時計塔の伯爵曰く「ボス堕ちする勇者の師匠って、需要あるよね?」 (トマトケチャップ)
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ある阿呆の一夜(プロローグ)

初めてのオリ作品です。(8/24追加しますた)

お手柔らかにお願いします!

感想や意見を是非ともくだせえ(`・ω・´)


 ゴーン ゴーン ゴーン。

 

 鐘の音が夜闇を震わせ、深夜()()()の訪れを、厳かに人民へ告げる。

 

 夜に地上の星が煌めく絢爛なる都市に、()()()()()()()()()()、荘厳な鐘の音。

 

 道を歩く人々はそのせわしなく動く足をふと止め、天にそびえる黒き巨塔を見上げては、また各々の道を往く。

 

 世界の中心でもあるローダ帝国に建つこの巨塔は、他と隔絶した帝国の権力を誇示するかのように、世界一高い。

 

 900メータルを優に超えるかの塔は古代遺産で最たるものであり、ヒト以外の存在を阻む絶大なオーラを放つ。

 

 故に、塔の所有権を他の国より簒奪し、千年に渡り所有してきたローダ帝国は、正に至高の千年帝国と言えよう。

 

 竜ですら寄せつかないその塔は、ローダ帝国人民にとっての誇りそのものであると言っても差し支えないランドマークであり、帝塔教という宗教が存在する程である。

 

 その塔を、帝国最精鋭の帝塔騎士隊という御大層な方々が護衛していらっしゃるが、むろん、管理者も存在する。

 

 それがこの私、帝塔伯爵こと、ヴラド・ヴィン・インへリアル。

 

 なお、『ヴィン』は古代語で「1」を意味し、帝国での重要度を決定づけるランクでもある。

 

 対して、『インへリアル』は古代語で「君主、守護者」等の意味を持ち、貴族の家名というよりは、もはや称号に近い。

 

 さて、この簡潔な説明からも感じて頂けたと思うが、私はかなりの重要人物であり、帝国の幹部である。

 

 ()()()()、だけどね。

 

 全く、上辺だけを美辞麗句で飾ったとて、彼らが為していることの、その所業から滲み出る腐敗臭が無くなる訳でも無いというのに。

 

 まあ、一理あると認めざるを得ないけどね。

 

 なぜならば私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ヒトならざるモノ(怪物)でもあるからね。

 

 さて、と。

 

 世界にケンカを売っている様にしか思えない、私の様なクソチートは、その気になれば何だってできるし、敵う存在もほとんどいまい。

 

 だが、その何処に趣きが在るとでも言うのだろうか?

 

 だが、その何処に浪漫が在るとでも言うのだろうか?

 

 つまらない、くだらない、実に味気ない。

 

 ところで、話がガラリと変わるが、皆さまはロールプレイという言葉をご存じだろうか。

 

 まあ、私なんかよりもずっと詳しい方がそれはもう、沢山いらっしゃるに違いない。

 

 私は今、そのロールプレイとやらを絶賛満喫中である。

 

 「ししょーッ、えっへん、できたぞ!」

 

 今はまだ可愛らしさを色濃く残す、黒髪黒目のイケメン男子が駆け寄ってくる。

 

 「そうか。よしよし。流石私の弟子だ。」

 

 黒髪をワシャワシャと撫で、微笑む。

 

 褒められたこの子は、思わずにへらと笑い、慌てて取り繕うとするも、嬉しさを隠せずにいる。

 

 そんな様子も愛おしく、兎を撫でるように彼の耳をくすぐる。

 

 嗚呼、だがこの子は夢にも思うまい。

 

 この子が父の様に慕い、全幅の信頼と無限の尊敬を抱く、この、私が。

 

 この私が、胸に狂気じみた野望を抱えている事を!

 

 この子こそ、この世界の英雄となるだろう。いや、してみせるとも。歴史に万年も残り、史上最高最強と呼ばれるような英雄にッ!

 

 何故私がこんなにもこの子に拘るのかって?そもそも、何故に英雄などを育成しょうとしているのか?

 

 その説明をするには、私のルーツについて語らねばなるまい。

 

 私は、もうここまで聞いた諸君ならば、もう言わずとも分かるだろう。そう、輪廻転生にケンカを売る存在である。

 

 テンプレの俺TUEE転生者である。

 

 私の転生した世界は地球に負けず劣らず残酷であり、救う余地はいくらでもある。なら、お前が救えよテンプレ的に、と思うかもしれない。

 

 だが、少し落ち着いて考えてみて欲しい。

 

 ただ絶大な力で世界を矯正しても、それは仮初でしかない。

 

 希望を抱かせようと、それは所詮夢幻。

 

 いや、そもそもそんな考えをしている時点で傲慢だ。

 

 与えられた強大な力は、人の倫理を犯し、腐らせ、やがてはその人の人間性を殺す。

 

 『絶大な力には絶大な責任が伴う。』

 

 この至言を、真に心の底から理解する人間でなければ英雄は務まるまい。

 

 苦悩に溺れ、絶望に脚を折られ、なお足掻き、自分に打ち勝つ人でなければ。

 

 そういった英雄でなければ、意味がない!

 

 自分自身で血反吐を吐きながら力を得て、なおそれに溺れず、誇り高く在る人でなければならない!

 

 だからこそ、なんちゃって英雄の様な、私の様なクソチートテンプレ転生者が、主人公になってはならないのだ!

 

 よってこの物語は私の物語ではなく、私が育てる英雄の物語であろう。

 

 

 

 な~んちゃって。ホントはロールプレイしたいだけですうー。要するに上が建前。

 

 私は自分が偽善者であり、クソみたいなナルシストであることも自覚している。

 

 自覚しているからこそ、先ほど述べた建前も決して嘘では無い。

 

 だが、それよりも遥かに、ロールプレイがしたいのだよ。

 

 そう、中盤で自己犠牲をしたと思ったら、終盤でラスボス化する主人公の師匠に、私はなりたいのだよ。

 

 途方も無く悲しく、だが心に残り、主人公の踏み台となるような存在。

 

 そのような、誰かの心に住める存在に、私はなりたいのだ。渇望していると言っても過言ではない。

 

 兎にも角にも、何故かチート転生者となったからには、私自身を肥料にするべきだろう?そう思わないか?

 

 はは、ハハハ、アッハハハハハ、ハハハハハハハハハハ!!!!

 

 

 

 

 「ねえ、ししよー? どうしたのー?」

 

 ハッ、いかんいかん。妄想ワールドで熱く語り過ぎてしまったようだ。この子が、こんなにも純粋な眼で見上げてくれているというのに。

 

 ああ、実に鍛えがいがある。ハハッ。

 

 「何でも無いよ。ただ、自然の聲に、耳を傾けていただけさ。」

 

 彼はその大きい眼をパチクリさせると、不思議そうな顔で首をかしげる。

 

 「しぜんのこえー?」

 

 「ああ。そうさ。大地は我らが母であり、同時に海は我らの揺り籠である。空は全てを故郷へと運び、また旅へ送る。森羅万象輪廻転生、さ。この私でさえも、ね。」

 

 彼は私が適当に重々しく言ってみせた、無駄に意味深な言葉の羅列にも懸命に食いつき、その幼い顔をギュッとしかめる。

 

 ああ、だから逸材なんだ、君はね。

 

 「……わからない。ごめんなさい。」

 

 どんな無理難題にも当然な様に挑み、自身の弱さを認め、だが決して諦めない、その清い眼差し。

 

 必ずや、磨いてみせるぞ。どんな手を利用しても、ね。

 

 「大丈夫、今はまだ分からなくていい。いつか、分かる時が来るさ。」

 

 哀し気に、そっと呟いて見せる。

 

 儚さを湛える眼を作り、少し泣きそうな表情も一瞬演出する。完璧だ。

 

 「ただ、覚えていて欲しいな、なんてね。」

 

 肺から空気を絞り出すみたいに、僅かに声に震えを入れてみる。

 

 こういう小さい思い出が、後々の重大なイベントに繋がるんだよ。ほら、あーッとなる、巧妙に隠された伏せんみたいに。

 

 「さて、今日も朝日は下り、月が昇る。夜闇は怖い。闇の聖句は、何だったかな?」

 

 「ふるき血を、おそれよ。しんえんをのぞくとき、しんえんもおのれをのぞきかえしている。」

 

 彼は顔を子供ながらに真剣に引き締めて、静かに答える。

 

 うんうん、調きょーゲフンゲフン、教育が上手く行っている様で何よりだ。

 

 「そうだね。忘れちゃあいけないよ、アダム。」

 

 「はい、ヴラドさま!」

 

 未だ治らない彼の、アダムの悪い癖に思わず苦笑をこぼす、風に見せる。

 

 「ただのヴラドでいいと言っているのに。全く、貴方という子は。私みたいな悍ましい存在なんかに、『様』は到底似合いませんよ。」

 

 自嘲するように、自身の全存在を憎むように、微かに嫌悪を湛えた顔を作る。

 

 「そんなことはッ、ないッ!」

 

 ああ、愛いな、そういう純真さは。

 

 「ししよーは、ヴラドさまは、すごいかたなんだッ!せかいいちなんだッ!」

 

 ハハ、普段の訓練の賜物だな。少しずつ私への崇拝を、徹底的に刷り込ませたかいはあった。

 

 「アダム、君は........。」

 

 「すごいったらすごいんだッ!」

 

 賢明な君が、こんなにも泣きそうな顔を作って…。本当に、最高だよ。

 

 「ありがとうッ、アダムッ…。........ッ。」

 

 感無量な風に顔を歪ませ、彼を強く抱きしめる。

 

 そんな感動的な風景を、銀色の満月が神々しく照らすのだった。

 

 

  か ん ぺ き !

 

 さて、明日はどういうシチュエーションを作ろうか。

 

 

 そして、そんな二人をやるせない眼差しで見つめていた、白き三本足の烏はー

 

 ベチャッとヴラドの頭に糞を投下した。

 

 『あの烏、いつか焼き鳥にしてやる。』(ヴラド)

 

 『して見ろよ、この痛々しい中二病野郎。』(烏)

 

 

 このように、裏で実に低レベルなくっだらない争いを一人と一羽が繰り広げていたことは、誰も知る由はなかった。

 

 

 




 今回はプロローグだからむっちゃ短いです。

 次はアダムとの馴れ初めや主人公の世界における立ち位置です(多分)

 あ、勘のいい人ならば名前に意味があるとか考えたりして…。どうだろうネ!


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伯爵と第一の弟子

書きますた。(ボソッ)
どうか感想をくだされえええ!! お願いします(真顔)


強風が物悲しい音色で吹き荒れ、雨がボタボタと屋根を執拗に打ちつける。

 

 遠くで雷槌が大地を穿ち、闇夜を一瞬白く染めてから轟音をとどろかせる。

 

 そう、こんな荒れた、嵐の夜だったな。私がアダムと出会ったのは。

 

 そして、私が初めて殺人に手を染めた夜でもある。

 

 グツグツと沸騰し出した卓上のポットから湯煙が陽炎の如くくねり、シャンデリアの光をぼやかせる。

 

 成人男性ほどの直径がある小さい円卓は、質素ながらも最高級の霊樹で出来ており、特にその中心に空いている穴の周辺は、いかなる物をも沸かせられるようにアダマンタイトで念入りに補強されている。

 

 件のポットはというと、さらに珍しい。

 

 ()()()()()()で出来ているために金属が融ける超高温でも決して燃えず、あらゆる毒や呪いをも浄化するという、神がかかった性能である。

 

 そんな器具を贅沢に使い、古龍の血塊を熔かして飲むというのが私の数少ない娯楽の一つだ。

 

 アダムにも毎日さり気なく飲ませているこの血塊は、もはや結晶といっても良い性質があり、マグマでも熔けぬほどに硬い。

 

 魔石にも似たこの血塊を熔かし、ただの人間にも、すなわちアダムにも飲めるようにするというのが先述のポットという訳だ。

 

 むろん、そう簡単に手に入れられるものではなく、世界に三つしかない。

 

 何故私がこの様な宝を所有するかというと........、それはまた次の機会に話すとしょう。

 

 さてはて。

 

 では、語るとしよう。

 

 私と私の最初の弟子の、その出会いの顛末を。

 

 哀しき夜の、幼子の物語を。

 

 ◆◇◆◇10年前、嵐の夜のスラム街にて◆◇◆◇

 

 ある男と女の影が狭い路地裏に在った。

 

 「おい、さっさとあの()()()を捨ててしまえ。」

 

 「まだ()()()が来ないから仕方ないでしょ!」

 

 男はイラついているのか、しきりに舌打ちをし、地面の小石をブーツで蹴っていた。

 

 女は両腕に小包を忌々しそうにかかえ、今にもソレを地面に放り投げて打ちつけんとするばかりの、醜悪で険しい形相をしていた。

 

 コツン、コツン、と硬質な音が汚れにまみれたタイルの上に響く。

 

 「やっと来やしたか、のろまな旦那ァー、ッ!」

 

 「あいにく私は貴方の知る()()()()()()では無いのだがね、少々訪ねたいことがある。」

 

 悠然と路地裏に、長身で体格の良い男性が入り込んだ。

 

 逆光になっているがためにその顔は影に覆われ、表情は伺い知れない。

 

 だが、その上質な帝国の軍服らしき様相から、位の高い人物であるに違いないと、学識のない男女も薄々と感づいた。

 

 「へえ、どうぞなんなりと聞いて下せえ。」

 

 男は、すぐさま頭を地面にこすりつけるが如くうやうやしく下げると、間髪入れずに胡麻をすった。

 

 それに気づいてか、男性はフッと嗤った。

 

 「では、遠慮なく聞かせてもらおうか。」

 

 男性は右手にさり気なく持っていた革袋の口を緩めると、中から細長い西瓜らしきものを取り出した。

 

 彼はポイっとそれを宙に放り投げると、紅い汁が放物線を描きながら飛び散り、西瓜がゴロゴロと男女の足元まで転がった。

 

 「ひいッ!」と、彼らは悲鳴を上げた。

 

 なぜならそこには、潰れた西瓜などではなく、彼らが到着を待っていた人物の生首だったからである。

 

 その顔は血反吐や泥で汚れ、想像を絶する様な恐怖と苦痛に固まったまま、無残に()()()()()()()()()()()()

 

 「彼と面識があるようだね。それは良かった!」

 

 男性は無邪気な声音で両手をパンッと打ちつけると、クスリと笑いをこぼした。

 

 「恥ずかしながら、彼と()()をしている時についつい()が入り過ぎてしまってね。大事な情報を全て聞き出さないうちに使()()()()()()()()()()()。」

 

 男はガクガクと震えながら生首を見てみると、なるほど、確かに所々皮膚が焼き焦がされ、剥がされている。

 

 何としてでも自分の利用価値を示さねば死ぬ、と男の直感が囁く。

 

 女の方も同様の結論に辿り着いたのか、男性の方までよろめきながら歩むと、腰が抜けたかのように媚びを必死に売った。

 

 「ああ、貴方様のためであれば私は何でも致します。」

 

 夜闇に妖しく煌々と光り、死神ですら射殺さんとする絶対零度の黄金の眼差しが、女に向けられた。

 

 「何でもと言ったな?よろしい。ならば答えよッ!」

 

 男性は先ほどまでの軽々しい雰囲気とは打って変わり、全身から凄まじい怒気をゴッと放つ。

 

 その怒気は其れだけで神霊が放つ殺気と変わらず、身体をすり寄せていた女などは、鼻と眼から鮮血を噴き出す始末であった。

 

 「答えよッッッ!!!」

 

 一喝で突風が吹き荒れ、一帯の枯れ木が騒々しくざわめき、無数の鳥が天より墜ちた。

 

 「誰が為に、幼子が、身体を裂かれ、千切られ、毟られ、炒められ、刺され、射られ、打たれ、潰され、毒され、剥がされ、祟られ、呪われ、生きる尊厳と、受けるべき愛と、見るべき世界を、信じるべき善意を、その人が人で在らんとする全てをッッッー!」

 

 空間が男性の覇気で軋みを上げ、周囲の石畳が蜘蛛の巣状に粉砕し、飛散した。

 

 「奪われなければならないと言うのだッッ?!?!! 答えよッッ!!!!」

 

 文字通りに男性の怒髪は天を衝き、その様は正に、世界に破滅をもたらさんとする終焉の使者が如く。

 

 遥か高きに座す雲海をすらも乱し歪ませ、ありとあらゆる生物を根源の恐怖へと叩き堕とす神秘が彼の器より溢れ出す。

 

 その神秘は呪いとして姿形を取り、百足や蜂、蠍に蟻、狼や蛇と化して男女を襲う。

 

 それらの悍ましき化生どもは、男女がこれまでに絶望をもたらした幼き命たちの、その怨嗟と無念を届け、それをもって因果応報の呪怨と為した。

 

 それらの魑魅魍魎は、彼らの筋肉を生きしままに腐らせ、内臓を食み、骨をしゃぶり、脊髄を砕き、また全てを再生した。

 

 その様は正に生き地獄、終わりなき餓鬼道。

 

 彼らは喉元が絶叫で千切れようとも、のたうち回り、藻掻き苦しみ、慈悲を男性に乞う。

 

 対して、男性は一瞥もせずに、女の腕より零れ落ちた包みをそっとその腕に抱きかかえた。

 

 「嗚呼、哀れな子よ。嗚呼、憐れな子よ。生みの親にも憎まれ疎まれ、本来は称賛されてしかるべきの天賦の才までをも奪われようとした、幼子よ。」

 

 愛おしみと慈しみをその胸に秘め、自らの無力を懺悔するかの様に、男性は囁く。

 

 その包みより、痩せこけた骨と皮しか残らぬ、痛ましい顔が覗いた。

 

 赤子の、生命と活力に満ち溢れるべきであった双眸は昏く澱んで沈み、まるで生ける屍にさえ思える。

 

 生まれた瞬間から精霊と通じ合い、猛獣でさえも従わせる、極東の忌み子。

 

 帝都では巫女や使者と持てはやされる存在であるが、極東では忌み嫌われ、世界総じての憎悪の対象として、無意味かつ無慈悲に軽蔑される。

 

 ある所では嫌われ、ある所では好かれる。するとどうなると言うか?

 

 需要と供給の関係が成り立ってしまうのである。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 帝都の巫女や使者に無体を働けぬと言うのであれば、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 帝都の巫女や使者はただでさえ数が少ない。ならば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 幸いな事に、実験材料は輸入できる。使わない手はない。

 

 そうして、幼子はゴミ同然に使い潰され、全てを奪われる。肉体的にも精神的にも、文字通り全て。

 

 誰が為に? 国のため? ふざけるな。

 

 私服を肥やし、汚濁を啜り、不幸を嘲笑い、命を踏みにじる人でなしを、どうして許せようか。

 

 殺す。殺し尽くす。この世の悪全てを。吐き気を催す邪悪を。

 

 必ずや根絶せねばならぬ。

 

 そう、男性は決心した。身勝手に、独善的に、周囲を顧みずに。

 

 何百年も、絶大な力を振るい続けた。

 

 しかし、悪を根絶できなかった。

 

 善人が悪人に豹変する時も、悪人が善人に改心する時も視た。

 

 消えぬ業火のように、憎悪の連鎖は燃え燻り続けた。

 

 ついに、男性は気付いた。

 

 嗚呼、人間は人間の手で裁かねばならぬ、と。

 

 ヒトは自らの幼年期を乗り越え、蝶に孵化せねばならぬのだ、と。

 

 ただただ絶大な力で抑制し、舵を切る時代はとうに過ぎ去ったのだ、と。

 

 故に、先導する者を育てねばならぬと男性は決意した。

 

 人類に啓蒙をもたらし、幾たびもの挫折を越えてなお折れぬ開拓者が必要だと、やっと気付いたのだ。

 

 ならば育てよう、その希望の星を。

 

 人々の英雄を。

 

 真なる勇者を。

 

 その誓いを胸に、男性はそっと自らの指を異様に長い犬歯で噛みちぎって、赤子へと与えた。

 

 想いを託すかの様に、乞い願うかの様に。

 

 人類史は変えるであろう赤子に、(転生者)のみぞ知る名を与えた。

 

 「アダム(原初の人)よ、神と決別せし先駆者(私を超越する者)と成れ。」

 

 

 ◆◇◆◇ 現代 ◆◇◆◇

 

 古き夢を視ていた気がする。

 

 地平線はすっかり明るみに満ち、嵐はとうに止んだ。

 

 茶がすっかり冷えてしまった。思わずため息をつく。

 

 やれやれ、もう一回沸かせねばならないようだ。

 

 スッと立ち上がり、鏡に映った己の容姿を確認する。

 

 白銀と真紅のグラデーションに輝く髪に、太陽を想起させる黄金の眼、ゾッとする程端正でエキゾチックな顔立ちに、完璧なる黄金比の肢体。

 

 フッ、と自嘲的に己の姿で失笑する。

 

 既に無き人間性。

 

 神に近しい、権能を授かった転生者(非人間)

 

 耐え切れずに視線を外に向けると、地平線より朝日が昇る様を見た。

 

 嵐の後に、必ずや朝日は昇る。

 

 アダム、私の太陽、私の希望。

 

 願わくば、どうか私をー。

 

 救っておくれ。

 

 

 

 

 

 

「よし、カット!!」

 

『カァアアアア!!(回想重いわボケェェッッ!!)』

 

 

 





感想をお待ちしております! サラバ!


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九人の弟子たち

是非とも感想をば。励みになります。


さて、『早朝の哀しき回想シーン』が終わり、ひと段落がついた。

 

何?誰も見ていないのに、やる意味があるかって?バッカもん!!こういう日常の一欠片が、案外重要になってくるんだよ!!

 

ほら、未来の主人公がトンでも水晶とか使って過去を覗き、悲嘆にくれるイベント。そういう意味深なイベントで凄く大事なんだ。分かったね?

 

よし、自己肯定を終えた所で朝食とするか。大食堂へ急ぐとしょう。

 

我が住処はむろん時計塔だが、帝国で随一の巨大さを誇るため、充分生活するに相応しい。時計塔の大時計の上、つまり先端部分でさえ劇場を建設できる広さがある事から、如何に巨大かお分かり頂けるだろう。

 

ふむ?何故建築に関わってなさそうな伯爵の私が、『劇場を建設するための広さ』が分かるかって?あまり私を甘く見ないで頂きたい。

 

...もう建設したからに決まっておろう!実に酔狂だろう!?フハハハハハ、ハハハハハハハハハハ、アッハハハハハハハハハハァ!!

 

む?何故メイドが生暖かい眼でこちらを見ているのだ?全く、最近の若い娘はよく分からない。やれやれだ。

 

 

 

大食堂は文字通り、これもまただだっ広い空間である。取り敢えず、ファンタジー映画に出てくる宴会などに使われる大ホール、というイメージで構わないだろう。長机が理路整然と並び、多くのシャンデリアが全体を明るく照らしている。

 

私はもう席に着いている可愛い第一期生たち、つまり、我が最初の弟子たちを横目に、一際豪奢な大理石の席に着く。私が席に着くや否や、一人の男の子が立ち上がり、私に朝の聖句を復唱する。

 

「朝はあらゆる不浄を焼く、焔の陽炎。大いなる陽の帳のもと、我らは今日もあらゆる生命に祈りを捧げんッ!!」

 

幼い声は堂々と大食堂に響き渡り、全員が彼に続いて聖句を復唱する。

 

『朝はあらゆる不浄を焼く、焔の陽炎。大いなる陽の帳のもと、我らは今日もあらゆる生命に祈りを捧げんッ!!』

 

うむ、実に素晴らしい。今はまだ計九人(第一期生)しかいない為、大食堂が閑散としていることは否めない。が、彼らの熱気は百人を優に超えるために、食堂全体が火をつけたかのように活気に満ちているのだ。

 

嗚呼、適当に聖句とかを義務付けといて良かったァああああ!!これだよ、これ!如何にも厳格な学校の朝食っぽい雰囲気が出てるじゃあないか!

 

私はホクホク顔を跳ね除け、視線を号令した男の子に向ける。アダムは今年で12歳となり、最年長である。だから、号令は彼の仕事となるのだが、これが実に見事!私と二人っきりならば時に甘えてくるのだが、みんなの前だとこの通り。

 

少年だと思えぬ太陽の如きカリスマ、朗々闊達とした爽やかな美声、眉目秀麗な顔立ち、黄金比の身体、そして全方位に及ぶ天賦の才。もう勇者英雄の類いに成るために生まれてきたんじゃないかと、そう確信してしまうほどの末恐ろしい才能だ。

 

さて、メイド達に運ばれてくる超一級品の食事を堪能しながら、改めて一人一人見ていくとしますか。

 

リーダーのアダムはいいとして、彼の隣に座るヒロイン役から始めよう。彼女の名はリリス、黒ドレスが大好きな黒髪紅眼の女の子だ。

 

11歳にして既に色気を漂わせながらも、静謐で貞淑な様を兼備する魔性の聖女である。聖句の覚えが誰よりも早く、魔術は一度見れば体得してしまうほど優れている。蛇も大大大好きであり、よくアダムに絡ませて遊んでいる。

 

アダムとリリスに続く七人だが、みんな同年齢の十歳である。正確には分からないが、()()()()()()()()()()()()()()()、あながち間違いでもないだろう。

 

………気を取り直して、と。

 

次は、聖騎士・軍師役を担当する男の子。彼の名はミカエル。金髪金眼で、金装飾がお気に入りの、金色尽くしの少年である。銀も割とお気に入りらしい。

 

彼は武術で右に出る者が無く、いかなる至難の業であっても一朝一夕で修得できる。チートの私でさえ刮目するぐらいにバケモノじみた天才だ。『勇気』や『正義』に関するものに目が無く、時々堅物な態度をからかわれている。

 

四人目は、癒しの聖女役である女の子。彼女の名はラファエル。リリスが魔性だとすれば、彼女はれっきとした正統派。雪白のウエーブがかかった長髪に温かな青色の瞳を持つ、穢れ無き白き天使だ。

 

性格もとことん慈悲深く、たちまちあらゆる不満を解消する温和さがある。彼女の治癒魔術はリリスでさえ全く歯が立たず、味方を鼓舞するにおいて欠かせない子だ。てか、彼女が泣けば争いは融解する。

 

五人目は、使者・交渉役を受け持つ女の子。名はガブリエル。草の瑞々しい緑髪と土色の眼を持つ、一片の風を思わせる少女だ。

 

脚がとことん速く、徒競走では誰も追いつけないほどだ。文学にも極めて優秀な才能を示し、彼女の少年らしい闊達さとは裏腹に弁舌も上手い。聖句の意味を個人的に解釈し、お手製の教科書を配り歩く姿を見た時は心底感心した。

 

六人目は、参謀・助言役は務める男の娘。...うん、誤字に非ず。名はウリエル。炎に負けぬ紅髪と、爛々と輝く黄色の双眸を持つ。めっちゃ男の娘。大事な事なので二回言いました。

 

事情を知らぬ人が彼を見れば、十人中十人が女の子だと断言するほど、彼の柔和で芸術的なまでに美しい容姿は人々の胸に火を灯す。非常に聡明であり、全分野の学問を網羅するほどに学者肌な子だ。火や光魔法が大の得意でもある。

 

七人目は、テイマー・召喚士役の男の子。名をアリエル。栗色のたなびく髪と焦げ茶色の眼を持つ彼は、一言で表せば『百獣の王』。

 

まだ少年だというのにその肉体は筋骨隆々であり、眼光はあらゆる猛者をも射止める覇気を帯びている。ミカエルが群の最強だとすれば、彼こそ個の最強。荒ぶる嵐の如き彼だが、実は自然界の生命を完全に支配し、心を通わせる力を持つ。

 

彼ら九人はみんな、『使者』や『巫女』と帝国で総称される存在だが、特にアリエルは自然界との繋がりが強固らしい。次いでに、生け花が趣味らしい。

 

八人目は、アサシン・スパイ役の女の子。名はアズライール。濃い紫色の髪と鋼色の瞳を持つ、どこか危険な色気を秘めた子だ。

 

彼女は普段から存在感が無に等しく、異常なまでに影が薄い。チートの私でさえたまに見失うほど、先天性の気配遮断能力を持っている。無口であるが、アダムと話す時だけは饒舌になる。死生感は、『みんなを生かすために、()()()()()()()()()()』。

 

イケメンかよ。一番私が気を遣う子の一人だ。むしろアダムよりも気に掛ける時がある。

 

最後の九人目は、扇動・政治家役の男の子。名をカマエル。銀色の長髪と紺色の眼を持つ、スタイリッシュな子だ。

 

彼は洞察力がずば抜けており、ヒトの心の機敏が誰よりも理解できる子だ。大衆を消極的にするのも、積極的にするのもお手の物。だからか、金のやりくりも非常に上手く、決して私欲にまみれることもない。

 

彼に最近、財布を握られている気がしてならない。...気のせいか?

 

顔が鮮明に映るほどに磨かれたタイルの床。それを足裏でタップしながら、私は今日も自慢の弟子たちとの一日を始める。

 

 

 

「私は………幸せ者だな。嗚呼、どうか………」

 

彼らの誰かに聞こえうる、ギリギリの音量で呟く。ポイントは、わざとらしくないように、彼らの方を見ながらの遠い目線。哀愁を誘えばグッド!

 

最初に気付いたのは、カマエル。流石だ。彼はすぐさまアズライールに一言こそっと伝えると、大声で乾杯する。アズライールは乾杯時、僅かに杯を傾け、異音を奏でる。こん、こん、カツン、カン。

 

私が教えたモースコード(暗号)を、こんなにも応用して!私も鼻が高い!クソ烏がテーブル下で脚を刺すが、我慢だ。

 

一瞬、刹那の間に会話が途切れるが、すぐさま何もなかったように継続される。だが、私には分かる。彼らは明らかに此方の哀愁を帯びた雰囲気に気が付き、なんとかしょうとしていることを。

 

ウリエルはさり気なく指先を動かし、テーブルに文字を数個書いた。アリエルはテーブル下で両手をすり合わせると、薔薇を召喚し、器用にも食器で『加工』を施す。加工の終えた生け花を彼はガブリエルに渡すと、ミカエルがラファエルに眼で指示した。

 

ガブリエルが食器を落としたフリをして花をアダムに渡している間、ラフェルはすくっと立ち上がる。

 

「あら。わたくしは御花をどこかへ落としたようです。折角お渡ししょうと思いましたのに...。」

 

事情を知らぬ私が見れば、確実に騙されていたであろう、どんよりとした表情。温和な彼女の悲しい顔は、それだけインパクトが凄まじい。

 

私が彼女に注意を向けている(フリをする)間にも、彼らの『作戦』は進む。

 

アダムは隣のリリスに魔術を依頼し、大輪の生け花を小さき種粒に変幻させる。すると彼は、周囲を見渡すフリをしながら、机下からポイっと種を此方に投げた。

 

種はコロコロと床を転がり、見事私の机まで辿り着く。すると、種は小さき黒蛇へと姿を変えて私の足元まで這い、また薔薇へと変身を遂げた。

 

………全く、粋なことをしてくれるものだ。からかいたくなってしまうだろう?

 

「ほう、奇遇だな。私の足元に転がる薔薇だが、ラファエル、君のモノかい?」

 

ラファエルはパアーッと顔をほころばせると、喜色満面に大きく頷く。

 

「はい、今日の朝、()()()()()()()()()()()()()()()()ッ!」

 

私はフフッと穏やかに微笑んで見せると、大事に生け花に強化魔法をかけ、胸元のポケットにしまった。さて、ここだ。君たちの気が最も緩んだすきに、思い出イベントを挟んでやろう。

 

「しかし、どうも君たちに気を使わせてしまったみたいだね。

 

 

()()()()()()()()()()()()()。流石私の、自慢の家族だ。」

 

ピキッと同時に九人が固まる。

 

みるみるうちに彼らの頬は赤く染まり、誰も目線を合わせようともしない。こういう所は、いくら天才だといっても。

 

やはり、愛すべき子供だ。

 

私は今日も意味深に微笑み、彼らに慈愛の視線を降り注ぐ。彼らの輝かしい未来に、遥かなる祈りを乗せて。

 

 

 

 

 

「おし、完璧だな。次は訓練系でもするか?いんや、まだ育成系でいいか。一人一人と成長エピソードを作って………痛ッ!!」

 

『カァアア、ペッッッ!!(これでも喰らえ、クソナルシスト)』

 

「オイコラてめえ、シチューになんてもの吐き出してんだ黒く染まってんだろこんのカッスッッッ!!」

 

相変わらず、舞台裏で戯れる一人と一羽であった。

 

 




次は、個人的エピソード?ううむ………


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初めてのおつかい

時間ある内に更新稼ぎをします(`・ω・´)

突然ですが、これを最後にこの作品を『なろう』へ移しますので、よろしくお願いいたします。(システムの使いやすさのために)

ブックマークとかしてくれると、大変ありがたいです。


私、帝塔伯爵こと、ヴラド・ヴィン・インへリアルは義憤を覚える。我が家族の自分に対する、不当に過ぎる扱いに。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

時計塔を出入り自体は自由である。誰の許可も要らず、自由に散策する権利が私にはある。というよりも、初代皇帝曰く『制限した所で意味が無い。国落としだけは止めてくれ何でもするから!』との仰せだったから、勝手にする権利があると断言してもよいぐらいだ。

 

それだというのに、私の弟子たちときたら!最近、いささか過保護になっているのではないか?私は良識あるジェントルマンだというのに、全く。

 

『師匠を放し飼いにすると帝国が傾く』と口を揃え、挙句の果てに監視まで付けてくるのではないか!幸い、彼らはまだまだ未熟なために、今はまだ何とか監視網を細心の注意で潜り抜けている。

 

はッ、私を監視しょうとするなど百年早いわ小童ども!ふふん、今日も同じように抜け出してやるわい。そーれ、こことここを...ゲッ、トラップ!?な~んてね。かかるわけが...そっちが本命かい!あっぶねー!

 

よしよし、今日も無事抜け出せたぞ!おっしゃー!!!

 

......................................。へ?なんで喜んでいるのだ、私?何故、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ?

 

あれ?ガチート転生者が細心の注意を払わないと突破できない監視網って、一体何なんだろうネ?あいつらまだ平均年齢十歳だぞ?

 

わあ、すごーい、教育した私も鼻が高ーい、あははは!………ってなるかアアアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!

 

や ば く な い か ! ? (戦慄)

 

いや、まあ、ほら。力技とかチート魔術を使ったら一瞬ですけどね。だけど、使ったら人として負けとか、師匠としてどうなんだとか、年齢ウン千年の大人として情けないとか、良心の呵責に悩まされる訳であって...。

 

うん?そもそもの話、子供に外出を禁じられている大人って情けない云々以前の話じゃね??

 

う わ あ あ あ あ あ あ あ ん (ガチ漢泣き)

 

クソ烏が腐りきったゴミを漁るネズミを見る眼でこちらを見ているが、そんなことはどうでもいい。ここは年長者として、ビシッと話をつけねば。えーと、よし、集合の呪文を発動させて、と。

 

 

 

教室に集まってきた可愛い弟子たちを見渡す。思わず顔が緩みそうになるが、いかんいかんと自制する。今日は心を鬼にせねば。

 

「うん、一人で外出をー」

 

「「「「「「「「「ダメです。」」」」」」」」」

 

「...................どうしてもかい?」

 

「「「「「「「「「散策。ダメ。絶対。」」」」」」」」」

 

あれれ?なんで危険薬物みたいに行動を制限されているのだ?チームワークが凄すぎて、師匠はもう涙が出そうです。

 

アダムは目頭を押さえると、苦虫を一万匹噛み潰した顔でこちらを見た。リリスに至ってはもう眼のハイライトが消え失せ、不気味な笑いを繰り返している。

 

ミカエルは金貨にブツブツ何か話しかけたと思いきや、決死の戦いに向かう猛者の顔で振り向く。身体全体にジャラジャラとお守りをつけているが、重くないだろうか?眼に金色が乱反射して眩しいのだが。

 

ラファエルは完全な天使の笑みである。もうこの世に悔いは無いと言わんばかりの微笑みだ。眼は遥か遠いユートピアを見つめている。何故か癒されなかった。

 

ガブリエルは先天性障害を持つ犬のように、ありもしない尻尾をグルグルと円状に追いかけている。かなりスピードが速いが、眼は回らないのだろうか?

 

ウリエルは『遺書』とタイトルがつけられた書物に、渾身の一筆を送るかの様に何かを殴り書いている。触れちゃいけないオーラが見えるのだが?ついでに、カマエルへ作戦書らしきモノをスッと背中越しに渡す所も見てしまった。

 

アリエルは新作の生け花に顔を突っ込んで、『オラに元気を~』と訳の分からない事をほざいている。まあ、幸せそうだから良しとするか。

 

アズライールは、うわッ。隅っこの方にいた。視線を向けると、『私はここにはいません』とでも言うように丸まった。可愛い。てか、包丁で何かをめった刺しにしてたわ。怖い。

 

カマエルは………なんかメイド達を買収しょうとしてた。なになに...?え、私の食事にヒュドラの濃縮毒を睡眠誘発剤代わりに入れて欲しい?...何故私の解毒性能を理解しているんだ、こやつは。

 

うーむ。これは………。はッ、まさかッ、思春期特有のあの恐ろしき病気か!?できるだけ優しく笑顔を作り、うんうんと理解の頷きをみんなへ送る。

 

ヒエッ、とみんなの顔色が青を通り越して蒼白となった。解せぬ。取り敢えず、落ち着かせよう。そう、怪我した野生動物に近づくみたいに...。

 

「大丈夫、大丈夫。ちゃんと分かっているから。」

 

「「「「「「「「「分かってない時の顔だッッ!!」」」」」」」」」

 

失礼な。私が一体何をしたというのだ。前回お出かけした時も、地下酒場で悪いお兄さんたちとOHANASHIしただけじゃないか。

 

「兎にも角にも、師匠が一人でお出かけとかダメです!」

 

アダムが震える脚に喝を入れるかのように、九人を代表して前へ出た。本当に大丈夫だろうか?

 

「疲れが溜まってないか?」

 

「………………。」

 

アダムの額に青筋が数本立ち、ブチッとナニかが破裂する音を聞いた。

 

はあ、と大きくため息を吐いた。こうなれば、最終手段だ。交渉の最終奥義、『妥協&脅迫』のお出ましだ。

 

「何をすれば一人で行かせてもらえる?(行かせなかったらどうなるんだろうネ?)」

 

賢いアダムなら、私の言わんとすることにすぐ気づけるのだろう。現に、彼はブルブルと武者震いをしているじゃあないか!

 

「………クッ、パン屋で買い物をして、真っ直ぐ帰ってきてください。そうすれば外出を許可しましょう。」

 

なーんだ。簡単な事じゃないか。さっさと終わらせて直ぐに帰ってきてやるさ。

 

「了解。イイ子にして待っているんだよ~。」

 

封印を解かれた魔獣を見送るような眼をしたみんなに手を振り、私は朝日へと駆け出した。

 

 

 

パン屋に着いた私は、十人分のパンを買うことにした。大貴族どころか、皇帝でさえへりくだる身分を持つ私だが、こういった町場のものが大好物だ。なんだろう、こう、温かみがあるといえば良いのかな?

 

だが、私の姿のままだと貴族だと勘違いされるため、予め変身魔法を使用している。度肝を抜かれても困るからな。こういう所は抜かりないと自負している。

 

さて、新作のパンを選び終えた所で会計とするか………なんだ、この臭いは?目線を向けると、丁度()()()()()()()を載せた台車が道路を横切る姿をみた。

 

しかし、世にも奇妙な事があるものだ。ああ、おかしくって笑いが出てしまいそうだ。

 

パン袋を店頭に置き、店主の戸惑う声を置き去りにしながら私は走る。裏路地に入り、ヒトの気配を確認する。都合のいいことに、誰もいないようだ。私は黒烏に姿を変えると、台車の方角へ羽ばたいた。

 

 

 

 

袋を数個載せただけの小さい台車は、ある地下路地で止まった。運び人の男はフーッと安堵のため息を小さく吐き出し、いそいそと現場を離れ………ようとした。

 

高級な革袋に包まれた手が、ポフッと男の肩に置かれたのだ。かく言う男も只者ではない。鍛え抜かれた手足と、袖に隠した暗器。間違いなく夜の住民だが、そんな彼も肩に手が置かれるまで、全くその存在を感知できなかったのだ。

 

「だ、誰だ?」

 

男の上ずった声と険しい形相に対し、豪奢な黒の軍服に身を包んだ美しい男性は甘美に微笑む。

 

「いや、なに、通りすがりのボンボンさ。丁度()()()()()()()()を欲していたところなんだ。その袋なんだけどね、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

男の肩より力がフッと抜ける。相手は明らかな貴族、それも大貴族の様相をしている。そんな高貴な貴族様が小麦粉如きを買うために、わざわざ足を運ぶハズがない。そうと分かれば、答えは簡単だ。

 

「先ほどは見苦しい姿をお見せしてしまいました。この()()()ですが、ご存じの通り最近は()()()()()()。こうも品質が良いものですと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ので、どうかご理解のほどを...。」

 

男の脳裏に、『前提として貴族が自ら足を運ぶ訳が無い』という常識は、既に塗りつぶされている。あるのは、『ただ貴族に答えねば』という義務感のみである。

 

「そうか。それは残念だ。因みに、この小麦粉の()()()()()()()()()()()()運んでいるのかね?」

 

男とて、伊達に夜の世界で生き抜いてきた訳ではない。人が壊れていく所も、家族が悲嘆にくれる所も、数えきれないぐらいに見た。仕事だと割り切り、長年そうして『勝者』で在り続けたのだ。

 

「ええ、それは勿論でございます。」

 

その言葉で、男の運命は定まった。男性はニッコリと笑みを浮かべると、パチンと指を鳴らした。男はパチパチと眼を数回まばたき、夢から突如覚めたような胡乱気な顔つきで貴族を見た。

 

「さて、貴方の袋に入っているものは何ですか?」

 

「な、なにを」

 

()()()()()

 

重圧が男にのしかかり、彼は心臓を鷲掴みされるような恐怖に苦しみ藻掻いた。

 

「だ、ダストォ。さ、さ、最高純度の、ダスト、です。」

 

貴族の男性は、『よくできました』とでも言うように男の頭を柔らかく一撫でした。しかし、男には分かった。それが地獄の始まりであったことを。

 

「そうですねェ...。この最高純度の『ダスト』の粒一つで、ヒトはどうなりますか?」

 

「酩酊、感、を得る。」

 

「はい。では二粒ならば?」

 

「よがり、快感、に、溺れ、る。」

 

「よろしい、三粒なら?」

 

「最、高に、狂、う。」

 

「ほう。なら四粒は?」

 

「完全、に、依存、す、る。」

 

「なんと。五粒なら?」

 

「支配、され、る。」

 

貴族の男性は満足気に頷く。その優美な顔に依然として穏やかな笑みが咲き、その姿は覚えの悪い生徒を諭す先生そのもの。男性はその表情のまま、無邪気に、残酷に、冷酷に宣告する。

 

「じゃ、()()()()()()()()()()!嬉しいことに、()()()()()()()()!」

 

「い、いや、く、狂う...................!!」

 

男性はふんわりと笑った。幼子に話しかけるように、優しく、穏やかに、終わりを告げる。

 

「大丈夫です。頭に触れた際、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

その日、地下路地は人ならざる悲鳴で満ちた。おかしな事に、誰一人異変に気付いた人はなく、ドス黒い血痕のみが石畳に染み付いていたと言う。

 

男性は嗤う。どこか泣きそうな眼で、懸命に、愉快に、痛快に嗤い続ける。

 

「次は、()()()()と洒落込みますか!」

 

 

 

 

 

「師匠?」

 

「はい?」

 

「なんで郊外の風車が数個、爆発したのですか?」

 

「ほら、美的センスに目覚めたんじゃないかな?」

 

「訳の分からない事をほざきやがらないで頂きたいものですね。」

 

「ええと、そうだ、詩的に退職したかったんじゃない?」

 

「誰が家計火の車ですか、この駄師。上手い事を言えと命じた気はございませんが。」

 

「あれ、これ、私が下?私の序列、どうなっているの?てか、駄師って何!?出汁みたいに言わないでくれる!?」

 

「「「「「「「「「ァアアアアアアアアアアアアン!!!?」」」」」」」」」

 

「ひ、申し訳ございませんでしたァ!!!!」

 

 

『平均年齢十歳の子供たちにリンチされる男性』という訳の分からない事象が、時計塔内で発生したと云う。

 

 

おまけ

 

『カァアア~(パンうめーなァ、オイ)』

 

ある烏が男性の憐れな姿を肴にパンを貪り食う姿を、メイド達は見たらしい。

 

 




是非とも感想をば。誰も弟子がおつかいすると言ってない。(詐欺)

これを最後に、『なろう』へ移るので、よろしくお願いいたします。


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