「あのさ、俺──本音のことが好きだ」
IS学園屋上。秋の夕日が差し込む中、唐突に、何かを決意したような顔で───は言った。
「俺と付き合ってほしい」
そのことばを耳にして、
これは夢? いや現実? どうして? なぜ? 少しでも心を落ち着けるために、今この状況に至るまでを回想する。
その日は朝から絶好調だった。今年一番というほどすっきりとした目覚めから始まり、朝食のトーストは焼きたてのさくさくふわふわで、おまけのデザートまで付いてきた。授業中も実に冴えていて、織斑先生にお褒めの言葉をいただいた。昼食も購買で毎度売り切れのパンが買えたし、先週無くしたペンも見つけた。
そんな些細な喜びを噛み締めながら放課後を迎え、夜まで何をしようかと帰り仕度をしていた時、彼に話しかけられた。
「ちょっと話したいことがあってさ。ここじゃなんだし、屋上で」
いつもの様に整備の話だろうか?屋上でというのが気になるが、今の季節、放課後ともなれば少し肌寒く、風通しのいい屋上に好んで集まる生徒は少ない。人目が気になるような話をするにはうってつけだろう。早速移動した私たちはベンチに隣り合うようにして座っていた。
今思えば完全に
「ってわけでー、今日はとってもいい調子だったのだよ~」
「あ、ああ。それは何よりだな」
それからは、少し雑談をしていた。朝から絶好調だったこと、休み時間のこと、昨日のテレビ、いつも通りのゆるい話題を。
そうして話を続けるうち彼の反応がいつもより鈍いこと、何か迷った表情をしていること、何より本題をまだ聞いていないことに気がついた。
「ところで~、今日はお話があるんでしょー?」
「っああ。今話すよ」
そして一度息を整えて、彼が口を開いて…今に至る。
(いや回想なんてしてる場合じゃないんだよ何やってるの私)
何か返事をしなければ。返事?何の?ああ告白だ。告白。こくはく!!?!!??
「あの、えと、まってまって、ね?あなたが私を好きで付き合ってほしいって。あれ?」
言葉がまとまらない。顔が熱い、彼の瞳が心配そうに私を見つめていて、あらためてみるとなかなかかっこいいなぁえへへいやいや早く返事しなきゃそうだ一旦待ってもらおう!
「返事は今でなくてもいい。ただ、これだけ伝えたかったんだ」
ほら「彼」もそう言ってる!!
結局ただの先延ばしに過ぎないけれど、今ここで返事なんてできやしない。そうと決まれば軽く謝罪して、ちょっと考える時間をもらえばいい。
「ご、」
「ご?」
「!?!??!??!??!?!?」
パニックを起こした私が取った行動、それは完全に誤解を生む返答とこの状況からの逃走だった。
…たった今告白したばかりの、呆気に取られた顔の彼を屋上に置いて行きながら。
完全にやってしまった。
一時間後。私は食堂で夕食を取っていた。正確には先ほどの逃走劇からここに来るまでの記憶が完全に飛んでいるので時計と辺りを見渡して状況を判断した。
なにをやってるんだ私は。なんだあの返事は。完全に振った感じになってるじゃないか。明日も教室で会うというのにどんな顔で登校すればいいのだろう。
自分で注文したであろう冷めたお茶漬けに目を落とすと、意識を飛ばしていた私の行動が窺える。ご飯にはほうじ茶がかかっているし、乗っているのは目玉焼き。手にはフォークを握っている。
(ほんっと、なにやってんだろーなー)
軽くため息をついて、周囲から向けられる奇異の目に居心地の悪さを感じながら、食欲のそそらない見た目となったお茶漬けをすすり込んだ。
(まあまあいけるかも)
夜、自室に戻ってシャワーを浴び、あの告白に思考を巡らせる。
(好きと、言われてしまった)
決してあの告白が嫌だったわけではない。状況を考えればあれが本心からの言葉だと言うことぐらい理解している。それだけで判断したいわけじゃないけれど、じっと見つめられたらドキドキするぐらい容姿は整っているし、これまで共に過ごしてきて彼がいい人であることはよく知っている。
でも、今までずっと、私は。
(友だちだと、思ってたんだよなー)
「好き」か「嫌い」かで分けるなら間違いなく「好き」と断言できる。でもそれは恋愛対象としてではなく友人としての話で、恋人にするなんて考えたこともなかった。
(いつからなのかなぁ)
私を好きになったのは。
一か月?三か月?半年?意外と最近かもしれない。もしかしたら今日?
時間で思いの強さが決まるわけじゃないと思うけれど。
(この気持ちはなんだろう)
あの時の言葉を、私を見つめる顔を思い出すだけで今でも胸が高鳴る。これが恋なのだろうか。私にはわからない。
なにせ生まれてこの方、私は「恋」をしたことがないから。
もちろん人が愛せないとか、心に問題があるとかそういう深刻な話ではない。これまでずっと女子校に通っていたし、少女漫画のような幼なじみの男の子なんて存在していなかった。単純に異性と交流した経験がほとんどなかったのだ。
だから、この胸の高鳴りが何なのか今の私にはわからない。「───」だからなのか、「
(もうこんな時間かぁ)
そんなことを考えている内に時計の針は深夜をまわり、夜更かしは健康に悪いからと言い訳するようにベッドに潜り込んだ。
夢を見た。初めて「───」と話したときの夢を。
第一印象は「普通」だった。第二の男性操縦者という特殊な肩書きを持つとはいえ少し前までは一般人。クラスメイトの期待を余所に無難な自己紹介を済ませて席に座っていた。
隣に座っていた私はというと、
一般の生まれと公表されてはいるが、裏に何がいるのかわからない。休み時間、私は
「ねーねー、せっかく隣になったんだしー、よかったらお話しなーい?」
まるで下手なナンパだ。したこともされたこともないが。
「喜んで、実はどう声をかけようか迷ってたんだ。」
頭の悪そうな申し出を快諾した彼と、その日はいろんなお話をした。中学校の話、検査の話、適正があるとわかってから、バタバタと準備を進めた話。
私が質問をして、彼が答えるの繰り返し。いつのまにか長い雑談になり、それが任務のためだということも忘れて、次の休み時間も、放課後も日が暮れるまで話し込んでいた。
そう時間もかからず監視の命が解かれても、毎日のように話す関係であることは変わらなかった。
(そういえば、初対面から仲よくしてたんだよね)
目覚めの気分はまあまあだった。未だ覚め切らない眠気と闘いながら、夢の続きを思い出す。
(お返事どうしよう)
余計なことばかり考えて、肝心の返事を忘れていた。
(ちゃんと答えなきゃ)
ハイかイイエか、結論は出ていない。しかし一晩経ったからか、私の頭は楽観的な思考を始めていた。
(放課後までには、決められるよね)
ひとまず朝食だ。答えを出すには頭を使う。頭を使うには栄養がいる。軽く身支度を整えた私は食堂へ向かった。
彼と鉢合わせる可能性も考えずに。
「あ」
「あっ」
あ! やせいの だんせいISそうじゅうしゃが あらわれた!
「おっおは、ようっ!」
「あ、うんおはよう」
思いっきりうわずった声で挨拶してしまった。その姿を目にした瞬間から上昇していた顔の温度が、羞恥で更に熱くなる。
(あたりまえだよあっちだって毎朝
この展開はまずい。昨日告白し、謎の台詞を吐かれて逃走された“彼”と、逃走した私。その話が出てくるかもしれない。いったいどうすればいい?
ほんねは どうする?
▶︎たたかう かばん
かんちゃん にげる
「えーーっと、昨日のことなんだけど」
「え゛っ!?ああっうん!昨日ね!」
「俺、待ってるから、急がなくても大丈b「あ、あのっ!」え?」
ああああああああああああああああああああ…………………………あっ。
ほんねは どうする?
たたかう かばん
かんちゃん ▶︎にげる ピッ
「ご、」
「あっ」
「」
うまく にげきれた!
(いやぜんぜんうまくないから)
それからしばらくして廊下で我に返るまで、私が何をしていたのかはほとんどわからない。
わかるのは昨晩より奇異の目が増えていること、いつのまにかたんこぶが二つもできていること、また私は逃げてしまったということだけだ。
(どうしよう)
また、やってしまった。
放課後、私は第二整備室でかんちゃんのお手伝いをしていた。今日は特に約束をしていたというわけではないけれど、とにかく昨日の告白を忘れたかったのだ。いや告白が嫌だったわけじゃなくてその返事で頭痛くなってきたし下手に動き回ってまた鉢合わせたら何しゃべったらいいかわからないしあまり動かずにここでお手伝いしていた方がいいんだよ!! うん!!!
余計な心配をかけないよう、心を落ち着けて整備室に入る。かんちゃんは突然入ってきた私を不思議そうな目で見ていたが、断る理由も無いと一緒に作業を始める。
でもいくら隠そうと、忘れようとしても頭の中は告白で埋まっていて、
「はいかんちゃん!ねじ持ってきたよー」
「ありがと本音。でもそれ脚部に嵌めるねじ……。頼んだのは、マニピュレーターに使うやつ……」
「あれー?」
「ほいかんちゃん!配線チェック終わったよ!」
「ありがt……さっきまで無かったコードが置いてあるんだけど……」
「あれ!?なんで!?」
「かんちゃん次は何を「もう今日は休んでて」はい…」
「ねえ本音、今日はどうしたの?」
どれだけ取り繕おうとしても、やはり
「……やっぱり、わかる?」
「いやクラスメイトが朝に絶叫して走ってたり織斑先生の出席簿二回も食らっても微動だにしなかったの見たら気になるに決まってるでしょ」
「うそぉ…」
違った全部見られてただけでした。二つのたんこぶの原因はそれか。そしてかんちゃんが見てたってことはクラスメイト全員も見ていたという事実に頭を抱える。
「明日からどんな顔で登校すればいいの……?」
「そんなことはどうでもいいから、何があったの?」
そうだ今はこんなことで悩んでいる場合じゃない、藁にもすがる思いで口を開く。
「かんちゃん、私の悩み、聴いてくれる?」
「もちろん、私と本音の仲じゃない」
「ありがと。実はね──」
私は全てを話した。告白されたこと。“彼”のことが好きなのかわからないこと。返事に困って二度も逃げた結果ここにいることを。そしてかんちゃんは最後まで何も言わずに聴いてくれた。心なしかだんだん不機嫌そうな顔になっているような気もするが気のせいだろう。
ああ、やはり持つべきものは親友だ。
「──というわけなの。私、どうしたらいいのかなぁ」
「一遍生まれ変わったらどう?」
……そうでもないかもしれない。
「あの、かんちゃん?さすがに生まれ変われはひどいと思うなー」
「告白されて二回も逃げた上に返した言葉が「ごめんなさい」と「さよなら」なんて生きてて恥ずかしくないの?」
「あ゛う゛っ……」
私の親友が容赦無さすぎる。だめだ心が折れそうだ。
「そもそも私告白されたことなんてないし、恋だってしたことないもの。私たちは幼なじみでもあるんだからそれぐらいわかるでしょ」
「たしかにそうだけど……」
「それに相談しなくたって、
「えっ?」
何を言っているのだろうかこの親友は?
「意味がわからないって顔、してる…展開。どうして私にはわかったか、知りたい?」
「う、うん」
「じゃあまずこれを……」
そうしてかんちゃんは、おもむろにスマホを取り出し、カメラを向ける。
「え?急に何を…」
「いいから。これ見ながらさっきの話を、もう一回……」
「えっ撮るの?それはちょっと恥ずかしいなーって……」
「いいから」
「はい……」
こんなことをして何がわかるのだろうか。言われるがままにもう一度、全てを話した。二度目ともなるとかなり恥ずかしかったけれど、きっと意味があると信じて話しきる。
「これで、いいの?」
「ばっちり。じゃあ早速見よっか」
動画が再生されて数分後、かんちゃんが先ほど不機嫌そうに見えたこと、わざわざ二度も説明させてまで伝えたかったことを理解した。
記録の中の私は、神妙な面持ちから話が進むにつれてゆっくりと、幸せ一杯ですと言わんばかりの締まりのない表情へと変化していたのだ。
「何かいうことは?」
「はい……わかった……。たのむからもうとめて……!」
「……」
『それでね、───が……』
「おねがいしますとめてください」
いっそころしてくれ。
「こんな顔で話してるものだから、自慢しに来たのかと思った…」
「ごめん……」
「でも、これでわかったでしょ?自分の気持ち」
「うん、私は──のことが好き、なんだと思う」
なんて馬鹿なんだろう、とっくに気持ちは決まっていただなんて。
「毎日一緒に食事をして、片方呼べば大体二人で来るし、毎週一緒に出かけてはその話を聞かされてわからないと思った?」
「まってそんなにわかりやすかった?」
さすがにそんなことはないはずだ、毎日食事は…してたか。大体二人でいるなんて…いたなぁ。毎週一緒には……出かけてましたね、はい。
思えば一人でここに来たのもずいぶんと久しぶりだ。かんちゃんが不思議そうな目で私を出迎えたのもそういうことだろう。
「てっきり隠してるだけでとっくに付き合っているものだと、未だにこんな状態とは……いくじなし」
「ぐはっ」
容赦のない言葉が心に刺さる。かんちゃんってこんなに辛辣だっただろうか。
「だいたい───だってあんなにわかりやすい態度とってたのに…。まあそれであっちは隠してたつもりみたいだし、本音も気づいてなかったみたいだから」
「そ、そう?」
「一夏ほどじゃないにしろまあまあかっこいいのに、なんで───がそこまで女子に狙われてないと思ってたの? みんな気づいてたからだよ」
「えっ」
まさかそんなことは……。いや、思い返せば二人でいるとき変な視線を感じていた気もする……。だとしたら、私はとんだ唐変木ではないか。これではおりむーを笑えない。
「で、どうするの? 返事は?」
「それは…まだ決めてないけど、そのうち……」
「いつまでそうしている気?だらだら引き延ばして、───の気が変わったら? 隠れたライバルもいるかもだし、もし誰かに告白されたらそっちと付き合っちゃうかもよ?」
「それはだめぇっ!!あっ……」
考えるより先に、声が出ていた。つまりはそういうことだ。
「はい決まりね、まだ問題ある?」
「ううん……。もう大丈夫。やっと、わかったから。」
相談をして気持ちを知って、なんだかすっきりした気分だ。これならきっと、大丈夫。
「そう。じゃあ、今日はもう帰って休もっか。片付けよ」
「あのっ……かんちゃん、ありがとね」
「ん。本音も、がんばって」
「……うん!!」
夜。自室のベッドに潜りながら、決断する。
(明日、返事をしよう)
これ以上待たせちゃいけない。相談にのってくれたかんちゃんのためにも、何より告白してくれた彼のためにも。
(横取りされたくないよぉ)
ちょっぴり自分のためにも。
そんなことを考えているうちに、すとんと眠りについた。
夢を見た。私が、「───」に助けられたときの夢を。
専用機持ちタッグマッチの日、何体もの襲撃者が攻めてきた時、私は生徒会の一員として避難誘導をしていた。
突然の襲撃に慌てて、叫びながら少しずつ開放された扉に一般生徒が殺到する。遮断シールドがあっても、前回の襲撃ではそれも破られている。それに前は一体だけだったが隔壁が閉じる前に見えた様子では今回は複数いる。専用機が交戦しているとはいえ、あの数ではいつ突破されてもおかしくない。流れ弾だって飛んでくるかもしれない。今にも逃げ出したくなる恐怖に怯えていながらも周りに伝わらないよう冷静に誘導をしていた。
(怖い、逃げたい。でもみんなはもっと危ないのに戦ってるんだ)
こんなとき、私は戦えない。戦える力も道具もないから。普段から役に立ててないのに
(はやく、はやく、こっちを気にせず戦えるように)
攻撃が来ないことを祈りながら必死に誘導を続け、もうすぐ避難が終わるというとき、
「どいてっ!!」
「あっ!?」
慌てた生徒に突き飛ばされ、固い地面に倒れ込む。しかしこうなることは想定内。すぐに起き上がろうとした瞬間、足首に鋭い痛みが走る。骨まではいっていないだろうが、このまま痛みが強くなれば動くのも難しくなるだろう。
(でも避難はほとんど終わってる、今のうちに私も避難しよう)
痛みをこらえて立ち上がり、歩き出す。あと少しで出口に着く───ことは叶わず、隔壁が破られた衝撃と轟音に、意識が飛びかける。
空いた穴から襲撃者が見える。一瞬動きを止めて、こちらに標的を変える。
(狙われた!? まずい、はやく逃げなきゃ──)
襲撃者の左腕に
(だめ、逃げられない。殺される、こんなところで。いやだ、誰か、だれか──
助けてっ……!)
無慈悲に熱線が放たれて、光に目を瞑った瞬間。
「させるかぁっっっっ!!!!」
「───」が助けにきてくれた。
数秒前まであれほど恐ろしかった敵の姿は、もう何も怖くない。まだ勝ったわけでもないのに、敵の前に立ちはだかる彼の背中には絶対に大丈夫だと思える不思議な頼もしさがあった。
それから、かんちゃんやたてなっちゃんも助けに来て、何度か危ない場面もあったけれどなんとか襲撃者を倒しきった。
全ての敵を排除したことを確認して、慌てて私の怪我を心配する彼を見たら、本当に助かったんだという安堵で涙が溢れた。
私の涙を見て余計に心配する彼の顔がなんだかおかしくなって、思わず抱きついたりなんかして、驚いて固まった彼に何度も何度もお礼を言った。
雰囲気に耐えきれなくなったかんちゃんが止めるまで、それは続いていた。
(あの時はかっこよかったなぁ、今もか)
今日の夢を見て再確認できた。
どこで、いつ、どんな言葉で返そうか。何も決まってないけれど、伝えたい想いはただひとつだ。
そして、昨日のように食堂へ向かう。
(もう逃げないぞ!)
ちょっとした決意を固めながら。
翌朝。中々悪くない目覚め。早速食堂に向かう。
「あっ」
「あっ」
鉢合わせ再び。また鼓動が早くなるのを感じる。でも、もう逃げない。私の様子で彼も何か感じ取ったのか、一転して真剣な表情に変わる。
「今日はね、話したいことがあるの」
「ああ」
「だからね、放課後、屋上で待っててくれる?」
「わかった。絶対、いくらでも待つよ」
それだけ言葉を交わして、私たちは分かれた。
後は放課後。そこで、全てが決まる。
──放課後、IS学園屋上。私たちはあの日のようにふたりでベンチに座っていた。
「えっとね、お話なんだけど。まずはお礼と、謝りたいことがあって」
「っいや、そんな感謝も謝罪もされるようなことなんてしてないさ。気にしなくていい」
そんなことない。私はいつも、何度もあなたに助けられて、迷惑もかけてしまった。
「───はそう思ってても、私は感謝してるから。だからね、ありがとう。あと、この前はごめんなさい」
「…そうか。ならこっちだっていつも本音に助けられてるよ。それに、いきなり
「いや私が!」「違う俺が!」「私!!」「俺!!」
「……ふふ、えへへへへ」「……はは。あっははは」
いきなり口論になりかけたと思ったら、なんだかおかしくなって一緒に笑い出す。あの日まで、いつも私たちはこうしていた。
「はーっ、こんなに笑ったの久しぶり」
「そうだなぁ、あの日以来か?」
「もう、いじわるー。ふふっ」
「ごめんって、ははっ」
でも、ずっと笑ってちゃ進めない。あの日の返事を伝えなくちゃ。
「……うん。それでね、もう一つ。あの日のお返事がしたくなって、聴いてくれる?」
「……ああ、勿論だ。聴かせてくれ」
彼が私を見ている。また顔が熱くなる。痛いくらい心臓が跳ねている。また逃げてしまいそうだ。でも、言わなくちゃ。
「えっと、その、わたしっ」
言葉がうまく出てこない。不安と緊張に耐えきれなくなり、顔を伏せてしまう。これじゃあ何も伝えられない。
彼も、こうだったのだろうか。
「……はあっ。はあっ……」
「大丈夫か?」
「だいっ、じょーぶっ」
息が上がってきた。落ち着け。言うんだ、必ず。
意を決して顔を上げる、また彼と向き合う。
「……あ」
私を見つめる、心配そうな彼の顔。それを見たら、不安も緊張も吹き飛んだ。
「……うん、うん」
息を整えて、しっかりと、もう一度彼を見つめ直す。
答えが自然と、口に出る。
「あのね、私───」
真っ赤な夕日が私たちを照らしていた。
のほほんさんが告白されたらこんな感じになるんじゃねと思いました。
こんな恋愛してぇなぁ俺もなぁ
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あのさの彼のあのね待ち
実はこんな感じだったってやつ。蛇足ともいう。
一部どころでなく前回と被る描写がありますがおにいさんゆるして
IS学園屋上。秋の夕焼けに照らされながら、俺は
「!?!??!??!??!?!?」
絶叫が辺りに響き、一瞬呆気に取られ、慌てて立ち上がって引き留めようと手を伸ばした時にはもう遅く。彼女は屋上の階段から駈け降りていた。
空を掴んだ手を伸ばしながら、後ろのベンチに座り込む。未だ耳に残る彼女の叫びを分析する。
(ごめんなさいって何?)
分析と言うには些か知能が後退していたが。
(まず俺はこ…告白を、した。それで、ごめんなさいされて、逃げられた。間違いない)
あの言葉に間違った表現があったとは思えない。あれを聞いて買い物だの夕日が好きだの言い出すのは一夏ぐらいのものだ。だとするとよく聞こえなかったとかか?いやそれはないだろう。いくらこの屋上が風通しのいい場所と言っても、発言が聞き取れなくなるほどの風は吹いていない。いくら緊張していたとはいえこの程度の風でかき消されるような声量でもなかったはず。
こちらの想いは伝わった。これは間違いない。うん。そうじゃなきゃ困る。
では何故「ごめんなさい」と返されたんだ?世間一般的にこう返されたらどんな意味を持つのか、少し考えよう。
…………
………………
………………………………
……………………………………………………………なるほど。
「俺、振られたわ……」
高校一年目の秋、俺の初恋は敢え無く散った(暫定)
「やっちまったぁー」
無情な現実に打ちのめされ、ベンチからずり落ちながら、今日の出来事を回想する。
修学旅行から帰った日には決めていた。今日までずっと何通りも告白の言葉を考え、この想いを伝えるに最もふさわしいものを選び、シチュエーション選びも入念に行ってきた。
些かキザな形になったような気もするが、これなら失敗することはないだろう。そんなことを考えながら普段通り日常を過ごしていた。
(さて、どう声をかけたものか)
見たところ今日の本音は絶好調のようだ。珍しくしゃっきりした顔つきで食堂に来ることに始まり、食事中はいつにも増してのほほんとしたオーラを放ち、さらに織斑先生に褒められた瞬間は教室がざわついた。他にも何やらよいことがあったらしく、帰り支度をしているこの瞬間まで笑顔が曇ることはなかった。ん? 帰り支度??
(やべぇもう放課後じゃねえか)
眩しい笑顔に気を取られて危うくタイミング逃すところだった。このまま先延ばしになるのはまずい。一日延びれば二日三日とだらだら引き延ばして卒業まで伝えずに終わる可能性もある。何としても今日中に告白せねば。急いでご機嫌で鼻歌を歌う本音に話しかけた。
「今、大丈夫か?」
「ほえ? いいよー」
「ちょっと話したいことがあってさ。ここじゃなんだし、屋上で」
「?おっけ~いこいこー」
ちょっと不自然だったろうか。幸い気づかれてはいないようだが、伝える前に知られてはここまでの覚悟がパァだ。
早鐘を打つ心臓を無視して平静を装う。問題ない。考えてきた言葉を何度も思い返しながら歩みを進める。そうこうしているうちに屋上に到着した。
「って…でー、今日は…いい調子…のだよ~」
「あ、ああ。それは何よりだな」
いきなり本題に入るのはハードルが高すぎるので一度雑談することにした。もう緊張でまともに会話できていないが、なんとか返事をする。
暗くなる前に、この想いを伝えるんだ。大丈夫、言葉はもう考えてあ…考えて…ん?
(わすれた)
そして、
「ところで~、今日はお話があるんでしょー?」
「っああ。今話すよ」
ついにきた。やばい何もかも忘れちまった。兎に角何か言わなければ、息を整えて、俺を見つめる彼女に向き直る。
(……あ)
夕日に照らされた、
「あのさ、俺──本音のことが好きだ」
想いは容易く口に出ていた。
(───んだけどなぁーーーー)
断られるのは最悪のパターンとして想定していたが、まさか逃げられるとは思っていなかった。明日からどんな顔で登校すればいいのだろう。すっかり辺りは暗くなっており、とっくに門限は過ぎていた。恐らく…いや確実に織斑先生にしばかれるだろう。どれだけこうしていたのだろうか。誰かに見られてたら一生引きこもろう。
憂鬱な気分のまま重い足取りで寮へと戻った。
「何してる!門限はとっくに………どうした?顔色が悪いぞ」
「いやちょっと…すみません」
織斑先生の説教は控えめだった。
夜。帰りとなった俺は食事も取らずに机に向かっていた。別に明日提出の課題があるわけでもないが、とにかく気を紛らわせたい一心で手を動かす。何かしていないと
そうこうしてるうちにある程度予習復習が終わり、本格的にすることがなくなる。時計は10時を回ったところ、普段の睡眠時間よりは大分早いが他にすることもなし。また気分が落ち込む前にシャワーを浴びてさっさと寝てしまうことにした。
(はあぁー)
頭から湯を浴びながら、再び彼女のことを考える。忘れられないならいっそ考え続けてしまえの理論だ。考えれば考えるほど心が折れそうになるが気合いで無視する。形を変えただけの現実逃避は
「────です。好きなもの、嫌いなもの、趣味は特にありません。ISの知識はほとんどないので色々教えてくださると助かります。…以上です」
入学初日、面白みのない自己紹介をすませた俺は席に着き、残りのクラスメイトの自己紹介を聞き流していた。はっきり言って、こんなものを聞いても意味はないと思っていた。政府に保護されるまで幾度の取材、勧誘、拉致未遂、色仕掛けその他諸々に曝された結果、当時の認識は完全に歪んでおり、周り全てが敵に見えていた。今となってはただの考えすぎだったが。
そんな時、彼女が現れた。
「布仏本音でーすぅ。すきなものはおかしでー、趣味は機械弄りでーす。みんなよろしくねー」
しばし呆然とした。間延びしまくりの、のんびりとした声、ふわふわとした雰囲気。何よりその可憐な容姿に目を奪われた。つまりは一目惚れである。
ほんの数秒前まで暗くつまらない景色だった教室が、まるで楽園の様に思えた。隣の席に座った彼女。直接見ずともそこにいることを感じ取るだけで心が温まる。それだけでこれからの高校生活もきっと素晴らしいものになるだろう。
そんな恋愛経験0特有の妄想で溢れていた。今思い出すと超気持ち悪いな。
このまま存在を感じるだけでいいのだろうか?折角一年間同じクラスになるんだ、挨拶がてら話をしたいそうしたい!!(童貞)
しかしどう話しかけたものか、必死に言葉を探す中不意に声がかけられる。
「ねーねー、せっかく隣になったんだしー、よかったらお話しなーい?」
彼女だった。一瞬で考えが吹き飛ぶ。しかしこの状況は願ったり叶ったり。早速返事を返す。
「喜んで、実はどう声をかけようか迷ってたんだ。」
それから──「おーい!何時まで入ってるんだー?ふやけるぞー」
翌朝。いつも通りの目覚めだ。一晩過ぎたら多少頭も冷えた。改めて昨日の出来事に思考を巡らせる。
(俺もしかして振られてないのでは??)
いや、まだちょっと混乱していたようだ。だが完全に間違いというわけではないだろう。確かに「ごめんなさい」と言われたし逃げられた。しかしイコール振られたとするのは早計であろう。本音からすれば唐突な告白だったんだ。すぐに返事を出せず謝罪をし、恥ずかしくなって逃げてしまった。そうに違いない。イコール振られていないとも言い切れないが無理矢理納得する。となれば待っていれば返事は来るだろう。きっと、たぶん。早速いつも通りに戻るために食堂に向かう。
そして、
「あ」
「あっ」
A wild Nohotoke Honne appeared!
What will ─── do?
▶︎FIGHT BAGピッ
ICHIKA RUN
とりあえずおはようだ。話はそれからとしよう。
「おっおは、ようっ!」
「あ、うんおはよう」
思いっきりテンパっている。原因は間違いなく昨日のことだ。俺も内心大慌てだが気取られないように努める。しかし続きはどうすれば…そうだ!
「えーーっと、昨日のことなんだけど」
「え゛っ!?ああっうん!昨日ね!」
いや駄目だろ。急かすような真似をすれば余計混乱させてしまう。そもそも
「俺、待ってるから、急がなくても大丈b「あ、あのっ!」え?」
まさかもう返事できるのか!?思わず身構える。
「ご、」
「あっ」
「」
Wild Nohotoke Honne run!
また、逃げられてしまった。
(これもうわかんねぇな)
数時間後。朝の動揺が抜けきらぬ中、なんとか授業を受ける。とはいえ完全には隠しきれないようでこれまで何度もクラスメイトに心配の声をかけられた。そして本音はと言うと、
「なにをボーッとしとるか馬鹿者!」
「あうっ!!」
本日二度目の出席簿アタックを食らっていた。彼女も動揺しているのだろうか。自分のせいであの折檻を二度も落とされるのは非常に申し訳ない。それにしても次はさよならと来た。昨日の俺ならまた悲観していたところだが今日の俺は多少冷静に分析できる。振るどころか別れ話のような絶叫だったがおそらくこれも昨日と同じ困惑と羞恥によるものだろう。そうであってくれ立ち直れなくなる。
しかしだ、そろそろ一人で悩むのも厳しいものがある。誰かに助言を乞いたいところだ。となると誰に相談すべきか。
(一夏? いや唐変木に聞いてもな……。
思いつく限りの知り合いを挙げていくが、どれもしっくりこない。この学園の奴ら恋愛に弱いな……。
(他……他にいないか……「おい」はい?」
「お前も
「え゛」
「授業に集中しろ馬鹿者がっ!!」
「ギャッ!?」
一体どうすりゃいいんだろう。
放課後、日課(昨日やり忘れたが)のランニング中。とにかく無心になりたくて走りだしたものの、結局無駄な抵抗だった。走るにつれ思考が澄んできて、告白のことしか考えられなくなる。本当に、あの時想いを伝えてよかったのか。もっと友人として学園生活を過ごしてからでも遅くはなかったのではないか。ただ彼女を困らせて俺たちの関係を壊しただけじゃないのか。
やっぱり告白なんて、するべきじゃなかったのか。
太陽が、走るペースが、気分と共に緩やかに落ちていく。
後悔ばかりが頭をよぎる。足が止まる。何が正しくて、何が間違っていたのか。もう何もわからない。
「……駄目だな今日は、帰ろう」
そして、来た道を引き返そうと決めた瞬間、不意に声がかかる。
「何かお悩みですか?」
植木の間から、柔和な笑みを湛えた初老の用務員が姿を現した。
「……轡木さん?」
「ええ。お久しぶり、ですかな?」
「は、はい。お久しぶりです」
「はっはっはっ。そう畏まらなくても構いませんよ。今の私はただの
「あー……でしたね、すみません」
そう言われてもさすがに自然に振る舞うのは無茶な話だ。なにせ彼は轡木十蔵。このIS学園の実質的な最高運営者だ。学生の身としては畏まらざるを得ない。
「そんなことより、何か悩みがお有りのようですな。」
「……まあ、そんなとこです」
「この老いぼれでよければ相談に乗りますよ。」
相談。願ってもないことだ。しかしずっと求めていたものではあるが、軽々しくお願いしていいものだろうか。
「いいんですか?ご迷惑じゃ……」
「若人に道を示すのも年長者の務めですよ。何、誰にも話しはしませんよ」
さすがは『学園内の良心』と称される人だ。この人になら頼っても大丈夫だという安心感がある。
「えーと、じゃあ、お願いできますか……?」
「勿論。何でも話してご覧なさい。」
「はい、実は……」
悩みを相談するなんていつ振りだろうか。少し不安になりながら、事情を説明する。
「最初は一目惚れで、それから……」
話を進めるにつれ、少しずつ心が落ち着いていくのを感じる。全てを語り終えるまで、轡木さんは柔らかや笑みを絶やさずに聴いていた。
「……というわけなんです。昨日からずっと悩みっぱなしで、俺はどうすればいいんでしょう?」
「なるほど、君と本音くんをねぇ……」
「やっぱり、迷惑だったんでしょうか。こういうの初めてで、よくわからなくて」
「そう考えてしまうのはよくあることです。私も、妻に想いを伝えた時はそうだった」
「へぇ……意外ですね」
轡木さんとその奥さんはあまり学園内で一緒にいるところは見ないが、楯無さん曰く仲の良い夫婦だと聞いた。そんな二人もこうなっていたのか。
「まあ、その話はいずれ。今は君の話ですね」
「はい、何か助言をいただきたいなと」
「助言……と呼べるようなものではありませんが、一つだけ、
君は本音くんのことが好きですか?」
「……まあ、そうですよ? 好きじゃなければ告白なんてしませんし」
「なら、悩むことはありませんよ。今すべきことは、『待つ』。これだけです」
待つとは。既に丸一日待っているのだが、永遠に待ち続けろと。
「待つって……これまでと変わらないんじゃ」
「変わらなくて良いんですよ。君は告白をして、本音くんはそれを聞いた。彼女はこんな大事なことを有耶無耶にするような生徒ではありません。待っていれば、必ず返事は来ますよ」
「はあ……」
「はっはっはっ。彼女のことは信じられませんか?」
「ッ!そんなことはっ」
「ありえない、でしょう?」
何もかも見透かされているような気分だ。これが年の功というやつか。
「そもそも君が告白したのは半端な気持ちではないでしょう。ずっと一緒に過ごしたいと思ったから、彼女を幸せにしたいと思ったから告白した。であれば、後から余計な心配をしても彼女と告白した自分に失礼というものです」
「……はい」
「ありがとうございました。どうにかなりそうです」
「ならよかった。それでは、良い知らせを期待していますよ」
轡木さんと別れ、帰路につく。もう悩むことはない。ただ待つのみ──さっさと飯食ってシャワー浴びて寝よう。
夢を見た。告白を決意した日、俺が本音に救われたあの日の夢を。
修学旅行本番。他生徒が好きに京都を回る中、俺は独り路地裏を彷徨いていた。
(俺、これからどうなるんだろう)
厳しい訓練に度重なる襲撃。休む暇もなく過ぎていく日々で、何度も傷つき死にかけた。加えて先日の下見で起きた三人の裏切り。浅い付き合いとはいえ仲間だと信じていた人の裏切りに、何を信じればいいのかわからなくなる。
専用機持ちも、一般生徒も、突然実は敵でしたーなんて言い出すかもしれない。入学前のように、周り全てが敵に見えてくる。自分を信じる仲間ですら疑い始めている自分にも嫌気が差す。現に今も、京都観光に誘ってくれたクラスメイトを気づかぬ振りをして意味もなく歩いている。
(なにやってんだか、ほんと)
このまま一人で、寂しい思い出を残すのか。仲間すら疑うような人間には
「まってぇ~~~~~!!!!!」
締まりのない叫びと共に、欠伸が出そうな速さで彼女が現れた。
「もぉー! なんで一人で行っちゃうのー!」
「いやその、何というか、一人になりたくて」
追いつくなりぽかぽかと俺を叩く本音。いつものほほんとした彼女がこれだけ怒るのは珍しい。でも怒った顔もかわいいしぜんぜん痛くねーや結婚してぇー
いかん顔が緩んでいた見られてないよな?
「? どおしたの?」
「なんでもない。それより本音こそどうしてこんなところに一人で」
「いっしょに回ろってやくそくしてたでしょー!! そしたらいつの間にかいなくなってるし!仕方ないからかなりんとさゆちんと歩いてたらふらふらしてるの見つけてー、声かけても気づいてくれないから別れて追いかけたの!!」
約束?いやそんなデートのチャンス忘れるはずないし覚えがな…「下見の前の日!!」あったわ。
「あー…してたな、ごめん。迷惑かけた」
「ん。いいよ~。これからいっしょに回ろーね!」
「いいのか?まだ時間はあるけど今からじゃあんまり見れないぞ」
「じゃあじゃあ~、───が行こうとしてたとこにしよ! ごーごー!」
となると景色のいいところになるな、本音の歩く速さを考慮しても歩いて十分弱、戻る時間含めて計算しても間に合うだろう。
「ああ、じゃ行こうか」
「ふぃー! 着いたぁー。おぉーいい眺めだ~」
どうやらお気に召したようだ。下見では来なかった場所だから心配だったが、来てみれば実にいい景色だ。何時も通りなら、もっと美しく見えたのだろうか。不意に先程の不安が蘇る。
「あのさー、───。」
「ん?」
「───はさ、いまとっても、とってもつらいんだよね、ずっと戦って、怪我もして、苦しいのに、それでも弱音は吐けなくて」
「本音?別に俺は…」
「
不意打ちの、優しい言葉。ただそれだけのはずなのに、熱い雫が溢れて止まらない。
「っ……。なんだ、これ」
「おいで、───」
本音がそっと、聖母のような笑顔で抱きしめる。こころごと、優しく、壊れないように。
その優しさに甘えるように、抱擁を返す。
「つらいとき、苦しいときは、みんなに頼ればいいんだよ。私も、みんなもいるからねー。
「……! ああっ…。あああああ……」
「うんうん、いっぱい、いーっぱい泣いちゃおうねー」
そのまま赤子のように泣き続けて、気が済むまで二人で抱きしめ合っていた。それは何よりも優しく、救われた時間だった。
「もーだいじょーぶ?」
「……ああ。もう平気だ。ありがとう」
「えへへー、どういたしまして。またいつでもどーぞ!」
「!?」
それは嬉しい申し出だが考えてみればなかなか恥ずかしいことなのでは?
「それは、えっt「あっ……」ん?………あ」
「「夕日」」
茜色に染まる空。ゆっくりと沈みゆく太陽を二人で眺める。数秒間が空いて、ふと隣の本音に目をやる。そこには、
「きれいだねぇー」
柔らかい夕日に照らされた、今まで見た何よりも美しい笑顔があって。
「うん、本当に……綺麗だ」
その笑顔を見つめたまま、静かに固く心を決める。
「じゃあ、そろそろ戻ろっかー。遅れたら織斑せんせーに怒られちゃう!」
「うん。そうしよう」
(帰ったら告白しよう。絶対に)
(……そうだった。確かに俺は、心に決めていたんだ)
目覚めて直ぐ、身支度を整えながら、あの日の決意を思い出す。あれほど固く誓った決意が、昨日まで揺らぎっぱなしだったとは情けない。
でも、もう揺れない。なぜなら俺は、布仏本音が好きだから。初めて出会ったあの日から、こころを救われたあの日から、何よりも、誰よりも、布仏本音のことを愛している。
だから堂々と、いつも通りの日常を過ごすんだ。
「あっ」
「あっ」
昨日と同じく鉢合わせ、違うのは、あちらも何かを決意した顔。つられてこちらも真剣な表情になる。
「今日はね、話したいことがあるの」
「ああ」
「だからね、放課後、屋上で待っててくれる?」
「わかった。絶対、いくらでも待つよ」
それだけ言葉を交わして、俺たちは分かれた。何のことなんて聞く必要もない。運命は放課後に託された。
──放課後、IS学園屋上。あの日のように二人でベンチに座る。
「えっとね、お話なんだけど。まずはお礼と、謝りたいことがあって」
「っいや、そんな感謝も謝罪もされるようなことなんてしてないさ。気にしなくていい」
本当に、感謝も謝罪も言いたいのはこっちの方だ。俺は出会った日から本音に助けられてる。
「───はそう思ってても、私は感謝してるから。だからね、ありがとう。あと、この前はごめんなさい」
「…そうか。ならこっちだっていつも本音に助けられてるよ。それに、いきなり
「いや私が!」「違う俺が!」「私!!」「俺!!」
何故か二人して向きになって、危うく口論だ。しかしそれが実に愉快で笑い声が溢れる。
「……ふふ、えへへへへ」「……はは。あっははは」
いつもの調子って感じだ。でも、俺にも本音にも笑ったまま話に入るつもりはない。
「…うん。それでね、もう一つ。あの日のお返事がしたくなって、聴いてくれる?」
「…ああ、勿論だ。聴かせてくれ」
あの日の話。告白の返事。ようやく聞ける。思わず彼女の顔をじっと見つめる。
「えっと、その、わたしっ」
言葉に詰まる本音。わかる。わかるよ。怖いよな。心配だよな。でも、決めたからには言わないといけないんだよな。
「……はあっ。はあっ……」
「大丈夫か?」
「だいっ、じょーぶっ」
息が上がっている。それだけこのことを考えてくれたのだろう。少し嬉しく、少し心配にもなる。
そして、彼女が意を決した表情で顔を上げる、また俺と向き合う。
「……あ」
何かに気づいた様子の顔。そうか、あの日の俺もこうだったのだろう。
「……うん、うん」
口が開かれる。こたえがきこえる。
「あのね、私──」
真っ赤な夕日が俺たちを照らしていて、世界は輝いていた。
なんだこれはインフィニット・ストラトスの意味がないじゃないかたまげたなぁ
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