とある教師の業務日誌 (ダレンカー)
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1話

○月×日

 

川村恭一、23才、7月8日生まれ、かに座、AB型。

職業 IS学園教師。

 

 

学園長に業務日誌なるものを書くように命じられたので初めに自分の事を書いてみた。

なんだか一気に日記みたいになったけど。

 

 

去年からここIS学園で教師をしているけれど、あまり仕事をした覚えがない。

それを見かねたのかこれを書くように言われた。

学期末に提出らしい。なんとも気の長い話だ。

 

 

 

俺ならきっと忘れてる。でもまぁ言われたからにはやるしかない。

気軽に、それこそ日記のように書いていこうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月△日

 

今日から新学期だ。手始めに入学式があった。

会場の準備とかで結構忙しかった。

一年で俺が一番働く日かもしれない。疲れた。

 

 

今年は初の男性操縦者が入学するとあって色々大変だった。

それもなんと織斑先生の弟さんだそうだ。

俺もチラッと見たけどイケメンだった。織斑先生に似て。

そう先生に言ったら出席簿で殴られたけど、解せぬ…。

 

ISかぁ…。俺は動かせないけど楽しそうだよね、空飛ぶの。

改めて俺ってなんでここにいるんだろ?不思議に思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月▽日

 

 

 

学園長になんで俺がここにいるか聞いてみた。

そしたら色々経験豊富だからって言われた。そうかな?

確かに色んな国で軍隊とかにいたことはあるけどそれだけだ。

ISで襲われたら絶対勝てない自信がある。嫌な自信もあったものだ。

 

 

 

話は変わるけどどうやら例の織斑君、入学早々大変なことになっているらしい。

クラス代表を賭けて代表候補生と試合をするんだそうだ。それも一週間後に。

 

 

織斑君って、ISを動かしてまだそんなに経っていないんじゃなかったっけ?

それで候補生と試合って…。大丈夫なのかな?

 

 

織斑先生はなんか機嫌が悪かった。

真耶ちゃんに聞いてみたらその候補生、オルコットさんというらしいけど。

彼女がヒートアップして日本や織斑君を馬鹿にしたそうだ。

 

 

そりゃ怒るよね、だって彼女は元日本代表で織斑君のお姉さんだもの。

大切なものを二つも侮辱されたんだから機嫌も悪くなるか。

 

 

でも俺にできることなんてないから二人に缶コーヒーを差し入れしてあげた。

そしたら眉間のしわが少し減った。よかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月▲日

 

 

元気なのはいいことだと思うけどドアとか壁とかを壊すのはやめてほしい。

直すのは俺なのだ、暇だから別にいいけど。

 

 

 

織斑君、女の子と同室なんて大変だなー。

年頃の男の子は色々デリケートなのに。

どうせなら俺と同室にでもしてあげようかと思ったけど大人と一緒っていうのもあんまり変わらないか。

 

 

織斑先生は寮監だしね、それにあの人公私混同とかしないだろうし。

織斑君に会ったら、優しくしてあげようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月▼日

 

 

今日は初めて織斑君と話をした。

会った場所が男子トイレだったのがあれだけど。

 

 

織斑君はIS学園に男の教師がいることにすごく驚いた様子だった。

もしかしてIS乗れるんですか?とも聞かれた、乗れません。

 

 

でも彼モテるんだろうなー。爽やかだしイケメンだし。

男の俺でもそう思ったんだから相当だろう。

 

 

気になって織斑先生に弟君モテるんでしょうねと言ったらすごい顔をしていた。

なんでだろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月☆日

 

 

 

織斑君が剣道場でしごかれていた。なんだったんだろう?

ISの訓練はしなくてもいいのかな?乗れないからよくわからない。

 

 

女子生徒に混じって見学していたら声をかけられた。

いや、助けを求められたが正しいのかな?

 

 

一緒にいた女の子は水を差されたようで顔をしかめてたけど。

名前は篠ノ之さんというらしい。どっかで聞いたことある苗字だ。

 

 

邪魔するのもあれだったからすぐにいなくなったけど悪いことしたかな?

完全に見捨てられた!って顔してたもん。

反対に篠ノ之さんはうれしそうだったけど。

 

 

 

 

 

 

その帰りにベンチで缶コーヒーを飲んでいたらなんでこんなところに男が!

って叫ばれた。

なんだか去年も似たようなことがあった気がする。

すぐに俺の事なんて忘れるんだけどね。

 

 

声の主を見ると金髪縦ロールの美少女が立っていた。

見覚えはないから多分一年生だと思う。

 

 

その後も色々罵られたけど正直覚えていない。

俺からすれば慣れっこだからだ。女尊男卑とかもどーでもいいし。

何も言い返さない俺にイライラしながら彼女は去って行った。

うん、なんかごめんね。

 

 

 

 

 

 

 

 

○月★日

 

 

ベンチでボーっとしていたら、楯無ちゃんと会った。

生徒会室から逃げてきたそうだ。

生徒会長がそれでいいのかと思ったけどそれなら俺は教師でこんなだし。

 

 

ちなみに楯無ちゃんとは結構仲が良かったりする。

去年からこうしてたまに一緒にサボったりお茶したり。

 

名前呼びも許可してくれた。

はじめはたっちゃんと呼んで?って言われたけど俺、南ちゃんじゃないし。

そう返したら不思議そうな顔された覚えがある。

 

 

ジェネレーションギャップって、変な所で感じるもんだよねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月◎日

 

 

今日は織斑君の試合があった。

相手を見てみて俺を罵った子だったのは驚いたなぁ。

 

 

 

結果は惜しくも織斑君の負けだった。

決め台詞まで言ったのにね、残念。

 

 

締まらない終わりに織斑先生は頭を抱えていたけど充分すごかったと思う。

すごいですねって言ったらちょっと嬉しそうにしていた。

それを指摘した真耶ちゃんは出席簿で殴られていた。

学習しようね?真耶ちゃん。

俺もついでに殴られた。なんでさ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月●日

 

 

オルコットさんに謝られた。驚いた。

なんでもあの試合で思うところがあったらしい。

そう話すオルコットさんはうれしそうだった。

 

 

でもやるなぁ織斑君。もう女の子を落としちゃうなんて。

やっぱり俺が思った通りモテるようだ。

 

 

やっぱりモテますね織斑君と織斑先生に言ったらまたすごい顔をしていた。

ちょっと面白かった。

 

 

 

 

その夜一人で部屋にいると織斑先生が訪れた。

手に缶ビールを持って。どうやら付き合えということらしい。

でも俺、酒を飲むと無性にタバコが吸いたくなるのだ。

織斑先生をタバコ臭くするわけにはいかない。

 

 

そう言ったらニヤリと笑ってついて来いと言った。

そして屋上に連れていかれた。

 

 

ここなら問題あるまい?

そう笑う先生はイケメン過ぎたと思う。俺が女なら惚れていた。

だから巷でお姉さま呼ばわりされるんだなと納得した。

 

 

一緒に飲むビールはおいしかった。

明日からも、頑張ろうと思う。

 



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2話

 

 

 

△月○日

 

 

 

 

今日も今日とて仕事がない。

二、三枚書類を片付けたら暇になってしまった。

 

 

 

 

なのでブラブラしていると、丁度織斑先生のクラスがグラウンドで実習をやっていた。

折角だから少し見学していると、織斑君が空から地面に高速で落下していった。

 

 

ちょっと面白かったのは秘密だ。

授業が終わってグラウンドの穴を一人埋めようとしていた織斑君はあまりにも不憫だったので手伝ってあげた。

すごい感謝されて、今日食堂でパーティーがあるから是非と誘われてしまった。

いや、いいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

誘われたからには顔だけでも出しておこうと食堂に向かった。

まぁ、すぐに帰るつもりだったけどね。

ああいう場は大人がいると途端にシラケちゃうものだし。

 

 

 

食堂に着いたら何やら織斑君が取材を受けていた。

相手は新聞部の黛さん、楯無ちゃんの友達だから何度か話したことがある。

 

 

 

俺に気づいた織斑君と黛さんに招き寄せられ俺も取材を受けた。

いや、俺の事なんて皆どうでもいいと思うんだけど…。

 

 

聞かれたのは彼女の有無とか理想のタイプとか。

彼女はいない。好みのタイプはあんまり考えたことなかったから適当に一刻館の管理人さんと答えておいた。

通じたのは黛さんだけっぽかったけど。そりゃそうか。

 

 

 

 

 

そしてその帰り道、私服姿の女の子と遭遇した。

どうやら転入生らしく、受付を探していたそうだ。

 

 

一応俺も教師なので案内してあげた。

明るくお礼を言う姿に好感が持てた。

やっぱり元気なのが一番だよね。

 

 

 

名前を聞きそびれちゃったけど、ま、いいか。

なんだかんだ濃い一日だったなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△月△日

 

 

 

 

昨日あった転入生、二組に入るらしい。

名前は凰 鈴音さん。中国の代表候補生だそうだ。

 

 

 

織斑先生によると、織斑君の昔馴染みだとか。

じゃあもしかして?と聞くとなんとも微妙な顔をしていた。

やっぱり、織斑君てモテるんだなぁ。

 

 

 

彼女とか作らないんですかね、と聞くとあいつはそういうレベルにないって言われた。

どういう意味だろう?

 

 

でもなんだか疲れた様子だったので、また缶コーヒーを差し入れしてあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△月×日

 

 

凰さんが二組のクラス代表になったそうだ。

そして、クラス対抗戦で織斑君と戦うんだとか。

 

 

 

また候補生と戦うなんて大変だなぁ。

他人事とはいえ同情してしまう。

せめて俺だけでも優しくしてあげよう。

 

 

 

今日は凰さんと再会した。

改めてお礼を言われたので、対抗戦頑張ってと言っておいた。

そしたら鈴でいいと返された。やっぱり元気でいいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△月▽日

 

 

 

夜中、学園を見回っていたら、整備室から光が漏れていた。

何かと思って中を覗いてみると、すごい勢いで端末を操作するメガネの女の子がいた。

 

 

一応、こんな時間なので声をかけた。

ビクッ!と背中を張り上げてこちらを見る姿にちょっと罪悪感が湧いたけど軽く注意をしておいた。織斑先生だったら大変だったよ?って。

 

 

 

それには同意のようで激しくうなずいていたのは面白かった。

名前を聞くと、更識 簪さんというそうだ。

楯無ちゃんと同じ苗字だったから妹か何か?って聞くと走り去ってしまったけど。

何か悪い事聞いちゃったのかな?今度謝らなくちゃ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△月▲日

 

 

 

 

偶然、楯無ちゃんに会ったから昨日の事を話してみた。

そしたらものすごく気まずい顔になってしまった。

詳しくは話せないけど、あまり妹と上手くいってないと教えてくれた。

 

 

 

 

まぁ色々あるんだろうね。楯無ちゃんの家も特殊みたいだし。

 

 

 

当然俺にできることなどないから、せめて缶コーヒーをおごって上げた。

それと話くらいなら聞くよって、俺暇だし。教師だし。

 

 

 

 

 

そういうと笑っていた。あと、ありがとうって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△月☆日

 

 

 

 

 

織斑君に、先生って強いんですか?って聞かれた。

なんでも織斑先生に言われたそうだ。

 

 

 

弱いよ?IS使えないし。

そう答えるとじゃあ道場行きましょうと誘われた。

織斑君、男との交流に飢えてるんだろうな…。

 

 

 

 

 

優しくすると決めていたので付き合ってあげた。

でも俺剣道できないんだよね。まぁ他に何ができるわけでもないけど。

それでもさすがにこの前まで普通の中学生だった子には負けなかった。

 

 

 

 

終わった後の織斑君の目が輝いていた。あれ?なんか懐かれた?

たまに稽古をつけてほしいと頼まれた。隣にいた篠ノ之さんとオルコットさんの目が怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

△月凸日

 

 

 

 

 

織斑先生に昨日の事を話した。

あと、ちょっと苦情も。

俺なんて大したことないんだからあまり誇張しないでほしいと。

 

 

 

 

そういうと今度お酒をおごってくれるそうだ。

なので許した。おごってもらうの、好きなんだよねぇ。

 

 

 

 

あと織斑君に部屋を尋ねられた。遊びに行っていいか?って。

あんまり教師の部屋に生徒が行くのもどうかとも思ったけど、

じゃあ対抗戦で勝ったらいいよってことにした。

 

 

これならば織斑先生も許してくれるはずだ。

なんだかんだ弟の事大切みたいだし。

 

 

 

 

最近女子生徒達が俺と織斑君を見てこそこそしているけれど、なんなのだろうか?

 



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3話

 

 

 

×月○日

 

 

ホモが嫌いな女子はいないらしい。

いや、知らんがな。

 

 

 

織斑君と俺の関係を噂する生徒がこの頃増えているらしい。

いや、まぁ、年頃だよねぇ。

今まで女子しかいなかった学園に現れた男子生徒、しかもイケメン。

なかなか自分たちとの恋愛を想像するのも難しいのかもね。

 

 

 

だけど俺本人に攻めか?と聞いてきたときはこの学園の未来が心配になった。

その子は偶然居合わせた織斑先生に連行されていったけど。

 

 

せめて織斑君に伝わらないことを願う。

年頃の男の子がこんな環境でそんな事実を知ったら…ねぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

×月△日

 

 

ふと思い立って、夜中にまた整備室に行ってみた。

まだ謝ってなかったし。気になったから。

 

 

 

ノックをして部屋に入ると、こわごわと俺の方を見る更識簪さんの姿が。

とりあえずこの前の事を謝罪した。急に不躾な事を聞いたねって。

あと楯無ちゃんに上手くいってないと聞いたと。

 

 

そしたら別に怒っていないって、あとこちらこそ走り去ってごめんなさいと謝られた。

うん、この子も優しくていい子だね。

それから少し話をした。まぁ、口数は決して多くなかったけど。

あんまり遅くならないようにと言って部屋を後にした。

最初から打ち解けられるとは思っていなかったから上手くいった方だと思う。

 

 

 

また、今度訪ねてみようと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×月×日

 

 

急用が入った先生の代わりに授業をやった。

たまにあるんだよね、こういうの。

 

担当したのは楯無ちゃんのクラスだった。

俺に気づいた楯無ちゃんがウインクしてきたからし返すと頬を少し赤らめていた。

背伸びした女の子が照れる姿って、可愛いよね。

 

 

 

 

授業の後、昼食をとるため食堂に向かったら、織斑君と凰さんの姿を見かけた。

でもなんだか仲が悪そうに見えた。

というよりは凰さんが織斑君を避けているような…。

何かあったのだろうか?

 

 

ここまで書いて思い出したけど、確か名前で呼んでいいと言われてたっけ。

今度会ったら、呼んでみようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×月●日

 

 

 

鈴ちゃんと呼ぶことをちゃんと許可してもらった。

今日も食堂であった時に。

 

 

 

その時、織斑君の事を聞いてみたんだけど途端に不機嫌になってしまった。

いや、そこまで踏み込むつもりもなかったんだけど話くらいなら聞くよっていうと

その後三十分くらい愚痴に付き合わされてしまった。

 

 

いわく、鈍感馬鹿。そしてキングオブ唐変木。

なるほどね、そういうことだったのか。

何時か織斑先生が言っていた言葉の意味がやっと分かったよ。

 

 

それでいてあんな風に女の子を落としちゃうんだからそりゃたまったもんじゃないだろう。

少し、いやかなり同情してしまった。恋する女の子たちに。

 

 

 

 

でもね?鈴ちゃん。だからってISで壁を壊すのはやめてほしいかな。

直すの、俺なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×月▲日

 

 

 

織斑先生に織斑君って鈍感だったんですねって言ったら例の顔をしていた。

あの顔、やっぱり面白い。織斑先生に言ったらぶん殴られると思うけど。

 

 

そしたら同じ男としてどう思うか聞かれた。

いや、俺あんなにモテないしそんな事言われても困る。

 

 

でも、ああいうのは周りがどんなに言ってもしょうがないんだよね。

せめて好きな人でもできれば変わると思うんだけど。

 

 

先は長くなりそうですねと言ったらまた盛大にため息を吐いていた。

いつものように缶コーヒーをあげたら笑っていた。

最近お前に餌付けされているようだと。確かにそう見えるかもね。

二人で少しの間笑いあった。ちょっと織斑先生がかわいく見えたかも。

 

 

 

 

これもばれたら殴られそうで怖いけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

×月▼日

 

 

 

今日はクラス対抗戦があった。

いやはや、大変な一日だったよホント。

 

 

 

 

いつものように織斑先生や真耶ちゃん、

そして今日は篠ノ之さんとオルコットさんと一緒にピットで試合を観戦していた。

 

 

序盤は鈴ちゃんの専用機の衝撃砲で圧倒されていた織斑君。

それを心配そうに見つめる二人、すっかり恋する乙女の目だったなぁ。

 

 

俺は中立のつもりだったから特に反応はしなかったんだけど、どっちの味方だ!

的な視線は勘弁してほしかったな、俺一応教師だよ?

 

 

 

そして織斑君が徐々に対応してきた瞬間、異変が起こった。

アリーナに轟音が響き渡って正体不明のISが侵入してきたんだ。

 

 

 

すぐに真耶ちゃんが二人に避難を指示したんだけど、

織斑君は教師部隊が来るまで引き止めとくって。

放っておいたら観客にも被害が出るかもしれないからと。

 

 

 

ちょっとおかしかった。まるでヒーローみたいだなって。

やっぱり織斑先生の弟だなって。

そんな俺に織斑先生は笑みを返して織斑君に応戦の許可を出した。

救助までに時間がかかることは確かだったしね。

 

 

 

 

真耶ちゃんが必死に抗議する中、織斑先生がコーヒーを入れだした。

これでも飲んで落ち着けって。

そしたら何を思ったか塩を入れだしたんだ。うん、思わず吹き出しちゃったよ。

問答無用で飲まされたけど。酷い味だったなぁ。

 

 

 

ああ見えて内心動揺してたんだろうな、織斑先生。

もう少し素直になればいいのに。

 

 

 

あ、篠ノ之さんが現場に向かおうとしたのを止めたのは大変だった。

邪魔をするなら…!って木刀で切りかかってくるんだもん。

怖かったなぁ。まぁすぐに鎮圧したけどね。

 

 

 

頭に血が上った相手に後れを取るほど、俺も弱くないよ。さすがに。

 

 

 

君が行くことで織斑君の危険が30%は増えるよって言ったらおとなしくなった。

こういうのは若さゆえのってやつだと思う。だから怒らないよ?俺は。

 

 

 

 

そして二人は見事敵を倒して見せた。うん、ホントよかったよ。

最後は油断したのか一撃くらっていたけど、それも大したことなかったみたいだし。

 

 

問題のISは無人機だったらしい。それも未登録のコアだとか。

正直ISの事は良くわからないからへぇーと言ったら織斑先生に呆れられた。

それからここはもういいからとアリーナの修繕に向かわされた。

うん、俺はわりといつも通りだったね。

 

 

またちょっと、自分の存在意義が分からなくなったかも。

 

 

 

 

 

 

 



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4話

 

☆月○日

 

 

 

 

篠ノ之さんがシュンとしていた。

どうやら、織斑先生に相当叱られたようだ。

事情を知った織斑君はなぜか俺に礼を言ってきたけど。

いわく、箒を助けてくれてありがとうと。

 

 

仕方なかったとはいえ女の子に手荒な真似をしたから怒ってくるかと思ってたけど、

そんなことなかったみたいで安心した。積極的に嫌われたいとは思わないからね。

 

 

 

当の篠ノ之さんは俺と会った時気まずそうな顔をしていた。

俺が怒ってないよ?と伝えるとすごく意外そうな顔をした後謝られた。

まぁ良くも悪くもまだ子供だ、これからの成長を見守ろうではないか。

 

 

 

だからといって、次も木刀で殴りかかられたらさすがに怒ると思うけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆月△日

 

 

 

 

今日も整備室に行ってみた。

ノックして部屋に入ると、前回ほどではなかったけどちょっと驚いたような顔で迎えられた。

また来るとは思ってなかったんだろう。

 

 

 

途中で買った缶コーヒーを掲げて少し休憩しない?と誘ったら戸惑いながらも承諾してくれた。

話題は特になかったんだけど、部屋にあったアニメのDVDについて触れると

顔を赤くして隠してしまった。

おかしいですよね?って聞かれたから、何が?俺も結構好きだよ?

っていうとおずおずと話しだした。

 

 

ロボアニメとかヒーロー物が好きらしい。

ロボかぁ、俺はどちらかというとラブコメが好きだからなぁ。

おススメを貸してもらうのもいいかもしれない。

 

 

 

俺が結構マンガとかアニメを好きなのに驚いた様子で、何を読むんですか?

って聞かれたから、小説、ラノベ、哲学書、絵本、児童文学、マンガ、

とにかく何でもっていうと、

 

それはいくらなんでも雑食すぎるんじゃ…と苦笑いで言われた。

うん、ちょっとは仲良くなれたかな。

 

 

次は、食堂とかで話せたらいいかもね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆月×日

 

 

楯無ちゃんに、簪ちゃんを口説いているのか!って問い質された。

楯無ちゃん、シスコンだったんだね。

 

 

ただ、たまに話をしているだけだと言っても、なかなか信じてもらえなかった。

その後妹の可愛さについて延々と語られた。

 

 

 

なんでこんななのに仲違いしてるんだろうかすごい気になったけど

あまり突っ込んだこと聞くのもあれだしね。

 

でも、今まで気の休まるものだった楯無ちゃんとの遭遇が、なんだか怖くなってしまった。

話を聞くとは言ったけど、妹の惚気を聞くとは言ってない。

いくら俺が暇だとしても勘弁してほしい。ホント、マジで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆月●日

 

 

今日は、織斑君に稽古をつけてほしいと頼まれた。

いや俺、剣道できないんだよね…。

そう伝えるととにかく何でもいいからと言われた。

 

やっぱり、男との交流に飢えているみたいだ。

なので、適当に組み手をした。

 

素人にしてはなかなかなので武道経験を聞いてみると昔、剣道をやっていたそうだ。

それで篠ノ之さんとやっていたのか。

一つ疑問が解決した。

 

 

 

その後、何故かついてきた篠ノ之さんとオルコットさんの痛いくらいの視線を受けながら

組み手を終えた。

その時、織斑君があまりにもいい笑顔でどうでしたか?って聞いてくるものだから、

身長差も相まって、弟がいたらこんな感じなのかなって思ってしまった。

 

 

 

そして、何気なく織斑君の頭を撫でていた。

そして、その瞬間を黛さんに撮られてしまった。

 

 

 

自分でも、やってしまったと反省している。

奴らに自ら餌を与えてしまったと。

だけどね?

 

 

 

織斑君、頬を赤くすることはないんじゃないかな?

篠ノ之さん、オルコットさん、そんな殺すような目でこちらを睨まなくても

いいんじゃないかな?

 

 

 

 

うん、勢いって怖いね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆月▲日

 

 

今日は初めて簪ちゃんと食堂で出くわした。

ちなみにその時に、簪と呼ぶことを許してもらった。

更識と呼ばれるのはあまり好きではないそうだ。

 

 

その時、一緒にいたなんだかほにゃーとした雰囲気の女の子も紹介してもらった。

名前は布仏 本音さんというそうだ。なんでも簪ちゃんの従者らしい。

 

 

 

その子の事も本音ちゃんと呼ぶ許可をもらった、

こちらは別になんでもいいそうだ。

 

 

話題は、自然とマンガアニメに。

こういうことを話せる友人も、今まで少なかったのかもしれない。

 

 

 

どんなのが好きですかって聞かれたから、

女の子に抱き着かれたら動物になってしまう男の子たちとのラブコメとか

美術大を舞台にした群像ラブコメとかをおススメしておいた。

 

 

特に後者。最終回は泣いた。

簪ちゃんからも色々薦められた。今度DVDを貸してくれるらしい。

 

 

 

最初に比べたら、仲良くなったもんだとしみじみ思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆月凸日

 

 

 

今日は、仕事が休みだった。

仕事がない日まで書く必要があるかはわからないが、一応。

 

 

織斑君も、学園を出て実家に帰っているらしい。

いい機会だし、羽を伸ばしてほしいと思う。

 

 

 

 

陽もくれる頃、約束だと織斑先生に飲みに誘われた。

 

真耶ちゃんは?と聞くと今日は都合が悪いらしい。

 

 

 

 

行ったのは普通の大衆居酒屋。

なんとなく織斑先生のイメージとは合わなかったが、本人いわく。

 

 

『私はこういう店の方が好きなのだが、真耶とではなかなかそうもいかん。

だからお前との飲みは楽しい。』

 

 

 

らしい。いや本人が良いなら俺はいいけど。

ちなみに揚げ出し豆腐が好きだそうだ。

 

 

 

 

その後は色々話しながらお酒を飲んだ。

その中で例の頭撫で写真について触れられたが、

 

 

 

『私は、お前を信じているぞ!』

 

 

と言われた。

うん、織斑先生が常識人でよかった。

俺は普通に女の人が好きだ。

年上の、料理上手な管理人さんが好みのタイプなのだ。

 

 

 

織斑先生にこういうと、先生には通じたみたいだ。

うん、世代が一緒だと安心する。

 

 

 

そして料理ができないとダメなのかと聞かれた。

ダメってわけでもないけど、できたほうが嬉しい。

 

俺、カップめんしか作れないし。

 

 

そういうとなんだか小さく何か呟いていたけどなんだったんだろう?

まぁ良いけど。

 

 

 

ともかく楽しい休日だった。

また今度、今度は真耶ちゃんも一緒にお酒を飲みに行きたいな。

 

 



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5話

 

 

 

凸月○日

 

 

 

織斑先生に、生徒の悩みをよく聞いているそうだなって言われた。

はて、そうだろうか?

 

 

楯無ちゃんとか簪ちゃんとは最近よく話している気がするけれどそれだけだと思う。

そういうと、その二人の悩みが聞けるだけで十分だと言われた。

 

 

いや、それは単に俺が暇だっただけだと思うんだけど…。

 

 

 

そんな風に思う俺に織斑先生は、学園長が川村恭一のお悩み相談室!

なるものの設置を検討しているらしいと告げた。

 

 

 

うん、あの爺さん。たまにアホだよね。

とうとうボケたのかな?

 

 

 

頭を抱える俺を尻目に織斑先生はニヤニヤ笑っているし、真耶ちゃんも様子は楽しげだ。

 

 

ホント、勘弁してよ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

凸月△日

 

 

 

 

本当に実施が決まってしまった。三日間だけのお試しだけど。

まったく、どこの不定愁訴外来だ。

…このネタはさすがに誰にも分からないか。

 

 

 

 

 

空き教室を利用して、悩みがある生徒の相談を受けろだそうだ。

いや、暇だからいいんだけどね?

そういうのは専門のカウンセラーみたいな人がやるべきなんじゃないの?

 

 

俺の疑問に学園長は、そういう堅苦しいものではなく

学園生活を豊かにするためのアドバイスを与えて上げて欲しいのだと言った。

 

 

そういわれるとやるしかないではないか。

まぁ、やることはいつもと変わらないし気楽にやって行こうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凸月×日

 

 

 

 

相談室一日目。

受ける時間は休み時間と放課後。

でも、先生方が思うほど来ないと思うんだよね。

俺、男だし。ISも使えないから見下している生徒も多いだろうし。

 

 

 

 

そんな風に待っていると、早速一人目の相談者が。

記念すべき一人目は、なんと織斑君だった。

 

 

 

折角の男同士、一番に来てみたそうだ。

 

さりげなく頬を赤くするのはやめてほしい。気のせいだと思い込もう。

 

 

 

 

相談内容は、近くの女友達が暴力的で困っている。というものだった。

なんでも、言葉を聞き返したり行動の理由を聞いたりすると一変して殴られるのだそうだ。

 

 

何ともコメントに困る質問だった。

いや、彼女たちの気持ちも分かるし、状況が分からぬままの織斑君の境遇にも同情してしまう。

 

とりあえず、俺からも言い含めておくことを約束した。

彼女たちにとっても、これ以上やると嫌われかねないピンチだろうし。

織斑君には、視野を広く持つようにと、あと自分が思っていることが相手と共通認識だと思わないことと伝えておいた。

 

俺には、これぐらいが限界だと思う。

 

 

 

 

 

二人目の相談者は、鈴ちゃんだった。

開口一番言われた言葉はアンタホモだったの?だったけれど。

 

 

 

 

とりあえず落ち着かせて誤解を解いた。

そして改めて相談を聞いた。

 

 

と、友達の話なんだけど…。とかいうベタな入りからされたのは当然のごとく

恋愛相談だった。

好きな人が友達としか見てくれないからどうすれば?とのこと。

 

 

 

これまたベタな質問だけどこういうのが一番難しかったりするんだよね。

何せ相手の意識を変えなくてはならないのだ。こちらがいくら努力したところで

相手次第なのが難しい。

 

 

 

ともかく異性として意識させないことには始まらない。

なのでそういうアプローチを薦めてみたけど途端に顔を真っ赤にしてしまった。

これは前途多難かもね…。

 

 

参考になったと鈴ちゃんは去って行った。

はぁ、こんなのがあと二日も残っているのか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凸月●日

 

 

 

今日一人目の相談者は、篠ノ之さんだった。

織斑君に、様子を聞いて来てみたらしい。

 

 

 

正直意外だった。てっきりあまり好かれてはいないものだと思っていたから。

そう伝えると、自分はあまり人付き合いが得意ではないのだと言われた。

 

 

 

まぁ、篠ノ之さん真面目そうだしね。確かに苦労していそうだ。

肝心の相談内容は、好きな相手に素直になるには?だった。

 

 

 

これまた俺に恋愛相談をしてくるとは驚いた。

なんでも、この間の出来事で多少の信頼を得ていたらしい。

 

 

まぁ相談に対する答えは、いくら素直になれないのだとしても暴力は厳禁だということ。

もう少し、気持ちに余裕を持つことを伝えた。

 

 

嫌われては本末転倒だし、相手は相手なりの考えで動いているのだ。

それを自分の意に反するからといって大げさに反応していてもしょうがないということ。

 

そういうと難しい顔をしていたけど、最後は納得した表情で退室していった。

少しは参考にしてくれるといいんだけどね。

 

 

 

 

 

 

放課後の相談者は、オルコットさんだった。

なんか流れ的に読めていたのでそこまで驚きはしなかった。

 

 

相談内容は、好きな人がいるのだがいかんせんライバルが多い。

一歩抜きんでるにはどうすればいいのか?とのことだ。

 

 

いつから俺は恋愛相談塾を立ち上げたのか疑問に思ったけれど、

まぁしょうがない。

年頃の女の子の悩みなど八割は色恋沙汰だろうしね。

 

 

相談に対する答えは、いくらライバルを意識したところでどうしようもないということ。

 

戦っているのはあくまで意中の相手であり恋敵ではないことに気づくべきだと伝えた。

そういうとまるで天啓を受けたような表情をしていた。

 

 

 

そして盛大にお礼を言われ名前で呼ぶことを許してもらった。

この子、割とアホだったんだね…。

 

 

やっと二日目終了、あと一日だ。

 

 

 

 

 

 

 

凸月▼日

 

 

 

最終日、最初の相談者は名前も名乗らずこう言った。

 

『織斑君と川村先生の恋を成就させるにはどうすればいいですか!?』

 

 

うん、色々頭おかしいと思う。

相談内容もそうだし相談相手も間違ってるしうんホントこの学園大丈夫かな?

 

 

 

すぐさま織斑先生を召喚した。これもばれたら殴られるかな?

ともかく、信じられない相手だった。

 

 

 

 

 

 

 

お試し相談室最後の相手は、楯無ちゃんだった。

これも驚いた。てっきり来ないものだと思っていたから。

 

 

 

相談内容は、妹と仲直りしたい。昔、守るためとはいえ酷いことを言ってしまったんだそうだ。

 

 

 

最後なのにすごく簡単な相談に肩透かしをくらう。

不思議そうな楯無ちゃんに、

 

 

 

 

 

きちんと、謝ること。

 

 

 

 

と伝えた。

そしたら、何とも言えない顔になって。

でも結局、笑顔で退出していった。

 

 

 

 

ようやくこの妙な取り組みも終わった。

もう御免だという俺に不定期開催を学園長が申しだしてきた。

 

 

答えは、とりあえず保留。

まぁ、皆がやってほしければ、やるしかないんだろうなぁ…。

 



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6話

 

 

 

 

凹月○日

 

 

 

 

 

あの恋愛相談室、もといお悩み相談室を行ってから相談を受けた生徒からの態度が良くなっている気がする。

 

 

 

それまではあまり話しかけてくることはなかったセシリアさん。…ちゃん呼びは憚られた。

は積極的に話しかけてくるし、篠ノ之さんも笑顔を見せてくれるようになった。

 

 

 

鈴ちゃんは変わらず気安げに接してくれている。そして織斑君は。

 

 

 

以前の対抗戦で約束した部屋への訪問を再度お願いしてきた。

…ちょっと心配になった自分がいたのは否定できない。

まぁ、結局たまに訪ねるくらいならいいと教えたけど。

 

 

 

俺は織斑君を信じてるよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凸月△日

 

 

 

また一年に転入生が来るらしい。

しかも二人、それもなんと一人は男性操縦者だそうだ。

 

 

 

これにはさすがに驚いた。でもいいことだよね。

やっと織斑君に同年代の同性が現れるんだから。

 

 

 

仲良くなってくれることを祈ろう。

そしてなんだか織斑先生が難しい顔をしていたので訳を聞くと、もう一人の転入生はかつての教え子なんだそうだ。昔ドイツ軍にいた時の。

 

 

 

ドイツ軍かぁ、俺も昔少しの間いた事あったっけ…。

ということはもう少し在籍していたら織斑先生の教え子になってたかもしれないのか。

なんか、面白いね。

 

 

 

その教え子がちょっと問題児らしい。根は真面目なのだが少し愚直なんだとか。

出来る限りフォローしますと言ったら礼を言われた。珍しい。

 

そんなに厄介な相手なのか…。不安になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

凸月×日

 

 

真耶ちゃんが寮の調整でてんてこ舞いになっていた。

相談室の時の意趣返しとして高笑いしていたら織斑先生に実習の手伝いを命じられた。

ちくしょう。最近言うほど暇じゃない気がするよ。

 

 

 

 

 

そして転入生二人が職員室にやってきた。

綺麗な金髪を靡かせて男子の制服を纏ったシャルル・デュノア君と、

小柄な体に銀髪と眼帯を身に着けたラウラ・ボーデヴィッヒさん。

どちらも一年一組に所属するそうだ。

 

 

 

 

 

その流れで教室に。

そしてデュノア君の登場にどよめく生徒達。まぁ気持ちは分かる。

でももっと驚いたのはその後だ。

 

 

 

 

ボーデヴィッヒさんが、いきなり織斑君を殴りつけたのだ。

織斑先生の心配は、見事に的中してしまった。

 

 

 

 

 

そのあとすったもんだあって俺がボーデヴィッヒさんをアリーナに案内することになった。

IS学園に男がいることにわずかに違和感を覚えたようだったけれど、彼女にとって織斑先生は絶対のようで素直に従ってくれた。

 

 

 

 

途中、ボーデヴィッヒさんの眼帯をどこかで見たことがあった気がしたので

色々聞いてみたらなんと隊の副長はあのクラリッサなんだそうだ。

 

 

 

 

 

ドイツ軍のクラリッサといえば間違いはないだろう。

数年前ドイツ軍にいた頃すごく仲良くなった友人だ。

俺が日本人だと知るととても友好的に接してきてくれた。

その後趣味的な意味でも意気投合したのだ。

 

 

 

 

そう伝えるといくらか険悪な雰囲気は安らいだ。

知り合いの知り合いというのはやっぱり警戒を解くんだね。

 

 

 

 

彼女との関係を少し聞かれた後俺のことについて聞かれた。

ISも使えない脆弱な存在の分際でなぜここにいるのだと。

 

 

 

 

 

うん、俺にも分からない。そう答えると変な顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

そして一組二組の合同実習。

その前の真耶ちゃんの迷走には思わず笑ってしまったけど。

いや、ISがあることだし織斑君の無事は保障されていたしね。

でもまさか公衆の面前で真耶ちゃんの胸を揉みしだくとは思わなかった。

相変わらずの不思議体質だね。

 

 

 

 

 

その後鈴ちゃんセシリアさん対真耶ちゃんの演習も行われたけど割愛。

これは何の面白味もなく順当に終わったからだ。

真耶ちゃん、何気に優秀だし。

 

 

 

そして候補生ごとに一般生徒を指導することになったんだけど、

何故か俺はボーデヴィッヒさんのサポートにつけられた。

でも割と織斑先生の顔がマジだったのが印象的だ。

 

 

 

 

予想通り何もしないボーデヴィッヒさんに織斑先生に言いつけるよ?

っていうと途端に態度を変えた。やっぱりここが攻めどころみたいだ。

 

 

でも授業後すごい顔で睨まれた。…何もないといいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

凸月●日

 

 

今日はデュノア君と初めて話した。

礼儀正しくてどこか高貴な印象を受ける彼だけど、男にしては華奢に感じた。

それに歩く時の姿勢とかも少し違和感を覚えた。

 

 

気のせいだといいのだけれど…。

折角できた織斑君の同性の友達を失わせたくはない。

 

 

 

 

 

そして放課後、ボーデヴィッヒさんに連れ出された。

要件は織斑先生との関係について。

 

 

なんと答えるか悩んでいると、丁度織斑先生が通りかかった。

俺たちに何をしているか問いかけるとボーデヴィッヒさんは滝汗をかいていた。

 

 

なんでもないというと織斑先生は去って行った。

汗を拭うボーデヴィッヒさんについ芽生えた悪戯心で、

俺は好きな時に織斑先生を召喚できるんだよって言ってみた。

 

 

 

 

その言葉に数秒、いや数十秒固まった後、

 

 

 

 

 

 

 

『貴方が神か!』

 

 

 

 

と叫んで固まってしまった。

 

 

 

 

まさか引っかかるとは思っていなかっただけに爆笑していたら、

何故か織斑先生が戻ってきた。いわく虫の知らせで。

 

 

 

 

 

 

爆笑する俺を尻目にボーデヴィッヒさんに事情を聞いた先生は俺の心臓に向けて

コークスクリューブローをかましてきた。

 

 

 

 

 

俗にいうハートブレイクショットだった。

マジで時が止まった。

 

 

 

 

 

 

死ぬかと思った。

 

 

今度から、ネタは選ぼうと決意したよ俺は。

 



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7話

 

A月○日

 

 

 

 

さすがに神様呼ばわりは織斑先生がやめさせていたけれど、

人が人ならそのまま永眠していたであろう一撃に耐えたことで謎の尊敬をボーデヴィッヒさんから得てしまったようだ。

 

 

 

織斑先生を『教官』と呼び、他の教員を雑に扱う彼女から

『先生』とちゃんと呼んでもらえた。しかも敬語で。

 

 

これには織斑先生も驚いた様子で、なぜか感心した顔していた。

いや、そんな顔されても…。どうしろと?

 

 

 

 

 

その夜クラリッサにボーデヴィッヒさんの事を聞いてみようと連絡をとってみた。

彼女は俺がIS学園にいることに驚いた様子で、隊長を頼むとお願いされた。

気難しく、冷たい印象を受ける隊長だが、学園生活で何か変わる切っ掛けを作ってほしい。

その手伝いを是非してほしいと。

 

 

相変わらず良い奴だ。ここまで言われたのだ。少しは気にかけるとしよう。

でも、俺の事を『同志恭一』と呼ぶのはやめてほしい。

なんだかアホみたいじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

A月△日

 

 

今日は楯無ちゃんを見かけたので、仲直りの首尾について聞いてみた。

そしたら聞いた瞬間ビクッ!となって泣きついてきた。勇気が出ないんだとか。

 

 

楯無ちゃん、普段はあんなに飄々としているのにこんなところでヘタレるとは…。

てっきり即断即行動の人かと思っていたから意外だった。

 

 

まぁ、それだけ後悔していて妹の事が大事なんだろう。

頑張って!と伝えると頷いていたけれど…。

こればかりは楯無ちゃんしだいだからね、うん。

 

 

簪ちゃんも、きっと待っているはずだから頑張ってほしい。

 

 

 

 

 

 

 

A月×日

 

 

簪ちゃんに借りたアニメを見てみた。

うん、面白かったは面白かったんだけどさ。

なんでロボアニメって長いのが多いのかな?

 

50話、しかも二期で合計100話って結構疲れた。

他のも25話、二期で50話ってのがザラだし。

 

 

簪ちゃんにそう言ったら目の色変えて作品について語られた。

分かってない!分かってないよ先生!という簪ちゃんはキャラ変わってて面白かった。

 

 

正気に戻ってあぅぅ…。と赤くなる姿を見ていると、楯無ちゃんが溺愛する気持ちが少しわかった。

 

早く仲直りできるといいね。

 

 

 

 

 

 

 

 

A月●日

 

 

織斑君に昼食に誘われた。

なんでも、篠ノ之さんに誘われたからそれならみんなにデュノア君を紹介しよう。

そうだ、折角だし川村先生もって事らしい。

 

 

篠ノ之さん、怒りで織斑君を制裁しないといいけれど…。

当然、遠慮しておいた。

デュノア君の乾いた笑みが印象的だった。

 

 

 

 

職員室に戻ると、真耶ちゃんに近々男子の大浴場が解禁になるらしいと教えてもらった。

そういえば今まで気にしてなかったけど、確かに大浴場を使ったことなかったっけ。

 

 

ま、別段風呂が好きなわけではないのでふーんと返すと、しょんぼりしてしまった。

喜んでくれると思ったのに!とのこと。

 

 

こういう何気ないところで真耶ちゃんて可愛いんだよね。

思わず頭を撫でていた。そしたら許してくれた。

 

 

その場にいた織斑先生にはジト目で見られたけど。

セクハラだと思われたのかな?

 

 

 

 

 

 

 

A月☆日

 

 

楯無ちゃんに『恭ちゃん』と呼ばれた。俺のあだ名らしい。

でもそのあだ名は嶺上開花な魔王少女や管制塔の砲撃魔王の兄を彷彿とさせるので

なんとか『恭くん』にしてもらった。

 

 

教師が生徒にあだ名で呼ばれるのはどうなのかっていうのは今更だと思う。

俺に威厳とか求める方が間違いなのだ。

 

そういうのは織斑先生が担当だ。

俺はせいぜい、生徒に気安い教師で居ようと思う。

そのほうが、性に合ってるし。

 

 

で肝心の仲直りだが、どうも避けられてしまうらしい。

ジリジリ距離を詰めようとすると、走り去ってしまうそうだ。

 

 

そこはバッと行けばいいのでは?というと扇子で叩かれた。

それができたら苦労しないと。

 

 

思わずヘタレって言ったら体育座りで落ち込んでしまった。

この話題だとメンタルまで弱くなるのか。

 

 

でもなぁ、俺が簪ちゃんになにか言うと逆効果になりそうだし。

見守るしかなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

A月▲日

 

 

鈴ちゃんに、なんで織斑君は俺を見ると赤くなるのかって聞かれた。

いや、そんなの俺が知りたいよ。

 

 

アンタホモじゃないのよね?と念入りに聞かれた後、俺も知りたいというと

じゃあ聞いてきてあげる!と走り去っていった。

その行動力をなぜ生かせないのか。

 

 

 

数時間後、鈴ちゃんが再度訪ねてきて結果を教えてくれた。

なんでも強い男が身近にいなくて、頭を撫でられた時に親父や兄貴がいたらこんな感じなのかなって思ってしまったんだそうだ。

 

 

それから俺の顔を見るのが恥ずかしくなってしまったんだとか。

ごめん、ごめんよ織斑君。

 

 

まさかそんなセンチメンタルな事を考えているとは夢にも思わなかった。

でも俺は信じていたよ!

 

 

 

その後職員室で一人織斑君のお兄さんか…。と呟いたら戻ってきた織斑先生が

顔を真っ赤にしていた。

何事かと思い考えたら織斑君の兄になるということは織斑先生の旦那さんになることと同義なのだと気付いた。

 

 

なのであらかたの事情を説明した。

落ち着いて納得した織斑先生に思わず何を想像したんですかって聞いてしまった。

 

 

問答無用でガゼルパンチをかまされた。

危なかった。

真耶ちゃんが止めなかったらそのままデンプシー・ロールにつなげられたに違いない。

そしたらさすがに俺も危なかったかも。

 

 

もう少し学習しようと心に誓ったよ俺は。

 



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8話

 

B月○日

 

 

 

 

ボーデヴィッヒさんが、織斑君に喧嘩を売っていたらしい。

 

 

丁度アリーナの近くでボーっとしてたら急に生徒が走ってきて驚いたよ。

訳も分からず着いて行ったら丁度お互いにらみ合っていたから一応仲裁に入った。

 

 

 

織斑君とデュノア君はほっとした顔、ボーデヴィッヒさんは驚いたような顔をしていた。

去り際に、ボーデヴィッヒさんは貴方まであいつの味方をするのですか?

って呟いていたけれど、どういう意味だったんだろう。気になった。

 

 

 

 

 

その後職員室でその事を織斑先生に報告したら、少しドイツでの事を話してくれた。

あいつの目には、私と強さしか見えていないと。

 

 

あの年で部隊の長にまでなっているのだ。それなりの事情っていうのが彼女にもあるのだろう。

クラリッサに言われたからってわけでもないけど、今度話でもしてみようかな。

 

 

 

一応、教師だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

B月△日

 

 

 

 

簪ちゃんに、最近妙な視線を感じると相談を受けた。

もしかしてストーカーとかですかね?と戸惑ったように話す簪ちゃん。

その様子に思わず吹き出してしまった。だってそれ、貴女のお姉さんなんだもの。

 

 

 

怪訝そうに俺を見る簪ちゃんに、心当たりあるでしょ?というとハッ!と思い当たったようだ。

 

 

それから難しそうな顔をして、先生が話しかけてくれるのも姉さんに言われたからですか?って聞かれた。

なるほど、その可能性は思いつかなかった。

 

 

 

俺がそんな事できるように見える?っていうとポカンっとした後小さく噴き出して

そんな人が私とこんなに話が合うはずないですねって笑った。

 

その可愛らしさに思わず頭を撫でていると、遠くから殺気を感じた。

なのでその方向にドヤ顔してやった。殺気が濃くなった。

 

 

悔しければ、早く仲直りすればいいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

B月×日

 

 

 

楯無ちゃんに生徒会室に連行された。

で、むちゃくちゃ文句を言われた。

 

 

延々話されるお説教が惚気へと移っていったところでようやく虚ちゃんが止めに入ってくれた。

正直、面白かったからもう少し見ていてもよかったんだけどね。

 

 

笑みを浮かべる俺を見た本音ちゃんには

『きょうきょうはまーぼーどうふが好きなゆえつ神父さんみたいだねー』

 

 

と言われてしまったが。失礼な、あそこまで酷くはないはずだ。

 

 

 

 

 

 

その帰り道、走ってこちらに向かってくるボーデヴィッヒさんと出くわした。

目が合うと少し気まずそうな顔をしていた。

 

 

どうかしたのか聞くと、貴方になら…とポツリポツリ何があったか話し始めた。

織斑先生に軍に戻るよう説得してみたが拒否された。

それどころか、いい気になるなと窘められたと。

 

 

そう言ってヘニャリと落ち込んでしまうボーデヴィッヒさん。

その姿はまるで寂しくて死んでしまいそうな兎を思わせた。

なので頭を撫でた。結局、これくらいしか俺にはできないし。

 

 

不思議そうにこちらを見るボーデヴィッヒさんに優しく言い聞かせるように

今自分が望んでいる場所を悪く言われたらそりゃ誰だっていい気はしないよ?って言った。

 

 

 

織斑先生だって、そうしたいからここにいるわけだし。

そう伝えると、難しい顔をした後、

 

『よくわからないが、なんとなくわかった。でも、私はあきらめない!

…その、感謝する』

 

 

 

と残し去って行った。

 

 

ま、これが限界かな。所詮俺は部外者だし。

あとは本人同士の問題だ。

 

 

 

上手くいくことを願おう。

 

 

 

 

 

 

B月☆日

 

 

 

月末に学年別トーナメントが行われるらしい。

どうやら、この間のアリーナの件を踏まえてペアマッチになるそうだ。

 

 

三年生にはスカウト、二年生は一年の成果、一年生は現段階での素質の確認と

それぞれ大切な意味を持っている。みんな頑張ってほしい。

 

 

 

織斑先生に、誰と誰が組んで、誰が優勝すると思うか聞かれた。

今思うと、織斑君の事が気になっていたのかもね。

 

 

とりあえず織斑君はデュノア君と組むと思うと言った。理由は男子だから。

そしたらだろうなって言われた。さすがお姉さん、よくわかってる。

 

 

 

優勝はやっぱり専用機持ちになるんだろうけど、それもペア次第だ。

特にボーデヴィッヒさんとかはその点で苦労しそうだ。

 

 

それには同意のようで、結論は出ずこの話は終わった。

 

 

なんにせよ、楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

B月凸日

 

 

 

篠ノ之さんにまた相談をされた。

きっと彼女は、俺の担当教科を恋愛か何かだと思っているに違いない。

 

 

 

内容は、タッグトーナメントで優勝したら、織斑君に付き合ってもらうと

宣言したところ、それがどこかから漏れ今では歪んで全生徒に伝わってしまったんだとか。

 

 

 

いわく『トーナメント優勝者は、織斑一夏と付き合える』

 

 

 

…ペアマッチなのは突っ込まなくていいのかな?

優勝したペアがエキシビジョンマッチでもするのかな?

 

 

 

首を捻る俺にどうすれば?とすごい剣幕で聞いてきた。

いや、多分これ織斑君意味わかってないよね?

分かっているなら承諾なんかしないはずだし。織斑君だし。

 

 

 

とりあえず優勝してから考えたら?と返答しておいた。

今伝えたら、どうなることやら。何人のモチベーションが下がるか分かったもんじゃない。

 

 

 

そういうと、そうですね!と気合を入れて去って行った。

大人は問題を先送りするのが得意なんだ、ごめんね篠ノ之さん。

 

 

 

そして頑張れ、織斑君!

 



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9話

C月○日

 

 

 

そういえば、簪ちゃんって一人でISを作ろうとしているらしい。

なんでも、織斑君の専用機を優先することになって開発が遅れてしまったからだそうだ。

 

そのせいで、織斑君の事も嫌いじゃないけど好きじゃないみたいだ。

 

でもねぇ、IS素人の俺でも思う。

そんなの、できるのかな?

 

 

汎用人型決戦兵器だって連邦軍の白い悪魔だって整備スタッフあってのものだし。

ロボアニメ好きの簪ちゃんなら気付きそうなものなのに。

 

 

それとも、何か他に理由があったりするのかな?

今度聞いてみようと思う。

 

 

 

 

 

 

C月△日

 

 

簪ちゃんに、何で一人でISを作るのか聞いてみた。

そしたら、姉さんがそうしたからだそうだ。

 

 

 

楯無ちゃんでも、そんな事無理だと思うんだけど…。

でも、そんな事実より簪ちゃんにとっては意地が勝っているのだろう。

 

 

こういうのは、見守ることにした。

だって、それが本人の糧になっていることは事実だろうから。

 

 

でも楯無ちゃんに話くらいはしておこうかな。

意外と、これがきっかけで仲直りできるかもしれないし。

 

 

 

 

 

 

 

C月×日

 

 

 

今日は驚いた。

あの人、本当に人間なのかな?

 

 

ボーデヴィッヒさんが鈴ちゃんとセシリアさんを相手に一方的な試合をしたらしい。

俺は騒ぎを聞いて駆け付けたので途中からしか見ていないのだ。

 

 

 

そのまま織斑君に襲い掛かったボーデヴィッヒさんをなんとISを装備していないまま織斑先生が止めた。しかもISの装備を使って。

 

 

あの人、マジで飛天御剣流とか使いこなせるんじゃないだろうか。

世界最強は伊達じゃない。

 

 

 

場を収め颯爽と帰ってくる織斑先生に思わず九頭龍閃とかできますか?

って言ったらスーツに九つ穴が開いていた。

 

 

ドヤ顔してくる先生は可愛らしかったが冷や汗が止まらなかった。

この間から俺、何でボケに命張ってるんだろ?

 

 

でも、面白いからやめられないんだよねー。

 

 

 

 

 

 

 

C月☆日

 

 

楯無ちゃんに簪ちゃんの専用機について話をした。

やっぱり、楯無ちゃんも一人で組み上げたわけではないそうだ。

 

 

詳しいことは正直ちんぷんかんぷんなので割愛する。

まぁ学園長なら察してほしい。

 

 

 

手助けしてあげたら?っていうとまた例のヘタレモードになった。

でも…とか、だって…を連発する楯無ちゃんは

非常にレアなのでしばらく見ていたら体育座りを開始したので慰めた。

だけどそろそろ背中を押してあげるべきかな?

あまり立ち入るのもどうかと思って話を聞くに留めていたんだけどこうもヘタレだと…。

 

 

とりあえず、楯無ちゃんを整備室に放りこもうかな。

それで案外解決しそうだし。

 

 

 

 

 

 

C月●日

 

 

織斑君、やっぱりデュノア君のペアを組んだみたいだ。

あと、残念なことに鈴ちゃんとセシリアさんは機体の問題で出場できなくなってしまったそうだ。

それでいいのか候補生と思ったけれどまだ一年生だしね。

これから挽回のチャンスはいくらでもあるだろう。

 

 

 

ボーデヴィッヒさんはまだペアが決まっていないみたいでこのままいけば抽選に回ることになるだろう。

それはそれでペアになった子が心配になるけどまぁしょうがないかな。

 

 

でも一言二言くらいは言っておこう。

ここはあくまで学園で、郷に入っては郷に従うものなのだと。

 

不思議と、一目置かれてるみたいだしね。

 

 

 

 

 

 

C月▲日

 

 

今日は久々に何もなかった。

なのでベンチでボーっとしていたら、鈴ちゃんとセシリアさんに会った。

珍しい組み合わせだと思ったけど、他の皆はトーナメントに向けて訓練しているらしい。

 

 

 

なのでぽっかり時間が空いてしまったんだとか。

折角なのでお茶に誘った。食堂だけど。

 

 

話題は色々。織斑君の事とか俺の事とか。

今更だけどホントに教師?と聞かれた。

普段何やってるのよ?とも。

 

 

まぁまだ一年生の授業には出たことないからね、実習の時しか。

楽しみにしておいてと言っておいた。特に教えることもないけど。

 

 

セシリアさんは最近料理にはまっているらしく、今度何か食べさせてくれるそうだ。

その時鈴ちゃんが微妙な顔していたのが気になったけど…。

 

鈴ちゃん、料理は得意じゃないのかな?

 

 

 

そして自然とトーナメントの話に。

どうやらこの二人も例の噂を知っているらしい。

 

 

とりあえず、心配ないよと伝えておいた。

詳細は語れないけど、たぶん織斑君は織斑君だから。

 

セシリアさんは不思議そうな顔をしていたけど

鈴ちゃんはそれだけでなんとなくわかったみたいだ。

伊達に付き合い長いだけある。ため息を吐いていた。

 

 

その後いくらか愚痴を聞いたところでお開きとなった。

こういうのも、たまにはいいものだ。

 

 

 

 

 

 

C月×日

 

 

トーナメントのペアの申し込みを打ち切った。

決まっていない生徒は抽選でペアを組むことになる。

 

 

そして試合の組み合わせだけど、これはおおよそは教員や生徒会で決めることができる。

なので、意見を聞かれた。最終的な決定権は織斑先生にあるからね。

 

 

口にははっきり出さないけど織斑君とボーデヴィッヒさんの事だと思う。

つまり、どこで当てるか。

 

 

俺的には決勝戦で当てられるのが一番カッコいいと思うんだけど

それだと不確定すぎるからね。

先にどちらかが負けたりしたら、お互い気持ち悪いまま終わってしまうだろう。

 

 

というわけで一回戦。初っ端と意見しておいた。

彼らは早いとこぶち当たったほうがいい。そのほうが面白いし。

 

 

俺の意見に織斑先生は面白そうな顔をしてならそれで。と即採用。

うん、さすがは先生。わかってらっしゃる。

 

 

 

えぇーと叫ぶ真耶ちゃんをよそに笑みを交わす俺と織斑先生。

その姿はまさに悪役。お主も悪よのう、的な。

 

 

さて、いよいよトーナメントが始まる。

俺の優勝予想は…。ここに書くのは無粋かな?

てことで割愛。

 

 

楽しみだなー。

 



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番外編 彼の事

織斑千冬は、彼―――川村恭一の事をわりと気に入っている。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

初めの印象は、わけの分からない奴、というものだった。

何せ会って最初の一言が『ロアナプラのガンマンみたいな声ですね』

だったのだから。

 

 

織斑千冬は、何かと距離をとられやすい。

それは千冬が、この世界で絶対的な存在だからだ。

 

史上最強、ブリュンヒルデ、オーガ。

千冬にはいくつもの呼び名があり、それが彼女を作り、縛っていた。

 

尊敬され崇拝され恐れられる。それを千冬も自覚していた。

そしてそれを当たり前のように感じていた。素を見せられるのはごく少数。

弟か親友。それと仲のいい後輩くらいか。

 

 

だから初対面で、しかも男にそんなことを言われたのは初めてだった。

隣にいた学園長がクツクツと肩を揺らして笑っていたのを今も覚えている。

 

 

何も言い返さない千冬に彼は不思議そうな顔をした後よろしく、とほにゃりと笑った。

その笑顔は印象的だった。そして同時に、変わった奴だと強く思ったのだった。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

それからも彼は自然体で千冬に接してきた。

千冬も、彼に対しては自然に接していられた。

 

ISというものに関わってからというもの極端に男性と接する機会が減った千冬だったので

当初はやりにくさ、みたいなものを覚悟していただけに自分自身意外だった。

 

なんというか、彼は周りの空気をしなやかにする。と千冬は感じていた。

いつもにこにこと笑顔を絶やさない彼を見ていると、いい意味で体の力が抜けるのだ。

それは他の教師たちも同様のようで、固かった空気も随分とやわらかくなった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

彼は男だ。当然、ISには乗れない。

多感な生徒達はそれを馬鹿にした。口に出して罵倒した者もいたほどだ。

それを彼は受け流す。ただ聞き流すのではなくしっかり受け止めたうえでさらりと流すのだ。

 

罵倒していた生徒もすっかり毒気を抜かれてしまっていた。

そのせいか一時期彼のあだ名は某生協の人になぞらえて『IS学園の川村さん』だった。

初めて聞いたときは大いに笑った。学園長も真耶も笑っていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

IS学園でISに乗れないということは、極端に仕事が減ることを意味していた。

普通なら整備に回ったりするものなのだろうが、彼はそれもできなかった。

 

 

そのため彼の主な仕事は、学園の雑務や他の教員の補佐だった。

なにかイベントがあるとそれなり忙しくしているようだが、基本は暇そうにしている。

 

 

しかし千冬には、それも自然なことに思えた。

まぁ、奴ならしょうがない。そう思わせる何かを彼は持っているのだろう。

 

◇◇◇◇

 

 

 

そうして一年が過ぎた。

彼は自分がIS学園で何もしていないような顔をしていたがとんでもない。

彼は確かに、生徒や教師たちに影響を与えていた。

 

それは、彼が会話の中に入れてくる小ネタが気になって教師たちがマンガ読みになっていっている事だったり、年上柔和な高身長男子に参ってしまった生徒がちらほらいたりすることだったりと様々だが一番は女尊男卑が薄らいだことだろう。

 

 

世間で言われる男性像を彼は忘れさせた。

飴と鞭が上手いのだと千冬は思う。彼の場合は飴と縄といった感じだが。

 

 

彼が生徒の話を聞いているのをたまに見かける。

しっかりと耳を傾け、諭し、助言する。自分にはできないことだと千冬は思っている。

 

彼は怒らない。いや、怒るのだが笑顔で、それこそ縄でじわじわ縛るように相手を見つめる。それだけで相手は自分の非を認め彼に謝罪していた。

これも自分には無理だ。厳格な対応しかできない。

 

つくづく自分とは違う。真反対な人間だと思った。

が、それが嫌じゃない。

 

確かに、彼はIS学園で認められていた。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

そして、今年。

千冬は、例年以上に気を張っていた。

理由は、千冬の唯一の肉親である弟があろうことか初の男性操縦者として入学してくるからだ。

 

 

なぜ、こうなったのか?だとかこれからの弟の前途を考え顔をしかめる千冬に対し

彼は弟の顔を見るなり『織斑先生と一緒でイケメンですね』と言った。

反射で殴った。私は女だと。

だが、気付けば眉間の皺は消えていた。

これも、いつもの事だ。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

毎年、一人は自信と慢心をはき違えた奴がいる。

今年はイギリス代表候補生がそれにあたった。

 

それだけなら、まだいい。いつもの事だと流せただろう。

だが彼女は、それに加え千冬の大事なものを二つも侮辱した。

 

教師という立場上直接自分が何かするということはしなかった千冬だが、

どうやら雰囲気には不機嫌が出ていたらしい。

後輩にすごく気を遣わせてしまった。

 

 

彼には、缶コーヒーを奢られた。

そうしたら、不思議と気が静まる自分がいた。

これも、いつもの事なのか?

よくわからない千冬だったが、悪い気はしなかった。

 

 

その後も、何かにつけて缶コーヒーを差し入れしてくれる彼なのだったが、

いつの間にかそれを期待している千冬なのだった。

 



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番外編 彼の事 2

◇◇◇◇

 

 

 

弟である織斑一夏とイギリス代表候補生であるセシリア・オルコットのクラス代表を賭けた戦い。

それを千冬は、わりと気楽に迎えた。

 

 

それは弟への信頼であり、勝つことは出来なくとも一応の恰好はつけてくれるだろうという期待があったからだった。

 

 

 

その結果が、なんとも締まらないものになってしまったのには思わず頭を抱えてしまったが。

 

 

 

彼には、『さすが織斑先生の弟ですね。凄いです』と言われた。

言外に自分に対する高評価も含まれており、少し機嫌が良くなったのを後輩にからかわれた。

無論制裁した。からかわれるのは嫌いなのである。

 

ついでにそれを見てやれやれ、といった顔をしていた彼にも。

原因は彼だ、当然である。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

次の日の夜、まず最初の厄介ごとが解決したこともあり一杯飲みたくなった千冬。

しかし一人で飲むのもどうも味気ない。

だが後輩の真耶は少々固いところがあり、学園の寮での飲酒にうるさかった。

 

 

 

なので、彼を誘うことにした。

夜に部屋を訪ねるのは始めてだったので多少の意識はしつつ、まぁ襲い掛かってこようものなら出席簿で十七分割にしてやろうと決め、向かう。

 

 

 

突然の来訪に驚いた様子、手に持っていた缶ビールを見せると納得したような顔に。

だが、酒を飲むとタバコが吸いたくなると渋られてしまった。

 

 

こんな時までこちらを気遣う彼に内心苦笑しながらも、それならと屋上に案内した。

月を背に彼と飲む酒は掛け値なしに上手かった。

 

夜風にさらされながら酔った頭でふと千冬は思った。

自分が、同年代の男とこんなことをまさかするとはと。

 

そして、思っていたより自分が彼に対し心を開いていることを自覚した。

頬が少し赤くなったのは、酔いのせいかそれとも…。

 

 

 

答えを知るのは、千冬ただ一人のみである。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

授業を終え教室を出ようとしたところ、弟に声を掛けられた。

『川村先生って何をしている人なんですか?』と。

 

 

数日前に二人が対面を果たしたと聞いていた千冬だったので、弟の質問の意図はすぐに理解した。

大方、数少ない男である川村恭一という教師に希望を見出したもののちっともその姿を見かけないことへの疑問だろうと。

 

 

なんと答えるか悩む千冬だったが、ここでふと思いついた。

彼と弟を戦わせてはどうかと。

弟の周りには昔から自分を含め強い女性しかいなかった。

本来、強さというのは男性の象徴であるはずなのに。

織斑姉弟には両親がいない。そのため弟は強い男性というものを知らないはずだと。

 

 

 

余談だが、川村恭一という男は優男に見えるがそこそこ強い。

IS学園では千冬に匹敵する強さを持っているだろう。

そこには、剣を持たない織斑千冬という注釈が付くが。

 

 

 

そも、彼が学園にいるのは対対人戦要因という目的が学園長にはあるらしい。

いくら無敵のISでも数は限られているし、扱うのは女性だ。

まぁ彼一人いたところでという指摘もあるが一人くらいはいてもいいのではという理屈らしい。

真意のほどは学園長にしか分からないが。

 

 

 

閑話休題。

 

 

 

 

さて、そのそこそこ強い彼を弟や生徒達。

主に新入生に見せることでのメリットを瞬時に計算した千冬はあえて挑発するようにこう言った。

 

 

『何をしているか?か。

ふん。何もしていなくてもお前の百倍強い。

いい機会だ、一つ確かめてこい』

 

 

 

その言葉を聞いた弟は見るからにやる気に満ちた顔を見せた。

昔からシスコン気味の弟である。

千冬が認めたとあれば燃えないわけにはいかないのだろう。

 

 

 

そしてブラコン気味の千冬。弟の操作方法などお手の物だ。

手合せを終えた彼には苦情を言われてしまったが酒を奢ることで許してもらった。

真耶とだけでは行けない自分好みの店での飲み会。

それなら奢りなどまったく気にならない。

 

千冬は、自分の冴えわたった思いつきに笑いが止まらないのだった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

唐突だが、彼は性格が良い。

だが、同時にイイ性格をしているようだと千冬は感じていた。

つまり、人をからかったり面白い事が好きだったりと。

 

 

 

それを最初に千冬が感じたのは彼に弟の事を言われた時だった。

 

『織斑君って、やっぱりモテるんでしょうねー』

 

 

織斑千冬の弟、織斑一夏は鈍感である。

それこそ、前世からの呪いか何かかと疑うレベルでだ。

 

付き合ってと言われれば、いいぜ!買い物くらい!といい

 

 

好きですと言われれば、俺も好きだぜ!友達だもんな!と答える。

 

 

愚か者を通り越した何か。それが織斑一夏だ。

当然、姉である以上それを目の当たりにしてきた。

モテるんでしょうね?と聞かれれば苦い顔の一つや二つはしてしまうのだ。

 

 

それに対し彼は面白そうな顔を見せた。

そして、ことあるごとにその話題を千冬に振り反応を見た。

イイ笑顔で。

 

 

極めつけはクラス対抗戦。

謎の侵入ISがやってきた時の事。

 

迎撃を宣言する弟に対し千冬は、誇らしい気持ちと心配な気持ちの両方を持っていた。

その場は、彼の視線もあり迎撃を容認したが心配は心配だ。

 

 

抗議する後輩と自身を落ち着ける意味もあってコーヒーを淹れた。

動揺のせいか砂糖と塩を間違えた。空気が死んだ。

 

 

 

かと思ったら誰かが噴き出した。いや、爆笑していた。彼だった。

一気に羞恥に染まる思考。問答無用で塩コーヒーを飲ませた。

飲んだ彼は悶絶していたが、千冬はそれ以上に身悶えていた。

 

 

信頼していた彼の姿が、どこかの愉悦神父と重なって見えた千冬なのだった。

 



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番外編 彼の事 3

◇◇◇◇

 

 

 

織斑千冬は、酒が好きだ。

それは単に酒そのものが好きというわけではなく、それによってもたらされる人の変化を見るのが好きだということもあった。

 

 

 

普段冷静な人物が陽気になったり。

抑圧された感情が爆発したり。

隠された本音が聞けたりしたり。

 

そういうその人本来の姿を見ることができる場として千冬は酒を、飲み会を好んでいた。

 

 

 

 

織斑千冬は酒に強い。

自らをザルと自認するほどに。

 

なので、唐突に交わした飲み会の約束で彼の普段は聞けない本音を聞き出そうと画策した。

あの柔和な笑顔の下にどんな考えがあるか聞いてみたいと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

休日、向かうは一般的な大衆居酒屋。彼以外とはまず来ない場所である。

後輩との飲み会は、見栄やら意地やらあるらしくこういう場所を希望すると途端に苦い顔をされてしまう千冬なのでそれだけでテンションが上がった。

 

 

ブリュンヒルデやら最強やら色々言われている千冬なのだがその実

弟の作る家庭料理をこよなく愛す庶民なのだ。

当然酒のあても気取らないものが好みだった。

ちなみに好物は揚げ出し豆腐だ。

 

 

席に着きとりあえずビールを頼む。

女性と二人きりだというのに気負わない彼を気にしつつも弛緩した空気に頬を緩める。

なんだかんだ、この空気が千冬は気に入っていた。

ブリュンヒルデではなく千冬を千冬として扱ってくれるこの空間を。

 

 

 

 

 

酒も進んで千冬は、気になっていたことを尋ねてみた。

弟との怪しげな写真もあり聞いてみたかったのだ。

 

 

こちらの様子を窺いつつ彼は自分の好みを言った。

年上の料理上手な管理人さんと。

 

 

確かに、と千冬は思った。

あの女性は、男の理想形だと。

欠点のつけようのない理想に、つい言葉をはさんでしまった。

 

 

料理は出来なくてはダメかと。

千冬とて女だ。自分には縁遠いものだと感じつつも興味はある。

 

 

結果は、お察しだが。

やはり胃袋を掴むものは強いということなのだろう。

答えを聞いた千冬は弟に料理を習うか真剣に悩むのだった。

 

 

 

 

 

余談だが、この時の彼はまったく酔ってなどいない。

千冬がザルなら彼は沼だ。

いくら飲もうが関係なかった。

 

 

そうとも知らずに、千冬は今夜得た成果にそれなりの満足を覚えるのだった。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

ある日学園内を歩いていると、生徒会長である更識楯無に声を掛けられた千冬。

それなりに面識のある二人だが、有事以外で会うのは珍しい事だった。

 

 

正直言って、どこかチェシャ猫のような印象を受けるこの生徒を千冬はあまり得意ではなかった。

隙あらば人をからかうのが好きな奴なのだ。

からかわれるのは嫌いなのである。

 

 

何の用か尋ねると、ふっ…と小さく笑ってこんなことを言いだした。

 

 

『なんだか、雰囲気が柔らかくなりましたね?織斑先生?』

 

 

は?と面食らう千冬に対し続けて、

 

 

『彼の影響ですか?』と。

 

 

 

どうやら更識楯無は、千冬の印象が前と違って見え声を掛けてみたということらしい。

そしてその理由を、川村恭一の影響を受けたからなのか聞きたいと。

 

 

なんだそれは、と千冬は思った。

自分が、そんなアニメや漫画のヒロインのような女であるはずがないと。

 

 

確かに、彼の事は気に入っているし、信頼もしている。

自分が思っている以上に心も開いているようだ。

 

 

だが、それで自分が変わった?

それではまるで、千冬が彼に恋しているようではないか。

 

 

まさか、そんな。

あり得ない、と千冬は思った。

織斑千冬は、そんなチョロインではないと。

 

 

 

黙る千冬に楯無はいつものようにニヤリと笑って。

 

 

『私も、彼の事は気に入っているんです。

もしかしたらライバルになるかもしれませんね?』と更に爆弾を放り込んできた。

 

 

それじゃ!とウインクを残しその場を後にするのを見送りながら千冬は

とりあえず考えるのをやめた。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

『織斑君のお兄さんか…』

 

 

 

 

職員室の扉を開けた途端聞こえてきた彼の言葉に、千冬の頭は一瞬にしてショートした。

そして、そのショートした頭は様々な光景を千冬に見せた。

 

 

それは、彼のために甲斐甲斐しく料理を作る自分の姿だったり、

彼の背中を流す自分の姿だったり、

彼と寝屋を共にする自分の姿だったり様々だった。

 

 

 

そんな桃色乙女脳を正気に戻され事情を説明される。

弟が、彼に対し父性を感じて照れているのだと。

 

 

とりあえずこの恥ずかしい事態を作り出した原因である弟には後で落とし前をつけることを決心しつつ、千冬は心を落ち着けた。

 

 

冷静になって少し自己嫌悪する。

この間さんざん自分で否定していたくせになんて様だと。

改めて彼への恋心を否定していると、笑顔を浮かべた彼に何を想像したのかと聞かれた。

 

 

 

聞かれた瞬間、顔に熱が戻るのを感じた。

そこから先は、体が勝手に動いた。

 

 

体を左側に大きく屈める。

溜まった力を解き放つように左足を踏み出す。

バネのようなそれはとんでもないスピードを生み出し、その勢いのまま左腕のフックを叩きこんだ。

 

 

 

顎を正確に捉えた一撃は彼を空中に押し上げた。

だが体は止まらない。

その流れで体を左右に揺らし∞の軌道を描く。

そこから繰り出されるのはまさしく必殺の打撃の暴風雨。

その名はデンプシー!!

 

 

『ストーップ!!流石に死んじゃいますよ織斑先生!!』

 

 

寸前で真耶に止められる千冬。

ようやく思考が追いついたところで大きく息を吐いた。

 

 

なんだかんだ、かなり彼に毒されている千冬なのだった。

 



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第10話

D月○日

 

 

今日は学年別タッグトーナメントが行われたんだけど、今年のIS学園は何かに呪われでもしているのだろうか?

こうもイベントの度にトラブルが起こるとそんな心配をしてしまう。

 

 

まず行われた一年生の部。

注目していたボーデヴィッヒさんのペアは何と篠ノ之さんになった。

セシリアさんと鈴ちゃんが出れなくなったことで抽選に回っていたようだけどまさかこういうことになるとは。

 

ペアの抽選は完全に自動で行われるから決まった瞬間織斑先生と目を合わせて固まってしまった。

さすがに驚いたよ。織斑君の女難には。

 

 

 

そして始まる試合。

織斑君とボーデヴィッヒさんがのっけから激しくやりあう中、デュノア君は篠ノ之さんを速やかに落とした。

篠ノ之さんも技量はあるのだけれどそこはさすがに候補生には及ばなかったみたいだ。

 

 

 

そして二対一になった戦況はどんどん傾き始め、初めてとは思えないコンビネーションを見せた織斑君ペアがボーデヴィッヒさんを追い詰めていった。

 

 

これは決まったかな、と思った瞬間異変は起きた。

叫び声とともにボーデヴィッヒさんのISが変化しだしたんだ。

彼女を呑み込んだそれは泥のような形態から全身装甲へと形を変えた。

 

 

さすがの俺にもこの異常事態はわかった。

すぐにトーナメントの中止と観客の避難を織斑先生に告げられ飛び出した。

パニックになった観客の男の人に案内の生徒や女の先生が対応できるかも心配だったし。

 

 

案の定声を荒げるおじ様達を宥めるのに手間取っていると、織斑君が変化したISに突っ込んで行こうとするのが目に入った。

千冬姉の真似しやがって!と今までにない剣幕を見せる織斑君。

よく見ると、確かにそのISの手には雪片らしきものが。

弟として姉を侮辱するようなそれを、許せなかったんだろう。

 

 

 

どうするのか非常に気になるところではあったんだけど俺もぼさっと見ているわけにはいかなかった。

ようやく落ち着いた各国のVIP達の避難誘導があったからね。

 

 

すべての案内を終えて戻ってくると、ちょうど織斑君が刀を手に謎ISに向かっていく所だった。

ISの事はよくわからなかったけれど見た限り部分展開?という奴だろうか。

そして見事ボーデヴィッヒさんを引きづり出した織斑君。

そこまでは良かったんだけど二人はそのまま倒れこんでしまった。

焦ったような織斑先生の声を受けて保健室に運ばれる二人。

とまぁこんな感じで、騒ぎは一応の収拾を迎えた。

 

 

 

 

その後クラス対抗戦の時よりはマシだけど荒れたアリーナの修復を終えて保健室に向かった。

やっぱり気になったし。

保健室に着くと丁度出てくる織斑先生に出くわした。

 

話を聞くと織斑君はもう意識を取り戻し、いないそうでボーデヴィッヒさんももう平気だそうだ。

お互いの苦労をねぎらった後保健室に入った。

そこにはなんだかうれしそうなボーデヴィッヒさんが。

 

 

 

声を掛けると神妙な顔をされた後謝られた。迷惑を掛けましたと。

別に気にしていないと答えると今度はこんな事を聞いてきた。

 

 

『今、クラリッサにも相談していたところだったのですが日本では気に入った異性を嫁と呼ぶらしいですね!私は織斑一夏を嫁にしたい!どうすればいいですか?』

 

 

 

 

あのアホはまた妙な知識を周りに吹聴しているらしい。

正しい知識を教える手もあったんだけどふといたずら心が湧いてしまって某反逆皇子のようにすればいいとアドバイスしてしまった。

 

 

やっぱり俺にはシリアスは無理だったみたいだ。

 

 

 

D月△日

 

 

 

翌日、また一年に転入生がやってきた。

まぁそれはデュノア君が実はデュノアさんだったということだったみたいで。

なるほど桜蘭高校かと一人納得していた俺だったので大して驚きはしなかった。

 

 

問題はその後、ボーデヴィッヒさんだ。

どうやら彼女、純粋が純粋すぎるようで本当にやってのけた。

 

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒが命ずる!織斑一夏よ!私の嫁になれ!』

 

 

 

とクラスメイトの前で宣言して見せたのだ。

 

期待半分で一年一組のHRに参加していた俺だったのだけど見事過ぎて感心してしまった。

織斑先生の咎める目が痛かった。HR後に問い詰められた。最後は爆笑していたが。

 

 

でもこれでボーデヴィッヒさんの印象もだいぶ変わったんじゃないかな。

これからの彼女の学園生活が豊かになることを祈ろうと思う。

きっといい方に変わってくれると信じて。

 

 

 

その後改めてデュノアさんに自己紹介された。

シャルロット。というのが本当の名前らしい。

 

 

そしてデュノアさん。彼女も織斑君に参ってしまった一人の様だ。

一夏のおかげで…と何度もはにかむからすぐに分かった。

 

とりあえず諸注意と暴力厳禁と伝えておいた。

あと、何かあったら相談にのると。

 

 

そういうと妙に納得したような顔に。

彼女は何かと聡そうだし察したのかもね。

 

 

近いうちの相談室の開催をなんとなく予感した。

俺、カウンセラーじゃないはずなんだけど…。

まぁ、相談内容は全部恋愛相談だろうけどね。

 



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第11話

 

E月○日

 

 

 

例の騒動のせいで中止が決まった学年別トーナメントだけれど、データ取りのために一回戦だけは行われることになった。

 

 

まぁ例の一件がなくなった事で一年生のやる気は台無し。

二、三年生も一回戦だけって事でかなりゆるい感じになってしまったけれど。

 

そんな中楯無ちゃんだけはいやに燃えていた。

対戦した相手を瞬殺するほどに。

 

試合後話を聞いてみると折角の機会を台無しにされたことへの怒りだそうだ。

簪ちゃんへのアピールかな?

 

とりあえずすごかったと褒めておいた。

そうしたら機嫌をよさそうにしていたから良かったかな。

最近の様子を見て忘れていたけどそういえば楯無ちゃんて学園最強なんだっけ。

俺の前ではヘタレでシスコンな女の子だったから失念していた。

うっかり口に出さないようにしないとね。

楯無ちゃん、怒ると怖そうだし。

 

 

 

 

 

 

 

E月△日

 

 

今度一年生の臨海学習が行われるそうだ。

去年は行かなかったからすっかり忘れていたよ。

今年は俺も参加らしい。織斑君への配慮かな?楽しそうだからいいけど。

 

 

 

その買い物に誘われた。相手は織斑君。

水着がないらしく、今まで男装していたデュノアさんもついでに誘ったから一緒にどうかということらしい。

 

 

うん、俺の前でデュノアさんをついでとかいうのやめてほしい。

すさまじく気まずかった。

当然遠慮した。二人でデートしてきなと。

 

 

俺の言葉に顔を赤くするデュノアさん。

そしてデートなんかじゃないと即座に否定する織斑君。

ヤバかった。想像以上だった。そりゃ織斑先生があんな顔するはずだよ。

 

 

そそくさとその場を後にした俺を許してほしい。

ごめんねデュノアさん。今度何かお詫びするから。

 

 

 

とはいえ俺も水着を買いに行く必要があったので買い物には行った。一人で。

さすがに男の水着を買うのに誰か誘うわけにもいかないし。

 

 

 

水着を買い終えどうするかと街を歩いていると見知った顔に出くわした。

楯無ちゃんだった。

一人で何かこそこそしていたので様子を窺ってみると視線の先に簪ちゃんと本音ちゃんがいた。

休日までストーキングしていたらしい。

なぜその情熱を違う方に向けられないのか。

 

 

そろそろ本気で楯無ちゃんを整備室に放り込むことを検討しつつ声を掛けた。

『わひゃあ!』という可愛らしい叫び声をあげつつこちらを見る楯無ちゃん。

俺だと気付くと若干恥ずかしそうに顔を赤くしていた。

 

 

そろそろ覚悟決めなよ?というと涙目で分かってるわよ!と。

いや、何回目だと思っているのか。

ともあれ少し目立ってしまったので連れ立って移動した。あのままだと二人に気付かれてただろうし。

 

 

そのまま折角だからと二人で買い物することに。

水着を選ぶのに付き合わされた。

いや、確かに役得だったかもしれないけど少し気まずかった。

 

偶然来ていたらしい織斑先生にもジト目で見られたし。

うん、生徒と水着を買いに来る男性教師って多少アウトな気がする。

意図してしたことではないことをここに記しておこう。

 

 

楯無ちゃんの水着姿は素晴らしかった。

いや、セクハラじゃないよ?男としてはしょうがないというか。

学園長も男だからわかってくれることを祈っておこう。

 

てな一日で結構疲れた。楽しかったけどね。

 

 

 

 

 

 

E月×日

 

 

今日は改めてラウラちゃんとシャルロットちゃんと話をした。

ルームメイトになったらしい二人が食堂にいたから声を掛けて見たのだ。

その時なんでか慕われているらしいラウラちゃんに名前で呼ぶことを許してもらった。

じゃあ僕もとシャルロットちゃんにも。

 

 

二人ともこうして話すのは初めてだったけど楽しかった。

特にラウラちゃん。彼女はいい。すごくいい。

純粋無垢な彼女には色々教えたい気持ちや悪戯心が湧いてくる。

 

これからいろんなことを知りたいという彼女には今度マンガやアニメを貸すことを約束した。

クラリッサの隊の隊長なのだ。素質はあるだろう。

しっかりとネタについてこれるようにしてあげよう。

 

 

シャルロットちゃんはそんな俺を見て『こんな人だったんだ…』と呟いていた。

うん、基本こんなんでごめんね。

でも話しやすいと言ってくれた。いい子だね。

何で一人ホスト部していたのか気にはなったけど聞くのはやめておいた。

プライベートな問題だし、もう解決したみたいだしね。

 

 

織斑君の話題を振ると二人ともすごい喰いつきだった。

嫁は!というラウラちゃんに訂正をするか悩んだけれど面白いからそのままにしておいた。

シャルロットちゃんは顔を赤くして織斑君への恋心を否定していたけどバレバレだよ?というと一変アドバイスを求められた。

恋する乙女は開き直りが早いらしい。青春だね。

 

まぁでも正直俺のアドバイスなんて織斑君にはなんの役にも立たなそうなんだよね。

あれはもう攻略するとかの問題じゃないと思う。矯正するかどうかの問題だ。

無難に手料理とかどう?と言っておいた。

女の子の手料理が嫌な男はいないはずだ。きっと織斑君だって。

 

 

満面の笑みでお礼を言われた。無力な俺を許してほしい。

 

 

 

 

 

 

E月●日

 

 

さて、いよいよ明日から臨海学習が始まる。

普段は基本寮生活なIS学園だからみんなで海は楽しみだよね。

一年生全体がそわそわしていた。ま、多少はね。

 

 

イベントの度に何かある今年度だけど今回はどうなんだろう?

何もない、楽しい臨海学習になることを祈ろう。

 



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第12話

F月○日

 

 

臨海学習一日目。

 

 

そういえば今回の臨海学習、簪ちゃんは不参加らしい。

専用機の組み立てに時間を使いたいからだそうだ。

ちょっと残念だ。候補生は大変だね。

 

 

 

 

さて、まずはバス移動。

一組のバスに乗車した。

一つのバスに三人も先生が乗るっていうのも変な話だけど一組には織斑君がいるからね。納得しておいた。

 

 

バス移動中は概ね平和。まぁ織斑君の隣に誰が座るかだとか、多少揉めたけれど俺がくじ引きを提案したことですんなり治まった。

 

ちなみに俺の隣は織斑先生。疲れていたのか俺の肩に頭を乗せて寝始めたのにはすごく焦った。無駄にいい匂いするし。

真耶ちゃんも反対の席で頬を赤くしながらチラチラ見るし。

それが織斑先生の寝顔への反応なのはツッコまないことにしよう。

 

 

でもさすがだ。その姿を生徒にはまるで見せずに到着直前にきっちり目を覚ますんだから。

バスを降りるときに若干恥ずかしそうに小声で謝られた。

これが萌えか。

 

 

 

 

 

そして旅館の方への挨拶。今年は俺と織斑君という男がいるのだから例年以上に迷惑をかけたはずだ。丁重にしておいた。

ここで織斑君の部屋を尋ねる本音ちゃん。俺もこの時点では自分の部屋と織斑君の部屋を知らなかった。

てっきり織斑君と二人部屋だとばかり思っていたからね。

 

 

 

首をかしげる織斑君をよそに織斑先生は俺と織斑君の部屋を告げた。

俺と織斑君と織斑先生の三人部屋だと。

 

 

はぁぁぁ!?と声を上げる俺と織斑君。

先生曰く俺達二人だと女子生徒が大挙して押しかけてくるだろう。

そのための処置だと。

 

 

確かに理屈の上ではそうだろう。

だがしかし織斑先生だって妙齢の女性だ。

男と同部屋など辛いだろうに。

 

 

私なら襲われる心配もないからなという先生に、自分が美人だって自覚してますか?

と言ったら出席簿で殴られた。いや、俺間違ってないよね?

 

 

俺の一人部屋を提案するも意味はない、むしろ本気な分余計やっかいだと言われた。何のことだろう。

ともかく決定事項だと話を打ち切られた。

俺がごねるから事前に知らされてなかったのか。おのれ学園長め。

 

 

 

ともあれひとまず部屋に。

旅館の人との打ち合わせがある俺や織斑先生は海に行く織斑君を見送った。

 

 

その後料理の時間や布団を敷く時間など様々な調整を終える俺達。

ミーティングまで時間が開いたので海に行くことになった。

 

途中で女性陣と分かれ更衣室へ。手早く着替えてビーチに行くとシャルロットちゃんとバスタオルの何かに出くわした。

 

 

俺に気付くとそのバスタオルの何かがもにょもにょ声を発したので正体がわかった。

ラウラちゃんだった。

隣にいたシャルロットちゃんに視線を向けると苦笑しながら恥ずかしがっていると説明された、水着に慣れてないのかな?

 

 

面白そうだったので一緒に織斑君の元へ向かうことに。

声を掛けると案の定ラウラちゃんを見て驚いていた。

バスタオルを脱ぐのを渋るラウラちゃんに、諦めたらそこで試合終了だよ?

というとそれは嫌です!と素で返されてしまった。

やっぱり通じなかった。

 

俺の一言にええい!と大きな掛け声とともに脱皮するラウラちゃん。

黒いビキニの水着姿はとても可愛らしかった。

 

織斑君が可愛いと褒めるとうれしそうに体をくねらせるラウラちゃん。

いやはや、若いっていいね。

 

 

 

続いてビーチバレーに誘われた。

ぜひ織斑君との愛のペアをとも。

 

都合のいい所は聞こえないのか織斑君も組みましょうと乗ってくるし。

シャルロットちゃんの目が怖かった。

さすがに男二人とじゃ試合にならないよと断り観戦に回った。

シャルロットちゃんの視線が和らいだ。よかった。

 

 

しばらく見ていると織斑先生と真耶ちゃんの姿が。

織斑先生は女神のように美しかったし、真耶ちゃんは言わずもがなだ。

あれは毒だ。直視できなかった。

 

 

そんな俺の様子に気付いた織斑先生は楽しげに体を寄せてくるし。

あれか、普段のお返しか。効果抜群だよこんちきしょう!

 

 

速やかにその場を逃げだし、あたりを見て回っていたら篠ノ之さんが見当たらなかったので一応探しに行くことに。織斑君の近くに彼女がいないっていうのも変に思ったし。

 

少し離れた岩場に彼女はいた。難しそうな顔をして。

声を掛けると驚いたようにこちらを向いた。あと、水着姿を恥ずかしそうに。

 

こんなところで何してるの?というと、いえ…と。

そのまましばらく無言でいるから手にかけていたパーカーを差し出した。

そのままだと俺も気まずかったし。

それを受け取り小さく礼を口にした後、ぽつりと明日誕生日なんですと言った。

 

 

誕生日でなんで暗くなるのかはさっぱりだったけれど、何かあるようなのでそこには触れないように明るく、そっか、おめでとうと返した。

 

 

続けて何かあったら話くらい聞くよ?と。

それに対し篠ノ之さんはいえ、大丈夫です。ありがとうございますと。

 

それからはいつもの、なんてことのない話をした。

織斑君の事とかクラスの事とか。

俺と誕生日が一日違いだというと驚いていた。

時間が来たので先に戻るというと去り際、付き合ってくれてありがとうございますともう一度礼を言われた。ちょっとは力になれたかな。気にしないでと言っておいた。

 

 

 

ビーチに戻り織斑先生と真耶ちゃんと合流して旅館へ帰ろうとしたところ、織斑君に

今日一緒に温泉入りませんかと誘われた。結構デカめの声で。

 

頭を抱える織斑先生と頬を赤く染める真耶ちゃん。ざわめく生徒達をよそに時間が違うから無理だと断った。するとじゃあ朝風呂で!と返された。

これはあれだ。やっぱりデュノア君がいなくなって寂しいんだ。男との交流に再度飢えてるんだ。そうに違いない。

 

 

曖昧な返事をして旅館へと帰った。道中織斑先生にすまんと言われた。大丈夫です。はい。

 

 

 

そこからは明日の実習のミーティング。

専用機持ちと一般生徒が分かれて行われることに。

ただ専用機持ちの中に篠ノ之さんの名前が入っていることについて聞くとそれは明日判ると言葉を濁された。なんだったんだろう。

 

 

その後生徒達の入浴時間。教師たちはその時に早めの夕食。

さすがIS学園なだけあって豪華なものばかりだった。お酒が飲めないのは残念だったけど。

 

続いて生徒達の夕食。教師たちはその時に交代で入浴へ。

IS学園は国際色豊かなのでテーブル席と座敷に分かれていたんだけど途中座敷席が大騒ぎしていた。すぐさま織斑先生が鎮圧に向かったけど。

露天風呂は最高だった。貸切だったしね。来てよかったよ。

 

 

夕食の後は消灯まで自由時間。

部屋で織斑君とのんびりしていたら、お風呂に入ってきたのか少し髪の濡れた織斑先生が帰ってきた。ちょっと色っぽかった。

と、ここで織斑君がマッサージをしてくれることに。

最初は織斑先生。俺はこの間に飲み物を買いに部屋を出た。

 

 

そして買い終えて戻ると部屋の前にはおりむラヴァ―ズの五人が。

今適当に書いてみたんだけど妙にしっくりくるなこれ。

おりむラヴァーズ。今度からこう呼ぼう。

 

で、何やら聞き耳を立てていたので後ろからわっ!と声を掛けたら飛び上がって部屋になだれ込んで行った。面白かったなぁ、あれは。

鈴ちゃんに脛を蹴られたけど。

 

 

 

改めてみんなで部屋の中に。

元々セシリアさんにもマッサージをする予定で部屋に呼んだんだとか。

今思うと同級生に全身マッサージを提案する男子高校生とかすさまじいね。さすが織斑君。

 

 

一通り終えると織斑君と共に部屋を追い出されたので少し汗をかいたという織斑君に付き合って風呂に行くことに。

やっぱり男同士、裸の付き合いっていいですよねなんて言われた。深い意味はないと信じたい。

 

でも案外二人きりで話すのも初めて会った時以来の事だったので楽しかった。

料理が得意なんだとか。家事までできるのかあのイケメンは。

あとは織斑先生の事も結構話してくれた。意外とズボラらしい。いいことを聞いた。

 

 

イケメン、料理できる、シスコン。どこのランペルージだ。

わかりづらいか、これは。

 

 

そして消灯時間に。

生徒達が寝静まった後もまだ見回りとかの仕事が教師にはある。

まぁ俺は男だから部屋を回るわけにもいかず外を回ったけど。

 

 

粗方見回りを終え報告した後ビーチに行った。

出来るだけ部屋にいないようにしたかったし、夜の海とか結構好きなのだ。

すると部屋にいたくない原因が缶ビール片手にやってきた。

無論織斑先生だ。

 

 

何時かのように酒を交わす。まぁ多少はね?

お前と飲む酒は上手いと言われた。俺もですと返しておいた。

 

 

で、就寝。できるだけ布団を離して床に就いた。

織斑先生はすぐに寝てしまったけれど俺はそうもいかないのでこれを書いているというわけだ。

 

 

というわけで一日目終了。お疲れ様でした。

 



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番外編 更識姉妹の事 

大変お待たせしました。
久しぶりすぎて書き方を忘れ気味なので番外編でリハビリを。
本編を待ってくれていた方には申し訳ありませんが。
大まかな構想はあるのでちゃんと更新しますので。

更新停滞中の感想、推薦、評価。とてもうれしかったです。
遅ればせながらありがとうございます。


◇◇◇◇

 

 

 

IS学園の一年生が臨海学習に出かけているさなか、更識楯無は暇を持て余していた。

生徒会長としての些事はいつも通りに丸投げして、さてどうしようかと思い至ったところで当てがないことに気付いたのである。

 

 

普段であるならばその時間を妹である更識簪の観察に当てたり、教師の川村恭一との雑談に費やす楯無であったが今は些か事情が違った。

 

 

簪は本来参加しているはずの臨海学習の時間を返上して専用機の組み上げに専念しているし、もう一方はそれに参加している。

ぶっちゃけていえば、今の楯無の相手をしてくれる人物がいないのだ。

 

 

ふと、いつもの日常を思い返してみる。

ポンと時間が空いてふら付いているときなどは不思議と出くわし時間を潰せるのだ。

いつもは居場所など分からないくせに会いたいときにフラッと現れる。

川村恭一とは、そういう男だった。

 

 

しかし、それが今はない。

どうしようかと考えているとチラッと思い当った。

なんだか彼を当てにしているようで気になる、と。

 

いや、正確に言えば癪に障った。簡単に言えばイラついた。

完璧で十全で学園最強の生徒会長である自分が気に入っているとはいえ教師一人に気を取られているなどという事実に。

 

振り回すべき相手に振り回されそうになっているという現実に。

 

 

そこまで考えて楯無は一息ついた。

うん。落ち着こう楯無。私はそんな安い女じゃないでしょと自分に言い聞かせて。

 

ふう、ともう一つ息を吐く。

落ち着いたと自問自答した後でいつも通りの行動をとろうと心がける。

そう。いつも通り余裕を持った…。

 

とここまで考えたところでまたチラついてしまった。

更識楯無が、ここ最近彼の前でとっている行動というものを。

 

 

つまり、妹の事でヘタレて泣いてうじうじ弱音を吐いて体育座りで落ち込んでそれを慰められて。

つまるところ完璧とは程遠い情けない醜態を晒してしまっているということを。

 

すなわち、彼が自分に抱いているであろう印象は完璧など程遠く、情けない女の子でしかないということに。

それに楯無は、遅まきながら、気付いた。

 

 

『いやぁぁぁぁぁぁ~~!!!』

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

一区切りついたところで端末を操作する手を止める。

すっかり冷たくなった缶コーヒーで喉を潤し更識簪は一息ついた。

 

自分でも無茶無謀だと分かりきっている一人きりでのISの組み上げ。

しかし簪は、切羽詰まることもなくその気持ちはむしろ軽いものだった。

 

入学当初ならこうはいかなかっただろうと自分でも思う。

姉の陰に怯え、それでも縋り付くように組み上げに専念していたことだろうと。

だが、お気楽な、不思議と気の合う教師との出会いが簪の心を楽にしていた。

 

 

だからこの行為は意地や執念などではなく挑戦だ。

あの完璧を体現したような姉に対する更識簪としての純粋な挑戦。

そこあるのは、ただ楽しいという思いだけ。

劣等感は少しだけあるが今の簪を動かしているのは向上心。

 

 

本当に、数か月前とは別人のようだと自嘲する。

あの悲壮感にまみれていた自分はなんだったのかと。

 

今も、人付き合いが得意になったわけではない。

むしろ苦手なままだが、無意味に他人を警戒するようなことはなくなった。

 

他人が優しくしてくれた時に、姉の顔がチラつくことがなくなった。

人は、人に優しくできるのだと思い出すことができたから。

 

 

思い出すだけで笑顔になる。

人間不信な自分の心に寄り添うように接してくれて。

少し恥ずかしいと思っていた自分の趣味に全力で同調し。

話ベタなはずの自分とギアス談義を二時間もできる。

 

 

彼に、自分は救われた。

大袈裟かもしれないが、簪はそう思う。

 

 

ただ、普通に接してくれるというだけで救われる人間というのもいるのだ。

だから、簪は彼の事をこう思っている。

好きだとか、恋慕の対象などではなく大切な、大切な。

 

親友、と。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

さて、そんな気持ち的には順風満帆な簪ではあったが悩みごとが一つあった。

それは、近頃感じる妙な視線だ。

 

 

数か月前から、自分の事を遠巻きに、しかし綿密に観察しているような視線。

お家柄最低限の事は仕込まれているので、嫌になるほど感じ取れた。

 

一応、相談してみた彼によるとそれは目指す先であり色々拗れている姉によるものなのだというのだがそれも釈然としない簪。

 

そもそも、手ひどい事を吐き捨てて距離をとったのはそちらなのだし何故今更自分を観察などしているのかと。

しかも、待てど暮らせどアプローチは一度もない。まるでただのストーカーのようなそれに簪の困惑は深まるばかりだった。

 

 

目的が分からない。

いや、楯無・簪の両方と仲がいい彼から感じられるニュアンスから仲直り、そこまでいかなくとも対話したいのだとは察することができる。

 

しかしそれならば、面と向かって言うだけではないか。話をしようと。

昔一方的に距離をとられた簪は、そう思ってしまう。

そんなこともできないのかと。

 

無論簪だって、仲直りについては吝かではない。

幼いころの、姉と仲が良かったころの事は確かに覚えている。

複雑ではあるが、姉の事は決して嫌いではない。

だがだからこそ、一方的にとった距離は姉が踏み込んでしかるべきだと簪は思うのだ。

 

 

仲直りなど見当違いで別に目的があるのであればそれはそれでなんなのか。

 

まぁ端的に言うと、何がしたいのかサッパリ分からない姉の行動に簪のイライラはたまる一方だった。

あり得ないとは思うが、この状況が特に意味もないものだった場合、全力でグーパンチを叩きこみたいくらいに。

 

進展しない現状にどう手を打ったものかとまたため息を吐き、少なくなったコーヒーを一息に呷った。

 

 



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番外編 更識姉妹の事 2

思ったよりも早くに投稿できました。
本編はもうちょっと時間がかかるかもしれませんのでご容赦を。
今回も安定のキャラ崩壊気味ですが寛容な気持ちで見ていただければと思います。

感想、評価、いつもありがとうございます。


 

◇◇◇◇

 

 

30分間廊下の隅でブツブツとこの世と自分を呪う呪詛は吐いて過ごし、ようやく楯無は正気を取り戻した。

楯無がいた場所がいつもなら一年生が使用するフロアだったのは偶然か、はたまた普段の行いが良かったからなのか。

どちらなのかは分からないがそのおかげで情けない醜態を誰にもみられることなく再起動を果たしたのである。

 

 

ともかく、正気に戻った楯無は事態の深刻さに息を吐く。

もはや、自分に対する彼の印象の完全な変更は不可能だろうと。

 

いや、できるのであればありとあらゆる手を尽くしてやりたい。

楯無にしてみれば末代までの恥レベルの醜態だ。今すぐにでも部屋に帰って布団を被って隠れたいくらいに。

 

しかしその対象である彼。川村恭一は今この学園にいないのだ。

したくても修正のしようがないのである。

 

では、今、楯無が取れる行動とは何か。

少し考えて、考えて、考えて思いついた。

 

正確に言えばとっくに思いついていたのだがそこはヘタレ仕様。見えないふりをしていたのだが。

 

それは楯無がヘタレている原因。

つまり妹の簪との不和の解消。

それを行えればどん底の楯無の印象を大幅に改善できるかもしれない。

考えようによっては、いい機会かもしれなかった。

 

だが、しかし…。

ここで楯無は考えてしまう。

自分一人で?簪ちゃんと話?特に何の切っ掛けもなく?

 

楯無の心はグラッグラに揺れた。

 

拒絶されたらどうしよう。嫌いだと言われたらどうしよう。今更何の用だと拒まれたらどうしよう。貴女なんて姉じゃないと言われたらどうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。

 

 

考えただけで涙が滲んできて目の前が暗くなる。

大好きな妹に否定されるなど耐えられないと。

 

しかし楯無は過去の愚かな自分へ怨嗟の声を上げつつも意を決し涙を拭う。

 

このままいつものように体育座りしていてもなにも変わらない、むしろ悪化する。

私は更識楯無。更識家当主にして学園最強なのだと必死に自分を鼓舞して。

 

 

楯無の足はその勢いのまま簪がいるはずの整備室へと向いた。

女は度胸。腹を決めた楯無に恐れるものなどなにもなかった。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

さて、勢いそのままに整備室の前へと到着した楯無。

今、中にいるはずの妹と自分を遮るのはあと扉一枚のみである。

さあ!いざ行かん!とばかりに入り口へと手を伸ばしたそこで…。

 

 

―――ええっと?なんて声を掛ければいいの?

 

 

 

楯無の動きが、止まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

ひとしきり悩みの種について考えたところで簪は席を立った。

このまま妙な気持ちで作業していても効率が悪いと思い少し休憩することにしたのだ。

 

丁度、集中力を保つための甘めの缶コーヒーも切れたところだったし、それを買い行くのに加え化粧室にも寄っていきたい。

凝り固まった体を伸ばしながら一度外に出ることを決めた。

 

 

ここで簪は遠く離れた親友に思いを馳せた。

今頃一日目の自由時間で海に繰り出しているであろう彼の事を。

 

 

 

―――今頃…水着姿の皆と遊んでるのかな…。

 

 

 

一応、従者である本音の付き合いで新しい水着を購入していた簪。

着る機会は今だないが一応これでも乙女だ。似合うかどうか第三者の、できれば異性の意見も聞いてみたいと思ったりもした。

 

簪は少しばかりの後悔をした。

専用機の組み上げという事象にとらわれ過ぎて、折角の特別な思い出を得るチャンスを自ら蹴ってしまったのではないかと。

本音は別のクラスだし特に親密なクラスメートもいないからと軽く考えてしまったかなと。

 

だが、あえて言わせてもらえるならば簪が臨海学習への参加の是非を問われた時には、彼の参加など聞かされていなかったのだ。

女ばかりのIS学園。

当然の如く水着姿になる臨海学習への参加など誰が予測できるものか。

 

それも、おそらく織斑一夏への配慮だろうと簪は推測する。

一人よりかは、いくらか精神的にマシだろうというそんな理由なのだろうと。

 

逆恨みどころか完全に一方的な思いなのだが簪の一夏への遺恨がもう一つ増えた。

自分と織斑一夏にはどこまで因果があるのだと考えながら、簪は外へ出るための扉を開いた。

 

 

 

そしてそこには、中腰で頭を抱えながらなにやらブツブツとうわ言を呟いている姉の姿があった。

 

 

―――え…?

 

 

―――なに、これ…?

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

簪は目の前の光景に言葉を失った。

なんだあれは。あの姉の姿をしてとても人に見せられたものじゃない醜態を晒しているあれはなんだと。

 

今だ意識がどこかに飛んでいるようで簪に気付く様子もない。

それもあって簪は意を決し少し近づいて何を呟いているのか聞き取ってみることにした。

 

 

 

―――やっほー?いやこれは軽すぎるし簪ちゃんがイラついちゃうかもしれないわじゃあ無難にこんにちは?でもでも何の用だって言われたらなんていえばいいのかしら組み上げに集中してたら邪魔になっちゃうかもしれないしでもでもでも簪ちゃんは優しくていい子だからそんなことで怒らないかもでもでもでも私の事嫌いになってたら優しくなんてしてくれないだろうしイヤイヤイヤ簪ちゃんが私の事嫌いだなんてお姉ちゃんって呼んでくれないなんてそんなのイヤよ絶対イヤどうしようどうしようどうしよう…

 

 

 

 

 

ドン引きした。

更識簪史上一番のドン引きである。

 

 

そして、なんとなしに理解してしまった。

今までの姉の不可解な行動の理由はこれだと。

ただ単にヘタレていた。それだけなのだと。

 

 

 

キレた。もうブッチンブッチンに簪はキレた。

過去のしがらみ?いつも比較される優秀な姉?

そんなもの今の簪には何の関係もない。

 

目の前の姉に声を掛ける。

正気を取り戻し、簪を認識してアタフタと慌てているが知った事じゃなかった。

ただ、簪はなすべきことをするために一言だけ言い放った。

 

『歯、喰いしばって?』

 

 

 

楯無の体は、宙を舞った。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

その後、泣きながら執拗に謝り続ける楯無に、簪はもうなんかどうでもいいとばかりに適当に許すことにしたり。

許したら許したで泣きながら頬ずりを執拗に繰り返す楯無に、簪は嘆息しながら心底、臨海学習に参加しなかったことを後悔するのだった。

 



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