赤龍帝が如く (神室の神龍)
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始まり

机を挟むようにして、一組の家族と一人の男が話し合っていた。

 

「──だから、お願いできないか?」

 

父親のほうが、男に頭を下げながらそう頼む。男は、少し考えるようなそぶりを見せたがゆっくりと口を開いた。

 

「まあ、親戚の頼みを無碍にするのもアレやから頼まれてやってもええけど……なあ、坊主?オレと一緒に神室町に行くか?」

 

父親の話を聞きながらも、最後は当事者である少年に話しかける。父親が男にした相談とはつまりそういうことである。経緯は省くが、これは現状の少年の性格だと将来犯罪に手を染めかねないと危惧した故の行動であった。

 

「神室町?」

 

「せや、まあその前に親と離れる気があるかどうかやな。オレと一緒に神室町に行く以上親と離れることになるからなぁ。長い旅行みたいなもんやけどな」

 

「お父さんやお母さんと離れるの?でも、旅行ってことは帰ってこれるんだよね?」

 

その問いに、男はしっかりと頷いた。結局、それが決め手となって、少年は男に付いていくことにした。

 

     ★

 

「……夢か」

 

また懐かしいものを見たものだ。俺が真島の兄さんについていくことになった日の事を夢に見るとは、神室町の方が刺激的な毎日を送れていたから、懐かしんでいるのかな?ってかよくよく考えれば、よくあんな危ない街で生きてこれたな俺。去年やっとこの街に帰ってきたんだけど、あまりに平和すぎて拍子抜けしたっけ。

 

「いやぁ、懐かしいねぇ。お前もそう思うだろ?え?ドライグ」

 

昔を懐かしみながら、あの町で生き抜いていく過程で目覚めた力の宿る左手に声をかける。俺はお世辞にも頭がよいとは言えないから、よく知らないしほんとにそうなのかもわからないがなんかすごい龍が宿っているらしい。神器なるものに封印されてはいるものの伝説の赤い龍らしいよ。因みに、俺に宿っているのは赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)って名前らしいドライグが言ってた。

 

『あの町での出来事を懐かしめる時点で、お前のメンタルは相当なものだと思うぞ。普通トラウマになっていてもおかしくないだろう。お前、何回あの町で撃たれた?』

 

「そんなの数えてるわけないじゃん。あ、刺された数も同じだからな。喧嘩に負傷は付き物だし、数える暇があるなら一発叩きこむね」

 

『まぁ、それもそうだが、お前戦闘狂でも目指しているのか?』

 

「それはないよ。真島の兄さんに育てられたから、その毛があることは否定しないけどね」

 

まあ、元の女の胸にばかり現を抜かしていた頃に戻るつもりもないけどね。もし戻っちゃったら、何のために刺青を入れたのかわかんなくなっちゃうからね。

 

「さて、起きようか。そういえば、今日の朝食の当番俺だし、何作ろうかな。てか冷蔵庫に何が残ってたっけ?」

 

自室から出て、階段を下りながら何を作るべきか考える。朝だし、さっぱりしたものがいいよね。パンとかトマトとかあればサンドイッチでいいんだけど、あるかな。

 

「あ、あんじゃん。ついでにレタスもあるしハムも……よし、朝食はサンドイッチだな。トースターどこにあったけ?」

 

『なあ、相棒』

 

「何?今トースター探してんだけど」

 

『トースターならそこの棚の上にあるだろう。それよりもだ、あの町から持ってきた武器、どうするつもりだ?』

 

「あ、ほんとだ。サンキュードライグ。どうするも何も使うだけだけど」

 

『ほとんどの武器に龍の力がわずかだが感じられるからな一応の忠告だ。特に怨龍の鉄拳と怒龍の鉄槌は結構な龍の力を感じるから注意はしておけ。何もないとは思うがな』

 

「そう。じゃあ、使用は控えようか。それ以外にも優秀な武器はあるし」

 

割と物騒な話をしながら、俺は朝食を作り始める。そういえば、桐生さんが作ってくれたカレーは美味しかったなぁと思いながら。

 

 

 



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生徒会長

「ご馳走様っと」

 

俺が朝食を作り終えたあたりで起きてきた両親とともに朝食を食べ、学校に向かう準備を始める。残念ながら今日は平日であるため面倒くさいが普通に学校がある。

 

「じゃあ、行ってくるわ」

 

「「行ってらっしゃい」」

 

両親に見送られながら俺は学校へと向かう。俺は駆王学園の二年生である為、後輩も先輩もいる身ではあるが、一年の時に絡んできた不良を返り討ちにした場面を同級生に目撃されてから俺に近寄ってくる奴はそうそういなくなった。まあ、無論例外もいるが俺としてもあの時はやりすぎっと思っていたからしょうがないと言えばしょうがないけどね。

 

「お、一誠オハロー」

 

「よう、おはよう一誠」

 

「ああ、おはよう。松田、元浜」

 

こいつらがその数少ない例外に当てはまる二人。学校で堂々とエロ本広げたり猥談したりとやべぇ奴らではあるが、そういう所以外はまあいい奴らである。俺に近づいてくる理由は俺をそっち側に引きずり込むためらしい。俺も興味がないわけじゃないけど、学校で話すのはさすがにね。

 

「で?そろそろ俺たちと猥談を──」

 

「するわけないだろ」

 

「──だろうな」

 

「あのな?俺だって興味がないわけじゃないよ?でもさ、学校でやる必要はないだろ?学校でしか会えないわけじゃないんだし」

 

「うーん。学校が最も一緒にいる時間が多いから学校でしたかったんだが、仕方ない。じゃあ、今度誘うからその時にお前が何フェチか教えろよな」

 

なんでしょっぱなからそんなコアな話をしなけりゃいけんのだ。そう思いながらもこいつらとそれなりに楽しく会話していると、正面からいかにもな奴がこっちに向かってきているのが見えた。チッ、面倒だな。そいつはご丁寧にも俺の前で止まり、俺にはなしかけてくる。

 

「てめぇが兵藤一誠だな?」

 

「ああ、そうだな。でも、俺はお前なんぞ知らねえからどっか行ってくれねえか?」

 

「俺はお前を知ってるし、用もある。ちょっと面貸しな」

 

まあこうなるよね。ここで俺が断ったら何が起こるかわかったもんじゃないし、松田と元浜を先に行かせ、俺はそいつについていく。学校に遅れないように早めに、できれば一撃で落とそう。

 

「よく恐れずについてきたな」

 

近くの空き地でそいつはそう言う。恐れる要素なんてみじんもないから当然なんだけど、それを言って怒らせるのも面倒なので黙っておく。

 

「うちの学校じゃお前を倒せば名が上がるんでな。悪く思うな」

 

「御託はいい。早くかかってきな。こっちも時間がねぇんだ」

 

最近こんなやつばっかりだな。さて、やるとするか。俺は特に構えず自然体でそいつが何してくるかを見る。ここで武器出されたらちょっと腕の一本位折らねばならなかったが、そいつは普通に殴り掛かってきた。これなら余裕だな。俺は拳を受け流し、そのまま足をかけ転ばせ続けざまに顔面を踏みつける。そのまま、足を退けると同時に拳を振り下ろし、止めとする。

 

「よし、こんなもんか。相手は選んだ方がいいぜ?ってのびてちゃ聞こえないか。さて、学校に──」

 

「また喧嘩ですか、兵藤一誠君?」

 

「──いやぁ、これは俺が仕掛けたんじゃないですよ?生徒会長さん」

 

こうなると面倒だったからこそ俺は早く学校に行きたかったんだ。俺に話しかけてきた人物は駆王学園の生徒会長支取蒼那だ。この人も先ほどの例外に当てはまる人物である。まあ、生徒会の仕事の一環だろうが。それと、ドライグ曰く人間以外の種族である悪魔らしい。

 

「知ってますよ。あなたの友人が生徒会室に来て、わざわざ教えてくれましたから。私は、やりすぎように止めに来ただけです。遅かったみたいですがね」

 

男を見て、ため息をつきながら先輩はそう言う。歯が一本欠けて鼻血が出てる程度だが、下手言って説教は喰らいたくないのでそういう時は黙っておくに限る。

 

「貴方はある意味では有名人なんですから、気を付けてくださいね」

 

「はいはい、わかってますよ。それより早く学校行きましょうよ。もう授業始まってますし、先輩優等生なのに遅刻なんて印象悪くなりますよ?」

 

「先生にはちゃんと話をしてから来ているので大丈夫です。ですが、急いだほうがいいのは変わりないですね。行きましょうか」

 

俺たちは急いで学校に向かったが、残念ながら十五分以上は遅刻してしまった。先輩は事情を話してるらしいから大丈夫らしいが、俺はその時間の担任の先生に少し叱られてしまった。まあ、理由はどうあれ遅刻したんだから当然か。その後、手に付いた血に気づいた俺は水道水でそれを洗い流し普通に授業を受け始めた



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堕天使

「──兵藤一誠君!ずっと前から好きでした!付き合ってください!」

 

「は?」

 

学校からの帰り道、俺は突然そんな感じで告られた。服装からしてうちの学校の女子じゃないが、こいつ正気か?俺の悪名は悲しいことに広まっている。当然のようにあることないこと含めて広まった悪名及び噂を聞いたことあるなら俺に好意を抱くとはどう考えたって可笑しい。それともあれか?強い男が好きってパターンか?とか俺が考えてるとドライグの声が頭の中に響く。

 

『おい相棒。残念ながらそいつ堕天使だぞ』

 

『は?嘘やろ?堕天使ってこんなに可愛いの?あ、でもよくよく考えれば悪魔な会長も可愛いし人外ってのは皆顔面偏差値高めなのか?』

 

『さてな。感性が違うから何とも言えんが……それよりどうする気だ?多分だが、そいつはお前の命を狙ってるぞ』

 

『なぜに?』

 

『前にも言ったろ。俺は全勢力からして恐れられた存在だ。それを宿してる人間がいればそりゃ自分たちに被害が出る前に殺すだろうよ』

 

『お前のせいじゃん。はぁ、まあいいや。じゃ、頼むわ』

 

『了解』

 

その返事と共に脳内に喧しい機械音が響く。ドライグの宿る赤龍帝の籠手は、十秒ごとに力を倍加する能力を持っている。ただ、いちいち喧しくBoostと音を出す。それじゃあ、相手に今自分は何回倍加してると教えてるようなものだと真島の兄さんから注意された俺は、ドライグとの話し合いの結果外には出さす自分にだけ聞こえるように改良することに成功した。思ってることが相手に聞こえないようなものだ。

 

「あの、兵頭一誠君?」

 

「ん?ああ、ごめんね。告白されたの初めてだからちょっと動揺しちゃって」

 

さて、どうしよっかな。断っても良いんだけど、それで殺されるのは嫌だしかといって自分の命狙ってんの知ってて付き合うのはごめんだし。今気づいたけど、結界みたいなのが張られてるせいか人が人っ子一人いないし。チッ、しゃあねえな。

 

「悪いけど、お前とは付き合えないよ。堕天使なんだろ?俺の命でも狙って近づいてきたのか?」

 

「……流石、今代の赤龍帝ね。その通りよ。でも、貴方はあくまでもオマケ。私たちが計画を始めるまでの遊び相手のようなもの。仲間と私が貴方を殺すまでに貴方が私の正体に気づけるかって賭けをしてたの。殺せたら私の一人勝ち。ばれたら負け。まさか、こんなにすぐばれるなんて、もうちょっとは行けると思ったんだけどね」

 

「勝手に人の命賭けの道具にするのはどうかと思うけど?」

 

「別にいいんじゃない?結果的に貴方は私が堕天使であることを見抜いたんだから。それじゃあね、兵藤一誠君?」

 

そう言って、堕天使は飛び去って行った。やっぱり、感性が違うね。俺らが虫相撲するのと似た感じだろうか。いや、俺はもう虫相撲はやらないけどね?どっちかと言えばメスキングの方がまだやるかな。てか、せっかく赤龍帝の籠手使ったのに戦わなかったな。

 

「せっかく倍加した分無駄になったな」

 

『そういう日もあるだろ。俺としては久しぶりの出番だったから少し残念だがな。しかし、この街の連中は弱すぎないか?』

 

「銃撃たれてんのに平然と戦闘を続行する輩と比べるのは流石に酷だろ」

 

ここ最近は帰り道に誰かに見られてるような視線を感じるが別に敵意もないし無視でいいかな。ドライグ曰く悪魔の監視らしいけどドライグ本人もあんまり気にしてないようだし。てか、なんでさっき助けてくれなかったんだろ。死んだ方が都合が良かったんだろうか?そんなことを考えるも、腹の虫が鳴き出し、すぐに思考は今日の夕食が何かにシフトしていった。




まあ、偶には戦わずにレイナーレとの出会いを終わらせてもいいよね。死ぬか倒すかの二択が多い気がする気。


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