…!

 

 

「フータロー。あのね」

 

 

『三玖は恋しています!』

 

 

「ずっと言いたかったの……す…す」

 

 

不味いぞ…!きっと好きな人がいるの!相談に乗って!なんて言われるんだろうか。だが生憎俺に恋愛なんてわからん。相談されても俺は分からんぞ…。

 

 

「陶 晴賢」

「陶 晴賢…!!」

 

 

は?

 

 

「よし、言えた。スッキリ」

「ちょ、ちょっと待って!今の何!?」

「うるさいなぁ…問題の答えだけど」

 

 

問題の答え…?…!!今朝の五人に出した問題のことか!

 

 

「待てって!なぜそれを今このタイミングで!?」

 

 

帰ろうとする三玖の肩を掴み引き止める。その衝動で三玖のスマホを落とさせてしまう。

 

 

「わーっ!」

「す、すまん!」

 

 

三玖のスマホを拾おうとしたらロック画面が映し出された。これは武田菱…。

 

 

「これ、武田信玄の…」

「見た?」

 

 

思いっきり睨まれた。え、怖。眼光ヤバくね?俺のこと嫌い過ぎでしょう。

 

 

「え?あ、あぁ」

「…だ、誰にも言わないで。戦国武将…好きなの」

「へぇ?良いじゃないか」

 

 

いわゆる歴女ってやつか。それでテストも正解出来たわけだ。

 

 

「きっかけは四葉から借りたゲーム。野心溢れる武将たちに惹かれてたくさん本も読んだ」

「ふむ。良いことだ」

「でもクラスのみんなが好きな人は、イケメン俳優や美人モデル。それに比べて私は髭のおじさん…変だよ」

 

 

前髪を弄りながら三玖は自分の好きなことを…つまるところ趣味を教えてくれた。歴史、中でも戦国武将か。いいじゃないか。

 

 

「変じゃないだろ。自分が好きになったものを信じろよ」

「…!」

「自慢じゃないが俺は武将にも造詣が深い方だ。前回の日本史のテストは満点だったな」

「そうなの!?」

「あぁ。これが学年一位の力だ!俺の授業を受ければ三玖の知らない武将の話もあるかもだぜ?」

「!それって…私より詳しいってこと?」

「え?」

「じゃあ問題ね?信長が秀吉を『猿』って呼んでたのは有名な話だよね。でもこの逸話は間違いだって知ってた?本当はなんてあだ名で呼ばれてたか知ってる?」

 

 

めっちゃ喋る!頬を膨らませて俺の答えを待ってるようだ。ちょっと可愛いなこいつ。この五姉妹。まだ全然知らないことばかりだが、正直顔は良いと思う。羨ましいぜ!

じゃなくて、秀吉のあだ名か。確か歴史の先生が言っていたな。

 

 

「ハゲネズミ、だろ?」

「…正解」

 

 

ありがとう先生!

 

 

「それにしてもハゲネズミは酷いよな」

「私も思う。知ってると思うけど私が好きな逸話は…」

 

 

三玖の表情が変わった。

 

 

「謙信が女だった説!とか」

「うんうん」

「三成は柿を食べなかったんだ。感動したなぁ」

「あーそれな?」

「信長が頭蓋骨にお酒を入れたとか…」

「そ…それな!」

 

 

笑顔になったり、涙を流したり、少し怖がったり。何だ、こいつ結構コロコロ表情変わるんだな。分かりやすいやつだ。少しずつ三玖のことが分かった気がする。

『武将』は勉強から逃げるこいつと『日本史』を繋ぐ唯一の接点。これはチャンスだ。生かしてみせる。

キーンコーンカーンコーン。昼休みの終わりを告げる予鈴がなった。

 

 

「あ、次の授業始まっちゃう」

「そうだな。が、まだ話し足りないな。うーんこの話、三玖は知っているかな?そうだ。次の家庭教師の内容は日本史を中心にしよう。三玖、受けてくれるか?」

「…っ。そこまで言うなら、いいよ」

 

 

よし!授業を受けてくれる第三人目だ!後に五月に報告しよう!早速家庭教師の日を決めさせてもらおうか。

 

 

「これ。友好の印」

 

 

そう言って三玖は抹茶ソーダを差し出してきた。お、マジか。もう1回飲んでみたいと思っていたんだ。

 

 

「鼻水なんて入ってないよ。なんちゃって」

 

 

え?なんて?鼻水?鼻水って言った?なんちゃって?どういうことだ?

 

 

「あれっ?もしかしてこの逸話知らないの?そっか。頭良いって言ってたけどこんなもんなんだ。やっぱり教わることはなさそう…バイバイ」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

「うわっ」

「なんだあいつ」

 

 

図書室にて俺は歴史の本を借りた。まずは100冊ほどだ。

許さねぇ…意地でも俺が勉強を教えてやる!

 




原作を見ながら書いているのですが中々大変でござる。


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第4話 合計100点

ふぅー2話連続投稿してしまった。


「三玖。お前が来るのを待っていたぞ」

「何か用?フータロー」

「あぁ。俺と勝負だ。お前の得意な戦国クイズ。今度こそ全て答えてやる」

 

 

あの日から俺は日本史、戦国武将について本気で勉強した。答えられない問題は無い。

 

 

「やだよ。懲りないんだね」

「くくく。この前の俺と一緒にしてもらっては困る。それとも唯一の特技で負けるのが怖いか?」

 

 

三玖は膨れっ面で俺を見据えてきた。よし、いける

 

 

「武田信玄の風林火山。その『風』の意味することは?」

「そんなの簡単な…」

「正解は『疾きこと風の如く』」

「!!」

 

 

あいつ…また逃げやがった!そうだ。あいつらは逃げ続けている。俺からも勉強も。もう逃がさねぇ!

 

ポフッ

 

 

あん?何だこの柔らかいの…って!

 

「四葉!」

「わお!上杉さん!ちゃんと前向いてないとダメですよー」

「す、すまん。ここ三玖が通らなかったか?」

「三玖?さっきすれ違いましたよ。あっちに走っていきました」

「サンキュー。くそっどこ行った?」

 

 

校舎内とかに行かれたらほぼ見つけれない…こいつはまずいな。えっ?

 

 

「わお!上杉さん!」

 

 

校舎の窓から荷物を運んでいる四葉に話しかけられた。は?え?さっきも四葉が…。

 

 

「ちゃんと前向かなきゃダメですよー?」

 

 

バッ!と後ろを振り向くと先程の四葉がいる。…?心無しか髪が長い気がする…。

 

 

「すまん四葉。落ち着いて聞いてくれ。お前のドッペルゲンガーがそこにいる。お前死ぬぞ?」

「ええぇえぇえ死にたくないですぅ〜!本当だあそこにいる…最期に食べるご飯は何にしよう…」

「あれ?やっぱりあの四葉少し髪長くね?リボン取っちゃったし…ヘッドホン付けて…と……お前三玖じゃねぇか!」

「ほっ」

 

 

トリッキーな技使いやがって…!

 

 

「三玖!この前は悪かった!俺はこの2日間で図書室にある戦国関連の本、全てに目を通した!今ならお前とも対等に会話出来る自信がある!」

「嘘ばっかり…」

 

 

くそっ!逃げられる!と思ったがあいつ…足遅いな。運動が苦手なタイプか?体力がキレて倒れるまで追いかけてやる!

 

 

「ハァ…ハァ…武将しりとり……龍造寺隆信」

「『ぶ』…『ふ』もありだな。福島正則!『賤ヶ岳の七本槍』の『一番槍』として名高い武将だ!」

「…!龍造寺正家」

「江戸重道!」

 

「ハァ…長曾我部元親」

「金森長近」

 

「ハァハァ…かっ、河尻秀隆っハァ…」

「また『か』か…片倉小十郎!!」

 

「上杉…ハッ…上杉…景勝ハァ…」

「くそっ!津田信澄!」

 

「三好ハッ…長慶…もうダメっ…!」

「し…しま…島津豊久!」

 

「……真田幸村」

「ら!?ら…ら…」

 

 

「ねぇ…なんでそんなに必死なの…?」

 

 

三玖はもう体力の限界だったのだろう。仰向きに倒れ始めた。おい!ちょっと!

 

「あっ…」

「危ねぇ!」

 

 

間一髪三玖が地面に思いっきり倒れ込むのを防ぐ。何とか背中を支えてやることが出来た。

 

 

「………ありがとう」

「どういたしまして。大丈夫か?よっ…と」

「な、何するの!」

「何って…そこのベンチまで運ぶんだよ。大人しくしろ」

 

 

俺は三玖を近くにあったベンチへ、所謂お姫様抱っこで運ぶ。ちょうど背中を支えてたしこれが運びやすかったんだ。すまないな。

 

 

「ふぅ。座れるか?」

「う、うん…暑い」

 

 

こいつ暑いとか言って俺の前で履いていた黒タイツ脱ぎ始めたぞ。こいつの羞恥心はどうなってんだ…。

 

 

「しかし本当に暑いな。喉乾いた。飲み物買うか…おっ?」

 

 

この飲み物は…買ってってやろう。俺は1本の缶ジュースを買い、三玖のいるベンチへと戻った。三玖に冷たい缶を頬に押し付けて。

 

 

「ひゃっ!」

「わっ!すまん!」

「……」

 

 

 

また膨れっ面だ。この表情。よく見るな。

 

 

「これ、好きなんだろ?110円はかなり手痛い出費だが。

あぁ。もちろん鼻水は入ってない」

 

 

『鼻水なんて入ってないよ…なんちゃって』

あの台詞だ。言い返してやったぜ。

 

 

「石田三成が大谷吉継の鼻水の入った茶を飲んだエピソードから取ったんだろ?」

「ふーん?ちゃんと調べてたんだね」

「この逸話にたどり着くのに何冊読んだことか…。ま、最後は偶然居合わせた四葉に携帯で調べてもらったんだがな。いやぁ、いんたーねっとって奴は凄いな」

「四葉?私が武将好きって四葉に話したの?」

 

 

三玖が少し怒ったような表情になる。本当にこいつは表情が豊かだ。

 

 

「言っていないが。姉妹にも秘密なのか?むしろ誇るべき特技であり、お前の趣味だろう?」

「姉妹だから言えないんだよ」

「あ?何でだ?」

 

 

 

「五人の中で私が一番落ちこぼれだから」

 

 

 

 

俺は思い違いをしていたようだ。三玖ののことを分かってきた?なんて傲慢なんだ。俺は三玖のほんの少しだけ分かっていた『気』になってただけだ。しかしそれもほんの上澄みにすぎない。

こいつは自分の好きな物に自信がないんじゃない。

自分に自信がないんだ。

 

 

「あいつらの中じゃお前は優秀だ。ほら、この前のテスト。お前が一番だったぞ?」

「…フフッ。フータローは優しいね」

「ど、どんぐりの背比べには変わらないがな!」

 

 

優しい、なんてあまり言われたことがなかった。から照れ隠しで少し酷いことを言ってしまった気がする。

 

 

「…でも何となく分かるんだ。私程度にできること。他の四人にもできるに決まってる。五つ子だもん」

 

 

………!!待てよ…?三玖の言うことが正しいのならば。正しいのすれば…あの結果はもしかして…!

 

 

「だからフータローは私なんか諦めて他の姉妹を…」

「それはできない。俺は五人の家庭教師だ。あいつらも…そして、お前も。俺は勉強させる。それが俺の仕事だからだ。だからお前たちには五人揃って笑顔で卒業してもらう」

「クスっ…勝手だね。でも無理だよ。この前のテストで分かったでしょ?五人合わせて100点だよ?」

「そうだな。あの時はビビりにビビったぜ。まさか五人とも問題児とは思わなかった。こんな奴らに教えなきゃいけないのかっ、てな。絶対にできっこない。そう思ってた。今日まで」

「…え?」

「三玖の言葉を聞いて自信がついたぜ。五つ子だから三玖にできることは、他の四人にもできるだっけ?つまり言い換えれば『他の四人にできることは三玖にもできる』ということだ」

「そ、それは…そんな考え方、したこともなかったけど…」

 

 

俺はポケットに入れていたあいつらのテストの結果を纏めておいた紙を取り出す。

 

 

「見てくれ。この前のお前らのテストの結果だ。何か気が付かないか?」

 

 

三玖にそう言うとジーッと紙を見つめていた。

 

 

「あっ。正解した問題が一問も被ってない」

「そう。確かにお前らは平均20点の問題児。だが俺はここに可能性を見た」

 

 

「一人ができることは全員できる」

 

 

「一花も」

「二乃も」

「四葉も」

「五月も」

 

 

「そして、三玖。お前も。全員が100点の潜在能力を持っていると俺は信じている」

「何それ屁理屈。本当に…『五つ子』を過信しすぎ」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

後日、放課後。俺は学校の図書室で四葉と五月に宿題を教えていた。

 

 

「だから何回言ったら分かるんだ…ライスはLじゃなくてR!お前はシラミを食うのか!」

「あわわわ」

 

 

ん?四葉は俺に怒られているのに笑顔なんだ…?まさかあっちの方向…?

 

 

「四葉…なんで怒られてるのにニコニコしてんだ?」

 

 

俺は恐る恐る聞いてみた。

 

 

「えへへ!家庭教師の日でもないのに、上杉さんと一緒に勉強できるのが嬉しくって!」

「…っ!」

「嬉しいかどうから置いといて、上杉くんの教え方は分かりやすいですしね」

「……残りの三人もお前らくらい物分りがいいと助かるんだが」

「声はかけたんですけどね〜」

「三人?何言っているんですか?上杉くんは。残り…二人でしょう?」

「え?」

「あー!!三玖!」

 

 

四葉が指さした方向には三玖が立っていた。来てくれたのか!

 

 

「三玖。来てくれたのか」

 

 

こっちに近付いてきた、と思ったら俺の横を通り過ぎて、歴史の本があるコーナーへと向かっていってしまった。まさか…本、借りに来ただけ…?

 

 

「三玖ー?何で本の貸し出しカードなんか見てニヤニヤしてるんですかー?ってうわーっ!全部に上杉さんの名前書いてある!!って前そう言えばとんでもない量読んでましたね…」

「あ、あぁ。事情があってな」

 

 

三玖が立ち上がった。

 

 

「フータローのせいで考えちゃった。ほんのちょっとだけ…ね。私にもできるんじゃないかって…。だから…」

 

 

 

 

「責任、取ってよね」

 

 

 

「任せろ」

「えっえっ?上杉くんと三玖ってもうそういう関係なんですか…?」

 

 

五月が何か狼狽えてブツブツ言っていたが放っておこう。

 

 

「み、三玖…もしかして…この前隠してた好きな人って上杉さんじゃ…?」

「…!どーだろうね」

 

 

 

こいつらは何の話をしているんだ?




三玖いいよですよねぇ。ま、私は二乃を愛した四葉推しです。なんちゃって


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第5話 問題は山積み

原作を文字に起こしただけ、と言われてしまった。原作バリバリ見てやってますからね!仕方ないね!(言い訳)
本当は文才が欲しいです。それなりにオリジナルで書いてみたい。誰か文才くれ。


ドンッ!とあいつらのマンションの自動ドアを叩く。しまった…オートロックか!あいつらの部屋の番号覚えてねぇ!くそぉぉ…。

 

 

「あれ?フータロー。何やってるの?」

「あ、三玖か!いや、お前らの部屋番忘れてしまってな…。入れないところだったんだ」

「そうなの?じゃあこれから覚えてね。家庭教師、するんでしょ?」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「おはようございまーす!私は準備万端です!」

「私もまぁ見てよっかな」

「一花も参加するんですか?珍しいですね」

「フータロー。約束通り日本史教えてね」

 

 

何だ今日は従順じゃないか。こいつらも人の子。優しく接すれば理解し合えるんだ!

 

 

「よーしやるかー!!」

「あ。なーに?また懲りずに来たの?」

「二乃…どうだ?二乃も一緒に…」

「無理。死んでもお断り」

 

 

ぐっ…腹が立つがいけない。優しく優しくだ。それに今は四人でも大丈夫。

 

 

「今日は俺らだけでやるかー」

「はーい!」

「…そうだ四葉。バスケ部の知り合いが臨時メンバー探してるんだけど…今から行ってあげたら?」

「いっ!」

「今から!?えっとでも…」

「なんでも5人しかいない部員の1人が骨折しちゃって…このままだと大会に出られないらしいのよ。頑張って練習してきただろうにあーかわいそー」

 

 

なんて棒読みなんだ…呆れるレベルだぞ。

 

 

「そんなのやるわけないだろ…なぁ四葉」

「上杉さんすみません!困ってる人をほっといてはおけません!!」

 

 

えー?嘘だろー?

 

 

「あの子…断れない性格だから…」

「マジか」

 

 

二乃の方をチラリと見るとすげぇニコニコしてる。性格悪い奴め…そんなに俺が嫌いか。

 

 

「一花も二時からバイトでしょ?」

「あー忘れてた。ありがとうね」

「五月、こんなうるさいところより…」

「私は上杉くんに教わりますので大丈夫です」

「そっ…そう。あれー?三玖まだいたの?あんたが間違えて飲んだアタシのジュース買ってきなさいよ」

 

 

五月は断ってくれたが三玖はどうだ?くっ…毎度邪魔してきやがって、一体何が目的だ?

 

 

「それならもう買ってきた」

「えっ?」

「ナイスだ!三玖!」

「って何これ!?」

 

 

三玖が買ってきたジュースはまさかの抹茶ソーダだった。良かったら後で1本貰おうかな。

 

 

「そんなことより授業始めよう?フータロー」

「仕方ない。やるか」

 

 

五月が黙々とやっているのに…申し訳ないな。

 

 

「は?あんたらいつからそんなに仲良くなったわけ?え?え?こういう冴えない顔の男が好みだったの?」

「こいつ今酷いこと言った」

 

 

まぁ自覚はあるんだが。実際言われるとキツい。

 

 

「二乃はメンクイだから」

「お前も地味に酷いな」

 

 

顔が良ければ二乃も協力的だったのか…?チッ、別に自分の顔が良かろうと悪かろうと興味はなかったが、今回ばかりは初めてイケメンが良かったと思った。

 

 

「はぁ?メンクイが悪いんですか?イケメンに越したことはないでしょ?」

「メンクイが悪いなんて一言も言ってない」

「なーるほど。外見を気にしてないからそんなダサい服で出かけられるんだ」

「その尖った爪がオシャレなの?」

「あんたにはわかんないかなー」

「わかりたくもない」

 

 

何でこいつら姉妹喧嘩始めるんだよ…。勘弁してくれ。

 

 

「お前ら姉妹なんだから仲良くしろよ。外見とか中身とかそんなの今はいいだろ。それにお前ら可愛いし美人さんだから、あまりにも酷くなければ大抵オシャレになるだろ?」

「っ…。フータロー…」

「な!何言ってるのよ!!まぁいいわ。キミ、お昼は食べてきた?」

「んんん?」

 

 

何だこいつ。鳥人間コンテスト優勝できるレベルで話飛び変わったな。

 

 

「いや、食べてないけど…」

 

 

そしてぐぅうぅぅうぅぅ、と俺の腹の虫がなる。恥ずかしい。

 

 

「そうね…じゃあ三玖の言う通り中身で勝負しようじゃない!どちらがより家庭的か…アタシが勝ったら今日は勉強なし!!」

 

 

話変わってなかったな。ってえぇそれは困る。ま、まぁ三玖はそんなのやるわけないよな…?

 

 

「フータロー。すぐ終わらせるから座って待ってて」

「お前が座ってろ!!」

「五月蝿いですよ…上杉くん」

「あ、す、すまん五月。お前からも何か言ってやってくれ」

「そうですね…」

 

 

そうだ。こいつなら厳しいことを言ってくれるはず。

 

 

「今日のお昼まだだったので私の分もお願いします」

「分かってるわよ」

「わかった。五月の分もつくる」

 

 

ああああ!?そうだった!五月は大食いだったんだ…。盲点だった…。ことごとくうまくいかないな…。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

「じゃーん!旬の野菜と生ハムのダッチベイビー!」

「お…おむらいす…」

 

 

二人の料理バトルが終わるまで俺は五月の勉強を見て待っていた。そしてどうやら出来たようだ。五月はもう食べ始めていた。

まず見た目。二乃は凄い。見た目がもう美味しそう。こいつ料理得意だろうな。対して三玖。オムライス、と言っていたが、形が崩れに崩れていた。見た目なら…三玖には悪いが二乃の圧倒的勝利である。

 

 

「やっぱいい。自分で食べる」

「せっかく作ったんだから食べてもらいなよー」

 

 

二乃の顔は言うまでもなくニヤニヤしてた。なるほど。こいつが料理得意なのは確定だな。そして三玖が苦手なのを分かってこの勝負を仕掛けたのか。つくづくこいつは性格悪いな、と思う。

 

 

「いただきます」

「あっ」

 

 

まず二乃のダッチ何とかを1口食べ、次に三玖のオムライスを食べる。ふむ。

 

 

「うん。どっちも普通に美味いな」

「はぁ!?そんなわけ……っ!何それ!つまんない!」

 

 

 

まったくあいつは…。三玖は何か嬉しそうだが…そんなに料理が上手くできたのが嬉しいのか?ってあ!

 

 

「もうこんな時間かよ…。今回は出直すわ。まんまと二乃の策にはまっちまったな」

「ごめん…」

「別に気にするな。オムライス美味かったぞ。ごちそうさま。二乃にも伝えておいてくれ」

「うん」

「あ、皿洗い、手伝うぞ」

「ありがとう」

 

やはり二乃は俺に特別な悪意を持っている。どうすればいいんだ。

 

 

「あいつと分かり合える気がしない」

「ちゃんと誠実に向き合えば分かってくれるよ」

「誠実にって…どうすれば」

「私に言われてもわかんない。でもそれを考えるのがフータローの仕事でしょ?」

「……誠実に向き合う、か」

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

さてもう夕方だ。らいはも待っているだろうし急いで帰ろう。あ!財布忘れた………。おいおいオートロックかかっちまった。めんどくせー。ややこしくなるのは面倒だから…二乃は出てくるなよ?

 

 

 

「忘れ物?シャワー浴びてるから勝手に取ってっていいよ」

「おい三玖。それでいいのか?」

 

 

そう言えばあいつに羞恥心はなかったな。俺の目の前で黒タイツを平然と脱ぎ始めるしな。

財布を忘れた、と言っても中身は無いに等しい。それはそれで見られたくないんだが。

 

 

「お、お邪魔しまーす」

 

 

ここに来るのは3回目。が、今日はリビングにしか行ってないからリビングにあるだろう。どこら辺に置いたっけか。

ん?何か音がするな…この音は?

 

三玖がドライヤーで髪を乾かしていた。

 

 

「み、三玖!!もう風呂出たのかよ!!」

「……ん?」

 

 

いつもの眠たそうな目でこちらを見てくる。そう言えばこいつ、羞恥心ないんだからこういうのも気にしないのか。てか一花もそうだったな。ここの姉妹には羞恥心がないのか…?あ、財布あった。さっさと取って帰ろう。

 

「じゃあな三玖。扉開けてくれてサンキュ。俺は帰るわ」

 

 

待てよ…?1階からここまで何分かかった?いくらなんでも早すぎじゃないか?

 

 

「誰?三玖?お風呂入るんじゃないの?空いたけど」

 

 

二乃!!??

 

 

「いつもの棚にコンタクトあるから取ってくんない?」

 

 

眼が悪くて見えてないのか?あ、危ねー!!だがどうする?

こんな不誠実バレたらおしまいだ!

 

 

「お昼にいじわるしたこと、まだ怒ってるの?」

…っ!どの棚だ!?

 

 

「あれは勢いで…悪いとは思ってるわよ」

くそっ…!ここじゃない!

 

「何してんの?そこじゃないって?場所変えてないわよ」

 

 

んぎゃぁぁぉぁ!背中に胸を押し付けてくるんじゃあない!逃げよう。今は向き合える状況じゃねぇ!

 

 

「…やっぱ怒ってんじゃん。全部あいつのせいだ」

「…!!」

「パパに命令されたからって好き勝手にうちに入ってきて…私たち五人の家にあいつの入る余地なんてないんだから」

 

 

こいつ…もしかして…。

 

 

「決めた!フータローは今後出入り禁止!」

 

 

……?今こいつ風太郎って呼んだか?じゃなくて!すまん!出るのは許してくれ。二乃を尻目に帰ろうとした時、二乃が暴れて棚に手をぶつけていた。その時の衝動で二乃の真上の棚に入っている本が、今にも二乃目掛けて落ちてきそうだった。

 

 

「危ねぇぞ!」

「えっ?きゃっ!」

 

 

 

痛てぇ…背中に本が当たったが…角が当たったな。痛すぎる。二乃を押し倒すようにしてしまったが、背中を何とか支えているので、床に当たったりはしてないはず。無事そうだ。

 

 

「えっ」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

この時の俺はまだ理解してなかった。

 

 

「今日はありがとうございました」

「一花ちゃん。今日も最高だったよ。また次もよろしく」

「はい」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

この馬鹿五人組の一人一人と向き合うことの難しさを。

 

 

「ハァハァ…」

「中野さん上手で頼もしいよ〜」

「お役に立てて嬉しいです。次の試合も頑張りましょう」

「あのさ、お願いがあるんだけど。このまま正式にバスケ部に入らない?」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

そして俺も教わることになる。

 

 

『この前隠してた三玖の好きな人って上杉さんじゃ…』

『こういう冴えない顔の男が好みだったの?』

 

 

「変なこと言うから…好き、なのかな…」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

俺もまた馬鹿野郎だということを!

 

 

「不法侵入ー!」

「ち、違う!俺は忘れ物を取りにきただけだ!」

「え、そ、そうなの?」

「あ、あぁ」

「じゃあ何でアタシを押し倒したのよ!」

「違ぇよ!お前を上から落ちてくる本から守ったんじゃないか!それに手でお前を支えてゆっくりと床へと…!……いや、悪かった。そう思われても仕方がないな」

「えっ、ちょっと…」

「怪我はないか?床は冷たいし固くて辛いだろ?ほら掴んでろ」

「え…うん」

 

 

俺は二乃の手を引っ張り床から立たせ、ソファに座らせた。うん。特に怪我はなさそうだ。

 

 

「本当に悪かったな。俺は帰る。三玖に扉を開けてくれてありがとう、と伝えておいてくれ」

「ちょっと!待ちなさ……いよ」

 

 

はぁやらかしたな。このことが他の姉妹に悪いように言いふらされたら、俺は間違いなく終わる。

もう家帰ってふて寝しよ。




誰か文才くれぇぇぇぇぇ!


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第6話 今日はお休み①

俺も…俺も花火大会五つ子と行きたい。
上杉風太郎になりたい人生だった。


『9月30日 日曜日 いよいよ本日は東町で花火大会がありますね』

 

 

日曜日。今日は丸一日休み!五つ子のことは忘れて、思う存分勉強できるぞ!と思ったが花火大会…ね。らいはを連れてって見るか?いや、それともアイツらを誘ってみて、親交を深めるか?……連絡先知らねぇから無理だな。

 

お?この公式、教科書には載ってないがあいつらには教えておいた方がいいな。それにこの問題もよく出来てる。これなら四葉も理解できるかもな。ん?…くくくっ、この問題は三玖が喜びそうだ。

 

って何やってんだ俺ーっ!立派な家庭教師か!いやまぁ家庭教師なんだけどさ。

ピンポーンとインターホンが鳴る。借金取りか?金ならないぞ?

 

 

「はーい」

 

 

ドアを開けたら五月がいた。バタン、とドアを閉める。

 

 

「なんで閉めるんですか!?開けてください!」

「すまん。つい反射で。そういえばお前はうちを知ってるんだったな」

「えぇあなたにお渡しするものが…」

「ただいまーってあ!五月さん!いらっしゃーい!」

「お、らいはおかえり」

「らいはちゃん!」

「五月さん!中にどうぞー!」

「そうだな。外も暑いし女子を立たせてるのもなんだ。冷たい茶ぐらいしか出せねぇが中に入れよ」

「えっ…えぇ。お言葉に甘えさせてもらいますね」

 

 

◆◆◇◆◇◆

 

 

机には三人分のお茶が注がれたコップに給与、と書かれた封筒が1枚。俺の給料か?

 

 

「父から預かった上杉君のお給料です」

「すごーい!お兄ちゃん頑張ったね!」

「と言っても2回しか行ってないんだがな。期待しない方が…」

 

 

そうだ。いくら五人分とは言え、二回しか行ってないのだ。多くて8000円とかその辺りだろうか。と、封筒の中身を出してみると…パラッ…と福沢諭吉さんが5人こんにちは!してきました。えっ?多すぎない?どういう計算してんの?

 

 

 

「一日五千円を五人分。計二回で五万円だそうです」

 

 

は?え?俺はそれを聞いて冷や汗と体の震えが止まらなかった。夏風邪かな…?

 

 

「あわわわお兄ちゃんの汗で、諭吉さんがしわしわに!」

「す、すげぇ…これなら借金もあっという間に………いや受け取れねぇ」

「え?」

「確かに俺はお前たちの家に二回行った。だが俺は何もしてねぇ」

 

 

いやマジで俺何もしてない。テストやらせたのと二乃と三玖の昼飯バトルを尻目に五月に少し勉強を教えてただけだ。受け取るにしても一花、二乃、三玖、四葉の分を貰う訳にはいかない。

 

 

「そうでしょうか。セクハラしてたじゃないですか」

「お兄ちゃん?」

「は、はぁ!?何のことだ!?」

 

 

ま、まさか二乃があのことを言いふらしたのか…?

これは最初で最後の給料…?それなら貰います貰わせてください。

 

 

 

「ほら、これですよ」

 

 

五月は自分のポケットからスマホを取り出し、この前の俺が二乃を押し倒した、いや押し倒したのではなく助けたんだが、そのシーンの写真バッチリ撮られていた。

 

 

「い、いや待て。待ってくれ。それは誤解だ…」

「…冗談ですよ。一部始終見てましたから」

「そ、そうだったのか…良かった。二乃、怒ってた?」

「…それは分かりませんが……それと何もしてない、なんてことはないと思いますよ?」

「え?」

「あなたの存在は五人の何かを変え始めています」

「…そうなのか?」

「えぇまぁ。私も含めて…ね。とにかく返金は受け付けません。どう使おうとあなたの自由ですよ」

 

 

うぉぉ…五万円。ぐぅぅ何に使うか。……………!

 

 

「らいは。何か欲しい物はあるか?」

 

 

◆◇◇◆◇◆

 

 

「わー!こんなところがあるんだー!」

 

 

俺は今らいはとゲームセンターと言うところに来ている。俺自身も数回しか行ったことがないところだ。俺はらいはが楽しんでくれればいい。ただ、1つ不可解な点が。

 

 

「なんでお前も来てんだよ」

「仕方ないでしょう?」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

『私!ゲームセンターに行ってみたい!』

『五月さんももちろん行くよね?………ダメ?』

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「断れよ!」

「断れませんよ!可愛すぎます!」

「だよな!分かる!」

 

 

ふっ。らいはの可愛さが分かるとはな。五月のくせにやるじゃないか。

 

 

「お兄ちゃんこれやろー!」

「おーう。待て待て今行くから。おい五月、行くぞ」

 

 

俺は五月に向けて手を差し出す。

 

 

「…は?何ですかこの手」

「あ?お前歩くの遅いしはぐれそうだからな。手、繋ぐぞ 」

「……へ?」

 

 

何やってんだこいつ。俺は五月の手を無理矢理掴んでらいはのもとへと向かった。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

「あははは!楽しいねお兄ちゃん!」

「おう」

 

 

ゲームセンター。騒音と騒ぐしか脳の無い奴等しか来ないと、あまり好きな場所では無かったが、らいはがこんなに楽しんでるんだ。評価を再考しよう。

 

 

「これ…私も貰って良いんですか?」

「ん?あぁまだ気にしてんのか?いいから」

「…ありがとうございます」

 

 

五月の手には先程クレーンゲーム、またはUFOキャッチャーで取ったキーホルダーが握られている。ちなみに3つ取れたので、俺とらいは、そして五月に1つずつだ。ちなみにカラーは別だが同じデザインをしている。

 

 

「ま、入らなかったら捨ててくれて構わないからな」

「す、捨てません!らいはちゃんとお揃いですもの!……不本意ながら上杉君とも…」

 

 

最後の方小声で聞こえなかったが、良かったならいは。五月はお前のことを心底大好きみたいだぞ。

 

 

「あぁ。あとあれだ。なんか付き合わせちゃって悪いな」

「え?」

「らいはには家の事情でいつも不便かけてる。本当は年相応にやりたいことがもっとあるはずなんだ。あいつの望みは、全て叶えてやりたい」

 

 

そうだ。らいはには不自由にさせたくない。しっかり家庭教師して金を稼がないと。

 

 

「お兄ちゃん、五月さん。最後に三人であれ!やってみたいな!」

 

 

そう言われて俺と五月はらいはの指差す方向を見た。そこにあったのは

 

 

 

所謂ぷりくら?と言う奴だった。

 

 

確かプリクラだよな。こういう知識は曖昧だ。 だが俺は断固拒否だ!らいはの気を紛らわせなくては!

 

 

「そ、それよりあっちの方が楽しそうだぜ」

 

 

気を紛らわせようとした瞬間、俺の肩に五月の手が置かれた。

 

 

「全て叶える…でしょう?」

「……」

 

 

くそーっ!何でこいつの前であんなこと言っちゃたんだー!俺は数十秒前の自分を憎んだ。

 

 

◇◆◆◆◇

 

 

『モードを選択してね!』

『プリティーモード!』

『素敵な笑顔でキメちゃお!』

 

 

舐めとんのか。何だこの未知なる空間は…。とてもムズムズする。一刻も早くここから出たい…!

 

 

「二人とも?顔が硬いよー」

「こ、こういうものは苦手でして… 」

「そ、そうだぜ。やっぱりお前らだけでやってくれ」

「逃がさないよ」

 

 

可愛らしい笑顔でしっかりと手をホールドされてた。

えぇい上杉風太郎。覚悟を決めろ。

 

 

『カメラに向いてね!』

 

「ほら五月さんも!」

「あ、はい 」

 

『3.2.1.』

「なんかこれ家族写真みたいだね!」

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

俺たちはプリクラで写真を撮ったあとの落書きコーナーへ来ている。五月も俺も酷い顔してるな。だが元の顔が良いので五月は写真写りも良好だった。美人ってすげぇ。

 

 

「お前酷い顔してるな」

「あなたの顔も負けず劣らずの酷さですよ!」

 

 

何回も撮られてるのに、らいはは満面の笑みなのに、俺たちは顔が引き攣りまくってた。面目ないぜ。らいは。

 

 

「お?猫耳とかつけれるのか。五月に付けちゃお〜」

「なっ!何するんですか!」

「お、可愛いじゃねぇか。保存しちゃっていいか?」

「かっ、可愛いって……もういいです!」

 

 

何だよ何で怒るんだよ。くそ!女ってのは良く分からないな。そんなに猫耳付けられたのが嫌だったのか。それだったら悪いことした。

 

 

「はい!これ五月さんの分」

「一応貰っておきます」

「お兄ちゃんもありがとう!一生の宝物にするね!」

 

 

この満面の笑みを見れただけで、俺は満足だ。

 

 

 

「五月。今日は来てくれてありがとうな」

 

 

◆◆◇◆◇◆

 

 

はぁ。結局日曜日が潰れてしまった。いや、まだ夜があるか。少し遅くまで勉強しないとな。あ。

 

 

「お前らも勉強しろよ」

「え…あっ私はここで…」

「?何だよ怪しいな。宿題出しただろ?済ませたのか?」

「わーっ!付いてこないでください!」

 

 

絶対やってないだろこいつ。というか姉妹全員やってないんだろうなぁ。

 

 

「お兄ちゃん。五月さんが四人いるー」

「え」

 

 

言われて振り向くと…

 

見惚れるぐらい綺麗で、着物を着たあいつらがいた。

 

 

「集まったし早くお祭り行こうよ」

「デート中だった?ごめんね〜」

「五月!なんでそいつといるのよ!」

 

 

お祭り。そういえば忘れてた。こいつらお祭り行くのか。

なら好都合だ。今日は俺の勉強はやめだ。

 

 

「わー!上杉さんの妹ちゃんですか?これからお祭り一緒に行きましょうよ!」

 

 

ナイス四葉ぁ!これで俺も自然に祭りへ行ける。一花と二乃にあまり警戒されないようにしないとな。

 

 

「お兄ちゃん!お祭り行ってもいい?」

「もちろんだ」

 

 

 

日曜日は完全に潰れました。




どれだけ前世に徳を積めば上杉風太郎になれるのか


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第7話 今日はお休み②

二乃可愛いよね二乃。花嫁は二乃か四葉がいいな。二乃と四葉、どちらも共通する「メビウス説」っていう考察好き。


夜になっても夏は暑い。海沿いに住んでればもう少し涼しくなるのだろうか。いやもう手っ取り早い話、北海道に住めば涼しいのだろう。なんて考えるぐらいには現実逃避したいぐらい、こいつら五姉妹に勉強を教えるのは大変だった。

 

 

「もう花火大会始まっちゃうわよ…なんで私たち家で宿題してんのよ!」

「週末なのに宿題を終わらせてないからだ!一花!二乃!片付けるまで絶対に祭りに行かせねぇからな!」

 

 

三玖、四葉、五月は終わらせてた。偉い。

 

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

花火大会、と言えば夏の風物詩だろうか。例年7〜8月辺りにやるものだろうか。ただ俺の住んでるところでは9月の月末にやる。これは他の地方と比べると珍しいのだろうか、と疑問に思わなくもない。

花火なんて家からも見えなくはないのだが、らいはが来たいと言った手前、断る訳にもいかない。それにこいつらとは少しでも仲良く……まぁ関係は良いに越したことはないからな。そのために来た。

 

 

「一花たちお疲れー!やっと終わったね!」

「花火って何時から?」

「19時から20時まで」

「じゃあまだ1時間あるし…屋台行こー!」

「上杉さーん!早く早くー!」

「はぁ…」

 

 

ため息するぐらいにはこの人混みの混雑ように疲れていた。それにあいつら、今日はいつにも増して騒がしい。あいつらにしては宿題もすんなり終わらせていたし。そこまで花火が見たいのか…?てかそんぐらいなら終わらせとけよな。

 

 

「なんですか?その祭りにふさわしくない顔は」

「!俺はなんて回り道をしてるんだと思って……」

 

 

綺麗。頭の中にその言葉が浮かんだ。ただ左手にアメリカンドッグを持って咀嚼さえしてなければ、だが。

それにしてもこいつらは本当に顔は良いなと思う。中身の方はまだ付き合いも短いし分からん。知ろうともあまり思わないが…。

 

 

「あ…あんまりジロジロ見ないでください…」

「………あぁ、五月か」

「分かってなかったんですか!?」

「ただでさえ同じ顔なんだ。髪型を変えるな。ややこしくなる」

「わ、私がどんな髪型しようと勝手でしょう!」

 

 

敬語なのとそのセンスの悪いやつヘアピンがなければ全然分からなかった。本当に顔同じだよな。見分けつかねぇよ。中身を知れれば見分けがつくようになるのだろうか…そんなわけないか。

 

 

「女の子が髪型変えたらとりあえず褒めなきゃ!もっと女子に興味持ちなよ〜」

「そうなのか…?髪形変えたら褒める…ね」

「そうだよー?」

「なら…五月。その髪型。いつもとは違って動きやすそうでいいな」

「えっ」

「そのヘアピンはセンス悪すぎだが」

「なっ…!もうっ!上杉くんのバカ!」

「褒めたのに怒られたぞ…」

「ヘアピンについては余計だったよ…」

 

 

そうなのか…?なんて面倒くさいんだこいつら。

 

 

「あ、ほら女子に興味ってことでさ。浴衣は本当に下着を着ないか興味無い?」

「ない。それにそれは昔の話な?知ってる」

「本当にそうかな〜?なんてね!冗談でーす!どう?少しはドキドキした?」

 

 

下着着ないで浴衣着るとかありえないだろう。いや、寝る時…その…裸の一花ならありえるのか?ってなんてこと考えてるんだ。これじゃあ一花の思うツボだな。

てかこいつらテンション妙に高いな。うざ…。

 

 

「一花いつまでそこにいんの?はぐれちゃうわよ」

「ごめーんちょっと電話ー」

「なんだ?どこかに向かうのか?」

「別にいいでしょ?ったく今日は五人で花火見に来たのに……なんであんたもいるのよ」

 

 

やはり二乃は俺がいることを良く思ってないようだ。

まぁそれもそうだろうな。こいつは家族を大切に思ってるし姉妹のこともよく見ている、ように思える。こういうイベントには拘るのだろう。多分。

 

 

「俺は妹と見に来てるんだ…。あとはお前らと…その…仲良くなりたいな…と」

「え?は?なんて?」

「な、なんでもねーよ。お、らいは。あんまり離れるな。迷子になるぞ?ここ掴んでろ」

 

 

と俺は左手を差し出す。らいはが迷子になったら大変だ。お兄ちゃんとしてしっかり面倒を見ないといけないな。

 

 

「はーい!あのねお兄ちゃん見て見て!四葉さんが取ってくれたの!」

 

 

そう言って見させられたのは袋が3つ。その中には金魚が大量に詰められていた。いやいやいや取る量ヤバすぎだろ。

 

 

「四葉…もう少し加減は出来なかったのか?」

「あはは…らいはちゃん見てると不思議とプレゼントしたくなっちゃうんです!」

「これも買ってもらったんだ!」

 

 

それは超花火セット、とかいうやつだった。

 

 

「それ今日一番いらないやつ!!」

「だって待ち切れなかったんだもーん!」

 

 

いや、いつやるんだよ…。

 

 

「四葉お姉さんにちゃんとお礼言ったか?」

「四葉さん!ありがと!大好きっ!」

「〜〜〜〜っ!あーんらいはちゃん可愛すぎます!」

「だろ?」

「私の妹にしたいです!…待ってください。私が、そっ…その…上杉さんとけっ…結婚すれば合法的に義妹にできるのでは…?」

 

 

何を言ってるんだこいつは。だがらいはをお前なんかにはやらんぞ。仕返しに少しからかってやろう。

 

 

「じゃあ結婚するか」

「「「「えっ」」」」

「何何?なんの話してるのー?」

 

 

一花が戻ってきた。電話とやらが終わったんだろうな。

 

 

「あんた…何言ってるのかわかってんの…?」

「分かってる。冗談だ冗談。四葉だって冗談だろう?」

「……上杉さんと……結婚……」

「四葉?」

「ひゃいっ!?じょ、じょじょ冗談ですよ!えぇ、はい!」

「お、おう」

 

 

なんでそこまで慌ててるんだ…。

 

 

「四葉に変な気を起こさないでよ!?」

「分かってるわ!って押し詰めてくるな!危ねぇ」

 

 

ドンッ、と二乃に押しつめられたせいで体勢を崩し、誰かの肩に寄りかかってしまった。何だこの固いのは。ヘッドホンか。

 

 

「三玖か…すまん」

「い…いいっ」

「しかしこの人混み…身動きもままならなくなってきたな。これじゃあ落ち着いて花火見られなくないか?」

「二乃がお店の屋上を借り切ってるから付いて行けば大丈夫」

「ぶ…ぶるじょわ…」

 

 

金持ちですね。流石というか…花火を見るのにそこまでするか。

 

 

「てか、それならその店の屋上とやらに向かおうぜ」

「待ちなさい。せっかく屋台があるのにアレも買わずに行くわけ?」

「…アレ?」

「そういえばアレ買ってない…」

「あ、もしかしてアレの話してる?」

「アレやってる屋台ありましたっけ?」

「早くアレ食べたいなー」

 

 

アレアレアレアレアレって…アレとは何だ。まぁこいつらは五姉妹。共通の食べ物か何かだろう。

 

 

「せーの」

「かき氷!」

「焼きそば!」

「りんご飴!」

「人形焼き!」

「チョコバナナ!」

「…………」

「全部買いに行こーっ!」

 

 

こいつら本当に五つ子か疑わしくなってきたぞ。

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

ぷんすか、と擬音がなりそうな感じに五月が不機嫌になっていた。一体何があったんだ。

 

 

「機嫌治しなよー」

「思い出しても納得いきません!あの店主、一花には可愛いからオマケと言って…私には何もなしだなんて!同じ顔なのに!」

 

 

くそどうでもいい事だった。何だそれ。聞いて呆れるぜ。

 

「複雑な五つ子心…」

「ほらこれ食べて元気だして!」

「らいはちゃん!次は輪投げしよっか!」

「わー!DS欲しい!」

「あんたたち遅い!!!」

 

 

ついに二乃がキレた。あいつの声は響くな。周りの人達が注目してるぞ。

 

 

「二乃の奴、気合い入ってんな。お前らもテンションずっと高いし。花火なんて毎年やってるだろ」

「花火はお母さんとの思い出なんだ。お母さんが花火好きだったから毎年揃って見に行ってた。お母さんが亡くなってからも毎年揃って」

「ほぉ…?」

「私たちにとって花火って…そういうもの」

 

 

そういうことか。あいつは家族想いっぽいところがあるように感じたが間違いではなかったようだ。どうりであいつが張り切るわけだ。ってそんなこと考えていたら二乃が他の人達にもみくちゃにされて押し離されてっていた。何やってんだあいつ!

 

 

「ったく鬱陶しいわね…あんたたち…あれっ?」

『大変長らくお待たせいたしました。まもなく花火の打ち上げを開始いたします』

「キャッ!」

 

 

花火の開始の放送で一気に人の流れが強く早くなる。二乃との距離がどんどん離されていく。くそっ!「どっちだっけ?」「もう上がってる?」なんてどうでもいい奴らの会話だけが耳に入る。

 

 

「痛っ!足踏んだの誰よ!ちょっとみんなどこ!?四葉!一花!五月!三玖!………フ…!」

「掴んでろ」

 

やっと二乃に追い付いた。俺は二乃の左手首を自身の右手で掴み、俺の左手に繋いだ。嫌がりそうだが我慢してくれ。お前が迷子になってどうする。

 

 

「何よ…」

「こんなところじゃ埒があかない。ひとまず予約した店まで案内してくれ」

「あんたなんかお呼びじゃないわよ」

「はいはい行くぞ。…五人で花火、見るんだろ」

 

 

◇◆◇◆◇

 

 

二乃に案内され、どうにかこうにか人混みを抜けた。少し時間が掛かったが。

 

 

「やっと抜けたわ!あんだが道を間違えるから遅くなったじゃない!」

「お前が歩くの遅かったせいだ」

「っと。ここの屋上よ!きっともうみんな集まってるわ!」

「おいバカ!危ねぇぞ」

 

二乃は急に階段を駆け上がった。草履だし着物で走ったら危ねぇだろ。

 

 

「キャッ!」

「…ちょ!おいっ!危ねぇ!」

 

 

二乃はあまり履きなれてないだろう草履に加え着物だ。おかげで階段を踏み外し後ろへ、俺の方へと転倒してきた。勿論しっかり受け止める。

 

 

「ギリギリセーフだな。そんな格好で急に走るな。平行な地面ならまだしも階段だぞ?危ねぇだろ。ほら掴んでろ」

「ひゃっ」

 

 

俺はそのまま受け止めた二乃をお姫様抱っこで持ちあげ屋上まで運ぶ。これ、二回目だな。

屋上まで上がってきたが…二乃以外の姉妹は誰もいなかった。それにどうやら少し焦らないといけなさそうだ。

ヒュゥゥゥゥ…とそれは空高く打ち上げられ。

 

 

「あっ」

 

 

ドォン!と爆音を上げ、それは美しく空に散った。

 

 

「どうしよう…よく考えたら今年のお店の場所、私しか知らない…!」

 

 

は?何言ってんだこいつ。




みんな花嫁は誰が良いんでしょう。推しは誰?私は二乃を愛した四葉推しでござる。周りの友達に聞くと十中八九、三玖と答えます。Twitterには四葉推しが多く感じるぜ!


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第8話 今日はお休み③

四葉可愛い!三玖可愛い!二乃可愛い!一花可愛い!五月可愛い!
みんな可愛いよね。


ドォンドォン、と花火が打ち上げられは綺麗に散っていく。

こんな見晴らしのいいところで花火を見れるなんてそうそうないだろう。だからだろうか。なんの考えもなしに俺は二乃に花火についての雑学を披露してしまったのは。

 

 

「日本で最初に花火を見たのは徳川家康という説があるんだ。機嫌は中国だがヨーロッパを経て、種子島に鉄砲と共に伝わり… 」

「全然つまんない!何が悲しくてあんたと二人で花火見ないといけないのよ!!」

「お前が悪いんだろ!」

 

 

これに関してはマジで俺は悪くない。店の場所も伝えずに一人はぐれてしまったお前が悪いんだ。と、二乃は誰かから電話が来たのか電話に出ていた。

 

 

「四葉!?妹ちゃんも一緒?もう花火を始まってるけどどこにいるの?え?時計台?迎えに行くからそこにいなさい!」

 

 

どうやら四葉のようだ。らいはは四葉と一緒にいたか。良かった。そういえばいつ手を離したんだっけか…。

 

 

「何ぼさっとしてんのよ!あんたも電話しなさいよ」

「……」

「ちょっと!」

「俺、お前らの連絡先知らねぇ」

「使えないわねあんた!」

 

 

これは申し訳ない。

 

 

「頑張って宿題も終わらせたのに…なんでこうなるの…」

「あれ?あそこにいるの一花じゃないか?」

 

 

俺は人混みの中に一花らしき人物に二乃が分かるように指差す。

 

 

「え!?あ、ほんとだ!んん〜どうして電話に出ないのよ…」

「気づいてないのか?」

 

 

二乃の方を見ると…その横顔は今にも消えそうなぐらい…二乃には似合わない悲しそうな表情をしていた。ふと、三玖の言葉を思い出す。

 

『花火はお母さんとの思い出なんだ』

 

 

「俺が連れてくる。一花も三玖も四葉も五月も」

「…」

「五人で花火…見るんだろ?」

「…えぇ。不本意だけど…あなたにお願いするわ」

「任せろ。あ…その、なんだ。五人じゃなくて七人でもいいか?」

 

 

俺とらいはのことだ。ダメもとで聞いてみたが…多分断られるだろうな。

 

 

「…ふんっ!全員連れてきたら考えてあげなくもないわ」

「…!サンキュ」

 

 

俺は残り5人を探しに出た。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

再び人混みの中に自ら突っ込んでいくのは気が滅入るな。確か一花はここら辺にいたはず…。

いた。また誰かと電話してるみたいだ。

 

 

「一花」

「後でかけ直します」

 

 

後で?また電話するのか…?誰だ?分からない。分からないけど二乃の元へと連れていかないといけない。

 

 

「おい一花。ついてこい…!?」

 

 

誰かに手首を掴まれた。

 

 

「君、誰?」

 

 

…………あんたこそ誰だ!?俺の手を掴んだのは髭は生えてるが不潔感を感じさせないおじさんだった。え、誰?

 

 

「君、一花ちゃんとはどういう関係?」

「え?」

 

 

…関係?考えたこと無かった。一花に限らずこいつら五姉妹と俺はどういう関係なんだ…?友…教師…関係者…と思考が深く沈む前にある最適解に導かれた。

 

 

「知人だけど」

 

 

しかし時すでに遅し。既に一花とおじさんはいなくなっていた…。

 

 

「あれ?知人ですけどー!?」

 

 

 

一体何のつもりなんだ一花…。まさかあのおじさんと危ないことしてねぇだろうな。それとも何か脅されているとか…。

また、思考が深く沈む。

 

 

「フータロー?」

「…!一…三玖!よかった。よく俺を見つけられたな」

「うん…目立ってたから」

「そうだ!一花を追いかける!付いてきてくれ!」

「あ、待って…!痛っ!」

 

 

三玖が小さい悲鳴をあげる。怪我してるのか?

 

 

「足、踏まれちゃって…フータローは先行ってて」

「…馬鹿野郎。お前を置いて行けるかよ。三玖。背中に乗ってくれ」

「え?」

 

 

三玖からの了承を得ずに俺は三玖をおぶる。ふむ。軽いな。少し嫌かもしれんがやむを得ない。我慢してくれ三玖。

 

 

「えっ…」

「三玖、そこから一花は見えるか?」

「一花…?見えないけど…まさかこのまま追いかけるつもり?」

「そうか…よし」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

俺と三玖は脇道に逸れ、人気の少ない階段に三玖を下ろした。三玖の足の応急手当をするためだ。

 

 

「…よし。これで少しはマシになっただろ」

「ありがとうフータロー。それで…一花を見かけたのは本当?」

「あぁ…俺に気付いたはずなんだがな。髭のおっさんとどこかに行きやがった。心当たりはあるか?」

「ううん」

 

 

三玖も分からないか。髭のおっさんは何者なんだ?

 

 

「あ、前に一花が髭の人の車から出てきたの見たかも」

「マジか」

 

 

何だそれ…本当に怪しい関係だったりしないだろうな…。

いや、どうでもいいがあと40分。何やってんだよあいつ。

 

 

「このままじゃ五人集まる前に花火が終わっちまうぞ」

「…!勉強関係ないのに協力的。フータローのくせに」

「…まあ俺にも思うところがあんだよ。このために必死に宿題をやってるのも見たしな」

 

 

らいはにもあの屋上で花火を見させてやりたいしな。決して俺が見たい訳では無い。

 

 

「ふぅ…とりあえず二乃の所へ向かうか。歩けるか?」

「…うん」

 

 

三玖の手を取り一緒に歩きだそうとした時、向かいから女性二人がこちらへ来るのが見えた。

 

 

「すみません、花火大会に来られた方にアンケートをしてるのですが…」

「!いや、急いでるので」

「答えていただいた方には100円分の引換券を差し上げてます」

「…い、急いでいるので…!」

 

 

100円分の引換券で少し心が揺れてしまい、断る言葉も震えてしまった。仕方ない。これも貧乏性のせいだ。

 

 

「一つだけでも!お2人はどのようなご関係でしょう?」

「えっ…」

 

 

この言葉を聞いて、先程の髭のオッサンの言葉が浮かぶ。

 

『一花ちゃんとはどういう関係?』

 

 

「そこはいいでしょ?この二人はカップルに決まってんじゃん!」

「そっか」

「「!!」」

「わ、私達は恋人じゃなくて…」

「え?どう見てもそう思いますが」

 

 

どう見ても、とはなんだ?と今の状況を冷静に見てみると、俺は三玖と手を繋いでいた。

 

 

「「!!」」

「こ、これはっそんなんじゃなくって…わ、私達は」

「恋人です」

「えっ!?」

 

 

咄嗟に俺は嘘を吐いた。三玖には申し訳ないが、今は時間が惜しい。こんな質問に時間を浪費する訳にはいかない。

 

 

「やはりそうでしたか!ではこれ!引換券です!ありがとうございましたー!」

「……フータローが………彼氏……」

「…ふぅ。行ったな。よし行くぞ」

「えっ…あ、うん。…あ、フータロー」

 

 

三玖が俺の名を呼び、前方を指差す。そこには悪目立ちするアホ毛がピン!と立っていた。五月か。

 

 

「三玖。少しここで待っててくれ」

「分かった」

 

 

俺は三玖を再び階段に座らせ、五月の方へと向かう。

 

 

「五月」

「…上杉くん!」

「よう。これで行方不明は一花だけか。脇道に三玖を休ませている。とりあえず合流するぞ」

「分かりました」

「…1つ聞いていいか?俺たちってどういう関係?」

「えぇ?そうですね…百歩譲って知人、でしょうか」

「やっぱり?」

 

 

やっぱり知人だよなぁ。別に友人、と言うほど親密な訳でもないし。てか友達ってどこからどこまでが?

 

 

「と言うか上杉くんは私に聞かずとも、その答えを既に持ってるじゃないですか」

「…え?なんだそれ。まぁいい。三玖の所へ急ぐぞ」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「遅い…」

 

 

言葉に出してしまうほど、フータローが来るのが遅かった。五月を追いかけて行ったっきり。フータローどこまで行っちゃたんだろう。

 

 

『恋人です』

 

 

咄嗟の嘘でも、欺瞞でもなんでも、少し嬉しかったな。

フータロー…。

 

 

『女の子が髪型変えたらとりあえず褒めなきゃ』

 

 

ふと一花の言葉が蘇る。フータロー、私が今髪型変えたら褒めてくれるのかな?それとも気付きもしないのかな?

確証はないけれど、何となく後者な気がする。でも変えてみても…いいよね。

私はヘッドホンと頭に付けてたひょっとこのお面を外していつもはしないような髪型にしてみた。後頭部の下の方にお団子をつくってみた。気付いてくれるといいな。

 

 

「おー?姉ちゃん一人〜?」

「…私?」

「そうだよ〜!姉ちゃん可愛いしちょっと俺らと遊ばない?」

「つ、連れがいるので…!」

「そんなこと言わずにさ〜!」

 

 

こ、怖い!足が痛くてあまり動けないし…痛くなくてもそもそも体力がないから逃げれるかも分からない。ど、どうしよう…!フータロー…助けて!

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

五月を連れて三玖を休ませている場所へ向かうと、三玖がいかにもな男に絡まれていた。三玖の友達か?なんて馬鹿みたいなことを思ったが、万が一もそんなはずはなく、所謂ナンパ、というものをされていた。まぁこいつら美人だしな。仕方ない。だが…。

 

 

「すみません。そいつ俺の彼女なんですよ」

「あ〜?彼氏いんのかよー…チッ」

「ふ、フゥタロォ〜」

 

 

三玖が涙目で俺に抱きついてきた。怖かったんだよな。こいつも連れていけば良かったか。

 

 

「すまん三玖。怖い思いをさせて悪かったな」

「グスッ…フータローが助けてくれたから…ズビッ…大丈夫…ありがとう…グスッ」

 

 

小さく嗚咽を漏らしながらも三玖はお礼を言ってくれた。

いや、本当に悪かったな三玖。俺は三玖をそのまま先程のように背負った。このまま二乃のところへ連れていこう。

 

 

「あ、あの…上杉君。い、いつの間に三玖とそんな関係に…?」

「あ…?あぁ、冗談に決まってんだろ。ああ言うのはキッパリと言ってやらないとしつこかったりするからな」

「そ、そうなんですね…」

 

 

いまいち釈然としません!と文句を言いつつもしっかりと五月は付いてきている。こいつも危なっかしいな…。またはぐられても困るし…。まぁすぐそこだし大丈夫か。

 

 

「そう言えば三玖、髪型変えたか?似合ってるぞ」

「えっ」

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

三玖を背負い、五月を連れ、俺は二乃が待っている店の屋上までへと来た。まだ花火は終わっていない。あとは四葉、らいはと一花だ。四葉は時計台にいるとのことだが…一花がどこにいるのかがてんで見当がつかない。

 

「三玖!五月!良かったわ!」

「二乃〜!」

「フータローがちゃんと案内してくれた」

「まだだ。あと四葉と一花だ。また俺は探しにでる。当分は三人でゆっくり花火を見ててくれ」

「ふんっ…やるじゃない」

 

二乃が何か言っていた気がするが、特に気にも止めず俺はすぐに時計台へと向かうことにした。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

俺は三玖と五月を探した時よりも足を速め、四葉たちのいる時計台へと向かっている。理由は単純。時間がないからだ。

着いた。時計台は…ここだよな。えーと……はぁ。また、か。

 

 

「あ、あのーですから私にはお連れの人が〜…それに妹もいるので…」

「妹ちゃんも一緒でいいからさ!俺たちと遊びに行こうぜ!さっきから見てたけどずっとここで待ってるじゃん!」

「で、ですけれども…」

 

 

まーたナンパされてる。嫌でもこいつらの顔が、見た目が良いということを認識させられる。はぁ助けに行くか。

 

 

「すみません。こいつ俺の彼女と彼女の妹なんですよ」

「…チッお前ら行くぞ」

「ふぅ…行ったか。大丈夫…か四葉…?」

 

 

四葉の方を見やると顔を真っ赤にしていて、目も少し潤んでいた。そんな真っ赤になるぐらい俺の彼女発言が嫌だったか。しかも泣きそうだし……え、何か凄い悪いこときた気分だ。

 

 

「えっ…と四葉さん?いや、その…何と言いますか…えーと…」

 

 

俺がとりあえず何か謝らないと、とあれこれ思考模索していると四葉にタックルされた。そのままの勢いで俺は地面に倒れる。痛てぇ…そんなに怒っているのか…!ちょっと助けてらいは!何でニヤニヤしてるんだよ!

 

 

「うぅぅぅ〜…ありがとうございます上杉さぁ〜ん」

「うおっ…泣いてるのか。四葉」

「怖がっだんでずぅぅぅ〜」

「……遅れて悪かったな。怖い思いもさせて…すまん」

「ほんどでずよぉ!もぉぉ〜!」

 

 

この姉妹実は泣き虫なんじゃね?そんな疑問を抱いたが…知らない男に急に接近され、挙句の果て下心満載で強引に誘われたらそりゃ誰だって怖いよな。ごめんな四葉。

 

 

「もー!お兄ちゃんとのバカ!遅いよ!」

「悪かったって。ほら四葉。いい加減泣きやめ。二乃たちが待ってる。行くぞ」

「あはは…お見苦しいとこ見せちゃいました…」

「気にするな。ん、らいは」

「はーい!」

 

 

俺は先程のようにらいはに左手を差し出す。無論らいはは俺の手を掴んでくる。今度こそはぐれないようにしなければならない。さて行こう、とすると右から視線を感じる。

四葉だった。

 

 

「むぅ〜!羨ましいです!私も手を繋ぎたいです!」

「…だってさらいは」

「…お兄ちゃんの鈍感バカ!」

「えぇ…?」

 

 

何で今俺罵られたの?罵詈雑言とか酷すぎる。

 

 

「四葉さんはお兄ちゃんと手を繋ぎたいんだよね!」

「は?」

「えひゃっ!?」

 

 

驚きのあまり凄い声出してるぞ四葉。

 

 

「そんなわけないだろ?らいは。四葉も何か言って…」

「私も……たいです」

「なんて?」

「私も上杉さんと手を繋ぎたいです!」

 

 

顔真っ赤にしてこいつは何言ってるんだ。意味わかって言っているのか?だが別に断る理由も…ないよな。

 

 

「……お、おぉそうか。じゃあ、ほら」

 

 

俺は空いている右手を四葉へと差し出す。当然四葉はその右手に自分の左手を絡めてくるわけで…。三玖もそうだったがこいつらの手って小さいなぁ、と思う。

 

 

 

「わぁ〜…想像以上に恥ずかしいですねこれ…」

「嫌ならやめるか?」

「や、やめません!やめません!」

「そうか。なら早く行くぞ」

 

 

「ヒュー!流石お兄ちゃん!」とか「わーっ!引っ張らないでください!上杉さん!」なんて言葉を聞き流しつつ、俺は二乃たちが待っている店の屋上へと向かった。




五等分の花嫁展行くことになりましたー!(なってました)18日と30日に行く予定でござる。無論、二乃と四葉の色紙を貰うためー!


あ、どんな些細なことでもいいので良かったら感想ください!待ってますー!


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第9話 今日はお休み④

Twitterに花嫁二乃否定説みたいなの出回っていてキツい。
二乃を愛した四葉推しなので、二人の否定説見るのは厳しいです。てか五姉妹全員否定説見るの厳しい。全員平等に公平に行こうぜ?(震え声)


四葉とらいはを無事二乃たちの元へ送り届け、俺は再び人混みの中に混ざる。一花を探すためだ。しかし…こんな人混みの中で俺は一花を見つけられるのか…?そもそももうこのお祭りの会場にいないのでは?

ダメだ。そんなことを考えたって仕方ない。時間切れまでは探さなくては!

 

 

「よかった。みんなちゃんと合流出来たんだね」

 

 

………!この声は!

 

 

「一…!」

「こっち来て」

「!?」

 

 

一花、と名前を言おうとしたところを指で止められ、腕を引っ張られる。

 

 

「花火見た?すごいよね」

「おい!どこ行くんだ!?花火!五人で見るんだろ!」

「はは!いーからいーから!」

「……」

 

 

一花お前…。俺は一花に引っ張られるがまま、どこかの路地裏に連れ込まれる。こんな所に何の用が…。金ならないぞ。

 

 

「…それでね。さっきのことは秘密にしておいて」

 

 

さっきのことと言えば…髭親父のことか?なんて考えていたら一花が手を壁に力強く押し付け、俺も壁に押し付けられるような体制になる。

 

 

「私はみんなと一緒に花火を見られない」

「は?」

「急なお仕事頼まれちゃってさ。だから」

 

 

急なお仕事?こいつはバイトか何かしてるのか?だったら少しぐらい融通が効くだろう?と言葉には出さないが、その思惑が伝わるように一花の方を見ると笑っていた。さっきと同じ顔だ。

 

 

「ほら同じ顔だし、1人くらいいなくても気付かないよ」

「それは無理があるな」

 

 

確かにお前は他の姉妹と同じ顔だが、同じ顔ではない。決定的に違う。

 

 

「ごめんね。人、待たせてるから」

「おい!待てって!ちゃんと説明しろよ!」

「なんで?」

 

 

なんで?

 

 

「なんでお節介焼いてくれるの?」

 

 

それは…

 

 

「私たちの家庭教師だから? 」

 

 

確かに。

 

 

「確かに…っ!客観的に見て、なんで余計な面倒見てんだ?って感じだよな!」

「うん。じゃあそういうことだから…」

 

 

不味い。このままではあいつらが。でも俺は関係あるのか?一花に言われた言葉が脳内を駆け巡る。確かに俺には関係ないし、所詮お前らの家庭教師ってことで、こんなことまで首を突っ込む必要も無いが…。

 

 

「あ、やば」

 

 

何が?と一花と一緒に壁から顔だけを出して人混みの方へ視線を向けるとあの髭親父がいた。

 

 

「お前といたおっさんじゃねぇか」

「あの人仕事仲間なの」

「お前を探してるんじゃないか?」

「大変!こっち来た!どうしよう…仕事抜け出してきたから怒られちゃう!」

 

 

いやそれに関しては俺はマジで関係ないし、知らねぇよ。

 

 

「とりあえず奥から逃げるぞ!」

「だめ!間に合わないよ!」

 

 

髭親父が俺達のいる路地裏を覗いてきた。バレたか…?

 

 

「よっこいしょ」

 

 

そこに座るんかーい、なんて虚しいツッコミも届くわけがあるはずなく、状況は悪いままだ。ついでに言えば俺は今、一花と抱擁している。一花の顔を見せないようにだ。俺からはしてないから訴えられることとかないはず。多分。

 

 

 

「おい…」

「ん?」

「いつまでこうしてればいいんだ?」

「ごめん。もう少し」

 

 

女子はおろか友達さえいない俺には、一花と抱擁してる状況に緊張と焦りが出てきた。本当に何なんだこの状況。こいつは自分の顔が良いことを認識しているのか?

 

 

「私たち傍から見たら、恋人に見えるのかな?」

「んんっ?まぁ欧米じゃあるまいし、この状態は恋人に限られるだろうな」

「ふふっ。本当は友達なのに悪いことしてるみたい」

 

 

友達…?俺と一花が?いつ友達になったっけ?確かめるように俺は一花に問う。

 

 

「俺らって友達なのか…?」

「えっ!?えーとハグだけで友達を超えるのは流石に早いかなー」

「違ぇよ。そうじゃなくてだな…いやまぁ俺じゃなかったらそうやって早とちりする輩もいるだろうから気をつけろよな」

「え?なんで?」

「お前が可愛いからだろ?まぁお前に限らずお前ら姉妹共通のことだが」

「えっ」

「じゃなくて…えーと、俺はただの雇われ教師。それさえなければお前たちと接することなんてなかっただろう。そんな関係を友達と言うには違和感がだな…」

 

 

先程の一花のときも、三玖のときも、五月のときも言えなかった、モヤモヤとした塊のようなものをようやく吐き出せた気がする。そうだこの違和感があったから俺は…。

 

 

「なにそれめんどくさっ」

「えっ」

 

 

思考が深く暗く沈み込む前にバッサリと面倒臭いと言われた。えぇ?

 

 

「私は友達と思ってたのになぁ。やっぱりフータロー君は違ったんだ。傷付くなぁ〜」

「いや…俺は…」

 

 

友達を飛び越えて恋人、と断言してしまった三玖と四葉には申し訳ないことをしただろうか。素直に友達と言えばよかったのか?

 

 

「もしもし?」

 

 

!!髭親父が誰かと電話を始めたことにより、俺と一花の体は驚きで跳ね上がる。

 

 

「少しトラブルがあって…撮影の際は大丈夫ですので」

「…撮影?お前の仕事って…」

「実はあの人カメラマンなの。私はそこで働かせてもらってる」

 

 

なるほど。カメラアシスタント、とかいうやつだろうか。

 

 

「良い画が撮れるように試行錯誤する。今はそれが何より楽しいんだ」

 

 

カメラマンねぇ…うちの親父も…。

 

 

「学生の大切な時期にそんなことして大丈夫かよ。お前たちは勉強に集中しなきゃ進学すら怪しいんだぞ?」

「……フータロー君はなんのために勉強してるの?」

 

 

『君はなんのために勉強するの?』

昔だ。昔、俺が小学生の頃に、そんな質問をされた。あの子は今どこで…。

 

 

「それは…」

「一花ちゃん見つけた!」

「!しまっ…」

 

 

髭親父に見つかった!ヤバい一花が連れられていく……?

 

 

「こんなところで何やってんの!」

「えっ」

「言い訳は後で聞く。早く走って!」

「えっと…えっ?」

 

 

……………………………。

 

 

「三玖!?」

「もしかして私と間違えて…」

「とにかく追うぞ!」

 

 

急いで路地裏から出る。髭親父と三玖はそうそう離れていない。今なら追いつける!

 

 

「電話は!?」

「かけてる!」

「お前…なんで仕事抜け出してきたんだよ!」

「……言いたくない。どうやらフータロー君とは友達じゃないらしいし」

「うっ、そうは言ったが…」

 

 

なんでそんなこと聞いてんだ俺。こいつらが何をしてようが俺には関係ない。関係ないんだ!

 

 

『一花ちゃんとどういう関係?』

『私に聞かずとも』

『あなたはその答えを既に持ってるじゃないですか』

 

……!

 

 

「…っ!あの…私…一花じゃ…」

 

 

追いついた!俺は三玖の腕をとり体を俺の方へと抱き寄せる。足、大丈夫だろうか。

 

 

「…っ!」

「君は…なんだ君は!君はこの子の何なんだ!?」

「俺は…」

 

 

この関係を友達とは言えない。相手が友達と言ってきても俺はまだ、認めたくない。だからと言って先程のような嘘で言ってしまった恋人、という関係でもない。あの時、こいつらと出会った時、咄嗟に出た言葉が一番しっくりくる。

 

 

「俺はこいつの、こいつらのパートナーだ。返してもらいたい」

「「…!」」

「な、何をわけのわからないこと!」

「よく見てくれ!こいつは一花じゃない!」

「あ、あの…」

「その顔は見間違いようがない!さぁ早くうちの大切な若手女優を放しなさい!」

 

 

………??????????

若手女優…?わかてじょゆう…????

 

 

「え…カメラで撮る仕事って……そっち?」




一花可愛い


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第10話 今日はお休み⑤

俺も五姉妹と花火大会行きたい。


「一花が女優だって?」

 

 

何の冗談だ。他の姉妹にも隠していたのか…。一体何故?

 

 

「行こう一花ちゃん」

「待てって!」

「人違いをしてしまったのは本当にすまなかったね。でも一花ちゃんはこれから大事なオーディションがあるんだ」

「そんな急な話があるか。こっちの約束の方が先だ」

 

 

そうだ。こっちの約束の方が先のはずなんだ。お前は家族との約束を…。

 

 

「一花、花火いいのかよ」

「みんなによろしくね」

 

 

まただ。またその顔だ。お前のその顔を見るのは心底嫌になる。俺に限らずお前の妹たちも嫌がると思うが。

 

 

「一花ちゃん急ごう。会場は近い。車でなら間に合う」

「あいつ…」

「フータロー。足、これ以上無理っぽい。一花をお願い」

「だがここでお前を一人にするわけには…」

 

 

先程のように一人にしてまたナンパされてたら、俺は一花を追いかけてしまうから今度は助けることが出来ない。

 

 

「私はもう大丈夫だから」

 

 

三玖は笑顔でそう言ってくれた。やっぱり、やっぱり違う。同じ顔だが同じ顔ではない。花火が終わるまであと10分…どうすれば…。

 

 

「どうやらお困りのようですね…?」

「!お…お前は…!!」

 

バレバレェェェ!!と叫んでしまいたいくらいには一目で分かるやつが来た。頭に馬鹿そうな悪目立ちリボンをつけた四葉だった。

 

 

「三玖は私が連れて行きますのでご安心を!あと一花のことですが…」

「…!なるほど。サンキュ四葉!」

 

 

◇◆◆◇◆

 

 

「一花!」

 

 

一花は人気のないバス乗り場の近くにいた。大方あの髭のおっさんを待ってるのだろう。

 

 

「本当に戻るつもりはないんだな?」

「フータロー君。もう一度聞くね?なんでただの家庭教師の君がそこまでお節介焼いてくれるの?」

 

 

その質問に、俺はもう迷わない。

 

 

「俺とお前が協力関係にあるパートナーだからだ」

 

 

そう言うと一花は口角を上げ、スマホを俺に渡してきた。画面が開いており見ると…これは台本か?

 

 

「半年前に社長にスカウトされてこの仕事に就いたの。それからちょくちょく名前のない役をやらせてもらってたんだ。結構大きな映画の代役オーディションがある、って教えてもらったのがついさっき。いよいよ本格的にデビューかも」

「それがお前のやりたいことか」

 

 

やりたいこと。夢。一花は俺にはまだないものがある、のかもしれないな。

 

 

「そう!せっかくだから練習相手になってよ!相手役がフータロー君ね!」

「い、嫌だよ」

「協力関係でしょ?」

「………棒読みでしかできないからな」

「やったー」

「いくぞ?」

「うんお願い」

 

 

一花の雰囲気がガラッと変わった。これが女優、いや何でも誰でも演じる、という仕事に就く人にはできることなのだろう。俺をおちょくる為ではなく、本当にこの台本通りに一花はやるつもりなのだ。ならそれに応えるのも俺の役目だ。

 

 

「…卒業おめでとう」

 

 

俺は棒読みにならないよう、それでも気持ちを込めすぎないように抑揚を抑えつつ言う。

 

 

「…!先生。今までありがとう」

 

 

この台本。それはよくある学園モノの映画で、クライマックス感動の卒業シーンだった。

 

 

「先生。あなたが先生でよかった。あなたの先生でよかった」

 

 

…………!

 

 

「あれっ?もしかして私の演技力にジーンと来ちゃった?」

「あなたが先生でよかったなんて、お前の口から聞けるとは…」

 

 

このセリフにジーンと来たぜ。

 

 

「そっちか。あ、社長の車だ。じゃあね!」

「これだけでいいのか?」

「うんっ!とりあえず役勝ち取ってくるよ」

 

 

役、勝ち取ってくるだと?その顔で?冗談はよせ。俺は一花の顔を両手で挟む。パンっと音を立てる。少し強すぎたかな?そしてそのままほっぺを引っ張たり揉んだりする。

 

「!?」

「おい」

「ほえ?」

「その作り笑いをやめろ」

「ははは…え?」

 

 

「なんのこと?」と一花はとぼけて見せているが無駄だ。今日、あの時からずっと気になって仕方がなかった。

 

 

「お前はいつも大事なところで笑って本心を隠す。作り笑いでだ。ムカッとくるぜ」

「!」

「お前をパートナーだと言ったよな?」

「…うん」

 

 

こいつの秘密を知ってしまったんだ。俺も、隠しておきたかったが…この際だ言っておこう。

 

 

「俺の家には借金がある」

「…っ」

「その借金を返すために家庭教師をやってる。だがお前たち五人には手を焼きっぱなしだ。結局なんの成果もあげられないまま給料を貰っちまった」

 

 

俺は、本心を隠すことはしない。

 

 

「だから、せめて貰った分の義理は果たしたい。それが俺の本心だ!以上!」

 

 

これが俺の本心だ。

 

 

「お前はどうなんだ?余裕あるフリして。なんであの時震えてたんだよ」

「……この仕事を始めて、やっと長女として胸を張れるように成れると思ったの」

 

 

最後、なのだろう。今までとは違う、大きく綺麗で儚い花火が一斉に、これでもかと打ち上げられている。ラストスパートか。

 

 

「一人前になるまであの子たちには言わないって決めてたから。花火の約束あるのに、最後まで言えずに黙って来ちゃった。これでオーディション落ちたら…みんなに合わす顔がないよ」

 

 

一花は一花なりに葛藤に苛まれていたんだな。

 

 

「もう花火大会終わっちゃうね」

「あぁ」

「それにしてもまさか君が私の細かな違いに気が付くなんて思わなかったよ。お姉さんびっくりだ」

「俺がそんなに敏感な男に見えるか?」

「自覚あるんだ」

「別にお前の些細な違いなんて気付けねぇよ。付き合いも短いしな」

「じゃあなんで?」

「…ただ、あいつらと違う笑顔だと思っただけだ」

「…っ」

 

 

そうだ。一花の笑顔は二乃、三玖、四葉、五月と全く違うものだ。同じ顔だが同じ表情ではなかった。だからだ。俺が気付けたのは。

 

 

「まいったな…フータロー君一人騙せないなんて、自信なくなってきたよ」

「演技の才能ないんじゃね?」

「わーお直球だね」

「言っておくがその方が俺にとって好都合だ!よりみちせず勉強に専念してくれるからな!」

「よ、寄り道なんかじゃない!これが私の目指してる道だよ!」

 

 

ちょっとした口論になりかけたとき、車のクラクションが静かな夜に響き渡る。

 

 

「一花ちゃんなにやってんの!早く乗って!」

「は、はーい!」

「…あいつらに謝る時は付き合ってやるよ。パートナーだからな」

「…!」

 

 

❁❀✿✾

 

 

「では最後の中野一花さん」

「はい。よろしくお願いします」

 

 

ついに私の出番だ。

 

 

「卒業おめでとう」

「先生今までありがとう」

 

 

上手く笑えてるかな。フータロー君があんなこと言うから気になっちゃうじゃん。これで落ちたらフータロー君のせいだからね。あぁ…こんな時、みんならどうやって笑うんだろう。

 

四葉なら、三玖なら、五月なら、二乃なら……。

 

フータロー君なら。

 

 

「先生。あなたが先生でよかった。あなたの生徒でよかった」

 

 

❁❀✿✾

 

一花のオーディションはそろそろ終わる頃だろうか。

オーディション会場が近くて助かった。歩きでも行ける距離だったしな。出入口の真ん前で待っててやろう。さて…。

俺はらいはに電話をかける。

 

 

『はい!上杉さんですね!、こっちの準備はできてますよ!』




一花のほっぺ挟みたい。柔らかいんだろうな


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第11話 今日はお休み⑥

更新遅れた。すまんすまん。お盆休みはゴロゴロしたかったんだ。そのあと五等分の花嫁展行ってたんじゃ……428Tシャツ確保出来て良かった(満足ぅ)


❁❀✿✾

 

 

ピーンポーンパーンポーン

『第14回秋の花火大会は終了致しました。御来場いただき誠にありがとうございました』

 

 

花火大会終わっちゃったか。みんなには悪いことしちゃったな。フータロー君にも。さぁオーディション終わったし帰ろう。私は社長とオーディション会場から出た。

 

いた。フータロー君が。会場の前の花壇のようなところで座って……寝てる?え、フータロー君目を空けたまま寝てるよ!怖すぎる!

 

 

「フータロー君?」

 

 

私は彼の体を揺すって優しく起こす。

 

 

❁❀✿✾

 

 

「え?寝てないけど?目を閉じてただけだけど?」

「どこから指摘していいのか…」

 

 

誰かの声で無くなりかけてた意識が覚醒する。いつの間にか寝ていたようだ。目の前には一花とあのオッサンがいる。どうやらオーディションは終わった様子だ。

 

 

「オーディション、どうだったんだ?」

「うーんどうだろ」

 

 

一花から曖昧な返事が来る。ダメだったのだろうか。まぁ俺的にはそっちの方が助かるのだが…。

 

 

「どうも何も最高の演技だった。私は問題なく受かったと見ているね」

「そ、そうか。良かったな」

「一花ちゃんがあんな表情を出せるなんて思わなかったよ」

 

 

俳優、女優さんたちを率いる社長が言っているのだ。それならしっかり受かったんだろう。

 

 

「一花ちゃんのあんな表情を引き出したのは恐らく君だ。私も個人的に、君に興味が湧いてきたよ。」

「えっ…」

 

 

おっさんにウィンクされながら投げキッスをされて俺は思わず硬直する。思考も停止しそうになった。一花を見る。どうしようもない、みたいな顔をするな。

 

 

「と、とにかく!用事が終わったのなら一花を借りてくぞ!」

「へ?」

「ま、待ちたまえ!どこへ行くんだ!」

 

 

✎✐✎✐✎✐

 

 

既に時間は22時を回ろうとしている。夜の住宅街は暗く静寂であまりにも不気味だ。先程まであんなにもの数の人がいた花火大会。それも時間を経て熱が冷めつつある。

 

 

「こっちにあいつらが待ってる」

「待ってるて…まだみんな会場にいるの?」

「いや、この近くの公園だ」

「そっか。みんな怒ってるよね。花火見られなかったこと謝らなくちゃ」

「ま、そうだな……だが、花火を諦めるには少し早いんじゃないか?」

 

 

そう言って俺と一花は公園に着く。そこにいたのは線香花火をしているあいつら4人だ。らいははベンチで寝ていた。

花火大会だと言うのに、四葉がらいはのために買ってくれたあの花火セットだ。

 

 

「ま、打ち上げ花火と比べると随分見劣りするがな」

「……!」

「上杉さーん!準備万端です!我慢できずにおっ始めちゃいました!」

「……お前が花火を買ってたおかげだ。助かったよ」

「ししし」

 

 

本当に四葉さまさまだ。こんな形で花火セットが役に立つなんて、花火セット自身も思ってなかっただろう。ふとこちらに近付いてくる人影。二乃だ。

 

 

「ちょっとあんた!一言言わなきゃ気が済まないわ!」

「え、何…?」

「あ!り!が!と! 」

「……なんだよ。お礼ぐらい言えるじゃねぇか」

「五月…」

「一花も花火しましょうよ。三玖、そこにある花火持ってきてください」

「うん…はい」

 

 

三玖は俺に花火を渡してくる…が、間に五月を挟んでだ。少し距離がある。え、俺なんかしたっけ…。「遠くありません?」なんて五月が突っ込んでくるぐらいだし…。

 

 

「みんなごめん!私の勝手でこんなことになっちゃって…本当にごめんね」

「そんなに謝らなくても」

「まぁ一花も反省してるんだし…」

「全くよ!なんで連絡くれなかったのよ。今回の原因の一端はあんたにあるわ。あと目的地忘れた私も悪い」

 

 

なんだよ悪いと思ってるんじゃねぇか。俺にもそれを伝えろ。

 

 

「私は自分の方向音痴に嫌気がさしました」

「私も今回は失敗ばかり」

「よく分かりませんが私も悪かったということで!屋台ばかり見てしまったので」

 

 

反省会が始まったと思ったら…おい四葉。お前反省してないだろ。二乃たちよ、それでいいのか。妹には甘いのかお前ら。

 

 

「みんな」

「はい一花の分」

「お母さんがよく言ってましたね」

 

 

『誰かの失敗は五人で乗り越えること』

 

『誰かの幸せは五人で分かち合うこと』

 

『喜びも』

『悲しみも』

『怒りも』

『慈しみも』

 

「私たち全員で五等分ですから」

 

 

やっぱり同じ顔だし、同じ表情だな。一花も。あいつらは本当に姉妹なんだということを実感させられる。あの輪に俺は入るべきではないから。あくまでも俺は家庭教師だ。パートナーなんて大層なことを言ったが、俺はまだろくなことをしていない。だかららいはの寝ているベンチの隣で1人線香花火をしている。

ん?待てよ?あいつらは五人で花火をしている。らいはは満足して寝ている。俺帰ってもいいんじゃね?そろそろお暇しましょうかね。

 

 

「行くよー!」

 

 

叫んだのは誰だろうか。あの中で叫ぶことをするのは四葉ぐらいだろうからきっと四葉だろう。掛け声とともに花火セットの打ち上げ花火が打ち上げられる。先程まで見ていた打ち上げ花火に比べるとどうしても見劣りしてしまう。

しょぼい花火。本当にしょぼい。けれども、あいつら五人はそんなことを気にしてないんだろう。全員満面の笑みだ。花火が豪華とか関係ない。あいつらにとって花火の「思い出」が大切なんだな。もう少しだけ……見ておくか。

 

 

❁❀✿✾❁❀✿✾

 

 

みんなで花火をしていたら時間もあっという間。そして残りの花火もあっという間に無くなっていった。

 

 

「残り五本…」

「もうこれだけ?」

「やり足りないねー」

 

 

三玖や四葉は花火が足りないみたい。四葉は想像通りだけど、あの三玖がもうこれだけ?なんて発言するなんて思わなかったな。珍しいね。

 

 

「最後はこれでしょー」

「これに決めた!」

「これが一番好き」

「私はこれがいいです」

「これが楽しかったなー」

 

「「「「「せーの」」」」」

 

 

一斉にやりたい花火をとる。私は線香花火を取った。誰かと被ったみたい。顔を上げると……三玖だった。本当に、本当に珍しい。

 

 

「あは。珍しいね。私はこっちでいいよ。それは譲れないんでしょ?」

「!」

「三玖ー!線香花火より派手な方がおもしろいよ!」

「私はこれがいい」

「へーそんなに好きなんだー!」

「うん好き」

 

 

好き。それは線香花火に対して言ったのか……はたまた私たちの自称パートナーさんに言ったのかな?なんてことも考えちゃう。三玖は少し分かりやすいからね。あぁそうだ。フータロー君にお礼言わなくちゃね。

 

 

「まだお礼言ってなかったね。応援して貰った分、私も君に協力しなくちゃ。パートナーだもんね。私は一筋縄じゃいかないから覚悟しててよ」

 

 

…………?返事がない。あれ?フータロー君生きてる?フータロー君?…よく見たらまた目を開けたまま寝ていた。凄い怖いからやめて欲しいな…その寝かた。

 

 

「もう!頑張ったね。ありがとう今日はおやすみ」

 

 

フータロー君に膝枕をして、今日も夜が更けて行く。




更新早める。明日もだす。多分。


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第12話 人好きのお人好し

書いた書いた。更新せねば…


季節は秋。10月。先日の花火大会も終わり、何事もなく夜が明け平日が始まる。今日から夏服から冬服への移行期間である。と言っても俺はズボンを夏服から冬服仕様へと変え、ワイシャツを長袖に、そして上にカーディガンを着るだけ。ブレザーも着ていいが、生憎そこまで寒い訳ではない。

登校中、普段は見かけない顔を見る。なんでいるんだよ。

 

 

「や!おっはー」

「おっす」

「あれ?冬服へのコメント無し?」

「……朝から何の用だよ」

「学校まですぐだけど、一緒に登校しようと思って」

「一花。お前は目立つから嫌だ」

「えー……いいじゃん」

 

 

一花、に限らずこいつら五姉妹は顔が整っており、可愛くて美人である。身長は小さいがそんなのはどうでもいい。とりあえず顔が良いのだ。なので、こいつらといると周りからの目線が多く感じる。俺はそれが嫌だ。おまけに一花は女優だ。まだまだヒヨコみたいだが、知ってる奴がいないわけでもない、だろう。

 

 

「そうだ。昨日あの後、みんなに仕事のこと打ち明けたんだ。みんなビックリしてたなー」

「だろうな」

「でもスッキリした!」

「俺が反対なのは変わりないがな」

「大丈夫。留年しない程度には頑張るから。勉強会してるんでしょ?放課後、また連絡するね。はい!」

 

 

一花には珍しく勉強への意欲を見せるような発言。そこまで女優のしごとが楽しいか。それと「はい」と携帯を差し出されている。なんだ?くれるのか?

 

 

「え、何?くれるの?」

「……メアド交換しよってこと!家庭教師的にも友達的にも!しておいた方がいいでしょ」

「……メアドか…」

 

 

先日のこともある。それにいつでも連絡が取れるのは確かにありがたいな。メアド交換…するか。いやでも別になぁ。クラスに五月いるし……伝達するのにはやっぱり困らないしなぁ。いいか。交換しなくて。

 

 

 

✎✐✎✐✎✐✎✐✎✐

 

 

メアド交換について考えながら授業を受けていたらあっという間に放課後。図書室に行けば既に一花、四葉、三玖がいる。あん?五月いないのか?珍しいな。そしてなんとなくメアド交換のことを四葉と三玖に言ってみる。

 

 

「アドレス交換!大賛成です!あ、その前にこれ終わらせちゃいますね」

「………一応聞くが、何やってんだ?」

「千羽鶴です!友達の友達が入院したらしくて!」

「勉強しろー!!!」

 

 

こいつはどこまでお人好しなんだ…?友達の友達って…それはお前には関係ないだろう?しかしこいつ鶴を折るのが上手いな。俺もよくらいはに折ってやってたしな……。仕方ねぇ。

 

 

「半分よこせ。これ終わったら勉強するんだぞ」

「やってあげるんだ…」

「お、中野。いいところにいた。このノートをみんなの机に配っておいてくれ」

「はーい」

 

 

本当にこいつどこまでお人好しなんだ…。もしや勉強を避けるために時間を稼いでいるのでは…!?なんて勘繰ってしまう。だとしたら二乃なんて目じゃない程の悪女だぜ。なんて考えてる最中、携帯が振動する。なんだ?メール?

 

 

 

中野一花

ーーーーーーーー

かわいい寝顔♡

ーーーーーーーー

広められたくなければ

残り4人のアドレスを

GETすべし! 

ーーーーーーーー

 

 

 

そのメールにはいつ撮られたのかも分からない俺の寝顔の写真が表示されていた。怒りの念を抱きながら一花を見るとニヤリ、なんてオノマトペが着きそうなほど、ニヤニヤしていた。いい笑顔じゃねぇかぁ……イラッとしてきた。

 

 

「みんなのメアド知りたいなーァ」

 

 

一花のやろう…余計なことを…。こうなったら仕方ない。プラスに考えよう。しかしみんなそんな簡単にメアドとか交換してくれるものなのか?俺のメアド帳には親父とらいは、そして今日新たに追加された一花のものしかない。こう見ると、あまりにも殺風景なメアド帳だな。

 

 

「はいフータロー。協力してあげる」

「…わーいやったぜー…。そうだ、昨日の足はもう平気か?」

「も、もう痛くない」

「そうか。それは良かった。よし、五月と二乃は今度でいいだろ。携帯サンキュな」

「…うん」

「良かったね三玖」

「五月と二乃ならさっき食堂で見ましたよ!今から聞きに行きましょう!」

「なんでお前も行くんだよ!ってか四葉!お前のアドレスは…」

「早くしないと帰っちゃいますよ!」

「お前勉強するつもりないだろ!」

 

 

あぁくそ。やっぱり上手いこといかないもんだ。慣れないことはするものじゃないな。

 

 

✎✐✎✐✎✐✎✐

 

 

四葉と頼まれたノートを届けに行ったあと、五月と二乃を探しに食堂へと来た。放課後とは思えない程の人がいる。お喋りしてるやつとか、普通に飯を食べているやつとか……お腹空くな…。

 

 

「あ、いましたよ!」

「本当だ。よぉお前ら」

「あら私たちに何の用ですかー?」

「上杉君に四葉じゃないですか。二人もご飯を食べに?」

「いや私五月ほど食べないよ…?」

「あぁいやなんだ。メアド交換してほしいな…と思ってな」

 

 

五月はまだしも二乃には断られそうだよな…なんて他人事のように思っている。いやでも、寝顔写真ばら撒かれるのはごめんだ。何とかして教えてもらわないと…。

 

 

「いいわよ。書くもの寄越しなさいよ」

「私は携帯を…はい、どうぞ。あ、らいはちゃんのメアドも教えてくださいよ!」

「…えっ?あっおう。いいぞ」

 

 

予想外の出来事すぎて少し返事に遅れた。あの二乃が素直に俺にメアドを教えてくれるだと…?変な悪徳業者のアドレスだったりしないよな?

 

 

「書くもの、書かれるもの…ん。生徒手帳に書いといてくれ」

「はいはい」

「……よし。五月携帯サンキュ。らいはのも入れといたぞ。仲良くしてやってくれ」

「もちろんです!任せてください!」

「これで全員分揃いましたね!」

「ん?あと1人いるだろ?」

「え?一花、三玖、五月、二乃………あー!!四葉!私です!」

 

 

やっぱりこいつアホだわ。なんで当たり前のように自分のこと忘れているんだよ。まるで……自分が姉妹の輪に入ってないみたいな……何を考えてるんだか。馬鹿馬鹿しい。

 

 

「はい!こちらが私のアドレスです!」

「ん…?電話きてるぞ」

「…あぁ。私もう1つ頼まれ事があるんでした!失礼しますね!」

「は?」

 

 

なんだあいつ……バスケ部ってまさか…!

 

 

「あ、ちょっと!………メアド書いたんだけど…」

 

 

 

何か忘れてる気がするが…それより四葉を追いかけないとな。

 

 

✎✐✎✐✎✐✎✐

 

 

ここは部室棟か。まぁバスケ部だし当たり前か。随分と広いがあまり活気は感じない。まぁテストも近いし、文化部あたりは活動してないところも多いのかもな。運動部はそれはそれは外で活動してるんだろう。…いた。四葉だ。

 

 

「中野さん。この前はありがとね!」

「みなさんお疲れ様です」

 

 

やっぱり…四葉のやつ。まだバスケ部の連中と繋がっていたか。一試合限定の助っ人じゃなかったのか…?

 

 

「それで中野さん。入部の件考えてくれた?」

 

 

……は?入部?まさか四葉のやつ入部する気か?入部するしないは個人の勝手だが…お前それでいいのか?

 

 

「はい。誘ってもらえて嬉しいです!」

 

 

あいつやっぱり…最初から勉強する気なんてさらさらなかったんだ!!

 

 

「よかった。じゃあ」

「でもごめんなさい。お断りさせてください」

「…!」

「バスケ部の皆さんが大変なのは重々承知の上ですが、放課後は大切な約束があるんです。も、もちろん試合の助っ人ならいつでもOKですので…!」

 

 

いやそこも断れよ。

 

 

「そっか。なら仕方ないね。せっかくの才能がもったいない気もするけどね」

「!……才能がない私を応援してくれる人がいるんです」

 

 

………お前が才能ないなんてねぇよ。と俺は思ってる。死んでも口に出してやらないが。

 

 

「ふぅ…ぬわっ!!う、上杉さん!?なぜここに…」

「あー…図書館に行くとこだ」

「図書館は部室棟の真逆のはずなんですがお、おかしいなー」

「お前の用事は終わったか?今日もしごいてやるから覚悟しろよ」

「…はいっ!覚悟しました!」

 

 

ஐ ~ஐஐ ~ஐ

 

 

もう夕飯時。私は上杉さんの特別講義でみんなより帰りが少し遅れちゃったけど、何とかみんなと一生に夕飯を食べることが出来たからよかった。そして今みんなに今日のことを話しているところだ。

 

 

「ってことが今日あってねー!」

「だから帰り遅かったんだ」

「二人で心配してたんだよー?特に三玖が」

「べ、別に…」

「………」

「二乃どうしたのー?」

「いや、あいつの生徒手帳持ってて…あいつ結局取りに来なかったのよ」

「あはは…上杉さん忘れっぽいのかな」

 

 

と、姉妹で楽しく話してる最中に携帯が振動した。メールかな。誰からだろう。

 

 

「あ、フータローからだ」

「私も!」

「一斉送信でしょうか」

「あはは!上杉さんったらメアド交換したからって浮かれちゃって……」

 

 

送られてきた内容は……とんでもない文字数の英語や日本史の問題文。そして添えられたメッセージには

 

 

これ全部宿題な!

 

 

……………。

 

 

 

「メアド交換やっぱり断った方が良かったね……」




四葉かわいいいいいいいい


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第13話 始まりの写真

遅れてすみません。マジですみません。


中間試験1週間前。いつもなら余裕綽々と意気揚々と勉強に取り組むのだが、今回からは違う。俺だけの勉強じゃないからだ。あいつら五姉妹の勉強も見なくてはならない。

 

 

「憂鬱だ」

「へー自信過剰のお兄ちゃんが、テストを嫌がるなんて珍しいね」

「俺じゃない。あいつらだ…。試験があることを知らない可能性さえある」

「風太郎!家まで勉強の話はやめなさい!」

「どんな教育方針だ!そもそも親父が持ち込んだ仕事だろ!」

 

 

そう言うと親父ははぁーとため息をついた。なんでだよ。

 

 

「お前だって昔は勉強できなかっただろ?心配しなくても五月ちゃんたちも変わるさ」

「え、お兄ちゃんって前はこんな勉強オバケじゃなかったの?」

「こいつ、昔は俺そっくりのワイルドな男だったんだぞ?」

「お兄ちゃん写真嫌いだから昔の話聞きたーい!」

 

 

俺の昔の話なんて聞いても楽しくもなんともないぞ。そんな話聞く時間があったら勉強しような。

 

 

「あの子に会ってからか。その頃の写真なら生徒手帳に忍ばせてるのを知ってるぞ」

「えっ」

「見せて!」

「…絶対見せな……あれ?生徒手帳………二乃から返してもらってねぇ」

 

 

明日早朝に取りに行かないと。写真を見られたらまずいわけではないが…。見られないことに越したことはない。

 

 

✎✐✎✐✎✐✎✐

 

 

早朝の7時。俺は三玖に許可を貰い二乃の部屋へと入った。事前にノックもしたし、声もかけた。それでいて反応がないが故、姉妹に許可をとったのだから俺に非はない。はず。

二乃の部屋は今時の高校生、にしても少し派手すぎやないか?と思うほど部屋はピンクで染っていた。化粧品やら服やら、何やら女の子なんだなと実感する。布団を覗けばそこにはお腹を出してよだれを垂らして安眠している二乃がいた。布団の周りにはぬいぐるみが置かれていて可愛らしいな、なんて思う。

俺の気配に気付いたのか、二乃の目が開く。そして俺は言い放った。おはよう、ではなく、

 

 

「生徒手帳を返せ」

「ギャァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

そして朝イチにこのマンション内で二乃の叫び声が響いた。

 

 

✎✐✎✐✎✐✎✐

 

 

「信じられない!こんな朝から乙女の部屋に無断で入るなんて!!」

「いやそれは誤解だ。ノックもしたし声もかけた。それでダメだったから許可を取った」

「は?誰によ!」

「私が許可した」

「あんたに何の権利があるのよ!!」

 

 

二乃は大層ご立腹だ。当たり前だ。朝起きてみれば異性が自分のテリトリーにいるのだ。怒るのも致し方ない。俺も配慮が足りなかったか。これが四葉に前言われたデリカシー音痴、いわゆるでんちってやつか。

 

 

「あれ?上杉君ジャないですか」

「朝ごはん食べていきますかー?」

「いいのか?」

「ダメに決まってるでしょ!てかあんた反省してるの!?」

「俺が悪かった。一刻も早く生徒手帳を返して欲しかっただけなんだ」

「やけに素直ね…何かこれに隠してるんじゃないの?」

 

 

くっ…!なんでこんな時に限って鋭いんだお前は!その鋭さを勉強に活かして欲しい。こいつらに俺の昔の写真を見られたらなんて言われるか…。

 

 

「二乃。昨日言ってたものここに置いとくね」

 

 

そう言って一花が置いたものはピアスドレッサーだった。確か一花はピアスしてたっけな。自分で開けたのか。二乃に渡すように置いたってことは、二乃もピアスをしたいのかな。

 

 

「一人でできる?」

「で、できるって言ってるでしょ!馬鹿にしないで 」

 

 

お?二乃の気がピアスドレッサーと一花に気が向いてる。

今なら生徒手帳を取れるんじゃ…。とそーっと取ろうとしたらダメだった。え、返してくれないのかよ。

 

 

「えっ」

「返して欲しかったら付いて来なさい」

 

 

✎✐✎✐✎✐✎✐✎✐

 

 

俺は再び二乃の部屋へと来る。

 

 

「あんたを部屋に入れるなんて、本当は死んでも嫌だけど」

「なんだよ。じゃあ早く生徒手帳を返して…」

 

 

すると二乃がピアスドレッサーをこちらへと向けてくる。

 

 

「ピアス、開けてくれたら返してあげてもいいわ」

「はぁ?」

 

 

急に何言ってんだ…?俺に開けさせるのか…?

 

 

「さーて何が書いてあるのかなー?深夜のノリで書いたポエムあたりと踏んでるけど」

「わー!やめろー!」

「返して欲しいんでしょ?やりなさいよ」

 

俺はほぼ強引に二乃の手からピアスドレッサーを取る。そして二乃の左耳を掴む。

 

 

「動くなよ…。怖いなら掴んでろ」

「…!」

 

 

生徒手帳はそこか。二乃の寝巻きの右ポケットか。

 

 

「ねぇちょっと待って」

「3秒前」

「ちょちょちょっと!」

「何だよ。言っとくがピアスはしばらく痛いぞ」

「やったことないくせに適当言わないで」

 

 

……昔開けてたんだよな。今はしてないし穴ももうない。

 

 

「俺はとっとと生徒手帳返して欲しいんだ。おらやるぞ」

「う…うん」

「3.2.1.0!で開けますからねぇー」

「とっととやりなさいよ!」

 

 

思いっきり脛蹴られた…痛いぞ。少しふざけすぎたか…。ってしまっ…今の勢いで生徒手帳が!

 

 

「え?ちょっと…この悪ガキめっちゃタイプかも!」

「……しまった…」

「誰これ!なんであんた持ち歩いてんの?」

「……あー…えーとな…」

 

 

正直に言うべきか?いや、でもなぁ。とりあえず話題をそらそう。

 

 

「ほ、ほら。これはもういいのか?」

 

 

俺はピアスドレッサーを二乃に見せるが…。

 

 

「今回はもういいわ。それよりこの写真の子よ!メチャメチャイケてるじゃない!」

「……!……失望させるようで悪いが…それ俺だ」

「…ハッ?」

「俺だ。それ」

「ちょっとあんた嘘やめなさいよ」

「いや本当にそれ…俺」

「ちょっと明日から金髪にしてきてくれる?」

「嫌だよ!」

「はー?まぁいいわ。そうだ。私たちもこれぐらいの時可愛かったのよ?ほら!見なさいよ!興味なしか!」

 

 

……からかわれたりしなくてよかった。この時の思い出は俺の黒歴史だ。いや、この格好のおかげであの子にも会えたから悪いことばかりじゃないよな。

 

 

「久々に姉妹で見よーっと」

「……」

 

 

ふぅ…俺の写真は見られちまったが、半分だけでよかった。

五年前か…少し色褪せてきたな。

 

また会えるといいな。




何か最後の方適当だけど許してください。文才がないだけなんです!


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第14話 積み上げたもの

おらぉ!連続投稿じゃー!


「来週から中間試験が始まります。念のために言っておきますが、今回も30点未満は赤点とします。各自、復習を怠らないように」

「……」

 

 

ついに来たか。中間試験。

 

 

✎✐✎✐✎✐✎✐✎✐

 

 

授業と授業の合間の休み時間。たかだか10分という短い時間だが、使用用途はそれぞれ。友達と喋ったり、移動教室で移動したり、トイレ行ったり…と。ちなみに俺は今五月に勉強を教えている最中だ。

 

 

「ふむ。家でも学校でも自習してるのは偉いな」

「……!」

「おまけに無遅刻無欠席で忘れ物もない。同じクラス、というのもあるが、お前は姉妹の中で一番真面目に感じる」

「そうでしょうか」

「あぁ。自信持てよ。だが正直今の時点で全教科赤点回避、と言うのはかなり難しいと思う」

「やはり…そうですよね」

「だからまずは得意教科からやっていくぞ」

「はい!」

 

 

キーンコーンカーンコーン……10分休みが終わった。やはり短いな。一花、三玖、四葉、五月とはいい感じだ。あとは二乃を何とかしないとなぁ。

 

 

「じゃあまた後でな」

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

✎✐✎✐✎✐✎✐✎✐

 

 

「大丈夫?」

 

 

……まだヒリヒリしてるぞ。今は放課後で図書室で四人と勉強。二乃はもちろんいない。誘ったらビンタされた。痛い。

 

 

「上杉さんっ!問題です!今日の私はいつもとどこが違うでしょーか!?」

「リボンだろ。チェック柄でいい。似合ってるな」

「えっ!?ふ…上杉さんが気付いた!?このチェック柄今流行最先端なんですっ!ってわー!」

「そうかそうか…確かに似合っているが…。お前のテストもだ!チェックが流行中だ。良かったな」

「あーん!リボン離してくださーい!」

 

 

俺が引っ張ってグチャグチャにしてしまったリボン。さすがに可哀想なので直してやろう。

 

 

「そうだお前ら。もうすぐ何があるか知ってるだろうな?」

「あ、林間学校!」

「楽しみ…」

「試験は眼中に無いってか?頼もしいな」

「あはは分かってるってー」

「本当かよ……。とリボンこれでいいか?」

「んー……はい!大丈夫です!」

「上杉君って意外と器用なんですね」

「ほらそれはあれだ。妹いるし」

「納得しました。らいはちゃんに会いたいです…」

「テスト明けにでも会ってくれ」

 

 

いつの間にか結構仲良くなっちゃってんだよな。らいはが五月とメール良くしてるのを見る。

 

 

「しかしお前ら。このままではとてもじゃないが試験は乗り切れない。その先の林間学校なんて夢で終わるぞ」

「それは困るなぁ」

「中間試験は国数英理社の五科目。これから1週間徹底的に対策してくぞ!」

「え〜」

「だから三玖も日本史以外を…!?三玖が自ら苦手な英語を…?熱でもあるのか?勉強なんていいから休め?」

「平気。少し頑張ろうと思っただけ」

 

 

何故か知らんがいい傾向だ。だがこの四人も点数はまだあの時とほぼ同じ。二乃も勉強をさせなければならない。どうすればいいんだ…。

 

 

✎✐✎✐✎✐✎✐✎✐

 

 

「あー疲れたー!」

「疲れてるわりには元気ですねぇ。四葉は」

「一刻も早く帰りたい…」

「…」

 

くそ…放課後だけでは時間が足りないな。週末もどこまで詰められるか……。

 

 

「ふぅ」

「ひぃぃぇぁぁぅわぁぁいぃぃ一花!?」

「そんなに寝詰めなくてもいいんじゃない?中間試験で退学になるわけじゃないし…私たちも頑張るからさっ!じっくり付き合ってよ!」

「…任せろ」

「ご褒美くれるならもっと頑張れるけどね」

「あ、駅前のフルーツパフェがいいです!」

「私は抹茶パフェ」

「私は特盛のパフェがいいです」

「何か言ってたら食べたくなってきたね」

「二乃も誘って今から行こっか!」

「一刻も早く帰りたいんじゃなかったのか」

 

 

……そんなに焦らなくてもいいのかもな。

 

 

「上杉さんっ!早くしないと置いてっちゃいますよー!」

 

 

✎✐✎✐✎✐✎✐✎✐

 

 

さて…と。家に帰ってからまず勉強して……らいはの飯…風呂…今日はどこまで勉強ができるかな。

 

 

「って待ちなさーいっ!」

「ん?」

 

 

声のする方に振り向くと疲れた様子の五月がいた。え?わざわざ走ってきたのか?

 

 

「あなたあの状況からよく一人で帰れましたね。あそこは一緒に行くところでしょう」

「いや金ないし、四葉には悪いが勉強しなきゃと思ってな。なんだよ、それを言いに追いかけてきたのか?」

「違います。電話をあなたに取り次げとのことです」

「え?」

 

 

五月は俺にスマホを渡してくる。スマホで電話ってこんな感じなのか…じゃなくて。

 

 

「えーと…もしもし?」

『上杉君。娘たちが世話になってるね』

「おっ!!?お父さん!ご無沙汰しております!」

『君にお父さんと呼ばれる筋合いは無いよ』

「あなたにお父さんと呼ぶ筋合いはありません」

 

 

じゃあなんて呼べばいいんだよ。最初は中野さんって呼んでたけどよ。お父さんでいいだろ。

 

 

『なかなか顔を出せなくてすまないね。どうだい?家庭教師は上手くやっているかい?』

「えぇ。今日は放課後は図書室で行いました」

『それはよかった。近々中間試験があるそうだね。それはどうなんだい?』

「…大変申し上げにくいのですが、全教科赤点回避、と言うのはまだ少し厳しいかと」

『そうか…。まぁまだ家庭教師を始め間もないから仕方ないだろう。そうだな、ここで君の成果を見せてもらいたい』

「…と、言いますと?」

『一週間後の中間試験。私の娘たちに勉強を教えつつ、君には学年一位を取ってもらおう。娘たちは一つ以上赤点回避を。これが課題だ。良いかね?』

「…は、はい!任せてください」

『少々酷かもしれんが…。毎回学年一位の君ならできるだろうと思いたい。ここでハードルを設けさせてくれ。ちなみに、課題をクリア出来なかったら君はクビだ。それでは健闘を祈る』

 

 

プーっプーっプーっと無機質な音がする。はっ?クビ……?マジか課題か…。これは少し大変だが、目標がある方がいい。あいつらにも丁度いいだろう。

 

「…ん。わざわざ走ってきてくれてありがとうな」

「気にしないでください。それで、父からは何と?」

「中間試験で課題を出されただけだ」

「内容は?」

「俺が学年一位を取りつつ、お前ら五姉妹の一教科以上の赤点回避だ」

「なるほど…」

「これが出来なかったらクビらしい」

「はぇ!?わ、私頑張りますね!」

「なーんてクビは冗談だよ」

「…はぁ…変な冗談はやめてください!」

「悪かったって」

 

 

クビは本当だ。だがこいつに言ってプレッシャーを与えたくない。五月は特にプレッシャーに弱そうだしな。しかしどうするか…。このままじゃ時間が足りないな。…そうだ!

 

 

「なぁ五月」

「なんですか?」




鬼滅の刃面白い。どハマりしたわ。五感組とぎゆしの好き


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