異世界に集団転移したけどみかんしか出せない (winter先輩)
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クリエイトみかん

「なああああああーーーー!」

 

平凡な高校生、赤瀬来夢(あかせらいむ)は叫んでいた。それはもう、気が違ってるんじゃないかというほどに叫んでいた。

 

彼のクラスメイトたちは、突然叫び出した彼に驚き、恐怖の感情を抱いていた。無理もない話だ。さっきまで普通にしていたクラスメイトが、唐突に叫び出したのだから。

 

周囲にいるクラスメイトを気にとめもせず、ひたすらに荒れ狂う来夢。

 

それは彼の固有スキルが【クリエイトみかん】、みかんを出せるだけの能力だったからだ。

 

何故こんなことになってしまったのか?話は少し前に遡る。

 


 

週の初め、地獄の始まり。誰しもが月曜日が来ることを憂鬱に思ったことはあるだろう。なまじ休みがあったせいで、余計にそう感じてしまう。

 

そんな事情は誰もが抱えているわけで、始業のチャイムが鳴るのを待っている生徒たちはダルそうだった。

 

ここは都市部に存在するとある高校。この教室は、今年から高校生になった1年生のものだった。

まあ、1年生とはいっても、すでに10月。クラスの緊張感も無くなり、ワイワイガヤガヤとした雰囲気が醸し出されていた。

 

高校生の日常の1コマとしては普通な状況。

そんな普通な光景に、偶然か、はたまた必然か、異変が起こった。

 

 突然、クラスの床に巨大な魔方陣が現れたのだ。アニメだとかによくある魔方陣だ。それは、青く輝いていた。

突如出現した魔法陣に、当然クラスは騒然となる。

 

「これは一体…?」

「ククク…ついに我の力が覚醒するときが来たか!」

「YESロリータNOタッチ」

「田中!嶋津!お前らは黙ってろ!」

 

....何にせよクラスが騒がしかったのは事実だ。一部中二病やロリコンが含まれていたが、このクラスの日常に近いのでみんな気にはしない。

一体、このクラスの日常とは何なんだろうか?

 

クラスは依然として混乱の中にあったが、どうやら魔法陣は待ってはくれないようだ。

教室を包む淡い光は、だんだんと濃く大きくなっていく。間に合わない、誰もがそう思った。

 

「異世界!異世界!異世界!」

「Fooooooooooo!」

「逃げろぉぉぉぉ」

 

誰が叫んだか。「教室から出ろ!」との叫びも聞こえた。しかし、時すでに遅し。もう魔方陣からは逃れられない。

 

どんどん大きくなっていく魔方陣。輝きも一段と眩しくなっていく。非常に目によろしくない明るさで、ネオンサインも真っ青になるレベルで眩しい。

 

その為、誰もが目を瞑った。すると、目を瞑ったまま一人、また一人と意識を失っていく。耐えようとしても、結局意識を失ってしまい、最終的にはクラスメイト全員が意識を失った。

 

その後、何が起こったかを知る者はいなかった。

 


 

 

目覚めたとき、彼らは深い森の中にいた。沢山の植物に囲まれており、生えている木の丈も高い。

濃く茂っている木々の隙間から、陽の光が覗いている。方角からして、今は昼頃だろう。

 

ここは何処なのか?そんな疑問が湧く。

 

それもそのはず、森は見たことのない植物だらけだった。異常に大きな果実に、うねうねと蠢くツル。小動物を丸呑みにする、一見綺麗なだけの花。

 

いかにもな雰囲気をかもし出す森だったが、今のところは、特に何も襲ってくることは無さそうだ。

 

と、学級委員の宇治原恵里(うじはらえり)が全員に声を掛けた。恵里は、長めの髪をそのまま垂らしており、非常にお堅い、遊び心を感じさせない眼鏡を掛けている。

 

「みんな落ち着いて!一旦集まって!」

 

などと言ったものの、みんなは一応集まっていた。いや、あまりにも現実離れしすぎていたためにどうしていいか分からなかったのだろう。

 

辺りを見渡せば、頭を抱えて地面に座り込む者、泣き出した者、グループで固まっている者などかいたが、状況は最悪だった。

 

「まずは全員いるか確認するわ!名前を呼んだら返事をして!」

 

恵里が指揮を執るとクラスメイトはそれに従った。すぐに輪のような並びになり、クラスメイトの点呼が行われる。

このような状態でも冷静に点呼が出来るあたり、恵里の有能さが滲み出ている。普通ならば、取り乱してしまっているだろう。

 

「一応全員いるみたいね、さて…」

 

幸か不幸か、クラスメイトは全員いた。朝の始業前だったので、みんな揃っていたのだ。

ただ先生が居なかったのが、悔やまれる。ここにいるのは、ただの高校生30人に過ぎないのだ。

 

ここからどうするかなど、流石に恵里も考え付かない。反射的に点呼はしたが、この状況でどうすればいいのか。自分には荷が重すぎる。私には、無理だ。

 

恵里が思案していたとき、

 

「これってさ、異世界転移ってやつじゃないか?」

 

そんなことを言ったクラスメイトがいた。

クラスの中心で、サッカー部の八雲啓(やぐもけい)だ。

 

異世界、という言葉にクラスメイトは反応する。この森のファンタジーな植物を見て、そんなことを思った人もいただろう。というか、思わせ振りなあの魔方陣が現れた時点で勘づいた者もいただろう。

 

「つまりここは日本どころか地球ですらないと」

 

学年一位の天才、鴻上玲二(こうがみれいじ)が言った。まさか、と誰もが思う。そんなことある訳がない、あってたまるかといったところだ。

 

「ステータスオープン」

 

ふいに、啓が呟いた。すると、

 

「うわっ!何か出てきたぞ!」

「え?何だ何だ!?」

 

クラスメイトたちには何も見えていないが、啓にはなにかしら見えているらしい。興奮した様子で虚空を眺めている。

 

「見えるんだよ!()()()()()が!」

「?」

 

啓は興奮醒めきらぬまま言うが、周りの人間はいまいち理解していないらしい。みんな揃ってハテナマークを浮かべていた。

 

それに倣って、玲二も「ステータスオープン」と呟いた。

 

「....!?」

 

玲二は、何も言えなかった。ただ立ちつくすのみだ。

彼には、虚空に現れた【ステータス】という存在が信じられなかった。科学を真っ向から否定するようなその存在が、理解出来なかった。

 

誰もが、本当の事なのだと確信した。

 

「ステータスオープン」

「ステータスオープン」

「ステータスオープン」

「ステータスオープン」......

 

故に、みんながみんなステータスオープンと呟く。はたからみれば、危ない連中に違いない。

 

【ステータス】とは、このようなものだった。

 

鴻上玲二(こうがみれいじ)

 

種族 人間

性別 男

レベル 1

 

非常にシンプルなそのステータス。ここまでくると、存在する意味を疑われるレベルだ。いや、これだけでも相当なものなのだが。

 

それを確認したクラスメイトたちは、驚きつつも、どこか落胆していた。

 

「まさか、スキルがないとはなぁ」

「全くだ。折角の異世界だってのに」

 

異世界で、特殊な力に目覚める!なんて

ちょっと期待していた男子たちは、口々に愚痴を言っていた。異世界=スキルだと思っている彼らにとって、これは結構辛かった。

 

「いや、まだだ。希望は潰えていない」

「そうだ!俺たちならやれる!」

 

妙なやる気を見せた男子ーズは、ファイアーボール!とか言ったり、メニュー!と言ったりと、諦めなかった。

 

すると、

「スキルリストォ!」

 

啓がスキルリストと叫んだときに、反応した。ステータスのようなものが現れる。

そこにはこんな文字が浮かんでいた。

 

八雲啓(やぐもけい)

SP 10

 

固有スキル 縮転(シフト)

 

強化スキル

 レベル10で解放

 

通常スキル

 レベル3で解放

 

第一に目につくのは、固有スキルだ。縮転というスキルの能力は何なのか?名前からすると、移動系のようだ。

 

ちなみに、「○○の可視化」といえば、他の人にも見えるようになるらしい。地味に便利だ。

 

「ふむふむ、成る程。みんな、やってみるよ」

 

啓はそう言って、一瞬の内にみんなの背後に立った。

 

「!?」

「これが俺の固有スキル、縮転(シフト)。見えるところなら何処にでも瞬間的に移動できるみたいだ。」

「何だそのチート能力!?」

 

控えめにいって酷い。ぶっ壊れも良いところだ。クラスメイトは、口々に文句を言った。

 

「まあ、みんなも見てみればいいんじゃないか」

 

そうして、クラスメイト全員が確認した結果。

 

絶対的暴力(アブソリュートバイオレンス)鏡反射(ミラーカウンター)瞬間治癒(インスタントヒール)... 他にも強いものばかりか、ヤバイなこれは」

 

クラスメイトの能力はほとんどが強力だった。必中、反射、回復、創造、バフ、召喚、操作。なんでもござれで、どれもが強力。

 

ザ・異世界転生といった感じだった。

 

ただ、一人例外が居た。

それは、赤瀬来夢(あかせらいむ)という生徒だ。彼の固有スキルはこれだ。

 

柑橘生成(クリエイトみかん) 手のひらからみかんを造り出す。

 

どうしようもない外れスキルだった。

みかんしか造れない、そんなスキルで果たして大丈夫なのか?

 

来夢は、軽く発狂するのだった。




キャラクター紹介

赤瀬来夢(あかせらいむ)

柑橘生成(クリエイトみかん)
手から柑橘類を無限に生成できる。レベルアップにより、出せる柑橘の種類が増える。

この物語の主人公。身長は高い方。髪は来週末切りに行こうと思っていたので長めだが、一般的な範疇と言える。クラスのちょうど中心くらいの立ち位置にいる。

ありがとうございました。


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ロリコン

前回のあらすじ

クリエイトみかんという固有スキルを手に入れた赤瀬来夢。そのスキルの弱さに発狂する。


人が突如叫び声をあげるのは、どういう時だろうか。特に、今のようななんだか訳が分からない、危険な場所にいる場合では。

 

クラスメイトは、赤瀬来夢が何かに襲われて、もしかしたら死んでしまったのではないか、と心配した訳である。

 

実際はそんなことではなく、来夢は膝から崩れ落ちているだけだった。いや、だけというのもおかしな話ではあるが。

 

「……どうしたんだい、赤瀬君」

 

声をかけたのは坂東幸太郎(ばんどうこうたろう)。第一印象は優しくて誠実な好青年、といったところか。

 

来夢は、自らの固有スキルを、全員に打ち明けた。

 

柑橘生成(クリエイトみかん)!?」

 

その後彼らの口から漏れたのは、驚きと、笑いと、呆れ。

特殊すぎるし、意外性がありすぎる、と。

確かにショッキングだろうが、そんなことか、と。

そんな弱小固有スキル、何に使えるんだよ、と。

 

そう思ったのは、危機感が足りていないからだ。

 

「あながち、弱いスキルでもないかもしれないよ」

 

玲二がそういうと、みんなは途端に静かになった。彼がそう言うには、相応の理由があるに違いない。

 

「こんな何が安全で何が危険か分からない世界じゃ、元居た世界の食べ物が確保できるのは、とても有用なことだ。仮に、そこに生えている草が食べられるとして、どうやってそれを知るんだ。知ったとして、それがどこででも採れるかは分からない。もし、赤瀬がいなかったら、3日もすれば餓死してたかもしれないな」

 

確かに、玲二の言う通りである。何も分からない世界で、食べ物を確保できただけありがたいということか。

 

しかしそれは、裏を返せば食べ物以外の生活に必要な要素は何一つ揃っていないということだ。夜になれば、どんな危険生物に出くわすかもわからない。

事の重大さを理解して、皆黙ってしまった。

 

沈黙を破ったのは、一人の、幼い女の子。

 

「おにーちゃんたち、なにしてるのー」

 

何故こんなところに幼女が?と思った人もいただろうし、近くに住んでいるならば、村があるかもしれない、と思った人もいただろう。もしかしたら、これは魔物が化けているのかもしれない、と思った人もいたかもしれない。

 

ただ一つ、全員が思ったことがある。

少なくとも一人、『あ!幼女だ!かわいい~!好き!』と思ってるやつがいるだろうな、と。

 

このクラスには、ロリコンがいる。重度の。

 

しかし、みんなの予想と違ったのは、ロリコン、嶋津冬樹(しまづふゆき)の反応である。

 

「やあ、幼女ちゃん。よく来たね。まさか本当に来てくれるなんて、びっくりだよ~」

 

何故彼は幼女が来ることを知っているのか。

誰が訊かずとも、本人が明かしてくれた。

 

「俺の固有スキルは幼女強化(ロリータレンフォーサー)。SPを消費して幼女を召喚できる。加えて周囲にいる幼女の人数分、俺のステータスが上昇するんだ。まさに、俺の為の固有スキル、といった感じだな」

 

なんだよそれ、と思ったが、同時に流石は嶋津、とも思った。このスキルを使いこなせるのは、こいつくらいだろう。

 

「てかなんで今?」

「みんな重い空気だったから、幼女ちゃんがいれば癒されるんじゃないかと思ってね」

 

冬樹は名前を知らない幼女のことを、およそ「幼女ちゃん」と呼ぶ。ちゃんを付けているだけ、まだましだということにしておく。

 

ともあれ重い空気を払拭出来たのだから、幼女ちゃんは召喚された意味があるということだろうか。

 

もう一つ意味があるならば。

 

「うわあ!」

 

啓の叫び声が聞こえた方を見ると、大きなクマのような生き物がいた。クマとの違いは、眉間に一つ目があることか。

 

その生物は右腕を大きく振り上げると、鋭い大きな爪の付いたそれを、啓に向かって振り下ろした。

 

啓はお得意の縮転(シフト)を使ってその攻撃を避けた。

 

獲物を見失ったその生物に、冬樹は一発、パンチをお見舞いした。高校生のパンチなんてたかが知れてるけど、今の彼はただの高校生ではない。

クマのようなその生物はよろめき、三つの目でこちらを忌々し気に睨んでいた。

 

体重400~500kgくらいありそうな巨体をよろめかせただけ凄いと思うが、彼はこの程度では満足しなかったらしい。

 

「召喚!」

 

彼は更に二人、幼女を召喚し、怪物の腹に殴りかかった。

 

怪物は苦しそうな声をあげると、覚えておけというような顔をして退散した。

 

一拍おいて、拍手と歓声が起こった。

流石嶋津、とか、よくやった、とか、とにかく褒められた嶋津だが、称賛よりも幼女の方が気にかかるようだ。

 

この出来事をきっかけに、クラスメイト達に希望が湧いた。

勇気を持って立ち向かえば、どんな敵にも勝てるのではないか。

自分一人では無理でも、ここには30人、強力な固有スキルを持つ仲間がいるのだと。

 

まあ、柑橘生成(クリエイトみかん)を強スキルと呼ぶには、少し無理があるが。

 

そうしてまた、自信を失う来夢であった。




キャラクター紹介

嶋津冬樹(しまづふゆき)

幼女強化(ロリータレンフォーサー)
SPを消費して幼女を召喚できる。周囲にいる幼女の人数分、すべてのステータスが上昇する。

YESロリータNOタッチを心得たロリコン。ロリコンであることを除けば、成績も容姿も悪くない。

ありがとうございました。


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仲間割れ

前回のあらすじ

ロリコンですら活躍し、来夢は落ち込む。


「みんな、俺に考えがある。」

 

啓が言うと、みんながその方向を見た。ちなみに嶋津は、幼女を元の世界に帰してあげたらしい。流石の幼女ファーストだ。

 

「とりあえず、みんなで協力して森を出よう。その方が、敵が来た時にすぐ分かるし、もしかしたら村だってあるかもしれない」

 

確かに、一理ある。

と、全員が納得した訳でもなかったようだ。

 

「それってさぁ、有事の時、自分だけ逃げられるように、とかじゃ無くて?確かに、森だと視認範囲狭いもんねえ」

「本村、お前それどういう意味だ」

 

本村錬(もとむられん)。クラスメイトからのヘイトを一身に受ける。理由は単純、うざくて、面倒くさいからだ。

 

「こんな緊急時だもの。自分のことしか考えられなくても仕方ないんじゃない?まだ15歳か、16歳。他人のことを考える余裕が、果たしてあるんでしょうかねえ」

「だったら、お前は森から出たくない、と?」

 

啓が反論すると、錬は可笑しそうに顔を歪めた。彼のその顔は、人のイライラを増幅させた。

 

「森には遮蔽物もある。これらの植物も、食べられないと決まった訳じゃあない。動物も、貴重なたんぱく質になりうる。お前はそのすべてを捨て、僅かな、村があるかもしれない、という望みに賭けんの?」

 

錬の言う方が合理的に聞こえたが、それに賛同する者は、少なかった。誰しもが、錬と生きるより啓と死ぬ方がましだ、と考えるからだ。

 

「確かに君の言う通りかもしれない。しかし本村、私にも考えがある」

「ふーん、じゃあ聞こうか」

 

錬は、玲二に話を続けるよう促した。

 

「私の固有スキルは物質生成(サブスタンスクリエイション)。無機物を生成できる。広い土地があれば、家のような大きな物も生み出せる。そうするには、ここでは『遮蔽物』が邪魔ではないか?」

「……なら聞くけどさ、今、土地さえあればそんなに大きなものが生み出せるの?たった今」

「土地が無いのだから、そんな仮定は無意味だ」

「そういうことを言ってるんじゃねえよ。制限の話をしてるんだ。お前の固有スキルは制限が無いのか?」

 

錬は、舌戦に強い。玲二ですら、錬には勝てなかった。

 

「学年一が、こうも考えなしに話すとは思ってなかったなあ」

「分かった。じゃあこうしよう」

 

啓が口を開いた。

 

「森に残りたい奴は残ればいい。俺は、出口を目指す。これでいいだろう?」

「駄目よ、そんな」

 

そう言ったのは、恵里だった。

 

「こんな一大事に、クラスがバラバラじゃ駄目じゃない!今は何より、生き残ることが大切よ」

「自分が、な」

「一人じゃ生き残れないから、お互いに協力しなくちゃならない、違う?」

「そんな意識が全員にあるとは思えないがなあ」

 

錬は辺りを見渡す。

 

「俺には分かるんだ。こいつらは、異世界、スキル、って言葉に浮かれて現状を何も理解してない。赤瀬はスキルの弱さに目が行ってるが、この先強いスキルだって、役立つか分からない。嶋津も、相手が逃げたから良かったものの、最悪死んでたぞ。そんな奴らと協力して、生き残れるほど甘い世界じゃないと、俺は踏んでるんだがなあ」

 

誰も、何も言い返せなかった。

錬は溜息を一つ漏らして、こう言った。

 

「まあ別に、俺は森にこだわってる訳じゃないし、お前らのことが心底嫌いな訳でもない。お前らの決定に従うよ」

 

錬は、恐らく、このクラスで誰よりも考えている。だから、誰も舌戦で勝てない。

加えて、錬は人を煽る。それを趣味とし、楽しんでいる為、錬はみんなから嫌われる。

 

「本村君」

 

言ったのは、幸太郎だった。

 

「悪かったよ。君が、正しい。それとさ、一つ、質問してもいいかな」

「あー、多分答えないけど、言うだけ言ってみろ」

「君の固有スキルは、何かな?」

 

今までの流れを完全に無視した質問。

 

錬はうんざりした様子だった。

 

「……一つ、良いことを教えてやる」

「なんだい?」

「人にものを尋ねるときは、まず自分から明かしたらいい」

「じゃあ、いいや。ごめんね、変な質問して」

「結局さ」

 

来夢は、ずっと会話のタイミングを計っていて、今だと思って始めた。そうしないと、会話を始められないタイプだ。

 

「どうするの、これから。森に留まる?それとも出るの?」

 

来夢のこの質問は、啓に向けたものだった。

啓は、いやいやながら、錬の方を見た。

錬は、ふざけた様子で「さあ?」といったジェスチャーをした。

 

誰もが、途方に暮れていた。森を抜けようという気にはならなかったし、そうしないなら何をすべきだろうか。

 

「何か、案がある人、いない?」

 

恵里が呼びかける。少し間をおいて、一人が手を挙げた。

 

「じゃあさ、みんなで、固有スキルの発表会しようぜ」

 

彼の名前は、千堂紳助(せんどうしんすけ)。啓と同じサッカー部で、チャラチャラした性格だ。

 

「俺の固有スキルは、軌跡斬撃(トラックスラッシャー)。こうやって、手や足を速く動かすと、その軌跡に、斬撃の攻撃判定が生まれる。で、俺が望めばこれを飛ばせるんだ」

 

そう言いながら、彼は本当に斬撃を飛ばした。斬撃は、錬を掠めて後ろの木に当たった。木には、かなり深い傷が刻まれた。

 

「おい、危ないだろ。俺に当たってたらどうする気だ」

「そん時は確実に死んでたな。本当、当たんなくて良かったよ」

「ああ、お前のエイムがへたくそで良かった」

 

紳助は小さく舌打ちをした。誰も、錬を擁護はしなかった。悪意に満ちた一撃だと分かっていたけど、むしろよくやったと思うものもいた。

 

「固有スキルの発表会なんて、馬鹿げたことはやめだ。これ以上敵に情報を渡す訳にもいかないしな」

「敵?」

 

紳助が、少し怒ったような声と表情で言った。

 

「ああ、お前のことも、敵だと思ってるよ。ただ……」

 

錬はそこまで言うと喋るのをやめてしまった。

 

代わりに恵里が一言。

 

「みんな、誰かが来る!」




キャラクター紹介

本村錬(もとむられん)

固有スキル 不明

人を嫌がらせることに喜びを感じる。趣味は人を煽ること。特技は人を煽ること。今回の一件も、半分は場の雰囲気を悪くしようとしてやった。背はそんなに高くはない。

ありがとうございました。


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出会い

前回のあらすじ

錬のせいで場の雰囲気が悪くなる。


遠くに聞こえていた足音が、近づいているのが分かった。

来夢たちは木の陰に隠れて、何者かが通り過ぎるのを待つことにしたのだが……

 

「はっくしょん!!」

「? 誰か、そこにいるのかい?」

 

気づかれた。

このタイミングでくしゃみをするような人間、このクラスには一人しかいない。

 

神野愛華(かみのあいか)。背は高くなく、肩辺りまで伸びた髪をそのままにしている。しばしば左側の髪を結んでサイドテールにしているが、これは自分ではポニーテールのつもりらしい。要するに、手先が不器用なのだ。いや、手先に限った話でもないが。

 

ともあれやって来た何者かは、来夢たちを発見して驚いた様子だった。

想像してほしい。森を歩いていたら突然くしゃみが聞こえて、その方を見ると30人もの人が、そこにいる。

 

「どうしたんだい、こんな大所帯で、何をしているんだ」

 

少し困ったような顔で来夢たちを見回しているのは、若い男だった。髪は緑色で、服も緑を基調とした、学者のような服を着ている。彼を見て学者だと思うポイントとして、左手には本を持っている。眼鏡はかけていないが、胸ポケットから覗かせている。

 

「ええと、私たちもよくは分かってないんですけど、学校で始業を待っていたら、突然魔法陣みたいなのが出現して、光りだして、気付いたらここに……」

 

恵里が説明すると、若い男は、ああ、と納得したように頷いて、こう言った。

 

「じゃあ、君たちは学生か。で、半分誘拐みたいなことをされて、ここに来た、と」

「はい」

「なるほどね」

 

優しそうに見えたが、見ず知らずの人を信用するほど危機感の無い人は、一人を除いていなかった。

 

「あの、もしよければ私たちを安全なところまで連れて行ってくれませんか」

「神野さん、ちょっと待って、いや、早くない?」

 

そう愛華を制したのは、来夢だった。

 

この人を信用していいか分からない、と言おうとして、相手が目の前にいては失礼か、と思い直した。

 

「まあ、そうだね。君たちからすれば、僕が信用できる大人か、分からないもんね」

 

若い男は笑いながらそう言って、さらに続けた。

 

「僕は、エリオット・ターナー。セスタの方で、学者をやってる者だ。今は、古代遺跡の研究チームの一員として、このヴィスカの森の方まで来てる」

 

そう言われたところで、この世界には馴染みの場所なんて一つもない来夢たちには分からなかった。

 

「僕はもうこれから、チームの野営地まで行くんだけど、みんなもついて来たい?」

 

もし、このエリオット・ターナーが信用できる大人なら、その方が安全だろう。

そうでなければその逆だ。

 

選択を誤ってはならない。そうみんなが気張っていたのに。

 

「行きたいです!ぜひ、連れてってください!」

 

こういう危機感の無い神野愛華のせいで、真面目な空気は簡単に壊れる。

 

「だからまだだって。自己紹介されたからって、簡単に人を信用するなって」

 

まあ、そういうところが可愛くて好きなんだけど。なんて、口が裂けても言えない。

来夢がこの子に絡みたがるのは、好きだからっていうのが大きいんだろうことは、クラスの半分は知っていることだ。

 

「しかしまあ、このまま夜を待つことが最適解ではないだろうな」

 

玲二の発言に下心はない。来夢の発言に下心がある、という方が正しいのだけど。

 

愛華に賛同する者としない者とは、半々くらいだった。

勿論、夜を森で過ごしたい人なんていないが、果たしてエリオットが本当に信用できるのか。

 

全員の意見が愛華になるには、啓の一言で十分だった。

 

「まあ、いざとなれば俺達には強力な固有スキルがあるし。それも30人分」

 

30人というのはおよそなのか、来夢を入れたのか、もしくは忘れていたのかは分からないが、30人はエリオットとその仲間たちがいる野営地まで行くことにした。

 

道すがら、エリオットは、この世界について教えてくれた。異世界から転移してきた、とはっきり言った訳ではないので、かなり無知に思われたかもしれない。

 

「この【ホロキニア大陸】はそう大きな大陸ではないんだけど、今三つの国家がしのぎを削っている状態なんだ。と言っても、数年前みたいに直接争ってる訳じゃないんだけどね」

「数年前、何かあったんですか」

 

玲二の知的好奇心は、旺盛だ。

 

「ああ、5年程前まで、戦争してたんだ。どっちが勝つでもなく、大陸外の国からの圧力で終わらせられたんだけどね。外にはもっと強い国がたくさんあるからね。流石に歯向かえないんだ。

で、今僕たちがいるのは、【ミルトア】って国の南側、ヴィスカ。ここはほとんど森と、山で構成されてる。この森は【黒の森】と呼ばれたりもするね。ここには古代の遺跡があって、まだ多くは解明されて無いんだけど、魔王に関するものじゃないか、という説が支持されている」

「それを今、ターナーさんたちが研究している、ということですね」

「できれば、エリオットの方で呼んでくれない?野営地にはもう一人、ターナーさんがいるからね」

「御家族ですか?」

「……ああ」

 

エリオットは先頭を歩いているので、誰もその表情は読み取れなかった。

 

「さあ、着いた。ここが野営地だ」




キャラクター紹介

鴻上玲二(こうがみれいじ)

物質生成(サブスタンスクリエイション)
無機物の物質を生成できる。その質量は魔力に依存する。

物作り(DIYもそうだが、ロボット工学系が主)が趣味のインテリ系。背が高く、眼鏡をかけている。

ありがとうございました。


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第二次ヴィスカ調査団

前回のあらすじ

エリオット・ターナーと出会った来夢たちは、その野営地へ向かう。


「おいエリオット。なんだこの人だかりは」

 

野営地で作業をしていた研究員の一人は、こちらを見るなりそう言ってきた。

無理もない。一人で出て行った仲間が、31倍になって帰ってきたのだから。

 

「みんなはちょっとここで待ってて。説明してくる」

 

そう言ってエリオットは、奥の方へ行ってしまった。

この行動が、エリオットの善意によるものだったとして、あの若さでは、それを許す権限があるのだろうか。

 

あまり間を置かず、エリオットは帰ってきた。

 

「お待たせ。団長と話をしてきた」

「あの、私たち、ここにいてもいいんでしょうか?」

 

恵里が訊くと、彼は少し困ったような顔をした。

 

「それは団長が決めることだからね。これから、みんなで団長に挨拶に行ってきて」

「エリオットさんは来ないんですか?」

「行きたいけど、仕事があるからね。団長は、向こうの、一番大きいテントの中にいらっしゃるから」

 

そう言うと、エリオットは行ってしまった。

 

「……いい、みんな。話は聞いてたわね。これから団長さんと話をするから、くれぐれも失礼の無いようにね」

 

恵里は、緊張している様子だったが、気丈に振舞った。

このクラスの委員長として、30人分の寝床を確保しなければならない、なんて、彼女一人が背負う必要なんてない。

 

でも、恵里はそういう人間だ。使命感と責任感で、突き動かされている。

 

とはいえ緊張しているのは皆同じだ。自分のせいでここにいられないとなると、みんなからどう思われるだろうか。

 

「失礼します」

 

団長がいると言われたテントには、もちろん団長がいた。

 

「君たちが……歓迎するよ。私が第二次ヴィスカ調査団団長のルーカス・ヒュー・エドワーズだ」

 

エドワーズは、学者、というよりは魔法使いと形容する方がしっくり来た。彼の左右の眼の色は異なっており、左は髪と同じ青色、右は灰色だった。歳は50くらいで、相応の気迫はあるが、優しそうな人だ。

 

「君たちの望みは、ここに少しの間でいいから住まわせてくれ、と言ったところか。……よし、君たちがここにいることを許そう」

 

エリオットから話を聞いていたのか、エドワーズ以外が一言も話すことなく許しを貰った。

訳でもないようだ。

 

「ただ、一つやって欲しいことがある。それができる者だけ、ここにいることを許そう。できない、あるいはしたくない者は出て行って貰う」

 

恵里たちは身構えた。無理難題を吹っ掛けられるんじゃないか、と。

 

「今ちょうど人手が足りなくてね。我々の調査に協力してくれないか。もしかしたら危険なこともあるかも知れないが、適材適所、自分にできることをやってくれればいい」

「……それくらいでしたら」

 

恵里は、全員の顔色を窺った後、そう答えた。

 

「決まりだな」

 

全員は安堵の表情を浮かべた。少なくとも今日は、野宿になることはなさそうだ。

 

「ではしばらくの間、よろしくお願いします」

「お願いします」

 

皆が恵里に続いて挨拶をすると、エドワーズは、来夢の方を見、こう言った。

 

「時に、赤瀬来夢よ。何か質問があるようだが」

「えっと、今、二つに増えました」

「言ってみなさい」

「何故、僕の名前を?」

 

エドワーズは、笑いながらこう言った。

 

「ああ、成程。それは、私の固有スキルのお陰だ。今後こういった不思議なことが起こったら、固有スキルを疑うと良い」

「で、あの、固有スキルは……?」

予知(フォーキャスト)。未来に起こる出来事や、出会う人なんかが、私には分かる。で、もう一つの質問というのは?」

「あなたは先ほど、『第二次ヴィスカ調査団』とおっしゃいました。第二次、というのはどういう意味でしょうか」

 

エドワーズは少し顔をしかめて、こう言った。

 

「以前派遣された調査団が全滅したんだ」

「全滅!?」

 

その一言がきっかけとなり、テントの中は騒がしくなった。

この森は、それ程までに危険な場所なのか。

自分たちは、そんな森のすぐ近くで生きていけるのか。

 

「正直に言うと、第二次ヴィスカ調査団も、初めはもっと多くの調査員を抱えていた。でも今じゃ、私と、エリオットと、あと一人、いや二人か。だから、君たちの助けが必要なんだ」

 

状況は全く変わっていない。危険なことはしないでいいし、ここにいてもいい。

そして、騒がしいままだ。

 

いくら危険なことをしないといえど、全滅したのならこの野営地が襲われてもおかしくはない。

もしかすると、あの森で言い争いできていたのは、奇跡だったのかもしれない。

 

「一旦、落ち着きなさい。他に質問が無いようなら、君たちの泊まるテントを張りに行こう」

 

日はまだ高い。3時といったところだろうか。時間が無い訳ではないが、考えているよりは体を動かしていた方が不安は消えるのではないか、という思いもあった。それに、いつかはやらなければならないことだ。まだ明るいうちにやってしまおう。

 

30人は5人掛ける6つのテントに分けられた。先生が決める訳ではないので、仲のいい人同士で組になった。

勿論、そうすると希望通りいかないこともある。

 

来夢は玲二、如月恭也(きさらぎきょうや)御楯龍我(みたてりゅうが)、そして野村優也(のむらゆうや)と同じ班になった。

彼らの説明を軽くしておくと、恭也はイケメン、龍我は武士、優也はマイペース、という感じだ。

 

その日の残りは団長に食べられる野草の見分け方を教わりながら野草を摘んだり、元々あった食材を使って料理をしたりして過ごした。

 

そして夜がやって来た。




キャラクター紹介

宇治原恵里(うじはらえり)

超感覚(センシティブセンス)
任意で五感を研ぎ澄ませることができる。制限はないが、スキルのレベルがある程度上がるまではさほど強くない。描写されていないが、クラスメイトはこのスキルを知っている(以降作中で描写されていなくても周知となっている固有スキルの説明はここに記す)。

このクラスの委員長で、真面目。責任感が強く、約束を破ったことは無い。だからといってみんなに押し付けている訳ではないので、みんなから好かれていて、頼られている。

ありがとうございました。


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人参

前回のあらすじ

来夢たちは野営地に住むことを許された。


一応、全員分の食事は用意できた。明日の朝の分までは、あると思う。育ち盛りの彼らにとっては、足りないかもしれない。

 

野営地はキャンプ場のようなもので、焚火の周りを囲むように座った。焚火までの距離は、遠くなってしまった。

 

「すみません。私たちのせいで、食料がもう尽きてしまいそうになってしまって」

「いや、構わないよ。こうなることは分かっていたから、予め食料は取り寄せてある。明日の昼前には届くだろう。ただ、それだけじゃ足りないから、動物を狩ったり植物を摘んだりしてきて貰う必要はあるがね。まあ30人もいれば、どうとでもなるだろう」

 

焚火の周りには来夢たち30人と、団長と、エリオット、それからあと一人が座っていた。

自然と彼らの視線はあと一人に向いた。

 

「なんだよ、そんなに俺の方ばっかり見て。そんなに俺が格好いいか?」

 

野営地に初めて来たときに、30人を見て驚いていた人だ。

楽しそうに笑う彼は、『親戚のおじさん』と形容すれば分かりやすいかもしれない。

 

「俺はダン・アルフォード。ダンさんとでも呼んでくれ」

「あの、一ついいですか」

「ん、なんだ」

 

来夢は、ダンに疑問を投げつけた。

 

「もう一人いると聞いていたんですが」

「ああ、こいつのことか」

 

そう言うとダンは、横に置いてあった人参を手に取った。

 

「レナード・ターナー。エリオットの兄ちゃんだ。今は、こんな姿になっちゃってるけどな」

 

彼は豪快に笑って見せたが、目は笑っていなかった。

 

「まったく、酷い話だ」

「なんでこれがレナードさんだと分かるんですか」

「俺には分かんねえよ。分かんのはエリオットだけだ。別に兄弟だから、とかじゃなくて、固有スキルのお陰だ」

 

ダンはエリオットの方を向いて、話をするよう促した。

 

「……僕の固有スキルは精神感応(テレパシー)。人の考えを読み取ることができる。この人参から、声が聞こえてね。まさかと思ったけど、兄さんだった」

「それは……お辛いですね」

「ああ。最初はね、あのうるさい奴がいなくなる、としか思ってなかったんだけどね。そんなこと無かった。僕が意図しなくても聞こえちゃうからね、うるさいんだ。人参になっても、相変わらず。本当、困ったものだよ」

 

相当兄のことで苦労してきたらしい。それから始まったエリオットの愚痴は長かった。来夢たちはレナードと話をしたことは無かったが、兄弟は似るものらしいことが分かった。

 

「なんで人参になってしまったんですか?」

「うん。そこが一番大事だけどね。どうも兄さんもよく分からないみたいでね。なんか、誰かに触れられたかと思ったら気付いたら人参になってたらしい」

 

誰かに触れられたというのは大きなヒントだろう。しかし、これだけの頭脳が集まって分からないことを、来夢たちが考えたところで分かるまい。

 

それからは雑談をしながら、晩御飯を食べた。人参は入っていなかった。

 


 

「さあ、そろそろ寝るとするかな。明日のことはまた明日、話すとしよう。おやすみ」

「おやすみなさい」

 

異世界の夜も、静かだった。先生が見回りに来ていれば、の話だが。

比較的仲のよい人で集まっている以上、テントの中の雰囲気は修学旅行の夜と変わらなかった。

ただ、来夢たちのテントには、比較的真面目なメンバーが揃っているので、話の内容も恋バナなどでは無い。異世界に転移してしまった話だ。

 

「俺たちさ、これからどうなっちゃうのかな」

 

来夢が布団の中で呟いた一言は、不安から来たものだ。将来への不安は、元の世界で抱えていたそれよりも断然、大きい。

 

「さあな。でも俺たちは、自分にできることをするしかない。目の前のことだけで、生きていくので精一杯だ」

 

来夢と一番仲の良い恭也が、そう答えた。彼はクラスで孤高のプリンスのような立ち位置にいる。背はスラリと高く伸び、顔も整っているが、本人は自覚していないのがたちが悪い。

 

「俺たち、ずっと一緒にいられるよな」

「出来ることなら、そうありたいな。しかし本村の言う通り、人間なんて結局、自分本位だ」

 

赤瀬の希望に、玲二は冷たく返した。現実主義者の彼は、事態を悲観しているのかも知れない。彼もまた、不安であることに変わりはない。

 

「半年でも、一緒に過ごしてきた仲間だ。俺は、大事にしたいと思っているし、そうするつもりだ」

「はは、やっぱ凄いわ、龍我。本当に俺たちと同い年かよ」

 

龍我は礼儀を重んじ、尊敬の気持ちを忘れない、武士道を体現したような人間だ。15歳にして人間が出来上がっている。もし戦国時代に生まれていたら、歴史に名を残しただろう、という話をしたとき、家臣に裏切られそうと言われていた。いい意味で。

 

「でもさ、来夢。こういう時だからこそ、助け合って生きていかないとな」

「ああ。腹が減ったらみかん食わせてやるよ」

「じゃあもし攻撃されたときは、俺が鏡空間(ミラースペース)で、反射してやるよ」

「では私が武器を造ろう。御楯には剣を」

「ありがとう。それでは敵を斬ってくる」

「で野村は……寝てるや」

「ああ、まったく、野村らしい」

「俺たちももう寝るか」

「睡眠は大事だ。睡眠時間が長い人、短い人に分けて調査をしたところ、睡眠時間が長い人のほ」

「おやすみ」

「……おやすみ」

 

そうやって、夜の穏やかな時間は過ぎた。




キャラクター紹介

如月恭也(きさらぎきょうや)

鏡空間(ミラースペース)
鏡を作り出せる。その鏡は物質的なものではなく、攻撃の意思のあるものと、使用者の指定したものを反射する。また、鏡の世界に入ること、同じもしくは別の鏡から出てくることが出来る。

クールなイケメンで、成績も運動神経もいい。『非の打ち所がない』と言うに相応しい。ちなみに来夢とは中学校から仲がいい。

ありがとうございました。


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狩りと魚釣り

前回のあらすじ

エリオットの兄、レナードが人参になっていた。


来夢たちのテントで一番最後に起きたのは来夢だった。

 

「おはよう、来夢。もうみんな外で朝ご飯食べてるぞ。来夢も早く来い」

「おはよう、恭也。分かった。すぐ行く」

 

来夢はまず近くを流れている川の水で顔を洗った。着替えはもちろん持ってきてないので、制服のままだ。

 

「えー、今朝はこれだけかよー」

「文句言うな、紳助。みんなも同じ量だ」

 

啓と紳助の会話から察するに、案の定、朝食は足りていないようだった。

 

「みかんだったらあるけど」

「おお、いいじゃんみかん。1個くれよ」

 

紳助に1個あげたのを皮切りに、みんなからみかんを求められた。悪い気はしなかった。

 

「おはよう。お、みんなもう起きてるか」

「おはようございます、ダンさん」

「よーしみんな、集まれー」

 

ダンに呼ばれた生徒たちは、30人ではなかった。まだ起きていない人や、聞こえていなかった人がいるからだ。

 

ダンは30人分の制服を取り出した。来夢たちが着ているものと、まったく同じだ。

 

「どうしたんですか、これ」

「お前たちが寝てる間にふと思いついてな。ちょっと”複製(コピー)”させて貰った。昨日からずっとそれしか着てないだろ。これに着替えて、今着てるのは洗っとけ。2枚あれば、着回せるだろ」

「ありがとうございます」

「なーに、これくらい。あと、臭いが気になる奴は、向こうにシャワー室があるから、洗ってこい。そっちはな、あの、インテリっぽい眼鏡の男が建ててくれたんだ」

 

ダンは、いない人の分は誰か仲いい奴が持ってってやれ、と言っていた。

彼はただ、陽気なだけのおじさんではないらしい。周りをよく見ている。

 

少し時間がたって、今度は30人全員が揃った。

 

「おはよう。では今日、やって欲しいことを言うから、よく聞いておくように」

「はい」

「まず、昨日同様野草の採取。狩りと、魚釣り。エリオットについて、遺跡の方まで探索。これは、危険が伴うかもしれないから、腕に自信のある者が行きなさい。それから、ダンと一緒に探索で持ち帰った遺物の研究。掃除洗濯など、家事全般。以上。何かあったら、私のテントまで来なさい」

 

そう言うと団長は、すぐに自分のテントに戻ってしまった。昨日行った時には書類が多くあったので、忙しいのだろう。

 

彼らは恵里の指揮のもと、役割を分担した。およそ毎日同じことをするので、それぞれにリーダーがいても良いかもしれない。

 

来夢は、狩りと魚釣り班に入った。班長は、幸太郎になった。他の誰もが、責任感のある班長という職に就きたがらなかったからだ。

 

狩りと魚釣り班の一行は、今朝来夢が顔を洗った川の下流へ向かった。上流には、見たところ魚はいなさそうだった。

釣り竿は支給されたが、人数分ではなかった。代わりに人数分支給されたのは、ナイフだった。

釣りがメインではないらしい。

 

「じゃあ二時間後に、またここに集合で。くれぐれも怪我の無いように」

「あ、だったら私の固有スキルが役に立つかな」

 

班長の言葉を遮ったのは、愛華だった。

 

「私の固有スキルは瞬間治癒(インスタントヒール)。事前に使っておくことで、ダメージを受けたときに即座に傷を癒してくれるみたいなんだけど」

「いいじゃん。じゃあ全員に使っておこう」

 

来夢は嬉しそうに言った。理由は言うまでもない。分かりやす過ぎてからかう気すら起きない。

 

「でもまだそんなにSPが無いから、全員分は無理っぽい」

「だったら、狩り役だけでいいか。釣りはそんなに危険じゃないだろうし」

「それなら足りるかも」

 

来夢の提案は悪いものではなく、反対する者はいなかった。

しかしなぜか、幸太郎は「僕はいいよ」と断った。

 

それからしばらく、来夢たちは狩りにいそしんだ。釣り役は、女子優先にした。

 

狩りに来たのは、幸太郎と来夢の他に、龍我と錬がいた。

そういえば、よくよく考えると来夢の固有スキルに攻撃力は無い。

 

「それにしても、ナイフって攻撃範囲狭くない?普通弓矢とかじゃないの、こういうのって」

「雑魚かお前は。ナイフも使いこなせないんだ。まあみかんじゃなー。俺がみかんだったら家事とかにしてたなー。あ、ナイフ使えないなら料理できないか。使えねーな」

「お前くらいなら狩れるかもな」

「即時回復するけど?」

「限りだってあるだろ」

「いやーお前じゃ俺に攻撃当てることすらできないって。弱いし」

 

こういうのは無視するのが一番いい。来夢たちは森に入ってからは別行動した。

 


 

昼も近づいて、集合時間になった。

 

「さて、今日の成果を発表しようか」

 

女子たちは、クーラーボックスいっぱいに魚を釣っていた。なかなかの成果だ。

 

錬はウサギのような小動物を4匹捕らえていた。

龍我は鹿のような大型を1匹、焼かれた状態で持ってきた。焼き殺したらしい。

幸太郎は、錬と同じ結果だったが、違うのは持って来たケージに生け捕りにしている点だ。

 

「あれえー、赤瀬くーん、これだけかーい?」

 

来夢はウサギのような小動物1匹を、小脇に抱えてやって来た。

 

「いやー、やっぱり逃げられちゃった。無理でしょ。ナイフじゃ」

「本当にナイフ一本でどうにかしようとしたの?頭使えよ。お前には餌があるだろ。大丈夫か、お前、異世界疲れか?いつも通りか」

「……あ」

 

錬に言われたのは癪だが、次回からはみかんを餌にしよう。

 

「よし、全員だね。じゃあ帰ろう。着く頃には昼食だろう」

 

狩りと魚釣り班は、多くの食材を抱えて野営地へと帰った。




キャラクター紹介

御楯龍我(みたてりゅうが)

竜人化(ドラゴニュートアイゼイション)
一定時間竜人になり、ステータスが上昇する。今回は鹿のような生物を、炎を吐いて食肉にした。

親の影響で、幼い頃から剣道をやっている。武士道の精神は、その時に得たもの。背も高く、体格も良いため、とても15歳には見えない。

ありがとうございました。


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襲撃

前回のあらすじ

来夢たちは狩りと魚釣りを終えて帰ることにした。


野営地に着く頃には、もう太陽は真上にあった。

 

「おかえりなさい。ご飯できてるわよ」

「お母さんかよ」

 

来夢の突っ込みで、突っ込まれた恵里は笑った。恵里は家事班の班長をしている。

 

研究班は、先に昼食をとっていて、もう食べ終わった人もいるようだ。ダンも食べ終わった人の一人だ。

 

「おかえり、ご苦労さん。どれ、仕事の出来はどうだ?」

「これです」

「おお、よくできてるじゃねえか。若いってのはいいねえ。研究の方も、お前らの同級生のお陰で捗ってるよ」

 

ダンは嬉しそうに笑った。

 

「あ、そうだ。そういえばお前ら、今日来る予定の食料について、なんか知らねえか」

「いえ、何も」

「そうか……」

 

来夢の返答に、ダンは少し困った様子だった。

 

「あの、どうかしたんですか?」

「ああ、昨日団長が予め食料を頼んでおいたって言ってたろ。それが今日の昼前には届くはずだったんだが、まだ来てないんだ。何もなければ良いんだけどな……もしよければ、何人か見に行ってきてくれないか」

「分かりました」

「悪いな。じゃあ、頼んだ。あ、先にご飯は食ってしまえよ」

 

ダンはそう言うと、研究に戻っていった。

 

食事中、来夢はこの話を、幸太郎を始めとする狩りと魚釣り班のメンバーに話した。

外に出て活動する班は、原則として午前中までの業務なので、午後は暇している。

なので彼らは、全員で食料配達の確認に向かうことにした。

 

ヴィスカというのは国の南の方に位置しており、それはつまりここより栄えている都市は北の方にあるということだ。

食料もその方角からやって来るらしいので、太陽の向きを頼りに北へ向かった。

 

しばらく歩くと道らしい道があった。森の中だが、今までの道よりは奇麗で、舗装されている。

この辺りは、ダンから貰った地図に記されているので、迷うことは無いだろう。彼らはその道に沿って歩いた。

 


 

「大丈夫ですか!?」

 

しばらく歩いて森を抜けると、荷馬車が倒れているのを発見した。

駆け寄ると、多くの食料が散乱していた。

荷物を運んできた人は、血の海の中に倒れていた。長い時間が経ったのか、血は止まっている。

 

「神野さん、この人を救えない?」

「生きてれば、大丈夫だと思う」

 

愛華がいて良かった。運搬に来ていた人は、息を吹き返した。

ただ、彼女の固有スキルの回復量はたかが知れていて、完治には至らなかった。

 

「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。君たちのお陰で助かったよ。どうもありがとう」

 

幸運なことに、運搬のお兄さんは自分の傷は自分で癒せた。固有スキル云々ではなく、この世界の住民は魔法が使える。

実はそれは来夢たちも同様なのだが、SPもレベルも経験も不足しているので、使いこなすのにはかなり多くの時間を要するだろう。

 

「僕たち、ヴィスカ調査団の使いの者で……」

 

幸太郎が言うと、彼は自分の仕事を思い出した。

そして彼は、仕事が失敗したことを知った。ある程度は仕方の無いことで、責められるようなことは無い。

 

がっかりしている彼に、来夢は尋ねた。

 

「何があったんですか?」

「巨人にやられたんだ」

「巨人?」

「ああ。少し前から噂になってる【ヴィスカの森の巨人】だ。あいつに一発殴られただけで、このざまさ」

 

そんなにも恐ろしい生き物が、この森にはいるのか。

来夢たちはしばらく、ここに滞在するだろう。誰一人欠けることなく、無事でいられるだろうか。

 

来夢たちは、全員が食べられそうな食料を持てるだけ持って、野営地へ帰ることにした。壊れた荷馬車は、運搬のお兄さんがどうにかするだろう。

 

食料にはいくつか、食べかけのものもあった。巨人が食べたのだろうか。なんて、考えたところで答えなんて出ないのだが。

 


 

野営地に着いた彼らは、食料を恵里に渡した後、報告に向かった。

ダンに報告しようかとも思ったが、団長の方が適任だろう。

 

「失礼します」

 

団長のテントの中には、エリオットがいた。

 

エリオットの話が終わり、出て行ったところで、幸太郎は今回の件を報告した。

 

「成程……いや、君たちが無事で本当に良かった。このことは今夜、エリオットからの報告と合わせて夕食の時に話そう」

「エリオットさんも、何か巨人関連のことだったんですか?」

「ああ。詳しいことは、夜まで待ってくれ。今、巨人についての文献を読んでいるところなんだ」

 

団長は、巨人関連のことが起こることが分かっていたらしい。昨日から机にあった資料は全部、巨人の資料だった。

 

それから夜までは、するべきことが無かった。自由時間だ。

遺跡探索班も帰ってきており、今は30人全員が揃っている。

 

遺跡探索班は、クラスの中心を担っている人が多くいる。それは特に、運動部を示している。

確かに運動部は運動神経がいいし、理に適っている。

 

例外もいる。運動部以外にだって、運動神経がいい人もいるし、そもそも運動神経が全てではない。

 

遺跡探索から帰ってきた彼らは、全員が同じことを話題にしている。

 

「来夢、もう誰かから聞いたか?」

「おお恭也。何の話?」

「そうか、聞いていないのか」

 

恭也も、遺跡探索班の一員である。

 

「何かあったのか?」

 

来夢の純粋な問いに、恭也は深刻な面持ちだった。

つられて、来夢の顔も自然と強張る。

 

その表情は、恭也の答えを聞いて、驚きの表情に変わった。

 

「巨人がいた!?」




キャラクター紹介

神野愛華(かみのあいか)

瞬間治癒(インスタントヒール)
ダメージを受けたときに即座に回復する。自分は何もしなくてもSPがあれば自動で回復するが、他者には予め使用しておく必要がある。また、通常の回復としても使える。

天然で、ドジで、不器用。割といろいろやらかすが、故意ではないのである程度は許される。きっとその容姿も関係している。来夢から好かれているが、当然気付いていない。身長はクラスで2番目に低い。

ありがとうございました。


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伝説上の巨人

前回のあらすじ

食料配達員が、【ヴィスカの森の巨人】に襲われた。


夜が来て、団長の話が始まった。

 

「今日、エリオットたちが遺跡から戻ってくるときに、巨人を見かけたらしい。食料配達も、巨人に襲われたそうだ」

「巨人?巨人ってのは、最近話題になってるあの、ですか?」

 

ダンからの質問に、団長は頷いた。

 

「最近たびたび存在が噂されている【ヴィスカの森の巨人】だ。この巨人だが、やはりエリオットの目撃情報と魔王伝説とが一致することが分かった」

「魔王伝説?」

 

玲二の問いに答えたのは、ダンだった。

 

「古来、この大陸は魔族の王が統べていたと言われているんだ。それを、我がミルトアの王の祖先が魔王を倒し、大魔導士ウィズナム・ガーバンハルトが封印したことで、今俺たちがここに住めてるって伝説だ」

「その伝説の中に、巨人が出てくるってことですか?」

「ああ。伝説上の巨人【バイン・オルト】。背丈は4メートル程で、身体を一時的に巨大化させることができるらしい。これは全て伝説の話。実際にはもうバイン・オルトはいない。しかしそれらしいものがいることもまた事実。皆、よく注意するように」

「わかりました」

「では私は引き続きやるべきことがあるので、失礼するよ」

 

そう言って、団長は自分のテントに戻ってしまった。

ダンやエリオットと違い、来夢たちの危機感が無いのは、バイン・オルトを知らないからだろう。

 

「バイン・オルトって、魔王伝説ではどういった存在なんですか?」

 

思い余って、来夢は、近くに座っていたエリオットに質問した。

 

「魔王には5人の幹部がいて、その1人がバイン・オルト。詳しいことは覚えていないけど、その5人の中で最も素のステータスが高いんじゃなかったかな」

 

なるほど、バイン・オルトは攻撃力もさることながら、防御力や体力も異常なまでに高いらしい。

 

これは確かに、まともに戦って勝てる相手ではないだろう。30人に加えて団長らが戦ったとしても、勝てないかもしれない。

出会ったら、逃げるに越したことは無い。

 

そんな怪物が、今もこの森にいるのである。もしかしたら第一次ヴィスカ調査団も、バイン・オルトにやられたのかもしれない。

 

だからと言って彼らにできることは無く、不安な夜を過ごすことになった。

昨日は穏やかに思えた夜の静けさが不気味だ。

 

「どうした、眠れないのか」

「龍我。ああ、巨人のことを思い出してね」

 

来夢が言った一言が、会話のきっかけになった。みんな不安なのだ。

昨晩の不安とはまた別のタイプの不安だ。昨晩は将来が見えないことへの不安で、今夜からは目に見えた脅威に怯えなければならない。

 

優也は、そんなことなど露知らず、昨日同様すでに寝ているようだった。

 

しかし、それは思い違いだった。

 

「あれ、野村は?いる?」

「いない?」

「嘘だ、え、だって消灯時間には一緒にいたもんな」

「……いたっけ?」

 

彼はマイペースだ。今までもたまにいなくなることはあった。が、それはこっちの世界に来る前の話だ。さすがに危機感を持ったのだと思っていたが、そんなことは無いらしい。

 

帰ってくるだろうとは思ったが、万が一が起こってはならない。来夢たちは彼を探すためテントを出た。

 

優也は、野営地からそう遠くない崖の上にいた。

 

「おい、野村、降りてこーい。てか、そこどうやって登ったんだ」

「あ、赤瀬君に、みんな。今ね、星を見ていたんだ。こっちの星も綺麗だねえ」

 

優也はこちらを一瞥すると、また空を見上げた。

 

「いやいいから降りてこいって。もう寝る時間だ」

「星っていうのはね、夜にしか見られないんだ」

「それはまあ、そうだけどさ……」

「見て、あれ。あれが、射手座。ってことはもう冬なんだねー」

 

実は、来夢たちは彼に助けられている点もあった。

彼の気ままな性格には振り回されることもあるが、それより今は彼の変わらなさに安心感を抱いている。

 

次の瞬間、優也はこちらに飛び降りてきた。いや、落ちたという方が正しいかもしれない。

この高さから落ちれば、助からないだろう。

 

重力が、いつもと同じ大きさならば。

 

優也は無事だった。落下速度がゆっくりだったので、来夢たちも無事であろうことを察した。

 

「じゃ、もう寝るかー」

「いやいや、寝るかー、じゃなくて。何今の」

「あー、明日、うん、明日説明するから。うん」

 

まあ、優也らしいといったところか。半年も一緒にいれば、これ以上何を言っても無駄なことは分かる。

色々と言いたいことはあったが、無事発見できたし良かった、ということで納得することにした。

 

明日への不安は、いつの間にか忘れてしまっていた。

 


 

夜の森の中に、大きな影が動いた。よく見ると、他に小さな影も見える。

大きな影の正体は、件の巨人だ。

 

「……腹は減ってないか」

「僕は別に。でも、ソフィはお腹空いたみたいだ。何か手ごろな生物はいない?」

「ほら、さっきそこで殺したクマだ」

「死体渡されても困るんだけど。ソフィは肉食じゃないんだよ?」

 

ソフィと呼ばれたのは、可愛らしいウサギだった。

ソフィを抱きかかえているのは、声から察するに男のようだ。背は高くなく、フード付きの黒いロングコートを着ている。冬とはいえ今日は寒い日ではないので、姿を隠すためだろう。

 

「なあ、いつまでこの森にいるつもりなんだ。僕にだってやらなくちゃならない仕事があるんだよ」

「封印を解くまでだ。あと一つ、封印が残っている」

「分かったよ。それが終わったら、こっちはこっちで勝手にやるからな。で、封印ってのはどこだ?」

「分からん。この森にある、としか聞いていないからな」

「……そういえば、人間ってどうなったの?」

「野営地の場所は分かっている。だが、脅威ではないと判断した。今はそれよりも、封印を解くことの方が大事だ。我々の存在が世に知られる前に、ことを済ませてしまいたい」

「あー、悪いけどあいつら、多分勘付いてるよ。ソフィの餌を放置してたら、持っていかれちゃったもの」

「何故放置した?お前の強みは、情報が一切無い点だろう?」

「他にもあるし。それに、君の言う通り僕に関する情報は無いんだから、僕は困らないよ」

「いずれはあの野営地を襲撃せざるを得ないかもしれないな」

「それは大変だねえ。……そうでもないか」

 

二つの影は、次第に小さくなり、夜の闇の中に消えていった。




キャラクター紹介

野村優也(のむらゆうや)

重力操作(グラビティコントロール)
周囲の重力を操作する。または、触れたもの及び自分にかかる重力を操作する。通称グラコン。

おっとりしていて、自分のペースを崩さない。時々自分の世界に行ってしまって帰ってこないことがある。人より少し茶色っぽい髪は長めに整えてある。

ありがとうございました。


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予知

前回のあらすじ

伝説の巨人に怯える来夢たち。


来夢たちが野営地に来て、数日が経過した。

みんなここでの業務にも慣れて、異世界に来る以前の活気を取り戻していた。

 

その日、それぞれの班の班長と、ダン、エリオットが、団長のテントに集められた。

 

班には狩りと魚釣り班、野草摘み班、遺跡探索班、遺物研究班、家事班がある。班長は順に、幸太郎、黒木紗代(くろきさよ)、啓、渡良瀬結衣(わたらせゆい)、恵里である。

 

黒木紗代は、クラス一植物を愛し、植物を知っている、やや天然で、少し変わったの少女だ。ちなみに、彼女が一番好きな植物はサボテンである。

 

渡良瀬結衣は、いわゆる理系女子で、同時にオカルトマニアでもある。科学を知るからこそ、その理を外れた幽霊を好むのかも知れない。

 

「これから、とても大事なことを話す。どうか、極めて冷静に聞いて欲しい。そして、子供達には荷が重かろうが、このことを、班員にも伝えてほしい」

 

団長のこんなにも深刻な顔は、見たことが無かった。それは、彼の言ったことに従わないといけないような、そういう気迫を含んでいた。

 

「先程、見えたんだ。明日、日がまだ昇らない頃、この野営地が巨人によって滅ぼされている光景が」

 

驚きの声を上げるものはいなかった。驚いていない訳ではなく、団長に呼ばれてここに集まった時点で、悪い予感はしていた。だから、覚悟はできていたのだ。

恐らくそれは、テントの外で、今も暇を謳歌している他のメンバーも同じだろう。

 

「なに、そう心配することは無い。私の固有スキルは、予知(フォーキャスト)。未来を予知する力。これは、抗えない運命を知るスキルではない。このまま何もしないと起こる可能性が、最も高い未来。そしてこれは、全力で拒否すれば抗うことができる未来だ。私はこれまでに、何度も悪い未来に抗ってきた。そしてそれは、今回も同様だ」

 

大人たちは、このことを知っていた。故に、決める覚悟が班長たちとは違ったわけだ。

 

「抗う方法としては、2つある。1つは逃げること。もう1つは、戦うことだ。戦うことだけが抗うことではない。逃げることも、大事な選択だ。

私は、戦うつもりだ。巨人に勝つことはできなくとも、戦って情報を集めることができる。今から準備をすれば、勝てるかも知れない。頃合いを見て、逃げることもできる。

君たちがどうするかは、君たちで決めなさい。みんな一緒じゃなくてもいい。逃げたい者には、首都への地図と、私から国への報告書を渡す。それを持って、国王に報告もして欲しい」

 


 

恵里はクラスメイトを集めて、臨時の学級会をした。

先ほどの団長の話をして、戦うか、逃げるか決めてもらう。リミットは、あと20分といったところか。

戦うなら万全の状態である必要があるし、逃げるならもう出発しないと夜になってしまうからだ。

 

結果から言うと、およそ男子は戦いを選ぶ者、女子は逃げを選ぶ者が多かった。丁度半分半分くらいだが、少しだけ、戦う者の方が多かった。

 

来夢は、戦いを選んだ。みかんに何ができるのかは、本当に分からない。巨人がみかんアレルギーであることを期待しよう。

 

または、このみかんには回復効果があることも分かった。攻撃するばかりが、戦いではない。

 

逃げることを選んだ者たちは、森を抜けに行ってしまった。彼らを引率したのは、恵里。彼女の固有スキルもまた、戦い向きではない。

 

来夢がここに残ることを決めた理由は、2つある。

 

1つは、戦いに参加したいという、その場のノリも含めた感情からだ。巨人や、それと戦うクラスメイトの姿を見てみたいというのもあった。状況が悪くなれば逃げてもいいと言っていた。

 

もう1つは、愛華が残るからだ。愛華はその回復のスキルを活かすため、半ば強制的に残ることが決まった。彼女と2人で回復役を担うつもりだ。まあ、みかんを食べて傷を癒すのは、また何か違うような気もするが。

 

準備とは、例えば美味しい晩御飯で腹を満たすということだろうか。バフをかけられるサポートメインの人は、ここにはいない。

愛華のスキルに時間制限は無いので、SPが回復し次第、かけていくのが良いだろう。

 

「何か作戦とかあるんですか?」

 

食事中、来夢は団長にそう訊いた。

 

「いや、無い。こんなに多くの人が残るとは思ってなかったからね。1つだけ言えるのは、倒すことが目的ではない、ということだ。状況が悪くなったら、すぐに逃げなさい」

「そういえば、来夢、お前レベルいくつだ?」

 

恭也が訊いてきた。

 

「3だけど」

「魔法は使えんのか?」

「ある程度マスターしたかな」

「すげえな。やっぱりお前、魔法の才能があるんじゃねえのか」

 

今日までいろいろなことをしてきて、みんな少しレベルが上がっていた。

それにより、一部メンバーは下級の魔法が使える状態にある。ただしこれは、スキルリストにあるからといって、誰でもがすぐに使えるものではなく、練習をする必要があった。

 

来夢の固有スキルは弱い。だからこそ、せめてそれ以外は少しでもうまくなろうという気持ちからだ。人よりは魔法を練習してきた。もともと才能があったかもしれないが、努力が花を開かせた。

といえるほど、使いこなせる訳じゃないけど。

 

そのあと、数名の見張りを残して、早めに眠ることにした。

決戦は夜明け前。万全のコンディションで挑まなければならない。

 

昨日から、天気が良くない。見上げると、厚い雲が空を覆いつくしている。

見張りは小さなランプの頼りない明りで、森を見下ろす。

 

夜はまだ、始まったばかりだ。




キャラクター紹介

八雲啓(やぐもけい)

縮転(シフト)
視認範囲ならどこでも移動できる。現在地点と転移地点間の距離を0にする。

クラスの中心で、サッカー部。割とラノベを読んでおり、その手のお約束も大体分かる。今回は、恵里と一緒に首都へ向かった。彼のスキルもまた、戦い向きではない。

ありがとうございました。


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巨人との対峙

前回のあらすじ

巨人来襲に備え、準備をした。


正確な時刻は分からないが、4時頃、その時は訪れた。

 

「みんな起きろ!巨人が来たぞ!」

「ん……まだ眠い……」

「そんなこと言ってる場合か!」

 

ぞろぞろとテントから人が起き出てきた。

巨人を見て、驚く者もいた。4メートルは、思っていたよりは小さかったが、それでも十分大きい。

 

「……人間か。俺に何の用だ」

「安眠の妨害をされちゃあたまらないんでね。お帰り頂こうか」

「俺とやりあうってのか。フン、面白い。全員まとめてかかってこい」

 

巨人は余裕があるように笑った。

 

団長は左手も掲げ、空中に魔法陣のようなものを出現させた。

それから2秒と経たないうちに、そこから大きな炎が出てきた。その熱気は凄まじく、団長から離れたところにいる来夢でさえ、その熱風を感じた。

普通の人間なら、当たったら命は無いだろう。

 

魔法も使いこなせばここまでの威力になるのか、一人来夢は感心した。一人で、だ。

愛華と一緒に少し離れたところで待機する手はずだったのだが。

 

火炎をまともに食らった巨人は、何もなかったかのように立っていた。実際、何もなかったように感じたのだろうか。

 

「貴様らの本気はそんなものか?」

 

そう言うと巨人は、何の予備動作もなく、団長に向かって殴り掛かった。

しかし団長はきっとそれを分かっていた。殴り掛かってくるのと同時に、もしかしたらそれより先にその場を離れた。

 

にもかかわらず、巨人の拳は団長を掠めた。大きなダメージでは無いようだったが、分かっていても避けられないのは、巨人が腕を巨大化させたからだろうか。

 

それを見て戦いに参加しようとする者は、多くなかった。当然だ。恐らく、この場で一番強い人間は団長だ。

 

攻撃をする者も、遠くから下級魔法で攻撃したり、何なら転がってる小石を投げつけたりしているだけで、巨人はそれを気に留めていないようだった。

 

「ぐあああ!」

 

次に巨人の放った一撃は、団長に直撃した。巨人は思っていたよりも俊敏で、分かっていたからといって避けられるわけでもないようだ。

 

「団長!」

 

そこからはもう、滅茶苦茶だった。

たった2撃でほぼ半壊になった野営地に、叫び声がこだました。

 

「これ以上は無理だ!逃げろ!」

 

ダンが叫んだ。こっちに来い、と言って安全な場所まで案内しようとしたが、パニックになっていて、ついて来たのは数名だった。

 

それでは、他のみんなはどうしたのか。

 

この場からいち早く逃れようと、巨人から反対側に向かって走り出す者。

恐怖でその場から動けない者。

団長を助けに行く者。

 

そして、巨人に立ち向かう者。

 

「さっきから血が騒いで仕方ねえんだ……てめえ、魔王軍の幹部ってことは、相当強いんだろ。バイン・オルトって言ったか」

 

桐生晃史(きりゅうあきふみ)。このクラスで最も恐れられている、言うなれば不良みたいなものだ。

 

「バイン・オルト、か。それは俺の名ではない。我が名は()イン・オルトだ」

「そんなもの、どっちだっていいんだ。簡単に死ななけりゃなあ!」

「桐生、やめろ!そいつには勝てない!」

 

誰かの叫びもむなしく、晃史はパイン・オルトに向かっていった。

パイン・オルトはまたしても、腕を巨大化させて殴ってきた。

 

「ぐっ……」

 

晃史は、避けたらしい。そして、パイン・オルトに、攻撃をした。

少し、効いていた。

 

「どうした、そんなものか?」

 

晃史の煽りもあって、巨人はもう晃史しか見ていない。

だからと言って、野営地にいては危険だ。流れ弾に当たってしまうかも知れない。

 

それが本当になってしまうんじゃないかと言うほどに、パイン・オルトの攻撃は激しくなった。

 

晃史が時間を稼いでいるうちに、どこか遠くへ逃げなければ。

 

だが、来夢はどこへ行けばいいか分からなかった。

ダンはもう行ってしまったし、みんなもどこにいるか分からない。何しろこの暗闇だ。

 

仕方がない、みんなとは離れ離れになってしまうけど、とりあえず野営地を去ろう。

 

そう考えたのだから、初めは、一緒に逃げようだなんて、考えていなかった。たまたま、そこにいたからだ。

 

「か、神野さん!?」

 

愛華は、寝ていた。かなり大きな音も出ていたが、ぐっすり眠っている。

テントではなく、地面の上で。

 

「神野さん、何してるの!?早く逃げるよ!」

「……ん、ああ、赤瀬君、おはよう。今何時?」

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!行くよ、神野さん」

「どこにー?」

「どこか、遠いところ。ここは危険だ、さあ行くよ」

「あ、ま、待ってよ」

 

まさか神野さんと二人っきりになれるなんて、と来夢は思った。

さぞ怖かったろう、慰めればつり橋効果で好きになってくれるかも知れない、と思ってすぐ、そうはならないことに気付いた。彼女はさっきまで寝ていたのだ。

 

とはいえ、これからしばらく一緒にいることになるかもしれない。絶対に、死なせてはいけない。

 

森のかなり深いところまで来た。野営地からはかなり離れて、もう帰り方も分からない。

 

「ねえ、赤瀬君、ここどこ?眠い。寝ていい?」

「寝ちゃだめだよ。ここがどこかも分からないんだから」

「えー」

 

愛華には危機感が無い。

 

「赤瀬君、これからどうするの?」

「俺にも分からない」

「駄目だなあ君は。ダメダメだ」

 

愛華はおどけるように言った。

 

「とりあえず、夜が明けるのを待とう」

「まあ、野営地は危険なんだもんねー」

「桐生君と巨人が戦ってるからね」

「うわーそれはヤバいね」

「……あんまり気持ちが入ってないように感じるんだけど」

「うん。眠いもん」

 

十分な睡眠時間はあったと思ったが。眠れなかったのだろうか。

 

「あれ、君たち、こんなところで何してるの?」

 

若い男の声だ。聞き覚えは、無い。

彼は真っ黒のロングコートを着ていた。顔はフードで隠れて見えない。

 

野営地ではまだ、巨人が戦っているのだろうか。

晃史はまだ、生きているだろうか。

他のクラスメイトも、生きていると良いが。




キャラクター紹介

桐生晃史(きりゅうあきふみ)

絶対的暴力(アブソリュートバイオレンス)
全ての攻撃が必ず狙ったところに当たる。距離が離れている場合、その距離に応じて最大で1割攻撃力が下がる。

自信過剰系男子。親がヤの付く怖いおじさん達のボスだという噂がある。目つきが悪い。背が高い。高圧的な態度をとる。攻撃力が高い。つまり、怖い。

ありがとうございました。


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黒いロングコートで正体を隠したヤバい奴

前回のあらすじ

来夢と愛華は野営地から逃げ出し、冬でもないのに黒いロングコートで正体を隠したヤバい奴に出会う。


「可愛いウサギですね」

「可愛いだろう。ソフィって言うんだ」

 

愛華に話しかけられた男は抱いているウサギを撫でる。ウサギは、眠っているようだ。

 

「それで君たち、ここで何をしているんだ?この森は危ないよ。巨人がいるからね」

「あ、えっと、道に迷ってしまって」

「ああなるほど。……どこに向かってるの?」

 

来夢は愛華の方を見た。だからと言って何かが変わる訳も無かった。

 

「そうかー無計画かー……」

 

彼はウサギを撫でるのをやめた。

 

「この子が寝てる時間で良かったね」

「どういうことですか?」

「よし、僕が君たちを【アキト】まで連れて行こう」

「アキト?」

「……え、知らないの?ミルトアの首都さ。丁度、僕もそこに用があってね」

 

首都ならば、巨人との戦いを避けたクラスメイトはそこに向かっているはずだ。そこで彼らと合流出来るかもしれない。

ただ問題は、この黒いロングコートで顔を隠した怪しい奴に、ついて行って良いか否か。

 

「では、お願いします」

 

なんて、考えるまでもなかった。愛華は、エリオットと会った時と同じことをするに決まっていた。

その時と違うのは、2人のスキルが戦闘向きではないという点だが。

 

とはいえ手掛かりもない。この機会を逃したら、一生森から出られず、みかんしか食べられないことになるかもしれない。

 

「うん、じゃあ、ついて来て」

「ありがとうございます。私、神野愛華って言います」

 

愛華は来夢の方を見た。自己紹介をしろ、という意味だろう。

 

「あ、赤瀬来夢です」

「愛華ちゃんと、来夢君ね。僕はメインビット。よろしく」

「よろしくお願いします」

 

それからは他愛無い会話をしながら、3人で、森を歩いた。

 

相変わらず日は出ていないが、明るさで夜が明けたことが分かった。

 

「メインビットさん、疲れました。休みましょうよー」

「もうちょっとしたら駅に着くから、それまで頑張って」

「駅?」

「ああ。列車に乗れば、アキトまですぐだ」

 

これは、来夢たちにとってまずいことだった。

 

「……神野さん、まずいよ。俺たち、お金を持ってない」

「え、じゃあ列車に乗れないじゃん。どうしよう」

「委員長たちは歩いてアキトに向かってるの?」

「いや、恵里ちゃん、団長さんからお金貰ってた」

「……あの、メインビットさん、アキトって、どのくらい遠いんですか?」

「んー、今から歩いたら丸々4、5日かかるんじゃないかなあ。歩いて行ったこと無いから分かんないけど」

 

絶望だ。歩いて行ける距離では無いことが分かったし、お金を工面するまでは近くの街でアルバイトでもしようか。アルバイトなんて概念があるのかどうかは知らない。

街に住める場所があると良いのだが。

 

「どうしたんだ、そんなに暗い顔して」

「すみません、あの、僕たちお金持ってなくて、駅に行っても列車に乗れないんです……」

「なんだ、そんなこと心配してたのか。大丈夫、僕が君たちを乗せてやるよ。切符のついでに、ソフィの餌も調達したいしな」

「そんな、迷惑はかけられないです」

「何も迷惑なことは無いさ。安心して」

 

来夢たちは、彼の厚意に甘えることにした。黒いロングコートを着ている怪しい人にも、良い人はいるものだ。

 

それから来夢たちは森を抜け、街を通り過ぎ、駅に着いた。丁度昼頃だ。

休憩も食事も、結局1回も挟まず、ずっと歩くことは、来夢にとって酷だった。

 

「赤瀬君、お疲れー」

 

一方の愛華はと言うと、2時間ほど前から来夢の背中に乗っていた。

 

2時間前、遂に愛華は疲れて歩けなくなった。メインビットは、ただアキトに向かっているだけの黒いロングコートを着た怪しい人だ。待ってくれることもない。

しかし、彼と別れるのはいけない。道が分からなくなってしまう。来夢に選択肢は残されていなかった。

 

いくら好きな人とはいえ、何時間も歩いた後、更に人を背負って2時間、休みなしで歩き続けることは、普通はできない。

特に来夢なんかは、鍛えている訳でもないので、本当に大変なことをした。

 

緊急時の人間の底力とは、すごいものだ。

 

「じゃ、切符とソフィの餌を調達してくるから、少し休んでて」

 

メインビットはそう言うと、人ごみの中に消えていった。

 

来夢と愛華は、駅の前にあるベンチに座った。

 

「赤瀬君、ありがとう。君がいなかったら私、ここに辿り着けてなかった。というかそもそも、野営地で死んじゃってたかもしれない」

「……気にし……ないで……」

「ほんとにありがとう。何もしてあげられなくてごめんね」

 

気持ちだけで十分だ、と思ったけど、口に出すことは出来なかった。疲労のせいだ。

 

「お待たせ。はいこれ、切符と、君たちのご飯」

「あ、ありがとうございます」

 

愛華は切符と、ホットドッグを2人分受け取った。

 

「列車は12時5分に出発するって。それまでに食べちゃって。じゃあ、僕はこれで」

「本当に、ありがとうございました」

 

行ってしまった。

 

駅の入り口にある時計によると、今は11時42分。時間はまだある。

列車内での飲食は禁止されているのだろう。愛華は来夢が回復するのを待って、一緒にホットドッグを食べた。貰った時は熱々だったが、冷めてしまっていた。

 

「ごめん、神野さん。待たせちゃって」

「違うでしょ。こういう時は、『待っててくれてありがとう』だよ。いただきまーす」

「いただきます」

 

2人は仲良くホットドッグを食べると、列車に乗った。

列車というのは、蒸気機関車のことだった。




キャラクター紹介

千堂紳助(せんどうしんすけ)

軌跡斬撃(トラックスラッシャー)

手や足を素早く動かすと、その軌跡に斬撃の判定がでる。また、その斬撃は飛ばすことができる。

啓と同じサッカー部で、啓と仲が良い。ちゃらちゃらした性格で、彼のことを嫌っている者もいる。いわゆる陰キャはそうだ。背は高い方で、以前は髪を金色に染めていた。先生に怒られてやめた。

ありがとうございました。


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再会

前回のあらすじ

来夢と愛華はメインビットの案内で駅に着いた。


来夢と愛華は蒸気機関車に乗り込むと、切符に指定された席に座った。

愛華が窓側がいいと言ったので、来夢は譲った。

 

「すごい、蒸気機関車だよ!私初めて乗った!」

「まあ確かに、電車には乗ったことあっても、蒸気機関車はなかなかない機会だね」

 

汽笛が鳴り、列車は動き出した。この列車は、アキトまで止まることは無いらしい。到着予定は5時頃だと。

 

「そういえば、委員長たちはこの列車に乗っているのかな」

「確かに。この前も後も結構な時間が空いてたからね。これか、この1個前のやつっぽい感じがする。探してみる?」

「いや、いいよ。それよりも、せっかくゆっくりできる時間なんだ。少し寝よう。もう疲れた」

「分かった。じゃあおとなしくしてるから、寝てていいよ。おやすみ」

「うん、ありがと。おやすみ」

 

来夢は寝ようと目を瞑った。それから、いろいろなことを考えた。

晃史と、パイン・オルトのこと。

メインビットのこと。

団長のこと。

エリオットのこと。

ダンと、彼について行った人のこと。

恵里たちのこと。

この異世界のこと。

元居た世界のこと。

これからのこと。

 

「うわー、赤瀬君、起きて起きて、綺麗な景色!」

 

おとなしくするって言ってたのにな。窓の外を見ると、石畳の整備された街が見下ろせた。綺麗だ、と思った。

 

これを伝えてくれた愛華のことを愛おしく思った。

 

「本当、綺麗だね」

「でしょ。あ、ごめん、起こしちゃった」

「大丈夫、まだ寝てなかったから」

 

来夢はまた、目を閉じた。愛華のことを考えて、眠った。

 


 

「赤瀬君、起きて。着いたよ」

 

起こされた来夢は、愛華に「おはよう」と言われた。

 

それから2人は列車を降りて、メインビットを捜した。お礼が言いたかったのだけど、あの服装は隠れるためのものだろう、見つけられなかった。そういえば何故、メインビットは自分の席を来夢たちの近くに取らなかったのだろう。

 

首都、と聞いてさぞ人が多かろう、と思っていたが、そうでもなかった。それでも流石に、ヴィスカの駅よりは人がいた。

 

ここはヴィスカに比べるとだいぶ寒かった。雪も降っていた。

愛華にそのことを聞くと、列車は山を結構高くまで登ったらしい。

 

これから来夢と愛華は、恵里たちと再会する意味も込めて、国王に会いに行くことにした。

そのためには、王城の場所が分からなければならない。

 

「すみません、私たち、王様と会いたいんですけど……」

 

愛華が、そこを歩いていた人に話しかけた。

 

「え、ああ、王様と?えーと、王様と会いたいんなら【アキト山】を更に登らなくちゃならないけど、大丈夫?」

「どういうことですか?」

「アキト山は高く、険しい。標高が高いから、夏でも雪が降ることがあるんだ。それに今からだと、夜になってしまう。それでも、王様に会いたい?」

「えっと、私たち、本当は王様に会いに行った友達に会いたいんです。私たちくらいの年の」

「だったら、王城の離れに行くと良い。離れはこの道をまっすぐ行ったところにある」

「本当ですか!ありがとうございます!」

 

そう言うと、親切な人は行ってしまった。

 

2人はさっきの人の言った言葉を信じ、まっすぐ進んだ。

10分ほどすると、それらしい建物が見えた。

 

門の前に兵士が2人いた。

 

「すみません、ここに、宇治原恵里って人、来てませんか?」

「それがどうした」

「私たち、彼らの仲間なんです。会わせて下さい」

「……分かった。少し待っていなさい」

 

それから少し経って、兵士と恵里がやって来た。

 

「あ、恵里ちゃん!」

「神野さん、赤瀬君、良かった、無事だったのね。他のみんなは?」

「話すと長くなると思うけど」

「分かったわ。中で聞きましょう。私も話すことがあるの」

 

来夢は、女子2人について中に入った。

階段を上って少し廊下を歩いたところにある部屋に入ると、啓がいた。その部屋は、広間だった。

 

「おお、赤瀬、神野。来たのか」

「八雲君、私は部屋にいる人を連れて来るから」

「分かった」

 

恵里を待っている間に、啓からも「他のみんなは?」と訊かれた。何も言わないと、「そうか……」と言った。

 

しばらくすると、全員が集まったらしい。全体の半分ほどしかいないので、少なく感じた。

 

ひとしきり再会を喜んだあと、他のみんなについて話した。

 

「そうか、それじゃあ、分からないのか……」

「うん。みんな無事だと良いんだけど」

「で、委員長、俺たちに話すことがあるっていうのは?」

「ああ、それね。この手紙をに見せたいと言ったら、明後日王様と直接会うことになったの」

 

明日の昼からアキト山を登るので、それまではここにいてもいいことになっているらしい。食事も、人数分用意してくれるらしい。

王城に着くのは夕方になるだろうことが予想され、謁見はその翌日の予定になっている。

 

来夢と愛華も、謁見のメンバーに入ることになった。

 

その日の夜、夕食を取った後。来夢たちは久しぶりに風呂に入れた。大浴場だ。

 

男子の方が少ないので、先に入ることになった。

 

「はあ~。いやー、湯船につかるのなんて、何日ぶりだろう」

「……本当だな」

 

啓への来夢の返事が少し遅れたのは、誰かが返事をするだろうと思っていたからだ。誰も返事しないのは、流石に可哀そうだ。

 

男子は全部で5人。来夢と、啓と、優也と、あと2人。

名前は、尾野公輝(おのこうき)と、永川一護(ながかわいちご)

 

公輝は自分の意見がはっきり言えない、ネガティブな子だ。

一護はガチの引きこもりで、ゲーマー。

優也も人と話すタイプではない。会話好きな啓にとって、この組み合わせは酷だったろう。まあ彼は、女子とでも難なく話せるが。

 

風呂から上がって、来夢は啓の話し相手になった。

このメンバーでは、女子の風呂を覗こうと提案する奴はいない。優也はここにはいないけど、多分そんなことはしていない。きっとこの間のように星でも見ているのだろう。

 

消灯時間になり、今夜はぐっすり眠った。




キャラクター紹介

尾野公輝(おのこうき)

固有スキル 不明

男子の中では最も背が低い。前髪で目が隠れんとしているが、それも含めて可愛い。自分ではそう思っていない。自分に自信ない草食系男子。

ありがとうございました。


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王城

前回のあらすじ

来夢と愛華は恵里たちと再会し、王様と会うことになった。


夜が明けて、朝食を取り、昼食を取って少ししたら王城から馬車が2台下ってきた。

来夢たちは2組に分かれ、馬車に乗った。

 

男子が少なく女子が多いとなると、男子で固めても女子が入らないといけない。

男女合わせて16人。馬車は8人乗りなので、ぴったりだ。

 

来夢の乗る馬車は男子5人と、愛華と、紗代と、市原雪乃(いちはらゆきの)

雪乃は小動物系女子だ。

 

馬車は走り出した。

 

話す人間は、ほとんど決まっていた。啓と、来夢と、愛華以外は、話題を振られないと話し出すことが無かった。

別に仲が悪い訳じゃない。緊張しているわけでもない。3人以外は話をしなくてもいい人たちだ。

 

話題は、来夢と愛華がどうやってここに来たか、というものになった。

 

「えっとね、何とかビットさんが列車に乗せてくれたんだよ」

「メインビットさんね」

「へえー。どんな感じの人?」

「いい人だったよ。ね、赤瀬君」

「良くしてくれたけど、なんかもっと言うことあるでしょ」

「どれのこと?ホットドッグをくれたこと?」

「格好のこと。何あの服装」

「どんな服装なの?」

「黒いロングコートを着てそのフードで顔を隠してた」

「あ、あと、ウサギ連れてた!」

「ウサギ?」

 

話に入ってきたのは、雪乃だった。

 

「うん。何とかフィって名前だった。メインビットさんと違って真っ白だった」

「ソフィな。フィだけ覚えてることってある?」

「可愛かった?」

「もちろん!」

「いいなあ。ソフィ。会ってみたいなあ。この世界にいるウサギって、もちろん可愛いけど、元々の世界の子の方が可愛いもん」

「そういえば、市原ってウサギ飼ってたよね」

「うん。さくらって名前の、白いの。今どうしてるのかなあ」

 

それからも彼らの話は続いた。主にあの3人だけの会話だったが、他の人もたまに入ってきた。

 

王城に着いたのは、予定通り夕方だった。山頂ではないが、かなりの標高にある。そこから見る夕日はまた格別だった。

 

「おい、どういうことだ。奴らは攻めてきてなんかいなかったぞ!」

「放っておけばいつか脅威になる。早めに潰しておくべきだったんだ」

「そういうことを言っているのではない。俺に嘘をついたのか?」

「お客さんが来てるよ。落ち着いて」

 

王城に入ると、がたいのいい男がインテリっぽい男と喧嘩していた。それを、根暗そうな男が止めていた。

根暗そうな男がこちらにやって来た。

 

「ごめんなさい。お見苦しいところをお見せしてしまって。君たちが、第二次ヴィスカ調査団からの使いだね。僕は、ロイド・アーキスタ。君たちには部屋を用意してるから、ついて来て」

 

来夢たちは、ロイドについて入って左に曲がったところにある廊下を進んだ。

 

「あの、さっきの人たちは」

 

来夢が質問すると、ロイドは申し訳なさそうに笑って言った。

 

「ああ、彼らが、ミルトア3軍の隊長。あの、がたいのいい方がフィクサー・アイボルトで、眼鏡かけた性格悪そうな方がギルバート・アスターだ」

「3軍って言うと、もう1人いるんですよね」

「うん、えっと、一応僕がもう一人なんだけど」

「え、あ、すみません。そうとは知らずに」

「いやいや。3軍の隊長とはいえ、一般市民が知らなくても当然さ。特に君たちみたいに若いとね」

 

そんなことを話している間に、目的地に着いたらしい。

 

「では、食事の時間になりましたらまたお呼びしますのでどうぞごゆっくり」

 

来夢たちには4部屋が与えられた。問題だ。男子を4人固めると、1人余ってしまう。それならいっそばらばらにしてしまうか。

全員で話し合って、くじを引いて決めることにした。

 

来夢は、雪乃と、恵里と、愛華と同じ部屋になった。だからと言って何という訳ではない。断じてない。というか、何かしようとしても恵里がいる時点で無理だ。何をしようも何もないけど。断じて。

 

食事の時間になって、食堂に呼ばれた。そこには見たこともないような豪華な食事が並んでいた。

 

「うわー、これ、全部食べられるんですか!」

「神野さん、それどういう意味?」

「美味しいのかなあ……」

 

愛華の言いたいことはなんとなく分かるが、言い方を考えた方が良いと思う。

 

食堂には、来夢たち16人と、ロイドと、数名の召使いがいた。他の王族たちは、2階の食堂にいるらしい。ここは1階で、来客用となっている。

 

「では、いただこうか」

 

ロイドの声のあと、食事が始まった。ロイドはもてなしのためにここにいるが、普段は上で食事をしているのだろう。

 

「さっき、アイボルトさんとアスターさんはなんで喧嘩していたんですか?」

 

啓がロイドに質問した。

 

「ギルバートがね、【ディガンス】という国の兵士がミルトアに侵攻していて、防衛に出ている兵士だけでは食い止められないって嘘をついたんだ」

「なんでそんなことを?」

「ディガンスに【コレスト】という都市があってね。そこの軍が今力をつけているから、早いうちに倒しておきたかったんだよ。でもフィクサーは護るための戦いしかしたがらないんだ。そのフィクサーを、コレストの軍とぶつけるには、そう言うしかなかったのさ」

「アスターさんや、アーキスタさんが行けば良かったんじゃないですか?」

「うーん……うまく説明するのは難しいんだけど、僕もギルバートも軍の隊長だけど、戦いがメインじゃないんだよね。軍っていうのは名前だけで、実際は経理やったり政治やったり、だから、大臣に近いのかな」

 

ロイドや、啓や、その周辺に座っている人たちはそういう真面目な話をしていた。

 

「……赤瀬君」

「何?神野さん」

「これ食べていいよ」

「あれ、神野さん、全然食べてないじゃん。どうしたの?」

「なんか、あんまり好きじゃない。代わりにみかんちょうだい」

 

王族が食べるような上品な料理は、庶民舌の愛華には合わないらしい。

 

「みかんはあげるけど、食べなきゃ駄目だよ。折角の料理なんだし、明日の朝もこういうのが出るんだから」

「ええ~……分かった。でも私、これだけは無理だから!これだけは赤瀬君が食べて!」

「しょうがないなぁ」

 

食事を終えると、次は風呂の時間だ。




キャラクター紹介

市原雪乃(いちはらゆきの)

魔獣召喚(モンスターサモナー)
一度見たことのある動物を召喚する。召喚された動物は存在しないはずの個体である。(これは幼女強化で召喚される幼女も同様である)これは召喚者に忠実であり、一定の時間が経過すると消滅する。

動物が好きな心優しい少女。クラスで一番背が低く、髪型はボブ。誰とでも仲良くなれるが、仲良くなるまでは心を閉ざしてくる。

ありがとうございました。


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雪崩

前回のあらすじ

王城に着いた来夢は、雪乃、恵里、愛華と同じ部屋で1日を過ごすことになった。


例によって男子が先に風呂に入ることになった。風呂は昨日入ったものの方が大きかった。ここの風呂は、あくまでも来客用のものらしい。

 

代わりに、露天風呂があった。雪に囲まれて、見上げれば星が、少し遠くには街も見える。

最高だ。

 

風呂から上がってしまってからは、暇だった。女子は今風呂に入っているので話し相手にはならないし、他の部屋に突撃する勇気もない。

 

だから、女子が風呂から上がって来るのを待つしかなかった。来夢から話しかけないにしろ、彼女らとは仲が良い。出席番号が近いからだ。

 

来夢が部屋の隅っこで何をするでもなく佇んでいると、雪乃がやって来た。

何だろうかと少し考えて、その表情から察した。来夢は部屋を隅を雪乃に譲った。

 

彼女の固有スキルは、魔獣召喚(モンスターサモナー)。一度見た動物を召喚できるというものだ。もっとも、この固有スキルを会得してから実際に見た見た動物なので、召喚できる動物の種類はまだ少ない。

 

来夢はなんとなく、雪乃とウサギが遊ぶのを眺めていて、気付いた。ウサギ?

 

「市原さん、そのウサギって」

「え、この子がどうかしたの?」

 

来夢は愛華の方を見た。愛華もそれに気づき、ウサギの方を見た。

 

「あ、そのウサギ、メインビットさんのソフィに似てる!」

「どこで見たの?」

「えっと、お風呂に行く途中の廊下にいたの。近づいたら逃げちゃたけど」

「他に誰かいた?」

「いなかったと思うけど……」

「メインビットさん、来てるのかなぁ」

「分からないけど、そうだと思う。王様に用があるって言ってたし」

 

それからは雪乃の召喚したウサギと遊んだり、他愛のない話をして過ごした。

 


 

就寝時間を過ぎて、皆が寝静まった頃。

 

ドーン!

 

大きな音が鳴った。爆発が起きたような音だ。

 

「みんな起きて!」

 

来夢は爆発に起こされた。来夢のたちの部屋で、恵里がそう言っているのを聞いた。

 

「ああ、赤瀬君、2人をよろしくね」

「え、委員長、どこに行くの?」

「他の部屋よ。全員の無事を確認してくる。避難場所は分かる?」

「ある程度は。暇なとき避難経路のやつみたから」

 

まさか避難経路のプリントを見ていたことが役に立つとは。ついつい見てしまうが、役に立った試しはなかった。これが初めてだ。

 

「市原さんはいるね。神n、神野さんまだ寝てるの!?何なの!?」

「ん、赤瀬君、おはよう。今何時?」

「……2人とも、行くよ。ついて来て」

 

部屋から出ると、ロイドがいた。

 

「あ、良かった。無事だね」

「何があったんですか?」

「まだ状況が把握できていないんだ。とりあえず、城の外に逃げて。道は分かる?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあ、外に行くよう全員に伝えたから、向こうで点呼お願い」

「分かりました」

 

来夢たちが城の外に出たとき、まだ誰もそこにはいなかった。

 

「ねえ、あれ見て!」

 

愛華の指さす方を見ると、何かが動いたのが見えた。

王城は崖に隣接するように建てられており、何かが動いたのはその崖の上だった。

 

途端、崖が、崩れた。

 

大きな音を立てて、積もっている雪を舞わせながら、滑り落ちていったのは、あれも雪だろうか。

雪崩だ。

 

「まずい、離れよう!」

 

来夢は叫び、走り出そうとしたが、2人は固まったままだ。

 

「行くぞ!」

 

来夢は2人の手を引いて、走り出した。それで2人の時は動き出し、一緒に走ることが出来た。

 

雪が王城に勢い良く覆いかぶさった。王城の崖側の屋根が潰れ、高くそびえ立つ塔のような部分が折れた。

折れた先は、山を下り落ちていった。そのせいで、周りの雪も一緒に雪崩れていった。その先にはアキトの城下町がある。蒸気機関車が止まったところだ。

 

「あれ大丈夫!?ヤバくない!?」

 

愛華が叫んでいるのが聞こえた。確かにヤバいだろう。だが、どうすることも出来ない。眺めていることしか、出来ない。

 

長い間、雪の崩れ落ちる音と城が壊れていく音が大きく響いた。

 

幸いなことに、王城の出入り口の門辺りは無事みたいだ。崖側は雪があるが、城から逃げ出すことは出来た。

 

雪が落ちた門の崖側は、来夢たちが立っていたところだ。来夢がいなければ、雪乃と愛華は雪に埋められて、気付かれなかっただろう。

 

城から多くの人が逃げ出してきた。来夢はロイドとの約束通り、点呼をした。恵里には遠く及ばないが、彼に出来る最善の点呼をした。

そういえば、恵里は無事だろうか。

 

だんだん音が小さくなり、崩落が止まった。城の方を向いて右側にあった崖は以前より明らかに低くなっていた代わりに、横に長くなった。

城の左側は無事なようだ。

 

外に出てきたクラスメイトは、13人だった。

 

「ねえ、恵里ちゃんは?恵里ちゃんはいないの?」

「野村もいない。どうする?」

葉舟(はぶね)さんもいない!」

「一旦落ち着け!城も全壊した訳じゃ無い。きっと無事だ」

 

本当に、全員無事だと良いのだが。

だが、事態は思っていた以上に深刻で、非常にまずいことが起こっていた。

 

「おい、大変だ!国王がいないぞ!」




キャラクター紹介

葉舟凜(はぶねりん)

固有スキル 不明

行方不明になっているクラスメイトの1人。背が高く、背中まである髪をそのままにしている。無口で、一人で本を読むタイプ。基本的にコミュニケーションを取ろうとしない。

ありがとうございました。


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行方不明

前回のあらすじ

アキトの王城が雪崩により半壊する。


「国王がいない!」

 

誰かの言った一言は、場を混乱させた。国王が死んでしまっていたとしたら、大ごとだ。加えてこの国は戦争中である。

また、ミルトア王家の血は魔王を封印する力とともに流れている。

 

ただ、来夢たちにはミルトアがどうなろうと知ったことではない。彼らにとって大事なのは、いなくなった3人だ。恵里と、優也と、凜だ。

 

「あ、あのさ……」

 

一瞬、誰が言った言葉か分からなかった。彼の声を聞くのは、久しぶりだった。

 

「どうしたんだ、尾野」

「えと、ぼ、僕の固有スキルなら、もしかしたら、こ、このお城を直せるかも知れない」

「何だって!本当か!?」

「わ、分かんない。自信なくなってきた……」

「なんてスキルなんだ?」

 

来夢は出来る限り優しく訊いた。愛華とそう身長の変わらない小さな公輝は、簡単に言ってしまえばコミュ障だ。加えてリスかネズミみたいに臆病なので、怖がらせてはならない。

 

「こ、完全修復(コンプリートリペア)って言って、何でも30分以内なら元の状態に戻せるんだけど……やったこと無いし、こんなに大きいもの、直せるか分かんない……」

 

正直、微妙だ。どんなものだか分からないが、公輝の言う通り、こんなに大きなものを直せるとは思えない。

 

「やろう。尾野だけじゃ駄目かもしれないけど、優が何とか出来るかもしれない」

「え、わ、私?」

 

啓はやる気だ。

啓が言っているのは、沢松優(さわまつゆう)のことだ。啓の彼女で、サッカーが好きだ。

 

「ああ。優の固有スキルは、仮覚醒(テンポラリアウェイクン)。他者の固有スキルを、一時的だが覚醒させる」

「そ、それだったら、いけるかも……」

 

啓は、ロイドのもとへ行き、その旨を説明した。

ロイドは他の王族関係者にもこのことを伝えた。

 

優は公輝に【仮覚醒】を使用し、あとは公輝に任された。

 

公輝が城を再建させようとした途端、それを拒むかのように爆発が起こった。実際に拒んだ訳ではないが、その爆発の規模は相当なもので、公輝を怖気付かせた。

 

それでも彼は、自分の仕事をやってくれた。

 

城は雪崩が起きる以前の状態に戻っていた。ただ、雪のある場所が変わっていないところを見るに、城の中にはまだ雪が残っているのだろう。

 

「よくやったぞ、尾野!」

 


 

日が昇り、状況の確認が進んでいる。雪崩の原因は不明だが、被害の状況は把握できた。

 

今回の雪崩で、死者は出なかった。重軽傷者が多くと、行方不明者が、4人。

 

恵里と、優也と、凜と、ミルトアの国王。

 

城中と周辺の雪を掘り返してみたが、死体も見つけられなかった。

 

優也だけなら、どこかで生き延びているかもしれない。彼は重力を操れるし、雪や建材の下敷きになったとは考えにくい。マイペースな奴だから、よく分からない理屈でどこかに行ってしまったのかもしれない。

 

だが、恵里と、凜はどうだろうか。なんらかの力で生き延びていると、願うことしか出来ない。

 

国王に関しては、ロイドによると、この混乱に乗じて何者かが誘拐した可能性が高いとのことだ。どちらにしろ大ごとだ。

 

結局国王に謁見することは出来なかったが、事態が落ち着くまでは面倒を見てくれるらしい。

 

来夢たちは、恵里のいない部屋に、3人でいた。

 

「恵里ちゃん……」

「大丈夫だ、神野さん。今までに委員長が失敗したことなんてあったか?あの人は、少なくとも神野さんよりしっかりしてる」

「うん……そうだね。私だったら死んじゃってたかもだけど、恵里ちゃんしっかり者だから、きっと帰ってくるよ」

 

恵里は、今ここにいないだけだ。他にもここにいない人だって多くいる。彼らもきっと、生きている。

 

部屋の扉を叩く音が聞こえた。開けると、ロイドが立っていた。

 

「君たち、朝ご飯食べてないでしょ。もう10時だよ。ずっと部屋に籠りっきりでさ」

「あ、そうでしたか。すみません」

「友達がいなくて心配なのは分かるけど、ちゃんとご飯食べて、元気出さないと。ほら、これ。残りだけど、みんなで食べな」

「ありがとうございます。いただきます」

「食べ終わったら、トレイとか皿とかを食堂に戻してから、図書館においで。みんなもそこにいるから」

「分かりました」

 

ロイドはそう言うと、行ってしまった。

 

来夢と雪乃は言われた通り、出された朝食を食べた。愛華は、来夢のみかんと輪切りにしたソーセージのようなものだけ食べた。

 

「神野さん、それしか食べてないじゃん。他にもいろいろあるんだから、ちゃんと食べないと、栄養が偏るよ」

「だってこれ美味しいんだもん。みかんもう1個ちょうだい」

「あ、私もみかん欲しい」

 

実際、来夢のみかんは美味しい。今までに食べたどのみかんよりも。

 

それから来夢たちは、ロイドの指示通り食堂へ食器を戻した。図書館への行き方は、食堂のおばちゃん(本人曰くお姉さん)が教えてくれた。

 

図書館は2階の東側にあった。崖は城の北側にあるので、さほど被害は受けていないかと思われたが、本が散乱していた。結構揺れていたので、それが原因だろうか。

 

「お、来夢、来たのか」

 

啓は、みんなと一緒に本の整理をしていた。

つまりロイドは、図書館の片づけを手伝えと言いたかったのだろう。確かに、何もしないでいるよりは作業をしている方が、余計なことは考えずに済む。

 

余計、ではないんだけど。




キャラクター紹介

沢松優(さわまつゆう)

仮覚醒(テンポラリアウェイクン)
他者の固有スキルを一時的に超強化する。強化時間は自身の魔力と相手の固有スキルのレベルによる。

啓の彼女。ポニーテール。小さい頃はサッカーをやっていた。サッカー部ではないが、その腕(脚?)は啓を遥かに凌ぐ。

ありがとうございました。


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王室図書館

前回のあらすじ

王城は再建されたが、来夢の仲間は依然行方不明のままだ。


来夢たちは、図書室で本の整理を手伝っていた。

 

この図書館には膨大な数の本が所蔵されている。来夢たちが来る前も、来てからも、作業が終わる様子はなく、遂に昼食の時間だとロイドが呼びに来た。

 

「トレスちゃんも、いったん休憩したら?朝からずっとこればっかりで、疲れたでしょ」

「……では、この棚の整理が終わったらそちらに行きます」

「そうか。分かった。じゃあみんな、行くよ」

 

トレスと呼ばれた女性が整理している棚には、本がほとんど入っていなかった。終わるのだろうか。

 

昼食は、みんながいつもより少し暗いことを除けばいつも通りだ。

 

食事を始めてから20分ほど経って、食堂にトレスが来た。

 

「えっと、向こうの……」

「赤瀬です」

「赤瀬君ね。赤瀬君たちにはまだ紹介してなかったね。この娘は、王室図書館司書の、トレスだ」

「はじめまして。トレスです」

 

トレスは肩辺りまで伸びた青っぽい水色の髪を垂らして、お辞儀をした。

 

彼女は来夢の通う高校の、男子の夏服に似た袖の短いワイシャツを着て、その上から黄色いマントのようなものを羽織っている。膝上あたりまでのスカートは紺色で、学生と言われても違和感のない格好だが、ここで暮らすには寒そうだ。

眼は薄い水色で、その眼には光が灯っていなかった。

 

この世の何もかもに絶望しているかのような眼で、表情だ。実際にそう思っているかどうかは知らない。

 

「じゃあ、トレスちゃんは、向こうに座って」

 

トレスは来夢の近くに座り、食事を始めた。

 

「……ごちそうさまでした」

「え、もういいんですか?全然減ってないですけど」

「私はもう十分です。そんなにお腹空いてなかったので」

「ちゃんと食べないと駄目ですよー。栄養不足で倒れちゃいますから」

「うん、神野さん、分かってるなら食べようね?」

「食べたくない時だってありますもんね!」

 

愛華が食事をしないことと、トレスが食事をしないことは、根本が違う。

好き嫌いは良くない。小食なのは、仕方がないのかもしれない。小食にも程があるが。

 

「では私はもう行きますね」

「駄目だよ。少し休憩しないと、身体が持たないよ」

 

トレスは、ロイドの指示に素直に従い、席に座りなおした。ただ座ってるだけで、それはまるで人形のようだった。

 

来夢はそれを、不気味に感じた。

 

「トレスさんって、いつも全然食べないんですか?」

「ええ。空腹を感じることは、そんなにないです」

「でも、それで足りるんですか?」

「今までは大丈夫でした」

 

一応会話は出来るようだったが、表情が殆ど変わらない。これではロボットと一緒ではないか。

 

それ以上話す気が起きず、だからと言ってトレスが話しかけてくることもなく、食事の時間は過ぎていった。

 

午後は、午前中と同じことをした。トレスとクラスメイトと共に、図書館の整理をした。

 

トレスは黙々と作業をしていた。本の場所を質問すると、すぐに答えた。全て頭に入っているのだろうか。ますます機械的だ、と来夢は思った。

 

トレス以外はというと、作業は捗っていないようだった。図書室では、否が応でも1人のクラスメイトのことを思い出してしまう。

 

葉舟凜。本の虫で、いつも図書室で、あるいは別の場所で本を読んでいた。無事だと良いのだが。

 

今回行方が分からなくなった3人の他にも、行方の分からないクラスメイトは多くいる。

それでもこの3人のことを考えてしまうのは、あの雪崩を直で見たからだろう。

 

そういえば、城下の被害状況はどうなのだろうか。

 


 

作業が終わったのは、5時になる少し前だった。恐らく、トレスがいなかったら、今日中に終わらなかっただろう。逆に、トレスだけでも7時には終わっていたかもしれない。

 

「お疲れ様でした、皆さん。これで全ての蔵書を元の位置に戻すことが出来ました。夕食までは時間があるので、余った時間は本を読むなどしてお過ごしください」

 

それからトレスは、雪によって傷んでしまった本の修繕を始めた。傷んだ本はかなり多い。数える気にはならないが、もしかしたら一万冊あるかもしれない。

 

来夢はトレスに言われた通り、本を読むことにした。来夢は、小さい頃から読書が好きだった。最近はめっきり減ったが、昔は暇さえあれば本を読んでいた。

 

これだけ多くの本があれば、1冊はお気に入りが見つかるだろう。それを見つけるにも膨大な時間がかかることを気にしてはいけない。

 

本を選ぶ時間も、楽しい。

 

面白そうな本はいくつかあったが、以前聞いて気になっていた、『魔王伝説』に関する本を読んだ。

内容をかみ砕くと、こんな感じだ。

 

『ここ、ホロキニア大陸は、人類の歴史上初めて魔族からその領土を奪って、生活圏となった土地だ。

魔王の手下には5人の幹部がいる。【ブローチャト・アーティ】【バイン・オルト】【ピルディ】【マレニア】はその名前が残っているが、残りの1人は残っていない。

最後の1人は、その存在そのものを疑う学者もいる程だ。

最も大きな戦力として語り継がれているバイン・オルト。重装備の兵士が何人がかりでも倒せず、結局封印するに至るまでに多くの被害を受けた。人類がバイン・オルトに勝利したという記録は残っていない』

 

丁度半分くらいまで読んだとき、ロイドからの夕食コールがかかった。

 

「あの、トレスさん。本を借りることって出来ますか?」

「すみません。貸し出しは出来ませんので、またここに来て続きを読んでください」

「分かりました」

 

トレスは、来夢たちと一緒には来なかった。そもそも昨日もいなかったし、来夢たちは来客用の食堂で食事をしている。トレスは王室関係者なので、普段は2階で食事をしているのだろう。

まさか食事をしない、なんてことは無いだろう。

 

「そういえば、なんでアーキスタさんは来客用の食堂で食事をしているんですか?」

「君たちのもてなし、かな。僕はそういう仕事もしているからね」

 

それからは、昨日と変わらなかった。

違うのは、来夢の部屋の人数と、今日はもう、雪崩は起きないことだ。




キャラクター紹介

永川一護(ながかわいちご)

固有スキル 不明

引きこもりのゲーマー。そのゲームスキルは、大会で優勝するくらいあるが、大会には出ない。あるオンラインゲーム上では、神と慕われる。

ありがとうございました。


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ミルトア3軍

前回のあらすじ

トレスと一緒に図書館の整理をした。


次の日の朝、食堂でロイドが、いつもより真面目な顔で言った。

 

「今日、君たちの今後を決める大事な話がある。9時に審判の間に来なさい」

「審判の間?それって」

「場所は分かるな?僕は準備があるから、これで」

 

今日は、今までとは何かが違う。この城全体に重い空気が流れている。

全員がそれを感じていた。

 

食事が終わってから9時までには時間がある。自由時間ならと、図書館へ昨日の続きを読みに行こうとしたが、兵士に止められた。

それ以外に特に行くべき場所はなく、結局部屋で愛華や雪乃と話でもしながら待機することにした。

 

「9時から何があるのかな?なんか、ロイドさんいつもと違った」

「ああ。少なくとも、いい話ではなさそうだな」

「……もしかして、恵里ちゃんが」

「それ以上はやめろ。本当でも、そうじゃなくても、やめろ」

「……ごめん」

 

これでは、気が滅入るだけだ。もっと楽しい話をしよう、という雰囲気でもないのだが。

 


 

9時。約束の時間。来夢たちは全員で、審判の間まで来ていた。

ノックをすると、ロイドから入室を促す言葉が返ってきたので、扉を開けた。

 

ミルトア3軍隊長が、そこにはいた。

口を開いたのは、ギルバート・アスター。

 

「率直に言わせてもらう。君たちのことを調べたんだ。しかし、国のデータベースには何のデータもなかった。……君たちは、どこから来たんだ?」

 

ギルバート・アスター。またの名を、【電獄のアスター】。ミルトア3軍隊長の1人で、主な業務は立法、行政。実質的に国を動かしているのは彼だ。

赤のような紫のような色のスーツを着ていて、静電気のせいか逆立っている髪は金色。同じく金色の眼は鋭く、眼鏡もそれを際立たせている。歳は30か40くらいにみえる。

 

「王城が雪崩で崩壊したのはお前たちが来てからだ。第二次ヴィスカ調査団も、壊滅したそうじゃないか。そして今、我がミルトアは王を失った。何が言いたいか、分かるか?」

 

フィクサー・アイボルト。またの名を、【雪来のアイボルト】。主な業務は戦争。この国で最も強いのは、間違いなく彼だ。

白に近い灰色の軍服を着用しており、鎧は着ていないが、胸板が厚く、着ているかのようにみえる。白い髪は短く、まさに軍人といった見た目だ。歳は50くらいだろうか。

 

「……初めから、怪しかったんだよ。君たちは、この国の者じゃないね。ミルトアに、何をしに来たんだ?他国からの侵入を徹底的に排除してたつもりなんだけどね。もっと警備を強化しなくちゃ駄目だなぁ」

 

ロイド・アーキスタ。またの名を、【暗症のアーキスタ】。主な業務は経理、審判、その他雑用。罪人の運命は、彼の手に握られている。

真っ黒のスーツに身を包んだ彼の目は、深くかぶったシルクハットで隠れていた。真っ黒のステッキを持っており、細身な彼を更に紳士たらしめている。髪は紫色で、少しくせ毛だ。歳は20か、30。

 

「俺たちをどうする気ですか?」

 

啓の言葉に応えたのは、ロイド。

 

「さあね。これから決めるんだ。まだ君たちが、死に値する悪人か、分からないからね」

「どういうことですか?俺たちが何をしたって言うんですか!?」

「お前たちには、城の破壊、王の殺害または誘拐、第二次ヴィスカ調査団の壊滅などの疑いがかかっている」

「そうでなくても、君たちはあまりにも危険だ。君たちに関する情報が無いんだよ。君たちは、ここにいないはずの存在なんだ」

 

それは確かにそうだ。来夢たちは、異世界からの転移者なのだから。なんて言って、信じてもらえるだろうか。

 

「順番にいこうか。まずは、ヴィスカでのことを話してもらう。ヴィスカへ調査に行った12名の所在が未だ分かっていない。君たちがやったのか?」

「やってないです!僕たちが団長に会った時にはもう3人しかいなかったし、野営地を襲ったのは巨人です!」

 

来夢の返答に、何の反応も無かった。

 

「次だ。あの雪崩はどうも人為的に起こされたものらしいことが分かったんだ。君たちがやったのか?」

「違います!あの雪崩で、僕たちの仲間が3人、行方不明なんですよ!なんでそんなことしなくちゃならないんですか!」

「それに、王城を立て直したのは、他でもない尾野です。自分たちで破壊しておいて、修理するなんておかしな話ですよね?」

 

今度は啓も加勢したが、それでも反応は無かった。

 

「最後だ。雪崩騒ぎに乗じて国王が消えた。君たちがやったのか?」

「国王は、関係すらしていません!」

「ああ、そうだな」

 

ロイドの言った言葉の意味が、分からなかった。

 

「僕たちもこれらについて調べ、考えた。君たちが犯人じゃ無いことなんて、最初から分かってるさ」

「だったらなんで?」

「さっきギルバートが言っただろう?君たちは、ここにいないはずの存在なんだ」

 

来夢たちは、何も言えなかった。確かに、ここにいないはずの存在だ。転移した時点で、運命は決まっていたのかも知れない。

 

「どれだけ調べても、真犯人は分からなかった。でも、それでは国民に示しが付かない。そしてここに、どこの誰かも分からない、放っておくと何をしでかすか分からない人がいる。あとは簡単な話さ」

 

もう、終わりか。きっと恵里や、凜や、優也や、他のみんなも死ぬんだ。

 

「鎌をかける意味もあったんだ。もしも僕たちの調べ足りていないところがあって、君たちが真犯人だったら、万々歳だったんだけどね」

 

運命は、なんと非常なことか。みんなそうやって諦めた。たった一人を除いては。




キャラクター紹介

ロイド・アーキスタ

宵闇檻(トワイライトプリズン)
他者を無の世界に捕らえる。そこに五感は無く、思考のみが存在する。このスキルの使用者が望めば檻から出すことも可能。

ミルトア3軍隊長の一人。ミルトアの牢獄。紳士的で物腰が柔らかいが、非情な一面もある。今年で6歳になる娘がいる。

ありがとうございました。


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話し合い

前回のあらすじ

ミルトア3軍の隊長に責められた。


「真犯人が分かれば、私たちは助かりますか?」

 

愛華がしたり顔でそう言った。

 

「どういうことだい?」

「私には、真犯人が分かるんですよ。王城爆破事件の、真犯人がね!」

 

名探偵になったつもりなのか、自信満々で言った。これがはったりでなければ良いのだが。

来夢は、何となく嫌な予感がした。愛華が自信満々の時に、良いことがあった試しがない。

 

「で、それは誰なんだ?」

「いいですか皆さん、国を挙げての調査で犯人が分からなかったんですよね?それはつまり、人間では到底敵わない、強い何かの力が働いた、とは考えられないでしょうか?」

「と、言うと?」

「私たちはヴィスカの森では、巨人に会いました。【魔王伝説】に出てくる巨人です。でも、魔王はもういないんですよね。これが何を意味するか、分かりますか?」

「……魔王が、復活する、とでも?」

「その通りです!」

 

ロイドは、呆れたように首を振った。と言うことは、まずい。

 

「確かに、最近は魔物の動きが活発だし、魔王関連の施設で暴動や事件が起こっている。ヴィスカで巨人の目撃情報も、被害情報もある。でもね、ヴィスカには昔から巨人が出てるんだよ。魔王とは一切関係の無い巨人がね。ヴィスカの巨人が、本当に【魔王伝説】の巨人である、といえるのか?」

「……本人が自供してました」

「と、君たちがいくら主張したところで、誰が容疑者の言い分を聞くと思っているんだ?」

 

明らかに、愛華の表情が曇っている。チェックメイト、か。

見切り発車でも、少しでも自分たちが助かる道を模索してくれた愛華に、心の中で最期の賛辞を送ってあげよう。

 

「ちょおっと待ったああ!!」

 

突然、聞き覚えのある声が聞こえてきた。声のする方を見ると。

 

「い、委員長!?」

 

恵里と凜が手をつないで、壁をすり抜けて入ってきた。恵里の右手には、何か手紙のようなものが握られていた。

意外性が強すぎて、一瞬頭が働かなかった。

 

「良かった!生きてたんだね!」

「話はあとよ。お久しぶりです、ロイドさん。これを」

「これは?」

「第二次ヴィスカ調査団団長、ルーカス・ヒュー・エドワーズからの報告書です。国王にお渡しする予定でしたが、雪崩のせいで謁見が出来なくなってしまい、遅れてしまいました。どうぞ、ご査収ください」

 

ロイドは報告書を読むと、他の隊長にも渡し、全員が読み終わった後に、こう言った。

 

「君たちの言っていることは正しかったようだね。でも、そもそも魔王の復活なんて、非現実的だ。これで王城爆破事件の真犯人が分かったと言われても……」

「犯人なら分かります。確かな証拠はありませんが、それらしい者と接触しました」

「何!?」

 

恵里の返答に、ロイドは驚いた。

 

「これは……もう少し調査が必要そうだな」

 

ギルバートの言葉に、隊長たちは賛同し、来夢たちは解放された。とりあえず、一難去った、というところか。

 

緊張からか、会議が終わるころにはもう昼時だったからか、お腹の空いた来夢たちは、食堂で食事をすることにした。

 

昼食が終わって、またも時間ができた。今度こそはと、来夢は図書室へ行くことにした。

 

「こんにちは」

「こんにちは」

 

一応挨拶はした方がいいと思ってしたが、基本的にはトレスのことは無視でいいのかもしれない。

来夢は昨日の続きを探し出し、席に座って読み始めた。

 

『ブローチャト・アーティは戦闘に関する記録は少なく、代わりに彼は人間を洗脳まがいのことで支配し、内乱を起こさせていた。

ピルディは、幹部では唯一の女性とされていて、その容姿で多くの男性を虜にした。また、戦闘能力にも優れており、彼女の主となる攻撃は、火炎と爆発である。

マレニアは、多くの武器を生み出した。【拳銃】は彼の生み出した武器を元に発達した武器とされている。

最後の一人に関しては、ほとんど記録が残っていないため、多くの学説が存在する。ただ、それらの多くに共通する点は、【最恐の暗殺者】であるという点だ』

 

来夢が本を読み終わるのとほとんど同時に、愛華が呼びに来た。話し合いの結果が出たらしい。

 

審判の間には、既にみんな集まっていた。大人はロイドだけだ。忙しいのだろう。

 

「話し合った結果、今回の件は、君たちには非がなさそうだということになった。それに伴い、君たち全員をここに置いておくことはできない、と言うことになった」

 

疑いが晴れたことは喜ばしいことだが、これはこれでまずいことになった。

王城にいられないとなると、これからどこで暮らしていけばいいか。

 

「まあ、全員、が駄目なだけで、こちらで決めた5人はここにいてもらう。その他の人たちは明日の朝、ここを出て行って貰う。もちろん、数日生活できるだけのお金は支給するよ」

 

どちらかが特別にいい、ということもなさそうだ。

彼らにとって不都合なのは、ばらばらになってしまう可能性があるということだ。

 

「では、ここにいられるのは、誰なんでしょうか……」

「赤瀬来夢、市原雪乃、宇治原恵里、神野愛華、葉舟凜だ」

 

ここにいられる人の共通点は何だろうか。

 

その日、それ以上に出来事はなく、仲間との別れを惜しんだ。

 

もう会えない、なんてことは、無いはずだ。




キャラクター紹介

フィクサー・アイボルト

凍結雲(フローズンクラウド)
体内で、触れたものを凍結させる気体を生成する。さながら雲のような見た目だが、威力を落とす代わりに透明度を上げることも可能。体表のどこからでも体外に放出できる。

愚直で誠実で、暴力的。単純な攻撃力、また兵器や能力を用いた戦闘力は、ミルトアで最も高いと言われている。義理や人情を重んじ、嘘や邪悪を嫌う。

ありがとうございました。


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仕事

前回のあらすじ

大人たちの話し合いの結果、来夢を含む5人のみ城に残れることになった。


「じゃあな。元気で、生き延びろよ」

「ああ。そっちも、王城で頑張れよ」

 

啓たちは馬車に乗り、山を下って行った。

 

次、彼らと会えるのはいつだろうか。会えるのだろうか。

そもそも、来夢たちはこの異世界で暮らしていくしかないのだろうか。元の世界には、戻れるのだろうか。

 


 

王城組には、仕事が課せられていた。具体的な仕事が何なのか聞いていなかったが、指定された図書室で5人、待っていた。

ロイドでも来るのかと思っていたが、いくら待っていても彼は来なかった。

 

「お待たせしました。それでは、聞き込みを始めます」

「え、ちょっと待ってください、トレスさん。聞き込みって何ですか?」

「ロイドさんから聞いていませんか?あなたたちは、今回の王城崩壊事故の重要な人物です。あなたたちの知っていることを全て、話してもらいます」

 

それが、仕事、という訳か。でも何故、この5人なのだろうか。

 

「何で僕たちが重要人物なんですか?」

「誤解しないでください。あなたたちを疑っている訳ではありません。この事件の犯人と、接触している可能性があるのです」

「どういうことですか?」

 

恵里と凜はともかく、来夢たちには心当たりがなかった。

 

「追々説明します。まずは、恵里さん。王城崩壊事故の容疑者について、話を聞かせてください」

 

恵里は、改めてトレスの方を向き、話し始めた。

 

「はい。私と葉舟さんは、文字通りまっすぐ城の外を目指しました。しばらく歩いて、城の裏庭に辿り着いたんです。そこには、赤い着物のような服を着た金髪の女性がいたんです。そのスカート丈はぎりぎりでした。完全に校則違反だったので、反射的に注意をしたんです。するとその女性は、私たちに『……そこ?他にもっとあると思うんだけど』と言いました。こういう反応するということは、この人は普通の人ではない、と思いました」

「……当然の反応だと僕は思うんだけど」

「いや、校則違反を指摘してもそれに反発する人に良い人なんていないわ」

「ここは別に学校じゃないし。というか、その人も学生ではないでしょ」

「続けてください?」

 

トレスの声は、少し怒っているように感じた。表情も、なんとなく怒っている様子だった。本当になんとなくでしかないのだけど。

 

この人にも感情はあるらしい。今までは感情を抑えていたのか、感情が変化するような出来事がなかったのか。

 

来夢は大人しく話の続きを聞いた。

 

「その女性は、『この城が大変なことになってるのに、逃げなくていいのかい?』と言いました。そういうあなたも、と返すと、怖い顔になって『もういい。消えな』と言って爆発しました。私たちは透過していたので無事でしたが、その女性は跡形もありませんでした」

「成程。以上ですか?」

「はい」

「間違いないですね。【ピルディ】です」

「ピルディ?」

「魔王伝説に出てくる幹部の一人です」

 

魔王伝説。ヴィスカの野営地を襲ったのも、魔王伝説に出てくる幹部とよく似た名前と、容姿と、能力だった。名前は確か、パイン・オルト。

 

来夢は、このことを思い出し、トレスにも伝えた。

 

「成程……あなたたちに話を聞けたことは、事件にとってとても有用なことのようですね」

「どうしてですか?」

「国王は、誘拐ではなく、殺害された可能性が高いです。そして、その犯人も、魔王伝説の幹部であると予想されています」

「それは、一体……」

 

トレスはほんの僅かに笑っているように見えた。笑っていなかったかもしれない。

 

「【メインビット】って、聞いたことありますか?」




キャラクター紹介

ギルバート・アスター

電流糸(カレントスレッド)
手の指先から見づらくて強い糸を放つ。その先端は自由に動かせ、対象に刺すことが出来、この糸と対象に電流を流す。超高圧のものから、電気信号まで、その電流は自由に操れる。

理路整然としていて、冷酷な性格。頭が良く、嘘や脅しで他人を利用することに長けている反面、孤独を愛し他人を信用していない。

ありがとうございました。

追記
今回ちょっと(かなり)短かったですね。見切り発車で書いていたら伏線回収できなくなりそうだったので削りました。許してください。
また、もしも内容の変更のせいで、辻褄が合わなくなる部分が出てきてしまっていたら、ご報告お願いします。


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スキルの継承

前回のあらすじ

来夢たちはトレスと事件に関する情報を共有した。


メインビットと言えば、来夢と愛華をこの城の城下町まで連れてきてくれた黒いロングコートで正体を隠したヤバい奴だ。

彼が、魔王伝説にも出てくるというのか。不審者とは思ったが、まさかそこまでとは。

 

「僕たち、メインビットさんに連れられてこの城まで来たんです」

「本当ですか!」

 

トレスは、柄にもなく大きな声で言ったが、その差は僅かで、表情もそんなに変わっていない。

初めは不気味で仕方なかったが、見慣れるとそれは面白く感じてしまった。笑うのは、失礼だ。

 

「はい。メインビットさんがいなかったら、僕たちここに来れてません」

「そうですか……いや、無事で何よりです。彼は、歴代最強の暗殺者と言われていましたから、生き残っているのが不思議なくらいです」

 

そんなに凶悪なのか。一体どんな攻撃をするのだろう。

なんてことを考えていると、愛華が何かを思い出したようだ。

 

「あ、そういえば、『この子が寝てる時間で良かったね』と言っていました。これって……」

「恐らく、彼の固有スキルが関係しているのでしょう」

「恐らく、ですか?」

「ええ。私が知る限りでは、メインビットの固有スキルに関する情報は、残っていないんです。そもそもメインビットなんて存在しないのではないかという説があるほどです」

「そうなんですか」

 

彼は黒いロングコートで正体を隠していた。表に出て何かをするようなタイプではないということか。

そうなるとますます、来夢と愛華を助けた理由が分からない。

 

「それで、『この子』というのは何のことでしょうか?」

「ああ、ウサギです。ウサギ」

「あ、でもそれはこの世界にいるウサギとは、少し違うんですよ」

 

そう言うと雪乃は、ウサギを召喚して見せた。

そういえば、彼女はこのウサギをこの城で見たのだ。つまり、メインビットはここに来たことがある、ということだろうか。

 

「……知らない生物ですね……」

「可愛いでしょう?」

「……可愛いですね……」

「撫でてみてもいいですよ」

「……いいですか?じゃあ……」

 

トレスは恐る恐るウサギに触れた。

 

「……可愛いですね」

 

そう言う彼女の顔は、やはり少ししか、変化がなかった。まったく変化が無い訳ではない。ただ、それを識別するのは、簡単ではなかった。

 

「なんかこう、もっと感情的に言えないんですか?可愛い感がまったく伝わってこないですよ」

 

愛華が笑いながら言うと、今度は少しだけ申し訳なさそうな顔をした。

 

「すみません。表情を変えることが苦手で」

「まあそれは個性でいいと思いますよ。私は、表情を変えないことが苦手です」

「神野さんは考えてることが簡単に分かるからね」

「でも、初めてこのお城に来たときよりは表情豊かになったんですよ。毎晩寝る前に、笑顔の練習してますから」

「え、すごい!健気!」

「なんでこんなに表情が変わらないようになってしまったんですか?」

 

来夢は話の流れで、以前から聞きたかったことを聞いてみた。何かまずいことならすぐに謝ろうかとも思ったが、案外あっけらかんと言った。

 

そう見えただけ、かもしれないけど。

 

「さあ、実のところ私もよく分かっていないんですよ。でも、昔何か嫌なことがあったんでしょうね」

「記憶喪失ってことですか?」

「ええ。アキト山山頂の祭壇からの記憶しかないんです。それも、大体2~3か月前の話なので、その間しか記憶がないんですよ。おかしいですよね。私の固有スキルの1つは超記憶(アンリミテッドメモリ)なのに。見聞きしたことは絶対に忘れないはずなんですけどね」

 

それで記憶喪失になるということは、それ程に嫌なことがあったということだろうか。

 

「……あれ、トレスさん、今固有スキルの1つはって言いました?」

「ええ。言いましたよ」

「それはつまり、他にも固有スキルがあるってことですよね。そんなことがあるんですか?」

「特殊な例ですが、あります。固有スキルは、【継承】できるんですよ。例えば……」

 

トレスが例を挙げようとしたその時、図書室の扉が勢いよく開いた。

来夢がその方を見ると、6歳くらいの女の子が立っていた。

 

「あれ、お姉ちゃんのおともだちのひとー?」

「ミューリオちゃん、いらっしゃい」

「あの、この子は……」

 

トレスは駆け寄ってきたミューリオを抱きかかえ、こちらを向いた。

 

「丁度いい、紹介しますね。この子は、ミューリオ・アーキスタ。ロイドさんの娘さんです」

 

ミューリオ・アーキスタ。父と同じ紫色の髪を腰辺りまで伸ばしている快活な少女、いや、幼女。ここに冬樹がいなくて良かった。

 

「この子は生まれる前に、ロイドさんから固有スキルを継承されました。だから、この子も【宵闇檻】が使えるんです。固有スキルの継承は、アキト山山頂の祭壇で行われます。この子は生まれる前の継承で、私は恐らく生まれてきた後の継承です」

「何が違うんですか?」

「詳しい儀式の内容は明らかにされていませんが、生まれる前の継承は生まれてくる子供の固有スキルを決定するためのもので、犠牲者は出ません。生まれてきた後の継承は、その人の持つ固有スキルを他者に贈与するもので、そのためには死ぬ必要があります」

 

つまり、トレスに固有スキルを与えた誰かは、トレスのために死んだ、と言うことか。それ程に親しかったということだろうか。

 

「私の場合は、いかんせん記憶が無いので、あくまで憶測でしかないんですよ。【超記憶】が継承されたスキルなのか、もう一つの星座使役(ゾディアックデューティ)の方なのか、結局分からないんですよ」

 

すっかり関係ない話をしてしまったが、ミューリオがいるのに話を続けることはできない、と判断されて、その後はミューリオと遊んで過ごした。

 

それから数日の間、情報提供もそこそこに、おしゃべりをして過ごすことが多かった。

それもそうだ。来夢たちの知っている情報なんて、たかが知れている。

 

しばらくは、何でもないただの日常の時間が流れて行った。




キャラクター紹介

トレス

超記憶(アンリミテッドメモリ)
一度見たり聞いたりしたことを忘れない。このスキルにはレベルの概念がなく、ずっと同じ効果のみを発動させている。

星座使役(ゾディアックデューティ)
十二星座を模した精霊を使役する。このスキルにはレベルの概念がないが、代わりに精霊一体一体との親密度があり、それによって強さが変わる。

記憶喪失で、来夢たちより少し年上に見える。その眼は病んでいるが、性格は冷静で優しく、可愛いものが大好きである。表情の変化に乏しい。

ありがとうございました。


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暴動

前回のあらすじ

トレスとの会話を楽しんだ。


数日が経ち、ここでの生活にも慣れてきた。

 

愛華は好きなものしか食べないし、凜はほとんど喋らないし、トレスは表情を変えない。本当に何でもない日常を過ごしていた。

 

しかしながら来夢と恵里は、この生活に不安を感じていた。

来夢たちがここに居られるのは、情報提供という来夢たちにしか出来ない仕事があるからだ。それをせずにトレスとお喋りして仲良くなっても、追い出されてしまうのではないかと心配していた。

 

恵里に関しては、もっと他の不安があるようだったが、来夢にはそれを知る由なんてない。

 

ともかくその不安が現実になってしまう前に、何か手を打たなければならない。具体的に何が良いかは思いつかない。

 

来夢も恵里もどうしようかと思案しなくて良くなったのは、『具体的な何か』が降って湧いたからだ。

 

いつものように図書室でトレスと談笑していると、ロイドがやって来た。

 

「トレスちゃんたち、少し手伝って欲しいことがあるんだけど」

「何でしょうか」

「実は今、城下で例の暴動が起きていてね。彼らを止めてほしいんだよ」

「また暴動ですか?」

「そうなんだよ。僕とギルバートは今ちょっと手が離せないし、フィクサーは遠征に行ってるから、代わりに行ってきてくれ」

「分かりました」

「じゃあ頼んだよ。君たちも」

 

ロイドは来夢がはい、と言うより先に部屋を出て行った。

代わりに恵里が、トレスに質問をした。

 

「例の、また、と言っていましたが、よくあることなんですか?」

「ええ。いつもはアイボルト様が止めに行っているので詳しくは知りませんが、街への被害が小さいうちに止めなければなりません。早速向かいましょう」

 


 

山は登るよりも下る方がかかる時間は少なく、来夢の予想していたよりも早く城下町に辿り着いた。

何かあるたびにこれだけの距離を移動するのは実に大変だ。だからこそ暴動の被害が城まで及ぶことは無いのだけれど。

 

実を言うと、アキトに来てから何度か、城下町には来たことがあった。

給料ともお小遣いとも分からぬお金を握りしめて、制服以外の服や、その他の生活必需品や、お菓子や本を買うためだ。

 

暴動を起こしているのは【裏切者(トレイターズ)】と呼ばれる存在で、暴動の目的は魔王の復活の手助けらしい。

 

「前までは魔王の復活など馬鹿らしいと思っていましたが、今となってはあながちあり得ない話でもないように感じますね」

 

山を下る馬車の中でトレスが言っていた。魔王の復活。もし本当になれば、とんでもないことになることは、来夢の想像にも難くなかった。

 

「みなさん、落ち着いて下さい。ここで騒いでも状況は変わりません。破壊活動をやめてください」

 

トレスが柄にもなく大きな声を出して注意をした。だからといって何かが変わることは無かった。まあ、当然と言えば当然か。

 

「仕方ありません。では、来夢さんたちは、彼らをどうにかして止めてください」

「え、どうにかしてって、どうするんですか?」

「どうしても構いません。これ以上、街への被害が出ないことを第一に考えてください。【裏切者】は、どうなっても構いません。最悪、死んだとしても。私は先へ行って話をしてきます」

「話?」

 

まもなくトレスは行ってしまった。

 

20人か、30人くらいの【裏切者】が広場を占拠し、周囲の店への攻撃を繰り返していた。

対する来夢たちの固有スキルは、回復に、察知に、透過に、召喚に、みかん。しいて挙げるなら召喚が一番強いか。

 

「……あれ、そういえば市原さんが召喚できるのって、メインビットさんが連れてたウサギだよね?」

「確定ではないけど、多分そうだよ。それがどうかしたの?」

 

来夢は、思いついたことをそのまま口にした。

 

「メインビットさんは、魔王関連の人なんでしょ?つまり、連れているウサギも、魔王と深く関わりがある、とは考えられないかな?」

「つまり、【裏切者】は魔王を崇拝しているから、その使いの使いであるウサギを見せれば、言うことを聞くかも知れない、と言うことね?」

 

恵里は来夢の言うことをいち早く理解し、その考えに賛同した。

いくら魔王を崇拝しているとはいえ、そこまでの情報を彼らが持っているのか、という懸念はあったが、およそ満場一致でその作戦は遂行された。

 

まず、雪乃がウサギを召喚し、一番大きくて通る声を出せるという理由で選ばれた恵里が、【裏切者】に呼びかける。

 

「みなさん、この子はあのメインビット様が連れていたといわれるウサギ、ソフィですよー!」

 

彼らは『メインビット』に反応してか、こちらを向いた。そこまでは良かった。

 

「……メインビット様って、ウサギなんか連れてたか?」

「というか、メインビット様がどんなお方だったかよく思い出せないんだけど……」

「歴代最強の暗殺者メインビット。その姿は誰も見たことがなく、そもそもその存在すら疑われている。俺はそんな奴いなかったと思うが?」

「いたとして、何がウサギだ!馬鹿にしてるのか!」

 

トレスからの指示通り、街への被害は抑えられそうだ。

 

【裏切者】の狙いは、完全に来夢御一行となった。それをまさか、回復と、察知と、透過と、召喚と、みかんでどうにか出来るとは思えない。しいて挙げるなら、みんなで透過して逃げるのが一番の得策だろう。

 

それでは暴動を止めたことにはならない。暴動を止めるには、彼らの攻撃の意思をなくし、解散させなければならない。

 

ここで誰かヒーローみたいな人が来て、敵を蹴散らしてくれれば、そう来夢が考えた瞬間だった。

 

ただの想像が、現実となった。

想像と違うのは、ヒーローみたい、ではなく、死神みたい、な点だ。

 

彼を、知っている。




今回はキャラクター紹介はありません。
理由は、誰を紹介しても、「こいつか?こいつのことか?」ってなるからです。
それに大昔チラッと出てきたキャラクターを紹介しても「こいつ誰?」ってなるだけですし。
ちなみにこの死神くんは昔ちょっとだけ出てます。ちょっとだけです。

それでは少し早いですが、良いお年を。


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エヴグレハーツ・サヴェルディ

前回のあらすじ

アキト城下の暴動を止めようとしたところ、助けが入った。


【裏切者】たちは、突如として地面から現れた黒い触手のようなものに絡み付かれ、身動きが取れなくなった。

 

来夢たちの前に現れた彼は、メインビットを彷彿とさせる黒いロングコートを着ていた。メインビットと違うのは、フードが無い点だ。

 

「フン、こんなものか」

「クソ、なんだ、おい、放せ!このガキ!」

 

【裏切者】の言うように、彼は来夢たちと同じくらいの歳だ。というか、来夢たちと一緒に転移して来たクラスメイトの一人だ。

 

「ガキ?聞き捨てならないな。我を知らないというか?」

「何だよ、お前は!」

 

彼はコートを翻すと、その左手を顔の前に持って来た。その仕草は、眼鏡の位置を整えているときのそれと一緒だ。眼鏡もかけていないのにそんなことをするなんて、痛い。

 

「我が名はエヴグレハーツ・サヴェルディ!【死神】の力を行使する【処刑人】だ!」

「エヴグレハーツ・サヴェルディ……?」

「いや、聞いたことあるぞ!最近エヴグレハーツ・サヴェルディを名乗る男が処刑と銘打って人殺しをしているって話だ!」

「何!?なんだって俺たちが……」

 

堪えるように笑う彼の眼は、紅く光っていた。

 

「ククッ……我が恐ろしいか?貴様らは、己の罪に気付いていないらしい……実に愚かしい!」

「うるせえ!こんなところでやられてたまるかよ!」

 

【裏切者】の一人がその筋力を増大させ、黒い”何か”を破壊し、拘束を解いた。

しかし、その黒い”何か”は流動し、また絡み付いた。何度か拘束から逃れたが、同じことだった。

 

「クソッ、なんなんだよこれは!?」

「冥土の土産に教えてやる。それは【畏怖】だ。我が人々に恐れられることで成長し、我が思う通りに操れる。……貴様らが我を恐れる度に我が力は増幅し、さらなる恐怖を与えるのだ!」

「おい、やめろ!来るな!」

「誰か!誰でもいい!助けてくれ!」

 

もう【裏切者】たちはパニック状態だった。泣いて、喚いて、滅茶苦茶だった。

 

彼はその左手を高く上げ、指を鳴らした。

それを合図に、【畏怖】は蒼い炎をあげて燃えた。

 

しばらくすると【畏怖】は消え、【裏切者】だった”何か”が転がっていた。

 

「……ありがとう、田中。お陰で助かったよ」

「我が名はエヴグレハーツ・サヴェルディ……ククッ”この姿”で会うのは初めてだな……」

 

エヴグレハーツ・サヴェルディ。本名は、田中正康(たなかまさやす)。重度の厨二病患者で、きっと治らない。

エヴグレハーツ・サヴェルディという名は、異世界にやって来る前からの名乗りで、きっと深い意味は無いのだろう。ただの固有名詞だ。

 

【裏切者】は皆、彼のことを恐れていたが、来夢たちはそんなことは無い、またかこいつは、本当に痛い奴だな、くらいにしか思っていない。実際、痛い奴であることに変わりはない。

 

「で、田中はここで何してるんだ?」

「フッ、我が使命を遂行するためだ」

「使命?なんだそれ?」

「いずれ時が満ちれば、貴様にも話さなければならない時が来るかもしれないな」

「はあ……」

「して、赤瀬よ。何故ここに?」

 

来夢はこれまでの経緯を説明した。今は王城で暮らしていることを話すと、正康はそれに食いついた。是非とも連れて行って欲しい、とのことだった。

 

暴動を収めたのだから、それくらいは許されるだろうか。とはいえ来夢たちには権限がなく、トレスの判断に任せるほかない。

今はトレスを待つことしか出来ない。彼女はいったい今、何をしているのだろうか。

 


 

「こんにちは。この前の暴動にも参加していらっしゃいましたよね」

 

トレスの無機質な声が、路地裏に響いた。

トレスの前に立つ男は歩みを止め、振り向いた。

 

「さて、何のことでしょう、お嬢さん」

 

男の髪は薄く、腹は出ており、不健康な生活であったことは容易に想像できる。

不摂生なその身に纏う服は上質なもので、多くの宝石が散りばめられた金色のアクセサリーを多く身に着けている。

一言で言い表すなら、『趣味の悪い金持ち』といったところか。

 

「こんなところに女性一人でいては危険ですよ。犯罪者は、どこで見ているか分かりませんからね」

「心配には及びません。それより、前回といいその前といい、何故暴動を焚き付けるようなことだけしていってしまうのですか?」

「ですから、私は【裏切者】とは関係していないのですよ」

 

少し苛立った口調で、男は応えた。

 

「もういいですか?私も、忙しいのでね」

「……失礼ですが、ブローチャト・アーティさんですよね?」

 

男は呆れたように笑い、こう言った。

 

「それを分かったうえで、私に話しかけていると?」

「ええ」

「それはまた、酔狂な真似をなさる。ブローチャト・アーティが誰だか、知らない訳ではないでしょう」

「【魔王伝説】に出てくる幹部の一人。人の心を掴むのが上手いそうですね」

「まさか、人を操るのに長けているというだけで、幹部にまで上り詰めたとお思いか?そうだとすれば、大変な勘違いだな」

「今回貴方に話しかけたのは、本人確認の意味です。戦う気など毛頭ございません。目的は達成しましたので、失礼します」

「そちらに戦う意思が無ければ、戦わずに済むとでも思っているのか?」

「ええ。特に、貴方でしたら、そのような早計な真似はなさらないかと」

 

男は不快そうに舌打ちをして、路地の闇の中に消えて行った。

トレスは男と反対側を向き、来夢たちのもとへと向かった。




キャラクター紹介

田中正康(たなかまさやす)

魔契約:死神(アッシェンテ・グリム)
死神グリムと契約することで死神の力を行使する。具体的な力は契約者によって変わるが、正康の場合【畏怖】【憎悪】【軽蔑】されることによって特殊な技を使うことが出来る。

重度の厨二病患者で、自分のことをエヴグレハーツ・サヴェルディだと勘違いしている精神異常者。基本的に黒い服しか着ない。眼は眼帯をしていたり、カラコンをしていたりする。英語とドイツ語に明るい。元は右利きだったが、左に矯正した。

ありがとうございました。


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処刑人

前回のあらすじ

厨二病の田中正康(エヴグレハーツ・サヴェルディ)に再会した。


程なくして、トレスは帰ってきた。何をしていたか聞いても、ぼやかすばかりで答えてはくれなかった。

 

「こちらの方は?」

「我が名はエヴグレハーツ・サヴェルディ。貴様がトレスか」

「……この人は田中正康です。ちょっと様子がおかしいんですけど、知り合いで、王城に用があるそうです」

「はあ……」

 

来夢の説明に、やや呆れている様子だった。いや、面倒くさがっているのか、或いは無関心にも見える。やっぱり彼女の表情から感情を読み取るのは難しい。

 

「……分かりました。連れて行きましょう」

 

トレスからの許しを貰ったところで、【裏切者】を殲滅したことを確認した彼らは王城へ戻る馬車に乗った。

 

その中で、正康がこれまでどうしていたのか、という話になった。

 

「ヴィスカの森の巨人は、我に言わせれば何てことは無かった。巨人など、我が相手をするまでもなかったのだ」

「……つまり逃げたんだな?」

「ハッハッハ!まさか!あれは相手の方から逃げ出したみたいなものだ。それから我は森の中で迷える魂の惑いを眺めていたのだ」

「森で迷っていたと」

「以前より我は死神との契約をし、既に死神の力を手にしていた。その力は我が身体に止めておくには些か強大であった。疼く左腕を抑えながら我は考えたのだ。【処刑人(エグゼキューショナー)】としてこの世に蔓延る悪を討とう、と」

 

彼の中の厨二病の土台となっているのは、正義感だ。

正義感の周りを、格好良く思われたいだとか、闇の炎を司りたいだとか、混沌(カオス)だとか殺戮(メツェライ)だとか、そう言った欲望が渦巻いている。

 

彼の理想像は、小さい頃に見た戦隊ヒーローと、その後に貪るように読んだ黒魔術やらヨーロッパ史やらの2つから影響を受けている。主となっているのは後者だが、前者の影響もしっかり受けている。

 

「【処刑人】の噂は聞いています。正確には、重大な犯罪に関わっていながら平穏な生活を送っている人間の連続不審死の噂、ですけど。その犯人である、と?」

「ほう……我を知る者か……」

「……あくまで噂としてちらっと事件のことを聞いたことがあるというだけです。貴方のことは知りません」

 

トレスにして嫌悪感を示した。といってもやはり、ほとんどその表情に変化はなく、初対面の正康はこれに気付いていないだろう。それが普通だ。来夢がトレスの表情変化に気付けるようになったのは最近だ。

 

「いかにも、我は多くの咎人(クリミナル)を葬ってきた。彼らは冥府よりその命の回収を求められていたのだ。我に与えられた固有スキルは魔契約(アッシェンテ)死神(グリム)。死神グリムとの契約によって、力を得る代わりに、その仕事を手伝っているのだ」

「じゃあ【処刑人】は自発的な活動じゃないんだな」

「否。我とグリムは文字通り一心同体。これは主従関係などでは断じてない。死神とは、もはや私なのだ!」

 

じゃあ【処刑人】は何なのだろうか。

 

咎人(クリミナル)は上手くやっているつもりだろうが、我々には隠し事など出来ぬのだ。我々は、【邪悪】を感知する。……貴様らの悪行も、全て分かっているのだ!」

 

正康は突然立ち上がった。

しかし、それ以上は何もしてこなかった。そしてそれは、何となくだが分かっていた。異世界に来る前も、たまにこんなことをしていたからだ。

 

「ひゃあああ!ごめんなさいごめんなさい!図書室でプリン食べたのは私です!」

 

愛華は、異世界に来る前も、同じ様な反応をしていた。これに驚く愛華も愛華だが、女子を驚かせるだなんて何を考えているのだろうか、と来夢は思った。

 

「神野さん、図書室での飲食は禁止だと、何度も言いましたよね?……え、今プリンって言いましたか?」

「はい!食堂に忍び込んで冷蔵庫開けたらあったので、食べました!」

「それ、私のプリンですよ!昨夜食べようとしたら無かったときの私の気持ちが分かりますか!」

 

トレスは語気を強めて言った。表情に変化はなく、そのちぐはぐさはむしろ面白かった。

 

それからは死神やら契約やらの話は流れて、王城に着くまで他愛もない話が続いた。正康も喋り方は鬱陶しいけれど雑談に入った。

 

正康は、なんだかんだ言って危険な奴ではないのだ。いや、危険といえば危険なのだけれども、基本的にこちらに危害を加えるようなことは無い。

 

以前はなるべくなら関わりたくないと思っていたが、こんな状況では強力な固有スキルを持つ仲間として迎え入れるのが良いのだろうか。

 

王城に着いたのは、もう日が沈むという頃だった。空腹を感じた来夢たちは、あまり時間を置かずに食堂へ向かった。

突然の来訪者もありつけるだけの食事はあったようで、正康もそこで食事を取ることになった。

トレスは正康のことを報告に行ってきたようで、問題は無さそうだ。

 

「そういえば、田中は何しに来たの?」

「……詳しくは言えないが、ミルトア国王の命が狙われているそうでな」

「国王いないけど」

「何!?ここは王城では無いのか!?」

 

来夢は皆が知っているもの思っていたが。

トレスによると国王の死はまだ国民にさえ伝わっていないらしい。あれからもう1か月が経過しようとしているのに。

 

確かに、敵国に国王不在と知れ渡れば、今が攻め時とやって来るだろう。それでも、国民が国王の死を知らないというのはいかがなものか。それでも国が成り立っているなら良いのだろうか。

 

「……あれ?」

「どうしましたか?赤瀬さん」

「いや、見立てでは国王を暗殺したのはメインビットなんですよね?つまり、田中の情報の出処から、魔王に辿り着けるのではないでしょうか?」

 

全員の目線が正康の方を向いた。

 

しかし、正康は話なんて聞いていないようで、突然立ち上がると、左手に大きな鎌を持つ。その眼は紅かった。

 

正康は深刻そうな表情で、呟いた。

 

「……来る」




今回はキャラクター紹介はありません。
今後も新キャラクターが出ないようなら無いと思います。

以前にちょっとだけ出てきたキャラクターも、需要があるなら紹介します。多分。
でもそんなことしなくても今後きっと見せ場があるので。多分。

ありがとうございました。


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兆し

前回のあらすじ

田中正康(エグゼキューショナー)が王城にやって来た。


正康は、【邪悪】を感知する。彼が察知したのは、気配ではなくその【邪悪】だろう。

 

しばらく沈黙が続いた後、【畏怖】によって壁が造られたようだった。

ようだった、というのはそれが一瞬のことで、分からなかったからだ。

来夢に分かったのは、大きな音がした方を見ると、【畏怖】のような黒い壁が砕け散って、代わりに白い何かが欠片を掻き分けてこちらに向かっているということだけだ。

 

きっと、正康がいなかったら、その白い”何か”はそのままこちらを貫いていただろう。

時間稼ぎをしてくれたおかげで、逃げることが出来た。

 

「ちょっと、何!どうなってるの!」

 

愛華の悲鳴が聞こえた。

愛華の悲鳴と、”何か”が動き出すのと、【畏怖】がまた壁の形を成したのと、トレスが精霊を召喚したのは、ほとんど同時だった。

 

「皆さんはとにかく遠くへ逃げて下さい。アーキスタさんに報告もお願いします」

「でも、トレスさんは」

「ミルトア3軍隊長が来るまで抑えます。急いで下さい。恐らく事務室にいると思われます」

 

こんな状況でも、トレスは無機的で、事務的だった。冷静すぎるほどに冷静だった。

 

「我も残ろう。【処刑人】の実力、思い知るが良い!」

 

実際、トレスは強かった。【星座使役】はもちろんのこと、単純に魔力も高い。

正康も、【処刑人】を名乗るくらいだ、強いのだろう。死神と契約しているのだから、そうでなくては困る。

 

不安要素も完全に無い訳ではないが、トレスの言う通り、ロイドに報告するが良いだろう。

来夢たちは、なるべく”何か”から離れたところにあるドアから、ロイドがいるであろう会議室へ向かった。

 

部屋を出て、階段を上ると、”何か”が床を突き破った。運よく大事には至らなかったが、下の2人は大丈夫だろうか。

 

「うわっ」

 

不意に、だった。

 

踊り場で、来夢は腕を掴まれた。

来夢の声を聞いて、他の人たちは立ち止った。その反応を見るに、そう悪いものでも無いようだった。

 

踊り場には、鏡があった。

 

「恭也!?」

「話はあとだ、”こっち”へ来い!」

 

恭也はそのまま来夢を引っ張って、来夢は一番近くにいた愛華を掴んで、愛華は恵里を掴んで、恵里は雪乃を掴んで、雪乃は凜を掴んで、鏡に入っていった。

 

鏡の中には真っ白な空間が広がっており、そこには恭也以外にもクラスメイトが何人かいた。

彼らで全員ではないが、まずは生きていたということに喜ぶ、という訳にもいかなかった。

急に話が進み過ぎて、何が何だか分からなかったからだ。

 

「これでこの城には全員か?」

 

恭也は訊いた。

 

「いや、まだ田中が食堂にいる。でも、そこは危険だ」

「おい、恭也!こっち、こっちに幼女が!幼女が寝てる!幼女が寝てる!」

 

冬樹が叫んだ。渋々というように、恭也は冬樹の方へ行き、その鏡の奥で寝ていたミューリオを鏡の中に連れて来た。

 

一見すると誘拐のような行動、まあどんな理由であれ誘拐であることに変わりはないのだけれど、これには重要な意味がある。

 

「何してるんだ?」

 

来夢の質問に答えたのは。

 

「これから間もなく、魔王は復活する」

「団長!?」

 

第2次ヴィスカ調査団団長、ルーカス・ヒュー・エドワーズ。巨人戦で受けた傷は癒えておらず、椅子に座っている。

 

「久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」

「団長こそ、無事だったんですね。……というか、魔王って」

「ああ。『魔王伝説』の魔王だ。にわかには信じがたいが、見えてしまったからには仕方ない。魔王は復活の時、【死の瘴気】を放つ。これは生命を腐らせ、その寿命を縮め、生き残った者には邪悪を植え付ける。最悪の場合、待っているのは死だ。だが、鏡の世界ではその影響を受けないのでね、なるべく多くの生命を避難させておきたいんだ」

 

来夢は少しずつではあるが、自分の状況が分かってきた。

つまり、今自分は安全で、愛華や他のクラスメイトは安全で、正康やトレスやロイドや、その他大勢は最悪死ぬ、ということか。なるほどなるほど、そういうことか。

 

とんでもなく、まずい事態だ。

 

【死の瘴気】とか言ってるけど、そもそも魔王が復活するって、何だそれは。

 

確かに、予兆があったといえば、あったかもしれない。というかあった。

パイン・オルトに、メインビットに、ピルディ。幹部格が何人となく現れた。間違いなくフラグだ。これで魔王が復活しない訳が無い。

 

心の準備が出来ていないのに、重大なことが立て続けに起こり過ぎている。

来夢は何とか心を落ち着けることが出来た。状況を理解するので精一杯だが、隣の女子に比べれば全然取り乱していない。

 

隣の女子、というのは、愛華のことだ。彼女はどうしよう、とかやばい、とか分かんない、とか言いながら頭を抱えて座り込んでしまった。かと思うとどこかに歩き出してしまった。

 

恵里と雪乃は愛華に比べれば落ち着いていた。というより愛華がパニック状態という方が正しくて、恵里も雪乃も取り乱していることに変わりない。

 

凜は、表面上はあまり変わりなかった。驚きすぎて声が出ない様子だ。

 

残された時間はあまり多くない。この空間には10人くらいしかいないが、そろそろ限界のようだ。

 

 

時は、満ちた。




ありがとうございました。


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復活

前回のあらすじ

正康とトレスが白い”何か”と戦い、来夢たちは恭也と再会した。


ミルトアという国から見ると中央南側に位置するヴィスカだが、視点を大陸全体に広げるとちょうど中心辺りと表現する方が相応しい。そもそもホロキニア大陸の南側半分がミルトアなのだから、当然ではある。

 

そんなヴィスカの最大の特徴はその森である。それもただの森ではなく、多くの古代遺跡がある。その為に、この森は開発はその他の土地に比べて遅れている。遺跡をどうにかするまでは、人の手を介入させにくい、ということだ。

 

大陸中央に位置するヴィスカは、この大陸の歴史を語るうえで、外すことのできない要素だ。そして、この大陸の歴史といえば、【魔王伝説】が有名だろう。

 

つまりどういうことかと言うと、魔王の復活地点は、ヴィスカであった、と言うことだ。

ヴィスカに調査団を送った国の判断は正しかったのだ、なんて、呑気なことは言っていられない。

 

魔王が復活することは、【死の瘴気】の被害が出るということで、魔族視点では大陸中央で復活すればその効果をより広範囲に及ぼすことが出来るので、非常に良いことだと言える。

人間視点ではその逆だ。

 

魔王の復活に伴う世界の変動は、いくつかある。

 

一つは、【死の瘴気】のよる被害だ。

生き物は死に、建物は倒壊し、植物は腐った。魔法の効果も強力だが、単純に大風が吹くとも捉えられる訳で、その被害の甚大さは想像を遥かに上回った。

 

また、魔物の行動が活発になったことも挙げられる。

魔王の復活が具体的にどのように関係しているのかは不明だが、関連していることは間違いないだろう。最凶の王の復活が、魔物たちを強化する。これはもはや世の摂理である。

 

最も大きな変化として。

まずは、ヴィスカと、隣国【ディガンス】にある【フォード】という都市の、その他の都市との境目となる場所で爆発が起こった。

続いてヴィスカとフォードが、浮いた。しばらく上昇を続けた後、かなり高い場所まで来たところで止まった。

つまり、大陸のちょうど中央の大地が抉れて、その上に【浮遊大陸】が現れた、ということだ。

 

実はこの【浮遊大陸】に関する記述は【魔王伝説】の中にあって、魔王はここに城を構えたそうだ。

今、魔王はここにいるはずで、これは伝説の通りにことが進んでいる、と言うことになるのだろか。

 


 

魔王の復活から一夜明け、来夢たちは鏡の世界から出てきた。初めは王城の中に戻るつもりだったが、どうも王城は倒壊してしまったようで、人が通り抜けられる大きさで鏡が残っていなかったために、城下町の適当な鏡から戻ってきた。

 

雪が降っていた。

 

城下町は思っていたより被害が小さかった。逆に、王城の被害は大きかった。立地が悪かったのだろうか。

 

とはいえ、酷い状況であることに変わりなかった。

建物の倒壊はさることながら、道に転がった人の死体の多くは腐敗しており、生き残った人々に対する精神的なダメージも大きかった。

 

「……あまり悲しんでいる時間は無い。この災厄は、まだ続く。手伝ってくれ」

 

団長が口を開いた。この言葉はあくまで来夢たちに向けられた言葉だ。

 

「何をすればいいでしょうか」

「これから南、つまりヴィスカの方から強力な魔物が攻めてくる。さらなる殺戮を阻止しなければならない。また、そもそもこれからもこの世界で生活するのだから、街を立て直すことも必要だ。我々は鏡の中で被害を受けなかった。それを存分に活かし、人々を導くんだ。分かったね?」

 

なかなかに難しい注文だが、やるしかない。もしできなければ、そこに待つのは死だ。

 

とりあえず、現状を確認しよう。

 

まず、鏡の中にいて無事だったのが、来夢たち11人。城にいた5人とミューリオ、団長、恭也、冬樹、宍戸笑美花(ししどえみか)村田綾音(むらたあやね)だ。

 

城下町か、そう遠くない場所にいるはずの、啓や公輝などの王城から追い出された組。

王城でトレスと共に戦っていた正康。

ヴィスカと言えば、巨人と戦っていた晃史はどうなっただろうか。

それ以外にも、ヴィスカでの一件で離ればなれになったクラスメイトは、どうなっただろうか。

 

こんな状況だからこそ、と言うことかもしれない。いつもならこんなこと思っても、言わないと思う。

 

「団長、1つお願いしてもいいですか?」

 

来夢が口を開く。

 

「この街を防衛してからでもいいです。復興させてからでもいいです。僕たちはもともと、30人でした。今の9人しかいない状況が間違っています。ですからもう一度、30人全員、揃えたいんです。その為に、この大陸中を旅することになっても、です」

「……君がそう言うことは、分かっていたよ。【予知】があるからね」

 

意を決して言ったのに、そういう反応をされると、少し恥ずかしい気持ちになる。

 

「でもまあ、それはつまりすぐに返事が出来るということだ。行ってきなさい。今すぐに。実のところ、強力な魔物とはいえ、私一人いればどうとでもなるレベルだ。それに、そうなることを望んでいるのは、君だけではないからね」

 

振り返ると、愛華も、恵里も、啓も、みんなが同じ目をしていた。

 

「今は直接王城へ行くのは難しい。そもそも道が険しいのに加えて王城は崩れているからね。でも、案ずることは無い。もうそろそろ、彼がここを通るはずだ。彼と合流したら、王城へ行くのはずいぶん楽になるからね」

「ありがとうございます」

 

彼、というのが具体的に誰なのか、心当たりがある。まあ、それが正しいのかどうかなんて、あと数分もすれば分かることだが。

 

来夢は一人、決意を固めていた。ここからが、本番だ。




ありがとうございました。


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前回のあらすじ

魔王が復活し、来夢はクラスメイト全員が集結することを今後の目標にした。


程なくやって来た『彼』とは、優也のことだった。確かに彼がいればどれだけ高いところへ行くことだって出来る。

 

「あれ、赤瀬君、みんな、こんなところで何してるの?というか、無事だったの?どこで何してたの?」

「野村こそ、王城爆破以降どこにいたんだ?心配してたんだぞ。【死の瘴気】は大丈夫だったのか?」

「シノショウキ?何それ?その市で大会でもあるの?それに伴って外から多くの人が来るから収入を得るチャンスなの?」

「……【市の商機】ってこと?儲けようとしなくていいから」

 

優也のペースで話をしてはいけない。日が暮れる前に、来夢は真面目な顔をして話を切り出した。

 

「野村、お願いがある。俺たちを王城まで連れて行ってくれないか。俺たちは今、クラスの30人全員を」

「いいよ。行こう」

 

人の話を聞かない、そして承諾の早い優也はその場にいた全員の重力を操作して、具体的には全員で手をつないで浮遊した。

重力操作(グラビティコントロール)】の効果範囲は使用者の触れているものと、それに触れているものと、つまり繋がっているものらしい。

 

城よりもやや高いところまで来たところで、城の方を見ると、崩れてはいるが以前あった白い”何か”の気配はなかった。

ただ、爆発ともつかない大きな音が幾度となく聞こえる。

 

「で、野村、これからどうやって城まで行くんだ?」

「風が吹くのを待つんだよ。今、僕たちは空気だ。質量は全然違うけど、重力のかかる大きさが小さいから同じ重さなんだ。さあ、感じて!」

 

マイペースというか狂人の要素が強い気がする。

 

幸運なことに、大陸上空では浮遊大陸方面から海に向けて風が吹いており、それはちょうど王城の方向だった。【死の瘴気】による空気の移動の余波だろうか。

 

それからしばらく風に吹かれて、王城近くまでやって来たとき、何が起こっているのか、ようやく分かった。雪の出処はここだ。

 

【雪来】の異名は、その固有スキルから名付けられた。彼との合戦場では、必ずといっていいほど雪が降る。それは、彼が雪を降らせるからだ。

 

フィクサー・アイボルト。ミルトアで一番の力それそのものを持つ男が、王城で戦っていた。

でも誰と?

 

「これ以上は近づけないね。物理的に。風向きが逆だ。ここで降りるよ」

 

優也が言った。ただ、重力を大きくする前に言って欲しかった。

結局到着したのは王城より300メートルほど離れたところだ。

 

「痛っ……おい野村、なんでゆっくり下りなかったんだ」

「ごめん。でも、これ以上上空にいたら……」

 

途端、突風の吹く音が聞こえた。風を読んだのか?

 

「いやー風が吹くのが分かるって便利だねえ、委員長」

「私も、こういう使い方が出来るとは思ってもいなかったわ」

 

超感覚(センシティブセンス)】。流石、気を配れる人が持つと違う。

 

「みんな怪我はない?」

「大丈夫!治った!」

 

瞬間治癒(インスタントヒール)】。流石、よく怪我をする人が持つと違う。

 

それから来夢たちは歩いて、王城を目指した。目指す、と言うほど遠い距離では無いが、深い雪に足を取られるうえに強い風も吹いている。そもそも雪山を登るなんて、簡単なことではないのだ。

 

登るにつれ、雪の降るのは激しくなった。当然だ。発生源がすぐ近くにいるのだから。

 

城門の崩れているのを確認したのとほぼ同時に、その破片が飛んできた。恭也が先陣を切っていなければ当たっていたかもしれない。【鏡空間(ミラースペース)】。やはり強力な固有スキルだ。

 

「ああ、ロイドさん!無事でしたか!」

「君たち、ミューリオを見てないか!昨日から見当たらなくて」

「この娘ですか?」

 

ミューリオは、冬樹が背負っている。彼がただのロリコンなら誰もが反対しただろうが、そうしなかったのは冬樹がただのロリコンではないからだ。幼女ファーストで、幼女のことを一番に考えている。

ちなみに、彼の固有スキル【幼女強化(ロリータレンフォーサー)】には、周辺の幼女のダメージを肩代わりする効果も付いている。

 

「ああ、ミューリオ、大丈夫か?」

「この人たちが助けてくれたんだよ!それで、魔王の攻撃も効かなかったの!お父さんは効いた?」

「お父さんは大丈夫さ。みんな、娘をありがとう」

 

ロイドは安堵の表情を浮かべ、頭を下げた。彼は疲れているようだった。

 

「じゃあ早いところ逃げよう。ここは危険だ」

「駄目です。ここに田中君いますよね。彼に会いに来たんです。それまでは帰れません」

「後でじゃ駄目かな?今一番危険なのは彼だ。また日を改めるべきだ。ただでさえ、魔王復活で厳しい状況なのに、死地に赴くことは無い」

「何があったんですか?」

「ブローチャト・アーティだ」

 

ブローチャト・アーティ。魔王軍の幹部の一人で、洗脳をしてくる。

それはつまり、誰かが洗脳されたということか。まさか。

 

「それは、田中が……」

「いや、洗脳されたのは我が国の兵士たちで、彼らはアーティによって連れ去られた。問題は、もっと別なところにあってね。今は詳しい話をしている暇はない。もう下山しよう。下にはギルバートもトレスもいる」

「いえ、僕たちは城に行きます」

「……忠告はしたからね。僕はミューリオと下山するよ。じゃあ、生きてたらまた会おう」

 

諦めたように言い捨てると、ロイドは行ってしまった。




ありがとうございました。


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雪来と処刑人

前回のあらすじ

優也と再会した来夢たちは王城へ行き、ロイドと会った。


「そろそろ諦めたらどうだ。我には貴様の攻撃は当たっていないぞ?」

「お前こそ、攻撃にダメージがない。それに、動きがだんだん鈍っているようだが?」

 

深い雪と霧の向こう側に、動く人影が見えた。そして、この声は正康とフィクサーのものだ。

二人は戦っているようだった。

 

「田中!アイボルトさん!」

 

来夢が大声で呼びかけると、正康はこちらを向いた。それが良くなかった。

 

フィクサーが振った剣の軌跡から飛んだ氷塊が、正康の左腕に直撃した。結構な大きさのため、ダメージは大きいだろう。

 

「グッ……」

「よそ見するからそうなるのだ。まだまだ行くぞ!」

 

フィクサーが斬りかかったのを、正康は【畏怖】で受けた。フィクサーの剣は【畏怖】を砕き、再度正康に斬りかかるも正康はすぐさまその場を離れていた。

 

正康は赤紫色の波動のような衝撃波のようなものをフィクサーに向け放った。フィクサーが地面を踏むと、大きな氷塊がせり上がり、正康の攻撃を受けた。

その氷塊の砕け方を見るに、正康の攻撃はかなり強力らしい。

 

フィクサーが接近してくるのに合わせ、正康は例の衝撃波を放ち、今度は当たった。

フィクサーは大きく吹き飛んだが、受け身を取ったため無事だった。あの2メートルあろうかという巨体が吹き飛ぶのはなかなかに衝撃的だった。

 

そこに【畏怖】が追い打ちをかけようとするが、フィクサーの冷気によって凍ってしまった。それを見た来夢は、ようやく戦場にいくつもある凍った柱や岩のような黒いものが、【畏怖】であることに気付いた。

 

彼らの戦いを、見守ることしか出来なかった。彼らの戦いが熾烈を極めていることに加え、何より寒い。そもそも気温が低いのに、こんな豪雪では身が凍る。

 

それについてフィクサーは問題ないようだ。問題は正康の方だ。時間が経てば経つほど動きにキレが無くなってくる。

 

現にたった今、フィクサーの刃が正康の頬を掠めた。血は出ているが、さほど深くないようだ。

 

「赤瀬君もこっちおいでよ。あったかいよー」

 

不意に愛華の聞こえた方を見ると、来夢以外の全員が焚火に当たっていた。その付近だけ、雪が降っていない。【鏡空間(ミラースペース)】か。

 

いや、危機感。

 

仲間の大ピンチに自分たちだけ焚火に当たってみかんを食べるのはいかがなものかみかん美味しい。

結局焚火の温かさと楽しそうなクラスメイトの誘惑に勝てなかった来夢はみんなとみかんを食べる。なんだかんだ今一番活躍している固有スキルって【柑橘生成(クリエイトみかん)】じゃないか?

 

「あ、田中倒れたー」

「なにやってんだよ田中ー」

「え、田中負けたの?」

「そうじゃない?」

「あー処刑人(エグゼキューショナー)がー(笑)」

「アイボルトさん強いね」

「相手が寒さに耐性なければ待ってるだけで勝てるもんね」

「ちょっと卑怯じゃない?(笑)」

「いや、まあでもそうでなく真っ向勝負でも勝てる人いないでしょ」

「【鏡空間】でも?」

「……確かに。そう考えると恭也強くない?」

「いやいや、まだまだだよ」

「向上意欲高いね。十分強いよ」

「あれ、そういえば何しに来たんだっけ?」

「あれだよ、あの……田中!そう田中だ」

「ああ、田中……あれ、大丈夫?」

 

来夢たちが焚火に当たって団らんしている間に、正康はボロボロになっていた。

 

「……思い知ったか。己の無力さを。その程度の力で謀反を謀ろうなど、身の程をわきまえろ」

「謀反は我ではない。力がいくらあろうと人の話に耳を傾けぬ者に統治など出来ようはずもない」

「減らず口め。お前にギルバートの何が分かるというのだ?」

「邪悪が分かる。奴は今までに我の感知した邪悪の中でも群を抜いて強い。いずれ国を、大陸を脅かしかねない」

「戯け。どうせお前はここで死ぬのだ。ギルバートを侮辱し、その刃を向けた罪だ」

「そこまでだ!」

 

来夢たちの登場に、今度はアイボルトもこちらを見た。しかしその刃は正康の方を向けたままだ。

当の正康も体中血だらけで、身体を起こして座っているだけでも辛そうだ。肩で息をしている。

そう考えると、アイボルトにはまだ全然余裕があるようだった。激しい雪が収まった代わりに、その冷たい眼で睨みつけられた来夢の背筋は凍る。

 

よく考えもせず飛び出したが、実はまずい状況なのではないだろうか。

不安を考えないことにして、来夢は言葉を続けた。

 

「田中を放せ!」

「無理だ」

「そうですか!すみませんでした!」

「おい来夢」

「だって恭也、あの人怖いじゃん、俺じゃ勝ち目ないじゃん」

「じゃあ先陣切って登場するなよ。まあ、その勇気は認めるけど」

 

来夢は下がった。代わりに恭也が前へ出た。

 

「フィクサー・アイボルト。あなたの力は認めますが、その矛先の向ける先は彼ではありません。どうかその剣を下ろして下さい」

「こいつは万死に値する極悪人だ。その肩を持つならお前も同罪。我が剣の錆にしてくれようぞ」

「彼が何をしたのですか」

「ギルバートを侮辱し、攻撃をした。俺がそれを庇いギルバートを逃がすと、その肩を持つならお前も同罪と俺に攻撃してきた」

「奴には大きな邪悪があった!早急に討たねばいずれこの国が」

「お前は黙っていろ」

 

フィクサーは正康を威圧した。

 

「きっと、彼の言っていることは正しいです。お仲間を信じる気持ちは分かりますが、彼は悪くありません」

「お前のような子供にはまだ分からないかもしれないが、お前の仲間は国に歯向かったのだ。絶対的な秩序は、正義は、国が持っている。この国においての正しさは国が決める」

「それが、真実と違っていても?」

「国という機関が大きな力を持っている証だ。こいつの死体は俺が処理をする。お前たちも仲間の死に様を見たくはないだろう。大人しくしておけば、お前たちに危害を加える気は全くない」

 

あくまで目的は正康の救出だ。今ここでフィクサーを攻撃したところで、フィクサーを倒せたとしても正康は救えない。

 

まあ、正康くらいならいいか……




ありがとうございました。


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契約

前回のあらすじ

田中正康(エヴグレハーツ・サヴェルディ)がフィクサーに負けた。大敗を喫した。


正康の死を来夢たちは諦めていた。

最初から29人だったということにしよう。強力な固有スキルを持っていたが、別にうちには恭也がいるし。

 

しかし、彼の固有スキルの強力さは、来夢たちが想像を遥かに超えた。

 

フィクサーの剣が正康の首を刎ねんと近くまで来たところで、フィクサーの動きは停止した。

正康の背後に、誰かがいた。

 

「な、何だお前は」

「死神グリム、こいつの契約者だ」

 

彼(彼女?)は死神と言うにふさわしい格好をしていた。黒いローブは地面に付くほどで、フードの奥には暗闇と、その中に紅く光る眼が見える。

身の丈ほどもある大きな鎌を背後に構え、左手は前に掲げている。それがフィクサーを押さえつけているのだろう。

 

ただ、予想と違ったのは、その身長だ。

140センチないくらいの身長で、声は男性とも女性ともつかないような声だ。死神と言えばもっと格好良いか、もしくは恐ろしいものだと思っていたが、どちらかといえば可愛い部類だろう。

 

「グリム……何故でしゃばってきた……力は借りるが、お前は干渉しない、そういう契約だろう!?」

「契約?僕の力を使う代わりにその力で標的(ターゲット)の魂をこちらに寄越す、それが契約だ。ここで死なれたら困るんだ。それに、無関係の他者を巻き込むな」

 

それでも『神』というだけあって、威圧的な怖さはあった。逆らうだなんて、とても出来るような隙は無い。

 

「と、言うことだ。悪いな。こいつを殺すのは後にしてくれ。こいつを殺せるのは標的(ターゲット)だけだ。これ以上は僕も干渉する気はない」

 

フィクサーは解放されたようだった。

 

「馬鹿なことは考えるなよ」

 

そう言い残すと出現した時と同じ様に何の前触れもなく消えた。まさに、神出鬼没。

 

正康を除いて、その場にいた全員は呆気にとられていた。正康の死神の力とは、死神の力のほんの一部に過ぎないというのか。

 

「あ、田中君、大丈夫、回復、回復しなくちゃ」

 

一時の沈黙を破り、愛華が正康に駆け寄る。彼はこのまま放っておけば死んでしまいそうなほどだった。

 

愛華のお陰で少しは良くなったが、全快とはいかなかった。

 

「私に任せて」

 

そう言いながらゆっくり歩いてきたのは、宍戸笑美花。通称『天使』。

 

高校1年生とは思えないほど、とまでは言わないが、大人の雰囲気を醸し出しており、スタイルもいい。また、およそのことは笑顔で対応してくれる優しさも兼ね備えており、頭もいい。才色兼備とはよく言ったものだ。

 

笑美花はいつもと同じ優しい笑顔で、回復の魔法をかけた。魔法と言うのは、魔法だ。比喩的なものではなく、彼女は問題なく魔法が使える側の人間だ。

 

上位魔法では無いようで、多少時間はかかったが、正康の怪我はほぼ完治した。

 

ほぼ、というのは、魔法で治せる傷には限りがある、と言うことだ。具体的にどういった傷かと言えば、長いこと時間が経った後の傷や、骨折や火傷、あるいは凍傷などの単純な外傷以外の傷だ。

 

そう言った傷は病院へ行き専門医に診てもらうか、前述したような傷を治す魔法を使える人に頼るか、自身の持つ自己修復能力に任せるほかない。また、病気も普通の魔法では治せない。

 

「アイボルトさんも、お疲れでしょう。回復いたしましょうか?」

「……悪いな」

「いえいえ、お気になさらず。私の固有スキルは【永久魔力(エターナルマナ)】。一切の魔法やスキルの発動に必要なSPを0にするもので、いくら回復をしようとSPが枯渇することはありませんから」

「いや、そうではなく、仲間のこと、本当にすまなかった」

「良いんですよ。貴方はただ、一国の軍隊長として、正しいことをしました。国において最も大切なのは、民を不安にさせない、判断力のある貴方のような方ですから」

 

これが年上でないのだから、驚きである。その寛大さと穏やかさを見て、誰からともなく天使と呼び始めるのは当然といえよう。

 

「本当は貴方も、こんなことしたくはなかったんでしょう?だから、死神が現れたとき、実はほっとした」

「……何故そう思う?」

「あら、図星でしたか?田中君の容態を見るに、そんなに深い傷がなかったので、ああ、手加減をなさったのだなあと。本当の貴方は、もっと強いと聞きますよ。なんでも、街一つ滅ぼしてしまうほどだとか」

「……もういい。ありがとう」

 

フィクサーは立ち上がり、城の出口の方へ向かった。

 

「どこへ行かれるんですか?」

 

来夢からの問いに、答えることはなく、立ち止まることもしなかった。

そのままフィクサーは城下へ降りて行った。

 

「宍戸さん、街一つ滅ぼすっていうのは?」

「ミルトア西部の【フィニートロン】という街は、20年以上前の未曽有の雪害でゴーストタウンと化したの。フィニートロン廃墟化はその後の大陸戦争の引き金となるのだけど、これはただの自然災害ではなく、人災だという説があるの」

「それを、アイボルトさんがやった、と言うこと?」

「あくまで噂よ。確証はないし、彼がそんなことをするメリットがない。何より、そんなことするような人じゃない。ただアリバイが無いことと、『雪害』という偶然だけで疑われている」

 

フィクサー・アイボルトは、国の正義の象徴だ。同時に、暴力の象徴でもある。

彼は国民からの人気も高い。同時に多くの反対派が存在するのもまた事実。

 

雪はもう降っていなかった。雲の隙間から覗く太陽は柔らかく、崩れ去った王城を照らしていた。




キャラクター紹介

宍戸笑美花(ししどえみか)

永久魔力(エターナルマナ)
いかなる魔法や、スキルに必要なSPを0にする。なので厳密にはSPが無限にある訳ではない。また、ドラクエで言うマダンテの威力は0になる。

通称『天使』と呼ばれる程の人格者で、善人で、美人。穏やかな性格だが、やや抜けている部分もある。才色兼備のお姉さん。

ありがとうございました。


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ブードゥー人形

前回のあらすじ

正康と契約した死神グリムによって、正康の命は助かった。


「それで、貴様らは何故ここに来たのだ?」

 

正康が立ち上がって言った。疲れているようだったが、先ほどに比べると大分体調は良くなったようだ。

 

「俺たち、異世界に転移してきただろ?未知の世界だから30人全員で協力して生きていくべきだけど、今ここには10人しかいない。俺たちの目標は30人全員が集結することだ」

「成程な……」

 

正康は考え込んだ。

 

「残念だが、我は貴様らと共に行動することは出来ぬ。我には【処刑人(エグゼキューショナー)】としての役目があるからな」

「そうか……」

 

さして残念ではないが、正康が一緒に来られないとなると、30人が揃うことは無い。やはり最初から29人だったということにする他ないのだろうか。

 

「案ずるな、我が友よ。貴様らにはこれを渡そう」

「……これは?」

「ブードゥー人形だ」

「あー、そんな名前だったねー。要らない」

 

ブードゥー人形とは呪いの人形で、日本で言うところの丑の刻に五寸釘を打ち込まれることで有名な藁人形的なものだ。

 

それに、正康の持っているブードゥー人形は、怖い。ブードゥー人形はそもそも怖いものだが、これには可愛げが無い。禍々し過ぎる。魔族の者かよ。

 

「ま、待て!これはただのブードゥー人形ではない!これは我と連動しているものだ」

「つまりこれを燃やせば田中君は焼死するの?」

「神野さん、たまに怖いこと言うよね。無意識?」

「うん」

「クックック……燃やしたいなら……そうすればいいさ……」

「燃やさないから早く使い方教えて。放置するよ?」

「ああ、そのブードゥー人形の頭に付いている(チェーン)を引っ張るんだ。そうすれば、我に通知が来て、召喚されることが出来るのだ」

「なるほど……」

 

そう言いながら、来夢はブードゥー人形を愛華に渡した。

愛華はそれを受け取ると、チェーンを勢いよく引っ張った。予想通りだ。

 

「そうだ。そうすれば我はブードゥー人形の通知を受け、ブードゥー人形まで移動できるのだ」

「ああ、絶対来るわけではないんだ」

 

果たして、使うだろうか。

 

「では、我はもう行こう。世話になったな。この恩はいずれ返そうぞ」

 

そう言うと正康は行ってしまった。

 

王城に残った来夢たちは、とりあえず焚火跡の辺りに集まった。ちなみに薪は王城で使われていたもので、火は笑美花の魔法で点けた。

 

「さて、これからどうしましょうか……」

 

恵里の問いかけに、いくつかの案が出てきた。

 

まずは、城下町に戻ってロイドたちに会い、現状を把握するという意見。国はきっと、行方不明者の捜索などもしているはずだ。

 

また、この城を再建させよう、という意見もあった。国王不在の今、要人を護る攻めにくい要塞が必要かどうかは疑問だが、ここには生活に必要なものもある。全てを再建させずとも、せっかくここに来たのだからしばらくはここで命を繋ごう、という意見だ。

 

そしてこれは、恭也の意見だ。

 

「【DCMA】って知ってるか?そこへ行けば、俺たちでもお金を稼げる。これからもここで生きていくんだから、お金を稼ぐ手段は用意しておくべきだ」

「DCMAってなんだ?」

「Dispatch Combatant Mediation Agency(派遣戦闘員仲介機関)。ここに登録しておけば、大陸中の依頼者(クライアント)からの依頼を受け、その達成で報酬を貰える。逆に、俺たちが依頼者(クライアント)として誰かに依頼することも出来る。戦闘員と言うのは名ばかりで、戦闘以外の簡単な仕事もある。それと、以来の達成のための移動手段や、武器などの道具の貸し出しもやってるし、ランクが上がれば宿を無料で利用できるんだ」

「……つまり、ゲームとかラノベとかでよくみる【冒険者ギルド】みたいなもの?」

「DCMA内でその言葉は禁句だから。気を付けて」

「そうなの?ごめん」

 

お金を稼ぐ。来夢たちにはなかった視点だ。そういえばずっと調査団や城で大人に助けられながら生活してきて、アキトに来てからはレベルが全然上がってない。

本を読んだり食事をしたりしても少しは経験値が入るが、レベルを上げるにはやはり戦闘が一番いい。

 

ただ、今は。

今の彼らが採用したのは、愛華の意見だった。

 

「そんなことよりお腹すいたー。何か食べようよー、もうお昼ご飯の時間だよー。結局昨日の夜からみかんしか食べてないじゃん」

 

幸いなことに、調理場は無事だった。来夢たちは調理場と保存状態の良い食料を拝借し、昼食を取ることにした。

みんなで協力して食事を作るだなんて、家庭科の調理実習を思い出した。

 

指揮は恵里が執った。いつも『委員長』と呼ばれる恵里は、『料理長』と呼ばれた。

 

1時間か、もう少し時間を使って、昼食は完成した。肉や魚を焼くだけ、とか野菜は添えるだけ、のような、比較的簡単で時間のかからない料理だ。流石に10人もいれば早い。

 

「いただきまーす」

 

愛華が言うのを皮切りに、みんなも口々にいただきますと言い、食べ始めた。

 

意外、と言うのは失礼だが、愛華は料理上手だった。きっと火傷したり、もしくは火傷させたり、食材を落としたりするんじゃないかと思っていた来夢の考えは間違っていた。

 

そのことを愛華に言うと、愛華は笑って言った。

 

「みんな意外って言うんだけど、私の唯一の特技が料理だから。まあ、包丁は扱えないけど」

「切るのは出来ないんだ」

「いや、出来るよ。キャベツの千切りとかめっちゃ速いよ。でもねー、包丁を持つと調子に乗って人まで切っちゃうからねー。自分の指とか、振り向きざまに他人の腕とか。何回かやって、お母さんに切るのだけはやめろって言われた。でも包丁が一番使ってて楽しいし、上手なんだよねー」

「調子に乗ってるってこと?確かに、神野さん自分の世界に入ると周り見えなくなるもんね」

「そーそーそういうこと」

 

確かに、愛華は切る作業はしていなかった。

 

昼食が終わった。愛華の焼いた肉は、好きな人だから、というのを抜きにしてもとてもおいしかった。これで皿を洗う時に皿を落とさなければ、完璧だったのに。




ありがとうございました。


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