英雄達 (人類最強の請負人)
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1話出会い

「今ここに集いし冒険者達よ

これまで数々の偉業を成し遂げた過去の英雄達

彼らの偉業は今日まで英雄譚として語り継がれている

人々を救い冒険者達を震わせ世界に希望をもたらし神々を驚嘆させた

そしてこれから僕たちは彼らと肩を並べる!

かつてゼウス・ファミリア、ヘラ・ファミリアが

成し遂げられなかった三代冒険者依頼「隻眼の黒竜」に我らは挑む!

かつてゼウスファミリア、ヘラファミリアは最強と謳われていた。

しかしフィン・ディムナの名において宣言しようここに集いし我らが最強であると、誓おう「隻眼の黒竜」を必ず討つと!

そして最後に神々から激励の言葉を預かっている

 

必ず生きて帰ってこい!!」

 

 

 

 

これは僕達の英雄譚。

 

 

 

〜始まり〜

 

「はぁ〜まただめだった…」

 

オラリオで一人佇む白髪の少年がいた

 

「こんなんじゃ英雄になんてなれないよ」

 

オラリオで英雄になることを夢見た少年は冒険者になるため様々なファミリアに尋ねたが全てのファミリアで門前払いを食らっていた

 

「英雄どころか女の子との出会いも」

おじいちゃんが言ってたハーレムは僕には無理なのかな

 

「なんや自分さっきから何してんの?」

 

「うぉっほいっ」

 

「おぉ、すまんな驚かせて

さっきからぶつぶつ言うとるけどどうしたんや」

 

若干引き気味に話しかけてきたつり目で赤髪の女性が訪ねてきた

 

「その…ファミリアに入りたいんですがどこにも受け入れてもらえずに…」

 

「あ〜なるほどな、自分冒険者志望なんやな

ちなみにどこのファミリアにいったんや?」

 

僕は行ったファミリアを順番に言っていった

 

「あ〜なるほどなロキ・ファミリアにも行ったんやな、もしよかったらどんな対応されたか詳しく聞いていいか?」

 

「ロキ・ファミリアですか?」

 

「そや、ロキ・ファミリアゆうたらオラリオでも一二を争うファミリアやから、どんな対応なんか興味あってな。良かったら教えてくれんか?」

 

そういえばロキ・ファミリアのホームは他に比べて大きかったな。さすがはオラリオで一二を争うほどのファミリアのホーム大きいはずであると納得して

 

「はい!そうゆうことでしたらもちろんです。」

 

 

 

 

『僕をロキ・ファミリアに入れてください!』

 

ロキ・ファミリア『黄昏の館』前にいる門兵に僕は頭を下げて言った

 

『少年先ほどから言っているよう現在ロキ・ファミリアでは冒険者を受け入れていないんだ』

 

『そこをなんとか!』

 

『すまないが他のファミリアを当たってくれまいか、それにここロキ・ファミリアはオラリオでも最大派閥と言われている程のファミリアであり少年のような戦闘経験が一切ないようなものを受け入れることなどないだろう』

 

 

「のような具合です」

 

「なるほどな、嫌なこと思い出させてごめんな」

 

「いえいえそんなことないですよ」

慌てながら僕は否定した

実際に悲しい気持ちはあったもののオラリオにきたばかりの田舎者を受け入れてくれないのはしょうがないと自分でも思う

 

「そうかぁ?優しいな少年は、そんな少年を欲しがるファミリアはこのオラリオに必ずあるはずや!うちが補償したる!」

 

彼女は笑顔でそ言って頑張りやーと手を振りながら歩いて行った

 

「ありがとうございます!」

 

離れて行く彼女に聞こえるように大きな声お礼を言う

 

 

 

これが僕と彼女の最初の出会いである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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2話分岐

第一印象は『白い』だった

また話をしてみるとより『白い』印象が強くなった

透きとおった心の持ち主だった

 

だがそれだけだった

 

話しかけたのも気まぐれだ

 

どこかの女神が見たら欲しがりそうだなと思う程度

 

自分が欲しいと思う程ではなかった

 

しかし『白い』少年がどこのファミリアに入るのかには興味が湧いた

 

『白い』ゆえファミリアによって少年はどんな色にも染まるだろう

 

それにうちの眷属が無礼な対応をしたゆえ、ロクでもないファミリアに入りそうなら止めてやるのもせめてもの罪滅ぼしだと思う

 

そんな理由で少年に気づかれないよう後をつけ新たなファミリアに入るのを確認し周りを見ると

 

憎たらしい程に胸に脂肪がのったチビが街行く人々にあしらわれていた

 

「はぁ〜まただめだった…」

 

なんかデジャブやな…

 

「何してんねんどチビ」

 

「あぁ!?なんだなんだいきなりチビとはいいご挨拶だねどこのどいつだい!ってロキ!?」

 

しもた、思わず声をかけてもうた

 

何してんねんうち、声なんか聞けるつもりなかったのに

 

ってかこいつも何してんねん

 

「なんしてんねんどチビ」

 

「ふんっ!誰が君なんかに教えるもんか!君こそいったいなにをしてるんだい無乳!」

 

今はこいつと言い合いをするような気分じゃないねん

 

「おいこら聞いてるのかい!?」

 

にしてもこのどチビ、ファイたんとこから追い出されたところまでは噂で聞いとったけど……

 

何しとるんや?

 

「僕を無視するとはいい度胸だな!」

 

あ〜そっか自分のファミリアを作るため声かけてるんか

 

「いい加減にしないか!絶壁」

 

まずいなぁ、今どチビが少年と会ってしまうと少年はホイホイついていきそうやな〜……

 

「そうかそうか、君がそんな態度を取るならこっちにも考えがある!」

 

流石にどチビのとこの眷属になるのは少年にとってどうなんやろ?

 

「僕を怒らせると怖いんだぞ!後悔するなよ!」

 

少年にとっては入れてもらえるファミリアがあって嬉しいやろけど、入った後が大変やろな

 

とゆうかこのどチビ、さっきからこっちが無視しとるのをいい気に好き勝手言ってくれるの

 

「僕の眷属がぜぇっったいに君の眷属達をボコボコにしてやるからなぁー!」

 

一人も眷属がおらんくせに何言っとるやこのどチビは

 

「絶対!絶対!絶対!ぜぇぇっっっっったいだぞ!!」

 

……よし決めた!

 

「おい、よう見とけどチビ」

 

「あぁ!?やっと反応したと思ったらいったい何を見ればいいんだい?君のそのあるかないかわからない胸かい!?」

 

まぁええそのぐらいは我慢したる、ちょーど少年も出てきたところやしな

 

にしても落ち込んどるちゅうことは案の定だめやったんやろなぁ

 

思わずにやけてしまう

 

出てきた少年の後ろから近づく

 

「はぁ〜まただめだった…」

 

………三回目はなんて言うんやろな?

 

「よぉ少年また会ったな!」

 

「うぉ!」

 

「また驚かせてしもうたか、すまんな」

 

さっきよりかは驚かんかったなぁ

さっきは驚きすぎてこっちが引くぐらいやったのに

 

「あっ!先ほどの」

 

「おう、二度目ましてやな!調子はどうや?どこか自分受け入れてくれるとこ見つかったか?」

 

まぁ見とったけ知っとるけどな

 

「いえ、あれからも僕を受け入れてもらえるところは見つかりませんでした。つい今もも断られたばかりで……」

 

少年の顔はだんだんと下を向き心なしか体が小さくなってゆく

 

安心しぃや、少年

 

「なるほどな、よし!そんな少年に朗報や!」

 

少年の顔が上がり、目が合う

 

「うちのファミリアにこんか?」

 

うちは満面の笑みで少年に言う



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3話始まり

「うちのファミリアにこんか?」

 

「………えっ!?」

 

「………はぁっ!?」

 

突然の出来事で頭が追いつかず声が出る

 

なぜか彼女の後ろにいる女の子までもが驚いて声を上げた

 

今僕は、先程励まされた女性にまた声をかけられた。

 

そしてその女性は、オラリオに来たばかりの僕を励ますだけでなくファミリアへ誘ってくれている

 

「なんや?うちのファミリアは嫌か?」

 

彼女は悪戯な笑みを浮かべながら僕に言ってくる

 

「ゆうたやろ、少年を欲しがるファミリアはあるって」

 

彼女の笑みは変わらない

 

「せやから、うちにファミリアにこんか少年?」

 

彼女の右手か僕に向かって伸びる

 

「決めるのは少年やで」

 

 

手が震え

うまく口が回らず

視界が霞む

声がうまく出ない

 

「…よっ、 よ」

 

彼女は依然として僕に手を伸ばしたまま、悪戯な笑みを浮かべて待っている

 

僕は震えながらもしっかりと彼女手を掴み声を絞り出す

 

「よろしく…お願いします!」

 

彼女が握り返し満面の笑みで答える

 

「うちのファミリアへようこそ少年!」

 

僕は頭を下げて地面を濡らしながら何度もお礼を言う

 

 

 

 

 

 

 

〜ロキ・ファミリア、ホーム《黄昏の館》〜

 

 

あれから、彼女にホームに行くからとついていったのだが………

 

「そういえば自己紹介してなかったな」

 

ついたのは見覚えのある場所だった

 

「よぉ考えたら少年の名前も聞いてなかったしなぁ」

 

今僕はとんでもないところにいるのではないか

 

「自己紹介もせんと話も進めれんし」

 

彼女はいったい何者なんだろうか

 

「じゃあうちから始めよか」

 

今僕の目の前にいる人物はいったい

 

「うちは名前はロキ、このロキ・ファミリアの主神や!」

 

目の前の彼女は人ではなく神様だった

 

「よろしくな!少年の名前を教えてくれや」

 

とても綺麗で悪戯な笑顔が似合う女神様だと僕はそう思った

 

「僕はベル、ベル・クラネルです」

 

「そか、改めてようこそロキ・ファミリアへ!ベル・クラネル」

 

僕はここから始まった

 

おじいちゃん今日僕に家族ができたよ

 

 

 

 

「よしっ!じゃあまずは脱ごか」

 

彼女は今何と言った?脱げ?誰が?僕が?どうして?

 

 

 

………おじいちゃん今日僕は大人になります

 

「何自分悟った顔してんねん、今から恩恵を授けるから脱いでそこに横になりや」

 

部屋のベッドを指差しながらロキは言う

 

「それとも何や?今からうちとええことすると思ったんか?」

 

笑みを浮かべたロキが僕に近づきながら言う

 

「そういや自分最初あった時も、女の子がどうとかゆうとったな」

 

ロキの手がベルの頰を撫でる

 

「何や自分?かわいい顔して女の子とそうゆう事する為にオラリオに来たんか?」

 

ベルの顔が瞬く間に赤くなっていく

 

「はぐらかしても無駄やで、神に嘘ついてもすぐわかるからな」

 

ベルの口は動いているが声は出ていない

 

「それに何や?その女の子の中にはうちも入っとるんか?」

 

ロキの顔がベルの目の前にまで近づく

 

「何や黙っとらんで教えてや、ベ・ル」

 

ロキが今日最高の悪戯な笑顔浮かべる

 

僕はその笑顔に見惚れてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 



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4話豊饒の女主人

 

 

 

うちはどうしたんや?

 

うちが好きなのはかわいい女の子や

 

けど何やこの胸の高鳴りは

 

うちは新たな扉を開こうとしとるんか?

 

「そうなに泣くなや、ベル」

 

ベル・クラネル

 

街でたまたま声をかけ

 

気まぐれで後をつけ

 

あいつへの嫌がらせでファミリアに誘った

 

それが何や何でこんなにも………

 

「神様のいじわる」

 

かわええんや!!

 

なんやなんやめちゃくちゃかわええやないか女の子にしかときめかんと思っとったのに目覚めてしまうわ!

 

「ちょっとからかっただけやないか、それにベルが悪いんやで。あんなかわええ反応されたら止められんやろ」

 

誤魔化す為若干キレながら言う

 

せやうちは悪くない、かわえすぎるベルが悪いや

 

「ごめんなさい」

 

はぁ〜なんで謝るんや!?ベルは悪くないで!ごめんな!うちこそごめんな!罪悪感半端ないやんか〜!そんなとこも含めてめっちゃかわええやんか!

 

うちの眷属たちも見習ってほしいわ………

 

 

「よしっ!恩恵も授けたしギルドに行こか」

 

このままやったら罪悪感で死にたくなってくるわ

 

「ギルドですか?」

 

ベルが涙目で尋ねてくる

 

「せやで、ダンジョンに入る為には冒険者登録せなあかんのや。それにベルはオラリオに来たばかりやろうし、オラリオの紹介ついでにこれから世話になるところへ一緒に挨拶に行こか」

 

最後に一言

 

「もちろんデートやで」

 

ベルの顔が真っ赤にそまる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オラリオの通りをベルと二人で歩く

 

「まずはここや!」

 

《豊饒の女主人》

 

「ミア母ちゃんおるか〜」

 

CLOSEの札がぶら下がる入り口を開けながら入って行くとエルフの女性こちらに気づく

 

「すみません、店はまだ準備中です」

 

「ちゃうちゃう、飲み来たんやないで」

 

「あぁ、貴方でしたか神ロキ。飲みに来たのではないならどのような用件で?」

 

「ちょっとな、今度の予約と挨拶に来たんや。ミア母ちゃんはおらんのか?」

 

「ミア母さんは今出ていますので予約については私から伝えましょう」

 

「そか、じゃあよろしく頼むで」

 

「それで挨拶とは?」

 

「あぁミア母ちゃんに少し紹介したい眷属がおってな」

 

「なるほど、それでその眷属はどこに?」

 

エルフの女性に言われベルがいない事に気づく

 

「あら、どこ行ったんや?」

 

後ろを振り返るとベルが入り口の前で立っていた

ロキは入り口まで戻りベルに言う

 

「おーい何しとるんや!顔見せる為来たんやねんから入らんかい」

 

少し遠くにいるベルに聞こえるように呼ぶ

 

「あっはい、今行きます!」

 

入り口からベルが小走りに入ってくる

 

「なんしよったんや?」

 

「すみませんロキ様、少し道を聞かれて」

 

ベルと話をしているとエルフがベルに近づき訪ねてくる

 

「神ロキ、この方が?」

 

「あぁ今日うちのファミリアに入った眷属や」

 

エルフは少し頷きながらベルの方に顔を向ける

 

「貴方の名前を教えてほしい」

 

ベルの目をしっかりと見てエルフは言う

 

ベルは少し驚きながらも答える

 

「僕の名前はベル・クラネルです」

 

エルフは微笑む

 

「ベル・クラネルですか良き名だ。私はリュー、リュー・リオンです」

 

リューはベルに手を差し伸べる

 

「ベル、貴方とは長い付き合いになるような気がする」

 

ベルがリューの手の意図に気づき差し伸ばされた手を握り返す

 

「よろしくお願いします」

 

リューはしっかりとベルの手を握り言う

 

「えぇよろしくお願いします。ベル」

 

「何二人だけでいちゃついてんねん」

 

ベルとリューの間に割り込む

 

「うちもまぜてぇな」

 

二人を抱きしめようと飛び込むと

 

「私に触れるな」

 

リューがベルを引っ張り込みロキを華麗に避けロキは地面にダイブする

 

「なんでや〜、なんでうちはあかんのや!」

 

ロキが立ち上がりリューに詰めよる

 

「いえ、神ロキが駄目なわけでなく。他人に触れられそうになるとつい」

 

「じゃあなんでベルと握手なんかしとんねん!」

 

リューが少し微笑み答える

 

「秘密です」

 

リューとロキの二人は気づかない

 

ベルを引っ張る勢いが強くベルがこけそうになったことに

 

リューは無意識のうちにベルを抱きとめていたことに

 

ベルの顔がリューの胸の位置に来たことに

 

リューの胸の中で顔を真っ赤にして気を失っているベルに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ギルド》

 

「あははははははは!」

 

ギルドに笑い声が響く

 

「笑いすぎですよ神さま」

 

ベルが横でうつむきながら歩く

 

「いやいや、抱きしめられて気絶するなんて面白すぎやで!」

 

ベルが涙目になり何か言いたそうにしているが何も言葉が出ないようで二人はギルドを進んで行く

 

「さぁもう着いとるで、受け付けしよか」

 

すでに受け付けのすぐ前まで二人は来ていた

 

「えっ!いつのまに着いたんですか⁉︎」

 

どうやらベルは気づいてなかったようで顔を上げ周りを見る

 

「ここがギルド………冒険者がたくさん」

 

目の前には受け付けカウンター、その横にはクエストが貼り出されている提示版、提示版の前にはこれからどのクエストに行くか相談している冒険者達、他にもギルドの職員と話している冒険者、笑い合う冒険者、右を見ても冒険者左を見ても冒険者

 

うちらにとっては当たり前の光景やけどな

 

横を見るとベルの顔はまるでおもちゃに囲まれた純粋な子供のような目で周りを見て笑っていた

 

「こんなんで驚いとったらあかんで、オラリオで冒険者がおるなんて当たり前や、それにな………」

 

ベルに指をさす

 

「ベルもその一人なんやで」

 

 

 

 

 

 

 



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5話ルールの意味

 

 

〜ダンジョン五階層〜

 

はぁ…はぁ…はぁ…

 

僕は走る

 

はぁ…はっはぁ…

 

脇目も振らず、全力で走る

 

はぁ…はぁ…はぁ…

 

あの怪物に殺されないために

 

「ヴヴォオオオオオオオオオオオッ!!」

 

ダンジョンに響く怪物の声

 

はっはぁ…はぁ…はぁ…

 

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜七日前〜

 

僕とロキ様は黄昏の館に戻りロキ様の部屋で向かい合って座っている

 

「さて、冒険者登録も終わったし挨拶回りも済んだところで」

 

ロキ様はわざとらしく一回咳をする

 

「ベルにはこれからうちのルールを覚えてもらうで!本来なら団長か副団長から教えてもらうんやけどな、今うちの眷属たちはダンジョンの遠征に行っとるからな、主神であるうちが直々に教えたる」

 

僕は唾を飲み込み気を引き締め聞く体制を整える

 

「まずひとつ、ロキ・ファミリアであれ」

 

ロキ様は人差し指を立てて言う

 

「ベルはロキ・ファミリアの一員になったんや、オラリオでの全ての行動がロキ・ファミリアのベルとして見られる、もちろんベル個人を見る者もおるやろうけどな、けどなんかやらかしたらベルの問題やなくてロキ・ファミリアの問題になるって覚えといてな」

 

僕はもうロキ・ファミリアの眷属で、ロキ様の名前を背負う一人であると自覚する

 

「次にふたつ、家族であれ」

 

人差し指に続いて中指を立てる

 

「うちらは種族は違えどファミリアであり家族なんや、家族は助け合い、支え合う、時に喧嘩をしたり、すれ違いもあるやろうけどな、それでもこの繋がりやは絶対に切れへん、うちらが家族であることを忘れへんように」

 

おじいちゃんがいなくなり、家族と呼べる人がいなかった僕は目頭が熱くなる

 

「そして最後にみっつめ!」

 

薬指を立て計三本の指を立てる

 

「必ず生きて帰ってくる事」

 

ロキ様はまっすぐ僕を見つめ口を開く

 

「うちら神にとってな眷属達が死んでもちょっとの別れやねん、眷属達はまた新たな命を授かり生まれてくるからな」

 

地上に降りてきた神々から伝えられていて、この地上で死んだ人の魂は天界へと行き、また新たな命として地上へと授け、繰り返し巡回しているらしい

 

「これからベルはダンジョンに潜りたくさん危険な目にあうと思う、ダンジョンでは何が起こってもおかしくないし、いつ死んでもおかしくない程危険なところや」

 

ロキ様は目を閉じる

 

「けどそんな中でな、冒険者は偉業を成し遂げるため、未知の冒険をするため、自分を磨き上げるためだったり、いろんな冒険をするんや、うちはそれを応援したいし手伝いたい」

 

ロキ様の声にだんだんと熱が入っていく

 

「せやからな頑張ったら褒めてやりたいし、落ち込んでたら慰めてあげたい、一緒に笑って酒飲んで馬鹿やって落ち込んでまた笑いたい」

 

想像するこれからこのファミリアでの冒険の日々や日常を

 

「それにな『行ってらっしゃい』って言ったのに『おかえり』って言えんのは悲しいやろ」

 

少し前の事を思い出す

 

突然おじいちゃんがいなくなったあの日の事を

 

「だからなベル、必ずうちに『おかえり』って言わせてな」

 

ロキ様はいつもの笑顔に戻る

 

「約束やで!」

 

 

 

 

 

 

〜現在〜

 

はぁ…はぁ…はぁ…

 

「ヴヴォオオオオオオオオオオオッ!!」

 

神様ありがとうございます

 

こんな僕を家族にしてくれて

 

「はぁ…絶対に、はっ…はぁ、絶対に諦めない!」

 

僕は絶対に生きて帰る!

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…!?」

 

そんな僕を神様があざ笑うかのようにに 行き止まりに追い込まれ、後ろからは足音が近づいてくる

 

「はぁ…はぁ…はっ、………ふぅ〜っよし!」

 

息を整え覚悟を決める

 

安物のポーションを飲み短刀を手に取る

 

ベルの右手には短刀、回復アイテムも潤沢である、防具は動きやすいよう軽いものではあるがベルの体に合ったそこそこ良い物を装備している

 

怪物との距離は十メートル程

 

『ダンジョンでは何が起こってもおかしくない』

 

ロキ様に言われてないなかったらきっとなんの準備もしないままダンジョンに潜り、何もできずに殺されていたんだと思う

 

相手はミノタウルス、Lv.2の怪物の中でも特に強力な怪物である

 

それでも僕は諦めない約束を守るため

 

あの悲しみをロキ様に味合わせないため

 

「…っ生きて帰るんだ!」

 

ミノタウルスが目の前まで来る

 

ベルは武器を構える

 

「っうぉおおおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

 

しかし冒険者になって七日のベルに何かできるわけでもなくミノタウルスが放った一振りでベルは吹き飛ばされる

 

「ぐっ!……がはっ」

 

ただの一振りでベルは壁に叩きつけられ、頭から血が流れ、立ち上がる事が出来なくなる

 

「ぁ……ぁあ、………ロキ様ぁ…」

 

ベルの視界がぼやけていく中ミノタウルスは無情にも止めを刺さんとベルに近づく

 

「ヴヴォオオオオオオオオオオオッ!!」

 

僕は殺されるのだろうか、ごめんなさいロキ様約束守れなかったです、ごめんなさい

 

ベルはミノタウルスを見ながら謝る

 

僕は何もできなかった、何もできずここで僕は終わるんだ

 

そんな後悔をしながら朦朧とする意識の中ベルは誰かの声が聞こえ

 

「………ぉぃ…アイズ!」

 

目の前に金色の髪の精霊が現れた

 

 

 

 



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6話ダンジョンでの出会い

 

 

ダンジョン上層へと繋がる階段を金色の髪の精霊と白毛の狼が駆け上がる

 

「っあぁクッソ!どこまで逃げたんだよあの牛野郎はよ!!」

 

私達は白毛の狼の鼻を頼りに逃げたミノタウロスを追いかけ気づけば五階層まで登っていた

 

「こっちだ!」

 

遠征の帰りに遭遇したミノタウロスの群れを数匹逃してしまい最期の一匹になかなか追いつけずにいる

 

「ミノタウルスが逃げるなんざ聞いた事ねぇぞ」

 

彼は追いかけている間常に悪態をついていた

 

気づけば一本道になり先にミノタウロスが見えてきた

 

「ヴヴォオオオオオオオオオオオッ!!」

 

ミノタウロスに近づくと、白毛の狼の位置からでは見えにくい位置に白髪の少年が壁に寄りかかって倒れているのに気づく

 

彼が殺されてしまわぬよう私は一瞬でも早く目の前のミノタウロスを撃破する為加速する

 

「………おい…アイズ!」

 

私は彼を抜き去り愛用の剣のデスペレートを抜きミノタウロスを胴から上を真っ二つにする

 

「………ふぅ」

 

デスペレートを鞘にしまい少年に声をかける

 

「大丈夫………ですか?」

 

すると後ろから白毛の狼は追いつき私に怒鳴る

 

「馬鹿野郎、どう見ても死にかけじゃねぇかよ!頭から血ぃ出て壁に叩きつけられた跡があんだろ!」

 

私は言われて少年の顔の血はミノタウロスの返り血だと思っていた血が、少年の頭から流れている血であると気づく

 

「おい!エリクサー余ってねぇか!」

 

言われて腰のホルダーを、確認するが現在回復アイテムは一切持っていなかった

 

「っくそ!急いで戻るぞ、エリクサーの一つぐらいまだあんだろ!」

 

彼はそう言うと少年を担ぎ走り出す

 

私と白毛の狼は少年を助けるため、急いで仲間の元へと戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、少しまずい事になったね」

 

少年を担ぎ急いで仲間達の元へ戻り上層での経緯を団長へ話す

 

少年にはエリクサーを頭から被せたため一命はとりとめたが、目を覚ます様子はない

 

「うん、とりあえずご苦労様、彼の事については僕たちで考えるとするよ、二人ともありがとう」

 

団長への報告が終わり私は帰還の準備をする

 

「アイズーおつかれー!」

 

「おつかれアイズ」

 

帰還の準備をしていると双子のアマゾネスの姉妹が声をかけてきた

 

「いや〜びっくりしたよ!アイズ達が走って帰ってきたと思ったら血だらけの男の子をおぶってたんだもん!」

 

私達が戻ったときには他の仲間達は全員戻っていて、最後に戻った私達は皆から注目を浴びていた

 

「でも一命はとりとめたみたいで良かったわ、もしあのまま助からなかったらだいぶまずい事になっていたわよ」

 

確かに私達ロキ・ファミリアが逃したミノタウルスが他のファミリアの冒険者に被害があれば問題になりかねない、況してや新人冒険者が殺されたとなればファミリア同士での問題になり、最悪ギルドからのそれなりのペナルティが出てしまう場合もある

 

「それでもあの子に怪我を負わせてしまったから、なんらかの責任は取らなくちゃいけないんでしょうけどね」

 

責任と言う言葉が私に突き刺さる

 

「でもさーダンジョンで何が起こってもおかしくないんだからさ、私達の責任になるのっておかしくない?」

 

「そのイレギュラーの原因が私達にあるのが問題なのよ」

 

「でもミノタウロスが逃げるなんて誰も思わないじゃん」

 

「うん、でも彼に怪我をさせてしまったのは事実だから………」

 

確かに今回ミノタウロスが上層まで逃がしてしまったのは本来逃げないミノタウロスが逃げ、すぐに対応できなかった私達の落ち度であり、そのミノタウロスが原因で彼に怪我を負わせてしまったのも確かである

 

そんな会話をしながら準備を終わらせ私達はダンジョンから帰還する

 

 

 



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7話きっかけ

 

 

貴方に追いつきたい

 

いつから僕はそう思うようになっただろう

 

いつから貴方と共に戦いたいと思うようになっただろう

 

いつから貴方を守りたいと思うようになったのだろう

 

わからないけど一つ確かなことは

 

あの日、貴方に助けられた時に見た、貴方の綺麗な姿に、僕は虜になってしまったのだろう

 

それこそ神にも劣らない程に魅了されて

 

近づきたくて、追いつきたくて

 

あの日貴方に助けられたから

 

あの日から貴方に憧れたから

 

これまで貴方に追いつこうとしたから

 

今日まで貴方を守りたいと思ったから

 

今僕は貴方を守れる

 

 

 

 

 

 

〜目覚め〜

 

 

目を開くと知らない天井だった

 

「………アイズ…さん」

 

最期の記憶は意識を失う前に聞いた声と金色の髪の精霊

 

いや精霊ではなく冒険者だろう

 

アイズ…アイズ………ぁあ!思い出した、ロキ様が言ってた人だ

 

じゃあ彼女がアイズ・ヴァレンシュタイン、わずか一年でLv.2にランクアップしついた二つ名は「剣姫」、また今ではLv.5までランクアップしておりオラリオでも屈指の冒険者で

 

僕と同じロキ・ファミリアの一人………

 

そんな事を思い出している中気づいたが、いったいここは何処なのか、体を起こし周りを見るとノックの音がなり部屋のドアが開く

 

「おや、気づいてましたか、ベルさん」

 

入ってきた女性は子柄で治療医を思わせるような白い衣服を着ていて、彼女はベッドの横に置いてある椅子に座る

 

「お久しぶりです、アミッドさん」

 

彼女の名はアミッド・テアサナーレ、ロキ様と挨拶回りをした時に知り合った一人である

 

「ふふ、まだ七日しか経っていませんよ」

 

言われて見ると確かに日にちはそんなにたっていない、しかし僕にとってオラリオでの出来事は全てが初めてで新鮮で一日一日が、とても充実したものであって、オラリオに来てから長い時間が過ぎたような気がする

 

「それにしても、死にかけたと聞いておりましたがその様子からして問題はなさそうですね、痛みや違和感などはありますか?」

 

「いえ、特には何も………、むしろ何もないのが怖いぐらいです」

 

僕は腕を伸ばしたり、首をうごしたりして体に異常がないか確認する

 

「そうですね、どの程度の怪我だったかは聞いていないのですが、怪我を癒す為エリクサーを使ったそうです、エリクサーは生きてさえいれば大抵の傷は治りますよ」

 

天使のような笑顔でアミッドさんは言うが、オラリオの回復薬は死んでさえなければ治せるのかと驚愕する

 

「…あはは、………そういえばここはどこなんですか?」

 

僕は回復薬の凄さに変な笑いが出たが、先程から気になっていた事を聞く

 

「はい、ここはギルド運営の治療室です、ダンジョンから帰ったロキ・ファミリアの方が貴方が目を覚まさない為、連れて帰るわけにもいかず、ここに預けたと伺っています」

 

やっぱり僕を助けてくれたのはロキ・ファミリアのアイズさんだったのか

 

「恐らく、ロキ・ファミリアの方もその場にいたギルドの職員も貴方の所属しているファミリアがわからなかったんでしょうね」

 

「まぁそうですよね、僕はロキ・ファミリアの眷属ですけど、ロキ・ファミリアのほとんどの人が遠征に行ってて、顔を知らないですし、まさかその帰りに死にかけている新人冒険者がまさか同じファミリアの眷属だとは思わないでしょうしね」

 

自称気味に僕は言う

 

「ふふっ、思ったより落ち込んで無く安心しました、ダンジョンで死にかけてそのような事が言えるのなら内面も大丈夫そうですね」

 

そう言うとアミッドさんは立ち上がりドアの方へ向かって行く

 

「ベルさん、貴方は自分で思っているよりずっと強い人ですよ、駆け出しの頃に死にかけてダンジョンに潜れなくなった冒険者は少なくないです」

 

アミッドさんはこちらを見ずに続ける

 

「初めてあったときに言った言葉をもう一度伝えますね、『必ず生きて帰ってきてください、生きていれば必ず治療してみせます』ですからダンジョンで生きる事を諦めないでくださいね」

 

そう言い残しアミッドさんは、部屋から出て行った

 

 

 

 

 

 

 

あれから少ししたあとギルドの職員の方が来て帰っても大丈夫と告げられた、ギルドを出ると日もだいぶ落ちていて、ホームである黄昏の館まで帰ってきた頃には夜も遅くなっていた

 

「おぉ!ベルお帰り今日は遅かったな!」

 

「はい!ただいま帰りました!」

 

僕は帰ってきたら門兵さんに挨拶するのが当たり前になっていた

 

ロキ・ファミリアに入りたいと言った時、門兵さんに追い返されたが、門兵さんは僕の入団を聞いて真っ先に謝罪に来てくれた。僕は気にしていないと伝えたのだが、門兵さんは僕の世話をよく焼いてくれる、今ではだいぶ仲良くなれたと思う

 

「そうだ、ベル!」

 

門をくぐろうとすると門兵さんに呼び止められた

 

「ロキ様から伝言があったんだ、『帰ってきたら豊饒の女主人にくるんやで〜』と言っていたぞ」

 

あぁそういえば、ロキ様が遠征に行ってたメンバーが帰って来たら宴会を開くとかなんとか言ってたような覚えがあるな

 

「わかりました、ありがとうございます!」

 

僕はあまり疲れてなかった為、そのまま館に入らず豊饒の女主人に向かった

 

 

 

 

僕にとってこの日は沢山のきっかけがあって、この日がなければ僕はずっと貴方の背中を追っていたんだと思います

 

 

 

 



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8話サプライズ

 

〜豊穣の女主人〜

 

「「かんぱーい!!!」」

 

店の半分を埋め尽くす、とあるファミリアの冒険者達が酒を片手に今回の遠征の英気を養う為騒ぎ出す

 

「みんな〜お疲れやー!色んなハプニングはあったみたいやけど全員生きて帰って来れたんやからうちはそれが一番や!騒いで飲みまくれ!」

 

団体の中に神も混じりファミリア総出での宴会である

 

「それにしても遠征に帰ってすぐに打ち上げだなんて急すぎるんじゃないかな、何か理由でもあるのかい?」

 

パルゥムの冒険者が神に問いかける

 

「ぷはー!せやで、今回の打ち上げは遠征お疲れ様会と、もう1個サプライズがあるんや」

 

神が既にからになったジョッキをテーブルに置きパルゥムの冒険者へ答える

 

「まったく、だからといって帰ってきたその日にわざわざしなければならないのか?今回の遠征の報告や後処理が終わってからでも」

 

「ガハハハ!!良いではないか、面倒なことは忘れて今は楽しむ場じゃぞ。そんなしけた面のままじゃ酒もまずくなるわい!」

 

「お前は騒いで酒が飲みたいだけだろう」

 

エルフの冒険者は呆れて、ドワーフの冒険者は神に負けじと酒を飲む。

周りの冒険者も遠征の疲れを吹き飛ばすように、騒ぎ皆それぞれに楽しんでいる。

 

「ま〜そのサプライズはみんなにもなんやけど、どっちかっちゅーとその子へのサプライズなんや」

 

「その子?」

 

パルゥムが聞き返すと同時に入り口から白い兎のような少年が入ってくる。

 

「おっやっと来たか。おーい!こっちやで!」

 

少年が気づくよう手を振り大きな声で神が少年を呼ぶ、周りの冒険者達も入り口に目を向けるが、そこにいた少年は皆見覚えがあった。パルゥムやエルフ、ドワーフの冒険者や先ほどまで騒いでいた冒険者たちが皆が驚きの表情で少年を見る。その少年は先ほど自分達の失態で逃したモンスターの唯一の被害者であり、また早急に解決しなければならない問題そのものだったからである。

 

ただ神は周りの冒険者達が驚いている事に気づかず自分の隣にまで少年を手招きして、少年が自分の隣来てから全体に呼びかける。

 

「ほなみんな注目や〜!!」

 

既にファミリアの全員が少年に注目をしているなか、白い兎のような少年も事態が飲み込めてないのだろうか、おろおろと緊張しているのが目に見えてわかる。

 

そんな少年の様子を楽しんでいる神は構わず次の言葉を続ける

 

「うちらの新しい家族やでみんな仲良くしたってーな!とゆうことで自己紹介や」

 

「ベル・クラネルです!よろしくお願いします!」

 

ベルは大きな声名前を言う

 



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9話感謝

 

 

「ようこそベル・クラネル。ロキ・ファミリアへ」

 

金髪のパルゥムが手に持っていたお酒を置き僕に微笑む。

その両隣に座っている美しいエルフの女性と、豪快に笑うドワーフの男性も僕の方へ顔をむけている。

 

「さて自己紹介から始めよう、僕はフィン・ディムナ。ロキ・ファミリアの団長をしている。こっちはリヴェリア、それとガレスだ」

 

「リヴェリアだ、副団長をしている」

 

「ガレスじゃ。よろしくなベル!」

 

この3人がロキ様から聞いていた始まりの3人だと知る。

種族が違い衝突しあっていたと聞いていたが今はその様子は微塵も感じない、むしろお互いを信頼しているようだと見て感じるほどだ。

 

自己紹介を受け僕は今日ミノタウロスから助けてもらった事についてお礼を言わなければと思ったがそれより早くフィンさんの口が開く話しだす。

 

「さて君の話しを聞く前に一つ謝らなければならないことがある」

 

先ほどの笑顔とは変わり真剣な表情になる3人。

 

僕は何事かと身構える。もしかしてロキ・ファミリアを追い出されるんですか⁉︎

 

「僕たちは君を死なせてしまうところだった。ファミリアを代表して謝罪させてほしい」

 

フィンさんがすまなかったと言いながら頭を下げる。

 

突然の謝罪に僕は驚く。

いったいなぜ僕は謝られたのかわからかった。僕はミノタウロスから殺されかけたお礼を言うつもりであった、しかしフィンさんの口からは謝罪の言葉が出る。

 

「なんや、どうゆうことやフィン」

 

僕より先にロキ様がフィンさんに問いかける。

他のファミリアの方々はなぜフィンさんが謝罪をしているのか理解しているのか疑問に思っている人はいなさそうだ。

 

「私から説明しよう」

 

リヴェリアさんが僕とロキ様にダンジョンで起こったことを説明する。そうして初めて僕がダンジョンの上層でなぜミノタウロスに襲われたかを理解した。

 

「なるほどな。逃げるミノタウロスか」

 

「あぁ私たちもイレギュラーに対応できず咄嗟の判断が遅れてしまった。その結果多くの冒険者を危機に晒し一人の冒険者を死なせてしまうところだった」

 

「その中で唯一の被害者が彼だった。血まみれでアイズが運んできた時は肝が冷えたよ」

 

リヴェリアさんからの話を聞き終えてからロキ様は、うんとうなづきベルの方を向く。

 

「ベルすまんかったな。怖い思いをさせてもうた」

 

ロキ様からも謝罪をされる。

しかし僕の思いは変わらない、ありのままの思いを伝える。

 

「確かにミノタウロスはすごく怖かったです。確かに僕は死にかけたかもしれませんが、だからといって皆さんを恨むことなんてありません。むしろミノタウロスから殺されそうになる僕を助けてくれて感謝しています。僕を助けてくれて本当にありがとうございました。」

 

僕は頭下げロキ様やフィンさん、ロキ・ファミリアに感謝をのべる。

 

「どうやらロキの見る目もまだ捨てたもんじゃないようだなフィン」

 

「あぁそうだねリヴェリア」

 

僕が頭を上げるとフィンさんと目が合う

 

「ベル・クラネル。君の寛大な心に感謝する。僕たちからこれ以上は何も言わない、たがせめてお詫びをさせてほしい」

 

「断るのはなしやでベル、うちらの顔を立てると思って受け取るんやで」

 

「わかりました」

 

僕はうなづく。

 

 

 



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10話英雄願望

 

 

「うちのルールはロキからもう聞いているかい?」

 

尋ねるとベルは首を何度も縦に振る

 

「そうかい、ならかたい話はここまでだ。お詫びの件は改めて後日落ち着いてからでもいいかい?」

 

「はい大丈夫です」

 

「ありがとう。それじゃあ今日は新たな家族が増えた歓迎会だ、ベル楽しんでくれ」

 

そう言うとベルは少し緊張が和らいだのか少し笑みが浮かんだ。

 

ロキとリヴェリアやガレス、そしてベルとたわいもない話をしながら食事を取る。

途中ロキとの出会について聞いてみるとベルは言いづらそうにしていたが、ロキから入団する前ロキ・ファミリアで足蹴にされた事を教えてくれた。

あらためて僕は謝罪し、ベルが気にしてないと言う、先ほどと同じようなやりとりが行われた。

そしてベルがロキに拾われた時の話を聞きふと興味がわいたのでベルに聞いてみる。

 

「これは僕の興味なんだが、君はどうして遠いところからオラリオまで来て冒険者になりたかったんだい?」

 

僕たち冒険者は死と隣り合わせだ。

個人の差はあれど、皆目標や野望などを持っている。僕にも一族の復興の為【勇者】であり続けている。少しベルと話しただけだが、ベルはいい意味でも悪い意味でも純粋すぎると感じた、そんなベルが何を思い、オラリオ来て冒険者になったのか。

 

ベルは僕の目を見て答える。

 

「僕は英雄になりたいです」

 

ベルは答えた。

 

「僕は守りたいと思う全てのものを守りたい、絶対に失いたくないから。だから僕は全てを守って、みんなが笑っていられるようなそんな英雄になりたいです。」

 

はたしてこの少年は本当に半日前ミノタウロスに殺されかけた少年なのか。

駆け出し冒険者が、いや駆け出しでなくとも、あそこまで瀕死の状態になったものが、ダンジョンに恐怖し潜れなくなる事、武器を握れなくなる事など少なくない。

しかしこの少年の目に恐怖などは一切感じられない。

むしろ自分のなりたい者をしっかりと見据えている。

 

「英雄に、なりたいか……」

 

「はい」

 

つい先程自分の名前を言うのに緊張していた少年が、どうしてこうもあっさりと英雄になりたいと言えるのか。

 

「くく、ふっ………あっはっはっは!」

 

久しぶりに大きな声を上げて笑う、それに驚いたリヴェリアやガレスがどうしたのかと怪訝そうな表情でこちらを見ている。

ベルも自分の言葉に僕が笑ったと思ったのか少し照れた様子だった。

 

「いや失礼ベル、決して君の事を笑ったわけではないんだ」

 

僕は酒を一気に飲み干す。

 

「まったく今回は本当に君を連れてきたロキに感謝しなきゃな、君に期待しているよベル」

 

こんなに気分が良い日は久しぶりだ。

 



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11話はじめまして

 

 

フィンさんが大きく笑った後リヴェリアさんやガレスさんとも話をしてを楽しんでいると二人のアマゾネスの女性が近づいてくる。

 

「フィンそろそろ新しい子を私たちにも貸してよ〜!」

 

「すいません団長、アイズがすごくこの子を気にしていて、この子を連れて行ってもかまいませんか?」

 

二人の来た方向に目を向けると、ダンジョンで死ぬ間際目の前に現れた精霊が少し離れた席に座っていた。

 

いや精霊ではなくアイズさんだ。記憶にあるのは後ろ姿ではあるが、あの金色の髪を見間違うはずはない。

 

てゆうかめっちゃこっち見てる、超見てる。

 

「アイズが全然ご飯とか食べてなくて。多分謝りたいんだと思うんだ」

 

「そうか、ベルすまないが行ってやってくれないか」

 

リヴェリアさんが少し申し訳なさそうに僕に言う。

 

「そうだねベル僕たちだけでなく他の団員とも顔を合わせておくと良い」

 

フィンさんにも言われ僕はアマゾネスの二人とアイズさんが、座る席に移動する。

 

「ありがとね兎くん、あたしはティオナだよ!」

 

「ごめんなさいね、私はティオネ。一応この子姉よ」

 

一応とはなんだーとティオナさんが言いながら空いている席に座るとティオネさんも座る。このテーブルには僕とティオナさんとティオナさん、そしてアイズさんが座っている。

 

「ベル・クラネルです。よろしくお願いします」

 

簡単な挨拶を済ませたが肝心なアイズさんはずっと黙ったままで何も言わない、けど視線はずっと僕の方に向けている。

 

そんな様子に見かねたのかティオネさんがアイズさんに言う。

 

「ほらアイズ、言いたいことがあるなら言っちゃいなさいよ」

 

アイズさんの背中を押すとゆっくりとアイズさんが話し出した。

 

「アイズ、……です」

 

僕は黙ってアイズさんの次の言葉をまつ

 

「その…ミノタウロスを逃したのは私で、君にすごく怖い思いをさせてしまって…、ほんとにごめんなさい」

 

アイズさんはそう言って謝るが、決して僕はアイズさんに謝ってほしいわけではない。確かにミノタウロスに追いかけられたのは怖かった。でもそれは決してアイズさんのせいでなく、ダンジョンでモンスターに襲われるのは当たり前の事なのだ。

 

それに僕がもう少し上手く逃げれたら、もう少し強かったら死にかけることもなかった。僕は先ほどフィンさんやロキ様に言ったように感謝しているとアイズさんに伝える。

 

「ありがとう、ベル」

 

気持ちが晴れたのかアイズさんの表情も少しだけ笑みがごぼれる。

 

アイズさんはテーブルにあったジャガ丸くんを二つ手に取って一つを僕に渡した。

 

「一緒に食べよ」

 

そう言うとアイズさんはジャガ丸くんを一口食べると。

 

「もし何かあったら言ってね、私にできることなら力になりたいから。約束だよ」

 

そんな約束をした。

 

無事アイズさんの調子が戻ったのかティオナさんとティオネさんも安堵する。

 

その後ティオナさんと英雄譚の話をしたり、ティオネさんからフィンさんへの愛を半強制的に聞かされたり、リューさんが声をかけてくれたり、いろいろな人が僕にお酒を注ぎにきたりしてほんとに楽しい時間だった。

 

気づいたら僕はお酒に潰れたのか、目を覚ますとに黄昏の館の自分のベッドだった、けど僕はあの日を絶対に忘れないだろう。

 

 

 

あなたと初めて話した日を

 

 

 



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12話スキル

 

 

ベルの歓迎会から少し日がたちギルドに遠征での報告等、落ち着いてきたころ幹部の招集がかけられた。

 

団長室に向かい中に入ると既に私以外の全員が集まっていた。

 

空いている席に座るとフィンが口を開く。

 

「さて、改めて今回の遠征はご苦労だったね、やっと落ち着いて来たから報告と相談がある、まずは新種のモンスターの対策についてだ」

 

フィンはリヴェリアとガレスに目配せをすると最初にリヴェリアが話し出す。

 

「あのモンスターの体液が強力な溶解液になっているのは身をもって経験しただろう。対策を打たなければまた二の舞に踏む事になる。実際にティオナのウルガが溶かされていて有効打が魔法のみしかない」

 

「そうじゃ、だから次の遠征ではへファイストスファミリアへ協力を依頼した。内容は不壊属性の武器の作製と、次の遠征の同行を依頼しておる」

 

「既にロキと共にへファイストスファミリアに直接依頼を行い、同行が決まった」

 

そのままフィンたちは次の遠征での動きを細かく説明し、準備を進めるよう私たちに指示を出す。

 

「だいたいこんな所かな、次ダンジョンに潜るのはおよそ1ヶ月後になる、へファイストスファミリアに依頼している武器が揃い次第もう一度未開拓領域59階層を目指す」

 

フィンが言い終え各々が頷く。

 

私も気合が入る、遠征まで自分の実力をあげようと考える。しかし現状私のステータスが伸びてない事実に悩んでいる。

 

どうしたものかと考えるがわからない。

 

リヴェリア達にも相談はしてみたが休むことも大切だと言う………

 

「さて遠征については進捗が進み次第また話そうと思う」

 

フィンは咳払いをして話を区切る。

 

「次はベルについての話だ」

 

次の遠征までどのような訓練をしようか考えていると、フィンから出た言葉に少しだけ驚く。

 

ベルの話とはなんだろうと考える、お詫びの件は確かまだ決まってはいなかったと思うが、わざわざ幹部を全員集めてする程の話なのだろうか?

 

「あの兎野郎の事で何の話があんだよ」

 

ベートさんも同じことを思ったのだろうか?若干の苛立ちが混じった声でフィンに尋ねる。

 

「ここからはうちから話させてもらうで」

 

先ほどまで隅で黙って話を聞いていたロキが今日初めて話し出す。

 

「ベルがミノタウロスに襲われた次の日なんやけどな、つまりあの歓迎会の次の日や、ベルに当面の間休養も兼ねてダンジョンに潜るのを禁止にしてなステータス更新だけしたんやけど、なんとまさかびっくりやスキルが発現しとったんや!」

 

ロキが大袈裟に演技をしながら手を話したかと思いきや突然真顔になり最後に一言つけ足す。

 

「そのスキルがまじやばい」

 

ロキの言い方からレアスキルが発現したと悟る。

 

「勿体ぶらずさっさと教えろ」

 

ベートがそう言うとロキは一枚の紙を取り出す。そこに書かれていた内容を見た私たちは驚愕する

 

 

 

【英雄願望】

 

・能動的行動に対するチャージ実行権

 

 

 

【憧憬一途】

 

・早熟する。

・懸想が続く限り効果持続。

・懸想の丈により効果向上

 

 

 

 

「なんだよ、このスキルは」

 

「早熟するってどういうこと?」

 

「すごいね兎くん、二つもスキルが発現してるよ!」

 

皆がその内容に驚きを隠せずにいる中フィンが口を開く。

 

「正直僕もロキからこのスキルを見せられた時は目を疑ったが実際に更新の時一緒にいたリヴェリアも直接見ている」

 

リヴェリアが頷く。

 

ロキがうちの話は信じられんのか〜と嘆いている。

 

「さてここからが本題だ、ベルの扱いをどうするかをみんなに相談したい」

 

「ベルの扱いってどう言う事フィン」

 

ティオナがフィンに尋ねる

 

「こんなレアスキルを遊ばせておくのはいささか勿体ないと思ってね、僕個人としてはこれからベルを徹底的に育て上げたいと思っている」

 

「それって」

 

「おそらくこのスキルはステータスに対しての上昇、成長を促進するスキルだと思う。おそらくベルは通常の冒険者より早くステータスが上がっていくだろう。だがそれゆえに危険だ」

 

「ステータスが上がるのが早ければモンスターとの戦闘も有利にはなるが、その分知識や経験が浅くなる、ダンジョンにおいてステータスが高いだけで知識が経験が浅いまま、生き残れるほど甘くはないからな」

 

フィンやリヴェリアが言うように、ダンジョンでは強さはもちろんダンジョンに対しての知識、経験がなければ生き残れない。

私たち冒険者は時間をかけ築いていく知識や経験をベルのスキルはそれをすっ飛ばして強くなれるのだろう。

 

「それにもう一つのスキル【英雄願望】についも不明のままで詳細はまだわかっていない」

 

「せやからな、監督兼訓練相手をつけようと思うんや」

 

なるほど。

 

ロキ達の話は概ね理解した、そして私に何ができるだろうと考える。ベルの修行相手をしてあげたいとは思うが、自分がベルにうまく教えることができるか正直わからない。

 

私が考えているうちにリヴェリアが話し出す。

 

「知識面に関しては私が面倒を見よう。レフィーヤと一緒に学ばせればあの子にも刺激になるかもしれん。しかし訓練の相手は魔導師である私が見るよりも別の人間に任せたいのが…」

 

そこでロキとフィン、リヴェリアやガレスが私を見ていることに気づく。

 

「アイズ、君に訓練の相手をお願いしたいと思っている。もちろん強制ではないよ」

 

彼の力になりたいと思っていた私にとって是非もない提案に驚きながらも答える。

 

先程まで自分がどうすれば強くなれるか考えていたが、それを差し置いてでもベルの訓練の相手を引き受けたいと思った。

 

「任せて」

 

きっとベルの訓練をしている間は自分の訓練は中々出来ないだろうけど、それでも一切の迷いなく私は答えた。

 

「ありがとう助かる。ちなみにベルへは【英雄願望】のスキルは伝えているが【情景一途】のスキルは教えていない。今はまだここだけの話で収めてもらいたい」

 

こうして私とベルの訓練がこれから始まる

 

その訓練がロキファミリアの間で兎狩りと言われるようになるのは先の話

 

 



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13話零歩目

 

剣を振るう、弾かれる。

距離を詰める、蹴りを喰らう。

距離を取る、詰められる。

ガードする、吹き飛ばされる。

剣を振るう、カウンターをくらう。

 

何度気絶しては貴方に立ち向かっただろう。

 

意識が覚醒するたび僕はあなたに吠える。

 

「もう一度!」

 

エルフの少女に見守られながらまたあなたに向かっていく。

 

時刻は日が出る前の早朝、黄昏の館中庭である。

 

僕がなぜこのような事になっているかは少し前に遡る。

 

 

 

 

 

「おはようベル」

 

朝食をすませてから食器を片し自室に戻ろうとしたところを、後ろからフィンさんに声をかけられ振り返る。

 

「待たせたね、君の今後について話がある。今から一緒に来てくれるかい」

 

この一週間ほど死にかけたということでダンジョンに潜るのを禁止され、家族にダンジョンについて学んだり、一人トレーニングをずっとしていたがついにダンジョンに潜れるかと思い心が弾む。

 

「おや、ずいぶん嬉しそうな顔だね。この一週間は退屈だったかい?」

 

顔に出ていたのか、フィンさんが揶揄うように僕に言う。

 

「ずいぶん待たせたしまったね、君の休養もそうだが遠征の報告や物資の調達などがあって、なかなか手がまわらなったんだが。すまなかった」

 

「いえそんなことは、僕もこの一週間でダンジョンの事を学ぶ事が出来ましたし、他の家族と話す事ができたので楽しかったです。」

 

「そうか、ここではうまくやれそうかい」

 

「はい!」

 

そんな会話をしながら団長室に到着してフィンさんが扉を上け中に入る。

 

中に入るとロキ様もリヴェリアさんアイズさんがいた。

 

「お〜ベルおはようさん、ここに座り」

 

ロキ様の横に座る。

 

対面にフィンさんとアイズさんが座った所でフィンさんが話し出す。

 

「さて早速だが本題から話すよ。さっきも言ったが君の今後についての方針が決まった。先に言っておくが強制ではなく提案だ、第一は君がダンジョンで生き残れるようになるためにする事だ、君が嫌だと思えば断っても構わない」

 

僕が頷くとフィンさんが続けて話す。

 

「まずダンジョンに潜る前に君に戦い方とダンジョンの知識を叩き込むもうと思う。戦い方に関してはアイズ、知識についてはリヴェリアに見てもらうとする」

 

僕の教育の為に幹部のアイズさんと副団長リヴェリアさんがわざわざ見てくれると言うフィンさんに驚く。

 

「どうして僕のため二人が⁉︎」

 

驚いた僕を宥めるようロキ様が背中を優しく叩きながら言う。

 

「それにはちゃんと理由があるから最後まで聞き」

 

深呼吸をするようロキ様に言われる。

 

そして落ち着いたところで再びフィンさんが話し出す。

 

「落ち着いたかな?うんそれじゃあ続きを話していくよ。君のスキルについて現状何もわかっていないから二人をつけようと考えたんだ」

 

窓際に立っていたリヴェリアさんが少し近づき話し出す。

 

「私なりにそのスキルについて調べて見たんだが、予想はできるがはっきりとした事はわからくてな、スキルがはっきりわからないうちは何があっても対応できるように戦闘訓練はアイズが適任だと判断した」

 

「それに座学についてはリヴェリアがつきっきりで教えるわけでなく基本は書庫で自習だ、立場上リヴェリアも多忙だからね、ただたまに僕も顔を出させてもらうよ」

 

なるほどそう言うことか。

 

 

 

【英雄願望】

 

・能動的行動に対するチャージ実行権

 

 

 

確かに僕はこのスキルについて自分自身でもわかっていない、

 

「英雄願望……」

 

「あぁ、君の思いがスキルに現れたんだろう」

 

僕の思い。

僕の目指すべきもの。

 

 

【 英雄 】

 

 

今はまだ全然果てしなく遠いけど

 

憧れの貴方に教えてもらえるなんて是非もなく

 

「で、どうやベル。最初も言うたが強制ではないで」

 

「よろしくおねがいします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はここまでだね」

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

日が顔を出し、ちらほらと家族のみんなが食堂へ向かいだす時間に訓練が終わる。

 

満身創痍の僕は返事もできないまま前に倒れこむ。体力など一切残っておらず自分の足で立つのもままならない状態まで追い込まれる。これがここ数日アイズさんとの訓練の内容である。

 

アイズさん曰く口で教えるより闘う方がいいと。

 

毎回訓練が終わるとポーションを浴びせられ体の傷は癒えるが、体力までは戻らない。いつのまにか僕を介抱する様になったレフィーヤさんが僕を支えながら食堂へ向かう。

 

「またこっぴどくやられましたねベル」

 

こんな調子がここ数日続き、朝食は僕、アイズさん、レフィーヤさんでとる事が自然となった。

僕は昼からの座学の為体力を回復するため、およそ朝食とは言えないほどの量の朝食を取る。

 



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14話妖精の悩み

 

 

最初は謝らなきゃと思っていました。

 

私がすぐ魔法を打っていればミノタウロスを逃してしまうことなんてなかったから。

 

血だらけのあなたが担ぎ込まれた時は本当に驚きました。

 

逃したミノタウロスにやられたと聞いた時は罪悪感でいっぱいで胸が苦しかったです。

 

ティオナさんやティオナさんは私のせいじゃないと言ってくれましたが、気にしないなんて全然出来ませんでした。

 

次にあなたを見たのは豊饒の女主人でした。

 

入口から入って来た時すぐに気付きました。

 

なぜ?とか、どうしよう。謝らなきゃとか、頭の中はごちゃごちゃして動けなくって。

 

気づいたらあなたロキ様の横にいて私たちの新しい家族になっていて。

 

すごくびっくりしました。

 

けど私の胸は苦しいままでした。

 

団長が謝っていましたけど、本当は私が謝らなきゃいけなかったんです。

 

けど私は怖かったんです。

 

私のせいで死にかけた貴方に謝る事が。

 

けど貴方は団長を責めるどころかお礼を言うなんて。

 

少しだけ胸の苦しみが取れた気がしました。

 

けどまだ胸は苦しいままです。

 

アイズさんも私と同じよう気にしていたのか貴方に謝っていましたが、そこでもやっぱり貴方はアイズさんにお礼を言ってました。

 

貴方に謝れないまま隅の方で時間が過ぎるのを待っていました。

 

ティオナさんとティオネさんは一緒に食べようと誘ってくれていましたが、私にはどうしても無理でした。

 

その日は謝れず、次の日も次の日も謝らなきゃと思っていました。

 

思っているだけで私は貴方に謝る事が出来ませんでした。

 

日が経っても私の胸は苦しいままです。

 

そんな中貴方の噂を耳にしました。

 

アイズさんと訓練をすると。

 

どうしてアイズさんが?疑問に思いました。

 

リヴェリア様に直接話を聞きにに行き、早朝に訓練を行なっていると教えてもらいました。

 

アイズさんはきっと貴方の力になりたかったんじゃないか…

 

アイズさんは訓練という形で貴方の力になろうとしたんですね。

 

私も貴方に何か力になれる事はないか?

 

けどまずは謝らなきゃ…

 

貴方に会いに行こうと決断して早朝中庭に向かいました。

 

何を言えばいいかわからないまま。

 

私はアイズさんが貴方と訓練をすると聞いていました。

 

しかしそこで行われていたのは訓練とはとても思えない光景でした。

 

立ち向かう貴方を容赦なく鞘で叩き、蹴り、吹き飛ばして、また立ち上がる貴方を何度も攻撃するアイズさんがいました。

 

訓練には絶対に見えないですよあれは。

 

少し様子を見ていると貴方が気絶して、それを見た私はつい怒ってしまいました。

 

アイズさんに怒るなんて初めてでしたよ。

 

アイズさんに詰め寄り、何をやっているんですか⁉︎と、

 

あんなにおろおろしたアイズさんを私は初めて見ました。

 

たまたまリヴェリア様が通りがかり、何事かと尋ねられる。

 

事情を説明すると、リヴェリア様も一度私と同じようにアイズさんを怒ったらしい。

 

けど貴方がこの方法がいいと頑なに譲らなかったそうですね。

 

そして貴方が目を覚ましました。

 

目を覚ますとアイズさんだけでなくリヴェリア様や私までいたので状況が飲み込めないでオロオロしている貴方を見ていると肩の力が抜けました。

 

貴方に向かい目を合わせてから

 

「ごめんなさい」

 

貴方はなんのことか全然わかってなかったですよね。

 

事情を話してからもう一度貴方に謝罪する。

 

貴方は笑って許してくれましたね。

 

まったく、そんなにすんなり許してもらえるなんて…

 

あれだけ悩んでいた私が馬鹿みたいじゃないですか。

 

 

 

……………ありがとうございます

 

 

 

 

お詫びというわけではないですが私も貴方の訓練を手伝いたいと思いました。

 

貴方の力になりたいと。

 

アイズさんは訓練という形で力になったように。

 

私はまだどんな形で力になれるかわからないけど。

 

アイズさんにできない事や教えれない事を私は教えます。

 

貴方が憧れに追いつける様に

 

貴方が英雄に近づける様に

 

これからよろしくおねがいしますね。

 

 

 

 

ベル

 



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15話鐘

 

 

「魔法を使ってみたい」

 

ふと口に出してしまった

 

今僕はレフィーヤさんと一緒にリヴェリアさんから魔法について学んでいる。

 

レフィーヤさんにどんな魔法が使えるのかと聞いたら、リヴェリアさんが魔法に興味があるのか?始まりはそんな感じだった

 

やはり魔法が使えるというのは憧れる。冒険者になったからにはいつか使ってみたいものだ。

 

「ベルはLv.1でスキルが発現しただけでも充分恵まれているんですよ」

 

「まぁそうだな、しかしこれから先知識や経験を積めば、もしかしたら魔法が発現する可能性はある」

 

「そうなんですか⁉︎」

 

「あぁ、魔法とは我々エルフが発現しやすいものではあるが、もちろん人間にも発現する事もある。そしてその傾向はその者の思いやイメージに近い魔法が発現する事が多い」

 

「ティオネさんなんてまさしくそうですよね」

 

レフィーヤさんが苦笑いするティオネさんの魔法ってどんなんだろう。

 

「ベルはどんな魔法が使ってみたいんですか?」

 

言われて気づく。僕はいったいどんな魔法を使ってみたいんだろう?考えるが思いつかない魔法で有ればどんなものでも嬉しいが、自分が使ってみたいものとなると思い浮かばない。

 

「ふふ、悩んでいますね。それでしたらよければ私の魔法を一度お見せしましょうか?」

 

「本当ですか?」

 

「えぇもちろん。いいですよねリヴェリア様」

 

「うむ、そうだな。どのような魔法があるか知る必要もあるな、実際に目にした方がベルのイメージもつきやすいだろう」

 

「では今度アイズさんにも声をかけて少しダンジョンに潜りましょう。流石に地上で魔法を使うと騒ぎになりそうなので」

 

そんな感じでダンジョンで魔法の見学をする事が決まった。

 

その後リヴェリア様のダンジョン講座が再開する、そして日が落ちだしてからファミリアのみんなが食堂にぼちぼち集まりだす時間になるまで講座は続く。

 

朝はアイズさんと戦闘訓練、午後はリヴェリアさんの都合が会えばダンジョン講座、いない時はレフィーヤさんがいろいろな事を教えてくれる。

 

本当に僕は恵まれている。

 

今日の講座が終わりそのままレフィーヤさんとリヴェリアさんと食堂に向かう。リヴェリアさんがいない時はレフィーヤさんと二人だ。

 

この一週間の僕の生活はこんな感じだ。

 

朝の訓練と午後の座学の時間の間は割と自由に過ごせているが、ほとんどはレフィーヤさんと行動を一緒にしている事が多い。

 

レフィーヤさんはいつも僕を気にかけてくれている。ミノタウロスの件について罪悪感があるのだろうか?僕は気にしてないと伝えのだが…

 

一度なぜここまで僕の面倒を見てくれるのか聞いたが。

 

「最初は少し手伝いたいって思ってたんですけど。アイズさんの訓練を見てたら私が支えなきゃって思いました」

 

だそうで、レフィーヤさんと過ごす事が多いです。

 

そうなると自然とレフィーヤさんと仲がいい人達とも話す事が増えました。

 

ティオナさんとは英雄譚の本を一緒に読んだりだりと交流は以前からあったが、ティオネさんはレフィーヤさんと行動する様になってから話す様になりました。

 

ティオネさんとはティオナさんのように何か共通の話をするわけではないが、妹が迷惑をかけてない?とかアイズとの訓練はどう?など僕の事を気にかけてくれていて、少しお姉さんっぽいです。

 

レフィーヤさんが言うには怒らせたら本当に怖いらしいが想像がつかない。

 

他にはエルフィさんやアリシアさんとも何度か食事を一緒にする機会もありました。

 

二人とも魔法を使えるとの事で、いつか魔法を見てみたいです。

 

今日はレフィーヤさんとリヴェリアさんの三人でテーブルに座り、今日の座学の振り返りをしながら食事をする。

 

基本食事の時間はみんなバラバラらしいのでたまに時間が合えば一緒に取る程度らしい。

 

食事をとり終えた後はレフィーヤさんと別れ、二回目の風呂に入る。一回目は朝の訓練が終わった後に入っている。

 

そうして今日一日が終わろうとしている。僕は窓際に座り窓を開け空を見上げる、心地いい風が吹くなか時間が過ぎるのを待つ。

 

心地よい疲労感でうとうとしながら僕はオラリオの鐘を聞く。

 

オラリオでは日付が変わる0時に鐘が鳴る。

 

今日も鐘の音がオラリオに鳴り響く。

 

僕はこの鐘の音が好きでなるべく鐘の音を聞いてから寝るようにしている。

 

 

 

 

 

………………おやすみなさい



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16話成長

 

 

剣を振るう、弾く。

距離を詰める、蹴りで止める。

距離を取る、詰める。

ガードする、そのまま吹き飛ばす。

剣を振るう、カウンター。

 

何度立ち向かう君を気絶させてしまっただろう。

 

目を覚ますたび君は向かってくる。

 

「もう一度!」

 

今日もレフィーヤが見守る中、君が向かってくる。

 

時刻は日が出る前の早朝、黄昏の館中庭。

 

ベルの剣を捌きながら少しづつベルの余裕を奪っていく。

 

ベルは一撃一撃は軽いがスピードがあるため、ヒット&アウェイのスタイルを教えた。

 

敵を翻弄し弱らせてからとどめを刺す。

 

ベル自身戦闘は全くの素人だった。

 

私の拙い言葉を素直に聞き入れてくれた。

 

訓練はひたすらベルに攻撃をさせ、たまに反撃したりとベルと戦闘を行う。

 

ただそれだけ。

 

私はフィンやリヴェリアのように口で説明ができない。

 

ひたすら戦うこれが私なりの教え方。

 

余裕がなくなってくるとベルの攻撃はだんだんと雑になってくる、私は剣を弾きベルの体制を崩す。

 

ベルは体制を崩すと、必ず距離を空けようとする癖がある、それに合わせて距離を詰めようとしたがそこで私は驚いた。

 

ベルは崩れた体制を即座に立て直して、剣を持っていない方の左手で拳を握ると、距離を詰めようとした私の顔に合わせて反撃をする。

 

「っ、甘いよ」

 

身を翻しその勢いで回し蹴りを放つと、ベルが吹き飛んでいく。

 

倒れたまま動かない様子を見ると気絶してしまったようだ。

 

しかし今の蹴りは咄嗟に出た為、思いの外いいのが決まってしまった、なんとか手加減はできたが心配になりベルのもとへ歩く。

 

「ベル!!」

 

レフィーヤも今のはまずいと察したのだろうか慌てた様子でベルのもとへ駆け寄る。

 

ベルのそばにレフィーヤは座り、慣れた手付きでベルを介抱する。

 

レフィーヤは今日はもうダメそうですねと言いながら、ベルの頭を自分の膝に乗せて少しづつポーションをベルの口に流し込む。

 

「ごめんねレフィーヤ」

 

「いいですよアイズさん、私が好きでやっている事なので」

 

いつからかレフィーヤは私たちの訓練に顔を出すようになりベルの手伝いをしてくれる。

 

私とベルの訓練はこの時間だけだが、レフィーヤはリヴェリアの座学の時間もベルと一緒に受けているらしい。

 

「それにしても、今のはずいぶんいい蹴りが決まりましたね」

 

レフィーヤがジト目で私の方を見ながら言う、たまらず私は目を逸らす。

 

「そんな目で見ないでレフィーヤ」

 

「ふふ、ごめんなさい。ですけど今のは絶対にベルは反応できないと思いますよ、私でも反応できるか」

 

「うん、ついやっちゃった…」

 

まさかあそこでベルが反撃してくるとは思わなかった。

 

今までベルは剣での攻撃しかしてこなかったので意表を突かれ驚いたのと、私は反撃ができるほど弱く剣を弾いたつもりはなかった。

 

凄い速さ成長している。

 

もしかしたら私以外の誰かとも訓練をしているのだろうか?少し前までは痛みに耐える事でいっぱいだったのに…

 

ベルの成長を感じる事ができ嬉しくもあるが…

 

 

どうして君はそんなに早く強くなれるの?

 

 

『英雄になりたいです』

 

思いの強さ。

 

自分の目指す場所がはっきりしている君が少し羨ましいと感じてしまう。

 

私はいったいどこに向かっているんだろう。

 

強さだけを求めた私と目指すものがあって強くなりたい君の違いはなんだろう。

 

君はいったい…

 

「どうしたんですかアイズさん」

 

レフィーヤが心配そうな顔で私の方を見ている。

 

「ごめんレフィーヤ」

 

「いえ、ただ少し表情が暗かったので」

 

レフィーヤを安心させるように大丈夫と言ってレフィーヤに一つ提案をする。

 

「ねぇレフィーヤあっちの木の下に行かない?」

 

「もちろんかまいませんがどうしたんですか?」

 

「少し眠くなってきたからちょっとだけ寝よう」

 

木の下はなだらかな傾斜で芝生になっていて為寝るには快適な場所になっている。

 

「ふふっ、もちろんです。このうさぎさんも起きる気配がありませんし移動しましょうか」

 

レフィーヤの膝で寝ているベルをお姫様抱っこ?(ロキが言ってた)で運び3人で川の字になって寝る。

 

ベルが真ん中で私が左側、レフィーヤは右側で朝日が出る前の少しの時間私たちは眠った。

 

 

 

 

あれから朝日が昇りベルの驚く声に起こされた私とレフィーヤは、ベルと一緒に食堂へ向かう。

 

レフィーヤは水とパンとサラダ。ベルはとにかくたくさん。私はサンドイッチとジャガ丸君をテーブルに置き3人で朝食をとる。

 

「ベル、私の動き少しづつついてこれるようになってきたね」

 

「本当ですか?」

 

「えぇ、最初に比べるとずいぶん反応できるようなっているのが見ててわかりますよ」

 

「うん。あと思ったんだけど、他の武器も使ってみない?」

 

「他の武器ですか?」

 

「うん」

 

戦闘の基礎を教える為に剣を使わせていたが、今日の訓練で反撃ができる程度には戦闘に慣れてきたのでそろそろベルに合った武器を見つけてみようと提案する。

 

「そうですね。何の武器が自分に合っているかは使ってみないとわからないですからね。ちなみに私は杖と短剣を使います」

 

「なるほど自分に合った武器ですか。全然考えてなかったです」

 

「なら明日何種類か武器を持ってくるから、それで戦ってみよう」

 

「わかりました」

 

そんな話をしながら朝食を食べ終わる。

 

二人と別れてから明日の為にどんな武器を持っていこうかと考えながらファミリアの倉庫に向かう。

 

君はどんな武器を気にいるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 



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17話怪物祭

 

 

〜ロキ・ファミリア《食堂》〜

 

「怪物祭って何ですか?」

 

いつものよう朝の訓練を終えてからアイズさん、レフィーヤさんそして今日はティオナさんとティオネさんも一緒朝食を取っているとティオナさんが「一緒に怪物祭に行こー!」と言う会話から始まった。

 

「そっか、そういえばベルはつい最近オラリオに来たばっかりだったわね」

 

「怪物祭って言うのはね、ガネーシャファミリアがダンジョンから連れてきたモンスターを調教を行うショーがあるんだけどね!屋台や露店なんかもたっくさんでててすごい盛り上がるんだよ!」

 

オラリオに来てからまだそういった催し物は経験初めてなのでティオナさんの話を聞くとすごくワクワクしてした。

 

「僕行ってみたいです!連れて行ってもらえますか?」

 

「もちろん!みんなで回った方が絶対楽しいもんね!」

 

「そうね、私も本当は団長と一緒に行きたかったんだけど団長は忙しくてこれないのよね、それにベルの事を頼まれたしね」

 

最近知ったのだがティオネさんはフィンさんから僕の面倒を見るように言われているそうだ。

 

フィンさんにも直接聞いてみたのだが『僕の勘だけど、ベルとティオネは相性がいい気がする』との事だ。

 

なのでティオネさんは僕の面倒をよくみてくれる。

 

「アイズとレフィーヤも勿論一緒に行くわよね?」

 

ティオネさんが二人に尋ねると二人はどうやら浮かない顔をしていた。

 

「ごめんティオネ、怪物祭はロキの護衛で一緒に行けないの」

 

「えー!アイズ来れないの⁉︎何で⁉︎」

 

「罰だから」

 

「罰なんです」

 

アイズさんが来れないと聞き僕も少しショックを受ける。レフィーヤさんも僕以上にショックを受けているのかかなり落ち込んでいるのが見てわかる。

 

「そう、しょうがないわね。アイズもし合流出来たら一緒に回りましょ」

 

「うん」

 

アイズさんと一緒に回れないのは少し悲しいが、それでも凄く楽しみだ。

 

「あっでもベルはずっとダンジョンに潜ってないからお金ないんじゃないですか?」

 

「そういえば…」

 

レフィーヤさんに言われて初めて僕は今手持ちが一切ない事を思い出す。

 

今僕はダンジョン禁止令が出ている。ダンジョンにはあの一件以来一度も潜ってないので手持ちが一切ない。

 

普段ホームの中で過ごしているとお金が必要になる事がないので今まですっかり忘れていた。

 

「別にそれくらい私が出してもいいわよ」

 

「いやいやいや、そんな訳にはいかないですよ!」

 

「そうですね、甘やかしすぎは私も反対です」

 

「でもダンジョン禁止にされてたらお金なんて稼げないじゃん」

 

「フィンに一度聞いてみる?ベルの今の実力だと多分4階層ぐらいはソロでも平気だと思う」

 

「そうね一回団長に聞いてみようかしら」

 

そんな会話をしながら朝食も食べ終わり、お小遣い稼ぎの為ダンジョンに潜ってもいいか、フィンさんに聞聞きに行く為そみんなで団長室に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「別にいいんじゃないかな」

 

フィンさんの口からすんなりと許可が降りる。

 

「まぁ目的はベルの安静の為だったんだが

、そもそもアイズの訓練を見る限りそこまでに意味があるようにも思えないしね」

 

アイズさんを見ながら悪戯な笑みでフィンさんは言う。

 

アイズさんは目を逸らした。

 

「ただし念の為に一人でダンジョンに潜るのはまだ禁止にしておくよ、必ず誰かと同伴する様に」

 

「わかりました」

 

ティオネさんはフィンさんも一緒にどうかと誘った。しかしまだ片付ける仕事があるそうで断られていたが、次があればまた誘ってほしいと言ってフィンさんは僕たちを見送る。

 

「じゃあベル行こっか」

 

そうしておよそ三週間ぶりのダンジョンへ向かう。

 

 

 

 

 

ギルドに到着してエイナさんに挨拶をしてから僕たちは4階層でお金を稼ぐ為モンスターを狩る。

 

まぁお金を稼ぐのは僕たちではなく僕なんだけど。

 

今の僕の装備は短剣一本。

 

防具はまだ買うお金がなく、ダンジョンに潜ることもなかったので持っていなかったので装備していない。

 

「今度一緒に見にいきましょうね」

 

レフィーヤさんとそんな約束をした。

 

短剣はアイズさんがくれたものだ。

 

数日前、色々な武器を試すためアイズさんと模擬戦をした際、短剣がこれまで使った武器の中で一番手に馴染んだ。

 

そうして僕は短剣を使うのがいいとアイズさんとレフィーヤさんから後押しされて、アイズさんが僕にプレゼントと言って貰った。

 

性能はそこそこで駆け出し用との事で、使い込まれた形跡もある。

 

曰く自分に合っていない強すぎる武器を持つと、腕が伸びなくなるそうでまずはここからとのこと、成長したら合わせてまたプレゼントすると約束してくれた。

 

そして僕はその短剣を振るいモンスターをひたすら倒していく。

 

「やるわねベル、なかなかじゃない」

 

「この階層は問題なさそうですね」

 

最後のモンスターを倒してからティオネさんとレフィーヤさんが魔石を回収しながら後ろから歩いて近づいてくる。

 

アイズさんはティオナさんが借金返さないと〜!と言ってダンジョンの中層まで降りるとの事で一緒着いて行ったので別行動をしている。

 

ティオネさんとレフィーヤさんはお金には特に困ってないそうで僕のサポーターとして一緒に行動してくれている。

 

「その調子だともう少し下まで潜っても大丈夫なんじゃないかしら」

 

「そうですねもう少し下に潜った方が換金率も上がりますし。どうしますかベル?」

 

正直アイズさんとの訓練のおかげかまだ余裕があるので返事をして三人で5階層へと向かった。

 

「一つ聞いてもいいですかベル?」

 

「なんですか?」

 

五階層へ向かう途中レフィーヤさんに止められる

 

「ベルはダンジョンが怖くないんですか?」

 

真剣な表情でレフィーヤさんに尋ねられる

 

ミノタウロスの事もありレフィーヤさんは僕の心配をしてくれているのだろうか?

 

僕はレフィーヤさんに正直に答える。

 

「怖いですよ」

 

レフィーヤさんが驚きの表情を浮かべる

 

今は二人がいるから大丈夫だけど、一人だと僕はきっと怖くて一人では上手く動けないないじゃないか

 

今日までダンジョンに潜らなかったのはお金が必要なかったのもあるけど、僕はまだ怖かったんだダンジョンが。

 

「今は大丈夫なんですか?私たちの事は気にしないで無理に下に進まなくてもいいんですよ」

 

レフィーヤさんが心配そうな顔で戻る提案をするが僕は…

 

「皆さんがいますから大丈夫です」

 

頬をかきながら僕は続ける

 

「僕はまだ皆さんに比べてまだまだですけど、いつか絶対に追いつきたいですし。それに…

 

「それに?」

 

「レフィーヤさんがいてくれるから僕は怖くても前に進めます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ〜疲れた〜」

 

ティオナさんが腕を上に伸ばしながら先頭を歩き、横にティオネさんとレフィーヤさん。

 

僕とアイズさんは少し後ろで前の三人について行く形になっている。

 

「久しぶりのダンジョンはどうだったベル?」

 

「アイズさんやリヴェリアさんのおかげで最初に比べてものすごく動きやすかったです」

 

「そう、ならよかった」

 

「はい!それにこの短剣も手にすごく馴染んでくれて使いやすかったです。本当にありがとうございます」

 

レフィーヤさん達は少し寄るところがありますと言い別れそのままアイズさんと二人で黄昏の館に帰宅する。

 

レフィーヤさんはあの後「そうですか」と言って何やら考え事をしていた様だが大丈夫だろうか

 

もしかして変なことを言ってしまっただろうか…

 

そんな事を考えたが黄昏の館に帰り着き自分の荷物を部屋に置く

 

まだ日が落ちてない時間ではあるが明日の怪物祭の為早めに休もうと思い、入浴場で体を綺麗にしてから早めに夕食を取る。

 

そしてロキ様のもとへステータス更新に向かった。

 

主神室の前までつきドアをノックをしてから中に入る。

 

「おーベル今日は早いなー」

 

中に入るとロキ様が片手を上げ迎えてくれる。

 

アイズさんと訓練が始まってからステータス更新に頻繁にくるようになり僕はベットに向かい服を脱ぎ横になる。

 

「最初は服を脱ぐだけであんなに恥ずがっていたのにな〜」

 

「流石に僕も慣れますよロキ様」

 

いつものやりとりをしながらステータス更新を終えてから部屋に戻る。

 

明日の為早めに寝よう。

 

今日は鐘の音が聞けない事を惜しみながら眠りにつく。

 

 

 

 

 

 



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18話妖精原点

 

 

今日は待ちに待った怪物祭です!

 

憧れのアイズさんと一緒に回ってジャガ丸君を食べさせあったりなんかしちゃって・・・キャーーー!!!

 

………なんて思っていたんですけど

 

「はぁ〜〜〜」

 

「もー何回溜息してんのさ、レフィーヤ」

 

アイズさんはロキ様の護衛につくので、今日は一緒に回る事が出来なくなって絶作落ち込んでる私です。

 

「まったく別にアイズと会えないと決まったわけじゃないでしょ」

 

「そうですけど…」

 

黄昏の館を出てからベルとティオネさんティオナさんと歩いて向かい、もう少しで屋台がちらほら見えて来たところでティオネさんが耳打ちする。

 

「それに今日はベルを楽しませるんでしょ」

 

そうだ私はもう一つの目的を忘れてはいけない。

 

私たちの前にいる一匹の兎が後ろからでもわかるくらい浮かれて足早に進んでいる。

 

「ベ〜ル〜あんまり先に行きすぎないのよ」

 

「はーい」

 

闘技場に進むにつれ人混みが多くなってくるので、前にいるベルを見失わないように着いていく。

 

「兎君わくわくしてるね!」

 

「まったくもう」

 

私の気も知らないでベルは本当

 

「しょうがないですね」

 

それじゃ私も楽しまないといけませんよね。

 

「もう待ちなさいベル!」

 

前に進むベルに追いつくよう駆け足で追いかける。

 

「ほら一緒に行きますよ、この人混みだとはぐれたら大変なんですから」

 

「すいません」

 

「さぁ今日はめいいっぱい楽しみましょう」

 

「はい!」

 

満面の笑みで答えてくれるベルに私も笑顔になる。

 

「じゃあどこから見て回りましょうかベル!」

 

私たちは屋台が並ぶ通りに向け歩み進める。

 

 

 

 

 

 

 

ごめんなさいベル、私は貴方にもう一度謝らなきゃいけないんです…

 

 

 

 

 

 

〜闘技場〜

 

あれから沢山の屋台見て回った私たちは怪物祭のメインイベントであるガネーシャファミリアによるモンスターを調教を見ている。

 

「すごいですね!あんな大きなモンスターが冒険者の言う事を聞いてますよ!」

 

横にいるベルが興奮しながらショーを見てはしゃいでいる。

 

「ねぇレフィーヤ、いつベルにあれ渡すの?」

 

ティオナさんがベルに聞こえないように私に言う。

 

「もう少しベルが落ち着いてから渡そうと思います」

 

「そっか」

 

「ねぇ二人ともあれ見て」

 

ティオネさんの視線の先を見ると、ガネーシャファミリアの人たちが慌てた様子で走り回っている。

 

「何かあったぽいね」

 

「気になりますね」

 

「行ってみましょうか」

 

ただならぬ様子に嫌な予感を感じながら移動する。

 

「レフィーヤ!ベル忘れてる忘れてる」

 

「あっいけない!」

 

ベルを連れて行くため戻るとベルは私たちがいなくなっている事に気づかずにショーを楽しそうに見ていた。

 

「ほらベル行きますよ!」

 

「えっ⁉︎あれティオナさんとティオネさんは⁉︎」

 

「二人は先に行来ましたよ、ほら早く!」

 

状況が飲み込めていないベルの手を引いて二人の後を追う。

 

「いったいどうしたんですかレフィーヤさん⁉︎」

 

「わかりません、けどいい事ではなさそうです」

 

外に出てティオネさんとティオナさんを見つける。

 

「すいませんベルを連れてきました!」

 

「おーレフィーヤとベルもおるな〜」

 

「ロキ!」「ロキ様!」

 

二人と合流するお一緒にロキもいた

 

「じゃあ説明するで〜、簡単にゆうとー町中にモンスターが逃げよった」

 

「えっ!ほんと⁉︎」

 

「まずいじゃないですか!」

 

「うんまずいなぁ」

 

「余裕かましてる場合じゃないでしょう!今日この辺りにどれだけ人がいると思ってんのよ!」

 

「そうですよ!助けないと!」

 

「せやから任せたんや!アイズたんに」

 

ロキが指差した方を見るとそこにアイズさんがいた。

 

アイズさんは風を纏うと飛び立つ、恐らくモンスターのいる方へ向かったのだろう。

 

私たちもアイズさんが向かった先に走って追いかける。

 

アイズさんに追いつく頃には既に三体のモンスターを倒し終えアイズさんはまた飛び立つ。

 

「すごいアイズさん」

 

「この調子じゃ出る幕ないわね」

 

「今日はアイズに任せよっか」

 

「そうですよ私たち武器も持ってきてないですし」

 

「やっぱりアイズさんは凄いですね」

 

ベルは飛び立ったアイズさんに視線を外さずにつぶやく。

 

私はアイズさんがいるのでモンスターもすぐに全部退治し終えるだろう思い安堵した。

 

しかし突然地面が揺れ出す

 

すると地面から蛇のようなモンスターが現れた。

 

「何あれヘビ⁉︎」

 

「見た事ないわよあんなの!」

 

ティオナさんとティオネさんが私たちを守るように前に出る。

 

「ガネーシャ達どこから引っ張ってきたの、あんなの!」

 

「叩くわよティオナ!レフィーヤは詠唱を!ベルは下がって!」

 

「はい!」

 

二人が蛇のようなモンスターに突撃し私は詠唱の準備に入る。

 

「レフィーヤさんあっちに別のモンスターが!」

 

ベルが別のモンスターに気づく。

 

「本当ですか⁉︎」

 

蛇のようなモンスターはティオネさんとティオネさんでなんとかしてくれる。

 

私ベルと共にそちらに向かうと考えたが

 

「っく!」

 

「いったーい!何これ馬鹿じゃないの⁉︎」

 

「武器もってくればよかった!」

 

見ると二人の打撃が効いてないのか蛇のようなモンスターはまた暴れ出す。

 

もしかしたら打撃が効かない?

 

そうだとしたら魔法を使える私がここを離れるとあのモンスターの被害が広がってしまう!

 

「レフィーヤさん僕一人で大丈夫です!」

 

私が迷っているとベルが一人で別のモンスターの方へ走り出す。

 

「待ってくださいベル!」

 

なんとか手を掴みベルを止める

 

「離してくださいレフィーヤさん!急がないと街のみんなに被害が!」

 

「わかってますそんな事は!けど私が心配しているのは貴方です!」

 

私の言葉にベルが驚きの表情を浮かべる。

 

「武器も持たない貴方が行ってどうなるんですか⁉︎死ににいくだけじゃないですか⁉︎」

 

貴方を死なせたくない私の気持ちをぶつける。

 

「確かに貴方は強くなりました。けどダンジョンにほとんど潜った事のない貴方が行って、もしもの事があれば………」

 

 

貴方を止めようとするけど、私は知っている

 

「レフィーヤさん

 

貴方がなりたいもの

 

「僕が行っても何も出来ないかもしれません…

 

私じゃ止められないことを

 

「でも!

 

貴方は止まらないことを

 

「僕はみんなを守りたい!

 

だから私は…

 

「だから僕は行きます

 

貴方の力になりたい

 

「行かせてください

 

貴方が英雄になるまで

 

「お願いします」

 

私が…

 

「………わかりました」

 

止めたい気持ちを押し殺して私は一つの包みを取り出す。

 

「これを持っていってください。今日ベルに渡そうと思っていたものです」

 

「レフィーヤさん…」

 

「約束してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に生きて帰ってきてください」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

走り出すベルの背中を見送る。

 

掴んだベルの手は震えていた。

 

「レフィーヤまだぁ⁉︎」

 

「もうこれ以上は時間稼げないわよ」

 

私の詠唱を待っていた二人は傷つきながらも蛇のようなモンスターから時間を稼いでくれていた。

 

「すいません!詠唱を始めます!」

 

ベルは心配だがまず目の前のモンスターを倒してからすぐに追いかける!

 

【解き放つ一条の光、聖木の弓幹。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手。穿て、必中の矢】

 

詠唱終えモンスターに狙いを定める

 

すると蛇のようなモンスターは闘っている二人ではなく私に反応する

 

魔力に反応している?

 

気づいた時には激しい痛みが腹部に襲いかかる。

 

正面のモンスターに気を取られ地面からの攻撃に反応出来ず私は吹き飛ばされた。

 

「っ…!」

 

「レフィーヤ!!!」

 

口の中が鉄の味で広がる、体を動かそうとするが思うように動かない。

 

お腹を刺され多分貫通してる。

 

ベルに何も言えないなぁ私

 

蛇のようなモンスターの先端が開き花の形になる、中に口が見え私を食べようと近づく。

 

ティオナさんとティオネさんは触手に掴まれて動けない

 

けどなぜだろう、こんな絶望的な状況でも私は確信してしまっている

 

きっとまた、あの人に守られてしまう

 

私は変わらない……

 

風が吹く

 

花のモンスターが真っ二つに切られ私の前にあの人が現れる。

 

アイズさん…

 

アイズさんに介抱され身を起こすと、蛇のモンスターが再び地面から三体同時に現れる

 

「ちょまた⁉︎」

 

「三匹⁉︎」

 

アイズさんはすぐに戦闘体制に入りモンスターに剣を刺す

 

しかしコブニュファミリアから借りている武器が耐えきれずに壊れる

 

「アイズ!そいつは魔法に反応してるわ、風を解きなさい!」

 

「武器がなくても一人一匹相手にすればなんとかなるって!」

 

アイズさんは風がを解く。

 

しかし突然またアイズさんは風をつけモンスターに狙われる、モンスターの動きは早くアイズさんはモンスターに咥えられ投げ飛ばされる。

 

「アイズさん…」

 

「無理に動いてはだめです、治療をしないと。すぐにガネーシャファミリアから救援が来ますから」

 

助けに行こうとするが、エイナさんから止められる。

 

そして物陰に隠れている女の子を見つけた。

 

そうかアイズさんは女の子を守る為に自分に反応させるように風をつけたのか。

 

私はまた見ているだけなの

 

憧れじゃ…

 

守られているだけじゃ…

 

勇気を持たなきゃ…

 

自分の足で立たなきゃ

 

だめなんだ‼︎

 

「私は

 

立ち上がり前を見据える

 

「レフィーヤ・ウィリディス

 

倒すべきモンスターを

 

「ウィーシェの森のエルフ

 

助けるみんなを

 

「神ロキと契りを交わした

 

勇気を振り絞れ!

 

「このオラリオで最も強く、誇り高い偉大なファミリアの一員!

 

憧れに追いつきたい!

 

『逃げ出すわけにはいかない!』

 

わかってる私じゃあの人の足手まといしかならない、これまでもこれからもきっと。追いかけたって追いつかない。

 

隣に並び立つ事すら許されない…でも!

 

追いつきたい!

 

助けたい、力になりたい、一緒に…闘いたい!

 

………それにベルに謝らなきゃ

 

【ウィーシェの名のもとに願う

 

追いかけることしか出来ないなら、追いかけ続けるしかない

 

【森の先人よ誇り高き同胞よ 

 

凄い速さで成長するベルを見て私は嫉妬した

 

【我が声に応じ草原へと来れ 

 

最初はちゃんと力になりたかった

 

【つなぐ絆 楽園の契り 円環を廻し舞い踊れ 

 

けどいつからかベルの力になると言った言葉が嘘になり

 

【至れ 妖精の輪 どうか_力を貸し与えてほしい】

 

追いつけないと諦めた私を貴方の背中に勝手に押しつけた

 

「エルフ・リング」

 

けど貴方と話して貴方を見て気付きました

 

貴方は別に強くないし賢くないし特別でもない

 

私と貴方の違いは何か?

 

わかりません

 

じゃあ私と貴方の同じものは何か?

 

同じ人に憧れた

 

なら私と貴方の違いは何か

 

自分の足で追いつこうとしている貴方

 

貴方の足で追いつこうとしている私

 

貴方は怖くても進みました

 

私は怖くて進めませんでした

 

どうして進めるのか

 

貴方に教えてもらいました

 

貴方の前にはみんながいる

 

私がいると答えてくれた

 

それなら私の前にだって!

 

「レフィーヤ!」

 

ティオネさん達が私の詠唱に気づく。

 

すみませんもう少しだけ私を守ってください

 

【終末の前触れよ 

 

私も自分の足で追いつかなきゃいけないんだあの人に!

 

【白き雪よ 黄昏を前に風を巻け 

 

私は貴方を後ろから支えるんじゃなく前で引っ張って行くんだ

 

【閉ざされる光 凍てつく大地 

 

ごめんなさいベル。これからは

 

【吹雪け 三度の厳冬――

 

一緒にあの人を追いかけましょう!

 

【我が名はアールヴ】

 

詠唱を唱え終わり同時にアイズさん達がモンスターから離れる。

 

もう怖くない。

 

私の前にもみんながいるから!

 

そして後ろには貴方がいるから!

 

「ウィン・フィルヴェルト」

 

辺りが静寂に包まれる。

 

一面が凍りつき花のモンスターが崩れ散る。

 

モンスターがまた出る様子もなく力が抜け倒れそうになる。

 

「ありがとうレフィーヤ!助かったぁ!」

 

ティオナさんに抱きつかれるが支えきれずに尻餅をつく。

 

後はみんながいれば大丈夫ですよね…

 

私たちはあの人に少しは追いつけたかな?

 

ベルは大丈夫なのだろうか?

 

 

 

 

 

私の意識はそこでなくなった。

 

 

 

 



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19話冒険

 

 

僕の最初の冒険はミノタウロスではないんですよ

 

ダンジョンではなく地上で

 

劇的ではなかったけど

 

僕にとっては

 

初めての冒険でした

 

 

  ><><><><

 

 

「絶対に生きて帰ってきてください」

 

「はい」

 

僕はもらった包みを腰にしまい走り出す。

 

悲鳴がする方へ走る、決して闘いに行くわけではない。

 

あくまでも守る為に僕は走り出す。

 

武器も持たない僕が闘って勝てるほど自惚れてもいない。

 

大丈夫僕は冷静だ…

 

モンスターに中々追いつけず通った後であろう瓦礫の道を走る。

 

悲鳴とモンスターが暴れる音が聞こえて来た。

 

僕は時間を稼ぐだけ、アイズさん達や他のファミリアの方が来てくれるはず。

 

角を曲がり広場に出るとモンスターを視界にとらえる。

 

 

シルバーバック

 

 

11階層から出現する大猿のモンスター

 

僕が先日潜ったダンジョンのもっと下の階層のモンスター

 

リヴェリアさんの講座が生きてくる。

 

僕ではまだ勝てないモンスター。

 

大丈夫他の冒険者が来るまで時間を稼ぐだけ、敏捷には自信がある!

 

そこで僕は疑問に思う、シルバーバックはどこに向かっているのか?

 

なぜシルバーバックは移動しているのか?

 

シルバーバックの向かう先には女の子が逃げている。

 

あの女の子を追っているのか⁉︎

 

シルバーバックは他の人間には目もくれずにその女の子を狙っている!

 

女の子が転びシルバーバックが女の子を掴もうと手を伸ばす。

 

まずい⁉︎

 

全速力で走り出しシルバーバックの腕に体をぶつけて腕をはじく。

 

僕は体制を崩したが直ぐに立て直し女の子を抱えて走り出す。

 

なんとかギリギリの所で間に合った。

 

シルバーバックは大声で叫びながら追いかけて来る。

 

オラリオの地形が頭に入っておらず闇雲に逃げる。

 

「あっちへ!」

 

女の子が指さす方はダイダロス通りと書かれた看板が建っている。

 

もう一つの迷宮と言われる場所。

 

レフィーヤさんから「一人では絶対に入ったらいけません、あそこは迷宮です。ダンジョンよりも入り組んでいて一度入ればベルは身包み剥がされて帰れなくなります!」と言われていたので存在は知っていた。

 

もしかしたらシルバーバックを撒けるかもしれない。

 

いくら敏捷に自信があるとはいえ僕はLv.1、女の子を抱えたままではいずれ追いつかれる。

 

僕はダイダロス通りに入り直線で逃げない様狭い道や障害になりそうな物がある方へ必死で駆ける。

 

しかしシルバーバックは追いつかれないものの距離があまり離れない。

 

「っ……しつこい!」

 

このままではジリ貧だ、何か手を打たなければまずい。

 

「あっちの路地に入ってください!」

 

女の子がまた指をさす。

 

「路地をまがった先に地下へ入れる階段があります。そこならあのモンスターも入れません!」

 

言われたとうりに走り路地を曲がる。

 

「そこの階段を降りてください!」

 

階段が見える!

 

人一人が通れそうな狭い階段

 

僕は勢いそのまま階段を一気に飛び降りる。

 

「きゃ⁉︎」

 

逃げていた疲労もあってか着地に失敗してしまいそのまま転がり落ちる。

 

なんとか女の子は離さずにすんだが立とうとするが足に痛みが走る。

 

まずい足を痛めた。

 

「ガァアアアアアア!!」

 

シルバーバックの声が近づいて来る。

 

「もうちょっとですから頑張って!」

 

女の子が僕の肩を持ち前に進む。

 

だんだんと地響きが大きくなりシルバーバックが追いつく。

 

痛みに耐えてなんとか前に進むとシルバーバックが手を伸ばして掴もうとするがギリギリの所で手が止まる。

 

狭い道の為シルバーバックの腕が届かない位置までなんとか進む事ができた。

 

しかしシルバーバックの腕は暴れ出し腕を激しく壁にぶつける。

 

「ガァアアアアアア!!」

 

やばいこのままだと道が崩れてしまう!

 

痛む足を無視して女の子を抱えて全力で前に進む。

 

「うおぉぉぉぉーーー!」

 

通路が崩れ瓦礫が降って来る中避けながらなんとか走り抜ける。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 

息切れしながらもなんとか逃げ切る事ができぼくは座り込み、女の子も向き合うように正面に座る。

 

お互い疲れているの為数分間沈黙が続いた。

 

先に口を開いたのは彼女からだった。

 

「助けていただいて本当にありがとうございます」

 

女の子が頭を下げてお礼を言う。

 

「よろしければお名前を教えてくれませんか?」

 

「僕は…

 

「ガァアアアアアア!!」

 

答えようとした瞬間再びシルバーバックの怒号が鳴り響く。

 

「探しているのか…僕たちを」

 

いや恐らく彼女を探しているのだろう。

 

彼女を見ると恐怖で顔が青ざめている。

 

地上で暴れているのだろうか激しく揺れる、このままこの場所にいたら天井が崩れてしまうかもしれない。

 

どうする⁉︎考えろ!

 

彼女が狙いなら僕が囮になる事もできない、そもそも痛む足で逃げられる相手じゃない。

 

………アイズさん

 

貴方に憧れた僕は何も出来ない。

 

「モンスターの狙いは私です」

 

いつのまにか崩れた通路の逆側に移動していた彼女は僕に向かって言う。

 

「この先に進むと少し開けた場所にでます」

 

怖いはずなのに震えた足で精一杯の笑顔浮かべ。

 

「貴方が助けに来てくれて本当に嬉しかった!」

 

そう言うと彼女は走って出口の方へ向かった。

 

………

 

……

 

 

僕は何をしている?

 

英雄になりたいと言った。

 

失いたくないと全てを守りたいと。

 

実際僕は何をしている?

 

無力に絶望し痛みに恐怖している。

 

僕は何もできないのか。

 

 

……

 

………

 

………レフィーヤさん

 

彼女からに生きて帰って来ると約束した。

 

僕はただ逃げて生き延びるのか。

 

たった一人の女の子も助けれず。

 

そこで僕はレフィーヤさんから貰った物がある事を思い出した。

 

レフィーヤさんはいったいこんな僕に何を渡したのか包みを開く。

 

そこに入っていたものに僕は驚く。

 

一通の手紙とポーションと短剣

 

ポーションを飲み干す

 

短剣を手にする

 

手紙は必ず読む為にポケットにしまう。

 

泣きそうだ…

 

走れ!

 

僕はまた助けられた…

 

走れ!!

 

レフィーヤさん貴方のおかげで

 

また僕はまだ走れる!!!

 

僕は一人じゃない

 

………地上への階段が見えた

 

僕は一人じゃ何もできない

 

間に合え!!!

 

地下道を抜けるとシルバーバックを視界に捉える。

 

彼女は⁉︎

 

シルバーバックが暴れている向こうに彼女が逃げてるいるのが見えた。

 

間に合った!

 

「うぉぉぉーーーーーー!!!!」

 

シルバーバックに向かって全力で駆け出す。

 

シルバーバックがこちらに気づく。

 

足を止めずに足を切りつけてからシルバーバックの正面に立つ。

 

彼女の前に立つ。

 

「僕は

 

短剣を構え前を見る

 

「ベル・クラネル

 

倒すべきモンスターを

 

「英雄に憧れ

 

助けたい人を

 

「神ロキと契りを交わした

 

勇気を振り絞れ!

 

「このオラリオで最も強く、誇り高い偉大なファミリアの一員!

 

憧れに追いつきたい!

 

『逃げ出すわけにはいかない!』

 

わかってる僕がまだまだ全然弱い事も、追いかけても追いつけない事も。

 

それでも………

 

憧れたんだ!

 

英雄譚に出てくる英雄に!

 

目の前で助けられたあの人に!

 

追いかけることしかできないなら追いかけ続けるしかない!

 

「絶対に貴方を守ります!」

 

 

 

  ><><><><

 

 

 

これが僕の最初の冒険



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20話VSシルバーバック

 

><><><><

 

 

今日まで学んだ事を思い出せ

 

 

 

アイズさんから

 

 

 

「ベルは痛みに弱いからダメージを受けない戦い方を教えるね」

 

「ダメージを?」

 

「そう、攻撃して引くそれを繰り返す。重要なのは絶対にダメージを受けずに攻撃する事」

 

「どうすればいいんですか?」

 

「ベルは敏捷のステータスが他より高いからそれを生かして攻撃をする」

 

「?」

 

「とにかく動いて攻撃をダメージを受けないようにする」

 

「………」

 

「そして敵の隙をついて攻撃をしたらすぐに引く」

 

「………!」

 

「わかったみたいだね」

 

「はい!」

 

「じゃあ今日の訓練は私の攻撃を避けてね」

 

「えっ⁉︎」

 

「大丈夫少しだけ手加減するから頑張って」

 

 

 

リヴェリアさんから

 

 

 

「ダンジョン攻略において先人達の知識とは偉大である」

 

「はい」

 

「無知のままにダンジョンに入るのと知識があるのでは生存率はまるで違う」

 

「なるほど」

 

「覚えるべきは正規ルートとモンスターについて等沢山あるぞ」

 

「正規ルート?」

 

「あぁしかしまだ正規ルートを覚えるのは後の事だ、まずはモンスターについて知るべきだ」

 

「モンスターについて?」

 

「そう、階層ごとの出現モンスターや危険な攻撃立ち回りなど覚える事は沢山あるぞ」

 

「はい!」

 

「まずはその本の中身を全て覚えてもらう」

 

「………これですか?」

 

「そうだ」

 

「千ページぐらいありそうなんですが?」

 

「いや八百ページほどだ」

 

「全部ですか?」

 

「そうだ」

 

「………」

 

 

 

 

色々あったけど全てが僕の力になる

 

 

 

 

状況把握

 

前方にシルバーバック

 

後方に守るべき女の子

 

右手に短剣

 

ポーションはもうない

 

地形は良好

 

足は問題なく動く

 

恐怖はない

 

「グルォォォォオオオオ!!!」

 

「かかってこい!」

 

シルバーバックが攻撃体制に入り腕を上げる

 

隙を見逃さない

 

最初に切り付けた足にもう一度切り付けそのまま背後に回る

 

ダメージを受けずにダメージを与える

 

シルバーバックに遠距離での攻撃はない

 

一撃の威力は高いが躱せる

 

アイズさんとの特訓を思い出せ

 

リヴェリアさんの座学を思い出せ

 

戦闘の基本を敵の攻撃を弱点を

 

見える

 

確実に回避を取りダメージを与える

 

あの人より全然遅い

 

避ける

 

剣を振るう

 

繰り返す

 

足を止めるな

 

翻弄する

 

再び同じ場所を切り付ける

 

すぐに離れる

 

繰り返す

 

油断はしない

 

一撃を積み重ねる

 

「グルォォォォオオオオ!!!!」

 

シルバーバックが叫び攻撃をしてくるが難なく躱せる

 

隙を見つけさらに一撃

 

何度もシルバーバックの足を切り付けシルバーバックが膝をつく

 

この好機を逃さない

 

シルバーバックが腕を振り回し攻撃をしようとするが機動力がなくなった状態で避けるのは容易い

 

そのまま一気に後ろに下がり距離を取る

 

狙うは一点

 

助走距離は十分

 

全力で走り出し加速する

 

走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!

 

剣を前に突き出し自身を槍に見立て全身を使った渾身の一撃

 

剣が敵の弱点である魔石にあたる

 

「ガァッッ!!」

 

勢いは止まらず魔石を砕きそのままシルバーバックを貫通する

 

振り替えるとシルバーバックの胸部にはポッカリと穴が空いた状態で固まっている

 

やがてシルバーバックは倒れ込み灰になり崩れや形がなくなっていく

 

「………」

 

辺りが静寂に包まれるが胸の高鳴りを抑えることができない

 

「ーーぉぉおおおおおおおッッ!!!!」

 

僕は空に向かい声を上げていた

 

これが僕の一歩目

 

英雄への一歩

 

そして僕の声に合わせてか行く末を見守っていたダイダロス通りの住民達が一斉に僕の元へ駆けてくる

 

「やるじゃねぇか!」「すごいな君!」「怪我はないかい?」「ロキ・ファミリアって言ってたよなありがとう!」「すごかったよ!」

 

賞賛や心配の声をかけられる

 

「あんたの名前をもう一度聞かせてくれよ!」

 

 

       ベル・クラネル

 

 

><><><><

 

 

〜ギルド医療室〜

 

「そんなことがあったんですね」

 

ベットで横たわったままベルの話を聞き終えた私はベルの方へ顔を向け目を合わせる。

 

「はい、レフィーヤさんのお陰で女の子だけじゃなくダイダロス通りの多くの人達を助ける事が出来ました」

 

「その人達を助けたのはベルですよ」

 

そう私は貴方にただ剣を渡しただけ。

 

「自信を持ってください、ベルが走らなかったらもっと沢山の被害が出ていたかもしれなかったんですよ」

 

今回の事件で一番の重傷人は私らしく怪我人はほとんど出ておらず数人が軽傷を負ったぐらいらしい。

 

ここまで被害が少なく済んだのはアイズさんがたまたま近くにいて直ぐにモンスターの対処が出来たことが大きかったそうです。

 

その中でもベルと戦ったシルバーバックと私たちが倒した新種のモンスターが特に危険なモンスターだったらしい。

 

「はい、けど僕はレフィーヤさんに助けて貰いました。レフィーヤさんがあの時剣とポーションをくれなければ僕はシルバーバックに勝てなかった」

 

「けど剣やポーションが無くてもベルは逃げることができましたよね」

 

「僕一人が逃げれて助かったとしても、僕はきっと英雄を目指す事なんて一生できなかったです」

 

「…どうして?」

 

「もし僕一人助かって女の子を守れなかったら僕は一生後悔します、それに例え女の子を守れたとしても僕が死んでたかもしれません」

 

「………」

 

「レフィーヤさんが僕と僕の夢を守ってくれたんです」

 

「………っう、っぐす」

 

「ありがとうございました。レフィーヤさんが助けてくれたから今ここに僕がいます」

 

気づけば私は泣いていた。

 

「ベルごめんなさい!」

 

胸が苦しい

 

「私は貴方を利用しようとしてたんです、私は憧れを追いかけるのを諦めていました!」

 

辛かった

 

「けど私はレアスキルを持っているから、魔力が高いから、みんなが私に期待していて、けどみんなの期待に答えられない自分が嫌だった!」

 

誰にも言えなかった

 

「けど貴方が来てからは貴方に注目が集まったから」

 

私の苦悩

 

「だから貴方を利用して私は逃げようとしたんです」

 

助けて

 

「でもレフィーヤさんは逃げなかった」

 

ベルが私の手を握って優しく微笑む。

 

「貴方が逃げずに戦ったからティオネさんやティオナさんやアイズさんが助かった」

 

貴方はどうして私が欲しい言葉をくれるのか。

 

「貴方が僕を支えてくれたから僕は助かった」

 

貴方の言葉を聞いていると胸の苦しみが和らいでいく。

 

「レフィーヤさんが辛い時は僕が支えれるようになります」

 

「ベル………」

 

「だからこれからも僕を支えてください、僕はレフィーヤさんがいないと英雄になれないんです」

 

気づけば涙は止まっていた。

 

貴方の為に私ができる事、私の中の予感が確信が変わる

 

「………嫌です」

 

「っぇえ!」

 

貴方がいつか英雄になると確信する。

 

「っふふ、そんな悲しそうな顔をしないでください。これからはベルを支えるんじゃなくベルを引っ張って行けるようになります」

 

けどきっと困難に立ち向かう中で貴方一人では厳しい道のりになるでしょう。

 

だから私が貴方の前で道を作ります。

 

「あらためてベルこれからよろしくお願いします」

 

貴方が英雄になる為に。

 

 

 

 

 



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21話怪物祭を終えて

 

「ほら行きますよベル」

 

自分の部屋で支度をしているとノックの音鳴り催促される。

 

「待ってすぐ行くから」

 

手荷物をまとめ少しのお金を忘れずに持ってから扉を開け外に出る。

 

「お待たせ」

 

外に出ると彼女が出迎えてくれた。

 

「もう遅いですよ、髪もはねてますよ」

 

「っえ!どこ?」

 

「ほら直してあげますから少し屈んでください」

 

僕は彼女の手が髪に届くように少しだけ屈み髪を直してもらう。

 

「はい、これで大丈夫ですよ」

 

「ありがとう」

 

満足気な顔した彼女にお礼を言いここで言い忘れていた事を言う。

 

「おはようレフィ」

 

「おはようございますベル。では早速出発しましょうか」

 

「はい!」

 

今日は僕の防具を購入する為にバベルの商業施設にレフィと行く約束をしていた。

 

「いい物が見つかると良いですね」

 

普段の服とは違う格好のレフィを後ろから追いかけるような形でついて行く。

 

「レフィその服似合ってるね」

 

「ふふっ、合格です」

 

そう言って上機嫌になったレフィは鼻歌を歌いながら前を歩く。

 

 

><><><><

 

 

バベルの病室にてレフィーヤさんにお礼を伝えて帰ろうとしたところで呼び止められた

 

「ベルこれから私の事はレフィって呼んでくれますか?」

 

「っえ!いきなりどうしたんですか?」

 

突然のレフィーヤさんの要求に困惑する

 

「私の親しい友人はみんなレフィって呼ぶ人が多いんですよ」

 

確かに普段レフィーヤさんと行動する時に聞いたことのある呼称ではあるがなぜ僕にその呼称を要求するのか?

 

「いえただベルにそう呼んでほしいと思ったんです……、嫌ですか?」

 

彼女の突然の要求に戸惑ったが断る理由などもちろんなく

 

「わかりましたレフィ」

 

そう呼ぶと彼女は笑顔になる

 

「それともう少し砕けて話して下さい」

 

「うん、わかったよレフィ。それならレフィも同じように話して」

 

「嫌です」

 

そんな彼女は陽気に笑うのであった

 

 

><><><><

 

 

それから僕は彼女に対して呼び方や話し方が変わったのだが彼女は今のままが話しやすいとの事で少しだけ……いやかなり僕たちは親交が深まった気がする。

 

「今日は晴れて良かったですね」

 

「そうだね」

 

晴天の下、僕たちは歩く。

 

まずは腹ごしらえをしてから装備を見に行こうと言う事で僕たちが向かうのはお馴染みの【豊饒の女主人】へと向かっている。

 

「今日はベルにお礼沢山しますので欲しいものは何でも言ってくださいね」

 

「それは流石に悪いよレフィ」

 

「良いんですよ私の気持ちなんですから、それにベルはそんなにお金を持っていないでしょ」

 

「…っぐ⁉︎……それは言わないでよ」

 

「まったく、先立つ物がないなら甘えて下さい。」

 

申し訳なさを感じながらもレフィの言う通りなので大人しく言う事を聞くのだが……

 

「でも食事代ぐらいは僕に払わせて下さい」

 

今日の全ての代金を払って貰うのは流石に忍びないのでここだけは譲れない。

 

「……まぁベルがどうしてもって言うならしょうがないですね」

 

僕の気持ちを察してかなんとか食事代だけはレフィに出させずに済みそうだ。

 

そうな会話をしているうちに目的地に辿り着く。

 

「おや、ベル今日はどうしましたか」

 

入口前、箒で掃除をしていたリューさんがこちらに気がつき声をかけられる。

 

「いえ、今日は食事に来ました」

 

「そうですか、横にいるのは【千の妖精】ですか?」

 

「はい、けど二つ名ではなく名前で呼んで頂けると嬉しいです。貴方はリュー…さんで間違ってないですか?」

 

「はい。こうして話すのは初めてですね、いらっしゃいませウィリディスさん」

 

どうやら二人が話すのは初めてのようで意外だった。

 

「ところでベル、怪物祭の時にシルバーバックを倒したと聞きましたが間違いないですか?」

 

「っ⁉︎どこで聞いたんですか?」

 

「私の友人が白髪の赤目でベルと名乗った冒険者に助けて貰ったと話していました」

 

「その話詳しく聞かせてください!」

 

僕は確認しなくてはならなかった。

 

あの時、シルバーバックを倒した後助けた女の子の姿を見つける事が出来ずにいたから。

 

「彼女に知り合いだと話したら伝えて欲しいと、伝言を預かっています『助けていただいてありがとうございます、お礼も伝えずに離れてしまい申し訳ございませんでした。』と」

 

良かった。

 

死亡者やレフィ意外に重傷者はいないと聞かされてはいたが、少しだけ不安だった。

 

「私からもお礼を、友人を助けていただきありがとうございました」

 

「はい」

 

思わぬところで女の子の安否を確認する事ができほんの少しの不安が無くなる。

 

「申し訳ない話し込んでしまって、今日は食事に来たと言っていましたね。では席へ案内しましょう」

 

そうして僕達は席に着き注文をする。

 

食事を待っている時にアーニャさんとクロエさんとルノアさんと少し挨拶を交わしに来てくれた。

 

「ベルはここの方達と仲がいいんですね」

 

「そうだね。よくお世話になっているから」

 

たわいもない会話をしながら食事が運ばれて来て少し高いながらも美味しい料理に舌鼓を打つ。

 

食事を終えてお金を払おうとするといらないと言われる。

 

「友人を助けていただいたお礼です」

 

リューさんからそう言われ僕が今日お金を出す機会をなくすのであった。

 

 



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22話プレゼント

 

 

食事を終えた私たちは今日の目的であるベルの防具を購入する為にバベルの商業施設で様々な防具を見ていた。

 

最初は数百万ヴァリスがするような展示を見してベルは私の予想以上に驚いていた。

 

しかし駆け出し冒険者のベルにそのような防具をさせるわけにはいかないので奥にあるテナントに向かう。

 

ベルにここにはまだ未熟な鍛治師の作品が、駆け出し冒険者にも手に取ってもらえるように販売している場所と簡単に説明する。

 

中には掘り出し物があるとかないとか。

 

説明聞いたあとベルは値段を見てホッとしたのか目を輝かせて沢山の防具を見て回っている。

 

「どうですかベル良さそうな物はありましたか?」

 

「………」

 

どうやら私の声は届いてないらしくベルはひとつひとつの防具を手に取り見ている。

 

「…もう!……っふふ、しょうがないですね」

 

夢中になっているベルを見て思わず笑みが溢れる。

 

話を聞くと一応アイズさんとリヴェリアさんに防具を選ぶ基準を聞いて来てはいるそうなので、よほど変な防具を選ばない限りは買ってあげようと思い、私は他にベルに使えそうな装備がないか探しに行こうと別のお店に向かう。

 

「ベル〜私は別のお店にいますから決まったら声をかけに来てくださいね」

 

聞こえてはないだろうが一応声をかけてから店を出る。

 

「さて、どこに入りましょうか」

 

実を言うとここに来るのは私も初めてなのだ。

 

私の防具は魔導師向けの店で購入するので来る機会が一切なく今日初めて足を踏み入れた。

 

ベル程ではないが私もこのような店に来るのは初めてなので少しワクワクしている。

 

「さてベルの為にいいものを探しますか!」

 

小さく拳を握り歩き出す。

 

 

 

><><><><

 

 

 

「さて、戻りますか」

 

あれから一時間ほど色々なお店を見て回りいくつかベルに良さそうな防具を見つけたのでベルを連れて来ようとベルを探す。

 

「ベル〜どこにいますか〜」

 

「ここですか?」

 

「ベ〜〜〜ル〜〜〜」

 

先程のベルの様子からすると私の声は届かないだろうがそれでもベルの名前を呼びながらまた店を回る。

 

「……もしかして」

 

ベルの様子を思い出してまさかとは思い最初に入った店に戻る。

 

「……はぁ、まだここにいたんですかベル」

 

案の定ベルはまだ最初の店に居て一つの防具をじっくり見ていた。

 

「レフィ僕これに決めました」

 

私に気づいてベルは防具を持って言う。

 

「軽量装備ですね……、ベルの戦闘スタイルにはドンピシャですね」

 

見る目があるわけではないが多分他の防具に比べると質は良さそうに見える。

 

「ちゃんと考えて選んだんですよね?なら購入しましょうか」

 

満面の笑みになるベルを見て私も嬉しくなる。

 

 

 

このプレゼントが貴方の助けになるように

 

 

 

><><><><

 

 

「こんにちは〜」

 

防具を買った後最後にもう一つベルに付き合ってもらいあるお店に入る。

 

「いらっしゃい、おや【千の妖精】じゃないか」

 

出迎えてくれるのは犬人のナァーザさんだ。

 

「そっちの名前で呼ばないでくださいよ」

 

「ごめんごめん、貴方の二つ名が私は好きなんだよレフィーヤさん今日は何用で?」

 

「こないだのポーションを3つ頂けますか?」

 

ナァーザさんは頷いてから奥に商品を取りに行く。

 

ここは医療系のお店でよくロキ・ファミリアでの遠征前にお世話になっている。

 

「ベルもこれからポーション等はここで買うといいですよ」

 

「ベル?君があのベルかい?」

 

戻って来たナァーザさんがベルに尋ねる。

 

「いやアミッドから少し君の話を聞いていてね、…っふふ確かに兎のような容姿だ」

 



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23話強くなる為に

 

いつもの時間アイズさんと訓練を行う。

 

相変わらずアイズさんに一撃も入れることは出来ないけどそれでも倒れる回数は確実に減っている。

 

「…っぐ‼︎」

 

上段蹴りをガードをするがそれでも重く膝をつく。

 

そのまま追撃をくらい僕の意識はなくなる。

 

 

><><><><

 

 

「すごいね、だいぶ動きについてこれるようになったね」

 

訓練を終えいつものようにアイズさんとレフィと朝食をとりながら話をする。

 

「はい!けどまだ全然です」

 

「焦らなくていいよ、ベルはまだまだ経験が少ないんだから」

 

「そうですよ!そんなに早く強くなられても困ります!」

 

私より強くなったら困りますとぶつぶつ言いながらレフィは朝食を食べ進める。

 

「ところでその防具はどうだった?」

 

「特に問題はないです。全然動きの邪魔にならないしそこまで重くはないので凄く動きやすいです」

 

今日の訓練で僕は昨日レフィにプレゼントしてもらった防具を装備して望んだ。

 

「サイズもピッタリでまるでベルの為に作られたような防具ですね」

 

そう最初着てみた時に驚いた、レフィの言うようにサイズが余りにもピッタリ過ぎたのだ。

 

「いい防具が見つかって良かったね」

 

「おはようアイズ、レフィーヤ、ベル」

 

朝食をもうすぐ食べ終わろうかとした時に声を掛けられる。

 

フィンさんだ。

 

「おはようフィン。どうしたの?」

 

フィンさんから僕達に声を掛けて来ることは実は結構珍しい。

 

「少し大事な話があるから三人で団長室に来てくれないかな」

 

そう言い残してフィンさんは食堂から出て行く。

 

「…………大事な話ってなんでしょうか?」

 

「わからない」

 

アイズさんとレフィは首を傾げる。

 

僕達は早々に朝食を食べ終えてから団長室に向かう。

 

扉の前にたどり着きアイズさんがノックをしてから扉を開き中に入る。

 

「来たね。そこにかけてくれ」

 

フィンさんがお茶の用意をし僕達3人の前に置く。

 

「アイズ、レフィーヤ次の遠征の日程が決まった」

 

アイズさんレフィの緊張が伝わる。

 

「ベルの訓練を一旦やめてもらう為に今日は来てもらった」

 

……なるほど。

 

「噂には聞いている、ベルの活躍によりダイダロス通りの人間を救ったと。しかもシルバーバックを倒したんだって?」

 

「いつまでにやめたらいいの?」

 

アイズさんがフィンさんの話を遮り話す。

 

気のせいかほんの少しだけ怒気を感じた。

 

「落ち着くんだアイズ、別にベルと訓練を二度とするなと言っているわけではない」

 

「アイズさん団長の話を最後まで聞きましょう」

 

「……わかった」

 

「ありがとうレフィーヤ。ここで話したいのはベルの実力についてだ。ベル、シルバーバックを倒したのは本当かい?」

 

「はい」

 

「そうか、ではこのまま話を聞いてくれ」

 

フィンさんの話を聞いているとどうやら僕のダンジョン禁止令を解くとの事で、さらに僕の実力を一番把握しているだろうアイズさんとレフィに何階層までソロの攻略を許すか相談したかったそうだ。

 

「二人とも率直に意見を聞こう」

 

「十階層までは行けると思う」

 

「そうですね、私も同意見です」

 

「今のベルの実力なら十階層までの戦闘は問題なく捌けるぐらいには強くなってると思う」

 

「なるほどありがとう。ではベルのダンジョン探索は十階層までで問題ないかな」

 

「うん」

 

「じゃあベル、君のダンジョン禁止令を解除する」

 

ソロでの攻略は十階層までと制限があるがついに僕の禁止令が解かれた。

 

訓練の期間については僕達に任せると言ってフィンさんの話は終わる。

 

その後部屋を後にした後アイズさんとレフィにダンジョンの注意点や装備の確認の仕方などを教えてもらった。

 

リヴェリアさんの講座の時間になるまで僕達は話して僕はアイズさんに伝える。

 

「アイズさん僕は貴方の負担になりたくないです。だから訓練は明日からやめましょう」

 

「負担なんて思ってないよ」

 

「でも僕はアイズさんに万全の状態で遠征に挑めるようにしてほしいです」

 

「………」

 

「僕は僕なりに努力しますので、アイズさんも自分の為に頑張ってほしいです」

 

「……わかった」

 

「我儘を聞いてもらってありがとうございます」

 

「ううん、いいよ。けど私からも一つだけ我儘を言っていい?」

 

こうしてアイズさんとの訓練は一時的に終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 



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24話超える壁

 

 

ベルとの訓練が無くなったが私の日課が無くなるわけでもなく、早朝誰も待っていない中庭で素振りを始める。

 

ベルと訓練を始めてから私は自分の中の焦りがなくなっている事に気づいていた。

 

それをいい事だとみんなは言ってくれたが私にはわからない。

 

強くなりたくなくなった訳ではないが、以前よりがむしゃらに強くなろうとしていない。

 

それが私にはまだいいことなのか判断ができない。

 

けど決してベルとの訓練が私にとって無駄なんて事は絶対にない。

 

それにレフィーヤも変わった。

 

レフィーヤは私達に対して一歩下がっている印象が強かった、けど怪物祭以降いい方向に変わったと感じた。

 

レフィーヤも成長している。

 

私も成長しなくちゃ。

 

決意を固めた頃には食堂に向かう人も増え始めていた。

 

私も訓練用の木刀をしまって朝食の前に用事を済ませよう。

 

 

><><><><

 

 

「預かっていた物を返す」

 

向かった先はゴブニュファミリア。

 

私の武器、デスペレートの整備が終わったと聞き取りに来た。

 

そして借りた剣を返すが、怪物祭の時に無茶に使ってしまった為刀身が粉々に砕けてしまったので物凄く返しづらい。

 

少しの小言を言われ告げられた金額は四千万ヴァリス……

 

「はぁ〜〜〜………」

 

余りの金額に口が開く

 

お金を稼がなくちゃ

 

 

><><><><

 

 

ファミリアに戻りレフィーヤとティオネとティオナと朝食を食べる、ベルは既に出掛けているとレフィーヤが言っていた。

 

「ねぇアイズ今日は何か予定ある?」

 

「ダンジョンに篭ろうと思って」

 

「お一人でですか?」

 

「お金を用意しないといけなくて」

 

「あーだったら私も行くよ作り直してもらったウルガのお金稼がなくちゃ」

 

「…っで、でしたら私もご一緒させてください」

 

「あれ?レフィーヤもなんか壊したっけ?」

 

「いえ、その今平行詠唱の訓練をしていて実戦での訓練をしたいので……、それにアイズさんのお手伝いもしたいです」

 

「私の手伝い、良いの?」

 

「はい‼︎」

 

「じゃあみんなで行こ。ティオネも行くよね」

 

「辞めとくわ〜」

 

「えぇ〜」

 

「団長のお側を離れるなんて嫌だもの」

 

そこにちょうどフィンとリヴェリアが横を通る。

 

「あっ…フィン、リヴェリア今からダンジョンに行くんだけど一緒にどう?」

 

「……うん、気ままに散策って所か、いいよ付き合おう」

 

「私も〜そう思っていた所なんです〜団長〜」

 

そんな調子でダンジョンへ潜るパーティが決まった。

 

 

><><><><

 

 

何事もなくダンジョンを進み三十七階層に着く。

 

お金もこの調子だとそれなりに稼げたと思う。

 

「レフィーヤ、足を止めるな!敵を常に視界に入れて攻撃を避けろ!」

 

「…っく!」

 

レフィーヤが平行詠唱の訓練をリヴェリアに教わるのを見ていると感じるこの気持ちはなんだろう。

 

ベルの訓練でも同じ気持ちを感じた。

 

わからない…

 

レフィーヤもベルも強くなっていく。

 

どうしてそんなに早く強くなれるの?

 

知りたい。

 

私ももっと強く……

 

「さてそろそろ戻るか」

 

レフィーヤが敵を倒しきるのを待っていたのかフィンが口に出す。

 

「ティオネ撤収の準備だ」

 

「かしこまりました、団長!ティオナ手伝って」

 

「は〜い」

 

二人が撤収の準備を始める。

 

………私もこのまま一緒に

 

いや私もベルやレフィーヤを見習おう

 

「フィンお願いがあるの」

 

「ん?どうしたんだいアイズ」

 

「私一人でもう少しだけダンジョンにいさせて」

 

「どうして?」

 

「………」

 

聞かれて少し言葉が詰まる。

 

けど今私が感じてることをそのまま言葉にしよう。

 

「強くなりたい。……レフィーヤやベルを見ていて成長していく二人を見ていたら、私も強くなりたくなったから……?」

 

「……っふ」

 

フィンが笑う。

 

「少し前のアイズだったら拒否したけど、今だったら許可できるよ」

 

「本当⁉︎」

 

「あぁ、ただし一人はだめだ。リヴェリアと二人なら許可しよう」

 

「わかった、ありがとう」

 

「少し変わったねアイズ」

 

「……私が?」

 

「うん。前の君は強くなることに焦りを感じてた印象があったけど、今は落ち着いているふうに見える」

 

「うん」

 

「自覚はあるようだね」

 

「レフィーヤもいい方向に変わっている。アイズ、君も変わった。ベル・クラネル彼はいったい……」

 

フィンの最後の言葉は小さく聞き取れなかった。

 

 

 

 

私も強くなる

 

強くならなきゃ

 

この階層には階層主がいる

 

まず乗り越える壁はここから

 

 

 

 

 

 



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25話並行詠唱

 

 

アイズさんとの訓練がなくなった僕は早朝日が出始める時間にファミリアから既に出て道を歩いている。

 

アイズさんとの訓練がない日僕は他の人と訓練をしている。

 

事情を話した所、それならばと再びアイズさんとの訓練が始まるまではここに来ていいと言われたので朝早くに向かっている。

 

目的地が見えて来た。

 

「おはようございます!」

 

木の剣で素振りをする美しいエルフの剣士がいた。

 

「おはようございます、ベル」

 

豊饒の女主人

 

リュー・リオン

 

初めて会った時の事は一生の不覚であったが、リューさんは僕に物凄く良くしてくれる。

 

リューさんは元々冒険者だったそうでLvは4、今はやるべき事があるからと豊饒の女主人で働いていると。

 

「さて、まずは前回の手合わせからどれだけ強くなったか見ましょうか」

 

剣を僕に構える。

 

僕も短剣を抜き構える。

 

「死ぬ気でかかって来なさい」

 

早朝、豊饒の女主人の裏で訓練が始まる。

 

 

 

><><><><

 

 

 

 

「白髪頭皿追加にゃ!」

 

「はい!」

 

「ベル裏から食材取って来て!」

 

「はい!」

 

「少年〜!お尻をさわらせるにゃ!」

 

「はい!」

 

「やめなさいクロエ早く次の料理を運ばないとミア母さんの雷が落ちますよ」

 

僕が今何をしているかというと豊饒の女主人の厨房で雑用をしている。

 

なぜ僕が豊饒の女主人で働いているかというと「そんだけ元気があるなら手伝いな!」とミアさんから言われ、リューさんと訓練をした後はこの店で働くのがルーティンになってる。

 

「だいぶ表が落ち着いて来ましたので皿洗いを手伝いましょう」

 

「ありがとうございますリューさん」

 

「いえお礼を言うのはこちらの方だ」

 

「あ〜またリューが白髪頭とイチャイチャしてるにゃ〜!!」

 

「リューばかりずるいにゃ!少年のお尻をミャーにも触らせるのにゃー」

 

ここにくるようになってアーニャさんやクロエさんやルノアさんとも仲良くなり、街で会った時は声をかけてくれる。

 

「ほらバカ猫共、ランチタイムももうすぐ終わるんだから早く戻れ」

 

ルノアさんが来てくれて二人?二匹?が表に戻っていく。

 

「私たちも早く片付けましょう」

 

 

 

><><><><

 

 

 

 

ランチタイムが終わりミアさんを含め豊饒の女主人の皆と一緒僕も席に座っている。

 

「よしじゃあ食べるよ」

 

ミアさんがそう言うと皆が「いただきます」と言って従業員の皆と一緒に目の前の賄いを食べ始める。

 

ミアさんが「私がタダ働きをさせると思ったのかい⁉︎」といって雑用の後は賄いを毎回食べさせてもらっている。

 

この豊饒の女主人で男性の従業員がおらず最初はリューさんの横で少し緊張しながら食べていたのだが、アーニャさん達がよく話しかけてくれてリューさん以外の方とも話せるようになった。

 

会話をしながらミアさんの賄いを食べ進める、ミアさんの料理は本当に美味しく沢山食べてしまう。

 

それになぜか従業員の何人かがニコニコしながら少し分けてくれる。リューさんになぜなのかと聞いてみたが「うさぎに人参を食べさせる感覚と一緒なのでしょう」との事。

 

理由はどうあれ訓練の後はお腹が空くので凄く助かっています。

 

そして皆が食事を終えてから恒例のジャンケン勝負する、負けたらテーブルの片付けと皿洗いをしなくてはならない。

 

ちなみに今回負けたのはアーニャさんでした。

 

 

 

 

><><><><

 

 

 

食事も終えこれから豊饒の女主人では夜の部の準備があるので帰ろうとしたところでリューさんが僕に本を渡した。

 

「彼女からのお礼です」

 

そう言ってリューさんは街に食材の買い出しに向かった。

 

……[ゴブリンにも分かる現代魔法]?

 

リヴェリアさんの講義を受けるようになってから魔法を発現しやすくなると聞き、暇な時は本をよく読むようになっていた今まさに僕が求めていたような本のタイトルだった。

 

今日の予定はもうないから帰ってから読もう。

 

 

 

><><><><

 

 

 

その後ファミリアに帰った後、本を読み一眠りした後にダンジョンから帰ってきたレフィと一緒に食事を取った。

 

「ダンジョンではどんな事をしたんですか?」

 

「主にアイズさんとティオナさんのお金稼ぎですね、私はリヴェリア様に並行詠唱を習っていました」

 

「並行詠唱?」

 

「そうです。魔法を打つときに詠唱を唱えるのは知っていますよね?本来は詠唱中は集中しなければ失敗して魔力暴発を起こしてしまいます」

 

「魔力暴発?」

 

「簡単に言うと魔力が体内で爆発します」

 

「……ひぃっ!」

 

僕は絶句する

 

「なので私たち魔導師は後衛で前衛の方に守ってもらう必要があります」

 

「なるほど」

 

「しかしいつでも絶対に前衛の方が私達を守ってくれるとはかぎりません」

 

「うん」

 

「その為の並行詠唱です。並行詠唱とは移動をしながらや敵の攻撃を避けながら集中を切らさずに詠唱を唱え続ける技術です」

 

「難しい技術なんですよね……?」

 

「はい、物凄く難しいです。例えるなら水の入ったコップを頭に乗せたまま水を溢さずにアイズさんの攻撃を避け続けるような感じですね」

 

「無理です」

 

「難しいのはわかったでしょう」

 

レフィが笑いながら言う

 

レフィも次の遠征の為に頑張ってる。

 

「そういえばアイズさんは?」

 

聞けばアイズさんはまだダンジョンに潜っているそうだ。

 

みんな強くなる為に頑張ってる……

 

いやアイズさんはお金稼ぎなのか?

 

食事を終えてからレフィと二人でステータスを行う為にロキ様の元へ向かう。

 

先にレフィのステータス更新をするので終わるまで僕は部屋の外で待つ。

 

「ベル〜入っていいですよ」

 

呼ばれて中に入り、いつものように服を脱ぎベットに横になる。

 



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26話師弟

 

 

「じゃあ私からステータス更新をしますので、少し扉の前で待っててください」

 

ベルにそう言ってから私はロキの部屋に入る。

 

私は上着をはだけさせ背中が見えるようにしてロキに背を向ける。

 

「最近頑張っとるみたいやなぁ、みんながレフィーヤの事褒めとったで」

 

「そうなんですか?」

 

確かに私は最近自分が変わるキッカケがあった。

 

怪物祭の後ベルと話した時から。

 

あの日貴方は、私が貴方を助けたと言ってくれた。

 

僕を支えてくださいと言ってくれた。

 

今まで追いかけるのを諦めかけて、期待に押しつぶされそうで、守られてばかりの自分が嫌いだった私に

 

だからとても嬉しかった。

 

私は嫌ですって返したんですけどね。

 

けど貴方が迷うことなく進めるように、迷ってもちゃんと自分の道に戻ってこれるように、貴方の前を私は走り続けたいと思った。

 

貴方が英雄になりたいと思うように、憧憬に追いつきたいのと同じように。

 

私もまた自分の足で追いつきたいと思ったから。

 

「ベルがあんなに頑張っていますから私も負けてられないので頑張っているだけですよ」

 

「そっか」

 

貴方はいつか私の先に進むんだと思います。

 

それは悔しくて、情けなくて、私は傷ついて進むことが嫌になるんだと思います。

 

以前の私なら。

 

今の私ならきっと追い抜いた貴方の前をまた走れるように、頑張れるって確信しています。

 

「ベルがどうしてあんな早く成長しとるか教えたろか」

 

突然そんなことをロキ様に言われる。

 

「………」

 

「なんとなく察しはついとるみたいやな」

 

確かに私は確信はないが検討はついていた。

 

駆け出しの、それもほとんどダンジョンに潜ったことのないベルがどうしてシルバーバックに勝てたのか。

 

「レアスキルですか?」

 

うつ伏せになっていたので見えないがロキ様が笑った気がした。

 

「せや、それも超超超超レアスキルや」

 

やっぱりそうだったんだ。

 

「どうしてそれを私に教えてくれるんですか?」

 

「ん?なんでって、ベルの事が大好きなレフィーヤに教えるんは当然やないか」

 

ロキの気まぐれ?

 

「この事を知っとるんは内緒にしといてな。今はまだ誰にも、特にベルには」

 

「……わかりました」

 

おそらくベルのスキルは本人には伝えていないのだろう、知っているのは多分幹部の皆。

 

私はベルと行動を共にする事が多いから伝えられたのだろうか?

 

「ほい終わり、書き写したのがこれやから確認しといてな」

 

考えても答えは出なかった。

 

ステータス更新が終わり私は身なりを整えてからステータスを確認する。

 

耐久が他より少し多く上がっている。

 

魔導師は基本的にダメージを食らわない事が前提の為耐久は上がらないのだが、並行詠唱の訓練でダメージを沢山受けたせいだろう。

 

「さて次はベルや一緒に見るかレフィーヤ?」

 

「……そうします」

 

私は扉の前のベルを呼ぶ。

 

 

><><><><

 

 

「魔法が発現しとる」

 

「っへ?」

 

ベルが素っ頓狂な声を出す。

 

ベルのステータス更新を見ていた私も驚く。

 

「ロキ様どんな魔法ですか⁉︎」

 

ソファから立ち上がり私は側まで移動する。

 

「ちょいまち、すぐに書き写すわ」

 

ベルの背中を見ることはできるが、私は神聖文字を読む事は出来ないのでロキの書き写した物をまつ。

 

「ほいレフィーヤ、先に言っておくけど描き間違いは一切ないで」

 

ロキは二枚書き写しを作りベルと私にそれぞれ渡す。

 

渡された物を確認して私は絶句した。

 

ステータスの上がり方がおかしい、トータル二十も上がれば多いがベルは百以上も上がっている。

 

さらにスキルも二つ発現している。

 

特にこのスキル…

 

 

【憧憬一途】←ベルには内緒やで

 

・早熟する。

・懸想が続く限り効果持続。

・懸想の丈により効果向上

 

 

なるほど確かにこのスキルは凄い、成長促進のスキルなんて聞いた事がない。

 

そのまま魔法も確認すると、少し違和感を感じる。

 

 

【ファイアボルト】

 

・速攻魔法

 

 

「ロキ、描き間違いはないとおっしゃいましたが、書き忘れもないんですか?」

 

「書き忘れもないで、それが全部や」

 

だとするとこの魔法は…

 

「多分、詠唱が必要ないんやろうな」

 

ロキが満面の笑みで私の考えと同じ答えを言う。

 

「まぁ、魔法名自体が詠唱みたいなもんやろうな」

 

「詠唱がない魔法なんてあるんですか?」

 

「聞いた事ないな、うちも初めて見る」

 

レアスキルにさらに魔法まで発現するなんて、それもレア魔法。

 

……そういえば、ベルがやけに静かだがどうしたのだろう?

 

ベルの方を見てみると嬉しいのだろうか物凄く目を輝かせて写しを見ていた。

 

「まったく……、おめでとうございます」

 

ベルに聞こえない小さな声で伝えた。

 

そのまま五分ほどベルが満足するまで待ち、やっとベルが私たちに声をかける。

 

「この【ファイアボ、グハァ⁉︎」

 

私は咄嗟にベルに突進する。

 

手加減はできませんでした。

 

「ナイスレフィーヤ」

 

ロキは楽しそうにしていて少しイラッとしました。

 

「どうして、…レフィ?」

 

倒れたベルは訳がわからないと言った表情で私を見る。

 

「ごめんなさいベル、ちゃんと説明しますから怯えないでください。ロキは笑うのをやめてください、じゃないとロキにも突進したくなりますので」

 

ベルを立たせながら、ロキを少し脅す。

 

「とりあえず座りましょうかベル」

 

そう言ってソファに座らせて私も横に座る。

 

「レフィーヤ、さっき渡した写しは捨てとくで」

 

そう言って、私が読んでいたベルのステータスの写しを持って、ロキは部屋から出ていった。

 

「まず最初に魔法の発現おめでとうございます」

 

「はい!ありがとうございます⁉︎」

 

まだ少し怯えている。

 

「もう、謝りますから怯えないでください!」

 

「ごめんなさい」

 

「なんでベルが謝るんですか」

 

「レフィに粗相をしてしまい、そのせいで突進されたので」

 

「別に粗相をしたぐらいで突進なんてしません!というか私が粗相をしたぐらいで突進をするようなエルフだと思ってたんですか?」

 

「決してそんな訳では!ごめんなさい!」

 

だめだ悪いパターンに入っている。

 

ベルが私をどう見ているかは後で問い詰めるが先に誤解を解かなければ。

 

「ベルに突進した理由ですが、魔法名を言うと危なかったんですよ」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。ただ本来であれば問題はなかったんです、ベルは例外になります」

 

そう、本来であれば魔法名を言うなんてなんでもない事なのだ。

 

「ベルの魔法に詠唱がないのが問題なんです」

 

「そういえば、書かれているのは魔法名と・超速攻魔法 とだけしか書かれてなかったです」

 

「そうなんです、ロキ様に確認しましたが書き忘れではなくそれが全部だそうです。なのでおそらくベルの魔法は詠唱が必要ないんだと思います」

 

「詠唱が必要ない魔法なんてあるんですか?」

 

「私もロキ様も初めて見ました、文字通り超速攻魔法」

 

「だとするとさっき僕は」

 

「そうです、詠唱がないので魔法名をベルが言えば魔法が発動してしまう可能性があったのでやむを得ずあのような方法で阻止しました」

 

ここでやっと誤解が解ける。

 

「申し訳ございませんでした」

 

ベルがまた謝る。

 

「いいですよ未然に防げましたので」

 

誤解が解けた事で一安心する。

 

「まったく、とうとう魔法も発現してしまいましたね」

 

「うん!本当に凄く嬉しい」

 

「いつかは発現すると思っていましたがこんなに早く発現するとは思いませんでした」

 

「うん。今日リューさんから貰った魔法の本を読んだのでそれのおかげかも」

 

「そうなんですか、気になるので今度私にも読ませてください」

 

「もちろん」

 

「はぁ、そんなに早く成長しないでくださいよ。そんなんじゃあっという間に私の前に行きそうじゃないですか」

 

「まだ全然だよ。レフィにも沢山教えてほしい事もあるから」

 

「嬉しい事言ってくれるじゃないですか」

 

「だからレフィ僕に魔法を教えてくれませんか」

 

「もちろんです!むしろ私以外に頼んでいたらもう一回突進していたところですよ」

 

私は笑いながら言う。

 

 

 



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27話ファイアボルト

 

 

「魔法を使う上で必ず気をつける事があります、それが精神疲弊です」

 

「精神疲弊?」

 

「簡単に言うと精神力を使いすぎると気絶します」

 

夜遅くに僕とレフィはステータス更新が終わった後、魔法の試し打ちをする為ダンジョンに向かっていた。

 

「魔法は強力な物です。一つの魔法で多くのモンスターを倒せたり、絶望的な状況をひっくり返したり出来るような事ができるものもあります」

 

道中レフィが改めて僕に魔法について改めて説明をしてくれている。

 

「ですが強力な魔法は詠唱が長かったり、精神力を沢山使うデメリットもあります」

 

一度リヴェリアさんの魔法の詠唱を聞かせてもらったが戦闘中に唱えると考えると確かに長い。

 

「ですから、今私が訓練しているように並行詠唱ができるようになれば移動しながらでも唄うことができるようになります」

 

「でも僕の魔法には詠唱がないんだよね?」

 

「そうです、だからこそ使い方を知るべきです」

 

ギルドにつき僕たちはダンジョンに潜る。

 

一階層の端っこの方へ移動して、一体のゴブリンを見つける。

 

「ベル、あのゴブリンに魔法を放ってください」

 

僕はイメージする。

 

ついに憧れていた魔法を放つ。

 

なぜだろう、初めて打つはずなのに打ち方がわかるような気がする。

 

僕はゴブリンのいる方へ右手を突き出す。

 

右手に意識を集中して僕は唱える。

 

「ファイアボルト!」

 

唱えた瞬間右手から炎のような魔法が、雷のような速度でゴブリンに真っ直ぐ進む。

 

魔法はゴブリンに命中して、ゴブリンは灰となり消えていく。

 

「やっぱり思った通り魔法名だけで放てましたね」

 

右手がじんじんする。

 

気分が高揚していくのがわかる。

 

呼吸が荒くなる。

 

「レフィ見ましたか⁉︎僕の魔法です!」

 

高揚した気持ちを抑えきれず、初めて買って貰ったおもちゃを見せびらかすように僕はレフィに話しかける。

 

「えぇ見てましたよ、ベルの魔法を」

 

その後レフィに指示された通りに僕は魔法を放つ。

 

モンスターに放ち続け、次第に疲れを感じる。すると先程までモンスターに放つように言われていたが、次はダンジョンの壁を魔法を壊してと指示される。

 

僕は壁を数箇所壊すと、目の前が真っ暗になった。

 

……………

 

…………

 

………

 

 

 

><><><><

 

 

 

………

 

…………

 

……………

 

後頭部にやわらかい感触を感じる。

 

最近は朝の訓練もなく、気絶する事も少なくなっていたので久しく感じる。

 

頭を撫でられているのが気持ちいい。

 

「………目は覚めましたか、ベル?」

 

僕はレフィに膝枕をしてもらっている。

 

「少し気だるいかな」

 

アイズさんとの訓練の時、僕は何度か気絶してしまう事があった。

 

目が覚めると必ずレフィかアイズさんのどちらかが膝枕をしてくれている。

 

最初は恥ずかしかったんだけど、二人が『甘えていいんだよ?』と言ってくれてからは文字通り甘えさせてもらっている。

 

「精神疲弊の後遺症みたいなものですね、時間が経つと自然に治ります」

 

なるほど、これが精神疲弊か。

 

「一人でダンジョンに潜って精神疲弊したらそのままモンスターに襲われて死んでしまいます」

 

レフィが僕の頭を撫でながら、冷たい口調で続ける。

 

「魔法が使える事はダンジョンの攻略に大変役に立つ事です。けど頼りすぎてしまうと精神疲弊を起こしやすくなります」

 

「じゃあなるべく使わないようにした方がいいかな?」

 

「頼りすぎなければいいんですよ。ベルの魔法は正直威力はそんなに強くはないですが、精神疲弊するまで結構な数放つ事ができましたね」

 

「そうなんですか?」

 

「はい。私やリヴェリア様は威力が高い魔法ですが、詠唱が長く精神力を使います。けどベルの魔法は詠唱がなく精神力はそこまで使わないのでしょう」

 

「…………」

 

考えたくない事をどうしても考えてしまう。

 

「どうしたんですか?」

 

「……僕の魔法は強くないのかな?」

 

先程魔法を放った時は確かに嬉しかった。

 

けど魔法とは必殺技のようなもっと派手な物を想像していた。

 

一度放てば戦況が変わるような。

 

「…………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

レフィにものすごい長いため息をさせてしまった。

 

「そんなくだらない事を考えてたから元気がなかったんですか?」

 

「だって」

 

「そもそも魔法が発現しただけでも十分すぎるぐらいなのに、さらに詠唱なしの超速攻魔法なんてかなりのレア魔法なのに」

 

レフィが恐らく怒っているのだろう、先ほどまで僕の頭を撫でていた右手は拳を握り震えていた。

 

そのまま無言で拳を目の前まで近づけられ僕はデコピンをされた。

 

ボコッ!

 

「……っ痛ぅ〜⁉︎」

 

およそ人の額からしてはいけない音がし激痛が走る。

 

「これでもLv.3ですから」

 

激痛に悶えながら額を抑え痛みが治るを待つ。

 

「いいですかベル、良く聞いてください。魔法に憧れを抱いてたのはわかります、英雄のようなカッコイイ派手な魔法を使いたかったのもわかります。けど魔法は貴方の想いが形になった物なんです」

 

僕の想い……

 

僕は魔法にどんな気持ちを想い描いていた?

 

「思い出してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルにとっての魔法は?」

 

炎だ。

 

真っ先に思い浮かぶのは炎。

 

「魔法に何を求めるんですか?」

 

より強く、あの人のもとへ。

 

より速く、あの人のもとへ。

 

「それだけですか?」

 

叶うなら。叶うなら。叶うなら。

 

英雄になりたい。

 

「僕は守りたいと思う全てのものを守りたい、絶対に失いたくないから。だから僕は全てを守って、みんなが笑っていられるようなそんな英雄になりたい!」

 

「子供みたいですね」

 

「……ごめん」

 

「けど、それがベルです」



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28話閑話

 

 

ダンジョンから戻った後、団長室で一人書類と向き合い遠征の準備を進める。

 

「……新種のモンスターについては収穫はなしか」

 

ダンジョンで現れた芋虫型のモンスターと、地上で現れた植物型のモンスター。

 

前者は実際に遭遇したが、後者はティオネ達が討伐した報告以外に情報が無い。

 

「フィン〜、入るで〜」

 

返事をする前に入って来る主神。しかし待ち侘びていた来訪者だ。

 

「待ってたよロキ」

 

「すまんな、レフィーヤとベルのステータス更新をしよってな」

 

僕達がダンジョンに潜っている間にロキに地上で新種のモンスターについて探ってもらうように頼んでいた。

 

「早速だけど、何かわかった事はあるかい?」

 

尋ねると両手を上にあげて首を振る。

 

「臭いとこはあらかた調べたんやけど収穫は全くの零や」

 

「全くかい?」

 

「不自然なほど何もなかった、本当にそんなモンスターが地上で出たんかって疑うほどや」

 

「なるほど。ありがとう、ロキ」

 

「フィンの頼みならいくらでも任せてぇな」

 

「それは心強いな、じゃあ引き続き調査を頼んでもいいかい?」

 

「ええで任しとき、時間がある時に調べといたる」

 

「助かるよ」

 

「所でリヴェリアとガレスはどこにおるん?」

 

「ガレスは館のどこかにいると思うよ、リヴェリアはまだダンジョンでアイズといるよ」

 

「リヴェリアは今日は帰ってこんか」

 

「帰りは明日の朝ぐらいになるんじゃないかな?」

 

ロキは「まぁええか」と言いポケットから一枚の用紙を取り出す。

 

「じゃーん、これなんやと思う」

 

「レフィーヤかベルのステータスかな?」

 

「正解や、まぁ見てみ」

 

用紙を開いて内容をみる。

 

「……ベルのステータスか、上がり方は相変わらずだけど」

 

魔法が発現している、それも詠唱はなし。

 

「これは出来過ぎやろ」

 

スキルの発現に凄まじい成長速度、さらには詠唱のない魔法の発現。

 

「誰かがベルに何かをしていると考えてるのかい?」

 

「ありえん話ではないやろ」

 

「心当たりがあるのかい?」

 

「……色ボケ女神が、多分ベルに目をつけとる」

 

恐らくロキが言う色ボケ女神とは神フレイヤの事だろう。

 

オラリオの二大派閥と言われている僕達ロキ・ファミリア、それともう一つのファミリアがフレイヤ・ファミリアの主神。

 

現オラリオで唯一のLv7の冒険者がいるファミリア。

 

「なぜベルを?」

 

「わからん。たまたま目に入っただけか、スキルの事を勘付かれたんか。気に入った奴が居ればお構いなしや」

 

神フレイヤに目をつけるほどなのか、ベル・クラネルという人間は。

 

「まだ目をつけとるかもぐらいやからな、まだ確証はないで」

 

「わかった。とりあえず気にはしておくよ」

 

「頼むで、こっちも何かわかったらまた伝えるわ」

 

そう言ってロキは部屋から出て行く。

 

「……ふぅ、やっぱり君は本物なのかい」

 

 

 

><><><><

 

 

 

最近アイズが少し変わった。

 

ほんの少し前まで強くなるために無茶をしていたが…

 

いや、無茶は今もしているが焦りがなくなった様に見える。

 

やはりベルとの出会いが大きいのだろうか。

 

あれだけ私達が諭しても聞かなかったお転婆娘が、ベルと出会ってから良い方向に変わった。

 

何かしらの心境の変化があったのか。

 

ベルといえばレフィーヤも変わった。

 

特にレフィーヤは目に見えて変わった。

 

私達の期待の応えられないと、悩んでいた事は気づいていた。

 

私の後釜だと囁かれ、周りの期待に押しつぶされそうになっていた事も。

 

思う様に結果が出ず、苦しい時に励ます事が出来ればよかったが、私からの言葉ではプレッシャーになるだろうと思いアイズやティオナやティオネに任せた。

 

少しづつではあるが成長していたが、あと一歩踏み出す事が出来ず。

 

次第に少しづつ自信がなくなっていくのを見守る事しか出来ない自分に辟易した。

 

しかし最近あの娘から並行詠唱を教えてほしいと頼まれた。

 

もちろん私は了承した。

 

私に教えれる事は全て教えると。

 

指導になると厳しくなってしまうが、レフィーヤは挫けずに訓練に励んだ。

 

日常の生活でも笑顔が増えた気がする。

 

何よりも俯く事がなくなった。

 

ベルが来る前までは一人で俯いている所をたまに見かけたが、ベルが来てからは見ることがなくなった。

 

一回だけ三人の早朝に行なっている訓練を見に行ったが、私が見たのは三人が横になって並んで寝ている所だったな。

 

幸せそうに寝ている三人に見て安心したのを覚えている。

 

今思い出しても微笑ましい絵だった。

 

正直今のアイズに駆け出し冒険者の指導をさせるのは不安だったのだが、良い方向に向かってよかったと本当に思う。

 

「リヴェリア、どうしたの?」

 

横にいたアイズに声をかけられる。

 

「何がだ?」

 

「笑っていたよ」

 

表情に出ていたか。

 

「……帰ったら皆驚くぞ、たった一人で階層主を倒すとは」

 

そう言って私は誤魔化した。

 

 

 

><><><><

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一応彼には渡しましたよ」

 

「ありがとう!」

 

「直接渡せばよかったのに、どうして会わないんですか?」

 

「だって彼女も我慢しているからね、私も我慢しなきゃ」

 

「変な所で真面目と言うか強情なのか」

 

「それに次あったら食べてしまうかも」

 

「それはやめなさい」

 

「じゃあ私は戻るからそっちも頑張ってね」

 

「はい、殺さないように気をつけてください」

 

「わかってる」

 

 



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29話Lv.6

 

 

早朝、いつものなら訓練をしている時間に、私はシャワーを浴びていた。

 

つい先程、ダンジョンから帰ってきたからだ。

 

他のみんなより長くダンジョンに潜り、階層主と闘って、私は確かな手応えを感じた。

 

前より強くなっている。

 

付き合ってくれたリヴェリアにはお礼をまた言わないと。

 

お湯を止めて脱衣所に向かう。

 

眠気はある、けど空かせたお腹を満たしてから眠ろうと思い食堂へ向かう。

 

食堂に入ると眠そうな二人を見つけた。

 

一日合わなかっただけなのに、久しぶりに会ったような気分になる。

 

ちょっと嬉しくなった。

 

「おはよう、ベル、レフィーヤ」

 

「アイズさん、帰ってたんですね、おはようございます。お帰りなさい」

 

「私も一緒に良い?」

 

「もちろんです!」

 

二人と同じテーブルに座り私も食事を始める。私は二人とは違い朝食ではなく、遅めの夜食みたいなものだが。

 

ジャガ丸くんを食べながら、ベルの話を聞く。

 

どうやら、私との訓練がない間は豊饒の女主人で訓練してもらうようだ。

 

遠征が終わるまでの間だが、ベルはちゃんと自分で、強くなる為に頑張ってる。

 

私も負けてられない。

 

「それと、アイズさんに、遠征が終わってから見せたいものがあります!」

 

「見せたいもの?」

 

「はい!」

 

満面の笑みで返事をするベル。レフィーヤの反応を見ると、レフィーヤは既に知っている様子だ。

 

 

 

「楽しみにしているね」

 

 

 

その後食事を終えてから、私は自分の部屋に戻り、ベッドに横たわる。

 

心地の良い疲労感が眠気を誘う。

 

はたしてベルの見せたいものとは何だろう?

 

きっとまた私を驚かせてくれるだろう。

 

 

 

-------

 

 

 

目を覚まし外を見ると日が沈んで行くのが見える。時刻は逢魔時。

 

体が軽い、疲れも取れた。

 

……お腹すいた。

 

部屋を出て私は食堂ではなく、先にロキの部屋に向かった。

 

「あっ!アイズだ。帰ってたんだね」

 

廊下を歩いているとティオネとティオナに会った。

 

「お帰りアイズ。今からティオナと食堂にいくんだけど一緒にどう?」

 

「うん。けど先にロキの所に行ってくる」

 

「まだステータス更新してないんだ。わかったじゃあ先に行って席とっておくね」

 

早く来てねと言いながら二人は食堂へ向かい、私はまたロキの部屋へと向かった。

 

 

-------

 

 

部屋の前に着きノックをする。中からロキが入ってええでーと声が聞こえ、扉を開ける。

 

「お〜アイズたん、まっとったで。リヴェリアから帰ってるって聞いてたけど、全然来んかったから寂しかったで」

 

「眠かったから寝てて…」

 

「まぁまぁ、来てくれたからええんやけど。要件

はステータス更新やろ」

 

ロキが手の指を、わしゃわしゃしながら近づいてくる。

 

「変な事したら本気で殴るから」

 

「こわ!レフィーヤといいアイズたんといい、ちょっとぐらい触らしてもええやんかー」

 

ロキの言葉を聞き流しながら上着を脱ぐ。

 

「じゃあ始めるで」

 

 

 

-------

 

 

 

「アイズー!こっち、こっち」

 

ティオナが私に気づいて、こちらに手を振る。夕食を持って向かい席に座る。

 

ティオネとティオナの料理はまだ手がついていないようだった。

 

「お待たせ、まだ食べてなかったの?」

 

「せっかくだから、一緒に食べようと思って」

 

「そうそう、一緒に食べた方が美味しいもんね」

 

「ありがとう」

 

そして私たちは食事をとり始める。

 

「結局アイズは、ダンジョンに残って何をしていたの?」

 

「階層主と戦ってた」

 

「はぁ〜、階層主ってウダイオス?リヴェリアと二人で戦ったの⁉︎」

 

「リヴェリアには手を出さないように言ったから、一人で」

 

「一人で⁉︎倒せたの?」

 

「うん」

 

「一人で倒すなんて、アイズ凄いね」

 

「ちょっと無茶しすぎなんじゃないの?」

 

「うん。けど強くなりたいから。レフィーヤとベルを見てると強くならなきゃって思ったから」

 

「そうね。最近はレフィーヤが凄く成長しているのがわかる」

 

「怪物祭の時はレフィーヤがいなかったらちょっとやばかったもんね」

 

「うん。ベルも一緒に訓練をしてて、あの事が無くても成長が凄く早い」

 

「ダンジョンで見たけど、あれなら二年くらいでランクアップするんじゃないかしら?」

 

「兎くんそんなに成長早いの?今度私も一緒に訓練しようかな」

 

多分、いやきっとベルは二年と言わず、もっと早くランクアップする気がする。

 

「私たちは次いつランクアップできるのやら」

 

あっ、そういえば。

 

「さっきステータス更新したら、Lv.6になったよ」

 

 

 

 

 

 



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30話パーティ

 

 

「パーティを組んだほうがいい」

 

お昼の賄いを食べている時に、突然リューさんに言われた一言。

 

「魔法を覚え、ダンジョン攻略にも、余裕が出てくるんではないでしょうか?」

 

確かに、一昨日レフィとダンジョンに魔法を試し打ちに行った時や、昨日一人でダンジョンに潜った時、以前とは違い中距離での攻撃ができるようになり、だいぶ楽になったと感じた。

 

「ロキ・ファミリアでパーティに入れないんですか?」

 

正直なところ、レフィのお陰で交友はあるが、まだ一人では声を掛けづらい。さらに遠征前だからか、若干ピリピリした空気があるから厳しい。

 

「なるほど」

 

「ならミャーと一緒にダンジョンに潜るにゃ!」

 

横で会話を聞いていたアーニャさんが指を僕の頬に突き刺しながら言う。

 

「白髪頭も水臭いにゃ、ミャーに頼めばダンジョンぐらい、一緒に行ってあげても良いニャー」

 

「アーニャが一緒にだと、どうせ足を引っ張るだけニャ」

 

「店をサボりたくて言ってるだけでしょ、あんたにそんな暇がいつあるんだか」

 

クロエさんとルノアさんの容赦の無い言葉がアーニャさんを襲う。

 

「にゃんだとー!ニャーはおみゃーらよりダンジョンに詳しいニャー!」

 

アーニャさんはクロエさんとルノアさんのいつもの口喧嘩が始まる。

 

「アーニャの事は置いておいて、サポーターと一緒にダンジョンに潜るだけで、一人での負担は大きく変わります」

 

リヴェリアさんの講座でも、ダンジョンでの死亡のリスクを減らすなど、パーティのメリットは沢山学んでいる。

 

実際に一人でダンジョンに潜り、死にかけた事もあったし。

 

「まぁ、無理にとは言いません。貴方が決める事です」

 

そう言ってリューさんは、最後の一口を食べ終える。

 

僕も暴れていたアーニャさんが、ミアさんに「やかましい!」と拳骨をくらうのを見ながら、最後の一口を食べ終えて、豊饒の女主人を後にする。

 

ちなみに皿洗いは、騒いだ罰でアーニャさんになった。

 

 

 

-------

 

 

 

「パーティを組みたい?私と?」

 

僕はポーションを買うために、ナァーザさんのお店に訪ね、ダメ元でナァーザさんをパーティを誘った。

 

「無理だね」

 

結果は撃沈。

 

「いやね、私がベルとパーティを組むのが嫌と言うわけではなくてね、私にはトラウマがあるんだよ」

 

「トラウマですか?」

 

「そうさ、私達は体の傷は癒せても、心の傷は治せないんだ」

 

ナァーザさんは一度深く息を吸って、吐き出す。そして僕の僕を見てゆっくりと話し始める。

 

「私はモンスターにこの腕を食われた事があるんだ、それからモンスターの気配がある所では、私は動けなくなる。

 

死んでしまうと感じた恐怖を私の体が、私の心が忘れられないんだ

 

……だからベルとダンジョンに入っても、私は足を引っ張るだけの置物になる」

 

僕は驚く。

 

「……ナァーザさんも死にかけた事があるんですね」

 

「昔の話さ、今は生きているし、薬作りは楽しいからね」

 

「すみません、そんな話をさせてしまって」

 

「謝らなくても良いさ、話をしたのは私だよ」

 

それでも…

 

「だから、ベル。私は君を凄いと思う。一度死にかけたのに、ダンジョンに挑戦し続ける君が」

 

「……」

 

僕は何も言えなかった。

 

「まぁ、悪いと思ってくれるのなら、また薬を買いに来てよ。これからもずっと……ね」

 

生きて帰って来て、ダンジョンに挑み続けるならまた必要になるだろう。そう言ってナァーザさんは笑顔で見送ってくれた。

 

 

 

-------

 

 

 

〜ギルド前 広間〜

 

ここまで来たのは良いものの。

 

「結局ソロで、ダンジョンに入っちゃうんだよな〜」

 

一応フィンさんに、十階層までだったらソロで潜っても良いと言われてはいるけど、リューさんの話を聞いた後では、なんとなく入りづらい。

 

……入るけど。

 

若干気乗りしないまま、一歩踏み出そうとたが

 

「お兄さん、お兄さん」

 

自分と思しき物を呼ぶ声に、行動を中断された。

 

「えっ?」

 

声の下方向に振り向く。

 

しかし自分に近づいては追い抜いていく冒険者達が視界を過るだけで、声の人物らしき者は見当たらない。

 

「お兄さん、下、下ですよ」

 

少女の声に従って下を向くと、いた。

 

身長およそ百センチ、クリーム色のゆったりとしたローブを身につけ、深くかぶったフードから栗色の前髪がはみ出ている。

 

背には、その小さな体よりひと回りもふた回り、いやもっとそれ以上に大きい、思わずぎょっとするようなバックパックを背負っていた。

 

「……君は?」

 

「お兄さん。突然ですが、サポーターなんか探していたりしませんか?」

 

そう言った少女は人差し指を僕の背へ向けた。

 

示す方向にあるのは僕のバックパック。

 

ソロと思われる冒険者がバックパックを装備している光景を見れば、誰であってもその心中を察するのは容易だ。

 

……なるほど。

 

「混乱しているんですか?でも今の状況は簡単ですよ?冒険者さんのおこぼれにあずかりたい貧乏なサポーターが、自分を売り込みに来ているんです」

 

少女はお日様のようににこっと笑ってみせた。

 

「……?お兄さん、意外と落ち着いてます?何か反応していただけると嬉しいのですが?」

 

少女は首を傾げる。

 

「……っあ、すみません。少し驚いてて」

 

「それでお兄さん、どうですか、サポーターはいりませんか?」

 

「ええっと……で、できるなら、欲しいかな……?」

 

「本当ですかっ!なら、私を連れていってくれませんか、お兄さん!」

 

少女の笑顔から見える大きな瞳は、僕の目をしっかりと見ていた。

 

「よろしくお願いします」

 



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31話白巫女

 

 

アイズさんがLv.6になったと聞いたのは、ティオナさんとティオネさんの二人と、一緒に朝食を食べているときだった。

 

「アイズさんランクアップしたんですか?」

 

「そーなんだよ、昨日の夜一緒にご飯食べてたらさー、いきなり言うんだもん」

 

「先を越されちゃったわね」

 

二人は少し悔しそうで、けどとても嬉しそうに話します。

 

「アイズ、ベルと一緒に訓練するようになってから、なんていうか少し変わった感じがするのよね、落ち着いた感じがする」

 

「そうなんですか?けど朝の訓練は楽しそうにしてますけど」

 

「あぁ兎狩り?」

 

「ぶふぅ!!」

 

ティオネさんの言葉に思わず、口に含んでいた食事を吹き出してしまう。

 

「兎狩りって、なんですか⁉︎」

 

「知らないの?あんた達の訓練を見て誰かが言ったのよ。兎を狩っているみたいって」

 

確かに、ベルに容赦の無いアイズさんですが。まさかそんな風に言われているなんて……

 

「アイズもだけどレフィーヤもちょっと変わったよね」

 

「っえ、そうですか?」

 

「そうね、怪物祭から自分に自信が戻ってきてる感じがするわ」

 

「……そうですね」

 

口の周りを拭きながら、あの日の事を思い出す。

 

ベルが私を必要としてくれたから、私も前に進まなきゃと思った。

 

「アイズがもしベルとの訓練で強くなれたのなら、今度私も兎狩りに参加させてね」

 

「私も私も、兎くんと闘ってみたかったんだよね」

 

「是非、お待ちしています」

 

 

 

-------

 

 

 

お昼が過ぎ、リヴェリア様との訓練も終わって、私はある場所に向かっていた。

 

『レフィーヤ、すまないがこの後、遠征用の薬を取りに行ってもらえないか』

 

私はリヴェリア様に頼まれ、用事も特には無かったのでお使いに出向いている。

 

店に着き扉を開け中に入ると、一人のお客と店主がカウンターで座っているのが見えた。

 

「いらっしゃい、おや次は【千の妖精】かい」

 

「ナァーザさんそっちの名前で呼ばないでください……。次?私の前に誰か来たんですか?」

 

「君のペットの兎くんが来ていたよ」

 

私のペットって……

 

「今日は、ファミリアの頼んでいたものを取りにきました」

 

「あぁ、少し待っててくれ、持ってこよう」

 

そう言ってナァーザさんは奥の部屋に入っていった。

 

ナァーザさんが戻って来るまで、展示している商品でも見ようと思っていたが、私は商品を見る事は出来なかった。

 

「レフィーヤさん……でよかったかな?」

 

私は先程ナァーザさんと一緒にカウンターに座っていた、彼女が話しかけてきたから。

 

「私はフィルヴィス・シャリア、初めまして。貴方と話をしたいと思っていたんだ」

 

フィルヴィスと名乗った彼女は綺麗で真っ直ぐに伸びた黒い髪に、汚れのない白い肌で、心から美しいエルフの女性だと私は思った。

 

「どうした……?」

 

はっ!

 

見惚れ少しぼーっとしていた。

 

「すみません、私はレフィーヤ・ウィリディスです」

 

 

 

-------

 

 

 

フィルヴィスさんと少し会話をし、彼女はどうやら先日の怪物祭の時、アイズさん達と花のモンスターと闘う私を見ていたと。

 

その後、この店でナァーザさんが私がたまに来る事を聞いて、私に会う為に暇な時は店に来るようにしていたと。

 

「こんなに早く会えるとは思っていなかったが」

 

「私に感謝してね」

 

話の途中で戻ってきたナァーザさんも会話に混ざっていた。

 

「傷つきながらも闘う貴方に私は目を離せなくなり、同じエルフとして話がしたかった」

 

「いえ、あの時は必死で」

 

「正直あの傷で動けるとは思わなかった、闘っていた三人でも負ける事は無かったと思うが……、どうして貴方は立ち上がった」

 

どうしてか……

 

私は少し考えてから、言葉を出す。

 

「みんなを守りたかったから」

 

だれかのペットの白兎のおかげで、私もそう思えるようになったんでしょうね。

 

「そうか」

 

フィルヴィスさんはそう一言口にして、満足そうな顔で笑った。

 

 

 

 

少しの沈黙の後、ナァーザさんが外の様子を伺ってから私に質問をする。

 

「ところでレフィーヤさん、今日は一人で来たのかい」

 

「……?えぇ、そうですが」

 

「あー、頼まれてたもの全部用意してるんだけどさ……」

 

煮え切らない様子で言葉を繋ぐナァーザさん。

 

「どうかしましたか?」

 

何か不都合でもあるのだろうか?

 

少し不安になる。

 

「一人で運ぶの多分無理だよ」

 

 

 

-------

 

 

 

「すみません、運ぶのを手伝ってもらって」

 

ナァーザさんが用意した薬の量は、私が思っていた二倍はあり、無理をすれば一人でも運ぶ事は出来そうだが、転んだりして薬を落としてしまった時には大変な事になる。

 

なので一度ホームに帰り助っ人を連れてこようとしたら、フィルヴィスさんが「私でよければ手伝おう」と申し出てくれて、一緒に運んでいる途中だ。

 

「尊敬する同胞が困っているんだ、手伝わせてくれ」

 

「尊敬だなんて」

 

そんな事を言われたのは、初めてでとても嬉しかった。

 

その後も色々な事を話しながら、ロキ・ファミリアのホームに帰り、門番の方と一緒に荷物を中に入れた。

 

「フィルヴィスさん、本当にありがとうございました。このお礼は必ずさせていただきます」

 

私は深々と頭下げてお礼言う。

 

「気にするな、私がしたかった事だ」

 

「……でも」

 

「そんな顔をしないでくれ。わかった、では私のダンジョン探索に付き合ってくれないか?」

 

「っえ?私がですか?」

 

「そうだ、貴方と一緒にダンジョンを潜ってみたい」

 

 



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32話サポーター

 

 

ダンジョンに潜り、モンスターを狩る。

 

一体、二体、三体と目につくモンスターをひたすらに。

 

階層は以前ティオネさんとレフィの三人で探索した五階層より深い八階層で、魔石を集める為に狩場にしている。

 

一応十階層までは潜っても良いと言われているが、まだ念の為に八階層に留めている。

 

「アル様お強い〜!」

 

僕が倒したモンスターの、魔石を回収しながら、近づく小人族の少女。

 

先に、誤解をしない様、言っておきたい事が一つある。

 

僕はベル・クラネルだ。

 

では先程の小人族の少女僕の事を何と呼んだか?

 

 アル様

 

小人族の少女がなぜ僕の事を、アル様と呼ぶのかそれはこんな会話があったからだ。

 

 

 

><><><><

 

 

 

〜ギルド前 広間〜

 

 

「それでは、一緒にダンジョンに潜る前に、私から一つお願いがあります」

 

小人族の少女と僕は、近くの腰掛けれる場所に移動し向かい合って話している。

 

「お願いとは、お互いが何処のファミリアなのか、そして名前を教えない事です」

 

僕は疑問に思う、少女が言っている意味はわかるが、意図がわからない。

 

「わからない?と言う顔をしてますね」

 

顔に出ていた。

 

「あまり詮索はしないでください、少し隠したい事なので。怪しいのは承知しています。ですからサポーターとして、貴方様の期待以上の働きをしますから、私のお願いを聞いてください」

 

そう言うと少女は頭を下げた。

 

「うん、わかったよ」

 

少女にも都合があるのだろう、頭を下げさせる事にも気が引け僕はすぐに了承した。

 

「ありがとうございます!」

 

頭上げた少女の笑顔は可愛く見え、つい顔を横にそらす。

 

「……相変わらず、お人好しですね」

 

少女の最後の言葉は小さく聞き取れなかった。

 

 

 

><><><><

 

 

 

そんな事があって、小人族の少女から僕は「アル」と呼ばれている。

 

「アル」は二本歩行の赤目白い兎のアルミラージから取っているそうで、見た目がそっくりだからと言われ決まった。(僕は見た事がない)

 

「ありがとうリリさん」

 

僕が倒したモンスターの魔石を回収している、少女は自分をリリと呼ぶように言ってきた。

 

「はい、魔石の回収はリリがしますのでアル様は休んでいてください」

 

こうして、リリさんとダンジョンに潜っていると実感する。パーティのメリットを。

 

ソロだと戦闘から魔石の回収など全て一人で行わなければならないが、作業を分担するだけでもこれだけ楽になるとは思わなかった。

 

何より荷物が増えない為、身軽に移動できるのが嬉しい。

 

リリさんに、少し荷物を持つと提案したが、スキルの効果で沢山荷物を運べるから、僕には戦闘に集中してほしいと言われた。

 

実際にリリさんは自分の体より大きいバックパックを背負い、さらに道中のモンスターもいつもより多く倒し、魔石も沢山拾って来た。

 

しかし、リリさんは重さを感じさせる事なく、軽快についてきている。

 

「どうしましたかアル様?お疲れでしたら、少し休みましょうか、今のモンスターであらかた周辺のモンスターは片付け終わりましたので」

 

「ううん、大丈夫だよ」

 

「そうですか、しかしアル様は本当に駆け出し冒険者なのですか?とてもLv.1とは思えない動きでしたけど?」

 

「アイっ……、あー僕のファミリアの強い人と沢山訓練しているからかな?」

 

危うく名前を言いかけた。

 

アイズさんの名前を出してしまえば、ファミリアなんてすぐにバレてしまう。

 

「あとリリさん、少し気になったんだけど、そのアル様、っていうのは流石に止めてほしいんだけど……」

 

「どうしてですか?リリは特に気にしませんが?」

 

「いやぁ、なんか気恥ずかしくて、できれば普通に呼んでほしいなって」

 

リリさんは手を顎に当てて考える素振りをする。

 

「……アル様も、リリの事をさん付けで呼びますよね?リリの事はさん付けではなく、リリと呼んでください。そうすれば考えます」

 

まさか、リリさんから呼び方を変えてくるように要求があるとは思わなかった。

 

けど、この要求を僕はすんなりと受け入れる事にした。

 

「わかったよ、リリ」

 

不思議とリリと呼ぶ事に僕はなんの抵抗もなかった。

 

初対面のはずなのに。

 

まるで、昔からずっと少女の事を呼び捨てで、リリと呼んでいた気がする。

 

何度も何度も……

 

「はい!その方がリリは嬉しいです、アル様!」

 

……様がなくなっていない。

 

「……リリ、様はやめてくれるっていう話だよね?」

 

リリは首を傾げる。

 

「リリが、こうやって呼ぶのは前々前世のずーっと前から決まっていますので、これからもアル様と呼ばせていただきます!」

 

そう言った彼女の笑顔を見ると、僕は何も言い返せなくなった。

 

 

 

-------

 

 

 

あれから、もう少しだけモンスターを狩ってから僕たちは地上に戻った。

 

リリが換金に行ってくれて、「こんなに大量に魔石とドロップアイテムがあるので時間がかかりそうなのです」と言っていた。

 

待っている間に挨拶に行こう。

 

もしかしたら会えないかもしれないが、彼女の部屋へ向かう。

 

扉の前まで着き、ノックをする。

 

「こんにちは、アミッドさん」

 

「次はベルさんですか。今日はどうしましたか?」

 

「少し時間があったので挨拶に来ました。僕の前に誰か来たんですか?」

 

「はい、貴方の飼い主さんが来ましたよ」

 

アミッドさんは優しく笑いながら話す。

 

飼い主?もしかしてレフィ?

 

「僕はペットじゃないですよ」

 

「いえ、側からみれば微笑ましいですよ」

 

そんな会話をいくつかして楽しみ、仕事の邪魔にならないようあまり長居せず僕は引き上げた。

 

「また元気な姿で来てください」

 

 

 

-------

 

 

 

待ち合わせ場所に行くと先にリリが待っていた。

 

 

「お待たせ、リリ」

 

「はい、では今回の収穫がこちらですね」

 

リリは、バックパックからパンパンの小包を出して言う。

 

「Lv.1のの五人組のパーティが一日かけて稼げる金額ぐらいですね。本当凄いですねアル様、ドロップアイテムが多少あったとはいえ、僅か半日でこの成果とは」

 

「リリがいてくれたからだよ」

 

サポーターがいる事で戦闘に集中出来て、ひたすら目につくモンスターを狩っていたからなぁ。

 

それにリリは自分で言った通り、僕の期待以上の働きをしてくれていた。

 

「では今回の報酬ですが……」

 

「うん、山分けでいいかな?」

 

「山分けですか⁉︎いいんですか、そんなに貰っちゃって?」

 

「っえ?だってリリがいたから、この量だよ」

 

「ありがとうございます、頑張った甲斐がありました」

 

実際にリリがいなかったらすぐに荷物がいっぱいになり、もっと少ない量になっていだろう。

 

そうして今回の報酬を二人で山分けする。

 

「ではアル様、今日の働きを見て考えてほしいのですが、十日間の間リリと一緒にダンジョンに潜ってくれませんか?」

 

「十日間?」

 

 

 

 

 

「はい、十日後まで」

 



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33話護る魔法

 

 

ギルドのとある病室で彼女は仕事をしている。

 

ギルドから依頼されているわけではなく、あくまでも彼女の意思で働いているらしい。

 

しかし、慈善活動と言うわけでなくしっかりと治療費を要求している。

 

当然、要求する金額は治療に見合った良心的な金額である。

 

ベルが死にかけた時の治療費はそこそこの金額だったらしい。

 

エリクサーで大半の傷は癒えてはいたが、頭を割られていて、内臓にもダメージがあったそうです。

 

……怪我をさせてしまったのは、私のせいですが。

 

ファミリアの責任ということで、もちろんヴァリスはロキ・ファミリアが全額支払いました。

 

ちなみに私の傷の治療はそこまでの金額じゃなかったとか。

 

都市最高の治療師の名は伊達ではなく、生きていれば必ず治療できると言われるほどで、治癒能力に関してはリヴェリア様ですら太刀打ちできないそうです。(リヴェリア様本人から聞きました)

 

そんな彼女に、私はなぜギルドで仕事をしているか尋ねた事があります。

 

『助けれる命を助ける為です』

 

アミッドさんはそう答えた。

 

ダンジョンで傷つき倒れる冒険者は数多くいる。

 

その全ての人を助ける事は叶わないと、彼女はわかっている。

 

それでも、命からがら一分一秒の生死を争いながら、地上に戻れた冒険者を助ける為彼女はギルドにいるのだろう。

 

彼と手段は違いますが、同じ事をしていると私は思う。

 

そして先日、怪物祭の時に怪我を負い私はギルドに運び込まれた。

 

起きた時にはお腹の傷は無くなっていたが、念の為一日だけ様子を見る事になりギルドに入院した。

 

翌日には完治してすぐに退院できました。

 

なので、ダンジョンに潜る前に一言お礼を言うためアミッドさんのいる場所に向かっている。

 

「こんにちは、アミッドさん」

 

彼女は部屋でお茶を飲んでいた。

 

「こんにちは、レフィーヤさん、フィルヴィスさん。今日はどうなさいましたか?」

 

「今日はこの間のお礼を言いに来ました。先日はどうも、ありがとうございました」

 

「どういたしまして。傷は大丈夫ですか?」

 

「はい、問題ありません。痛みも跡も残っていません」

 

「それは上々、命に別状は無かったとはいえ、重症でしたので良かったです」

 

エリクサーは大半の傷を治す事はできるが、しかし傷跡が残ったり、変に治る場合がある。

 

大きな怪我だと傷跡が残りやすく、治した所が歪になる事もあるそうで、無理矢理治しているからと教えられた。

 

実際に跡が残っている冒険者を私は見ている。

 

ベルには運良く傷跡が残る事はなかった。

 

もちろん、ダンジョン内で命の危険がある程の怪我を負ったのなら迷わずに使うべきであるが、高級品でもある為エリクサーは最終手段として使用する。

 

アミッドさんの治療は、エリクサーと違い怪我を綺麗に治療する事が出来る。

 

リヴェリア様や治癒魔法を持っている冒険者であれば治療は出来るが、治療の質や速さはアミッドさんが飛び抜けている。

 

その為、オラリオのほとんどの冒険者はアミッドさんのお世話になる、特に女性とエルフの冒険者が。

 

そんなアミッドさんにお礼も無事に言えて、お茶を飲むぐらいに暇そうではあるがあまり長居はできない。

 

「これからダンジョンに潜りますので、また何かあればよろしくお願いします」

 

「ええ、何もない事を願っています」

 

頭を下げ部屋から出て行く。

 

「すみませんフィルヴィスさん付き合わせてしまって」

 

「問題ないよ、レフィーヤさん。それじゃあ行こうか」

 

「はい!」

 

 

 

-------

 

 

 

〜ダンジョン五階層〜

 

「この辺でいいか」

 

フィルヴィスさんの後をついて行きながらダンジョンを進んで行く。

 

「そっちは下の階層への道ではないですよ」

 

フィルヴィスさんは正規ルートから外れた道を進もうとしていたので止める。

 

「大丈夫、もう少しついて来てくれ」

 

そう言うと、また歩き始める。

 

そういえば、フィルヴィスさんは私と一緒にダンジョンに潜りたいと言ったが、なぜ一緒にダンジョンに潜りたいかを聞いていなかったと気づく。

 

ナァーザさんと親しく話していたので安心していたが、私は無防備すぎたのではないか?

 

少しの不安が私によぎる。

 

「ついたぞ、レフィーヤさん」

 

突然声をかけられて少しだけ驚く。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫だ、貴方に危害を加えるつもりはない」

 

そんなにわかりやすく表情に出てしまっていたのかと苦笑いを浮かべる。

 

「無理もない、貴方からすれば今日初めて会った同胞だ、警戒しないのがおかしい」

 

フィルヴィスさんは優しく微笑んでくれた。

 

「安心してくれ、私の目的は貴方護る事だ」

 

「私を護る?」

 

「そうだ。レフィーヤさんの魔法で私の魔法を使う事が出来るだろう?」

 

私の魔法【エルフ・リング】

 

エルフの魔法に限り、詠唱と効果を完全把握していれば他者の魔法を使用できる。

 

怪物祭の時に謳った魔法はリヴェリア様の魔法。

 

【エルフ・リング】の詠唱を謳った後、さらに詠唱を謳わなければならず、魔力も二つ謳った分消費する。

 

私が【千の妖精】と呼ばれる理由。

 

「貴方に私の魔法を預けよう」

 

フィルヴィスさんは背中を向け前に短杖を突き出す。

 

【盾となれ、破邪の聖杖】

 

「ディオ・グレイル」

 

「……綺麗」

 

「障壁魔法だ、物理、魔法あらゆる攻撃から術者と仲間を護る」

 

フィルヴィスさんはこちらに振り向く。

 

「この魔法を貴方に託したい、もう貴方が傷つかないように」

 

 

 

-------

 

 

 

フィルヴィスさんと地上に戻り、今日のお礼を沢山伝えた。

 

用事があるからと、帰って行くフィルヴィスさんに見えなくなるまで手を振った。

 

「……さて、私も帰りますか」

 

踵を返しホームに向かって歩き始めると、一人の冒険者を見つけた。

 

「「あっ…!」」

 

目が合う。

 

私たちは何も言わずに肩を並べて同じ方向に進む。

 

「今日は何をしてたんですか?」

 

「午前は豊饒の女主人で手伝いをして、午後はダンジョンにさっきまで潜ってたよ」

 

「勤労ですね、偉い偉い」

 

「レフィは何をしてたの?」

 

「乙女のプライベートを聞くなんて紳士としてあるまじき質問ですね」

 

「そっちから聞いてきたのに……」

 

「まぁ色々ですよ。私は忙しいんです」

 

他愛もない会話が心地よく、いつものようについからかってしまう。

 

本気で嫌がらないから私は甘えてしまう。

 

「私たちの家に帰りますよ、ベル!」

 

 

 

 

 

 



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34話前日

 

 

ホームに帰った僕とレフィは食堂にすぐに向かった。

 

門番さんに主神命令で、食堂に集まるようにと言われたからだ。

 

少し急ぎながら食堂に入ると既に多くの眷属が席に座っていた。

 

空いている席がないか探していると。

 

「あっ!レフィーヤ、ベル、こっち空いているよ!」

 

手を振って空いている席を教えてくれた彼女の元へ向かう。

 

「また二人で出かけていたの?」

 

「違います、帰りにたまたま会ったんです。エルフィが思っているような事はありません」

 

揶揄う彼女はエルフィ・コレットさん、レフィのルームメイト。

 

本人曰く「誰とでも仲良くなれる美少女かつムードメーカーで火炎魔法が得意な才媛」だそうです。

 

実際に僕ともすぐに仲良くしてくれています。

 

「あの…、これは何の集まりなんですか?」

 

「あっ、そっか。ベルはまだ入って間もないもんね、遠征の前はこうして集まって話をするんだよ」

 

「ベルはまだ、遠征に参加は出来ませんので実感はないと思いますが、私達からすればやっとかって感じますね」

 

「そーだよねー、今回は準備が忙しかったからもう疲れたよー」

 

帰り道、レフィが言ってた忙しいってほんとだったんだ……

 

「ベル、今、本当に忙しかったんだって思いませんでした?」

 

「いや、えーと、あはは……」

 

「おー、みんな集まっとるな!」

 

レフィに詰められそうになったが、ちょうど良いタイミングでロキ様が食堂の奥から出てきた。

 

ロキ様に続いてフィンさん、リヴェリアさん、ガレスさんも揃い椅子に座る。

 

「何人かいないようだけど始めようか」

 

「おっしゃー。みんなもわかっとると思うけど、遠征の出発日が決まったで!」

 

「十日後の正午に出発する。本日で準備はほとんど終わった、後は各自で己の調整をしてくれ」

 

「他のファミリアにも伝えておるからの、よほど不測の事態が無い限りは確定じゃ」

 

リヴェリアさんとガレスさんが話し終えると、フィンさんが椅子から立ち上がる。

 

「前回が前回だからね、今回はヘファイストス・ファミリアと協力していかなくてはならない、けれど君達なら問題ないと信じているよ」

 

静かに、…けれど力強く『信じているよ』と言ったフィンさんは僕達全員を見渡す。

 

その言葉はここに居る全員の心に直接届くような、そんな気がした……

 

 

 

そのまま解散となり食事を取る者、部屋に戻る者、ダンジョンに行くもで各々が分かれる。

 

僕はレフィとエルフィさんと三人で食事を取る事にした。

 

「相変わらずベルは沢山食べるねぇ」

 

「そうですよね、一緒に食事をする事が多いので当たり前になっていました」

 

午後はダンジョンで沢山動いたのでお腹が空いていた。

 

そういえばさっき気になった事があったので聞いてみた。

 

「フィンさんが言ってた、前回が前回ってなにかあったんですか」

 

「あっ、そっか。そういえばベルは前の遠征に行ってる間にファミリアに入ったんだっけ?」

 

「そういえば、そうでしたね」

 

「ベルを初めて見た時は驚いたよ、あのベートさんが慌てて戻ってくるなんて何事‼︎って思ったんだから」

 

「それって、僕が死にかけた話ですよね」

 

「エルフィ!」

 

レフィがエルフィさんに少し怒った。

 

正直死にかけた時の記憶はほとんどなく、そこまで気にしていないがレフィの優しさが伝わって少し嬉しくなった。

 

「あぁ、ごめんごめん。前回の遠征で何があったかだよね」

 

「前回は、新種のモンスターが安全階層に攻めて来て撤退せざるを得なかったんです。そのモンスターは武器や皮膚を溶かす体液で、武器もなくなり怪我人も多く出ました」

 

「だから今回はみんな気合が入ってるのさ!」

 

エルフィさんは拳を大袈裟に上げる。

 

「ベルは留守番ですからね」

 

「わかってるよ……」

 

遠征か……

 

僕も早く、アイズさんやレフィと一緒にダンジョンで戦ってみたいな。

 

……十日後の正午に出発?

 

「そういえば、ベルは今日一人でダンジョンに潜ってたんですか?」

 

レフィの質問でリリの事を思い出す。

 

『十日後までです』

 

「レフィ、僕って遠征の前に何かしなきゃいけないことってある?」

 

「えっ…、ベルがですか?いえ、アイズさんの訓練やリヴェリア様の講座もお休みなので特には無いと思いますが……」

 

それなら大丈夫かな?

 

 

 

「あれ……さっき、アイズさんいませんでしたよね?」

 

レフィが僕達に質問する、確かにアイズさんを見ていない。

 

「アイズさんだけじゃなくて、ベートさんもいなかったよね」

 

「いなくても大丈夫なんですか?」

 

「アイズさんは珍しいけど、ベートさんがいないのはよくある事だよ」

 

「多分、ベートさんはダンジョンにでも潜っているんだと思います」

 

「アイズさんどうしたのかな?」

 

考えてもわからず、食事を食べ終わり、二人と別れてから寝る準備を済ませて自室に戻る。

 

サポーターか……

 

本当なら同じファミリアの人に頼むのがいいんだろうけどな。

 

綺麗な満月が見える。

 

鐘の音が響く。

 

明日も頑張ろう。

 

鐘の音が止むころに僕は眠りについた。

 

 

 

-------

 

 

 

〜九日後〜

 

 

 

「今日もお疲れ様でした、アル様」

 

リリはそう言いながら今日の探索で稼いだ報酬の半分を手渡してくれる。

 

「ありがとう、リリ」

 

結局初日から変わらず、リリの口調は丁寧なままだった。

 

「明日で最後だねリリ」

 

「はい。十日間も付き合って頂き本当にありがとうございました」

 

「そんな、お礼を言うのはこっちだよ。サポーターがどれだけ大切なのか、リリのおかげでわかった気がする」

 

「本当ですか?それならリリも頑張ってよかったです」

 

本当にこの九日間は勉強になった。

 

リヴェリアさんの講座のおかげでダンジョンの知識はあったけど、実際にモンスターと対峙した時の対処方などは

 

ダンジョンの空気などは実践で体験して初めて自分の力になった。

 

そこには確かにリリのサポートもあった。

 

「それでアル様、明日なんですが」

 

「明日?」

 

「どうやら明日の正午に、ロキ・ファミリアの遠征があるそうです」

 

当然ロキ・ファミリアの僕は知っていたが、お互いに所属ファミリアを伝えないと約束している為何も言わなかった。

 

「なので明日は早朝から正午までの探索にしましょう」

 

「正午まででいいの?」

 

「はい!アル様が凄く頑張ってくれましたので、予定以上のヴァリスを集める事が出来ましたので問題ありません!」

 

「それなら良かった。じゃあ明日は早朝にまたギルドの前で集合しようか」

 

「はい!」

 

正午に終わるなら、明日はレフィやみんなの見送りが出来そうだな……

 

「ではまた明日。さようなら!」

 

リリと別れてその足で、リューさんに明日は行けないと伝えに行こう。

 

 

 

-------

 

 

 

〜豊饒の女主人〜

 

「それをわざわざ伝えに来たのですか、ベル?」

 

「はい。後ご飯もついでに食べようと思って」

 

「そうですか、訓練は貴方が来れる時に来たらいい」

 

そのままカウンターの奥の席に案内されて座る。

 

普段お昼に賄いを食べさせてもらっているが、カウンターに座る事は無いので新鮮だ。

 

「そういえば、最初に来たあの時から夜に来るのは初めてなんだよなぁ」

 

初めて夜にこの豊饒の女主人に来たのはロキ・ファミリアの歓迎会の時。

 

思えば懐かしく感じてしまう。

 

「ニャーっ!ベル何サボっているにゃ。お前も働くにゃ」

 

「アーニャさん⁉︎違うんです、今はご飯を食べに来たんです」

 

「そんなのしるかにゃ!ここにいるんなら働くにゃ‼︎」

 

「やかましい‼︎サボってないで働きな!」

 

アーニャさんはミアお母さんに拳骨を落とされ、ふらふらになって仕事に戻って行った。

 

「ほら食いな。今日は財布を空にしてくれるんだろう」

 

「ありがとうございます、ミアお母さん」

 

この九日はずっとリューさんの訓練の後、午前の営業は働いていたので、ここの従業員の方々と仲良くなれた。

 

アーニャさんは白髪頭からベルと名前を言ってくれるようになった。

 

ミアお母さんはミアさんと呼んだら拳骨をされて『母親と呼びな!』って言われてとても嬉しかった。

 

「……いただきます」

 

酒場の雰囲気を楽しみながら、一人の食事を楽しんだ。

 

 

 

言われた通り僕は財布を空にするまで注文した。

 

ミアお母さんは笑い、アーニャさん達は目まぐるしく働くのだった。

 

「どんだけ食べるにゃ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

><><><><

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「首尾はどうですか?」

 

「問題ない」

 

「そうですか」

 

「しくじるなよ」

 

「わかっています、死なせないでくださいよ」

 

「奴、次第だ」

 

「ーーーーーウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

 

 

 

 

 



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35話当日

 

 

空は青く晴れ渡っていた。

 

「レフィーヤ、先に行ってるよー?」

 

「あ、はい、どうぞ!」

 

エルフィが部屋から出ていく中、私は準備を進めていく。

 

私は冒険者装身具でもあるシルバーバレッタを使い、髪を頭の後ろで結い上げる。

 

「よし!」

 

椅子から立ち上がり、魔杖《森のティアードロップ》を携える。

 

支援装備のバックパックを肩にかけ、部屋を後にする。

 

 

 

><><><><

 

 

 

「……」

 

団長室にて、床に片膝をつき、胸に片手を添える。

 

己が信仰する神『フィアナ』に祈りを捧げる。

 

「フィン、入るぞ。……おっと、邪魔じゃったか」

 

「いや、大丈夫だよ。今終わった」

 

部屋に入室してきたガレス、リヴェリアは出直そうとするが、僕は止めた。

 

「もう準備は整っとるぞ。物資を含め、不備はない」

 

「ああ、ありがとう、ガレス」

 

「念のため、最後の打ち合わせをしたい」

 

ガレス、リヴェリアと輪になって話し合う。

 

僕達は遠征を前に最終確認を行った。

 

「リヴェリア、みんなの様子はどうだい?」

 

「鍛錬漬けで体の調子だけが懸念だったが、問題ない」

 

「血気盛んな者達ばかりじゃからのう。士気も上々じゃ」

 

「アイズのランクアップの影響が大きいね」

 

「それと、レフィーヤも前回の遠征から大きく成長した」

 

「そうだ。フィン、レフィーヤを先発隊に入れたい」

 

「ん、レフィーヤを?」

 

「あぁ、並行詠唱を鍛えたんだが暇がつくれなくてな、十八階層に到着するまでに仕上げたい」

 

「僕はかまわないよ」

 

「レフィーヤ一人おらんくらい問題ないわ」

 

「すまんな、助かる」

 

話し合いも終え、両腕を組むガレスは目を細めた。

 

「若い者達が育ってきた……、儂等三人だけだったあの頃が懐かしいわい」

 

「まだ引退するには早いぞ、ガレス」

 

リヴェリアは両目を瞑って笑みを浮かべた。

 

「とうとうここまで来た。ゼウス、ヘラが残した未到達領域への挑戦……これを越えれば、あらためて僕達の名は世界に轟く」

 

小人族の一族復興のため、世界に名を轟かす。

 

「もう十分ではないのか?お前のことを知らない小人族はもういないさ」

 

僕は首を横にふる。

 

「オラリオで名を馳せている小人族は、僕を除けば神フレイヤの【炎金の四戦士】のみ、世界中の同胞達の名を、僕はほとんど知らない」

 

そう、僕達小人族の名聞は、未だ数えるほどしか聞こえてこない。

 

「小人族には光が必要だ、【勇気】という名の旗印が。ここではまだ終われない。何が待ち受けていようと、僕は先へ進む」

 

顔を上げ目の前のドワーフとエルフに笑って見せる。

 

「まったく……、出会った頃と何も変わっとらん。お主はいつだってその小さな体に不釣り合いな野望を持ち、それを口にすることもはばからなかった」

 

「丸くなったつもりだけどね」

 

「よく言うわい」

 

僕が肩をすくめると、ガレスは髭と一緒にくちびるを吊り上げる。

 

僕達のやり取りを眺めていたリヴェリアは、懐かしそうに言葉ってをこぼした。

 

「……あれだけいがみ合っていた我々が、今やダンジョン攻略の最前線か。不思議なものだ」

 

誇り高く融通の利かなかった王女に、それを毛嫌いしがさつに罵倒する大男、そして反発し合う二人に溜息が絶えなかった少年。

 

互いの出会いと今日までの日々をそれぞれ思い出すリヴェリア、ガレス、そして僕は、ふっと笑みを交わし合う。

 

「やっておくか。景気付けだ」

 

ガレスが片腕を伸ばす。

 

僕達の中央に差し出された大きな拳に、僕とリヴェリアも苦笑しながら、しかし申し合わせたように彼の動きに倣った。

 

過去、誓いの日に交わした三人の儀式の一つ。

 

非常に仲の悪かった僕達は、主神から強引に勧められるままこうして手を重ね合い、互いの願望を告げたのだ。

 

「熱き戦いを」

 

「まだ見ぬ世界を」

 

「一族の再興を」

 

ドワーフ、エルフ、小人族は順々に声を告げ、最後に突き出した拳をぶつけ合う。

 

「さぁ、みんな待っている。行こうか」

 

ガレスとリヴェリアは頷き、僕達は部屋を出る。

 

「そういえばここ最近ベルを見てないけど、二人は知ってるかい?」

 

「いや、儂は知らんぞ」

 

「そういえば、見ていないな」

 

アイズ達との訓練を辞めさせてから、ホームで見ることが減ったが二人も知らないか。

 

「良いのか、何も手伝わせずに自由にさせて」

 

確かにあのレアスキル、レア魔法を野放しにしておくのは少し不安だったけど。

 

「今は七年前に比べれば平和だからね、それにベルは型にはめるよりは好きにさせておく方が良さそうだからね」

 

「そうかもしれんが」

 

「もちろん今回の遠征が終われば、彼の育成に力を入れるさ」

 

僕は親指が疼いた事は伝えなかった。

 

 

 

><><><><

 

 

 

〜ギルド前 広場〜

 

 

 

「アイズさん!」

 

「レフィーヤ」

 

私はアイズさんを見つけて声をかける。

 

「アイズさんは先発隊でしたよね。……私も後から追いかけますから」

 

「…うん」

 

挨拶も済ませたので、ガレスさんの隊に戻ろうとしたら後ろから声をかけられる。

 

「レフィーヤ探したぞ」

 

「リヴェリア様⁉︎どうされましたか?」

 

「今回レフィーヤも先発隊と一緒に行動してもらう」

 

「…えっ、私がですか?」

 

「あぁ。突然ですまないが頼む」

 

「もちろんです!ですが、どうしてですか?」

 

「並行詠唱の仕上げをする。私が見るにはお前が先発隊に来てもらうのが手っ取り早いからな」

 

「……わかりました」

 

「五十階層より下に連れて行くかどうかも見極めさせてもらう。期待しているぞ」

 

そう言い残しリヴェリア様は戻って行った。

 

「レフィーヤなら大丈夫」

 

「はい!」

 

 

 

「総員、これより遠征を開始する!

 

「階層を進むにあたって、今回も上層の混乱を避ける為部隊を二つに分ける

 

「最初に出る一班は僕とリヴェリアが、二班はガレスが指揮を取る!

 

「そして今回はヘファイストスファミリアの鍛治師も同行する!

 

「十八階層で合流した後、そこから一気に五十階層へ移動!

 

「僕らの目標は他でもない未到達領域五十九階層だ‼︎

 

「君たちは古代の英雄にも劣らない勇敢な戦士であり、冒険者だ!大いなる未知にに挑戦して、富と名声を持ち帰る‼︎

 

「犠牲の上に成り立つ偽りの栄誉は要らない‼︎

 

「全員、この地上の光に誓ってもらう、必ず生きて帰ると‼︎あと

 

「遠征隊、出発だ‼︎」

 

 

 

「「「「オォ‼︎」」」」

 

 

 

-------

 

 

 

〜ダンジョン 上層七階層〜

 

「ヘファイストス・ファミリアが来てくれるなんて凄いねレフィーヤ」

 

「はいそうですね、まさか上級鍛治師がついて来てくれるなんて」

 

「神ヘファイストスに無理言ってね。粗相を働かないでくれよ、ティオナ?」

 

「そうよバカティオナ、団長の顔に泥を塗ったらただじゃおかないんだからね!」

 

「わかってるって!」

 

笑い返すティオナは勢いよく走り出し、前を歩んでいたアイズの背中に抱き付いた。

 

「ほー、【ヘファイストス・ファミリア】の連中なら、間違っても足手纏いにはならねえな。安心した」

 

「はい出たー。ベートの高慢」

 

ベートさんは、同行者がみな上級鍛治師と聞いて笑った。

 

「ベートはさ、何でそういう言い方しかできないの?他の冒険者を見下して気持ちいいの?あたし、そういうの嫌い」

 

「勘違いすんな。雑魚なんぞ見下して優越感に浸るなんて、俺はそんな恥ずかしい真似はしねぇ。事実を言ってるだけだ」

 

ベートが反感を招き、周囲の人達が言い返す。

 

「俺は弱ぇ奴が大っ嫌いなだけだ。何もできないくせにヘラヘラしやがって、吐き気が止まらねえ」

 

「強者の位置に立った者の驕りにしか、私には聞こえんな」

 

「そうだよ、ベートだって弱っちい時があったくせに」

 

「身の程をしれって言ってんだよ、俺は。そこのノロマみてえによ」

 

そのノロマと呼ぶ先には私がいた。

 

ベートさんの言葉はきつい。

 

何度罵られ、嘲笑され、心を傷つけられただろう。

 

「レフィーヤ気にするな、あいつは世界一不器用な阿呆なのだから」

 

「んだと、ババア‼︎」

 

騒がしい中突然アイズさんが顔を上げて言葉を漏らす。

 

「……四人かな」

 

「あんだよ、噂をすれば何とかってやつか?」

 

アイズさんの他にベートさん、ティオナさん達も反応する。

 

すると先の道から、四名の冒険者達が必死の形相で接近してきた。

 

彼らはまるで何かから逃げるように。

 

「なーんか、やけに慌ててるね。声かけてみる?」

 

「止めなさい、ダンジョンないでは他所のパーティには基本不干渉よ」

 

「ねぇ、どうしたのー!」

 

「馬鹿たれ」

 

ティオナさんとティオネさんの会話を聞いて少しだけ考えた。

 

例えば彼がこの場にいたらどんな行動をするだろうかと。

 

彼の性格なら困っている人を見過ごせないんだろうな。

 

きっと周りが止めても彼はティオナさんの様に声を掛けるのだろう。

 

「……ミノタウロスが、いたんだ」

 

突然の言葉に私は戦慄する。

 

「……あぁ?」

 

血の気が引いていくのがわかる。

 

「だからっ、ミノタウロスだよ!あの牛の化け物が、この上層でうろついてやがったんだ!」

 

嫌な予感がする。

 

「申し訳ない、貴方がたが見たものを、僕達に詳しく聞かせてもらえないだろうか?」

 

そんな事があるはず無いと自分に言い聞かせる。

 

「あ、ああ……」

 

彼がいるはずがない……

 

「さっきまでいつも通りダンジョンを探索していたら、広間に繋がる一本道のおくで、……ミノタウロスを見つけたんだ」

 

今朝から姿を見せていなかった彼が

 

「それで、白髪のガキが襲われているのを見て、」

 

私はその冒険者の言葉を最後まで聞かずに走り出した。

 

ドクンッ、と、自分の心臓が跳ねる。

 

どうして!何で!

 

焦りで呼吸もままならないまま走る。

 

嫌だ、人違いであってほしい。

 

しかし私は確信していた。

 

後ろで私の名前を呼ぶ声を置き去りにして走る。

 

動揺と混乱、危機感に突き動かされる。

 

 

 

ベルが襲われている

 

 

 

夢中になって走る中、憧れが横に並んで走る。

 

「アイズさん、ベルが!」

 

「九階層で襲われているって言ってた、掴まって全力で行くよ」

 

私はアイズさんに抱えられて、瞬く間に九階層まで踏破する。

 

心臓の音とは違い静まり返っている階層内。

 

あたかも異端の怪物に怯えるかのようにモンスター達が姿を消し、息をひそめている。

 

すると遥か彼方から猛牛の遠吠えが響いてきた。

 

怪物の咆哮とかすかに聞こえた人の悲鳴を聞き、私の全身が発熱する。

 

思い出すのは白髪が血まみれになったベルの姿。

 

Lv.1の下級冒険者がミノタウロスに襲撃されれば一溜まりもない。

 

いくらアイズさんと訓練していたってステータスが違いすぎる。

 

一秒でも早く駆けつけたい。

 

アイズさんも同じように焦りが顔に出ている。

 

ベルの正確な位置がわからないまま音だけを頼りにダンジョン内を疾走していると。

 

通路から深くフードを被った小人族……

 

ではなく

 

防具を装着する巌のような巨軀、二メートルを超える身の丈。

 

鋼鉄と見紛う筋肉で編まれた強靭な四肢。

 

錆色の短髪から生える獣の耳は獣人、獰猛と知られる猪人の証であった。

 

髪と同じ錆色の双眼が、アイズさんの顔を真っ直ぐ見据えている。

 

「……【猛者】」

 

目の色を変えたアイズさんは視線の先の【猛者】を見つめる。

 

【フレイヤ・ファミリア】首領、オッタル。

 

都市最強 Lv.7

 

【ロキ・ファミリア】に対敵する第一級冒険者である。

 

どうしてここに。

 

なぜ猛者がここにいるのか、混乱する。それはアイズさんも同じようで余裕がなくなっているように見える。

 

立ち尽くすアイズさんを見ながら、猛者は背中に担いだ背嚢を掴み、破り捨てる。

 

引き裂かれた布から現れた、大剣を始めとした無数の武器が、音を立てて地面に突き立った。

 

「【剣姫】……手合わせ願おう」

 

「⁉︎」

 

その発言に私達は驚愕をあらわにする。

 

猛者は大剣を掴み、静かに抜剣した。

 

「どうしてっ⁉︎」

 

「敵対する積年の派閥と、ダンジョンであい見えた、殺し合う理由には足りんか?」

 

猛者は揺らぎはしない。

 

「娘を置け、共に切るぞ」

 

アイズさんに抱えられた私を見て言う猛者は大剣を構える。

 

アイズさんは私を降ろして私の耳元で伝える。

 

「ベルをお願い……」

 

悔しそうな顔をしたアイズさんに頼まれて、私は頷く。

 

「絶対に助けます」

 

目を合わせ私は走り猛者の横を通り過ぎる。

 

直後、背後からとてつもない武器の衝突音が聞こえる。

 

【剣姫】と【猛者】

 

最強と謳われる二人の第一級冒険者が、強制戦闘へと突入した。

 

 

 

-------

 

 

 

私は背後の戦闘音とは別の戦闘音を探して走る。

 

息を切らしながら、一秒でも早く見つけれるように走る。

 

すると、通路から深くフードを被った小人族が現れる。

 

「貴方は……⁉︎」

 

顔はフードで見えないが、見たところ武器などは持っていないようだ。

 

この小人族も猛者と同じように私の邪魔を……

 

「彼を止めるのですか、レフィーヤ様?」

 

……小人族は何を言っている?

 

止めるのか?何を?

 

「混乱していますね、状況は簡単ですよ。私は足止めをしているんです」

 

「ベルの居場所を知っているんですか?」

 

小人族の口角が上がる。

 

呼吸を整え、冷静に考える。

 

【猛者】が突然現れて、私の前に現れた小人族。

 

「貴方達はベルに何をしているんですか」

 

「貴方と同じです」

 

……私と同じ?

 

何を言っている、この小人族は。

 

「どいてください、貴方と話している暇なんてないんです」

 

「心配しなくても教えてあげますよ」

 

「本当ですか⁉︎」

 

「はい。ですが約束してください」

 

「何を?」

 

「彼の邪魔はしないでください」

 

正規ルート、Eー16の広間。小人族は言い残し私の横を通り過ぎてた。

 

はたして信用していいのだろうか?

 

しかし闇雲に広いダンジョンを探す暇もなく小人族の情報に頼るしかない。

 

しかし先程この小人族は足止めと言ったが何を考えている?

 

通路を右に、左に進み、教えてもらった場所に駆ける。

 

遠ざかる背後の戦闘音に比例して、別の戦闘音が近づく。

 

「急がないと」

 

後は直線の通路のみ、全力で駆ける。

 

そしてようやくたどり着いた先で私が目にしたのは……

 

「…ッ⁉︎」

 

倒れたベルと、ベルの前に立ったミノタウロスがそこにいた。

 

助けないと!

 

しかし、倒れたベルは短剣を地面に突き刺し立ちあがろうとした。

 

 

 

「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかないんだっ!」

 

 

 

弱き者の咆哮。

 

 

 

「レフィーヤ・ウィリディスに、もう心配させるわけにはいかないんだっ!」

 

 

 

英雄を目指す、少年の決意。

 

 

 

ベルは立ち上がった。

 

私は知っていたはずなのに……

 

貴方は英雄になると。

 

既に満身創痍で鎧も剥がれ落ち、血まみれの体で奮い立つ。

 

ミノタウロスも目を見開き、そして獰猛に笑った。

 

その背中は小さく、傷だらけで、英雄にはとても見えないが。

 

まさしく……

 

「勝負だッ……!」

 

 

 

-------

 

 

 

ベルを止めなかった私はその場に立ちつくしていた。

 

声は出さず、動くこともせずに。

 

全ての音が遠のき、視界がその戦いのみしか映さなくなる。

 

荒ぶる猛牛の大剣と走り続ける少年のナイフ、咆哮と雄叫びご溶け合い攻撃が交差する。

 

火花が散り、血の粒が飛び、甲高い武器の衝突音が続いていく。

 

互角ではなかった。

 

僅かにミノタウロスが押している。

 

互いの命を駆けた一騎打ち。

 

ベルは全てを賭して、目の前の格上の敵を打倒しようとしていた。

 

「レフィーヤっ……!」

 

背後から名前を呼ばれ複数の足音が近づいてくる。

 

振り返るとアイズさん達が揃っていました。

 

「アイズさん」

 

「ベルは?」

 

「……」

 

私は答えずに、目の前の死闘を見続ける。

 

「っ……⁉︎」

 

死闘を見たアイズさんも立ち尽くす。

 

「何ぼさっと突っ立ってっ…………あぁ?」

 

ベートさんは気づく。

 

「え……あ、あれ?」

 

「……Lv.1のはずよね?」

 

ティオナさんも、ティオネさんも気づいた。

 

「僕の記憶が正しければ……」

 

団長も察した。

 

「ベルがロキ・ファミリアに入ったのは、一ヶ月前だったはずだよ」

 

著しい成長を、凄まじい変貌を遂げたベルが、意志と思いを叫ぶ。

 

その姿はまさしく【冒険者】だった。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

「ああああああああああああっっ!」

 

咆哮が突き抜ける。

 

人と怪物が真っ向から激突し、速さと力の戦いを継続させる。

 

気づけば、誰もが私のもとに集まっていた。

 

ベートさんが、ティオナさんが、ティオネさんが、団長が、リヴェリア様が、アイズさんが。

 

誰もが言葉を発さず、その闘いを最も近く、ベルから気づかれない場所から見つめていた。

 

「【アルゴノォト】……」

 

ぽつり、と。

 

ティオナさんがおもむろに呟いた。

 

英雄を夢見る青年が、人の悪意と数奇な運命に翻弄されるお伽噺。

 

「あたし、あの童話、好きだったなぁ……」

 

そう。

 

それは、きっと、いや、絶対に、英雄譚の一頁だ。

 

私達の瞳を掴んで離さない光景。

 

私達が忘れ去っていたもの。

 

【眷属の物語】

 

「「--------------っッ‼︎」」

 

決戦する。

 

妥協を彼方に放り投げたぶつかり合い。

 

人と怪物が命を削り合う、決戦風景。

 

今までの教えを結実させ、全身全霊をもってベルは猛牛と激突し合った。

 

死力と渾身をつくし、油断や慢心など忘れ、ひたすらに勝利に飢える。

 

あらゆる技を。

 

あらゆる駆け引きを。

 

あらゆる機転を。

 

あらゆる武器を。

 

あらゆる魔法を。

 

この一線に、そそぎこむ。

 

しかし無情な叫びが広間に鳴り響く。

 

「ーーーーーウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

猛牛が決死の一撃を屠った。

 

「……っぐは⁉︎」

 

攻撃を受け流す事が出来ず、ベルは広間の壁まで吹き飛ばされ激突する。

 

「ベルッ‼︎」

 

息を呑んだ。

 

冒険者の経験が言っている。

 

今のはダメだ

 

致命傷だ

 

助けなきゃ

 

頭の中に鳴り響く警告音。

 

他の者も同様に顔が青ざめている。

 

 

 

 

---けれど少年は立ち上がった。

 

ぼろぼろになったら身体を立ち上がらせ。

 

口から血を吐き。

 

足を引きずりながら猛牛へ突き進む。

 

その姿はとても痛々しかった。

 

「……流石に終わりだ」

 

リヴェリア様が杖を構える。

 

この死闘を終わらせようとしている。

 

ベートさんも、ティオナさんも、ティオネさんも、アイズさんも。

 

私もベルを助ける為に止めなければ。

 

見殺しにはできない……

 

ふと頭をよぎるのは先程のフードを深く被った小人族の言葉。

 

『彼の邪魔はしないでください』

 

小人族の言葉の真意はわからない。

 

「レフィーヤ……?」

 

けど私の体は動いてしまった。

 

「おい、何やってやがる」

 

彼の邪魔をしないために。

 

「ちょっと何の冗談よ」

 

アイズさん達の前に立ちはだかる。

 

「……まだ、ベルは負けていません」

 

自分でもわかっている、ベルが死んでしまうかもしれないと。

 

けれどベルはまだ闘っている。

 

あの猛牛と。

 

「退け、レフィーヤ。本気でベルを殺すつもりか」

 

リヴェリア様の顔が本気で怒っている。

 

それでも、邪魔はできない。

 

ベルが、英雄の資格を手にするのを。

 

「レフィーヤ本気かい?」

 

団長がみんなの前に出て私の問う。

 

「もしベルが殺されたら、私も一緒にあのミノタウロスに殺されます」

 

覚悟を示す。

 

私はこの人たちを力で止められない。

 

なら私は言葉で、気持ちで、止めなくちゃいけない。

 

「……わかった、もう少しだけ見守ろう」

 

少し悩んだ団長が皆に武器を下ろすようにと指示を出す。

 

「フィン、何を考えている!」

 

リヴェリア様が、団長に掴みかかる勢いで怒鳴る。

 

「ベルを篩にかける」

 

「何?」

 

「本物がどうかのね」

 

それ以上は言わず団長の眼は再び死闘に戻った。

 

リヴェリア様は頭を抱えている。

 

「ファイアボルト!」

 

必死に争う声が聞こえた。

 

「ファイアボルトォッ!」

 

最後の気力を奮い立たせ。

 

弱者が、自分よりも強い者を倒さんとする咆哮が。

 

短剣を振り敵の攻撃を受け流し、勝利を掴もうとする冒険者。

 

「あああああああああっ‼︎」

 

短剣を猛牛の魔石の位置に突き刺す。

 

しかし、刺さった短剣は折れてしまう。

 

「武器がっ!」

 

だが折れた短剣を握っていた逆の手で、腰からもう一本の短剣を抜剣する。

 

再生する前にもう一本の短剣を突き刺す。

 

「ウヴオオオオオオオオオオオオォォォ」

 

猛牛は最後の咆哮を上げて崩れ去り、猛牛の片角とベルだけが残った。

 

「勝ち、やがった」

 

勝利をもぎ取ったその背中に、ベートさんが呆然と呟く。

 

「本当にアルゴノォトみたいだった……」

 

「生きてるのよね……?」

 

「……」

 

立ったまま動かないベルに、ティオネさんとティオナさんとアイズさんも戦慄する。

 

「ベルッ!」

 

ベルの元へ駆け出す。

 

「れ、レフィ……?」

 

血だらけでぼろぼろになったベルを抱きしめて、名前を何度も呼ぶ。

 

「ベルッ、ベルッ、ベルッ、ベルッ、ベル」

 

背中に回した手から、胸から、全身から体温を感じる。

 

やり遂げられた偉業。

 

 

 

 

今日ここに冒険者は、【英雄】の資格を得た。

 

 

 

 

 



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36話VSミノタウロス

 

 

〜ダンジョン九階層〜

 

 

それは、突然だった。

 

探索も終わりにして、地上に帰ろうとした時だった。

 

天災のような。

 

運命のような。

 

「ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

僕達は再び出会った。

 

「何で、あれがここにいるんですか⁉︎」

 

忘れもしない。

 

「逃げましょう、アル様⁉︎」

 

いや、僕は忘れていたのかもしれない。

 

「アル様⁉︎」

 

ダンジョンの恐怖を。

 

 

 

><><><><

 

 

 

空は暗く日が出る前だった。

 

人がまだ起きていない時間に目を覚まし、ダンジョンへ向かう為の装備を整える。

 

戦闘の邪魔にならない程度の小さめのバックバックを腰に着ける。

 

アイズさんに貰った短剣をレフィから貰った短剣を二本ともホルダーに挿す。

 

レフィが買ってくれた装備を装着し部屋を出る。

 

まだ誰も起きておらず静かなホーム。

 

今日ロキ・ファミリアは遠征に行く。

 

みんな万全の状態で挑む為に休んでいるのだろう。

 

廊下の真ん中を歩いて、僕は中庭へ向かった。

 

あの人に会う為に。

 

中庭に着くと、貴方は先に待っていた。

 

中庭の真ん中でデスぺレードを持ち素振りをしている。

 

こちらに気づくと、素振りをやめてこちらに笑いかける。

 

「おはよう、ベル」

 

「おはようございます、アイズさん」

 

昨日ホームに帰った際に、アイズさんから明日の誰も起きていない早朝に訓練をしたいと言われていた。

 

フィンさんから一旦止めるように言われていたが、「バレなかったら、大丈夫…?」とアイズさんは言った。

 

もちろん断る訳もなく、誰も起きていないこの時間に行われる事となった。

 

レフィに言うかどうか迷ったが、遠征の日の早朝に起こすのも悪いと思い黙っておく事にした。

 

「なんだか久しぶりだね」

 

「そうですね、皆さん忙しそうでしたから……」

 

「うん、みんな気合が入ってる」

 

体を伸ばしながらアイズさんと会話をする。

 

「最近はダンジョンに行っているって聞いたよ」

 

「そうですね、九階層までで探索をしています」

 

「豊饒の女主人で働いてるって噂も聞いてるよ」

 

……バレてる

 

別にやましい事をしている訳ではないけど、なぜか後ろめたかった。

 

「……少しだけお手伝いをしてるだけですよ」

 

「……」

 

「……」

 

会話が終わり、アイズさんと向き合う。

 

人の気配も、風もなく、この迷宮都市が眠っている様に感じる程静かだった。

 

静寂を切り裂くように、腰から短剣を抜きアイズさんに斬りかかる。

 

アイズさんは僕の攻撃を躱して、デスペレートを振り払う。

 

何とか短剣で受け流し、アイズさんと距離を取る。

 

「反応が良くなってるね」

 

今度はアイズさんから攻撃を仕掛けてくる。

 

アイズさんは正面から突き刺す、短剣で受け流す。

 

反撃を仕掛けるが、体を捻りながら避けられる。

 

その勢いのまま蹴りが来るが、腕でガードをする。

 

「っぐ……!」

 

痛い、けれど耐えられる。

 

足を押し返し、反撃する。

 

アイズさんは後ろに距離を取った。

 

「……驚いた。少し前だったら痛みで動けなくなっていたのに」

 

武器を下ろし、驚いた表情でアイズさんは言った。

 

「この九日間、痛みに耐えられるように鍛えられましたから」

 

時間にしてたった二十秒もないほどの攻防だったが、自分の成長に確かな手応えを感じることができた。

 

「うん、今のベルなら安心できる」

 

「ありがとうございます。アイズさんお気をつけて」

 

「ありがとう。ベルも頑張って」

 

 

 

-------

 

 

 

黄昏の館を出た僕は、リリと待ち合わせをしているギルドの前に歩いて向かっている。

 

空には太陽が昇りだし、うっすらと陽が出始める。

 

街にはちらほらと人が起き始め、掃除をする者、開店の準備をする者、装備をした同業者達が見え始めた。

 

「こんな朝早くに会うなんて奇遇だね」

 

道の真ん中に立っていた眠そうな目をした犬人の彼女に声をかけられる。

 

「おはようございます、ナァーザさん」

 

「おはよう。今日はこの時間にダンジョンに向かっているのかい?」

 

「はい。今日の正午からロキ・ファミリアが遠征に行くので」

 

「そう。じゃあそんなベルにプレゼントをあげる」

 

ナァーザさんはポケットから一つの小瓶を取り出して、僕の手に握らせた。

 

「何ですか、これ?」

 

普段からお世話になっている回復薬とは少し色も入れ物も違う物だ。

 

「最高級回復薬、エリクサーだよ」

 

「えぇ⁉︎そんな高い物受け取れません!」

 

「人の好意は受け取っておきなよ。普段からうちの店でポーションを買ってもらっているし、そのお礼だと思って」

 

ナァーザさんは、気をつけてねと言って帰って行った。

 

貰ったエリクサーをバックパックにしまい再びギルドに向かって歩き出す。

 

 

 

-------

 

 

 

「おはよう、リリ」

 

待ち合わせ場所に着くと、すでにリリは待っていた。

 

「おはようございます、アル様」

 

挨拶を交わし、まだ冒険者の少ない時間に二人でダンジョンに向かう。

 

「アル様。今日までリリにお付き合い頂き、本当にありがとうございました」

 

歩きながら、突然リリがそんな事を話す。

 

「ううん、僕こそ沢山ダンジョンの事を教えてくれて助かったよ。ありがとうリリ」

 

今日が最後だと思うと少し寂しい気持ちになった。

 

「もし…、もし、またリリを見かけたら一緒にダンジョンに潜ってくれる?」

 

リリとの約束は今日までだけど、これが最後になるなんて嫌だと思った。

 

少し進んだ先でリリの足音が無くなっている事に気づく、振り返るとリリは顔を伏せて立ち止まっていた。

 

「……リリ?」

 

動かなくなったリリに手を伸ばそうとすると、リリは顔を上げた。

 

「もちろんです!リリを見つけてください!」

 

そう言った彼女の顔は笑顔だった。

 

歩き出したリリは僕を抜かして、置いていかれないようついていく。

 

 

 

><><><><

 

 

 

「たどり着く先は英雄か

 

「それとも道化師か

 

「それとも未知か

 

「殻を破れ、他者の手などはねのけろ

 

「冒険に臨め、お前の見るべきは前だけだ

 

「あの方の寵愛に、応えろ」

 

 

 

><><><><

 

 

 

足が震えて動かない。

 

これは誰の足だ?

 

逃げなきゃ

 

腕が上がらず武器を構えることができない。

 

この腕は誰の腕だ?

 

逃げなきゃ

 

恐い。

 

あの怪物を再び目にした、僕は動けない。

 

逃げなきゃ

 

怪物が武器を引きずりながら、一歩一歩近づいてくる。

 

真っ直ぐと僕に向かい、歩いてくる。

 

逃げなきゃ

 

獰猛な息遣いが、僕の耳にこびりつく。

 

気づけば、怪物は目の前に立っていた。

 

逃げなきゃ

 

怪物は武器を振り上げる。

 

僕は動けなかった。

 

逃げなれない

 

怪物が大剣を振り落とす。

 

「アル様‼︎」

 

僕はリリに大きく突き飛ばされる。

 

直後にダンジョンに響く轟音が、怪物の力の威力を知らしめる。

 

怪物は振り下ろした大剣を持ち上げてこちらを向く。

 

突き飛ばされ倒れた僕は、立ち上がり怪物に対面する。

 

「……うっ、アル様、逃げて」

 

恐い。

 

けれど僕の後ろでリリの声が聞こえた。

 

守る為に闘う。

 

相手を倒す必要はない。

 

リリを逃す為に僕は立ち向かう。

 

「……リリ逃げて」

 

足の震えは止まらない。

 

けれど僕の足は動かせる。

 

腕を上げて武器を構える。

 

憧れの武器を握った僕の腕。

 

「ダメです、アル様も一緒に!」

 

僕はリリを安心させる為、出来るだけ落ち着いて声を出す。

 

「リリが逃げたら僕も逃げるよ。二人で逃げても追いつかれる、だから僕を助ける為に早く」

 

嘘ではない、状況を考えるとこれが最善だ。

 

覚悟は決まっている。

 

リリの表情は見えないけれど、残酷な事をさせてしまった。

 

「リリ早く!」

 

「っく、アル様生き延びてください。あの方々が遠征でダンジョンに入ってるかもしれません」

 

リリの声がだんだんと離れて行く。

 

「ロキ・ファミリアを連れてきます。それまで絶対に死なないでください⁉︎」

 

リリの足音が聞こえなくなり、広間は静寂に包まれる。

 

怪物はまるで邪魔者が消えるのを待っていたかのように動かずにこちらを見ていた。

 

「僕が相手だ」

 

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

しかし心の中の恐怖が消えるわけではなく、闘う構えをしてはいるが一歩が出ない。

 

そんな僕を気遣うわけもなく怪物は迫る。

 

震える手を反射的に突き出し、叫んだ。

 

「っく、ファイアボルトォオオオ⁉︎」

 

咄嗟に出た唯一の遠距離攻撃。

 

「ブゥオ⁉︎」

 

緋色の雷が怪物をはね返す。

 

僅かだが、けど確かに、あの怪物が、後退した。

 

ほんの少しの、勝機にはほど遠い淡い希望を宿す。

 

僕は取りつかれたように魔法を使い始めた。

 

「うああああああああああああああああっ⁉︎」

 

撃つ。

 

撃つ。

 

撃つ。

 

炎が怪物の巨体を何度も炸裂する。

 

僕は魔法に縋った。

 

唯一の怪物の射程外からの遠距離攻撃。

 

願わくばこのまま倒れてくれと祈りながら魔法を乱射する。

 

「はぁ、はっ……!」

 

正気に戻って魔法を中断する。

 

視界は黒い煙に埋めつくされている。

 

僅かな気だるさ、精神疲労の一歩手前の状態。

 

「レフィ……っ!」

 

また彼女に救われた。

 

あのまま魔法を乱射していれば、僕は倒れていただろう。

 

あの日、レフィに教えてもらわなければ、今僕は立ってはいなかっただろう。

 

目の前には怪物の形が見えない。

 

ーーーーやっ、た?

 

冷静になった僕は、炎の残滓が舞っている空間を前に、突き出していた腕をさげけた。

 

「ンヴゥッ」

 

絶望が耳に届く。

 

黒煙が揺らめき、その中から巨腕が突如として伸びてくる。

 

下からアーチを描く岩のような拳は、僕の腹に吸い込まれるように収まった。

 

衝撃が爆ぜた。

 

「がっっ⁉︎」

 

視界の振動。

 

体の中の空気が引きずり出され、状況を把握しきれないまま後方に飛ばされた。

 

一つ理解した事は、僕は沢山の人に助けられたということ。

 

アイズさんに教え込まれた無意識の反射で攻撃を受け流し。

 

豊饒の女主人で叩き込まれた痛みに耐えれる精神。

 

そしてレフィに貰った装備。

 

この全てが、今の一撃から僕を救ってくれた。

 

しかし絶望的なLvの差。

 

即死しなかっただけだ。

 

僕は決河の勢いで吹き飛んで、ダンジョンの壁に叩きつけられた。

 

「〜〜〜〜〜〜っ⁉︎……ぁ、ぎ⁉︎」

 

壁面が破れる。

 

半ば壁に埋まるような格好で、僕はふりかかる痛みの渦に悶え苦しんだ。

 

ずるりと地面に尻をついた僕に石片がふりそそぐ。

 

装備は壊れた。文字通り。

 

鎧はバラバラに瓦解する。

 

上半身ボロボロになったインナー一枚にしながら、僕は震える足で何とか立ち上がった。

 

「フゥウウウウウウウウッ……!」

 

苦笑した。

 

ダメージなし。

 

あれだけの魔法を被弾してもなお、怪物は五体満足。

 

歯が、立たない。

 

「ヴヴォオオオオオオオオオオオオオオッッ‼︎」

 

リリは逃げれただろうか。

 

----勝てない。

 

雄叫びをあけるミノタウロスは、絶望にしか見えなかった。

 

僕は倒れた。

 

-------

 

ーーーーー

 

ーーー

 

『ロキ・ファミリアを連れてきます』

 

「っは!」

 

薄れ行く意識の中で思い出した、リリが言っていたこと。

 

僕は何をやっている。

 

また、助けられるのか。憧れに。

 

僕が、このオラリオに来て何を目指した。

 

違うだろ!

 

約束しただろ。

 

生きて帰るって!

 

短剣を握り地面に突き刺して、体を起こす。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかないんだっ!」

 

強者に吠える。

 

「レフィーヤ・ウィリディスに、もう心配させるわけにはいかないんだっ!」

 

自分を鼓舞する咆哮。

 

英雄を目指した僕の冒険。

 

僕は立ち上がり、目の前の怪物に対峙する。

 

怪物が目を見開き、そして……

 

笑った…?

 

しかしそんな事はどうでもいい。

 

「勝負だッ……‼︎」

 

僕は冒険者なんだ。

 

 

 

-------

 

 

 

痛む体の悲鳴を無視して、駆け出していく。

 

大剣を振り回す怪物の攻撃を避けながら、懐に入り込み短剣を閃かす。

 

避け切れない攻撃は受け流す。

 

怪物の一挙一動を見逃さないように立ち回る。

 

短剣で傷つけ、魔法で撹乱する。

 

一撃でも喰らえば終わりの理不尽な暴力。

 

しかし冷静だった。

 

怪物の攻撃が見える。

 

落ち着いて考えればわかった事だ、この怪物が憧れより強いはずがない。

 

魔法を乱打し、自らの視界を悪くしたのは悪手だった。

 

今までの経験が全て僕になる。

 

怪物と僕の攻防。

 

しかし、タイムリミットが近づいてくる。

 

ダメージを抱えた体がいつまでも避けれる訳もなく、だんだんと余裕がなくなってくる。

 

終わりは突然だった。

 

視界が揺らめき、足が一瞬止まる。

 

「ーーーーーウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 

怪物が見逃すはずもなく、決死の一撃を屠った。

 

「……っぐは⁉︎」

 

装備もなくなり、攻撃を受け流す事が出来ず、再び広間の壁まで吹き飛ばされ激突する。

 

「ベルッ‼︎」

 

レフィの声が聞こえた気がした。

 

何とか立ち上がるが限界だ。

 

足が棒のように頼りなく踏ん張れない。

 

かろうじて腕が少しだけ動かせる。

 

口から血を吐き出す。

 

もう足が動かせない。

 

怪物は大剣を構え、僕を待っているように見えた。

 

あの時も痛む足で動けなかったな。

 

レフィが短剣を僕にくれたから、シルバーバックに立ち向かう事が……

 

レフィの短剣を取り出そうとすると、バックパックに手が当たる。

 

思い出す。

 

バックパックかは取り出したそれは

 

「エリクサー……」

 

希望が灯る。

 

今朝、偶然貰った最高級回復薬。

 

僕はまだ闘える。

 

一気に飲み干し、空になった容器を投げ捨てる。

 

体の痛みが引いていく。

 

腕を上げて、残り少ない精神で放つ。

 

「ファイアボルト!」

 

同じように繰り返しても勝てない。

 

「ファイアボルトォッ!」

 

たった一つ、全てのモンスターの共通の弱点。

 

走り出し、怪物の懐に入り込み、攻撃を躱す。

 

「あああああああああっ‼︎」

 

短剣を猛牛の魔石の位置に突き刺す。

 

しかし、刺さった短剣は魔石に届く前に折れてしまう。

 

今までありがとう。

 

逆の手で腰のレフィの短剣を全く同じ場所に突き刺す。

 

「ウヴオオオオオオオオオオオオォォォ」

 

猛牛は最後の咆哮を上げて崩れ去った。

 

 

 

勝者 ベル・クラネル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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37話休息

 

 

今、私の目の前には絶対的な恐怖が居る。

 

目の前に立つ恐怖の象徴に私は蛇に睨まれた蛙のような心境だ。

 

しかし、これは私の行動の代償に過ぎず、理不尽な状況というわけではない。

 

私の行動が今この状況を作り出した。

 

足が痺れ、頭が上がらなくなりいったいどれだけの時間が過ぎただろうか。

 

けれど、私は解放されない。

 

もしもこの場に英雄がいるとしても、私を助ける事なんて出来ないだろう。

 

私が望まない。

 

この状況は、私が正しいと思って行動した代償であり、対価なのだから。

 

あの時の行動を後悔する事を私は絶対にしない。

 

一秒にも一時間にも感じるような時間の流れの中、口の中が乾燥し胃酸が逆流しそうになる程の重圧に耐えながら、思考する。

 

あの兎の様な、冒険者はいま何をしているのだろうか。

 

 

 

-------

 

 

 

〜ダンジョン 五十階層〜

 

モンスターが産まれない安全階層にて、私たちロキ・ファミリアは野営地を形成していた。

 

遠征の間に挟まれる大規模な休息である。

 

私はみんなと一緒に作業を行うが、集中出来ていない。

 

そんな中で、作業音とはまた違ったざわめきが起こっていた。

 

「どうしたんスか、ベートさん達……」

 

「こっちが聞きたいわよ……」

 

「みなさん、いつにも増して荒々しいです……」

 

ラウルさんを達を筆頭に猫人のアキや少女のリーネなど、第二級以下の方々は時折及び腰になりながらひそひそ話を交わしていた。

 

彼らの視線の先にいるのは女戦士の双子や狼人の青年を始めとした第一級冒険者達である。

 

第双刃をしまいもせず「う〜ん!」と唸って同じ場所を行ったり来たりしているティオナさん。

 

同じく湾短刀を両手に持ちながら無言でくるくると回すティオネさん。

 

ベートさんに至ってはその鋭い剣幕で鍛治大派閥の上級鍛治師達を怯えさせる始末だった。

 

落ち着きがなく、一言も喋らず周囲を歩き回る彼等の雰囲気にラウルさん達はうろたえ、本営の側で指示を出しているフィンさん達も彼等に嘆息している。

 

それに、先ほどから一枚岩から動かずに階層の景色を眺めるアイズさん。

 

一体憧れは何を想うのか。

 

 

 

><><><><

 

 

 

〜ミノタウロス撃破〜

 

ベルの胸で散々泣き喚き、落ち着くまでボロボロになったベルに背中をさすられていた私はやっとベルから離れた。

 

ベルは申し訳なさそうに笑みを浮かべて「大丈夫だよ」と一言言った。

 

私達の様子を見守っていたリヴェリア様は声をかける。

 

「ベル、色々言いたいことはあるが、最初におめでとうと言葉を送ろう」

 

そう言ながらリヴェリア様は身にまとっているローブを外してベルに着せる。

 

「そんな格好のまま地上に戻れば、好奇の目に晒されてしまうからな、これを貸してやる」

 

そのままリヴェリア様はベルに横になるように言って診断を始める、リヴェリア様の後ろでベルを見ながら私は診断が終わるのを待つ。

 

「傷はエリクサーで塞がっているが、血を流しすぎているな。ベル、ダンジョンを出たらアミッドにも見てもらえ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

ベルは立ち上がり御礼を言う。

 

すると、突然ベルの顔が青ざめベルは私達に尋ねる。

 

「誰か、リリを見ませんでしたか⁉︎」

 

そばにいたリヴェリア様は肩を掴まれて、必死なベルに驚いていたが、落ち着かせる様に優しく宥める。

 

「落ち着け、リリとやらは誰の事だ、私達が着いた時は誰もいなかったぞ」

 

「一緒にダンジョンに潜っていたんです。小人族の女の子で、ミノタウロスに襲われた時に先に逃したんです⁉︎」

 

小人族と聞いて思い出す、ここに来る道中に出会った人物を。

 

あの小人族はベルを知っていた、おそらくベルが言っている小人族とは私が出会った小人族の事だろう。

 

「ここに来る途中で私が出会いました。フードを被っていたので顔はよく見れなかったですけど、ちゃんと地上に向かって逃げていましたよ」

 

それを聞いたベルは安心したのか、リヴェリア様から手を離して安堵する。

 

私は少し嘘をついた。

 

あの小人族が地上に逃げていたかなんて知らない。

 

『彼の邪魔はしないでください』

 

それに、あの小人族の言葉の真意はわからないがベルに伝えようとは思わない。

 

ベルから解放されたリヴェリア様はこちらに向き、私の耳元でベルに聞こえないように言葉を話す。

 

「少しベルが心配だ、道中モンスターに遭遇はしないと思うが念の為一緒に地上まで同行してやれ」

 

是非も無い言葉に私は頷きベルの手を引っ張り歩き始める。

 

「行きましょう、ベル」

 

やはり血が足りていないのか、おぼつかない足取りで私に数歩遅れてついてくる。

 

なるべく、ゆっくりと、ベルの歩幅に合わせて歩き私は地上を目指した。

 

そんな私達を後ろから見送る第一級冒険者達は声をかけず見送りいったい何を想うのか。

 

 

 

><><><><

 

 

 

そんな事があって、途中ガレスさん達の出会ったり、地上でベルをアミッドさんに預けて、一人で十八階層まで潜り、何とか合流した。

 

あの闘いを見た人はここに来るまでの道中も前回と様子が違い、必死というか、がむしゃらにモンスターを蹴散らしていた。

 

そんな事を思い出しながら、野営地の準備もだいぶ進みもう少しで完了しそうなところで私はリヴェリア様に呼ばれた。

 

一緒に作業していたエルフィに大丈夫だよと手を振られ、私は作業をやめて中央に佇むテントの中に入る。

 

そこで待っていたのは、正面に団長、その右手にガレスさん、左手にはリヴェリア様が、三人は私を見る。

 

テントの中の空気は重く感じた。

 

というよりは、団長とガレスさんは少し困った表情でリヴェリア様は……

 

「レフィーヤ……」

 

たった一言、リヴェリア様が私の名前を呼んだだけで私の全身から汗が噴き出る。

 

リヴェリア様が本気で怒っている時の声色だと理解した。

 

「なぜ呼ばれたかは理解しているな」

 

恐らく、いや間違いなく九階層での出来事だろう。

 

みんなが闘いを止めようとした時に、私は止めようとした第一級冒険者達の前に立ち塞がったからだ。

 

理解した私の行動は早かった。

 

硬い地面の上に布一枚引かれたテントの中で正座をして頭を下げた。

 

ロキが言っていた最上位の謝罪の姿勢、土下座を行なっていた。

 

頭を下げている為、リヴェリア様が今どのような表情かはわからない。

 

今、私の目の前には絶対的な恐怖が居る。

 

目の前に立つ恐怖の象徴に私は蛇に睨まれた蛙のような心境だ。

 

しかし、これは私の行動の代償に過ぎず、理不尽な状況というわけではない。

 

私の行動が今この状況を作り出した。

 

足が痺れ、頭が上がらなくなりいったいどれだけの時間が過ぎただろうか。

 

けれど、私は解放されない。

 

もしもこの場に英雄がいるとしても、私を助ける事なんて出来ないだろう。

 

私が望まない。

 

この状況は、私が正しいと思って行動した代償であり、対価なのだから。

 

あの時の行動を後悔する事を私は絶対にしない。

 

一秒にも一時間にも感じるような時間の流れの中、口の中が乾燥し胃酸が逆流しそうになる程の重圧に耐えながら、思考する。

 

あの兎の様な、冒険者はいま何をしているのだろうか。

 

「はぁ……、頭を上げろレフィーヤ」

 

どれだけの時間土下座をしていたかわからないが、リヴェリア様から頭を上げる許可を貰い私は頭を上げようとした。

 

「っこのバカ弟子が!」

 

顔を正面に上げた瞬間、怒号と共にLv.6の拳骨が脳天に突き刺さる。

 

「ーーーーいっつぅ⁉︎」

 

あまりの衝撃に頭を上げられず、今度は完全に額が地面にくっついた姿勢になった。

 

「この一発で今回の件は不問にしてやる、お前も充分に理解しているようだからな」

 

声色が戻り、リヴェリア様はその場で膝をつき私の頭を上げさせると、優しく頭を撫で始めた。

 

「もしベルがあの場で死んでいたらどう思う、お前にも考えがあったのだろうが、あの場面は助けるのが家族として当然だろう」

 

「はい、重々承知しています」

 

「帰ったらベルに詫びの一つでもしてやれ、これが許す条件だ」

 

「わかりました」

 

その後痛みが和らぐまで頭を撫でてもらい、団長とガレスさんに温かな目で見守られていた。

 

 



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38話帰る場所

 

 

目を開くと知ってる天井だった。

 

「レフィ……?」

 

多分、前と同じ病室のベットで目が覚めた。

 

朧げな意識の中、覚えている記憶は怪物との死闘とレフィが泣いていた事。

 

「僕が泣かせたんだよな……」

 

胸が苦しくなる。

 

レフィにこれ以上心配をかけさせたく無いと思っていた。

 

右手を上げ顔の前で拳を握り額に当て目を瞑る。

 

「僕は弱い……」

 

「何、悲劇の主人公みたいな事言ってんねん」

 

突然の横槍に驚き声の方に顔を向けると、そこにロキ様がいつもと変わらぬ笑顔で座っていた。

 

「また大変な目にあったんやってな、オラリオに来てから波瀾万丈すぎるで。ベル」

 

「本当にいろんな目にあいましたね」

 

苦笑しながら言い返す。

 

「オラリオは楽しいやろ」

 

苦しい事、痛い事、辛い事、確かにオラリオに来てから沢山傷ついたけど。

 

「すごく楽しいです」

 

それらを全部帳消しにしてくれるほどにオラリオは楽しい。

 

家族ができて、憧れができて、守りたい人が沢山できて、支えてくれる人達ができて。

 

「ベル」

 

「はい?」

 

「おかえり」

 

「……ただいま。ロキ様」

 

僕は恵まれている。

 

 

 

-------

 

 

 

その後、目を覚ました事をロキ様がアミッドさんに伝えると、診断をしてもらい。「特に異常は見られません」とお言葉を頂きホームに帰ってきた。

 

黄昏の館にはいつもとは様子が変わり人が少なぬ静かに感じた。

 

「そりゃそうや、みーんな遠征に行っとるんやから。ここに残っとるんは館の警護の人間だけや」

 

そう言いながら、ロキ様は僕を主神室まで連れていく。

 

部屋に入るとロキ様はベッドに座り手招きする。

 

僕はベッドの横に置かれている椅子に座る。

 

「ほら、はよ脱ぎ」

 

今はもう慣れ上着を脱ぐのに抵抗は無くなり、ステータス更新をする。

 

最初の頃はロキ様に撫で回されたりもしてたけど、「うちの罪悪感がぁ…」と言って最近は何もしてこなくなった。

 

少し前の事を思い出しているとどうやら終わったようだ。

 

「おおかた話はレフィから聞いとったんやけど、やっぱりというか、そうやろうなぁ」

 

書き写したステータスを見ながらロキ様はため息をついた。

 

「Lv.2やベル。よう頑張ったな」

 

ステータス、オールS

 

僕のLv.1での最終ステータス

 

このステータスが異常な事に僕はまだ気づかない。

 

 

 

-------

 

 

 

〜豊穣の女主人〜

 

「今日は貸し切りにゃ〜‼︎」

 

あれから数日がたち、お世話になった方々にランクアップの報告をしていたら、いつの間にか豊穣の女主人での宴会が決まっていた。

 

飲み会と言っても、集まっているのは豊穣の女主人の従業員だけでの宴会である。

 

僕の為だけに貸し切りにするのは申し訳ないと断ったのだけれど、ミアお母さんに『私の料理が食えないのか』と言われて断りきれなかった。

 

「ほら、はしゃいでないでちゃっちゃと料理運んじゃうよ。ベルは沢山食べるんだから」

 

僕以外の皆は、テーブルを一つの場所に集めてその上に次々に料理を運んでいく。

 

従業員の皆と一緒に食べるから、最初に一気に料理を作って皆で食べれるようにする為だ。

 

もちろん、足りなくなればその都度料理を作れば良い。

 

しかし皆が運ぶ料理のほとんどは僕の近くの席に置かれていく。

 

あの死闘の前日に財布を空にするまで食べた僕をミア母さんは知っているから、僕以外が女性だけの宴会では食べきれないと思われる量の料理が運ばれる。

 

「こいつで一旦最後だよ。飲み物も適当に持っていきな」

 

着々と準備が進み、流石飲食店の従業員だけあってものすごい早さで料理が運び終わる。

 

調理組は切り上げてエプロンを外し、普段あまり見る事のない私服の姿で着座していく。

 

それはホールの従業員も同じで全員が私服であった。

 

「ベルは何を飲みますか?」

 

リューさんが横から尋ねる。

 

「お酒以外でお願いします」

 

「わかりました」

 

そう言って厨房の方へ向かい、樽ジョッキを二つの持ってくる。

 

「こちらの水をどうぞ」

 

一つを僕の前に置く。

 

「ありがとうございます」

 

「この水はリヴェリア様やウィリディスさんが好まれて飲むエルフの里で汲んだ水です」

 

リューさんの言葉で思い出す、ロキ・ファミリアの宴会に初めて参加した時リヴェリア様がお酒ではなく水を飲んでいた事を。

 

「ほとんどのエルフは水しか飲まないのですよ。もちろんお酒を飲むエルフもいますが」

 

そう言ったリューさんも同じ水をテーブルに置いて、僕の横の席に座る。

 

「あー、リューずるいにゃベルの横はミャーが座るのにゃ」

 

「アーニャ、まだもう一つ横が空いていますよ」

 

アーニャさんも座り、左にリューさん右にアーニャさん真ん中に僕となった。

 

アーニャさんはよくリューさんとの訓練でもお世話になっている。

 

以外と朝は強く毎日ではないが付き合ってくれた。

 

「それにしても、Lv.1でミノタウロスに勝つにゃんて、ミャーの訓練のおかげだにゃー」

 

「ベルの努力あってこそですよ。私たちは闘い方を少し教えただけです」

 

「そんにゃ事ないにゃ、最初はミャーの槍で軽く小付いただけでもがいてたベルが痛みに耐えれるように鍛えたのはミャーにゃ」

 

「それはアーニャの加減が下手なだけでしょう」

 

僕を挟んで言い合いをするリューさんとアーニャさん、訓練の時もよく言い合いを始めて二人が剣と槍を交える事は少なくなかった。

 

お互い本気ではなかったのだろうが高Lvの冒険者の戦闘は凄まじかった。

 

そんな事を思い出しながら、普段ならそろそろミア母さんに拳骨を落とされる頃なのだが、今日は騒いでもある程度は目をつぶるらしく、厨房の方でこちらを眺めているだけだった。

 

準備もほとんど終わり、厨房にいるミア母さん以外が席に座って、いまかいまかと待ち侘びている。

 

厨房から出てきたミア母さんが片手に飲み物を持ち立ったまま話し出す。

 

「今日はベルのランクアップの祝いだよ、店を壊さない程度に騒ぎな!」

 

その言葉を皮切りに皆一斉に自分の飲み物を掲げる。

 

「「「かんぱーい!!!」」」

 

始まってからは皆が目の前にある料理を食べ始め一斉に賑やかになる。

 

豊饒の女主人の従業員と僕だけの宴会なので、いつも冒険者が賑わっている程騒がしくはないが、皆存分に楽しんでいるようだ。

 

食事や飲み物がとても豪勢な物でお金の心配をしたが、ミア母さんは「既にもらっているよ」と言っていた。

 

誰から貰ったかは教えてくれなかったが聞こうとしたら睨まれたので僕は考えるのをやめた。

 

何にせよ僕の為に本当に嬉しくなる。

 

「ベル、ぼーっとしてないでいっぱい食べるにゃ」

 

口に料理を運びながらなんだかんだ気にかけてくれるアーニャさん。

 

「そうですね。いっぱい食べましょう」

 

「そうにゃ。この量をベルが食べなかったら全部食べれないのにゃ。残すと拳骨にゃー。」

 

「確かに、この量は私達にはきついですね」

 

そうして僕も料理に手をつけ始めた。

 

 

 

-------

 

 

 

日が完全に沈み日付が変わる前には片付けも終わり賑やかだった豊饒の女主人は静かになっていた。

 

あれから騒ぎすぎたアーニャさんとクロエさんがミア母さんに拳骨を落とされたり、そこにルノアさんが巻き込まれたり。

 

いつもと変わらないと言えばそうなのだが、みんないつもより笑っていた気がする。

 

ちなみに今回も皿洗いはアーニャさんがさせられていた。

 

「どうしました。ベル?」

 

今この場に残っているのは僕とリューさんの二人でカウンターに座っている。

 

皆は明日の為に帰っていた。

 

「いえ、今日は楽しかったなって思い出していました」

 

「そうですね。私の知る限り店を閉じて私達で宴会を開くのは初めてだったので、皆舞い上がっていました」

 

それを聞いて僕の為と思うと少し申し訳なさと嬉しさが込み上げる。

 

「ベルはそれだけの事をしましたし、私達もベルを祝いたかった」

 

そう言ってリューさんは立ち上がる。

 

「もう夜も遅い、私たちも帰りましょう」

 

僕も立ち上がりリューさんと一緒に豊饒の女主人を出る。

 

するとオラリオに鐘が鳴り響く。

 

この音を聞きながら、ゆっくりと僕のホームへ帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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39話休息2

〜ダンジョン 五十階層〜

 

野営地の準備を完了させた私たちは食事に移った。

 

キャンプの中心で大きな輪になる団員達に、これまでの遠征でもそうであったようにごちそうが振る舞われる。

 

五十階層まで踏破した団員達への労いと士気の維持を兼ねた豪勢な内容で、肉果実をはじめとした迷宮産の果実と干し肉、大鍋で作られたスープが配られた。

 

しかし今回の遠征に限っては、特定の冒険者の士気は衰える様子はない。

 

ヘファイストス・ファミリアの上級鍛治師達も輪に交ざり、賑やかな飲み食いが始まる。

 

「ここに来るまで様子がおかしかったが、どうした?」

 

干し肉をくわえスープの皿を持つ椿さんが私たちのもとにどっかりと腰を下ろす。

 

彼女はヘファイストス・ファミリア団長の椿さん。

 

Lv.5のオラリオ最高の鍛治師である最上級鍛治師で冒険者としても一流の方だと聞いた。

 

束ねた黒髪を揺らし物怖じせず尋ねてきた椿に、がつがつと食事。口にしていたティオナが口を開く。

 

「十八階層に行く途中、すごい闘いを見てさー。居ても立ってもいられなくなっちゃって」

 

「ほう、誰の闘いだ?」

 

「うちの子だよ。まだLv.1の駆け出しなんだけどさ、凄かったんだから!」

 

「名前は?」

 

「ベル・クラネルだよ」

 

椿さんとティオナさんのやり取りを聞きながら、隣で私とアイズさんは黙然と栄養補給を進める。

 

先程のお叱りやピリピリとした空気の中で話す気にもならずに私は静かに食事を終えた。

 

「最後の打ち合わせを始めよう」

 

食事を終えた私達は、団長を中心に今後の最終確認を始めた。

 

調理器具を片付け、輪になったまま団員達が耳を傾ける。

 

「事前に伝えてある通り五十一回層からは選抜した一隊で進攻を仕掛ける。残りの者はキャンプの防衛だ」

 

五十一階層からはサポーターと言えど最低限の能力を持った者でなければ連れて行けない。

 

パーティの身軽さを重視するためにも未到達領域を目指すのはファミリアの精鋭になる。

 

残る者達は補給地点である根拠地を防衛するのが役目である。

 

「パーティには僕、リヴェリア、ガレス、アイズ、ベート、ティオネ、ティオナ」

 

進攻開始は十分や休息を挟んだ明日。

 

第一休冒険者である首脳陣と幹部、七名の名がフィンの口から告げられた後、支援役の団員達が呼ばれる。

 

「サポーターにはラウル、ナルビィ、アリシア、クルス、レフィーヤ…」

 

覚悟が出来ていた私は落ち着いている。

 

サポーターに選ばれた皆はLv.4であるが、ただ一人わたしだけがLv.3である。

 

しかし道中Lv差などそんな常識を覆すような冒険者を見た。

 

私も立ち止まっていられない。

 

「キャンプに残る者達は、例の新種のモンスターが出現した場合、魔剣及び魔法で遠距離から対応するんだ。接近を許さないよう見張りは気を抜くな。指揮はアキ、君に任せる」

 

「はい」

 

防衛する上での注意事項、腐食液を放出する芋虫型への対抗策、そして野営地の指揮者を団長は伝えていく。

 

「椿も武器の整備士として、僕達に同行してもらう」

 

「うむ、任された」

 

それから団長から通達事項が全て終わると、胡座をかいていた椿が勢いよく立ち上がった。

 

「では、渡すものを渡しておくぞ!」

 

そう言うと、上級鍛治師達は荷物の中から白布に包まれた武具を運び出した。

 

第一級冒険者達の前に並べられる武具。

 

「注文されていた品……【不壊属性】だ」

 

私やリヴェリア様は魔法での攻撃が主な為特別な武具の用意は必要ないが、第一級冒険者達は前回芋虫型のモンスターに辛酸を舐めさせられた。

 

その対抗策。

 

それぞれの武器を手に取る冒険者達は様々な反応を示しているが、皆感触を確かめる中、不満を漏らす者はおらず皆笑みを浮かべていた。

 

新しい第一級冒険者達の武器に他団員の興奮が醒めない中、団長が口を開く。

 

「では、明日に備え解散だ。見張りは四時間交替てわ行うように」

 

その指示を皮切りに、団員達は周囲にばらけ始め、私も寝床へと向かった。

 

天幕の中へ入り明日への緊張か、眠れずに一人正座をする。

 

「アイズさん達の足を引っ張らない……」

 

未到達階層へ進攻するメンバーに選抜された。

 

まだ目にしたことのない苛烈な迷宮の奥底で、アイズさん達を援護しなければならない。

 

両の瞼を閉じて瞑想する、明日十全の力を発揮できるようにと、言葉を己へ言い聞かせていく。

 

「……みんなを信じる……私を信じる」

 

以前までの私とは違う。

 

怪物に震え護ってもらうだけの自分はもういない、私がみんなを護る。

 

だいぶ落ち着き緊張もほぐれてくる。

 

「やっぱり大丈夫そうね」

 

「……ティオネさん」

 

テントに一人入ってきたティオネさんは私の隣に座る。

 

「ティオネさんはどうしてここに?」

 

「んー、体の熱が治んないから、あの妹みたいに武器でも振ってようと思ったんだけど……団長に頼まれちゃあ、ね」

 

黒の長髪を指で撫で付ける彼女に私が首を傾げていると、ティオネさんはくるっと顔を向けて覗き込んでくる。

 

「今のレフィーヤは大丈夫ですって、言ったんだけどね。今だって落ち着いてるでしょ」

 

どうやら団長から様子を見てくるように言われたのだろうか、ティオネさんは私を見に来たのだ。

 

「はい。明日は私がみんなを護ってみせます」

 

「うん、期待してるわよ」

 

外からまだ起きている団員達の騒音が聞こえ、天幕の中で私とティオネさんは寄り添って座っていた。

 

「ごめんねレフィーヤ」

 

突然ティオネさんからの謝罪に驚く。

 

「レフィーヤがね、ずっと思い詰めていた事は知っていたの。私だけじゃなくってあの子やアイズも」

 

「えっ……」

 

「もちろんリヴァリアもよ。でも私たちはレフィーヤに何もしてあげられなかった」

 

ティオネさんは申し訳なさそうに言葉を続けた。

 

驚いた。

 

ティオネさんがそんなふうに思っていてくれていたなんて。

 

何もしてあげられなかったと言ったが、きっとティオナさん達は私をずっと支えてくれていたんだろう。

 

私は気づけなかった。

 

「けどあの子が来てから変わっていくレフィーヤを見て安心したわ、ちょっと悔しいけどね」

 

「ティオネさん」

 

「ねぇ、レフィーヤにとってあの子はどう見えるの?」

 

私にとって彼はどう見えるか。

 

「今はまだ駆け出し兎ですけど……私だけの英雄です」

 

 

 

 

 

 

 

 



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40話専属契約

豊饒の女主人で宴会をした次の日、僕はバベルの商業施設に向かっていた。

 

目的は新しい装備を買う為だ。

 

レフィに買ってもらった装備はミノタウロスとの死闘で砕け散った。

 

またダンジョンに挑む為に装備を整えなければいけないのだが……

 

「まったく同じものは売っていないよなぁ」

 

一目惚れした装備は思いのほか自分の体にフィットしていて動きの邪魔にもならず、軽さもちょうど良いものだった。

 

同じものがあればと淡い希望を持って、前回購入したお店に向かう。

 

目的のお店に向かうまでに第一級冒険者が持つような装備が目に入り、その値段に驚きながら店の前まで着いた。

 

相変わらず色々な店で冒険者がよく出入りして賑わっている。

 

その中で目的の店の反対側で座り込んで寝ている冒険者がいて、横には購入した装備なのか木箱を横に置いており不思議に思いながら店の中へ入る。

 

無愛想な店主に会釈をし、店内の装備を端から端まで探していく。

 

店内は狭いが棚の段数が多く、蓋のない箱に装備が入っていて、かなりの個数敷き詰められている。

 

それらを一つ一つ見て探すが中々見つからない。

 

一刻ほど経ち、店舗にある装備の半分は見たが一向に見つかる気配がない。

 

「こんな事なら誰の作品か聞くべきだったなぁ」

 

諦め半分で次の箱を確認しようとしたところで、入り口の方から会話が聞こえてきた。

 

「いけねぇ、寝ちまってたぜ。今日はまだ来てないか?」

 

店主がこちらを無愛想に首だけで僕の方を示す。

 

店主に話しかけていた赤い髪の黒い作業服を着た男がこちらを向く。

 

「おっ⁉︎やっと来たか、待ちくたびれたぞ【未完の少年(リトル・ルーキー)】」

 

男はまるで十年来の友人に声をかけるような声色で僕の二つ名を呼んだ。

 

「こいつが必要だろ」

 

男はそう言って担いでいた木箱をカウンターに置く。

 

中を見るとそれはまさしく僕が探していた装備だった。

 

「とりあえずついてきな。腰を据えて話そうぜ」

 

男に言われるままついて行きバベルから離れ、着いた場所は古い民家にだった。

 

「入ってくれ」

 

男は扉を開け僕を招き入れる。

 

中には炉と加工するための道具が綺麗に並べられてあった。

 

まさしく鍛冶場であった。

 

「とりあえず、どこから話すべきか……」

 

男は腕を組み頭をかしげながら悩んでいる。

 

「そういえばまだ名前を言っていなかったな。俺はヘファイストス・ファミリアの鍛治師ヴェルフ、ただのヴェルフだ」

 

><><><><

 

 

 

少し時は遡る

 

 

 

「今日の《神会》はうちが司会か」

 

神々が集まり定期的に行われる神会、ここ最近の近況だったり様々な事を神々で共有したり意見を求める場だ。

 

新種のモンスターについて探りも入れなあかんなぁ。

 

しかしそれよりも今日はベルの二つ名をどうするかや。

 

伊達にオラリオ最大派閥を名乗っているゆえに、こちらの意見を通しやすくはあるが……

 

「色ボケ女神が参加するっちゅう事は、そうゆう事なんやろうなぁ」

 

美の女神に対してめんどくささを感じながら、神会へと向かう。

 

そしてその美の女神と口論になり、ベルの二つ名が無難なものになるのは別のお話。

 

 

 

><><><><

 

 

簡単な自己紹介をした後、ヴェルフさんは何故僕を探していたかを話した。

 

「俺の装備を使っているって聞いてな、ロキ・ファミリアの駆け出し冒険者ってのは知っていたんだ。しかも何とそいつがランクアップしたって聞いたらよ、居ても立っても居られなくってな。待ち伏せさせてもらった」

 

「僕があのお店に来るってよく分かりましたね」

 

「ギルドでお前を見かけたんだよ。ボロボロの装備でで治療室の方に向かっている所をな」

 

なるほど。

 

それで、また装備を買いに来るとわかったのか。

 

「さぁて、ここからが本題なんだがな……俺の頼みを聞いてくれないか」

 

「頼みですか?」

 

「あぁ、勿論話を聞いてから断ってくれてもいい。」

 

ヴェルフさんは目を瞑り、一呼吸置いてから話す。

 

「俺と専属契約を結ばないか」

 

「専属…契約?」

 

リヴェリアさんから聞いた事があるような気がするが思い出せない。

 

僕がその意味をわかりかねていると、ヴェルフさんは簡潔に説明してくれた。

 

それは鍛治師と冒険者が結ぶ契約、より強固なギブアンドテイクだと。

 

冒険者は鍛治師のためにダンジョンからドロップアイテムを持ち帰り、鍛治師は冒険者のために強力な武器を作製し格安で譲る。

 

持ちつ持たれつ。鍛治師と冒険者の助け合い。

 

そして何より、特定の誰かのために打った武具は、特別な威力を発揮する。

 

「……つーわけだ。どうだ?」

 

それは魅力的な誘いだった。

 

防具の性能に関してはあの怪物との死闘で実感している。

 

あの装備を作った張本人からの申し出に断る理由なんてなかった。

 

「んっ、その短剣折れてるのか?」

 

返事をしようとした時、ヴェルフさんは僕の腰に刺してあるアイズさんから貰った短剣に気づいた。

 

「ミノタウロスとの闘いの時に折れてしまって、お守りとしてこの短剣とミノタウロスの角を持ち歩いているんです」

 

「ちょっと見てもいいか?」

 

「はい。どうぞ」

 

腰から短剣を抜きヴェルフさんに渡す。

 

ヴェルフさんは先程と目つきが変わり短剣を色々な角度から見る。

 

一通り見終わってからお礼を言って僕にかえす。

 

「この短剣をまた使いたいか?」

 

「えっ⁉︎」

 

「まったく同じ武器を作ることは出来ないが、そのミノタウロスの角があれば以前の短剣より丈夫な武器が打てるぞ」

 

「本当ですか⁉︎」

 

「あぁ、任せてくれるか?」

 

僕は首を何度も縦に振る。

 

「そうだ、ならこうしようぜ。この短剣を打ってお前が気に入らなければ直接契約の話は忘れてくれ。けど気に入ってくれるのなら俺と直接契約を結ばないか?当然金は貰わない」

 

どうだ?と言ってヴェルフさんは笑った。

 

 

 



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41話竜の壺

 

 

「ーー出発する」

 

静かな号令とともに、私たちロキ・ファミリア精鋭パーティは野営地を発つ。

 

戦闘員七、サポーター五、鍛治師一、総勢十三のパーティ。

 

前衛にはベートさんとティオナさん。

 

中衛にはアイズさんとティオネさんと団長。

 

後衛にはリヴェリア様とガレスさん。

 

ロキ・ファミリア第一級冒険者パーティの黄金の布陣だ。

 

この各配置に武器と道具を所持するサポーターが二名づつ加わったものが今回の隊列となる。

 

客人かつ整備職扱いの椿さんの位置は団長がいる中衛だ。

 

私は後衛でリヴェリア様の横を着く。

 

私たちはまず五十階層西端に存在する大穴を目指す。

 

「もう、何でベートと前衛なの!」

 

「うるせぇ、馬鹿アマゾネス」

 

私達サポーターは緊張し無言になりがちになる中、不壊属性の大剣を肩にかついだティオナさんが普段と変わらない様子でぶーたれている。

 

足に銀靴、腰には不壊属性の双剣、そしてナイフ型の魔剣を十振り以上装塡したレッグホルスターを両脚に装着する完全武装のベートさんは、視線も合わせず口もとをひん曲げた。

 

「はっはっ、いつだって賑やかなことだなぁロキ・ファミリアは」

 

気負わない前衛攻役達を見て、太刀の柄に手を置く椿さんが笑う。

 

「レフィーヤ、落ち着いているな。その緊張感を維持して進むぞ」

 

「はい、リヴェリア様」

 

「レフィーヤもだいぶ肝が据わってきたの。ほれ、ラウル、お前も見習わんか!」

 

「は、はいっす⁉︎」

 

隣を歩くリヴェリア様に声をかけられ、私は大きく息を吸い吐き出す。

 

片目を瞑るリヴェリア様は普段のように泰然としながら、その翡翠色の瞳で「大木の心」を忘れるなと語りかけてくる。

 

いつも通りの第一級冒険者に囲まれる中、私の前方で中衛にいる長髪の女戦士と金髪金眼の剣士が振り返る。

 

歩みは止めずにティオネさんは目配せし、アイズさんも小さく微笑んだ。

 

私も自然と笑みが浮かび頷き、筒形のバックパックを担ぎ直してパーティの前進に身を委ねる。

 

 

 

-------ー

 

 

 

パーティは歩みを止め進む先の道を見据える。

 

「さて、ここからは無駄口はなしだ。総員、戦闘準備」

 

灰の大樹林をぬけ、現れた大穴の前で団長が声を発する。

 

壁面に空いた大穴、五十階層と五十一階層を繋ぐ連絡路さ険しい坂と化している。

 

崖と同義の急斜面を見下ろすと、階下には既にいくつものモンスターの眼光が闇に浮かび上がっていた。

 

パーティ一同が静かに武器を構える中、私も杖を握り直し心を落ち着かせる。

 

「ーーー行け、ベート、ティオナ」

 

発進する。

 

凶暴な狼人と獰猛な女戦士は風になって急斜面を駆け下りる。

 

彼等の後に一団が続き、未到達領域への進攻はここに開始された。

 

安全階層を抜けて早々に発生したモンスター達との交戦はベートさんの銀靴とティオナさんの大剣が瞬く間に終了させる。

 

「予定通り正規ルートを進む!新種の接近には警戒を払え!」

 

未到達領域五十九階層を目指し、私達は高速でダンジョンを駆け抜けていく。

 

「先の通路から産まれる」

 

「前衛は構うな!アイズ、ティオネ、対応しろ!」

 

「はい!」

 

前衛が素通りした通路左右から亀裂が生じ、アイズさんの言葉通り壁面にを破って怪物の群れがどっと出現した。

 

間髪入れず、二刀の湾短刀と一振りのデスペレートが産まれて間もない怪物達を解体する。

 

「集団から振り落とされるでないぞ、お主等!」

 

追い縋るモンスターを斧で粉砕するガレスさんの大声が、パーティ最後尾より投じられる。

 

まるでダンジョンが咆哮を上げているようだ。

 

途切れないモンスターとの交戦に、しかし私達は怯まない。

 

「がるぁあああああああああああああああああ!!!」

 

立ちはだかるモンスター達を正面に、飛び出すベートさんが蹴撃の一閃と続く回し蹴りで根こそぎ敵の上半身を吹き飛ばす。

 

本来遊撃を務めるその足の速さを存分に発揮し、一撃離脱、隊から先行する形で一撃につき一匹のモンスターを撃砕してのける。

 

高速移動と蹴りの乱舞でパーティの道を切り開いていった。

 

「べ、ベートさん、いつもよりやばい……」

 

怪物の屍を量産するベートさんに、片手に自衛用の長剣を装備する前衛サポーターの一人がおののくように呟くのが聞こえた。

 

「ベートのくせにぃー!」と対抗意識を燃やすティオナさんも大剣を振り回し奮迅の活躍を見せる。

 

「レフィーヤ、迂闊に魔力を練るなよ。例の新種を引き寄せる。詠唱は奴等と遭遇してからでいい、今はアイズ達に任せろ」

 

「わかりました!」

 

後衛位置で隊員達に囲まれる中でリヴェリア様と隣り合って走る。

 

私達魔導士は仲間を信じ、己の出番に備える。

 

「ナルビィ、大双刃ちょうだい!」

 

「はい!」

 

振り返ることなく背後へ不壊属性の大剣を放り投げ、武装交換。

 

超硬金属製かつ大重量の得物を装備したティオナさんは、眼前に集結するモンスター達の極厚の壁を見据え、疾走した。

 

ベートさんの真横を抜いたティオナさんは二十にも及ぶ怪物の大群に突貫する。

 

「いっっくよおおおぉーーーーッ‼︎」

 

全身を用いた、文字通り渾身の回転切り。

 

巨大なニ刃から放たれた大斬撃が進路上にいたモンスター達を全て両断する。

 

開けた道の奥からけたたましい進撃音を察知した。

 

「ーーー来た、新種!」

 

私達が最大警戒していた芋虫型のモンスターと、とうとう遭遇を果たす。

 

「隊列変更‼︎ティオナ、下がれ!」

 

即時かつ即行の指示が司令塔の口から放たれる。

 

そして団長が言うか早いか、アイズさんは、後退するティオナさんと阿吽の呼吸で入れ替わるように中衛位置から飛び出した。

 

【目覚めよ】

 

魔法を発動し、走り出しているベートさんと肩を合わせ、突撃する。

 

「アイズ、寄こせ!」

 

「ーーー風よ」

 

ベートさんの要請を受け白銀のメタルブーツに風の力が宿る。

 

風の恩恵と不壊属性の武器を携える二人は芋虫型の大群に踊りかかった。

 

連携含め十分な対策を練ってきた私達はもはや新種相手に遅れを取らない。

 

芋虫型にとって相性最悪で有る風鎧をもって蹂躙を働き、アイズさん達は怒涛のごとく鏖殺していった。

 

敵の進軍を押し返す。

 

【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け、三度の厳冬ーー我が名はアールブ】

 

「総員、退避!」

 

そしてアイズさん達の奮闘の陰で行われていたリヴェリア様の並行詠唱が瞬く間に終了する。

 

横で現オラリオ、最高魔導士の並行詠唱を聴く。

 

以前は考えもしなかった。

 

本気で憧れに追いつきたいなんて。

 

一生かかっても追いつけないと、諦めながら惰性で前を向いていた。

 

そんな私を救ってくれた。

 

一緒に憧れを追いかけてくれる人が今はいる。

 

だから私は憧れに追いつく為にもっと強くなる。

 

その為に私は技術を、知識を、経験を、全て学びもっと強くなる。

 

【ウィン・フィンブルヴェルト】

 

三条の吹雪が通路中を突き進んだ。

 

蒼と白の砲撃が迷宮ごと前方のモンスターを凍結させる。

 

私は目指す目標の遠さを再認識し、それでも前を向く。

 

「いやはや、凄まじい魔法だ。これが魔剣で繰り出せるようになれればな」

 

「そんなことになれば魔導士の立つ瀬がない」

 

そんな事を言う椿さんにリヴェリア様が苦笑する。

 

氷と霜に覆われた壁面からはさしもの深層出身モンスターも産まれない。

 

凍りついた正規ルートを進む私達はそこからあっさりと下部階層に続く階段に辿り着いた。

 

「ここからはもう、補給できないと思ってくれ」

 

道具の使用はこの場で済ませろと言外に告げる団長、しかしここまで無傷で来た私たちは動かない。

 

ここを進めばもう止まれない。

 

「行くぞ」

 

団長の短い命令とともに、パーティは五十二階層へ先程より速まった速度で疾走する。

 

「戦闘はできるだけ回避しろ!モンスターは弾き返すだけでいい!」

 

絶えない団長の指示。

 

その中ラウルさんの声が響く。

 

「止まっちゃ駄目っす⁉︎」

 

「むっ?」

 

隊列を外れようとした椿さんの手を引っ張っていた。

 

見れば、地面に落ちた武器素材を拾おうとしたのだろうか?

 

椿さんはラウルさんに疑問を口にした。

 

「何故だ?手前はここまで深い階層に来たことがない、何かあるのか?」

 

「狙撃されるっす……⁉︎」

 

脂汗を散らしながら、ラウルさんは言った。

 

「狙撃……?」

 

私は事前に情報は聞いていた。

 

周囲を見ても自分達を狙う不審な影は見当たらない。

 

しかし、皆死に物狂いで第一級冒険者達に続く。

 

その様子は危機感に溢れ、顔色は蒼い。

 

何も知らないのであれば私達の様子に違和感を覚えるだろう。

 

地の底から昇ってきたかのような、禍々しい雄叫びが響く。

 

「……竜の、遠吠え?」

 

怪物の王の叫喚。

 

「ーーー捕捉された」

 

団長の静かな声が耳に入る。

 

「走れ!走れぇ‼︎」

 

移動をがなり立てる声は誰のものかわからない。

 

私達の走行の速度が更に上がる。

 

目の前を走る椿さんは、周囲の様子に混乱しながらも足は止めずにしっかりとついてきている。

 

「ーーー来る」

 

「ベート、転進しろ‼︎」

 

アイズさんの一言の後にすかさず団長の指示が飛び、先頭にいたベートさん、遅れてティオナさんとパーティ一団は正規ルートを外れ横道へ飛び込んだ。

 

次の瞬間。

 

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 

 

 

地面が爆砕した。

 

「「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっ⁉︎」」」

 

突き上がる轟炎、そして紅蓮の衝撃波。

 

心臓の音がペースを上げる。

 

階層の床がまるごと紅炎に包まれ、パーティの通過点上にいたモンスター達を全て呑み込み、蒸発させる。

 

「迂回する‼︎西のルートだ‼︎」

 

激しい団長の指示にパーティが導かれる。

 

正規ルートを外れた冒険者達は迷路状の広幅の通路を全力で走った。

 

すぐに、再び轟く大爆発。

 

「芋虫型を引き寄せてもいい‼︎リヴェリア、防護魔法急げ‼︎」

 

「ーー【木霊せよーー心願を届けよ。森の衣よ】」

 

「敵の数は⁉︎」

 

「六、いや七以上⁉︎」

 

何発もの大爆砕が続き、熱風と無数の炎片が私達のもとに押し寄せる中、団長の命令が矢継ぎ早に飛ぶ。

 

返事すら惜しいのかリヴェリア様が詠唱を開始し、蹴り続けている地面を見下ろしながらティオナさんが叫び返す。

 

情報は聞いていた、覚悟は十分にしていた。

 

だが、この現象を目の当たりにして動揺を隠せない。

 

悲鳴が喉をせり上がり恐慌を来たしかける中で思い出す。

 

『大木の心』

 

私が魔導士である限り、私は私はを制御できなければならない。

 

あの子を支えれる魔導士になる為に。

 

落ち着きを取り戻したのも束の間、私の瞳はそれを視認してしまった。

 

「ラウル、避けろ⁉︎」

 

「えっ?」

 

私と同じく真っ先に気づけたのは、最後尾でパーティを守るガレスさんだけだった。

 

通路の横穴から迫り来る太糸の束に、ラウルさんは気づいていない。

 

眼前の光景に、私は咄嗟に手を伸ばす。

 

「ラウルさんっ⁉︎」

 

無茶ばかりして人を助けようとするあの子なら同じ事をするだろうと思いながら、ラウルさんをバックパックごと突き飛ばす。

 

側面から射出された太糸は、先ほどまでラウルさんがいた場所にあった私の腕を絡め取る。

 

捕縛され、ぐんっと隊列から引き剥がされる。

 

「レフィーヤ⁉︎」

 

ティオネさんの叫声が響く最中、私は横穴に引きずり込まれる。

 

太糸の先の巨大蜘蛛のモンスターは、私を捕食しようとその顎を開口させーーー燃え尽きた。

 

膨れ上がった地面が、何発もの爆炎を吹き、巨大蜘蛛を消滅させる。

 

糸に釣られ宙にいた私は。

 

階層に空いた大穴に、そのまま落下した。

 

一瞬の浮遊感の後、抵抗できない重力に身を委ねるように頭から降下していく。

 

そして、私は見た。

 

深く、深く、深過ぎる。

 

大火球によって何層もの階層をぶち抜いて形成された長大な縦穴。

 

穴の底で落ちてくる己を仰ぐのは、無数の牙の隙間から煙を吐く、数匹の巨大な紅竜。

 

戦慄する。

 

私達は数百メートル先の地の底から狙撃されていた。

 

深部の強大なモンスターの攻撃が冒険者を脅かす。

 

『階層無視』

 

竜の眼光に射竦められ私の脳裏に、今日まで聞かされてきた先達の声が過ぎる。

 

『五十階層以上の常識は、あの層域からもう通用しない』

 

『ダンジョン五十ニ階層から下は、地獄っす』

 

蘇るリヴェリア様とラウルさんの言葉を私は理解させられた。

 

既階層ならば特級の異常事態に値する現象。

 

規模が違う、尺度が違う、脅威が違い過ぎる。

 

これがダンジョン?

 

ありえない!

 

出鱈目過ぎる⁉︎

 

巨大な竜目がけて落下していく悪夢のような光景。

 

風を切り、前髪を巻き上げられながら、強大な怪物が待ち受ける縦穴の底へ。

 

他階層のモンスター達まで巻き添えを食らいばらばらと落ちていく中、全身が恐怖に屈しかける。

 

けれど恐怖を感じながらも私は信頼する。

 

呼吸をする。

 

彼等なら必ず助けに来てくれるから、私は今私のやり方で生存する為に謳う。

 

「「レフィーヤ‼︎」」

 

「足引っ張るんじゃねえノロマァ⁉︎」

 

ティオナさん、ティオネさん、そしてベートさん。

 

縦穴の壁面を蹴りつけ直下へと疾走する。

 

信頼していたとはいえ、駆け付けてくる第一級冒険者達の姿に、瞳が水面を帯び、震えた。

 

『【ヴェール・ブレス】』

 

次いで発せられた玲瓏たる響きの魔法名。

 

私達の全身をそれぞれ包み込む温かな緑光の衣。

 

攻撃から身を守るリヴェリア様の防護魔法である。

 

都市最強魔導士の恩恵を手にした三人の第一級冒険者は、壁を走って瞬く間に私のもとまで追いついた。

 

だが、ほぼ同時に大紅竜から砲撃が放たれる。

 

直径五メートルを超える大火球が打ち上がる。

 

「んにゃろおおおおおおおお‼︎」

 

銀の大剣を担ぐティオナさんが飛び出し、両手で握り締めた不壊属性の大剣を、大火球目がけ振り下ろす。

 

大爆発。

 

そして、相殺。

 

視線の先で火球が食い止められ、爆裂する。

 

あまりの出来事に謳う事をやめそうになったが、炸裂した爆光の中からティオナさんが現れた。

 

「あっちぃー⁉︎」

 

五体満足の姿を見せるティオナさんに、思わず苦笑いをしてしまう。

 

まるで狂戦士のような彼女はぴんぴんしていた。

 

「ティオネ、ベート!飛竜が来る!」

 

各階層に出現する竜が、蟻の巣のごとく縦穴に繋がる横穴から、翼を打って飛翔してくる。

 

階層の横穴から続々と出現してくる竜種に、ティオナさんとベートさんが駆け出した。

 

「ティオネ、そのノロマを守っとけ‼︎」

 

降下中ということを忘れてしまうほどの素早さでベートさんは岩盤を蹴り、矢のように真っ直ぐ飛んできた飛竜の一匹に抜剣した双剣を叩き込んだ。

 

ティオナさんも負けじと接敵した飛竜の翼を断ち切って撃墜する。

 

巻き起こる大爆光。墜落していくモンスター。耳を塞ぎたくなるほどの竜達の吠声。

 

この世のものとは思えない凄まじい光景に震え上がる。

 

「安心しなさい‼︎」

 

「!」

 

側で落下しているティオネさんが私に叫びかける。

 

「びびるな!私達が守る‼︎」

 

ティオネさんの声と力強い眼差しに胸が震える。

 

私は何に臆していたというのか。

 

強大な竜や景色を前に、私を守ってくれている都市最強の冒険者の彼等を前に何を不安に感じる事があるだろうか。

 

私の命を預けれる彼等を。

 

ティオナさんに頷き返し、手の中の杖を握り締め、謳う。

 

 

 

 

 

 

 



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42話五神

 

 

「そういやベルの【英雄願望】がどんな効果なのかはわかったんか?」

 

「いえ。わからないままですね」

 

黄昏の館、主神室でお茶に誘われて、僕はロキ様と二人座って会話をしている。

 

「結局、わからんままLv.2になってしもうたなぁ。まぁそれで十分に戦えてるんなら問題ないんやけど」

 

ロキ様と僕のスキル『英雄願望』について話す。

 

「『能動的行動に対するチャージ実行権』って書かれとるから、なんらかの強化やと思うんやけどな」

 

「僕が気づいていないだけで、実際には効果が出ているのでしょうか?」

 

「その可能性もあるんやけどなぁ……、神からの恩恵やで、しかもこのロキ様の恩恵や。気づかんほど地味なもんとは考えにくいわ」

 

「そうですよね」

 

「ん~……、何かしらの発動条件があるんやろうな。経験が少ないからこれから気づいたらええわ」

 

「はい。レフィが帰ってきたら一緒に考えてみます」

 

「そうやな。帰ってきたらランクアップも報告せなあかんしな。レフィーヤ、泣いて喜んでくれるで」

 

にししと笑った神様は立ち上がり窓から外を眺める。

 

「ベルのおかげで鼻が高いわ。元々アイズたんの持っとった最短記録を、超超大幅に超えてくれたお陰で、他の神からの嫉妬が心地ええわ」

 

ここ数日はオラリオの街を案内すると言う名目で、他の神様達にひたすら僕を自慢しに行って楽しんでいるロキ様は機嫌が良さそうだ。

 

「フィン達もそろそろ帰ってくるやろ」

 

ロキ様は正門が見える窓際へ移動する。

 

「っと噂をすれば……」

 

外を眺めているロキ様は首を傾げた。

 

「ベート?なんで一人なんや。……とりあえず迎えに行くか」

 

ロキ様と一緒に本館入口の広間まで行くと、疲れた様子のベートさんが水を飲みながら座っていた。

 

飲み終わったコップをその場に置くと、階段から降りる僕たちに気づいて近づいてくる。

 

「ロキ。今から言う解毒薬を大量に集めろ、帰りに厄介な毒を貰っちまって十八階層で動けなくなった」

 

「なるほど、了解や。ベートは休んどき、寝ずに走ったんやろ薬はこっちで用意するわ」

 

「すぐに集めろ。準備が出来たら起こせ」

 

ベートさんはロキ様に必要な情報を伝えてから、自室の方へ向かった。

 

「ベル。お使いを頼まれてくれんか」

 

 

 

-------

 

 

 

「わかった、急いで用意するよ」

 

僕はお使いでナァーザさんのお店に来ている。

 

「ただあいにくその薬を切らしていて、すぐには用意出来ない」

 

「どのくらいかかりそうですか?」

 

「そうだね。一人で薬の調合をするとなると三日はかかりそうだ」

 

「三日……ですか」

 

そんなに時間がかかるとは思わず戸惑ってしまう。

 

「急いでいるんです。何か僕に手伝える事は無いですか?」

 

「うーん……」

 

無茶を承知でなんとか出来ないかとナァーザさんに聞く。

 

困った表情でナァーザさんは顎に手を当てて考える。

 

すると入口が開く音が聞こえた。

 

入口の方へと目を向けたナァーザさんはニヤリとする。

 

「ベルは何も手伝えないけれど、そこのヒューマンなら手伝えるよ」

 

ナァーザさんが指差した入口の方を向くと、入ってきたのはオラリオに来てから何度もお世話になったあの人だった。

 

「おやベルさん、こんなところでお会いするなんて奇遇ですね。ナァーザ、頼まれていた物を持ってきましたよ」

 

「丁度良いタイミングで来たね、アミッド」

 

都市最高の治療師 アミッド・テアサナーレ

 

「何かお困り事ですか?」

 

「そうなんだよ。この兎さんが早く薬を用意しろってイチャモンつけてくるんだよ」

 

「そうなんですか?まったく困った兎さんですね」

 

「今度飼い主が来たらちゃんと躾けるように言わないとね」

 

「ふふ、そうですね」

 

アミッドさんは持っていた荷物を渡し、ナァーザさんと一緒に僕を揶揄いながら静かに笑う。

 

「これを大至急になんだけどさ、そっちで頼める?」

 

「おや。こちらであれば先日大口の発注が来て用意したはいいものの、全てキャンセルになったので余らせていますよ」

 

「本当ですか⁉︎」

 

「大量に余っていますので数は足りるでしょう。店で準備をしておきますので、ダンジョンへ行く前に立ち寄ってください」

 

「ありがとうございます!」

 

「それでは、また後で会いましょう」

 

頭を少し下げてからアミッドさんは店を出た。

 

「ベル、良かったね。たまたま大キャンセルがでてて」

 

 

 

-------

 

 

 

自室で新しい装備を装着して準備を行う。

 

「短剣は一本」

 

アイズさんから貰った短剣はヴェルフさんに預けたまま打ち直しをしてもらってるから手元にはない。

 

今あるのは怪物祭の日にレフィから貰った短剣一本だけだ。

 

「闘いに潜るわけじゃ無いから大丈夫か」

 

薬を十八階層へ届ける為に準備をする。

 

『ベート一人だけでもええんやけど、せっかくやから一緒に行き。ベートには主神命令やって言っとったるから』

 

ということで僕も行くことになった。

 

「会えるのかな」

 

久々に会う彼女達の顔を思い出しながら入念にチェックを行う。

 

「サイズピッタリだ……」

 

新しい装備はヴェルフさんに調整してもらい合わせてくれた。

 

最後にバックパックを腰につけてから部屋を出る。

 

 

 

><><><><

 

 

 

豊饒の女主人の扉にはcloseと看板がかかっている。

 

しかし入口からは見えない奥のテーブル席に座る者がいた。

 

「さて。いったい何回目の顔合わせになるんだろうか」

 

神、ヘスティア。

 

「さぁ。そんな些細な事、私は知らないわね」

 

神、フレイヤ。

 

「何回目だって構わないさ。なぁ、我が友よ」

 

神、ヘルメス。

 

「そうだな。何度目だってやる事は変わらないさ」

 

神、エレボス。

 

「そうね。私達の目的地は一緒だものね」

 

神、アストレア。

 

集まった五神は誰もいない店内で、目の前にある紅茶を飲みながら談笑する。

 

「エレボスとアストレアは昨日帰ってきたんだろう?疲れている体で来てくれてありがとう」

 

「礼はいらないさヘスティア。俺はやりたい事をやっているだけさ」

 

「そうね。私も子共達の正義の為にやっている事だもの」

 

ヘスティアが頭を下げようとするのをエレボスとアストレアは止める。

 

「おいおい。俺も昨日帰ってきたっていうのに、労いの一言もないのか」

 

ヘラヘラとした表情で、わざとらしく両手を広げて首を振りながらヘルメスは言う。

 

「君はしょっちゅう行ったり来たりをしてるだろう。二人は何年振りにオラリオに帰ってきたと思ってるんだい」

 

「わかっているさ。冗談だよヘスティア」

 

「それで。ミアハとディアンケヒトを連れて行った成果はどうだったのかしら?」

 

フレイヤは一口飲んだ紅茶を置いてから尋ねる。

 

「西に進んだ私はそれなりの成果よ。途中アルテミスにも会って、一緒に遺跡の探索をしたり、厄介な怪物と闘ったりしたわ」

 

「アルテミスに会ったのかい⁉︎久しぶりにまた会いたいなぁ」

 

「こっちもそれなりだ。あの怪物の残骸も手に入った。今頃それぞれの成果や知識の共有をしているだろう」

 

「そう。ちゃんと払ったお金分の働きをしているならいいわ」

 

「忘れてないさ。あんな大金を用意してくれて本当に感謝しているさフレイヤ」

 

「次は私が北に行くわ」

 

「なら俺が南に行こう」

 

アストレアとエレボスは二人目を合わせ頷く。

 

「次はいつ出発するんだい?」

 

「ミアハとディアンケヒト次第だな」

 

「けど、すぐに出発はしないわ。子ども達も休ませてあげたいし」

 

「そうか。なら、ゆっくり休んでくれ。話したいこともあるからな」

 

そう言ったヘルメスは視線をエレボスとアストレアからヘスティアへ移す。

 

その表情は、先程までヘラヘラとしていたものではなく真剣な表情でヘスティアに問う。

 

「さて、今日俺が一番聴きたかった事は、何故【ベル・クラネル】は【ロキ・ファミリア】にいるかだ」

 

ヘルメス以外の四神も真面目な顔付きになる。

 

先程までの和気藹々と空気は無くなり、皆の視線がヘスティアに集まる。

 

ヘスティアは腕を組んだまま目を瞑っていた。

 

皆はヘスティアが答えるまで口を開かず待った。

 

「……そうだね。何故と聞かれるなら答えなくちゃいけないね」

 

そう言ったヘスティアは目の前のティーカップを持ち上げ、紅茶を回し中に目を落とす。

 

「単純だよ。ロキが僕より先に【ベル・クラネル】を見つけた。僕は見つけることが出来なかったんだ」

 

ヘスティアは紅茶を飲まずに視線は紅茶を見たままティーカップを置く。

 

「だから何だ。先に見つける事が出来なかったから諦めたのか?」

 

ヘルメスの質問は続く。

 

「諦める?」

 

ヘスティアは鼻で笑った。

 

「僕がいったい何を諦めた」

 

ヘスティアはヘルメスと目を合わせる。

 

「僕達の目的は元々違う。目的地と道中が一緒なだけだ」

 

話す言葉はだんだんと強くなって行く。

 

「たとえこの身が滅びようと、天界に帰れなくなったとしても、僕の目的は変わらない」

 

ヘスティアはテーブルに拳を叩きつける。

 

「たとえそれが【ヘスティア・ファミリア】のベルくんじゃなくとも構わない。ベルくんが英雄になれるのなら、ロキの所でもフレイヤの所でも僕は歯を食いしばって我慢できるさ」

 

息を切らしながら自身の思いを吐き出す。

 

「ベルくんの為に、僕は僕の全てを犠牲にしてでも進み続ける」

 

ヘスティアが言い切った後、少しの沈黙が続いた。

 

「すまなかった」

 

ヘルメスは帽子を取り、帽子を胸の前に置いて謝罪した。

 

「ヘスティアの覚悟を甘く見ていた。軽率な質問だったと反省している」

 

そう言って頭を下げた。

 

「謝らなくていいよヘルメス。見つける事が出来なかったのは僕の落ち度だ」

 

「そうよ。結果的に今の彼は聞かされている限り、今までよりも強く育っているらしいわ」

 

フレイヤは妖艶な表情で言う。

 

「フレイヤ。言っておくけれど、僕達が今協力しているのは、僕がベルくんの為だと判断したからだ」

 

「そうね。お互いの目的の為の手段は問わないが邪魔をしない。それがルールよね」

 

「ただし利害が一致しなくなれば」

 

「私達は敵になる」

 

ヘスティアとフレイヤは目を合わせる事なくルールの確認を行う。

 

「けれど。今は味方だろ」

 

エレボスが口を開く。

 

「敵になるのはまだまだ先の話だ。それまでは互いに協力し合おうじゃないか」

 

ヘスティアは苦い顔をしながらため息を吐く。

 

「悪かったよ」

 

ヘスティアは謝る。

 

フレイヤは何も言わなかったが、何も言わないフレイヤにヘスティアは何も言わなかった。

 

「所でその、ベル・クラネルは今どこにいるんだ?」

 

「そろそろダンジョンに潜る頃じゃ無いかしら。ロキ・ファミリアが十八階層にいるから、そこに向かうはずよ」

 

エレボスの質問にフレイヤが答える。

 

「そうか。なら俺はそいつを見に行くとするかな」

 

「ダンジョンに入るつもり?」

 

「何だよアストレア。君だって昔入った事があるだろう」

 

「いえ咎めるつもりじゃ無いわ。途中私の子供がいるだろうから一緒に行動してもらいなさい」

 

「助かるよ」

 

「私の子供も一人貸してあげるわ。どうせ一人でも十八階層に行くだろうから、貴方の護衛につかせるわ」

 

「フレイヤもありがとう」

 

ヘルメスが手を叩く。

 

「さてそろそろ解散だな」

 

その顔は先程の真剣な表情ではなく、いつも通りのヘラヘラとした表情に戻っていた。

 

「ここは俺達の結束を高める為、今一度自身の目的を改めて口に出し、これからも励もうじゃないか」

 

ヘスティアとフレイヤは嫌な顔をした。

 

「良いわね。私は嫌いじゃ無いわ」

 

「我が友の言う事なら付き合うさ」

 

多数決でやる事になった。

 

 

 

神、ヘスティア

 

「ベルくんを英雄にする為」

 

神、フレイヤ

 

「未来の伴侶の為」

 

神、ヘルメス

 

「過去の英雄達の為」

 

神、エレボス

 

「数多の英雄の為」

 

神、アストレア

 

「子供達の未来の為」

 

 

「「忘れるな我々は【神を殺す者達】だ」」



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