おにてん! 転生トラックに轢かれた俺は鬼滅の刃に転生憑依しちゃった!? しかも鬼で!? (はやせこういち)
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おにてん! 転生トラックに轢かれた俺は鬼滅の刃に転生憑依しちゃった!? しかも鬼で!?

無限城に、上弦の鬼集う。

 

上弦の鬼が一同に会すなど、一世紀に一度あるかないかだ。

 

堕姫が緊張感を持ってその場に臨んだのも当然だったと言える。

 

 

「あれー?」

 

 

初めに違和感に気づいたのは、上弦の弐、童磨だった。

 

主がまだ来ていない事もあってか、その口調は軽やかで雲のようだ。

 

 

「そういえば、玉壺殿と半天狗殿、いなくない?」

 

 

「清々する」

 

 

上弦の参、猗窩座の言葉は非常に冷徹だ。それは、仲間意識に欠ける鬼として、正しい姿である。

 

対して童磨の口ぶりからは名残惜しさが見てとれた。無論、形だけのものだ。

 

 

「ええー? 俺は寂しいなあ、彼らとは長い付き合いだった訳だし?」

 

 

「…………」

 

 

「猗窩座殿、黙らないでおくれよ。久々に会ったんだし、旧交を温めようじゃないか」

 

 

猗窩座の沸点を振り切ろうとしたまさにその時、琵琶の音が無限城に鳴り響いた。

 

 

「――――あいつらは、十二鬼月から外した」

 

 

首魁、鬼舞辻無惨。

 

その姿を認めるやいなや、猗窩座は畏まったように膝を折った。

 

依然として薄ら笑いを浮かべた童磨が、主に問いかける。

 

 

「あらら、入れ替わりの血戦で負けてしまったのか。貴方様のご期待に添えぬ鬼が、二人も現れるとは」

 

 

「いいや、血戦は行われていない」

 

異常であり、異例である。少なくとも、童磨の記憶にはなかった。

 

数世紀に及ぶ鬼としての半生――上弦の面子が入れ替わった事は、何度かある。童磨自身、現在の立ち位置に収まったのは、入れ替わりの血戦によるものだ。

 

入れ替わりの血戦。それは、鬼舞辻無惨の嫌う変化そのものだ。しかし同時に、組織である以上避けられぬ宿命でもあった。

 

鬼とて組織の体を成すのだから、新陳代謝なくして進歩する事は出来ぬ。だからこそ、上弦の鬼にとって入れ替わりの血戦は非常に重要だった。

 

さりとて、無惨の決定に口を挟むものが、いる筈がない。

 

 

「玉壷と半天狗の事はどうでもいい。お前達を呼びつけたのは、別の理由だ」

 

 

上弦の鬼は、考えるのを止めた。当然だ。無惨の御言葉を前に思考など、あまりにおこがましい。

 

だが、脳裏を掠めたものが無かった訳ではない。青い彼岸花、産屋敷――無惨が執着しているものはそう多いものではない。

 

加えて、上弦の鬼を召集したのだ。これらに関するものだろうと彼らが思い浮かべるのも、無理はない。

 

果たして、無惨は彼らの予想を悉く裏切った。

 

というより、意味が理解出来なかったという方が正しい。

 

「私はこれから雲取山の竈門禰豆子を鬼にしてくる。お前達は竈門禰豆子が日光を克服出来るようになるまで、全力でこれを支援しろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「竈門禰豆子……?」

 

誰となく呟かれたそれを、罪に取る事はできないだろう。鬼舞辻無惨の言葉は、さしもの上弦の鬼とて理解不能だった。

 

だが、一から十まで事細かく説明する気など、無惨には更々ない。

 

 

「本来であれば竈門炭治郎も殺す所だが、禰豆子が日光を克服出来なくなるかもしれない。故に生かす」

 

 

「竈門炭治郎……?」

 

 

「また、今後障害となる可能性があり、過去、何時、どこで鬼と戦ったかが分かっていて、なおかつ今後柱になるであろう存在……胡蝶しのぶ、悲鳴嶼行冥、不死川実弥は全員殺しておく。他の柱は駄目だ。竈門禰豆子の成長に少なからず関わっている可能性がある」

 

 

「こ……?」

 

 

次々湧いてくる名前に、とうとう上弦の鬼の混乱は頂点に至った。

 

しかし、無惨は部下の混乱が収まるのを待つような人物ではない。

 

 

「新たに上弦の鬼となった者達を伝える。上弦の肆、一人目は鳴女だ」

 

 

ようやく理解し得る内容に差し掛かったところで、その言葉は驚きをもって迎えられた。

 

鳴女。特殊な血鬼術を使う事から、長年無惨に重用されてきた鬼だ。鬼舞辻無惨の本拠地であり、上弦の集合場所となった無限城の、管理者でもある。

 

彼女は代えのきかない存在だった。重宝されているが故に、という奴である。

 

最悪代えのきく十二鬼月と違って、彼女の血鬼術は非常に有用だ。

 

そんな彼女を十二鬼月に据えたという事実に、無惨の真剣さが見てとれた。

 

「次に二人目。上弦の伍。夢幻」

 

ゆめまぼろし――奇しくも無限城と同じ読みだ――その名に正しく、その男は唐突にその場に現れた。

 

襤褸布に身を窶した男である。鬼の背格好から年月は分からぬゆえ、青年であるかは定かではない。

 

ただ瞳に刻みこまれたそれは、確かに上弦の鬼の証左だ。この場に立ち入る資格を持ち合わせているのは確かである。

 

男の第一声は、こうだ。唐突に鬼舞辻無惨に顔を向けたかと思うと、満面の笑顔を浮かべながら、

 

「きききききき鬼舞辻鬼舞辻無惨無惨、死ね!!!!」

 

瞬間、男の体はミンチになった。

 

全集中 月の呼吸――陸ノ型 常世弧月・無間

 

蓮葉氷

 

破壊殺・滅式

 

飛び血鎌

 

帯パンチ

 







最後の台詞はラップ調な感じで


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三流演出家 鬼舞辻無惨 上

手持ち無沙汰に開いた書。

 

 

 

そこから視線を外す事もなく、鬼舞辻無惨は問いかけた。

 

 

 

「で?」

 

 

 

「悲鳴嶼行冥、不死川実弥と思われる人間は殺害済みです。無惨様のおっしゃっていた鬼と戦闘中の所を、強襲致しました」

 

 

猗窩座の言葉に、無惨は特段興味を示さなかった。当然である。

 

 

相手は呼吸を使えず、いやその存在すら知らない。鬼殺隊でもない人間を殺す事など、造作もなかった。

 

 

たかだか身体能力が良いだけの木偶の坊、たかだか特殊な血を持つ小童が相手だ。上弦を相手にすれば、一溜まりもない。

 

 

――竈門穪豆子が十二歳、つまり鬼滅の刃開始時の年齢になるまで、しばらくの猶予がある。

 

 

その間、鬼舞辻無惨は徹底的に鬼殺隊戦力の削減を図った。

 

 

いずれ柱になるであろう逸材も、経験あってのものだ。

 

 

鬼と素手で相対した男は、いずれ確かに岩柱の名を冠しただろう。それは黒死牟が殺した。

 

極めて稀な血を持った男は、いずれ確かに風柱の名を冠しただろう。それは猗窩座が殺した。

 

出身地すら分かっているのだ。相手を見つける事は随分と簡単だった。

 

特に、今の無惨には便利な道具がある。

 

「無惨様がおっしゃっていた蛇柱なる者は、現在調査中です」

 

「伊黒小芭内は影が薄い。が、八丈島にいる事は分かっている。それに、鳴女の血鬼術があればいずれ見つかる」

 

――無惨様は更なる高みに昇られた。黒死牟の言葉が猗窩座の脳裏を過ぎる。

 

まるで未来を見通しているかのような振る舞いに、猗窩座は言い様のない高揚感を抱いた。

 

 

仏教の言葉に、天眼通というものがある。常人には見る事の出来ぬ事柄を、自由自在に見通すというではないか。無惨の口ぶりは正にそれだった。

 

 

無惨は、既に産屋敷の所在まで把握していた。鳴女の血鬼術があれば容易いものと言えよう。

 

 

全く便利な鬼で、こんな事なら早くから血を大量に与えていたものをと、無惨自身歯噛みしたほどだ。

 

 

「――そうだ。もっと早くから気づいていれば、産屋敷や鬼殺隊に頭を悩ませる事はなかった。何故気づけなかった? そうだ。お前のせいだ、夢幻」

 

 

猗窩座を退室させた後、微かな苛立ちが無惨を襲った。ささくれ立ったそれは些細なものであったが、許せる無惨ではない。

 

 

無惨が床を踏み鳴らす。いや、踏みつけているのは床ではない。

 

 

鬼の頭だ。まるで蹴鞠のような扱いを受ける度、凹んで、縮んで、形を変えて、苦しみの表情を浮かべている。

 

 

無残だった。その鬼は、無惨によってこうなってしまった。

 

 

地べたに這いつくばったそれが上弦に名を連ねる者だとは、それこそ夢にも思うまい。

 

 

夢幻。それが男に与えられた名である。

 

 

「た……たたんじ……」

 

夢幻の言葉には意思が見受けられない。

 

 

一方、その場から離れた猗窩座もまた、夢幻の事に考えを巡らせていた。

およそ、上弦らしからぬ、鬼。恐らくは、無惨様の血に耐えられる才能がなかったのだろうと、猗窩座は考えていた。

肉体こそ猗窩座や黒死牟に比するものがあったが、頭がおかしくなってしまっている。時折人の言葉を取り戻す事があったが、それも猗窩座に理解出来るものではなかった。

 

所変わって、無惨と夢幻。普段から無惨は鬼に手厳しいが、とりわけ上弦の伍には更に厳しい。

無惨の手刀が、夢幻の頭をかち割る。

 

「夢幻。夢幻。夢幻。起きろ。この私が呼んでいるのだ。起きるがいい」

 

無惨の手が、脳みそをいじくる。

 

するとどうした事か。それまで虚ろだった夢幻の眼が意志を取り戻す。それと同時に鳴り響いたのは夢幻の悲鳴であった。

 

「ああああああああああああ!? れれれれれれれれれれれれれれれ!????????」

 

「喋るな」

 

夢幻の口が顔半分ごと、捥がれた。だが、悲鳴が止まることはない。

 

鬼舞辻無惨をも凌ぐ再生速度が夢幻の長所だった。

 

「それがチートという奴か?」

 

「ここここここおこここ、こんなチートいらないいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

 

「夢幻。私を焦らすな。私が今、何を必要としているか分かるな? 私の必要としている事を、話せ」

 

「ひ、必要? 必要って、何をひつよう?」

 

「私の欲しているものが分からないのか?」

 

無惨の眼差しが、夢幻に向けられる。上幻の鬼の瞳は、一瞬にして恐怖で染め上がった。

夢幻は、鬼舞辻無惨のパワハラに耐えられない。

夢幻は必死に考え込んだ。無惨の欲している情報、情報、情報、情報!? 

 

「な」

 

「早く話せ」

 

「な! な、なきめの、血鬼術は! ば、ばばばば、ばれる、可能性が」

 

「もっとしっかり思い起こせ」

 

「あああああああああああああああ!! た、炭治郎! 炭治郎!  たんじろおおおおおおおおおおおお!!!!!! 早くこいつを煽りの呼吸でコロ、オギョ?!」

 

鬼が叫ぶ。

 

 

夢幻――いや、早瀬幸一はチートを持っていた。いわゆる、オリ主最強設定である。

 

再生速度といった鬼としての強度――並びに血鬼術においては、あの黒死牟さえ辿り着かぬ高みに座すと言っていい。

 

だが、夢幻の神様転生ギフトはそれだけだ。それが致命的だった。

 

『鬼だけど鬼滅の刃で気楽に生きる』をやるにしても。

 

『鬼だけど鬼殺隊やってます』をやるにしても。

 

早瀬幸一は鬼舞辻無惨の知覚の及ばぬ所に行くべきだったのだ。

 

それを、最優先するべきだった。

 

或いは、前世の記憶を忘れるべきだった。

 

 

未来の柱達は、この鬼のせいで死ぬ事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 




この短編が完結する前に蛇柱過去編入ったら、
その時点で2話の追記修正します。伊黒小芭内は死亡します。


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