慈愛神の剣 (タコスヘッド)
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帰還者

オラリオ……神々の多くが居を構える街であり、この世界唯一のダンジョンを有した街だ。

そしてそのダンジョンはモンスターを生み出す地下迷宮で未だ底を知るものがいない未知の場所なのだ。

1000年も前に神々は地上におり、人々に恩恵を与えた。

恩恵を与えられた人間は人の域を超えた存在となった。

モンスターを狩り、神の試練を乗り越えた者は更なる高みへと至った。

それは現在まで続き、ここオラリオでは恩恵を与えられた者は冒険者としてダンジョンに潜り狩りを繰り返していた。

 

 

 

 

 

怪物進呈でモンスターの大軍に襲われ深層に落ちてからどれ程の時が経っただろう。

右目、左肩を失い食料も尽きた。

しかし、ステイタスに最初に刻まれた魔法……【錬成】。

鍛冶師に向いた魔法だがこれはこれで使い勝手はいいのだ。

深層の希少な鉱石で武器を創り、モンスターを殺し、そしてモンスターを喰らった。

本来モンスターは死ぬと灰となり消え去るのだが食料が尽き、18階層のような食料の揃った安全地帯を探す事が困難となっていた俺にはモンスター以外に食べるものがなかったのだ。

そんな俺の身体はモンスターを喰らうことで変化が現れた。

エリクサーのような回復液を産む魔力結晶を見つけた俺はモンスターを喰らった瞬間激痛と共に崩壊し始めた身体を癒すために口に流し込んだ。

再生と破壊を繰り返した身体は気が付けば身長は伸び、髪の色も黒から白に変わっていた。

極めつけは喰らったモンスターの能力が扱える様になっていた事だ。

そんな俺は地上へと向けて歩き始めた。

 

 

 

 

地上を目指し出発してからかなりの時が経った……と思う。

何せLv1でパーティーも居ないままで落とされたのだ……1人でモンスター、階層まで相手しなければなからなかったのだから。

途中ロキ・ファミリアと思わしき集団が大量の芋虫に襲われている時に兵器で一掃したりと一悶着もあったが面倒だったのですぐさま去った。

それからさらに時経った。

18階層で疲れを癒す為に休んでいると再びロキ・ファミリアが現れた。

この異常な縁はなんだ……と思わなくもないが気にせず18階層を出た。

 

 

ダンジョン上層。

その日は妙に上層に中層のモンスターであるミノタウロスが出現していた。

迷宮内を歩いていてもう既に三体程のミノタウロスと遭遇していた。

5階層に差し掛かった時だっただろうか駆け出しの冒険者であろう少年がミノタウロスに壁際まで追い詰められていた。

ミノタウロスは何度も壁を叩きつけ叫ぶ冒険者にその拳を振り下ろした。

中層のモンスターであるミノタウロスの推定Lvは2~3である為Lv1の駆け出しの冒険者が喰らえば一溜りもない。

しかし、その冒険者を見ていると深層まで落ちる前の自身を見ているように思えてしまった。

俺は拳銃を構えて纏雷によって加速と破壊力の上がった弾丸を放った。

ドパンッという音と共に解き放たれた弾丸はミノタウロスの頭部を弾け飛ばし

その生命を刈り取った。

ミノタウロスの血を浴びた兎のような少年はゆっくりと立ち上がるとお礼を言ってきた。

俺はどこか放ってはおけないその少年と共に地上を目指して歩いていった。

 

 

~ギルド前~

 

「今日はありがとうございました!」

 

「気にするな。」

 

「あの!僕、ベル・クラネルっていいます!」

 

「……シキ……カナシロ・シキだ。」

 

「シキさん……ありがとうございます!」

 

「1つ聞いてもいいか?」

 

「はい?」

 

この少年と出会ってまだ数時間だが気になる事があった。

このオラリオにあるファミリアの殆どは強弱関係なく複数人は団員がいる。

俺の居なくなった後に来た神のファミリアならば分からなくもないが1人でダンジョンに潜るのはファミリアに団員が居ないのかただの戦闘狂(バカ)かだ。

しかし、この少年に限って後者はないだろう。この少年は冒険者に向かないほどに白すぎる(・・・・)

 

「ベルはどこのファミリアの団員なんだ?」

 

「ご存知かは分からないんですけど……ヘスティア・ファミリアです」

 

「っ!…………そうか……1人じゃなかったんだな

 

「?何か言いましたか?」

 

「いや、なんでもない」

 

「そうですか……じゃあ、僕はここで!」

 

「あぁ……じゃあな」

 

ヘスティア・ファミリア……ベルが入団するまで団員は俺一人だった弱小ファミリアだ。

鍛冶師向きの魔法しか持たない俺と貧乏女神。

生活は裕福では無かったが女神と2人の生活は悪くはなかった。

記憶(・・)も得体もしれない俺なんかを受け入れてくれた底なしのお人好し……文字通り慈愛の女神だった。

俺は今まで拾ってきた魔石を換金すると今まで見たことない魔石やその異常な種類の大きさと量の魔石に騒ぎになったものの何とか金を受け取って騒ぎの渦中を抜け出した。

軽い小金持ちになってしまった俺は今更ファミリアにどう顔を出せばいいのかと思い宿に泊まるうちに数日が経ってしまった。

 

 

~豊饒の女主人~

 

深層に落ちる前……今から約2年前。

シルという女性に声をかけられ通うようになった店、豊饒の女主人に来ていた。

相も変わらず賑やかな店の雰囲気に少し懐かしさを覚えつつカウンター席に座り食事の注文をする。

身体の変化や状態のせいもあり店の面々は俺の正体に気付いていないようだがバラすつもりも毛頭ない為そのままにして食事を続けていた。

その時だった、店の扉を集団が入ってきた。

道化の紋様を掲げるファミリアはたったひとつ。ロキ・ファミリアだ。

まったくつくづくロキ・ファミリアとは縁があるようだ。

 

「ダンジョン遠征お疲れ様!!今日は宴や!飲めぇ!!!!」

 

ロキ・ファミリアの主神であろう細目の絶壁女、ロキは声を張り上げると団員達はワイワイと食事と酒を口に運び始めた。

 

「そうだ!アイズ!あの話してやれよ!」

 

「あの話……?」

 

「帰る時に何匹か逃したミノタウロスの話だよ!」

 

「最後の1匹を別の冒険者が始末しただろ?そん時に居たトマト野郎の話だよ!」

 

「ミノタウロスって17階層で始末した時に集団で逃げ出したあの?」

 

あの異常なミノタウロスはお前らのせいかよ……

 

「それそれ!奇跡見てぇに上層に逃げて行って俺たちが泡食って追いかけていったやつ」

 

「そんでよぉ、そん時居たんだよ。いかにも駆け出しのひょろくせぇ冒険者がよ」

 

ベルの事か……

 

「腹抱えたもんだぜ!兎みたいに壁際に追い詰められてよ!ガタガタ震えてたんだよ!」

 

「そんでその冒険者はどうしたん?」

 

「別の冒険者に助けられたみたいだったがよ、ぷっ、あのガキミノタウロスのくっせぇ血浴びて終始叫んでやがったんだよ!!」

 

「アッハハハハハ!!そりゃあその冒険者も災難やったもんやなぁ!」

 

「ほんとざまぁねぇよな。泣き喚くくらないなら冒険者になるなってんだよ。ドン引きだぜ、なぁ?」

 

「その汚い口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。その少年に謝罪することはあれ酒の肴にする権利はない」

 

「おーおーさすが誇り高いエルフ様。でもそんな救えねぇヤツをかばってなんになるってんだ。ゴミをゴミと言って何が悪い」

 

「これ、やめえ。酒が不味なるわ」

 

「アイズはどう思うよ。目の前で震え上がる雑魚が居たらよ」

 

「あの状況なら仕方ないと思います」

 

「はっ!いい子ちゃんぶりやがってよ!じゃあ質問を変えるぜ……俺とあいつツガイにするならどっちがいい」

 

駄犬が何か口走ったのを聞きロキ・ファミリアの女性陣は呆れたような表情を浮かべていた。

 

「そんな事を言うベートさんとだけはごめんです」

 

「無様だな」

 

「黙れババアッ……じゃあなんだ。お前はあのガキに目の前で好きだの愛してるだの抜かされたら受け入れるってのか」

 

「……っ」

 

「そんな訳ねぇよな……弱くて軟弱で救えねぇ。気持ちだけ空回りしてる雑魚野郎じゃお前の隣に立つ資格なんかねぇ……他ならぬお前が認めない……」

 

「雑魚じゃ、アイズ・ヴァレンシュタインに釣り合わねぇ」

 

その時ガタッと1人の少年がイスを蹴って店を飛び出して行った。

 

「なんだぁ?食い逃げか?」

 

「ミア母ちゃんの店でけったいなことするやっちゃなぁ」

 

「アァ?もしかしてあのトマッッッッッ!?」

 

ベートがその言葉の続きを放つことは無かった。

ドパンッという音と共に弾丸がベートの鼻を掠め店の壁に穴を開けていたからだ。

 

「テメェ……」

 

「それ以上口を開くな駄犬。おい、お前が主神のロキか」

 

「せや」

 

「ペットの躾くらい、しっかりしとけ」

 

「舐めんじゃねぇ!!」

 

カチャ……俺は腕を振り上げ叫ぶベートに拳銃を向ける。

 

「そんなもんで俺が止まると思ってるのか!?片腕の雑魚が訳の分からねぇ玩具で舞い上がってんじゃ」

 

ドパンッ

 

「ガッ」

 

正しく額を撃ち抜いた弾丸の勢いのままにベートは回転しながら店の壁に叩きつけられた

 

「べ、ベートさん……?」

 

エルフの少女は目の前で起きた現状に理解出来ず今そこで倒れて起き上がらない少年に声をかけた。

 

「気絶しただけだ。次はねぇからな……」

 

俺の向けた眼差しに誰も動けず身体を強ばらせる

 

「あんた何者や」

 

「シキ……ヘスティア・ファミリアのシキだ」

 

俺はそれだけ告げると店に食事代と壁の修理代を支払い店を出ていった。




ご感想お待ちしてます。


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錬成師

こんばんは。タコスヘッドです。
今回の話はタグにはありませんでしたしキャラも技もクロスする訳ではありませんがとある作品とクロスしています。
どこの何がクロスしているか当ててみてください笑笑
ほとんどの人は分かると思いますが笑笑

では引き続き慈愛神の剣お楽しみください


豊饒の女主人で自身の弱さ、惨めさを思い知らされ勢い余って店を飛び出してしまった僕はそのままダンジョンに潜りモンスターを狩っていた。

あの日……おじいちゃんが他界しおとぎ話の英雄に憧れ、英雄になりたくて村を出てこの冒険者の街、オラリオにやってきた。

しかし、突きつけられたのは己の弱さだった。

シキさんに救われた僕は楽観的に今のままでもいつかは彼のような強者になれると思ってしまっていた。

そんな自分の情けなさのあまり店を飛び出してしまったのだ。

モンスターを狩り終えた頃にはもう早朝だった。

モンスターの返り血や傷のせいで血だらけになった身体に鞭を打ち神様の待つホームへと帰還した。

 

 

「ベルくん!こんな時間まで何を…………ってこの傷はどうしたんだい!?」

 

「ダンジョンに潜ってました……」

 

「ば、馬鹿っ!そんな格好のままでダンジョンに潜るだなんで!!どうしてこんなむちゃしたんだい?」

 

「…………」

 

「分かった……何も聞かないよ。」

 

「ごめんなさい……」

 

「なに、いいさ。治療の前にシャワーを浴びておいで」

 

「はい……神様」

 

「なんだい?」

 

「僕強くなりたいです……」

 

「……うん」

 

 

僕はシャワーを浴びた後傷口の治療しステータス更新を行った。

神様の指から垂れた一滴の血が背中に刻まれた恩恵に変化を示した。

淡く光る背中を見ながら神様が息を飲んだ気がした。

 

「神様……?」

 

「大丈夫だよベルくん。 聞いてもいいかい?」

 

「はい?なんですか?」

 

「最近、君に何があったんだい……?」

 

「……実は……」

 

僕はミノタウロスに襲われた日の事、豊饒の女主人での1件の事、僕に起きた出来事を全て打ち明けた。

神様の豹変に僕のステータスに何か異常でもあったのかと思いながら話していると

 

「ま、待ってくれベルくん……」

 

「神様?」

 

「君を助けた冒険者の名前をもう一度言ってくれないかい?」

 

「シキさんです。カナシロ・シキ。」

 

「…………」

 

神様は悲しげな表情を浮かべながら何かを考え込むように俯きながら黙っていた。

出会ってそんなに長くはないがいつも元気な神様とは思えないような反応に僕は何も出来ずにいた。

 

「あ、あの、神様?どうかしましたか?」

 

「え、あ、あぁ、ごめんねベルくん」

 

「いえ、それより僕何か不味い事言っちゃいましたか?」

 

「違うんだ……ただ……過去と向き合わなければならなくなっただけさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊饒の女主人での1件の翌日。

俺は今ヘファイストス・ファミリアまでやって来ていた。

 

「誰か居るか」

 

「何もんだ?入団試験はやってないぞ」

 

「ああ?ちげぇよ。ここの主神と話がしたい」

 

ヘファイストス・ファミリアの店の店員をしていた男にヘファイストスに繋げるように言うと店の奥から眼帯に赤い髪の女が歩いてきた。

 

「私に何か用かしら」

 

「あんたがヘファイストスか」

 

「ええ。そういう貴方は?」

 

「俺はシキだ。ファミリアは……まぁ、ほぼ抜けたようなもんだ。」

 

「……そう。それで何か用?」

 

「ああ。工房を貸してくれ」

 

「工房を……?」

 

「ああ。自分の装備は自分で作るが環境がねぇ。環境が悪くても作れねぇ事もないが急造品と変わらねぇから性能も耐久度も悪くて使い物にならねぇ。」

 

「分かったわ。ただし条件があるわ」

 

「なんだ」

 

「私とファミリアの1人に貴方の作業風景を見させてくれないかしら」

 

「……それくらいなら構わねぇよ」

 

ヘファイストスの有難い申し出を断る理由もないために承諾した。

工房を使う為に金を取られる覚悟もしていたが生粋の鍛冶師なだけあって俺の武器や防具制作法に対する好奇心が勝ったようだ。

 

俺は1度宿に戻ると今回武器や防具に使う鉱石や魔石を持って再びヘファイストス・ファミリアの店に訪れた。

 

「お主がフリーの鍛冶師か!」

 

「ん?あんたは……」

 

店に入ると早々に褐色にその豊満な胸をサラシで巻いた半裸の女が声張り上げながら俺に声をかけてきた。

 

「彼女は椿・コルブランド。このファミリアの団長であり、このオラリオ1の鍛冶師よ」

 

「そうかい。俺はシキだ。よろしくな。」

 

「おうとも!」

 

「あと俺は鍛冶師じゃねぇ。」

 

「……?」

 

俺の発言には俺を鍛冶師と呼んだ椿だけでなくヘファイストスでさえ疑問に思い首を傾げていた。

 

「俺は錬成師(・・・)だ」

 

俺はそれだけ伝えると無言で工房の中に入り鉱石や魔石といった素材を取り出した。

 

「これは……!!」

 

俺が取り出した素材のほとんどがミスリル、アダマンタイト、オリハルコンといった高価で更には希少な素材ばかりだった為に椿とヘファイストスは驚きを隠せずにいた。

 

「軽いな……このような鉱石は見た事がないぞ」

 

「ああ、それか。それはヴィブラニウム……俺が見つけたミスリル並に軽く、オリハルコン並に硬い新たな鉱石だ。」

 

「なんですって?どこでこれを?」

 

「ダンジョンだよ。詳しい場所まではわからん。」

 

「そう……」

 

ヘファイストスは驚き疲れたかのように肩を下ろし椿は面白いものを見るように笑みを浮かべていた。

 

俺はヴィブラニウムの塊を持つとそっと口を開いた。

 

「錬成」

 

その一言によって俺の魔力と共にヴィブラニウムは形をうねうねと変形させていく。

そこに魔石を加え熱を通し徐々に形作っていく。

そうして出来上がったのは黒塗りの義手だった。

 

「これは……義手か?」

 

「ああ。俺の義手だ。今使ってるのは粗悪品だよ。」

 

俺は今つけていた義手を取り外すと新しく作った義手を取り付ける。

神経が繋がる感覚を感じると義手の指を順番に動かしていく。

それから俺は持って来た素材を全て使い使用していた武器や防具といった装備の修復、作成をしていった。

その間の椿とヘファイストスの反応は面白いほどに変化していたいなかったとか。

工房での作業を終わらせ店を出る準備を済ませるとヘファイストスが俺に声をかけてきた。

 

「作業風景を見させてくれたこと感謝するわ」

 

「必要ねぇよ」

 

「貴方、私のファミリアに来ない?正直、貴方の作る武器や防具は椿の物を超えているわ。このオラリオ、いえ、世界でもトップレベルの物よ。」

 

「鍛冶の神にそこまで言われるなんて俺も捨てたもんじゃねぇな。だが断らせてもらうぜ。今更ファミリアに入るつもりはねぇからよ」

 

「そう。残念だわ……また何かあればいらっしゃい。」

 

「悪いな。じゃあ、邪魔したな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても凄まじいものだったな」

 

「そうね……」

 

椿とヘファイストスは自身が見せられた武器や防具の数々の異様さに驚きを隠せずにいた。

これ程の腕の持ち主が今まで無名だった事やこの様な天才を生み出したファミリアの謎。

ヘファイストスはモヤモヤとする思考を振り払って店の中へ戻って行った。




我ながら書いていて大丈夫か不安になりましたがご感想、ご指摘頂けると嬉しいです!


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