青春装甲騎兵隊 (土居内司令官(陸自ヲタ))
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OPT.01

 2月18日、ガイア星 エウロパ大陸の東の果てにある島国・敷島連邦 相模州 鎌倉郡 久良岐市の某民家。

 ここに、1通の封筒が届いた。

 郵便受けを覗いた黒髪ショートの少女は、他に入っていた新聞やチラシを足元に捨て、その封筒をじっくりと眺めた。

 そこには、[国立 敷島学園 明智 光様 合格通知及入学案内内封]と書かれていた。

 その文字列を認識した刹那、彼女の鼓動は跳ね上がった。まるで、開成重工株式会社が開発した軍用液冷2往復V型10気筒ディーゼルエンジン・10ZG32WTのような唸りのようだった。彼女は丁寧に、しかし地雷を銃剣で掘り当てるかのように震える手で散らかした新聞やチラシを拾い集め、家内に戻った。

 

 新聞やチラシを食卓に放り投げるや否や、彼女はソファにドカッと座り、封筒を開けようとした。

 頑丈な糊付けに、何度か頭(べろ)を破きながらも、封を開けることに成功した。そして、中からA4版の厚紙やら複数の紙が出てきた。少女は厚紙をまじまじと見つめる。

 そこには、[相模州 鎌倉郡 久良岐市 十塚区 中和田町5-RF-226 明智 光様 合格通知 あなたは、2021年度国立敷島学園入学適正試験において、下記に合格したことを通知します。敷島学園はあなたの入学を心よりお待ちし申し上げます。 学部:陸戦教育部 学科:歩兵科]と書かれていた。

「ほへ……い?」

 彼女の口から、脱力したような声が絞り出された。そして彼女は何度も、何度も合格通知を見返した。

 

 やがて彼女は泣き出した。

 

 

 

 両親の祝福の言葉なぞ耳に入れず、彼女は自室に閉じこもる。その部屋は、[よく分かる 機甲戦の基礎]、[戦車長の器]、[図解 西住流戦車戦]、[図説 島田式機甲戦]といった表題の書籍が大量に本棚に陳列され、別の棚の上には90式戦車やM1A2C エイブラムス、99G式戦車、T-90AM ウラジミールといった世界の名だたる主戦車の模型が並んでいた。

 

 

 

 

 

 

 広い宇宙の中、何処かにある銀河系。

 そこに、恒星からほど近い惑星があった。水や酸素、鉱物が豊富にあるその星では、高度な知性を持った生命体が生まれ、その星全土に広がっていった。

 

 と、思われていた。飛行機と呼ばれる乗り物の発展と、それに伴う第一次世界大戦が勃発し、エウロパ大陸のケルティカ地方と北イクサチリン大陸のイクサチラン共和国連邦との間にある巨大な海に、未知の大陸が発見された。

 結果、イクサチラン共和国とチュートン連合帝国、さらにベリカヤラシーヤ帝国が奪い合い、焦土にしてしまった。

 戦後の調査で、何の資源も無し、更にどの大陸からも遠く離れていた為にどの国も領有権を放棄した。

 

 

 

 世界は再び大戦が起き、敷島皇国連盟に2発の核爆弾が投下され、チュートン統一帝国も東チュートン平等共和国と西チュートン公国連邦に分断された。

 イクサチラン共和国連邦とサビィートラシーヤ平等共和国連邦との対立が深まる中、あの名も無き大陸に注目が集まった。

 

 その大陸は、かつての神話になぞらえて「アトランテ大陸」と名付けられ、兵器の実験場にされた。

 

 

 

 それからおよそ80年。アトランテ大陸は各国から集められた高校生達による、実演弾と呼ばれる特殊な麻酔弾を用いた模擬戦争の場所にされていた。



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OPT.02

 4月2日、アトランテ大陸のほぼ中央にあるズーベン半島、その付け根に位置する国立敷島学園 第11分校。

 その体育館では、真っ赤なブレザーを着た新入生達が新たな学級の発表を心待ちにしていた――ただ一人を除いて。

【新入生の皆さん、あなた達はこのアトランテ大陸にて、国防とは何なのか、そして安全は黙って手に入る物ではないという――】

「昨日の入学式でも聞いたわ」

 隣の中性的で整った顔の女子生徒がそう呟く。しかし黒髪ショートの少女の耳には入らなかった。彼女の頭の中は「なぜ機甲科に入れなかったか」という考えでいっぱいだったからだ。

 

 

 

 その後、新入生達に新たな学級が発表され、彼らは各々の教室へと向かう。黒髪ショートの少女は配られた学級名簿を手に、自分の教室へと辿り着いた。

[歩兵科 1年381組]という札が掲げられた教室に入る。その中には十数人の新入生が既にいたが、会話は殆ど無かった。彼女はそっと静かに出席番号順に並んだ自分の席を探して座った。

 

 それから数分、残りの新入生と担任教師がやってきた。その教室は、女であったが筋肉隆々で、肌は黒く焼け、土木関係者を思わす風体であった。

「皆さん初めまして。ここの担任となった、蜂宮 彩湖です。1年間よろしくね」

 その風体に似合わぬ口調に、教室から笑いを抑えようとする声が聞こえてくる。

「ではまず、皆さん分隊ごとに別れましょう。ここに名簿があるので、その順に並んで座ってください」

 彩湖先生は黒板に左から1~4の数字を書いていく。そして、新入生達は配られた名簿を見ながら、黒板に書かれたように分隊ごとに座った。

「皆さんはこれから3年間、機械化歩兵として学んでいく事となります。まぁ、歩兵とは大まかに言って3つに分類されますが、それは明日の講義としましょう。今日皆さんがやるのは、教科書の確認、及び使用する武器の選択です。歩兵たるもの、小銃は仕事道具であり親友となるものです。あなた達は歩兵戦闘車に乗るので、それを考慮し、自らの相棒を選んでください」

 

 

 

 戦車。「敵の銃砲火に耐えうる装甲を備え、敵装甲車両を撃破しうる強力な火砲と敵兵を薙ぎ払う機銃を搭載し、敵塹壕やあらゆる障害を乗り越える踏破力を兼ね備えた戦闘車両の総称」(出典・『よく分かる 人類と戦争 技術の悲しき発展』ミンメイ書房)。アトランテ大陸に設立された防衛技術研究校である敷島学園、そこに設けられた戦車教育部隊・陸戦教育部 機甲科。「陸戦の王者」たる戦車を扱える学科として、とても人気が集まっている。それ故、毎年の志望倍率は150%を超える。しかし今年はどういう訳か、低かった(それでも最終倍率は101%であった)。

 戦車に憧れる少女・明智 光は敷島学園 機甲科を志望した。だがしかし、落ちた。落選したのだ。結果、補欠的に歩兵科に入学する事となったのである。

 

 

 

 敷島学園 第11分校は、22個ある分校の中でも珍しい陸海空が揃った分校である。4つの校舎と体育館、その南には校庭、更にその南には射撃場や演習場、分校の北側には格納庫や駐機場、2本の滑走路、西側には船着場がある。

 新入生達は射撃場へと連れてこられた。そこでは、世界各国の銃器メーカーが出店を開き、実射体験も出来る会場に仕上がっていた。新入生達はそれらを自由に手に取ったり試射したりしていた。

 光は、適当に色んなメーカーのブースをほっつき歩いていた。そして、ある企業のブースが目に止まった。そこは、「Karlskoga Armory カルルスクーガアーモリー」という看板を掲げていた。彼女が立ち止まると、スーツ姿の若い男が出てきて、光に話し掛けてきた。

「どうです? スバーリェ製兵器はお好き?」

「……スバーリェというと、カールグスタフと40mm機関砲、Strv-103しか出てこないんですが」

「カールグスタフですか。結構、ますます好きになりますよ。我が社の売れ筋です」

「そもそも好きでもないんですが」

 そう言いながらも、男は1丁の小銃を彼女に手渡した。レシーバー(機関部覆い)を除いて、暗緑色のプラスチックで構成された、ごく一般的な小銃だ。だが、上部には光学照準デバイスを取り付ける為のレール、被筒(ハンドガード)には前方把握(フォアグリップ)が装着されている。

「ガワがプラスチック? でも木や鉄なんて、気温で変形するし、湿度に弱いし、何より重いし、ろくな事は無い。マウントレールもたっぷりありますよ、どんなオプションだって大丈夫。どうぞ持ってみてください。意外と重いでしょう? 余裕の耐久性だ、造られた環境が違いますよ」

「は、はぁ……でもわたし、機械化歩兵で――」

「なるほど、取り扱い易いカービン(騎兵銃)ですか。なら問題はありません。ほんの少しではありますが、これのカービンモデルも入荷しました」

 

 

 

 そのまま彼女はシューティングレンジへと連れられ、件のカービンモデルを持たされた。そして、弾倉を渡される。見れば、イクサチラン共和国連邦軍を始めとするアトランタ海条約軍共通のSTANAG三〇連弾倉だ。渡されるまま、銃に弾倉を挿入、槓桿を引いて薬室に初弾を込める。そして、銃上部に固定されたCOMP/M2光学照準機を覗いて狙いを定める。狙うは20m先の人形標的(マンターゲット)、引き金を引いた。

 5.56×45mm SS109弾の反動で銃口が跳ね上がる。銃を下ろし、的を見れば、的のど真ん中に命中していた。

 彼女は騎兵銃を眺める。そして、セールスマンの男に言った。

「これ、ください」

 それが、明智 光と騎兵銃・カルルスクーガアーモリー Ak-5Dの出会いであった。



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OPT.03

 4月3日、敷島学園 第11分校 南校舎 2階 R201教室。ここに、歩兵科 1年381組の39人が集まっていた。

「今日はまず、皆さん自己紹介をして、分隊内での役割を決めてもらいます。はい、机を動かして、分隊でまとまってください」

 沢山の机がガタガタと音を立てて動かされる。そして、分隊ごとに集まった。

 光属する第4分隊は合計10人で構成されており、その内7人が女子だった。

「どうして女の方が多いんだろうな」

 1人の男子生徒が愚痴を垂れる。するとそこへ、彩湖先生がやってきた。

「文句を言わないでください。女だろうと、戦場では共に戦う戦士なんですよ。あと、これがこの分隊の名簿です。分隊長は、明智さん、あなたに託しましたよ」

 そう言われ、光は驚いた。

「何で!? ……ですか?」

 すると、彩湖先生が答える。

「機甲戦や部隊指揮についての充分な知識を持っているから、だそうです。機械化歩兵は戦車と共に行動する事が求められる為、ここでは必要なんですよ」

 そう言われ、光は黙ってしまう。一方の彩湖先生は、他の分隊の名簿を配ると、教壇に戻る。そして、口を開いた。

「では皆さん。それぞれ自己紹介と分隊内の役割を決めてもらいます。分隊内には、分隊長(スクワッドリーダー)、副分隊長(スクワッドサブリーダー)、機関銃手(マシンガナー)、対戦車兵(アンチタンクマン)、対戦車補助兵(アンチタンクサポーター)、選抜射手(マークスマン)、擲弾兵(グレネーダー)、小銃兵(ライフルマン)で編成されています。私達は機械化歩兵なので、更に操縦手、砲手が必要です。それらの分担も決めてくださいね」

 

 そして、第4分隊の面々は自己紹介を始めた。

「分隊長を任された、明智 光です。趣味は……読書です」

「武田 信弘、ゲームが好きです」

「私は、岩瀬 忠実(まめ)と言います。私も、ゲームをやってます……」

「那須 天狼(あまろ)、趣味は特に無い」

「我は織田 濃藍(こあい)、華道をやっている」

「あたしの名前は八坂 清定(せつら)、よろしくね」

「平良 六合華(くにか)と言います。趣味は虫の観察です」

「俺は剛 義広、登山が趣味だ」

「永尾 六郎、特に言う事は無い」

「えっと、源 千佳。あ、あの、裁縫が趣味です……」

 自己紹介が終わった所で、役割分担を決める。

「機関銃は、我に任せてもらえぬか?」

 真っ先に手を挙げたのは、濃藍だった。その一人称にツッコミが入る。

「我って……何時代だよ」

「まさか山城の由緒正しき名家の生まれだったりする?」

「たわけ。我の生まれは尾張州 清洲御厨市の生まれ、親はただの呉服屋だ」

 そう濃藍は語る。が、数人は笑いを必死に堪えていた。そんな中、もう1人が手を挙げた。

「あたしも、機銃手になりたいんだけど、いいかな?」

「機関銃が2人? 多くね?」

 清定の立候補に、義広が反対した。が、信弘は清定を擁護した。

「まあまあ。イクサチラン陸軍の分隊には2人の機関銃手がいたらしいし、僕らは機械化歩兵だ。必要なのは機動力ではなくて火力、だろ?」

 信弘が光に同意を求める。唐突に話を振られた光は驚いた。

「え? えーと……そ、そうかもね」

「こんな頼りなくて、歩兵について何も知らない奴が分隊長かよ」

 六郎が愚痴を言う。それに、誰も何も言えなかった。



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OPT.04

 役割分担をある程度決めた所で、381組は校庭へと連れていかれた。

 そこには、4両の歩兵戦闘車が置かれていた。戦車のような砲塔には、主砲のように突き出た35mm KDE機関砲、砲塔両側に2基の対戦車ミサイル発射機、戦車よりも高い車体――開成重工 89式装甲戦闘車である。

「89FVか。先生、CV-90とかBMP-3とかじゃないんですか」

 義広が愚痴を垂れる。すると彩湖先生が答えた。

「後に自由に選べるようになりますよ。しかし、1年の1学期の内は89式で習熟させる、というのが学園の方針なのです」

 

 

 

 4月 27日、敷島学園 第11分校 演習場。

 そこを、1両の89式装甲戦闘車が駆けていた。ディーゼルエンジンの雄叫びと共に、地面の凹凸で車体が激しく上下する。当然車内の乗員達は激しく揺さぶられ、シートベルトをしているとはいえヘルメットを被った頭をあちこちにぶつける。

 光は揺れる砲塔で赤外線スコープの画面を覗いていた。すると、稜線の向こうに熱源反応があった。ズーム操作、攻撃目標として砲手へとオーバーライドさせる。FPSが得意ということで砲手にさせられた忠実は照準点を目標へと合わせる。

「目標、H21。上級生のIFV(歩兵戦闘車)ね。弾種AP、撃てぇ!」

「発射!」

 忠実は射撃ハンドルのボタンを押し、徹甲弾を選択、ガントリガーを引く。

 35mm KDE機関砲が唸る。しかし、砲口からは何も発射されない。だが、H21歩兵戦闘車の砲塔上部に白旗が掲げられる。

 直後、車内にけたたましい警報音が鳴り響いた。光が赤外線スコープの隣に固定されたディスプレイを見ると、[ホウトウヒダン,セントウフノウ]と表示されていた。

「私と忠実がやられた。義広、下車戦闘。後は頼んだよ」

 砲塔から兵員室へと降りた光が、義広に指示を出した。義広は頷き、シートベルトを外した。そして、内壁に立て掛けて固定していたエレツユダ国製突撃銃・EWI タボールTAR-21を持ち上げた。それに連れて、他のメンバーも各々の銃を手にして立ち上がる。そして、動けなくなった89式装甲戦闘車から降りた。

 タボールTAR-21を手にした義広、使い捨て式対戦車ロケットランチャー・スベンスカエアプレーン AT-4CSを背負ってIMメタル VHS-2を手にした千佳、SL40擲弾銃の付いたリスゴー F90を手にした六郎、ジールサンティ SMAWを背負ってRSIG MCX-PCBを手にした六合華、RAC L86-LSWを手にした清定、ICオードナンス M60E6を手にした濃藍、カラムジン VS-121を背負ってクラグイェヴァツアームズ M85を手にした天狼、ベッセル&コクツェーユス G41A3を手にした信弘が89式装甲戦闘車の後ろに展開、義広の合図で89式装甲戦闘車の陰から飛び出してその辺りの窪みに入った。

「足はやられ、分隊2名、分隊長込みで戦死判定か。幸先暗いな全く」

 六郎が愚痴を垂れる。が、義広は冷静だった。

「それでも上級生のAFV(装甲戦闘車両)1両にソフトスキン(非装甲車両)2両、充分な戦果だ」

「で、どうするのだ副分隊長殿?」

 M60E6汎用機関銃を肩に掛けて座った濃藍が義広に問いかける。

「後方の森林へ後退、ゲリラ戦を仕掛ける。ラコリス ディブクから近くのユニット。我々はIFVを撃破された。ポイントET-7826から7834へ後退する。支援射撃を要請する」

 義広が無線で応援を頼む。すると、回答があった。

〔ラコリス ディブク、こちらティッカー3-3。そちらへ猛スピードで進撃する戦車隊だ。我々では手に追えん〕

「ちょっと待て。それは――」

 そこへ、けたたましいディーゼルエンジンの音が響いた。義広と六合華が窪みから顔を出すと、そこにはエレツユダ国製主戦車・メルカバMk4が隊列を組んで近付いてきていた。

「まずくね?」

「かなりね」

 2人は顔を見合わせる。そして叫んだ。

「走れぇ!」

 8人は窪みから飛び出し、森林目指して走る。しかし、敵戦車隊の内の1両のメルカバMk4が主砲同軸固定のM2HB-QCB重機関銃を発射、8人を攻撃する。

 

 そして、8人は「戦死」した。



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OPT.05

 5月 2日、敷島学園 第11分校。その20L滑走路から、2機のСу-34ФН ウトコノースが編隊離陸していく。その翼端にはР-175В電子妨害ポッド、主翼と胴体には6発のХ-31ПМ クリプトン対電探ミサイルと2発ずつのAAM-5短距離空対空ミサイルとAAM-4B視程距離外空対空ミサイルをぶら下げていた。

 その後、F-2A バイパーゼロとF-15E ストライクイーグルが進入、2機とも90kg GBU-53小口径滑空爆弾をぶら下げ、離陸する。

〔テティス隊、全機発進。セクメト隊、離陸準備〕

 2機のF-22A ラプターが20L滑走路に、その隣の20R滑走路に殲-11B 战鶴とСу-33 マスコイクランが並んだ。全機空対空フル装備、アフターバーナーの炎を煌めかす。

 

 同じ頃、第11分校 校庭から、次々と戦車や自走榴弾砲、装甲車が出発していく。軽装甲機動車の車内にいたメガネ女子生徒が、骨伝導マイクで指示を出した。

「381小隊、前進!!」

 それを受け、4両の89式装甲戦闘車が走り出す。

 

 

 

 発端は、数日前だった。

「ラシーヤ学院の領土へ侵攻します」

 彩湖先生は、381組の生徒達に、そう発表した。それにより、生徒達がざわついた。

「はいはい、静かにしてください。私達第11分校改め第11機甲戦闘団は先遣隊として進撃、ラシーヤ学院との緩衝地帯へと侵攻します。無論、航空支援も万全です」

 そして、彩湖先生はプロジェクターの電源を入れ、黒板の前に展開したスクリーンに投影した。

 そこには、敷島学園の領地であるズーベン半島とその北にあるアトランテ大陸の一部、シビルハン地域を表示していた。

「知っての通り、シビルハン地域の半分はラシーヤ、敷島、イクサチランAAの緩衝地帯となっています。まず、我々のいるヒタカミ地域の北、サガレン地域へと侵攻、シビルハン地域へと北上します。その後、強襲揚陸艦からの第4分校、第4水陸戦闘団と第7分校 第7機甲旅団と共にラシーヤ学院と交戦、進撃する。これが今回、本校からの作戦『334指令』の内容です。勿論、ラシーヤ側からの激しい抵抗が予想されます。ウディ湾にはラシーヤ学院の空母艦隊、戦闘機部隊、そして1個機甲旅団が駐留しています。その事を頭に入れておいてください」

 

 

 

 その後、講義や訓練を繰り返し、5月 2日の作戦決行日となった。各自、武器庫から自分の武器を受け取り、実演弾を受領する。光も、Ak-5D自動小銃を受け取った。ACOG-TA02四固定倍率スコープにAN/PEQ-16A夜間照準デバイス、バーティカルフォアグリップを装着したそれにSTANAG三〇連弾倉を挿入、他のSTANAG三〇連弾倉をボディアーマーのポケットに入れる。また、自衛用として身に付けていたP226自動拳銃の遊底を少し引いて薬室を確認、ボディアーマーに取り付けたホルスターに収める。そして、89式装甲戦闘車に乗り込み、砲塔内の車長席に座る。上部のハッチを開くと、そこには新たに設けられた簡易の防楯付銃座と備え付けられた12.7mm WKM-B重機関銃があった。

 同じ分隊のメンバーも乗り込み、シートベルトを装着する。操縦席に潜り込んだ信弘がエンジンを始動させる。89式装甲戦闘車に搭載された6SY31WA水冷四往復直列六気筒ディーゼルエンジンが唸った。



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OPT.06

「こちらクヴァル17。現在CN-2876をホールド。敵AWACSをスパイク、機種は不明。方位140でツーオクロック、ビーム。そろそろビンゴだ」

〔ハニーポッドからクヴァル隊、空中給油機クミス06がEA-1672にて待機している。監視任務を交代し、補給の後一旦エリア11上空にて待機〕

「着陸できないのか?」

〔駄目だ。現在テティス隊とセクメト隊が着陸待ちをしている。基地上空でCAPを実施しろ〕

 それを聞き、KZ-900電子偵察ポッドをぶら下げた殱-8ⅡF 長鬚鯨のパイロットは溜息をついた。

「こちとら偵察任務から帰ったっていうのに」

 

 

 

 4月 29日、敷島学園 第11分校。

 滑走路から、次々と空対艦ミサイルを搭載した戦闘機が飛んでいく。その一方で、ヘリポートから救難ヘリコプター・ソネットヘリコプター/パシフィックエアロプレーンプロダクツ CV-22B オスプレイと中型輸送ヘリ・JJカプローニ/ペッターズエアクラフト マーリンHC.3Aが離陸していく。

 そんな中、射撃場では銃声や砲声が鳴り止まない。10式戦車やメルカバMk4、PT-17が120mm滑腔戦車砲を打っ放し、89式装甲戦闘車やFV510 ウォーリア、Strf-9040/56といった歩兵戦闘車が隊列を組み、遠く離れた標的へと機関砲で射撃する。

〔訓練終了、訓練終了。各自、安全装置を確認せよ〕

 そのような指示が出され、戦闘車両達はヤードと呼ばれる駐車場に集まった。

 そして、生徒達は車両から降り、水を飲んだりして休む。しかし、光は自身の89式装甲戦闘車を見上げていた。

「どうしたよ、分隊長殿?」

 副分隊長である義広が、光にペットボトルを投げ渡す。光はそれを受け取り、蓋を開ける。

「サンキュ。いやね、砲塔に機銃載せたいなぁって思っててさ」

「IFVには要らないだろう。市街戦をするならともかく、俺達は野戦専門だ」

「そうだけどさぁ、対ヘリとかで使えるかなぁって」

「んな事より、歩兵隊の指揮の下手くそさを何とかしろ。歩兵戦闘車(IFV)は主戦車(MBT)違って紙装甲なんだ。そんな事も頭に入れず、突撃だなんてただのバカだ」

 通りかかった六郎が、そんな事を言った。それに、義広が突っかかる。

「おい岡崎、そんな言い草は無いだろう」

「何でだよ。明智、お前には歩兵隊の指揮官の才能なんて無い。俺は、無能な指揮官の下で戦いたくねぇんだ」

 そう言って、六郎は去っていく。

「岡崎!」

 呼び止めようとした義広を、光は止めた。「いいの。才能無いのは事実だし。わたし、戦車に憧れてこの学校に入ったけど、その結果がここだもん」

 光の言葉に、義広は何も言えない。

 すると、光はニコッと笑い、口を開いた。

「ちょっとトイレ行ってくる」

 

 

 

 お手洗いを済ませ、簡易便所から出た分隊の選抜射手(シャープシューター)・那須 天狼は、即席の水道で手を洗う。その時、すすり泣きの音が聞こえた。茂みを掻き分けると、そこには光がいた。

「分隊長?」

「天狼……かっこ悪いとこ、見せちゃったね」

「構わない。また六郎か」

「彼は悪くないよ。分隊長の器が無いわたしが悪いだけ」

「確かに、あんたには歩兵の本領が分かってない。けど、あいつの暴言は人間としてなってない。分隊長、あたしらはあんたの駒だ。あんたの指示に従う。もし間違ってりゃ副分隊長が訂正するだろうし、あたしらもフォローする。それが歩兵分隊だ。戦車隊と違って、お互いのフォローが届くのが歩兵の強みだ」

 天狼の言葉に、光は涙を拭いた。

「天狼……ありがとう!」

「どういたしまして……だ」

 

 

 

 森林の中、開けた場所に大型輸送ヘリ・多摩重工 CH-47ZA チヌークが着陸する。その機内から、1両の高機動車が出てきた。その後部には、偵察機材が搭載されている。そして、森の中へと走っていった。それを見届け、CH-47ZA チヌークが離陸していく。

 

 高機動車は、軽装甲機動車やBVDM2-T偵察装甲車などが待機する場所へと合流した。

「こちらヘルメス、陸戦情報科 1年 147組です。3年のフローラ隊でありますか?」

 高機動車に乗った生徒が出迎えた生徒に尋ねると、その彼は答えた。

「ご苦労。それと、確認する時は相手部隊の名前を口にするな。変装した敵の可能性がある」

「分かりました。以後気を付けます。それと、我々ヘルメス隊はラシーヤ側への隠密偵察の出掛けます」

「行ってこい。つい1時間前、俺達も威力偵察に出たが、斥候らしきT-72に阻まれた。連中、こちらの動きに気付いているらしい、気を付けろ」

「了解しました」



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OPT.07

 4月 30日、敷島学園 第11分校。

 その敷地内から、ウルフ多用途車と九五式小型乗用車が出発する。ウルフ多用途車の運転席には濃藍、助手席に清定、後席に天狼と千佳が、九五式小型乗用車の運転席に六合華、助手席に光、後席に忠実が座っていた。

「何で、買い物に行くことになったんだっけ?」

 光が問い掛けると、六合華が答える。

「親睦を深めるのと、334指令に必要な物を買い揃える為に、八坂さんが企画したんだよ」

「何だってそんな事――」

「でも、私達、あまりお互いのことをあまり知っていないし、いい機会だと思いますよ」

 光の愚痴に、忠実が言葉を重ねる。

 

 森の中の道路を走る2台は、やがて森を抜けた。そこには、街が広がっていた。

 

 

 

 アトランテ大陸には、各国の防衛技術研究校の他に、戦闘訓練や模擬戦争の為のハリボテの街が至る所に作られている。しかし、いつしか生徒相手の商売をする輩が住み着き始め、いつの間にか本当の街と化した場所もあった。

 その1つが、サルポロ市である。

 

 サルポロ市内に入った2台は、大通りを進み、細い路地へと入る。そして駐車場に止まった。九五式小型乗用車の右隣には、乗用車にしては大き過ぎる車が止まっていた。竹内製作所 軽装甲機動車、敷島連邦陸軍で制式採用されている歩兵機動車である。そのフロントバンパーには[381歩小 本部]と白いスプレーでかかれていた。

「このLAV(軽装甲機動車)ってさ……」

「うちの学級委員が使ってる車だな」

 清定と濃藍が軽装甲機動車を眺める。そこへ、車の主がやってきた。

「あら、4分隊の方達」

「あ、学級委員だ」

 そこには、金髪ポニーテールの長身美女が立っていた。しかし着ているのは、光達と同じ真っ赤なブレザーにパンツルックである。

 アレクサンドラ=アーサー=ペティット、グレートイングランド連合王国から敷島連邦へと移住し、敷島学園に入学、歩兵科 1年 381組の学級委員であり、第11機甲旅団 第381歩兵小隊 小隊長を務めている。

「なんか買い物?」

「用が無ければわざわざ街まで出ることは無いでしょう? 貴女達も買い物かしら?」

「作戦で必要な物を買いに。んで、何を買ったの?」

 清定が訊ねると、アレクサンドラはレジ袋を掲げた。

「包丁だ」

「包丁?」

「今使ってるのが折れてしまってな。まぁ、もう8年も使ってたからな。しかし、和包丁の切れ味は素晴らしい。敷島刀と同じ製法で作られ、鍛え抜かれた鋼鉄の美しさ――」

「待って長くなるじゃんその話」



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