この魔法薬師に発散を (ユキシア)
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01
駆け出し冒険者の街、アクセル。
その街にある小さな店、マジックアイテムを扱っているウィズ魔道具店の店主は。
「この、ダメ店主がぁぁああああああああああああああああっっ!!」
「ご、ごめんなさいーーーーーーーーーーーい!! でも、でも! これは売れると思って……………ッ!!」
「何をどう考えたらこんなガラクタが売れるとと思ってんだぁぁぁあああああああ!!」
店員に説教を受けていた。
その理由は全く売れない物を大量に仕入れたことにある。それでもこれが初犯であるのなら店員である
覚えている範囲だけでもこれで十回以上はガラクタと呼んでもいい物を仕入れている。いくら薬智が注意していても少し目を離した隙に勝手に仕入れるのだから怒髪冠を衝くのも無理はない。
「たくっ! 頭の栄養が全部そのデカい胸に行ってんのか!? だからずっとこの店は赤字が続くんだよ!! 俺の給料も雀の涙程度になるんだよ!! 給料分そのデカパイを揉ませろ!!」
「セ、セクハラですよ!! それに胸にばかり栄養は行っていません!!」
「だったら少しは売れる商品を仕入れやがれ!! このポンコツ店主!!」
これがいつものウィズ魔道具店の日常。
そして、そのウィズ魔道具店で店員として働いているのは日本からこの世界に転生してきた日本人、藤原薬智は大きな、それはもう大きな溜息を吐いて怒りを宥める。
「ウィズ店主。俺達が出会って何年になるかわかりますか?」
「え、えっと、もう二年ほどでしょうか?」
「そうですね。道端で倒れているウィズ店主に食事を奢ったのがきっかけですよね」
「はい。あの時は本当に助かりました。一週間塩しか舐めていなかったのでもう限界でしたので」
「そうですね。そして俺の職業は《魔法薬師》。俺が作った魔法薬をウィズ店主のお店に置き、住まわせてもらう代わりに売り上げの六割をウィズ店主に渡す契約をしましたね」
「はい。おかげで今はまともなご飯が食べられる生活が送れて……………」
「なら生活費は全部、俺が負担していることも当然知っていますよね?」
「……………………」
硬直するウィズに薬智は笑顔のお面を貼り付けたまま追撃する。
「毎日の食事は勿論のこと。服や日常品、壊れた備品の修理費。その他諸々。契約通りの売り上げ四割の内、二割以上三割未満はそれで消えていることも当然知っていますよね? まぁ、俺にも必要なことですし、別に文句は言いませんよ? ただ、ウィズ店主が全く売れない、むしろ、金の無駄遣いと言っていい物を仕入れなかったら赤字から脱却していると思うのは俺だけでしょうかね?」
笑顔のままくどくどと告げる彼の言葉にウィズの顔も真っ青になる。
「ご、ごめんなさい……………」
「謝るぐらいなら少しは学習していい商品を仕入れてこい!! ポンコツ店主!!」
「はい!!」
涙目で店の奥へ逃げ込む店主に薬智は大きく息を吐いて店を出る。
「この世界に来てもう二年か…………」
快晴の空を見上げながらそう呟く。
オタクである自分が交通事故に会って女神によってこの世界に転生した薬智は女神から貰った能力を使って生活している。
薬智が女神から貰った能力は『あらゆる魔法薬を生成することができる能力』だ。
回復薬、筋力増加の魔法薬、硬化の魔法薬、魅了の魔法薬など、あらゆる魔法薬を生成して生活している。
魔王討伐など始めからオタクである自分ができるとは思っていない。だから強力な装備や魔法ではなく異世界でも食べていける能力を選んだのだが…………。
「雇い主を間違えた……………」
額に手を当てて嘆く。
ウィズと出会った時、本人が魔道具店を務めていると聞いてチャンスだと思った。魔法薬をその店で売り、儲けようと考えた。美人巨乳店主と同じ屋根の下で生活できる下心がなかったわけではない。しかし、ここまで酷いとは思わなかった。
今では下心よりもどうやって売り上げを向上させて黒字にするかに悩まされている。
自分の店を開こうにも金がない為に今は少しでも売り上げをあげる為に冒険者ギルドへ訪れて掲示板を見る。
「そろそろジャイアントトードの繁殖期だし、これにするか」
掲示板に張られているジャイアントトード五匹討伐の依頼書を手にすると。
「ヤクチ。冒険者ギルドにいるとは珍しいな。また店が赤字なのか?」
「ああ、そうなんだよ。ダクネス」
頑丈そうな金属鎧に身を包んだ、金髪碧眼の美女。名はダクネス。
その職業は上級職の《クルセイダー》。固定のパーティーに入っていない女騎士であるダクネスにジャイアントトード討伐の手伝いを頼むことにする。
「ダクネス。できれば手伝ってくれないか? 代わりにこの『モンスターに群がれる魔法薬』をやるから」
「ま、任せろ! 喜んで手伝うぞ!」
息を荒くしながら差し出す報酬を受け取るダクネスの性癖はドMだ。それも引くぐらいの。しかし、高い防御力あるので壁役にはいい。
依頼を受けて街の外に広がる平原地帯でさっそく巨大カエルのジャイアントトードと遭遇するとダクネスは早速『モンスターに群がれる魔法薬』を頭から浴びた。
「さぁ、こい!」
興奮しきった顔で剣を構えるダクネスに周辺にいるジャイアントトードは一斉にダクネスに群がり始める。
本来、ジャイアントトードは金属を嫌うため、装備さえしっかりしていれば捕食されることはない。ただダクネスが浴びた魔法薬の影響でダクネスを中心に群がってダクネスはその巨体に挟まれ、のしかかられる。それなのにダクネスの表情はご満悦だ。
「ああ、悪くない! 悪くないぞ!」
興奮しきった声でそんなことを叫ぶダクネスに薬智は自作のクロスボウを取り出して矢を番える。矢には小瓶が取り付けられていてそれをダクネスに群がるジャイアントトードに向けて放つ。すると爆発する。
矢に取り付けていたのは衝撃を与えると爆発する魔法薬。その威力は爆裂魔法とまではいかないが、爆発魔法ぐらいの威力はある。
それをダクネスに群がるジャイアントトードに向けて放ったおかげで依頼達成。ジャイアントトードと共に爆発をその身に受けたダクネスはというと……………。
「いい……………」
恍惚に満ちた笑みで地面に倒れていた。
「お疲れさん。もう終わったから帰るぞ。一応訊くが怪我はないよな?」
「ん? ああ。この程度で怪我をするような鍛え方はしていない。むしろ、気持ちよかったぐらいだ」
「はいはい。変態のダクネスさん。帰りますよ」
「んっ! その雑な扱いもまたいい!」
どのように扱ってもドМにとってはご褒美になる。ある意味都合のいい相手だ。
冒険者ギルドに戻って依頼達成の報告と報酬を受け取ってダクネスと少し話してから店に戻る道中で冒険者カードを確認する。
「お、新しいスキルが追加されてるな」
冒険者カードには新しく《薬物昇華》があった。文字通り薬物を昇華させるスキルだろう。今後の為にそのスキルは取得しておく。
「ただいま」
「あ、お帰りなさい。ヤクチさん!」
笑みを浮かべて出迎えてくれる店主。自分の帰りを待ってくれる優しい美人に薬智は嬉しくもあり、店主の後ろにある大量の箱を見て表情が固まる。
「私も反省しました。そこで新しい商品としてこの魔道具を仕入れてみたんです! きっとこれは売れます! 売れますよ!」
「……………………その魔道具の効果は?」
「はい! これは『カエル殺し』と呼ばれる魔道具でして、この魔道具の動きでジャイアントトードは簡単に食らいつくんです。すると封じられた炸裂魔法がカエルもろとも木っ端微塵になります!」
「……………………その魔道具のお値段は?」
「二十万エリスです!」
ちなみにジャイアントトードの討伐報酬は一匹二万五千エリス。つまり、赤字だ。
「ふふ、ふふふふふ……………」
「あの、ヤクチさん…………?」
不気味にも笑い出す薬智に冷汗を流しながら一歩後退する店主に薬智は満面の作り笑みを浮かべて叫ぶ。
「そんなもん誰が欲しがるかぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」
「ええええええええええええええええええええっっ!! ま、待ってください! これはきっと売れますから私を信じてください!!」
「信じる信じない以前にどう計算しても赤字だろうが!! 今すぐ返品して来いやぁ!!」
笑顔から鬼の形相となる薬智に必死に売れると説得するウィズ。けれど、薬智ももう我慢の限界を突破した。
「おい、ウィズ店主。お金を上げるからちょっと旅に出ろ。五年ほど。その間にこの店を『ウィズ魔道具店』から『ヤクチ魔法薬店』に変えて繁盛させるから」
「嫌です! 私のお店を乗っ取らないでください!!」
「よし、なら選べ。旅に出るか、その胸を揉ませるか」
「なんですか!? その究極の二択は!!」
ポンコツ店主を説教する店員は大きな今日も大きな溜息を吐く。
「何時になったら赤字から脱却できるんだ、この店は…………やはり、ウィズ店主を追い出すしか……………」
「ひ、酷いこと言わないでください! 私ももっと頑張りますから!」
「むしろ頑張らないでください。そこにニコニコと座っているだけでいいので」
店主が働けば余計に赤字になる。何もしないでいた方が助かる。
「はぁ、もういいです。とにかくウィズ店主はそのゴミを今すぐ返品してください。しなかったら」
「し、しなかったら?」
「襲います。性的に」
「ひぃ! わ、わかりました!」
「よろしい。その間に俺は明日売る魔法薬を生成します」
ウィズが仕入れを返品している間に、店の奥にある小さな作業場で魔法薬の生成に取り掛かる薬智はまた大きなため息を吐く。
「はぁ~発散したい」
ストレスも性欲もどちらも発散したい薬智は今日何度目になるかわからない溜息を溢す。
「またサキュバスの店に行くか」
最近頻繁に行っているサキュバスが経営している店でまた発散しようと考えながら魔法薬を生成する。
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