戦姫絶唱シンフォギアIF ー防人の詩ー (+−)
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序章 ー折れた剣ー
あと、今回は序章なのでくっそ短いです!許して!
(静かだ……)
もはや音は聞こえず、瞳に映る曇天は、うっすらと霞んで見える。手足は動かない。というより、右手に関しては感覚が全く無い。呼吸もまともにできていない。身体から、急激に熱が抜けていく。血を流し過ぎたようだ。
(これは、助からないな……)
もはやそれは、諦めだった。自分の生命が風前の灯火である事など、すぐに分かる。当然だ。それを覚悟の上で、私は唱《うた》ったのだから。
突然、そっと身体が起こされた。首を巡らせてみれば、若い男の顔が映った。私の名前を呼んでいるようだった。ぼんやりとだが、それぐらいは見て取れた。
「慎次……さ……ん」
名前を呼ばれて、慎次さんの表情が一瞬だけ和らいだ。だが、私の声で状態を察したのだろう。再び彼は顔を曇らせた。
周りを見渡せば、そこはまるで地獄のような凄惨さだった。ビル街は廃墟と化し、電柱は倒れ、整地されていた道路は罅れていて、あちこちに倒れた人のような形をした、黒い炭が積もっていた。
私の力不足で、何人もの生命が奪われた。防人を名乗り、ひたすらに己を鍛え、皆を護れる剣になれたと思っていたが、護りたかったものはことごとく、この手から滑り落ちていった。
(結局、私は弱いままだったのか)
無力感と諦観の中で、深い闇に堕ちようとしていた私に抱き着いてくる者がいた。泣きじゃくりながら、必死に私の事を呼んでいる少女。その蒼く長い髪を撫で、私は涙を流した。私がもっと強ければ、もっと長く闘えていれば、この子に少しでも長く、普通の女の子として過ごせる時をあげられたのに。その事だけが、心残りでたまらなかった。
「ごめんね……翼……」
泣く少女に謝りながら、私はその日、無念のうちに、折れたのだ。
──────────────────────────
懐かしい夢を見た。
忘れたくても、忘れられない過去。奏を喪った時と同じぐらい、哀しい思い出。起きて鏡を見ると、目尻には涙が通った痕があった。
「家族を喪った哀しみは、忘れることなどありはしないか」
防人として、心身を鍛錬してきてつもりだったが、やはりこの手のものは、鍛えてどうにかなるものではないのかもしれない。
「朝からこんなことではいけないな。皆に心労をかけてしまう」
気持ちを切り替えるために、私は冷水で顔を洗った。リビングに戻って周りを見渡せば、思わず目を伏せたくなるような状況だった。事情を知らない人間なら、まずなにか事件が起こったと思ってしまうだろう。最近は緒川さんも多忙のようで部屋には来てくれず、床には脱ぎ散らかされた服や下着、テーブルには食器などがそのままに置いてあり、我が事ながら頭が痛い。
「これでは、またマリア達に呆れられてしまうな。散らかすつもりは無いのだが、何故いつもこうなるのだ……?」
たまには収納棚など買って、自分で片付けてみるか。
そのような事をぼんやりと考えながら、身なりを整えていた時、私は事件に気づいたのだった。
「髪留めが……無い……!?」
to be continued……
いかがでしたか?今回は短かったですが、次からはしっかり文字数確保する予定です!それでは、また近いうちにお会いできることを願ってます!
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第一話 ー違和感の正体ー
序章からだいぶ経ってしまいましたが、ようやく1話です。これからもどれぐらいのペースで上げれるかわからないですが、どうか暖かい目で見守ってください!
今日は学校も休みで、S.O.N.Gの招集もかかっていなかったので、皆とショッピングに行く予定だ! とは言っても、クリスちゃんは進路関係の用事があってパス、切歌ちゃんと調ちゃんは課題を終わらせるので手一杯のようで、結局メンバーは私と未来、マリアさんと翼さんの4人になってしまった。3人の事は残念だけど、久しぶりに翼さんとマリアさんがショッピングに同行してくれて嬉しい!
今は未来と2人で、ショッピングモール前のベンチで2人を待っていた。
「いや〜、皆でショッピングなんて久しぶりだね! 楽しみで待ちきれないよ〜」
「そうだね。最近は皆お仕事とかで忙しかったもんね。今日は響も、珍しく宿題も終わらせてきてるから、ゆっくり過ごせるね」
「うん! 今日のために頑張ったんだ〜! あ、あれはマリアさんかな? おーい、マリむぎゅう!」
遠目に見えたマリアさんを呼ぼうとしたところを、あわてて未来が止めた。
「ダメだよ響! マリアさんは有名人なんだから、そんなに大声で呼んだらショッピングどころじゃなくなっちゃうよ!」
「そ、そうだね! 助かったよ未来!」
そうこうしているうちに、マリアさんがこちらへやってきた。目立たない服装で来ているが、真っ黒なサングラスがむしろ周りの目を集めてしまっているような気がする。
「おはよう、二人とも。待たせてしまったかしら?」
「おはようございます、マリアさん! まだ集合5分前ですよ!」
「あら、そうなの? にしては、随分と長く待っていた様だけど」
「響がいても立ってもいられないようで、早めに出ちゃったんです」
「いやー、楽しみでつい……」
「相変わらずね。でも、気持ちは分かるわ。私も少し、楽しみにしてたもの」
「ですよね! 今日はいっぱい楽しみましょう!」
そう言っておしゃべりをしていたら、いつの間にか集合時間から5分過ぎてしまっていた。
「翼さん、遅いな……」
「珍しいわね。どうしたのかしら」
「さっきから連絡にも返事が来ないです……」
「もしかしたら、何か緊急事態かも!? 行ってみよう!」
「あっ! 待ってよ響ー!」
翼さん、無事でいてください! 今行きます!
《翼の部屋前》
「やっと追いついたわね……」
「もう、響は相変わらず猪突猛進なんだから……」
なんとか響に追いつき、3人は翼の部屋の前に立っていた。マリアがインターホンを鳴らすと、中から物が崩れる音が聞こえてきた。何事かと思って、3人で顔を見合わせていると、ドアが開き、翼が出てきた。
「翼さん! 大丈夫ですか!?」
「立花!? どうしてここに!? 小日向にマリアまで……」
「翼が待ち合わせの時間に遅れてるから、珍しいと思って見に来たのよ」
「はっ! もうこんなに時間が!?」
「本当に失念していたのね。どうしたの?」
「実は、少し探し物をしていたのだが、なかなか見つからなくてだな……」
「そういうことなら、皆で探しましょうよ! きっとすぐに見つかりますよ!」
「いいのか? 先に3人で行ってくれても良いのだぞ?」
「あなたのことだから、きっと部屋が散らかってて見つけられないんでしょう? 片付けも一緒にするから、任せなさい」
「ぐ……すまない。では、力を貸してもらう」
「それで、何を探すんですか?」
「私が普段つけている髪留めを探して欲しいのだ。今日の朝から見つからなくてな……」
「髪留めね。分かったわ。2人も手分けして探してちょうだい」
「了解しました!」
こうして、4人総出の大掃除兼髪留めの捜索が行われた。なお、4人のうち翼だけは、関わると余計に散らかるとマリアに言われたために1人だけ部屋の隅でいじけていたらしい。拗ねた翼を見て、(相変わらずこの剣は可愛いわね……)と1人思うマリアであった。
《2時間後》
「終わったー!」
掃除を初めて2時間。部屋は見違えるほど綺麗になっていた。
「ふぅ……これでしばらくは持つわね」
ひと仕事終えた3人は、最後に脱ぎ散らかされていた衣服を畳んでいた。
「すまない……時間もこんなに過ぎてしまった。これでは今日の予定は……」
「仕方ないけど、後日に延期ね」
「本当に面目ない……。この埋め合わせは、いつか必ずさせてもらう」
「大袈裟ですよ〜翼さん。またいつか行けばいいじゃないですか、今度はクリスちゃん達も一緒に!」
「そうだな。次は雪音や暁、月読達も連れて行こう」
「お開きムードのところ悪いけれど、まだ髪留めが見つかって無いわよ?」
「あぁ……本当にどこにいってしまったんだ……」
また翼が落ち込みかけていた時、未来が自分の畳んでいた服の異変に気づいた。
「ん……? 服になにか引っかかってる……」
「未来! それって!」
未来がつまみ上げた物は、まさしく翼の髪留めだった。
「それは私の……! ありがとう小日向! 本当に恩に着る!」
「いいえ、見つかって良かったです」
未来から髪留めを受け取って髪につけ、翼は安堵の表情を見せた。
「本当に良かった……もう二度と無くすまいぞ……」
その表情を見て、マリアは尋ねた。
「その髪留めは、そんなに大切なものなの? それこそ、今日行く予定だった店で新しく買えばよかったんじゃないの?」
「いや、この髪留めはとても大切なものなのだ。何せこれは……」
ピリリリリリリリ!
翼が理由を言おうとしたその時、S.O.N.Gの通信機に緊急の通信が入った。
「奏者全員に告ぐ! 都内の1箇所で、アルカノイズの反応を検知した。数は現在、およそ1000。近辺の住人の避難がまだ完全に出来ていない状況だ。現場に向かい、事態の収束を急げ!」
通信を聞いた奏者3人は顔を見合わせ、すぐに立ち上がった。
「聞いたわね2人とも、急ぐわよ!」
「ああ!」
「はい!」
「響、翼さん、マリアさん、気をつけて……」
「うん! 未来も気をつけてね!」
3人は現場に急行するべく、その場を後にしたのだった。
──────────────────────────
未来と別れて数十分。響、翼、マリアの3人は、アルカノイズが発生した現場へ到着した。現場では、S.O.N.Gの隊員達が逃げ遅れた住人達の避難誘導をしていた。住人達は恐怖で混乱し、大騒ぎになりながらも、避難誘導に従い現場から離れて行っていた。また、先に到着していたクリス、切歌、調の3人は、既にシンフォギアを纏って戦闘に入っていた。
「マリア! 翼さん! 響さん!」
「3人とも遅いデース!」
「来たならさっさと手を貸せ! 今のところ被害は最小限で済んでる! さっさとコイツらをぶっ飛ばすぞ!」
「すまない3人とも! 行くぞ立花! マリア!」
「はい! Balwisyall Nescell gungnir tron……」
「Seilien coffin airget-lamh tron……」
「Imyuteus amenohabakiri tron……」
3人が聖詠を口にした時、眩い光と共に、3人はシンフォギアを纏った。これを装着することにより、奏者は人類の天敵たるノイズと戦う「戦姫」となるのだ。
それぞれの奏者が、胸に浮かぶ歌を歌い、時に強く叫びながら、ノイズを殲滅してゆく。その中でも、奏者達は「違和感」を感じていた。
最初に気づいたのは翼だった。
(なんだ、今日のノイズは……動きが普段のように単純では無い……)
ノイズには知能がなく、ただ本能的に人間を襲う。そのため、ノイズの動きは単調で、長い間ノイズと戦ってきた奏者達にとっては、大した脅威では無くなっている。しかし、今相手取っているノイズ達には、どこか知性があるように戦略的な戦い方をしているように感じていた。近接攻撃が他個体より強力な武士型が前線に立ち、後方から遠距離特化のパイプオルガン型が遠距離攻撃を浴びせてくる。被弾することは無いが、普段のように容易く蹴散らすことができず、すぐに全滅させることが出来ないでいた。戦場で背中合わせになったマリアに、翼は呟いた。
「マリア、気づいているか」
「ええ、今日のノイズは何かが違う。まるで、何者かが操作しているように、奴らの動きに戦略性がある気がする」
「立花達も、違和感に気づき始めたようだ」
「おそらく、この戦場に普段と違うものがある。それがおそらく原因よ」
2人は、近場のノイズを切り刻みながら、辺りを見回していた。そして気づいた。ノイズの集団の奥にいる『動かない』ノイズと、軍服のような服を着た男に。
「マリア、あそこだ! あそこに人がいる!」
「しかも、一般人ではなさそうね」
2人がなにかに気づいた事を察した他の奏者が集まってきた。
「翼さん、マリアさん、どうしたんですか?」
「立花、あそこに人が居るのが見えるか」
「ほんとだ! 早く助けなきゃ!」
逸る響をクリスが止めた。
「バカ、落ち着けって! あんな場所にずっといて、生きてるなんて怪しいだろ!」
謎の男に向けて、翼が呼びかけた。
「貴様は何者だ!」
男は口元を歪ませ、こちらへ歩いてきた。奏者と男の間にいたノイズ達は、男が歩く道を左右によって開けた。これには奏者達も驚きを隠せなかった。
「ノイズが道を開けてくデス!?」
「まるであの人の手下みたい……」
「ノイズって、意思とかは無いはずだよな……どうなってやがんだ?」
そうして奏者と10メートルぐらいまで近づき、男はようやく口を開いた。
「初めまして、シンフォギア。この国が持つ、危険なる兵器達よ……」
to be continued……
《あとがきについて》
第2話以降から、その話で出てきたオリジナルの単語について、軽い解説のようなものを書こうと思います。1話では、オリジナルの単語が出てきていないため特にないですが、もしなにか不明瞭な点があった場合はコメント等で教えて下さると幸いです。
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