エミカス怪文書置き場 (流れ星)
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逸見エリカの号泣
逸見エリカの朝はねぼすけなエミを起こすことから始まる
いつまでたっても起きてこない彼女を優しく揺り起こした後
窓から差し込む暖かな朝の光を浴びながら、朝食の準備に取り掛かるのだ
…あの激動の大会が終わり、エリカとエミは学園艦の保護観察下の中、現在は都市を離れた場所でひっそりと暮らしていた
無理もない。仕方ないことだとエリカは思う
なにせ自分の立場が立場だ。エミにしても、理由はどうあれ黒峰森に敗北をもたらした選手がいては混乱の元となるだろう
それでもエリカは幸せだった。ゆったりと過ぎる平穏な日々をエミと共に過ごせることは幸せだった
顔を洗い終え、それでも寝ぼけ眼を擦りながらやってきたエミを座らせる
そうしてエリカの用意した朝食を美味しそうに平らげるエミを、エリカはいつまでも目を細めて眺めていた
「久しぶりだな、エリカ。…ごめんなさい、あまり会いにこれなくて」
申し訳なさそうな表情でまほが頭を下げた
それにエリカは気にしないで下さいと慌てて頭を上げさせる
今もまほは黒峰森の隊長として多忙な日々を送っている
こうしてエリカに会いに来る時間を作るのにも苦労したことだろう
「変わりはないだろうか?必要なものがあればすぐに言ってくれ」
何も心配いらないと、ここ最近の出来事を話しながら家の中へと案内する
エリカの話を聞きながらまほも静かに微笑んでいた
その異臭を感じ取るまでは
さっと、まほの表情が強張った。エリカの静止も聞かずズカズカとキッチンへ入り込むと異臭の源へと近づいていく
それは残飯入れだった。一度も食べられぬまま捨てられた大量の残飯がそこにはあった
「……エリカ、お前……」
今にも泣きそうな、怒りだしそうな、複数の感情でぐちゃぐちゃになった表情を浮かべるまほをエリカは不思議そうな顔で見つめていた
……気がついたら。夜になっていた
ぼんやりとした頭で、エミに夕食を用意しなければと思い出す
きっとお腹を空かせているだろう。文句の一つも言ってくるかもしれない…ちょっとは手伝ってくれてもいいのに…
この家での暮らしを始めてから上達した手際の良さを発揮して、エリカは手早く二人分の夕食を用意した
その出来上がりに自画自賛して、しんとした静寂に満ちた家の中、食事が用意できたわよとエミを呼んだ
そうしてテーブルに料理を並べ終え、自分も席に着こうとした瞬間
ズキンという痛みと共に目まいがエリカを襲った
足がもつれ身体が倒れる。エミが驚いた様子でこちらを見ている。反射的にエミに助けを求めて手を伸ばす
エミがエリカを抱き留め……られなかった
エリカの身体はエミをすり抜けていった。代わりに伸ばされたエリカの手は無意識にテーブルクロスの端を掴み、そのまま落下していった
テーブルクロスが引きずり落とされ、その上に並べられていた二人分の料理が床にぶちまけられた
割れた皿、無残になった夕食、打ち付けられた衝撃に痛む身体
それらを一切気にすることなくエリカはのそりと立ち上がる
そこには誰もいない
テーブルの対面。その椅子には誰も座ってはいない
誰も、最初からここには、エリカしか、いない……
ぶるぶると、身体が震え出す。引きつった顔に手を当て抑え込もうとするが一向にそれは収まらない
ふと、エリカは自分の頬を一筋の涙がつたっているのに気がついた
それが逸見エリカの号泣だった
初めはエミみほが失踪した後を想定してたんだけど誰も彼もがエミカス死亡ルートを想像してて笑った
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角谷杏の悔恨
天翔ちゃんおっかえりぃ!それでそれで?此度の練習ではいかなる成果をあげて来たわけ…って怪我してるじゃん!
西住ちゃんは!?秋山ちゃんは!?なんで連れていかなかったの!?
ただの練習だからって…このくらいなんでもないわけないでしょ!?
外が傷付いてるって事は中はもっと酷いかもしれないんだよ!もし菌とか入り込んでたらどうするの!?
ダメージから体の不調が表に出てくる事だってあるの、本当に分かってる!?
天翔ちゃんがこんなことで傷付いたら西住ちゃんも秋山ちゃんも河嶋も私も皆悲しいんだからね!?
せっかく優勝できたんだから、お願いだから自分の体を大事に…ごめん。言い過ぎた
……あーうー……
天翔ちゃんはもう……色々頑張ってたじゃん
それを何の因果か大洗に来てさ……
そりゃ元の学園艦じゃ天翔ちゃんのチームメイトが今でも頑張ってるんだと思うけど……
うちに来ちゃったものはもうしょうがないじゃん
だからご褒美みたいな感じでさ色々吹っ切っていいと思うんだ
天翔ちゃんはもっと皆の役に立とうとして練習してたんだよね
でも…今度からは一声をかけてほしいな、どこでも付き合うからさ
どうしても都合がダメなら他の皆に頼めばいいんだし…どうせ強くなるなら皆でなった方が楽しいじゃん?ホラ私達…仲間なんだし!
あ、それとちゃんと傷は治して小山の健康診断も受けること!おっけー?…うん、安心した
それじゃまた後でねー!
…大丈夫、だよね。あのくらいで急に悪化したりしないよね
私達まだこの学園艦に期待してていいんだよね、西住ちゃん……
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「あれから会長に言われたことを色々と考えてみたんだけどさ…私、この学園艦をもうちょっと楽しんでみようと思うんだ」
話があると、部屋に呼び出された私に天翔ちゃんは開口一番そう言った
その意味することを何度も反芻し、じわじわと広がっていく喜びに私は満面の笑みを返す
な、なーんだっ改まっちゃってさ!真面目な顔するもんだから告白でもされるのかと思ったよ!
でもいいね!やっと天翔ちゃんもその気になったんだね!んじゃさっそく皆でパーっと楽しんで来なよ!
あっそれとも西住ちゃんを誘って二人っきりでデートとか!?照れるな照れるなこのへたれ!天翔ちゃんはもっと積極的にさ――
「だからさ、会長もそうしてくれよ」
早口でまくし立てる私を遮り、天翔ちゃんは真剣な表情で見つめて来ながら言った
「私が吹っ切れたら自分もそうできるかなって、言ってただろ?」
天翔ちゃんが私を見ている
「本当に会長には感謝してるんだ。もちろんみほや秋山さんや皆にも」
見ている
「いま会長が何に苦しんでるのか、馬鹿な私にはわからないけどさ…そんな私でもわかることがあるんだ」
見ないで
「会長は、なにも悪くない」
気づけば、何処でもない道をひたすら走っていた
両手で覆われた顔は真っ赤に染まり、全身のあちこちを小枝で切り、靴はいつの間にか片足だけ脱げていて
口からは嗚咽なのか呻き声なのか、意味のない音だけが溢れてとまらない
そんな状態だから当然のように電柱にぶつかり、躓き、転び、それでも走り出す。何かから逃げるように
だが、逃げられない。例え海の上であっても絶対に逃げられない
自分自身からは、自分の為して来たことからは、絶対に逃げ切れはしない
何もないのに苦しい
楽になれるはずなのに苦しい
責められるべき人から、許されたのが苦しい
限界に息を切らせ、やがて杏は山中の池で立ち止まった。そこに自分が映っていた
その美しい水面に映る青ざめた少女の顔に耐え切れず
杏は胃の中身をすべてぶちまけていた
僕がガルパンで一番好きなキャラは会長です
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