ベストプレイス (自由人❀)
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始まり
えっと、どちらさん?


思いつきで書き始めました。駄文かもです。時間を無駄にしたくないならブラウザバックお願いします。


 水曜日。週の真ん中であり、あと2日頑張れば休みと考える者もいれば、あと2日もあると考える者もいる。ちなみに俺は後者だ。

 今日は曇り空でもしかしたら雨降るかもしれないと危惧していたが幸い降らなかった。雨降ると教室で食べるしかないからなぁ……

 しかしリア充共はなんなの? とりあえず騒がないと死んじゃうの? 飯くらい騒がないで食べましょうってお母さんとかに言われなかった? 

「ねぇねぇ何してるのー?」

 昼食予定より早く食べ終わってくだらない考えに深けていたら声が聞こえた。

 まぁ、俺なわけないよな、お友達と会話してる最中だろう。と思ったのもつかの間。

「ねぇってばー! なんで無視するの!」

 え? 俺? てかどちらさん? リア充ってなりふり構わず声かけれるの? 

「え? お、俺に言ってたの?」

「そうだよ! なんで無視したの?」

「え、あ、いや誰かと話してたのかと。てかどちらさん?」

 ちょっとキョドってしまったけどまあセーフ。ぼっちは会話もしない地球に優しいエコな生き物だからな。

「どちらさんって酷いなぁ……同じ2年F組の若宮 楓奏だよ」

 あぁ……そういえばクラスに居たような……ぼっちだから分からないもん

「で、なんか俺に用あんの?」

「ううん。ここ歩いてたらたまたま見かけただけ」

「……」

 え? 見かけたら声掛けるの? そんなに不審に見えた? 防犯パトロール的な? あ、生徒会の人かな? 八幡悪いことしてないよホントだよ? 

「あ、邪魔だったのか」と納得し、一言言って去ろうとしたら、裾引っ張られてた。

「ちょっと待ってよ! 少しお話しない? ほら用が出来たよ?」

「それで用が出来たって……つーか話すことないだろ。クラス同じとはいえ今初めて会話したわけだし」

「なんとなくだけど比企谷くんと話してみたいなって思ってさ。ダメかな?」

 え? 俺の名前知ってんの? 全校生徒の名前覚えてる系女子? 記憶バトルで雪ノ下といい勝負できるんじゃね? 

「え? 俺の名前知ってんの?」

「クラスの人ぐらい覚えるよ?」

 さすがに全校生徒は無理か。そう考えると雪ノ下やべぇな。悲しいこと俺はいないことになってたけど。ぐすん。

「お、おう。そうか。で、さっき言った通り話すことなんてないと思うぞ? なにせ今初めて会話したようなもんだからなぁ……」

「そっか……じゃあ比企谷くんはこんなところで何してたの?」

「えぇ……まぁ飯食ってただけだ」

「たしか廊下側の席だよね? 昼休みいつも席が空いてたけどここで食べてたんだね。教室で食べないの?」

 おいこら。ぼっちには居場所ないんだよ。教室で食べるのがスタンダードにするな。

「ぼっちだから居場所ないからな」

「えぇ……でもたまに教室で戸塚くんとお話してない? 一緒にご飯食べたりしないの?」

「戸塚はだいたいいつものそこのテニスコートで練習してるからな。一緒に飯食ったことはない」

「へぇ……いつもここでご飯食べるの?」

「雨降らなきゃ基本ここで食べてる。雨の日は濡れるから嫌々ながら教室だ」

「はは……じゃあさ! 明日のお昼休みもここに来ていいかな?」

 めっちゃ目を輝かせてやがる。何気に普通に会話したけどリア充の距離縮め方半端なくね? てかこの会話の流れから一人がいいんだなって察して欲しかったわ。

「なんでだよ。一人で食べたいからここにいるんだろーが」

「ダメかな……?」

 上目遣いやめろ。お兄ちゃんスキル発動しちゃうでしょーが。

「まぁ、ここは俺だけの場所じゃないし来るのは自由だと思うぞ?」

「……! じゃあ明日もここに来ていい?」

「お、おう?」

「じゃ先に教室行くね! ありがとう話に付き合ってくれて!」

「お、おう」

 反射的に返事してしまった。これ雨降らなかったら間違いなく来るパターンだよな……どうしよ……俺の安息の地はなくなってしまうのだろうか? 

とりあえずマッ缶買うか……




初めて書いて見ました。気が向いたら更新して行こうかなと考えております。
何か意見ありましたらお気軽にどうぞ。ちょっと原作沿って、基本オリジナルの予定をしています


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いろいろ遠いようで近かった。その1

見切り発車の第2話です。よかったったら駄文を読んでってください。


 昼休みも終わり、今は5限目だ。ちなみに数学の授業である。数学はもう捨て科目だからどうでもいいんだよなぁ……寝ようかしらん。

 しかしなぜあの時若宮は俺に声掛けたのだろう? 話してみたかったって言っても彼女は外見もどちらかといえば可愛い部類に入るだろうし、どちらかといえばリア充側の人間だと思う。何がとは言わないがそこまで大きいとは言えないけどね。何考えてんだ俺。てか明日あそこに来そうだよなぁ……雨は夜に降って、明日の朝には晴れるみたいだし……

 

 

 

 ☆

 

 

 

 くだらないことを考えながらウトウトしてたらいつの間にか放課後になっていた。部活あるから準備してさて行くかという時に声掛けられた。今日よく声かけれるな俺。しかもご丁寧に肩を軽く叩いてきた。

「ねぇねぇ、一緒に帰らない?」

 は? いやだから距離の縮め方エグくない? まだ昼休みで初めて会話したぐらいなのにもう一緒に帰っちゃうの? 誰かといないとダメならお友達と帰れよ。てか部活あるし。

「え、いや、部活あるし」

「え? 部活入ってたの!? へぇー何部なの?」

「奉仕部。とにかく部活あるから無理だわ」

「奉仕部かー、名前は聞いたことあるね」

「さいですか。まあ一緒に帰るの無理だからお友達と帰れじゃあな」

「えぇ……そんな拒絶しなくてもいいじゃん……あ、じゃあ待ってようか?」

「は? いやいや部活だから最終下校時間まで残るぞ? 暗くなるしさっさと帰った帰った」

「図書室で勉強して待ってるよ。それにうちは門限厳しくないし。」

 ねぇ話し聞いてた? 門限云々じゃなくてあんた女子だから夜道だと危ないでしょ? だから早く帰りなって話。それに俺チャリ通だし。

 とりあえず「遅れそうだからそろそろ行くわ」と一言言って去った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 改めてまして、若宮楓奏です。私は2年F組のごく普通の高校生です。友達はいるけど基本的に一人でいることが多い以外は普通だと思う……うん。

 なぜあの時彼に声をかけたのかというと、本当になんとなくだった。彼はいつも一人で時々戸塚くんと少し話してるぐらいだからどんな人なんだろと、ちょっと興味があったというのもある。

 もっともあんまり良くない噂は聞いたことあるけど、今日話してみた感じだと少なくともそんな酷いことをするような人には感じとれない。酷いことはたまに言うけど……やっぱり噂は噂でしかないなと思った。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 今日は特に依頼もなく、いつも通り紅茶を飲み、読書していた。俺の安息の地はここだけになるのか……一応図書室行ってやるか。真っ直ぐ帰ってもなんか罪悪感あるし。いなかったら帰ればいいし。

「そろそろ終わりにしましょうか」

「あぁ」

 めんどくさいけど図書室行くか……

「ちょっと図書室で用があるから先に行ってていいか?」

「えぇ、構わないわ」

「そ。じゃまた」

「えぇ、また明日」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 やっと図書室着いた。電気は付いてるからいるか。奉仕部は特別棟の一角だからまあまあ離れてるんだよなぁ。この学校のマップ端からマップ端まで移動したと過言ではない。だが俺はここで「鍵がかかってる! 開かない!」とか言ってこれ以上マップ移動できない無能な勇者(?)ではない。あれってなんなんだろうな。ほとんどはガタイのいい仲間が突進したら壊れそうなドアなのにな。あ、器物破損か。まぁ人んちで家財を漁ってる時点で気にしたら負けじゃね感。

「うーす……」

「すー……すー……」

 本当にいたわ。国語の勉強してたら寝落ちしたのかこいつ。無闇に肩とか叩いて起こしたらまずいな。ぼっちは原則としてこちらからは干渉はしない。あくまでも受動体なのだ。あと相手は女子だ。無闇にボディータッチしたら「は? 何気安く触ってくるの? キモ」となるのが目に見えてる。

 寝てるし、起こすのも可哀想だし帰るか。俺も早く帰れるし、若宮は俺なんかに声かけれなくて済む。win-winな関係だ。あ、でもどのみち見回りの教師に起こされるか。はぁ…

「おーい起きろ」

「むにゃむにゃ……」

「下校時間だぞ起きろ」

「んー……? へっ!? ひ、比企谷くん!?」

「うおっ……急にデカい声出すなよ」

「いつから居たの!?」

「え、あ、今来たところだが……そしたらお前は寝てた」

「あれ……私は無意識に寝てしまったのか……」

「そうみたいだな」

「あ、ごめん……今準備したら行くから扉の所で待ってて」

「お、おう」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「ごめんね。私のわがままで一緒に帰ろって言ったのに起こしてもらうなんて……」

「いや、気にしてない」

 学校から離れ、駅へ向かう大通りを自転車を押しながら隣にいる若宮と歩いてる最中だ。彼女は電車通学なので駅まで歩いている。女子と歩くとは新鮮な風景だな。

「そういえば自転車通学だけどもしかしてこの辺に住んでいるの?」

「え、いやどちらかといえば総武線の方だが」

「え!? 私も総武線沿いなんだー。何駅なの?」

「幕張本郷だな」

「え……同じ……」

「嘘だろおい……」

 衝撃な事実を知った2人は路上に立ち止まってしまった。

「えっと、中学校はどこだったの?」

「だ、第六中」

「私は高速道路の近くにある方だったよ?」

「すると駅の方か……たぶん通学エリアがギリギリ違ってたんだな」

「失礼かもだけど家って……」

「広い公園の近くだが……」

「私はセブンを左に行ったところ……」

((え、めっちゃ近いじゃん))

「え、あっとじゃあ幕張本郷でまた落ち合わない? 電車とバス使うからたぶん自転車とあまり時間変わらないかもしれないし……」

「そうだな……」

 もしかしたらお互いの勘違いかもしれない。近くに広い公園あって高速道路沿いにある中学校。全国で探せばこの条件なんて腐るほどあるはずだ。それこそこの一帯もだ。あくまでも確かめるだけだ。決して女子と帰りたいとかそういうのではない。




頑張って書きました。その2もすぐ出す予定です。


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いろいろ遠いようで近かった。その2

前回の続きです。それではどうぞ。


 あれから一旦駅で別れて俺は自転車を跨り、彼女はホームへ上がって行った。

 一応彼女の移動時間から計算しておよそ30分後に幕張本郷駅前でもう一度落ち合うことにした。ちなみに一旦別れる直前、一応メアド交換した。え? LINEはないの? うるせぇぼっちには要らねぇアプリだよ。とりあえず落ち合うのに連絡できるようにした方がいいだろうとかそういうのだ。

 なるべく信号に捕まらないように裏道を駆使しつつ、河川敷を無駄なくペースを考えてペダルを回した。この時期特有の北風が憎い。しかし何台か抜かれたけどスポーツ自転車? ロードバイクだっけか? めっちゃスイスイ抜いて行く。

 俺もお小遣い貯めて買おうかしら。風の噂では7kg以下のものもあるらしい……

 

 

 

 ☆

 

 

 

 河川敷通って、国道を走り出す。時間が時間だからところどころ渋滞してるなぁ……まあ国道のこの区間は広々としてて自転車はスムーズに走れるけどね。

 最近ネットで見たけど本八幡から幕張までが片側1車線でよく渋滞するらしい。へぇー……(無関心)

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ~~ご乗車ありがとうございました。幕張本郷駅前、終点です

 

 

 

 終点のアナウンス流れたから降りる。夕方だから渋滞して遅くなるかなと思ったけど、思ったよりスムーズで大方時間通りに着いた。

 待ち合わせ場所に着いてスマホを取り出したらメール1件入ってた。比企谷くんからだった。

『あと少しで着く』ととても簡潔な1文だった。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「うっす」

「あ、比企谷くんおつかれー。スポドリ飲む?」

 こっちは電車やバスで楽に移動したからなんか申し訳ないなと思って自販機でスポーツドリンク買っておいた。

「あ、あぁサンキュ」

「うめぇ……」

「ママチャリだと大変だよねー……よく毎日通って行けるもんだよ」

「満員電車とか乗りたくねぇしな……」

「毎朝嫌になっちゃうよね」

「男の俺だと痴漢冤罪に遭うかもしれないからな、目も腐ってるし」

「たはは……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 学校からの道のりと同じように比企谷くんは自転車を押しながら私の左隣を歩いている。男子と歩くのあまりないからすごく新鮮な気分。

 たわいのない話をしてたら件のセブンに着いた。

「私、セブンを左に行ったところだから」

「マジで家近いのな……」

「ね……こんなに近かったのにここらでは全然会ったことないよね」

「ほんとな……」

「……今日楽しかった。お昼休みで少しお話して、こうして帰り道でお話できて楽しかった。明日もお昼休みお邪魔していい?」

「お、おう……」

 あ、また指で右頬を掻きながらそっぽを向いた。彼の照れるときの癖かな。

「じゃあまた明日?」

「うん! また明日!」

 

 

 

 ☆◇

 

 

 

「ふぅ……」

 うんシャワー浴びて気分爽快。え? ナニに勘違いしてた君ちょっと汚れてるわよ? 

 自室に戻り、寝る支度をし今日のこと考える。やはり1番の疑問はリア充のような若宮が俺に話しかけたことだよな……ひなたの若宮に影のような俺ってどう考えても結びつかない遠い存在だよな。太陽と地面はとてつもなく遠いしくっつくことなんてありえない。くっついたら地球終了のお知らせ。

 でも実際家はお互い近く、教室の席も2つ隣ぐらいしか離れてない。そう考えると実はお互い遠い存在のようで実は近かったのではと結論づけた。

「ま、明日あいつあそこ来るだろうしいろいろ聞いてみるか」

 と、誰にも聞こえるわけのない独り言を声にしたらスマホの通知きた。

『今日はいろいろありがとね。わがまま言って一緒に帰ってくれたりして。

 ほんとに楽しかった。それではおやすみなさい(˘ω˘ )』

 割と強引なわりには結構謙虚なのな……そういうの嫌いではない。

 無視するのも良くないなと思い

『おやすみ』

 と、2秒未満で入力できるめっちゃ簡潔な文を送り返した。




結構ダラダラ書いてるんじゃないかなと自分は思ってるのですがいかがでしょうか?ご意見あったら良ければ言ってください。
それではまた。


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知っていく、ということ。
お邪魔しまーす♪


第4話です。実は綿密に計画的に書いてないので思いついては書いての繰り返しておかしなところあるかもしれないです。ご了承下さい。それではどぞ。


 おはようございます。若宮楓奏です。昨日の夜メール送った頃は少し雨降ってて、今じゃすっかり晴れていい秋晴れです。ちょっと冷えるけど秋の爽やかな朝って何気に好きだったりする。今日も1日がんばるぞい! あ……ごめんなさい……

 いつも通り駅まで歩き、バス乗って海浜幕張駅向かい、そこから京葉線乗って稲毛海岸駅へ向かう。そこから降りて学校へ歩くそんないつもの日常は私は大好き。いつも通り、平常運転っていいよね、平穏な感じで。私は電車の運転士に向いてるのかしら……しゅっ、出発進行ー! 

 ごめん、忘れて超忘れて……! 

 そういえば昨日満員電車嫌なっちゃう的なこと言ったのに毎朝満員電車乗ってる。下り方面だからまだマシだけどそれでも混む。それでも毎朝電車乗るのは理由があって、私の趣味は自転車でロードバイク乗ってるんだ。じゃあロードバイクで通えばいいじゃんってなるけどイタズラや盗難も怖いし……てわけで電車乗ってる。イタズラや盗難のない世界だったらどれだけ幸せやら……そしたら30分もかからないで通えるのに。え? ママチャリ? 重くてムリ。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「おはよー!」

「うおっ、びっくりした……お、おはよう」

 思いっきり挨拶してみた。視線感じるけど気にしない気にしない。

「教室でデカい声出すなよ。視線集まっちゃうでしょ」

 え? そんなに大きかったかな……だとしたらなんかごめん。

「ご、ごめん今度から気をつけるよ」

「え、あ、いや謝んなくていい。俺もイヤホンつけてたしな」

 初めての朝の会話してるうちにチャイムが鳴った。

「じゃあまた後でね!」

「おう」

 

 

 ☆◇

 

 

 あれから中休み挟みつつ授業を受けた。いつの間にか4限の後半に差し掛かってた。眠気は無いものの体はマッ缶を欲している。はやくっ……マッ缶くれ……! 

 チャイムが鳴り、全国が待ちわびていた昼休みのお時間である。起立、礼をし一気に活気づく教室。友達同士で机くっつけたりして、隣同士で談笑する声があちこちから聞こえる。

 そんな中、声掛けてくる女子が居た。アレ? デジャブ? いやいや時間繰り返さない系だよ。

「ねぇねぇヒッキー、ヒッキーってかなかなと仲がいいの?」

 由比ヶ浜だった。まあ気になるところか。てか「かなかな」って若宮のことか? 相変わらずのネーミングセンスである。

「仲がいいつーか最近話するようになっただけだ」

「えぇーでもけっこー仲良さげだったじゃん?」

「別にそういう関係ではない。本当ひょんなことから話するようになったんだよ。つか昨日お前いなかったけど三浦とかのつるみか?」

「うん、ゆきのんに言ったはずだけど……」

「そうか。じゃあ俺飯買いに行ってくる」

「う、うん行ってらしゃい!」

 背いて軽く手を振ったあと購買に向かった。クソ。少し時間ロスした。パン買えっかなー……

 結論から言うとパンは買えた。あとはマッ缶買ってベストプレイスへ。そしたら……

「あ、きた。やっほー!」

 本当に来たよ。この子。あそこまで行くと言うならもはや行く行く詐欺なんじゃないかと思っちゃうレベル。

「お、おう来たんだな。来るとは思わなかったが」

「行くって言ったじゃん! ……あ、お邪魔しますね?」

「邪魔と思うなら帰れ」

「ひっどいなこの人」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 それからたわいのない会話しつつ昼飯を食べた。てか俺なんで普通に会話出来てんの? たしかに若宮とはなんとなく話しやすい雰囲気ある。というか若宮はなんだろ……距離感をちゃんとはかろうとする女の子か。たしかに初手はだいたい強引に来るけど、俺の反応次第で少し引こうとする女の子だ。適切な距離感を持とうとするところ八幡嫌いじゃないよ。ちなみに彼女の趣味はロードバイクだそうだ。それで昨日の河川敷の話をしたらめっちゃ食いついてきた。小遣い貯めて買おうかなって言ったらさらに食いついてきた。

「あー焼きそばパン美味かったな」

「たまにはちゃんとしたご飯食べないだめだよ?」

「美味いからやめらんないだなこれが」

 マッ缶をひっかけながら余韻に浸った。

「……! お前それ……!」

「ん? あ、これ? 美味しいよ。主に暴力的な甘さで」

「なぁ……これ」

 右手に持ってる黄色い缶を見せた

「え! 比企谷くんも飲んでるの!?」

「おう……ここで同士を見つけるとはな……」

「これすごく甘くて美味しいよね! 特にあったかいの最高だよね!」

「分かってんじゃねぇか」

 こうして握手をし世界平和を誓ったのであった……! って終わらせてたまるか。

「「あっ……」」

「わ、わりぃつい」

「う、ううん大丈夫だよ……」

 俺としたことがつい握手してしまうとは。言っただろぼっちは受動体だって。せっかくのマッ缶同士なのに嫌われてしまうな……

「大丈夫だよ! これぐらいじゃ嫌にならないよ! むしろマッ缶同好会作るまである!」

 その強引さは今だとすげぇ助かる。若宮神社あったら拝んで祀るわ。

「じゃ、かんぱーい」

「お、おう」

 こうして杯を交わし世界平和を誓うのであった。と、こうしてるうちに予鈴が鳴った。

「あ、戻らないとね」

「そうだな」

「一緒に行こ?」

 回りくどいけど若宮はこうして人との距離感を掴もうとするのだ。俺はいつの間にか彼女に対する嫌な感情はなくなっていた。むしろ楽しんじゃってるまである。あ、いろいろ聞くの忘れてた。




ほとんど台本みたいな感じになりました。掛け合いを書くとどうしてもこうなってしまいますね。キレイに書ける人は凄いと思います。
それでは。


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趣味の話 その1

見切り発車の第5話です。今回は中の人の趣味で自転車の話になります。
専門用語飛び交う可能性もあります。自転車興味ないよという人スキップしても問題ない(ようにします)です。


 放課後。この単語ほどココロオドルことあるだろうか。部活ある人は好きな物が同じ同士で楽しむことできるし、高め合える。ない人はもう自由。勉強はしてね? まあ自習とかしない限りは基本的に自由で趣味に時間費やしたり、友人と遊びに出かけることもできる無敵タイム。まあ友達いないけど。※帰宅部限定。自習は怠らずにね。

 じゃあ俺は? 奉仕部です。別に好きな物が同じ同士の集まりとかではない。依頼来れば働くという受動体。基本的に自由。そもそも強制入部だし。性根腐ってるって言われるけどそんな簡単に治せるものじゃないでしょーが。

「うっす」

「こんにちわ」

「おう」

「あら、その目の通り相変わらず腐った思考してるわね」

「相変わらずの罵詈雑言どうも」

「感謝しているけれど、もしかしてそういうのお好きなのかしら? マゾ谷くん」

「そういう意味のどうもじゃねぇよ。それにマゾじゃねぇし」

「どうかしら。もしかしたら案外そうかもしれないわよ?」

 え? こわっマゾじゃないよね俺? 全然気持ちよくはならないよ? その業界は興味ないです。

「やっはろー!!」

「こんにちは。由比ヶ浜さん。紅茶いるかしら?」

 とか言いつつ来る直前に準備始めてるよね? 対由比ヶ浜GPSでも付いてるの? 

「うん! おねがーい!」

「比企谷くんは?」

「頼むわ」

 いつもの奉仕部のひと時を過ごしているときにノックされた。珍しく来客である。

「どうぞ」

 どうやら来客のようだ。そのお客さんは……

 めぐりん先輩でした。

「やっほー! みんなこんにちは!」

「こんにちは城廻先輩」

「城廻先輩やっはろーです!」

「うっす」

 どういう要件かと言うと、高校生最後の体育祭だからどうにか優勝したいとのこと。ちなみに千葉県ウルトラ横断メールに届いてた「めぐ☆りん」さんからと同じような内容だった。これ間違いなくあんたでしょ。

「最後は優勝を飾りたいと……分かりました。承ります」

「ほんと? やったー! ありがとね雪ノ下さん!」

「えぇ……」

 相変わらずテンション高い人は苦手なんですね雪ノ下さん

「ところでみんなって何組なの? 私は赤!」

「赤」

「赤」

「赤」

「わーすごい奇跡だね! みんな赤だね!」

 何組か確認終わったところ城廻先輩が急に近づいてきた。え? 愛の告白? なわけないよねすみませんでした。

「んーと? んー……」

 愛の告白どころが名前分からない模様です。結構レア苗字にあたると思うんだよなぁ……

「比企谷です」

 雪ノ下に紹介された。

「うっす」

「あ、比企谷くんね! 文化祭のときたくさん頑張った子だよね! あのときはありがとね!」

「あ、いえ……」

「あ、これから体育祭委員会で競技決めてるんだけど良かったらみんな来ない?」

 このまま部室居ても依頼は来なさそうだから4人で体育祭委員会の方にお邪魔した。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 しかしなんだ? パン食い競走はご飯派からクレームが来るって。聞いたことねぇよ。結局大方決まったのは棒倒しに玉入れや騎馬戦だった。ここにうちのクラスの眼鏡かけた女子生徒いなくてよかったですね。特に棒倒しと玉入れは絶対(♂)が付くでしょーね。ついでに大量出血で搬送される未来見えた。

 その後委員会が終わり、帰ることになった。なったのだが……

「やっほー! 部活おつかれー」

 なんで駐輪場に居るのですかねー。昨日部活あるからこの時間ぐらいまで帰れないと言ったはずだよねー? また勉強してたの? 寝なかった? 大丈夫? 

「なんでいるの」

「友達とお喋りしてたらこんな時間になってた! それでそろそろ比企谷くんも帰る頃合かなと思ってここにきた」

「お友達とお喋りしながら帰ればいいじゃねぇか」

「お友達とお喋りするのも楽しいけど、比企谷くんともお喋りしたかったの!」

「さいですか……」

 面と向かって言われると恥ずいなそれ……

「あ……変な意味じゃなくてね? 昨日からちょいちょい比企谷くんとお話してたら楽しいなって思って……」

「あー……そのなんだ帰るか?」

「……! うん!」

「カバンよこせ」

「え?」

「カゴに入れるから」

「う、うん」

「じゃあ行くか」

「うん!」

 こうして2日連続で若宮と帰ることになった。どうも上目遣いはダメだわ。俺チョロくなっちゃうフシあるわ。お兄ちゃんスキルって大変、まる。

 

 

 

 ☆◇

 

 

 

 そういえばお昼休みのときに比企谷くんと自転車の話してたなー。比企谷くんは興味を持ったのかな? 単に話題提供だったのかな……

 あのときすっごい食いついて喋りまくった気がする……うー……恥ずかしい……

 相槌はしてくれたけど……自転車ってほんとディープな世界で分からない人には本当に分からないような世界だからなぁ……自己紹介のとき趣味は自転車です! って言ってもへぇー……と言った具合で決してウケのいい趣味ではない。友達少ない要因なのかなぁ……ちょっと比企谷くんに聞いてみようかな。

「ねぇねぇ」

「おん?」

「お昼休みのとき自転車の話してたじゃない? あのとき私の事どう思った?」

「え、どうってどういう?」

「印象変わったーとかすごい趣味だねとか引かなかった?」

「いや、引きはしないがたしかにすごい趣味だと思う」

「……」

「5限の後の中休みでちょっと調べてみたんだよ。自転車なのにめっちゃ高いなってなったな」

「高い理由は素材やら軽さやらと書いてあったからたしかになって納得はした」

「え?」

「ほら、河川敷の話しただろ? そういう自転車の人たちに抜かれたという。値段にはそれ相応の性能があるわけだから単純にすげーなと思う」

「ま、そのなんだ。むしろいい趣味なんじゃねぇか? 運動になるし身体も鍛えられるしいいこと尽くめじゃねぇか。まあ値段はちょっと来るものは来るけどな」

 よ、よかったぁ……引かれてなくて……この趣味分かってくれる人本当に少ないから。友達もこの趣味を分かってくれる人しかいないし……すごく嬉しい……! 

「あ、えっと、比企谷くんが良ければだけど一緒に自転車屋さんに行かない?」

「え? あぁ、まぁ用事ないしいいぞ」

「ほんと? やったー!」

 なんと! お誘いに乗ってくれた! もし比企谷くんがもっと興味持ってくれたら一緒にサイクリングとかできるかな!? すごく楽しみ! そうなるといいなぁ……

「場所はわからねぇから案内頼むわ」

「うん! 任せて!」




結構長くなったのでその2を書きます。おそらく今日中にはできると思います。次はたぶんなかなかディープな内容になるかもなので興味のない人スルーしても大丈夫です。完全中の人趣味モードに入ると思います。
それでは。


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趣味の話 その2

前回の続きです。内容は前回のあとがきに書いてあります。
それではどぞ。


 あれから歩いて20分ほど経って、自転車屋に着いた。ここは割と行きつけで店長さんはお母さんの知り合いなんだ。名前は「名古木 宮子 (ながぬき みやこ)」さん。その店長さんは女性で私なんかよりもゴリゴリ自転車乗っている。ちなみに山登るのが好きみたい。

「こんにちはー!」

「あら、楓奏ちゃんこんにちは。なにか買い物……? あれ? 彼氏さん?」

「ち、違うよ! 同じクラスの比企谷くんだよ!」

「あーえっと、はじめまして?」

「ふふ、比企谷くんね覚えたわ。その比企谷くんがなにかお買い物かしら?」

「あーいや、その」

「もしかして自転車に興味持ったのかしら?」

「え?」

「図星かしら? ふむ、脚を見るとママチャリでかなり乗り込んでるわね……通学で毎日10キロ以上走ってる口ね」

 え、なんでわかんのこわっ! たしかに1回マップで調べたら片道7キロあるみたいだけとさ! 

「えぇ……まぁそうすっね」

「やっぱり? あ、ごめんなさいね私その人の脚を見るとだいたい分かっちゃうの」

 やっぱなんか怖いこの人! 食われそう! すごいけど怖いよ! 

「話を戻すけどロードバイクに興味を持ち始めたのかしら?」

「そうっすね、きっかけはこないだ河川敷のできごとなんですけど──」

「なるほどね。それで楓奏ちゃんと話してたらここに来たと」

「そうですね」

「ここだけの話、1台1台の値段がピンキリだよ?」

「少しネットで調べたんでだいたいは」

「そう……値段が値段だからもし乗りたいなってなったらまた楓奏ちゃんとここ来てね。はい、ここの名刺ね」

「は、はぁ……わかりました」

「宮子さーん、クリートくださいなー」

「はーい、楓奏ちゃんいつもお買い上げありがとうございます」

 ふむ、かなりの値段のするものもあるというのは確かだ。買うにしても乗れなかったら意味ないしな。乗ってみるのが1番だな。

「なぁ若宮」

「うん? どしたの?」

「お前ってロードバイク乗ってるんだったよな、良ければだがちょっとそれ乗ってみてもいいか?」

「……! いいよ!」

「うんうん」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 このあと名古木さんに挨拶をして、自転車屋を離れた。自転車屋の中は俺の知っている自転車屋の光景ではなかった。自転車屋は普通のイメージだとママチャリがたくさん並んでて、中で直してもらうというイメージが強いだろう。

 だがここ違った。自転車の軽さから出来たことなのか、だいたいは壁に掛かってたり天井にポールが通してあってそこに掛けたりしてある。工具の数も尋常じゃない。さらに細かいパーツ類もたくさん並べてある。自転車って深いな(小並感)だった。

「じゃあ比企谷くんは自転車だし、私はそこから京成線で行くからまた幕張本郷で合流する?」

「あぁ……言っといてアレなんだが本当にいいのか? 時間割いてもらってる感が否めないのだが……」

「ううん! だって比企谷くんが自転車に興味持ってくれた最初の友達だもん!」

 友達、か。なんか恥ずいな……

「じゃ、また後でね!」

「わかった」

 若宮と一旦別れた直後だった。小町からメール来てた。

『お兄ちゃん何時頃に帰ってくるの? ご飯いるの?』

 やっべすっかり遅くなった。もう19時半じゃねぇか。急いでメールを返した。

『すまん立て込んでた。あと1時間までには着くから飯頼むわ。アレなら買ってくる』

 すぐ返事きた。外で食べろって言われたら泣く自信ある。

『りょーかい 気をつけてね! あっ今のは小町的にポイント高ーい♪』

 はいはい。早く行かねぇとな

 

 

 

 ◇

 

 

 

 電車に揺られながら帰路に着いた。まぁ、また後で合流するけどね。

 今日あったことを思い出したながら車窓を眺めてた。

 私の趣味を理解して、分かろうとしてくれた人は比企谷くんが初めて。ほとんどの人はあまり興味なくだいたいそうなんだ。で終わる。

 自分の趣味分かってくれるのってこんなに嬉しいことなんだね。

 ふふって笑いそうになったときにメールが届いた。比企谷くんかな? 

『お姉ちゃーん あとどれくらいで着くの? もう8時になるよ?』

 あ、楽しい時間はすぐ過ぎるってほんとだね。って結論付ける余裕ないわ! 

『ごめん! ちょっと用事長引いた! あと20時半には着くと思うから!』

 ごめんね! 全速前進で帰るから! ってこの路線各駅停車しかない! ……あ、でもどうしようかな……落ち合ったあと試しにロードバイク乗せてあげたかったけどよく考えたら時間が……明日も学校あるし……休日とかどうかな……合流したらいろいろ聞いてみよう。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「わりぃ待たせたな」

「ううん。割と着いたばっかりだよ」

「あ、そうだ、小町から……あ、妹な。そいつからメール来てだな……」

 小町からのメールを見せた。

「あぁ……私も似たようなメール来たよ。京楓(きょうか)から。あ、妹だよ?」

 お前もか……てか妹いるのな。

「あぁ……それでなんだがな、今からてのも時間がアレだし、今度の土日とかにしないかと思ってな」

「! 私も同じこと考えてた!」

「そ、そうか」

「今度の土曜日はどう? 良かったらウチに来てよ!」

「お、おうそうだな」

「やった!」

「とりあえず帰るか」

「そうだね!」

 また流れに押されて返事してしまった。‪まあ同じこと考えてたからセーフだよな、うん。最近俺らしくねぇな。若宮のペースに流されっぱなしだわ。ここに来てまだ2日しか経ってないんだぜ? 若宮がなんとなく話しかけて来てから、若宮の趣味の話まで(深いところまで)たったの2日だぜ? 俺、変わったのか? 

 いや、2日で変わるのならそいつはそいつじゃない。

 そうだな。言うなら変わったのではなく、理解しようとしてるんだな俺。あれ? 変わってね俺?




と思ったらまた長くなってしまいました。次のその3で終わらせます。
今夜には上げたいと思ったいます。
好きな物は語ってしまうって本当らしいですね(自己分析)


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趣味の話 その3

前回の続きです。中の人の趣味むき出しなのでドン引きしないでください。
それではどぞ。


 時間は経ち、今日は土曜日だ。件の約束をしてから2日経ったところか。

 あのあとセブンで若宮と別れて、家に着いて小町と飯食ってたら小町に質問攻めされた。

「うっひょーぉ! ついにお兄ちゃんにも春が……!」って言われた始末。ちげぇよ今は秋真っ只中だよ。てかそういう仲じゃないっての。

 ちなみに今度紹介してよと言われたがテキトーに流しといた。なんか今紹介したらいろいろめんどくさそうだもん。

 飯食ったあと風呂入ってメールで土曜日のこと決めてた。内容はこちら。

『今度の土曜日、ウチにきてよ(´ω`)』

『そうだな。何時頃がいい?』

『12時ごろがいいかな』

『そうか。セブンで落ち合うか?』

『そうだね(*´∀`)細かいことは明日のお昼休みに決めない?』

『そうだな。じゃおやすみ』

『うん。おやすみなさい(˘ω˘ )』

 といった具合だ。そして今は土曜日の朝である。休みってサイコー。トーストをかじりながらテレビを眺める。そしてマグカップに移して温めたマッ缶。うーん実に優雅な朝。毎日こんな感じだったらいいな……

 

 

 

 ☆

 

 

 

 昼の12時。本日も快晴で気持ちいい秋晴れだ。普段だったら家にこもるか本屋行くんだが人と待ち合わせるとは俺もだいぶ変わったな。(3日目)

 ちなみに昼飯は抜いて来いとメールで言われた。解せぬ。

「比企谷くんやっほー!」

「よう」

 どうでもいいんだが若宮はしっかり「比企谷」と読んでくれるから間違えることないので非常に助かる。中学のとき隣の女子が話しかけられたの勘違いしてそうだよなーと、話に乗ってしまうことがあった。うっ頭が。なので名前呼んでからの会話は非常にありがたい。

「それじゃ行こっか」

「あぁ」

 セブンから北西へ歩いて2,3分のところに若宮家があった。一般的な一軒家てところか。しかし本当に家近いな。ここまで歩いて7分ぐらいだぞ? 

「本当に家近いんだな」

「あそこのセブンまでどれぐらいだったの?」

「かかっても4分ぐらいだな」

「本当に近いね」

 何故昼を抜いてこいと言われたかと言うと若宮が直々に手料理を振る舞ってくれたからだ。メニューは生ハムパスタと野菜サラダだった。めっちゃくちゃオサレやん。ちなみにお味は小町とタメを張れるレベル。

「ごちそうさま」

「お粗末さまでした。口に合ってた?」

「あぁ、美味かったぞ。マッ缶あればなおよしだがな」

「ふふっ、そう言うと思って持ってきたよ」

「おおマジか」

 はぁ……妾は幸せなのじゃぁ……

「そういえば妹いないのか?」

「京楓は朝から塾に行ったよ。今年受験生だしね」

「へぇーおいくつ?」

「中三だよ」

「うちんとこと同じじゃねえか」

「小町ちゃんだっけ? 同い年だったんだー。ちなみに総武高?」

「そうだな。そっちは?」

「うちの京楓も総武受ける予定だよ」

 なんと若宮の妹さんは小町と同い年だった。さらに受験する学校も同じという。とんでもねぇ偶然てのもあるもんだな。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「……さてロードバイクに乗りたいんだっけ」

「そうだな。しかしいいのか? 高価なものだし不安だろ?」

「大丈夫。比企谷くんは私の趣味を分かろうとしているんだよね? だったら歓迎だよ!」

「あぁ、ありがとな」

「とりあえず私の部屋に来てよ」

 もしかして! そういう! なわけないだろ落ち着け俺。

「こっちが勉強部屋と寝室。隣が自転車の部屋」

 おお……自転車は1台だけだが雰囲気は一昨日の自転車屋と同じ感じだ。部屋の真ん中に自転車があり、入って右側は多数の工具が壁に掛けてる。

 自転車は専用のスタンドで立っており、その下にはマットが敷いてある。

「すげぇな……いくら掛かってんだこれ」

「ほとんどお父さんの趣味から持ってきたものだからそうだね……自転車除いて工具でも10万掛かったかどうか……」

「」

「お父さんも自転車乗ってたんだけど、仕事忙しくなったから引退して私だけが乗ってるんだ。それでもお父さんたまに出かけるときに乗るけどね」

「……すまん俺の頭のOSが古すぎてフリーズしたようだ」

「?」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「これが私の自転車」

 電気付いてない部屋から見るのと違って日に当たると美しく見える。色は赤と白がメインで、アーチを描くような曲線になっている。イメージは羽田空港の赤いアレ。そんなレベルで曲線を描いている。話に聞くとイタリアのメーカーだそうだ。うーんオサレ。ちなみに若宮パパはメーカーは違うけど同じイタリアのものだそうだ。

「ペラペラ説明しても分からないだろうから、論より証拠。乗ってみてよ」

「あぁ」

 言われた通り跨ってみたがハンドル周りがスッキリしててごちゃごちゃしてる(?)。なるほどわからん。

「あ、変速機もイタリア製で、日本のとちょっと違うんだ。右手の親指レバーを押すとギアが上がって、ブレーキの手前のレバーを押し込むとギア下がるんだ。とりあえず左手は気にしなくていいよ」

「お、おう」

 変速の仕方を丁寧に教えてくれたからあとはペダル回すのみ。

 

 

 

 フワッ……

(!!??)

 

 

 

 なんだこれ!? ひと踏みがめちゃくちゃ軽い!? 本当に自転車か!? 

 ギア上げるには右手の親指だっけか

 ガチャッ、ガコン! 

 !!?? 足が重くなった。ギアあがったのか!? 

 

 

 

 ☆

 

 

 

「どうだった?」と若宮はニヤニヤしながら聞いてきた

「やばいなこれ」と俺は語彙力低下してた。

「欲しいか、欲しくないって言ったら?」

「普通に欲しいな。楽しい」

「ほんと!? やった!」

「でも買うとしたらちょっと親と相談だな」

「あーだよね……値段が値段だもんね」

「でもまぁ楽しかった。ありがとな若宮」

「ううん! まさかこうして乗り方とか教えるとは思わなかったよ! 私も楽しかった!」

「そうか」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 家に帰ったあと、ちょうど親父帰ってきてたからちょっとこの話をしてみた。

 結論から言うと、OKはもらった。その代わりバイトをして少しずつ返せとのこと。あと学業も疎かにしないことが条件だ。

 こうしてお金はどうにかなった。が、バイト探さねぇとな。

『よう』

『あ、比企谷くんこんばんわ(´ω`) どうかしたの?』

『一応自転車は買えそうだから今度また自転車屋に連れてってくれないか』

『ほんと!? やったね(´∀`*)明日とかどう?』

『大丈夫だ。すまんが頼むわ』

『ううん(´ω`)じゃあ明日の14時とかにあそこのセブンでいい?』

『大丈夫だ。サンキュな。おやすみ』

『おやすみなさーい(˘ω˘ )』

 俺自身が1番驚いてる。まさか自転車にハマるとは思わなかった。アニメも自転車を題材にしたものもチラホラあったから少しは興味あったが乗ってみて一気にハマるとは思わなかった。自転車屋で決める前に乗っといて正解だったな。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 比企谷くんがあんなにハマるとは思わなかった。いろいろと高いし理解されにくい趣味なのにわかってくれて、さらに理解しようとしてくれた。それだけでも嬉しかった。たったの4日間でこんなに濃密な出来事ばかりですごく充実してる。明日が楽しみだな……

 

 




その4、明日までお待ちください。(白目)
趣味を持ち出すとめちゃくちゃつらつら書いてしまう…
短く終わらす予定なのでどうかよろしくお願いします。
それでは。


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趣味の話 その4

ちょっと区切りすぎましたかね…?次からもっと詰めても良さそうでした。
それではどぞ。


日曜日。Sunday。この日も世間は基本休みである。暦通りであれば休みであり、サービス業の方々は頑張って働いて、ひと息ついてる頃合いであろう日曜日の14時。俺はまたもやいつものセブンで彼女のことを待っていた

「お待たせー!比企谷くんー!」

「おう」

ここ最近毎日のように若宮に会っている。俺らしくない。俺といえばぼっちで1人でいるのが当たり前なのに、最近は若宮とつるむのが当たり前になりつつある。さらに同じ趣味を持とうとしている。

「?」

「?あぁわりぃ、ちょっと考えごとしてた。行くか」

今日は2人ともバスと電車である。ルートとしては若宮の通学ルートと同じで、稲毛海岸駅から学校の方行くか否かだけの違い。ちょうどバスの中俺ら以外に乗客がいない。まさに今聞けと言わんばかりのタイミング。前から聞きたかったこととさっき疑問になったものを彼女に聞いてみた。

「なぁ若宮」

「うん?」

「前から聞きたかったんだけど、何故あの時俺と話したかったんだ?」

「え?あぁ、やっぱり気になるよね…」

「あ、いやざっくりでいいざっくりで」

 

 

 

 

 

 

やっぱり彼にとっては違和感な日々だったのかな?彼は1人でいることが多く、時々戸塚くんと話していたり、奉仕部の由比ヶ浜さんや雪ノ下さんといるぐらいだからこうしてほぼ毎日のように女子の私といるのはなかなか違和感だよね。

「そのなんだ。若宮ってどちらかというと友達とつるんで、楽しく遊んでるリア充なイメージがあってな。ぼっちの俺とつるむような人には思えない。」

あ、なるほどね。私はどちらかと言うとリア充してそうで、ぼっちの俺につるむのが違和感を感じたって事ね。実は私…

「…私実は比企谷くんと似たような感じだよ?」

「え?」

「よく遊ぶ、まぁお喋りする人も指折り程度しかいないし、その子たちは違うクラスだし、私も基本一人でいること多いよ?」

「そもそも私はたくさん友達作りたいとは1回も思ったことなくて、作るなら狭くて深い友情がいいなと思ってるんだ。なんて言うのかな、広くて浅い付き合いたどなんかペラペラしてて嫌いなんだ。いつ破綻するか分からないし。だったら少なくてもいいから、その分たくさん仲良くなって、ちょっとしたことで壊れないような絆がいいなって思ってる。」

 

 

 

 

 

 

え?若宮が1人でいることが多かったか?いやたしかに1人でいることが多かったわ。中休みのときは彼女はスマホを見てるか、寝てるふりしていた。

その友達らしき人たちがたまに来るって具合だったな。え、でもリア充にしか見えないし、髪型の雰囲気は折本みたいな感じだし、可愛い部類に入ると思うんだが…

「か、可愛いって…」

「え、あ!声に出てたか?」

「うん…」

「すまん…」

「ううん。それで何故あの時話しかけたかというと、よく1人でいることが多い比企谷くんに少し興味あったんだ。でも教室だと目立っちゃうし」

「あの時自販機の帰りであそこでご飯食べてたのが比企谷くんであの時に話しかけたんだ。周りに誰もいないしってね」

「…」

「もしかして嫌だった?」

「いや、嫌ではない」

むしろ彼女もよく1人でいることに共感持てるし、そのおかげかほぼ毎日のように会うとはいえ距離感が適切だから助かっている。拠り所になりつつある。

教室ではあいさつ程度で、周りがあまりいないときに会話をするといった具合で踏み込みすぎない程度の距離が俺としてはありがたい。まぁそのなんだ。いつしか若宮といるのは嫌ではなくなった俺がいる。

 

 

 

 

 

 

「宮子さんこんにちはー!」

「あらいらっしゃい…?彼氏さんがここに来たということは?」

「な…!だから彼氏じゃないってばー!」

「あはは、比企谷くんねいらっしゃい!」

「うっす」

「決心がついた、ということでいいんだよね?」

「えぇ、いろいろ買うもの決めようと思いまして」

「「任せて!」」

詳しい人が2人もいるとありがたい。スパスパ決まっていく。まず身長、座高、体重、手足の長さなどの基本的な身体の計測。次に用途に見合ったものを探していく。そこから先ほど計測した身体のデータを基づいて、サイズなどを決めていく。この時間はわずか1時間半足らず。愛車は君に決めた!

買うものが決まり、名古木さんに挨拶して店を出た。

「今日はありがとうございました」

「ううん。いろいろ決めれてこっちも楽しかったわ。納車は今から1ヶ月後ぐらいかしら、こちらからまた電話します。」

「わかりました。今日は本当に助かりました。」

「こちらこそお買い上げありがとうございました!」

 

 

 

 

 

 

「いやー楽しかったね!」

「そりゃよかった」

「納車楽しみだね!」

「あぁ」

「納車日さ、良かったら一緒に走りに行かない?」

「そうだな。いろいろ分からないだろうしレクチャー頼むわ」

「うん!任せて!」

こうした満面の笑みを見せてくるあたり、やっぱり女の子なんだなと思った。

しかし同じ趣味を始めようとするあたり相当この子に毒されてるよね俺…まぁ何買ったかはお楽しみに。




自転車回は一旦終わりです。この先は原作に沿った話か、日常的な絡みを書こうかちょっと考えます。それではまた。


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理解し合う、ということ。
体育祭


基本的に俺ガイル1期のovaを基づいてオリジナルを混ぜながら文字に起こしつつ、さらに楓奏たんとの絡みを混ぜる感じにしようと思います。それではどぞ。


 体育祭。みんなでやるこそやる意味がある。じゃあぼっちはどうすればいいのだろうか。運動できるエリートなぼっちなら個人種目で活躍を見せれるだろう。でもぼっちだ、「すごいけど、この人誰だっけ?」となるのが目に見えている。結果的は活躍を見せることはできない。まぁぼっちは目立たず行動するのが基本。よって活躍を見せようと意気込まない方がいい。

 じゃあ逆にぼっちではなくリア充で誰にもチヤホヤされるような人場合はどうだろう。例えば俺のクラスにいる葉山隼人というやつがいる。そいつは学校一でイケメンと言っても過言ではない。さらに学業も優秀で常にトップ側にいるやつ。当然のことながら女子にモテる。まず知らない人は居ない。そんなやつが個人種目で活躍したらどうだ。あらびっくり大スターがさらに大スターになるだけだ。仮に失敗しても励まされるであろう。

 それとぼっちだったらどうだ、活躍を見せても「え、誰だっけ」となるし、失敗したら責められるのが目に見えている。

 よって、体育祭はリア充ためのもの。ぼっちはやる必要ないと思います。

「みんなありがとー! 相談したおかげですごい楽しくなりそう!」

「いいえ、まだですよ城廻先輩」

「受けた依頼は半分しか受けてないしな」

「そうです! せっかくなんだし勝ちましょう!」

「うん! 頑張ろ!」

 勝つように、か。正直勝敗は努力と運次第だ。努力しても運で負けることもあれば、努力しなくても運で勝つなんてこともある。大半は運で勝敗決まる。まぁなんだ、雪ノ下は虚言は吐かないし勝てるんじゃね。

「やっほー比企谷くん! ……と由比ヶ浜さんと雪ノ下さんだよね……?」

「おう」

「かなかなやっはろー!」

「えぇ。あなたはたしか若宮楓奏さんだったわね」

「やっはろー由比ヶ浜さん……って雪ノ下さんは私の名前知ってるの!?」

「えぇ、全校生徒の名前覚えてるもの」

「それ普通にすごくない!?」

「そうでもないわ。私、記憶力あるもの。……ところであなたさっき比企谷くんの名前呼んだけれど、彼とはどういう関係かしら?」

「え、んーなんて言えばいいかな……お話相手と言えばいいのかな? でも本当にお話するぐらいで……」

「そうだな、ひょんなことからよく話をするようになった妙な関係とも言える」

「そう……なんか釈然としないけど分かったわ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 リレーに障害物競走。白組にいる葉山隼人による活躍で現在白 150 点、赤 100 点の50点差がある。ここからは女子による騎馬戦と男子による棒倒しで巻き返すしかない。ちなみに若宮も赤組だった。

「さぁ体育祭もいよいよ大詰め。ここまでは白組が優勢。我らが葉山隼人の活躍を大きな得点権に試合を有利進めてまいりました。てすが」

「まだまだ勝負の行方はわからない」

「いよいよメインイベントぉ! 女子対抗千葉市民騎馬戦です!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 はぁ……騎馬戦か……私は体重軽い方だから騎馬の上なんだよね……しかしこの鎧? 絶対セ〇バーをモチーフにしたよね? チラッと聞こえたけど海老名さんとざ、材木? 材木くんはクラス違うから分からないけどその2人がデザインをし、作成したのは同じクラスの川崎さんみたい。しかし川崎さん意外すぎてびっくりしてる。目つき鋭いしどちらかと言えばこう……他校とドン☆パチしてそうなイメージだけど、裁縫能力高すぎる。ほつれたボタンやちょっと破けた所を直すのは分かるけど鎧はスゴすぎる。というかどうやって作った。え? なぜセ〇バーをモチーフしたの知ってるかって? こう見えてそれなりにアニメ観るしラノベも読むからだよ? 

 結論から言うと、赤組が勝ちました。

 何がどうなって勝ったかというと、まず白組の海老名さんがヤバい形相で赤組の由比ヶ浜さんを追いかけてた。

 さらに白組の大将の三浦さんと赤組の大将の雪ノ下さんが一触即発状態に。でも雪ノ下さんが勝ち取った。そして海老名さんはすごい形相で由比ヶ浜さんを追いかけてた。大半は雪ノ下さんの無双状態によって勝利に導かれた。

 しかし三浦さんと一触即発になったとき空気投げしたよね? 雪ノ下さんってマスター・アジアなの? とりあえず雪ノ下さん強すぎです。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「続いての種目は男子による棒倒しでーす」

 海老名さんが考えた割にはまともな案だったな。

「ぐふふ……男子がぐんずほぐれつ棒を倒すなんて……ひ、ひわーい」

 うん。やっぱなんともないわ。今の音絶対三浦がひっぱたいたよな。

 なんかガヤガヤしてるな。トラブル起きたのか? と前に出て様子を見てみた。

「! はちまーん!」

「戸塚その格好は?」

「な、なんか運動部の部長が大将やらなきゃいけないみたいで……変じゃないかな……? てへへ……」

 え? なになにすごいキラキラしてるよ? 浄化されるわぁー……さすがは天使、この汚れた世の中を救うために舞い降りたんだな(確信)

「全然変じゃない! 似合ってる!」

「そ、そうかな……えへへ……」

 そう。これは変じゃなくて恋だ。

「人が初めて恋した瞬間を見てしまった」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 材木座による白組大将、葉山打倒宣言、及び熱い演説により赤組男子どもは士気が上がった。だがこれも作戦のうちだ。材木座キモかったが。

 白組からの先制攻撃。赤組の棒付近でバトルが始まるかと思いきや

「くっ……!」

「ご、ごめんなさい……」

「これぐらい大将のためなら!」

「……ありがとう!」

 赤組の大将、戸塚によるありがとうの一言で周りにいた男子どもが倒れた。赤白問わずに。赤組の男子はバカしかいねぇな。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 材木座は上手いことに辺りを撹乱している。そっちが目立ってるおかげでこっちも上手く作戦に移すことにできそうだ。

 ──これぞ長年のぼっち生活で培った能力、ステルスヒッキー。

 しかし、葉山が立ちふさがった。

「やぁ、来ると思っていたよ」

「葉山」

「……その包帯、頭に怪我でもしたかい?」

「もともとちょっと頭痛い子でなぁ」

「材木座くんだっけか、彼を囮にした作戦まではよかった。けど、俺がお前をマークしないわけないだろう」

「あまり買いかぶるなよ」

「悪く思わないでくれ。スタンドプレーにはチームプレーで対抗させてもらう」

「それは数の暴力って言うんだよ」

「人聞き悪い。物量作戦さ」

 ここで俺は両手を上げる。降参ではない。実はな……

「材木座ぁぁ!!」

「うぉぉぉおお!!」

 俺も囮なんだよ。バカめ。

「そっちが物量ならこっちは重量で勝負だ」

「囮の囮……! まずいみんな頼む!」

 白組の3人が材木座を止めにかかる。が、いくらラグビーやサッカーにバスケをやっていてパワーがあったとしてもこいつの重量には勝てない。

「うぉぉぉおらぁぁ!」

「やれるもんならやってみろ!」

「やってやるです!」

「材木座! クラッシャァァァァァ!」

 いとも容易く3人は吹っ飛びそのまま突撃し、白組の棒を倒した。

 これで赤組の優勝は確定した。と思われたが……

「まさか負けるとはね」

「あぁ……反則負けは意外だったねー……」

「誰かさんがハチマキに下手な小細工しなければ勝っていたのに」

「悪かったよ」

 反則負けだった。まぁ正直この作戦グレーゾーンだとは思っていたが黒でした。赤組のみなさんすみません。八幡反省してます。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 男子の棒倒しは赤組が勝負では勝ったけど反則負けかー……まぁやり方は比企谷くんらしいなぁ……捻くれてるというか……でも見ていて楽しかった。正直どれも予想外の動きばかりで予想出来なかった。あのざい……材木座くんだっけ? 最後の方で名前聞こえたから覚えた。材木座くんも面白かったなー。あれって厨二病……触れないでおこう。とにかく作戦はよかったけど細工しなかったらなぁ……

 駅までの通りを歩いてたら前に見覚えのあるアホ毛が。

「やっほー比企谷くん!」

「うおっと……若宮か。おつかれ」

「うん! おつかれー! 今日は自転車じゃないんだね」

「あぁ、流石に体育祭の後に自転車乗る気にはなれん」

「そっかー、じゃあ一緒に帰らない?」

「あー……まあ同じ方向だしな、いいぞ」

「やった!」

 こうして体育祭は無事に幕を閉じましたとさ。めでたしめでたし。




なんとか書き終えました。しばらく何話か日常的な話を盛り込もうと考えています。


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ココロの支え

ちょっとシリアスというかあまり明るい話ではないです。それではどぞ。


 噂とは、辞書によるとそこにいない人を話題にしてあれこれ話すこと。また、その話、世間で言いふらされている明確でない話。風評。という意味だ。大半は後者の意味合いで使われる単語だと思う。大抵はいい話聞かないのが定石だ。噂の当事者なら嫌な気分でしかならない。

 そもそもなんの噂かと言うと、「よく分からないぼっちが学校一の最低な野郎と付き合っている」という噂だ。恐らくよく分からないぼっちに話題性はあまりなく、学校一最低な野郎が誰かと付き合っていることに話題性が顕になっているなのだろう。

 じゃあ最低な野郎って誰かって? 俺だよ。

 そもそもなぜこうなったかそこそこ見当はついている。まずは昼休み。

 まずはベストプレイスでよく若宮といるようなったことだ。あの一帯は誰も通らないということはない。ごく少数だが通る人はいる。

 もうひとつは下校時もよく若宮といるようになったことだ。簡単に言うと俺の普段の日常の一コマにに若宮が足された、ということだ。なぜ学校一最低な野郎が可愛い女の子といるのかということでこういう噂目立ち始めただろう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「よく分からないぼっちと学校一最低な野郎と付き合っている」これを最初に聞いたときは真っ先にピーンときた。

 よく分からないぼっち=私だ。友達は少数でほかのクラスいるのだからF組の人から見たら私はぼっちだろう。では学校一最低な野郎= ……言いたくないけど比企谷くんだ。なぜ彼は学校一最低な野郎と評されているかというと、文化祭での出来事だろう。

 男子が屋上で女子を泣かせたという、普通に聞いたら男子が悪いに聞こえる。が、彼には彼なりに理由があってそうしたはず。だって長い付き合いではないけど、彼と関わってからそういう酷いことはするわけないと分かっているのだから。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 正直、私はこういう噂は嫌いだ。子供じみてるし男女一緒にいるだけで付き合っているとか言っていいのは小学生までだと思う。とにかく早く収束させたい。彼には申し訳ないけど今日はいつものところは行かない。まずは文化祭でのことの顛末を知りたいから私は数少ない友達のところに訪れることにした。比企谷くんに一言メール送ってB組の教室へ向かった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 メールに書いてある通りあいつは来ないか。まぁそうだよな。あんな噂立たれちゃあ近寄りたくもないわな。短い付き合いだったけどまあ楽しかったぜ。まあ人の噂も七十五日って言うがそうとも限らないしな、あとは……

 

 

 

 ☆

 

 

 

「はぁ……はぁ……ごめんください……戸田さんと蕨さんいる?」

「いるよ……? とだわらー! お客さんよー!」

「「はーい!」」

 今呼ばれた「とだわら」は私の数少ない友達の「戸田 美笹(とだ みささ)」と「蕨 夏鈴(わらび かりん)」の2人の略称みたいなものだ。なぜ2人合わせて「とだわら」と言われてるかというと2人は保育園からの付き合いでいつも2人で行動しているところから、2人の苗字から取って「とだわら」とコンビ名のように呼ばれるようになったそうだ。

「やっほー楓奏ちゃん」と最初に声掛けてくれたのは戸田美笹。髪は黒くてセミロング。雪ノ下さんを少し幼くして言動も柔らかくしたような感じの女の子。

「おーどしたん?」と次に声掛けてくれたのは蕨 夏鈴。同じく髪は黒で美笹と正反対でショート。少しボサボサのくせっ毛で元気っ子の代表みたいな子。ぶっちゃけると少しバカ。

「ちょっと3人で話したいんだけど一緒にご飯食べない?」

「楓奏ちゃんが誘うなんて珍しいねー」

「そうだよなーどうしたの?」

「出来れば人少ない場所にしたいんだけどどこかあるかな?」

「屋上でいいんじゃね? 天気悪くないし」

「こらこら、じゃね? は言葉遣い悪いわよ」

「ちぇーっいいじゃん別に」

「……じゃ、屋上行こうか」

 美笹と夏鈴のやりとりを聞くだけでもほっこりするから、この2人実は結構好きなんです。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「それで、誘うほどというのはよほどのことだよね楓奏ちゃん」

「単刀直入に聞くね。この噂って知っている?」

 私はこの噂について全て話した。

「たしかに最近チラッと聞くようになったわね」

「あぁ、その例の男子云々な」

「……」

 それでね、と前置き付けて私と比企谷くんの関係などを包み隠さず話した。そして文化祭のとき屋上でのあった出来事をなにか知らないかと2人に聞いてみた。

「それ、私自身が気になって1回葉山くんに聞きに行ったことあるよ」

「え、マジで?」

「ホントなのそれ!?」

「う、うん純粋に気になってね。葉山くんがその時屋上にいたという情報を聞いてね。それでまあ話してくれはしないだろうなと思ってたんだけど案外あっさり教えてくれた」

 そして美笹は文化祭、あの時屋上で何があったのか教えてくれた。聞けたはいいもののあまりいい気分のものではなかった。

「私も聞いた時その比企谷くん? 可哀想だなと思ったもん。委員長を一刻も早く動かすためにやったのにね」

「その相模って人ひでぇよな、仕事投げ出した挙句のそれだぜ?」

「あまり人のことを悪く言うんじゃあありません」

「あーい」

 なるほどね。相模さんって私のクラスにいるわ。意外なキーパーソンだわ。ありがとう美笹。ありがとう夏鈴。やっぱり2人には感謝しきれないや。ありがとう最高の友達。

「ううん。だって私たち」

「ははは! 情報屋のとだわらだもんな!」

「ありがとう! 2人とも! 今度何か奢るよ!」

「じゃあー今度サイゼ行かね? 普通に飯食うとか」

「うん! 行こ!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 放課後。俺はいつも通りカバンを引っ掴み奉仕部の教室へ行く。結局1度も会話せず、昼のメール以来何も無い。この関係は短いが終わったのだ。それだけのことだ。そう考えながら特別棟を歩いていたら若宮が居た。左側は窓でオレンジの空が眩しい。そこで俺は思考に反して、反射的に口にしていた。

「若宮、ちょっと屋上いこうぜ」

「……うん」

 屋上。今は夕日が射し込まれていて、さらに空気も澄んでいて東京湾を一望できるほど景色のいい場所だ。だが決していい思い出の場所ではない。何せ俺が相模を泣かせた場所だからな。

「若宮、話がある」

「うん」

「短い間の付き合いだったが楽しかった。ありがとな若宮。これ以上お前と居たらそのうちお前にも嫌な思いにさせるかもしれない、だから」

「この付き合いは終わらせないよ」

「え?」

 私は被せるように言った。屋上に行こうと言われた時に何となく分かっていた。比企谷くんならこういうことを言うだろうと。だから被せるように言った。「この付き合いは終わらせない」と。

「だって比企谷くん、辛そうじゃん? 目を見れば分かるよ。嫌だけど仕方ないって伝わるよ?」

「……っ」

「短い付き合いなのに偉そうなことは言えないけど、それなりに比企谷くんのこと分かってるつもりだから。私は比企谷くんがあんなことをするのは理由があるのは知っているから。だって、比企谷くんは優しいんだもん」

「……あんなことって……知ってんのかよ」

「最初は噂だけ聞いた。男子が屋上で女子を泣かせたってね」

「それの事実、比企谷くんには申し訳ないけど私の友達から聞いたんだ。本当は一刻も早く相模さんを動かしたかった。そして泣かせたことによって相模さんが仕事を投げ出した事実を上書きするためにやったんだよね?」

「……」

「自分を傷つけてまで人を守るって簡単なことじゃないんだよ? だからね、私はすごいなって思った」

「……っ」

「また、そうだね。半月あったかどうかぐらいの付き合いだけどね、もっと私を頼ってほしい」

「比企谷くんからするとそんなのすぐは無理かもしれない。そして無理にとは言わない。でも辛かったら頼ってほしい」

「だって、辛そうな比企谷くんは見たくないから」

「……すまん」

「違う。謝るじゃないでしょ?」

「ありがとな……若宮」

「……どういたしまして。」

 私は最高の笑顔を送った。彼の癒しにでもなれればいいなと思った。半月ほどの付き合いだけど、私は彼の心を支えられる人になりたいと思ったから。そして心の底からの付き合いをしたいと思っている。

「比企谷くん。私がこんな事実無根な噂を収束させる」

「え?」

「私がどうにかする。だからこの付き合いは絶対に終わらせない。そして比企谷くんはもう自分を傷つけないでね」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「いや……だからってな……分かった。すまんが頼むわ」

 これ以上言っても無粋な真似だしな。と自分を納得させた。

「うん! 任せて!」

「すまん……」

「だーかーら謝らないでよ。全部悪いのはこんな事実無根な噂を流した人なんだから」

「そうなんだがな……」

「? どうしたの?」

「話をほじくり返すような感じになるが、俺は小中までまともに人間関係築いたことがない。だから正直若宮には悪いが信用しきれない部分もある。もちろん理解しようとしているし、若宮からそう言ってもらえるのは嬉しい。だが心の奥では信用しきれない部分がある」

「そっか。でもね、理解してくれるだけで私は嬉しいよ。だっていきなり信用しろって言われても私だってできないよ」

「だって半月ぐらいの付き合いだもん、仕方ないって」

「だからさ、私が解決してみせる。そしたら信用持てるかな?」

「できるならそりゃ……

「よし! 私は絶対に解決させる! だから私に任せて、比企谷くんは待っていて!」

「すま……いや、頼むわ若宮」

「はい! 若宮、たしかに承りました!」

「ふっ……手荒いことはしないようにな?」

「そんなぶっ飛ばしてくるとか考えてナイヨ?」

「思ってもやるなよ?」

 若宮がじわじわきたのか分からないが、次第に笑い出した。そして俺もつられて笑ってしまい、屋上で2人の笑い声が響き渡った。やっぱ若宮には感謝してもしきれないな。こんな俺の心を支えようとするなんてな。ここは大人しく待っているとするか。はは、空ってこんなにも綺麗なもんなんだな。ちなみにこのあと奉仕部の部長さんに軽く怒られた。部室の近くまで行ったのに直接用があるから遅くなると言わなかった俺が悪いですねごめんなさい。




何とか書きました。続きはさっさと上げるので少々お待ちください。今後関わりの多いオリジナルキャラは原作に則り、苗字は神奈川県の地名や名所などから取り、時々関わりあるようなキャラは埼玉県の地名から取っていこうと考えております。それでは。


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意外と悪くない人

前回の続きです。それではどぞ。


 あの後比企谷くんと別れて私はカバンを取りに教室に戻った。私も比企谷くんに話をしたいと思って奉仕部の部室行こうとしてたんだけど、特別棟にあるのは知っていても具体的な位置は知らなかった。この辺りだろう、とフラフラ探していたら偶然比企谷くんと会ったわけ。

 しかしいろいろ恥ずかしいこと言った気がする。いや、あの言葉たちは本心だ。彼は傷つける必要なんてないんだから。でもやっぱ恥ずかしい……慣れないことはしない方がいいなってちょっと後悔……

 あれだけ収束させると言ったけど実はこれといった策はあるわけではない。正直上手く収束させることができるかもわからない。でも……

 ───どうにかして解決するが私だもん。

 

 

 

 何か策はないかなと、考えていたら教室に着いた。件のキーパーソンが居た。1人で。ちょうど良すぎんだよ神様よ。感謝してるぜ! 

 この時間は浪費に出来ないと思った私は……

「……えっと相模さんだよね」

「……なに? ウチに用があるの?」

「用というか……もう核心に触れるね」

 まずは件の屋上での出来事は私が聞いた通りなのかの確認してみた。

「……屋上の出来事はあってる。あいつはウチを泣かせた最低なやつだよ……って一時期までは思っていた」

「え?」

「私を泣かせた最低なやつ」という供述は分かるけど「一時期までは」に引っかかった。

「一時期までは……というと?」

「なんでそんなこと聞くワケ? ……まあいっか。それでなんかあるってわけでもないし」

「そういえばよくいるもう2人友達いなかったっけ?」

「え? あぁゆっこと遥ね……文化祭の少しあとから疎遠になったよ。体育祭を境に関わり持たなくなった」

「……」

 相模さんは私と入れ替わりで2人の友達との関わりを失って、私がちょうど比企谷くんと関わり始めた……ってわけか……少し心痛むなぁ……

「それで話を戻すけど、その一時期まではってどういう事?」

「え、あぁそれは……って恥ずかしいな……」

「いいじゃんぼっち同士だし」

「え? あんたヒキタニと付き合ってんじゃないの?」

「な……付き合ってないよ! てか噂どんだけ広まってんだよちきしょうが!」

「な……! ちょっと落ち着きなって」

 ちょっと一瞬冷静さが欠けた私、若宮楓奏はどうにか落ち着きました。ちなみにその一時期までは、という話は簡単に言うとこうだった。

 文化祭での出来事あった時、相模さんは単純にその頃は比企谷くんのことが嫌いになっていた。そして例の良くない噂を流したのは相模さんだった。が、ゆっこさんと遥さんと疎遠になり始めたころで相模さんは自分で気づいた。実は比企谷くんに助けられてたんじゃないかって気づいた。それから彼に対しては特にといった感情を持っていないけど、せめてありがとうは言いたいみたい。

「そっか……でもその良くない噂とやらを流してしまったからより1層話にくくなったんだね」

「そう……だね。それについても謝りたいしね……よく考えたら仕事投げ出したウチが悪いのによくあんなことしたよ、当時のウチは」

「じゃあ、私が場をセッティングしてあげよっか?」

「え?」

「私、比企谷くんの連絡先持ってるから、うまいこと言ってセッティングするよ!」

「……やっぱ付き合ってんじゃん」

「な……! 小声でも聞こえたからね! 付き合ってないってば……! と、とにかく比企谷くんに連絡して場を用意しておくからね? いい?」

「え、う、うん」

 私と相模さんも連絡先を交換して気づいたらそろそろ下校時間になっていた。そろそろ相模さんと別れたり、共に下校しないと比企谷くんたちと鉢合わせする可能性あるからね。しかも部活帰りだから由比ヶ浜さんや雪ノ下さんがいるかもしれないからさらにややこしいことになるの目に見えていた。

「ね、これからサイゼ行かない?」

「は? なんで?」

「まだ聞きたいことがあってね。でもこのままここにいても見回りの先生に帰れって促されるし、最終下校時間だから比企谷くんたちと鉢合わせするかもしれないじゃない? だから早いところ学校を出た方がいいと思って」

「そっか、それならいいよ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 相模さんと学校を出て駅に向かった。相模さんの家は京葉線で稲毛海岸駅からひと駅隣、検見川浜駅が最寄りだった。

 北口を出てすぐ右のロータリーを沿って歩いたあと左へ曲がってまっすぐ行くと交差点があって、横断歩道渡って目の前に小さめなショッピングモールがある。その中にサイゼがある、と相模さんに案内してもらった。

 サイゼの席に着いたら店員さんに私はミラノ風ドリアとドリンクバーを注文した。相模さんはえ? もうそこで注文する? みたいな目線送られつつもティラミスとドリンクバーを注文した。

 え、だってメニュー見なくてもミラドリとドリンクバーって決まってるし、1回席ついてからチャイム鳴らすのめんどいじゃん? 

「で、まだウチに聞きたいことって何?」

「私が比企谷くんと付き合っているやらの噂だよ」

「あぁアレね。そういえばよく分からないぼっちってあんただったんだね」

「ぐ……確かにF組から見たら私はぼっちだけどほかのクラスに何人か友達はいるよ」

「そっ。でもウチも噂を聞いただけで特に何も知らないよ」

「そっかー……」

「でもさっき学校で話したウチが比企谷に対して良くない噂を流した時って、その噂はゆっこと遥が広めたから、その2人が……ってことも有り得るかもしれない」

「だからってその2人が今その噂を流すことによってなんのメリットが生まれるのかは分からないけどね」

 なるほどね。相模さんも知らない感じか。もしそのゆっこさんと遥さんがまだ相模さんと繋がりがあるなら「比企谷をどん底に落とそうぜ」という考えになるのはまだ分かる。なぜならまだ友達である相模さんを泣かせた比企谷くんから守ろうっていう意思を持つと思うから。

 でもそのゆっこさんと遥さんとの関わりはもう既に途絶えたわけだからその2人に確かに何ひとつメリットも存在しない。

 これは捜索が難航するパターンですか……

「お待たせしました。ミラノ風ドリアとティラミスのご注文でお間違えないでしょうか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「ありがとうございます。お熱いのでお気をつけて召し上がってください」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 それから注文したもの食べて私と相模さんで2人で考えてみたけど全然見当がつかなかった。

 いろいろ話を聞かせたお礼に私が会計をした。相模さんは割り勘でいいよって言ってたけどサイゼ行こうと言ったのは私だからと言ったら納得してくれた。

「えっと若宮さん? ごちそうさまでした」

「ううん。私の話に付き合ってくれてありがとう。そしていろいろ話してくれてありがとね」

「役に立てなくてごめんね。ウチも少し探ってみるからなにかあれば連絡するよ」

「ありがとう相模さん。こっちもまた連絡するね!」

「うん。またね」

 相模さんと別れたあと京楓にメールして、帰路についた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 俺は飯食ってシャワー浴びて、ベッドに身体を預けながら考えてた。噂を収束させる……か。一体どうやって収束させるのだろうか。あいつのことだから流石に手荒い真似はしないだろう。信用するべきなのは分かっている。が、できることなら噂は早く収束させたいのは俺も同じだ。奉仕部に相談してみるか? いやそれだとあいつから見て信用されてないと思うかもしれない。そもそも待ってろと言われたしな……

 そんな時に着信が来た。相手は若宮だった。

『もしもし? ごめんね夜遅く』

「おう。大丈夫だ」

『ちょっとお願いなんだけど、明日のお昼休みに会って欲しい人がいるの』

「は? 誰だよ」

『それは内緒』

「なんだそりゃ。つーかどこで会うんだよ」

『いつもの場所で大丈夫だよ。それと明日も私はちょっと友達のところ行くからよろしくね』

「は? お前いないのかよ」

『うん。そこに行くように伝えるからお願いね?』

「はぁ……わーったよ」

『うん! ありがと比企谷くん! それじゃおやすみなさい!』

『ん。おやすみ』

 会って欲しい人って誰だよ……自慢じゃないがそんなに人脈広くねぇぞ? いくら頭捻っても見当がつかない。まぁいいやとりあえず寝よう。




終わる終わるまで詐欺が続いてごめんなさい…3分割になりました。
続きちゃっちゃと書くのでよろしくです。それでは。


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修羅場?

前回の続きです。自分でも楓奏たんがどう解決させるかも分かりません。それではどぞ。


 秋晴れが続いてて毎朝気分がいいどうも若宮楓奏です。というのはちょっと嘘が入る。件の噂の収束向けていろいろ探ってみたけどいかんせん人脈が狭くて全情報掴めない。もはや神頼みで噂の発端となる人と偶然会うように神様が仕向けてくれないと無理なぐらい情報が少ない。まあ、意気込んだ日から1晩明けたぐらいじゃそりゃ情報掴めるわけないか。でも相模さんも意外なことに味方に付いてくれたのは嬉しい。1人より2人の方が見つかる確率高いしね。

「お、おはよ比企谷くん」

「おう」

 この状況であいさつするのは気が引けるけど、しないのも気が引けるからあいさつはしておいた。

「なんだ。昼休みにお客さん来るんだっけか」

「うん。昨日の夜電話した通りだよ」

「ん。わかった」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 時間は経って今は4限目の後半に差し掛かっているところだ。しかし本当誰なのかさっぱり分からない。男子か女子なのかすら分からない。正直気になりすぎて授業の話あまり入って来なかった。

 もしかして……告白かしら……なわけねぇだろバカか俺。あったとしても罰ゲームだよいい加減学べ比企谷八幡。

 くだらないこと考えてたらチャイム鳴ってた。昼休みのお時間である。ベストプレイスにお客さん来るっていうからとりあえずいつも通り購買寄ってベストプレイス行くか。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 今のところ誰もいねぇか。まぁ飯食って待ってりゃ来るか。若宮は友達のところに行くつってたし。

 どうでもいいけど秋はやっぱり過ごしやすい。爽やかな陽気に当てられ、飯食ったら安らかに寝れるような穏やかな気候。少し肌寒いときもあるがな。夏はゲリラ豪雨とかあるからアレはたまったもんじゃない。1回ベストプレイスで飯食うかてとこでポツポツ降ってきて、数分後にはナイガラの滝と化していたことがあった。

 冬は寒い、春は風強いからよく目にゴミが入る。よって秋は最強。くだらない思考に耽るのが安定しているところで話しかけられた。え、デジャブなんだけど。

「比企谷」

 え? 俺のことを苗字でぶっきらぼうに呼ばれるの平塚先生ぐらいなんだけど、でも声は若い。もしかして、平塚先生若返った? 葉山はヒキタニと呼んでるから知らない子ですね。

「あ? ……相模?」

「うん」

「なんの用だ?」

 てかこいつもヒキタニって呼んでたよな。いつから比企谷と呼んでんたこいつ。

「用というか……うん用があるね。でも話少し長いからウチもご飯食べてからでもいい?」

「あ、あぁ……それは構わんが……」

 うん。謎すぎる。こいつは俺のことを嫌ってるはずだ。何せ俺が泣かせた被害者だからな。なのに俺の隣で飯食ってやがる。しかも普通に苗字で呼ばれてる。こいつ誰だ? 

「なぁ、ぶっちゃけお前は俺のこと嫌いだろ? 何せ文化祭のとき俺がお前を泣かせたんだ。今俺の隣で飯食ってる自体おかしいんだよ」

「……食べ終わったし、簡潔に言うね」

「あのときは本当にごめんなさい!」

「は?」

「そしてウチを助けてくれてありがとう!」

「いや何事? は?」

 こいつに謝られることされてねぇし助けた覚えもねぇ。感謝される覚えもねぇよ。暑さにやられた? いや今秋なんだけどなぁ……

「唐突すぎてわからんし、謝られることされてねぇし感謝される覚えもねぇんだけど」

「文化祭のあと、ウチがあんたの悪評を広めた。それについての謝罪」

「そして文化祭のときの屋上での出来事。あれの本当の意味はウチを助けるために泣かせたんだよね?」

「は? いやまぁ悪評広めるのは分かるわ。何せ俺が泣かせたわけだからな。助けたってのがよくわからん」

「ウチを泣かせることによって、委員長が仕事を投げ出したという事実を上書きするため」

「なっ……!」

 昨日の放課後の屋上で若宮が言ったこと同じだ。なぜこいつも俺の思惑分かってんだ? もしかして若宮と繋がってんのか? いやそんなわけない。現に若宮と相模で会話した様子見たことない。じゃあ裏で? それもない。2人とも接点ないからな。

「それは勘違いだ。俺はただお前に対して罵詈雑言を浴びせただけだ。助けるもクソもない」

「嘘だね。ウチ弟いるんだけど嘘ついたときの顔がウチの弟とそっくり」

「っ……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 はぁ、比企谷ってほんっと捻くれてるなぁ……ウチが謝ってるのに素直になれないもんなのかな。でも嘘ついてるときの表情がマジで弟と似てる。表情に出てるの気づかないのかね。

「あーもう埒が明かないわね! とにかく! ウチがあんたの悪評を広めたについては謝るから!」

「助けてもらった云々はウチの捉え方だから! たとえ比企谷に覚えなくても素直に感謝の気持ち受け取れつーの!」

「ウチ教室に戻るから!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そう言って相模はその場から去っていった。なんだこいつ。まあそもそもぼっちだからいくら悪評広められたところで特に変わらない。なんなら学校に認知された有名人なまである。それより俺の思惑分かっているのがおかしい。やっぱり若宮と繋がりがあるのか……? まぁいくら考えたところでもう相模と関わり持つことはないだろう。全く嵐みてぇなやつだな。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 時はさらに流れて放課後。私は帰りの支度していた。え? 比企谷くんと帰らないのって? 実はメールで噂やら落ち着くまでしばらく一緒に帰るのはやめようと決めたのだ。確かにさらに変な噂増えたらめんどくさいもんね。でもなんか寂しいなぁ……でも終わったらギャフンと言わせるんだから。収束させたぞ! って。

「……ねー……」 「まさか……そん……になると……」

 小さい話し声聞こえた。申し訳ないけど少し聞き耳を立たせてもらう。

「やっぱ最低野郎のネタ尽きないね! あいつが女とつるむとか面白すぎんだろ」

「今度はヤったことにする!?」 「それはやばいよー!」

 こいつらか……最近運がいいな私。是非ともご対面したい方々にポンっと会えるとはね……ぶん殴ってやりたいけど私が悪いことになる。それに比企谷くんもそれだけはやめろと釘刺されたしね。

「横入りごめんなさいねー」

「は? あんた誰?」

「その例のあいつとつるんでる噂の女子なんだけども」

「は? なにお前調子に乗ってんの?」

 はーこわっ。ここ進学校なはずなのにヤンキーみたいのおるわー。まあやられたとしら正当防衛としてやり返せるから。それに私こう見えて空手の有段者なんだよね。しかし化粧ちょっと濃いな……我がクラスにいる学年……いや学校のトップカーストの三浦さんを意識しているのかな? 勘違いしてる系女子ほどどきついものはないからね。

「とりあえずここじゃ目立つから屋上行きません?」

「お、やるてのか?」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「かかってこいよ」

 は? 誰がお前みたいなやつに手を出すか汚らわしい。こう見えてかなりキレ気味な若宮楓奏です。

「単刀直入に言うけど、その変な噂やめてもらっていい?」

「は? そんなん私らの勝手だろ?」

「そうだけど結構迷惑被ってるからやめて欲しいんだよね」

「お前なんなん? 人に屋上行こうとか言い出したクセに。説教かお前ぶっ飛ばすぞ?」

「やってみろよ。雑魚が」

 あ、やっばい私かなり興奮してるわ。めっちゃ低い声出たわ。少年漫画の敵みたいなセリフ出ちゃったわ。

「っしゃオラァ!」

 ふ、案の定右フックで来たね。予想通りすぎてつまらない。しかも私から見たらめっちゃ遅い。多分オラついてても喧嘩慣れてるまでは行ってないんだろうな。むしろ慣れてたらこの学校はやべぇ。

「遅いよ」

「んだとコノヤロ!」

 怒りが上回っていて完全に上手く狙い定められてないなこいつ。それにしても空手やっていた私から見たら動きは遅い。

「ちょこまか避けやがってよ!」

 喧嘩慣れしていないということは殴られることも想定されてないわけだ。まあいっちょケリをつけるか。ここまできてまだ1度も明かしてないけど……

 ───私は左利きなんだよね。

 

 

 

 私から見て相手の顔の右側にわざと外して掠めるように左を入れた。

「」

「今の入ったら多分1発KOだね。あんたオラついているけど喧嘩慣れはしていないでしょ?」

 相手はドサッと地面に座り込んだ。あれ? ちゃんと外したよね私? 

「お前何もんだよ……マジで見えなかったぜ」

「ただ昔空手をやっていただけだよ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「なんでそんな噂流そうと思ったの?」

「だってあんな根暗野郎がしょっちゅう女子に囲まれっとかおかしいだろ? それでムカついた」

 あぁ確かに……比企谷くん何気に女子に囲まれてることが多いよね……私もそれ疑問に思っているわ。

 てかただの嫉妬かよしょーもな……ちなみにこの人の名前は「岩槻 美幸(いわつき みゆき)」。オラついてる以外は雰囲気としては平塚先生に似ている。

「え? 嫉妬とかそういうの?」

「はぁ!? ちげぇよバカ」

「まぁいいや。あと純粋な疑問なんだけどなんでそんなオラついてるの?」

「直球だなお前!?」

 話に聞くと1年生の時は持ち前のルックスでかなりの有名人だった。そこまではよかったが2年生になった時、私のクラスにいる葉山くんと三浦さんがツートップに君臨したため、岩槻さんは普通の人に。

 それで噂を流して少しでも目立ちたかったそうだ。はーしょーもな……ちなみにオラついてるのは少しでも権力を持ってるように見せたかった、だってさ。……もう……ここに通えるぐらい地頭は悪くないはずのになんでそうなるの……呆れを通り越して尊敬に値するわ……

「はっきり言って岩槻さんオラつかないで普通にしてたらモテると思うよ?」

「お前本当直球だな!? オブラートに包めよ!」

「……とりあえず気が悪くさせたのはごめん。もうしないから許して貰えるか?」

「うん。わかった。許す。そもそも噂って誰も幸せになんてなれないからね?」

「身をもって学んだわ……しかし最後の方って右腕なの? それとも左?」

「左だよ。こう見えて左利きなんだ」

「ドヤ顔うざ……でもドヤ顔似合ってんの腹立つな」

「まぁもうそういうことしないなら私は許すよ。ほい」

「うわっとっと……あぁすまなかった。飲み物サンキュな」

「くっそ甘いやんけ……」

「なぁ!」

「うん?」

「連絡先貰っていいか?」

「いいよ……はい」

「あぁありがとな。それとくそ甘いんだけどこれ」

「え? 疲れた身体にはそれが一番だよ。そろそろ下校時間だから私は帰るね」

「あぁ……じゃあな……くそ甘い……」

 昨日の敵は今日の友。いやもはや今日の敵は今日の友か。こんなことわざようなことを身をもって体験するとは思わなかった。まあ動機こそくだらないけど、もう二度としないと言うなら私は許す。ちなみにドン☆パチ(?)したあと、私と岩槻さんがお互い落ち着いてから比企谷くんのいつもの場所をお借りして話していた。あそこなら人あまり通らないし自販機もあるからね。

 あと噂の収束とまではいかなかったけど実はいまさっきトレンドが上書きされた。それは「あの岩槻が知らない2年生に仕えてる」という内容だ。屋上から降りていつもの場所へ移動してるときに、部活に残っているほかの生徒さんに見られていたから多分トレンド入りしたかもしれない。まぁ気性荒……ゲフンゲフン。オラついてるイメージのある岩槻さんが私の後ろ歩いてるわけだからまあそうなるよね……

 とまあ私は解決したと思っている。でも疲れたから明日比企谷くんに報告しよっと♪




自分で書いてて意外な展開というか力技になったなぁと思いました。次は後日談のような感じにしようと思います。それでは。


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修学旅行

我ながら結構強引に話進めた感否めないなぁと思っている今日この頃。
体育祭の回同様原作に沿いつつ少し楓奏たんの絡みを混ぜるように書こうと思っています。少しとりあえず書いて行きますのでよろしくお願いします。それではどぞ。※後半少々改変あり


 あれから一週間ほど経ち今日は平和な木曜日です。件のドン☆パチの翌日、クラスでは「若宮さんって岩槻さんとどういう繋がりなの!?」と驚かれ、クラスメイトが聞きにくる始末。あら私有名人なのかしらと少し困惑していたどうも若宮楓奏です。

 そして修学旅行の時期が近づいできて、実は修学旅行が少し楽しみだなと密かに思っていたりする。

 ……文化祭あたりのころの私だったらこんなことは思わなかっただろーな……その頃は比企谷くんとの繋がりなかったし、友達もほかのクラスだし、京都行ってはいおしまいってなりそう。でも今は比企谷くんとは友達だし少しは楽しめそう♪ 

 え? 友達だよね? 一方的じゃないよね……でも比企谷くんなら否定してそう。だってめっちゃ捻くれてるもん。

 ちなみに今はかの情報屋な2人とサイゼで放課後のお茶会をしている。あ、もちろんミラノ風ドリア食べるよ。

「こうして外で飯食うの久しぶりじゃね?」

「だねー」

「ちょっと言葉遣い汚いわよ」

「別にいいじゃーん」とぶーぶー言っている夏鈴。「女の子なんだから多少は気をつけないと」と諭す美笹。やっぱこの2人の会話聞いてるだけで落ち着く。なんというか実家のような安心感。違う? うん違うね。

「そういえば楓奏ちゃんのとこ修学旅行で行くとことか決まってる?」

「うん。大方決まってるよ」

「お寺とかあんま興味ないんだよねー、あ、清水寺は見たいかも」

「それだとYouは何しに京都へってなっちゃうわよ……」

「食べ歩きしたい!」

「えぇ……」

「たはは……2人はやっぱり有名どころな清水寺や金閣寺とか行くの?」

「そうだねーあと二条城とか北野天満宮とか」

「そっかー……向こうで会うのは難しいそうだね」

「そだねー……クラス違うし難しいよね。一緒に京都回れたらいいんだけどねー……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 はぁー……修学旅行でだるい依頼が流れ込むとはなー……

「俺、修学旅行で海老名さんに告白するから、振られないように手伝ってくれ!」と戸部の依頼。

「私は今のグループのままがいい。変わりたくない」と海老名さんの依頼。

 

 

 

 

 

 2人の依頼を簡単にまとめるとこうだ。海老名の言う「今のグループのままがいい」というのは遠回しに戸部の告白を阻止してほしいという意味だ。

 誰とも付き合う気は無い海老名さんに戸部が告白したら、このグループ内で気まずくなり最終的には間違いなく関係にヒビ割れが生じる。

 そして戸部の依頼は言葉通りの依頼。振られないようにって無理難題なんだよなぁ……てかそもそも振られるか否かは相手次第じゃん。告白のサポートなら分かるが振られないようにというのは無理です責任取れませんお引き取り願います。

「はぁー……どうすんだよこれ……」

 

 部屋に響く虚しい独り言。ダメだ。ぜんぜんいい策がねぇ。八方塞がりとはまさにこういうこと。

 告白したい戸部の依頼、それを阻止してほしい海老名さんの依頼。この矛盾してる依頼をどう片付けるか……

 

 

 

 ☆

 

 

 

 時は少し流れ、今日は修学旅行初日である。そんな中満員御礼の総武線に揺られ東京駅へ向かう。デカい荷物持ってるからものすごく申し訳ない。

 そもそもJRさんが大都会千葉駅を新幹線の始発駅にしないのが悪い。よって俺は悪くない。違うか? うん違うな。

 クレーマーもビックリな暴論を考えていたら近くに見覚えのあるアホ毛がいた。まあ電車内はなるべく私語を慎みましょうと習ったので話しかけな……いでおこうと思ったら向こうも気づいた模様。アホ毛はやっぱり通じ合う何かがある。

「おはよ比企谷くん! 偶然だね」

「お、おうおはよさん」

「やっぱ総武線すごく混むねー……」

「あぁ、全くだ。ま、朝の東京方面だから仕方ない」

 どれぐらい混んでるかは想像はついていたがやっぱり辛いものは辛い。次の駅で降りて家へ戻りたいまである。ちなみに隣の線路を悠々と走っている快速は文字通り1度決まった体勢はもう変えられないレベルの混雑だ。

「東京駅行くなら快速乗った方がいいけど、乗り換えるのも無理そうだよね……」

「デカい荷物あるから乗り換えは難しいな……時間はあるし秋葉原で乗り換えるか」

「そうだね……うわっ!」

「急停車します。お掴まりください」と機械的に放送が繰り返し流れていると、ガクンと電車は止まった。

『ただいま西船橋駅にて非常停止ボタン押されたため安全確認を行っております。運転再開まで今しばらくお待ちください』

 ……マジか……この状態でしばらく待つのはちょっとキツいな……

「「……」」

「えっと、ごめんね比企谷くん……」

「あ、あぁ、まぁ仕方ねぇよ……」

 急停車したはずみで俺と若宮が向かい合ってくっついてる状態だ。これは非常に心臓によろしくない。なんなら俺の心臓も非常停止しそう。あ、停止したら死んじゃう。

「な、何があったんだろうね……」

「線路に誰か入ったとかじゃねーの……知らんけど」

 これ以降、どちらも言葉を発さなかった。ちなみに10分ほどして運転再開をした。少しというかなり気まずくなり、乗り換える予定の秋葉原までお互い無言を貫いていた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 新幹線乗ってからしばらく経った頃。都心からだいぶ離れ、車窓からは一軒家や畑などが多く見えてきた。席は車両のいちばん後ろで、目の前に比企谷くんその隣に戸塚くんがいる。戸塚くんは窓の方に寄りかかって寝ている。

 戸塚くんが寝てるから小さめな声で比企谷くんと話していたら、「いやー難しいもんだねー……」と由比ヶ浜さんは嘆きながら空いてる席に座った。

「あっちでなんかあったのか?」

「やっほー由比ヶ浜さん」

「やっはろーかなかな……それがさー……戸部っちは川崎さんにずっとビビってるから、もうぜんぜん会話弾まない感じ……。姫菜は姫菜でいつもより凄いんだけど」

「戸部も災難だな……」

「二人きりになれる時間があればいいけど……」

「でもあの二人だけだとなんもならんぞ」

「それってもしかして奉仕部の依頼なの?」

「あぁ、まあ守秘義務てのがあるから詳細は話せんがな」

「あ……戸部くんの……」

「ん?」

「あ、彩ちゃん聞こえちゃった……?」

 そうこう話しているうちに戸塚くん目が覚めた。夏休みにあったボランティア活動で戸部くんの話を聞いたとかなんとか言っていた。どうやら複雑そうだな……首は突っ込まないほうがいいのかな? 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 京都。中三の修学旅行以来だから2年ぶりぐらいに訪れたということだな。京都とは寺社仏閣が多く点在しており、歴史に大変縁のある地である。清水寺から初め銀閣寺、金閣寺、二条城など両手の指で数えられないぐらい寺や神社がある。俺は今その有名な清水寺の境内にいる。

「ヒッキー、ちょっといい?」

「後でな」

「仕事忘れたの? もう戸部っちと姫菜呼んあるから早く早く!」

 俺は由比ヶ浜に引っ張られ随求堂の胎内めぐりに行ってそのあと地主神社へ行った。ちなみに地主神社は恋愛成就で有名な神社だそうだ。

「私は凶だー」

「いやでもそれあれでしょー、こっから良くなるしかない的にいいことでしょー」

「……おい、結ぶなら上の方がご利益あるらしいぞ」

 そう言ったら戸部は俺にサムズアップして海老名さんのおみくじを上の方に結んだ。ご利益あるといいですね。

「特に俺たちがなんかしなくても結構頑張ってんぞ」

「この調子で上手く行ってくれるといいね」

「あぁ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ホテルに着き、夕食と風呂を済ませロビーにある自販機の横のソファーで一息ついてた。マッ缶がねぇ……無いと分かっていたら何本か持ってくれば良かったな……ん? あのアホ毛は……

 売店で買い物か……その人は少し店内を見てすぐ出て行った直後俺のことに気づいた。

「あ、比企谷くんやっほー」

「おう」

「比企谷くんは何してるのー?」

「あぁちょっと考え事をな」

「……もしかして奉仕部の事?」

「ま、そんなところだ」

「内容は分からないけどあんまり根を詰めちゃダメだよ?」

「そうだな……如何せん複雑なもんだから考えどころだ」

 偶然若宮とロビーで会って少し話をしていたところにサングラスかけた不審な人が。いやこの人平塚先生じゃね? 隠せてないですよ先生? 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ロビーで偶然会った比企谷くんと話していたら平塚先生に遭遇した。サングラスで変装したつもりでしょうけどぜんぜん隠せてないですよ……

 そのあと平塚先生と比企谷くんと私3人でラーメン屋へ行ってきた。しかしこの時間帯に食べるラーメンってほんと身体に毒って感じがたまらないのよねー! え? カロリー? 大丈夫なのって? 大丈夫大丈夫。自転車乗りゃこんなカロリー一瞬で消えるよ。

「いやー美味かったなぁ!」

「美味しかったですー!」

「若宮ってラーメン食べれんだな」

「うん! こう見えてたまに1人でラーメン屋行くよ?」

「へぇー……そのなんだ……カロリーとか気にしないのか?」

「あんまり気にしないなー。ほらカロリーなんか気にしてたら美味しい物食べれないじゃない?」

「確かにな。しかし先生、なぜ俺らが同伴してるんですかね……」

「たしかに。教師がそんなことしていいんですか?」

「いいわけないだろ。だからこうしてラーメンで口止め料払った」

「その行いはさらに教師らしからぬのでは……」

 ホテルの数十メートル手前のコンビニでタクシーから降りた。平塚先生はコンビニで晩酌用の酒などを買うため、俺と若宮は先に歩いてホテルに向かった。

「話戻るけど、その奉仕部のお仕事は解決出来そうなの?」

「わかんねぇ……出来ると出来ないで半々だな。まぁ最悪最終手段を取るしかないな」

「最終手段って……?」

「元々は2つの依頼が絡んでいて、その2つを同時に解決……もとい解消せねばならん。その解消できそうな方法は正直この方法しかないと思っている」

「そっか……私は応援しか出来ないけど、頑張ってね比企谷くん!」

「お、おう」

 正直この方法は若宮にとっては決していい方法ではないと思っている。一応言おうか言わまいか迷ったが今は言わないでおいた。なぜなら若宮なら止めに来そうだからだ。俺はあの屋上の言葉は鮮明に覚えている。もちろんその約束は守りたい。だが、その約束を破ってしいまそうだ。遅くとも明日実行に移す前に話した方がいいのか……

 と、俺は頭の中で迷いながら眠りについた。




なんとか書きました。次は件の2日目です。すぐ書くのでお待ちください。


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修学旅行 2日目

2日目です。それではどぞ。


 2日目の朝。あれから割とすぐに眠りについた。なんか夢で小町いた気がする……生八つ橋やらあぶらとり紙やらお土産を催促されてるような……あとお土産に俺のステキな思い出か……あざとかわいいよ小町……

「はちまーん……はちまんってばー……」

「んぁ……? ……うぉ!」

 目が覚めて数秒、目の前に戸塚が寝ていたから驚いて自分の身体起こした。辺りを見回すとトランプで遊んだのか少しカードが散乱していて男子どもは布団とか関係なく寝ていた。

「……はーちまーん……」

「あ?」

「UNOって言ってなーい……いぇーい……」

「いやお前別のクラスだろ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 暗くて変なうめき声が聞こえる。そう、俺らは今史上最恐のお化け屋敷にいる。前に葉山グループの4人、ここに俺と戸塚と由比ヶ浜と川崎の4人が居る。

 川崎が怖がってるからめっちゃブレザー引っ張られた。もう左肩からずり落ちてるぐらいにね。大天使トツカエルは全く動じていない。やっぱり天使は世界を救うんだな……

「い、今なんか変な声が」

「私こういうの苦手ー……」

「お化け屋敷の幽霊は怖くねぇだろ。怖いのは人間だ」

「出た捻くれ……でもちょっと頼りになるかも」

「つまり人が驚かすタイプのお化け屋敷が1番怖い」

「だめだー! ぜんぜん頼りにならないー!」

「戸塚はぜんぜん平気そうだな」

「うん。僕こういうの好きだから」

 流石に大天使トツカエル。頼りになるわ。あれか、普段からホラー映画とか嗜むのか。うん可愛い。

「うがぁぁぁぁぁ!!」

「うわ──ー!!!」

「ぐはぁっ!」

 由比ヶ浜がお化けに驚いた勢いで由比ヶ浜の後頭部が俺の顎にクリーンヒットした。クソいてぇ。川崎はいきなり走り出して、それを戸塚が追いかけて行った。ちなみになんか聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえたのは気のせいだ。

「終わったー……結構怖かったー……」

「すっごく楽しかったねー!」

 結論を言うと由比ヶ浜はお化け屋敷らしいリアクションで、戸塚は全く動じずなんなら楽しんでいた。そして川崎は軽いグロッキー状態。てか川崎がお化け屋敷ダメとか意外だな。川崎がメンチ切ったら幽霊が裸足で成仏しちゃいそう。あ、幽霊さん足どころが下半身なかったな……成仏してクレメンス……

 

 

 

 ☆

 

 

 

「よっこらせ」

「あら、奇遇ね」

「あぁ、お前もこっち来てたの」

「えぇ、虎の子渡しの庭という別名があるそうよ。どのあたりが虎だと思って」

 あぁ虎もネコ科だから気になっているんですね、わかります。さすが猫大好きフリスキーだわ。てか雪ノ下の隣の女子生徒がめっちゃ「なにこいつ」と訴えるように見てくる。すみませんね……仕事があるもんで……

「あ、ゆきのーん」

「場所、変えましょうか」

「……どう? 依頼の調子は?」

「けっこう難しいね」

「あんまやりすぎて海老名さんに嫌がられてもなぁ、それに」

 1人解せない行動を取ってるやついる。

「それに、何?」

「あ、あぁなんでもない」

「任せきりで申し訳ないわね」

「ぜんぜん大丈夫だよー」

「代わりになんだけどこっちも色々考えてきたわ」

「何をだ?」

「京都で女性が好みそうなスポットをまとめてみたわ。役に立てるといいのだけれど」

「わぁーありがとうゆきのん!」

「それではそろそろ戻るわ」

「うん! また明日ー」

「えぇ、また明日」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 夜、宿の夕飯と風呂を済ませ、なんとなく宿近くのコンビニに赴いた。ちょっとサンデーでも読むか、と雑誌コーナーに向かった。そこにすでに雑誌を読んでいる金髪の女性がいた。縦ロール。うん三浦だ。

「ヒキオじゃん。あんさー、あんたら何してるわけ?」

「あんま海老名にちょっかい出すのやめてくれる? 聞いてんの?」

「聞いてる。それに別にちょっかい出しているわけではない」

「出してんじゃん。見てればわかるし。それに迷惑なんだけど」

「迷惑か……そうして欲しいやつもいるからなぁ。それに三浦が直接的な被害を受けるわけでもない」

「はぁ? これから被害受けんの」

「?」

 それから三浦は語りだした。てかキモいって言い過ぎですよ泣いちゃいます。

 海老名は黙ってれば男ウケいいらしい。そこで紹介してくれってやつが結構いるそうだ。だが三浦が紹介しようとすると海老名さんはやんわり断っていた。三浦は海老名さんが照れてると思って強く勧めた。そうしたら海老名さんは笑いながら「じゃあもういいや」って言って三浦に対して他人行儀のように接した。海老名さんは自分のことは全く話さないし三浦も聞く気もないらしい。そういうの嫌いなんだと思う。と付け足して三浦は語り終えた。

 それは少し違うと思う。何かを守るためにいくつの犠牲にするぐらいなら諦めて捨ててしまうのだろう。今手にしている関係さえも。

「あーしさ、結構今を楽しんでいるんだ。だから余計なことしないでくれる?」

「それなら心配ない。葉山はどうにかするつってたしな」

「なーんそれ。まあ隼人がそう言うならいいけど」

「じゃ、あーし先に戻る」

「あぁ」

 俺も今手に持っているサンデーを買ってそろそろ宿に戻るか。そろそろ就寝時間も近いしな。俺はレジで会計を済ませてコンビニから出た。そしたらちょうど若宮がこちらに向かっていた。

「あれ? やっほー比企谷くん」

「おう。もう時間ないから買い物は早く済ました方がいいぞ」

「んーん。なんとなくふらっと出ただけだから買い物は特にないよ。買うとしもあればって感じ。……時間がもうないなら一緒に戻ろっか」

「あ、あぁ……」

 特にお互い言葉を発することなく、宿への道のりを歩む。正直気まずいわけではない。こう沈黙していても落ち着いていられるこの若宮との距離感は俺は嫌いではない。一応明日のことについて話しておこうかと迷っていたが、周りは若宮以外誰もいない。道路に乗用車がたまに通り過ぎるぐらいだ。

「なぁ若宮」 「ねぇ比企谷くん」

 同じタイミングで沈黙を破った。

「な、なんだ?」

「え、あっ先にどうぞ〜……」

「おう……そのなんだ。明日のことなんだが、お前との約束を破ってしまうかもしれない」

「約束……って?」

「前、屋上で話してたろ? 自分を傷つけるなとかお前に頼れとかな」

「覚えて、たんだね」

「あぁ……今回の奉仕部の依頼でその約束を破るかもしれない」

 若宮は俺の裾をつまんできた。

「それって、そうしないとダメなの?」

「あぁ、これ以外方法が思いつかない。詳細は言えんが2つの依頼を解消するにはこれしかないと思ってる」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そっか……多分その2つの依頼うちひとつは戸部くん関連だよね。修学旅行初日の新幹線でそれっぽいこと話していた。

 もうひとつはよく分からない。でも少なくとも比企谷くんがこう話すということは多分また自分を傷つけるってことだよね。もっと別の方法ないの? と聞けるほど私に案があるわけでもない。

 そもそも私は奉仕部でもなく、依頼の内容も分からない。だから頭ごなしに否定して止めるわけにはいかないよね。そのやり方を否定してしまったらそれは比企谷くんを否定しているに変わりないのだから。

「そっか。もうそういう方法しかないんだね」

「あぁ……すまない」

「謝んなくていいよ……。まず解消法を思い浮かぶことが出来るのはすごいと思うよ?」

「え?」

「私だったら多分何も出来ずに立ち尽くしていると思う。だから比企谷くんはすごいんだよ! だからね、比企谷くんらしいやり方でスパーン! と解決して見せてよ!」

「あ、あぁ……」

「そして疲れたら私に話してよ。愚痴でもなんでも聞いてあげる!」

「あぁ、ありがとな若宮」

「どういたしまして。じゃおやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」

 比企谷くんはロビーの自販機で飲み物買ってから部屋に戻ると言ってたから私は先に部屋に戻った。

 布団に潜って考えた。奉仕部の依頼が無事解決できるのだろうか。比企谷くんのやり方で解決に導いたとしてもその後どうなってしまうのかと少し不安を抱きながら眠りについた。




次は修学旅行最終日です。今日か明日には上げようと思っていますのでお待ちください。
それでは。


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修学旅行 最終日

前回の続きです。それではどぞ。


 伏見稲荷神社。圧巻のずらりと並ぶたくさんの鳥居。興味あってもなくても是非とも行ってほしい場所。

 ここが有名な千本鳥居のある伏見稲荷神社だ。また伏見稲荷神社は、あの誰もがよく知る『お稲荷さん』の総本山ともいわれている。ネットで少し調べたがこんなところだ。

 千本鳥居と言うだけのこともあって階段も歩く距離もそれなりにある。上まで行くにはそこそこ体力が必要だ。我が奉仕部の部長は大変お疲れの模様です。ほんと体力ないんだなこいつ……ちなみにあとから登り始めた葉山グループも来た。

「ヒキタニくん、相談忘れてないよね?」

「んあ? おう」

「どうどう? メンズたちの仲は睦まじい?」

「仲はいいんじゃないか? 夜とかトランプしてるし」

「それじゃあ私が見れないし美味しくないし、もっと私がいるところで男子が固まってるところを見れるのが一番だなぁ〜!」

「まぁ俺たちも嵐山行くしその時……ん?」

「よろしくね……」

 

 

 

 ☆

 

 

 

「~~♪」

「夕食、入らなくなるわよ?」

 こいついろいろ買いすぎだろ……どんだけ食べるんだ。少なくとも大きめな紙袋2つぐらいあるぞ。

「へ? あぁ……じゃあヒッキーにあげる」

 いらねぇつーの……なんで中途半端に口つけちゃうのこの子は。せめて半分こなら食べたんですけど……

「これどうしよゆきのん……」

「はぁ……少しだけね」

「いいの? じゃはい!」

「……」

「……あなたも手伝いなさい」

「まぁ食べられるけど」

 由比ヶ浜が手に持っていた肉まんを半分にして渡してきた。ほう、美味いなこれ。と思っていたらまた1個取り出して半分こしてきた。なんだか餌付けされてる気分だ。悪くないな。働かずに食べるご飯ちょー美味い。

 

 

 

 ☆

 

 

 

「すごいねーここ!」

「えぇ。それに足元に灯篭が……」

 天龍寺の竹林。今みたいな日中は緑々とした竹林の隙間に日光が差し込み、夜になれば灯篭がライトアップされ幻想的な雰囲気を醸し出す。ちなみに天龍寺も世界遺産に登録されている。

「ここがいいよ! ここ!」

「何が?」

「告られるなら……」

 なぜ受動態なんですかねぇ……由比ヶ浜さん。

「ロケーションとしてはいいんじゃないかしら」

「だよね!」

「戸部が勝負するならここか」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 修学旅行3日目にして思ったことは、秋の京都いいなってところだ。夕日が差し込み、落ち葉は地に落ち、すぐそこで架かっている木造の橋がなんとも言えない美しさを醸し出している。そして清らかに流れる川に合わせて落ち葉が流れて行く。それを見ながら川沿いを歩いていた。だがこれは散歩ではない。ある男に会うためだ。

「やけに非協力的だな」

「そうかな」

「そうだろ。むしろ邪魔されてる気がするけどな」

「そういうつもりじゃなかったんだけどな……俺は今が気に入ってるんだよ。戸部も姫菜もみんなといる時間も結構好きなんだ。だから……」

「それで壊れるくらいなら、元々その程度の物なんじゃねーの」

「そうかもしれない。けど、失ったものはもう戻らない」

「そんな上っ面な関係で楽しくやろうって方がおかしい」

「そうかな。俺は今の関係が上っ面だなんて思っていない。今の俺にとってはこの環境が全てだよ」

「いや、上っ面だろ。じゃあ戸部はどうなる」

「何度か諦めるようには言った。今の姫菜が心開くとは思えないから。それでも先のことは分からない。だから戸部には結論急いでほしくなかった」

「勝手な言い分だな。それはお前の都合でしかない 」

「なら……! 君はどうなんだ、君ならどうする……!」

「俺の話はどうでもいいだろ」

 きっと俺なら……なんて考えたところで無駄だ。俺と葉山は違う。戸部だってもちろん違う。俺の話は本当にどうでよくて、どうしようもないのだ。

 葉山は現状を変えたくない。今のままがいい。するとやはりああするしかねぇな……と軽く口角上げて立ち去った。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 天龍寺の竹林。灯篭のライトアップが始まった。ここで勝負を決めることになる。しかし戸部が海老名さんに振られるのは決定事項なのだ。だが最終確認はする。

「戸部」

「うぁ!? ヒキタニくんかーマジでっべーわーかなりキてるわー」

「なぁ、振られたらどうするんだ?」

「言う前からそれは酷くない!?」

「いいから早く答えろ。海老名さん来ちゃうだろ」

「そりゃ諦めらんないっしょ! 俺こんなテキトーな人間じゃん? けど今回はマジつーかさ」

「そうか。なら最後の最後まで頑張れよ」

「おーう! やっぱヒキタニくんいいやつじゃーん」

「ちげぇよバカ」

「ヒッキーいい事言うじゃん」

「どういう風の吹き回しかしら」

「そうじゃないんだよマジで。このままだと戸部は振られる」

 そう。これは冗談抜きで戸部は振られる。しつこいようだがこれは決定事項なのだ。やはり前々から考えたこの方法しかない。

「一応、丸く収める方法はある」

「どんな方法?」

「……」

「まぁ、あなたに任せるわ」

「うんうん!」

 海老名さんが来た。あとはタイミングを見計らって実行に移すのみ。戸部自身は告白に対してかなりの覚悟をしているだろう。

 だが他は? 彼らの関係を大事に思っているのは戸部だけではない。だから彼女はあんな依頼をしてきたのだ。だから葉山はあんなに苦悩していたのだ。無くしたくない。その手に掴んでおきたい。三者の願いはひとつだ。

「あの……さ、俺さ、その!」

「うん」

 戸部を振られないようにし、かつ彼らのグループの関係性を保ち、海老名さんと仲良いままにする。ならやっぱり方法はひとつしかねぇじゃねぇか。

「あのさ、……俺、俺……俺さ!」

「ずっと前から好きでした。付き合ってください」

「……え?」

 誰も言葉を発さない。そりゃそうか。告白を妨害したようなもんだからなこれ。しかし意外にも最初に沈黙を破いたのは海老名さんだ。

「ごめんなさい。今は誰とも付き合う気ないよ。誰に告白されても付き合う気はないよ。……話が終わりなら私はもう行くね」

「……だとよ」

「ヒキタニくんそれはないっしょー。いや振られる前に分かって良かったけどよー、いやないわーないわー……」

「まだ時期じゃないってことだな。今はこの関係を楽しむのが一番じゃないか?」

「そうねー、言うて今はって言ってたし! ……ヒキタニくん! わりぃけど俺、負けねーから!」

「……すまない。君はそういうやり方しか知らないと分かっていたのに、すまない」

「謝るんじゃねぇよ」

「はぁ……」

 奉仕部の2人がいる所に戻る。ごめんね、予想の斜め上を行くやり方で。

「あなたのやり方、嫌いだわ」

「ゆきのん……」

「上手く説明出来なくてもどかしいけれど、あなたのそのやり方、とても嫌い」

「わ、私たちも戻ろっか」

「そう、だな」

 人の気持ちを考えろ……か。それが出来るのならどれほど楽か。俺は効率を最重視し、なおかつ三者の思いを壊すこともなく終わらせたつもりだ。言われた仕事を全うしたつもりである。つまり俺は悪くない。むしろ仕事しすぎたまである。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 翌日、京都駅。あとは新幹線に乗って東京の方へ戻るだけだ。俺は海老名さんに呼び出され京都駅の屋上にいる。待っている間、この修学旅行を思い出していた。いろいろありすぎて疲れた。明らかに脳のキャパシティオーバーである。まあ家に着くまでが修学旅行っていうし、新幹線乗ったら眠りにつこう。

「はろはろー。お待たせしちゃった?」

「いいや」

「お礼、言っておこうと思って」

「別に言わなくていい。相談された事については解決していない」

「表向きはね。でも、理解してたでしょ?」

 男子同士は仲良くというのは、自分から男子から遠ざけてほしい、ひいては戸部の告白を未然に防いでほしいということだ。これは葉山に相談したのだろう。だから葉山は悩み、ああいう中途半端な態度を取るしかなかった。

「今回はありがとう。助かっちゃった」

「戸部は、ダメでゴミカスみたいな人間だが、良い奴だと思うぞ」

「無理無理ー……だって今の私が誰かと付き合っても上手くいきっこないもん」

「そんなことは……」

「あるよ。私、腐ってるから」

「ならしょうがないな」

「そう。しょうがない。……私、ヒキタニくんとなら上手く付き合えるかもね♪」

「冗談でもやめてくれ。あんまりテキトーなこと言われるとうっかり惚れそうになる」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 大事だから、失いたくないから、隠して、装って、誰もが嘘をつく。けれど、1番の大嘘つきは……この俺だった。この事実を思い出したくないのだから俺は新幹線に乗ってすぐ眠りについた。それから約2時間。東京駅に着いた。

 あとは快速乗って……

「やっほー比企谷くん! ごめん! 先に行くね」

「はーい。バイバーイ」 「じゃあな!」

 若宮と話していた2人は前に言っていた別のクラスにいる友達か。髪の長い方はなんとなく雪ノ下に似てるような……

「おう」

「比企谷くんはもう帰る感じ?」

「あぁ、疲れたしな。俺は快速乗って帰る」

「じゃあ一緒に行こ?」

「あの二人はいいのか? 一緒に帰るとかそういうんじゃねーの?」

「大丈夫だよ。2人は東京駅を散策してから帰るって」

「ほーん。んじゃ乗るか」

「うん!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 快速に乗ってから20分ほど。江戸川の橋梁を渡り、数日ぶりの千葉県である。やっぱ千葉最高。生まれ育った地は離れたくないね。

 私は予め数本持ってきたマッ缶を飲みながら車窓を眺める。しかし快速いいよね。普通の切符でさっき乗った新幹線みたいな向かい合う座席があるんだもん。ちょっと椅子硬いけど……

 比企谷くんはちょっとボーッとしてるしやっぱり疲れてるのかな? まぁ旅行を楽しんだというよりも仕事で切羽詰まってたもんね……そんな比企谷くんにご褒美です! 

「……飲む?」

「んぁ? いやいいよ」

「疲れたんでしょ? 疲れた時はマッ缶だよ! 千葉県民のソウルドリンク! それに数日ぶりの千葉県だよ? 乾杯しなきゃ!」

「……なんだそりゃ。じゃあありがたく頂くわ」

「じゃあ……修学旅行お疲れ様! はいかんぱーい♪」

「……かんぱーい」

「うめぇ……これだよこれ」

「でしょでしょ」

 

 

 

 ☆

 

 

 

 家の最寄り駅に着き、家の方に向かう。そしていつものセブン。家に着いてないのにもうただいまって感じ。洗濯もんは出してベットで惰眠を貪りたい。でも新幹線で寝たから眠くないんだよな……

「じゃあ私こっちだからまた学校でね!」

「あぁ、またな」

 こうして家に着き無事修学旅行は終わった。

 若宮から『今度の学校、比企谷くんのお弁当も作ってこようか?』というメールが来たのはまた別のお話。




ほとんど原作沿いでセリフが少し多いかなーと思いました。しばらくはそれぞれのキャラの日常回を書いて行こうと考えています。それでは。


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じぇいけいのランチタイム

お昼休みと+何かのお話です。たぶん。それではどぞ。


JK、基本的には女子高生の略ではあるが俺は日本の高校生。

よって俺もJK、ジャパニーズ高校生だ。そして労働を強いられている会社員の方々もJKだ。ジャパニーズ会社員。

みんなJKなのだ。よっておっさんがSNSでのプロフィール欄に美少女アイコンにし、「JK」と滑り込ませても日本の会社員であればセーフだ。Q.E.D

…誰の弁護してんの?俺。こんなこと言ってたら世界終わるわ。ただでさえ闇深い社会だ。より一層ダークネスになってまうやろ。そしたら生きて行けへん。なんか関西弁になったけど、エセ関西弁って怒られないよな…?

振替休日が終わり、今は火曜日。気だるいのなんとか押し殺して4限まで授業受けたところだ。

さーていつもの買ってベストプレイス行くか。いつも通り、平常運転大事。いつも通りということは心にストレス与えない、よって心身共に健康に保つことが出来る。

マッ缶は?あれはガソリンみたいなもんだからセーフ。

購買へ向かう最中1件のメールが入った。

 

『今日のお昼、手ぶらでいつもの場所に行ってて(´ω`)』

 

…は?飯食うなと?俺が飯食わないところを見ながら飯食うんすか?やだ若宮さんったらドS!でも餓死はやーよ。

 

『なんで?俺買わないと飯ないんだけど』

 

思ったことそのまま返した。俺は間違っていない。

 

『大丈夫大丈夫(´ω`)あとトマトが苦手なんだっけ?』

 

え?トマト苦手ってこいつに言ったっけ?あ、メールで言ったわ。まあそこまで言うなら…

 

『そうだな。で、手ぶらでいいんだよな』

 

『うん!お願いしまーす(´∀`*)』

 

 

 

 

言われた通り手ぶらで来た。本当に大丈夫かしら。さんざん手ぶらで来いと言われたのに別になんもなくて、おめーの飯、ねぇーから!!とかなったら全力でいなげの浜に飛び込む。そして横須賀目指して泳いで東京湾を横断する。が、海ほたるに着く前にもれなく力尽きて東京湾のど真ん中に水死体が1つ増える。BADENDだった。

もし横須賀着いたら24時間TVでドキュメンタリー枠で流せる。「男子高校生が泳いで東京湾横断」的な。でもきっかけが絶望的にダサい。うんやめよ。腹減ったな…ちょうどそう思った時、声かけられた。

 

「ごめんね。待たせちゃって」

「おう。このままお前来なかったら全力でいなげの浜行って東京湾横断目指すわ」

 

「そんなひどいことしないよ…え?東京湾横断?水泳部でも無理だよ!?」

 

「ばっかお前ものの例えだよ…」

 

あえて東京湾横断を拾ってツッコミ入れたところ、八幡的にポイントちょー高い。いや、天然説も微レ存。

 

「遅くなっちゃったしさっそく食べよっか…はい」

 

「え?」

 

「今度作って来るねって言ったじゃん…」

 

「え、いやアレ本気だと思ってなかった。…いいのかこれ?」

 

「うん!1人も2人も作る手間変わらないし。ちょっと頑張ったからご賞味あれ!」

手作り弁当。多くの男子、いやこれは全世界の男の夢である。一生小町かかーちゃんの弁当だろうなと思ったがまさかの現役JKからの手作り弁当。我、感極まる。

 

「開けていいか?」

 

「どぞどぞ。召し上がってくださいな」

 

若宮から渡された弁当箱は2段式で、開けると下の段はごま塩がふりかけられたご飯である。上の段はおかずだ。豚のしょうが焼きに、茹でたいんげん、薄揚げの煮物、卵焼きが時計回りに並んでる。え、普通にすげぇ(語彙)

 

「…いただきます。」

1口目はしょうが焼きを食べた。

 

「うめぇ…」

 

「よかった…しょうが焼きは昨日の残り物だけど、それじゃ物足りないからいろいろ足したんだ」

 

「残り物にしても美味いわ。ありがとな若宮」

 

「え?あ、ううん。比企谷くんの口に合ってよかったよ」

 

「あぁマジで美味い。本当に美味いと語彙失うのはマジだったんだな」

 

「そんなに言われると照れるなぁ…」

 

夢中に卵焼きや煮物などをつまみつつ、しょうが焼きとごま塩ご飯をかっこんでた。

なんだろうな。雪ノ下の料理と比べると庶民的なおいしさがある。雪ノ下の料理も美味いがレベルが高すぎるおいしさなんだよな…いや、比べるのは2人に失礼だな。とにかく美味い。

 

 

 

 

 

 

「はぁ…美味かった。ごちそうさま」

 

「お粗末さまでした。煮物とか口に合ってた?」

 

「見ての通りだ。めちゃくちゃ美味かった」

 

「よかった…比企谷くんが良ければだけど時々私が弁当作って来よっか?」

 

「いや、悪いからその時になったら材料費ぐらいは出す」

 

「ううん。いいの。私の自己満足みたいなものだから。それでも気が引けるならマッ缶一本でいいよ♪」

 

「それでいいなら…分かった。頼むわ」

 

「おまかせあれ!…はい。食後はこれでしょ?」

 

「マジかよ…いただきます」

 

「あぁうめぇ…こりゃ死んでも悔いはねぇわ。マジでありがとな若宮」

 

「ふふっ大袈裟だなぁ…それだけ言われたら作る方も嬉しいよ」

 

「俺は思ったことそのまま言っただけだ」

 

美味い弁当もあり、マッ缶も用意されている。これは専業主夫に必要なスキルだな。精進せねば。

 

 

 

 

たわいのない談笑をし、昼休みを終えた。今日の昼飯が幸腹すぎてよく寝れそうだ。いや寝れねぇ。5限は現国だ。寝たら放課後平塚先生にシバかれちゃう。ふぁ…寝みぃ

 

「比企谷、眠そうだな」

 

「多分寝不足っすね…ふぁ…」

 

「そうか。しっかり寝るんだぞ。あ、今じゃないからな?」

 

「分かってますよ…」

 

睡眠と格闘してなんとか5限が終わり、次の6限の数学で睡眠を委ねた。ほんでもって放課後。

修学旅行のあの1件から行くの気まずいんだよなぁ…行きたくねぇ。と思ったらメールの通知が…今日結構メール来るな。なになに…

 

『ゆきのん用事あるみたいだから今日は部活お休みだってさ⸜( ˙▿˙ )⸝』

 

正直今あまり行きたい気分ではなかったから助かる。ほら、疲れてたら仕事捗らなくなっちゃうじゃん?そういうの。

まぁほとんど紅茶飲んで読書なんですけれども。

だから「分かった」と返信して帰路についた。

 

 

 

 

今日の部活はなくなってしまった。暇になったからどうしようかしらん。

久しぶりに本屋行って本でも買うか。

我が愛車のママチャリを跨り、稲毛海岸駅前のマリンピアへ向かった。

本屋に着いたものの、どの本にしようか全く考えてない。…そういえばロードバイク買ったんだよな。親父マジで感謝。

とりあえずそれ関連の雑誌見てみるか。整備関連からサイクリングに関するものなどいろいろある。

立ち読みしてから20分ほど経ち、横目に見覚えのあるアホ毛いた気がした。

まぁ、アホ毛がある人って案外いるしな、小町とか小町とか若宮とか。

20分とそれなりに立ち読みしてしまったから雑誌を棚に戻し、ラノベコーナーへ向かった。そしたら…

 

「うおっと」

 

「あ、えっとすみません…って比企谷くん?」

 

「お、おう」

 

「奇遇だね。奉仕部どうしたの?」

 

「あぁ、なんか雪ノ下が用事で休みになった」

 

「へー。本を買いに来たって感じ?」

 

ねぇ、聞いといて興味なさげはちょっと来るものは来るよ?正直暇になったからぷらっと来ただけだと伝えた。

 

「そうなんだ。私はなんかいいラノベないかなーってふらっと来たんだ」

 

「ラノベ読むのな」

 

「うん!こう見えてそれなりにアニメ観たりラノベ読むよ。比企谷くんおすすめのある?」

 

「そうだな…するとこれはどうだ?」

 

若宮がラノベ読むとか意外だなと思いつつ、俺が気に入っていた異世界もののラノベを勧めてみた

 

「異世界ものかー。実は読んだことないんだよね。いつも日常系?を読んでるだよね」

 

「そうか。じゃあこれはやめとくか」

 

若宮はあくまでも現代の日本を舞台として、比較的に現実な世界が好きと言っていた。なので異世界ものは少し勧めにくいところがある。

 

「あ、いやせっかく勧めてくれたんだし少し読むよ!食わず嫌いはなんかやだしね。決して嫌いとかそういうのではないよ?」

 

それから若宮は見本誌を読み始めた。さて、俺もなんかいいのないか探してみよう。

15分ほど経った。そろそろ見本誌読み終えるところだろうと思いさっきの場所に戻った。

 

「これ面白いね!今まで異世界もの読んだことないからその反動かな?逆に引き込まれたよ」

 

「それはよかったわ」

 

「じゃあレジ通してくるね」

 

「おう」

 

俺も特に欲しいものなかったしそろそろ出るか。いきなり帰ったら罪悪感あるし本屋の前で待つか。解散するか否かそれから決めればいい。

 

「おまたせー。あ、そういえば比企谷くんは時間とか大丈夫なの?なんか引き止めちゃった感否めないし…」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「それはよかった…。あの、よかったら少しカフェ寄らない?小腹が空いちゃった…」

 

「…まぁ、そんぐらいなら」

 

「やった!」

 

そんでもって今はサンマルク稲毛海岸店にいる。若宮はチョコクロとアメリカン。俺はアメリカンだけ注文して先に席で待っていた。

今日はガムシロップもミルクもない。純粋なブラックコーヒーだ。え?どうしたらしくないって?そういう気分なのだよ。

 

「待たせちゃってごめんね。先にコーヒー飲んでてもいいのに」

 

「…猫舌なんだよ」

 

「あ、そうなの?じゃいただきまーす」と言ってチョコクロを食べ始めた。小腹が空いていたのか幸せそうに食べてやがる。

 

「ん…比企谷くんも少し食べる?」

 

「いや、いい。俺は腹減ってない」

 

「そう?」

 

そう言って若宮はチョコクロを平らげた。そしてアメリカンを口につけ余韻に浸っていた。ここであの妙にリアルな夢ををふと思い出していた。

 

「ふぅ…やっぱチョコクロとアメリカンは最強の組み合わせだよー…ん?どしたの?」

 

「あぁ、少し考えごとしてた」

 

あの夢はあまりにもリアルすぎるから疑問点が多い。最大の疑問は小学生の時点で1度関わりを持っていたのか、という点だ。

夢に知人が出てくるのはおかしくはない。ただ若宮が幼いころから同じ地域に住んでいたのであれば有り得る話ではある。

だが夢だ。都合よく夢の中での立ち位置が決まっただけであって、事実である可能性は限りなく低い。考えても無駄だと思考をやめた。

 

「なんか難しい顔していたけど大丈夫?相談乗るよ?」

 

「いや、大丈夫だ。相変わらずしょーもないこと考えてただけだ」

 

「えぇ…心配して損した…」

 

「ははそりゃどうも」

 

 

 

 

ラノベやアニメの話で盛り上がりすっかり話し込んだしまった。もう日も落ち、街灯がつき夜になっていた。

 

「すっかり話し込んで暗くなったね。ごめんね、カフェまで付き合わせて」

 

「いや大丈夫だ。お前は駅だろ?行ってていいぞ」

 

「分かった。じゃまた明日ね!」

 

「あぁじゃあな」

 

俺は自転車で跨り帰路についた。やはり何かモヤモヤする。今度の昼休みであいつが来たら聞いてみるか。




少し読みやすい(?)ように改行を少し多めに使い、スペースは思いっきり減らしました。
それではまた。


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じぇいけいたちのお茶会

土曜日の昼下がりのお話です。それではどぞ。


 サイゼリヤ。千葉県民のオアシス。これは豆知識だけど記念すべきサイゼリヤ1号店は千葉県の市川市の八幡にあるんだ。最寄り駅は地下鉄新宿線と総武線の本八幡駅か京成線の八幡駅付近にあるよ。記念館として残されてるからよかったら行ってみてね! 

 でも本社は埼玉県なんだよね。ぐぬぬ……

 どうでもいい知識を披露したどうも若宮楓奏です。今の時間は土曜日の昼下がりでかの仲良しコンビの2人を待っている。遅めの昼ごはんで、ドリアとピザを頬張って今は烏龍茶で食休みしている。

 そもそもなぜ土曜日の昼下がりにサイゼにいるのかといいと、あのショートで少しボサボサのくせっ毛か特徴なアホの子の提案でお茶会しない? みたいなこと言ったから今に至る。

 ちなみにもう1人のセミロングで黒髪の子は修学旅行のとき全然合わなかったしいいんじゃない? と少し乗り気だったためお茶会することになった。

 しかしお茶会ってカフェとか喫茶店でやるもんじゃないの? サイゼでいいの? 

 むしろ財布に優しくて、さらに千葉県民のオアシスだしいいんだけどね♪ 

 でもドリンクバーにマックスコフィーほしかった……

「あ、いたいた」

「よっす楓奏!」

「やっほーぃ」

 今日はこの3人で楽しいお茶会が繰り広げられる。さてどんな会話が始まるのだろうか、楽しみです。

「2人ともお昼は食べたの?」

「うん。昨日の晩ごはんのカレー多く作りすぎちゃったから、夏鈴を呼んでうちで食べた。楓奏ちゃん呼んでもよかったけどうちまで少し遠いよね」

 この2人は幼馴染同士で千葉の中心の方に住んでいる。千葉モノレールの沿線らしいです。

「たしか千葉公園の方でしょ?全然自転車で行けるよ」

「え? そんな近かった?」

「家から10キロちょっとぐらいだから30分ぐらいで行けるね」

「……毎回思うけど楓奏の距離感覚おかしいよな」

「10キロはまあまああると思うよ……?」

 あーあるあるだよね。自転車乗りと乗ってない人の感覚の違い。ちなみに私は片道50キロから本番。100キロから正念場と思っている。え? おかしい? ふつーだよふつー。10キロなんて生活圏でスーパー行って買い物するような感覚。

「それに30分ぐらいって速くね?バカな私でも分かるぜ?」

「んー原付ぐらいかそれより少し速いって言えば伝わるかな?」

「いやはえーよ!」

「自転車が原付より速い……うーん」

「まぁ、家から半径10キロぐらいは生活圏だと思ってる。うん……たぶん」

「すごいわね……」

「すげぇなほんと……」

 それから最近あった中間テストの話や、女子会特有の恋バナをしたり話は尽きない。ちなみに美笹は少し気になっている人いるみたい。あらやだ若いのいいわねー

 井戸端会議してるおばちゃんかとセルフツッコミしたら話の矛先向けられた。

「楓奏ちゃんはどうなの?」

「え?どうって……そういう人はいないよ」

「またまたー、なんだっけ?ひ、ひきなんとかくん」

「比企谷よ比企谷くん。で、どうなの?」

 結構攻めてくるなぁ……どうって言われても以前とあまり変わらず話し相手だし、強いていうなら同じ趣味を持とうとしているぐらいかな? 特にす、好きとかそういう感情は持っていない。はず。

「あーでも、少し前の話なんだけど私って自転車が趣味じゃない?」

「「うん、うん!」」

「その、なに……比企谷くんもハマっちゃったみたいで、それで自転車買ったから同じ趣味持とうとしているってところかな……」

「それめっちゃいい線じゃね?」

「来てるよね?!」

「そ、そんなんじゃないよー」

 いい線……なのかな?確かに理解されにくい趣味なのに共通の趣味持ち始めているしね。っていい線も何もそういう感情持ってないってばー!! 

「趣味が同じになろうとしてるだけでそういうんじゃないよ……」

「でも同じ趣味なら共有もしやすい。すなわち……」

「これは、キてる……!」

「ちゃうわ! ええ加減にせえ!」

 あ、関西弁になっちゃった。エセ関西弁とか言って怒らないでね? 生まれも育ちも千葉なんです。でもイントネーションは頑張ったよ? ってエセやんけ。

「はーい」と言って静かになった2人。恋バナに花が咲くのはやはり女子の性なのかな? かなりの盛り上がりを見せたお茶会。しかし思わぬ来客が……

 

 

 ◇

 

 

 今日は爽やかな秋晴れ。だが日に日に肌寒く感じるような気がする。

 土曜日なのに珍しく外に出てイオンモールへ赴いた。理由は簡単、読む本無くなってきたからだ。何かいいものないのかと本屋巡りしてた。

 気になった2冊を購入し、おやつの時間に近い昼食のラーメン食べてモール内を散策中。

 ふと目に付いたのはサイゼ。ラーメン食べたし食休みに行くのもありだな。

 しかし満腹なので誠に遺憾であるがドリアは食べれん。

 ドリンクバーだけ注文して読書に洒落込むとするか。幸い、時間は15時近いため客足が減ってきたてところだ。

 ウエイターに席の案内され、その席に向かってたら……

「ん?」

 なんか見覚えのあるアホ毛とあまり見ない女子2人がいた。これは多分女子会の最中だなうん。てかそこのアホ毛?メニュー表で顔隠してるだろうけど、上から見るとアホ毛出てますわよ?やっぱり天然なの? 

「えっと、比企谷くんだよね?」

「あ、あぁ……えっとどちらさんでしょうか?」

「同じ学年のB組の戸田美笹だよ。こっちは蕨夏鈴」

「えっへん」

「はぁ……でこいつは」

「あーえっとちょっと注文しようとしてるんじゃないかなーと」

「さいですか……なんか邪魔になったみたいだから俺は帰るわ」

「あー!よかったらなんだけど、よかったらだよ? 相席する?」

「は? いや相席つってもあんたら女子会? かなにかやってんだろ? そこに男子の俺がいてどうすんの」

「まぁ女子会というかお茶会だけどね」

 いや大して変わらねぇよ。まあイオンモールだし探せばカフェぐらいあるからそこにいいか。とりあえず気まずいから出よう。

「あんまし変わらねぇだろ。んじゃ」

「帰ろうとするのはやっ!この人!えっと比企谷くんだっけ?なんかよく楓奏と関わるようになっていたから少し気になったいたんだよー。少しでいいからお話しないかい?」

「なんか最後ナンパみたいになってね?」

 断ると面倒くさそうだなー……まあ断らなくとも面倒くさそうだけれども。いつまでも突っ立てるのも店の邪魔だしな……どうすっか。

 とりあえずテキトーに話してあしらえばいいか。

「じゃあちょっとだけなら」

「やった!ささ、楓奏の隣へどうぞ! っていつまでメニュー表見てんのよ!」

「ふぁ!?あ、えっとやっほー比企谷くん……」

「さっきから何してんのお前」

「ち、注文しようかなーって」

 その割にはフリーズしていたがな。さてはOSのアップデートしてないなオメー。まぁとりあえずデザートとドリンクバー頼むか。

 

 

 ☆

 

 

「改めてまして戸田美笹です」

「蕨夏鈴でーす」

「比企谷八幡だ……って俺はここに居ていいのかよ……」

「総武高同士だし平気だよ。それにしても八幡って珍しい名前だね」

「あぁよく言われるわ」

「エイトマンじゃん」

「ちげーよバカ」

 なんとなくこの子の雰囲気がアホの子っぽい気がしたが当たりだったわ。言われたことあるけどそうそう言われないわ。

「バカって言った!ひどい!バカって言う方がバカなんだよ!」

 ほう。これはガハマさん寄りですね。戸部、そしてガハマさんに次ぐこの蕨?が総武高に受かるという七不思議が追加されましたね。自慢じゃないがそこそこ偏差値あったはずだ。進学校だし。こいつはよく知らないからなんとも言えんが、戸部とガハマさんどうやって受かったんだ……? 

「そういえば比企谷くんってなんでここのサイゼに来たの?」

「いや、ここに来る前にラーメン食ってぶらついてたらサイゼあってな、食休みいいなと思って来たんだよ。で、案内された席の途中でお前らがいた」

「ねぇねぇその袋はなんなの?」

「あ?あぁ本だよ」

「見てみていい?」

「構わんが」と言って袋を渡した。

「なにこれ難しそう……」

「あ、この本知ってる。意外な展開盛りだくさんだから面白いよ」

「へぇーそいつは気になるな」

「え?美笹も本読んでたっけ?」

「たまにはね。楓奏は文学あんまり読まないんだっけ」

「うん。基本ラノベで、たまにしか読まないかな」

「わ、私だけ本読んでない……!」

「別にいいんじゃねぇの。ここにいた3人がたまたま本を読むってだけの話だ。あ、お前に分かりやすく言うと本読めば=頭いいってわけじゃないからな」

「そうだよ夏鈴ちゃん。人それぞれなんだから」

「なんかバカにされた気がする!私だって国語は学年25位以内だし!」

「ほう。俺は3位だけど質問ある?」

「な……!」

「精進したまへ~」

「わーん!美笹、この人いじめてくる~」

「人聞きわりぃなおい。まあちょっとからかいすぎたわ。すまん」

 

 

 ☆

 

 

 結局お茶会に参加したまんまだった。まあなんというか案外楽しかった。戸田と蕨の夫婦漫才?が面白かった。さすが付き合いが長いといったところか。漫才コンビ組んでいいまである。

 若宮もちょいちょい話に乗りながら面白おかしく笑っていた。そしてすっかり日が落ち夜になっていた。海浜幕張駅で解散し、今は若宮と帰路についている。

「楽しかったね。夏鈴ちゃんと美笹の雪合戦の話面白かったー」

「あれお前ほとんどツボってたけど大丈夫か?」

「大丈夫大丈夫。それに結局比企谷くんもあのまま居たけど大丈夫だった?」

「まぁな。それに案外悪くなかったしな」

「あの2人やっぱ漫才コンビ組める気がするよね」

 同意だ、と言おうとしたら着信が来た。小町からか? ふと画面を見たら固定電話の番号が表示されてた。若宮に一言断わって電話に出た

「はい、もしもし」

『比企谷さんの番号でよろしかったでしょうか?』

 なんか聞いたことはある女性の声だ。誰だっけな。とりあえずはい、と答えた。

『自転車出来たわよ』

 あ、思い出した。体育祭に修学旅行に色々ありすぎて忘れてたわ。

 自転車屋の店長の名古木さんからの電話だった。要件は購入した自転車が組み上がったの報告といつ受け取る? という内容だ。

『明日でもいいわよ』

「ちょっと待ってもらっていいすか?」

『はいはい』

 電話の内容をそっくりそのまま若宮に伝えた。ほら、一応納車したら走ろうぜ! みたいなこと言われた記憶あるからな……

「明日大丈夫だよ!」

「そうか。ちょっと待ってな」

「大丈夫なので明日でお願いします」

『わかった。お店開いてる時間ならいつでもいいわよ』

「分かりました。では失礼します」と言って電話を切った。

 本当に色々ありすぎて忘れかけてた。まあ、電話で思い出したおかげで少し楽しみになってきた俺がいる。

「じゃ、明日何時に行く?」

「そうだな。14時とか昼過ぎぐらいに自転車屋でいいか?」

「いいよ!じゃ現地集合ね!」

「あぁ」

「じゃ私こっちだから。また明日!」

 いつものセブンの交差点で別れた。そういえば若宮があれだけ笑い転げたの初めて見たな。正直に言うと笑顔が可愛かった。って何言ってんだ俺。

 とりあえず自販機でマッ缶を買って飲みながら家に向かった。




今回はとだわらコンビと楓奏たんと八幡くんを絡ませてみました。
次回はまた中の人の趣味モードが発動されるかもなのでご留意を。
それでは。
とだわらコンビの雪合戦の話、気が向いたら番外編で書こうと思います。


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同じ趣味を持つ

専門用語飛び交う可能性も無きにしも非ず。それではどぞ。


 こんにちは若宮楓奏てす。今は道の下調べをしつつ自転車屋に向かっています。ロードバイクってママチャリとかと違ってスピードも出るから些細な判断ミスで最悪死に至る可能性もある。そして加害者にもなりかねない。脳内検索をかけながらどこら辺は危なかったかなーとかここいい道だったなーとか確認している。

 今日も爽やかな秋晴れで自転車日和である。しかし私服で乗るの久しぶりだなー。いつもピチピチなジャージ着て乗るから違和感と乗りづらさが否めない。

 …あれはちゃんと理由あってピチピチしているからね? 別にボディーラインを見せたくてあんなピチピチの着るわけじゃないんだからね!? 誰にツッコミ入れてるのかいざ知らず、まだ時間に余裕がありそうなので美浜大橋で東京湾を眺めている。

 左から見てゲードブリッジ、工業地帯に東京のビル群が見え、そして右側にはスカイツリーがある。空気が澄んでいるからどれもハッキリと見える。

 向こうも雲なかったらこの時期富士山も見えたりする。夏はモヤっとしているから富士山は見えない。というか暑いから夏嫌い。

 マッ缶を片手に持って東京湾をぼうっと眺めてたら意外な人物が来た。

 いいエンジン音を響かせながらハザード焚いて私の後ろに車は止まった。アーストンマーティン、V8ヴァンテージだ。しかも左ハンドル。んーかっくーい!え?なんで車分かるのって?小さい頃ポケモンとかドラクエとかそっちのけでハンコンとレバーを握ってGTやってたからだよ。ほとんどお父さんの影響だけどね……ちなみに90年のNSXが好き。リトラ可愛い。

 だけど降りてきた人が意外な人だった。

「おーやっぱり若宮か。何してるんだ?」

「ひ、平塚先生?!」

「そうだ。でこんな所で何してるんだ?」

「待ち合わせの時間までまだ時間があったので暇してただけです」

「そうか。ん?いい自転車乗ってるじゃないか」

「そうですね。ほとんどお父さんから影響されて始めたんですけどね」

「私の友達も今でも乗ってる人いてな、そいつは今このあたりで自転車屋営んでいるらしい」

「えっともしかして……」

 まさかなー……と思って名古木さんの自転車屋のことを話してみた。そしたら……

「あー! そうその人だよ。へぇ元気にしてたか? あいつ」

「へ? えぇまぁ……」

「そいつは私と同じ大学の卒業生でな、自転車屋営んでみたいって言ってたが夢は叶っていたんだなあいつ……というか若宮とはどういう繋がりなんだ?」

 名古木さんはうちの母さんと同じ高校の同級生であったことと、単純に私がその自転車屋の常連であることを説明した。

「なんというか世間って狭いな……」

「ほんとですね。こんな近くに繋がりがあるとは思いませんでした。ところで平塚先生こそなぜこんなところに?」

「あぁ、ドライブだよ。珍しく休日だしたまにはこいつ動かさないと駐車場の肥やしになってしまうからな。それでたまたま若宮がここにいたの見かけただけだ。じゃ私はそろそろ行くから、自転車は気をつけて乗れよ?若宮」

「はい!先生こそお気をつけて!」

 さーて湾岸線流してくるかーとちょっと不穏な文章に聞こえたのは気のせい。先生?車をブイブイ言わすのにまだ時間が早いですよ?というか今度よかったら大黒PAまで乗せてください。チューニングカーとかいろいろ見たいので。と、ちょっと私欲が混ざった心の声が出てしまった。ヴァンテージのいい音を響かせながら平塚先生は去っていた。

「平塚先生が男性だったらすっごくモテたんだろーな……」

 誰にも聞こえない独り言を呟いて自転車跨った。今から出発したらちょうどいい時間に着くかな。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 美浜大橋から15分ほど漕いで自転車屋に着いた。やっぱ私服だとスピードが出ない……

 外にあるラックに自転車を掛けお店に入った。

「あれ?もういたの比企谷くん」

「おう」

「楓奏ちゃんこんちはー。彼はヘルメットを買いたいから早めに来てたよ」

「あ、宮子さんこんにちはー。そうだったんですね」

「いろいろ調べてな、公道はヘルメット付けるべきと知ったから早めに来てた買いに来た」

「そっか」

「じゃあこれで会計お願いします」

「はいはーい」

「フィッティングは終わったの?」

「あぁ、ここに着いてからすぐやったわそれ」

 フィッティングとは簡単に言うとポジションの最終確認。自転車は測ったその人の身体データの数値通りには限らず、その人の好みや走り方にも影響される。つまりこれから乗って行ってさらにポジションを煮詰めることになる。自転車はそれだけ深いものなのだ。

 

 

 ◇

 

 

 会計を済ませ、納車を済ませた。今俺が跨っている自転車はかなりグレード高いもので、親父曰く「どうせならいいものにしよう。車やバイクみたいにな」と言ってこの自転車になった。親父ぃ、あんたは今1番輝いているぜ……! 

 メーカーは若宮と同じで、形式が違うと言えばいいのだろうか。色はシンプルな黒。形状は直線的で、正面から見ると平べったい。エアロバイクという種類だそうだ。横から見るとフレームの下の部分の中心から前にかけてだんだん太く作られている。大丈夫か? 伝わってるか? ちなみに名古木さん曰くこのメーカーはいろいろ特徴的で見てるだけで楽しいらしい。

 あとから教えてくれたのだが、変速機構やブレーキなどのことを「コンポーネント」と言うらしい。略してコンポと呼ばれることが多い。そのコンポは日本のもので、グレードは上から数えて2番目の電動のものを使っている。

 電動アシストではなく、変速が電動であとは変わらず人力である。ここ重要。

「最初が電動コンポかー贅沢だね」とニヤニヤしながら話しかけてきた。

「そうなのか?」とよくわからず生返事をした。

 それから近くの車通り少ない道路で変速の仕方、ブレーキのかけ方、乗り降りの仕方など基本動作を覚えた。

「次はビンディングだね。シューズ買ったでしょ?」

「あぁこれか……ビンディングってなんだ?」

「それビンディングシューズと言って裏に黄色い金具みたいのあるでしょ? その金具でペダルに固定させて外れないようにするの」

「へぇ……って外れないのやばくねーか?」

「あ、走ってるときに踏み外すリスクを無くすって意味ね。外そうとすれば外れるようになっているから」

「なるほどな」

「まあペダルを見ないですんなりハマるまでは慣れがかなりいるよ」

 カチャっといい音してペダルにハマった。ほう。これは外れんな。

「外す時は足首を外側に捻ると外れるよ」

 パコーンっといい音して外れた。なるほどな。だが……

「なんかこえーからとりあえずスニーカーでいいや……」

「たはは……ま、それが賢明な判断だよ。家の近くで練習してから使ったほうがいいよ」

「だな。んでどうやって家の方に戻るか。俺の通学路で戻るか?」

「せっかくだし海沿いの県道通って行かない? あそこ路肩が広くて走りやすいんだー。初めての車道だろうし練習になるよ」

「ま、ママチャリと勝手が違うだろうしそうだな」

「そうそう。理解が早くて助かるよ。分かっていると思うけど、ロードはママチャリと比べてスピードも出る。だから些細な判断ミスで大怪我や死に至る可能性もある。怪我だけはして欲しくないからこれだけは肝に銘じといてね」

「お、おう。そうだな」

 真面目なトーンで若宮はそう言った。

 言ってることはご最もだと思う。昨今自転車による交通事故増えてると聞くからな。それにルールは守っても轢かれることだって有り得る。これは肝に銘じるべきだな。

「○○が起きるかもしれない。と常に予測しておくのが基本。これは自転車問わず乗り物全般に言えることなんだよね」

「だな」

「ま、あまり言っても気を張り詰めちゃうだけだしとりあえず行きますか!」

「おう。案内よろしく頼んだわ」

 

 

 ☆

 

 

 自転車屋を離れ、稲毛海岸駅前の大通りを南西へ進む。このあたりは通学路なのである程度は分かる。しかし楽しいわこれ。スイッチ1つで変速する感覚は慣れないものだ。

 わずか2,3分で稲毛海浜公園に着いた。自転車ってすげぇ(小並感)

「せっかくだし写真撮ってこ!」

「そうだな」

 園内を自転車押して海の方に向かって歩いた。潮の香りがいい感じに漂う。

 若宮's撮影スポットに着いたら2台並べ、写真を撮った。ほう。いいねこれ(小並感)

 近くの自販機でマッ缶を買い近くのベンチでくつろいだ。

「ほらよ」

「お、マッ缶!120円だっけ?」

「いや金はいい。今日のお礼みたいなもんだ。それに前に貰ったことあるしな」

「そう?じゃいただきまーす♪」

 そういえば若宮って普段どれぐらい走るのかふと疑問に思って聞いた。平日はたまに夕方か夜に往復20キロぐらいで休日は少なくとも片道40キロ近くは走るそうだ。その域に達するにはどれぐらいかかるのだろうか……ちなみに過去最長はお仲間さんと1日240キロ弱で埼玉の秩父まで往復してきたそうだ。コウテイペンギンもびっくりだわ……アスリートかよ……

 本人は今までで1番過酷だったかもしれないと感慨深い表情していた

「まあ最初いきなり200キロは無理だから、最初は20キロ、50キロ、そして100と徐々に目標を大きくするもんだよ。家の方から片道20ぐらいとなるとディスティニーランドぐらいだね」

「ほう」

「ま、初めたてなら10キロ以上行けたら上出来だよ!比企谷くんは普段から自転車通学だからそれなりに走れると思うよ?ただ姿勢に慣れないと最初背中とかお尻が痛くなるかも……」

「ま、慣れてくしかないか」

「うん!その心意気だよ」

 缶を捨て、ふたたび道路に向かって園内を歩いた。そして海沿いの県道に着き北西へ進んだ。

 ここは本当に路肩が広く、走りやすい。信号も少ないから気持ちよく流せる。

 しかし前を走る若宮は無駄な力を加えてないからなのか上体はまったくぶれていない。なめらかにペダルを回している。普通にすごいと思った。多分俺は少しはぶれているだろうな。

 

 

 ☆

 

 

 県道をさらに北西に進み美浜大橋を差し掛かった。登りもなんもなくスイスイ登る。やっぱりロードはすげぇ(小並感)

「夕日綺麗だね」

「あぁ全くだ」

 幕張海浜公園の交差点を右へ曲がってメッセの横を通っていく。そして程なくして海浜幕張駅前を過ぎる。駅の交差点をすぎるとさらに大きい交差点があった。

「ここ湾岸道路で、トラックを始め車多く通ってるから気をつけてね」

「あぁ」

 1つ道路を横断し高速道路の下を潜り抜け、もう1つ道路を横断した。うん。これは怖いわ。信号待ちしてたときトレーラーバンバン通ってたもん。

「さっきの通りは産業道路で時間帯問わず車たくさん通るから私たちもあの道路は使わないんだ。道も荒いし。もう少し整備したら東京方面行きやすいんだけどね……」と若宮は嘆いていた。

 件の交差点を過ぎ程なくすると国道14号の交差点に着く。このあたりも通学路だから土地勘はある。

「ここら辺まで来れば道は分かるよね」

「あぁ、この一帯は俺のテリトリーだ。あとは左行って右だろ?」

「そそ。あとちょっとだから頑張ろ!」

 ヤマダ電機やニトリ、ドン・キホーテと見覚えのある建物が増えてきた。このあたりも道が広めで走りやすい。あれ? 千葉県案外自転車に向いているのでは? 

 高速道路を跨ぐ陸橋に着いた。あとは北東へ進むと地元に着く。

 そしていつものセブンに着いた。

「ふぅ……着いたな」

「おつかれ比企谷くん!やっぱり普段の自転車通学のおかげか結構いいペースだったよ」

「そうなのか?」

「そうだよ!始めたての人はだいたいは30キロが壁で、その壁を超えれたら初心者卒業みたいな感じだけど、比企谷くん余裕じゃん!」

「あぁ、確かにママチャリよりスピード出せる感じがするわ。前傾姿勢だしな」

 俺は特にペースを考えてはいなかった。前を走る若宮に合わせただけだ。

 セブンで休憩していたらある1人の女性がこちらに向かって歩いて来た。

「あら、楓奏……お友達かしら?こんばんは」

 軽く頭下げて会釈した。

「あ、お母さん!彼はね、同じクラスの比企谷くん。今日自転車の納車日だったから一緒走って帰ってきたの」

「比企谷くんね……初めてまして!私は楓奏の母親の華楓(かえで)です」

「初めてまして。比企谷八幡です」

「どう?うちの娘と上手くやっているかしら?」

「まあ、よくわか……楓奏さんと話をしています」

「そう……ねぇ楓奏、最近やけに張り切ってお弁当作るけどもしかしてそういう?」

「おべんと……な!違うよ!アレは何となくというか……」

「へぇ……じゃお邪魔しちゃ悪いから先に行くわね。比企谷くんもうちの娘をどうかよろしくお願いね?」

「は、はぁ……」

「なんか意味が違って聞こえるからー!……ごめんねうちの母さん、あんな感じなんだ……」

 なんというか見た感じは大人しい女性だが、いざ話すと柔らかな表情になる。何とは言わないけどそこまで大きいではなかった。遺伝だなうん。多分。

「まあ、男子の俺がいたらそうなるもんじゃね?」

「なのかなー……いい感じに日が沈んだしそろそろ帰ろっか」

「だな」

「じゃまた明日学校で!」

「あぁ」

「あ、言い忘れてたけど納車おめでとー!」

「おう。今日はサンキューな」

 若宮に手を振り返していつも通りセブンで別れた。

 

 

 ☆

 

 

「たでーま」

「おかえりお兄ちゃん。ってそれどうしたの?」

「あぁ、親父から金借りて買った。話してなかったっけ?」

「ううん聞いていないよ? あ、もしかして若宮さんの影響?」

 小町ったら鋭すぎて困っちゃう。確かにそれもある。だが1番は俺自身が楽しいと思えたからだ。

「まぁあながち間違ってはない」

「ほう若宮さんやるな……落としにかかっている……」

 なんかブツブツ言ってるような気がするが気のせいだろ。

「今度若宮さん連れてきてよーお兄ちゃん」

「まあかなり前向きに検討しておくわ」

「ぶえー。それ断る常套句じゃーん」

 うるせぇ。まあ、前も紹介してほしいとか言ってたしな。聞いてみて向こうの反応次第だろう。今度聞いてみるか。

 それから晩飯を食べ、シャワーを浴びて自室でゆっくりしている。

 軽く今日のことを思い出した。

約束した時間よりも早めに店に着きヘルメットを買いに行った。会計しようかというところで若宮も店に着いた。そして2人で走って帰ってきた。

 ちなみに自転車は自室の一角に置くことで落ち着いた。これからいろいろあいつから学んで行くだなと思いながら眠りについた。




久しぶりの自転車回いかがでしたでしょうか。実は自転車で秩父往復は中の人の実話なのてす。
それではまた。


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理由を手にする

少し間を開けてしまったので長めに書きました。それではどぞ。


 自転車始めてからどっぷりハマったどうも比企谷八幡てす。つい最近は秋葉原まで行ってきた。片道30キロ近くあるから無理だろと思ったら案外行けちゃった件。

 1時間半で行けちゃうし、交通費も浮くし、地球にやさしい。なにこれ最強じゃね? なお初期費用。

 しかしアレ乗るとママチャリくっそ重いのな……

そう思いながらベストプレイスの道を歩む。あと最近心做しか食べる量増えた気がする。パンも2つや3つになってさらにおにぎりも食べるようになった。ラーメンも食べる頻度増えた。

 自販機でマッ缶を買いベストプレイスに着いた。

いつもの定位置の隣に俺を自転車の世界に引き込んだ張本人がいらしゃった。

 なんかベストプレイスに2人でいるのが普通になってきたな(今更)

「よう」

「あ、やっほー比企谷くん」

 定位置に座り、おにぎりのビニールを剥がしながらさっきふと思ったことを聞いた。

「なぁ、1つ聞きたいことあるんだけど自転車乗るとやっぱり食べる量増えるもんなのか?」

「そうだけどなんで?」

 ここ最近食べる量増えたということをそのまま伝えた。

「それは普通だよ。だって運動してるんだから。ほら車はガソリンないと動かないでしょ? だから私たちはカロリーがガソリンみたいなもので無くなると動かなくなるよ」

「なるほどな……どうりでお前よく食べるわけだわ」

「こう見えて増えてないか、少し体重落ちるぐらいだし。ま、交通費浮く分食費になるよ。ほんと車のガソリンみたいなもんだから」

「なるほどな。じゃ燃料補給てところか」

「そうそう。自転車やってると食べないよりも食べれる時に食べた方がいいよ。乗らないと太るけど……」

 しれっと怖いこと言わないでもらえます?若宮さん。まあ始める前より体重減ったけども……

 あ、焼きそばパンうめぇ。炭水化物と脂質の暴力を感じる。

「世にはグルメライドというのがあって、ご当地グルメを食べるために走るなんてこともあるよ。私はそれで川越まで行ったことあるよ」

「川越って……埼玉か?」

「そ。埼玉県の真ん中ぐらい」

 ダメだ……こいつに追いつくの到底無理な気がしてきた。走る距離が違いすぎる。とか言いつつ俺もアキバまで余裕だったしな。下手すりゃ人のこと言えなくなるかもしれん。あ、マッ缶うめぇ。

「あ、今こいつとんでもない距離走るなぁ。って思ったでしょ?」

 なぜ分かったし。エスパー若宮さんですか。

「比企谷くんももう少し装備を揃えたらこんな距離へっちゃらだよ!」

「装備ねぇ……何が必要なんだ?」

 若宮が言うにはあと必要なのはサイクルウェアにアイウェア、携帯工具、予備チューブetc.

 なぜチューブを持ち歩くかというとパンクしたら基本その場でチューブを交換するらしい。なおチューブ交換は基本中の基本なので覚えておくようにと、若宮教授はそう仰っている。

「それ諸々いくらぐらいかかるんだ?」

「んー。きっちり揃えると4万円はかかるかなー……ウェアは夏物と冬物あるし」

「おうふ」

 これはガチでバイト始めねぇときちぃな……親父に金返さないといけないし。

 一応働きたいと思った場所はいくつか候補はある。近日中に応募するか。

「まあ冬物は夏に買って、反対に夏物は冬に買うと安く済むよ」

「そうか。いろいろありがとな」

 自転車談議に花を咲かせ、早くも予鈴が鳴った。あとから聞くと川越まで自走で往復150キロ近く走ったそうだ。ヤバいよな。

 

 

 ☆

 

 

 待ちに待ったけど待ちに待っていない放課後である。何言ってるのか分からないと思うが、部活なのである。部活がなければ待ちに待ったココロオドル放課後であったのだ。ま、今日も紅茶を飲んで読書だ。お客さん来なければの話だけどね。

「うっす」

「比企谷くんこんにちわ」

「おう」

「ゆきのん!ヒッキーやっはろー!」

「由比ヶ浜さんこんにちわ。2人とも紅茶いるかしら?」

 とか言いつつすでに準備してんだよなぁ……やはり由比ヶ浜を感知するレーダー探知機付属してるでしょ。ま、ありがたく頂くけど。

雪ノ下と由比ヶ浜は相変わらず談笑とゆるゆりをしている。そんな俺は定位置に座り読書をしている。読書に集中していたら話しかけられた。どうやら会話に入ってたらしい。

「ねぇヒッキーってば!聞いてる?」

「おうなんだ?」

「聞いてないじゃん……ほら最近乾燥し始めてるじゃん?だからUS……ゆ、ゆーえすえー?で繋げて使える加湿器買おうかなと思ってるんだけどどうかな?」

 いや、アメリカと繋いでどうすんだよ。USBなUSB。そんな国交レベルの加湿器いやだわ。気になるけど。U.S.B!違うか。違うな。

「ばっかお前。アメリカと繋いでどうする。USBだUSB」

 思ったことをそのまま口にしていた。

「そうそう!USBのやつ!どうかな?」

「いいんじゃねーの。知らんけど」

「ヒッキーテキトーだなー」

 いや、知らんがな。買いたきゃ買えばいいだろうが。男子の俺に意見を聞く自体間違いだっつーの。

 そんな時にノックが響いた。お客様が来たようです。

「どうぞ」

「お邪魔しまーす」「し、失礼しまーす」

 2人のお客さんだ。1人は城廻先輩。もう1人は……知らん顔だ。

「城廻先輩と……1年生の一色いろはさんかしら?」

「は、はい。ご存知なんですか?」

「えぇ。全校生徒の名前覚えてるもの」

 おう。そのへんにしとけ一色さん?が地味に引いてるぞ。しかし変わった組み合わせだな。どんな依頼が舞い込んで来るのだろうか。

「どうぞお掛けください。それではどういったご要件でしょうか?」

 今回の依頼を簡単にまとめると、1年生の一色の依頼はクラスの周りの悪ノリで生徒会の会長選挙に出る羽目になり、それを当選しないようにしてほしい。そして生徒会長になるつもりはないけれど、信任投票で不信任になりさらし者になるのは嫌だ。という内容だ。

「それにしても随分タチの悪いいたずらね。悪質極まりないわ」

 ごもっともである。いたずらところが恨み買われてるんじゃないかというレベル。

「とりあえず1つ案はある」

「どんな案かしら」

 それは最初から嫌われ者俺が応援演説をし、一色の名誉を傷つけない形で落選避けることだ。

「そういうやり方しか知らないのね。私は反対よ」

「は?いや時間も少ないしこれが1番手っ取り早いだろ」

「私も1つ案あるわ」と、前置きを添えてこう言い放った。選挙に出馬すると。

「ゆ、ゆきのん?!」

「そもそも自主的に選挙出ようとする生徒は少ないから、理由を説明しても一色さんを選挙から取り下げるのは難しい。だから私が選挙に出れば一色さんは確実に選挙から下ろせるわ」

 確かに理にかなっている。さらに言えば突貫的に準備を進めれば選挙に間に合わせることができる。

 しかしだ。この部活はどうなるのか。部長である雪ノ下雪乃が居なくなれば消滅する可能性が孕んでくる。

「部活はどうなるの……?」

 由比ヶ浜の純粋な疑問。

「大丈夫よ。生徒会の仕事をこなしつつ、ここにも顔出すわ」

 それは無理だ。生徒会長になれば必然的に生徒会の仕事に傾き、かなり早い段階でこの部活に来なくなるだろう。生徒会長と奉仕部部長かけ持ちはかなり無理がある。

「っ……私も出る!選挙に出るよ!」

「は?」

「由比ヶ浜さん……あなたはいいのよ。私が……」

「ゆきのんに任せっきりじゃいやだ!」と、由比ヶ浜は被せ気味でそう言い放った。

「それこそこの部活どうするんだ?」

「もし私が当選したらゆきのんのように仕事をこなして、顔を出すよ」

「それは無理だ」と、さっき考えついたあらゆる可能性を伝えた。

「で、でも部長のゆきのんがいればこの部活は無くならないでしょ!」

 確かにそうだ。部長がいれば奉仕部自体無くなることはないだろう。しかしそうしたら由比ヶ浜は次第に来なくなり、それは奉仕部という名をした奉仕部では無いものになる。

 

 

 ☆

 

 

 放課後。俺は自転車を押し、隣に由比ヶ浜と並んで歩いている。眩しい夕日に照らされながらお互い無言でバス停に向かっていた。

 が、由比ヶ浜が急に立ち止まった。

「どうした?」

「ヒッキーは私が選挙に出ることは反対しないの……?」

 由比ヶ浜らしくなく、少し涙声そう言われた。

「由比ヶ浜は出たいのであれば反対する理由はないだろ」

 これの言葉は嘘だ。上手く言葉に言い表せないが少なくとも確信している。

「そっか……私ね、好きなの……。奉仕部が。ゆきのんとお喋りして、美味しいお茶を飲んで。そしてたまにヒッキーと話すのが好きなの!だから……あの部活は無くなって欲しくない……」

「……それでも選挙に出るのか?」

「うん。ゆきのんに任せっきりは嫌だし、私は正々堂々と戦うよ」

 目の前にいるのは、強い意志を持った女の子だった。

 それからバス停で由比ヶ浜と別れ、俺は自転車漕いで帰路に着いた。

 

 

 ☆

 

 

 

 家に着きあれからほかに何か案ないかと考えに考え、結局あまり寝つけず朝を迎えていた。今日の天気は雲の多い一日になるでしょう。テレビに映る天気予報士はそう言った。

 雨は降らないといいんだがなと心の中で切に願っていたら小町が話しかけてきた。

「昨日から元気ないけど、どったのお兄ちゃん」

「いやなんともない。いつも通りだ」

「嘘だぁ」と、わざとらしく言ってくる。お兄ちゃんとしては今はほっといてほしいところはある。

「奉仕部の中で何かあったの……?」

 さすが我が妹。鋭い。お兄ちゃんの考えはお見通してか?ああ大正解だよ。お兄ちゃんの考えはお見通しであればほっといてほしかったな。

「だからそんなんじゃねぇよ……」

 その話はするなと言わんばかりに感情が顕になり、強く当たってしまった。猫のカマクラは何か空気を察したのか食べかけのエサを残しリビングから離れて行った。

「何その言い方……そんな言い方しなくたっていいじゃん!」

 小町は珍しく怒り大きな声を出していた。少し冷静に考えたら俺が強く当たったのが原因と気づき謝ろうとしたが遅かった。

「……今日小町1人で学校行く。もう行くから食器片付けといて」

 謝る場もなく、小町は学校指定の鞄を引っ掴み玄関へ行った。ドアの閉める音がやけに乱雑なのは気のせいではなかった。嫌われたかしらん……

 今日は普段より少し早く起きてしまった。まだ時間に少し余裕があるから皿洗いして家を出た。

 曇りで日差しがないため普段より1層冷える。だんだんと冬に近づいていると実感する。しかし雲が少し厚いな。帰るまで降らないといいんだが。

 いつもの通学路を経て、学校内の駐輪場に着いた。

 下駄箱で上履きに履き替え、廊下を歩いて教室に入って席につく。相変わらず騒がしい教室である。イヤホンをつけ適当な音楽を流し机を突っ伏した。

 そんな中俺の肩を軽く叩いてくるやつがいた。戸塚だといいなぁ……

 顔上げたら昼食によくお邪魔するアホ毛がいた。俺に対して軽く手を振り席についてた。俺も軽く手を挙げて応答しておいた。

 1限、2限、中休み、3限、4限。それぞれの科目の授業を受けたがさっぱり頭に入ってこなかった。昨日の1件についてずっと頭を駆け巡っていた。

 そろそろ糖分不足で倒れるかもしれない。マッ缶2本コースと行こうか。

 考えることに集中しすぎてメールを見落としていた。大手通販サイトのおすすめ商品ですかね……と思ったら違っていた。

 若宮 『今日お弁当あるから手ぶらで来てね( ˆoˆ )朝のうちにメールしようとしたんだけどすっかり忘れちゃった……』

 スマホのロック画面の通知欄にそう書いてあった。「了解」と簡潔に返信していつもの場所へ向かった。

「うっす」

「あ、やっほー比企谷くん」

「その、弁当ありがとな。ほれ報酬のマッ缶」

「いいのいいの。マッ缶ありがとね」

 本日のメニューは唐揚げにだし巻き玉子、そしてサラダである。シンプルながらも量がある。男の俺としてはありがたい組み合わせである。

「今日はどちらかというと量を重視してみました」

 若宮はドヤ顔でそう言った。ドヤ顔が絶妙に似合うのは気のせいだろうか。

「おお。それはありがたい。じゃいただきます」

「いただきまーす」

 唐揚げをひとつまみ。うめぇ。昨日と今日で脳みそ酷使しすぎたせいかめちゃくちゃ美味く感じる。

「相変わらずうめぇな……」

「えへへ……照れるなぁ」

 相当腹減っていたのか我ながらけっこうな勢いでかっ込んでいた。そしていつの間にか平らげていた。

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした……今日食べるの早いね」

「多分めちゃくちゃ腹減ってたからだろうな」

「多分って……」若宮はクスクス笑っていた。さてお待ちかねマッ缶タイム。缶を開けのどに流し込む。まさに確定演出。実家のような安心感。ただいまって感じ。

「今日随分いろいろ勢いあるね……?」

「ああ。ちと脳みそ酷使しすぎて糖分不足で倒れそうだったからな」

「あんま根を詰めちゃダメだよ?」

「おう……あぁうめぇ」

 語彙力が低下しているあたり相当糖分足りてないな。これはマッ缶3本フルコースかな? 

「今日さ、放課後というか部活のあと時間ある?」

「まあ、ひまっちゃあ暇だが。というか中休みぐらいの時間に今日は部活休みというお達しが来ていた」

「ほんと? じゃもし良かったらぷらっとどっか遊びに行かない?」

「漠然としてるな。どこか行きたいとかそういうのじゃないのか?」

「ううん。適当に遊びにいきたいなってだけ。ダメかな?」

 適当に、か。気晴らしにいいかもしれないな。昨日からずっと考えることしかしていなかったしな。休息大事。

「ああ。いいぞ。とりあえずゲーセンにでも行くか?」

「お! ゲーセンいいね! そういえば最近行ってないなー」

「お前ゲーセン行くのな」

「週何回かたまに行くよ。比企谷くんは?」

「俺もたまにだな。だいたい格ゲーか音ゲーやるわ」

「私はレースゲームよくやるよ」

 レースゲームか。マリカとかだろうか。あと思いつくのは某チョメチョメDしか出てこないが女子だし流石にやらないよね。あのゲームは原作を読むぐらい相当コアなファンでもない限り遊ぶ女子はなかなかいないだろう。

「イニDとか湾岸とか。あとたまに太鼓とか」

 そんなレアな女子が目の前にいました。すみません。わ、湾岸? あぁ、首都高の走り屋のお話ですね分かります。どちらも嗜んでらっしゃるのですね若宮さん。

「マリカとかかと思ったらそっちかよ。自転車といい走り屋系女子かお前」

「走り屋系女子ってまた斬新な……でも否定出来ないのが悔しい」

「まあ俺も一時期それ遊んでたことあるけどな」

「じゃあ比企谷くんだって走り屋系男子じゃん!」

「それはあくまでも過去形だから走り屋ではないな」

 若宮が言うには、チョメチョメDとか湾岸とかはほとんど父親の影響だそうだ。小学生のころは若宮の父親が遊んでいたGTシリーズを遊び倒していた。

 ポケットなモンスターやらドラゴンなクエストとかそっちのけでハンドルを握ってサーキットを爆走(ゲーム)していた。で、某Dとかは原作とアニメ観ていたそうだ。とんでもねぇ英才教育してるな若宮の親父さん……

「ま、そのせいかポケモンの名前とか全然分からないよ。○○強いよとか言われても、ん?ってなるね」

「お、おうとんでもねぇ英才教育受けてんな……」

「私はやりたくてやっていたからね。遺伝子は逆らえないものなのかな……」

「蛙の子は蛙っていうしな……」

 

 

 ☆

 

 

 

 予鈴が鳴り、昼休みは終わりを告げようとしていた。5限目は生物の授業で移動教室だから割と急がないとまずい。

 廊下は走ってはいけないがやむを得ず走って移動した。

 何とか間に合い、5限目の授業を受けた。6限は数学で睡眠を貪る。もう数学は捨てた身ですから。中1で習う連立方程式で躓くぐらい数学は無理なのだ。

 というわけでおやすみなさい。

 

 

 ◇

 

 

 ただいま絶賛数学の授業を受けているどうも若宮楓奏です。数学は得意でもなく極端に苦手というわけではない。成績もだいたい真ん中をキープしているよ。

 でも数学はめんどくさいし嫌い。算数さえ分かればいいじゃんっていつも思う。xやらyとかいつも仮定ばっかりをするから嫌い。ハッキリしてよと思うの。

 あとこれだけツッコミ入れさせて。点P、お前はダメだ。お前は動くからめんどくさい計算するはめになるんだよ。

 チラッと2つ隣の席に座ってる比企谷くんを見てみた。え?机に突っ伏しているけどもしかして寝てる?数学は捨て科目だったりする? 

 というか私も眠くなってきたよ……ふぁぁ……

 眠気と格闘して授業を受けていたらいつの間にかチャイムが鳴った。その後短いHRがあって今は放課後の帰り道。

 右側に自転車を押している比企谷くんが居て、私はその隣を歩いている。

 何気に車道側いるあたり紳士だよねぇ……しかし冬にだんだんと近づいてきてから日が落ちるの早くなってきた。空はわずかなオレンジ色を残しほとんどが暗い紺色に染っている。そういえば朝曇り予報だったのに外れたのか、晴れていた。

 比企谷くんのご提案で駅の大通りじゃなくて海浜公園側の大通りから駅方向に向かっている。なんでだろ? 

「そういえばなんでこっちから駅に向かってるの?」

「あぁ。駅の通りだと同級生多いだろ? また変な噂出回ったら面倒なだけだ」

 あーなるほどね。私としては噂され……たくはないよ? 嘘じゃないよ? たしかにいろいろめんどくさいし……

 左側にセブンが見えてきた。それとほぼ同じタイミングで1人出てきた。

 出てきた人が総武高生だった。このあたりに住んでいるのだろうか?そう思った時に向こうも気づいたみたい。

「ん? あれ若宮?」

「岩槻さん?」

 岩槻さん。名前は岩槻美幸。少し背が高く、地毛が茶髪で立派なロングポニテールしている女の子。うちのクラスにいる川崎さん?を少し柔らかくした雰囲気。普通にすればだけどね。

「あと比企谷だっけか?」

「お、おう?」

「2人は何? デート?」

「ちげぇよ。こいつに誘われて駅前のゲーセン行こうとしてんだよ」

「ふーん。ま、男女交際なくても男子と女子と出かける約束するだけでもデートという扱いらしいよ?テレビで見た」

 そうすると私は比企谷くんと今まで何回デートしたんだろう……今までの概念で考えたらどんなラブラブカップルだよ!昼休みはよく一緒にいるし、なんなら同じ趣味も持っている。あれ? 付き合っちゃ……ゲフンゲフンなんでもないですすみません。

「邪魔すんのも悪いから行くわ。じゃあな」

「あ、岩槻さん!良かったら岩槻さんもゲーセン来る?」

「……まあ、2人の邪魔じゃないならいいが」

「比企谷くんは大丈夫?」

「まあ、構わんが」

 んじゃれっつらごー!3人でゲーセン行くことになりました。

 セブンからはもうそんなに距離がないのであっという間に駅前に着いた。ちなみに岩槻さんは格ゲーとたまにメダルゲーム(競馬限定)を遊ぶみたい。

 え、おっさん……あ、すみません殴らないで……睨むと割と怖いよ岩槻さん……

 ゲーセンに入ると聞き慣れた騒がしい音が響く。まず岩槻さんと比企谷くんはドン☆パチ(格ゲー)するみたいなので観戦する。

「そこまでやりこんではいないからお手柔らかに」

「ごちゃごちゃ言ってねぇでやるぞ」

 2人とも100円を投入して店内対戦始めた。比企谷くんはやりこんでいないと言いながらかなりの速さで技を捌いていく。岩槻さんはガンガン攻撃していく。もうやめたげて!レバーちゃんのライフはもう0よ! 

 比企谷くんは上手く相手の技を捌きつつ時々攻撃する。岩槻さんは攻撃こそ最大の防御と言わんばかりの攻撃。守りに入ったの指折り程度しかしてないよ? 

 やり合ってからしばらく経ち、勝者が決まった。勝者は僅差で岩槻さんでした。

「お前、結構な腕前じゃねぇか」

「それはどうも。てかお前ほど攻撃仕掛けてくるやつ初めて見たわ」

「攻撃こそ最大の防御だろ」

「脳筋か?」

「あ?」

 岩槻さんの睨みで怯む比企谷くん。何気にこの2人も相性悪くなかったりするのかな。

「言っとくけど、むちゃくちゃやっているように見えるけどこう見えて地元のゲーセンはランカーだからな」

「マジかよ……」

「2人とも凄かったね……レバー壊れないか心配だったよ。ほい」

 お疲れ様という意味と来てくれてありがとねという意味で岩槻さんにコーラを渡した。店内の自販機は残念ながらマッ缶はなかったのでコーラにした。

「え、いやなんか悪いからいいよ」

「ううん。来てくれてありがとねって意味で受け取ってほしいな」

「……じゃあ頂くわ。ありがとな」

「比企谷くんもね」

「おう……サンキュ」

 

 

 ◇

 

 

 店内対戦はたまにしかやらないが、あれほどガンガン攻撃してくるやつは初めてだ。正直技を捌くだけで手一杯だった。

 若宮は某Dをやりたいと言うのでハンドルとシフトレバーがついてる筐体の前にきた。

「若宮もこれやってんの?」

「うん。楽しいよこれ」

「奇遇だな。実は私もやってんだ」

 岩槻もやってんのかよ……ハンドルもげそうだな……

 と、思っていた時期もありました。一言で言うとレベルの高い戦いだった。

 2人とも100円を入れ、店内対戦を始めた。コースは中級レベルで上級者からすると簡単かもしれないが、さらなる速さを求めるという点ではそのコースを極めるのが難しい。

 俺も一時期遊んだことあるから車種はなんとなく分かる。

 若宮はNSX。90年代のものだ。そして岩槻はGTR R34だ。

 どちらもプライヤーカードを持っているほどやりこんでいる。俺も持っていることは持っているが、ストーリーも途中までしかやっていない。

「NSXかーボディデカいし曲がれんの?」と岩槻は少し挑発ぎみに言った。

「そっちこそ4WDで突っ込んでこないでよね」と若宮もノリノリのご様子。

 レースは始まった。先頭に出たのは若宮で後続は岩槻だ。岩槻は様子見るために後ろに付いたのだろうか。

 2人ともけたたましいエンジンを轟かせコーナーに突っ込む。ガードレールや壁はもちろんのこと、お互いの車も接触寸前で接触せずギリギリまで詰めている。

 2人とも左に右に忙しなくコーナーを捌いて行く。あとから気づいたが2人ともMTである。か、かっけぇ……

 シフトもコーナリングも全く無駄がなく、めっちゃ速い。

「ここからは私の得意セクションだよ」と岩槻はアクセルベタ踏みで若宮を追い抜く。

 流石得意と言うだけであって少しながらも距離を稼ぎ始めた。若宮も諦めたわけではなくジリジリと距離を詰めようとする。

「仕掛けるなら……この先の5連続ヘアピンカーブ……」と某Dの主人公のようなセリフ聞こえたのは気のせい。

 このコースの難所、件の5連続ヘアピンカーブに近づいてきた。上手く離してきた岩槻は無念にも真後ろに若宮に張り付かれていた。

 最初のヘアピンが近づいてきた。が、若宮はまさかのやり方で抜きにかかった。そう。ライトを消したのだ。暗闇の峠道(ゲーム)で。

「な!? 消えた?!」と岩槻は驚いている様子。

 今運転しているのだから隣の筐体の画面の確認出来ない。すなわち若宮の居場所は分かる術はない。

 岩槻は冷静にヘアピンを2つほど処理したところ、3つ目のヘアピンで若宮の反撃が始まった。

「ここだよ!」と若宮は言い放ちライトを再び付けた。

 3つ目のヘアピンカーブで岩槻は外側に膨らんでしまったため、内側は空いていた。それの隙をついて若宮は内側にねじ込んだのだ。

 そのまま前に躍り出た若宮は逃げ切り勝利を果たした。

「あーあ負けちったよ」

「でも凄かったよ? 店内対戦してこんな楽しかったバトルはなかったよ」

「私もこんなレベル高い相手とやり合ったの久しぶりだな……溝落としは予想していたけどまさかライト消すとはね」

 レベル高い者同士の談議は邪魔してはいけないなと思い俺はトイレ行ってきた。

ちなみにそれなりにギャラリーがいて結構盛り上がったのはまた別の話。それから3人で競馬のメダルゲームに興じて、俺らは帰路に付いた。

「あー面白かった!」

「誰かと行くのも面白いもんだな」

「とりあえずレベル高すぎてびっくりしてるわ」

「そんなことないよ?」と2人はハモって言ってきた。いやそんなことあるよ? 某D上手いJKとか僅かながらいろいろ需要はあるよ? 

「それこそ私から見たら格ゲーのときの2人凄まじかったよ?」

「そうか?」と岩槻とハモってしまった。

「その感覚だよ! 2人は普通かもしれないけど、私から見たら凄いの!」

「なるほどな」

 

 

 ☆

 

 

 

 若宮と岩槻は電車通学だから改札口の近くで別れ、俺は自転車に乗り家に向かった。まあ、そのなんだ。意外と楽しいなと思ってしまった俺がいる。

 家に着き、自室で今日の出来事を思い出していた。

 ゲーセンはだいたい1人で行っている。誰かいても材木なんとかそれぐらいだ。だがらこれほど誰かとゲーセン行くのが面白いと思ったのは初めてだ。

 部屋のドアがノックされ少し不機嫌な声で「ご飯」と簡潔に言われた。小町だ。今朝のことについて話さないといけないなと思った。

 だが、小町は終始ムスっとしていてなかなか話しかけられずにいた。

それから小町は皿を片付け部屋へ戻っていった。俺はシャワーも浴びず奉仕部のことをひたすら考えていた。今日……いや日付変わったから昨日か。ゲーセンでリフレッシュしただろうしいい案出るかと思いきや全然出てこない。リビングのソファーで寝転がりずっと思考に張り巡らされた。

 そんな時に小町がリビングに入ってきて冷蔵庫で探し物していた。

「なぁ、小町……」

 気づいたら声にしていた。でもやっぱり小町はまだ少しムスっとしていた。

「なに?」

「えっと、コーヒー入れるんだが飲むか?」

「……飲む」

 コーヒーが出来上がり、小町にマグカップ渡した。

「……ありがと」

「そのなんだ。話あるんだかいいか……?」

 なるべく低姿勢でお願いをしてみた。小町はどう出るだろうか。もしコーヒーかけてきたらもうお兄ちゃん号泣。

「はぁ……他に言うことあるでしょ?」

「あ、あぁ……今朝はすまん」

「ん。許したげる。それで話ってなに?」

 小町に奉仕部であったことや、今後どうすればいいかいろいろ話した。

まず雪ノ下が選挙に出ればかなり高い確率で当選するだろう。孤高ではあるが、学校内ではそれなりに有名人だ。

 雪ノ下が選挙に出れば一色の依頼どおり選挙枠から下ろせる可能性が一気に高まる。実に効率的だ。しかし部活は無くなってしまう可能性が高い。そしたら由比ヶ浜の「奉仕部は残ってほしい」という願いは叶うことが出来なくなる。

 この相反することをどうすればいいかまったく示しがつかず、小町の意見を聞きたかった。

 全くぼっちと名乗っているのに他力本願かよ。俺らしくねぇな。

「そっか。そんなことあったんだね」

「あぁ。どうすればいいかお兄ちゃんお手上げだ」

「……小町ね、今の奉仕部の皆さんが好きだなー。だからね、結衣さんと雪乃さん、それとお兄ちゃんの3人で奉仕部に残っていて欲しい」

「……あぁ」

「だからお兄ちゃんお願いね?」

「おう」

 それから少したわいのない話をして小町は寝室に戻った。

 こうする理由。それを手入れたからあとは実行に移すのみだ。ちなみに小町に今日の放課後サイゼ来てねと言われた。

 その後俺はさっさとシャワー浴びて、数時間しかないが眠りについた。




続きは早めに上げますのでよろしくお願いします。
それでは。


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行動に移す

続きです。それではどぞ。


 その日の放課後。小町に言われた通りサイゼにきた。小腹が空いていたのでミラノ風ドリアとドリンクバーを注文した。

 小町が言うには助っ人を連れてくるとか言っていた。なんのこっちゃ。

 サイゼに着くの少しばかり早かったのでコーヒーとスティックシュガー×3を席へ持って行き読書を始めた。別にブラック嫌いじゃないけど、やっぱコーヒーは甘くないとな。

 数十分後、小町と愉快な仲間たちが来店した。

「じゃっじゃーん!助っ人を連れてきました!」

 こら、小町ちゃん。お店の中では騒いじゃいけませんよ。その助っ人とやらのメンバーは川……川なんとかさんと……と?戸塚ぁ!?戸塚が助っ人とかこれはもうレベル3の懺悔しなければならない。

 ちなみに懺悔は大きく分けてレベル3つがあって、レベル1は目からは熱い涙、全身の毛穴から熱い汗を流して、「私が悪かった」と懺悔する。

 レベル2は目から血の涙、全身から熱い汗を流す。「私が悪かった、二度といたしません」という誓いがある。

 レベル3は最も深い懺悔、目から血の涙、全身から血の汗を流す。

 戸塚の手を煩わせるとかレベル3の懺悔しなければならない。アーメン。

「お兄ちゃん?息してる?」

「あぁちょっとな」

「やほー八幡!」

「なんで私が……」

 てか助っ人にしてもなぜこのメンバーなのか小町に聞いたら、なんとなくだそうだ。なんでだよ。ま、戸塚がいれば解決したようなものだな。うん。

「えっと、まずなんで雪ノ下さんは選挙に出ようとしているの?」と戸塚様が疑問を飛ばしてきた。事情を説明し一色を選挙枠から下ろすにしても他に立候補する人がいない。だから雪ノ下は選挙に立候補し一色を選挙枠から下ろせるからと伝えた。

「小町はね、奉仕部の皆さんが好きなの。結衣さんと雪乃さんを奉仕部に残って欲しいの。だからお兄ちゃんお願い!」

「いやでもそうすると一色の依頼がな……」

「一色さんのことそんなに大事なの?」

「いや全然まったく」

「仕事と小町どっちが大事なの!」

「小町に決まってるだろ」

「消去法なんだね……」

 こうして4人で集まっているもののさっぱりいい案は出てこない。まあそうだよなぁ……小町はまだしも川なんとかさんと戸塚は奉仕部にそんなに関わりはない。

 川なんとかさんもスカラシップの1件以来そこまで関わりがある訳でもない。戸塚もテニスを鍛えてほしいという1件と夏休みのボランティア以来そこまで関わりがあるわけではない。

 まあどちらにせよ雪ノ下と由比ヶ浜の奉仕部に残留することで方針を進めよう。ここでふと川なんとかさんに聞いてみた。

「なぁここにお前が生徒会長にいいなった思ったやつの名前書いてみろ」

「あたしが?」

「あぁ」

 三浦、葉山、海老名……ほか2名。まあ妥当だよな。いや三浦は女王政権始まるからダメだ。葉山は女子人気で生徒会を運営が難しくなる。というか他の役職の奪い合いによる戦争が始まりかねん。却下。

「あと……あんたとか」

「そりゃ面白い冗談どうも」

 ここで天啓を得たかのように思いついた。逆に一色を説得して生徒会長になってもらうという手もあるな。一色は計算であのキャラ演じているのであればそれはむしろ説得に向いている。好条件をチラつかせれば飲んでくれるだろう。

「あんたらしい発想だね……」

「あはは……」

 深夜23時ごろ。この発想を経ていよいよ実行の時間だ。まず一色を説得する下準備として規定以上の推薦人数を集める必要がある。

 SNSをフル稼働し、アカウントを大量作成する。そして既存アカウント名を弄る。そしてそれらのアカウントのフォロワー数が実質的に推薦人となる。が、1人となると難しいところが出てくる。ここで材木座を召喚することにした。

 今日の昼休み図書室に行った時に材木座からこう言われた。「我はどれほど貴様に与太話してきたと思っている。貴様の与太話はいくらでも聞いてやるさ」とくっそドヤ顔で言われた。腹立つ顔だがそう言われると助かる。なので頼ることにした。

 このやり方は決していい方法ではないとは分かっている。だがこの俺が学校中を歩き回り一色の推薦人を集めてたらなに言われるか分かったもんじゃない。

 なので裏で動くしかない。

 全てのアカウントのフォロワー数を足すと全校生徒の3分の1か……俺はある男に電話をかけた。

『我だ』

「数は充分だ。次の段階に移行するぞ」

『これはあまり褒めれた手段ではない。危険を伴う』

「材木座……」

『おっと勘違いするなよ?お前を心配してるのではなく、実行するまでに責任及ぶのではないか、あまつさえ貴様がとぼけの尻尾切りするのではないかと危惧しているのだけだ。またその場合当方は暴露すると宣告しておく』

「清々しいぐらいクズいなお前。大丈夫だ。正体見つけようにもこのアカウントの人間は存在しない。誰にもダメージは行かない」

 知ってるか?材木座。問題は問題にしない限り、問題にはならないんだよ。

 それからそれぞれのアカウント名を書き換え、それらを済んだら最終的に削除を行う。これで何も無かったことにする。

 これで下ごしらえは終わった。あとは明日一色に交渉を持ちかけるだけだ。

 

 

 ☆

 

 

 翌日の昼休み。一応若宮に対してメールで『用があるから今日はあそこには行かん』と送り一色のクラスに訪れた。

 とりあえず一色のクラスであろう男子に「一色さん呼んでもらえる?」とお願いした。

 一色は期待していた顔から急転直下し、めっちゃ露骨に嫌そうな顔していた。ごめんね。俺で。

 比較的に人が少ないであろう図書室に移動し、昨日こちらが用意した推薦人名簿の書き写し作業に移った。

「せんぱーい。これ書き写すのちょー辛いですよ~……あ、昨日駅前で一緒に歩いていた人ってせんぱいの彼女さんですか?」

「どうだろうな」

「えー教えてくれてもいいじゃないですか」

「これ終わったらな」

「ていうか葉山のことす……どう思ってんの?」

「は?なんですか口説いてるんですかごめんなさい無理です好きな人いるので」

 告白もしていないのに振られたよ俺。斬新すぎて八幡超ビックリ。てかそうじゃねぇよ。単純にどう思っているのか聞きたかっただけだ。

 しかもいいなと思った人に手を出すって言いかけなかったかこいつ……これ刺されても文句言えねぇよ……

「ねーせんぱーい。これってやる意味あるんですか?」

「ま、なくはないな」

「なんか言い方が曖昧なんですけど」

 一色は何をどうしたところで雪ノ下や由比ヶ浜には勝てない。雪ノ下のカリスマ性や由比ヶ浜の人望の厚さには敵わないだろう。そういう意味じゃ無意味だ。

「……ま、別に勝てなくてもいいんですけど。でも案外勝っちゃったりしたら怖いなーって」

「勝てる部分、ないだろ」

「はぁ、まぁ……」

「それに最初の推薦人の連中だって一色には投票しないし」

「……」

「そいつら今頃大爆笑だろうな。で、選挙に負けた姿を見てさらに爆笑……そういうの腹立つよな。やっぱやられたらやり返さないとな」

「いや、まあ出来たらいいですけど」

「出来る」

「え?」

「さっきから書いてるコレ、なんだと思う?」

「推薦人名簿ですよね?」

「そうだ。ただしこれは一色の推薦人名簿だ」

「へ……え!?いやでもわたし推薦人はもう集まってるんですけど……」

「推薦人の規定は30人以上、何人集めてもいいんだよ。ネット上で一色の応援アカウントが稼働していたんだ。全校生徒の3分の1、これだけの支持者もいれば勝てる」

「い、いきなり言われても無理ですよー……ていうかなっても出来ないと思うんですよね。あんまり自信ないっていうか……それに部活もあるし……」

「ま、確かに両立は大変だな。でも得る物は大きい。それはなんだと思う?」

「はぁ……まあ経験とか……あと内申とか。ていうかせんぱい先生みたいですね」

 違うな。お前が得られるのは……『1年生で生徒会長なのに頑張って部活出てる

 わたし』だ。おいこらそこうっわぁとか言わないの。裏声出すの割と大変なんだからね? 

 1年生なら失敗しても許されることもある。その上生徒会がダルいときは部活を言い訳に使える。逆もまた然りだ。

「で、でもやっぱり大変ですよねー……」

「そういうときは葉山に相談すりゃいい。なんなら手伝ってもらえ。部活なら家まで送ってくれるアフターケア付きだ」

「……もしかしてせんぱいって頭がいいんですか?」

「まぁな」

「……まぁこれだけ支持されたならしょうがないですね……その提案らそれなりに魅力的ですし。それにクラスの子に影で笑われるのは嫌ですし。

 せんぱいに乗せられてあげます」

 ビジネスマン比企谷八幡、交渉成立させました。あ、飯食う時間ないですねありがとうございました。

 

 

 ☆

 

 

 2日ぶりの部室。俺はいつも通りやや立て付けの悪い扉をがらがらと開けた。

「うっす」

「こんにちわ」

「やっはろー」

 定位置に座り、本を取り……本を取り出す前に書き写した一色の推薦人名簿を取り出した。

「なぁ、お前らはもう選挙に出なくてもいいようになった」

「え?」

「比企谷くん、それだと一色さんが……」

 そうじゃない。そう言い一色の推薦人名簿の紙束を2人の方に渡した。

「一色が生徒会長やる気になってな、あの依頼は実質的に無くなった。今渡したそれは一色の推薦人名簿だ。ざっと全校生徒3分の1の名前がある」

「すごい……」

「これあなたが?」

「さぁな。どっかの有志の人間がやったんだろ。まあそのなんだ。とりあえずお前らは選挙に出る必要はなくなった」

「これなら私は出る必要なさそうね……」

 これでひとまず小町の「雪ノ下と由比ヶ浜を奉仕部に残っていてほしい」という依頼と由比ヶ浜の「奉仕部無くなって欲しくない」という願いは解決しただろう。俺もひと仕事終えしばらくゆっくりできそうだ。

 ……依頼は概ねクリアしたものの、雪ノ下から生徒会長の仕事のチャンスを奪ってしまったのではないかという不安要素も拭えない。

「先生に報告してくるわね」

「私もいくよ!」

「1人で大丈夫よ」

 雪ノ下は先生へ報告するため部室を離れた。部室は俺と由比ヶ浜の2人しかいない。

「……すまん」

「なんで謝るの!?」

「いや、ほら選挙出たかったんだろ?」

 由比ヶ浜は立ち上がって俺の後ろまで歩いて来た。そしたら俺の頭撫でられていた。いやいや近い近いというか触るな。

「ヒッキーは頑張ったもんね」

「やめろ触んな」

「やーめない! ……このアホ毛凄いね。寝癖直しで直せないかな?」

「やめてくれ。直したらそれこそ俺の存在意義はなくなる」

「そんなに!?」

 ばっかお前。このアホ毛はトレードマークだ。それが無くなったらそれこそ生きる意味無くなってしまう。だって小町とおそろじゃん? いやちょっと言っといてキモいかもしれんわこれ。

「つーか触んなっての。お前あれだ不必要な接触は危険だぞお前」と右手で撫でてくる手を軽く払い除けた。

「?厨二なの?」

 ちげーよバカ。そういう無防備な行為は多くの勘違いを生ませ、最終的には多くの犠牲者を出すんだよ。いいか?無闇に男子にボディタッチしない、休み時間のとき勝手に椅子を座らない、なんなら事務的なこと以外話しかけない。これが三原則だ。そうすれば勘違いは生まず、各々の世界を生き、世界は平和が訪れるのだ。ぼっちによる平和条例だ覚えとけ。

 雪ノ下が先生の報告が終わり、一旦部室に戻ってきたらそのまま部活は終わりとなった。いつも通り雪ノ下と由比ヶ浜の2人は鍵を返しに行き、俺は下駄箱の方へ向かう。

 ママチャリはパンク修理してるため、今日は電車で帰る。とりあえず駅へ向かう。電車がちょうど来ていたので急いで駆け込み、席に座った。駆け込み乗車は危ないから良い子は真似しないでね。

 日が落ちて行く東京湾の車窓を眺めながらぼんやり考えていた。今夜気晴らしに軽く走ろうと思った。最近ロード乗れてないから飯食ったら走りに行くか。




珍しく楓奏たん登場しませんでした。続きはちゃっちゃと書くのでお待ちください。それでは。


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進まない会議 その1

続きです。それではどぞ。


 次の日の放課後、朝の教室で部活一緒に行こうと由比ヶ浜に言われて現在並んで部室へ向かっている。

 由比ヶ浜は若干俯き気味で俺の若干斜め後ろにいる。どちらも無言である。どうした?我が部のコミュニケーションモンスター。由比ヶ浜はこういう時こそ何かしら会話をすると思うのですが……。しゃーない。

「そういや昼ってどうしてんだ?」

「へ?今までと同じ……」

「そうか」

「あのさ……なんでもない」

「そうか」

 会話終了。実に短い。なんなら俺「そうか」と相槌しかしていない。

 その後俺も由比ヶ浜もカツカツと足音だけ響かせ、部室の前に着いた。左前にいる由比ヶ浜は立ち止まった。え?入らないの?廊下割と冷えるから入りません? 

「はぁ……ふー……」と由比ヶ浜は深呼吸してからいつもの挨拶をした。いつも挨拶するとき1拍挟むのか? 

「あたしとヒッキーが教室で話すの超珍しくない?」

「そう。それは珍しいわね」

「そうでもないよねーヒッキー」

「いやいつも葉山グループにいるだろ。それと正直話すの疲れた」

「疲れたんだ!?」

 相変わらず時々巻き込まれながら由比ヶ浜と雪ノ下はたわいのない話をしている。

 いつまでこれが続くのだろう。いつまでこれで続けていけるのだろう。これを続けなくなるとどうなるだろう。朝の教室でぼうっと葉山たちを見ていたのはきっと、教えてくれる気がしたからだ。剥がれ落ちたものはどう取り繕えばいいのかを。

 そう思っていたら扉からノックする音が響いた。どんな来客だろうか。

「どうぞ」

 雪ノ下の許可と共に勢いよく扉開けられた。

「せんぱーいヤバいですー……ヤバいですヤバいですー……ほんとにヤバいんですー」

 奉仕部一同困惑。とにかくあざとい声で「ヤバいです」と連呼してくる来客は一色だった。さっそく生徒会でトラブルとか勘弁してくれ。

 さっきからヤバいとしか言っていない一色の依頼は、生徒会のクリスマスイベントを手伝ってほしいとのこと。しかも海浜総合とかいう他校と合同でやるらしい。

「その企画、誰が言い出したんだ?」

「向こうからですよーわたしから言うわけないじゃないですかー」

「だろうな……」

「で、普通そんなの断るに決まってるじゃないですか。わたしもクリスマスに予定ありますし」

 断るに決まってんのかよ……。ほら由比ヶ浜もツッコミ入れちゃったじゃねぇか。しかも理由が私的すぎるだろ。

「でも平塚先生がやれって言うから……それで始めたものの上手くいかないというか……」

「他校とじゃそんなもんだろ。気にすんなよ。ていうかこっちに来る前に城廻先輩に相談しろよ」

「えっ、えっとな、なんと言うか……受験生に迷惑かけるわけにはいかないじゃないですかー……」

 いや、めぐり先輩が苦手なだけだろお前。目が泳いてんぞ。

 先輩たちしか頼れないつってもな……まあそこんところ部長の雪ノ下がどういう最終判断を下すかなんだよなぁ。

 だがなぜか雪ノ下が完全に上の空である。由比ヶ浜も困惑して俺にアイコンタクト送ってきた。いや、俺にもわからんわ。

 数秒後、ハッとした表情で雪ノ下が意識を取り戻した。こりゃ話聞いてるかどうかすら危ういぞ。

「そうね……だいたいの状況は分かったけれど……どうかしら?」

「いいじゃん!やろうよ!なんか相談来るのって久しぶりじゃん? ここ最近こういうのなかったし……だから前みたいにちょっと頑張ってもいいかなーって……」

「そう……ならそれでいいと思うわ」

「……いや、やめといた方がいいんじゃねぇの。これは生徒会の問題だ。それに一色が会長になっていきなり人を頼りにすんのはよくねぇだろ」

 俺は立ち上がってさらに横を向いて廊下に出ろという意思表示を出した。

「えぇ!?なんですかそれ……」

 うちは何でも屋じゃねぇんだよ。あくまで手助けするだけだ。押すフリをしながら一色を廊下に出そうとする。

「せんぱいが言うから会長になったんですよ!なんとかして欲しいですー!」

 それを言われると弱る。一色いろはに対して責任を取るのは当然のことだ。

 ……であるなら一色と他にもう1人俺が責任を取るべき相手がいる。

 廊下に出て改めて一色に聞いた。てか寒い。もう12月に入りかなり冷え込む。

「これは部としてではなく、俺が個人的に手伝うってのはダメか?」

「はい? それでもいいですけど……実際先輩1人の方が扱いやす……優しいというか頼りになるというか」

 いやもう言い直さなくていいからね。てか葉山はどうした? それこそ葉山に頼って上手くやるもんじゃねぇの?と思った疑問をそのまま一色にぶつけた。

「葉山先輩も部活で大変ですし、あまり迷惑かけたくないというか……」

 ほーん。迷惑かけたくないとか殊勝なこと考えてるあたり、一色もちゃんと恋する乙女やってんだな。思わず感心してしまう。

「それにガチの厄介事とか重すぎますし、女の子はちょっと出来ないってぐらいが可愛いんですよー」

 ねぇ、やっぱ俺の感心返して。てかそもそも俺なら迷惑かけていいのかよ。まぁいいけどよ。

 しかしほんとどこまでも計算ずくめのあざとい後輩である。

「じゃあこの後校門で待ち合わせしましょう」

「え?今日からやんのかよ」

「あんまり時間ないんです……大丈夫ですか?」

「分かった。ただし集合場所は変えてくれ。一緒に帰ったら友達に噂されると恥ずかしいし」

「は?」

 んん世代が違うから通じないかー。しかも『先輩友達いないですかー』みたいな返しもなくマジ真顔。

「……わかりました。コミュニティーセンターって分かります? そこ集合で」

「分かった。準備したら行く」

 

 

 ☆

 

 

 場所は変わってコミュニティーセンター前。言われた通り来たものの一色はまだ来ていない模様。時間ないと言ったのはどこのどいつですかねぇ……

 横断歩道の傍にあるコンビニから人が出るところをチラッと見えた。というか袋を抱えた一色だった。こちらに気付いたのか、少し駆け足で俺の前にきた。

「お待たせしてすみませーん。買い物に行ってました」

 反射的に一色が持っている袋を取ってコミュニティーセンターに入ろうとしたが一色は「は?」みたいな顔をしてきた。

「なんだよその腹立つ顔……。今の袋重いから持ってくれアピールじゃないの?」

「あ、いえ今のは素だったんですけど……は!もしかして今口説こうとしていましたかごめんなさい一瞬トキメキましたが冷静に考えるとやっぱり無理ですごめんなさい」

 俺は何度こいつに振られればいいのだろうか……。そもそも告白すらしてないんですけどね。もうめんどくさいから袋をかっさらった。

「あ……ありがとうございます……」

「別に。仕事の範疇だよ」

「そういうことなら、今度もお願いしますね♪」

 コミュニティーセンター内にある少し広い会議室に入ったら見慣れない制服の方々がいた。こいつらが合同でやろうとしている海浜総合のメンツか。

 目を少し左にやると俯き気味のうちの高校の生徒会メンバーがいた。あまり上手くやれているようには見えないな……。

 向こうの生徒会長らしき人物が俺に気づいたのかこちらに向かって歩いてきた。

「僕は玉縄、海浜総合高校の生徒会長なんだ。よろしく」

「どうも」

「良かったよーフレッシュでルーキーな生徒会長同士企画できて。お互いリスペクトできるパートナーシップを築いてシナジー効果を生めないかなって思っててさ」

 のっけからいいパンチ打ってくんなこいつ。所謂意識高い系ってやつか。

「あっれー? 比企谷じゃん?」

「……おう?」

 向こうの高校の女子生徒が俺を呼んだ。その女子生徒は顔見知りである。名前は折本かおり。中学が同じでかつてのトラウマに関わりがある女子だ。てかこいつ海浜総合だったのね。

「比企谷って生徒会なのー?」

「いや違うが」

「じゃあ私と同じだー。私も友達に誘われて来たんだけどさー……あれ? 比企谷一人?」

「まぁだいたいいつもな」

「……ぷっなにそれマジウケる!」

 いやウケねぇから。俺は反射的に脳内ツッコミ入れた。

「せんぱいお知り合いいたんですね」

 その言い方だとまるでお知り合いなんて存在したんですかに聞こえるからやめようね。

「まあ中学の同級生だ」

「へぇー……あ、会議始まるみたいですよ」

 一色はそう言って俺を引っ張った。やめろ服伸びるだろ。てか席は端がいいんですけど……

 全員席につき、向こうの会長が仕切りはじめる。

「では前回に引き続き、ブレインストーミングから始めようか。議題の内容は

 イベントのコンセプトと内容面のアイディア出しから」

 ブレストね。ブレインストーミングとは実現可能かさておきとにかく意見を出す場だ。さっそく海浜総合側から1人手を挙げる者がいた。

「俺たち高校生の需要を考えるとやっぱり若いマインド的な部分でのイノベーションを起こすべきだと思う」

「そうなると当然俺たちとコミュニティー側のwin-winな関係を前提条件として考えないといけないよね」

「戦略的思考で、コストパフォーマンスを考える必要あるんじゃないかな」

 ……何やってんのこれ?一色は頷いてるけど何言ってんのか分かってんの?

「今これなにやってんの?」

「さぁ?まぁ向こうからいろいろ提案してくれてるんですよ」

「ほーん……」

「みんな。もっと大切なものあるんじゃないかな」

 玉縄が改めて仕切り直した。そうだよな。わけわからんもんな。会議になってるのかどうかすら危ういもんな。

「ロジカルシンキングで論理的に考えるべきだよ」

 いやそれ同じこと言ってんじゃねぇのか?何回考えちゃうんだよ。

「お客様目線でカスタマーサイドに立つというかさ」

 いやだからそれ同じこと言ってんじゃねぇのか。何回客になってんだよ。

「ならアウトソーシングも視野に入れて」

「今のメソッドだとスキーム的に厳しいけどどうする?」

「一旦リスケする可能性もあるよね。もっとバッファー取ってもいいんじゃないかな」

「ああそうだね。全体的よく見たい」

 

 

 ☆

 

 

 外はすっかり暗くなり、会議という何かは一段落ついた。俺はブラックコーヒーを飲みながら今日の会議を思い出していた。うん。なんも決まってない上に何してたのかよく分からなかった。いやボケはじめてないよ?マジで何してんのか分からないんだもん。

「だいたいどんな感じかわかりましたか?」

「いやなんもわかんなかった」

「あぁなんか難しいこと言ってますもんね……けど、すごーい私も頑張らなきゃとか言うと超ウケがいいですよ。あとはメールの相手しとけばおけーみたいな感じです」

「お前いつか刺されるぞ」

「でも先輩も時々ああいう感じですよ?頭良さげというか意識高い系というか」

「一緒にするな。俺は意識高い系じゃない。自意識高い系だ」

「はぁ……よく分からないです。でもやること詰めてきたので取り掛かっちゃいましょう」

「まぁ向こうとそれなりに仲良くやってんだな」

「?……って先輩が教えてくれたんじゃないですかー。教わろとする年下女子は可愛いって」

 そんなこと教えてねぇよ。

 けどまあこれなら俺いなくても大丈夫そうだな。そう告げると一色は少し困った顔になっていた。そんな時玉縄が長机をこんこんと鳴らし一色を呼んだ。

 そことなく嫌な予感がしたが、当たってしまった。

 一色は玉縄から渡された書類の束を持ってこちら側に戻ってきた。

 生徒会が上手く機能しているとは言えなそうだな。お互い遠慮あるんだろうがそれがやり取りを阻害してしまっているようにも見える。

「会長、これでいいかな?」

「あ、確認しておきますね……」

「あと仕事の進め方なんだけどさ……」

「はい」

「……いや、やっぱりいいや」

「……今のは副会長です」

「なかなか大変そうだな……」

「最初はこんなもんですよ。そのうち慣れてくるんじゃないですか」

 ふむ。これは思ったよりも大変なことになっているな。助けを求めてしまうのも頷ける。

 自転車を取りに外に出る。空は晴れていて星は見えるが、12月の夜なのでとてつもなく寒い。とにかく寒いからさっさと自転車に跨り帰路についた。

 普段より遅い帰宅以外は普段通り愛する小町が作った晩飯を食べシャワーを浴びる。小町に「なんかさらに目が腐ってない?」って言われたのはまた別のお話。あんな会議にもなっていない会議もしてりゃ嫌でも目が腐るわ。

 疲れがあったのか割と早い段階ですんなりと眠りについた。

 

 

 ◇

 

 

 おはようございます。若宮楓奏です。

 12月に入り本格的に寒くなってきた。私は目覚ましに起こされ、眠い目をこすりながら身体を起こした。

 本音を言うともっとお布団に包まれたかった。もっと寝たい……

 カーテンを開けると青空が広がっていて、雲が途切れ途切れにあるような感じだった。

 下の階に降りて朝食をとり、制服に着替えた。ちなみに化粧は基本しない。するとしたらせいぜい目のクマが出たらってぐらいかな。

 そもそも朝早く起きてちまちま化粧するのってなんか性に合わないない気がするし、女子高生がバンバン化粧決めても逆になんか大人ぶっているようでなんか嫌だからだ。お化粧はせめて大学生になってからかな……と思っていたりする。

 鏡を見て大丈夫そうだと確認したら鞄を引っ掴み妹の京楓と一緒に「いってきまーす」と言って家を出る。季節問わず、朝はいつもこんな感じだ。

 しっかし寒いなぁ……でもいい……。

 私は冬が好きだ。空気は澄んでいるし、冷気でシャキっと目が覚める感覚が好き。何よりあまり汗かかないのが1番いい。

 しかし隣並んで歩いている京楓がすごく寒がっている。

「うぅ……寒い」

「そう? 私はちょうどいい感じだよ?」

 今日の天気は晴れで、気温は最高気温12℃だ。いい感じの寒さである。

「お姉ちゃん大丈夫そうだよねぇ……」

「私は冬が好きだからね。ずっとこれぐらいがいい」

「それは勘弁だよぉ……私は秋がいい」

 確かに秋はバランスがいいよね。寒くもなく暑くもない季節だし過ごしやすい。寒がっている京楓を見てそう思った。

「じゃお姉ちゃん行ってらっしゃい……」

 めっちゃ寒そうじゃん……風邪引いてないよね? 私は「風邪ひかないでねー」と言って別れたあと駅の方へ歩いていった。

 

 

 ☆

 

 

 時は流れて今は4限目。数学の授業だ。教室は暖房ガンガンなのでめちゃくちゃ眠い。なんとか堪えてるけど……

 教室に限らず電車の中も暖房ガンガンついてるから席に座ると一気に眠気に襲われるよね。現に今日寝過ごすかと思ったもん。蘇我まで連れていかれたらもう開き直って内房線に乗り換えて旅に出るまであるよ。

 なんとか眠らずに授業が終わった。昼休みの時間に入り教室は一気に活気づく。でも私は鞄を持っていつもの場所へ行く。

 確かに寒いけど私は冬が好きだから外でも何ら問題ない。何よりあそこは静かだし落ち着く。しかも冬だからみんな外に出たがらないのでいつもより増して静か。いい場所教えてくれてありがとね。比企谷くん。

 1人でもぐもぐと弁当を食べて、弁当食べ終わるかってところで特徴的なアホ毛がぴょこっと出ている男子が来た。

「寒いのによく来るなお前」

「私は冬が好きだからねー。むしろ気持ちいいよ」

「マジか……さすがに寒いからたまにしかここに来ないわ」

 その男子は私の横で腰をかけマッ缶を嗜んでいた。比企谷くんはやっぱりこの季節はさすがに教室で食べてるのか。時々来ないこともあるし。てか……

「なんか目の濁りが悪化してない?」

「いきなりひでぇなお前……まあ、ここしばらくは放課後依頼をこなさないといけないと思うと絶望に打ちひしがれてるだけだ」

「比企谷くんって何気に律儀だよね……大変な依頼なの?」

 そう言うと比企谷くんは少し苦い顔で考え込んだ。話すか迷っているのかな? 

 考えた末話すみたい。

 どうやら生徒会が海浜総合高校と合同でクリスマスイベントをやるわけだけど、それが上手く行かず依頼として舞い込んだ。そして仕事を処理するには人員が足りてないとのことだった。

「まぁ良ければだが……来るか?」

「うん。行くよ!できることは手伝うよ」

「……助かる。じゃコミュニティーセンターって分かるか? 放課後そこに来てくれ」

「分かった。またメールするよ」

「サンキュな。じゃちょっと生徒会長さんに報告してくるわ」

 比企谷くんはそう言って立ち去って行った。ほんと仕事がやりたくないとか言いながら律儀に仕事をこなそうとするよね……ま、役に立てるか分からないけど比企谷くんがせっかくお願いしてきたんだし頑張りますか! 

 

 

 ☆

 

 

 5限、6限と授業をこなし、今は放課後。私は鞄を引っ掴み下駄箱へ向かった。

 外履きに履き替え、比企谷くんに言われた通りコミュニティーセンターへ向かう。駅の大通りから少し外れたところにあるのでそんなに遠くはない。

 ブラックコーヒーを飲みながら夕焼けの大通りを歩いてく。寒空の下で疲れた身体に暖かいコーヒーが染み渡る。

 どんなことをすればいいだろうと考えながら歩いていたらコミュニティーセンターの前に着いた。ちょうど着いた頃なのか比企谷くんと生徒会長さんらしき人物がいた。

「やっほー比企谷くん。それと生徒会長さんこんにちは」

「……ヘルプとして来てくださった方ですか?」

「あぁ。説明した通りだ」

「初めまして!1年の一色いろはです。よろしくお願いします」

 元気ハツラツと自己紹介をし、丁寧にお辞儀までした生徒会長さん。生徒会長が1年生の後輩ってやっぱり違和感しかない。

「比企谷くんと同じクラスの若宮楓奏です。よろしくね」

「よろしくです、若宮先輩。さっそくですが……色んな意味で覚悟してください」

 え?どゆこと?戦場でも行くの?とりあえず会議をするんだよね……? 

「まあ行けば分かる」

 頭上では?マークを大量生産しているけど行けば分かると言うので2人の後ろについて行った。

 センター内の会議室につき一旦鞄を置く。戦場に駆り出されなくてよかった。

 早速向こうの高校の生徒会長さんが挨拶しに来たので応対した。

 そして時間少し押している様なので早速会議が始まった。

「企画の概要としてまだちょっと固まりきっていないから、昨日のブレストの続きをやっていこう」

 ブレストは確か出来るかどうかは別として意見を出し合う場だよね。もうクリスマスまで3週間ちょっとしかないというのに固まりきっていないって相当ヤバいと思うよ? 

「せっかくだしもっと派手なことをしたいよね」

「それあるー!大きいことというかとりあえずドカーン的な」

「ふっ……確かに小さくまとまり過ぎていたな……」

 え?まとまってた?配られた議事録の紙を見るとロジカルシンキング云々しか書かれてないんだけど……

「何やるのかよく分からないんだけど……」と耳打ちで一色さんに聞いた。

「まあ、具体的には何も決まっていないですけどね」

「ちょっと規模を上げようと思うんだけど、どうかな?」

「あー……そうかもですねー」

 こちら側が了承らしきことを言ったら向こうの生徒会長さんは指パッチンをした。正直ウザいからやめろ。あ、素が出ちゃったてへ。

「……規模を上げるにしても時間と人手が足りないと思うよ?」

「ううんそうじゃない。ブレインストーミングは相手の意見を否定しないんだ。時間的問題と人員的問題で大きく出来ない。じゃあどう対応していくか、そうやって議論を発展させて行くんだよ。すぐに結論を出しちゃいけないんだ。だから君の意見はダメだよ」

 その割には今即否定したよね? てかそのろくろ回しウザいからやめろ指へし折るぞ。あらやだ私ったら猟奇的。疲れてるのかしらマッ缶飲まなきゃ(棒)

「どう可能にするか話し合おう」

「近くの高校をさらに入れるというのは」

 いやなんで意識高い系ってこうも他人とやるのが好きなの?これ以上高校増えてもメリットないと思うんだけど……

「いいね。地域コミュニティーを巻き込むというかさ」

 もう何がしたいんだこれと私は頭抱えてたら意外な人物から発言があった。

「……これはフラッシュアイディアなんだか、さっきの提案のカウンターとして2校のより密接な関係を築いて連携をとることで、最大限のシナジー効果を期待する方がいいと思うんだが、どうだろう?」

「なるほど……じゃあ高校じゃない方がいいね。大学生とか」

 何とか比企谷くんの言いたいことは汲み取れた。違うそうじゃねぇよ玉縄。だからなんでそんな他のところと一緒にやりたがるの?大学とかアポどうすんだよ。

 脳内のリトル楓奏がどんどん粗暴になってくるよ……。

「いやまて。それだとイニシアティブが取れない。ステークホルダーとコンセンサスを得るにしても、ブレないマニフェストはっきりサジェスチョンすることができるパートナーシップをだな……」

「比企谷くん……」

「せんぱい、何言ってるんですか……」

 一色さんと全く同意見でした。お願いだから日本語で話して……ましてや比企谷くん国語得意なんでしょ……

「いや自分で何言ってるのかよくわからん……」

「確かに」と向こうの生徒会長さん指パッチンしながら言った。

 え?今ので分かった? 

「じゃあ近くの小学校はどう?ゲームエデュケーションって言うのかな、ああいうふうに楽しみながら作業するように出来れば、地域の小学生から力を借りられるんじゃないかな」

「win-winだね」

「win-win……うん!それあるー!」

 さっきからそれあるー!としか言ってないけどどれがあるの?そこのお姉さん。

「小学校へのアポイントとネゴシエーションはこちらがやるとして……その後対応お願いできると嬉しいんだけど」

「そうですねー」

「……どうかな?」

「……はい。わかりましたー」

 こちらの生徒会の方々はもうため息。結局具体的に決まらない上に仕事増えることになるもんね……

 ここに来て初日でも分かる。これは非常にヤバい状況であると。

 

 

 ☆

 

 

 帰り道。私は比企谷くんと並んで駅向かっている。一色さんが言っていた「覚悟した方がいい」の意味が分かった。何も決まらない無駄な会議という何かだった。

「なんなのあれ?」

「会議という名の何かだな」

「あれじゃあ一色さんも苦労するのも分かるよ……役員の皆さんと上手くやれてないし。あ、あと1つ気づいたことあるんだ」

「ん?なんだ?」

「一色さんは1年生。向こう生徒会長さんは2年生。つまり1年生の一色さんは完全に向こうに対してイエスマン状態になっていた」

「……奇遇だな。俺もうすうすそんな気がしてたわ」

 同じ生徒会長という立場とはいえ、後輩だから断りづらくズルズルと引きずっている。これはキツいな……

「……そう言えば雪ノ下さんと由比ヶ浜さんは?奉仕部の依頼じゃないの?」

「……いや俺個人で承った」

「そっか……」

 何か訳ありそうな苦い顔していたので、深くは追求しなかった。でも雪ノ下さんが居たらすぐ反論して論破してくれそうなのになぁ……生憎私はそこまで語彙力もなく、何より反論する勇気がない。

 最低でも来週までには決を取らないと間違いなく失敗で終わる。

 駅に着いたので比企谷くんとお別れ。「また明日」と言って彼は帰って行った。

 私もホームへ上がり、電車乗って帰路を着く。席は空いているけど座ると眠ってしまいそうなのであえてドア際に立っている。

 私ではどうにか出来ないのだろうか、ぼんやりと考えながら東京湾の景色を眺めていた。




また少し間が開いてしまったので長めに描きました。
あと会議シーンをところどころ楓奏ちゃんに置き換えてみましたけどいかがでしたでしょうか。
次もなるべく早く書くようにします(フラグ)それでは。


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進まない会議 その2

大変お待たせしました。続きです。それではどぞ。


 よく分からない会議に初めて参加したときから2週間近く経った。

 結論から言おう。何の成果も!!得られませんでした!!某団長さんの気持ち分かった気がする。

 2週間近く経って何も決まってないって逆にすごいと思うんだよね……。例えば学校行事は遅くともLHR使って3、4日でだいたいの方針を固めて、あとは2日ぐらいまでには係とか決まるじゃない?そしてあとは行事に向けて準備をするでしょ。

 つまり何が言いたいかと言うと、2週間近く経って何も決まらないここの会議は学校行事の準備などよりひどい。時間の無駄を極めてりって感じ。

 なーんてくだらないことを考えながら私は生徒会のみなさんと書類を処理している。てか海浜総合。手空いてんならちと手伝えやゴルァ、とリトル楓奏は言っております。私は決して口にしていない。私は悪くない。社会が悪い。いやあいつらが悪い。

「これで大丈夫かな?」

 副会長に確認を貰うために彼の席の方へ移動した。

「うん。ありがとう……というか手伝ってもらって本当に助かるよ」

「ううん。帰宅部だし暇してるぐらいならって感じで来たから気にしなくていいよ」

 そんなときに周りが少しがやがやし始める。と思っていたらランドセル背負っている子供たちが来た。というか本当に近隣の小学校まで呼んだんだ……。人手が足りたとしても何も決まってないから大した仕事の与えようもないと思うんだけど。

 お、来たかといった感じで席から立ち上がって玉縄は小学生の方へ歩いて行った。

 まあ、さすがにどういった作業をお願いするか説明ぐらいはするだろうと私は特に気にせず自分の作業をしていた。そう、数十秒前まではね。

「君たち一人一人のマンパワーに注目している。これから一緒に決めていこう。積極的にいろいろ言って欲しい」

「「「よろしくお願いしまーす」」」

 …………ん?要するに一人一人の出来ることに注目している、これからやることを決めよう。そのためには積極的にいろいろ言って欲しいと。うん、それで? 

 いやなに成し遂げたぜ……みたいな感じで席に戻ってんの?!あなたのご所望で近隣の小学校の小学生たちを呼んだんでしょうよ?!百歩譲ってこれからやることを決めるにしても呼ぶだけ呼んどいて放置って何?!ほら小学生たち困惑してんじゃん?!なんなら会議室の入り口で帰ってきた比企谷くんと一色さんも困惑してるよ?! 

「お、おかえりー……」

「お、おう。あの子達は近隣の小学生だよな?」

「うん。ついさっき向こうの生徒会長が挨拶?説明?してた……?」

「なんで疑問系なんだよ……。つかアレ呼ぶだけ呼んで放置かよ」

 同じ考えでよかったぁ……私だけかと思ってたよ。と心の中で少しホッとしていたら1人の小学生が私の方に来た。え?私? 

「何をやったらいいんですか?」

「えっと……どうしようか?」

「小学生の指示出しどうする?」

「えっと、何も決まってないんですよねぇ……あっちに確認した方がいいんですかね」

「対応はこっちで受けちまった以上、こっちで対応するしかないだろ」

「そうですよねー……」

「そっか……。ならとりあえず邪魔にはならない、でも必要なものだね。飾り作りとかならそういうの出来るんじゃない?」

「そうですね……。じゃそうします」

 ひとまずはこれでいいんだけど、肝心な中身を決めて行かないとこの先どうにもならない。

 

 

 ☆

 

 

 比企谷くんが向こうの会長と話してたら今から会議始めることにしたみたい。

「グラウンドデザインをみんなと共有出来たところで、今日はもっとクリエイティビティな部分をディスカッションして行こう。クリスマスらしく、なおかつ僕たちらしいことだね」

「クラシックなクリスマスコンサートなんかは地域のイベントのスタンダードって感じがするよね」

 あぁ、こりゃ平行線のまま話し進まないなこりゃ。カタカナ語だけは相変わらずペラペラ飛び交うけどね。

「ジャズの方がクリスマスらしいんじゃない」

「でも若いマインドも加味した方がいいんじゃないかな。バントとか」

「それならいっそのこと聖歌隊とかパイプオルガンとか借りて」

 聖歌隊ならまだしもパイプオルガンどうやって持ってくるの?バカなの?仮に何かすごい力働いて持ってきたとしてもどこに置くんだよ。会場は教会じゃなくてここ市のコミュニティセンターだよ? 

「よし、一度検討しよう」

「この中から選んだ方が早いんじゃないの?」

 私は思わず口にしていた。実際選んだ方が早いと思うし、何より中身いい加減決めないと進めようが無いし時間も限りある。

「直ぐに意見を否定するより、みんなの案を取り入れて全員が納得できるもの作るべきだよ」

「いやでもねぇ……」

 私はいつの間にか少しイラつき始めた。結果はさておき多少の遠回りなチャレンジに対して私は否定しない。なぜなら悪いことでは無いと思うしそこから学べることだってあると思うからだ。でも今こうして明らかにやって無意味なことは嫌い。何より時間を無駄にするのは1番嫌い。

「系統的に近いものもあるし、一緒にやる余地はあると思うんだ」

「音楽系はまとめて、色んなジャンルのコンサートというのはどうかな」

「まとめるという観点で見ると音楽とミュージカルは親和性高いよね」

「いっそ全部やって映画にするのは」

「じゃミュージカル映画とかは」

 平行線で一向に進まない会議が続いていたら外はすっかり暗くなり、今日の会議は終わりを告げた。見ての通り結局何も決まらなかった。

 エントランスにある自販機でブラックコーヒーを買い、外の空気吸いながら休憩を取った。

「うー寒っ……」

 思わず声にしてしまうほど冷え込んでいた。しかも割と東京湾に近いから時折海側から風が強く吹くときもある。でも……

「暑いよりマシかな。寒空の下暖かい缶コーヒー飲むと疲れた身体に染み渡る感じが好きなんだよね」

 誰に説明にしてるのかわからないけど思わずボソッと口にしていた。

「なにボソボソ言ってんだ?」

「ん? え、あ比企谷くん!? びっくりしたぁ……」

「そら悪うござんしたな……なんか残りの書類整理とかは生徒会で済ますから帰っていいってよ」

「ほんと?じゃあ鞄取ってくる」

「おう」

 私は鞄を取って再び入口に戻ってきた。そうしたら比企谷くんは私の方に手を差し伸べてきた。

「ん。ありがとね」

 駅まで歩く時、私の鞄は比企谷くんの自転車のカゴに入れてもらってる。近いし別にいいんだけどなんか比企谷くんは反射的に手を差し伸べちゃうみたい。

 そしていつも通り駅の大通りを歩き、決まって彼は車道側を歩く。

 ほんと何気に紳士だよね……そういうところ結構好きだよ。

「そういえば比企谷くんはいきなりじゃあなとか言って帰らなくなったよね」

「ん?あぁ、どうせお前から帰ろうとか言い出すだろうから諦めた」

「諦めた?!……もしかして嫌だったりする?」

「いや……まぁ本気で嫌だったら無視して帰るけどな。そのなんだ、別に嫌ではない」

「ほんと捻くれてるなぁ……。ま、私はこの時間結構好きだけどね♪」

「……さいですか」

 それからくだらない話から始め、クリスマスイベント会議についてお互い愚痴をこぼしていたらいつの間にか駅に着いた。

「鞄ありがとね。じゃまた明日!」

「おう。じゃ、気いつけてな」

「うん。バイバーイ」

 ちょうど電車が来そうだったので少し足早にホームへ駆け上がって東京行きの電車を乗り込んだ。

 ドア脇に寄っかけて夜の真っ暗な東京湾を眺めてた。見えるのは車内の光で反射して映る私と時々見える港の明かりぐらいだった。

「夕方だったらもっと綺麗なのに」なんて自分らしくないことも思ったりしていた。あの時クリスマスイベントの手伝いを誘われて参加したけど、私はちゃんと役立っているかな。何より会議があんなに酷く進まなくて苛立ちを覚える私がいる。普通ならイベントに向けて私たちも準備を始める頃合なのに、未だに何も決まっていない。

 多分だけど海浜総合の人たちは……いや、あの生徒会長は決断するのにビビっているんだ。ビジョンを求めてるとか大層なことを言っているけど本当は決定するというのが怖くて、もし失敗したらと考えいつまでも決を取らない。そして責任問題を分散させようとズルズル引きずり込もうとする。

 さらに一色さんは1年生であっちの生徒会長は2年生。同じ生徒会長でも年下の一色さんは完全に向こうに対して遠慮を持ち、とことんイエスマンと化している。あくまでも総武高校側の総合的な決定権を持っているのは生徒会長の一色さん。

 このままだとこちら側がはいはいと向こうの話を頷くだけで何も出来ずどの道失敗で終わる未来か見える。

 それこそ奉仕部とかにヘルプを求めるか……いや、この件は比企谷くんは個人で承っていると言っていたからやめた方がいいっか。

 私にもっと何か出来ることはないだろうか。ただひたすら生徒会のみなさんと書類整理すればいいのだろうか。でも心の中ではこの現状をどうにかしたいと思っている。

 でも私にそんなこと出来るのか、そんな思考がずっとぐるぐる頭の中を駆け巡っていたら家に着いた。

 お母さんにどうかしたの?と聞かれたぐらいぼうっとしていたらしく、いつの間にか私はご飯食べ終わっていた。

 シャワー浴びてもスッキリせず、ベットに寝転んでも思考の海に沈んでいた。

「私にできることは、これだけなのかな……」

 それだけ呟いて眠りについた。

 

 

 ☆

 

 

 次の日。昨日までの冬晴れから変わって朝から雨。ただでさえ日が当たらないと寒いのに雨である。

 私は左手で傘を持ち、右手を使ってマッ缶を飲みながらコミュニティセンターに向かっている。

 いい加減そろそろ説得するなりして会議を進めるべきかと考えてる時に後ろから走ってくる足音が聞こえた。邪魔になるかなと思い右の方に寄った。

「あ、比企谷くん」

「おう」

「この天気はさすがに自転車じゃないっか」

「まあ、合羽着ても濡れそうな気がするしな」

「朝は雨足強かったもんね」

 コミュニティセンター着いたらエントランスにある傘ぽんに傘を差し、ガチャっと手前に引いた。そう。雨の日のショッピングモールとか飲食店にもよくあるあれだ。

 傘ぽんってGoogle先生に聞いてみたらか何なのか分かるよ。というか名前通りだからさすがに分かるよね? 

 会議室に着いたらいつもの席に座り、借りたパソコンで作業を始める。具体的に何をするかと言うと昨日言っていた様々なアイディアの中でそれぞれ出来るか出来ないかの仕分けとおよそ予算をまとめている。

 まあ始める前から大半は予算的に無理って予想はついてたけどね。というか結果は概ね予想通りでした。本当にありがとうございます。

「小学生たちの飾り作り終わりそうなんですけど、次どうすればいいんですか?」

「ツリーの組み立てとかは?本番まで1週間ぐらいだしちょうどいいだろう」

 比企谷くんと一色さんの会話をチラッと聞こえたけど特に気に留めず向こうの会長さんのとこに行った。

「色々あったアイディアはこっちで精査した。出来そうなものと出来なそうなものに分けた。ま、大半は予算的に出来そうにないけどね」

「お、ありがとう。これで問題点はハッキリしたね。じゃあどう解決するかみんなで考え」

「さすがにそれは無理。1週間しかないんだよ」

 私は被せ気味で少し強めに言い放った。

「うんうん。バントとかは外注で案外頼めるし、組み合わせ次第で僕らなりのイベントになると思うんだ。だからまずみんなと検討しよう」

「……次の会議でいい加減に決めないと作業的に無理だから、そこだけお願いね」

「もちろん」

 本当に分かってんのかこいつ。これはもう覚悟決めて次の会議で決着つけるしかなさそうだなぁ……。

 ひとまず自分の席に戻るときに比企谷くんと1人の小学生の女の子で飾り作りをしているの見えた。どっちも何となく雰囲気が似てるし親戚の子だったり?とかどうでもいいことを考えていた。

 生徒会からもらった仕事を黙々とこなしながら、今度の会議どうするかずっと考えていた。まずどうやって決を取らせるか、そしてどうすれば一色さんはあの会長さんに対して遠慮を無くせるか色んな方法を考えたけどどれもパッとしない。とにかく一色さんのイエスマン状態をどうにかしないと会議は一生平行線で終わる。だからまず目標はこれに絞ろう。

 そしてその日は書類整理などで終わった。勝負は明日の会議しかない。

 私は帰り支度をして先に駅前のカフェへ向かった。単純にコーヒーを飲みたいというわけではなく、一色さんとサシで話したいと思ったからだ。

 時間も少し遅いし、断られるかなと思ったけど案外すんなり話に乗ってくれた。

 あとちょっとかなーとチョコクロをもぐもぐ食べてたらカフェラテを持った一色さんがカウンター席の隣に座ってきた。

「すみません。お待たせしちゃいました?」

「ううん。時間も割と遅いのに誘ったのは私だし、むしろそのカフェラテのお金は私が払うべきだったよ」

「いやいや、奢って貰うのは嬉しいですけどさすがに申し訳ないです」

 一色さんは少し苦笑いでそう返してきた。時間もあまり取りたくないし、ちょうど周りお客さん少ないうちに本題に入るか。

「ぶっちゃけるけど、一色さんは向こうの生徒会長……玉縄だっけ。そいつに対してやっぱり少し遠慮してるとこあるよね?」

「うぇ!? えぇ……はい、そうですね」

 核心突かれてびっくりしたのか第一声が少し大きかった。別に説教をしたいわけではない。どうにかして一色さんに生徒会長としての自信を持たせイエスマンをやめさせたいんだ。

「まあ一色さんは1年生だし向こうは2年生だから気持ちは分かるよ。同じ生徒会長とはいえ向こうが先輩になるわけだし」

「はい……」

「まぁ、説教をしたいわけじゃないんだ。私が言いたいのは一色さんにもっと気持ちを強く持って欲しいことなんだ。逆に考えてみて。一色さんは1年生なのに生徒会長やってるんだよ?もっと誇ってもいいと思う。なんならドヤ顔キメまくっていいまである」

「は、はぁ……」

「こちとら1年で生徒会長やってんだぞ!って意気で会長やってほしいなと私は思う。確かに1年生だから不安で分からないことも多いのも分かる。でもイベントのうちは生徒会のみんなのほかに比企谷くんや私が後ろに付いている。だから一色さんは遠慮せず会議でバンバン意見言って欲しいの。同じ生徒会長同士なんだから先輩とか後輩とかそういう考えなんてどっか捨てちゃってさ」

「……はい」

 お、いい線かな? 力強い返事貰えた。とりあえず最後に明日のことも話そう。

「それと明日の会議のことも話そうと思って一色さんを誘ったんだ。分かってはいると思うけど当日まで残り1週間ぐらいしかない。明日の会議では絶対決を取らないといけない。だから一色さんにお願いしたいことがあるの」

「わたしに、ですか?」

「うん。さっき言った通り向こうの会長にはもう遠慮しないでバンバン意見を言って欲しい。そして向こうになんと言われようが折れないで欲しい」

 向こうはなんかしら言ってはこちらの意見をやんわり否定して水に流そうとするの目に見えている。一色さんにはイエスマンをやめさせてなんとしてもこちら側の意見を通して貰うのが私の狙い。

「私がどうにかして会議を総武高側に主導権を握れるようにするから私に合わせて貰える?」

「でもそうしたら向こうとの関係が……」

「そんなの知ったこっちゃないよ。どうせこれっきりの付き合いなんだろうし平気だよ。多分。それに正直あいつら嫌いだし。中身のない言葉ひたすらを並べてるだけで時間の無駄だよ」

「うわぁ……ぶっちゃけましたねぇ」

「あいつらは散々私たちの貴重な時間奪って来たんだ。やり返そうぜ」

「なんかヤンキーみたいです先輩……でも、分かりました。時間ないですしね」

 

 

 ☆

 

 

 なんとか一色さんは話分かってくれてよかった。これならなんとかやっていけそう。時間はもう遅いので飲み物飲み終わったらすぐ片付けて帰路についた。

 カフェへ向かう時はポツポツ降っていたけど今はすっかり雨は上がっていた。

「一色さんも方向同じ?」

「逆ですね。千葉みなとで乗り換えます」

「そっか。時間遅いのに誘い乗ってくれてありがとね。じゃお気をつけて」

「いいえ。若宮先輩のおかけでもっとやる気と自信が湧いてきました。こちらこそありがとうございます。あ、それでは明日もよろしくお願いします!」

 一色さんは私に軽くお辞儀をしたあと軽く手を振りながら向こうの階段へ足早に歩いて行った。どうやら電車がそろそろ来るみたいだ。

 一色さんからは見えてるか分からないけど私も手を振り返した。

 私も数分後に来た一色さんと逆方向の電車に乗り込み、定位置のドア脇に立ち外を眺める。相変わらず車内の明かりで反射して私の顔が映っている。

 でも昨日思ったのと違って、今日は時々見える港の明かりが綺麗だなぁと思った私がいた。




長らくお待たせしてすみません。なかなか書く時間がなくだいぶ間開きました。次は割と早めに書けそうなので少々お待ちください。それでは。


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終止符を打つ。

少し短めです。それではどぞ


 さらに翌日の放課後、今日の会議は絶対に決着つけるぞと私は意気込んでいる。昨日の夜一応比企谷くんと電話して一色さんと話したことや今日の会議についての打ち合わせもした。だから多分大丈夫。うん……。大丈夫だよね。

 今はセンターへ向かう道中なんだけど実はすっごい緊張してる。だってあの会議の中で目立った発言はほぼしたことないんだもん。でも決着つけなければいけない……。

「ふぅ……」

 とりあえず自分を落ち着かせるためにちょうど目の前にあった自販機で缶コーヒー買った。プルタブを開けて1口目を喉に流し込んだ。

「あー……。うんめぇだ……」

 やっぱり寒空の下で飲む暖かいコーヒーは体に染み込みますわぁ……ちなみに缶飲料にある蓋の正式名称は「イージーオープンエンド」で、EOEと略されている。プルタブというのはEOEの中でのプルタブ式から来ていて、缶飲料のスタンダードらしい。なんかあいつらが喜びそうな説明である。他にも色々あるからGoogle先生に聞いてみてね。

 コーヒー飲み終わったので備え付けてあるゴミ箱に捨てた。少しは落ち着いたかな。

 今回の会議のために一応2パターン用意してある。ひとつは昨晩一色さんが言ってた通り総武高と海浜総合高の関係が微妙な関係になる可能性が高い。

 もうひとつはその関係をぶち壊しかねない。とりあえずこれは最終手段で基本的に却下の方向で。まあどちらにせよこちら側は強気でいないとダメなので微妙な関係になるのは避けられないから誤差よ、誤差。これさえ切り抜ければ1週間ほどで向こうとの関係持つことも無くなる。と思いたい。

 さて。コミュニティーセンター、もとい本日の決戦の場に着いてしまった。上手く行くといいんだけど……。

 いや、もう覚悟決めるしかないんだ。ここでやらなきゃ失敗で終わる。やらないで失敗するぐらいならやるだけやってから失敗してやる。

 意を決して会議室へ入る。いつも座ってる席に座り会議が始まるまで与えられた作業を黙々とこなす。思ったより集中していたのか比企谷くんに声掛けられるまでパソコンとにらめっこしてた。

「よう」

「ん?あ、比企谷くんやっほー」

「で、昨日電話で言ってたことマジでやんの?」

「うん。比企谷くんも一色さんと同じように私に合わせる感じでお願いしていい?」

「それは構わないが、なんか方法思いついてんの?」

「今のところはちょっとキツめに言うスタンスで行こうかなと」

「えぇ……」

「それで割と容赦なく行こうと思う。向こうにはそんぐらいしないとダメな気がするし」

「まあ……とりあえず了解した」

 

 

 ☆

 

 

「そうかもですけどー、わたし的には演劇やりたいなと思うんですよねー。そっちの音楽系とこっちの演劇もどっちも見れるとかお客さんちょーお得じゃないですかー」

 程なくして会議が始まった。前回と違って一色さんはズバズバ意見言ってる。いい感じに変化みれて私はホッとした。ちょっと煽ってる感否めないのは気のせい。でもこれなら行けそう。

「ただセパレートするとシナジー効果薄れるし」

「ですよねー!でも予算的なのあるじゃないですかー」

 やばい。やっぱり一色さんの喋り方若干煽ってるようでちょっとジワる。

「それはみんなで考えて行こうよ。そのための会議なんだし」

 なんだろ、とうとうこいつが喋るだけでイラッとする体質になってる気がする。さっきまでジワるって言っといて急に真顔になった。我ながら凄い手のひら返しである。

「それアグリー」

「アグリーアグリー」

 何がアグリーだよ。とこの民族の挨拶です?一色さんちょっと押されたけど大丈夫かな。良さそなタイミングで仕掛けるからもう少し頑張って……。

「それあるー!」

 ねぇよ。何があるんだよ。

「ちょっといいかな。二部構成することに反対の理由は?」

 お、副会長さんも乗っかってきた。やっぱり会長さんがしっかり意見言えると変わるものだね。

「んー反対ってわけじゃなくてさ、ビジョンを共有すればもっと一体化出来ると思うんだ。イメージ戦略の点でも合同イベント大枠はマストなんじゃないかな」

「そもそも合同でやる必要ってあるか?」

 ありがとう比企谷くん。それ1番ツッコミたかった。そろそろ私の出番かな。

「もちろん。合同でやることでグループシナジーを生んで大きなイベント」

「シナジーなんてどこにもないし、このままだと大したこと出来ないでしょ。なのに何でそんな形にこだわるの?」

「コンセンサスも取れてるし、グランドデザインも共有出来てたわけで」

「違うな。自分は出来ると思い上がってたんだよ。……自分の失敗を誤魔化したかったんだろう。そのために策を弄した、言葉を弄した。言質を取って安心しようとした。間違えたとき誰かのせいにできたら楽だからな」

 ほんとこれなんだよなぁ……やっぱ比企谷くんにもお願いしといて正解だった。これテストだったらたいへんよくできましたの判子押しちゃうぐらい完璧な回答。

「これって単にコミュニケーション不足なだけな気がするけど」

「一度クールダウンの期間を入れて話し合いを重ねれば」

 さてそろそろ反撃しますかね。私もちょうどいい感じにイラついてるし。ふぅ……。とりあえず軽くジャブ入れますかね。

「あのさ、もうこの無意味な会議はもうそっちの学校だけでやっててくんない? 今までの会議、ずっと中身のない言葉ばかり並べてるだけでどれも平行線で1ミリも進んでない。ビジョンの共有やら合同やら大層なことぬかしてるけど、ちっとも共有してないからね?ことあることに仕事投げてくんのそっちだし、そっちが仕事受け持ったのほとんど見たことない。ちょっと1回こっちの身にもなってみろ。なーにが合同だよ。というかそもそも単純に決断する事にビビってるだけでしょ?」

 あれ?なんかギアが入っちゃった……。ジャブどころが左フック直後に右ストレート入れたぐらいのこと言っちゃった気がする。まあいい。こんなの誤差。これだけ言わせてもらう。

「玉縄さん。前にも言ったよね?もう時間ないから早く決めようって。なのにそれ以降の会議は相変わらず平行線で終わる。はっきり言って時間の無駄。これ以上こんな会議を続けるなら正直こちら側はもう付き合いきれない。いい加減これ以上私らの時間を奪わないでもらえるかな?」

 …………あれ?間違ったこと言ってないよね?え、脅した?気のせいだよ。なんかめっちゃ静かになっちゃったんですけど。ってえ!?比企谷くんなんか若干引いてない!?結構ボロクソ言うやんみたいな顔やめて!というかちょっとお願い誰かなんか言って!静かなままだとなんかすごく恥ずかしいから! 

「あーえっと!やっぱり無理に一緒にやるよりも2回楽しんで貰えた方がいいと思うんですけどどうですかね!?」

「あー……うん、それもあるんじゃない?ね?ね?」

「そうだね」「この案もありだねうん……」

 何とかこちらの案を通すことに成功し、この会議は無事幕を閉じた。けど、一色さんに叱られてるなう。多分少し言い過ぎたから怒られてるんですね分かります。

「若宮先輩。あれはちょっと言い過ぎです」

「おっしゃる通りです、一応自覚あります」

 自覚はあるんです。でもなんか楽しくなっt……なんかウチのリトル楓奏が面白くなっちゃっていろいろ言っちゃいました。ほんとすみません。

「せんぱいにも言ってるんですよ!」

「俺も合わせろって言われたんだよ……」

 いや、なんかほんとすみませんでした……。でもわがまま聞いてくれてありがとね。

「私も乗じた身ですし、強くは言えませんがもう少し言葉選んでください」

「ほんとすんませんでした……」「へいへい……」

 しかもド正論だからこそタチ悪いんですよね……とボソッと聞こえた。一応正論ということは認めてもらえたみたい。

「まあ、こないだのこともそうですけど、若宮先輩のおかげでいろいろ助かりました。本当にありがとうございます」

「……うん!」

 こうして本当の意味で無事会議が終わった。大まかやることは決まっているので明日には体制を固め、そして土日を挟み本格的に始動する予定だ。今度こそ本当に忙しくなる。

「あー疲れたぁ……やっと方向性が定まってよかったよ」

 変わらずいつもの道を比企谷くんと並んで歩く。今日は色んな意味で疲れた。慣れないことはするもんじゃないね。

「ほんとな。どっかの誰かさんがボロクソに言ったおかげだな」

「私は事実を述べただけです。よってボロクソは言ってません」

「事実だからタチわりぃんだよ……」

「比企谷くんも結構キツめに言ってたよ?」

「お前が合わせろって言ったんだろーが。俺は仕事を全うしただけだ」

「まあ確かにそうだね。あ、マッ缶飲む?」

 予め2本買ったマッ缶を1本彼に渡した。もちろんあたたかーいやつ。

「マッ缶あるなら早く言え。ちょうど糖分欲しかったところだ。んで、100円か」

「お金はいいよ。私のわがままに付き合ってくれたお礼てことで」

 改札口から少し離れたベンチに2人で腰掛けた。早速ほぼ同時にプシッといい音して蓋を開けた。私の上着暖かいからか、意外とマッ缶は冷めてなかった。そしてその神聖なる飲み物を口に流し込む。

 あぁ美味い。この暴力的な甘さとほんのり優しい苦味。この味が喧嘩をせず自然に調和して素晴らしいハーモニーを奏でる。ほんとジョージアは神。マッ缶以外にも夏商品のココアあるんだけどこれもまた美味いんだ。缶のココアでは文句なしの1番だと思う。ジョージアのココアもぜひ飲んでみてね! 

「やっぱうめぇなぁ」

「これこそ千葉県民のソウルドリンクだよね」

「分かってらっしゃる」

 いつもの流れで握手を交わす。数少ないマッ缶ユーザーなのでこのやり取りはここ最近すっかりいつもの流れと化している。

 軽いマッ缶談義を交わしてたら飲み終わっていた。近くのゴミ箱に缶を捨て、改札口の方へ向かう。

「明日から忙しくなるね」

「そうだな。何とかなったもののやっぱり働きたくない」

「ふふ。気持ちはわかるよ。じゃ気をつけてね」

「あぁ、じゃあな……あ、そうだ」

 自転車に跨ろうとしたときに何かを思い出したかのように私の方に向いた。

「えっとあれだ、お前のおかげでいろいろ助かったし、俺個人で受けた依頼を概ねクリアできそうだ。そのなんだ、ありがとな」

 なんというかやっぱりお礼を言われるのって少し恥ずかしい。でもそれと同時に嬉しくなる。

「……こっちこそ私のわがまま聞いてくれてありがとう。1人だったら多分上手く行かなかった。だからね、ありがと、比企谷くん」

 私は心の底からの笑顔になっていた。ありがとうと言われ嬉しくなって、心の中はポカポカする。あの2人に言われたときとまた違う温かさを感じた。

「……おう。まあそんだけだ。じゃあな」

「……うん!また明日!」

 残りはは本番の前日まで突貫的に作業を進めるのみ。これからもっと大変になる。明日は除くとして来週中には仕上げに近い段階に持っていかないといけない。もしかしたら土日出勤も有り得るかもしれない。まあ、アレだよ。がんばれ私。




しばらくの間、間空くことはないと思いますので続きお待ちください。
それでは。


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12月24日

お待たせしました。続きです。それではとぞ。


 12月24日。今日はクリスマスイベントの当日であり、同時に冬休みに入った日でもある。そして忌まわしき世界共通の行事、クリスマスのイブである。しかも今日は24日だからむしろ明日が本番の人も多いだろう。まあこの2日間で本当に辛いのはサービス業の仕事をやっているお兄さんたちだろう。いくら接客しても9割以上カップルなので本当に心中お察しします。南無三。

 じゃああと1割ほどはなんなのかって?俺だよ。このあと1人でサイゼ行く予定だから充分1割だろ。違うか?違うな。

 本来は例年通り小町と過ごす予定だったが、そろそろ受験ということで友達の家に泊まり、思いっきり遊ぶらしい。遊びすぎて勉強が頭から無くなってしまわないかそれだけが心配だ。まあきっと大丈夫だろう。自慢の妹だからな。

 イベント開始まであと1時間ほどで今現在、最終確認と準備を行っている。俺の仕事はイベント中の指示出しがメインなので今はまだ暇な部類なのである。時々呼ばれたら手伝う程度だ。

 しかし今日までマジでしんどかった。よく1週間弱でここまで漕ぎ着けたと思う。演劇のセットの作りから始まり、演劇に出る子供たちの衣装作りにこれからケーキやクッキーも作られる。

 とりあえずすごいのが助っ人として来た雪ノ下と川崎である。雪ノ下はケーキ作りなどの調理の総監督にあたり、川崎は衣装作りの総監督にあたる。どちらもこの道10年のプロにしか見えないほどの仕事の早さである。

 ……こいつらならこの道10年ってギリ有り得るかもしれない。

 由比ヶ浜はクッキーの袋詰めをしていた。もちろんケーキなど食品には1ミリは触れさせてない。なにかやらせたら冗談抜きで人命に関わる救急車案件になりかねん。なんせクッキーをダークマターにしてしまう恐ろし子なのだから。

 そして若宮もすごい。彼女は料理が得意ではあるがお菓子は作ったことないらしい。それで何がすごいかって初見で雪ノ下からもらったレシピをほぼその通りに作り上げたのがすごいと思う。そんな彼女はクッキーを作りつつ、雪ノ下のサポートをしていた。

 ちなみに俺は主に演劇のセットや作りをやっていた。男だし体力仕事がメインだった。

 それで皆それぞれの得意な分野で奮闘した結果、今に至る。土日出勤なしでここまで来たので実質的に1週間きっかりで出来上がったのである。

 助っ人の能力(ステータス)がチートすぎて俺いらないんじゃない? とかいうラノベが出来そうな勢いである。略してスケステ。多分売れない。あ、絵師は出来ればカントクさんでお願いします。

 今日までのことを思い出していたら声掛けられた。そろそろ開始か、と思ったら若宮だった。

「やっほー。なんかぼうっとしているけど大丈夫?」

「あーいや、よくまぁ1週間でここまで漕ぎ着けたなってふと思ってな」

「ほんとね……私と雪ノ下さんはまだこれからだけど既に疲れたよ」

「とか言いつつ生地? をかき混ぜてるじゃねーか。てかクッキー作るの初めてなんだろ?よく作れるもんだわ」

 料理に慣れてる若宮からすると簡単かもしれんが、俺にはできる気がしない。しかも初見ノーミスクリアというのが素直にすごいと思う。雪ノ下という監督の元で。

「凝ったお菓子は無理かもだけど、単純なチョコチップクッキーとバタークッキーだしね。クッキーも料理と同じでレシピ通りにやれば案外出来るもんだよ」

「そういうもんなのか? まぁ普通にすげぇと思うが」

「えへへ。ありがと。多めに作るからよかったら食べてね?」

「お、おう」

 守りたいこの笑顔。そしてどっかの誰かさんに言い聞かせてやりたい。どうしてあの子はクッキーをダークマターとして生成していまうのか。ああ見えて闇属性なのか? 

「そろそろ入場を始めますので皆さん位置についていてくださーい」

 一色の指示によりいよいよ本番である。さて働きますか。働きたくないけど(矛盾)

「じゃ最後まで頑張ろうね」

「おう」

 無線に応答し、そうして俺は舞台裏へ向かった。

 

 

 ◇

 

 

 私は小学生たちが演劇の途中に、サプライズとして小学生たちがお客さんに配膳するケーキを作る雪ノ下のサポートをしたり、ちょっとしたお土産のクッキーを作るのが私の仕事である。

 割と朝早くから作業を始めてるので正直に言うと少し疲れた。雪ノ下さんはほんとよくまだ作業続けられるよね……。集中力すごいや。

「?どうしたのかしら」

「え、あぁ、朝からずっとケーキ作ってるのによく集中力切れないなぁって……」

「与えられた仕事をこなしているだけよ。クッキーの数もいい具合になってきたしそれを焼いてる間休憩しててもいいわ」

「じゃあお言葉に甘えます~……」

「かなりお疲れね……」

 実はあまり時間なかったので昼食べそびれている。空腹感もあってか私は集中力切れ始めていた。

 エプロンを脱ぎ、センターの向かいにあるコンビニへ向かった。それでセンターの外に出たけど昼間とはいえ寒い。しかもアウター着るの忘れてた。ちくせう。ちょっと我慢すればいいっかと思い少し駆け足でコンビニ向かった。

 コンビニに着いて適当な菓子パンを3つほど取り会計を済ませて、足早にセンターの方に戻った。12月末の気候で上がワイシャツ1枚じゃやっぱダメだ。せめてブレザーぐらい着ないとキツい。

 センターのエントランスにある自販機でブラックコーヒーを買って隣にあるベンチ座り、少し遅めのランチである。

 2つめの菓子パンをモグモグ食べてるころ、遅れてしまったのか2人ほどお客さんが来た。その2人のお客さんは最近会ってないよく見知った顔だった。

「ん?」

「あら?」

「およ?」

 向こうも気づいたのか小さい声出ていた。

「美笹も夏鈴も久しぶりー。最近忙しくて全然会ってなかったね」

「うん。久しぶりだね」

「ほんと久しぶりだよなー。1ヶ月ぐらいかな?」

「見た感じ上手く行ったみたいだね」

「なんとか成功したかな?」

 本当に「なんとかなった」という表現が1番しっくりくる。それぐらい大変だ(現在進行形)

「こないだまで結構大変そうだったよね」

「結構どころがマジで大変だったよ。実際演劇の小道具やら作り始めたのは1週間前ぐらいだからね?そして今私は休憩してるけど現在進行形で奥でクッキー焼いてるよ」

「え?」

「マジ?」

「マジマジ。この後ケーキとか出るからよかったら席かけてよ。多分まだ空いてるとこあるだろうから」

「うん。よかったら後でお話しようね」

「うん!」

「じゃ、頑張ってな楓奏!」

「いぇっさー」

 そうして2人は会場の方へ入っていった。そっか。わざわざ来てくれたんだね。

 冬休み中たくさん遊ぼうね。と心の中で伝え、2つ目の菓子パン平らげた。

 コーヒーも残り少なかったので飲み干してゴミ箱へ捨てた。

 そしてあたたかーいミルクティーを買い、手持ちのビニール袋に入れて調理室へ戻る。

「ただいま戻りました~。はい雪ノ下さん」

「えぇ、おかえりなさい。……これは?」

「少しでも食べないと持たないよ?ちょっと腹持ちがいい菓子パンとミルクティー買ってきたから」

「お気遣いありがとう。お金はいくらだったかしら?」

「お金はいいよ。私が勝手に買ってきただけだから」

「それでも申し訳ないわ」

「うーん……。あ、じゃあどうしてもと言うなら今度奉仕部へお邪魔していい? 雪ノ下さんが入れる紅茶美味しいらしいと聞いて気になってたんだ」

「うちは喫茶店じゃないのだけれど……でもそれでいいならいいわ」

「じゃ商談成立。ほい、どうぞ」

「えぇ、ではいただくわ」

 クッキーを焼いている最中なのでもう少し休憩を取ることにした。雪ノ下さんもやはりお腹がすいていたのか少し勢いよく食べてた。

「言われてみればお腹がすいていたわね」

「私は空腹感で集中力切れ始めてたからさっきの小休憩は助かったよ」

「あら、ごめんなさい。昼休憩はちゃんと取った方が良かったかしら?」

「さっき補給したからへーきへーき」

 クッキーもそこそこの数焼かないといけないから正直休憩する時間があまりないから仕方ない。ま、今休憩取れてるし結果オーライだ。

「……食べ終わったことだし、あともう少し頑張りましょう。ところでそちらの進捗は?」

「あれとあと1回焼いたら少しゆとりのある数になるよ」

「ではそれを焼いたら終わりにしましょう。余ったら持って帰るなりすれば大丈夫そうね」

「だね。じゃ配膳をする指示飛んできたらそっち手伝うね」

「ええ、お願いするわ」

 さてあとひと踏ん張りだから頑張ろう。数的にはこの大きな鉄製のトレイの3分の2といったところか。でも生地を混ぜる左手が結構疲れきてたりする。お菓子作るのこれが初めてだし多分これ筋肉痛になるかも……。

 あ、プロテイン飲めばいいじゃん。(自己解決)これはトレーニングということで左の前腕屈筋群が鍛えられる。あ、でも右腕も鍛えないとバランス悪いか……。というかそもそももっと筋繊維を壊す勢いでやんないと意味ないよね。

 なかなか脳筋な思考をしていたら生地がいい感じに混ぜ終わった。この生地を冷蔵庫に入れて40分ほど寝かしてっと……。

『一色です。雪ノ下先輩、若宮先輩そろそろなのでスタンバイお願いします』

「若宮です、了解しました」

 キリのいいところで無線飛んできたので雪ノ下さんのサポートに付いて、無線を無難に返した。どうでもいいけど無線ってなんかワクワクするよね。

 冷蔵庫からケーキを取り出す。それを大きな調理台に置いていくき、雪ノ下さんがケーキを小学生たちへ渡して行く。

「ケーキお願いね」

「はーい!」

 雪ノ下さんは微笑んで小学生へケーキを渡していく。しかし絵になるなぁ……。絵画の1枚でも出来そうである。

 全てのケーキ配膳されたので自分の作業に戻る。焼き上がったクッキーをオーブンから取り出し少し冷ましている。暖かいうちに入れると袋の中で水蒸気でき、その水分で少し食感が変わってしまう、らしい。

 数分ほど放置したら小分けの袋に決まった数を入れていく。

「キリのいいところでいいわ。ずっと裏方作業だけじゃつまらないだろうし、せっかくだから会場の方へ顔出したら?」

「んー。なんか申し訳ないからこれ終わったら洗うの手伝うよ?」

「もうすぐ終わるから大丈夫よ。私もあとで行くから行ってらっしゃい」

 そう言われたので袋詰め終わったらエプロンを畳んで置いて会場の方へ向かう。そーっと扉を開けたら演劇のフィナーレに差し掛かっていた。1番手前の左側に先ほどの2人組がいた。私はそこの席に掛けた。

「楓奏おつかれー」「お疲れ様」

 そんな2人から労りの言葉をもらった。気持ちだけ少し回復した。

「ケーキ食べる?というか2人じゃホールはちょっとキツいかも」

「じゃ頂こうかな。地味にお腹空いたし」

  菓子パン食ったじゃんって?あれはちょっとだけの腹ごしらえなだけで足りるわけないでしょ。デブるよって?たくさん走るからへーきよ。

「じゃあいただきまーす」

 もぐもぐ……ん?え、なんやこれごっつう美味いやん。疲れて身体が糖分欲しがってるのもあるけど、シンプルないちごショートでめっちゃくちゃ美味しい。お店で並んでもおかしくないと思うよこれ。なんなら今お金落としてもいいレベル。

「めっちゃうめぇ……」

 頬が多分だいぶ緩くなってると思う。周りがまだ暗くて助かった。だって美味しいもの食べると笑顔になっちゃうよね。仕方ないよね。

 

 

 ☆

 

 

 少し久しぶりの談笑をしたらふたたび持ち場へ戻る。最後の分のクッキーが焼き上がり、少し冷ましたら袋詰めを始める。テーブル×満席×ひと袋(6つ)分が最低限必要な数だ。念の為多めに焼いてあるので少なからず余るはず。余った分は上手く数割ってみんなに配る予定だ。

「これでよしと」

 時間もちょうどいいのでエプロン外して、このたくさんのクッキーを配る場所まで運びそこでスタンバイする。

 しばらくすると海浜総合高校による演奏が終わってからしばらくして、お客さんがぞろぞろと帰り出す。

「本日は来ていただいてありがとうございます。こちらを差し上げますので良かったら召し上がってください」

 よし噛まずに言えた。この調子で帰って行くお客さんへどんどん渡して行く。老若男女問わず色んな年齢層の人々来ていたんだなと改めて思う。

「お、楓奏じゃん。サイゼ行こうかって話になったんだけど来る?」

 割と身長低い夏鈴は私に気づいてそう言った。最近あまり行けてないからイベント終わったら夜ご飯食べに行こうかなと思っていた。てかあまりにも機械的にクッキーを配っていたものだから夏鈴のこと一瞬中学生に見えたのはここだけの話。

「あーいいけどもうちょっと時間かかるよ?」

「おけおけ。邪魔になるだろうからそこで待ってるよ」

「うん。あれなら先に行ってていいよ。駅前のとこでしょ?」

「いや、待ってるよ」

「そっか。じゃちょっと待ってて」

 2人は自販機の横のベンチに掛けて私を待つ。なんか友達に仕事しているところ見られるのは少し照れる。

 お客さんが完全に居なくなったの確認したら調理室に戻り、後片付けと余ったクッキーを上手く数割って改めて袋詰めをした。これで私個人の仕事は終わった。その後会場の後片付けと掃除を行い、こうしてイベントは幕を閉じた。

 奉仕部の3人と一色さんは1回学校へ戻るということなので、余っていたクッキーを4人にそれぞれ渡してから帰ることにした。

「あ、待たせちゃった?」

「大丈夫ですよ。この度本当にありがとうございました。皆さんのおかげで無事成功出来ました」

「いや、一色さんが頑張ったからだよ。……ほいクッキーどうぞ。まあ最終的に余ったもので申し訳ないけど」

「わー、ありがとうございます」

「ほい、奉仕部の3人もどぞどぞ」

「ありがとー! 美味しそうだねー!」 「ありがとう」 「おう、サンキュな」

 3人それぞれの感謝の言葉をもらった。嬉しいけど少し恥ずかしい。チラッとスマホを見るとあの2人がそこそこ待っていることに気づく

「あ、ごめん。そろそろ行かないとだから先に行くね」

「はい。お疲れ様でした」

「うん。じゃみんなまたねー」

 すっかり待たせてしまったと思いそそくさとエントランスへ向かう。2人はスマホゲームで白熱した戦いをしていた。

「もうちょい左かな……えいっ!」

「あ、ジリ貧……」

「え?うそ!?」

 You Lose(ネイティブ)が流れると共に夏鈴はしょぼーんとしていた。ほんとごめんね待たせちゃって。ちなみに自前のキャラクターを弾いてモンスターを倒すゲームなんだけど、惜しくも弾く角度が少しズレてモンスターの体力ゲージがジリ貧で残って負けたみたい。

「ごめん。お待たせー……」

「やっと来たかー……」

「気持ちは分かるけど、後でまたそのダンジョン手伝うから、ね?」

 とりあえず駅前のサイゼ向かうべく3人で歩き出す。こうして3人で歩くことがかなり久しぶりで少し楽しい。

 すっかりしょぼくれたた夏鈴に宥めるように隣りに歩く美笹。なんだか親子みたいだ。ゲームとかでギリギリで負けると落ち込むよね。気持ちはすごいわかる。なので、

「ほい、夏鈴。マッ缶」

「え?いいの?」

 しょぼくれた表情から一転して明るい顔になった。ちょうど1か月ちょっと前ぐらいだろうか、このクリスマスイベントの手伝いに参加する前にもこんなふうに3人で遊んでいたんだけど、その時に夏鈴もマッ缶にハマった。そう、こんな感じに。

「それよく飲むけど、おいしいの?」

「めっちゃ美味いよ?ちょっと飲む?」

 飲みかけだけどそのまま夏鈴に渡した。

「うん。じゃいただきます。んぐんぐ……。ぷはぁ」

「どう?」

「……なにこれめっちゃ美味しいじゃん!どこで買えるのこれ!」

 このとき、私はたしか「堕ちたな……」みたいな顔してたと思う。とりあえず気に入ってもらってよかった。

 とまぁ、こんな感じで見事にハマった模様。現在進行形でごくごく飲んでいる夏鈴がいる。

「うめぇ……」

「さすがに甘すぎて私はあまり好きになれなかったなぁ……」

 美笹はボソッと言った。彼女はコーヒー飲む時は基本的にブラックで、カフェとかでは気分によってたまにミルクや砂糖を入れるぐらい。てもエスプレッソをブラックで飲んだのはさすがに私もビビった。

 まあマッ缶ユーザーから言わすと確かにこれ(マッ缶)めっちゃ甘いわ。でもねこの暴力的な甘さ、身体に毒って感じかたまらないのよね。だけど乱用ダメ。ゼッタイ。(お財布的な意味で)

 

 

 ☆

 

 

 駅前に着き、駅のそばにあるビルの2階へ上がる。ここに大正義、サイゼリヤが佇んでる。いいかお前ら、サイゼリ「ア」じゃないぞ?サイゼリ「ヤ」だからね?ここテスト出るぞー。

 この時間にしては意外にも店内は空いていて、好きな席に座っていいとホールのお姉さんに言われたので適当なテーブル席に座った。

「3人でここに来たの割と久しぶりだよね」

「ね。前に3人でここに来たのは秋ぐらいだったと思う」

「……そう考えるともう冬どころが、あとちょっとで年末って考えると時間経つの早いなぁ」

 実に感慨深い。あまり言いたくないけどもう一年後には受験勉強真っ只中だ。受験以外に少なからず就職を選ぶ人もいるけど、どの道自分との戦いになる。はぁ……やだやだ。

 ピーンポーンを押して店員さんを呼び、みんなの注文を済ます。というか基本的に食べるもの決まっているので注文は一瞬で終わる。なんなら私1人の時は「こちらの席へどうぞ」と言われた時点で「ミラノ風ドリアとドリンクバーでお願いします」と呪文のごとく注文する。こうして店員さんを呼ぶピーンポーンを押すのもかなり久しぶりだったりする。

「ミラノ風ドリア3つとパンチェッタのピザ1つとドリンクバー3つでお願いします」

 ピザを除いて、ミラドリとドリンクバーは3人でほぼ必ず注文する。だって299円(税抜)でいい感じに腹満たされるとかコスパ良すぎるでしょ。私はたまにピザも注文するけど。

「そう言えば私たちいつも通りミラドリ注文してるけど、サイゼで他に好きな物あるの?」

「んー。パスタもとかピザもいいけどやっぱり安定のミラドリなんだよね。安いし」

「隣に同じく」

「なるほどねぇ……あ、飲み物取ってくるよ」

「「いつもので」」

 キレイにハモる2人。この2人の言ういつものというのは美笹がアイスコーヒー、夏鈴はコーラなのである。そんな私はいつも烏龍茶を入れる。

 てかいい加減ドリンクバーにマックスコーヒー導入しようぜ。導入したらもう割とマジで私毎日来ちゃうよ?コカ・コーラの機械だし、マックスコーヒーはジョージアだからありよりのありっしょ? 

 そんなふうに私が生きているうち導入されないか、切に願う私がいた。

「ほい、コーヒーとコーラ」

「サンキュー。あ、夏鈴はお手洗い」

「把握した」

「……あの、1つ聞きたいことあるんだけどいいかな?」

「どうしたの?改まって」

 改まって質問されるようなことあっただろうか?ふと自問自答をする。うん。特に今更聞かれるようなことはないと思う。好きな物や嫌いな物なんてお互い聞かなくても分かっている。それぐらいは打ち解けてると思う。そんな美笹は割と真剣に私に質問をしてきた。

「えっと、楓奏ってよく比企谷くんといるじゃない?」

「うん、そうだね」

「その、ぶっちゃけ楓奏って……彼のことが好きなの?」

「え?……好きってその、恋愛的な意味で?」

「うん。どうなのかなーって……」

「どうなんだろ……?自分でもわかないや」

 考えたことなかったなぁ……。でも実際どうなんだろう? でも一緒にいて楽しくて、気が合うし話も合う。なんなら同じ趣味を持っている。

 恋愛感情はさておき、彼と居ていつも楽しいなと思う。

「ただいまー。……どうかしたの?」

「え?あっいやなんでもないよ?」

「そうなのか?」

 夏鈴はお手洗いから戻り、注文していたものが来たのでそれらを食べる。ん。安心と信頼のこの味。

「やっぱさ、なんとなくだけど、2人のどちらかが悩みを持ってたりする?」

 夏鈴は素朴な疑問を飛ばしてくる。普段は少しアホの子なんだけど、変なとこで鋭かったりする。まあさっき私が少し考え込む顔つきでなんでもないよなんて言ったらそりゃ違和感でしかないか。

「あー……美笹が少し難しい質問してきたからちょっと考えてただけ。悩みとかそんな大層なもんじゃないよ」

「そう?ならいいんだけどね」

 とりあえずこの話は一旦置いておく方向性になり、話は変わりクリスマスイベントまでにあったことを話したりした。まあ主に件の生徒会長の愚痴になっちゃたけどね。私どんだけ嫌ってんだよ。自分でも思わず笑っちゃうレベル。

「もうね、ひたすらカタカナ語。意味わかって使ってんのって感じだよ。時々意味が重複していたし初参加から3日目あたりから呆れてた。夏鈴がそこにいたらそりゃもうポカーンとしているレベル」

「そりゃ大変だったね……」

「ねぇ?今しれっとバカにしなかった?」

「いやもうほんとそれぐらい訳の分からないものなの。それで準備期間の3分の2ぐらい潰れたからね?結果的にはどうにかなったけど、正直私はもうあれは関わりたくないと思ってる」

「うわそこまでか」

 食後のお茶会が私の愚痴大会になってしまう勢いである。それは流石によろしくないなと思いひとまずここまでにしておく。まだなんかあんのかよ、私。

「とまあ、こんな感じだったよ。ちょっとお手洗い行ってくるね」

「おけー。……やっぱさっきしれっとバカにされたような」

 

 

 ◇

 

 

 やっと飯にありつけることが出来る。クリスマスイベントが終わったあと、学校に戻り残った用事を済ましていた。すっかり日は落ち、寒い中てくてくと駅前のサイゼに着いた。

 正直に言うと空腹よら寒さの方がきてるので、そそくさとビルの中へ入る。ちょちょいと2階に上がれば到着。

 席まで案内されたらそのついでに注文する。うん。実に無駄のない一連の流れ。だって食べるもの既に決まってるのにわざわざピンポン鳴らしてから注文するのめんどくさいじゃん? それにこの方が早く飯食えるし。

 ホットコーヒーとスティックシュガー×5を取って席へ戻る。砂糖をぶっ込んでかき混ぜる。切実にドリンクバーにマックスコーヒー実装はよ。

 通常のおよそ2.5倍(当社比)の砂糖入ったコーヒーを飲む。甘くてうまい。これはこれで美味いが、マッ缶には遠く及ばない。練乳あればマックスコーヒーもどきはできるが店でやると迷惑行為になりかねない。

 マックスコーヒーもどき気になる人はおうちでやってね。はちまんとの約束だよ? 

「あれ?比企谷くん?」

 なんか呼ばれたような気がするけど気のせいか。気のせいじゃなくて俺じゃん。本に向けてた顔を上げ声のする方を見た。というか苗字にくんつけで呼ぶのは1人しか心当たりない。

「おう、若宮か。用事があって帰ったとかじゃないのか?」

「ううん。そこのテーブル席で友達と居るよ。だいぶ前にイオンのサイゼで会った2人だけど覚えてる?」

「あぁ、まあ何となくな。俺はおひとり様ディナーに洒落込むから友達んとこに戻ってやれ」

「……そっか。じゃ戻るね、バイバイ」

「おう。またな」

 ……一瞬少し苦い顔していたように見えた。まあ悩みでもあれば親しい友達に相談はするだろう。

 ミラドリを食べていたら店内が少しながら混み始めた。ボックス席に1人で座ってると気が引けるので食後のお茶飲んで少しゆっくりしたら帰る支度をする。

 

 

 ☆

 

 

 19時半頃の京葉線。上り方面だからか空いていて、席に座ったり立っている人がチラホラいるぐらいだ。

 2駅しか乗らないがこのあたりは駅間が少し離れているのでけっこう飛ばす。

 スピードに乗った少し古めな電車はモーターを唸らせては駅に止まり、そして次の降りる駅へ滑り込む。デカいイオンモールやメッセの最寄り駅、海浜幕張だ。

 商業施設が多くあり、イオンで買い物を楽しむ人やそこで働く人も多くいる。今のような時間帯では帰宅する人とかで少しごった返してる。

 人が多いからなんだって? 人が多い分トラブルって起きやすいもんなんですよ、ええ。だって現に目の前でトラブってるんだもん。しかも駅のホームで。

「……お前大丈夫か?」

 ホームで転んでしまっている少女がいた。とても幼いわけでもなく見た感じでは中学生ぐらいだろうか。そんな眼鏡かけた少し幼い容姿をした少女は飛び散ってしまった荷物をせっせと拾っていた。俺の足元にも散らかっていたので拾うの手伝った。

「ほらよ」

「あ、ありがとうございます……」

「まあ足元には気をつけろ。じゃあな」

 もう会うことは無いだろうと思いその場を去り、北口にあるバス停でバスを待つ。次のバスは10分ぐらいある。ガードレールに寄っかけてスマホで適当なまとめサイトを流し読みして時間を潰していた。

「あ、あの!」

「ん?」

 ふと顔上げるとさっきの少女だった。

「先程私の荷物を拾って下さった人ですよね?その……ありがとうございました……」

「あ、あぁ。わざわざ礼を言いに来たのか?」

「いえ、私もこのバス乗るのですが、バス停にいたので……」

「そうか。まあアレはたまたま足元に散らかっていただけだ。気にすんな」

 これ以降お互いどちらも言葉発さなかった。まあ当然だ。転んで荷物を散らかしてしまった少女と偶然足元に散らかっていたのを俺がそれを拾っただけの関係だ。たったそれだけの他人同士のような関係でしかない。

「……実は駆け込んだ人にぶつけられてしまって転んじゃいました」

 えへへと少し照れくさそうな顔している。その前に1つツッコミ入れていいか?バスの座席は他にも空いているがなぜ俺の隣り座ってんの? 

 これだけは言いきれる。この子とは初対面だ。突っ込もうか葛藤したが結局聞くことにした。

「なぁ、なんで俺の隣り座ってんの?」

「乗客そこそこいますし、二人がけの座席を独り占めするのも気が引けたので……嫌でしたら立ちますよ?」

「いやまぁ別にいいが……」

 流石にじゃあ立ってろなんて言えなかった。そんなことしたら事案になってしょっぴかれる未来しか見えん。というかどこに座ろうが彼女の自由だ。

 バスはゆらゆらと走っては止まり、走っては止まりを繰り返し、終点に着く。あとは歩いて10分ほどで家に着く。

「お前もここらへんなのな」

 そう。少女もこのあたりに家があるのか、俺の後ろに付いてった。

「?はい。セブンで曲がったところですけど……。そう言えばお名前聞いてもいいですか?」

「あ?おう。比企谷だ」

「ひきがや……そのお名前聞いた事あるような気がします」

「は?」

 いやお互い初対面なはずだよ?なに前世の俺と会った感じ?能力者なの?現役厨二なの? ちなみに前世の俺何してた?ゾンビだった? 

「あ、私に2つ上の姉がいて、その姉からたまにその名前を聞きます」

 2つ上の姉貴……。同い年か。いやちょっと待てよ?眼鏡はかけてるが、それ以外は身近の誰かに似ている。特にアホ毛。

「なあ、お前の苗字って」

「私ですか?若宮です」

 あーやっぱり?俺と小町みたいにアホ毛ってやっぱり遺伝なのかね。この若宮(小)もあの若宮と同じようなアホ毛が立っている。成長度合いと同期しているのか少し短めだが。

「あーそのなんだ。お前の姉貴とは同じクラスだわ。総武高2年の」

「そうなんですか? すごい偶然ですね!」

「世間って狭いんだな」

「そうですね。あ、私は妹の京楓(きょうか)と言います」

「そうか。まぁ、今後会うか分からんがよろしく」

 

 

 ◇

 

 

 私たちは意外な繋がりがあったと知り、話が少し盛り上がった。この人が比企谷さんか……。姉ちゃんが言うには目がくさっt……特徴的と聞いたけどまさかここまでとは。

 最初目を見たときで何となくお姉ちゃんが言うあの人のことかなーと思ってはいたけど、名前を聞いたらビンゴだった。だって目があまりにも特徴的すぎて……

 何かと言動が少しひねくれてて、それでもって見た目によらず(失礼)優しい。お姉ちゃんが気に入るのも分かる気がする。

「あ、私こっちなので」

「そうか。俺はあっちだ」

「では、またの機会あったらお会いしましょう」

「おう。じゃあな」

 彼はてくてくと横断歩道を渡っていく。それを見送ったら私も家へ向かう。

「あれ?京楓?」

「お姉ちゃん?」

 ニアミスでお姉ちゃんがセブンから出てきた。惜しいなぁ。もう少し早く出てきたら彼に会えたのに。

「友達とでも会ったの?なんか手を振ってたけど」

「ううん」

「?じゃおうちへ帰ろっか」

「うん!」

 あの駅であったことをお姉ちゃんに話しながら家路につく。




少し間空きましたが、クリスマスイベント+何かの話です。つらつら書いたら長めになりました。
それではまた。


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冬休みのある日

ただの日常回です。それではどぞ。


クリスマスイベントから数日経ち、冬休みをエンジョイしてるかどうかよく分からない、どうも楓奏です。

現在の時刻は午前9時ごろ、絶賛家でゴロゴロしております。ホットコーヒーうまうま。コーヒーを片手にTwitterを徘徊している。

 もう少し寝ても大丈夫だったんだけど、体が染み付いてるのか普段学校ある日と変わらない時間で起きてしまった。それに誰かと約束してるわけでもないので暇している。

 イヤホンから流れる音楽に合わせてふんふんと鼻歌を歌う。実にまったりした優雅な朝である。

 イヤホンから流れているのは萌え萌えのアニソンでもなく、流行りに乗ったJ-POPでもない。有名な弾幕ゲームのキャラクターBGMを爆音なジャズアレンジした曲である。

 ホットコーヒーにこのサックスのメロディーがノリノリなBGM。恐らく今現在千葉県で1番優雅な朝を過ごしているJKではなかろうか。

 両親は早くから出かけており、家にいるのは私と京楓だけである。妹の京楓は今何しているんだろうか、向かいにある部屋のドアをノックする。

「やっほー。勉強してる感じ?」

「うん。あ、この問題分からないんだけどお姉ちゃん解ける?」

 ふむ。どれどれ。って数学かー……。京楓がスっと差し出したのは数学の問題集である。そもそも数学得意というわけではないし、三平方の定理なんてイマイチ覚えてない。

 夏鈴だったらこんなの一瞬で解けるだろうなぁ。普段少しアホの子だけど理数だけ突出的に強い。どれぐらい強いかと言うと、定期テストで理数だけいつも上位1桁をグラついてるバケモンである。ほんといろいろ助かっております。なお文系(ry

「……ごめん。ぶっちゃけるとお姉ちゃん数学得意じゃないんだ」

「そっかー。あと私は午後少し出かけるね」

「了解。ごめんねお邪魔して」

 ドアをそっと閉じて自分の部屋へ戻る。京楓も勉強してるし自分も課題を消化するかと思い、机へ向かって課題を進めていく。

 私は学校の勉強に関してはどちらかと言うとバランスタイプでめっちゃ成績悪いわけでもなく、いいわけでもない。でも数学は嫌い。

 aだの、bだの、xだの、とにかくめんどくさいし回りくどい。なんでいちいち仮定するんだよ。点P動くなじっとしてろ。危ないからたかしくんは池の回り走るなetc……などとしょうもない文句たれつつもなんとか数学の課題は終わらせた。

 やり始めてから2時間ほど経ち、午前11時少し回ったところである。思ってたより早く終わった。ちょっと糖分補給しにリビングへ向かう。

 冷蔵庫を開けると上段にストックしてるマッ缶が鎮座している。1本取り出し、開栓して半分ほど喉に流す。うめぇ、うんめぇよ。やG神(やっぱりジョージアは神)

 残り半分も飲み干し、ふとテーブルを見たらメモ書きが置いてあるの気がづいた。

『2000円置いておくので、お昼は作るなり買って食べてください』

 そう言えば朝何かと慌ただしかったからさては夫婦仲良く寝坊したな。ま、2000円あれば結構いいもの作れるし京楓のリクエスト聞いてみるか。

「お昼作る予定なんだけどなんか食べたいものある?」

 2階にある京楓の部屋へ行き、ドアからひょこっと頭だけ出す感じで京楓のリクエスト聞いてみた。

「んー。今思いついたのはハンバーグかな?」

「じゃハンバーグね。何時には食べときたいとかある?」

「やったー!1時には食べたいかな」

「おけ。じゃお姉ちゃん買い物行ってくる」

「はーい」

 京楓に留守番をお願いして、部屋で着替えたら自転車を持って1階へ降りる。そしてスニーカーを履いて鍵を閉めたら自転車を跨ってスーパーへ向かう。

 

 

 ☆

 

 

 あたりのスーパーまで実は歩いて5分ほどなんだけど、歩くのがめんどくさいので自転車を出した。自転車乗ると歩くことをしないんだよね。自転車乗ってると足の裏に筋肉つく(?)から1kmも歩かないうちに足の裏が疲れるんだ。

裏道を3回ほど曲がればスーパーに着く。

材料は冷蔵庫である程度揃ってたので買うのは玉ねぎとひき肉。野菜コーナーでぱぱっと玉ねぎを吟味してひき肉もぱぱっと選んでレジで会計を済ます。

 家に戻り、さっそく調理を始める。さっき買った玉ねぎをみじん切りしたらフライパンにサラダ油大さじ1杯入れて、今切った玉ねぎを放り込む。

 弱めの中火で8分か9分ぐらい炒め、玉ねぎがキツネ色になってきたら火を消して粗熱を取る。

 粗熱取れたらあらかじめボウルに移したひき肉に先程炒めた玉ねぎを始め塩や砂糖などの調味料を入れてこねこねする。

 材料が混ざったら分量に合わせ手に取って楕円形に整え、キャッチボールみたいに左手と右手でぽんぽんとパスをする。ちなみにパスする回数は10回から20回ぐらいがちょうどいいよ。そして焼くと真ん中が膨れるので真ん中を少し親指で凹ます。

 あとはハンバーグを焼いている合間に冷凍保存しているご飯をレンチンして茶碗に乗せたり、冷蔵庫にあったレタスを適当にちぎりみじん切りしてない少し余った玉ねぎを乗せてドレッシングをちょちょいとかければ超簡単なサラダができる。

 ハンバーグ出来上がったらフライパンに残ってる油などを利用して、トマトソースや醤油を入れて軽く混ぜながら熱すればハンバーグソースの出来上がり。それをハンバーグにかければ完成。

「ご飯のお時間ですわよー」

「はーい」

 こうして姉妹揃って出来たてのランチを頬張る。

「うまうま♪……そういえば思ったんだけどどうしたらこんなに料理上手なの?」

「お世辞言ってもなんにも出てこないよ?……京楓がまだ小さいとき、お母さんに教えて貰ったんだ。それで慣れたんだと思う」

 昔も今も両親共働きで時々帰りが遅くなるときがある。だからそんなときは私が代わりに作れるようにしたいってお母さんにお願いした。たしか最初は火と包丁は危ないからダメって言われたなぁ……。

 それからなんとかお願いして簡単なものから教えてもらい、回数を重ねていったら今に至る。今ではクックパッド先生やレシピさえあればだいたい出来るようになった。

「へぇ……。いつもありがとね」

「……どういたしまして。ところでこの後友達と出かけるの?」

少し恥ずかしくなってしまい、照れ隠しに京楓の予定を聞いた。

「うん。ちょっと千葉へ行く予定。夕方頃には帰って来るよ」

「おけ。お姉ちゃんは留守番してるから」

 食休みから数十分後、京楓は出かけて行った。さて1人になったところで何しますかね、そう思ってふらふらと家の中を歩いていた。

 廊下の奥の方まで歩くと申し訳程度の物置スペースがある。ちょうど階段の直下にあたる場所だ。そこに父が乗ってる自転車が置いてある。

 その自転車は私が乗ってるものと引けを取らないぐらい特徴的な形状をしている。子は親に似るってこういうことなのかな? 

 まあでもここクネクネしてるのえっちぃと思うんですよグヘヘじゃなかったふつくしいんですよ、ええ。芸術的というかイタリアみを感じます。

 右手の人差し指ですっとチェーンを撫でてみた。その人差し指にはうっすら黒い汚れが付いた。

「ちょっと油足らない感じかなー……あ」

 いい感じに暇だしこれを洗車するか、名案を閃いたと言わんばかりに手を叩いてすぐさま2階の部屋へ行った。メカニックエプロンを身につけて洗車用のスタンドと持って駐車スペースへ向かった。あ、ごめん上着だけ羽織らせて。予想以上に寒かった。

 自転車も表に出し、さっそく前後のホイールを外たらスタンドに装着。このスタンドは前後左右自由に向きを変えることができて、なおかつちょうどいい目線の高さで作業ができるプロも使っているスグレモノ。これだけのものあるとガチ勢のころのお父さん見てみたいまである。

 つい最近密林でポチったプロのメカニックが使っている洗剤を紙コップに適量を移し、刷毛でかき混ぜる。

 洗剤が馴染んだ刷毛をチェーンを始めとしたドライブ機構に当て、右手で空回しする。すげぇこの量でめっちゃ油汚れ落ちる。これはプロが愛用するのもうなずけるな。

 洗剤が一通り行き渡ったら車用の高圧洗浄機で軽く流す。その後食器用洗剤とスポンジでゴシゴシ洗う。

 泡だらけになったチェーン周りをもう一度水かけて綺麗に流す。そしたらあらびっくり、少しばかり油汚れが付着していたチェーンがまるで新品のように輝いてるではありませんか。

 自転車本体にも食器用洗剤付けたスポンジで隅々洗い、最初に外したホイールも泡まみれにする。さっきと同様、水で洗い流したら洗車完了。

 ピカピカのホイールを履かせてはチェーンの水分を拭き取り、他はしばらく自然乾燥させる。

「うわー……手がカチカチだぁ」

 12月下旬、関東とはいえもう着るもんも着ないと凍える季節である。しかも日は傾きはじめているので、自宅を含む多くの住宅による日陰ができている。

 ゴム手袋使っていても冷水で洗車したものだから手はキンキンに冷えている。デニム生地のメカニックエプロンが風通さないだけせめての救いである。

「まぁ、ついでにやっちゃうか」

 私が乗ってる自転車も下ろしてきてさっきと同じ手順で洗車をする。

 

 

 ◇

 

 

 只今の時刻、午後3時頃をお知らせします。

 ラーメン食べて、本屋めぐりをしていたらなぜか1人の女子を前にしてカフェの席に座っている。どうしてこうなった。

 いや、正確には小休止に茶でも飲もうとカフェに入った。が、その店は千葉公園周辺にあり、おやつの時間なのか店内はそこそこ混んでいた。

 なんとかして確保したのは、窓際にあるちょっとしたテーブル席である。まあ長居するつもりはさらさらないのでそこの席にした。

 そこで運命のいたずらなのか知らんが、どこ座ろうと困った1人の女子がいた。しかも顔見知りというおまけ付きだ。まあ俺が退いてやればいい話だが俺も来たばかりだし、周りを見ると他に1人で掛けれそうな席はなかった。俺だって茶ぐらい‪シバき‬たい。

 申し訳ないが背景に溶け込んでもらおう、そう思ったときにその女子は俺のこと気づいた。

「あれ?えっと……ひき……ヒキタニくん?」

 いいえ違います。わたくし比企谷と申します。ヒキタニさんは存じ上げないのでスルーさせていただきます。

「私のこと覚えてる?」

「……俺が記憶喪失してるみたいに言うな」

「だってスルーしたじゃん」

「俺はヒキタニじゃなくてヒキガヤだ。まあ読みづらいてのは分かるが」

「そんぐらいのことでスルーしなくていいじゃん。……周りの席混んでるからここの席使っていいか?ここ4時回ると割と空くからさ」

 と、申し訳なさそうに言ってくる。まあ時計を見ると30分ぐらいだしいいかと俺は了承した。てか苗字についてはそんぐらいのことで蹴散られた。泣きそう。

 ……こういった具合で小休止のつもりでいたのが顔見知りの女子が俺の目の前に座っている。たしか蕨って言うんだっけか。てかあれ?俺普通に了承してんじゃん。なら文句言えんわ。

 それで俺は了承したあと、彼女は荷物を置いて席に座ったら店員さんがやってきたわけなんだが、お冷を持ってきたり注文を取るわけでもなく出来立てのカフェラテを持って来ていた。こればかりはさすがに驚きを隠せなかった。だって注文した様子見てないんだもん。能力者なんじゃないかとさえ思った。

 どうやら父親の知り合いが経営しているらしく、彼女が小さいときから顔見知っているらしい。その上結構な頻度でここを通っているらしい。

 カフェラテを用意されてもなお、至って普通の表情で持ってたカバンの荷物を取り出していた。顔パスとかガチの常連じゃん。これは恐れ入った。

 まあ席は同じになったとはいえ特に会話はせず俺は今日買った本を読み、彼女は冬休みの課題を消化しているのか勉強をしている。

 カフェ、というか喫茶店か。雰囲気は落ち着いてるし、喋り声が多少あっても気にならない程度だ。家とはまた違った安らぎを与えられる。

 店内は60年代ぐらいかのジャズが流れており、時折少しノイズが混じってる。何となく入った店ではあったが、流れてる音楽を合わせて周りをよく見るとマンハッタンの一角にある喫茶店にいるのではないかと錯覚してしまうレベル。

 店内にスピーカーらしきもの見当たらないなと思ったらカウンター席の横にあるレコードから音楽が流れていた。デカくて黒いディスクがぐるぐる回ってるアレ。実物が稼働してるの初めて見たわ。

 ここ千葉だよな?マンハッタンにワープしてたとかじゃないよね?というかオサレとかそういう次元ではなく上品すぎてだな、庶民の俺居ていいのというレベル。でもメニューを見るとお値段はわりと普通。

「あーわかんないよー」

 黙々と課題をやっていた彼女はシャーペンをノートの上に放り投げてカフェラテを飲む。ふと彼女がやっている課題を見てみる。どうやら古文の課題をやっていたみたいだ。

 まあ難しいだろうけど頑張れと他人事のように傍観する。彼女は課題の消化、俺は読書しているだけだ。本に目線を戻したときに彼女は。

「なぁなぁこれ分かるか?」

 彼女は俺の左手の袖をちょいちょいと引っ張っていた。ちょっと?無闇に触らないでくれ。俺のことが好きなのかと思っちゃうだろ。んなわけねぇけどよ。

「自分で解かないと意味ねーだろ」

「そうだけどさー……」

 俺と彼女は身長差がそこそこあるので必然的に彼女は上目遣いのようになる。千葉のお兄ちゃんは上目遣いに弱いからやめてくれ。くっ……!お兄ちゃんスキルががが。

「……しゃーねぇな。見せてみ」

「いいの?ありがと」

 一瞬で折れてしまった俺は問題解くの手伝っていた。見たところ少し簡単な基礎問題はなんとかできているが、いざ応用問題になると結構手こずっている様子だった。

「数学とかだったら余裕なのにいつも国語とかはダメダメなんだよね」

「自分が生まれた国の言葉ぐらいしっかりしとけ」

「だったら現代文だけでいいじゃん」

「まあ気持ちはわかるが」

 いつの間にか読書をやめ、適当な会話のキャッチボールしながら彼女の勉強を見ていた。

 それから数十分ほど経っただろうか、なんとか課題を終わらせたみたいだ。

「んー……。やっと終わったぁ……」

 彼女は蹴伸びをしていた。あのですね、何とは言わないですけどまあまあ主張しているんですよ、ええ。母性的な何かが。通報はされたくないので一応目線は窓の外にやった。

「ってすっかり暗くなってんな」

「んあ?もう4時半回ってるじゃん!というか途中から勉強に付き合わせてごめんな?」

 彼女は顔の前に手を合わせて、ごめんなさいの代表的ポーズでそう言う。

「まあそれは構わんが……。俺はそろそろ帰ろうと思ってるんだがお前はどうする?」

「もう暗いし帰ろっか」

 

 

 ◇

 

 

 私の行きつけの喫茶店を離れ、ヒキタ……比企谷と千葉公園の中を歩いている。実を言うと今少し緊張している。こうして男の人と2人で歩くのって滅多にない、というかもう10数年経つかもしれない。

 なぜなら私が物心つく前に、わずか数年しか会っていない父親は病気で他界している。それからずっと母子家庭で育った。

 別に男の人が苦手とかそういうのではないけど、関わることが少なく慣れてないからか少しドキドキしている。

 もし父親がまだ生きていたら、もう少し男の人に慣れていたりするのかな? 

「……方向反対なのにありがとな」

「まあこっから大学の方へ歩けば一応電車乗れるしな」

 それから特に言葉を交わすことなく歩いていった。というか比企谷って妙なところで紳士的だよな。さっき地味に私が店から外に出るときにドア持っててくれたり、私は背が低いから歩くのが少し遅いのに歩調を合わせようとする。初対面の印象とは全く異なる。

 初対面の印象?目が腐ってるし、時々発言が捻くれてるし楓奏はなぜこの人とつるんでるだって思うぐらいそこまでいい印象ではなかったと思う。

 だけど今日たまたま2人で話してみたら意外と最初の印象と違っていた。捻くれてはいるけど何かと発言は的を得てるし、結構博識だったりする。

 私の右前を歩くあまり頼りなさそうな比企谷の背中を見て、あの喫茶店であったことを思い出していた。

「うわっ!」

 そう思い出していたら何もないところでつまづいて転んでしまった。比企谷も驚いでこっちに振り向いていた。

「大丈夫かお前……」

「いつつ……」

「すまん。歩くペースが速かったか」

 比企谷はそう言って私に左手を差し伸べていた。私は左手で掴み立ち上がった。

「少しぼーっとしただけだから大丈夫」

 立ち上がってホコリを払い落としていたら左手が少しヒリヒリしていた。

「お前、左の手のひら少し擦れてんぞ。……これ使うか?」

 そう言ってどこにでも売っている至って普通の絆創膏を私に渡そうとする。家もすぐそこだし遠慮しておく。

「もうすぐ家に着くから平気だよ」

「そうか。なんかすまんな」

 正直に言うと膝も少し痛いが歩けないこともない。歩き出す比企谷に合わせて歩こうとする。

「……やっぱりちょっと膝痛いな」

「ぶつけたのか。ちょっとベンチで休むか?寒いけど」

 ちょっとした独り言のつもりだったけど比企谷に聞かれていたみたい。

「じゃ少しだけ座りたい」

「はいよ」

 少し比企谷に甘えて近くにある休憩スペースに腰掛けた。家まであと少しとはいえあと10分かからないぐらいの距離がある。

「ちょっと待ってろ」

 彼は買った物を置いて休憩スペースから離れた。お手洗いかなと思いあまり気にかけずこの公園にある広い池を眺めていた。

 私から見て左側はモノレールが車内の明かりを漏らして走っていた。暗い色をしている池は反射してキラキラと光が水面上を移動していく。

 そしてモノレールが通過すればまた暗い色の池に戻る。それをぼうっと眺めていた。

「何がいいか聞くの忘れて適当に買ったが、これいるか?」

 いつの間にか戻ってきた彼の方を見たら右手にミルクティーを持っていた。反対の左手はあの黄色い缶である。

「じゃあその黄色いのがいいな」

「え、お前もマッ缶飲むの?」

「けっこう前に楓奏の少し飲ませてもらってからちょっとハマった」

「あいつやりよるなぁ……じゃあやるよ」

「ありがと。いくらだった?」

 そう聞くと彼はお金取るの断った。買ってきてもらったわけだし、何より私が転んだから迷惑かけてるだろうとお金ぐらいはと思っている。

「怪我人から金巻き上げるつもりはねーよ」

 いやでも……。ほら、救急隊員だって正当な報酬貰ってるわけじゃん?と私は反論すると、「救急車は金取らねぇだろ?」と正論なのかよく分からない返しされた。

 ここまで言われたら私は諦めて甘えることにしといた。

「んと……じゃ、いただきます」

 栓を開けてこの到底コーヒーとは言えない甘いにおいがする飲み物を口にする。

「やっぱりうまいなこれ」

 喫茶店で頭を働かせていた分、糖分を欲しがっていたのかすごく美味しく感じた。

「分かってんじゃねぇか。まあいかんせん凶暴な甘さだから敬遠されがちなんだよな。まったく千葉県民のソウルドリンクつーのによ」

「その凶暴の甘さが好み分かれてんじゃ……私は美味しいと思うよ」

 比企谷は寒いだろうし飲み終わったら多少痛くても移動しないと、そう思ってこのマッ缶?を飲んでわんわんお!……わんわんお?んん?なんか混じったような? 

「ってうわああ!!??」

 そう。このわんわんおの正体は両方の前足で私の太ももにちょこんと乗せているリードがついた白くて少し大きい犬である。いつの間にか居たもんだからつい大きい声出してしまった。近隣の方々、大変ご迷惑をおかけいたしました。

「声でけぇよ……」

「だっていつの間にかいたんだもん!比企谷くんは気づいていたの?」

「ああ、ものの十数秒前にな」

「あーびっくりした。……てかこの子さくらちゃんじゃん。久しぶりだなーよしよし」

 びっくりしたけど知っている犬だと気づき、わしゃわしゃと頭を撫でた。この子しばらく見ないうちにまた大きくなった気がする。

「その犬知ってんのか」

「うん。ほらサイゼで初めて会ったとき私と楓奏ともう1人いたじゃない?美笹って言うんだけど、その子とはお隣の幼なじみでよくこの子と一緒に遊んでいたんだ」

「あぁ、あの人か」

「すみませーん!うちの犬が!」

 やっと来た。美笹は昔からあまり運動得意とは言えないからきっとさくらちゃんを追いかけるのでいっぱいいっぱいなんだと思う。というか現に息が上がっている。大丈夫か?と心配しちゃうレベルである

「本当にご迷惑を……。って夏鈴!?」

「やっぱり美笹か」

「と、比企谷くんだよね?」

「おう」

 

 

 ☆

 

 

「赤の他人だったらどうしようって思ってたけど知ってる人でよかった……」

「ちっとも良くないよ!マジでびっくりしたかんね?!」

「こいつ意外とデカい声出すからびびったわ」

 膝の痛みだいぶ落ち着いたので今は比企谷と美笹とさくらちゃん(犬)で公園を出て家に向かって歩いている。

 ちなみに美笹は手が滑ってリードを離しちゃったからさくらちゃんは走って行ったらしい。多分においとかで私のこと気づいたからだと思う。犬の嗅覚ってやっぱすげーや。わんわんお。

 歩いて数分、競輪場も通りすぎモノレールの駅に着いた。

「私たちは右の方行くけど、比企谷くんは?」

「俺は左だ」

「分かった。じゃまた来年かな?」

「じゃあな~」

「まあ機会があったらな。んじゃ」

 私と美笹が渡る横断歩道の信号が変わるの合わせて比企谷と別れた。その後2人と1匹で大通りを少し歩き、閑静な住宅街を歩く。

「そう言えばなんで2人あそこにいたの?もしかして?」

「多分美笹が思ってるのは違うと思うよ」

 今日あったことを粗方説明した。

「え、じゃ膝は大丈夫なの?」

「だいぶ落ち着いてるからへーき。寝れば治るよ」

 閑静な住宅街にある道路を1つ2つ曲がれば家の前に着く。私はふと思い出して自分の左手を見た。

「やっぱりありがたく絆創膏もらった方がよかったのかな」

「ん?」

「あ、いや独り言。んじゃまた明日な」

「はーい。じゃバイバイ」

 軽く手を振り玄関へ入る。さて私はさっさと怪我でも治しますかね。




また間を空いてしまってすみません。もっと間隔を詰めるように頑張ります(フラグ)


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JK達によるお泊まり会 その1

お待たせしました。またもや日常回です。それではどぞ。


 昼下がりの千葉市を横断する黄色い電車(総武線)からお送りします、どうも楓奏です。

 私はめったに使わない少し大きめなボストンバッグを持って蕨さんのお宅へ向かっている。

 なぜこうなったかと言うと、先日の夜こんなメールをもらったからだ。

『おっす。起きてる?』

『起きてるよん。どしたの?』

『去年私たち3人で何かやったの覚えてる?今くらいの時期』

『夏鈴んちでお泊まり会開催したことかな?』

『そうそれ。例年通り開催なのでよろすく。んじゃ明後日我が家へカマーン』

『おけまるb』

 それで今に至る。冬休み期間ということもあり、千葉へ遊びに行くのかそこそこの乗客がいる。

 唐突だけどさ、今日の乗り換える予定の千葉駅っていつも工事しているじゃん?それで1ヶ月とかしばらく行かないうちに駅構内の通路が地味に変わっているから県民の私すら迷うことたまにあるんだよね。

 お隣の東京都民から見ると、新宿ダンジョンと千葉のサクラダファミリアだとどっちが迷いやすいの?と、私は心の中でそっと都民の皆さんに聞いてみました、まる。

 適当な音楽を聞き流して十数分、黄色い電車の終点の千葉駅に着いた。 迷う前にそそくさと駅の外に出てモノレールの駅へ目指す。

 青と黒でスタイリッシュな雰囲気を醸し出す車両を乗り込み、数駅揺られる。

 夏鈴んちの最寄り駅を降りて数分歩けば到着。

 ピンポーンとチャイムを鳴らして1分ほど経っただろうか。お泊まり会の主催者、ではなく私と他にもう1人のゲストが出迎えた。

「あれ?夏鈴どうしたの?」

「いつの間にか寝落ちした」

「あらら」

 どうやら主催者はお休みになられてる(物理)模様。美笹の案内のもと、お邪魔させていただくことに。

「お邪魔しまーす」

 靴の向きを揃えたら私と美笹は夏鈴の部屋へ上がり込む。

「おーいお客さんだぞー」

「寝かしといてもいいんじゃない?」

「そっか。そだね」

 しっかし寝顔可愛いなぁ……。夏鈴自身の身長も相まって正直に言うと庇護欲がそそる。ほっぺぷにぷにしたいな。

 ぷにぷに。うん。柔らかい。

「この子ほっぺめっちゃ柔らかいよ」

「ほんと? じゃちょっとだけ……」

 美笹も夏鈴の頬をぷにぷにと押した。ぷにぷに。どうやら気に入ったご様子。

「ん……」

「起きちゃいそうだよ」

「ん。もう少し寝かしておこっか」

「課題でも消化しよっか」

「じゃあ私は国語を消化しようかな」

 そうして寝ている夏鈴を寝かせて、私たちは冬休みの課題を消化する。

 そう。このお泊まり会は一応勉強会も兼ねているのだ。まあ去年は結局そこまで捗らず結局しゃべりまくりのお茶会と化したけどね。

 美笹は国語の課題をやっているので私も合わせて国語の課題を消化している。

「そういえば美笹って文系なの?それとも理系?」

「どっちかというと文系かな。理数は良くて50点台だよ。そっちは?」

「点数ならどれも同じぐらいかなー。家庭科だけはやけに高いけど」

「楓奏は料理とか家事得意だもんねー。今夜なんか作ってよー」

「いいけど親御さんいらっしゃらない感じ?」

どうやら夏鈴のお母さんは美笹のお母さんと一緒に遊びに出かけて今晩は外泊らしく、作ってほしいとのこと。

「りょーかいー。それならおまかせあれ。じゃあ何か食べたいのあったら言ってよ」

「やったー」

「ただし材料費を頂戴すること無きにしも非ず」

「材料費ぐらいだすよ~」

 ほんと早く大人になってお金に余裕持ち始めたらたくさん料理したいと思う。学生だからお財布事情が少しシビアなところが……バイト始めようかしら。

「あ、そうだ夏鈴のリクエストにしようよ」

「それにしよっか!起きたら聞こ!」

 窓から外を見ると日が落ち始め、空はオレンジ色に染まり始めてる。

 お互い分からないところ聞きあったり、答え合わせもして国語の課題を終わらせた。私はそもそも国語の課題はある程度進めてたからわりと早く終わったりしている。

「ん~……。……ん?あれ?ってもう夕方じゃん!」

 ようやく主催者も起床した模様です。おはようございます。

「あ、起きた」

「お邪魔してまーす」

「楓奏も来てたなら起こしてよー」

「起こそうとしたけど結構ぐっすりだったよ?だから寝かしといた」

「マジで?ろくに茶も出さなくてごめんな楓奏」

 夏鈴は目をこすりながらそう言う。

 いやいやお構いなくー。その代わり可愛い寝顔見させてもらったのでだいぶ癒し効果を貰い、MP(萌えポイント)が上がりました本当にありがとうございます。

 と、そのまま口にしたらドン引きされそうなので心の奥に押し込んだ。

 それから夕飯のリクエストを聞いて、夏鈴は顔を洗いに行った。ちなみにオムライス食べたいらしい。

「それで私が寝てる間は2人は何してたの?」

 顔を洗い、寝ぐせもある程度直した夏鈴は戻ってきた。何したかって、ちょっとぷにぷにして、国語の課題を消化しただけだよ?何も悪いことはしていないとリトル楓奏が語りかけてくる。

「私たち冬休みの課題を消化してたよ」

 美笹は私の心を代弁してくれた。そう。冬休みの課題を消化していただけだ。決してやましい事はしていない。

「もう少しゆっくりしたらスーパー行く?冷蔵庫のもの勝手に使うのも申し訳ないし」

「別に使ってもいいぞ?卵ぐらいあったと思うよ」

「ほんと?じゃ何あるかちょっと見てもいい?」

 夏鈴の許可を貰い1階にあるキッチン周りを見てみる。それはちゃんと綺麗にしてあって、彼女の母親はかなり几帳面と思うほど。

 フライパンも使い込まれているようでいい味に仕上げてるように見える。

「もしかしてお母さん料理人だったりする?」

「よく分かったな。そうだよ」

 やっぱりか。だいたいの人がもうちょい綺麗に洗えよと言われそうなぐらい油が付着している。でもこれはある種のコーティングであり、チャーハンなどを作るのに欠かせないものである。

 そして整理整頓していて、綺麗に拭いてある水回り、恐らくこまめに掃除しているであろうコンロ周り。どれも抜かりがなく完璧である。

 というか料理好きな私から見たら普通に見惚れるレベル。さすが料理人。

「キョロキョロ見てるけどどうかしたん?」

 私すっかりその徹底っぷりに見惚れてて気づいたら夏鈴に声かけられてた。

「キッチン周りすごい綺麗だなぁって」

「そういうことか。うちの母さん昔から結構几帳面でいつも綺麗にしてるよ」

 の割には娘さん……もとい夏鈴はわりとテキトーな部分が多い。彼女のお母さんと1、2回ほどお会いしたことあるけど、やっぱり夏鈴とそのお母さんとは正反対なところが多かった気がする。でも本質的には似てるところも多かったと記憶がある。

「そっか。じゃ冷蔵庫の中を拝見させていただいても?」

「どぞどぞ」

 ふむ。やっぱり予想通りしっかり整理されている。じゃなくて中身中身……

「卵とケチャップは足りてそうだから鶏肉かな……あ、お宅はチキンライスするタイプ?」

「鶏肉大好きだからチキンライスだな。てか鶏肉ないのは考えられん」

 そう言って腕を組み、うむうむと頷く仕草を見せる。

 うん。めっちゃわかる。私も鶏肉大好き人間だから。主にタンパク質とか。じゃなくてもも肉の食感大好きなんだよね。

「じゃあ買うのは鶏肉かな……。他になければ私が買いに行くよ」

「お菓子ないからついでに買いに行こ?美笹も連れてさ」

「デブ活かい?」

「ポテチとかじゃがいもだし実質的に野菜だから誤差。うん」

 なお油……とツッコミ入れようとしら夏鈴はそれ言ったらどつくぞと言わんばかりの怖い目線送られた。まあお菓子ないのも味気ないしね。

 

 

 ☆

 

 

 すっかり暗くなって、街灯が点いた大通りを歩く。昼前私が歩いた道である。

「駅の辺りにスーパーやら百均あるから……ってバカさみぃ」

「確かに寒いね~」

「そういえば美笹って1月生まれだよね。やっぱり寒い方が好き?」

「あー……言われてみれば寒いほうが好きかも。ずっと昼ぐらいの寒さがいいなと思うときある」

 人って生まれたその季節や誕生月が好きになるんじゃないのかなとふと思ってそう聞いた。ちなみに私は11月下旬生まれで、寒い方が好きなタイプ。

「私は寒いの無理だ。せいぜい秋ぐらい」

 めっちゃくちゃ寒そうにしている夏鈴は8月のバリバリ夏生まれである。

「そんな夏鈴はやっぱり夏の方がいい?」

「そうね。ほら夏休みあるし、軽装で楽だから」

「確かに。ってじゃなくて季節的に言うとどうなの?」

「それでも夏かな。なんとなくだけど……あそこ曲がったら着くよ」

 人って生まれた季節が好きなんじゃないか説を唱えたらいつの間にかスーパーに着いた。私はカゴを持って入店する。

「はぁ~あったけぇ」

 3人揃って全く同じことを言う。これはもう条件反射で言ってしまうと思うんだよね。

 食料の持ち具合を考えると暖房ガンガンというわけでないが、それでも風がないだけでずいぶんマシ。

「んじゃ肉コーナー行きますか」

 鶏肉を求め肉コーナーへ行く。食べる量を計算してひょひょいとカゴに入れる。ちなみにお菓子食べるとのことで普通より少なめにしようとのこと。

 どんだけ菓子食う気やお前ら。

 その後店内を少し歩き回り、最後に世界共通でみんな大好きなお菓子コーナーに到着。

「これと、これかな」

「個包装のものも……」

 ……なんか片手に重さ増しているのは気のせいだろうか。いや気のせいじゃないね。カゴにの底にいる鶏肉は「シテ……コロシテ……」と言わんばかりにお菓子に埋もれてる。

 いやちょっとまてーい!?そんなに食べれないでしょ!?それだけあったらもう夜ご飯いらんよ!?ほらそこにいるちびっ子見てみ?すげー!とか大人買いってやつか?!みたいな輝く眼差しでもなく少し冷ややかな目だよ?!ちょっと引いてるよこれ! 

 さすがに私は2人にストップかけた。審議の結果、イエローカード、指導です。

 いくらなんでもありすぎるのでそれぞれ元に戻す。会計を済ませて家の方へ戻る。

「あんたらどんだけ菓子食う気やねん……」

 思わず関西弁でツッコミ入れちゃうほどあの状況は凄まじかった。エセなのは怒らないでね。

「いやーついつい」

 なんの悪気を感じない夏鈴は言った。まあ気持ちは分かるよ? お菓子美味しいもんね。でも美笹は止める側でしょうと目線を送った。

「お菓子を前にすると……ねぇ?」

 同意を求める目で私を見る。まったく仕方ないな~。ペチッ。

 デコピン(無慈悲)を1発かました。痛そうにしている美笹を横目で見てふと思った。子供を持つ親ってこんな気持ちなのかなぁと。

 まあそういうところ嫌いじゃないよとこの2人を見て心の中で呟いた。

「家に戻ったらもう作る?食べたい時間に合わせるけど」

「今戻ったらちょうどいいんじゃない?」

 スマホをチラッと見ると18時少し回ってるぐらいの時間。思ったよりスーパーにいた時間が長かったみたい。ごはん炊いてから家を出たのは正解だった。

「そだね。ごはんもそろそろ炊きあがるだろうし」

 頭の中で作る手順を整理しながら戻る道を歩いていく。

 

 

 ☆

 

 

 てれってってってって♪てれれってって……。今チキンライスを作るための下準備の真っ最中なんだけどどうしても右耳からお昼に流れるあのBGMが聞こえる。鶏肉についている脂肪を取り除き、1.5cm角で切ってっと……

「楽しいそうで何よりだけど指切らないでよ?あと3分じゃ無理だぜお嬢ちゃん」

 全国で誰しも1度は聞いた事あるであろうあのBGMを口ずさんでいるのは手伝っている夏鈴である。

 普段の様子じゃ分からなかったけど、ある程度の料理ができるらしく手伝える人を募集したら夏鈴が手を挙げた。

 2つの包丁あったので私は鶏肉担当、夏鈴は玉ねぎ切る担当となった。

「調理実習以外で友達と何かを作るのって滅多にないからさー。楽しいじゃん?」

「まぁ確かに」

「ごめんねー……何も出来なくて」

 ちょっとしょんぼりしてる美笹は料理があまり得意ではないので、今回は傍観するということに。

 材料の準備出来たのでさっそくチキンライスを作っていく。

 まずは中火で温められたフライパンにバターを入れて溶かす。バターが溶けたら鶏肉と玉ねぎを放り込んで炒める。

「ん?どした?」

 鶏肉と玉ねぎをせっせと炒めてる最中なんだけどやけに2人の視線を感じる。手順は間違えてないと思うけど……

「あー、そういえば楓奏は左利きだなって。フライパン右手で持ってるからさ」

 あぁ、そういうことね。左利きの人の動作ってやっぱり右利きの人から見ると違和感あるのかな?

「やっぱり左利きは左利きで大変なこと多い?」

 美笹は素で質問をしてきた。そりゃあねぇ……。

「いろいろ大変だよー。まあ17年も生きてれば愛着も湧くけどね」

「例えばどんなことが?」

 例えば?飲食店の席で左隣の人が右利きだったとき、肘が当たることもあるから座席はなるべく左端を選んだり、改札で電子マネー使うと腕が前でクロスして何かのレンジャーに変身するようなポーズになったり。あ、これは別に困ってはいないや。あとノートを書く時手が汚れるとかetc.

「結構大変だね……」

「あとファミレスとかにあるスープバーあるじゃない?スープバーにあるあの片方だけとんがったおたまは大っ嫌い。アレをこの世に生み出した人を末代まで呪いたいぐらいには嫌い。アレだけは許さん。あと左利き=頭いいていう風潮やめて欲しい」

「めっちゃ言うじゃん……」

「あぁ……。アレな。あのおたま意外なところで人を苦しめてるんだな」

「けっこう些細なことで苦労するんですよ、ええ」

 あのおたまを使うとでっかいお肉に塩を振るサングラスかけたおじさんみたいなポーズになるんだよ。しかも使いにくいったらありゃしない。どうせなら真ん丸の普通のおたまの方がマシなんだよね。

 その点ガストは神。おたまが左右両方どもとんがっている神仕様。だけどサイゼを選ぶ。

 唐突に始まった左利きあるある、もといスープバーのアレの愚痴をしていたら鶏肉がいい感じに色づいてきた。

 塩とこしょうを少し振って混ぜ混ぜする。ごはんも入れてほぐすようにフライパン全体にご飯を広げる。

 木べらで切るようにして炒めご飯がぱらりとしたらケチャップを加える。

 上下を返すようにして混ぜながら炒め、ケチャップが全体に馴染んだらパセリをちょいちょいと加える。

 さっと混ぜて火を止め、ボウルに取り出せばチキンライスの出来上がり。

 続いて、オムライスの要と言っていい乗せるたまごの方を作る。

 1人分ずつつくるのでボウルに卵2個を割って入れ、牛乳大さじ1と塩少々を加える。

 菜箸2本を間隔をあけて持ってボールの底をこするようにして、白身と黄身が混ざるまでしっかり溶きほぐす。

 白身のかたまりが残っていると、フライパンに広げにくいから注意してね。

 チキンライスを炒めたフライパンをさっと洗い、ペーパータオルで水けを拭く。

 サラダ油小さじ2を入れて強めの中火にかけ、1分ほど熱する。卵液を一度に加え、すぐにフライパン全体に広げる。火の通りにくい中心だけを菜箸で手早くかき混ぜる。

 卵が半熟状になったら火を止め、先ほど作ったチキンライスを入れる。ただ放り込むのでは無く、なるべく持ち手側に寄せるように置く。差し込んだフライ返しを手前に起こしながら卵をそっと持ち上げ、卵をチキンライスをおおうようにそっとかぶせる。

 さらにフライ返しで手前に引き寄せて、フライパンの側面にかるく押し当てながら形作る。

 出来上がったオムライスを皿に移し、ケチャップかけたら完成だ。

「凄いなぁ……いただきます」

「ケチャップの追加はこちらからどぞ~」

「わーい!いっただきまーす」

 いただきます。私もひと口を食べて咀嚼する。うん。久しぶりにオムライス作った割には上手く行ったかな。

 この後誰が後片付けをするやらお風呂沸かすかしないかとかいろいろ決めたり、冬休み課題どこまでやったとか冬休みどっか遊びに行く?とか会話を弾ませていた。

「数学の課題さ、やっぱ不安だから夏鈴後で教えてよ~」

「任せたまへ~」

「というかどうしたら理数でそんなぶっ飛んだ点数出せるか知りたい」

「理科と数学なんて所詮法則性の塊なのだよ。それさえ見抜けば……!」

 眼鏡なんてかけてないのにメガネクイッをしてドヤ顔な夏鈴はそう言う。

 法則性の塊だと言われてもどちらかというと文系な私と美笹は首を傾げる。我々文系から見ると法則性がどうの以前に、数学はもはや数字を用いた新しい言語に見えるんだよね。教科書2、3回読んでやっと分かるかどうかのレベル。

 その言語(?)すら分からない私たちはどうすればいいのだろうか。

「一概に言えないけど、割りと法則的な部分が多いんだよ。特に数学。それを気づいたりすると楽にやれるよ。まあ最もは公式を覚えることだな」

 公式覚えられたら苦労しないんだよなぁ……これか理系と文系の違いなのかな? 

「数学は公式を覚えたらあとは出された問題文に合わせてパズルのように公式に当てはめるんだよ。そして計算」

「パズルのようにて……できる気がしないや」

「まあ怪しいところあったら私が教えるぞ?数学の楽しさ教えてやる」

 ん?なんか不穏な言葉聞こえたけど「お、オナシャス」と言ってしまった。新境地はまだ行きたくないよ?

「ごちそうさま~」

「ごちそうさま。あー美味かった」

「お粗末さまでした」

 オムライス食べ終わり、今絶賛食休み中。

「あ、コーヒー飲む?飲むなら入れてきちゃうけど」

 夏鈴は立ち上がり、そう言う。ではマックスコーヒーを……なんて図々しいことは言わず、普通のコーヒーをいただくことにした。

「ほい、お待たせ」

 美笹の前には特に変哲もないブラックコーヒーが置かれ、私の前には少し、いやかなりマッ缶に似てる色の液体が入っている。もしかしてマッ缶を温めたのかな? 

「ありがとー。じゃいただきます」

 ズズッ……。!?マッ缶……でもあるけど何か違う美味しさを感じる。これはマッ缶の甘さを少し落とし、少し苦味が出たようなイメージかな。

 マッ缶そのものの味を損なわず、程よい甘さになって姿を表す。ほんとなにこれ? 

「実はな、それマッ缶一滴も入れてないんだよ」

 なんだと……っ!?こんなレベルの高いマッ缶もどき初めて飲んだ……。

 自分でもマッ缶もどき作ることあるけどこんなに再現度か高く、なおかつここまでコーヒー自体の美味しさ前面に押し出したものは見たことない。

 マッ缶ではあるけど食休みにちょうどいい具合の苦味があるコーヒーでもある、そんな感じだ。

「楓奏ならマッ缶!とか言い出しそうだなと思っていろいろ調べて作ってたらそれにたどり着いた。かなりの自信作だぜ」

 私にサムズアップしてそう言う。なぜ思考が読まれたのはさておき、普通にこれのレシピを知りたいレベルで美味しい。

「これなら美笹も飲めると思うよ」

「ほんと?じゃひと口貰っていい?」

「いいよ。これマジで美味いから」

 若干興味津々な美笹は大人なマッ缶もどきを受け取りひと口を飲む。さて、感想は如何に。

「あ……。これなら好きかも」

「マジ?やったぜ」

「缶のアレはさすがに甘すぎるけどこれならたまに飲みたいな」

 美笹にも好評の模様。これは史上最強のマッ缶もどきで間違いない。

 

 

 ☆

 

 

 お風呂を済ませ、勉強会という名のをお茶会を開催している、と言うより夏鈴によるありがたい数学講座が開催している。

「んー。楓奏はちょいちょいケアレスミス、美笹は……もしかして授業が追いつけなくなってきた感じ?」

 隣りに座る美笹はギクッ!となってそおっと目線を外した。まぁ難しくなってきたもんねぇ……。でも大丈夫。完全に数学を捨てた人約1名知っているから。

「図星だな」

「だね……」

「はい……」

「楓奏のはミスしたところに印付けとくからもっかいやってみ。美笹は教えてあげるよ」

 こうして美笹は夏鈴という名の家庭教師付きで、私はミスしてるよと言われたところもう一度解き直してみる。

 家庭教師しているところを見るとまるで2人の立場が逆転してるようで少し面白い。

 2人の会話をBGMにして、教科書と照らし合わせては問題を解いていく。

 言われた通り凡ミスがちょっと多いかなって感じだった。これらのミスをさっと見て一瞬で分かるあたりただ者ではないと確信した。

 一通り解き終わり、夏鈴に答え合わせしてもらう。

「うん。あってる。やっぱりケアレスミスがなければ悪くない点数出せると思う」

 OKサイン貰ったので紅茶を飲んでゆっくりくつろぐ。

「美笹の調子はどう?」

「ちゃんと教えれば分かる感じだね。理解力は悪くないと思う」

「授業ってポンポン進んでくから一度つまづいたら追いつくの難しいもんね」

「多分それが原因だなー。どっかでつまづいては遅れて、学校で教わったところが途切れ途切れな部分が少しあった」

 分析力の高さに驚く私。こ、こんなの私の知っている夏鈴じゃない……! 

 私の知っている夏鈴は……ちょっとアホの子だった気がする。いや、理数に関しては頭脳明晰に近いからこうも冴えてるだけなのか……? 

「なんか失礼なこと考えてない?」

「気のせいだようん」

 むっとした顔で私を覗き込む。ほんとこの子変なところで鋭いんだよね。これが女の勘というものなのか。いやまて私も女じゃん。

 そうしてるうちに美笹も夏鈴に教えて貰いながらも何とか数学の課題を終わらすことが出来たらしい。

「んー!終わったー!」

 バンザイして喜びを表しているご様子。その直後、そのまま隣りにいた夏鈴を抱きついた。

「ありがとー!夏鈴!」

「うわ!ちょっ!」

 突然のことで夏鈴も受け止めきれずに夏鈴が下になって2人とも床に倒れ込む。私もその様子を見て驚いて少しフリーズした。

「ほんと助かったよー……。夏鈴だーいすき……」

 夏鈴の胸元かそのあたりでそう呟いたように聞こえた。えっ、愛の告白ですか? 

「……」

 おぅふ……。これはきっと幼馴染による愛情表現なのだろう。だけどあまりの(てぇてぇ)さに見てる私まで恥ずかしくなって、手で顔を隠しそうになった。

 それを聞いていた夏鈴は顔が赤くなってフリーズ(ノックダウン)寸前に陥った。 が、何とか立て直し、コミニュケーションを図ろうとする!さぁ何と言うのでしょうか!?

「んなの……わかってるつーの……。てか楓奏いるぞお前……」

 顔を赤くした夏鈴は目を逸らし、観念したような様子で右手を使って美笹の後頭部をなでる。

 あ、これキマシタワー設立されたわ。Tから始まるSNSでよく見る尊さが上限に達すると死ぬ、というネタ画像の意味理解した気がする。これは先立つかもしれない。そう思い思わずこんな言葉をこぼしてしまった。

「えっと、多分終電ギリギリあるから帰るねうんお楽しみにー……」

 そそくさと立ち上がって一旦部屋を去ろうとしたら左足掴まれた。

「マジでそういうんじゃないから忘れてくれ……」

 夏鈴恥ずかしさのあまり、左腕を目の上に置いてボソッと呟いた。

「あ、はい」

 私も素直に応じた。これは夜が長くなりそうだ。




少し改行を増やして読みやすくしようとしましたがいかがでしょうか。
続きもさっさと書くので少々お待ちください。それでは。


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JK達によるお泊まり会 その2

続きです。 それではどそ。


 こんばんは。大切に育まれた百合の花を見てしまったどうも楓奏です。

 あれから美笹は反射的にやってしまったという感じで起き上がった。そして体育座りの体勢でうずくまってしまった。

 そりゃ恥ずかしいもんねぇ……。いや待てよ?反射的ということはつまり……。

 バタン、テーブルに顔を埋める。はー……。冷たくて気持ちいい。なんなら冷水のシャワー浴びれるまである。いや、さすがに凍死するか。

 とこまで想像したかは詳細に話せないけど、この一連の流れを見て顔が暑くなった。

「マジでそういうじゃないんだ勘違いしないでくれ……。いつものじゃれ合いみたいなもの……だ」

 夏鈴は顔を真っ赤にしてそう言う。あまり身長高くない小さめな女の子にそう言われたもう……。

「てぇてぇよぉ……」

 あまりの尊さに語彙力すら失い、机にグリグリと頭を左右に揺らす。もうマジで今すぐ病院が来てくれ、急患です。

でも多分医者は黙って首を横に振るだろうなぁ……。

「あの……、正直に言うと幼馴染同士のじゃれ合いだろうなとは思ってたけど、その……。いろいろ可愛すぎて……」

 思いっきり率直な感想を述べてしまった。いやだってさ、身長差カップリングとか可愛すぎません? 

 美笹が少し甘い声で「だーいすき♪」と言って、夏鈴は照れながらも対応する。これが逆の場合でも充分尊いのに、今回はそれぞれの立場が逆転しているから尊さが上限突破した。仰げば尊し。

 どんぐらい越えたかと言うと朝の水色の地下鉄(東西線)の混雑率ぐらいキャパオーバーである。

 おっとこれ以上言ったら小論文出来ちゃうかもしれない。

 ってあれ?上限越えたからもう先立ってしまったのか。成仏してくれ私。

「お願い……忘れて……」

 美笹だんだん正気に戻ってきたのかようやく言葉を発した。忘れようと努力はするけどもしかしたらフラッシュバックするかもしれない。そのときはごめん。

 

 

 

 

 百合の花が咲いてから30分ほどか経ち、23時半を差しかかろうとしている。

 一旦3人とも目を合わせる。そしてなかったことにしようということで平和的解決を望んだ。

 ダメだ。忘れられん……。

 それから気を紛らわすように人生ゲームやジェンガー、トランプにUNOで遊び尽くした。

「はい上がり」

「あー負けちった」

 お菓子をつまんでは遊んでいたら随分いい時間となった。

「って1時過ぎてんじゃん」

「ふぁ……」

「そろそろ寝る?」

「そうだなー。布団持ってくるのめんどくさいからこのままでいいよね」

「去年もそうしなかったっけ?」

 そう。去年も今座ってUNOしているこのダブルベッドで寝た。3人、いや正確には2.7人に近い。確かけっこう狭かったような? 

「けっこう狭かった気がするけど?」

 美笹は私が思ったことを代弁した。まず3人それぞれの寝る体勢違う。

 仮に左か右に一定の方向に揃えて寝れば多少のゆとりあるけど、それはそれではたから見たらシュール過ぎて怖い。

「去年寝れたからへーきへーき」

 夏鈴はにこやかな顔でそう言う。まあいいっか、と思い各々寝る支度をする。

 こうして、去年同様上から見て右は私、真ん中に夏鈴、左に美笹の並びで寝ることに。

 私は右半身を下にして寝るから窓際、夏鈴はどちらかというと仰向けに、美笹は左半身を下にして寝るからといった感じて位置を決めたのである。

「やっぱ狭いや」

「でも心做しか暖かくね?」

「むしろメリットはそれぐらいしかないかもね」

 部屋の電気は消され、月明かりのみで照らされてる部屋で声が響く。

「中学までは美笹と2人で、高校で楓奏と知り合ってから3人で泊まってくるようになったよな」

「いつの間にかいつも3人でいること多くなったよねー」

「馴れ初めはたしかさ……」

 

 

─1年前の4月頃─

 

 

 入学してから2週間ほど経ったある日、学校の設備や教室の配置もある程度覚え、高校生活はこんな感じなんだなと知り始める頃、実は私誰かと話したりとかしていない。

 なぜなら過去の知り合いに合わないように離れた学校を選んだからだ。

 中学生のとき、正確には中二あたりからろくなことがなかった。だから全てをリセットするように、忘れるようにと地元からある程度離れたこの学校を受けた。

 その上進学校というのもありそこそこ偏差値高いから今のところ知っている人は居ない。

 それに2週間も経ち、仲良くなった人同士でグループが出来始めてる頃合だろう。そんな中どこのグループにも属さない窓際に座っている私は窓の外をぼうっと眺めてた。

 小学生のときは小学生らしくみんなと楽し過ごし、中学生のときはいじめ?に遭ってからはだんだん1人になっていき、そした今は完全に1人。

「ま、1人は1人で気が楽だね」

 ぼそっと呟いて帰る支度をする。

 仲良くなったグループが楽しそうに話しているのを横目に教室を出る。が、タイミング悪かったのか教室入ろうとした男子生徒とぶつかってしまった。

「あ、ごめん。大丈夫?」

「いや、そちらこそ大丈夫かい?」

 ぶつかってしまった相手はこ同じクラスで、学校のアイドルになりつつある葉山隼人くん。ファッション誌にでも乗ってそうなルックス、どっかで聞いた話ではサッカー部所属らしい。

 まあ言わばイケメンという言葉をそのままそっくり表したような人である。

「大丈夫。ごめんね邪魔しちゃって」

 まあ別にときめくわけでもなく当たり障りのない言葉を言ってその場を去る。

 この日はとくに何もなく、普通に帰宅した。

 次の日。春の陽気に当てられ、桜の花びらがひらひらと舞い落ちるの見ながら通学路を歩く。

 とくに変わり映えはなく、いつも通りといった感じ。

 教室に着いたら授業が始まる時間までスマホでまとめサイトでも見る。

そして時間になったら授業を受ける。休み時間は読書でもして時間を潰す、そんな感じの学校生活をしている。

 午前の授業が終わり、お昼休みの時間になった。

 活気づいて騒がしくなっている中、自分で作った弁当を机の上に広げた。

 さて食べますかと箸を持とうとしている時に私の前に座っている子がこっち向いて話掛けてきた。

「えっと、若宮さんだっけ?」

「え?」

 いきなりのことでびっくりしてフリーズしてしまった。ここ最近話掛けられると言ったらせいぜい家族ぐらいだ。

 クラスメイトに話掛けられたのは本当に久しぶりである。

「あれ?違ったっけ?」

「いや、若宮で合ってるけど……どうかしたの?」

「あーいやいつも1人で弁当食べてんなぁって……あ、私は蕨 夏鈴ね」

 この学校には友達という友達がいないから仕方なく1人で食べてるんだよ。

「ちょっと言い方……ごめんね。私は戸田 美笹でこの子とは幼馴染なの。良かったら一緒にご飯食べない?」

 まあ、断る理由はないので了承はした。ただし話題提供だけお願いします。

「そのお弁当美味しそうだね。お母さんに作って貰ったの?」

「ううん。いつも自分で作ってる」

「マジで?普通にすごくね?……これ食べてみてもいい?」

「と、どうぞ」

 彼女は卵焼きを手に取りひと口で食べる。

「ちょ、素手は行儀悪いわよ」

「もぐもぐ……。え、これめっちゃ美味しい!」

 彼女は笑顔でそう言ってくる。褒められた……のかな?どのみち久しぶりの感覚で恥ずかしくなり目をそらす。

「ど、どうも」

「料理好きなの?」

「う、うん。うちは共働きで、遅くなることが多いからよくご飯作るよ。妹もいるし」

「へぇー! 妹さんいくつなの?」

「二個下で中2だよ」

 それから私は転入生かよ、と思ってしまうぐらい質問攻めにあう。

 この感覚が久しぶりで、それと同時に少し嬉しかったりとか思ったりした。

 これを機にお昼休みはこの3人でお昼ご飯食べたり、放課後も駅まで3人で帰ることも多くなった。

 そんな日々が過ぎていき、梅雨も明け日々気温上がり始めてるそんなある日の放課後、駅から少し外れたビルの中にあるサイゼに行く。

 涼しい店内に入り、席に着いたらドリンクバーと何かつまめる物を各々注文をする。

 そろそろ夏休みなんだけどっか行かない?とか、宿題やりたくないよーとか女子高生らしく談笑していた。

 ひとしきり笑ったりした。

そして各々飲み物を口にして一拍。

 そんな時に蕨さんは真面目な顔で私に質問をしてきた。

「ちょっと、つーがかなり話変わるんだけどさ」

「ん?」

「この話はやめて欲しいならやめてって言ってくれ。その、若宮さんに対して素朴な疑問なんだけど……」

 雰囲気がガラッと変わる。私に対して難しい質問でもするのだろうか。

「入学当初からさ、ほとんど1人でいるじゃん?中学の知り合いいないのかなーって」

「……私の出身中学は総武から少し離れてるから多分中学の知り合いは居ないと思うよ?まあいる可能性も0ではないけどね」

「少し離れたここを受けた理由って学力や今後の進学を考えてのことなの?」

 そんな質問をしてきたのは戸田さん。しっかしずいぶん踏み入ってくるなぁ……。

 まあ確かに受けた理由はそれらもある。学力に関してはけっこう無茶したフシもあるけどね。

 一番の理由は……。この2人には話していいのだろうか。この理由話したらで2人に気を遣わせてしまわないだろうか。

これは話さない方がいいなとしまいこもうとした。それに過去のことはもう思い出したくはない。

 でも私はふと思った。さっき戸田さんが並べた理由はもちろん間違いではない。だけど本当の理由は話さず心の奥に葬り去って、ずっとこのまま付き合いを続けるのかと。

 嘘はついていないけど、何かモヤモヤがする。

 嘘はついていないけど、騙しているような感覚。

 それがすごく嫌だ。

 思考がまとまらず、黙りになった私を見て戸田さんは微笑んで彼女の隣に座っている蕨さんにこう言った。

「ま、どんな理由があってももう友達だもんねー」

「だな。変なこと聞いてごめんな、若宮さん」

 本当の理由を言わずにして、これから先もより仲良くなっていくことだって有り得るかもしれない。反対にこの付き合いはいきなり終わることだって有り得る。

 だけど、ここで言っておかなければ後悔すると確信した。

それに友達なら言っちゃっていいよね、と締め付けられていた心が一気に緩んだ。

「本当の理由は……!」

「え?」

 2人は驚いた顔して見てきた。そりゃそうだ。この話に対して区切りを入れたはずなんだから。

 それでも私は言っておきたい。

「本当の理由は……、中学のときちょっとトラブルがあって、女子から散々嫌がらせ受けてたから。いじめられたと言えばいいのかな……?」

 2人は驚いた顔が一変して真面目に聞き入れようとしている。

「それからだんだん1人になって……、それで地元の高校でまた会うぐらいなら、全て忘れようと地元から少し離れたここを選んだんだ……」

「……そうなんだ。……って泣いてるよ!?」

 蕨さんが驚いて私の方に駆け寄る。

 泣いてる?私が?右手の指で頬を撫でてみると確かに少し濡れた感触がある。

 あぁ、過去のことをちょっと思い出して泣いちゃったんだな私。もう高校生のくせに泣いちゃったよ。

 もう……。それ言わなければ気づかなかったのに、気づいちゃったからまた涙でそうじゃんかよ……。

「食べ終わってるし、会計して出よう」

「そうだな。若宮さん、行くよ」

 今にもまた涙が溢れそうなところを我慢して蕨さんに引っ張られて外に出た。

 それから腕引っ張られながら数分走って、駅から更に離れた少し広い公園に着いた。

 子供たちはもう帰って行ったのか遊んでいる様子も見えず、その公園はより広く見える。

「ふぅ……。ここならいいだろ。ちょうど人いないし」

「別に店から出なくてもいいのに……。かえって申し訳ないよ」

「高校生がサイゼの店内で泣いたら笑われるでしょ?それに学校の最寄り駅のサイゼだし誰か顔見知りにでも見られたらハズいだろ?」

 戸田さんと蕨さんは気を遣って私を外に連れ出したのだ。別に我慢すれば大丈夫だからいいのに……。

「我慢するから別にいい、なんて思ってるでしょ?」

 ギグッ……。蕨さんは心読める能力者だったのか。驚愕の新事実。

 そんなとき後ろから走って来る音が聞こえた。

「はぁ……、はぁ……疲れた」

「いや、そんな遠くないだろ……」

 息を整えるべく、戸田さんは近くにあったベンチに掛ける。私たちも合わせて腰掛ける。

運動が苦手だけど走ってきた戸田さんがやっと息を整えて一拍。

「まあ、なんつーか、私たちは若宮さんと知り合ってから半年も経ってないし、まだお互いよくわかってない部分も多いと思う。今になって若宮さんは過去に辛いことがあったというのを知ったぐらいだしな」

「うん……」

「そんで、そのお互いに分かっていない部分があるから話しづらかったんでしょ?……でもな、そうやって話してくれたからまたひとつ若宮さんのことを知れた」

「……」

「だから代わりに、と言っちゃああれだけど、私らのことも1つ知って欲しい」

「どんなのこと……?」

「私たちは若宮さんのことを絶対に1人にしない。何があっても若宮さんの味方だ。……なんて正義の味方ぶってもあれか」

「辛いことがあって、人を信じきれないところあるかもしれないのは分かる。でも私らのことは信じて欲しい。だってどんなことあっただろうともうウチら友達だろ?……だからこれからはその記憶さえ忘れるぐらい楽しくやろーぜ!」

 サムズアップする蕨さんはそう言いきった。なんかまた頬に違和感を感じたので手の甲で触れて確認してみる。

 また涙出てる……。そんな泣くほどのことじゃないだろ、私。

「泣きたきゃ貸すとこも貸すぞ。どうせその様子じゃ中学であったその一件、誰にも話さず抱え込んでたんだろ?……辛いことあって泣きたいのは自然なことなんだから泣いちゃえ!」

 彼女は笑ってそう言う。いや違う。過去の一件で辛かったのは確かだけど、今はどちらかというとその温かさで泣きそうになっている。

 それから色んなことを思い出すようにフラッシュバックした。

わずか数秒にしてダムが決壊するように蕨さんに泣きついた。それはもう年甲斐もなく、過去にあった辛いことを全て吐き出すかのように。そして私なんかにここまで言ってくれたことが嬉しくてわんわん泣いた。

 私は蕨さんを抱きつくように泣いて、戸田さんもそっと立って私の背中をさすった。蕨さんは私の後頭部をそっと撫でてた。

 思いっきり泣き始めてからしばらく経ち、私はようやく落ち着いた。

「蕨さんごめん……。年甲斐もなく泣いちゃった……」

 落ち着いた私は少し恥ずかしくなった。もうどれぐらい泣いたのかというともうまるで鬼ごっこでもして転んでしまった幼稚園児ぐらい。

「……もう夏鈴でいいぞ。夏に鈴、私の名前な」

「私は美笹。美しいに笹」

「夏鈴……、美笹……」

「うん」 「おう」

「……ありがとう。2人のおかげで全て吐き出せた。すごく心がスッキリした!……あ、私は名前は楓奏。楓に奏だよ」

 恥ずかしいけど、この2人には感謝しかない。この2人と友達になれて良かったと心の底から思った。出会えて良かったと思った。

「楓奏、か。いい名前じゃん」

「そうかな……?」

「うん!素敵だと思う」

 ……たしかこうして本当の意味でこの2人の友達になった。

 夏は海まで遊びに行って、秋は焼き芋でも頬張って一緒に帰り、冬は今みたいに泊まりがけで遊んだり……そしてまた春がきて……

 

 

─────

 

 

「……はっ……!」

 目を開けて窓を見るとすっかり夜明け、青空が広がっていた。

 目を少し擦ると少し濡れてた。寝てる時に少し泣いたのだろうか……? 

 というかすごく懐かしい夢をみた。というかあまりにもリアル過ぎてタイムトラベルでもしたのかと思ってしまった。

 寝るまでの記憶を辿るとたしか私たちの馴れ初めみたいな話をしていた。

 だけど割と序盤の方で私は寝落ちした気がする。でもこの夢のおかけで鮮明に全てを思い出した。

 ちらっと横を見ると夏鈴がこっちに向いて寝ているの気づいた。

 私もそっと夏鈴の方を向いた。そしてそっと髪を撫でた。

「私と仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくね」

 起こさないように小さい声で彼女たちに向かって呟いた。

「だーいすき……」

 昨日の一件をからかうように呟いて、もう一度目を瞑った。




少し短いですが、ふと思いつきで過去の話を書いてみました。いかがでしたでしょうか?
これからもぼちぼち書いて行きますので、よろしくお願いします。
それでは。


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あけおめ、ことよろ

 元旦。去年の12月31日という日付が一気に1年の中で1番最初の1月1日にリセットされる。そして世間だはめでたい日とされる

 カレンダーも1月にリセットされたわけだし、俺も気を引き締まって自宅警備の仕事を全うする……

 ……したかったんだよ?でも出動要請されましてね。小町に。

 おっかしいなぁ。自宅警備員なのに外も管轄に入るの?と、数分前に小町に叩き起されてからこの神ギ問が生まれた。

 まず、事の顛末はこうだ。カウントダウン?知らんと言わんばかりに俺はすやすや寝ている最中、バタン!と部屋のドアが開く。

 そんでいきなり起こされた。ここで目が覚めて小町だと気づいた。

「お兄ちゃん!電話だよ!スマホがリビングに放置したまんまだったよ?」

 誰だか知らないけどとりあえず電話かかってるなら一応出ておく。場合によっちゃあガチャ切りすればいい。

 とりあえずスマホを受け取り耳に当てる。

「やっはろー!その様子じゃ寝てたみたいだけど大丈b」

 ガチャッ。あ、手が滑ったじゃあ仕方ないわねおやすみー。

 prrrr。再び鳴り響く着信音。相手は由比ヶ浜というのは分かっているからどうせ大した用は無い。あってもせいぜいただのあけおめ電話だろう。

 でも出ないとずっと掛けてきそうだよなぁ……諦めてもういっぺん出るか。

「もしm 」

『ちょっと!なんで切るんだし!』

 ちょ……耳元で大声出すのやめてもらえません?鼓膜破れるかと思ったぞ。

「いや、ちと手が悴んでてな。手が滑った」

 どうやら左手だけ掛け布団からはみ出た状態で寝たものだからキンキンに冷やされて悴んでいる。

 それにスマホの裏面がすべすべなものだから持ってたスマホがズれて通話を切ってしまった。だから嘘は言っていない。

『そうなの?てかメール送ったんだけど読んだ?』

 メール?うちのりんごちゃんに届くメールはせいぜい密林ぐらいだと思うんだが。

 というか昨日の23時ぐらいには寝落ちしたし、うちのりんごちゃんは暖房が切られたリビングに居たし気づきようがない。りんごたんごめんよー。寒いところに置きっぱで。

「多分見てないな。なんかの用事だったか?」

『むーっ。まあそんで奉仕部メンバーで初詣とかどうかなーと思って電話したんだけどさ。どう?』

 どうって言われてもなぁ……。今の時間はそろそろ10時ってところでまだまだ混んでいる頃だろう。

 何故寒い日にわざわざ人混みがすごいところ行かねばならんのだ。

 やめとくわ、と言おうとしたらスっとスマホが小町に奪われた。

「変わりましたー小町でーす!少し準備したら兄と向かうんで待っててくださーい!」

『小町ちゃん?りょーかい!待ってるねー』

 ほい、と俺のりんごたんか返された。いやそんなナチュラルに返品してもねぇ。

「ちょっと小町ちゃん。何しやがるでございます?」

「こんぐらいしないとお兄ちゃん動かないじゃん?それに女の子に誘われたら断らないのがマナーだぞ?」

 え、何その恐怖のマナー。基本的に社交辞令なんだからそういうのやんわりと断るもんじゃないの? 

「いや、でもなぁ」

「いいからお兄ちゃんはさっさと朝ごはん食べたら着替えるの!ご飯は出来てるからGO!」

「えぇ……」

 こうして自宅が管轄区域なのに外へ出動要請されたのである。まったく理不尽極まりない。アットホームな職場(大嘘)だったのか……。

 衝撃な事実を知ってしまい、絶望に暮れては朝食を食べる。

 それから着替えて、電車を乗って神社へ向かう。

 それで今小町と電車で揺られてる。

 そういえばメール送ってきたらしいなと思い出して今になって開封。

『あけおめー。今日ゆきのんと初詣行くんだけどどうかな?』

 タイトルに「あけおめ!」とこの本文が送られていた。

 ふむ。由比ヶ浜のことだから日付け越えたのに明日~~って打ち込みそうだがちゃんと今日と打ち込まれている。感心感心。

 ……本当に明日ならばどれほど楽だったのでしょうか。

 そういえば0時になって、日付け越えた間際って「今日」と言った方がいいのか、「明日」と言った方がいいのか微妙ならところあるよな。

 夜が明けた後あとが明日、明ける前は今日、つまり0時回っても日付け越えた感覚はあまりないと俺は感じる。皆さんはどうかしらん。

 総武線と並走するこの私鉄の電車に数分揺られ、電車は降りる駅に止まる。

 降りた駅からちょっと歩けば待ち合わせ場所に着く。

「あ、やっはろー!あけおめー!」

 向こうが気づいたのか大きい声で呼ばれる。恥ずかしいからやめなさい。

 というかそんなぶんぶん手を振るな、母なる大地が揺れて注目集めてるからね。

「おう。あけおめ」「あけましておめでとうごさいまーす!」

 とりあえず返事だけはしておいた。

「あけましておめでとう。今年もよろしく」

 ペコっと丁寧な一礼をしてそう言ったのは雪ノ下である。

「あぁ、よろしくな」 「よろしくお願いしまーす!」

 兄妹仲良く挨拶出来たところで帰りますか……あ、すみません何でもないです。

 小町に思考読まれたのかめっちゃニッコリとしてこっちを見る。可愛いけど怖いわよ? 

 

 

 ☆

 

 

 二拝二拍手一拝。全国共通の一番オーソドックスな参拝である。

 二拝二拍手一拝は基本的だが、どうやら神社によっては特殊なものもあるらしいから気をつけてな。

 4人なので2人ずつ各々神様にお願いをする。

 俺は何をお願いしたんだって?そりゃ大学に合格して、いい人と出会い、そして専業主夫になれるようにだよ言わせんな恥ずかしい。

 あと本当は願い事って他人に言わない方がいいらしいぞ。言ってしまうと願い事はと叶わないんだとか。

 まあぼっちだから言う相手いませんけどね。

「あ、ごめん!ちょっと優美子のところ行かないとだからここで!また学校でねー」

「ええ、では三学期で」

「うん!ごめんね」

 どうやらあーしさんたちと合流するらしく、そう言って合流場所へ?走って行こうとした。

「あ、ヒッキーちょっとちょっと」

 何かを思い出したようにこちらに振り向く。しかも手招きしてるからちょっと来いってことか? 

「……なんだ?」

「明後日ゆきのんの誕生日なんだけどプレゼントどうする?」

 えぇ……明後日なの?たぶん初知りなんですけど。そういうのはもう少し早く言えよ……。報告、連絡、相談(ホウレンソウ)大事よ? 

「そういうの早く言えよ……。明日千葉とかで見繕うか」

「ごめん伝えるの忘れてた……じゃまたメールするね」

「はいよ」

 由比ヶ浜が去っていくの見送り、小町と雪ノ下の元に戻る。

「何かよからぬ事でも企んでるのかしら」

 やっぱり耳打ちってはたから見るといいイメージないのね。

「別にそういうんじゃねーよ。んじゃ行くぞ」

「……まあいいわ。行きましょうか小町さん」

「はいはーい」

 神社を出て歩いて数分、駅に着いたってとこで隣を歩く小町は何かを思い出ししたかのようにハッとこちらに顔向けてきた。

「はっ、いっけなーい!小町ったらお守り買ってくの忘れてましたー……それに絵馬も書き忘れたのでダッシュして戻りまーす!」

「おー。お守りなら俺も買っとこうかな」

「お兄ちゃん何言ってんの!このごみぃちゃんのバカ!ボケナス!八幡!」

 えぇ……そこまで言う?小町ちゃん反抗期かしら? 

 あと口悪いわよ小町ちゃん。しれっと言ってるけど八幡は悪口じゃないからね。

 あと雪ノ下さん笑いすぎじゃないですかねぇ。そんなに面白かった?

 そうして小町はまた神社へ戻り、俺と雪ノ下で電車を乗るべく改札へ入る。

 乗る方面のホームは思ってたより人が疎らで、反対方面のホームの方が混んでいるようだ。

 少し混んでいる反対方面のホームを見て、初詣の後だと言うのによくまあ遊びに行く気力あるもんだなと思った。

 多分俺には無理だな。あれだけ人が溢れかえった神社を行った後に出かけるとかしんどすぎる。間違いなく即帰宅するね。現に帰宅を始めてますけどね。

 数分後に到着した電車を乗り込んで、いくつかの駅を止まるのを繰り返していく。

 ちなみにその間、雪ノ下とは特に会話とかしていない。正直話すこと特にない。話したとしてもせいぜい

「比企谷くんはまっすぐ帰るのかしら」

「おう。行くところ特にないしな」

 ぐらいだ。会話を最小限に抑えるのがぼっちの習性なのかもしれん。

 ぷしゅー、がこん。チャイムと共に少し間抜けな音を出してドアが開く。

「んじゃ俺はここだ。またな」

「ええ」

 改札へ向かって歩き出すときに雪ノ下は何か言ったような気がするので立ち止まった。

 だが上手く聞き取れず、扉は閉まり電車は時間通り目的地へ向かって発車して行った。

 まあ多分また学校で、みたいなことを言ったのだろうと勝手に結論付けた。

 寒いのでせっせと改札を抜け家へ向かう。

 初詣というミッションをコンプリートしたのでセブンでポテチでも買って1杯やろうかしら。

 あ、未成年なのでちゃんとオレンジジュース飲みます、ご安心を。

 しかし奇しくも似たような考えをする人がセブンにいるとは思わなかった。

 

 

 ☆

 

 

 セブンイレブン、いい気分。

 寒い外気をシャットアウトして暖かい空間を確保している冬のコンビニは最高。

 このキャッチコピーの通りいい気分である。

 雑誌コーナーを始め、飲み物コーナーをぐるっと眺めるだけでワクワクさせる。

 お世辞にもスーパーマーケットほど広い店舗持っている訳じゃないのに電池1つから始まり食料もあるこの品揃え。更には24。

 24(にーよん)知らない?24時間営業のことだ。地域差かしらん。

 なんてくだらないことを考えて買うものを吟味していると久しく会ってない人と偶然見かけた。

「あれ?比企谷くん?久しぶりだね。去年のクリスマスイベント以来かな」

 向こうが先に気づいた模様。さっさと買って出ようと思ったが仕方ない。

「そうだな。まあなんだ、あけましておめでとう?」

「なんで疑問形なの……」

「ぼっちは挨拶に慣れてないんだよ」

「ふふっなにそれ。ま、あけおめ」

「おう」

 真面目に回答したのにふふっと笑われた。むしろそこ引くところでしょ。

 だいたいはこの自虐ネタ引くはずなんだがなぁ……

 自分で言っといて悲しくなった。ぐすん。

 各々の会計を済ませて店を出る。ちなみに俺はポテチひと袋とペットボトルのオレンジジュースを買った。

 おでんにしようかなとちょっと迷ったが食べたい具材がちょうど切らしていたので諦めた。ちくせう。

 その後はコンビニの前で若宮と別れて、愛おしい家に着いたらゴロゴロして一日を終えた。

 

 

 ☆

 

 

 翌日、三が日の2日目。

 俺は再び愛おしい我が家を離れた。

 休日なのに平日とあまり変わらない混雑っぶりの電車に揺られて千葉へ旅立った。

 11時に由比ヶ浜と待ち合わせる予定なのだが小町に叩き起されては家に出された。あの子ったらひどい。

 これのんびり待ち合わせ場所行っても多分時間まで20分は余裕あるぞこれ。

 寒い中駅前で待つのはいやだな……。

 一応待ち合わせ場所まで行って、いなかったらどこかで時間を潰そう。

 電車は順調に千葉に到着して、人波に揉まれながらも何とか出口に辿り着いた。

 どこかでバーゲンセールがあるのか殺気立ってるように感じた。

 物は逃げないから落ち着け。ステイステイ。

 時間はかなり余裕があるのでゆっくり待ち合わせ場所へ向かう。

 その場所とはバスロータリーそばにある緑色のオブジェ、ビッグツリーである。

 おい、イチョウマークみたいなアレねと言ったそこの都民。許さんからな? 

 って強く言いたいけど確かに東京都のイチョウマークに見えるわ、色合い的にも。違うか?違うな。

 まあとりあえず連絡するか、とスマホを取り出そうとしたら由比ヶ浜もちょうど着いたらしく、こっちに向かって走ってくる。

 いやだから母なる大地が揺れてですね、辺りの男性から視線釘付けですよ? 

 言っとくけど俺は含まれないからな?ちゃんと目を逸らしたじぇんとるめーんだからな。

 あ、そこのカップルの男が彼女さんに頭ひっぱたかれた。ざまあ。

「ごめーん!待った?」

 はぁはぁと息を少し切らしていた。時間はあるのにそんなに急がんでもと俺は困惑した。

「いや、まぁちょうど着いたてとこだ」

「ほんと?よかったぁ……」

「別に時間には余裕があるからそんな急がんでも」

「やー、家出るときは少しギリギリだったから急いじゃった」

 由比ヶ浜はそう言ってえてへへと照れた顔をする。

 なんだろうな。どこかの後輩が同じことをするとあざといのに、由比ヶ浜はとにかく自然に感じる。

「で、早速だか女子高生に対してプレゼント選びなんてしたことあるわけねぇからどこで選ぶべきなのか案内してくれ」

「うん!いくつか候補あるから行こっか!」

「おう」

 由比ヶ浜の案内の元、彼女に合わせててくてくと歩く。

「……なんで左後ろにいるの?」

「そりゃ案内してもらってるんだから普通だろ」

 そう言うと由比ヶ浜は立ち止まり、少しむっとした顔で俺の右手をかっさらった。

「何かあってはぐれたりしたらいやじゃん?」

「ガキじゃねぇんだからはぐれねぇよ。……つかこの手何?」

「……いいの!行くよ!」

「いや、ちょっ!」

 これは抵抗するだけ時間の無駄だと悟り、諦めて彼女の左手を掴んだまんま隣を歩いた。

 結局右手は空くことはなく、デパートの一角にある少しオシャンな雑貨屋に着いた。

 なるほど、雑貨屋か。ここなら色んな実用品あるし選びやすそうだ。

 少しオシャンなのがちょっと落ち着かんが。

 とりあえずサーっと見てる。ここで大事なのが店員さんに声掛けられないようにすることだ。

 声掛けられたら時間のロスが避けられない上に、何か買わないといけない気持ちになる。

 割とマジで買うならこっちが勝手に買うから話しかけないでほしいのがぼっちの本音だったりする。

 ま、そもそもこのような店行かないけどね。

 声掛けられるの避けるべく、ドロー!モンスターカード!ステルスヒッキー! 

 よし、これで存在感を消せる。

 この存在感を消して、店内を歩く。

 まずあいつは猫がだいすきフリスキーで、本をよく読む。料理も良くするぐらいしか情報がない。あ、あとパンさんか。

 なら妥当なのは本をよく読むからブックカバーか。

「ヒッキーは何かいい感じのあった?」

「いや特には。猫好きだし本をよく読むから猫の模様が入っているブックカバーにしようかと」

「私はパンさん関連の何かにしようかなと思うけどどうかな?」

「それはやめとけ。多分パンさんグッズをコレクターしてそうだから既に持ってるなんてことも十分有り得る」

「あ、そっかー。好きだから集めてるとかありそう」

「だろ? まあ俺が言ってた猫関連の物も集めてそうな予感はするけどな……」

「うーん。難しいね……」

 その後ほかにもいくつかの店を周り、昼時も少し過ぎてようやくプレゼントの品が決まった。

「なんとか決まってよかったねー」

「あぁ、なんとしてもダブりだけは避けたいよな」

 昼食を取るべく、デパート内のイタリアンレストラン向かう。

 が、意外な客がいるとは思わなかった。

「あれー?比企谷くんとガハマちゃんじゃん」

 うわ、強化外骨格さんじゃなかった陽乃さんだ。

 そんな雪ノ下の姉が後ろから声掛けられた。

「こんなとこで何してんすか?」

「ちょっとお茶してるとこ。ほらそこ」

 そう言ってある方角へ指さした。俺も合わせて指した指の方角を見る。

 そこには葉山と雪ノ下が向かい合わせで座っていた。

「雪ノ下さんのことだからもう少しお高いところ行ってそうすけどね」

 ちょっと皮肉ってそう返した。

「両家のご挨拶が終わって、昼食がてらにここきたの。雪乃ちゃーん、隼人くんーんお客さんだよー」

 そう言って俺と由比ヶ浜は雪ノ下と葉山が座ってる席の前に差し出された。

 適当にあしらってこの店離れようとしたのに。

「ちょ、何してんすか。というかあまり大きい声出さないでくださいあとやめてください」

「やぁ、比企谷と結衣」

「お、おう」

「やっはろー……はは」

 爽やかイケメンは爽やかな笑顔でそう投げかけてきて、雪ノ下は少し冷ややかである。

 そしてエアーマスターの由比ヶ浜もさすがに苦笑いである。

「由比ヶ浜さんとそこの男でデートかしら」

「で!?違う違う!ちょっと買い物というか」

「別にそういうんじゃねぇよ。こいつの言う通りただの買い物だ」

「ただの買い物に2人でいる必要あるかしら。1人の方が効率がいいのに」

「こいつに呼ばれたんだよ……。まずこの俺が冬休みに千葉へ出向くわけないだろ?それにどういうことかはのちのち分かる」

「それもそうね。引きこもりくんだものね」

 めっちゃいい笑顔でそう言われた。もしこいつ女じゃなかったらちょっとどついてたかもしれん。

「はいはーい言い合いは後にして、ガハマちゃんと比企谷くんはお昼食べに来たんだから座りなよ。お姉さんが奢っちゃうわよー」

「いや、3人の邪魔になりそうなんで別の店へ行きます」

「まあ、偶然会って何かの縁だろ。ここでいいんじゃないか?」

 爽やかイケメンはそういう。だからリア充はなんで誰かと居たがるの?そうしないと死ぬの? 

「せっかくだし、ここにしようよ。それにお腹ペコペコだよ」

 由比ヶ浜もこの店がいいので仕方なく俺も着席した。

 これ以上抵抗しても強化外骨格さんがうるさそうなので諦めた。

 しかし諦めた先には陽乃さんがイジりまくってくる未来があるとは知る由もなかった。いや知ってたけどよ。

 




続きは極力年内に出すよう頑張ります。
それでは。


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1月2日

前回後半の楓奏視点です。それではどぞ。


 おはようございます。私の良き友達、美笹と夏鈴の2人に千葉駅にあるデパートでやっているバーゲンセールに駆り出されてます。

 もっと言えば、この話を妹の京楓に話したら受験勉強の息抜きに行きたいと言い出し、私も行くことになりました。

 どうして女の子ってセールとか行きたがるのかしら。あ、私も女の子でした。

 そりゃ確かに普段より安く買えるのは魅力的だと思う。でも私は人多いからそこまで行きたいと思わない。

 それにだいたいは服やらパンツやらがバラ売りで安く売られてるわけだがら買ったところで手持ちのと合わせづらい、なんてこともありそうなのであまり好きではない。

 あと女の子な服装ってあんまり私に似合わないと思うんだよね……。

 現に今着てるのは灰色でタートルネックのインナーに黒のマフラー。

 アウターは中綿入りのジャケット。これも黒色。

 下は少し馴染んでいる紺色のGパン。靴は特に変わり映えのないスニーカーである。

 うん。機能性重視だね。なんなら男の子の服装に近いかもしれない。

 ……話は変わるけどとにかく人が多い。狙いはやっぱりバーゲンセールなのかな。

 あとは純粋に遊びに出かける人か、それとも初詣をした帰りの人たちだろうか。

 スマホもろくに取り出すことが出来ない車内で、ぼんやりと車窓を見てゆらゆらと揺られながら京楓と千葉へ向かう。

 終点に着いたら京楓と手を繋いで少し人波にもまれながらなんとか集合場所にに着いた。

 そこには主催者にあたる2人が待っていた。

「ごめん!待った?」

「おーす。昨日ぶりだね。京楓ちゃんおはよー」

「おはよー。時間はまだ平気だよ」

「はい。えっと、お久しぶりです。妹の京楓です」

 一応京楓はこの2人とは面識は何度かはある。たまにこの2人がうちに遊びに来る時に京楓も混ざってゲームで遊ぶような感じで何回か会っている。

「久しぶりだねー。落ち着いたらまた遊ぼうよ!」

「はい!今日はよろしくお願いします!」

「前も言ってるけどタメで全然いいのに。知らない顔ってわけじゃないし」

「でもやっぱり年上ですし……」

「とりあえずデパート向かう?」

 一旦話を切り上げるべく、ここいる御一行はデパートへ向かう。

 駅からさほど遠くないので直ぐに着いたが、既に結構な人数並んでいる。

 まだ開店前の時間なので恐らくかなり早い段階で現地入りしたのだろう。

 その情熱は凄いと思う、と既に並んでいる名も無き戦士にそっと心で伝えた。

 いや、名はあるか。と同時にセルフツッコミをした。

「で、私は手伝う感じでいいの?」

「え?まあそりゃ助かるけど自分の分は?」

「いや私は特にはって感じなんだけど……」

 なんか驚かれてるけど、私はそのつもりで来たのだが……。

「せっかくだしいくつか買ってけば?ほら安いし」

 美笹そう言って今回行くバーゲンセールのチラシを見せる。

「うーん。正直ファッションとか疎いしサポートでいいかな……。普段着るものも見ての通りだし」

「うーん。やっぱ何となく男子寄りな感じだよな」

「私もお姉ちゃんがもう少し着こなしすれば可愛いと思うんですよね……」

「自転車もいいけど少しはオシャレしないともったいないよ?華の女子高生なんだし」

 ぐぬぬ……。結構言うじゃねぇか……。

 でも確かにだいたいお父さんの影響で自転車を始めたあたりから服買わなくなったなぁ。

 かれこれ1年以上は買ってないと思う。それに平日は制服、休日はサイクルウェアだし滅多にこうして私服を着ることがない。

 私服を着るとしてもせいぜい近所を歩きで買い物に行くぐらいかな。

「そうだ!」

 美笹が何かを思いついたのか、パン!と手のひらを叩き合わせる。

 というか割とびっくりした……。

「楓奏をより可愛くしてみよう!」

「お、それいいな」

「いいですね!やってみましょうよ!」

 むむっ?何が始まるんです?第三次世界大戦?いや始まってたまるか。ラブアンドピース。じゃなくて……

「可愛くしようって……?」

「楓奏に似合うコーデを探そう!」

「いや、その」

「お金は?」

「まあボチボチ……」

「よし。GO」

 夏鈴がゴーサインを出した。え、なに私魔改造されるのん? 

 あ、でも改造人間って1ミリだけかっこいいなとか思っている。

 なんて少し楽観に捉えてた。しかし思いのほか過酷な未来が待ち受けていた。

 

 

 ☆

 

 

「はあ……疲れた。何あれ?戦場なの?」

 デパートが開店した直後、目星ついてるお店へ走っては私以外の3人が狙っている物を片っ端から取りまくる。言わばサポート役だ。

 当然その間も他の人が詰め寄ってくるわけだからとてつもなく過酷だった。

 時間にしてわずか1時間足らずでこの疲弊っぷりである。

 今は近くのベンチで座ってインターバルを取っている。

「狙い目のものはほとんど行けたな。ありがとな楓奏」

「はい。いつもの」

 そう言って美笹はマッ缶をくれる。ありがてぇ……。

「全力尽くしたわよ……はぁうめぇ……」

 バーゲンセールたるもの行ったことないから思いのほか体力奪われた。

 頂いたマッ缶はほとんど一気飲みに近い感じで飲み干すぐらいは疲れた。

「さーて。皆の衆、行くわよ」

 美笹は何かを始めると言わんばかりのセリフを言う。え、ちょインターバル……

「一通り歩いたら揃いそうだよな。よし楓奏行くぞー」

 夏鈴は私の右腕をグイグイ引っ張る。もうバーゲンはいやだよ……。

「せっかくだし行こうよお姉ちゃん」

 京楓も左腕グイグイと引っ張る。……お姉ちゃんはもう疲れたわよ行っておいて。

「もしかして忘れてた?楓奏改造計画」

 あっ。列に並んでたときに言ってたやつか。でもさっきとなにか違う気がするのは気のせいだろうか。

「いつも休みの日は自転車乗ってんだしこれぐらいしか機会がないから行くよ!年末年始だから安く済むだろうし」

 そうだけどさ……。着こなし以前に女の子な服装合わない気がするんだよね。

「そんなことないよ!だって女の子だもの」

 どうやら思わず口にしてたらしい。しかし女の子だものって……、思いのほか暴論で笑いそうになった。

 美笹がそこまで言うなら行きますか。と私は缶を捨てに立ち上がる。

「じゃ、おまかせしようかな。よくわかんないし」

 諦めてこの3人にコーディネートをお願いすることにした。

 それより1つ驚いていることがある。

 京楓は普段はどちらかというと人見知りで大人しい子なのに、意外と乗り気であることだ。

 美笹と夏鈴がここがいいよ!というお店へ案内してもらってる中、隣に歩く京楓に聞いてみた。

「ねぇ京楓」

「なに?」

「なんかお姉ちゃん改造計画に対して乗り気だなーって思ってさ」

「おしゃれに着こなししたお姉ちゃん見てみたいからかなー」

「なにそれ」

 そんな理由だと知り私は少し苦笑いしてお店まで歩く。

 まずUやGから始まる大手のアパレルショップから始め、少し大人寄りな(エッチなやつじゃない)服が揃えているお店をあらかた回り終わった。

 もちろんその間着せ替え人形と化していた。

 着替えるだけでいいじゃんと思ったけど結構大変なのよこれ。

 時にはもうこれでいいよー……とか言い出しそうなぐらい疲れる。

 もうこれで何度目の着替えなのか分からないぐらい作業と化しているなか私は着替えている。

「はいよ」

「お、おぉ……」

「かわいい……1番いいかも」

「いいよ……お姉ちゃん」

 どうやらこの服装が3人が感嘆の声を上げるほどらしい。ちょっと照れるな……。

 試着しているのは、黒の薄手なコートと淡い朱色ワンピース。下はホットタイツ、靴はビットローファーを履いている。

「でもこれ寒いんじゃ……」

「そう言うと思ってな。これもあるぞ。ほい」

 夏鈴がスっと私に渡したのは黒の1色のシンプルなロングコート。

「寒い時はこれを着て、秋と春はロングコート着なくても行ける。楓奏はある程度身長あるから似合うだろうし、さらにはこの中の上下あまり気にしなくてもだいたい行ける優れものだ」

 コートを片手に持ちサムズアップする。どうせめんどくさがりそうということを予想してこれを渡してきたのかな。なんか複雑。

 しかしいざ着て見ると悪くない。ちゃんと左右にポケットもあるし中の上下もそこまで考えなくても様になる。しかも暖かい。

 性能と汎用性の高さに驚いてしまった。

「こいつぁ気に入ったぜェ……」

 そう呟いて今着ているものを脱いでレジで会計をする。

 やっぱり年末年始だからか、これだけあるのに合計で1万円と少しお釣りが返ってきたぐらいのお値段だった……ってマジ?安くね? 

 これで福澤さん未満ぐらいなの?最近のアパレルすっげぇなぁ……。

「さっそく着て行かれますか?」

「あ、大丈夫「はい、お願いします!」

「…分かりました。ではタグを切らしていただきますね」

 ニッコリと店員さんはそう対応した。

「って夏鈴!」

「てへっ」

 くっ……。後でデコピン食らわしてやる……! 

 普通に持って帰るつもりだったんだけど、店員さんにそう伝えてしまった以上着るしかない。

 こうしてさっき買ったものをふたたび着直す。

「やっぱシンプルな感じが楓奏らしいな」

「うんうん♪大人びた雰囲気がするよね~」

「めっちゃ似合ってるよ、お姉ちゃん」

 3人それぞれのコメントを貰う。ちょっぴり恥ずかしいけど嬉しさもある。

「というか持って帰るつもりだったんだけど。夏鈴」

 私はスっと左手でデコピンの構えをする。

「まぁでもそれぐらいしないと着なさそうじゃん?」

 うむ確かに。私の性格をよくわかってらっしゃる。

 これで納得しちゃうのもなんか悲しい。

 でもせっかく選んでもらったから着た方がいいっか。そう思い左手をポケットにしまう。

「いい時間だし昼たべる?」

 ちょうど左ポケットにあったスマホを取り出して時間を見る。

「そうだな」

「んじゃ行きますか。私たちのサンクチュアリー」

「サイゼリヤ」

「え、何この一体感……」

 ちょっと引いた京楓にツッコミをもらう始末である。

 安くて美味しい。完璧じゃなイカ。ってなんか神奈川在住の侵略者になちゃったよ。久しぶりにイカの墨入りスパゲティ食べようかしらん。

 まあ何を言いたいかというと、身体が自由に動かせる間はサイゼ行きたいねってことだよ。うん、ちょっと何言っているのか分からないね。

 そうと決まったらサイゼ向かうべく、デパートの中をてくてくと歩く4人。

 が、前からカップルらしき2人がこちらに向かって来ている。

 邪魔にならないように片方に寄ろうとしたが、その前にそのカップルらしき2人は知っている人たちだと気づき思わず立ち止まってしまった。

 

 

 ☆

 

 

「あれ?」

「お、おう? 奇遇だな」

「かなかなじゃん!やっはろー!すっごい偶然だね。バーゲン狙い?」

「まあ、その後ろにいる3人がね。私はサポートみたいな感じだったけど……」

「へぇー。後ろの人たち多分はじめましてだからちょっと挨拶するね?」

「おう」

 そう言って由比ヶ浜さんは美笹たちに挨拶しに行った。コミュ力どうなってるのこの子……。

「まぁ、なんだ。昨日ぶりだな」

「そうだね。その……もしかして由比ヶ浜さんとデート中?」

「言うと思ったけどちげぇよ。雪ノ下のプレゼント選びをしていただけだ。あいつ誕生日近いらしいからな」

「そうなんだ…」

 なぜかホッとした気持ちになった。…ん?今なんで安心したんだろう……? 

「そう言えば昨日と雰囲気違うな。服が違うのか」

 比企谷くんも昨日との違いを気づいたみたい。服装でこんなに印象が変わるんだと今気づいた。

「まあ、お前らしくて似合うと思うぞ」

 彼は少し目を逸らしてそう言う。恥ずかしいのかな? 

「ふふ♪ありがと」

 かくいう私も恥ずかしかったりする。頬に熱が伝わる感じもする。

 きっと褒められて嬉しいんだ、私。

 私ってこんなにちょろかったかな……?ううん。これは気のせいだ。

 いやでもまさか……。

ふとあの日、サイゼで美笹が私に聞いてきたことを思い出していた。

「ごめーんお待たせー」

 由比ヶ浜さんが戻ってきたことによって思考の海に沈み込む前になんとか引き上げられた。

「おう。物は買えたし帰るか」

「うん!」

「んじゃまた学校でな。お連れさんもまたな」

「……うん!またね!」

「今年もよろしくねー」

 こうして比企谷くんと由比ヶ浜さんは私たちと反対方向へ去って行った。

 私はそっと胸に手を当てた。さっきまで少し脈が早くなった感触がある。

 いや。さすがにこれだけじゃ断言出来るわけがない。

 きっとあんまり褒め慣れてないから少し恥ずかしかっただけだと、私は何とも言えないこの気持ちを心の中に抑え込んだ。

「おーい、行くぞー」

「え?あ、うん!」

 1回このことを忘れようと、私は歩き出した。

 ……なぜあの時「安心」をしたのかという疑問は拭えないままサイゼに向かって歩く。

 

 

 ☆

 

 

 美笹と夏鈴は荷物もあるからということで、サイゼで昼ごはん食べたあと千葉駅で別れた。

「んじゃ帰ろっか」

「うん!」

 人が多いのではぐれないように手を繋いで私たちはホームへ向かう。

 止まっている電車を乗り込み、やがて時間になったら電車はゆっくりと目的地へ向かって走り出す。

「お姉ちゃん?」

「うん?」

「サイゼに行く前からずっとなんか心ここにあらずって感じがするけど大丈夫?」

「……大丈夫だよ、ちょっと考えてたことがあっただけ。そういえば欲しいの買えた?」

「あ、うん。これだけあって結構安かったよー」

「お年玉って意外とすぐに無くなるから気をつけなよー。妹君よ」

 電車に揺られながら京楓と喋っては笑って、私たちはゆっくりと家に近づいていく。




あけましておめでとうございます。今年もぼちぼち書いて行きますのでよろしくお願いします。


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三学期

少し忙しくなり、少し間が空いてしまいました。
それではどぞ。


 あまりだらけきってなかったような気がした冬休みは瞬く間に過ぎ、三学期となった。

 なぜか今年は去年と比べると外に出かける機会が多かった。

 去年まではせいぜい小町と初詣に行くために外に出るぐらいで、課題をせっせと消化してはほとんど自分の部屋でだらけた気がする。

 そんな体育館の中で響いている校長先生によるありがたいお話を聞き流しながら今年の冬休みを振り返ってた。

 いやまあ多分ありがたいお話ではあるが、小中高と変わらず毎年恒例すぎてありがたみがなくなりつつあると言いますか……。

 つまるところ、スキップしたいのである。

 このご時世、女の子が出るゲームですらスキップ機能ついているっていうのに現実世界はまだ搭載されてない。おかしい。

 俺はどちらかというと既読メッセージはスキップする派だから、このイベント……と言う名の始業式をスキップしたい気持ちに駆られる。

 そして次のイベントを進めたい。いやイベント特にないけどよ。

 だが現実世界でスキップ機能を搭載するべきだと俺は思う。

 特にこういう固定イベントをスキップするために。

 ……結構需要あると思うからそろそろアップデート入れませんか?運営様。

 きっとこのワールドを運営しているであろう、天にいる神様へそっとお願いした。

 あ、ついでに色んなユーザーから発見された数多のバグ修正お願いします。特に俺が見つけた働かないと生きていけないバグとか重点的に。

 デバッグはしっかりお願いします。

 そんなくだらない思考を繰り広げていたら始業式が終わった。

 ぞろぞろと他の生徒たちと合わせ教室へ戻っていく。

 冬休みどうだったやら課題ギリギリ間に合ったわーとかの雑談の間をすり抜けそそくさと教室へ歩む。

 残りのHR乗り切れば今日は帰れる。

 午前中で終わるのは確定している上、奉仕部も明日から営業するとのことなので放課後どこか寄り道するかと少し心踊りながらHRが始まるの待つ。

 

 

 ☆

 

 

 序盤の方でイベントなんてないと言ったな?あれは嘘だ。

 ガタイのいいあんちゃんが誰かさんに身体を押され「うわぁぁぁ」と叫んで崖から落ちていったのもきっと気のせいだ。

 ん?序盤ってなんだ。いや聞き間違えだろう。

 とまぁ、おそらく始業式中に脳内で立てたフラグらしきものが今になって見事に回収されたわけだ。

 言葉にしなくてもフラグ成立するとか聞いたことねぇよ……。

 HRは普通に終わったのはいい、問題はそのあとだ。

 そろそろ置き換えてもいいだろと思うぐらいうるさい音を出す自販機の前でマッ缶を味わっているときだ。

「お、比企谷か。ちょっと来てくれないか?」

「……奉仕部の営業は明日からですよ。先生」

「そんなの分かっている。ただ今ちょっと男手が欲しくてだな」

 そんな感じで平塚先生に頼まれ、今絶賛力仕事中である。

 見事に労働イベントの真っ只中である。って誰得だよ。

 頼むからやっぱりこのワールド(現実世界)のバグ修正早くしろください。

 多くの備品がしまわれてる空き教室の方から平塚先生に指定されたダンボールを四つを奥から取り出しそれを職員室付近まで運ぶという単純な作業を頼まれたのだが、これがけっこう大変だ。

 そのダンボールには備品や書類などがどっしり入っており、一つ一つどれもそれなりに重い。

 しかも特別棟の端に近い空き教室だから職員室までが遠い。

 運良く空き教室から台車みっけたと思ったら残念ながら車輪が逝っちまってた。さっさと捨てちまえよ……。

 なので仕方なく重いダンボールを1個ずつ運ぶはめになった。

 そんな重たいダンボールを1個ずつ丁寧に運んで、ようやく残り1つとなった。

 言われたとおり職員室付近に置いてやっと任務完了である。

 職員室にいる平塚先生に報告したらさっさと帰ろうと思い、扉を開ける。

 パソコンで作業をしていた平塚先生は手を止めてこちらまで歩いてきた。

「これでいいんですかね」

 ダンボールに指を指して確認を取る。

「ああ、ありがとう。じゃこれをやるよ」

「?なんすかこれ?」

「そこの駅の近くに新しくラーメン屋出来たらしくてな。前行った時に開店イベントなのか食事した人は抽選機回す権利があって、それでラーメンのタダ券もらったわけだ」

 右手で回す仕草をしてそう言う。あーアレね。ガラガラ(福引きのアレ)ね。

 魅力的なものではあるが、先生が当てたものだから流石に貰うのは申し訳ない。

「さすがにそれ貰うのは気が引けます」

「……これ期限近くなっているし、私も行きたいがなかなか行く機会ないからなー。今回の労働の報酬ということで消費してくれると助かるんだがな」

 そう言われると弱る。確かに期限が切れて使えなくなるタダ券が可哀想だ。

 決してタダ飯に乗じたいわけではない。

「……わかりました。ではお言葉に甘えます」

「おうよ。店の住所はここに書いてあるからな」

「はい。ありがとうございます」

 職員室の片隅に置いておいたカバンを手に持ち先生に一礼をして玄関へ向かう。

 せっかく頂いたタダ券を大事にしまいその店へ向かう。あ、一応小町にメールしておくか。

 外履きに履き替えて、駐輪場の定位置から自転車を取り出す。

 券に書いてある住所を地図で調べて、そこへ向かってペダルを踏み出した。

 

 

 ☆

 

 

 その店は駅の目の前にあり、かなりわかりやすいところに立地している。

 だが栄えてる方の反対側にあるにあるため、比較的に人が少ない。

 もし美味かったらこれは隠れた名店になりそうだなと思いつつ、店の前まで自転車を押す。

 そして店前に着くと、ほぼ店の真ん前にあるガードレールに見覚えがありまくりな自転車が止めてあった。

 チラッとそのラーメン屋のちょっとした列を見るとあぁやっぱりと思った同時に、向こうも俺のこと気づいて手を振ってきた。

 とりあえず自分の自転車をその自転車の隣に止めて列を並ぶ。

「やっほー。比企谷くんも食べにきたの?」

 ちょうど列の最後尾にいた若宮は聞いてきた。

「あぁ。これ平塚先生がくれてな」

 自慢したいわけじゃないが、貰ったタダ券を彼女に見せる。

「へー! いいなぁ……」

 彼女は羨ましそうにタダ券を見つめる。

「先生がこの店の開店イベントの福引きで当てたみたいだが、あまり行ける機会ないからよかったらって渡してきた」

 嘘は言っていないが、この券は一応俺の労働の証でもある。

「いいなぁ……。それを貰ったってことは比企谷もここ初めて?」

「そうだな。なんならここにラーメン屋出来たのも今日知ったまである」

「私もこの間ネットで調べてたらこのお店、去年の終わり頃に出来たらしくて」

 若宮がブクマしたサイトを俺に見せる。

 そのサイトを通じてメニューやらその店の情報など2人で見ていたら、いつの間にか列の先頭になっていた。

 やがて順番になり、店員の案内のもと奥の方にあるテーブル席に案内された。

 どうやら券売機ではなく、口頭で注文するタイプの店のようだ。

 ぼっちとしては券売機方式の方がありがたかったりするが、仕方ない。

「私はネギラーメンかな。ネギ好きだし」

「決めんのはえーな。……じゃあ俺はとんこつにするわ」

 各々注文をして、出来上がるまで待つ。

 初めての店なので俺個人としてはかなり楽しみだったりする。

「そう言えば女子が1人でラーメン屋で並ぶのって抵抗があるって聞くが、そうでもないのか?」

 スマホいじっているのも申し訳ないから思っていたことを聞いてみた。

 これは列に並んでた時に思っていた疑問だ。実際はほとんどが1人で並ぶには抵抗があると聞くし、あまり女性1人で並ぶところは見ない。

「あー。だいたいは抵抗あるかもね。……でも私は食べたいものを食べたい人だからそんなに気にしないかな」

 まあ視線はちょっと感じるけどね、と付け足して肩を窄める。

「ほーん」

 それからラーメンが出来るまでお互い冬休み何してたのか時間を潰すように話していた。

「結局私はイツメンで行動すること多かったなー。そろそろ走らないとという危機感に襲われてるよ」

 はははと彼女は笑う。言われてみれば他人事じゃない気がしてきた。

 年越してから餅だいぶ食べたし、そう言われてワンチャン体重増えたかもしれんなとふと思ってしまった。

「あ、そうだ。良かったら今度久しぶりにどっか行かない?」

 どこか行かない?というのはほぼ間違えなく自転車のことであろう。

 主語なくてもわかってしまうあたりまあまあ毒されてるなこれ。

「まあ土日とかならいいぞ。アホほど遠くなければの話だが」

 こいつは平気と100キロやら200キロを走っているのだ。だから予防線は張っておく。

 じゃないといつの間にか森の中にいたりする。(経験談)

「アホほどって酷いなー。ちょっと東京の方行こうかなと思ってるだけだから大丈夫だよ」

「ほーん。ならまだ平坦だしな」

「そうそう。平坦で往復70もないからさ」

「それでも70あるのか。そこでなんかやってんのか?」

「そこに……あ、ありがとうございます」

 どうやらラーメンが出来上がったみたいで、店員さんが持ってきた。

 ほう。これは美味そうだ。

「とりあえず食べてから続きの話をしよ?」

「だな。……いただきます」

「いただきまーす♪」

 箸で麺をつかみ、ひとすすり。

 麺の太さは普通ぐらいだが、スープとの絡まりがよく非常に美味い。

 有名店と引けを取らないぐらいのレベルの高さだ。

 合わせてチャーシューも食べてみる。

 ほう。噛みごたえはあるが、いざ口の中に含むと少しふわふわしていて肉汁が染み込む。

 そしてスープをレンゲで掬い、一口飲む。とんこつスープなのにそこはかとなくさっぱりしていて、とても濃厚である。

 これは八幡的にポイントが高い。

 俺的割と定期的に行きたい店のランキングの上位に食い込む。

「うめぇな……」

「これは定期的に行きたいね……」

「あぁ」

 それからお互いほぼ無言になり夢中でラーメンをすする。

 ……まったく、ラーメンというものを作り上げたパイオニアには本当に頭上がらないぜ。

 基本的に麺、スープ、具材の3つで出来上がる。だが作る人、作りたいラーメンの系統でそれぞれの性格()が現れる。

 これ程奥深い食べ物はそうそうないと俺は思う。

 

 

 ☆

 

 

「はぁ……妾は幸せじゃぁ~……」

 余韻に浸っている若宮はそう言って背中に壁をつけた。

 正直なところ、俺も壁に背中を預けたいのだが残念ながら俺の後ろには壁がない。ちくせう。

「もうちょいしたら行くか。そういえばさっきなんか言いかけたけど何だったんだ?」

「え?あぁ何かやってるのか、の話だっけ」

「おう」

「んー……確かに何かはやっているけど、来てのお楽しみかな~」

 なにか大規模なイベントでもやるのだろうか。まあどのみち俺も少しは動かないとまずいという危機感を感じていることだし、話に乗ることにする。

「まあ俺も多少は運動しないとまずい気がするしとりあえずその話乗るわ」

「え?もしかして比企谷くんもちょっと……」

 彼女は自分の腹をさすった。

 ……そのジェスチャーはいろいろ誤解生みそうだからやめようね。あとそれ何とも言えんエ……いいやなんでもねェ。

 まあ彼女か言いたいのは体重のことだろうと思うが。

「あぁ、否定出来ないかもしれん……」

 別に特段と体重気にしてるわけではないが、年末年始の過ごし方を考えると多分デブったと思う。

 それに若宮とどこかへ行くって言うのも久しぶりだったりするからちょうどいいなと思った。

「今度の日曜なんだけど、どう?」

「あぁ、いいぞ。てかそろそろ出るか」

「だね」

 彼女から端数切り捨てで700円を徴収し、俺はタダ券を取り出し支払いを済ます。

「細かいの足りなかった分、今崩して渡すよ」

「いいや、気にすんな」

「そう?……比企谷くんはもう真っ直ぐ帰る?」

「そうだな……」

 正直に言うとラーメン食べれたからわりと満足している。その上何か買いたいものあるわけでもない。

「特に用は無いから帰るわ」

「はーい。んじゃ行こ」

 彼女は颯爽とロードを跨り、ガチャンといい音を鳴らす。

「よっと」

 ちょっと進んだらスっとサドルから立ち上がり、右手でブレーキを使いながら絶妙なバランスを保ちその場に留まる。

 そう、足は地面についていないのに人と自転車が立った状態でいるのだ。

 もっと分かりやすく言うと、立ち漕ぎしてる人に対してストップモーションをかけたような状態だ。

 さすがに少し前後には動くが、彼女はブレーキと身体のバランスを使いにその場に留まろうとする。……大道芸かしらん? 

「それすげぇけどなにしてんの?」

「これ?スタンティングっていう技。最近覚えた」

「へぇ……よいしょっと」

 ちょっと見様見真似で自分もちょっとやってみたが無理でした。

 さすが若宮パイセンかっけぇっす。

 

 

 ☆

 

 

 河川敷と国道を使い、毎度よろしくあのコンビニの前に着く。

 思いのほか暑くなったので上着を脱いでカゴに突っ込んで休憩を取る。

 空を見上げるとすっかり晴れていて、雲は途切れ途切れで流れていた。

 朝は結構寒かったんだがな……。

「しばらくチャリ乗ってないからやっぱり身体なまってるわ……。ちょっと飲み物買うから行ってていいぞ」

「私も買うから待ってるよ」

「はいよ」

 少し厚手な上着のポケットから財布を取り出し店内に入る。

「あちぃ……」

 暖房ガンガンである。単に自転車乗ってたというのもあるが些か効きすぎではなかろうか。

 額に汗が少し滲み出るとほどなので、テキトーにペットボトルと紙パックの飲み物を手に取ったらレジを通して外に出る。

 前カゴが満タンである自転車の方を見ると……ん?小町じゃね? 

 とりあえず自分の自転車のところに戻る。というか自転車が止まっている所に小町がいた。

「なにしてんの?」

「あ、お兄ちゃん!」

 小町は小走りで俺の前まできた。なんだろうか。

「あの人が若宮さん?」

「そうだが、てかなんでここにいんの?」

「外にお兄ちゃんの自転車止まってあったから待ってた」

 ほーん、狭い店内で偶然入れ違っただけか。

「で!で!そこで待っている女の子同じ制服だけど、もしかして前話していた若宮さんかなーって!」

 やや興奮気味に食いついてくる。気になるなら好きに話すりゃいいじゃないんでしょうかね。

 その間俺は自宅に帰投しますけどね。

「だからそうだよ……ってちょっ!」

 いつの間にか小町は若宮の元に走って行った。てかいきなり行ってもあいつ困惑するんじゃね? 

 ……チラッと見てみるとやっぱり予想通り過ぎて思わず笑いそうになったが、堪えて仲裁に入る。

「たでーま」

「おかえり~。この子が比企谷くんの妹さん?」

「あぁ、可愛いだろ?」

「確かにそうだけどいきなりシスコン全開はどうかと思うよ……。妹いるから気持ちわかるけど」

「へぇー妹さんいるんですか!おいくつなんですか?」

「中三だよ~」

 こりゃお喋りが尽きそうにないと思い、さっきお買い上げした紙パックのりんごジュースをちびちびと飲む。

 ちびちびと飲んで数分。早くも飲み干したので紙パックを捨てて帰る準備をする。

 小町も気づいたのか上手く話を切り上げようとする。

 というか話終わるまでずっとスマホを見てては話は聞き流していたからなんの話をしていたのか少し気になるところである。

 変な悪知恵でも入れられてなけりゃいいんだが。

「話に付き合ってくれてありがとうございました!それでは土曜日よろしくお願いします!」

「うん!よろしくねー」

「じゃあな……あ、ほらよ」

 俺はビニール袋に入ってる未開封のスポドリを若宮の方へ投げた。

「うわっ!とっと……」

「飲もうとしたけど腹たまったからやるよ。金はいらん」

「……ありがと!またねー」

 手を振ってきたので軽く手を振り返して小町と家路につく。

「ほーん……」

 小町何やら言いたげな顔をしてこちらを見る。

「なんだよ……」

「なんでもー」

「そうかよ」

 ……そういえばどんな話をしていたのか聞いてみるか。やっぱりお兄ちゃんとしては気になります! 

「さっき聞き流してたけど、お前らなんの話してた?」

「んと、まず自己紹介して、楓奏さんの妹さんの話を聞いて、それから料理の話になって、今度の土曜日ウチに来ることになった」

「は?」

 どうしてこうなった。あいつの妹の話までは聞いていた気がするが、それ以降は9割、いや、ほぼ全部聞き流していたがなして土曜日に我が家に来ることになったんですかね? 

「は?ってお兄ちゃんおうって相槌打ってたじゃん……」

 マジで?それ多分無意識的に言ってたと思うからなしでしょ?あ、ダメ?さいですか……

「あの時無意識に言ってたのか知らないけどとにかく土曜日に来るからね?」

「はいよ……」

 まあ言っちまったもんは仕方ないかと諦め、昼下がりの閑静な住宅街を兄妹2人で歩いていく。




さっさと書くので待ってて下さい。
それでは。


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文理選択

2年ぶり。やや短めです。


「比企谷くんって文理選択どっち選んだの?」

無事に三学期に突入し、再び学校へ通うという生活が慣れた頃合いでの昼休み。

もう2月半ばに差し掛かったけどな。ぼっちはスロースターターなんだよ。

変わらず昼食をとるべくベストプレイスに来た。が、そこにはもう人いるのが当たり前になりつつのである。

1人の場所を求めここに行き着いたはずなのに、誰かがいることに順応したあたり本末転倒な気がする。

「理数は端から捨ててるから消去法で文系だ」

「なんとなく想像通りだった」

ふふっと彼女は笑ってそう言う。

「ならなぜ聞いた」

「ほら今朝文理選択のプリント渡されたじゃん?それでなんとなくどっち選ぶのかなーって」

「ほーん。まあ私立文系でも行っていい人居たら養って貰いたいなぁ…」

「えぇ…」

言葉通り彼女は引いていた。なんなら表情にも現れてる。

「あくまでも専業主夫が目標だ。そのために進学をするのはただの手段に過ぎない」

「専業主夫ねぇ…家事をするイメージあまりないんだけど」

「ばっかお前、ほらあれだ。小学生部門なら優勝待ったなしだぞ」

「それは全国の専業主夫に謝った方がいい」

ほぼ秒差なしでツッコミ入れられた。

しょうがねぇだろ、いつの間にか小町がみるみると成長して家事をこなすようになったんだから。

ちなみに俺が中一あたりから小町に抜かされた気がする。(家事力的な意味で)

あ、小町に養って貰えばいいんじゃね?

可愛い上に圧倒的な家事スキルもあり、由比ヶ浜に次ぐコミュニケーションモンスターでもあり下手すりゃそこら辺の中学生よりレベチ。

よし小町に養って貰おう、帰ったら相談してみるか。

「まあそれでも養ってくれる心優しい女性きっといるだろ。小町みたいな」

「シスコンぇ…そういえば小町ちゃんって中学生でしょ?想像より料理がすごく上手で手際もすごく良かったからびっくりしたよ」

そういえばある日の休日家に来てたな。まああくまでも小町の友達として、だと思うが。

「当たり前だろ。小町だからな」

「納得出来たようなそうでもないようなこの気持ちはなんだろう…」

特に何かあったわけでもなくそのまま放課後に突入。

いつも通り特別棟にある教室へ赴く。

立て付けの悪い扉に対して少し強めの力で開けようとする。

ガッ!…ガッ!…ってこれ鍵開いてねぇじゃん。てことは本日休業か?

よし帰れるという気持ちを少しだけ抑え、念の為に何か連絡来ていないかスマホを見る。するとメールが1件入っていた。

内容は『少し遅れる』といったものだ。ワンチャン帰れんじゃねと思ったけどダメでした。

少しその場で待った後雪ノ下と由比ヶ浜が来てようやく扉は開けられた。

紅茶の香りが広がる特別棟の一角にある教室。

相変わらず俺は読書に勤しみ、由比ヶ浜はケータイをいじり倒してる。

そんな中雪ノ下は読書はしておらず、ノートパソコンを立ち上げて何かを見ていた。

「なになに相談メール?」

ケータイをいじっていた由比ヶ浜は雪ノ下が立ち上げたパソコンの画面を見ていた。

…そう言えば体育祭の時にも使われてたな。千葉県横断相談メール。

「1件来ているわね」

ダブルクリックでそのメールの内容が開かれる。

『文理選択ってみんなどうやって選んでんの? 差出人 ゆみ ゆみ』

3人共に画面を見る。

俺はなぜか分からないが頭の中にF組にいる金髪縦ロールの女王様が横切った。

予感が的中したのか差出人らしき人物がこの教室にやってきた。

「…あなたはノックすることが出来ないのかしら」

「うっさい…。メール送ったんだけど」

「今確認したところだけれど、あなただったのね。ところで何か用かしら?」

「…メールの内容も交えて相談があんだけど」

相談の内容は簡潔にいうと葉山の進路を知りたい、だけど本人に聞いてもはぐらかされたりして知ることが出来ない。

「あいつの進路を知りたいんだな?」

「うん。知りたい…」

「じゃあ俺が聞いてきてやるよ。俺みたいなどうでもいいやつならぶっちゃけるだろ」

「え?ほんと!?」

「ああ。聞くだけ聞いてみるわ」

 

 

夕暮れのグラウンド。サッカー部の方々が片付けをしている最中俺は葉山を待っていた。

正直ちゃんと答えてくれるのではなんて期待はしていない。聞ければ儲け程度だ。

彼は現状維持を好み、自分や周りのものが変わってしまうことを嫌がる。

別にそれが悪いことかって言われたら、そうではないとと思う。そいつの自由であり、俺がどうこう言える立場でもない。

なんならカースト下位の者がトップカーストに対してどうこう言うなんてあってはならない。

まあちょっと前の俺なら葉山の気持ち少しだけ分かっていたかもしれない。

「なんか用かい?」

「あぁ、単刀直入に聞く。お前は文理選択どっち選んだ?」

そう言うとあからさまにため息をつかれた。

「優美子の差し金か?」

「そうだ、と言ったら?」

「…はっきり言うとそういうのはやめてくれ。彼女はそういう仲なりたいだろうと俺はそういう仲になる気は無い。」

それは随分と先の話な気がする。

まあ三浦優美子がこういう依頼をしてくる時点できっとそういう考えがあったのだろう。

「仮に本人が聞いてきても答える気は無い。すまない。」

このままだと依頼はこなせず終わってしまう。ならば。

「タダでは教えてくれないんだな。そんな気はした。」

「あぁ。そうだな。」

だがこれはどうだ。

「今度のマラソン大会、勝ったら教えろ。負けたらこのことは白紙に戻す。」

「…本気で言っているのかい?文化部にあたる君と運動部の俺じゃ話にならないと思うが?」

「部活動以外の時間で運動していたとしたら?」

サッカー部員とほぼ読書しかしていない奉仕部員。どっちか勝つなんて論を講じることもなく結果は分かりきっているだろう。

だけど運動は必ずしも部活内でやらないといけないという決まりなんてない。

家に帰ったあとなんてやりたければ自由に運動できる。自主トレみたいなものだ。

どっかの誰かさんが勧められた長距離競技始めたおかげで割と体力は悪くないと思ってる。

だから普通に考えて勝つわけが無い宣戦布告をした。

「本気か?」

「おう。依頼をこなすための過程だからな。働きたくはないが与えられた仕事は最善を尽くすつもりでいる。」

「分かった。マラソン大会で君が勝ったらなんでも聞いてやる。その代わり俺が勝ったらそういう話は持ってこないでくれ。」

よし交渉成立だ。勝てるかはさておき最善を尽くそうと思う。

 



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マラソン大会

続きです。とぞ。


朝からどんよりと雲が広がるまくはりちほー。

北の方角には今にもぐずり出しそうな黒い雲が広がっている。

そんな中開催されるマラソン大会。

女子は10キロ、男子15キロと走るにしてはそこそこ長いマラソン大会である。

だけど距離にしては大したことでは無い。10キロなんて自転車だったら30分あればたどり着くことが出来る距離。

だけどマラソンだ。正真正銘自分の足を使ってゴールしなければいけない。

脚力の心配はしていない。どちらかと言えば足の裏がとんでもない筋肉痛になりそうで不安。

というか隣に立つ美笹が心配。

DNF(ゴールに辿り着けない)、はたまたDNS(棄権)しそう。

「大丈夫?」

「帰りたいよぅ…」

あっ棄権しそう。本当にこの人運動はダメなんやね。

「まあ最後まで付いて行ってやるから」

彼女の右肩をぽんぽんと叩く夏鈴。

この子はちっこい割りにはしっかり動ける女の子である。

いや小さいから身軽で空気抵抗少ないからフットワークが軽いのか。なるほど。

「ま、終わったらサイゼ行こうよ」

ストレッチしている私も便乗して彼女の左肩をぽんぽんと叩く。

「もう今から行こうよぅ…」

あぁ、本当に運動嫌いなんだね…。

やがて開始時刻になり、カウントダウンが終わり頑張ってくださーいとやや適当な放送を聞き流して始まった。

ま、ゴールすればいいっしょ。と軽い気持ちで走り出した。

 

 

あ〜だりぃ。

先日アレだけの啖呵をきったもののやっぱり走りたくはない。

でも依頼をクリアする過程でやむを得ずこんなに先頭のほうで走っている。

この状態でかれこれ数キロは走っているだろう。

後ろを見ればもう誰もいない。

前にいる葉山と付かず離れずの距離を保ってゴールを目指している状況である。

戸塚と喋りながら走る世界線に行きたかった…。

ふっふっと軽やかな走りをしている葉山は話しかけてくる。

「まあまあ早いペースなんだけどよくついてこれるな」

「どこまで持つかは知らんけどついていけんことはない」

余裕があるかって言われたら余裕では無いので淡々と返す俺。

「そうか。じゃあペース上げようか。」

ニッコリと笑顔を見せたのち、また少しペースを上げるこのトップカースト様。最初っから独走で走りきるつもりだ。

が、俺も負けじとついて行く。

このペースを維持してから5分。10分。15分…。5キロ、6キロ、7キロ…と続き、いつの間にか折り返し地点を過ぎた。

ここで1つの考えが思い浮かんだ。

決して足をひっかけて転ばせるとか邪悪な考えではない。

…やっぱりこいつ無駄にかっこいいしなんかムカつくから足をひっかけて転ばせたろっかな。うん。その方が確実だし。

まあやったら反則退場だろうね。

じゃなく。

その考えとやらは、この向かい風区間で先頭を交代をしながら楽にしようという魂胆だ。

いかんせん人間の足なので、スリップストリームを発動させるほどのスピードは出ていない。が、先頭で壁作ることによって風よけができるので少なからず楽になる。

そう提案してみた。

「どうせ目的は同じだ、こうして協調した方が効率がいいし楽に早く終わって帰れる。」

「…効率を求める。実に君らしいな」

「仕事はさっさと終わらせて定時で帰るタイプなんでな」

と、短いスパンで交代するということで話はまとまった。

 

 

開始してから40分ほど経っている。

運動部で足が速い女子たちはもうゴールしている頃だろうか。

そんな時間を近くにある大きな公園でそう示していた。

さっきまでいた集団からひっそりと抜け出し1人で走っている。

集団の中にいた方が確実に楽に走れるけどあの集団特有のプレッシャー、圧迫感がどうしても好きになれず、少し加速して集団から離れた。

風が少し辛い以外は気楽に走れている。

そんな感じで1人で走っていたら後ろから追われているような足音が聞こえる。

リズム的には2人はいるような気がする。

1人にしてはリズムがまばらだ。

さっきまでいた集団から抜け出して追ってきたのだろうか。

2人ぐらいだしいつもの2人かなと思って後ろを振り向いてみた。

そこにいたのは比企谷くんと葉山くんだった。

え?

葉山くんならまだしもなんで比企谷くんピッタリ後ろについているのか驚き。

というかペースおかしくない?

女子グループはそこそこ先行していたはずだよ?

そこにいるということはさっきの集団を通り過ぎてここにいるのよね?そんなことを考えていたらいつの間にか私の横を通過して行った。

今は息を切らす手前のペースで走っているからあまり大きな声は出せないけど、なぜか反射的に声を出した。

「頑張ってね!」

向こうは返事はしないし振り向きもしない。だけど軽く手を振ってきた。

伝わってよかった。

正直どっちが勝っても賞賛に値するレベルだと思う。

だけどせっかくなら彼には勝って欲しいかな。

つい最近まで学校ではあまり報われてないのだからたまには報われてもいいかなと思う。

 

 

ゴールまで1キロ。

そう記しているのはコーンに申し訳程度に貼られている紙である。

先頭を交代しながらここまで走ってきた。

正直ここまでこいつについてこれたのは自分でも驚いている。

スポーツは人並みにはこなせると思っている。

が、こういった長時間のスポーツで運動部の人とタメで走っているのは初めてだ。

先行していたはずの女子グループを抜いてはさらにその先にいる。

本来なら上位とまで行かなくとも中位前後でゴールするだろう。

だけどこいつには勝たなければ三浦の依頼は成立しなくなるかもしれない。

嫌々ながらも仕事をこなすためにここにいる。

葉山に向けての黄色い声援もたくさん聞いてきた。

別に俺が勝って俺はこいつより強いんだ。という誇示をしたいからここにいるわけではない。

依頼の過程でしかないのだから。

つっても正直キツいわこれ。

やっぱ運動は無理してやるもんじゃないね。はちまん勉強になった。

「さっき応援されてたけど君に向けての応援じゃないのか?」

と葉山はいきなり話しかけてきた。

「順当に考えてお前じゃねぇの?」

てかこっちは余裕はねぇんだから余裕そうに話しかけるな。爽やかイケメンめ。

「…あれは君向けてだと思うな。俺の名前呼ばれてないし」

「その理論だと別に俺の名前も呼ばれてないが」

「彼女は後ろを振り向いていた。だから顔は確認出来た思うが目の焦点が真っ先君に向けていた。」

たまたまだろう。なんせそんなに目立った活動をしていない奉仕部員がサッカー部の部長様の後ろにいたもんだから。

…いや活動する度に目立っているような気もしなくもない。

特に文化祭とか。

「たまたまだ。なんて言いたそうな顔だな」

その爽やかイケメンは爽やかな笑顔をしてそう言う。

もうめんどくさいからあぁ、たまたまだ。と適当に相槌をして話を打ち切った。

そうこうしているうちに公園へ入る広い通路が見えてきた。

ここを右へ直角に曲がったらスタート地点となったこの地域随一の広い公園に戻る。

既にゴールをした運動部の女子たちや手が空いている運営陣が通路脇で応援をしてくる。

放送を担当しているどっかのあざとい女子生徒もえ?もうゴールする男子がいるの?と慌ただしい様子も見れる。

と、少し油断をしたら直角を曲がったら葉山は途端に加速して行った。

持ち前の反射神経でダッシュして何とかついていった。

ところで最近足の筋肉には大きく2種類あるのことを知った。

まずは太ももの前側、ここは速筋と言われる部分で瞬発力に長けてる筋肉だ。

そして反対に太ももの裏側、遅筋といい持久力が長けてる筋肉がある。一般的にはハムストリングと言う。

これらの筋肉の割合は生まれつきで結構決まっているらしく、こういう陸上競技において今後続けていく競技はこの筋肉の割合で決まってしまうことも多々ある。

もちろんトレーニングでこの基礎を作り替えてしまう例外も存在する。

前を走る爽やかイケメンはサッカー部だ、きっとどちらの筋肉もバランスよく鍛えられてるバランスタイプだろう。

切り替えながら戦えるようにした方が選手として強いからな。

一方こっちはどうだ。

感覚的には太ももの裏側、ハムストリングの方が強い気がする。

つまりだ、1回ダッシュして抜いてそのまま無理やり速度を維持すればゴールに持ち込めるのではないか、という算段だ。

残り200mもないぐらい今なら行ける。

そう思って思いっきり地面を蹴った。

 

 

長かったようで短かった15キロの旅、こうしてようやく幕を閉じた。

そんな感じで息を切らしながらマラソンの会場の近くにある自販機でスポドリを買う俺がいる。

心臓が今まで聞いたことないぐらい早いリズムを刻んでいる。

やだ…もしかして恋…?

ダメだこいつ(自分)早くなんとかしないと。

買ったスポドリを持ってそこらへんの芝生に座り、ちょこちょこと疎らにゴールしていく女子を見ながらスポドリを飲む。

というかマラソン終わったらマッ缶を飲むと心に決めていたに真っ先にスポドリを買ってしまった。

千葉県民として有るまじき行為だ。サイゼリヤ(懺悔室)に行かなければならない。

この後必ずサイゼにいくと決意しているところ、苦笑いをしている葉山が隣に座ってきた。

やめろ、そちらのグループに所属してる海老なんとかさん見たらが喜んじゃうでしょ。

運動後の失血は救急車案件だぞ。

「君に負けてしまうとはな…」

うっすらと晴れ間が見える空を見ながら呟いていた。

「まぐれで上手くいっただけだ。それにお前自身に勝ちたくて勝ったわけではない。依頼を達成するためのフローチャートの途中でしかない。」

「流石だ。仕事のためなら努力を惜しまない一流のビジネスマンだな」

やや皮肉を込められているような気がするけど気づかないフリをした。

というか働かないぞ。働かないったら働かないんだからね!

そう思っても口にはしないけどな。

「お褒めの言葉どうも。んで報酬は?」

「あぁ、俺は理系を選んだ。嘘じゃないぞ?」

思っていたよりあっさり教えてくれたので座っているのにずっこけそうになった。

まあ勝ったら教えてもらう約束だったしな。

「ちなみに君は?」

「あ?あぁ、理数は端から捨ててるから文系だ」

いきなり聞かれたものだから驚いた。

それよりもそれを聞いた葉山はふっと鼻で笑われた。

なんかバカにされたような笑い方で、この時次に出る言葉によっちゃあ軽く引っ叩くぞという顔をしたと思う。

「つくづくと俺と君は正反対なんだな。ここまで真逆だと奇跡かもな」

くっくっと笑っているこいつを見て。

「仮に同じ理系だとしてもお前と同じ大学は選ばんわ」

思っきり一蹴をした。

「はは、手厳しい」

それから特に言葉を発さず周りに合わせて最後にゴールした女子に対して拍手をした。

てかあれ戸田さんじゃね。マジで満身創痍じゃん。

 

 

マラソン大会での表彰式を終え、解散という運びとなった今はいつものメンツでサイゼに向かって歩いてた。

マラソンどうだった?とか他愛のない会話をしながら少し距離があるサイゼに向かっていた。

そしたらさっきまでいた公園にある別の通路から男子生徒が前に出てきた。

私より少しだけ背が高くて、相変わらず目が腐っている彼だった。

「やっほー」

「うぉ、お前らか」

「…さっき言えなかったけど優勝おめでとう」

表彰式が終わってからなにやら奉仕部のメンバーと話していて、その後に三浦さんとお話していたからおめでとうと言いそびれていた。

けどここでなんとか言えてよかった。

「おーサンキュな」

「おめでとー」「どんどんぱふぱふ」

と、夏鈴と美笹もノってきた。

「おー、どうもな」

それから彼はサイゼに行って懺悔しなければならない。と訳の分からないことを言っているのでどういうことなのかと聞いたところ。

マラソンの後マッ缶を差し置いてスポドリを買って飲んでしまったと。

なるほど、これは千葉県民として懺悔しなければならないですね。

私はちゃんとマッ缶を飲んだよ?

ん?待てよ?もし公園自販機に置いてなかったら私も懺悔することになるのか…。

ちなみに私のマラソンの結果は女子の中で15位でした、まる。



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誰も居ない家

久しぶりに長め書きました。
風邪を引いたら人肌が恋しくなるよねっていう話。


はぁ…

月曜日の朝っぱらから体温が38℃大台を叩き出しているどうも若宮楓奏です。

きっとあまり慣れていない運動をして疲れて、免疫力が低下したところでどこかから風邪を貰ってしまったんだろう。

決してサボタージュじゃないよ?ちゃんと体温計で計ったんだからね?

天気予報では今日も寒い1日になると言っていたはずなのに暑い。なんというか少し火照っている感じがする。

それでいてとても怠く感じる。

これ以上悪化しそうな感じがしたら近所のクリニック行こうかな。十分キツい感じがするけど…。

手に持っているスマホから流れる動画の音声を流しながらそう思った。

復習など勉強なんて当然する気ないし、ゲームやりたいと思う気力もない。つまるところ動きたくない。怠惰に徹したい一心である。

かといってとても暇である。

普段休日はどこかに出かけていることが多く、あまり家でゴロゴロすることがない。

強いて言うなら雨が降っているときぐらいしかこの部屋にこもる機会がない。

まあ身体が多少元気ならゲームしたり、勉強したり自転車いじったり…とそれなりにやれることはある。

だけど今日ばかりは何にもしたくない。だけど何かしたいと思うぐらい暇だ。

この矛盾した考え、どうしたものかと考える。

だけど意外にもものの数分で考えついた結論が出た。そう、それは寝ることだ。

その方が治りがいい気がするし、あっという間に時間が過ぎる。

さっそく行動に移すべく、途中まで流れていた音声をぶった切るようにスマホをスリープさせて私も目を瞑ってスリープモードに移行する。

ベタに羊の数を数える?

いやいや、あれは英語で(Sheep)睡眠(Sleep)の発音似ていて、羊を数えてる同時に自分に対して寝ろと言い聞かせてるような状態になるから英語圏の方々は羊を数えるのだ。

だからもしかしたら日本人の私たちはあまり効果無いかもしれない。

じゃあ妄想をする?

シンプルにお金持ちだったらどうするとか、好きな人とイチャイチャするところとか?

好きな人…今はいないから消去法でお金持ちだったら、という妄想をしよう。

そうだなぁ…。

まず免許を取ってガレージ付の家を買うか建てる。そして小学生の頃から好きだったあの車を買って大黒へ行く。

……

終わちゃったよ。

意外と欲にまみれてないんだね私。

もうちょっと豪遊してよ私。

というか免許は年齢的にあと半年ぐらいは取れないよ。

どうも性格のせいか、せっかくの妄想をしても現実的に考えてしまうクセがある。

早くもお金持ちだったらという妄想が終わってしまったのでもうひとつの方で妄想をしてみる。

好きな人とイチャイチャする妄想。

まあ好きな人いないからこういうことしてほしいみたいな妄想にしておこうかな。

うーん。

まずは相手は…。

……。

…。真っ先に思い浮かんだのはあの目が腐っている人。全く意識せずふと出てきたのはよく関わる彼だった。

私はガバっと起き上がった。

いやいやなんで!?

いやでも確かに男子の中でよく関わっているのは彼だけども…。

きっと関わりが多かった分すぐ出てきたんだろうと私なりに結論付けた。

「熱上がってないよね…?」

少し体温上がった気がしておでこを触る。

念の為に熱さまシートを新しく貼り替えて目を瞑った。

 

 

2つ隣の席に座っている人が珍しく空席にしている。

どうやら風邪をひいてしまって休んでいるらしい。

まあ普段している運動とはまた違う運動をしているから疲れが溜まって風邪ひいちまったんだろう。

あいつ夜中走り回った翌日に学校に来るぐらい頑丈だし大方そんな感じだと思う。

まあ特に気に留めたりせずいつの間にか帰りのSHRに入っていたわけなんですよ。

これ終わったらいつもの空き教室行くかーみたいな感じで話を聞いていたわけで。

で、SHRが終わった途端担任の平塚先生はひょいひょいと俺に対してこっち来いと言わんばかりの手招きをしてくる。

俺はため息しないように抑えながら教卓の前まで来た。

「はぁ…なんすか?」

「堂々とため息するんじゃないよ全く。ため息は仕事を受け取ったあとに裏でしろ。」

平塚先生はそう言うと頬を少しぷくーと膨らませていた。意外と可愛いなおい。

と、無意識にため息していたらしい。無意識って怖いね。

「で、どうしたんですか?仕事すか?」

「あぁ、君の席から2つの隣に座っている若宮がいるだろ?風邪で寝ちまったもんだからこれ届けてやって欲しいんだ。」

こうしてプリント数枚を渡してきた。

「いやそこは彼女の友達とかにお願いした方がいいのでは?俺奉仕部ありますし。」

「奉仕部は大丈夫だ。私から連絡回しておこう。なんなら配達の依頼として受けてもらうかな。」

まあ依頼なら仕方ない、と言いたいところだが奉仕部は郵便業務はやっていないはずなんだがなぁ。

千葉総武郵便局?はちまん宅急便てか?

「わかりましたよ」

「よろしい。よろしく頼んだぞ。」

あれこれ言っても仕方ないので受け取ったプリントをカバンに仕舞い教室を出る。

階段を降りて下駄箱がある場所までの道中の角にいつも立っている女子に話しかける。

「おう、待ったか?」

「ううん。なんか先生に手招きされてたけど怒られたの?」

からかうような感じでそう言ってきた。

「いや、ちょっと依頼されてな。」

「依頼?先生が?」

「依頼ていうとちと大袈裟かもしれんが、まあ頼まれてな。」

「そっかー。でも困ったときはわたしたちにも言ってよね?」

さっきとは打って変わってムッとした表情になっていた。まるで子供を叱っているような感じの怒っていながらも少し優しさを含んだような表情だ。

「へいへい」

「うん!じゃ行こっか」

「あー多分後で平塚先生から連絡回って来ると思うが今日は奉仕部には行けん。」

「へ?なにかあったの?」

「や、さっきの先生の頼みでな、プリント届けてこいと配達を頼まれてこれから届けないといけないんだわ。どうやら近所に住んでいる生徒が俺ぐらいしか居ないらしい」

さっき渡されたプリント数枚を彼女に見せる。

「ふーん。かなかなのところ?」

かなかな、と言うのは若宮の事だ。下の名前をもじってあだ名みたいにしているけど相変わらずのネーミングセンスだ。

「ああ。まあな。つっても届けるぐらいだし仮に寝込んでいたらポストとかに突っ込んで来るわ」

「…わかった。ゆきのんにも今日は来ないってことを伝えとくね」

「あぁ。すまんな」

「そこはありがとう。とかでしょ?依頼のようなものだし仕方ないよ。じゃ、気をつけてね!」

そう言うと早く行けと言わんばかりの力で俺の背中を押してくる。

「わーったから押すな押すな…。サンキューな」

軽く手を振り返してそそくさと下駄箱の方へ行く。

駐輪場でママチャリを引っ張り出して自宅の方へ向かって走っていく。

 

 

ん…。

重いまぶたを開けて近くにある目覚まし時計に目をやる。

どうやら寝ては目が覚めというのを繰り返し時計はいつの間にか16時ごろを指していた。

食欲は一応あるけどめんどくさくてお昼ご飯も食べずにずっとゴロゴロして寝ていたみたいだ。

「ふぁー…」

あくびをしながら思いっきり蹴伸びをした。うん。気持ちいいねこれ。

そこそこ寝ていたおかげか身体はだいぶ楽になっていた。

一応体温を計るべく、リビングへ足を運ぶ。たしか体温計はそこに置いておいたはず。

リビングにある体温計を手に取り脇で挟み込む。

……ピピッ。ピピッ。

体温計から出る独特の電子音が静かなリビングの中で響く。

そこには37.3℃と表示していた。

まだ微熱てところか。でも身体はだいぶ動けるようになったしもう少し安静してれば治りそうかな。

体温計を専用のケースに戻したらテレビの電源を入れる。

テレビの画面は夕方であることを示しているかのようにニュース番組が流れていた。

芸能人がどうのとか、どこかで交通事故があったとか、政治とか、今夜の天気やら明日の天気はどうとかの内容が流れていた。

あんまり面白くないな。というのが率直な感想。

でもちょっとした衝撃映像のコーナーは意外と好きだったりする。

まあでもニュースが面白いと思って観ている人はあまりいないだろうね。と、ぼそっと呟いて電源を消した。

そうすると玄関のチャイムがリビング中に響いた。

なにか荷物が来たのかな?

最近ネットで注文とかした記憶ないので多分家族の誰かの荷物だろうと深く考えずハンコを持って玄関に向かった。

ガチャっとドア開けてご苦労さまですって言うつもりだったけどそこにはいつも2つ隣の席に座っている彼がいた。

「ひ、比企谷くん…?」

意外と驚いたりせず冷静に対応をする私がいた。

「お、おう。てっきり寝込んでたりして出てこないもんかと思ってたんだがな…」

むしろ彼の方が若干驚いていた。

訪れて来たのに人が出てくることに訪問者が驚くってそれはおかしな話で。

「ふ…、く、ははは!」

少し可笑しく面白かったのでつい笑ってしまった。今日一で面白いかもしれない。

今日は両親は仕事に出かけ、妹は学校へ行って家は私以外誰もいなかった。

そして私自身はあまり元気なくて1日すごく暇していた。この1日がすごくつまらなく感じていた。

だけど一気に楽しくなった。

小さい頃はお母さんが看病してくれたりするけど、今思うと風邪引くと人肌が恋しいと感じるのはというのは本当だったかもしれない。

「んだよ…。で、体調の方はどうなんだ?辛いならこれ受け取ったらさっさと部屋に戻って寝ろ」

彼はそう言うと少し乱雑にプリントと物が入ったビニール袋を渡してきた。

プリントは学校のだから分かるけどビニールに入っているのは…スポーツドリンクかペットボトルの水のようなものシルエットが見える。

「プリント届けてくれたんだね。ありがとう。あとこれは?」

「まあ渡せたらって感じでポカリ数本買ってきた。要らなかったか?」

「…ううん!ありがとう!」

久しぶりの風邪で頭もやられたのか、勢いで彼の胸に飛び込んでしまった。

いや、きっと人肌が恋しかったのと色々買ってきてくれたという気遣いが嬉しかったんだ。

「いやあのちょっと若宮さん?!」

分かってはいたけど比企谷くんはめちゃくちゃびっくりしている。その証拠に普段より1.5倍ぐらい声が大きい気がする。

だけど嫌がっているは感じはなくしっかりと受け止めてくれている。

じゃあ…。

「今日ずっと1人で退屈していて少し寂しく感じたんだ。だから頭なでなでして欲しいなーなんて。」

思っていることを包み隠さず言いながらちょっぴり上目遣いで彼の顔を見る。

彼は時々こちらを見ては目を逸らしている感じだ。

そして頬をポリポリとかいて少し考えた末に大きな手を私の頭に乗せてきた。

その手は左に右に往復する。

それはすごく心地がよくて満たされる感じがする。

私はいつの間にか目を瞑って堪能をしていた。

気持ちいいな…。

もしかしたらこれが「好きな人」が出来たらしてほしいことの1つだったのかもしれない。

「…これでいいのか?」

彼の声を聞いてぱっと目を開ける。心地よすぎて危うくそのまま寝ちゃいそうだった。

「…ん。ありがとう。すごく落ち着いた。でももうちょっと撫でて欲しいななんて…」

彼の顔を見るように上を向いた。

彼は何も言わずにまた撫で始めた。

自分が思っていたより寂しく感じていたんだなと再認識した。

ものの1、2年前は1人でも大丈夫。なんて思っていたけど今じゃ無理なのかもしれないと思った。

今頭撫でてくれている比企谷くんもそうだし、もし美笹や夏鈴がいなくなったらすごく悲しむと思う。

少し大袈裟だけどそれぐらい人と接するようになるとこの先ずっと1人でいることなんでもしかしたらもう無理なのかもしれない。

「…よかったら少しうち上がってく?」

すっごく気持ちよかったけど、流れを断ち切るようにぼそっと口にした。

「いや、風邪だろ?病人は寝とけ。」

「もう微熱だしほとんど元気だよ。それに寒い中プリント届けてくれたのにお茶も出さないのも…」

「そんな寒い中何させてるんですかねぇ…まあ茶だけ貰おうかな」

「うん!上がってよ」

彼の胸からそそくさと離れリビングの方へお招きをする。

 

 

あ、じゃあすみません、お邪魔します。とはならないよ?

今何起きたんだ?予想の斜め上の出来事ばかりで記憶しきれない。

脳が頑なにデータの保存を失敗する。

一応流れとしてはチャイム鳴らして出てこなかったらポストにプリントを突っ込んで帰るか、出てきたとしたら身体に障るだろうしプリント類を渡したらすぐ帰るつもりだったんだがなぜか若宮は俺の胸の方に飛び込んで来た。

さらには頭撫でて欲しい、と要望を出してきた。

嫌、というわけではないが驚きのあまり、びっくりした。(二重表現)

前撫でたからお返しに撫でろてか?

きっとそんな感じだろ。うん。

お茶を出すって言うのでとりあえず家の中までついていった。

 

 

「ど、どうぞ」

「あぁどうも」

俺は出されたお茶を飲みながら彼女の様子を見ていた。

だいたい俯いていて、たまにお茶を口にすれば目を逸らす。

特に話す感じではなさそうだったので窓の外を見た。

そこはもうすっかり太陽が落ちていて暗くなっている空が広がっていて、窓に反射で俺の顔が映っていた。

そこでぐぅ〜というなんとも気の抜けた音が聞こえた。

「ご、こめん!寝てたからお昼食べそびれていて…」

本人は比較的に元気になっているとはいうけどお茶いただいているわけだし少し看病してやるかとふと思った。さっき少し寂しかったとか言っていたし完治しているわけではないしな。

「お粥とか作ってやろうか?」

「え?ううん、冷蔵庫に作り置きあるから大丈夫だよ」

「そうか。じゃあお前は部屋に戻って横になってろ。完治してるわけではないんだろ?」

「え、ええ!?」

「飯レンチンとかして持って行ってやるから横になって待ってろ」

「う、うんわかった…」

彼女は使っていた湯のみを流しに置いて階段を上っていた。

意識はしていなかったけどそういえば初めて見るパジャマ姿だったな。

なんというかけっこう可愛かった。じゃなくてだな…。

というか何故あいつの代わりに飯を温めているのだろう。さっさと帰るつもりだったのに。

多少元気だとしても完治はしていない病人だから?

そういえば玄関にいた時「少し寂しかった」と言っていたな。

実を言うとその光景にすごく既視感を感じていた。

電子レンジがせっせと食べ物を温めているところを見ながらその既視感について考えた。

が、意外にもすぐに思い出せた。

狙ったかのように電子レンジのチン!の音とほぼ同時に思い出した。

既視感の正体は昔、小町が風邪引いた時の出来事だ。

小町が中学生になった間もないころ、今の若宮のように風邪を引いた。

中学生にもなったということで両親も「大きくなったから1人でも大丈夫だよね」みたいなスタンスで両親は仕事へ行き、俺は学校に行っていた。

それで放課後まっすぐ家帰って玄関のドア開けたところ小町が立っていた。

まだ小学生らしい幼さが残っていて、いつもよく笑っていた小町は少し涙目になりながら俺の胸に飛び込んできた。

確かその時小町も寂しかったと言っていた。

それから寂しがっていた小町の頭を少し撫でてやってはお粥を作って食べさせた。

こんな感じの出来事があって、既視感の正体はこれだと思う。

さて暖かいうちにあいつの部屋まで持っていくか。

 

 

さっき部屋で横になってろと言われてめちゃくちゃドキッとしたのはここだけの話。ヘンナコトハカンガエテナイヨ。

その前に彼の胸に飛び込んだという話。

今思うとめちゃくちゃ恥ずかしいことしてんじゃん!?

たしかに久しぶりに1人で家にいて少し寂しかったのは本当だよ?

だからといって比企谷くんの胸のに飛び込んでいい理由にはならないでしょ!?

玄関での出来事を思い出して枕に顔を埋めて、子供が駄々をこねるかのようにジタバタしている私がいる。

バカバカばかぁ…。

今なら絶対39℃出しちゃってる気がする。

久しぶりの風邪で頭もやられちゃってるのかな。

正常な思考をしていたらそんなことは絶対しないのに。

でも待ってよ?

私はジタバタするのをやめて少し考えた。

あの玄関での出来事。

もしプリントを届けに来たのが美笹や夏鈴だったら少しおふざけで抱きつくかもしれない。

でも他の男子だったら?

ごく普通の対応をして普通に受け取って家の中に戻ると思う。

みんなのアイドルと言っても差し支えのない葉山くんだったら?

そりゃ天下の葉山くんが家までお届けに上がったらほとんどの女子はイチコロでしょうね。

でも自分はどうだろう。多分普通に受け取って家の中に戻っていたと思う。

じゃあなんで比企谷くん相手にあんなに大胆になったんだろう。

反射的にそうしてしまった、というのもあながち間違いではない思う。

でもあの時はほぼ風邪ほぼ治りかけていて正常な判断は出来ていたはず。じゃあなぜ?

と、本格的に考えた出したところで部屋のドアがノックされた。

「はーい」

「入って大丈夫か?」

「うん、いいよ」

短いやりとりした後比企谷くんはドアを開けてお盆に乗せてるお粥を持ってきた。そしてそのまま私の下腹部辺りを置いてくれた。

「ありがとう」

「おう。まあそれ食ったら下に下ろして帰るわ」

「うん。…いただきます」

お椀の左隣にあるレンゲを手に取って温められたお粥を食べよう。

でもせっかくだしこれもやってもらおうかな。とちょっとしたイタズラ心が働いた。

「ねぇねぇ、ちょっとこっちに来てよ」

カーペットの上に座ってスマホを見ている彼に声をかけた。

「んだよ」

ベットの側までに来た彼に左手に持ってるレンゲを渡した。

「?」

レンゲを受け取り、困惑している彼を見ながらこうした。

「…あーん」

彼は「は?」と言いたそうな顔をしていたけど案外すんなりとその行為を理解し、行動に移っていた。

「…ほらよ」

彼は目を逸らしながら湯気が立っているとっても暖かそうなお粥が乗っているレンゲをこっちの方に向けてきた。ぱくっ。…うん。美味しい。

あーん。…ぱくっ。…うん。なんか幸せ。

それをしばらく繰り返していくうちに。

「そろそろ自分で食え。恥ずくて死ぬわ。」

彼はそう言って半ば無理やりレンゲを渡してきた。

どうせならとことん甘えて最後までやって欲しかったけどダメだったみたい。

私だって恥ずかしいよ?でも比企谷くんだから…。

比企谷くんだから?

いやいやなんでもないなんでもない。なんでもないったらなんでもないんだから…。

やっぱり風邪引いてからおかしくなっちゃってるよ私。

残りの分のお粥をせっせと口にかっこんでお椀を空にした。

「おう、食い終わったか?」

「うん。ごちそうさま。」

「ん。じゃ下の流しに置いたら帰るわ。」

彼は私の下腹部に置いてあったお盆を持ち上げて1階にある流しまで持っていった。そんな私は上着を羽織って見送る準備をした。

 

 

「今日はありがとね。色々と助かったよ」

「あぁ。気にすんな」

それから特に言葉を交わさず数秒経った。だけどそれはまるで1分経ったかのように感じた。

「そのまま身体が冷えて風邪ぶり返すのもアレだし帰るわ。お大事に。」

「うん。また学校でね。」

こうして短い言葉を交わして比企谷くんは家に向かって歩いて行った。

今日という1日の後半は濃密な時間すぎてあっという間に過ぎて行った。

でも今日という中で少なくとも1つだけ気づいたことはある。

もしかしたら心のどこかで友達以上の関係を望もうとしているのかもしれない。




久しぶりに長く書けて良かったです。
ではまた。


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番外編
やけにリアルな夢(比企谷 八幡誕生日記念)


今日は比企谷くん誕生日なので書いてみました。時間軸は修学旅行終わった直後のある夜の夢のお話です。それではとぞ。


誕生日。特定の人や動物等の生まれた日、あるいは、毎年迎える誕生の記念日、という意味をしている。8月8日、俺は12歳になる。だが夏休み真っ只中なので祝われることはない。祝われてせいぜい小町や両親ぐらいだ。まあ少し飯が豪勢になるのは少し嬉しい。ありがとうかーちゃん。

日差しの照り返しが厳しい8月上旬。俺は今近くの公園のベンチでボーッとしている。なぜ外にいるかと言うと、リビングのエアコンが壊れて今現在工事の人がせっせと直している最中だ。俺はエアコンの効いた部屋で本を読みたかったが、工事によって音が響くので集中出来ず、ふらっと家から出たのだ。クソあちぃ…

「図書館でも行くか」と、蝉に一瞬でかき消されるような独り言を呟いた。が、恐らく同い年ぐらいであろう女の子にじーっと見られてる。

「な、なんだ?」

「ううん。暑いのに何してるのかなーって」

「なんでもねーよ。つかお前誰?」

「あ、ごめんね。私若宮楓奏だよ。すぐそこの小学校の5年生」

「知らないな。何組?」

「5-3だよ」

「隣のクラスだな。俺もあそこの学校だ」

「ほんと!?」

本当も何もこの一帯の登校エリアはあの小学校しかないと思うのですが…

「あ、あのお名前聞いてもいいかな?」

「は?まぁこっちから聞いたし自己紹介した方がいいか…」

「比企谷八幡だ。ちなみに5-2」

「はちまん?変わったお名前だね」

うん。俺もそう思う。8月8日だから八幡っていう。ちなみにエイトマンにもなれるし俺はスーパーマンである(?)。何言ってんだ俺。熱中症か?てかそろそろ暑くて倒れかねんからそろそろ図書館行きたいのだか…

「あぁ、俺もそう思う。てか俺図書館行くから。じゃあな」と言って去ろうとしたら腕掴まれてた。え?なんか恨まれることした?多分初対面だよね?

「なに?どうした」

「私も付いてっていいかな?」

「は?」

なぜ付いて来ようと思ったのかと聞いたら、なんとなくだそうだ。なんでやねん。

「いや付いてっても俺は本読むし多分暇するだけだと思うぞ」

「ええと、じゃあ私読書感想文まだ書いてないんだけどさ、どんな本読めばいいのか分からなくて…いろいろ教えて欲しいなって…ダメかな?」

じゃあって…てか上目遣いやめろ。お兄ちゃんスキル発動しちゃうだろ。小町がおねだりしてるときみたいになってるから。

「ま、まぁそれなら…」

OKするんかい、俺。やっぱり熱中症かしらん…後でスポドリでも飲もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このあと若宮は宿題持ってくると言って一旦家戻り、宿題を持ってきた。この公園から近いのか、往復で10分ほどだった。その間俺は少しのお小遣いでスポドリ買った。倒れるよりマシだからね。

それで今は図書館へ行く道中である。

「そう言えばお前、さっきの公園で何してたの?」

「宿題のドリルをある程度進めたし、暇になったからふらっと家から出ただけ。特に用事とかではないよ」

「ほーん」

「そういえばさっき、比企谷くんは本読むって言ってたけどどんな本読むの?」

「銀河鉄道の夜とか、バッテリーとか」

「難しそう…」

「そうでもねぇよ。読めない漢字そうそうないしあっても辞書で調べれるし」

「なるほどね…読書感想文できるかな…」

「まぁわかんねぇ所あったら教えてやるよ…」

「ほんと?ありがとう比企谷くん!」

なんか俺チョロくなってね?まだ水分足りないのかしらん。ま、図書館に水飲めるアレあるからあれで水分補給するか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どんな本がおすすめなの?」

「どんなものがいいんだ?ジャンルとか大雑把でいい」

俺たちは今市立図書館に来ている。はぁ…涼しい。生き返るわぁー…

しかしどんな本か。女子だから恋愛モノ?安直すぎるか。男女共にウケがいい本の方がいいのか。ま、ジャンルぐらい分かればある程度はおすすめすることはできるが。

「んーと、面白そうな本!」

えぇ…大雑把でいいとは言ったがせめてジャンルをだな…面白そうな本ね…面白いやつまらないの感想なんてその人の主観でしか分からないからそれは難しいんだよなぁ…そうだな…

「んじゃこれは?」

「ぼくらの七日間戦争?」

「あぁ、この本は夏休みでの話だから、今ちょうど夏休みだしと思ってな」

「お前の好みのジャンルかは知らんが、俺は面白いと思った」

「なるほど…じゃあこれにする!」

「そうか。俺も本選ぶからテキトーに席についてていいぞ」

「ふむ…」

「おぉ…」

「へぇ…」

俺も本を選んで読み出してから30分ほど経った。若宮は本の世界に没頭している。ちなみに俺は「ぼくらのいたずらバトル」という本を読んでいる。若宮が今読んでいるもののシリーズみたいなものだ。これも面白いんだよなぁ…

しかしエアコンで涼しいし、本は読めるしパラダイスじゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「読み終わったー!」

「図書館だからちょっと静かにな」

「あ、ごめん…読書感想文書くね。」

「おう。文字通り感想書けばいいんだよ」

「…どう書けばいいんだろ?」

えぇ…もうそこで躓いちゃう?まずタイトルに「○○を読んで」みたいな感じの書いてあとは感想書けばいいんだよ。ん?わからん?テキトーすぎてわからんか。

「はぁ…まずタイトルはこんな感じにしてだな…」

書き方を教えつつ、若宮は鉛筆を走らせていた。そして…

「できたー!」

「いやだから図書館…」

「あっ…」

天然かお前。いや気持ちは分からんでもないが。と心の中でツッコミながら窓を見た。

「もう夕方か…」

「ほんとだ…そろそろ帰ろっか?」

「そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー!…本を読んで感想文書いたら疲れたぁ…」

「ほらよ」

「え?お茶!?さすがに悪いよー…そもそも図書館ついて行くって言い出したの私だし…」

「気にすんな。ほら水分補給しっかりしねぇと熱中症で倒れるだろ」

「え?ずっと涼しいところに居たんだから大丈夫だよー…ふふっ、じゃあ頂こうかな。いただきまーす♪」

「おう…」

それからたわいのない会話をしながら家の方に戻った。

「じゃあ私こっちだから!今日はありがとね!比企谷くん!」

「おう。じゃあな」

…にぃ…ん……ちゃん!

「お兄ちゃん!」

「んあ?お?おう小町か…」

「朝ごはんだよ!なに寝ぼけてんのさ…」

「俺、振替休日なんだよ…」

「あれ?そうだっけ?ごっめーん!てへぺろ☆」

「はぁ…まぁいいや。朝飯食うわ」

「なんかごめんねー。なんだかんだでちゃんと食べに来るお兄ちゃん好きだよ。あ、今のは小町的にポイント高ーい☆」

「はいはい高い高い…」

しかしやけにリアルな夢だな…まさか本当にあったことなのか…?いやでも若宮の住所的にあの小学校の登校エリアに入ってるよな…過去に引越しとかなければの話だが…ま、いいっか。とりあえず愛する小町が作った朝食を食べて英気を養うか。




今日は比企谷くんの誕生日なので思いつきで書きました。果たしてこれは事実なのかそれともただの夢なのか…
それでは


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幕張ロードレース(非公式)

サブタイ通り自転車回です。読まなくてもストーリーには影響しませんので、興味ある方はどうぞ。


「ふぅ……」

 私は洗車をしてひと息ついたってところ。あとは注油と変速調整……

 え? 変なことしてないよ? 家帰って洗車を始めただけだよ? いかがわしいこと考えた人、先生怒らないから手を上げなさい。

 今日はいつもの自転車仲間で練習という名のトレーニングをやる。ちょっと久しぶりだからなまってるかもなー……

 今回のコースは県道15号。幕張海浜公園からスタートし卸売市場付近で折り返す。そして再び県道15号で南船橋付近へ向かい、ビバホームがある交差点でもう一度折り返し最終的には美浜大橋がゴール。

 ひたすら平坦で、信号も少なく、路肩が広いから巡行トレーニングがやりやすい。あとひたすら直線的だからある意味メンタルトレーニングもなる。

 公式のレース会場ではなくあくまでも公道なので安全最優先。だけどレース形式でトレーニングを行う(車などに迷惑かけない程度で)。私は完全に趣味でレース出る気ないけどね。

 でもトレーニングをやるのは誰もいない深夜なので案外楽しかったりする。

 しかも大好きな平坦。やるしかないでしょ。あれ?私やっぱり走り屋系女子……? 

 それに鍛えられるから損ではないしね。とりあえず洗車終わったら時間までゆっくりしよっと♪ 

 今回のメンバーは私含め6人でちょうどいいと言ったところかな。普通に6人で回せば比較的にみんなは労力少なめで走りきれる。

 だけどレース形式で殺り合うからどんな展開になるかは分からない。1人飛び出して逃げる人がいるかもしれないし、もしくは複数人で協調を取り逃げ出すかもしれない。そう、仲間であり敵なのだ。勝てばいいんじゃないのって? 簡単そうに見えて実はものすごくキツいんだよ……。

 ……最後の微調整終わったからご飯の時間までゴロゴロしてよっと。

 それからスマホで動画サイト巡ったり、漫画読んだりしてたらいつの間にかご飯の時間になった。お母さんに呼ばれたので階段を降りてリビングへ向かう。

 いるのは妹の京楓と私とお母さんの3人だ。お父さんは遅くなるみたい。

 3人で「いただきます」と口合わせ、夜ご飯を食べ始めた。

「お母さん、今夜走ってくるね」

「自転車?気をつけてね。あ……もしかして比企谷くん?」

「へ?いや違うからね!?」

「え、お姉ちゃん彼氏出来たの?」

「だから違うからね!?……友達5人と幕張で走るだけだよ」

「そう?気をつけてね」

「お姉ちゃんは自転車ばかりやってないで好かれる努力すればモテると思うけどなー」

「うるさいなー自転車楽しいからいいの。走っていればいくら食べても太らないし」

「え、マジ?」と京楓はキラキラした眼差しで私を見る。別に太ってないしむしろもっと食べても大丈夫なくらい華奢な体つきだと思うよ?てかガッツリ成長期真っ只中だからもっと食べてもいいと思うよ。

 ご飯食べ終わり、台所でプロテインを用意する。本来プロテインは運動後30分ぐらいまでが1番効果的だけど、士気を高めるために1杯のプロテインを飲んだ。

 友達のオススメで割と最近飲み始めたけど、プロテインは言わば運動で壊れた筋繊維の接着剤の役割をしているので自転車に限らず、運動の後にプロテイン飲むと飲まないで次の日のコンディションが格段に違うからぜひ飲んでいただきたい。ちなみにご飯などタンパク質と一緒に摂取するともっといいよ。コンビニのおにぎりとか。

 

 

 ☆

 

 

 食休みに漫画を読んだりこの後の支度をある程度済ませ部屋でゴロゴロしてる。さっきお母さんに「比企谷くん?」と言われて誘ってみようかなと思ったけど、自画自賛じゃないけどレベルが違いすぎて弱者いじめになっちゃう。

 だって今日のメンバーにとんでもない速い人いるんだもん。いきなりアタック仕掛けたりして集団を崩壊させるヤバい人。みんなからは「デストロイヤー」なんて言われる始末。

 何よりすごいのがレース勢ではなく私と同じ趣味としてやっているところ。普段からキツいトレーニングしてるわけではなくめちゃくちゃ速い。

「今日のメンバーはだと脚ぶっ壊れそうだなぁ……たはは」

 誰かに言ってるわけでもなく、ボソッと呟いた。

 ゴロゴロしていたら家出る時間に近づいてきたのでタイヤに空気を入れたり最終確認を行う。安全点検大事。

 サイクルウェアに着替え、ヘルメットを被り「いってきまーす」と言い残し家を出た。

 駅の大通りを経て、2つの幹線道路を跨ぎ海浜幕張駅の交差点で右へ曲がって真っ直ぐ行くと集合場所の海浜公園に着く。

 私はいつも集合時間の早めに着くようにしている。理由は……なんとなく? 

 自販機があるベンチのところまでゆっくり進んで行ったら、何やら見覚えのあるある人がいた。その人は自販機の光に当たり、黒いシルエットになっている。

「……え?比企谷くん?」

「ん……?え?若宮か?」

「なんでここにいるの?」

「そっちこそなんでいるんだ?」

 私も彼も驚きを隠せず呆然とした。だって特に約束せずたまたま会ったんだよ? というか比企谷くんの私服姿初めて見たかも……

 って私の今の格好……

「わ、私は友達と待ち合わせで走る予定だからここに来たんだけど……」

「俺は単純にふらっと来ただけだ。アレなら俺はもう離れるが」

「ううん!まだ少し時間あるから大丈夫だよ」

「そうか。てかそれ……」

 私今着ているのはボディーのラインを主張するぞと言わんばかりのサイクルウェアなのだ。うぅ……恥ずかしい……

「……無言はやめてよ。恥ずかしいんだから……」

「……なんつーかエロいな」

「えっち……」

「仕方ねぇだろそれ以外言葉出てこないんだから」

 めちゃくちゃ早口で言われた。確かに男の子から見たらえっちだよね……でもちゃんとした理由あるんだよ?極限まで空気抵抗を減らすためにこんなにぴっちりしてるんだよ?別にボディライン見て欲しいとかそういうのじゃないし……

 何とは言わないけどあるとは言い難いし……

「……あと下、ぱんつ履いてないんだよ……?」

「……は?」

 ……って何言ってんの私!?サラっと言ったけど何口走ってんの私!? 確かにパンツ履いてないよ?理由は長距離走ると股ずれが起きるから履いてないの!自分から履いてない宣言するとかどんな変態だよ!

 誤解を解くように説明したらなんとか分かってくれたみたい。

「ビックリしたわマジで。いきなり爆弾発言ぶっこみやがってよ……」

「自分もいつの間にか口に出しててビックリした……」

 比企谷くんと話をしていたら時間が近づいていた。そろそろ集合場所行かなきゃ。

「そろそろ時間だから行くね」

「あぁ。またな。俺はもう少しいるわ」

「うん……また明日!」

 多分顔が赤いけどどうにか手を振りベンチがあった場所を離れ集合場所へ向かった。少し早いがメンバーは揃ってた。

「ごめん自販機行ってたー」

「おお来たね」と口にしたのはあおさん。実は友達と言っても同級生とかではなく、みんなTwitterで繋がっている。 出先で会って話したら仲良くなり、Twitterでフォローし合ったりするのがほとんどだけど、単純にTwitterで知り合って会うというパターンもある。

 ちなみにあおさんというのはバンドルネーム。彼女は社会人で翌日休みということで神奈川からわざわざ来たのだ。

 タメ口なのは向こうからタメでいいよーという感じに言われ、タメ口で話している。

 他の4人もこの辺りの高校生だったり、社会人も入り混じったような感じなメンバーである。特に社会人メンバーは関わりが多く、ときどきドライブで一緒に出かけたりする。

「今日のコースはTwitterで告知した通りここから県道15号往復するような感じで行くよ。ゴールは美浜大橋。レース形式だから周りと協調を取り逃げたり単独で逃げ出すのも自由。あまりいないけど車には迷惑かけないように」

 軽くミーティングみたいなの終わらせ、いざスタート。

 サイクリングではなくトレーニングなのでもちろんペースはかなり速い

40km/h‬を前後するぐらいのペースで先頭交代を繰り返す。今のところバラけることなく順調に交代している。この季節にしては珍しく風が弱く、スムーズに南東方向へ進む。

 ゴール地点となる美浜大橋を一気に駆け抜け、検見川の浜を通り過ぎる。そして緩やかな連続カーブを抜け再び直線となる。

 瞬く間に最初の折り返し地点、卸売市場に着いた。ここのところはまだ大丈夫。だけどこれからだよね。ビバホームの交差点までおよそ10キロの直線、誰もが仕掛けるならこことなる。

「かおりさん、もしバラけ始めたら協調しない?」

「そうだね。みんなここで仕掛けるだろうし……バラけたらよろしく!」

「うん!」

 信号が変わり、ゴールまで15キロの勝負が始まる。ここで集団から逃げ出すか逃げ出さないかで順位で大きく左右されることもある。

 が、意外にもアタック仕掛ける者はいなかった。最後の折り返し地点から5キロ手前までは……

 最後の折り返し地点から5キロ強。動きが大きく変わった。「デストロイヤー」と呼ばれるあおさんが集団から飛び出した。どうやら美浜大橋の下り坂を利用して引き離そうとしている。それからもう1人は反応したのかあおさん追いかけるよう集団から逃げ出した。

 2人飛び出してこちらは4人が残っている。普通に考えると数多い方が先頭交代の回数増やせてお互いの労力を少なくし、集団のスピードを上げ前を追いつくことはできる。だけど飛び出したあおさんはそれが通用しない。単独でも逃げ切ろうとする人なんだ。

 そして今は23時回っている。この県道沿いの信号はほとんど押しボタン式に変わっている。すなわち誰か渡ろうとしない限りずっと青信号。

 ここで信号捕まったら終わりだ。変わらないように願い、残った4人で先頭交代を繰り返した。

 が、1人落ちてくるかのように集団に吸収された。

「あいつマジバケモンだわ……さらに引きちぎっていきやがった」

 息が上がりながらそう言っていた。ほんとあおさん何もんだよ……

「とりあえず前に出ないで集団内で休憩して!少しペース上げるよ!」

「おけよ……」とキツそうである。マジであいつ何しでかした……

 4人で先頭交代しながら加速したいたらいつの間にか最後の折り返し地点に差し掛かった。

 神が味方に付いてくれたのか、たまたま信号のタイミングがよかったのか早いタイミングで折り返しが終わった。

 あとはゴールの美浜大橋まで全力で回すのみ。

「楓奏ちゃんもそのまま前に出ず脚溜めといて!」

「で、でも……!」

「ほら、離れてるけどよく見ると前にいるでしょ?最後のスプリントに備えてて!タイミングは任せるから!」

 さすがに1人でずっと逃げてきただけであって、疲れによるものなのか逃げ出した直後と比べ結構スピードダウンしている。

「それに向こうは楕円。楓奏ちゃんは真円だからまだ分があるよ!」

「あと好きなタイミングで行きなよ」

「っ……!」

 こんだけ言われたらやるしかないでしょ……。追いつくか分からないけどやるしかない……! 

 先頭がこまめに交代を繰り返したおかげでどんどんペース上がっていく。チラッとメーター見ると43‪km/h‬近くまで行ってた。

 そして幕張メッセの横を通り、緩やかな左コーナーを抜けたらもうゴールまで一直線。前のあおさんも充分射程距離内に入った。

 私は後ろから車来ていないか確認し、左コーナーの途中で飛び出した。立ち上がってもっと前傾姿勢を取った。メーターも見ずひたすら前を見た。

 左コーナー立ち上がったらもうゴールまで間もない。あおさんも追いつかれたことに気づいたのか向こうももがき始めた。

 前へ、前へと進むようにもっと前傾姿勢取り、空気抵抗を最小限に抑えもっと踏み込んだ。

 そしてあおさんと横並びに近い状態になった。

 

 

 ☆

 

 

 横並びになっていたけど、数秒後あおさんが限界を迎えたのか後ろへ下がって行った。そして私はそのまま美浜大橋のてっぺんまで踏み込んだ。てっぺんを通過したあと脚が止まった。もう踏めない。

「はぁ……はぁ……っはぁ……きっつい……」

 全く宮子さん注文が無茶過ぎるよ……手を上げる余裕もないよ……

 この一か八かの勝負、奇跡的に勝った。

 一旦歩道に上がり後続を待っていたらあおさんが話しかけてきた。

「んぐっ……んぐ……っはぁ……あーあ負けちゃったよ」

「心臓壊れそうだよ……はぁっ……はぁっ」

 私とあおさんは息が上がりきって話すのもままならない。冬に近い海沿いだというのに体が凄く暑い。

 そして後続の集団と合流したので集合場所に一旦戻った。

「宮子注文キツすぎますって……」

「でも行けたでしょ?」

「そうですけど……だからってキツすぎますよ」

「何となくだけど楓奏ちゃんって中距離スプリンターだと思ったんだよね。だから行かせたのよ」

「さいですか……もう脚終わりましたよ私」

 これ絶対プロテインくっそ美味いやつでしょ。早く帰って寝たい(切実)

「今日はいい練習になった。また機会があったらやろうね!」

 主催者の宮子さんはそう言い放ち、解散となった。てかあおさん神奈川だよね……大丈夫かな? 

「あおさん、神奈川まで頑張ってね…」

「正直キツいわ…まあ楓奏も気をつけてね」

「うん…じゃあまたね」

「ああ」

私はロードを跨り、帰路についた。チラッと聞こえた「今度こそ逃げ切ってやる」とあおさんが怖いことを言ったのはまた別のお話。

もう言うまでもなくなんとか家着いてプロテインを飲み、シャワーを浴びてベッドに入りすぐ寝た。明日起きれるかしらん…おやすみ…




思いっきり走ってる様子って書いたことないなと思い、思いつきで書きました。
こうキャラクターの日常的なものは番外編で時々書いていこうと考えています。
それでは。


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サイゼで懺悔する話

マラソン大会の後の話。ただの日常回。


昼下がりのサイゼリヤ。

食後の血糖値爆上がりタイムを経て、暖房が効いているこのお店で眠りつきそうな今日この頃、若宮です。

今はいつものメンバーと比企谷くんでお茶をシバいている。

割と本当に目を瞑れば今すぐにでも眠れる状態である。

現に隣の美笹と目の前の夏鈴は軽く寝落ちしている。

…ちょうどいいし色々聞いてみよっかな。

「改めてマラソン、優勝おめでとう。」

「おう。随分いきなりだな。ま、サンキュな」

そう言うと彼は途端に頬をポリポリする。

それはとても分かりやすく、照れてる様子だ。

「そういえば聞きたかったんだけど、なんであんなにマラソンを頑張ったの?なんかこう普段ならそこまで頑張るイメージがないというか」

「失敬な。まあ普段なら頑張る必要のないとこはとことん手を抜くがな」

「ですよねー」

うん。やっぱり普段イメージは一言で言えばいつも気だるそうで何事も本気で向き合うような感じではない。

今日のことはその普段のイメージとはかけ離れてて珍しく真剣に取り組んでる様子だった。

それが不思議でしょうがない。

「まあ、超短く端折ると事の経緯は奉仕部の依頼だ。で、色々あって葉山に勝たなければならない理由が出来た。そんな感じだ」

そっか。誰かのために頑張らなきゃいけなかったんだね。

普段はそこまでやる気を感じなくて、でもどうしてもという時は誰よりも真剣に向き合う。そんな彼は素敵だと思う。

こんなにも魅力的なのに理解してあげれる人が少なすぎる。

実際大会で優勝して表彰式を行っていた時も周りは「誰こいつ」みたいな雰囲気が少し流れててモヤモヤしてた。

彼は優勝しているのだから周りの人々は素直に賞賛してあげてもいいじゃないかとも思った。

あれ…。なんか熱弁しちゃってる。

あのマラソンでゴールしたときはかっこよかったなって思ったし、すごいなと思った。

その時は感嘆とかそれに近い感情だと思っていたはずなんだけど、なんかこう今になって胸の奥が何かが込み上げてくる。

そう思って私は飲み物を入れようと立ち上がった。

そして右手をそっと伸ばした。

「誰のためかは分からないけど、よく頑張りました」

右手の伸ばした先にある彼の頭を優しく撫でた。

いきなりこんなことされたら嫌がりそうかなと思ったら意外と嫌がったりしなかった。

いや、驚いてフリーズしてるだけかも。

というか意外と髪の毛さらさらしてて触り心地よくてとても気持ちいい。

アホ毛も触り心地がいい…。んふふ。犬のしっぽみたい。

「あのー…。いつまでやるんですかねぇ若宮さん…」

ようやっと何かを言い出した比企谷くんの声聞いてハッとした。

「へ?…あっ!ごごごめん!」

触り心地かなり良くてついしばらくの間なでなでしてしまった。

「いきなりすぎてびっくりしたわ…」

「ご、ごめん…、…表彰式のとき、比企谷くんに対して誰だっけこいつ?みたいな雰囲気があったじゃん?それで誰かのために頑張って優勝を勝ち取ったのにそれはあんまりじゃないかなってふと思ってつい…」

「まあ、文化祭とか色々あったし俺個人あまりいい評判貰ってないからまあ妥当な反応だと思うけどな」

彼はそう言って頬をポリポリしながらコーヒーを啜っている。

「まぁ、なんだ。頭撫でられんの昔の母ちゃんか小町ぐらいだったしびっくりしたけどあれだ、ちょっとは嬉しかったというか…」

あれ?デレてね?

もしかしてこれ一定の好感度に到達して比企谷くん√に入った感じ?

仮にそうだとしても案外悪くないのかなーなんて…。

いやいやなに考えてんの!?ギャルゲー(ウフフじゃない方)じゃないんだから…。

やはり慣れない運動をして疲れてるのかしらん。

そう、きっとそこには恋愛感情はなく、ちょっと可愛かったから庇護欲がそそられただけだ。きっと母性本能的な何かなんだと思う。

そう結論付けた。

「の、飲み物取ってくるね!何かいる?」

「あ、あぁコーヒーで…」

とは言っても改めて何か言われると恥ずかしくなった。そう思ってそそくさと飲み物を入れに行った。

 

 

しばらくして深い眠りに入りそうな2人を起こして駅前で解散する運びとなり、今はこいつと隣同士でバスで揺られている。

時間帯が時間帯なのか、車内は俺たちを含めても4,5人程度しかいない。

若宮は眠りそうな感じで目を瞑っている。

降りるバス停までゆらゆらと揺られながらさっきのことを思い出していた。

俺はこいつに頭撫でられた。

正直あの時はびっくりしてフリーズしていた。が、嫌な気分ではなかったのは確かだったと思う。

少なくとも同情とかそういった感情で触れてきたわけではないと感じた。

簡単に言えば心地よかったと表現すべきだろうか。

って満更でもねぇじゃ俺。そう考えると顔に血液が集中する感じがした。ダメだ。忘れられん…。

なんだこいつ、俺のことが好きなのか?

告白して振られるまではワンセットだぞ?いいのか?

つっても今じゃこいつと同じ趣味を持ち、いつものお友達がいようがいまいが会うたんびにサイゼ行っている気がする。

あれ?これノベルゲーム(少しムフフな)だったら√に入ってね?入ってるよな?

回収し忘れたCGないよな…?じゃなくてだな…。

あーもうわからん。

実際のところどういう気持ちであれに至ったのかは本人にしかわからんしな。

でも仮に√に乗っかったとしたらどうなんだ?

いや。仮定ほど意味にのないことは無いか。

「仮に」というほど曖昧なものは無いと数学で学んだはずだ。

ちゃんと解を叩き出さなければ採点すらしてくれないのだから。

そう結論付けて終点まで目を瞑った。

 



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