ほんの少しだけ、不思議なお話たち (開屋)
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イヴちゃん

 あなたが面と向かって話している相手というのは本当に『その人』なのでしょうか?



 よく晴れた日、彩が学校に着くと体育館から威勢のいい声が聞こえた。それと同時にバシィン!と竹刀と竹刀のぶつかる音が響き渡る。その中に聞き覚えのある声も聞こえてきた。

 

「この声は....イヴちゃんだ!こんな朝早くから頑張ってるなんてやっぱすごいなぁ....」

 

 感心しながら体育館の方を見ながら歩いていると、うっかり別の生徒にぶつかってしまった。彩は『あっ、すみません!』と小さく謝り、下駄箱の方へ駆けていった。

 

 その日昼休み、彩が廊下を歩いていると偶然イヴに出会った。

 

「あれっ、イヴちゃんここで会うなんて珍しいね。どうしたの?」

 

 彩が声をかける。

 

「あっ彩さん!実は今日茶道部で向こうの教室で集まることになってるんです。そこで少しこれからの活動などについて話し合うことになってるんですけど、他の人の意見も少し聞きたいという話になったんです。それで、あの....」

 

 そう言って少し決まり悪そうにする。その後少し間を開けて

 

「彩さんからの意見を聞きたいんです。私たちの部ではいろんな人にしっかりとしたおもてなしをすることが大切なので、私たちの部の人たち以外の意見がほしいんです。どうか来てくださいませんか?」

 

 イヴは彩を誘う。

 

「あー、えっと実は....ちょっと今先生から頼み事されてて...だから今はちょっと時間ないかも....ごめんね!」

 

「そうだったんですね、残念です」

 

 少し落ち込んだ様子のイヴを見て

 

「ご、ごめんね!何か他の機会にあったら力になるから!」

 

 そう言ってそこを去った。

 

 その日の放課後、彩が帰ろうと下駄箱へ向かうと見慣れた後ろ姿があった。

 

「あれ....?イヴちゃんだ」

 

 カバンを持ったまま少しだけふらついたような足取りでイヴは歩いている。

 

「(どうしよう....なんか少しだけ疲れてるみたいだけど、さっきのことも気になるし声かけてみた方がいいかな....?でもどうしよう....)」

 

 悶々とした気持ちで彩はしばらく声をかけずイヴの後をつける。しばらくついていくと、やがてある教室の前に立ち止まっておもむろにドアを開けた。

 

「ここは....華道部の教室?」

 

 彩が気づかれないような小さな声で独り言つ。そんな彩に気づくことなくイヴは部室へ入っていく。

 

「....」

 

 何も言わずイヴはそのままドアを閉めて行ってしまった。

 

「(どうしたんだろう、何かいつもと様子が違うような気がする....ちょっとだけ覗いてみてもいいかな....)」

 

 そう思い、音を立てないようにそっとドアを少し開けた。

 

 部室の中ではイヴが歩き回っていた。何かを探しているようにも思えたが、やはりその足取りはふらついている。

 

 気のせいか一瞬だけ視線がこちらに向いたような気がした。その目は普段のイヴのそれとは少し違って、少しくすんで見えた。

 

「!」

 

 焦りの気持ちと、普段とイヴの様子が異なることとで合わせて僅かながら恐怖を覚えた彩は、ドアを開けたまま急いでその場を去った。結局その日はそれ以降イヴと会うことはなかった。

 

 

 

 次の日の放課後、彩が帰ろうとしていると、偶然廊下を歩いているイヴを見つけた。昨日のこともあり、声をかけるかほんの少し躊躇った。

 

「あっイヴちゃん偶然だね。今から帰るの?」

 

 できるだけ自然に声をかけた。

 

「あっ、アヤさん!そうです。アヤさんも今から帰りですか?」

 

 と、返事をするイヴの様子は昨日のそれとは違いいつも通りのものに見えた。

 

「う、うん。せっかくだし途中まで帰らない?」

 

「そうですね。一緒に帰りましょう!」

 

 イヴの屈託のない返事に彩はちょっとした安心感を覚える。少し歩いてから彩は恐る恐る尋ねる。

 

「そういえば昨日の帰りにたまたまイヴちゃん見たんだけど、その....なんか足元少しふらふらしてたし、何かあったの?」

 

 それを聞いたイヴは少しハッとした様子を見せる。

 

「アヤさん、あの時見てたんですか....」

 

「えっ?」

 

 何か後ろめたそうな表情のイヴを見て彩は思わず聞き返す。

 

「も、もしかしてイヴちゃん、何か話せないような—」

 

「実はここ最近、今までよりしっかり部活に顔を出すようにしていて少し疲れてたんです....」

 

「....え?」

 

 イヴの返答を身構えていた彩はつい素っ頓狂な声を上げる。

 

「最近モデルの仕事やパスパレの活動もあってあまり部活にショウジンできていたなかったので、しっかりと部活に顔を出していこうと決めていたのですが....思ったより大変だったので、少し疲れてたんです。ちょうどアヤさんはその時の私を見つけたのでしょう」

 

「そうだったんだ....何か人には言えないような悩みとかがあるのかと思ったよー....でも疲れてるのならしっかりと休んだ方が良いよ、イヴちゃん」

 

 少し安心した表情で彩はイヴに笑顔を見せた。しばらく歩いて2人は帰り道が分かれる。

 

「アヤさん、きょうはありがとうございました。また明日会いましょう!」

 

「うん!じゃあね、イヴちゃん」

 

 そう笑顔で交わして2人は別れた。

 

 

 

 また次の日、彩は学校の廊下で偶然よく顔を知った女子と遭った。

 

「あっ!花音ちゃん」

 

「彩ちゃん、偶然だね」

 

 そのまま2人は色々話しながら廊下を歩く。そしてちょうど別れ際の時にふと彩は気になることを思い出した。

 

「あ、そういえば花音ちゃん。実は謝らなきゃいけないことがあるんだ」

 

「え?な、何かあったっけ?」

 

「えっと、花音ちゃんって確か茶道部だったよね?」

 

「う、うん。そうだけど....それがどうしたの?」

 

「実は昨日の昼休みにイヴちゃんに茶道部の活動について何か意見がないかって聞かれたんだけど....その時私時間なくて手伝えなかったんだ。確かその時茶道部のみんなで集まってたって言ってたから、多分その時花音ちゃんもいたってことだろうし....だから昨日はごめん!役に立てなくって....」

 

 そう言って彩は小さく頭を上げる。顔を上げるとキョトンとした花音の顔が見えた。そして、こう言った

 

「え、えっと....昨日の昼休み、だよね?その時間は特に茶道部では活動はなかったけど....」

 

 

 

 

 

「え?」

 

 花音の言っていることがよく分からず、彩もキョトンとした顔を見せる。

 

「多分何らかの活動があったら私の所にも連絡来てると思うし....でもそういう連絡なかったから、きっと昨日は....何もなかったと思うよ?」

 

 階段を降りようとしていた彩はその足を止めて突っ立った。

 

「あ、彩ちゃん?」

 

 花音の呼びかけに彩は応じられなかった。頭が真っ白になった彩はふと昨日の昼休みに言われたことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

「どうか来てくださいませんか?」

 

 

 




 疲れた時には寝るのが一番ですね。こんな時間に上げてていうのもアレでしょうけれど....


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気になるお客さん

 常連とは違うお客さんってのは店員目線では、立ち居振舞いによっては結構気になるものです。


 ある休日の羽沢珈琲店、多くの常連が席を埋める中、見慣れない顔をした若い男が入ってきた。その男はつぐみも見たことのない人であった。彼は席に着くなり店の中をキョロキョロと見回していた。

 

「(何してるんだろうあの人....虫でもいるのかな)」

 

 仕事中であったがつぐみはその男を横目でたまに見ていた。彼は何かを目で追うかのように視線を動かしている。結局その日、彼はホットコーヒーを一杯頼んで、少し居た後に帰っていった。

 

 数日後、つぐみだけでなくその日はイヴも羽沢珈琲店で働いていた。しばらく働いていると、また例の男が入って来た。

 

「(あの人....前に来てた人だよね)」

 

 つぐみはまたその男の様子を時々に見ていた。彼は前と同じようにその辺りをキョロキョロとしている。

 

「(どうしたんでしょう?ツグミさん、あの人のことを妙に気にかけていますが....)」

 

 イヴはその日初めてその男を見たので、そこまでその男のことを気にかけなかった。その男は前と同じようにホットコーヒーを一杯頼んで、少しして帰った。

 

「(今度機会があったら少し話聞いてみよう....)」

 

 そう考えてつぐみはお店を出る男を見送った。

 

 また別の日の羽沢珈琲店、その日は紗夜が来ていた。その日はつぐみやイヴはいなかったが、件の男は来ており辺りをキョロキョロとしていた。ちょうど紗夜の視線の延長線上にその男はいたため、紗夜は彼の少しおかしい様子が気になった。その日の彼はカフェオレを一杯頼んでその後帰っていった。

 

 それからしばらく間の空いた日、つぐみが働いていると例の男が来た。今回も漏れず、辺りをキョロキョロとしている。前からこの男の事を気にしていたつぐみは、注文を聞きに行くついでにとうとう本人に直接尋ねた。

 

「あの,...来てくださる度に辺りを気にされているようですが、何か気になることでもありますか....?」

 

 それを聞いた男は少し目線を逸らし何かを考えるような表情をしていたが、もう一度つぐみの方を向き直ってこう言った。

 

「えっと....聞いたら後悔するかもだけど大丈夫?」

 

 男の発言の真意を汲み損ねたつぐみだったが好奇心の方が勝り、首を縦に振った。

 

「えっとね、君には視えてるか分からないけど....小さい男の子が店の中を走り回ってるんだ」

 

「えっ....?」

 

 男の思わぬ発言につぐみは呆然として思わず間の抜けた声を上げた。男は続けて

 

「まぁ....あまり気にしすぎない方が良いよ。1人しか僕には視えてないからしばらくしたらきっといなくなるよ。あ、注文はホットコーヒーでお願いします」

 

 と言って安心させるかのように微笑む。最後に注文を挟む辺り、なんだか呑気そうな男であった。つぐみはまだ呆然としていたが、注文が来たことを認識して少し駆け足でキッチンへ向かった。

 

 また更に後日、つぐみとイヴが店の手伝いをしているとその日は紗夜が来たが、少し様子がいつもと違うように思えた。何か少し落ち着きのない様子で、つぐみの方に視線を移すと何か決まり悪そうにしている。よく店に足を運んでくれる紗夜の様子につぐみとイヴはさすがに気がかりに思えた。紗夜の注文を取りに行くとき、つぐみは紗夜に訊いてみた。

 

「あの....紗夜さん。もしかして何か悩みでもあったりしますか?」

 

 そう訊くと、紗夜は『えっ』と小さく声を漏らしたが、つぐみの方を見返して

 

「いえ....少し前にここで妙なことがありまして、でもそのことを羽沢さんに伝えるのもどうかと思いまして....なのでどうしても自然に振る舞うことができなかったんだと思います」

 

 と、答えた。それを聞いたつぐみは

 

「それってもしかして....ここに来る男性のお客さんの事だったりします?」

 

 と、紗夜に尋ねる。

 

「....羽沢さんも知ってたんですか」

 

「はい、それでどうして辺りを見回しているのかも聞きました。えっと、紗夜さんも....ですか」

 

「ええ、その時もあまりにも辺りを気にされているようでしたので思わず聞いてしまいました。小さい子どもがいるということを....私たちの見えないところにですが」

 

 紗夜が件の男から聞いた話をつぐみにする。2人が何か深刻そうな表情をして話している様子を見てイヴが近づいてくる。

 

「お二人ともどうしたんですか?」

 

「あっイヴちゃん、えっと....たまにここに来て周りをキョロキョロしてるお客さんって知ってる?」

 

「はい、私も少し気になっていたので少しお話をさせていただきました」

 

 イヴの返事を聞いて紗夜は

 

「どうやら私も羽沢さんも若宮さんもあの人について知っていたようですね。そういえばさっき若宮さんはあの人から話を聞いたと言ってましたが、どんなことを聞いたのですか?」

 

 と、イヴに尋ねる。

 

「私が聞いたのは、あの人には双子のお兄さんがいるってことです。サヨさんはどんなことを?」

 

「えっと、少し妙なことなのですか....何か私たちの見えないところに小さな女の子がいるということです。どうせちょっとした悪けだとは思いますが....」

 

 紗夜は少しバツが悪そうに話す。それを聞いて少しして真意を汲んだイヴは少し体を震わせた。それを見た紗夜は

 

「すみません、やはりこういうことを軽率に言うのも―って羽沢さん?どうしました?」

 

 怯えるイヴ以上に少し様子のおかしいつぐみを見て紗夜が尋ねる。

 

「さっき紗夜さん....小さな女の子が女の子がいるって言ってましたよね」

 

「え?そうですが....」

 

「私があの人から聞いた話では小さい子どもは男の子だって....その子一人しかいないって....」

 

 イヴ以上に怯えた表情でつぐみが言う。ここで紗夜が何かを思い出してハッと顔をあげた。

 

「若宮さん、あなたはあの人について双子だって言ってましたよね?ということは....」

 

 そこで3人は顔を見合わせ、しばらく動けなかった。少しして向こうの方から『すみませーん』という声が聞こえ、そこで我に帰ったつぐみがその客のいる方へ向かった。その客は

 

「えっと、カフェオレ1杯お願いします」

 

 と、注文してつぐみがキッチンの方へ向かっていくのを目で追っていた。




 僕もあんなところじゃなくて羽沢珈琲店でバイトをしたいものです。すーぐ食器割りそうだけど。


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人気の着ぐるみ

 その都度行き当たりばったりで書いてるので常時ネタ切れ状態です。


 少し曇った日、有咲は商店街を歩いていた普段と変わらず多くの人が買い物に来ており活気に溢れている。

 

「やっぱりこの時間の商店街は人多いよなぁ。一応これでばあちゃんに頼まれてた買い物も終わり....ん?」

 

 向こうの方に子供が集まっているのを有咲は見つけた。疑問に思いそちらの方に向かうと、誰かが風船配りをしているを見つけた。

 

「あっ、あれって....」

 

 有咲の視線の先には風船を持ったピンクのクマの着ぐるみがいた。恐らく中にいるのはあの人だろう。

 

「....明日学校で聞いてみるか」

 

 

 

 

 次の日、学校で有咲は教室で美咲に昨日の事を尋ねた。

 

「あっ、奥沢さん。ちょっといい?」

 

「どうしたの?市ヶ谷さん」

 

「昨日さ、商店街でミッシェルの着ぐるみ着て風船配ってたのって....奥沢さん?」

 

 そう有咲が尋ねると

 

「あ、あの時居たんだ市ヶ谷さん....何か改めて言われたらちょっと恥ずかしいな。まぁ商店街にいてあれだけ子供が集まってたら誰でも気づくだろうしなぁ....あはは。」

 

 そう言って美咲は少し決まり悪そうに視線を外す。それを聞いて有咲は尋ねる。

 

 

「でもこんな暑い季節での着ぐるみって中ヤバいんじゃない?」

 

「まぁ、大体ご想像の通りだとは思うけど....この時期のミッシェルの中、ヤバいよ。ほぼ蒸し風呂状態だし空気もそんなに通るわけじゃないからさ」

 

「だよな~、昨日も大変だったんじゃない?」

 

「そりゃあもう、時間も時間で子供連れた人たくさんいたしフル稼働状態だったよ」

 

「どうしてもあの着ぐるみだったら目立つよなぁ、またいつか商店街でやるの?」

 

「まぁバイトだしそういうことだろうね。もう少し先だけど」

 

「次いつやるの?せっかくだしまた見てみたいな~」

 

「中が分かってる着ぐるみをみてどうするのさ....」

 

「いいじゃん。別に減るもんじゃあるまいしさ」

 

「まぁそうだけどさ....あはは」

 

 しばらく話していると、チャイムが鳴る。

 

「っと、そろそろ席に着いとかないとな。それじゃ奥沢さん、ミッシェルの姿楽しみにしてるからさ」

 

「だからもういいってば~」

 

 

 

 

 その日の下校時間、有咲が帰ろうとしているところに香澄がひょいと姿を現した。

 

「あっ有咲!生徒会の仕事終わったの?」

 

「うわっ!?って香澄、もしかして終わるまで待っててくれたのか?」

 

「うん!今日は蔵練だし、一緒に帰りたいからね~♪」

 

「お、おう。待っててくれてありがとな、香澄....」

 

「ん~?最後の方がちょっと聞こえないなぁ」

 

「うるせー!いいからとっとと帰るぞ香澄!」

 

 2人で帰っていると、通りかかった公園の方を見て香澄が何かに気付く。

 

「あれ?なんか子供いつもより多くない?」

 

「そうか?....って確かに砂場に集まってるな、ってあれ?」

 

 有咲が何かに気づく。

 

「あそこにいるのってミッシェルじゃね?」

 

「え?」

 

「ほら、間から見えるピンク色してるのが見えるだろ?」

 

「ホントだ....なんでこんなところにいるんだろう?」

 

「(奥沢さんはもうしばらく先って言ってたけど....今日の事知られたくなくて隠してたのかな?)」

 

 今朝の事を思い出して有咲が小さく笑う。

 

「どうしたの有咲?」

 

「い、いや。なんでもねー....ふふっ」

 

「何か有咲嬉しそうだね~、何かあったの~?」

 

「な、なんでもねーよ!ほら、とっとと行くぞ!蔵練もあるから!」

 

「え~?せっかくだし私たちもちょっと見てみようよ。」

 

「いや、どうせそこから遅くなるだろうし、私はもう行くからな」

 

 そう言ってつかつかと有咲は歩いていく。

 

「ちょっと待ってよありさぁ~!」

 

 香澄もすぐ有咲の後を追った。有咲は次の日の学校ではこのことは結局美咲には言わないでいた。

 

 

 

 

 数日後、ハロハピのメンバー全員で弦巻家に集まることとなった。

 

「はぁ....つい前は『ミッシェルも来る』とか言っちゃったからなぁ....いつ"ミッシェル=あたし"だと気づいててくれることやら」

 

 やれやれ、といった様子で美咲が呟く。少しして黒服が着ぐるみを持って来てすぐにどこかへ行ってしまった。

 

「さてと、今日はミッシェルになって....ん?」

 

 着ぐるみを着ようとした美咲が何かに気づいた。

 

「何か付いてる....これって、砂?」

 

 美咲はここ最近のことを思い返してみた。

 

「なんでだろう....今まではこんなの付いてなかったしこんなのが付くような場所に着たまま行った覚えもないし....まぁいいか」

 

 美咲は着ぐるみに付いていた砂をパッパと払い落とした。

 

 

 

 

 また別の日の昼休み、有咲と美咲は教室で話していた。

 

「そんでさ~、そん時に香澄が—」

 

「ふふっ....」

 

「ん?どうした?」

 

「いや、市ヶ谷さんってホントに戸山さんのこと好きなんだなぁって」

 

「は、はぁ?別にそんなんじゃねーし、あくまで愚痴聞いてもらってるだけだし....」

 

「もうそれ惚気だよ」

 

「なっ....何だよこっちだって奥沢さんに言いたいことあるんだからな」

 

 そう言って有咲はニヤリとする。

 

「え?何かあったっけ?」

 

「あの日だよ、ちょっと前にバイトがしばらくないって言ってたけどホントは—」




 正直この2人の絡みを書きたい気持ちが抑えられなかったです。


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そこにいる

 そこにいない人の悪口から話が広がり、バイト先の同僚とものすごく仲良くなったのですが、私は地獄に堕ちるのでしょうか。


 CiRCLEでの練習を終え夜の帳が降りる少し前の頃、十字路を右に曲がった辺りから友希那は妙な視線を感じていた。もっとも隣で一緒に帰っているリサはそれに気づいていない様子ではあったが。

 

「(多分後ろの方の電柱に誰かがいる....でもあまり騒ぎには出来ない....)」

 

 そんな友希那の少し何かを気にしている様子を察したようでリサは

 

「どうしたの友希那?」

 

「え?いや、何でもないわ。気にしないでちょうだい」

 

 その後も何かの気配を感じていた友希那ではあったが、最後までその事をリサに言うことはなかった。

 

 

 

 その日の夜、友希那は今日通った帰り道を歩いていた。緋色の空の下リサが隣で歩いている。しばらく歩いて十字路に差し掛かった頃、友希那は後方に何かの気配を感じた。隣のリサを見るとそれに気づいていない様子である。

 

 そこからしばらく歩いていても後ろからの気配は続いている。耐えかねた友希那は思わず後ろを振り返った。影になっている所などをさっと見たが、何も見つけることは出来なかった。

 

「どうしたの?友希那」

 

「え?いや、何でもない―」

 

 

 

 目を覚ますと、窓から眩しい陽が差してきていた。外を見ると夕方でもなんでもなく、いつも学校のある日に起きているくらいの時間とあまり変わらないくらいの時間だった。

 

「準備しなくちゃ....」

 

 身支度を終え、友希那は家を出た。

 

 その日は練習は無く、学校が終わってそのまま帰ることになった。今日は得体の知れない気配を感じることはなかった。

 

 

 

 次の日、練習を終え昨日と同じように帰り道を歩いていた。隣にはリサもいる。件の十字路に差し掛かった頃、友希那はまた得体の知れない気配を感じた。

 

 しばらく歩いていても気配が続いているので、友希那は気もそぞろになっていた。少しボーッとしたまま歩いていると

 

「危ない!」

 

 と、言う声と共に腕をガッと掴まれる。何事かと思うと、リサが心配そうな顔をして腕を掴んでいた。向こうの方へブーンと車が走っていくのが聞こえる。

 

「ちょっとどうしたの友希那!もう少しで轢かれるかも知れなかったんだよ?」

 

 リサの声に友希那はハッとなって

 

「ご、ごめんなさい....」

 

 と、謝る。

 

「最近少し友希那様子がおかしいよ?何か抱え込んだりしてたら教えてよ?」

 

 心配そうにリサが少し強めに言う。

 

「だ、大丈夫よ。気にすることはないわ」

 

「ホントに?ホントに何かあったら教えてよ?」

 

「大丈夫よ。ありがとう―」

 

 

 

 ここで友希那は目を覚ました。昨日の夜はこんな夢は見なかったとはいえ、こんな短い期間で同じような、奇妙な夢を見るなんて。

 

 この日はCiRCLEでの練習を終え、リサと帰っていた。その日は十字路に差し掛かる前に件の気配を感じた。友希那は度々見る不可解な夢が直接的でないとはいえ、この気配と関わっていると感じていた。

 

「リサ、悪いけど今日は先に帰ってもらってもいいかしら?」

 

 唐突に友希那が言う。

 

「え?」

 

「少し用事を思い出したの。少し長くなるかもしれないから先に帰っててちょうだい」

 

「でも....」

 

 リサが何かを言おうとするが、友希那は踵を返して向こうへ行ってしまう。リサもそちらに向かおうと思ったが、向こうは向こうで何か思うことがあると思い、友希那の言うことに従って先に帰った。

 

 友希那はリサが帰っていくのを見て再び動き始める。何も知らないリサをあまり巻き込みたくないと思い単独で行動しておるが、少し不安もあった。住宅が立ち並び影がよく広がっている所で物陰に隠れている『何か』の気配を友希那は感じた。

 

 じっとこちらの気配を殺して、友希那はそちらの方に素早く移動する。すると向こうもそれに気づいたらしく、急いで陰に隠れる。友希那はそこで人影のようなものがスッと動いたのに気づいた。

 

 得体の知れない気配の正体をハッキリさせたいと思っていた友希那は隠れた『それ』を探したが、どうにも見つけることはできなかった。

 

 数日後、2人で帰っているとまたその気配を感じた。少し前に人影のようなものを見ていた以上、意図的に自分達を尾けていると感じ、前より少し『それ』が不気味に思えた。

 

 友希那は時々に後ろの方に視線を移して牽制しながら歩く。少し歩いてはちらりと後ろを向く、それを繰り返している。何かいつもと様子の違う友希那を見て

 

「どうしたの友希那?何か気にしてるみたいだけど....」

 

 と、リサが尋ねる。

 

「何でもないわ」

 

 口では友希那はそう答えているが、実際友希那は少し不安を感じていた。後ろを尾けている『何か』との距離がジワジワと近くなってきているからである。

 

 それから度々後ろを牽制し続けてはいたが、それでも少しずつ距離は縮まってきていた。しばらくしてふとリサの様子も気になり、視線をそちらに移した。

 

 

 

 隣にリサはいなかった。思わぬ事態に友希那は硬直する。後ろからの気配が先刻よりも強くなる。

 

 

 

 もう一度後ろを見るが、姿は見当たらない。それどころか後ろからの気配も感じない。

 

 

 

 前を見ると遠くに何かが突っ立っているのが見える。自分より背が低く見覚えもない、ついさっきまではいなかったシルエット。

 

 

 

 再び友希那は硬直する。足が動かない。思い通りに動いてくれない。そんなこちらに対して向こうのシルエットはほんの少しずつ距離を詰めて来る。

 

 

 

 ぼんやりとしていた何かのシルエットが近づくにつれ鮮明になってくる。あれはいったい誰?見当もつかない。それに近づいてきているのに何故かハッキリと顔が見えない。

 

 

 

 それは友希那との距離を縮めていき、ついにスゥっと手を伸ばしてくる。表情も顔もよく見えないのに、なぜかそれは笑っているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、見慣れた天井があった。掛け布団はいつもよりクシャクシャになっていて、少し寝汗もかいていた。

 

「これも....夢なの?」

 

 

 

 その日の練習を終えた帰り道、リサと歩いていると、やはり十字路のところでまた気配を感じた。

 

「....リサ、少しいいかしら?」

 

「どうしたの友希那?」

 

「あまり言いたくはなかったのだけど、私達少し前から誰かに尾けられてるかも知れないの」

 

「え?」

 

 友希那の思わぬ発言にリサは素っ頓狂な声をあげる。

 

「少し前から何かが私たちを尾けてるのを感じてたけど、あまり騒ぎにはしたくなかった。でも....」

 

 今朝見た夢を思い出し少し黙り込む。その後友希那は

 

「ごめんなさい、少しついて来てくれないかしら」

 

 そう言ってリサの腕を引いて友希那はもと来た道を走る。

 

「えっ!?ちょっ、友希那!?」

 

 友希那に手を引かれリサは為す術無く着いていく。するとすぐに

 

「うわっ!?」

 

 っと、声が聞こえた。友希那は声のする方へ走っていくと、そこには制服を着た自分より小柄な中学生くらいの女の子がいた。

 

「この子って....さっき友希那の言ってた―」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 少女はリサが何か話そうとしているのを遮り、2人に頭を下げる。

 

「わ、私前からRoseliaの大ファンで....それで、ダメだとは分かってたけど....ぐすっ....」

 

 少女は途中で泣き始めてしまった。見かねたリサが

 

「え、えっと....まぁ確かに今回のことはあんまり良くなかったかもしれないけど、もうこれからはしないって約束できる?」

 

「う、うん....」

 

「それならもう気にしないで。....っと、これで良いでしょ?友希那?」

 

「え?ええ。大丈夫。だからもう気にし過ぎなくてもいいわ」

 

 友希那はずっと感じていた気配の正体が分かった以上はもう、あの夢に苦しめられることもないだろうと思い、安心した。

 

「本当にごめんなさい。私のせいで湊さんは車にひかれるかも知れなかったって思ったら....本当に....」

 

 そう言って深々と頭を下げた。

 

「だーいじょうぶだって!って車に....?そんなことあったっけ?ねぇ友希那。....友希那?どうしたのそんな顔色悪くして....」




 PC使えない環境にいたせいで前のものからえらく日が空いてしまいました....端末でやろうにもどうもPCより時間がかかり、億劫になってたことをついでに懺悔します....
 この話読んでくださった方には感謝しかないですホント....


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よく撮れた写真

 僕のケータイのアルバムのほとんどがスクショの画像で埋め尽くされてます。
 何か思い出に残る写真でも撮った方がいいんでしょうかね....


 弦巻家にて次のライブの作戦会議をしている最中、はぐみが

 

「ねえこれ、見て見てー!」

 

 そう言って写真を机の上に広げた。

 

「これは....海の写真かしら?とても素敵ね!」

 

「そういえばはぐみちゃん、家族のみんなで旅行に行ったんだっけ?」

 

 花音が尋ねる。

 

「うん!とーちゃんが突然『旅行に行くぞ!』って言い出して、そのまま次の日に海に行くことになったんだ」

 

「その話スゴいね....さすが北沢家って感じだよ....」

 

 突飛な展開に美咲は少し呆れた様子で乾いた笑いが漏れ出た。

 

「海か....淡い波がさざめく中、美しい太陽の光が水面を美しく彩る....あぁ、なんて儚い....!」

 

「その時にいーっぱい写真を撮ったんだ。だからみんなに見てほしいなって」

 

「なるほどね。あっ、この写真キレイだなぁ....」

 

 そう言って花音が一枚写真を手に取る。

 

「こっちの写真も随分よく撮れてるね、ここ最近は天気も良かったし絶好の海日和だったんじゃないかな?」

 

「うん、薫くんの言う通りすごく天気がよかったんだ。でも意外と来てる人は少なかったなぁ」

 

「へぇ、ほぼプライベートビーチみたいな状態だったんだねなんか羨ましいな」

 

「あら?この写真とてもキレイね!」

 

 と言って、こころが1枚写真を手に取る。

 

「この写真は....灯台?を前に皆で撮ったみたいだね。確かにキレイに撮れてる。....っと、どうしたんだい?はぐみ」

 

 灯台の写真を見て首を傾げているはぐみを見て、薫が尋ねる。

 

「いや、こんな写真撮ったかなーって。別に灯台の写真は撮ったと思うんだけど....そうそうこれこれ」

 

 そう言ってはぐみは別のアングルで撮った灯台の写真を指差す。

 

「ホントだ....でも最初の写真の方が何となく映りが良さそうだね」

 

「確かに花音さんの言う通りっぽいね。多分何枚か写真撮ったけど忘れたんじゃない?」

 

「そうかなぁ」

 

「あら?」

 

 最初の映りの良い方の写真を見ていたこころが何かに気づいたのか、声をあげる。

 

「どうしたの?」

 

「この写真、はぐみの家族だけじゃなくて別の人が映ってるみたいなの!」

 

「えっ?あの時他に誰かいたっけ....?」

 

「ほらここに、誰かの手が映ってるわ」

 

 そう言ってこころは写真に映っているはぐみの腰の辺りから見える小さな手のようなものを指差す。

 

「え....ちょっとこころ、これって....」

 

「多分....心霊写真、だよね....」

 

 美咲と花音が顔を真っ青にして後ずさる。

 

「フ、フフ....可愛い子猫ちゃんに着いてきてしまったようだね....仕方の無いことだ....」

 

「薫さん、現実から目を背けないでちゃんと目を開けてください」

 

「ホントだ....もしかしたら他の写真にも何か映ってるかも....」

 

 はぐみも少し怯えた様子を見せる。しかし他の写真に

は妙なものは映っていなかった。

 

「結局何か映ってるのはこの写真だけだったね。にしても....」

 

 そう言ってもう一度花音はあの写真に目を向ける。

 

「きっと見間違いだったのさ、うん、そうさ。最初にはぐみが見覚えがないと言ってたから、妙な先入観が先立って見えたように見えたのさ」

 

「えー....残念ですが薫さん、その理論は通じなそうです。今私が見てる写真には間違いなく『それ』が映ってます」

 

 ため息をついて美咲が答えた。

 

「それにしても不思議な写真ね。どうやってこんな写真撮るのかしら?」

 

「あ、あのねこころちゃん、こういった写真は狙って取ることは多分できないんだよ....」

 

「へぇ、そうなの。....それならもう一回ここに行って写真を撮ってみたらいいじゃない!そうすればきっと何かが分かる気がするわ!」

 

「え!?」

 

 こころの常人では辿り着かないであろう結論の下導き出された提案に4人はぎょっとする。

 

「ここに行って写真を撮ればこの手が誰のものなのか分かるかもしれないんでしょ?それなら行って確かめるのが一番よ!」

 

「ちょっとこころ!さすがにそれはどうかと思うよ、こういった霊はモノによっては危険だってこともあるし....」

 

「そんなの実際に見てみるまで分からないじゃない!」

 

「そうかもしれないけど....いややっぱりその結論はおかしいって」

 

 美咲はこころを制止しようとする。するとこころは

 

「はぐみはどう思うの?」

 

 と、はぐみの方を向いて尋ねる。

 

「え?」

 

「この写真ははぐみのものなんだから、どうするかは私たちよりはぐみが決めるべきだわ」

 

 こころの発言にはぐみは言葉を呑む。やがて少ししてはぐみは口を開いた。

 

「確かに少し怖いけど....でもこの手が何なのかは気になるし....はぐみももう一回行きたい!」

 

「得体の知れないものに恐怖を覚えるのは人の性だからね、はぐみがそういうのなら私も付き合うよ」

 

 はぐみの意見を聞いた薫が続いた。

 

「はぐみちゃんがそう言うのなら....」

 

「花音さんまで....まぁこうなった以上はあたしも行くしかなさそうだね」

 

 少し渋っていた花音と美咲も3人と同じくその場所に行くこととなった。その日は日取りを決めて解散することになった。

 

 

 

 当日、弦巻家の車に揺られ5人は灯台のあるところへ向かった。

 

「ここが写真の撮れた場所で間違いないかしら?」

 

「う、うん。ここであってる」

 

 写真のことを思い出したのか、はぐみは落ち着かない様子だ。

 

「それで....この写真の撮れるアングルを今から探すって訳だね」

 

 件の写真を薄目で見ながら美咲が言う。

 

「あ、あの....薫さん大丈夫?少し顔色悪いけど」

 

「大丈夫さ花音、気のせいだよ」

 

 心なしか薫の声は少し震えている。やがて5人は写真の場所を歩き探し始めた。

 

「にしても手掛かりがあの写真だけだから中々見つからないね....かといって写真を直視するのも何か気が引けるし....」

 

 美咲がそう言うとこころが

 

「そう言えばあたしまだあの写真をしっかり見た覚えが無いわ。少し見せてくれるかしら?」

 

 と、頼む。

 

「えっ?こころちゃんは大丈夫なの?」

 

「大丈夫って一体何のこと?」

 

 花音の心配もよそにこころは写真を見ようとする。

 

「こころんは怖くないの?」

 

 はぐみも心配そうに尋ねる。

 

「どうして?この写真に何も怖いものなんてないわ」

 

 そう言ったこころは写真をじっと見つめる。しばらくして

 

「後ろのところは家が集まってるのね。色んな屋根があるわ」

 

 と、こころが言う。

 

「そうだったったかなぁ。灯台の写真を撮ったときはあんまりあった覚えがないんだけど....」

 

「きっと少し前のことだから記憶が曖昧なんだろうね。それを手掛かりに行ってみるとしようか」

 

 薫がそう提案し、そこからはそれも手掛かりに進むことにした。

 

 

 

 少し行くと、灯台が見え、遠くに住宅の見える所に着いた。

 

「この辺りかな、大体写真の条件と一致してるね」

 

「うん、たぶんここだったと思う。」

 

「じゃあこの辺りを探せばあの手が誰のものかが分かるのね。楽しみだわ!」

 

 それを聞いた薫が顔色を少し悪くする。

 

「そういえば....本来の目的はそれだったね、フフ....」

 

「薫さん忘れてたでしょ」

 

 美咲は小さく突っ込みを入れる。

 

「着いたけど....特に誰かがいる感じじゃないね。これからどうしよう?」

 

 花音がそう言うと皆が一斉に言葉に詰まる、ことはなくこころが

 

「今度はあの写真と同じような写真をもう一度撮れば良いんじゃないかしら?」

 

 と、提案する。少し躊躇もあったが、それ以外は何も思い付かなかったので、その作戦に乗ることにした。

 

 

 

「えっと....大体この辺り、いや、もう少し左かしら?」

 

 カメラを持ったこころが4人に指示を送る。

 

「ええ、大体その辺りね。じゃあ撮るわよー!ハイ、チーズ!」

 

 そう言ってこころがシャッターを切る。

 

「どう?どんな風になった?」

 

 真っ先にはぐみが駆けつける。5人が集まって写真を見ると、ピントの合っていない写真がそこにあった。

 

「これは....ちょっとボケてるね」

 

「こころちゃんカメラ使ったの初めてかな?次は私が撮るね。」

 

 カメラ役を花音にチェンジし、再度写真を撮る。今度はしっかりピントも合っていた。しかしその写真にはハロハピのメンバー以外の人は写っていなかった。

 

「うーん、あの写真みたいにはならなかったみたいね」

 

「ていうか何か少し違和感が....同じバックが写るように撮ったはずなのに、あの写真と何か違うような気がする。」

 

 美咲がそう言うと

 

「たしかに、写真のはぐみちゃんの家族と、私たちのサイズが大分違うね。あっちは私たちの写真よりもう少し離れたところから撮ってたのかな?」

 

 花音も続く。 

 

「それじゃ次は私が撮るとしようか。今度はさっきより遠くに....っと、危ない、これ以上は下がれないか」

 

 カメラを持って薫が移動する。かなりの際に立って薫はカメラを構えた。

 

「薫くん大丈夫?落ちない?」

 

「大丈夫さ、じゃあ撮るからね。ハイ、チーズ」

 

 シャッターを切って薫は4人の方へ向かう。

 

「うーん、やっぱり違うかなぁ。....でもあれ以上は後ろに下がって写真撮るのって無理だよね....」

 

 撮れた写真を見て美咲が呟く。

 

「もう一回最初の写真見せてくれないかな?」

 

 花音が尋ねる。

 

「いいわよ」

 

 こころから花音は写真を受け取る。

 

「あっ、こっちの写真はもう一つの灯台の写真だね....ってあれ?」

 

 花音が何かに気づく。

 

「この写真ってさっき撮った写真とほとんど変わらない構図だよね」

 

「そういえばとーちゃんと撮った写真もこの辺りで撮ったような気がするなぁ」

 

「それに....背景もさっき撮った写真とこっちの写真はそっくりだね」

 

「"写ってる方"の写真は背景も構図も違う....」

 

 少し不穏な空気がその場を支配する。

 

 

 

 

 

 

 しばしの重い沈黙の後、こころが口を開いた。

 

「そういえばはぐみ、最初にこの写真撮った覚えが無いって言ってたわよね?」




 毎度の信じられない投稿ペースに私も驚いています。色んなキャラメインにしてこれからも書いていきたいな。


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SNS

 これまで書いていた東方の小説を書き終えることができたので、次のネタが何か思い付くまで不定期かつ気まぐれにこちらで書かせていただきます。(不定期と書いてる時点で色々察するところはあると思いますが....)

 あと、今回の話は『ある過去エピソード』を読んでいないと一部通じにくいネタがあると思います。今回はAfterglow関係のお話です。こちらを閲覧する前にそのエピソードを読むことをお勧めします。(ネタバレになるので深くは言えませんが....)


 今日はAfterglowのメンツで集まる予定だったが、バイトなどのメンバーの都合上蘭とひまりの2人だけでファミレスに集まることになった。注文を待つ間、ひまりはいつもと同じようにSNSを見ている。

 

「前々から思ってたんだけど....いつも見てて飽きないの?」

 

 蘭がひまりに尋ねる。

 

「そんなことないよ!色々知らない情報もあるし、フォローしてる人のプライベートとかが見れるのはすっごく面白いんだから」

 

「ふーん、そうなんだ。まぁでも程々にね。実際そういうのってデマとかが流れてることもあるんでしょ?特にひまりとかは割とそういうのに流されそうだし」

 

「だ、大丈夫だって!私だってそういうのは気を付けるようにもしてるんだし!」

 

「ふーん、ならいいんだけど。てかやっぱ写真撮るんだ」

 

 出された料理の写真を撮っているひまりを見て蘭が少しだけ呆れた様子で言う。

 

「まぁせっかくのおいしそうな料理なんだし、みんなで共有するのも悪くないじゃん?」

 

「そうなのかな、まぁひまりが良いならいいんだけど」

 

 そう言って蘭は少し笑った。

 

 

 

 その日の夜、ひまりはSNSにファミレスで撮った写真を上げた。というのも、最近自分の投稿に特に反応してくれる人が出てきたのである。今日も今日とてその人はひまりが投稿したすぐ後に返信を送ってきてくれている。どうやら相手の方のユーザー名は『ろーれんむ』というらしい。

 

「『いつも投稿楽しみにしてます!』かぁ、何かうれしいなぁ....この人も私と同じ高校生なのかな、この人の今までの投稿の感じからしてもそれっぽいし」

 

 ベットで寝転んでスマホを見ながらひまりは一人ニヤニヤする。もっと個人的にこの人と話をしてみたいとも思っていた。あわよくば一度会ってみたいとも思っていた。とはいえさすがに顔も素性も知れない相手にいきなり会う訳にも行かない。昼間蘭に言われたことを反芻する。....それでも少しお話しするくらいならいい、よね?

 

 ひまりはさっき閉じたアプリをもう一度開いた。

 

 

 

『こんばんは!こんな時間にごめんなさい。少しだけお話をしてみたいと以前から思ってたんですけど、大丈夫ですかね?』

 

 とりあえずそれだけメッセージを送ってみた。返信はすぐに来た。

 

「こんばんは、実は私もあなたとお話をしてみたいと前から思ってたので嬉しいです!」

 

 断られるかもしれないと思っていた分、この返信は願ったり叶ったりだった。そしてこの時間からしばらくの間、二人はお互いの趣味などについてずっと話していた。

 

 気がつくと普段ひまりが寝るくらいの時間になっていた。

 

『あっ、もうこんな時間じゃん!そろそろ寝ないと』

 

『えー?もう寝ちゃうんですか?もっと色々話したかったのにな』

 

『まぁ明日も学校だし....なのでまたいつか色々話そうよ』

 

『うーん、残念だなぁ....ひまりちゃん』

 

『....え?』

 

 おかしい、ユーザー名は本名なんて入れてないし、本名なんて会話の中に出してないはずだと言うのに。

 

『....ひまりって何のことですか?』

 

『何って、ひまりちゃんはひまりちゃんだよ。羽女2年の上原ひまりちゃん』

 

 背筋が凍った。おかしい、過去のログを見ても一度もそこまでの素性をこちらは明かしていないと言うのに。もしかすると元々自分の事を知っている人が自分のことを隠しているのか。

 

『あなたは誰....?羽女の生徒なの?』

 

 恐る恐る尋ねてみた。考えてみればこの発言は自分が羽女の生徒とバラしているようなものであったが、今のひまりにはそんなことを考えている暇もなかった。

 

『うーん、どうだろう。でも私はあなたのこと知ってるし、見たことあるよ?あなたも私の事は話には聞いてるハズ、だけどね』

 

 何か引っ掛かる返事だった。何が言いたいか判らない。判らないから尚更恐ろしい。

 

『どういうこと....?あなたは誰なの?それに何で私にそんなに興味を示してたの?』

 

 なるべく平静を装った文面を送る。少しでも相手の素性の情報がほしい。

 

『知らない方がいいと思うけどなー。どうしよう?』

 

 何か含みのある言い分である。

 

『いいから教えて!そもそも何でこんなことを....』

 

『楽しいからだよ。あんまり生きた人と話す機会なんて無いんだもん』

 

 心臓がキュッと締め付けられた。この言い分だとまるで向こうが幽霊か何かじゃ....さすがに言葉にも詰まっていると向こうからメッセージが来た。

 

『それにしてもキミが1年の夏休みの時以来だなぁ。モカちゃん、だっけ?あの娘は私の事を知ってたみたいだったけど....あの時は楽しかったよ』

 

 

 翌日、相手のアカウントは消えていた。




 久しぶりに上げました。大分昔の過去ストを少し使わせていただきましたが、割と人気なストーリーだったと思うので見たことあるなら覚えてる方も結構いると勝手に思ってます(適当)

 それにしても結局何者だったんでしょうかねぇ。


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深夜ロケ

 ※このお話を読んでいただく前に※

 この話は過去に作者が見た、とある話に大いにインスパイアを受けている作品です。もしかすると見覚えのある話かもしれませんが、ご了承ください。


「深夜のパステル*散歩!....最恐心霊スポットを....えっと....」

 

「(『夜の心霊スポットを踏破せよ』よ、彩ちゃん)」

 

「し、深夜の心霊スポットをてょうはせよ~!」

 

「あっはは!二段階でやっちゃったね~彩ちゃん」

 

「うぅ、だって怖いんだもん....」

 

 この日は深夜ロケで、パスパレのメンバー全員が心霊スポットへ行き、心霊写真の撮影を目指すコーナーの撮影であった。

 

 この日は名高いと言われる霊媒師である人も付いており、一昔前の心霊ロケを彷彿とさせるような雰囲気であった。その人の話曰く

 

「この家は2年ほど前に一家心中が起きた場所でして、それ以来誰も棲んでおらず未だに成仏していない幽霊が彷徨っています。ここからでも強い怨みの気を感じますね」

 

 ....とのことである。話を聞いた彩やイヴは顔を真っ青にして震えている。その様子を見た日菜は

 

「だーいじょうぶだって!それじゃあ早速皆でパパっと行っちゃおっか!」

 

 と、言って先陣を切ろうとする。それを見た番組のスタッフが慌てて日菜を止める。

 

「あっ、ちょっと待って下さい。今回のロケなんですけど....」

 

 そう言って日菜に何かを手渡す。

 

「何これ?」

 

「クジです。今回はこれでチーム分けをした上でこちらの廃墟の方へ行く感じになります」

 

 それを聞いたメンバーが全員ピクリと反応する。続けてスタッフは

 

「ちなみにチーム分けは2人が2組、そして余った方は一人で行ってもらうことになります」

 

 と、補足する。

 

「ひ、一人....ですか?」

 

 怯えた表情でイヴが小さく言う。

 

「ええ、と言うわけでぐいっと引いちゃって下さい」

 

「そんなお酒みたいに....だ、誰かと一緒になれますように!」

 

 彩がそう掛け声を出してみんなが一斉に引いた。

 

 

 

 

「うぅ....千聖ちゃん出来るだけ離れないでね....」

 

「分かったから彩ちゃん少し離れなさい」

 

「うぅ、そんなこと言われてもぉ....怖いものは怖いんだってば!」

 

「まったくもう、それにしても確かに真っ暗で雰囲気はあるわね」

 

「千聖ちゃんまで怖いこと言わないで~!」

 

「大丈夫よ、全く心配性なんだから....」

 

 

 ドスン!

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「きゃっ!?」

 

 いきなりの物音に彩だけでなく千聖も声を上げる。

 

「なになに!?今の音なに!?」

 

「お、落ち着いて彩ちゃん。多分何かが落ちた音よ。だ、だから心配しないで」

 

「うぅ~....そう言われてもぉ....もうやだよぉ....」

 

 半泣きになって彩は千聖にひっついたまま進んでいく。この後は特に不思議なことが起こることもなく、何枚か写真を撮って戻ることができた。

 

 

 

 

 

「イヴちゃんホントに大丈夫なの?最初は大分怖がってたみたいだけど」

 

「だ、大丈夫です!物の怪に怯えるほど私のブシドーはそう簡単に揺るぎません....!」

 

「ならいいけど、無理しちゃダメだよ?あたしはこういうの平気だからよくわかんないけど」

 

「日菜さんはゴウタンでかっこいいです。私も....」

 

 

 

 ガタッ!ドン....!

 

 

 

「うわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 暗闇の中の突然の物音に二人は驚いた様子である。

 

「急に音がしてびっくりしちゃった。もしかしたらこの辺にいるのかな?」

 

「ヒ、ヒナさん!そんなことある訳ないですよ....きっと古い建物ですから何かが揺れただけです....」

 

「そうかな~?それならこの辺特に集中して撮っちゃおう!何かいるかもしれないし!」

 

「ええっ!?私は....」

 

「イヴちゃんは無理しなくてもいいって。あたしがパシャパシャッとやっちゃうから!」

 

「....ここで諦めるのはブシの名折れです!私も撮ります!」

 

 好奇心と、恐怖への克己心とで温度差はあったが二人とも多く写真を撮ってその後は何事もなく戻って来た。

 

 

 

 

 

「しかしジブンが一人になるとは....さすがにこの暗さで一人は心細いですね....」

 

 運悪くソロパートを任されてしまった麻弥はそう言いつつも道中道中でしっかりとシャッターを切っていく。

 

「確かに過去に幽霊騒ぎってことは学校でもありましたが....今回は正直別格ですよ、あの時と比べてあまりにもロケーションが....」

 

 

 

 ガタン....!ギシッ....

 

 

 

「うわぁっ!?何ですか今の音!?」

 

 そう言って麻弥は身をブルっと震わせる。おそるおそる音のした方を向くが、何も視えない。

 

「ま、まぁ古い建物ですしこんなこともありますよね....ラップ音とかではないですしきっとそういったものの類じゃないですよね.....一応ここも撮っとかないと....にしても意識したらホントに何かがいるような気配がしてきましたよ....」

 

 怯えつつも麻弥は無事に生還した。

 

 

 

「おかえり麻弥ちゃん!」

 

「うわわっ!?彩さん!どうしたんですか!?いきなり抱き着いてきて!?」

 

「だって、麻弥ちゃん一人だし大変だったと思ったから....あんなところ一人でなんて私には無理だったと思うもん!」

 

「私もマヤさんには頭が上がりません!」

 

「そうね。あの様子だと彩ちゃんは一人だったら途中で引き返してたかもしれないわね」

 

「あたしは一人だったらどうだっただろう?でも確かに不気味かもねー」

 

 状況が状況だったため特に彩とイヴからの麻弥への賛辞が惜しまれない。

 

 

 

「さて、この状況に水を差すのは少し気が引けるかも知れませんが本番はここからですよ」

 

 少ししてスタッフが間に入る。

 

「えっ!?もうロケは終わったんじゃないですか?」

 

「ええ、捜索は終わりですが今回の目的は『心霊写真』を撮ることです。なので皆さんの撮った写真をこれから確認することになります」

 

「そういえばそうだったね。あたしはたくさん撮って来たから何か写ってるの取れてるかも!」

 

「....その日菜ちゃんの前向きさは時として本当に羨ましいわ」

 

 

 

 翌日、ロケで撮られた写真の確認がパスパレの立ち合いで行われた。とはいえ心霊写真などそうそう撮れるわけでもなく、ただただ不気味な廃墟の写真だけが写っているだけである。その間五人は昨日のロケについて談笑している。

 

「昨日はどうだった?私と千聖ちゃんが行ったときは何か物が倒れてきたような音がしたんだよ....」

 

「あっ、アヤさんもですか?私とヒナさんが行ったときも途中で何か物音がしました。えっと、確か布団が敷かれてあった部屋だったような....」

 

「えっ!?皆さんもですか!?ジブンも寝室らしき部屋で物音と床が軋むような音がしました。そこ確かテレビとかクローゼットとかが置いてあって部屋ですよね?」

 

「麻弥ちゃんの時も物音がしたの?」

 

「ええ、一人だったせいか妙に気配っぽいものを感じた気もしました....それにしてもみんなが同じ部屋で物音を経験してるって何かブキミですね....」

 

「ま、麻弥ちゃん!そんな怖いこと言わないでよ~....」

 

「す,スミマセン....つい思ってしまったもので....」

 

「すみません、五人とも少しこちらに来て頂いてよろしいですか?」

 

 話しているところ、急にスタッフに呼ばれた。

 

「どうしました?」

 

「えっと、日菜さんが撮ったこの写真なんですけど....」

 

「なになに!?何か写ってた!?」

 

 興味津々と言った様子で日菜が尋ねる。

 

「いえ....あとこの麻弥さんが撮った写真と、千聖さんの撮った写真の三枚見ていただいてよろしいでしょうか?」

 

 そう言われた五人は、三枚の写真を見比べる。特に何かが写っているようには....

 

「あれ?」

 

 イヴが何かを見つけたようだ。

 

「どうしたんですかイヴさん?」

 

「えっと....この麻弥さんが撮った写真なんですけど....何か影のようなものが写っているように見えるんです....」

 

「えっ!?」

 

 驚いた四人は一斉にその写真に視線を向ける。確かに言われた通りよく見ると暗い中に薄ーく影が見える。

 

「ほんとだ....で、でも多分撮った麻弥ちゃんだよきっと....」

 

「いやこれ....ジブンだけじゃなくてもう一つうっすら見えますね」

 

「で、でも光の当たり方で複数見えることもあるから....」

 

「でも影の形が全然ちがうよー?」

 

「....」

 

 冷やっこい空気が流れる。

 

「そ、そういえばさっき日菜ちゃんの写真と千聖ちゃんの写真もって言ってましたが、何かあったんですか?」

 

 空気を打開すべく彩が切り出す。

 

「えっと、先程の麻弥さんの写真と同じところで撮られたらしきものなんですけど....ここ見てください」

 

 スタッフに促され、そちらを見る。

 

「ここ、クローゼット。千聖さんの写真は閉まってるけど、日菜さんの写真は開いてるんですよ」

 

「それって....もしかして本物の....」

 

「やだやだ!そんなことあるわけないよ!た、たまたま風かなにかで開いたんだよきっと!日菜ちゃんたちの方が後で撮ったからそういう風になったんだよ―」

 

「さすがにそれは無理あるんじゃない?確かに涼しかったっちゃ涼しかったけどスキマ風とかはなさそうだったし。 」

 

「ひ、日菜ちゃん!そういうことは分かってても言っちゃダメ!」

 

 彩が小パニックになって言う。もう万事休すと言った感じである。

 

「でも、この写真多分心霊写真じゃないですよ」

 

 急に昨日いた霊媒師が口を挟む。

 

「わっ!?」

 

 いきなり出てきて五人とも思わず声をあげる。

 

「ど、どういうことですか?」

 

 千聖が尋ねる。

 

「この写真は霊の気配を感じません。オーブが飛んでいるわけでも無いですし、この写真をはじめとして、昨日撮られた写真にはどれにもそのような気配を感じませんでした。」

 

 霊媒師がそう説明する。

 

「な、なんだぁ....よかったぁ....」

 

 脱力しきった彩が心底安心したように言った。他のメンバーもそれを聞きホッとした様子である。

 

 

 

 

 昨日心なしか背後に気配を感じたことを思い出し、『ある仮説』を立てた麻弥を除いては―



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地図アプリ

 私自身もあまりの方向音痴に、友人から匙を投げらました。


「ふえぇ....ごめんね千聖ちゃん。送ってもらっちゃって....」

 

「大丈夫よ。連絡を聞いた時は心配だったけど、すぐに場所が分かってよかったわ」

 

「うん、よく行く場所でもいつもと違う時間に普段来ない場所に行ったら、どうしても全然来たことのない場所に感じちゃって....」

 

「まぁ気持ちはわからなくもないけど....そうだ、それならスマホの地図機能を使えばいいんじゃないかしら?」

 

「地図....確かに迷ったらどうしても慌てちゃってどうしたらいいか分からなくなっちゃうこともよくあるし、今度もし迷っちゃったら地図アプリ開いてみたらいいかも」

 

「先に『ここからなら家に帰れる』っていう場所に目処を立てておけば、そこからは大丈夫だと思うわ。駅だとかどこかの店を選んで、そこまで地図を使って行けたらあとは慣れた道を進むだけだから」

 

「なるほど!それならよく行くコンビニとかだったら家からも近いし、やってみようかなぁ。あっ、話してたらお家着いちゃった。ありがとう千聖ちゃん。参考にさせてもらうね」

 

「ええ、まぁ迷わないのが一番いいのだろうけど....」

 

 そう言って二人は分かれた。

 

 

 

 数日後、花音と千聖は少し離れたカフェに向かった。

 

「それにしてもなかなか大変だったね。やっぱり電車に乗り継がないといけないのは色々後のこと考えなきゃだからどうしたらいいか分からなくなっちゃうよね」

 

「ええ、私もこれに関してはどうしても克服できないわね....駅のホームとかも場合によっては変わってくるから気が抜けないわ....」

 

「でもこうやって今千聖ちゃんとお茶が出来てるのはやっぱり嬉しいな」

 

「ふふっ、それは私もよ花音。付き合ってくれてありがとう」

 

「いやいや、千聖ちゃんだって誘ってくれてこちらこそお礼を言わなくっちゃ....」

 

 優雅なカフェタイムは二人が思っていたよりも長く続いた。

 

 

 

「あら、もうこんな時間....明日もあるしそろそろ帰らないと」

 

「ホントだ....楽しい時間はあっという間だね。帰りの電車大丈夫かな....」

 

「だ、大丈夫よ。一度行った所だから。花音も心配しすぎよ。もう少し自信を持てばきっと克服のきっかけになるわ」

 

「そ、そうだね。私自身が弱気じゃダメだよね」

 

「まぁその辺りはゆっくりでいいのよ。無理に直そうとしても良くないわ」

 

「うん、ありがとう千聖ちゃん」

 

 

 

 

「何とか帰ってこれたね....」

 

「そうね....一回乗り遅れた時はどうなるかと思ったけど、何とかいつもの駅まで来れたわ。思ったよりも遅くなってしまったけど....」

 

「うん、でも駅の人に聞いたら何とか分かったから安心したよ」

 

「あの時の花音は頼りになったわ。まさか直接聞きに行くなんて驚いたわ」

 

「えへへ、....あっ、ここでお別れかな」

 

「みたいね。一人で大丈夫かしら?」

 

「うん、いざとなったら前に教えてもらった地図で道を確かめるから大丈夫!....出来ればお世話になりたくないけど....」

 

「そう、ね。それじゃあ気を付けてね」

 

 いつもと同じところで二人は別れた。

 

 

 

「地図アプリ、かぁ。今のうちに目印になるところを決めとこうかな....あの店なら載ってるかな....あっ、あった。とりあえずここを経由してから今日は真っ直ぐ帰ろう」

 

 手近なお店を見つけたので、花音は後のことを考えていつもとは少し違う帰り道を行くことにした。

 

 それにしても普段行く道とはいえ、最初に花音の言った通り街灯や車のヘッドライトなどといった局地的な灯りだけでは日の出ている時間ほどに十分な地の利が得られない。

 

 とりあえずこの暗闇ではスマホが一番の頼りである。

 

 

 

 

「えっと地図では....ここかぁ、....あれ?」

 

 

 花音はすぐに異変に気づいた。目印にしたはずの店が地図上では示されているが、目の前にあるのは空き地である。座標にズレでも生じただろうか?

 

 というよりもこうなってしまった以上、帰宅手段がない。いつも通りに真っ直ぐ帰ればよかった....と、公開したところでもはや後の祭りである。

 

「ふえぇ、どうしよう....そうだ、別の場所でもまだ家の近くで分かるところがあるはず....コンビニとかなら....」

 

 花音は地図に示されている、家の近くのコンビニに向かうことにした。

 

 

 

「え....」

 

 確かに地図はコンビニを示している。それならばなぜ眼の前には墓地が広がっているというのか。何を言うにもまず、よりによって目の前が墓地だと言うのが嫌に縁起が悪い。

 

 加えて深夜の墓地となればそういう感じのオーラも半端でない。急いで花音は踵を返して何処かへ走り始めた。

 

 

 

 その後も何度か花音の知る施設などを地図に従って行ったが、その悉くが見たこともない『謎の場所』であった。

 

「どうしよう....ここってどこなの....?」

 

 花音は携帯をしまって無我夢中に走った。こうなれば信じられるのは自分しかいない。とりあえず灯りのある方へ向かった。ヒトに残された野性的な本能だろうか。

 

 

 

「はぁ、はぁ....あれ?ここって?」

 

 気がつくと花音は最初にいた駅まで戻ってきていた。ここは本当に駅なのだろうか?もう一度携帯を確認して....いや、やめておこう。

 

「とりあえず....夜でもいつもと同じ帰り道なら大丈夫、だよね?」

 

 おそるおそる、慣れているはずの道を確かめるように進んでいく。ゆっくり、ゆっくりと。

 

 

 

 いつもよりも倍近くの時間をかけて花音は何とか家に辿り着いた。どっと疲れた花音は家の床にへたり込む。ホントに何だったんだろうか?

 

 何時になったんだろう....そう思い部屋の時計を見る。普通ならば大体7時半くらいのはずだが、色々彷徨う羽目になった訳だし今は何時になっているのか皆目検討もつかない。

 

「あれ?」

 

 壁掛けのアナログ時計は7時42分を指している。色々大変な経験をしたせいで体感の時間とズレが出たのだろうか。いや....それとも

 

 

「うん、多分夢か幻だったんだよね。私疲れてたのかな....今日は早く寝ないと....」

 

 

 小さなあくびをして伸びをする。あんな非現実なことが起こるはずもない。そう思い小さく笑って見た地図の移動履歴は同じ箇所を何周もグルグルとなぞっていた。



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