超越頭脳と花姫のヒーローアカデミア (ツメナシカワウソ)
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第1話『超越頭脳(オーヴァーヴレイン)』

今日は別の小説投稿したじゃないかって?大丈夫です。不定期投稿ですから(意味不明)。


1月上旬。雄英高校も入学試験の準備で忙しくなってくる頃。黒いボサボサの長髪とドライアイの三百眼が特徴的な教師、相澤(あいざわ)消太(しょうた)の控えめな携帯電話の着信音が職員室の一部に聞こえる。

 

「・・・なんでこんなタイミングで掛けてくんだよ」

 

元々不機嫌そうな顔な彼は、携帯電話の画面を見て更に不機嫌顔を悪化させる。

 

「wow!どうしたんだよイレイザー!そんな顔してちゃモテないぜ?」

 

「・・・少なくとも今電話掛けてきた奴にはモテたくはないな」

 

たまたま通りかかったプレゼント・マイク(本名:山田ひざし)のいつものテンションに耐えつつ、電話に出る。

 

「・・・もしもし?」

 

『もしもし相澤君。聡(さとい)だ。キミに一つ頼みたいことがある』

 

電話越しに聞こえてくるその声は女性にしては若干低いが、そこには理知的な響きを持っている。相沢が好む『合理的思考』が出来そうな人間だろう。少なくとも事情を全く知らないプレゼント・マイク(本名:山田ひざし)にはそう思えた。だが、その女性と話している内にどんどん相沢の不機嫌度は増していく。何故そうなのかは、その場にいる人間はサッパリわからないのであった。

 

「・・・んで?なんなんだ。その『頼み事』ってのは」

 

『私に血の繋がっていない娘がいるのは知っているだろう?』

 

「・・・ああ」

 

『その娘が今年で高校生になるのは知っているだろう?」

 

「・・・残念ながらここ(雄英)は託児所じゃねえぞ」

 

『理解しているさ。別に裏口入学とかそういうことじゃない』

 

「じゃあなんだ」

 

『その前に、一つキミに知恵を授けよう』

 

「・・・なんだよ」

 

ここにきて、ハッキリ言えば相澤のストレスはmaxにきていた。何故なら相手は高校時代の自分を一瞬で打ちのめした人物だからだ。それだけではなく、相澤は電話の相手に数々の屈辱を受けてきたのであるが、話すとキリがないので今回は話さない。

 

『この頼み事は、No.1ヒーロー・・・丁度今そこに在籍している教師、オールマイトの生き死にに関わるぞ。彼も肉体的限界が近いようだからな』

 

この発言を聞いた彼は、一瞬思考が雷の如く駆け巡る。そもそもオールマイトが雄英にいることはメディアには伏せてある筈だし、身体の限界・・・数年前、あるヴィランと戦ったことによる後遺症の話は最高レベルの厳守すべき情報だ。何故ならオールマイトとは平和の象徴。個性の発現が確認されたばかりの、超常黎明期と呼ばれた頃に、数々のヴィランを倒した英雄であり、その存在だけで治安が守れているのだから。それが弱体化していると知られたら、瞬く間に犯罪は爆発的に増加するだろう。故に、プロヒーロー、イレイザーヘッドは電話先の要注意人物に問いただす。

 

「お前、何故それを知っている。場合によっては極刑もありえるんだぞ」

 

この時、何も知らない周囲の者達は動揺しただろう。戦闘時以外は滅多に感情を表さない相沢が、殺意を垂れ流し始めたのだから。

 

『どうやらその反応だと私のシミュレートは当たっていたな。いいか。私の個性の前には隠し事は不要。ありとあらゆる情報を駆使し、演算を繰り返し、全てを理解してしまうのだからな。まぁ、キミでもわかるように説明しようじゃないか。まず、雄英高校周辺にオールマイトが出現したのを確認したので、興味本意で監視していたら、煙を吹き出し棒のような細い肉体に変わった。オールマイトの個性は未だに見当がつかんが、おそらく変身系、及び異形系の個性でないことはあの火力で証明済だ。だとしたら、オールマイトの個性は発動系ということになる。では何故、発動系の個性である彼が、明らかな肉体の変化を行ったのか。ここまで来ればキミも理解出来る筈だ。ヴィランによる攻撃により、何らかの後遺症を負った、とね。雄英に来たのは自身の経験や知識が生徒達の役に立つとでも考えたからとか、トップヒーローという強力な戦力であるキミ達教師達に保護してもらうためか、或いは・・・まぁ、動機はどうでもいいな』

 

ここまで聞いて相澤は、改めて自分の話している相手がバケモノだと実感する。まずNo,1ヒーローであるオールマイトを活動限界(およそ3時間程と聞いている)まで監視し続けただけでなく、雄英高校周辺の強固なセキュリティまで突破されているとは思わなかったためだ。更に、相手の話はほぼ全て合っているというのも含めて、相澤は返す言葉が見つからなかった。

 

「・・・」

 

『おい。相澤君。生きているか?』

 

「ああ。悪い。余りにもお前の話が的を射ていたんでな。相変わらず」

 

『では、本題に入ろう。単刀直入に言えば、私の娘が雄英に入った時、登下校中に限り、自己防衛の為の個性使用を容認して頂きたい。理由はわかると思うが、安心しろ。制御、及び適切な運用は出来るからな』

 

相沢は電話先の相手に更に驚愕する。いつもならもう少し突拍子もないことを要求してくるのだから、今回は『オールマイトを殺せ』とでも言ってきそうな気がしてならなかったのだ。だが、相沢が驚愕したのはその次の言葉の方だった。

 

『それと・・・これは無理かもしれんが、極力彼女をオールマイトに会わせるな』

 

「それは・・・何故だ?」

 

『あぁ。キミには話していなかったな。彼女はオールマイトに対してトラウマを持っている。それが原因で個性が暴走することも十分、否、十二分にある。ならばそれを避けるべきと思うのはキミも当然だろう?』

 

「・・・善処はしよう」

 

『あぁ。それでは、キミの未来が明るいものでありますように』

 

そう言うと電話は切られた。気がつけば職員室にいたヒーロー達が全てこちらを向いていた。

 

「あー・・・俺、何かしました?」

 

何も知らない相澤に、全身が四角いコンクリートのようなもので出来た男、セメントスが、無慈悲に答える。

 

「イレイザー・・・その・・・電話、スピーカーになってます」

 

「え?」

 

「ですから、電話の内容丸聞こえでしたよ」

 

そう聞いた相沢は直ぐに周囲を見渡し、プレゼント・マイク(本名:山田ひざし)がいないことを確認する。

 

「・・・山田は?」

 

「プレゼント・マイクでしたら、イレイザーが電話し始めた辺りで、出て行きました」

 

「・・・今回の話は、彼奴に教えないように」

 

彼らはまだ知らない。全ては超越頭脳(オーヴァーヴレイン)の予測通りということに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、神野町の某所にて、薄暗い部屋の中、150cm程の小柄な女性が不敵に微笑み、その隣で130cm程の少女がベッドに寝そべりながら参考書を絵本でも読むかのように楽しく読んでいたそうな。




気づいたら2000字を超えていました。別に字数まで超越させようとした訳じゃありません。


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第2話『狂喜の女神(ゴッデス・オブ・マッドネス』

書いてるうちに愛着が湧いちゃったので東方影住録とは別の曜日に連載する予定です。・・・予定です(大事なことは二回言うタイプ)


雄英高校入学試験当日。神野町某所。一般人のものではないことは明白な無駄に広い和風の屋敷にて、少女が二人、玄関前に立っていた。その一人の名は聡(さとい)鋭華(えいか)。150cm程の身長であり、身に纏っているのは大きめの白衣。ブラックホールを思わせる漆黒の髪の毛先に、僅かながら金色が妖しく光っている。その目は知性の塊を思わせる、深い青色であり、目の前のもう一人の少女を優しく見ていた。もう一人の少女の名は聡(さとい)姫花(ひめか)。130cm程の身長であり、鮮やかな緑色の髪の上にはコサージュのように白い花が咲いていた。目はくりくりとしていて、鋭華とは対照的に無邪気な明るい黄色に染まっていた。服装が女児向けの半袖のシャツとショートパンツなのはこれから行われるものが関係しているのだろう。

 

「姫花。準備はいい?」

 

「うん!ママ!」

 

「じゃあ、頑張って。私も応援しているよ」

 

「うん!いってきます!」

 

そう言うと姫花は元気にドアを開け、今日行われる雄英高校の入学試験に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数時間後の出来事。雄英高校入学試験筆記科目は全て終了し、いよいよ実技科目となって受験生達が燃えている頃。姫花もまた、実技試験に興奮していた。その証拠に、頭の上に咲いている花が、喜びを現す黄色に変色していた。そして、突然何者かの叫び声が響き渡る。

 

『今日は俺のライヴにようこそォォォォォォォォ!!エヴィバディセイヘイ!!!』

 

シーン・・・・・・・

 

静まり返る会場。しかし、この重苦しい空気を破った者がいた。

 

「へい!」

 

姫花である。周りにいる受験生達はさぞ困惑したであろう。何故なら、只の幼い子供にしか見えない彼女が、雄英高校の入試に来ているのだから。しかし、叫び声の主であり、実技試験のガイダンス役であるプレゼント・マイクは気さくに進める。

 

「OK!元気があって何よりだぜ受験番号31番のリスナー‼︎では実技試験の概要をサクッとプレゼンするぜ‼アーユーレディ!?』

 

「いえーい!」

 

その時、会場が若干和んだ。しかし、それはたったひと時の安らぎでしかなく、或いはこれから始まる戦闘の清涼剤のような何かだったのかもしれない。それからプレゼント・マイクのプレゼンが始まり、皆真剣に聞いた後、プレゼント・マイクからの激励があった。

 

『かの英雄ナポレオン=ボナパルトは言った!「真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者」と‼Plus Ultra(更に向こうへ)‼︎それでは皆、良い受難を‼︎』

 

全員がその激励を真剣に聞いている中、それを完全無視して“異変”を察知する者がいた。しかし、その者には“異変”の意味が分からず、奇妙に思いながら試験会場へと向かうバスに乗るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、バスに揺られて到着した試験会場はまるで一つの街のようで、姫花を更に興奮させた。外見も相まって幼い子供のように見えるが、彼女はしっかり15歳なのだ。

 

そして“個性”は、そこらの15歳はおろか、平和の象徴とも比べ物にならない程強い。

 

『ハイスタート‼︎』

 

「「「・・・え?」」」

 

そこにいたほぼ全員が、唖然とした。突然のスタート宣言ではなく、別の理由に。

 

 

「えい!」

 

ドゴォ

 

「それ!」

 

バキィ

 

「くらえー!」

 

メキメキメキ・・・

 

そこには、無数の花が咲いていた。その花の一つ一つにはナイフやハンマーなどの凶器が雄蕊や雌蕊のようについており、試験用のロボットを次々と破壊していくのだった。しかし、流石は雄英を志した者達と言うべきか。遅れをとってはいけないということにいち早く気づいた一部の受験生に続く形で、開始から1分半、漸く全員が動き出した。しかし、誰も姫花の周りには近づかない。彼女の異様な雰囲気の中にいたくなかったためだ。尚、本人はそんなこともつゆ知らず、積み木でも崩して遊ぶかのようにその辺の目についたロボットを虐殺して回っていた。そして数分後、“異変”が訪れる。

 

「なんだアレ!聞いてねえぞ!」

 

「試験でここまですんのかよ!」

 

「もうやだ!お家帰る!」

 

悲鳴と共に現れたのは、大量の0ポイントヴィラン。0ポイントと言ってもその姿は超巨大であり、相手をするなら複数人で挑むのが望ましいだろう。しかし、今回はそれが大量にいるのだ。多くの者が逃げることを選択し、残りの者は微弱な力で戦い、即座に戦闘不能となった。

 

一方、教師陣。

 

「ちょっと!アレは一体何!?」

「わからん!だが受験生の安全が優先だ!直ぐに動ける奴を集めて、会場へ行くぞ!」

 

教師陣も大量の0ポイントヴィランを出現させる予定は無かったらしく、相当慌てふためいている。しかし、プロヒーローというだけあって対応力は優れており、直ぐに行動を開始した。だが今回は、プロより早く動いている者がいた。ただそれだけのことだ。突如、相澤の携帯電話が鳴る。それは間違いなく、福音であっただろう。画面を見て彼は思わず苦笑いをこぼす。それを全員が注目する。

 

「・・・もしもし」

 

『全くキミたちトップヒーローとやらは察知能力もポンコツらしいな。一箇所を除いてキミ達以下のポンコツ君達を機能停止させておいたよ。残り一箇所は・・・わかるな?』

 

「・・・今回は素直に例を言う」

 

『そうか。じゃあ、娘をよろしく頼んだぞ』

 

そして、電話が切れる。

 

「・・・だそうです」

 

「た、確かに0ポイントヴィランはほぼ機能停止してます」

 

「相澤君・・・彼女は一体何者なのかね」

 

半分安堵し、もう半分は驚愕に包まれた、棒のような細い肉体(トゥルーフォーム)のオールマイトに聞かれ、相沢は答えにつまり、やがて答えた。

 

「彼奴は聡 鋭華・・・バケモノです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻。試験会場。

 

「オイお前!そこのチビ助!いくらお前でも無理だ!逃げろ!」

 

「ん?」

 

「ん?じゃねえよ!早く逃げろって!」

 

0ポイントヴィランが唯一機能停止されていない会場にて、受験生の一人が姫花を止めようと必死になっていた。その受験生は黒髪に尖った歯が特徴であるが、個性については姫花は全くみていなかった。

 

「でもさ?ヒメがにげたら、あそこでたおれてる人しんじゃうよ?」

 

「それは・・・そうかもしれねえけど・・・‼︎なんでお前は他人にそこまでするんだ!?」

 

それは、中学校時代に、その受験生が負った傷故の発言だったのだろう。だが、そんなことは気にもとめず、あっさりと姫花は答えた。

 

「ヒメがヒーローだからだよ?」

 

その言葉に何かを感じ、覚悟が決まったのだろう。黒髪の少年の目が変わる。

 

「だったら俺にも・・・手伝える事はないか?」

 

「じゃあおにいさんは・・・たおれてるひとを運んであげて?」

 

「わかった!」

 

そこからの二人の行動は実に早かった。姫花はロボットを次々と粉砕し、黒髪の少年は倒れていた負傷者達を全て安全な場所まで運んでいった。それから数分後。試験が終わり、姫花は黒髪の少年と共に救護室へ連れて行かれた。

 

一方、教師陣。

 

「こいつはシヴィー!0ポイントを全滅させちまったよ!」

 

「聡 姫花・・・個性『花姫』?変わった名前ですね」

 

「0ポイントを破壊したっていう意味ならこの子もスゴイわよ?救助ポイントで7位の」

 

「ああ。確か、緑谷(みどりや)出久(いずく)だったか。0ポイントをぶっ飛ばした反動で腕がメチャクチャになってたらしいけど、大丈夫なのかアレ?」

 

想像以上の成果を挙げた受験生達へ三者三様ならぬ四者四様の感想を口にする中、一人沈黙する相澤。彼は今、焦っていた。

 

(マズイな・・・この調子だと必ず聡の娘は合格する。しかし・・・この映像を見るとな・・・」

 

それは、0ポイントヴィランをなぎ倒している時の姫花の映像だ。ここにいる教師陣は全員0ポイントを全滅させたということに注目し過ぎて気付いていないようだったが、彼は気付いた。否、気付いてしまった。

 

(本当に・・・あの親子はバケモノだな)

 

彼の目と画面には、満面の笑みを浮かべ、その手に持った花から凶器を無数に吐き出して次々と殺戮を行う、恐怖を感じ、しかしそこに神々しささえ感じさせる、『狂喜の女神(ゴッデス・オブ・マッドネス)』の姿があった。

 

(まあいい。此奴をどう教育したものか・・・まずは笑い方か?)

 

相澤にしては珍しく脳内でジョークを考えたその時、またも電話が鳴る。

 

(ゲッ・・・一番掛かってきてほしくないタイミングだ)

 

軽く舌打ちをし、電話に出る。

 

「もしもs」

 

『あーあーあー。そういうのはいい。さっきの騒動で時間が無かったろうから割愛したが、キミ達は設備の管理さえマトモに出来ないのか?』

 

「・・・」

 

何かを察した相沢が電話のモードをスピーカーからマイクに変えようとするが、何故か操作出来ない。

 

「は?」

 

『因みに抵抗しても無駄だ。音量を下げることは出来ないし、電源を切ることもできない。それにキミは物をしょっちゅう破壊する性格でないことも知っている。黙って私の話を聞きたまえ」

 

「・・・まさかお前」

 

『そう。キミの電話をハックさせてもらった。ザル警備だったね。これを聞いている諸君もセキュリティには気をつけるように』

 

既に相澤を含め、ここにいる教師陣は唖然とし、誰もが返す言葉を探していた。そんな時に、一人の男が口を開く。

 

「それより、聞きたいことがあるんだが、よろしいか?」

 

八木俊典、オールマイトである。現在はトゥルーフォームの弱々しい身体だが、その声にはNo,1ヒーローの貫禄が滲み出ていた。

 

『ああ。キミの活動限界に関わるとかいう話と、私の娘がキミにトラウマを持ってるとかいう話を少々前にしたからな。それについてだろう?』

 

「・・・そうだ」

 

『ではその話が先だな。まず、私の娘の個性でキミの怪我を治療できる可能性がある』

 

「それは本当か!?」

 

話を聞くが否や、八木は座っていた椅子から身を乗り出す。

 

『そうがっつくな。犬かキミは。あくまでも可能性の段階だ。まず一つ。私の娘の個性は『花姫』。何の原理でかは不明だが、空間に花を咲かせ、そこから様々なものを生成する。基本的に使用する用途が単純なものであればあるほど生成できるものの質は高くなる訳だ。ということは、後遺症を治すという単純な理由で作り上げた何かであれば・・・わかるな?』

 

「・・・ああ」

 

ヒーロー、オールマイトはその発言を受け入れた。だが同時に、その前の言葉が頭をよぎった。

 

(何故私の存在が、彼女のトラウマになっているというのか・・・?)

 

『今、何故自分の存在が私の娘のトラウマになっているのか考えたろう?』

 

「全く、その通りだ」

 

『無理もないな。そのトラウマを拭わぬ限り、キミの後遺症は回復しないだろうし、“残り火”も急速に消えていくだろうからな。“後継者”に教えを施すこともままならなくなるぞ?』

 

オールマイトはその言葉を聞き、身体に力が入り、自然とマッスルフォーム(メディアなどに映るいつものオールマイト)に変身する。

 

「君、どこまで知っている?」

 

『そう警戒するな。もう一々驚かれるのは面倒だからこの際説明するが、私の個性は『超越頭脳(オーヴァーヴレイン)』。本来10%しか機能していない脳を100%、それを越えれば無理のない範囲で19876%まで機能させることができる。その内の30%だけでも、キミ達の電子機器をジャックし、それを通してキミ達の思考や記憶を覗き見ることなど造作もないことさ。私の前で隠し事が通用しないのはこのためだ。理解したな?』

 

「あ、あぁ」

 

『結構。では私の娘のトラウマについて、だ』

 

それを機に、鋭華の声がまるで人を責めるようなものに変わる。

 

『キミ・・・否、お前が潰した“個性研究所”を忘れてはいないな?』

 

「あぁ。忘れるものか」

 

オールマイトはその心を痛める。個性研究所とは、無個性の子供を集め、個性を発現させるために様々な実験を行なっていた施設の名前だ。その実験には人道を大いに外れたものもあったらしく、記録に残っているだけでも精神崩壊者が68名、死亡者が972名いたという。

 

「もっと早く、私が辿り着けていれば・・・」

 

オールマイトがその言葉を口にした瞬間、更に電話越しの人を責めるような雰囲気が強まる。

 

『早く辿り着けていれば、なんだ?お前はその実験をなかったことに出来たか?非道な実験に心を病み、死んでいった者達を救えたか?笑わせる。お前は結局お得意の笑顔さえ無くして棒立ちになっていたじゃないか。研究者達は結局捕まったが、アレらも結局警察に金を積んで逃げたんじゃないのか?つまりそういうことなんだよ。私の娘“達”はその悲劇の生き残りであり、一度は心が壊れてしまった者達だ。その心が壊れていた頃に、お前が棒立ちで何もできなかった記憶があるんだ。もし今の娘がお前を見て、それを思い出したらどうなるか、想像に難くないだろう?』

 

「「「・・・」」」

 

鋭華の言葉は、教師陣、否、ヒーロー達の心を無慈悲に突き刺した。誰の記憶にも残っている、凄惨な事件だった。特に、実際にその場にいたイレイザーヘッドとオールマイトにとっては。突入した時には全てが終わっていた。飛び散った肉片。内臓が抉れた死体。服さえ来ていなかった身体。思い出すだけでも嫌になるぐらいだ。

 

「許して欲しいなんて思ってない。しかし・・・すまない」

 

オールマイトの目には、涙が溢れていた。

 

『ハァ・・・こちらもすまない。少々感情的になっていたようだ。しかし、トラウマの件は事実。善処するように』

 

「・・・わかった」

 

『あ、そうそう』

 

いつもの気怠げな口調に戻った鋭華は、日常会話でもするように言う。

 

『校長からの依頼で私もそちらの教師になることになった。よろしく』

 

「「「・・・ハァァァ!?」」」

 

突然の、突然過ぎる発表に、その場にいた教師全員が声をあげた時には既に電話は切られていた。




因みに入試の順位(トップ3)はコチラ
1位:姫花
2位:爆豪
3位:切島


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第3話『前途多難(ハードモード)』

とうとう前書きに書くことがなくなってきた本日3回目の投稿です。



午前7時35分。国立雄英高等学校1年A組にて、聡 姫花は自分の席に座り、鼻歌を歌い上機嫌になっていた。姫花にとっては初めての学校生活なのだ。もう心の中ではピョンピョンと飛び跳ねたい気持ちでいっぱいだったが、育ての親である鋭華に「高校生なんだからおとなしく」と言われたので仕方がない。しかし想定より早く目的地の到着したばかりか、勘が恐ろしく鋭い彼女は、誰よりも早く自身の教室に辿り着いてしまったのだ。つまり、暇である。あまりにも暇なので彼女が家から持参した本(因みに六法全書である)でも読もうかと考えていたその時、カラカラと控えめな音量で丁寧にドアが開けられ、そこから眼鏡に七三分けのthe真面目と言ったような風貌の少年が入ってきたのを見て、姫花は目を輝かせる。

 

「おはよーございます!」

 

「お!?おはよう!聡明(そうめい)中学校出身、飯田(いいだ)天哉(てんや)だ!よろしくな!」

 

the真面目そうな少年・・・天哉は一瞬姫花の幼い子供のような容姿に戸惑ったが、しっかりと採寸された自身と同じ雄英の制服を着ていると認識した瞬間挨拶をする。

 

「柊(ひいらぎ)中学校出身、聡 姫花です!よろしくね!」

 

二人は自己紹介を終え、軽く握手をすると、仲良く喋り始める。因みに柊なんて名前の中学校は存在しない。鋭華が適当に履歴書を作っている最中に「受検当日は2月・・・節分か」と呟き、節分と言えば柊だなと思いながら適当に作った架空の中学校だ。しかしその真実を知る者は姫花と鋭華の二人だけなのであった。

 

「そう言えば頭の上に咲いてる花はなんなんだ?」

 

「ハイビスカス!きれいでしょ!」

 

そんな話をしていると、突然乱暴にドアが開けられ、薄い金髪にtheてぐしといったような髪型の赤い三白眼の、性格の悪そうな少年が入ってきたかと思えば、ズカズカと自分の席まで歩き、机に足を乗せて座るというヤンキーの典型的な態度でthe真面目の天哉とthe純真の姫花を困惑させた。しかし、純粋無垢で恐れを知らない姫花は、直ぐに声をあげる。

 

「あー!そんな風にすわっちゃいけないんだー!」

 

「そうだぞ君!聡君の言う通りだ!机の製作者の方や以前ここを使っていた先輩方に申し訳なく思わないのか!」

 

「あァ!?テメェどこ中だよ!端役が!」

 

姫花に続く形で天哉も抗議するが、残念ながら無駄に終わった・・・訳もなく。

 

「うう・・・ぐすっ・・・ふええええん」

 

姫花が泣きだし、いつのまにかクラスに入ってきていた1年A組の生徒(特に女子)のヘイトを大きく買う不良風の少年。流石にこれには少年も黙り込む。その空気、一触即発。そこに救いの一石が投じられる。

 

「オイお前ら。五分前着席って知ってるか?」

 

どこからともなく、寝袋に入った相澤が教卓に立ったのだ。

 

(((誰?)))

 

「ハイ。お前らが静かになるまでに34秒かかりまs」

 

「ぐすっ、・・・ううう・・・」

 

相沢が話している途中でも、未だぐずっている姫花。相澤は非常に困惑していた。

 

(なんでよりによって俺が担任のクラスなんだよ・・・)

 

しかし、彼はあくまで合理性を尊ぶ者。さっさと姫花を泣き止ませたいが、方法がわからない。それ故、思い切って寝袋から身体を出し、姫花の頭を撫でてやる。すると、彼女は直ぐに泣き止み、疲れたのか眠ってしまった。

 

「・・・ハイ。取り敢えずお前らはコレ着て外出ろ。体力テストだ。時間が押してんだ。詳しいことは後で頼む。あと今寝た奴は適当に起こして女子がパパッと着替えさせとけ」

 

相澤はそう言いながら生徒達に雄英の体操服を渡すとひどく疲れた様子で教室を出た。その時、相澤は思ったのである。『前途多難(ハードモード)』だと。

 

 




どんどん相澤先生がキャラ崩壊していく・・・


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番外『調査記録』

なんか小説作ってたら自分でも「このキャラって結局どんな奴だっけ?」とわからなくなってきたので整理を含めてキャラ紹介をば。若干のネタバレがあるかもしれません。苦手な人はブラウザバックを。


聡(さとい) 鋭華(えいか)

性別:女

年齢:30歳

身長:153cm

黒いショートヘアの毛先に若干金色が入っているのが特徴。目は青色。年の割にかなり童顔であり、娘の姫花とは姉妹と誤認されることが多い。常に若干気怠げにしているところは相澤に似ているが、姫花と話すときは母性溢れる絵に描いたような母親らしい態度や言動を取る。しかし戦闘時は相手を研究対象のように観察しながら戦ったり、相手の能力を全て調べあげるために非道な手を使うこともしばしばある。相澤とは同級生であり、戦闘訓練時に一瞬で叩きのめしたのを機に、彼の『個性を消す』個性を長い時間観察出来なかったからという理由でしょっちゅう実験に付き合わせていた。更に実験の成果として相澤の『個性消去』を無効化することに成功した。個性研究所から姫花や一部の生き残りを『自分の子供達』として自宅で保護している。ヒーローの事を『たかが個性が(法律の下)自由に使える公務員』と思っており、あまり好ましいイメージはなく、ヒーローの免許を取得したのも自衛の為に個性を使いたかったから。個性は『超越頭脳(オーヴァーヴレイン)』。本来10%しか使われていない脳を無理のない範囲で19876%まで機能させることができる。但し100%を超えて使うと使用後に三大欲求が著しく上昇するうえ、常に摂取する栄養の90%が脳へ行ってしまうため老いることがなく、個性を常に100%使用していれば死ぬことがない。具体的な能力としては、『20%で身体機能の底上げ、30%でエネルギーや電気信号の可視化及び操作、40%で他者の肉体操作、50%で全物質(人間を含む)の操作、60%で重力及び空間の支配、70%で肉体や物質の変形及び融合』という6つの能力に残りの%を割り振る形で発動する。本気を出せばAFOなど2秒と持たずに死ぬ。キレたらAFOが1億人いても勝てない。因みに『先輩』であるミッドナイトには唯一敬語を使う。そして両刀使いである。

 

聡(さとい)姫花(ひめか)

性別:女

年齢:15歳

身長:132cm

明るめの緑色のロングヘアーの上にコサージュのようにハイビスカス風の花が咲いており(ハイビスカスとは言っていない)、彼女の感情によって色が変化する。目は黄色。身長と性格の幼さからょぅじょと誤解されがちだが、しっかり高校生。天真爛漫。純粋無垢。個性研究所にて実験台にされており、ろくな教育を受けていなかったために性格が幼いままになっている。ヒーローは『かっこいい』と思いつつもオールマイトには『助けてくれなかった人』としてやや嫌悪感を持っている。鋭華に保護されてからは短期間の内に小学校卒業〜難関中学校卒業レベルまでの知識を身につけたので元々頭はよかったのかもしれない。個性は『花姫(はなひめ)』。空間に花を咲かせ、そこから様々な物を生み出す。生み出す物はその用途が単純であればあるほど強力になる。しかし摂取した栄養分の殆どが花に吸収されるために老いることがなく、身体がどれだけ破損しようがそこから生えてきた花が破損した身体の一部に変わるため死ぬことがない。因みに髪の上に生えてる花を肉体で触ると本人が立っていられなくなるほど快感を憶えるので不用意に触らないように。




ノリでょぅじょにトンデモナイ設定を追加しました。大丈夫です。あくまでR-15です。


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第4話『体力試験(リーサル・テスト)』

不定期投稿なのに毎日投稿してるじゃないかって?いいえ。ネタが切れたらすぐに不定期になります。


雄英高校グランド内。突如として無精髭を生やした黒い長髪の男により、体操着に着替えさせられて集合させられた姫花達1年A組の生徒たちは、何が始まるのかまるでわからない状況になっていた。

 

「何やるんだろ?」

 

「やっぱ施設のガイダンスとかじゃね?この服にしたのは制服汚さない為とか」

 

頭から触覚が生えており、反転目、ピンク髪、紫っぽいピンクの肌を持つ女子生徒とひょろりとした体つきと大きな口、少し長めに伸ばした髪型の男子生徒が会話している中、姫花は何かに惹きつけられるように、緑がかった癖毛とそばかすに、大きく丸い目が特徴的な愛敬のある顔立ちの少年の元へ向かい、何かに気付く。そこには赤い頰と前髪の両端が長いショートボブの髪型が特徴的な少女もいたが、気にせず話しかける。

 

「おにーさんおにーさん!」

 

「えっ?どうしたの?確か・・・聡さん、だっけ?」

 

「うん!あのねあのね!おにーさんがぎゅーってなってぼんって壊れちゃいそうだなって思ったの!」

 

「ヒィっ!?た、確かに個性のコントロールが上手くいかなくて大怪我することはあるけど・・・あ!」

 

恐ろしいことをサラリと言う姫花に恐怖する少年。しかし、それにより少年も何かに気付いたのか、顎に手を当て途轍もない勢いでブツブツと何かを呟き始めた。

 

「デクくんがホントに壊れた!?」

 

少年の異様な姿に、隣にいたショートボブの少女が慌てふためく。

 

「デク?おにーさんデクっていうの?」

 

「ううん。デクくんには出久くんっていう名前があるんだけど、なんか『頑張れ!』って感じがするからそう呼ぶことにしたの。あ、私は麗日(うららか)お茶子。よろしくね!」

 

「聡 姫花!よろしくね!」

 

こうして、姫花に新しい友人ができた。その矢先。

 

「ハイお前ら。これより個性把握を兼ねた体力テストを行う。番号順に並べ。あと俺がお前らのクラスの担任の相澤です。よろしく」

 

(((・・・え?)))

 

おそらく、此処にいる全員が衝撃を受けたろう。

 

「にゅ、入学式は?」

 

「ない」

 

金髪のチャラそうな生徒が質問するも、即答される。

 

「が、ガイダンs」

 

「ない」

 

全身ピンク色の女子生徒の質問も即答。

 

「テストってなにするんですかー?」

 

「・・・まぁ、順を追って説明するから大人しくしてろ」

 

「はーい!」

 

姫花の質問にも(若干間はあったので即答とは言えず)答えた。

 

「じゃあ最初は・・・爆豪(ばくごう)。コレ投げてみろ」

 

そう言って相澤は、少し前机に足をかけて座っていたうえ、姫花を泣かせて相澤が早くも疲れる原因となったヤンキー風の少年・・・爆豪にボールを渡す。

 

「あ、そうそう。個性使っていいから。時間は有限。早めに頼むよ」

 

その言葉を受け、爆豪は大きく振りかぶり・・・

 

 

「んじゃ早速・・・死ねぇぇぇぇぇ‼︎

 

 

(((・・・死ね?)))

 

奇声を張り上げてボールを爆発させながら放った。ボールは天高く飛び、帰ってくることはなかった。それを見て相澤はいつのまにか手に持っていた測定器のスイッチを押す。

 

「記録、795.2m」

 

淡々と機械のように告げる相澤と、それを聞いて興奮する生徒達。それは正に対照的な光景だった。

 

「個性自由に使えんのか!すっげえな!」

 

「705mってマジかよ!?」

 

「さすがヒーロー科!」

 

「おもしろそー!」

 

などなど、様々な声が聞かれる中、相澤が地獄の提案をする。

 

「面白そう、ね・・・お前ら、そんな腹積もりでこのヒーロー科を過ごす気でいるのかい・・・?」

 

ただでさえストレスが溜まっていたのにも関わらず、彼の一番嫌いな非合理的な「おもしろそう」などの言葉が山のように入ってきたのだ。ついにそれらが爆発した相澤の顔はもう恐怖そのものだった。

 

「よしわかった。このテストで最下位だった者は除籍処分とする。わかったら早く始めろ。まずはソフトボール投げからな」

 

一瞬にして緊張感溢れるグランド。当然、姫花も緊張していた。

 

「・・・すー・・・すー・・・」

 

睡魔に負けてしまうまでは。

 

「オイ起きろ聡。お前の番だ」

 

「ふえぇ・・・?」

 

「ホレ。投げろ」

 

「は〜い」

 

相澤に起こされるや否やボールを渡され、眠い目を擦りながら投げたそのボールは・・・姫花の手を離れた瞬間、途轍もない風圧を残して消えた。

 

「「「・・・はい?」」」

 

瞬間、全員の驚愕。

 

「・・・記録、測定不能」

 

相澤はそう言うと、目の前の姫花(測定不能)を見つめる。彼女が投げたボールが通ったであろう場所には無数の花が咲き、幻想的な光景となっている。

 

(どうなってんだコイツ・・・)

 

相澤が困惑するも束の間、姫花(困惑の対象)が駆け寄ってくる。

 

「せんせー!どうでしたかー?」

 

「測定不能だ」

 

「そくてーふのー?」

 

「遠すぎて機械じゃ記録できねえってことだ。次」

 

その次には、姫花の友人である出久が全身に力を込めて立っていた。

 

「全身に満遍なく・・・力が回って壊れないイメージ・・・!!

 

 

 

 

 

SMASH!!!

 

 

 

 

出久の放ったボールは、姫花のものに勝るとも劣らない風圧を残して天空へ飛び去る。

 

「記録、795.3m」

 

「ハァ・・・ハァ・・・やった・・・」

 

随分消耗しているが、出久は何処にも怪我をしていなかった。

 

それは、ある完璧主義者には到底許せないことで。

 

それは、ある平和の象徴に歓喜をもたらすことで。

 

「デクおにーさーん!」

 

「あ、聡さん!ありがとう!君の言葉で力の調整のイメージが思いついたんだ!」

 

「ん?何もしてないけど・・・どういたしまして!」

 

こうして、出久は本来より早く成長することになるのだった。

 

続く第2競技。ここから姫花の記憶はあまり無いため、彼女の結果のみを記すことにしよう。

 

立ち幅跳び:測定不能

50m走:測定不能

握力:16.1kg

反復横跳び:44回

上体反らし:17回

長座体前屈:43cm

 

とまぁ、個性を使わない競技なら平均以下だが、それ以外はほぼ全て測定不能となった。

 

「じゃあ、結果を発表する」

 

全員、緊張感が増す。最下位なら除籍の可能性があるのだから当然と言えば当然だろう。

 

「因みに除籍は嘘な」

 

「「「ハァー!?」」」

 

「ちょっと考えればわかることですわ」

 

お嬢様のような口調で話す女子生徒を含む一部の者達を除いて、殆どの生徒が驚きのあまり声をあげる。

 

「まぁ、君らの最大限を引き出す、合理的虚偽だよ。トータルは単純に各合計種目の評点を合計した数だ。あと口頭で説明するのは無駄だから一括開示する」

 

驚きの声を一切無視して相澤が結果を空中に浮かぶディスプレイのようなものに投影する。

 

1位 聡 姫花

2位 八百万(やおよろず) 百(もも)

3位 轟(とどろき) 焦凍(しょうと)

4位 爆豪 勝己(かつき)

5位 飯田 天哉

6位 常闇(とこやみ) 踏陰(ふみかげ)

7位 障子(しょうじ) 目蔵(めぞう)

8位 緑谷 出久

9位 麗日 お茶子

10位 尾白(おじろ) 猿男(ましらお)

11位 切島(きりしま) 鋭児郎(えいじろう)

12位 口田(こうだ) 甲司(こうじ)

13位 砂糖(さとう) 力道(りきどう)

14位 蛙吹(あすい) 梅雨(つゆ)

15位 芦戸(あしど) 三菜(みな)

16位 瀬呂(せろ) 範太(はんた)

17位 耳郎(じろう) 響香(じょうか)

18位 青山(あおやま) 優雅(ゆうが)

19位 上鳴(かみなり) 電気(でんき)

20位 葉隠(はがくれ) 透(とおる)

21位 峰田(みねた) 実(みのる)

 

仕事を一括り終えた相澤は、実に疲れた顔をしていたという。

 




緑谷くんにいきなりフルカウルを扱わせるという・・・でも仕方ないじゃないですか。思いついちゃったんだから(暴論)


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番外編『酔女談笑(ドランクレディース・トーク)』

僕の番外編といえば大体キャラ紹介でしたが、ようやく番外編らしい番外編を作れました。多分。因みに本編とは全く関係ありませんのでご注意を。あと本編より内容が過激になっているのでご注意を。


これは、姫花達1年A組が個性把握テストを受けた日の夜の話。某所の人気の少ないバーに、女性が二人。一人は小柄で童顔。一歩間違えれば警察沙汰になりそうな姿だが、きちんと成人しているので何ら問題はない。もう一人は妖艶な美女。付けているメガネの奥に見えるマリンブルーの目には色気を感じさせる。

 

小柄な女性・・・鋭華がバーテンダーに出されたカクテルを一口飲む。

 

「・・・美味しい」

 

「そうでしょ〜?ここ、最近見つけたばかりなの」

 

普段娘達と話す時以外はthe無表情の彼女が笑みを零しているということは、彼女と共にいる女性はそれほど信頼に足る人物なのだろう。

 

「にしても驚いたわ鋭華。あれだけヒーローを批判してた貴女が雄英の教師になるなんて」

 

「なってはいけませんでしたか?睡(ねむり)先輩」

 

「そんな訳ないじゃない」

 

かの美女の名は香山(かやま) 睡(ねむり)。その正体ははプロヒーロー(ヒロイン?)として活動している『ミッドナイト』である。だが、今は只の後輩である鋭華を可愛がる先輩でしかない。

 

「ねぇ鋭華。覚えてる?貴女が相澤君をしょっちゅう捕まえて模擬戦してたこと」

 

「よく覚えてましたね。アレはお互い良い経験になりましたよ。おかげで私の個性が無効化されることはなくなりましたし」

 

思い出話に花を咲かせ、少しづつ酔いが回ってくる二人。次第に大人としての尊厳が崩れ始め、自分らの生徒達のような話題に発展する。

 

「そう言えば気になってたんだけど・・・姫花ちゃんに咲いてる花って触るとどんな感じなの?」

 

瞬間、鋭華がフリーズする。

 

「・・・え?もしかして聞いちゃいけなかった?」

 

「別に先輩の事ですから聞いても実際にやろうとは思わなそうですし、いいですよ」

 

「ゑ」

 

瞬間、今度は睡がフリーズする。

 

「・・・やっぱりやめます?」

 

「いえいえ。聞かせてちょうだい?」

 

「では・・・私も彼女と風呂に入った時に一度だけ触ったぐらいなので不確かですが、普通の花とあまり変わりないですね。ただ・・・」

 

「ただ?」

 

そこまで言うと鋭華は言うのをやめようか迷ったが、睡の是非とも聞きたいといったような目に観念して話すことにした。

 

「触ったときに蜜が出ますね」

 

「そうなの?」

 

「ええ」

 

そう言いつつ鋭華は手を睡の下腹部に回し、耳元で囁く。

 

「こ・こ・か・ら❤︎とっっても甘い蜜が❤︎」

 

酔うとはなんと恐ろしいことだろうか。普段人間が巧妙に隠している本性をこうも簡単に引きずり出してしまうのだから。

 

「・・・味見って、出来る?」

 

「駄目ですよ。私のものなんですから。それに、教師が教え子に手を出すのはどうかと思いますよ?」

 

「あらぁ?それを言うなら母親が娘に手を出すのもよろしくないんじゃない?」

 

そこまで言うと、二人の酔った女は互いに笑い合った。そして夜の雰囲気に飲まれ、到底ここでは書き記せないものも行った。勿論、然るべき場所で。

 

因みに数分後、一部始終を聞いていた全身が黒いモヤのようなもので出来たバーテンダーが鼻(と思しき部分)から血を出して倒れているのを病的に痩せた男が発見してしばらくバー内が騒然としたのを、彼女達は全く知らない。そして、翌日酔っていた時のことを思い出してお互いの顔を見て赤面するというのも知る由もない。

 




書いてて自分でも思ったけど年齢制限大丈夫かな・・・


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第5話『恐怖対抗(レジスト・フィアー)』

またも前書きと本文を間違えるという・・・疲れてるのかな・・・


雄英高校ヒーロー科1年A組。個性把握テストを終え、本格的にプロヒーローを目指す彼らといえど、やはり学生。きっちりと授業を受けていた。

 

「くー・・・くー・・・」

 

一人睡魔との戦いに負けて惰眠を貪る姫花を除いて。だが、それを見逃さないのが教師・山田ひざしである。彼は姫花が寝ているのを確認すると常に浮かべている笑顔を悪質なものに変え、いつものテンションで指名する。

 

「よし!それじゃあリスナー聡!この例文を訳せ!」

 

「ふにゃあ・・・?『私は彼が毎朝ジョギングしていることを知っていますが、彼女はそれを知りませんでした』・・・?」

 

「perfect!!寝たまま答えるとはエスパーか!?」

 

そんな調子で午前中の授業は一通り終わったが、基本的に姫花は休憩時間と名指しされたとき以外はずっと寝ていた。そして今は、皆大好き昼食の時間。姫花は食堂にて、クラスの女性陣に囲まれていた。

 

「ちっちゃくて可愛い!」

 

「確かに、なんか同級生っていうより妹みたいだな」

 

そんなことを言われている間に、姫花はランチラッシュの特製カレー(お子様用)を食べ終わり、自分の個性で出した花で遊んでいた。その姿はさながら天使のようであった。

 

「さて!そろ教室に戻らないと授業に遅れちゃうね」

 

全身ピンク色の肌を持つ女子生徒・・・芦戸がそう言うと、各々が片付けをし、教室に向かって歩きだす。そして教室についたところで、姫花があることに気付く。

 

「・・・あれ?」

 

「ん?聡、どうかしたか?」

 

耳たぶがイヤホンジャックのようになっているボーイッシュな女子生徒・・・耳郎が聞くも、その場で静止したように一点を見つめる。気になって膝を曲げて彼女と同じ視点に立ってものを見る。

 

「アレって・・・黒い、霧?個性かな・・・」

 

不思議そうに見つめる二人を、チャイムが現実に戻す。

 

「あ、ヤベ。早く教室入ろうぜ聡!」

 

「は〜い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後。全員が席につき、見慣れない時間割に書かれた『ヒーロー基礎学』の文字を見ている時。

 

 

 

「わーたーしーがー!」

 

あの男の声が響く。

 

 

 

「普通にドアから来た‼︎」

 

平和の象徴。オールマイトだ。

 

「スッゲェ!本物だ!」

 

「テレビとは全然画風が違う・・・!」

 

生徒達のリアクションを楽しむオールマイト。しかし、それを見つけてしまった。

 

「・・・」

 

『無』だ。子供のようなあどけない表情は消え、瞳には何も映さず、感情が色として出てくる花も漆黒に染まっていた。だが、『超越頭脳』がそれを予想していない筈もなく。

 

「ハァ・・・オールマイト。これはあくまで授業ですから、あまり生徒達を興奮させないように」

 

そこには、白衣を着た小柄な女性がオールマイトの隣に立っていた。それを見た姫花は、目の輝きを取り戻し、頭の上に咲く花も黄色一色になる。

 

「どうも。オールマイトと共にヒーロー基礎学の担当になった、『ブレイナ』です。よろしく」

 

一通り自己紹介を済ませるとブレイナ・・・鋭華は誰にも気付かれないように、しかし姫花にだけはわかるように唇を『こわくないよ』と動かす。そうしている間にもオールマイトがヒーロー基礎学のレクチャーを続けており、『BATTLE』と書かれたプラスチック製のカードを持っていた。

 

「そう!今日やるのは戦闘訓練だ!そして君達には、入学時に提出してもらった要望に沿って作られたコスチュームが届いているぞ!それに着替えてグラウンドβに集合だ!」

 

(((ヒーローっぽいの来た‼︎)))

 

雄英のヒーロー育成のサポートは多岐に渡るが、その一つがコスチュームだろう。要望を提出すれば、専属の企業が最新鋭の技術を以てそれに最大限応えてくれるのだ。勿論、機能・素材・デザインは超一級品である。

 

「じゃあ行こっか聡!」

 

「うん!」

 

芦戸に連れられ、姫花を含めた女性陣は更衣室へ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

更に数分後。それぞれのコスチュームを着てグラウンドβに集まった生徒達。それを見たオールマイトはまたも説明を始める。

 

「今回はヴィラン組とヒーロー組に分かれて戦闘訓練を行う!因みにそれぞれ二人一組だ!真に賢いヴィランは屋内に潜む!というわけで今回はヴィランが核兵器を持ってビルに立て籠もっている設定で、ヒーロー組はヴィラン組の妨害を突破し、核兵器のハリボテに触れれば勝利!ヴィラン組はヒーロー組を全員制圧すれば勝利だ!組み分けと対戦はくじ引きで決定されるぞ!」

 

そこまで説明し終わったオールマイトに、飯田が挙手し、疑問を呈する。

 

「オールマイト!このクラスの人数は奇数なのでくじ引きをするにしても誰か一人余りますが、如何いたしましょう!」

 

「え?そうなの?」

 

なんとオールマイトはこのクラスの人数を把握していなかった。

 

「う〜ん・・・そうだ!聡少女は入試でも個性把握テストでも1位だったそうじゃないか!彼女は一人で一つのチームとしよう!」

 

「・・・」

 

オールマイトは機転を効かせて提案するが、当の本人は何も答えず、若干不機嫌そうな顔で頷いただけだった。

 

「視線が痛い!しかし許してくれ!では有精卵ども!くじを引いてくれ!」

 

それぞれがくじを引き、結果的に以下の組み分けとなった。

 

轟&爆豪

飯田&切島

葉隠&障子

麗日&緑谷

耳郎&砂糖

上鳴&峰田

八百万&青山

瀬呂&芦戸

口田&蛙吹

尾白&常闇

聡&()

 

「む〜・・・」

 

「そんな顔しなくてもいいじゃん!次は誰かと組めるって!」

 

「む〜・・・」

 

(怒ってる顔も可愛いな)

 

オールマイトに一人で訓練すると言われた時から不機嫌顔な姫花を芦戸が宥めている内に、対戦相手が発表される。

 

「あれ?姫花の相手私じゃん!負けないよ!」

 

「ヒメだってまけないもん!」

 

そんなこんなで、初戦は姫花達となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で、まるで人殺しのような目でオールマイトを見つめる鋭華の姿があった。

 

「ハァ・・・少し前、私が言った事を覚えていましたか?」

 

「いや、そn」

 

「返事はハイかイイエで結構」

 

「・・・ハイ」

 

「ではなんと言いましたか?」

 

「・・・姫花少女には私にトラウマがあり、暴走する危険性があると仰られました」

 

「結構」

 

この時点で相当キレている鋭華は、平和の象徴であるオールマイトでさえも止められないだろう。おそらく彼のトラウマの一つは彼女だ。

 

「では何故、事前に確認を取らなかったのですか?」

 

「それは、その・・・ヒーロー活動が忙しk」

 

「それは他の先生方も同じです」

 

「み、緑谷少年のこt」

 

「教師が生徒に責任を押し付けるのですか?」

 

次々と言い訳をへし折られていくオールマイト。この時生徒達が奇跡的に誰も見ていなかったことに心底ありがたいと思っていた。

 

「ハァ・・・今問い詰めても仕方ありませんね。兎に角、次からは細心の注意をするように」

 

「あ、ハイ」

 

鋭華は最後に世にも恐ろしい表情を見せた後、生徒達の方へ向かった。ここでオールマイトは思った。なんとしてでもこの恐怖を乗り越えなければならないと。




オールマイトって説教とかに弱そうですよね。


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第6話『偽切断死(フォールス・デッド)』

グロ注意です。


「では聡少女vs瀬呂少年&芦戸少女チーム・・・fight!!」

 

オールマイトの合図で戦闘訓練が始まったと同時に、ビルの最上階にいた姫花は個性を発動し、ビル内部と周辺を花で埋め尽くす。芦戸はそれにいち早く気付き、ひょろりとした体格に長めの口の生徒・・・瀬呂と共に行動を開始する。

 

「瀬呂!姫花が出す花からは何が出てくるかわからないから迂闊に近付かずに、隙を突いてビルまで行った方がいい!」

 

「隙って言ってもこの量だとあるかどうかわかんねーが・・・わかった!」

 

瀬呂は肘から個性であるテープを射出すると、花に向かって伸ばし、覆い隠す。そして一気に引っ張り上げると、花はそこから消滅した。

 

「芦戸!多分この花は個性で消滅する!確かお前の個性“酸”だったよな?思いっきりかけたれ!」

 

「了解!」

 

芦戸は瀬呂の指示に従って酸化を放出し、花を次々と溶かしていく。やがてビル周辺の花が全て消滅し、二人は内部へ突入する。

 

「よし!このままいけばあっという間に最上階だぜ!」

 

「どんどんいこー!」

 

そして、二人が一階の花を全て消滅させ、二階に上がろうとした時だった。

 

「「・・・あれ?」」

 

二人は何故かビルの入り口に立っていた。何が起こったかわからず目を白黒させる二人。

 

「な、何が起きたんだ?」

 

「多分、ワープされたんじゃないかな?」

 

「マジ!?じゃあ二階に行こうとしたらワープされるってことか?」

 

「そうだと思う・・・あ!瀬呂!テープって二階まで届く?」

 

何かを思いついた芦戸が瀬呂に質問する。

 

「わかんねえがやってみるわ!」

 

「おねがい!」

 

瀬呂の発射するテープはどんどん伸び、ビルの2階にあたる高さまで到達する。

 

「なあ、一応やったはいいが、何するつもりなんだ?」

 

「決まってるでしょ・・・綱渡りよ!」

 

「その手があったか!」

 

芦戸は瀬呂の発射したテープの上に乗り、何の恐怖も抱かずに駆け上っていった。

 

「度胸ヤベエな・・・」

 

そんな言葉を呟きつつ、瀬呂は芦戸が上っていくのを見ていることしか出来ないのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・え・・・?」

 

二階に侵入した芦戸が見たものは、無数の刃物で覆われたダミーの核兵器。そして、その一部が突き刺さり、血を流して横たわっている姫花の姿だった。

 

「姫花!」

 

芦戸は最早訓練など考えもせずに姫花の元へ駆け寄る。その身体からは既に四肢はなくなっており、腹腸が引きずり出ている、なんとも、なんとも凄惨で残酷な姿だった。しかし、彼女は気づく。何かがおかしいと。よく見てみれば顔はへのへのもへじであり、血だと思っていたのは匂いからしてケチャップだ。そして刃物もプラスチック製の物に光沢をつけていただけであり、何一つ人を殺せるような道具はなかった。

 

「まさか・・・ダミー!?」

 

「あったりー!」

 

芦戸が振り向くと、そこには無傷の姫花の姿があった。

 

「えいや!」

 

そして油断していたところを花から出てきた手錠で拘束されて、即刻脱落となった。

 

「もー!心配したんだからね!」

 

「ごめんさない・・・」

 

姫花はしょんぼりとした顔を浮かべたその時、瀬呂がテープを途轍もない勢いで自分の肘に戻しながら突入してきた。その隙を見逃さず、姫花は無数の鉄球を上空に咲かせた花から振らせる。

 

「エェーーー!?」

 

抵抗しようとして身体を傾けるも、結局それが仇となって顔面に鉄球が落下し、なんとか二階に到着した時には既に気絶していた。

 

 

 

 

「ヴィランチームWIIIIN!!!!」

 

 

 

終了を告げるオールマイトの声が高らかに響き渡る。こうして、姫花の始めての戦闘訓練は終了した。




周りからしたら相当ヤバイ奴ですね。あと姫花のコスチュームは只の花柄のワンピースです。


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第7話『因縁決闘(カルマ・デュアル)』

仏の顔も三度まで。だから前書きで何かを書くのも2回までで、3回目は書かないのです。


第二試合。運命とは皮肉なものだ。それを最もよく表しているのが、この対戦カードだろう。

 

「では轟少年&爆豪少年チームvs麗日少女&緑谷少年チーム・・・fight!!!」

 

オールマイトの声にもいつにも増して力が入っている。無理もない。自分の後継者である出久が戦うのだから。

 

「デェクゥゥゥ‼︎」

 

開始早々、爆豪が出久のもとへ襲来し、掌から爆発を放つ。

 

「くっ・・・!麗日さんは轟くんの相手を!かっちゃんは僕がやるから!」

 

「う・・・うん!」

 

猛烈な爆風に耐え、単純な作戦を伝えた緑谷は、眼前の相手と対峙する。

 

(考えろ・・・こういう時かっちゃんがやる技は・・・!)

 

「舐めてんじゃねえぞクソナードがァァァァァ‼︎‼︎」

 

(右の大振り!!)

 

中学時代、爆豪の反感を買い、いつも攻撃を食らっていた緑谷は、既に彼の行動パターンを学習していた。与えられた情報を元に予測し、活かすということにおいては出久は個性を発現させる前からの才能があったのだ。出久は爆豪の右腕から放たれた攻撃を思い切って懐に飛び込む形で回避し、カウンターへと繋ごうとする。だが。

 

(全身に力が巡るイメージ・・・!)

 

そう。彼は個性のコントロールがつかず、イメージを描いて放たなくては力の暴走で己の身体を滅ぼすことになる。それ故に、カウンターまでにタイムラグが発生する。爆豪はそれを見逃さない。

 

「ザコのテメェが・・・一丁前に避けてんじゃねェェェェェ‼︎」

 

爆豪は叫び、自身のコスチュームの籠手のピンを引っこ抜く。するとそこから爆炎が吹き出し、彼の視界の先を焼き尽くしていった。当然、出久もそこに転がっていた・・・

 

筈だった。

 

「・・・さっきからなんなんだよテメェは・・・デク!」

 

出久は間一髪の所で爆豪の背後に周りこみ、爆炎をギリギリ回避していた。回避したといっても直撃を免れたというだけで、彼の母親が入学記念にプレゼントしたジャンプスーツを元に作ったコスチュームは既にボロボロだが。

 

「いつまでも出来損ないのデクじゃないぞ・・・今の僕は・・・」

 

そう言いながら出久は再び全身に力を込める。その目には、確かな闘志が宿っていた。

 

 

「『頑張れって感じ』のデクだ!!!」

 

 

瞬間、爆豪は出久の放った正拳突きで吹っ飛ばされる。しかし、爆豪も負けてはいない。もう片方の籠手のピンを引っこ抜き、爆炎を放つ。

 

 

「死ねヤァァァァァァァァ!!」

 

 

今度こそ、爆炎は出久に直撃する。

 

「ハァ・・・ハァ・・・チッ。クソナードが調子乗ってんじゃねえよ」

 

彼はそう吐き捨てると、爆炎を放った際に崩れた瓦礫に埋もれた出久に背を向ける。

 

(なんか釈然としねえが、まぁいい)

 

因縁の敵を倒した爆豪には、一抹の後悔があった。しかし、結局それを気にせずして彼は次の敵を倒すべく進んでいく・・・かのように思えた。

 

「まだ・・・まだだ・・・僕はまだ戦えるぞ、かっちゃん!」

 

ふらふらと覚束ない足で、あの爆炎を直に食らった出久が、立ったのだ。

 

「この野郎っ・・・クソデクがよォォォォ!」

 

爆豪は無慈悲にも、掌からの爆発を出久に浴びせようと至近距離まで近づく。だが、極限状態となった緑谷は、最早あれだけ重視したイメージさえ忘れて放つ。自らの最大の一撃を。

 

 

 

「DETROIT・・・SMASH!!!!!」

 

 

 

烈風がビルを貫く。それはビルの最上階までの床を崩落させ、ダミーの核兵器もその中に埋もれた。

 

「ヒーローチームWIIIIIN!!!」

 

オールマイトの声が終了を告げる。その時には出久達は保険室に運ばれていた。




今更ですが緑谷を強化し過ぎたかもしれません。どうしましょ。


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第8話『悪魔側面(デビルズ・サイド)』

いよいよ鋭華が半ギレします。


「あ!そこの君!オールマイトが雄英高校にいるというのは本当ですか?」

 

「・・・?」

 

初の戦闘訓練から一夜明け、登校中、姫花はマスコミの大群の一人に話しかけられる。普通の高校生ならテレビに出れるかもしれないと思って色々と話すだろうが、生憎彼女はテレビはあまり見ない方だし、そもそも心を許した人以外に囲まれるのが嫌いだ。更に鋭華から教わったことを忠実に守っている節もある。

 

「知らない人とは喋っちゃいけませんってママが言ってました!さよなら!」

 

子供のように、純粋な応え方だった。だが、それがかえってマスコミの興味をひいてしまう。

 

「そこをなんとか!お菓子あげるから!」

 

そういいつつマスコミの一人が姫花に手を伸ばし、頭に咲いた花に触れる。狙ってやったかそうでないかは別として。しかし、この後彼らは大きく後悔することになる。

 

「ひゃ!?あ❤︎ああん❤︎」

 

まさか、花に触れただけで少女がビクビクと身体を震わせ、力が抜けたのかその場に座り込んでしまうとは誰が予想しただろうか。目には羞恥心からか涙が浮かべられ、スカート越しから扇情的な匂いが漂ってくる。

 

(((あ。やっちまった)))

 

静まり返る現場。犯罪臭溢れる絵面。聞こえてくるのは微かな風の吹く音と、姫花の荒い息の音だけだった。だが彼らにとって最も不幸だったのは、その場に1年A組の男子数名と女子全員、おまけにその場に立ち尽くす小柄な女性がいたことだろう。

 

「ああいや君達!違うんだこれは!こ、これは事故というかなんt」

 

「脚色はいらん。事実を話せ」

 

突如、地獄の底から轟くような、この世のものとは思えない程恐ろしい声が発せられる。

 

「ヒッ!?こ、これは我々が彼女に取材しようとしたところ嫌がったので、そ、その・・・引き止めようとして、頭の咲いた花に触れたr」

 

「よしわかった。貴様ら二度と来るな。もしもう一度来たら・・・

 

 

 

全員人生ドン底に突き落としてやる

 

 

 

「「「申し訳ありませんでしたァァァァァ!!!」」」

 

マスコミの集団は奇跡的に声を揃え、足を途轍もない同じペースで動かして帰っていった。場合によっては撮影器具をほっぽらかして逃げる者や、空中に逃げる者もいた。正に、蜂の巣をつついたような騒乱となった。そして、その場にいた雄英生や関係者全員が思った。

 

(((この人キレさせたら死ぬ!!))

 

と。

 

「よしよし。怖かったね姫花。一緒に学校行こうね」

 

「ぐす・・・うん」

 

同時に(((泣き止ますの早っ!?)))とも思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして十数分後。時間厳守の相澤に言われなくとも席に付いている時間。

 

「お前ら昨日はおつかれ。Vと結果見させて貰ったが・・・聡」

 

「どうしましたか?」

 

「お前もうダミーの死体は作るな。お前の親フリーズしてたぞ。親にとっちゃ子供が大怪我するのは自分が大怪我するより苦痛なんだよ。だから絶対にアレはやらないように。あと身体は大事にしろ。マジで」

 

「は〜い!」

 

意外にも優しい相澤。しかし、彼がそこまでしてやめさせるのは、その光景を見た鋭華がパニックに陥り、オールマイトが必死のそれを止めていたのもある。後にオールマイトは「本っ当に怖い・・・」とガタガタ言いながら答えていた。

 

「あと緑谷」

 

「はっ、はい!」

 

「お前の個性・・・コントロール自体は出来てるが、咄嗟の判断に弱いな。いつまでも大怪我してばかりの状態なら除籍だ。焦れよ」

 

「はい!」

 

彼なりに気にかかる部分はあったのだろう。出久にも(独特な)激励を飛ばすと、主題に移る。

 

「相当話が逸れたが今回のホームルームで委員長を決める」

 

(((学校っぽいのキターーーー!!)))

 

相澤の性格をわかっている全員は心の中で叫ぶ。そして我先にと挙手が乱立するが、一人の声がそれを止める。

 

「“多”を牽引する大切な仕事だぞ!やりたい者がやれるものではないだろう!周囲の信頼があってこそ務まる聖務だ!・・・ここは民主主義に則り、投票で決めるべき議案!」

 

「そびえ立ってんじゃねえか!何故発案した!?」

 

その飯田の挙手、最早芸術品の如し。一切無駄のない挙手だった。

 

「先生!よろしいでしょうか!」

 

「時間内に終わるならなんでもいいよー」

 

そして自分に投票する者もいたり、他に投票する者もいたりしたが、姫花は完全に夢の世界へ誘われていた。

 

「結果を発表する!緑谷君3票、八百万さん2票で緑谷君に委員長を、八百万さんに副委員長を務めて頂く!よろしく頼むぞ二人共!」

 

そんなこんなでホームルームが終わり、午前の授業を先日とほぼ同じ方式で過ごして昼食の時間。姫花は出久、麗日、飯田の三人と喋りながらランチラッシュ特製ハンバーグ定食(お子様用)を食べていた。

 

「もぐもぐ・・・んー!」

 

「姫花ちゃんおいしい?」

 

「うん!お茶子おねーちゃんにもあげる!」

 

「ありがとー!」

 

なんとも和む風景であろうか。しかし、それを無礼にも盛大にブチ壊す警報音。

 

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難して下さい。繰り返します。セキュリティ3が突破されました・・・』

 

「僕達も避難しよう!」

 

そう言って人の波に飲まれる姫花達。外で何が起こっているとも知らずに・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英バリア。日本一強固なセキュリティシステムの俗称だ。発動した際には巨大な壁が出入り口等から展開され、侵入者を絶対に作り出さないシステムとなっている。しかし、それが何者かの手によって壊され、恐れを知らないマスコミ達が攻めてきたのだ。

 

「オイ!こりゃどうなっt」

 

「・・・・・す」

 

「聡?何か言ったか?」

 

「・・・ろす」

 

それが聞こえてしまった相澤は、自然と侵入者の冥福を祈って手を合わせた。それとほぼ同じタイミングで、無数のマスコミと職員室に紛れ込んでいたヴィラン風の男が盛大に殴り飛ばされる音が聞こえたという。彼は改めて知った。鋭華の『悪魔側面(デビルズ・サイド)』を。因みに緑谷は飯田に委員長の座を渡していた。理由は避難時に皆を適切に誘導したからだ。それが原因か否かはわからないが、『非常口』というあだ名がつけられたそうな。

 

 

 

 

「只のマスコミにこんなことができると思うかい鋭華?そそのかした者がいると思うのだが・・・」

 

「心当たりならある。職員室にいたヴィラン風の男・・・まぁ後で監視カメラの映像を確認してもらうしかないが、兎に角其奴が怪しい。カリキュラム表を漁っていたところを殴り飛ばしたらワープゲートか何かで逃げていったよ」

 

雄英で一番知能が高い二人が、犯人の目星を着々とつけていく。それを見ていた相澤は、目の前にある気絶したマスコミの山を目にして溜息をつく。

 

「そうか。んで・・・このマスコミ達はどうする?」

 

「そりゃ焼却処分だ。姫花に辱めを与えた罰は重い」

 

「ヴィランかお前は。既にボコボコだろうが。警察に引き渡すぞ」

 

「あぁ。住居侵入と公然わいせつと名誉毀損と侮辱罪と殺人未遂t」

 

「殺人未遂はお前だ。鎮圧する為に全身の骨を粉砕する奴がいるか」

 

「其奴は特に駄目だ。私が見た時一番狼狽えていたからな。間違いなく姫花に恥辱をかかせた張本人だ。極刑だ極刑」

 

この時相澤は思った。もし自分が結婚して子供が出来たら此奴みたいな親バカにはなるまいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

同日、とあるヴィラン達のアジトで顔面を死ぬほど殴られた主犯格が帰ってきたのでモブ達はこれまでにない程戦慄した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こんな状態でUSJ編行って大丈夫なんだろうか・・・


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第9話『魔神降臨(アドヴェント・イヴィルゴッド)』

アンケートの結果『もうこのままで』が一番多かったのでそうしたいと思います。チートじゃチートじゃあ。


「突然だが今回の授業、俺・オールマイト・ブレイナとあと一人の四人体制で行うことになった」

 

マスコミによる雄英高校侵入事件から一夜明け、午後の授業であるヒーロー基礎学の授業で異例の体制が発表される。

 

「やっぱ昨日のアレと関係してんのかな?」

 

「私見たけど、なんか朝にいたテレビの人達みたいだったよ?」

 

「やめとけ。その話題はブレイナ先生がキレる」

 

生徒達が話をしている間に、今回使うという施設に向かうバスが敷地内に止まる。鋭華はバスに乗る前に個性を発動し、何も異常が無いか確認してから乗った。無論、全てのバスにだ。

 

(妨害工作は無し、か)

 

そう結論を出すと、相澤に報告がてら忠告をしに行く。

 

「相澤君」

 

「なんださt・・・紛らわしいな」

 

「高校時代のように、鋭華で構わないよ」

 

「・・・で?何の用だ?」

 

「一つ目はいいニュースだ。ここに止まっていた全てのバスを調べたが、不審な物は一つもない。二つ目はその逆で、昨日侵入したヴィランらしき男が今日のカリキュラムを見ていた。・・・後はわかると思うが、どうする?」

 

「・・・予定は決行だ。だが生徒達にもしものことがあった場合、確実にそちらの安全確保を優先する」

 

そこまで話し合ったタイミングで、バスは発車した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ姫花ちゃん。私って思ったことを何でも言っちゃうの」

 

「?どうしたの梅雨おねーちゃん?」

 

バスが発車して数分後。猫背気味の蛙のような顔の生徒・・・蛙吹 梅雨が姫花に話しかける。

 

「貴女の個性って、ハッキリ言って歪だわ」

 

その言葉は、例え悪気がないとしても、姫花の心に未だ空いている傷口を更に抉るようなものだった。

 

「・・・姫花ちゃん?」

 

姫花の異変に気付き、お茶子が後ろから背中をつつくも、なんの反応もない。そして彼女達は、いつぞやのオールマイトが見た『無』を見てしまった。

 

「あ・・・ごめんなさい姫花ちゃん。その、貴女が傷付くとは思わなくて」

 

「ううん?梅雨おねーちゃんは悪くないよ?」

 

なんとか表情を取り戻した姫花が梅雨を慰めようとするも、その頭に咲いた花には蝕むような黒が残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バスに揺られて十数分。生徒達が到着したのは、テーマパークのような外観の施設だった。

 

「すっげー!」

 

「USJかよ!」

 

それぞれ盛り上がる中、相澤がいつも通りその雰囲気を正す。

 

「全員おとなしくついてこい。今日お前らの授業を見てくれるヒーローを紹介する」

 

そう言った相澤の後ろから現れたのは、宇宙服のようなヒーロースーツを身に纏った、ある種異形の者だった。

 

「どうも皆さん!スペースヒーロー、13号です!」

 

「わぁ〜!13号先生や〜!私好きです!」

 

「ど、どうも・・・!」

 

お茶子の突然の言葉に若干戸惑うも、彼(?)は授業を開始する。

 

「此処は僕の作った火事、水難、なんでもゴザレの救助訓練演習場・・・その名も、『ウソの災害や事故ルーム(USJ)』です!」

 

(((USJ!?)))

 

生徒達の反応も見て若干吹き出しそうになるも、いつものことなので御構い無しに説明を続ける。

 

「え〜それでは、演習を行う前に小言を1つ、2つ・・・」

 

(((増えとる)))

 

「では最初に・・・僕の個性は『ブラックホール』。指から吸い込んだものをなんでもチリにしてしまいます。でも、それは人間にも使えてしまいますし、一度でもチリにしてしまったものは元に戻りません。ですから、僕は個性を人を助ける為にあると心得ています。皆さんの中にもそういう強力過ぎる力を持った人がいるかもしれませんが、その力を決して人を傷つける力に使ってはいけません。では、小言も終わりましたし、そろそろ・・・」

 

演習開始です。そう13号が言おうとした時だった。突如として、黒いモヤのようなものが一帯に広がり、その中からぞろぞろと不審者が現れる。

 

「全員一塊になって動くな!アレは・・・ヴィランだ!」

 

相澤の発する緊急事態宣言に戸惑う生徒達。しかし、時はその事実を認めさせる程悠長には待ってくれない。

 

「13号にイレイザーヘッドですか・・・予定ではオールマイトがここに居るはずなのですが・・・」

 

先程の黒いモヤのようなものを展開した男・・・黒霧が病的に痩せた男の元へ戻る。

 

「ふざっけんなよ。なんの為に大衆引き連れて来たんだよ。ムカつくなぁ・・・でも教師だからなぁ・・・」

 

病的に痩せた男・・・死柄木(しがらき) 弔(とむら)が次に発したのは、常軌を逸した言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子供を殺せば来るのかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ・・・13号!生徒達を引き連れ避難開始!学校に連絡を!」

 

「それなら既に私がしておいた。ジャミングが施されていたが、あんなものそこら辺のクズ同然さ。時間はかかるが、手の空いてる教師を寄越すそうだ」

 

そう話をしている間にも飯田が主体となり、避難は開始される。そして、出口手前の所まで来て、それは起こった。

 

「させませんよ」

 

黒霧がワープゲートを展開し、生徒達を引きずりこむ。そして、あろうことか全員がバラバラの位置に転送されてしまった。

 

「子供とはいえ雄英生。いわば金の卵達です。油断は出来ませんね・・・はじめまして。我々はヴィラン連合。此度の侵入においては、かの平和の象徴に生き絶えて頂きたいと思ったが所以でして・・・皆さんにはその為の、生贄となって頂k」

 

グサリ。

 

「・・・」

 

空間に咲いた花が刃物を出し、それが容赦なく黒霧に打ち込まれる。

 

「・・・は?」

 

場に訪れる沈黙。しかし、直ぐにそれは打ち破られる。否、掻き消される。響き渡るチェーンソーの鈍い起動音によって。

 

「ぐっ・・・油断、し過ぎたようですね・・・」

 

既に黒霧の身体の一部は切断されており、痛みで立つこともままならない。姫花はソレを、何も映さない目で見た。そして、今まさに回転する刃が無慈悲に身体を引き裂こうとしている瞬間・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やってしまった。

 

「ハハッ。ざまあねえな女。この死柄木 弔の個性で死ねたことを精々誇りに思え」

 

姫花の身体が、弔の五本の指で触れた瞬間、徐々に崩壊を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フ・・・フフフ・・・ククククク・・・」

 

 

 

鋭華は怒り狂い、笑い始める。

 

「どうした?気が狂ったかそこのおn」

 

瞬間、その声を発した者が死亡する。

 

「・・・は?」

 

驚きを隠せない弔。

 

「オイ黒霧。アレ出しとけ」

 

「し、しかし、あの力の前では役に立たない可能性も・・・」

 

「いいから」

 

「わかりました」

 

黒霧はワープゲートを展開する。その先から現れたのは、脳が露出した、筋骨隆々の異形の怪物・・・だったモノだ。黒霧がワープゲートを展開した先で、既に死んでいた。

 

「はあ!?何やってんだよ黒霧!なんでたかだか女一人に勝てな・・・」

 

弔の前に、怒りで我を忘れた鋭華が立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「死ネ」

 

 

 

 

 

 

 

弔が聞いた言葉は、それで最後となった。そこから先はもう文字通り地獄だった。何千何万という斬撃が行われ、銃撃が行われ、打撃が行われ、焼死、毒死、失血死、病死・・・あろとあらゆる死を与えられた。

 

「オイ鋭華!それ以上やったらお前・・・」

 

 

 

「黙ッテ見テイロ」

 

 

蹂躙が、開始される。完膚なきまでの。美しいとさえ感じさせる程の。希望を抱くことさえ許さず。破壊と殺戮の限りを尽くす『魔神』を呼び起こしてしまった者達は、その人間では到底知り難いその力の底のほんの一端を、自らの身体で味わった。当然ながら施設は崩壊し、生徒や教師陣は辛うじて逃げられたものの、ヴィラン連合と名乗った無礼極まりない集団は、結成して僅か2日で壊滅した。それだけでは『魔神』の怒りは収まらず、関与したものを末代に当たるまで苦痛に満ちた人生に変え、死に絶えるまでを恐怖で彩られた世界に変えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全てが終わり、鋭華は愛する娘の亡骸を見つける。

 

「・・・」

 

黙って手をその亡骸にかざすと、それは瞬く間に死ぬ前の状態に戻り、息を吹き返す。

 

「もう大丈夫だよ。私の可愛い姫花。私が来た」

 

そこにはつい先程まで悍ましい所業をやってのけていた『魔神』の姿はなく、ただ子の身を案じる母親の姿があった。




オールマイト「私は?」
鋭華「おせえわ末代まで呪うぞ」
オールマイト「すみませんでした」


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幕間『聡 鋭華:オリジン』

前回猛威を振るった鋭華が更に強くなってしまうようです。あと娘も強く(?)なるようです。


日本の何処か。個性研究所跡。数年前にヒーロー達がそこで行われていた非道な研究を知り、潰した場所に、鋭華は立っていた。その理由は、単純に個性を使いたかったから。そして、現在どこまで個性を解放出来るのかという実験の意味合いも強い。

 

「・・・さて、やるか」

 

その言葉と共に彼女は、個性を解放し始める。

 

「200%」

 

彼女に不死性が宿る。

 

「900%」

 

彼女に時空を歪める力が宿る。

 

「2000%」

 

彼女に『無』から『有』を作る力が宿る。

 

「10000」

 

彼女に敵う者がいなくなる。

 

「20000」

 

最早自分でも自分が何者なのかわからなくなる。

 

「90000」

 

やがて、近くの瓦礫が音をたてて崩壊したことに気付き、充分に解き放つことの出来なかった力を即刻排除する。

 

「ハァ・・・やはり20000%以下はコントロール出来るようになったとはいえ、それ以上は危険だな」

 

誰に言うでもなく、鋭華は話す。そしてそこらをふらふら歩いていると、紙切れが風に流されて飛んでくる。

 

「・・・」

 

不思議に思い、取ってみると、そこには自らの娘である姫花の写真が載っていた。どうやら研究所が機能していた頃の報告書が残っていたようだ。それを見て、鋭華は思い出す。姫花や生き残った子供達を拾った時のことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英高校を卒業して周りの者が本格的にヒーローとしてやっていくと張り切っている中、鋭華だけがヒーローとは別の道を歩んでいた。そもそも鋭華が雄英高校ヒーロー科を受けたのは、学力偏差値79というのがどんなものか試したかったのと、ヒーロー免許を取って個性を自由に使いたかったためであり、周りの人間のように人を助けるとかいう綺麗事を語らなかった。今度は自分の興味のあるものをいくらでも調べる為だけに研究者になった。その研究内容は、『個性因子の操作』であった。今や総人口の約8割が何らかの超常能力である“個性”を持っている時代に、その力の源である個性因子の操作が可能になれば、自分の制御しきれない個性をなんとかできるかもしれないと考えた為だ。結果は成功。彼女は個性を封印し、段階的に解放するという現在の発動方法にすることが出来た。その偉大なる叡智が、制御可能なものになったのだ。そこで現れたのが、『個性研究所』の職員達だ。彼らは鋭華を執拗に勧誘し、研究所の施設内に入ってきたところを拘束し、およそ3年もの間、その個性因子の操作についての研究成果を悪用され続けた。だが、それはいつまでも続かなかった。ある日、鋭華は強化ガラス越しに、頭の上からコサージュのように花を咲かせた少女を見た。

 

ーーー娘だと思った。

 

あまりにも突拍子もない話だ。しかし彼女は、魅了されていた。その目に。顔に。身体に。心に。聞けば、その少女には名前もなく、碌な教育も受けることなく、実験材料として使ってきたという。そして今日の実験で精神が崩壊し、明日には殺処分となるという。

 

ーーー純粋無垢だ。少女は何者の影響も受けない状態にある。鋭華は純粋無垢というものがどんなものか見てみたいとずっと思ってきた。それが目の前にあったのだ。しかし、それを見ることが出来たのに、相反する感情が生まれる。

 

ーーー汚してやりたい。何も知らない少女を、自分の色で染め上げてやりたい。その何も映さない目も。何も感じなくなった身体も。何も考えない頭も。ついでに言うなら、別の子供も欲しい。自分がいなくなった時の遊び相手として。

鋭華はそう思ったが、直ぐには行動を起こさなかった。ここはヒーロー達に手柄を譲ってやろうと思ったのだ。だから彼女は個性研究所のありとあらゆる非人道的所業や、所属している全ての研究員の個人情報、位置情報、何から何まで数分のうちに調べあげ、警察に送った。翌日、彼女の予想通りヒーローが来た。彼女はヒーローが好きだった。自分がなる分には駄目だが、ヒーローが犯罪者を蹴散らしていく様は楽しいものだったので好きだった。しかし、現れたのは、只の役立たずだった。彼らはそこらの肉塊を見ただけで足が竦み、マトモに動きさえしなかった。仕方がないから彼女は自分の個性で欲しいと思った子供だけを連れて帰った。そして数年が経ち、今その子供達は元気に育ってくれている。特に、自分が一番気に入っている少女は、自分と同じ学校に入学し、楽しく過ごしている。一昨日と昨日は残念ながら邪魔が入ったが、それも乗り越えて強い子に育っていくだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしていつか、純粋さを保ったまま大人となった時には、自分が彼女を最初に汚す。メチャクチャに汚して、一生消えない跡を残してやる。

 

鋭華は笑みを浮かべる。その周りには、黒いカーネーションが咲き誇っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後。鋭華が自宅に帰ると、子供達が無邪気に出迎えてくれる。

 

「「おかえり!ママ!」」

 

一人は海のような青色のシフォンショートの髪型に赤い目を持つ少女であり、もう一人は陽だまりのような金色のポニーテールに水色の目を持つ少女だった。どちらも身長は姫花と同じ130cm程だが、こちらはまだ年齢も幼い。

 

「ただいま。あれ?姫花は?」

 

「おねえちゃんならへやにいるよ!」

 

「そっか。二人ともお出迎えありがとう。よしよし」

 

「「えへへ!」」

 

二人を撫でると、鋭華は姫花のいる部屋に向かう。

 

「ただいま姫花」

 

「ママ!おかえり!」

 

振り向いた姫花に咲く花は、小さな向日葵だった。




因みにカーネーションの花言葉は『欲望』で、向日葵の花言葉は『愛慕』です。ちなみに愛慕っていうのは深く愛しているっていうことらしいです。


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第10話『緊急会議』

24時間テレビで賑わっていますが、僕は24時間テレビを見るなら24時間ゲームをする派です。


ヴィラン連合襲撃・・・というより鋭華の暴走事件があって数日。臨時休校が続いていた雄英高校に、例年の行事が迫っていた。しかし、ほぼ一瞬で鎮圧されたとはいえヴィランが襲撃してきたのは事実であり、警備がなってない状態で開くのは如何なものかというのもり、教師陣による緊急会議が開かれた。勿論、鋭華も呼ばれた。

 

「・・・結局のところ、私は中止したほうが賢明だと思う。生徒達の将来にとって重要な機会だというのも承知の上だが、将来というのは命あってこそだ。下手に開催して襲撃され、万が一生徒が殺されたりしてみろ。目も当てられないぞ」

 

会議が始まって開口一番、鋭華はそう言った。開催云々というのは言うまでもなく、毎年開催される『雄英体育祭』についてだ。以前の時代におけるオリンピックに勝るとも劣らない注目度を誇るこのイベントは、生徒達の個性を使った動きを全国に生中継することで、プロヒーローに見てもらい、将来の相棒(サイドキック)候補として考えてもらうという意味合いもある。

 

「確かにそうだが、本当に襲撃が起こると思うか?それもあそこまで大規模な。お前が怒り狂って暴れまくったんだからもう全滅しててもおかしくないと思うんだが」

 

いつもの調子とは一転し、大真面目な発言をするひざし。大事な生徒の命に関わるような事なので、それもその筈だ。

 

「ハァ・・・キミ、本当にヒーローか?常に最悪の場合を考慮するものだと思っていたが・・・まぁいい。単刀直入に言うが、あのクソ野r・・・失礼。死柄木とかいうのと黒霧とかいうのは逃げた。怒りが収まらないから神経毒を叩き込んでやったが、あれだけ大規模なヴィラン共を集められるなら、その中に解毒系の個性があったとしてもおかしくはない。そしてまた準備を整え、襲ってくるだろう」

 

鋭華の言ったことに誰もが黙り込む。生徒達の為にも体育祭は開催したい。しかし、またあの襲撃が起こったら、今度は多くの一般人が犠牲になるかもしれない。

 

「なら、こういうのはどうだろう?」

 

その沈黙を、ネズミのような外見をした教師・・・根津が打ち破る。

 

「なんですか校長?」

 

「敢えて体育祭を開催することで、こちらの警備体制は盤石だと示すのさ。しかし、鋭華君の言う通り襲撃が起きるかもしれないから、今年は警備をより厳重にする。悪い意見ではないだろう?」

 

「却下だ。不確定要素が多過ぎる。仮にそれが実現出来たとして、相手がそれを上回る数で攻めてきたらどうするのです?それに一般人の避難誘導も考えて、戦えるヒーローは全体の役5、6割になるのですよ?加えてワープゲートまであるんですから、増援はいくらでも来る可能性もあります。多勢に無勢だ」

 

「ふむ・・・鋭華君」

 

「なんです?」

 

「君は少々、話の次元が跳躍する節があるね。もし向こうが人海戦術で来るにしても、相手は我々と同じ・・・まぁ私は違うが、人間だ。君はあまりにも強すぎる個性を持っているから、敵もそれと同じレベルで強い個性の者がいることを警戒しているのだろう?気持ちは大いにわかるが、人間は君のように世界を簡単に破壊してしまうような個性を持つ者は少ない。だから、少しはその警戒を解いてみても、いいのではないかな?」

 

「・・・否定はしません」

 

その後も会議は続き、終わった頃には日が暮れていた。

 

「随分と話したね。では、雄英体育祭は例年通り執り行うが、プロヒーローをなるべく警備に参加させ、本来の警備の量も倍に増やす。あとは、何も起こらないことを願うしかないね。それでは解散!」

 

根津のその言葉と共に、各々は帰路に着くなり、酒を飲むなりをした。




次回、雄英体育祭編スタートです。


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第11話『宣戦布告』

夏休みが終わるぜ!(絶望)


雄英高校1年A組。久々の登校となった姫花は、クラスメートとの再会を喜んでいた。

 

「お茶子おねーちゃん!」

 

「あ!姫花ちゃん!おはよう!あれ?頭の上のお花変わった?」

 

「うん!ひまわりって言うんだって!」

 

そんな他愛もない話を続けていると、突如扉が開き、相澤が入ってくる。

 

「久々の学校だからってはしゃぎ過ぎだお前ら。合理性に欠けるね」

 

その言葉を聞いた生徒達は、すんなり席につく。

 

「そして・・・お前ら。まだ戦いは終わってねえぞ」

 

相澤の次の言葉で、教室内が戦慄する。

 

「まさか・・・またヴィランが?」

 

「場合によっては・・・」

 

各々が呟く中、相澤は予想の斜め上を行く発言をする。

 

「雄英体育祭が迫っている」

 

教室が沸き立つが、相澤の地獄の眼差しがそれを制止させる。因みに姫花は何やら今までとは違う種類の花を机の上に出して遊んでいた。その後雄英体育祭がどんなものか、今年は開催するかどうか会議が行われた等の話が続いたが、まるで聞いていなかった。

 

「・・・では、ホームルームは終わりだ。聡、話は聞くように」

 

「あ!先生見て見て!お花!」

 

「・・・うん。わかったから授業中は話を聞くように」

 

「は〜い!」

 

最早保護者か何かのような発言をした相澤は、数分後点眼薬をいつもより多目に射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃコリャ!?他の組が何しに来た!?」

 

「敵情視察だろうがよクソが」

 

休み時間。本来のこの時間もうるさい時はうるさいが、今日は特に騒がしかった。無理もない。ヴィランの襲撃を耐え抜いた(実際は殆ど戦っていないが)者達がどれほどのものか知りたくなるのが人間というもの。それが敵に回るのなら尚更だ。

 

「うわこの子可愛い!」

 

「見て見て!お花!」

 

「わぁ〜!これって彼岸花?」

 

「うん!花火みたいできれいでしょ!」

 

一方、姫花を見た一部の生徒は爆豪の言った通りである本来の目的の『敵情視察』そっちのけで戯れていた。

 

「随分と綺麗だな。え?」

 

「えへへ♪そうでしょ!」

 

敵意を余所に遊んでいる、まるで小学生のような生徒に自身の個性を発動させようとした少年・・・心操(しんそう) 人使(ひとし)は驚愕する。本来なら自分の問いかけへの返答により発動する個性が、無効化されたのだ。その個性の名は、『洗脳』。文字通りかかった相手を洗脳し、意のままに操る能力であり、相手が洗脳に引っかかったときには独特の感覚が生じる。しかし、今回は別の、もっとおぞましい何かが自分を包み込むのを感じた。

 

「っ・・・!!?」

 

「あれ?心操腹でも痛いの?」

 

「いや・・・おい。そこのお前」

 

「どうしたの?心操おにーさん?」

 

もう一度試したが、やはり効果はない。彼はそう思考すると、宣戦布告する。

 

「そうやって遊んでると・・・いつか俺みたいな奴に足元掬われちゃうよ?特に、雄英体育祭・・・まぁ、精々用心しとけよ」

 

「は〜い!」

 

言葉の意味がわかっていないのか、無邪気に返事をする姫花の元を離れ、心操は自分の教室へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩。鋭華は久々に深夜の街を散策していた。緊急会議で根津の言ったことに言葉でこそ了承したものの、不安が完全に消えたわけじゃない。だからこそ、犯罪率の多くなる深夜に外出し、適当な悪党から情報収集でもしようというのが彼女の魂胆だ。そうこうしているうちに、ガラの悪そうな男達がこちらに寄ってくる。カモがネギ背負ってやってくるというのはこのことだろうか。

 

「お嬢ちゃん。夜の街は危ないぜ?おじさん達と一緒に行こうぜ?」

 

どうやら向こうはこちらのことを外見からして子供だと勘違いしているようだ。上手く利用すれば人気のない所まで誘導し、始末できる。鋭華はそう判断すると、男達の嗜虐心や情欲を刺激するように、弱い子供のような声をつくる。

 

「でも・・・お母さんが、知らない人について行っちゃ駄目って・・・」

 

「カタイこと言うなって!大丈夫!ぜってぇ楽しいから!な?」

 

成功したようだ。

 

「じゃあ・・・ちょっとだけ・・・」

 

鋭華がそう言うと、男達は面白いように目的の『アブナイ』店に連れて来てくれた。ここまで事がいいように運ぶと笑いが込み上げてくるが、耐えて不安げな表情を見せる。

 

(エスコート代ぐらい支払ってやるか。すぐ死ぬから使えないだろうが)

 

そんな事を考えている間に、男達は何やらピンク色の液体の入った注射器を取り出す。

 

「さぁてお嬢ちゃぁん?すぅぐ気持ち良くなるからねぇ?」

 

「嫌・・・怖い・・・」

 

嘘だ。それも大嘘だ。注射如き自分の個性を研究するために自分で何本も打ったし、何度も死ぬような激痛を味わった。そのお陰で麻⚫️やら覚⚫️剤の類は効かない身体になっていた。そして、秘部に打とうとでもしたのか自分の下半身に手が触れるか触れないかのタイミングで、鋭華は個性を使って店内の全員の動きを封じ込める。

 

「なっ・・・!!?」

 

「あーあ。だから嫌だって言ったんだよ。ゴホッ、ゲホっ・・・やっと声が戻った」

 

今までとは打って変わって、冷酷な笑みを見せる鋭華。周囲は驚きを隠せないようだが、彼女は気にも留めず、先程自分に打たれようとしていた注射器を手に取って、消滅させる。

 

「さて貴様ら・・・『こういう』モノを扱っているなら、少しは知ってるだろ?ヴィラン連合について。私がさっき消した注射器のようになりたくばければ、知ってることを出来るだけ話せ。そうすれば、そうだな・・・せめて快楽を伴って殺してやろう」

 

そう言いながら、鋭華は蟲惑的な舌舐めずりをする。すると男達の視線は釘付けとなっていた。ちょろい連中だ。しかし、そのお陰で自分は個性を使ったことによって生じた欲求を発散することが出来るし、情報も手に入れることが出来る。そう思うと鋭華は行動を開始する。

 

「じゃあ・・・まずお前。何を知ってる」

 

鋭華は最初に、自分に注射を打とうとした豚のような顔の男に近付き、問いかける。最初は戸惑っていたのか話そうとしなかったが、少し身体を擦りよせたら直ぐに話し始めた。どうやら知能は豚以下らしい。

 

「う・・・あ、アイツらh」

 

男が話し始めた途端、刃物が振り下ろされる。当然男は真っ二つになり、周囲を見ればそこら中に汚れた色の臓物が溢れていた。薬の影響か腐るのが速いそれは、既に鋭華に不快な思いを与える悪臭を放っていた。鋭華は顔をしかめながら、その犯人を見つめる。鋭利な顎とブツブツの細長い舌。包帯状のマスクを身に着け、赤のマフラーとバンダナ、プロテクターを着用するその男は、使い古された日本刀を両手に携え、目に見える場所だけで10本のナイフを隠し持っている。マスクの形状から見て取るに、その鼻はおそらく削がれている。

 

「ハァ・・・こっちは情報収集をしていたんだ。仕事の邪魔をするな。“ヒーロー殺し”」

 

「ハァ・・・“夢魔女帝”が何を言うか。徒に個性を使う社会の癌め」

 

鋭華は男が発した言葉に反応するかのように、態度を一変させる。

 

「へぇ。まさか私のヴィラン時代を知っている人間がいるだなんて・・・キミ、被害者だったりするのかい?」

 

「否。しかし、その所業は知っているぞ」

 

「そうかい。じゃあ、『今回は』ヴィランとしてお相手しよう。どうせキミのような自分のことを賢いと思っている人間は直ぐ逃げるからね。『赤黒(あかぐろ) 血染(ちぞめ)』くん」

 

「舐めるなよ・・・!」

 

まるで、人間を弄ぶ夢魔のような言動。それが彼女の、裏の顔。“夢魔女帝”だった。

 

「行くよ。すぐ終わらせてあげる」

 

その言葉をトリガーに、戦闘が開始される。鋭華が手を振りかざすと、男・・・ステインのばら撒いた腑が次々と飛んでいく。その速度は常人であれば視覚すら不可能。それはステインには当て嵌まらないものの、充分に驚愕させることには成功したようだ。

 

「クッ・・・小癪な!」

 

ステインは手にした得物で飛んできた腑を全て切り裂き、それを足場のように乗り、跳躍し、鋭華の脳天に迫る。

 

「死ね。社会の癌よ」

 

そしてステインは、鋭華を一刀両断した。・・・かのように思えた。

 

「結構。貴様の行動の観察は充分に出来た」

 

「何っ!?」

 

振り向くとそこには、確かに自分の殺した筈の女・・・鋭華が、先程とは全く違う雰囲気を纏い、立っていた。

 

「バカな!?既に殺した筈・・・」

 

「バカは貴様だ。ヴィランを敵に回すなら、常に動きを見ておくことだ。たかが肉の塊が飛んできただけで視線がそっちに行くとは・・・相当な場数を踏んできたようだが、まだまだだ。弱すぎる」

 

そう言うと鋭華は、ステインの切り裂いたモノを全て灰に変える。その様は、まるで彼の功績を一瞬で崩落させることを暗示させるようなものだった。

 

「まぁ、お陰でこっちもヴィランの自分を殺すことが出来た。それに免じて、今回は逃がしてやる。だから・・・次は3分は持つように」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン。何を言うか。3分と言わず・・・次で殺す

 

その日、この世で少なくとも二つの宣戦布告が為された。

 

 

 

 

 

 

 




因みに鋭華が使ったのは娘と同じダミー戦法です。


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第12話『開戦』

遂に雄英体育祭が始まります。構想をねるねるねるねしてた雄英体育祭が遂に始まります。


雄英体育祭当日。姫花はいつもより早い時間に起床し、初めての体験を前に心躍らせていた。

 

「ママ!ヒメね?絶対優勝するから!」

 

「そっか。姫花なら出来る。頑張って」

 

「うん!」

 

鋭華も少しばかりテンションが上がっているようで、いつもより若干声色が高い。無理もないだろう。大切な自分の娘が体育祭に出るのだから。しかし、完全に気を抜いている訳ではない。ヴィランというのはいつどこで襲ってきてもおかしくない存在だ。それはかつてヴィラン紛いの行動をとっていた自分が一番よく知っている。更に、以前の襲撃事件は世間に公表されているので、当然のように『ヴィラン連合』と名乗った者達の情報は知れ渡ってしまっている。幸いなことに、主犯であろう死柄木という男は死んだ事になっているが、『徒党を組めば雄英とやりあえるかもしれない』などという思想が当然出てくる訳で、そこに自分より強い個性を持った人間がいるかもしれない。そうなったら自分は、大事なものを守れるのだろうか。答えはyesとも、noとも言えない。その中でも『万が一noとなってしまったら』という思考が頭から離れなくなる。だからこそ鋭華は、不確定要素を何より嫌う。出来る限り可能性を潰し、自分にとって最適な選択肢だけを残す。それ故、昨日の“ヒーロー殺し”との対峙はもっとも彼女を苛立たせた。しかし今は娘を応援する一人の母親である。無邪気に笑う姫花の頰を撫でると、彼女と共に家を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後。雄英体育祭会場にて。鋭華は教師陣と警備の最終確認を、姫花は女子達と体操服に着替えを終えていた。可憐な少女達はきゃっきゃと騒ぐ中、対する教師陣は・・・

 

「では私はこの範囲を担当する」

 

「俺はそこから600m北か。毎度思うけど広いよな」

 

「だからこそトップヒーローの貴方達が呼ばれたのです。期待していますよ」

 

「「「了解」」」

 

完全に緊迫状態だった。

 

「じゃあ私はそろそろ出番だから行ってくるわ」

 

「え?」

 

その時、事情を知らないヒーロー達が一斉に注目する。その先には、18禁ヒーローと名高いミッドナイトが、なんといつものコスチュームで会場へ向かっていた。

 

「・・・相澤君」

 

「なんだ?」

 

「私の見間違いでなければ、あの人は先p・・・ミッドナイトで合っているよな?」

 

「合ってるが」

 

「そして今日は一年の部だったよな?」

 

「そうだが」

 

「あの人を司会にした奴は頭がおかしいと思う」

 

その頃どこかで、根津が偶然紅茶を吹いたという。もう一度言おう。偶然紅茶を吹いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一方で生徒達は大興奮していた。無理もない。小さい頃からテレビで見ていた憧れの舞台に、自分達が立つのだから。当然、それは姫花にも言えることだった。更に彼女は精神年齢が幼いのもあり、周りの生徒より興奮を隠しきれずにいた。その証拠に、特に意味もなくぴょんぴょんと飛び跳ねていた。

 

「三奈おねーちゃん!ヒメ達テレビにでれるかなー?」

 

「絶対出れるよ!優勝とっちゃおうぜ!」

 

「うん!とっちゃおーぜ!」

 

そんな和む一面はすぐに喧騒の中に消え去る。何故なら、件のミッドナイトが現れたからだ。男子の中には鼻血を出している者もいるが、気にしている余裕はあまりない。

 

「選手宣誓!代表、聡さん!」

 

「は〜い!」

 

何故なら、いつしか1年A組のアイドル(主に女子達の)となりつつある姫花が選手宣誓をするのだから。

 

「せんせー!私達は、スポーツマンシップにのっとり、正々堂々と戦い、有意義な時間にすることを誓います!」

 

覚えた言葉を懸命に思い出しながら宣誓するその姿は、観客達を和ませた。そして、鋭華のストレスを霧散させた。




そーいや本日二回目の投稿ですね


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第13話『三重衝撃』

緊急事態だったとはいえアニメが放送されなかったので気晴らしに投稿です。


雄英体育祭。それは最も多くの人々が注目する、雄英高校で年に一回開催される催しである。それは今年も例外ではなく、割れんばかりの歓声が響いていた。

 

「さぁ!ここで多くの者がティアドリンク!第一種目は・・・」

 

ミッドナイトの声を合図に背後にあったモニターに映されたスロットが暫く回転し、止まる。

 

「障害物競走!ざっくり言って学年別総当たりよ!」

 

更にその言葉を合図に合わせ、スピーカーからとんでもない声量が轟く。

 

『ハローエヴィバディ!ここから先は実況のプレゼント・マイクがルール説明をするぜ!会場の外回り約4kmを一周!個性あり、妨害あり、関門あり、勿論笑いあり涙ありドラマありだ!コースさえ外れなきゃ何してもOK!誰よりも速く会場内に辿り着け!』

 

「さぁ!選手は位置につきまくりなさい!」

 

それを聞いた生徒達は、それぞれ会場の出入り口へと移動する。その間、轟が緑谷に詰め寄る。

 

「おい。緑谷」

 

「えっ・・・どうしたの、轟君?」

 

突然声をかけられて一瞬焦るも、なんとか平常を保った緑谷に、更なる不幸が襲う。

 

「お前、オールマイトに目ぇかけられてるよな」

 

瞬間、緑谷は凍りついた。自分の個性のことが頭に過ぎる。彼の個性である『ワン・フォー・オール』はオールマイトから引き継いだものであり、そのことはくれぐれも人に話さぬようにと念を押されていたのだ。勿論それは重々承知していたし、なるべくその話題は出さないようにしていた。ならば、何処で知られたのか。パニックに近い状態の緑谷の思考回路が狂ったように回り始め、ひとまず轟の言い分を聞くことにした。

 

「なんで、そう思ったの?」

 

「ハッキリ言って・・・妙にオールマイトとお前が一緒にいる機会が多い」

 

たったそれだけの理由。本来であればなんの根拠にもならないが、その言葉は半ばパニックに陥っていた緑谷を大きく混乱させた。それ故、彼は何も話すことはなかった。しかし、その静寂を切り裂くようにアナウンスが響き渡る。

 

「皆位置についたわね!それでは・・・スタート!」

 

その言葉と共に、三重の衝撃が走った。

 

一つ目は幼い少女により、猛烈な突風が引き起こされる音。未だにサイズが若干合わない体操服がたなびき、幻想的な雰囲気を纏っている。二つ目は緑色の髪をした少年に引き起こされた。前傾姿勢となって空高く跳んだ彼は、少女の起こした突風に勝るとも劣らない衝撃波を周囲に与える。しかしそこに三つ目の衝撃。地面が瞬く間に凍りつき、その場で立っていた者達は殆ど身動きが取れなくなってしまった。だが三人は後方に目もくれず、一気に前に進んでいく。

 

『こいつはシヴィー!いきなり三人の手によって他の選手が追い込まれたァ!』

 

雄英体育祭は、まだまだ始まったばかりである。



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