幼なじみのおしっこが最高に美味い。 (雨宮照)
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学校にて。
ぼっち。


「ねーねっ、お昼ご飯一緒に食べよっ!」

 

マツリが、俺をご飯に誘ってきた。

彼女は俺の幼なじみで、学校でも有名な美少女。

でも俺以外には極端に社交性がなくて、仲のいい人はいない。

だから彼女が俺を誘ってくるのは珍しい話じゃないし、俺は彼女とお昼を一緒に食べたいんだけど……。

 

「ごめん、申し訳ないけど……」

「えっ……。どうして……?」

 

食べたいんだけど、俺は彼女からの誘いを断らなくちゃならないんだ。

なぜならこの机は、昼休みが始まって俺が一歩でもここを動こうものならすぐに占領される!

なんで陽キャってやつは人の席を無断で占領するんだろう。

持ち主に一言あってもいいんじゃないだろうか。

それに、全く悪びれることもない。

 

「あー、そっかぁ。トモヤっていつもお昼休みになるといなくなっちゃうもんね」

「お、おう。察してくれ」

 

マツリとは小学生のときからの長い付き合い。

さすがに俺の現状を理解してくれているようだ。

そして彼女は自分の席へと帰っていったが……え?

なぜか彼女が自分の机からこっちに向けて手招きしている。

……来いってことか?

机が占領されることを覚悟で彼女の机まで移動する。

 

「えーっと、なんだ?」

「えへへ、名案を思いついちゃいましたっ」

 

なんだかすごく嬉しそうに笑う。

長い付き合いなのにドキッとしてしまったことは内緒だ。

……でも、名案って……なんのことだ?

 

「あのねっ、トモヤの席が使えないのなら私の席を使えばいいと思うの!」

「……あ」

 

彼女は、自分なりに俺とお昼を一緒に食べる方法を考えてくれたらしい。

でもそれだと……。

俺はその提案の欠点に気がついて指摘する。

 

「それだと、椅子が一つしかないじゃないか」

「…………あっ」

 

詰めが甘い。

この幼なじみ、昔からこういうところがあるのだ。

小学生のときに風景画の課題があったときも、賞の候補になってもおかしくない出来だったのに最後の最後で塗りに飽きて適当に塗り、評価は人並みだった。

そういうところは昔から変わっていないらしい。

 

「えーっと、えーっとぉ」

 

ただ、目の前の彼女を見ると、それでも頭を抱えてなにかを考え込んでいる。

成長して諦めなくなったのか、それとも俺とそんなにお昼ご飯を一緒に食べたいのか。

どちらにせよなんだか嬉しい。

 

やがて彼女はピンっ! と音が鳴った錯覚に陥るほどに勢いよく背筋を伸ばすと、今度こそとばかりに新しい案を口にした。

 

「椅子が使えないなら、二人で一つの椅子を使えばいいじゃないっ」



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緊張。

物は試しだ。

ということでマツリと二人、一つの椅子に腰掛けてみることにした…………んだけど。

 

「……なあマツリ」

「……なぁにトモヤ」

「……あのさ」

「……なによ」

「…………タゲ取ってるな」

「…………タゲ取ってるわね」

 

……あーもうっ!

俺たち二人の見られること見られること!

クラスメート全員こっち見てるぞ。

穴があきそうなほど見られてるぞ。

穴があきそうなほど見られてるし、もう胃に穴があきそうだぞ。

 

「……なあマツリ」

「……なぁにトモヤ」

「……やめるか」

「……やめましょ」

 

さすがにこんな状況に耐えられなくなって、二人の意見が合致する。

ちょっぴり残念だが、このままだと精神がどんどんすり減っていってしまいそうだ。

毒状態にかかったみたいにジワジワと痛みが増してくる。

だから一刻も早くこの状況を打開したい、それが二人の意向なはずだった。

なのに……。

 

「……なあマツリ」

「……なぁにトモヤ」

「……なんで立ち上がらない」

「……そっちこそ」

 

不思議なことに、お互いに席を経とうとしない。

 

「……ねぇ、なんで立たないの」

「……いや、なんとなくな」

「……恥ずかしいんじゃなかったの」

「……ああ、恥ずかしい」

 

お互い煮え切らない態度。

――それもそのはず。

 

「「なんだかこの体勢、すごく幸せ!」」

 

二人の意見が、合致してしまっていたのだ。

俺はマツリの髪や身体、柔らかいものに触れて心地がいい。

おそらくマツリの方も、懐かしいこの感覚に溺れていることだろう。

そんな二人の思惑が合致して今。

 

ーー この教室は今、ドーナツ化現象に悩まされていた ーー

 

教室の中心にいる俺たちを中心に、ぽっかりと穴があいたみたいに人が輪を作っている。

俺たちを見つめるのは、このいちゃつく不思議な二人組をどうしようかという困惑の視線だった。

かたや学校でも話題の美少女でありながらコミュニケーションがとりにくいマドンナ。

かたや誰の話題にも上がらない、ぼっちこじらせ系男子。

どちらにせよ、冷やかしにくい存在だ。

俺たちの一挙手一投足に、その場にいる全員が注目する。

そんな静寂の中、俺はある一人のことだけを考える。

 

(……マツリ、大丈夫か)

 

それは隣にいる幼なじみのこと。

マツリは昔から人に注目されるところで大失敗することが多かった。

そのため、今もこうして心配しているわけだがーー。

 

(いや、こりゃダメそうだぞ……?)

 

なんだか真っ赤になってプルプル震えてるんだが!

泣きだしそうなくらいに恥ずかしがって、耳まで真っ赤になっている。

 

「…………っと……」

「…………えっ?」

「…………ちょっと……助けてぇ……」

「……あ」

 

プシャァァァァァッ……

 

静寂の中に響き渡る、水音。

耳をすませばどうやらその出処は自分の隣のようでーー。

 

「あれ、なんだかあったかいな」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 

まさかと思った。

さすがに夢であって欲しいと、嘘であって欲しいと願った。

だが、俺が顔を向けた先では。

 

ーー マツリが、真っ赤な顔でおしっこを垂れ流しながら、ぺたんと床に座り落ちていた ーー



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おしっこ。

教室の床に広がってゆくマツリのおしっこを見ながら絶句する。

 

周りの生徒たちもマツリに注目していたため、その場にいた全員が彼女の放尿を見ていたが、声を発するものはただの一人としていない。

 

「……っ。……ぐすっ……すん……ひっく……」

 

隣から、マツリのすすり泣く声が聞こえる。

生徒たちは気まずいと思ったのか、見て見ぬふりをして無理にでも談笑を続ける。

だが時折ちらっ、ちらっと視線を感じるのは致し方ないだろう。

 

ただ、今考えなければならないのは俺たち二人の状況だ。

まず、びしょびしょ。

マツリのおしっこがこっちまで浸食してきてて、彼女のパンツやスカートはおろか、俺のパンツにまで浸透している。

このままでは動けないし、このままここにいたとて授業が始まって余計にややこしいことになる。

つまり、俺がここでとれる行動の最適解は……。

 

「……ずっ……ズズっ……ズルっ……」

「…………えっ? トモヤ、何してるの……?」

「……ズズッ……。……なにって、お前のおしっこを飲んでるんだが、なんだ?」

「……ふええっ!」

 

とりあえず、俺がみんなの視線を引き付けて、その間にマツリが着替えに行く!

それに俺はマツリのおしっこが飲める!

うん、おいしい! 毎朝これを一杯飲んでから学校に来たいです!

 

「……な、なんでトモヤは私のおしっこなんか飲んで……。き、汚いよ……っ?」

「なあ、マツリ。昔も言ったことがあったけどな……ズズッ」

「な、なぁに……」

「恥ずかしいことも辛いことも、一緒に乗り越えようぜ。幼なじみなんだからさっ」

「……と、トモヤ……」

「……ズズっ」

 

俺の言葉を聞いて、泣き止むマツリ。

一瞬で決意を秘めたような表情になる。

なんだか、試合直前のアスリートみたいな顔つきだ。

そして次の瞬間、一瞬だけ頬を緩ませて「……ありがとっ」とぶっきらぼうに言ったと思うと、おしっこを撒き散らしながら小走りで教室から出て行った。

 

しんと教室が静まり返る。

そんな中、俺がマツリのおしっこをすする音だけが「ズズッ……ズズッ……」と響いている。

そんな時間が少しだけ続いて……。

 

「……な、なあ、トモヤ」

「……ズズッ……。ん? なんだ?」

「……あのさ、俺もおしっこ舐めてみたいんだけど……」

「……は? 何言ってんだお前。マツリのおしっこは全部俺のだ。俺はマツリのおしっこを独占することをここに宣言する。お前の分のおしっこは俺がしてやるからちょっと待ってろ」

「あ? お前のおしっこなんか飲むわけないだろ汚いな! 俺だってマツリちゃんのおしっこが……」

「……はっ、これだから素人は。俺がマツリのおしっこを飲むだろ? だから俺がおしっこをしたらそれはマツリのおしっこから出来た俺のおしっこだ。つまり、お前が俺のおしっこを飲めば、間接的にマツリのおしっこを飲んだのと同じことになる!」

「……な、なるほど……」

 

はっはっは、言いくるめてやった。

実際のところ俺が最後にした時点で完全に俺の汚いおしっこなんだが、どうにか納得してもらえたようだ。

それを聞いてた周りの生徒も感心して、俺のおしっこをぜひ恵んでくれと言ってきた。

 

「……ズズッ。ちょっと待ってくれよ、俺がマツリのおしっこを全部飲んでからにしてくれ」

「「はいっ、いくらでも待ちます!」」

 

数分後。

飛び散ったマツリのおしっこの最後の一滴まで全部舐め尽くした俺は、教室のど真ん中で丁寧にズボンを脱ぐとクラスメートに向けて放尿する。

そして、お金が降ってきたかのように狂喜乱舞する生徒たちを後目に、そそくさと教室をあとにする。

 

そして今度は学校の女子トイレの個室にこもって、マツリのおしっこが染み込んだ制服のズボンを口にくわえて、ちゅーちゅーとその生地からおしっこをすすったのだった。



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部屋にて。
部屋。


家に帰ると、家族は全員外出しているようだった。

一階で麦茶をコップ一杯飲んだ後、二階にある自室へと歩を進める。

そしてドアを勢いよく開けると、ベッドの上に太ももがあった。

やったぁ、太ももだぁ!

 

女子高生の、肉付きのいいむちむちの太もも。

飛びかかって両手で掴んで頬をすりすりして、その全てを味わいたくなる。

 

「飛びかかって両手で掴んで頬をすりすりして、その全てを味わいたくなる」

 

せっかくなので、声に出してみました。

すると、目の前の膝裏が見えていた太ももが、表側のすべすべな顔を見せる。

思わず顔を近づけて匂いを嗅いでしまった。

 

「ひゃっ! なに嗅いでるのっ! 恥ずかしいからやめてよっ」

「いやまず、お前はなんでここにいる」

 

太ももの持ち主は、何を隠そう幼なじみのマツリ。今日は私服姿で遊びに来たみたいだ。

 

「ほら、トモヤのお母さんがね、今日はトモヤしかいないから家使ってていいわよって」

「で、家に入れてくれたのか?」

「ううん、前もらってた合鍵で勝手に入ったの」

 

いや、なにしれっと合鍵もらってんだ。

そして母さんは合鍵を渡してんだ。

あと断われ。なんでここにいる。

 

「まーいいじゃんっ。漫画借りてるよっ」

「よくねえよ! 一言くらい俺にメッセージくれてもいいだろ!」

「……ってか、トモヤ。なんでノックもしないで入ってきたの? 私が着替えてたらどうすんのさっ!」

「悪い悪い……いや、その理屈はおかしい。ここは俺の部屋だ」

「じゃあ私、今日からここに住む〜」

「ああ、住め住め。同棲だ同棲」

 

と、いうことで俺たちはこの部屋に一緒に住むことになった。

 

「今からここは私の部屋でもあるんだから、なにしてても文句はないわよね!」

「……まあな。でもお前も俺のすることに対してなにも口出しするなよ?」

「はいはーいっ」

 

よし、言質は取った。

これで俺はここでなにをしてもいいという大義名分を手に入れた!

さあ、目覚めよ俺の内に秘めた悪魔!

この勝手気ままな幼なじみを、恥辱の渦に落とし込んでやるのだ!

 

「ふんふーん♪ らんらんら〜♪」

 

のんきに鼻歌なんか歌いやがって。

マツリの体が揺れるたびにサイドテールの髪も一緒に揺れて、なんとも男心をくすぐってくる。とてもかわいい。結婚してください。

 

(……まずは、はさみが必要だな……)

 

俺は机の引き出しからハサミを手に取ると、マツリの体に傷をつけないように、ゆっくりとその刃をそれに近づける。

そして、本人に気づかれないようにゆっくりと、その布切れをはぎってゆく。

チョキンと、最後の布切れを断ち切ったところで鋭い音が室内に響くが、漫画に夢中なマツリは気づかない。

 

(よし、これを捲り上げて……)

 

と、紺色のスカートを脚に触れないようにそっとつまみ上げると、目に飛び込んできたのは……お尻だった。

むっちりとしていて、それでいて引き締まっているというなんとも芸術的な矛盾を孕んだ神秘のライン。その魅惑の存在感に思わず手を伸ばしてしまう。しかし、いくら内に秘めた悪魔を解き放ったとはいえ女の子のお尻を触るなんてとんでもないこと、出来るはずがない。

 

「……ひ、ひゃぁっ!」

「……すぅぅぅぅっ、はぁぁ〜〜ぁっ」

 

ってことで、手ではお尻を触らずに腰のあたりを掴んで、鼻をマツリのお尻に思いっきりくっつけて匂いを嗅いだ。

顔にむにゅむにゅと当たる尻肉の柔らかさが肌に心地よく、人生で一番の快楽を感じざるを得ない。

 

「……あっ、ちょっ……やめてぇっ……」

「……すんすんすんすんすん、ぷはぁ〜っ」

「ちょっ、ほんとに……っ。……ていうか、私のパンツをどこにやったのよっ!」

「すんすんすんすんすん……あっ、それならここにあるぞ?」

 

俺は彼女のパンツを片手でひらひらと見せると、その匂いを堪能する。

女の子ならではの神秘の甘ったるい匂いと女の子の蜜の独特な素敵な香りが融合して、鼻腔を自由奔放に犯してくる。

はぁ……このままこのフレグランスを脳内に送り続けたら、俺は天国にトリップしてしまいそうだ。

 

「……パンツ……返してよ……っ」

「はぁ〜っ、こんないい匂い初めてだ……っ」

「……パンツ……っ……私の……っ……」

 

やりすぎたのか、パンツを返せと訴えてくるマツリがだんだんと涙目&鼻声になってきている気がする。

そこで俺はさすがにパンツを鼻から遠ざけ、嗅ぐのをやめるのだったが……このままで終わるのはもったいない。

 

「……あっ! な、なにするの……っ」

「……れろっ、れろ……っ、ぢゅぅぅぅっ……」

 

もったいないので嗅覚だけではなく、味覚でも味わうことにした。

濃厚な味わいが高級なチーズのようで口当たりがよく、吸い付くと途端に蕩けていってしまうようだ。

 

「やめてぇっ……ほんと、汚いからっ……」

「ぢゅぅぅぅっ……ぢゅぅぅっ……」

 

真っ赤になって涙目で訴えるマツリがかわいい。

今日から一緒にこの部屋で暮らすってことは、この羞恥に染まった恥辱の表情が毎日いつでも見られるという事だ。

マツリにはこれ以上ないくらいに感謝しないといけないだろう。

 

「ぢゅぅぅぅっ……なぁ、マツリ」

「……ふぁ、ひゃいっ……? 」

「こんな濃厚な、美味しいパンツを舐めさせてくれてありがとう」

「や、やめろっ……ばかっ」

「それと……」

「……それと……っ?」

「…………いつまでもパンツを履いてない下半身を俺に見せつけてくれて、ありがとう!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

 

耳まで真っ赤になるマツリ。

捲れ上がったスカートを両手でバサッと押さえると、目に涙を溜めて顔を俯かせる。

でも、そこから見えるのは悲しそうな表情なんかではなく、焦りそのもので……。

 

「……ね、ねぇトモヤ」

「……えーっと……ごめん、聴きたくない」

「……あのね、ほんとに、申し訳ないんだけど……」

「だから聴きたくないって……っ!」

「……私、トモヤのベッドでおもらししちゃったみたい……」

「……それって……」

 

俺が耳を疑ってもう一度問いかけると、マツリは開き直ったかのように勢いよく顔を上げて再度こう言った。

 

「私、トモヤのベッドで辱めを受けて、おしっこ漏らしちゃったのっ!」



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二択。

言われて下を見てみると、よく俺の目に馴染んだベッドの上に噴水があった。

それは「シャァァァッ」と勢いよく音を立てて噴き出していて、滴り落ちて水たまりを作っている。

さっきまで下校中の子どもたちの声が賑やかに聞こえていたというのに、誰かさんのおもらしの音を境にぴったりと音がやんだように錯覚してしまうのだから不思議だ。

 

「え、えーっと……トモヤ、ごめんね?」

 

おしっこを漏らしてこれ以上ないくらいに真っ赤になって震えていた本人が、俺の顔色を伺いながら謝罪をしてくる。

そんな幼なじみに俺は、聖人のように対応する。

 

「いや、いいんだマツリ。人には失敗の一つや二つあるものだし、俺とお前は幼なじみ。お互いの性格や特性も理解してるはずなのに、異変に気づいてやれなかった俺が悪いんだ……」

「……と、トモヤ……っ」

 

マツリが、目に涙を溜めてうるうるしている。俺の広い心と神対応、俺たちの友情に感動してしまったらしい。

と、俺も罪な男だなあと我ながら感心していると、マツリがなにやら考え込み始めた。

 

「……いや、ちょっと待ってよ……? 私が、お、おしっこを漏らしたのって元はといえばパンツを取られて恥ずかしかったからで……。そのパンツを切り刻んで脱がしたのって……」

「……俺だな」

「……じゃあ悪いのは元々トモヤじゃないっ! なんで私の代わりに罪を被ったいい人みたいな顔してるのっ」

 

……バレてしまった。

以前クラスメートにおしっこのギミックを熱弁したときはあんなにも簡単に納得してくれたのに、この幼なじみは勘が鋭いらしい。

でもこれ……。

 

「後処理どうするかぁ……」

「……うぅっ……それはほんとにごめんね……」

 

クリーニングに出すか、買い換えるか。

一般人が漏らしたおしっこだったら、そんな選択肢の中から一つを選んで実行するだろう。

だが、今回俺の布団をおしっこまみれにしたのは何を隠そう、放尿系美少女のマツリである。つまり、俺の迷うところは……。

 

「マツリのおしっこに毎晩包まれて寝るか、マツリのおしっこをこの場で布団から吸い出して飲むか……」

「……ふぇぇっ!」

 

俺がこの世で最も崇高な悩みに頭を捻っていると、なぜかマツリが素っ頓狂な声を上げた。なんだか驚いてるようだけど、なにかびっくりすることでもあったんだろうか。

 

「……トモヤっ……それ……」

「……ん? なんだ、マツリもどっちがいいか一緒に考えるか?」

「……えぇ、いや……あの……飲むの……?」

「ん? なにがだ?」

「……わ、私のお、おしっこ……飲む……の……?」

 

またも耳まで真っ赤にして恥ずかしそうに、さも俺が不思議な行動をとっているかのように聞いてくるマツリ。

なんで俺はこんな当たり前のことに回答しなくちゃならないのかと疑問に思いながらも返事をする。

 

「……当たり前だろ? だってもったいないじゃないか」



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感動。

結局シーツと掛け布団を絞って出たおしっこをその場で飲み、染みついた香ばしい匂いやさらさらの感触は家宝として毎晩堪能しながら眠りにつくことにした。

と、いうわけで。

 

「……んっ、ぢゅぅぅっ、ごくっ、んん」

「や、やめてぇ……ほんと、汚いから……っ。……おしっこだよ? おしっこなんだよ? 今、トモヤはおしっこ飲んでるんだよ? 汚いと思わないの……っ」

「……ぢゅっ……ん? なに言ってるんだマツリ。お前は自分の価値に気づいていないだけだ! お前のおしっこは世界のどこにもない、貴重な天然のジュースなんだよ! 海外のソムリエだってお前のおしっこに目をつけてるに決まってる! お前のおしっこなら世界を狙えるんだ!」

「おしっこおしっこ言わないでぇっ!」

 

またも顔を真っ赤にするマツリ。

普通の顔色のときの方が少ないんじゃないかってくらいに赤面することが多いな。

……と、ここで俺はマツリのおしっこを顔全体で楽しみながら飲んでいるわけだが、いいことを思いついてしまった。

 

「……なぁ、マツリ。ちょっとそのままこっちに来てくれないか?」

「……えぇ……またなにか変なことするんでしょ? やだよ……」

「ほら、いいからいいから」

 

渋々、といった感じでマツリがこっちに近づいてくる。手の届きそうな距離まで歩いてきて、次の瞬間。

俺は、おしっこ浸しになった布団から顔を勢いよく離して、マツリのスカートをめくり、そのハリのある太ももに顔を突っ込んだ。

 

「ちょ、なに……するの……っ」

「……れろっ。……! こ、これは……っ!」

 

太ももを伝って滴るおしっこを直に舌で受け止める。すべすべの太ももの感触と体温が直接伝わってきて、おしっこの味を最大限に引きたてている。

……うん、やっぱりおしっこを飲むときの最適な温度は人肌と同じ三十六度くらいだな。

冷たくなってしまったシーツから吸うおしっこよりも格段に美味い。

例えるなら、そう。

カップラーメンとお店のラーメンみたいな明確な差がここにはあった。

 

「ふ、ふぁ……っ。やめっ……くすぐったっ……あはは」

「おお、珍しく本人も喜んでる喜んでる!」

 

それに、またマツリがちょろちょろとおしっこをし始めた。今度は立て続けだったためいつもより量が少なく、太ももを全て伝って落ちてくる。それを漏れなく受け止める俺!

漏れてるけど漏れなくだ。

 

「……あぁ、もう……いひっ、ほんと、くすぐったぁ……っ」

「……しゅるっ、ずずっ……んっ、へろっ」

 

やっぱり、笑顔の幼なじみが放つおしっこは美味しい。ただ笑顔なのとは違う気もするが、笑顔のときに放たれたおしっこはこれまでのどんなおしっこも凌駕する甘さとコクがあるのだ。ぜひ世界平和が実現して、常にマツリがニコニコしていられる環境が出来ればいいと思う。嬉ションこそ正義なのだ。

 

「……っ……っ……」

「……ふぇ! ど、どうして泣いてるのよ」

「俺……っ、生きてる間にこんな素晴らしいおしっこに巡り会えるなんて思わなかったから……っ。こんな素晴らしい体験、出来ると思ってなかったからぁ……っ」

「も、もう……っ! 泣き止んでよ、ほら!」

 

感動のあまり涙を流す俺を見て、優しさに溢れた幼なじみは俺の頭を撫でてくれる。

ただ、驚いてマツリの顔を見ると、なぜだか彼女の目からも一筋の滴がつぅっと流れているのが見えた。

 

「マツリ……なんで、お前まで泣いて……っ」

「……っ。だ、だって……そんなに、私のことを必要としてくれてる人がこんな身近にいるなんて……っ。……ふぇぇ……」

 

話を聞いてみると、どうやら今日我が家に遊びに来たのは辛いことがあったからで、マツリは自分の存在価値に疑問を持ってしまっていたんだとか。

そこにたまたま俺が泣いて喜ぶほどマツリのおしっこを褒めたため、嬉しさや安堵のあまり泣いてしまったらしい。

 

「……だからね、トモヤ。ずっと……これからも、私を必要としてくれる……?」

「……ああ、するとも。もちろんするともさ。これからもずっと、お前は俺の大切な幼なじみだ!」

 

と、いい話風に落としこむことに成功した俺。

まだしばらくはこの強力な運と巧みな話術で、マツリのおしっこという世界最高級のジュースをを存分に楽しめそうである。



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妹と。
妹。


夏はなにかと喉が渇くものである。

ただ家でスマホをスクロールしてゴロゴロしているだけでも、身体の水分はじわじわと奪われていくのだ。

ほら、テレビ番組でも熱中症対策に関するコーナーが今も放送されている。

ということで、リビングにて読書をしていた俺も例外ということはなく、なんとなく気怠くなってきたので水分をとることにする。

 

「おーい、千夏。お兄ちゃんにいつものー」

「……はーいっ、ちょっとまっててね! ……」

 

とたとたと、二階の部屋からリビングに下ってくる足音が聞こえる。

その音が止んだかと思うと、すぐに小さな影が寝てる俺の枕元まで近づいてきて……。

 

「直接飲む? コップで飲む?」

「……あーっと、今日はコップで頼む」

 

と、おしっこの飲み方を尋ねてきた。

今日は温かいおしっこをそのまま喉に通すのははばかられるような気温だったので、俺はコップで飲む方を選択する。

 

「お兄ちゃん、今日はね、千夏、いっぱいお水飲んだから薄くていいおしっこが出ると思うよ!」

「そうか、千夏は偉いな……ありがとう」

 

俺は、薄いおしっこを作り出すために尽力する妹の頭を丁寧に撫でてやる。

シルクのように手に馴染むさらさらの髪が艶やかで、肌に気持ちよかった。

 

「……でもお兄ちゃん、最近よく薄いおしっこがいいっていうけど、この前はよく濃いおしっこが飲みたいっていってたよね?」

「……ああ、それはだな……」

 

どうして? と千夏が言うので、詳しく説明してやる。要約すると、おしっこの需要と供給は季節によって変わってくるという話だ。

それも、残酷なことに夏と冬には需要と供給が反転してしまい、自然なままでは満足のいくおしっこを楽しむことは出来ない。

メカニズムを説明すると、おしっこの質には気候が密接に関係しているというわけだ。

当然のことだが、夏は暑く冬は寒い。

夏はよく汗をかくし、冬は汗をかきにくい。

そうすると体内の水分量は、夏は少なくなって冬は多くなる。だから自然と夏は濃くて水気の少ない黄色いおしっこが出て、冬は透明で薄い水に近いおしっこが出る。しかしここで問題なのが人間の求める水分の質だ。

熱中症への対策が必要な夏は水分量の多い冬に出るおしっこが欲しくなり、逆に水分量の多い冬は味や成分が濃厚な夏に出るおしっこが欲しくなる。つまり、需要と供給の反転が起こってしまうというわけだ。

 

「……だから千夏にはいつも冬には運動をしてもらって、夏には水をいっぱい飲んでもらってるってことだな」

「そっかぁ……! じゃあ千夏、いっぱいお水飲んでおいしいおしっこつくるねっ!」

 

なにかに憧れるようなキラキラした表情をする千夏だったが、元気よく頷くとそのまま履いていた短パンを脱ぎ去る。

そしてパンツに手をかけるーーかと思いきや、表れたのは白い布地ではなく、肌色の未発達な柔肌だった。

 

「お前……パンツはどうした……?」

「あのね、お兄ちゃん。パンツはおしっこするのに邪魔だから、履いてないよっ」

「もしかして、俺のいいつけを守って……」

 

去年の夏、俺は千夏にパンツ撤去命令をしたことがある。確か、夏の濃いおしっこを野外で直飲みすることにハマっていた時期だっただろうか。そこから誤解を与えてずっと妹がノーパン生活をしていたとは、なんとも申し訳ないことをしたもんだ。

千夏が高校生になったらストッキングを履かせて、その少し引っかかるくらいの粗い布地で漉したおしっこを飲みたいと思っていたのに、その計画が破綻するところだった。

ストッキングの薄い黒越しに見える白いパンツを見ながら一杯舐めるのが素晴らしいのに、危ないところだったな。

 

「……ってわけだから、これからはちゃんとパンツを履くんだぞ」

「うん、わかった!」

 

兄としてきちんと躾を施すと、千夏は元気よく頷いてズボンを足首から抜き去った。

そしてガラスの底の深いコップを下の方に構えると、縁をおしっこが入りやすいようにくっつけたりはせず、見応えのある遠距離のパフォーマンスとして放尿する。一筋のおしっこの線が一直線にコップへと向かっていて、その熟練された匠の技には感服せざるを得ない。

さながらその光景は水の女神を思わせる神聖な姿であり、見るものの心を浄化するほどの清らかな魅力に満ちていたといっても過言ではないほどだ。

 

千夏はおしっこを注ぎ終わると、早く俺に飲んで欲しいとばかりにその改良を重ねて上手になった夏のおしっこを手渡してくる。

両手で大切なプレゼントを渡すかのようにおしっこを渡して微笑む妹が、今日も最高にかわいかった。



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水源。

妹に手渡されたおしっこをまじまじと見つめる。色味はスポーツドリンクのような夏に最適な様子で不純物もない、まさに純粋に生み出された聖水のような佇まいをしている。

そこには俺が求めていた、濃厚な一杯とは違ったゴクゴク飲めるタイプの清らかなおしっこがあった。

 

手に取ってみると、コップがほんのりとあったかい。おしっこに関しては夏だからといって冷たいほうがいいわけではなく、やはりほんのり温みがあるほうがいつの季節も美味しい。しかし少しだけ冬と比べるとぬるいような気もするので、千夏の体温調節も健康的なことが分かって少しだけ頬が緩む。

 

「お兄ちゃん、まだー?」

 

ズボンを上げずに急かす妹を横目に、コップの縁を口元へ近づける。と、その前に匂いをテイストしなければならないな。

 

「……すんすん……んーっ……」

「ど、どう? お兄ちゃん……っ」

 

鼻を直接コップに近づけて動物のように匂いを嗅ぐ俺と、それをわくわくした目で今にも飛びあがらんとばかりに見守る妹。

自宅でのおしっこは自由度が高くていいものだ。学校で直におしっこを嗅ぐと理科の先生に怒られたものだが、自宅ならば手で仰いで嗅がなくても咎める人はいない。

むしろ千夏は直に嗅いでもらえて満足なようだ。

 

「……んっ……ほほう……」

「お兄ちゃん、どうなの……?」

 

妹はやはり絶えず急かしてくるが、なるほど。千夏が今日まで精度を仕上げてきたっていうのが鼻腔で感じられるほど、爽やかないい香りが空気中に漂ってくる。夏にふさわしい海の香りが肺の中いっぱいに広がって、冴えないぼっちの俺でさえ、自分がリア充なのではないかと錯覚するほどの気持ちよさを覚えてしまう。これは世に出回ったら核戦争をも起こしかねない国宝級のおしっこに違いない。いや、まあ今回はゴクゴク飲めるがモットーなため、どちらかといえば国宝というよりは水源といったほうが近いだろうか。だとすると俺はこの水源を生涯手放したくはない。いつかこの水源を奪いに来るものがいたら……、いたら……。

 

「……ぐすん……うっ……」

「ど、どうして泣いてるのお兄ちゃんっ! そんなに嫌な匂いだった……?」

「……いや、お前が嫁に行っちゃうのを想像したら……涙が……」

「おしっこの匂い嗅いでどうしてそんな感想にっ!」

「……千夏、ずっとお兄ちゃんと一緒にいてくれるか……?」

「……ま、まあ千夏もお兄ちゃんとはずっと一緒にいたいけど……」

 

頬を赤らめて零す千夏。今はそう思っていてくれても、いつその考えも変わるかわからない。まだ千夏は小学生だし、これから思春期なんかを通過していくと、もしかするとお兄ちゃんが嫌いになっていくかもしれない。

そう思うとやっぱり不安になってしまうのだった。

 

「……よし、飲むぞ、千夏」

「う、うん」

 

気持ちを切り替えて、目の前の透き通ったおしっこを見据える。そしてその温度を喉奥に刻みつけるかのように、俺は一気にそれを呷った。すると、口の中に仄かな甘みが広がって、身体の中心から指先まで、クーラーに冷えた全身がほんのり暖かくなる。さらに汗と似た成分の薄いおしっこは身体にしっとりと馴染んで自然に吸収され、火照った身体を存分に癒してくれる。やっぱり夏はスポーツドリンクや麦茶なんかより、百倍おしっこを推奨するべきだ。清涼飲料水の会社はそろそろおしっこに目をつけるべきだと思う。

 

「……ど、どうだった? お兄ちゃん……」

 

そこで俺は期待と不安が入り交じった視線が向けられていることに気付く。ゴクリと音を立てて聖水を飲み込むと、俺は千夏に笑顔を向けてこう言った。

 

「……もう一杯用意してくれ!」



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おしっこ祭り。

「ちょっとまっててね……」

 

そういいながら千夏がコップに跨り、ぶるっと一回気持ちよさそうに震えた。二回目のおしっこをねだられることを予期していたのか、相当おしっこを溜めていたらしい。

そういえば頬は上気していたし、内股になっていたような気もする。と、そこで俺は千夏のようすがいつもと違うことに気が付く。

 

「……えっと、お兄ちゃん?」

「……んー? どうした?」

「……あの……ちょっと、言いにくいんだけどね……」

 

いつになくモジモジしながら妹が言葉を紡ぎ出す。なんだか頑張ってる妹が微笑ましくてかわいい。それからじっと、妹の次の言葉を待つ。すると、しばらくモジモジしていた千夏が顔を真っ赤にして、吹っ切れたかのように言い放った。

 

「お兄ちゃんっ! 二回目のおしっこは見られてると恥ずかしいから……っ、向こうむいててっ!」

 

なんとこの妹、さっきはあんなに堂々とパンツも履かずにコップにおしっこを遠距離でストライクさせていたというのに、今さら恥ずかしいとか言い出した。一応俺もおしっこを飲ませてもらってる身だし、反対側を向いててみるが……。

 

「じょろろろろ……ぴちゃ……じょぼっ……」

(……き、気になる……!)

 

部屋中に響く女子小学生のおしっこに、どうしても気持ちが抑えられない。そばを打っているところやコーヒーを挽いているところを見ると食べるときにより美味しく感じるように、おしっこだって注がれる過程が大事なのだ。ちなみに俺は恥ずかしがりながら出たおしっこや幼なじみの震えながら出たおしっこが大好物だ。

……悶々としながら時間が過ぎる。

おしっこを注ぐだけの数秒なのに、時間が数分にも感じられる。

と、二人がおしっこに気を取られていた、まさにそのときだった。

 

「おはよートモヤ! 一緒に宿題やろ……って、ええっ!」

「「あ……っ」」

 

幼なじみのマツリが、勢いよく‪ドアを開けて入ってきた!

そういえばコイツ、うちの合鍵持ってるんだっけ……。

と、そこでふとおしっこをしていた妹に目を向ける。

 

「……ぁ……ぁ……っ……ふぇぇぇぇぇんっ! ぷしゃぁぁぁぁぁっ……」

 

千夏は極度の緊張と羞恥から、コップに狙いも定まらずに、床じゅうにおしっこを飛び散らせて固まってしまったのだった。

 

「あっ! もったいないっ!」

「……えっ」

 

俺は、すかさず床に飛びかかって這いつくばり、散らばったおしっこを舐める。犬のように無様かもしれない。豚のようにみっともないかもしれない。でも……それでも……!

俺は、千夏のおしっこを無駄にするわけにはいかなかった!

 

「……ずっ……ずずっ……ぺろぺろぺろぺろ……んっ、ごくっ……」

「……お、お兄ちゃん……っ!」

「え、えぇ……」

 

息をするのも忘れるほどひたすらおしっこをすする俺、羞恥の涙が悦びと感動の涙に変わる千夏。そして、ただただこの状況に引いている様子のマツリ!

そんな部屋の様子に気持ちが昂った俺は、下半身裸の妹の両太ももの下に手を回し持ち上げ、その噴き出し口を幼なじみに向けた。

さあ、時は来た!

 

「おしっこ祭りを始めよう!」

「は、はぁ……!」

 

俺は、千夏の太ももの付け根を指で軽くつまむようにしてくすぐる。すると、千夏がだんだんと顔を真っ赤にして震えてきた。

 

「お兄ちゃん……これ……、恥ずかしいし……えーっと……えっと……」

「なんだ? 声に出して言えるか……?」

「……えっと、あのね……? で、出ちゃう……っ」

 

ぷしゃぁぁぁぁぁっ……。

 

さっきもどこかで聞いた音が、再び部屋の中を蹂躙する。そして、俺たちの前で立ち尽くしていた幼なじみの顔を見ると……。

 

「……あ、あんたねぇ……」

「……に、似合ってる……ぞ?」

 

俺の妹の、おしっこまみれになっていた。



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いただいております。

「ほんと、馬鹿じゃないの! 頭からおしっこ被って……全部おしっこまみれになっちゃったじゃないっ!」

 

声を荒げるマツリだったが、おしっこを滴らせながら言われてもちっとも迫力がない。

それに……。

 

「あの……マツリちゃん、ちょっと下みて……っ」

「……うん……? どうして……って、ええっ!」

「あははっ、マツリもおしっこ祭りか!」

 

なんと、マツリのスカートから伸びる白い脚を伝って、水が流れている。しかしその色は熟成された小麦色のおしっこで……。

実のところ、これが千夏の薄いおしっこと異なることは一目で判別がつくものだった。

しかし。

 

「こ、これも千夏ちゃんのおしっこが流れて来たんでしょ! ……な、なによその目はっ!」

「……ふうん、そうか」

 

マツリが必死になってしらを切るので、ちょっとからかってやることにした。ついでに恥ずかしがりながらおしっこなんて漏らしてくれたら願ったり叶ったりだ。

ということで。

 

「なら、パンツは濡れてないはずだよな?」

「……えっ! そ、それは……」

「パンツが漏れたての濃厚な人肌のおしっこで濡れてるなんてことはないはずだよな!」

「えっ、ちょっと……っ!」

 

抵抗するマツリのスカートの中に手を入れ、一気に足首までその柔らかい布をずり下ろす。しかしマツリも抵抗をやめず、足首をパンツから抜かない。

 

「ふふん、変態。取れるもんなら取ってみなさいっ」

「……いいんだな?」

 

俺はマツリの足に引っかかったパンツを片手で掴んだまま、上を見上げる。そしてしばらく凝視していると……。

 

「あっ……スカートの中!」

「…………いただいております」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁあっ」

 

慌てて手でスカートを押さえるマツリ。しかし、真下から覗く俺の視界を完璧にガードできるほどの遮断性は持ち合わせていないようだ。その証拠にスカートの隙間から素肌の色がよく見える。

 

「み、見ないで……っ」

「素肌の色がよく見える」

 

例のごとく声に出してみました。すると、茹でたように真っ赤になった幼なじみは、噴火寸前のように「はぁはぁ」と息を切らしながらぷるぷると震え出す。そしてその震えもピタッと止まったかと思うと……。

 

「ぁっ……もうだめっ、トモヤ、そこどいて……っ」

「……おっ、これはゲリラ豪雨の予感!」

 

悶えだした幼なじみを確認すると、口を開けて上を向く。すると、夕立のような音を立てて温かい天然のシャワーが顔じゅう、身体じゅうに降り注いで来た。夏に温かいおしっこを浴びるのはどうだと疑問に思う人もいるかもしれないが、夏に温かいシャワーを浴びたときにも気持ちいいと感じるあれと同じだ。夏に浴びる温かいおしっこも、それはそれで気持ちがいい。

羞恥に晒されて噴出した、手の加えられていない濃厚なおしっこが頭から降り注ぐ。考え抜いて作られた薄い千夏のおしっこもよかったが、味の濃いものと味の薄いものを連続で口にしたいという望みを叶えてくれるマツリのおしっこはやはり格別だ。それに、俺の幼なじみのおしっこは天然で、世界にかけても最高に美味いと断言出来るクオリティ。千夏には悪いが、品質は圧倒的にマツリの方が勝っている。

 

「……と、トモヤぁ……」

「……ごぽぽっ……んっ、ごくん……っ」

「の、飲んだのっ!」

 

もちろん上に口を開けていたときに入った分のおしっこは全て飲み込ませてもらった。これだけ濃いおしっこが一気に体内に入ってくると酔っ払いそうになるが、それもまた一興。全身に芳醇な香りが充満して、最高の気分だ。それに、俺の目に溜まったおしっこは自然と痛みを感じることなく、現代人の日頃酷使するせいで疲れ切った目を癒してくれる。コンタクトを洗う水みたいな柔らかさがそこにはあった。

いやぁ、さすがにおしっこが目に入ったら痛いかと思ったが、放尿の瞬間を目に焼き付けようとして目を見開いていてよかったな。

そのお陰でこうして俺はまた幼なじみのおしっこに新しい可能性を見出すことが出来た。まだまだマツリのおしっこには不思議がありそうだということに喜びを覚え、俺はただただ感動するばかりなのだった。



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急須で淹れたおしっこみたいだ。

そんな中、知らないうちにおしっこ祭りにも飽きて一人宿題の漢字練習を黙々とやっていた千夏が、ふとこっちに目を向けて床を指さしている。

 

「お兄ちゃん……」

「……ああ、言いたいことは理解した」

「……えっ、えっ? なになに、理解してないのって私だけな感じ!」

「そうだな……ちょっとマツリはそっちで座って麦茶でも飲んでてくれ」

「う、うん……って、お漏らししてるから座りたくないよっ!」

 

喚くマツリの唇に人差し指を添えて黙らせると、俺は即座に床に這いつくばって舌をフローリングに押し付ける。そして水たまりとなったおしっこに優しくキスをするかのように唇をつけると、一気にそれを啜り上げた!

うん、なんという美味しい水たまりだろう。

鼻をつくが癖になる匂い、しっかりと味のする甘塩っぱい味付け、それに少し熱いくらいの適切な温度!

不思議なことにマツリのおしっこは、気分によって特性を少しだけ変える。舌触りや味、匂いはもちろん、それに加えて温度などの項目も若干いつも変わってくるのだ。そして今日はラッキーなことに、極度に恥ずかしがって出たおしっこであり、ちょっとだけお漏らしを隠そうとしていたという後ろめたい気持ち、それから照れなども入った極上のおしっこである。温度も過去最高レベルに高くて、急須で淹れたおしっこみたいだ。いや、急須で淹れたおしっこが美味しいのかは知らないけど。

 

「な、何してるのっ! 今日は一体何回おしっこ飲むのよ……っ」

「うーん……確かに飲みすぎな気もするな。明日にとっとくか」

「うんっ! じゃあ千夏、冷蔵庫に入れてくるねっ」

 

そう言うと千夏はおしっこを丁寧にそれ用の吸引器で吸い上げて瓶に詰め、冷蔵庫の中に閉まった。自分の出来る仕事を見つけてやる、出来のいい妹だった。

 

「おいで、千夏」

 

俺はお手伝いを終えた千夏を近くに呼ぶと、髪を梳くように頭を撫でた。すると千夏は気持ちよさそうに目を細めて、犬のように高い声を漏らした。あ、今のはおしっこじゃなくて声な?

 

「むぅ……」

「お、なんだ? マツリもなでなでしてもらいたいのか」

「そ、そんなんじゃないしっ! ……ただ、兄妹が羨ましかったっていうか……その……。と、とにかくっ! おしっこ塗れになっちゃったからシャワー貸してねっ!」

 

捲し立てるように言うと、うちのお風呂場の位置まで完璧に把握してるマツリは、一直線にその方角へと足を進める。そんな状況の中、一人ピュアな小学生、俺の妹はといえば……。

 

「あの、マツリちゃん……兄妹が羨ましかったなら、三人で一緒に、お風呂入ろ……? 昔はお兄ちゃんたち、一緒にお風呂入ってたんでしょ……?」

「「……えっ」」

 

思春期前の、男女の差なんて全く考えたこともない無垢な瞳でぶっ飛んだ提案をしてきたのだった。



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風呂にて。
性行為。


我が家の脱衣所に、年端もいかない男女が三人。とはいえ、長い付き合いの幼なじみ同士とその妹と……って感じなのだが、とりあえず男女が三人。さて、脱衣所にいるからには文字通りここでは脱衣をするわけなんだが……。

 

「え、え、ちょっと待って! ほんとに一緒にお風呂入るの!」

「何をそんなに焦ってるんだ? 昔は一緒に入ってたじゃないか」

「マツリちゃん、みんなでお風呂入るのいや……?」

 

一緒にお風呂に入ってたのは六年ほど前だというのにすっとぼける俺と、無垢な瞳に涙を浮かべて寂しそうに訴えかける千夏。

 

「うっ……わ、わかったわよ! こうなったらヤケよ! 入ればいいんでしょ入れば!」

「そうだよなぁ? 別にお風呂に入るだけだし何も躊躇することなんてないだろ。性行為でもするわけじゃなしに」

「ばか……っ! なんでそういうこと言うのっ! ほんっと信じらんない! 千夏ちゃんもいるんだよ!」

 

結局半強制的に一緒にお風呂に入ることを決断させられたマツリだったが、俺の発言のどこが気に入らなかったのか、例のごとく顔を真っ赤にさせて突っかかってくる。マツリの恥ずかしがり方、反応を見るに最適な例えだったが、どうやら気分を害してしまったようだ。

俺たちには珍しく、どうやら少しだけ微妙な空気になってしまったが、そんな雰囲気を察してか、和ませるように千夏が口を開いたのだが……。

 

「千夏、性行為しってるよ!」

「「……えっ」」

 

……全然和まなかった!

むしろさっきより変な空気になっちゃったし、マツリがめちゃくちゃ冷たい目でこっちを見てる! いや、さすがに俺だって小学生の妹に性行為がどうとか教えるわけがない。それに千夏自身、俺にそんな質問してきたことはない。……ってことは、母さんか父さんが……!

 

「千夏、そんなこと誰に教わったんだ!」

「そうよ! どうせトモヤが教えたんでしょ、そうよね千夏ちゃん!」

「ううん、お兄ちゃんじゃないよ。千夏に性行為を教えてくれたのはね……」

 

千夏が何故か自信ありげに口を開く。ええい、誰だ! まだ小学生の千夏に性行為を教えた不埒なやつは! と、俺たちは憤怒しながら千夏のセリフを待ったんだが、ついに彼女が口を開いた瞬間、その怒りは火山が噴火するかのように一気に頂点に達した。

だって、その千夏に性行為を教えたというやつは……!

 

「千夏に性行為を教えてくれたのはね、先生だよ!」

「「な、なんだってえええええ!」」

 

仮にも子供を教育する立場の人間が、その子供自身に手を出しているだと! 千夏に性行為を教えたなんて……そいつはどこまでやったんだこのロリコンめ!

俺とマツリは顔を見合わせると、二人神妙な顔で頷き合う。

そして、千夏に向き直って二人同時に口を開いた。

 

「「とりあえずもう小学校には行かなくていい!」」

 

その後、千夏の話を聞いていくうちに学校の保健体育の授業で性教育を学んだだけだということが判明して恥ずかしい思いをする俺たちだったが、この時は本当に心から焦った。

でも千夏がまだピュアな生娘でこんなにも安心するあたり、将来俺とマツリが子供を持ったら相当親バカになるだろうとおしっこ塗れで笑い合えて、そんな日常会話が楽しくて。そんな焦ったことも歳をとってふと思い出して、また三人でおしっこ塗れになって笑い合えたらいいなって、そんなことを思えたからこんな時間も有意義だったと、そう思えたのだった。



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ムカデ。

気を取り直して、早速お風呂の準備に取り掛かることにする。さっきまでは別の話に集中することで意識をしないようにしていたが、落ち着いて今の状況を再認識するととんでもない状況だった。……いや、だって幼なじみとはいえ同い歳の女の子とお風呂に入ろうとしてるんだぜ? それに、脱衣所で裸になるなんて……。

と、俺が理性を取り戻してあたふたしていたときだった。

 

「すっぽんぽんぽぽんぽんぽぽんっ!」

 

変な掛け声とともに、真っ先に千夏が服を脱ぎ捨てた! その声と動作に驚いてビクッとなるマツリがかわいい。いや、でもこの空気で千夏が勢いよく脱いでくれたのはありがたい。恥ずかしくてちょっとだけ温度が上がったかのようにも感じられた脱衣所の室内が、少しだけ優しい空気になった気がする。

そして、ほっとして胸を撫で下ろす。

 

「……きゃっ! ち、ちょっとトモヤ! 急になにするのっ! セクハラっ! 痴漢っ! 変態っ!」

「よいではないか」

 

マツリは何を怒っているのだろうか。

……撫で下ろした胸が自分のじゃなかったのが悪かったのだろうか。

 

「……すげえ柔らかかったぞ」

「別に感想は要らないわよっ! やめてよ変態っ!」

「ああ、やっぱりマツリの胸は世界一だなぁ。おしっこも世界一でおっぱいも世界一か。お前もう地球の大統領になれよ」

「全ッ然嬉しくないっ! この馬鹿! しんじゃえっ!」

 

マツリはさっきまでの羞恥の紅とはまた違う赤色のほっぺたをして罵声を浴びせてくる。怒りか、喜びか。それとも羞恥も混じった感情なのかわからないけど、とりあえず気持ちいい。とても気持ちがいい。

 

「こんなやつに千夏ちゃんの裸を見せちゃだめだねっ。ほら千夏ちゃん、お姉ちゃんと一緒にお風呂入ろっ」

「ん……でも、お兄ちゃんも……」

 

マツリが俺を性犯罪者のように扱ってくる。

……いや、まあ、性犯罪で訴えられたら勝てないんだけど。そこは幼なじみのよしみで許してくれるだろうと信じてる。……訴えられそうになったら本当なんでもします。

 

「……それにしても心外だな。さすがに俺も小学生の妹を性的な目で見るほど変態じゃねーよ」

「……まあ、ね。それはわかってるんだけど……」

 

俺が文句をたれると、マツリは言いがかりだし、言い過ぎたと思ったのかバツが悪そうに目をそらす。そんなマツリに、俺はしっかり目を見て言い放った。

 

「妹を性的な目で見ることなんてねーよ。見ると興奮するだけだ」

「性的な目で見てんじゃないのよっ!」

 

マツリが呆れたような目でこっちを見る。ていうかもうこれ、ゴミを見る目だ。学校のプールサイドにムカデが出たときに女子がこんな目でそいつを見てた気がする。……ムカデ、かわいそうに。俺はこの日、初めてムカデに同情した。



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第三勢力。

そしてまた、こっ恥ずかしい空気がぶり返してくる。なんだか、何回もタイムリープしてるんじゃないかってくらい空気が淀んで晴れてを繰り返してる気がする。だから、思い切って俺はマツリに恥ずかしさをなすりつけることにした!

 

「……マツリ、お前先に脱げよ」

「……い、嫌よ。トモヤが先に脱げばいいじゃないっ」

「俺だってやだわ! お前が先に脱げっ!」

「嫌だって言ってるでしょ! トモヤが脱ぎなさいっ!」

 

脱げ、脱がない。脱げ、脱がない。

これを繰り返して時間が過ぎて行くのを待っているのか、二人とも譲らずに主張をぶつける。最適解には辿り着かないようにわざわざ遠回りしている。……しかしこのとき俺たち二人は、その場にもう一人の勢力が存在することを失念していた!

 

「マツリが脱げ! おっぱい晒せ!」

「なんてこというのっ! 罰としてトモヤが脱ぎなさいよっ!」

 

言い争う俺たちを見て、不思議そうに首を傾げる第三勢力。あどけない顔で黙って見ていた千夏だったが、さすがに俺たちが何分間もこうしていることに疑問を持ったのか、不意に口を開く。

 

「……えっと、お兄ちゃんたち……」

「……な、なんだ……?」

「……ど、どうしたの……?」

 

その言葉を言われることを危惧して、二人息を呑む。しかし無慈悲にも第三勢力はその危険な武器を悪気もなく放ちやがった!

 

「お兄ちゃんたち、二人で一緒に脱げば……?」

「「……はうっ!」」

 

……ということなので。

俺たちは観念して、二人同時に脱ぐことにした。途中、野球挙で脱いでいくという案も出たが、マツリはジャンケンが多分宇宙一強い。俺が一方的に剥かれるのが目に見えているので、全力で抵抗させてもらった。その過程でどさくさに紛れてもう一回おっぱいを触らせてもらった。……めっちゃ柔らかかった。

 

「千夏がせーのって言ったら二人で脱ぐんだからねっ」

「ちょっと待ってね、心の準備が……すぅ、はぁ……うんっ、いいよ」

 

マツリが平常心を保とうと深呼吸する。

それに合わせてそのでっかい胸が上下に揺れる。そんな姿に見蕩れていると、マツリは気づいて自分の体を抱き抱えるようにして睨んできた。そんなすごいのをぶら下げているほうが悪いと思うのだが。

 

「じゃあ、いくよ……っ」

 

千夏が俺たち二人の顔を交互に見て、合図の準備を整える。……ついに、幼なじみと一緒に全裸になるときが来た……っ!

千夏による「せーのっ!」の合図で二人同時に来ている服に手をかける。そして、お互い目を合わせないまま最後の一枚まで脱ぎきって……。

 

「……って、なんでトモヤは脱いでないのよっ!」

「……えろっ」

「うっさいわねっ! 私だけ脱いじゃって、これじゃあ痴女みたいじゃないっ! この変態っ! 脱げっ!」

「やだよーん」

 

……俺は脱ぎませんでした。



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言い訳。

全裸の幼なじみを脱衣所に残し、俺は「途中から一緒に入浴する」と告げて風呂場を後にする。「何かわかんないことがあったら千夏に聞いてくれ」とも言い残しといたから安心だと思ったんだが……。

 

「……って、ちょっと待ってトモヤ!」

「……ん? まだなんかあったか?」

「……なんかあったか? じゃないわよっ! 手に持ってるのはなに! 出しなさい! ほら、はやく!」

「なにって……別に、お前の脱いだ服と……他には何もないぞ?」

「それよそれ! なんでしれっと私の脱いだ服全部もってっちゃうの!」

 

顔を真っ赤にして全裸で止めに来るマツリの動きを乳をつかんで止めると、俺は脱衣所の入り口に立ったままどうしたものかと上手い言い訳を考える。「洗っておくから」みたいな回答が一番怪しまれないだろう。長らく柔らかいものに癒されながら考えてたおかげで発想も柔軟になったらしく思いついたそんな言い訳をとりあえず口にしてみる。

 

「さっきマツリ、おもらししちゃったからさ……」

「洗っておくなんて言わないわよね? 洗濯機はここにあるもの」

 

出鼻をくじかれた。やはりここは幼なじみ、お互いのことは熟知している。小手先の浅はかな考えなんてお見通しだったようだ。さて、退路を断たれたわけだが……ここでどんな言い訳をするか、試されているような気がする。幼なじみの完璧な指摘にちょっとだけ震えたが、きっとこれは武者震いだと思うことにする。俺はこんな切迫した状況を、楽しんでるんだ。だから俺は咄嗟の判断でこの事態の収拾がつくような、納得出来る言い訳を……。

 

「えっと、さっきマツリがおもらししちゃったから……」

「……言っとくけど、なにを言ったところで嘘だってわかってるんだからね」

「……おもらししちゃったから、そのおしっこがいっぱいかかった服を保管しておきたいです」

 

……言い訳なんて無理でしたはい。

とりあえず、なんか正当な理由っぽく自分が出来る最大級の真顔で言ってみたが通じなかったようで。

 

「そんな真顔で言われても嫌に決まってるでしょっ!」

「ちぇ〜、じゃああとで途中からまた来るからな」

「うん……って、だから服を持っていくなぁっ!」

 

しれっと流れで持っていけるかと思ったが、やっぱり無理だった。どうにかして部屋に保管できないだろうか、普段あまり使わない頭をフルに回転させて考える。

 

「……あんたなに頭振ってるの……? 頭おかしくなっちゃったの……?」

「……頭をフル回転させてるんだ」

 

無言でポカポカと殴ってくるマツリ。

昔からたまにやってくるのだが、このときの動きがなんともいえずかわいらしい。

全裸でやられると余計に迫力がなくて、よりかわいさが際立つ。

と、微笑んでいると、マツリは馬鹿にされたと勘違いしたのか頭に血を昇らせて言い放つ。

 

「わかったわよ! もういいわ、今すぐ一緒にお風呂に入りなさいっ」

「……え」

 

マツリが、はやく俺と一緒にお風呂に入りたいと言ってきた。俺が、じゃなくて、あのマツリが……。

 

「お前、まさか俺のこと……」

「ち、違うわよっ! 私たちがお風呂入ってる隙にトモヤがなにかするかもしれないから、目の届く範囲にいてもらうだけなんだからっ」

「わかったわかった。……否定するほど真実味が増すって覚えといたほうがいいぞ」

「なっ……!」

 

マツリが真っ赤になる「ボンッ」という爆発音を聞くと、俺は来ていたシャツを勢いよく取り去った!



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長方形。

露出した俺の肉体を見た二人から歓声が上がる。マツリのおしっこを飲み込む体勢に一瞬でなるために毎日続けていた筋トレが、こんなところで功を奏するとは思わなかった。

 

「トモヤ、いつそんな鍛えたの!」

「お兄ちゃん、また引き締まったねっ」

「ふふん、まあな」

 

誇らしげにポージングをする俺。

するとその行為が鼻についたのか、二人はタオルを片手にそそくさとすりガラスの奥に入っていってしまった。

もっとこの鍛え抜かれたボディを見て欲しかったというのにつれない奴らだ。

と、ズボンを脱ごうとベルトに手をかけたときだった。

 

『千夏ちゃんって、今なんのお勉強してるの?』

『国語は物語とかやっててね、社会は地域のこととかやっててね』

 

お風呂場から、マツリと千夏の話し声が聞こえてきた。千夏が優秀なのは知ってたからあんまり勉強のことを聞いたことはなかったが、やっぱりちゃんと励んでいるようで安心だ。ホッと今度はちゃんと自分の胸を撫で下ろすと、パンツを足から引き抜く。

そしてすりガラスの戸を開けて、二人が入浴する我が家の風呂に突入しようとしたときだった。

 

『数学はねー、長方形!』

「包茎ちゃうわっ!」

 

妹がとんでもないことを口走ったので、思いっきり突っ込んでしまった。

そのあと落ち着いた俺は、反応してしまった自分が恥ずかしくて、その立派なものを見せつけるかのようにタオルを巻かずに堂々と進入した。

そして、身体を洗いっこしてる二人を見て開口一番に。

 

「エロいな!」

「いやらしい目で見るなっ!」

 

誰もが思うであろう感想を、オブラートなんて全部噛みちぎって言い放った。

それから、胸にだんだんと口を近づけていって、その桜色の突起の前で喋る。とにかく喋る。昨日寝る前に聴いて覚えた落語を真似して、ひたすら喋り続ける。

 

「そんなに言うんじゃ聴いてみよう、お前さんのこわいものってのは一体なんなんだ、そうだなぁ、恥ずかしいから言いたくない、あれま、人のこわいものはあんなにバカにしておいて自分は言わないっていうのかい、そんなことはここの連中誰も許さないよ、ほれ、いってみなさい」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

露わになった胸の前で喋り続けられて、マツリはムズムズして恥ずかしくて、トマトみたいに真っ赤になっている。耳までじわじわと赤くなっていくのを見つめながら、俺は落語を淡々と続ける。そして最後、オチの文言を言うと、俺は立ち上がって目を瞑る。

「……えっ」と、最後まで触れられずに物欲しそうなマツリと、何が起こるかわくわくして見上げる千夏。

そんな二人の視線を感じながら精一杯時間を置いて次の俺の行動に意味を持たせると、俺は勢いよくしゃがんで、マツリの胸の先を中指と人差し指で痛いくらいに刺激した。

 



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立て、立つんだ。

「ふぁ……っ、んっ……えっ、えっ……んんっ」

「あはは、よかったねマツリちゃんっ」

「よかったな、マツリ」

 

放心状態のマツリを湯船に放り込み、俺は千夏に背中を流してもらう。そんな時間が続いて、気持ちよくなってきた頃。

まともな意識を取り戻したマツリが、湯船の中から真っ赤になって抗議してきた。

 

「信っじられないっ! トモヤあんた、なんてことするのっ!」

「いや、だって……」

「だってなに! どんな理由があったら幼なじみのおっぱいにあんなことするのよっ!」

 

さっきとは違った色の真っ赤な顔でマツリが吠える。湯船の中で地団駄を踏むから、中のお湯が目に見えて減っている。

でもそうかぁ、あんなことをしたんだもんな。確かに理由が必要だ、と一人納得する。

そこで、俺は理由をちゃんと説明してやることにした。

 

「はい、これが理由」

「……え、なに……? ……これって……!」

 

俺が渡したのは、防水のスマートフォン。

ディスプレイにはバッチリと物欲しそうなマツリの表情が収められている。

 

「……これが理由だけど……大丈夫?」

「な、なに撮ってんのよっ! ほんっと信じられないっ!」

 

言いながら、さっきよりも格段に真っ赤になるマツリ。プイっと湯船の中で反対側を向いたかと思うと。

 

「私もう、恥ずかしいからこっち向いてるね? 見てない間にはやく洗っちゃって」

 

なんて、ぶっきらぼうに言ってきた。

長い付き合いだというのに、俺のモノを見るのも恥ずかしいらしい。

それを聞いた俺は、しめたとばかりにガッツポーズをする。

マツリの恥ずかしがることが分かったということは、マツリのおしっこを引き出すチャンスを得たということと同義だ。

俺は体をササッと洗い終えると、千夏にシャワーを手渡して、その隙にマツリに近づく。

 

「……もう終わった?」

「ああ、もうこっち向いていいぞ」

「……うん、わかった」

 

湯船の中で振り向いたマツリの鼻先に……俺は、洗ったばかりのちんちんを突きつけた!

 

「ちょっと! トモヤ……えっ、えっ!」

「ほーれ、ちんちんだ! ちんちん! ちんちんだぞー! ちんちんだ!」

 

茹だったかのように真っ赤になっていくマツリの顔の前で、ちんちんをぶらぶらと振り回す。すると、マツリは案の定恥ずかしがって……。

 

「……ちょっ、やめ……」

「あははー! ちんちん! ちんちんだー!」

「……ほんと、ちょ、やめ……」

 

ぷっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ……

 

勢いよくおしっこを噴出した。

それを見た俺は、焦りを覚える。

湯船がおしっこで汚れてしまうことに対する焦り? いや、違う。

俺が危機を覚えてるのはそんなどうでもいいことなんかじゃない。

今この瞬間、俺が危惧している最悪の事態は……っ!

 

「……立て! マツリぃぃぃぃ!」

「え! なんで! ちょっと、え!」

「立て、マツリ! おしっこがお湯で薄まっちゃう!」

「ばか! なんてこと……っ」

「やれ立て! それ立て! もったいないだろっ!」

 

貴重な幼なじみの美味しいおしっこが、お風呂のお湯で薄まってしまうことだった!



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究極の装置。

急いで手桶を脚の下に構えておしっこを受け止めようとするも、時既に遅し。

ゲリラ的に勢いを発散した極上のおしっこは、手榴弾のように瞬く間に湯船を蹂躙した。俺はそれを目の当たりにし、膝をついて崩れ落ちる。さながら囚われの姫を目前にして魔王にその身を弄ばれた勇者のように。

……だが、為す術が全くないわけでもなかった。

 

「……マツリ、千夏。ちょっと風呂の栓はそのままにして待っててくれ。俺はすぐ戻る……!」

「えっ、普通に嫌なんだけど……って、ちょっと!」

「いってらっしゃいっ」

 

俺は風呂場を出ると自室に戻り、外出出来る服装に着替える。

あ、もちろん目が離れた隙にマツリが元着てた服とかはちゃんと部屋まで持ってきた。

それから俺は家を飛び出すと全力疾走。

大型の電気屋に行って、特別にキープしておいてもらったブツを購入。

断腸の思いで財布からほぼ全財産を出すが、背に腹はかえられない。

この危機的状況では、金に糸目をつけている余裕などないのだ。

頑丈なケースに入れられたそのブツは傷付くはずもなかったが、往路の全力疾走よりは少し抑えて慎重に、それでも急いで復路を辿る。

そして自室に戻ると、俺は例のブツと引き出しの機材を接合し、究極の装置を組み立てた!

その装置とは、こういった機会を想定して俺が設計していた濾過器。

液体とマツリのおしっこが混ざってしまった場合におしっこだけを抽出してくれる、マツリ専用の神器なのだ!

 

そのモーターが異常に高いから買うのを渋っていたのだが、こんな早くに事態が起こるなら早くに買って実験をしておくべきだった。

……ただ、俺は後悔はしていない。

なぜならこれも全てマツリのおしっこのため、全世界のため!

マツリのおしっこの研究は俺が小学生のときから六年ほど続けていたため、ほぼその点に関しては狂いはないだろう。

さぁ、今こそこの装置を使って極上のおしっこを復活させる時なのだ!

結果に影響がないことはわかっていても、一応自分を奮い立ててから風呂場の戸を開ける。

すると、後ろから着替えた千夏とマツリがやってきた。

 

「マツリ……服はどうしたんだ?」

「千夏ちゃんに隣の私の家から取ってきてもらったのよ……それよりトモヤ。私が着てた服どこにやったのよっ!」

「そんなことは後だ。俺はこれから……お前のおしっこを、救出する!」

「……いや、おしっこくらいいつもトイレに流してるわよ」

「……マツリちゃん、お兄ちゃん昔マツリちゃんちのトイレに細工して、マツリちゃんのおしっこだけお兄ちゃんの部屋に流れるようにしてたよ……?」

「…………鳥肌が立ちすぎて鳥になりそうになったわ」

 

そんな二人の会話を後目に、俺は風呂の蓋を開けて機械のチューブを湯に入れる。

そして、スタートボタンを起動!

 

すると、みるみるうちに風呂のお湯は吸引され、おしっこの成分でないものは排水口に排出されていく。

そして、十分程が経過して……。

 

「……やった……やったぞ! 人類の勝利だ!」

「そんな大袈裟な……」

 

俺は人類初、マツリのおしっことそうでない液体の溶液を分別する装置を作り出すことに成功したのだ!

 

「……マツリ……。このおしっこ……俺、大切に飲むから……っ!」

「……飲むなぁっ!」

 

俺は今後この装置を活用する術に考えを巡らす。すると、ついさっきの千夏とマツリの会話を思い出した。

 

「……! そうか!」

 

これまではマツリがおしっこするタイミングに手動で電源を入れて、隣のマツリの家で排泄された尿が自室に来るようなシステムを作っておしっこを手に入れていた。

しかし今回の機械を使えば、マツリの家で排泄されたもの全て、いや、川や海からだってマツリのおしっこを分別して入手することが可能になる。

……俺は一人このとんでもない力を宿した装置を前に、マツリのおしっこで勝利の祝杯を交わすのだった。



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尾行にて。
後輩。


「マツリ、今日うちにスイカ食べに来るかー? 親戚のおばさんがでっかいのを送ってきてな。 どうだ?」

「あ、ごめーん! 今日ちょっと放課後友達と予定あるからっ」

 

……幼なじみが、ギャルになってしまった。

放課後遊びに行くなんてけしからん!

そんなのはギャルのやることじゃないか。

俺のマツリは、目の前にスイカがあれば飛びつくように貪って、その水分で大量におしっこを作り出してくれるような……そんなピュアな幼なじみだったのに!

……これは由々しき事態だ。

というわけで俺は放課後、妹の千夏を連れてマツリを尾行することにした。のだが。

 

「先輩っ、今日はいい天気ですねっ。私、火照ってきちゃいました」

「いやなんでお前がここにいる」

「トモヤ先輩あるところに私あり、ですよ!」

 

……なぜか声もかけてないのに後輩の女子高生、アキホがついてきていた。

彼女は昔家の近所に住んでたため、俺とマツリの両方と昔から仲がいい。

それに、引っ越したあともちょくちょく家に遊びに来るため、千夏のこともよく知っている。

……だが、そんな長所を全部覆すほどのマイナスな特徴がアキホにはあってーー。

 

「……なんですか先輩? そんなに見つめられたら赤ちゃん出来ちゃいます」

「産めるもんなら産んでみろ!」

 

……言動が、いちいち危ないのだ。

マツリもいる分にはその矛先があいつに向いて恥ずかしがってくれるし都合がいいんだが、マツリがいないときは千夏よりも優先して俺を攻めてくる。

っていうか、今度は腕に絡み付いてきた。

 

「暑いっ、離れろっ!」

「んんっ、先輩ってば乱暴なんですから〜……溜まってるんですか?」

「溜まってるよ! お前への苛立ちがな!」

 

自分から腕にくっついて来ておいて暑くなったのか顔を真っ赤にしているアキホと、怒りと恥ずかしさで真っ赤になる俺。

マツリがからかわれてる分にはかわいいんだけど、どうも自分がやられると納得がいかない。

 

「……でも、あれですね先輩」

「……あれ、とは」

「……放課後に友達と予定があるなんて、ギャルじゃないですか! けしからんですね!」

「そうだろうそうだろう! マツリに限ってそんなことはないと思ってたが、お前もそう思うなら間違いないな! あいつはギャルになっちゃったんだ!」

「お兄ちゃん、それじゃあ千夏たちはマツリちゃんをギャルからカタギの世界に引き戻せばいいんだね!」

「そういうこった!」

 

ということで、俺たちのマツリを取り戻すべく尾行を続ける。

といっても別にこれまで尾行していてそれを再開っていう感じじゃない。なぜならーー。

 

「……あっ、マツリ先輩が出てきましたよっ」

「よしっ、全員配置につけ!」

 

なぜなら、一旦帰宅したマツリが再び家から出てくるのを張ってただけだからだ。

……でも、友達と予定があるなら学校から直接向かえばいい話なのに、なんでわざわざ一回家に帰る必要があったんだろう。

疑問に思う俺だったが、その問いの答えなんて考えれば容易に思いつく。

しかし、それは俺にとってあんまり考えたくない推測で……。

 

「……マツリ先輩、私服に着替えてますね……。やっぱり、これってデート……!」

 

うん。後輩がはっきり言っちゃいました。

 



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遺伝子。

デートという言葉を聴いて、俺の首筋に一筋の汗が流れる。

いつも俺のそばにいて、明るく笑顔とおしっこを振り撒いてくれたマツリ。

そんな最高の幼なじみが遠くへ行ってしまう。

単なる推測にすぎないとは分かっていても、その感覚にどうしても脳みそがついて行かない。

と、俺が大人になってしまう幼なじみに思いを馳せて頭を悩ませていると。

 

……ぺろっ。

 

首筋を、なんだか暖かくて柔らかい、しっとりと濡れたなにかが触れた。

横を見ると、舌先をかわいらしくちろっと出したアキホがこっちを向いて目をキラキラとさせていた。

それから舌をしまってゴクッとなにかを飲み干すと、さっきと変わらない輝いた表情でこう言った。

 

「……ぷはぁっ。やっぱり先輩の汗は最高に美味しいですねっ」

「舐めるんじゃねえ味わうんじゃねえ感想言うんじゃねえ」

「……幻の花の蜜を吸ったチョウの気分ですっ」

「……だから感想を言うなと……」

 

その後も一滴一滴と滴る滴を舌で受け止めては幸せそうにするアキホを隣に感じつつ、俺は、そんなこともあるのかもなぁと一人納得していた。

前提として、マツリのおしっこは最高に美味い。それはもう一度口にしたらやめられず、どんな禁忌を犯しても手に入れたいと思うほどに。

……そんなマツリの極上のおしっこを独占し、飲み続けていた者がいたとしよう。

マツリのおしっこから成るといっても申し分ないそいつから出た汗は、マツリのおしっこの遺伝子を引き継いだ、言わば子どものようなもんだ。

そんなハイパー遺伝子を受け継いだ俺の汗が美味いのは必然なのかもしれない。

……なんて、考え事をしている間にマツリは大型のショッピングモールへと到着する。

女の子の生活を全く知らない俺には分からないが、最近の女子高生はこういった施設で遊ぶものなんだろう。

そう思って、他の二人に聴いてみたのだが。

 

「……千夏、まだ小学生だから知らない……」

「……私も家で一人で過ごすだけなので……」

 

役に立たなかった。

そうこうしている間に、マツリは雑貨屋へと足を運ぶ。そしてなにやら物色しているようだが、待ち合わせ相手への手土産かなにかだろうか。

 

「……先輩、やっぱりアレ、デートなんじゃ……ぺろっ」

「やい、いつまで汗舐めてんだ」

「……ぺろっ……いいじゃないですか、減るもんじゃないですし」

「変態は理論が謎で困るな」

「それお兄ちゃんがいうの……?」

 

常識人側から意見したらドン引きされてしまった。俺の普段の行いがどこか悪かったんだろうか。

兎にも角にもマツリの尾行を続けてみることにする。



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デート。

それから、一時間。

依然として雑貨屋をじっくりと見て回ったマツリには、友達と合流する気配など微塵もない。それどころか、ギフトショップに入ってみたり、スイーツのお店でお茶したり。すっかり一人の世界に入り込んでいる。

 

「……デートをする様子はないようだが……」

「……だとすると、なんで友達と予定があるなんて嘘をついたんですかね?」

「お友達の都合が悪くなっちゃったのかもしれないよ?」

 

尾行陣営は、いちごのドーナツを食べてゆったりとした時間を過ごすマツリの幸せそうな横顔を見ながら、様々な推測を言い合う。

確かに待ち合わせの相手が急用で来られなくなったとも考えられるが、マツリはショッピングモール内で相手を待つような仕草はしていなかったし、家を出る前にそれがわかっていたとすればここに一人で来る必要性がない。

となると、やっぱりアキホが言うようにマツリが俺に嘘をついたと考えるのが一番しっくりくるわけだが……正直、マツリが俺になにかを隠す理由が見当たらない。

一人でたまの息抜きをしたかったといえど、そんなことをわざわざ隠す間柄でもないだろうに……。

 

その後もマツリの尾行は続けたものの、その日は特に大した行動もなく、なにも掴めないまま帰宅した。

 

その夜、俺はなんだか寝付けなかった。

これまでに、ゲームに熱中していて眠れなかったことや遠足の前日などに寝付けなかったことは何度かあったが、なんでもない日常の一日に寝られなかったことなんて数えるほどもない。

理由は……わかってる。

昼間、アキホからデートという単語を聞いてから、なんだかもどかしくてしょうがないんだ。

マツリがいい人を見つけて恋愛をして、女の子として健全に成長する。

それは世間的に見れば何も不思議なことはなく、むしろいいことですらある。

応援しなくちゃいけない立場だってのは、頭では死ぬほど理解しているつもりだ。

だが、俺の中のなにか熱いものが叫んでる。

俺の全ての中で一番強い感情が、どうしようもなく暴れ回ってる。

今はこの感情をもどかしいなにかとしか表現出来ないが、理性には決して完全に押さえつけられないような煮えたぎった感情が自分の中で渦巻いていて、それがマツリの幸せを幸せと思っていないのは自分がよくわかっていた。

それに、マツリが嘘をついたこと。

小さい頃からずっと一緒にいた俺たちだが、お互いに隠し事をしたことなんて、きっと一度たりともなかった。

だから、マツリが遠くへ行っちゃうんじゃないかって、不安でしょうがない。

 

寝ることを諦めて一階に降り、リビングの椅子に腰掛ける。それから、落ち着くために薄めたマツリのおしっこを一口。

いつもより色も匂いも微かなそれを口に運ぶ。

……薄めたはずなのに、なんだかいつもよりしょっぱいような味がした。

それから、また一口。

気づいたら、俺の頬を一筋の涙が通り抜けていった。



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川にて。
ピエロ。


翌日は、休日だった。

時間に不規則な仕事をしてるうちの親父もその日は休みで、マツリのお父さんも休日。

ってことで、久しぶりにどこかへ遊びに行こうなんて、そんな話になった。

 

「わーい、川でバーベキューだー!」

「夏だねぇ、楽しみだねぇ!」

 

夏らしいことをしたがってた千夏やアウトドア派のマツリが、両手を上げて喜んでいる。

親たちは夏休みに川へ連れていこうと考えていたらしいが、なにかと忙しい大人からすると、行ける日に行ってしまったほうが確実らしい。

子どもにとっても夏休みを楽しみにしてて結局予定が合わなかったなんてことになったら嫌だから、大人しく楽しむことにしたのだ。

ただ、俺は未だお祭り気分にはなれないでいた。昨日の出来事が糸を引いて、頭から離れない。

……でも、ここは心を入れ換えて明るく振る舞うところだろう。昨日マツリが嘘をついたことなんて忘れて、今日は楽しむべきだ。

今日の俺はピエロでいい、泣くのは心の中だけで充分だと、しっかりと自分に言い聞かせる。

それから、うちとマツリの家。

二つに別れて河原へと向かうため、別々の車に乗り込む。車内では待ちきれなくなった千夏が俺のスマホで川のレジャーを調べたり、川の生き物を調べたり。

窓の外を過ぎ去っていく景色と合わせてそんな光景を微笑ましく見守っていたんだが、無慈悲にも危機は突然やってくる。

 

「……お兄ちゃん、どうして失恋からの立ち直り方とか、幼なじみの嘘、真意とかで調べてるの……? やっぱり、昨日のこと?」

「……千夏、やめてくれぇ。お兄ちゃんはピエロになるって決めたんだ……」

「そうなんだ! 頑張ってね! ……玉乗りとか練習しなきゃだね」

まだ小学生の千夏には遠回しな言い方がわからなかったらしい。俺は将来サーカス団に入るとでも思われてるんだろうか。

 

「……なぁ、千夏」

「どしたのピエロのお兄ちゃん」

「……ええっと、その事にも関連してなんだが……このことは、マツリには内緒にして欲しい」

「いいよー、千夏、秘密守れる!」

「よしよし、いい子だ」

 

俺がわしゃわしゃと頭を撫でてやると、千夏は嬉しそうに目を細めて「んんっ」と声を漏らす。こうすると、ほぼ百パーセントの確率で千夏はちゃんと秘密を守ってくれるんだ。

ってことで、俺の心の虚しさがバレないような環境づくりはだいたい準備が整った。

そして、車は河原に到着。

マツリの家の車はまだ到着していなかったため、うちの車に積んであったバーベキューの道具やら川遊びの道具やらを先に下ろして準備しておく。

すると、まもなく到着したもう一台からマツリが降りてきて……。

 

「マツリちゃん、昨日ショッピングモールでなにしてたの!」

「…………えっ」

「アウトォォォォォォォ!」

 

千夏が、秘密にすると約束しておいた昨日のことを開口一番にバラしやがった!

えっ、なんでなんで!

ちゃんと頭もなでなでしたのに!

 

「……ちょ、千夏……どうして……?」

「どしたのお兄ちゃん」

「いや、だって秘密にしてくれる約束じゃ……?」

「えっ、うん。秘密にしてるよ、ピエロのこと」

 

……そこじゃない!

俺はピエロのことも含めて昨日のことを黙っていて欲しかったんだが、千夏は俺がピエロになるってことを黙っていていて欲しいだけだと勘違いしたらしい。

ここでうまい具合にマツリが聞いてなければ九死に一生なんだが……。

 

「……千夏ちゃん、なんで私が昨日ショッピングモールにいたって知ってるの……?」

 

現実は、そんなに都合よく進んでくれないらしかった。



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修羅場。

この状況をどうするべきか。

幼なじみとはいえ、友達と予定があると言って出掛けたところを尾行されてたとなったら流石に気持ちが悪い。

それに、昨日は友達と会ってなかったから尚更。

……うまい言い訳がなにかあればいいんだが、いつもマツリのおしっこを手に入れるときには正直に堂々と宣言して手に入れているため、言い訳になれていなくて浮かばない。

一緒にお風呂に入ったときがいい例で、実際言い訳を考えても長い付き合いのマツリにはすぐにバレてしまう。

……詰んだ。

この十五年くらい培ってきた友情と信頼の核にヒビが入っていくのをなんとなく察する。

この際、誤魔化すだけでもいい。

なにか考えついてくれと自分に縋るも、返ってくるのは沈黙ばかり。

それに耐えられなくなった俺は、正直に謝ろうと神妙な顔でマツリに一歩近づく。

 

「あのさ……マツリ……」

「……う、うん」

 

なかなか、次の言葉を紡ぎ出せない。

俺には女心ってものがよく分からないから、それゆえに推測してしまう、拒絶。

それに、嘘を吐いてまで行った現場をその本人に尾行されてたなんて知ったら、気持ち悪がるのは誰だって同じだし、信頼を損なうのは当たり前だ。

……でも、現状を打破する方法がなにも浮かばない。真実を口にするのが、怖い。

それと同時に、それほどまでにマツリとの関係を大切に思ってたんだなって、決別間際にして認識させられたことに俺は心の中で涙する。そして、それを全て覚悟の上で俺は口を開いて……。

 

……ぺろっ……んんっ〜♡

 

真剣に考えていたためにこめかみを伝って頬を流れた汗を、柔らかいものが攫って行った。

……どうして……?

その場にありえないはずの状況に、俺はこれが夢なんじゃないかと感覚を研ぎ澄ます。

も、確かに頬には舌の感触。女の子の匂い。

……視線の先では、私服姿のアキホがウインクしていた。

 

「ちょっとアキホちゃん! なにしてるのっ!」

「やだなぁマツリ先輩〜、昔から言ってるじゃないですか、トモヤ先輩の汗ほど美味しいものはないって〜」

「なにそれ……っ、全然わかんないよ……」

「あれ〜、マツリ先輩、ほんとは羨ましいんじゃないですか〜? 先輩も、トモヤ先輩のことぺろぺろしたいんでしょ? 正直になっちゃいましょうよ〜!」

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ! そ、そんなことないんだからっ!」

 

突然現れたアキホは巧みな話術でマツリを翻弄して、話の方向を昨日のショッピングモールの件から遠ざけてくれている。

……まあ、話の内容はいつものこの二人の感じそのままだから素なのかもしれないが、正直とてもありがたい。

と、途中までは思っていたんだが。

 

「……あ、昨日ショッピングモールにマツリ先輩がいたのをトモヤ先輩が知ってた件なんですけど」

「……あ、ちょっとそれ詳しく」

 

……いやなんで話を元に戻すかな!

お前助っ人キャラだと思ってたのになんだ、敵味方関係なく攻撃判定あるタイプの助っ人キャラだったのか!

……と思いきや、話は思わぬ方向に転換していく。

 

「昨日私がショッピングモールのゲームセンターに行こうとしたら、千夏ちゃんとトモヤ先輩が兄妹で水筒を買いに来てたんですよ。それで鉢合わせて一緒に行動することになったんですけど……千夏ちゃんが、マツリ先輩を見たって言い出して」

「……千夏、そんなこと言ってなもごもご」

「それで、私たちは見てなかったんですけど、千夏ちゃんがマツリ先輩が昨日ショッピングモールにいたか聞きたかったみたいなんです」

「……なるほど、そういう言い訳がもごもご」

 

流暢に言い訳を口にするアキホと、それに反論したり感心したりしてボロが出そうになるポンコツ兄妹。

なんとかアキホに口にマツリのおしっこが入ったボトルを突っ込まれたおかげで、マツリに真実がバレることはなかった。

 

「なーんだ、そうだったんだ」

「そういうわけなのです!」

 

でも、その説明を受けたマツリが安堵の息を漏らしたのを見て、俺はまた少し疑念を確信へと近づける。

……だって、俺に見られてなかったって説明で安心するなんて、怪しいとしか思えないから。なにかやましいことがあるとしか、考えられないから。

結局この晴れた空の下で起きた修羅場は、この俺の晴れない気持ちだけを取り残す形で幕を閉じたのだった。



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鏡。

ただ、ここでマツリにやましいことがあることは確定事項になったといえるだろう。

昨日マツリは俺に友達と予定があるといって俺の誘いを断ったわけだが、実際には誰とも会っていない。それだけならまだ急に相手の都合が悪くなったのかもしれないと解釈できるが、今マツリはそのことを俺に言わなかった。つまり、何らかのやましいことがあって俺に隠してることは確定といっていいだろう。

そんなわけで来たときよりも少しだけ気持ちが落ち込んでいた俺だったが……。

青々とした自然と川のせせらぎを前にしたら自分の悩みがちっぽけなものに思えてきて、すっかりテンションも上がってきた。

普段通り、とまではいかないが、ここで楽しまなかったら後々後悔するって自己暗示までかけて、なんとか普段通りの自分を取り繕うまではできた。

 

「お兄ちゃ〜ん! こっちこっち〜!」

「トモヤっ、はやく来なさいよ〜!」

 

二人に導かれるように、川の上流側へと登っていく。そこは自然の川をそのままテーマパークにしたような施設で、上流の方へ行けば行くほど整備はされておらず、自然のままの風景が楽しめた。

下流で花より団子状態、バーベキューの準備を着々と進める大人たちを後目に、アキホと二人、千夏とマツリを追いかける。

その傍ら、割とずっと疑問に思っていながら聞いてなかった質問をアキホにぶつけてみた。

 

「……ちょっと聞いていいか?」

「なんですか先輩? あ、ひょっとして私の好きなタイプですか? それでしたら、鏡をご覧になるといいと思います。そこに写ってる人が私のタイプです」

「……そりゃどーも」

「……で、本当のところはなんですか?」

「……えーっと、お前はどうして今日ここに?」

 

なんだか全員すごいすんなり受け入れていたが、今日の川遊びにアキホが来る予定はなかったはずだ。修羅場のせいですっかり聞けなくなってしまったが、俺はずっと疑問に思っていた。

 

「あー、それならですね、マツリ先輩のお母さまがアキホちゃんも連れていったらー? って言ってくれたそうで」

「……出発するときも言ってなかったから、車の中で思いついたんだな。いかにもあの人ならやりそうだ」

「……はい。それに、私に休日の予定なんてあるはずもないんで、マツリ先輩も賛同して……まったく、人をぼっちみたいに言って酷いですよね!」

「……図星じゃんか来てるじゃんか」

 

そんなふうに軽口を叩いていると、川の上流から何かとてつもない雰囲気を感じ取る。

この自然に存在するにはあまりにも美しすぎるほどの香ばしい香り、そしてそれが大自然の中であろうと主張する濃厚な存在感。

……こ、これは……!

 

「……こうしちゃいられない、アキホ、下流に戻るぞ! 車の中から装置を持ってこないと!」

「いや待って下さい先輩全然展開が読めないんですけどあっ汗だいただきますぺろぺろ」

 

上流から流れて来るはマツリのおしっこに違いない。俺は確信して、先日調整を終えたばかりの装置を車の中へ取りに行く。

しかし、川の水の流れに人間が歩いて追いつけるわけもなく。

河原のごつごつとした石に足をとられている隙に、マツリのおしっこを含んだ流れはすぐそこまで近づいてきてしまっていた。

 

……クソ……川の流れに乗って海に出ていくなんて……そんなの、もったいない!

全部回収するのは不可能でも、一部だけなら……!

 

俺は咄嗟に思いついた計画を実行するため、アキホに指示する。

 

「アキホ、頼む! 今から六秒後に流れて来る川の水をできるだけ口に含んでくれ!」

「よ、よくわからないけど……わかりました! 先輩のためです! 報酬は先輩の全身ぺろぺろで許してあげま……はむぐぅっ!」

「さんきゅ……はむぐぅっ!」

 

アキホは喋りながらも六秒を数えていたようで、ピンポイントでマツリのおしっこが含まれた流れを口にほおばる。

それから遅れること二秒。

同じ流れのかたまりを、俺も同じように口を精一杯オープンしてくわえ込んだ。

そして、川の水で薄まったまま消化されてしまわないうちに川下へ。

それから、準備してあったコップの中に二人揃っておしっこ入りの川の水を吐き出した。



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虜。

吐き出した水を機械にかけて、数分。

ほんの一握りのマツリのおしっことそれ以外とが綺麗に分けられた頃。

マツリと千夏が、上流から不満そうな顔で降りてきた。

 

「ちょっとちょっと! 私がおしっこでもすれば早く上の方に来てくれるかと思っておしっこしてみたのに、なんで戻っちゃうのよ!」

「……千夏、待ってたのに。っていうか千夏もおしっこしたのに全然気づいてくれないし……」

 

憤慨するマツリと、残念そうに項垂れる千夏。

しかし二人は次の瞬間、揃って目玉を大きくすると黙り込んでしまう。

まるで声が出せないとばかりに、口を開けてぱくぱくぱくぱくと……。

さすがにおかしいと、俺も二人の視線を追ってその方向を見る。

するとそこには……。

俺の汗を舐めたときよりも格段に幸せそうな顔をした、ほっぺたが真っ赤になって今にも落ちそうな……そんなだらしがない笑顔を隠すことも出来ずに顕にした後輩が、その場にへたり込んでいた。

……うん、これは確かに声出なくなるわ。

とはいえこのままにしておけるはずもなく。

それとなく、こんなことになった事情を聞いてみることにする。

 

「……えっと……アキホ。お前、どうした」

「ろうひたって……しぇんぱい、これ……」

「……えっと、これって……」

「……マツリしぇんぱいのおしっこ……こんにゃすごいの飲んだら……わたし……」

 

アキホは溜めたよだれを一気に飲み込むと、心底幸せそうにその魔力に酔って、この世の神秘を紐解く理論を発見した研究者かのように力強く言い放った。

 

「こんにゃすごいの飲んだらわたし……お嫁にいけないです……っ……」

 

川上で排出されたおしっこ。

それが川の流れに乗って、溶けて、おしっことしての形を既に飛び出して。

そんなただの水と化した状態の、最大限に薄めたおしっこを飲んで、この後輩はその奇跡の美味しさに舌を震わせ、虜になってしまったというのだ。

……マツリのおしっこが、一人の女の子の人生を変えてしまった瞬間だった。

 

「……マツリ先輩……わたし、わたし……っ」

「え、何この子急に気持ち悪いんだけど」

「マツリ先輩と結婚しますっっっっっ!」

 

この日からアキホは、マツリのおしっこを求めて俺の家に頻繁に訪れるようになる。

一ミリたりともマツリのおしっこをこいつにくれてやる気はないが、とはいえ千夏の遊び相手にもなるし、俺としてはかわいい後輩が家に来てくれることは少し嬉しかったりもする。

……大事なことだからもう一度言うけど、一ミリたりともマツリのおしっこは分けてやらんが。

 

そのあとは全員でバーベキューをして、もっと川で遊んで、遊び尽くして。

駐車場の利用時間ギリギリまで川を満喫し、俺たちはそれぞれ車に乗り込んだ。

 

帰りの車はマツリの安全性を加味してアキホを千夏と同じ車にし、俺とマツリ、アキホと千夏の組み合わせで分けて乗ることになったため、隣にはマツリが座っている。

 

「…………あのさ、トモヤ」

 

川遊びの心地良い疲れに身を委ねていた俺に、幼なじみの、いつもよりほんの少しだけ硬いことばが掛けられる。

 

「…………ん。どうした」

 

俺は内心既にマツリがこれから言う内容を確信して、それに合わせて真剣に返事をする。

ただ、脳内と身体。両方の疲労が邪魔して、正常な回答が出来るか不安だ。

そうでなくてもただでさえ、こんなことは話題にしたくないってのに。

だから、俺は決める。

誠心誠意、信念を持って誤魔化すことを、決める。

今からマツリが尋ねてくる質問には、まともに返さないほうが二人のためになると思うから。

そうして、たった三秒の沈黙が何十秒にも、何分間にも感じられて。

マツリがやっと口にしたのは、やはり俺が予期していた質問そのものだった。

 

「ーートモヤ、今日無理してたでしょ」



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産地直送。

「……えーっと、それはどういう……」

「……今日のトモヤ、いつもと違った。楽しそうなのは本当だったけど……その他に、なにか別の感情があったよね? 誤魔化しても無駄だよ……私には、わかっちゃうんだから……」

 

寂しさと、それを包み隠すほどの心配を孕んだ声音で紡がれる、繊細な布のような感触の数々。吐かれた嘘に知らないふりをするために吐いた、変わらないことを望んだが故の嘘。嘘を嘘で包み込むことで幸せになれるわけなんてなかったのに、どこで選択を間違えたんだろう。

一方通行だった嘘は今、俺の手によって複雑に絡み合って、もとの何もない状態には到底戻れない修復不可能な糸と化している。

それでも俺は嘘を重ねる。

ここで真実を言ったところで、マツリとの関係が崩れる未来しか見えない。ならば、形式上の繋がりだけでも持っておきたい。故に、俺は彼女を誤魔化すことをやめない。

嘘を吐き続けることを、躊躇わない。

 

「……いいや、それはマツリの勘違いだ。俺は今日楽しかったし、無理してる事なんてなんにもないよ……でも、さすがに遊び疲れたかもな」

「…………そう」

 

マツリは怪訝そうな顔をする。

悲しそうな顔をする。

なぜならこれまで俺がマツリに隠し事をしたことなんてなかったから。

冗談で誤魔化せない嘘をついたことなんて、初めてだったから。

だからこそマツリは今、戸惑ってるんだろう。動揺してるんだろう。

初めての状況に、どうしたらいいか分からないんだろう。

……だが無論、それは俺も同じこと。

むしろその状況を、俺は昨日先にマツリに突き付けられて、今嘘を吐いているわけなのだから。

ただ、マツリはそのことに気が付かない。

俺の状況を、知らない。

だから今、俺はマツリの瞳に相当な極悪人として写っていることだろう。

自分が嘘を吐いたことに気が付かずに、仕方なく同じことをしてきた俺に向けてやり切れない気持ちを抱いていることだろう。

 

「…………そっか。私の思い違いだったんだね、ごめん」

 

だから、対処法も同じ。逃げ道は、同じ。

嘘には嘘で対抗して、空元気の笑顔で対応する。……マツリは一日遅れで、俺の姿を全くそのまま追いかけていた。

まあ、強いて違うところを挙げるとすればーー。

 

「……母さん、後ろ修羅場かな」

「……修羅場ね、面白いから黙って見ときましょう」

 

……運転席、助手席の両親が下世話なことだった。いや面白がるな盗み聞くな。

 

それから数日間、マツリとは一切会話がなかった。お互いなんだか気まずくて、学校でもプライベートでも避けてしまっている。毎日一緒に登校してたのに、自然と二人は別行動になり。それだってもちろん悲しいけれど、あんなに強い、たった一本の命綱だと思っていたマツリとの関係が切れても案外やっていけてる自分が、病的なまでに悲しかった。

……あ、でもおしっこはちゃんとマツリの家から産地直送でいただいておりますごちそうさま。



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部屋にて。②
謝罪。


そんな風に何かが欠けたような、空っぽの日々を過ごしたある日のこと。その日は一学期最終日。学校から帰宅した俺が自室の扉を開けると、妙な違和感が襲い掛かって来た。

鞄を置いてその正体を探ると、机の上に手紙と一緒に包みが置いてあるのが見える。

もちろん自分でそんなものを置いていくはずはないし、家族とも考え難い。

置いていった人物のことを考えると、なんだか少し、身体に緊張が走った。

手紙を、手に取る。

その便箋はところどころ文字が滲んでいて。

それが何によるものかなんて、考えなくともすぐにわかった。

ただ、手紙を読んでみないことには、包みの中身と差出人の真意は見当もつかない。

とりあえず、手に取った手紙に目を通すことにする。

 

その手紙は、ある特徴的な一文から始まっていた。ある特定の日に、ある特定の人物にしか使用されない、特別な言葉。その一文を読んで、自分にとって今日がどんな日なのか、初めて気付かされる。

『誕生日、おめでとう』

……そういえば、俺は今日、誕生日だった。

千夏は終業式で挨拶をするとかで俺が起きる前には家を出てたし、すっかり気づかなかった。いや、まあマツリのこともあったし、それに誕生日なんてそんなもんだろう。歳を重ねるごとに、誕生日の意味なんて薄くなってくる。当日でも特に意識しないのも不思議じゃないだろう。

そうやって薄れていく自己の高揚感に寂しさを感じながら、手紙を読み進める。

途中、何かに気付かされながらも読み進める。読み進めて、読み進めて、何かに気付く。

(……マツリが俺に嘘を吐いた理由って……)

気がついたら俺は、包みを持ったまま走り出していた。

 

そのまま勢いを殺さずに、幼少の頃から何度も訪ねたドアの前へ。

ノックを三回、二人だけの合図。

カチ……と、音を立てて開錠されるドア。

そして扉が開いて……幼なじみが、そこに立っていた。

 

「トモヤ……。ごめんね、迷惑……だったかな。誕生日プレゼント……どうしても、渡しておきたくて……ごめん」

 

久しぶりに聞くマツリの声は、震えていた。

雨に濡れた子猫のように。あるいは、美しい音色を響かせて届ける、空気中の振動のように。……だからだろうか。俺の鼓膜を揺さぶるマツリの声は、なんだか妙に俺を落ち着かせて。今やらなくちゃならないことを、明確化させた。

 

「……マツリ」

「……なに」

「……あのさ、俺、まだこのプレゼント、開けてないんだ」

「……そう」

「…………ここで、マツリと一緒に開けていいかな? 多分そうした方が、俺にとって意味のある誕生日になるんだ。いい思い出に……なる気が、するんだ」

 

俺の我儘に、マツリは無言で扉を大きく開いて応じた。中に通すから一緒に開けようと、態度で示した。

マツリの部屋に入って、二人座って。

よく来てた部屋だけど、前に来た時よりも女の子っぽさが増していて、少しだけ鼓動が早くなって。それを悟られないように努力するも、相手の心音でそんなことはどうでもよくなって、プレゼントの包みを開き始める。

丁寧に時間をかけながら包みを開いて、その間に俺はこの疑念の掛け合いに決着をつけようと口火を切った。

 

「……まず、謝らせて欲しいことがあるんだ」

「……えっ」

 

急に謝罪宣言を受けて、驚きを露わにするマツリ。まあ、無理もない。俺がこれから謝ることは、俺が勝手に傷ついて、俺が勝手に傷つけて。マツリが事の概要も掴めていないところで起こったことに対する謝罪なんだから。と、一人シリアスな雰囲気で決意を固め、納得していたんだが。

 

「……ついに私のおしっこ盗んでることに対して謝罪する気になったのね!」

 

見当違いだった。



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プレゼント。

「いや、そうじゃなくてだな……えっと、順を追って説明させてくれ」

 

勘違いしたマツリが場の雰囲気をもぶっ壊して俺への不満をぶちまけて来そうだったので、切られそうになっていた堰と逸れかけていた話を元に戻す。

 

「まず、俺は二つお前に謝らないといけないことがある」

「……私のおしっこを盗もうと……!」

「……その話は置いといてくれよ……」

 

完全に堰を止めたと思っていたが、思っていたより水の勢いが強かったようだ。

溜まっている水の量が多いらしい。

おしっこだったら大歓迎だったのに。

話を逸らそうとするマツリを制して、俺は話を続ける。

 

「えーと、まず一つなんだが……マツリを疑ってしまったことを謝らせて欲しい」

「……え、私を? ……なんで?」

「実は……俺、マツリがショッピングモールに行った日、お前を尾行してたんだ」

「……はっ! なにそれ気持ち悪い!」

「いや尾行自体は割りとよくしてるぞ」

「なにそれ気持ち悪い詳しく」

 

またも詰め寄るマツリだったが、無視して話を続ける。なぜならこのままシリアスな雰囲気のうちに思ってることを言えないと、モヤモヤした胸の内をズルズルと引きずってしまいそうだったから。

……いや、それもあるけど失言したと思ったからですすいません。

 

「……でだな、そのときにお前が約束してた友達ってのと全然待ち合わせてる様子がなかったから、嘘をつかれたと思って……」

「……うぅ。そ、それは……」

「ああ。今はもう分かってるからいいんだ。マツリは……俺の、誕生日プレゼントを買いに行ってくれてたんだよな」

「……そ、それは……うん。そう」

「だけど、俺は問題の表面だけを見てマツリを嘘吐きだと思ってしまった。だから……疑っちゃって、すまなかった」

「…………」

 

二人の間に数秒間の沈黙が流れる。

しかしその沈黙も束の間。

斬り裂いたのはマツリだった。

 

「……謝らなくちゃなのは、私もおんなじだよ」

 

弱々しくて、それでいてどこか嬉しそうな声。そんな彼女の代名詞のような優しい声を耳にしていると、元に戻れるんだなぁって、こっちも幸せな気持ちになってくる。

 

「私も、トモヤが無理して笑ってるって気付いてたのに、無理してないって言われて、納得したフリしちゃった」

「……それは、俺を思ってくれてることの表れじゃないか」

「……トモヤだって、嫉妬してくれたんでしょ」

 

くすぐったい空気が流れる。

思春期の男女の、甘酸っぱいそれ。

長年幼なじみをやってきた俺たちだが、マツリとの間にこんな空気が漂ったのは初めてだ。

今まで幼なじみとしてお互いを意識しないようにしてたが、ここ数日会ってなかったことで何かが変わり始めた。

そんな予感がする。

 

「……えと、トモヤの謝りたいこと、もう一つって、なに?」

「……っ、それはだな……っ」

 

小っ恥ずかしい空気のまま、予め用意しておいたキザな台詞を吐くことに少し躊躇うが、二つあると言ってしまった手前仕方ない。

もう一つの謝罪を口にする。

 

「……俺から仲直りを言い出せなくて、すまなかった」

「…………そんなこと、いいんだよ……」

 

マツリがまた、優しい顔になる。

それから。

 

「そんなことより……早く、プレゼント開けて……?」

 

マツリが、俺のために買ってくれたプレゼントを早く開封しろと催促してくる。

そりゃそうか。

俺は、マツリがこのプレゼントにかける想いを知ってる。

なぜなら、マツリが雑貨屋でどれだけ商品をじっくり吟味してたか、見てたから。

……マツリ、真剣だったもんなぁ。

あんなに長い時間をかけて悩んでくれた誕生日プレゼントだ。

純粋に気になるし、俺はマツリの言葉通り早く開封することにした。

 

黄色の包装紙を剥いで、赤色のリボンを取って。すると表れる、今度は薄青色の包装紙を剥いで。

そして、だんだんとプレゼントの形がわかってきたあたりで、俺は察した。

……これって、もしかして……。

 

瞬間、隣の人影がガサッと音を立てて立ち上がる。

驚いて見上げると、そこにはーー。

 

スカートをたくしあげてパンツを膝下まで下ろしたマツリが、顔を沸騰させて立っていた。

……えろっ。



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大作戦。

「……えーっと、マツリさん……?」

「……る……」

「…………え?」

「…………プレゼントに、私のおしっこ飲ませてあげる……っ!」

 

赤面したマツリの口から出たのは、なんとプレゼント放尿宣言だった。

どういうことかと思って手元の包みを見ると、中身はクローバー畑で子犬が遊んでいるイラストが特徴的なマグカップ。

なるほど、このマグカップと自身のおしっこをセットで誕生日プレゼントということらしい。

 

……だがなマツリ。

俺はお前のおしっこを愛してるが、やっぱり手に入れたい、もとい口に入れたいのは恥ずかしがってるお前のおしっこなんだ!

自分から言い出してもなお恥ずかしがってるのはかわいくていいんだが、やっぱり俺は自分の嗜虐心が抑えられない!

 

「……マツリ、ごめんっ!」

「……へ? ……んっ、ふにゃぁぁぁあっ!」

 

俺は実行前に短く謝ると、右手にマグカップを持ち、左手はマツリの腰にまわして自分の方へ抱き寄せる。

そして目の前に来たマツリのおしっこの噴き出し口に……右手に持ったマグカップを、思いっ切り押し当てた!

 

ごりごりごりごりと、膀胱に振動が伝わるように、情け容赦なく刺激する。

 

「ちょ、んんっ……待っ……トモヤぁ……」

「ふはは! 俺はやめないぞ! マツリの気持ちのこもったおしっこをこの舌で、脳で、全身で愉しむまで、俺は……っ! マツリを、刺激し続ける……っ!」

「……ひぎぃ……ぁっ……んんんんっ!」

 

刺激を続けていると、次第にマツリの顔が噴火しそうなほど真っ赤になっていく。

そして、耳の色なんかダイレクトに血の色を表してるんじゃないかってくらいに真っ赤になってきて……。

次の瞬間、ちろちろ……と、少しづつおしっこが顔を覗かせた!

 

「おっ! おしっこの赤ちゃんが出始めたみたいだぞ! ……ひっひっふー! 頑張れ!」

「……ちょ、ほんっ……んんっ、やめっ……」

「ひっひっふー! ひっひっふー!」

「ちょ、もう、ほんと……んんっ、んぁっ……で、でちゃう……でちゃうから……ぁぁっ、ぁぁぁぁぁぁんっ!」

 

ぷっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

 

「……元気な女の子です!」

「み、見せるなぁっ!」

 

マグカップに入った元気なおしっこたちを見せると、恥ずかしそうに、でも少しだけ嬉しそうに嫌がるマツリ。

……いや、なんだ嬉しそうに嫌がるって。

まあいいか。

 

「……じゃあ、飲むぞ」

「…………め、召し上がれ……?」

 

マグカップにどうぞと両手を差し出して、困ったような表情ではにかむマツリ。

その仕草がとてつもなくかわいかったので、もう一度リクエストする。

 

「かわいい。もう一回」

「ばかっ! やるわけないでしょ! 早く飲んじゃいなさいっ」

 

いつものように怒られたので、これ以上は踏み込まず。

改めておしっこを飲む体勢になって、手元のマグカップを見つめる。

中にはマツリの濃厚な国宝級のおしっこ。

まずはそれの匂いを、手で扇いで香る。

理科の先生にも怒られない、公式のやり方だ。

そして充分にその酔っ払ってしまいそうな程の芳しい香りを堪能すると、その滑らかな舌触りを丁寧に確かめるがごとく口に含んだ濃密を口の中で転がす。

 

ーーさぁ、いよいよだ。

 

俺は大切に口内で熟成させたそのおしっこを一気に呷るーーことなく、すかさずマツリに口付けをする。

そして、ポンプで水を送るかのように口の中の液体を一気に発射!

 

これこそが密かに考えていた俺の秘策、「マツリちゃん、自分のおしっこ飲んでみちゃいなよ大作戦」だ!

 

これまでマツリは、自分のおしっこが俺の人生とアキホの人生を変えたことを知っていながら、自らはその魔力を感じようとしなかった。

そこから考えられるマツリのおしっこへの見解に対する説は、主に二つ。

既に嗜んでいて、身体に合わなかったという説。それから、一度も嗜んだことがないという説だ。

でも、マツリの身体で生産されたおしっこ。

マツリ自身の身体が拒否反応を起こすとも考えにくいし、恐らく後者がビンゴ。

 

ならば、その解決方法はただ一つ!

無理やり本人におしっこを飲ませることだけなのだ!



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告白。

 

「.......っ! ごぼっ.......ごくん.......っ」

「.......ど、どうだ.......!」

 

しばらく目を白黒させて戸惑ってたマツリだったが、しばらくすると黙って俯いたまま、動かなくなってしまった。

あの素晴らしいおしっこの味を勧めたかったからとはいえ、さすがに悪いことをしたかと思って、恐る恐る声をかける。

 

「えっと……大丈夫……か?」

 

するとマツリは身体をわなわなと徐々に震わせ、突然飛び起きたと思ったら「な、なにするのよ……」なんて、小さく伏し目がちに抗議の声を上げる。

だがそこにアキホのときみたいな恍惚の表情はなく、自我は保てているようだ。

そんなマツリの様子を見ながら、内心落胆する。

 

(やっぱり、本人はあの伝説のおしっこの感動に打ち震えないのか……?)

 

しかし、今は残念がっている場合じゃない。

今日この時は、俺がここ数日で募らせた思いの丈をマツリに打ち明ける絶好のチャンスだ。

 

「……と、ところでさ」

 

と、俺はその思いを伝えるべく、拙いながらも誠実な言葉を紡いでいく。

おしゃれな言葉なんて必要ない、飾りなんて必要ない。……正直に気持ちを伝えることが大切だって、伝えたいって、思ったから。

 

「……俺、ここ数日マツリと距離を置いてて……マツリの存在が俺にとってどれだけ大きかったかを改めて思い知らされたような気がする」

「……っ、そ、それは私も……っ」

「……だ、だからさ、ええと……その……」

 

勇気を振り絞って、伝える。

 

「……な、なに」

「……俺と、デートしてくれ」

 

.......さぁ、どうだ。

俺の今世紀最大の告白。

これまで想ってきた幼なじみへの、初めての大告白。

その返答を、固唾を飲んで見守る。

.......告白なんて初めての経験だが、やっぱりこんなに緊張するもんなんだな.......。

誤魔化せない本当の気持ちをダイレクトに伝えるって、こんなに怖いのか。

なんて客観的に自分の心情を見つめ直しながら目の前の幼なじみを眺めていると、告白を受けたマツリは「えっ、ちょっと、えっ.......」なんて一通り動揺していつもとは違った朱に染まったあと。

 

「夏休みはずっと暇なんだからっ!」

 

なんて、あいつらしい誤魔化しかたで俺の誘いを受け入れた。

でも、そんな態度では満足しないのがこの俺トモヤのいいところ。

 

「.......そっか」

 

と優しい笑みで部屋を立ち去っておきながら、帰り際に「.......デート先で小便漏らすなよ」と、小さい声で皮肉を言って、ドアを静かに閉めて帰った。

 

.......ただし、すぐに追いつかれて頬がおしりみたいに腫れるほどビンタをされました。



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城にて。
電車の旅。


俺がマツリをデートに誘うのに成功してから、ちょうど一週間後の朝。

俺とマツリは高くて速い電車に乗って、デートスポットを目指している。

といっても、俺もマツリも若者のデートスポットなんてキラキラしたところに縁があるはずもなく。

二人とも、行ってみたい場所は世界遺産で一致した。

 

二人でどの世界遺産に行くか話し合った結果、最終的には二つに絞られた。

俺もマツリも行ったことのない場所で、交通の便がいい場所。

中尊寺の金色堂が見てみたいってことで、一つ目の候補は平泉。それから、日本で初めて世界遺産に選ばれた遺産の一つで、真っ白な見た目が特徴的な、白鷺城の異名を持つ姫路城。

今回はなるべく電車だけを使って行きたいってことで、姫路城に行くことになった。

 

電車に揺られること、数時間。

ふと四人掛けの座席、反対に腰かけたマツリに目を向けると、真剣な顔で手元のスマートフォンをタプタプしている。

それが時折にやっとしたり、気の毒そうな顔をしたり。そうやってころころ変わる表情を見ているだけで、この数時間の移動は自分にとって全く苦にはならず。

むしろ、愛しいマツリのいろんな表情が特等席で見られて、幸せに苛まれそうなひとときだった。

.......いかん、俺もマツリと同じくニヤニヤしてしまった。

 

さて、ところでマツリはさっきからスマホで何を見てニヤニヤしたり心を痛めたりしてるんだ?

酷く気になった俺はマツリの隣の席に腰掛け、幼なじみのスマホを無理やり覗いてみる。

 

「えーっと、なになに.......女子高生、デート体験談.......成功例と失敗例?」

「う、うわぁ。み、見ないでっ!」

「おま、これ……そんなに楽しみにしててくれたのか」

「う、うっさい! トモヤだって目の下にクマができてるじゃないっ! ……た、楽しみで寝られなかったんでしょっ」

「……ああ。楽しみ過ぎて徹夜でおしっこ飲んでた」

「飲むなぁっ!」

 

まあ、そんなのは本当は嘘で。

本当は楽しみで寝られなかったから、心を落ち着けるためにおしっこを飲んでたんだけどな。

……あ、うん。

おしっこ飲んでたのはほんとだよ?

 

……と、脳みそが蕩けそうなほどの甘ったるい会話をたくさん交わしているうちに、姫路に到着した。

改札をくぐって駅舎を出ると、眼前に広がる姫路の街並み。手前から辿っていくと、日本風な料理店やお弁当屋さんが軒を連ね……。

その奥に、日を照り返す圧巻の姫路城がそびえ立っていた!

 

「うわ、でっかいな」

「駅からでも見えるんだね〜、これなら歩いてすぐだよ!」

 

マツリの言葉の通り、姫路城までの道のりは歩いて数分のようだった。

道中にはシャチホコのオブジェや、姫路城のイラストが描かれたマンホールの蓋があって、全く飽きることなく観光客気分を楽しめる。

それに、常に城が視界の端に写っているため、ワクワク感もひとしおだ。

俺とマツリはそんな城下の開けた道を、右へ左へ。写真を撮りながらゆっくりと歩いた。

 

そうこうしていると、マツリがなにかに気づいたらしく、姫路城に近づいたところで声を上げる。

 

「あっ、ほら見て見て! 骨董市みたいなのやってるよ!」

「お、ほんとだ。食べ物の屋台とかも出てるな。……まだちょっと早いけど、家出てからだいぶ経つし、食ってくか?」

「うんっ!」

 

というわけで、骨董市で刀や人形を見てわいわい感想を言い合いながら屋台の方へ進むことになった。



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かわいい。

屋台のすぐ前まで辿り着くと、右手にだだっ広い公園があった。

普段はなにか催しでも開催される場所なのだろうか。遊具があるわけでもなく、ただひたすらに土地が広がっていて、円状のベンチがぽつんと置いてある。

 

「あそこに座って食べようよ! ほら、鳩さんもいるよー」

「鳩さんて……。お前、千夏の同級生じゃないんだから……」

「えへへ、トモヤもお子様みたいなくせに〜」

「……待てよ? 今でもいっぱいおもらしするあたり、千夏よりマツリの方が幼いんじゃ……」

「う、うっさい! そんなこと言うともうおしっこしてあげないんだからねっ」

「すいませんごめんなさいもう言いません」

 

そんな軽口を叩きながら屋台で食べ物を買って、ベンチへと移動する。

購入した食べ物は、ホルモンうどん。

三田牛のホルモンを絡めた焼きうどんにしっかり味が染み付いていて、見るからに美味しそうだ。しかも値段もリーズナブルで、これだけでお腹いっぱいになりそうな量なのに400円ポッキリ。電車賃だけで相当な出費だったから、お財布にも美味しいお昼ご飯である。

 

ホクホクのホルモンうどんを二つ手に持って、ベンチへと向かう。

すると、先にベンチで待っていたマツリがウェットティッシュを用意しておいてくれて、それで手を拭いてからうどんを食べることが出来た。

二人並んで、焼きうどんをすする。

途中絡みついたホルモンがシンプルな肉の旨味をもって味覚を刺激し、しかもそれが噛む度に繰り出される。

 

「うわぁ、これおいしい……!」

「そうだな、屋台で食べて正解だった!」

 

噛みごたえのあるホルモンと味の染み付いた麺に、二人は大満足で箸を止めない。

しかし、夏に焼きうどんを食べているこの状況。

いくら美味い食べ物だとはいえ、飲み物がないと食べるのはだんだんと苦になってくる。

マツリは水分補給のために麦茶を水筒に入れて持ってきてるようだが、俺は何も持っていないため辛くなってきた。

 

「? あ、喉乾いたの? 飲む?」

 

と、マツリが水筒のフタについたコップに麦茶を入れて差し出してくる。

……確かに、優しい幼なじみが自分のために麦茶をくれているこの状況、並の人なら断る理由が見当たらない。

しかし、俺は日本一の味を誇る、水分補給・塩分補給の対策水が手に届く場所にあることを知っている……!

 

「……マツリ、その麦茶はお前が飲め」

「え、そんな。私はもう大丈夫だよ? 充分水分摂ったし……」

「……その麦茶をたくさん飲んでおしっこして、それを俺に飲ませてくれ!」

「…………バカなの?」

 

マツリは俺の言動に呆れたように「……ふぅ」と息をひとつ吐くと。

 

「…………もう、仕方ないなぁ。私はもうおしっこ出るから、いいわよ。麦茶も飲んで」

 

と、照れたように顔を背けて口を開いた。

……かわいい。



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湯呑み。

それから結局マツリにもらった麦茶を飲みながらホルモンうどんを食べて、水分補給もしっかり出来て。

それでもマツリのおしっこを逃すことが出来ない俺は、骨董市で日本風な湯呑みを購入して、そこにおしっこをしてきてもらうことにした。

 

「お、いらっしゃい! 若い人が珍しいね」

「あはは、ちょっと湯呑みを探してて……」

「おっと、それなら夫婦茶碗があるよ! 兄ちゃんたちカップルだろ? それなら縁起物を使っといたほうがいい! ほら、半額にしてやるから持って行きな!」

「「あ、ありがとうございます……」」

 

骨董市のおじさんの勢いに押されて、夫婦茶碗を購入してしまうというハプニングもあり。

 

「……さっきおじさんにカップルって言われたとき、お前否定しなかったな」

「……な、なによ! トモヤだって否定してなかったじゃん!」

「嬉しかったからな!」

「わ、私だって嬉しかったわよ! もうっ」

 

そのおかげでこんな会話もできて、お互いの気持ちがお互いの中でハッキリとしてきて。

そんな幸せに包まれながら、マツリのおしっこを一人、広場で待つ。

 

それからしばらくしてトイレから出てきたマツリは、二つの湯呑みを抱えていた。

一つにはもちろんまだあったかいおしっこが注がれていて、もう一つは空っぽだった。

さっきの夫婦茶碗を包んでもらったまま両方、マツリに手渡したからである。

 

「……してきてあげたよ?」

「ごくろう! いただきます!」

 

ゆっくりと近づいてくるマツリを見ながら、ふとなにかに違和感を覚える。

……マツリの持っている湯呑みのうち、おしっこが入っていないはずの女性用の湯呑みまで、少しだけ濡れているのだ。

まさか買ってすぐだからって、両方の湯呑みを洗ったのか?

それとも、水滴がついただけ……?

まあ几帳面なマツリのことだ、洗って持っていようという考えなんだろう。

そう思い、俺はその場では深く考えないことにした。

 

と、そんな思考に気を取られていたときだった。

 

「……ちょっと、なにジロジロ見て……ぁっ!」

「おま、大丈夫か!?」

 

湯呑みを運んで来ていたマツリが、盛大にすっ転んだのである。

幸いケガはないようだったが、湯呑みの中のおしっこは全て地面にぶちまけられてしまった。

 

「……うぅ。ご、ごめんね……、楽しみにしてくれてたのに……」

 

俺がとても楽しみにしてたこともあって、マツリはすっかり落ち込んでしまっている。

このままでは、せっかくの観光が台無しだ。

と、思っていた矢先、俺は足元にとんでもないものを目にした。

俺はそれを見つけるやいなや、マツリの肩を抱いて、そのとんでもないものがある地点を指さす。

 

「……どうしたの、トモヤ……?」

「……あれ、見てみろよ」

「……あ、あれって……!」

 

俺の指をたどった先、足元から視線の遥か先まで広がる、緑の大海。

……さっきまでがらんどうだった空き地に、森が出来ていた!

 



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尿零す生娘。

「こ、これって……!」

「……マツリがこぼしたおしっこの栄養が肥料になって、地面の下で枯れかけてた森が再生したんだな……」

 

マツリのおしっこは尋常じゃなく美味いからなにかに役立つとはかねてから考えてたけど、ここまで栄養価が高い液体だったとは……。

前遊びに行った川も魚が巨大化したってニュースをやってたし、あれもマツリのおしっこによる効能だったんだろう。

なんて俺がその素晴らしさを身に染みて感じていると。

 

「おおおおおおおおおおおおっ!」

「な、なんだっ!」

 

突然、辺りに轟音が鳴り響く。

驚いて見回すと、俺とマツリを囲んで人垣が出来ていた。

響いていた轟音は、周りの人たちによる歓声だったようだ。

その場にいた全員が、拍手喝采する。

 

そして、その中から一際大きな拍手を鳴らしながら歩いて来る男性が一人。

彼は、この広場の持ち主だったようだ。

 

「素晴らしい! 君の銅像を、ぜひこの広場に設置させてくれないか!」

「……え、ちょ、ちょっと……」

「……ふむ、タイトルは……『尿零す生娘の像』でどうだ!」

「……ほ、ほんとにやめてください……」

 

真っ赤になるマツリと、マツリを祀り上げるその場の人々。

いつしかマツリはーー神になっていた。

 

「は、恥ずかしいよぉ……助けて、トモヤ……」

 

しかしこんな喜ばしいことが続いているのに、目立つのが苦手なマツリは顔を真っ赤にして嫌がっている。

……ならば、助ける役目は俺しかいないよな!

 

「……マツリのおしっこは、俺だけのおしっこだぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

俺は、マツリの手を引いてダッシュする。

呆気にとられて、それでも追いかけてこようとする信者めいた人々を振り切るため、全力で走る。

 

「か、神が逃げたぞー! 追えぇぇぇえ!」

 

 

〜 数分後 〜

 

「ふぅ……やっと隠れられたね」

「観光客がいっぱいいて助かったな……」

 

数分後。

俺たちはなんとか追手を逃れることに成功し、城の入城受付へと辿り着いていた。

一人千円。料金を支払って、入城ゲートをくぐる。

追われているときは一心不乱に逃げてたから気が付かなかったが、なるほど。

間近に迫った姫路城は日に照らされて、神々しいとしか言いようがない、シンプルながら人々を惹きつけるフォルムをしていた。

 

「急だから、登るの大変じゃないか?」

「……あっ……ありがと。ちょっとだけ、かっこよかった……よ?」

 

入城門をくぐってから三の丸御殿群までの坂道は、目で見るよりも遥かに急だった。

マツリが大変そうにしているので、それを見兼ねた俺が手を差し伸べる。

すると、マツリはちょっとだけ不服そうに。

それでも頬を染めて感謝の言葉を述べ、そしてまた歩き出すのだった。

 



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お菊の井戸。

それから三の丸御殿を見て、石垣に使われた石臼や石棺などの珍しいものもマツリに解説して回って。石棺に至っては説明書きがどこにもなかったから、勉強しておいたことが役に立ったと初めて思った瞬間でもあった。

だってさ、石垣に古墳から掘り起こした棺を使ってたなんて面白くないか?

知らなかったらなんてことないが、知っててあの石垣を見るとなんとも不思議な気持ちになってくる。

 

「あっ、あそこに人だかりが出来てるよ!」

「お、行ってみっか!」

 

突然マツリが前方を指差す。

その方向にあった人だかりに近寄ってみると、その中心には金網の張られた井戸があるようだ。

 

「すいません、いっぱい人がいるけどこの井戸はなんですか?」

 

俺が近くにいた観光客に声を掛けると、そのおじさんは親しげに話してくれた。

 

「ここは怪談で有名なお菊の井戸って言ってね、ほら……一枚、二枚……って例のあれだ。結構深いから覗いて行くといい」

 

おじさんに勧められるまま、俺もマツリも人がある程度捌けるのを待って、井戸に近づく。

すると、なるほど。

井戸の金網の奥を覗くと、床なんてなくて、底のない虚無な空間なのではないかと錯覚するほどにその穴は深かった。

 

「すごいね……、こんなとこに切り落とされたらお菊さんが呪っちゃうのも分かる気がするよ……」

「……うーん……」

「……? トモヤ、なに考え事してるの?」

「いや……ちょっとな」

「え〜、教えてよ〜」

「……わかった、隠すことでもないしな」

 

井戸を見て考えごとをしていた俺に、マツリが興味を持ったらしい。

食い下がってくるので、勿体ぶらずに教えてやることにした。

 

「……うちにも井戸を作って、マツリのおしっこをいつでも汲めるようにしようかと思ってな……」

「な、なんてこと考えてるのっ! バカっ!」

 

正直に答えたのに、怒られてしまった。

 

そして、ついに幼なじみと幼なじみは姫路城天守閣へと足を運ぶことにした。

時刻は午後三時。

階段を上った先にそびえる天守に近づくにつれ、頬を撫でる風が気持ちよくなっていく。

そんな天然のクーラーを肌に感じながら、俺たちの足取りは軽い。

 

「随分歩き回ったし、この辺で休むか」

「そだね! 写真撮ろうよ!」

 

天守閣前の広場で二人、自撮りで集合写真。

今年の年賀状の写真はこれに決まりかな、なんて数ヶ月も先のことを語って鬼を笑わせていると。

 

「なんか……こうしてると、新婚旅行みたいだね」

 

なんて、ちょっぴり恥ずかしそうにマツリが言うではないか。

……恥ずかしいなら言うなよ!

そんなふうに脳内で軽くツッコミを入れるも、自分も恥ずかしいのは事実。

でもこんなところで負けてられない!

俺は照れたことがなんだか負けたような気がして、マツリをもっと辱めようと画策する。

 

「……お前と本当に新婚旅行するんだったら、もっといい思いさせてやるよ」

「……っ」

 

おー、効いてる効いてる。

徐々に耳から赤くなっていくマツリを見て、ほくそ笑む俺。

こんな日常が続けば、或いはもっと甘い日々が訪れれば……なんて。

そんなことを強く意識する城前なのであった。

 



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みかんの皮を剥くように尻の穴を開いた。

複雑化する思いを脳内で反芻しながら、最終目的地である姫路城天守閣へと向かう二人。

間近に見えた天守だったが、近寄ろうとすると正式な道は迂回が多く、思っていたよりもかなりの時間を要する。

これも攻めにくくするための手段なんだと感心しながら進んでいると、スタッフの方に内部へと案内された。

靴を脱いで、城内部へと足を踏み入れる。

すると入口からすぐのところに二階へと続く階段があり、それを上っていくことに。

攻めにくくする工夫がここにもされているのか階段が急なため、ここは二人手を繋いで上る。

城内部はクーラーもないのに外よりもより一層涼しくなっていて、そんな中で一つ。

マツリと繋いだ手だけがその中で一つ、確かに熱を持っていて。

その事がなんだか嬉しくて、繋いだ手をぐっと自分の方へ、引き寄せたりなんかしてみたりして。

そのまま手を離すタイミングも分からない初心な俺たちは、繋いだ手もそのままにして、最上階へと階数を上った。

 

最上階へと続く階段は、これまでの階層と比べて、より一層急な造りになっていた。

天井も低く、気を抜いたら頭をぶつけてしまいそうな仕上がり。

五階で大きな柱を触った際に解いた手を手すりについて、真っ逆さまにならないように身体を支える。

「落ちたら受け止めてね!」とマツリが言うので、俺が後ろでマツリが前。

前後というよりほとんど上下みたいな体勢になって、急な足場を上っていく。

 

(……ふぅ、だいぶ上まで来たもんだ)

と、そこで窓の外なんかを見てふと我に返って視線を戻した先の鼻先には、マツリの大きなお尻があるではないか。

……うん。こんな素晴らしいところで罰当たりだがムラムラしてきた。

マツリのムチムチと柔らかそうな尻を前にしているうちに、こいつをめちゃくちゃにしてやりたいという衝動に駆られ、抑えられなくなってくる。

……ま、まあ罰当たりといっても時の武将だって大の男。

女を侍らせて好き勝手やっていたことは例え史上に残っていなかったとて想像に難くない真実だろう。

ってことで、俺は幼なじみのエッチな尻を存分に楽しませてもらうことにした。

 

「……すん、すんすん……」

「……? トモヤ、なにして……って、ちょっ! まって、お尻嗅いでるでしょ! やめてっ」

「いい匂いだぞ、マツリ! それに鼻先に当たるお尻がびっくりするくらい柔らかい! なにこれ、スクイーズ的なあれなの? なにか入れてる? ゼラチンとか入ってない? ねえ?」

「ばかっ! 入ってるわけないでしょ! なんのためにそんなこと……っ……とにかく、直ちにやめなさいよねっ! やめないと蹴るわよっ」

「……この星ではご褒美です」

「このばかぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

散々匂いを堪能した俺だが、なんだろう。

心のどこかが虚無というか、物足りなさが巣食っているというか……とにかく不足感のようなものを感じた。

すんすんとマツリの大きな尻の匂いを嗅ぎながらその正体を考えて……あ、これだ。

いやまあすぐに答えは出たんだが、その正体は考えるまでもなくおしっこに違いなかった。

 

「……すんすん……マツリ……」

「……な、なに……っ、やめないとなにしちゃうか今考えてるんだから後にしてくれる!」

「……マツリ、今からお尻に力入れちゃダメだからな。入れると痛いぞ……?」

「な、なにするつもり……きゃっ!」

 

もみもみもみもみ。

俺は、欲望の赴くままにマツリの尻を両手で揉みしだく。

嗅ぎしだいて、揉みしだいて、鼻を押し付けしだく。

……しだくってなんだ。

 

「……ちょ、えっ、ほんとにこんなとこでやるの、嘘でしょっ、ねぇ、やめ……っ」

「ふっふっふ、マツリよ。今楽にしてやるからな……っ!」

「……ねぇ、ちょっと……すごく嫌な予感がするんだけどっ……!」

 

凄腕の医者か大魔王か。

そんな特殊な種類の人しか発言しないような天国とも地獄とも取れる台詞を大仰に放ち、俺は目の前の尻の中心部に向けて指を立てて……みかんの皮を剥くが如く、容赦なく突っ込んだ! そして開いた! 開きしだいた!

 

「……ぁっ、ちょま……んっ……ぁ」

 

ぷしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!

 

怒涛の攻めに陥落したマツリは、それこそ怒涛の如く荒れ狂うおしっこを俺に浴びせてその場にへたりこんだ。

そう、その場に。

……今一度、今俺たちがいる階段の状況を思い出して欲しい。

この場は、急な階段。

もっといえば、上下になっていると言っても過言ではないほどの急な階段だ。

そんな場所でその場にへたりこんだとしよう。……うん、どうなるかは分かるよな?

 

……マツリはおしっこを漏らしながら俺の顔に落っこちて来ましたとさ。

ぺろぺろ。



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水の妖精。

幸いなことに、片付けは他人の力を借りずとも俺の胃袋だけで行なうことができた。

でも、ここに濡れた格好のまま居座り続けるのはお門違いというもの。

天守閣ではシャチホコを見たり神様に災害の無事を祈ったりして、そそくさとその場をあとにすることにした。

 

「……ここは……?」

「お城の入口の近くにあった公園だ。ほら……人が少ないのにこんなにお城が綺麗に見えるんだぜ?」

「……トモヤがなにもしなかったらそのお城にもっと居られたんだけどそれについてなにかないの」

 

ぷくっと頬を膨らませてみせるハコフグみたいなマツリに、俺はカバンからあるものを取り出して手渡す。

 

「ほら……これが俺からの思いだ」

「えーっと……これは……」

 

手渡されたものを広げて絶句するマツリ。

それもそのはず。だって俺が彼女に手渡したものはーー。

 

「……なんでトモヤが女の子用のパンツとワンピース持ってるのよっ!」

「いや、あの……こういう状況になると思ってプレゼントをだな……」

「計画的犯行だったってこと!? もう……っ!」

 

文句を言いつつも仕方なく近くにあったお手洗いで着替えるマツリ。

自分で選んでおきながらこう言うのも不思議な話だが、マツリの白い肌を引き立たせるように水色のワンピースが光っていて、水の妖精のようだと思った。

それ即ち、すごく似合っていた。

 

「と、トモヤっ! なんでパンツもワンピースもサイズぴったりなのよっ! 気持ち悪い!」

「ふふん、お前が服だの下着だのを選んでるところまで全て尾行済みだ! どうだ、最高のプレゼント選びだろう? 男として見直してくれてもいいんだぜ? お?」

「だーめだこの人、脳みそおしっこで出来てる」

 

俺は抜かりないプレゼント選びをした自分を讃えていたのだが、なんだ。

最後にはマツリの口からも脳みそがおしっこで出来てるなんて光栄な言葉を貰っちまった。

 

時刻はもう夕方。

オレンジ色の西陽に照らされながら、なんだか幻想的な雰囲気で城をバックに二人。

実を言うと、今日のデートはこの瞬間のために動いていたようなものでもあった。

場所選びから観光までを二人で行なうことで、マツリと俺がいかに似た感覚を宿し、息が合っているのか。そして、いかにお互いのことを大切に思っているのか。

それを再認識して、この場を迎えたかったがために俺が仕組んだ計画のうち。

俺はこの場で……幼なじみに、告白する。

 

意識するとなんだか指先が冷たくなって、血液が胸と頭に集まって、俺の身体は中枢の器官だけで動いてるただの容れ物なんじゃないかなんて、そんな訳も分からないことが脳裏によぎった。

そんな現実逃避にも似たような不思議な理性の逃避行を半ば強制的に腕を引っ張って止めると、俺はベンチで横並びに座っている幼なじみに向けて言葉を紡ぐ。

……いや、実際は顔を合わせることが出来なかったわけだがそういうことにしておいていいだろう。だって、ここには二人しかいないんだから。



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幼なじみのおしっこが最高に美味い。

「「あのさ…………っ」」

 

言葉が、重なった。

これから告白しようってのに、マツリはなにか気を使って話そうとしたんだろうか。

このむず痒い静寂は確かにお互いの体温的にも良くないと思ってたが、何を言うつもりだったのか。

 

「マツリ、先にいいぞ」

「いいよ……トモヤが先言って」

 

告白するんだから後手に回りたいのに、譲り合った結果また静寂が訪れる。

小鳥もいなければ風邪も吹いていない、完璧な無音が続いた。

どうしよう。一向に進まない雰囲気に俺が内心焦っていると、大太鼓の振動を繰り広げていた手のひらの脈の上に、そっと柔らかいもみじが重なった。

あったかくて小太鼓の振動を波打つそれがマツリの手のひらであることは、勘の鈍い俺にも直ぐに理解することが出来る。

 

「あのさ……」

 

と、立ち上がって、マツリが二度目の導入句を口にする。

木陰が涼しい季節に小刻みに震える唇が妙に初々しくて、なんだか目の前の幼なじみが初対面のお姫様かなにかに見えてきた。

今日のお礼か、日頃のお礼か。

それともマツリも俺のことを好きだって告白してくれるのか。

マツリの次の言葉を想像すると、自然と身体が重力にさえ勝てるような不思議な感覚に陥った。

だが幼なじみとはいえ、人とのコミュニケーションなんて予測できない自体が頻発するのが常である。

このときだって例に漏れず、俺はマツリの考えていることをすっかり間違えて推測しているらしかった。

だってマツリは。

 

「……私、トモヤに怒ってることがあるの」

 

なんて、甘さとは全く無縁の感情を口にしたのだから。

とりあえず意味がわからない。

俺の行動のどこにマツリを怒らせてしまう要素があったのか。

……いやまあ思いつくことなんて窒素の数より多いわけだけど。

 

「……えっ、それって……なんで……」

「トモヤ、悪びれもせず私の初めて、奪ったんだもん」

「……………………はぁっ!?」

 

全く、身に覚えがなかった。

いやだって俺だってしたことないし!

クリーンですからクリーン!

マツリのお気に入りのパンツくらい真っ白だから!

なんて動揺する俺だったが、マツリが年頃の女子高生にしては珍しくピュアだったことを忘れてた。

彼女が言っていたのはーーファーストキスの、ことだった。

 

「……この間トモヤ、初めてだったのに、私におしっこ飲ませようとして……無理やりキスした」

「そ、それは……」

「雰囲気もなんにもないのに、私の初めて……台無しにした」

 

女の子にとってのファーストキスは、男が思っているよりもよっぽど大事なものなんだろう。そうとは知らずに俺はそれを、台無しにしてしまったらしかった。

「だから……」と、マツリが俯いたまま続ける。心なしか頬が赤らんできて、モジモジしているようにも見えてきた。

それで……言い放った言葉がこちらなんだけど……。

 

「だから……私に、もう一度ちゃんとキスしてくださいっ」

「……お前かわいいな」

 

かわいいなこの幼なじみ!

なにもう一回キスして欲しいっていうのにこんな恥ずかしがっちゃってさ!

いやもうこの流れで告白とか一気にハードル下がりましたわ!

ありがとうございます神様!

ありがとうございます姫路城!

ありがとうございますマツリ様!

 

「……あのさ、マツリ」

 

爆発的に上がったテンションを無理やり隠しながら、マツリに話しかける。

 

「俺がさっき言おうとしてたことだけどさ……」

「……う、うん……?」

 

キョトンとしながら未だモジモジしてるマツリの手をぎゅっと握って、俺は彼女に正面を向ける。

そして喜びと緊張に震える唇をゆっくりと動かして……。

 

「……マツリ、好きだ! お前のおしっこだけじゃない、優しいところ、無邪気な笑顔、献身的なところ、引っ張っていってくれるところ、かっこいいところ、なにかに打ちこんでる姿、声……! 全部が好きだ! 俺と……付き合ってください!」

「……ふぇぇっ!」

 

胸の内に秘めた想いを、精一杯にぶち撒けた!

そんな告白を受けて、マツリは涙を流している。九割が地球の反対側に沈んだ太陽の、残り一割が溢れ出る熱い涙を輝かせている。

それからマツリは声を上げて泣いて。

辱めを受けたときなんか目じゃないほど、大きい声を上げて泣いて。

そして、目を閉じて唇を突き出すように斜め四十五度を向いて背伸びした。

 

人気のない公園。陽の沈んだ公園。

告白のあとの幻想的な、青春の甘酸っぱさたっぷりの、それでいて大人の時間。

俺はマツリの前に一歩足を踏み出すと……。

 

しゃがんでマツリのスカートを捲り、太ももに滴るおしっこを舐めた。

 

「…………ふぇ……?」

「……お前、嬉ション出てるぞ」

「……ば、ばかぁ!」

 

俺のムードもへったくれもない暴挙に涙目になったマツリが、これまた同じくしゃがんで抗議してくる。

と、それを待ち構えていた俺は、こっちに近寄ってきたマツリの唇めがけて自分の顔をぐっと近付けた。

 

「……んっ……ちょ…………ぷはぁ……」

「…………これで、満足出来たか……?」

「……ふ、ふんっ……今回は……その……許してあげなくもない……わよ」

 

言葉とは裏腹に、口角が吊り上がって最高潮に嬉し気なマツリ。

そんなマツリを見ていると、もっと幸せにしてあげたいって想いになってくる。

 

「じゃあさ、もう一個だけ、言いたいことがあるんだけどいいか……?」

「な、なによ。言ってみなさいっ」

 

声を弾ませたマツリだが、俺がこれを指摘するとどうなるのか、ちょっと楽しみだ。

 

「あのさ……」

「……? なぁに」

「……マツリの唇、お前のおしっこついてたみたいだぞ」

「……………………ぁっ」

 

最初に立ち寄った広場で湯呑みが濡れてた違和感が、キスをしたことで確信になったんだが、この幼なじみ。

あろうことか、あんなにも俺のことを気持ち悪いと言っていたにも関わらず、自分も自らのおしっこを飲んでいたのだ!

 

「だ、だって……しょうがないじゃないっ!」

「んー? なにがしょうがないんだー?」

 

面白くなって、俺は詰め寄る。

するとマツリは観念したのか、照れ笑いしながらこんなことを嬉しそうに口にする。

 

「この間トモヤが口移しで私のおしっこを飲ませてきたとき……我慢してたけど、本当はびっくりするほど美味しくって、ほっぺたが落ちそうなほど、脳が蕩けそうなほど、美味しくって……。だから、しょうがないじゃないっ!」

 

「だって……」と、俺の大好きな満面の笑みでマツリは続けた。

 

「だって、トモヤの大好きな私のおしっこが、最高に美味しかったんだもんっ!」



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