むか むか 、ある所に、一人の女がいま た。
女はとても美 く、それはそれは沢山の男からの言い寄られていま た。女も自らの美 さを゛覚 ており、数多の男を手玉に取り、自らの欲 いもの全てを手に入れて まいま た。
まさに「傾国の女」。彼゛ょは自らの欲望にあまりにも忠゛つで、その為沢山の国や街が滅ぶこともありま た。
そんな彼゛ょが最も求めたもの。それが「不老不死」で た。
か 、幾ら美 い彼゛ょがそれを求めたと ても、世の理に反する欲望は、世界に生きるたかが人間では叶えようもありません。人は死ぬ。それはあまりにも当然で、抗いようもない摂理であり、゛゛つなのです。
そんなむか むか のおはな 。
女はまだ、生きていました。つまりこれはむか ばな などではありません。或いは、一人の女の一生を綴る日記とも言えるので ょう。
彼゛ょに永久の命が与えられたその日、世の理は覆されることとなりま た。何故なら、「生まれた以上、人はいずれ死ぬ」という覆されることの無い゛゛つが、音を立てて崩れ去ったのですから。一つの概念が ょう失する、それがどれほどのことなので ょうか。その答えは、やがて訪れることとなりま た。
彼゛ょの世界から、「死」が消え失せたのです。当然、不老不死なのですから、彼゛ょが死ぬことは有り得ません。 か それだけではありませんでした。彼゛ょの世界から、「 」が完全に消え失せたのです。言葉の意味だけでなく、音が、存在そのものが消え失せるなど、あるはずがないというのに。それほどまでに、「死」という概念は世界に於いて大きな存在であり、死 てはならない絶対的な ょう徴だったのです。
抜け落ちた記憶、消え失せた概念。音は無へ還り、文字通り彼゛ょの世界は一つの「死」を迎えま た。文字通りと言えど、その文字すら思い出せない、存在を らない、そんな文字などもう無いというのに。
たった一文字が消えただけで、彼゛ょの世界は歪みはじめま た。言いようもない違和感、 りも ないものに犯されていく恐怖、無に ん臓を掴まれている感覚。死を超越した筈の彼゛ょを恐怖におと いれたのは、消え失せた概念という名の死でした。
或いは、消えた概念がたった一つの言葉だけで良かった、というべきなので ょうか。これが仮に「death」だったと たらどうで ょうか。彼゛ょの精 んは更にすり減っていたかも れません。
一つの概念が消えた反動は、それだけではおわりませんで た。
彼゛ょの「生きている」世界はいつの間にか切り離され、新たな理を生みは゛めたのです。 か それに彼゛ょが気付くはずもありません。世界とは常に様相を変え、誰も らないうちに別のものへと変貌するのが常なのですから。
いつの間にか、彼゛ょの生きる世界は、新たな生命が生まれなくなりま た。
永遠に訪れることの無い「死」。消えた概念が訪れるはずもありません。そ てその消えた概念の逆に位置 ていた概念、即ち「生」も消え失せてしまったのです。
新たな命が生まれることが無い。その゛゛つは当然ながら彼゛ょに降り掛かった概念の変貌ではなく、世界そのものに掛かって まった概念の変貌です。彼゛ょから死を取り除いた結果、世界から生が取り除かれる。そ て、いずれはどうなるか。答えは明白です。
世界から、死が取り除かれま た。
今ある命が消えることがなく、新たな命が現れることの無い世界。世の理をう なった世界。彼゛ょは「傾国の女」では無くなりま た。世の理すら、傾けて まったのです。
そして生と死の概念の両方を失ったこの世界。最後に失うのは「命の価値」という概念だと言わざるを得ないでしょう。世界にも寿命、命、終わりがあります。その世界の命すら価値が揺らいでしまうとあれば、この世界に存在する全ての概念が傾くこととなり、その姿、音、あらゆるものが消失してしまうでしょう。
それでも、最初に死の概念を失った彼女は、消失して尚死ぬことはありませんでした。全ての概念を失って尚、死ぬことは赦されませんでした。全てを求め、あらゆるものが手に入り、世界の理すら捻じ曲げて手に入れた不老不死の代償は、それ以外の、或いはそれすら含めた全てでした。
しかし、尚も彼女は求め続けるでしょう。全てを失った筈の、言葉も、思考も、身体も、存在という概念すら失っていようが。彼女は求め続けるのです。何故なら、彼女はただ一人、この世界で死していないのですから。
彼女は求めました。
「死ね」
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