性勇者様のやり直し (もこもこ@)
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001 また召喚された日

原作展開はなぞりつつ、それ以外では自由に動いていきます。
エロは2話から。


 重さのない水の中に飛び込んだみたいだった。

 

 体にまとわりつかない水の中で、驚くように手足を動かして……真っ暗悩みの中から眩しいところへと移った。

 

 

「おお、勇者様方! どうかこの世界をお救いください!」

 

「「「「「はい?」」」」」

 

 突然の返事は俺の他にも4つほど重なっていた。

 ──まさか。

 

 周りを見渡せば石造りの壁。床を見れば淡く光る幾何学模様。

 いかにもなファンタジーに出てくる魔法陣と儀式を行うための祭壇。

 

 まただ。また、俺はこの状況にいる。

 ──そう、また。

 

 学生服の右手にはかばんじゃなくて、鞘に入った刃物を握っている。

 しっかりと巻かれた柄がサラリと肌を撫でる。

 

「それはどういう意味ですか?」

「簡単にお伝えしますと、勇者様達を儀式で召喚させていただきました」

「この世界はいま、滅亡の危機に立たされているのです。勇者様方、どうかお力をお貸しください」

 

 ローブを着た男たちが次々に告げる言葉に、俺はニンマリと嬉しくなった。

 なにせ、俺は召喚されなければ近い将来破滅していたからだ。

 待っていましたと言いたいくらいだった。

 あの日の続きをこの世界で行おう。

 

「ぜひとも」

「まあ……話だけなら──」

「嫌だな」

「そうですね」

「元の世界に帰れるんだよな? 話はそれからだ」

 

 どうやら喚ばれた勇者は俺だけではなく、他にも4人いるらしい。

 一人あたりの価値が下がるから好ましくないが、どうやら3人はなかなか反発心が強そうだ。

 肝っ玉もそうらしく、一番年上そうな男以外は涼しい顔をしている。

 

 もしかしたら彼らも経験者なのだろうか? 

 だとしたら、少しは慎重になるべきだろうか。

 けれど、ワクワクする心は止まらなかった。

 ここにはどんな奴らがいるだろうかと。

 

「人の同意なしでいきなり呼んだ事に対する罪悪感をお前らは持ってんのか?」

 剣を持った兄さん。パッと見だと高校生くらいのむっつりしてそうな男が言う。

「仮に、世界が平和になったらっポイっと元の世界に戻されてはタダ働きですしね」

 それは同意したい。弓を持った美少年が同意してローブの男達を睨みつける。

「こっちの意思をどれだけ汲み取ってくれるんだ? 話に寄っちゃ俺達が世界の敵に回るかもしれないから覚悟して置けよ」

 ナンパそうな男がそういった。

「それで、話のできる責任者はどこかな」

 負けじと告げると、地味な大学生くらいの男がため息をついた。

 

 

 **

 

「ほう、こやつ等が古の勇者達か」

 謁見の間の玉座に腰掛ける王様は俺達を値踏みして呟いた。

 ああ、良くないほうか。

 彼からはそこまでの切羽詰まった感じを受けない。

 選り好みができる余裕を感じた。

 大きくはたかれないか。

 

 まあ、どうやら仲間たちは神経が図太そうなので、彼らに任せよう。

 

「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク32世だ。勇者共よ顔を上げい。

 さて、まずは事情を説明せねばなるまい。この国、更にはこの世界は滅びへと向いつつある」

 

 そこから始まる話はスキップボタンが押せればスキップ間違い無しのよくある話で、現在、この世界には終末の予言と言うものが存在する。いずれ世界を破滅へ導く幾重にも重なる波が訪れる。その波が振りまく災害を撥ね退けなければ世界は滅ぶというのだ。

 

 月に一度世界を襲う災厄と勇者は戦わなければいけない。

 

 そういうことである。

 

「もちろん、勇者様方には存分な報酬は与える予定です。援助金も用意できております。ぜひ勇者様には世界を守ることに専念していただきたく──」

「へー……まあ、約束してくれるのなら良いけどさ」

「俺達を飼いならせると思うなよ。敵にならない限り協力はしておいてやる」

「……そうだな」

「そうこなくっちゃ」

「ですね」

 

 俺たちは王様の前で自己紹介をすることに。

 

「俺の名前は天木錬だ。年齢は16歳、高校生だ」

「じゃあ、次は俺だな。俺の名前は北村元康、年齢は21歳、大学生だ」

「次は僕ですね。僕の名前は川澄樹。年齢は17歳、高校生です」

「俺は海道勇。14歳で中学2年生」

「んで最後は俺だな、俺の名前は岩谷尚文。年齢は20歳、大学生だ」

 

 クールが錬、チャラ男が元康、美少年が樹、地味めな兄ちゃんが尚文。覚えた。

 

「ふむ。レンにモトヤスにユウ、そしてイツキか」

「王様、俺を忘れてる」

「おおすまんな。ナオフミ殿」

 

 いかんいかんと微笑んでいるが、目が笑っていない。

 もしかしてわざとだろうか。彼にだけなにかがあるのだろうか。

 

「では皆の者、己がステータスを確認し、自らを客観視して貰いたい」

 

 説明を受けてステータスを見てみる。

 まさか、ゲームゲームした異世界だとは……。

 

 海道 勇

 職業 刀の勇者 Lv1

 装備 小太刀(伝説武器)

 異世界の服

 スキル 無し

 魔法 無し

 

 下によくある身体能力の数値が続くが、スキル、魔法なし? 

 だが、いつものように力を込めるとバイクに火を入れたようにギュンギュンと回路が回るのを感じる。

 力が使えるのを感じた。

 

「俺達五人でパーティーを結成するのか?」

「いえ、勇者様方は別々に仲間を募り冒険に出る事になります」

「それは何故ですか?」

「はい。伝承によると、伝説の武器はそれぞれ反発する性質を持っておりまして、勇者様たちだけで行動すると成長を阻害すると記載されております」

「本当かどうかは分からないが、俺達が一緒に行動すると成長しないのか?」

「注意、伝説の武器同士を所持した者同士で共闘する場合。反作用が発生します。なるべく別々に行動しましょう。……と出てますね」

 

 同じようにヘルプを見てみるが、見つけられない。

 

「うーん、見つけられない。どこに書いてある?」

「え、ヘルプ欄の──」

「いえ、刀の勇者様は他の四聖勇者様とは違い七星勇者です。四聖勇者に協力する勇者ですから、制限に引っかからないのでしょう」

「ワシが仲間を用意しておくとしよう。なにぶん、今日は日も傾いておる。勇者殿、今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。明日までに仲間になりそうな逸材を集めておく」

「ふうん。じゃあ、仲間の少ない人のところについていこうかな」

 

 個人的には盾が良さそうだ。うるさいことは言わない割に色々面倒を見てくれそうな兄気質を感じる。

 元康とは取り合いになって揉めそうだし、錬はうるさそうだし、樹は道を踏み外しそうだ。

 うん。盾が狙い目か。

 

 その日は王様が用意した来客部屋で俺達は休むこととなった。

 




メインはオーバーロードの方のままなので、エロい気持ちが高ぶったときに
不定期で更新していきます。


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002 お風呂入らないと眠れない系男子

 お風呂に入らないとなんというか気持ち悪くて眠れない人はいないだろうか。

 なんというか、スッキリしないとだめというか、体が元気なままのせいで寝る気にならないというか。

 

 案内された部屋にはタオルや水等はあるがお風呂はなく、これではすっきりできないなと俺は部屋を飛び出した。

 

(一人は食べないと眠れないな。コレは)

 

 気持ちが高ぶってるせいか、おとなしくしていられなかった。

 

 トコトコと歩いていると、丁度いいところにタオルをもって歩いている若いメイドがいる。

 まだ城務めになって短いのか、歩き方がどこかよたよたと頼りない。

 

 曲がり角でわざとぶつかる。

 

「きゃっ」

「わっ、ごめんなさい!」

 

 尻もちをついて転ぶメイド。淡い茶色の長い髪を背中でまとめており、胸こそ小ぶりであるものの、腰とヒップのラインの艶めかしい美味しそうなメイドだった。

 

「ゆ、勇者様っ!? こちらこそごめんなさい!」

「ううん。怪我もなかったから」

 

 そう言って手を差し出す。

 握り返された手を引っ張るのにあわせて──力を込める。

 

「ちょうどよかった。あのね、初めてのお城で一人って寂しくて。ごめんなさい、俺が寝るまで一緒にいてくれないかなあ」

「え、ああ。勇者様は一人でこの世界に来たんですものね。そうですね、わかりました。でも、寝るまでですよ?」

 

 ちょろいちょろい。

 

 俺はそんな素振りを見せずにこりと笑った。

 

 **

 

「はっ、あっ、あんっ」

 

 一体、どうしてこうなったんだっけ。

 そこそこの貴族家の三女。繋がりのあるめぼしい相手がいないこともあり、お城にメイドとして奉公にでて。

 甘やかされていた今までの生活と比べれば忙しい日々にようやくなれてきた頃だ。

 勇者、そう、勇者様が召喚されて。

 みんな美形だとか、かっこいいとか──まあ、盾の勇者様以外について語り合ったりして……。

 彼に出会ったのだ。

 

 ただでさえ、勇者様特有の黒髪は心惹かれてしまうが、小柄で、ただ一人異郷で不安そうな彼はそれだけで胸をギュッと掴むような愛おしさを感じた。

 

 家に残した弟は元気だろうか。

 

 最後に弟と一緒に寝たのはどのくらいだったろう。

 勇者様よりは小さかったと思うけれど、もしかしたら帰ってもう一度言ってみれば一緒に寝てくれたかな? なんて思うと勇者様にも弟と同じように愛おしい気持ちが膨らんで。

 

 けれど、やましい気持ちは一切なかったのだ。当たり前だ。

 なにせ相手は少年なのだ。

 だから、純粋な気持ちで一緒にベッドに入っただけなのに……。

 

 

「ねえ、もっと気持ちよくしてあげるね」

 

 ギュッと抱きしめられているうちに体がかっかと熱くなって、不意をうつように唇を奪われた。

 繰り返されるたびにねっとりと変化していくその口づけにいつの間にか自分が何をしているのかわからなくなって、流されてしまって。

 するすると衣服は脱がされていて……あっという間に、あっという間に……。

 

 初めてなのに、気持ちが良くて、快感がビリビリと頭をしびれさせて何も考えることができない。

 ああ、私は、私は、いやらしくなんかないはずなのに──。

 

 可愛い見た目に反した真っ黒で恐ろしい彼のものが出し入れされる度にぐちゃぐちゃと音を立てている。

 自分がその音に恥ずかしがるたびに彼は「とっても感じてるんだね」と私をなぶるのだ。

 

 それだけでキュンとお腹が締め付けられて、ああ、ああ、駄目、このままじゃ、入れたまんまじゃ駄目なのに、駄目なのに──。

 いつ出されてしまうかわかったものではないのに──。

 気持ちよくて、一分一秒でも長くそうしていたいと思ってしまうのだ。

 

 高まるだけ高まった快感に声にもならない声を上げ、熱いものが体の奥に放たれた。

 

 

 **

 

 

「さすがお城のメイドさんだなあ」

 

 メイドのメルさんはおいたはダメですよ! と可愛らしく叱ってから、水に濡らしたタオルで俺の体を丁寧に拭いていった。

 あそこを拭くときに真っ赤になりながら、この子は悪い子ですねっ! ってギュッと握りながら拭いていたのは最高に可愛くてピンと立ってしまった。

 拭きにくそうにしていたけれど、あれは彼女が悪いと思う。

 

 しかし、メイドであんなに可愛いのだから、これは期待が持てるなあ。

 

 

 そう、俺は性依存症を患っていた。

 日々の不安から逃れるために、俺は性にどっぷりと浸かって不安を紛らわせていたのだ。

 それが許される立場で、むしろ推奨される状態で。

 快感に溺れる日々は甘い毒として俺を浸しきった。

 

 それは、不安から解消されても、それが許される環境でなくなっても俺を蝕んでいた。

 

 

 だから。

 

 ──異世界に来れてよかった。

 

 俺は嬉しい。

 

 




アニメの部屋に案内してくれるメイドさんかわいい。
元康くんも可愛かったと言ってましたね。

とはいえ、モブなのでかるーいエロシーンで。


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003 勇者相談会

 

「おい、いつまで寝てるんだ。起きろ、勇」

 

 どうやらぐっすりと眠れたようで、寝ぼけ眼でドアを開けるとそこには盾の勇者の尚文が立っていた。

 

「朝ごはん?」

「バカ。昨日はみんなで話す時間もなかっただろ? 朝食後にパーティーを紹介してくれるらしいからな。その前で勇者同士で話しておこうと思ってみんなに声をかけてるんだよ」

「んあー、尚文えらいね……」

「お前はゆるいなぁ。いきなり連れてこられたんだし、もうちょっと緊張感持てよ」

「はあい」

 

 さすが年上。一味違う、と思った瞬間。

 

 **

 

「くそー、ただでさえ知識がないのに、盾は負け組かよ!」

「尚文、散々だねー」

「お前だって知識なしじゃねーか!」

「けど刀は人気職だぞ」

「剣よりソロ向けだけどな」

「ですね」

 

 この世界をゲームとして知っているらしい三人の知識を聞く。

 どうやら色々強化方法があるようだ。

 ヘルプによると刀は倒した魔物の種類と数で強くなるブラッドアブソリュートらしく、止めを刺すことが条件とのこと。そりゃ、ソロ向きになるね。

 しかし、ゲームによってシステムが違うのは当然だろうが、現実となったこの世界ではどうなのだろうか。

 後で試してみるべきか。

 

 話はゲームからお互いが召喚された時の話に移り、剣の勇者は幼馴染を庇って、槍の勇者は恋人に刺されて、弓の勇者はトラック転移だったらしい。

 

「俺は図書館で不意に見覚えの無い本を読んでいて気が付いたらって感じだ」

「へー。俺は自室でのんびりしてたらいつの間にか」

「じゃあ驚いたんじゃないか? いきなりで」

「いきなりだったけど、まあ、そんなでもなかったかな? 二度目だし」

「二度目?」

 

 怪訝そうにする4人。

 ああそうだ。ステータスにも現れていなかったから特に王様の前でも言っていなかったんだった。

 

「異世界にこうやって召喚されるの二度目なんだ。前もこんな感じで呼び出されて魔王を退治せよって」

「ええ、まじかよ」

「それなのにLV1なのか?」

「別ステータスって感じかな? どのくらい強いかはわからないけど」

「魔王を倒したのでは?」

「そうだけど、ん~どういえばいいかな」

 

 そう、俺は異世界経験者だ。

 装備こそないものの、前回魔王を倒した力がある。

 けれどそれがこの世界でも強者である証拠にはならない。

 

「例えば、LV99までの世界の魔王を倒せたからと言って、LV999の世界の魔王が倒せるってわけじゃないでしょ?」

「なるほどな」

 

 だから安心はできない。

 とはいえ、今の所、城の兵士を見る感じでは十分な力になりそうだ。

 

「まあ、みんなの知識からするに、基本的にはネットゲーなんだよね? じゃあ、レイド、というか複数パーティーの総合力は高いほどいいはずだから、もしそれなりにやれそうなら素材集めとかLV上げは手伝うよ」

「そうか。知識はなくても経験者なら心強いな」

「ですね」

「それより! 勇者やってたってことはやっぱモテたのか!?」

 

 まあ、異世界の話なんて珍しいもんね。

 興奮してぐいと顔を寄せる元康。

 

「そりゃモテたよ。気の強い聖騎士、王女の僧侶、ムチムチの魔法使いと3人と旅をしていたし、戦いをすると命の危険に男も女もムラムラするから、すぐにそういう関係になったし」

「うはー! やっぱりそういうのあるんだな」

「うん。やっぱり自然とそうなるよね。それに、あの世界は魔王にほとんど征服されていて、人類最後の王国から魔王城に向かって国や街を取り返して行くって感じで、開放するたびに宴と子供を増やすためって名目で勇者の血を引く強い子を求めて何人も宿に訪ねてきてたから」

「種馬じゃないですか……」

 

 わんこそばレベルでハイ次ハイ次と危険日の女が訪ねてきていた。

 仲間も、孕む度に交換だった。

 あの世界には一体何人自分の子供が生まれていただろう。

 けれど、一人として愛し合った相手はいなかった。

 騎士も王女も婚約者がいたし、魔法使いは夫がいた。

 

 勇者との関係はそれはそれ、これはこれ。

 あくまで女神からの贈り物であり、勇者とは女神の代行者で、神の子を宿すことは浮気にならないそうだ。

 

 それをいいことに、戦っていないときはひたすら性行為をしていた。

 不安を、恐怖を、絶望を女体でごまかして生きてきたのだ。

 

「……やらしいな」

「可愛い顔してすげーなー」

「ですね。驚きです」

「くそ、リア充め」

「リア充ではなかったかなー。愛があったわけじゃないし。できれば恋して青春したかったし」

 

 変わってしまったことをなかったことにはできないのだ。

 だから、魔王を倒して、元の世界に戻されたとき、俺はだめになってしまったままだったのだ。

 

 女を抱かずにいられなかった俺は戻った世界でクラスメイトに手を出した。

 昔はコンプレックスだった女顔も生かして口説いた。

 戻っても使えた魔法で相手の気持ちを緩めて、興奮させて、警戒心を緩ませて。

 

 処女でもイかせることができると噂が流れるようになると、興味が強くなるようで、あとはちょっと背中を押せば落ちるようになった。

 友達の友達、姉妹、その友達と女を求めて手当り次第抱いた。

 クラスメイトに抱いたことがない相手はいなかったし、下手すると学校内にセックスしたことがない相手がいたかどうかという感じで……。

 

 そして俺は忘れていたんだ。

 信仰心で許されていた世界とことなり、日本でそんな生き方は許されていないって。

 妊娠したクラスメイトの家族に責められ、教師や手を出した女の婚約者だの夫だのから訴えられて。

 そのたびに魔法でごまかしていたが、だんだん追い詰められて、そのくせ女を抱くことをやめられなかった。

 

 行使する魔法の頻度が加速度的に上がっていき、限界が破滅のときだった。

 

 だから、他の四人はしんみりしているが、この世界に呼ばれてよかった。

 めちゃくちゃ助かった。

 そして、荒唐無稽なので今まで誰にも話せなかった異世界話なので、いい機会だと思ってきれいめに脚色して話をする。

 盛り上がった。その裏で俺は考える。

 

 この世界では反省しなければ。

 何が悪かったか。きっと女に手を出さなければこうならなかっただろう。

 けどそれは無理だ。だとしたら。

 

 答えは一つだ。

 

 そう、俺は反省して──避妊しなければならない。

 

 

 あれ、昨日のメイドさん、避妊したっけ? 

 




次の波あたりで気づくことになるんですかねw
魔法でその気にさせたから和姦というクズ主人公。

最初っからやってしまっているがうまくやれるのでしょうか……?


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004 開始のお城では特別な鍵を手に入れないと宝箱を開けられないが最初からよこせと思う。

バスタードソードとか鳥野郎を倒す前にくれてもいいんじゃないですかねえ。>ドラ○エ感


 朝食をパクパクと10分で腹に押し込んだ。

 錬や樹にはため息をつかれ、尚文には微笑ましい笑顔を向けられたが、「仲良くなったメイドとあってくる」というと中指を立てられてリア充爆発しろと呪われた。

 

 元康はしれっと「美人で独身なメイドさんがいたら紹介するように伝えてくれ」と笑顔で手を降ってきたあたり、尚文とは格が違う。

 

 目的は他の勇者から聞いた強化方法を試すためだ。

 それに、昨日相手をしてくれたメイドのメルさんは朝食の給仕にもでていて、一生懸命真面目に働いているのに、目があうたびに頬を染め、ふいっと顔をそむけるくせに他のメイドから視線の届かない位置に行くとへらっと唇を緩めて笑うのだから、かなり堕ちている。

 これは会いに行って、冒険に出る前の熱い心を収めてもらわなければいけない。

 

 とはいえ、匂いをさせて城を連れ回るわけには行かない以上、まずは実験を最初に行わなければ行けない。お楽しみはその後だ。うん。

 

「メル」

「刀の勇者様、ど、どうしましたか?」

「あのさ、実は協力してほしいんだ」

 

 ゆうしゃのきょうりょく? コテリと首をかしげるメル。

 淡い茶色の髪が小さく揺れる。

 

「私にできることなら何でもさせていただきます」

「ん? 今なんでもって」

 

 右手を両手で掴んでニギニギと握って揉むと真っ赤になる。

 

「そういうのは朝やることじゃありませんっ!」

「へへっ、ざーんねん」

 

 手を離すとぱっと両手を背中に隠してしまう。

 

「勇者の武器は鉱石やアイテム、魔物の素材を吸わせたりして強化できるんだ。素材によっては新しい武器が開放されたりするらしいよ」

「さすが勇者さま。変わってるんですね。でも、私、鉱石なんて……」

 

 これくらいと胸元から宝石のついたロケットを差し出すが、流石にこれを取り込んでしまうのは悪い気がする。

 

「大きさとかはそんなに関係ないみたいだから、廃材とか、廃棄予定の食材とか、刀が反応する素材が欲しくて。もし刀があればウエポンコピーで取得したいし」

「なるほど……。料理番でしたら知り合いがいます。石工や大工、鍛冶職人ならそのへんのアイテムが手に入りそうですが……うーん、厨房で働くあの子の彼が確か鍛冶職人だったような……」

 

 城で働く人間をあたっていけば芋づる式に目的を叶えることができそうだ。

 

 **

 

 木刀を開放しました。

 虎鉄を開放しました。

 菊一文字を開放しました。

    ・

    ・

    ・  

 風切りの刃を開放しました。

 石切丸を開放しました。

 

 

「こりゃ、すげえっすなあ」

「これが勇者様か」

 

 食堂で様々な魔物の肉や骨、皮などと色んなものを取り込んでゆく。

 料理番の中から手の空いた者たちが他の職人たちに声をかけて、木箱にたっぷり詰まった箱をいくつも運んできてくれた。

 

 刀が反応するものすべてを読み終えるとウエポンマップが数えるのが面倒になるくらい広がっている。

 開放するだけでもステータスが微量アップするようなので、これだけでもかなりのステータスが上がっているのを感じる。

 

「みんなありがとう」

「いいってことよ」

「勇者様には波をなんとかしてもらわないといけないからな」

「前回の波でたくさんの人が死んでしまったからな??」

「勇者っても子供に頼る大人なんてかっこ悪いですけど、私達で助けになることなら何でもしますから」

 

 彼らには笑顔があった。

 波という脅威を肌で実感し、けれど、それをなんとかしてくれる、なんとかできる希望の存在に湧いていた。

 

 崇拝、とは少し違う期待の感情は少しだけ心地よい。

 

「それに、盾の勇者と一緒に旅に出なきゃいけないんでしょ?」

 

 本当にかわいそうだと表情が言っている。

 

 ──宗教っていうのは大変だ。

 

 先行きに不安を覚えるのだった。

 

 不安は、解消しなきゃ。

 

 

 **

 

 

「よる、よるじゃないと、だめっていったのにっ……!」

「今日はパーティーを組んで外に出ちゃうから……」

 

 寝て起きて、体力は全回復。精子だってパンパンだ。じゃあ、仕方がない。

 余った素材を持ち運ぶメイさんを空き部屋に連れ込んで強引に後ろから抱きしめる。

 

 普通の身長であっても、年の差のせいで俺のほうが小さいが、強化された体は簡単に成人女性を押さえ込める。

 抱きしめながらちゅっちゅと口づけするとだんだんメルさんもその気になってきたようでトロンと表情を変える。

 ドアの外にはみんながお仕事を頑張っていると考えるとちょっと背徳感も感じられてよい。

 メイドを好きにしている感じが興奮する。

 

 右手で優しく胸をさすりながら、左手でスルスルと内ももを撫でると声が甘く変わっていく。

 二度目なのにスイッチが入りやすんだな、と思っていると下着に触れた指がぬちょっと濡れる。

 

「だから、手早くすましちゃぉ?」

 

 下着の上から優しく擦り上げるだけでか細い猫のような声を上げる。

 聞こえてしまわないようにと口を押さえ始めたのがおかしくて、一気に深いところまで挿し込む。

 前回は魔法で痛みを消していたけれど、今回は何もしていない。

 けれど、感じ方を覚えた彼女の膣は年の割に大きい一物を歓迎してくれる。

 下着を脱がせないまま、後ろから挿し込むのはなんだか襲っているような悪いことをしている感じでよい。

 

「あっ、あん、うう、声が、うんっ」

「メルさんって声かわいいな」

 

 けど、彼女の声は悪いといってない。

 声を出させたくて意地悪をするように、少しずつテンポを上げていきながら急に強く腰を打ち付けたりと反応を楽しむ。

 腰を振ってペニスを抜き差しする。

 布越しでも柔らかさを感じる肌に安心を覚える。

 きもちいい。少しずつ小さな波が大きくなるように快感が膨らんでゆく。

 

 きゅっと強く締め付ける中は本人の意志はどうあれ搾り取ろうとうねっている、

 もうすぐで出る。

 メルさんも小さく何度かイきながら快感が高まり続けているようだ。

 あ。そういえば前回避妊をしなかったんだっけと思い出して……じゃあ、今回もしなくていいかと勢いよく叩きつけるように射精した。

 

 

 

「ゆうさま……」

 

 ビクンと震えてくてりと力を失った彼女は柔らかく俺の名前を呼んだ。

 




R18日刊ランキング2位になってました!
皆さん応援ありがとうございます。
エロだからと気にせず感想とかいただけると励みになりますw


メルさんに感想が来たので活躍が増えることに。
イメージ:
【挿絵表示】

最近は可愛いキャラが簡単に作れてすごいっすな。
こういうの嫌いな方はすみません。

しかし、勇者の場合、支度金より素材渡したほうが強くなれるのでは……?
ひのきの棒やこん棒持たせずに鋼の剣くださいよ! 王様!




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005 みんなで武器屋

「まじかよ」

「これはひどい」

 

 くっと笑いが漏れ、尚文がこちらをキッと睨む。

 準備が整ったと呼び出されて王の前でパーティーメンバーを紹介してもらったのだが、「さあ、未来の英雄達よ。仕えたい勇者と共に旅立つのだ」という王様の声に、ワラワラと冒険者達は移動をして……。

 

 錬5人、元康4人、樹3人、そして尚文0人。

 

 俺は事前に人数の少ないところに参加すると告げているので誰もいない、と露骨な状況になっていた。

 

「う、うぬ。さすがにワシもこのような事態が起こるとは思いもせんかった」

「人望がありませんな」

 

 人望の問題だろうか。この国の主教が三勇教であることとおそらく関係があるのだろう。

 この国では盾の勇者は崇められし神ではないのだ。

 少ない人数のパーティーと行動すると決めたことをやや後悔するも、手助けが一番必要なのは盾の勇者だろう。

 

「均等に3人ずつ分けたほうが良いのでしょうけど……無理矢理では士気に関わりそうですね」

「だからって、俺は二人で旅立てってか!?」

「いいじゃないか。正直低レベルの仲間より戦力は上かもしれないぞ」

「そりゃ、経験者がいるのは心強いけど、どっちもこの世界について何も知らないんだぜ」

 

 まあ、力だってどこまで通用するかは未知数だ。

 その上、強化方法は教えてもらったものの、他の勇者と違って効率のいい狩場とかもしらないし、それどころか、現地の仲間がいないからどこに何があるかすらわからない。

 

「あ、勇者様、私は盾の勇者様の下へ行っても良いですよ」

 

 赤毛の冒険者の女性で、レザーの装備の駆け出しっぽい女性だ。

 豊かな髪を後ろで縛ってまとめている。

 気品を感じるので、貴族の子女かもしれない。

 装備とのちぐはぐさがあるが。

 

「えっと盾の勇者様、刀の勇者様、私の名前はマイン=スフィアと申します。これからよろしくお願いします」

 

 どうやら気さくな相手らしい。

 盾にも思うところがないようで、尚文とも距離が近い。

 かわいいしグラマーなのでグッドだ。

 

「よろしく」

 

 尚文は彼女を見てでれりと表情を緩めている。

 まあ、冷遇されている中、ようやくまともに相手をしてくれるところだから仕方がないか。

 

「他にナオフミ殿の下に行っても良い者はおらんのか? ……おらんようだな。しょうがあるまい。ナオフミ殿はこれから自身で気に入った仲間をスカウトして人員を補充せよ、月々の援助金を配布するが代価として他の勇者よりも今回の援助金を増やすとしよう」

 

 そう言って、尚文は銀貨800枚、他の勇者は600枚もらった。

 俺の分を考えるとパーティーで1400枚使えると言えるか。

 

 

 **

 

「これからどうします?」

「まずは武器とか防具が売ってる店に行きたいな、これだけの金があるのなら良い装備とか買えるだろうし」

「そうだね」

 

 刀以外の武器が使えないのは確認している。

 そうなれば条件の同じ尚文は盾以外の武器を使えないということだ。

 武器は難しいだろうが、盾と防具は必要か。

 

「ウエポンコピーはどうする? こっそり? それともちゃんと話す?」

「ウエポンコピー?」

「同種の武器をコピーして強い武器を使えるようになるらしいよ。あるかないか知らないけど、そのスモールシールドから龍鱗の盾にチェンジ! とか」

「まじで!」

「とはいえ、店としては物がなくなるわけじゃないとはいえ、コピーされ損だから、バレた時を考えると素直に話したほうがいいかもなーって」

「ああまあ、そりゃそうなるか。勇者やるんだ。敵相手はともかく、店相手に悪いことなんてできねえよ」

 

 方針は決まった。

 ケド。マインを見つめる。ニコリと笑顔を返してくれる。

 うん。かわいい。

 

 彼女はスキンシップが多い。

 だから、こっそりと、接触で好感度が上がるよう魔法を使った。

 

 **

 

「お、お客さん初めてだね。当店に入るたぁ目の付け所が違うね」

「ええ、彼女に紹介されて」

「ありがとうよお嬢ちゃん」

「いえいえ~この辺りじゃ親父さんの店って有名だし」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。所でその変わった服装の彼氏は何者だい?」

「親父さんも分かるでしょ?」

「となるとアンタは勇者様か! へー!」

 

 気の良さそうなおっさんである。

 職人肌っぽいし、この店の品は彼が作ってるのだろう。

 

「勇者は自分の武器しか装備できないみたいだよ」

「話は聞いたけど、それってまじで呪いだな」

 

 はあと大きくため息を吐きながら、尚文は武器をちょんとつついてバチン! と弾かれていた。

 

「はあ。じゃあ、盾と防具だな」

「盾はあるだろ?」

 

 そこからの尚文はすごかった。

 ウエポンコピーの説明に、武器屋の親父は泥棒じゃねーかと言い始め、尚文はものはなくなっていないだろと続け、そんなこと言ったって、ただで持っていかれるようなものじゃねーかと続け、もちろんただとは言わないさと話が進むうちにだんだんと条件がまとまっていき、いつの間にか宣伝をすることを条件に3割でコピーできるようになった。

 

「おおー、すごいよ、尚文。交渉とかするまでもなく、役に立つものは何でも差し上げますだったから交渉事ってまともに経験したことなくて」

「まあこのくらいな。魔法鋼鉄製なら手が届くか? おい、勇は絶対いいやつ買っておけよ」

「いや、俺はいい武器をもっているから節約することにするよ」

 

 小太刀を菊一文字に切り替える。しゃりりと鞘から引き抜くと、いかにも切れそうな刃が光る。

 

「すごい武器じゃないか」

「城で手に入れたんだ」

「お前、うまいことやってるな……」

 

 尚文にもあげたいところだが、盾の勇者へ協力してもらうのは難しいだろう。

 すくなくても、実績をなにか積んでからだろうか。

 

 鎖帷子に装備を変える。

 尚文も魔法鋼の盾と鎖帷子のため、コンビみたいである。

 

「まあ! すてきですわ、勇者様がた!」

 

 肩や背中とちょこちょこと触れてきていたマインはいつの間にか背中から抱きしめるようにもたれかかってくる。

 

「それじゃあそろそろ戦いに行きましょうか勇者様」

「おう!」

「はーい」

 

 ようやく戦闘である。

 

 

 

 




刀の勇者「美人冒険者マイン! 狙わなきゃ!」

ほんとに狙っちゃうんすか?


追記
女神関係の知識が二次のみなのでWeb版読んできます。更新は土日で。


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006 2周目勇者のパワー

 

「てりゃっ!」

 

 城門をでて少し歩くと広い草原にたどり着く。

 ぽよんとスライムばりに自由に跳ねる敵はバルーン。

 この世界では雑魚というとこいつらしい。

 

 縦横無尽にピョンピョコ跳ねるが、──遅い。

 

 駆けて、拳を握り、殴りつける。

 

 ぱあん! 風船が弾ける音が響く。

 

 EXP1を獲得しました。

 

「刀使えよ」

「いやあ、硬さを試そうかなって。うーん、全然問題ないね」

 

 ザクザクとした口に手をのばす。

 おいと静止する声が聞こえるが、噛まれた手には痛みすらない。

 

「まじかよ」

「うーん、全く強さがわかんないや」

 

 俺は草原を見つめる。

 魔物の気配を多数感じる。とはいえ、ほとんどがこのバルーンみたいな雑魚だろうが。

 

「尚文、パーティー組むね」

 

 ヘルプで確認した同行者設定を行う。慌てるようにマインも設定をしたことを確認する。

 

「《範囲指定》」

 

 手をかざすと薄緑の光の膜が、直径を一キロ程度の広さの四角形でで展開される。

 

「《敵意覚醒》」

 

 範囲内に数多の赤いアイコンが現れる。彼らは競うようにこちらに向かってくる。

 

「なっ、波のように敵が──」

「ひっ、勇者様っ!」

 

「《ターゲット:敵意》」

 

 すべての赤いアイコンにロックアイコンが表示される。

 

「《紅蓮の炎》」

 

 そして、すべての魔物は燃え尽きた。

 

 EXP1を獲得しました。

 EXP1を獲得しました。

 EXP1を獲得しました。

 EXP1を獲得しました。

 EXP2を獲得しました。

 LVがあがりました。

 ・

 ・

 ・

 EXP1を獲得しました。

 EXP3を獲得しました。

 EXP50を獲得しました。

 LVがあがりました。

 EXP1を獲得しました。

 EXP1を獲得しました。

 

 

 画面を埋め尽くす大量の経験値獲得表示と、レベルアップの表示。

 結構な魔物がいたんだなーと驚く。

 

「うーん、LV10か。やっぱり雑魚じゃレベル上がんないね」

「いやいやいやいや、一瞬で10は上がってる方だろ。何だよさっきの」

「範囲を指定して、魔物の敵意を抱かせ、敵意をもとにターゲットを特定して、炎で燃やしたって感じ」

「そんなことできるのか……範囲攻撃でいいんじゃ?」

「できるけど、炎で燃やしたらあたり一面火事になっちゃうよ?」

 

 威力は範囲魔法の半分の上に、消費MPが5倍位かかっちゃうけど、乱戦時や都の奪回戦で雑魚がわらわらと群れている場合に、この攻撃は恐ろしいほどに効果的である。

 威力は弱いのでボスや側近系の強い敵には全く効果がないが。

 

「す、すごいです! 勇者様ァ、いえ、ユウ様!」

「まあね!」

 

 ぎゅっと正面からマインが俺を抱きしめてくる。するとハリのあるおっぱいが顔を咥えこむように挟んでくる。

 いい柔らかさである。

 

「しかし、養殖感強いな……というか、二度目なのマジなんだな。俺、いらなくね?」

 

 ていうか、4人とも……。と小さくつぶやく尚文。

 確かに、現時点ではそうだが、2体同事撃破が必須なモンスターがいたりする場合もあるし、勇者だけができる儀式魔法みたいな物があるかもしれない。

 特別な領域をいるボスに会うためには神官職の祈りが必要だった、ということもあった。

 四聖の勇者とセットになっていることから、そのへんの可能性がないとは言い切れない。

 

「今だけだよ。レベルを上げれば同じくらい強くなると思うよ」

 

 実際はこの世界でのレベルやステータスが加算されているのを感じるので、最終的には二人分のステータスになると思うが。

 

 あれだけ派手に殺したのに、背中方向からバルーンが集まってくる。

 

「よし、じゃあ、次は俺が!」

「頑張ってください勇者様!」

「おう! 俺もかっこよくやるぜ!」

 

 尚文は盾を右手に持って鈍器の要領でオレンジバルーンに向けて殴りかかる。

 

 バシ! 

 ボヨン! 

 

 殴ったその場で跳ね返った。

 

「すぐに割れると思ったのに……。い、いがいと頑丈じゃないか」

 

 オレンジバルーンは牙をむいて尚文に噛み付いてきた。

 しかし、レベルが上ったせいか、盾であるせいか、その両方か全く痛みを感じていないようだった。

 

 ぽこぽこがぶがぶ。

 

 二人の子供同士がじゃれ合うみたいな殴り合いがしばらく続き……

 

 それから3分後……ようやくいい音をたててバルーンは弾けた。

 

 勢いがないから空気の抜ける風船みたいな音がすると思ったのに、音自体は俺が倒したときと同じ感じだった。

 

「良く頑張りましたね勇者様」

 

 これはひどい……。

 

「うーん、パーティって離れても経験値共有できるのかな?」

「できるそうですよ」

「どうする気なんだ?」

 

 ううむ。

 

「尚文はひとまずマインと二人でこのへんで経験値稼ぎをしててもらっていい? 俺、ちょっと強そうな敵を探して戦ってくるよ」

「……まあ、そのほうが早いか。夜には戻れよ。無理もだめだぞ」

「ユウ様がんばってください! 盾の勇者様はおまかせを」

「はあい。よろしくね」

 

 

 **

 

 

「《風の加護》《飛翔》」

 

 体を風が覆い、宙を浮き上がる。

 鷹より速い速度で空を行く。

 

 ドラゴンなんかの高速で飛翔する生き物ほどではないが、時速約100kmくらいはでているだろう。

 びゅんびゅんとあたりの景色が変わっていく。

 

「あれ? 人里近くにドラゴンの気配?」

 

 レベルもそんなに高くなさそうだ。

 いかにも野生のドラゴンという感じで、山の中腹でならして平にした地面に寝そべっている。

 空の上から見ると、日光浴をする羽のあるトカゲみたいに見える。

 

「よし、こいつにしよう」

「GURU!?」

『ぎゃ──ああ! 高レベル勇者だあああ』

 

 ドラゴンの声とは別に、うだつの上がらなそうなおっさん声が聞こえてくる。

 魔法を解除して地に降りると、ドラゴンの腹を蹴り飛ばす。

 

「GUGYAAAAAAA!?」

 

 悲鳴を上げひっくり返されたドラゴンはよたよたと体を回転させると飛び立とうとして──

 

「三段突き」

 

 菊一文字を開放して取得したスキルを放つ。

 瞬速の一突きが三度同時に放たれる。

 両の翼は切れ飛び、体を大きくえぐった。

 

『ま、待て待て待て、勇者よ、強すぎるぞ、こんな弱いトカゲを相手にするなんてどういう精神をしてるんだ! 強者として弱者をいじめるような真似はやめろ! 人を襲わない人畜無害のドラゴンだ!』

 

 なにこいつ。

 かつての世界で魔物は魔王の支配下にあり、魔王を裏切るような真似をするやつはいなかった。

 ……ドラゴンは誇り高い生き物というのが普通だが、この世界は違うのだろうか。

 

「レベル上げと素材がほしいだけだから、どんなドラゴンでもいいんだけど。襲わないってだけで別に人間に飼われているわけじゃないんでしょ?」

『ぐぬっ、死ぬことは避けられぬか。では、お願いがある。私は殺されよう。体もすべて捧げよう。だが、我が子を持っていってほしいのだ』

「助けてではなく?」

『まだ卵なのだ。このままおいて置かれるようなことになれば人にも魔物にも狙われる。運良く孵化できたとしても生きてはいけないだろう』

 

 ドラゴンか。前回の勇者のときも移動のための足として時々飛竜を使っていた。

 前回は拠点を取り返し、聖職者達によってはられた結界によって、それを目印に転移する魔法を使ったが、ここではそうは行かない。

 移動の足はあってもよいのではないだろうか。

 

「……馬車馬みたいに使うぞ」

『勇者に育てられた竜は強くなれる。いくらでもこき使うがいい』

「わかった」

 

 刀を振り上げる。

 

「《全力強化》《防御低下》《属性防御低下》」

 

 自身を強化し、相手を弱める。

 鉄も弾く竜のうろこも、だいぶ通りが良くなっただろう。

 

「紅蓮一閃」

 

 炎をまとった一撃が頭から体まで真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

 

 

 




よくあるゲームでできそうな魔法は大体できる刀の勇者様。

なお「ふあっ!? いきなりレベルがめちゃくちゃ上ったぞ! あいつ何倒したんだ!?」となっている模様。



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007 酒場で合流

 

「おいしっ! 城で出された料理もうまかったけど、やっぱりこれぞ異世界の醍醐味って感じだな~」

「ふふっ、ゆっくり味わってくださいね」

「ああ。武器屋も良かったし、マインのおすすめに外れはないな。助かるよ」

 

倒すのは簡単なのに、採取しようとすると、巨体のせいで恐ろしく時間がかかった。

衣や牙、爪、眼球、血など、それぞれを剥ぎ取りするため、容器や道具を買いに行ったり、実際剥ぎ取りをしたりと大変だった。

結界を張った影響で死体に集る魔物がいない点だけは焦りつつもしっかり処理をした俺をよくがんばったと褒めてあげたい。

 

その後、草原に行く頃にはもう夕方になっており、おそらく街に戻ってるなと数件の宿をあたってようやく二人を見つけた。

美味しそうなご飯に腹がなる。

 

「あ、ユウ様」

「おい、やっと戻ってきたか。最後のレベルアップからあんまり経験値が来なくなったから心配したぞ。なにやってたんだ?」

 

マインはぱあっと表情を笑顔に変えたが、尚文のほうがお怒りのようだった。

マインの隣の席につくと、尚文がまだ食べ始めだった料理をぐっと差し出す。

ホカホカの料理はチーズと、なんだろう? じゃがいもだろうか?? ホクホクして美味しい。

 

「ドラゴン倒してたんだ。倒したはいいけど、素材回収で時間がかかって」

「初日でドラゴン倒すなよ……」

「でもおかげで色々素材も揃ったしね」

 

どんと机に乗せられた袋。

中身は4等分された素材だ。

眼球などの数が少ないものは尚文用の袋にだけ入っている。

もちろん卵は別に分けている。

 

「バルーン相手にしたと思ったらドラゴン素材か。……ドラゴンシールド。こりゃ、ほんとに近場じゃ怪我一つしなさそうだな」

「まあいいんじゃない? 仲間を守るにしても自分が死なないのは最低条件でしょ?」

「とはいえ、まだドラゴンの攻撃を防げるほどではないんじゃないでしょうか? そもそも、こうなると私が足手まといでしょうか」

 

確かに、3人で強いモンスターを狙って養殖するとなると、防御の高い尚文はやりやすいが、逆にマインが危ないか。

 

「効率で言うならしばらくは二人で戦ってもらいつつ、経験値だけ送る感じが良いのかな?」

「そうでしょうね。草原先の森を抜けるとラファン村があるのですが、その先に初心者用ダンジョンがあるんですよ」

「ダンジョン。胸が躍るな」

「戦闘経験を積むにもいいかな?」

 

駆け出しの冒険者が挑むレベルらしく、二人のように装備と力が揃った状態なら問題のないレベルらしい。むしろやや物足りないレベルかも知れないとのこと。

 

今日倒した魔物についてや異世界で見聞きしたもの。

尚文は話もうまいなーと感心する。

異世界を本当に楽しんでいる。

俺も最初はそうだったかなと微笑ましく思ってしまう。

 

「てなわけでさ、マインにはすごい助けてもらってさ」

「いえいえ、所で勇者様? ワインは飲まないのですか?」

「ああ、俺はあんまり酒が好きじゃなくてな。つか、ユウは飲むんだな……」

「水代わりだからね。ワインやビールをよく飲んだなー。飲める水が沢山あるとこってそんなに多くなかったよ。教会の井戸は祝福されていたから飲むのに問題なかったけど。そもそもアルコール度も低いから慣れれば大したことないしね」

「なるほどな」

 

飲んでみると味は悪くない。

渋みもないし、ちゃんと酒を楽しめる味の良いやつだ。

日本でなら千円ワインのカテゴリーだろうがそのへんは比べるのが悪い相手だ。

うーん、奮発してるな。まあ、支度金もあるし、初日だしね。

いきなりせせこましくいくより、さっさとやる気をだしてレベルを上げて行くほうが正解か。

 

「尚文は大学生だったんでしょ? 大学のサークルで飲まなかったの?」

「ああ、新歓とかでな。でも、俺、酔わないんだよ。ムキになったやつにスピリタスを飲まされたけどぜんぜんでさ」

 

スピリタス……アルコール度数96度という、世界最高のアルコール度数を誇る酒で火がつく。

酒というか、アルコールだ。

 

そのことをマインにも伝えるとジュースを飲んだほうがマシという感じなんですね……と呆れていた。

酔えないなんて損だな。

まあ、俺も酒より女のほうが好きだけど。

 

「じゃあ、俺は先に眠るよ」

「勇者様、お疲れさまでした」

「寝坊しないでねー」

「お前こそ飲みすぎるなよ」

 

小さく手を振って尚文は部屋へと向かっていく。

テンションは高そうだが、疲れているようにも見える。

あれはぐっすりだろうな。

 

「それじゃ、マイン、改めて乾杯しようか」

「なににたいしてですか?」

「もちろん、君との出会いにさ」

 

美しい赤髪が乏しい光できらめかせる。

異世界ってすばらしい。

 

どうやってもっと仲良くなろうかな。

そう思いながらワインを楽しむ。

 

 

 




しょうがないね。お酒を飲んでるマインはえっちいからね。
しかたがないね。


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008 マインの気持ち

 私は、マルティ=メルロマルク。メルロマルクの第一王女。

 恵まれた環境に生まれた天に選ばれしもの。

 

 誰よりも美しく、才能にあふれる神の加護を与えられし王女。

 ほんの小さな欠点扱いされる特徴として、陥れられた人間の表情を見るのが好きって言う点があるわね。

 単に陥れるより、信じさせた上で騙されたと嘆くところが好きなの。

 善人づらした人間の本性が表れて薄汚く相手を罵るところなんて心が踊るわ。

 

 こう言うとみんな唖然としてしまうだろうけれど、貴族の人間なんて、おぞましい趣味の一つや2つ持つのがたしなみみたいなところあるわね。

 亜人奴隷を痛めつけ、なぶるくらいならよくある趣味。

 子供が大好きだからとたくさん並べて孕ませて、そんな貴族の目的は美食。

 うえってなるわよね。私もなったわ。

 

 汚れた亜人を体の中に入れるなんて信じられない、気持ち悪い趣味よね。

 何でもできてしまうから、普通じゃないことがしたくなるのかもしれないわ。

 

 ま、そんな奴らに比べたら私なんて至極まっとうだと思うわよね。ね? 

 

 けど、お母様は私のそういうところが嫌いみたい。

 真面目でつまらないメルティに目をかけ、あの子を第一候補にした上、私を他国に送ったりと散々な扱いをされたりしたわ。

 でも、他国を見てよくわかったの。誰かの言うとおりに生きる自分のない女性というのがどういうものか。

 家のために嫁ぐためだけに生きる、夫に歯向かわず、何も望まず、男児を生むための腹を提供して、子供を育てて家のために他の貴族と交流する。そんな歯車になった女達。

 ほんとなんのために生きているのかしら。

 

 彼女たちには命の煌きがまったくないわ。

 

 だから、ほんのちょっと誘ってあげれば彼女たちに愛を囁いていた男たちは私の方を向くの。

 鞭の勇者のタクトもそうだったわ。

 彼は面白かった。彼自身はどうでもよかったけれど、彼の周りには愚かな女が沢山。

 だから、彼を使って何人も楽しんじゃった。

 

 色々あってこの国に戻ってくることになったけれど……。

 やっぱり祖国。メルティが女王になってしまったらメルロマルクはつまらない国になってしまうんじゃないかと心配だわ。私が助けてあげないとね。

 

 他国で経験を積んで、自信をつけた私はお父様を焚き付けて勇者を召喚させることにしたの。

 

 でてきたのは五人。期待以上のメンバーだった。

 特に面白そうなのは人の良さそうな盾の勇者と、女に弱そうな槍の勇者。

 盾は特に楽しそう。

 この国は三勇教。誰であっても盾の味方なんていないんだから。

 

 そう、最初は一番のお子様の刀の勇者なんて目にも入らなかった。

 子供を相手する時間なんてないもの。

 女の色香もわからないやつなんて相手にしてもね。そんなふうに思ったわ。

 

 けれど。

 

 盾の勇者と一緒にいるうちに、彼に惹かれていく自分に気づいた。

 触れる度、彼の笑顔を見るたびに胸が高まるの。

 純粋に男性に惹かれたのは初めてかもしれない……。

 

 これが、恋なのね! 

 今まで私は誰かを好きになったことがなかったんだわ! 

 

 じんじんと高まる彼への気持ち。

 

 ──彼のために何ができるかしら? 

 

 誰かを貶めるマインの初めての他人のためになにかしてあげたい思いの発露だった。

 

 

 **

 

 そういえばマインのことは尚文が狙ってたんじゃなかったっけ? 

 まあ、女性に一緒に飲もうと誘われたのに袖にしたんだからいいか。

 

 アルコールに肌を赤らめ、桃色の肌になったマインはその赤い髪色と合わせてとても艶っぽい。

 

「ユウ様はぁ~どんな人が好きなんですかぁ~?」

「マインかなあー」

 

 アルコールと好感度の上昇に、あはは、うふふとだんだん馬鹿になってきている。

 腰に手を回しながらワインを飲みながらお互いの距離がぐっと近くなる。

 マイン自身、接触で好感度が上がる状態であるため、自然と接触が増えていくし、近づいてくるのならば遠慮はしないたちだ。ぐっと抱き寄せる。

 

「私、もっとユウ様と落ち着いたところでお話したいなー」

「うん、俺もぉそうしたいなあ」

 

 二人でマインの部屋に行くのだった。

 

 

 

 




マイン視点のある小説ってないよなーとか思って書いてみました。
勇者を邪魔する使命を無意識に抱いてるためこうなっちゃってる感じで。


あとアンケート設置してみました。
尚文からラフタリアを寝取るのは尚文絶望しちゃいますからね!
リファナ救済も惹かれるがやり直しのキールもなかなか……卵との関係からウィンディアもあり? みたいな状況でございます。

なお、一番人気は非攻略キャラ属性が付きます。


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009 マインとキスマーク

 部屋に入るなり、カタンと彼女の装備が床に落ちる音がする。

 振り返るとスルスルと中着と、下着を順番に脱いでゆく彼女の姿。

 

 形の良い胸は脱ごうと身動きするたびにぷるんと揺れる。

 ハリのある胸だ。それなりの戦士としての身体能力もあるおかげか体は柔らかそうなのに引き締まっている。

 

「いきなりなんだ」

「いいじゃありませんか」

 

 ちゅっちゅと頬についばむようなキスをしながらスルスルと体をなでながら装備を脱がせてゆく。

 その手付きは手慣れている、というほどではなく、けれど全くの無経験というほどでもない。

 それでも、はやくはやくと焦るような動きはどこか微笑ましくすらある。

 全身を味わってやるとばかりに、首筋にもなめるようなキスが続く。

 位置が下がるのにあわせて、手がズボンの上から男性器を優しく撫でる。

 

「はあ、はあ。すごく、興奮します」

「マインからいい匂いがする」

「やだ、汗臭いですよ」

「それもいい匂いだよ」

 

 尚文と二人でバルーン退治をしていたわけだが、主な戦闘はマインが行っていただろうと考えれば当然だ。けれども、本当の死地で戦い続けながらも夜には高ぶった気持ちのまま、仲間とセックスしていた俺にとってはこのくらい興奮を高める香りでしかない。

 

「すごい。剣の勇者はユウさまがふさわしいんじゃないですかぁ?」

「それはこれから味わってもらうよ」

 

 お返しとしてカプリと首筋に甘噛するとそれだけでブルブルと震えて感じているマイン。

 甘い声を漏らす彼女の太ももに大きくなった肉棒をこすりつける。

 数多の女性を相手にしてきたそれは黒く固く、それでいて天をそそりたっている。

 

「すごい……」

 

 大きさを確かめるように手のひらでにぎにぎと亀頭を揉みしだく。

 突然の快感に腰を引いてしまいそうになる。

 

 俺も、高ぶってるかも。

 戦闘後に高ぶるのは当然として、竜の血はよりそうなる傾向がある。

 それに、冒険者と思えないくらいに身なりのきれいな女だ。

 うまく香水も利用しているのか、近くで息を吸い込まないとわからないが、かすかにだが甘く香る。

 

 カプカプと肩、腕、胸に柔らかくはんだり、吸い付いたりして薄っすらと跡をつけていく。

 

「明日、盾の勇者様にバレちゃうかもですね……?」

「尚文は経験ないからわかりやすくないとだめかもね」

 

 乳首のすぐ上を狙って強く吸い付く。

 

「あっ、はぁ……ん」

「これくらいならいいかな?」

 

 別にバラしたいわけではない。回復魔法を唱えてしまえばいくらでも消せることだし。

 パーティーの仲間に隠してやるのが興奮するというだけで。

 バレちゃだめ、とか隠れて、というのは興奮のスパイスだ。

 

 なにせ、前の異世界では誰としようが咎められることはなかった。母親と一緒に娘を抱いても、『娘まで抱いていただけるなんて幸せですわ!』と本気で喜んだくらいだからだ。

 

「私、ユウ様のものかしら?」

「今、俺のものになっちゃったね」

 

 頬を赤く染め、キスマークを大切そうに見つめている。

 見える印は十分に刻んだ。

 次は中に刻み込んでやろう。

 

 興奮のせいか、伝って落ちるほどに愛液が溢れている蜜壺に、肉棒を差し込む。

 ずにゅっ。

 

 ぬっちゃぬっちゃと肉棒を出し入れする度に派手に大きな音がなる。

 ダラダラと溢れて伝ってくるしずく。マインは濡れやすい体質のようだ。

 

「もっと刻み込んで……」

 

 ベッドに押し倒し、杭を打ち込むように強く差し込む。

 両足は大きく開かれ、奥の奥まで深く出し入れする。

 いわゆる種付けプレスだ。

 上から押し付けるような姿勢でマインは射精を止めたくても抵抗すらできないだろう。

 最も表情を見ればそんな可能性はないだろうが。

 子宮口をぐぷぐぷと出し入れすると、はひはひと口を開いて呻くマイン。

 

 ああ、いい。

 

 この赤ちゃんを作ろうとしている感じが、とくに、いい。

 

 マインはどこかプライドの高さを感じる。会話の中でも女性優位のメルロマルクとわざわざ説明していて、無言でエスコートを要求していた。大切に扱われることになれている女性だった。

 だが、そんな女子だからこそ、支配される安心感に浸りたがるものがいる。

 相手をけなして自分の下に敷くことで安心したり、優越感に浸ったり。けれど心の奥にはその立場が危うくされることへの不安や怒りがあったりする。

 だからこそ、刻み込み、支配することで、不動の安心感を与えるとそれにはまったりする。

 

「あ、あああん、ふっ、うんっぁ……うん、ああ……」

 

 ゆっくりとした挿入を繰り返すと、とろりとした声が響く。

 朝はあんなにしっかりした先輩冒険者の表情を見せていたのに、今は組み敷かれて一方的に与えられ続ける快楽にうっとりしているのがかわいらしい。

 

 まずは一発。

 

 一番奥に差し入れて、ドビューっと強く射精する。

 精液を膣の奥に出される感覚に口元が緩み、よだれがつっと堕ちている。

 もったいないとすするようになめる。

 

「でて、るう……」

 

 はあはあと、強く息を吐いているが、勇者の体力は並ではない。

 日本では誰もがか弱かったが、ここではレベルがある。

 冒険者ならなおさら。

 

「じゃ、次はもうちょっと強くするからね」

「えっ!?」

 

 だいたい、どこが感じやすいのかはわかってきた。

 だから、マインの体力が尽きるまで、攻め立ててやろう。

 杭打機のように腰を叩き込む。

 速くて強いのに、深く感じてしまう。だから、快感が止まらない。

 降りてこられない。

 

 ……何発だせるかな? 

 

「かわいいね、マイン」

 

 一発二発ではないのだと理解したらしく、嬉しいような怯えるような表情を見せて、それも彼女に合わない表情で可愛らしかった。

 

 




エロってみなさんどう書いてるんですかねー。

前の世界では常に複数人相手をしていて経験豊富のため、1対1だと相手の体力のほうが持たないもよう。
複数名で挑むと回復魔法が解禁になり絶倫に……!


あ、アンケートは11日中で締めたいと思います。
リファナが強いですが、ウィンディアも追い上げてますね。
キールくんも結構人気。面白いですね。
みんな頑張れ!


◆キャラごとの違い。イメージ
リファナ:割とラフタリアイベントをなぞるものの、盾の勇者と結婚したい彼女なので、彼氏彼女色強めに。
キール:ほのぼの兄妹感強め。
ウィンディア:竜の卵が尚文に譲渡され、逆にフィーロが刀の勇者の手に?


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010 三勇者の飲み会。

「あー、気持ちかった」

 

 抵抗できない体勢のまま、イキっぱなしにされたマインは、性器から大量に精液を流しながら、倒れるようにぐったりと寝ていた。

 

「《水よ》」

 

 魔法で桶に水を貯めるとタオルに浸して丁寧に体を拭う。汚れに汚れたシーツを外すと、自分の体も綺麗にして、部屋をでる。

 のどが渇いたし、せっかくだから飲み直そうかな? 

 そう思ったら、元康と樹が入ってくる。

 

「あ、ユウさん」

「お、お前もここの宿だったか~奇遇だな」

 

 ふたりとも少し疲れているようだが、この時間までうろつくほどに経験値稼ぎにでていたのだろう。

 疲れとは逆に表情はとても晴れやかだ。

 

 ウエイトレスのお姉さんに手をふると、元康はビールを、樹はブドウジュースを頼んだ。

 夕ご飯がまだという彼らのためにおすすめを適当にいくつか注文すると、ぐうっとお腹の音が聞こえた。

 美味しかったおすすめをいくつか頼むと尚文と同じように嬉しそうに異世界を味わってるなと食べてゆく。

 

「でさあ、ユウどうだったんだ?」

「あ、それは僕も気になります」

「バリバリだったよ。ドラゴン相手に無傷」

「うわー、マジで二度目なんだな。チートだ、チート」

「ですね」

「あ、お土産もあるよ」

 

 袋を2つそれぞれ渡すと、二人は吸収していく。

 ホクホク顔だ。

 

「さすがドラゴン素材。いいのがでたな。竜鱗の槍か。竜素材で開放される下の方の武器だが、2度目の波で狙うレベルだな」

「このレベルが楽々なんですか? 最低でもクラスアップ以上……70……もしかしたら100かも?」

「なお、刀の勇者としてのレベルは加算の模様」

 

 魔法はまだ試せていないが、補助魔法が二重にかかるようなら、倍どころでは済まないかもしれない。セックスしか娯楽を知らない中、魔法の開発研究だけがまともな趣味だった。

 こちらでも頑張るべきかもしれない。

 

「まじかー200行くってことか」

「それ、強すぎですよ。まあ、勇者仲間が強いのは助かりますが」

「あ、高レベルの狩場ってある?」

「そうですね……この時点で行くには強すぎるけど、適正レベルになるとドロップがしょっぱいところを紹介しますよ。あなたの場合はそのほうが得しそうですし」

「そういうのなら確かに結構あるな」

 

 本当に美味しい狩場は彼らが行くために秘匿しているのだろう。

 ただ、咎める気はまったくない。

 俺の強さと同じように、知識が彼らの財産なのだ。これは力と知識のトレードと言っていい。

 

「あ、今度レベル上げに付き合ってくださいよ」

「俺も俺も」

「二人が一撃で死んだりしないレベルのとこなら付き合うよ」

 

 よっしゃと3人で今日の行動について色々雑談を重ねる。

 錬もいればなと聞いてみれば、彼は最大効率を求めて先の村まで行っているらしい。

 二人は仲間との慣らしも考えて初日だしじっくり行動したのに反して、彼は最初からフルスロットルとのこと。

 

 さっさと素材渡したかったのに。

 

「錬が聞いたら悔しがりそうだなー。素材もらってから稼いだほうが絶対効率上がっただろうし」

「それは仕方がないですよ。こんないいものになるとは思わないでしょうし」

 

 と、樹は竜鱗の弓を撫でる。だいぶ気に入ったらしい。

 

「うーん、これならもうちょっと行動範囲広げてもいいかな?」

「おいおい。ここ、蘇生手段はないみたいだから、安全第一だぜ」

 

 彼らのゲームでは仲間の蘇生ができるらしい。

 まあ、死亡で本当に死ぬゲームのほうが少ないか。

 デスペナありを期待してデスワープ(死ぬと拠点に戻ること)しようと投身自殺とかしないでくれるのは助かるか。

 

「勇ももってないよな?」

「さすがにね」

 

 肉体と魂が紐付いている状態なら最上級の回復魔法で肉体の欠損も治すことができるが、つながりが無くなった状態になると直せなくなる。

 

「さて、僕はそろそろ休まさせてもらいますね」

「おやすみなさい。《疲労回復》」

 

 傷や怪我ではなく、身体的な疲労を和らげる魔法を使う。

 樹は薄く緑に光る自分の体に戸惑うが、体を癒やすものだと気づいてニコリと笑う。

 

「ありがとうございます。……異世界ですし、細かくはいいませんが、あんまり飲みすぎないでくださいね」

「おやすみ、樹」

「おう、おやすみー」

 

 樹がいなくなると、本格的に飲み会である。

 ビールにワインにがぷがぷと酒をあおりながら二人で話していく。

 主な話題は異世界美人についてだ。

 

 元康の仲間の女の子とは結構仲良くやれているらしく、そのうちいい関係になれそうだとか、メイドさんとはどうなんだとかである。

 

 ナンパそうな見た目どうりではあるが『女の子は等しく仲良くしなきゃいけない』『愛を信じてあげなきゃいけない』と信念があるらしく、周りの女の子みんなに幸せでいてほしい、笑っていてほしいと思っているようである。

 やれればいいやと思ってるところがある俺とはまったくことなる人種である。

 

「だから~、ちゃんとね、責任? みたいなのあると思うんだよね。好きになってもらったからには、好きでいたいし、仲良くしたいたみたいな~ぁ?」

「ためになるなあ、元康先輩」

「お、お? 先輩。いい響きだなあ。なんか俺、年下の男の子にあんまり好かれないからさあ」

 

 気持ちはわかるみある。

 異世界に行く前にはそれなりに男友達がいたが、異世界ではパーティーも、休日も関わるのは女性だけ。いくつかの事務系で関わる時があるかな程度だ。

 そして、日本に戻ってからはそれこそ、女とやるときの邪魔にくらいしか思ってなかった。

 学校中の女子に手を出す俺と仲良くしようという男はいなかった。

 

 下手に仲良くすると姉妹や母親に手を出されるとなってはしょうがないけど。

 

 それと比べると実にまっとうである。

 みんなを守りたいんだー!! とか叫べちゃう勇者系だ。

 

 色々話に付き合ってくれたお礼にと、ドラゴンのところで手に入れた鉱石を渡す。

 

「あー、これ、精錬用の鉱石じゃないなー」

「あれ、そうなの?」

 

 見てみると、槍の強化法の精錬では使えないが、武器に装着させて強化する、弓の鉱石強化では使用できる。だが、元康先輩はできないらしい。

 はて。

 

「ゲームが違ったしな。強化法も違うんじゃねー?」

「うーん? でも俺は全部できるんだけど」

「四聖以外の七星? は眷属ってあつかいなんだろ? 眷属は主の強化法が使えるとかじゃね? んで、強化率が四聖のほうが高いとか」

 

 そう言われてみると、たくさんの強化法を実施できるより、数が少なくて強化幅が広いほうが手間は少ない。実際、精錬と鉱石強化とか、アイテムを吸わせるステータスエンチャントと、アイテムをポイント化して強化するアイテムエンチャントとか割とかぶってて強化が結構辛いところがある。

 

「そうかも」

 

 強化項目が多ければ強いってもんじゃないか。

 お互い余り物がでたら交換しようと決めて飲み会をしめる。

 

 おとなしく部屋に戻り、明日はどうしようかなと悩んでいると、事件が起きた。




元康を先輩と慕う模様。
4勇者とはそれなりに関係を作っていきたいと思います。
とはいえ、錬とはどういう関係を築けるかよくわかんないっすね。

アンケート結果は一位リファナちゃんでした!
ウィンディアも結構な人気でしたね。
皆さん投票ありがとうございました!


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011 断罪裁判1

 

「勇者様、城に同行お願いします」

「ふああい」

 

 朝早く宿のドアをノックする音に、のそのそ起き上がる。

 高い身体能力が眠るとすぐ回復させてしまうので二日酔いで頭を痛くすることはないのだが、眠りは浅くなるのか寝起きはしゃっきりしない。

 回復魔法を使えばスッキリするが、スッキリするためにわざわざ回復魔法を使うのは冬の洗面所に顔を洗いに行くような気の進まさがある。

 だるいときは何もせずにだるっとしたいのだ。

 寝起きの俺に何かをさせたいのならまずは頭より先に立ち上がっている息子に奉仕してほしい。

 

 だが目の前にいるのは鎧を着たおっさん兵士なので、それを理解した瞬間にするると萎えてゆく。

 

 のそのそ着替えていると、ドアの向こうでトントンと苛立ちに合わせてかかとで鳴らす音が聞こえる。

 なんかこう、急かされるのってイラッとするよね。

 ムッとして反射的に男を見ると興奮する魔法でもかけてやろうと思ったが、その時最初に見る男は自分だと気づいてやめる。

 

 ああ、だるいだるい。

 

 王がお待ちですよ! と急き立てる兵士に半ば背中を押されるように馬車に詰め込まれ、馬車は城へとかけてゆく。

 マインと尚文は? と聞いても彼らは別々に城に向かってますとのこと。

 じゃあ、樹と元康はといえば彼らはすぐに起きて支度をしてくださったのでもうお城についていますよと嫌味を言われる。なんかこの兵士性格悪いのでは。

 一緒についてきている若い兵士は平謝りモードだが、こっちはなんだか妙に偉そうである。

 四聖ではないから真の勇者ではない派かもしれない。

 実際、七星、俺を含めて八星になった勇者は異世界の人間でなくてもなれるらしく、神の如しな四聖と比べると英雄の証と格が落ちるらしい。

 更に新しく実績がないので、評価様子見や子供だし期待できないだろと低く見ている奴らも多いらしい。

 

 城に着くと、あとは一人で行けますなとふんっと鼻息荒く吹いてから答えたその兵士に、鳥が寄ってくる魔法をかける。

 一旦寄ってくるだけなので好かれるわけではない。空にいても寄ってきたくなるので、空から落とし物をもらう率が上がるだろう。くふふ。

 

 ささいな仕返しである。

 

 **

 

「来たか」

「遅いですよ。一緒の宿にいたのに」

「全くだ」

 

 剣、弓、槍の勇者はもうすでに揃っている。

 そこはむしろ一緒の宿なんだから一緒につれてってほしかった。

 

 どうやらすぐに用事ははじまらないらしい。

 そもそも、旅に出させた初日にいきなり城に戻すのはなんのようなのか。

 まあ、何でも大切なのは最初だろうから、もしかしたら様子でも伺うか情報交換させるためだろうか? 

 だとしても過保護な気がする。なんのための経験ある仲間だと言いたい。

 

「ごめんごめん。それよりなんのために集められたか知ってる? 兵士からなにも聞けなくて」

「それは……まあ、すぐに分かるさ」

「そうですね」

 

 あまりいい話題ではなさそうで、不快そうな表情や怒りをにじませた表情を浮かべる。

 

「ならいいけど。そうだ、錬、これ渡しておく」

「ああ。竜素材だってな。……ドラゴンスレイは俺が最初にしたかったがな。まあ、計画が進むのは確かだ。感謝する」

「どっか行っていた錬さんを離せるところだったんですけどね」

「というか、刀は四聖の眷属って立ち位置らしいし、あんまり張り合わないで素直に助けてもらう感じで行こうぜ」

「そうだな。まあ、序盤のお助けキャラは使い倒してこそか」

 

 ひどいことを言っている。

 もしかしたら狙っていたドラゴンだったのか、錬の目は少しにらみつけるような色があったが、それもため息とともに消えていった。

 

「まあ、二人にも言ったけど、死なないレベルなら手伝ってもいいよ」

「ふん。そのうち手を貸してもらうぞ」

 

 いいんだけどね。その後は錬から攻略してほしい狩場の情報などを教えてもらう。

 

 

 **

 

 

 そうしているうちにマイン、王様がやってきて、尚文が来た。

 空気が固くなる。勇者や周りのものの雰囲気が怒りや軽蔑に歪む。

 

「マイン!」

 

 尚文の声に周りが睨み返す。

 マインはというと尚文が声を掛けると元康の後ろに隠れて、尚文を睨んでいた。

 

 ふうーん? 

 

 関係を持った相手が他の男と仲良くしている姿を見ると心が少し痛む。

 誰彼構わず関係を持っていた俺だったが、それでも独占欲があるらしく、目の前で他の男と仲良くされると不快になる。

 知らないところで仲良くしていたと知ってもなんとも思わないのに、目の前だと胸が痛むのだ。

 

 マインとは関係を持ったがそれもただ一夜。

 好意は大きくなっているだろうがそれでも、まだ恋人を想うレベルだろう。

 そして俺のように愛情や気持ちを複数の人間に同時に抱ける人間は珍しくない。

 

 むっとしてマインを見ると、ショックを受けるように表情を変える。

 不思議に思って首をかしげる。

 まるで誕生日プレゼントを渡す前に知られてしまったようなバツの悪い表情だった。

 

 なんだろう? そう思っているうちに話が進む。

 

「本当に身に覚えが無いのか?」

「身に覚えってなんだよ……って、あー!

お前が枕荒らしだったのか!」

「誰が枕荒らしだ! お前、まさかこんな外道だったとは思いもしなかったぞ!」

「外道? 何のことだ?」

 

 尚文が枕あらしだなんだと言っている。そういえば尚文は肌着のみで、元康は昨日とは違い、尚文が着ていた鎖帷子を着ている。

 

「して、盾の勇者の罪状は?」

「罪状? 何のことだ?」

「うぐ……ひぐ……盾の勇者様はお酒に酔った勢いで突然、私の部屋に入ってきたかと思ったら無理やり押し倒してきて」

「は?」

「盾の勇者様は、『まだ夜は明けてねえぜ』と言って私に迫り、無理やり服を脱がそうとして」

 

 すごいセンスだなあ、尚文。

 

 

 

 

 




2は明日更新します。

『まだ夜は明けてねえぜ』って中々マインのセンスは侮れませんな。


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012 断罪裁判2

 

 マインの証言に周りがわっと湧いてた。

 責める視線にとどまらず、非難の声が上がる。

 

「嫌がる我が国民に性行為を強要するとは許されざる蛮行、勇者でなければ即刻処刑物だ!」

「だから誤解だって言ってるじゃないですか! 俺はやってない!」

 

 ついには王の怒鳴り声が響く。

 パクパクと声にならない声を出すように尚文は口を開いては閉じる。

 その表情は真っ青になっている。

 

「はっ! 強姦魔のクズが! 異世界だから何でもやっていいと思ったんだろうが、お前は主人公なんかじゃないんだよ!」

「異世界に来てまで仲間にそんな事をするなんてクズだな」

「そうですね。僕も同情の余地は無いと思います」

「うーん」

 

 マインから話を聞いている元康は当然として、錬も樹もマインを信じ、尚文を責めているようだ。

 勇者として選ばれた人間にふさわしい正義感と言えるかもしれない。

 

 すがるように向けられる尚文の視線。

 さて、どうするべきか。

 

 マインのやろうとしていることはわかった。

 冤罪を仕掛けて盾の勇者を孤立させることで国から嫌われている盾と俺を自然に離すつもりだろうか。

 好意でもってやっているようにも思える。

 

 真実襲われたと考えるには、おかしいことはいくつもある。

 例えば食事で尚文は酒を飲んでいない。

 例えば時系列で考えると動きがおかしい。

 

 夕方に宿に戻り、19時頃には部屋に戻った尚文。

 そして、マインと俺が2~3時間ほどセックスをしていた。

 俺と勇者たちで1時間ほど飲んでいた。

 

 だから、尚文が飲んだとすると、部屋に戻って3~4時間後に酒を飲み始めたということになる。

 眠れなくて寝酒にと言うには時間が空きすぎだ。

 途中で起きて、という話もないではないが、尚文の酒も飲まずに寝てたという証言のほうが自然に思える。

 それに、マインが助けを求める相手が俺じゃなくて元康なのがおかしい。

 性的に襲われかけたあとに助けを求める相手が、勇者とはいえ、交流の少ない相手よりは同じ勇者の俺のほうが自然だろう。

 それにマインからは性的に暴行を受けたりしたものの暗い影がない。

 もしかしたら信じてもらえないかもしれないという不安もだ。

 勇者を相手に被害を訴える態度ではないのだ。

 

 何より、尚文は童貞だし、あの性格だ。酒を飲んだくらいでマインを襲える気がしない。

 感覚を凝らすとわかるが、尚文は錬と樹と同じ清いオーラを持っているので童貞である。

 表情からも不当に責められている人間のものだ。

 

 しかし、マインが好意でやっているものを暴いて犯罪者として責めるのはどうだろう? 

 しょうがないのでなあななにすることにする。

 

「あの、王様。俺には尚文がそんなことをするやつには思えないんです」

 

 絶望からか怒りからか。目つきが変わっていた尚文だが天からの救いかのようにぱあっと目を輝かせる。

 

「なっ、ユウよ、盾をかばうのか。マインが嘘をついているとでも?」

「いいえ。マインが嘘をついているとも思えないのです」

「それは一体どういう……?」

「この世界には姿を真似たり偽る魔法はないのですか? 俺の世界の物語ではよく魔物が王様などの偉い人間に化けて悪行をなしたりすることがあるのです。メルロマルクは5人の勇者を抱えていますが他の国も勇者を複数抱えているのでしょうか?」

 

 少なくとも、幻を見せたり姿を隠す魔法があることは確認している。

 偽物ではないという断定は難しく、証拠もなしに否定をすると他の勇者からの信頼を国は失う。

 そうなると有耶無耶にするしかないだろう。

 

「……いや、大国が多くても一人というところだろう」

「であれば召喚に合わせて勇者を罪人に仕立てて他国に引き抜くためや死刑にしたりするためにはめようとすることは考えられることなのではないでしょうか」

 

 名付けて両方真実じゃね? 大作戦である。

 

「本人が言うように、なんの装備ももっていない現状も気になります。勇者の足を引っ張ろうという悪意ある刺客がいたのかもしれません」

「……なるほど。幻を見せたりする魔法は確かにある。その可能性は否定しきれない」

 

 マインが嘘をついていないといった瞬間の尚文は襲いかからんばかりの態度だったが、俺の説明に納得がいっていないものの、ないでもないと言った感じだ。

 気持ちをどこに向けていいのかわからない状況なのだからしょうがない。

 

「とはいえ、本物でないという証拠ではない。未遂であったこともあり、今回は罪には問わんだが、次があれば問答無用であると心に刻むが良い」

「くっ。結局疑いは晴れないのかよ」

「……既にお前のことは国民に知れ渡っている。もしも真実罪がないというのなら、波で活躍して疑いを晴らすが良い」

 

 ほっと息を吐く。

 死刑だの何だのという話にならなくてよかった。

 とはいえ、マインとは一緒に行くことはできないだろう。

 

 尚文は城を出てゆく。元康、樹ともに、やはりまだ犯人だと思っているようだ。

 逆に錬は少し可能性を考えているようだった。

 

「しかし、冒険者仲間と関係があったからと言って、勇者みんな集めてすることか?」

 

 マインが集めさせたということになるが、王や兵士と色々手回しされている。

 貴族の娘だろうなとは思うが、結構な有力者なのだろうか。

 そう悩んでいると一人のメイドさんが後ろからささやく。

 

「ユウ様、マインさんは実はこの国の第一王女、マルティ=メルロマルク様なのです。盾の勇者が本当に罪を犯したのかはわかりませんが、あまり、マルティ様とぶつからないようにしたほうが……」

 

 メルさんが心配そうに言った。

 まあ、王が死刑といえば死刑の世界で王女とぶつかるのは勇者でも危ないことだろう。

 それに、盾の勇者と近いことも。

 四聖ならともかく、八星では危ういのではと心配してくれている。

 

「……まあ、マインとは仲がいいから大丈夫だよ、ありがとう」

 

 そう言うとメルさんはちょっと不満そうに口を尖らせる。

 

「もしかして、マルティ様もですか……? そうですか、手が早いんですねー……」

 

 と不機嫌そうだ。尚文を追わなきゃ、と思いつつも、すねて可愛い彼女をおいてはいけない。

 こっそりその場を抜けると空き部屋に連れ込んでバックでがしがしと攻め立て、中にたっぷりと注ぎ込んだ。

 へとへとに倒れ込んだ彼女は満足そうに目を閉じていた。

 





お酒飲んでないしー、尚文童貞だし―、むりじゃなーい? が尚文を信じる根拠というひどい作品である。


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014 盾の勇者の癇癪

 

「いいか。俺はお前を信頼したわけでじゃないからな」

 

 ハイ。宿で正座をさせられながら、盾の勇者の説教を受けること一時間。

 武器屋の親父と城門での伝言はうまく行った。

 

 ナンパしたパン屋の少女を膨らむのはパンかな? お腹かな? とか馬鹿なことをいいながら、泣き叫ぶくらいにいかせ続けて楽しんだ。

 メルロマルクは女性優位なのでナンパはいれぐいなのだった。

 意外な話だが、女性優位の社会のほうがナンパは成功しやすい。

 というのも、女性優位とは要するに女性に自分の未来を選ぶ権利があるということだからだ。

 

 日本で色々味わった結果、わかったのは、本人の気持ちが向いているにも関わらず、ナンパが成功しない相手がいるということだ。

 それは例えば、デビューしたてで、スキャンダルを恐れるアイドルや、厳しい家に育っている女子だとかだ。

 特に後者は自分の貞操を将来の夫のものと思っており、家が権利を決めるもので自分が決められるのもではないと信じている。

 だからイキ狂うほどに追い詰めても、貞操だけは許してくださいと守ったりするのだ。

 

 だが、自分で決めれる彼女たちは、彼女たちの決めた基準さえクリアしてしまえばたやすく判断してしまう。

 恋に、快楽に、酒に酔わせば簡単にコロンと転がる。

 だから、ナンパさえ成功すればたやすく、ナンパだって、ちょっと心を揺さぶってしまえば簡単にはめ狂わせるところまで行けるのだ。

 今回は商店街を歩く彼女にわざとぶつかって謝罪という名目でお茶をごちそうして、彼女をごちそうになった。

 とはいえ、気の強そうで、胸が小ぶりだけどツンとハリがよかったくらいしか覚えてないので、二度目はなさそうだが。

 

 

 **

 

 

 ……で、あ、あへえとなるまで、ついついやりすぎて、安宿に場所を移したにもかかわらず、俺の部屋のまえ待ってくれていた盾の勇者の尚文を散々待たせてイラッとさせてしまったのだ。

 女の子と遊んでてと言い訳を言ってしまったのも悪かった。

 

 そのせいで、さんざんと、お前は子供のくせに性に奔放すぎるとか、将来のことを考えろとか、低年齢でのセックスはバカになるとか、お母さんかよと思わんばかりにさんざん説教した上に、今は実家の弟みたいだとか、いつの間にか彼女を作りやがってとか、そのくせ俺のことを都合よく飯炊きみたいに使いやがるとかあれ? 何の話で怒られてるんだっけと首をかしげながらも正座を続けていた。

 

「くっ、まだ言い足りないが!」

 

 いいえ。三十分以上言っているので、そろそろ満足してほしいです。そこそこの宿の一室。絨毯の上であっても、足は痛い。

 

「で、お前はまだ俺とパーティーを組む気か」

「まあ、もともとその予定だし。俺は別に尚文が襲えたとは思ってないし」

「初日の、これから一緒にやってく相手を襲えるわけないだろ。くそっ。勇者をはめる話はないわけじゃないけど、まさか俺が被害に合うだなんてな……」

 

 いいえ。マインは初日に俺がハメてました。

 ただ、伝えるとじゃあ俺が襲ったってなんでだよ! という話になるので、存在しない刺客Xが変身してマインを襲ったままでいきたいと思う。

 

「まあ、初日からなんて思わないよねえ」

「ああ。楽しい異世界生活が台無しだ。お前はなんで俺を信じたんだ?」

「えー、だって、尚文がマインに手を出せる気がしないしさー。好きですって言われて3日くらい悩んだあとか、押し倒されたならわかるけどさー」

「くそっ、腹が立つがそうかも知れないと思った俺にも腹が立つ」

「第一、一緒に飲める機会を疲れているからとか言って宿に戻っちゃう草食系には無理だよー」

 

 茶化すように言うと、頭を掴まれてぐりぐりと梅干しされるが、ここでも盾の攻撃力が響いているのか、刀の防御力か、大して痛くない。

 

「……街は噂で散々だ。寄って来るのは金、装備目当てのクズばかり。攻撃力がないから魔物を倒せない。倒せないからレベルが上がらない。嫌なループだ」

「俺がいるでしょ?」

「……確かにお前は俺を信じた。でも、勇者みんなの味方で、俺だけの味方じゃないだろ」

 

 まあ、たしかに。

 正直盾の勇者である尚文に味方するのは、4勇者揃っていないといけないかもしれない事態に備えるためという面が大きい。

 惰性もあるが、絶対の味方というほどではない。

 尚文が女の子なら違ったと思うが。

 

「まあ、そうだね。他の3人ともレベル上げする約束してるし。でも、尚文のパーティーに入るつもりだけど?」

「……それは、正直助かる。盾は糞だ。攻撃はろくに通らないソロでやれるクラスじゃない。けど、お前だけと組んでるわけにもいかない。お前はパーティーを抜けることもあるんだからな。けど、どんなにレベルを上げても俺には攻撃ができない。くそ、堂々巡りだ」

 

 どうやら尚文はレベルを上げても攻撃力は上がらないようだった。

 ゲームによっては盾で攻撃する職もあると思うが、完全に攻撃力が上がらない制限があるようだ。

 レベルが上っても防御とかばかりが上がるタイプなのだろう。

 

「そんな尚文に朗報です!」

 

 というわけで、奴隷商を紹介することにしたのだ。

 




ぷんぷん尚文のまき。
怒りつつもちゃんと待っててくれたのにこの態度である。

こねて膨らましたパンがこちらでございます!
焼き立て、おいしいですよぉ(なお、もう登場しない模様)


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015 二人の奴隷

 

「こちらですよ勇者様方」

 

 ウキウキするように先を歩く奴隷商。

 恰幅のいい彼は尚文を一目見ると気に入ってしまったようで、あれこれと声をかけている。

 正直、職人というか、仕事に牛耳をもつ男性に好かれたことがないので、そこは羨ましい。

 

「あなたは良いお客になる資質をお持ちだ。良い意味でも悪い意味でも」

 

 この手の文句で悪い意味を含むのを見たことがない。

 尚文は中年に好かれることに煩わしそうにしているが。

 

 奴隷商に案内されたのはサーカスのような巨大なテントの中だった。人の匂いと獣の匂いが鼻につく。

 店内の照明は薄暗く、仄かに腐敗臭すら臭う。

 鼻をつまむが、尚文は我関せずとばかりにずんずんと先を進んでゆく。

 

「さて、こちらが当店でオススメの奴隷です」

 

 見せられたのは人形の狼。グウウと唸り、目には怒りが見える。

 鋭い爪や牙が見えている。

 

「ドラゴンとも戦えそうなくらい? 足と腕が悪そうかな?」

 

 バリバリの獣という感じで、レベルの面では前線に立てるだろうが、まともに指示を聞くのだろうか? 

 

「下がりなさい」

 

 奴隷商が命じると同時に檻の中に居る狼男の胸に刻まれている魔法陣が光り輝いた。

 

「ガアアア! キャインキャイン!」

 

 狼男は胸を押さえて苦しみだしたかと思うと悶絶して転げまわる。

 

 もう一度、奴隷商がパチンと鳴らすと狼男の胸に輝く魔法陣は輝きを弱めて消えた。

 なるほど。レベルがどうであれ、相応に痛みが走るのであれば、十分使える。特にルールに違反すると主がいなくても痛むのであればなおさらだ。

 

「中々便利な魔法のようだな」

 

 金を積んで彼を買おうか、と尚文に告げるが、俺の金で買う。権利は俺だけだと断られてしまう。

 シェアする気はなかったので、金は貸すのに、と思ったが、自分の財産とすることも、彼の気持ちを守るものなのだろう。

 裏切らない、自分だけのなにか。

 

 家族とも、世界とも離れて周りから虐げられる中、尚文は縋るものを求めているようだった。

 

「さて、一番の商品は見てもらいました。お客様はどのような奴隷がお好みで?」

「安い奴でまだ壊れていないのが良いな」

「となると戦闘向きや肉体労働向きではなくなりますが? 噂では……」

「俺はやっていない!」

 

 怒りの声。ほんとにやってないんだろうな。

 けれど、奴隷商は意に介した様子もない。

 

「ふふふ、私としてはどちらでも良いのです、ではどのような奴隷がお好みです?」

「変に家庭向きも困る。性奴隷なんて以ての外だ」

「ふむ……噂とは異なる様子ですね勇者様」

「……俺はやってない」

 

「今の手持ちは少ない様子。LVが低く、些か愛玩用にも劣りますがよろしいですか?」

「戦力が欲しいなら育てる」

「……面白い返答ですな。人を信じておりませんのに」

「奴隷は人じゃないんだろ? 物を育てるなら盾と変わらない。裏切らないのなら育てるさ」

「これはしてやられましたな」

 

 実際、レベル上げなら俺がいる。それを考えればレベルが高い身体障害持ちよりはレベルが低くて安い奴隷のほうが現状では良いだろう。

 

 しかし。ちらりと周りを見ればいろんな獣人がいるが、エルフのような絶世の美少女はいない。

 色んな耳や尻尾、獣そのままの人間が多い。

 

 ケモミミ、ケモ尻尾くらいはともかく、完全な獣は抱く気にならない。それにやはり、着飾ってない奴隷たちは美人に見えない。

 だんだんやる気が無くなってきて、匂いもあって、早く買っちゃわないかなーと思ってきた。

 

 そのまま、檻がずっと続く小屋の中を歩かされること数分。

 

 ギャーギャーと騒がしい区域を抜けると、今度はビービーとうるさくなってきた。

 不意に視線を向けると小汚い子供や老人の亜人が檻で暗い顔をしている。泣いているものもいるようだった。

 そしてしばらく歩いた先で奴隷商は足を止めた。

 

「ここが勇者様に提供できる最低ラインの奴隷ですな」

 

 案内された先には四人の奴隷がいた。うさぎの耳の男。丸みを帯びた耳と太いしっぽを持つ10歳くらいの少女。同じ年くらいの薄茶の髪色に猫みたいな細長い尻尾を持つ少女。最後に妙に殺気を放つ、目が逝っているリザードマン。

 

「左から遺伝病のラビット種、パニックと病を患ったラクーン種、ンテ・ジムナ種、雑種のリザードマンです」

 

 反応はそれぞれだった。ラビットは微塵も動かず、ラクーン種は絶望に染まった顔をしてヒッと一歩下がり、リザードマンは怒りに鉄格子を掴んだ。

 そして、ンテ・ジムナ種……イタチ? の少女は尚文の何かを見て、迷いながら一歩前に出た。

 

 その態度と、マイナスの情報がなかったからだろう。尚文はイタチの少女の前に出る。しげしげと彼女を見る。

 ガリガリに痩せており、顔と体にムチのあとがくっきり残っている。もとは可愛らしかったのだろうと思うが、値段を聞くとずいぶん安い。

 

「いはやは。生きる気力を失っており、ろくに動きません。まあ、他よりはマシですが」

 

 じっと彼女は尚文のどこかを見つめ続けている。そこにはどこか希望の色があった。もしかしたらという希望だ。なにに? それはわからないが、周りに、街中に避難されながらも、誤解が解ければもしかしたらと思っている尚文と重なるところがあったのだろう。

 

 尚文は彼女を選ぶことにしたようだった。

 

「じゃあ、この奴隷を買うとしよう」

「なんとも素敵な笑みに私も大満足でございますよ」

「あっ……」

 

 彼女は檻を出される瞬間、ラクーン種という隣にいたたぬき少女を見て声を出す。隣同士もしかしたら仲が良かったのだろうか。

 

「おい、勇。お前も買え。隣のやつだ」

「ええっ!?」

 

 正直、親子、姉妹で幼い少女を抱いたことがあるので、別にこの年でも手を出せないでもなかったが、きついだけのツルンとした膣が多いのでいうほど気持ちよくない。

 柔らかい胸も体もないこの年頃は総じてつまらない相手だった。

 

「俺だけが奴隷を買えばそれ見たことかと責めるかもしれないだろ? それに、パーティーは最大6名まで登録できるんだ。俺たちで4人。全然問題ないはずだ」

「え、え~。わかったよ」

 

 イタチ少女はどこか安心したように息を吐いたが、たぬき少女は怯えて震えるばかり。レベルも低いし、パニック症らしい。

 近づくと、匂いもきつい。

 洗ってない犬の匂い、どころではない。浮浪者とかの、近くを通っただけなのに延々と空気中に残り続ける臭いの強さだ。

 

 こんなとき、能力が高く、鼻もいいのを呪う。

 

 奴隷商は人を呼び、インクの入った壷を持ってこさせる。

 そして小皿にインクを移したかと思うと俺に向けて差し出す。

 

「さあ勇者様、少量の血をお分けください。そうすれば奴隷登録は終了し、この奴隷は勇者様の物です」

「なるほどね」

 

 2つの小皿に、俺と尚文でナイフで切って血を垂らす。

 

「《小回復》」

 

 刃物でちょっぴり切っただけだが、ジンジン痛みはあるので、サクッと直す。

 尚文は礼もなく、それどころか治ったことに気づいてもいないみたいだ。

 

 まあ、奴隷証が胸の紋章にインクを塗りたくった瞬間に文様が光り、奴隷たちが悲鳴を上げたので、そちらに釣られたのだろう。しょうがない。

 

 奴隷を獲得しました。

 使役による条件設定を開示します。

 

 奴隷は勇者のシステムにも組み込まれているらしい。

 ははあ。

 説明を受け、同行者設定や嘘をつけないなどの項目にチェックを入れてゆく。

 

「これでこの奴隷は勇者様の物です。では料金を」

「あ、さっきのインク、譲ってもらえる?」

「え、ええ」

 

 刀に吸わせるとスー……と刀がインクを吸い込んだ。

 

 奴隷使いの刀の条件が解放されました。

 奴隷使いの刀Ⅱの条件が解放されました。

 

 奴隷使いの刀

 能力未解放……装備ボーナス、奴隷成長補正(小)

 

 ふむ。コレは低レベル奴隷はお得かも? 

 尚文にも渡すと、同種の盾が開放できたようだ。

 

 髪、爪、……血肉、骨。

 もしかしたら色々取得できるかもしれない。

 

 奴隷商に金を渡すと、掃除したあとのゴミで良かったらと思わず吐きそうな汚物入れを指さされた。

 

 尚文は俺はいらない、と言ってたが、もし奴隷使いの刀Ⅲが出るかもしれないと考えたら。

 

「《嗅覚一時無効》」

 

 奴隷使いの刀Ⅱ

 能力未解放……装備ボーナス、奴隷ステータス補正(小)

 奴隷使いの刀Ⅲ

 能力未解放……装備ボーナス、奴隷成長補正(中)

 

 よし、やった! 

 ガッツポーズを浮かべている横で、尚文はイタチ少女から髪の毛を数本抜いてⅡを開放していた。くっ、一段回上だしっ! 

 

 しかし、嗅覚が戻ってから自分からも凄まじい臭いがすることに気づいた瞬間に後悔した。

 

 




勇者に望みを持ち続けたリファナは尚文の盾を見て、もしかしてと思い前に出て、またひどい目に会うと絶望しているラフタリアは下がってしまったのでリファナが尚文に選ばれました。
まあ、リファナが選ばれるのは最初から決まってるんですけどね! でも、絶望しきってはいない希望を持っている尚文なので、絶望で動けないラフタリアではなく、進んで役に立ちそうなリファナを選んだという感じです。

積まれた折の中に入っている奴隷とか絶対臭い……。
濃厚なけものしゅう幼女ふたりをゲットした。


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016 リファナとラフタリア

 

 薄汚れた少女二人を連れ歩く男の姿は誰がどう見ても不審者である。

 うーん、人の目を恥ずかしく思ったのは初めてだ。

 

 彼女たちからは悪臭がしているし、触ったら臭いが移りそうだ。嗅覚を無効にしたとはいえ、自分が臭いもの扱いされるのは嫌だ。

 

 正直近寄りたくない。

 

 髪はべっとりと肌にくっついており、ここまで汚れた女の子は初めてである。ゲロを吐いた女の子以上に近寄りたくない存在だ。

 

 尚文はそんなことを気にならないとばかりに平然と隣にイタチ少女を連れている。

 勇者だ。勇者がいる。

 尚文に深い尊敬の念を抱いた。

 

 **

 

 正直いつまでもそのままではいられない。

 彼女たちには熱湯を頭からかけてやりたいくらいだが、実は人肌のぬる温かいお湯というのは難易度がわりと高い。

 火傷する熱湯や、キンキンに冷えた水なら楽勝なのだが、自身のめちゃくちゃ高いレベルが壁になるのだ。湯船くらいの大きな桶になら水とお湯を交互にためて調整できるのだが。

 戦闘とエロに関わる魔法ばかりを高めてきた弊害である。

 

 そんなわけで入浴に行くことになった。大人一人子供一人で銀貨一枚。

 街に一件あり、宿一泊分の費用がかかると考えれば高い。ちょっとした娯楽になるのだろう。

 とはいえ、そのまま直行してしまうと、着替えでまた臭くなってしまう。

 

 そのため、まずは服屋に、と思ったが、ファンタジーなこの社会。

 服は結構高い。オーダーメイドが基本だし、時間がかかる。

 だが、入れ替わりの激しい子供服ならば! と思って探してみれば古着ショップを発見。それなりに需要が深いのか、様々な年齢の衣服が揃っており、女性上位のメルロマルクだけあって、デザインのかわいい。選びたい放題である。

 

 下着もあるねーといった瞬間、尚文はぷいと顔を背けて任せたと言ってでていった。

 

 この恥ずかしがり屋さんめー。

 

 興味深げに見ていたので、イタチ少女のリファナには普段使いの下着に追加して、黒の紐下着を買ってあげる。尚文に見せてやってほしい。

 

 彼女は人懐っこい性格なのか、それとも自分に害を与えないと判断したのか、拷問を受けていたようである奴隷の割には距離が近い。

 尚文には一歩分、俺には三歩分くらいの距離まで近づいてくる。

 

 逆にたぬき少女といえば、リファナの背中に隠れて近づこうとすらしない。

 正直唸り声が聞こえそうなほどに警戒しており、近づく気がまったくない。

 近づいた分遠ざかるため、全く距離が変わらない。

 

 まさしく野生動物との距離という感じだ。

 はあ。尚文に付き合って、面倒なの買っちゃったな……。

 正直、尚文と違って、逆らわない仲間が必要というわけではない。

 

 それに、LVの最高が100なのであれば、2倍以上に強くなれる俺からして、仲間は補助要員だ。

 魔法を使いこなせそうな仲間ならともかく、対して学習を受けていない力自慢の獣人なんてペット以上のなにものでもない。

 

 そういえば。

 かつて日本で、異世界に行く前の頃。ハムスターを買ったことがあった。

 くりっとした瞳に、ふわふわでまあるい姿。

 かわいいなって思って、でも……冬に寒さに眠ってそのまま起きなかった。

 本で調べて冬眠なんじゃないかって信じて待って……ひどい匂いをしだして泣いたのを覚えている。

 

 ──世話、できるかなあ。

 

 ペットの世話とか全然自信ないなあ……。

 憂鬱な気分で俺は──

 

 

 **

 

「めっちゃ生き返るう」

「ああ、久しぶりにスッキリした気がするな。冷たい果実水も気が利いてる」

「俺、牛乳が良かったなー」

 

 命の洗濯とはこのことである。

 広い風呂に浸かるのは幸せである。間違いない。

 数日タオルで拭くだけの生活だったので、だいぶスッキリした気持ちになる。

 

 くっそ汚かった獣人少女達も、しっかり体を洗ってきたみたいで、ようやく普通の少女AとBになれている。

 ちんちくりんなのは変わらないが、衣服のおかげでだいぶいい感じである。

 

 だが──

 

「リファナ、結構鞭のあと目立つね」

 

 拷問趣味の主に買われていたのだろう。

 ちゃんとした衣服を着たからこそ、胸元や手足に見える鞭の跡が目立つ。

 

「あっ、ご、ごめんなさい」

 

 一体何に謝っているのか。きっと、悪くないのに謝って少しでも叩かれないように努力していたとかそんな癖があったのだろう。

 

 尚文をみると彼がうなずく。

 

「《肉体修復》《大回復》」

 

 腕の欠損すら治してしまえる上級の回復魔法は、鞭の跡などたやすく治してしまう。

 傷一つない……それどころか、生まれたばかりと言わんばかりにつややかな肌をしたリファナがそこにいた。

 

「す、すごい……コレが勇者様の力なんですか?」

「ん? そうだよ。刀の勇者だけどね。戦場で回復は必須だから」

 

 高レベルの魔物の攻撃を受ければ腕や足は簡単に吹き飛ぶ。

 修復技能は必須の技の一つだ。

 

「な、尚文様は……盾の勇者様、なんですか?」

 

 リファナの問いかけに不快そうにそうだと答える尚文に、ぱあっと瞳を輝かせる。

 盾の勇者は獣人の勇者でもあるらしいが、やはりそうなのだろうか。

 嬉しそうに微笑んだ。

 

 たぬき少女といえば、リファナの傷が治ったことに驚きぽかんと口を開けつつも、自分も治してもらえるのかと期待するような、でも、あんな奴に期待なんてするものかと抑えるような複雑な表情をしていた。

 

 じっと、尚文を見ていて、あっちが良かったなと言わんばかりの目でこちらを見たので、腹がたった。

 目が合うとふいとそらされてしまう。

 

「ラフタリアだったか? そっちも治してやれよ」

「……うん」

 

 俺だって、あっちが良かったさ。

 

 




アニメ二期・三期制作決定おめでとうございます!
めっちゃ楽しみ!

そして、ラフタリアとのほのぼのハートフル生活スタート。
なお現在の距離感は野生の動物。

『コワイ。信じられない』
『めんどくさい』

尚文リファナペアはもう距離が近い模様。


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017 別会計で

 

「親父、こいつらに装備を用意してやってくれ」

「あんちゃん……いや、いい。いくらくらい用意できる?」

「俺はこのくらいだ」

 

 武器屋に顔を出すとハゲの親父さんがリファナとたぬき少女を連れた俺たちを見て絶句しながら声を絞り出す。

 尚文は銀貨を十枚ほど親父さんに差し出す。

 じゃあ、と同じくらいでと銀貨を俺も出した。

 

「国が悪いのか、それともアンタが汚れちまったのか……まあいいや、銀貨10枚だな。必要なもんは揃えてやる。獣人連れじゃ手間もかかるだろうからな」

「後は在庫処分の服とマント、まだ残ってるか?」

「……ああ、つけてやる。武器は、獣人は成長が早いが、今は軽いナイフがせいぜいだろうな」

 

 レベルも低い彼女達が巨大な棍棒や槍を持てるとは思えない。

 確かに軽い短剣がせいぜいだろう。

 

 それでも、硬い革の服など、モンスターと戦うための装備を用意してもらい、防御力のかけらもなさそうな衣服から、冒険者見習い臭のすごい衣服に変る。

 ナイフも鉄でできた切れ味の良さそうなものだ。

 

「まあ、ひとまずはコレでいいか……ではこれを刺して割れ」

 

 尚文はマントの下で食いついているオレンジバルーンを二人の前に見せ付けて取り出す。

 防御力のおかげで痛くはないらしいが、常に食いつかれて気分悪くならないのだろうか。

 攻撃力のない尚文の考えた脅しの手段だが、雑魚なので訓練にはちょうどよい相手でもある。

 

 ナイフを持たされて顔面蒼白のラフタリアと、どこか覚悟を決めたリファナ。

 

「さあ、リファナからだ」

「はい!」

 

 短い柄を両手で握り、体当りするように突き刺す。

 パンッ。

 バルーンは弾け、床に皮が落ちる。

 

「よし。じゃあ、次はラフタリアだ」

「え……い……いや」

 

 だが、たぬき少女のラフタリアは血の気のない真っ青な顔になって、震えている。

 ナイフを手放したいと、少しでも遠ざけたいと手をひんと伸ばす。

 刺すのではなく、突くように嫌がりながらバルーンに触れて……ぐあっと大きく口を開けたバルーンに飛び退く。

 

「おい、ユウ」

 

 ため息を付いた尚文に使えと催促をうけた。

 はあ。尚文の方と比べて不出来な相手にため息をつく。

 

「ラフタリア。命令だ。やれ」

 

 胸元がひかり、苦痛の声を漏らす。

 リファナが自分が受けているみたいに目をぎゅっとつむり、親父さんは深い溜め息を吐いたのが聞こえた。

 

「い、……いや」

 

 ブンブンと首を振るラフタリア。

 しかしラフタリアには命令を拒むと苦しむ魔法が掛けられている。

 

「ほら、刺さないと痛くなるのはお前だぞ。モンスターを倒すだけ。刺せば死ぬ雑魚だから大丈夫だ」

 

 ポロポロと涙をこぼしながら、ラフタリアは強く短剣を切りつけ、バルーンを倒した。

 

「よし、良くやった」

 

 尚文がリファナの頭を撫でる。

 嬉しそうに笑うリファナに俺も撫でるべきかと手を上げると、ラフタリアは警戒するように飛び退いた。

 

 ……可愛くない。

 

「よし、どうやら戦えるようだな、行くとしよう」

 

 満足そうにうなずく尚文とは逆に、顔をしかめている親父さん。

 

「……あんちゃんより、坊主のが心配だなぁ」

「別に、問題ないよ」

 

 面倒なら誰かに預けてしまえばいい。

 奴隷なんてそんなものだ。リファナのため、そもそも尚文のため、連れているに過ぎない。

 やる気がない奴隷なんて連れても意味ない。

 いずれ、リファナあたりからたぬき少女を安全なところに置いてってほしいと言われるに違いない。

 

 生意気なペットになんて思われたところで知るものか。

 

 **

 

「さて、大体は揃ったか」

 

 店を出た俺たちはその足で草原の方へ向う為、露店街を進む。

 ラフタリアは町並みをキョロキョロとしながらリファナの後ろを歩いている。

 

 ん? 食い物屋の屋台の匂いが鼻を刺激する。

 そういえばお腹が空いてきたなぁ……。

 

 ぐう……。

 

 ラフタリアの方からそんな音が聞こえてくる。

 顔を向けると、ブンブンと首を振る。

 

「ち、ちがい……ます」

 

 そんなに恥ずかしがらなくても……そう思ってじっと見てみれば体を震えさせている。

 ああ、何かしら反応すると叩かれるような生活をしていたことからの反射だろうか。

 空腹を主張して、主の手を煩わせると殴られる、みたいな。

 

「まあ、これからモンスターと戦うんだ。空腹じゃ力も入らないだろ。飯食うぞ」

 

 一度こちらを嫌そうに見たものの、尚文を見て、盾の勇者とつぶやいてから案内をしてくれる。

 

「異世界ってメニューがわかりにくいよね」

 

 ブーウ定食とあっても何それと頭に入ってこない。ロース肉とあるから響き的には豚? 

 イラストありのメニューじゃないなら、店員に丸投げがベストである。

 

「一番美味しい定食ください」

「会計は別だぞ。俺はこの店で一番低いランチね。こいつには、あそこの席にいる子供が食べてるメニューで」

「私は尚文様といっしょのがいいです」

「そうか? じゃあ、同じやつをふたつ」

 

 ラフタリアは子供がおいしそうに食べているお子様ランチのようなメニューを羨ましそうに指を銜えている。みんなで話しているんだから言えよと言いたいが、奴隷に自分の希望を出させるというのは大変なのかもしれない。

 

「じゃあ、こいつはアレで」

「え! でも……」

「飯くらい好きにすればいいじゃん。俺は、尚文よりは金銭に困ってないし」

「おい」

 

 睨まれるが、一番低いランチ注文はないと思う。

 ネズミ肉とかでてきても俺は知らない。

 

「なん、で?」

 

 ラフタリアの声が聞こえたので視線を下げる。

 するとラフタリアは不思議そうな顔で俺を見つめていた。

 

「そりゃ、あんなに羨ましそうに見てればね。やりたくないことさせるんだし、飯くらい好きなの食べさせてやるよ」

 

 その言葉に納得がいったのかじっとこちらの顔を見続けてくるので、顔をそむけて、料理を待った。

 尚文とリファナはベーコンがメインの定食、ラフタリアは品目の多い彩り豊かなお子様ランチ。

 俺のはビーフシチューだろうか。

 ごろりと大きな肉は味わい深く美味しい。

 

「はあ」

 

 ベーコン定食は外れだったようで尚文は不味そうな顔をしながら食事をしている。

 リファナは行儀よく美味しそうに食べている。

 ラフタリアといえば、少しでも取られてたまるものかとばかりに抱え込んで手づかみで食べている。

 目は輝いており、微笑ましくはあるが、リファナの態度との対比がひどい。

 育ちの悪いのはしょうがないかな……。

 

 お腹が膨らんだラフタリアは、ライスに刺さった、旗を大事そうに握っている。

 お子様ランチの旗を集めたくなるのはどこでもいっしょか。

 

 俺も集めてた気がする。そういえば引き出しに集めておいた気がするのに、いつの間にかなくなってしまった気がする。いつ、捨ててしまったんだろう。

 

 まったく、思い出せなかった。

 

 




尚文「割り勘は俺が損するからな」


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018 小さな歩み寄り

 

尚文のマイバルーンがなくなるまで、特訓は続けられた。

目をつむった突撃は、ナイフをしっかりと握った力ある攻撃に変わっていって、次第に慣れを感じさせた。

 

俺達は店の外に出て、草原に出る。

魔物に慣れたせいか、街を歩くリファナとラフタリアは鼻歌を歌いながら歩いていた。

 

だが、城門を抜け、草原でようしと腕をまくりふんすと気合を入れるリファナとは真逆に、ラフタリアは怯えた目をして震えだした。

 

「大丈夫だ。絶対に魔物からは守ってやるから」

 

盾の勇者の本領とも言える。

だが、敵は最弱のバルーン。弱いとはいえ、低レベルには十分に危険はある。それに街の人が着るような衣服では噛まれれば怪我をするだろう。

 

しかし、彼女たちは十分な防具をつけている。手足には硬い革の装備をしており、噛まれても指や手足を食いちぎられることはないはずだ。

まあ、そうなっても治せるのだし、怯える必要なんてまったくない。

 

尚文は補充とばかりに体にバルーンを食いつかせていく。

バルーンも何に惹かれているのか、ガブガブと草原から飛び出しては尚文にかぶりついてゆく。なにがバルーンたちをそうさせるのだろうか。身近に弱い少女たちがいても我関せずなのだから筋金入りだ。

尚文は何匹も食いつかせると満足したようにマントで覆い隠す。フッと笑う尚文。コレが俺の愛用装備だと言わんばかりである。

 

「痛くないんですか? 尚文様」

「全然だ」

「すご、い……」

 

レベルと引き継いだ力のおかげか、俺もバルーンの攻撃でダメージは受けないが、痛みも何も感じないわけではないので、尚文みたいにできる気はしない。

できても誰もかっこいいと言ってくれなさそうなので、やりたくないが。

 

「尚文様かっこいいです!」

 

まじで。バルーン時代来てる?

キラキラと目を輝かせるリファナにラフタリアはぎょっとして一歩後ずさっているので、獣人少女界の流行ではないらしい。

うん、ないよね。ないない。

 

**

 

尚文がバルーンを己に食いつかせたり、盾で突撃を防ぎ、そこをリファナやラフタリアがナイフで刺す。

 

この繰り返しである。

 

正直、戦闘のせの字も知らない少女AとBだったので、ヒヤヒヤすることも多いが、子供だからか、獣人だからか、1つ2つとアドバイスを重ねるごとに少しずつ動きが改善されていく。

 

数時間後にはバルーン相手なら尚文が抑える必要すらなくなった。

しかし、このあたりから大きく違いが出始めた。

 

「よし、たくさんのバルーンがいるが、冷静に倒すぞ」

「ハイ!」

「……はい」

 

尚文の命令にリファナは尚文に襲いかかろうとするバルーンを一閃。ぱあんと大きな音を立てて一撃で倒してしまう。

そこで止まることなく、全体を確認しながら、攻撃してくるバルーンを素早く処理していく。

 

対してラフタリアは自分に襲いかかろうと近づいてくるバルーンを避けてから切り返す形で倒しており、倒すたびに安堵の息を吐き、戦闘速度が非常に遅い。

 

次どうしようかとキョロキョロして次の相手を探しているうちにリファナが倒したりするシーンが多い。

全体的におどおどしている印象がある。

 

身体能力ははっきり言えばそう違いはない。

力こそリファナの方が高いようだが、ラフタリアのほうが素早く、平均的に高そうなくらいだ。

 

だが、多くとどめを刺し続けていたせいか、レベルに差が出始めてきた。そしてそれがより差を大きくしている。

別にレベル差は大したことない。

ちょっと強いところに同行させればいい。

 

けど、そうしたところで、態度については変わらないような気がする。怪我をセず、簡単に倒せるようになるだけだ。

 

どうしてリファナとラフタリアは違うのか。

……外れ、というやつだろうか。

 

「よし、よくやった、リファナ」

「ハイ! 尚文様!」

 

わしゃわしゃと頭を撫でる尚文に、抱きつくよな距離のリファナ。

ラフタリアといえば……尚文と俺の間で羨ましそうに二人を見ていた。

 

……うーん、褒めなかったのが悪かったのだろうか。

まあ、犬でも猫でも、褒めるから棒を取ってくるし、獲物(ネズミとか)をしとめるのだろう。

何も言わず、お腹いっぱいご飯を上げるだけの状態で獲物なんて狩ってくるはずはない……と言う感じなのだろうか。

 

けど、今まで何も言わなかったのに、急に言い出すってなんか、言いにくい。

関係を持った女達にはなんだって簡単に言えるのに。

 

「ら、ラフタリア。その、飴あげる」

「……はい」

 

手渡されたアメを不思議そうに眺めてから、太陽にかざしてみたり、匂いを嗅いだりしてから、アメを口に入れてた。

わあと頬を緩めてラフタリアが笑った。

 

……必要なのはアメ。

 

**

 

バルーンを倒すたびにアメをあげていたら3回目くらいからもうアメは大丈夫ですと言われて断られた。

 

アメ以外をくださいということだろうか? ほかはもっていないんだけど……。

 

戦闘後、こちらをちらっと見るようになったラフタリアに、どうすればいいのかわからないならがも、コクンとと頷きだけ返すようになった。

 

何が良かったのかはわからないが、少し戦闘に積極的になったようだった。

 

 




>……外れ、というやつだろうか。
まあ、読者はみんなラフタリアの凄さを知っているので、ダメダメなのは主人公なんですけどね!



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019 (なんで背中をなでているだけであんな声を出すんだ)

「寝たか」

 

 戦闘を継続できるようになり、レベルが上がるにつれ、バルーンなら楽勝になった。

 とはいえ、王都の近くに強い魔物はいない。

 

 そのまま、野宿をして魔物の多い場所まで移動することになった。

 

 かつてはパーティーの皆がアレヤコレヤと世話をしてくれていて、自分がしたのは火をつけたり水を出したり、そんなことばかりだったので、助けのない初めてのキャンプだったが、尚文は経験があるのかサクサクと準備を進めていった。

 

 俺はといえば食べれそうな動物を狩ってきて、石を炎で焼いたくらいだ。

 調味料が大してない中、お店で出してもお金が取れそうな美味しい野宿飯だった。

 

 尚文は平凡な日本出身だと言っていたが、加工済みの肉ではなく、生き物をさばけるのは相当なスキルだと思う。

 今は戦闘の合間に拾い集めた薬草で薬を作っている。

 

 回復なら俺がするよ? と言ったら、薬なら渡せば誰でも回復できるし、売り物にもなる。

 それに回復手段はあればあるほどいいとのこと。

 

 戦えない盾だけあって、見てるところが違う。

 今頃他の勇者達はどうしているのだろうか。

 苦労してるんじゃないだろうか。

 

 自分の分だけさっさと手際よく用意してしまう錬、仲間にやらせる樹と、おだてられ、全部自分でやる元康の姿を幻視する。

 

「結界を張ってるから見張りなんてなくてもいいんだけどね」

「お前抜きで行動することも増えてくるはずだ。その時、警戒もできないんじゃ話にならん」

 

 と、このとおりである。

 自分たちのちからをつけようと尚文は真剣だ。

 

「で、お前は何読んでるんだ?」

「魔導書。こっちの魔法が覚えられるみたいだから買ってみたんだ」

「へえ。どうだ?」

 

 金はかかった。特に勇者が残したという翻訳付きの魔導書はレア度もあり、結構な費用になった。

 

『力の根源たる刀の勇者が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者の力を上げよ』

 

「ファスト・パワー!」

 

 体がぼんやりとひかり、透明な膜が張る。

 力がやや張っているのがわかる。初級だけあって、ほんのちょっとと言う感じだが、増強されているのははっきりわかる。

 

 そして、これからするのが、今後を大きく変える実験だ。

 

「《力強化》」

 

 ぐうんっと魔力に体が光り、力が増す。いつもどおりの感覚。そして、普段より少しだけ強く感じる力。

 

「重ねがけは効くのか……」

 

 コレは大きい。ただでさえ、刀の勇者の力は加算だったのに、強化が二重に効くとなれば、この世界の補助呪文の強化率にもよるが、向こうと同じくらいなら、1×2×2で4倍以上のパワーを発揮できるかもしれない。

 

 ……勉強必須! 

 

 はあ、とため息をつく。

 実験結果を話すと、俺も覚えてみるかと手渡した魔法書を読み始めた。話しかけても「う~ん? うん、ああ」と返してくれないやつである。

 

「いや……助けて……」

 

 うん? 振り返ると、ラフタリアが変な声を上げている。

 うんうんと、体をよじりながら、眠っているラフタリアがうなされていた。

 

「いやぁあああああああああああああああああああああ!」

 

 キーンと耳が遠くなるのを感じた。

 静かな夜だけあって、音が大きく響く

 

「おい、ユウ。静かにさせろ」

「あ、あ、うん。《静音》」

 

 ラフタリアを中心に音を打ち消す空間を作った。

 ノイズキャンセラーと同じく、同じ音波を返す結界のようなものである。膜の外へ全く音がもれなくなる。

 

「違う。慰めてこい。手を握ってやるとか背中でも擦ればおとなしくなるだろ」

 

 うう。奴隷商人がパニック持ちとか言っていたがコレのことか。

 

 よたよたと近づき、空間に入ると、大声が聞こえてくる。

 こんな声をあげて自分で起きないのだろうか。

 

 仕方がないと、抱きかかえてあやす。

 正面からギュッと握りしめ、頭をなで、背中をゆっくりとなでると、声が収まってきたので、結界を解除する。

 

 不安が消えるようにと優しく背中をなでてやる。

 肉付きの薄い背中はなでがいがないが、文句を言わずに続けてやると、ラフタリアから抱きしめ返される。

 子供だからなのか、獣人だからなのか、とても体温が高い。

 

「なんだ、うまくやるじゃない……か?」

 

 野宿のせいで少し肌寒くて。だから、ギュッと抱きしめて目を閉じ感じ入るようにしながらなで続けた。

 

「あ、うんっ、ふっ、……くぅん……」

 

 声から不安が消えていることに安心してなで続ける。

 

「あっ、あっう……」

 

 ただ優しくなで続けた。

 

 

 **

 

 

「なんであいつ背中なでているだけで、あんな声出させてるんだよ……」

 

 子供同士が抱きしめあっている微笑ましいシーンなのに、声がめっちゃエロい。

 しかも、ラフタリアの顔はこちらを向いていたため、様子がはっきりわかってしまう。

 目を閉じながらも体をほてらせ、吐息が漏れるさまが見えており、妙に淫靡な気がする。

 子供にそんな気持ちを抱いてしまったことに嫌悪を抱いて目をそむけた。

 けれど静かな空間の中、余計に声が耳に響くのだ。ちくしょう。

 

「な、なんだかもぞもぞしますね、尚文さま……」

「あ、ああ……ってリファナ!? 起きてたのか……!」

 

 ちょっと離れて毛布にくるまって寝ていたはずのリファナが起きてすぐそばにいた。

 ぴとっと俺の肩に手をおいて寄りかかるようにしており、距離が近い。

 

「ラフタリアちゃん、夜、うなされちゃうから、私、心配で……」

「そうか。まあ、ユウがいるから大丈夫だろ。いや、だいじょうぶなのか?」

 

 止めるべきなのか? 止めないべきなのか? 

 うなされなくなったからいいのか、年齢的にNGを告げたほうがいいのか。

 

「う、うわあ、ラフタリアちゃんなんかえっちぃ……。体擦り付けてマーキングしてるう。恋人同士にやるやつですよ! お、おとなだ……!」

 

 うわあ、うわあと両手で口を覆いながらも興奮するリファナ。しっぽはなんの感情を示しているのか、地面をグシグシと弄り回している。

 そおっとラフタリアの様子を伺えば、くしくしとおでこのあたりを肩にこすりつけているような動きをしている。

 

 そのせいか声は聞こえなくなったが、それでも小さく聞こえる「んっ」だの「ふっぅ」だの甘く響く声が体の一部に悪い。非常に。

 

「……結界が張ってあるらしいから、俺は寝る」

 

 リファナを剥がし、距離を取って毛布に包まる。

 寝てしまおう。もやもやを頭から追い出すようにして。

 そう誓って目を閉じた。

 

 けれど。

 

 安眠は……できなかった。

 




尚文はムラムラしてる。
非常にムラムラしている。

でも、尚文にはお店で抜いてもらうという考えがないのである。
だって怖そうだもの。しょうがないね。

追記
ちょっとリアルが忙しく一週間お休みです。次回2話載せれるよう頑張ります涙


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020 奴隷から変わり始める思い

(なんだか落ち着く……。それに、きもちいい……)

 

 ぼんやりとした感覚の中で、穏やかな波のない海の中に潜ったみたいな感覚で。

 幼い昔の昔、ゆりかごに揺られていた幸せな時間みたいだった。

 

 ぱちり。

 目を開けると、私を抱きしめるあの人の姿。

 体からは私の匂いが凄く漂って、かあっと体が赤くなるのを感じる。

 

 いつのまに、この人に心を許してしまったのか、そんなはずないと離れようと体をねじって──気づいてしまう。

 

 おねしょしてる!! 

 

 慌てて、両手で体を隠す。ごまかすようにもじっと動くと太ももが触れ合って下着がねっちょりと濡れているのがわかる。

 昔したおもらしと違って、少し出ただけみたいだが、それでもおねしょはおねしょだ。

 

 起きていた彼はすんすんと鼻をならす。

 気づかれた! 

 叱られる! そう思ったらギュッと目を瞑って……。

 

「寝汗もかいているみたいだ。水でも浴びてきたらどうだ?」

 

 そう言って離れていってしまう。

 

「あっ……」

 

 私の匂いが染み付いていたその体は、どこか安心する匂いだった。

 だから、ちょっと手を伸ばしそうになってしまった。

 

 ……変なの。

 

 いつの間にか変わり始めた距離に私は戸惑いを感じていた。

 

 **

 

 くあっ。

 

 大きくあくびをする。

 女を抱いて眠ると気分が良い。起きたときの気持ちも少しだけ軽くなる感じがする。

 

 どうやら亜人の少女であっても変わらないらしい。

 

「感じやすいのかな?」

 

 匂いでわかったが、彼女は欲情して濡れていたようだ。

 幼い少女であっても性的に興奮すれば発情するし濡れる。

 だが、抱きしめられただけで濡れるとすれば結構興奮しやすいか……ああ、でも。

 

「奴隷で売られてたんだしそういうこともあるか」

 

 経験は浅いかなさそうだが、それがイコール開発されていないという意味ではない。

 それに開発関係なく、尻や性器に近い位置を鞭で叩かれたりすることでそういう趣味に目覚めるものも一定数いる。

 純情可憐で清楚に見せかけている少女にお尻を叩かれるのが興奮するのですと告白されたこともある。

 

「女か……」

 

 とはいえ、不潔なイメージがまだ残っており、どうにも抱く気が起きなかった。

 美女でなくても楽しんで抱けるが、不潔なのはだめだ。

 どうしても萎えてしまう。

 

「おい、起きたなら手伝え」

 

 とっくに起きていたらしい尚文。どこか様子がおかしく、じっと見つめると慌てたようにぷいっと顔をそむけた。

 

「あ、うん……」

 

(あれ? ズボンが変わってる?)

 

 野宿な今、パジャマなどに着替えたりしない。

 常在戦場というほどではないが、戦えるカッコのままである。

 鎧を下ろすくらいはするだろうが……寝る前と変わっている気がする。

 

(まあ、大したことじゃないか)

 

 川まで歩くと、水浴びを終えて着替えているところだったラフタリアに会う。

 

「あ、あわっ」

 

 慌てて体を隠す様子にため息を付くとむっとしたように頬をふくらませると、着替えた服を抱きかかえて走っていく。

 

「うまいといいんだけど──」

 

 そのまま魚を取ろうとして……ここでラフタリアが水浴びしていたことを思い出す。

 もう少し上流に歩き──

 

「《生命感知》《電撃》」

 

 ぱちんっ。

 静電気が走る音を数倍にした弾く音が聞こえてぷかあと魚が浮かんでくる。死なない程度に感電した魚をひょうひょいと拾ってミッションコンプリートだ。

 

 魚を持って戻ると、ラフタリアが戻ってきており、目を合わせないようにそらされる。気にせず尚文に魚を渡し、焼けるのを待って朝食を済ませた。

 

 うん、今日も美味しい。

 

 尚文のレストラン級の味わいに舌鼓を打つとともに、これは、離れるときついかも……とやや今後について考えて顔をしかめた。

 




お母さん! なんか白いおしっこでた! ってやつの女の子バージョンですよね。うん


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021 食欲増強からの餓死とか

 

「よし! よくやった!」

 

 わしゃわしゃとリファナの頭を撫でる尚文。

 戦闘訓練はだいぶ仕上がってきた感じがある。

 

 バルーンからウサピルと生物感のある獲物に移り、当初は血に怯えることもあったが、リファナが率先して戦い、それを後追いするようにラフタリアも戦うようになった。

 何が変わったのだろうか、だいぶ戦闘に積極的になった。

 ニコニコと笑顔のまま撫でられっぱなしのリファナと違い、ラフタリアは素直には要求せず、戦闘が終わるとちょこちょこと近づいてきながらチラチラと視線を向けてきたり、服の端を握ってきたりする。

 

 撫でればいいのだろうか、とそっと頭に手を乗せれば目を閉じじっとしている。

 けれどもその様子をじいっと見ていると視線に気づいてぱっと離れていくのだ。

 

 どうしろというのだ。

 

「しっかし、レベルがガンガン上がるのはいいが、食料が心もとないな……」

「リファナはよく食べるよね」

 

 そう、一時間も戦い続けるとそれだけでお腹が空くらしい。

 だから尚文は朝昼晩の食事の他に2食作っている上に、干し肉などの保存食を大量に作っては戦いの合間に食べさせている。

 ラフタリアといえば、増えた食事こそ取っているものの、一食一食は俺達と同程度で、リファナのような異常な食欲は感じさせない。

 

「というか、リファナ大きくなってるよね」

「ああ、まあな」

 

 幼女という表現がぴったりだったはずの二人だったが、リファナはぐんと背が伸び、大人びている。

 まだ幼さは感じられるが、高校一年生、と言う感じだろうか。

 食事の改善から体の肉付きも良くなっており、運動量と合わせてきれいに引き締まっている。

 胸もふっくらとし始めており、戦闘中はよく揺れている。

 尚文はチラリ見派らしく、視線をちょこちょこ向けていた。

 

 どうもリファナはそれに気づいているようだが、何も言わずにむしろ戦闘後に腕に抱きついたりしているので、意識されていることを理解しているフシがある。

 

「尚文様、ナイフが……」

 

 リファナが差し出すナイフは刃こぼれがひどく、もうボロボロだった。

 これではいずれ切れずに引っ掛けてしまい折れることになるだろう。

 

「うーん、手持ちはもうないしな―」

 

 魔物を倒し勇者武器に入れることでドロップアイテムが手に入るが、この辺の魔物からはいい武器が出ないようで、木の棒、棍棒、ハンマーなどと使用に適さないものばかりだ。

 

「仕方がない。一旦戻るぞ」

 

 尚文が食事と薬草による薬の調合を行ってくれることもあり、継戦能力は非常に高く、遠征は何日も続いている。

 正直武器さえ揃えば戻る必要すらないだろう。

 いや、あるか。

 

「リファナ、服ぱっつんぱっつんだし、買わなきゃね」

 

 体に合わせた革の鎧はもはや役に立たず、リファナは丈夫な布の服装だ。

 あえて言うなら旅人の服と言う感じだろうか。

 防御力はどこに? という装備である。

 

「そ、そうだな」

 

 胸は服を盛り上げているし、おへそが見えそうだし、スカートはミニになってしまっている。

 まあ、しょうがないよね。

 

「むう」

 

 コツンとラフタリアに蹴られる。

 友達をジロジロ見るなということだろうか。

 

 

 **

 

「おう、アンちゃん。ずっと顔見ないから心配したぜ。……だいぶレベルをあげたみたいだな」

「まあな」

 

 レベル=筋力ではないせいか、レベルほど見た目は強そうではない。

 そのへんの冒険者の方がずっと強そうだが、実際はラフタリアたちのほうが強いだろう。

 そんな武器屋の親父さんが見ているのはリファナだ。

 

「なにかあるのか?」

「亜人はレベルアップに合わせてガンガン成長するからな。特に大人になりたいとか思ってるとすごいらしいぜ」

 

 何でも成長したいと心から思っているとレベルアップに合わせて急速に成長するらしい。

 心もそれに合わせて成長するものの、知識や経験が増えるわけではないので、扱いづらい脳筋奴隷になりやすいとか。

 そのため、わざわざ獣人をレベルアップさせてまで成長させる奴隷商はいないらしい。

 

「食欲もすごかったけどな。寝るか戦うとき以外は料理を作っていた気がするぞ」

「確かに」

 

 俺と尚文は正直3食で十分なので、お腹が空いていないのに料理を作り、美味しそうに食べる二人を見るだけだった。

 

「まあ、異常な食欲はある程度強くなると止まるらしいぜ」

「それは助かるな」

 

 買っておいた調味料がきれるほどだぞと大きくため息をついた。

 まあ確かに。

 

 正直亜人で冒険者パーティーを組んでいたら食料が確保できずに餓死するんだろうかと考えてしまうくらいである。

 




男の子の亜人奴隷は集団レベリングからの強制成長させられそうですけど、
本人の気持ちが大切ならそうはならない……かなー?

でも、戦争の場合はコワイですよね。
レベルを上げればすぐ兵士になれるとか……。


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022 攻撃は最大の防御作戦

 

「それで、今日は何買ってくんだ?」

「そうだな、まずはコイツラの武器か」

 

リファナとラフタリアの装備はもうぼろぼろである。

盾の勇者のパーティ効果なのか、それともレベル差か、ろくにダメージは負わなかったし、ちょっとした怪我は魔法と薬でかんたんに対処ができた。

このパーティーは防御力多寡なので、攻撃力優先は正しい。

リファナは体が成長したこともあり、そろそろ短剣から剣……獣人の力を考えると長剣か槍あたりがいいだろうか。

ラフタリアは……体が小さいままなので短剣のままだが。

 

リファナと同じ位の予算でラフタリアに短剣を見せていると短刀を持ってきた。

攻撃力は高そうだが、ナイフのほうが普通にものを切れる分、多用途で日々の生活にも役に立つ。

それにナイフのほうが丈夫だ。

 

「あの、おそろい……」

「え? ああ」

 

刀の勇者と、ということだろうか。

うーん、たしかに使い方は教えられるかもしれないけど。

 

「でも、ナイフの方が便利だし、刀はあんまり作ってるやついないから換えが効きにくいし、ナイフにしよう」

 

これかこれ、と指差すとしょんぼりしながらこっちと言ってきた。

……そう言いながら高い方だ。

見る目があると言っていいのかどうなのか。

 

「さて、お前は……」

「尚文様、私の装備を買ってくれるのは嬉しいけど、その前に尚文様の装備を変えましょうよ」

「なんか変か?」

「もうちょっといい装備してほしいです」

 

盾の勇者の尚文は、盾以外装備できないため、武器が必要ない。

その上、高防御力の盾を持っているため、防具もさほど必要ない。

これがゲームなら、パーティーに簡単にダメージを与える様になり、かばうを使って攻撃集中を図るようになる中盤、後半までは装備はお下がりが基本になるポジである。

 

……リファナのお下がりの鎧を着る女装尚文を想像してしまい笑いそうになる。

ビキニアーマー装備尚文とか攻撃力があっていいかもしれない。

 

ぷふっと笑いそうになるところをリファナに見られる。

釣られるようにしてむっとした尚文もこちらを見た。

 

「……お前はいい装備してるな」

「まあ、防御力って大切だから」

 

かき集めたドラゴンのウロコからできた龍鱗の鎧を着込んでいる。

龍鱗は耐刃、耐熱に高い防御力の割に軽くて動きやすい。

先日のドラゴンから奪った素材でこっそりオーダーをしていたので、先程引き換えたところである。

一撃で瀕死になる程度のドラゴンだったので期待はしていなかったが、親父さんの腕がいいのか、かなり強そうである。

 

「あそこまでとは言いませんけど、もっと勇者らしくかっこいいかっこしましょうよ!」

「勇者らしくねえ……」

 

はあとため息を大きくついて、「動きやすいやつを頼む」とお金と素材をぼんと机に出す。

お、これならいいやつ用意するぜとウキウキする親父。

予約表には【蛮族の鎧+4】と書いてある。

 

「ほう。なんだ心配してたけど結構順調なんじゃないか。これならクラスアップも間近だな」

「クラスアップ?」

「ああ、限界のない勇者さまと違って、LV40で普通は打ち止めになるのさ。その制限を破り、100まで上がるようにするのがクラスアップだ」

「つまり、よくあるクラスチェンジか……」

「けど、40か。うーん、届きそうではあるけど、変にクラスアップ即、波に挑むのはなー」

 

ゲームの世界であればステータスは高いほうが強いが、現実になると体の慣らしをしないとむしろ弱くなってしまう場合がある。

例として、補助呪文は顕著で、スピードアップして一歩の歩幅が変わったせいで空振りを連発してしまうような間抜けな事象が起こったりすることがある。

慣れていても攻撃の瞬間に効果がきれて事故ったりすることもあるので、まんべんなく強化され、戦闘終了まで効果のある長時間効果が続くことが好ましい。

 

もしくは、自分自身にかけて把握できるとか。

 

「避けておくべきか?」

「ならせる時間があるならしたほうがいいけど……」

 

戦力が高いに越したことはないのは確かなのだ。

前回の波も、村人やレベルの低い兵士はともかく、戦闘訓練を積んだ精鋭や名のある冒険者は普通に戦えたらしいので、そんな冒険者や兵士のついている勇者パーティならそれほど苦戦はしないだろう、と思われる。

だが、センスはあっても根本的な戦闘経験に乏しい素人3人なので、不安は残る。

 

とはいえ、最悪現状は他の勇者パーティーと、俺がいるので、大切なのは自分を守れること、生き延びられることだろうか。

 

「いや、やめよう。そもそも波がいつかわからない。日数的にはそう遠くないと思うが」

「んだよ、アンちゃん教わってないのか?」

「何をだ?」

「国が管理している時計台が広場の方へ行くと見えるだろ?」

「そういや、見えるな、城下町の端にそれっぽい建物」

「そこにあるのが龍刻の砂時計だ。勇者ってのは砂時計が落ちたとき、一緒に戦う仲間と共に厄災の波が起こった場所に飛ばされるらしいぜ」

「へぇ……」

 

なるほど。国が尚文に余計なちょっかいを出さないのはどの道波の場に呼び出されるからか。

しかし、知らなかったら昼寝をしてたり、お風呂に入っているときに呼び出されたりする可能性もあったわけだ。

 

「ろくに国に頼ってないからしょうがないといえばそうだけど、勇者が知らされてないってひどいなあ」

「ふん、アイツラには何も期待できないさ」

 

どこかの王様が煽り続けているのか、噂は広がり続けるし、尚文の些細な行動は脚色された噂になる。

勇者にたかろうと仲間になるぜ、夜は後ろの女使わせてくれるならな! と話しかけてきたバカをバルーンの刑に処したら、盾の勇者は仲間を志望した勇気ある若者を脅して有り金を巻き上げたと噂になったりである。

 

「んー」

 

しかし、情弱はちょっとまずい。

そろそろ野宿を続けての遠征では限界が来ている。魔物を狩りすぎて発見までに時間がかかるようになってきた。

かと言って、今知っているのは高レベル用の、しかも勇者的には美味しくない場所だけだ。

情報収集なしに無意味に行動して村や目的地が見つかるのはゲームだけである。

 

波が終わったら情報収集がてら他の勇者の情報も集めなきゃな。

 




ユウ「情報集めに行ってきます!」
尚文「(こいつ女抱きに行くんだろうな……溜息)」


いや、そろそろエロいことも書かなきゃいけないかなって!


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023 約束の期日は最初に確認しておこう

 

 波の正確な時間を知るため、俺達は親父さんにきいて時計台へと歩く。城下町でも高所に位置する時計台は近づけばすぐにその存在に気づく。

 

 観光地というわけではないようで、入場代は特に取られていないようだ。教会のような見た目のドーム状の建物。

 その門は開かれ、人々が出入りしている。

 

 受付にいる女性はシスター服を着ており、勇者である俺たちに気づいたようである。

 成人女性で大きめの胸が内側から服をお仕上げている。

 泣きぼくろがなかなかセクシーな女性だ。

 

「盾の勇者様、刀の勇者様ですね」

「波の時期が知りたくてきた」

「はい。ではこちらへ」

 

 案内された先は教会の奥で、そこには安置された大きな砂時計がおいてある。全長だけで7メートルはありそうな巨大な砂時計だ。

 その大きさと、美しい装飾にどことなく神々しい印象すら受ける。

 

 砂はだいぶ落ちており、もう残りは少ない。

 落ちきるのはもう直ぐだというのは俺にも分かった。

 

 ピーンと刀から音が聞こえ、二本の光りが龍刻の砂時計の真ん中にある宝石に届く。

 すると俺の視界の隅に時計が現れた。

 

 75:12

 

 3日後には波の時間のようだ。

 親父さんに頼んだ装備が出来上がる頃だろうか。

 多少時間はあるが、外で悠々と狩りをするほどではない。

 ちょっと微妙な日数な気がする。

 

「ん? そこにいるのは勇と尚文じゃねえか」

 

 かけられた声に振り向くと、そこには槍の勇者の元康がいた。

 あれ? 首をかしげる。

 元康はぞろぞろと女性のパーティーメンバーを引き連れていたが、メンバーが違う気がする。入れ替わったのだろうか。

 まあ、よくあることか。

 

 前勇者だったときは孕ませるたびにパーティーが入れ替わったので、一月二月しか持たなかった。

 四ヶ月もあれば全入れ替えである。これほどペースの激しい入れ替わりはゲームでもそうそう見ないだろう。

 

「元康、元気そうだね」

「おう。竜装備のおかげで想定よりぐっと先に進めたからなー。なあなあ、波が終わったらダンジョンに付き合ってくれないか? ダンジョンは危ないし、波が終わったらみんなにはちょっと休みあげようと思ってさ。その間にどうかなって」

「んー」

 

 おそらく波を経験すればラフタリアもリファナもレベルキャップである40に行くかもしれない。

 クラスチェンジしたらしばらくは慣らしの訓練になるだろうから、尚文に任せてしまっても大丈夫だろう。

 

「わかった。波のあと付き合うよ」

「やりぃ! ちょうどこのレベル帯と少人数プレイで美味しいところがあるんだよ」

 

 ガシッと手を握られ、ブンブンと上下に振られる。ニコニコしており、嬉しそうだ。

 その反面、元康の仲間の女性陣はあまりいい気持ちではないらしい。なんとも言えない複雑そうな表情を浮かべている。

 尚文は目を鋭く尖らせて睨みつけている。

 やっぱり元康が嫌いなのだろう。

 マインはと言うとこちらの視線に気づくと嬉しそうにニコリと微笑んだ。

 

「おい、勇、さっさと行くぞ」

「なんだよ、つれないな」

 

 元康は呆れたような、蔑むような視線で尚文を上から下まで一瞥する。

 

「なんだお前、まだその程度の装備で戦っているのか? 勇に手伝ってもらってるくせに」

 

 確かに、元康は約一ヶ月前の時とは雲泥の、なんていうか高Lvだと一目で分かる装備をしていた。

 鉄とは違う、銀のような輝く鎧で身を固め、その下には綺麗な新緑色の高そうな付与効果がついているだろう服を着ている。

 魔法効果を持つアクセサリーも身につけている。

 

 武器といえば竜の素材をもとにした、鋭いやりを構えており、装備の面で言えば尚文とは比べ物にならない。

 

 まあ、初期装備が良かった元康と育てるところから始めなきゃいけなかった尚文の差とも言える。

 

「……」

「何よ、モトヤス様が話しかけているのよ! 聞きなさいよ」

 

 元康のパーティーメンバーがそう尚文に言うが、聞こえないとばかりだ。

 

「ナオフミ様? こちらの方は……?」

 

 リファナが何かを察したように、元康たちをにらむように見つめる。

 

「……行くぞ」

 

 けれども、答えずに尚文は出ていった。

 おいてかれないようにとたっとリファナが走ってゆき、それを追うように歩くと遅れて不思議そうに首をかしげながらラフタリアが追いかけてきた。

 

「あ、勇さん、元康さん、……と尚文さん」

 

 入り口から入ってくる樹。

 どうやら彼も時間を確かめに来たのだろう。

 

 しかし、龍刻の砂時計を一度見ればどうやら時間がわかるようなのに、後少しと言うところでようやく確かめに来るあたり、どうやら国は勇者がどう確認できるかまでよくわかっていないようだ。

 波についてはもしかすると国はあんまり役に立たないかもしれない。

 

「パーティーを増やされたんですね」

「ああ。俺は盾の勇者。戦えないからな」

 

 樹はリファナを、ついでラフタリアを見て、俺を見た。

 うんと小さくうなずいて、

 

「波で会いましょう」

 

 といって奥に行ってしまった。

 

 彼もかなり装備が整っている。

 連れている仲間の平均的な装備自体が良くなっているので、バランスよく整えるたちなのだろう。

 一部装飾にお金を使ってそうな、見た目がいいが、平均的にはそこまで強くなさそうな元康パーティーと比べるとだいぶしっかりしている。

 

「勇……」

「なに?」

「今日は、解散にしよう。疲れもあるだろうし、それぞれ行動しよう」

「ああ、うん」

「リファナ、ラフタリアと遊んでこい。夜には宿に戻れよ」

 

 そう言うとお金を渡して歩いていってしまう。

 いらだちと申し訳無さを含む複雑な表情をして。

 

 ──なぜ……。

 

 はっ! そういうことか。

 一人になりたかったんだな。

 

「ふたりとも、今は尚文を一人にしてあげよう。俺はちょっと情報収集してくるね」

 

 元康のパーティーが大人の女性ばっかりで、イライラムラムラしちゃったんだろう。

 子供と別れてお楽しみの時間に違いない。

 

 尚文はお店に行けないタイプだと思ってたけど、やっぱり長時間外で生活しており、自由に抜けない生活のせいで溜まってしまったようだ。

 

 しょうがないね。溜まっちゃうとね。エロいことしか考えられなくなっちゃうもんね。

 

 ウンウンとうなずく俺のことを不審そうに見つめるラフタリアに気づき、ごまかすように手を振りながら、歩き出す。

 




尚文は自分と元康との違いに色々複雑な気持ちを感じて真剣なのにこいつときたら、エロいことばかりである。

ちょいと風邪引いてました。つらみ。


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024 回復魔法の使い方を教わっているだけ

 

 今回、メルロマルクは異例の四勇者召喚の儀式を行い、4人の勇者どころか、5人の勇者を呼び出した。

 刀の勇者というのは初めての存在であったが、教会の調査により、四聖ではなく、眷属器であり、七星勇者……いや、こうなっては八星勇者であると認められた。

 

 異世界から勇者を呼び出す四聖と異なり、斧、杖、投擲具の勇者は基本的には現地の人間から選ばれる。

 今回は異世界からの勇者であったが、他の武器も今回のように召喚され、この世界に定着したのだろうと言われている。

 なんでも、昔は八星だった説もあったそうで、増えたり減ったりするのはないこともないのだとか。

 

 何にせよ、新しい勇者はその日のうちに教会に認められ、勇者として広く伝えられることになった。

 

 亜人に味方する盾の勇者と違い、刀の勇者は特段亜人に味方をしているわけではなさそうだ。

 初日から城の多くの人間と仲良くなり、勇者同士の連携を考えて支援の約束までしている。

 人数の関係で盾についていったのは誤算であったが、それもこれも人数を揃えるまでの話になるだろうということだったので、刀の勇者に対しては何もする必要がない、普通の七……八星勇者として支援することと教会のお達しがあった。

 

 

 **

 

 シスターアッテノは三勇教で生まれたシスターである。

 生まれも育ちも教会で生きた彼女はどっぷりとその価値観に浸かっていたものの、回復魔法を得手としていたことで扱いがよく、そのため、少々我欲が強かった。

 いずれ自分は最大に幸せになって生きるだろうと盲目的に信じていたし、教会は自分ののぞみを叶えてくれるだろうと思っていた。

 

 若干、その気持とずれだしたのは、成人してからで、ある程度おとなになると、一生を教会に捧げるもの以外は嫁ぎ先などを打診されるものなのだが、教会が呪いや回復を得手とするシスターを手放さないように、教会と付き合いの深い貴族や騎士などの優良株を紹介しなかったのだ。

 紹介されるのは十も二十も年上の司祭などで、たぷんと実り豊かなタリタの胸をなめるように見てくる相手に断りを入れることになった。

 それが2度、3度と繰り返すうちに、教会からは一切の紹介が来なくなってしまったのだ。

 

 ファック! 

 

 しかし、ある意味閉じた世界である教会で、上からのつながりなしに結婚なんてまともに成立しやしない。

 下手に回復魔法が得意だったがためにこんなことになるなんて。

 いままでは身近な男たちと結婚してゆき、あなたの人生、パン屋の男の妻になるためにあったのかしら? なんて内心バカにして笑っていたせいだろうか。

 

 おお、神よ。反省いたします。

 ですから私にチャンスをください。

 

 そんな祈りが通じたのか、たしかにチャンスは来た。

 刀の勇者様が回復魔法を覚えたいと私を訪ねてきたのだ。

 正直幼く、盾の勇者と仲のいい彼にはちょっと複雑な思いがあったが、彼は他の勇者様とも仲が良いと聞いた。

 もしかしたら紹介も? そう思えばやる気も出る。

 

 ニコニコ微笑み、教えてみれば思いの外筋がいい。これも勇者様の力だろうか。特に回復魔法は実践が難しい。

 傷がないとなかなか経験を積めない上に、けが人なんてそうそういないからだ。

 

 だから練習がてらに自分を切ってとなるが、なかなか自分を傷つけるのは勇気がいるものだ。

 けれど彼は簡単に自分を切って、簡単に癒してしまった。

 相手によっては自分を傷つけるのは嫌だからあなたが自分を切れと言ってくるような相手もいる中でなかなかいい。

 

 よく見れば顔も整っており、どこかセクシーでもある。

 少年にあるまじき色っぽさを持っており、見ているだけで、ゴクリと喉が鳴った。

 

「アッテノさんは教えるのがとっても上手だね」

「ありがとうございます」

「もっと教わりたいんだけど、タニタさんの部屋で教えてもらうことってできないかなあ?」

 

 右手を両手でそっと掴まれてそうお願いされる。

 指先は柔らかく私の手を撫でており、それだけなのになぜか胸の鼓動が早くなる。

 

 ──チャンスだわ。

 ここを逃せば次のないビックウェーブである。

 

 少年なんて、と思っていたが、相手が彼なら全く問題ない。

 まったく、もんだい、ないわ……。

 

 ニコリと笑う少年をみて、愛欲がどろりととろけるのを感じた。

 

 

 **

 

 

「は、っ、ううん」

「胸だけでイッちゃうの? ヨワヨワだなあ。誰かに揉んでもらったことはないのかな」

 

 後ろに回られ、覆いかぶさられるようにして、背中から伸びる手にくにゅくにゅと胸を揉まれている。

 触れるその手の動き一つ一つに快感があり、全く体が思うようにならない。

 

 はあ、はあ。

 

 犬のような荒い息の音が頭の中で響く。

 

「興奮しっぱなしじゃないか。そんなに年下の男が好き?」

 

 ぷっくりとして色っぽいと褒められた唇に、その細くてしなやかな指が潜り込んでくる。

 口内をクチュクチュといじられるだけでぴくんぴくんと体が震える。グチュグチュになっていくのがわかる。

 

「いい年して、相手がいないんだって? もったいないなあ。せっかくの体も無駄だよね。だから、ちゃんと使ってあげる」

 

 ベロを掴まれると親指でこすられる。

 自分を好き放題にされていることに、幼いはずの少年に抱きしめられるだけで全く動けない今に感じている。

 

「あ、ひいぅっ!」

 

 ああ、素敵。なんて素晴らしい雄なのかしら! 

 死んだような干からびたジジイたち、教会努めの貧弱な男たちとは全く違う。それでいて筋肉だけでできているような醜い輩とも違い、可愛らしさすらある。

 

 そんな天使のような相手に私は虐められているのだ。

 好き放題されているのだ。

 

 ああ、

 

 なんて、

 

 背徳なのぉ……! 

 

 アッテノは美しい少年に愛欲を感じたことがあった。けれども相手をしてほしいなんて思わなかった。何も知らない無垢な彼らに自分が教えて汚さないといけないというのはなんだか気が引ける思いを感じていた。

 けれど、そんな存在に襲われるのは、汚されるのは

 

 ──最高なのではないだろうか? 

 

 今の胸の高ぶりがそれが正しい答えだと囁いていた。

 

 勇者様、ああ勇者様! 

 たくさんいじめてください、汚してください。

 この世でもっとも尊きお方による恥辱はどこまでも麗しい。

 あなたのためならどこだって開かさせていただきますわァ! 

 

「ほら、もっと自分の指で広げて見せてよ。だらしなく濡れて早く入れてほしいって言っているところ、見せて」

「は、ァい……!」

「へえ。年の割にぴっちり閉じてるしきれいなんだね。シスターなんて性欲持て余してオナニーばっかりしてると思った」

「わ、私は、いつか素敵な方に捧げるためのものですからぁ」

 

 処女なんて価値を感じなかった。けれども教え込まれた教えが、価値のない男にやるのは惜しいと思わせていた。

 

 奥の奥まで見えてしまえと両足を開いて、両手でぱかりと広げれば、そこを見つめる視線だけでとろとろ愛液がたれてくる。

 もうすこし時間があれば開きすぎて自分で膜を破ってしまっていたかもしれない。

 

「ああ、お願いします、あなた様のをください」

 

 見知っていたものより遥かに大きく天に向かってそそり立つそれは……幸か不幸か、だくだくと濡れていたせいもあり、ズルリと奥まで入っていった。

 最高位の興奮は、かすかな痛みをさらなる快感に変えた。

 

 ああ、素晴らしい。

 

 こんな素敵な勇者様に抱かれることができるなんて。

 それに、勇者の子供を宿せれば、それだけでもう一生安泰である。

 勇者のための教会は、勇者の子供の為にもあるのだ。

 

 ああ、なんて素晴らしい人生なのかしら。

 

 フレームの太い眼鏡の奥には歓喜に歪んだ笑顔を浮かべるシスターの笑顔があった。

 




仕事忙しくていつの間にか一週間が……。

他の相手と違い、割と自分本位に勇者の立場を有効利用しようとしているどこぞのスタイリッシュ痴女さん似の教会のメガネシスター。
まあ、勇者も教会の知恵目当てのため、お互い様の模様。


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025 教会は味方ですよ―ほんとですよ~

我欲にまみれた人間を見ると、ほっと安心してしまうのはなんでだろうか。善人より、利益でつながる相手の方を信頼してしまうのは異常ではないだろうか?

 

自分ではなく、自分が与える利益に抱かれたようなシスターは、けれどだからこそ自分に惹かれ続けるだろうという確信を得て、そこに安堵するような自分に微妙な気持ちになるのだ。

 

「あーあ。もう空っぽだな―」

 

びゅるるると、数秒は続く射精を十発は出した。

彼女の性器は精液で溺れており、穴どころか、周りの陰毛も白く塗りつぶされていた。

 

まあ、回復魔法を使えばいっしゅんでパンパンになるが、お腹がいっぱいなのにせっかくだからと詰め込むようなもので、彼女は無理をしてまで食べ尽くしたい料理と言う感じでもない。

スッキリできれば十分だ。

 

回復魔法を使えたおかげで、自分でやらなくても体力を回復して腰を振ってくれたりする分、性欲処理には便利だったが、それだけなら数人抱けば同じだ。

けれど、彼女のもつ、教会の情報というのは十分な価値である。

 

生まれてずっと教会にいたと言う割には世俗にも詳しいと言うか、それなりに世間なれしており、教会を聖なるものだと盲信するような部分はそこまで強くなさそうだった。

 

(しかし、勇者武器ねえ)

 

四聖勇者の武器を模した力を持つ魔法の武器。

大量の魔力を必要とするものの、恐ろしいまでに強力。

 

(でも、勇者に吸収させればそれこそ、一人の勇者が複数の勇者の力を使えるようになるのでは?)

 

刀の自分にはコピーできないかもしれないが、四聖なら行けそうだ。

最初の波でそれを使うという手もあったはずなのに、そうしなかった。

つまりこれは――

 

(召喚した勇者を行使の対象にしている?)

 

勇者召喚の役者のひとりである教会は同時に勇者がよろしくない人間だったときに処分する役目も兼ねているのではないだろうか。

 

(召喚された勇者がみんながみんないい相手とは限らないし……)

 

けど、盾の勇者を害することはなかった。

いや、冷遇はしている。

けれど、暗殺はされなかった。

 

下手にレベルを上げるその前に害することも、罪を確定させ、バツとして行うことも強くなる前ならできたはず。となればなるべく殺したくないのは間違いない。

勇者の再召喚が全員がいなくならないと行えないことから考えても、教会が動くのは全員を変えたいとき、と言っていいだろう。

トランプで言えば手札を全替えするのはブタのときだけだ。

 

評判はあれだが、尚文はいい勇者だと思うし、他の三人も意欲的だ。

 

教会が敵になることは早々ない。

これがわかっただけでも大きかった。

 

シスターの案内で、教会にある色々な素材を吸収させてもらうと、アンデッド系の特攻がついた太陽の力を持つ刀も開放された。攻撃力自体は劣るが、特攻はよい。

 

スッキリした気持ちで宿に戻ると、妊婦のようにパンパンに膨れてベッドに寝そべるラフタリアと、それを介抱するリファナがいた。

 

「楽しんだみたいでなにより」

 

するとラフタリアがムクリと起き上がる。

ぱかりと開いた口からはあのお店は美味しかったあの料理は初めて食べた店員の態度が悪かったおばちゃんがやさしかったとマシンガンのようにまくし立ててくる。

 

リファナも楽しめていたようで、表情が柔らかくなっている。ラフタリアのようにお腹は膨れていなかったが。

 

しかし、獣人ってすごい。ちんちくりん小学生幼女だったリファナは今では女子高生サイズだ。

精神的にもどこか成長しているのを感じる。

反してラフタリアははちきれんばかりのお腹をしていたりと幼く感じるが。

 

座るところを探して、空いた椅子がないため、ベッドに腰掛けると、ふんすふんすと鼻息荒く嬉しそうだったラフタリアが何かに気づくように鼻を鳴らして首を傾げてから少しずつ表情を変えていく。

 

なにか悪い思い出でもあったのかとリファナを見ると首を横に振る。

まあいいか。

 

席を立ってまた明日とドアを締めると――

 

「ああ、帰ってたか」

 

とどこかスッキリしたような尚文がいた。

じっと見つめる。

すると何だよとガラ悪く返されたが、俺にはわかった。

 

――童貞のままだった。

 

童貞のままなのにスッキリしてるってどういうことだろ??

うーんうーんと唸ってみたが答えはわからなかった。

 




教会の武器って勇者も使えたら便利そうですよねー。
特に盾の勇者的には武器になるので最高かも。

やり直しではモリモリ盾の勇者を殺しているので、勇者を殺すのはよくない、けど政治的に戦争に発展するほどなら殺す、ってくらいの立ち位置なんですかね。
勇者確保していることで、波が早まったとしても自分の国は大丈夫的な気持ちもあるのかな。

そういえば、財政面で解決されていることもあり、鉱石掘りに行かなかった勇者一行。
まあ、リファナちゃんは狼モンスターにトラウマないしね。


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026 初めての波

 00:17

 

 すべての準備を整えた。

 レベルもパーティーとしては十分に上げることができただろう。

 

 ……盾の勇者のパーティーレベルを上げるより、自分のレベルを上げることを優先すべきだったんじゃないだろうかという不安はある。

 けれど、先のことを考えるなら一人戦えない勇者である盾のパーティーを強くするのは最優先ではある。

 

 大丈夫。

 

 波は段階的に強くなる。前回は勇者がいなくてもなんとかなるレベルであったのだから、問題はないはずだ。

 

「もう少しで、波か……」

 

 直前に控えて落ち着かないのは自分だけではないようで、尚文は最後の準備と薬を確認している。

 リファナはそれを手伝っている。

 ラフタリアは手持ち無沙汰のようで、俺の周りをぷらぷらとあるきまわっている。

 

「落ち着きなよ」

「はい。でも」

「緊張しすぎると失敗しちゃうから」

 

 ガクガクと小さく震えているラフタリアは、ただの小さな女の子に見えた。

 隣に座らせると、手を握ってやる。

 

「ユウ様。実は私……最初の波が来た時の災害で奴隷になったんです」

「……そっか」

 

 波は彼女にとって、破滅の象徴なのかもしれない。

 ポツポツとラフタリアは語りだす。

 裕福ではない村ではあったものの、両親が優しかったこと、友達と楽しく生きていたこと、けれど、その全てが失われてしまったこと。

 遊びのように化け物たちは自分たちを痛めつけて殺し回ったこと。

 

「でも」

 

 表情を消して淡々と悲劇を語ったラフタリアは、掴んだ手をギュッと握り返す。

 

「おかげで強くなれました。あの波に、立ち向かえます」

 

 震えで小さくなっていた体はいつの間にか止まり、ナイフを握りしめ、しっかり目を見返してきた。

 瞳の奥には小さな怯えを残しながらも、勇ましさと、強い怒りが彼女を支えているようだった。

 少しずつ、彼女も成長していた。

 よく見ればやせ細ったその体には柔らかい体と、その奥にはしっかりした筋肉が付きはじめていた。

 

「そうだね」

 

 ラフタリアも、尚文も、リファナも強くなっている。

 きっと、大丈夫。

 

 00:00

 

 そして、災厄の時が来た。

 

 ビキン! 

 

 世界中に響く大きな音が木霊した。

 次の瞬間、フッと景色が一瞬にして変わる。転送されたようだ。

 

 まるで空に大きな亀裂が生まれたかのようにヒビが入り、不気味な紅に染まっている。

 魔物の気配を感じて刀を抜く。

 慌てる尚文たちとは別に、走ってゆく勇者たちと、走りゆく十以上の人たち。

 流石に訓練を続けているだけあって、鉄火場での行動が早い。

 

「ナオフミ様! ここはリユート村付近です!」

 

 リファナは周りを見渡し、焦るように言う。

 波が起こること自体は街でも知られていた。

 けれど。

 

「そうか! どこで起こるかもわからないのに避難なんてできるはずがない!」

 

 だが、勇者たちは波の根源へ向けかけていっている。仲間も同じだ。

 ウジャウジャと魔物たちは溢れている。

 追うか、守るか。

 

「俺たちは村を守るぞ!!」

 

 尚文とリファナは駆けていく。俺もそれを追おうとして……止まる。

 

 ──ラフタリア? 

 

「あ、足が、動かないんです……おか、おかしいんです」

 

 腰を抜かして、尻もちついて、プルプルと震え続けていた。

 あんなに振り絞っていたはずの勇気も怒りも萎えてしぼんでしまっていた。

 今は恐怖に犯されているようだった。

 

「あんなに、あんなに心に誓ったのに……」

「そっか」

 

 仕方がないことだ。自分のすべてを奪った災厄に誰もが勇気をもって立ち向かえるわけじゃない。

 落ち着くのを待ってやりたい気持ちもあるが、そうも言ってられない。

 勇者が好き勝手が許されるのはそれだけのことを勇者がなせるからだ。

 クズで女を抱かずにいられない俺が好きに生きていくためにも結果を出さなければいけない。

 

 そして、それを別にしても、魔物にめちゃくちゃにされた町や村は悲惨だ。

 悲しみの涙、癒えない痛みが胸を撃つ。

 なにより、美人が死んだら損失である。

 

「でも、俺は助けに行くよ。一人でも。落ち着いたら、追ってきてくれると嬉しいな」

 

 奴隷への命令にならないように言う。

 

 走って追っても尚文にすぐには追いつけない。

 戦場が村で避難がされていないなら大きな魔法を放つわけには行かない。

 

 なら。

 

 ラフタリアに背中を向けると、空へと飛び上がる。

 

「《風の加護》《飛翔》」

 

 空へと飛び上がる俺に向けて天から降りてくる魔物が飛びかかってくるが風の加護に阻まれ、そのまま地に堕ちていく。

 

 下を見れば魔物に襲われている村が見えた。




ラフタリア「私はやる気に満ち溢れてます! 波なんて一発ですよ!」
ラフタリア「なみこわい。もうだめ……」

事前に黒い狼モンスターと戦わなかったばっかりに心が強くなってないラフタリア。
まあ、トラウマだからね。レベル上げただけじゃね。


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027 波の戦い

 

 襲われる村人をすぐにでも助けなければいけない。

 しかし、村という人と魔物が入り混じった状態で正確に対象を指定するのは恐ろしく困難である。

 人と見れば敵意を抱く魔物とは逆に、人間は勇者だからといって同じ気持ちを抱いたりはしないので、以前に草原で敵意を持って魔物のみを選んだような方法は行えない。

 

「《範囲指定》」

 

 手をかざすと薄緑の光の膜が村を包む形で展開される

 

 範囲内に数多の赤いアイコンが現れる。

 四方八方から敵意が満ち溢れている。

 

「《生体感知》《ターゲット:敵意》《ターゲット:反転》」

 

 すべての赤いアイコンにロックアイコンが表示されてから、すぐにそれ以外のアイコンがロックされる。一度敵のみを指定してから、それ以外の生命体を指定することで、敵意のない生命体、すなわち村人を指定できる。

 恐ろしくまどろっこしい。

 対象がパーティーであれば一発だけど。

 

「《プロテクション》」

 

 一定ダメージを完全に防ぐ盾が村人たちを守る。

 ダメージ減少量は小。

 雑魚とはいえ永遠と防ぐ事ができるほどではない。

 だが、ある程度の間は十分に防ぐことができる。

 

 現に子供を抱いて守っている女性をゴブリンみたいな魔物が曲刀で切りつけているが、その刃は体に触れることなくするりと滑っている。

 

「これは……」

 

 村人を襲う魔物と村人の間に割入って殴りつけた尚文のそばに降りる。

 

「とりあえず盾をつけたから、今のうちになんとかしよう」

 

 範囲を指定して敵を焼き尽くすことはできるが、天から増援が出続ける今、一度退けたところであまり意味はない。

 それに、そもそも、波の魔物を一人で倒してしまっていいのかという問題もある。

 時間内は村人も勇者もけが人が出ない状況なのだから、できる限りでレベルは上げておいてほしいものである。

 

「尚文! 尚文はどんどん村人を襲う魔物を倒して」

「っ! 盾に無茶言うなっ!」

 

 そう言いながらも、リファナをフォローすることで、魔物の動きを止め、リファナが一撃で魔物を倒し続けていく。

 

 ダンスを踊っているようだ、といえばいいのだろうか。

 リファナは全く足を止めず、魔物を屠り続けている。

 自分が一番にいいように支えてくれると信じ切った動きだ。

 

 はあー。いつの間にここまで合わせることができるようになったんだろう。

 リファナはまるで尚文の剣のように忠実に、そして主の意思のまま、魔物を倒し続けている。

 

「《シールド》」

 

 あたりに火の雨が降り注ぐ。

 プロテクションを破るほどではないが、量が減る。

 自分中心という性質があるが、魔力の盾を構えて尚文を守る。

 

 どうやらようやく騎士団が到着したようだが、魔物であふれる状況に魔法を使える者たちがぶっぱなしたようだ。

 守っているのを知っているのだろうか。知っていても知らなくてもその行為にはため息がつく。

 

「おい! こっちには味方がいるんだぞ!」

 

 騎士団の隊長らしきものは不快感をあらわにしながらぺっとつばを吐くと、こちらに頭を下げてくる。

 

「刀の勇者様もこの場にいたとは申し訳ありません。なによりこの素晴らしい盾。私達にもつかってはいただけないでしょうか」

 

 ふてぶてしいとはこのことだ、といえばいいのだろうか。盾の勇者をまるで存在しないかのように扱う。尚文がめちゃくちゃ怖い顔をしている。

 しかし、こう言われたら使わないわけにはいかない。

 

「《プロテクション》」

 

 視認範囲で対象しかいないのであれば問題なく複数にかけられる。

 強力な盾が騎士たちを守る。

 一方的に攻撃される村人と違い、戦える彼らなら今回の波では傷ひとつ負わないかもしれない。

 

「ナオフミ様に何をするんですか!」

 

 突撃してくるのはさっきまで村人を守って魔物と戦っていたリファナだった。

 

「盾の勇者の仲間か?」

「はい、私はナオフミ様の剣! ナオフミ様を守ります」

「……亜人風情が騎士団に逆らうとでも言うつもりか?」

 

 ぎりぎりと鍔迫り合いをしているが、実際はお互い切り合ってもどちらも怪我一つしないので、微妙なところだが、リファナは真剣に尚文のために怒っているようだ。

 怒りを顕にしながら尚文の前に立つ彼女の表情が美しくてぼうっと見つめてしまっていた。

 

「おい、やめろ! 敵は波から這いずる化け物だろう。履き違えるな!」

 

 その言葉に、隊長はともかく、周りの騎士団員たちはバツの悪そうに顔をそらす。

 隊長もまた、その空気に苛立ちながらも、一歩離れる。

 

「いくぞ、お前たち!」

 

 そう言って村の魔物へと向かっていくが、すれ違いざまに「犯罪者の勇者が……」と吐き捨てていった。

 盾の勇者への悪感情は根深いなぁ……。全員が全員でないのが救いだろうか。

 

「……さあ、俺たちも行動を再開するぞ。勇、お前も魔法一つで仕事を終えた気になるなよ」

 

 とはいえ、被害がでないのなら、全勇者パーティーを強化できるこの機会は皆に譲るべきではないだろうか。

 燃える建物から空気をなくして鎮火したり、避難を手伝ったりと村の中を何をスべきか迷いながらそのばその場で思いつきのように助けながら歩く。

 

「ユウさま……」

 

 そこには涙と鼻水でぐちゃぐちゃになったラフタリアがいた。

 村を対象にしてしまったため、騎士と同じくラフタリアにもプロテクションの守りはなかった。

 だからだろうか。

 いくつかの傷を負い血を流していた。

 けれど、戦ったのだろう。短刀には魔物の血で染まっている。

 

「来たの?」

 

 正直、付き合いで買った奴隷だった。

 しばらく一緒に過ごして、情は湧き出していた。

 だからこそ、戦えないならそれでもいいかと思った。

 なにせ、俺は強いから。

 一人で戦えてしまうから、仲間なんて本当は必要ないのだ。

 

 戦わないならそれでいいし、死なないならいい。

 かつての仲間たちも、戦線の途中で何度も別れてきた。

 それは大半が怪我ではなく妊娠したからであったけど、神の使徒である勇者の子を孕んだことで彼女はみんな笑顔で去っていった。

 

 ありがとうございます! そう言って満足して去っていった。

 俺は戦い続けるのに。

 

「私は、戦います。最後まで一緒に、戦います!」

 

 みっともない姿だった。

 ぼろぼろで、出会った頃のように薄汚れて。

 

「勝手にしたら」

 

 ああ、そういえば最後まで一緒にいる(最後まで戦います)なんて初めて聞いたかもしれない。

 




カメラのないところで震えながらも戦ったラフタリア。
ちょっと距離が縮んだ様子。

そして三勇者は強くなっているのでボス戦はそんなに時間はかからなかった模様。


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028 波の戦いの終わり

 

 俺はラフタリアの怪我を癒すと、プロテクションをかけ、ラフタリアが魔物を倒していくのを見守っていた。

 体格の違いか、リファナほど鋭くも早くもなかったが、躊躇や恐怖が消えたせいか、前よりも一歩踏み込めており、十分に一撃で倒すことができている。

 

 この分なら十分に経験も積めているだろう。

 リファナは当然として、ラフタリアも40レベルに到達できるかもしれない。

 

「俺の魔法がお前を守ってる。攻撃されることを恐れずに突っ込め」

「はいっ!」

 

 その一言により、攻撃を恐れずに突っ込むラフタリア。

 攻撃を紙一重で避けながらも、倒していく。

 村獣の魔物を倒しながら一回りする頃には、戦いは終わったようだ。

 

「ま、こんな所だろ」

「そうだな、今回のボスは楽勝だったな」

「ええ、これなら次の波も余裕ですね」

 

 勇者たちが今回の一番のボスらしきキメラの死体を前に雑談交じりに話し合いを続けている。

 怪我はパーティー含めて誰もないようだ。

 

 まあ、今回は敵が弱かった。ボスであっても同じようで、彼らの皆が……いや、一人戦士がプロテクション切れしているようだが、それ以外は皆無事のようである。

 彼もさほどの怪我ではなく、癒やされている。

 

 尚文はそんな三勇者を苛立ち混じりで見ていたが、兵士の声に非常に嫌そうな表情に変わった。

 尚文のお城嫌いも根深いなあ。

 最も良くなるところがないので仕方がないといえばそうか。

 

「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい」

 

 準備が早いので、最初から宴の用意をしていたのだろうが、のんきなものである。

 

 尚文に村の連中が感謝を伝え、それを少しだけ嬉しそうに受け取った尚文を見る。

 胸を張るリファナは尚文とくっつかんばかりの距離である。

 

(なかよくなったなー)

 

 ぼんやりとそんなことを考えていると、ラフタリアがやってきた。

 

「ユウ様」

「なに?」

「私、頑張りました」

「そうだね」

 

 確かに頑張った。トラウマを超えて戦える人間は多くない。ごつい髭面の兵士が恐怖に震えて戦えないと泣いている姿を見たことがある。

 恐怖を乗り越えられる人間は少ない。

 

「だから、褒めてください」

 

 目をぎゅっとつむってぐいっとその茶色い髪の頭を差し出す。耳は不安なのかぺたりとたれている。

 

「まあ、いいか」

 

 頭をがしがしと撫でると、ぴこんと耳が立ってわっさわっさとしっぽが揺れる。

 

「わかりやすいな、お前は」

「えへへ」

 

 手を浮かせようとすると耳がへたれるので、兵士から催促されるまでなで続けた。

 




ちょっと短いですが戦いの終わり。
三勇者がよゆうよゆうと言っていますが、ダメージも受けないし、
ドラゴン装備もあるしとだいぶ余裕だった模様。


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029 勇者会議その1

 

「よっ、来てやったぜ」

「先に来ていたのは感心だが、わざわざ呼び出すとはな」

「しかも、あの人まで呼んでいるとは思いませんでした」

 

 王城の一室に、彼らは集まっていた。

 四聖と言われる四人の勇者は、先に待っていたもうひとりの勇者に視線を向ける。

 

「それで、勇。なんで俺たちを……コイツらを呼んだんだ?」

 

 こんな場所には一分一秒居たくないとばかりの吐き捨てるような言葉。

 盾の勇者のその言葉に、刀の勇者は笑って応えた。

 

「勇者会議をしようと思って」

 

 **

 

 コホン。

 一つ咳払いをしてから周りを見渡す。

 円卓の席についた彼らは興味深そうだったり不愉快そうだったり色々だ。

 

「波は次の波までだいたい一ヶ月、と言う話だったでしょ? 実際はもうちょっと長かったけど、一ヶ月と考えて、各勇者に一週間ごとに手助けをしようと思って」

「はーん、なるほどな。けど、尚文のお世話はもういいのか?」

 

 元康の明るい声に、尚文は不快そうに鼻を鳴らした。

 

「ご飯美味しかったし、キャンプ手慣れてたし、そこまでお世話をした記憶はないけど、一人じゃ戦えない盾の勇者に、戦える仲間ができたし、波でもしっかり戦えたから、そろそろいいかなって。元康に誘われたってのもあるけど」

「ちっ!」

「お、ちゃんと覚えてくれてたか。そうそう、俺、勇とちょい冒険を──」

「それよりだ。あの魔法はなんだ?」

 

 不愉快そうな尚文。勇者に囲まれているせいか、何でも不快そうである。傷は根深い。逆に嬉しそうにニカっと笑った元康の言葉を錬が遮る。

 

 だが、詳細を知りたいと思っていたのは錬だけではなかったようで、勇者全員の視線が集まる。

 

「プロテクション。攻撃、魔法ともに、一定量まで必ず防ぐ魔法だよ」

「それはすごいですね」

「けど、一定量までか」

「そう、一定量まで。中盤までは大活躍だけど、高位魔族が出てきたあたりから、割合減少のほうが強くなったかな」

 

 ドラゴンからであっても耐えるプロテクションではあるが、金色の鱗を持ったグレートドラゴン、カイザービーストなど高レベルの魔物相手になるとプロテクションは一撃すら防げずに割れることになり、お蔵入りとなった。

 雑魚には徹底的に強い半面、強者には頼りにならない魔法である。

 

「でもすごいですよね。アレのおかげでパーティみんな攻撃に専念できましたし」

「そうだな。女の子たちも怪我一つなかったし」

「俺たちが身につけることはできるのか?」

「うーん」

 

 悩ましい質問である。

 自分が両方を習得できる以上、できないとはいえない。

 

「あっちの魔法を使えるかだけど、今のところはわからない。仲間に身につけさせようと思っているから、できたら教えるよ」

「頼むぜ」

 

 補助呪文は重複する。

 その点だけとっても習得に価値がある。

 

「で、順番だけど……」

「まずは俺で」

「じゃあ、次が僕でお願いします」

「ならその後が俺か」

「俺は別に飛ばしても構わないんだがな……」

 

 予定は元康、樹、錬、尚文ということになった。

 お互いのひとまずの予定を話し合い、同じところを攻略しないように調整を行った。

 

「あと、みんなで得た情報の共有もしたいと思ってるんだ」

「情報ねー……」

 

 なんかあるか? と元康が周りを見渡し、全員が口を閉ざしてしまった。

 ううむ。狩場を共有しないことと合わせて、どうにも勇者達はリソースを独占しようとする傾向がある。

 

 ネットゲーム経験者なら協力し合う大切さはないものだろうか。

 いや、ネットゲーム経験者だからこそ、狩場の独占に考えが行くのかもしれない。

 

 とはいえ、彼らは四聖だが、俺はそうではない。

 できれば勇者は強いほうが良い。

 まあ、女の子の取り合いになるようなら容赦はしないだろうけど、

 女性に興味が強いのは元康くらいである。

 

「じゃあ、俺から。教会から得た情報なんだけど、従魔っていうのをみんな一匹は契約してほしいんだ」

 

 三勇教で得た情報の一つを公開する。

 

「勇者武器に素材を取り込むと能力を得られるでしょ? その中で、従魔……契約した魔物の成長率を向上させる効果があって、ドラゴンやフィロリアルなどを従えた場合、最高位の魔物まで成長するらしいよ。過去、フィロリアルの最高位、フィロリアルクイーンを従えた勇者が神鳥の聖人と言われていて、普通のフィロリアルより倍も大きかったとか」

「へえ。そんな裏技があったのか」

「それは有用な情報だな」

「これからは移動も多くなりますし、考慮に値すると思いますが、フィロリアルってなんですか?」

「あー、あれだろ? ちょくちょく見る、荷物持ちのダチョウ」

「ああ、あれか。あれで馬車を引くらしいからな」

「チョ○ボっぽいやつか」

「できれば有用性も確認したいから、全員ドラゴンとか、全員フィロリアルとかじゃなくて分けたいんだけど」

 

 皆、興味は持ったようで、どんなのがいいかなど、頭を悩ませている。

 

「俺ドラゴンがいい!」

「はあ。元康はそういうのが好きそうだな」

「なんだよ、錬。お前だって乗るならドラゴンって思うだろ?」

「そりゃな」

「じゃあ、僕はフィロリアルでいいですよ。馬車を引くのが得意らしいですし。ドラゴンの上から弓を撃つのも悪くはなさそうですが」

 

 やはり年頃の男の子だけあって、ドラゴン人気らしい。

 

「お前は……」

「え?」

「勇はどっちがいいんだ?」

 

 どちらがいいとも言わなかった尚文。

 個人的にはどちらでも良いが、手元にある卵を考えれば答えは決まっている。

 

「ドラゴンかな。竜の卵を手に入れてるし」

「じゃあ、俺はフィロリアルにする」

「ふむ。竜3の鳥2か。バランスは悪くなさそうだな」

「フィロリアルは専用の牧場があるらしいから、そこ行くとかんたんかも。ドラゴンは魔物屋とかかな」

 

 皆でどんなドラゴンが好きだとか、フィロリアルの馬車を引きたがる性質は変だなどとワイワイ話しているうちに一旦解散になり……

 

 宴の時間になった。

 

 

 

 

 

 




尚文「……(今までなんだかんだでずっと一緒にいて何となくずっといるものだと思っていたが確かにそんなこと言っていたが本当にいなくなるのかこいつ、というか他の勇者と仲いいな、腹が立つ。いや、あいつらと同じ勇者であるあいつにそう思う俺にも腹が立つ)」

なんて、不満そうにしつつも、一人勇に希望を聞く尚文。


宴後は勇者と同行するのですが、四人書いていると長さがやばいので一人固定でほかをアンケートしてみようかなーなんて。


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030 宴の前の逢瀬

 

「も、もう、お仕事あったのにっ!」

 

 宴の準備にパタパタと走り回っていたメイドのメルさんを捕まえ部屋に連れ込む。

 お城で会える相手は他にもいたが、目は彼女を探し、そして見つけていた。

 相変わらず押しに弱そうな顔をしていて、心配になるくらいである。

 悪い男に騙されそう。

 

 今もいたずらをした弟を叱るみたいにぷりぷり起こっているが全く怖くない。

 ギュッと抱きしめ、顔を近づけていくと「あっ、あっだ、だめ、ダメ……おいたは、ダメです……」とつぶやきながらも、目をそっと閉じてくれて準備は万端である。

 

 ついばむようなキスから始める。

 キスはとても重要だ。入れて出すだけのセックスの何倍も心に響くのが口づけだ。

 遊びでセックスをする際に、エッチはしていいけど、キスはダメ、と言ってくる子がいて、体の浮気はOKでも心の浮気はNGという線引になるらしい。

 

 唇を合わせ合うだけで快感を感じる女の子は多いが、彼女もその一人であるようで、ちゅっちゅと唇をならしているうちにふわっと口が開き、ぬるっとベロを差し入れる。

 

 宴の準備で間食でもしたのかベリー系の甘酸っぱい味が口の中に残っており、舐め取るように口内を動かす。

 瞳を閉じたままのメルはされるがまま、といった形だったが、おずおずと言った感じで奥まっていた舌が伸びてきたので巻き付くように絡ませる。

 

「んっ……んんっ……」

 

 立ったまま口づけし続ける。

 腰に手を回しながら固定するように口づけていたが、ゆっくりと彼女の手も背中へと伸びてきた。

 彼女が服を掴み、手で支えたのをいいことに、するすると手をすべらせ、背中をなでながらお尻へと指をすすめる。

 手のひらで撫でるような動きから指を立て、触れるか触れないかくらいの触り方でお尻を触ると、ぴくんとメルさんの体が跳ねる。

 

 かわいいな。素直にそう思った。

 快感の芽が育ちつつあるのを感じた。

 少し、育ててみようか? 

 

 キスをしながら太ももを撫でると肌の色が薄っすらと桜色に染まっていく。

 自分の色に染める、という意味ではないけれど、少しだけ愉快に感じる。

 焦らすようにゆっくりと体に火をつけるように、けれどいかさないようにじんわりとなで続ける。

 

 **

 

「あっ、はっ、うんっ」

 

 場所をベッドに移し、半刻ほど責め続けただろうか。

 陵辱するような激しさはまったくない、ゆっくりとした抜き差しは、ずるりと引き抜くときにこそ、快感は与えこそすれ、わざといいところを外したその行為は絶頂には導かないままだった。

 

「あ、あの……」

「どうしたの?」

 

 勇者であっても年下であるという意識の強い彼女である。

 いかせてくれとは言いにくいかもしれない。

 だから、わざとそうしてるんだよと、いたずらっぽく笑うと、もう、と小さく頬を膨らませてから、困ったように笑った。

 

「いかせてください」

 

 相手に自分を刻み込むのは楽しい。

 自分から求めさせて、答えてくれるとホッとする。

 

 今までのゆっくりした動きから、相手の一番感じる部分をゴリゴリと刺激する動きに変えると、ジリジリと焼き上げた快感に上乗せされるような形であっという間に感じてゆく。

 もはや注ぎ続け、こぼれ落ちるのを待つだけのコップのような状態だ。

 

(ああ、子宮に出したい)

 

 いいや、出してしまおう。

 興奮の間で、避妊は頭になかった。そもそも、この子は城の人間だ。

 勇者に孕まされても望むところだと言う立場だ。

 

 前の世界もそうだった。

 知らぬ相手に処女を奪われれば、犯されれば自害を選ぶよう教育された貴族の娘達も相手が勇者であるのなら笑顔で股を開くのだ。

 あったことがなくても、一言すら話したことがなくても。

 

 彼女はおいたと言った。ダメと言っても拒絶しなかった。

 最初こそ魔法による好感を感じさせる後押しがあったとしても、今はそれがなくても受け入れていた。だから、構わないだろう。

 

 俺は腰に力を入れて、亀頭を子宮口に押し当てる。

 逃さないと、手で体をギュッと押さえつける。

 

「ゆうさま……?」

 

 何かを心配するような瞳にごまかすように我慢していた肉棒への力を抜いた。

 びゅううっ、びゅるるっ

 

「あ、あああっ」

 

 強い射精に高められた快感が溢れたのか、彼女もまた、同時にイッたようだった。

 

 妊娠してしまえ。

 

 中に出すのはとても満たされる行為だ。

 魔法での避妊は気持ちよさに違いはないが、やりきっていない気持ちの悪さは少し残るのだ。けれど同時に、妊娠すると別れることになってしまっていた経験からか、心が勝手に相手と壁を作るというか、勝手に距離を作ってしまう。

 どうせ去るなら好きになっても無駄なのだと。

 

 だからだろうか、胸の奥を小さく削る痛みを感じてしまうのは。

 

「あの、私……」

「なに?」

「いえ、なんでもないです。それよりゆう様。改めて、波からこの国を救ってくださりありがとうございました。村に親類がいる城の者たちは皆、勇者様たちに深く感謝をしていましたよ」

「そっか」

 

 助けた人からのお礼は素直に受け止められる一番の褒美である。

 痛みを忘れ、俺は微笑んだ。

 




イベントごとに恵まれている感のあるメルさん。
城で会えるキャラというのが書きやすい感あります。
ところで、一ヶ月だと自覚症状出ないのが普通らしいですが、そこはファンタジー。
調べればわかる的な。え? なんのことだって? ワカラナイナー


そしてアンケートは尚文が圧倒的ですね。
さすが主人公……格が違った!
であれば、三勇者誰か+尚文みたいな進め方がいいのかなー。



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031 宴の席で

 

 管の奥に残っていたものまでチュッと吸ってもらって後始末をしてもらう。

 

 スッキリした気分で宴に参加する。

 パーティーには魔王から町や国を開放するたびに参加していたから特別珍しいものではない。

 

 けれど、勇者ということは知られていても、子供であるせいか、サポートだけで他の勇者と違いボスを倒すのにそこまで活躍しなかったからか、さほど声をかけてくるものはいない。

 

 遠目では槍の勇者の元康が多くの令嬢から声をかけられてはへらりと笑っているのが見える。

 

 あたりを見渡せば錬は壁側で黙々と料理を口にしているし、樹はといえば、にこやかな笑顔が怪しいやり手そうな男に話しかけられてにこやかに笑っている。

 

 お皿を両手に持ちながらも話しかけられずに樹の周りをウロウロしている眼鏡の少女はパーティーメンバーだろうか。

 

「ふーん、みんな楽しんでる、のかなあ?」

 

 尚文といえば完全に壁に同化して存在感を消そうとしている。錬と違ってろくに食事もとっていないようだ。

 そういえば、料理が上手な割に、街では一番安い料理とか、腹にたまるものとかこだわりが薄い。

 作るのは好きだが、食べるのは嫌いなタイプなのだろうか。

 

『あなたに食べてもらうことが私の幸せなの!』

 

 料理が趣味だという女に食事を作ってもらったときにそう言われたことがある。

 食べやすいように切って短くした髪の毛や血が混ぜられていたが、ファンタジー世界帰りの胃は強く気にせず食べた。味は悪くなかった。

 

 言えば魔法がなくても何でもやらせてくれる女だったがどうしているだろうか。

 母親にも手を出してしまっていて、彼女の家で食事をとったときは流石に緊張した。

 こちらを睨んでくるかわいい妹には手を出せず仕舞いだったか。

 

「ユウ様は食べないんですか?」

 

 いつの間にか現れたラフタリアは口をベッタリとソースや油に濡らしながらもブンブンとしっぽを振りつつけている。もしかしたらこの宴を一番楽しんでいるのは彼女かもしれない。

 

「ご馳走ですよね! 食べないと損ですよ!」

 

 ラフタリアは普段は食べられない食べ物の山を見て、瞳を輝かせている。

 

「まあ、好きに食べていいよ?」

 

 豪華な料理と言ってもギトギトとした肉ばかりというわけではなく、種類も豊富だ。

 食べやすいものが多いので、ちょこちょこ食べているが、ラフタリアのように山盛りにして食べる気にはなれない。

 

「決闘だ!」

 

 ……は? 

 

 

 **

 

「元康はアホだな」

「でも、奴隷なんて最低ですよ。勇者が仲間にすべきではありません」

「たしかにな」

 

 尚文がリファナを奴隷として連れていると知った元康は尚文に突っかかったのだ。

 決闘しろ、俺が勝ったら彼女を開放しろと。

 あのリファナが解放を望むとは思えなかったが、決闘は成立してしまったらしい。

 二対二ならともかく、一対一では尚文に勝ち目はなさそうだ。

 

(まあ、ラフタリアならともかく、リファナは奴隷から開放されたからって尚文から離れないか)

 

 成長アップの補正分奴隷のままのほうがお得そうだが。

 

「勇の連れている子も奴隷なのか?」

「え? そうなんですか?」

 

 まあ、指摘は当然か。

 けど、どうするべきだろう? 彼女は自分から仲間になりたいと一緒に戦いたいといった。奴隷から開放しろと言われればそうするところだが、仲間として今後も連れ歩くなら、成長補正を考えても外したくない。

 

「そうだよ。尚文のリファナと一緒に売られてたんだ」

 

 そう言うと二人の勇者は表情を歪める。

 

「彼女は俺たちが来る前の波の被害者で、家族や村をなくして奴隷になってしまったんだ。だから、波からみんなを守りたいと一緒に戦いたいって仲間をしている」

「だからって奴隷は……」

「知ってる? 勇者の奴隷には成長補正がかかるんだ」

 

 奴隷成長補正、ステータス補正がかかる刀を見せる。

 

「なるほど」

「多分奴隷と同じで仲間にかかる装備もあるだろうから、それが見つかれば奴隷をやめるところだけど、勇者以外で子供が魔物と戦おうと思ったらこの補正は必要だ」

「……従魔にも同じように補正をかける方法がありそうですね。竜やフィロリアルを勧める理由ですか?」

「奴隷の髪の毛や爪で開放されたから、従魔でもそうなると思う」

「なるほど。そういうことなら仲間にも奴隷になってほしいが、難しいだろうな」

「だろうね」

 

 錬は納得したようだった。成長補正を羨ましそうに見たのがわかった。

 奴隷になって強くなれるのであれば名目上の奴隷ならいいんじゃないと言ったところか。

 

「奴隷は良くないことです」

「波がなくなれば家族や家を失って奴隷になる人は減るだろうね」

 

 村でも不作や魔物被害が大きいと、補填で長男以外の子供を売りに出す農家は多いらしく、奴隷商は冬前に村々を回って奴隷を買い集めるらしい。厳しい世界だ。

 とはいえ、大半が労働目的の奴隷になる。

 奴隷と言えば奴隷であるが、大切な労働力、「高価な財産」という面もある。

 要は家畜である。羊、馬、牛、奴隷。

 

 こう並べればサボれば働かせるために鞭を打つのであって苦しめるために鞭を打つのでないとわかるだろう。

 

 もっとも誰もがちゃんとした生活を送ったわけではないだろう。

 美人なら性的な意味での奴隷になっただろうし──ラフタリアのような亜人は狩られて奴隷になったのだ。

 いい扱いはされてないだろう。

 とはいえ、奴隷解放なんて勇者の仕事ではないだろう。そもそも、世界史から考えても奴隷解放なんて簡単なことだとは思えない。

 

「そうですね……僕ら勇者はそんな人達を助けることにもなります。仲間を強くするための奴隷システムの利用であれば……その必要がなくなったり本人が求めるなら開放すると誓うならひとまずおいておきましょう」

「もちろんだよ」

 

 樹はそんな人達を利用するなんて許されないと義憤に駆られている。

 実際、扱いが悪い奴隷は本当に悪いので、現代の日本人からすれば仕方がないといえば仕方がない。

 苦渋の決断であると顔が言っていたがひとまず元康のように決闘を申し込んでくるきはないようだった。

 

 四方を観客に囲まれた闘技場に元康と尚文がやってきた。

 




まあ、創作ではみんな奴隷少女にうほってなりますけど、リアル奴隷少女(汚)は割とみんなドン引きしそう。

ハイライトのない女の子を性欲の対象にするって結構敷居高い感。
原作ではマインへの八つ当たり的な感情で買ってましたねー。

追記--
勇者たちは勇に奴隷のこと突っ込むよねって指摘にたしかにね!と思ったので説得のシーンを追加しましたがちゃんとかけているかは不明。
難しいっすね!


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032 決闘

前話を少し修正したので見ていない方は読んでいただけると助かります。


 

 決闘が始まる。

 

 盾の勇者と槍の勇者の一対一。

 

「茶番だなあ」

 

 攻撃できない盾と、優秀なアタッカーの槍の勇者。

 尚文もリファナやラフタリアに釣られる形でレベルを大きく上げているが、最初から高レベルの冒険者と一緒にレベルを上げている元康は格が違う。

 

 竜素材で底上げられたことも多少は影響があるかもしれないが、元康は実践なれしだしている。

 

 堂々と歩くその態度には才能豊かな人間にありがちな苦戦を経験していない様子が見て取れる。慢心に不意を突かれる危険を知らない無謀な勇気を感じるが、それでも勢いがついている人間なのがわかる。

 

「勝ち目ないな」

 

 そもそも、攻撃力のない盾に1対1の戦いはできない。

 無論、一人で戦える勇者に仕上げることは不可能ではない。盾を鉄壁に仕上げた上で、毒や麻痺、やけどといったダメージを受けるものを中心に仕上げれば盾だって敵を倒せるはずだ。

 

 けれど、尚文には仲間がいる。

 だから、本人もそれを支える力を磨いた。

 薬も毒薬や麻痺薬ではなく、傷や病を治す薬を優先的に学んでいる。

 

 いいやつなのだ。正直まっとうな勇者の心根を感じる。

 だからこそ力の差を覆すことはできないだろう。

 

「では、これより槍の勇者と盾の勇者の決闘を開始する! 勝敗の有無はトドメを刺す寸前まで追い詰めるか、敗北を認めること」

 

 緊張があたりを包む。

 

「勝負!」

「うおおおおおおおおおおおおお!」

「でりゃあああああああああああ!」

 

 元康の雷のような一閃は盾に命中する。

 ぎいんと鈍い音を立てて、二人は弾かれる。

 元康は一歩分、ずりりと押し返され、尚文は盾を持つ腕がやや上に浮き上がりながら大きく後退する。

 

 腕をかばうように盾の逆の腕を支えるように掴む尚文。

 

「乱れ突き!」

 

 五月雨に繰り出される突きの波は尚文の盾以外の部分に大きな傷を作っていく。

 

「圧倒的ですね」

「そもそも、盾に負けるわけ無いだろ」

 

 マントに隠したバルーンは元康に食いつき、一瞬痛みを感じたように顔をしかめさせるが、槍を振るうとその場で仕留めてしまった。

 

(痛みを克服してる)

 

 新兵にありがちな痛みですくんでしまったり状況を見失ったりする部分が小さい。

 きっと、防御を超える攻撃をしてくるような敵と渡り合った経験があるのだ。

 強い自信を感じる。

 

「オラオラオラ!」

「くっ! このおおおお!」

 

 盾より伸びる双頭の狼も不意を撃てなかったことでよけら──

 

「エアストシールド!」

「グッ……!」

 

 双頭の狼を影に放たれたエアストシールド。

 腹に直撃を喰らい、よたりと態勢を崩すが、致命傷ではない。攻撃ができれば今は絶好の隙きだ。

 仲間がいてもそうだろう。必殺の一撃が放たれただろう一瞬。

 

 尚文はバルーンをいくつも投げつけ──

 

「シールドプリズン!」

 

 元康を閉じ込めた。うまい。

 エアストシールドがダメージではなく、物理的に相手を吹き飛ばす威力があるのがわかった。

 

 前の異世界でも起こった不思議だ。

 ぷにぷにと柔らかい肌で鉄の鎧を貫通できたり、木の棒で殴り飛ばすと吹き飛ぶくせにレベル差があれば怪我をしなかったり。

 

(強さとは別にはめられる可能性)

 

 アニメや創作で強力すぎるボスを宇宙だの火口だのに突き落としたりして倒す攻略が高レベルキャラに通用する可能性。

 

 多分だが、あのシールドプリズンの中身が水だったりすれば元康は溺死するだろう。

 けど、そうはならない。

 

「おおおおおおおっ!!」

 

 響く大声。

 撒き散らすような力の波動。

 そして、元康を覆っていた盾の牢獄は砕け散った。

 レベル差が大きく捕らえ続けられなかったのだ。

 

「はあっ、はあ、やるじゃないか、尚文。けどこれで終わりだ! ドラゴンランス!」

 

 竜のアギトのように、虚空から現れた炎の牙が尚文を噛みちぎり……尚文は倒れた。

 

「んむううう!!」

 

 戦いの景品として取り押さえられていたリファナは尚文のもとへゆこうとして、強く兵士に取り押さえられていた。

 

「予定調和ですね。これで、え、エッチな……ゴホン。尚文さんの毒牙にかかる女性が助かるんですね」

「……勇のラフタリアのように仲間なんじゃないか? あれは」

 

 奴隷から開放するだけだからいいのか? そうつぶやいて錬は黙る。

 

 毒牙にかかることになるのは尚文の方だと思う。

 特に立場の上下がある状態で相手に強要なんてできないだろう。襲われて初めて相手に性欲を向けていいのだと理解するタイプに見える。

 

 でも、リファナ、ちょっと色気あるものね。

 樹には毒かもしれない。

 

「思ったより真面目に強くなっている。これも勇のおかげか?」

「どうだろう? 尚文が頑張ったからじゃないかな」

「そうか。まあ、俺のときもよろしく頼む」

 

 ……錬は、ストイックだ。それだけに強さへの理解がある。

 尚文は大丈夫だろうか。

 視線を向ける。

 

 そうして、商品たるリファナの奴隷紋が消され……

 

 尚文は膝から崩れ落ちた。

 




間隔空いてすみません。リアル忙しいかつ、うまく前話の修正が思いつかずうじうじしてました。

当初は勇の援助で槍の勇者なんて! と思ったものの、割とまっとうな安全重視のレベル上げ展開だったので、最初から高レベルの装備スタートだった元康のほうが現時点では強化されている感じに。



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033 勇者の隠されし力?

 

 人垣が割れ、リファナが国の魔法使いによって奴隷の呪いを、今まさに解かれようとしていた。

 リファナは激しく抵抗するが、口は封じられ、両手は騎士に抑えられている。

 抵抗はできない。

 

 魔法使いが持ってきた杯から液体が零れ、リファナの胸に刻まれている奴隷紋に染み込む。

 

(奴隷じゃなくなった)

 

 奴隷紋が、リファナと尚文をつなぐ鍵だった。

 たが、すでに心の扉は開かれている。

 尚文はリファナの信頼を勝ち取っている。開放は彼女の信頼の証明にしかならない。

 

 本当に、茶番だ。

 

 けれど、そんなリファナの心を全く理解していない盾の勇者は絶望に崩れ落ちた。

 

(かわいそう? それとも、苦笑?)

 

 あんなに信頼されているのに、信じられないの? 

 他人事だからそう思う。

 けれど、しょうがないか。この国の殆どは尚文を裏切っていた。敵だった。

 自分も尚文の味方ではあったが、絶対の仲間ではなかった。

 尚文の仲間はリファナだけだった。

 そして、きっと尚文は奴隷だからこそとリファナの絆を考えていた。

 

 だから、奴隷から開放されてしまったことで、仲間がいなくなったと思って崩れ落ちたのだ。

 

 尚文は、崩れ落ちながらもどこかアルカイックに笑う。

 それは、己か、世界に対してか。

 

「この……卑怯者!」

 

 奴隷から開放されたリファナは助けてくれた勇者である元康の頬を叩く。

 

「私は! 尚文様が! 好きなんです! 愛しているんです! 憧れの勇者様は本当は傷つきやすい普通の人間で、だけれど私のために気を使って、育ててくれて、ご飯を作ってくれて、無理一つ言いつけなくて! 自然と人を助けようとする人で、少し悪巧みが似合う人で、──私の勇者様なんです!」

「け、けど、奴隷だなんて!」

「私を奴隷にしたのは、波のせいで壊れた村に殺到した、この国の人間です!!」

 

 リファナは、まくしたてるようにあれこれと尚文のいいところを語っては惚気、勇者にふさわしいのだ、憧れの相手なのだ、好きになったのだ、愛しているのだと語った。

 その様子は、嘘一つ感じなくて、元康は静かに頭を下げた。

 

「すまない。奴隷にされたからってひどい目にあっていたって誤解していた」

「あ、いえ、その、私の方こそ勇者様にごめんなさい」

 

 ペコリと頭をさげるリファナ。

 元康は女性有意が強い感じがあるが、聞く耳がまったくないわけじゃない。本人が明確に好意を示したことで、女性優位の元康は自分が何かを言う話ではないと理解したようだった。

 

 槍の勇者はリファナの好意を信じた。

 けれど、この世界に来てから本当に信じられるものを持たなかった勇者は全く信じず、目に映らず、一人絶望していた。

 

(ああ)

 

 ああ、これが勇者の秘密。

 

 尚文からはオーラが漏れていた。絶望的な、背徳的な気配。光り輝く勇者にふさわしくない、呪いのようなヘドロの気配。

 ドロドロの怒りの汚泥が漏れていた。

 

 きっとそれは飲み込まれればちょっとしたレベル差を覆す力。

 盾の力であっても、20は上の相手を封殺できそうな気配。

 

「怒り、絶望? 悪趣味な力」

 

 きっと、勇者が自分ではかなわない……それこそ、信頼する仲間を失ってもかなわない壁に出会ったときにその壁を壊す力。

 

 自分であればこの力を向けられても負けない自身がある。

 だが、尚文が同レベルになったあとであればしのげる自信はなかった。

 

「勇者には裏側がある」

 

 前回の勇者は思えばシンプルだった。女神に力を与えられ、世界を救うために降臨した勇者。

 努力に応じて強くなり、一人で敵を倒せてしまった。

 簡単に魔法を覚えレベルが上がり、隔絶した力を持った。

 

 四人いる勇者は正直弱かった。けれど、だからこそ仕掛けがある。

 使い捨ての爆弾か、複数いるからこそ高められる何かが。

 

「仲間に捨てられるかもしれない。そのくらいで発動するんだから、きっと一回こっきりじゃないと思うけど」

 

 その程度で発動して死ぬなら、仲間がひとり死ぬだけで勇者が死んでしまう。非効率だ。

 数回は死なずに使える力だ。おそらく、リスクがあるとわかっていても状況的にしょうがないからと使える程度の要求。

 

「リスクはそこまで重くないはず。だったら、一度は経験してもらうべきか」

 

 場合によっては自分も使わなければいけない力だ。リスクは知っておきたい。

 自分の飛び出そうな怒りを抑えるように胸を掴む尚文をじっと見つめる。

 

 尚文は強い。けれど40前後でどう頑張ってもまだ自分には届きえない。

 だからこそ、秘密を知りたい。

 

 死をなかったコトにはできない。けれど、肉体の欠損程度なら治してあげるから。

 

 仲間にする考えではない。最低のクズ。そう思いつつも、勇者皆のためだからと尚文だけを見つめる。

 

 けれど──悪しき心は決して許されないのか。

 尚文以上に勇は心を揺さぶられることになる。

 

 




ラフタリア「尚文様はいい人なんです!」
元康「いや、嘘だろ」
リファナ「尚文様めっちゃ好きなんです! 愛してるんです」
元康「じゃあしょうがないな」
ラフタリア「なんでですか!?」

正直、奴隷に優しいけど戦闘は強制してくると好きだから従ってんのなんか文句ある? では説得力が雲泥だからね!

尚文の貞操はあと僅か。


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034 過去1 ハーレムパーティスタート!

寝取られ? 寝取れず? な内容を含む話があります。
過去編終了時に内容をまとめて記載するので絶対見たくない! という方は過去編を飛ばしていただくのもありだと思います。




 ただ、その光景に目を奪われていた。

 

 勇者の隠された力を発揮しかけていた尚文は、けれどリファナに抱きしめられ、その力を急速に失いつつあった。

 

 自分以外の勇者にその隠された力を発揮してもらい備えることは当初から考えていた地雷を避けるための大切なことであったが、そんなことは、今となってはどうでもいいことだった。

 

 尚文は、リファナにそっと抱かれていた。

 抱きしめられ、流していた涙を止めた尚文。

 呼び出された世界全てに裏切られているような気持ちになっていただろう。世界に怒りを抱いて、憤怒に身を焦がしただろう。

 けれど、救いはあった。

 

 真に自分を信じてくれる、愛情を注いでくれる相手がいたのだから。

 

 尚文を抱きしめるその光景は、聖女が勇者を許す宗教的な一枚の絵だった。

 美しく、誰もが静謐な神聖さを感じるだろう、ワンシーン。

 

 目をそらすことができなかった。魅入っていた。

 

 そして、心のそこから嫉妬が湧くのがわかった。

 

 なぜ。

 

 なぜ。

 

 なぜ、俺のほうが強いのに、

 

 なぜ、俺のほうがうまくやっているのに

 

 どうして、お前の仲間は愛してくれるんだ……? 

 

 そう思ってしまった瞬間に、その意識は過去の──以前勇者だった瞬間を回想する。

 

 

 **

 

「勇者様。準備はいいですか」

「もちろんだよ、アリシア」

 

 それまでの俺は一般的な範囲で収まる程度の中学生だった。母親似で少し女顔であることを悩みつつも、特段格闘技を習ったりと体を鍛えるようなことはしなかった。

 

 そのうち成長して男らしくなるだろうと思ったし、ピロっと一本だけ生えた薄いヒゲを撫でて悦に浸る程度だった。

 高校生になれば自然と背も伸びて彼女もできるんだろうな~などと気軽に考えていた、そんなある日、なんの前触れもなく、勇は勇者として召喚された。

 

 魔王に襲われ、あとはこの国一つを残すのみなのだと大量の難民に囲まれた国に呼び出され、目をパチクリさせた。

 

 世界を救ってくださいと頭を下げる王様に、事態が理解できないまま、わ、わかりましたと答えて、城の兵士から地獄のような特訓をつけられた。

 

 死ぬほど辛いと思ったが、それでもこなすことができたのは、訓練を行うごとに簡単に、楽にこなせるようになっていく身体能力と、事あるごとに顔を出してくれるこの国の王女の存在だった。

 

 彼女はそれこそ絶世の美女と言ってよく、見た瞬間、かわいい! かおちっちゃい! こしのいちたかい! ふつくしい! かみきれい! と馬鹿になった感想しか出てこなかった。

 応援していたアイドルと握手してでへでへした頃の数段上の衝撃だった。

 

 大丈夫ですかと訓練のあとに冷たい濡れた手ぬぐいを渡されるだけで天国だったのだ。

 

 そんな彼女は王族でありながら聖女と言われるほどの回復魔法の使い手で、冒険も苦にならないほどの力量があるらしく、冒険についてくるらしい。

 

 正直、無理じゃないかと、お城にいたほうがいいんじゃないかと思ったが、手はこんなんなんです、と差し出されたその手は、スラリとしてきれいであったが潰れつつけた豆に固くなっていた。

 

 二週間も訓練を続けると、それだけで十年以上剣技を嗜んでました、と言わんばかりの腕前になり、その力もあり、城のものでは一人では相手にならなくなっていた。

 

「それでは冒険にでかけましょう」

 

 パーティーは勇者、姫(聖女)、武道家、魔法使い。

 RPGのテンプレかな? と正直思ってしまった。

 

 初めて殺した生き物は狼だったが、仲の良かったわんこを思い出してげえげえ吐いてしまった。

 

 姫は背中を擦りながら嫌な顔ひとつせずに優しくしてくれたが、他の仲間は狼の皮を剥いで火で炙っていた。

 

 狼肉を食べることに、犬を食べるような嫌な気持ちになったが、今後も狩った獲物が食事になると諭されて食べることになった。

 

 お腹の減った中食べる肉は美味しくて、なんだか悲しかったのを覚えている。

 

 どことなく、勇者なんだからもっと強くしっかりしてほしいという気持ちが見える二人より、親身に接してくれる姫のチョコに気持ちが強くなるのは当然の流れで、勇者なんだから彼女と結ばれる可能性もあるのかな、なんて思ってにやにやして幸せな気分になったりした。

 

 正直、生き物の命を奪うことも、自分が襲われるかもしれないと考える時間も何もしないでいると辛いからそんなふうに考えていた気がする。 

 

 けれど人はなれる生き物で、村や街をいくつか開放した頃には国家最高クラスであった仲間の皆を軽く超える強さになっていた。

 武道家も魔法使いも自分を超えるその技量に惚れ込んでくれていて、だいぶ態度が優しくなっていた。

 

 そして、ついに隣国を落とした強力な魔物と戦い、怪我をしながらも打倒した。

 

 数多の整復された国の一つを開放したことで、国は湧き上がり、誰もが勇者を褒め称えた。

 

 嬉しくなり、調子に乗り、きっと、死の恐怖の反動に性欲が強くなったこともあって、アリシアの部屋を訪ねた。

 

「アリシアが好きだ。君を抱きたい」

 

 胸が弾けそうなほどドキドキしながら、なんと言えばOKしてくれるだろうか、そんなふうに悩んで出たのがこれだった。本当は相手を褒め称えて口説くんだと20パターンは考えていたはずなのに、最初から間違っていた。

 

 なのに、アリシアは少し考えたあと、いつもの笑顔を浮かべて答えてくれた。

 

「もちろんです。勇者様。私を抱いてください。嬉しいです」

 

 恋した相手に受け入れられる幸せに、勇者として立藩になろう、世界を救おうと決心した。

 

 **

 

 その世界では、魔物の一切を排除し、国や街にある教会で魔道具を設置することで魔物が国や街を襲えなくなる。

 開放された街へは転移の魔法が使えることもあり、

 開放すると王国から援護の兵士や避難民が配置され、僅かな間で復興が進む。

 

 たくましいなあ、なんて思いながら時々王都に戻っては開放した地域の物資をもとに強化や休憩を行っていた。

 

「どうしたの? 勇者様」

「あ~、アリシアが誰かといた気がして」

 

 何度目かの王都での休暇に武道家と街を回りながらそういった。

 彼女も成長した今の勇者の力に認めてくれており、関係を持つようになっていた。

 

 それでも一番はアリシアでまず最初に彼女を抱き、疲れてくてりと寝始めたら他の二人を抱くようになった。

 

「うーん? トレイ侯爵かな? 幼馴染で今は王都にいるって聞いたから。それより、甘いもの食べに行こうよ!」

「あ、うん」

 

 どことなく、今からでもアリシアを探しに行きたくなったが、腕を引かれてそうすることができなくなった。

 

(顔のいいやつだったな)

 

 頭の良さそうな、長い髪の男。細身で魔術師系の装いだったが腕も悪くなさそうだった。

 それこそ勇者パーティーに入っても見劣りしなかっただろう。

 

(そう言えばなんで女の子ばっかりなんだろ。嬉しいけど)

 

 訓練をつけてくれた騎士団長など、今となりにいる武道家より腕は良かったし経験もある。

 

 どことなく釈然としない気持ちを抱きながらも、悪い予感を振り払うように遊びに繰り出した。

 




勇者と王女の純愛! きゃっ!


リアルが忙しくてなかなか。でも今月から緩和する予定!


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035 過去2 劣等感

過去編はなんとか書き終えたので3日連続で更新したいと思います。


 

 新しい地域を攻め、開放し、王都に戻っては祝う。

 魔王に占領された人類の国や街はそれこそ数数多出会ったが、パターン化された日々はある意味で余裕を生んだ。

 

 今まで全く触れることがなかった死ぬかもしれない恐怖の世界は段々と己の成長を実感できる気軽さを勇に与え始めていた。

 

 頑張れば頑張っただけ報われる世界はやる気を引き出していた。ただでさえ勇者としての力が与えられた中、実践で勇のレベルと才能は猛烈な勢いで鍛えられていた。

 

 同時に、最前線を行く勇には悩みがあった。

 それは、戦い以外の娯楽がないことだった。

 テレビもない、ゲームもない本だって最前線に持っていくようなものはなかった。

 

 娯楽のない田舎と同じで、そんな彼の周りに美しい仲間がいるとなればやることは決まっていた。

 

 セックスである。

 

 全身で性の快楽に溺れていたが、単に自分が気持ちよく慣れればいいという段階を超え相手を気持ちよくさせ、性の暴力で相手を支配するようなセックスに目覚め始めていた。

 

「はあ、ァ~」

 

 最初はやや硬いところのあったお互いであったが、今はだいぶこなれてきていた。

 王女はあまり自分から言い出すことはなかったが、武道家と魔法使いはしばし自分から誘いをかけてくるようになっており、勇はその都度相手をしてきた。

 

 もっと、もっと上手になってヒイヒイ言わせてやろう。

 どことなくいたずらっ気が出ていることを感じて日々楽しく過ごしていた。

 

 そんなある日だった。

 

「あ、勇者さま。私子供ができたからパーティー外れるね!」

「へっ!?」

「まあ! よかったですね」

「羨ましい」

 

 積極的におねだりをしてくる武道家はえへっと笑いながら自分のお腹をなでた。

 ちょっと太ったかな? くらいにしか思わなかったが、どうやら妊娠したらしい。

 ブワッと汗が出るのを感じる。

 

 やればできる。

 

 アタリマエのことだが、快楽の前に馬鹿になっていた。

 

 これからどうしよう、そう言えば勇者の給料っていくらなんだろう。家を買うべきだろうか。

 いや、その前に本当に俺の子? いやでも、他に相手なんていないか。あわわ。

 子供? まじで? 

 

 そんなふうに完全に慌てていたが、皆笑顔で祝福していた。そこには一片たりとも悪い感情が見えなかった。

 

「あ、代わりは来てるから」

「うむ。侍と申す」

 

 ぎゅうぎゅうサラシを巻いて、深い胸の谷間を作った侍ガールが現れた。

 

「あ、え? うん?」

「それじゃ、勇者様、元気な子供を育てるからね。みんなも頑張って!」

 

 ばあ~いと大きく手を振って去っていった。

 今までの積極的に愛を乞うてきた態度は何だったんだろう? 

 

 腑に落ちない気持ちになりながらも、モデルのように身長が高く引き締まった体躯の侍にドキドキしていた。

 

 この時点ではまだ期待だけだった。

 

 **

 

「それじゃあ、私も子供できたし下がるわ。引き継ぎは後輩の黒魔術師がするわ」

「うむ、勇者殿との相性は最高だったようだ。某も孕んでしまったから、聖騎士殿と変わるでござる」

「あう、黒魔術、使うとこなかった。魔法剣士と変わる」

「むふー、私も母親になれるなんて信じられないな」

 

 こうして孕んでは交代、孕んではこうたいとメンバーが入れ替わってゆく。

 タイミングが合っていないのか、最初のメンバーで残っているのは王女だけだった。

 

(なんでだれも避妊しないんだろ)

 

 正直、追加要因は特別強いわけじゃなかった。もともと最初から連れているメンバーの時点で国家最高峰なのだから、どうしたって補充要員は似たりよったりのレベルになる。

 勇が強くなっている分、仲間との力量差は大きくなるばかりだった。

 勇者としての実力がガンガンあがっているため、別に苦戦はしていないが、仲間が強くならないのはちょっと困りものだった。

 

「アリシアはずっと一緒にいてくれるよね?」

「ええ。女神様の祝福をいただかない限りは」

「……」

 

 女神の祝福が子宝に恵まれることを指していることは言うまでもなかった。

 

 アリシアと別れるのが惜しくて、出そうになると他の女の中に挿れては出していた。

 吐き捨てるような性行為はあまり仲間に評判が良くなかったが、どうでもよかった。どうせ一月もすればいなくなる人間だからだ。

 

(なんでだろ。魔王と戦いたくないのだろうか)

 

 そりゃ、怖いかもしれない。

 けど、異世界から呼び出された自分が戦っているのにとどうしても不満が出てしまう。

 

 仲間の勝手さと、ひとり残っているアリシアに膨らみだす好意にもやもやしながら王都を一人歩く。

 

「トレイ」

「アリシア。会いたかった。怪我はないかい?」

「ええ、あなたの贈ってくれた防具のおかげで」

 

 アリシアは男に両手を握られて笑っていた。

 いつものニコニコとした笑いではなく、心からの安心から来た笑顔だった。

 男は感極まったとばかりにアリシアを抱きしめ、アリシアは頬を染めていた。

 

「なんだよ……お前は俺のものだろ……?」

 

 最初に抱いた信頼はいつの間にか愛情に変わって、独占欲になっていた。

 誰も彼もが勇のものになっていたから、奪われることへの耐性がまったくなかった。

 

 けど、どうすればいいんだろう。

 

 最初からチヤホヤされた勇には人並みにしか女性との交流経験がなかった。それに、あの男ほどの教養やかっこよさを今すぐ手に入れられる気がしなかった。

 だから、勇には誇ることができることは、見せつけることができるのは2つしかなかった。

 

 勇者としての強さと、性で虜にすることだ。

 

 その日から勇は仲間を抱いて抱いて、抱きまくった。

 仲間だけでは足りないと、立ち寄る村街で女性を口説いてはベッドに連れ込んだ。

 次第に待ってましたと言わんばかりに王都に戻ると女性が用意されており、乱交にふけった。

 妊娠を恐れてアリシアを抱くことはできなかったが、それも避妊の魔法を覚えるまでだった。

 

 狂えとばかりに相手を抱いた。

 俺に惚れろと呪うように白い愛情を塗りたくった。

 

 

 けれどもアリシアの笑みは変わらなかった。

 

 




子供ができる→パーティー離脱の図式に。
自分のものになっているはずの仲間たち。

けれど、本当のところは……


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036 過去3 絶対の壁

「あっ、んっ、はあ、きもち、良すぎますっ!」

 

 ダラダラと泡立つ愛液は肉棒どころか伝って勇のお尻へとたれている。

 自分の与える快感にあえいでいる。喜んでいる。

 それが嬉しくて、もっともっとと攻め立てる。

 

「ああ、とても気持ちいいです、勇者様! 早く、出してください! 私も孕ませてください」

 

 アリシアの言葉は、その熱に水を掛ける行為だった。

 抑えられていた興奮は緩み、あっと声を出すとと同じ瞬間にビュッ、ビュルっと精液を出し続けた。

 

 勇は、女を抱き続けた。仲間を抱いて、王国にお願いして集めてもらった女を抱いた。

 幼い少女から、年上の美女、様々な相手に多くの技を試した。彼らは実験台だった。経験値だった。

 おかげさまで、アリシアを快感で脳を焼き切る寸前まで攻めきることができるようになった。

 

 子宮を攻めることも覚えた。

 ポルチオを攻めることで、心配になるくらいにイキ続ける彼女。けれども、それでも彼女の心は自分にないことがわかった。

 

 今日もこっそり避妊魔法をかけて彼女が寝落ちするまで責め立てた。勇の持っていたエロマンガならもうとっくに堕ちて自分を愛したはずだった。

 

 経験を積むための行為で、仲間はそれこそ驚くほどの速さで入れ替わった。正直もう何人子供を作ったのかわからないくらいだった。

 

 開放した王宮の豪華なベッドで一戦を終え、自分の成長と、それでも感じられない成果にがっくりとしながらも開放された王宮を歩き回る。

 正直もう、どうしていいかわからなかった。

 

「ねえ、あなた勇者様の仲間になったんでしょ?」

「ええ! 勇者さますごいらしいから、きっとすぐ後方に下がることになると思うけど」

 

 話していたのは開放された王宮に戻った女官と、新しい仲間になると聞いたクレリックの少女だった。

 

「勇者様の相手をするとすぐに子宝に恵まれるのよね? ねえ、勇者様って見た目子供じゃない? 私の弟より幼いし、あなた確か恋人いたわよね。それってどういう気持なの?」

 

 私なら嫌よ? 

 

 そうつぶやいたのが勇者の強化された身体能力のおかげで聞こえてくる。

 まさしく勇の知りたいことだった。

 なぜ彼女は俺を受け入れるのか。なぜ受け入れているにも関わらず、全く迷いなくその心はあいつのものなのか。

 

「だって、勇者様は女神様の使徒でしょう? 勇者様の子供は女神様からの祝福。正しく授かりものだわ」

「うーん?」

「子供の頃、どこから子供はやってくるのと聞いて、コウノトリが運んでくるの、と親に言われたことなかった?」

「私はキャベツ畑だったけど、まあ、聞いたことあるわ」

「でも、だれもコウノトリがあなたのお父さんなのよ、なんて言わないでしょう? そんな感じかしら」

「ふうん。敬虔な人たちってそうなのね。私は恋人の子供がほしいわ」

「彼も敬虔だもの。頑張ってきなさいって言ってくれたわ」

 

 ずるっ、ずるずる。

 壁に隠れるように寄りかかっていた勇は、力を抜かしてゆっくりと滑り堕ちた。

 ああなるほど。驚くほどに勇の中では納得がいった。

 

 人間だと思われてなかったのか

 

 神の使徒だと思っていたから

 

 子供を孕ませても、授かりものって扱いで……

 

 俺を、認めてすらいなかった

 

 

 よたよたと歩く。

 

 サンタクロースからもらったプレゼントに「これは半分サンタさんのもの」なんて思わないように。

 俺の産ませた子は、女が授かった子であって、俺の子ではないのだ。

 だからこそ、平気な顔をして婚約者と会えるのだ。

 

 部屋に戻ったらアリシアは衣装を整え、お茶を口にしていた。心配そうに、不思議そうにしながらコテリと首をかしげた。

 

「どうしたんですか? 勇者さま」

 

 ああ。そうだ。

 彼女は──俺を勇者と呼んだ。

 

 国家で一番敬虔である聖女であるからこそ、宗教の教えは常識で、皆が思っていることは彼女も当然として思っているだろうことで、彼女はきっと子供を孕んでも──俺を子供の父親だなんて思わないだろう。

 

 それがわかった。

 だから、意味がないと知りつつ、今は顔を見たくないとその日、彼女を孕ませた。

 彼女はいつもの笑顔を浮かべて去っていった。

 

 そうして、二度と顔を合わすことはなかった。

 

 

 ──

 

 残ったのはそれこそ一ヶ月もしないで消える仲間とも言えない同行者たちと、都市に戻るために行われる多くの女との乱交だった。

 なんのために女を抱いているのだろうか。

 自分の気持が全く届かない相手に腰を振っては精液を吐き出した。

 優秀な勇者の体は一戦ごとにレベルを上げていた。魔法を駆使すれば快感を好きに与えることができた。

 

 奥までつける凶悪な肉棒と、回復魔法による無尽蔵な精力はそれこそ用意された危険日の女をその日のうちに皆孕ませた。

 

 激しく入れ替わり、体は交わりつつも心は一切交わらない仲間たち。能力差は膨大で、勇者はもはや敵のいないLV90に達していたが仲間は20~30といったところだった。

 

 足手まといの彼女たちはもはやついてくる肉袋だった。

 嫌悪感すら覚えだしたのに、それでも彼女たちを連れていたのは快感だけが苛立ちを忘れさせてくれるからだった。

 

 セックスは気持ちいい。口づけは偽りのつながりを感じさせる。射精は開放感を与え、妊娠は偽りの独占とそれ以上情を感じないように別れをくれた。

 

 抱けば抱くほど何も手に入らないのだと虚しさが心を傷つけた。そのくせ、少しずつ抱いてしまっている情のせいで、勇者として世界を守ることの意味を感じるようになった。

 

 世界を滅ぼす魔王は倒さなきゃいけない。

 

 そして、勇者をやめる。

 それが勇にとっての唯一のゴールだった。

 

 




――信仰心には勝てなかったよ……。


勇者をやめること=魔王を倒すこと。
そうすれば、きっと。


なお。


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037 過去4 悪夢の先の悪夢(現実)

 

 魔王の魔力は城を覆い、禍々しいものへと変えていた。

 城を守る魔物たちはどれもが超級だった。

 もしこの世界に来てすぐこいつらが勇者を襲っていれば間違いなく死んでいただろう。

 

 だからこそ勇は一人でここにいた。

 

 この世界の人間に言いようのない気持ちを感じていても、それでも大切だとも思っていたからだ。

 思いは通じなくても、好き勝手したのだから、責任は果たさないといけない。

 

 勇は襲いかかる巨人を、獅子を、竜の命を断ち切って城を進んだ。

 

 そうして王座の間にたどり着いた。

 

 そこにいたのは自分と同じくらいの幼い少女だった。

 手入れのされていないくすんだ金髪はあちこちはねながらも腰のあたりを揺れていた。

 

 泣き続けていたのか涙で表情はぐちゃぐちゃで見にくいものだったが、造形は整っており、きっと普段は美少女だった。

 

「お前が──」

「はっ、ははは! よくぞ来た勇者よ! 私がっ」

 

 ぎりりと歯が削れる音が静かに響く。

 

「私が魔王だ!」

 

 なるほど。

 彼女は背中に羽もなければ角もなかった。

 きっと勇者になった自分と同じように、魔王になった少女なのだろう。

 

 だから、救いを求めるようにこちらを見ても無駄なのだ。

 

「魔王はやめられるのか?」

「……無理だ。でも、私は魔王をやりたくてやってるわけ──」

「なら──倒すしかないな」

 

 可哀想だと思った。胸が締め付けられた。きっと彼女は立場が違うだけの自分だった。

 初めて勇として、見られているような錯覚を覚えた。

 けど、愛は返ってこなくても、情はたくさん注いだのだ。

 もう敵になるのは決めていた。

 

 魔王がやめれないなら。

 魔物を増やそうとして増やしているのでないのなら、意志で止められないのなら。

 

 魔王と人類は勇の両天秤に乗せられた。

 そして、勇はとっくに片方は重くなっていた。

 魔王はその返答に見捨てられた子供のように乾いた笑いを浮かべる。

 

「ははっ、はは、そうだな、そうだとも! 勇者よ! せめて人類が滅びるところを見ずに死ぬがよいっ!」

 

 そうして戦闘は始まった。

 魔王の力は魔物を遥かに超えていた。

 拳にまとった魔力は触れれば勇の防御を貫通して打ち砕いただろう。

 

 そしてその脚力で飛びかかろうとして──

 

「《ターゲット:右足脚力超強化》」

 

 魔王は踏み込むはずの足をそのまま振り抜き、その場で回転するようにして頭から倒れ込んだ。

 

 ゲームのような勇者と魔王のいるこの世界で──気づいたことがある。相手の力を弱めるデバフは魔力次第で弾かれるのに、回復と援護であるバフは魔法抵抗なしに必ず通じるのだ。

 

 だから、右足だけを強化した。

 足の早い人間が二人三脚になった瞬間にのたのたしながら倒れてしまうように、全く違うバランスはろくに歩けなくなるようにするには十分だった。

 

「えっ?」

 

 魔王は床に転がったまま、自分の状態に不思議そうにぽかんと口を開けて──そのまま、首を断たれた。

 

 ゴロゴロと生首が飛んでゆき──その目とあった瞬間に湧き上がる嘔吐感に逆らえずみっともなく嘔吐した。

 人の死に触れたことがないわけじゃなかったが、幼い女の子を自分でそうしたことはなかった。

 

「はっ、あっ、やった。勝った」

 

 きっと二度は通じなかった。魔法すべてを弾こうとすれば弾けてしまう欠点があるのだ。

 けど戦闘開始の彼女には回復魔法も補助魔法もかける予定のある魔法で、それすらも弾くようなことはしなかった。

 だから効いた。

 

 あっけなく感じたかもしれない。けれども、魔力の強さも、おそらく経験も自分より上だった。

 勝っていたのは装備の質くらいだ。

 

 だからこれが正解だった。

 

「これで、俺は勇者じゃないっ!」

 

 勇者をやめれば──女神の使徒じゃなければ、もしかして、一人の男として俺を見てくれるかもしれない。

 

 そう思って、王都に帰ろうとして──

 

『よくぞ使命を果たした。世界への帰還を許そう』

 

 少女の声が聞こえた気がした。

 

 

 **

 

 コーヒーカップを回転させ続けたような吐き気を感じながら、目を開ければそこは見覚えのある部屋だった。

 ベッド脇に積まれた週刊誌と隠すように挟まれたグラビア雑誌。

 

 片付いていると散らかっているの中間くらいの部屋は、紛れもない日本にある俺の部屋だった。

 

「はっ、え? 夢?」

 

 剣もなく、鎧も来ておらず、世界から感じていたはずの魔力も殆ど感じない。

 すべてがなかったことになるような感じがして──

 

「ああ、そ、そっか。ゆめだったの──か」

 

 悪い夢を見ただけ。それであればそれもまた救いになるんじゃないか。

 なんだかエッチな夢を見れてラッキーだったな、そんなことにできるんじゃないか。

 けど、あたりを見渡して──鏡に映る自分の顔を見てしまう。

 

 ああ──。

 

 そこには明日の未来に輝いていた笑顔を浮かべていた少年はおらず──未来に疲れた顔があった。

 

 ああ──夢じゃないのか。

 

 何も手に入れることができないまま、なのに日本にもどったことで、勇者をやめたことで──人を殺した事実だけが重く残ってしまっていた。

 勇者であれば感じないですんだ魔王殺しが重かった。

 

「好きに、生きなきゃ……役目が終わったんだから。そうして、そうして……」

 

 ああ、ともかく──ズキズキする胸の痛みを忘れたい。

 

 

 

 




世界の汚れを一人に集められたのが魔王。
存在するだけで強い汚れに魔物が強力に。
そしてそれを倒すことで浄化するのが勇者の役目であり、魔王に破壊された諸々を支える労力を世界に与えることも役割の一つとしており、世界は女神の慈悲、恵みであると受け入れている。

もし、日本に帰らなかった場合、魔王を倒したからといって種馬の役割は終わらない模様。

こうして勇は歪みを抱いたまま、日本に戻り、出口のない解消先を求めて乱れに乱れるのであった。


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038 ひとりじゃない

~あらすじ~
盾の勇者と槍の勇者の決闘は槍の勇者の勝利に終わる。
しかし、世界への憤怒を抱いた盾の勇者は隠された勇者の力を発揮しようととして、
リファナに抱きしめられる。

その様子に欲しくて仕方がなかった真実の愛を感じた勇は過去を思い起こす。

それは勇者として召喚され、仲間を好きになったけれど、どんなに努力しても愛しても勇者だからと愛を返してもらえなかった過去だった。

勇者でなくなればもしかして、そんな思いで勇者としての責務を果たすべく魔王と対峙する。

しかし、彼女は勇者と同じように力をもった人間だった。
勇者として世界を守りたいと思っていた勇は躊躇なく相手を殺し、役割を遂げる。
けれど凱旋する間もなく日本に戻されてしまった。

自室で鏡に映る自分の顔は殺人の罪や決して叶えられない未来に苦しむ暗い表情だった。


 ラフタリアは少し離れた場所から勇を見ていた。

 いつだって大したことがないとばかりに確かな余裕を感じさせていたはずの彼は自分の親友とその主である盾の勇者を羨むように見ていた。

 

 何故かその時、ラフタリアには自分より幼い子供が、親のいない子供が暖かな両親に抱かれる同じ子供を見ているように感じた。

 

 大切な愛を溢れんばかりに込めてくれた両親を失い、村を襲われ、奴隷となった自分とどこか重なるように錯覚した。

 

 相手は勇者なのに。

 

 手を伸ばしたところで届くはずのない距離を感じるその儚い様子にラフタリアは何かを言わなきゃと近づいてゆく。

 

 思えば。

 思えばいつの間にか距離が変わっていた。

 

 最初は奴隷を購入しに来たクズだと思っていた。

 優しさを見せる盾の勇者様と違ってこの勇者は買った奴隷に関心がなかった。

 傷ついている仲間に対する目ではなく、厄介で汚い生き物への目だった。

 こんなやつが勇者なはずがないと心のどこかで思っていた。回復魔法もすごかったし、盾の勇者様と一緒にいたけど、偽物だと思っていた。

 

 本物の盾の勇者様の仲間になれてリファナちゃんは羨ましい。あんなに仲良しで、あんなに距離が近い。

 

 変わったのはあっちから歩み寄られたから。

 魔物との戦いで、飴をもらって、口に含むととても甘くて、懐かしかった。

 

 おいしい食事以上に村での日々を思わせるものだった。

 えらいね、がんばったねラフタリア。

 いい子だと父に褒められてお母さんには内緒だよと飴をもらって、なめたことを思い出す。

 

 喜んだのがわかったのか魔物を倒すたびに飴を押し付けてくる相手に、悪い人ではないのかもしれないと思った。

 

 変わり始めている。

 

 そう思ったのはいい夢を見たあの日のことで。

 ぼんやりとした感覚の中で、穏やかな波のない海の中に潜ったみたいな感覚で幸せだなって、何もかも失ってからもう感じることがないはずの暖かさを感じたあのときのこと。

 

 そして、全身から香る勇者様の匂いに心地よいものを感じて、そう気づいた頃には避ける気持ちはほとんどなくなっていた。

 

 そうして段々と戦闘にも身が入り始めて、でもどこか遊びの延長だった。

 

 優しい、かもしれない人に見守られた安全な狩りだったから。

 

 **

 

「でも、俺は助けに行くよ。一人でも。落ち着いたら、追ってきてくれると嬉しいな」

 

 そう言ってひとり駆けるユウさまは確かに勇者だった。

 理想の何でもできる助けてくれる勇者様。

 

 でも行ってしまう。待って、助けて! 

 ……ほんとに? 

 

 追ってきてほしい。

 

 彼の心を感じるお願いの言葉。

 盾の勇者さまなら、他の勇者様ならどうだっただろうか。

 もしかしたら守ってくれたかもしれない、立ち上がれる勇気をくれたかもしれない。

 

 でも彼は一人波へと向かった。勇者として、助けるべき相手を助けに。

 

 助けてほしいなら。

 その場で待てばよかった。ラフタリアは力があった。無力な村人じゃなかった。だから優先順位が低かった。

 けど、最後には助けに来てくれただろう。

 

 ああ、でも。

 

 勇者らしい心根を持つ彼と一緒にいたいなら、助けてもらうだけじゃ駄目なんだ。

 先に進む彼以上に足を動かして追わないとたどり着けないんだ。

 

 怖くて、震えて、涙が出て。

 

 それでも足に力を入れて立ち上がって。

 

「ユウさま」

 

 初めてちゃんと名前を呼んだ気がした。

 

「来たの?」

 

 たどり着いた先にいた彼は言葉だけはそっけなかった。

 けど、その表情には確かな喜びが見えた。

 嬉しいと思ってくれる。それだけで胸が暖かくなる。

 

「私は、戦います。最後まで一緒に、戦います!」

「勝手にしたら」

 

 ぷいと背中を向けて駆け出して。

 追ってくるのを信じてくれるその態度を嬉しく思った。

 

 

 **

 

 長いようで短い間一緒にいたからわかる。

 ユウさまは勇者だけど、同時に自分と同じ、泣いても意味がないことを知っている泣きそうな子供なのだ。

 

 彼が私にしてくれたように、温かいものをあげたかった。

 だからずんずんと歩いて彼の前に来て、きて……なにをいえばいいのだろう? 

 

 えと。あと、うと……。

 

「あ、あの」

「……なに?」

 

 どこか焦点の合わない視線。私を見てない瞳。

 どこか遠くを見えないものを見ようとしている。

 

 なんとかしたい。ユウさまみたいに、彼が私にしてくれたみたいに。

 あのとき飴をもらったみたいに。でも都合よく飴なんてない。だから、えっと、その

 

「ご、ご飯食べましょう!」

「はっ?」

 

 場違いなものを見る訝しげな瞳。うぐぅと声が漏れ、恥ずかしくなるが、何も思いつかなくなったのだから、出てしまったのだから仕方がない。

 

「お腹、減りましたから!」

「あんなに食べてたよね……?」

 

 いいからいいからと強引に手を取るとされるがままにたちあがって。

 

 実はもうそれなりにお腹はいっぱいだったけれど、嘘だったとは言えなかったから、パーティー会場に戻るとバクバク食べて、部屋に戻る頃にははちきれそうになるお腹にボタンをいくつも外すことになった。

 

「は、はちきれそうですっ」

「限度も知らないの?」

 

 呆れたように笑う。

 そう、笑った。

 

 苦しかったけれど、あそこで手を引いてよかった。

 そう思った。

 




あらすじを書くのに苦戦してたとか言えない。

ラフのヒロインパワーはちゃんと上がってるかなー?


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039 獣魔契約(してない)

 

「また、ここに戻ってくるとは思いませんでした」

「別にラフタリアを売りに来たんじゃないけどね」

 

 城を出た俺たちは、他の勇者に提案したように魔物と契約をすることにした。

 

 なにせ、盾の勇者組と別れているため、今パーティは自分とラフタリアのみである。

 戦力的には自分がいればなんとでもなると思っているが、勇者の裏システムらしき、感情の爆発による強化、あれはどうも本人の意志だけではどうしようもなさそうだ。

 

 万が一不意に発動して行動不能になった場合、危険になる可能性がある。

 かと言って、各勇者に同行することを考えると柔軟な行動が可能なメンバーが好ましい。

 わざわざ奴隷を増やす気はないことを考えると、魔物を仲間にするのは足になる面も考えると最適だろう。

 

「いつまでも卵じゃ困るしね」

 

 ポンポンと卵を軽く叩く。

 からの奥に感じる大きな生命力。

 正直、あのよわっちいドラゴンより強くなりそうな予感がする。

 親からして、翼も生えており、空も飛べるだろうことを考えればたびには悪くない。

 

「ほう、ドラゴンの卵と申しましたか!」

 

 大仰に喜ぶ奴隷商の腹が揺れる。

 人の他にも魔物も取り扱っているとのことで、縁もありここを尋ねることとした。

 

「ああ、孵化させた上で契約したい」

「なーるほど! いえ、お客様がどこでその卵を手に入れたかなど詮索(せんさく)する気はまったくございませんとも! それでは孵化器をお渡ししましょう。とはいえ、もう孵化しかけのご様子。少々お待ちいただければ無事孵化するでしょう」

 

 踊るようにくるりんと回転すると、孵化器をテキパキと卵に装着する。

 少しずつ暖かく、強くなっていっていた卵は、装着の瞬間柄熱いほどの熱と力を帯び始めた。

 

「ほ、ほんとに直ぐなんですね」

「レベルを上げさえすれば成長もすぐらしいし、人間と違って技がなくてもステータスで勝負できるから魔物は仲間に丁度いいよね。まあ、主人より強くなるととたんになめられたり反逆されたりするらしいけど」

 

 扱いが悪いとそうなる。それもあり、竜騎士なんかは肉親以上に愛を注ぐ。そのせいで相棒が死んだときはその精神的苦痛で引退するものも多いとか。

 

 個人的に言えばペットは毛がふかふかしたのがよいと思っている。ドラゴンはかっこいいが、撫でたり愛でるのに不向きである。

 

「あ、あの、その、ドラゴンって強いですよね?」

「そりゃまあ、それなりにはね」

 

 なにがいいたいのかとラフタリアを見れば少し不安げにこちらを見ている。

 

「まあ、大きくなれば食事をいっぱい取るからリファナレベルじゃ済まないご飯量になるだろうから準備大変だと思うけど、食事の準備はラフタリアの仕事だから」

 

 男女同権が叫ばれる中、食事を女性が用意するものというのは古い考えかもしれないが、すべてを同じにしてまずい食事を食べる必要があるのだろうか。

 稼ぐほうが稼いで、うまいほうが作ればいいのである。

 相手が作れないなら? 作れる相手を増やせばいいじゃない。

 

 勇者であった時期も、日本に戻ってからも食事を自分で用意したことなどなかった。

 

「はっ、はいっ!」

 

 逆に、ラフタリアはもともと母親から多少なりともならっていたようであるし、リファナを手伝う形で尚文を手伝っており、年相応には料理ができた。

 決してうまくはなく、最低限の点数であったが、それでも自分で作るよりマシであるとわかっている。

 

 仕事を押し付けたことを嫌がるどころか喜ぶあたり、ファンタジー世界の女性らしく、家庭内のことは女性がやる物的な意識なのかもしれない。

 

 女性優位のメルロマルクもいろいろかと思ったが、そもそも身体能力格差の大きそうな獣人だと別なんだろうか。

 

 ぴちり、ピシリっ

 

 小さく、そして確かに響く殻を割る音。

 直ぐとは言ったが、これほど早くとは思わなかった。

 机に置かれた卵は罅を大きくしていき、割れる。

 

「ぴいいー……なの!」

 

 割れた卵を帽子にして、クリクリとした目の可愛らしいドラゴンが卵から出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 




なのリオン誕生!

変な語尾は視覚情報のない小説の味方!
いえ、どこぞの魔砲少女を変といったわけでは…!


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040 獣魔契約

 

「ぴいぴい! がえりおんなの! よろしくなの。おとーさま」

 

 卵の殻からひょいとでてくると、目をぱっちりとひらき、こちらを見るとそういった。

 

「知識があるのかー」

「おやからひきついだなの」

 

 手を差し伸べると無邪気にすりすりと顔をこすらせてくる。生まれたての子供が知識があること、名前を名乗ったことから、親の知識を継承しているのだろう。

 

 驚くことだが、それが竜なら当たり前なのか、あの弱そうなドラゴンだからできたことなのかはわからない。

 しかし、俺をお父様と呼ぶ割には血のつながった親にそっけない。

 鳥系と同じく刷り込みというか、生みの親より育ての親なのだろうか。可愛いからいいけど。

 ペットはいい。かけた愛情分だけなついてくれて可愛いものである。

 

「おおー」

 

 ぴいぴいと鳴きながらきゃっきゃと動き回る子ドラゴンにラフタリアは目を輝かせ、しっぽをブンブンと揺らしている。

 

「さっすが、勇者様ですな! いやあ、生まれてその場でしゃべるドラゴンなんて初めてみました!」

「勇者が孵化させて獣魔契約をした物は特別な成長をするらしいよ」

 

 教会の知る事実として、過去フィロリアルを育てた勇者が聖鳥の聖人と呼ばれていた。

 通常のフィロリアルとはかけ離れた姿だったと伝わっている。

 

「どうですか? 勇者様に孵化いただいて、私どもにお売りいただくのは。高く買い取りますよ」

「それで、勇者が孵化した特別性ですって高く売るって? 小遣い稼ぎは必要ないよ。尚文にでも頼んだら?」

「残念ですがそうしましょう!」

 

 奴隷商とのつながりはそれなりに使い出があるだろう。

 ただ、勇者には奴隷の成長補正があるのだ。

 それを考えるとレベルの低く、資質の高い奴隷こそが勇者にとっては良い奴隷だ。

 そして、資質はともかく、レベルが低ければ安い。金を使わない客に特別良くはしないだろう。

 

 仲間もそこまで増やす気のない現状ではそこまで重用することはないだろう。

 

 あ、でも

 

「山賊とかって捕まえたら売れるの?」

「ええっ! 健康でよく働けそうなのなら高く買いますよ」

 

 ぐふっと怪しげな笑みを浮かべて奴隷商は答えた。

 

 **

 

「盗賊なんて殺したほうが早いですよ?」

 

 盗賊を捕らえて大儲けと思ったがそう答えが帰ってきた。

 商人を襲ってたらふく蓄えてそうなのに、というと、盗賊にも二種類あると言われた。

 

「お金のある盗賊と、お金のない盗賊です!」

「まんまじゃ?」

「お金のない盗賊は村を追い出された人間や法を犯して街から逃げたようなのがなるので、ろくな装備や技術がない場合が多いんです。女だけで森に入ったり、旅人を不意をついて襲ったりします。でも、そんな人間が大金を持って歩いているはずもなく、結局装備は悪いままで、お金なんて貯めません。お金のある盗賊はもと冒険者だったり、戦うことに自信があるものや頭のいい人が集団をまとめていて、商人を集団で襲ったりします。奪った馬を使って襲ってきたりと侮れない相手なんです。居場所を見つけるのも大変で、見つけてもすぐ逃げちゃうから騎士団が討伐しないとどうしようもないんです」

 

 力の強い獣人の村を襲う盗賊なんてそうそういませんけど、村ごと襲われることもあるんですよ! とプンプンしながら力説するラフタリア。

 

 確かに、退治してお金になる盗賊というと難しいかもしれない。盗賊個人を捕らえても奴隷として売れるだけで、それだって健康的な成人レベルでしかなく、特段活かせる技能もないだろうから、安値だろう。

 

 そもそも、運ぶ手段も問題だ。

 どこかに向かうために馬車を進めて、盗賊を捕まえて売りに戻るなんて手間だ。

 

 ……儲ける仕事なら冒険者たちがすでにしているか。

 

 要するにアジトを見つけられなければどうしようもないのだろう。誰も知らないどこかの森の奥にあるアジトを見つけなければ。

 

 つるつるした肌のガエリオンを胸に抱いて考える。

 前回の波では村を救ったがそれは盾の勇者と一緒の行いだ。ボスは他の三勇者が倒しており、波の功績という意味では正直そこまで大きくはない。

 

 盾の勇者が評判が悪いこともあり、その分自分に押し付けられている感じがあるが、そもそも下から二番といったところだ。

 

「実績も作っておくか」

 

 獣人と同じく、従魔も成長のためにはレベルを上げるのが一番だそうだ。

 ラフタリアにもいずれ必要になることだから、必要な訓練になるだろう。

 

 やることは決まった。

 

 奴隷商と必要な相談と、アイテムを売ってもらい、行動に出ることにした。

 




次回、数多の主人公にヒロインや商人と出会うための噛ませ犬にされた盗賊たちの恨みの逆襲が始まる!!

中世ヨーロッパでは強盗騎士というのがいたそうですよ。
戦争時は騎士、平時は強盗をしていたとか。
彼らは騎士が持つ決闘の権利を悪用して、決闘だ! 金よこせ!と襲いかかったとか。
一般の市民が突然難癖つけられて騎士に襲われるんですから怖いですよね。

うーん、無力な美女に決闘を挑む強盗騎士、エロい感じしますね!


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041 盗賊フェスティバル

 

 波の存在は王国に住まう者たちはともかく、村や小さな待ちに住む人間たちにとってはそこまで大きな不安を与えなかった。

 

 第一に被害にあったのが獣人の村という自分たちじゃない被害者であったことから、獣人だから、世界に嫌われている、盾の勇者とともにある種族だけではあると悪しきに罵ることで十分に不安を紛らわせることができたのである。

 

 そしてなにより勇者の召喚である。

 

 3勇者を含む5人もの大量の勇者の存在は大きく安心を与えた。盾の勇者は召喚されてすぐに仲間の女を襲うような人間であったとのことだったが、さんざん虚仮にしていた中で本物はやはりどうしようもなかったと聞いてもそもそも期待をしていたわけではなかったので、問題はなかった。

 

 だが、王都は別である。

 

 電話やテレビがなく、ひと伝に情報が広まるせいで、テンポがずれている彼らと違い、王都に住む人間は波が他人事じゃないことを知っていた。

 

 徐々に不安は高ぶり、物の買い占めが始まり、その不安は緩やかに町や村に伝播し始めていた。

 

 **

 

「がはははっ、これまた大量だぜ。イレグイだなあ、まじで」

 

 元冒険者だった盗賊の頭はニタニタと笑みを浮かべていた。王都で買い占めが起こり、頻繁に商人が今がチャンスだと往復を繰り返す。

 

 目に見えたチャンスに前しか見えなくなった人間は護衛をつけるのも惜しいと一回でも多く往復に走って──盗賊たちに目をつけられた。

 

 買付に走るために多くの金貨を抱えた商人たちはまさに肥えたカモ。

 

「金はいい。輝きが欲望を刺激する。何にだって変えられる。食い物、力、女。でも、今日はラッキーだなあ、金だけじゃなくて女も手に入った」

 

 女性優位のメルロマルクでは、女の商人もそれなりに存在する。今回は男の商人についてきた丁稚だったが、全く問題はない。

 

 まったくもんだいはない。

 

「さあて、お嬢ちゃん? 取引しようぜえ」

「ひっ、い、いやっ……」

「いやあ? 嫌って言ったかい? 取引が? 困るなあ、そうすると、お前さんの師匠みたいな体になっちまうなあ」

 

 見習い女商人は体を震わせた。

 こんなはずじゃなかった。彼女は落ち目の男爵のそれも妾腹の娘であった。持参金すら用意できないせいで、貴族として嫁ぐ可能性もなく、良い嫁ぎ先を用意できる力もなかった。

 女性優位も考えもので、女性だからといって必ずしも誰かが未来を用意してくれるわけではなかった。

 

 けれど、見習い女商人は目が良かった。良い品を見抜き、計算も得意だった。だから商人として一旗上げてやると思ったのだ。

 

 波に会うのではないか、魔物が恐ろしくはないかと唯一心配してくれた次期当主になる兄に「心配しないで! たくさん稼いでくるわ!」と胸を張って出てきたのだ。

 

 波の被害にあった場所なら、物資がいくらでも不足しているだろうと、付き合いのあった薬師から色々買い上げ、前々から声をかけていた商人に弟子にしてもらい、こうして──こうして──……。

 

 報われる、はずだったのだ。

 私は頑張っていた。貴族の血を引いているのに、あの輝く社交界に参加することもできず、陽の当たらない生き方をしていた過去。

 村長の娘に、愛する男との結婚はいいものよなんて言われて腹を立てながらも羨んで。

 でもきっと、商人として大成して、きっと私も輝くのだと。あいつよりもっといい相手と出会ってやると。

 

 なのに、なのに、なのに。

 

 

 数少ない冒険者の護衛は林の影から飛んできた弓に射られてハリネズミのような体になって倒れ、馬車は盗賊たちに囲まれた。

 言われるがままに馬車ごと彼らのアジトに連れて行かれ、彼女の師であった商人はいま地に倒れ伏している。

 血を垂れ流し、顔色は真っ青になり、震える唇で故郷に残した妻と子供の名前をつぶやいている。

 

 自分の末路がどうなるかなんて聞くまでもない。

 彼ら盗賊の背中にある──廃墟の奥から何人もの女の泣き声が聞こえてくるからだ。

 

「さあ、少しはお利口さんになれたかあ? 命と引換えに──お前さんは何を差し出すぅ?」

 

 ぽろぽろと涙をこぼした。

 でも、死にたくない。

 今は屈辱にまみれたとしても。

 きっと、きっと使い潰される前に、逃げてやる。

 そう決めたから。

 

「か、からだを差し出します」

「よしよし、じゃあ、奴隷契約しようぜ」

 

 あ、むりだ。

 すべての希望を奪われた気がした。

 

 見習い女商人は奴隷印を描かれ、その尊厳すべてを盗賊の頭に奪われた。

 




貴族「王都に滞在しとったら勇者様が守ってくれるよなー」
貴族「そや! 領地置いといて王都でウハウハしよ! さっ、買い出し買い出し」

領地で波に襲われたらひとたまりもないと震えている村人たちもいるんですよ!


じっさい、勇者たちが他国でも波が起こってるとわかるまでだいぶ放置しているわけで。
いや、フィトリアキックで世界中の波を一撃必殺してるのかなあ。
フィトリアえらい!

つか、「4人で一国守ってんじゃね―よ」を外交でなんとか出来ちゃう女王って有能ですよね。


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042 くえすと! 盗賊のアジトを見つけよう!

 どこにあるかもしれない盗賊のアジト。

 それもお金を持っている盗賊団のアジトをどうやれば見つけることができるか。

 

 そこでピンときたのは、人数が多いということは、食事も大変ということだ。

 レンジがないこの世界で、食事は火がなければ作れないだろう。ということは飯時に火があるところを探せばよいのでは? 

 

 森を探索して火を炊いたところを探すのは至難だろうが、空高く飛び、航空図のような状態で探す。

 煙が立つに違いないから一発である。

 

 賢い! 

 

 いつが飯時かを考えなかったため、空に浮かび上がって二時間ほど必要だった。

 空は寒く、何より暇だった。

 

 つらい、二時間だった。

 

「ここが、盗賊のアジト」

 

 廃墟をうまく利用しているようで、要所要所に修復のあとや、意外としっかりした補修が行われている。

 廃棄されて長いのか、周辺の森が廃墟に侵入しようとしていた。けれど、誰も住んでいないはずのそこから確かに煙が上がっていたのだ。

 外から見れば誰もいなかっただろうが、分かりづらいように影待った場所に作られた小屋からは馬が何頭も繋がれているようだった。

 

「さて、せっかくだから人を相手にすることにもなれてもらおうか」

 

 個々にいる盗賊はレベルは20相当。ボスだけ厄介だが、ラフタリアの相手にならないだろう。

 とはいえ、いくらか罠があるし、隠れて逃げる裏口もあるようだった。不意をつかれる可能性がないとは言えない。

 

「《プロテクション》《レジストポイズン》」

 

 二種類の光がラフタリアを覆っていく。

 これでダメージも毒もくらわないだろう。

 

「ラフタリアは正面から侵入してもらう。俺は騒ぎに便乗して裏から入るから」

 

 この程度の規模なら魔法で簡単に内部の把握が可能だ。

 人数は20人程度とそれなりの規模である。

 小規模なら暴力で村を脅せるレベルだろう。

 

 そんな相手を討伐する。

 人の命を奪う訓練をするためだ。

 

 人間は団結できない生き物である。

 魔王討伐の際だって、盗賊は現れたし、人類が優勢になると国家規模はなくても小競り合いは起こったのだ。

 それを考えれば、勇者が波だけを相手にできるかといえばやや怪しい。

 

 正直盾の勇者の扱いを考えれば勇者がメルロマルクを嫌ったり、邪魔になった場合に暗殺の手が伸びる可能性もあるのではと思ってしまう。

 

 貴族も勇者への信仰はあるようだが、だからといって助ける気があるかといえば疑問だ。

 勇者の仲間に志願したのも貴族の次男以下ではなく、冒険者が多いのも気になるところである。

 単純に貴族に戦えるものが少ないということかもしれないが。

 

 正直に言えば、魔物を殺すのと、盗賊を殺すのには大きな違いがある。

 人を殺すことは悪いことだという意識、罪を犯すという罪悪感。己自身が自分を苛むのである。

 あれだけ気にならなくなったはずの魔物の血肉も、人の死体というだけで怖気が走り、体が震えて心が軋むのである。

 魔物相手だって、人に似た姿をしていればそれだけで怯んでしまう。もっとも、二度三度と繰り返すことでなれたが。

 

「ハイ! がんばります!!」

 

 燃えていた。

 瞳から炎が出るほどである。

 フンフンとその場で剣を振りながら準備体操まで始めている。

 

「え、大丈夫? 盗賊だよ? モンスターじゃなくて」

「はい、昔村でも捕まえた盗賊に村のみんなで石をなげたことあります! 大丈夫です、やれます」

「道徳観が違ったかー」

 

 悪いことをしていると思うから罪悪感を覚えるのである。

 害虫をスリッパで叩き潰して虫さんごめんなさいと心から思える人間はごく少数だろう。

 

 村に害する盗賊を村人皆で殺すのは専門の戦える人間が戦えばいい都会とは違い村全体で守るための手段の一つなのかもしれない。

 

「……まあいいか。気は抜かないように。ダメージは受けなくても、戦闘不能にできないわけじゃないから」

 

 落とし穴や手足を拘束、毒や麻痺など動けなくする方法は多い。

 

「いってきます!」

 

 おりゃーとかわいらしく声を上げながら、入り口へと入っていく。

 

「じゃ、俺もやりますか」

 

 天より魔法の檻が落ち、逃げ道を塞いだ。

 誰一人、逃れることはできなくなった。

 

「害虫退治の仕事を始めようか」

 




幼女でも犯罪者には石を投げるスタイル。おお怖い。


でも、モンスターや盗賊がウロウロしていた場合、領主に助けを呼んでる間に被害が出てそうですよね。村人の中にもそれなりに強い人とかいそう。


次回は久しぶりのR18?


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043 くえすと! 盗賊を倒そう!

 

 どんなときが一番好きか? 

 

 絶望に染まりきった女の初めてをぐちゃぐちゃにしてやるのはそりゃあ気持ちがいいが、何度となくやりまくって、嫌悪感はあるくせに体が感じ始めたときの体と心に挟まれて自分自身を嫌悪している女の表情を見る瞬間が何より楽しい時間だ。

 この時間は娼婦を買っても得られない。

 

 かつて冒険者をしていて、商人の護衛についていたとき、盗賊に襲われてなんとか命は守ったものの、荷物を奪われたときに払う金はないと言われたとき、腹が立って商人をぶっ殺してその妻を襲ってやり潰してその良さに目覚めた。

 

 もともと乱暴者として村に居場所がなくて冒険者になった口だったが、自分が盗賊として立派に仲間を率いるようになったときはらしいところまで落ちたと笑ってしまった。

 

 今は街道を張れば襲いやすい獲物が多くて笑いが止まらない。盗賊団として人数が増えると女はいくらいても足りなくなる。とはいえ、女を飼えば飼うほど動きが遅くなる。

 逃亡、反乱、情に芽生えて連れて逃げようとする男が出ることもある。

 けど、奴隷契約。これを覚えたことで変わった。

 罰則の痛みが女を奴隷として縛ることができる。

 逃亡禁止、反乱禁止、家事や手入れ、面倒を任せることができる。

 何より一番なのは自分で身だしなみを整えさせられるということか。

 

 さらって来た女の心を折るために二、三発殴ってから犯していたが、顔が崩れるのも、精液で汚れっぱなしで据えた匂いがしてくるのもよろしくない。

 でも、奴隷は全部自分でやってくれるのだ。

 おかげで余裕が出て、常に自分専用の女を持てるし、もっといい女を捕まえたときは配下に払い下げすればいい。

 

 今回捕らえた女は特別に具合がいい。俺に抱かれるために生まれてきたようないい女だ。

 

「いやっ、きもち゛わるいっ」

 

 抵抗できないと諦めていくるくせに、心は堕ちていない。

 胸を揉んでもクリトリスをいじっても不快そうな顔をしてこらえていたのに、今はダラダラと愛液を出すようになった。

 強く胸を掴んだ後に優しくゆっくりと抽挿してやるとそれだけで表情が変わる。

 

「命令だ、感じたままに話せっ!」

 

 声がもれないようにギュッと唇を閉じるさまが愛らしい。だからこそ、ぬぷぬぷといじめてやれば簡単に口を開く

 

「あっ、あっ、きもち、あァ、きもち、いい、──きもち、よくなんてないっ!」

 

 命令違反の痛みに苦しみながら、静かにつうっとたれてくる涙をしたで拭い取る。

 ああ、なんてうま──

 

 その瞬間、意識を失った。

 

 **

 

「これはひどい」

 

 表からラフタリアが突入するのと合わせて裏から忍入り、罠感知や生命感知ですべてを暴き出し、不意打ちボーナス3倍! と言う感じで背後からマヒ・睡眠の状態異常を付与した一撃を与えて昏倒させては拘束していった。

 

 後はレベルの高いボスだけだと部屋を覗けば全裸で女にのしかかり、種付けプレスしながらヘコヘコ腰を動かしていた。

 

 ……なんていうか、自分だとわからないけど、人のセックスって傍目で見るとなんか間抜けに見えるよね。

 

「《ショック》」

 

 指から放たれた紫電がばちんと音を立て、盗賊のHPと意識を奪う。単体相手の魔法の雷撃は襲われている女を傷つけずに倒した。

 のしかかったまま意識を失った盗賊の頭を蹴り倒すとベッドからゴチンと落ちた。

 

「大丈夫? 《小回復》《疲労回復》……えーと、《清潔》」

 

 三種の輝きが女を包むと目は死んでいるものの、ツルンと肌のきれいに整った。ところどころ黄ばんだ布のベッドの上にいるには場違いな様子に見える。

 

「あっ、たす、けがきたの?」

「そうそう。刀の勇者様がね」

 

 ベッド脇に投げ捨てられた布を受け取りながらも胸を隠すだけで着ようとしない。

 

「ゆうしゃ、さま……」

 

 だんだんと状況を理解しだしたのか、ゆっくりと目に光がやどりだす。

 

 

 **

 

 やった! 素晴らしい、ああ、勇者様、私をお救いくださりありがとうございます。教会に行って必ず寄付します。

 奴隷契約され、絶対逃げる余地がなくなったせいでもはや絶望。できるだけ飽きられないようにして命を永らえるべきなのか、早く諦めるべきなのかと揺れていた。

 心はいつ折れてしまうかわからなかったし不安だった。

 

 だから、助けられたことは嬉しい。嬉しいが──。

 ちらりと見目のよい少年を見る。人の良さそうな笑顔を浮かべており、助かった実感が得られるが──。

 

(このままじゃ損確定だわ!)

 

 財産どころか、ろくな衣服もない。

 このまま救われたとして、実家に帰る以外に手段がない。

 そうすればもう二度と商人など目指せまい。

 しかも処女をなくして価値の落ちた女としてどこかの村の農夫の妻か、実家の家臣の後妻か。

 

 目の前には自分を助けてくれた見目麗しい勇者様。

 

(せめて支援を勝ち取るわっ!!)

 

「あ、の、ゆうしゃさま……」

 

 悲しそうに顔を伏せ、呼びかけるとトコトコと近寄ってくる。まだ少年らしさの残った可愛らしい相手に詐欺を働くようでなんだか悪い気がしたが──

 

(絶対損はさせないからっ! いつか返すから! それに年上のお姉さん相手なら勇者様だって損じゃないでしょ)

 

「なぁに?」

 

 近寄ってきた勇者様を抱きしめる。胸を意識してもらえるように、潰れんばかりに強く押し付ける。

 

「わたし、とうぞくにけがされて……でも、慰めると思って私を抱いてくれませんか? 悪夢を上書きしてしまいたいんです」

「……わかった」

 

(かった! しょうり!)

 

 ニコリと笑って、勇者様も笑い返してくれたことに満足した。




見習い女商人「まっ、不本意だけど経験積んだわけだし? 子供な勇者様くらいメロメロにして支援させちゃうわっ!」

なお。



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044 快楽落ちニコマ

 

「いぐうううううぅ♥」

 

あまりにも大きな快感が波となって体を襲い、激しく打っては引くたびにごっそりと自分の心が削られるのを感じる。

 

こんなはずじゃなかった!

 

最初は年下の男の子らしい、可愛らしい唇が触れ合うだけのキスから始まった。

盗賊に何もかも奪われてしまったと思ったのに、純な心を取り戻したように頬が熱くなり、このチャンスを逃すかと挑んでいたものの、こんなにいい相手なんてなんて幸運なんだと思ったし、だからこそこのチャンスをものにする、私の体の虜にして絶対愛人以上になるわと心に決めたのだった。

 

決めたはずだったのに

 

**

 

「はっ、ううう」

 

キスをされ、体をゆっくりと撫でられるたびに小さく熱を持っていく体に不思議なものを感じながら、温かいお湯に浸かるような心地よさを感じるようになり、じんわりとあそこがうるおいだしているのがわかった。

 

盗賊相手だと、突っ込まれて痛い痛いと思いながらようやく濡れてきていたことを考えて、あれ、なんでこんなに濡れるの? もしかしておもらし? と思ってしまい、ばっと手であそこを隠そうとして、――その手をぎゅっと握りしめられた。

 

「大丈夫だから」

 

ニコリと微笑むその笑顔に隠そうとする手の力を抜くと、そっとベッドの脇によけられ――

 

「じゃあ、入れるね」

 

勇者様が体を浮かせて、

盗賊のモノがみすぼらしく見える一物が見えた。

少年に似つかわしくないそれに悲鳴を上げそうになって――

 

「んああっ」

 

意識全てが真っ白に塗りつぶされた。

 

「うーん? お姉さん、感じやすい方なんだね」

 

嘘だ、と思った。

少なくても、盗賊の男はそれなりに数を経験していそうだったが、特別感じやすいというほどではなさそうだった。

 

いや、奴隷化して何度も襲われてようやく感じるようになったと思えば実は盗賊はそんなにうまくなかったのかもしれない。

もしかしたら自分は――いや、そんなはずはない。

 

大した力のない貴族の家で育ったが、そうなれば女としての役目である、性交に関してはそれなりに学ぶ機会もあった。

女友達ときゃいきゃい言いながら話したこともある。

狩人の妻になった友達が狩りから帰ってきた日の夜はすごいのよと話してくれた。

でも、これほどじゃないはずだ。

 

ゆうしゃさま、すごすぎる。

 

「ゆうしゃさまぁ……」

 

気持ちが良すぎて怖い。

盗賊のものより遥かに強い自分を変えてしまう恐れを胸にいだいていた。

押しのけるように両手は勇者様の腰を掴んで、しかし少年のものと思えないくらいに硬い筋肉。

全く退ける事ができない。

 

「手は腰にまわして? そう」

 

ゆるゆると入り口付近をひっかくように動かれると、高ぶるだけ高ぶり、超えてしまわない快楽に、ろくに思考ができなくなる。

 

あっ、あっ、ぁっ。

 

あえぐことしかできない生き物に自分がなってしまったかのようだった。何もかも言われるままに、腰に手を回し、自分から腰を動かし始めた。

やらしくじゅぷじゅぷと音が響く。

 

「言うこと聞いていい子だね」

「んぐうううう♥」

 

微笑んで褒められて、それだけでイッた。

超えないようにわざと焦らされていて、それは変えられていなかったのに、褒められただけでイッてしまった。

 

「褒められるの好きなんだ。」

「は、はひい」

 

褒められてはいかされて、繰り返されるうちに、頭を撫でられるだけでイッてしまった。

自分は一体どうなってしまったのだろうか。壊れてしまったのだろうか。けれど、目の前にいるかたが輝いて見えるようになった。ああ、すごい。

この人のものにされちゃうってこういうことなんだぁ♥

 

男を愛していると自慢する女になんて自立心のないのだと内心蔑んでいたが、この快楽を知ってしまえば過去の自分のほうが愚かに思えた。

 

「らび、私の名前、ラビです、がんばりますから、また、褒めてくださいぃ」

 

奴隷契約は勇者様と結ばれていない。

けれどこの瞬間、本当に彼の奴隷となっていた。

そしてそれが何よりうれしいと感じてしまっている自分に気づいた。

 





自立心が強く、成り上がってやると胸に誓いつつも所有される喜び、
捧げる快楽を知ってしまう見習い女商人さん。

次回はラフタリアの性の目覚め、みたいな感じのやつで!


ところで、実は小説を書くのに使っているアウトラインエディタememopadというんですが、こいつが便利なのですが、機種依存文字にくっそ弱くて、ハート使うのめんどくさい的な背景があったりします。
ハート乱舞は嫌いなんですけど、ちょこっと使われる分にはグッと来る派なんですけど、みんなはどうなんですかね?


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045 初めてのおにゃにー

 

 ラフタリアは興奮していた。

 刀の勇者であるユウさまと共に戦う決意をして、波を乗り越えてはいたが、正直なところ、役に立てたとは言い難かった。

 盾の勇者のナオフミ様は攻撃のできない体質であるため、リファナちゃんはナオフミ様の剣であると胸を張って宣言できたと思うが、自分がなんの役に立っているだろうかと思えば必ずしも代替えの効かない何であるということができなかった。

 

 出会いの際こそ信頼することができなかったが、今はわかる。

 彼は勇者らしいかはともかく、良い人である。人を助けたいと思える人である。

 自分とて、リファナちゃんほどではないにせよ、勇者様には憧れがある。

 

「頑張ってやくにたとう!」

 

 戦闘面では正直、他の勇者を遥かに超えているように感じるので、どこまで役に立つかわからないが、一日でも早く強くなろう。

 それに、どうもユウ様は命を奪うことがそんなに得意ではないようだ。

 モンスターはバシバシ倒してしまうが、可愛らしい懐いてきた狐やたぬきを私が狩ったときは目の奥に咎める感情の色が見えた。

 とはいえ、ナオフミ様が調理すれば美味しく食べていたので、情を抱くと殺せない質なのかもしれない。

 村でも世話をした家畜を捌いたことがあったが、可愛がりすぎた子が涙を流しながら「殺せない、かわいそう」と言ってたが、え、食べるのに? ごちそうなのに? と思ったことがある。

 

 今回のターゲットは盗賊である。

 お金になりそうな盗賊団を狙うらしい。盗賊たちは家畜だけを狙う狼たちと異なり、女の子をさらったり、商人を襲ったりと村にとって百害あって一利なしの相手だ。

 減れば減るほど平穏に生きる村人たちの助けになる相手である。

 でも、勇者様は殺すの嫌かもしれない。私が頑張ろう。

 

 むん。気合が入った。

 

 **

 

 盗賊のアジトを一日とかからずにユウ様は探し当ててしまった。

 すごい。

 規模も人数も丸裸で、丁度いいレベルと強さも把握できているらしい。

 波でも使った防御の魔法をかけてもらう。

 暖かい服を一枚多く着たような感覚で、ユウ様に包まれているようで少し恥ずかしい。

 

「行ってきます!」

 

 その言葉に手を振って返事を返してくれる相手がいることがとても嬉しい。

 おりゃーと声を上げながら入り口へと走る。

 夕餉が始まっているようだったが、それでも見張りが一人立っていて、すぐに気づかれる。

 クマのようにもじゃっと毛の生えた男は、子供が見たら泣きそうな容貌だ。

 男は私を見ると一瞬警戒の目をして、私が幼い少女であることに気づいて顔を歪に歪めた。

 迷子だと思ったのか、獲物がわざわざ走ってやってきたと思ったのか。

 こちらはすでに剣を抜いているにも関わらず、真正面からこちらを待ち受けている。

 

「ガハッ、おい、お嬢ちゃん、まい──」

 

 奴隷として売るとのことで、死んでないことが好ましいとのことで、剣の腹で殴打した。

 大きく振りかぶったその一撃はニタニタと笑いながら足の付根あたりを見ていて油断していた男を簡単に殴り飛ばしていた。

 獣人はどの種族かによって特性は変わるものの、総じて人より丈夫で力強いものである。

 勇者に連れられ、波を経験することでそのレベルは上限である40近い。

 人を害するには十分でも、戦士と戦うには不足が過ぎた。

 強くなっていることを感じる。

 勇者様に出会う前なら私はこいつらの獲物にしかなれなかっただろう。

 

「ばか──な」

「私は刀の勇者様の……」

 

 勇者様の──。

 まだ堂々と言えるほどではないから、頭の中でだけ。

 剣でも盾でもない私。なりたいのは。

 私は刀の勇者様の──―だ。

 

 カクリと完全に気を失った男を縄で縛り付けると盗賊のアジトにカチコミをかけたのだった。

 

 **

 

「ぎゃあ!」

「か、囲め! 左右からなら──ぐえっ」

「は、早すぎるっ」

「よし罠だ、今のすきに──なんで傷つかねえんだよおお」

「大丈夫だ、睡眠薬の仕込んだ吹き矢を当てた──ごふっ」

 

 殴っては進み、ボコッては進んだ。

 戦闘は楽勝ではあったが、まんまと罠にかかり、ダメージを負った上に毒まで仕込まれてしまった。ユウ様の魔法がなかったら足を止められ、薬で眠ってボコボコにされるのはこちらになっていたはずだ。

 

「ゆだん駄目、絶対」

 

 しょんぼりと頭の耳がたれるのがわかる。

 あー、だからゆう様は毒対策もしたのだとようやく理解した。

 レベルが高い相手だって準備をすれば倒せる。

 そしてそれは何も相手だけではなく、自分だってそう。

 寝てるとき、水浴びしているとき。スキなんていくらでもあるし、作れる。

 今度そういうのも勉強しよう。そうすれば敵のすることを覚えて自分の手段にもできるかもしれない。

 

 **

 

 盗賊たちをぶちのめし、囚われていた女たちを助け、彼女たちと一緒に盗賊たちを拘束していく。時々捕らえた盗賊を殴ったり蹴ったりする人間が出るが、「奴隷にして売るからころしちゃだめ」というとおとなしくなった。

 耳元で今後について脅しているようだったが、そのくらいは構わないはず。

 

「あ、あの、ラフタリアさん、勇者様、盗賊たちのボスのところにいるみたいだから、その」

「あ、はい」

 

 助けた女のうち、一番盗賊捕縛に協力的だった女性から袖を引かれて振り返る。

 戦闘の気配が消えたので、向こうも終わったのだと盗賊捕縛を開始したが、それにしてもユウ様が遅い。

 事前に聞いた人数を考えると、あんまり大人数を相手にはしていないはずなのだが。

 まさかと不安になり、彼女たちにはここで待っててと言い聞かせ、音殺してゆっくりと部屋へと近づく。

 

 **

 

『い、いぐうううっ♥』

 

 一体何の声だろう。獣のような声はなぜか胸の奥をドクドクと大きく脈打ちさせる。

 そろりそろりと開きっぱなしの扉からそおっと中を見る。

 

 そこには裸の女性にのしかかり、嗜虐的な目をしたユウ様がいた。

 目が離せなくなる。

 じゅぽじゅぽとどこからか水音が響くたびに女の人は大きく声を上げる。

 はあはぁ

 ユウ様に体を撫でられるとそれだけで嬉しそうにとろりとした目をしている女の人。

 はぁ、はあ

 部屋からむわりと香る匂いは嗅いでいると何故か体が高ぶる。

 ふうっ、ふうっ

 それに、うるさい。さっきから大きな吐息がとても耳障りに響いている。

 黙れと言いたかった。けれど気付かれないように静かにしながら視線は部屋の奥にいる二人に釘付けだった。

 

 しばらく眺めているとじっとりと股が濡れているのに気づく。怪我なんてしてないのに。

 手で触れて見るとねとりと糸を引く液体が指についていた。

 ぴくんと体が震えた。確かめるようにもう一度触れると、もっと深くしびれるのを感じる。

 

「んっ! んんっ」

 

 不思議とユウ様を見ながらだともっと触れたくなる。

 

『あうんんんっ! き、きもちよすぎるのっ♥』

 

 きもちいい、きもちいい? そう、きもちいい。

 これは気持ちいいことなんだ。頭に刷り込まれるような艷声。

 口は開いていないはずなのに、自分の口から出ているように錯覚して、ギュッと口を閉じながらもすりすりと指で擦る。そうしていると、より深く気持ちが良くなってくる。

 

『また、イッちゃう!』

 

 いっちゃう、いっちゃう。言葉が頭の中意味をもたないまま、けれど女の様子になんとなく今がそうなのだと理解する。

 

『イクッ、あああっ♥』

「あっ、あっ、ああっ♥」

 

 重なるように激しい快感に襲われ、視界がチカリと真っ白になった。

 くたりと全身から力が抜ける。骨がなくなったみたいに地面に寝転んでしまった。

 ぼんやりとしていると、行為は終わったようだった。

 

『らび、私の名前、ラビです、がんばりますから、また、褒めてくださいぃ』

 

 起き上がった女の胸に奴隷紋が見えた。

 ──自分とおんなじ。

 あんなに重なり合った様に感じたのに、自分と共通点が見えた瞬間に何故か別物だと感じる。

 ずるい。

 ユウ様の奴隷は自分だけ。そんな考えたことがない考えが浮かぶ。

 

「わたしのなのに」

 

 おかしいな。私がユウ様のなのに。

 ほんのすぐ先にいるはずなのに、遠くを見るような目でユウ様を見つめた。

 




ラフタリアは性感と独占欲を手に入れた!

盾の勇者と違って剣というわかりやすい立ち位置がないため、色々葛藤のあるラフでした。
次はようやく槍の勇者っすね!


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045 槍の勇者とのドラゴン交流

 

見習い女商人のラビを抱き終え、身だしなみを整えて部屋を出ると、部屋の前にはラフタリアが体育座りで待っていた。

あ、またせた―? と聞いてみると待ちましたとプンスコ怒っていた。

いま来たところだよは異世界では通じないらしい。

 

盗賊の宝をすべて回収し、ひとまずと女を馬車に詰めて街に戻り、奴隷商人に盗賊のアジトを見つけ、捕縛しておいたと伝えると、捕まえに行ってくれることになった。

お金はまた来たときにでもと言われた。

 

女も謝礼がもらえるようにしておきますとのことで、住んでいた村か宛もない場合はうまく手配してくれるそうだ。奴隷にはしませんよ、ええ、もちろんと怪しい笑顔で答えた。

ラビには考えられる商売の種を話して見て、盗賊から奪った馬車と金を融資した。

 

現状だと装備に困っていないため、金は腐らせるだけになる。それであれば融資が一番だ。

国からも支援はもらえるが、どうしても恩が増える。

なにか揉め事があって国に助けを求めれば当然見返りとして働かされることになる。

盗賊退治程度であれば受けるが、それでも経験値のたまらない戦闘を繰り返したくはないし、他国との戦争だの敵対貴族の処分だのといった人殺しにはできれば関わりたくない。

 

できれば女の子と責任とか感じずにエッチしていきたいものである。

助けた女に恩を振り、お金を稼がせ、対価に女を抱く。

楽してズルしていただきかしらー! である。

ヒモだろうか?

 

**

 

「ユウ様!」

 

懐も潤ったので、槍の勇者元康の元へと居場所を確認すると王都にいるようだったので、戻ってみると訓練所で槍を振っていた。

 

首を汗が伝っており、しっかりとした訓練を行っているのが見える。

周りをパーティーメンバーや城のメイド、貴族の令嬢がきゃあきゃあと声援を送っている。

ちゃんとがんばっているのだなあと感心しているとマインがこちらに気づき、たっとかけてくる。抱きつかれるとその柔らかな肢体が体を包む。

 

冒険していると気づくが、やはり街の女は清潔で良い匂いがするなあ。

マインは王女らしく、手入れに手がかかっているおかげか全身どこからも興奮させるいい匂いがする。

 

「久しぶり。元康に会いに来たんだけど」

「もうすぐ終わると思うわ」

 

ニコニコと笑う彼女に返事を返そうとすると

「ぐぎゅー、鼻が曲がるなの!」

「ちょっとガエリオン」

ラフタリアの制止も何のその。背負い袋からぷへっと顔を出した子竜のガエリオンが両手で鼻を押さえてむーむー言い出した。

 

「悪い匂いじゃないと思うけど」

強い香水をつけた女が複数集まるとそれはそれはすごくなるが、それもスパイスになるというか、やっているうちに気にならなくなるタイプだ。

竜は鼻が良いイメージはないが、わかる程度には良いらしい。

ちょっと離れるとなのー♪と嬉しそうな声と、ひくりと目に一瞬怒りを浮かばせるマイン。

 

「ごめんね。後で叱っておく」

「別に、ドラゴンの感性だからいいわ。次の波が終わった頃にでも、お時間もらえないかしら?」

「わかった」

 

そう告げると表情を柔らかくして微笑むマイン。

あれこれと会話をしているうちに、元康が戻ってくる。

 

「おっ、勇、来たんだ。そいつドラゴン? もしかして卵から? そういえば持ってるとか言ってたっけ。すごいな。俺、一から育てんの下手なんだよね――」

「そうなんだ? 元康猫飼ったら赤ちゃん言葉でそうな感じするのに」

「しねーよっ。ペットはなー、ほら、苦手な女の子とかっているし。遊びに行った先の子を可愛がるくらいはあるけど、やりすぎると妬かれるしさ」

 

興味はあったんだけどとパーティーメンバーから渡された濡れた手ぬぐいで体を拭っている。

すでに結構体はできてるな。元がヒョロかった尚文ほど大きな変化はないが、体つきが良くなっている。勇者にはないが、すでに限界の一つである40を軽く超えている。

 

「元康のドラゴンは?」

「ん? あいつあいつ」

 

修練所のはしでおとなしくこちらを見ている一匹の騎竜だ。

馬より遥かにがっしりした体だ。目にも知性を感じる。

 

「へー、移動には便利そう」

「遠乗りにも一緒に行ったけどさあ、バイクより速いんだぜ。ドラゴンいいよなぁ……ファンタジー感あるし。そっちは飛ぶやつ?」

 

親のドラゴンから言っても飛ぶやつには違いなさそうである。

 

「それもいいなあ。ま、ちびじゃまだ何にもできないか」

 

はははと明るく笑う元康。主人に反応したのか、騎竜はこちらを見てフフンと鼻を鳴らす。

 

「ぬぐぐ、ムッときたなの」

 

まあまあとラフタリアが燻製肉を差し出すとうまうまと食べだし、静になる。食べ物を与えればすぐおとなしくなるあたり、扱いやすいドラゴンである。

 

「じゃあみんな。俺、勇と行ってくるわ。みんなはゆっくりしてて」

「わかりましたわ、元康様」

 

身なりを整え、しっかりした装備になった元康。

マインや彼のパーティーメンバーはお弁当だ傷薬だと色々手渡しては手を振っている。

 

「じゃ、みんなはゆっくり休んでてくれ。強くなってくるからさ」

 

ビシッと親指を立てる元康。

噂話では剣の勇者錬も仲間と離れて修練をおこなっているらしいが元康もそうなのだろうか。

 

勇者の力での強化を考えると、成長に倍率アップのかかる奴隷や魔獣と比べると、勇者の仲間との能力差は開きやすい。

元々の意識からしてそうだが、元康もまた。

 

――仲間ではなく、ただの守るべき相手になっているのではないだろうか。

 

「じゃあ行こうか」

「ああ、世話になるぜ」

 

それでも元康の笑顔はキラリと輝くものだった。

 




アニメでめっちゃ走っていたあのドラゴンくんはドラゴン肉くんになっちゃったんでしょうかね? 

そして盾の勇者世界の奴隷と魔獣の成長率アップの習得の容易さと通常の仲間の不遇感。
ゲームだと真っ先に装備を剥がされて解雇されるやつー!
まあ、普通のゲームでもよくあるやつですけど!!
だって自分で名前つけたキャラのが情わくしね。しょうがないね。


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046 槍の勇者との冒険

 

槍の勇者元康はいいやつである。

女性優先のきらいがあるが、それだって仲間や友人と思われれば十分に配慮される。

大学生のちゃらいやつとまとめてしまえばそれまでかもしれないが、勇者に選ばれるだけの人柄はあるように感じる。

そもそも、いきなり勇者に選ばれて面白そう、やってやるぜと行動できる時点でそも素質があるといっても間違いじゃないだろう。

 

「せっかくだから、レベルギリギリのところを選んだぜ!」

「いいけど、怖いものなしだね」

 

出てきたリザードマンを刀の一振りでずんばらりんと上半身と下半身がお別れする。しかし、だいぶ強そうな相手だ。

正直雑魚なのに前回の波のボスを倒せそうである。

普通、命の危険があれば石橋を渡るものと言うか、安全なレベルで経験値を稼ぐものだと思うが。

経験値を貯めたいとのことで、ラフタリアには安全な範囲でガエリオンご飯ランニングをお願いすることになった。

 

「といっても、序盤の無理するほうがずっといいだろ? 今は頼れる高レベルがいるけど、最終的に勇も苦戦するレベルまで上る可能性あるわけだし」

「ゲームでもそうなの?」

 

正直、事前知識がある感覚がわからないが、こうやってレベルに合わせたダンジョンを紹介できること、かなり根を詰めていたはずの尚文とのレベル差を考えても結構効率的にレベルを上げているのがわかる。

 

「いや。でもMMORPG『エメラルドオンライン』はネットゲーだからな。バージョンアップで新しいボス……強い敵が導入される可能性ってあるし……。

そもそも、勇の存在自体謎なんだよな。他の勇者たちはわかるぜ? 同等レベルだ。盾がちょっと不憫だけどさ。でも勇はレベルが違う。それこそ、召喚されたときから最高レベルのイベントに参加できそうなレベルだろ? そのくせ、勇者としてもレベルが別口で上ってるんだろ。本来のレベル通りならいいんだよ。助けてもらって楽になるだけなら。でも、勇レベルに合わせられたら……ちょっとやばくね? って思ってさ」

「でも、波は三人で楽勝だったよね?」

「ま、な。だからほんとに心配してるわけじゃないけどさ。女の子と旅してるからには怪我させたくないしさ」

「なるほどなー」

 

彼なりに現状を危惧しているらしい。

ゲームとの差異を感じ始めているのだろうか。

 

ゲームをやっていない、異世界に呼ばれた経験がある身であるせいか、正直彼らのゲームの世界にきちゃった、わーい、みたいな態度は理解できるが実感しづらい。

 

自分としては、ゲームの世界に来たのではなく事前にゲームで予習をさせた上で資質の高そうな人間を召喚しているのだと思っている。呼ばれた世界、ゲームが別々なのに、知識が有効だからだ。この世界の情報を何者かがゲームという形にして彼らに提供した、と考えたほうが筋が通る。

 

(でも、たしかに自分こそが異物なのかもしれない)

 

尚文はゲームこそしていないが本は読んでいる。事前知識がない、五聖ではなく、四聖であることを考えると。

 

偶然じゃなかった場合、四人では力が足りない場合も考えられる。

 

「じゃ、しっかりレベル上げていこっか」

「おう」

 

結局の所、今はそれしかない。杞憂の可能性は十分にあるのだ。

 

**

 

「視界を広く持って! 敵を倒した瞬間止まらないで!」

「ああ!」

 

指南というほどではないが、日々魔物と戦い続けた経験からアドバイスをしながら魔物を狩り続ける。

元々体を動かしていたのか、筋はかなりいい。

視野や判断力は尚文のほうが上だが、戦闘についてはかなり筋がいい。

貼ったバリアのおかげもあり、怪我を恐れずガンガンと討伐を続けている。この分なら正直こっちに来てからずっとの経験値より個々での数日で遥かに上回ることになるだろう。

 

「元康ってさ、たくさんの女の子と付き合ってきたんでしょ?」

「まあな!」

 

二人きりでずっと戦闘を行っていると、いろいろな雑談もするようになる。正直過去の彼の話を聞くと、ゲームの主人公を何役やってるのだろうと思うほどだ。祖母の遺言でとある女学園に女装して女として通っていたってどういうことだ。凄まじい。

親の仕事で転勤をするたびに5~6人位と仲良くなっては次に飛んでいる。その上で、この世界に来ることになった事件以外では、生活が破綻していないということで正直感心する。

 

正直自分は異世界から日本に戻ってすぐ女という女を抱いてあっという間にフォローしきれないほどに破綻を迎えていたわけで。

 

「どうやってそんなにうまくやったの?」

「? 別にうまくやったわけじゃないぜ。困ってる女の子は放っておけない。ただ楽しくみんなで居たいって思ってるだけさ」

 

キラリと歯が輝く。

 

なるほど? ややマジカヨと思いながらも、そのとおりかもしれないと思った。自分はただ、女とセックスしたい、しないでいられないだけだった。だから目につく女全員に手を出していた。我慢なんてなかった。

 

抱かれたいと思ってもらって最高の快楽を上げて、だからいいでしょと次の女を抱いた。

ただ抱きたいだけで、一緒にいたいだなんてかけらも思っていなかった。

 

だから、新しい女をガンガン抱いたし、文句を言いに来たらよく来たと抱いて黙らせた。

気持ちよければいいからわざわざ避妊はしなかった。

女だってそれで抱かれないなんて事になってほしくなかったから避妊してなんて言わなかった。

 

「仲間とうまくいってる?」

「ああ。勇はどうなんだ?」

 

ラフタリアを思い出す。

あった当時はあんまりにも汚れていて、近づきたくもなかった。けれど、一緒にいるうちに情も覚える様になった。

最後まで一緒に戦いますと言われた。

 

幼い相手だったが、十分抱ける相手だ。なのに抱いていなかった。印象に引きづられているのだろうか。

それとも――抱いたら失ってしまうと思ってるのだろうか。

 

「うまくいってるよ」

 

ひとまずは。きっと。

ふうんと少し心配そうに見てくるから大丈夫だとごまかして、また魔物を狩りに行った。

 

 




ギャルゲー主人公とエロゲ主人公の語らい。

ちゃんと女の子と人間関係構築して付き合っていることに尊敬している模様。
でもそいつ最後刺されてますけどね!

ユウ「ヤンデレ? 別に刺されても怪我しないし、自分から抱かれに来る分楽なタイプじゃない?」
※会いに来ただけで抱かれに来たわけではないよう。


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047 他の勇者たちと

 槍の勇者の元康のレベルをガッツリ上げてから、他の勇者たちの元を回ることにする。

 

 **剣の勇者錬のケース**

 勇者というのは同じだけど、それぞれだいぶ特色のある回り方をしていて結構面白い。

 剣の勇者の錬は自分はうまくやっているから仲間を育ててほしいと言ってきた。元々基本的には別行動をしながらレベリングしているらしい。

 

 一人で進められるためか、たしかに錬はレベリングに付き合う前の元康よりレベルが高い。元々バランスの良さそうな剣らしいうまい育成方法なのかもしれない。

 

 そもそも、勇者がボスを相手にして、仲間が波の雑魚に対応するという考え方なら、勇者をあてにしない戦い方に慣れていたほうがメリットは大きそうではある。

 仲間というよりは別部隊と言う感じがするが。

 

「勇のバリアはレベルの底上げに向いている」

「まあ、たしかに」

 

 そう言われると否はない。

 実際、怪我を恐れずに攻撃にだけ集中すれば格上相手でも案外なんとかなるものである。

 レベル上げで難しいのはレベルが高い相手だと怪我が増え、戦闘を継続できなくなるという点が大きいのだから。

 けど、バリアがあれば怪我をしない。怪我がなければ戦闘を続けることができる。レベル上げの効率も良い。

 

 それに、錬のパーティはずっとそうしていたおかげか仲間同士の連携も悪くない。

 彼らは錬を尊敬しているらしく、忠誠心? も中々のものであった。

 

 特に嫌とも言われなかったので、ラフタリアとガエリオンもパーティーに加えたうえで、皆でレベル上げを行い、クラスチェンジを実施。さらなるレベル上げと勤しんだ。

 

 

 **弓の勇者樹のケース**

「こちらにおわす御方をどなたと心得る! おそれおおくも弓の勇者の川澄樹様にあらせられるぞ!」

「一同ひかえなさい!」

「ひ、ひかえてくださーい」

「弓の勇者さまなのぉ!」

「くえくえっ!」

「くっ、そ、そうだ。弓の勇者様がこんな場所にいるはずがない! 皆のもの、偽物だ! 弓の勇者になりすますあの者を始末するのだ!!」

 

 ……何しに来たんだっけ? 今、悪の貴族を皆でしばきまわっている。勇者の前にたち、口上を述べ、悪の貴族の証拠を語り、今最後のあがきを見せたところで、樹のパーティー仲間がバトルスタート。一部ふええと心配そうな女の子がいたが、レベル差でなんとかしているようだった。

 そうして、最後には逃げようとするあくだい……悪の貴族を樹が成敗した。

 

「悪の栄えた試しなし! ですね」

「レベリングはそこそこなのに、一番疲れる」

「いやあ、勇さんの悪を嗅ぎ取るその嗅覚! 流石ですね!」

 

 樹はパーティーバランスが最も優れていた。

 弓という遠距離武器であることもあるのかもしれないが、硬い壁がいることもあり、楽ちんな相手ではあった。

 問題は余暇で行う正義行為である。

 正義感が強いのはいいことだが、無能な善人よりは飼い方を知っている悪の貴族のほうが民の暮らしは良かったりするものだ。

 

 悲しむ人を救いたい、というよりは溢れんばかりの正義感を奮って満たしたい感が見えたので、パーティー内で比較的考えて動けそうなふええ(泣)なリーシアという少女に殴っていい悪役の見つけ方をアドバイス。

 おかげで楽しそうに悪をしばいている。

 

 勇者の名のもとに行われている正義執行だけに、その後の処理もスムーズに進む。

 規模が大きくなってきたおかげか、女王の影を名乗る人間が俺やリーシアのもとに悪の貴族リストと証拠を持ってくる様になった。

 

 情報を確認しても偽りではないようなので、ちゃんとした情報らしい。

 最初は報酬も受け取らずに正義のヒーローをやっていたが、勇者武器に入れられる素材はもらったら? と伝えたところ、勇者のためになるものですしいいでしょう! と受け取るようになった。

 

 個人的には正義と悪の二元論はリアルでは早々ないと思うのだが、ファンタジー世界でも同じじゃないだろうか? 

 だまくらかされて正義のつもりで悪をなしていた……とかありそうである。勇者の中で一番闇落ちしやすそうだな―と感じる。

 

 とはいえ、常に樹の隣をキープしようとするフィロリアルや、尊敬の目で見ているリーシアなど、仲間にはそこそこ、うーん、まあまあ、それなりに? 恵まれているようだ。

 

 




世直し勇者をしていると思ったら女王から裏で操られていたでござるな弓の勇者様。
面倒なことはやってくれるしいい気分だし勇者って楽しいって思っている模様。

正直支援を仲間に回して一人モクモクソロ修行している剣の勇者のがやばそう。

レベル自体は槍>弓>剣な感じに。
レベリングの効果はすごいからしょうがないね。


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048 盾の勇者様と

 **盾の勇者尚文のケース**

 

「なんだ、また来たのか」

「うん。この子どこの子?」

 

 きゃっきゃとはしゃぎ合いながら近況を伝え合うラフタリアとリファナと別に、ガエリオンと巨大なフィロリアルはにらみ合い吠えあっている。

 にらみ合いで決着がつかないと悟ったのか、フィロリアルはぼふんと音をたてて変身する。ドヤッと胸を張り、ガエリオンはじりりと一歩下がった。

 

「買ったフィロリアルだ。フィロリアルクイーンだったとかなんだかで、人間になった」

「ファンタジーだなぁ……でも、なんで喧嘩してるんだろ」

 

 前の世界と比べると、人種幅がファンタジーらしく広いな。

 勇者が育てた魔物は人に变化するようになるのだろうか? 

 じっとだいぶ大きくなってきた竜を見る。

 普通のフィロリアルよりだいぶ大きいフィーロともためを張れる大きさでそろそろ外飼オンリーの上、まだ人を載せて飛ぶほどではなく扱いに困る時期である。人型になれるなら楽なのだが。

 ぐぬぬ、なのぉ……と小さくうめいたガエリオンに有利を悟ったのか、一歩踏み込んでくるフィロリアルの子。

 

「くさーい、くさーい! この子クサーイ」

「はあっ!? 臭いのはそっちなの! ガエリオンはいつ夜這いされてもいいように毎日キレイにしているなの!」

 

 きゃんきゃんと子犬と子猫の喧嘩のようなやり取りである。

 ため息をつくと、こちらをじっとマジカヨみたいな目で見ている尚文がいた。

 

「流石にドラゴンは抱けないよ。そっちの子はともかく」

 

 ドラゴンカーセックスでもあるまいし爬虫類には興奮しない。

 きゅるんとした目とか柔らかい白いお腹は可愛いと思うけど。

 

 呼ばれたと思ったのかこちらにテコテコやってくるフィロリアルの子。

 スンスン、すんすんと鼻を鳴らしながら「いい匂い!」とペカーと明るい笑顔を浮かべてきた。

 冗談のつもりだったが、尚文は彼女の腰をひっつかむとフィロリアルの子をさっと背中に隠してしまった。

 

「フィーロはやらんっ」

「フィーロっていうんだ」

「うん。フィーロはフィーロだよ」

 

 笑顔の会話だったが、父親的にはNGらしい。ギロリと睨まれる。

 別にちょっとむらりとしないでもないが、勇者同士揉める気もない。向こうから誘われればともかく、自分から誘う気は今のところなかった。

 そもそも、大人びてる子や体の成長の早い子でもないと子供はセックスが楽しみづらい。回数できるならともかく、快感を受け流すことができずにすぐに意識が切れたりするので、気を使うことが多い。

 

「わかったってば。まあ、パーティーが増えたのはよかったけど、なにそれ、行商?」

「まあな。薬や仕入れたあれこれを売って回っている」

 

 フム。女商人ラビもそうだったが、魔物や盗賊がいる中、行商は金になる。特に自分たちが強い場合、護衛を雇う必要がないため、護衛代がまるまる浮く。そう外した商品でなければ運べば運ぶだけ金になるだろう。

 

 その運んでる金を溜め込んだ盗賊を襲うほうが儲かるけど。

 

「国からの金だけじゃそろそろなんともならないしな。それに自分で動くためにもそれなりの立場は必要だ」

 

 勇者やってるのに勇者として評価されないからなと深くため息をつく尚文。まあ、嫌われてるもんね、盾。

 

 不憫さを感じる草の根活動だが、効果は出ているらしく、他の勇者と活動しているときに神鳥の聖人の噂は聞こえてきていた。神鳥にも聖人にも尚文につながるものがなかったが、今の姿と活動を聞けば結びつく。

 

「じゃ、盗賊狩りに行かない?」

 

 お金も物資も手に入るよ。

 そう伝えると尚文は悪人そのものの笑みを浮かべた。

 

「わー、ご主人さま、いい笑顔―!」

「気合が入ります!」

 

 仲間たちもたいそうやる気だった。

 

「悪人に人権はないからな」

 

 尚文の指揮のもと、徹底的な情報収集と魔法の行使により、国のあらゆるお金を持っている盗賊は狩りつくされることになる。

 

 絶滅しそうだね、と言う言葉は鼻で笑われる。

 

「石川や浜の真砂はつきるとも、世に盗人の種は尽きまじって石川五右衛門も言ってるだろ。しばらくすればにょきにょき現れるさ」

 

 まあ、実際食い扶持なくなったり村を追い出された乱暴者などはその腕を使って略奪者になったりするので、人の営みが行われている限りそういう輩は現れるのだろう。

 

 

 




「なんだ、また来たのか(ツンデレ)」
そして、ケモ系ヒロインによく効くいい匂いフラグがフィーロにっ!

ところで、ドラゴンカーセックスって聞いてマジカヨ、欧米凄まじいなとか誤解していたのですが、これ、そこに興奮するというわけじゃなくて、強い表現規制の末路的な風刺表現だったらしいですね。

まあ、古来からタコと美女で興奮してきた日本人が言うなと言われるでしょうけど。にゅるにゅるはえっちいからしょうがないね。


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049 成長! ガエリオン

 

 ガエリオンはドラゴンである。

 

 かつては最弱のドラゴンを自称する存在で、他のドラゴンに襲われないように人里近くに住みつつも、村には悪影響を与えないよう気を配って生きてきた。害あるモンスターを食べたりして媚を売って生きてきた。

 しかし、そんな努力は報われず空からソレがやってきた。

 

 勇者。

 

 人間を遥かに超える絶対強者である。

 成長途中ならなんとでもなるものの、四聖勇者が現れ、勇者特有の成長法を理解し始めるとその成長は加算でははなく、乗算で力が高まってゆく。圧倒的な力の差が生まれてゴミムシのように排除されるようになる。

 竜帝のかけらというドラゴンとして最強になるための鍵を持ちながらもその事実を知っているからこそ、人間にも恐怖した。

 ちょっとした力の差など全く無意味なのである。

 

 ヤダ。ソレガシ人間と関わりたくないでござる。

 ブルブル。ワガハイ悪いドラゴンじゃないよ。

 

 いつでも土下座する準備はできていたが、本物の勇者は空からやってきた。

 そして、絶対的な捕食者だった。

 

『ぎゃ──ああ! 高レベル勇者だあああ』

 

 鬱陶しげにゲシんと腹を軽く蹴飛ばされるだけで……巨躯である身は幼子に蹴飛ばされるトカゲのように合わせに吹き飛ぶ。

 ああ、本物だ。本物の、強化法を知っている勇者だ。

 すぐさま飛び去ろうとして──

 

 見えない剣撃で両の翼はもがれ、地に落ちた。

 ナニコレ、マジヤバ。

 ドラゴンなのにバルーンレベルになにもできやしない。

 ガエリオンは死を覚悟した。けど、死にたくはなかった。なんとしても生きる。生きたい。

 

『ま、待て待て待て、勇者よ、強すぎるぞ、こんな弱いトカゲを相手にするなんてどういう精神をしてるんだ! 強者として弱者をいじめるような真似はやめろ! 人を襲わない人畜無害のドラゴンだ!』

「レベル上げと素材がほしいだけだから、どんなドラゴンでもいいんだけど」

 

 絶望。しかし、対話をした時点で交渉の余地はある。というより、交渉はさておき、付け入るスキを見た。

 ドラゴンは強欲であり、ドラゴン以外の種族とも繁殖でき、また魂を継承する術を持っている。

 ドラゴンはただのモンスターではない。人間の姿にもなれるし、人里で女をさらってかましてやったこともある。下手くそと言われて心を折られたこともある。

 

 正直言えば生きたい。でも、経験値狙いの時点で生は諦めざるを得ない。故に人間に相手にされず、メスドラゴンに土下座して生んでもらった卵にすべてをかけたいと思う。

 

『ぐぬっ、死ぬことは避けられぬか。では、お願いがある。私は殺されよう。体もすべて捧げよう。だが、我が子を持っていってほしいのだ』

 

 我が子というか、自分自身だけども。

 勇者に育てられた魔物は勇者と同じように劇的に強化されると聞く。来世の自分は強くてニューゲームになるに違いない。グハハ。

 

「……馬車馬みたいに使うぞ」

 

 勝った! 第三部完! 

 

 **

 

 ガエリオンはドラゴンである。

 生まれた瞬間に強いオスであるユウに恋をした。

 必ず成長してこのオスの子供を生みたいと胸の奥から声が聞こえた気がした。

 

「ガエリオンも人間の姿になったのっー!」

「わあっ! 裸で走っちゃ駄目ですよっ」

 

 ガエリオンの成り上がりが始まる。

 

 




知識と経験を継承できる上にドラゴン同士でなくても子供が作れるとかハイスペックなドラゴン。

しかし、ゴリラと人間で子供ができたとして、「体が丈夫な子が生まれるらしいよ!」といわれてもっすよね。人間はらませちゃうゴブリンとかオーク的には人間は美人に見えてるってことなんですかね。
まあ、ファンタジーだからね!

ガエリオン「強いオスに惚れるのは本能なの!」


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050 竜帝の欠片

 

 ガエリオンが人の姿になれるようになった。

 

 ドラゴンっ子らしく、お尻から尻尾が生えているが、それ以外は普通の女の子に見える。燃えるような赤毛のきれいな女の子だ。ラフタリアよりは大きく、中学生くらいだろうか。

 

 ドラゴンとしても大きくなり、すでに数人が背に乗っても飛べるようになった。これにより安定して行動が可能になった。

 であればやることは一つ。

 

「ぐええ、ご主人さま、しんじゃうなのー!」

「大丈夫です! ガエリオン、ユウ様の守りの中にいれば絶対に死にませんっ!」

「もうバリアでは防げないレベルだから8割合ダメージ減退だけどね」

 

 レベル上げである。

 他の勇者と違い、知識こそないものの、勇者として名を挙げているおかげで覚えがよく、他の勇者におすすめではない高レベルの狩場を城や教会の伝手で教えてもらうことができた。

 

 他の勇者に協力した分、最低限のレベル上げはできているものの、せっかくもともとの強さとは別に勇者の強さが加算されているのだから、強化しない手はない。

 強力な魔物を生体感知で探しては殺し、めぼしい敵がいなくなったら体力を回復してすぐ次の狩場へとマラソンを強行した。

 移動の足でもあるガエリオンは永久の戦闘と移動で疲れても魔法で強制的に回復されるため、全く休みを取れず、連日連夜戦い続けた。

 そして、狩場のボスと今戦いが始まる。前で言えば四天王の直属配下。国一つ滅ぼすレベル。

 ここまで来ると今まで無敵を誇ったバリアは一撃すら耐えきれずに風船のように割れることになる。

 ダメージ割合カット系の防御壁の出番だ。

 

「でも、でも、あいて竜帝なの!」

 

 ダンジョンの主らしいプテラノドンのようなドラゴンを前にガエリオンは震えながら半泣きだ。

 

『ぐはは、なんと小さき同胞よ、だが挑まれたからには食い殺そう。愚かで小さな──』

「流星刀」

 

 流星のように輝いた数多の光がドラゴンを貫く。

 いくつもの大きな穴からは血が吹き出しどしゃ降りの雨となって地面を染めている。

 人間相手にガトリングガンでも食らわせたような状態だ。

 生きているのが不思議なくらいの状態である。

 

「……勇者って強いなの。相手は強い竜帝のはずなの」

「ユウ様さすがです!」

 

 ぱくぱくと小さく動く口は言葉の一つすらあげることができない。瀕死になったドラゴンは波の前の最後の経験値となった。

 

「わーい、竜帝の欠片ゲットなのー!」

 

 倒したドラゴンから出てきた紫色の欠片を手にきゃいきゃいはしゃいでいるガエリオンにラフタリアと一緒に首をかたむける。

 

「竜帝の欠片を取り込むとドラゴンは強くなれるのっ! あーむ。──むむっ、龍脈法を身につけたなの」

 

 なんでも、かつて竜帝という恐ろしく強いドラゴンがおり、竜帝の欠片とはそのドラゴンの力なのだという。

 ドラゴンはその欠片を得ることで劇的に強くなるのだとか。

 今ならさっきのドラゴンを一人で倒せると喜んでいた。

 龍脈法は自分の魔力ではなく周囲やものに宿った魔力を使うことで発揮する。MPいらずのスキルらしい。

 いずれ教えてもらうこととする。

 

「それに、竜帝の知識にはレベル制限の限界を突破する方法もあったはずなの」

「なるほど」

 

 強行したレベル上げのおかげもあり、ラフタリアとガエリオンのレベルはすでに90後半である。波に参加した結果、限界に達する可能性が高い。

 レベルで言えば前の勇者レベルだが、短い期間で上がる反面か個としての強さの差なのか、ここで勇者になる前の自分ならそこまで労せずに倒せてしまうだろう。

 それだけに限界の突破法は仲間として連れ歩きたいならマストだ。

 

 次の勇者会議の議題はこれだな、と頭の端に記憶する。

 

 **

 

 くたくたになって城に戻った俺達はぶーぶー文句を言うガエリオンを部屋において城に行く。

 メイドのメルが声をかけておきましたと様々な職人や使用人、兵士から集めたという前回なかった素材を色々もらっては刀に取り込んだ。

 

「あとこれも。最近流行りの勇者様が発見した果実で、成長が早いし、美味しいんですよ」

 

 差し出された赤い果実を取り込むと、植物改造のスキルを得る。槍の勇者の元康が錬金術師の隠していた果実を封印から拾ってきて助けた村の特産らしい。

 皆、色々やってるんだなあ。

 

「応援しています。頑張ってくださいね」

 

 波で怪我をしたりしないでくださいね。別れを惜しむように悲しい目をした彼女にありがとうとキスをする。

 

 **

 

「そんなわけで、波に兵士を連れていきたいんだ」

 

 どうにかできない? マイン? 

 

 他の勇者と話してわかったことだが、波の時間になると登録されている人間は皆、どこにいても転移される。

 だが、それは勇者パーティーでなくても、編隊機能を利用し、下位のパーティーとして登録さえしておけば、例えば城の兵士を引き連れて参加することができる。

 

 前回は刀、盾と守護の得意なメンバーが救助に動いたこともあり、大きく被害は出なかったが、それも人の少ない村だったここが大きい。

 次また二人がフリーになるとは限らないし、人の多い街になると救助も大変になる。

 できれば避難誘導と雑魚退治の手伝いくらいは期待したいところである。

 だから、元康と協力し合った際に、マイン経由で王様にお願いをしてもらったのだ。

 

「ええ。こちらとしてもありがたい提案だし、ユウ様には実績と信頼を積んでほしかったから丁度いいわ。レベルの上がりやすい若い兵士を中心にメンバーを組んだと言っていたから、登録していってくれる?」

「助かるよ、マイン」

 

 権力者と繋がりがあると、こういうところは話が早くて助かる。メルロマルク王としてもバリアの魔法についてはしっかりと認識しており、被害をあまり出さずに動けることから刀の勇者が指揮を行うならと許可が出た。

 

「問題ないわ。だって、第一歩ですもの」

 

 熱っぽく潤んだ瞳をこちらに向けるマイン。

 場所はマインの部屋で、ここにいるのは俺とマインだけ。

 合間合間の村や街で、それなりに処理をしてきたが、マインに近づくと甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 

 ビキビキとあそこが立つのを感じた。

 マインがクタクタになって寝入ってしまうまで相手をしてもらった。

 




兵士A「死なない安全な経験値稼ぎができると聞いてっ!」
兵士B「オレ、勇者様と一緒に戦ったって孫に自慢するわ」
兵士C「いやー勇者サマサマだぜw」

使える国家権力は使うべき(*゚▽゚)ノ
使える勇者も使うべき( ・`ω・´)キリッ


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051 二度目の波の戦い

 

 00:03

 

 後3分。

 

「さて、いよいよだ。準備はいいな」

 

 城の訓練所にて、迅速な行動を行うためにと竜になったガエリオンに俺たちはまたがって待っている。

 兵士全てには守りの呪文をかけており、準備は万端である。

 最後の確認にとラフタリアとガエリオンを見る。

 ラフタリアは少しこわばりながらも勇ましくうなずき、ガエリオンは大丈夫なのっと少しだけ凛々しめに応えた。

 

 どこにいても波の場に行けるせいで王都にいるパーティーはうちと槍のところだけだったが、彼もまた準備運動をしながらも緊張した様子はなく自然体のようだった。

 

 00:00

 

 ──勇者の使命。波の戦いが始まる。

 

 世界中に響くガラスを割る様な大きな音が木霊する。

 景色が一瞬にして変わった。

 異様な光景も二度目となればなれる。

 

「ガエリオン、空へ! ──兵士たちよ! 波の解決は勇者の使命。おまえたちは人命の救助を第一に行動せよ。恐れることはない。勇者の守護が必ずお前たちを守る!」

 

 空から降ってくる魔物たちは前回と比べればレベルが上っている。前回は大人であれば戦闘経験がろくになくても逃げるくらいはできたレベルだが、雑魚一体一体が城の兵士級レベルだろうか。雑魚ではあるが強くなっている。数も多い。

 けれど、戦力はこちらも多い。すぐさま兵士たちもまた、行動を開始する。

 素でも相対できる兵士長が果敢に魔物に切りかかり、切り倒す。囲まれ、反撃されても怪我一つ追わず、返しの刃でまた一匹打倒した。

 

「勇者様の力があれば何も恐れることはない! とはいえ、油断せずに迅速に行動せよ!」

 

 勇者の守りに実感を得られたのか、兵士全体が動き出す。50人くらいの大人数が、5人一組の10組に分かれてさほど大きくない村に散っていく。

 

 **

 

 ガエリオンは空を飛び、波より現れる魔物のうち、比較的レベルの高そうな相手に向かって食らいついてゆく。

 その合間合間で数を減らすことを目的に魔法を放ち続ける。

 ラフタリアも弓を撃ち、魔物を墜落させて殺し続けている。

 

「これだけレベル差があると、バルーンに攻撃された程度にしか思わないだろうなぁ」

 

 敵が弱くて結構なことだ。思ったよりは強くなっていないこれならどこの勇者パーティーも苦戦していないだろう。

 実際空から見るに、どこのパーティーも魔物にぶつかっては溶かすように先に進んでいる。

 村人の中にも冒険者なのか、元気に戦う老婆がいる。

 周りの人間をかばいながら戦っているようだ。

 

 光で下で戦う兵士たちに救助信号を送り、周りの魔物を殲滅しては次へと移っていく。

 

 **

 

「なんだろ、遅いな」

 

 1時間もする頃には村中の避難と救援が完了し、兵士は村人を守り、そんな兵士たちを盾の勇者の尚文パーティーが守っている。適材適所といえばそうだが、残りのパーティーはずっと一箇所におり変化がない。

 湧いてくる敵も倒しきったのかもう出てこない。

 

 そのせいで休憩モードになってしまった。

 ラフタリアとリファナは忙しそうにけが人の手当に走っているが、ガエリオンは少女の姿になってだらしなく座り込んでいる。

 

「おい、勇。アイツラは一体何をしているんだっ」

 

 尚文はイライラとしているのか、怒鳴りつけるように言ってくる。感じるボスのレベルはそれこそ竜帝と比べれば小さな力しかないもので、さほど強さも感じない。

 別れてから一切レベルが上っていなくても、3パーティー集まっての戦闘であれば一瞬で消し炭になるはずだ。

 

「わからない。倒せない敵じゃないと思うんだけど」

「あいつらっ。ボスを倒さないと波が終わらないとわかってないのかっ!?」

「レベル上げでもしてるのかな。無限湧き系のボスとか?」

 

 仲間を呼ぶとか特定の攻撃をしないと永遠に蘇って倒せるからレベル上げになるとか。

 空を飛ぶ幽霊船の上で3勇者パーティーはたやすくボスを何度も倒しては待って、倒しては待ってと繰り返しているので後者かもしれない。

 

「ふざけやがって! 人は死ななくても村は襲われ続けているんだぞっ。俺は行ってくる。ここはまかせた」

「行ってらっしゃい」

 

 強化魔法をかけ直すと、鳥状態のフィーロにまたがり、走っていってしまった。流石に女を抱いている場合ではないので暇は勘弁してほしいが、それでもレベル上げなら付き合わないでもないと思うのだ。まあ、先に言っておいてほしいが。

 

 突撃していった尚文は他の勇者たちに怒鳴って……

 

 その瞬間、今まで感じなかった気配に振り向くとそこには長い黒髪の美少女が立っていた。

 着物を着ており、京美人といった風体だ。

 RPG系ファンタジーのこの世界にはそぐわない人間。

 

「はじめまして。私はグラス。扇の勇者です」

 

 




謎の勇者参上! いったいなにラスなんだ!

原作では勇者が弱すぎるとか、一箇所の波に四聖投入するとかアホだろありえないと思ったとかの凡ミスで勇者を誤認したとかなんとからしいですね?
下調べの大切さがわかりますね! まあ、そういうとこないと負けイベントなのに本当にゲームオーバー表示出ちゃうからね。しょうがないね。

ゲームだったら×ターン経過で戦闘終了、なのに毒とかアイテムを駆使して勝ちを狙う人とかいそう。倒すとグラスの下着とか落とす感じで。


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052 扇の勇者グラス参上!

 

 人形のようだと言う言葉は彼女のためにある言葉のようだ。

 美しく精巧でいて、表情がない。

 ゆらぎの見えない表情はけれど、その瞳の奥に強い使命感を感じた。

 グラスと言う名前から、日本の召喚者ではないかもしれない。

 黒髪に着物はそれっぽいが、逆に今どき日本人でも着物は早々着ていない。着物は着付けができないのに脱がせると外で相当困る。ああでも、着物の女性が乱れる姿は特別感があってちょっといい。

 

「扇の勇者? 俺は刀の勇者、海道 勇」

 

 刀を納め、近づこうとする俺をラフタリアが引き止め、剣を向ける。

 

「勇者様は四聖勇者に七星勇者、投擲具、杖、小手、斧、爪、鞭、槌……そして新しく呼ばれた刀の十二人です。扇の勇者なんて聞いたことがありません! 勇者を騙るのは重罪ですよ!」

 

 なるほど、勇者を騙っているかもしれないということか。

 けれど、グラスは小さくため息をついてから扇を広げ、ブロンズ、アイアン、ゴールドと明らかに見た目が異なる扇に変化させてゆく。この変化は勇者武器以外ないだろう。

 

「これでも疑いますか?」

「いえ……でも、新たな勇者様が呼ばれているなんて知りませんでした」

 

 確かに、城や教会、商人の情報網からもそれらしい話は聞いていない。もっとも、勇者の話自体各国が抑えているのか、明らかに伝わってくるのは他国の王子らしい鞭の勇者くらいなのだが。

 

「疑ってごめん。波に加勢に来てくれたのか? 正直この程度の強さだとさほど困ってないけど」

 

 見たところ、グラスもかなりレベルが高いようだ。1対パーティー込み勇者だと同等レベルに感じる。

 もしかしたら元康たちのようにこのボスが稼げると知っていて混ざりに来たのかもしれない。

 

「ボス戦に参加する? 四聖はみんなあっちに行っているから紹介するよ?」

「いいえ。私はあなたに会いに来たのです。私の世界の眷属器である刀の勇者のあなたに」

「どういう意味?」

「語るなら勇者らしく武器を交えて行いましょう!」

 

 一発の黒い弾丸のように飛んでくるグラス。扇の断ち切るような一撃を、刀の鞘で弾く。その反動のまま舞うようにくるりと反転しそのまま追撃を仕掛けてくる。

 すべてを見抜いたような動きは華麗であり、ただ力を得ただけの勇者と違う、れっきとした修練の積み重ねと、対人戦の経験を感じる。

 

「輪舞・連撃ノ型!」

 

 鋭い突きは雨あられと飛んでくる。

 そのままであれば体中に穴が相手もおかしくない。そんな必殺の一撃であった。

 

「陽炎」

 

 体が瞬間霞み、実体のある攻撃が体を透き通っていく。

 魔力がこもっていると逆に大ダメージを受ける見極めが必要な技だが、能力差のせいで見てから発動余裕です感がある。

 

「烈風剣」

 

 威力を抑えた横薙ぎの一撃が攻撃後の無防備なグラスの腹部にあたり弾き飛ばされる。

 立ち上がろうとしてガクガクと足を揺らして崩れ落ちる。

 

「ぐっふっ、これが刀の勇者のちからッ」

 

 ……着物を着る際に、下着をつけない人がいる。

 現代社会のような薄い下着ではないとか、肌襦袢や裾よけがソレに当たるとかあるかもしれない。けれど、そこにファンタジーが絡めばどうなるか。

 十二単のような何枚も重ねたようなものではなく、軽躁なはずなのに防御力は高く……ようは無防備だったため、扇を振るう際の袖口からはきれいな脇と胸が少しだけ見えた。

 ほんの一瞬であるし、影になっていたが、それでも超人的な能力の前には隠せないのだ。

 

 ──下着、つけてない! 

 

 ムラリと性欲がわくのを感じる。もしかしたら女騎士のように敗北セックスに誘われているのかもしれない。

 

「まさか全くかなわないとは思いませんでした」

 

 ふうと息をついた彼女。胸元が最初より開いており、小さく汗が流れた。近づけば甘い香りがむわりと香りそうだった。

 全く力を見せれていない感じだったが、

 

「それじゃあ、話を聞きたいから……」

 

 どこかでゆっくりと──。けれどスッと四聖のいる方を見た彼女はあまり時間はなさそうですね、と言い出した。

 中途半端に盛り上がった気持ちをどうしてくれるのか。

 

「治療するね」

「あっ、はい」

 

 近寄り、傷を撫でるように治す。どうやら彼女は実態のある幽霊のような存在のようだった。コツがいるが、魔法が効きやすい種族である。

 

 抱きしめて打ち合った手を撫で、そのまま転んでしまったお尻をさすってあげると能面のような無表情にぱっと朱色が混じった。

 

「あっ、う、そ、そこは怪我していませんっ」

 

 ドンと胸を押されてグラスは反動を利用して立ち上がって一歩離れてしまう。

 グーを口元にあて、こ、コホン! と口で話すグラス。

 

「波はなぜ起こると思いますか? 波はだだ魔物が現れるだけの災害ではない。もっと規模が大きい悪意ある企みなのです」

「波がなぜ起こるか……?」

 

 波は一月に一度ほど起こる災害。龍刻の砂時計が生み出され、水害にダムを作るように、災害をコントロールしようとしていた。勇者とはそんな災害に対応する措置の一つだと思っていた。記録からもそして何年も続くような災害ではなく、いずれ終わることもわかっている。

 だからこそ、皆に勇者に任せたい気持ちがあるのだろう。

 

 けれど、彼女は悪意と呼んだ。

 誰の、何に向けた悪意なのか。

 

「だからあの人はあなたをこの世界に送った。新しい眷属器として。あなたは私達の世界の希望。私はあなたを支援しに来た。──もう主が倒されます。取り急ぎ強化法の共有だけ。扇の強化法は魔力吸収。倒した相手の魔力を吸収すると強化される。強くなってください。あなたは敵の毒になれる」

「え、は?」

 

 いきなりゲームのプロローグで歴史が流れ始めたような、いや、知らないよ、と言いたい唐突な設定の暴露である。だがその真剣な表情は知りたいのは君の着物の中身だよとは言えないようだった。

 

「それではまた波で」

「ま、待ちなさいっ、一体それってどういう──」

 

 いつでも動けるようにとグラスを倒したあとも警戒を怠らなかったラフタリアが掴みかかろうとするも、するりと手は空を掴む。

 

 ──気づけばグラスの姿はなかった。

 

「……言い逃げダイナミック……」

 

 暴露するにしても、タイミングとか内容とかあるのではないだろうか?? 

 生体感知で村の端の方にまだ生き残っていた魔物を光の弓を打って倒す。

 扇の強化法──魔力吸収は行われ、強くなるのを感じた。

 

 ──やはり、真実である。

 

 そして、それを共有したことから彼女は今の俺でも強さが足りないと判断したということだった。

 

「ため息が出るなぁ~」

 

 彼女は嘘をついていない。だからもしかしたら彼女が誤認していない限り真実である。自分は本来この世界の所属ではないかもしれない。

 

 ──けど、それがなんだろう。

 

 すでに自分はこの世界の勇者として人々を救い、女を抱いているのである。今更別の世界の勇者でしたと言われてどうして裏切れるだろうか。

 不安そうにこちらを見るラフタリアの頭を撫でる。

 

「俺は刀の勇者。この世界の、お前の勇者」

 

 勇者の仲間だろ、と伝えると、決心するように……

 

「でも、その前にユウ様の仲間ですから」

「ガエリオンもユウだからついていってるの。どこの勇者とかかんけーないなの」

 

 二人はこの世界の勇者でなくてもついてきてくれるらしい。

 それがとても嬉しい。

 

「でもあっちはそうはならないだろうな……」

 

 このあと四聖勇者に何を言われるか不安に気持ちが落ち込むのを感じた。

 





おそろしく速い胸チラ。オレでなきゃ見逃しちゃうね

着物の袖を押さえる仕草って色っぽいですよね。
ダメージで動けない着物の女の子にセクハラする。
波の場じゃなきゃエロスに凸するのに!


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053 勇者会議その2

 

「つまりどういうわけだ?」

 

グラスとの別れは、イコール波の終わりを意味していた。

盾の勇者パーティーを加えたボス攻略は簡単に終わったらしく、素材を分けてもらうと魂喰刀という新しい刀が開放された。

 

兵士たちの大歓声でもって戦いは終わったが、祝いのパーティー前に勇者で集まったときにすべてを話した。

ややこしい事態になるのは明らかだが、グラスの姿を見ている人間は多い。隠し立ては不可能だった。

キョトンと首をかしげる槍の勇者の元康。グラスという異世界の勇者に出会ったこと、その実力は他の勇者並であることを告げる。

 

「それって勇さんが波を起こしていた側の人間だということではありませんか!?」

「そもそも波の真実はゲームでも語られていなかったからな。別に敵対しろと言われたわけじゃないんだろ? ――正直、今敵対されても勝てる気がしないしな」

 

負けイベントは好きじゃない。そう言って剣の勇者の錬は黙ってしまう。ゲームとして物事を一番捉えている錬だがメインストーリーには興味がないらしい。サブクエストに熱中してしまうタイプなのかもしれない。

 

「そもそも、俺たちは波に対して無知だからな。呼ばれたから、仕方がないから波に対処しているが。そもそも、グラスとやらの目的は何なんだ? お前はどうするつもりだ?」

 

ギロリと睨みつけてくるのは盾の勇者の尚文だ。ゲーム知識のない彼は盾だということでの差別から、やや目の前の問題に終始しがちだ。

波についても仕方がないから対処している面があり、真実など考えたこともないようだった。

実際、教会でも王国でもさほど波について深い情報はなく、波が人為的な事象かもしれないことすら初耳である。

 

「俺だって初耳だよ」

「勇はグラスって子につくのか?」

 

彼女はこちらを味方のように扱ったが、はっきり言って初めてあった子にあなたは私の世界の勇者ですと言われてもなという感じである。

 

「その気はないよ。グラスのいた世界が日本だったり、前に勇者をしていた世界だったりしたら考えたと思うけど、どっちでも特定の武器しかもてない勇者武器なんてなかったし、一緒じゃないと思う。だったら、仲良くなった相手のいる世界優先かな」

 

そもそも、事情のしれない怪しい存在がお前は俺の世界の勇者だ!と言われてもはあ、としか言えない。

日本の警察官なら市民を守るが、いきなり『実はお前はアメリカ国籍を持っている。アメリカに来てFBIになれ!』と言われても、いや、日本守りますけど? ってなるだろう。

目の前で襲われていれば助けるだろうが、味方になるかと言われれば否だ。

 

「そうか。まあ、そもそも異世界の勇者だからといって敵対すると決まったわけじゃないしな。――けど、波についてはもっと知るべきだ。おまえたちはなにか知ってるのか?」

 

尚文が他の三人に声をかけるものの、皆答えが「定期的に起こるイベント」「それによって魔物が発生する」「真相は明らかになっていない」だった。

 

「ゲームでもだが、この世界の人間も波についてほとんどしらないよな。のんきなもんだ」

「勇者にまかせてたからじゃね? 結局、そんなに困難なわけじゃないし、人数いるしさ」

 

やはり、波は勇者頼みのイベント扱いか。

実際、国も兵士たちも勇者に任せれば大丈夫という感が強い。

今回の波での兵士投入も提案しなければ行われなかっただろう。

 

「……よくふたりとも態度を変えずに接せますね。敵かもしれない方と会議をするのは不毛です。僕は先に戻らさせていただきます」

 

そう言って樹は部屋から出ていってしまった。

呆れるようにため息を吐く錬。

 

「信頼できなくても協力はできるだろうに。現時点で勇に勝てる勇者はいないだろう。なら、疑うより先に利用してでも強くなるべきだろう」

「可愛い子なんだろ? 次回は俺も会いたいなー」

「なんにせよ、情報は必要だ。勇、次の波でもしまた出てくるならもっと話を聞いておけ」

「了解。みんなもなにか情報知ったら教えてね」

 

**

 

黙っておく選択肢はなかったにせよ、事情もわからず共有したのは良かったのか悪かったのか。

樹や尚文には強く警戒されたようだ。波の真実についても、知らずとも勝ち続ければそのうち収まるという意識があるため、情報へのプラスより不信感のほうが勝ったようだった。

それでもしっかりと協力の順番は同じで! と言われるあたり、皆、したたかではある。

樹には流石に拒否されてしまったが。

 

「あ、あの、ゆう様……」

 

会議の後、宴までどうしようと城の中を歩きながら世話になった職人たちや兵士たちと挨拶しているとメイドのメルさんがやってくる。

一瞬明るくなった表情がどこか重く暗いものに変わっていく。

 

「どうしたの、メルさん」

「い、いえ、その、あの……ごめんなさい。なんでもないです」

 

ふるふると首を左右にふるメイドの彼女はしょんぼりと視線を落としてしまう。

 

「どうしたの? 宴まで時間はあんまりないけど」

 

二人で休んでいく? 腰を抱いて腕を優しく撫でるとぱあっと表情を輝かせる――ことなく、言葉にならないまま口の中でもにょもにょと話して――強く押し返すようにして離れてしまう。

 

「あ、あの、またこの世界を守ってくれてありがとうございます。私も、微力ながら勇者様のお力になりたいと思いますので! ――さよなら」

 

そう言ってかけて行ってしまう。

メルさんは城の人間に色々声をかけてくれるみたいで、城に戻るたびに素材を集めてくれる人間が増えてきた。安くても種類が多いと意味があることが伝わり、城努めの人間の家族からも集めているらしく、いつも強化されてウハウハである。

彼女と会うと性欲も解消されるしとても役に立っている。

 

エッチに関して前向きではないものの、流されるままに受け入れてくれる彼女に断られたのは初めてである。

 

何が彼女の態度を変えたのだろうか。

日本ではたくさんの女と関係を持ったが、抱くと情を持つようで、恋人以上の関係を迫ってきたり、他の女との関係を解消するように迫ってくる女は多かった。

一人に絞るなんて不可能だったので、大体抱いてごまかしてしまったが、逆に思いつめたり、いい思い出にしようと決意したりする女性もいた。

表情からあまりいい方向ではなさそうだ。

そう思った頃には通路を曲がり姿が見えなくなってしまった。

 

「今度、様子を聞いてみよ」

 

宴のあとはマインと約束してるから、次の波で戻ったときにでも確認しよう。

 

――ふと、子供ができたのではないだろうかと思った。

だが、子供を孕ませるのは勇者の仕事の1つである。この世界でも勇者の子供は推奨されている。

メルさんはあまり位が高くないらしいが貴族の娘らしいので、むしろ家族ならパーティーを催してもおかしくないレベルである。

暗くなるようなことではないかな。

 

前の世界ほどではないにせよ、こちらの世界でも同じ。生まれた勇者の子供はフォーブレイという国に集められて教育されるそうだ。もしかしたら、国に仕えるメイドとして、そのへんが気になっているのかもしれない。

 

こちらの世界でも人の場合、一年近くかかるそうなので、まだ時間がある。正直、生まれる頃には波が終わってるかもしれない。

 

なんだかんだで、この世界は前の世界以上に勇にとっての障害がなかった。だからこそ、何でもなんとかなると思っていた。

 




メルさん「――さよなら」

 ①追いかける
→②追いかけない

ああ、その選択肢を選んでしまいましたね!?
妊娠したなら喜ぶに決まっているよな、だから違うかな? というトラウマ勇者ムーブ。
真相はいかに。いや、バレバレかもしれませんね!


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054 マインの捧げもの

 

メルティは第二王女であるが、女系王家であるメルロマルクで現在のところ継承権第一位である。

将来は女王となるため、勤勉に教育に励んでいる。

 

なぜ次女である自分が女王になるか。それは姉の気質によるものである。美人であるし、バイタリティこそ溢れているものの、相手を陥れることを好む破滅的な性質があるのである。

 

それも、自分が犯人であることすらわからないような策略的なものではなく、落とし穴にハマった人間を目の前に現れて笑い飛ばすことを好むような人間のため、女王にはちょっと、という判断から私が後継者になることになった。

 

日々遊び呆けて見える彼女の姿に、尊敬のできない姉だと思いつつも、毎日を面白おかしく生きる生き方は時々羨ましく感じることもある。

 

特にたぶらかすためなのだろうが、他人によりかかれるあたり素直にすごいなと思ってしまう。

負けん気が強いせいもあるが、どうしても誰かに頼るのが苦手だ。

悩み事があっても誰にも言えず、ついつい大好きなフィロリアルさんに会っては聞いてもらうのだ。

相手が人間じゃないから気を許せるなんて本当に大丈夫なんだろうか、皆が私は有望だというが、ホントだろうか。

姉のほうがうまく行ったりするのではないだろうか。

 

……でも皆が期待してくれるから、そんなこと認められなくて、だからこそより意地を張ってしまう。

 

ため息をつく。

 

それとも、英知の賢王と呼ばれていたお父様のような頼れるパートナーでもできれば体を預けられるようになるのだろうか。人の信じ方を覚えられるようになるのだろうか。

 

今はその父が四聖勇者を召喚し、独占しているせいで他国から突き上げを受けている。

波は一国の問題ではなく、世界的なものである。どの国も勇者はほしい。それなのに独り占めをしているメルロマルクへの非難は強い。

おかげさまでお母様と一緒に色んな国を渡り歩きながら交渉の日々だった。

 

だが、盾の勇者の冷遇や盾の勇者と仲のいい刀の勇者の飛び抜けた力から、私はメルロマルクに戻るようにお母様に命じられて……戻った瞬間に姉に捕まったのである。

 

「はあ、それでなんの御用ですか、姉上」

「あら、可愛くない顔ね、メルティ。どうせ勇者様たちの様子を見てこいって言われて戻ってきたんでしょ?」

「……そうです」

 

姉上は行動があれなだけで、バカではないのだ。

だからより一層なのだけど。

 

「ならちょうどいいわね。槍の勇者の元康様は訓練中だけど、刀の勇者の勇様は部屋にいらっしゃるから紹介するわよ」

「それは、ありがたいですけど」

 

刀の勇者。

四聖勇者の誰とも仲良く接することができており、なおかつ他の勇者様と何段も上の実力者。

彼一人ですべての勇者様に勝るのではと言われており、取り込みの優先順位は最優先である。

また、個人の武を第一とする他の勇者と違い、兵士の運用や強化にも視野を広げられる人物。

年も一番近いこともあり、どんな相手なのか一番気になっている。

 

姉にどんな人物なのかと聞けばあそこがすごい、どこどこが素敵だとのろけのようなことばかりであまり参考にならない。

 

(というより、本気で惚れてる……?)

 

フォーブレイのタクト王子といい仲になったこともある姉上だ。一般的に憧れの王子様像を地で行くタクト王子相手ですら恋には落ちていない様子だったと報告があったのに。

 

「あれ? こっちは勇者様の部屋のある方ではないのでは?」

「それはそうよ? だって私の部屋に向かってるんだもの」

 

……姉上。はあ。

大きなため息が出た。

 

**

 

「生意気な妹を懲らしめてやってほしいの」

 

うふと笑うマインは嬉しそうな笑顔だった。

懲らしめてほしいという割には彼女の気持ちは100%こっちに向いているようだった。生意気だという妹への悪感情すら見えない。

 

「もうすぐメルティが帰ってくるから、生意気な態度をとってごめんなさい♥ って言わせてあげてほしいの。それにあの子仲のいい男の子が一人もいないみたいだし、姉としても心配で。ね、いいでしょ?」

 

要は誘い出すから抱いてくれって話のようだ。継承権第二位の姉が第一位の妹への、と思うと色々考えてしまうが、マインの態度は値の張るプレゼントを用意したワクワク顔だ。

こういうことは以前にもまれにあったことである。

 

もっと抱かれたくて、特別になりたくて友達を、妹を、母を紹介して一緒に抱いてくれと言ってくるのだ。

大切なものだから捧げたいと言ってくる彼女たちの瞳はまさにハートマークである。

捧げる彼女たちの態度はほとんど同じなのに、捧げられた相手の反応は千差万別でそこがなかなか楽しい。

 

「もちろんだよ」

 

メルティちゃんは、一体どんな表情を見せてくれるだろうか。

 




マイン「全部全部捧げたいわ。国もあげたい。そうだわ、私が女王に――なれなくてもメルティも上げれば100%あげれるわね!」

全部全部自分のもの! というマインだけに自分のものをあげる行為は愛情の証なのだ、みたいな。

次回エロ!


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055 ロリ王女危機一髪(なお

 

「はじめまして。メルティ=メルロマルク。お噂はかねがね。勇者様には会ってみたかったのです」

「はじめまして。海道勇。ユウって呼んでね、メルティちゃん」

 

ムッとしてしまったのを気付かれないようにする。

対して年の差もないのに、ちゃんと呼ばれると癇に障る。

ニコリと微笑む少年は、一見華奢に見えるが、しっかり見れば鍛えられているのがわかる。

強さは見た目ではわからないが、それでも体つきでわかることも多いのだ。報告にあるように、たしかに強いのだろう。

 

「メルティちゃんは色んな国を回っているんでしょ? 俺、この国しか知らないから、ちょっと話をしてみたいと思ったんだ」

「奇遇ですね! 私も、勇者様の話が聞きたくて」

「ユウでいいよ。勇者っていっぱいいるし」

「――私も、メルティでいいですよ」

「ああ、わかった、メルティちゃん」

 

わかってないじゃないか。

年が近いからとなめられているんだろうか。私は王女なのに!

負けず嫌いがメラメラと燃え始めるのを感じた。

そっちがその気なら絞れるだけ絞ってやる!

 

**

 

「だきゃらですねえぇ。ふぃろりあるさんわあ、ふかふかでえ、すんごくかわいいんですよー」

話し合いはヒートアップし続け、態度の変わらないユウに段々と口調が強くなっていった。

正直、彼の経験には驚いた。

私は色んな国を渡っており、知識も豊富だと思っていたのに、彼は村のあり方や、実際の問題点をよく理解していた。

知識でしか現実をしれていないと少し落ち込んだ。

ならばと女王になったら手を付けてみたいと思った問題についても聞いてみればなかなかの回答が返ってくる。

なんでそんなに分かるのかと問えば故郷がたどってきた歴史と実際に色々見ての現実に学んだと言われて、少し見直した。

 

語り合いはより一層深まり、政治の話に飽き始めた姉がつまめるものもってくるわ、といったあたりからなんだか感じが変わって……。

 

「これ、だいぶ酔ってるなぁ」

「よってないれしゅ」

 

てしてしとユウの胸を叩くが全く応えていない。正直手のほうが痛いくらいである。

テーブルを挟んで向かい合って座っていたはずだが、手が届かないからといつの間にか彼の方へ移動していて、隣り合っている。

異性とここまで近づいたことは父以外ない。どきりとした。

あ、やばい。意識するとかあっと顔に熱がこもる。

思うと妙にいい匂いがする。心臓が高鳴り、痛い。

 

「ゆうしゃさまはー、あ、姉上がしゅきなんですかぁー?」

 

独り占めなんてずるいと思うのだ。

姉上はやることやらずに遊び呆けているのだから、ちょっとくらい私が得してもいいはずだ。

いいや、姉は人を陥れることを良しとしている悪い人だ! なら勇者様を守らなきゃいけない! 守るのだ!

 

「好きだよー。でも、メルティちゃんも好きになっちゃうかも」

 

ぎゅっと抱き寄せられるハグだ! あわわ。

視界がぐるりと回りそうになる。体温が温かい。いや、私の体のほうがきっと温かい。何を張り合っるんだろう。

耳元に囁かれる声にゾクリと震える。何がなんだかよくわからないが、ユウも自分を気に入ったということか!

耳たぶをはむっと咥えられ、からだに雷が走り、くてりと体から力が抜ける。

 

「はひ」

「感じやすいのかな? メルティちゃんは俺のことすき?」

「しゅ、しゅきです」

 

自分が何を言っているかよくわからないが私は気持ちに嘘をつかない。間違ってない!

 

「ありがと」

 

感謝の気持と一緒に唇と唇が触れ合う。ちゅーだ! これはけっこん! 夫婦成立である。

父は勇者。ユウは勇者。問題ない。

母上もお前の相手にはお前のことを理解してくれる良い相手を探したいと思っていますよと言っていた。

うん、問題ない。

 

ちゅっちゅと繰り返すたびに頭がしびれる。幸福感に真っ白になりそうだ。

世の中の人々はこんな思いをしているのだろうか。母が父を愛するはずである。

いつの間にか子供みたいにぎゅっと彼の体に抱きついており、彼もまた抱きしめるものだからもう1つの体になったみたいである。

にゅるりと口内にはいってきた彼の舌が私の中をかき乱す。

ああ、不思議と甘みを感じる気がする。口裏をなめられるとそれだけで気持ちいい。おずおずと私も舌を伸ばすと、彼のに絡みつかれる。にゅるにゅる。

 

「あっ、あ。きもち、いい……かも?」

 

うまく息ができなくて、唇が離れていくと荒く息をした。

しまった鼻ですればよかったんだ。そうすればもっと続けられたのに。

 

「こっちもびしょ濡れだ」

「はひっ!?」

 

ユウがお股に触れるとビクンと体が震える。雷の魔法に打たれたような感覚に左右に顔を回してあたりを伺う。

 

「これこれ」

 

目の前に差し出されたユウの右手。人差し指と中指にねっとりとした透明の液体がついており、ユウがちょきに形を変えると指の間をねとっと糸をひいた。

ああ、恥ずかしい。けれど、彼の指を自分の愛液が汚している様子がとてもいやらしい。

 

「愛液。いっぱい出てるみたい。下着越しでもこんなんだもんね」

 

ああ! どうにかなってしまいそうだ! 感心したのに、ユウは悪い勇者だった。

これ以上喋らせてはいけない。その口をふさがねばならないとキスで口を塞ぐ。開こうとする唇に今度は私から舌を入り込ませる。

 

口は防げても動きは止められない。ぬちゅぬちゅと彼の指が下着越しに上下と擦るように動く。

快感は嵐となって、体を何度も打ち付ける。そのたびにビクンビクンと体が自動的に跳ね上がる。

 

「準備はもういいよね」

 

抱きしめていた腕はとかれ、唇が離れる。まだしていたいのに。

何のために唇を塞いでいたかはすでに頭にない。

 

「準備ですか?」

 

コテリと首をかしげる。

キスに夢中になっているうちにお互いの下着は降ろされていた。特に自分のものは床にべチョリと置いてある。

たくさん濡れたんだな、おねしょみたいだなあと他人事のように思う。

 

何のだろうかと問えばもっと気持ちよくて仲良くなれることだという。するかと聞かれる。

性教育は受けている。

セックスのことだとわかったので、うなずいた。

 

痛いらしい。そう聞いていた。

幼いうちに嫁いだ貴族の娘の中にはもうしたくないというものもいた。

意外といいよというものもいた。

 

期待と不安。

 

ソファに横たわる。覆いかぶさる彼に何をされているかは感覚でしかわからない。

大きい棒状のものに、想像のアレだけが動く。

愛液をこすりつけるようにぬるぬる動く。これだけでも気持ちが良くてずっとそうしていたいくらいなのに。

 

そして、衝撃。

 

体験してわかった。

よくこれを意外とで収められたものだと。

 

「大丈夫」

「ら、らいじょうぶです」

 

目の前のユウの姿が一瞬前とつながらない。気を失ってしまったようだ。

意識すべてを塗りつぶされていた。

 

「あんまり痛みを感じないタイプみたいだね。ヒールも不要だったかも」

 

魂を抜かれたんじゃないかと思うほどの快感だった。

今まで、避妊していて孕ませられない相手に体を売る商売がなぜ成り立つか意味がわからなかった。

性行為は子供を作るためのものなのだと思っていたが、今理解した。

 

これは金を払う。

 

貴族の中に性で身を持ち崩す者がいるのも理解した。

彼は夫だからいいが、私は姉上のように他の男には手を出さないほうが良さそうだ。

 

「キス、してぇ」

 

動かしもしていないのに、入っているだけで小刻みに絶頂しているのがわかる。

気を失うほどではないが、口を塞いでいないと魂が抜けそうだった。

 

口が近づいてくる。

 

早く、はやく♥

触れ合う唇に願いはかなったが、彼の言葉に愕然とする。

 

「じゃ、動くね」

 

ユウ、無理です。それ、むりです。

 

入れてすぐ絶頂することを三擦り半と言ったりするそうだが、三擦りすら持たなかった。

人生最大の快感を体の奥に刻み込まれてしまった。

 

**

 

「ああああ、あねうえええ、盛りましたね!? 妹にく、薬を盛りましたね!?」

 

母上に言いつけますからね!! 

ユウはあのあとも数が数えられないくらい私をいかせてから帰っていった。

初めてだしこのくらいにしておくねと言う言葉にこれは加減されていたのかと性の世界の奥深さに少し恐怖しそうになった。

さり際にキスをされて全てはどうでも良くなった。

けっこん、しなきゃ……!

酔は冷めていたが、また酔ったような面持ちになった。

 

――冷静になるとおかしい。姉上の部屋だし、いつの間にか酔ってたし、え、えええエッチしてたし。

王族としてそう簡単に体を許さない教育くらいは受けていたし、そういうつもりではあった。

つまり、はめられた! 何が何だか分からないがきっとそう!

いつの間にかいなくなっていた姉上を探すと私の部屋でゴロンゴロンしていた。あまりにのんきで怒りが湧いた。

ギャンギャン怒鳴ったが我関せずである。

 

「いいワインは出したけど、別にもってないわよ」

「うそですよね!?」

「ほんとほんと」

 

ていうか、媚薬いらなくない? とあっけらかんと言われる。

そんなバカな。知識と違いすぎる。

 

「や、やっぱりあれ普通じゃないんですね」

「そりゃね。あれが普通だったらメルロマルクは女性上位になんてならないわ」

 

あれだけの快楽を初めての相手にも与えられてしまうなら確かに女は男の言いなりになる以外ない。

わからせられてしまうだろう。ユウだけで良かった。

 

思い知ったみたいねとぷぷーと笑う姉上の姿にすぐ手紙を書こうと思った。

 

母上。私婚約者ができました――。

 

さて、私のものにするにはどうすればいいか。

 

 




危機一髪の意味が違う的な。

マインはハーレム容認派でむしろ満足してもらうことに喜びを得ているのでどんどん増やそうとするしするりと自分も相手してもらってるけどメルティは独占したいのでガードを頑張ってるうちにあんまり抱いてもらってない気がするみたいな。
もーー! なんでそうなの!! みたいな。

キスしたら結婚しなきゃ! とかいいよね、とかとか。
もうちょっとはめられた的なやつも好きなんですけどー。
嫌がられるのもアレかな―みたいな。
そっちは母上にお願いしたいと思います!


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056 打ちひしがれる心

 城の通路を歩く。

 メルティはかわいい相手だった。

 とても感じやすい体にそれなりのレベルがあるせいか、快感をそれなりに受け止めることもできているようである。何度かこなせば快感に気絶することも無くなりそうだ。

 女性を感じさせるのは楽しいが、気を失った相手にするのはあんまり面白くない。

 寝ている間に感じるように経験を積ませるのはそれはそれで面白いのに、不思議である。

 

 こっちの人間は皆丈夫なので前ほど手加減が必要ないのは楽しいところだ。

 次はもっと可愛がってあげよう。そんな気持ちでウキウキしていると、若い兵士が向こうからやってくる。

 

「刀の勇者様! 波ではありがとうございます!」

「あ、うん。尚文と村人の保護を行っていた部隊の人、だよね?」

 

 波では村1つ分以上の範囲が戦場になる。

 城の若い兵士を経験値で釣って城の戦力も巻き込んだがうまく行ったようで、彼はレベルがだいぶ上がっているように見える。

 

「そうです! 前々から応援させていただいていましたが、おふたりともさすがです!」

「そう言ってもらえると嬉しい。城の人たちには色々助けてもらってるし」

 

 最初は城の余り物をもらっていたが、最近は方方から珍しいものを集めてきてくれている。

 

「それで、その。刀の勇者様ってメイドやってるメル様と仲がいいって聞きまして」

「メル様?」

 

 同じ城で働く同士だが、様がつくようだ。

 まあ、城で働くメイドの中には令嬢もいるのだし、メルさんもその一人なのだからしょうがないといえばしょうがないが、仕事場の人はメルさんとよんでいた気がする。

 彼の目は同系や憧れに別の色が少し混じっていた。

 

「自分、彼女の父親が領主の村の出でして。領主様の姫様みたいな。城でそんなふうに呼べないので、メル様って呼んでるんです」

 

 なるほど。繋がりがあるならしょうがないね。

 貴族はみんな偉い人な領民からすれば、メルさんもまたお姫様のように映るだろう。

 もしかしたら子供の頃の英雄譚のお姫様役に勝手に登場させていたかもしれない、などと考えてちょっとムッとする。

 メルさんはもう自分のものである。

 

「それにしても、メルさんがどうかしたの?」

「いや、その。勇者様は知ってるのかなって、城でも話をしてまして」

「知ってるって何を?」

 

 浮かんでいた気持ちが沈むのがわかる。

 きっといい話ではないと彼の顔色から察した。

 もしかしたらメルさんの不審な態度の原因かもしれない。

 

「あの、メル様が嫁ぐらしいって……。城のみんなは相手は勇者様に違いないなんて笑ってたっすけど、メル様はその割にはなんだか悲しそうに笑ってたから、もしかしたら違うんじゃないかなって」

「いや、俺も知らない……俺じゃない」

 

 なるほど。嫁ぐのかあ……俺以外の相手に。

 まただ。そう思った。

 

 ああ、彼女の言葉の意味はそうだったのかと納得している自分がいた。

 彼女のサヨナラは別れを告げていたのだ。

 彼女はここに来て真っ先に抱いた人間だった。

 会うたびに何度も抱いた相手だった。

 騙されるみたいに押し切られて、そのくせ年下相手とどこか甘やかすみたいな女性だった。

 

 気に入っていたんだろうな。そう思う。

 胸に走る痛みがそう告げていた。

 

「だ、だったら、取り返してきてくださいよ! きっとメル様は勇者様を待ってますから!」

「いや、──」

 

 彼女は自分から離れていった。迷惑をかけたくないとか、そんな気持ちがあったのかもしれない。

 

 けど、何も言わずに去ったのだ。

 

 彼女相手には一切の避妊をしていなかった。だから、もしかしたら子供を宿したかもしれないとも思っていた。

 でもだからこそ体が動かなかった。

 

 最後の言葉が勇者の力になりたいと、自分ではなく勇者と言ったのもあるかもしれない。

 

 今までの数多の女が頭によぎった。俺の子供を生みながらも俺を夫と父と思わない女達。

 勇者を通してもらった女神の祝福としか受け取らなかった彼女達。

 

 ズキンと大きく頭が痛む。

 どうしろというのだ。勇者の強権で彼女を奪って──どうするというのだ。

 夫にでもなるつもりか。求められていないのに。

 助けることはできてもその後が全く思いつかなかった。

 だったらそれは助けることにならない。

 

「彼女は助けを求めなかった」

「そ、そんな! あ、待ってください、まって、勇者様!」

 

 勇者を求める声が煩わしくなって走って駆けた。

 若い兵士の静止する声を振り切って。

 

 その様子はまさに逃げると言ってよかった。

 




成功体験が人を強くするように、トラウマが勇者の立ち向かう力を削いでいるのでした。
本人から助けてと言われていたら立ち向かうことができたかもしれない。
けれど彼女を追わなかったユウにはその機会は与えられなかったのです……。

敵には無双するのに敵以外には弱いユウ。


あ、あと、皆様の応援のおかげで前の話の更新時にR18日刊の1位になってました。
連載スタート時になった以来だと思うのでとても嬉しいです。
(みんなメルティ好きなのね! とか思ったとか思わなかったとか)


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057 神のさばきを与えよ

 

私の名前はイドル=レイビア。

 

メルロマルクの領主にして、三勇教の敬虔なる信者です。

私が三勇教を崇めているのは家の教えということもあるでしょうが、一番は隣の領主であるセーアエットのせいでしょう。

あそこは亜人保護を謳っている売国奴の領主が代々務めており、亜人共もまた、あの領主を慕っていると聞きます。

 

亜人、知っていますか? ヒトモドキのことです。

人に犬や狼、虎などの動物の体を埋め込んだ神の作った失敗作のことです。そのくせ、人を超える身体能力や、魔物のように子供時代を経由せずにいきなり大人になったりする存在です。

あんな存在を人のように扱う意味がわかりません。

 

第一、亜人国家である、シルトヴェルトとの戦争を忘れたのでしょうか。彼らに負ければ私達こそが亜人に支配され、奴隷とされるのがわからないのでしょうか。

私には貴族として国を守る義務があるのです。

貴族の一人である私にできることなど大したことはありません。財の余裕が出たときに亜人奴隷を買い、拷問を行っていじめ殺すくらいです。息絶えろ、絶滅しろと思いを込めて。

 

――ああ、私のなんと無力なことか。

 

第一の波の際に被害にあったセーアエットに被害が出たことをしり、即座に三勇教につなぎをつけ、亜人排除の一助となれたときはとても誇らしい気持ちになりました。

彼らに保護など必要ない。ソレが私の考えです。

むしろ排除こそがこの国に必要なこと。この国に彼らの生きる場所なんてないのですから。

 

けれど、忌々しいことに表立っての排除は難しい。ああ、自分の力のなさが悲しい。

 

なにせ、下手なことをして、シルトヴェルトとの戦争になっては困ります。

確かに勇者はいますが、現状四聖すべてをこの国が所有していると言う事実は重く、私有化からの戦争の道具として行使などすればすぐに他国からの介入が入ってしまうでしょう。

 

そう、勇者。

剣の勇者、弓の勇者、槍の勇者。

皆、素晴らしい存在です。

国中の厄介な魔物を倒し、悪をなす貴族を排除し、人々を救っている。

 

けれど、盾と刀の勇者。

彼らはどうでしょうか。

なんと勇者の神聖な仲間に獣を選びました。

明らかに彼らは亜人寄りの勇者でした。

 

その上、人気稼ぎに駆け回っては自分のほうが勇者らしいと三勇者を貶めようとしている。

刀の勇者など、波の犯人なのではないかと噂も出ています。

 

排除しなければいけない。

 

教会の伝手も使い、彼の周囲の情報をしっかりと集めることができました。あのにくき勇者達の仲間の亜人二匹がかつて私の所有していた奴隷だったというのは本当に驚きました。

 

病になり、あとは死を待つだけとわかっていたので売り払いましたが、しっかり殺処分すべきだったと本当に落ち込みました。

神よ、申し訳ございません。

でも、世界のため、国のために落ち込んではいられません。

 

それに、いい情報を手に入れることができました。

勇者が一番に手を出していた女が――していたのです。

 

そして、あの女の家は私の家と強い繋がりがあり――頼み事を断れないのです。

ちょっと打診して強く当たれば簡単でした。

彼女が――の事実を家に報告していなかったこともまた強いでしょう。勇者とのつながりはうちとの今後を考えてでもつなぎたいと考えたかもしれないでしょうから。

 

使うのは前か後か。

どう転んでも価値があります。

 

ああ、神よ、ありがとうございます。

今度こそ、私は間違いませんとも。ええ。

神に誓って。

 

**

 

ガタゴトと大きく音を立てながら揺れる馬車。

城に訪れた父の言葉。

 

「イドル=レイビア殿のところに嫁ぎなさい」

 

我が家に比べれば遥かに有力なレイビア家。

特に彼は妻を亜人に襲われて亡くしており、いま妻がいないとのことだった。

 

けれど

 

私は自分のお腹を擦る。ここにもう一つの命が宿っているという事実に不思議な気持ちを何度も抱く。

 

ここにはゆう様の子供が。

 

女性の処女性を妻の必須事項とする国もあるが、ここはメルロマルク。

浮気を良しとする文化こそないものの、婚前の恋愛に対してどうこういう文化もなく、また、血の繋がりを確認する方法もある。

父が持ってきたイドル=レイビアさまからの手紙にも、勇者の子供がいても問題ない、その子も含めて大切にすると書いてあった。

 

「お前は勇者様の邪魔をするつもりか?」

 

父は言う。勇者様はマルティ様とも仲がよいのだと、お前のようなメイド相手に本気にはなるまいと。

真に幸せになりたければ貴族の本妻こそがその道だと。

 

知っている。城で会うたびマルティ様も抱いていることを。

決して自分だけが特別ではないことも。

 

父の娘の幸せを願う気持ちに嘘は感じなかった。

家の未来も一緒に考えていただけ。その範囲で娘の幸せを願っただけ。貴族なら当たり前のこと。

 

「それに、イドル=レイビア殿は刀の勇者様子飼いの商人を支援してらっしゃるとのことだ。お前が反対して支援が止まれば勇者様に迷惑をかけることになるだろう」

 

だから、私には選べる道などないのだ。

 

「はい、わかりました」

 

せめてとゆう様の未来を神に願った。

 




全読者に知ってた知ってたと言われそうな事実。
な、なんとメルさんは妊娠していたのだったっ!!(な、なんだってー!)

そんなメルさんとイドルさん、一体どちらの神への願いが届くのか!? ビッチ神には悪徳貴族の願いが届きそう感。

マインが三勇教に勇者抹殺のきっかけを与えなかったのと、三勇者がそれなりに勇者できている現状もあり、教皇は真正面対決ではなく、暗躍からの追い落としを企んでる模様。
イドルさんにもごにょごにょしているとかいないとか。


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058 押しの弱い子が経験豊富になる理由

 

 怒りを感じ、けれどそれは吹き出さずに沈下してしまう。燃え残ったそれはドロドロと溶けて心の奥底に潜み続ける。

 いつまでも無くならない痛みに無力感を覚える。

 

 諦めたはずなのに、諦めきれない。

 

 もどかしさが、悔しさがあって──ごまかすように悪癖が働いた。

 

「ほ、ほほほんとに、こんなことすれば男の人になれることができるんですかぁ──!?」

「ほんとほんと。それにみんなやってるし。樹だってやってると思うよ。勇者に未経験のやつがいるはずないでしょ?」

「それは、そうですけど……、そうですけど、はずかしすぎますぅ──ふぇええ」

 

 弓の勇者の手伝いを申し出たものの、樹は「それでは仲間をお願いします。僕は調べることがありますので」とフィロリアルに乗ってどこかに行ってしまった。今も刀の勇者への疑いは変わっていないようだった。

 仕方がないと仲間を鍛えているうちに──リーシアから相談されたのだ。もっと、勇者様に信頼されたい、役に立ちたいと。

 

 言動の幼い子だなと思っていたが、その胸のうちには熱い思いがあり、自分を悪い貴族から救ってくれた樹にヒーローのような憧れをいだいているとのことだった。

 そして、恋慕も。

 真っ直ぐに思いを向けられている様子が羨ましく、今の自分の心をざわめかせる。

 

 だからまあ、樹より先に手を出してしまえ。

 ──そう思ったのだ。

 

 **

 

 最近、樹様はフィロリアルさんばかりに信頼している、よくやったといってるんです。高級な白いフィロリアルのスノーと名前のつけられたフィロリアルは育ちの良いお嬢さん気質らしく、また良き妻であるべしと甲斐甲斐しいらしい。

 フィロリアルと競い合っているのかと思うが、役に立ててないというショックは本物のようで、慰めついでに男にならすためを名目にベッドに連れ込んだのである。

 

 後ろからギュッと抱きしめればそれだけで全身の肌が真っ赤に染まるのがわかる。

 彼女の自信とは真逆の大きな胸をやわやわともみ出すとそれだけで深い快感を抱いているようで、スイッチが入ったのがわかった。

 

 ここまで来てもぎゅっと抱きしめる程度で抵抗ができなくなってしまう押しの弱さにまあ、食われるのは時間の問題だったかと思う。

 

 押しの弱い女はわりかし男の欲望まみれの性行為を押し付けられやすいので以外に経験豊富だったりするケースが多い。

 ほわわんとした聖職者の女がさほど淫乱の気質もないのに腕が挿入できるまで仕込まれていたのにびっくりしたことがある。

 

 まあ、樹は自分本意な抱き方をしそうなので、彼のためにも慣らしてあげておこう。

 

 胸をいじって上げるだけでカクカクと無意識に腰が動き出したので、もう逃げないかと向き合えばわっと恥ずかしそうに手で顔を追い出した。

 

「リーシアは可愛いんだから顔隠さなくていいのに」

「は、恥ずかしいんですうっ」

 

 まあ、両手がふさがっていると邪魔がなくてよろしい。

 どぷんと大きな胸が山を作っているが、その頂には凹んだくぼみである。陥没乳首か。

 慎み深いだねとなぶってあげればぴくんぴくんと震えるのがわかる。いじめられたいタイプか。

 自分のサガにあった体で実にハッピーなことである。

 奥にいる乳首を舌を差し込んでねぶるとむくむくと大きくなってくる。指でしこしこと擦ってあげると簡単に上り詰めようとして──

 

「え?」

「なに?」

 

 落ち着くのを見計らって再び擦り上げ──イク手前で止めた。

 

「あっ、あう……」

 

 何かを言いたげな、けど言えないままで目と顔はわかりやすく主張している。

 何も言わずに性の暴力で殴りつけてイカセ続けてもいいが、気弱で性に臆病な子に自分から言わせてこそではないだろうか。

 

 何度も何度も繰り返すと、快感に翻弄されるだけの彼女も何をしなければいけないのかがわかったようだった。

 あと一歩だけ勇気が足りない。そんな感じ。

 だから、手を差し出してあげればいい。

 

「何がしてほしいかお願いしたらやってあげるよ」

 

 ニコリと微笑んでいったものの、悪魔の笑みのように写ったかもしれない。ほんとにいいのか、言ってしまおうかと頭の中をぐるぐるしながらも彼女は自分で言ったのだ。

 

「い、いかせてくださいぃ」

「わかった」

 

 唇を奪いながらぷっくりと膨れ上がった乳首をギュッと握ればそれだけで彼女はイッてしまった。

 ああ、これで彼女は自分の意志で今を受け入れたのだ。

 樹に恋慕の情を抱きつつも、騙されてではなく望んで俺に抱かれるのだ。

 

 **

 

「どうだった」

 

 もはや自分の快楽に染めきっただろうリーシアは満足そうに笑った。

 

「自信がつきました! これなら樹様ともちゃんと接することができそうですっ!」

 

 ムッとする。その表情は胸のつかえが取れたとばかりにスッキリとしており、どこか幼さが消えて大人びたようにも見える。

 

 それがなんとも腹立たしく、頬を強くつねった。

 

「ふえええぇ!?」

「リーシアのくせに生意気だ。一回だけじゃ、大して変わんないさ。もっといっぱい経験しないと」

「は、はい、ユウ様!」

 

 何度も出してどろどろになった性器を擦ると、もどかしそうにひゃあんと鳴いた。

 

 押しが弱いけど──気持ちまで弱いわけではないらしい。

 彼女にとってあくまで最初から最後までトレーニングだったのだ。心は奪えなかった。樹が少し羨ましくなった。

 どうして自分じゃないんだろう。

 

 よくわからないくせににぱっと笑うリーシアが可愛く思えた。

 いいな。羨ましいな。

 勇者であってもまっすぐ気持ちを向けられている樹や尚文。

 だったら俺だって。

 けれどその考えはメルさんのことを思い出して消えていく。

 きっと、彼らと俺は違うんだ。

 

 ──いいなぁ。

 不思議そうに首をかしげる彼女にため息を付いた。

 




最初から最後まで訓練のままのリーシア。
でも樹と将来そういう関係になったときは気にしそう。
樹「とてもよかったですよ、リーシア」
リーシア「訓練したかいがありましたっ!」
樹「はっ!? え、誰と!?」

みたいな。
仲間が愛してくれる人を得ていて少し励まされつつも、やっぱり自分はだめなんだろうかとなる。メルさんの気持ちを知ることはできるんだろうか。


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059 陰謀の始まり

 

盾の勇者である岩谷尚文は勇者としてこの世界にやってきた――そのすぐ嵌められて、勇者の責務だけ押し付けられたことに怒りと恨みを抱いていたが、それも最近は段々と収まっているのを感じる。

きっかけはやはり自分を心から信じてくれる仲間のリファナの存在だろうか。

 

正直、元の世界に戻ったところで、自分を助けるためなら命をかけてくれるような相手など得られるとは思えない。

こんな世界嫌いだ、早くもとの世界に戻りたい。

そんな思いも最愛の少女と契ってしまった以上男としての責任を果たさなければという思いが押し留めている。

 

愛する人を得て、尚文には夢ができていた。

引きこもって、自堕落に生きていた自分にできた輝くもの。

リファナの故郷を再建する夢が。

 

だから影を通し女王と交渉を行い、領主不在となってしまっているセーアエットを貰い受けることとなった。

おかげさまで女王に味方する勇者となってしまったし、改善していくことを条件に今までの行いを水に流すことになってしまったが、それでも十分な対価だと思っている。

 

このままリファナの故郷を自分の故郷にできれば幸せに生きていけるのでは。

だが、謎の勇者グラスの言葉がそれを阻んでいた。

 

最愛の人や、ペットのような妹のような大切なものを得たからこそ、盾の勇者として、未来に思いを馳せるようになった。――波とはなにか、なぜ盾の勇者は虐げられるのか。

 

国王からのイチャモンこそ弾ける力を得たものの、世界の真相には一切近づけていないことに気づいた。

本当に漠然と強くなることだけを目指していいのだろうか。

 

だからこそ、今まで目を向けていなかった三勇教に向き合うことにしたのだ。

 

尚文は盾の勇者としての名声はゼロどころかマイナスだったが、神鳥の聖人としては結構な人気を持っていた。

いろいろな商人とも仲がよく、噂話は十分に手に入る環境だったが、どうしても人の記憶はどう頑張っても祖父から聞いたと言うレベルで途絶える。

過去の勇者や波の記録、そして外部に漏れてこない三勇教の内情となると話が別だった。

このままでは埒が明かない。

 

そう思った尚文はある人物を利用することにした。

 

**

 

「で、どうだった?」

「ええ、いくつかわかったことがあります。やはり彼は異世界の勇者であると言っていいでしょう」

 

相手は弓の勇者の樹だった。

場所は城下の一室。人知れず集まった人家にて紅茶のカップが3つ湯気を立てている。

 

正直悩んだ。大いに悩んだ。

 

しかし、元康は仲間を疑うなと楽観的に笑い、錬は勇との敵対の可能性を拒んでいる。

 

精神的に幼くいまいち芯のない樹は不安だったが、尚文にとって都合のいい勇を疑っている人間だ。

『崇めているのに勇者について全く教えない三勇教にこそ真実があるのではないか。他の勇者は皆疑うことを放棄している。

真実を見つけられるのはお前だけなんだ、頼む』と頭を下げた。

正直樹に頭を下げるなど業腹だったが、まあ、頭など下げても一円も損しないと自分を納得させた。

 

「……確かに僕だけでしょうね!」

 

こうして弓と盾は手を組んだ。

 

**

 

「根拠は?」

「四聖勇者と七星勇者。これが元々の勇者でしたが、本当はもうひとりいるそうです。フィロリアルの勇者。馬車の眷属器だとか」

「伝説のフィロリアルクイーンのことでごじゃるな。三勇教のいう七星勇者は増えたり減ったりすることがある、と言う話の根拠はそこでごじゃるか」

 

女王の影武者らしいごじゃる女を加えての三名の密会だった。

 

「ええ。元々四聖一人に付き二人の眷属、と言う形だったそうです。盾の勇者の獣魔であったフィロリアルが馬車の勇者となり、フィロリアルクイーンになったと。しかし飼い主の盾の勇者没後、でしょうか。その後姿を消し、歴史の中、七に勇者の数が減ったようです」

 

樹は今にも朽ち果ててしまいそうな本をそっと開くとここですとページを開く。

お前、もうこの世界の言葉を覚えたのかよ……無駄に優秀だな。

リファナから授業を受け、ようやく簡単な文章なら読めるようになった程度なので、古書など読めようはずがない。

だが、覗き込んだごじゃる女がなるほどとうなずいたので真実なのだろう。

 

「単純に姿を見せなかったから減ったように見えただけで、勇者の数が変わっていなかったのなら、刀の勇者は異物ってことになる。どこからか今回始めて現れたと考えるのが自然となるか」

「敵であることが確定しましたね!」

「しかし、刀の勇者様自身そのことを知らなかったようでごじゃる。勇者様を操るような手段などあるはずもなし。敵対の可能性は十分あれども必ずしも敵とは限らぬのでは?」

「それは、そうですけど」

「勝てないのに敵対するのは愚かなことだ。だが、敵対するかは俺たちだけが決めるわけじゃない。あいつだって選べるんだ。敵対される可能性は考えるべきだ。力が必要だな」

「……正直、認めたくありませんが、彼は強いですよ。僕ら全員でも勝てるとは思いません」

「それは俺もだ。だからこそ、――知識を共有したい。俺の見つけた2つの力、EP(エネルギーブースト)と勇者武器の裏モード、憤怒の盾について」

 

ゲームにないらしいその2つの力はけれど実施してみせることで樹も信じ、勇者武器の強化法を共有することができた。

今までとは遥かに違う効率にあいつらめと唸っていると、樹が何かを決心するようにうなずく。

 

「尚文さん、僕はこのまま三勇教を探ります。勇者として教皇に接触してみるつもりです。――僕は勇さんが敵であると確信しました。そもそも、本人が言っていたじゃないですか。別の世界で勇者をやっていたと。その世界から助けてくれと言われれば助けるために敵になるに違いありません」

「……ああ」

 

尚文としては信じたくなかったが、信じる信じないと対策しないは別のことだ。100%じゃないなら対策すべきで、対策するために鍛えることは勇が裏切っていなくても有効なことだ。

 

樹と別れ、各地の勇者の残した足跡をめぐることで勇者専用の魔法、リベレイション・オーラを習得した。

 

さらなる力を求め旅をしていると

 

――刀の勇者は罪人であるという噂が広がっていた。

 




盾の勇者、リファナちゃんとのラブパワーでいち早くこの世界に残ることを誓うの巻。
襲われて襲い返した模様。
彼女のためならプライドだってなんのその……ということで女王と協力したり樹と組んだりしているようです。

おかげさまで勇者としての強化法も共有。
四聖勇者で尚文と樹が頭一つ強くなることに。

そんな中、しかけられた罠とは!?


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060 広まる疑惑。強姦は死刑

 

 外が危険に溢れているこの世界では、なんだかんだで村の中で生まれて村の中で死ぬ人間が大半である。

 商人や村長であればともかく、農夫であれば畑の世話を毎日しなければいけないのだからなおさらだ。

 

 そんな状況下で手紙を送るものは少ない。それこそ、別の村に嫁いだ妻が子供が生まれたことを親に知らせたり、仕事のあれこれで手紙を商人に託すくらいである。

 そんな中で高い識字率と手紙の頻度を誇るのが教会である。

 彼らには本部への日々の報告義務があり、また、長い間本部から離れることにより教えが変革してしまわないよう若い間は何年かに一度は本部や支部に戻り教えの理解を深めるのだ。

 

 宗教の教えは長い間語っているうちに変わってしまいがちだ。

 例えば『人を害するな』と言う教えがあったとして、では亜人はどうか、罪人はどうなのか、盗賊を殺しただけで罪なのかと解釈が分かれてしまいがちだ。

 それ故に、聖書の解釈を統一する必要があるのだ。

 

 それもあって、司祭には同期などの仲のいい人間ができやすく、そういったものとは度々手紙でやり取りすることもある。横のつながりが強いのだ。

 そんな中、メイドとして王城に奉公にでていたメルの領地にある教会の司教は手紙を読み──怒りで机を叩いた。

 

「何ということだ!! 刀の勇者がメルに無理やり関係を迫ったばかりか、子供を孕ませた上に捨てるとは!」

 

 司教のジムソンが読んだ手紙にはさらに彼女がこの領とも関係深いイドル=レイビア殿と婚姻したこと、その中で涙ながらに告白してくれたこと、彼はそれを受け入れた上で、関係を解消せず娶ること、刀の勇者を決して許さないと言っていると書いてあった。

 司教のジムソンにとって、メルは令嬢であるが、同時に教徒であり、生徒であった。学ぶことに熱心な彼女は彼にとって娘の一人のようなものだった。

 刀の勇者の評判は悪くなかったが、裏でこんなことをしていたなんて。

 

 ジムゾンは自分もできる限りをしようと善意で思った。

 まずは仲の良い司教に手紙をかかなくては。

 

 そして、噂がねじ曲がりつつもあっという間に国中に広まったのだった。

 

 **

 

「……なるほど?」

「これ、ほんとなんでしょうか? ラフタリアちゃんから聞いた話からすると、その、無理やりするような人とは思えませんが」

「刀の人はお盛んなんだね! すご~い」

「そう、だな……?」

 

 尚文は頭痛を感じて頭を抑えた。

 

『刀の勇者がメイドを襲って孕ませた。強要された行為だ。刑に処すべきだ』

 

 流れてくる噂をまとめるとこんな感じである。

 頭を抱えるしかない。自分がされた疑惑と同じようなものであり、その事自体には怒りを覚える、またかと。

 

 しかし、問題は孕ませたことと、強要されたという告白だ。

 なんでも聞けばこの世界では誰の子供なのか判定することは可能らしい。

 そして、勇は度々ラフタリアをリファナに押し付け、一人で行動することがあった。

 それも含めて考えれば──やってるのは間違いない。

 

 自分のマインのときは冤罪だったが、これは……本当に冤罪か? 嫌がっていなかった、最後は感じていたと言われたとしても、尚文には性犯罪者の抗弁にしか聞こえない。

 正直勇に会ったとして信じてると言える自信はなかった。

 

「そりゃ、俺のことなんて信じないか……」

 

 世界の違う、信頼関係もない勇者仲間が自分を信じないのはしょうがないという気がしてきた。

 はめられたことには未だ怒りを覚えるが、信じてくれなかった事自体は仕方がなかったのだと思うようになった。

 しかし、実際勇を信じられない。

 やることはやってるだろう事実に判決メーターは黒に振り切れそうである。

 しかし同時に悪いやつではない、という一点と、勇者らしく人を守っていた事実の2点がかろうじて支えている。

 

 このままだとどうなる。

 

 あいつが愁傷にも刑に服すかと言われれば否であろう。

 そも、この国で強姦の罪は死刑である。

 これがきっかけで国家の敵となった場合──再度グラスに誘われたらどうなるか。

 

 敵になるに決まっている。

 

 国中から敵とされてまでこの世界の味方であるなどと信じられない。嘘から出た真。敵対が真実になってしまう。

 

「クソっ、余計なことしやがって……」

 

 一刻も早く女王とつなぎを取らなければいけない。

 これは、世界の危機だぞ……。

 憤怒を開放した勇が敵になるなど悪夢である。

 バカバカしいなと思いながらも、冷や汗が流れた。

 

 **

 

「あ、あの、ユウ様……元気だしてください。でも、子供を作ったら責任取らなきゃいけないんですよ……?」

「えー? 優秀なオスがメスを孕ませるのは当然のことなの。私も孕ませてほしいなの!」

 

 スリスリと体をこすらせてくるガエリオンの頭を無心で撫でる。一体どうしてこうなった。

 そんなに嫌われていただろうか。確かに強要した関係ではあったが、日本を含めて今まで嫌われたことはなかった。

(夫や彼氏などには殺意を持たれていたが)

 つい、ではあったが避妊をせずに関係を持ち続けたのは自分なりに彼女のことを好きになっていたからだろう。

 勇者目当てであったと、また子供目的だったかと嘆いた。

 自分を助けてくれたのに、あんなに柔らかく笑ってくれたのに。

 

 なのに、本当は嫌われていた。

 

 勇者だからではなく、勇だから嫌いなのだ。

 勇者の子なら受け入れてしまえるはずなのに、嫌いだから受け入れないのだ。

 

 勇者ではなく自分を見てくれていたであることを感じてほんの少しだけ嬉しいしくて、それ以上に悲しい。

 リファナやリーシアのような勇者を愛する人を知ったからこそ、余計に。

 

 ……せめて、本人に嫌いであると言われたかった。

 何かをしようとする気力がわかず、進むことも戻ることもできずにいた。

 




盾の勇者世界恒例の勇者陥れ。
しかし、やることはやっているという点が事態を凄まじく複雑にしているのだった!

前向きに世界に向き合うことを誓った尚文は同僚のできちゃった問題に駆け回らなくてはいけないのだった……(不憫)

原作では旅して助けて回っていた尚文は王城以外からの民衆の支持を得ていましたが、勇はサポート気味だったので、王城人気は高いものの、王城外での人気はそれほどでもなく、あの優等生が実は裏では……!? 状態に。


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061 あなたの体温

 

ユウ様が落ち込んでいる。

 

まだまだ拙いながらもなれてきた食事を作る作業を行いながら、焚き火を挟んで向かい側に座りぼうっとしているユウ様を見る。

今までユウ様は何をするにも自信たっぷりであり、強くて頼りになる勇者らしい勇者だった。

リファナちゃんと会うたびに盾の勇者様のお話をたっぷりとされるが、ユウ様だってそれに負けない……ううん、それ以上の勇者様である。

 

そんな勇者様なのに、ここのところずっと落ち込んだままである。その原因がユウ様に乱暴されたという女性だ。

正直、城の人間はユウ様に優しい。

 

嫌われがちな亜人である私もユウ様の仲間だからと許されている感じである。現にリファナちゃんは盾の連れている亜人と呼ばれて不親切にされることがあると言っていたが、最近は刀の勇者様を助けてあげるんだよとあれこれお菓子をもらったり親切にされることが多い。

 

城の女の子たちの噂話でも、槍の勇者様に次いで人気らしく、声をかけてみようかなーなんてキャイキャイ言っている話を聞いたしあの子みたいに可愛がられたいわーなんて聞いたことがある。

どう脅して口を塞いでも、嫌われるようなことしていたら噂になるはずなのに、そんなことなかった。

だからきっと何か誤解があったんだろうな、と思っている。

まあ、その人に結婚の約束をしていた人がいたのにエッチなことしちゃったなら、ユウ様が悪いのかもしれないけど。

 

けど、国中に言いふらす必要はないのでは。

会ったことのないメルさんと夫というイドル=レイビアと言う人を恨んだ。

 

「……? なんだろ、聞き覚えのある名前……」

 

頭がズキンと痛む。聞きたくない、関わりたくない名前。

ユウ様に意地悪な人たちだから、聞きたくないと思うのだろうか。今は考えないようにしよう。

 

「ユウ様、ご飯できましたよ?」

 

沸騰してぷくぷくと空気が弾けるたびに匂いが広がる。

締めたばかりの鳥モンスターのお肉をつみれにしたお汁は食べごたえも味もいい出来だ。

お腹いっぱいにして暖かくすればきっと気持ちも変わるはず。

 

なのに、声をかけても反応せず、近づいて肩を揺すると緩慢とした動きでこちらを見上げ……

 

「おなかすいてないから、寝るね」

 

そう言ってテントに入っていってしまった。

その声に力はなかった。

 

――重症だ。

 

私は今までしてもらったことを考え――ユウ様に絶対に元気になってもらうんだと意気込んだ。

 

**

 

テントの布越しに寝息を感じ、音を立てずにそろりと中に入った。夜の静かな時間のため、虫の鳴き声くらいしか聞こえてこない。

敷布の上にごろりと横たわっているユウ様はどこにでもいそうな普段と違い幼い少年に見えていた。

うんんっと唸る声が聞こえ、どこか表情が苦しそうなものに感じる。夢でも苦しんでいるのだろうか。

 

そっと近づき、横に寝転び抱きしめる。

以前昔の苦しくて苦しくて辛かった過去。村を家族を失い、友達を目の前で苦しめられ続ける光景。起きても寝ていても辛かったあの時を変えてくれたのは目の前にいるユウ様だった。

 

(キールくんみたいだと思ったのに、すごいがっしりしてる)

 

見た目は少年だったのに、村の人間とは全然違った。

食事を取らなかったからか、落ち込んでいたからか、その体はとても冷えている。亜人の平均体温は人より高い。

ギュッと抱きしめていると次第に暖かさが移っていく。

 

こわばった表情がだんだんと柔らかく穏やかなものに戻ってゆく。それがなんだかとても嬉しかった。

このまま一緒にいよう。そう思って……思って…

 

(あれ?)

 

自分がユウさまを抱きしめたまま、小刻みに体を擦り付けていた。自分が何をしているかが数秒遅れて頭に浮かぶ。

マーキングである。

カッっと頬が熱くなる。

自分のものだという主張は自分のものにしたいと言う主張でもあり、同時に盗賊退治の際に見てしまったユウ様と女性との情事に近い状態に今自分がいるということだった。

体と腰をユウ様にこすりつけるだけで、ピクピクと体が震えるのがわかる。とても心地よく満たされる行為だった。

そして同時に彼を元気づけるための行為をしていたつもりなのにこんなことをするなんてと罪悪感をいだき――

 

ぎゅむっ

 

両手の内側に通すようにユウさまを抱きしめていたせいで、私の体の裏側に回っていたユウ様の手が私のおしりを掴んでいた。

ギュッと掴まれただけで、ビクビクッとあのときのようにしびれるように気持ちいいが体を駆け抜け、んんっと声が漏れた。

何度かムニュムニュともみ続けているうちにいい位置を見つけたとばかりに擦るように動き出す。

一方的な行為ではなく、ユウ様にも求められているのを感じる。ずっともやもやしたものが小さく胸の奥にあった。

ユウ様は一人になってどこかに行って、戻ってくるといつも誰かの匂いをさせて帰ってきた。

今まではそれがわからなかったけど、情事を覗き見て、リファナちゃんに教えてもらって、今はすこし知っている。

ユウ様の手はするりと肌着と下着の超えて入ってくる。

 

指先が動くたびにぬちゅぬちゅと音を立てる。

自分一人で触ったときなど比較にならない快感に体が震える。

はあ、はあ♥と息が荒くなり、どこか熱を帯びている。

 

指はそのままそおっとにゅぷっと奥に入ってくる。指だけがクニュクニュと動き回る。中の壁をこりこりとかかれるとそれだけで頭が破裂しそうだった。

 

「あー、うー、あぁっ♥」

 

ぬちゅぬちゅぐちゅぐちゅと静かなはずのテント内でうるさく音を立てる。漏れる声が大きくなっていくのがわかって必死に我慢しようとする。起こしちゃ駄目だって、我慢しなくちゃって。だから、ああ、ユウ様ごめんなさい。

カプリと牙を立てないように首筋に甘噛すると、それだけで興奮して真っ白になってしまった。

 

「ゆう、様あ、ゆうさま、ゆう、ユウ……」

 

ユウ。そう呼ぶだけで心が満ちるだけではすまなくて溢れそうだ。人の気持ちも知らずに責め立てる指からの快楽に震えながらもぎゅっと抱きしめる手は離さなかった。

 

**

 

「ふああ、よく寝た」

 

だいぶ久しぶりにぐっすりと眠った気がする。

食事も取らずにまっすぐに寝たからだろうか? 妙な満足感を感じる。はてと体を動かしてみると、がっしりと子猫が親猫に張り付くようにラフタリアが体にへばりついていた。

気まぐれに乱れた髪を治すように撫でると「ゆうしゃま」とむにゃむにゃ寝言を喋っている。

 

「仲間はいたか……」

 

自分を見てくれない、愛してくれないと嘆いていた。

また裏切られたと、自分には愛してくれる人なんていないんだと。

かつての世界では仲間はいなかった。ついてきた女がいただけだった。はらませるための体で、彼女たちにとっては女神の祝福を授ける道具でしかなかった。

 

でも、彼女は仲間だった。

最後まで一緒に来ると誓ってくれた子だった。

 

「ありがとう、ラフタリア」

 

 




ラフタリアさん、最高の仲間扱いされる。
頑張らないとそのままいい人だぞ、ラフ!



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062 メルティは激怒した

 

メルティは激怒した。

必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の貴族を除かなければならぬと決意した。

 

とすんと机に振り落とされる拳。

王族の使う高級なものであること、メルティの力のなさから、あまり大きくは響かなかった。

 

「なんでよっ!」

 

メルティの胸の内を烈火のごとく怒りが吹き上げていた。

ユウが子供を作っていた。それ自体に少しだけ胸にずきんとした痛みを覚えたが、それ以上に嬉しいと思ったのだ。

 

なにせ、王族の一番の責務は王位を次に次ぐことである。

一度に何人も妊娠させられる男と異なり、女の場合一人子供を設けるのにも一年以上かかる。

 

その上、生まれてくる子供が女とも限らないことを考えると、二人以上は生むことを考えておかねばならない。

実際母上も会ったこともないうちに死んでしまった兄を含めて3人生んでいる。

 

ここで難しいのが、王配である。

女王として場合によっては複数の男を抱かねばならないとは覚悟をしているが、それでも母上と父上の仲、そして姉上の奔放な部分を見ればできれば一人の男を愛したいと思っている。

そして、メルティは愛する運命の人に出会った。

 

今後の人生で彼以上に愛する人はいるだろうか、いやいまい。そんなふうに思っていた。それだけに、『子供を作る能力がある』ことを証明できたのは喜びだった。

 

正式に王配と決まるまえにどのみち子を作れるかチェックされただろうが、あると証明された以上、メルティにはもう彼への思いを押さえるべき点が一切なくなったのだ。

 

なのに、この疑惑である。

 

死刑にする? 私の愛する人を? 私と結婚するのに?

 

ふざけるなと怒りに駆られ、情報収集のために人とお金をばらまき――事態を把握したが、相手がイドル=レイビアであることがわかり忌々しげにその書類を睨みつけ、机を叩いた。

 

「まさか、教会派の貴族なんて――」

 

信仰深い貴族だけに愛する婚約者を陥れた勇者を許せないのだろう、だがなんとしても助けなくては――と思いながらも手が見えない。

 

「どうどう」

 

なのに、この姉ときたら。自分の部屋のようにベッドの中央に寝転んでだらしなく報告書に目を通している。

こちらを向きもせずこれである。

 

「姉上はなんとも思わないんですかっ!」

「そうね。彼の所有物の分際で牙を向いたのなら怒ったでしょうけど――メルティ、ユウは刀の勇者、盾ではないのよ」

「いえ、盾だからという考え方事態よくないと思いますが、どういうことですか?」

「刀の勇者は四聖勇者と仲がよく王城とも関係がいい。村人、貴族、王族、その誰もが刀の勇者が活躍してくれる分には問題ない。異界の勇者問題はさておいてね。では、誰が刀の勇者を排除したがるかしら」

 

簡単なことよと姉上の視線を追えば、そこには三勇教のロザリオがあった。

 

「三勇教ですか? でも――三勇者より名声を得ているから?」

「それに盾の勇者とも仲がいい」

 

情報の広まり方を見ても、教会が支援しているのが見て取れる。勇者皆が教会とさほど親しくなく、王家ばかりが勇者を主導している状況も許せないのかもしれない。

メルロマルク王家は勇者を私物化しているというのは外国で何度となく聞いた言葉だ。

 

「でも、だとしてどうすればいいというのです?」

 

メルティは件のメイドがユウを嫌ってはいないだろうと思っているが、それを証明するのは困難だ。

 

「調査結果によく目を通しなさいよ。メイドの家――アディントン家の爵位は男爵。特に決まった相手のいない、婿探しも兼ねての奉公で王城に来てたわけでしょ? 城の人間の証言からもユウとの関係は悪くなくて、皆で勇者を手伝おうというメイドの声かけに合わせて彼を助けている。

メイドからの好意はあったと見ていいわ。

逆に、イドル=レイビアは元々の婚約者でも、前からそうなるかもと繋がりがあった相手でもない。ではなぜ?」

 

動きにしても前々から準備されたものではない。

最近起こった変化こそが原因なら――

 

「――子供を妊娠していると知ったから?」

「そうね」

 

姉上が調査結果を差し出してくる。

そこにはメルの同僚のメイド達の、妊娠しているとは知らなかった。悩んでいるようだった。でも言われてみればこのことについてだったのだろうという証言。

 

「目ざとい人間が気づいて情報を伝えた。場合によっては教会の告解室で聞いたのかもしれないわね。勇者の子を孕んだとイドル=レイビアは知り、メイドを確保して――刀の勇者を陥れることにした。――その狙いなら足りないものがあるわ」

「なんですか?」

「本人の証言よ。訴えはメル=アディントンの夫となったイドル=レイビアによって起こされている。本人が訴えればそれこそ何倍も効果があったはずなのに、よ? つまり――」

「本人は今の状況を望んでいない? ――なら!」

 

あくまで全ては『強要された』ことこそが罪なのだ。

 

その全ては本人の証言があれば覆る。

 

**

 

「くそっ、想定が甘かった。動くのが遅すぎた」

 

目の前には5千を超える兵士たち。イドル=レイビアの領軍と教会からやってきた僧兵達。

そしてその先頭に立つのは……。

 

「なに落ち込んでるんだよ、尚文。四人の勇者が集まったんだ。心配なんて不要だぜ」

「そうです。僕たちが力を合わせれば彼だってなんとかなりますよ!」

「……まあ、やってみないことには差はわかないか」

明るい声の元康と樹。冷静そうながらもやや焦りをにじませる錬。そして、盾の勇者である尚文。

四聖勇者とそのパーティーが集まっていた。

 

「さっ、対刀の勇者軍。気張っていこうぜ!」

 

元康の明るい号令は尚文には地獄へ進む行進の合図に聞こえた。

 

 

 

 




なんかすごい解決方法のような感じがするけど、ようはイドル=レイビアに強要されましたって証言してもらうだけ的な!

そして事態は対勇者軍との戦いへ…。


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063 世界の敵

 

「期限が切られたな……」

 

視力を魔力で強化し、数キロ先に陣を引く軍勢を見る。

王都の兵士はおらず、練度自体もそこまでではないが、勇者として相対する場合はむしろ弱さこそが厄介だ。

 

確かに勇気を持って立ち向かうと誓ったが、これはハードじゃないだろうか。

 

**

 

「ラフタリア、ガエリオン。俺は、メルさんに会いに行こうと思う」

「会ってどうするなの? こんなことしたんだし、そもそも敵なの」

 

スッキリした目覚めのおかげだろうか、胸の内が軽くなり、答えを出せた。

 

「会って、あって」

 

かけるべき言葉はなんだろうか。

ごめんなさい? どうして?

 

「その答えはまだ出てない。でも、会ってーー」

 

メルさんはこの世界で最初に出会った優しくしてくれる人だった。勇者たちではなく個人を見てくれているように感じた。

どこか姉のようにも感じた。

 

金だけ渡して任せるようなところのあった王とは別に、個人で周りに協力を頼んで素材を集めてきた。

 

勇者のためと言う理由があっても、職務にないことをやるのは大変だったろう。彼女は俺を見ていたと思う。

だからこそ、会いたいのだ。

 

本当に、嫌われているかもしれない。

だったら謝らなければいけない。

 

本当は、嫌われていないかもしれない。

だったら助けなければいけない。

 

『あ、あの、またこの世界を守ってくれてありがとうございます。私も、微力ながら勇者様のお力になりたいと思いますので! ――さよなら』

 

別れだけを受け取って今までされてきたことを信じなかった。

きっと彼女も他の女と同じなのだろうと決めつけた。

今思えばーーもしかしたら、勇者として抱き捨ててきた女性たちの中にも愛していない子供を宿すことに嫌悪していたり、逆に、街や大切な人を救ってくれたと感謝して喜んで抱かれた人もいたのではないかと思う。

目にも映らなかっただけで、見ようとしなかっただけで。

 

中には勇者としてではなく一人の男として見て、良し悪しをともかくとして、子供を宿した人もいたのではないだろうか。

少なくても、日本では、勇者の肩書をなくしていたのだから、あそこではそういった人たちもたくさんいたのではないだろうか。

 

だからこそ、彼女がしてくれた、かけてくれた気持ちは偽物じゃないと信じたかった。

 

「会って、ありがとうって言いに行く」

 

**

 

こうして決意を決め、シスターのアッテノと商人のラビに情報をもらい、メルさんがイドル=レイビアの屋敷にいることがわかった。そして、ある人物の接触と提案。行動は決まった。

屋敷前には兵士たちが多く並んでいる。

 

彼らの名目は女性にひどいことをする勇者を国外追放を要請することであり、国家側は本人の証言を求めると要求していた。

 

だが、これをイドル=レイビアが愛する妻は悲しみの余り外に出られる状態ではなく、勇者に弄ばれたせい傷ついている、好機の視線に晒すことはできないと拒否。

 

そうして、本人が現れ、謝罪をして国を出てゆかないのであれば王都へ攻め入ると軍と勇者一同で圧力をかけ始めたのである。

同時に勇者たちに俺は力ずくで隠そうとしていた、私は愛する妻が笑って暮らせるようにこの国から出ていってもらいたいだけだと涙ながらに語りかけ、取り込みを完了したらしい。

 

「まずは防御力を上げる。殺さずまっすぐ走る。勇者の相手は俺がするから、二人は作戦とおりに行動してほしい」

 

メルティとマルティからも兵を殺さないのであれば後始末はなんとかすると言われている。

 

権力者のなんとかする、は心強い言葉だった。

 

「わかりました! 必ず助けてみせます」

「ガエリオンにどーんと任せるなの!」

 

二人はそう強く返事を返す。

魔物相手ではない、人間の軍勢を戦い。

 

勇者対勇者の戦いが始まろうとしていた。

 

 




少数の勇者と軍勢で戦うためには相手から攻めてもらわなきゃいけないわけで、イドルさんは勤勉に根回しをしたようです。

イドル「我が軍勢に教会の協力者。なにより四聖勇者が加わった以上負けはない!!」


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064 四聖勇者VS刀の勇者

 世界はこんなはずじゃなかったでいっぱいだ。

 

 仲間の勇者を利用してやろうと思ったのが悪かったのだろうか。いや、そもそも、これは刀の勇者を追い詰めるための攻撃だったのだ。あいつを信じて真っ先に動ければ……。

 

 いや、どのみち異世界の勇者の事があった以上はどうしようもないか。

 

 尚文はこれ以上悩むまいと深くため息をつく。

 ここは刀の勇者に襲われたらしいメイドの夫であるイドル=レイビアの屋敷前だ。

 前回の波ほどではないが兵士と聖職者が混在して整列しており異様なただ住まいである。

 

「リファナ、頼んだぞ」

「はい! 必ず」

 

 尚文の言葉にフィーロに乗ったリファナがかけていく。

 現在の状況の共有と、勝利、敗北の際の扱いだ。

 正直、成長を確信している今ですらあいつに勝てるとは思えない。憤怒の盾を見込んですらだ。

 

 女王との契約でリファナ達を連れて逃げる選択肢はもうない。

 ならば敗北の場合も考えておかねばならない。

 

 勝てた場合の要求は国外追放と戦争禁止だ。

 負けた場合は罪のチャラ……としているが、合わせて事実確認と事実ではなかった場合国家権力をもってイドル=レイビアは責任を取らされることになる。

 

 ただ、刀の勇者一人に四聖勇者全員が負けるのは色々とまずい。異世界の勇者の話がない状態ならともかく、恐怖からの排除へと繋がる可能性がある。

 

 故に尚文は起死回生の一手をリファナにお願いしたのだ。

 件のメイドを勇と会わせる、という手だ。

 

 ユウが無理やりしたのではないかという点に関しては今でも否定はできないが、イドル=レイビアの本人を出させない態度から真実ではないことがほぼ確信できた。集めた情報からも少なくても彼女は直前までメイドとして働いており、勇へと別れらしき言葉を告げたということも判明している。

 

 その態度も脅された人間のものとは思えないと聞いている。

 王城の人間が噂に懐疑的なのは二人の間にある空気を知っているからだろう。

 

 であれば隠れているのではなく、隠されているのだ。

 男爵令嬢の立場ならともかく、イドル=レイビアという頼りになる夫ができた現状でならむしろ前に出てアピールすべきだ。それをしない以上、表に出せないという意味であり、イドル=レイビアの方こそ怪しい。

 

 女王の隠密部隊である影の総力もあり、メイドが連れ込まれてから屋敷を出ていないことはわかっている。であれば後はこの軍勢を避け、救出できれば勝ちだと言えるだろう。

 

 軍と勇者がぶつかっているその間にリファナとフィーロ、ラフタリアとガエリオンの四人での救出作戦を実施するのだ。

 

 **

 

 そうして、軍の前に勇が現れる。

 

 おちゃらけていた元康でさえ本気の表情に変わる。

 堂々と、真っすぐ歩いてくる勇はそれだけで強い威圧感を放っている。殺し合いをしないことを前提とした戦いで出会っても敵対するだけでこんなに恐ろしい。

 

 レベルは上げた。勇者の強化法も樹と共有して鍛え上げた。

 なのに、体が震えてくる。

 

 これほどなのか。

 これが魔王を打倒した成し遂げた勇者なのか。

 

 だが、怯んだままではいられない。

 自分もまた守るものを持った勇者なのだから。

 

「防御は俺が担当する。だから、お前たちは攻撃し続けろ! 四方を責められて防げる人間はいないっ!」

「ええ、尚文さんに言われるまでもありませんよ」

「勇者初のチームバトルの相手が仲間っていうのはしまらないけどな」

「挑んでみたいとは前々から思っていた」

 

 勇者たちは獲物を構える。

 

「まずは強化だ! 力の根源たる盾の勇者が命ずる。伝承を今一度読み解き、彼の者の全てを支えよ! 《ツヴァイト・オーラ》!」

 

 協力者として登録した兵たちと勇者たちに全強化魔法がかかる。続くように他の勇者たちや僧兵からの支援魔法がかけられる。体にかかっていた威圧もどこか小さくなったように感じた。

 

 ──これならいける。

 

 笛がなり、怒号が広がる。軍勢が一歩進み、勇者たちが駆け出した。

 

「まずは小手調べ。《トルネード》」

 

 これだ。詠唱のまもなく放たれる勇が勇者をしていた世界の魔法。呪文らしき言葉もなしに突然強力な風が吹く。

 勇者ですらその場に立っていられなくなりそうな強力な風が洗浄に吹き荒れる。

 

 人間が空き缶か小石のように巻き上げられ、吹き飛んでゆく。天変地異を操る超常的なその力。

 だがこのくらいで引くわけにはいかない。

 

「させるかよっ! 流星槍!」

「チャンスに変えます! 流星弓!」

「突破しろっ、流星剣!」

 

 土埃を含む風に視界が怪しくなっている中、勇者たちは範囲が広くて攻撃力の高い流星シリーズをまっすぐ放つ。

 絶対命中のその連撃に勇は余裕をまったく隠さず変わらぬ速度でまっすぐに向かってきた。

 

 勇に降り注ぐ流星はそれこそ小雨でも受けたように傷一つ与えていない。

 例のバリアの力のおかげなのだろうか。

 だが、敵のレベルが上っていくと使うだけ無駄になったと語っていた。ならば力ずくで打ち破るしかない! 

 

「視界は開けた! 一撃の威力を重視して攻撃だ!」

「おおおっ! ライトニングスピア!」

「ブリザードシュート!」

「紅蓮剣っ!」

 

 三種の属性攻撃が触れ合わずにぶち当たって、何かの割れる音がした。よし、やはりやぶれ──

 

 ぱちりと瞬きのその瞬間、いきなり目の前に拳を振りかぶった勇がいた。

 はっ? なんで、うそだろ、よけなければ──

 

「え、エアス──がっ!」

 

 盾ごと打ち上げられる。

 空高く吹き飛ぶ。盾越しなのに野球のボールを打ったように軽く飛び上がっている。

 今まで感じたこともない全身がばらばらになるような痛みとごちゃまぜになる視界。

 体が浮き上がる感覚……そして、頂点に達し停止する瞬間。

 そして体は重力に従って落ちてゆき──

 

「えあ、エアストシールド!」

 

 ガツンとぶつかり、しかし落下速度はかなり落ちる。

 階段から落としたゴムボールのように、ぽんと跳ね上がってから地面に転げた。

 

 殴っただけでこれか? 

 手加減するんじゃなかったのかと。

 

 そう考えて──ゾッとする。

 

 これこそ、手加減なのだと。

 

 向ける視線の先には三方を勇者に襲われ、全面から雨あられと魔法にさらされながらも傷一つなくさばきながらゆっくり歩き続ける勇がいた。

 俺がバルーンの攻撃を喰らい、噛みつかれ続けても一切怪我をしないように、ダメージすら負わないレベルなのだ。

 

 ──これが、真の勇者。

 

 あらゆる困難を一人で逆転させる存在。

 世界を脅かした魔王を打ち破る世界の希望。

 




ドラクエ3ならロマリアに行けてカンダタ倒したと思ったらゾーマ戦みたいなもの?
ひかりのたまが取れないのにやみのころもとか負けイベントじゃないか!

盾の勇者による刀の勇者アゲアゲ。


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065 潜入作戦

 

 こっそりと潜入することになった私達。裏手から引き離すようにリファナちゃんとフィーロは戦闘を行いながらゆっくりと後退している。追撃するようにワラワラと人が出てきて、人の出入りがなくなった。チャンスだ。

 

「力の根源たる我が命ずる。理を今一度読み解き、陽炎を起こして私達を隠せ。ハイドミラージュ!」

 

 陽炎が私達を隠す。ガエリオンに乗った私は姿を隠し、幻が消えてしまわない程度に急いで走る。

 すでに軍勢は前進を始め、勇者達はユウ様とぶつかり始めた。

 勇者たちの集中攻撃が雨あられと降り注ぎ──けれど土埃の先には無傷のままあるき続けるユウ様。

 

 ほっと一安心する。

 

 けれど、足を止めている場合じゃない。

 この作戦を成功させ、メイドさんを助けるのが仕事なのだ。

 どこか見覚えのあるようなお城を横回りして、裏口へと足をすすめる。

 

 正々堂々と真正面からの戦いになっているだけあり、裏口にはほとんど人がいない。ハイドミラージュで姿を隠していることを生かして、感づかれそうになった瞬間に不意をついて一撃で気絶させて奥へと進む。

 

 ……なんだろう。見覚えがある気がする。一歩一歩歩くたびに既視感を覚える。

 私はどこでここの光景を見たんだろう。

 

 頭の奥底に刺さった棘のようにジクジクと違和感が頭を痛める。なのに、見なかったことにしたいような不快感を覚え続けている。

 

「どうしたなの? お願いされたことなんだから失敗できないなの。見事こなしてお礼に抱きしめてもらっちゃうつもりなの。チューもねだっちゃうつもりなの。これは最高ランクのミッションなの」

「あ、うん」

 

 ふんすと荒く鼻を鳴らすガエリオン。侵入にあたり、さほど人間が残っていないことからすでに竜の姿から女の子の姿に変わっている。

 真っ赤な赤毛の頭の頂点にピコンとたった一房の髪の毛が竜の尻尾のようにゆらゆらと揺れる。

 どこにいるんだろう? そう相談すると、

 

「ムムッ多分地下なの。他の生き物はウロウロ外を気にしてるけど、地下の人間は身動きしてないの。怪しいなの」

「確かに、普通なら勇者との戦いを見て慌てたり気になるのが当然だもんね」

 

 もとよりメイドは一番堅牢な城主の間か地下にいるはずと予想は立っていた。上にそれらしい人間がいないようである以上、地下しかない。

 ガエリオンはふんすふんすと匂いをかぎ、地下への道を見つけ出す。

 

 地下は薄暗く、音が響く。

 そのせいで姿を隠すハイドミラージュは意味をなさず、ここに来て直接的な戦闘への変わるが、ユウ様と一緒に戦ってきた私達とただの兵士の間には大きな差があったみたいだ。

 ほとんど大した抵抗も許さずに意識を奪うことができた。

 

 ──ぜえ、ぜえ、はあ、はあ。

 

 何故か道を進めば進むほど息が詰まる。

 ほとんど戦闘になっていないからダメージも疲れもないはずなのに。

 

 ──思い出さなきゃ。──おもいだしちゃダメ

 

 2つの異なる言葉が頭に響いている気がするのだ。

 

「大丈夫なの? ここは空気が悪いなの。さっさと見つけてさっさと出るの」

「うん」

「女性の気配はこっちなの」

 

 コツコツと響く足音。通路の角を曲がると他よりやや広く場所をとっている牢がある。

 中には一人の女性がおり、部屋の角でお腹を抱えるように縮こまり丸まっている。

 

「あ、あの」

「ひっ──え? あなたは、だれ?」

 

 すんとかぎなれた匂いがしてくる。奴隷として売られることを待っていた奴隷商の店にいた頃。ろくに体を洗うこともできず、自分からも周りからも出る臭い。

 

 目の前の彼女は王都でメイドをしていて貴族に嫁いだとは思えないカッコをしていた。

 

 ボサボサの髪、薄汚れた衣服の上には縄状のなにかの跡が多く残っており、両手足には深くその後が残っている。

 檻の先にいるその彼女の様子は──

 

 奴隷。

 

 そんな言葉が浮かんできた。

 体がいつの間にか震えだす。

 あれは鞭のあとだ。私にはわかる。

 あいつがどんなふうに叩いてどんな跡がつくのかをよく知っている。自分が叩かれ、リファナちゃんもそうされたのを目の前で見せられたのだから。

 

「うあ、う……」

 

 うめいて動けなくなってしまった私を怪訝そうにしながらもガエリオンが一歩前に進む。

 

「あなたがメルなの? 刀の勇者様と助けにきたパーティーなの。えいっ☆」

 

 人にとっては頑丈な鉄の檻もドラゴンにはそうではない。

 針金でできていたかのようにぐっと曲がって人が通れる間があく。

 

「だ、ダメです! ここから出るわけにはいきませんっ」

「えー? なんでなの? 趣味なの? ひっどい趣味なの。神経疑うなの」

「しゅ、趣味じゃありません! ユウさまに迷惑はかけられないっていってるんです!」

 

 ああ。

 馬鹿な人だな、と思った。今何よりもユウ様を困らせているというのに。

 でも、ラフタリアはいつだってあの奴隷として鞭に叩かれている日々で思っていたのだ。

 勇者様助けに来て。私とリファナちゃんを助けて。

 いつかきっと、助けが来る。そう思っていて……。

 この人はラフタリアと同じように普通に生きてきて、突然こんな状態になったというのに、助けの手が来たというのに。

 モヤモヤとした気持ちが胸を渦巻く。

 

「いま、外ではあなたにひどいことをしたとイドル=レイビアが嘯き、悪い勇者ユウ様と他の四聖勇者の戦いが繰り広げられています。もしユウさまを助けたいと言うなら、一緒に来てユウ様の無実を証明してください」

 

 今どういった状況なのかを語るとつらそうに表情を歪め、こぼれてしまったと言わんばかりに涙が流れ落ち、それを隠すように拭った。

 

「迷惑をかけまいと思ったのに、逆に迷惑をかけてしまったんですね。わかりまし──」

 

 ベッドの端に立ち上がろうとそて、崩れ落ちそうになる。

 駆け寄り体を支える。

 長い監禁生活で力がなくなっているようだった。

 けれど、命に別条はない。

 それは良かった。あとはここを出てしまえばいいのだから。

 

「おっと、ここから出られては困るな」

 




Q.メルさんはエロエロ的な意味では無事だったんでしょうか!?
A.原作でもラフタリアが処女っぽいので鞭で叩くだけで満足しちゃう人なんじゃないでしょうか。SMには挿入は不要って人もいるそうですよ!

というか、妊婦ですしね。


鞭で叩かれ、泣き叫ぶ中、唯一の希望はこの世界に来てもいない勇者様の助け。
自分にはこなかった。
この人には来てる。

みたいな。


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066 過去の痛み。そして

 

ぞわりと全身を不快感が舐める。

その一言で過去自分が受けてきた拷問の日々を思い出してしまい、足が震えだした。

ラフタリアの目はぎょっと大きく見開かれ、いつの間にか現れた男を凝視していた。

 

「久しいなあ、家畜。私は今までの人生で後悔というものをとんとしてこなかったが、お前達を生かしてしまい、勇者様を穢してしまったことが唯一の後悔だ」

 

青筋をたて、怒りに顔を赤らめるあの男が立っていた。

でっぷりとしたお腹を揺らし、一歩近づき、それに合わせてラフタリアはじりりと下がる。

ユウ様といっしょにいてこんなに強くなったはずなのに。

自分は今でも牢に囚われていた小さくて弱い奴隷じゃないのに。

 

「ガエリオン、この人を連れて逃げて!」

「ええ!? 大して強くなさそうなお肉さんなの。倒してから逃げればいいんじゃないの?」

「戦闘になってあの人に何かあったら困るし、少しでも早くこの戦いを終わらせなきゃ!」

「うー、ん? まあ、わかったなの。ほら、そこの。早く背中に乗るなの」

 

ろくに体力がないのだろう。メイドの彼女はよたりと立ち上がろうとしては小さくカクついており、ガエリオンに近づくのすらゆっくりすぎる。

『むっ、むっ』といらつくように強く息を吐くガエリオン。

少女姿のまま、メイドさんの股をくぐりーードラゴンへと変じた。

 

「じゃ、お先になの。ほーれ、さっさと強く体を掴むの。おちてもしらないなの」

「えっ、ど、どらごーーきゃああっ!」

「行かせるかっ!」

 

空気を引き裂きながら伸びてくる鞭。

彼女にあたってしまえばどうなるかわかったものではありません。ラフタリアは自分の体を盾としてかばう。

額にぶつかり、でもダメージらしいものはない。

なのに、怖い。

 

目の前の男が両親を食い殺した狼の魔物のように思えてくる。

村を滅ぼしたのはこいつではないのに、村を失った後のそれでも再建しようと皆で絞った希望をめちゃくちゃに打ち壊されたせいだろうか。こわい。こわい。にげたい。

私はここに人を助けに来たのに、どうしてだれも助けに来てくれないのだろうなんて思ってしまっている。

 

「は、早く行って!」

「待てっ! ーーくっ」

 

二度三度と鞭が振るわれるが、そのすべてを受け止める。

怖い。とても怖い。動き出せない。

でも、痛くはない。

ユウ様が私の力になってくれている。

 

「こ、これであなたはもう終わりです!」

「まだだ! 刀の勇者が死んでいればあの女も私に頼るしかない。死人に口なしだっ!!」

「死ぬ? これはユウ様の国外退去をかけた戦いだって……」

「我が領の兵には隙あらば刀の勇者を殺せと言っている! 四聖に負けた死にかけなら兵士であっても簡単だ! そうなったら、お前をまた奴隷としてやろう。今度こそ死ぬまで痛めつけてやるっ」

 

そうやって何度も何度も私を叩く。

次第に生きが荒くなり滝のように汗を流しながらはあはあと荒く息を吐く。

なのに、私は全く痛くない。

 

こわい、……怖かった。

でも、言っていることが馬鹿らしくて、

 

「ふっ」

「何がおかしい、獣風情がっ!」

 

笑ってしまった。

ユウ様を勇者であってもどうにかできるはずがない。

一緒に旅をしてきたから、四聖勇者とも行動をともにしていたから。彼らじゃユウ様を倒せっこない。

兵士でなんて殺せっこない。

こんなやつじゃ私に危害を加えられっこない。

 

だって、ユウ様の魔法が私を守ってくれているから。

何回も何回も、あの地獄の日々で勇者様に助けを求めていた。

勇者様は私を助けてくれなかった。

 

でも、そう、私の助けを求めた勇者は盾の勇者様だったから。

ユウ様は私を買ってくれた。助けてくれた。今も助けてくれている。

 

私はそのユウ様の仲間になると誓ったんだ。

だったら、助けを待つだけなんてできない。助けられるだけじゃいられない。

ユウ様を陥れようとする、こいつは紛れもなくユウ様の敵なのだから。強くならなきゃ。

 

そう思うと恐怖は薄れていく。震えは止まり、体に力がみなぎっていく。

あんなに大きく見えていたあの男が小さく見えてきた。

 

「お、おまえ、成長をーーやはり、獣は、亜人は魔物だっ!」

 

なんとでも言えばいい。

 

「世界の希望たる勇者様を、私のユウ様を陥れようとする、世界の敵が何を言うんですかっ!」

 

本気を出せば殺してしまう。

それが今はわかる。

だから、恨みは込めて、でも力は込めずに。

 

「これは、私やリファナちゃんやーーあなたに苦しめられた人々の分ですっ!」

 

こちらの速さに全くついていけないあの男の顔に、一発ぶちかましてやる。

バルーンみたいに吹き飛びながら、静かな地下で大きく音が響く。吹き飛んだ白い石のようななにかが遅れてカツンカツンと地面に落ちた。

 

「……やりました!」

 

あの男は生きて入るようだったが、気を失ったのか微動だにしなかった。

 

 




勇者は助けてくれなかった。何度助けを呼んでもこなかった。

でも、助けを求めたのは亜人達の勇者、盾の勇者様。

ラフタリアの勇者は、刀の勇者はちゃんと助けてくれて、今も助けてくれる。


本当はメルさん脱出、誤解を解く、ラフタリアが残ってる!? →来てくれたんだ、勇者様→ラブラブ石破天驚拳!イドル「ぐわー!」かなとか思ってたんですが、長くなるし、メルさんあんななのにすぐラフタリア助けに行くの? とか色々あったし、ユウの魔法でダメージくらわない事に気づいて守られている、って感じいいかなって思って!

アンケートは僅差でしたが大人ラフが勝ったので、助けられるだけじゃない! ということで力を求めた結果大人になりました。
皆さんアンケート回答ありがとうございます。211票(大人)対206票(子供)って僅差すぎっ!


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067 終戦。

 

 だれからもダメージを受けない以上、これを戦闘と言っていいのかわからないくらいだ。目の先にある城の中に彼女はいる。

 

 早く会いたい、少し怖い。

 そんな逸る気持ちに力加減を間違えそうになる。気持ちを切り替えなくては。雨あられと突いてくる点の攻撃である元康の槍を手で払い落とし、軽く蹴り飛ばす。

 

 手加減に手加減を重ねているはずだが、強化魔法を重ねがけしてしまったせいで加減をしても彼らの防御を簡単に超えてしまう。多少まともに受けられているのは盾の勇者である尚文だろうか。

 

 でもその尚文も戦線に戻るたびに空高く打ち上げられるせいでだんだんと戻ってくるテンポが悪くなっている。

 全身を泥だらけにしながら肩で息をする様になった。

 

 皆の訓練をしていたおかげもあり、皆の力量は予想の範囲内といったところだろうか。

 弓の勇者の樹の攻撃力が思ったよりはずっと高いものの、ダメージ無しの範囲である。強化魔法を使わなければちゃんと相手になっただろうが。

 

 逆に、協力としては勇者より仲間の育成を依頼してきた錬が一番弱い。

 剣筋は悪くない、というよりとてもきれいで勇者の中で唯一武道経験を感じさせる。ゲームもVRMMOでリアルに近いこともあるのだろう、剣の振り方がわかっている感じだが──実践用ではないなと感じた。

 技を効率的に放つことにかけては一番だが、それだけだ。

 一人で高めたその強さは連携のかけらもない。錬のDPSは最高かもしれないが、パーティーでのDPSは下がっているように見える。

 技を放ち続ける遠・中距離戦から、入り乱れる混戦になった瞬間に樹から何度も『邪魔しないでください!』と怒鳴られお互いに機嫌を悪くしている。

 

 偶然邪魔になっているのではなく、錬や元康を使って射線を塞いでいるのだが、そういうのがわからないらしい。

 まともに指揮できそうな尚文が戦線にろくに残れていない以上仕方がないのかもしれない。

 

 勇者が組むとパーティで経験値が入らなくなるからって連携をおろそかにしすぎたか。

 

 魔法による生体感知で、ガエリオンがだれかと一緒に戻ってきているのがわかる。なぜラフタリアはその場に残ったのだろうかという心配はあれど、作戦はうまくいったのだとわかった。

 

 もうすぐだからと尚文を狙わないでいると、仲間にバフを掛け直したり、避けようとしたところにエアストシールドが配置され、回避の邪魔になったりとダメージはないものの、イラッとくる。

 

 立ちまわりも悪くなく、一足先に戻ってきたフィーロに乗ることで機動性を上げ、リファナと連携しながらうまくしのぎだすようになってきた。

 

 ダメージが与えられないことを理解して足回りを狙ってくるのもうざったい。毒や麻痺、視界を防ごうともしてくる。

 

 どれも受けた瞬間に解除するが、煩わしいことには変わりない。これがヘイトを稼いでいる状態だろうか。

 これで防御力が追いつきさえすれば簡単には対処できないだろう。

 

 **

 

 くそっ、くそ、くそ、なぜだ!? なぜあたりもしない。

 

 勇者になったはずなのに。だれより強くなれるはずなのに。

 まだ足りないのか。また守れないのか。

 だれより剣の腕が立っていたはずの自分。

 

 巷を騒がせる殺人事件に不運にも遭遇してしまい、怯える幼馴染の前に立った。

 大丈夫、自分は強いと信じていた。

 なのに、つかみ合いになって、あれほどゲームで見ていたはずの刃物に怯えて動きを止めてしまい、刺された。

 

 もっと俺が強ければ。ゲームではなく本当の強さがあれば。

 だから俺はだれより強くなるために一人で戦った。

 仲間と経験値を分け合っていては強くなれないから。

 

 なのに、今もこうして戦えないでいる。

 ダメージを与えられず、足止めさえできない。

 

 弱職であるとあざ笑った尚文はあの強大な力に抗(あらが)っていた。空高く殴り飛ばされて泥だらけになってもすぐに戦線に戻ってきた。腹立たしいがあいつの声に合わせて戦うと戦いやすかった。

 同じようにスタートしたはずの樹はその一撃が俺よりずっと強力だった。尚文になにか言われなくても俺や元康の攻撃に合わせて戦っていた。

 

 コイツラは、俺の先を行っていた。

 

 **

 

 戦いは、ドラゴンが女を背負ってやってきたことで終わる。

 無力感にうなだれた。

 俺は何も変わっていないと。

 力があれば守れたはずなのに。

 

「レン様、だいじょうぶですか?」

「ウェルト、バクター、テルシア、ファリー……。見ただろう、俺は弱い。他の勇者についていったほうがいいかもしれないぞ」

「俺たちはレン様についていきます」

「レン様なら必ず強くなります」

「そうですよ、それに強くなればいい話ですから!」

 

 俺たちもがんばりますから。そう言って手を差し伸べられる。

 ああ、そうだな。

 

 弱職の盾と、同レベルの弓に差をつけられたのは仲間の差だろうか。こいつらと連携すればもっと強くなれるだろうか。

 

 ──まずは聞き出すところからだな。

 

 錬は少しだけ自分以外の強さに目を向けることにした。




錬は比較的勇者の中ではまっとうな関係で、逆に存在感薄いところありますよね。
ボコスコにされて、でも他の勇者はそれなりにあがらっているのを見て少し意識が変わるの巻。



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068 秘めた思い

「戦いをやめるなのっ!」

 

 空から落ちてきたドラゴン。ズシンと大きな音が辺りに響く。

 一緒に聞こえてきた女の子の声に、兵士含めて皆の手が止まった。

 ガエリオンだ。無事であるのは生命感知の力でわかっていたが、離れての作戦に不安はあった。

 イドルのこちらをはめるための行為については恐ろしいものだ。やはり権力と信仰は恐ろしい。

 勇者にとっては味方であり、同時に敵でもある。

 

「ここにいるのは騒動の中心、メイドの子なの。皆に言いたいことがあるなの」

 

 ガエリオンの背からゆっくりと立ち上がるメルさん。

 彼女はひと目見てわかるほどに傷ついていた。弱っていた。

 それががエリオンやラフタリアによるものでないのはだれにとっても明らかであった。

 彼女が望んで今の状況を起こしたわけでなかったことがわかってしまった。それが嬉しく、同時にこうされるまま放置してしまったことに胸が傷んだ。

 

(他の勇者なら彼女を信じてすぐに後を追ったんだろうな)

 

 そもそも今回のようなことは起きなかったに違いない。好意を信じられない自分だからこそ、今この瞬間までメルさんの意志なのではないかとも思っていたのだから。

 

 同じように彼女を見て一部の兵士や僧兵たちがうめきを上げながら座り込む。おそらく彼らはメルさんを知っていて、だからこそこの戦いに加わった者たちなのだろう。

 善意をでもって、彼女を助けるために、勇者を名乗る悪漢に勇気を持って立ち向かった者たちなのだろう。

 だからこそ、自分が間違った判断をしたことに気づいてうなだれているのだ。

 

「メルさん」

「ユウ様」

 

 メルさんは弱々しくも、たしかに俺に対して笑ってみせた。

 その微笑みですべてを悟ったのだろう。勇者たちも武器を下げる。戦いは終わりを告げた。

 ガエリオンがしゃがみ込み、メルさんはヨロヨロとしながらもゆっくりとその背から降りる。

 何よりもまず。

 

「《肉体修復》《大回復》」

 

 奴隷として弱っていたラフタリアとリファナを癒やした魔法でメルさんも癒やす。その中で気づく。

 手や足は他よりも傷が深く、お腹は反するように傷が小さいことを。イドルが子供が死ぬことをさけたせいかもしれない。けれどそれ以上に守ろうとしたからだろうと察した。

 

「ごめん。ごめん、なさい。助けに行けなくて。君を信じられなくて」

 

 どこか楽観視していた。本心を問いに行く軽い気持ちだった。

 前の旅でも、自分はともかく仲間がこれほど怪我を負ったのを見たことがなかった。

 仲間とともにあった戦いは常に優勢で、それこそ激しい戦いになる頃には仲間では戦力にならずあくまで奪い返した国や砦の制圧のための人員だった。

 

 街に戻っても基本は多くの最上級の女性に囲まれていた。

 ひどい目にあっている人を見たことがないわけではない。

 盗賊退治や戦場ではひどい目にあっている人間はそれこそたくさんいる。でも、仲を深めた相手がそうなっているところを見ることは早々なかった。

 

 強い後悔が襲っていた。もっと早く決断すべきだったと、後悔していた。

 

「私こそ、ユウ様の足を引っ張りたくないから誘いを受けたのに……」

 

 別れの際の言葉を思い出す。

 相談してほしかった、というのはわがままだろうか。

 相談した以上は見捨てる選択肢のない勇者のじゃまになると、そう思っての行動であるなら、そんなことできなかっただろうけれど。

 

「ごめんなさい。迷惑をかけてしまいました」

 

 メルさんの瞳は俺を写していた。かつての世界のような勇者という名の女神の代理人を見る目ではなかった。信仰ではなく、ユウを見ていた。

 年下のそれこそ弟のような親しみを抱いているのは感じていた。そこに頼られない不満が湧き上がっていた。

 

「いいよ。迷惑はかけていい。メルさんは俺のだから」

 

 女をたくさん抱いてきた。たくさんはらませてきた。

 でも、俺のものだと言える相手はいなかった。

 メルさんもそうだと思った。

 

「子供は俺の子供だよね」

 

 言葉面を捉えれば最低のものだったが、ユウにとっては必要な質問だった。

 

「ええ。ユウ様のです。私とユウ様の子供です」

 

 もしかしたら過去にも俺を思ってくれていた人はいたかもしれない。でもそう思えなかったのは生まれる子供がすべて女神からの祝福で、俺と相手の子供ではなく、俺を通して与えられた女神からの贈り物で、相手だけの子供だったからだ。

 

「そっか」

 

 メルさんを抱きしめる。身長差のせいで、傍目では姉に甘えるようで様になっていないかもしれない。

 ギュッと抱きしめ返される。

 

 心臓の音が聞こえる。

 

 まだ妊娠数ヶ月でお腹は対して変わらない。けれど、生命感知が2人の存在を返している。

 

 暖かかった。

 幼い子どもが母親に感じるような無条件の信頼を抱いたような気がした。

 

 

 **

 

「くそっ、クソっそんなはずが、こんな馬鹿な……」

 

 ラフタリアに殴り飛ばされ、気絶していたイドルは目を覚まし、外を見て状況を察した。

 自分は失敗した。それどころか、これでは自分が勇者を陥れる極悪人で、刀の勇者は愛する人を助けた素晴らしい人間として誤解されてしまうだろう。

 真の勇者たちを邪魔する盾と刀を排除するどころか、助けることになってしまう。

 こうなっては三勇教も簡単には勇者に手が出せなくなるだろう。絶望だ。

 

 ただでさえ、己のせいで奴隷たちが勇者の仲間になっているだけでもかきむしりたくなるようないらだちを覚えるのに。

 

 正さねば。私が世界を正しいものにしなければいけない。なにより誤りを犯した私だからこそ、そうしなければいけない。

 

 




トラウマ解消! 全快! というほどではないにせよ、自分をちゃんと想ってくれる人もいると信じられる様になりそうです。良かったね!

その裏でイドルが……?


フィトリア「よしきた、出待ちの準備だ!」


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069 ドラゴン(恐竜では?)

 

メルさんをギュッと抱きしめ、メルさんも抱きしめ返してくれる。そのことに幸せを感じていたが、メルさんからの力がやや弱くなり見返す。

魔法で体力こそ回復しているはずだが、それでも今まで囚われてきたことへの負担は大きかったのだろう、精神的な疲れが溜まっているようだった。

 

「ごめんね、早く休ませてあげたいんだけど」

 

そうしてまわりを見渡せば、居心地悪そうに視線をさまよわせていた兵士たちが投降すると武器を手放す。

「申し訳ありません、勇者様を疑うなんてなんてことを」

「ですが、私達はあなたがその少女を害していると聞いて」

「俺たちは騙されたんだ! あの悪徳貴族に!」

「教徒のくせに勇者同士を闘わせようなんて万死に値する!」

 

ザワザワとわめき声が大きくなる。

 

「だったら! だったらなぜ勇を信じなかったんだ! 真相を確かめもせずに勇者を害するなんて最低だ!」

「そうですね。もし自分がこうなっていたと思うとゾッとします」

 

皆に向かってクワッと大きな声で声を上げる元康と樹。

なるほど、彼らもまた、尚文と同じようにぶつかり合いを演じてここにいるようだった。

 

尚文に視線を向けると、フルフルと顔を横にふる。

え、ではどの口で?

 

イドルの領兵からは殺意が、三勇教の僧兵からは怒りを感じていた。勇者からは特に害するというよりは挑む、と言った顔で悲壮感はなく、むしろ面白そうに思うような表情を戦いの前には浮かべていたーーような気がする。

 

これは事態を軽く見ていたのか、信じてくれていたのか。

言われるままに頼まれたから手を貸した、悪いことだったなら企んでいたほうが悪い、と言ったところか。

 

ゲーム感覚がどうにも抜けないみたいで、勇者への相談をクエストと見なすタイプらしく、受けたらどうなるかまであまり意識がないようだ。

 

まあ、大抵のゲームでクエストの成否ならともかく、クエストを受けることで状況が悪くなる展開はそうそうないし、教会や貴族からのものとなれば大抵お金かアイテムが得られるものだし、そんなものだろうか。

いずれ痛い目をみそうだが……忠告する気にはなれなかった。

 

「まあ、そういうことだから……とはいえ、行ったことはおこなったこと。王国と教会からは皆には適切な処罰が下ると思うよ」

「そうだなっ!」

 

そうだなではないが。

俺とメルさんを見て嬉しそうにウンウンと笑みを浮かべるものだから何かをいう気はなくなりため息を吐いた。

 

「じゃあーー」

 

戻ろう、そう言葉を出そうとしてーー

 

「グオオオオーーーン!!」

 

巨大な咆哮が響く。ビリビリとした音が体に響いた。

あたりを見ればガクガクと震えだすものや恐慌に陥り混乱するもの、叫び声を上げるものなどいろいろだ。

そうして、屋敷の影からそいつは顔を出した。

 

「ティラノサウルス?」

 

少年がだれもが大好きになってしまうカブトムシと並ぶ人気者の恐竜がいた。

メルさんを背にかばう。

 

「安心して、あのくらーー」

「よしっ! 迷惑かけたし、俺たちで倒してやろうぜ!」

 

おー! と走り出す槍と弓の勇者。遅れるようにして剣の勇者パーティーも走りだし、大きくため息を吐いてから盾の勇者も走っていく。

 

戦いは接戦に見えた。

自力自体はおそらく敵のほうが遥かに大きいものの、その攻撃をなんとか盾の勇者がそらし、錬が連携を意識するように動き始めたおかげで攻撃も決まるようになってきている。

とはいえ、やや浅く、倒せるだろうが時間がかかりそうだった。何より彼らにとって辛いのはあたりに霧が出てきたことだ。適当にしっぽを振るだけでもダメージ必須な敵と違い、連携が崩されるのは致命的である。

やつが現れてから急に出始めたことからやつの能力かもしれない。

 

「仕方がないか」

 

あれが竜帝ならその欠片の所有権を主張したいのもある。

ガエリオンに準備しろ、と声をかける。

 

「いくなのいくなの!」

 

ぐぐっと力を貯めるガエリオン。そしてこちらの様子に気づいたのか走り出す敵。

 

「《凍れ》」

 

その一言で竜が凍りついていく。地面より凍りだし、足、胴体と氷が生き物のように登っていくようだった。

冬に霜柱ができる様子を数倍の速さで映したかのようにパキパキと音を立てて凍りついてゆく。

 

「ちょりあああ、なの!」

 

ドラゴンの姿のまま勢いをつけ頭から飛び込んでゆき……凍りついたその体を粉砕した。

 

「竜帝の欠片ゲットなの! ウマウマ」

 

ガッガッと体に食らいつき、紫に光る塊をごくりと飲み干し、嬉しそうだ。

 

「ドラゴンちゃんそんなに強いのかー。やるなあ。うちのは変身する気配がないんだよなー」

 

なんでだろ? と元康は首をかしげている。

従魔の成長は戦闘に参加しているかも影響しそうだ。

尚文のフィーロは変化したし、樹のフィロリアルも同じように巨大化していた。変化も時間の問題に違いない。

逆に元康はドラゴンを騎龍として足にしか使っていないし、錬はどちらかといえば勇者の仲間パーティーに所属していたような感じだから。

 

「けど、霧がやまないな」

 

それに、霧はティラノサウルスではなく、森の方から来ていたようだった。であればもう一匹?

森の方を睨むと、騒ぎにフィロリアルがたくさん集まっていたようだったが、殺気に気づいて散っていった。

ドタタタタと大きく土埃を上げる勢いであり、それに合わせてか霧もやんでゆく。

その中には巨大なフィロリアルもいたような気がした。

 

なんだったんだろうか。

 

 

 

 

 




フィトリア「怖すぎる。ぴえん」


エロにいつまでもたどり着かないので次回は自体収集を巻いてアレコレしたいですね!
いずれはフィトリアも、と思ったのに顔合わせできなかったでござる。
タイミングが悪いね。だって下手に顔だしたら殺されそうだもんね、しょうがないね。


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070 だんなさまへ

 

女性優位のメルロマルクで本当に女性に選択肢があるかといえばそうではない。男と女に身体能力の差はさほどないが、やはり女性には月のものや妊娠すればその間動けないなどの男性と比べれば不利になる点が確かに存在するからだ。

 

けれど、教育と言った面ではさほど差をつけずに行ってもらえたのは幸運なことだったと言える。

 

男爵家となれば正直村長とさほど変わらないのだ。村数個、というのがよくある男爵であり、長子となればともかく、女となればいずれ家を出ていく人間であり、求められるのは夫を支え、相手の家を支え、我家とのつなぎを作ること。いい嫁をもらったと思ってもらうこと。

 

そんな中、王城にメイドとして上がることができたのは幸運である。なぜなら恋愛ができるからだ。

己を見初めてもらい嫁に行くことができる。

領と付き合いの深い商人の後妻、妾なんかもよくある話の中、一人に一心に愛される可能性のある嫁ぎ先だからだ。

 

特に王国の騎士などは一生城務めを行うものも多く、貴族では

ないものの、良い給料、よい生活ができる。

城の人間とも仲が良ければ騎士の支えにもなるし、次男三男の働き先の紹介も期待できるよい相手だ。

 

城の仕事はとてもおもしろかった。王都は刺激が多い。

休日に友人と行く劇など感動で涙を流してしまった。

正直相手探しにちょ~っと熱意がかけてしまったのは認める。

 

そんな私がある日であったのは、ぶつかったのは一人の子供だった。

 

「ゆ、勇者様っ!? こちらこそごめんなさい!」

「ううん。怪我もなかったから」

 

勇者と言う存在にどんなイメージが有るかといえば、歴戦のツワモノ、ドラゴンを打ち倒す英雄。

そんなイメージと違う可愛らしい姿だった。

黒髪の、いかにも異邦人らしい装いで確かに勇者なのかもしれないと思った。

 

尻もちついてしまった私に手を差し伸ばしてしてくれる。

目が合う。その瞳にどこか諦め、疲れ、そして寂しさを感じた。家出をして森に隠れてわんわんないていた弟みたいだと思って誘いに乗ってしまった。

 

ーーすぐに手を出されてしまい、可愛い弟は違うことを教えられてしまったけれど、それでもあの目が気持ちに残り続けていた。

 

**

 

行為を重ねるごとに気持ちも重なっていく。

そうしていればどこか一枚強い壁があることにも気づく。

なんとかしてあげたいという思いと、自分では無理だろうという思いが同居している。

 

ユウ様は迷子のままのようだった。それはきっと弟と違って自分が帰る場所ではないからかもしれない。

城に入れば色々と噂を聞くことが多い。

 

だから、ユウ様の相手をしているのが自分だけではないと知っている。勇者なのだからまとめて面倒をみてもらえばいいのよ、私は槍の勇者様派だけど、と笑う友人は新人騎士様との婚約が決まりそうらしい。

次回の長期休みで実家に連れてってもらうの、と笑っていた。

 

私は、どうなるのだろうか。

 

ユウ様にはたくさんの相手がいて私はその一人でしかない。

ずきりと胸が痛む。

いつの間にか自分こそが執着し始めていておかしかった。

 

**

 

王女さまとも良い仲になったみたいと聞いて正直すごいな、と思った。うちのユウ様はすごい。

捨てられるかもしれない、という気持ちは心の端っこにあった。でも、そのときはきっと自分がしてあげることが何もなくなったときだろうとも思う。

城に来るたびに会いに来てくれるユウ様を愛おしく思い出していたから。

 

ユウ様の抱える異常性には気づいていた。女性を抱いているときに少しだけ安堵していて、でも不安と寂しさは消えない。

もしかしたら愛する人に裏切られたのかもしれない。

信じられなくて疑っていて、距離をおいているから寂しいのかも。私は最後まで味方でいよう。

そう思ったから。

 

 

子供ができてしまった。

 

私は自分のお腹を擦る。ここにもう一つの命が宿っているという事実に不思議な気持ちを何度も抱く。

 

ここにはユウ様の子供が。

授かりもの。母は子供を授かるたびに幸せに笑って、それが素敵だと思っていた。自分もそうなるのだろうと無垢に信じていた。でも、ーーもう役に立てない。

体を交わせない。心を拭ってやることができない。

ユウ様はどう思うだろうか。

 

明かす、明かさないと悩んでいるうちに、私は別の方に嫁ぐことになった。

家の力を使って圧力をかけ、ユウ様の邪魔をするかもしれないとする相手に、ああ、これが最後の手助けになると感じた。

みっともなくすがって、受け入れてくれないと罵倒する自分の姿を想像して、そんなことをして彼に傷をつけるより、あえなくても応援したいと未来を選ぶことにしたのだ。

 

それに、私にはこの子がいるのだから。

 

母親になるのだ。私は、この子を守ってあげなきゃ。

自分より大きな貴族の家。きっとできることはなにかある。

そう思ってーー向かった先で相手が私をなんのために引き取ったかを知ることになる。

 

今日も鞭が私を叩く。

ヒュンと風を斬って鞭が私を叩く。肌を切り裂き、心を傷つける。抗議することの無駄を理解してからはただ子供のいるお腹をかばうことだけ考えていた。

 

「獣に味方する愚かな勇者達! 信徒として盾と刀を許してはいけない!!」

 

波を超え、国を守る勇者のユウ様になんてことを考えるのだと、できればひっぱたいてやりたいと思っても自分にはできないのだ。

 

「ゆ……」

 

ユウ様助けて。その言葉が漏れてしまいそうだったからぎゅっと口を閉じた。

私はユウ様を助けたいと願っていたのだから、助けを求めて足を引っ張りたくなかった。たとえ聞こえるはずのないここであっても。

 

ーーでも、助けに来てくれた。

 

ギュッと抱きしめられたその先にあるその瞳は熱っぽい温かいものが宿っていた。迷子の子供のものじゃなくて、一人の女性を求める熱い瞳だった。

 

(ああ、良かった)

 

だれが迷いを断ち切ったのかはわからない。

けれど、ユウ様は変わったのだとわかった。

 

 

その後は色々あったけれど、国家と三勇教を欺き剣を向けたとしてイドルは財産を没収され、ユウ様の財産として贈与された。今私は王都に大きな屋敷に住んでいる。

再び利用されてしまわないように、ユウ様の妻になったのだ。

 

これからも彼を助けてよいのだと、また一緒に入れることが嬉しい。

 

しかし……大きな屋敷である。城の友人たちが手伝ってくれることになっているし、いずれ人を雇うとメルティ王女様より言われているが、今はユウ様と仲間二人の四人だけだ。

あれをしなきゃ、これが必要だと頭の中で列挙して……まず最初に行う事を考える。

 

「おはようございます、旦那様」

 

隣に眠っていたユウ様が目を覚ましたのを感じた。

窓からはまばゆい光が部屋に指していた。

 




RPG的には拠点を手に入れた感じですね! 
入り口付近に立っているメルさんを選択するとパーティーの選択やら好感度が上がっているキャラとのエロシーンが見えるようになってる的な……。

そのうち妊婦ばかりいる屋敷になりそう感。


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071 夜這い①

 

 イドルとの闘いが終わり、新しい館を得てひとまずの平和な時間が流れていた。

 一緒に生活しているとわかるが、ラフタリアから見ても助けた女性のメルさんはいい人だった。ユウ様の仲間、だからと言う理由が強そうだが、出された食事の味付けに苦手なものがあると、それをさけてくれているようで、そういえば最近アレ入っていないなーとガエリオンと話せば『私のにははいってるなの』と聞いて判明した。

 

 とはいえ、不満がないわけではない。例えばユウ様と一緒に夜寝ている事が多いとか、その翌日には口や体からわずかにユウ様の匂いがするとかである。

 

 そう、ユウ様にも不満はある。

 ユウ様への思いに体が応え、こんなに大きく成長したのに、感動の再会は『あれ、ラフタリアはどこ?』である。

 しかも視線をだれもいないところに向けたことから魔法で確認した。そして、その一言がなかったかのように『おかえり、よくやったね』と褒められた。

 

 嬉しいような、ショックのような複雑な気分である。

 ちんちくりんであり、子供であった私から大人の私に変わったのだから、どうかと思えば『新しい服買わなきゃ』である。

 泣きそうになりながらリファナちゃんに相談すれば『既成事実だよ!』と言われた。

 

 なにそれ、と首を傾げてみれば出てくるのはエロエロだった。

 どろどろでグチョグチョだった。

 た、たての勇者様とはそうなの? と聞けば、まあね! と胸を張って嬉しそうだった。でもその気になられると逆転されちゃうんだよなあ……お尻とか責めてみようかなぁと小さい声で言っていた。よくわかんないけど。

 

「よ、よし。今日いこう……」

 

 リファナちゃんに誘われてかった、お高めの下着やひらひらするばかりで透けていてなんのために着ているのかわからないネグリジェ。部屋においてある姿見を見るだけでわかる。

 なんかえっちっぽい! 

 リファなちゃんもラフタリアちゃんならイチコロだよ! と太鼓判を押してくれている。

 

 ……しかし。

 

 部屋のドアを開けようとして思った。こんな裸みたいな姿で館をうろつくなど変態では? 

 

 ──決心の鈍る音が聞こえた。

 

 **

 

「どうするかなー」

 

 ユウには悩みごとがあった。

 いざこざが終わったものの、一つの貴族家と教会合同の戦争だったのだ。家は取り潰され、その殆どをユウのものとすると王国、三勇教の両方からお達しがあった。たくさんの書類にサインをすることになったし、学業としては中学生のユウに統治なんてできるはずがなくメルティに相談すると任せてくださいと代理人を派遣してくれた。

 その代わりと上目遣いで誘われて、前回よりずっと柔らかく受け止められるようになった彼女の体をたっぷり味わった。

 こうして色々うまく回るようになった……のだが。

 

「あ~ムラムラする」

 

 欲求不満である。王城に呼ばれればメルティやマルティを誘ったり、王都で引っ掛けたりして抱いたが、屋敷に滞在するとなるとメルさんにお願いすることになるものの、妊婦だからと口や胸などで相手をしてくれるだけで、入れさせてくれないのだ。妊婦なのだから性交なんてダメです、メッ! と叱られてしまった。口の方も仕事中に何回も呼び出しているうちに怒られてしまった。

 

 そこからの欲求不満だった。

 同居している仲間のことは過去の経験から仲間に手を出すということにやや引け目があり、無意識に除外していた。まあ、子供とドラゴンであることも理由だったが。

 

 ただでさえ性欲で頭がいっぱいになりがちな中学生なお年頃である。勇者であることで莫大な精力が性欲も高めているせいでユウは割と随時ムラムラしているが、夜は静になるぶん余計ムラムラするのである。

 

 トラウマが解消されたならセックスしなくてもいいんじゃないか? いいやユウは自分を想ってくれる愛の心地よさを知ったぶん余計にやりたくなっていた。

 

 ストレスから逃げるためにお酒によっていた人間がストレスが無くなったからと言って酒をやめたりはしないのである。

 

 フカフカのベッドで足をバタバタさせていると、コンコンと控えめなノックの音が聞こえてくる。

 叩き方からしてメルさんではなかった。ガエリオンはノックしないので誰かはわかった。

 

 はてと思いながら『どうぞ』と声をかけると扉が開いた。

 

 目の前には一人の女性が立っていた。

 体に沿うようにして曲線を描く半透明のネグリジェからは肌のつややかさが見えるのに、見たいと思う部分は腕に抱かれた枕によって隠されている。

 

「あ、あの。ユウ様、ちょっとお話していいですか……?」

 




盾の勇者「処女は守れなかった」

ここで止めるのかーって感じになりましたが、実は私、有給とりまして、年内休みスタートしたので月・火あたりで更新したい感じです。何もなければ!


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072 夜這い②

「あ、あの。ユウ様、ちょっとお話していいですか……?」

 

その一言に胸がどきりと高鳴ったのを感じた。

相手はあのラフタリアである。

死ぬのを待つばかりのようなボロくずだった少女。仲間として戦いたいとついてきてくれた女の子は目の前でとても美しい女として立っていた。

 

「あ、う、うん。どうぞ」

 

ガチャリと扉が閉じる音が響く。

そういう相手ではないと思っていたのに、急に来ると驚かされてしまう。物語によくある、幼い頃男だと思っていた女だとわかったときの衝撃だろうか。

布越しにするりと動くその肢体にムクムクと欲が湧くのがわかる。同時に仲間相手にそんな気持ちを抱いていいのかと遠慮する部分もあり、ちぐはぐな気持ちが言葉をつまらせた。

 

ユウの自室はそれなりの広さがある。貴族邸をそのままものにしたため、王都用のものとはいえ、当主の寝室となればかなりのものだ。部屋に招くと顔をうつむかせてベッドへと歩いてゆき、ぽすんと座り込んで黙ってしまった。

 

「え、あー」

 

なんといっていいかわからず、そろそろと俺もベッドに腰掛ける。腕を伸ばしてもぎりぎり届かなそうな距離だ。

 

「あ、あのっ」「はなしって」

 

被ってしまった。

妙な気恥ずかしさを感じる。ねとつく口内にゆっくりと口を開く。

 

「話って?」

「あの。色々言いたいことがあったんですけど」

 

ふせられた顔を上げるラフタリア。すぐとなりに腰掛けられるとはっきりとその背が伸びている事がわかる。

小さかった子供は自分を抜いて大きく成長している。

身長は同じくら……かすかに負けている? ような気もしないでもない。

ラフタリアはぐっと身を寄せる。腰掛けたままこちらに体を近づけたせいで胸がふよんと揺れる。

 

「なんていっていいかわからなくなってしまって。……ただ、その、ありがとうございます!」

「なんだそりゃ」

「いろいろです!」

 

はあと息と一緒に気が抜けた。女性にはなれたと思ったのに、状況が変わるとこうもうまくいかなくなるなんて。

それだけ、目の前にいる相手が他と違う証拠かもしれない。

 

「俺もありがと。ラフタリアが仲間で良かったよ」

 

かつての俺に仲間はいなかった。同行する女がいただけだった。でも、ラフタリアは違った。そして、彼女がいたからこそ、自分のことを信じてくれる人がいるのだと信じられたのだと。

 

そう思うと表情が緩むのを感じる。ただ、ラフタリアは何を思ったのかまたうつむいてしまう。何かを隠すように半身横にひねり、そっぽを向かれてしまう。

 

「ユウ様は今の私のこと、どう思ってますか?」

「大切な仲間だと思っている」

「……アリガトウゴザイマス」

 

む~と小さく唸り声をあげると、大きく二回深呼吸をし始めるラフタリア。

 

「自分で言うのもなんですが、私大きくなりましたよね」

「そうだな。今なら剣も扱えそうだ」

 

よくこれだけ成長してくれたものだとどこか誇らしい気持ちが湧いてくる。

 

「じゃなくて! もうっ!」

「ええ!?」

 

覆いかぶさられ、押し倒されてしまう。

触れ合ってしまいそうなくらい近くにラフタリアの顔がある。

子供の丸みがだいぶなくなり、可愛らしい少女のものに変わっている。

 

「私は! ユウ様が好きです! とってもです! 子供だったときはよくわからなかった。でも、他の人が羨ましくて、私もって、大きくなったんだからって」

 

布のパジャマからのぞく首筋に口づけされる。噛まれるかと思ってドキドキしていると、唇だけのキスから、舌を使いながらなめられる。

 

「な、なのに全く誘ってくれないから……なのに、メルさんとはえ、えっちな匂いさせてるし。私も好きなんです! 私もします!」

 

ラフタリアの赤い瞳がランランと輝く。食いつくように唇と唇でキスをする。ちゅ、ちゅっと口づけを交わしていると、次第に唇が口内にぬるりと入ってくる。迷うようにあちこち動き回る。俺もベロを伸ばす。触れ合う瞬間ピクリと動きを止めて、でもそこからは貪欲に貪るように口づけが交わされる。

 

ただ、いつまでたってもキスが続いたままだ。

耳を澄ますと異音がすることに気づく。クチュクチュと継続するその音はキスとは違う水っぽい音。

 

(こいつ、自分を慰めてるのかっ!)

 

すき、すきと小さくこぼしながら貪欲にユウを求めるキスとは全く別の行動だ。

 

(もしかしてよくわかってないのか?)

 

つい先日まで幼女だったラフタリアである。なんとなく抱き合うものであることは理解していても肝心の性交自体はよくわかっていないのかもしれない。

その幼さに微笑ましいものを感じつつも、納得は行かない。

 

(自慰の道具にされているみたいじゃないか)

 

仲間を抱くことで離れていってしまわないかという怖さも、これだけ好意を向けられれば信じられるし、ムラムラしているいま抱くことに否はないが、自分だけ夢中になられると腹が立つ。

 

「ラフタリア、セックスの仕方を教えてやる」

 

秘所をいじることに夢中になっていた右手をつかみ、相手を転がしてのしかかる。

腰で結ばれた白い下着の紐を解く。

ビショビショに濡れた秘所。ツンと存在を主張する秘針をなで上げるとそれだけでぴくぴくと大きく震えるラフタリア。

 

「んむっ」

 

唇を塞いだまま、指をそっと挿入するとやけどするように熱い。今までにもいろいろな女性を抱いていたが、一番に熱い。燃えるようだ。

膜を破らないようにそっと指で抜き差しするだけで普段おとなしいしっぽが腕にまとわりついてくる。

 

「これだけ濡れているなら大丈夫かな」

 

ズボンと下着を脱ぐともう我慢できないとばかりにそそり上がっていた。

 

「ユウさま、ゆうさま、すき、すきです」

「……俺も」

 

先端からつっと垂れ落ちる先走りをそのまま塗り込むように入り口に添え、そのまま差し込んだ。

 

「ぁぁ……ッ♥」

「くっ」

 

指で感じた以上に熱い。それこそ燃えるようだ。だが、興奮や自慰のせいでびちょびちょに濡れた膣内は人より大きいユウのものをぐっと飲み込みながらもきゅっきゅと激しく吸い付いてくる。

 

ゆっくりと出し入れするとそのたびにピチャピチャと愛液が飛び散った。そそり上がったちんこは膣壁をえぐるようにずりずりと擦り上げ、そのたびに愛液が大量に溢れてゆく。

 

「すごい、しゅごいです、ゆうさまっ……」

「はぁ、はぁ。ラフタリアも気持ちいいよ」

 

すがるようにギュッと抱きしめられる心地よさが快感を更に上げる。ユウに引きずられるようにラフタリアも快感が深まっているようで、何度も震えている。

 

逃さないとばかりに腰へラフタリアの両足が絡みついてくるも、そのまま腰を動かす。ジュプジュプという音とともに快感はどこまでも高まってゆきーー

 

「でるっ!」

「んんんんんっ♥♥」

 

口はつながったまま、お互いに達したのだった。

 

**

 

「何してるの?」

「え? なんでしょう?」

 

強請られたりお願いしたりでその後何度もセックスしたせいでラフタリアは静かに深く息をしながら隣に寝そべっている。

腕ごと抱きしめられたまま横になっているともぞもぞ動いているようだった。

 

物足りない、というわけではないらしいが、体が触れていると安心するらしい。

まあいいかと目を閉じる。ラフタリアの体温もあり、すぐに意識は眠りに落ちた。

 

 

「私のユウ様。私の匂いがこんなに……」

 





ラフタリア「私の匂いがするのでユウ様は私のもの」

興奮しすぎて高ぶりすぎてわけがわからなくなってるうちに手が勝手に自慰をはじめていたラフタリア。匂い付けしたい気持ちが爆発してたのかもしれない。


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073 敵対者

 

 ラフタリアを抱いた日から、メルさんとラフタリアの間で静かなる戦争が繰り広げられていた。

 

 そう、朝のご奉仕である。

 

 朝起こしに来るついでに口で数回抜いていってくれるメルさんだったが、その役割を奪うように咥えに来るのだ。

 膣も熱いほどだったが口内もそうで、あの口に咥えられると毎回とろけてしまうんじゃないかと思うほどだ。

 ただ、技術はまだ拙く、咥えているうちに自分も興奮してきてしまうのか、自分で自分を慰め出してしまい、奉仕しているのか、俺の肉棒を使って一人遊びをしているのかといった様相である。

 しばらくピチャピチャされていると流石に目も覚めるので、そのまま抱いてたっぷり出すことになる。

 

 なので、朝の入浴という習慣が増えた。

 

 **

 

 ラフタリアもメルさんもとても素晴らしい相手ではあるが、男たるもの、新天地開拓は義務である。

 体を動かすついでとばかりに魔物や盗賊を借りに出かける。

 魔物退治ではしなやかな体を持つ豹のような冒険者を抱いたり、盗賊退治では奴隷や誘拐された令嬢を抱いたりと日々を楽しんでいた。

 

 彼らに出会ったのはそんなときのことだ。

 王都付近の小さな村で休んだ後の戻りの山道。

 大型の狼に似た魔物に冒険者らしき数名のパーティが襲われて苦戦をしているとこに空からわりいった。

 

「紅蓮一閃!」

 

 刀を抜くまでもない相手であるが、演出は必要である。自己紹介前にこうやって魅せることでその後の態度にも大きく影響するのだ。

 リーダーらしき戦士と二人の女性の三~四名くらいのパーティである。

 

「大丈夫だったかな。俺は刀の勇者ユウ」

 

 キンと刃を収める。時代劇でもよく響くこの音はちょっと癖になる。リーダーの男は驚愕からこちらの名乗りにヘラリと笑い出す。茶髪のツンツン髪に金の鼻ピアス。手入れはあまりしてそうな荒れた肌にはそばかすが浮かんでいた。

 

「なんてこった! いやあ、俺は運がいいなあ。俺の名前はケンタ。投擲具の勇者さ。刀の勇者様に会えて嬉しいぜ」

 

 四聖と別の俺を入れて八星になった勇者の一人ということである。ただ、その実力はさほど高くなさそうだ。

 ヘラヘラと笑みを浮かべながらも、目は笑っておらず、どこかやらしさすら感じる。欲を感じる目つきである。

 勇者を支援していたことから自分も、と言ったところだろうか? ──少々違いそうだった。

 

「へえ。四聖以外の勇者って初めてあった」

「俺の武器って投擲具でさあ。ブーメランとか投げナイフとか。でもさ、それってやっぱりかっこ悪いだろ? 剣、槍、刀。羨ましいよなあぁ。かっこいいよなあ。それでさあぁ」

 

 ニマニマしたまま、握手を求めるように右手を差し出してくる。

 

「刀、くれよ」

 

 手を向けられた瞬間。

 体の一部をむしり取ろうとするような引力。

 腰に下げていた刀が抜いてもいないのに惹かれるのを見て──

 

「《イージスの盾》!」

 

 全身をシャボン玉のように淡く光る膜が覆う。その瞬間引っ張る力が完全に消える。

 

 イージスの盾は外部からのあらゆる魔法、呪術を防ぐ最高の防御魔法である。欠点は防いだ魔法の10倍の魔力を消費するため、強敵相手に使用した場合むしろ劣勢に陥る欠陥魔法であるし、複数人数戦の場合、あっという間に魔力が枯渇してしまう。ただし、初見の搦手に関しては絶大な効果があるといっていいだろう。

 

「ふっ。大した力じゃないな」

 

 まるで全く効果ありませんよーと言う顔で告げる。むしろ憐れむくらいの勢いで。正直いって随時展開しつつ戦うと魔力に響く可能性がある。正面からの力押しに切り替えたい。

 それだけ、全くの未知に驚異を感じていた。

 

「馬鹿な! 神から授かったこの力を防ぐだと!? まあいい、殺して奪ってやる!」

「格の違いを思い知らせてやる」

 

 ケンタは怒りに歯をむき出しにして眷属機を投げナイフに変え、投げようとして──

 

「ぎゃああ!? みぎ、右腕がああ!?」

 

 腕を切り裂いた。

 

「ノロノロしてるから悪いんだ」

 

 ナイフを握ったまま地面に落ちた腕。刃の部分を足で踏みつけて抑える。

 

「くっ、円月輪っ!」

 

 今度は男の左手に武器が握られていた。落ちた右手からはナイフが消えている。勇者の武器は便利だが敵に回ると不便である。

 

 再び刀を振る。抵抗すら感じず刀は肉を切り裂いた。

 

「おがあああっ、俺の、おれのりょうてがあああ。なんてことを、おれの、おれのじんせいをおおお、おれをだれだとおもってるんだああ! 神に選ばれし勇者だぞおおおお!?」

「俺も勇者だからノーカンじゃない?」

 

 殺す気にはなれず、首に縄でもして連れて行こうかと思っているとそれまで動きのなかった二人の女が男を抱きかかえると二人同時に何かを地面に叩きつけた。

 

 激しい光と音が響く。

 

「《回復》──逃げたか」

 

 眩しさに目をパチパチさせながらも回復ですぐにもとに戻る。

 まあ、逃がす気はない。生命感知の魔法を起動し、離れて行く三名をマークする。これで永遠に逃がすことはない。

 あとはゆっくりと狩ればいい。命からがらといった速度で走る彼らを眺めながら──

 

「あ、死んだ」

 

 はあ。ため息をつく。三名に誰かが合流したと思ったら反応が消えてしまった。隠れていた仲間か別の敵か。しかも、新しい存在をマークする前に幻術のようなもので妨害され、逃げ出されてしまった。

 

「手際がいいな……。報告しておくか……」

 

 勇者の武器を奪う事ができるというのは恐ろしい事実だった。対処できることは確信できたが、その手段のない四聖にとっては危険かもしれない。

 

 

 **

 

「なんだよっ、何だよアレ」

 

 ケンタは日本人だった。小心者で、気が弱い彼は県外の大学に行くことをきっかけに自分を変えたいと願った。髪を茶色に染め、鼻にピアスを開けた。

 鏡にうつる自分は強くてかっこよく変化していた。

 

 そんな俺は不幸にも大学に行く前に前をよたよた歩くババアを追い越して先に行った瞬間に向うから走ってくるトラックに引かれて死んだ。

 だが、ケンタは選ばれしものだった。この世のだれよりも美しい女神に新しい人生をプレゼントされたのだった。

 ケンタは強かった。殴り合ったことなど一度もなかったが、女神の力かまわりの人間よりあっという間に強くなった。

 勇者の武器も奪って勇者になった。そんな自分に二人の女と荷物持ちがついてきた。

 女神にちょっと雰囲気の似ている二人の美女。豊満な胸。白い肌。快楽に溺れるのはあっという間だった。

 

 選ばれた人間。そのことが万能感を与えていた。なのに。

 

「殺してやる。ころして、ころ──」

 

 喚くケンタに二人の女は冷めた目で見ていたがそれに気づくことがなかった。いや、気づいても気づかなくても関係なかった。

 

「両腕をなくしたんだから、もう君にその武器は不要だろ?」

 

 卑しい寄生するしかない荷物持ちのガキが偉そうにそういった。ふざけるな、そう言おうとして──命すら奪われた。

 

「まさか、また会えるなんて」

 

 幻術で姿を隠し、奪い取った眷属機に龍刻の砂時計の砂を取り込ませる。転移後からですぐにこの場を去った。

 

 人を殺したのは初めてだったが、思った程なんともないな。何食わぬ顔で街を歩き、宿に戻る。

 思い出しただけで憎しみがコンコンと湧いてくる。

 

『ごめんなさい。私、あの人が好きになってしまったの』

『お母さんには取られたくない』

『私だって。今日からライバルだからね』

 

 近所でも評判の美人だった母親。

 ──どうして。お父さんはあんなに変わってしまったよ。

 学校でも羨まれる自慢の姉。

 ──相手は母親を抱いたやつだよ。屑だよ。

 

 ユウはまわりの女全てに手を出すクズだった。誰彼構わず笑顔を向けては貪るように女を抱いていた。

 そのくせやつは人気だった。だれもが二度目三度目を求めていた。僕の家庭をめちゃくちゃにしておいて。

 

 殺してやる。お前の全部をめちゃくちゃにしてから殺してやる。

 

 そのためにはもっともっと強くならなければいけない。

 投擲具は金を力にする勇者の武器。僕には金を稼ぐ方法なんてわからない。

 

 ──だったら

 

 

 

 

 





女神の尖兵はいろいろなキャラで出せて書くの楽しいかもしれない。
ユウはトラウマを克服しましたがその陰から生まれた敵対者ということで、タクトより強力に育ってほしいですね!


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074 勇者会議その3

 

屋敷でたっぷりニートしていたものの、メルティから呼び出しがかかって出向くとそこには4人の勇者たちがいた。

 

勇者四人はやや気だるそうだが、ポツポツと情報交換のようなものをしており、俺相手とはいえ、共闘の影響があったようである。

 

「おっ、勇、この間ぶり。屋敷もらったんだって? うらやましいよなー。つってもあっちこっち行ってるからあんまり定住って感じでもないけど」

「そうですね。僕らクラスになると王都周辺のモンスターではもう満足できませんし」

「経験値効率を考えるとまだ屋敷を買うべきじゃないな。そもそも、クラフトに手を出したくなるまで不要じゃないか?」

「そもそも、家を買うって世帯持つみたいでちょっと敷居が高い感じするけどな……」

 

やくたいのないことをあれこれ話していると、メルティが部屋にやってくる。リップがいつもと違うのかプリッとしており、柔らかそうだった。

 

「勇者様方、お集まりいただきありがとうございます」

 

初対面のものもいるようだったがメルティが名前と王女であることを名乗ってもなんの変化もない。

まあ、王女といえばマルティがいたし、そもそもこの勇者たちは王様相手に初対面でもアレだった。

イベント回避のため話しかけずにまず部屋のタンスを開けられるタイプの勇者なのである。

 

「今回は有意義だったからいいが、しょっちゅう呼び出されるのは困る」

「女の子の呼び出しだったら俺は構わないぜ」

「まあ、今回はアレがありましたからね」

「強化法の共有な」

 

そう、実は俺は初日から皆に聞いた強化法をやっていたが、どうやらアレは他の勇者もできたらしい。

四聖勇者は専用の強化法で上がり幅が大きく、八星勇者は複数あるものの上がりが小さい制度かと思えば強化幅はどれも同じで複数やるぶん重なって強くなるそうだ。

 

「勇が強い理由がわかるよなー。ちょっとは追いつけるか?」

「すぐ追い越す」

 

宣戦布告のような追いつく宣言。ただ、前の勇者時代の力がそのまま加算されていることを忘れている。

 

「そこです。新たに強化法を共有した皆様に紹介したいことがあり呼ばせていただきました。カルミラ島が活性化します」

 

情報収集しているものの、勇者としての攻略情報に疎い俺と尚文はきょとんと首をかしげるが、他の三勇者は応援していた野球チームが数年ぶりに優勝したように湧き上がる。

 

「うおおお、キタ、来たぜこれ!」

「ふっ、腕が鳴る」

「あ、尚文さんは知らないんでしたっけ。僕が教えましょう。カルミラ島というのは活性化の時期があり、そこでは大量の経験値が他と比べ低レベルで得られるのです。すなわち、稼ぎどきです」

「なるほど。ボーナスステージみたいなものか」

 

なるほどなー。

勇者と敵対することもある。

それがわかった以上間を詰めさせる気はなかった。

大量の経験値が得られるのなら、強くなれるのは自分もである。

 

沸き立つ俺たちに役に立てたとムフーッと得意そうなメルティが可愛らしかった。

 

 

**

 

ガエリオンはガエリオンなの!

 

生命体としてさいきょーで巨大なドラゴンとして卵から生まれたさいこうの存在なの。

今は生まれたばかりだからまだまだ小さいし、お子様だけど将来は絶対ぼんきゅっぼんになるし、ご主人さまと番って最高の子供を生みたいなって、思ってるなの。きゃー言っちゃった!!

 

そんなガエリオンだけど、最近は拠点を手に入れたみたいで割とゆったり生活なの。安全に眠れるふわっふわでもこもこのベッドに毛布。

いくらでも食べられるお肉にスープ。

 

いやあ、このままずっとここでくっちゃねしたいくらいなの。

とはいえ、強いドラゴンにならないといい子供は作れない。

時々ご主人さまとだったり、自分だけでだったり狩りにでかけているの。狩りで捕まえたイノシシなんかは全部そのままお腹に入れてしまえるので満足満足なの。

 

屋敷に戻るとメイドが人の姿になったガエリオンをお風呂に入れてくれるなの。ちょ~っと甘えた声で、お風呂入れて♥ ってするだけで、ニコッと笑って全部洗ってくれて極楽なの。

 

はあ。いい空気吸ってる感あるの。特にお風呂はいいなの。人間の文化なの。ラフタリアもお風呂が好きみたいで朝と夜入っているなの。この間なんておやつくらいの時間にも入ってて、流石に入りすぎって思ってちょっと呆れてしまったなの。

 

はあ、今日もたっぷり働いたなの。

 

……うむう? 

 

隣の部屋のドアが空いた音がしたなの。寝る前にトイレには行きましょうって子供ならだれても聞かされているのに。

ラフタリアはいつまでも子供なの。

 

ガエリオンはしっかり行ってるから気にせず寝るなの。

 

おやすみなさい。

 




むしろ気付かれないようにすることで興奮の材料にされる系ガエリオン……!


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075 お姫様へいたずら

 

 カルミラ島への船の日程が告げられ、数日後には出発することになった。だが、それまでどうするかといえば、今までのようにダラダラする……ことではない。

 

 各勇者が強化法を共有したことで、今後はぐっと強くなることが確定している。であればより強くなるよう彼ら以上に励む必要がある。

 

 なぜか? 

 

 前回のメルさんの騒動の件で、勇者同士が剣を向け合う状況が普通にありえるということがわかったからだ。

 四聖勇者の彼らと同等に扱われているのは、俺が彼らより強いからである。そして、ゲームにはハッピーエンドの先はないが、現実には先がある。

 波をこのまま乗り越えたとして、本当に勇者は一カ国に所属し続けるのか。亜人の国に助けを求められたら、武を高めようとコロシアムのある国に誘われたら、国家の不正不満を焚き付けられたら、女に願われたら。

 勇者が他の存在より隔絶した強さを得ることはわかっている。である以上、一番強い、という状況は譲れないステータスだった。

 

(まあ、負けるつもりはサラサラないけど)

 

 とはいえ、先日の勇者武器強奪のような搦手がある以上何らかの対勇者魔法や兵器がないとは言えず、努力をやめる気はなかった。

 

 普段は口が軽くてもゲーム知識となった途端口が重くなる。カルミラ等についてはより一層で彼らから情報を得るのは諦めた。

 だからこそ向かった先は図書館だ。後々特別にメルティが集めておいたカルミラ島の情報をくれるそうだが、なにせ三勇者はゲームでこの世界の情報を事前に得ているのだから、できるだけ得ておくに越したことがない。

 

「地形はだいたい抑えた。……島の移動はガエリオンに頼るとして、街に戻るか鍛え続けるか。──鍛えるか」

 

 ガエリオンは不満でうるさいかもしれないが、黙らせよう。

 活性化時期はなるべく戦い続けたほうが得である。

 

 静かな図書館。王城のそこは屋敷一つを本で埋めたように広くて膨大である。また、時間帯のせいか人も見かけず静かだ。

 

(そういえば勉強は久しぶりだなー)

 

 中学では何冊もの教科書を使用していたが、こちらでは呪文を覚えるために言葉の勉強をしたくらいである。

 久しぶりのたっぷり本を読んだ感覚に目をシパシパとさせる。

 そういえばそろそろメルティが来ていてもいいはずだったが誰にも声をかけられなかった。

 どこにいるのだろうかと魔法でチェックすると図書館で本を読んでいるようだった。

 

 どうやら熱心に本を読んでいる様子に邪魔をすまいと遠慮したようだった。

 真面目ないい子だな、と思った。

 

 実際、そっと顔を出すと本を開きながら銅像になったように微動だにせず本を読みふけっている。

 時々めくられるページの擦れる音が生きていることを証明している。

 

 ──ひらめいた。

 いたずらしよう。

 

 **

 

 ここで起こった音が広がらないよう消音の結界を張り、姿を透明に変える。体を浮かせて足音が立たないようにそっと近寄る。

 

 幾段にも並んだ本棚。メルティはその前に立って本を開いている。ふわふわしたお姫様の衣装はどことなくこの場には不一致に感じるものの、それは図書館というものが誰でも利用できる日本の意識が強いからだろうか。知識の形である本こそ貴族のものであるのだから。

 そんな真面目に知識を得ようとしている彼女にいたずらをすることにした。

 

 そおっと近づき、すぐ後ろにたってしゃがみ込む。そっとスカートをつかみ、少しだけめくりあげる。

 

(黒だ)

 

 紫がイメージカラーなのか好んでいる彼女である。フリルの多いいかにもなドレスを来た彼女である。

 王女となるとやはり市民やメイドとは違う。職人が精魂込めて作ったのがわかる現代にも通じるセクシーなものだった。

 ただやはりつけているのがメルティ。まだ幼い王女を包む黒の下着はアンバランスでそこが目を引く。ガーダーベルトに惹かれて視線はスカートで隠されたそのつややかな足にも向く。

 近づけば匂いにも気づく。

 しっかりとした生地のスカートだからだろう。内側からメルティの体臭が強く感じられる。どこか甘くミルキーな匂いが芳しい。

 

(なんか悪い事してる感あるなあ)

 

 前勇者時代はいたずらせずとも女が裸になってきたし、日本では魔法と分かる形では使っていなかった。

 表情を変えずに本を読み続ける彼女の姿。

 

(時間停止者のAVって感じ!)

 

 勇者になってからは女に困らなかったが、なる前は善良な中学生だった。AVなどそうそう見る手段はなかったが、でもないわけでもなかった。貸してやるよと友達(そいつも兄とかにかりてだが)から借りていく掴みている。

 

 バレないようにエッチなことをしているという背徳感がすでにちんこをバキバキにしている。透明であるが、出始めた先走り液の匂いでバレてしまいそうである。

 

 興奮して、ついやってしまった。

 メルティの小ぶりな胸にたいして指でついたのである。むにゅっと指出しが沈むが強い弾力を持ってすぐに弾き返そうとしてくる。

 

 瞬間。バレた。

 

 当たり前である。この期に及んで、

(もんでないのに! 指一本なのに!)

 と焦っていた。一本であろうと五本であろうと触ればわかる。当然である。

 

 メルティは反射でもってユウの頬を叩いた。

 静かな図書館の中、とても大きくその音は響いた。

 

「いたっ」

「あっ、ごめんな──いや、ごめんなさいじゃない! なにしてるの、まったく!」

 

 ユウのためにと情報を集め、大人ぶった下着をはいて準備してきたのにいたずらされたメルティはたいそうご立腹だった。

 

 ユウはひたすら謝った。

 

 




アンケートで人気の高かったメルティ・マルティペア。
マルティは南国島的カルミラ島でチャンスがあるので、メルティで。
真面目に本を読んでる女の子にいたずらするっていいかなって。
とはいえ、スカートめくって胸つついただけなので次回に続く!

次回、お姫様のいたずら


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076 お姫様のいたずら

 

 そんなに謝るなら、言うことを一つ聞いてくれれば許してあげる。腰に手を当て、指を一つ立てて胸を張るメルティ。

 いいことひらめいたのとばかりに嬉しそうな様子。

 

「何でも言ってくれ」

 

 ん? いまなんでもって? そんな声が聞こえてきそうな笑顔だった。俺はこれから何をされるの? 

 

 **

 

「《自身の幻影を》」

 

 目の前に自分とそっくり同じ幻影が現れる。魔法発動時の姿をそのまま写すのではなく、自身と動きを同期させるものである。動きをそのまま幻影も動くため、ただの幻より騙しやすいものの、実体がないため触れられればバレるしろものである。

 目の前に映っているのは普段と勇と違い赤髪の少年だった。

 髪型も普段と少し変えているため、つんつんしている。ニコリと微笑んでみたが、少しだけいたずらっぽい感じになっている

 服装も軽装でそこらの街の少年に混じってしまえるものだ。

 

「またせたわね」

 

 メルティの提案に場所を城から城下に映し、買い物を済ませてから宿に部屋を二部屋借りて着替えを行った。

 目の前にいるのはメルティだったが、その様子がいつもと違っていた。紫の美しい髪は夜のような黒に変わっており、作りの良いドレスは村娘が着るような飾りの少ない布の衣装に変わっている。ラフタリアが来ていたようなシャツの上からスカートと一体化したドレスをかぶるようなシンプルな衣装である。

 

「黒もいいね。親しみがわく色だし」

「そう? それよりやっぱりこういうの楽でいいわね! すっごい軽いわ!」

 

 くるんとその場で回転すると、スカート部分が小さく浮き上がる。足まで隠れていた今までのものと違い、浮き上がったぶんだけ白くてすらりとした足がのぞく。

 

「はしゃいでもいいけど転ばないでね」

 

 メルティの提案は街での変装デートだった。カルミラ島へはマルティは勇者の仲間として同行するが、メルティは城で職務に励むことになる。しばらく会えないのだからとお願いされたのがこれだった。

 魔法で髪色を変え、買い込んだ市民の服を着ることで変装したのだ。

 普段メルティを飾るフリフリのリボンは紫色の花飾りに変わっている。

 

「もちろんです」

 

 宿を出たところでメルティがあたりを見渡して嬉しそうに笑う。

 

「王族ですから、こんな風に護衛もつけずに街を歩くことなんてなかった。馬車の中から大通りを眺めるだけ。だからとても嬉しくて」

 

 メルティの視線は王都の賑わいや珍しいものだけではなく、歩く一人ひとりの表情や様子にも向かっており、ただ単純に観光を楽しむものとは見ているものが違うのだと感じた。

 しかしそれも、「さあ行きましょう!」と手を引っ張られる。

 その時の楽しそうな様子は年頃の少女のものだった。

 

 **

 

 鳥のもも肉の串を片手にあーんと口を開いてかぶりつく。

 ラフタリアやガエリオンなら両手に持ってぱくついただろうが、口元を一切汚さず上品に食べている。

 小さく開くその唇。ちらりとのぞく舌に情欲が湧いてくるのを感じる。

 

 さて、どうもっていこうか。

 

 **

 

 ユウがムラムラし始めていたのと同じように、メルティも徐々に気持ちが高ぶっていた。

 それは今までにない光景を見ていることの興奮もあるし、手を繋ぐという行為のせいもある。貴族のスカートは膨らみが広く、どうやっても距離ができるが、今着ている衣装は体に沿ってすらしとしており手をつなぎながら歩いていることもあり、ちょこちょこと体が触れ合うせいだとか、着崩した服のせいで胸元が開いていて首筋や鎖骨が見えたりするところである。

 

 メルティはキスで感じるタイプである。一体になる感覚に酔いしれたものだったが、手をつないで体を擦り付ける行為もセックスに近いな、と思っていた。

 そんなはしたない行為を守るべき王国民の前で堂々としているとかデンジャラスであった。

 

 尚文が聞けばいや、ガキが手をつないでるだけだろ、といったかもしれないが、おしとやかな教育を受けていたメルティにとっては露出調教同然だった。

 

 そこにオープンテラスで恋人同士一つのコップに入ったジュースをストローで飲み合っているところを見て爆発した。

 平民すごい、平民やらしい! 

 他人を見ることで自分も同じような状態だと理解してより興奮してしまった。メルティはしとどに濡れていた。

 これ以上誰かに見られたら恥ずかしくて死んでしまう。

 

 王女と勇者を抜きにした二人は可愛い少年少女のカップルだったので、大人ほど微笑ましい瞳で見ていたが、やらしい気持ちになっていたメルティには全てお見通しの目に見えてきていた。勝手に視姦されていたのである。

 

「ユウ様、私、ちょっと疲れたかもしれません……」

 

 どこかで休みましょうと言われてよしきたとユウは連れ込み宿へとメルティを連れて行った。




生活に主眼の当たらないファンタジーの場合、現代人が転移してもお風呂トイレくらいしか主眼に当たらないケースが多いですけど、鏡ってどうなんでしょうね?

ガラスに銀を塗っての鏡はイタリアのベニスのガラス工によるもので、1317年だとか。
中世ヨーロッパの後期にはあるので、盾の勇者にもあって不自然ではありませんが、市民の生活にもあるんですかね? 宿屋にはなさそう。
そんな事をダラダラ考えだしたら幻影で整えればいいじゃんとか。

メルティのドレスは一人で着れるんだろうかとか考え出すと二人のお忍びデートはそもそもできなさそうな気もしてきましたけど、きっと一人で着れると思います!
まあ、着物外出エッチにコイツラ着付けできんだろうか? ってつっこむようなものですよね!


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077 愛のいたずら

 

王都でよく利用している連れ込み宿へと入る。

飲み屋の多い繁華街の路地裏にあるそれは、日本でいうところのラブホテルであり、休憩や宿泊に合わせて普通の宿よりは安価で、シャワーや風呂などの体を洗う施設がしっかりついてくるところがポイントである。

 

ちらりと手をつないだ先にいる少女の様子を見る。疲れたからと誘ったメルティは顔を真赤にしながらあわあわきょろきょろとあたりを見回している。

 

様子が変わったのは俺達よりさきにこの宿へと向かうカップルを見たからだろう。腕を組み、場所を考えずねっとりとしたキスを時々交わしていた。手は腰やお尻に回されており、後ろをついていく形になった俺たちにはその指使いまで見えてしまっているのだからメルティが恥ずかしがるのも仕方がない。

 

アワアワするメルティの様子に気づいたのか、女性の方がこちらをちらりと見ると頑張ってねとばかりにウインクを一つ。

私達もセックスすると公言しているようなものだということに気づいてしまったらしくメルティは破裂した。

 

「さあいこうか」

 

そう声かけると一瞬足を止める。足に力を入れているようで引いていた腕が止まる。散歩から帰りたくない犬のようだ。

こちらを上目遣いで「やっぱり恥ずかしいからやめよう? 王宮でしよう?」と訴えてくるようだが、俺のちんこは早くやろうぜと急かしている。そもそも部屋に戻れば抜け出したことに叱られて拘束されるかもしれないのだ。いまいつやるの? いまでしょ。そういうことである。

 

「みんなに見られてるよ?」

 

すっと宿周辺に目を向ければ一人二人たむろしており、こちらに視線を向ける者もいた。

 

「は、早く行きましょう!」

 

今度は逆にかけっこのように猛ダッシュでもって宿へと入っていく。

 

**

 

パメラは宿の従業員をしている。しかもただの宿ではない。愛を交わすための宿である。まだ成人して少しのうら若い乙女なのにこのような宿の従業員など本心では嫌だ。

 

しかし、親の経営する宿の一つであるため、修行だといっていやいややらされている。働くこと自体は好きだし仕事はきっちりやらなければすまない性質だがこればっかりは応える。

 

なにせ、愛に憧れのあった身なのだ。働く前はたしかに憧れがあった。だが、愛の残骸であるいろいろな液体に汚れたベッドや、出てしまったのか出したのかシモの処理など愛に幻滅する気持ちもわかってもらえるはずだ。

 

そんなパメラの趣味は聞き耳である。

特に好みの男女が入ってきたときは隣室があいていれば掃除ついでにそっと聞き耳を立てている。

 

最近お気に入りなのはあの刀の勇者様だ。年若く幼さの残る少年でありながら、その行為がまたえげつない。聞き耳を続けるうちに演技であえいでいるとか、お、マジイキだわと判別できるようになったが、この勇者やばい。

相手に合わせているようだが、え、ええっ、マジで人間こんなになってしまうのと言わんばかりに責めることもある。こいつ違法な薬でもやってるのかというくらいに深くイキまくるのだ。ベッドもやばいことになる。

初めてはこれが勇者かと戦慄したものである。

 

服装や髪の色は変わっていたが、その歩き方や受付の仕方、声で一発である。今日連れてきたのは同じくらいの育ちの良さそうなお嬢様だ。あ、貴族だな、貴族なんだな? というのがわかった。その様子は初々しく、ぽっと赤く染まった肌がやや早いが食べごろを示していて美味しそうな果実である。抱けるなら抱きたいと思った。

 

(この子もうだめだな)

 

あんな性行為ができる相手である。お忍びで遊びに来た相手をナンパで引っ掛けてきたのだろうが、普通の男には戻れまい。

パメラには蜘蛛の巣に引っかかった蝶を幻視した。

そんな相手にできることなど殆どない。パメラは隣室の開いている場所の鍵を渡した。

 

**

 

ドアを勢いよく締めてガチャリとかかる鍵の音にメルティは安堵するように大きな息を吐いた。きっと人の目のない空間に安堵したのだろう。落ち着こうと深呼吸しているが、恥ずかしさもまたスパイスである。せっかく出来上がっているのだから、そのまま味見と行くことにした。

 

「二人っきりだね」

 

視線が交わる。メルティの目は紫水晶のように輝いていた。ゆっくりとお互いの唇が触れあう。最初は一瞬。回数を重ねて深く。段々とメルティもまた積極的に唇と唇が、舌と舌が交わってゆく。

スイッチが入ったようで、瞳がとろりと零れそうなくらい潤んでいる。いつものドレスと違うからだろうか。メルティの甘い香りに混じって女の匂いがしてくる。

今までにない羞恥と口淫で濡れているのだ。

俺もまた早くとばかりに先走りがダラダラ出ているのを感じる。ちゅっちゅと唇を交わしながらベッドまでゆっくりと移動して押し倒す。

 

「うむうっ♥」

 

感覚を味わうように目を閉じたメルティ。服の上から体に触れると、素材の薄さか肌の感覚を強く感じる。クリクリと服の上からさすってやるだけでメルティの腰がピクピクと小さく跳ねる。こうやって比べると平民の服の薄さ、脱がしやすさはとてもやらしい。

紐を緩めて服を脱がせてゆくたびに美しくみずみずしい肌が顕になる。興奮の色そのままに体が薄くピンクに染まっており、お菓子のようである。

 

唇を離し、今度はと体を浮かせようとすると、メルティの両手がしがみつくようにギュッと掴んでくる。体が引っ張らめ顔が近づく。再びチュッチュとキスが始まる。

メルティはキスがだいぶ好きなようである。

 

仕方がないなとスリスリとお腹を擦る。揺するように小刻みに擦る。キスをゆっくりと続けながらそうしていると、不意にニュルニュルと絡みついていた舌の動きが止まり、まぶたがギュッと閉まる。いっているのだ。

直接性器に挿入していないが肌の上からの刺激でメルティはイッたのだ。

 

「んっ♥ んっ、うんっ♥ んんんっ♥」

 

怖がるようにギュッと抱きしめられる。その上、唇は離れることなく押し付けるように触れ合ったまま。

お腹に当てた手からナカの動きがはっきりと伝わってくる。男から精液を奪い取るためにナカの肉が忙しく動いているのを感じる。なのに何も入っていないのだ。こんなにイッているのに。

それは可愛そうだ。だからズボンと下着を脱ぎ捨てる。だらだら流れ出る先走りですでに射精した後のようにベトベトだ。

亀頭をあてると早く早くとばかりに吸い付いてくる。

そのまま押し入れるとぐっときつくなっているくせにするりと肉棒を飲み込んでしまう。

 

「んっ、むっ♥ ああっ、ん~~ん」

 

二度目の挿入だが、すでにイキ方を理解しているのか、入れただけで再びイッてしまったようで中がうねる。気持ちがいい。

子供体温というと怒られそうだが、メルティは獣人ほどではないが体温が高い。ラフタリアは燃えるような中だったが、ちょっと熱いお風呂に使ったような心地よさがある。

 

何度もイッてしまって下がってきた子宮がくぽっと咥えてくる。逃さないとばかりに締め付けてくるくせにだらだらの愛液が簡単に出し入れさせてしまう。

クポクポと出入りを楽しみながらゆっくり優しく押し当てるように動かすと出し入れするたびにメルティはピクピクと震える。

 

「ゆう、さ…ま、すきい……♥」

 

絞り出すようなその声。愛欲に深く輝く紫の色。

まっすぐ向けられた気持ちが胸に刺さるようで、その心地よさにあっけなくイッてしまう。

ドビュビュと勢いよく押し出された精液は一番奥に吐き出された。

 




この裏では隣室で聞き耳を立ててロリショタのハードエロにニヨニヨしている女性が!



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078 グラスとの再会

愛情や恋慕の情を向けられたセックスはただの性交よりずっと気持ちがいい。

メルさんやラフタリア、メルティと体を重ねて思い知ったことだ。

ただ、それはそれとしてセックスは気持ちいい。

家族と食べる家庭のご飯が美味しいのは当たり前で深夜のラーメンが脳髄を揺らす美味しさであるのと同じことだ。

 

メルティからカルネ島の情報を聞いて、南国の観光地みたいだなと思った俺の頭の中には褐色肌の美人とのあれこれが浮かんできていた。

現地へゆく船で勇者全員で移動することで、公平な狩りのスタートとしているので、遅れなければ問題ないとはいえ、ややゆっくりスタートだった俺たちは馬車に揺らされ、王都からいくつかの街を経由し、港一つ前の村の宿で彼女に出会った。

 

「久しぶりですね、刀の勇者ユウ」

「あ、グラス」

「……なぜにこやかなんですか?」

 

しれっとであった。

港町と王都の直線上にある村だからか、規模の割には作りがよく大きいが、村に一つだけの宿は酒場も兼用しており、受付から見える先で彼女は優雅に紅茶を飲んでいた。ふうと吐き出された息。紅茶の香りがあたりに広まったような気がする。

 

「久しぶりですね。波の間だけでは話をする時間も心もとない。事前に顔を出させていただきました」

 

座ったままのグラスに、ラフタリアが腰の剣に手をのばすがそれを静止する。

 

「話を聞こう。グラスのせいで疑われてこっちはさんざんだったんだ」

 

内緒で接触されて告げられたならともかく、波の人の多い場所で言われてしまっては隠す方法がなかった。

彼女の言い逃げはおかげで三勇教がこちらを突くスキを生んでしまった。

そもそも俺は異世界人であり、元勇者であっても勇者武器があるような世界ではなかった。

故にグラスの世界の勇者であると言われたところで、協力する筋合いはない。

もし私の世界の勇者武器を持っているのだから裏切れというのなら武器を返してもいいと思うくらいだ。

 

「それは申し訳ありません。ですが、こちらとしてもあなたが異世界の勇者であると知られながらもこの世界に馴染んでいただくことが必須事項でした。私達には時間も少ない。慌ただしい接触になってしまったのは誤りますが、仕方がないことです」

「……狙ってやったということですか? あなた達の狙いはなんですか?」

「状況はそこまでこの世界と変わらない。転生者を知っていますか? 勇者武器の所有者を狙い武器を奪い取る力の持ち主のことを」

 

以前こちらを襲ってきた冒険者パーティを思い出す。神から力を授かったなどと嘯く男のことを。

 

「知ってる。襲われて武器を奪われそうになった。防いで撃退したけど」

「そうですか……期待以上です。私の世界も四聖がおり、波の戦いがあり……転生者がいました。彼ら……波の尖兵は世界を融合させようとしています。そのため、勇者の仲違いをさせたり、武器を奪い勇者として成り代わったりとやりたい放題です。私の世界でも四聖のうち三人が破れ、一人は迷宮に閉じ込められ、動けない状況にあります。そこで私の世界を管理している女神が動いたのです。波の尖兵から取り戻した刀を使い、あなたの世界に送り二つの世界の架け橋にするために」

 

二つの世界を救ってくれませんか、そういうグラスからはやはり嘘は感じなかった。

ただ、全てを語っているとも思えなかった。

彼女には別に目的がある。

 

「わかった。協力したい。ここじゃなんだし、部屋で話がしたい」

「ええ、いいでしょう」

 

わかってくれたかと小さく笑い、席を立つグラス。長い黒髪は動作に合わせれサラリと揺れ、それだけでいい香りがすっとかすめる。

男を部屋に入れることに全く抵抗を感じていない。

警戒心のなさに呆れが来るが、日本でも割合年上とか女子校のお嬢様とかにはそこそこいる手合である。

怖い思いをしたことがないので警戒しなきゃいけないと思っていないのだ。

 

肉食動物のいない世界の草食動物みたいなものである。

戦闘面は優秀なようだが、性的に一切警戒していない。

まあ、勇者で子供だものね。見た目は。

 

ラフタリアとガエリオンに二人はゆっくりしててというとラフタリアは不満そうに頬を膨らまし、ガエリオンはじゃあ狩りしてくるのと外へ飛んでいった。

ラフタリアも一時期はよく食べたが、ドラゴンの食欲はやはり桁が違う。

 

フリフリ揺れる、体に張り付くようにピッタリした着物の先にある美味しそうな果実に目を向けながら階段を昇ってゆくグラスについてゆく。

 

「さあ、ここが私の部屋です」

「お邪魔します」

 

 




グラス「違います! 男を部屋に誘い込んだように言わないでください! 相手は勇者で少年ですよ。なんでそんな事を言うのですか」

そもそも腕力で男に勝てない、とかないから二人っきりになることの抵抗とかなさそう。そもそも仲間以外と一緒にいることがなさそう。グラス一人で異世界に行くとかマジヤバ。
鎌の勇者のラルクとかがひっそり追っ払ってたのにラルクはすぐ揉め事を起こして困ります、とかやってそう。「ははは、すまねえお嬢」とか言ってるけど悪いのはグラスだぞ。
みたいな。

グラス周りはWEB版ではほとんど出てこないので二期までばいいか! と思ってたのですが、ついに追いついちゃったZE! 絆とかコミックでちらりと知ってるレベルなんですよね。本読もう。これから紙の設定も多く入っていくと思いますがよろしくおねがいします。


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079 性交談話

 村の宿は商人を止めることを想定しているのか、一部屋にベッド二つに食事のできるテーブルも置いており、そこそこの広さがある。

 グラスは椅子に座るとテーブル上においてあった水差しからグラス二つに水を注ぐ。

 

「座ったらどうですか?」

 

 言われるがままに向かい合って席につく。

 彼女は優雅であり、余裕を感じさせる。

 言葉数少ない彼女はあまり口がうまくない上に不器用そうに感じる。

 その上で余裕なのは、彼女にとっては俺が敵ではないからかもしれない。

 それが刀の勇者という向こうの勇者だからなのか、俺だからなのか。

 ただ、彼女は生娘である。俺にはわかる。

 

 普通に考えれば自分より実力上で敵対するかもしれない手の早い男にこんな態度を取るだろうか。

 であれば勇者らしい行いをしている仲間の少年である勇者と見ているのではないだろうか。

 彼女がなんの抵抗もなしに宿で二人っきりになったことを考えると前者なのではないだろうか。

 

 真に強い信念や常識は性交の快楽では変えられないと思っているが、性交は情を交わす行為でもある。

 抱いた女に情が湧くのと同じく、抱かれた女も何かを感じるだろう。

 異世界は俺に何をさせようとしているか。その糸口が彼女なのである。

 必ず情報は得て見せる。

 

 **

 

 グラスは扇の勇者である。

 世界支配を企む魔竜の野望を阻止するため、四聖の一人である狩猟具の勇者、グラス、ラルクベルク、テリスたちとパーティを組み、使命を果たした。

 だが、船旅の途中狩猟具の勇者は遭難。

 助けること叶わず、時間だけが過ぎてゆくうちに彼女の世界でも波が起こり、転生者により行方不明の友達……狩猟具の勇者以外は死亡。

 もはや伝承に残る手段である、融合先の世界を滅ぼすしか方法はないのでは、となったところに女神が現れ刀の勇者を融合先の世界に紛れ込ませたこと、彼がいれば融合しても世界は無事であると告げられたとのこと。

 彼女の世界の勝利条件は四聖が一人でも生き残っていること、刀の勇者が生存して波による融合を果たすことだと告げた。

 

「なるほどなぁ」

 

 過去、勇者を行っていたときに覚えた術は数多とあるが、熱心に学んだものの一つが房中術である。

 地球ではただの性交を行う上での技ではあるが、こちらは術でもある。

 何が一番恐ろしいかといえば、性交……己の肉棒を相手に差し入れているときは相手の肉体と己の肉体にある壁がなくなることだ。

 通常相手に魔法をかけようとしてもマイナス効果のある魔法は対抗されやすい。

 

 例えばいい匂いだと思ったものを性的にもいい匂いであると錯覚させたり、人として好意を抱いたときに性的にも抱かせるのは刷り込みしやすいが、酔いや自白させたりといった状態にさせようとすると難しい。

 だが、性的につながることで、己の体の延長線となれば抵抗はほぼゼロにできてしまう。

 相手からも鑑賞されてしまうということだが、そこはこちらのほうが力量も経験も上なので、どうなるかは一目瞭然である。

 

「ああああっ♥ あっ、せかい、めが、ぐるぐる、あっ♥」

 

 華奢な彼女は細身だ。腰を掴んで乱暴に出し入れを続けているが、肌のぶつかり合うパンパンという音も控えめだ。

 だが、下半身は欲しがりできゅうきゅうと締め付けては肉棒にびったりとくっついてくる。

 そのせいで亀頭のカリにごりごりとえぐられる羽目になるのだが。

 

「くっ、はっ♥ こん、こんな事するなんて♥ あなた、それでも、ゆうしゃですかっ♥」

 

 小さな親切、小さな好意を膨らませて、近くで話をしたいとソファーに場所を移して、肩や手、接触のたびに好意を膨らませ、押し倒した。

 勇者は苦痛に強いが、快楽については正常である。特に強いわけではない。薬で廃人になったりはしないが、快楽を得られないわけではない。

 信頼する仲間から情愛を抱く相手とスライドさせることは難しくない。

 仲間なのだから話してもいい、恋する相手なのだから親切に。

 

 ただ彼女も勇者である。

 急激な自分の変化に怪しんで、持ち直し始めたようである。

 グラスの中はすでに攻略を終えたダンジョンのようなもので、どこが弱いかはもうわかってしまっている。

 腰を掴んでぐっと持ち上げ、お互い見つめ合う、対面座位へと体位を変える。

 体の密着度が上がり、自重で深く差し込まれるものの、出し入れの回数がぐっとへり、グラスは息を整えようと大きく深呼吸をして……

 

 抱きしめるようにしながら背中を撫でるとピクピクと甘くイッてしまったようで、ダラダラと愛液が溢れてくるのを感じる。

 

「あふっ♥ こんなことで、私をしはいしたつもりですかっ、あっ♥」

「きれいな髪だね。サラサラだ」

 

 我に返る前のグラスは素直にペラペラ喋っていた。親友である絆がいなくなって寂しかった、すぐにでも会いたい。

 寂しい、寒い、あなたは温かいと。

 ギュッと抱きしめて肌を触れ合わせ、背中を撫でるとそれだけで心の扉が開かれるのを感じる。

 睨みつけようにも口が緩やかに和らいでしまう中途半端な表情を浮かべてはギュッと口を閉じて……快楽にパクパク開かれる。

 

「私は、絶対、認めません♥ からね!」

「はいはい」

 

 キッと睨まれるが、顔を近づけると無意識なのか彼女も顔を寄せ、ちゅっちゅと口づけを交わしている。

 心地よい感覚。

 グラスの快楽に引きずられるように性感が高ぶってゆく。

 ヌプヌプと出し入れする。グラスがイク瞬間にぐっと締まり、彼女の中を溺れさせるように射精してしまう。

 萎えることなく硬いまま。

 再び動き出す。何度も、何度も。

 

 **

 

「ぜっ、ぜったい♥ きずなぁ……を、たすけて、くださいねっ♥」

「はいはい」

 

 ぎゅっと抱きしめると、恐る恐るといった様子で上着の端を掴まれる。

 ソファーのマットの反動を活かすように下から突き上げる。叱りつけるようにこちらを責めていた彼女はいつの間にかこちらに要求をするようになって、いつの間にか約束をしていた。

 

 初めてのこなれていない膣内なのに、何度も何度も出してしまった。彼女はその数倍絶頂していただろうが、こちらもまた興奮させられ、意識を揺さぶられていたかもしれない。

 最初に見た彼女からは信じられない緩んだ表情に、しかし確かな情を感じ始めていた。

 

 **

 

「いいですか? 性交とは子を生む神聖な行為です。相手の口を割らすためにするようなものではありません。愛情なしにこのような行為に及ぶなど、生まれてくる子供に申し訳ないと思わないのですか! だいたい、私は聞かれれば答えるつもりでここに来ました。だというのに……」

 

 勇者同士の体力でお互い交わり続けていたが、パタリと電池が切れるように寝入ったグラスに合わせて、ベッドに抱き上げて一緒に眠りについた翌日。

 愛液と精液にびっちょり濡れた着物を整えだしたグラスを薄めを空けて眺めているとそれに気づかれ、説教が開始したのだ。

 ガミガミと色々言われたが、要は彼女は自分の世界を転生者から守りながらもちょくちょくこちらの様子を伺いつつ助けに来る、ということだった。

 生存さえしてくれればいいのでこちらでの行動はあなたに従う、とのこと。

 

「ええ、あなたに従います。私の仲間たちもそうでしょう。──あなたが私にしたことを知らなければそうするだろうと断言できます」

「あーうん。そうだよね」

 

 敵対やむなし、情報搾り取ってやるという気持ちであったが、むやみに敵を作るところだったと冷や汗が流れる。

 我に返られてからはともかく、それまでに語ったことは嘘じゃないだろう。

 少なくても、グラスは真実だと思っている。

 

 俺をここに派遣した女神。波が終了するまで生存しているだけで隣の世界は救われる。

 だが、この世界にとってはどうなのか。グラスは女神を信じたが、本当に信じていい相手なのか。

 なぜ俺なのか。

 そんな疑問が浮かんでは消える。

 だが、ひとまずは──

 

「だ、黙っててもらえる?」

「いいでしょう。あなたが約束を守ってくれるのであれば、ですが」

 

 クールな鉄面皮でそう告げるグラス。

 だが、性交の後、ヨレヨレになった着物と匂いをまとっていてはあまり決まるものでもなかった。

 




感度XXX倍! 口を割らせてやるぜ! → クッ、抵抗で感じてる感覚と気持ちを返します! → アヒんッ♥

他の勇者と違い、グラスは現地勇者だし、扇を崇める技術あるところの子っぽいのでちょっとは抵抗できてもいいかなと思って。
口を割らせるつもりが協力を約束してしまうことに。

グラスは嘘をついていないようですが、彼女が信じる女神とは……?

→2021/2/21 追記 書き終わりませんでした……すみません。


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080 いざカルミラ島へ

「あなた、エッチな人ですね。無責任にそういうことするの良くないと思いますよ」

「責任は取るよ」

 

日本は科学技術が発達していた。テレビで後進国の支援番組を見れば科学の力でどれだけ人を助けられるかを感じられるだろう。

素敵だなあ、素晴らしいと笑顔で見ていた昔。

でも、人を助けるということは、お金になるということだ。

そして、魔法社会は魔法の力を持って様々なものを築きあげてきた。

 

例えば、人はカッティング理論の元に最も美しく輝く宝石を作ったが、魔法技術は素材を元に"この世にない美しさ"を見生み出す方法があるのだ。

美しさの優劣はわからないが、希少価値とは金になる。

例えば、怪我で死にかけている人に腕を生やしてやることも、目が見えないと嘆く盲目の少女に光をあげることもできるのだ。

力はいくらでも金に変えられる。日本でも金には困っていなかった。

金を払うことは責任を果たしたことなのかと言われれば否定はできないし、面倒を避けるために金を使っていたのだと言う面もあった。

それに女性にはともかく、いろんな男に恨まれていたけれど。

 

「子供ができたら一緒に育てよう」

「ふ、ふん、そうですか。最低限の義務は果たすつもりがあるようですね。いつの間にかしていて何がなんだかよくわかりませんが、応じたということは許したということです。私のことでもありますから、別に責任は求めませんーーできてたら別ですが……」

 

メルさんは子供の名前を考えておいてくださいね、と言ってくれた。

波の終わりまで一緒に戦いたいとラフタリアは避妊しているけど、自分のお腹を見つめながらいつかが楽しみですねと笑ってくれた。

責任をとっていいのなら取らさせてもらう。

金だけで済ますなんてもったいないことをする気はなかった。

孕ませたわけではないが、避妊はしなかったので、可能性は十分にある。

 

ぷいっとグラスはそっぽを向く。さっと首まで赤らめたまま。

問い詰めてやろうなんて気持ちはもうなくなってしまっている。

少なくても彼女は勇者である。

俺たちのような呼び出された存在ではなく、己の世界を守るために立ち上がる勇気ある者である。

嘘がないことは感じた。

 

「次はいつ会えそう?」

「すぐにそれですか? 勇者としての適性を疑います。波の補助……と言いたいですが、今の段階だと援護は必要ないでしょう。経験値稼ぎと勇者の観察をさせていただきます。別行動となりますね」

 

行動の予定を聞いたつもりだったが、たしかにナンパ男っぽかったかもしれない。

どことなく不機嫌そうにしながらも目でチラりと確認してくる。

 

「一緒に来てる仲間とは会えそう?」

「……!? テリスに手を出すつもりですか!?」

 

誰だよ、と思ったが、仲間の名前なのだろう。しかし、会ってもいない女性に手を出すもなにもない。

 

「いや、手なんか出さないよ……仲間とも話が聞きたいんだけど。心配なら男でいいよ」

 

とはいえ、ここまで言うのだから可愛いか美人なのだろう。

覚えておいて損はないと自動的に”テリス”と脳にインプットされた。

 

「もうひとりの仲間のラルクは一足先にカルミラ島に行っています。赤毛の軽薄そうな男とでもいえばいいでしょうか。鎌の勇者ですから見ればわかるかと思います」

「わかった。会ってみるよ」

 

グラスの仲間に会う目的は女神とやらについて聞くことである。

グラスは嘘をついていないだろうが、彼女の言う【彼女の世界の勝利条件は四聖が一人でも生き残っていること、刀の勇者が生存して波による融合を果たすこと】はイコールこの世界の勝利条件とは限らないのである。

とはいえ、自分の世界じゃない世界がどうなるかなんて知りはしないようで……そうなれば女神に問い詰めたいが、会う方法はわからないとのこと。

結局謎は謎のままである。

 

女神とはパーティ皆が会っているということで、せめて印象だけでも仲間に聞きたいところである。

勇者らしい人の良さというべきか、グラスは女神の言うことに疑いを持っていなかった。

である以上、信頼できそうかなんて聞くまでもないので、女神の話を疑える人間の意見ができれば聞きたいところである。

 

**

 

「は、はきそっ……ぐぷっ~」

「や、やめてください、僕まで、うっ」

「うう、お、おれに、ちかづくな……」

 

港のある街に集合し、ここからは船だと出発した瞬間にこれである。

そこそこ波の荒い中で、大きくても船は揺れる。

尚文はケロッとしているが、他三人は真っ青な顔をしている。

ただの中学生だったときは酔うこともあったが、勇者となり、馬や竜に乗り騎乗戦を重ねるうちにどんなアクロバットな動きでも酔わず苦しまなくなった。

苦しんでいても、無駄に魔法を使い続けても危険。鍛えて体を適応させるしかないのだ。

 

「お前は酔わないんだな」

「海上戦、空中戦も勇者には求められたからね」

「なるほど。勝手に波の場所に行ける俺達とは違うか……」

 

回復魔法で治すこともできるが、船酔いはいうなれば毒の沼の中で毒消しを使うようなものである。

一度直してもすぐに酔う。むしろ治った瞬間に再び酔うことでその揺れ幅はより大きくなる。

となれば直し続けるしかないのだが、そうまでしてやる気にもなれず、吐く程度ならいいかとぼうっと海を見ていた。

 

「お前はこれからどうするんだ?」

「これから?」

 

普段会話のできていない父親のような話題の振り方に首を傾げる。

とはいえ、尚文は真剣で会話に困っているような印象はない。

ふわっとしている切り口に何を答えようかと迷っていると次が出る。

 

「波が終わり、勇者としての役割が終わったら……元の世界に帰りたいか?」

「いや、俺は残るよ。戻らなきゃいけない理由もないし」

 

たくさんの女性に手を出してはいたが、心まで交わせた相手はいなかった。

それは自分が心を開いていなかったのかもしれないが、メルさんやラフタリアへの気持ちと比べれば大きな差だった。

 

「そうか。俺も……俺も、大切なものができたから、ここに残るさ。波から……すべてからこの世界を守る」

「そっか」

 

凛々しい顔で遠くを見つめる尚文は召喚されたばかりの覇気のない大学生だったときの顔とは全く違っていた。

自分の顔ももしかしたら違っているんだろうか。

 

 




14歳の少年よりご依頼を承っています。
「私と一夜をともにしていただけないでしょうか。できてもできなくても毎月お金をお支払いさせていただきます」
複数の候補者様に声をかけさせていただきます。
条件が合う場合は今すぐお声掛けください。

うーん、詐欺メールかな? 勇君が女なら手を挙げるのに!


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081 観光地の特別感

「り、りいくだあ……ぁ」

「は、はやく、僕をあっちへ………」

「もうにどととふねにはのらん……」

 

終始グロッキーだった三勇者に尚文は「帰りも船だけどな」をニヒルな笑みを浮かべて追い打ちをかけている。

たいして三人は絶望したように崩れ落ちた。

 

「ラフタリアちゃん、またね! ユウ様も」

「刀のヒト、じゃーねー」

 

スタスタと先を歩いてゆく尚文とそれを追う二人。

それに小さく手を振り応えるラフタリアと苦手なものを見たように目を背けるガエリオン。

 

「それで、どうしますか?」

「宿に行って部屋を確認したら準備を整えて早速行こう」

 

カルミラ島の活性化では、低レベル相手でも、普段より遥かに高い経験値がもらえるため、安全に素早く数をこなすことが基本戦術となる。

島の一部には強めの魔物が出る場所もあるようだが、そういったところは活性化前はともかく、活性化後はあまり人気がない。

故に、我々はここを狙うことになる。

巡回の経路も決めているし、距離の近い島なら飛んで移動できる分、稼ぎは捗るだろう。

 

「えー、でも観光したいなの。船のご飯飽きたなの」

「それは……そうですねえ……」

 

ラフタリアも店先に吊るされた肉を見ていた。炙りながら回して焼いている肉をそいではパンに挟んで売っている。

ドネルケバブのような料理のようだ。クジラに似た生き物の肉らしいが羊や鳥のとは一味違うよ! と声を張っている。

パチパチと滴る油の香りがクウと腹に来る。

その隣では小さく切ったタコらしきものを串に挿して焼いており、ドロっとしたタレがハケで塗られて売られている。

香りが殺しに来ていた。

 

「海の幸はそういえば最近食べてないなー」

 

海を超えないと胡椒がない、勇者よ、コショウをくれれば船と引き換えよう、なんて世界ではないので味付けは結構豊かではあるが海の幸はやはり海に近くないと質が落ちる。

燻製や干物、塩漬けと色々あったがやはりとれたては別格だろう。

パタパタと串から煽られる匂いに頭は一色になってしまった。

 

**

 

「はふはふ」

「がぶがぶ」

「あー、採れたてはうまいなあ」

 

ラフタリアは串から一口で肉二つ、もう一口でネギ一つと食べ進め、ガエリオンは山のようにもられたケバブをガブガブと口に放り込んでいる。

幼い少女の見た目には合わない様子だったが、正体がドラゴンでは仕方がないだろう。

濃厚な甘みの感じるタレの塗られたタコはプリッとしており実に美味しい。

はふはふと息が漏れる。

タコだけ食べておるとたこ焼きが食べたい気持ちになる。この世界にもあるだろうか。

ありそうだ。勇者が召喚される世界だけあるが、異世界なのに見知ったようなものと出会うことは多い。

 

食べ終わったばかりのタコを思い出しながらぺろりと唇を舐める。

 

**

 

「右っ!」

 

ガエリオンのドラゴンの気配は人になっても魔物にはわかるらしく、弱い魔物は彼女を避け、強い魔物は向かってくるものが多い。

経験値の割には弱いこの島では必然的にラフタリアにヘイトが集まる形になる。

幻影を行使する剣士であるラフタリアは一対一には強いが対多数には課題が多い。逃げるような避け方をしながら、フリーになったガエリオンの火炎が魔物を焼き尽くしてゆく。

 

「くっ、助かりました」

「全然なの。あ、また来た」

 

新しい増援にふううと大きく息を吸い込むドラゴン姿のガエリオン。

しかし現れた魔物は鋼のように輝く外殻をもったカブトムシだった。

選択を間違ったとばかりにためらいのあとに吐き出される息は見た目道理耐えられてしまう。

息の勢いにその場に釘付けられた魔物にラフタリアが襲いかかり、首をたった。

グルンとカブトムシの頭が吹き飛び、体が倒れる。

 

「……対多数は苦手です」

「まあ、剣士の宿命みたいなところはあるけど……」

 

剣士は剣の届く相手を殺す技が多い。そういう意味で刀の勇者である俺も対単体のほうが威力がある技が多い。

だが、かつて勇者を行っていた頃は一人で魔王軍を相手にしていたのだ。

むしろ無休憩で永遠と大群を相手にする戦いこそを得意としていた。

 

「ガエリオンの溜めを守る剣だと思えば……」

 

巨体に育つドラゴンは体を振り回すだけで周囲への攻撃になり、ブレスを吐けば範囲攻撃になる。

溜めの間を守るドラゴンライダーとしての立ち位置こそこのパーティでは有効そうである。

 

「でも、私はユウ様を守りたいです」

 

そもそも、俺はピンチになるんだろうか。ならないというのは油断である。

体に張る力はかつてより更に力強い。今なら死ぬかもしれなかった戦いであった魔王相手でも無傷で倒せるに違いなかった。

 

「なら頑張らないとな」

 

しかし、油断はできない。

もしも女神とやらが敵であれば、どれほどの強さかわからない。

それに勇者もだ。

ラフタリア経由でリファナから尚文の”憤怒の盾”の力は聞いている。まさか尚文だけが特別とは思えない。

憤怒の剣、弓、槍。

それらがこちらを向くことも考えられる。

 

ゲームシステムのような強化法のあるこの世界で強さは経験を積む速度を遥かに超えて強くなる。

彼らとのあいだにあった勇者として世界を救った経験の差も今この瞬間縮められていてもおかしくないのである。

 

「さあ、訓練を再開しよう」

 

強く、誰よりも。

勇者は誰よりも強い。だからこそ誰もが勇者の言葉を聞き入れるのだから。

大切なものが増えたからこそ、誰よりも強くならなければ行けなかった。

 

 

 




ファンタジー世界でトップランキング料理の串焼き。
でも、ドラゴンの肉とか食べてみたいけど、美味しいんだろうか。
トカゲの肉だと思うと、うーん。というかそもそも、噛み切れるのかなあ?
硬いのは皮だけで中のお肉は柔らかい可能性もあるかー。


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082 海の上の戦い

 

「波が起こる」

 

交流を深めるためもあり、勇者パーティーは一つの高級宿に宿泊していて、情報交換もあり、朝や夜の食事は一緒に取ることが多い。

数日ぶっ続けで戦い続けていたが、ラフタリアやガエリオンの精神的な疲労感が高まっており、一度引き上げてきたのだ。

熱い風呂に柔らかい寝床は張り詰めていた戦いのスイッチを簡単に切る。

ぐっすり眠って疲れは取れた。

 

さて朝食だと食堂に行くと尚文に手招きされたのだ。

そこにはすでに三人の勇者も集まっている。

 

「波? って行っても、まだ時間あるんじゃなかったっけ?」

「そうですね。まだ先のはずです。勘違いしたのでは?」

「なにか根拠はあるんだろ?」

 

ああ、と続ける尚文。なんでも潜水可能なスキルが付いたキグルミを着て海の中で神殿を見つけらたらしい。

そこには砂時計があり、波が来るとわかったとのこと。

キグルミ装備自体は手に入れていたが、当然着るシーンなどもなかった。

目の前にいるこの男がキグルミ着て海をパシャパシャしていたと思うとちょっと笑いがこみ上げる。

 

「すでにメルロマルクに戻り、メルティ王女には伝えている。海戦になるだろうからと船を何隻も用意してくれるそうだ」

「それはありがたいけどねー」

 

ちらりと見ると、元康と樹がやや嫌そうな顔をしているが、それなりに平気そうである。

もしかしたらこのカルミラ島生活で平気になったのかもしれない。

 

(単純にそういう武器を手に入れただけかもしれないけど)

 

勇者武器はそういうスキルがもりもり手に入る辺りが楽というか羨ましい。

俺はもっと苦労したのになあ、と言う感じである。

 

逆に錬は全く克服できていないのか、真っ青である。

 

「……キグルミ売ってやってもいいぞ」

「いらんっ!」

 

そこであげるとも貸すとも言わないあたりが尚文である。

きぐるみ来た勇者というのも和むが、戦場でその姿を見せるのはマイナスが大きいかもしれない。

 

というか。

 

「錬ってもしかして泳げない?」

「お、泳げる」

「まあ、溺れても暴れなければ助けてあげてもーー「俺は泳げるっ!」……ならいいけど」

「俺は船では酔ったけど、泳ぎは行ける方だぜ!」

 

ライフセーバーやったこともあるぜ! 人工呼吸も任せろと胸を叩く元康に、錬は唇を押さえてより青くなった。

いっそ可愛そうなほどである。

 

「……まあ、今回錬さんは戦力外として、船からの戦いなら僕が最適ですね。任せてください!」

 

まあ、実際近距離中距離のスタイルになる剣と、受け身な盾は活躍の場は小さいかもしれない。

 

「ユウさんは、ユウさんは、まあ戦えるんでしょうけど」

 

もちろんである。海を埋め尽くすような魔物の大群を見て、熱魔法を最大威力で放ってグツグツに煮たこともある。

海鮮鍋の如く匂いの香る戦場を勝ち抜いたこともある。

 

「まあ、倒してくれるならそれでもいいさ。今回は守るべき民も家もない。遠慮せずにいこう」

「ああ!」

「ええ」

「……わかった」

 

発見者ということもあり、今回の作戦を尚文が主導しているが、特に反論もないようだった。

俺としてもまだ姿を見せていない波の魔物相手に反対するほどの意見もない。

戦いは基本的にはガオリオンに乗っての戦いとなるだろう、であればこちらとしては困るところもない。

 

グラスは参加するのだろうか。

そして、結局経験値上げにばかり頭がいっており、まだグラスの仲間に会えていない。

 

「はいはい」

「ハイは一回でいい」

「はーい」

 

**

 

勇者も色んな場所での戦いを経験しているだろうが、海の戦いは特別である。

なにせ、船を落とされると足場を失ってしまう。

足場がなくなるとどうなるか。人は海中で戦えるものではない。

重い鎧、まとわりつく衣服。

抵抗できない中、狙ってくる魔物たち。

 

全く油断できるところはない。

 

「楽勝だったな」

 

だが、レベルを上げて物理で殴るはすべてを超越する。

      ……ときもある。

 

船団のように並ぶ大きな船。空が赤く変わり、波が始まり……現れた巨大な海の魔物は勇者たちの集中攻撃を受け、あっという間に死滅した。

カルミラ島前の勇者達ならもう少し苦戦したかもしれないが、強化法を共有しあったあとであり、経験値を大きく得られたあとであったのが幸いした。

また、魔物も潜水して船を下から攻撃する、などと言った凶悪な攻撃はせず、真正面から海面に頭を出してくる素直な敵だったこともあった。

 

「強くなったなあー」

 

まずは皆のお手並み拝見、などと思いながらガエリオンの上で雑魚を倒していたらその間にボスは死んでいた。

ただ、収穫はある。

尚文の肩をバシバシたたき、楽勝だったな、盾の坊主! と笑っている赤毛の男がーー鎌を武器にしていることだった。

 

 




原作では船に直行→弓を撃つが回避→潜水して船攻撃ですが、初撃で集中攻撃した結果、簡単に倒されてしまいました。

まあ、強化法共有の上、ラルク&テリスコンビも味方してるからね、しょうがないね。

おかげでとある少女が機転を利かすシーンが消えることに。

「ふえええ!? リストラですかああ!?」

原作と違い正当解雇に……??


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082 捨てられぬいぐるみ少女

 

「いやあ、噂に名高い刀の勇者様の戦いを見れなくて残念だ」

 

波のあとの祝賀祭ということで、誰もがたらふく酒を口にしていた。

波の力での世界渡りは波が終わったあともできるのかできないのか。

それでも、彼らは今もここにいる。

尚文と一緒に酒につまみにと食事を楽しんでいた彼らだったが、ユウが近づいてくると目が探りを入れてくる。

その様子に不審なものを感じたのか顔をしかめる尚文。

 

「ちょっとそこの二人と話したいんだけど、いい?」

「……勝手にしろ。誰と話すなんて俺の決めることじゃない」

 

そう言うと腰を浮かして舞台の上で楽しそうに歌っているフィロリアルのフィーロの元へと歩いてゆく。

その足取りはあれだけたらふくお酒を飲んでいた割にはしっかりしている。

どうも酒には強いらしい。顔色にも全く出ていない。

 

「グラスの嬢ちゃんが世話になったな」

 

一瞬どきりとするが、抱いたことへの文句ではないようだ。

特にマイナスの感情は見えない。

 

「俺は鎌の勇者ラルク。こっちはテリスだ」

「よろしく」

 

青に近い青緑色の美しい髪が光にきらめく。ラルク自体おせっかいなお兄さんキャラという感じだが、テリスはお姉さんという感じだろうか。

落ち着いた物腰と優しげな眼差しがポイント高い。

腕も悪くない。おそらく今この瞬間襲いかかったとしても、一撃はしのいで見せるだろう。

こちらの世界はレベルによる補正が強くてイマイチ総合力を測りかねるため、どの程度価判断しづらいが、グラスに負けず劣らずと言った感じに見える。

技術経験は四聖を超え、レベルなどのステータスはトントンかやや下だろうか。

 

「早速だが、酒をお預けされながら長々腹のさぐりあいなんてしたくない。何が聞きたいんだ?」

 

手元にあるコップの中の氷が溶けてカランと音を鳴らす。

 

「女神について知りたい。一体どういう存在で、信頼できるのか、そして何よりも会う方法がないかだ」

 

俺をこの世界に送ったという張本人。何を考えているのかがわからない。

単純に波を勝ち抜きたいならそもそも彼らの世界に呼べばよかったのだ。

わざわざこちらに配置した理由が知りたかった。

 

「それについてだが、こっちに来る前、夢で本人から伝言を頼まれてる。ーー『絆の救出を果たしたときに会おう』ってな」

「絆さんは私達の最後の四聖。こちらとしてもなんとしても助けてほしいの」

 

グラスからお願いされていた四聖勇者の救出。しかし、そのためには波を利用し、向こうに渡らなければいけない。

心配しなくても向こうに行っている間は俺たちがこの世界を守るぜ! と言ってくれている。

 

彼らからは勇者らしい誠実さを感じる。嘘はないと思う。

はっきりいって彼らと俺には大きな実力差がある。三人がかりであろうと問題なく踏み潰すことができるだろう。

彼らからしても俺は敵に回したくない相手のはずだった。

 

「わかった。波でそちらにいくよ」

「よしきた」

 

こうして女神に会うために→向こうの四聖勇者を助けるために→波で向こうの世界に向かうことになった。

ゲームのお使いイベントみたいである。

 

**

 

「お!? おおお、いいタイミングだ、任せた! ユウ!」

「はっ?」

 

波を終えたあと、再びブートキャンプは開始された。

魔物と戦い、仲間のLVが上限である100に達した。

だが、そこは終着点ではない。

 

レベルを下げ、再度育成し直すことで初期値に大きなボーナスをためてから育成し直すことができる。

戦って戦って、戦った。

回復しながら戦ってここらの魔物を簡単に倒せるようになったら、回復せずにギリギリまで追い詰めて戦わせる。

簡単に倒せるはずの魔物相手に体の動きが鈍って攻撃を受けるようになってゆく。

だから、考えるしかない。

限界に至ると人はどうすればこの局面を解決できるか考えて動く。

 

ラフタリアとガエリオンは次第に合図なしに連携を行い始め、ふたりとも効率的に敵を殺すようになっていく。

一太刀で命を絶ち、魔法一つで複数の敵を屠る。

敵すら利用して状況を有利に運ぶ。

そうしないと不利になるだけだからこそ、工夫が生まれだしていた。

レベルに存在しない経験を積み始めていた。

 

二人の思考のにぶりが極限まで至った。いつ気絶してもおかしくないところになった時点で戦闘を切り上げる。

気絶するまで戦わせることは可能だったが、そうなっても俺が助けてくれると頭に刷り込むのは危ういことだった。

剣を杖のようにつこうとするラフタリアにそれじゃあいざとなったらふるえないだろうと叱ってから宿に戻る。

倒れるように二人は部屋のベッドに倒れてしまった。

今までは他の勇者と一緒のレベル上げしかしたことがなかったから仕方がない。

 

一人で大浴場に向かい、汗を流したところでーー槍の勇者に出会った。

元康のすぐ隣には弓の勇者樹のパーティであるリーシアがいた。

輝く緑の髪はどことなくくすみ、ぴょこぴょこはねている二つのみつあみはしんなりとしている。

彼女自体はボロボロと涙を流しており、鳴き声を上げていないのが不思議なくらいである。

 

「どうしたのさ?」

「い、いやー、なあ?」

 

ちらりと視線をリーシアに向けるが、その表情は涙でぐちゃぐちゃでぶちゃいくである。

化粧が薄いのかしてないのか、絵の具をかき混ぜたようにはなっていないのが救いだろうか。

 

しかし、どうしたのだろうか。

元康は割合ライトな恋愛関係を好むようだが、別の勇者の仲間を抱いて孕ませてしまって困っているのだろうか。

自分としても一度とはいえ、抱いた相手なのでリーシアには情がないわけではない。

 

「……責任は取るべきだと思うけど?」

「せ、責任!? 違う違う。俺も泣いてたこの子を見つけて声かけたんだけどさー、ちょっと苦手なタイプで。その……任せる!」

 

そういって逃げてしまった。

その逃げ足は驚くほどに早い。

あっという間に姿が見えなくなってしまった。

 

「ふぇええ……、私なんて、わたしなんてだめな子なんですぅっ……!」

 

リーシア=アイヴィレッド。

規模の小さい貧乏貴族の娘ではあるものの、貴族の娘であり、勇者の仲間である。

しかし、今のカッコは鎧や腕輪の一つも装備していないラフな軽装で、涙で胸元までぐっしょり濡れており、山賊にでも剥ぎ取られたあとのようである。

 

ともあれ、泣いているところを見られるのはよろしくない。適当な個室に連れ込む。

ムリヤリする趣味がないせいで、個室に二人っきりでも慰めてほしいとでも言われない限り抱いたりするつもりはない。

話を促すとぶええと幼児のように泣き始めて困惑である。

 

「えと、樹と何かあったの? 作戦、だめだった?」

 

元康でないなら犯人は樹である。

仲良くなれると言いくるめて抱いたところもあるので、ちょっと罪悪感が湧いてくる。

 

「い、いえ、ちゃんと、ちゃんと樹様とほんの少し仲良くなれましたぁ」

 

あれがこれでああなんだとシーンも状況もごちゃごちゃの中話し始めたが、どうやら距離は縮んだようである。

正直、樹との仲が深まったというよりは、リーシアが男に慣れて近づけるようになったという感じのようだったが。

 

「じゃあなんで?」

「ううう、鍛えても、鍛えてもわたし、強くなれなくてぇ……首にされちゃったんですぅ……!」

 

なんでも、弓の勇者の樹の必要とするメンバーは盾にもなる前衛である。

魔法の才能もあったが、リーシアもまた前衛側にクラスアップを果たし、カルミラ島でレベルも上げたのだが……

 

あまりにも弱すぎたそうなのだ。

そもそも、樹のフィロリアルのブラックなんちゃらのクロちゃんが強すぎたそうである。

樹を乗せながらも狙いやすくする補助動作、高起動能力による回避。

近づかれた場合のキックによる攻撃力。

正直純前衛職である戦士のヒゲおっさんですらどこまで役に立っているのかという状況で、格別に低いステータスを誇るリーシアは足手まといになってしまったという。

 

「あんなの、あんなの反則ですぅ……!」

「な、なるほどー」

「盾でも、何に使ってもいいって、使ってほしいって言ったのに、言ったのにい……!」

 

ふええと鳴いていた生き物はぶええとなく生き物にクラスチェンジしてしまった。

 

 




勇者のフィロリアルはクソ強いからね。しょうがないね。
しかも弓の勇者に最適な攻撃しながら移動可能で、接近戦も行えるとか……。

原作で尚文はリーシア鍛えましたけど、あくまではめられ追放だったからっていうのが強いから、この作品だと尚文が知っても仲間にしたりはしなさそう。


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083 捨てられ少女のリサイクル法

 尚文のフィロリアルのフィーロを見ればわかるが、彼らは小回りがきく割には強力かつダイナミックである。

 奴隷と同じく成長補正も簡単に効かせることができるので、成長も早い。

 種族の暴力で防具なんてなくても強い。

 さらに言えば人化で人でないとできないことがだいたいできてしまう。

 

(トロそうだしなー)

 

 リーシアはどう見ても校内マラソンで一周二週の差をつけられてチャイムが鳴るまで走り続けるタイプである。

 過去の勇者経験ではそもそも優秀だろうがなんだろうが孕めば前線から下がるので戦力なんてどうでもいいというか、料理や寝床の準備さえできれば仲間の強さなんでどうでも良かった質ではあるが、現代中学生としてゲームで学んだ感覚はある。

 その知識が言っている。

 

 使えない仲間は酒場送り。

 よくあるやつである。

 

 戦場で出撃されるパーティ人数に限りがある以上、下位互換は上位互換キャラが来た瞬間に下げられるものである。

 聞いた話から特に苦手属性なく幅広く魔法が使える便利枠っぽいが、得てしてこういう万能キャラはどっちつかずで確かに使えないことが多い。

 せめて魔法に特化すれば生きる道もあったかもしれないが、前衛不足からの戦士系クラスアップではステータス的にもとどめなのだろう。

 

 ゲームではないが、ゲームでよくある『クラスチェンジミスしたユニットってやっぱり育てられないよね』と言う感じである。

 

「えっと、故郷に帰ったら? 戦うだけが人生じゃないよ……?」

 

 世の中選択肢はたくさんあるものである。

 あえて戦いの場に身を置く必要もない。

 樹に助けられてついてきたらしいが、本人に不要とされたのならこれもまた機会である。

 

「ぶええええっ!! 樹様のち゛からになれ゛ないなんて、じんだほうがましですぅ~~~!!」

 

 いつきさまのためならいのちだっておしくないのにと幼児のようにわんわん泣き続け、疲れ果てたのか寝てしまった。

 夢でも捨てられているのかシクシクと泣いている。

 

 正直、勇者は遊びではない。

 覚悟が要求される上に実力も求められる。

 お情けで連れていけるかといえば否である。

 少なくても、ラフタリアはそういった気持でついてきてくれている。

 

 だが、もったいない。

 あれ程慕っていて、命の危機であろうとついていきたいと言っていのだ。

 

 かつて勇者だったときだったら踊りながら受け入れて100人くらい子供を産ませていたかもしれない。

 それにだが、初期パーティーから色々入れ替えているせいか、今の勇者パーティはクセが強い。

 元康の仲間は後方で応援とバフばかりだし、錬の仲間は錬を崇拝しちゃっているし、樹の仲間は皆、目の奥に打算が見える。

 

 元康のパーティーも結構怪しいが、樹のパーティーの信頼度は結構低めである。

 錬の仲間のように慕っているわけでもないのに正義の御老公ごっこに笑顔を貼り付け慕っていることを考えればどの程度かはわかるだろう。

 そんな中、リーシアの純粋に彼を慕う点はポイントが高いだろう。

 

「仕方がない」

 

 他の勇者の仲間を鍛えるなんてお人好しすぎるが、現状ラフタリアとガエリオンはもう上限に近い。

 これ以上は竜が知るというLV限界突破の秘術を得ないと頭打ちになる。多少早いか遅いかである。

 回り道が力になることもあるだろう。

 

 **

 

「たのもーう!」

「か、刀の勇者! 何だ貴様、ここは樹さまの部屋だぞ!」

「おや」

 

 首にしたとはいえ、リーシアは弓の勇者の仲間である。本人に確認と許可をもらうべきだろうと考え、彼らの部屋へとやってきたのだ。

 ソファーに座り、優雅に紅茶を口にする樹を見つけ、近づこうとすると口元のヒゲが特徴的な甲冑男のモルドに阻まれる。

 ムッとしながら樹に要件があると伝えると、渋々横にどかれる。

 部屋の樹は誰か来るかと思ったがあなたかと目が語っていた。

 

「どうしましたか? 僕も暇ではないのですが」

「そんなに時間は取らせない。リーシアのことだ」

 

 そう伝えると、紅茶のカップを静かに下ろした。

 

「僕も彼女のことは評価していましたし、辛抱強く彼女が強くなるのを待ちました。本当であればカルミラ島に来る前にパーティーから外したかったのですが、最後の機会と思って連れてきたのに、彼女は強くなれなかった。ですから、彼女のためを思ってパーティーから外れていただきました」

「なるほど」

「それに、彼女はちょっと他の仲間と合わないみたいですし。正義のために戦う僕たちにあれこれうるさく言うことも多くて」

 

 女王の影は樹に殴るべき悪徳貴族や盗賊などの情報を与えていたが、どう行動するかは樹たちに任されていた。

 樹の前で行うことはなかったが、モルドが何者かに金銭を渡されているのを見たことがある。

 手慣れた様子を考えれば初犯ではありえず、そんな彼らの行動に注意して煙たがれるリーシアの図は簡単に思い浮かぶ。

 彼女はそれなりの格の家のわけで、バカではない。

 

 真に自分を想う仲間を外して、彼らを養護する姿は哀れに見えるが、『勇者は女神の遣わした信仰対象』という常識の中であっても命の危険がゼロでない中ついてきた仲間をかけらも信頼できずにだたの女としか映さなかった自分の言えることではないかもしれない。

 男として恋人として見ていなくてもこちらを思ってくれている人はいたかもしれなかったのだから。

 

 しかし、

 

「それはしょうがないな……」

「ええ、そうでしょう? 僕は悪いことをしたとは思っていませんよ」

 

 やはりそのまま仲間でいてもらうことは難しそうだ。少なくても強さがなければ行けない。

 同意を返したことに我が意を得たりと大きくうなずく樹。

 

「じゃあ、リーシアもらっていい?」

「え……」

「仲間にしようかと思って」

「い、いいですが、足手まといになっても知りませんよ……?」

「現状だと誰を仲間にしても足手まといスタートなのはしょうがないさ」

「鍛えた上で、となると別だと想うんですが」

 

 何が理由なのかわからないが、どことなく嫌そうである。

 仲間が引き抜かれるような気持ちか、強くなって見返される可能性か、小さく不満と嫌悪が顔を出している。

 本人の自覚があるかはわからないが、全く思うところがないわけではなさそうだ。

 そもそも、カルミラ島まで連れてくるくらいには期待はしていたのだろうし。

 口うるさいというのも強くさえなればなんとかなりそうな範囲のようである。

 

「役に立ちたいんだってさ。盾でも何でも使ってほしいって──「そうですか。そこまで言うなら勇さんが連れて行ってください」──え?」

 

 だから、育ててみようかと。いつか強くなったらまた考えてほしいとつなげようとすると不快そうにふんと鼻を鳴らす樹。

 

「あ、え?」

「話は終わりですね。では出ていってもらえますか?」

「へ、あ~と」

「おい、樹様が出て行けといっただろうっ!」

 

 モルドに突き飛ばされるようにして部屋から追い出されてしまう。

 

「一体どこが地雷だったんだ……?」

 

 できれば強くなったらいいですよと確約を得たかったがこうなったら仕方がない。

 強くしてからもう一度話すしかないだろう。

 

 ため息を付きながら部屋に戻ると、そこはすでに蛻の空だった。

 

 




樹は原作よりはリーシアと心の距離が少し近いので仲間にすることに不快なようです。

樹「(勇者なら誰でもいいのでしょうか……すこし、不愉快ですね……)」

次回はリーシア改造計画。
__

原作では尚文が元康にリーシアの事情を聞きに行くのでそれを参考に
元康のところに行くが席を外していてその間にマインと怠け豚エレナさんとエロス、と思っていたのに、いざ書いてみると……。

原作と違い樹パーティにはめられた→勇者の醜聞にもつながるのでリーシアは事情を話さない→尚文は情報収集し、自分と同じくはめられたと気づく→身投げしたリーシアに悔しくないのかと怒り、鍛えることにと言う流れ、でしたが。

力が足りないのが理由の解雇→リーシア赤裸々に話す→元康を通す必要がないので直接樹に確認する→力がないなら鍛えるかに。

プロットはふんわりと書いてるので、時々想定と合わなかったりしますw



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084 ブートリーシアキャンプ

 

「いったいどこに!?」

 

部屋に戻るとそこにはリーシアはいなかった。

どこを探してもいない。

部屋を出てドアを見ても、部屋を間違ってはいない。

自室に戻ったのだろうか? リーシアの部屋を見ても、そこには荷物一つない。

 

「うーん」

 

生命感知は引っかかる数が膨大になるので、街だと役に立たない。

勇者のようにマークしていれば見つけることも可能だが……。

強さで絞ろうにもここはカルミラ島。

経験を積むための冒険者達が山程集まっている。

リーシアはレベルの割にはステータスが低いこともあり、検索条件が指定しにくい。

 

聞き込みをしながら歩いていると……。

 

「あ、尚文。それって……」

 

濡れ濡れのリーシアをフィロリアル姿のフィーロが背中に乗せている。

彼女の手や髪からはポタポタと滴っていた。

彼女からする磯の香り、死んだような暗い瞳を見てまさかと思い当たってしまう。

 

「え、身投げ?」

 

それに対して尚文はめんどくさそうに「ああ」とだけ答えた。

 

「で、お前こいつどうする気なんだ?」

「尚文はどう思う?」

 

聞いてるの俺だろ……と頭をかきながら尚文はリーシアに同情半分の視線を向ける。

 

「話は軽く聞いた。けど、仕方ないだろ。実力が足りてないっていうのはパーティーから外すまっとうな理由だ。危険だってある。それに俺と違って樹は幾らでも募集すれば入りたいってやつはいるだろ。なのに、今のレベルになるまで面倒見た上で使えないならまあ、しょうがないだろ」

 

赤裸々に語られる言葉にリーシアがポロポロと涙を流す。

 

「その上で、強くなりたいならそこの親切な女好き勇者に頼むんだな。フィーロ、渡してやれ」

「はーい!」

 

ぐったりとした彼女の体は柔らかく力が入っていないせいでぐにゃりとしていて支えにくいので抱き上げる。

 

「ふええ」

「まあ、お礼を言っておくね。ありがとう。樹から仲間にする許可をもらってきたのに部屋にいなくてあせったよ」

「ふえ……」

「まあ、お前が育てると言うならなんとかなるんだろ。じゃあな」

「刀の人ばいばーい」

 

面倒事はゴメンだとばかりに大きくため息を付いて去っていく尚文とフィーロ。

もうひとりはラフタリアのところ辺りだろうか。

抱き上げながら歩く。

 

「それで、どうする? 故郷に帰る? それともーー強くなって樹を見返す?」

「それはーー」

「強くなりさえすれば、役に立つようになれば、扱いはさておきパーティーに入れてもらってたんでしょ?」

「ーーはい、私、強くなりたいです!!」

「何でもする?」

「はい! 強くなるためなら、なんでもします!」

 

ーーその言葉が聞きたかった!

 

**

 

「うわあ、これはひどい……」

 

パーティーに入ってもらってステータスを見たがこれはひどい。

はっきりいってザコザコのザコである。

しかも、近接職向きのクラスアップしたせいか、全ステータスが平均的だ。

平均的にザコのため、救いようがないタイプのザコである。これは弱い。

全属性の魔法が使えるが、その魔法がステータスのせいで全く有効に働いていない感が強い。

これはひどい。

 

「ふえええっ!? やっぱり私ダメですかー?」

「まあ、とりあえず色々試すか……」

 

**

 

あなたは自分に向かってくる野球ボールに対してどう反応するだろうか。

打ち返す? 避ける? 防ぐ? それとも、何もできずに棒立ちになるだろうか。

危険に対する瞬間的な反応は、やはり適正と言っていい。

鍛えることで変更もできるが、根本的な反応ではあるのだ。

リーシアは立ち尽くした。

 

軽く投げた玉で痛みはないが、それでもやはり前衛向きの正確ではないというのがよく分かる。

逆にーー

 

「あ、また負けた」

「私の勝ちですね!」

 

最初は負けに負けたポーカー。

しかし、勝ち方を教えてみると一気に勝率が変わる。

捨てられていく山札と、残りのカード。それを元にした確率計算。

 

「次はこの砂時計。30秒で落ちきるから、その前にストップと言ってね」

 

9割野確率で30秒ピッタリ当て続け、残りの1割も29秒といったところだ。

手前であり、オーバーしていない点も好ましい。

 

「バフ、デバフ役がいいかもね」

「バフ、デバフですか?」

 

そもそも、フィロリアルに騎乗の上、弓を撃つスタイルの樹に役に立つことを考えると枠は少ない。

敵を阻む盾、傷つく仲間を治すヒーラー、弓の効かない敵へのマジックユーザー、弓自体を強くするバッファー、敵を弱くするデフバッファー辺りだろう。

判断はできるものの、運動神経が死んでいるリーシアに盾は難しい。

ヒーラーはそもそも怪我がなければ活躍の場がなく、樹のパーティーは前衛が防御に徹するため大きな怪我が少ない。

そもそも、彼女の唯一の利点である全属性が行使できる点を見逃す手段はない。

 

俺や尚文のように、全ステータスを向上させるオーラ系は楽ちんだが、上昇率が低く、各属性にある攻撃力や防御力だけを上げる魔法はその分強化率が高い。

誰に何をかけるかという判断力と、必要なバフ、デバフを継続してかけ続けるための時間間隔は十分にある。

 

「じゃあいくか」

「行くってどこですか?」

「王都で奴隷契約してからLVを1に戻そう」

「ふえええ!?」

 

言葉が頭に届いた瞬間にリーシアは駆け出して……瞬間捕まえた。

 

「イツキ様たすけてええ」

「強くなるためだから! 強くなるためだからっ!」

「お、おかあさあああんん!、おとおさああん!! いつきさまあああ!!」

 

先程までとは別種の鳴き声が上がった。

逃げられないよう体を押さえつけると観念したのか、目から光が消えていた。

 

 




ん? 今なんでもするって?

でも正直、仲間になってすぐのラフタリアレベルのステータスって相当ですよね。
大器晩成で70から追い上げるみたいですけど、通常のLV限界が100だと考えると……むしろよく頑張って育てたなレベル。
樹もなんだかんだで純粋に慕われて気に入っていたんだろうなーと感じます。
その代わり、限界突破と気を操る技術を得た途端トップクラスに躍り出るバランス崩れたキャラ…。

ゲームなら隠しダンジョンで初めて評価が好転するキャラって感じですよね。ヒドイ。


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085 おかあさん、わたしこれから奴隷になります。ふええ……

奴隷。

 

人でありながら所有の客体……すなわち所有物とされるものを示す。

人としての権利が認められておらず、契約内容にその権利を更に縛られる。

 

 

Lvリセット。

 

レベルとはその者が今まで積み上げてきた人生の結果である。

レベルは魔物と戦うことであげられるが、命をかけて得てきた結晶でもある。

クラスアップ効果も消え、完全に生まれたばかりの状態に戻る。

奴隷ですら保持できる今まで生きた証を奪う恐るべき行為である。

 

「それをうばうなんてえええ」

「だから、強くなるためだって」

「あの、ユウ様、無理強いは良くないんじゃ……」

「強くなるためなの。勇者の加護がもらえるんだから喜んで奴隷になるべきなの」

「喜んで奴隷になんてなれませええん!」

 

龍刻の砂時計の効果で手に入るテレポートで一足先に王都に戻り、国と教会に許可をとったのにこれである。

奴隷になってもらうだけで契約で縛ったりしない、と言っても拒否感が強いようだ。

そもそも奴隷もレベルダウンも罪人が受けるものという意識が強いらしい。

どうにも日本人であった自分にはゲーム的な要素として軽く感じてしまう。

まあ、日本で無職の人に前科つくけど正社員にしてあげるよと言われたらまず別の会社を探すのと同じだろうか。

 

「でも、勇者の加護を一番受けられるのはその存在を勇者の”モノ”にする奴隷か従魔か。向いていない方向にクラスアップしてしまった以上、このままどれだけレベルを上げたところで勇者どころか、その仲間の後を追うことすらできない。俺は必ず君を強くする。でもそれはリーシアに強くなれるなら何でもすると言うならだ。弱いまま樹と一緒にいたいと言うなら、家に帰って勇者に縁談でも申し込めばいい」

「それは……嫌です。私は……一緒にいたいんじゃなくて樹様のお役に立ちたいんです。ーー一緒には、いたいですけど……」

 

ならばこれ以上言うことはない。

どう考えても実力不足で捨てられた人間が、落ちぶれた人間が返り咲こうとするなら今の自分を変えなくてはいけない。

 

今のリーシアには過去のリーシアを捨てる覚悟がいる。

そしてその覚悟は自分の意志で示さないといけない。

 

誰も口を開かない静かな時間がすぎる。

リーシアは顔を上げる。

 

ーーその瞳には強い光が宿っていた。

 

「覚悟ができました。……何でもしますっ! 私を! 強くしてください!」

「その言葉が聞きたかった!」

 

2回目だが、今度こそ本当の何でもするだ。

とはいえ、あくまでしたいのはシステム上のステータスとしての奴隷なので、随時奴隷としての模様が浮かぶ安い奴隷契約ではなく、貴族などが訳合って契約で縛るための普段は奴隷紋が浮かばないタイプの契約を行う。

これで教えなければリーシアが奴隷であるとは気づかれないだろう。

 

ステータスを確認し、リーシアが俺の奴隷になっていることを確認する。

そのまま龍刻の砂時計の元へ行き、教会の協力でリーシアのレベルをゼロへと戻した。

 

「ふええ。体に全く力が入りません……」

 

人差し指をさしだして握ってもらうが、赤ん坊かというぐらいに力がない。

乱暴に振り払ったら折れてしまいそうな気持ちになる。

 

一見すべてをなくしたリーシアだが、その胸に燃える心が残っている。

これさえあれば今度こそ羽ばたく力を得ることができるだろう。

 

「じゃ、レベル上げを開始しようか」

「はいっ!」

 

**

 

再びカルミラ島に戻りあと僅かな活性化の期間を駆け抜けたが、活性化が終了してしまった。

カルミラ島で体験した他国で起こっている波に興味が出たというのもあるが、女王の手引で各国の波情報を得た。

毎日各地の波を駆け回り、魔物を倒しては倒しては倒した。

 

波から次の波への移動中の魔物を狩り尽くしては走る。

数日間戦いっぱなしだが、レベルは上がった。

 

「ふええ、前の5倍以上は強いです!!」

 

レベルが40になり、クラスアップで後衛職をとった。

前衛職を取ってHPや腕力にプラス、魔力やMPなどにマイナス補正がかかっていた頃からすれば2倍程度に。

そのまま70程度上まで上げ、今度は勇者の力でレベルを1に戻した。

 

初期値に加算がつき、クラスアップ後のクラスの成長率でステータスが向上。

(その分腕力などは強くなった今でも幼女だったラフタリアとさほど変わらないレベルのままだ)

 

結果、レベル自体は75とレベルダウン前とそこまで変わらないにも関わらず、元の5倍以上となった。

だが、それでも……それでも魔法剣士型で攻撃・魔力と両方に秀でる特化型でないラフタリアに全体的にステータスが落ちるあたりがとても悲しい。

 

唯一の救いは彼女が大器晩成だということがわかったことだ。

70くらいから一つ上がるごとにクソのような成長率だった頃に比べて大きくステータスが上がるようになったのだ。

このまま行けば、LV100(人類上限値)になる頃にはラフタリアに迫るどころか超える……ステータスもあるかもしれないレベルである。

 

最大値でようやく追いつくような追いつかないようなレベルの資質がもの悲しい。

だが、ガエリオンに竜帝のかけらを与え、竜族の秘術で上限を突破できれば……。

LV100からはボーナスモードである。

であるが、彼女は俺のパーティーではない。そこまでするかは未定である。

とはいえ、現時点でもステータスについては非奴隷の勇者パーティーの仲間を超えていることは確実だ。

 

「こ、これでイツキ様もっ!」

「いやいや。能力上げただけじゃん」

 

ステータスが上がり、全属性の魔法が生きることになる。

だが、ゲームをやったことがある人間ならわかるだろうが、例えば、前衛が怪我をした瞬間に完全回復魔法を連打するやつやどう思われるだろうか。

魔力はあっという間に底付き、なのに魔物に注目され、真っ先に狙われる。

そのクセ、体力も低くて魔力も空だから逃げることもできない。

 

回復させるお前こそが回復が必要じゃないか。そうなった果てには不要の烙印が押されることだろう。

そして、ステータスがあるのに役立たずとなれば二度目はもうない。

 

魔法には面白い物も多い。

属性のエンチャントや、属性耐性の低下、毒や麻痺などの異常状態付与や、足止め、障害物の創造。

ぶっ放すだけの魔法の効果以上の結果を出す補助魔法の存在。

 

だがそれもどんな相手に何が強くて、何が弱くて、いつ何をすればいいのかという自分の中の手札の整理が必要だ。

言ってしまえば戦闘経験値が必要である。

ここから本当のLV(強さ)を戦闘であげなければいけないのだ。

 

**

 

「ふええ、すみませ~んっ」

 

自分が急に得た力への全能感に、やや半信半疑だったリーシア。

ラフタリアとガエリオンと模擬戦をやらせればステータスは同等、と言わないまでもある程度追いついたはずなのに全く怪我を負わせることなく沈んでいく。

これは当然の結果だ。何をするにも判断が遅いのである。攻撃を避けてから何をしよう、魔法を唱えようと足が止まるのだ。

無限のように増えた選択肢に何をすればいいかの手が止まってしまっている。

 

ゲームで言うなら魔法メニューを選んだあと大量の魔法名に下ボタンを何回も押しまくってようやく目当ての魔法を使おうとするが魔物にポカポカ殴られる感じだろうか。ゲームだったらメニュー選択時は戦闘を止められるかもしれないが、現実は無慈悲に攻撃してくる。

 

「まあ、一旦戻ろうか」

 

レベルは経験値さえ稼げば上がるが戦闘経験は良質な戦いを経験しないとたまらない。

自分と二人であれば苦戦することがない。一生強くはならないだろう。

後衛の補助戦闘スタイルである以上、他人の戦いも知らないといけない。

どうされると戦いやすくて、どうされると助かって、そんなコミュニケーションを行えるようにしなければいけない。

 

そこも鍛える必要がある。

 




何年もかけた成果が消えるんだから勇者から見た奴隷化、レベルダウンと現地の人の間隔は大きく違いそうですね。

新卒から十年以上かけて努めてきた会社をクビになった上に貯金がゼロになるみたいな?

読者視点だとどうしても軽くなりますけど、尚文が信頼できるならと奴隷のままだったラフタリアの気持ちは結構重いものですよね。


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086 わたし、かわりたいんですぅ……!

 

私はーーリーシア=アイヴィレッドはメルロマルクの貴族家に生まれた娘でした。

 

これと言った特産物がないものの、自然豊かで食べるだけならそう困らない土地で、そのせいかみんな穏やかで貧しくても幸せに生きられる性質の人たちでした。そんな日々が変わったのは隣の領主から嫌がらせを受けるようになったときから。

領民から絞れるだけ絞る彼はこちらに嫌がらせをしながら選択を迫ってきました。

 

娘をよこせ。

 

贅に超えたまるまると太ったからだ。情欲に染まった瞳。

視線は口にしたあとの味を思い浮かべているようで、つばをすする音が嫌悪を沸き立てました。

 

ああ、食われるのだ。

恐怖のままふるえ続けるしかできなくて、かばおうとする父も母も相手をはねのける力もなくて。

せめて最後までと抵抗を続ける両親にしびれをきらせた領主は私を攫おうとして……

 

そんな私を助けてくれたのが樹様でした。

輝いていました。

勇者である彼の正義が私を助けてくれたのです。

 

私は勇者様についていくことにしました。貧乏であったにせよ、貴族の令嬢が勇者についていくなんて恐ろしいことです。

父も母も私を止めました。

けれども受けた恩に報いたいと飛び出すように家を出ました。

 

それからは、辛くも楽しい日々でした。仲間になったばかりの上、ステータスで劣っている私はレベルを上げてもドベのままで、皆さんの雑用をすることでなんとか役に立とうと必死でした。

それでも、樹様が誰かを助ける素敵な姿を見ると心が満たされました。

世間知らずだった私はそれを見てようやく自分のようなものは世界にたくさんいるのだと知って、だからこそ樹様を助けることでそんな人達を助けたいとも思いました。

 

ずっとこのまま樹様と一緒に旅を続けられるのだと、のんきにも思ってました。

 

**

 

「勇者様、波をなんとかしてくださりありがとうございます」

「平和を取り戻すことは勇者の役目。このくらいなんともありません」

「まあ、なんて素晴らしい心がけです。であれば助けられる私達の勤めとして幾らかの支援を……」

「ありがとうございます。皆の心が私達勇者を支えてくれています。ーーまたお困りでしたらお声掛けください」

「心の不安が解けてゆくようですわ……!」

 

カルミラ島から一緒にパーティーを組まさせていただいている刀の勇者のユウ様が先程収めたばかりの波の地の領主と会談をしています。

勇者として正義をなし、人々を守った勇者と、それを称える人々の姿はとても絵になります。

時間も時間だったので、泊まっていってくださいという領主の女性にユウ様は頷きました。本日はここで泊まりのようです。

波の戦いは無限のように魔物が湧いてくるので、経験値稼ぎには最適……と一晩でいくつもの波を渡り歩いたため、常に全速力で飛び続けたガエリオンさんは亀がひっくり返るようにベッドの上に寝転んであっという間に寝息を立て始めてしまいました。

ユウ様は特別な部屋でお休みいただきたいと案内されていってしまったので、起きているのは私とラフタリアさんだけです。

 

「……ラフタリアさんが羨ましい」

「私がですか?」

 

自分の何を羨んでいるのだろうと首をかしげていますが、私から見て、ラフタリアさんは羨ましいの塊でした。

強くて羨ましい。美人で羨ましい。頭が良くて気が利いて羨ましい。

 

ーーなにより、勇者様とうまく行っていて羨ましい。

 

時々彼らが言葉を返さずに目だけで会話して行動していることがあります。

ああわかり合っているのだと羨ましくなります。私は樹様に直接命令してもらってもそのとおりに動けないのに。

なのにラフタリアさんはそれを誇るのではなく、うーんと悩んでしまいました。

 

「……私だって信頼してもらえる様になったのは最近だと思います。ーーなんと助言していいかわかりませんけど、ユウ様も、きっと弓の勇者様も一人の人間であることを忘れずに努力すればきっといつかわかり会えるんじゃないでしょうか」

 

なるほど。成功者の言葉は重みが違うように感じました。努力すればきっとわかり会える。

その言葉は安心を与えてくれます。

 

「ーー私! ユウ様に訓練をお願いしてきます」

「えっ? い、いまはーー」

 

ラフタリアさんがなにか行っていましたが、やる気になった私には聞こえてきませんでした。

 

**

 

「あれ、リーシア?」

「ふえっ、なんで半裸なんですか!?」

「え? あー、寝汗書いちゃって。ちょっと風に当たろうかと」

 

ユウ様の部屋へと向かうと、途中で本人と出会いました。

寝ている途中だったのか、パジャマのボタンは一つも止められていなくて、おへそまで見えています。

ユウ様はイツキ様と年も近いしどちらもかわいい顔つきをしていますが、外見より体が引き締まっていました。

近くによるとムワリと男性のもぞもぞする匂いが強く香ります。それに合わせて嗅いだことのない匂いがしました。

ベッドでお香でも焚いていたのでしょうか。

 

「その、ラフタリアさんとユウ様の話を聞いて、私も仲良くしたくなって……」

「へっ? あ、え? で、でも、樹……」

「はい! 樹様と仲良くするためにも、ど、努力しなくっちゃって!」

「ああ、そういう……まあ、いいか……」

 

悪くなって酸っぱくなった食べ物を口にしてしまったように顔をしかめたあと、ユウ様は了解してくれました。

さすが勇者さまです。

 

「じゃ、せっかくだし”仲良くする練習”しようか」

「ふえっ」

 

腰を抱かれ、ぎゅっと距離が近づきます。自然とあの練習の日を思い出して、胸がどきりとなりました。

あれは練習なのにとてもとても気持ちが良すぎたから……。

 

「か、かげん……」

「ラフタリアのこと教えてあげるから」

「ふ、ふええ……」

 

ふう、ふうと自分の息が荒くなっているのがわかる。

練習、れんしゅう。

らふたりあさんとおなじ。

高まる胸の音。イツキ様と仲良くなるためにも頑張らなきゃ。

ただ、胸の中にはイツキ様のためだけではない気持ちが生まれていた。

 

**

 

「ラフタリアは匂いを嗅ぐのが好きみたい。首の匂いとかーー」

 

開いた部屋に二人で入る。ベッドに二人で腰掛けると、ギュッと抱きしめられる。

腕の力が強いのか、強く密着するせいで胸がユウ様の胸にあたってムギュッと潰れる。

心臓の音が伝わってくるくらいに肌が触れ合う。

ムンムンと体温が上がるのがわかり、ツッと首から汗が流れる。

ユウ様は首元にぐっと噛み付くみたいな顔を近づけ、スンスンとわざと鼻を鳴らしながら匂いを嗅いでいるところを見せてくる。

変なにおいしないかな、汗臭くないだろうか。

心配が先立つ。

つうっとユウ様の舌が首筋をなぞる。それだけでゾクゾクと快感が伝わってきてしゃがみこんでしまう。

 

「こっちの前戯の普通がどうか知らないけど、地球の男にとってはクンニは普通だからね」

 

勇者にとってはふつー……。イツキ様にとっても普通……。

ただ、正直故郷でも余り閨の作法について聞いていない。

父も母も穏やかな方で、そういったことは結婚してからお互いで学んでいけばよいだろうという方針だったからだ。

幼少の頃、自分で女性器を触ろうとして、触ってはいけませんと怒られてからなんとなくその手のことへの興味を持たないようにしていた。

住むところが違えば常識が変わるのはわかる。

それに勇者様が子沢山なのも伝説ではよく描かれていることである。

であれば愛し方が広いのも、わからないでもない。

そしてであればこそ、私がイツキ様のやり方を学べるのはユウ様だけである。

 

ちゅっちゅと口淫を交わしていると、グチュっと濡れだしているのがわかる。

今までは自分の体が壊れてしまったのではないかという不安もあったが、段々とそういうものなのだというのが忌避感をなくしている。

唇が慣れだす頃にはいつの間にかもっと深い口付けを交わしている。

絡め取るように、しごくように舌と舌が交わる。

 

口内に流し込まれた唾液は熱く甘く感じる。全力で走ったように心臓が高鳴る。

されるがままはだめだと絡めに行けばその動きも利用するように深く愛撫される。

ダラダラと太ももを伝うネットリとした愛液の存在が高ぶりを伝えてくる。

 

「立ってきてるね」

 

胸をやわやわと触れられるだけで、普段は内側に縮こまっていた乳首が顔を出している。

それ自体自分が興奮しているのだと相手に示すようで恥ずかしさが胸を叩く。

 

「胸を使えるようにしてあげるね」

 

そういって、ユウ様私のあそこに手を伸ばして指でそっと差し込む。それだけで体の芯に雷のような快感が伝わり、ガクガクと足が震える。

そのくせ、待っていたと言わんばかりに腰が動かしてもいないのに勝手に前後に揺れる。

その前後の動きに合わせるように指を動かされる。ブランコで背中を押されたように快感は強く振り回されるようだった。

 

「ふあっ♥」

 

これからもっともっと……けれど、指は引き抜かれてしまう。

膣はギュッと力を込めてそれを拒むが、関係ないとばかりに行ってしまう。

ヌチュッとねとつく水音が響く。

 

「これでいじってあげる」

 

目の前に見せられた手。指どころか手のひらまでドロっと濡れており、人差し指と中指をちょきの形に広げたり閉じたりするたびにねっとりと糸を張る。

それが自分から出たものだと見せつけられて羞恥心をこれでもかと煽ってくる。

 

「リーシアの武器はこの胸だよね。だから誰が相手でも胸でいけるようにしてあげるね」

「ふええっ」

 

とろりとしたその手でにゅっとその存在を主張している乳首が掴まれる。

シコシコ指で優しく上下されるだけで何度も頭が真っ白になり意識が途切れそうになる。

性行為とはこんなにも激しいものなのか。

波を経験して、レベルが上って、それでも全く太刀打ちができないでいた。

けれども、これほどの快楽の波に襲われながらもユウの手付きは優しく、少しずつその快楽を享受できるようになっている。

その分、絶頂はより深く、高まっていた。

 

優しく導かれている。

 

その心地よさに導かれながらも、リーシアはかつて令嬢としてダンスの手引を受けたことを思い出す。

ダンスはお互いの気持が合わさるから美しく舞えるのだと。

運動神経の良くない自分でも、上手な男性に支えてもらえれば形になったが、心のあったもの同士の踊りは本当に美しく見えたことを思い出す。

 

確かにこのまま任せれば誰に触られてもイケるようになるかもしれない。

イツキ様に触れられても面倒を感じさせずに性交できる様になるだろう。

 

(でも私は)

 

正義なすイツキ様への恩。でも、故郷からお金がものなど支援する手もあった。

でも、私はその道を選ばなかった。私はイツキ様のようになりたい。そして、隣に立ちたい。

 

「わ、私も気持ちよくしてあげたいんです」

「えっ」

「それに、イツキ様、奥手そうな気がしますっ!」

「あー、まあ、そうだね?」

 

むね、私の武器になるらしい胸でどうすれば気持ちよくできるか。

お腹につくように反り返っているユウ様の物にえいと胸を押し付けたり、体を上下させたりする。

どうだろうか?

 

「……パイズリ、してみよっか?」

 

燃えるように熱を放つユウ様のが私の胸の間にぴとっとくっつけられて、

 

「さっ、手で挟んで」

「ふええっ!!」

 

胸はそういうことをするためのものじゃないと思います、と言う気持ちもでも異世界から来たんだしと、おそるおそる慎重に。

ユウ様のものを挟んでみて胸を下から両手で支えながら上下に揺するとユウ様は気持ちよさそうに顔を緩める。

効果があるのだと思うと力も入る。

 

「くわえて……」

 

上下に擦ると亀頭の頭が胸の間から顔を出す。ぴょこぴょモグラのように出入りするそこを唇で捕まえるように咥える。

けどすぐに口の中から出ていってしまう。歯が当たらないようにするのもむずかしい。

 

ただ、気持ちよくされるだけより、どことなく精神的な充足感があるような気がする。

つっと唾液を垂らすとヌチャヌチャと淫靡に音がなる。

 

ああ、気持ちいいよと言われて頭を頭を撫でられて。そういえばちゃんと褒められたのはいつぶりのことだろうとより気持ちが入るのを感じた。

今までと違い直接は性器を触られてもいないのに、それまでと変わらないように愛液はとろとろと流れ続けた。

 

 

 

リーシアはもとより頭が悪いわけではなく、決断できないからこそ行動が遅くなっていた。

ユウにああしろ、こうしろと言われるたびに愚直にそのとおりに行ってゆき……

 

「出るっ」

「あっ!?」

 

じっくりと時間をかけて奉仕され続けた肉棒から激しい勢いで射精される。

ぶつかるように吹き出た精液はリーシアの顔を汚したが、どこかやり遂げたようにリーシアはニコリと笑った。

 

 




受け身状態のリーシアさんが相手を考えるようになったとかならないとか。

この後はラフタリア、ガエリオンなどと一緒に経験を積みながら補助の使い方とか弱点の見極めとかそういう戦闘経験を受けつつエロの経験もあげてく……やも。
このままだと経験のなさそうなイツキさんは姉ショタされてしまうことに……!?

で、この後は絆世界へGOなわけですが、その前にマインなどの槍パと仲良く(意味深)したいのですが、この頃の槍パってマインと魔法使い帽子の怠け豚エレナ(女1)と踊り子的なピンク髪の巻いてる(女2)ですよね。

女2の人名前なんだろ……。見世物小屋に売られたライノじゃないよね?
まあ、女2が元康とデートしているときに来たみたいな感じでいいかな……?


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088 勇者会議その4

 ガエリオンの前衛、ラフタリアは剣、弓、幻術を使った中衛に補助のリーシア。

 まだまだ経験が浅く判断に遅れることがあるものの、それでもパーティーや状況に合わせた汎用的な対処のパターンが増え、行動が早くなりだした。

 このまま経験を積みさえすれば現状の波のレベルで遅れを取ることはないに違いない。

 

 グラスに近場の波で彼女の世界に渡ることを告げる。

 

「わかりました。それでは私はあなたのパーティーで、ラルフ達は盾の勇者尚文の元で波に備えるとのことです」

「任せた」

 

 完全に信じられるとは限らないが、彼女たちは勇者と言っていい気質を持っている。

 それに三人ならともかく、一人一人であれば今のラフタリアたちや尚文のパーティなら負けることはないだろう。

 であれば現状の何を狙いとしている変わらない女神とやらの動向をこそ掴みたい。

 短い間であってもこの世界を離れる不安はあるが、決断する。

 

 **

 

「そういうわけだから、その間はみんなでよろしく」

「まっ、勇がいなくたって大丈夫さ」

「そうだな。パーティとしての経験も積み始めている。波に遅れは取らない」

「……僕は他所の世界の女神なんて怪しいものだと思いますけどね」

 

 世界を離れる以上、この世界を守る勇者たちとも連携を取る必要がある。

 王都に四聖勇者とメルティ、女王の影が集まって会議をしている。円卓を皆で囲んでいるが皆が皆心から見送ってくれるわけではない。

 元康はいつもどうりに明るく、錬もまたパーティとの連携による強化を肌で感じているのかどこか余裕そうである。

 逆に目的を聞いて怪しむ樹に口を開かず腕を組んだままの尚文がいた。

 

「異世界の情報は殆どないわ。グラスさんたちが言うことをそのままうのみにするわけにはいかない。でも、隣の世界が波に飲まれたとき、この世界にいい影響が出るとは限らない。むしろ相手の言う”波が世界の融合現象”なら、両側から融合を防ぐというのは少なくてもプラスになりそうに聞こえるわ。向こうに戦力として四聖勇者が一人増えたとしても、こちらは五人勇者がいるわけだし……だから──」

「メルティ王女。あなたは彼に騙されている可能性をどう思うんですか? まったくないと?」

「……私はユウ様を信じるわ」

「──もういいです。勇さん、いいですか。あまり勝手なことをしないように。僕からはそれだけです」

 

 何故か以前より敵視が強くなっているようだった。隣の世界の疑いを説かない限り平行線に感じる。

 もう話すことはないとそっぽを向く樹にため息をつく。

 

「一人で行くのか?」

「え、うん。まあね。四聖勇者が世界を離れたり万が一向こうで何かがあったら怖いし」

「何かね。まあ、とっとと行って面倒起こさずとっとと戻ってこいよ」

 

 そう言うと尚文も再び黙ってしまう。

 

「なんにせよ、ユウが戻るまでの間はがんばりましょう」

「おう」

「わかった」

「……不満もありますが、わかりました」

「ああ」

 

 カルミラ島で連携訓練をしたはずだが、相変わらず勇者同士の連携はバッチリとはいえなさそうだった。

 

 **

 

「ユウっ」

 

 飛びつくような勢いで会議室を出たあとを追ってきたのはメルティだった。

 振り返り手を広げるとそのまま抱きついてくる。

 ふわりと香る甘い匂いをすうっと吸い込むとメルティの頬がほんのり赤く染まる。

 

「隣の世界なんてわけわからないけど、気をつけてね」

「うん」

「危なくないかしら。ユウの強さはわかってるつもりだけど」

「……グラスやラルフたちの強さを考えれば起きてる波の強さはそこまで差がないレベルだと思う。だとしたら他の勇者がみんなで襲ってきたとしても負けるつもりはないよ」

「ならいいけどね。ちゃ、ちゃんと帰ってきなさいよ……」

「もちろん」

 

 彼女を抱きしめたまま、唇を合わせるだけのキスを一度、二度……。

 触れ合うだけのキスはなぜかもどかしさを覚える。

 

「頑張ってね」

 

 自分を思って自分を心配してくれるのだと信じられる。

 この世界に来れて幸運だと感じていた。

 

 顔を近づけると再び目を閉じたメルティに少しだけ強く唇を合わせた。

 




会議が多い割にイマイチ仲良しにはならない勇者達。

元康:異世界とかよくわかんないけど女の子が助けを求めてるんだから助けるべきだよな! 頑張れ! 
錬:それよりパーティーで訓練して強くなりたいんだが。
樹:勇さんを見ていると胸がモヤモヤするんですよね。イライラもします。つまり僕の勘が信じられない人だと言ってます。
尚文:ラルフ達個人は信頼できそうだがどうなんだろうな。ほんとに信じていいのか? 

しかし。アンケートで徐々にリーシアが読者によってNTRされていっている感じで面白いですねw


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089 女子会

槍の勇者の仲間をアニメベースにしています。
女1:踊り子っぽい女性を怠け豚ことエレナ、女2:魔女っ子をレスティとしています。

エレナは募集から、レスティはマルティと付き合いありとしています。


鏡に映る真紅の髪はつややかに輝く。

自分の肌色と合わせた口紅でぐっとラインを描く。

鏡の前には以前より艶やかさがました自分の姿がある。

愛のせいだろうか。きっとそうに違いない。マルティは自分がより美しくなる未来を鏡越しに見た。

 

「で、あんた達、将来決めた?」

「……どーしたの、マイン。珍しいこと言って」

「親みたいなこと言わないでほしい。めんどくさい」

 

元康が自由行動と言うことで王都に遊びに行ってしまった。きっとナンパでもしていることだろう。

普段ならエステでも行くところだが、いい機会だとパーティメンバーの二人を部屋に呼びつけたのだ。

元康がいる場と違い、男の目がなくなり二人はゆったりとしている。

レスティはツンと尖った魔法使い帽子をソファーにほおってだらりとしているし、エレナはといえばベッドにごろ寝である。

 

「あんた達このまま元康様くっつく予定? そろそろ勇者達の人間性も将来も見えてきたでしょ?」

「そう言われても。私は家から勇者を手助けしてこいって言われたからここにいるわけだし」

「元康楽だし」

 

二人は癖のある人間ではあるが、ゆるい槍の勇者の元であっても、ここまで勇者についてきた人間でもある。

エレナの家は三勇教の強いこの国で珍しい四聖教の教徒であり、彼女の父親は四聖に限らずすべての勇者の信奉者である。

ファンと言い換えてもいい。

 

実際、活躍している勇者は分け隔てなく情報を集めているようで、実家からの活躍の様子を知らせろと何度も手紙を受け取っては辟易としている様子を何度も見ている。彼女自身は面倒を嫌う性格で、女性に対して楽そうなスタンスを取る元康様を程々におだてる行動をとっている。

それが元康様本人を除く女性たちには透けて見えるため、仲間の間の争うからは適度に縁遠い位置でうまくやっていた。

 

もうひとりのレスティはそれなりに大きい家の貴族の娘である。女王の娘の友人役になる程度に。

貴族の令嬢としてガチガチの教育をしている中、遊びを教えた影響で羽目の外し方を覚えてからは人間らしく生きるようになった。

ちやほやされるのが好きで勇者の仲間をやっているらしい。

 

表情の変化は少ないが、感情がしっかり現れるので割とわかりやすい娘である。

このメンツにプラスして、入れ替わりの激しい仲間として1~2人の枠がある。元康様が引っ掛けてきたり、どこぞの家が勇者とつながるためにと押し付けてくる枠だ。実力も世渡りの経験もないため、すぐに入れ替わる。

 

「波は思ってたほど大したことなかったじゃない? 今の強化速度なら勇者のレベルアップの方が早いわ。そろそろ波が終わったあとのことも考えないと」

「……刹那を生きるマルティが珍しい。そんなにあいつ気に入ったの?」

「私達に刀の勇者に乗り換えろって? マインは相変わらずめんどくさい……」

 

二人は気だるそうにグタっとしているが、将来のためにも、ユウに喜んでもらうためにもマルティは彼女たちを捧げたかった。

そのためにもしっかりと丸め込んでおきたい。

 

「レン様はドラゴン退治、魔物退治と実績が多いし話もできるから扱いやすい。イツキ様はまあ、手綱さえ握れるなら便利よね。ナオフミはママの下についてすでに土地持ち領主」

「元ルロロナ村の亜人がいい値で売れたわよね。マインが情報くれたから実家にかき集めてもらって盾の勇者様懇意の奴隷商に流したけど」

「払ったのは報奨と迷惑料代わりの王家の金だけど、ママも値段分恩を売れるからって釣り上げはむしろ歓迎だったし潤ったわよね」

「……でも、盾の勇者ってやっぱり亜人が好きなんだ。マルティのいう事聞いてモトヤスについてよかった」

 

なしかな、とかどうでもいいと上がる声。

 

「モトヤス様。あっちこちで色々やってはいるものの、女に弱いとか言われて、成果はほどほどかしら。で、ユウ。戦果は十分。城の兵士の強化にも努めていて、以前の事件もあって、勇者らしい美談が流れたせいで広く人気よね」

「……モトヤスが一枚落ちるってこと?」

「それもあるけど、問題はナオフミが報酬を先払いでもらってるってところ。波が終わったあとの報酬は、ナオフミの報酬を基準にプラスマイナスして出るでしょうね。要するに、新しく貴族になるなら村二、三個くらいの低い爵位の領主。国の薦める相手と結婚するならそこそこの爵位、って感じになると思うわ」

 

勇者の栄誉といえば響きはいいが、波が終われば武力にはそこまで価値がなくなる。

傭兵のように魔物退治と兵力として使い回すならともかく、貴族にするなら生まれてくる子供も強い点だけだ。

商売に強いナオフミや方方にツテを作っているユウはともかく、他の勇者はサポートなしにはろくに運営できないだろう。

 

「……まーわからなくない予想」

「で、その立場ってあなた達どう思うの? どちらも実家を継ぐ立場じゃないから、元康様に新しい家を立ててもらってその妻になるとして……」

「……ちやほやされなくなる!」

「立身出世したばかりの家とかめんどくさそう……」

 

レスティは目を大きく開き、エレナはレスティを見たあと、心底めんどくさそうに顔を歪める。

 

「で? 刀の勇者は何が違うの?」

 

二人のベストは今のように適当におだてるだけでちやほやされたり面倒のない生活だ。

だが、四聖勇者はナオフミ以外政治に対して興味を示さないだろうから、このままだとレスティは正妻になったとしても実家から干渉を受け続けながら舵取りする羽目になるし、正妻を誰かに譲るなら自分より高い立場の女を正妻になってもらい犬のように媚を売らなくてはいけない。

貴族でないエレナはレスティ以上に苦労するだろう。

 

マルティが正妻になるなら二人も今と変わらない態度で変わらずついてきただろうが、一抜けされると立場が変わる。

苦労の予感を感じたのか、ふたりとも姿勢を正して聞く姿勢に変わった。

 

「ユウはメルロマルクの王配になる」

「……マルティがするの間違いでしょ」

「そうね」

 

ユウはすでに妹であり、次期女王のメルティを落としている。

子供がメルティとマルティしかいない以上、両方の愛を受け取っているユウは王配の有力候補だ。

だが問題がないわけではない。

 

「どっちと結婚するの?」

「当然両方よ」

「……マルティなら楽そうな愛人で済ますと思ったのに」

「本気で気に入ったんだ。でもそれが私達に関係あるの?」

「おおあり。ママはナオフミを気に入ってんのよ」

 

そう、この点が懸念点である。

ママが城に帰ってきてたらユウに差し出して屈服させてしまうところだが、ここにいないとなっては仕方がない。

それにあれでママはパパを溺愛しているし、それでいて国家の最善を考える程度の非情さはある。

体を許しても、心を許しても女王としては別の判断をする可能性があるのだ。

 

「盾の勇者はアジンスキーなんでしょ?」

「ママの影はナオフミは亜人が好きなのではなく、盾の勇者ということで差別されたから好意的な亜人に傾いているだけで人間嫌いではないと判断したみたいね。実際、フィロリアルマニアのメルティとは友人になったみたい」

 

メルティはナオフミに男性として好意を抱いてはいないだろうが、人としては好意的で友人関係を気づいてしまったのも問題だ。

 

「ママは外国に目を向けてるからね。三勇教で盾外してると亜人優遇のシルトヴェルトと融和できないし、勇者の国のフォーブレイもいい顔しない。盾を王配にして三勇教を廃止して四聖教に国教変えたいのよ」

「でも、メルティ王女は差し出し済みなんでしょ?」

「メルティは女王教育されてるからね。ユウを娶れるよう努力はするでしょうけど、駄目だったら涙を呑んで受け入れるはずよ」

 

盾の勇者はともかく、現地の勇者と言う意味合いの強い八星勇者の刀にはその絶対的な強さ以外に政治的に取り込まないといけない理由はない。

それこそ私が繋がっているので王家としてはこれ以上つながりを深くする必要がないのだ。

メルティが好きだからと言う理由ではママはあえてユウを選ぶまい。

そうなると王配はナオフミになってしまい、私はこの国をユウに捧げられないのだ。

 

「……で、私達に期待するのは?」

「貴族たちの根回し、民衆のコントロールね」

 

結婚が決まってからならナオフミとメルティの結婚に反対の声も潰せるだろう。

亜人村の整備に熱心で国政にしゃしゃり出ないなら納得されるはずだ。

だが、結婚前からバレていれば話は別だ。この国の人間なら盾の勇者のナオフミより、ユウを選ぶに違いない。

メルティとユウの仲を引き裂き、無理やり盾の勇者と結婚させようとする、ナオフミも別にメルティを好きなわけではないとなればどうだろうか。

諸外国からもちょっかいが出るに違いない。こうなれば諦めざるを得ない。

 

「……わかった。元々マルティに付き合うつもりだったし、ユウにすることにする。貴族の根回しは任せて」

「ユウ様はすでに民衆にも人気が広がりつつあるから少し話を広げるくらいかんたん。めんどくさいけど」

 

家族である妹をユウに捧げたときの興奮を思い出す。

それだけで快感が脳をしびれさせ、イッてしまいそうになる。

私を、家族を捧げる程度では足りないのだ。愛する人にはより素晴らしいものを贈りたい。

愛を示したい。

 

今、そのために新しく仲間を捧げるのだと思うと興奮が高まってくるのを感じる。

 

「じゃ、二人にもユウのこと知ってもらいましょうか」

 

ふたりとも愛に染まるような人間ではないが、欲には弱い人間である。

どの程度でユウから離れられなくなるか、自分と同じように自分から役立とうとするだろうかと楽しみになった。

 

 




原作だとマルティに気に入られている元康は出世候補(に見える)勇者ですが、割と平均的に活躍している四聖勇者の状況と、尚文が報酬を先払いされていることから、将来を見越して今後を懸念する状況に。

爵位が低くても冒険者とかだと十分チャンスかもしれませんが、王女の友人役レベルだとちょっと物足りない相手になりそうかなとか。

ミレリア女王は作中で尚文の最大の協力者(武器屋のおっちゃんレベル)って感じですが、その背景には外交問題や宗教問題、フィロリアル大好き問題が関わっている気がします。
いやまあ、勇者としてまっとうかつ戦力というのもありますが。


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090 槍比べ1

 ファンタジーな世界で待ち合わせは割と大変である。

 日本であれば北海道と沖縄にいてもメールや電話で待ち合わせの日付と時間を決めれば時間ぴったりに待ち合わせが可能だろう。

 

 だが、馬車移動が基本となると中々そうは行かず、数日の余裕は持っておかなければいけない。

 どういうことかといえば、会議のあとに行ってらっしゃいとメルティからキスをもらったが、まだでかけていないということである。

 それどころか、直近の波の場所の登録を済ませているので、その日になれば勝手に呼ばれるのだ。

 

 王都近くとなれば魔物退治しても今更何の足しにもならないし、かと言ってしばらく戻ってこれないため、ラフタリアたちにはすでに遠征の指示を出しており、ガエリオンの背に乗ってラフタリアとリーシアはすでに遠征中である。

 

 屋敷に戻る選択肢もないでもないが、相手が一人で身重となれば世話にせよ抱くにせよメルさんには負担がかかるだけである。

 亭主元気で留守がいいではないが、王都でブラブラするかと決めたところ、マインから呼び出されて喜んで彼女の部屋に向かったところである。

 

「いらっしゃい、ユウ。今日は二人紹介したい相手がいるわ」

 

 マインの部屋は相変わらず王女だけあって広い部屋である。

 そこには二人の見覚えのある女性たちがいた。

 槍の勇者である元康のパーティである。初日に元康の元へならんだ三人のうちの二人だ。

 二人にプラスして数名が会うたび入れ替わっているので、マインも含めてこの三名が元康のパーティと言う感じがする。

 

「……私はレスティ。貴族の娘。マルティとは子供の頃からの付き合い」

「私はエレナ。商人の娘。周辺の国とも付き合いがあるわ。知りたいことがあれば任せて」

 

 二人……特にレスティからは舐めるように品定めの視線が向けられてくる。

 以前勇者をしていた世界では感じなかった欲望の目線は、思えば日本では金があると知るとそういったたぐいの目を向けられることもあった。

 ただ、掠め取ってやろうというような手癖の悪いものというよりは、賭けてよいのか品定めするような視線で、一晩の関係も多かった日本では比較的何度も関係を持ついわゆる愛人に近い関係であった。

 人によってはそういった関係に嫌悪を抱く場合もあるだろうが、わかりやすい条件で結ばれる分安心もできる相手である。

 

「二人は元康の恋人じゃないの?」

「……元康は遊び相手としては楽でいい。けど、将来の相手としては不満。ユウはちゃんと相手への執着を感じる」

「元康様は夫にするにはめんどくさい相手だと思います」

 

 二人のあけすけな言葉に驚く。勇者というものがそれだけで望ましい相手であると認識していただけに以外でもあった。

 と同時に、勇者であればだれてもいいのではなく、自分を選んでいることに急速に好意を感じだしていた。

 気持ちが帰ってこないことが長かったせいで、気持ちを寄せられることにチョロかった。

 何よりも、本人が役に立つというのではなく、家が後ろ盾につくと自分たちを捧げに来ている意味。

 一時の恋人ではなく人生のパートナーにしてほしいという意味に心が揺れる。

 いうならば私達付き合わない? と結婚しましょうの違いだろうか。

 

「ふたりとも、貴族としても、商人としても手広い実家が後ろ盾だわ。二人が付けばもうこの国でユウを害そうとするものなんてないわ」

 

 メルさんやラフタリア、メルティのような"愛を向ける"気持ちではないが、人生のパートナーとして契約を結ぶ気持ちに重量を感じる。

 

「だから二人をもらってほしいの。──心は、ユウが掴んでね?」

 

 耳元にそっと囁かれるその声に、いきり立つのを感じる。

 男としての甲斐性を見せつけろと言われていた。

 

 二人にゆっくりと近づくと、チラチラと胸元やズボン越しに下半身に目線が向けられるレスティと違い、エレナはちょっと体をこうばらせている。

 

「私はあとがいい」

「……いいの?」

「私は処女だし」

「……え?」

「あれ? エレナあなた処女だったの? ──そういえばエレナが元康様に抱かれるところみたことないわね」

「勇者を手助けしろと実家に言われただけだし。処女捨てるのめんどくさそうだし」

 

 魔女っ子みたいなローブを着込んだ小柄なレスティとどこか踊り子のような衣装のエレナの二人だったが、貞操については逆らしい。

 じゃあと、レスティに近づき、よろしくねと、触れるように唇を合わせ合う。

 目をつむり唇を受け入れる彼女を抱きしめる。体をあずけるように体を傾ける彼女に、受け身のタイプであることを感じる。

 

 与えられることが好きなら、ほしいだけ与えてやろうと、目をつむっていることをいいことに、まずは耳を犯すことにした。

 キスの音を頭に響かせ、耳たぶをはみ、感覚を与え、舌を差し入れ、中をなぶった。

 目を閉じ、抱きしめられたままの彼女。ヒクヒクと震える下半身。

 顔がゆっくりと赤く染まり、そのもどかしさに息が漏れている。

 

「……んっ♥」

 

 全身を愛撫してやろうと、首筋を舐めあげるとピクピクとふるえた。

 感度は悪くないようだった。

 抱きしめた腕を緩め、服の上から小さな胸を優しくやわやわと円を描くように揉むと、ムクムクと大きくなりだした乳首が自己主張し始める。

 

「……すごいのあたってる」

 

 抱きしめるために密着するだけで、ズボンを破りかねないかのようにビンビンに反り返っているそれをレスティはローブ越しにお腹でぐりぐりとこすってくる。甘く柔らかい感触が肉棒をなぶり、更に硬くなってしまう。

 我慢できないとズボンを下ろすと、バチンと音がしてもおかしくない勢いでズボンの外に顔を出す。

 

「……うわぁ……すごい凶悪な形してる……」

 

 女体に関してはかなりの数を見ている自身があるが、勃起した男のちんこにしては早々お目にかからないため、良し悪しの判断は難しいが、悦んでくれるのだから悪くないに違いない。

 反り返った一物は赤黒く、先走り液でテラテラと濡れている。

 立ったままでもいいがベッドでと場所を移すと、小動物が逃げるように寝転んでこちらを見ていたエレナがベッドの端へと逃げてゆく。

 

 横になったレスティの緑のローブとスカートを捲りあげると、可愛らしいワンポイントリボンの付いた白い下着が顔を出す。

 すでに濡れたしておりじんわりと指3つ分ほどにシミが広まっている。

 下着をずりおろすと、小柄な体に合わせてか少しだけ生えている薄い陰毛と、小さく開いた割れ目が顔を出す。

 

 表情の変化が小さいものの、先程レスティは経験のないエレナに対して、こっそりと私は経験があると勝ち誇るかのような表情をしていた。

 ただ、実際はまだまだこなれておらず、色素の定着もなく綺麗なままだ。穴も開かれていない。

 避妊具の発達で気軽に出会った男と経験できる日本と、万が一も考え、なにかがあってもいい相手と行わないといけない状況での”経験豊富”な若い令嬢では経験の量と質で大きく差がある。

 

 彼女くらいだと場合によってはませてる小学生の方が経験豊富だろう。

 そのへん、センスのあるマインとは差があるようだった。

 

「……えっ? えっ、えっ♥!?」

 

 本人の意識と乖離した幼い性器にぬるっと舌を差し込み、剥いたクリトリスに指で刺激を与えれば困惑しだすレスティを置いて体は勝手に絶頂してしまった。

 

「はえっ♥ な、なんれ?」

 

 今度は逆にとクリトリスをなめあげ、指を差し込む。舌でかわいがった時を元に指で探ればあっという間にまたビクビクビクっと大きく震える。

 

「……や、やめ、だめ……」

 

 弱々しい抵抗で両手で体を離そうと肩を押してくるがそんなものではなされるような力の差ではない。

 グチュグチュと音を立てながら優しく責め立てると二度三度と再び震えだす。

 

「ああっ♥ また、また……」

 

「こ、これは、性も勇者……っ。思ったよりすごいわ」

「気持ちいい初めてを経験できるわよ。良かったわね」

 

 もういいかと肉棒を割れ目の上にのせて上下に動かし愛液に濡らしてゆく。

 その様子を見て、自分のどこまで深いところに入ってくるのかということをレスティは悟ってしまったようだ。

 

「……む、むり、むり、マルティ、まるてぃ……っ!」

「大丈夫大丈夫。子供はもっと大きいわよ」

「ああっ♥ まだ、まだけっしん──」

 

 入り口にピトッと触れさせれば本人の言葉と真逆にパクパクと穴が開いて肉棒を加えこんでくる。

 ぐっと小さく差し入れるだけで十分に濡れた狭い穴はグポグポとゆっくり飲み込んでゆく。

 

「──んはああっ♥」

 

 後衛であっても勇者パーティらしく、狭い穴の上に、しっかり締め付けてくるが、しっかり濡れた穴はそれでも熱心に受け入れ始めている。

 反り返った一物はナカをグズグズにえぐりながら責め立てたが、もっともっととふんだんに滴る愛液のおかげで次第に滑らかにジュポジュポと音を立てながら挿入されるようになる。

 

「あっ♥ ああっ、こんなの、おかしい……! ちがい、すぎるぅ」

 

 カリの部分が中を掻き出してしまうため、一突きごとに愛液がジュパジュパと掻き出され、小さく可愛らしいお尻を伝ってスカートとベッドを濡らしてしまう。馴染み出したのを察して、浅い部分から奥を責めだす。降りてくるのを待つまでもなく子宮をコツン、コツンと優しく揺さぶられ、あっという間に中イキしてしまう。何度もイッているにも関わらず子宮内に出てこない精液を求めるように子宮は肉棒を求めて織出し、更に責め立てられ自分だけイッてしまう悪循環になっていた。

 

「へー、誰と比べて?」

「モトヤス、モトヤスとォ♥」

 

 いつの間にか彼女の両手両足に離すまいと巻き付かれている。

 

 知らない男と比べられても思うところはなかったが、勇者同士相手であるとなんだか違う。不思議な男の自尊心が満たされるような感じである。

 子宮を責められるのは初めてなのだろうか。

 円を描くようにゆっくりと押し当てるように動かす。

 

 今までの挿入による上下の動きと違った感覚にむずがゆさを感じるように口をパクパクと半開きになっている。

 

 リズムカルに刻まれていた快感から奥に響くような途切れない波の快感に小刻みな呼吸音が響く。

 

「……はっ♥ はっ♥ やだ、やだ、もっとちゃんとイカセ……」

 

 その時だった。

 高め続けた子宮への快楽が溢れた。ボルチオでイッたのである。

 

「~~~~あああぁあっ♥♥ うあっ♥ ああっ♥♥」

 

 なおも優しく子宮を責める。

 

「とぶう♥ とんじゃうううう♥ ふかいいい♥」

 

 自分を見失うほどの快感に襲われ続けているのか、口端からはよだれがつたい、栓をひねった蛇口のように愛液が溢れ続ける。

 ハヒハヒと呼吸に不安を覚えるくらいに体が震え続けている。

 

「イグううう~~~~♥♥ ちがうちがうこんなのちがううう♥♥」

 

 長く行き続けているようで、グチュっと肉棒を抜いてもなお震えながら絶頂し続けている。

 比べられたせいでより一層わからせてやろうといじめすぎたかもしれない。

 精神的な高揚に性感もまた追いついたようで、射精感が高まってゆき……

 

「でるっ!」

「あああ♥ あぁ♥」

 

 深く差し入れてから子宮内を埋め尽くすようにビュルルルと射精する。

 もしもコンドームがこの精液を受け止めていればかなりの重量を感じたことだろう。

 ねっとりと粘度の高い精液はそれでも肉棒を引き抜く動きに引きずられてヌトヌトとゆっくりと垂れ落ちる。

 肉棒の大きさに合わせてバクっと開いた穴は開きっぱなしのまま、精液をいつまでも垂れ流した。

 

「……すごいわね……」

「……ちょっとやりすぎちゃったかな?」

 

 感心するようなマインの声とは別に、エレナはシーツを体に巻き付けブルブルと震えていた。

 

「こわいこわいこわい……」

 

 おばけを怖がる少女のようになってしまったエレナをどうすればいいだろうか。




貴族のお嬢さんだと誰彼構わずとはいかないのでイキってても実際の経験はさほどでもないみたいな。経験豊富顔してるくせにちょろいという美味しい状況に?

しかし、現代でも中イキしたことないわーという女性がいる中、初めてでこんな現場を見たらオークに遭遇した村娘状態になってしまっても不思議じゃないかも。


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091 槍比べ2

エレナは大きな商会のトップの娘で裕福である。

だからこそ、下手すれば貴族以上の教育を受けているし、その生来の性質はめんどくさがりのことも有り、面倒な勉強、大変な訓練を卒なくこなすことで労力を減らす努力を怠らなかった。

逃げるのではなく、楽をするために努力をするエレナは勤勉であり怠け者であった。

 

そんな彼女であったが、家の商売の手伝いも色々やらされている。

大きな商会としては取引の大きい商いも扱っており、貴族を含めて裕福な層との付き合いが深い。

そうなると聞こえてくるのが性の話である。

貴族は家を継続させることが第一の使命である。

 

そうなれば優秀な継承者……子供を生むことが求められる。

メルロマルクは女性優位の国家であり、女王をトップにするが、だとしても一年に一度しか子供を産めない女性より何人でも種を撒ける男性のほうが利点は強いのだ。

だが、刀の勇者はさておき、立たなくなった、全然子供を授からない、もっと気持ちよくなりたいなど性の悩みは誰にでも訪れる。

 

性の悩みは家の弱みでもある。誰にでも相談できることではなく、けれどいいものがほしいとなれば口の固い商人に話が回ってくる。

正常位だと子供ができやすいとか感じさせると女の子が生まれるから入れてすぐ出すほうが男児が生まれる可能性が高いだとか正しいのか正しくないのかよくわからない話も多く耳にした。

 

そんな生活を送る中でなんとなく理解していることがある。

”女はそんなに簡単にイッたりしない” ということである。

オナニーをすれば割と簡単にイッてしまうのに、不思議と男のアレではそう簡単にはイかないらしく、男は下手くそばかりなのだと思っていた。

その分、女性たちの中でセックスが上手な貴族男性の話はまことしやかに囁かれ、だからこそかその男性は浮世を流しており、上手い人ほど多く経験を積む構造に、だからこそ大半の男が下手なのだろうなあと思っていた。

 

エレナは槍の勇者のパーティに所属した。モトヤス様はナンパ男であり、美人か困っている女の子がいればすぐに声をかける人だった。

そんな中、王女のマインを別格とした、パーティ内でのモトヤス様の隣の奪い合いは何度となく行われていたが、家の命令でここにいたエレナは一歩引いており、寵愛も求めなかったこともあり、出入りの激しい女仲間達のアレコレをよく聞いていた。

 

総合評価としてはイケメンであり、たくましく、初めての相手なら優しく扱っているため、心地よい初体験をできる相手、というところだろうか。

イケメンが優しくシてくれる。それだけでいいものであるようだ。

他の男と経験があったり、長めに仲間として所属した子なんかは、こなれている分、イッたりもしているようで、「今日なんて一緒にイッちゃったの!」なんて話を聞いてさすが勇者だなあ。気持ちよくてもめんどくさいから私は遠慮しておくけど、なんて思ったものだ。

そんなモトヤス様と経験しているのにユウ様に転ぶとはとても上手なのか、もしかしたら年下趣味なのかなんて思ってた程度だった。

 

ーーそれが……。

 

目の前のベッドに横たわっているのは同じ槍の勇者仲間のレスティ。

おしとやかと無表情を履き違えた少女で、娘に甘い親を持っていることも有り、王女であるマインにうまく使われるような友情を気づいている少女である。

男が酌をする店に連れられたときは機嫌よくグビグビ飲みすぎて悪い男に狙われたりしているスキの多い少女だ。

あれで友情があるのか、他の女は進んではめてるにも関わらずレスティについては面倒見ておいてとマインに言われて何度も尻拭いをしている。

めんどくさがりな分、手間を掛けさせられる厄介な相手という面が強かったが付き合いが長くなればそれなりに情もわく。

何をするかわからないマインと比べればわかりやすい少女でかわいいものだった。

 

だが、そんな少女が勇者の手によって溺れたあとみたいになっている。

下半身はピッチャーに入った水をぶちまけたかのようだ。

ぐったりとベッドに倒れたままの体は全身から汗が吹き出しており、茶色の髪が頬に張り付いている。

全身に全く力が入っていないにも関わらず、余韻なのかなんなのか、時々ピクピクと震えてはとろりと膣内に残った精液を愛液混じりに流している。

触れもしないのにイッているのだろうか。全くもって異次元の状況だった。

 

モトヤス様は理解できる範囲だったが、彼はそういう生き物のように別の存在である。

 

(なにあれ。人として壊れたみたいに……)

 

気持ちよさそうではあったが、アレを見て羨ましいと思えるほど心に余裕はなかった。

麻薬注射すれば気持ちよくなれるよと言われてやるやるーと答えるようなものである。

アレを経験したら自分はそれまでの自分と違う生き物になってしまう。そういった怖さがあった。

 

しかし、マインに進められていること、他の答えはないにしても返事をしていること、勇者から逃げられないこと、なにより、竦んでしまい足が動かなかった。できる抵抗はシーツを体にまとって閉じこまることで、全く何の抵抗にもなっていないのは誰に目を見ても明らかだった。

 

近づいてくる刀の勇者は見た目の可愛らしい少年のままのはずだが、出したあとにも関わらず、泡だった愛液に濡れながら一向に衰えずむしろより勇ましくなったアレを揺らしながら近づいてきており、勇者というよりモンスターだった。セックスモンスターである。

 

ベッドの端でアルマジロになってブルブルしていたエレナの隣にユウが腰掛ける。

 

「ごめん、やりすぎて怖がらさせちゃったね」

 

もしかして許してくれる? やらなくてもいい?

しかし、隣に腰掛けた彼のモノはお前も食べると言っていた。

許してほしいと泣き言を言いそうになったが、それより先に丸くなった自分の胸元に手が伸びてくる。

差し込まれた手はやわやわと胸をもんでくるが、胸くらいならいくらでももんでいい、だから許してと腰が引けながらももみやすいように手を避けると、手は二本になり、両方が揉まれ始める。

 

ふっふっふとランニングを初めたくらいに息がいつの間にか荒くなっている。

……やばい。すでに気持ちがいい。

 

「……あ、あれぇ?♥」

 

エレナは処女であるが、仲間はセックスをモトヤス様としている。なるべく避けていたが、隣の部屋でも声は聞こえるもので、気持ちが高まれば一人で沈めていた。股の方については触ってはいけません、病気になるでしょと子供の頃に教えられてからはなんとなく避けており、知識を得てからはより触る気になれなかった。故に胸で自慰する派だった。

めんどくさがりで欲に正直な分、胸や乳首の感度はとても高く成長していたが、それにしても、自分でするより遥かに気持ちいい。

 

「あっ。まって、まって……」

 

停止なんて聞いてくれるわけがなかった。快感をこらえるためにぐっと唇を閉じる。

 

「んんんっ♥♥」

 

胸を揉まれるだけでイッてしまった。真っ白になる視界。はあはあと荒く息をしながら気持ちを整えようと必死になっているうちに、唇を奪われる。

初めてだとそんな風に意識する間もなくぬるりと入り込んできた舌が私のものを絡め取ってゆく。

 

「うむーっ♥」

 

唇の柔らかさや舌の艶めかしい動きに気を取られているうちにシーツは退けられ、服も脱がされている。

まるで手品のようだった。

 

しかし怖い。自分の常識が全く通用しないことは恐ろしい。

 

「怖い?」

 

言葉が出ない。コクコクと首だけで返事をすると、ユウはベッドに横たわった。

 

「上になってよ」

 

ウエニナッテヨ? 言葉が音のままで意味にならない。

動けないでいるエレナにユウは上半身を起こすと、尻を掴むようにして体を引き寄せ、自分の足の上にエレナの体を乗せた。

横になったユウの太ももの上に座り込んだエレナの直ぐ側にはいきり立った肉棒があり、裏から見ても凶悪さは変わらなかった。

 

「自分で入れて、動いて。それなら怖くないでしょ」

 

乱れる仲間を見ていたこと、男と女の匂いをかぎ続けたこと、胸で生かされたこと。

エレナもまた、ぐっしょりと濡れており、年齢相応に生えている陰毛は愛液に濡れてみだらに張り付いている。

 

「じぶんで?」

 

迷った。迷ったが、ユウを自由にしたときにどうなってしまうかわからない。

それであれば自分でやるほうがマシに違いない。

 

のろのろと腰を持ち上げ、手で肉棒を掴む。体の一部であるということが信じられないほどに熱く太い。

こんな物入れていいのだろうかと思いながらも、死にはしないと決心して穴にあてようとする。

しかし、エレナは処女である。

場所はわかっているはずなのにうまく当てられず、入り口を自分でこするはめになる。

 

「あっ♥ んっ、このっ♥」

 

見かねたのかユウが腰を動かし、一をあわせてくれたようで、亀頭部分がゆっくりと入り込んでくる。

無理矢理に開いてゆく感覚は、他人が自分の内側に入り込む異物感と、けれど自慰よりはるかに強い快感により次第に心地よいものに変わってゆく。

手持ち無沙汰だったからなのかもしれないが、伸びてきたユウの手がエレナの手をにぎる。指どうしが絡み合い、エレナに妙な一体感を与える。

 

体を下ろすたびにズプズプと深く繋がってゆく感覚。

今まで得てきた人生の中でも、これ以上ないほどの快感が体を襲う。

自分は処女のはずなのに、差し込む際のつっかかり……処女膜を力を入れて破っても痛みを覚えたのは一瞬で、今は心を埋め尽くすような快感が支配している。

体を起こし引き上げ、力を弱めて下ろす。

上げておろして、あげて下ろす。

ただその動作を繰り返す。快感に体がしびれて、下ろすたびに動けなくなりそうになる。

でも、引き上げ、下ろすときの気持ちよさが体をはやく、早くと急き立てるのだ。

 

ああ、無理だ。

こんな、こんな気持ちいいことがあったなんて。

自分は馬鹿だった。めんどくさがらずにもっと早く経験すればよかった。

いや、違う、彼だからにちがいない。彼だけが特別なのだ。

上下を繰り返すうちに、自分の中でより気持ちいいところを探し当てるように動く。

だってそうすればもっともっと気持ちいいのだから。

 

**

 

処女相手にビビらせてしまってどうしたものかと悩んでいたが、経験してしまえば怖くなんてないよ~と理解してくれたようだ。

笑顔の裏でどこか冷めた感情を宿していた彼女も今では体力を振り絞って、快感にガクガク震えながらもゆっくり体を揺らしている。

 

自分の下にいる男のことを忘れて、与えられる快楽の虜になってしまった状態だ。

形の良いディルドーに夢中になっているようなもので、自分を忘れてしまっているような行為はちょっとさみしい。

だが、自慰のように使われているというのは、赤裸々に弱点を明かされているようなものだ。

表情を、膣のうねりを、体のしびれを感じれば、どこを責めればどうなるかなんてもうわかりきったようなものだ。

 

だんだんと動きがゆっくりとしてきた。

なれたようだし、そろそろ俺を思い出してもらおう。

浮き上がったエレナのお尻をがっしりと鷲掴みすると、ぐっと強く奥へ肉棒を押し込んだ。

 

「ああああアっ♥ なんで、きゅうにっ♥」

「そろそろなれたでしょ? もうそろそろいいよね」

 

ゆっくりとした他人ペースに大分焦らされてしまったち○こはガツガツ上下させるとそれだけで元気になってくる。

エレナは船の揺れになれたばかりなのに大嵐を経験しているように表情が大荒れだが、快感に振り回されているようするは自分が振り回していることを感じられるのでなんとなく可愛らしく感じる。

 

俺のこと、しっかり刻んでもらおう。

けど、処女なんだから、まずは精液の味を覚えてもらいたい。

 

気をやってしまう前にと、掴みだした彼女のリズミに合わせて奥にぐっと押し込み射精する。

 

「んくっ!」

「あああ♥ でて、でてるっ♥」

 

ドビュドビュと二人目であっても全く変わらない量が膣内に放たれる。

体位を変えて今度は俺の方から……そんな事を考えているうちに、エレナが腰を上げて……下ろす。

 

くっと嬉しそうに笑っているエレナに二回戦が始まった。

 




怠け豚ことエレナさんは割といい根性していて好きですが、金の切れ目が縁の切れ目とさらりと元康捨ててるところはおお、腹黒い……感ありましたので、分からせ的な……。

でも、いい根性してるので、それはそれとして協力はするものの面倒は嫌と変わらずかもしれません。


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092 槍比べ3

 

 二度三度と体を合わせていると、エレナはぐったりと倒れ込む。

 電池が切れたロボットのようにその体制のまま寝入っているようだ。

 まあ、頭も体も疲れてしまったのだろう。仕方がない。

 

 二人抱き潰してしまい、一息つく。と言っても、女の性臭がムワリと香る部屋にい続けるため、肉棒は臨戦態勢のままだった。

 ドロリとした精液と愛液が混ざった体液が棒を伝ってベッドに垂れ落ちた。

 

 もうひとりとマインを見ると、彼女は爛々と輝く瞳をこちらに向けたまま、ブルリと震えている。

 ベッドから腰を上げ、ソファに座ったままの彼女のもとに近づくと、濃厚な女の発情の香りがする。

 性交後に通うものと違う、一人遊びを行ったあとの、純粋な女の香り。

 彼女はじっとこちらを見続けるままだった。

 けれど、マインはすでに何度もイッているようだった。

 体を支えるようにソファーの頭を掴んだ腕からも、クッションに手をついた指からも香りはしないのに、マインからは濃厚な惑わす匂いがした。

 

 彼女は頭でイッていた。

 

 仲間の痴態を見ていたからだろうか。

 時々、何の刺激を与えずともイケる人間はいる。

 例えるならアイドルコンサートに参加して感極まって失神してしまうような感じだろうか。

 

 彼女の瞳の中には深い欲の炎が灯っていた。ユウだけをまっすぐ見ていた。

 

「マイン」

「あら、私の番?」

 

 近寄ると、マインは両手を広げ、ギュッと抱きしめてくる。

 豊満な胸とスタイルの良い磨かれた肢体を持つ彼女は抱きしめられるだけで大いに興奮を煽る。

 待ちきれないとばかりに行われたキスは最初からベロ同士を交わす激しいものだった。

 

「……ぅんっ♥ あなたって全身が麻薬みたいだわ」

 

 ち゛ゅうっと強く首筋にキスをされる。だが、その印はあっという間に消えてしまう。

 

「風情がない体だわ。刻まれるのは女ばかりってことね」

 

 シュッシュとマインの手が伸び、あそこを上下にこする。

 性行為中にあっという間に精力が貯まるのと同じようにそういった内出血のあともまた、あっという間に薄れて消えてしまう。

 やだーなにそれ虫刺され? お前愛されてんなあとかやれないわけである。

 相手にはできる。

 日本でやったときは体育の授業の後にクラスの空気が悪くなった記憶がある。

 つけるときは楽しいのに無情である。

 

 お返しにと目立つ首筋に吸い付く。

 目を閉じ首を傾け受け入れてくれるマインにしっかりと証を残す。

 キスマークだけではなく、最初の頃のようにカプカプと甘く歯型を肩や胸に残していくと、動作一つ一つにマインが甘い喘ぎを漏らしながら悦んでいるのがわかる。

 

「ものにしたいなら、もっといい場所があるんじゃないかしら?」

 

 足をゆっくりと組み替えるマインの動作は非情にやらしいものだった。

 足の動きに合わせてこねられ表情を変えるあそこに誘われるようにしてソファに座ったままのマインの両足を大きく開かせ、差し入れる。

 

 ヌププっと何の抵抗もなく受け入れられた中はこなれていて柔らかく受け止めてくれるくせに、キュッキュッと強く締め付けては早く早くと射精を促してくる。経験がない、若い、そういった意味での単に狭いだけのきつさではなく、しっかり鍛えられた膣感からは鍛えられた動きである。

 本当に美味しいものを口にしている、と言わんばかりに緩んだ顔。

 

「望むなら何度でも出してあげるよ」

 

 一回でも十分に溢れる量を出すが、溺れさせてやろうと、激しく抽挿する。

 複数回交わった経験がマインの弱点を告げてくる。

 

 ヌチュヌチュ、グチュグチュと音が響く。

 少女達の静かな呼吸音以外は性交の音と漏れる喘ぎ声しか部屋には存在しない。

 

「あ、あああん♥、ふっ、うんっぁ♥……あアっ……!」

 

 ゆっくりじっくり炙るように性感をより高めてゆくと、あっという間に限界に達し──

 

「い、イクッ♥」

「でるっ!」

 

 絶頂に合わせて、ドビュ、ドビュとマインの子宮を叩くように精液が吐き出される。

 一気に射精をして、両方の金玉が小さくなるのを感じる。

 だがそれも、ほおって於けばあっという間に満タンまで装填されるだろうが、それを待たずに回復魔法で増やす。

 

「ああんっ、イッたばかりで、敏感になってるのにっ♥」

 

 だが、今日は刻んでやると決めたのだ。

 再びピストンを開始する。ドロドロに精液を塗りたくられた子宮。置くまで挿入された肉棒によって精液が膣内にまとわり愛液だけのときよりより粘度のました音が響く。

 

「二回、三回じゃ足りないからね」

「あら、楽しみだわ♥」

 

 広いはずのマインの部屋はしかし、どこにいても彼女の声が響いただろう。

 射精のたびに子宮いっぱいになるドロドロの精液は繰り返すたびに垂れ流され、ソファーどころかそのままたれてゆき、吸い込みの悪い絨毯の上に大きな水たまりを作った。

 

 **

 

 数は数えていないが、ユウとの行為のは十を簡単に超えてしまった。

 

 精力を回復させるなど呆れた魔法もあったものだとマインは息を整えた。

 ユウは今は部屋に備え付けのシャワーを浴びに行っている。

 一緒に浴びるかと聞かれたが、流石に足腰が立たない。

 かと言って介護のように世話をさせる気はない。

 城のメイド相手であれば数人呼び立てて体を磨かせたかもしれないが。

 

「やっぱりユウは規定外だわ」

 

 どれほど女が集まっても抱き潰せるに違いない。

 それにも関わらず孕ませてやると本能に従いながらも大切に抱かれるとそれだけでイッてしまう。

 

「子供なんて愛するはずがないと思ってたけど」

 

 ユウとのと言う言葉がついただけで、情を抱ける気がしてきた。

 

「生まれてくるなら女の子がいいわね」

 

 お腹を撫でる。残念なことだが、危険日はまだ遠い。

 しかし、アレだけ生命力にあふれてそうな精子である。

 もしかしたらはあり得るかもしれない。

 

「ホント楽しみだわ」

 

 その言葉はまだ生まれてもいない誰かにあてられていた。

 




捧げる興奮で脳イキしてしまうマイン。やはりザコ二人とは核が違った!
さすがお邪魔系ボス!

子供は好きじゃないけど女の子ならユウにあげれるから好き♥ って結構あれですよね。
大事にすればするほど捧げる意味合いが増えるからと教育熱心になったりして。



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093 異世界へ

前回のイドルとの戦いの件で、勇者という立場が決して盤石ではないことから、メルロマルク国での影響力をもっと上げて立場を安定させようとしていた、ということらしい。

確かに組織力については個人が対抗できるものではない。それにいくつかの他国の波を回ることで、勇者に向けられる視線というのも感じた。

メルロマルク国が勇者を独占していることをずるいと感じる国の感情だ。

尚文から聞いた話ではフィロリアルクイーンのフィトリアというかつて盾の勇者の獣魔であった存在が人里離れた場所の波に対処してくれているらしく、波の被害をさほど受けていない国も多いらしいが、それでも村の1つ2つは波によって壊滅しているらしい。

 

メルロマルクの女王が各国とうまく交渉しているようだが、もしかすると勇者は他国に派遣すべきという声が出るかもしれない。

 

「色々ありがとう」

「このくらいなんともないわ」

 

エレナとレスティは今もベッドでぐったり寝入っているが、マインはむしろ元気になっているようだった。

ツヤツヤしていると言ってもいいくらいである。

 

「まあ、心配はないでしょうけど」

「そうだね」

 

懸念がないわけではない。なにせ女神である。以前勇者だった世界では一度もあったことがないが、魔王を倒したときに、何の抵抗もなく元の世界に戻せたことや、魔法が使えたものの、肉体的には転移したその瞬間のものと変わりが見つけられなかったりと、領域の違う力を持っていてもおかしくない。

現在のところ、敵対的な気配がないことが救いだろうか。

 

しかし、踏み込まなければわからないものはわからないまま。

そして波の終わりがゲームの終了条件であるのなら、このまま黙っていた場合にグラスの世界は勝利条件を満たせてもこちらが満たせないままの場合がある。

覚悟を決め、波へと向かい、生命感力からの全敵のターゲットと魔法の行使により一撃で波を収めながら……別の世界へと渡るのだった。

 

**

 

「やあっ!」

「ぐあああっ」

「ああ! クラスアップしたはずの用心棒が吹き飛んだアアア!?」

 

異世界にゆくというユウさんを見送り、リーシアと刀勇者のパーティであるラフタリア、ガエリオン、それにグラスは国々を旅しながら魔物を倒して回っている。刀の勇者のいない刀の勇者パーティだが、リーシアの経験値上げで各国を回ったおかげで、名声もまたじんわりと広がりつつあるようだ。

 

今は魔物被害に貢物を要求されて困っているといわれて魔物を倒したところ、魔物の巣には運ばれたはずの宝がまったくなく、そこにピンときたリーシアの調べで、その裏にいた領主のおじであるモンスターマスターによる狂言であることを暴き、開き直って襲いかかってきた相手を殴り倒したところである。

 

「やりましたね! リーシアさん! おかげでこのあたりに平和が戻りますよ」

「リーシアにしてはやるなの。でも私も実は怪しいって思ってたなの」

「中々のものだと私も思いますよ」

 

パーティーの皆の言葉はとても暖かいものだった。

じんわりと涙がこみ上げそうになる。

 

「ありがとうございます。刀の勇者御一行様……特にリーシア様には感謝しかありません」

 

彼らの言葉も嬉しかったが、自分もまた、正義を行うことができたことが嬉しかった。

 

(私もまた、強くなったんだ! イツキ様みたいに立派に……なれる、かも?)

 

リーシアの脳内にいつまでも輝く記憶。

それはリーシアを救う勇者の姿。

 

リーシアはその姿に多くの感情を持っていた。

憧れ、恋慕、尊敬……そして嫉妬も。

助けられるのではなく、助けたい。

その気持が助けられた少女を助けられたままではなく、勇者の仲間に進化させた。

 

いま、仲間としてではなく、自分こそが人々を助けたという実感が、仲間や人々に認められることで、自信が少しだけでてきた。

 

(いつかなりたい! いいや、なるんだ!)

 

憧れの気持ちが、他の勘定をそぎ取り、昇華されようとしていた。

 

(ユウ様がいたら褒めてくれてたんだろうか……くれて、ましたよね?)

 

そして、この場にいないもうひとりのあこがれへの気持ちもまた、くすぶりだしていた。

 




元々のリーシアの展開は「樹様大好き一途。勇様はエロテク教師です」だったんですが、52%というとても高い数字でもって「樹様は尊敬、でもパートナーは勇様です♥」ルートに。

いいですか、リーシアを寝取ったのはユウではなく、投票した読者のみんななのです!(笑)

感想は直接受けられるので活力になって超嬉しいですが、アンケートも皆の気もちが見えて長楽しいです。いつも投票ありがとうございます。


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094 孤独な箱庭に指した一条の光

 

(うーみーはひろい~な、おおきーな~)

 

歌を歌いながら海向かってルアーを強めに投げる。

向かい風が優しく体を撫でる。潮の匂いは心を落ち着ける。

ここいらの魚はなんというか、擦れていない。

釣り人がいないせいで警戒心がないのだ。だから結構いれぐいである。

ポイントもちょくちょく変えているせいで、そこまで学習もされていない。

難易度を楽しみたいときもあるが、今は行為に没頭したい気分だったから、無心で糸を垂らす。

 

朝の早い時間の少しだけ体を冷やす陽気は時間経過とともにポカポカと暖かくなっていく。

 

(ああ、気持ちがいいなあ……あとで昼寝でもしようかな)

 

どうせ、誰もオレのだらしないところを指摘するやつはいないんだしーー

 

ああ。

 

やってしまった。

 

誰かの存在を意識してしまった。釣りのときは釣りに没頭できる。

魚との、海との対話が孤独を慰めてくれる。

一日の中で釣りをしているときだけが唯一の救いなのに、やってしまった。

しかし、一度行った連想は止まらない。

 

グラス、ラルク、テリス……自分の仲間の顔を思い出して心が千切れそうな寂しさに襲われる。

 

風山絆は異世界に召喚された四聖勇者の一人、狩猟具の勇者だった。

日本でVRヒーリングMMOである「ディメンションウェーブ」を姉妹と一緒にプレイしようとしてーー気づけばこの世界にいたのだ。

最初は単純にゲームの延長で楽しみ、世界を生きる人々にふれあい、仲間と絆を深め合い、勇者として世界を脅かす魔竜討伐の使命を果たしーー船旅の中遭難した先が敵国である鏡の眷属機の国ミカカゲであり、無限迷宮に幽閉されてしまったのだった。

出口のないこの空間はどう駆け回ってもどこにもいけない。

何年も何年も探索を続けたがそれでも出口を見つけられなかった。

 

孤独は少しずつ、少しずつ絆の心を蝕んだ。

天井から落ちる水滴が石を削るように少しずつ。

当初は絆はあらがっていた。助けを求めていた。

グラス、ラルク、テリスの名を呼んだ。

姉に、妹に、母に、父に助けを求めた。

けど、無情にもなんの答えもなかった。

 

いつまで立っても助けは来なかった。変化はなかった。

けれども風山絆の心根は確かに勇者だった。

助けに来ない仲間を、家族を責めることは例え誰もいない場所であろうとできなかった。

だからこそ、彼女にできるのは口に出さないこと、助けを求めないこと、思い出さないことだけだった。

 

出口を探すことはやめなかった。助けが来ない以上やめた瞬間、永遠ここに閉じ込められることが確定してしまう。

だから可能性はなくても、探している、だからいつか出れるという希望だけは絶やすことができなかった。

 

「寂しい、さみしいよ……」

 

数年の孤独。それでも発狂していないのは絆の心が強かったせいである。

しかし、だからこそより苦しむ結果になっていた。

 

諦められればどれだけ楽だったか。きっと一人心の凪いだ世界で生きて死ぬことができただろう。

 

だが、その未来は変わることになる。

なぜなら彼女の心と同じように、彼女の仲間たちは絆のことを諦めていなかったから。

 

絆は空を見上げた。美しく青い空に祈りを捧げた。

だれか、ここから出して、助けてと祈った。

 

ーーそうして、彼は空から落ちてきた。

 

 

**

 

 

異世界に渡ったと思ったら空中で、呪文を唱えるまもなく海の中に突っ込むとは誰が思っただろうか。

 

「むぼぶぼおお?」

 

短距離テレポート攻撃を受け、土の中にいたことはあるが、いきなり海の中は体が動く分逆に驚く。

 

「《こっぼきゅう》」

 

言葉にはならなかったが、呪文は有効である。水中呼吸の魔法が効果をなし、呼吸ができるようになる。

とはいえ、エラ呼吸をしているようなもので、地上ほど自由に呼吸ができるわけではなく、息苦しさがある。

今は明るく太陽が出ているのか、海面の方向がわかったので、そちらに泳いでゆく。

 

「ぷっはあ!」

 

海から顔を出しブルブルと顔を振って水を弾いて目を開けるとーーこちらを目を見開き見てくる同じくらいかひとつ下くらいの少女がいた。

ファンタジー世界らしい海をなめているのかなロリータ服に性能で装備してそうな服に合わない羽織をしている。

 

「お、おーい、大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫」

 

敵意はないようである。外見の特徴から、風山絆で間違いはなさそうだ。

ただ、年齢は18歳だったはずだが、彼女は中学生あるいは小学生に見える。

もしかしたらここは時の流れが外と違うのかもしれない。

だとすると、下手に長い時間滞在してしまうと、外で何年も立っているという状態になりかねない。

海から上がって、魔法で乾燥させる。できた塩の結晶をぱっぱと手で払った。

 

「俺は海道勇。刀の勇者だ」

「刀の! 俺は風山絆!! 狩猟具の勇者だ」

 

わあとペカーと幼い満面の笑みを浮かべる絆。

 

「ええと、その、四聖勇者の絆は今は18歳って聞いてるんだけど」

「うん? オレは日数数えてなかったから正確なところはわかんないけど、そのくらいなんじゃないか?」

 

見た目でわかるだろ? とその場でくるりと回転されるが、ロリータ服のせいもあるのか、ないのか、年齢どうりには見えなかった。

まあ、大人だけども子供料金余裕ですという女性はいないわけではない。

合法ロリというやつなのだろう。

 

ユウこそ酒もセックスもする違法ショタなのだが、自分のことを棚にあげて勝手に納得する。

時間にずれはなかったようだ。

彼女自身何年とここに閉じ込められていた割には健康状態も良さそうである。

時間はかけないに越したことはないが、一分一秒を争う程ではないというのは助かった。

それに、探すところからじゃなくて手間が省けた。

あとはただここから脱出すればよいだけである。

 

「さて、それじゃあ出口を探しに行くかな」

 

脱出不可能系にはいくつかパターンがあるが、はいるときの感覚からして、この無限迷宮は空間をつなげて閉じることで出口のない作りにしているようである。要するに、いくつか限りのある空間をつなげることでいつの間にか元に空間に戻ってくるような作りになっており、内側からは外につながっていない作りになっているのだろう。

すでに入ったときの穴は塞がれているようである。

 

この手のものは探索しても出口はない。

であれば、どこが出口を作りやすいかを探すべきである。

閉じた空間なら壁を破って穴を開ければ出口ができる。

あとは壊しやすい、崩れにくい場所を探せば良い。

 

 




原作の「数年孤独の世界に閉じ込められてたけど釣りがなかったら致命傷だったZE!」な絆は精神も超人ですよね。

実際は自分以外に音を立てるものがない世界に意味もなく叫びたくなったり助けに来てくれない仲間を呪ったりすると思うんですけどねー。
そんな取り繕った心のバランスが不意に崩れたときにちょうどやってきたと言う感じです。

脱出を諦めていないことを免罪符に希望を捨てないでいることで心を保っている少女絆さんです。


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095 一人でない幸せ

 

オレは感動していた。

 

久方ぶりの人の声はどこまでも耳に心地よく響く。世界に色がついたように鮮やかに映る。

目の前にいるのは自分より年下の男の子だが、いかつくないその容姿はむしろ警戒心なく素直に二人になったことを受け入れることができた。

一瞬だけここに来てくれたのがグラスだったらと思った。

けれど一瞬だけだ。

 

来てくれたら嬉しい。でも、こんな出られない世界に来てほしくないとも思ったのだ。

だから、背景も知らない、彼がいなくなったとして悲しむ人がいたとして、でもそれが私にとって深い付き合いのある人間ではないということは、勇者にあるまじき考えであるにしても……都合のいいことだった。

 

そう、オレはもう本当は諦めていた。くじけていた。

この世界からは抜け出ることができない。そのことを。

 

出る道を探し続けていたのも、出られないことを確定しないための抵抗でしかなかった。

宝くじが当たれば今の生活が変わるよね。これをどこまで本気で信じて宝くじを買っているだろうか。

それと同じかそれ以上にオレは出ることを信じていなかった。

 

だから、二人になってそれが、孤独でなくなったことがどんなに嬉しかったか。

 

「俺は海道勇。刀の勇者だ」

「刀の! 俺は風山絆!! 狩猟具の勇者だ」

 

手を差し出し、相手の顔をまっすぐ見れば、相手も手を差し出してくれる。

両手でギュッと掴む。

ああ、自分以外の体温がなんて暖かく優しいものか。

幸せな気持ちが胸をふわわっと巡っていくのがわかる。

 

かいどうゆう。漢字を聞けば海道勇。海に風、道に山。勇気と絆。

とてもいい組み合わせじゃないだろうか。

それに、日本人であるということも高得点だ。

異世界で行きてみて思うのはやはり感覚に差があるということだ。

努力して埋められない差ではないが努力は必要とする。

 

これから一生を友にする仲なのだから仲良くなれるに越したことはないのだ。

まずは家に連れてゆき、料理でも振る舞うべきだろう。

 

そんな風に考えていたのにーー

 

「さて、それじゃあ出口を探しに行くかな」

 

はあ!? 声を漏らさなかった自分を褒めたい。

 

無限迷宮は出口のない迷宮だ。空間がねじ曲がっており、入れるのに出れない。

しかし広大な空間であり、それこそ迷えば元の場所に出るまでものすごく時間がかかる。

彼一人行かせてしまった日にはまた会うのにどのくらい時間がかかるかわからない。

それ以上に……

 

(もし彼だけ出れたとしたら。死んでしまったら)

 

いつか会えるかもしれない、会えないかもしれない。

下手に一度人に会ってしまった分、もはや今までのように孤独に耐えられないだろう。

いずれ帰ってこない彼を待つのではなく探しに出かけ、会いたい気持ちを元に……会えないなら死んだほうがマシと死ぬまで探し続けるに違いない。

 

「ま、待って! その、まず拠点を案内するよ。それにオレはここで長いから、ここのことよく知ってるし」

「そう? まあ、たしかに性急だったかな」

 

セーフ。ほっと一息つく。

彼もいずれはここから出ることを諦めるだろう。

だが、その時まで何があっても食らいついて一緒に行動しなきゃ。

こちらの表情を見て気遣ってくれる優しい彼だ。それにこちらを見ても性的な目で見てこなかった。

 

肌の露出がない服であるせいもあるだろうが、それでもわかるものはわかる。

彼は紳士な勇者らしい勇者なのだろう。中学生くらいだからまだ付き合うとかの意識がないだけかもしれない。

 

こっちだよと案内するふりをしながら手を握る。

指と指を絡める。人肌恋しすぎて飢えて死ぬところだったのだからしょうがない。

飢えて死ぬ前の人間が焼かれたステーキを見ればだらだらと湧き上がるよだれを飲み込むのと同じように、この極限状態で人肌に触れたことで、絆の本能は喚起された。

死を前にした人間がそうなるように、絆の体もまた子孫を残したい気持ちに揺さぶられたのである。

 

(手を握っただけでこんなになるなんて!!)

 

自分のことを”オレ”と言ってしまうように、絆はゴスロリの似合う可愛らしさを持っていながらも心は少年っぽいところがある。

性に目覚める中学生になっても付き合う自分が想像できなくて、むしろ姉たちがこぼす男の悪い面のせいでそんな気にならないでいた。

勇者になってからは恋なんてするどころじゃなかったし、親友であるグラスと旅することの楽しさや、ラルクたちの恋を応援することでその欲が完全に消費されていたのだ。

 

けれど、どこかに行かせたくない、引き止めたいという気持ちや性欲の目覚めで無意識だが完全に火がついていた。

そして、今まで一度もそんな気持ちを抱いていない人間が急に個人にそんな思いを抱いたとしたら。

 

初な少女の結論は一つだけだった。

 

(この子はオレの運命の相手に違いない!)

 

勇者らしい勇者である絆。そもそもの性根が善人である影響は強かったが、彼女本人状況に載せられやすいたちであることも理由の一つだった。

勇者らしくあれという無言の期待が絆をより勇者らしくしていたのである。

だからこそ、本能の訴えにもまた、素直だった。

手をつないだ年下の相手に愛欲をいだきながら、キュンキュンする子宮に導かれ、彼を家に誘った。

 

**

 

「じゃ、……じゃ~ん。ここがオレの住まいだ」

「へー、しっかり生活してたんだ」

 

彼は軒先の干した魚を見てそうつぶやいた。

まあ、数年と暮らしていたのだから、地に足のついた生活にもなる。

元々の釣り好きとしての経験もあるし、そもそも狩猟具の特性もあり、肉にも魚にも食べるものには困らなかった。

無限迷宮のなかがすべて土と石しかない迷宮だったら飢え死んでいただろうが、自然あふれる環境が多いので生きることは難しいことではなかった。

だが褒めてもらうのはそれだけで嬉しい。

ダイエット中の甘いもののように脳に染み込む甘さである。

ニヘラと自然と笑顔が浮かぶ。

 

こっちもこっちもとさほど広くない家の中を案内して、海の幸をたっぷりごちそうして、『海の魚はいいよね。地球と違って簡単には食べれないもんなあ』とパクパク食べる彼に

(男の子なんだなあ……!)

と感じいったりしながら一緒の時間を過ごした。

 

**

 

「しょ、しょうがないからね! ベッドがあいにく一つしかないし!! 海に落ちて疲れてるだろうしっ! お客様を地べたで寝かせるわけにも行かないしねっ!!!」

 

ベッドをバンバン叩いてから毛布の中に潜り込んでしまった。

顔を隠しながらも目はうるみながら早くと誘っていた。

 

ーー何もしていないのに出来上がってて困惑するが、

 

 

うーん。

経験が彼女は初めてだといっている。誘い文句も下手くそで、処女で間違いないだろう。

助けに来ただけなのになぜここまでと思わないでもなかったが、誘ってるのに無下にはできない。

 

窓の向こうから光る月明かりだけの部屋で、誘われるがまま毛布の中に入った。

 

 




自分から惚れていくスタイル。


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096 思春期だから……

 

(だいじょうぶだいじょうぶ、ちしきはあるし、やれる……)

 

自分で誘ったことだったが、彼のは説得に応じてかベッドの上に上り……ぎしりと音を立てる。

ビクリと体が震えた。近づいてきた。近くにいる。

それだけで心臓が、鼓動がどくどくと鳴り響く。

 

何年も人とあっていない自分にはなんというか、彼の存在は劇物である。

これほどに興奮することは今までなかった。

 

(これが恋をするということかぁ……)

 

絶対逃したくない焦りや、孤独からの開放の安堵やそれを失うことの不満など、複雑な感情が絡まっての動悸であったが、彼女の頭はポジティブにそれを捉えていた。

勇者であれば抱けば見捨てることはないという打算の強い行為を後押しするのに丁度いいせいもあった。

 

絆は自分をオレと呼ぶ。

姉と妹に囲まれ、上から下から可愛がられていた。

だからこそ彼女たちの興味を持たない釣りや男の子の遊びは家族から独り立ちするような特別感もあり、のめり込んでいた。

そのせいか、男の気持ちにも女の気持ちにも中途半端なところがあった。

性欲を男にも女にもいまいち向けることができなくて閉じこもったままだった。

けれど、運命と出会ったと思ったことでその興味は一心に勇へと向かっていた。

 

(うわああっ! 肩が触ったああぁ!)

 

反対側を向いているため、目では見えないものの、勇者の優れた感覚が伝えてくる。

入り込んできた彼の体と自分の体が触れ合った瞬間を、その熱を。

 

(うわあ、わああ! 年下のくせに、年下なのに!)

 

見た目こそ同じくらいだが、実年齢では結構差がある。学校に通ってないが、通っていれば高校生と中学生である。

おねえさんのはずだが、この状況では年上ブルなど到底できそうにない。

ほんの少しの差であっても、自分より背が大きく、男らしくなり始めているその体は絆の心を揺さぶるには十分すぎた。

 

(よおし、よおし、あっちを向く、あっちを向くぞっ!)

 

このまま黙っているとおそらくそのまま朝になるに違いない。

向こうも勇者である。まさか黙って下着を脱がして性交、となるはずがない。

全ては自分次第。勇気を出すんだ、勇者でしょ!

男女関係の勇気も勇者に含まれる勇気なのかはわからないが、絆は振り向いた。

 

そうして、目があった。

 

(うわああああ、めがあったああああ!!)

 

勇の目はなんだか面白いものを見るような視線であったが、絆にとっては興味を持ってみてくれている視線に見えた。

優しげな瞳にこれはお互い同じ気持ち! と例えそうではなくても進める気だったがやる気になった。

 

(まずはきす!)

 

まずも何も、出会って名前を知って即ベットにはいる前にすべきことはたくさんあるはずだったが、絆の目的はやって引き止めることなので問題はなかった。

 

「す、するから!」

 

何をと聞き返す間も与えず、顔を近づけ……歯と歯が当たる。

頭突きのような形のキスは強い痛みを与えた。

 

(やっちゃったああああ!?)

 

脳内では完璧だっただけに、この失敗は痛かった。

もしや痛がって離れてしまうのではないか。急に恐怖が心を襲う。

体が自然と震えだしたが、そんな絆を何かがそっと包む。

 

「そんな緊張してたらうまく行かないよ」

 

体をそっと抱きとめ、ゆっくりと触れるだけのキス。

二度目のはずのキスは、けれどゆっくりとした動作のせいか唇の柔らかさが存分に伝わってくる。

 

(えっちだ……)

 

この柔らかさはやばい。本当に人体にあっていい柔らかさなのだろうか。おかしい。エッチ。

胸がどきどきする。とても柔らかくみずみずしい。

 

それだけにこの閉鎖的な世界で大した手入れもしていない自分がなんだか恥ずかしくなる。

姉妹に強く言われて元の世界ではそれなりに手入れをしていたし、炎天下で釣りを続けていた割には肌が強かったのか大したダメージはなかったと思う。

勇者になってからは体も丈夫になったのか、手入れなしでも十分なほどだった。

 

だが、過去異世界で国家総力でメンテされ、日本に戻ってからも魔法を加えた健康法を習慣として続けていた勇である。

身体の欠損ですら治す回復魔法やその高レベルの自己治癒能力が合わさればただでさえ若い肉体年齢はこれ以上がないほどに艷やかである。

肌はきめ細かく、水を浴びても弾きまくってしまう。

 

男に対して抱いていたどこか汚いイメージは消え去り、その匂いに包まれる心地よさもあり、絆の性欲のスイッチは簡単に入っていた。

 

 




男性がいない環境下(しかも経験無し)がどこまで気をつけているかみたいな。
まあ、冒険中でも女を抱いたりする冒険者だとそういうの気にしなさそうですけどね。


え? 三次元のキャラには毛が生えないはず? トイレなんていかない?
そうかも知れませんね……。


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097 初めて

 十分な明かりのない中、視覚が弱まる分、他の感覚は興奮もあってどこまでも高まっていた。

 

(におい、いいにおい……肌も、ところどころ固くてゴツゴツしてる……オレと違う……)

 

 唇と唇を触れさせるだけで心臓が弾けそうになるのに、彼に引き寄せられるように体が近づいてゆき、二度、三度と口づけを交わす。

 幸せな時間だった。

 何年もの孤独の中、変わらない毎日を過ごし続けていた絆にとってはそれはそれは植えて死ぬ寸前まで絶食した後に口にする水や甘い蜜のようなものだった。

 

 ……と、ここまでは良かった。

 唇をしたしそろそろと考えてはっとしたのである。

 絆は何年も何年も閉じ込められていた。

 最低限の習慣は続けていたものの、こんな場所ではできることできないことがある。

 勇者武器によるアイテム生成があるにせよである。

 

 例えば食事はするし、デザートもたまには作って食べたし、食後の歯磨きもしている。

 だが、肌ケアは最低限だし、寝起きから1時間もかけるような手入れや化粧などはしていない。

 素のできが良い絆は化粧などなくても十分に可愛らしい容姿をしていたが、問題は別である。

 

 人間、必要必要ないと思うものは削ってしまうものだ。

 例えば──そう、夏の間は熱心であっても、着込む冬には疎かになりがちな──

 

(毛の処理してないっ!!)

 

 コンプレックスを抱くほどに生える質ではないが、整えていない以上生えている。

 

 そうこう悩んでいる間に勇の片手が体を優しくなでながらだんだんとしたに下がっていくのを感じる。

 まずい。まずい、このままじゃ──

 

 吹き出しそうになる冷や汗。笑顔を崩さないようにギリギリのところにとどめながら──

 勇の手を掴んだ。

 

「こ、こっちを……その……」

 

 掴んだ手をゆっくりと胸へと運ぶ。過程で手のひらが乳首に触れた瞬間、衝撃が体を襲い、間抜けな声が出そうになってぎゅっと口を閉じる。

 

「んっヒッ♥」

 

(うわ、おおおお!? 男に触られるってこんななの!?)

 

 絆とて中学校には通っていたのだ。友達もいたので、これ兄のなんだけど、とAVを見たことも一度だけだがある。

 あの中では胸の大きいお姉さんが胸を強引にぐにゅんぐにゅんと揉んでいた。

 触れただけでここまでとなると、あんなにされたら死んでしまうんじゃないだろうか。

 だからプロやれてるんだろうか。やばいな。やばい。

 

 とはいえ、優しく撫でるように胸を触られると、感じすぎない程度に心地よく、ベテランのマッサージを受けている以上に気持ちが良い。

 見えない何かが高まっていくのを感じるが、不安を心地よさがうわまっている。

 その上、毛が生えているだろう足に触れられることがなくなって安心したこともあり、その心地よさを受け入れることができた。

 

 そう、生えているのは足である。

 産毛のようなものにせよ、それが触れられると感じた瞬間に恥ずかしさを覚えていた。

 

 陰部の周囲の毛については姉もまだいいかと指導しなかったこともあり、本人の意識外にあった。jkゅいお

 姉がここにいればそっちの毛こそ意識するべきでは? とツッコんだかもしれないが、感覚で言うなら、背中の毛やほくろのようなものだろうか。

 自分の見えないモノは意識しずらいものなのである。

 

(あれ? 進んで胸を触らせている?)

 

 そう考えた途端、それはそれで恥ずかしくなった。気持ちいい。でも恥ずかしい。

 だから、言ってしまった。

 

「も、もう大丈夫だから!」

 

 何が大丈夫なのかわからないが、大丈夫なのである。

 キスして胸を触ったからには多分これでセックスである。上、真ん中、下である。

 痛いらしいがさあこい! と食いしばっていると、「わかった。でももうちょっと準備してからね」と額に口づけされる。

 

(おーう、なんだかアメリカン……)

 

 どうアメリカンなのかわからなかったが、絆の中で額へのキスがアメリカンなドラマか少女漫画にしかでてこなかったのである。

 年下なのに大人っぽいと思う反面、経験豊富なのか? と見えない相手に嫉妬する。

 だがその気持も、勇の指があそこに触れるまでだった。

 

「はひっ♥ はっ♥ あっ♥ ……え?」

 

 体がプルプル震え、頭がしびれる。

 視界が真っ白に埋め尽くされて、自分が壊れてしまったみたいである。

 

(攻撃された!? でも、魔力を感じない……)

 

 お豆を触られているのはわかる。なのに、なぜこんなに体が反応してしまうのか。

 

(……え? イッてる、ってこと?)

 

 普通はそうそういかないらしい。性の奥義みたいな領域のはずである。

 だからこれは違うような、いや、他にあるのだろうか。

 

「えっ、え♥ なんだ、これっ♥」

 

 今までもじんわりとトロトロと愛液の”漏れる”感覚はあって、セックスをするのだからそういうものだろうと思っていた。

 それまでの人生でそれこそAVを見たときになんとなく濡れたな、と言う状態になったことはあるのであるし、本番となればそういうものだろうと思っていたが、いじられ始めてからは締め切らなかった蛇口の状態からひねった蛇口に変わったようである。

 もうすでに下着どころか布団も濡れている。

 

「じゃあ、入れるね」

 

 横に並ぶようにして二人で寝そべっていた状態から、上に覆いかぶさるような状態になる。

 その際、少しだけ、男性器が見えた。

 

(うわあ、股間から角が生えてる……)

 

 あまりに雄々しく写り、自分は串刺しにされるのかと怖いイメージが一瞬浮かぶ。

 それも勇が絆の手をそっと握ってくれたことでなくなっていくのを感じる。

 

 注射を目をつむりながらこらえるように痛みを待っていると──

 

 クプッ、グチュチュと音を広げながら自分の中に異物が入ってくる。

 

「あっ♥ ああっ、あっ♥」

 

 小柄な絆のお腹をふくらませながらよく濡れていてもひったり締まっている穴をズルリと入り込んでゆく。

 膣壁をゴリゴリ削るように入り込んでくる感覚は耳かきを何倍にも心地よくしたものであり、脳を貫く甘い痺れと合わせてズンと膜を破って入り込んできたとき、再び絆は絶頂した。

 

(オレ、どうなっちゃうんだ……)

 

 年下の男の子に赤ん坊のように抱きつきながらも、優しく攻め上げるようなその動きに一突きされるごとに自分じゃない誰かが変な声を上げるのだ。

 抱かれて、内側を晒して、体を、心を預ける。

 なるほど。母や姉が『好きな相手とするべし』というだけはある。

 体の内側から染め上げられていくような感覚を覚えた。けれども、それは不快ではなくとても心地よいものだった。

 

 そして、これを知る前の自分には絶対に戻れないことを確信した。

 




もう何も知らなかった純真な昔にはもどれない……

まあ、昔が釣りしかない閉じた世界だからまあいいよね。

--追記--
うまく次話がかけなくて、1週お休みになります。すみません。。


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098 迷宮を抜けて

 窓から優しく指す朝日にまぶたを照らされ、目が覚める。

 ベッドから降り、うーんと腕を伸ばすと、体の動きに合わせて、ドロリとした液体が足を伝っていく。

 なんだと足を見ながらその白く透明な線を目で追うと秘部から流れ出ている。

 入り口を指で小さく開いてみると、大玉を作ってドプリとたれ流れてゆく。

 粘度が高いのかゆっくり足を伝ってゆく、どことなくくすぐったさを感じた。

 

「たくさんでたんだなあ……」

 

 どのくらいが普通なのかはわからないが、AVよりはるかに出ているのだから、多いのだろう。

 なんだかそれが自分のことを思ってたくさん出してくれたのだと喜びのような気持ちが湧いてくるのを感じた。

 自分への思いの証拠に違いない。

 それを意識した瞬間に胸がときめくのも感じた。

 異性を意識しなかった自分だが、こんなにときめくなら皆が夢中になるのも仕方がないと感じる。

 

 ベッドへ視線を向ける。未だ寝ている彼の寝顔は無邪気で更に幼く見える。

 年下相手に誘ってしまったことに少しだけ罪悪感を感じた。

 

(まあ、一生一緒にいるんだから年齢なんて大して問題ないか)

 

 子供は何人ほしいだろうか。でも、欲しがる人数よりずっとずっと多く生んでやるんだと……気合を入れた。

 

 **

 

「勇。好きだ。子供は何人ほしい?」

 

 セックスした翌日のおはようの挨拶の次がこれである。

 笑顔を浮かべ、どことなく満ち足りた表情をしている絆はそう言った。

 

「ありがとう? 男女一人ずつ??」

「なるほど。兄弟はいいよな。オレはもうちょっと女の子ほしいけど」

 

 なんだか彼女からの好意が振り切っているのを感じる。

 先に起きていたらしい絆は体を洗って服を着替えているにも関わらず、お互いの体液まみれで全裸のユウにもたれかかってきたのである。

 好感度がとても高かった。

 

 初めての子には深い快楽に怖がるタイプとのめり込むタイプがあるが、それとも異なる、惚れ込まれている感じである。

 いい奥さんになる! と意気込んでいる彼女は可愛らしかったが、ここに根を張る気はなかった。

 こちらの世界についてきてはくれるのだろうか。

 

「それで、出口を探しに行きたいんだけど」

 

 シャワーを浴びて、朝食を一緒にとって。

 その間ずっと目に薄っすらとハートを描いた絆にあなたのことが気になります! とキャピキャピ質問されていた。

 日本の学校を思い出すノリだったが、いつまでもこうしていられない。

 話をすると、絆は一瞬表情を曇らせた。

 

「これでもオレだって勇者で、ずっと出口は探し続けたんだ」

 

 けど、見つからなかった。世界は繋がり合い、閉じている。

 入れるのに出られない。そんな有限でありながら出口のない無限の迷宮なのだと。

 

「出口が見つからないのはわかった。そうなると、ほころびや、中心点かな」

「そんなものあるか?」

 

 体を守るような小さな結界であっても、全てが均等に力がかかっているのではない。

 力を維持している術者との繋がっている点が一番力強く、遠くなるにつれて弱く薄くなる。

 手をかざしてバリアを張っている場合正面が強くて後ろから殴るのが一番簡単に壊せるという感じだろうか。

 

 内側に入ってわかった。高い耐久性を感じるがこの世界は壊せる。

 ただ、壊した際に周りにどんな影響を与えるか。出口だけを作るのであれば極力起点となる場所か一番外側で行う必要がある。

 そう言ったことを伝え、なにか思い当たるようなところがないかと伝える。

 

「……社みたいなところがあるけど、そこ行ってみる?」

 

 **

 

 無限の迷宮は確かにおかしな世界だった。

 海近くの寂れた港町みたいな光景から、森深い木々に囲まれたり、山頂のような岩石に囲まれたり。

 そんな道を歩いて進んだ先にあったのは寂れた神社であった。

 

 管理者のいないそこは苔や木々に侵食されだしている。寂れた空間に反して虫は一匹もおらず、音がない。

 二人の立てる足音すら静かに吸い取ってしまう。

 廃墟マニアだったら喜んで写真を取りそうな光景だったが、滅びの美しさを感じるには若い二人にはなんとなく寂しいところと言う印象だった。

 

「維持システムのひとつって感じ……かな」

 

 神社の柱をペタペタ触る。

 迷宮を閉じるシステムに触れられることで、干渉が可能になった。

 たが、複雑なシステムに介入するのは、システムを良く理解していないと難しいものである。

 

 ところで、プログラムコードの書き方がひどすぎて中身が全く理解できない。

 この苦しみは公式をおぼえていない数学の証明問題を解くような苦しみである。

 

「だいじょうぶ?」

 

 このへんを、こうして、たぶん、いける! ──エラーが検出されました。

 どこが! なぜ!? 

 腹を立てながらもとに戻して、再度──

 

 思うに、昔の勇者時代の魔法を習う時間はそれなりに楽しいものだった。

 できることが増えるという実感、役に立てるという思い、褒めてくれる仲間の声援。

 ひどいトラウマのできた時代だったが、それでも強くなるための努力に関しては面白かったと思えなくもない。

 

 ──いまは腹しか立たない。

 

 ムカムカしてきた。そもそも出られない迷宮なんてなんのためにあるのか。

 なぜ穏便に解決しなければいけないのか。

 そもそもこんな迷宮の存在、百害あって一利なし。

 壊そう。このイライラとともに……。

 

 仕組み自体を変えることは全くできなかったが、性質自体はなんとなくわかった。

 閉じられた箱なのだ。だからどこまで移動しても箱の中。

 そして、返しがついている穴がどこかにあり、入れるが出れない。

 しかし、内側から大きな力を爆発させれば、膨らんだ空間はパカリと開かれるはずである。

 言うなれば炭酸の入ったペットボトルにメントスを入れると膨らんで蓋を飛ばすようなイメージである。

 

 そんなふわっとした理論を絆に伝えるとジトッとした目で見返されたが、まあ、何事もチャレンジだ! と応援されることになった。

 社をでて、システムへのとながりであるそこに向けて構える。

 

 ──全力。

 

 魔王を倒したときより、遥かに増えた能力。全力を出す場所も相手もなかったが、こんなところで行うことになるとは思わなかった。

 戦闘ではためのない一撃、消費が少なく最大威力がジャスティスだったが、今はいくらでも準備が可能である。

 全身にパフを重ねる。何倍にも掛け算が繰り返され、能力が莫大に膨れ上がっていく。

 

 刀を引き抜き、魔力を込める。

 

 カタカタと弾けそうになる力に震える勇者武器。

 かつて手にしていた剣であれば力に負けて溶けていたかもしれない。

 悲鳴をあげながらも力に耐えているあたり、さすがと言えよう。

 

「──で、でたらめだ」

「雷神剣!」

 

 雷が落ちるような轟音とともに神社は消え、空間は歪み、穴が開く。

 

「飛び込むぞ!」

「お、おう!」

 

 絆を横抱きに抱えて穴へと飛び込む。

 落ちるような浮遊感。この夢幻迷宮に入ってきたときと同じような感覚。

 

「やった! やっと、やっと出られた! 間違いないよ! ここは外の世界で間違いない!!」

 

 うわああと湧き上がる歓喜にニッコニコに笑う絆は抱きつきながらもぴょこぴょこジャンプするせいで服が擦れて何度もめくれ上がる。

 何年も閉じ込められていたのであればこれはしょうがない。

 

「ミカカゲだ!! 鏡の眷属機の国!! 出てこれたんだ!」

 

 うおーと両手両足をバタバタと振り回しながら喜ぶ絆であった。

 どこまでも嬉しげにバンザーイとはしゃぐ絆だったが、反面周りの様子がおかしい。

 突然降り立った二人の男女にざわめくのは当然のことだが、大量の武装した兵士たちがやってきたのである。

 

「おのれ、罪人、狩猟具の勇者、風山絆め!」

 

 ピンチ到来である。

 




一週遅れてすみません。絆世界はアニメに出てこないので、イメージがしづらいという問題点がありますね!

盾の勇者の成り上がりは書籍で何故か地名など名称を出さない傾向にあるので、絆の拠点国の名前もよーわからんし(8巻で色々活動してるのに出てこなかったと思う)、キョウとは別の敵の天才術士さんの名前は何度も聞き取れなかったとかで、まじで出てこなかったし。
なんか平安風の服! とかなんか江戸風とか省エネすぎるよおお!


あ、盾の勇者の成り上がりリライズ(アプリ)はじめました。課金し始めるとキリがなさそうなゲームですが、決めておけば楽しめそうです。
ワールド25でプレーしてます。よかったらうちのギルドに来てください(勧誘)


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099 お前たちは包囲されている

 

「み、ミカカゲの兵士!? なんでこんなに!?」

「普段はいないのか?」

「そりゃそうだよ! 脱出不可能の無限迷宮の入り口を誰が見張るっていうんだ! 普段は数人しかいないはずなのに!?」

 

 現れた兵士たちはメルロマルクで見るような鉄の鎧を基本とした西洋の兵士ではなく、和風な、それこそ時代劇で見覚えのある江戸の戦士、侍に似ている。

 かといって顔立ち自体は日本人のそれではないので、日本かぶれの西洋人が全力を出して似合うカッコ作ってみました、という感じだ。

 違和感を感じるのに着こなしているという不思議な感覚を覚える。

 人数は10を超えており、どれもがランクアップを果たしてそうな……メルロマルクで言えばそれなりに強い人間たちだ。

 

「異世界から巨大な存在がこの世界に侵入したことを感知して、念の為警備を厚くしたのだ! 観念するがいい! 今噂の天才術士殿もぞうえ──」

「《範囲化》《麻痺》」

「んガピッ!? がが、かららが……」

 

 周囲を麻痺させる。事情はわからないが、敵である以上先手必勝である。

 

「わお。瞬殺だ……強いんだな、勇って」

「半日はろくに動けない。《範囲化》《記憶混濁》これで一時記憶……一時間分くらいの記憶は曖昧になったはずだ」

「混濁って、どの程度?」

「ピンク色の象に襲われたと真剣に主張し始めるレベルかな」

「それは厄介だな」

 

 麻薬中毒者と誤解されること請け合いの魔法である。少人数相手だったら確実に首か牢屋送りになる恐ろしい魔法である。

 とはいえ、兵士10人となると、個人の犯罪だったとは思われないだろう。

 信頼のある真面目な兵士だっているだろうし、薬物を盛れる何かがあったことは間違いなくなってしまう。

 無限迷宮に入ったのか出たのか、どちらかだと判断されるだろう。

 そうなれば絆は逃げたと警戒されるはずだ。だが──。

 

「……殺さないでくれて嬉しいよ」

「嬉しい?」

「まあ、日本人の勇者だし殺さないかな?」

「なるべくは……」

 

 罪ある盗賊ですら殺したくない人間なので、敵対しているだけの善良な兵士など殺せるはずもない。

 

「俺は殺せないだけかもだけど」

 

 絆の狩猟具は、狩りの道具だけあって、人間を害せず魔物に特攻を持つらしい。

 盾もそうだが極端な武器である。

 正直鉈だって武器になるし、盾だって人を殴り殺せるので、盾だから攻撃できない、狩猟具だから人間を狩れないというのはなんともゲームチックである。

 

「それはともかく、急いで離れないと」

 

 グラスからの依頼は絆を無限迷宮から助けることだが、女神と合うためには彼女の国に行く必要がある。

 

「歩いていくのは……難しいと思う。国を出ようとすると関所があるし、出る人間のチェックは厳しいんだ。逃げ出したことがバレてないならともかく、バレたんなら関所破りしないといけないし、追っ手も来るだろうし。だから、龍刻の砂時計に接触して、帰路の龍脈で安全な国に移動するのはどうかな?」

 

 いわゆるポータルシリーズのこの世界バージョンらしい。

 龍脈の砂時計の場所を基準に転移できるが、一度行ったことのある場所であることは変わりがないようだ。

 

「この国の龍脈の砂時計の場所は?」

「神殿……国の重要施設だから、──まあ、カチコミかな?」

「わーお」

 

 とはいえ、強さに関してはグラスからもお墨付きがついており、すなわちこの世界でも強者であるということだ。

 であれば追手に追われてえっちらするより、一気に突き進むほうがいっそ安全であると言える。

 

 **

 

「うん、似合うと思うよ?」

「いや、ぜったい似合ってないよ……」

 

 バレて対策を取られるまでに半日以上の時間はあるが、そもそもあからさまに異国風のカッコではすぐに警戒されるということで、着替えることにしたのだ。

 金は盗賊から奪ったものの換金できていなかったアクセサリー類である。

 そこまで物がいいものではないが、ここから見れば異国の材質の異国の細工。

 それなり以上の値打ちになったろうが、商取引の経験もなければ実績のない若い子供の二人。

 だいぶ足元を見られて買い叩かれてしまった。

 

 尚文のように商才でもあれば別だがないものはない。

 とはいえ、それでも首都へ行くための足代など諸々を支払うには十分な金銭を得ることができた。

 お金があるなら着替えよう。

 あまりにも異国の風体である俺をみて絆が提案した。

 そうしてショッピングが始まったのだ。

 

 和風なこの国の衣装……将棋の棋士くらいでしかテレビで見ない、羽織袴である。

 しかも異世界らしい色鮮やかな翠色。

 なんというか、やはりしっくりこないというか、コスプレじみているというか。

 

 絆もまたトレードマークになっているゴスロリをやめ、胸当てを装備したくのいち衣装だ。

 上から羽織をつけているので、ややミスマッチだ。

 お色気方面なのか衣装の各所から肌色が見えており、特に太ももが白く輝いている。

 幼く見える外見に反したその衣装に周囲からちらりとこちらに向けられる視線を何度と感じた。

 

 とはいえ、顔まで変わっているわけではない。バレるのでは。色を変える魔法でも使おうかと提案すると、

 

「お偉方でもないとオレの顔は知られてないし、大丈夫大丈夫」

「なんだか恥ずかしいなあ……」

「大丈夫大丈夫」

 

 見るからに異国風の男が隣りにいる狩猟具の勇者っぽい女=絆になるのは当然だから変装は仕方がない。

 ただ、微妙に日本に近い分恥ずかしさを感じてしまうのだ。鎧は大丈夫だったのに不思議なものである。

 メルロマルクが割とスタンダードな異世界というか、前の異世界ともさほど違いがなかったこともあり、今のほうがより異世界感を感じている。

 

 和服なエルフとかがそうだろうか。

 スレンダーなシルエットに、肌も白くてきれいな金の髪の美貌揃い。濃い色の平安風の衣服に違和感があるが、みているうちにだんだんとそういうものと思えてきた。意外と似合っている気がしてきた。

 胸もスレンダーだからだろうか。ぜひとも帯を解かさせてほしいものだ。

 

「草人はやっぱり珍しい? オレも最初は珍しくてさー、じっとみちゃったし、仲良くなった子に触らさせてもらっちゃったよ。ツンと硬いのに触るとピクって動くんだ」

 

 絆はにこやかに語っているが、こちらの声を聞いた草人が恥ずかしげに顔を伏せてからさっと耳を隠したので、結構敏感な場所のようだ。

 

「あの子、やらしいみたいな目で見られてるけど」

「あ、あれえ!?」

 

 視線を避けるように俺たちは移動を開始した。

 




メルロマルクの亜人はけも系ですが、絆世界はエルフやスピリット(魂人)がいるわけですが、エルフのかわいい女の子はいなさそうなので残念ですね!
絆世界は絆主人公というか、男キャラのほうが多めみたいな。

しゅん。


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100 突入

 

「はーっはっはっは!!! 罪人カザヤマキズナ! そして刀の眷属器を不正に盗み出した罪人よ! この天才魔術師が裁きの鉄槌をくだしてやる!!」

「オレは勇者だ! 罪人なんかじゃない!」

「それを決めるのはこの俺だ!」

「そーよ、そーよ! 小娘なんかが天才の彼に逆らっていいと思ってるの!?」

「だそうだ!!」

 

道中は非常に順調だった。その場、その街で異国情緒あふれる景色や美味しそうな食事を口にしながら、この国の首都を目指して旅をして、首都では情報を収集しながら準備を進めた。

そこで出てきた噂話が、帰路の龍脈と同じ機能を利用する発明をした天才魔術師がおり、この国にやってくるという話で、だからこそ鉢合わせにならないようにとその日の夜に龍刻の砂時計のある神殿へと突入したのだがーー

 

その場にはすでにこの国の兵隊たちと、女性3人のパーティを引き連れたこの男が待ち構えていたのだった。

ただ、だいぶ待たせたようで、彼らのそばの簡易テーブルには中身のからになった大きなポットと皿の大きさの割には少ししか残っていない茶菓子があった。

 

……デートで旅行してるみたいだね、という絆を連れ込み宿に連れて行かなければきっと彼らを待たせることはなかったに違いない。申し訳ない。

待たせたせいか彼らもテンションが高い。瞬時にそれに合わせられる絆はいい子だと思う。

相手は天才らしい。開発をしていて他国にまで噂が広がるほどなのだから相当だと思うが……あまり強くはなさそうである。

 

「そもそも刀を盗んだって? 召喚されたときから持ってたんだけど」

「刀の勇者は八星勇者! そこの四聖と違って現地の人間が選ばれるものだろうが! 俺は今度刀を引き抜き選ばれる予定だったんだ!! それを盗み小娘と一緒にいるなど自ら罪人であると証明しているようなものだ!」

 

なんでも物語の聖剣よろしく刀も使い手を選ぶらしく、その選定の場が開かれる予定のところ、いつの間にかなくなっており、盗まれたのではないかと噂になっていたらしい。

そして彼はそんな刀の選考に選ばれる気満々だったらしい。

 

お前、あれが良かったの? ガハハと笑う男を見て刀に語りかけるように独り言をすると、刀身が否定するようにブルリと揺れた。

 

「さあ、咎人たちよ! 燃えるがいい!」

「クッ!」

 

くっ、ではないが。

勇者らしく構える絆の前に出る。

人を傷つけられない狩猟具であるが、魔物への能力は特攻。そして、人がおらず魔物しかいない無限迷宮ではそれこそ無双だったらしい。実際、道中でも見る機会があったが魔物相手はそれこそ元康たち四聖勇者レベルだった。

そして、人に対しても盾と同じく切り札があるらしい。

 

だが、わざわざ苦手な対人戦をさせる気はない。

かばうように前に出て、こちらに飛んでくる巨大な火の玉を一閃する。

切り裂かれた巨大な炎は散り落ちる花のように儚く空中に消える。

 

「き、切っただと!? おのれ、おのれ! 俺の刀を勝手に使いやがって!」

「勇!」

「お前の相手は俺だ!」

「くっ、いいだろう! この俺の本当の力! 受けるがいい!」

 

絆はキラキラと目を輝かせてこちらを見ているし、天才魔術師さんはギラギラした目でこちらを見てくる。

なんとなくだが、ヒーローショーのようである。

 

うおおおと力をためている天才魔術師。

なんというか、ための間に攻撃するのはだめですよね、という空気がとてもショーっぽい。

天才魔術師の仲間たちも応援だけで手を出さないし、絆もいつでも避けれるように身構えつつも、様子見である。

こちらを信じているからかもしれないが、しっかりとお約束を守っているような空気を感じる。

絆を見る。その目にはどこか何かを期待するキレイな色に輝いている。

 

……返しの技を期待されるやつだろうか?

考える。手持ちの技に派手さはあまりなかった。そもそも刀からして切り裂くことこそその極意というか、切った! 切れた! 死んだ! という面がある。覚える技も対単体が多く、さらに言えば実用的なものが多い。

おいお前なにか芸やってみろよ! というレベルでドキドキしだした。

……派手さとは? かっこよさとは? そもそも魅せるべき相手の前で戦ったことがなかったのでそういう考えが殆どなかった。脳がフル活動して熱を持つ。考えろ。考える。できるはずだ、勇!

 

「くらうがいい! 《アル・ヘルファイヤ!》」

 

迫りくる鉄をも溶かす灼熱に、熱とは別に汗を流しながら迎え撃つ。

 

「極光剣!!」

 

刀の周りをキラキラと黄金の光が輝き、きらめきが炎を一閃する。

その軌道を後追いするように虹が輝いた……!

 

「すごい!」

「お、おの……レ……」

 

そうして、天才魔術師はその場に崩れ落ちた。

一瞬の静寂。

そして、あたりのギャラリーとかした天才魔術師の仲間たちと、わらわらと集まりつつあった兵士や見物客たちがワッと声を上げる。

なんとなく剣を輝かせ光をまとわせつつ、大量に魔力をばらまくことで光を乱反射させ、そしてまいた魔力を使って刀を振った場所の光を屈折させて虹を作り出しただけである。

 

ーー効果はない。そして、天才魔術師はただ刀で魔法を切ったときに生まれた風圧で倒れただけである。

倒れ伏した彼には大きなたんこぶができているだろう。

 

ちらりと彼を見ると天才魔術師は気を失ったがそこには”悔しいが認めてやろう”というような満足気に口角が引き上げられていた。

たたかう1コマンドで倒してしまった感じである。茶番である。

 

「すごいよ! 勇!!」

 

絆は飛びつくようにこちらに抱きついてくる。柔らかな彼女の肢体にムラついた。

喜んでいるようであるし、ヒーローのようでまあ、良いのではないだろうか。

 

「まさか……いやいや!? お前達何している! 見ていないで罪人をつかまえろっ!」

 

我に返った俺達はうなずきあうと一直線に砂時計へと走り出した。

 

 

 





天才魔術師はなんだかよくわからないが絶対名前が認識できない呪いが原作でかかっている。お色気アニメで裸に謎の光が入るレベルで風とか音とかで聞こえない模様。

絆脱走、刀の勇者がともにいることを嗅ぎつけ、きっと首都から龍刻の砂時計で逃げるに違いないというところまで突き止めたのは有能だったが、勇と絆で普段と違う衣装でのコスプレエッチで休憩していたせいで待たされることに。

ようやく来た出番にテンションが上った模様。
でももう出番はないかもしれない。すまぬ。


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101 帰還と歓迎

 龍刻の砂時計の前に立つ。

 誰が作ったのか、砂時計自体はメルロマルクのものと同じであり、それだけにどこか日本風のこの世界とは相容れない空気を出している。

 

「よし、これで」

 

 絆が砂時計に手を触れた瞬間から光り輝き出す。追って来る人間たちに刀を向けると怖気づくようにじりりと一歩引いて……その瞬間俺たちは転移した。

 

 **

 

「キズナ様……?」

「キズナ様! 本当にキズナ様だ……っ!」

「おいみんな! キズナ様だ! キズナ様が帰ってきたぞ──っ」

 

 目を開ける。背中にあるのはさっきの龍刻の砂時計と全く同じだったが、砂の量と、そしてなによりもあたりの様子が一変している。微妙に和風な趣から、メルロマルクに近い洋風な感じに変化している。

 この国が絆の拠点の国なのだろうか。ここを中心にしていたのなら絆のゴスロリ服も、ラルクやテリスの格好も納得がいくところである。雰囲気は多少に偏っているが、メルロマルクをイギリス風とすればこちらはドイツ風、程度のお国柄を感じる。

 

 こちらに気づいた男たちがわらわらと集まってくる。一様に心の底からといった満面の笑顔を浮かべており、人によっては笑いながら涙さえ流しているものがいた。

 

「へへっ、ただいまっ!」

 

 それは絆もである。

 騒ぐ声に気づいて更に人が現れて……神殿内のすべての人間が来たのではないかという感じで人にあふれている。

 興奮はなかなか冷めやらなかったが、適当なところで切り上げ、絆に案内されるがままに彼女を召喚した国、シクールの王都へと向かう。

 

 **

 

「キズナ様っ! よくぞ戻られました! 心配いたしました!」

「みんな変わりない?」

 

 こちらでも再び歓声と感涙の涙である。

 おやと思うのは神殿でもそうだったが、集まってくる人たちの殆どが男性であることだろうか。

 むしろ逆に日本やメルロマルクのように女性が働いている方が珍しいのかもしれない。

 王都の大きな会議室に座っているとまたもや多くの人たちが現れる。

 

「それでその、そちらの少年は?」

「彼は……んほんっ! カレは刀の勇者。海道勇。オレを助けてくれた恩人だ!」

「おお! あなたが女神様の言っていたという、世界を救う勇者ですなっ!」

 

 彼らの感謝の気持ちと声がこちらにも向かってくる。

 しかし、聴き逃がせない言葉が向けられる。

 

「うーん、オレは女神なんてあったことないけど、本当にそんなのが?」

「ええ! 若やテリス様、グラス様、力のある神官などが夢の中で会われたと」

 

 主目的ではあるが、やはり女神と言われても、というのはある。

 そして絆は会えていない。

 無限迷宮という隔離された空間だから、ということかもしれないが、その空間を超えられない神ということでもあるのではないだろうか。

 本当に信じていいのか。その見極めが必要だ。

 絆やグラスに情を抱きつつも、俺はやはりメルロマルクの勇者である。守るならあちらの世界であるという気持ちに変わりはなかった。

 

「波も起こってるんだって? そもそも波ってなんなの?」

「波とは世界の衝突融合現象です。世界各地の記録によれば”波との戦いに勝った方の世界は延命できる”と。そして四聖こそがその勝敗の判定の役割を果たしており、四聖が失われた世界が敗北し──滅ぶ。そう言われていました」

「そんなっ!」

「ですが、若やテリス様、グラス様と話し合い、彼らを向こうの世界に送り出そう、そう話が決まりかけたその日でした。女神が現れたのは」

 

 夢に現れた彼女は世界の融合現象について正しい話を教えたという。

 世界が融合しても滅びたりはしない、そもそも、世界はすでに融合を果たしている。

 過去この世界には勇者は一人だった。

 しかし2つの世界が合わさり2人に、そして大きくなった世界が再び合わさり、4人になったと。

 だからこそ世界はこんなに極端に違う文化が陸続きの世界にあるのだと語ったらしい。

 

 納得できるようなできないようなだが、それを元に古い文献を調べると確かにABの文化については共通の資料があるのにCDの国の記録には全くABについての記録がないなど距離的には国交があってしかるべきなのに全く記録がないことがわかる。何よりも、草人や魂人の記録がそのタイミングから現れているというのが説得力をもったらしい。

 世界の安定のための柵としてすでに刀の勇者は異世界に送った、時期を見てこの世界に一度呼び戻せ。その時囚われの四聖も救出できるだろう、そう語ったとのことである。

 

 ……筋は通っている、のだろうか? 尚文や樹も似たようなことを調べていたらしく、少なくても刀の勇者はこの世界の勇者だった。そして、四聖勇者と、あちらでは一人不明だが八星勇者。一人の勇者に二人の眷属。あちらも四、こちらも四。

 同サイズの世界同士がぶつかるから融合するのだろうか。

 そして、波の中で片方の勇者が失われれば融合ではなく勇者のいない世界の消滅になるから残っていた文献も間違いではない、となるだろうか。

 

「……そっか。まあ、世界同士で争い合うようなことにならなくてよかったよ。グラスやラルク兄さん、テリス姉さんは?」

「彼らは刀の勇者を借りる間は向こうの手伝いをすると。まあ、協力関係の実績づくりですな。若のことです、仲良くやってるでしょう。ははは」

「そっかー。みんなとも会えると思って楽しみにしてたんだけど」

 

 わかっていたことだが、絆はだいぶ慕われているようである。自分も城の兵士たちやメルさんとの件で一部の神官職には人気が内でもないが、絆ほどには慕われていないだろう。

 それもこれも彼女が勇者として勇気を示してきた結果であり、人として慕われたからだろう。

 ……少し羨ましいと思わないでもない。

 

 エスノバルトは、あいつは? こいつは? とあれこれ仲間の現在を聞いている絆をぼうっと見ていると絆がこちらに気づくとニコリと笑うと何を勘違いしたのか、机の裏でこっそりと手をつないできた。

 

「(エスノバルトは仲間だよ。男だけど、うさぎの魔物なんだ)」

 

 別にそんなことを考えていたわけではないが、少しだけ心配そうな表情を浮かべる絆。

 掴んできた指を掴み返すと満足したのか微笑んだ。

 

 **

 

「ここが新たに作った女神のための神殿です」

 

 思えばこの世界もあちらの世界もだが不思議なところがあるなと気づく。

 勇者を信仰対象にしていることもだが、崇める神のいない宗教であることである。

 キリスト教のイエス・キリストを勇者に置き換えれば信仰も納得がいくが、その対象は俺や尚文たち四聖勇者である。

 崇めるにたるとは思えないが、それでも崇めたくなるほど魔物のいる世界では力こそが信仰対象なのだろうか。

 だが、現れた女神にひとまずでも神殿を建ててしまうこの国の人間の行動の速さはなかなかのものであると思う。

 

「龍刻の砂時計のあるところと比べると小さいな」

「まあ、急ごしらえですし、ないのもイカンだろう、ということで立てましたからな。ガハハ。いやお恥ずかしい」

「まあ、別に俺は女神じゃないからどうでもいいけど」

 

 本当に急ごしらえなのだろう。外観に比べると中は何を飾るべきか悩んだように雑多としている。

 縁起物らしい人形などを並べた祭壇はなんとなく不気味さすらあった。

 微妙な気持ちになりながら、グラスやラルクたちの証言を元にしたらしいふわっとしたイメージの神像が飾られた祭壇に祈りを捧げると、その瞬間意識を失った。

 




コミックス17巻でキズナが出ていたのに気づいて買いましたが、キズナかっこいー!

四聖を殺し合って、相手の世界を滅ぼすことで融合現象から逃れようとするキズナ世界の選択に、手のひらを返すように敵対されること、味方になってもらえないことになれている尚文はすぐに相手の選択肢として受け入れてしまって。

それに対して、「尚文はあきらめるの?」「オレはまだやり尽くしてない」
手を震わせながらも「無限迷宮は二度と出られないはずだった。敵国からも生還した。全部ウソみたいな本当の出来事」「できないと決めつけるのはバカみたいでしょう?」と説得。

世界を破滅に追いやるかもしれない選択を提案することへの震え。でも最高の結果を求めて努力しようと自分の考えを示す勇気がきらめいていましたね。尚文も勇者としてまっとうにきらめくキズナに色々思うところ出ててグッてきます!

そして次回ついに女神との邂逅です。


コミックスの絆は魅力全開感あります。書籍がちょっとふわっと戦わないことになった感じがあるというのもありますが、勇者感強くておすすめです!


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102 女神との邂逅

「よう来たなのじゃ! 刀の勇者ユウよ!」

 

 目を開けると俺は勘違いしてしまいそうになる。

 目の前にいる女神のせいだ。

 あたりを見渡す。

 

 ここは……まるでだめなゲーオタの部屋である。

 部屋自体はそれこそ教室くらいに広いのに、部屋には雑誌や洋服が散らばっており床が見えない。

 開きっぱなしの雑誌にはゲームやアニメらしきものの紹介記事のようなものが見える。

 

 女神の背にはディスプレイらしきものが8つも並んでいる。

 机にはディスプレイ以上の数のコントローラーが積まれており、あるディスプレイにはチャットらしきコメントが流れており、「オイしごとしろ」「ねおちするなたたかえ」「お前のせいだぞ今度見抜きさせろ」などのコメントが流れている。

 多分仕事とは女神の仕事ではなくゲーム内での役割のことだろう。

 

「うわあ……」

「何だその態度は! 私は女神だぞっ!」

 

 そこにはふんぞり返る幼女がいた。ドヤりとしているが、胸もない。

 よれた服、邪魔だからとまとめられてそうな左右の高さの違うツインテール。まとめきれていない髪は頬に張り付いており、枝毛も見える。非常にだらしがない。

 顔はゲームのキャラを現実に呼び出したように左右狂いのなく整っているがその様子で台無しである。

 神のオーラなのか、悪臭がしないことだけが救いだった。

 

 総じて女としては”ない”レベルの相手である。顔はいいのに立てようとしても小さくなりそうな程だった。

 

「……はぁ」

「黙るなっ! ため息を付くなっ。きっ、聞きたいこともたくさんあるじゃろ? ほら! 聞いてみろ」

 

 よくもまあ、グラスやラルクたちはこの相手を信頼したものだと思った。神像からはこの子の見た目を全然感じなかったので、彼らの前には整えてから現れたか、適当に見た目を偽って現れたのかもしれない。

 頭がパンクしそうになり、ため息が出る。

 悪意はなさそうだ。威厳もないが。しかし、これはこれで信頼しづらい。

 正直こんなやつに会いにここまで来たと思うとやはりがっかりしてしまう。

 

「じゃあ、波の真実というか、一体どういうもので、あんたは俺に何を期待しているんだ?」

「ふむ。それか。そうじゃなー、波は世界の融合現象である。この認識は正しい。ただ、なんのため……いや、誰のための現象なのか。それが抜けていては真実にはたどり着けんじゃろう。のう?」

 

 ミステリーを自力で説いたのではなく、見終わったから真実を知っているだけなのに、未視聴組にネタバレをちらつかせながらドヤるような薄っぺらい笑顔を浮かべる。腹立たしくてちょっと驚かせたくなる態度である。

 ドンッ。足で強く床に叩く。

 

「ヒエッ!? なんじゃ」

「ごめん足が痒かった」

「そ、そうか。賃貸じゃから気をつけるんじゃよ」

 

 広いが安っぽい作り場所だったが、賃貸なのか……。

 ます安っぽくなる。

 

「全ての黒幕。それはメガヴィッチのせいなのじゃ。あの女は生きの良い世界を見つけると、世界を融合させることで世界の許容値を高め、一定以上になったところで顕在して世界を食べてしまうのじゃ!」

「何だメガヴィッチって」

「メディア・ピデス・マーキナー。世界を食べることで成長する方法を選んだ糞女神じゃ。ほれ、メルロマルクのマイン。あんな感じの女じゃ。女神ビッチ。じゃからメガヴィッチじゃ。冴えてる呼び名じゃろ?」

 

 確かに善人ではないし、自分の願いに素直な女性ではあるが、そこまで悪しく言われるほどだろうか。

 まあ、そこは言い合っても仕方がない。

 

「世界を食べるとは?」

「女神が成長するには2パターンある。世界を食らうか育てるか、じゃ。農夫のように世界の種を植え、世話をして育てる私のような素晴らしい女神と、人の育てたものを横から奪おうとする糞女神の二パターンあるのじゃ」

 

 目の前の女神がまめに育てるとは全く思えない。

 

「何でじゃ! ちゃんと世界は回っておったじゃろうが!!」

 

 どこまでもその株価は暴落中だが、納得するしかないだろう。

 見た目と態度は残念だが、その存在感は恐ろしいほどだ。

 

 おそらくだが全力で切りかかったところで傷一つ負わないだろうことが確信できる。

 LVの桁が違うのだろう。すなわち、いくつもの世界を育てているから強いのだと納得ができる程度には桁外れている。

 世界を経験値稼ぎに使うのが女神なのであればその格は確かに勇者だろうとスライムの存在以下の相手に違いない。

 そして、それ以上に危ないかもしれない女神が世界を襲おうとしている。

 

「でじゃ、このままあの糞女に黙って世界を奪われるのもしゃくじゃろ? 育成コストをうわまって安定してる世界なんじゃし。そこで思いついたのがお前じゃ!」

 

 びしっとこちらを指差すが、大きな動作にホコリがまう。置物になっている掃除機は活用されていないようだった。

 

「あの世界での魔王は世界の穢を一箇所に集めるための装置じゃ。そして、魔王を倒した勇者とは魔王の魂を抱えるちりとりであり、ゴミ箱じゃ! 勇者の力がそのうち浄化するじゃろうし、あとは周りに悪影響が出ないように魔力のまったくない地球においておけば自然と処理が完了するというわけじゃな! このシステムを考えた私は天才! と思ったもんじゃ」

 

 すごいじゃろーと無垢な瞳を向けてくるが、やらされた方としてはまったくもって冷静に聞けることではない。

 魔王が世界の穢を集める装置? 俺はそのゴミ箱? 

 ぎりぎりと手に力がこもる。こんなやつの狙いで人を殺したのか。こんなやつにあの世界は信仰を捧げていたのか。こんなやつに……。

 

 この体の中にはあいつの魂があるのかと胸に手を当てる。こちらの勝手で対話もなしに殺したのだ。

 俺は女神と同じくらい魔王にとって悪いやつだっただろう。状況は女神のせいであってもやったのは自分である。

 恨むのは筋違いだろう。深く息を吐く。

 

 今の俺には大切なものがたくさんある。まずはそれを守らなければいけない。

 

「浄化しきっていない魔王の魂がある世界を食べればあいつにもダメージ食らうじゃろ! 驚くところが見ものじゃなっ!!」

「毒殺ってことか?」

「いいや? せいぜいが3日腹を下す程度じゃろ。でもそうしたら煽りまくって、他の女神にも教えてやるつもりじゃったんじゃ。SNSで拡散! あいつ男盗ったとか世界奪ったとか恨まれまくってるからめちゃウケるはずじゃー!」

 

 なるほど、こいつもロクでもないようだ。ただ、直接危害がないだけましなのだろうか。

 だが──

 

「それだと世界が食われるじゃないかっ!」

 

 毒薬代わりなどいくらでも受け入れてやるが、……ラフタリア、メルさん、メルティ、マイン……様々な大切になった人たちの顔が浮かぶ。世界が失われる想像に体が震えた。

 

「うむ。そのつもりじゃったがあの糞女神、勘付きおった。分身からも手を引いて、様子見モードになってしもうた。お前が生きている限り食わんじゃろなー。死ねば魂は地球に飛ばされワンちゃんあるからの。立ち去らんならしょうがないから、世界を融合させることにしたんじゃ。そうすれば2つとも狙われなくなるし、大きくなれば浄化の力が上がるからの。波のあともそこそこ魔物は増えるじゃろうが、対処できるレベルに落ち着くじゃろうし、あとは長生きしてくれればなんとかなるじゃろ。寿命で死ぬ頃には魂も地球じゃなくてこの世界に馴染んで紐づくから流石にあの女も狙うのは諦めるじゃろ」

「そうか。俺はあとは死ななきゃいいんだな?」

「そうじゃな。あとはまあ、四聖を失うと波の影響を受けすぎて融合ではなく消滅になる。融合までは四聖を失うな、くらいじゃな。一人二人なら失ってもいいが、そのときはバランス取ってもう片方も減らしておくことじゃな。バランス悪くなるからの」

 

 さらっと目の前の女神は勇者殺しを提案してきた。勇者を人とも思わぬ態度に腹が立つ。

 だが、なるほど、女神なのだ。人でないのだ。人とも思っていないどころか、人はもっと価値なく扱うだろう。

 そもそも人の理屈でかたるほうが悪いのだ。

 

 世界を育てようとしている女神なのだから、食べる女神よりはまし。

 そして、本性を知らない人たちにとって見れば確かに世界を支え、育てる彼女はそれこそ信仰に値する存在なのだろう。




女神は女神だけど、別のあり方をしている女神が仕込んだのが刀の勇者ユウでした、という話でした。

よくわからなかった方用のまとめ。
・女神の成長には世界を食べる方法と育てて信仰や感謝などを受ける方法があり後者のほうが時間がかかり非効率。
・のじゃ女神は複数世界を育てており、ユウの最初の異世界もその一つ。直接顔出ししている割と手をかけている世界の一つのようだ。
・魔王は一定以上の世界の穢を感知して適正のある人間や動物が設定される。世界中の穢れが集まり、周りの動物が魔物化。世界で暴れだす。それを処理させることで世界をきれいに保っており、危険から信仰心が芽生え、勇者を通して感謝も受けられるため収益率が高い。適度に文明が発達しすぎないようにもなっている。
・魔王を倒した勇者に魔王の魂が宿るため、魔法のない地球で休ませることで浄化をさせるシステム。
・しかし、メガヴィッチ女神に育成中の世界が狙われた。力関係で直接どうこうできないため、食われるのはしょうがないと嫌がらせをすることに。腹を下してしまえー。
・だが見破られてしまい、手をひかれる。それと同時にマインから「勇者をはめたくなる」思考がなくなる。
・とはいえ、ユウを日本に戻せばまた狙われるので、2つの世界を融合させ、浄化力を上げた上でユウを世界に紐付けることで、悪影響を小さくして女神避けを行う。
・そのためあとは四聖が生きており、ユウが生存していること世界にひも付き勝利となる。
 ……というのがのじゃ女神の企みでした。
 割と初期に設定したのに、100話を超えてようやく出てくるという不思議。


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103 アクセもつけてないなんておっくれてるー!

 

「刀の勇者様? ユウ様? ううむ。どうしたものか……?」

「うわっ!?」

 

 女神との話が終わり、さてどうしようか、と思った瞬間に目の前にはおっさんの顔があった。

 肩を捕まれ、顔を心配そうに近づけられているせいで、ドアップだった。

 背後に向かって大きくはね飛ぶ。

 着地までの間に今どこにいるかを理解した。急増の女神の神殿である。

 コツンと足元に置かれた魔除けらしい何者かもよくわからない人形が足に当たる。

 あの女神に会う前はこんな神殿、と思ったがあの汚い部屋を思えばこの雑多な感じはむしろぴったりかもしれない。

 

「お、おお、戻ってきたのか」

「ということは、お会いできたのですな。神殿についてはなにか言ってましたか?」

「いや──……いや、気持ちが嬉しいと。思うにここはあの女神に結構あっているんじゃないかな」

「おや、そうだったんですね。ガハハ。私のセンスも捨てたものではありませんな!」

 

 その言葉に確かに捨てられなさそうな女神だったからなとため息を付く。

 

 **

 

「なるほどね。二人の女神か~」

「信じられない?」

 

 神殿に二度とくるかと別れを告げ、王都に戻り、待っていてくれた絆を含めたこの国の重役たちと会議となる。

 

「いや、勇の判断を信じるよ。みんなにはラルク兄さんやテリス姉さん、グラスも信じたわけだしという方が納得しやすいかもだけど」

「いいえ、私どもも信じますぞ。納得に足る証拠は元々あったわけですしな。なぜ起こるのかだけがわかりませんでしたが、神の尺度だと思えば世界を食べる、育てるというのもまあ、わからない話ではありません」

「となればこの後だけど」

 

 要は四聖をかけさせなければ良い。俺が生きるの条件は正直、女神自体が相手でなければ問題はないだろう。

 この世界の戦力を考えてもなんとでもできると思っている。

 そして、ある程度の段階まであれば四聖欠けは全四聖を殺すことで再召喚できるようになるだろうが、リセット対象に絆や尚文たちを含む以上ないと考えるべきだ。

 となれば要は2つの世界の四聖を欠かさず波を超えればよいということになる。

 

「そう考えるともとに戻ったというか、元々の目標どうりか」

「オレ以外の四聖って」

「はい、召喚されております。ただ、協力関係にはございませんな」

「それは駄目だな。世界の危機なんだ。オレたちはまとまっていかなきゃ!」

 

 それでは早速動き出しましょう、そう彼らはうなずきあい、走り出そうとする絆の手を掴む。

 

「えっ!? どうしたのさ、勇?」

「いや、絆は四聖勇者だろ」

「そうだね」

「ホイホイでかけたら駄目なんじゃ? 安全なところにいたほうがいいんじゃないか?」

「そんなことない! 勇者が動かず誰が動くっていうんだ」

 

 心配してくれたことは嬉しいけどね! とニカリと笑う。

 

「あ、でももしかしてもう、元の世界に帰っちゃう……?」

「いや、その前に絆のレベル上げと向こうの世界に持っていけるような技術かアイテムを手に入れておきたいな」

「技術ねえ……あ、そういえば」

 

 二世界間の連携は一番の急務ですぞと周りに後押しされた絆は技術とアイテム集めにも付き合ってくれるらしい。

 だが、それは地獄の始まりだった

 

 **

 

「全くダメダメですな。商品どころか効果すらないでしょう。はっきり言えばアクセサリーとしてはゴミといえます」

「そうなんだ? いやあ、結構見た目はいいと思うよ」

 

 場所を変え、装飾品工房。

 何でも、絆の世界では装飾品を装備としてつけることで追加効果を得ることができるそうである。

 それは素晴らしいとつれられたのがここだ。

 既製品もあるが、勇者が得られる高品質素材で効果の高い装飾品を作ろうとすると必然的に勇者が行うほうが効率良くなるらしい。他の世界にも持っていくなら作れるようになっておくべきだとのこと。

 

 装飾品なんて、旅行先で行ったシルバーアクセ作成講座くらいである。銀粘土こねて作るやつ。

 それを話すと、ではそこから練習しましょうと始まったのだ。

 粘土は加工しやすいですからねとのことだったがこの評価である。

 

「鳥、でしょうか?」

「折り鶴だよ。なんで粘土で作ろうと思ったのか理解に苦しむけど、なかなかそれっぽいんじゃないかな」

 

 違うんだ。言い訳をさせてほしい。

 手で素人が作るかんたんなものってなんだろうと思って、折り紙の鶴が出てきんだ。

 薄くして紙みたいにすればツルを折れるんじゃないかって思ったんだ。

 

「勇者様。何かを作るときはしっかり目的と、完成後の姿を思い浮かべながら作りませんと。料理と同じです。イメージで調味料を加えるのではなくまずはレシピを見て作りたいものを決め、そのとおりの手順で作るのです」

「じゃあ指輪で」

「え、ゆ、指輪かぁ、じゃ、じゃあオレも指輪がいいかな?」

 

 シルバーアクセといえば指輪のイメージである。輪っかだし、簡単だろうと思う。

 先生役の職人さんが作っていく動きを真似る。

 バフ系の魔術を重ねがけして、記憶力や器用を向上させる。

 そうして作ったものは、かなりのものに仕上がった。

 職人さんのものと横に並べても全く違いがないように見える。

 

 その評価といえば……

 

「駄目ですな」

「えええ? 正直、並んだらわからなくなるレベルに見えるけど」

「そうですな。キズナ様。装備していただけますかな? 一つづつ」

 

 キズナは先生の作った指輪を右手の薬指にはめてから外し、俺が作った指輪を左手の薬指にゆっくりとはめると『あれ?』とおかしそうに声を漏らした。

 

「これ、ステータス上がってない」

「ええ?」

「そうです。確かに刀の勇者様の腕は素晴らしいものでした。ですが、ただ私と同じ動きをして作っただけです。機械で作ったアクセサリーにはステータスがやどりません。思いをこめて作らなければならないのです」

「そんな事言われてもなぁ……」

 

 確かに、記憶した先生の動きをただ完全になぞっただけの動きは機械が作ったものと全く変わらないといえばそうなる。

 

「ですので、……そうですなあ。キズナ様にプレゼントすると思って作られてはどうでしょうか?」

「なるほど」

「え、いいのか!?」

 

 ぽわぽわと頬を緩ませる絆を見れば嫌はないだろう。プレゼントとなれば気が抜けない。

 半端な品を渡すわけには行かないだろう。

 

 **

 

「ルアー?」

「絆は釣りが相当好きだってのはわかったし、どうせなら普段遣いできるものがいいなって」

「なるほど!! うわ、これすごいよ。【大物確率アップ大】だって!」

 

 一刻も早く釣りに出かけたいとばかりに、川の方を見てはこちらに顔を戻すみたいな動きを何度も繰り返す。

 

「行ってきたらどう?」

「わ、わかった! 大物釣ってくるから、ここで待ってて!」

 

 そう言って走り出してしまう。やれやれである。

 だが、制作スキルはともかく、スキルを付与する呪術も学ばなければいけないので、このまま修行だろうか。

 

「あ、さっきの指輪返してもらっていない……」

 

 気に入ってもらったのなら嬉しいが、効果のない指輪を装備し続けられるのは困る。

 戻ってくる前に一つ作ってそっちを普段使いしてもらうことにしよう。

 

 そのまま修行を続け、絆が大量の大物を抱えて戻ってくる前には最低限のアクセサリー作りの技術を会得したのだった。

 





釣りをしながらも指輪を見てニヤニヤしていたという……!


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104 盾の勇者の成り下がり

 

「それで、話したいことってなんだ?」

 

 四聖勇者であり、攻撃できない盾の勇者である尚文は今、初めて会う相手と会談に臨んでいた。

 戦えない彼はけれどこの世界で最高レベルの防御力を誇るため、攻撃できなくても彼を倒すことは困難だ。

 しかし、人に害を与える方法は暴力だけではない。

 

 女王と取引をして、国の紐付きになったからこそ、尚文は前以上に人の目を気にしているし、多少の損より風評を取るようになっていた。この国には盾の勇者を悪く見る傾向があるが、それでも徐々に評判が上がりだしている。

 

 薬を主に売り歩いたことで神鳥の聖人として評価を上げることができたし、その延長として盾の勇者は悪い人ではないというイメージが作られだしている。

 

 女王が評判を上げることに積極的であること、悪影響を与えているのはあくまで前の盾の評価であり、今の勇者である尚文の評価ではないおかげだろうか。

 

 そんな中、一人の人間が声をかけてきた。

 

「初めまして。僕は投擲具の勇者だ。君と同盟を組みたい」

 

 ローブで顔を隠すそいつはリファナやフィーロと別れて街を散策しているときを狙って声をかけてきた。

 あと一歩踏み込めば近接戦の距離になる。

 そんな近いとも遠いとも言えない距離でそいつは足を止める。

 

「投擲具の勇者だと? 証拠を見せろ。それに、顔も見せずに同盟なんて組めるか」

「これでいいか?」

 

 手に持った武器がナイフに、円月輪に、クナイに変わる。

 確かに勇者であり投擲具である証拠だった。

 

「そもそも、なんの同盟だ」

「もちろん……勇者らしく世界平和のための同盟さ」

 

 マントを退けると、そいつの顔が見える。勇者の中では樹が近いだろうか。

 髪は短く切りそろえており、多少は鍛えられた体つきをしているが、どことなく小さくひょろいように見える。

 年下なのだろうが、それでも年齢より小柄だ。ちらりと見えた首筋には戦い以外でついたなにかの跡がある。

 だが、最大の特徴はその濁った瞳だろうか。

 この瞬間尚文はこいつは信用ならないと感じた。

 

「なら、王城に行くことだな。女王に話が通ればうまく協力しあえるだろう」

「ダメだ。僕は勇者みんなと協力し合いたいわけじゃない。君と協力し合いたいんだ」

「話にならないな」

「そうかい? 僕はそう思わないな。利害が一致するのは、話ができるのは君だけだと思っている。善性の人間であり、勇者を演じられる程度には世慣れしている人間の君ならね。ユウが何者か、裏にいるのはどんな存在か知りたくないかい?」

 

 ……信頼する気はない。気はないが……話を聞かなければいけないだろう。

 なにせ、それこそが尚文を不安に駆らせる事実だからだ。

 ユウ、そしてその背後にいる存在。

 

 そうして、尚文は目の前の相手と会談の約束をした。

 思えばここが分岐点であった。

 今までいくつもあった中の、最後のものだった。

 

「よろしく、岩谷尚文。僕は茅野上紬(めのうえつむぎ)さ」

 

 **

 

「女神ね」

「信じられないかい?」

「いや……」

 

 聞かされた話は頭が痛くなりそうな話だった。

 世界を食べる女神に、世界を育てる神か。

 

「聞いた話じゃ、育てる女神のほうがマシじゃないか?」

「比較すればそうだろうけどね。けど、あの女神にとりつかれた世界がどうなるかわかっているかい? 破壊と再生。そして停滞さ。彼女はユウの中にいる魔王の魂を使って一つになった世界でも魔王と勇者のシステムを構築するだろう。彼女の定番の運営方法だから確実さ。世界は百年に一度魔王に破壊され尽くして、勇者に救われる。人々は勇者を遣わしてくれた女神に感謝を捧げる。文明は発展することなく壊され続ける。人間は積み重ねることが許されなくなる。世界を生きるすべての人間が神の羊になるのさ。世界が枯れるまで永遠に」

「滅びるよりはマシだろ」

「そうだね。でも、家畜の人生に意味なんてある? 君は自分の子供の未来はより良いものにしたいとは思わないかな?」

「お前!?」

「リファナちゃんだったかな。君のことを熱い目で見る彼女。君を深く愛しているんだろうね。まだお腹は目立たないようだけど、気を探れば一発さ。オメデトウ」

 

 子供……そう言われれば、このところ体調を悪そうにすることが増えたように思う。

 嬉しそうだったり、悩ましげであったり。

 いずれ話してもらえると思っていたが、そういうことか。

 彼女の口から聞けば歓喜して涙を流したかもしれないが、目の前の人間にその事実を握られているという状況に素直に喜べなかった。

 

 勇のことは複雑だ。

 勇者の中では信頼できるが、その存在自体が疑わしい。

 ラルクから話を聞いて、刀の勇者が向こうの勇者であることは確定している。

 

 そうなると、なぜ異界の勇者がこちらにおり、こちらの勇者はそのことを全く知らないのに、向こうの勇者はそれを前提として動いているのか。何かしらの黒幕がいるだろうとは思っていたが、女神なんてものが出てくるとは思わなかった。

 

 世界を融合させるつもりであるというなら向こうの世界の動きに納得がいくし、世界を食べる女神も育てる女神も理解の範囲である。

 

 元々そのつもりではあったが、子供がいるのならなおさらこの世界を守りたい。

 となればユウを派遣したであろう農耕女神……ノームというらしいが、そいつに従わざるを得ないだろう。

 むしろ融合後の安定のためにユウとは手を握る必要がある。

 ほっと安堵の息を漏らす。

 勇者仲間であり、共に旅をした人間であり自分を心配してくれる数少ない存在……そう、友人なのだから。

 その相手を疑い続けるのはなんだかんだ言って気分がいいことではなかった。

 その重荷が晴れたような気持ちである。

 

「だが、わからないな。お前は何がしたい。協力なんてなくても黙っていれば平和な世界になりそうだが」

 

 虐げられたままの勇者ならともかく、守るものがあると知っているのなら、世界を食べたいメディアに協力するわけがないと分かるだろう。

 農耕女神ノームに管理されるのは業腹だが、死ぬほど悪いかと言われれば否だろう。

 

「世界を守る方法はもう一つある」

 

 そらきた。ここからが本当の狙いになるだろう。

 一字一句聞き逃すまいと意識を集中する。

 

「四霊を使い、世界を守ることだ。四霊は世界の4分の3の魂を使うことで世界に壁を貼ることができる。壁ができれば融合化は防げるし、女神たちもまた干渉できなくなる」

 

 一瞬の静寂が訪れる。

 発言全てを何度も頭の中で思い浮かべる。

 意味が頭に届くまで何度も。

 

「論外だっ! 一人を守るために三人死ぬようなことを許容できるか!」

「そうだろう。僕もそう思うよ。君は優しい勇者様だね。──でも、犠牲が一人だったら?」

「は?」

「刀の勇者一人の犠牲で済むとしたら? 魔王と勇者の魂をもつ彼一人が犠牲になれば両方の世界に壁を貼ってお釣りが来るくらいだとしたら?」

「それは……」

 

 そうして気づいた。

 目の前のそいつの濁った溝のような瞳が、殺意にギラギラと燃えていることを。

 かつての自分に似た、けれど自分以上にねとつく闇色の瞳。

 

 こいつは──あいつに恨みがある人間なのだ。

 そして、これまでの会話からある事実に気づく。

 

「……お前は、メディア側の人間だな……?」

 

 そうでないとおかしい。この世界で知れる事実を超えている。

 である以上、答えはそうなる。

 こいつは女神がユウの存在を知って用意した人材だと。

 

「そうだよ。僕は女神に呼ばれた転生者……! でも、そんなこと僕には関係ない! 僕はあいつに罰を与えたいだけだ! 勇者であれば人を好きにしていいのか? 僕の家庭を壊しても許されるのか? いいや、許されない。僕は愛する母を、愛おしい姉を、優しかった父を失った! 僕の家庭は崩壊した。あいつは命で贖う義務があるっ!」

「そうか」

 

 ツムギの怒りはすべてを焼き払ってしまいそうな熱量を持っていた。

 同じだから尚文にも分かる。

 あれは憤怒の力を開放している。

 

 勇は女性を傷つけるようなことをするような人間ではないとまでは断言できても、行動の結果家庭が壊れることはあるだろう。母親と姉に手を出しているのであればそれがバレればそれは家庭の一つくらい壊れてしまうだろう。

 同情はする。

 だが、目の前の人間は人を殺したことのある人間だ。

 

 前の世界ですでにそうなのか、この世界に来てからなのかはわからないが、ツムギは人を殺した人間だと感じていた。

 勇を殺すという言葉も、安っぽい脅しではなく、本当にできるのだろう。

 ただまあ強さが及ぶかは別問題だが。

 

 尚文はツムギの因縁に関しては棚に置く。

 責任を取るべきは勇で自分ではない。

 評価は下がるが、だからといって、彼を犠牲にする気も世界の人々を贄にくべる気もない。

 であれば勇の味方で、こいつは敵である。

 盾を構えようと身構えながらもっと情報を探ってやろうと口を開こうとして──

 

「さて、口でなんと言おうと女神の存在感を感じないと実感がわかないだろう。尚文には女神メディアにあってもらうよ」

「はっ!?」

 

 ツムギに手を取られた瞬間……俺は真っ白な部屋にいた。

 目の前には一人の女性が立っている。

 

「初めまして。盾の勇者尚文様。招待が荒っぽくなってしまって申し訳ありません」

「……あんたが女神か……世界を食べるという女神……」

 

 女神を見て感じたのはマインににてるな、ということだった。

 見た目というよりは存在感というかありようがというか。

 

 丁寧に話しているようで、その裏には矮小な存在への侮蔑を感じた。

 ただ、なにより恐ろしいのはその存在の巨大さだった。

 人間大のはずなのに、星より大きいと断言できてしまう。

 目の前にいるのに、遠くにある月を小さいと思うような遠近感の狂い方。

 

 ああ、アリと地球のほうがきっとよっぽど大きさが近いに違いない。

 それほどに俺と目の前の存在ではレベルが違うと感じ取れてしまった。

 

 何をやってもこの相手には勝てない。

 

「ええ、そうです。でもあなたも肉を食べるでしょう? 豚を食べる時、命を奪ったなんて考えたことないはず。いただきますといっていたとしてもそれは音でしかないでしょう? 豚の人生をかんがみることなんてないはず。あえて言うなら──美味しそうなのが悪いのです」

「だとしてもっ!! ──いや、存在が違うんだ。あり様を言い合っても無駄か」

「尚文様は賢いですね。そういう方は好きですよ」

 

 誰が好かれたいと思うか。

 人間に興味を持たれた虫の末路がどうなるかという話である。

 どんな思いを抱かれようが害になるに違いない。

 

「私はね、食事を邪魔されるのが本当に嫌いなんです。それなのに美味しそうだと赤くなるのを待っていたトマトに馬糞を投げつけるような真似をされたら……どう思うと思いますか?」

「それは……」

「普通は神同士の殺し合いは厳禁ですけど、嫌がらせの一つくらいはやっておかなければ、なめられます。……尚文さん。結界を張ったらあなたの世界を諦めてあげますよ。お互い何も手に入らない。それで2つの世界については手打ちにします」

「はっ! 結界が解けるのを待つんじゃないのか?」

「汚れた野菜から手で汚れを払ったとして、かぶりつきますか? 食べれる世界なんて他にもあります。女神として誓いましょう。”結界が作動したらあなたのいる世界を一生諦めます”」

「それを信じろと?」

 

 あらまあ、とクスクスおかしそうに笑う。

 

「食べれないということと、壊せないということはイコールではない。私のいいたいこと、わかってくれますよね?」

 

 女神による威圧を受け……俺は走馬灯を見た。

 今までの人生を、家族を、愛するリファナを。

 

 そうして、俺は──

 

「わかった。結界を作動させる」

「ええ。約束よ。あなたが約束を守るなら私も約束を守るから」

 

 どの口が言っている。

 そう思っても、抗うすべがない

 

 少なくとも、今は。

 

 そして、女神という存在を肌で感じてわかった。

 脅されなくても神なんて存在を世界に寄せ付けたくない。

 

 自分の大切な人のためにも、そう胸に刻む。

 世界に女神など不要だ。

 

 **

 

「女神とは話ができたかい?」

 

 ツムギに声をかけられて初めて我に返る。

 ほんの短い間の対話だったのに、汗だくになっている。

 目の前のこいつも信頼できない相手なのに、自分で相手になるだろう程度の相手だ、と体が勝手に安心してしまう。

 

「ああ。胡散臭い女神だったが、──どうにかできる相手じゃないというのはわかった」

「なら?」

「同盟、組ませてもらう。勇には悪いが、世界のためだ」

 

 勇は強い。恐ろしく。

 だが、それでも女神ほどではない。

 自分ができる最善を尽くさなければいけない。

 

 尚文は頭の中にやらなければいけないことをいくつも考え始めていた。

 




ユウがのじゃ女神ことノームさんと話している裏で、尚文もメガヴィッチと対面。
真の勇者として心が育つ前の邂逅はどのような影響を与えるのか……!

原作と違い尚文はメルロマルク女王と早々和解しておりラフタリアとリファナの故郷を領土としてもらい領主としても活動中。

そして娘枠でなかなか手を出さなかったラフタリアと違い、好きな人は盾の勇者様です! と公言する積極的なリファナと恋仲になっており、この世界で生きていく決心を決めている模様。


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105 宝石の声

 

「若あ! キズナ様がお待ちですぞ!」

 

尚文たちの世界で、ユウの代わりの戦力として世界を守る。

ラルクとテリスは盾の勇者の尚文と行動して、グラスは刀の勇者パーティーとともに行動を共にしていた。

 

ふうとため息をつく。

尚文との行動はとても楽しいものだった。機会があれば再びパーティを組みたいと思わせるものだった。

キズナと違いスレているというかなんというか、皮肉っぽいのが難点だったが、ラルクはそうでありながらも芯は勇者らしい尚文を気に入ったようだ。

 

尚文もつっけんどんでありながらもラルクに気を許しつつあった。

テリスとしてはなんとも可愛らしい二人だとほほえましい気分で見守っていた。

 

ただ、それに比べて他の勇者はちょっとどうなのかと思う。

剣の勇者は取り付く島もないし、弓の勇者は子供らしい独善感が先行してしまって生意気で可愛くないし、槍の勇者にはナンパされた上に肩まで抱かれてしまった。あの素早さは一体どこから来るのだろうか。

刀の勇者も手が早い人間らしいので、キズナは大丈夫だろうか。

人がいいけど、悪い人間に騙されるような頭の悪い人間ではない。きっとうまくやっているに違いない。

 

そんなふうに日々を過ごしながらグラスたちと決めていた様子を見に行く日になった。

もし刀の勇者のユウがうまくやっているのならそのまま入れ替わり、うまく言っていないのならその原因の確認や連携を行った後、再びナオフミたちのいる世界に戻り次の機会を待つことになる。

 

テリスとしては女神とは言っても今まで存在すら知らなかった相手。

その存在の凄さには驚きを覚えたし、女神と呼ぶにふさわしい相手だとは思った。

しかし、何をされた覚えもない以上、まだ半信半疑な部分がある。

ただ、グラスはすでにキズナとの再会を確信しているのか、久しぶりの再会にそわそわしているという感じだ。

 

尚文と連携して波の魔物の殆どを倒してから波の力で向こうに帰る。

残った主もナオフミと刀の勇者ユウのパーティならば簡単に始末するだろう。

 

目を開ければそこは龍刻の砂時計のある神殿で、戻ってきたのだと安堵する。

向こうも悪い世界ではないがやはり見慣れた魂人や草人、晶人が一人いない世界はなんとなく違和感がある。

額の宝石を隠していたサークレットを外す。

向こうにはいないのだから仕方がないが、どんな時も帽子をかぶっていないといけないような窮屈さがあった。

額を撫でる。いつもどうりの手触りが返ってくる。

 

「みんな、ただいま戻ったぜ。それで? 無事なんだな?」

「はい、キズナ様は無事戻っております。怪我一つございません!」

「よかった……」

 

キズナはこの世界の四聖勇者の一人であるが、それ以上に大切な仲間であり、妹分である。

それが何年も囚われていたのだから、無事とわかって安心した。

目の前の知らせてくれた高官の様子からして、心の方も無事のようだ。

すぐにでも会いたい。

グラスなどは我慢の限界なのか、掴みかかるように一歩前に出ている。

 

「キズナはいまどこに?」

「え、ええ。使いはやってますからおそらくこちらに向かって来ているんじゃないかとーー」

 

その予想は正しく、砂埃を大きく立てながらこちらへと走ってくる少女が見える。

記憶の中よりも成長して……成長して、年月の割にはあまり変わらない姿だが、もしかしたら無限の迷宮は時間の流れが違うのかもしれない。

 

ぶつかるような軌道の彼女の射線にグラスが割りいる。両手を大きく広げるグラスに吸い込まれるようにしてキズナがグラスにぶつかってゆき……そのまましっかりと抱きしめる。

 

「ああ、キズナ。キズナです。本物の。よかった。キズナ。本当に、本当に、また会えて」

「うん、グラスも無事でよか……グラス? グラス? おーい、グラス?」

 

キズナキズナと名前を呼びながらもう離さないとばかりにギュッと抱きしめ、頭を優しくなでながら名前を呼び続けている。感極まったのか静かに頬を涙が伝っているが、この場にその様子をバカにするような人間はいない。

 

「これ、私達が感動の気持ちを伝える番になるのにだいぶ掛かりそうね」

「まあ、仕方がないさ。俺達は感謝の気持をあっちに伝えようぜ」

 

ラルクの視線の先にはキズナのような速度で、しかしホコリを立てることなくこちらに走ってくる一人の男の子の姿だった。

 

**

 

「なら、あなたの結論も同じってことね」

「不安がないとは言えないが、各々頑張っていくしかなさそうだな」

「そうだね」

 

女神にあった彼の感想も、得られた情報も元々の内容を強固にする話だった。

天の上の争いについては勇者であっても関与できそうにないが、であれば勇者パーティとして皆を支えてなるべく統合後の世界で争いなく生きていけるように尽力するだけだ。

場所を変え、一緒にお茶をしながら穏やかな会話が続く。

 

こうして他世界の勇者と強いつながりが事前に持てたことはとても好ましい状況だ。

 

「じゃあ、計画どうりあなたは戻って私達はこの世界で波の平定と勇者同士の連携かしら」

「そうだね。特に四聖勇者についてはなんとしても協力を取り付けて、最悪保護してほしい」

「自分勝手らしいのよね。今から憂鬱だわ」

「話してみれば坊主もいいやつだったし、いい機会と考えようぜ」

「そーね」

 

にこやかに会話が進む中、ユウの腕にはめられた腕輪に気づく。

かなりの業物である。今つけている最高のものを数段階上回るかもしれない。

 

「そ、それは?」

 

腕輪を指さす。

ナオフミが作ってくれたものは心のこもった温かみを感じる一品だったが、あれは高度な技術と凄まじい素材に恐ろしく強い魂が宿っている。それこそ、この世界で数年すれば自分のような晶人が宿ると確信するほどに。

言うなれば人気の看板娘と貴族のご令嬢。

どちらも美人さんだが、ナオフミの作ってくれたアクセサリーとしての腕輪と違い、装備としての力が込められたそれに惹かれずにはいられない。

 

「ああ、こっちの技術を教わって、作ってみたんだ。二人もどう?」

「おっ、マジか。坊主が作ってたの見て、装備として作ってくれればなあって思ってたんだよな。同じ勇者として期待してるぜ。テリスもいるだろ?」

「そうね……。せっかくだもの。これに勝るくらい愛情たっぷり込めてほしいわね」

 

こちらにちらりと腕輪を見せる。その作りや技術を見通すように目が鋭くこちらを観察してくる。

技すべてを盗み取ろうとする目だ。

この目で、彼のあの手でどんなものが生み出されるのか。

装備をつけるもののすべてを裸にするような見通す瞳、その視線に体がゾクゾクと震えるのを感じた。

 

「一体どんなものができるかしら……」

 

期待に胸がうずくのを感じた。

それの様子に不安と心配を混ぜた視線を向けられていることに全く気づくこともなかった。

 

 

 




テリスのアンケートが低いのはわかってるんです!
でも、アプリ「盾の勇者の成り上がりリライズ」の道具屋であんなコメントするから! キズナの指輪イベントはテリスへの導入だったのです。

次回はテリス。


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106 魔性の宝石

 

「なんて美しいの……」

 

 できたからつけてみてほしいと呼び出されたのは翌日で、小さな小箱を開いて顔を出したのは私に縁の深い宝石。

 深い青緑色に輝くエメラルドに似た輝き。けれどそれは太陽の元での輝き。

 窓からの光から遠ざけ、ロウソクの明かりに近づけるとその色を赤紫色に変えてゆく。

 まるで魔法にでもかかったかのような二面性のある魅惑的な美しさ。

 白銀に輝くプラチナとその意匠がどこまでも宝石の美しさを際立たせている。

 

 アレキサンドライト。

 

 私の、晶人としての元となる宝石は私に訴えかけてくる。

 のめり込みそうな、魅惑。吸い寄せられるように手に取り、指に嵌めていた。

 

 私の愛する他の人間が作った宝石たち。

 晶人は宝石の力を借りて魔法を行使する。思いが、宿った魔力がその力の源。

 けれどこれは今まで感じたものを遥かに超えていた。

 今までも宝石たちは小さく私に囁いてきた。

 応援してくれて、協力してくれて、ともに歩んできた。

 

 けれど、愛を込められたこの宝石からはとろりと甘い愛の言葉を何度も私に囁いてくる。

 ああ、甘い言葉にとろけてしまいそう。

 宝石は造り手のユウを愛していた。そして、込められた思いはテリスへの愛だった。

 どこまでも深い愛欲は所持者の心にとろりと染み込み始めた。

 

『愛してる』『ユウの近くにいたい』『愛している』『もっともっと見ていたい』『愛している』

 

 所持者が宝石に囚われ、心を病み不幸な結末になるいわくつきの宝石のように、テリスにユウへの愛を囁いていた。

 テリスは思いに浸るとともに、これほどの愛を抱けるこの子を羨ましいと思い始めていた。

 なんて素敵な思いを込めて作られたんでしょう。羨ましいわ。

 

 そんな思いが短期間のうちに積み重なっていく。

 造り手の本人にしてみれば、あくまで込めたのは思いのほんの一部だろう。

 なにせ『愛情たっぷり込めてほしい』なんて言いつつも、彼がテリスに込められる思いなんて全部から比べればほんの少しに違いないのだから。

 だからだろう。自然と口が開く。

 

「ねえ、とっても素敵な指輪をありがとう。お礼をしなきゃいけないわね」

「お礼? いいよ。俺は向こうに戻っちゃうし、こっちをしっかりと守ってもらわなきゃだしね」

「そんなのダメよ。これだけのものを作ってもらったんだもの」

 

 ああ、つれない。なんてつれないのだろうか。これほどこの身を愛情で炙っているというのに、本人にとっては何でもない思いなのだろうか。

 この思いを胸に抱いて秘めることなどできるだろうか。出来はしない。

 この愛は、気持ちは指輪のものだったが、今はテリスのものでもある。

 気づけば彼を抱きしめ、奪うように唇を押し付ける。

 ああ、お礼に体を差し出すような淫売だと思われてしまってはいないだろうか。

 そう思われてしまっても構わない。宝石も私も彼と触れ合えることにこんなに喜んでいるのだから。

 

「ねえ、あんなに素晴らしいものもらって私こんなに喜んでいるのよ」

 

 彼の手を取り、そっと服の内側に導く。下着越しに手が秘所に触れるだけでビクビクと体が快楽に震える。

 晶人となり人と同じ欲を持つようになったけれど、発情ってこういうことなのかしら。

 ふれあいたい、近づきたい。

 彼の左手を握って秘部を撫でさせるとそれだけで人生で初めての衝撃を受ける。

 

「あっ♥ くうっ……ん♥」

 

 脳天が真っ白になるが、それでも思いは止まらない。

 停止しては体を擦り付け、心がそのたびに飛んでしまい真っ白になる。

 ずうっと抱きしめてこうしていたいのに、とても不便だわ。

 どうしてこんなふうになってるのかしら。

 

 唇がふれあい、彼の手が私に触れるだけでいっぱいいっぱいなのに、彼の舌がにゅるりと口内に入ってくる。

 飛ぶ直前まで気持ちが高まりつつも、柔らかい肉同士の接触はとても心地よい。

 自然と目をつむりその感触に浸ってしまう。

 すると、今まで動かしていた手が止まってしまい、そのことを咎めるように彼の指がクチュクチュと下着の上からかき乱し──

 

「あああアッンっ!! ♥」

 

 とても大きな声を出してまた気をやってしまう。

 なんだか自分がうまくないのではないかと不安になってくる。

 

「やり方わからないの?」

「私、晶人だから、人間の交わり方なんてわからないわ……」

 

 今まで興味もなかった。

 まれに、そう、思えばラルクと距離が近かった時なんかに夜もやもやする気持ちが湧いてきて、なんとなく秘所を触れていればそのうち解消されるということはわかっていた。

 けれど、今はその何倍もすごいのに、いつまで立ってもこの思いは解消されないままだ。

 

「ふうん。じゃあ、練習だね」

「いいえ、本番だわ」

 

 彼が下着を下ろすと跳ねるように大きな棒が顔をのぞかせた。先端がテラテラと濡れており、ムワリとどこか胸が高鳴る香りがする。赤黒いそれは太い血管も浮いており、まだ可愛らしさの残る少年の彼には似合ってないような、この今の気持にはふさわしいような不思議な感じだった。

 なるほど。交配のためにはこれを私の中に入れないといけないのだった。

 だからいつまでもこの気持が収まらなかったに違いない。

 

 宝石に導かれた愛欲だったが、これほどの思いに触れられるのなら子供を生んでみるのもいいだろう。

 国の仲間もキズナやグラス、それにラルクもいる。みんな助けになってくれるはず。

 ユウへの思いなのだから、練習で済まされては困る。

 そっと肉棒に触れるとドクドクと熱く力強い血の流れを感じる。

 ……こんなに太い必要はあるのだろうか? このキノコみたいなエラはなんのためにあるのか。

 人の体は少し不思議だ。

 下着がユウの手でゆっくり降ろされ、髪と同じ水色の毛に覆われた秘所が彼の目にさらされる。

 じっと見つめられると普通の人と違うのかしらと不安になるけれど、息が当たるだけで気持ちよくなってしまう。

 

 足を開かされ、秘所にゆっくりと押し当てると、ダラダラと流れ出し続けている愛液にぬるんと滑り込むように肉棒は体内に入り込んでいく。

 

「ああっ♥」

 

 押し開けられていく感覚が、なるほど、この人のモノにされているような奇妙な満足感を与えてくれる。

 そして、引き抜かれてゆくときにカサの部分がゴリゴリと膣内をえぐり、より深い快感を与えるとともに、どこか遠ざかるモノへの寂しさが生まれ……再び押し込まれることで満足へと変わっていく。

 ぬちゅぬちゅと粘度の高い液体とパンパンと体同士がぶつかり合う音が辺りに響き、そのたびに深い快感に脳が真っ白になる。

 

「しろっ、白くなるう……♥ 」

「イクって言うんだ」

「い、イクっ、イクっ♥ また、イク、イクっ!!」

 

 彼から直接与えられる愛情に指輪も私も満たされ、溢れてゆくのを感じた。

 アレキサンドライトは色の変わる宝石。

 穏やかで深い緑から、情熱のような赤い色へ。

 

 **

 

 

「テリス、機嫌いいな」

「え? ええ。これ、素敵でしょ? とっても気に入っちゃったわ」

 

 ラルクはそれ以外何も見えないとばかりに愛おしそうに指輪を見つめるテリスに何も言えなくなってしまった。

 腕の良いアクセサリーに夢中になってしまうのはそれこそ何度も見ている。

 ナオフミの作ったものなんかはそれこそラルクの知る最大のものだった。

 

 ただ、なんと言えばいいのだろうか。今までのような喜びの大小ではなく今回は深さの違いのようなものを感じていた。

 そのせいで自分には割って入れないような何かができてしまったような……。

 

 いや、きっと気のせいだろう。

 またテリスのコレクションが一つ増えた。ただそれだけのこと。

 ただ、ラルクは今の彼女を見ると思わずにはいられない。

 

「これだけできれば俺もテリスを……」

 

 その独り言は誰にも伝わらず風に消えていった。

 




すみません、投稿したつもりで忘れてました。

ゲーム盾の勇者リライズでは道具屋で親父さんが武器の鋳造をするのですが、
「親父さんすご~い」とか「フィーロの馬車も作って、作ってー♪」とか可愛らしいコメントが多い中、

ラルク「これだけできれば俺もテリスを……」

しかもそしたらデートに誘えるなー♪とかの明るい声ではなく、胸の奥からくる悲しい「これだけできれば俺もテリスを……」なので、「親父さんみたいな人と結婚できる人は幸せだと思わない、ラルク!」くらいは言われている衝撃感でした。正直NTR後だべ~ってなりました。
聞いていただければきっと皆さんも「あ、取られてる」って思うはず(笑)


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107 霊亀

 

「秘密の特訓をしましょう!」

 

 

 元康は目をパチクリさせる。

 

 

 樹のやつに声をかけられて、錬と王都に集まったのだが、最初の一言がこれだった。

 正直あんまり特訓というものには興味がない。

 

 部員が足りないと困っていた女子マネの子に付き合って夏の特訓とやらに参加したことがあるが、なんというか、成長速度が合わないのだ。最初から能力に差があるのに、密度の濃い練習をすればそれはそうだろうが、(これなら彼らだけ特訓して俺は遊んでたほうがまだバランスいいんじゃないか?)と思ってしまうのだ。

 応援してくれた女子マネの笑顔は可愛かったけど。

 

 とはいえ、今回の相手は樹と錬。

 肌感覚で言ってもこれだけ長い間時間が立っているのに、大きく実力に差が出たと感じない相手は初めてだ。

 女の子たちの視線を奪い合う仲だが、乗ってやってもいいかと思っている。

 

「で、相手は誰だ。俺もそんなに暇じゃないぞ」

「ええ、もちろんです。ですが、カルミラ島の活性化イベントでも大きく彼らに差がつかなかった以上、特訓は必要」

「彼らって勇達?」

「それと尚文さんです。彼、盾なのにうまいじゃないですか」

「たしかにな……」

 

 勇は圧倒的に強さが高く、正直であったときから差が縮んだ気がしない。正直開いたとすら感じてしまう相手だ。

 最近はどこか別世界に言っているらしい。

 可愛い女の子はいるのだろうか。ちょっと興味ある。

 

「尚文のやつ、神鳥の聖人とか言われてるんだっけ? 聖人って。キャラじゃないよなあ。ウケる」

 

 薬やら何やら売りまわっているらしい。

 

 正直あんまり怪我をすることもないし、勇者なら生産系鍛えるにしても武器とかのほうがいいんじゃないか? 

 盾なら怪我なんてそれこそ縁がないだろうに。

 知識がないせいかな。今度アドバイスしてやろうか。

 

「ええ。勇者と並ぶ人気の人物なんて言われていました。正体を隠して薬を配り歩いているなんて人気取りです!」

「それで死傷者が減るならいいんじゃないか? 尚文は盾向きの性格なんだろうな。放っておけばいい」

「ええ、僕らの活動に影響は小さいことはわかっています。でも、遊んでいても僕らと実力ではそんなに差がないんですよ? 強化法も共有し合ったのに、です。これはきっと何か隠してることがあるんです。僕らは彼らに追いつくためにも努力しなければならない。そうでしょう?」

「それはそうだが」

「素材は最近取り合いになってるしなー」

 

 強化法に必要な素材はそれぞれのつてによるところが大きい。

 

 うちのパーティーは王女のマインや貴族、商人と手が広い。

 鉱石関係も比較的集まりやすい。

 錬も魔物退治して作った村や町の人間との縁をつないでうまく集めてるらしいし、樹は他国から物資を取り寄せてるなんて噂を聞く。

 

「まあ、お互い手広くなってきましたからね。でもその御蔭で時々トレード会をして強化に貢献できているでしょう?」

「確かに」

「別に集まりに文句はいっていないだろ? そろそろ本題に入らないか?」

「ええ。実はですね、霊亀封印の場所を特定しまして」

 

 ザワッと驚きの声が響く。

 霊亀。亀型のボスで一番の特徴は……

 

「大規模戦闘か」

「それに、大して強くない割には装備は優秀」

「やるしかないな」

 

 霊亀は山のように大きなボスだ。

 とはいえ、攻撃パターンは単純で遅いし、大して強くもない相手だ。

 ここを弾みに、四霊を俺たち三人で独占したい。

 朱雀なんかは飛び回るし、撃ち落とすのに樹の協力は必要だ。

 

「よし、やってやろうぜ」

 

 きっと、内心ではいつまでも追いつけない奴らに焦りがあったんだ。

 周りの評価も、残りの三人みたいな、悪いとは言わないけれどそこまで飛び抜けない評価。

 でも、勇は勇者としての名声やラブロマンスが噂として流れ、尚文は聖人としての評価や領主として領地を治めていると噂が出ていて。このまま何事もなく簡単に波を終えたとして、その後俺たちはどうしようかなんて不安がよぎっていた。

 だがらアドバンテージであるゲーム知識に疑うことなく飛びついた。

 

 この判断が未来を狂わすと知らずに。

 

 **

 

「くそっ!! 元康フォローしてくれっ!」

「待てよっ、錬より俺のほうが範囲が広い! 前には俺が出るから使い魔に対処を……」

「数なら樹がやるべきだろっ!」

「僕が弓を撃ち続けているのがわからないんですか! 早く有効打を与えてくださいっ!!」

「何度も首を落としてるだろっ!! 見てわからないのかっ!」

 

 元康は怒鳴りつけるように大声を出すが、全く状況は変わらない。

 

 霊亀は山より大きかった。

 その一歩が体全身に響く重さを持っていた。

 けれど、集まった仲間たちなら問題なくやれる。

 直接相対してわかった。勝てるって。

 

 なのに、そうならなかった。どれだけ殴っても切っても撃っても倒れない。

 首を切り落とし、心臓を撃ち抜いてもだ。

 それどころか、段々と消耗が激しくなる。体力に限りが見えだし、あふれる使い魔たちの攻撃が仲間に影響を与え始めた。

 素材をかき集めることで簡単に強化される勇者と仲間の差だ。

 

 俺の仲間たちは遠距離からの支援だったし、今は離れてくれているようで近くにはいないようだが、錬と一緒に近接攻撃を繰り返していた錬のパーティーの消耗率が高い。

 樹が自分の周りに仲間を集めて守りに入ったこともあり、一気に負担が増えている。

 

「レン様っ!」

「お、おい!! くそっ、俺なんてかばうな!」

「危ないっ!」

 

 戦士が錬をかばい、その様子に動揺した錬を襲う攻撃を更に別の仲間がかばって……。

 引くべきだろうか。だが、巨大すぎて錯覚するが霊亀は足が早い。引けば向かう先の国家に忠告する時間もなく、好きに暴れるだろう。

 霊亀はさほど強くないが、勇者からすればだ。国一つ壊滅しかねない強さがある。

 

「おまえええええっ!! 俺のモノに、手を出すなあああ……!! ……! 元康! 樹! 出た! 俺にも出たぞ! 傲慢の剣が! 尚文と同じチートの剣が! 感情を高めるんだ! 使うぞ、俺はっ!」

 

 仲間を傷つけられた痛みか、錬は怒り狂い、力に目覚めたようだ。

 そうだよ、勇者が負けるはずない。俺が女の子にみっともない姿を見せるわけ無いだろ。

 今こそ真の力に目覚めるはずだ。俺だって力が目覚めるはずだ。

 

 いや、もう目覚めている。

 

 ああ、錬。俺も使える。

 恐ろしい。闇色の沼に足を踏み込むような怖さがある。

 でも、背中を見てくれる女の子がいるんだ。俺がかっこ悪いところ見せられるわけない! 

 

「色欲のォ! やりいいいいィ!!!」

 

 めにゅーがはんてんしていく。ああ、目の前の色が、見えていたものが見えなくなっていく感覚が……! 

 怖い。こわい。なんでだ? ゲームに恐怖なんて抱くはずがない。

 そうだ、ここが現実だからこんなに怖い。

 

 腹を刺されて、血が抜けていく。この世界に来る直前の記憶。

 死の恐怖が、悲しみが、怪我が消えたことで現実感を失わせて、感覚を狂わせて。

 ゲームの世界に来たみたいな気持ちになって。

 

 でも、今の俺にはこんな危険なところまで一緒に来てくれる女の子がいる。

 きっと前の世界でここまでついてきてくれる子なんてごく一握りだっただろう。

 もしかしたらゼロかもしれない。

 

 本当に俺を思っていたらあんな事するはずない。

 真の絆が、本当の愛があれば……。

 俺が、ちゃんと好きになれれば。

 

 錬の一撃が前より遥かに深く切り裂き首が飛ぶ。

 でも死んでいない。だって、あんなに大きく心臓が鼓動してるんだから死ぬはずない。

 見える、体の中身まで。体を修復しようとする力の流れも。

 その中心が心臓であるとわかる。

 

「色欲のォ! 槍っ!!」

 

 槍を投げる。

 吸い込まれるようにして心臓を粉々に砕く。

 頭と心臓を砕かれた霊亀は今度こそ崩れてゆく。

 

 嬉しそうに笑いながら仲間を宝物のように抱きしめる錬。

 ああ、俺もはやくみんなと抱きしめ合いたいですぞ……。

 

「つ、つよい。これがチートの力。でも、僕は、ぼくは……」

 

 その言葉は誰の耳に入ることなく流れてゆく。

 




尚文「ふんふん。四霊か。こいつで世界が守れるのは確かのようだな。しかし、世界中の人の命が必要なんて絶対ダメだ。封印させたままにーー」

影「三勇者が霊亀と戦ったようです」

尚文「あいつらあああア!!」


チートの盾、チートの盾と言いつつも樹は他の二人の様子に使うことをためらいそうだなと思いましたw


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108 充実の日々

 人馬一体。あるいは一心同体。

 

 口に出さなくてもお互いの意思を重ね合わせて動いた瞬間、その一体感は恐ろしいほどの快感に変わる。

 

 仲間ががまるで自分の手足のよう。

 自分がまるで彼女たちの体のよう。

 

 思いを重ね合わせる一体感は驚くほどリーシアの心を満たしていた。

 

 そもそもリーシアは力はなくても胸の奥に強い正義感を宿していた。

 それを表す形がなくて、樹に出会うまではただの少女だったけれど、正義という憧れの形を得て少しずつ自分の思いが出始めてきた。

 樹という強い光を追い続けていたけれど、彼の周りの人間には少し正義とは違う理屈で動いてるんじゃないかと疑ったりもした。

 

 刀の勇者であるユウのパーティと旅をすると時々過去自分たちが救ったはずの世界のその後を知ることが増えてきた。

 影の下調べのあとに行った”正しいこと”と困っている人がいるみたいだから、悪いやつがいるみたいだからと手を出した”正しいこと”のその後だ。

 

 影からの依頼はその後の処理が完璧だった。

 悪徳領主は裁かれ、勤勉な王国に忠誠を誓う貴族が普通に納めていた。

 衝動や仲間から囃し立てられて行った正義は悪は倒されたが次の悪が……あるいは無秩序になった民衆がより状況を荒らしていた。マフィアが地域を支配して麻薬を売り出しているのを見た時、本当にあれは正義だったのか? と悩んだ。

 

 賢くならなきゃいけない。

 でも、賢くなって悪から目をそらすように(さか)しくなってはいけない。

 

 その点、ラフタリアは素直な少女だった。悪いことは悪いと感じられる人だった。

 グラスは賢かった。どうしてこうなってしまっているのかを教えてくれた。

 ガエリオンは人間社会に興味がないようでいて鋭かった。

 

 彼らと一緒にいることで、正義とは、勇気とは悪を倒すものではないのだと知った。

 

「なかなか頑張っているみたいですね」

「樹様! お久しぶりです! みんなのおかげです!」

「そうですか。強くもなったようですね。どうです? 戻ってきませんか?」

 

 大規模な麻薬密造組織の殲滅作戦に加わることになった。

 貴族が黒幕であったことから、弓の勇者である樹とチームアップで組織の解体に挑むことになった。

 多数の高レベル奴隷を使って守っていたようだったが、勇者の仲間としてレベルと連携力を上げた皆には全く叶わず、薬や金を元に国家に根付こうとしていた組織はわずか半日で灰となった。

 

 仕事終わりにお互いに顔を合わせる時間があった。

 弱いと過去切り捨てたとは思えないほどキレイな笑顔で樹はリーシアを誘い出した。

 

 リーシアはあたりを見渡す。

 

 かつての弓の勇者の仲間たちは面倒そうにこちらを見ていた。断れと目が言っている。

 今の仲間たちは行きたいなら止めないが寂しいと表情が語っていた。

 

 リーシアは憧れだけでは正しいことがわからないと気づきだしていた。

 目の前にいる少年が、正義の名のもとに悪を裁くのが好きな、何かにコンプレックスを抱いていることにもようやく気づけた。少年なのだ。自分と同じでまだ幼い。

 

 なのに勇者になって、その力を理由はともかく正しいことに使おうとするのだからやはり樹はリーシアにとって変わらず勇者だった。

 

「ありがとうございます。でも、今の仲間は彼女達で、私は刀の勇者のPTですから」

 

 リーシアは思い出す。

 練習だといって何度もリーシアを抱いたユウ。

 

 初な貧乏貴族の娘ではあったが、時間があればそれなりに調べるし話も聞く。

 自分がされていたことがどういった行為だったか理解していた。

 

 でも、それだとわかっても、嘘つき、騙したなとは思わなかった。

 どこかすがるようにリーシアの体を抱くユウになんと表現していいかわからないどこか温かい愛しい気持ちを抱いていた。

 ユウもまた樹と同じように勇者であっても少年なのだと気づいた。

 

 リーシアは今は自分の気持でこのPTにいた。

 

 **

 

「あ、戻ってきたみたいですよ」

「わ、私もいて大丈夫でしょうか?」

「別に気になんてしないと思うなの」

 

 とはいえ、彼の館に滞在させてもらっているどころか、部屋まで割り当てられていることには申し訳無さを感じている。

 

 仲間としては一体感を感じるレベルまでだと思うが、拾われた、という意識があり、ちゃんとしたPTとして迎えていいのだろうかと悩む。

 

「リーシアさんなら大丈夫だと思いますよ」

 

 そう言われれば流石に覚悟も決まる。

 メイドのメルさんによって扉がひらき、そこには気のせいかもしれないが少し背が伸びたように見える彼がいて。

 

「おかえりなさい」

 

 皆で笑顔で彼を迎えた。

 




樹を含めた自分たちの失敗を知って樹もまた自分たちと同じ人間で、だからこそユウもまた人間であると思い、自分の居場所はここだみたいなリーシアさんと、そんな皆に自分の家味を感じるユウみたいな。

-追記-
すみません、一週お休みいたします。


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109 帰宅

 

 ウチに帰ったような。

 あるいはこここそがウチと言っていいのかもしれない。

 異世界からここに帰ってきた。

 

 出迎えてくれるメルさん、ラフタリア、ガエリオンにリーシア。

 ふっくらとし始めたお腹の存在が不思議と愛おしさを感じさせた。

 今までは妊娠の事実を知りつつも、日々大きくなるお腹の存在など感じたことがなかったから。

 愛おしさが深まって行くのを感じた。

 

「ただいま」

 

 感極まってというか、自然にというか。

 メルさんに、ラフタリアの唇に口づけする。

 人の姿になってぴょんぴょんと自己主張するガエリオンの額に口づけを落とす。

 そして、目を閉じ頬を赤く染めながらもこちらを待つリーシア。

 少しずつ体がこちらに傾いては遠慮するように引かれてゆくその様子に微笑む。

 

 その意味が理解できないわけがなかった。

 けれど本当にと思ってしまって、けれどそれを逃すのがたまらなく惜しくて、体をひこうとするリーシアの腰を抱きながらゆっくりと唇を重ねる。

 

「お、おかえりなさい……」

 

 そう言ってこちらを見るリーシアはどこか垢抜けていた。

 何も知らない何もできない子供から、一人の大人になっていた。

 いっそ年下のような彼女は見た目以上に背が伸びたように見える。

 今まではどこか怖がるように背を丸めなくなったからだろう。

 

 どこか伏せられていた目はまっすぐこちらを見ていた。

 あまりにもキラリと輝く瞳はきれいに自分を映していた。

 嬉しそうに笑っている自分に笑ってしまう。

 

「ただいま」

 

 何度言っても胸にじんわりと暖かさを感じる。

 

 **

 

 勇者の身体は疲れ知らずである。

 秒速で体が癒され、魔法一つで欠損した体が治り、なおかつすぐさま戦いに飛び込めるバイタリティを持っている。

 けれど精神的に疲れないわけではない。

 むしろその大きな許容量にじわじわと疲れは溜まってゆくのだ。

 

 しかし、いま自宅と思えるようになった屋敷に帰り、暖かなお茶とお菓子を口にしながら一緒にいない間の皆の話を聞いているだけで心は癒えてくる。

 

「そうか。リーシアはすごかったんだ」

「いえ、それほどでも」

「いえいえ! リーシアさんの機転はすごいものでしたよ! 私あんなことできるなんて想像もしていなかったです」

「よくある爆薬だったからできただけでそんな……」

 

 何でも封印された竜帝が復活してしまい、暴れだしたらしい。

 古城に封印されていた巨大なその敵の姿にPTは攻めあぐねていたものの、リーシアの機転で城に残っていた火薬を爆発させた。計算された連鎖爆破で城は埋まり、竜は大きなダメージに加え、また城の残骸から頭だけを出して暴れることになり……無事にガエリオンに竜帝の欠片を喰われたらしい。

 聞けば彼女はバフ・デバフの使い手であり、その場にあるものを最大限に生かしたトラップを駆使するスタイルになったらしく、環境を200%活用する彼女の力は強力な短期だけではなく軍勢相手にも発揮したらしい。

 ゴブリンの巨大な軍勢を地震が飲み込むところなど伝説に残るに違いないとラフタリアは自慢気に語っていた。

 

「そりゃすごい……」

 

 それにどうやら彼女は気功の類を操る技術に目覚めだしているようだ。

 周囲の龍脈の力を己の力として行使する技は魔力を使わない上に規模が大きいことができる。

 PTの穴を埋める形で強化しているようだ。

 尚文あたりのPTで育てば対勇者用の格闘術としての技になっていたかもしれないが、PTの違いかウチではサポートと対軍勢に合わせて強化されているようだった。

 

「そそれでっ! 色々面倒を見てもらって今更ですが……私、あなたのPTとしてやっていきたいんです!」

「いいよ」

「だ、ダメだと言われてもだめ──ふえええぇっ!?」

「断るわけないよ」

 

 キュッと彼女の手をにぎる。

 手はかつてと異なりだいぶ硬い戦うものの手に変わっている。

 緊張していたのかやや汗の香りがするが、それもまたリーシアの匂いを強くしていた。

 

「これからよろしく」

「はいっ!」

 

 自分を支えてくれる、自分とともにいてくれる愛しい人たちがこんなにいるのだと思うと、この世界を守りたいと心から思い出し始めた。

 そして、だからこそ世界を守れる勇者で良かったと思った。

 

 





守るものが増え、彼女たちを守りたいから、彼女たちを含む周りすべてを守りたいになって、だからこそ彼女たちがいる世界を守りたいになっていく勇者たち。


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110 二人の雌

メルさんとゆっくり二人でお風呂。上がったところにはベッドとの上にはラフタリアとリーシア。

我慢の限界でしたと襲いかかるラフタリアと私だって色々勉強したんです!と口淫するリーシア。

 ・お風呂。メルの裸と大きくなっている膨らみ。

 ・お風呂上がりからのふたり。女性も性欲あるんだよ。他人の匂い。上書きしたい

 ・私だって色々学んできましたリーシア。

 

セックスに関することなら大体の経験がありなれたものではあるが、とはいえ何も感じないというわけではない。

例えば、入浴などだ。

誰かとともに入る、洗ってもらうなんてことはよく経験したものであるし、洗っているようでセックスしているような場面もたくさんあった。膣内で肉棒をこすり洗いしているのだと言わんばかりのアレコレを経験している。

だがそれも二度三度と回数を重ねればなれるものだ。

その後の宴を思いながら楽しむことができるくらいには余裕を持っていた。

 

「はーい、手を上げてくださーい」

「……はい」

 

だが、手間のかかる弟ばりの面倒の見方は恥ずかしさが勝った。

帰宅して、食事をしてじゃあどうぞと手を引かれた先がお風呂である。

きれいに整形された石で作られた湯船である。

温度調節もされているのか、湯船で湯気が小さく揺れている。

 

バンザイさせられ、服を脱がされてわぷっと顔にかかる。ズルリとズボンもパンツも脱がされる。

 

「わあ、こんなにおとなしいときもあるんですね」

「……メルさんが脱げばすぐ大きくなるよ」

 

数多の女を相手にした肉棒であっても、ピキピキしているときと比べれば今は小さくなる。

それでも普通の大人の勃起時のものより大きいが、だとして一人しか知らないメルにとっては小さくなっていた。

 

「相手はできませんから」

 

そう言ってお腹を撫でられればわがままをいう気もなくなる。

結局メルさんはメイド服を来たまま、袖やスカートを横で縛って濡れないようにしつつ、着衣のまま入ってくる。

お風呂なのだから裸がマナーだと未練がましく伝えると、裸になるとエッチしてしまうでしょうと返ってくる。

すきをついてキスをしながらやわやわと胸を撫でると、メッと怒られてしまう。

どうやら本当にする気がないのだとため息をつく。

 

頭をゴシゴシ泡立てながら洗われ、下半身をそのしなやかな手で石鹸とともにこすられるとムクムクと自己主張を始めだす。これですこれですとメルさんは満足そうだが、あなたの血のつながらない息子さんは不満そうですよとブルンと揺らしたがそのままお湯をかけられた。

 

**

 

ホカホカとした状態で持て余したまま部屋に戻ると、そこにはベッドの上にちょこんと腰掛けるラフタリアとリーシアの二人がいた。部屋に備え付けのシャワーで身を清めているのか、彼女たちもしっとりと艶やかさを見せている。

ラフタリアは待ちかねたとばかりに爛々と目を輝かせ、リーシアはどことなく恥ずかしそうにラフタリアの肩に隠れるように、けれどしっかりとこちらを見ていた。

 

「おつかれですか?」

「あ、あの、だったらっ……」

 

されると分かるが、人の視線はわかりやすい。

ラフタリアはユウの体をなめるように眺めていた。首筋や太ももなどのラフなカッコから出ている素肌の部分にねっとりとした熱い視線を感じる。そして何よりもアソコに。逆にリーシアは一人でないことにやや緊張しているのか、視線があっちへきょろきょろこっちへきょろきょろ動き回っていた。

 

「大丈夫。むしろこのままじゃ寝られない」

 

パジャマを脱いてゆくと、大きく反り返っている肉棒が揺れる。

風呂場で生殺しだった分、いつもより主張が激しいように感じる。

キングサイズのベッドは数人で寝転んでも全く狭さを感じさせない。

ベッドに上がると、待ちきれなかったとばかりに飛びかかってくるラフタリア。

その様子は猫か犬のそれであったが、重量が違う。柔らかさが違う。

上乗りになり、押し倒される。

 

「何日も何日も! ユウ様、私は寂しかったんですからね! こんなに匂いをつけて!」

 

首筋に鼻をくっつけ深呼吸をするように匂いを嗅がれる。行為後には体を洗っているし、入浴したのだから匂いなんてと思わないでもないが、彼女には分かるらしい。布一枚の間も煩わしいとばかりにラフタリアは裸になると、体を擦り付けてくる。体温の高い彼女は性的興奮時に体から匂いが強くなる気がする。

男を興奮させる雌の匂いは更に興奮させ、だらだらと射精をしたあとのように先走りの汁が漏れ出す。

ラフタリアと口づけを交わす。

食べ尽くすような野性的なキスはすぐにただのふれあいで満足できなくなり、口内に伸びてくる舌同士が絡み合う。

 

「わ、私だって!」

 

舌どうしが絡み合うねとついた水音が響く中、鬼頭部分が暖かく柔らかいなにかに包まれる。

 

「むぐっ」

 

ラフタリアの体でリーシアのことが見えないが、どうやら咥えてくれているらしい。

今までされるばかりであったリーシアの奉仕はたどたどしいながらも興奮が更に強くなる。

歯を立てないようにこわごわと口に含んでいたところから、段々とコツを掴んだのだろう。

ずっぽりと咥えこまれる。

苦しいだろうに、喉奥まで達するそのフェラは気持ちよくさせたい思いが伝わってくる。

興奮しすぎたせいだろう。グチュグチュと鬼頭の部分まで浅くなったときに口の中から弾かれて出てしまう。

 

「ふええええ、元気すぎます……」

 

我慢汁と唾液の混ざったものでヌルヌルしている状態で上下に擦られる。

人それぞれのその手付きは興奮の材料になるが、口内と比べれば刺激が物足りない。

それが顔に出てしまったのだろう。ラフタリアに仕方ないなあとだとばかりに苦笑される。

 

「リーシアさん、手よりもっと気持ちいいのがいいみたいですよ」

 

ラフタリアはキスが、というよりは匂いを刷り込むような行為が気に入っているようで、お腹の上に乗ったままだ。

柔らかいお尻は体重を感じさせない。彼女もまた興奮しているのか、体が揺れるたびにグチュグチュと愛液が体に塗りたくられてゆく。

 

「は、はいっ! え、ええと……」

 

迷った末の行き先は、口内よりずっと暖かく柔らかでありながら複雑に締め付けてくる場所……膣内であった。

 

「はううっ♥」

 

全身を愛撫され続けた中での挿入は待ちに待ったセックスであり、リーシアの反応を待たずに腰が動き出した。

全部を味わい尽くせとばかりにグッチュグッチュと腰の動きで出し入れが行われる。

 

「ああっ♥ ダメ、だめですっきょうは、きょうは私がっ!♥ ふえ、ふえええ~」

 

何度も抱いたおかげか膣内は柔らかく挿入を受け入れながらも、姿勢が良くなり体も引き締まったせいか、きゅうきゅうと可愛らしく締め付けてくる。そこをお腹が膨らむ肉棒が荒々しく、それでいてリーシアの弱いところを執拗に擦り上げるのだ。あっという間にリーシアの膣内はギュッと締め上げながらもイッてしまいダラダラと愛液を分泌し続ける。

 

「ま、まだ……はうっ、そこは、そこはダメです♥」

 

出されるまで満足できないのとヒクつく中をいじめるようにこすり上げる。不器用な動きできゅうきゅうと吸い付いてくるのが心地よく、快感の波が止まらないように何度も攻め立てる。

リーシアはそれでもガクガクしながら、ノロノロと腰を動かしている。

感じすぎて受け止めるのもつらそうなのに行われるその動きは、自分の快感のためではなく、ユウを気持ちよくさせようという涙ぐましい行為だった。

無意識のうちにより強くリーシアを求めて責め立てる。

 

「もう、リーシアさんばかりかわいがったらダメですっ!」

 

こちらの意識を自分に向けるように両手の指を絡めるようにつなぎながら口づけをされ、限界まで高まった性欲は精液としてリーシアの中に吐き出された。

 

「ふああああぁ……♥」

 

打ち出すような射精はびゅうびゅうと止まることなくリーシアの中を刺激し続け、一緒にイッてしまった。

くてりとこちらに倒れていくリーシア。

 

「次は私です!」

 

愛欲の宴はまだまだ終わりそうになかった。

 

 

 

 




複数人って難しいなって思います!


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111 狸だけど女豹のように。

 

「次は私です!」

 

 くてりと倒れ込むリーシアを受け止める。大勢が変わり、ずるりと抜けてゆく肉棒はそれでも半分ほどは入ったままである。中途半端に抜けかけた状況は外と中の温度差を感じさせる。

 吐き出した精液を奥に取り込むような動作。きゅうきゅう締め付けては緩むその動作は肉棒を惜しむようである。

 

 まだまだリーシアを堪能したかったが、体はともかく本人は自分から進んで行った初めての性行為のせいか満足そうに軽く寝入っており、逆にラフタリアはまだかまだかかと爛々に目を輝かせている。

 

 直接的な挿入こそしていないものの、お互いの体を触れ合わせ、唇での性行為を行っていたせいか完全にスイッチが入っている。肌は上気しておりほんのりと桜色に染まっており、汗をかいたせいか性欲を掻き立てる雌の香りが芳しい。

 

「ああ、寂しかった……こんなに離れたのは初めてだから……」

 

 ラフタリアと唇が触れ合う。

 思いが溶け込むように伝わってくる気がした。そんな思いをさせて申し訳ないという気持ちと同時に、そう感じてもらえる喜びもまた感じている。

 触れる唇の柔らかさが愛おしく感じた。

 

「また一緒だから」

「そうですね」

 

 でももう我慢できません。

 そうラフタリアは耳にささやくと、そそり返った一物に手を触れ、自分で挿入してしまった。

 すでにたっぷりと濡れ火照っていた中は、亜人ゆえかの体温の高さも相まって溶けるような熱さを感じさせる。

 じゅぶじゅぶと挿入されるだけでじっとり潤った中から愛液が溢れ出して垂れ落ちる。

 リーシアとの行為の間にだいぶラフタリアは興奮しきっていたらしい。

 

「あうううう♥ これっ、これですっ♥ あぁっ!」

 

 上にのしかかった騎乗位でのセックス。

 感極まってしまったのか、ずっぷりと奥まで差し込んだ瞬間にビクビクと震えだすラフタリア。

 今彼女がどういう状態なのかは中がわかりやすく伝えてくれる。

 精液を欲する締め付けと、今なおダラダラと溢れるように滴る愛液。

 

「いっぱいしてあげるから」

「ああ♥ 私がっ、んんっ」

 

 今日はそういう日なのだろうか。リーシアもだったが、ラフタリアもまた、奉仕するように腰を動かし始める。

 一物をちぎりそうな力でしっかりと締め上げながらも、溢れる愛液が痛みを与えずしっかりと受け止めていた。

 

 与えられる快楽は驚くほど心地よく、溢れる快感に口が小さく開き、喉の奥から声が漏れ出す。

 その様子にラフタリアは満足そうにほほえみながらも、動き方を少し変えながらじゅぼじゅぼと音を立てながら腰をふる。

 

 表情を見て、反応をみて、よりよい場所を、動きを模索してくれている。

 瞳は怪しく潤み、上気した表情は愛欲にどっぷり浸っているように見えた。

 それでもユウを喜ばせようと頑張ってくれているのだと。

 

「ああっ♥ きもちっ、いいですかぁ……♥」

 

 パンパンと肌が触れ合う音が大きく響く。規則正しい間隔にようでいて、時々体が震えて動きが乱れる。

 イッてしまっているのだろう。豊かに揺れる乳房に目を引かれながらも、ラフタリアの体も表情もしっかり見えるのでよく分かる。ラフタリアは快感を堪能しながらもこらえるようにまた腰を振り始める。

 肉のぶつかりあうたび、性感が高まってゆく。

 

 とはいえ、経験の差は大きいようで、先に音を上げ始めたのはラフタリアであった。

 体が震える回数が段々と増え、その時間も長くなってくる。

 腰が引き上げられる高さが徐々に低くなる。

 そのせいでずっと深いところまで挿入されており、子宮口をグリグリと刺激されることになる。

 より一層絶頂の回数が増えだす。

 

「あはぁ……♥ すきい、すきです、ユウ様……あいしてます……」

 

 とろけた思考。漏れ出した愛の言葉。

 ひとつふたつと言葉が増えるたびに、もういつ精液が吹き出してもおかしくない状態になる。

 

 それを知ってか知らずかスピードが上がりだす。

 とろりと熱い瞳に見つめられる。

 

「俺も……愛してる」

 

 ラフタリアは感極まったとばかりに一層大きく震える。中がきゅうきゅう絞られる。

 イッてしまいそうだとなったところで……

 首筋に噛みつかれた。

 痛くはないそれは、けれどほんの少しの間だけ跡が残りそうなもので、刻みつけられたと思った瞬間にラフタリアの中に射精をしていた。

 

「んくっ!」

「んああっ♥」

 

 お互いの喘ぎ声と射精の水打つ音だけが響いた。

 




甘噛されて高まっちゃうとかいいかなって!


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112 俺の友達、領主なんだぜ!

 

夜もいい時間になるまで3人でまぐわいつづけて空が明るくなりだした頃に二人が寝落ちしてしまったので宴は終わりとなった。精液愛液でベドベトに濡れたベッドを見る。

そのまま横になっていれば全く気にせず眠りについたが、我に返ってしまうとグッチャリとしたシーツはちょっと避けたい。そのまま寝る気にはならなかった。

ベトベトの裸体を晒して寝入っている二人に毛布だけかけて部屋を出る。

 

客室のいくつかは未使用だったはずだからそこで寝ればいいやと部屋を出ると慌てた様子でメルさんがやってくる。

 

「ユウ様、PTで急ぎナオフミ様の領地に来てほしいと手紙が……!」

 

駆け寄ってくるメルさんの後ろ……玄関の方には数名の騎士が立っていた。

 

**

 

「はあ……」

 

薬品を作るような道具や宝石などの細工道具がごちゃごちゃしている尚文の部屋。

領主であるせいか部屋自体はかなり広いものの、物自体はだいぶ多い。

久しぶりに会う尚文はそれはそれは疲れた顔でため息を付いていた。

 

「出会い頭ため息なんてひどくない?」

 

こちとらあのあと寝ぼけるラフタリアとリーシアを魔法で無理やり覚醒させて身支度させてと慌ただしく馬車に乗ってやってきているのに。

 

「何が起こったかを聞けばお前だってそうなる」

「……何が起こったのさ」

 

そこで聞かされたのは驚くべき事実というべきだろうか。

四霊と呼ばれる存在と、それと戦いに行った三勇者たち。

そして……。

 

「……僕は何も悪くありません」

「真実の愛に目覚めることができたのでプラスマイナスはプラスですぞ!!」

「ああ、新しい力を手に入れることができたからな」

 

同席している勇者たちはどこか様子が違うようだった。

いつもどうり変といえばそうかも知れないが、変さが一歩進んでいる気がする。

 

「四霊の封印を解いてしまったのも問題だが、コイツラはカースシリーズに目覚めてしまったらしい」

「尚文が盾で使ってる……」

「ああ、七大罪になぞらえていて、俺は憤怒、錬は傲慢、元康は色欲だ。おかげで錬は自分のものへの執着が強くなってて、元康は……頭がいかれてる」

 

元からかもしれないがなと鼻で笑う尚文。

 

「ひどいですな! 尚文は。いかれてなどいないですぞ。愛に目覚めたんですぞ!」

「愛?」

「そうですぞ! 俺は真実の愛に目覚めたんですぞ! 愛している女の子だけわかるようになったんですぞ! もうこれで間違えたりしないのですぞ!」

 

ガバっと立ち上がり目を輝かせながら元康はそういった。

爛々と輝くその瞳はどこか狂信者のようであり、何事にもゆるい笑みを浮かべていた元康らしくない。

 

その様子に頭がいたいと顔を両手で覆う尚文。

確かにどうかしてしまっているようだ。

しかし、色欲の槍には愛を判定する力でもあるのだろうか。

 

「はっはっは。愛を判定するなんてギャルゲーみたいなことできるわけ無いですぞ! 愛の通じ合った相手の顔だけが見えるんですぞ! 有象無象の女の顔は見えなくなりましたが、便利なものですな!」

 

はて? 一体どういうことだろうと尚文の顔を見る。

何でも彼を愛している人間以外の女性の顔が認識できなくなったらしい。

顔がなくなったのっぺらぼうのように感じて誰が誰だかわからなくなったという。

顔が認識できるのはフィーロを除けば仲間だけだとか。

 

「といっても、エレナは顔を見れなかったから首にしてやりましたが! ついてきておきながら勇者を愛していないとは最低の女ですな!」

 

はて。マインもだが、レスティもエレナも皆、自分から抱かれに来ていた。

特に、レスティもエレナもいい性格というか、条件で男を選ぶところのある相手である。

レスティが大丈夫でエレナがだめなのはなぜだろか。

 

「まあ、エレナはそれでも勇者様の役に立ちたいとのことでしたからな。雑用くらいはさせてますが!」

 

ニコニコと笑う元康だがどこか目の奥が狂気的である。

正気を失っている。

錬の方を見ると、テーブルの中央に置かれた砂糖やミルクポットを自分寄りに置き直していた。

これが物欲の強まった影響だろうか。

 

「……僕は使ってません。あんなモノ、チートでもなんでもない……呪いの武器じゃないですかっ! 僕らを騙しましたね! 尚文さん!」

「俺はチート武器なんてないって言ってただろうが。それに、二人に言われるならともかく、使ってないお前に言われる筋合いはないだろ?」

「それはっ……もういいです! 僕は問題ないんですからもういいですよね!?」

 

そう言って出ていってしまう。

 

「はあ、頭痛で痛い」

「まだまだ余裕?」

 

ギャグかなと突っ込んで見ればそうではないらしい。ギロリと睨まれる。

 

「まあ、中身はともかく、尚文は憤怒の盾ですごく強くなったし、彼らもそうなんでしょ? 残りの四霊だって大丈夫だと思うけど」

 

俺もいるしと返す。

確かに巨大なモンスターは対処が面倒だが、聞いた話霊亀は四天王の中で最弱……! とか言い出されたとしても勝てない相手ではなさそうである。

 

「そこからは私が説明させてもらうでごじゃる」

「女王の影の人!」

 

いつの間にか現れれた影は、影のくせにいつの間にか増えたカップを手に椅子に座りだす。

 

「ユウ様は勇者殺しのタクトを知っているでごじゃるか?」

「タクト? 誰だろ。鞭の勇者くらいしか思い浮かぶ相手いないな……」

 

フォーブレイの王子である。見た目もよく、品行方正でものづくりや改革をいくつも行っているらしい。

ある程度の結果は出しているらしく、将来が楽しみだと言われているみたいな噂を聞いたことがある。

実際は女を何十人もすでに抱えており、実にフォーブレイらしい王子だと聞く。

 

「そう、そのタクトでごじゃる!」

 

なんでも、鎌の勇者は他の八星勇者を襲い勇者武器を集めているらしい。

すでにほとんどの勇者が連絡がつかなくなっており、国内でもクーデターの懸念があるとフォーブレイの国王から相談があったとのこと。

 

「女王様が他国でしっかり繋がりを作ってくれたおかげでわかったことでごじゃる」

 

勇者を殺したのだというのなら倒せばいいかというとそうではないらしい。

何でもタクトは勇者らしくたくさんのハーレムを築いており、そのものたちは皆、勇者の力でかなりの高レベルであり、盲目的にタクトに従っているため、タクトを討っても復讐のために世界に散ってしまうかもしれないとのこと。

 

四霊との対決のために戦力を固めないといけない中、そんなゲリラを行う高レベルの相手などできないとのこと。

なるほど。ハーレムごと暴れられる前に倒さなければいけないのか。

 

「そこでだ、勇、お前にはフォーブレイに潜入してハーレムを解体もしくは奪ってきてほしい、でごじゃる」

「……え?」

 

まさかの提案であった。

 




性に強い勇者のくせして体を使うより倒したりするほうが得意だなんて!
それでも性勇者なの!?


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113 尚文の領地

 

 その人の部屋を見ればどういう人間なのかを知ることができる……というのであれば、領地を見ればどんな領主であるかわかるとも言える。

 尚文の領地では亜人が警戒心なく道を闊歩しており、誰もがにこやかだ。

 

 かといって亜人ばかりかと言えばそうではなく、多く並んでる店では人間の商人たちが精を出している。

 その表情に嫌悪はなく、にこやかである。

 今も顔なじみなのか商人の一人が毛むくじゃらの亜人の方を嬉しそうに叩いている。

 

 街自体の作りもしっかりしたものだ。

 上下水もしっかり対応されているのか、清潔で田舎村にありがちな家畜の色々の匂いがするような場所ではない。

 非常に整った領地である。

 建築中の場所も多いせいか他所からの人も領地に出入りしているようであり、大変活気がある。

 

 尚文は領地運営も凄腕のようだ。

 すごいものである。

 

 そんな領地をせっかくだから回ろうと誘おうとしたが、ラフタリアはリファナに何かを耳打ちされ、驚きの声を上げたあと大喜びで飛び跳ねていた。

 相当いいはなしだったらしい。感激してリファナの両手を握ったりと忙しそうだ。

 

 落ち着いてからはリファナに『尚文様のアクセサリーも買えるよ』と言われてラフタリアとリーシアはリファナとともに買い物に行ってしまったし、ガエリオンはここ鳥くさいから外で待ってるなのーと飛び去ってしまった。

 きっと今は悠々と狩りを楽しんでいることだろう。

 

 デートしたいときに相手なし。

 今は悲しい独り身である。

 とはいえ、見知らぬ街を歩くのは面白い。

 中途半端に日本家屋らしい作りが見えたり、屋台も尚文の手が入っているのか、王都より味が良いものもある。

 いびつのような調和しているような。

 不思議と面白い街である。憂鬱な気持ちが少し晴れるのを感じる。

 

【フォーブレイに潜入してハーレムを解体もしくは奪ってきてほしい】

 

 これは要するに、”お前女癖悪いんだし内部から落としてこいよ” と言い換えてもいい。

 雑な作戦である。正直倒せとか捕らえろと言われたほうが簡単なのだが、これは難しいことだ。

 

 女性を抱くのは大好きだし、愛してくれている、大好きな女ならより美味しく感じるようになった。

 そうでない女性も前より味わい深く感じる気がする。

 ただ、そうそう人間寝取れるものではないと思っている。

 

 そりゃあ、相手のために尽くしてくれるようにするくらいはできるだろうが、限度がある。

 食事くらいいくらでもごちそうするし、家だって泊めてあげる! お小遣いだって私が出すから! 

 このくらいのセリフは日本では何度も聞いたし、お姉ちゃんどう!? とか娘どうかしら? とも言われた。

 けれど、あなたのためなら愛してる夫だって殺せるわ! といって本当に殺しちゃうほどの領域にはそうそういくものではないのだ。じっくりと時間を掛ける必要がおそらくある。

 嫌いな相手ならともかく。

 

 基本、自分の渡せる範囲で捧げられるものを捧げる、という感じである。

 王子に惚れ込んでる女性を王子……国を寝返らせるようなことができるものだろうか。

 

 無理だろ……無茶振りすぎる……。

 

 難題に憂鬱になっていたのである。

 そんな気持ちがやや盛り返したところで、大きな音が聞こえてくる。

 音の方向と同じ先の路地から尚文がかけてくる。

 全力のダッシュだ。

 

「丁度いいところに!! 何でもいけるお前なら鳥もいけるな!?」

「はあ? 鳥も好きだけど。別に食べられないものはないよ」

「ならいい!」

 

 ビーフorチキンってことだろうか? 

 夕食何にするとは聞いてなかったが、尚文のご飯はどれも美味しいのでどんな料理であっても歓迎ではある。

 断るなんて贅沢は言わない。

 切羽詰まった尚文の様子に、あたりの探ってみてもフィーロが走ってこっちに来ているくらいで敵はいない。

 

 なんだろう。

 なんでもないわりには尚文はだいぶ慌てている様子である。

 

「ご…………さ……ー」

 

「ごしゅ……さまー」

 

「ごしゅじんさまああああ!! ふぃーろとおおおおお」

 

 大きな土煙を上げながら、巨大なフィロリアルが追いかけてきている。

 あの特徴的なフォルムはフィーロである。

 まるで獲物を追い立てる野生動物のような迫力だ。

 

 尚文はその様子を見るとこっちに駆け寄ってくる。

 それを追うようにフィーロもまたこちらに走ってくる。

 

「フィーロとおお、こず──ー!」

「うおおおおっ!! シールドプリズン!!」

 

 光り輝く緑の牢獄に閉じ込められる。

 ──目を狂わせたフィロリアルのフィーロと一緒に。

 

「はっ?」

 

「刀の人も美味しそうかも!!」

 

「は?」

 

 その目は植えた捕食者の目をしていた。

 




監禁レイプ! 野獣と化したフィーロ!


原作でもメルティとフィーロをシールドプリズンでとじこめており、おかげさまでメルティの花が散ってたりしますw

尚文ひどいよ、尚文外道だよ。王女にすることじゃない(笑)


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114 発情期

 

「はあ、はあ、はあ。ジュルリ」

 

 目の前に金髪碧眼の幼い女の子がいる。

 勇より小柄なその体は重さを感じさせず柔らかさと太陽の香りを伝えてくる。

 そこだけ抜き取ればなかなかの状況だった。

 

 だが、緑に光る球体に閉じ込められた状態で、現在は体の上にのしかかっており、ジリジリと近づいてくる。

 異世界に行ったばかりに狼系の魔物と戦いあったときのような原始的な身の危険を感じてブルリと震える。

 目がマジである。やばい。

 

 シールドプリズンの中は狭く、さらにいえば球体であることもあり、より動きづらい。

 その密着度は学校のロッカーに二人詰まったくらいのつまり具合と癒えばいいだろうか。

 

『すまん! お前ならなんとかなるだろ! よろしく頼む!』

 

 外から聞こえる尚文の声。

 

「えええ?」

「フィーロ、ムズムズするのぉ」

 

 うっとりとこちらを見つめながら、こちらの手を取ると秘所に導く。

 何もしないことにじれたのか、人の手を使って自慰を始めだす。

 どうすればいいかもよくわかってなさそうなまま、本能に戸惑いながらも正直に、という感じである。

 あまりにも一生懸命にこすり続けており、指先がネッチョリと濡れだす。

 ラフタリアと同じで体内が高温なのか、愛液もまたじんわりと熱を持っている。

 

 密閉された空間ですぐに性臭に満ちる。興奮し出し、肉棒が大きくなるのを感じる。

 

 まあ、いいか。

 

 ユウは性豪であるが、性癖は割とノーマル側である。

 森の中や庭の外でくらいなら経験があるが、道のど真ん中でするとは考えていなかった。

 シールドプリズンのおかげでシルエットくらいしか見えてないだろうが、シルエットは見えている。

 現にちょっと距離をおいた先には人が集まっているようでガヤガヤしている。

 

 まあ、いいよね。

 

 本人もご主人さまの尚文の許可もあるのだ。

 それにその気になってきたのにしないなんて選択肢はないだろう。

 

 発情した猫のように性器をこすりつけてくるフィーロ。

 おもちゃに使われているベトベトになった指を勝手に動かされる動きに合わせてそおっと秘所に差し込む。

 

「んああ♥ ごしゅじんさまああ、刀の人の指気持ちいい……♥」

 

 ガシガシ荒々しい動きは与えられた快楽に震えているのかおとなしくなった瞬間を見計らい、膣内で指をそっと動かす。

 人間とは少し作りの違いを感じるものの、大きくは変わらないようだ。

 何度かイッたあとのようにどろどろの膣内は、けれどこなれてない硬い様子で、その快感への対処の下手さを思えば経験などないのだろうことがわかる。

 

 更にぐっと差し込むと、何かに阻まれる間隔がある。

 鳥類なので、え、そうなんだ、という感じではあるが、膜があるようだった。

 これはフィロリアルならあるのか、変身したからあるのか。

 

 思考を他所になれたその手は初めての相手であってもあっという間に感じるところをさぐりあてる。

 指を二本差し込み、指の腹を使って、優しくリズミカルにトントンとたたくように刺激する。

 

「あああ、ごしゅ、ごしゅじんさまあ♥」

 

 喰われる側から逆転している。

 フィーロは与えられる快楽に必死に堪えるようにその両手を勇の首に回してギュッとしがみついている。

 腰を押し付け、指の動きを阻害しようとしてくるが、それでも変わらず動かしているとだんだん抵抗の力が弱まってゆき、より快楽が多くなるようにペースを調整していく。

 

「あうっ、あうう♥」

 

 その様子は発情していた獣の顔から、波にさらわれないようにこらえる子供のようであった。

 空いた左手でゆっくり背中をなでてあげると、ギュッと目を閉じながら快感にあがらっていたが、ゆっくり目を開ける。

 初めてまともに目があった。

 そんな気がする。

 

「うう、刀の人……すごいぃ……♥」

 

 はー♥ はー♥ と甘いといきを吐きながらも、こちらをしっかり見る。

 尚文にご主人さまと語りかけるフィーロを責め立てるのはなんだか不思議な感触があったが、それはそれとして、刀の人と呼ばれ続けるのはいただけない。

 

「勇」

「ゆう……♥」

「刀の人じゃなくて勇ね」

「ユウ……」

 

 わかったのかわかってないのかふわふわとした表情になっていたが、呼ばせ続ければ覚えるだろう。

 ご褒美のように強くイかせてあげるとぐにゃりと体にもたれかかってくる。

 

「まだ性交してないよ……? やめる?」

「やめないぃ……フィーロ孕むう……」

 

 どこでそんな言葉を知ったのだろうか。

 自分でも腰を動かしだす。指が挿入されては抜き差しされる。

 ジュプジュプと淫靡な音が響くが、指では孕まない。

 

「こっち」

 

 主張激しく大きくなったそれをグリグリと押し付けるとこれだったのかとばかりに驚くフィーロ。

 

「これならもっと気持ちいいし、孕めるよ」

「フィーロ、頑張る……!」

 

 ズボンを下ろすと同時にフィーロが襲いかかってくる。グチュグチュと入り口をなぞりながらも入れ方を探るように動き、初めても何のそのと言わんばかりに一気に最奥まで差し込んだ。

 

「はうううっ! すご、すごいっ……よう。フィーロ、フィーロ溶けちゃうっ!」

 

 こちらこそ溶けてしまいそうである。

 ラフタリアの中も熱いが、フィーロはそれ以上である。

 焼く様な熱さはそれこそとろけるようである。

 

 やや熱いものの心地よい暖かさのラフタリアと比べると自分勝手に燃えたぎる炎のようだった。

 一突きするごとにじゃぶじゃぶと愛液は分泌され続け、棒を伝って裏筋を濡らしてゆく。

 

「はやくう、はやくうっ! フィーロ消えちゃうっ♥」

 

 そんな事言いながらもフィーロは自分で腰を動かし快感を存分に味わっている。

 最も感じるように調整するだけで、あとは勝手にフィーロが動いていた。

 

 負けられないと浅い部分を溜まりに溜まった愛液を掻き出すように動かすと、何度も震えながらどんどん愛液は分泌され続けてゆく。

 パンパンとリズムカルに腰を打ち付け始める。幼い喘ぎ声が響く。

 

「ごしゅじんさまっ♥ ごしゅじんさまっ♥」

 

 助けを求めるように外を見るフィーロ。

 けれど、抱いているときに別の相手を思い浮かべられるのはあまり嬉しいものではない。

 ラフタリアにされたように首筋に噛み付くように吸い付き、あとを残す。

 1つ、2つと増やしていくごとに、少しずつおとなしくなっていくフィーロ。

 

「あ、あううっ♥ だめ、だめ……」

「ユウ。ほら、呼んで」

 

 催促するようにわざと気持ちいい場所を外してパンパンと腰を動かすと、じれるように体をねじり腰を動かして自分で当たる場所を直そうとして……それも含めて動きを変える。

 

「ごしゅじんさまあ……」

「ユウ。呼んだら気持ちよくなれるよ」

 

 小さな蕾のままの胸をゆっくりと擦るように動かすとぴくんと小さく震える。

 快感を与える場所が増えたことで、フィーロはよりいっぱいいっぱいだと表情が訴えてくる。

 

「ユウ、ユウ……うう、ごしゅじんさまぁ……♥」

 

 自分で襲ってきたのに助けを求めるような態度は良くない。

 より責め立てると、段々と比重が変わってくる。

 

「ゆう、ゆう、ゆう♥ フィーロ、もうだめ……ゆう、ユウ、許して……ごめんなさい、するからあ」

「全然いいよ。許すよ」

「ゆるしてぇ……」

 

 何に謝ればいいのかわからないけど、とめてほしいから謝ってくるフィーロ。

 子供らしいその思考に、激しい快感からねっとりと体をとろけさせるように動きを変える。

 イッて終わりではなく、降りてこられないその攻めに、フィーロはすがりつくように腕を絡めることしかできない。

 

「さあ、もっと締めて。望むことしてあげる」

「ゆう、ゆう♥ はやくっ、はやくっ」

 

 ほしいのかやめてほしいのか。

 本人もわかってなさそうなまま、お互いに腰を振りながら重なり合う。

 次第にユウの中で性欲が最大限に上がりきり……今度は肌を吸うのではなく甘がみするとフィーロはビクンと動かなくなってしまい、ぎゅうぎゅうと締め付けるものだからあまりに心地よく、その瞬間に射精をしてしまった。

 

 びゅうびゅうと激しい勢いのまま出続ける精液はフィーロの小さな膣内を埋め尽くして余るほどであり、肉棒が抜かれないままであったため、お腹をぷっくりと大きくしていった。

 

 





ご主人さまに見られながら初めての発情期からのえっち。
なかなかレベルが高いのではないでしょうかw


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115 やればできる子、できた子なの

シールドプリズンがとかれる。

 

緑のフィルム越しのような外の様子がくっきりきれいなものに変わる。

いつの間にか町民は追い払われているのかおらず、そこにいたのは尚文だけだった。

 

彼はフィーロの様子と、フィーロの股から流れ続けるねっとりとした粘度の高い精子とぽっこり膨らんだお腹が少しずつ小さくなっていく様にこいつマジかよ、といった顔をしている。

ついでこちらの肉棒を見てさらにまじかよという顔をしてさっとそらされた。

 

「あー、すまなかったな。助かった。任せてくれ。あとの始末は俺がやっておく。……いや、触りたくないから誰かにやらせるか」

 

フィロリアルトはいえ、女の子と同僚勇者とじこめてセックスさせておいてその言い方。

尚文は有り様は勇者らしいのだが、結構外道なところがある。

尚文はマントをフィーロにかけてやると、じんわりと体液を吸って濡れてゆくマントの様子にうげっと声を漏らしたあと、マント越しに抱き上げる。

力の面でいうなら何人でも一度に抱き上げられるが、外側から見るにやはり体格の差があると映えそうだ。

しかし手にねとつく感触を覚えたのか、マントの手を拭ったり、嫌そうな顔をするところは原点かもしれない

 

「起きろフィーロっ!」

 

尚文がフィーロの体をゆさゆさと揺さぶると、寝こけていたフィーロがふわーと目を覚ます。

 

「あ、ユウー! またねー」

「またね~じゃない! フィロリアルに戻って自分で歩け!」

「やー!」

 

ぎゅっと尚文の服を握りしめて降ろされないようにしがみつく。

仕方がないとばかりにそのまま尚文が歩いていった。

 

……なんだか妙に気力を消費してしまった気がする。

 

まだ回れる店はたくさんありそうだったが、もう部屋に戻ることにした。

 

**

 

「おい。これはお前にやる」

 

翌日、大きな卵一つと孵化器のセットと、いつか見た奴隷商を連れた尚文がいた。

 

「は?」

 

寝起きにドンドンと扉を叩かれ、押し入られたと思ったらこれである。

なにそれと聞き返すと、「お前の卵だ」とのこと。

 

「オマエノタマゴ?」

「フィーロとお前の卵だ。パパに引き取ってもらおうと思ってな」

 

グイグイ押し付けられるので反射的に受け取ってしまい、所有権は確定した。

ほんのりと温かい卵からは強い命の輝きを感じる。

 

「いやあ、朝早くから起こされるとはワタクシ思いませんでした! それでは契約の手続きを」

 

ぼうっと言われるがままに契約を果たした。するとパキパキと殻が割れだし……ピンク色の体毛のフィロリアルが元気に飛び出してくる。

 

「ぴいぴい!」

「元気なフィロリアルですな! それではワタシはこのへんで」

「ああ、朝からすまなかったな」

 

堂々と金貨が何枚も手渡されている。

フィロリアルはぐいぐいと体を擦り付けてきて、首まわりの隙間からパジャマの中に入り込んできた。

もこもこする毛玉が肌を動き回るのはこそばゆい。

 

「名前はどうするんだ」

「え? あ~、うん? ふぃ、フィーロ?」

「それは母親の名前だろうが」

「母親……」

 

メルさんのときは喜びがあったが、昨日の今日でのフィーロの子供(卵)は思った以上に戸惑いがあった。

 

「父親……?」

 

キュピっと鳴きながらパジャマの首元から顔だけ出すフィロリアルはとても愛らしい。

子供、と言われると首をかしげる気持ちになるが。

 

「うーん、じゃあ、サクラ!」

 

色で名付けたなとフィロリアルでフィーロと名付けた尚文は、自分と同じセンスのはずなのに単純だなという目でこちらを見てくる。

 

「よろしく」

 

笑顔ですり寄ってくるリアは可愛らしく、まあなんとかなるだろうという気持ちになった。

 

**

 

フィロリアルとドラゴンは天敵同士である。

なぜ? とかいつ? とかはわからないが、匂いや存在からしてなんとなく気に食わない生き物である。

犬猿の仲というやつである。

 

とはいえ、自分の惚れ込んだ相手はそれこそ、ドラゴン派である。

直接聞いたことはないが、あの見事な竜の乗りこなしを感じれば聞くまでもないことである。

むしろ、かつての相棒であった相手に嫉妬の気持ちがないでもないが、今一緒にいるのは自分! 自分である。

背中に乗せるたびに心はビリビリ震えるのである。

 

雌としてもユウにキュンキュンしているので、十分にレベルが上ったら子供を作りたいな、と思っている。

おそらくとてつもなく強い子供になるに違いない。

それこそ龍帝もかくやである。

ああ、まだ見ぬ我が子よ。早くお前に会いたい。

 

しかし、どうやら目を離したうちにPTメンバーであるラフタリアやリーシアが抱かれていたようである。

 

……。

…………。

 

まあ? まだ私の体の準備ができてないわけであるし? ユウが童貞だったら激怒しただろうが、なにせ彼は私が生まれたときからそういった感じがないのだから、まあ? 先手くらい広い心で譲ってやるところである。

私の準備ができるまで。それまでは? まあ? 性欲処理でもしておいてね、みたいな気持ちである。

 

「最後は私が勝者なの♥」

 

しかし、ある日ユウはフィロリアルの匂いをたっぷりさせて返ってきた。

 

(え? え? 浮気? 浮気なの? なの?)

 

「ガエリオン、この子の面倒見てもらえる?」

 

差し出されたピンク色のフィロリアルの子供からは濃厚なユウの匂いがした。

 

ガエリオンは気絶した。

 

 




メルさんとのこども「あれ!? 追い抜かれて妹か弟になった!?」

ガエリオン涙目。


--追記--
名前をサクラに修正しました。


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116 鞭の勇者の妹

 

大国であるフォーブレイに王女として生まれたナナ。

 

この世で最上級の生活をしていたが、その心は自由とは程遠いところにあった。

まず、親が糞である。

どのくらいクズかといえば、彼に嫁ぐことが女貴族の処刑法になる、といえば伝わるだろうか。

大国の王相手にこれである。

 

異世界の物語らしい、アラビアンナイトに出てくる、一夜をともにした相手をその翌日に必ず首を飛ばすシャフリヤール王もかくやという感じである。

 

見た目もかなり醜悪な外見で「うごめく肉塊」「豚の化け物」と言われており、オークと比べてすらオークのほうが文化的で生理的にOKだと言える相手である。

政治的には優秀らしい点が更に同しようもない。

長く続いた勇者の血を濃くしていくべく営まれたこの国の象徴らしい狂った王である。

 

当然のことながら、女を愛せない王であるからして、親として子供への愛などかけらもない。

とはいえ、全員が死ぬかといえば誰もが殺されているわけではなく、極稀に死なずに何度も床をともにする女はおり、そういったものが子供を生んでいる。

 

父の弟であるメルロマルク王は男児一人の女児二人であったが、何百何千と女を抱き殺している父の子供はそれなりにいるのだ。とはいえ、こんなクズ王に娘を差し出すような親族も、こんな王に捧げられるような母もクズであるからして、ナナに向けられる愛などあるわけなく、ナナにとって家族とは兄であるタクトのみである。

 

タクトは素晴らしい人間だった。

人を愛せる人だ。

 

初めてあったナナの頭を優しくなでてくれたときからナナは兄を愛している。

父のように女を殺したりはしない。無節操に女に手を出す男ということもできたが、すべての人間に愛を注げる枯れぬ愛の持ち主なのだ。

女もまた不幸な顔をしておらず幸せそうに笑うのだから、兄は正しい人だった。

 

そんな兄のことをナナは愛している。

たが、兄は家族である。

 

兄に連れられ、城下町で兄が宿屋の兄妹と出会い、二人が愛し合っていることを知って兄は「兄弟で愛し合っては行けない」と二人を諭した。妹はタクトに愛され兄への愛は勘違いであると気づき、真実の愛に目覚めたとタクトを抱きしめた。

 

兄弟で愛し合ってはいけない理屈を色々と説明してくれていたが、あいにくナナにはよくわからなかった。

わかったのは兄妹で愛し合ってはいけないという兄の言葉だけだ。

生理が来て子供を埋めるようになったら兄に自分も愛してもらおうと思っていたが、本人から拒絶の言葉を聞いてナナはショックを受けた。

 

(どうしよう……)

 

人生の歩む道が消えてしまったようなショックだった。

兄を愛するがゆえに、兄の言うことは絶対だった。

その言葉を破ってまで行動に移ることができなかった。

行ったのが父親である豚王であれば気にせず翌日に兄に抱かれに言っていただろうが。

 

ちょうど来た遅めの初経にウンウンと唸っていたのもあり、どうにもいい方向に気持ちが変わらなかった。

 

「大丈夫?」

 

そんな時声をかけてくれたのが彼だった。

自分と歳の近い少年。レベルを上げただけとはいえ、勇者の手ほどきを受けている自分からみてもそれなりに強そうに感じる。見ない顔だった。頭の中で誰だろうかと思い出そうとしても対象になる人間はいない。

 

男なので兄が育てた人間ではないだろう。

騎士団の人間の子供だろうか。

勇者の血が濃いフォーブレイの騎士団の関係者だと思えばその輝きも納得がいく。

 

兄に似た色の金髪に今より幼かった頃の兄を少しだけ感じた。

 

きっと彼以外が今の自分に声をかけてきたのなら無礼者といって鞭で叩くくらいしただろう。

だが、なんとなく印象がよい。どこか惹かれるものを感じ、そんな気にならなかった。

笑顔が可愛く感じたからだろうか。男にそんなことを思うなど初めてだ。

 

「お腹が、痛いのよ。あっち行って」

 

けれども彼は優しく手を取る。暖かな手のひらはなぜか安心感をくれる。

彼の手のひらがお腹を優しく撫でるとそれだけで感じていた不快感は消えてしまった。

 

「どう?」

 

ニコリと笑う彼の頬を私は叩いた。

王女のお腹に触れるなど何を考えているのか。

 

「処刑しないであげるわっ!」

 

元気になった体でズシズシとその場を去る。

触られてしまった。

あんな見ず知らずの男に。

悔しい。自分は兄のものなのに。兄のものになるのに。

 

でも、でも。

 

「暖かかった、かも……」

 

胸の奥がジンジンとうずく。温かいような不思議な満足感が心を安心させた。

日々悩んでいてクマができるくらいだったが、その翌日から以前以上に元気になる自分がいた。

 





普通に考えて、国王に女を捧げることが貴族女性の名誉ある処刑法になるとかいう時点でヤバすぎ国家のフォーブレイにおいて、よくいるヤリチン転生者タクトは割とノーマルなタイプかも知れない。

美人に手を出す程度であとは知識チートに励んでますし。
ちょっと成果出てないですけど。

あの豚王の子供にしてはすごいまともでやる気のある素晴らしい王子だ。
勇者だしさすがだな。ってなるのも仕方がない気がするブラックフォーブレイ国。

タクトのお母さん情報はなかったと思いますが、二人子供を埋めてる時点で豚王様には超気に要られたんでしょうかねー? 母親は違うのかなあ?


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117 この国やばたにえん

 

この国、やばい。

 

メルロマルク女王からの依頼でフォーブレイに潜入した。

古くからある勇者国であるこの国は召喚された勇者の血を取り込み続けてはより濃くなるように引き継いできた国である。

そのためには愛人妾上等、近親相姦文句ある? の勢いで何世代にも渡って濃い血を作り出している。

 

そのせいなのか、騎士団などはメルロマルクの倍は強い。

国自体が勇者と言わんばかりで、各国の波に対しても騎士団の派兵など、支援を行っているらしく、波の被害がメルロマルクの次に世界で軽い国家である。

 

強さは素晴らしいようだが、この国やばい。

まず国王がやばい。

 

王様に嫁ぐことが女性貴族の処刑法になるってなんだというレベルである。

見た目は醜悪な豚である。遠目から見ても嫌悪感を抱く見た目で、こんなのに抱き殺されるとかとなる。

ちんこに棘でも生えてるんだろうか。猫か。

第二にどいつもこいつも性に開放的で怖い。

 

人妻であっても相手が強いと見るや、何もしなくても好感度がかなり高まる。

おそらく勇者の血が濃ゆい存在の血を引く子供を生むことは素晴らしいみたいな価値観の影響のようだが、貴族などは威圧を向け、こちらの強さを見せつけるとそれだけで腰砕けになるのでベットに連れ込める有様である。

 

「はあ」

 

ガシガシと金髪をかきむしる。

潜入のために髪色を黒から金に変えている。

メルティとのお忍びデートのときと同じものである。

この世界、写真や動画は一般的でないため、勇者としてのわかりやすい特徴を潰しておけば大体ばれないのだ。

勇者であるという素晴らしい事実を隠すなんてあるはずがないという価値観のせいか、全く疑われていない。

 

「あら、疲れてるのかしら。イサム。ま、いいわ。さっさと相手しなさい」

 

見た目を変えて名前を変えないと片手落ちである。

ユウはこの国ではイサムと名乗っていた。勇はいさむとも読めるので決めた。

ユウのあてがわれた小さな部屋のベッドに当然の顔をしながら横たわっているのはメイドのエリーである。

またメイドかと言われそうだが、彼女は女王の影の手引で潜入し、情報収集代わりに何人かに手を出して仲良くなったあたりで自分から会いに来たのだ。

 

「はいはい」

「あら、そっちは全く疲れてないみたいじゃない。あの空っぽ妹には使ってあげなかったの? 接触したって聞いたわよ」

「会っただけだからまだ手なんて出してない」

「まだ、ね。いいわ。彼女にはドンドン手をだしなさい」

 

そう目の前にいるのはタクトに仕えるメイドであるエリーだ。

何でもタクトが小さい頃からの幼馴染として仲のいい相手であり、初体験の相手でもあるらしい。

聞いてもいないのに、幼少期からのあれこれを語って聞かされたので彼女とタクトのエピソードについてはたくさん知っている。

 

そして、初めての相手である彼女としては数少ないタクトへの不満。それが女が多すぎて自分の番があんまり回ってこないことらしい。あの雌共、チャンスが有れば殺してやろうかしらと考えていたらしいが、ちょうどよく寝取ってくれる相手ができたと彼女と共犯関係になることになったのである。

 

彼女はタクトに抱かれたハーレムメンバーの中から現状に不満のある相手……ちょろい相手を教えてくれる。

おかげで彼女と協力関係になってから一日に3~5人抱いており、ハーレムのメンバーについてなんとなく把握できてきている。

 

エリーは情緒もない動きでズルリと俺のズボンを引き下げると、シュッシュと早めの動作でイチモツをさすりだす。

強めの刺激に簡単にムクムクと大きくなる様子にエリーの目が狩猟動物のような獲物を狙う瞳に変わる。

 

「今日はスケジュールが合わなくて抱いてもらえなかったから疼いてるのよね。性欲が湧くわ。おもちゃよりやっぱり生よね」

 

タクトはハーレムを作っているが、秩序だったというか、管理している者がいるわけではないらしい。

ハーレムというよりは抱かれる女がたくさんいる共同体というだけのようで、なんとなく決まっている順番も新しい女が増えたり、気分で機会が潰れることも多々あるのだとか。

 

一日タクトに抱いてもらえる時を待っていたのにキャンセルされてしまってムラムラしており、それを解消するつもりらしい。エリーから発情した女の香りがしだす。

 

「んっ♥ すごいわ。入れただけでお腹パンパン。すごい広げられながらはいってっ……くるわ。アツアツなのもいいわね。張形よりずっといいわ」

 

オナニーの回数は多いのか、ビラビラが大きく黒ずんでいたが、その膣内はキュウキュウと初々しく吸い付いてきておりまだまだ彼女の経験が浅いように思わせる。

ここでガシガシと責め立ててやりたいところだ。だが、どこまでもおもちゃ扱いなのか、前回動いたらフォークを太ももに刺された。痛くはないが、萎えるものは萎える。だからじっとされるがままだ。

 

「ナカで大きくなってるっ。ズリズリえぐってっ♥ 悪いちんぽだわっ」

 

自分の好きなように気持ちよくなれるように腰を振りジュブジュブと動かれる。

イク瞬間をフィニッシュにしているエリーのオナニーセックスはいいところに当てすぎない動きであり、彼女の興奮具合で適度に休憩を挟まれるため、非常にもどかしい。

何度も腰を掴みベッドに押し付けて激しく打ち付けたい気持ちになる……が、ぐっと我慢しながらこらえる。

 

「言いつけ守ってイカないようにように我慢っ♥ してるのね」

 

性感が高まりだしたのか、ヌッちゃとヌッちゃと粘土の高い水音が大きく響く。

そのくせ、段々とイクのを我慢し続けているせいか、ノロノロとした腰使いになる。

 

ズル……リとゆっくりと引きながらノロノロと挿入する。

 

おかげでエリーの膣内をじっくりと感じることができ、大体どこが感じるだろうとわかる。

なのにそうできないのはどうにもストレスが溜まった。

 

「あっ♥ あっ…ん♥ そろそろ、イクわっ!」

 

フィニッシュが近いのか、ようやく勢いよくしごきだし……一瞬でひときわ大きな喘ぎ声を上げてから、くてりと横たわってしまう。これ以上は受けてられないと言わんばかりにエリーはベッドを這うように動き、ノロノロとイチモツが抜かれる。

愛液でべっとりとテカっていたが、射精していないので中からは愛液だけがトロリと流れた。

 

「はー♥ ストレス解消には丁度いいわね」

 

ようがすんだとばかりに葉巻を取り出す。

クイッとこちらに向けて咥えた葉巻を寄せてくる。

魔法で火を付けると満足そうに深く息を吸い……ふうとこちらに吐きつけた。

 

「げほっ」

「あら、煙の味を知らないのね。見た目道理子供ね」

「タバコは好きになれない」

「ふうん。でも私には関係ないわよね。タクト様とのときはタバコが吸えないからそこは残念だわ」

「タクト……さまの前では吸ってないんだ」

「そりゃそうよ。タバコを吸う女だなんて思われたくないじゃない?」

「そー」

 

だったら吸わなければいいと思うのだが、まあ、日本でもよく禁煙できないみたいな話は聞いたことがある。

しかし……自分がイッた瞬間にこの有様である。

体目的された女性の気持ちになる。心に冷たいものが入り込んでくるようだ。

メイドだが全く思いやりがない。まあ、仕える相手ではないのだから無理もないが。

 

「コレ。タクト様が今日連れてきた新しい女。多分あと1回あるかどうかってところだと思うけど、見た目はいいからね」

 

紙には名前と身体的な特徴、部屋番号等が書いている。

新婚の道具屋の娘だが、タクトに見初められて城に。旦那との仲は良好だが街で些細な口論から喧嘩に繋がり、女性に対して怒鳴るなど最悪だとタクトが割って入って男を蹴倒した。

俺ならあんなふうにはしないと彼女の手をとって……その日のうちに抱かれたと書いている。

貞操観念どうなってるんだよと言いたいところだ。

 

とはいえ、タクトの周りはこんなのばっかである。

聞いてみると連れてきたときの初めてだけの相手もいるようだ。

彼女は連れ込んでから2度ほど抱いており、けれど飽きたのかすでに4ヶ月抱いていないそうだ。

彼女自身、勇者の子供が産めると思ったのにそうではない現状に焦りが出始めていると書いてある。

 

日本のときの自分を思えば批判はできないが、大した回数しないなら囲わなくてもいいのではないだろうか。

とはいえ、飽きた女でも自発的には抱きに行かなくても散歩であったときとか、ふとした瞬間に抱きに行くことがあるらしくそういった女がタイミングを潰すため、ゴミ女なのよとエリーは言っていた。ひどい話である。

 

「イサムのセックスは出さないし後処理が楽でいいわ。じゃあまたね」

 

タバコを半分まで吸い終えるとエリーはナッツの残ったつまみ用の小皿にタバコを押し付けて消す。終わりの合図だ。

濡れたタオルを差し出すと秘所をさっと拭うと用は済んだと部屋から出ていく。

残ったのは煙い匂いに情事の香り。そしてぐちゃぐちゃに愛液で濡れたシーツだ。

片付けるのは当然ユウである。

 

 

ビンビンに立ったままだったのに、少しずつしおれてゆく相棒に虚しさを感じる。

 

 

こうしてフォーブレイの日々がまた一日暮れた。

 





タクトの幼馴染のエリーはサクサク殺人できてしまうやばいやつだぞ!
フィロリアルは苦しめてからだと美味しくなるのよとか言ってたりします。

でもタクトが攻撃避けたせいで死んだりとあんまりいいところがなかったり。。
まあ、しょうがないね……


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118 サクラたんと癒やしの時間

「ぴいィ?」

 

 ベッドの下から小さく鳥の鳴き声が聞こえる。

 正確には鳥ではなくフィロリアルであり、俺とフィーロの間から生まれた卵のサクラである。

 エリーがいなくなり一人になったのがわかって奥から出てきたのだ。

 

 貧相な部屋なので隠れられる場所は少ない。

 貴族の令息などのいい身分で潜入してきたわけではないので、特別扱いはされない。

 どこぞの貴族の妾の子だが、血が濃いのか勇者の血が濃いのか強いのでフォーブレイへ、という経緯でここにいる。

 勇者の血の獲得はフォーブレイの優先事項なので、若くから才覚を開花させる勇者の種はフォーブレイに招かれることがあるのだ。そして、その血の獲得を期待しているためか、貴族女性などとの距離が近い。

 

 メルロマルクでは女性優位ではあったが、それだけに男が簡単に貴族女性に近づける環境ではなかったし、寝所に誘うことへも多少のハードルはあったのだが。

 

 どこかかつて女神の使徒ということで、種馬扱いされていた世界を思い出す。

 

「ぴい!」

「おおっとごめんね、サクラ」

 

 昔を思い出してぼうっとしてしまっていた。

 こちらに羽を広げるサクラを手で抱え、抱きしめる。

 

「よしよし」

「ぴー」

 

 フィーロの肌もそうだったが、鳥類である彼女の体温はアッツアツで電気毛布を強にしたような暖かさである。

 けれどそれが寒々しい風に吹かれた心に染み入ってくる。

 親とまっすぐ慕いこちらに向けるキラキラした瞳。

 不純物のない信頼の光は心をどこまでも温めてくれていた。

 

「こんなところばっかりでごめんねえ。明日は休みだから散歩に行こうか」

「ぴいぴい!」

 

 甘えるようにお腹にグシグシと体を擦り付けてくるサクラをワシャワシャと優しく撫でる。

 本当なら敵地であるこの場所につれてきたくなかったが、ガエリオンに預けようとしたが泣きに泣いて離れなかったのだ。

 ラフタリアやリーシアは勇者の仲間として情報が伝わっているはずだが、孵ったばかりのこの子は大丈夫だろうと連れて行くことにしたのだ。

 

 フィーロに預かってもらえるかと聞いてみれば首を傾げて「なんで?」である。

 主人のものになったんだから主人のために働けばいいのでは? という理論らしく、あまり娘であるという意識はないらしい。刷り込みして後ろをぴよぴよとついてきて初めて母性が宿るのかもしれない。

 

 となれば置いておけないということで連れてきたのだった。

 

 最初は連れてくるなんてと思ったが、今は良かったかもしれない。

 敵地で独り言一つが任務の失敗になりかねないここは息が詰まる。

 性格も悪い女ばかりで、性行為も相手を感じさせるためのもの任務のためにしてるものという感じで、愛情からの性行為とはやや離れたものであることも心労につながっていた。

 

「ぴいっ!」

 

 楽しみとはしゃぐサクラを見つめる目はきっと優しいものになっていただろう。

 

 **

 

「そーら、とってこーい」

「ぴいぴい」

 

 城下町に出れば遊ぶには十分な空き地の1つや2つ見つかる。

 遊具の一つもない場所だが、まだ小さいサクラには丁度いいくらいだ。

 落ちてた小枝を投げる。

 

 最初はよくわからなかったようで頭の上に?? とはてなマークが浮かんでいるのがわかる困惑っぷりだったが、よちよち、くるり、よちよちとこちらを伺いながらも棒へ向かっていき、加えて戻ったところ大げさなくらいに褒めながら体をなでてやると、ルールを理解したのか何度も何度もねだってくる。

 そのたびに撫でては投げる。

 

 ちょっと眠そうなとろりとした瞳はけれど喜びでピカピカしている。

 フィロリアルは馬車を引くのが好きらしい。

 あの大きさだから馬車は無理だが、成長したら大きな馬車を用意してあげよう。

 喜ぶに違いない。

 

 なんだか親が物を買い与えたくなる気持ちがわかるような気がした。

 

 **

 

「ぴうぴう」

 

 フィロリアルでも子供は同じなのだろうか。

 何度も何度も全速力で木の棒をとってきていたサクラだが、突然座り込むと動かなくなってしまった。

 なになになんでと一瞬で駆け寄ると……疲れたようでうつらうつらし始めていた。

 電池が切れたみたいにいきなりのOFFである。

 ええー。

 抱きかかえれば一瞬で寝入ってしまい、すーっと静かな鼻息だけが聞こえる。

 

 気楽なものだ。今襲われればひとたまりもないだろう。

 カラスが相手だったとしてもやられてしまうに違いない。

 弱くて可愛いらしい子供。

 

 何かを食べている夢でも見ているのかモゴモゴと小さく口が動いている。

 なぜこうまで安心できるのか。

 

「あ、あら。奇遇ね」

「え? ……あ、ナナ様」

「さ、様はいいわ! 別にここは王宮でもないし、ここには誰もいない……し」

 

 数いる王女とはいえ、王女は王女である。

 こんなところに誰も連れずに奇遇で来れる場所ではない。

 視線を動かさずあたりを探れば数人の護衛らしき気配は感じる。

 

 目の前の彼女からはやや熱っぽい期待するような感情が込められていた。

 何を目的にここにいるのか、わからないわけがない。

 

「か、可愛がってるのね、その子」

「家族です」

「へ、へえ。家族なのね」

 

 なるほど。自分の口から出てしっくりと来た。

 サクラは家族なのだ。

 

 どこか羨ましそうにサクラを見つめるナナ王女。

 そんな自分に今気づいたとばかりにびっくりして口を出て抑えると、何かを言い訳するように日が悪いみたいだからまた来るわと行って去っていってしまった。

 

 護衛と合流してから城へ戻っていったのでおそらく大丈夫だろう。

 




転勤パパは可愛い子ども件ペットなサクラちゃんを愛でているようです。
レベル上げがされていないので現在は本当に可愛毛玉のもよう。

ピイピイ♪


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119 タクト一行と

 

「お前がアキラか……なんだ、だだのがきじゃん」

 

うーんと顎に手を当てながらこちらを品定めしているのはこの国の王子である。

タクト=アルサホルン=フォブレイ。

少し長めの癖なしの金髪にバンダナを巻き、黒い革ジャケット・ジーパン、レザーブーツといった、

米国ドラマによくいそうなアウトローバイカーめいたいでたちである。

 

どこかの格闘ゲームにも似たようなのがいた気がするな、という感じである……が、いるのが異世界で相手が王子となると違和感がになめない。海外の軍隊上がりの高校生とか、ホワイトハウスに務める忍者といった不似合いさである。

ここがアメリカのストリートなら見逃していたのかもしれないが。

 

城務めの雑用の見習いとして各所で仕事をしながら城内を忙しく走り回っていたら呼び出しを受けて、行ってみればこれである。城の裏庭にはタクトを含め数人の女性たちがこちらを待っていた。

 

「タクト様と比べれば天と地ですわね」

「どこかの騎士の子供か? タクトと比べれば天地だが、マアマアなんじゃないか? 我のタクトほどではないが」

「あら、あなたあんなのが好みなの?」

「ふんっ、妹相手には悪くないという話だろうが。男と見れば品定めを始める女は違うな」

「なんですっ!?」

 

いきなりボルテージが上がりだす彼女たち。

タクトのパーティだ。

誰も彼もが数百のレベルがありそうな力があり、一人で国家を相手にできそうなほどである。

それこそ、全員集まればこの世界に来たばかりの俺であれば十分相手ができそうなほどに。

 

ただ、この世界の成長は強化法の多重実施で簡単に狂うので、今ならリーシア一人でも彼女たちを蹴散らしてしまうだろう。だが、このレベルの戦力が各国で暴れ出せば被害は尋常なものではすまず、鞭の勇者でありながらこの波の状況で他の勇者から武器を奪っているというのだから、倒すしかないという判断には納得がいくところだ。

 

しかし、こうして呼び出された理由はなんだろうか。

まだその正体がわかったというわけではないようだからまだまだなんとかなりそうだが……。

 

「俺はタクト。ナナの兄っていえばわかる?」

「は、はい。タクト様」

「そんなに緊張するなよ。ただ……妹と仲がいいって聞いてさ。兄としてはだから顔を見ておこうってわけ。ま、妹とはいえ俺の女に近づく男なわけだしさー?」

 

肩に手を置かれ、そのまま力を入れられる。

痛みを覚えるほどではないが、それなりの強さではあるので、ちょっとだけいたがるようなふりをする。

 

「妹の相手にまでこんなに心配してあげるなんてさすがタクト様です」

 

どこが琴線に触れたのかよくわからないが、アイドル並みに何をしても褒められているタクトは表情を緩めつつも手の力は抜かなかった。

 

「まあ、俺の妹なんだ。この国で……しかもこんなガキになにかできるわけないか」

「タクト様とは男としての格が違いますもの」

 

本当に様子見だったらしく、彼らは去っていく。

ナナはタクトに深い親愛を抱いていたのが見て取れたが、それと比べるとだいぶ温度差を感じる。

【妹とはいえ女に近づく男】という言葉にはどこか気持ち悪さを感じる。

 

「女ねえ……」

 

女狂いであった日本にいたときでも家族である母親にはそんな気にならなかったので、気になってしまう。

ナナはどうなのだろうか。あの様子であれば兄にそう見られていたとして喜ぶのかもしれない。

この国の勇者の血を尊ぶ感覚はどこか昔の世界で勇者をやっていた時代を思い出させる。

タクトの周りの女がどこか残虐であることにも精神的な拒否感があった。

 

「やなくに……」

 

勇者の血を尊ぶことで栄えた国なのだ。

強いこと、勇者の血が濃いことを崇めることはこの国の国民性なのだろう。

 

「タクトは勇者であることを利用して女を抱いている。けど、自国での悪さはその程度か」

 

それで咎めるならまずあの豚王を咎めなければいけない。

女性に意欲的なのは王族としてむしろ好ましいこと。

しかも市政の女にもチャンスがあるとむしろ評判がいいくらいである。

 

内側では不満も膨らんでいるが、爆発するほどでもない。

王子なのだから誘われればラッキーだと思っている分だけ、セックスレスの夫婦よりマシかも知れないくらいだ。

 

大きくため息をはく。

 

女を通してのタクト像はお気に入り以外は平均三回ほど抱いたらお手つきが極端に減るらしい。

そのせいか放おって置かれた女は簡単に股を開いたし、抱かれていいのかと聞けばもしタクト様に呼ばれたら行くわよ? としれっと答えている。

 

関係は持てているが、真に落とせているとは言い難い。

勇者であるタクト王子から女を奪うのであれば……。

 

「勇者であることを明かす必要がある……か」

 

それも【より強い勇者】として力を示す必要がある。

正体を明かすタイミングはじっくり練らないといけない。

 

「はあ」

 

人間同士殺し合う戦争に比べればよっぽどマシな行いであるが、段々と後悔し始めている。

心を通わせている相手のなんと貴重なことか。

 

ユウは初めて自慰がしたくなった。

 

 




タクトはギルティ○アのアク○ルっぽいなって思います。
アメリカンスタンダードな感じなんでしょうかw
向こうは鎌ですけどね。


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120 あ、髪の毛切った? そういうのも似合ってるねー

 

勇者になる前(つまり日本で)クラスメイトの女の子に「どう?」と自信満々の期待する笑顔を浮かべながらいきなり質問を投げかけられたことがある。

当時は意味が全く理解できなくて「なんのこと?」と返したことがある。

 

バットコミュニケーションである。

 

勇者になって身体能力がもりもり上昇したせいか、髪型を変えるなんて”大きな変化”であれば見逃すことがなくなった。

思えば、昔はたいして人を見てもいなかったし、興味もなかったので、違いを大きなものとも思えなかったのだろう。

毛先を整えただけなんてそりゃ髪型変えてもないじゃないか、なんて言うことがなくなったのである。

 

その前提で見ると、どうやらナナ王女はこちらに関心大のようだ。

 

一日に数回顔を合わせるのは確実に彼女が会おうとしているからだし、会って話しのをする中で香りや髪の艶やなどに言及すると次回会うときにはより一層手入れがされていたりするのだから、言わずもがなである。

言葉だけじゃなくてこちらの反応をもとによりよく思われたい気持ちを感じられる。

 

会うときの彼女には期待と不安が現れており、気づいているよ、かわいいよといってあげるとそれだけで笑みを浮かべるようになった。タクト以外知りませんという感じの硬いところのあった彼女はもうおらず、どこにでもいる年頃の女の子になりつつあるように感じる。

 

夫はいるけど、彼氏はいるけど、好きな人はいるけどと言いながらもタクトのこともはほしいとタクトのハーレムに加わりに行く女子の相手をする中、ナナとサクラの相手はそれこそ気分転換になるし心休まる時間である。

 

城の小間使ポジで潜入していたが、つい溜まったストレスで馬車に襲いかかってくる魔物を殴り飛ばすなんてことをやってしまい、馬車にいたどこどこ伯爵のなになに令嬢経由で騎士団の団長に話が伝わり、騎士団見習いも兼ねることになってしまったのである。

将来有望という札は女性を落とすのに一役買ったが、だけれど訓練だの何だのと余計に時間がかかる。

 

おかげで時間の捻出できなさから、深夜遅くまで寝所巡りをするはめになっており、寝不足が続いている。

 

「ぴいい?」

「だいじょうぶだいじょうぶ……」

 

肉体的には回復力もあって全く疲れていないが、精神的には別である。

サクラを外に連れ出すついでに気分転換をする日々。

今日はちょっと遠出とばかりに飛んで10分くらいの場所にある広い草原に来ている。

 

風が柔らかく髪を撫でる。

 

木の棒を投げると嬉しそうに走っていくサクラを視線で置いながらゆるい心持ちになる。

こうしていると国同士の争いなんてなくなってしまったようなーー

 

その瞬間、こちらを狙い降下してくる何かに気づき、サクラのもとへ走り、彼女を抱きかかえる。

 

「クククッ、やはり汝は只者ではないな!」

 

そこにいたのは一匹の竜だ。

タクトの周りにいる仲間の中でも最もレベルの高い……レールディアそこにいた。

光り輝き竜の姿から人の姿に変る。

嗜虐的な笑みを浮かべた一人の女が立っていた。

 

「フィロリアルくささと同族の匂いの両方を香らせる男。タクトは何もできない子供と判断したが我が目はごまかせん。お前からは多くの雌の匂いもする。これが強き雄の証拠でなくなんだというのだ」

 

思っても見なかった方向で正体バレしそうである。

確かに何人もの女性と寝所をともにしたし、サクラとも触れ合ったがマナーであることであるし、一人相手をするごとに匂いは消しているはずである。浮気パパがファブリーズを浴び終えたときより他者の匂いはしなかったはずだ。

 

一緒に遊んだサクラの匂いならまだしも、ガエリオンのことまでバレるのは腑に落ちない。

 

「クククッバレてないと思ったか? 我が鼻をごまかせると思うなよ」

 

とすれば嗅覚に起因するものではなく、魔力の残り香と呼べるようなものかもしれない。

しばらく会っていないガエリオンについて判別できるとしたらそれくらいであろう。

 

「……なんのようでしょうか」

「ふっ、しれたこと。この世全ては竜の頂点たる我のもの。我が視界に入ったのであればそれは我のものよ。同族のもの、鳥のものにするには惜しい。お前を私のものにするっ」

 

またである。

良い血統と番うのが使命とばかりの精神は人間でなくても同じらしい。

ほかであれば好都合だったが、サクラを狙われるのは困る。

 

レールディアは猫が獲物をなぶろうと迫るようにこちらに近づいてくる。

ガエリオンや勇者の面々を除けば最高レベルの戦闘力を感じる。

鍛えてもいないサクラには恐ろしい相手だろう。ブルブルと震えながらも、ユウを守るように翼を広げて足の前に立った。

 

「ほう? なかなかの気概ではないか。ガキでもうまかろう」

 

サクラを見ながらぺろりと舌なめずりする竜の女を見て決める。

どうしたものかと悩む気持ちは消えた。

 

こいつは他の人間を落とすための実験台にしよう。

ニマニマと嗜虐的な笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくるドラゴン女をわからせてやることを決めた。

 




レールディアさんは私と言い出した数行後に我とか言い出しますが、我な感じでお願いします。
宝石店に入って我がもらってやるってかっぱらっていくみたいですが、金のかかる女のようですw

次回わからせ。メスガキじゃないですが。


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121 わからせ

 

レールディアは己が最高のドラゴンであることを確信していた。

 

最強のドラゴンであっただろう龍帝のかけらを喰らい、勇者の加護でレベルも上げた。

タクトの仲間たちも同じようにレベルこそ上がっているが、世界各地に散らばる龍帝のかけらを集めれば集めるだけ私だけが突出して強くなるだろうことはわかっている。

今でもタクトの次のナンバーツーではあるが、いずれ群れの中で最強となり、世界最高の雄であるタクトを独占することを考えていた。

 

今はタクトの自由意志に任せていくらでも女を侍らさせているが、宝や財を独占したいドラゴンの欲は疼く。

タクトに媚びる脆弱な雌共を追い払い、我が物としよう。

その瞬間を思えば獣臭い狐のトゥリナや鳥臭いアシェルと仲間同士の演技1つ容易いものである。

いずれは我の雄に手を出したことを後悔させながら躍り食いしてやろうと、そう思っていた。

 

そんな中であったのがイサムという子供だ。

華奢な見た目の少年出会ったが、竜の嗅覚が訴えてくる。あれは良い雄だと。

タクトほどではないが、合間に食べるおもちゃ用としては丁度いい食いごたえかもしれない。

ちょうどよくメイド女から避妊の方法を教えてもらっている。

 

なにせ、ドラゴンの姿だと別だが、年中繁殖期と言われる人の姿になるとしょっちゅうムラムラするのだ。

城で暮らすとなれば人の姿でいなければならず、けれど不満は解消されない。

抱いてもらえれば満足……と言いたいがなにせ相手が多い。

一晩にだけるのは二人三人となれば中々番が回ってこないのも仕方がない。

 

であればと玩具を用意することにしたのだ。

孕まないならマッサージみたいなものである。

 

ウキウキしながらやってきたのだ。

妹でありながら兄に惹かれているナナがあいつに惹かれたのもおそらく兄に似たものを感じたからに違いない。

己の真贋を見極める目には多大な自信を持っていて間違いないと言っている。

 

あの雄はいい雄である。

 

ただし、フィロリアル臭いのは減点である。

買っているペットとは離さなければいけない。

台無しである。

 

とはいえ、フィロリアルごときからであっても奪った宝というのはより輝くものだ。

悪くないスパイスとなるだろう。

少年に浮かぶ苦悩の表情にゾクリと震えるものを感じーー

 

「ちょうどここには人がいないしな」

 

すすっと近づいてくる男にようやくその気になったかと思えば……その瞬間に落とし穴のトラップにでもかかったように視界が周り……地面が迫ってくる。手で体をかばおうとするも全く動かない。

生まれたてのひなのように地面に顔から落ちる。

いつの間にかレールディアの腕は背中に回されており、恐ろしく強い力で拘束されている。

 

(柔術……!?)

 

人の技の中にはレベルの壁を超えて効果を発揮させる技がある。

それかと思えばかすかに魔力の波動を感じる。

 

魔力を使って目に見えない腕を持ったように動かすすべがあるらしいとは龍帝の知識が伝えてくるが、腕をキメるような繊細な使い方は初めて知った。

 

(まさか変幻無双流!?)

 

現地の人間が悪意ある勇者を狩るために編み出したという気や魔力を操る技。

強い魔力、強い気を持つ相手にも何ら変わらず効果を発する奥義。

 

「ぐぬうううううっ!!」

 

タクトよりは下回るものの、Lv250を優に超えたレールティアの身体能力は驚異的だ。

驚異的なはずだったがびくともしない。

それどころか体を動かしたせいで、土と草が口に入り、顔を歪める。

 

(これが気の力……!?)

 

タクトの周りの雑魚女たちより遥かに小さい、騎士団の人間レベルの力の筈の小僧相手に指1つ自由に動かせない。

肌だたシイ……オノレ、ニンゲンごときが……

 

「こしゃ…くなっ……技でドラゴンを屈服させられると思ったかっ!」

 

LV300を超えるタクトであっても同じことが……できないかもしれないが、その力自体はこいつより遥かに強いはずだ。

ドラゴンを言い聞かせるには己が上だとわからせなければいけない。

どんなことをされてもそれが己より弱いと思われている間はどうにもならないのだ。

だが、体はほとんど答えず魔力も乱されドラゴンに変わることもできない。

 

「ふうん? 腕1つろくに動かせないじゃないか」

 

地面に顔を押し付けられ、後ろ手取られた今の姿は屈辱的である。

ぎりぎりと歯を噛みしめる。あまりにも強く噛んだ歯がギチギチと削れる。

 

小僧は発情でもしたのか、ズルリと下着が脱がされる。

肌に触れる風の感触が直接伝わってくる。

 

「き、貴様っ! ふっ、ふん! 好きにするがいい! 貴様ごとき子供の短小のイチモツなどいれられたところでなんともおもわっ、あああああ!?」

 

怒りと屈辱感にマグマのように感情が吹き出る。

強引に押し込まれたそれはまだ濡れてもいない膣内には凶器を差し込むようなもので、体を割かれるような痛みをレールディアに与えた。その内側から膨れ上がる圧迫感はタクトののものとは比較にならないものだった。あまりの異物感に息が詰まる。

 

「はは、入る入る。興奮してた?」

「くっ、ぐっ」

 

濡れてもいるか、下手くそめっ! タクトとのまぐわいは心地の良いものだった。

これには痛みと屈辱しかない。

しかし、今の体勢……後ろから雌を押さえつけるポーズはドラゴン同士の交尾の際によくある体勢であり、抵抗できないほど力強く押さえつけられる状態になると強いオスに侵されているのだと本能が自然と発情を促す。

二度三度と引いてはついているうちに次第に肉棒には愛液が絡み始めぬっちょぬっちょと音を立て始める。

 

「んおおお!?♥」

 

返しの大きい亀頭がレールディアの膣壁をゴリゴリズリズリとえぐりながら出し入れする。

ただそれだけでタクトの数十分の腰振りを超える性感を与えてくる。

 

抵抗すべき状態であったことも忘れ、出し入れするモノに意識を向ければ、レールディアの脳内には凶悪なイチモツの槍の存在が思い浮かぶ。

 

竜の姿に戻れば。

人がドラゴンに発情できないのはわかっている。

そうすればはがせるはずだと……しかし、

 

「ここか?」

 

タクトが数年かけて覚えてくれたレールディアの弱点は簡単に見つけられてしまった。

人と違ってなのか、竜から人の姿に变化したレールディアの感じるポイントは膣奥に近い場所にあり、タクトのものだと深く差し込んだときに初めて触れられる場所であるせいか、素早くパンパンと音を立てた交配を好むタクトは余り真面目についてくれない場所だった。

 

だが、この小僧はたやすくそこを責め立ててくる。

快感になれさせないように両手を掴んだ右手ではなく、空いた左手でレールディアの親指ほどの大きなクリトリスをだくだくと流れ落ちる愛液を使ってシコシコしてくるのだ。

口に草が、土が入り込むことを忘れ、染み込んでくる快感に口がゆっくり開いてゆく。

受ける快感をどこかに逃さねばと一生懸命になっていた。

 

「あ、あぐうう♥ イクっ♥ やめ、 ィ、イクではないかっ♥ イクといってるっ♥」

 

イクたびにだくだくとあふれる愛液が、深い亀頭に掻き出されてジュプジュプと体外に垂れ落ちる。

段々と抵抗する気が失せてくる。

快楽を与えられるたびにタクトとの違いを教え込まれるように動くこの肉棒はLVが違ったのだ。

 

「か、快楽程度で、どらっ、はあ♥ ど、っ♥ どらごんをおお♥ 言い聞かせるとっ、おもうなああ♥」

 

しかしろくろく抵抗できずジュブジュブと出し入れされるたびにいかされまくり、気力が目減りしてゆく。

後ろにいる雄はすごい雄なのだと刷り込まれてゆく。

 

もしかしたらタクトよりもすごいのではないだろうか。

いやすごい、絶対すごい。

 

「やめっ♥ やめろおお♥」

「なに、悦ばせて上げてるんだろ」

 

抵抗を許さない力強い雄の行為。

それはレールディアの理性を本能がトロトロに溶かしていた。

けれど、人の技でどれだけ屈服されようが、レベルの高い、強いオスにはかなわない。

 

(我はタクトを選ぶっ)

 

今は溶かされている心もタクトを見ればもとに戻るに違いない。

なにせ汚い手を使った技だけの雄なのだ。

 

「こっ、このくっ♥ らいいいいぃっ♥」

 

天秤にもかけられていないうちから比べだしたのはとうに揺れだしているからだった。

連続的に何度となくいかされ、段々と深く強まる絶頂にHPとは別の体力がガンガンすり減っていくのを感じた。

 

「もっと悦ばせてほしいって?」

「い、いってなっ♥ あひっ~~~♥」

 

弱点ではなく、子宮を揺さぶられ、恐怖するほどの快楽が与えられる。

雷に打たれたように、全身がこうばったあとに脱力してとろけるように地面に倒れ伏す。

再び土が口に入るがそれすら気にならないほどの快楽だった。

それなのに、もっと行くぞとばかりに、結合部分から魔力が注がれてゆく。

 

全身をめぐる魔力の流れが、魂を犯すように弄ぶ動きをする。

肉体よりもより深い奥側を刺激されながらの性交は自分がドラゴンでなければ快感に脳が焼ききれたかもと思うほどだった。

 

「はっぐうううう♥♥」

 

呼吸すら忘れるほどに鋭い快感が襲う。もはやイッている状態が常に続き続けて下るところのない山のようにどこまでも深くイキ続ける。

口を閉じることもできないくらいに身動きできず、痴呆のように口のはしからはヨダレが垂れ落ちた。

 

(なんて濃厚な力あぁあああああ)

 

己など、タクトなど比べるに足らない強大な力だった。

ようやく今まで見せられていた姿が偽装であり、それを見破れないほどに力量に差があるのを感じた。

 

自分が何なのかわからない。

 

チカチカ光り続ける視界。自分が何なのか思い出せなくなりそうなほどに快楽だけが埋め尽くしてゆく。

 

レールディアは魂の底から隷属した。

 

オスメスの関係を超え、従属の契約なしに従っていた。

一秒が永遠に思えるような快楽の波の中、耐えることすら許されずに快感を流され続けた。

 

「そら、イクぞ」

 

射精の瞬間、チカチカと光り続ける視界は注がれた濃厚な子種とその力強さに心の奥底まで満たされるのを感じた。

全身の水分を出し切ったようにぐったりと倒れるが、世界で一番の幸福を手にしたもののような深い笑みが浮かんでいた。

 

ああ、なんて巨大で素晴らしい存在なのだろうか。

あまりにも深い肉体と魂の陵辱が自分を失わせていた。

次第に穏やかになりつつある快感にどっぷりと浸りだし……すると愛おしさとすべてを捧げたい気持ちが湧き上がってきた。

 

今までの人生がこのときのためにあったような。

レールディアのユウへの思いは崇拝の域に達していた。

 

「は、はひい……♥」

 

ぐったりと崩れ落ちた。

気を失ったレールディアは意識が戻るとその傲慢な態度は消え去り、しっぽを振りながら犬のようにユウを見た。

 

「ご主人様♥」

 

レールディアは人の姿であろうと純粋に竜であった。

タクトを遥かに超えることを身を持って知り、捨てたことを意識することもなくタクトを裏切った。

 




あけましておめでとうございます。
新年最初の投稿がわからせでございますよ!

敗北。本能にはあがらえないレールディア♥

な感じでお願いします。


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122 恋は愛欲へ

抑え込んだ手を離したあとのレールディアはそれこそWenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)と言い出しかねない程であった。

テラテラと濡れるような潤んだ瞳には狂信的な光を帯びていて、ユウは一歩退いてしまった。

 

何でもしますとねっとりと言われて一瞬ラフタリアやメルさんに会いたくなったが、仕事を終えずに帰れない。

サクラを守るためのブキチレレイプで場合によってはそのまま逃亡一択だったかもしれないが、隷属してくれるのであればそれを生かさない手は……ない。

 

よよしよしと頭を撫でるとそれはもう犬のようにブンブンしっぽを振って大喜びである。

メイドのエリーでは得られなかった知見……タクトの周りにはグリフォン娘などがいるが誰だったら本能に流されそうで、誰だったらタクトにつきそうかを判断してもらったのである。

 

「なに。予想が外れたら我が首を跳ねてやろう」

 

あんまりにも喜々としていうのでドン引きである。

仲間としての情はないのかと聞けば別に仲間じゃないしとのこと。

もう所属する群れが違うからと言っていたがあまりにもアニマルワールドである。

 

グリフォン族の王女アシェル、キツネの亜人のトゥリナ、サメの亜人のシャテが押し倒されて寝返った。

奪っておいてあれだが、元カレを悪しきざまに罵られると冷めるものがある。

彼女たちは快楽に皆、うっとりと酔っていたが、国民性と言うものだろうか。

 

シルトフリーデンの代表、アオタツ種族長のトカゲの亜人であるネリシェン。

ホムンクルス研究者。

そしてメイドのエリー。

 

この三人はタクトへ強さ以外のものを期待してつながっており、断ち切ることは難しそうである。

権力のつながり、非人道的な研究を認めてくれるから、そんな実利を超えた、幼馴染で愛しているからと言う答えは強かった。

 

「くっ、だれが、あなたっんほおおおお♥ ま、やめっ♥」

「やめるの? それって俺に従うってこと?」

「だれっっ♥ がああぁっ、やめてええ♥ く、クズうう……っ! たすっったすけて、タクトぉ……」

 

腰をパンパンと叩きつけるたびに出されたばかりの精液がどぷどぷと逆流してくる。

だが、その何十倍も愛液が流れ続けており、欠損を回復できる……すなわち体内の栄養なども戻る回復魔法を使わなければとっくに体中の水分をなくして死んでいたかもしれない。

バケツを引っくり返したように濡れているベッドで、喉をかすれさせながら彼女は喘ぎ続けている。

彼女の休日を狙っての"説得"だったが一日かけてもかなわないようだった。

 

どうも彼女は俺がハーレムを減らしてくれる程度の相手ではなく、タクトのパーティーすら乗っ取りだしていることにようやく気づき、協力者ではなく敵であると認識したらしい。

人知れず暗殺するために時間を作りーーそれを利用されているところというわけだ。

 

できればと説得を試みたが、エリーは完成が殺人鬼的なところのあるとち狂った女であったが、その愛情は確かなものらしい。それが実感できたからこそ、崩せることはないだろうと諦めた。

 

ズルリとイチモツを抜くとポッカリと大きく穴が開いたまま、ヒクヒクと動くだけで閉じていかない。

一日かけて仕込んだせいでだいぶ広げてしまったようだ。

もうタクトのサイズには合わないかもしれない。

 

「こうなると不審に思われる前に動くしかないな……」

 

この国の勇者教ともつながりはできている。

幻覚魔法でエリーの顔と髪色を変える。

これで彼女はエリーではない。

 

勇者の幼馴染であるのなら問題になるが、勇者が頼むのであれば意識のない女性のレベルダウンと奴隷化の処理をしてくれてしまうのがこの国である。

 

「イサム……」

 

背中からかけられた声に振り返る。

そこにいた一人の少女の表情を見てユウは期待するように名前を呼んだ。

 

「ナナ」

 

**

 

ナナは王女である。

それも、今一番力を持った王子であるタクト王子の妹である。

勇者であり、革新的な発明家の彼のおかげでナナの自由に動かせる金と権力はそこそこのものである。

 

そして、彼女は一人の少年に恋慕の情を抱いていた。

彼女は恋する少年のことが知りたくなり……影を使うことにした。

王族直属の諜報員である。

 

とはいえ、王ならともかく王女が使える程度の見習いに近いところのある存在だったが、それでも仕事をしっかりした。

彼らに伝わる勇者などの魔力に敏感な人間に察知されないような、技は凄まじく、メイドのエリーの動きは察知できたユウが探られていることに気づかないレベルだった。

 

そうして彼女は知ったのだ。

それどころかもっともっと知りたいと思った。

 

「すごいわ……」

「うわ、エゲツナイでごじゃる」

 

ユウは女を抱くとき自分の部屋もしくは相手の部屋でいたすことが多かったが、常にではなく、エリーが都合をつけてくれた空き部屋に触れ込むことも多かった。

影は空きを操作して、指定の部屋を使わせるようにした。

なんのためかといえば、その部屋は覗けるのだ。

豚王の変態趣味の一環である、性行為を見せつけたり覗き見たりするのに使えたりするひと部屋である。

 

恋する相手が不特定多数と情事に耽っていると知ってナナはまず最初に見てみたいと思った。

今その希望を叶えているのである。

 

付き合ってくれた影はナナより年上だが、まだ成人して僅かな仕事を仕込まれている最中の影である。

経験がないわけではなかったが、知らない世界があるのだと知った。

隣にいるナナ王女といえば女を落としている姿を潤んだ瞳を向けている。

 

影でありながらどこか外の世界には王子様との恋のようなきれいな愛があるのだろうな、自分には関係ないけどと思っていただけに目の前の勇者の行いに凹んでいたのにこれである。

フォーブレイの王族らしいとも言えるだろうか。

 

「で、どうするんでごじゃる?」

「あなた、お父様……豚王派なんでしょう?」

「え……」

「お兄様は王座に座る気だったものね。王の予期せぬタイミングで」

 

タクト王子によるクーデター計画はある程度補足されていた。

問題は勇者とその取り巻きの力は豚王では止められないレベルであるということだ。

そして王子の身でありながら一定の成果をだしており、勇者の血を広めることにも精力的なタクト王子は評判がいいのだ。

いっそ抵抗なしに明け渡したほうが国のためになるレベルで抵抗は無駄である。

そんな中どうにか助けを求めるなら外である。

そして並の七星勇者ではタクト王子にはかなわない。

 

「だから四聖勇者のいるメルロマルクに助けを求めた」

 

あとは消去方である。

メルロマルクにいる勇者で最も強い勇者……刀の勇者ユウであると。

 

ナナは胸がときめいていた。

自分が惹かれた相手は兄と同格の勇者であった。

その力は兄以上であると言ってもいいかもしれない。

少なくてもメルロマルクは敵地に送っても対応できると思っているのだ。

 

兄は正しかった。

兄妹で愛し合ってはいけない。兄を愛してはいけない。

それは、真に愛すべき相手がいるのだという兄の思いに違いなかった。

 

「ああ、こんなに潤んでる……」

 

立ち上がったナナの両足の間からポタポタとしずくが落ちていた。

 




王族の影はみんなおじゃる口調なのだ。多分。
メルロマルクのオジャ影が来てるわけではないということでお願いします。


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123 開かれる扉

 タクト=アルサホルン=フォーブレイは勇者であり、転生者である。

 

 美しき女神に選ばれた尖兵であり、勝者である。

 勇者の国といわれるフォーブレイに生まれた末席の王子である。

 とはいえ、継承権を考えればあまたいる王子ではろくな未来はない。

 せいぜいが有力貴族の次女三女と結びついて生きていくくらいだろう。

 

 だが、タクトは違った。

 齢3つで魔法の習得。5歳で製紙、製本技術を発明したり、銃器や重工業、航空機技術を開発・発展させてフォーブレイを発展させる。貴族学園を首席卒業のほか、S級冒険者になったり、他国主催の武術大会で優勝など、様々な偉業を遂げたうえで、鞭の七星武器に選ばれる。

 七星の勇者とは現地の人間がなれる勇者であり、そして勇者の国であるフォーブレイでは大きな意味を持つ。

 末席の王子から次期国王の最有力候補に躍り出た。

 

 豚王ほどの無節操な混色ではなかったが、多くの女性に手を出せる精力旺盛な部分も血を紡ぎ、勇者の濃い血をもたらすことのできる性質に大きく評価されていた。

 順風満帆と言えるだろう。

 

 あえて言うならば彼が女神の尖兵であり、波をなんとかしようとする世界の味方である四聖勇者に敵対しなければ……他の七星……今となっては八星の勇者の眷属器を奪っていなければまた別の道もあったかもしれない。

 

 けれど四聖勇者と刀の勇者が召喚されたその時点ですでに女神の尖兵として働きすぎているタクトにはもはや道などないのだった。

 

 **

 

「機嫌良さそうだね」

「それはもちろんだ。もうすぐ四聖の勇者武器が手に入る。やっぱり勇者といえば剣だよな。鎌も斧も勇者って感じじゃねえっていうか」

「投擲具も君のような主役には合わないだろうね」

「鞭以上にねえよ」

 

 タクトは自分の部屋でもうひとりの勇者、茅野上紬と仲良く会話をしていた。

 別の勇者と対面したのであれば戦闘を開始して奪い取ってやるところだったが、女神に直接争うなと言われたことと、刀の勇者を倒したら何でもするというのだから許している。

 今まであった勇者といえば己の格を自覚せず、端役のくせに主役ぶるバカしかいなかったから、こういう態度は新鮮だった。まあ、役に立つのであればそれでいいし、立たないのであれば改めて勇者武器をいただけばよいのだ。

 

「それで、これからどうするんだ?」

「レベル上げに協力してもらったからね。僕はそろそろ移動しようと思ってる」

「へえ、寂しくなるな」

「何を言ってるんだか」

「別に変なことじゃねえだろ? 仲間はいても勇者同士ははじめただからな」

 

 タクトの中で格付けはすでに終わっている。

 勇者としての才能も強さも仲間も自分のほうが上だと。

 紬はレベルが遥かに低い割にはかなりの強さがあったが、レベル上げをしても全然上がってないあたり才能がない。

 

「そう、まあ、ここからはレベル上げに必要な敵が多くなるし、狩場がかぶるからね。僕はもう一つの世界でレベル上げをするつもりさ」

「よく異世界なんて行く気になるな」

「面白いジョークだね」

 

 タクトからすればこんなに恵まれた世界から別の世界に行くなんて信じられない。

 タクトは1つの世界の王者であればそれできっと十分に満たされるだろう。

 他の世界になど興味はなかった。

 まあ、他種族の女には興味がある。異世界から連れては来ないものかと思っていた。

 いたら口説いてやろうとニヤニヤしていると、紬は水晶をごとりと机の上においた。

 

「なんだこれ?」

「なに、世話になったからね。偶然知ってしまったし、知らないなら知っておいたほうがいいかと思ってね」

 

 水晶にはぼやっと肌色が映る。

 映像結晶。

 DVDにように動画を録画できる装置だった。

 

「なんっ……」

 

 何だこれは。

 そう追求する声は途中で途切れる。

 映像がやや遠ざかり、何が写っていたのかわかったからだ。

 メイド服をきた女が、男と言えないようなガキにまたがって嬉しそうに腰を振っていたからだ。

 何かにとりつかれたようにじっとり燃える情欲を宿しながら肌をぶつけ合っていたからだ。

 

「エリー……いや、そんな馬鹿な……」

 

 快楽に流されるまま、自分で腰を持ち上げ、ずんと落とす。

 その一突きでブルブルと快楽をこらえるようにしながら二度三度と繰り返している行為。

 腰を持ち上げるたびにネッチョリと透明に糸がひいては途切れている。

 ビチョビチョの愛液。

 誰が主に行こなっている行為なのかがよく分かる。

 

 自分のときはこんな表情を見せたことがあっただろうか。

 心地よいと……、愛おしいと……、幸せであると語った彼女の表情とは異なる獣のようなトロリと溶けた顔は衝撃を与えていた。

 

「君のメイドだったよねえ。まあ、メイド一人くらい大したことないかもだけど……」

「エリーは、エリーは俺の、おれの……」

 

 俺の幼馴染で初めての相手で、一生守ると決めた相手だ。

 いくら女の数が増えても手放す気のない相手だ。

 

 だがその相手がああも嬉しそうに男に抱かれている……いや、抱いていた。

 ガクガクと足が震えだす。失うのだと、失っていたのだと彼女を大切に思う暖かな心に大きく穴が空き、氷を打ち込まれたように凍える。

 

 自分以外の男と愛し合う女なんて見たくもない。

 そのくせ目は大きく見開かれ目が離せない。

 ずるりと引き抜かれるたびに主張する大きなイチモツは、だからこそあんなガキが俺から奪ったのだろうかと自信を粉々に打ち砕く。

 

「そいつ、女癖が悪いんだ。寄生虫みたいな男だよ。入り込むと見境なく手を出す。他にもいっぱい手を出してるみたいだね。いくつか撮れたんだけど──」

 

 前世ではAVの一つや2つ見たことある。でもそれは結局演技というか、見世物だった。

 まるですぐ隣で行われていると錯覚してしまうような、体臭が臭ってきてしまうような生々しさはなかった。

 これは本物だ。ホントだ。実際に行われたことだ。

 なまじ誰よりも深く愛し合った自信があるエリーだけに真偽ははっきりしていた。

 優秀な勇者の頭脳がにくい。

 脳内が勝手にほくろ一つ一つの位置を確認しながら照合を終えてしまう。

 

 タクトは女が自分を愛し、自分に愛される……それだけで満たされると純粋に信じていた。

 だからこそ、他の男に捕まるような可愛そうな女の子を見れば声をかけてあげたし、勇者であり優秀な俺に声をかけられて誰もが嬉しそうについてきた。

 強固で永遠の絆があると信じていた。

 

「ほ、ほかにも……あ、あるのか……?」

 

 だれだ、だれだ? 自分を裏切るような人間なんているはずがない。

 女の中には思えば出会いの一回しか抱いたことがない相手もいる。

 そうであれば他の男に気の迷いでなびいてしまう女がいるかも知れない。

 

 エリーはお互いの初めての相手で、それこそ一番回数をこなしている相手だった。

 誰より強い絆が俺たちにはあったはずだ。だったら他の女は……けれど、それでも信じきれず、逃げ道を作っていた。

 だが、紬はこちらの様子をわかってかわからずか、隠すことなく水晶をいくつも机に落としていく。

 

 ひとつ、ふたつ、みっつ、いつつ、いや、ちがう、ひとつ、ふたつ……

 

 熱病に浮かされるように声にならない声がもれる。

 数を数える。それだけの行為がうまくできず、ようやく全部数え終えて……

 

「あ、あ、こ、こんなに、ある、あるのか……? 嘘だろ……」

「こんなの一部さ」

 

 水晶が積まれてゆく間にも映像のエリーは何度も快楽に震えている。

 ついに高まりきったのか、口がふわりと開ききって、ほうけきってしまい……

 

(イクなっ、イクなっ、ぃくなっ! とどまれっ! それは、俺とだけだろうっ!?)

 

 イキさえしなければ決定的でないとばかりに心の声が引き止め続ける。

 

 やめてくれ。どうか。

 

 だが、声にならぬ声は届かない。

 無情にもエリーはタクトの目の前で絶頂した。

 くてりと果てるエリーは心地よさそうで、潤んだ瞳は俺の方ではなく相手に向けられている。

 

(なぜっ、なぜだ……)

 

『タクト様よりすごーい!』

 

 ビクリと体が震える。ぎょっとしてそちらを向けば、エリーほどではないが長い付き合いの女がいた。

 映像結晶が再生されており、こちらには音声も閉じ込められていた。

 エリーのものとは違い、お互いが快楽を与え合うような激しい性交は、まさしく交尾だった。

 どろどろにとろけあった女は嬉しそうにガキに口づけをしていた。

 

 タクトは女好きではあったがノーマルだった。

 

 体位の数も多くなく、自分が気持ちよくなれる正常位くらいだった。

 だが目の前の映像は違った。全身を味わい切るとばかりに行われる激しい動きは乱暴のようでいて繊細だった。

 指の動き一つが、腰の動き一度が深い快楽を与えているようだった。

 

 快感に染まり浸り切る女の顔はタクトが見たことのないもので……どこか魅入られるところがあった。

 

 誰にも触れられていないのに、タクトはいつの間にか勃起しており、じんわりとにじむ我慢汁がじんわりとズボンに円状の跡を残していた。

 

「こいつ、他国の勇者だよ。刀の勇者様。君と同じ勇者だよ。このままじゃ、君の女、全部奪われてしまうかもね」

 

 怒りが、悲しみが、絶望が混ざり合いながらも自分以外の行為に、愛する者の感じている表情に、性欲が湧いてしまってた。人生で一番大きく心が揺さぶられていた。

 悲しいはずなのに、辛いはずなのにそれなのに陰茎はビンビンに存在を主張している。

 一人二人と絶頂しているのを見ているうちに、タクトは指1つ触れもしないのに射精していた。

 人生で一番勢いのよい射精はビュッ、ビュと精子を大量に打ち付けていた。

 じんわりと精子独特の臭いが漂いだす。

 

「あっ、あッ、うぐっ、ぐううぅ……」

 

(なんだよこれ、何だよコレっ!)

 

「女を取り返したければ……君が勇者として彼より強いって見せつけてやらないと彼女たちの目は冷めないだろうね」

 

 こちらの様子に気づいたのか気づいていないのか、紬は冷たい瞳でこちらを見ている。

 だが、今のタクトの目には入らない。

 元気づけられたと、与えられた希望に飛びついた。

 

 そうだ。

 まだ、失ったわけじゃねえ。

 

 何もかもを認めないように顔を振りながら、自分から何かを奪おうとする男への殺意だけを抱こうとして……それでも視線は流れ続ける自分の女の痴態から目を離せずにいた。

 

 いつの間にか紬が部屋から出ていったことにも気づかず見続けた。

 




失われるとは想像もしてなかった。






目覚めてしまうタクトさんカナシス。
でも、豚王に処刑代わりに女を抱き殺されるところ見る原作と比べれば……ど、どうだろう? 死なないだけましなんでしょうか? 


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124 誘拐

 

ユウの一日は結構忙しい。

 

潜入先の設定に合わせた業務はもちろん、裏切りのための仕込みや今後のためにアレヤコレヤと仕事はいくらでもある。

そんな中、何より心安らぐのはサクラやナナとの時間だ。

何よりサクラは自分の手であれやこれやと面倒を見ているおかげで(人間の子供と比べれば遥かに手がかからないが)愛着が強く、愛する女性達に抱く気持ちとはまた別なきれいな白色をした気持ちが胸の奥からこんこんと湧いてくる。

 

昼はサクラと取るため食事をもらって部屋で食べている。

手づからに肉の欠片を差し出すと嬉しそうにぱくついてくるのがなんとも愛らしい。

 

たまに我慢のできない悪い女がこの時間を邪魔をすることもあるが躾けを行い、今ではそこそこゆっくりと過ごせる。

 

ユウの食事は今日はカリカリに焼かれたパンに鶏肉がごろりと入ったシチューとサラダであるだ。

湯気の立つそこへスプーンを差し込み咥える。

ホクホクと濃厚な味で、暖かな熱が体に染み渡るようだ。

喉を通る感触がーーあっ

 

あ~~

これは。

 

毒が混入している。

ため息が出そうになる。毒はそこまで強いものではないようで、何もしなくても勝手に無害化される。

 

前の世界ではメイン戦力勇者一人だったこともあり、状態異常には人一倍気をつけていた。

装備や持ち前の身体能力もあり、相当強力でなければほぼ影響なく解消された。

 

(睡眠薬か)

 

一瞬覚えた眠気が薬の正体を示している。

 

(殺す薬じゃない)

 

殺す気だったらすぐに動き出さなければいけないところであったが、そうでないならばいくつか選択肢がある。

そもそも誰がなんのためにしたのかが問題である。

手懐けたつもりの相手の裏切りか。

それともコソコソ動き回っていたことがバレてのタクトの登場か。

 

「うう~ん、なんだかお腹が膨れたからか、眠くなってきたな……」

 

大根もいいところかもしれないが、眠くなったふりをしてベッドに横になる。

いつもと違う行動のせいか、どうしたのと心配そうに枕元にぴよぴよよってくる。

なんでもないよと頭をなでてやりたい気持ちになるが、ここは心を鬼にしなければならない。

 

「サクラも眠ろうかーー《眠れ》」

 

軽度の睡眠魔法をかけるとLV差もあり、抵抗なくストンと眠りに落ちる。

耳をすませばすうすうと鼻息が聞こえてくる。

 

枕元に横たわらせる。

自分も目を閉じ寝入ったようにしながら相手を待つ。

 

《生命感知》

 

部屋に近づいてくるのは二人。部屋の前に来ると、ゆっくりとドアノブが周り……鍵に気づいてゆっくりと元に戻る。

耳をすませば音を極力立てないようにしているようだが、何かを鍵穴に差し込み、ガチャガチャと金属が触れ合う音が小さく聞こえる。

ゆっくりと開いてゆき……

 

「ふう、無事ミッションコンプリートでごじゃる」

「あなたの仕事はこれからでしょ? 早く私の部屋に運びなさい」

「人使いがあらいでごじゃる」

 

声でわかる。一人はナナ王女である。

もうひとりは誰だろうか。

脅威は感じないが、城の兵士に並ぶ程度には強そうだ。

世界最高の戦力のフォーブレイ基準であるため、それなりに腕が良いと言えるだろう。

 

「ああ、なんて乱暴な担ぎ方! 起きたらどうするの!」

「心配ないでごじゃる。勇者であっても眠らせるネムールZを使ってるでごじゃる」

「ならいいけど」

 

ズタ袋のようななにかに入れられたと思ったら俵持ちで肩に抱き上げられる。

安定感は小さい上に、扱いが荒いせいで部屋を出る際に頭がぶつかる。

ダメージはないが痛覚はあるので腹は立つ。

 

思えばさらわれたのは日本以来である。

俺の女をとったとか俺のほうが先に好きだったんだと絡まれるのはよくあるのだが、そのときは売春組織で働かさせられていた女性複数に手を出しており、管理していたヤのつく仕事人に襲われたのである。

おうおう、にいちゃんよお。そんなふうに声をかけてくれるオールドタイプではなくビジネスでやっていますといったサラリーマン風の男たちで、目の凄みだけがくたびれたリーマンたちとは違っていた。

彼らは脅しの一つもなく車に詰め込んで、仕事場の事務所にユウを運び込んだのである。

 

……その十分後には彼らの頭は麻薬でもやったかのようにハッピーになっており、匿名の通報から全員が逮捕されてしまったが。

 

運び方からして、敵対者へのそれではなく、隠して連れ込みたいという意図を感じる。

おとなしく運ばれていると、ふわりと体が柔らかく受け止められる。

どこもだが王族のベッドは特に質がよい。

どうやらナナ王女の部屋に運ばれたらしい。

 

「で、いつ起きるのかしら?」

「強力な薬でごじゃるからな、一晩は眠ったまんまでごじゃる」

「加減しなさいよっ!!」

 

彼らからは緊張感というものを感じなかった。

しかし、このままでは話が進まない。

 

「それで、なんのようかな。ナナ王女」

 

目をパチリとあける。

そこには驚きに目をパチクリさせるナナと、見るからに怪しい黒装束の女が立っていた。

 

 





やたらめったら手を出しているとやばい女にも手を出してそう。
でも普通ならやばいなので、そんなに問題にならなさそう。
魔法が使えればいくらでもお金稼げそうですしね!

忙しいは忙しいですが、休日までは忙しくならない感じになったので、元のペースに戻せそうです。


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125 ナナ王女の提案

 

「ユウ様、ご機嫌はいかが?」

 

王女であるはずのナナ王女は城で働く貴族でもない少年相手に様をつけ、そして何より城で名乗っているイサムではなく、ユウと声をかけた。

 

「わかってるんだ」

「調べさせましたわ。レールディアにまさる相手で、変装の可能性を視野に入れて調べればわからないものではありません」

「ふうん」

 

見られたのはレールディアをわからせてやったときだろうか。

いや、そうでなくとも関係があるとしれば「タクトを裏切るはずがない」「裏切るならレールディアより強いはずだ」と考えることは可能だろうか。

そう思ってしまえば勇者の国であるフォーブレイの中でも最強格であるレールディアを打ち破れるだろう相手はそう多くない。

 

情報の多く伝わってくるであろうメルロマルクの四聖勇者やその四聖とともに行動をしている四聖より強いかもしれない勇者となればチェック対象の上位に上がるだろうし、カラーリングこそ違えど、見比べさえできるのであれば同一人物であるとわからないほど遠い見た目でもない。

 

「それで、なんのよーー」

 

こちらの正体を知ったのである。

メルロマルク所属の勇者が正体を知らせずにフォーブレイにいる。

明らかにスパイ目的である。あるいはタクト狙いである。

いずれであっても仲のいい兄を狙っているのだから敵対して当然のはず。

 

だが、連れ出し方こそ問題を感じるものの、目の前の彼女から敵意を一切感じなかった。

 

「おしたいしております」

「は?」

「お慕いしております。ユウ様♥」

 

ズタ袋から這い出る芋虫のように出てきた中身にナナはずいと近づき、目の奥にとろりと情欲を混ぜ込んでこちらを見ている。少女らしい淡い恋心のような好意は、なぜか僅かな間でドロリと艶めかしい色にかわってしまったようである。

 

「……覗いた?」

 

それしか考えられなかった。

熟した果実を青いバナナの隣に置くことで一気に食べごろに変えるような行為である。

 

そのつもりはなかったが、国家とのぶつかり合いではなく、タクトPTとの争いでクーデターからの各国への宣戦を未然に止めたいユウとしては好都合である。

だが、彼女は他の女とは違う。

 

彼女たちは勇者としてのタクトを好いているのだから、格の違いを見せつけるだけでころんだが、彼女にとってタクトとは最愛の兄である。

短い付き合いではあったが、彼女がタクトを家族として愛していることは感じ取れていた。

 

「ええ。素晴らしかった。ここがキュンキュンしてうるさいくらい」

 

自分より少し小柄の少女がお腹に手を当てその小さな手のひらでゆっくりと撫でる動作は幼さと反比例するように艶めかしい動作であった。

 

「フォーブレイの血が私にかたりかけてくるの。お兄様の言うことは正しかった。私の相手は兄じゃなかった。愛しのユウ様。なんの権限もない王女だけど、フォーブレイの王族としてあなたを支持するわ」

 

恋に悩む思春期のお嬢様が一気に小悪魔めいた開花をしてしまったようである。

 

「タクト王子が何をしようとしているか知っているの?」

「世界を正すとか、そんなことを言っていて、いつかきっとこの国の王になるのだと思っていた、というくらいだわ。でも、国の流通の流れを見れば戦いに疎い王女にはわからなくても、周りに聞けばわかるのよ」

 

そしてちらりと黒子を見る。

彼女もまた、タクトによるクーデターかその後の侵略戦争を止めたい立場にあるようだった。

 

「出自の怪しい少年ではなく、王女が認めたなら、同じ勇者としてお兄様と力を比べあえるはず」

 

変化する刀を見せれば勇者の証明は可能だろうと考えていたので、それを伝えると、変化する武器自体は数多くはないがあるらしく、ペテンを疑う層は一定数でるだろうとのことで、勇者の国であるフォーブレイの王族が勇者と認める宣言の意味合いは大きいとのことである。

 

「けど、タクト王子とは兄弟だろ?」

「ええ、でもだからこそ証拠になるでしょう?」

 

裏切らないと誓うわ。その証拠を捧げる。

そういってナナ王女はゆっくりとベッドへと乗り上がってきた。

 

「処女を捧げるわ」

 

そう言ってめくりあげたスカートの奥には純白の下着と、湿り気を帯びた愛液のせいで薄っすらと主張する幼い女性器が浮かび上がっていた。

 




メルロマルク女子「処女ってダサくない?」
フォーブレイ女子「ぐぬぬっ」


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126 ハメ撮り

 

ベッドの上で膝立ちになりながらスカートをたくし上げているナナ王女。

だがその挑発的な格好とは裏腹に、作りこそ繊細なものの、純白の下着はその肢体と合わさって幼さを感じさせる。

誘うようにしているが、その表情は恥ずかしげに赤く染まり、顔はこちらから少しそれた方向を向いており、瞳はギュッと閉じられている。

 

ちらりと横を見れば、黒子のように存在感を消しながら(消えてない)魔法水晶をこちらに向けている影がいる。

 

「よいです! ナナ王女の強みを生かしているでごじゃる。視線がすべてを物語っているでごじゃる」

「ねえ」

「そのまま攻めましょう!」

「優しくして……」

 

こちらの声が聞こえているのかいないのか、そのまま進めようとする影。

 

「まってまって」

「……何でごじゃるか。姫の勇気を踏みにじるなんてそれでもついてるでごじゃるかこのフニャチンやろー!」

「いや、だから」

「ーーちゃんと立派だわ」

 

目を半分あけてこちらを見てナナはそういった。

 

「準備はいいようでござる。さあ、取り直しでごじゃる」

「……私、ナナは刀の勇者ユウ様にこの身を捧げますわ」

 

女性とまぐわうこと幾回だが、セックスの撮影者がつくとは思わなかった。

割と見られていることに興奮する女性は多く、自分や相手のスマホで撮影をしたことはないわけではないが、他人が撮っているのは初めての経験である。

初めて入浴を手伝われてしまったときのような微妙な気恥ずかしさを感じた。

 

緊張がとけたのか、目の前の彼女は今度はぱっちりと瞳が開いている。

 

「お父様とも話し合いは終わってるわ」

 

影が懐からもう一つ魔法水晶を取り出す。

ブッと音がなり、ホログラムのように一人の男の姿が浮かぶ上がる。

 

「ぶふふ……刀の勇者ユウさん、メルロマルク王女の要請を受けていただきまずは感謝をつたえよう。強く性豪な勇者を送ってくれた女王には感謝しなければ。ユウさんと繋がりができるのならそれに越したことがない。ナナが選んだのであればタクトを廃しても誰も文句は言わないでしょう。なんでも協力しましょう。ブフフっ」

 

……豚に可愛さを感じる程度にはオークと豚王を並べればオークに愛らしさを感じるだろう男のネットリとした口調から協力する宣言をもらった。

 

「あとは我が王家とつながった証拠さえいただければ何をしていただいてもなんとかしますとも。ぶふふ」

 

そう言って映像が切れる。

フヨフヨとした鍛えられていない体の贅肉おばけという感じだが、あれで治世はよいらしい。

女を日々抱き殺しているそうなので、女性にとってはモンスター以上の脅威にようだが。

 

「とう言うわけでごじゃるな」

 

もともと、クーデターを行おうとしているタクトを止めることが目的だったが、それでも、ある程度ひっそり対応することが求められていたが、国王が全面的にバックアップを約束した。

これで国民の前でタクトを殴り倒しても問題ないということになったのだ。

 

ーーナナの処女を貰えばだが。

 

「わかった。ナナの大事なもの。もらうよ」

 

ナナに近づき、唇を合わせる。

体のサイズと同じで小さい。ただ、王族としての手入れのおかげかとてもつややかであり、近づくとほのかに甘い香りがした。ちゅっちゅと唇を合わせ合いながら腰を抱いてゆっくりと押し倒す。

管理され尽くした無駄のない柔らかさは小柄な割に抱きしめた瞬間心地よさを感じさせる。

 

不安そうに開かれた手をキュッと握ってあげると、閉ざされていた唇もまたふわりと緩んでいき、全身から力が抜け出しているのが感じられる。そのすきに漬け込むように舌を口内に入り込ませると、ビクリと震えるが、それもナナの小さなベロをヌルリと優しくなぶると様子が変わってくる。

白い肌は興奮から薄くピンク色に染まりだし、ナナが内ももをこするたびに小さく水音が聞こえてくる。

 

小さな乳房に手を当てるとナナの表情が少し陰る。

しかし、あったほうが柔らかく気持ち良いが、相手を楽しませる分には小さくても問題ない。

胸をさすりながらじんわりと快感で炙るように高めてゆく。

 

「あっ♥ あうっ♥」

「うっわ、ダラダラでごじゃる……。マジヤバ……」

 

気の抜けた声はユウでなければ萎えていたかもしれないが、その硬度は変わりない。

ナナが出来上がっていくのに合わせてビキビキといきり立っている。

その様子はどうやらすべてとられているようだが。

 

処女を奪うところを撮る。

 

そのため、出血などを魔法で防いだりせず、そもそも使わないほうがいいくらいである。

そうとなればと前戯をしっかりとしようと思っているのだが、強い勇者に発情するよう教育された成果の集大成と言っていいのか、王女の体は高まりきっており、クリトリスをするりとなでただけで絶頂してしまった。

 

ナナの体はまだまだ青く未熟な果実であり、自慰の習慣もないようであったが、精神的な物もあり、だいぶ高まっているようである。

 

「も、もういいのではないでごじゃろうか」

「ゆ、ユウ、さまぁ……♥」

 

水晶がつくのではないかレベルでアップで撮っている。

指示に従うのは尺だったが、これ以上は何をしても快楽でなぶるような真似になってしまうかもしれない。

レベル自体はナナ王女もタクトの影響か高そうだが、LVとは別の運動神経というか、体を動かすこと自体は同じ王女でもフィロリアルと遊びに森に出れるメルティとは雲泥の差のようである。

彼女は割と王女らしい箱入りなのだ。

 

肉棒を膣口に当てる。体の大きさの対比で普段より大きく感じるのは気のせいだろうか。

ドロドロと愛液がたれ出しているので、塗り込むようにずりずりと肉棒を滑らすと、その動きだけで感じるのか更にコポリと愛液がたれだす。

ぐっと腰から突き入れるように差し込む。

 

「ううううぅ゛っ、うんっ♥」

 

濡れに濡れていても押し込むような形になる以上い痛みはあるようだった。

別の刺激でごまかすように唇を合わせ、舌を差し込むと今度はナナの方から舌を差し出してくる。ただ上下に動かし続けるような稚拙な動きだったが、それを利用するようにじゅるじゅるとお互いの唾液をすすり合うように口づけを交わしながらまぐわい続ける。空いた手でクリトリスをいじってあげれば痛み以上の快感を与えるようで、少しずつ表情が和らいでゆく。

 

香りが強くなる女の臭いとは別に鉄の臭いがかすかに混じる。

わかりやすい処女喪失の証拠が愛液に混ざって流れ落ちていた。

 

「証拠撮影、完了でごじゃるっ!」

 

影の掲げる水晶からは幼い少女の膣には不似合いの大きな棒を差し込んでいる姿が写っていた。

そこには確かに流れる血がシーツに染み出していた。

 

(……あ、ホクロ……)

 

なぜか自分の尻を見てしまって後悔する。

 

「とりぇ、たの……?」

 

じんわりと涙をにじませながら、より幼くなったように話すナナ。

 

「よく頑張ったね」

 

頭をそっと撫でると嬉しそうに顔を緩める。

 

「じゃ、もう大丈夫だよね?」

「ん?」「え?」

 

回復魔法膜が破れて傷ついた部分を癒やす。

いきなり痛みが消えたことに違和感を感じたのか、首をかしげている。

痛みで性行為を嫌いになる女性はいるらしい。

自分との記憶が痛いもので終わるのもなんであるし……なによりまだイッてもいないわけだし。

 

「せっかく出し好きになってもらおうか」

 

もともとあふれるほどに出ていた愛液。

大きさに適応しだしユウの大きさになっていた膣内。

そこから痛みを抜けばどうなるか。

 

「あううううっ♥ ううう♥ ぁあああぁっ♥」

 

正解は快楽を与えられた分押し出されるように愛液を吹き出すナナの姿だった。

ナナは初めてで自分の有り様を塗り替えるような快楽と幸福感に満足して、これは他の人達がこの勇者のものになってしまうのも仕方がないと理解した。

 

そして自分以外のものもそう思ってるだろう事実に嫉妬したが、自分ひとりで受け止められる大きさの相手ではないなとゆっくりと気持ちを消化していくのだった。

 

 





エロシーンにごじゃるはギャグではないでしょうか。
多分このあとごじゃるさんも食べられたけどカットでごじゃる。


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127 タクトによる断罪式

エリーはかけていた。

LV上昇により只人より遥かに強大になった身体能力と、回復魔法を重ねがけすることで常に全力を出しながら疾走していた。一分一秒でも早くたどり着くため、必死であった。

 

イサムを相手にまた性欲発散にでも使ってやろうと部屋を訪れたところ、イサムはいなかった。

さて、今の時間は誰かと会う予定だっただろうかと探ってみれば、彼はナナ王女の部屋にいることがわかった。

 

ナナ王女のブラコンぶりは幼馴染であるエリーにはよくわかっていたし、彼女もまたライバルの一人であった。

他の女性のように中途半端に経験したことがあるせいでの欲求不満になるようなこともなければ、強いからと転ぶような女性ではなかった。兄こそ至高であると強く思っていた。

あの少年にやや惹かれだしているようだったが、まさか寝所に連れ込むほどだとは全く思わなかった。

 

(やるものね)

 

ライバルを順調に減らしているようで結構。

 

タクトの女は増える一方なのだから少しくらい減ってもらってもバチは当たらない。

そんなふうに思っていたがふと不安に襲われたのだ。

 

(もしかして私が把握しているよりずっと多く堕ちている……?)

 

正直なところ、PTメンバーが残ればほかはどうなろうとそこまで大差はないし、取り返すことだって簡単だろう。

なにせ、タクトは勇者である。

 

勇者の精を受け止め、子を生むのは何よりの誉れ。

多少強くてセックスがうまい小僧が手元にいようが、いつでも優先すべきはタクト(勇者)なのだ。

けれど、タクトの周りに女は多い。アピールをやめれば愛される頻度なんてあっという間におちてフェードアウトしていく。そういう考えだったのだが……。

 

音などそうそう漏れようはずもない王女の部屋の壁に耳を当てるとそれでも聞こえてくる嬌声に不安の気持ちが沸き上がってくる。

 

(念のため。念の為よ……)

 

調査を開始し……PTの誰も彼もがその様子がおかしいことに気づきーー問い詰めてやろうとしたところで……彼らがすでに動き出していることに気づいたのだ。

 

 

**

 

タクトは毎日が苦しかった。

自分以外の男と淫らに行為にふける姿は目に焼き付いたまま消えないし、女を抱こうとしても、

 

(でもこの女も裏で裏切っているかもしれないんだよな)

 

そう思ってしまって萎えてしまうのだ。

立たない自分の惨めさ、ごまかしているが、相手の女の失望の表情が胸を抉る。

ろくに女を愛せていない。

 

そのくせ、焼き付いた女達が自分とより乱れる姿はどこまでもエロティックであり、ふとした瞬間に立ってしまっていることに気づくのだ。そのまま収めようとすれば当然あのとき見た映像を元にシコることになる。

その時ばかりは萎えていた分元ばかりにギンギンに立ち上がっている。

 

萎えるまで出せばスッキリして想像からは逃げられるが、精を出し切ったせいで余計に他の女を抱く気にならなくなり、催促されるのを嫌って一人でいるようになった。

そうして一人でいればまた思い出してしまうのだった。

悪循環がいつまでも続いている。

 

(この気持は俺が上だって示さないと消えねえっ!)

 

タクトはすでに敗北していた。

自分ではここまで悦ばせる事ができないと思うからこそ、女が抱けなかったのだ。

ああそうだ、負けだ。けど、強さは別だ。

 

(そうだ、俺は別にAV男優じゃねえ! 勇者なんだ)

 

セックスが上手いだけのガキなんて、蹴散らしてやればいい。

涙と鼻水でぐしょぐしょにしてしまえばきっと百年の恋だって冷めてしまう。

あんなのがいいなんて女はいなくなる。

そうすればきっと俺も自信が戻ってくるっ。

 

そして俺は負けないっ!

 

タクトは意気込んだ。

誰が裏切り者なのかわからない以上、みんなを集めてその場で断罪するしかない。

いや、広く自分こそが強者なのだと証明するためにも皆を集めるべきだ。

タクトは王城の大広場に女達とそして憎き少年を呼び出したのだった。

 

「イサム! 貴様は俺の女をかどわかし、裏で手を出していたことはわかっている! 王子の女に手を出すなんて極刑ものだが、チャンスをやろうっ、この場で決闘だ! 勝てばその罪許してやるーー負ければ命の保証はしないがなっ!」

 

鞭の勇者武器である、竜尾の鞭を地面に叩きつける。

ドラゴンの体を引き裂くその鞭は地面をえぐりながら鋭い音を立てる。

調子は悪くない。今までの悩みが嘘のように気持ちが晴れている。

それどころか決闘への程よい緊張のせいか胸がドキドキと揺れる。

 

「受けて立つ。ーーけど、決闘の場に名前を偽ることはできない。俺の名前は海道勇! 刀の勇者だっ!」

 

素手だったはずのガキはどこからか現れた刀をこちらに向けて名乗りをあげる。

そこには黒々と輝く日本人の子供がいた。

 

ーー勇者だとっ。そうか。勇者か。

 

(勇者だからって俺に勝てるはずはない)

 

周りの視線がどこか誇らしいような称賛する空気と、驚くような空気の2つに変わる。

前者の中に映像で見た女達の姿を見て、一瞬でタクトの心は燃え上がる。

勇者武器が真にタクトを認めていれば今彼は憤怒のカースシリーズに目覚めていただろう。

 

(ふざけんなよっ!)

 

とられている女のほうが多いじゃねーかっ!!

 

誰も彼もがタクトではなくユウを応援していた。

今までこの世界に生まれてから誰もがタクトを褒めていた。讃美の視線が、憧れの態度が、情欲の視線がタクトを褒め称えていた。誰かと比べられ、劣る方と見られることは今世でなかった。

 

実際はすべてが取られた女ではなく、中には単純に勇者という存在と強さに感心していたものも含まれていたが、タクトにその違いを見分けることはできなかった。

 

「っ! てめえ、勇者かよっ! いいぜ、この国に喧嘩しにきたって言うなら、ぶっ殺してやるっ!」

 

そうだ。

いかに勇者であろうと、真の勇者は、女神に認められた勇者は俺一人。

すべてを取り返してみせる。

試練を超えてやるっ!!

 

 

タクトは鞭を振りかぶった。

 




タクト王子はTUEE系もできるし断罪系もいける口……!
ハーレム寝取られ系主人公も!

タクト王子亡き後もテロに走るくらいには好かれていた……のかなあ?
半分くらいビッチと同じく女神の分身の可能性も……?


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128 式はつつがなく…

 

(恨みはないけど、悪く思うなよ)

 

 俺は目の前にいる憤怒に顔を赤く染めるタクトに刀を向ける。

 開発物から考え、自分たちと同じ日本の知識がある相手。

 バンダナ結んだアメリカンロック? な風情で見た目はいいが日本人からすれば王子らしさはなく、所作こそきれいだが、チンピラである。

 生まれたときからタクトがタクトなのは調べてわかっている。

 オレTUEE転生者といえばいいだろうか。

 

 だが、動機が何であれ国のために開発や尽くしているし、女癖が悪いのも責任が取れる王族なら何をいわんや。

 むしろ責任が取れないのに種を巻き続けたユウより100倍増しである。

 

 世界中の波には参加していないが、フォーブレイの波には参加していると言うならメルロマルク一国に5人で対応していたユウたちには何も言えない。

 

 だから、悪いのは他の八星勇者から勇者武器を奪ったこと、波のある中クーデターなんて企んだこと、そして何より──政治の都合である。

 

 この国の国王に先に助けを求められ、メルロマルクからしても王子ではなく国王に音を売るべきと判断されたのが悪い。

 

 であれば可哀そうだが、格の違いをしっかりとわからせてやる必要がある。

 

「格の違いを教えてやる」

「ガキがナニ生言ってんだっ! 俺が勇者何人分の強さか教えてやるっ!」

 

 鞭という武器の恐ろしさは剣より長い射程と、変則的な動き、そして殺さずに戦闘不能にできる点である。

 振るわれた鞭は肉を削いだり、大きな傷みを与えて戦闘不能にする。

 刑として『鞭たたき百回』なんてものがあることを考えればわかるだろうが、叩かれれば大きな傷みを受けるだろう。

 

 タクトの振るった鞭がたったままのユウの顔を叩いた。

 

「ハアッハッッハ──! 俺の鞭はドラゴンさえ絶命させる威力が──威力……が……」

 

 しかし、鞭で叩かれてもほぼダメージはなかった。

 

「そうだね、俺の顔にホコリをつけた。そんな事ができたのはそう多くないよ」

 

 ユウのステータスは前の世界と今の世界で二重に上がっており、様々な強化法の恩寵もあり、ステータスは恐ろしいほどに高い。強化法を共有した勇者であればともかく、LVが高いだけのタクトの力では打ち破ることができない壁であった。

 

「ふっ、ふざけるなっ! バインドウィップ! しびれ打ち! らせん打ち! デスウィップ! 地這い大蛇!」

 

 タクトは苛立ち、技を放ち続ける。

 しかしそのどれもが効果がなく、土埃を巻き上げるだけだった。

 すべての技をうち終わったあとはタクトは鞭を収める。

 

「最強の勇者である俺が……絶対に殺してやる! 鞭なんて武器じゃあ、お前を倒せないみたいだが、俺には七星武器があるっ!!」

 

 爪の勇者武器に切り替え──

 

「エアストスラッシュ! ヴァーンズィンクロー」

 

 斧に切り替え──

 

「シューティングスラッシャー!!」

 

 その後、複数の勇者武器に切り替える。

 勇者武器には人間ほど明確に表現しないが意思を持っていて、他の武器を拒絶したりする。

 当然勇者武器の同時もちなんてできない。

 だが、投擲具の勇者のように、奪うものなら別なのだろう。

 タクトのレベルは300を超えていると聞く。

 複数の勇者武器に選ばれ、この数の勇者武器の強化法を持っていたのならこの程度の強さではいられない。

 

 ユウは刀を鞘に収め、バットか何かを振るうようにしてタクトの顔を殴り飛ばした。

 

「ぐがああああっ!?」

「みんな、見ただろうか。目の前の男がいくつもの勇者武器を行使したところを。勇者と勇者武器は強いつながりがある。それこそ、他の武器が持てなくなるほどに。けれど、武器の簒奪者は違う! 勇者から武器を奪っただけの、不正行使者は勇者の力を引き出せない。だからこいつはこんなにも弱い。みろ、軽く殴られただけで大怪我だ!」

「て、テ゛メ゛エっ!」

 

 顔を殴られたときに前歯を含めいくつか飛んでおり、口からだくだくと血を流しながらタクトが唸る。

 世界の守護者である勇者を奪っていたのである。

 そしてそれは証明された。

 

「見ろ、こいつは何人もいた勇者を襲って武器を奪った罪人だ! 勇者を語る偽物だ! 勇者の国、フォーブレイの王子にふさわしくない男だ!」

 

 周りに集まっている女性たちに視線を向ける。

 

「そ、そうよ! なにが勇者よ! 良くも騙したわねっ!」

「私っ、わたしこの男に無理矢理っ」

「ひどい、勇者様を手に掛けたというの!?」

 

 彼らの集めた半分以上の女性によってタクトに罵詈雑言の嵐である。

 残された半分のうち半分が困惑の中徐々に周りに引っ張られ、残った僅かな人間が今後のためにどう動くべきかと頭を回しているようだった。

 

「くっ、うるさい! 勇者武器を持っている俺が勇者だ! そしてお前はこれから勇者じゃなくなるんだっ!!」

 

 タクトはユウの持つ刀を奪おうとし……それが最後の証明となった。

 

「《イージスの盾》!」

 

 すべての魔法的干渉を行使の倍の消費と引き換えに打ち消す最強の盾が干渉を阻んだ。

 干渉を阻んだが、刀がタクトの元へ引っ張られていたのは誰の目にも明らかだった。

 決定的な、勇者を害する者であるという証明が周りを揺らす。

 

 空気はできた。

 あとは勇者武器を取り上げれば終わりだ。

 

 そんな中、一人の乱入者が現れる。

 

 

「待ちなさいっ!」

 

 




タクト周りの女性はダメになった時の罵声派とテロ殉死派が激しい……!


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129 信頼

 ざわざわと広間は喧騒が止まらない。

 フォーブレイの王子として、タクトは顔だった。

 先進的な試みと、何より勇者としての強さは何物にも代えがたい輝きとなっていた。

 しかし、それがメッキだとしたらどうだろうか。

 

「見るなっ! そんな目で、俺を!」

 

 視線を振り払うようにタクトは手を振り回すが、そんなことで止まるはずがない。

 ユウに抱かれて堕ちたものはもちろん、そうでないものも、勇者であるからと抱かれていたのにとその好意を反転させてなじり始めた。

 

「待ちなさいっ!」

 

 メイド服が空を舞う。

 人垣を超えてやってきたのはエリーであった。

 タクトはその姿を見ると一瞬喜びの笑顔を浮かべた後苦いものでも口にしたかのように顔をゆがめる。

 

「タクト様。助けに来ました。いったんここは退きましょう」

「ひけだと!? 俺に言っているのか? 俺は女神が認めた勇者だぞっ!」

「タクト様ならきっと再起できます」

 

 エリーはタクトの手を引こうとするがその手をタクトは払いのけた。

 

「うるさいっ! 裏切者が俺に触るなっ!」

「裏切ってなどっ……」

「あのガキとやっておいてよくそんなことが言えるなっ!」

「え、っそ、それはその」

「見ろっ! 図星を突かれたってところだろ!」

「し、信じてください! あくまであれば性欲の解消のための遊びで……!」

「遊びっ! 遊びでお前は俺を裏切ったのかっ!」

 

 空気の読めない痴話げんかみたいなものが始まってしまった。

 しかし、これだけ囲まれている中での逃げの一手は頭の中になかった。

 ひっそりと魔力でバリアのように包み、囲い込む。

 鉄壁とは言えないが、それでも破ろうとしなければ破れず、その時間があれば追い込めるだろう。

 

 エリーの差し伸べた手を取ってかければ未来は変わったかもしれないが、その可能性はなくなったのだった。

 

 口げんかの果て、タクトはエリーを殴り倒そうと手をあげ……エリーを包む壁に阻まれる。

 

「そこまでだ。決着は俺から先につけてもらおうか」

「やっぱりそいつとつながっていたんだなっ! よくも俺の女たちに手を出したなっ! この下種野郎があああ」

「否定はできない。せめてお前より皆に認められるようがんばるよ」

「ふざけるなっ!」

 

 タクトは湧き上がる怒りで自分の心がバラバラになりそうになるのを感じた。

 その衝動は憤怒。

 怒りの勇者武器が発動され──

 

「流星一閃!」

 

 星空を切り裂く流星がすべてを切りさいたのだった。

 

 **

 

「ぐふふふふっ。感謝しますぞ、刀の勇者様。すべては儂がうまくやっておきましょう。……思ったより得られる女が少ないのは残念ですが」

 

 ぐふりと笑いながら周りにいる女性たちをねめつける。ねっとりとした視線は夢に見そうだった。

 勇者としての一撃はすべてを切り裂いた。

 その瞬間、タクトが勇者器を縛っていた契約も切れたのか、鞭を含めて武器はどこかへと飛んで行った。

 残ったのは”勇者に成りすましていた者”という現実だけだ。

 

「くそっ、こんな、こんなはずがっ!」

 

 取り押さえられたタクトは、すぐさまレベルダウンの儀式をもって力も奪われている。

 もはや勇者として鍛えていた力すらない。

 勇者器さえあればその分の降り直しと、一日もレベル上げをする時間があれば城の兵士など相手にならない強さを得られるだろうが、レベル1は1なのである。

 ユウにとってはか細い手錠や足かせであっても、タクトにとっては逃れられない拘束になるのだ。

 

「な、なぜ私たちまで! おのれっ!」

 

 シルトフリーデンの代表、アオタツ種族長のネリシェンなどの、ごく一部のタクト自体にほれ込んでいた面々はタクトを救い出そうと動いたことで、一緒に取り押さえられていた。

 

 ユウは彼らと同じように拘束されているエリーに声をかける。

 

「……なんのようですか」

「タクトを裏切る気は?」

 

 一部背中から裏切るっ、裏切るから私を助けろ! という声が聞こえるがユウは無視する。

 エリーはその言葉にふんと鼻を鳴らす。

 

「信じてもらえなくても、私にとって勇者はタクト様だけ」

 

 その言葉にユウは彼女を寝返らせることができないことを悟った。

 そしてその言葉に感じ入る男が一人いた。

 

「エリー……! お前は、本当に……!」

「ええ、死ぬまで、いえ、死んでもお慕いしてます……タクトさま……!」

 

 真に思う心を向けられているところを見るとただでさえ恋しかったが、ラフタリアたちの顔が見たくなってくる。

 だがそこには水を差す男がいた。

 

「ぐふふふふ。美しい愛だな」

「……じゃあっ!?」

 

 ニマニマという言葉がこの世で一番似合っている豚王の笑みに、一縷の望みを抱くタクト。

 しかし、この男がそういう人間ではないだろうことは感じていた。

 

「ああ。こんな女に子供を産ませたらさぞ気持ちいいだろう。タクト。おまえにも存分に見せてやろう」

 

 絶望に崩れ落ちるタクト。大切なものを見つけたからこそなおさらなのだろう。

 

「ああ、気持ちはわかるぞ。今初めてお前に共感している。儂も先代に好きな女、あこがれた女を取られたものだ。もっとも奪い返して目の前で抱き殺してやったものだが。なに、悲しみもまたいいスパイスになる。お前と儂のな」

 

 長く楽しませてくれとぐっふっふと笑いながら王は兵士に指示をする。彼らはタクトやエリーを運んでゆく。

 抵抗できる力のない彼らにとってはこれから抜け出ることのできない地獄が始まるのだろう。

 だが、それすらも戦争によって舞い散る血や悲しみを思えば軽いものなのかもしれない。

 

「ぴいぴい」

 

 気分が落ち込みそうになる中、部屋に置いてきたはずのサクラがやってきていた。

 どうやら心配してきてくれたらしい。抱え上げると体をほほにこすりつけてくる。

 ふわふわの感触はささくれた心をいやすようだった。

 

 ……しかし、目を離したすきにだいぶ重くなったような……? 

 

 




たくと「しんじつの あいを てにいれた!」
ぶたおう「もらって ゆくぞ! グフフ」

はたして豚王さんは奴隷商人みたいに仲間にしていい人材なのだろうか……。
マインをビッチ、王様をクズ! となずけていた処刑に悩むかわいい尚文は
このころにはもういなくなってましたねー。

まあ、仲間を殺しているのでしょうがないですけども。



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130 お礼をさせてください♡

 かわいがっていたサクラは大きく姿を変える。

 パパ。ほほを擦り付ける自分より大きくなった娘に

 鳥のままでいてほしかったような、わかりやすく愛情を示してくれることにうれしいようなと複雑だった。

 そんな二人を囲む美女たち。

 勇者と分かったことで改めて抱いてと迫ってくる女性たちだった。

 

「サクラ、だいぶ大きくなった……?」

 

 子供の成長は早いというが、想像以上である。

 というより、昨日まではもっと軽くて羽毛のようだったのに。

 いや、羽毛だったか。

 ぴいぴいかわいい子鳥だったのに、今ではだいぶでっぷりと重さを感じる。

 人間の赤ちゃんくらいだろうか……? 

 

 勇者の能力は重さを感じさせなかったが図れないわけではない。

 何か変なものでも食べたのだろか? 

 

 サクラは手からシュタッと飛び降り、ピイと鳴いた。

 すると、彼女は光に包まれ……その背中に髪色と同じピンクの大きな羽をはやした一人の女性が立っている。

 腰まで流れるきれいな桜色の髪が大事な部分を隠しているが、程よく膨らんだ乳房に、きゅっとひきしまった腰つきをしている割に、その表情はどこか寝起きのようにふにゃりと緩んでいる。

 見た目以上に子供っぽい表情。

 だがその気配はそれが誰かをユウに告げていた。

 

「わお。サクラがフィロリアルクイーンになって人化した」

 

 恥じることなくさらされっぱなしの肢体に周りの視線が集まる。

 多くは女性のものだが、豚王が連れてきた兵士のものや、野次馬に集まってきた城のもの、なにより決闘を見守った女性たちの強い視線が刺すように感じられた。

 

「これ着て」

 

 勇者らしく成長しているはずだったが、まだまだ年相応でしかないユウとくらべ、頭一つ大きい。

 年齢も高校生後半か大学生相当である。

 

 ふわふわとした気配を感じさせながらもその視線はユウだけを見ている。

 上着を渡したが受け取ったまま動かなかったため、何とかはおらせるが、サイズの合わない男物は逆にフェチっぽく、胸の盛り上がりのせいで、大事な部分も隠しきれていない。

 

「だ、だれか着るものを……」

 

 すると辺りの女性の中から何人かが羽織るものなどを差し出してきたため、結ぶなどして体を隠す。

 見た目は非常に悪いが背に腹は代えられない。

 

 しかし、なぜ進化したのか。

 ただこれは進化までに起こったことを考えれば答えは一つ。

 タクトを倒した経験値、だろう。

 

「どうして進化なんて……」

「えっとね、生まれた時からお話がしたかったの。頭なでなでしてくれてありがとー」

 

 人の姿なのに鳥の姿の時のように頬を擦り付けてくるので、体に胸がふにゃんふにゃんと押し付けられる。

 生まれたばかりのせいか羞恥心まで育ってないらしい。

 あまりにも純真だったが、性的接触ではあったので簡単にユウの下半身は盛り上がり、直前までかわいがってきた記憶のせいで深く落ち込んだ。

 

「そ、そう……」

 

 手を差しだせば自分から手の下に頭をくぐらせ、撫でられにくるサクラに、サクラはサクラなのだとかわいらしくおもうように頭を整理した。

 トラウマがあるせいか、フィロリアルの姿のサクラの愛情は100%確信できるのに、女の姿になっただけで受け取り方が変わっていたり、性欲を抱いたりする自分がいるのに気づいては落ち込んでいるのである。

 いずれなれるだろうかと何度もなでると嬉しそうに笑う声が耳を撫でた。

 

 **

 

 用事が過ぎたら即退散。

 そうはいかないのが国家間のお付き合いである。

 

 フォーブレイの”お礼”のパーティーはさすが最強の国家であるだけあり、非常に豪勢なものだった。

 製法を考慮に入れたトータルの味は日本が勝るのだろうが、高級品に縁のなかった中学生のユウとしてはかなりのものだった。

 過去勇者だったときは魔王相手に荒れ果てており、豪勢ではあっても高級ではなかったというのもある。

 

 すばらしいです、さすがですな勇者様と賛辞だけ送られる会場での食事を笑顔を浮かべながらええ、まあ。がんばりますの三択でごり押しながら過ごしていると、ナナがやってくる。

 パーティに合わせて着飾った彼女は幼いながらも美しかった。

 開き始めたつぼみである彼女の笑顔には女らしさが混じりだしている。

 嬉しそうに、それでも下品にならないように少しだけ速足でやってくる彼女。

 

 抱きとめるように受け入れると、嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

「パーティは……楽しんでないみたいね」

「料理はおいしいよ」

 

 露骨ではないにせよ、娘を押し付けようとする貴族との会話よりは料理こそが楽しませていたのは正直なところである。

 

「だったら抜けちゃいましょ」

 

 手を引かれて場所を変えることになる。

 この後待っているものが何かは考えるまでもない。

 

 この国の求める勇者のお仕事だ。

 

 



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131 レッツパーリィ

案内された部屋はいうならば部屋自体がベッドといっていい場所だった。

二十人くらい余裕では入れてしまう広さのそこは飲み物を収納している冷蔵庫やシャワールームを除けばほとんどを巨大なベッドが占有している。キングサイズのベッドをはるかに超えるその大きさはカイザーサイズとかだろうか。

 

目的明らかなその乱交部屋にはすでに多くの女性が待っていた。

その多くが肌色の透けるエロティックなシースルーの下着であり、その下着自体も秘所があらわになるようなものを身に着けているものが多かった。

並ぶ女性は身分を隠しながら抱いていた女性が半分に、手の出せていなかったタクトの女や、王宮で見かけたことのある女官などの女性たちであった。誰もが若く美しかったが広いはずの部屋を埋め尽くすような女性の群れだった。

 

部屋に入るだけで強い雌の香りが鼻を嬲った。

これからへの期待なのか。すでに発情しだしている女性も多く、女の匂いはユウのものを立ち上げるには十分だった。

 

「これは……?」

「説明が必要?」

 

背後からかけられるナナの声。

要するに過去の勇者世界での事情と似たような話である。

勇者の血を多く獲得したい。

だからいっぱい女を抱いてほしい。

 

普段ならまっぴらごめんではあるが、この場にいる半分はだまして利用したような相手である。

勇者と知って抱かれるかそうではないかは彼女たちにとって大きく違うようで、知らなかったただ強い少年に抱かれる時より、今はさらに興奮の度合いが深いようで、部屋のだれもがユウの姿を視認してからハアハアと息を荒立てながらもとろりと粘度の高い液体を滴らせている。

中にはドラゴンであるレールディアもそこにいる。

彼女は他より一等興奮しており、よだれのようにだらだらと愛液を垂らしている。

飢えた獣のようなその視線は鋭く、愛欲より食欲に飢えているのではないかと誤解してしまいかねないくらいである。

 

「みんな、いつでも食べられるから……」

 

どうぞ、そういうナナであったが、であればとユウはナナの手を取った。

どうにもこの場は過去の女神からの贈り物……種馬としか扱われなかった過去を思い出す。

それだけで萎えるほどではないが、やはり心が沈むものがあるものだ。

男として目の前の雌たちに突っ込んでしまえば気持ちいいだろうと思いつつ、心も交わるセックスの良さを知っている以上少しでもと期待してしまうのだ。

 

唇を触れ合わせると驚くように目を見開くナナがいた。

これだけ多くの女性の中から自分が選ばれるとはというところだろうか。

唇を合わせあい、身長が自分より小さい希少さを味わいながら口づけを交わしていく。

普段ならナナが仕上がるまで口づけを交わしていられただろうが、ここは二十人を超える女性に囲まれた愛の巣である。

色欲に勃起して反り返る一物は誰かに咥えられてしまう。

ぬるりと温かい口内にじゅぼじゅぼと荒々しく舐め上げられ、空いた両手も女二人に誘われるように手を取られる。

右手は女性器のもとへ、左手は胸へ。

口づけを交わしながら胸やクリトリスなどを撫で上げ、逝かせるとそのたびに相手が移り変わるため、いくらいかせても終わりがないようだった。

 

フェラチオをしながら興奮で小さくイキ続けていた女性の場所をレールディアが奪うようにこちらに抱き着いてきた。

体に抱き着くようにしながらドロドロに濡れた秘所を押し付けるようにして挿入に導く。

処女よりきゅうきゅうと締め付けながらも多少こなれた膣内はユウのものをゆっくりと受け入れようと形をかえており、けれどそれ以上の刺激を与えるべく腰を動かすと、待ちに待った成果簡単にイってしった。

全身が脱力してゆっくりと崩れだしていく。

普段であれば両手で支えたり、そのまま攻め立てたりするところだが自分の番を待ち続ける女性に囲まれた状態でその隙は大きかった。

簡単に背中を引っ張られて引き抜かれ、空いた肉棒に誰かがまたがってくる。

 

時間がたつにつれ、口づけを交わしていたはずのナナもまた何度も貫かれて狂うようにイキ続けていた。

肉棒を受け入れるこの瞬間が何よりも黄金のときなのだと瞳を輝かせていた。

そこにはやや狂信的なものを感じながらも、勇者を遣わした女神への感謝の気持ちではなく目の前にいる強大な勇者への視線のせいか、前と違って心の支えができたせいか、ただの気持ちのいいこととしてうまく受け止めることができている。

自分を慕うナナはかわいい。だから精液を出してやりはらませてやればいい。

確実に妊娠させるような魔法は使わなかったが、膣内に収まる量であれば指でほじくり返しても落ちないだろうねっとりとした精液がナナの一番奥に発射される。

 

ビュー、ビューと水鉄砲のように強烈にナナの膣内を叩く射精にナナは夢心地のような緩んだ笑顔のまま意識を失ってしまった。

膣からはあふれる精液がゆっくり、ゆっくりと流れだしており、部屋に女の香りだけではなく男の精液の匂いも混ざり始めた。

 

空きがあるならと別の女が尻を振りながら待ちきれないとばかりに膣内に差し込んだ。

部屋には最初と違いさらに人が増えていた。

 

いつ終わるかもしれない愛欲の祭り。

けれど、女性が回復するより早く抱き倒してしまうユウのペースを考えれば……このまま何人と呼び続けてもいつか終わりが来るのは間違いなかった。




二期始まりましたね! 皆さん見ましたか見ましたよね!
リーシアが可愛い一話でした!!

リーシア「頼りになる同僚が楽しそうにいいところに連れてってあげると引っ張って行くのでなにかな、どこかなと思ったら奴隷商のところだった。笑顔で奴隷になりましょう! って言われました\(^o^)/」

そのあとめちゃくちゃ奴隷になった。

でもだんだん笑顔になっていくのはいいですよね! 樹には泣かされましたけどw
それもまたかわゆ……来週も楽しみですが、エクレアがモブっぽく流されてしまって草生えます。オストさんも来週出てくるみたいですけど、どんなに素敵に活躍してくれてもこの話だともう霊亀終わってるし出番ないのが悲しいところ……。


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132 戦乱の始まり

 出しても出しても、いかせても終わりにならない祭りはけれど朝日とフィロリアルの大きな鳴き声で終わりを告げた。

 

「汗を流してくるよ」

 

 股を愛液とねっとりとした白濁液に濡らしたまま寝落ちている女性たちが部屋に入ってくる女官たちに運ばれてゆく。

 その中には可愛らしい顔の女性も多く、少し反応してしまうが、キリがないためぐっと抑える。

 死屍累々と言える部屋はあまりにも濃厚な性愛の香りでこもっており、体に悪い。

 

 部屋を出て風呂場のシャワーで体とネトネトになっている愛液精液を流していると、誰かが入ってくる。

 

「ぱぱ」

 

 桜色の髪をしっぽのように左右に揺らせながらやってきたのはサクラだった。

 生まれたてであることが不思議なくらいに少し年上のお姉さんの見た目でありながら、そのまだ幼い精神とこちらに甘える気配の成果年下に見える。年下も何も娘なのだから当たり前だったが。

 

「サクラ。お風呂は男湯と女湯で分かれてるんだ」

「そうなんだー……」

 

 フィーロの娘であることを考えればさもありなんという感じだったが、フィロリアルに人間的羞恥心を期待するのは結構酷である、というのが感じられた。

 今も返事をしているがあくまでもそういう事実があるという理解で、だから自分がここにいてはいけないとは思ってないようである。

 

「サクラは隣でお風呂だよ」

「でも、今までいっしょだったよー?」

 

 もちろんフィロリアルのサクラである。

 大きめの雛鳥であるサクラはとてもキュートでバシャバシャと水遊びするサクラにふふふ、やったなーなどと水鉄砲で仕返しをしたりとほのぼのとしたひとときである。

 しかし、無邪気に振る舞おうが、その体はとても美しい少女のものである。

 戯れるように抱きつかれる。身長差で頭を挟むように胸が押し付けられる。

 

「……わかった。洗ってやるよ」

 

 王宮の、それも王族などの高位のものが使う浴場は質がよく、石鹸一つとっても現代日本とも全く遜色がない。

 むしろ魔法的な効果をもつしなであり、使えば小さな傷や黒ずみ、ニキビなど簡単に消えてしまうだろう。

 ワシャワシャと泡立て、その肢体を泡で隠すように洗ってゆく。

 

「手ぬぐい痛いー……」

「ええー?」

「ちゃんと洗って」

「ええー」

 

 手ぬぐいがさっと奪われてしまう。フィロリアルの姿であったときと同じようにしろということだろうか。

 両手で頭を洗い、首を撫でるようにこすり……布越しではわからなかった肌の感触が手で直接洗うことでダイレクトに伝わってくる。

 女性らしい体つきはは嫌でも先程までの行為を思い出させる。

 

(中学生になってもお父さんと一緒に風呂に入る娘をもったようなもの……なのかなあ?)

 

 いつになっても子供は子供と無視できないのはまだぱぱ歴が浅いからだろうか。

 流れっぱなしになるシャワーの水音を聞きながら体を洗うことに集中する。

 

「きもちー……。サクラ洗われるのすきー」

 

 それは良かった。

 主張の激しい一部をサクラの体に当ててしまわないように腰を引いていたため間抜けな姿勢のままユウは体を磨き上げた。

 ありがと~と正面から抱きつかれてしまい、その存在を知られてしまったが、知識がないためかこてりと首をかしげるだけで何もわからなかったようだ。

 

 **

 

 一国のクーデター計画を見事収めて帰還、と相成るはずだったが、フォーブレイからメルロマルクに近づくに連れ、メルロマルクから慌てて出ていく商人の姿が一人二人と増えてゆく。

 その表情は皆一様に暗く、しまいには夜逃げのように大荷物を抱えて馬車で何処かへゆく人たちの姿が見えてくる。

 

「一体何があったんですか?」

「う、うわ、か、刀の勇者様? いえ、これはですねえ──」

 

 商人を捕まえて話を聞けば──

 

「クーデター!?」

 

 抑えに行ったはずのクーデターがメルロマルクで起こっていたのだった。

 

「ぱぱ、どうしたのー……?」

 

 馬車を引きたいと言い出したサクラにフォーブレイはお礼とばかりに素晴らしいものを用意してくれた。

 快適な旅。フィロリアルクイーンの大きな姿で馬車を引いていたサクラが驚いた声に反応してこちらを見ている。

 

 心配そうな声であったがそれどころではなかった。

 

「なんで、なんで……」

 

 なぜ、尚文がメルロマルクでクーデターを起こしているんだ。




なかなか更新できずに申し訳ありません。
GW? そうですねえ。。。


霊亀「天から降り注ぐものがすべてを滅ぼす」

霊亀かっくいー!

しかし、オストさんは尚文の仲間兼霊亀編のヒロイン面してますけど、実際は結構霊亀の使い魔の役目を果たしてますよね。
・人間の国に紛れて行動。地位をしっかり築く
・程々の情報しか渡さない(弱点誤認の誘導)
・人間をまとめて霊亀にプレゼント
・驚異となる勇者の監視

霊亀の存在意義等伝えずにただ殺せとしたオストさんは霊亀側どころかボス側なのでは……? 長く生き過ぎて色々思い出せないフィトリアはともかくお前は覚えてなきゃあかんやろー! ということで、オストさんはボスサイドに違いないっ!
(乗っ取られてたせいですけども。)


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133 その目的は?

 

 クーデターの話を聞いてすぐ、サクラとともに龍刻の砂時計の力で転移をしようとしたが、メルロマルクへの転移のみメニューから選べないようにグレーになっている。

 何かしらの封印のようなものが行われているようだ。

 

 逆に言えばこれでクーデターで城……最低でも神殿が抑えられていることが確定したということである。

 みんなは無事だろうか。

 メルさんやラフタリア、メルティマルティなどのメルロマルクにいる仲間たちが心配になる。

 

「ぱぱー……おちついてー」

 

 人の姿のサクラに頭を撫でられる。

 大人の女性にされても別に気にしないのだが、娘のサクラにされるのは妙に気恥ずかしい。

 大きく深呼吸をする。

 

 一直線に城に突っ込むのは危険だ。

 俺に勝てる存在は早々いないだろうが、人質が取られていれば話は別だ。

 人質を目の前で痛めつけられ、抵抗を禁じられたり、自害を命じられたときにどこまで抵抗できるだろうか。

 

 今みんなはどうしているのか。

 一体何があってこうなっているのか。

 何もわからず頭の中でぐるぐると嫌な想像ばかりが浮かぶ。

 

「サクラがようす見てくるー……?」

 

 そんな危ないことさせられない。

 サクラ強くなったから大丈夫だよー役に立つよーと言われたがそうさせるわけにはいかない。

 

 **

 

 尚文がクーデターを起こしたとして目的はなんだろうか。

 盾の勇者の地位はメルロマルクでいいとはいえなかった。

 ただ、それも尚文自身の活躍や、逆に盾贔屓なメルロマルク女王が国に戻ってきたことで大体解決したと思っていた。

 尚文自体領地をもらい、メルロマルクに根を張っていこうとしている印象だった。

 

 ……国王がなにかしたのだろうか? 

 

 領地を取り上げると言い出したらクーデターの1つや2つ……。

 だがそうすると今度は女王はどこ行ったとなる。

 近隣諸国で危ないのはフォーブレイ。だからこそあの国を抑えに行ったのだ。

 

 何にせよ行ってみないと何もわからない。

 

 この国は刀の勇者の姿を知るものは多い。

 消費は多くなるものの、髪色だけを変えるような変装ではなく、現地の少年に見えるよう服装から装備と念入りに見た目を変える。

 金でメルロマルクに入る商人に同行させてもらい、子連れの商人を装いながら国に入る。

 

 国に入った瞬間、どこか荒れだしている空気を感じる。

 舌打ちしたくなる気持ちを抑え、助けてから何度も支援していた女商人のラビにつながる商会に連絡を取ると、すぐに連絡が返ってきた。

 

「女王と尚文が結託してクーデターねえー……」

 

 フォーブレイについて根を広げだしたあたりからひっそりと動き始めていたらしく、数日前の決起からの動きは迅速であっという間に城と神殿が抑えられてしまったらしい。

 

 幸運といっていいかは分からないが、第一第二王女は城の兵士に連れられ脱出。

 今はレジスタンスを名乗りメルロマルク国内は尚文や女王に従う正規兵と反発する兵士たちの小競り合いの日々らしい。

 ラフタリアたちはメルさんを連れて合流しているらしく、協力する姿が見られているとのこと。

 

「尚文の領地の亜人は動かず……?」

 

 真っ先に戦力になるべき領地の民はほぼ動きはなく、レジスタンスの兵士により領地ごと囲まれているらしいが無抵抗らしい。

 

「何がしたいんだ……?」

 

 他の四聖といえば、弓の勇者がややクーデター派なのを除き、元康と錬は戦争には加担できないとノータッチらしい。

 

 




女王が参加したらそもそも、クーデターと呼ばない可能性も?
いえ、尚文が主体になっているようなのでクーデターなのです。

原作ではよく尚文はメルロマルクの勇者のままでしたよねー。
メルティと亜人領の復興したい気持ちが大きかったのかなー

他のなろう作品だったら国を獲っていてもおかしくないですな!


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134 盾の勇者の……

 

「これで……本当に良かったのでしょうか、尚文様」

「ああ。悪いな、女王のあんたの助けが得られたおかげで露払いができる」

 

尚文は大きくため息をついた。

もはやあとには引けない。

メルロマルク国王が座っていた王座にドサリと腰を下ろす。

女王は悲しそうにその様子を見ている。

その隣に寄り添った国王はどこかいまいましそうに、けれどしっかりと口を閉じていた。

 

「神ですか……」

「神だ。ユウですら相手にならない存在だと俺は確信した。これしかない。それよりあんたは良かったのか?」

「この身は生まれた時から王として国家、世界に捧げられています。全人口の2/3の命を捧げて世界を守るなどとても許容できません」

 

この世界ははるか昔から女神に目をつけられていて、波による世界融合現象の段階を進めることで、女神本人がこの世界に降臨でき、その瞬間世界を食われてしまう。

 

それを防ぐために世界に用意された防衛機能こそが霊亀を含めた四霊であり、この四霊に全人口の2/3の命を捧げることで世界にはバリアが張られ、この世界は守られる。

 

大きな犠牲だ。

 

そこに女神は提案をしてきた。

勇を殺し、その魂で代用ができると。

 

女神本人もそうなれば世界を諦めるといっていた。

たった一人の犠牲で世界は救われるのだ。

 

「たった一人の犠牲だ……」

 

女神の力に尚文は勝てないと思ってしまった。

勝負の次元にないのだと理解してしまった。

 

そしてなにより、尚文には守らないといけないものがすでに多くなりすぎていた。

愛する妻、生まれてくる子供。自分を慕ってくれる領民。

信頼してくれる仲間、交流して情を覚えた兵士たち。

運営にあれやこれやと手を貸してくれた裏のパートナーのような女王。

 

尚文はすべてを守るのだと勇者でいることができなかった。

命より大切なものができてしまった。

 

「女神は糞だ。信頼できない」

 

世界を食らう女神メディアも信仰心を得るためにあえて世界を荒廃させる女神も。

だから尚文は立ち上がることにしたのだ。

勇は恐ろしく強い。しかし、女神ほど絶対的な差ではない。

 

「本当にこの盾は有効なんだな?」

「女神が言うにはそうだね」

 

王座に向かって歩いてくる二人に語りかける。

投擲具の勇者とフィロリアルクイーンであるフィトリアだ。

茅野上紬は戦いの始まりが待ち遠しいとばかりに嬉しそうに、フィトリアはどことなく冷たい表情をこちらに向けている。

紬の嬉しそうな表情に尚文は吐き気を感じた。

こいつの策略により尚文はこうせざるを得ななったのだから。

女神の尖兵らしく糞のような存在だったがそれでも今は利用するしかないのが現状だった。

 

「その聖杯は勇者たちが力を合わせて女神に立ち向かうためのもの」

「そうかもね。でも、一人二人の四聖が向けたところで女神様相手にはおそらく有効打にすらならない。ちょっと痛いなって程度さ。すべての四聖勇者と八星勇者が揃い、全員が強化法を共有し、龍帝の援助を受けて限界を突破、それを二世界分。そうしたら命の危険をほんの僅かでも女神様に感じさせれたかも……しれない」

「だからフィトリアは勇者は仲良くしなきゃいけないって言っていた」

 

もしかしたら全員が協力して女神と戦う未来もあったかもしれない。

だが、だとしたら誰も彼もが最悪だった。

情報は女神の端末によって失われ、現地に配置された分体や転生者によって各組織は絡め取られ荒らされつくされている。

勇者は真に一つになることができない。

 

「……今更だ。その勇者の殆どが女神の手のものなんだからな。俺が来る前から負けてたんだ。引き分けに持ち込めるだけだいぶマシだ」

 

0の盾を掲げる。

神を打ち倒す0シリーズ。

盾のステータスを確認する。

 

 0の盾(覚醒) 0/0 -

 能力未解放……装備ボーナス、スキル『0の盾』

 専用効果 理の審判者 世界の守り手

 熟練度 78

 

もっとわかりやすく書けと盾の精霊に言ってやりたい。

しかし、世界の守り手として神に対する対抗手段は勇にも効くらしい。

有効打のなかった勇への対抗手段ができたということだ。

 

投擲具の勇者は私怨で、馬車の勇者のフィトリアは俺の選択を尊重して共に来ている。

女王とそして杖の勇者の国王は王としての責務と俺が勝者になったときの娘の助命を条件に共に戦うことを誓った。

 

「かならず勝つ。未来を愛するものへ」

 

リファナは領地のものに言い含めて隠れ家においてきている。

妊婦が戦いに参加すべきではない。

領民も……無駄に抵抗するなとしている。

 

戦力は限定的だ。

けれど、勝つ。かならず勝つ。

 

勇は悪いやつじゃなかった。

女にはだらしがなかったが、唯一尚文を助けてくれる勇者だった。

作った食事を毎回美味しそうに食べてくれるやつだった。

 

弟より年下の少年だった。

 

「それでも、死ねない……誰にも俺の大切なものを奪わせない」

 

この国に来て差別をされていたとき以上にどす黒くなってしまった瞳。

その奥に憤怒の炎を燃やす。

 

戦いは不可避だった。

 




なかなか更新できずすみません・・・。


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135 レジスタンス!

 

「ユウさまああああああっ♡」

 

旅する行商人ラビはユウという勇者の支援を直接受けている商人として、一代で恐ろしく大きな基盤を作っていた。

そのネットワークは国内を網羅するどころか近隣諸国にまで手を伸ばしだしていた。

だからこそ接触を試みるユウの前にすぐさま現れ、クーデターを起こしたメルロマルク軍に対するレジスタンスへと案内を行った。

そこまでの道中でお礼とばかりにたっぷりとかわいがることでどことなく満足そうにラビと別れる。

 

レジスタンスの中継地は王都から近くもあり遠くもない、そんな地点にあった。

行軍中のように数多のテントが陣を張っている。

何度も声をかけられーー刀の勇者であることを確認して通される。

 

「マイン、メルティ……!」

「姉さまっ! 私が先ですっ」

 

ガバリと抱きつくマインの胸にギュムリと顔を挟まれる。

ふわりとしながらもたっぷりと中身が詰まったいやらしく挟み込んでくる柔肉。

対抗するように左手をつかんで抱きついてくるメルティは比べるとやはり幼いがそれでも良い香りが鼻をくすぐる。

 

「ふたりとも無事でよかった。フォーブレイから直接こっちに来たからほとんど情報がないんだ。皆の状況とーー」

 

まずは自体の把握を一刻も早くと急かすが、メルティが口を開く前に、後方のテントから顔を出したリーシアと目が合う。

 

「ユウ様! ーーみなさぁーん、ユウ様ですよ~~、刀の勇者様ですう~」

 

ふええとフィロリアルきぐるみを身にまとったリーシアが大声を響かせながらポテポテとテントへ戻っていく。

ひょっこりと顔を出したのはラフタリアで、すぐにテント内に戻ると、めるさーんと大声をだす。

その様子にホットひと息。大きくはいた。

 

ユウをどうにかできる相手は早々いないと思っている。

その中で有効なのは人質だろう。

手を出している相手は他にも多くいたが、しっかりと思いを交わして愛していると言える相手の無事は心を落ち着かせた。

 

「でも、一体どうして……?」

 

国家の扱いはともかく、心意気については悪ぶっているが一番勇者らしいのは尚文であると言える。

差別されていたメルロマルクで地に足をつけ、行動でもって評判を上げたのが尚文だ。

領地を得て領主となり、うばらしい手腕で治めてもいる。

残りの三勇者がどうするつもりなのかは分からないが、正直一番出世している勇者でもある。

国家に牙を向き、力による支配を行う必要が一番ない立場であるはずなのだ。

 

その問いに答えたのはメルティだった。

 

「尚文はユウのことを危険視しているわ。世界の敵だって。だからこそ尚文たちは今まで本格的に攻めてきてないんだと思うけど。」

「なるほど」

 

確かにグラスや絆の世界を救える世界の融合にユウは賛成であった。

波をよしとするという意味ではこの世界の敵であるともいえる、のかもしれない。

 

女神は信頼できるとはいいづらかったが、両方の世界を救う手が他にないのも事実である。

であれば勇者として波を穏便に治めて世界の四聖勇者を同数に保ち、融合後の混乱を納めることこそが世界を救うことだと思っていた。

 

「尚文だけじゃない。弓の勇者の樹も尚文の元へ行ってしまったわ。その、槍の勇者の元康さまと剣の勇者の錬さまはここにいるわ」

「そう」

 

よしよしとメルティの頭を撫でる。

フォーブレイにいる間に少し成長したのか、少しだけメルティは頭をなでやすいように背伸びしている。

どうやら少し男らしく背が伸びているらしい。

 

「話を、するしかないか」

 

大きくため息を付く。

しかし、ユウはさほど事態を大きく思っていなかった。

なにせ、自分と他の勇者には強さの差があるのだ。

軍隊を傷つけずに進むのは大変だろが、それでもやりようはあるだろう。

 

尚文のもとにたどり着き、話を聞いたあとにボコってしまえば解決である。

今までこの世界で驚異を女神以外に感じたことがなかった。

 

そのせいだろう。

 

その程度にしか事態を捉えていなかったそれは大きな温度差を生んでいた。

 

 

**

 

「ユウ様!」

 

目をうるわせながらもラフタリアは冷静だった。そっとユウを抱きしめる。

控えめだったがそれでも再びあえて嬉しいと全身から伝わってくる彼女の態度に胸が暖かくなる。

 

「尚文様は……リファナちゃんはどうなるんでしょう……」

 

むぐっ。

殿がつまり言葉がでなくなる。

尚文の妻であるリファナはそれこそ罪人扱いされてしまう可能性がある。

尚文がクーデターを起こした以上それを納めるとなると難しい立場であると言わざるをえない。

 

尚文と一緒に逃して……でも領地についてはどうだろう、反乱に参加こそしてないが……。

悩ましい環境から帰ってきたはずだったがユウの頭はむしろ痛くなるばっかりだった。

 

「尚文、恨むぞ~」

 




尚文の行動の理由がはっきりわかっていないので、ユウに勝てるわけ無いじゃんな味方陣営。


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136 反攻!

 

クーデターを起こした尚文は何をする気なのか。

皆の調べでは国中から様々な素材を複数集めているらしい。

 

勇者としての強化を行っていることは当然として、レジスタンスには尚文の他にも勇者がいるのだろう。

レジスタンス側……反尚文軍に所属している四聖は剣の勇者である錬と槍の勇者の元康だ。

 

ふたりともカースシリーズの発動の影響か精神的にどうもあれだが、それでも国を救うためとこちらについてくれているらしい。

行方がわからないのは弓の勇者の樹である。

尚文とうまくやれるとは言いづらい人物であったが、彼なりの基準ではなにがしかの正義があるということである。

 

「樹様ならむしろレジスタンスに参加してもおかしくなさそうですけど……」

 

司令室となった大きなキャンプ内のテーブルに主要人物たちが座る。

リーシアはここにいない樹に対し心配そうな表情を浮かべながらもどこか納得がいかなさそうだ。

 

「それだけユウ様が嫌いなんでしょうか?」

「俺かー」

 

確かに樹とは仲良くな会ったとは言いづらいかもしれないし、元仲間のリーシアを引き連れて入るし、思うところはあるのかもしれない。

 

「やつは土壇場で俺たちと違ってカースシリーズを開放して戦うという選択肢を取れなかった。そのせいで俺たちのついてない陣営を選んだという可能性もある」

 

カースシリーズの影響か独占欲が跳ね上がっているらしい錬はテーブルに置かれた茶菓子を食べないにも関わらず手元に引き寄せながら言った。

 

「ゲームならおかしいことではないだろう? ーー4人中2人が向こうについたなら自分はあっちにつこう、なんて考えてもな」

「樹らしいですぞ」

「ゲーム感覚かあ……」

「そうでもなければ戦争になんてまともな精神なら参加できないだろ? 俺達みたいなのが」

 

たしかに初めて生き物を殺したとき恐ろしいほど怖かった。

それが人間であればなおさらである。

クーデターなんて起こせば人と人との闘いになる。

 

「わからないのは尚文の狙いだ……。不満は誰よりもあっただろうが、だとしてなぜ今だ? 恨みがあったなら領地をもらったのもわからん」

 

お手上げと手を振る錬。

そう、そこが一番解せないところである。

 

「会議中に申し訳ありません! 盾の勇者軍から声明が!」

 

ガシャガシャと大きな音を立てながらテントに入ってきた兵士が声を荒らげながらも報告する。

この場にいる皆が知りたい内容である。

一瞬にして場が静まる。

 

「報告を」

 

メルティのよく通る一言で兵士が口を開く。

 

「『波とは世界の融合現象。融合を果たし、大きくなった世界は悪しき神々に狙われ続ける運命にある。

この世界と別の世界の融合を防ぐため、刀の勇者ユウを全力をもって倒す。これは世界を救うための聖戦だ』……以上です」

「ありがとう。退室しなさい」

 

敬礼を返しその場を去る兵士。

彼が出ていくと同時に周りに混乱の空気が広がる。

最初に口を開いたのは錬だった。

 

「……事態がつかめない。なにか知っていることがあるんだろう? 話さないなら俺は尚文に聞きに行かなきゃならないぞ」

「ふっ、俺と戦うのに聖戦などと馬鹿らしいですぞ」

「……元康は黙っててくれ」

 

きりりと告げる元康の言葉は流されてしまう。

四聖勇者は恐ろしい敵ではない……はずだがそれがわかっているはずの尚文が怖い。

少なくても勝機があって行動しているはずだ。

不安要素を増やしたくないと説明をする。

波は世界同士が融合する現象で、過去にも起こっていた。

今は四聖勇者だが、かつては二聖であり、今回の融合で八聖になるのだと。

 

世界同士が協力し、穏便に融合を迎えることを目標にしていること、世界を壊そうと考えている女神と別の世界を育てることを目的にしている女神と協力することで、別の女神からのちょっかいを防げることを説明する。

 

「女神にあったことのない俺にはそれがいい選択なのかわからないが、他に世界を救う手段はないのか?」

 

世界を救う手段は2つ。一つは霊亀を含む四霊による結界。ただこちらは霊亀が倒されている上に、結界の発動には世界中の人々の魂が必要であるということ。もう一つは女神を倒すことだが、これは自分が一生をかけて強化をしても全く歯がたたないだろう相手であると告げる。

 

「霊亀を倒した俺たちのせいか。……全人口の2/3なんて許容できないだろ……ここじゃないにしても世界の滅亡もな。実質、勇に乗るしかないじゃないか。ーーでも、それがわからない尚文じゃないだろ?」

「そうだね~。女神にそそのかされる尚文でもないと思うんだけど……」

 

波を防ぐことを目的としている尚文どいうことで、世界の融合を支援する俺を敵と扱うくらいなら分からないでもないが、俺を倒してどうするというのか。

 

「どちらにせよ、負けるわけにはいかない。尚文を倒してふんじばってやろう」

 

結局、話は倒してから聞けばいいのだ。

 

「脳筋だ。でも、ゲームの勇者みたいだなーー協力しよう」

 

負けるわけにはいかない以上勝てば良いのだ。

理由は勝ってから聞くとしよう。

ゲームの勇者らしい脳筋さに笑ったのは錬と勇だけだった。

 

 




最近更新できておらずすみません、忙しいとか暑くてぐったりとかいろいろでしたが、気合い入れて頑張ります。


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137 決意の理由

 

尚文との戦いを決意した俺たちは戦いの準備を整える。

とはいえ、いつでも反攻できるように整えていたレジスタンスの準備は万全であり、それこそ俺のパーティでの準備さえ整えれば問題ない、そういうレベルだった。

 

翌日の朝から出撃するという話に、じゃあ夜はゆっくりしないとだね、と思っていた矢先に彼女は現れた。

 

「うわーー、勇ごめんーー!」

 

半泣きの表情でこちらに飛びついてきたのはグラスやラルクたちと同じ異世界の四聖勇者、絆だった。

勇者の強靭な身体は突撃するような勢いであってもバランスを崩さずそっと受け止めることができる。

わけもわからないままそっと抱きしめるとごめん、ごめん、ごめんなさいと謝罪が続く。

 

どう見てもなにか悪いことが起こっていたがまるで話にならない。

落ち着いてとゆっくり背中を撫でると徐々に落ち着いてくる。

それと一緒に大声を上げたせいで声を聞いた周囲のテントからなんだなんだと人が顔を出し始めてくる。

 

「私の世界の四聖が一人死んでしまったんだっ!」

 

……一大事である。

 

 

**

 

 

「ツムギを名乗る投擲具の勇者がそちらの世界から攻めてきたんだ。そいつは一人であることを生かして各国を転々としながら多くの人間を虐殺して回った。襲われた村、街、国。どこも宝も資材も根こそぎ奪っていくような有様で。オレたちも対策を取って次の襲撃国を予想しながら罠を張って待ち構えてたんだけど、何度もそれを外されて。そのうち一部の四聖勇者が閉じ困ってるなんてできない、討って出るっていいだしてさ。結果としてその勇者が殺されてしまったんだ……。今はこっちの……盾の勇者陣営に加わっているってわかって駆けつけたんだ」

 

絆の世界では四聖勇者は各国バラバラに召喚されており、国ごとの思惑もあり、連帯感がほぼゼロである。

こちらの四聖も仲良しとは言い難いが同じ四聖勇者とまとめられ、会議だなんだと顔を合わせており、それなりの仲ではある。

そんな異世界の四聖状況をうまく利用されたのだろう。

 

「別に四聖が一人減ったって問題あるか?」

 

集まってきた錬は訝しげにそう言う。

大有りである。

かつて女神はこう言っていた。

 

『そうじゃな。あとはまあ、四聖を失うと波の影響を受けすぎて融合ではなく消滅になる。融合までは四聖を失うな、くらいじゃな。一人二人なら失ってもいいが、そのときはバランス取ってもう片方も減らしておくことじゃな。バランス悪くなるからの』

 

すなわちバランス取りにこの世界も四聖勇者を倒すことを要求される状態になってしまったと言うことだ。

ツムギという投擲具の勇者は明らかにビッチ女神の勢力だろう。

この勇者の動きのせいで、クーデターへの反攻の最終目的は尚文の捕縛から殺害に変わってしまったのだ。

尚文もまたおそらくこのことを知っているに違いない。

 

「だから尚文は立ったのか……」

 

四聖のうち誰か一人が死ななきゃいけない状況で誰を選ぶか。

あえてクーデターを起こすことで犠牲になろうとしているのだろう。

 

「ごめん……友達を……」

 

自分は尚文をたお……殺せるのだろうか……。

元康や樹は世直しや美人助けるためにと悪人を倒している。

日本人なのにさすがと言いたいところだが、勇者経験が誰より深いはずの自分はけれど、人を殺すことに人一倍抵抗がある。

冷や汗がダラダラと流れ始めるのがわかる。

 

「い、いや、悪いのはその投擲具の勇者だし……でも、これ以上四聖勇者を殺させるわけにはいかない」

 

尚文を倒している間に再び勇者が殺されたとしたらもう団結どころではない。

すべての四聖勇者が殺されないために動くだろうし、殺される前に殺してやるなんてなったら目も当てられない。

 

「錬、元康。2人は絆と一緒に異世界に行って全四聖からこれ以上の被害が出ないように守ってもらえる?」

「良いですぞー! 勇者を狙うなんて非道、許せませんからな!」

「ああ。でもお前たちだけで大丈夫か? もしかしたら四人の中で誰かが選ばれるなら自分だと思ったのかもしれないし、そうだとすると本気で襲ってくるかもしれない」

「ああ、でも、他の人には頼めないことだから……」

 

ああ、嫌だ。

誰かにお願いしたい。

 

けれど、世界を荒らした目的は四聖勇者を殺すこともだろうがーーレベル上げとステータスアップが目的だろう。

各国の資材をあさりに漁った勇者はタクトレベルではすまない強さになっているはずだ。

そしてそいつが尚文の裏にいると言うなら、戦闘無しですむとは思えない。

メンバーの中で最も強力な自分たちこそ向かうべきなのだ。

 

倒すから殺すになってしまった途端に体の重力が何倍にもなったように重くなるのを感じた。

 

 




異世界四聖を殺すだけで尚文を味方にして、他の三勇者を異世界勇者防衛戦力に引っ張ることができるのだっ!

ユウは強いけどユウがいない方の世界でゲリラ的に四聖勇者を狩られると同しようもないという弱点。なので、向こうが決戦をのぞむというなら好都合として受けなきゃいけない的な。

それはそれとしてアニメになると更に可愛いよね、絆かわいいよ絆!


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138 戦わなければいけない

 

ユウは今更になって体が震えているのに気づいた。

 

今までは正直、尚文は馬鹿なことをしたなあ、とそのくらいでしかなかった。

けれど尚文は知っているのだ。いや、ビッチ女神の使いが四聖勇者の欠けを理由に尚文を惑わせたのかもしれない。

絆の世界の四聖勇者はかけた。

すなわち、この世界の四聖も減らさないとバランスが取れない。

 

誰かを殺さなければならない。

 

ユウには決められなかった。

けれど、世界は勇にこそ決断を求めるだろう。

 

『誰を殺すか』

 

ユウが味方をすればその相手には勝てないのだから、結局のところ、ユウが選んだものが死ぬことになるのだ。

尚文はわかっていて反乱を起こしたのだろうか。

殺される理由を作るために。

 

ユウは勇者ではあったが、それでも人を殺す一線を超えられないままだった。

魔王を殺したことはその一線を超えたことにもなるが、だからこそそれ以上に超えることができなかった。

世界中の誰もが殺してもいいという盗賊だって殺せなかった。

友人でもあった尚文を自分は殺せるのだろうか。

 

殺さないでいたときの天秤は世界だった。

あまりにも重すぎた。

どう考えても尚文を殺さない理由がなかった。

 

「うっ、うっ、ぐ、うう……」

 

尚文は善性の人だった。

人に優しくできる人だった。

やさぐれていても、ユウに優しくしてくれる人だった。

料理は美味しく、気遣いは心地よかった。

一生懸命で自分より生きている人だった。

 

尚文を殺したくはない。

ーーじゃあ誰を変わりに殺す?

 

ユウは八星勇者で四聖ではないのだ。だから自分が代わりになることはできない。

元康も錬も樹も、誰もがさほど悪い人間ではなかった。

調子に乗っていても、空回りしていたとしても、善性の人間に間違いなかった。

正直、女に溺れていた自分より遥かに立派だった。

殺すほどの死ななければいけない人間ではなかった。

 

あらゆる状況は【革命を起こし国を乗っ取った悪い勇者尚文】を殺せと告げていた。

 

ユウは誰よりも強かった。

だからこそ自分が殺すことになるとわかっていた。

 

気分が悪い。夢に逃げたい。

けれども吐き気がして眠れなかった。

それに眠れば戦わなければいけない。

それまでになんとか納得しなければいけないのだ。

 

でも、ーーけど……

 

脳内での自分たちの口論は永遠に終わらなかった。

 

「ユウ様、入ります」

 

テントに入ってきたのはラフタリアだった。

ユウのうめき声以外何も聞こえないテントの中、その声は静かに凛と響いた。

ラフタリアは返事も聞かずに入ってくる。

 

「ユウ様」

 

どうしたの。そんな言葉も返せず、テントの中で一人ミノムシのように丸まっているユウに、ラフタリアはそっと寄り添う。

 

「リファナちゃんに恨まれようと……尚文様は私が倒します」

 

そう告げる。驚き毛布から跳ねるように体を起こし、ラフタリアを見つめる。

 

「盾の勇者は私が殺します。ユウ様は手を出さないでください。私がやります」

 

リファナは尚文の恋人で妻であった。

そしてラフタリアの親友だった。

誰より、どこか自分より幸せになって欲しいと願っているようだった親友の大切な人を奪うというのだ。

 

「リファナちゃんには恨まれると思います。嫌われると思います。友達じゃないって言われるかもしれません。でもーー」

 

ラフタリアはユウの手を取った。

 

「ユウ様は人を殺したくないって思っているのは知っています。だから……私が、盾の勇者様を……」

 

言ってはいけない言いたくない言葉を絞り出すように、けれどはっきり覚悟の言葉を口にする。

 

「ナオフミ様を殺します」

 

ラフタリアは笑って答えた。

その気持ちにすがりたくなった。

けれど気付いてしまった。

 

どこか歪なその笑顔に。

 

盾の勇者は亜人の味方の勇者で、親友の旦那で、一緒に旅をした仲間で。

自分と同等かそれ以上に殺したいだなんて思っていないのに、自分を愛してくれる相手に押し付けるのか。

 

殺しは、ユウにとって超えたくない一線だった。

人であった魔王を殺してしまったからこそやりたくなかった。

 

「ラフタリアに、愛する女にそんなことをさせられないよ」

 

毛布を剥ぎ取ってラフタリアの目を見て答えます。

ラフタリアの手をそっと握るが、その手はプルプルと震えており、顔色は悪いままで冷や汗がだらだらと流れている。

腰は引け、どこか情けなさが見えていただろう。それでもユウは答えた。

 

「でも、いっしょにいてもらっていい……?」

 

プルプル震える手を包むようにラフタリアの手が重なりました。

 

「私はユウ様の剣。あなたのいるところが私のいるところです」

 

 

**

 

口にした瞬間に嘔吐してしまいそうだった。

盾の勇者様は私達の村の、亜人たちにとっていっそ信仰対象に近い存在だった。

なにかあっても、きっと盾の勇者様が助けに来てくれますよ。

 

夜を怖がる子どもたちの心を慰める定番だった。

だからこそ、ラフタリアにとってはどこかおとぎ話の英雄だったが、親友のリファナに取っては実在する偶像だった。

その思いはどこまでも貫かれ、本物の盾の勇者であるナオフミ様にもしっかり向けられ、惚れ込んだ、あるいは惚れ直した、という感じであっという間に恋仲になってしまったようだ。

 

だから子供ができたかもしれないというリファナに素直に喜んだ。

 

(良かったね、リファナちゃん)

 

同じく勇者の子をお腹に宿したメルさんは羨ましい存在だったが、私はユウ様の隣に立って戦いたいと思っていた。

子供ができたらそれが果たせなくなる。

それでもいつかきっと、そう思っていた。

 

ナオフミ様が敵になったと知ってもユウ様は軽かった。

ユウ様は強い。四聖勇者であってもの簡単に倒せてしまうことは証明済みだった。

けれど、殺さないといけないとなった瞬間に、顔色が一気に悪くなった。

 

周りの、それこそ勇者以外の者にとっては反乱を起こしたナオフミ様を止めることも、殺して四聖勇者様の数を合わせることも対して違いがないようだった。

国家に対する反逆なのだから、それはそうだろう。

けど、ユウ様には違うようだった。

今にも死にそうな顔でふらふらとテントに戻ってゆくユウ様。

 

「なにか病気でしょうか?」

 

そう不思議がるリーシアさん。

それはそうだ、クーデターを止めるという話にはなんともなかったのだから。

 

けれど、一緒に盗賊を退治したりと一緒にいた私にはわかっていた。

ユウ様にとっては違ったのだと。

 

だからこそ、私がやろうと決めたのだった。

誰よりも強いユウ様の心を守ろうと。

 





忙しかったりテンションが上がらなかったりしているうちに数ヶ月が!
エタらないつもりなので気長に応援お願いします……

盾の勇者リライズアプリが盛り下がっており、あとは運営費下回るまで適当に延命するかーってなっててテンション下がったりとか色々……。


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139 戦場へゆく男は女を抱いてゆく

 

ユウの誓い。

ラフタリアはそれが痛々しい気持ちになったが、それでもどうしようもないこの世界でそうせざるを得ないのだ。

けれど。

 

(ユウ様はそう言ったけどーー私がやろう)

 

ユウ様がやるくらいなら自分がやったほうが心は苦しくない。

ごめんなさい、ナオフミ様。

 

ぶっきらぼうでけれどたしかに優しいどこかお兄さんのような彼に心のなかで謝る。

 

ごめんなさい、リファナちゃん。

幸せを掴めたはずの親友の最愛の人を奪うことに。

けれども、そのすべてが彼を守ることに比べれば答えはひとつなのだ。

 

どこか平気な風をしてきりりとした表情を浮かべるが、顔色は今も悪く小さく震えている。

ラフタリアはユウをそっと抱きしめた。

 

奴隷商から買われたときは自分より大きかったのに、今では自分のほうが大人に見える。

けれど旅で日々彼もまたおとなになっていった。

少しずつ身長が伸びているように見えたし、体つきも大きくなってきているようだった。

リファナと同じ幼なじみのキールくんと並べばその違いに驚くことができただろうか。

 

心もまた一気に成長する亜人である自分と違い勇者である、人であり、平和な異世界で生きていた彼は理屈が違うのだ。

旅の中で時々聞かせてくれた彼の故郷の話。

この世界で勇者になる前も別の世界で勇者になっていた彼はそれでも家族を語るときはいつもより表情が柔らかくて。

 

平和で倫理的で命のやり取りのない穏やかで賑やかな世界。

 

すごいなあ、そんな世界に行ってみたいなあ。

 

でも、そんな世界から来たんだなあ……って。

 

最愛の男性をラフタリアは心だって守りたい。

 

**

 

そっと抱きしめる。静かなテント内ではお互いの吐息と心臓の音がとても大きく聞こえる。

静かにお互い聞き入るように抱き合う。

ゆっくりとラフタリアの体の中に沈み込んで行くようにユウの体は脱力しており、それがより一層相手の体温を感じる結果になる。

ゾッとするほど冷たかった彼の体に温かみがうつっていくようだった。

 

砂時計がこぼれ落ちきるくらいそうしていると、いつの間にか彼の震えは止まっていた。

 

「なんか……恥ずかしい」

「そうですか」

「赤ん坊みたいだし……」

 

そう言われてよしよしと撫でる。

 

「調子に乗ってっ!」

 

反撃するようにユウはラフタリアの胸に吸い付いた。

ユウはうまい。舌で千房をなぞられるだけで簡単にスイッチが入ってしまう。

何度となく体を交わせば簡単に胸だけでイケるようになる。

 

けれども今はあやすイメージのせいで快感を感じながらもより深まる愛おしさにぎゅっと抱きしめる。

胸のうちにコンコンと湧き出す幸福感にうっとりと浸っていると、顔を胸元に抱え込まれて動けなくなったユウはもぞもぞと体勢を変えながら大きく凶悪に固くなったそれをパジャマをずらしながらそのまま挿入してくる。

抱きしめあったこと、胸を愛撫されたことでだらりと溢れ出していた愛液が挿入を柔らかく受け入れてしまい声が漏れる。

 

「あんっ♡ イタズラはだめでちゅよ、ユウ様♡」

「何がユウ様だ! 年齢はお前のほうが子供じゃないか。俺はこんなに男なんだぞっ」

 

頭を抱えられたままの体勢でもものが刺さっているのなら問題ないとばかりにグッチュグッチュと動かれ、そのたびに水音が大きくなっていく。子供を抱えるような気持ちはあえぐ声と一緒に漏れ出してゆく。

 

「ゆっう、ユウ……様はわるいっ、男ですねっ♡」

 

知り尽くされた中身は蹂躙されるがままだった。

しかし、何度となく交わした体と獣人の体力でユウを抱きしめたまま攻め返す。

腟内を締め付け、緩め、再度締め付ける。

強弱をつけて行われるその行為は蛇の捕食の方にグイグイと奥に飲み込んでゆき、緩急のあるその動きは強く締め付けられるたびにユウの射精感を煽った。

 

獣人のとろける熱さのとろりとした腟内もまたその強い攻めを心地の良いものとして実現させていた。

心が弱っているときに抱きしめられ、感じ入ってしまっていて、弱まっていた隙間を突かれた形になっており、相手をいかせるより先に射精してしまいそうになる。

ギュッと力を入れて出てしまわないよう締め付けるもののーー

 

「ふふっ、いい子いい子です……♡」

 

ジュブジュブと愛液を書き出すようにストローク強く腰を振っていて、ラフタリアは感じているはずなのに、優しく頭を撫でられる。

それがどうにもむず痒くて……気が緩んでしまった。

 

「あっ……!?」

 

ドビューーっ!!

 

強力な水鉄砲を打ち付けたような勢いで精液はラフタリアの奥に放たれた。

粘土の高い精液はいつもならビッタリ奥に食いついていたが、不意を打たたせいで制御なく出しっぱなしにされており、一回の射精でコップを倒したように諾々とラフタリアのあそこからたれ流れてくる。

 

「いっぱい出しましたねっ。ユウ様エライです♡」

「ムムムッ」

 

お姉さんぶっている。

年下のくせに。

 

それが妙に気に食わなかったユウは抱えられたままの体勢から力付くでラフタリアを押し倒した。

 

「勇者として舐められる訳にはいかないっ!」

 

何がどうして勇者としてなのか本人もわかっていなかったが、抱きしめてくる手を抑え込み、犯すように腰を降り始める。

これにはラフタリアも母性溢れた状態からようやくいつもの男女の空気に変わってゆき……

 

そのまま作戦開始の直前まで2人はまぐわいつづけた。

 

作戦に呼ばれて部屋を出ていくユウとラフタリアの代わりにテントを片付けていた兵士はーー

 

「うわくっさ! 匂いだけではらみそうっ!」

 

あまりにも濃厚な男と女の匂いに咳き込んだ。

 




前回の投稿から……え、まじでって時間が立ってしまいましたが、エタらないつもりではありますので頑張ります……。


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140 戦闘開始

 

 それは正しく戦争だった。

 

 メルロマルク王城を舞台としたレジスタンスと王国軍率いる尚文の兵士同士の戦い。

 技量はお互いに同程度。

 人と人のぶつかり合いは多くの血を流し始めている。

 

 数自体はこちらのほうが多いが、向こうには地の利がある。

 城壁から雨のように降る矢の一斉掃射はこちらの先鋒を削り、その後のぶつかり合いで一気に押し返されてしまっている。

 

「出る」

 

 本来ならここで錬たち勇者PTの力を使いながら王城内に流れ込み、ユウが決戦を引き受ける流れだったが、絆の世界での四聖勇者の欠員から絆PTを含めて錬や元康はあちらに行き、自分を含めて残りの四聖勇者同士守りを固めてもらっている。

 そのせいもあり、現状の最上位PTはユウPTだけであり、残りは万が一にも落とされる訳にはいかないメルティとマインたちである。遠くから魔法を使うことはできるが前線投入とまではいかないレベルになる。

 

「《生体感知》……死なない程度にぶっ飛ばすっ! 《風波動弾》っ!」

 

 魔法で対象を選択し、風を大砲のように固めた玉を打ち出す。

 その力はすべての兵士を吹き飛ばそうとして──

 

『我、盾の勇者が女神の力を借りて天に命じ、地に命じ、理を切除し、繋げ、膿みを吐き出させよう。 龍脈の力よ、我が魔力と勇者の力と共に力を成せ。 力の根源たる盾の勇者が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、彼の者等に全てを与えよ』

 

「アル・リベレイション・オーラⅩ!」

 

 大きな力の波動が戦場全体に行き交う。

 それなりの痛みを与えるはずの風の波動は、多少の傷みを与えるに終わってしまう。

 軽いジャブを食らった程度に怯んではいたが、すぐに体制を整え、反撃をしだす。

 

 彼らの力は恐ろしいほどに強化されており、一人を数人で抑えなければあっという間にやられてしまうほどだ。

 まるで巨人になった敵を相手にするように全体が押されだしている。

 

「これがオーラだって?」

 

 キッと王城の一番上、バルコニーからこちらを見る尚文を睨んだ。

 オーラの魔法はこちらも使える。

 だが、認識の差なのだろうか、ユウのオーラの魔法の範囲は最大でPT分である。

 軍隊全てにかけるような魔法ではなかった。

 

 威力を上げて再度全員を攻撃する手はあったがここまで強化された相手をやるとすると範囲が大きくなり戦っている仲間を巻き込む。種類を変えて状態異常で麻痺や毒を考えるがサポートが本職の盾の勇者が相手であると考えると結局お互いの手のつぶしあいになる。

 

「《生体感知》」

 

 今度は敵ではなく味方を対象にする。

 

「《プロテクション》」

 

 ドラゴンの攻撃を防ぐ防御膜が味方兵士を包む。

 最初の波で村人たちを守った力だ。

 とは言え、防御だけが硬いこちらと全ステータスが向上した向こうでは結果はしれている。

 だが、プロテクションはダメージ減少ではなく一定値まで完全なダメージ無効である。

 であれば取れる手段がある。

 

「メルティ! マルティ!!」

 

 後方に向かって大きく声を張り上げる。

 返ってくるのは二人の返事と──

 

『力の根源たる私が命ずる。理を今一度読み解き、彼の者に水の塊を射出せよ』

「ツヴァイト・アクアショット」

 

『力の根源たる私が命ずる。森羅万象を今一度読み解き、彼の者等に炎の雨を降らせ』

「ツヴァイト・ファイヤースコール」

 

 水と炎の魔法が兵士たちを吹き飛ばす。

 敵味方関係なく魔法は降り注いだが、味方の兵士だけはプロテクションに守られダメージがない。

 

「ならばっ!」

 

 尚文が魔法で守ろうと発動させる瞬間に──

 

「《イージスの盾》」

 

 あらゆる魔法、呪術を防ぐ代わりに防いだ魔法の10倍の魔力を消費する魔法で阻害する。

 打ち合いを続ければ先に魔力が空になるのはこちらだろうが、それさえバレないのであれば向こうにとっては手を潰され続けるように感じるだろう。

 いつでも対応できるようにこちらは待機する必要があるが、現状で大きく影響を与えてくる尚文をフリーにはできない。

 

「いまなのねー!」

 

 強力な魔法に倒れ数を減らした敵に一斉に味方の兵士が襲いかかる。

 それに合わせてガエリオンが空を舞い、悠々と攻撃の届かない高さから炎の玉を吐き続ける。

 

「ぎゃー!」「ぐわーっ!」「弓兵っ、弓兵っ、まずはあそこっおっ!!」

 

 ドラゴンを狙える相手はまっさきに落とされ、段々と責められる一方になっていく。

 

「ユウ様! ここはガエリオンに任せて先に行きましょう!」

 

 後ろを振り向けばこちらに向かって親指を立てるメルティと余裕そうに高笑いをしているマイン。

 

「任せた!」

 

 戦場を兵士たちに任せ、ユウ、ラフタリア、リーシアの三人が王城へと飛び込んだ。

 

 

 




久しぶりの投稿はドキドキします。おてやわらかにー


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