青春は恒星のように輝いて (orchid)
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夢は叶わないのに何故願う
introduction


初投稿です。
至らぬ点は多々有りますが、感想、評価等でご指摘頂けると幸いです。
筆者は鋼メンタルにつき、どんな意見でも糧になります。
宜しくお願い致します。


 

まずは、この物語を開いてくれてありがとう。

読者の皆には謝辞を述べたい。

このサイトに数多(あまた)ある小説の中から、これを選んでくれて、感謝してもし切れない所存だよ。

 

 

更新したときにトップページで見つけたのかな?

原作:オリジナルで検索してくれたのかな?

どうやってこの物語に辿り着いたのかは、分からないけど、発掘してくれてありがとね!。

 

 

さて、唐突だけども。

これを読んでいる君には「友達」っているかな?

 

 

友達。フレンド。

親しく交わっている人。とも。友人。朋友(ほうゆう)。元来複数にいうが、現在は一人の場合にも用いる。(広辞苑

より引用)

 

 

まぁ、フレンドは友達の意味が有るけども、実際は友人としてのニュアンスだと思うんだよね。フレンズの方が友達って感じしない?友人の複数形としてさ。

 

んー、でもどうなんだろうね?

某けものの友達が登場するアニメではさ、

「きみは~が得意なフレンズなんだね!」とか言ってるけどさ。

あれは単数にフレンズって言ってるから、もう、その辺はどうでもいいのかな?

案外世界って曖昧に出来てるよね。

 

理路整然。

 

順理成章。

 

外見こそ、そんな風に見える物こそ、裏を覗けばぐっちゃぐちゃのごっちゃごちゃだったりするもんだよ。

 

 

見えてる部分だけが全てじゃない。

 

 

視界から受け取る情報を全て鵜呑みにするのは、はっきり言って賢明だとは評価出来ないね。

 

 

外面(そとづら)なんて幾らでも造れる。

例えば、君が毎日見ているクール男子、ビューティー女子。

中身まで本当にそうなのかな?

 

 

優しいアイツ。ずるいアイツ。

君にはそいつの心が読めるのかい?

そんな芸当、人間には皆目不可能だよ。

 

 

 

 

君は偏見で他人を判断していないか?

 

 

 

 

どうでも良いけどさ。

 

 

 

 

取り敢えず、君に友達はいるかい?

両手で数えられる位かな?

それとも数え切れない位かな?

数えるまでも無い、って人もいるよね。

 

 

うんうん。

 

 

あっ!そういえば、どこかの本で書いてあったんだけどね!

 

 

友達って、数えられる内は友達じゃないらしいよ!

 

 

あはは☆

 

 

ごめんごめん、もし気を悪くしたら謝るよ。

勿論、「そんな冷たい話はないだろう」って意見を否定するつもりは無いしね。

心温まるような、ほんわかストーリーは嫌いじゃないよ。

 

 

ぬるい友情、ベッタベタな、吐き気がするような友情論。

多いに結構。

私もここまで生きてきて、そんなお話は飽きる程聞いてきたしね。

 

実際もう飽きたし。

 

 

ん?そこまでいう私に友達はいるのかって?

 

 

……さあね。私がどうこう思った所で、相手がどう思っているのかは分からないからね。

 

 

最初に言ったでしょう?

他人の心が読めたら、そいつは人間じゃねぇよ。

 

 

そうやって、こうやって、理論だとか正論だとか暴論だとかをこねくり回している内に、興味を無くしちゃったよ。

 

 

 

何か、どうだって良くなっちゃってさ。

 

 

バカバカしくなっちゃった。

 

 

 

 

あぁ、結局のところ何が言いたいのか分からないよね。

ここまでこんな冗長な一人語りを長々と読んでくれた君には感謝してるよ。

 

心の底からね。

 

 

まぁ、つまるところ。

 

この物語は、ハッピーエンドじゃあない。

 

 

人によっては、きっと失望して、落胆して、挙げ句の果てには「時間を返せ」と(わめ)く人もいるだろうね。

 

 

だから、もし君が今宿題に追われてるとか。

レポートの提出が間に合わないとか。

睡眠時間を削ってまでこれを読んでるとか。

 

そこまでしてこの大して面白くもない言葉の連なりを読んでる人なんていないと思うけどさ。

 

 

でもね、もしもそうなのだとしたら、このままこれを読み進める事を推奨したくないんだよ。

 

はっきり言って、こんなお話、読む価値なんて何処にも有りはしないから。

 

 

そもそもこんな二次創作がメインのような小説投稿サイトで、原作:オリジナルを読んでくれるのは有り難い事だしね。

 

ランキングにも、上位にオリジナル小説が有る事は有るけども、大多数はやっぱり二次創作の小説みたいだし。

 

その辺の傾向はよく分かんないけど、そんな感じだと思ってるよ。

 

あぁ、語弊があるかもね。

当然、オリジナルがかなり高い評価で今も続いてるケースもあるからね。

実際、私も目を通したものは多いよ。

暇だもん。

ごめんごめん。

気を悪くさせたら謝るよ。

 

 

まぁ、取り敢えずさ。

 

 

だからこそ、この物語の冒頭でも述べたけれど、数多ある小説の中、()つ、オリジナルのこの物語を開いてくれた君には、本当に「ありがとう」を伝えたいよ。

 

face to face。面と向かってね。

 

 

あはは、メタ発言は嫌われるかな?

あんまりやり過ぎても鬱陶しいだけだからね。

 

 

……反省はしないけど☆

もう今更だし。

 

 

はぁ……メタ発言を使いこなせてる作家さんは本当に羨ましいよ。

センスなのかな。

そういうのは持ち合わせてないからね。

偶に悲しくなっちゃうよ……。

 

 

おっと、前置きが長くなっちゃったね。そろそろ本編に入らなきゃ。

 

 

この物語は、少女と少女のお話。

多分、ハッピーエンドとは呼べない結末。

()()」だと思っていた、ある女の子とのお話。

 

 

 

 

 

『夢は叶わないのに何故願う』

 

 

 

 

 

 



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夢見る少女との出逢いは唐突に

 

はじめまして、私はこの物語の語り部を務めさせて頂きます、零崎(ぜろさき)スピカです。

 

 

多分、16歳。女子です。好きな物は猫のぬいぐるみです。

青林(せいりん)高校1年生、誕生日は……忘れました。

 

 

あ、いやいや。今絶対に「こいつ嘘ついてるな」と思った人いるでしょう?。本当に本当なんですよ?自分の誕生日をあまりに気にしなさすぎた結果、いつの間にか忘れちゃってたんです。自分の誕生日なんて、興味ありませんし。あんまり生年月日を書く機会なんてのも無いし、覚える意味も無いと思ったので。

 

 

私の他にもいませんかね……マイバースデー忘れた人。

私だけなのかな。

私がおかしいのかな。

 

 

まぁ、それは置いておいて。

そろそろ学校に行かなくちゃ遅刻しちゃう時間になってきた。私は壁のハンガーに掛けている制服を外し、袖を通して、スカートを履く。

 

 

「あれ、また痩せちゃったかな……?」

 

 

いつも留めていたホックの所だと落ちちゃうんだけど……。太るのは嫌だけども、あんまり病的に痩せ過ぎているのもどうなのだろうか……。

 

 

ちゃんとご飯食べなきゃな、と思いながら、私はスカートのホックを一段階締めた。

 

 

時計を見ると、相当厳しい時間になってきた。これは遅刻かそうでないかの瀬戸際かもしれない。

やばい、急がなきゃ。私に与えられた猶予は残酷にも短くなってきている。

 

私は急いで階段を下りる。酷く年季の入った階段なので軋む音が酷い。その内崩れ落ちるのではないかと考えてしまうレベルです。

 

階段を下り、家を出ようとして玄関の戸に手を掛ける。間に合うだろうか。いや、走れば何とか──と思ったら背後から、

 

 

「スピカ、昼食の弁当忘れてるぞ。」

 

 

と、声がした。振り返ってみると、そこには琥珀さんがいた。

 

 

零崎(ぜろさき)琥珀(こはく)。私の保護者。とっても優しい人。外見はかなり美人だと思う。ただ、前髪が長くて目が隠れているので、かなり引っ込み思案な人に見える……失礼だけど。髪切ったら良いんじゃないかな……と思う。スタイルは贔屓目(ひいきめ)に見ても、モデルさんになれるんじゃないか、ってレベルに良いと思う。……羨ましいなぁ(羨望の眼差し)。

 

 

「あっ、忘れてました!ありがとうございます、琥珀さん!」

 

 

私は、お弁当を琥珀さんから受け取る。

相変わらず綺麗な手だなぁ……爪もきちんと手入れされてるみたいだし。爪切りは嫌いらしいけども。何なんだろう……良く分からない……。

嫌いなら伸ばせば良いと思うけど……そうもいかないんだろうな。何か、こう、清潔感とかあるのかな。

 

その辺りが(うと)い私には、やっぱり良く分からない。汚れてるのが別に好きな訳じゃないけれど、潔癖症でも無い。

 

 

「別に気にするな。ただ……そろそろ時間が厳しいんじゃないか?いつもこの時間には家を出てる気がするんだが……」

「えっ……あっ!不味い、急がなきゃ!」

 

 

確かにかなり厳しい時間だった。さっき走ったら間に合うかな、と考えたものの、今では間に合うかどうか。

 

ここから学校まで、およそ2キロ。それを、後15分。道が悪く、あまり足の速くない私にとっては、かなりの試練だった。しかし、まだ入学して間もないのに、遅刻する訳にはいかない。

間に合う事を祈って。

 

 

「それじゃあ、行ってきます!」

「あぁ、行ってらっしゃい」

 

 

私は、家を飛び出した。

 

 

それは(さなが)ら、猫のように。

 

 

 

 

 

 

──

 

 

私は零崎スピカ。JKだ。今私はすごくやばい。

 

 

端的に言おう。私は悪魔に追われている。

 

 

その悪魔にかつて対抗できたのはエイン・シャタインと言う化け者だけ。

 

 

放送枠が金曜日から土曜日に変わってしまった某国民的アニメにいる、の◯太くんがよく追われているアイツだ。

 

 

ん、勘違いするなよ?誤解の無いよう、先に言っておくがジャ◯アンではないぞ。

 

 

絶対にして相対的なやつだ。

 

 

あの世界ではのび○くん、度々、というかかなりの頻度で逆らっていたけど、この世界に関しては無理がある。

 

 

今もやつは着実に、刻々と私に迫っている。

 

 

そう、私はなぜか遅刻しそうなのだ。

 

 

なぜだろうか。

 

 

 

私は昨日3時まで本を読み耽っていただけなのに── 

 

 

──

 

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

 

ギリッギリで始業のチャイムに間に合った。チャイムの時間との誤差は(わず)か3,4秒。いやー……あっぶなかったー……。もう少しで5月から遅刻した女の子のレッテルを張られてしまうところだった。人間関係って難しいからね。そういう所には気をつけないとね。

取り敢えず、こんなデンジャラス登校は二度と経験したくない()。

 

 

何か途中、あまりの焦りから謎の別人格が出てきた様な気がするけども、きっと気のせいだよね。

というかそうであってください(懇願)。

「……っはぁ……はぁっ……」

 

 

まだ5月だからそこまで暑くはないけど、それでも相当な量の汗を()いていた。こんなに汗を掻いたのはいつ振りだろうか。少なくとも、私の記憶には無いレベルです。私、運動部所属じゃないんだけどなぁ……。

 

 

「あぁもう、どんどん痩せてっちゃうよ……」

 

 

そんな事を考えながら教室に入る。ざっと室内を見渡してみると、殆どの席が埋まっていた。友達と談笑している人もいれば、勉強に没頭している人もいる。どうやら私が最後みたいですね。

そりゃそうなんだけども。

 

 

私は、席と席の合間を縫うようにして、自分の席に着く。私の席は最後尾だから、後ろの人に迷惑が掛かる事は無いので、汗を掻いていても、多少ながら気は楽になる。汗だくの女の子なんて誰得だ、って話ですし。まぁ、基本的に私に話し掛けるような人もいないので。

……別に友達がいない訳じゃないんだからね!作ろうとしないからなんだよ!(えっへん)。

 

 

……考えてて何となく悲しくなった。もう止めよう。

 

 

そんな事を考えている内に朝のホームルームは終わって、休み時間に入っており、授業が始まろうとしていた。

 

 

えっと、1時間目は……うわぁ、数学か。数学ってそんなに好きじゃないんだよね……。

何かさ、あっ、ごめんなさい。数学好きの人にとっては申し訳ないかな。読み飛ばしちゃっても大丈夫だよ。

 

 

何かさ、数学って、中学校でマイナスが出てきてから思ったの。

「これ哲学だよね」って。

そこから連立方程式とかさ、二次関数とかさ、実際のところ日常で使うことなんて無いのに習うじゃん。先生とかはさ、「論理的思考力」を高める為とか、「解けた時の喜び」とか言うけども、私はどうもちょっと分かんないんだよね……。だから数学は、何かどうしても好きになれなくって……。

 

 

以上。愚痴しゅーりょー。

結局のところ、単位は必要だしね。ぐちぐち言ってても、どう足掻こうとも何も変わらないし。そこはもう割り切るしかない高校生の現実。悲しきかな。

あーあ、頑張ろーっと。

 

 

「……たすき掛けって何に使うんだろう……」

 

 

数学の時間、私はそんな事を考えながら、ひたすらに計算をしていた。今日の授業のところはまだ簡単なところで良かった。とはいえ、数学が大して好きでもない人間が、ずっと演算し続けるなんてのは不可能に等しい。

 

 

(飽きちゃったな……)

 

 

かくいう私も数学が好きな人種ではないので、ペンを走らせる手が止まる。

何となしにふと、窓の方を見る。私と同じように飽きてそうな人もいた。ノートに落書きしてるんだろうな、って人もいる。

ただ1人、窓際の列の最後尾。眼鏡を掛けた女の子は、ノートと教科書を交互に視線を移しながら問題を解いていた。

黙々と。執心に。

あのペースは、絶対にノルマを超えて問題を解いてるな。予習か、今日やった所を磨いているのかは分からないがけど。

ただひとつ、気になるのは。

少女のその瞳には鬼気迫る物があった。

(数学好きなのか、勉強好きなのかな……)

そんな位に思って、私はまた問題を解き始めた。

(あの人の名前何だろう……)

私はあの人に興味が芽生えていた。授業が終わったら確認してみようかな……。

と、思った矢先に授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。

 

 

──

 

 

「確か、クラスメイトの名簿は入学式の日に貰った筈……」

鞄の中を探してみる。整理整頓はされていたので、そこまで時間は掛からずに見付ける事が出来た。所で、君は整理整頓してる?仕事が出来る人は整理が上手らしいよ。人は1日に15分程探し物をするらしいんだけどね、それが1ヶ月とかになると、何時間も探し物に時間を費やしてる計算になるんだよ。だから、整理整頓が上手な人は、純粋に作業時間が生まれるから、仕事の能率も高いみたいよ。だから、整理するのは面倒でも、後々自分の為になるからお勧めです。……脱線しちゃったね。

閑話休題(はなしをもどそう)

「んーっと、あの人の席はあそこだから……名前は「えっと……」

……えっ、私?間違いない?人違いとかじゃなくて?

私が誰かに声を掛けられた?待って嘘でしょ。私が?他人に声を掛けられた?。こんな状況、記憶に残ってないよ。その位、私は他人と距離を置いていたんだろう。

自業自得。仕方のないこと。

私はそう割り切って、相手の顔を視認すべく、私は顔を上げる。

そこには。

お目当ての、眼鏡少女がいた。

 

 

これが始まりだった。

私達の、青春の始まり。

これから始まる、いくつもの物語。

それをまだ、私は知らなかった。

 

 

1人目、優虚(ゆうこ)来夢(らむ)との邂逅(かいこう)は、こうして果たされた。



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誰かのいる休み時間


UA20……読んで下さった人、誠に感謝しています。


 

「えっと……」

 

私は今、猛烈に焦っています。何故かって?私がこの学校に入学してから、初めて声を掛けられたから。さっきも遅刻しそうで焦ったのに、今はそれ以上に焦ってると思う。でも、我ながらこればっかりは仕方ないと思うんです。

正直言って、ここ数ヶ月の間、琥珀さん以外の他人と会話を交わした記憶が無いので、こういう時、とっさにどうやって対応すればいいのか分からないのです。

……私って所謂(いわゆる)コミュ障って奴なのかな……?

いや、私についてはどうでも良い。それより今は、この人に対してどう対応するかです。確か、私がこの1ヶ月、周囲の観察をしてきた限り(それしかやることが無かったんです。決して他人が気になってたとかではry)、この人は雰囲気陰キャ(限りなく失礼だし、私も人の事は言えない)であるにも関わらず、全く友達がいない訳でもなさそうだった。

決して自分から周りにアクションを起こす事は無いけど、話し掛けられたら話す。そんな感じで、上手く環境に溶け込んでいるタイプの人間だと思う。器用なのかな。そのスキルが私にも有ったらなぁ、と考えてしまう。まぁ、でも、有ったら有ったで活かせそうもないけどね。

取り敢えず、そんな彼女に、間違った対応をしてしまったら、私は多分クラスで浮いてしまうだろう。

 

……今でも充分に浮きかけてるけどね☆()。

 

さて、どうやって返事をしようか。幾つか案を挙げてみよう。

 

①陽キャ風に「おっはよー!今日もいい天気だね!私に何か用事かな?」

 

②クールに「おはようございます、どうかしましたか?」

 

③ぶりっ子風に「おはよ、どーしたの?」(首かしげ)

 

……私にはどの選択肢もハードルが高過ぎるよ!無理だよ!?こんな事言えたら、今頃陰キャコミュ障なんかになってないよ!①は却下だし、②はそんなキャラじゃないし、しかも③に関しては大して可愛くもない私がやったところで気持ち悪いだけだよ!(むし)ろ逆効果だよ!?

 

と、いう訳で、私の選んだ最終的な選択肢としては。

 

 

「え……えと……私……ですか……?」

 

 

④陰 キ ャ 全 開

 

物凄いどもった。私らしいと言えば私らしいけどね!(開き直り)。

ごめんなさい。今の私にはこれが限界だったんです。お願いします、許して下さい。何でもしますから!(何でもとは言ってない)。

そんな、下らない思考を脳内で繰り広げていると、向こうが口を開いた。

 

「えっと、これ……多分スピカさんの落とし物だと思ったんですけど……」

「ふぇ?……あっ!」

 

彼女が手にしていたのは、黒い、猫のキーホルダー。それは紛れもなく、私の物だった。いつの間に落としちゃってたんだろう……全然気付かなかった。

琥珀さんが作ってくれた世界で1つのキーホルダー。

ハンドメイドの限定品。

琥珀さんは家事全般に加えて裁縫、手芸までお手の物なんだから、本当に底が知れない。私が男だったら、絶対に『お嫁さんに欲しいランキング』で堂々の1位ぶっちぎりだよ。私が使()()()として家にいる存在意義が希薄過ぎて、ちょっぴり悲しいのは内緒。私、実際は要らない子なのでは……。ううん、こんな事考えるのは琥珀さんに失礼だよね。そんな事よりも、拾ってくれた彼女にお礼を言わなければ。

 

「ありがとうございます。私の大切な物だったので、見付けて頂き、助かりました」

 

深々とお辞儀。礼儀は欠かせない。今の私から礼儀を取り外したら何が残るのか。……ただの陰キャ女子。誰得ですか。

 

「いえいえ、そんなお気になさらず……その猫ちゃん可愛いですね」

 

彼女は微笑んだ。(あたか)も、天使のように。

えぇ……何この人、可愛い過ぎる……。私の錯覚じゃなければ、後光が差している気がする(実際視点的には窓から太陽の光が差し込んでいるので、神々しさもこれ極まれり)。それと同時に、自分のお気に入りの宝物を良く言われた事で、純粋に嬉しかった。

 

「えへへ……ありがとう……」

 

鏡を見てないから何とも言えないが、この時の私は確実に喜色満面。表情筋は緩んでいたと思う。だらしのない顔だったんじゃないかな。やってから後悔。しかし、その上に重大なミスを犯してしまった事に気がつく。

 

(しまった!ため口きいちゃった……)

 

この人と私は、ほぼ初対面なのに、ため口なんてきいてしまったら、嫌われちゃうんじゃないか……。さっきまで礼儀がどうとかこうとか言っていた私はどこに行ってしまったんだ……。なんて思っていると。

 

「……ふふっ……、スピカさんって可愛いんですね」

「えっ……ふぇぇ?///」

 

キキマチガイカナ?私が可愛いって言われた?私が?そんなの世界がひっくり返り返り返ったって有り得ないよ(錯乱)。そういえば、今思ったけど私の名前覚えられてる?!何かしたっけ私!?

……気になる事は聞かなくちゃ。私はそういう性分です。……心当たりは無い。うん。無いんだよ。

 

「な、何で私の名前を覚えていらっしゃられるのですか……?」

 

思いっきりめちゃくちゃな日本語になっちゃった。若干、呂律(ろれつ)が回ってないし。落ち着け、落ちつくんだよ私。この後、一体どんな事をカミングアウトされても、平常心だよ、スピカ。

 

「え……えっと、自己紹介の時、あまりに印象的だったから……」

「ああああああああああああ!やっぱりあの時やらかしてたぁああぁぁぁぁ!!!」

 

無理でした☆

心当たり、当たってた☆。

あぁ、もう二度と思い出したくないあの日。新学年になって、クラス替えがあり、必ず最初に行われるであろう自己紹介。その時のスピーチによって、その人の第一印象は大体確定すると言っても過言ではないレベルの大事な行事。よりにもよって、私はそこで大ポカをやってしまった。

絶対に私から回想はしない。絶対にだ。もう、さっさと記憶から抹消して無かったことにしたい。あぁ、私に『大嘘憑き(オールフィクション)』のスキルが有ったらな……と切実に思う。知ってる?週刊少年ジャンプ読んでた人は分かるかな……。まぁ、分かってる人からしたら、あのスキルは自分の為に、プラスの為に使うような物じゃないって言われちゃうんだろうな(笑)。

 

「あ、スピカさん。そろそろ次の時間始まりますよ」

「あ……本当だ」

 

時計を見ると、間もなく数分で鐘が鳴る頃だった。では、そろそろ切り上げるとしますか……名残惜しいけど。

 

「それでは、ありがとうございました。……来夢さん」

「 、こちらこそ♪」

 

 

 

この時私は気付けなかった。

 

気付く由も無かった。

 

私が名前で呼んだ時に、

 

彼女がほんの僅かに、

 

表情を曇らせた事を。

 

 

 

『キーンコーンカーンコーン』

無機質な鐘が、何事も無いように、鳴り響く。



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はじめてのともだち


こんなところまで読んで頂き、ありがとうございます。


来夢さんとの、いつもより印象的だった休み時間は今でも鮮明に覚えている。それ程、誰かのいる休み時間というのは、楽しい物でした。

 

あれから幾日の時間が流れ、5月も終わりに差し掛かろうとしています。それでも私は変わり映えなく、決められたルーチンワークの一環として、学校へと登校しようとしています。

ちなみに、あれから来夢さんと会話する事は有りませんでした。何と言いますか、とても話しかけにくいのです。休み時間も大体1人で過ごしているみたいですが、本を読んだり、机に突っ伏していたりしていて、性根が陰キャコミュ障である私には手が出せないのです。邪魔出来ない、とでも言えば正確でしょうか。

 

自らと外界を境界線で分断しているような。

自分以外の世界を拒絶しているような。

 

私には、どうもそんな風に見えるのです。

……あまりこういう事を考えるのは失礼に値しますかね。気遣いも度が過ぎると余計なお節介とも言いますし。私からは、関わる必要が無い場合は行動しないのが適切な行動と呼べるでしょう。

ですから、あれからコンタクトはとっていません。まぁ、別に休み時間に1人というのは慣れっこですし、それがいつも通りですから、問題はないです。家に帰れば、私には琥珀さんがいますしね。

 

「ありゃ、そろそろ行かなくちゃ……」

 

前の時ほどではありませんが、それでも残された余裕は殆どありませんね。身支度をしてしまいましょう。

私は、もう着慣れた制服に身を包んで、教科書やノート、お昼ご飯の包みを入れた鞄を持ちました。私の部屋は二階に有るので、階段を下ります。

 

ぎしぎし。ぎしぎし。

私の住む家は確か何十年も前に建てられたそうです。正確な時期は忘れてしまいましたが、階段から軋む音が聞こえるくらいには古いと考えます。今度、気が向いたら琥珀さんに聞いてみましょうかね。あの人は博識ですから、こんな家の建築時期如きなんて、すぐに答えられるでしょうから。

 

ぎしっ。

という音と共に最後の一段を降り、床を踏みしめます。その音に反応したのでしょうか。琥珀さんがこちらへと来ました。目こそ見えませんが、その優しい出で立ちに、私は思わず、口を緩めてしまいます。こう、言葉では表現出来ないんですけどね。そうですね、滲み出る、()き止める事の叶わない母性と言うんですかね。

あぁもう、存在が癒やし(語彙力)。

 

「行ってらっしゃい、スピカ」

 

いつ聞いても安心する声。

昔から聞いてきた、全部包み込んでくれるような声。

私はそんな声に背中を押されるように、家を出ます。

 

 

「行ってきます!」

 

 

今日も、空は晴れたり。

 

 

──

今日はまだ登校時間に余裕があります。別人格が出てこないように(気のせいだっけ?)、普通に歩いて行きましょう。

 

てくてく。

昔のゴルフ漫画で足音がプニプニしてるキャラクターがいたんですけどね。やっぱり知名度は低いのかな……。ライジングなインパクトしてるような漫画でした。

 

「私はゴルフについてはあまり知りませんが、体幹良ければかっ飛ばせるのなら、私もちょっとだけ自信有るんですよね。」

 

そう言いながら、私は()()で出来た簡易的な橋を渡る。もう、ぐらぐらしたりはしない。慣れたから。小さい時から山生活でしたからね。流石に鍛えられます。綱渡りだって出来そうな気がする。

やったことないけど。

 

「道が悪いと愚痴ったって、山奥じゃ仕方ないですから……」

 

私の通学路は、5割が獣道だ。家の場所が場所だからね。仕方ないよね。山を下りれば、普通にアスファルトで舗装された道だし、大して苦痛には思わない。

 

「ふぅ……しかしこの時期になってくると蒸し暑いですね……」

 

水筒は必須ですね。飲み物無しでこれは少々辛いです。まぁ最悪、川の水を飲めば良いんですけど。そこまで汚い訳じゃないらしいし。

 

トッ、という軽快な音を私の靴が鳴らし、アスファルトの地面に降り立つ。土とは違って、良い音が鳴りますね。

さて、運動がてら、ここからは走るとしますか。

 

 

──

『キーンコーンカーンコーン』

今日は以前とは違って、余裕を持って家を出る事が出来ましたし、呼吸も整っています。時期も時期ですし、汗はそこそこに掻いてしまいますけども。

最近の学生の間ではシーブリ○ズとやらが流行りなんでしたっけ?ん?流行が遅いって?こちとら山奥生活ですよ。情報が速い訳無いじゃないですか。私にとって、貴重な情報源はラジオです。文明の利器とは便利な物ですね。山奥ですら、割とタイムリーな情報をゲット出来ますから。

電波はギリッギリですけど。

それでもまぁ、今のところは不自由してませんからOKです。青林高校の生徒達も、流行に敏感過ぎるということも無いみたいですし。

あ、ホームルーム始まるみたい。担任の教師が教壇に立つ。

 

「えー、皆さん。突然ですが、教室の空気のリフレッシュも兼ねて、席替えを行います」

 

教室の所々で湧き上がる歓声。

出た出た、席替え。やっぱり生徒にとって席替えは1大イベントなのかな?私は別にどこでも良いんだけどね。正直なところ、気分としては何処だろうと大して変わらないし。おぉ、担任が黒板に席順の印刷された紙を貼りだしましたね。んーと、どこかな……。私は窓際の最後尾か。隅っこって、何となく落ち着くよね。すみっ○ぐらしの気持ちは分かる気がする。

 

「……あれっ」

 

私は呟いた。小さな声で。

 

「隣、来夢さんだ」

 

そして、担任が喋った。

「はい、それでは皆さん。席を動かして下さい」

席を動かすのか……てっきり、荷物だけ移動するのかと思ってた。()()()経験するもんだから知らなかったけど、怠いことこの上ないな……。私は心の中で心情を吐露する。……心の中で心情って吐露するものなのかな?私は席を動かす。

 

途中、席同士がぶつかる事も有ったが、3分程して、席替えは終わった。何となしに隣を見る。すると、頬杖を突いている来夢さんがいた。死んでいる目で。その暗い表情といったら、私を怖じ気づかせる程です(私がチキンなのではない)。

(どうしよう……話しかけてみようかな……)

しかし、残念ながら私は、その思いを実行出来る能力を持ち合わせてはいません。コミュ障は早急に改善すべき課題です。

(せめて……何かぬいぐるみとかが有れば……)

……あ。そうだ。

私は閃きました。

 

「来夢さん、来夢さん」

 

首を捻って、こっちを見る来夢さん。

すると、彼女の表情が若干、柔らかくなった気がしました。

 

「あっ、この前の猫ちゃん……?」

「そうだよ!これからよろしくね!」

 

秘技。ぬいぐるみ作戦。

私は猫のキーホルダーからぬいぐるみだけ外して、操りながら話しています。ふふん。ぬいぐるみに喋ってもらってると思えば、多少ながら羞恥心は消えますね。

高校生でこれはちょっととは思うけど。

そんな事は気にしない。流石にゃんにゃんだと思おう。

 

「うん、よろしく!これで友達だね!」

 

 

「……ともだ……ち?」

 

私は驚きのあまり、固まってしまった。

茫然自失。未来の私が今の私を見たら、きっと笑われちゃうんだろうな。

 

 

 

初めての感覚だった。

私にとって、一人目の友達が出来た。

世界に、色が付いたような。

私の目の前に、新世界が広がったような。

真っ白のアルバムに、写真が貼られたような。

そんな、そんな感覚。

 

 

 

「えへへ」

 

 

 

私は、笑った。

留まる所を知らない、噴水みたいに溢れでる喜びを、抑えられなかったから。

 



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トワイライト・レコレクション

 

「来夢さんは、目玉焼きに何をかける?しょうゆ派?塩派?それともソース派?」

「私は……マヨネーズ派かな」

「おぉ、まさかの第4勢力!?」

 

私はわざとらしく驚きの声を上げましたが、来夢さんの意見には大いに賛成です。

ですが、卵にマヨネーズが合わない筈は無いと思うんですけど、案外マヨネーズと答える人は少ないんですよね。

そもそもマヨネーズが万能調味料だからかな。

あれは卵でなくとも、何だって合いますからね(独自の好みを押し付けていくスタイル)。

マヨネーズは森羅万象。永久不滅。天下無双。

誰か、共感してくれる人いないかなぁ……(笑)。

過剰摂取は危険ですが。

まぁ「何もかけない派」もいるらしいですね。

素材の味を楽しみたいだとか。

理由や好みは人それぞれです。

チョコミントアイスも然り(葵ちゃん好き)。

因みに私はこしょう派です(唐突なマヨネーズへの裏切り)。

 

「来夢さんって、日頃は何やってるの?」

「んーと……お絵描きしたりとか、音楽聴いたりとか……アニメとかも観るかな」

「へぇ、いいなぁ!」

 

話してみるまでは分かりませんでしたが、来夢さんって、結構普通の女子高生ってイメージなんですね。

いつも暗いイメージがあるので、何となく、そういう物とかからは対極に存在しているのかと思ってました(超絶失礼)。

テレビとか観なさそうだなぁ、とか考えてたけど、実際テレビ観ない人って少ないのかな……。

でも、ニュースとかであれば、スマートフォンでも見ることは出来ますしね。

このご時世、テレビが無くたって新聞読まなくたって、携帯電話が有れば必要ないですもの。

私は持ってませんけど。

必要性がありませんから。

……やっぱり私ってズレてるのかなぁ。

最近はつくづく思います。

 

「どんな絵を描くの?」

「割と色々……かな。名探偵コ○ンのキャラとか、浦島坂○船とか……」

「え、すごい!来夢さんの絵、見てみたい!」

 

私がそう言うと、来夢さんは、机の中から一冊のスケッチブックを取り出しました。

そのスケッチブックには、どのページにも、綺麗な色で塗られた、柔らかいタッチの絵がありました。

沢山の、色とりどりのキャラクターがいます。

来夢さんって、意外と沢山のアニメを観てるというのが、見て分かりました。

 

「可愛いなぁ……」

 

おっと、つい心の声が漏れてしまいました。

ですが、そのキャラクター達は本当に可愛くて、クオリティもかなり高い物だと思います。

私など、来夢さんの到底、足下にも及びません。

以前、私の描く猫は犬と区別がつかない、と言われた事があります。

あれはショックでした。

事実ですけど。

 

どうやら、彼女の描く絵の殆どが、彼女オリジナルのイラストらしいです。

素直に驚嘆です。来夢さんって、絵の才能があるんでしょう。これなら将来イラストレーターの道も歩めるのではないでしょうか。

おぉ、これは月下の奇術師様ですね。この人は知っていますよ。町でちらほら見かけます。

本屋さんとか。

今年の映画も確か、この人と格闘家の人が看板だったような記憶があります。

そんな純白の怪盗さんのページを(めく)ると、そこには、カラフルな4人の方たちがいました。

緑、紫、赤、黄色。

この4人が、さっき来夢さんが言っていた人達でしょうか?。

 

「これが……浦島○田船だよ」

 

なるほど、この方々ですか。来夢さんの推しキャラは緑色の方だそうです。あ、このたぬき可愛い。ペットなのかな。

 

「私は音楽つながりで好きになったんだ」

「へぇ~……じゃあ、歌手さんなの?」

「うん、歌い手さんって言うやつだね」

 

歌い手さん。今どきはそういう言い方をするんですね。

昔から、歌い手という言葉はありましたけど。

来夢さんはCDも持っているらしいです。残念ながら、ライブのチケットは手に入らなかったそうですけど。

今度調べてみましょうかね……たぬきさん。

因みにたぬきさんはやまだぬきという名前だと、来夢さんが教えてくれました。

 

「どんなアニメ観たりするの?」

「何でも……かな……。東京喰○とか、○ナンとか、イナ○レとか……」

 

ほうほう。雑食なんですな。

やっぱり、アニメは好きみたいです。

しかし、私はあまりアニメには詳しくないので、話にのる事が出来ませんでした。

残念です。

しかし、好きな物について話す時の来夢さんは、心なしか、ちょっと明るくなっているような気がしました。

来夢さんと話す為に勉強しようかな……。

 

 

 

そんな感じで、席替えをしてからというもの、私と来夢さんはそこそこに話すようになりました(当然、猫のぬいぐるみを介してですけど)。

いつもは1人だった休み時間も、最近は2人です。

楽しいです。

本当に楽しいのですが、1つ、気にかかる事があります。

それは、時折見せる、彼女の暗い表情。

 

いつも通り。

それを言ってしまったら、それまでの話なのですが。いつも暗い表情だからこそ、私は不安になるのです。

そのくせ、私と話してるときには明るい表情になるのですから、無理をしてるのではないかと、疑ってしまいます。

 

話してる内に分かってきたのですが、来夢さんは優しい人です。

だから、きっと、私が「私の事、嫌い?」と尋ねたって、彼女は否定するでしょう。

私を傷つけようとしない為に。

それに、そうやって聞いたところで、より面倒な奴に思われてしまうだけでしょう。

相手のパーソナルスペースにずけずけ入り込むのも、あまり良い人とは思われないですし。

 

故に、私は待つのです。

もっと話して仲良くなって、向こうから話してくれるまで。

向こうが、話してもいい人と思えるまで。

私は、待つのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日は、何の前触れもなくやってきました。

 

私は今でも、後悔しています。

 

私はなんて、愚かだったのかと。

 

彼女の本当に望んでる事に、気付けなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──

6月上旬の金曜日。青林高校は週5なので、明日明後日は休日です。

いつもと違って、今日は雨が降っています。

梅雨の時期ですね。蒸し暑いのは苦手です。

雨は嫌いじゃないですけど。

雨に打たれるっていうのは、何となくテンション上がるんですよね。

自分でもよく分かりませんけど。

 

いつもと違うのはそれくらいで、他に特筆すべき事はありません。

いつも通り、時間に余裕を持って登校して、いつも通り授業を受けて、()()()()()()来夢さんと休み時間を過ごしています。

あー。来夢さん本当に癒やし。

見てるだけで浄化されていく。

こういうの何て言うんでしたっけ?

パワースポットでしたっけ?

 

「来夢さんって、ほんとに可愛いですね……」

「……そんなことないよ」

「えー、ほんとですってばー。来夢さんは可愛いですよー」

「……ないないですよ」

 

来夢さんはどうやら、すぐに自分の事を否定する癖があるみたいです。

彼女は自身のことが嫌いなのでしょうか。

 

「……来夢さんは、かなりネガティブですよねー。もっと自分に自信持って良いと思いますよ」

「……」

 

ありゃ、沈黙を決め込まれてしまった。

どうやってフォローしようかな、と思った瞬間に

『キーンコーン』

と、次の授業の予鈴が鳴った。

あ、次の授業の準備しなきゃ。えーっと、次は現代文か……普通。良くも悪くもない、って感じです。

小説や、本を読むのは大好きですから。

それでも、授業でやる現代文って、何となく堅苦しいから好きとは言えない。

まぁ、嫌いじゃないから良いか。

 

 

授業中に隣を見ると、来夢さんはずっと上の空だった。

ノートはしっかり採っているのだけど、先生の話はあまり聞いていなさそうだった。

指されることも無かったので問題はなかったけど、今日は一段と暗い気がした。

何か、別の事を考えているような。

私の思い違いかもしれませんけども。

ふと窓の方を見ると、雨は何時(いつ)の間にか止んでいた。

 

──

夕日が照らし出す道に、影が2つ。

二種類の音色を奏でる、足音のデュオ。

 

今日は特筆すべきことはないと言いましたが、あれは嘘でした。ごめんなさい。

何故なら、私は今、帰り道の途中なのですが、今日は来夢さんと一緒だからです。

実は先ほど、勇気を出して(半分くらい冗談のつもりで)、

 

「来夢さん、今日は一緒に帰りませんか?」

 

と言ったら、まさかまさかの承諾を頂けたのです。

やっふーい♪。

彼女は途中まで帰り道が同じだということを、お話してる内に知っていたので誘ってみたのです。

受け入れてくれるとは思っていませんでしたけども。

良いのかな……こんな私なんかと。

そんな事を考えていると、気付かない内に、私の口からは言葉が零れていた。

 

「……来夢さんは優しいね」

「……え?私、何もしてないよ?」

 

彼女は苦笑いをする。

まぁ、突然言われても困るよね。

 

「だって、こんな私と一緒に帰ってくれるし、話し掛けたら、返してくれる。とっても優しいよ」

 

私は正直に言いました。嘘を()く理由なんて、何処にもなかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、私は多分、間違っていたんです。

 

ヒントは沢山有った。

 

多過ぎるくらいに。

 

あからさまなほどに。

 

私はいい加減に、気付くべきだった。

 

 

 

 

「……あはは。スピカちゃんの方が優しいよ。」

 

 

 

 

 

 

 

あぁ、私はきっと、彼女にどんな風に罪を(あがな)ったところで、償い切る事は出来ないんだろう。

私のせいで、彼女に、こんな顔をさせてしまったのだから。

 

 

 

 

 

彼女は、確かに笑っていたけど。

それは、ヒビが入っているくらいに。

見え見えの、作り笑いだったから。

 

 

 

 

 

「ごめん、私、家、こっちだから。またいつかね」

「え……あ、うん。またね……」

 

私はそれ以上、何も言う事が出来なかった。

彼女の声が、震えていたから。

 

こうして、私と来夢さんは別れた。

彼女の家はこの道ではなく、もっと先に行った道の方が近い。

だから、彼女が嘘をついていたのは、分かってた。

 

でも、私は追い掛けることはしなかった。

来夢さんと過ごす時間を、気付かない内に『いつも通り』なんて呼んでいた私に。

 

私なんかに、彼女の手を取る資格なんて、なかったから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は(しばら)くの間、立ち(すく)んでいた。

 

ただ茫然と、彼女の背中が見えなくなるまで、立っていた。

 

夕焼けの中、遠くで響くサイレンを。

 

固まったままで聞いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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グレイデイズ

「私がいないほうが全てうまくいく」

 

 

 そう、思い始めたのは、もう大分前の事です。中学校に入る前には、既にそんな事を日々考えるようになっていました。でも、実際のところ、それが本当のことですから。

 私は、玄関の扉の鍵を開けて、手をかける。

 ギィィィ、という重たい音が、空気を震わせます。

 

 

「……ただいま」

 

 

 当然、私の声に対する返事は返ってきません。応答を期待していた訳でもありませんが。分かりきっていましたしね。

 

 

 中に足を踏み入れた私に広がったのは、真っ暗闇。何も見えません。ただただ、静寂だけが広がっています。重苦しくて、換気もろくにされていないであろう空気を、全身で感じながら、照明のスイッチを切り替えようと試みます。靴を脱ぎ捨てて、スイッチの場所を手探りで確認します。何度も触っているので、大して迷うこともなく、私の指はスイッチの感覚を得ることが出来ました。

 

 

「パチッ」

 

 

 スイッチは軽い音を立てて、OFFからONへと切り替わる。すると、まるで自分がお仕事の指令を貰えたかのように、照明は2、3回点滅し、明かりを灯した。部屋が一気に明るくなって、その正体を現しました。

 

 

 一面、白。壁も、床、天井も、白。強いて言えば、部屋の隅っこに、学校関連の物がある位でしょうか。

 めぼしい家具はありません。そもそも必要最低限の家具しかありません。テーブルなんて必要有りません。床さえ有れば充分です。食器なんて要りません。使いませんから。飲み物なんて紙パックにせよ、ペットボトルにせよ直接飲めるし、私は基本パンしか食べませんから。袋に入ったまま食べられます。そうやって、不必要な物、削れる物を削っていったら、家具なんて殆ど要らないことに気づいたんです。

 

 節約です。

 エコノミーです。

 

 それでも、必要な物は必要ですから、それに支払うお金は必要です。ですから、掛け持ちしているバイトを減らす事は出来ません。当然、勉強とは両立させて。というか、学校でひたすら勉強して、分からない所は休み時間にでも先生に聞けば、ある程度はどうにかなります。

 

 

どうにかせざるを得ませんから。

 

 

 取り敢えずを生きていく為に、勉強は必要不可欠です。運動はそれなりです。体育の授業では、本気は出しません。本気を出してしまったら、クラスの女子でトップクラスの成績を出してしまうから。体育で上位の成績を出してえば、何らかの選手に引っこ抜かれてしまい、勉強に集中することが出来なくなってしまいます。それでも体力は有していたら便利ではあるので、そこそこに運動はしています。誰にも見られないように。

 

 

 汗を拭くときは物陰で。

 私の徹底したスタイルです。何でしょうね。面倒だからですかね。誰かに努力を見られるのは大嫌いです。

 それでも、テストでは良い成績を取りたいですね。お金を稼いで、幸せになるために。

 

 

 そして──―

 

 

 ……まあ、うん。

 それが、私の夢です。

 まぁ、叶いっこないんでしょうけど。

 

 

 私なんかに。

 

 私なんかに、叶うわけない。

 

 

 真っ白い床に無造作に置いてあったスーパーの袋から、半額になった、消費期限が昨日までのパンを1つ手に取る。食べる物を買いに行くときは、必ずと言って良いほど、閉店間際に行く。コンビニの方がスーパーよりも近いけれど、物価がスーパーより断然高いので、あまり行くことはない。飲み物も高いし。24時間営業して下さっているコンビニさんには悪いけれど、あんまり好きじゃない。

 

 

 削れる出費は削る。それが私の活動理念。

 もしも急にお金が必要になることだってあるし、単純にお金はなるべく取っておきたい。

 ただの紙に染み込んだインク。

 ただそれだけのものが、人生を左右に振り回すから。福沢諭吉を嫁と呼称する人の気持ちは、分からなくもない。今の世の中、それほどお金の価値は重たい。お金は人に幸福を与える事もあり、不幸を齎す事もある。

 

 

お金は大切。はっきり分かります。

 

 

 もぐもぐ。このパン美味しいですね。ピーナッツクリームが程良い甘さです。クリームの量がちょっと少なく感じますが、それを補う美味しさはあります。やはりこのメーカーは失敗しませんね。

 もぐもぐもぐ。……ごちそうさまでした。

 今日も、私を生かしてくれる食べ物に、感謝して。

 

 

 そんな、何もないような日々の繰り返し。幸せに感じることはある。その度に、私なんかが幸せになっていいのかと考える。不幸に感じることはない。不幸にどん底なんて、無いんだから。友達はいない。私に友達なんて出来やしないって分かってるから、そこに大して思いはないけれど。

 

 

 最近は別に元気ではない。それが平常運転なので、不安とか何かを抱いたりすることはありませんけども。今日も昨日と似たような感情の渦の中で呼吸する。このループに満足しているかと聞かれれば満足はしていないが、不満足ではない。変化を求めることはない。

 

 

 無味乾燥。無色透明。

 

 

 白黒曖昧な私に、とってもお似合いな生活です。

 

 そんな色付けやしない私の目の前に現れた、色鮮やかな彼女は、私にとって眩し過ぎました。直視するのも憚れるくらい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 _______________________________________

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

 入学式が終わって、高校生として2日目。私の名字は「ゆうこ」なので、出席番号はクラスの中で最も大きいものだった。よって私は窓際の最後尾という、座席において至上の位置と言えるだろう場所を手中に収めた。隅っこは落ち着きます。誰にも見られにくいから。

私は、ぼんやりと窓の外を眺める。風に吹かれて、桜の花びらが舞い散っていた。その光景を見ると、やはり春を感じさせられます。

そして、虚しさも覚えます。あの花びらを散らしている桜の木は、花びらでその体を着飾っている今でこそ、人々の注目を浴びている。しかし、いずれは花びらを落としきり、見向きもされなくなる。桜の花を着けていない桜の木に用はありません。

所詮、人間はそんなものです。自分の求める何かがあるなら、それに向かって幾らでも誉め称える。美辞麗句。空っぽの言葉を吐き続ける。その癖、求める何かが無くなった途端に興味をなくして去って行く。それが普通です。結局は、自分が楽しいかどうか。悲しいなんてことはありませんが、どこか虚しさを感じてしまいます。

 

 

 永久の愛なんて存在しない。温かい物は、直に冷める。

 そんなの、とうの昔に知っていた。

 

 

 両親の離婚。

今日では、さほど珍しいことでもない。詳しくは知りませんが、以前どこかで「夫婦の3組に1組が離婚」「約2分に1組が離婚」という話を聞いたことがあります。私は3分の1の確率に見事、当選しただけのこと。「子はかすがい」なんて言葉もありますが、あんなのは全くの嘘っぱちでしょう。信憑性の欠片もないです。

 

 

 ……いえ、寧ろ両親が離婚したのは私のせいでもあったのでしょう。ただでさえ積み重なっていた倦怠感。時間とともに乖離していったと心。そこに加えての過度の育児ストレス。私にとって、両親の心情は推し量れないほどに荒んでいったのでしょう。

 

 

心中お察しします。娘ながら同情させていただきます。

 

 

 両親の離婚についてあれこれ言える立場ではありませんからね。私なんてどうせ快楽と愉悦を求め合った末の副産物。あの人達にとって私は何だったのだろうか。どう見えていたのだろうか。幾夜も幾夜も考えぬいたけれども、結局、答えを知る由はない。だから、いつの日か考えるのを止めた。

今でこそこうして過去の思い出として懐古出来ているものの、あの頃は笑っちゃうくらいに酷かった。世界に自分一人だけに思えた夜をどうにかこうにか繋いでいた。あまりにボロボロの継ぎ接ぎだった。今ではもうちょっと上手に縫いつけられていると思う。

きっと___

 

 

 

 

 

 

 

 突然、教室前方の扉が音を立てて開いた。はっとしてそちらの方を見ると、担任教師が入ってきた。

 

 

「皆さん、おはようございます。今日は入学2日目ということで、みなさんに自己紹介をして貰いましょうか」

 

 

 ざわめく教室。既に話し相手を作った人もいるようで、周囲と会話する姿も見受けられる。皆、環境に適応するのが早いなと、素直に感嘆する。

 自己紹介。人付き合いに於いて絶大な比重を占める第一印象を決定する場。ここでのプレゼンで今後の学校生活を揺るがすと言っても間違いではないであろう。とはいえ、取り敢えずは当たり障りのない事を言っておけば、基本的にクラスで浮くことはないといえる。まぁ、自己紹介は出席番号順で行われる様なので、私はこの中で最後。まずは他の人がどう出るかを見てから、あれこれ考えれば良いだろう。

 

 

「はいはい、皆さんお静かに。それでは1番の人からおねがいします」

 

 

 教師がそう言うと、番号1番の人が席を立ち、教師の代わりに教卓の前に立つ。

 

 

「1番、浅海深山です。特技は……」

 

 

 そうやって、自己紹介は始まった。

 足が速いだの、ギターを弾けるだの、プログラミングを齧っているだの、自己紹介のバリエーションは多岐に渡った。中々に特徴的な物も多かったので、割と顔と名前は覚える事が出来た。

クラスメートの事を覚える。それだけで交流がやりやすくなるので、クラスで浮かない為には割と重要な事だと思ってる。幸いにも、暗記モノはそこそこに得意な方だと自負している。というよりも、覚えなくてはいけないという義務感の方が強い。自分に課せられた課題の一つといった方が正しいだろうか。やらなくちゃ駄目。自分なんて、生きる価値の無い人間。

だからと言って生き続けてはいるが、他人を害す事はしない。したくない。せめて、自分の意識下だけでも。他人を、周囲を傷つけたくない。……まあ、ただのエゴなんですけどね。笑っちゃうくらい自分勝手。それでも、私は今もそんな考えを止められないまま息をする。

 

 

「はい、ありがとうございました。では、次の人」

 

 

「あ、は、はい!」

 

 

 先生の声に驚いたのか、少女は素っ頓狂な声をあげて席を立つ。緊張しているのだろう、慌てた足取りで転びそうになりながら教卓の前に行く。周りはくすくす笑っていますが、彼女には気にする余裕など無いのでしょう。目もくれずにそこへ向かい、立ちます。

 

 

「え……えっと! じゅ、じゅうなにゃばん! ぜ、零崎スピカでふっ! ……あうぅ……」

 

 

 盛大に噛んでます。可愛すぎかよ(吐血)。

何ですかあれ。新種の殺人マシーンでしょうか。あの猫のような愛くるしさは最早犯罪的ですよ。天然記念物保護対象確定です。あぁ、心が浄化されていく……

 

 

「す、好きなものは、ね、猫で、しゅ、趣味は、本を読むことです……」

 

 

 猫ですか……。私にとっては最早彼女が猫にしか見えないのですけどね。それにしても一々可愛いですね。庇護欲を掻き立てられます。

 スピカさんは赤面しながら自分の席へと戻っていく。その際、クラスの皆がにやにやしながら彼女のことを見ていたのは言うまでもないことだった。

 

 

 その後、私を含めたクラスメート全員の自己紹介が終わり、大量も配布物を貰ったり、担任の話を聞いたりしたりして、私達は下校になった。

 

 

 

 それからの日々、私の毎日は変わっていった。

 落とし物を拾って始まった関係。

 席替えをして、隣になって。

 彼女は誰にでも優しくて、こんな私にも優しくしてくれて。

 それが私には、余りに眩しかった。

 

 

 

 白黒曖昧。何色にもなれない私への当て付けみたいで。

 何時までも治らない傷を、抉られているみたいで。

 

 

 

 あまりに綺麗過ぎて、吐き気がした。

 

 

 

 

 



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