おいおいクズに憑依しちゃったよどうすんだよ (大腿筋膜張筋)
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第壱話
目が覚めたらなんとも和風な景色が目に飛び込んできた。
俺が覚えているのは就職してから1年目の忘年会でしこたま酒を飲まされて電柱に捕まったところまでは覚えている。
あの野郎…。今度あったら昼食奢って貰うぞと自分を身代わりとして出した同僚の顔を思い浮かべながら考えていると襖の奥から声をかけられた
「おきとるかー獪岳。」
ん?なんだこの赤っ鼻バラバラ海賊人間みたいな声は?
そして襖が開かれた視線を向けるとそこに居たのは、年齢のためかなりの低身長のご老人がそこに立っていた。
「珍しいのう、獪岳が遅刻するとは」
いやどちら様?うちのじいちゃんは二人とも早くに亡くなっているし、他に老人と接する機会はなかったと思うんだが?
取り敢えず、このまま黙っておくのも変だろうと思い話しかけてみる。
「あの…どちら様ですか?」
「はあ?」
いやそんな、何言ってんのこいつみたいな目をされても…。
俺が聞きたい迄もある。
「全く…。取り敢えず顔でも洗ってこい」
言葉と共にタオルが投げられ、それを俺はキャッチすると、ご老人は歩き出した。
言われた通り、顔を洗いに行こうとするが、そもそも洗面台の場所知らんで?
その後はフラフラと家の中を歩き回るが全く見つからず、窓を開けて外まで出てみると井戸があったので、桶を使って水を汲み上げる。
「ホントにここどこやね……ん?」
水面に反射した顔を見てみると、自分と全く別の顔が浮かんできた。
というかコイツの顔、どこかで…?
容量が少ない脳みその癖に直ぐに思い出せないポンコツな記憶を探ると、1人思い当たる人物が出てきた。
「獪岳?」
そう先週、コンビニでジャンプを立ち読みしていると、コイツと全く同じ顔のやつが出てきた。作品は確か鬼滅の刃だったはず。
時間があったら見る程度だったので、細かい話までは分からないが、鬼が出てくる話であったはず。
そして獪岳が出てきた話の中に確か、さっき会ったご老人も出てきたことを思い出した。
「待って、ということは…?」
鬼滅の刃の世界に転生しちゃいましたー。
ってシャレになんねぇよ。
確か目がぎょろぎょろしたやつに鬼にされるんだろコイツ。
どう足掻いても詰む。
黒い雷撃とかくっそかっけぇ!とかコンビニで盛り上がってたけど、コイツのクズっぷりを見て萎えたのは覚えている。
その先の展開で首チョンパされるんだろ!
それは嫌だ。痛いのは嫌いだし、なんでこの世界に巻き込まれたのか知らないまま死ぬのも嫌すぎる。
兎に角、今後の目標としては第一に死なない。原作介入しないという手もあるが、雷の育手になった時点で圧倒的絶望感。
そもそも酔っ払った自分が見ている夢の可能性の方が大きい訳である。
「取り敢えず、飯食おう」
どう足掻いても死亡フラグを回避出来ないことを無理やり無視を決め込んで、食卓へ向かった。
そして俺は朝飯を食べている。
自分で作って。
そのまま食卓へ向かったのはいいが、なにやら小難しそうな書物を読みながら、お茶を啜るジジイしかいなかった。
「飯は?」
「はぁ?何言っとるんじゃ獪岳。いつも育手の俺がやると言っておったじゃろう?」
ホントに頭大丈夫か?という目をされた俺は渋々と、台所に置いてある食材で、簡単な朝飯を作った。
まさか人生初の手料理を見せびらかす相手がかなり歳を食ったジジイになるとは。
内心、ショックを受けながら白米を口に放り込む俺にひと足早く食べ終わったジジイが話しかける。
「さて、ワシは今から街へ行ってくるからの。その間に鍛錬をしておくんじゃぞ」
「えっ、ちょまっ」
そして俺の返事を聞くことなく、スタスタとそのまま放置して出ていきやがった。
えぇ…?放置プレイは厳しくないっすか爺さん。
獪岳がどこで鍛錬をしているのか、どんな鍛錬をしているのか、正直全く分からないなりに、フラフラと屋敷の中を彷徨うのであった。
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