「それ」は破棄されたはずの記録の断片。
「それ」は抹消されたはずの「アイリ」の過去。
私、アイリにはお母様に拾って頂く前の記憶がありません。
いきなり何を、と思われる方もいらっしゃると思いますが、実際初めてお母様にお会いした時以前の記憶を思い出そうとする度に、真っ白で、ふわふわした世界に迷い込んだかのように思考が定まらなくなってしまうのです。
しかし、1つ、たった一つだけ覚えている、絶対に忘れない記憶があります。誰にも話したことが無い、私の、「アイリ」だけの宝物。
「記憶」の中に出てくる人は優しい笑みを浮かべた美人な女の人、その人によく似た、でもどことなく我の強そうな女の子(私よりちょっぴり年上かな?)、そして幼い頃の私。
その家に置かれた物や、服装から察するにお世辞にも裕福な家庭とは言えなかったみたい。
確かに貧乏だったかもしれませんが、3人はとっても幸せに見えました。
「記憶」の日は何かのお祝いの様で、貧しいであろう生活ながらも沢山の料理が並んでいました。
でも、私と我の強そうな女の子(面倒くさいから次からはお姉ちゃんって呼ぼう…)が目を奪われたのは、黄色いプルプルとした何かでした。
頂きますも言わずに思わず口にしてしまったそれの甘く、それでいてほんの少しだけほろ苦さも混じった味は一生忘れることは無いと思います。
隣で私と同じ様に目をまんまるくして固まっていたお姉ちゃんをみてちょっと面白くなったのは内緒。
優しそうな女の人もちょっと苦笑いしてたな(>▽<;;アセアセ
…そして、それから後の記憶は思い出そうとするといつもの真っ白な世界に変わっていってしまう。血と油と硝煙の匂いと共に…
「…ィリ。アイリ!」
あっ…、いけない。またあの事を思い出していたみたいです。すっかり自分の世界に入り込んじゃってました。
私を呼んだべカス「お兄ちゃん」に時計の針が午後3時を指している事を確かめながら、
「おやつ?」
そう聞きながらその大きくて暖かい腕に抱き着くと、
「ああ、アイリの大好物、用意してるからな。でかい依頼終わらせた打ち上げだ。」
と、少しだけ嬉しそうに答えました。
…きっとなんだかんだと理由を付けてカルシェンお兄ちゃんやフリーズお姉ちゃん達も一緒に来るんだろうな、あの記憶の中で一緒にいたお姉ちゃんも今は新しい家族とこうやってるのかな?、ってなんでもない事を考えながらべカスお兄ちゃんの腕を引っ張り小走りで休憩室に向かいました。
スロカイ「マティよ、プリンはやらんぞ( ˘꒳˘)」
マティ「 」
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