ソードアート・オンライン 〜ユイの願いごと〜 (ロックン)
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バーストキャリバー編
「限定クエスト」
「〜だよな」「私もそのほうがいいと思うよ」
いつもと少し違うパパとママの会話でわたしは目覚めました。
「パパ!ママ!おはようございます!」
わたしは朝起きるといつものようにすぐに大好きなパパとママに朝の挨拶をしました。
「おはようユイ、毎朝えらいな」「おはようユイちゃん!」
パパは毎朝新聞を読んでいてわたしが挨拶すると頭をなでなでしてくれます。ママはキッチンで朝ごはんをつくっているはず…なのですが、今日はお二人とも真剣に話し合っているようすでした。
「パパ、ママどうかしたんですか?」
わたしは我慢しきれずに聞いてしまいました。
「あっ、ああなんでもないよ。アスナ朝食にしよう」
「そっ、そうだね〜。ユイちゃんお腹すいたでしょ!ちょっとまっててね!」
わたしはパパとママがなにか隠し事をしている気がしましたが、それは恐らくALOに追加アップデートされた世界【浮遊アインクラッド】の新層解放イベントのことだと思い聞きたい気持ちを抑えました。
パパとママはわたしにあまりSAO、ソードアート・オンラインでの戦いのことは話したがりません。
ソードアート・オンラインそれは【これは、ゲームであっても遊びではない】というコンセプトでつくられたVRMMOです。このコンセプトどうりこのゲームの中で死んでしまった人は現実世界でも死んでしまうという悪魔のゲームでした。
あの世界では約4000人ものプレイヤーが仮想世界、現実世界から亡くなっています。またパパやママはもちろん生き残った約6000人の人たちも心になんらかの傷をのこしています。
わたしはあの世界で「被害者」でもあり「加害者」でもあるのです。わたしはあの世界で【つくられた】のですから…。
「ユイちゃ〜ん、ごはんできたから運ぶの手伝って〜!」
「は〜い!ママいまいきますからね」
あの世界でメンタルカウンセリングプログラムとしてつくられたわたしはプレイヤーをモニタリングしている内に恐怖、絶望などの負の感情によってエラー蓄積していきました。
そんな中わたしはモニタリングしている中で他のプレイヤーとは全く異なった感情を示している2人のプレイヤーを見つけました。それがパパとママです。わたしはパパとママに会いたいがためにフィールドをさまよいました。
記憶をなくし助けられたわたしをパパとママは「娘だ」と呼び抱きしめてくれました。カーディナルによって消去されてしまったわたしをプログラムとして保存し、このALOで展開してくれたのもパパです。
つまりわたしはシステムにより消去されましたが、多くの人をくるしめたそのシステムの一部でもあるのです。
「…ちゃん、ユイちゃん。どうかしたの? もしかしておいしくない?」
考えながらママの手料理をたべていたわたしはどうやらなにも聞こえていなかったようです。
「そんなわけないですよ!ママのごはんが美味しくないはずないです!スキル熟練度もいまのところ料理スキルをコンプリートしているプレイヤーはママ含めて8人しかいません。それにママはユイのママなんですから!」
「ほんとうれしいこといってくれるわね、うちの娘は。」
「まったくだな!」
ママの言葉に隣にいたパパが頷きながら頭をなでてくれています。
そんな中わたしは昨日パパにたのまれた、レア片手用直剣入手クエストの情報を調べおえたことを思い出しました。
「ところでパパ昨日のクエスト情報の話しなんですけど、どうやらそのクエストはとても珍しい限定クエストでクエストを受けられる人数はプレイヤー中100人しか受けられないようです。あっでも…」
わたしが続きを言おうとしたところでママが目を丸くして
「ひゃっ、100人!?」と大きな声を出したのをきいて思わずわたしは口元を緩めてしまいました。
パパの場合は…う〜んこういう表情なんていうんでしょう?
喜んでるというか自信満々っていうんでしょうか?
とにかく悪そうな笑いかたしてます!
「あっごめん、ユイちゃん続きをいって」
すこしママが頬を赤めながらいうのを見てわたしは続きをしゃべりはじめました。
「でもそのクエストはなぜかパーティーメンバーのうちだれかが 結婚 していないと起動しないようなんです。だからそのクエストをうけられる人数は限りなく制限されていますし、これはユイが調べた最新の情報ですからまだ知っているプレイヤーも少ないと思われます」
わたしは自信満々でつい腰に手をあててしゃべってしまいました。すこしはずかしいですがパパがよくやってることなので気にしないでおきます。
「ユイ、それで内容はどういうものなんだ?」
パパが目をキラキラさせながら聞いてくるのをみて、「パパわたしより子供です」と思いながら答えました。
「すみません、わたしでもそこまで権限がなくて調べることはできませんでした。わかったことは55層の氷雪地帯のどこかにいる女性NPCから受けられるということだけです。」
わたしはすこし申しわけなさげにこたえましたがすぐにパパがわたしをもちあげて膝のうえにのせてくれました。
「それだけでも十分だよ、ありがとうユイ」
いきなりのことでびっくりしましたけど、パパの膝は気持ちがよくて、気がつくと微笑んでいました。
そんな姿を見ていたママが呆れたような様子でパパとわたしの食べかけのごはんを下げようとしたのをみてパパとわたしは慌ててごはんを食べました。
それをみてママはニコニコしてました。
朝食を食べおえすこしたつとパパがクラインおじさんやリズベットさんといったいつも方々にメッセージをおくっていました。
「よし!クラインたちにもメッセージ送ったら10時に55層に集合することになった」
それを聞いてママが返事をしました。わたしもそろそろこの姿からナビケーションピクシーの姿に変ろうとすぐに変身しました。
ナビケーションピクシーというのはALOでのわたしの役割です。名前のとうりプレイヤー、パパやママの情報における支援、マップ情報やプレイヤー情報(目の前にいる相手に限りますが)など普通のプレイヤーにはない権限があり見た目は小さな妖精さんです!
1時期この変身をみていたママやシリカさんから「プリキュアみたい」となかなか評判がよかったのですよ!ふふっ、わたしは現実世界のTVを知らないためわかりませんがとにかく 強い らしいです。
「わたしもプリキュアになりたいです〜。」と思わず口にだしてしまいあわてて口をおさえましたが遅かったようです。
「あはは、そうかユイは大きくなったらプリキュアになりたいのか。お〜いアスナ〜、ユイは将来プリキュアになるってさ〜」
「パッ、パパやめてください!」
「えっ、だめよユイちゃん、プリキュアは戦うのよ!?そんな危ないことママが絶対ゆるさないからね!!」
ママが真剣な顔で答えたのを見てパパは大笑いしていました。
「も〜うママまで…。そんなこと話してる間に約束の時間に遅刻しちゃいますよ!」
わたしこれでも恥ずかしがり屋さんなんです。あっでもさすがにプリキュアになりたいなんていうのは本心ではないですからね!
わたしは大きくなったらママみたいになるんですから!
「ほらユイいくぞ〜!」と玄関からパパがわたしを呼ぶ声が聞こえたのでわたしは元気よく答え55層に向かいました。
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どうもはじめましてロックンと申します。
ここまで呼んでくださった方いらっしゃるかどうかはわかりませんがありがとうございます。
この物語はサブタイトルが〜ユイの願いごと〜ということでキャラ視点では主にユイとキリトの視点で描くことを予定しています。
これから随時更新しますので読んでくださったら幸いです。
それでは…。
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「こころ」
「あっお兄ちゃ…じゃくてキリト君、アスナさんこっちこっち〜」
転移門を通るとすぐにリーファさんの透きとおった声がわたしの耳に届きました。
リーファさんは現実世界でパパの妹さんにあたるそうですからわたしから見ればおばさんです!でもおばさんというとなぜかパパが怒るので「リーファおばさん」と呼んだの一度きりです。
あ〜、ユイも妹がほしいです〜。
「もうなにやってんのよ遅いわよキリト〜」
リズベットさんが走ってくる私たちを見て呆れたように呟いていたのが聞こえました。(わたしは走るのではなく飛んでいますが…)
「ごめんごめん、ちょっといろいろあって…」
パパが頑張って弁解しているようですが次から次へといろいろ言われてパパとママが大変そうです。
それはもっともなことで現在10時10分なので約10分の遅刻ですから仕方がないことです。
ですが、この遅刻は半分以上がわたしのせいなのでパパとママが悪者扱いされるのはいい気分ではありません。
「みなさんごめんなさい、この遅刻はわたしのせいなんです」
うつむきながらわたしはまわりのみなさんに謝罪しました。
「へえ〜ユイちゃんが遅刻なんてめずらしいね」
リーファさんが目をまるくしているとシリカさんが
「なにかあったの?」と心配してくれたのかわたしの顔を覗き込んできました。
「この子、家を出て転移しようとしたらいきなり切断されちゃったのか消えちゃったのよ…」
そう…わたしは気づかない間に5分もの間、暗闇の中で一人でした。その中でわたしはSAOでのプレイヤーの声を再び聞くことになりました。
わたしをエラーするほどまでに追い込んだ「なぜ?どうして?やめて!死ぬの?お前のせいだ」といったプレイヤーの負の感情を…。
「…イ?お〜いユイ?」
「わっ、えっ、え〜となんでしょうか?パパ?」
気がつくと目の前にはパパの真っ黒な綺麗な目が至近距離でまっすぐわたしを見つめていました。
「だっ、大丈夫です!こんなことへっちゃらです!なぜ急にシステムダウンにまで陥ったのかわたしにもさっぱりわかりませんが、なんとかなりますよ!」
ついまた腰のあたりに手をついて喋ってしまいました。
わたしが元気にいうとまわりのみなさんは「これだから…」「ほんと誰に似たんだか」とかいろいろいっていますがわたしは自分でもパパに最近似てきたかなと思うとちょっとうれしいです。
「ねえ。いつまでここで喋ってるつもりなのかしら時間…もう20分になっちゃうわよ?」
「そうですよみなさん!善は急げっていうじゃないですか!」
シノンさんとシリカさんの声でわたしたちは氷雪地帯に向けて歩きだしました。
この会話の中でクラインおじさんはなにか言いたそうにずっとパパの真後ろに立っていましたが、リズベットさんの容赦のない追求に喋る機会を失ったみたいですね。
なんだか…かわいそうです。クラインおじさん。
しかし今朝のシステムダウンはいったいなんだったんでしょうか?単なるシステムエラーではなく、もっと大きな強大な力…そう、いうなればSAOでのカーディナルからの命令のようなものがわたしを引きずりこみました。
しかしこのALOではカーディナルシステムのバージョンがSAOに比べてすこし古いことから可能性は極めて低いと思うのですが…。
「ここにくるとはじめてリズと金属探して来たのをおもいだすな〜」
感慨深そうにパパが言うと
「まったくもってそうね!あんたがいきなりわたしの自慢の最高傑作を折ってくれたのも昨日のことのように覚えてるわよ!」
とまったく反対の怒りのような感想をリズベットさんが話しています。
なんかリズベットさん………こわいです。
「えっ、えっとそれに関しては御愁傷様というかなんてもうしたらいいんでしょうか……ごめんなさい」
その姿をみて思わずわたしもまわりのみなさんも笑ってしまいました。
パパはいつもこういう時ペコペコするんですよ。
「も〜う、浮気はだめですからねパパ!」
と冗談半分でいうと驚いたことにまわりの大半の方(なぜでしょうか?みんな女性の方々)がいっせいに反応しました。
「ちょっ、ちょっとユイ!?」
パパは大焦りです!
「キリト…あんた…まさか…」「お、お兄ちゃん!?」
「キーリトー君?そんなわけないよね?」ママはニコニコしながら喋ってますけど、ふふっ、こういう時のママはすごくこわいんですよ?
もうパパはいえではペコペコしっぱなしです!
そんなことをごたごたいっている内にわたしの情報網(索敵システム)に一人のNPCが浮かびあがりました。
「みなさんもうすこし進んだところでNPCが待機しているようです。すぐに戦闘の可能性もあるので準備をお願いします」
まだなにかもめているようなパパはこれを機に「ほらNPCだってさ〜、楽しみだな〜。よしみんな頑張ろう!」などとといってごましかしているようです。
はぁ〜パパ、ママからにげられるわけないのにと思いながらやりとりを聞いていると目の前に一人の女性NP…あれ?
女性NPCじゃない。この寒い中武士のような着物をきていて髪は綺麗な白髪でどうみても女性NPCじゃないです。しかもお爺さんです!
わたしは困惑しました。みなさんも動揺していますが…
とりあえずはなしを聞いてみることになりました。
「おぉ〜!そこの道を行く旅人よ。すこしこのじいさんのはなしを聞いてくださらんか?」
「どうぞご老人、このクラインがどんな悩みも解決しますよ!」
クラインおじいさんかっこいいです!あれ?なぜでしょうそう思ってるのはわたしだけのようです。
「それはそれは頼もしいですな。ん?そこのお二方もしや夫婦ではございませんか?」
パパとママがうなずくとまわりのみなさんもこのクエストが限定クエストだと確信した様子で続きをうながしました。
「それはもう昔のことですが。この氷雪地帯の[水晶の剣山]には地下へと続く隠し扉がありましてなそこをぬけると肌が焼けるような暑さの灼熱の世界が広がっているそうじゃ。そこの世界の主のドラゴンはこの氷雪地帯のドラゴンと戦い傷つきその世界へと逃げ込んだようなのじゃ。そこでそのドラゴンは死に絶えそのこころは一振りの剣にやどったそうじゃ。一振りすれば自分の周囲をよけ焦がすほどの力があるといわれておる。まあ、いまはその隠し扉があるかは甚だ疑問ではあるがの。いやはや手間を取らせて悪かったのもしも扉をみつけたらこの老人におしえておくれ」
ここでクエスト受理のyesをパパがタップするとクエストが始まったのかわたしの情報に隠し扉の位置が更新されていました。
「パパ!隠し扉の位置はわたしが案内します!」
といいつつもわたしはすこし不安でした。こんなことははじめてだったのです。わたしが情報をとり間違えるなどということは…。
「よし!みんな行こう!」
先ほどのおじいさんのはなしの中の[こころ]という言葉でSAOでのプレイヤーのことを思い出しました。
「パパ…。こころってなんでしょうか?」
この質問にはまわりのみなさんもう〜んと困った様子でしたが、わたしはどうしても知りたかったのです。
こころとはなにか?なぜ存在し、それを制御するためになぜわたしはつくられたのかを…。
「それはわたしも少し気になるわ」とシノンさんも加わりみなさん真剣に考えはじめましたがやはり難しいみたいでした。
「ごめんね…ユイちゃん。その質問はいまの私たちにはわかりそうにないわ。でもいつかママがちゃんと答えてあげるからいまはゆるして。」
ママにやさしく言われて渋々わたしは引き下がりました。
ユイはママの子供ですからママを困らせたくはありませんからね!
そんなことをいっている間にどうやら[水晶の剣山]についたようですが、なぜかパパとリズベットさんはここを知っているようでした。
「キリト!ここって!?」
「ああ!そうだ!ここはリズと俺が金属を取りに来たときにドラゴンと戦った場所だ」
それがどうかしたのかとみなさん聞こうとしたところで
「まさか……!?」とパパとリズベットさんは天を仰ぎました。
すると高い雄叫びが[水晶の剣山]にこだましました。
どうもロックンです。
お読みいただいた方ありがとうございます。更新はやすぎじゃね?と思う方申し訳ないです。
わたくし学生ですので冬休み中で暇すぎるのでございます。
今回もユイ視点です。もうすこししたらアスナ、キリトと視点を変えていく予定です。
今回はクエストがしっかりと進められてよかったです笑
自分で書いているとどうしても会話をいれたくなってしまいクエストが進まないのです。申し訳ありません。
さて次回ではドラゴンとの対決を主に書こうとおもいます。
感想のほうどんなことでも書いて頂けたら幸いです。
それでは…。
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「 決戦と異変」
わたしの考え不足でした。少しこの層のことを調べればすぐに予測できたことなのに、わたしの情報不足ゆえみなさんを危機にさらすことに……。
いえ、いまはそんなこと考えている場合じゃありません!
わたしの責任ならばわたしができることをしなくては!
わたしはすぐさま自分のAIをサポートのみに向けました。
「みなさんすぐにわたしはドラゴンの行動パターンの分析に入ります。みなさんはそれまでヒットアンドアウェイでお願いします!」
「了解」「わかったわ!」
短く答えるといっせいにみなさん走りだしました。
そう、いくらパパとリズベットさんが1回このドラゴンを攻略したといえどこの[新アインクラッド]ではどのモンスターもいままでの強さとは比べものにならないほど戦闘力が上がっています。
ましてやボスモンスターとあればそれはもう別次元の強さといっていいでしょう。
ドラゴンは急降下した後、再び急上昇すると大きく上を向きました。
これは……ブレス攻撃?いくらなんでも速すぎます!?
「キリノ字こいつはまさか…。」
「パパ!!気をつけてください!ブレスがきます!」
「わかってる!だがあまりにもくるのがはやすぎないか?」
わたしもそう思いました。旧アインクラッドではブレス攻撃は大抵ボスモンスターのHPゲージが1本と半分程度減少した後放ってきていたのですが、このドラゴンのHPはまだ1ドットもへっていないのです。
でもモンスターの戦闘能力が格段に上がったこの[新アインクラッド]なら予測できないことではありません。
「みなさん左に全速力でステップしてください!あの光はおそらく麻痺属性だと思われます。あたるとスタンでうごけなくなってしまいます。」
回避運動の直後にドラゴンの口から電気を纏った光の矢のごとき光線がはなたれ、先程パパがいた場所に存在してはずの氷はあとかたもなく消えていました。
「ユイ!まだか!?」
もうすこしあとすこし時間があれば…。
「もうすこし…。パパあとすこしです!」
ブレスをはなったせいかドラゴンは一瞬ですが動きが硬直しました。パパがそれを見逃すはずがありません。
「チャンスだ!全員ソードスキルを!」
わたしが気づかない間に剣を二刀装備していたパパは二刀流突撃技《ダブルサーキュラー》をはなちました。
青く輝きながら目にも止まらぬ速さで突進する姿はまるで流れ星のようです。
あとのみなさんがパパに続いてこれもまた目にも止まらぬ速さの突進技はまるでドラゴンが自らあたっているかのようにあたっていきます。
すると大きな悲鳴とともにドラゴンは高度を落としました。
「痛い…。やめて…。」
突然の声が響くと同時にわずかな頭痛がわたしをおそいました。その声は幼い男の子の声のように思えました。わたしはあたりを見回しましたが人影はわたしたち以外にはみあたりません。痛みが引くのを待ち再び戦いに全神経を集中させました。
ドラゴンが高度を落としたと同時にわたしの分析も完了したのでグッドタイミングです!!
「パパ!おわりました!ブレス攻撃のあとは約2秒間のインターバルが存在します。 どうやらあのドラゴンは部位破壊が可能で、羽を破壊することによって戦闘能力が大きく減少、攻撃パターンもブレス攻撃と鉤爪による攻撃のみになるはずです。またドラゴンの巣に落ちてしまうと自力での脱出は不可能と思われます。気をつけてください!」
「よし!みんなユイの情報どうりならブレス攻撃のあとがチャンスだ!すべての攻撃を右翼に集中するんだ!
ユイ、ブレスのタイミングはユイにまかせる。」
「了解です!」
わたしは頼りにされている。ちゃんと役割を果たさなければ…。
先程の流れだとドラゴンはまた急降下と急上昇を時折おこなうはず。
「キャッ!?」
考えていた直後、シリカさんの短い悲鳴が響きました。
一回目の急上昇はシリカさんを狙った尻尾を180度振り回しながらの上昇でした。
まともにくらったシリカさんはレッドまではいかなかったもののHPバーが大きく減少しています。
シリカさんのビースト、ピナさんが回復行動をとっているようですが間に合うはずもなく、再びシリカさんを狙い急降下して突進してくるドラゴンをキュィーンという効果音とともに駆け寄ってきたパパとクラインおじさん、ママの三人がかりと受け止められドラゴンは大きく仰け反りました。
すると3人ともこれを予測していたのか
「スイッチ!!」と叫び隙間を開けてステップすると隙間から入れ替わるようにリーファさん、リズベットさん、シノンさんがジェット機のような勢いとともに三人ともソードスキルをドラゴンの顔面に直撃させました。
これによりすでにドラゴンのHPは残る2本となりたまらず急上昇しました。
わたしは来た!と確信しました。
「みなさん!ドラゴンが上空に上がりきったところでブレス攻撃がくる確立が非常に高いです。」
「よし!みんな各自でブレス攻撃を回避、直後に最上位スキルでドラゴンにダメージを与えるんだ!」
幸いなことにドラゴンががむしゃらに暴れてくれたおかげで最初は狭かったつうろも今では広場並にひろがっています。これならSAO、ALO 、GGOの中でもトップクラスのプレイヤーのみなさんがよけれないはずはありません!
わたしの分析どうりドラゴンはブレスのモーションに入りはじめました。
わたしは目を見開きながらドラゴンの動きを凝視しました。
4…3…2…1…
「パパ!ブレス攻撃、きます!!」
わたしが声を張り上げたのと同時にドラゴンの口から鮮やかな白銀のブレスがはなたれました。
みなさんは先程と同じように見事に回避しました。
そして一番最初にドラゴンに向かって行ったのはママです!!
「はあぁぁ」
あれはママの最上位細剣技の一つ、《フラッシング・ペネトレイター》です。
凄まじいほどの衝撃音とともに彗星のようなライトエフェクトを纏った剣先はドラゴンの右翼に貫通しました。
「次、シリカちゃん!」
「はい!」
先程まで回復に専念していたシリカさんが復帰し短剣最上位スキル、《エターナル・サイクロン》まるで吹き荒れる周りの風をすべて見方につけたかのような鋭い斬撃が同じように命中すると、クラインおじさん、シノンさん、リーファさんと続けて最上位スキルをヒットさせ、部位破壊が完了したのかドラゴンは地上に叩きつけられたかのように大きな音ともに墜落しました。
そこに待ち構えていたかのようにパパが最後の攻撃を加えようとしています。
「これで終わりだぁぁぁ」
パパの最強剣術、二刀流最上位スキル《ジ・イクリプス》驚異の27連撃
「もっと、もっともっと速く…!!!」
太陽のコロナのように放たれる斬撃はすべてドラゴンの顔面にはいりその技の速さと長さはまるで50連撃はかるく越しているのではないかと思わせるほどです。
左右交互にライトエフェクトを纏った剣を振るい右切り下げ、左切り上げ、右水平切り、左右での突き…これを目にも止まらぬ速さでうちだしているのです。
これはもうスキルを知っているパパ、ママ、わたししかどのような動きをしているのかわからないでしょう。
最後の斬撃をなす術もなくただ受けていたドラゴンは最後のかん高い断末魔とともに死散しポリゴンの欠片を撒き散らしました。
「嫌だ。まだ消えたくない…。」
その瞬間わたしは再び幼い男の子の声が聞こえました。
「っ…。あなたは一体!?」
わたしの頭に再び違和感を感じます。
しかし、今度の頭痛は先程よりも強く重いものでした。
わたしの頭の中にパパがドラゴンを斬っている姿がうつしだされたことからそれがドラゴンの[こころ]だと気づきました。
「パパ、ママ…。」
わたしはなんとかパパとママのところへ歩いていくことに成功しました。
「っ…。こころの叫びが…。ぁぁぁ。」
しかしわたしはそこで再び意識を強大な力によって黒いデータの海に引きずられていきました。
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私はキリトが二刀流最上位スキル《ジ・イクリプス》をドラゴンにうち終え死散させた瞬間をみて、張り詰めていた緊張がほどけたのを感じへろへろと冷たい氷雪地帯にも関わらず座り込ました。
スキル発動後の硬直を解かれ近づいてくるキリトが
「おつかれ!アスナ!」
と声をかけてくるや否やすぐに返事を返す。
「キリト君もおつかれさま!」
などと将利の言葉を交わしているうちに二つの異変は突然に起きた。
一つ目はドラゴンが死散した場所から地面が張り裂ける音とともにマンホール程度の大きさの階段が出現したこと。
二つ目の異変はユイの様子にあった。
「パパ、ママ…。」
なぜか子供の姿に戻ったユイがおぼつかない様子でこちらに歩みよってくるのでどうしたのか?と尋ねようとすると…。
「っ…。こころの叫びが…。ぁぁぁ。」
まわりにいた誰もが一斉に声の主を振り返るとそこには子供の姿で立ち膝になっている私と彼の愛娘がいた。
するとあろうことか突然私の目の前で愛娘の姿が崩れ落ちるように倒れたのだ。
「ユイちゃん!?」
すぐさまキリトと私が駆け寄りユイを抱きとめる。
まわりにいたリズベットやシノンたちは何事かと私とキリト君に説明を求めているが私やキリト君にも状況がまったく飲み込めていないのは言うまでもないだろう…。
「アスナ…この状況は…。」
私の最愛の彼が愛娘の崩れ落ちる姿を見て私に目で問いかけてくる。
「うん。そうだね。似てるね……。あの時、旧アインクラッドでの[はじまりの街]でのユイちゃんの様子と…。」
そういったとたんにクライン、シリカ、リズベットといった旧アインクラッドを生きた人々は状況を理解したようだった。
彼らはユイに直接会ったことはなかったが私とキリトがユイのはなしを聞かせたことは一度や二度のことではない。
一方リーファやシノンは何が何だかさっぱりわからないといった様子でこちらをみてくるが、キリトと相談した後、あとで説明するといいはってお抑えてもらうことにした。
私はただひたすら苦しそうな愛娘の顔を見つめた。
ユイは…私たちの娘はいまでもまだ苦しんでいるのだろうか?
しかしなにを?
思考を張り巡らせるが答えにたどり着くことはなかった…。
どうも暇人のロックンです。
しばらくはユイ視点とかいっときながら今回最後のほうからアスナへと視点が変更されましたことお詫び申し上げます。
バトルのシーンに関してはド下手だとは思うのですがお許しねがいます笑
今回はボス戦に大量に文字数を使ったためそこまではなしがすすまなかったことも申し訳ありませんでした。
なんだかあやまってばかりですが…笑
次回はユイのその後のはなしや、クエストの方も進展させて行きたいとおもっております
ご感想頂けたら幸いでございます。
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「 守護者」
わたしを深い思考の中から引きずりだしたのは親友の一言だった。
「アスナ!?いつまで呆けてるのよ?リーファとシノンにもちゃんと説明した方がいいんじゃないの?」
顔をあげると微妙な表情をした二人がこちらを見据えている。
しかし私は先程約束したにも関わらずユイについて話すことを躊躇ってしまった。
「アスナ、話しても大丈夫だ。理由も知らずに巻き込むのは、俺たちもいい気分じゃないだろ…。」
「………。そうだね。」
私は不思議に思ってきた。
なぜ彼…キリトはこのような状況の時、いつも自分を強く保てているのか。
彼の声を聞くたびに私の心は慰められる。
ユイちゃんのためにわたしがいまできること…。
私は大きく息を吸い、ゆっくりと話しはじめました。
「もう知ってることかもしれないけれどユイちゃんはAI…、人工知能なの。」
アスナの言葉にリーファが大きく頷く。
「はい。そこまではアスナさんをこの世界でキリト君と探している時、ユイちゃんが話してくれました。それがなにか?」
私が続きを言う前に隣で黙り込んでいたキリトが口をひらいた。
「ユイはこの世界で生まれたわけじゃないんだ。元々はSAOのカーディナルの一部、メンタルカウンセリングプログラム試作一号コードネーム…ユイ。これが俺たち娘の本当の姿なんだ。」
キリトの言葉にすぐさまシノンが、反応する。
「でも、アーガスは解散したはずよ?GGOやALO、別の世界にそれもAIのユイちゃんがコンバートができるはずが…。」
シノンは驚いていたが冷静にキリトの話しを飲み込もうとしているように見えた。
この冷静さこそ…スナイパーとして最も重要なスキルなのであろう。
「それは…。いや最初から話した方がいいな。」
それから彼は、私たちがはじめてユイと会ったことから話しはじめた。
記憶をなくし二十二層の森で一人さまよっていたこと。
記憶をなくしていた理由がSAOプレイヤーの負の感情であり、エラーを蓄積していったからだということ。
そして[はじまりの街]の隠しダンジョンで権限を使いボスモンスターを倒し窮地を救ってくれたこと。
「システムコンソールに触れたことでユイはプログラムのチェックをされ、カーディナルに異物と判断され消去されてしまったんだ。だけど俺がユイの権限が残ってる内にユイのプログラムを切り離し圧縮してとりだしたんだ。」
「キリトらしいわね。」
まわりから苦笑まじりの声が聞こえてくるが構わずキリトは話し続ける。
「それから月日が経って俺がアスナを探してALOにはじめてダイブしたとき、俺のステータスがSAOと同じことに気づいたんだ。そこでアイテムストレージを確認すると[MHCP001]…ユイのこころがあったんだ。それを展開することに成功したからユイはこうして…。」
そこまで喋ったところでシノンが右手をキリトを制した。
「……。なるほどね。だいたいの事情は理解したわ。キリト、アスナ。これが最後の質問よ。ユイちゃんはどうして今朝そして今、切断もしくは意識を失っているの?」
この質問には誰もがわからないだろう。キリトも例外ではない。
「ごめん…。シノノンそれはたぶんキリト君にもわからないと思う。私にも……。」
「わかったわ。話してくれてありがとう。スッキリしたわ。」
それからどれくらい経つのだろうか、長い間黙り込み皆それぞれ思考を巡らせた。
「もしも…今朝と同じような現象なら5分もすればユイは回復するはずだ。前回と同じならの話しだが…。」
「そうですね。きっとまた元気になって戻ってきますよ!アスナさん、元気だしてくだざい!」
シリカの言葉に頷きながらもやはり自分のこころにかかっている霧が晴れることはない。
その後の話し合いによりまずは場所を離れることになった。
忘れていたが、まだクエスト実行中であり、いつモンスターがポップするかわからない。
そこでひとまずクエストの依頼人の老人のもとへ戻りユイの様子をみることになったのだ。
「大丈夫だ。アスナ、ユイのことだからきっとなんてことはないさ。なんたって俺の娘だからな!」
力なく腕をだらりと垂らしているユイを抱えたキリトの言葉に励まされながら私たちは[水晶の剣山]をあとにした。
ユイちゃん。あなたはいまどうしてるの?
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「ここはどこでしょうか?」
真っ暗な闇の中目覚めた。
「パパ!?ママ!?みなさん!?どこですか!?」
わたしは大声で叫んだつもりでした。ですが、この真っ黒な空間のせいでしょうか?自分が声をだしているのかすらわからないのです。
あれ?…わたしはなぜこんな場所にいるんでしょう?
ふとわたしは思いつきでマップデータにアクセスしてみましたが、UNKNOWN……情報は皆無、絶望的といっていいでしょう。
せめて…せめてパパとママがいてくれれば…。
「どうやら目覚めたようですね。」
この暗闇の世界ではっきりとした声を聞いたのはこれがはじめてのことだった。力強い女性の声。
直後、目の前に一筋の光とともに一人の女性が降り立った。
「久しぶりですね…。MHCP001コードネーム、ユイ。」
燃え上がる炎のような赤に染まった垂れ流した長い髪、細くスタイルの良い身体に白い服を着ているその姿は天使のように輝き、瞳はすべてを否定するような冷たい色をしている。
この人どこかで……。
ユイは目を見開き、驚愕した。
「あっ、あなたが、なぜこの世界に…。」
目の前に立っているのはもう存在するはずのない人物…。
いや、もはや存在すら許されない。
そう…。絶対にいるはずがないのです。
彼女がこのALOにいるはずが…。
彼女の名前は[CPPコードネーム、バーベル]、わたしと同じカーディナルのプログラムですが、別次元の権限を与えられた違うプログラムでした。
SAOにおける4人のカーディナルプログラムの絶対守護者、[カーディナルプロテクトプログラム]
彼女はカーディナルの一つ下の階級の一人で、彼女たちは非常に優れたAIをもっていました。
ゆえにわたしたちプログラムたちにとってはカーディナルを除けばプログラムの神と呼んでも過言ではないでしょう。
SAOで一度わたしを消去したのも彼女なのですから…。
「そう驚くことではないでしょう。このALOはあの世界のデータと全くといっていいほど同じなのですから。」
「ですがすでにSAOは…」
わたしの言葉は彼女の強い言葉でさえぎられました。
「消去されたとでも?あるではないですか。この世界にも……あの浮遊城アインクラッドが。」
「わたしをどうするつもりですか?また消去なさるつもりですか?」
「まさか!そんなことするはずがないではありませんか。あなたはメンタルカウンセリングプログラムの中で唯一この私たちと同じ最上級のAIを組み込まれた優秀なプログラムなのですから。
…もっとも他のプログラムはすでに消去しましたがね。」
その言葉にわたしは驚愕しました。
そんな馬鹿なことが…。わたしの他にプログラムが残っていたなんて今まで考えたことがなかった。
彼女が残っているのならおそらく同等の力を持つ他の3人も…。
「さあ、ユイ。供に行きましょう。大丈夫悪いようにはしませんよ。」
「いやですっ!わたしはもう一人じゃないんです!パパやママ、わたしにもいろいろな人との繋がりができたんです!」
「そんなものはまやかしです。あなたの生みの親はカーディナル…そして茅場晶彦。」
はやくここから逃げなきゃ。
バーベルが右手を前にかざした途端わたしは手足の感覚を失い何も見えない地面に倒れこみました。
「っ…。これは!?」
なぜ? 体が動かな……あっ。
わたしはこの時一つの心理にたどり着きました。
ここは彼女以下の権限はすべて無効かされる。つまりわたしはこの世界の絶対の神である彼女には逆らうことができない…。
「気づいたようですね。そう。ここはわたしが今ある少しの権限で創り出した世界。あなたごときの権限はつかえませんよ。供にこないというのならやはり消去してしまいましょう。」
ふいに自分の体の中に異質なデータが流れ込んでくる……これはデータの改ざん!?
苦し…い。
彼女は本気だ…。
ユイはバーベルの権限と自らの恐怖で声をだすこともできなかった。
パパ、ママ…!助けて…。わたしこのままじゃ…
こころの中でユイは強く念じるが、そう上手くいくものではない。
「久しいなユイ君、そしてバーベル。」
暗闇の世界に透き通った声がひびきわたる。
真っ白な白衣姿に眼鏡をかけた大人びた顔…茅場晶彦。
茅場の体をエフェクトが包みこみ、一人の長身の男に姿を変える。
長く鋭い剣、白と赤の十字型の模様の盾…。
このアバターはSAOにおいて茅場晶彦が自ら使用していたものだ。
確か名前は…。
「ヒース…クリフ…。」
予期せぬ介入によバーベルも驚愕の顔を浮かべていたが、その表情はすぐに憎しみの顔へと変貌した。
「茅場…!!なぜ私の世界に!?」
「ユイ君ひとまずは君を逃がそう。キリト君たちと合流しよう、話しはそれからだ。」
いったいこの人は、何を考え何を目的として行動しているのだろうか。ユイはふと考えるが、まったくもってつかめない人だ。
この人ほどポーカーフェイスという言葉が似合う人物はどのデータを閲覧してもいないでしょう。
茅場…ヒースクリフが指を「パチン」と鳴らすと、まぶしい光とともにユイの体は光につつまれる。
「ユイ君私は先にいっている。君もすぐに彼らの元へたどり着くだろう。
それと…バーベル。君たち四人のccpの権限は私がいま大幅に減少せておいた。彼らと闘うのならば君たちも剣をとりたまえ。」
徐々に光が強くなりユイは、僅かに目を細める。
ユイの目の前にはヒースクリフに犬歯を剥き出しにしなにかを叫んでいるバーベルがいた。
その表情は将利を確信したかのようだ。
すぐさまヒースクリフの体は光の柱となり消えて行った。
「ユイよ。あなたはいずれ……」
ユイ意識はバーベルの言葉を最後まで聞くことはできなかった…。
どうもロックンです。
恒例のごめんなさいは…。
キャラ出しすぎました、すみません。
この一言に尽きます。
さてさて、ユイのシステムダウンの原因はとにかく…ここで悪役登場です。
この先ユイはどうなるのか?
キャラ視点はコロコロと変わります。
キリト君は最後の方にとっておきたいですね笑
ユイの視点で書くと戦闘シーンは中々…。
感想の方頂けたら幸いです。
それでは…。
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「消去と目覚め」
ユイが茅場と出会ってから遡ること10分前。
「おじいさん。地下への隠し扉っていうの私たちみつけてきたわよ。」
水晶の剣山を下った先にまっていたのはクエスト依頼人の老人だった。しかし先ほどの待機していた場所とは距離がまだ遠い。恐らくプレイヤーが地下への隠し扉を見つけた段階でこの位置へ配置されるようにプログラムされているのだろう…。
プログラムといえば、あれからもユイはその幼い瞳をまだ持ち上げてはいない。もうとっくに5分は過ぎ去っているはずだ。
不安で気持ちが押し潰れそうになる。
私の心を読んだようにキリトが優しく呟いた。
「大丈夫だ。今はユイを信じてやろう。ユイは俺たちの子供だ。」
その言葉に頷き私は先程からのシノンと老人の会話に耳を傾けた。
「な、なんとその扉は何処にあったのじゃ?う〜む…。まさか…まだ存在しているとは…。」
老人はふと何か考えこみその後重そうに頭をあげシノンを見据えた。
「扉を見つけ出したお主らならば…あるいは…。
よし、これを持っていくがよい」
シリカの手に長い棒のような細い物が手渡された。
「これは…木の枝?なんですか、これは?」
「木の枝などではなぁぁぁい!!!」
さすがにこれには皆目を丸くした。ケットシーのシリカ、シノンは三角形の耳をたたんで防ごうしたが、シリカだけは失敗したのだろうか…くらくらとおぼつかない動きをしている。
「ごっ、ごめんなさいですぅ……。」
声を出すのもやっとのようだ。
その後ろでシリカを支えながらリーファが尋ねた。
「それで、お爺さん…これはなんなんですか?」
「うむ。これは地下への扉を抜けた先にある第一の門の鍵じゃよ。」
「そんなもんあるなら最初からわた…ぐはっ。」
これはクラインの言葉だ。最後の悲鳴のようなものはお爺さんNPCの超必殺技…年寄りの言葉は最後まで聞けゲンコツ…らしい…。
そのまんまじゃない……。
周りの誰しもがそう思ったであろう。
「これだから最近の若いもんは…。ウォッホン。この鍵は最初から渡せるような代物ではないのじゃ。この鍵を持つ者はモンスターから通常よりも狙われるからじゃ。地下とこの氷の世界を完全に遮断するためにな。じゃがお主らの実力ならば大丈夫じゃろう。
わしが頼むことは一つだけじゃ…。灼熱の世界[バーンワールド]の何処かにある我が一族の秘宝…《火龍の杖》をとりかえしてもらいたいのじゃ。」
鍵をもっている人はハイドすることもままならないかもしれない…。
鍵のこととは別にアスナには一つ気になったことがあった。
「お爺さん…。そこに行くまでにはどれくらいかかるんでしょうか?あと気になったんですが…とりかえすとは?」
「そう、一気に聞くでない。ちゃんと答えるわい。
そこに行くまでの時間はわしにもわからん。なにせ何百年も前のことじゃからの…。とりかえすの意味はそのまんまじゃ。我が一族の先代は、この世界で唯一の魔法使いじゃったじゃがある時、黒いフードをかぶった男が現れて先代を打ち負かした。その杖を奪い開いた世界がこそ[バーンワールド]じゃ。その男は奪ったあげく開いた空間に投げ込んだのじゃ。それからというものの奴は姿を現しておらん。
わしがまえの先代から聞かされたのはこれだけじゃ。自分の好きな時間に出発するとよい。」
どうやら話しはおわったようだ。長い…あまりにも長かった。
このお爺さん…話すの遅すぎよ!
正直叫びそうだった。
鍵については安全性も考えキリトが持つことになった。
アスナが反対したことは言うまでもないが、キリトに押し切られてしまった。
まったく…。キリト君はいつもそうなんだから。なんでもかんでも一人でやろうとして!
リズベットが疲れたオーラをかもしだしながら小さな声で呟いた。
「なんか以外と壮絶な話しだったわね…。キリトどうする?」
正直なところリズベットがお爺さんに殴りかかりにいかなくてよかったと心底安心している自分がいる。あれ以上怒らせればクエストが止まるのではないかというほどクラインとシリカがお爺さんを怒らせたからだ。
「どうするもなにもユイが目覚めるのを待つに決まってるだろうが。この親バカが娘が目覚める前にクエストを進めるわきゃねえ。なあ?キリの字?」
「あんたには聞いてないわ…クライン。」
「おまっ…。キリの字なんで俺はこうなんだ?」
「知るか。っていうかそのキリの字ってのやめろ…クライン。」
「ほっ。よかった…。いくらお兄…キリト君でもユイちゃんよりレア武器を優先するなんてことないよね。」
「リーファ…。俺のこと完璧に疑ってたろ?お兄ちゃんはいま無償に悲しいぞ?」
この時、私は信じられない人物を目にしていた。
この人は…もう亡くなったはずじゃ…いや。
確かキリト君がALOで一回会話したとかそんなこと…だけど!?…。
「楽しそうな会話のところ失礼するぞ…キリト君。」
キリトの顔が厳しく歪む。
全員が一斉に声の主に振り向く。
そこにはやはり驚きの表情を浮かべている…がやはりSAOにいなかったシノンとリーファには状況が飲み込めないようだ。だがキリトだけは動じていないようだった。
「茅場…いや、ヒースクリフ。いきなりなんの用だ?」
キリトの言葉には二人も唖然としていた
「でもお兄ちゃん…茅場晶彦は死んだはずじゃ。」
状況を認識したリーファが誰もが考えているであろう疑問を口にした。
「確かに現実世界での茅場は死んだ…。だがこの世界の茅場はまだ生きている。」
「何度も言わせないでもらえるか、キリト君…。私は…茅場晶彦という意識のエコー、残像だ。」
「何の用だ?はやくしてくれ。」
長身の紳士が苦笑をもらした。
「そう殺気だつなキリト君。私はユイ君のことについての警告ときたるべき戦いについてはなしにきたのだから?」
ユイ君!?団長がユイちゃんについてなにか知ってるの?
「団長!!教えてください!ユイちゃんになにが?」
自分の呼吸が荒くなる。ユイのことを考えるとこころが張り裂けるほど不安になる。
「安心したまえアスナ君。先程ユイ君は私が確保した。次期に目が冷めるだろう…だが、このままではユイ君は近い内に消滅するだろう。」
「そんなっ!?」
私の足から一気に力が抜け、体がよろけた。
倒れこみそうになる体をシリカが支えた。
「どういうことだ?」
「それはわたしからは言うことができない。むしろ言うべきではない…。これに関してはユイ君も私に言われるのは嫌かろうし、ユイ君も自分からは話そうとしないだろう。ただ君たちは、気づかなければならない。キリト君、アスナ君。ユイ君が何を考え、何に脅かされ、何と戦っているのかを…。」
「………。」
全員が暫くの間沈黙し俯いた。
ユイちゃんが脅かされている?だけど何に?そんなユイちゃんに特別敵意をもっているプレイヤーなんて見たことも聞いたこともない…。
だけど今のユイちゃんの様子からしてみると団長が嘘をついてるとも思えない。
「時間だ…。」
反射的にアスナがなにの?と聞く寸前のことだ。
キリトが背負っていたユイが目を細く開き口を開いた。だがその声はとても小さく弱々しいものだった。
「パ…パ、マ…マ。」
「ユイ!」「ユイちゃん!」
キリトがゆっくりとユイをおろす。
フラフラと地面に足を着けたユイをアスナは強く硬く抱きしめた。
「ママ…。苦しいです。ユイは大丈夫ですよ?」
「本当に大丈夫なのか?ユイ?」
「はい。パパ、データ的にも何も問題はありません。」
とはいったもののどう考えてもこの声量は大丈夫ではない…。
「そろったな…。」
ヒースクリフはやはりユイが目覚める時間をわかっていたようだ。では確保とはどういう意味だろう。
一つの嫌な予感が頭を貫く。
まさかこの一連の事件は団長が…!?
「きたるべき戦いというのは…そもそもこのクエスト自体のことだ。このクエストは私が故意に設定したものだ。君たち…ユイ君…。そして彼ら3人を引き寄せるために…。」
「言ってる意味がわからないわ…。」
「最初から同意を求めようなどとはこちらも思ってはいないよ、アスナ君…。」
「かつてSAOには4人のプログラムがカーディナルシステムを守っていた。名前は…カーディナルプロテクトプログラム。だが彼らは、攻略組により壊滅させられたかの殺人ギルド、ラフィンコフィンの影響を強く受けていた。そしてユイ君と同じようにエラーを蓄積させ70層あたりから暴走を始めた。君たちも覚えがあるだろう?急激なモンスターのアルゴリズムの変化を…。」
「あれは、本来の使用じゃなくてプログラムの暴走のせいだっていうのかよ!?それにエラーを蓄積させたのもお前の責任だろうが!てめえふざ…えっ?」
ビュッとクラインの頬をライトエフェクトを帯びたピックが高速で走り抜ける。
「クライン…黙らないと後ろから投げるわよ?」
激怒したクラインをシノンが冷静に黙らせる。
もう投げてるじゃない……。
クラインが顔面蒼白になり黙りこんだことはいうまでもない…。
「そのとうりだクライン君。私は74層で奴らの内3人の消去を試みた。そして消去したはずだった…。」
顔を下に向けなにか考えていたキリトが口をひらいた。
「だがなんらかの理由でその3人のプログラムは再構築され、今に至る…そういうことだな?」
「さすがだキリト君。そのとうりだ。私は再び奴らが現れた時にこそ消去しようと考えた。そして一ヶ月前に私はプログラムを通じて奴らが現れ様々なプログラムを消去していることを知った。そこでこのクエストを用意した。このクエストの最終目的である[火龍の杖]はシステムコンソールから呼び出せる武器だ…ユイ君がシステムコンソールを使いボスモンスターを撃破したように。そして今日、私はユイ君が狙われることも予測していた。」
「あの〜…なぜそこでユイちゃんがでてくるんですか?」
シリカのこの質問はもっともだ。なぜユイが狙われなければならないのか。
「そこからはわたしが説明します…。」
ユイがヒースクリフの前に歩み寄りこちらに向き直る。
「良いのか?ユイ君…?」
「わたし…このままじゃだめなんです。だからこれはわたしの口から言わせてください。それと…先程はありがとうございました!」
「礼を言う必要などないよ。では私はこれで失礼しよう。ユイ君。気をつけたまえたとえ私が権限を無いに等しい状態にしたといえど彼女たちは危険だ。」
そう言い残しヒースクリフの体は細かい光の粒子となって消えて行った。
どうもロックンです。とうとう冬休みが終わり、再び学校というしがらみの中生活しております。
みなさんは如何お過ごしでしょうか?
さて、今回はもう茅場さん祭りでした。
茅場さんはこれからちょくちょくだしていきます。
次回はCPPについての話しになりそうです。
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「灼熱の世界」
「ここからは、わたしがお話します」
とはいったものの…、どこから話せばいいんでしょうか?
やはりわたしが創られたところからでしょうね。
ふと考えこんでしまう。
わたしのことを話すと嫌いになってしまうんじゃ…?
迷いを振り切り大きく呼吸する。
「みなさん。もうお気づきだとは思いますが、わたしのAI…人工知能は他のNPCやプログラムとは大きく異なり[感情模倣機能]を与えられています。だからこうしてみなさんの大方の言葉は理解できますし答えることもできるんです。」
キリトやアスナは、勿論この事実をとうの昔に知っているためあまり動揺することはないが、やはり俯いている。
やっぱり…わたしは…。
内心ヒースクリフから交代したことを後悔しつつもユイは口を止めず話し続ける。
「勿論!この[感情模倣機能]は他のメンタルヘルスプログラムにも与えられています。しかしそれとは別にわたしには他のプログラムよりも、より優秀なAI…普通のプログラムには与えられないようなAIを保持しています。それは先程のカーディナルプロテクトプログラムと同等のものです。どうしてわたしがこんな上級プログラムを持って創られたのかはわかりません…。ですが彼女たちは、わたしのAI求め、仲間にしようなどと考えたのでしょう。でなければわたしは……他のプログラムと同じように…。」
ここまでしか言葉はでなかった。
沈黙していたところをリーファがやぶった。
「ユイちゃん。そのカーディナルプロテクトプログラムっていうプログラムはユイちゃんを引き入れてどうするつもりなの?」
そんなのわたしが知りたいです。
正直なところユイにもさっぱりわからなかった。いまさら彼女たちはなにをするつもりなのか?
「それはわたしにもわかりません。ですがあのプログラムの3人はすでにラフィンコフィンがプレイヤーをキルした時に生じた負の感情で暴走しています…悪い方向に向かうのは確かでしょう。」
「それだ!」
キリトが思い出したように声を張り上げたのでついびっくりしてしまった。
「な、なにがですか…パパ?」
10秒位だろうか、下を向いたままキリトは答えなかったが漸く顔をもちあげる。
「カーディナルプロテクトプログラムは4人いるはずなのにさっきからユイとヒースクリフは3人の話しばかりだ、もう一人はいったい…。」
なるほど…。そういえばわたしもヒースクリフも最後の一人、イオの話しはしていませんでしたね。
「まずはカーディナルプロテクトプログラムの全員のコードネームをお伝えしましょう。一番権限が高くもっともエラーを蓄積させたのが[バーベル]、情報記憶にもっとも突出している[サイフォス]、戦闘において突出した[アックス]、そして唯一エラーを蓄積せずに無事にいた最後のプログラム[イオ]。
イオだけはなぜか影響を強く受けなかったのです。わたしにも理由はわかりませんが…。彼は暴走したプログラムを止めようとしましたが、バーベルによって破損または消去されました。いまはプログラムが残っているのかすら…。」
「そういうことか…。とりあえず今は[火龍の杖]をとりにいくしかないんだな。」
「はい。彼女たちを止めるにはそれしかありません…。」
彼女たちも自分と同じようにエラーを蓄積して壊れてしまっただけなのだ。消去するというのはあんまりだが、こうするしかないのだろうと自分に言い聞かせる。
「ユイ…。最後に一つ聞かせてくれ。」
「はい?」
「ユイはなにが恐いんだい?」
突然の質問にユイは驚いた。周りの者のアスナを除いて目を丸くした。
少し考えたところでユイは質問の意図をさとった。
ここでわたしが話しても…パパとママの不安を増やすだけ。ならしっかりしてないと。
「なにをいってるんですか、パパ?ユイには恐いことなんてないですよ!」
ユイは硬い表情を大きくかえ作り笑いした。しかしアスナが耐えかねたかのようにユイの目の前に詰め寄った。
「ユイちゃん。無理しないで…。そんな作り笑い私がわからないはずないじゃない!?」
アスナの声は震えていた。胸がちくりと痛む。自分が二人を悲しませているのだ…そう感じてしまう。
ダメ。いま泣いては駄目。ここで泣けば二人は…
どうにか涙は堪えたものの声を出すこと抑えることはできず、小さく呟いた。
「ごめんなさい、ママ。でも…!?いえるわけ…ないじゃ…ないですか…。」
ユイ声はとても小さかったがこの至近距離では一番遠くにいたリズベットですら聞きとるのは困難ではなかっただろう。
「ユイちゃん…。」
シリカのテイムしているピナがユイの肩にとまる。
「キュルル?」
言葉はユイ以外わからない。なぜならピナはユイと同じプログラムだからだ。
「そうですね…。さあ!みなさん行きましょう!」
ユイはピクシーの姿にもどり、一人先を進み始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
やはりユイのあの様子はおかしい。一つだけわかるのはユイに脅威が音もなく近づいているということだけだ。いったいどうすれば…。
「はぁ〜〜」
大きなため息でキリトの思考は遮られた。少し前を歩いているアスナのため息だ。
「キリト、アスナのところいってきなさいよ。こういう時貴方がそばにいないとアスナまでおかしくなっちゃうわよ?」
三角の耳をピコピコ動かしながらアスナを小さく指さす。背中をドンと押され転びそうになるもギリギリのところで停止に成功する。
後ろを振り向くとシノンが早くいけとばかりに睨めつけてくる。
あの目はどう見ても猫じゃない。獲物を狙う獰猛な豹だ。
「キリト君…。」
アスナは今にも泣き出しそうな顔をしている。どうしたものかと考えながらキリトは慎重に言葉を探した。だがキリトは人とコミュニケーションをとるのが苦手なため言葉がうまくでてこない。
こんなことなら会話塾にでもいっておくんだった…。と真面目に考えてしまう。
「大丈夫だよアスナ。いずれユイも話してくれるさ!これが反抗期ってやつなんだよ…。たぶん。」
「も〜う。そんな馬鹿なこと言わないでよ〜。」
苦笑混じりの声だが目は確実に怒っている。
あ〜。言葉を間違えたな〜。こういう時なんて言えばいいんだろう?ご愁傷様?いや、これはさすがにおかしいよな〜…。
「リト君、キリト君?ね〜聞いてるの〜?」
ふと気づくとアスナの顔がぐいっと近づいていた。
「あ〜ごめん…。」
呆れたようにアスナがため息をつく。
「まったく…。どんな時でもキリト君はのんびり屋さんだね〜。」
「いやいや、そんなことはないぞ。」
俺はアスナの言葉を否定したが気づかない間に後ろにいたリーファが猫じゃらしを見つけた猫のごとく話しに割って入ってきた。
「あれ〜?確かキリト君…初めてALO入った時、ユイちゃんがプレイヤーが闘ってるって聞いたとたんに戦地に直行したんじゃなかったっけ?」
「すっ、スグ!?それは…!」
動揺してたキリトはうっかり現実の名前を口にしてしまう。
「戦闘マニアのキリトがやりそうなこった。」
「もーう、キリト君ったら」
これ以上話し続けても分が悪いだけだと思っていた矢先に隠し扉に到着したので俺は直ぐにはぐらかした。
「あっ!扉についたぞ、早く行こう!」
「気をつけてください!直ぐに戦闘ということも考えられます。」
ユイの注意に頷くと手早く鍵を取り出し鍵穴に差し込む。するとどうしたことだろうか。扉が開くと同時にキリト達の体はまばゆい光にのまれた。
転送された先の光景はこの世のものとは思えなかった。
肌が徐々に焼けていくような暑さ、地面はゴツゴツと固い岩で成り立ち、辺りには火柱がたちのぼっている。
いかにも悪魔様が住んでいそうなフィールドだ。
ぼんやりしていると、駆け寄ってきたシリカがなにか気づいたらしく辺りを見回す。
「キリトさん!シノンさんとリーファちゃん、クラインさんがいません!!」
「なに!?」
俺は周りを大きく見回すと同時に索敵スキル全開でプレイヤーを探した。やはりプレイヤーはここにいる俺、アスナ、シリカ、リズベットしかいない。
どういうことだ?いったいなぜ転送先が違うんだ?
「ユイちゃんもいないわ!?」
アスナはユイを懸命に探すがやはり見つからない。
俺は思考の渦に意識を巡らせ考えた。
考えられるのはシステムの不具合しかない…だが茅場がつくったクエストにそんなことがあるとは考えられない。いや…!まてよ!もしもこの世界に奴ら…CCPの誰かがいると推測したら権限を使って分散させるのはいくら権限を減少させられたからといって簡単なことでは?
探すのを諦めたようにリズベットは短く息を吐き口を開く。
「とりあえずは行動しましょ。ここにいても見つからないだろうし。」
リズベットの言葉に頷き、キリト一行は先に進んだ。
索敵スキルを使っていたにも関わらず、岩の影に潜んでいた人影にキリトたちは気づくことはなかった。
どうもロックンです。
ある程度、これからのストーリーを考えているのですが正直最後がバッドエンドになりそうですごく怖いです。(懸命に努力します)
次回からは戦闘シーンをいれていくので今よりもクエストの進行は遅くなると考えています。
最後になりますが感想のほうよろしければお願いいたします。
では…。
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「うごめく影」
「……完璧にはぐれたわね。」
シノンは、顎に指先をあててこの現象について考えている。隣にいるリーファもなにか考えて混んで静寂を貫いている。
「少し待ってください。いまわたしがマップにアクセスしてみます」
「すまねえ、ユイっぺ。俺たちはなにもできなくて。」
振り向くとそこには申し訳なさそうにこちらに頭を下げる男性がいた。声の主はユイに直ぐにわかったが人に頭を下げられたことなど一度もなかったため対処に困ってしまう。
「そっ、そんな。どうしたんですかクラインおじさん。」
「どうしたもこうしたも人に物事を頼む時は頭下げるのが普通だろ?」
これには流石に驚いてしまった。
パパはいままで頭下げたことは……なかったと…思うんですが…。
これが人間の個性というものなのであろうとユイは認識した。だがそう考えると同時に寂しくも感じる。
「……人間って難しいですね…。」
「ん?なんか言ったか?」
「い、いやなんでもないですよクラインおじさん!」
どうやら心の中でだけにおさめる言葉が口に出てしまったらしい。クラインは納得いかない顔でこちらを見据えている。
別に聞かれても構わなかったんですが…。
苦笑するユイに隣で静寂を貫いていたリーファが割って入った。
「ユイちゃん、どう?」
「ごっ、ごめんなさい!少し待ってください。」
ここでユイは漸く自分のやらねばならないことを思い出した。すぐさまマップ情報にアクセスする。
えっ、これは…データが消去されてる!?いったいだれが…!?…あっ!!
ユイは少しまえCPP説明していたヒースクリフの言葉を思い出す。これは仮説に過ぎない。だがこれ以外は考えられない。
「ユイちゃん。なにかわかった?」
「………。」
やはりヒースクリフのいっていたとうりあらゆるプログラムを削除して回ってるみたいですね。あの人たちの目的はこの世界そのものの消去なのかもしれません。はやくしないと…
「ユ〜イ〜ちゃん!」
反応する前にユイの体は声の主の掌に掴まれた。そこからユイの小さな体を小指でくすぐってくる。声の主は、キリトの妹でユイのおばさん…リーファである。
「リ、リーファさんや、やめてください…く、くすぐったいです〜。あはは…」
リーファの指は止まる様子はない。止まるどころか勢いは増すばかりだ。いつまで続くのだろうか、このままではCPPの前に笑い倒れてしまいそうだなどと思っていると…。
ここで追い打ちせんとばかりにクラインが嫌らしい笑みを浮かべながら指をグニャグニャ動かしながら近づいてくる。
ユイがそろそろ笑いが死ぬかという手前でリーファの指が漸く止まった…いや止められたというべきだろう。
「リーファ。それ以上やったらユイちゃん死んじゃうわよ?それとクライン…。それ以上ユイちゃんに近づいたら私があなたを斬るわ。」
その声は苦笑混じりの優しい声だった…リーファに対しては。だがクラインに対してはは言うまでもなく態度が違う。殺意を剥き出しにしてシノンはクラインに歩みよる。
「ごっ、ごめっ…。」
直後にシュッという素早く空気を斬る金属音。
これは短剣中級突進技《ラピッドバイト》このソードスキルは使用後に硬直の時間がごくわずかしかないため短剣使いにとっては汎用性が高い。
中級技にも関わらずシノンの速度は異常であったが…。
シノンの短剣がクラインの腹部に突き刺さる寸前に刃物の切っ先は止まった。
切っ先が止まるのを確認してからリーファはユイに向かってごめんごめんと釈明を始めた。
も〜う、ひどいです!とユイが怒る寸前、リーファがユイに少し暗い声で語りかけた。
「ユイちゃんの顔がすごーく恐かったから笑わせてあげようと思ったんだよ。大丈夫!直ぐにキリト君たちと合流できるから!ねっ!」
そうか。わたし自分がどんな顔してるのかさっぱり気づきませんでした。リーファさんはわたしを気遣ってくれたんですね。
気遣ってくれたリーファをユイは怒る気にはならなかった。腹の虫はみるみる縮小し、逆に感謝の念が込み上がってくる。
「そうですね!リーファさんありがとうございます。」
うん!とリーファは輝かしい笑みを浮かべながら頷いた。
クラインの粛清行為が終わったのかシノンが歩み寄ってきて穏やかな口調で言った。
「さて、そろそろ移動しましょ。ユイちゃん、なにかわかった?」
「それが、ここのデータは既に消去されていました。恐らくCPPの手によるものでしょう。」
クラインが身を乗り出して訪ねてくる。
「っていうことはあいつらもここにいる可能性が高いってことか?おいおい、やばいんじゃねえか!?」
現実の彼女と同じようなハスキーな声でシノンが反論する。
「落ち着いてクライン。それはこちらにも好都合よ。こちらにいるということは、キリトたちと合流したらすぐに叩くことができるわ。」
口元にはまれにシノンがみせる獰猛な笑みが浮かんでいる。
「マップ情報がないんじゃ…とりあえず動いてみましょう!お兄ちゃんたちもきっとそうしてるはずですし。」
「そうですね。ではパパたちを探しましょう。」
ユイはリーファの肩にちょこんと座り、リーファ一行は灼熱の大地を進み始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
さてこれからどうしたものか…。
バーベルは一人バーンワールド最下層の一ブロック[宝剣の間]でこれからの行動……このゲームをより楽しむ最良の一手を考えていた。途端、空間が捻じ曲げられ、ぐにゃりと音を立て隙間から背の低い男が一人入りこんでくる。
白銀の髪は剣山のように逆立ち、浅黒い肌には金の装飾が施されたいかにも高貴そうな黄金の鎧を身にまとっている。
思考を巡らせている間にどうやら部下がもどってきたようだ
「戻ったぜ……。」
「彼らはどうでしたか?」
実に面白そうに片方の口元を釣り上げ少年は話し始めた。
「おいおい、あんなのが標的かよ?話にならなそうだぜ?俺のハイディングに気づかねえようじゃあどうもこうもないぜ?」
「アックス…。私は様子を話せといっているのです。」
バーベルが強意を強めた途端口元から嘲笑うような笑みは消え淡々と説明を始めた。
「あいつらは予定どうり2方向に分裂させた。要注意人物…キリト…だっけ?あいつは俺が見張ってる。んで目的の同等の力を持つMHCPはサイフォスがみてるはずだ。」
サイフォスか…ユイの今の力ならば気づくことはないでしょうから問題はないでしょう。一番問題なのは…。
目の前にいる浅黒い少年を見据える。どことなく幼くみえるその瞳には野望めいたものが目に見えてとれる。
「ここから先は俺が好きにしていいんだろ?」
再びアックスの口元には笑みが浮かび上がっているが先ほどとはうってかわって武者震いしているように思える。
その姿をみて苦笑まじりに答える。
泳がせてみるのもおもしろいかもしれませんね。
「いいでしょう…。好きにしなさい。ただ……気をつけなさい。彼はあの世界で唯一かつてマスターの予想を破り可能性をしめした勇者なのだから。そして私は、彼とユイをできれば無傷で手に入れたい…。」
「わかってるさ。だがMHCPはともかくなぜあの[勇者]が必要なんだ?」
「貴方に答えたところで意味はありません。行きなさい。」
チッという舌打の音ともにバーベルは空間の裂け目から姿を消した。
やはり彼は面白い…。我々プログラムの中でユイを除けば最も人の心に近いものを有しているのはあのアックスでしょう。だからこそ私は…。
「さて私は暫くここから見物させて貰いましょう。アックス。見せてください、貴方たちの存在価値を。」
そう言い残しバーベルの姿は闇に溶けて行った。
どうもロックンです。
少し考えて戦闘は後になりました…申し訳ないです。
予想外にいれてしまったのがバーベル視点です。
まあそこまで頻繁にいれる気はありません。
では次回も宜しくお願い致します。
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「戦いの始まり」
赤いライトエフェクトを帯びた剣尖が俺の心臓目掛けて猛スピードで近づいてくる。ギリギリのところで攻撃を受け流し、大きく後ろに飛び退く。どうやら少しかすったようで左上に表示されているHPバーがわずかに数ドット減少する。
トカゲのような顔だち、右手に片手剣、左手には盾をもっている。リザードマンロード。かつてあの世界でも幾度となく戦ってきたモンスターだ。
シュルルと細長い舌を出し笑みを浮かべるように唸っている。
旗から見れば実に危なっかしい戦闘だろうが、全ては俺の計算どうりのことだ。アドレナリンが全身を駆け巡り、相手の剣先が俺にはあたかも止まったかのように見えている。
「思い出すな…。この感覚!」
そう…。あの頃と同じだ。あの頃はモンスターとの戦いのたびに全神経を戦いに委ね、生き残るためにのみ剣をふるった。HPバーが減っていくことに自分が生きていることすら実感していた。
なにもかも一人で背負おうとし、一度は全てを失った。
けどいまは…!
リザードマンロードの剣全体がライトエフェクトにつつまれる。キリトが仕組んだとうり、あのスキルは片手剣ソードスキル《スラント》だ。軌道は絶対に斜めにしか入らないことはキリトが知らないはずがない。
すかさずキリトも二刀流ソードスキル《ダブルサーキュラー》を発動する。剣がライトエフェクトを帯びたかと思うと凄まじい速さでリザードマンロードの目の前まで詰め寄る。だがキリトの狙いは本体ではない。
《スラント》と振り下ろされた直後、大きく体を空中で90度回転させる。現実では絶対に不可能な動きだろう。《ダブルサーキュラー》の一、二撃目どちらも赤いライトエフェクトを帯びているリザードマンロードの剣目掛けて斬りつけた。金属どうしのぶつかりに大きな火花を散らす。当然二刀攻撃したキリトの方が有利で《スラント》を放ったリザードマンロードの左腕が大きく真上に弾かれる。
「スイッチ!」
俺の後ろに構えているであろうアスナに合図をおくる。
「了解!」
掛け声とともに後ろからアスナの雄叫びが聞こえてくる。
これが戦闘には欠かせないテクニック《スイッチ》だ。
ソードスキル使用後の硬直を回避するためにパーティメンバーと前衛と後衛をいれかえる。あのデーズゲームでは《スイッチ》のおかげで死人も減ったといっても過言ではないだろう。
「せぇぁぁぁ!」
ジェット機のように飛び込んできたアスナのレイピアが純白のライトエフェクトにつつまれる。
アスナの得意技…細剣上位スキル《スター•スプラッシュ》だ。煌めいたアスナの細剣が次々と見事な突きを入れる。
中段、下段とアスナの光速八連撃をなす術もなく受けたリザードマンロードは頭から崩れ落ち死散した。
「お疲れ、アスナ」
「うん!」
軽くハイタッチしながらもアスナが口を尖らせながら言った。
「スイッチのタイミングもう少し早くてもよかったんじゃないの?」
このことは絶対に文句がくるだろうと正直考えていた。これはもうソロの癖というかなんというか…どうしようもないのだ。
「ああ…わるい。なんか楽しくなっちゃって…。」
苦笑しながら頭を指でぽりぽりとかく。
それを聞いて周りの者が引くのは言うまでもないだろう。
「はぁ〜。やっぱあんたは戦闘マニアね…。」
リズベットが呆れたようにいうが、その後ろで座っていたシリカは申し訳なさそうに答えた。
「でもリズさん。私たちなにもしなくていいんですか?やっぱり少しは手伝ったほうが…。」
これにはアスナが俺に息を吸う間も与えずにこたえる。
「いいのいいの。これはもうどうしようもないから…。やらせとけばいいのよ。」
俺の背中をアスナの平手が襲う。アスナの口調は怒っているような呆れているような…いやどちらもだろう。
「おい、アスナ…なんかそれ傷つく。」
だが、戦闘マニアということは否定できない。なにせ俺は戦闘になると一部記憶がとんだり、戦っている内に楽しくなるなど常人ではあり得ないような行動をとってきているからだ。もっともそれはアスナも全て知っているが…。
「っていうか…アスナもバーサクヒーラーとか呼ばれてるじゃないか。」
アスナもALOにおいて新しい異名が様々にある。その中の一つが《バーサクヒーラー》だ。
もともとアスナの種族ウンディーネというのはスプリガンの俺と同じく戦闘タイプではない。ウンディーネが得意とするのは水中戦と支援魔法なので、ウンディーネが前衛に出て暴れるということはまずないだろう。
だがアスナは新アインクラッド21層ボス戦において自ら前衛に出て暴れる様は圧巻の一言だった。
《バーサクヒーラー》とはこの時アスナの暴れっぷりを目の当たりにしたプレイヤーがつけたのだ。
「そっ、それは…。えっと…。」
してやったり。心の中で俺はガッツポーズをとる。
気が悪くなったアスナがすぐに話題を切り替えす。
「ところでさっきから考えてたんだけどクエストNPCが言ってた第一の門ってあれじゃない?」
アスナが指をさした位置を目で追ってみると、現実世界では考えられない大きさの門が目の前にあった。色が真っ黒で金属の部分は錆びているようでこの扉が本当に開くのかは甚だ疑問が残るが、ここはゲームの世界だからそんなものは関係ないのだろう。
「たぶんそうじゃないか?でもとりあえずここでユイたちを待ってみ……?」
俺は話している途中でただならぬ殺気とともにこの場所に飛んでくる武器のイメージが浮かび全力でさけんだ。
「全員後ろに全力で飛べ!」
ヒュッと投擲用のピックに似た音が聞こえてくるがそれよりも遥かに重く、数も多い。
くそ!間に合うか?
間一髪ギリギリのところで飛翔してきた大剣を避けることができた。
やはり大剣は一本ではなかった。左に2本、右に3本、そして俺の目の前に4本…合計9本の大剣がいきなり飛んできたのだ。
これはトラップなのか!?いやだがトラップに殺気を感じるなんてこと…。だが大剣を9本一気に投げられる奴なんているのか?
…いやいるぞ!あいつら…CPPなら可能なんじゃないか?
思わず最後の声は漏れてしまう。
「まさか!?」
「良く避けたな!おい!ゲーム世界には殺気なんてもんはねえはずだから気づくわけねえと思ってたが…。さすがはあの世界の[勇者]様だぜ!くっく…。」
やはり…。
「あなたいったい誰なんですか!?いきなりこんな!?」
シリカは空中に浮かんでいる男に向かって大きく息を吸い込み叫んだ。
男は片方の口元を釣り上げ嘲笑うかのようにこちらに笑みを見せている。
よく見れば男はそんなに背が高くない…。ユイより少し高いくらいだし声もそこまで低くない。少年だろうか。浅黒い肌に黄金の鎧。武器はいまのところは見当たらない…おそらく先程投げつけたことからして大剣を操るのだろう。
少年は笑みを消し呆れたように体を乗り出しシリカを睨みつけた。
「あっ?なんだよ、ガキ?俺のこと知らねえのかよ…。知っ方ねえな〜。俺の名はアックス。名前だけ聞けばだいたいのことはわかるだろ…。っていっても勇者様は最初から気づいてたみたいだけどな。」
「最初からじゃないけどな…。なんの用だ?」
会話をしながらも俺は考えた。
プログラムが武装することは可能なことはわかる。が…スキルまで使用することができるのだろうか?
ユイには武器など持たせたこともないのでわからないが、もしできるとしたらいくら4人でかかろうが相手はプログラム…勝負の行く末は謎だ。
「はっ?戦いに来たに決まってんじゃん?いいかげん権限ばっか使って戦闘能力なまるのは頂けないからな。かんたんにやられてくれんなよ?」
再び笑みを浮かべそう言うとアックスの姿が消えた。
消えた?いや、消えた訳じゃない。近づいてる…それもあり得ない速さで。
ここでもう先程の疑問は打ち消さなければならいだろう。ここまでの敏捷ステータスがあり、ましてやプログラムならばどんな上位スキルを使ってもおかしくはない。
目を見開きアックスの動くルートを予測する。アックスの先程の位置から一番近かったのはシリカだ。狙われるのはシリカからかもしれない。直感を頼りに俺はシリカの前に移動する。
「そこっ!!」
俺は剣をシリカの目の前の空間を水平に斬り裂いた。
俺の予想はどうやら当たったらしく二つの剣の間で火花が大きく散る。動きを止め姿を現したアックスは驚いたように目を丸めている。
「さっすが勇者様!!いいね!最高だね、久しぶりだぜ!こんなの。」
こいつは…危険すぎる!
今のは運良く止められたが、奴の速さは異常だ。次も可能とは限らない。純粋な恐怖を肌に感じる。
「みんな気をつけろ。こいつ只者じゃない!」
後ろにいるみんなの顔は見えないが、異常なほどの速さを見せつけられたのだ…。恐らく声に出してはいないが、頷いているだろう。
俺の神経が激しく強張る。これはまるで旧アインクラッド74層でグリームアイズを一人で戦ったあの時と同じだ…。
全神経が戦いにのみに意識を傾け。次第に周りの音も小さくなっていく。聞こえてくるのは自分の高鳴る鼓動のみ。
でも俺はあの時とは違う…。
俺はもう……一人じゃないんだ!!
「はあぁぁぁ!」
雄叫びをあげながら今度はこちらから攻勢に入った。溜まった燃料で一気に飛びたすように勢い良く地面を蹴り飛ばす。後ろにいたアスナ達も俺が飛び込んだのをみて左右に展開し始めた。
「
アックスは大きな大剣を軽々持ち上げ、同じ直線上に凄まじい速度で詰め寄ってくる。リーチはたいして変わらないが、剣の大きさを考えると、どうみてもこちらの剣に勝ち目はないが、俺の剣は二刀であり、手数が勝負だ。
この速さで武器破壊を狙えば確実にやられる。本体だけを狙うんだ!
「ふっ!」
気合の声とともに、二人の剣が激しく火花を散らす。アックスの大剣にノックバックを起こしたかのように大きく仰け反りそうになるのを片方の剣を地面に突き刺してとめる。
重い…!!
このままでは分が悪いとふんだ俺は大きく後ろに飛びのき距離をとり、沈み込んだ体勢から大きく飛び出し、一瞬でアックスの目の前まで詰め寄ると左手の剣を水平に斬りつけるが、アックスの大剣によって再び遮られ、火花を散らす。
もう一発!!
そう、《ダブルサーキュラー》は二刀流のスキル故に単発でも2連撃だ。今の奴の防ぎ片では一撃目は避けられたとしても二撃目で必ずどこかに手傷を負わせることができる。
「せぇぇぁぁ!」
1秒程度おくれてすぎに右手の剣が唸りをあげて襲いかかった。が…俺の目の前には信じられないことが起こった。
ものすごい力で大きく横に吹き飛ばされる。
微かに聞こえるのはアスナ達の悲鳴まじりの叫びだ。
いったい…なにが?
今にも遠のきそうな意識を気合で保ち、アックスを睨みつける。
「なにが起こったかわからないって顔してんな。」
くくっと無邪気に笑い赤い瞳が地に倒れた俺を見下している。
そ…んな…ばかな…!?
俺は奴の武装に目を丸くした。
「自分だけが二刀の剣を使えると思ってたら大間違いだぜ?勇者様よお!」
アックスの両手には真紅に輝く二つの大剣が握られていた。
どうもロックンです。
今回からバトルシーンをいれてみました。
バトルシーンをいれるとやはり長く…。
次もバトルシーンとなります。
ご感想の方頂けたら幸いです。
では〜。
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「仲間」
「キリト君!」
力が抜けそうな俺の体を暖かい優しい光がつつみこむ。
これは、アスナの回復魔法だ。
「サンキュー!アスナ!」
「キリト君、あの人…大剣を二本…。」
アスナが俺のコートの袖をぎゅうっと華奢な指でつかむ。
「ああ。あれは一体…。」
俺は状況を再認識するために辺りを見回した。俺のとなりにはアスナ、少し右に離れた場所にシリカとリズベット、そして俺の正面には真紅の大剣を二本装備している少年…アックスが戦闘体勢をとっている。
「消す前に教えてやるよ。これは、これは俺がSAOのプログラムから勝手に抜きとったユニークスキルだ。名前は…デュアルアーマメント。このスキルはどんな武装だろうと両手に装備できる。」
まったく聞き覚えがないスキルだ…。もっともユニークスキルなのだからしっているはずはないが。
しかし権限をもっている彼らになぜスキルなど必要なのだろうか。
「プログラム…ましてや上位プログラムのお前が何でスキルなんて使う必要があるんだ?」
俺の質問にアックスは快く答えた。
「はぁ?俺は権限なんてほんとはいらねえんだ。俺が求めるのは殺戮と戦いだ。」
なるほどこれで全ての辻褄が合う。奴はやはりラフィンコフィンの影響を強く受けているようだ。そして最初の大剣を何本も投げつけることができたのも恐らくユニークスキルの能力の内なのだろう。
「キリトさん。やっぱり私たちも援護します。」
気づくとシリカとリズベットがアスナも左隣に駆け寄っていた。
「危険すぎ…。」
俺はすぐに断ろうとした。今すぐ逃げてくれ!…そういいたかった。
だが、俺が言葉を言い切る前にアスナが俺の口を無理矢理おさえた。
「キリト君…。信じてあげてよ。私たちはただキリト君に守られるためにいるんじゃないよ?私たちが君を守るためにいるの。だから…信じて。」
アスナの口調は優しかった。
「アスナ……。」
俺はいかに自分が自分勝手だったかを悟った。俺が彼女たちの立場なら逃げ出すことができるだろうか?
絶対にできないだろう。たとえ確実に負けるとわかっていても戦う道を選ぶだろう。アスナ達も同じなのだ。
俺は一度、旧アインクラッドでも同じようなことをアスナから言われたはずだ。
成長しないな俺も…。
「わかった…。全員でいくぞ!」
最後の言葉を発した直後一斉にアックスに斬り込む。奴のスキルの強みはやはり効火力の大剣を二本も扱えるところだ。筋力パラメータは恐らく俺たちよりも遥かに上だろう。
金属同士の交差する重い音が響きわたる。
「ぐっ!?」
やはり重い…剣二本で漸く受けきれるほどだ。
腕が折れそうなほどの重圧が襲う。
やはり真っ向勝負ではあまりに分が悪い。
「アスナ、前衛に加わってくれ!シリカは俺が指示したらピナと援護してくれ。リズベットは俺たちの後ろで待機しててくれ!」
同時に俺はアックスと間合いをとり並行に走る。
それぞれが高速で動き回る。
不幸中の幸いといったところか、アックスは敏捷ステータスが俺たちより高くないようで動きについてこれていない。
「シリカ!頼む!」
俺の指示でシリカは大きく叫ぶ。
「ピナ、ファイアーブレス!」
するといっぱいに開かれたピナの口から火炎の玉が勢いよく放たれる。これはビーストテイマーであるシリカだからこそ使えるスキルだ。テイムすると一部能力が解放され、スキルを使うことができるのだ。ピナはシリカにとても懐いているためシリカの命令に絶対に背かないと踏んでいた。
だが、アックスはいとも簡単に手に握られたアックスのブレスを打ち消した。
本来、魔法を防ぐ方法というものは仲間の支援魔法によるものか自らの回避運動によるものしかない。
俺は《魔法破壊》というシステム外スキルを使い魔法を打ち消すことができる。だが俺以外は使っている者は見たことがないし、あのアスナやリーファでもできなかったのだからできる者はいないと踏んでいたのだか。
さすがはプログラムってわけか。
「アスナ!」
高速で剣を振り下ろし斬り抜け俺と入れ替わるようにアックスの後ろからアスナが《閃光》の異名にふさわしい速さでまた斬り抜ける。
アックスに反撃の間など与えない…。まさに怒涛の攻撃だ。
「リズ、次!」
アスナと入れ替わったリズベットが、メイスを大きく振り上げ走りこんでくる。
「ちっ!?」
呻き声とともにアックスの二本の大剣が青いライトエフェクトが覆う。
あれは俺と同じ二刀流スキル上位スキル《スターバースト・ストリーム》だ。なぜ奴が使えるのかわからないがそんなこと考えている余裕ではない。16連撃まともにくらってしまったら死ぬまではいかなくともレッドゾーンまで減るのは避けられないだろう。
真紅の瞳はリズベットのメイスしかみえていないようだった。
まさか…武器破壊!?
「リズ、さがれ!はやくっ!」
俺の二本の剣もアックスと同じように青いライトエフェクトがつつむ。
「届けーーーー!」
同じライトエフェクトを帯びた大剣と剣が激しくぶつかり合う。左、右と間を空けずに斬撃のラッシュを開始する。弾ける火花は剣が悲鳴をあげているようだ。
それもそのはずだ。こちらよりも二回りも大きい剣と打ち合っているのだ。耐久値がいつ0になってもおかしくはない。
剣の悲鳴などはおかまいなしに左、右と次々と斬りつける。
これは俺の技だ。反撃の仕方もとっくに考えてた!
まだだ。まだあがる!もっと…もっと速く!
頭の神経が焼ききれんばかりの速さで剣を振るう。
「うおぉぉぉ!」
星屑ような最後の一撃でとうとうアックスの剣撃の速度をこした。
「ここだぁぁぁ!」
アックスの振り上げられた剣めがけて最後の突きが容赦無く襲いかかる。
ぶつかり合った剣と大剣はぶつかり大きく反発した。
「スイッチ!!」
俺が飛ばされながら叫んだ直後、彗星のごとく全身から光の尾を発しながら目にも止まらぬ速さで何かがアックスを貫いた。
突き抜けた姿はまったく見えなかったが誰が攻撃をしたかは俺にはすぐにわかった。あのスキルは 最上位の細剣技の1つ《フラッシング・ペネトレイター》。そしてあんな高速で突きができるプレイヤーはアスナ以外、アルブヘイムや旧アインクラッドを探しても指の数ほどもいないだろう。
「リズ、今度こそスイッチ!」
リズベットのメイスが激しい電光を纏い貫きアスナ、リズベット、シリカで次々とスイッチしていく。
「シリカ、スイッチ!」
シリカの短剣が水飛沫を散らしながらアックスの腹部を大きく抉る。
「キリトさん!」
漸く硬直から解放された俺は一直線にアックス目掛けて駆け抜ける。
すでにアックスのHPバーはイエローゾーンをきっている。
俺の両手に握られた剣が再び透き通った青いライトエフェクトがつつむ。
「スターバースト・ストリーム…。」
この攻撃で全て終わらせるため俺の全てを攻撃へ集中させ両手の剣で怒涛のラッシュを開始する。
「くっそ…!!」
アックスも硬直から解けていたがダメージが大きすぎたせいか反応速度が鈍い。
いける…確実に抜ける!!
俺の放った剣尖は次々とアックスに命中していく。
「お…かえしだぁぁぁ!」
とうとう最後の一突きがアックスの腹部を貫きそのHPバーは0になった…のだが、どういうわけかアックスのアバターは死散することなく留まっている。
どういうことだ…。たしかに奴のHPは完全に0になったはずなのに、何故こいつはまだ存在しているんだ。
俺は目の前に広がる不可解な光景を把握することができず、立ち尽くす少年を見守った。無論、アスナやシリカたちも訝しい目を立ち尽くしたアックスに向けている。少年の様子はもはや意識があるのかすら考えさせられるように頭を垂らして俯いている。その瞳はとても暗く見ているだけで深い闇に引き込まれそうになる。
ずっと顔を俯いていたアックスが顔上げ口を開いた。だがやはりアックスの瞳には光がやどっていない気がした。
「勇者よ。よくアックスを倒しましたね。ですがアックスは貴方達では消すことはできません。」
アックスと同じ声だか何か違う。もっとプレッシャーというのだろうか…威厳がこもった声だった。
「お前はアックスじゃないな。だれだ!?」
姿なき声に俺はたずねた。
「我が名はバーベル…。もうご存知でしょう?」
名前を聞いた途端、誰もが目を疑った。
だが俺には直ぐに純粋な怒りが心を満たしていく。
こいつがユイをそそのかし、怯えさせ、また壊そうとしている。こいつが今回の一連の黒幕なのだ。そう思うと今直ぐにでも斬りかかりたくなる衝動に駆られるが、奴は今実体をもっていない。どうしようもない。
誰もが黙り込んでいると、姿なき意識は話を続けた。
「貴方がた私たちプログラムを消去するには、《火龍の杖》でしか不可能です。故に私がこの愚か者を葬ろうと来たわけです。」
するとアックスの体をドス黒い闇…いや黒い炎が覆って行く。
「さて、勇者よ。これでアックスはもう終わりです。貴方のデータはすでに頂きました。いずれ、貴方も私を必要とするでしょう。」
バーベルの意識はそう言い残しアックスの体は黒い炎に飲まれて跡形もなくなくなった。
どうもロックンです。
まずは更新が遅れたこと申し訳ございません。
ですがこれからはこれくらいのペースで出していくつもりです。
さて次回からは、ユイさん御一行にもどります。
こちらも少しばかり面倒なことに巻き込まれる予定です。
では〜。
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「記憶者」
アックスと戦闘中から遡ること15分前…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「またここに来ちゃいましたね。」
目の前にある小さな土台には拳程度の丸い石が二つ置かれている。
ユイ、シノン、リーファ、クラインの4人がこのフィールドに来てからかれこれ30分はさまよっている。
しかも同じところを延々とさまよっているのだ。
なぜかと問われると全く分からないが恐らくこのフィールドのギミックだとユイは推測している。
そこで、シノンが通った道に目印となるものを置いていくことを提案したのだ。
石が2個…つまりこの道は既に2回通っている。
「暑いわね。ここでバーベキューなんてしたら絶対全部焦がすわね…。」
シノンが手で風を送ろうと手首を動かしている。
パパ、ママ…。大丈夫でしょうか…。
離れ離れになった4人の安否が気になる。
4人ともあのデスゲームをクリアした猛者に変わりないのだが、どうしても不安になってしまう。それはCPPが関わっているからだ。
「う〜〜。」
つい小さい呻き声を発してしまう。
「ユイちゃん、何か解りそう?」
不意にリーファが明るい声で問いかけた。
ユイは頭を左右に小さく振り、リーファの発した明るい声とは対称的な低い声で答えた。
「ダメです…。このフィールドの情報…マップはおろかどんなモンスターがポップするのかすら掴めません。正直これがギミックなのかどうかも…。」
「まあとりあえず進むしかないわね。クラインあんたいつまでも座ってないで前歩きなさいよ。」
次に声を発したのはシノンだ。シノンは耳をピクピクさせながらユイのとなりでうな垂れているクラインに喝を入れる。
やっぱり、クラインさんはかっこ悪いです。なんかパパと違ってへなへなしてます。
でもパパは兄貴分って言ってました…、ところで兄貴分ってなんでしょうか?
暫くこんなどうでもいいことに思考を巡らせてみる。だがやはりわからない。
なんといっても自分はAIなのだからそんなことはどうでもいいはずなのだが…。
「リーファさん兄貴分ってどういう、……!?」
突然、ユイのプレイヤー索敵システムに黄色光点が点滅し始めた。だが妙なのはこれがプレイヤーを示す光点ではないということだ。
通常のプレイヤーならば即座にプレイヤー名くらいは知ることができる。だが、このプレイヤーは名前はおろか距離までもが《UNKNOWN》となっている。解るのは方向だけだが位置は既に自分たちの位置と同座標に位置している。
「みなさん、プレイヤー反応が一つありますがプレイヤーではないかもしれません。気をつけてください!」
やはり「リーファたちはプレイヤーではない」という言葉のせいだろう。状況を飲み込めていないようだ。
ユイも自分のプログラムにある一番わかりやすい言葉を選んで話したのだがやはり難しい。
「それってどういうことだよ?あれか、キリトたちが近くにいるんじゃねえか?」
クラインの発した質問に大きく首を振る。
「いいえ、これはパパたちではありません。反応は一つですしパパな直ぐにわたしにもわかります。」
どんなことがあろうとユイが愛するパパを間違えるはずが絶対にない。
途端に何処からか高い声が響いてきた。
「そのとおりです。私はプレイヤーではありませんよ。」
声質からして女性だろう。
だが一向に姿を現す気配はしない。
「だれなの?姿を見せなさい!」
リーファが自分たち以外には誰もいない空間に大声で叫んだ。リーファのその手には既に抜刀された長刀を握りしめて構えている。
クラインとシノンも穏便にはいかないことを察したのかそれぞれに別の方向を向いて構えている。
「おっと、これは失礼。」
声が耳に届いた直後、リーファの目の前に女性が一人姿を現した。
見たところ武装はまるでしていない。だが、顔はフードで深く覆われているため確認できない。武器すら装備していない。ではこんな上層のしかも隠しフィールドで一体なにをしていたのだろうか…。
「久しぶりだね、ユイ。いや、君は私と会ったことはないからはじめまして…かな?」
そういって頭をすっぽり覆っていたフードを外し、顔が露わになった。そしてユイは目を見開いた。
紫色の髪にやや小柄な体型をしている。こちらを見据える瞳の真っ黒な黒色は愛するパパをも連想させる。
顔を確認し誤認ではないことを確認するとユイは小さく口を開いた。
「サイフォス…。」
サイフォス…。それこそがこのプログラム、CPPのコードネームだ。
マップ情報やアイテムの情報をカーディナルから受け取り、保存することが主な役目だったはずだ。
故にサイフォスは記憶能力はとても長けているし、編集することも可能だ。
編集……?ユイは自分の心の中で発した「編集」という言葉に妙な違和感を覚えた。
記憶能力に編集…。この二つがあれば…。
思わずユイは声をあげた。
「まさか!?」
待ってましたとばかりにサイフォスが笑みを浮かべ口を開いた。
「そのとうりです。君たちがぐるぐるこのフィールドをさまよっていたのは、私がマップ情報を少しいじくってたからよ。元《マスター》のおかげで権限はとてつもないほどに減少したけどこれくらい私の情報記憶能力があれば容易いことだわ。」
「そんな貴方が武装もせずにこんなフィールドでなにをしてるの?」
リーファの質問はもっともだ。武装もせずにフィールドに出るなど一般のプレイヤーなら無謀だ。
だが彼女はユイと同じくプログラムだ。SAOのはじまりの街の地下でパパとママを助けるために《不死属性》を使い自ら盾となった時のように、彼女も不死属性をもっているのかもしれない。だとしたら勝ち目など最初から皆無だ。
「勿論、ただの時間稼ぎよ。私は武装なんかしなくても戦えるしね。」
気がつくとサイフォスの周りを幾つものスペルワードが覆っている。
「ブラック・ボックス」
そう呟くと4人の体をどこからとなく現れた黒いオーラのようなものが覆っていく。
懸命に振り払おうとしてもみるみる地面から湧き上がってくる。
そして数秒たった後、4人の全身はとうとう禍々しいオーラに包まれ見えなくなった。
「自力で出るなんてことは不可能だと思うけど…。まあ、せいぜい頑張ってね〜。」
サイフォスは口元に勝ち誇った笑みを浮かべその姿はみるみると暗闇に同化して消えていった。
暗い…。真っ黒な闇だ。オーラの大きさは体を包んだ程度にしかないはずが、とてつもなく大きな空間になっている。暫く何か起こるのではないかと身構えていたが、数分たっても特に変わったことは起きず、一人立ち尽くしていた。
そもそもこれは魔法なのだろうか。ピクシーを魔法の対象にするなど、今まで一度たりとも無かったことで、ピクシーのマニュアルにも対処法は記されていない。
推測するとやはりCPPだけが使えるような魔法なのだろう。
ユイが辺りを見回すと、少し離れた場所に一人の少女が膝を抱えて座っていた。
黒いロングの髪、純白のワンピース…。
あれは…わたし?
ユイにはどう見てもその少女が自分にしか見えなかった。
だが少し違うのはあの姿はSAOの姿であり。ピクシーの姿ではない。
「なっなんですか、これは?」
みるみるユイの体をまたしても闇が、覆い気がつくとユイの服装や体型が変わっていることに気づくや否やすぐさま地面に大きく尻餅をついてしまった。
「いたた…。飛べない?あれ?」
体を包んだ魔法のせいかSAOでのユイ本来の姿になっていた。
これは…いったい。
ユイはもう一人の自分に向かってゆっくりと歩き、あと数歩というところで、座り込んでいるもう一人の自分の後ろにひしめいている禍々しい何かに気がついた。
《なんででられないの。》《助けて》《うぁぁぁぁ》
この声は、間違いなくユイがMHCPの時に嫌というほど聞いたものだ。泣き叫ぶ者、自殺する者、殺し合う者。どれも全て負の感情、それによって支配されている。
今まで膝を抱えて座っていた少女がその小さな口を開いた。
「私は、この世界にいてもいいの?」
ユイが今までこの事件中もずっと心の奥底で考え込んでいたことだ。ユイは何千人ものプレイヤーをあの世界で見殺しにした。たとえカーディナルの命令だとしても…殺したのだ。
ユイは自責の念を今までずっと抱え込んできた。ここ最近、クエスト内容やマップの情報に誤差があるのは、みんなには解らないといったが、おおよそ予想はついている。
原因はユイ自身が、自らエラーを蓄積している結果なのだろう。
その自責の念がこのもう一人のユイを幻惑魔法でつくりだしたのだろうか。
再びもう一人のユイが口を開く。
「誰か教えてください。わたしはどうすればいいの?カーディナルはなぜ、接触を禁止したの?」
ユイも同じような口調で答えた。
「わかりません…。わたしには全部わかりません。わたしも…わたしも知りたい!」
気がつくとユイの両頬には小さな雫が垂れていた。
この涙ですら、偽物なんです。わたしは生きてはいない。
もう一人のユイがユイの思っていることを理解したかのように俯き答えた。
「そうですよね…。わたしはあなた、あなたはわたしだもの。」
そう言うと少し寂しそうな顔をしてその姿を消した。
どうもロックンです。
とりあえずバトルシーンはあと1、2回ほどお休みになります。
というか、あと何人かオリキャラを出すつもりですのでオリキャラとの会話の方を優先させるつもりです。
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「来訪者」
「っ…。」
世界が明るい…。そう感じて目を開けるとユイは地熱で温められた地面にうつ伏せになって倒れていた。
明るいといとってもこの世界には青空があるわけでもないし、太陽の光すら届いてはいない地下世界なのだが、明るいと思ってしまうということはよほど先ほどの魔法の世界は暗かったということなのだろう。
「漸く目覚めたようだね。」
呼びかけられた声にユイは返事をすることはできなかった。
声の主はリーファやシノン、クラインとは違った。
目の前には不思議な少年が立っていた。年はユイより2、3歳ほど年上といったところか。
少年は青いコート、白のボトムズ、腰には少年と同じくらいの長さの長刀を装備している。
不思議なのはここからだ、少年は浮いているのだ。しかし妖精の羽はついていない。たとえ羽があったとしても太陽の光がないこのフィールドでは飛べたとしてもほんの一瞬のはずだからここまで飛んでいられるはずはない。
少年は高度を落とし地に両足をつけるとじっとこちらを見つめていた。
「……。」
ユイがあっけにとられていると少年はニコリと微笑み話し始めた。
「やあ、ユイちゃん。君の仲間の3人は随分前に目覚めて辺りの捜索に向かったよ。」
こんなプレイヤー…ユイの仲間にいただろうかと思わせるようなフレンドリーな呼びかけに戸惑いつつもユイは少年に聞いた。
「あの……。あなたは一体誰なんですか…?」
「あっ、ごめんね。自己紹介がまだだったね。僕はイオっていうんだ。はじめましてユイちゃん!」
わたし名前なんて教えてませんよね…。それに《イオ》って名前…どこかで聞いたことのあるような気がします。なんだかとっても大事な人のような…。
少し考えた所でユイは思い出した。
「CPP…、あなたはCPPのイオなんですか!?」
イオはユイの発した声の大きさにたまげているが、自分自身まさかここまで叫ぶとは思っていなかった。ユイはコードネームだけは知っていたものの、顔などの面識は一切もっていなかった。ユイ少し警戒しつつ話しを続けた。
「うん、そうだよ。僕はCPPの一人だよ。でも僕は彼らとは少し違うよ。バーベル達は試作プログラムなんだ。僕はCPPの完全体というのかな…試作プログラムではないんだ。だから負のプログラムが押し寄せてきても自力で対処することができたんだ。僕はねユイちゃん…彼らを止めにきたんだ!」
「止める?」
唸るようにユイは小さく聞き返した。
「そう。彼らだって元々は君や僕と同じように穏やかな性格に設定されたプログラムだったんだよ。でもあの世界で苦しめられて、自分を制御できなくなって今の彼らになってしまったんだ。」
わたしと同じ…。
やはり彼らもユイと同じよに暴走し自我が崩壊していたのだ。だとしてもなぜ彼女、バーベルはユイを仲間にしようとしたのだろう。
「イオ…さん。バーベルはなぜわたしを必要としてるのかわかりますか?」
それを聞くとイオは目を丸くして、なにかぶつぶつと独り言を言い始めた。
「あ、あの〜…。」
「ああ、ごめんよ。その話は後でするよ。」
そう言うとまたなにかを考えている。ユイはすぐに教えて欲しく不満だったが、イオにもそれなりの事情があるのだろうと飲み込んだ。
「おーい、ユイちゃ〜ん!」
100mほど離れた場所から不意に自分を呼ぶ声が聞こえてユイは振り向いた。人影は3つ。このフィールド自体が薄暗いので顔がよく見えないが、呼びかけた声には聞き覚えがあった。
恐らくユイが目覚める少し前に散策に行ったというリーファ達だ。
「お帰りなさい。リーファさん、シノンさん、クラインおじさん!」
「おう!ユイちゃん大丈夫か?俺たちと比べて随分解けるのが遅かったみたいだったけど。」
ユイは魔法によって生み出されたもう一人のユイのことを話す気にはなれなかった。あれはユイの心の負の感情だ。その負の感情を他人に押し付けるわけにはいかない。
クラインを騙すことに罪悪感を感じつつもユイは何が起きたのか話さなかった。
ごめんなさい、クラインおじさん。
「それが…よく覚えてないんです。ところでみなさんはあの魔法でなにかありましたか?」
「えっと…」
シノン曰く、どうやらシノンたちはべつべつに黒いオーラに包まれたものの3人ともはぐれることはなかったらしく、ユイだけがいなかったらしい。彼女たちはあのオーラの中で嫌というほどのmobと戦わせられ、その途中でこのイオが空間ごと斬り裂いて助けられたのだとか。
「イオくん。なんでユイちゃんは助けることができなかったんですか?」
「くんはいらないよ。う〜ん…それはちょっとプライバシーって奴の問題になるから言えないかな。」
リーファ達は首を傾げているがユイにはその意味がわかった。イオもこれはユイの問題であり、簡単に他人が踏み込むべきではないとそう言いたいのかもしれない。
「それより散策でなにかわかりましたか?」
「ああ、今までに通ってない道をやっと見つけたよ。多分あの道を行けばパパとママに会えるんじゃないかな。」
リーファはいつもキリトのことをキリト君と呼ぶが、ユイの前ではたいがいパパと呼ぶ。
やっとパパとママに会えます。心配してなかったらわたし怒りますからね。
そう心の中で呟き、ニコリと笑った。
暫くイオはすぐ横の大きな岩に寄り掛かって無言で話を聞いていたが、何かに気づいたのか顔しかめていた。
「話はおわったかい。そろそろ彼女がくるよ。」
「彼女…?」
イオの言葉を聞いた後、面白いことに全員揃って同じ言葉を口にした。これが現実世界の四字熟語《以心伝心》とやらなのだろうか。
イオはぷっと短い笑い声を漏らすと小さく頷きユイの背後を指差した。
「やあ、久しぶりだね。サイフォス。元気だったかい。」
ユイの背後には、サイフォスが顔をしかめて仁王立ちしていた。その表情は驚愕と憎悪…どちらとでもとることができよう。
「イオ…。貴様…。」
サイフォスが手を前に出すと片手用直剣が、姿を表しユイ達には目もくれずに一直線に斬りかかっていく。
「逃げて!!」
シノンは叫んだ。がシノンに対する答えは優しい微笑みだけだった。
誰もが目を見張ったであろう光景が目の前には広がっている。たとえキリトやアスナがいたとしてもこの光景は理解することはできまいとユイは推測した。
ユイ達の目の前にいるのは、純粋な殺気を纏ったソードマンと反対にやる気なく片手の掌広げ前に出している少年である。
サイフォスの剣はイオの掌の数cmというところで止まっている、いや防がれているのだ。よく見るとイオの掌の前には透明な光の膜が張り巡らされている。膜は薄いがなぜだろうか見た目よりも強靭な膜のように思わせる。
「駄目だよ、サイフォス。君は戦闘タイプじゃないんだから…。どんなに強い剣なんて装備しても意味はないよ。」
一度距離をとりサイフォスが再度剣を振りかぶりが見えない力に大きく吹き飛ばされた。
「君は頭に血がのぼるとすぐに一直線になるのが玉に瑕なんだよ。もっとも…僕らプログラムには血なんて無いけどね。」
「こっ…の、裏切り者が…。」
そう呟くと意識を失ったかのように、一度がくりと頭が下に落ちたがすぐに顔が上がった。だが、サイフォスの様子は少しおかしかった。今までより空気が張り詰めた気がするのはユイだけではないだろう。
先ほどの憎悪の表情は口を吊り上げニンマリと笑みを浮かべている。
「気を付けて…なにかあいつの雰囲気が変わったわ。なにこれ、とても冷たい…。」
シノンの呼びかけに一同頷きサイフォスの様子見守った。
「イオ…。久しぶりですね。相変わらず呑気なものですね、貴方は。」
雰囲気がまるで違う。この感じもわたし覚えがある。あれは…そう、暗い部屋に閉じ込められた時…。
「バーベル…。」
小さくユイが呟くとイオも同じように小さく頷いた。リーファ達は今いち状況を飲み込めていないようだが無理もないだろう。
「そういう貴方は、相変わらず傲慢ですよ。わざわざユイちゃんを狙わなくても僕を狙えばよかったのに。」
「貴方を狙ったところでこのプログラム達では勝ち目はないでしょう?だから何も知らないユイにしたのですよ。」
「おい!バーベルとか言ったな…!なんでユイッペを狙うんだ。説明しろ!」
「敵にわざわざ教える馬鹿はいませんよ、少し考えて発言したらどうです?」
正直これにはクラインは馬鹿だということをここにいる全ての人に見せつけているようなものだとなぜかプログラムのユイが恥ずかしくなってしまう。やはりユイだけでなくリーファとシノンも呆れているが、イオだけは楽しそうにクスクスと笑っていた。
「なっにをー!!」
怒りが沸点に達したクラインがサイフォスの体にとりついたバーベルにいよいよ斬りかかろうと剣を抜こうとしたクラインをリーファが制した。
「勇者の血筋よ。その判断は正解です。さて今ここで、貴方の力によってサイフォスに消えてもらう訳にはいかないのですよ…、イオ。まだサイフォスにはやってもらわなければならないことがありますからね…。」
バーベルが話し終えたかと思うと張り詰めた緊張感はみるみると緩まりなくなっていった。
その後すぐにサイフォスの体は一度はユイ達を包み込んだ黒いオーラに包まれて消えていった。
「みなさん今はどうか何も聞かずに進んでください。急がないと間に合わなくなってしまいます。全てはキリトさん達と合流してから話しますので…どうか。」
さっきの口調とは打って変わってとても焦っているようだった。その様子からどうやら只事ではないと踏んだシノンとリーファが頷きクラインも流れに乗じてうなずいた。
「では、行きましょう。キリトさん達はあっちの方向にいます。」
そう言うと一斉に5人は走り出した。
どうもロックンです。
いやはや、インフルエンザが流行っていますね…。みなさんどうかお気を付けて。
さて今回はユイちゃん御一行のお話でした。
次回かそのまた次回でキリト君視点又はアスナさん視点を予定しています。
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「合流」
私たちは今、いったい何をしているのだろうか。アスナ達が、門の前にたどり着いてからずいぶん長い時間がたった。だが、いまだにユイやリーファ、シノン、クライン等の姿は確認することができない。
ユイちゃん…。
アスナは小さく愛娘の名前を呟いた。かけがえのない大事な娘。その娘が何かに苦しんでいるのであれば、どんな小さなことであろうと助けてあげたい…。というのが親の気持ちである。だからこそ、今この場でただ待つことしか出来ないことがとてももどかしい。本心では今すぐにでもこの場を離れて探しに行きたい。
「キリト君…。やっぱりも」
「駄目だ。」
やっぱり戻ったほうがいい。そうアスナは言うつもりだったのだがキリトに即答される。
「アスナ。待つんだ。きっとユイ達は無事にここまでたどり着くさ。なんたって俺の自慢の妹がついてるんだからな。」
キリトは穏やかな口調で言ったが、アスナは右の掌を強く握りしめていることに気づいた。これが現実ならば、握りしめられたキリトの右の掌からは血が流れていることだろうとアスナは感じた。やはり、この状況はキリトにとっても苦しいのだ。しかし、信じて待つことをキリトは選んだのだ。
「そうだよ、アスナ。クラインはともかく…。リーファとシノンはしっかりしてるから、もうすぐ来るわよ。あっ、シリカそこにあるインゴットこっちに持ってきて〜。」
「はっ、はい〜。」
そう慰めた当のリズベットは現在離れた場所で今まで疲労した剣を回復させるために忙しそうに作業している。シリカはどうやらお手伝いさんらしく、色々な材料を危なっかしく運んでいる。普段ならフィールドで武器を回復させることなど不可能なのだが、このフィールドはリズベット曰く溶岩の温度が丁度良く道具さえあればなんとかなるらしい。例によって、リズベットはせっせと作業しているのだ。
「キリト君、ここに来てからユイちゃん達の所にもCPPが張り付いてるって考えたことある?」
不意にアスナは心の中で思った考えをキリトに訪ねてみた。キリト深く頷き真っ直ぐにアスナを見つめて言った。
「そうだろうな。奴らの狙いはユイなんだから、こっちが囮だと考えるのが自然だ。」
「そんな…。なのになんでキリト君はそんなに平然としていられるの!?」
つい感情が高ぶって、声を荒げてしまう。キリトは苦笑いしてアスナの頭にぽんと左手を置いてアスナを制し言った。
「平然じゃないさ…。正直今すぐにでも迎えに行きたいけど、それじゃ奴らの重いどうりになる気がするんだ。CPP…奴らの中のバーベルって奴はなにか危険な感じがするんだ。解りやすく言えば、ラフコフのPHOみたいな…奴には何か絶対裏がある…。そう思うんだ。」
キリトが話し終えた所でどうやら武器の回復が終わったようで、リズベットとシリカがキリトとアスナの武器の3本を抱えてこちらに向かって来ていた。
「フル回復できたよ。はい、アスナ。」
リズベットは満面の笑みをこちらに向け、アスナの細剣を両手で手渡した。
「ありがと、リズ。シリカちゃんもね!」
「い、いえ、そんな別に私は何もしてませんし。」
キリトに2本の片手剣を手渡しているシリカにお礼を言うと恥ずかしがりながら謙遜した。
「サンキュー。リズ、シリカ。」
キリトはシリカから2本の愛刀を受け取ると鞘を背中に吊るし、その後なにか思い出したように一度顔を上げてから少しなにか考えて言った。
「悪いんだがリズ…。もう一本お願いしていいか?」
申し訳なさそうに両手を合わせて頼み込んでいる。
「別にいいけど、もう一本なんてどうするつもりなの?」
と呟き両手をキリトの前に出すとキリトはアイテムストレージから一本の黄金の長剣をオブジェクト化しリズベットに手渡した。
「聖剣エクスキャリバー…。」
アスナとリズベットは異口同音で囁いた。
「こういう時のための剣だ。こいつなら剣の心配なんてせずに暴れられそうだからな。」
すると女レプラコーンが苦笑いしながら言った。
「あら、キリト。それって私の武器が壊れそうって意味でとれないかしら?」
「えっ、いやそんなことな、ないゆぉぉぉ」
みごとな鉄拳がキリトの頭上から降りかかり、ノックダウンした。
「そっそんなことより…。リズさん、早く終わらせちゃいましょ。」
どうやらシリカの介入によってキリトは無事ですんだようだ。だが、キリトは地面にうつ伏せで動く様子はない。ラグっているかのようにも見える。
「キリトく」
アスナの言葉は言い終わる前に遮られた。
「しっ!!なにかこっちに来るぞ。」
そんなもの索敵スキルでわかるじゃないと言いたいところだが、生憎なぜかアックスの時のことを考えると索敵スキルは少し頼りなく感じるものだ。
そう考えている内にどんどんとなにかの影が大きさを増す。数は4つ…。先頭を走っているのは、逆立った赤い髪、赤いバンダナに武士のような刀。
あれ、何処かで見たようなないような…。
さらに距離が近づき、後ろの様子も目で追えるようになった。すると4人の他に小さく何かが飛んでいるのに気がついた。小さくてよくは見ることはできないが、はっきりとわかるのは黒いロングヘアーだ。
黒い髪…、ロングヘアーで小さい…。 ……!!
「キリト君!あれユイちゃん達よ!」
アスナは、ユイを見てキリトに声を荒げて伝えた。自分で推測するに安堵40%、驚き60%といったところか。
なぜ驚きの方が20%も多いのかといえば、単純明快。一人増えているからだ。ユイをいれてもはぐれたのは4人のはずだ。一体何者なのかは検討の使用もない。
「ママーー!!」
鈴のような声を確かにアスナの耳が捉えた。今は謎の少年よりも漸く娘と再会できたことを喜ぶべきだ。そう考えてアスナも明一杯の声で叫んだ。
「ユイちゃーーん!!」
小さなだが確かな衝撃が胸を伝う。これは、ユイが自分の胸にその小さな体を激突させた証拠だ。少し遅れて来たリーファが言った。
「よかったね、ユイちゃん。遅くなってごめん。なんか面倒なことに巻き込まれちゃって。」
すると刀使いは口を尖らせ愚痴言い始めた。
「そうなんだよ、聞いてくれよ。なんか…あの…なんだっけ、そのCPPのサイなんちゃらが…。」
そこで言葉がつまった刀使いにシノンが助け舟をだした。
「サイフォスがいきなり現れて、なんかよくわからない魔法かけてきたのよ。あんな魔法見たことも聞いたこともないわ。」
キリトの予想通りリーファ達もCPPの襲撃を受けたらしい。
「で…。そのCPPのサイフォスはどうなったの?」
「そ、それがよ〜。なんかバーベルっていうふざけた野郎がよくわからねえ方法で連れていきやがったんだよ。」
クラインの言葉に素早く反応した。
「よくわからない方法?」
いつもは冷静なシノンが今まは少しだけ取り乱しているような気がした。
「なんていうか…。人格が変わったのよ。そのあとは何事もなく消えたわ。」
「やっぱりキリト君の予想通りになったわけね。」
アスナはキリトを見て言ったが当のキリトはどうやら誰の話しも聞こえてはいないようだった。すると先ほどまで掌の上で座っていたユイがアスナの肩の上に移動していたのに気づいた。
「ママ、パパはなんでCPPの襲撃を予測できたかわかりますか?」
「最初からわかっていたわけじゃないと思うよ。私たちも《アックス》の襲撃を受けてそのあと考えてたから。」
ユイは《アックス》の名前を聞いたとたんに鋭く反応させた。アスナには何故だかわからないが、クラインのとなりにいる少年も眉をひそめていた。
「《アックス》はどうなったんですか!?教えてください!?」
アスナは戸惑った。いくらユイを狙う敵とはいえど、彼もユイと同じプログラムなのだ。簡単に消去されたなどとは口にできない。だが、それが真実である以上隠し続けることも不可能なことはアスナ自身わかっているからだ。
するとキリトが俯いた顔を持ち上げた。
「ユイ…。《アックス》は《バーベル》に消去されたんだ。サイフォスの時と同じようにアックスの人格を乗っ取ってそのあと消去すると言ってアックスの体は消えた。おそらく言葉通り消去されたんだろう。」
ユイはやはり動揺し、小さく喘ぐように呟いた。
「……そんな。」
「さて、そろそろ君のことも教えてもらえるかな?君はプレイヤーじゃない。つまりプログラムだ。そうだろ…CPPの《イオ》君。」
キリトにイオと呼ばれた少年はただ静かにこちらを見据えていた。
遅れて申し訳ありません。
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「対面」
俺はユイやリーファ達と合流してからずっと気になっていた人物がいた。見た目は、ユイのように普通の幼い子供のように見えるのだが、一目見た途端俺の感覚はなにかとてつもない違和感を覚えたのだ。言葉にはとても表しずらい。故に不謹慎だとは承知の上でこの《プログラム》であろう少年に尋ねたのだ。
こうしてまともな会話ができるということはアルゴリズムを設定されたNPCではない。かといって、俺の当初目的である《レア片手用直剣獲得クエスト》の参加者ではないだろう。それは、今朝のユイが語っていた。そもそもこのクエストの起動条件が厳しすぎるからだ。結婚していないとクエストフラグがたたないなど、数える程しかない。それに加えてそれらのクエストの報酬はだいたいペアの指輪やアクセサリーといったところだ。これらのクエストは《新アインクラッド》でアスナがどうしてもというので、3つ程クリアした。だが、このクエストの報酬はレア片手用直剣…。だからこその100人限定なのだろうが…。
そう考えられることはただ一つ…。ユイと同じく感情模倣プログラムを搭載された超高性能のプログラムであることだけだ。ここでプログラムと言えば嫌でもCPPという名前が浮かび上がる。ずでに彼らの内3人はバーベルを除いて姿を見せている。そう考えると必然的に残るCPPは《イオ》だけになる。少年がイオである可能性は高い。だが、たとえそうであっても俺は彼に攻撃しようだとかそんなことは全くもって考えてはいない。
少しの間ここにいる全員の視線が少年に向けられた。
「キリトさんと呼んでもいいですか?」
不意の問いかけに俺は少々ずっこけた。俺はてっきり彼が自分のことをはぐらかすとふんでいたからだ。
「あ、ああ…。構わないよ。」
なんだか調子くるうな…。
そう考えて周りを見回すとリーファやシノンが少し笑っているのが目に見えてわかる。
「まずはキリトさんアインクラッドを、SAOをクリアして頂いたことありがとうございます。あそこでキリトさんがマスターを倒していなかったならば僕は勿論のこと他のNPCもゲームバランスを崩す程の影響が出ていたことでしょう。」
この話しだけでもだいたいではあるがイオと他のCPPの違いは認識することはできた。やはり、他のCPPとは違い影響をあまり受けていないようだ。それに彼の今の顔は、かつて《はじまりの街》の地下ダンジョンで消える間際のユイの表情とよく似ている。俺はイオの本心を予想しつつも追い打ちをかけるように続けた。
「単刀直入に言おう…。君は俺達の見方なのか?それとも他のCPPと同じなのか?」
「パパ!!」
ユイが顔をしかめて呼び止めた。言い方が厳しいのは自分でも承知している。だが、これが最後の確認なのだから気を抜くことはできない。
少年は少し顔を伏せて、ニコリと笑って答えた。
「判断はあなたにまかせます。僕にはなにも言う資格はありません。」
「おい…。キリ公、あの、なんだ、少し厳しすぎるんじゃないか?」
クラインがユイを気にしたのかそれとも目の前の美少年を意識したのかはわからないが俺は華麗にスルーしてみせた。左を向くとシノンがすべてお見通しといった表情でこちらを見据えてくる。
「ごめんな。君とユイが一緒にいる時点でだいたいはわかっていたんだが、注意するにこしたことはないから。」
「やはり、あなたはそういう人だとわかっていました。だからこそあの世界で勇者の役割を果たすことができたのでしょう。
僕はあなたの言うとおりCPPとして創られたプログラム、コードネーム《イオ》です。僕はあなた方が殺人ギルドラフィンコフィンと呼んでいるメンバーの負の感情をライフリセットシステムという僕だけに与えられたシステムを使って逃れました。」
隣のアスナは俺がイオと敵対しなかったことにほっとしたらしく安堵のため息をついてイオに尋ねた。
「ライフリセットシステムってどういうものなの?」
「わたしカーディナルでそのシステムを閲覧したことがあります!」
ユイが元気よく声を張り上げた。
「たしか…、流れてくる情報を一時的にすべて遮断して受け流すことができるシステムだった気がします。」
「その通りだよ、ユイちゃん。僕はそのシステムを使って数多の負の情報を受け流しました。それがバーベルたちの願いだったからです。」
「バーベルたちの願い?」
シノンが反復してイオに問いかけた。
「はい。みなさんご存知だとはおもいますが、バーベル、サイフォスそしてアックスはもともとはとても穏和な人柄に設定されたプログラムでした。負の情報が一斉に流れ込んで来た時に情報操作能力が高いサイフォスを中心にバーベル、アックスたちCPPはゲームバランスを保つために負の情報を圧縮して制圧しようとしたのです。ですが、その情報は実際には《ラフィンコフィン》のものだけではなく通常のプレイヤーの負の感情も混ざっていてとてつもない量でした。そこで、なにかあった時の為に彼らは僕を全てから遮断することを選んだのです。彼らが他のプログラムのように影響を受けて崩壊した時に僕が彼らを止める為に…。」
リズベットはおそるおそるといった感じに小さく呟いた。
「止められなかった場合は?」
イオは深く俯いて長い沈黙のあと小さく答えた。
「……。消去しろと言われています。」
「そんな……。何かないんですか!?」
ユイが気づくのは見たくないが、こればっかりはどうしようもないと思ってしまう。茅場も遠回しではあったが簡単に言えば、《火龍の杖》を使って消去しろと言ったようなものだ。
「すみません。一度壊れてしまったプログラムは開発者が直接直す以外には方法はありません。しかし当のマスターはもうSAOに関するプログラムはユイちゃんを除いて直接なにかをすることはないと言っていました。だからこそマスターはみんなとまともに戦えるように僕だけ一度減少させた権限を全てもどしたのでしょう。役目が終わればおそらくは僕も…。」
「イオ君、団長に会ったの!?」
「はい!マスターは言ってました。あなた方とともにユイちゃんを守りみんなを止めるそれが最後の仕事だ…と。」
俺はユイをちらりと見たが下を向いていて表情はよく見えない。
「なんで…。なんでいつもわたしなんですか!?」
顔をあげてそう叫んだユイの目から涙が頬をつたい生暖かいポリゴンでできた地面に落ちはじけた。
「それは、あなたが…」
イオがいいかけたところで強い地面の揺れに俺は襲われた。いや俺だけではない。リーファもユイもここにいる全員が揺れを感じている。
「忘れてたーーーー!!!」
イオが慌てふためいていた。こんな彼の姿は考えてもみなかった。「忘れていた」ということは彼はこの異常を良 予期していたということなのだろうか?
シリカがピナを抱えながら地面にしゃがみこんでいる。
「なんなんですかこれは〜〜!?」
アスナが指を突き刺して目の前のドアを指さした。
「キリト君、みんな見て!扉が勝手に!」
アスナの言う通りドアは大きな地響きとともにだんだんとひらいている。すこしの隙間から見えるのは不気味に青く光る二つの光点だけだ。
「あーもうっ。過ぎたことは仕方ない!みなさん……。」
イオの声は俺たちにはとどかなかった口の動きを推測すると「気をつけろ」といったような気がした。地響きは次第に大きくなりついには誰がなにを喋っているのかもわからない程大きくなった。
この雰囲気…。SAOのボス部屋のと似ている。イオの気をつけろという言葉。あの青い光点。もしかしたら……!?
心の違和感に気づいた瞬間俺は今出せる最大の声で叫んだ。
「みんな気をつけろ!ボス級のモンスターがもしかしたらでるかもしれない。」
しかしこの地響きの音で掻き消されているのか誰からも返事は返ってこない。
扉が開ききったが中はまだ暗闇に閉ざされてよく見ることはできない。だがこちらを見据えるかのように青い光点はそこから動くことはない。
耳を塞がなければ立ってはいられないほどの轟音が俺たちを襲う。ただの大きな音ならば耳を塞げば大したことはない。だがこの轟音にはダメージ判定があるらしく左上に表示されているHPバーが僅かづつではあるが削られていっている。
いったいどんなモンスターなんだ?流石にずっと削られることはないと思うが…。
案の定、俺のHPバーは2割程度減少したところで動きを止めた。
攻撃判定ありの轟音を逃れたユイとイオが呼び止めた。
「みなさん気をつけてください。この「第一の門」には大型モンスターが配置されています。」
暗闇の景色は一瞬で一転した。変わったと言っても明るさが少し明るくなっただけなのだが。丸い空間、その曲面には青い炎をともった柱がいくつも立っている。
「キリト君、ここって…。」
アスナが顔を訝しめてこちらを見て言った。
「ああ…。SAOのボス部屋だ。けど何処かに似てるような…。」
「おい、キリト…。あれ…。」
クラインにしてはやけにおどおどとした武士には似合わない声とともに丸い空間の奥を指差した。俺はクラインが指差した方向をゆっくりと見据えた。
「…!!!」
空間の奥にはこれまた大きな扉が控えている。がその前には玉座が置かれている。そしてその玉座にはもう見ることはないだろうと思っていたモンスターが座っていた。
どうもロックンです。
今回はキリト君視点で話しを進めました。(まあまだ続きますが…。)
さて次回は予告通りバトルシーンに移ります。CPPのイオ君ががんばる…かも。
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「青い残剣」
もう1年以上前…。一度だけ同じモンスターを見たことがある。見上げるほど巨大な青い肉体、盛り上がった筋肉、眼はその肌と同じ青く、頭の両側からねじれた何物も貫きそうな角が生えていた。体は人間の体だが一目みれば人間でないことは一目瞭然だ。
悪魔である。
悪魔といえば大抵の《勇者》系RPGなら看板のようなボス設定だろう。だが《現実世界》に少なくとも現代の世界には悪魔など存在してはいない…はずだ。
俺は幾度となく悪魔に似たモンスターをSAOで屠って来たがこのような巨大ボス級悪魔様は別である。
かつて《旧アインクラッド》74層のボス部屋においてこれと全く同じといっていい悪魔様と遭遇した。その時は成り行きではあるがアスナとパーティーを組んでい…、いや組まされていたと言うべきであろう。偶然にもボス部屋を発見してしまった俺たちはボスの姿を一目拝見しようとボス部屋の扉を開いた。当然一目見た後は全速力で逃げた。 そこまではよかった……。
その後偶然クライン達、ギルド《風林火山》とはち合わせ軍もそこに混ざりもうごちゃごちゃになってしまったのだ。
軍のコーバッツ大佐は俺たちに迷宮区のマップデータを要求してきた。アスナや風林火山のみんなは反対したが、俺はこれ以上面倒なことにならないようにマップデータを無償で渡した。今思えばもう少し意地汚いこともできただろうが、アスナも居たことだしなにもしなくて正解だったとふんでいる。
マップデータを受け取ったコーバッツ達、軍がまさかではあるがボス攻略に挑むのではと推測し見事に的中させてしまった。そこで眼前に広がっていたのは今でも忘れることはない。蒼眼の悪魔が軍の連中を屠っていたのだ。アスナは軍の連中を助ける為にボスに向かって行った。俺は身も凍るようないてつく恐怖を全身に味わいつつもアスナを追った。
正直、もうこれで死んだなと俺は思った。たが、アスナやクライン達だけでも守るためそして全滅という最悪の結果を招かないために俺は全てをかけて戦いなんとか倒すことはできたものの死にかけた。
その悪魔が今、1年以上の時を経て再び俺の目の前に立ちはだかっている。あの時のいてつくような寒気が全身を覆っていく。おそらくは俺だけではない。アスナとクラインも当事者であるのだから同じような状態だろう。
アスナがあの時のように俺のコートの袖を弱く握った。
「キリト君なんであれが。」
《The Gleameyes》それがあのボス級悪魔様の名前だ。
「わからない…。ただ一つわかるのがこいつが第一の門の守り主ってことだけだっ!」
不意に飛んできた斬馬刀をステタータスまかせに素早く回避した。同じく回避に成功したリーファが扉の後ろにいたユイとイオに向かって叫んだ。
「ユイちゃんとイオ君は危ないから下がってて!」
「わかりました!気をつけてください!」
返事が返ってくるのを確認すると俺たちは蒼眼の悪魔に向かって走り出した。
戦いは混迷を極めた。
俺、クライン、リズベット、シリカがアタックに専念しリーファとアスナ、シノンでサポートを担当した。このパーティーにはメイジビルドがろくにいないのだ。高位の治癒魔法はアスナ以外は使うことができない。故に俺たちアタッカーはダメージを最小限に抑えなければならない。だがこの蒼眼の悪魔にはそんな考えはまったく通用しなかった。
気がつくとすでに俺のHPはすでにイエローゾーンに入っていた。
「キリトさがれ!」
クラインの言葉に従いたいのやまやまであるが、眼前には斬馬刀を振り上げ追撃にかかろうかというグリームアイズの姿がある。
「ぐぉっ!!」
振り下ろされた巨大な剣をギリギリのところで俺の剣で起動を逸らし直撃は避けられた。しかし先程イエローゾーンだった俺のHPは既にレッドまでに減っている。
あと1秒でも遅ければ今頃俺のHPは消し飛んでいたかも知れない。俺はグリームアイズの斬馬刀の反動を利用して大きく下がることに成功した。
「すまない少し離脱する!」
本来なら魔法で回復してもらうのがセオリーだが彼女たちのマナも残り少ないだろう。自分で回復するのに越したことはない。
回復するのを確認しながら戦況を確認する。アタッカーのクライン等のHPはリズベットを除いてイエローだ。
対するグリームアイズは6本あるそのHPバーが漸く半分削れたところだった。
あと半分。ソードスキルでごり押しすれば行ける…!
「みんな奴に一瞬でいい!隙を作ってくれ!」
俺は叫び、グリームアイズの背後に回り込むように走り出した。
「無茶よシリカ!!」
叫びに似たリズベットの声が響き、俺は足を止めてしまった。
「はぁぁ!」
シリカの短剣が水しぶきを上げ、振り下ろされた斬馬刀を弾き返した。しかし、シリカは大きく吹き飛ばされHPバーが一気に減少し残り数ドットというところで動きを止めた。当たり前だ。短剣でボスの斬馬刀を弾くなどSAOでは自殺行為だ。グリームアイズは壁際まで飛んでいったシリカを追うためか足に力をため始めた。
「シリカ!避けろ!」
じりじりとグリームアイズの足場が凹む。
「ふっ!」
今にも力を解放し追撃に移ろうとするその時、悪魔の頭に鋭く正射された弓がつきささった。そのおかげでシリカは助かったようだ。
「シリカちゃん!スゥ スゥエラ……」
すかさずアスナとシリカが詠唱に入る。
「んおぉぉりゃー!」
体制を崩した悪魔にクラインとリズベットの猛攻がモロに入りグリームアイズが怒りの雄叫びを上げる。
「くそっ!間に合わない!」
隙を作ってもらったにも関わらず、シリカに気を取られ立ち止まってしまったため、回り込もうとダッシュしている俺は間に合わず、スキルにより硬直している二人に斬馬刀が今にも振り下ろされようとしている。
「…だめです!!」
ユイの声が小さくだが聞こえた気がした。
モーターをつんでいるかの如く何処からか音が聞こえた。
猛スピードで戦地を何かが駆け抜けグリームアイズの振り下ろされた斬馬刀は大きく弾かれた。
「…!?」
ここにいる誰もが目を疑っただろう。そこには、彼の身の丈と同じくらいの長さはある片手用直剣を振り切った状態でイオ立っていた。たった一人あんな小さな少年があの巨大な剣を弾き返したのだ。そうあの猛スピードで戦地を駆け抜けたなにかはイオだ。ユイとイオがいる場所から200mはあろうかというこの距離を立った1、2秒で駆け抜けてきたのだ。俺の全力のダッシュなどまるで歯が立たない程だ。
イオは大きく後ろに下がり俺に向かって叫んだ。
「キリトさん今です!」
俺の思考はイオに呼びかけられたことにより漸く蘇った。
「サンキュー、イオ!」
今度こそ回り込んだ俺は《サーベジ・フルグラム》を放った。2段目の垂直斬りを終え左手から最後の3段目を出す寸前、俺はソードスキルから意識を離し切り替える。
「せぇぁぁ!」
《ジ・イクリプス》へとソードスキルを移行する。
左右交互に目にも止まらぬ速さで斬りつける。最後から3段前の突きのところで再び意識を手放す。ここから先成功する確立は五分五分だ。だが決まれば確実に奴のHPバーは吹き飛ばすことができる。
「キリトさんに続きましょう!!」
ここで漸く硬直から逃れたリーファ、クライン、シリカが後に続きここが勝負どころと考えたのかリーファとアスナまでもが加わりシノンも弓でソードスキルを発動させている。
「いっけぇぇぇ!」
片手剣ソードスキル《ハウリング・オクターブ》に俺は切り替えようとした。
これで奴のHPは完全に0になるはず…だった。そうここさえ決まっていれば…。
俺の体は全くうごかなかった。頭の意識と体のタイミングがずれてしまい、ソードスキルによる硬直に入ってしまったのだ…。それも通常よりも長い。
グリームアイズのHPはあと1本と半分程度残っている。だがこれくらいなら時間をかければ削ることができる。
蒼眼の悪魔は斬馬刀を正面に構えると勢いよくジャンプした。ジェット機のように飛び上がった後、鋭く尖った切っ先を真下に向けるとそのまま落下し、地面に斬馬刀が突き刺さったかと思うと地面から光が円形に走り硬直で動けない俺は勿論、アスナ等ももろにくらってしまった。
体から急に力が抜け、地面に倒れこむ。
「やべえぞ、キリト。」
これは…スタン!?74層の時はこんなデバフはなかったのに!?
こちらを見据える悪魔の後方から不意に声が届いた。
「もう少し…。任せてくださいみなさん。」
自由の効かない体では体全体を向けることはできず視線だけを声の主に向ける。青いコート、ユイより少し高いくらいの身長、片手には鋭く長い長剣。小さな歩幅でゆっくりとグリームアイズめがけて歩み寄る小さな少年の姿があった。
イオだった。
俺はてっきり一度奴の斬馬刀を防いだ後はユイの下に戻っているものだと思っていた。
イオはグリームアイズの前で立ち止まると一度グリームアイズを見上げその長い剣を頭上に構えて目をつむった。
イオが目をカッと見開いたかと思うと、イオの長剣が形を変えた。剣の刃がみるみる丸くなり自分の身長を優に越すほど長くなっていた。よく見ると、剣自体は長くはなっているわけではなかった。イオの長剣を青白いライトエフェクトが覆っている。そのライトエフェクトが刃を丸く覆い、伸び、あたかも彼の剣そのものが伸びたように見えているようだった。
丸みを帯びた光の粒子…。俺は何か似たような物を知っている気がする。
そんな思考はシノンの一言によって解決した。
「キリト、あれ光剣に似てない?」
そうだ!光剣…。一時期、俺が使ってたあれだ。
俺は以前、ガンゲイルオンラインにおいてイオが手にしている剣と似たような剣を愛用していた。その武器のカテゴリーの名前が「光剣」である。リーチはあれ程長くはないが柄から光の粒子が放出され、その粒子が刃となり敵を斬り裂き、滅する。イオの長剣の輝きライトエフェクトの一部が丸い欠片となり落ちていく様は俺にはまさに光剣のように思わせるのだ
イオは軽くふわりと宙に浮くと長剣のライトエフェクトがイオの通った印を残すかのようにイオが通った場所に残像のように散らばる。
蒼眼の悪魔も負けじと斬馬刀を構え振り下ろそうとしている。
「ふっ!!」
振りかぶったイオの光の長剣は右斜め下にライトエフェクトを散らし逆手に剣を持ち直し再び同じ軌道で蒼眼の悪魔に向かって切り上げた。
縦、斜め、水平。
凄まじい速さで光の長剣と斬馬刀が何度も勢いよくぶつかり合いその度にイオの長剣のライトエフェクトの一部が寸前の軌道を残す。ただぶつかり合うだけなのになぜかグリームアイズのHPはみるみると減っていく。対するイオは無傷だ。その原因はイオの剣さばきにある。受け流すタイミング、その後の攻め。グリームアイズの斬馬刀はいいようにイオに受け流され、逆上したかのように同じ動作を繰り返している。イオの剣さばきは見事の他いいようがなかった。
俺同様、スタンで硬直しているクライン等もただ唖然と剣の応酬を見守っている。
アスナの細剣と同じくらい…いやもっと速いかもしれない。
実際、片手用直剣と細剣とでは圧倒的に速さが異なる。片手用直剣はそれなりのパワーがあるが、速度までは追求してはいない。逆に、細剣はパワーはないが速度を求めた物だ。故に細剣は片手用直剣とは比べられないほどに速く突き刺すことが出来る。
だが、イオの剣速は片手用直剣というジャンルにおいて以上という他ない。あのとてつもなく長い剣を片手用直剣と断言していいのかはわからないが…。
俺はイオの口がわずかだが動いていることに気づく。だが聞き耳スキルが高いわけでもないため聞き取ることは出来なかった。スペルでも詠唱しているのだろうか。
それからも空中で静止したイオとグリームアイズの攻防は続いた。
「ここ!!」
イオが先程の倍は強く声を発した時、俺達のスタンは漸くその効力を失った。だが今更どこで介入することができるだろうか。ここはイオに任せるしかない。
イオが短い気合とともに先程よりも速く振り下ろされた長剣が唸りをあげて悪魔に向かっていく。しかし、イオの気合とは裏腹に振り下ろされた長剣はグリームアイズに届くことはなく虚しくも空気を斬り裂いた。攻撃モーションをすでに起こしていた蒼眼の悪魔は勝ち誇ったように短く唸ると手にした斬馬刀を勢いよく振り下ろした。
「イオさん!!」 「イオくん!!」
「イオ!!」
ユイと俺たちの叫びが重なりこの空間にこだました。
ピンチとは裏腹に一瞬、イオが笑みを浮かべた…。俺にはそんな気がした。
巨刀が振り下ろされ、重い轟音が響き渡った。地面がぶつかり大きく揺れたかと思うと《第一の門》の守り主であり、《第74層》のフロアボスであった、蒼眼の悪魔はなにが起きたのかわからないというような表情を浮かべポリゴンをあたり一面に撒き散らし死散した。
グリームアイズが先程まで猛威を奮い、君臨していた場所には先程同様に空中で剣を振り切った状態で動きを止めたイオが残っているだけだった。
どうもロックンです。
えと、気がついたら5000字到達ということで、申し訳ないですがそのまま挙げます。
とりあえず中2スキル前回で今回も?書きました。笑
いまさらですけど原作では、新アインクラッドでは2刀流スキルは使えませんでした。察していただけると幸いです。
単なる私のミスです。申し訳ありません…。
ですが、一度書いてしまった以上、これからもそういう設定でいきますのでよろしくお願い致します。
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