FAIRY TAIL~魔女の罪~ (十握剣)
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第1話「魂の変換」

始めてしまいましたフェアリーテイル!
十握剣が描くフェアリーテイルを読んでいって下さい!

自分の妄想で書いているので、生暖かい目で読み、見守って下さいまし


荒ぶる轟音、折れた天上に衝(つ)かんばかりだった《天狼樹》。

 

震える地面、糾弾する闘魂の声。

 

 

 

 

「俺っち・・・・・は、」

 

 

頭が、脳がまるで一掴みされ引き千切られるような痛覚がある一人の男を苦しめていた。

 

「俺っちの・・・名前は・・・・・・・」

 

そう、確か名前は、

 

「“ザンクロウ”だ、そうだ、俺っちは」

 

《ザンクロウ》

 

悪魔の心臓(グリモアハート)』の一員で、気性が荒く好戦的な性格であり、怖気づいた部下を焼き殺した残忍な“滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)”である青年だ。

 

 

 

失われた魔法(ロスト・マジック)』の一つである“神”から授かし魔法であり。時の流れにて衰退し、消失(なく)した筈の魔法。

 

 

それを自分は扱えることが“理解”していた。

 

 

“理解していた”とは言葉が可笑しいと言えるだろうが、ザンクロウの今の状態はそうなのだ。

 

「悪魔の心臓・・・・」

 

闇ギルドの一つであり、『悪魔の心臓(グリモアハート)』のマスター・ハデス。ハデスに色々なことを学んだザンクロウは養父と当たるに等しい存在。

 

「ブルー・・・ノート」

 

《悪魔の心臓》の副司令であり、『奴の通った道には雑草すら残らんと言われるほどの大魔導士』と聞いている。

何回かザンクロウは勝負に挑んだりして、勝敗はいつも負けていたりしていた。

 

「ラスティ・・・・・ローズ」

 

ナルシストでキザな魔導士。頭は結構キレる方で、敵の戦略の裏をかいて攻撃するのが得意だった。

いつも何か言っていたがザンクロウは覚えてなかった。

 

「華院・・・・ヒカル・・・・・」

 

太った容姿に口癖が苦しそうに呻くような感じだったのがザンクロウの記憶だった。魔導士でありながら魔法に頼らず、高い戦闘能力だけで敵を倒す実力だった。体術の組手などよくヒカルと鍛練したものだった。

 

「アズマ・・・・・」

 

ドレッドヘアが特徴で、中々の“闘い好き”だったような気がする。『強者』と本気で戦うことを至高に喜ぶ者だった。

ただ他の者とは違う所があり、戦闘好きであるものの相手との礼儀を重んじ、己の罪も認め、己の負けも認める程の力量の持ち主だった。

唯一の悪魔の心臓(グリモアハート)の良心であり良識だったアズマ。

 

「・・・・・カプリコ」

 

同じ《悪魔の心臓》の幹部同士だったラップ型サングラスにタキシードを着たヤギの獣人。自分のことを「(メエ)」と呼んでいたのに対し、ザンクロウは笑った記憶があった。

 

 

ここまでの仲間の記憶がまだ脳に刻まれていることをザンクロウは少し安心の色を浮かべていた。

 

そして自分が持つ魔法『滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)』としての力も扱えることに掌を広げたり握ったりして確かめた。

 

「ウヒヒヒ・・・頭、超痛ぇ・・・」

 

ザンクロウはどうして傷だらけなのかも分かっていた。

 

黒魔導士ゼレフの復活の為、《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》が管理している島『天狼島』にやって来た。

そして恐らく一番最初に《妖精の尻尾》のギルドの連中と戦ったのが自分なのだとザンクロウはボロボロになった自分の姿を見て“思い出した”。

 

 

ナツ・ドラグニル。

火竜(サラマンダー)』の異名を持つ《妖精の尻尾》の少年。そして火の滅竜魔法を使う“滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)”でもあった少年。そのナツと先刻戦ったばかりだったのだ。

 

「ちっ・・・・頭痛ぇよ、どうに・・・か、して、くれねぇかな」

 

だがこの激しい頭痛は間違い無くその戦闘のものでは無い、そして、

 

「・・・・・気持ち悪くてしょうがねぇー・・・・・『俺っちが俺っちじゃ無い』感覚だァ・・・・・」

 

そう、自分がどのような性格なのかまるで“他人事”のように頭の中で思い浮かんだのだ。

 

そして先ほどからうっすらの頭の中で靄(もや)のように写っている人影がちらつかせられる。

 

 

ザッザッザッ、と行き先など分からない状態のまま進むザンクロウ。

 

頭を抑えて歩いていれば、

 

「ま、ち、な、さ、いーー!!」

 

「ひいぃーー!! 何コイツー!!」

 

雨が降る中、木々の間から聞こえた二人の女の声。

 

「ゼレフを渡して!」

 

「さっきまで愛だの何だの言ってたくせに!」

 

「アナタとは争いたくないの!」

 

片方の声、幼そうながら震えている少女の声にザンクロウはまるで衝撃を受けたかのように脳を軋ませた。

 

「あがぁぁああああ!!?」

 

ザンクロウは我慢出来なくなり身体が言うことを聞かず、頭から濡れた草や土の地面に転がり回る。

 

ザンクロウが転がり回った先で待っていたのは、

 

「ザンクロウ!!?」

 

ザンクロウは己の名前を呼んだ少女に目を向けた。

 

「メ・・・メルディ」

 

ピンク色の髪を持つ物静かそうな少女、メルディ。

 

そして思い出す。同じ《悪魔の心臓》の仲間だった少女を。

 

再び思い出す、マスター・ハデスから聞かされていたメルディの【裏切り】の可能性を、

 

そのせいかメルディは担いでいるゼレフをザンクロウから見えない位置に移動しながら視線を外していなかった。だがザンクロウにとって驚く程に今は“どうでも良かった”のだ。

 

「た、・・・・助けてくれ。メルディ・・・・メルディ」

 

この頭痛、頭を鎖で締め付けるように、頭蓋骨を金鎚で思いきり強打されるように、脳みそを一掴みされ引き千切るように伸ばされるような痛み。考えられないような激痛が脳を、頭を、頭蓋を軋ませる。

 

「あああああああああああああああああああああアアアアァァァァァああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

口から胃液が流れ落ち、目の焦点が合わない。

 

───嫌だ

 

皮膚が破けそうになりながらも頭を掻きまくる。

 

───死にたくない

 

(俺っちは・・・・・死にたくねぇ・・・んだ・・・・・)

 

思い出す記憶。

無い筈の記憶。

 

(母を、焼き殺した、母の、血肉を受け、父の、精を受け・・・・・生きている、この感覚を)

 

母が居た、だがザンクロウは殺した。その身に宿る『炎神』の魔力で、子宮から焼き殺してしまった母の記憶を。

 

 

 

 

 

 

 

 

(【死】が・・・・罪か・・・・・【死】で・・・・償え、ってかァ?)

 

焼き尽くしてきた筈の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)は、本当の温もりを知らないまま死ぬのか?

 

 

 

 

 

叫ぶ力も無くなってきた・・・・。

 

 

 

 

(・・・・なんだこの人生・・・)

 

未だに苦しめる激痛がザンクロウの意識を少しずつ削る。

 

 

(・・・・罰(ばち)が当たっちまった、ってかァ)

 

“神殺し”故にか、それとも今までしてきた所業のせいか、分からない。

 

(でも、まァ・・・・やっぱ死にたくねェなァ・・・・・)

 

でも無理だ、助かる方法なんて無い。

視界も無くなり、五感が無くなりつつある今、ザンクロウは【死】を覚悟する。

 

(メ・・・メルディに、嫌なモン見せちまうなァ・・・・)

 

激痛過ぎたせいか、もう余裕が生まれるほどに諦めてしまったザンクロウは、小さな少女のことを思う。

 

 

だが、その少女・メルディはいつの間にかザンクロウの側に近寄っていたのだ。

 

「ザ、ザンクロウ!? どうしたの!? 敵にやられたの!?」

 

未来の為に、メルディは自分が居た街を元通りにするためにゼレフを連れて行こうとしていたのに、目の前でもがき苦しむザンクロウを優先してしまったのだ。

 

「ヒ、ヒヒヒ・・・・・なに、してんだってよォ、メルディ。早く行けって・・・」

 

「駄目! ザンクロウが苦しんでるのに見捨てられない!!」

 

「いやよォ・・・こっちから『助けて』発言しといて悪ィけど・・・・ウヒヒ、ハァハァ・・・・・もう、ダメだ」

 

「何言ってんの!!」

 

メルディが涙を流しているのが、白眼になりながらも視認できたザンクロウは驚きをみせる。

 

「オイオイ・・・・もう分かんだろォが? 俺っちは・・・いや《|悪魔の心臓(グリモアハート)》は・・・・・ハァハァ、メルディの産まれ故郷の街を壊し、・・・・“殲滅したのは俺っち達だってよ”?」

 

何故か、メルディが側に来た途端に先程では無いが激痛が少しだけ和らいだのだ。

そして打ち明ける、メルディの全てを奪ったのは自分だと、

 

「ハァハァ、だからよォ、何も感じる事無ぇよ、ゼレフ連れて行っちまえ、イヒヒヒ! ぐぅっがっ!?」

 

再び襲う激痛。

 

ザンクロウの告白に、メルディはきっとショックを受けただろう。その事を踏まえてザンクロウは声を絞り出す。

 

「マスターから逃げられるか分からねぇが・・・・頑張れってよ・・・・」

 

行くように促す、もしかしたら復讐の為にザンクロウを殺すかもしれないが、それも良いかもしれないと思ってしまったザンクロウ。

 

普段の、いや、“普通”のザンクロウならばそのような真似は許さないだろうが、今のザンクロウはまるで魂が入れ換わったように、気性は荒く好戦的じゃない・・・気持ち悪いほどに穏やかだ。

 

「ガホッゴホッゴホッ!! ヒャー・・・ハァー・・・」

 

脳から伝わる痛さが胸に、気管に伝わり咳が激しくなる。

 

「ザンクロウ!!」

 

ザンクロウの服を掴み、少女とは思えぬ力で引き上げられる。

 

「ハァハァ・・・・・良いぜ・・・・ヒハッ・・・ゴホッ! 殺せよメルディ」

 

「いけないわ、メルディ!」

 

とそこで、メルディを追いかけてきた《妖精の尻尾》の一員であろう女性がメルディを止める。

 

「貴女の過去は知らない! でも貴女が復讐に囚われて、その人を殺してしまっては!」

 

水色の髪をした女性だった、身体を引き摺ってメルディを追いかけてきたのだろう。ボロボロになりながらもメルディを説得しようとしていた、メルディはザンクロウを掴み上げたまま表情を見せない。

 

「何で」

 

そして静かに呟いた。

 

「・・・あァ?」

 

ザンクロウも思わず聞き返す。

 

「家族・友人・知人や我が家に見慣れた街を崩壊した理由で『何で』か? ハァハァ・・・・“何で”か」

 

ザンクロウは息も仕辛いというのに言葉を紡ぐ。

 

(何でだろうなー・・・何でかなー────理由なんて・・・・・・・・・・)

 

マスター・ハデスの命令もあったが、やはり『大魔法世界』のことが大きかっただろう。『大魔法世界』の為ならどんな犠牲も払ってきたのが《悪魔の心臓》だった。

 

メルディの故郷を滅ぼしたのも“ゼレフの鍵”が眠る地の民の殲滅だったから、だがメルディからすればそれは、いや“そんな事のせいで”大好きな友達や両親を殺されたのだから復讐に身を焦がすことも仕方がないと言えない。

 

だからザンクロウはありのままを話そうとも思ったが、話さなかった。

 

そして同時に掴み上げられたことでザンクロウは丁度立てるくらいの位置になり、メルディの表情を見える高さだった。ザンクロウは見た、メルディの表情を、

 

 

 

「泣いて、んのか・・・・・」

 

 

 

 

そうなのだ、メルディの瞳から流れ滴った雫が頬に伝わり下に落ちる。

 

「何で、『逃げろ』なんて言ったの?」

 

「・・・なに?」

 

 

「ザンクロウは、残忍で、気性が荒くて、好戦的でちょっと冷たい所もあって・・・裏切りを許さないって言ってた・・・・・」

 

(・・・・・・言った・・・・覚えが無ぇ・・・)

 

「なのに、私に『逃げろ』なんて、絶対に言わない筈なのに・・・・ねぇ、何で?」

 

だから、何でだったのか。とザンクロウは勘違いしたことで意味の無かった会話と考えに無駄さを感じつつ、答える。

 

「簡単だろ、イヒヒヒ・・・・俺っちはボロボロで死にそうだ、それに負けた奴がアジトに戻ってもハデスに何されるか分からねぇって、だからさァ・・・・だったらメルディに渡したら良いかな、っつう俺っちらしからぬ考えだった訳よォ~? ヒハッ」

 

きっと混乱してるんだろう、とザンクロウは思ったのだ。

 

メルディが唯一自分の居場所だったのが《悪魔の心臓》だったのだし、育ててくれた母同然のウルティアだった。

先程のザンクロウの告白はつまりウルティアも含む《悪魔の心臓》に裏切られたにも等しい事だったのだ。

 

だったら、と。

 

 

 

「だったら、せめてゼレフ使ってもう一度元通りしてみろってよォ・・・・」

 

こちらが裏切ったのだから、そっちも裏切れよ、とザンクロウは遠回しに言ったようなものだった。

 

そして、ザンクロウではあり得ない行動を取る。

 

「泣くなよメルディ・・・・」

 

喋っている途中で気付いた、もう頭痛などが鎮静していき、呼吸も戻り、余裕が生まれ、相手の心境を悟れることも出来るくらいに。

 

「・・・・・そっちが良かったらよォ・・・・・俺っちも手伝ってやっからよォ・・ヒヒヒ、もう一人にしねぇぜ?」

 

本当にらしからぬ言葉だ、とザンクロウは自分でも驚きながらもメルディを両腕で抱き締めた。

 

「ウヒヒヒッ、ウルティアさんの方が良かったかァ?」

 

「・・・・・何で」

 

「ヒハッ! 確かに復讐する相手に抱き締められるなんてメルディ的には最悪だってなァ」

 

小さくだがメルディはザンクロウの大きな胸板を叩きつけるように拳をぶつけた。

だがザンクロウがただ泣いているメルディを泣き止めさせる為だけに抱き締めた訳じゃなかったのだ。

 

「メルディ・・・・生きろよ」

 

「・・・・えっ?」

 

ボソッとザンクロウが呟いた言葉にメルディは疑問に思い浮かばせて、そして瞬時に思い出したのだ。ザンクロウが向いている場所に居る“存在”について。

 

 

「・・・・逃げて─────」

 

 

 

ドォウンッッ!!!!

 

 

 

一瞬にして、瞬きをした瞬間に黒い空間が広がり【死】を広めた。




ザンクロウ、様変わり!!!

残忍なザンクロウが好きだったら、この作品ではあまり出ないと思います、それでも良いなら見て行って下さいo(^o^)o


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第2話「美しき女神の落涙」

ドォンッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

何にも例え様の無い音が鼓膜に届いた時、メルディの視界はザンクロウの胸で隠れてしまっていた。

 

だが分かった。

 

一瞬にして『光』が無くなったことに、一瞬にして『命』を無くしたことにメルディは理解したのだ。

説明しようにも説明し難い感覚だった、まるで命を(もてあそ)ぶようにした行為だと思えば、再び耳に聞こえる男の声。

 

「ごめんよ、でも良かった・・・・“生きている”ね」

 

まるで生き残ったことを自分のことのように安堵する声元の男。

 

「だが、僕はまだ闇を背負うことになるだろう・・・僕はね、この時代において何かをするつもりはない。誰の味方にもならないし、誰の敵にもならない・・・・」

 

だけどね、と男の声は張り強くなり、意思を突き上げるように発した。

 

「今、一つの時代が終わるのならば・・・・僕は再び動き出すかもしれない・・・・・」

 

そのあと二三何かを呟いた後、男は静かにその場から居なくなった。

 

そしてメルディはあの『黒い空間』に飲み込まれたと言うのに、無事だった。

 

理由は恐らく分かってる。

 

「ザン・・・クロウ・・・・」

 

メルディを庇うかのように倒れたザンクロウに押さえ込まれていたのだ。

メルディは弱い膂力(りょりょく)でザンクロウから這い上がる。結構な筋肉を持っているザンクロウに押さえ込まれていたので息が多少苦しかったメルディ。やっとザンクロウから出ると、血色を悪くした顔で苦笑いを浮かべているザンクロウが横になっていた。

 

「ザンクロウ!」

 

「ヒハッ・・・無事だったか、メルディ・・・・ヒハハ、そういや頑丈だって」

 

こんな時でも笑っているザンクロウにメルディは思わず手刀を頭に繰り出した。

ザンクロウは抵抗せずにメルディの手刀を食らえば『ヒフッ!?』と吹き出す。

 

「・・・・ッ!?・・・・・そう言えばアイツは!?」

 

メルディを追いかけてきた《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》の一員にして、メルディに『愛と活力の涙』を教えてくれた水使い魔導士・ジュビア。

 

メルディは辺りを見渡すとすぐ側に気絶しているジュビアを発見した。

 

(死んでッ!?・・・・)

 

「死んでねぇってよ、オレっちが助けてやった」

 

ザンクロウの言葉にメルディは耳を疑った。

 

「ヒハハハ! 『気性が荒くて好戦的なザンクロウくんが“他人を助ける”だってぇ!?』って顔してんぞメルディ」

 

ザンクロウはゆっくりと上半身を上げる、身体が痛むのかとても痛々しく腰や首の節々を曲げて起き上がった。

 

「・・・ゼレフの魔法・・・・・ありゃ化物並だってよォ、気持ち悪ィったらありゃしねェ」

 

『化物』という単語を苦々しくもはっきりと口にするザンクロウの表情は歪みに歪んでいた。己(じぶん)にもっとも言われ続けられていた言葉を、だがメルディはゼレフのことに関して頭が沢山になった。

 

「ゼレフ・・・ゼレフッ!?」

 

メルディはようやくゼレフが居ないことに気付いた。

 

「やめとけってよォ・・・」

 

周囲に居ないかメルディは必死に探しているが一向に見つからない。そんな必死に探すメルディにザンクロウは軋む身体を鞭打ち立ち上がる。

 

メルディは必死に何かを考えながら探している、ザンクロウの言葉が耳に届くがメルディはゼレフを探す。

 

「メルディ」

 

「うるさい! まだ近くにいる筈なんだ!」

 

メルディは焦りもあって辺りの草木を分けて探す。

ザンクロウはまたも気持ち悪い程に脳が鮮明に働きかける。

ドゴォオンッッ!! と《悪魔の心臓(グリモアハート)》のアジトである飛空挺の方角からとてつもない魔力を感じていた。

 

(マスターハデスと戦ってんのか《妖精の尻尾》さんよォ)

 

腹部を手で摩り、横たわる《妖精の尻尾》の魔導士・ジュビアの顔を覗き込む。

 

(フヒヒヒ・・・・この女がメルディを、変えたか)

 

魂が入れ換わった感覚に襲われたザンクロウは、性格も著しく変わり気性が荒く好戦的な性格も多少無くなっている。そして“酷く穏やか”なのだ。

 

心には余裕があり、戦いも無理して挑む考えも無くなっていた。それよりも本当に前まで無かった感情までが芽生えるほどにザンクロウを変えたようだ。

 

「ヒハハハ! めちゃめちゃ綺麗な女じゃねぇか! 水色の髪だしスタイルもイイってよォ! ヘハハ、ちょ・・・ちょっくら目覚める為に仕方なく悪戯(いたずら)でも・・・・・」

 

ザンクロウは笑いは残忍だった時と変わらなく見えるが、今のザンクロウの笑みには『残忍』と入れ換わるように『下心』が貼りつけられ、両手の掌を握ったり開いたり握ったり開いたり、とかなり変態紛いな行動を取ろうとすると、

 

「・・・・・なにしてるの、ザンクロウ」

 

寝そべるジュビアの傍らで隠すこと無く笑い続けていたザンクロウの背後には、何やら軽蔑するような眼差しで見ているメルディが立っていた。

ザンクロウはチラリ、とメルディの“ある所”だけ目を向けるとすぐにジュビアに視線が戻り、そして一言。

 

「・・・・・・・こっちの方がデカイってよ・・・・」

 

ゴヅンッッッッ!!!!

 

「なにが何処がデカイって? ザンクロウ?」

 

「ヒ、ヒハッ・・・・そりゃ決まってるってよォ。まったくよォ、それはお────────」

 

「『お』? 『お』の後はなに?」

 

「ヒハァッ!?(こ、こいつ! 光速的に魔力刃の展開速度が飛躍的に上がっただとォ!?)」

 

そして喋ってる間にもメルディに四肢を動かせない捕縛術で地に頬を付けさせられていたザンクロウはメルディの成長に戦慄を覚えた。

 

そんなやりとりをしていれば、ザンクロウたちが居る『天狼島』に莫大な揺れに襲われた。

 

「な、なに!?」

 

ザンクロウを跨ぐように抑えつけていたメルディは震源の方角を見るが分かる筈が無い。

 

そしてザンクロウはグイッと立ち上がり、メルディも小さな悲鳴を上げながらザンクロウの首に腕を回して背中に吊るされる。ザンクロウ的にかなり苦しいのだがメルディの小さな身体のお陰で喋ることが容易い。

 

「ウルティアさんの所に行くってよ」

 

その言葉を聞いて、メルディはザンクロウから聞いた話を思い出し、表情が陰る。

 

「メルディ・・・許してくれなんてよォ、都合良すぎるかもしんねぇが・・・・・言わせてくれよ」

 

ザンクロウは吊るされるメルディを抱え、背中に背負(しょ)う。

背中から伝わるメルディの体温。微かに高くなっている、炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)だけあり熱に敏感なのですぐに分かった。

 

「長い間、黙ってて悪かった・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そして、済まなかった・・・・・・・・・」

 

メルディからザンクロウの表情がどうなっているかなんて分からなかった。だがメルディはザンクロウの肩に顔を預けて静かに涙を流していた。

 

「ウルティアさんにも改めてお前から聞けば良いって、そこでメルディは判断すりゃ良いって」

 

ザンクロウの耳から伝わるのは静かなメルディの呼吸音と、背中から伝わる心音だった。心音が高鳴っているのに気付いたがザンクロウはすぐにウルティアと合流する“脱出地点”に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

マスターハデスが負けた。

 

 

大した広くなど無い小舟の後部に佇んで目を伏していた。

 

鮮明な脳に刻まれている記憶には辛く、酷く、暗く、黒い軌跡が浮かび、そこには常にマスターハデスが居た。そして、ハデスに様々な魔法や原理、生きる為の(すべ)、裏世界の鉄則、魔法世界の全てを教示してくれたのだ。

 

欺瞞(ぎまん)していたかもしれない、教唆(きょうそ)されたかもしれない。だが同時に【絶対的な力】と【生きる】ことを教えられたのも変わる筈も無い絶対的なこと、それを踏まえてザンクロウは弔いの炎を掌に発火させ、まるでボールのようにザンクロウはその炎を海に目掛けて投げた。

 

(冥福を祈るって、マスターハデス・・・)

 

一人ザンクロウは海に向かって合掌した後、後ろから注がれる視線に向かい合う。

 

「普通の服着てもウルティアさんの美しさは最高級だってよォ! ウヒヒヒッ」

 

その視線の元はメルディとウルティアだった。脱出地点でメルディを担いだザンクロウと出会した時のウルティアの顔が思い出す。

 

「・・・・本当にザンクロウなの?」

 

「ヒハハハ! 間違い無く“元”《悪魔の心臓》の煉獄の七眷属の一人だってよォ!」

 

口を空けて笑うザンクロウにウルティアは長く美しい黒髪を靡かせて、小舟(ボート)を漕ぐ為の(オール)をザンクロウに渡す。

 

「なら少しの間頼めるかしら・・・・・私は、メルディと話があるから」

 

天狼島も小さく見えるくらい離れた大海原で、メルディは縮こまるようにしてウルティアと向かい合う。

ザンクロウはウルティアから預かった櫂を掴んでゆっくりと漕いでいく。

 

「・・・ねぇウルティア、私の街を襲ったの・・・・ウルティアって本当?」

 

ずっと聞きたがっていたメルディは重い口調のまま聞く。

ウルティアもザンクロウと一緒に居た時点で『もしかしたら』と考えていたのか、頬に汗が滴る。

 

「私の家族も友達も全部・・・・ウルティアが?」

 

「・・・・・・・・そうよ」

 

 

 

ぞわっ!! とメルディは心が抉られる感覚に陥った。

 

 

 

「いつか、きちんと話さなきゃと思ってたんだけど・・・・・・・・」

 

ウルティアは己の罪を再認識し、視線を横にする。

 

「私はこの人生を“一周目”と考えていたの。それは大魔法世界に行って『時のアーク』を完成させれば“二週目”が始まるからよ」

 

ザンクロウは淡々と(オール)を使い漕ぐ。

 

「私は、この一周目をやり直しのきく人生だと信じてきた。だから、どんなに残酷な事も、人の道に外れた事も出来た」

 

人外れし道、外道を歩んだのはウルティアだけでは無い。無情にその大罪(おこない)をやってきたウルティアの傍らには炎の滅神魔導士も居たのだ。ザンクロウは刺々しい黄色い長髪を揺らしながら漕ぐ。

 

「二週目こそが私の本当の人生、あなたの本当の人生・・・・幸せな私たち・・・・・・・全ては・・・・その為だった」

 

そこまで告げたウルティアの言葉に、メルディはガタッ! と勢い良く立ち上がった。今のウルティアの口から紡がれた言葉にはメルディを十分に呵責(かしゃく)させる理由があり、ウルティアを責める理由も与えたものであった。

ザンクロウは静かにこの状況を黙然としながら漕ぐ。

 

「分かってる・・・それは全部、私の“つもり”。他の人から見たら私は鬼・・・・罪を重ね幸せな人生を妄想するバカ女」

 

 

 

ギリッ!! とザンクロウの耳に伝わるほどにメルディの歯軋りが聞こえた。

 

 

 

「許して・・・・・・・・なんて言えないけど・・・・“ごめんなさい”・・・と言わせて・・」

 

ザンクロウは受け入れるつもりだ。

メルディがウルティアと共にザンクロウをも復讐しようとしても、彼は快く受け入れる心境だった。

『気持ち悪いほど酷く穏やか』な心を持ったザンクロウにとって最早抵抗する意思や意味など無かった。

 

 

だが、ゾワリッ!! とザンクロウはまた(・・)も頭痛と気持ち悪さに襲われた。それは何故か、ザンクロウが思案しようとした時だった。

 

「・・・そうよね、殺したいほど憎いわよね」

 

 

その言葉(・・)が、

 

 

「でもね」

 

 

その行為(・・)が、

 

 

 

「これ、以上・・・あなたの綺麗な手を汚す必要はない。私は・・・もう消えるから・・・・」

 

 

 

炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)を襲ったのだ。

 

 

 

バシャンッ! とウルティアは必要となる(・ ・ ・ ・ ・)であろう(・ ・ ・ ・)短刀を忍ばせてあり、メルディにこれ以上罪を重ねないよう、『自決』したのだ。

 

「ウルティア!!!」

 

「────ッ!!?」

 

深く、容赦無い深き刺突(つ)きで臓を貫いたまま、ウルティアは告げた。

 

「あなたは幸せを見つけるの・・・きっと幸せになれる・・・」

 

そしてメルディが大好きだった言葉を、ウルティアから送られた。

 

「大好きよ、メルディ・・・・・・・・」

 

 

バシャン、と。

 

大いなる大海原はその『死』を疑問に思わせないほどに美しく、そして綺麗に『死(それ)』を受け入れた。

自然からすれば、その『死』は余りにも小さく、ちっぽけで、疑念に捻(ひね)らせない程のことだったのかもしれない。だが、安易にそれを・・・『死』を受け入れようとする自然に逆らい抗うことが“人間(ヒト)”と示すことだと、ザンクロウは一瞬にして頭に過ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ウルティアーー!!!!」

 

『死(それ)』を認めないと言わんばかりに、メルディは海目掛けて飛び込んだ。

 

メルディの目には優しくも厳しく、でもやはり心配そうに微笑みながら頭を撫でてくれたウルティアの記憶が甦る。

 

“感覚連結(かんかくリンク)”

 

相手の感覚を共有するその魔法は、ウルティアの心底までメルディは感覚を共有したのだ。

 

ウルティアの悲しみも、

 

ウルティアの悔しさも、

 

ウルティアの願い事も、

 

ウルティアの優しさも、

 

全部メルディは知った。

 

海中で死に行こうとするウルティアの手を掴んだ、あとは引き上げるだけだ。とメルディは海面に目掛けて引こうとすると、力が急に無くなった感覚に陥ったのだ。

 

(くっ!)

 

まだ伝えてない! メルディはあの優しい母のようなウルティアにまだ言いたいことが山のようにあるのに、もっと一緒に居たいと願うのに、自然は『死(それ)』を受け入れようとしているのだ。

 

メルディは必死に足掻く、抗う、逆らう。

 

だが自然(かべ)が立ち塞がる。

 

メルディとウルティアは海流の早い波に呑まれようとした時だった。

 

海面から赤く照らされた、と思った瞬間にメルディはウルティアと共に身体が上へ上へと移動していたことを理解した。

 

ぷはぁっ!! と酸素を力一杯に溜め込む。

彼女たちを逞(たくま)しい膂力(りょりょく)で引き上げていた腕主は、ザンクロウだった。

 

口は閉ざし、目でメルディを促した。

 

『早く伝えてやれ』と。

 

メルディは逞しい腕をギュッ、と強く掴みながら、瞳孔から溢れ出てくる雫を溜めて叫んだ。

 

「許すから・・・・!!! 許す・・・から!!! もう二度とあんな事言わないから! お願いだから一人にしないで!!! 大好きなの!! 一緒に生きてよッ!!」

 

うああああああ!! と溜め込んでいた涙を流すメルディに、ウルティアも涙を流す。

 

ウルティアにも伝わっていたのだ。

 

ウルティアを、母と想ってくれている娘の優しさと愛しさに溢れているメルディを力強く抱き締めていた。

 

互いに抱き合う母娘(おやこ)の姿にザンクロウは崩すこと無い無表情の顔のまま、涙を流していた。

 

 

知りもしない感情だ。

 

 

だが、そこには『愛しさ』が溢れでていた。

 

そして崩れていく、ザンクロウの表情は簡単に崩壊していく。

 

残虐で残酷な残忍さと、戦いを望みに臨んだ挑みさと、荒んだ心が崩壊し、ただ思った。

 

 

“愛しい”と、そう思い。神を滅(ころ)す魔導士は涙を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

炎神と共にその落涙を包み込んだのは、炎神を優しく包み抱いてくれた二人の女神だった。




なんかザンクロウ変でしたか?

難しいですね(´Д`)



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第3話「妖精を喰う妖怪」

アースランド。

 

X791年。

 

 

 

もうその時代に(おい)て、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』という魔導士ギルドが弱小の道に辿っているのが、誰の目にもそう見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

【X784年12月16日】

 

【天狼島、アクノロギアにより“消滅”】

 

 

 

アースランドに残された【黙示録】に記されてあった『黒き龍・アクノロギア』。

 

その黒き龍の咆哮はどこまでも地を揺るがし、生ける者総てを臆らせ。

その黒き龍の黒鱗を目を向けた刹那にその身を寒慄(かんりつ)させる。

 

その“絶対的”な破壊により、人間が目にする日など古来の時代にしか無かった。

 

だから記したのだ。

 

その破壊(つよさ)を記す【黙示録】を、

 

決して人間が敵う筈が無いことを記録したのだ。

 

黙示録筆者曰く、黒き龍・アクノロギアを一目見たその時は、【死】を覚悟せよ。

 

黙示録筆者曰く、死して、その絶望から逃れよ。

 

 

天狼島を消滅させた黒き龍・アクノロギアは再び姿を消した。

 

その後、半年にわたり近海の調査を行なったが、

 

生存者は確認できず、

 

 

 

 

 

そして“7年”の月日が流れたのだ。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「ひゃっはっはっは! 見ろよこの大金! ついさっき軽く護衛の依頼を受けてきたらこんなに貰っちまったよ!」

 

「良いねぇ良いねぇ! 今夜は豪華にいくか!?」

 

「バーカ、先週も今週も毎日豪華フルコースに酒盛りパーティーやってんだろうがよォ!!」

 

ギャハハハハ! と外まで聞こえてくる喧騒。その騒ぎ立てる建物はフィオーレ王国東方にある街「マグノリア」を代表とする魔導士ギルド『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のアジトからだった。

 

豪華施設に作られているアジトの中で一人、中々特徴的な顔をしている男が豪奢に作られたソファーに両手両膝に添えて座っていた。顎がとてもカクカクとしており、人間の皮膚的にまったく考えられないのだが四角っぽく出来上がっている顎と、サングラスが似合い過ぎる壮年は目の前で堂々と綺麗な女性に膝枕をしてもらいながら横になっている『仮面を付けた少年』に頭を下げていた(・・・・・・・)

 

「へへへ、どうですか? オレが切り盛りした今の『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』は? 完全に景気が良いでしょうョ?」

 

少年と対峙して座る身体が大きい男性は自信に満ち溢れた顔でそう言う。すると仮面を付けた少年は相変わらず横になりなが『コクリ』と頷いた。

 

余りにも失礼不相応過ぎる態度の仮面を付けた少年に、微塵に不満を覚えていないようにその男性は話を続ける。

 

「フィオーレ王国から受ける依頼も年々多く寄せられ、信頼も信用も着々と築いていってる。況してや他の都市や市街に於(おい)て我が『黄昏の鬼』のギルド名を知らない奴は居ないと週刊ソーサラーにまで載った! 魔法が(うて)ぇあの漁業が盛んなハルジオンにさえ『黄昏の鬼』の話が上がる!」

 

男性は段々と弁に熱が入ってきたのか腰を上へ上へと上げていき、身を乗り出すように少年に語る。

 

「もうこりゃギルドマスターたるこのオレ様、バナボスタの敏腕があってこその『黄昏の鬼』だ! 誰にも“知らない”“聞かない”“存じない”なんて言えねェ時代になったんだ!」

 

「マスター・バナボスタ、熱が入り過ぎじゃありませんこと?」

 

「おいおい、堅ぇこと言うなよ」

 

立ち上がれば相手を見下ろしてしまいそうな程に長身で、とても体が大きい男性はマスター・バナボスタと呼ばれた声主に顔を向き、答える。

 

声主は仮面を付けた少年の膝枕をしてあげているとても綺麗な女性であった。黒い髪がとても(つや)やかで、その(あで)やかな黒髪から漂わせる甘い香りに一瞬だけバナボスタは意識が持っていかれてしまった。

 

その後はその女性と他愛の無い話を続けていたバナボスタだったが、脇から手下である『黄昏の鬼』の一員・金棒使いのティーボが耳打ちする。

 

「何ィ? まだ借金の返済がまだ、だァ?」

 

「へ、へい。 これから行こうと思ってたんですが・・・・」

 

ドカンッ! バナボスタは思いきり机を殴り付けた。

 

「遅ぇぞ、ティーボ! ちゃっちゃっと終わらせて来いやァ!!」

 

バナボスタが怒鳴り付けると、ティーボは『は、はいぃぃ!』と縮み込むようにしながら数名のギルドメンバーを引き連れてアジトから出て行った。

 

まったく、といった感じに懐から一本の葉巻(シガー)を取り出して点火部に火を着ける。

 

「新しい葉巻ですの?」

 

「アグノリアの薬師屋から調達してもらったもんでなァ、こいつァ前みてぇに臭くねぇから大丈夫だぜ?」

 

アースランドにも多数の葉巻が存在している中、フィオーレ王国にも国産物のシガーブランドが多々あるのだが、バナボスタが好んで吸っていた葉巻は吸い口や味も良かったのだが、匂いがどうやら不評であったらしく『黄昏の鬼』のギルドメンバー、主に女性陣に文句を叩きつけられていたバナボスタはしょうがなく別のシガーブランドの葉巻にしたのだ。

前の葉巻と同じ形態と構造で巻いてあるのだが、葉を変えたことで匂いが別段に良くなっていた。

 

だが葉巻と臭い煙を嫌うこの黒髪の女性は葉巻の話を折り、膝に頭を乗せている仮面の少年の頭を撫でながらバナボスタに先程部下に言った言葉を聞く。

 

借金(・・)とは?」

 

「ああ? あぁ、弱小ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の借金返済だよォ。」

 

『妖精の尻尾』の単語に反応する仮面の少年。

 

「きっちりと借りた分のお金は返してもらんとこっちもギルドのメンツにかかわることだからなァ」

 

プハァ~、と白煙を口から吐き出し、指で葉巻(シガー)を挟みながらバナボスタはニヤリと極上の笑顔を浮かばせ、

 

「これからの『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の為にも、なァ」

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャァン!! と高い金属が割れる音が響く。

 

「昼間っからしんみりしてっからオレらが騒ぎ立ててやってんだからよォ? きっちりと貸した金を返してもらいてぇんだがなぁ? えぇ~? マスター、マカオ・コンボルトよぉ?」

 

ガキンッ! とまた何かを割れる音がアジト内に虚しく響いた。

 

「これだから弱小ギルド(・・・・・)はやだよなー」

 

そう堂々と声を高らかに喋っているのは、先程『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のマスターに耳打ちをしていた背に黒い金棒を背負っているティーボだった。

 

「かつてはフィオーレ最強だったかどうか知らねーけど、もうオマエらの時代は終わってんだよ」

 

ティーボは正面に対するように構えている妖精の尻尾のギルドメンバーたちを見下しながら続ける。

 

「建ってるのがやっとのこのボロ酒場と、新しい時代の魔導士ギルド『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』じゃどちらがよりマグノリアの発展と向上に役立ってるか一目瞭然の事実だろ?」

 

鬼を示すかのような角飾りを揺らしてティーボは悔しく歯軋りをしている『妖精の尻尾』メンバーを眺める。

 

妖精の尻尾メンバーの一員であるマックス・アローゼが呟く。

 

「でけえだけのギルドが偉そうに」

 

「そうだ!! オレたちには魂があるんだよ」

 

マックスに続くように緑を主体とした服装を着込んでいる男、ウォーレン・ラッコーが少し冷や汗を滴(たらし)ながら吐き付けるが、ティーボはそれでも見下す姿勢を変えずに言う。

 

「魂じゃメシ食えねえんだョ」

 

「何しに来たんだティーボ」

 

妖精の尻尾の四代目マスターであるマカオが皆の代表としてティーボに聞く。するとティーボは笑みを浮かばせてマカオに言い放つ。

 

「今月分の金だよ」

 

それを聞いた瞬間に四代目マスターの補佐として席を置いてあるワカバ・ミネが反応する。

 

「まだ払ってなかったのかマカオ!」

 

「マスターって呼べっつってんだろ!!」

 

互いに怒鳴り合う二人の中年親父共を相変わらず見下したままティーボの横立っていた大きい男が口を開く。

 

「借金の返済が遅れてるぜアンタら」

 

「今月はいい仕事が回ってこなかったんだよ!!」

 

「来月まとめて払うから待ってやがれってんだ!」

 

言ったきた『黄昏の鬼』の一員にワカバが吠え、マカオがまるで借りた側の反応とは思えない対応で伝える。

 

「おやおや? 潰れる寸前だったこのボロ酒場を救ってやったのは誰だっけかな?」

 

黄昏の鬼(オレたち)がてめえらの借金肩代わりしてやったんだろーが!!」

 

妖精の尻尾側に不利な条件を突き出して言ってくる『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の男たちに妖精の尻尾メンバーのジェットが反抗する。

 

「あんなバカげた利子だって知ってたらオマエらなんかに頼らなかったのに・・・・」

 

睨むように言ってくるジェットに勿論良い気などせず、『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の肥満体質とリーゼントが特徴的な男がジェットに食いかかる。

 

「何か言ったかコノヤロウ!!」

 

やはり自分よりバカでアホで弱い奴にデカイ態度を取られるのに我慢が出来なくなりそうになったジェットが身を乗りだそうとしたが、若い奴らより少し冷静ににっていた四代目マスターのマカオは『よせ、ジェット』と止めに入り、ジェットも今の状況を改めて認識し、歯を思いきり軋めさせる。

 

「来月まで待ってくれや、ちゃんと払うからよォ」

 

マカオが代表として結論をティーボに伝えれば、ティーボはマスター・バナボスタ直伝の手段に行動を移す。

 

“暴行”だ。

 

7年間やってきた行動だった為に向こうも構えているが、あちらはこっちに手出し出来ないから、やり放題だった。

手も足も出してこない元最強ギルド『妖精の尻尾(フェリーテイル)』のギルドを蹂躙出来るのが癖になり始めてきた『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の若い奴らは、ニヤケ面を包み隠さず表しながら暴行に移ろうとするティーボの蹴りがマカオに襲うとした時だった。

 

「待てッ!!」

 

バンッ!! と『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』のアジトの扉が何者かに勢い良く開けられ、そこには一人の青年が居た。

反応は各々違うようだったが、『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の連中は全員不愉快の顔に変わっていた。

 

 

「・・・・てめえ、オニマル! 何しに来やがった!」

 

何しに来やがった(・・・・・・・・)、だと?」

 

オニマルと呼ばれた青年は黒い髪を逆立てるように刺々しくなった頭髪に、青年の文字がとても似合う凛々しく勇ましそうな顔立ちの好青年だった。

オニマルは暴行に移そうとしていたティーボ達を一瞥して『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』のメンバーに顔を向ける。

 

これから向けられそうになった無骨な暴力の矛先を、彼らは耐えようとしていた姿勢に感動すら覚えそうになったオニマルは目縁に涙が溜まりそうになりながらも、“懐かしい顔”たちに頭を下げる。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の皆さん、事情はアジトで聞きました。これまで『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』に行なってきた暴挙等様々な面で黄昏の鬼(トワイライトオウガ)は欺瞞(ぎまん)的にアナタ方を陥れていました・・・・許される行為では無いでしょう・・・ですが謝罪させて下さい、申し訳ありませんでした!!」

 

突然現れた青年にマカオや他のメンバー達も面食らっている中、沸々と歪んでいく顔たちがあった。

 

それは同じ仲間である黄昏の鬼(トワイライトオウガ)からだった。

 

「・・・・・・・・何してんだ、オニマル。あァ? 何してんだゴラァオニマル!」

 

「何勝手やっちゃってくれてんだこのガキッ!」

 

頭を下げていたオニマルの頭に容赦無く近くにあった酒瓶で殴り付けた。

 

ガシャアアァァァアアン!! と頭蓋に容赦にぶつけられた酒瓶は勢い良く割れ、オニマルは殴り付けられたまま床に頭をぶつける。

 

「きゃああああああっ!?」

 

「は、はぁ!? なな、何してんだアイツら!!」

 

「ひ、酷いである!!」

 

唖然としていた|妖精の尻尾(フェリーテイル)の面々たちは突然仲間であるオニマルに容赦無く暴力、というより殺すような勢いで襲っていた。

 

 

その光景に眼鏡を掛けたポニーテールの女性、ラキ・オリエッタが悲鳴を上げ、民族衣装のような服装を着ているナブ・ラサロは驚愕し、|踊り子(ダンサー)であるビジター・エコーもナブと同様に驚いていた。

 

何故、仲間であるオニマルを襲っているのか分からないのだ。

 

「オイてめえオニマル! てめえ本当に何してやがんだ? マスターの許可無く露呈しようとしてんじゃねぇぞゴラァ!!」

 

ティーボは背に背負ってあった金棒を持ち上げ、その黒く鈍色に染まる鉄塊を、またも容赦の欠片も無く降り下ろした。

 

ガシャアアァァァアアン!!! とオニマルの頭を狙い落とした。一切の加減の無い一撃だった。

 

「オイッ!!! お前ら人のギルドで何してんだッ!!?」

 

そこでマカオが止めに入り、ワカバやジェット、ドロイ、ウォーレンも間に入った。

 

マカオとワカバ、ジェットとが|黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の連中を突け放して、ドロイとウォーレンがオニマルの様子を見る。すると、案の定オニマルは頭から大量に流血していた。

 

「こりゃひでぇ・・・・」

 

「意識あるか!?」

 

ドロイがオニマルを立たせようとすると、

 

「チッ! 興醒めだ、オイッ! コイツ連れて来い!」

 

ティーボが他のメンバーにそう言うと、数人が頷き、ドロイからオニマルを奪うように連れて行く。

 

「忘れんなよ妖精の尻尾さんよォ? 来月だ」

 

そう言ってティーボはオニマルを荒々しく引き摺りながら出ていった。

 

 

そして数分の沈黙。

 

一番に口を開いたのはマカオだ。

 

「あの・・・・オニマルっつう男、何か言ってたよな?」

 

ワカバに訪ねるように聞いたマカオは、葉巻を吸って白煙を吹かすワカバは分かりきったように言う。

 

「欺瞞ねぇ、それも分かりきってたことだが、それを理解してもオウガは聞き入れやしねえさ。泥沼に嵌まったままってーのは変わりはしねえ」

 

「でも、あんな人、オウガにも居たんだね。真正面から謝ってくるなんてさ・・・・」

 

大丈夫なのかしら・・・、とラキは心配そうに先程流血していたオニマルを思い出す。

 

『黄昏の鬼』という妖怪は弱った妖精の尾を掴み、(かじ)り、(むさぼ)り、舐め回す。

 

 

そんな鬼に、妖精たちに報復される日が来ようとは・・・微塵も思ってもいないだろう。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

そして場所が変わり、マグノリアの代表とする魔導士ギルド『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のアジトにはまた、マスターであるバナボスタと、相変わらず横になったままである仮面を付けた少年が相対するように座っていた。

 

「そ、それじゃ! 本当にこのギルド・・・! 『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の正規(・・)マスターは! オレで良いって事ですかィ!?」

 

コクリ、と頷く仮面の少年。その動作を見た瞬間にバナボスタは驚喜に満ち溢れてきた。

 

バナボスタの心境は喜びにより絶頂していた。

あのマグノリア1のギルド『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』が“自分の物”となると、

 

(やった! やったァ! やったやったやったやった・・・やったぞこの野郎!! これでまたオレは金儲けを“隠さず”やれるってもんだ!)

 

このバナボスタという大男は、見かけによらず、とても交渉やら運営面、更に裏では目をつけた店やギルドには弱みを握り恐喝し、脅迫し、利用するというやり取りまで完全に網羅している大男なのだ。先代のマスターには無い才能だったのだ、だからマスターにまで抜擢され、マスター代理としてやってきたバナボスタ。ここにきて正式にマスターとなれた。

 

(この御人から譲り受けたんだ! きっとオレにも! オレにも“鬼才”があるってことかッ!?)

 

笑顔が消えなくて逆に困っているバナボスタは心を落ち着かせるように懐から葉巻(シガー)と取り出そうとするが、目の前に居られる(・・・・)御人の前で吸う訳にはいかず、懐に戻した。

 

そして自分が座っている近くに、数人の気配があることに気付いた。

 

正面で横になっている仮面の少年の後ろ、そこには六人の人影があった。

 

バナボスタは知っていた。

 

この“六人”が、この“六人”が居たからこそ『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』はマグノリア1のギルドになれたことに……この“六人”が居たから『妖精の尻尾(フェリーテイル)』を足蹴に出来たことを記憶に鮮明に刻まれているから。

 

「あ、あなた方もオレにお祝いに・・・?」

 

例え違っても良いから何か口にしたかった。

でないと“息が止まる”。

 

六人にから漂う異様な空気がバナボスタや、『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のアジトを包み込んでいたからだ。

 

圧倒的な威圧感。

 

絶対的な存在感。

 

必然的な運命感。

 

何を取っても、この仮面を付けた少年の背後にいる六人から感じ取られていた。

 

六人は無反応、かわりに仮面の少年がコクリと再び頷き、それだけでバナボスタは息をまた吐いて吸えた。

 

そして、聞く。バナボスタは正面の“声”を。

 

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

「────ッ!?──」

 

バナボスタは確かに聞こえた。だが直接聴覚を使って聴こえた訳では無く、脳内に反響するように聴こえたのだ。

 

その“声”はとても幼く聞こえ、

 

その“声”はとても若く聞こえ、

 

その“声”はとても嗄れて聞こえ、

 

その“声”はとても老いて聞こえ、

 

その“声”はとても異常に聞こえた。

 

(つんざ)くように脳を刺激されたその“声”に、バナボスタは自然と従うように呟いた。

 

絶対的に逆らわないように、(こうべ)を垂れた。

 

 

 

 

「──────仰せのままに・・・“マスター”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黄昏時の大鬼よ

 

妖精を喰う妖怪よ

 

異浄で異常な化物よ

 

闇夜が覆う夕暮れの

 

盛りに過ぎし終焉に

 

近う寄ろう黄昏月

 

鬼よ、呟け、邪に

 

見分けを惑わし終極(おわり)(しまう)

 

()(かれ)は」と

 

鬼が空言(ソレ)を、

 

呟いた。




オリキャラ登場Σ(-∀-;)

オリキャラが苦手な方はすみません(汗)
ですが、残念ながらどんどんと絡ませていきますよ、妖精の尻尾と(´Д`)


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第4話「妖精と戦鬼の邂逅」

本当は去年の内に投稿しようと思ったのですが、時間が無く投稿出来ませんでした(泣)

誤字脱字があるかもしれませんが、生暖かい眼差しで読んでいってください


フィオーレ王国東方に存在する街「マグノリア」。

 

 

その場所には『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のギルドがあった。

 

豪華に作られた『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のアジトから六人の影が延びて行く。

 

「イーヒッヒッ! さっきの顔見たか? バナボスタの野郎めちゃめちゃ喜んでたなァ!」

 

「おいおい、そう言ってやるなよ・・・“これから起きる事”を考えるとお気の毒ってヤツだろ? ウチのリーダーや頭領(マスター)が考える事は末恐ろしいぜ・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・リーダー黙っちゃった」

 

「ふふふ、色男が寡黙を装うのはとても魅力的でありんす、そんな貴方(ぬし)の魅力を見つけた(わっち)はもっと良い女でありんしょう?」

 

「しっー! しっーでござる! 寝てるでござるよ!」

 

 六人が一人ひとりに『個』を持っているだけあり、その『個』はとても大きかった。あり得ない程の存在感で周囲にいる者を飲み込む勢いで勇んで歩む。

 

「ヒッヒッヒ! 寝てるねぇ? 本当に寝てんのかねぇこの子供“ジジィ”は!?」

 

 そう言って寄るのは、赤々と炎のように燃えるような真紅色の髪が特徴的な青年だった。能面と思わせる被り物を付けている為、口元しか素顔を見せていない。被り物には鬼の象徴とも言える『角』があった。

 

「寝てんだろ、つか俺も眠い、早く眠させろ」

 

 そう言ったのは、こっちも素顔を隠すように幾重にも巻かれた白い布で覆面をしている少女であった。

 喋り方はとても粗暴だが、びっくりする程に男とは程遠い綺麗な『声色』だった。清らかで透き通った水のように流麗。

 その覆面の少女は出し惜しみ無い『女』のラインを突き出していた。首から上は白布で覆い、白布の隙間から抜き出ている黒く長い髪。首から下は着物と思わせる東洋の衣服であるのだが、ミニスカートのように丈が短い着物に男達は思わず唾を飲み込んでしまう。

それほどまでにとてもスタイルが良い覆面の女性は荒い口調のまま歩を進め、真紅の髪をした青年も口元しか見えない能面で口角を吊り上げて笑みを浮かばせていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 先程から黙然としている30代と思わせる黒髪の男性は、目を開けていないと言うのにまるで見えているかのようにスタスタと躊躇無く進んでいた。こちらは皆に『リーダー』と呼ばれている男性は、仮面も能面も覆面もしておらず、堂々その面を晒していた。

 

と ても整った顔立ちで、『美形』と言えば百人が頷くであろうその顔に、男性は男らしさを表すように力強い覇気が顔に張り付いていた。

目も閉じているのに、力強い眼差しで睨まれているかのような感覚が伝わる。

 

「・・・リーダーも気になる? オニマルのこと」

 

そしてそのリーダーと呼ばれる男性の後ろから歩いて来るのは、平均男性と変わらなそうな長身の女性であった。紫色に長い髪を一本に纏め、ポニーテールにしているその女性も恐ろしい程に『美女』であった。

だが、その女性には何処か“欠けている危うさ”を感じ、その謎めいた所も魅力的に感じ取ってしまう程に綺麗だった。

 

「オニマル、あの童子も中々善い男じゃ。俗に云わすあな強い男子(だんじ)()い、あな男男(おお)しさが善い、あな頼りが善い等・・・、そんなことを吐きよる女が居るが、(わっち)としては、傍らにただ居っているだけで幸せでありんす。(わっち)はな? あの童子は強い・・・だから大丈夫じゃ」

 

 そしてもう一人の女性は、艶やかでありながら、決して下品なわけでも華美装飾が過ぎるわけでもない。雨に濡れた未亡人のような妖しい色気を纏いながら、なのに母性的な側面を強く感じるとはどういうことだろう。

だとしても、とても美しい女性だった。

 

 服装は遊女や花魁(おいらん)と思わせる緋色と黒色が交じり合い、綺麗な花柄が特徴な着物を着崩してあり、首から肩は無恥を隠さないように玉のような白い肌を晒していた。その艶かしさには見事に婀娜(あだ)さを包みを破り、威風堂々と放っていた。

 

「あの~・・・(それがし)の話を聞いてござったか?」

 

 そして、そんな個性溢れる数人の中、仮面を付けた少年を背負っている忍者装束に身に纏っている男性が口を開く。だが、口を開くとなっているが鼻と口元には覆うように黒い布が巻かれ、口が見えず、その鼻から上も丸みの掛かった兜で見えなくなっており何もかも“隠れて”いたのだ。

だが何より『某~』『~ござる』の口調に他の数名が反応する。

 

「ヒッヒッヒ! 相っっ変わらず面白(おもしれ)ぇ~よな、口調(それ)!」

 

「キャラ作りご苦労なこって・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・あ、リーダー今溜め息吐いた」

 

「ふっふっふっ、確かに面白い(やっこ)なのは本当じゃのう」

 

「くぬぅ! (こ奴らッ!)」

 

 恰好だけでも十分過ぎる派手さを醸し出しているこの六人に、忍者装束の男性の背中に背負われている“少年”が目を覚める。

 

『──────────・・・・・』

 

「あ、起きたでござるか?」

 

“少年”はマグノリアの街中から空を見上げた。

つられて他のメンバーも空を見上げる。

 

 紅髪(こうはつ)の能面男が白布の覆面少女に『何かあんのか?』と質問され、『知るか』と答えれば寡黙な青年が憮然としてまた軽い溜め息を吐き、紫色の美女がそれを窺い、色気惑わす花魁女性は優しい眼差しで皆を見、忍者装束の男性も背中に乗る体重をしっかりと受け止めながら歩を進めた。

 

六人は『個』が強く、『個』で勝つ為に生きてきた者たち。

 

『個』で勝つ以外生ける(すべ)を知らなく、強く硬く、そして強烈な『個』が破られば、それは案外脆く崩れ落ちる。

 

故に『群』を作る。故に『群』は最強。故に『群』は一蓮托生。

 

 

 

 

故に彼らは──────────、

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

X791年。

 

 

その年に、あの最強の雷名を轟かした『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の主要メンバーが戻った事がマグノリアだけでは無く、フィオーレ王国内までに広がっていた。

 

そう、帰ってきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

マグノリアの端に建てられた小さな『|妖精の尻尾《フェアリーテイル)』のギルドでは、大いに喜びと活気に満ち溢れていた。

 

「「「帰ってきたーー!! 帰ってきたんだぁぁーー!!」」」

 

飲んで歌って踊って騒ぎ、空白に空いたその間(はざま)を埋めるように喧騒が止まなかった。

 

「おまえも火の魔法使うのかロメオ!!」

 

「またギルドの温度上がっちゃうねー」

 

騒ぐ妖精の尻尾の連中の中、そこには元気な姿なナツとハッピーの姿もあった。

 

「冷たい炎も出せるぜ」

 

「おおっ、青い炎!」

 

そして、そんなナツに嬉しそうに喋り、自分の魔法を説明する少年魔導士、ロメオ・コンボルトが色々な炎を出したりする。手頃に掌(てのひら)サイズの炎を発火させれば、皆驚くのに心底嬉しそうに笑うロメオ。

 

最近まで、いや、7年前から『笑う』ことをしなくなっていた少年は、その7年間を埋めるように笑っていた。

 

ロメオの父親であるマカオも嬉しそうに息子を眺めて酒を気持ち良く飲んでいると、横に小さな老傑が居るのに気付き、先に口を開かれた。

 

「しかし、おまえが四代目妖精の尻尾(フェリーテイル)マスターとはな」

 

先代の妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターにして三代目マスターでもあるマカロフが意外そうに微笑み掛ければ、マカオはたじたじになって答える。

 

「なーに言ってんだよ、こんなの代行みてーなモンだよ! 今すぐこの座返すよ」

 

「いや・・面白いからしばらくマスター続けてくれい」

 

「マジか!!?」

 

そこでマカオは初代マスターであるメイビスから二代目マスターであるプレヒトとマカロフに繋ぐ自分に少し嬉しそうに頬を紅潮して喜ぶ。

 

先代(・・)がそう言うならもうしばらく、エヘヘ・・・・・」

 

そしてその脇で、

 

「このなんともいえねーガッカリ感がウケんだけど」

 

「じゃろ?」

 

くぷぷ、と笑うマカロフとワカバに気付かずマカオは自分の服を着直したり、無精髭を摩ったりしているのにまたも笑い合うマカロフとワカバ。

 

 

 

他にも沢山と新しいことを聞いては驚き、喜び、また歌う。

 

久しぶりに帰ってきた妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーに会う為にわざわざやって来たギルド『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』のメンバーが加われば、また騒ぎが跳ね上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、皆が帰還した中、やはりきっちりと“借りたもの”を“返しに”行くのが決まりと言わんばかりに、妖精は尻尾を振り、今まで喰い尽くしていた黄昏の鬼に会いに、翌日三人が向かった。

 

 

 

そこで奇縁があるとも知らずに、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガシャァアン!! と割れる音がマグノリアのある建物なから響いた。

 

「オイオイ、だからさぁじーさん・・・今さら話すことなんかねェんだョ? 貸した金きっちり返してくれればウチらはそれでいい訳ョ」

 

その音源となった建物は、今の時代に於けるマグノリアNo.1の魔導士ギルド『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のアジトだった。

 

そこにやって来ていたのは、先代のマスターであるマカロフに、S級魔導士の階級を持つ二人の紅白と対と成す髪をした美しい女性、ミラジェーンとエルザが傍らに居た。

 

三人はアジト内に群がっていたギルドメンバー全員が取り囲むようにして迎え、今は『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のマスター(・・・・)であるバナボスタと話をしていた。

 

下卑な微笑みを浮かばせて、美しい女性二人を舐め回すように見ているギルドメンバーを尻目にミラジェーンは微笑みを絶やさず、エルザはムッとするように顰(しか)め面のままでいる。

 

「そう言われてものう・・・・知っての通りビックリするくらい金が無くてのう」

 

「それに帳簿を見るかぎりだとお金の出入りがあきらかに変ですよ?」

 

「あぁ? イチャモンつけようって言うのかよ!」

 

マカロフがバナボスタに言われた問いに答え、ミラも金融関係に問題が在りと話を持ち上げてみれば物の見事に反応を示した。

 

「とんでもない、借りた金とその正当な利子分は払いますよ・・・・・・・・いつか」

 

「こっちは今すぐ払えっつってんだョ、ジジィ!!!」

 

「いやいや、だからね。まずは金利の計算からやり直してですな」

 

ガタッ! とバナボスタは巨大な体躯を使い、立ち上がれば相手に威圧感を与える真似をする。

 

───なぁに、いつもやってることだァ、このジジィや小娘共もビビって言うこと聞きやがる。

 

バナボスタは脳内で余裕に構え、いざ目下に座る小人サイズの老人に大声を張り上げて問い詰める。

 

「こっちは若(やけ)えモンが5人もケガさせられてんだぞゴラァ!!! 債務者にどつかれて貸した金も返ってきませんってんじゃ、こっちとしてはギルドのメンツに関わるんだョ!!!」

 

「おや? 今日は“お金”の話という事で伺ってきたのじゃが・・・・・“そっち”の話もしますかな?」

 

その返しにバナボスタは完全に頭に血が登った。

つい先日やっとこの『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の正規マスターになったというのに、今目の前の年寄りは自分を舐めていると、舐めているからこんな馬鹿みたいな言葉(こと)を吐いたんだと、バナボスタは脳内を占めた。

 

 

 

あぁ、決めたぞ。

 

 

 

この爺(ジジィ)を“潰す”と、

 

 

 

バナボスタは目の色を変え、ジジィは潰すとして、後ろにいる女はかなりの上物だと、既に『人買い』の交渉材料として脳内で築き、あぁ早く潰して女を金に換えたい、という欲求に潰された。

 

大きな鬼は呟いた、それを待っていたと言わんばかりに小人は目を見開きながら、

 

「“そっち”も“こっち”もないんじゃワレェ!!!」

 

“大”鬼は実は“小”鬼で、

 

「『貸したものは返せ』・・・それがおたくのギルドの信条・・・・という事でよいですかな?」

 

“小”人は小さく人で無く。

 

「7年間・・・・私たちのギルドへの器物損壊及びメンバーへの暴行・・・・・・・・」

 

 

「その分全てを私たちもアナタ達に返さねばならなくなりますよ」

 

「7年間・・・・ガキどもが受けた苦しみ・・・・・涙が出るわい・・・」

 

“巨”大な人となり、小鬼の額に頭突きしそうな程に寄り、呟いた。

 

「おい、小僧」

 

 

 

 

 

戦争って事でいいんだな

 

 

 

 

あふぇ・・・? といった感じに鼻水を垂れ流しながら、バナボスタは目前に巨大化した老人に焦りに迫られる。

 

(こ、この感じ・・・)

 

バナボスタは記憶の片隅に残っていた幼少の頃を思い出した。

 

マグノリアで度々目撃されていた巨人と、その『巨人(ジャイアント)』の魔法を扱う唯一の魔導士と、自分がとても憧れていた『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』先代(・・)マスターの“この感じ”を・・・、

 

 

巨大化しようとしているこの老人だけで今の(・・)黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』が壊滅するのは目に見えているというのに、何やら老人の背後に立っていた二人の麗しき女性も、驚く程に様変わりしたお姿になってバナボスタ以外のギルドメンバーと相対しているの見たのを最後に、

 

黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』“現”マスター・バナボスタは初めて老人に顎から拳の鉄槌を受け、宙(そら)に舞ったのを生涯忘れないと、ヴゥンヴゥンと空中で螺旋回転しながら、そう心に刻んだ。

 

 

 

 

 

 

「ボロボロにやっちまったなぁ~、話し合いで解決するんじゃなかったのかよ?」

 

「やっぱかなわねーな」

 

「あの小僧共が悪いんじゃ、」

 

マカオとワカバはボロボロになった『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のアジトに入れば、そこには『巨人(ジャイアント)』の魔法を解いたマカロフと同じく普通の服装に戻っていたエルザとミラが居た。

 

「七年間じゃ、七年間ウチの小僧共を可愛がってくれたらしいからのう、お礼をしたまでじゃ」

 

「そりゃ、壮大なお礼だな」

 

冷や汗を流しながらも、やはり昔ながらのやり方で返した我がギルドに微笑むマカオだったが、すぐに表情が一転した。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これは、また」

 

 

 

 

 

 

ガチャッ! と音を立てて現れたのは、巻くように付けられた包帯に黒い髪を逆立てた一人の青年だった。

 

青年は見事に大破したアジトの一室に眠っていたのか、寝惚けたように周囲を眺めながら状況を知ろうとしていれば、その青年はある人物によって目が奪われた。

 

一人の、女性に。

 

「なぁッッ・・・・!!!」

 

「あっ」

 

その青年はぐらつかせながら歩ってその女性の前に両膝を付かせた。

 

「ミ、ミラ・・・・」

 

「オ、オニマル・・・?」

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「どうもー! ギルド総合予算割当規格変更の為、『蒼い鳥(ブルーバード)』から回覧板でござる」

 

「あらあら、こんな町外れまでご苦労さまです」

 

「いやいや、最近なんて『大魔闘演武』の準備などでフィオーレ中が大忙しでござろう、某(それがし)が出来るとすれば運送ギルドの手伝いや届け手になる以外無いでござるからな。重量操作魔法を得意とする魔導士は土嚢を闘技場まで運ぶらしいでござるが、闘技場までの距離が馬鹿みたいに長いとか」

 

「あら、そうなんですか? 道理で街中の運送屋さんが荷物を運んでいたんですか、大変な訳ですね」

 

マグノリアの隅の隅に建てられた『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』のアジト前に何やら忍装束に身に纏った男性と、眼鏡を掛け髪をポニーテールにした女性・ラキが回覧板を受け取っていた。

 

ラキは随分と奇抜な格好をしているこの届けてくれたこの配達忍(はいたつにん)から色々と話をして、少しでも最近の話題を聞き出そうとしていた。

 

だがこの配達忍さん、弱小ギルドであるこの『妖精の尻尾』の前で【大魔闘演武】の話を持ち出すなんて、分かっててやっているのだろうか? とラキは若干訝しく思いながら配達忍さんと話していれば、向こうもそれに気付いたのか、慌て始める。

 

「こ、これは申し訳ござらん! そちらの心境では大変不愉快な話でしたな! いいや、本当に申し訳ござらん!」

 

配達忍は本当に申し訳無さそうに頭を下げて謝ってきたことに若干驚きながら、ラキは『だ、大丈夫ですから頭をあげてください!』と急いで止めた。

 

「ほ、本当に申し訳ござらん・・・」

 

「アハハ、そこまで真面目に謝らなくても分かってますよ。事実、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』は何度も最下位でボロ負けでしたから」

 

自分から言っといて少し落胆するラキだったが、そこで配達忍は目が見えないほど深く被った丸みが掛かった兜が音を鳴らし、視線がラキに向けられたのを理解した。

 

「・・・・某も昔からマグノリアに住んでいるでござるよ、『妖精の尻尾』の威名は未だに残ってるでござる。『火竜(サラマンダー)』、『妖精女王(ティターニア)』、数多くの一騎当千の猛者が集まるギルド。それが『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』なのは街の皆も分かっているでござる」

 

「・・・・・えっ」

 

「長話が過ぎたでござるな、では某はこれで────────『妖精の尻尾』と戦える日を楽しみにしているでござるよ」

 

配達忍がそれだけを告げた瞬間、突風がラキを吹き掛けられ、瞼を開けた瞬間には忽然(こつぜん)と居無くなっていた。

 

「今、なんて・・・・」

 

戦える日を、あの配達忍が何を言っていたのか深くまで理解はしていなかったが、あの先程言った言葉は、ラキは本当に沁(し)み入るように嬉しかった(・・・・・)



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第5話「魔女の罪、クリムソルシエール」

長々の更新遅れ!!
すみません(T_T)


 

黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』からの借金の取り立てについては、やはり一割二割どころでは無く、ほとんどの正当な利子分の借金は返済されていたのだが、オウガ達によって金の出入りは完全に乗っ取られていたのだ。

 

貯まる金が貯まらない。

 

それも当然で、ある程度納金された金銭が黄昏の鬼(トワイライトオウガ)に依って奪われていたのだ。

悪知恵とはこの事で、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の主要メンバーが居なくなったことで飢えたハイエナように、弱まった弱小ギルドを嫐(なぶ)るように鬼が首根っこ掴み、甘い蜜を舐めるように少しずつ、少しずつ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の金融を狂わせていたのだ。

 

一気呵成の如く、戻ってきた先代妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスター・マカロフにより依って『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』マスター・バナボスタと楽しい“話し合い(・ ・ ・ ・)”で決着は付いた。

 

ギルドに抱えていた大きな問題はそこで解決されたが、次の問題が浮上してきた。

 

“フィオーレ1弱小ギルド”という汚名だった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

そこは青い空が広がる常夏の海、

 

「言(つ)っても、ここの地方が夏季全般だからって訳だってよ? 夏が来りゃあ冬も来る、短季だけどなァ」

 

「まぁ、そうだね」

 

 

「季節は四季あってのモンだってよォ! あっ、姉ちゃん焼きそば20人前とラーメン30人前、そんでホットドッグ40人前、それとかき氷もだって!」

 

その青空広がる海の浜辺には勿論のこと、観光やら海水浴やらで人が賑わう中、浜辺にある【海の家・アマミ】に黒いフードを被った男女二人組が、客席に作られたテーブルに互いに向かい合えるように座っていた。

 

片方は逞しい膂力を見せ付けるような引き締まった腕だけを黒いフードから出し、沢山に置かれた出来立ての料理を次から次へと口に頬張っていた。

 

そしてもう片方は、料理を鱈腹頬張っている男を呆れるようにして眺めている。とても男性とは思えない華奢な身体つきで、黒いフード越しでも女性だと判別できる体躯であった。

 

その二人が何者で、何をしている二人組なのか分からないが、お店の客引きをし、尚且つ店に迷惑を掛けないなら店員たちは嫌な顔せず営業スマイルをビシバシッ! と煌々と放ちながら仕事に勤しんでいる中、黒フードの女性が何かに反応していた。

 

「・・・・・『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の主要メンバーがここに来るって、今すぐじゃ無いけど」

 

「ふぉれごぉんふほぉがぁ!!!」

 

「ぎゃあぁー! 口に物入れたまま喋らないでよ、バカっ!」

 

「ふぉいふぉい、ほがぇふんほふぅんっぼっ!!!」

 

「話聞いてたっ!?」

 

びちゃびちゃぶちゃー!! と咀嚼していた食べ物を見事に乱射してくる黒フードの男性に、女性は何やら高度な魔法障壁を作って防いでいたが、その魔法障壁にベチャリとくっついてくる食べカスも嫌がるようで『きゃあーっ! いやぁー!』と金切り声でかなり騒いでいる。

 

こりゃ店には迷惑だな、退場だ退場、と今まで優しくしていた店員たちだったが、長々と鎮座していた客席からその二人組を促すように出て行かせた。

 

二人組は浜辺には目立つ黒フードを纏ったままトボトボと歩いて行く。

 

「あ~あ、追い出されちまったって」

 

「誰のせいよ!」

 

「不可抗力だな」

 

「意味知ってるの!? 意味知ってて使ってるのよね?」

 

「あ゛ぁ~なんつう意味だったっけなァ?」

 

「人の力ではどうにもできないって事だよ! なに? ふざけてんの?」

 

「じゃあオレっちには関係無ェじゃねーか! ヒハハハっ!」

 

「・・・・・貴方と付き合ってると沸点が段々と高くなって我慢強くなるわ。流石ね」

 

「へへへ、ありがとうよ」

 

褒めてないっ! と黒フードの女性は握り拳を作りながら叫ぶ。

そして直ぐに二人は沈黙し、黙々と浜辺を歩きながら、呟く。

 

「久しぶりに会えるね、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

その言葉に、黒フードの男性はむき出した腕を力強く振るう。

 

「あぁ・・・・・会えるってよォ」

 

その目深く被ったフードの奥に、ギラギラと輝く炎の瞳がそこにあった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

フィオーレ1のギルドを決める一大イベント。

 

『大魔闘演武』

 

それは魔法を使った様々な競技で〝魔〟を競い合う祭。

 

7年の間にフィオーレ王国“最弱”になっているギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』。

 

フィオーレ1の最強ギルドになる為、『大魔闘演武』へ参加する決意した。

 

しかし、7年間のブランクがある妖精の尻尾(フェアリーテイル)天狼組はこの時代での戦いについていけない可能性が出てきたのだ。

 

 

『大魔闘演武』までの期間は残り僅か────。

 

 

 

何か力を早急に上げる方法は無いのか? と思案していた妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナツ達。そこでグレイの提案が、妖精の尻尾(フェアリーテイル)顧問薬剤師であるポーリュシカに聞き入ったりと、可能性ある方法には盛んに臨んでやっているらしいが、成果があったのは天竜の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)のウェンディのみだった。

 

ならば力を付けるにはどうするか?

 

有り体を言うなれば、定石を踏んで、『修行』『鍛練』『修練』などと己を鍛え上げる方法が確実だろう。

 

その事を分かっていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)天狼組は各々の修行場所に向かい、鍛練に臨んでいた。

 

ある組は山へ、ある組はとある場所へ、ある組は秘密の特訓場へと向かう。

 

そこにある一組、ナツやグレイ、エルザ、その他メンバーは海にへと『強化合宿』を開始した。

 

 

 

 

「こらー! あんたたち遊びにきたんじゃないのよ!!」

 

「そうだぞーーっ」

 

「そんな海水浴バッチリな格好の奴に言われてもなァ」

 

燦々(さんさん)と太陽の温かい光が輝き照らす浜辺には、家族連れやカップルの人々によって埋め尽くされ、三々五々に賑わいを放つこの浜辺に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)一行がやって来ていた。

 

勿論、こんな青空が広がり、青い光を放ち人々の興奮を掻き立てるように海がゆらゆらと細波(さざなみ)を立たせられたら泳がない訳にはいかないナツ筆頭の妖精の尻尾(フェアリーテイル)集団。

 

開始早々に各々は母なる海に抱かれに猛進していった。

 

「もちろん遊びにきた訳じゃないのは重々分かっている」

 

しっかりと準備運動を仕終えたエルザは、夭々(ようよう)な肢体で海にへと入っていき、

 

「こういうのはメリハリが大切だ」

 

もっともだ、話を聞いている肥満体質になってしまったドロイと、雰囲気を少しだけ変わったジェットが頷く。

 

「よく遊び」

 

パシャパシャと海水を両手で掻き分けて笑顔になっているエルザ。

 

「よく食べ」

 

そうだな、うん大切だそれは。とドロイが深く頷いて、

 

「よく寝る!」

 

「肝心な修行が抜けてるぞ」

 

きゃっきゃっ、と子供のような無垢の笑顔で海水で遊ぶエルザにジェットは瞬時にツッコむ。

 

「おまらなァ、合宿が終わるまでには」

 

せめて(・・・)オレらくれーには勝てるようになってもらうぜ」

 

ドロイの後に続くようジェットが弛む天狼組に注意を促そうとするが、

 

「海だーーーーーーっっ!!!!」

 

「よっしゃああーーーーーーっっ!!!!」

 

ブグシャッッ!!! と元気はつらつのナツ&グレイにぶっ飛ばされたドロイ&ジェットは見知らぬ集団(なんか超怖い強面オジサン達)にこれまた元気はつらつに突っ込んでいってしまい、見知らぬ集団(超怖い強面オジサン達)に連れて行かれている中、ナツとグレイは勝負対決を託(かこつ)けて夏と海と浜辺と日光を満遍無(まんべんな)く遊び尽くしていった。

 

 

 

 

 

 

初日は本当に満遍無く遊んだナツ達だったが、エルザが言った通り“メリハリ”をつけて合宿の目的を実行していった。

 

各々が考えた効率的なトレーニングで着々と力を付け始めていた。

 

期間は“三ヶ月”。効率的にやれば力を付けることを可能とする事と、自分たちが着々と力を付けているという自信によって、それぞれ嬉しそうにしていた。

 

 

 

ある切欠に躓(つまず)くまでは、

 

 

 

 

 

「「「「「「「・・・・ボーー・・・・」」」」」」」

 

「話聞いたか、ジェット」

 

「あぁ、大体」

 

何やら合宿に来た時と打って変わって呆然とも唖然とも見える妖精の尻尾(フェアリーテイル)天狼組。

 

「オレたちが三ヶ月ずっっっっと待ってたというのに、ナツやエルザ達がいきなりルーシィの星霊に連れて行かれて、何やら星霊王たちと楽しく宴を満喫して、優しい星霊たちとの厚い友情噛み締めて帰ってきたら、星霊界やらで一日過ごしたら人間界では丁度良く偶然的に漫画みたいに〝三ヶ月〟経ってたっ!!・・・・・・・・らしいな、喉乾いた」

 

「説明お疲れ、スイカやるよ」

 

サンキュ、と長々と意図的に説明したジェットはドロイから労いと共に瑞々しいスイカを貰った。

 

シャリシャリとスイカを咀嚼しながらジェットは未だにボゥーっとしているナツたちを眺めながら、どうするかと思案していれば、スクっといきなり立ち上がった綺麗な緋色の髪の女性は握り拳を作っていきなり叫んだ。

 

「むうう!!! 今からでも遅くない!!!! 短日だろうと関係無い! 地獄の特訓だ!! お前ら全員覚悟を決めろ!! 寝るヒマはないと思え!!!」

 

「「「ひええ~~!!!!」」」

 

エルザの負けず嫌い魂が激昂するの如し、皆の士気を上げようとするが、やる気が漲(みなぎ)り過ぎているエルザには地獄絵図しか思い描けない一同。

 

「ナツ起きろ! 呆けている場合か! グレイは呆けると同時に服を脱いでるんじゃない!」

 

おりゃぁー! とエルザがナツとグレイの首根っこを掴んで振り回しているが、その行動の意味が分からないドロイは焦りながら止めようとし、エルザに振り回されているというのに相変わらず目が点のままのナツとグレイは無抵抗のままブォンブォン!! と虚しく回っている。

 

一頻(ひとしき)り回して、エルザは地獄特訓のスケジュールを脳内で作り上げていってると、エルザの緋色の髪の上に鳥の動きと思え難い動作で降り立った。

 

「ん?」

 

「ハト?」

 

「足に何かついてるぞ」

 

「メモだ!」

 

「なになに~」

 

「ハトの着地はスルーだな」

 

「片足で降り立ったぞ!」

脇でドロイとジェットが騒いでいる中、エルザやナツたちはせっせとメモ用紙に目を走らせていた。

 

メモの内容によれば、

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ、西の丘にある壊れた吊り橋まで来い」

 

メモに書かれてあった内容はそれだけで、イタズラか何かかと思った一同だったが、『大魔闘演武』まで残り五日間だけ。

なら修行よりもこの内容の方が気になってしまうのがナツたちである、合宿に来ていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)全員が言われた通りに西の丘までやって来ていた。

 

「誰もいねーじゃねーか」

 

バスッ! 掌に拳を打ち付けるナツにウェンディは『何でケンカごしなんですか』と冷や汗を垂らしながら呟き周りを見ている。

 

「イタズラかよ」

 

「だからやめとこって言ったじゃない」

 

グレイは相変わらず上半身裸のまま訝しげに言えば、ルーシィは不安げにしてしてウェンディと一緒に周囲に警戒していた。

 

ナツたちは丘にある見事に大破された吊り橋の前までくれば、急に橋に魔法の光が輝き始めた。

 

なんだ! と一同が驚きと警戒を強めると、魔法が掛かった橋が元に戻るかのように修復していった。

 

「橋が・・・」

 

「「「「直った!」」」」

 

やはり警戒を強め始め、エルザは橋の向こう側を睨むようにして橋に手を掛ける。

 

「渡って来いという事か」

 

「やっぱり罠かもしれないよ」

 

「なんか怖いです」

 

 

レビィとウェンディはより一層警戒の意思を強め、早く帰ろうと皆に促そうとするが、ナツたちが黙って従う筈が無い。

 

「誰だか知らねーが行ってやろーじゃねえか」

 

悲しいかな、こういう反応が返ってくることを予想していたウェンディとレビィは『そうですね』『そうだね』と諦めの眼差しが早くも点滅し、抗うことなくナツたちと行動を共にするしかなかった。

 

橋を渡り、森林の奥へ奥へと一同は進んで行く。薄暗くなって誘い込んで来るのかと思いきや、木々は全て日当たり良い箇所に生い茂り、歩く獣道も日光が照されたまま明るい道のりで進んで行けた。

 

すると、妖精の尻尾(フェアリーテイル)一同の向こう側から、黒いフードに身に纏った四人組が近寄って来た。

 

「誰かいる!!」

 

「みなさん気をつけて」

 

ザッザッ!! と堂々とただならぬ雰囲気を醸し出しながら歩いてくる四人組に身構えるナツたちだったが、近寄る度にナツやグレイ、ウェンディたちが驚愕の表情にへと変わっていった。

 

そして、その四人組の代表として、一人の男が口を開いた。

 

「来てくれてありがとう、妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

そこで四人組は一斉に頭部を隠していたフードを両手で上げ、その姿を露にする。

 

そこで一同、一斉に驚愕の色に染め上げられる。

 

「ジェラール・・・・!!」

 

四人組の顔ぶれに、『楽園の塔』事件の罪に問われ、新生評議院に逮捕され、決して逃れることが出来ない〝絶対不可能〟と呼ばれる監獄に捕らえられていたジェラールが目の前に居る。

エルザは警戒や憤りなどでは無く、ただ困惑の表情だけを浮かばせていた。

 

だが、驚くのがジェラールの背後に佇む三人組も同じだった。

 

「あ、あの野郎っ!!」

 

そう言ってナツは飛び掛からんと言わんばかりに睨み付ける男がもう一人。

 

「よォ、久しぶりだな、竜狩りちゃんよォ!」

 

金髪を少し首辺りまで短く切り揃え、東方に伝わる『着物』を着崩した状態で黒マントを羽織っていた青年は、『悪魔の心臓(グリモアハート)』の幹部であり、煉獄の七眷属の一人でもあったこの男。

 

「炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)、ザンクロウ様ただいま参上だってよォ!! ヒィハァーハッハハ・・─────」

 

「ザンクロウ、うるさい」

 

と脇から逞しく、健やかに成長した姿になったメルディに、問答無用の手刀を脇腹に刺突され身悶えるザンクロウ。

 

綺麗なピンク色の髪が長く伸び揃え、大人な女性にへと成長していた。

 

身悶えるザンクロウが助けを求めるようにもう一人の人物、ウルティア・ミルコビッチに抱き着こうとするが『ちょっと!』と発すると同時に空中から突如水晶玉が出現し、ゴツゥッ!! と意外と聞いた人たちの方が痛みを感じてしまう程の音を出してザンクロウの後頭部に直撃する。

『オグッ!!?』と発した瞬間にその場に気絶した。

 

「ちょ、ちょっとナツ、自己紹介した直後に気絶したあの人って!」

 

「あい! ナツをボッコボコした炎の滅神魔導士だよ」

 

滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)だと?」

 

気絶したザンクロウを脇に寄せたメルディはふとジュビアと目線が合い、メルディは長く綺麗に伸びたピンク色の髪を揺らし、ぱあっ! と明るい笑顔を見せる。

 

「ジュビア! 久しぶりね!」

 

「メルディ・・・・(こんな素敵な笑顔を作れるようになってたのね)」

 

若干置いてけぼりだったジェラールが話を進める為に苦笑してエルザに話し掛ける。

 

「変わってないなエルザ、もう・・・・・オレが脱獄した話は聞いているか?」

 

「・・・・ああ」

 

エルザは天狼島から帰還した際に聞いた噂を思い出し、ジェラールの言葉に頷いた。その反応にジェラールは心底申し訳無さそうに視線を逸らしながら言う。

 

「そんなつもりはなかったんだけどな」

 

「私とメルディ、そしてザンクロウとで牢をやぶったの」

 

「私は何もしてない、ほとんどウルティアとザンクロウの二人でやったんじゃない」

 

ウルティアとメルディが説明に補足するよう言えば、少し混乱気味だったルーシィやウェンディたちも反応をしてきた。

 

「ジェラールが脱獄?」

 

「つか、その炎神ヤロウとこいつらってグリモアの──────」

 

「まあ・・・待て、今は敵じゃねえ。そうだろ?」

 

ルーシィとナツが疑問に思うことを言おうとしたが、グレイによって止められる。

 

「ええ、私の人生で犯してきた罪の数はとてもじゃないけど〝一生〟では償えきれない。だから・・・せめて私が人生を狂わせてしまった人々を救いたい・・・・そう思ったの」

 

そう言って、ウルティアはジェラールに目線を向ける。

 

「たとえばジェラール」

 

「いいんだ、オレもオマエも闇に取り憑かれていた、過去の話だ」

 

その話を聞いた瞬間、エルザはすぐに〝ある事を〟思い出し、恐る恐るジェラールに聞いた。

 

「ジェラール・・・おまえ記憶が・・・・」

 

「はっきりしている、何もかもな(・・・・・)

 

「・・・!!・・・」

 

ジェラールが記憶を戻したのはまだ牢の中に捕まっていた頃だっと言う。エルザに何と言えば良いのか、どうやらジェラールずっと考えていたらしい。

エルザの双眸にどうジェラールが映っているのか、分からない。

 

「楽園の塔での事は私に責任がある、ジェラールは私が操っていたの、だからあまり彼を責めないであげて・・・・」

 

自分が行った罪にウルティアは憂慮する顔になってエルザにそう語るが、エルザの表情は変わらず。

 

「オレは牢で一生を終えるか・・・・死刑。それを受け入れていたんだ、ウルティアたちがオレを脱獄ささせるまではな」

 

ジェラールは自らの罪を向き合い、『死』を受け入れたと答える。ジェラールから吐かれたその言葉の内には一体どれほどの決意が滲んでいるのか計り知れない。

だがその決意したジェラールの覚悟が、脱獄してまで生きているのか。やはりそれは『目的』が見つかったからなのでは? とウェンディが純粋に聞いた。

 

「生きる目的・・・そんな高尚なものでもないけどな。」

 

「私たちは“ギルド”を作ったの、正規でもない闇ギルドでもない“独立ギルド”『魔女の罪(クリムソルシエール)』」

 

独立ギルド、つまりは連盟に加入していないギルドだということだ。

 

魔女の罪(クリムソルシエール)

 

ここ数年で数々の闇ギルドを壊滅させているギルドだ。

 

「私たちの目的はただ一つ」

 

「ゼレフ・・・・・闇ギルド、この世の暗黒を全て払う為に結成したギルドだ。二度とオレたちのような闇に取り付かれた魔導士を生まないように」

 

まるでそこに、その目的の為ならば生涯を費やしても貫き、死しても尚暗黒を払い退ける為に爪痕を残すと言葉の中から犇々(ひしひし)と滲み伝わる。

 

その覚悟と確固たる決意に『おおっ!』とナツが身の内から沸々と熱い何かを感じ取り思わず詠嘆し、ルーシィも凄いことだとジェラールたちを誉め称えるが、当の本人たちは首肯なぞしない。

グレイも評議会で正規ギルドに迎え入れてもらえば良いのに、と提案するが『脱獄犯』に元『悪魔の心臓(グリモアハート)』だから無理なんだと言う。

 

それに正規ギルドに加入したからと言って堂々と闇ギルドを壊滅していくことは不可能なのだ。表向きには闇ギルド相手とはいえギルド間抗争禁止条約という法律がある。なんとも法則性と人道に乗っ取った条約ではあるが、それは足枷でしかない。何せ闇ギルドは条約(それ)を関係無しに暴れ、壊し、奪い、滅していく。

だがそれを正規ギルドも同様な真似をすればすぐに反条約ギルドにへと成り下がり、いずれは“闇”ギルドの出来上がりとなる。

『ギルド間抗争禁止条約』は一見邪魔でしかないように見えるかもしれないが、この決まり、規則、法律があるから人間は“平和”であることが出来るのかもしれない。

だからジェラールたちは正規ギルドには加入せず、独立としてギルドを結成、日々闇ギルドを壊滅していたのだ。条約(ルール)壊さ(やぶら)ずに、だ。

 

そして話の“核”をナツたち降下する。

 

「会場には私たちは近づけられないの、今言った通りにね。だからあなた達に一つ頼みたい事があるの」

 

「誰かのサインが欲しいのか?」

 

「それは遠慮しとくわ」

 

「じゃあ土産が欲しいのか?」

 

「それも遠慮しとくわ」

 

「分かった分かった、じゃあアレのことか、あの伝説の大魔闘演舞会場入口にある土産屋特産の大魔黒(オオマグロ)饅頭だろ? 箱何個分だ?」

 

「食べ物に困ったから、という理由であなた達に頼んでいる訳じゃないのよ? 大魔闘演舞に出場するあなた達に何故わざわざ食べ物を要求するのよ私たちは・・・・・・・・」

 

あのゲテモノ饅頭を食べたいなんて何て挑戦的なギルドだ、とナツから何故か嫌な意味で好印象与えてしまった『魔女の罪(クリムソルシエール)』。

話が脱線仕始めてきたので修正するウルティア、少し疲れた顔で。

 

「毎年開催中に妙な魔力を感じるのよ。その正体をつきとめてほしいの」

 

“妙な魔力”

 

この言葉だけで妖精の尻尾メンバーは嫌な感覚に陥られる。

 

「フィオーレ中のギルドが集まるんでしょ? 怪しい魔力の一つや二つ────」

 

「オレたちも初めはそう思っていた。しかしその魔力は邪悪でゼレフに似た何かなんだ。それはゼレフに近付きすぎたオレたちだから感知できたのかもしれない」

 

「ゼレフ・・・・」

 

 

またしても聞きたくない言葉・・・いや、名が出てきた。

 

暗黒を払うのが『魔女の罪』の存在理由、その暗黒の原点とも言えるゼレフの魔力──に近い“何か”を知りたい為に大魔闘演舞に参加する『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』に頼み込んでいるのだ。

もしゼレフの魔力、況してやそうで無かったとしてもゼレフの居場所をつきとめる手がかりになるかもしれないと思ったからだった。

 

「もちろん勝敗とは別の話よ。私たちも陰ながら妖精の尻尾(フェアリーテイル)を応援してるから、それとなく謎の魔力を探ってほしいの」

 

メルディは気絶しているザンクロウの様子を近くで窺いながら言う。指で突っつくが反応が無い。

 

「雲をつかむような話たが請け合おう」

 

「助かるわ」

 

「いいのか、エルザ」

 

今この場で総意の意思を決めることが出来るとすればS級魔導士のランクを持つエルザぐらいなもので、冷静で的確な判断が出来るのもエルザぐらいなものだった。そんな信用しているエルザだったが、やはり随分と簡単に請け負った理由を聞きたかったグレイはエルザに向き、問う。

 

「妙な魔力のもとにフィオーレ中のギルドが集結してるとあっては私たちも不安だしな」

 

それにエルザはただ頼み込むだけでは無いだろう、と考えた上でこの頼みを請け負ったのだ。その様子に気付いたウルティアも穏やかな表情になりながら、その『報酬』の話に入った。

 

「報酬は前払いよ」

 

「食費!!」

 

「家賃!?」

 

「いいえ、お金じゃないの」

 

随分と目縁が垂れ下がったが気にしないでウルティアは続ける、手から腕に水晶球を優雅に転がすように。

 

「私の進化した時のアークがあなた達の能力を底上げするわ」

 

「「「え?」」」

 

唖然とするナツ、ルーシィ、グレイ。思わずメルディは笑いそうになったが必死に堪えた。

 

「パワーアップ・・・・・・・・といえば聞こえはいいけど実際はそうじゃない」

 

そこで一旦区切り、口を開く。

 

「魔導士にはその人の魔力の限界値を決める器のようなものがあるの、たとえその器が空っぽになってしまっても大気中のエーテルノを体が自動的に摂取してしばらくすればまた器の中は元通りになる。」

 

エーテルノ、つまりは『魔力の素』となる微量で微細、精密で肉眼で決して視認は出来ない『魔力の素』。

 

人間はそれを自動的に空になった魔力の器に流れ入ってくるという。

 

「ただ・・・・最近の研究で魔導士の持つその器には普段使われてない部分がある事が判明した。それが、誰にでもある潜在能力『第二魔法源(セカンドオリジン)』」

 

 

ピクピクッ! と面白いように反応仕始める妖精の尻尾一行。それにトドメの嬉しき報酬。

 

「時のアークがその器を成長させ、第二魔法源(セカンドオリジン)を使える状態にする。つまりは今まで以上に活動時間を増やし強大な魔力を使えるようになる」

 

「「「「おおおーーーっっ!!!」」」」

 

「ぜんぜん意味わかんねーけどおおおーーーっっ!!!」

 

「ただし想像を絶する激痛と戦う事になるわよ」

 

半分冗談に、半分本気でギンッ! と目縁を吊り上げて面白そうに怖い微笑みを浮かべるウルティアに、ウェンディは『あああ~・・・』と冷や汗を流しながら嫌な想像を育ませて、レビィは単純にウルティアの怖い微笑みに臆していた。

 

「かまわねえ!! ありがとう!!! ありがとう!!! どうしよう!? だんだん本物の()に見えてきた」

 

「だから女だって」

 

「まだひきずってやがったか」

 

そう、それは何の他意も無い純粋な感謝の念で一途に思った行動だったかもしれない。だが、それを許せない行動だったことはナツは知らない。

 

キュゴオォッッ!!

 

まるで一筋の光によって貫かれた槍撃、それだった。

 

「があぁああああああっ!?」

 

何かされたのが自分だと気付いた時、ナツは宙を舞っていた。そして宙を舞っていたナツは世界の常識とも言える“重力”により抵抗も無しに地面に容赦無く落下した。

 

一瞬の静寂、そしてその静けさの中からゆらゆらと、燃えるような眼差しで立っている炎の魔導士が一人居た。

 

「テメェ・・・・誰の女に手出してんだ、ってよォ?」

 

ただ一人、炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)だけだった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

「本っ当にごめんなさい!」

 

「ごべんだざいでじだ・・・」

 

森林中央付近に偶然あった広い場所で、誠意を込めて謝るメルディと、どう殴ればそこまで凹凸ある顔になるのかと疑問すら浮上してくる顔のザンクロウは口が開ける言葉でナツ達に謝っていたのだ。

 

「いやいや、ナツが身勝手に抱き着いたことが原因なんだから別にそこまで謝んなくても・・・ボコボコだし」

 

「そうだな、だがまさかこの兄ちゃんがウルティアと恋仲だったとは・・・・知らなかったぜ(ニヤニヤ)」

 

「ち、違うわよ! それは勝手にザンクロウが────ちょっと、何ニヤニヤしてるのよグレイ!」

 

隠す事ァ無いぜェ~? とニヤ顔を隠さず微笑み続けているグレイに『絶対に勘違いしてるわよ!?』と1から説明しようとしているウルティアに兄妹のようにも姉弟にも見えて、何故か心が和やかな気分になる。

だがそんな中、一人だけ和んでいない者が居た。

 

「っっざけんなぁあああ!!!」

 

音波でも伝わるような大声量で異議を唱えるは殴られた本人、ナツだ。ナツは一仕切り叫んだ後、きちんとウルティアの前まで来て、

 

「急に抱き着いて悪かったな、ごめん」

 

「いや、私は別に構わないのだけど───」

 

「構うッ!」

 

そこで元凶が立ち上がる。

メルディが必死にザンクロウの腰に腕を回して止めようとしているみたいだが、ザンクロウの鍛え上げられた体に抵抗出来ずにただ、ただ引き摺りられる。

 

「ウルティアさんの身体はオレっちのもんブボォオウっ!!?」

 

言い終える前にウルティアが水晶球をザンクロウの顔面に打ち付けた。

 

「だから! そういう事を言わないの!」

 

「そうよバカクロウ!」

 

「ふぐぐぐぐぐぐぎぎぎぎぎ!!」

 

それでも尚ザンクロウはウルティアに手を伸ばしているが、水晶球を浮かせ、そのままザンクロウの顔面にみしみしみしッ! と押し付けたまま後退し安全圏まで移動してナツと向き合う。

 

「そ、そういう訳だから、私は気にして無いわ。だからザンクロウが面倒な上に更に面倒事にならない内に潜在能力、第二魔法源(セカンドオリジン)の────」

 

「ううおおおおおおおおおオレと闘えぇぇぇぇ神殺しイイィィ!!」

 

「そ、そんな!? ザンクロウの面倒病が汚染されたというの!?」

 

「いや元からだろ」

 

グレイの端的且つ的確なツッコミを待つこと無く、ナツは丁度開けたこの森林広場で闘いを所望しはじめた。

そして本当に面倒の元凶となったと言っても過言じゃないザンクロウはと言うと、今度はウルティアからメルディにへと標的を代えて『デヘへ、ならメルディがオレっちの相手してくれるってーのかよォ』と不潔な笑いをしながらメルディの腰に腕を回していた魔手を伸ばそうとした瞬間、ゴチンッッ!! とザンクロウの股間をそれはもう容赦の無い蹴りを食らわせて上げると、男性股間特有の金属音のようなものが聞こえたと思うと同時に、ザンクロウは声は出ずとも喉からくる音の波が聞こえるほど震わせ叫び、すぐに股間を両手で力強く押さえ込み、顔の穴という穴から液体が垂れ流れてきた。

 

「ほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお────ぉふぉおふぉ───ふおおぉぉぉぉふほほぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

悶絶しながら昏倒しなかった自分を褒め称えたいザンクロウは、やはり目から涙が流れ、鼻からは鼻水を滴り、肌から汗が滝のように溢れ返していた。

 

ナツは怪訝そうな顔になりながらザンクロウと向かう。

 

「テメェ! 会った時からふざけてる奴だと思ってたが本当にふざけてる奴なんだな!」

 

「ヒハハハ! オイオイおめー────一体何してんだ?」

 

「・・・・あ?」

 

「・・・・・・・・あのよォ」

 

グイッ! 顔を上げたザンクロウには、獰猛な微笑みが浮かび、

 

「随分見ねェ間に、腑抜けたなァ。火竜(ヒトカゲ)ちゃんよ~ぉ?」

 

嘲笑へと変わり、ナツを侮蔑を含んだ声色で語りかけた。

 

たった、それだけ。

 

 

 

 

 

ドュウウウゥゥガアアアアアァァァァアアアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!

 

 

 

ナツはザンクロウの腹に一発、火竜の一撃を喰らわせたのだった。



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第6話「炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)」

凄い長期不定期更新(;´д`)


ジュウゥゥゥ・・・────

 

 

森で最も嗅ぎたくない、何かが燃え、焦げた臭い。

 

炎が弧を描くように赤く燃える中、火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)・ナツが放つその拳撃は周囲に火の粉を漂わせていた。

 

「ヒハッ」

 

だが、その火竜の拳撃を食らった“炎”の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)は何事も無かったかのように笑い顔を浮かばせていた。

 

「仕方無ぇ・・・・仕方無ぇったら仕方無ぇよ。そんなにバトりてーなら遊んでやるってよォ」

 

滅神魔導士・ザンクロウは嗜好な笑みを浮かばせる。

 

ただ笑う。

 

 

ただそれだけで、

 

(・・・・ッッぅっ!?・・・・・・・・)

 

「ヒハハハ!!」

 

ガァグッッ! とナツの腹部にいきなり重い衝撃が掛かる。ザンクロウが瞬時に移動し、鋭い蹴りが突き上げられたのだ。

 

普段からのナツであればそのような蹴り一つくらいで怯むことなく追撃の炎を放つのだが、

 

「ぐぅはぁ!?」

 

「オラどォしたぁ!」

 

呼吸が一気に苦しくなった。あきらかに息を止めさせる急所狙い。追撃に手を加えることが出来なかったナツにザンクロウは更に振るう。

 

「まだだろゥ!」

 

ナツは拳に炎を纏わせ、得意の拳撃を再度放つ。

 

「火竜のォ! 鉄拳ッ!!」

 

「キタキタぁ!!」

 

だが放たれた拳撃にザンクロウは(おもむろ)に顔を向けたと思えば、瞬間的に顔面で火竜の鉄拳を食らう。

 

ガチンッ! と顔面に響いた拳の一撃にナツは勿論、突如始まった闘いに呆然としながら見ていたルーシィ達も驚きの声を上げた。

 

「自分からナツのパンチを受けた!?」

 

「あわわわ、ナツさん勢い凄いです」

 

「いや、待て! アレ見ろ!」

 

ナツの拳撃、つまりは『炎』を纏った鉄拳がザンクロウの顔面に食らった。

 

 

 

そう“食らった”。

 

 

 

「これだこれだァ!!」

 

ガブガブガブガブッッ!! とナツの炎を美味しそうに“食べている”のだ。ナツが得意とする相手の炎を食べ、己の魔法力として蓄える能力。

 

「アイツも、食べるのか! 火を!」

 

「あぁ~まえ戦ったのにナツったらダメダメだねぇー」

 

「もっと頭使いなさいよ」

 

「うるせぇ!」

 

外野から飛んでくる野次に集中を乱されながらも、すぐにザンクロウから距離を置く。だが鱈腹飲み込んだ炎にザンクロウは満足そうな笑みを浮かばせてケラケラと口を開く。

 

「荒々しいな、だが本当に美味(うめ)ぇ炎だ。竜の炎は神を満足させる味付けだってよォ」

 

そう言って、ザンクロウはただ一つ、拳一つを構えるだけ。

 

「だがなァ。本当に力があまり成長してねーよ。してねーしてねー」

 

「あァ?」

 

「構えろよ」

 

ザンクロウの表情は変わらない。獰猛にも見え、愉快に見え、嘲笑にも見えるその笑顔(かお)が僅かに動く。

 

「おおおおおぉぉらあああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 

(なぁぁぁあああああ──────!!!)

 

ナツの目に映ったのは、距離を置いた先にあるふざけた笑い顔が“瞬時に近付いた”事象だった。

 

そして目前まで迫ったと思った瞬間、胴体が打ち上げられる拳撃をナツは防御も構えも無しに急所、鳩尾に食らった。

 

口から大量の胃液を吐き出して、打ち上げられた身体が重力に従って地に落ちる。

 

「「「ナツ(さん)!!」」」

 

ルーシィ、グレイ、ウェンディがナツの元に近寄る。どこか怪我ないかナツの身体を調べているが特になにもない。殴打によるボコボコな身体だけだ。

 

ゲホッゲホッ! と咳き込みながら必死に呼吸を整える。

 

「人間の体してる限り、急所がある。そこを突かァりゃあ火竜(ヒトカゲ)も堪ったもんじゃねってなァ! ヒハハハッッ────」

 

「「馬鹿あああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

「────ハハ? ハアブゥッ!!!?」

 

メルディとウルティアの見事にダブルラリアットを打ち込ませた。何故かザンクロウも呼吸困難に陥る。

 

「何やってる訳!? どうして闘ってる訳!?」

 

「そうよバカっ! 何やってんの上半身裸バカっ!」

 

「ゲホッゲホッ! うぶぉっふぉ!」

 

道理で闘っている中で中断してこなかった訳だ。馬鹿は闘い終わらせてから説教した方が効率良く、早急且つ簡単に収拾付くと考えたのだろう。

 

だが問題はそっちでは無かった。

 

「嘘でしょ・・・ナツを簡単に倒したのにも驚いたけど、それよりも───」

 

「あぁ、アイツ。炎を食べやがった」

 

闘うと聞いたので遠くから見ていたレビィたちも急いでやって来た。レビィ達もルーシィたち同様に困惑している様子だった。

 

「ちく、しょう」

 

ナツは息がやっと整ってきたが、腹部に走る激痛は無くならかった。

 

天狼島では実質的に勝ちはしたが、かなり苦戦させられた。それが数年経ったとはいえ手も足も出せずに終わった。

それだけの理由があれば十分にナツは悔しがり、ザンクロウに対して睨むだけしかできない。

 

「喉がー。喉が痛いってよ」

 

ザンクロウは首筋を撫でながら、奇異の目で見てくるルーシィやレビィたちに気付くと、何やらまた違う笑みを浮かばせてルーシィたちに近寄る。

 

「何よ何だよ何だってんよォ? そんなにオレっちの強さに惚れちまったか? ヒィハハハ! だよなだよなァ! オレっち強えーから惚れちまって困るよなァ!」

 

見当違いな発言をしてきた。

 

「まぁぁったくしょーがねーなー! だったらまずは一緒に飯にでも食べに行くってよォ。オレっちの小粋なトークで沸かせてやんよォ!」

 

「えっ、何急に!」

 

「さっきまでメチャクチャ獰猛な顔だったのに、今じゃゆるっゆるの下心満載ユル顔になっちゃってるね」

 

ナツの近くに居たルーシィとレビィに対し、先ほどまでと打って変わった笑みで(にじ)り寄るようにザンクロウに若干引きつつ、ウェンディの視線に気付くザンクロウ。

 

「ヒヒヒ。どうした、美少女ちゃん?」

 

「えっ!」

 

「随分と驚いた顔してたからよォ」

 

あわあわ、と突然話を振られてきたので焦るウェンディだったが、すぐに気持ちを立て直して聞く。

 

「ほ、本当に“あの”ザンクロウ・・・・さん。なんですか?」

 

ウェンディの発言にザンクロウより、後ろから取り押さえようとしていたメルディとウルティアが異様に反応を示した。

 

ウェンディとシャルル、ハッピーはこの『悪魔の心臓(グリモアハート)』七眷属の一人であるザンクロウを知ってるからだ。

 

どう答えてくるか、それだけを緊張したまま待ち続けたウェンディに対し、ザンクロウは未だに笑みは絶やさず、口角を吊り上げたまま答えた。

 

「“残忍で気性が荒くて好戦的でちょっと冷たい”オレっちが前のザンクロウだ。今のオレっちは新生ザンクロウ様だっつーワケだってよォ」

 

ザンクロウが言った言葉に、メルディはピクリと反応してみせた。

天狼島の脱する時、ザンクロウに言ったメルディの言葉だった。

 

「美少女たちと飯に洒落込みてぇが、そうもいかないんでしょ。ウルティアさァんよ」

 

ザンクロウに問われ、ウルティアは一瞬ポカンとしていたが、すぐに意識を取り戻してザンクロウに憤慨する。

 

「元はと言えばザンクロウが!」

 

「ウヒヒヒ! 待て待ってってよォ。これにも理由があるんだぜ?」

 

「理由?」

 

「まず一つ、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』の実力ってーのを調べた。火竜だけ闘ったのはオレっち的にも闘い易かったのと、実力的に火竜がズバ抜けて強ぇからだ」

 

と、そこでピクリと反応する者一人。グレイだった。

 

「ちょっと待て、なんでナツがズバ抜けて強ぇ事になってやがる。このバカよりはオレの方が強いぜ」

 

「ア? そんなん闘ってねーから適当(テケトー)にオレっちが言っただけだってよォ。気にすんな」

 

手をパタパタとするだけの雑な反応にグレイは少しイラッときたが話は進む。

 

「ウルティアさんに第二魔法源(セカンドオリジン)潜在能力(かくれてるちから)見つけて開花(きょうか)させちまっても意味が無ぇ。んだったらどれほど力量あんのか確かめてからやった方がコイツらは強ォくなると考えたっつーワケだって」

 

ナツは完全にどれほどの力量が備わっているか確認したので、ウルティアの『時のアーク』の底上げ加減も分かった。それはすなわちナツの体力的負担を緻密に計算し抑え込み、最良のまま魔力強化が出来るようになるのと、ナツ自身の“限界寸前”まで上げられる。

 

本来なら全員と軽く手合わせくらいやれば良いのだが、長く駐在出来ない独立ギルド『魔女の罪(クリムソルシエール)』の決まりだったが為に、ナツ基準とその個人個人による体内に備わる自律魔力調整で『第二魔法源(セカンドオリジン)』で良しとする方向となった。

 

 

上手い具合にナツと闘うように一人芝居をしていたザンクロウだったが、昔のザンクロウでは無いことは確められた。

 

それはナツやルーシィたちにその話をした後だった。

ザンクロウは数日で痛みを引く拳撃をナツに放ったのだが、それは数日後には無くなるという意味でやられた今日は激痛に堪えないといけないということ。

 

それをザンクロウは頭を下げはしなかったがナツに向けて真正面から『悪かったな、すまなかった』と笑ったままだったがきちんと謝罪したザンクロウに、前の彼を知るナツたちにとって不気味だった。

 

だがナツは本質というより、中身を肌で感じ取ったのか。ザンクロウが真剣に謝ったことを理解する。

 

それが分かった瞬間、ナツはザンクロウの傍まで近寄ると、睨むようにして力強く言った。

 

「次は勝つぞオラァァァアアアア!!!」

 

「上等だオラァァァアアアア!!!」

 

「「「うるさいっ!!」」」

 

炎を操るこの二人に、暑苦しく無い日々が来るのは誰も分からなかった。




ザンクロウが死ななかったから絶対強敵枠


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第7話「大魔闘演武に入り込む者」

本当に不定期更新だと言うのに、感想を書いて下さる方がいらして本当に嬉しかったです!

アニメではフェアリーテイルがまたと放送開始という嬉しいこの上ことなのですが・・・ヤバい。ヤバいよ。全然追い付けてないよ!

頭の中ではストーリーが出来上がっていると言うのに、如何せん書く暇が無い(´・ω・)

まだ見てくださってる方が居られるというののならば、自分も出来るだけ早く投稿出来るようしたいと思います!


 

「か・・・は・・・・がっ・・・ああっ・・・・ぎぃいいいいいいいい」

 

深い森の深夜に、それは不気味過ぎる苦痛の叫びが木霊していた。

 

前回のザンクロウの戦闘の名を借りた実力測定を終わらせた後、ナツが一番に『俺がやるぜ!』とウルティアの魔法に挑戦した。

 

あり得ないほどの苦痛の叫びを上げているナツにレビィとウェンディがかなり嫌そうな顔で眺めていた。

 恐らく次にあの魔法を経験することに恐怖しているのだろう。グレイやルーシィも血の気が引いた顔で眺めていた。

 

そんなナツを眺めるように、森にある抜き出た石に胡座をかいて座る滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)・ザンクロウ。

 そのザンクロウに近付くのは同じギルドのメルディだった。長いピンク色の髪がふわふわと揺れているのにザンクロウの意識がメルディに向く。

 

「あんだよメルディ。どうしたってよ」

 

「全っ然本気出して無かったよね、ふざけてたの?」

 

少し怒った様子で言ってくるメルディに、ザンクロウは鼻を鳴らしてケラケラと笑う。

 

「またまたァ、メルディちゃん知ってんだろォ? オレっちが本気なんて出すトコ見たことあんか?」

 

「・・・知らない」

 

「ウヒヒ、だろォ?」

 

「興味すら無いから知らないって意味で、自己の強さに酔ってそうなザンクロウに苛立ちなんて覚えてないよ」

 

「オレっちはそんなメルディが大好きだぜぇ」

 

さて抱き着くか、と立ち上がるザンクロウに警戒の為一歩下がる。

 

「いやいやいや、それよりなにより、オレっちが気になるのはここに居ないウチのリーダーと緋色の髪の美女だって」

 

「あぁ、エルザとジェラール? ・・・・ザンクロウ絶対に行かせない。絶対に!」

 

「ヒハハハハハ! じゃあメルディに抱き着くってぇ!!」

 

「キャアアアアア! だからなんでそうなんのォ!」

 

阿呆みたいに鼻の下を伸ばしたユル顔で抱き着こうとしたザンクロウに、例え筋肉質で固めた身体でも神経が集中している弱い箇所を鋭く貫けば攻撃を与えられる。それを熟知しているメルディは瞬時に脇腹に鋭い蹴りを食らわせる。

 

「脇なのは知ってるってよ! ヒハハハ! 可愛いなぁメルディは───────」

 

ザンクロウはメルディから繰り出される攻撃を事前に知っていたのが、それを難なく受けとめ、更に絡め込んで抱き着きに移行しようとするも、次にメルディが放った悪魔の一撃にザンクロウは潰される。

 

「な、舐めるな!」

 

「コガァァァンッ!!!?」

 

決して“男性”に放ってはいけない魔の一撃をメルディは容赦無く放ち、“潰した”。何をとかナニとか知らないが“潰した”。

 

「ヒィッーヒィィーヒーヒ・・・フゥーフゥー! はぁはぁ、うぅぅうう!! ダメだってマジダメヒィフゥヒーフゥゥゥゥー!!」

 

「最終手段だから私も余り使いたくなかったけど・・・・コレやるとザンクロウ本気泣きするから、本当ごめんね、ザンクロウ」

 

尻を上げさせて地面に顔面擦り付けたまま悲痛の声だけが流れる。男性にやってはいけないベストに入る位のことをしたことで罪悪感を覚えたメルディは優しく、お尻を上げていた腰を軽く(はた)いて上げている。

 

 

ザンクロウの悲痛な声を聞きながら、ウルティアは着々と仕事を(こな)していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁあああぁぁぁあああああっっっ!!!!

 

 

森で叫ぶ声がまた増量した。修行に来ていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々に術を仕掛け終えたのだ。

 

あの後、ジェラールとエルザが一緒になって戻ってくるのをメルディとウルティアが確認し、魔力の底上げに取りかかった。

 

そして、マジ泣きしているザンクロウにジェラールが理由を聞くと、かなり同情した顔でザンクロウの面倒を見たという。

 

 

苦しみ叫ぶナツたちを森に建てられてあった小屋に入れさせ、底上げが終わるまで安置することとなった。エルザは何故か苦しみを伴わず、安全に悲鳴を叫びながら成長をするナツたちの護衛となり、長く駐在できない独立ギルド『魔女の罪(クリムソルシエール)』の面々の見送りをしてくれている。

 

(あー・・・なんつーんだこりゃ・・・・・晴れた空みたいに、すっきりしたような笑顔になってるって)

 

ザンクロウが『魔女の罪(クリムソルシエール)』の重い荷物を持つ係として、背丈が倍以上あるリュックを背負い込みながら、エルザの笑顔に自身の考えを結論つける。

 

「それじゃあ、オレたちはもう行くよ」

 

「ギルドの性質上で居られねーからなァ」

 

「大魔闘演舞の“謎の魔力”の件、何か分かったら鳩で報告して」

 

「了解した」

 

「競技の方も影ながら応援してるからがんばってちょうだい」

 

「本当は観に行きたいんだけどね」

 

「ヒハハハ! 変装して行くってよゥ!」

 

「やめておけ」

 

四人のギルドメンバーが互いに笑い合いながら喋る光景に、エルザはまた笑みが溢れてしまった。

 重罪を償う為、贖罪の果てを注ぎ込もうとしている四人だが、少なくとも『闇』からは救い出されただろう。あの笑顔がその証拠だと、エルザは再び四人に、ジェラールにへと視線を向けた。

 

黒いフードを四人が共通する被り物。闇に溶け込む黒の衣装。四人は再び闇夜に熔ける。

 

ジェラールは一瞬、エルザと微笑み合いながら数秒、すぐに黒く霞んで消えた。

 

エルザの顔は、やはり晴れて笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてナツ達と会った場所から数十里と離れた洞窟で夜を明けることにした魔女の罪(クリムソルシエール)の面々。

 

焚火で街で購入した食材を焼き炙り、こんがりと焼けた骨付き肉をザンクロウは豪快に食い付き、ウルティアが作ったシチューを幸せそうにスプーンで掬いながらメルディは食べていた。

 

「謎の魔力、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のみんなに危険がなければいいが」

 

「ま・・・あのコたちなら何とかしちゃうかも・・・・って期待もあるのよね」

 

「なんかそうだよね! あっ! その焼けたお肉ちょうだいよザンクロウ」

 

「イイぜ、丁度肉汁が出てる美味(うめ)ぇのを上げるって、だから後でチューな」

 

「わーいありがとう♪ うん後でねー(棒読み)」

 

「ちょっと行儀良くないわよ、メルディ」

 

「えっ、なにかした?」

 

「賞味期限大丈夫か分からないお肉だから危ないし、ザンクロウみたいに豪快に余り食べないようにね。・・・・あー、それと妖精の尻尾(フェアリーテイル)と言えば相変わらずナツは強くなりそうな気がするわ───────」

 

「待って結構最初のワードに私はとても危険(デンジャラス)な言葉を聞いた! え、賞味期限!? ちょっとザンクロウこのお肉いつ────────」

 

「豪快に食べちゃった、ってよ・・・・」

 

「ぎゃあ! なんか悟ったような顔になってるザンクロウ! 絶対アブナイ(やつ)だ!」

 

でも最終的にはザンクロウが責任持って食べました。

 

「・・・・それよりさ、ジェラール」

 

ザンクロウが賞味期限未知の骨付き肉を胃袋に納めたと同時に、凄く聞きたかった話をする。

 

「どうして婚約者がいる・・・・・・なんてウソついたの?」

 

「き・・・・聞いてたのか!?」

 

「オウオウ!? オレっち聞いてない! 聞きたいキキタイそしていつの間に聴いてた!?」

 

騒ぐザンクロウにウルティアが『めっ』と叱ると黙るザンクロウ。

 

「少しは自分に優しくしてもいいんじゃないの? それとも自分への罰のつもり?」

 

優しそうに、慈しむようにウルティアがジェラールに促すが、確固の意志でそれを『良し』としない。

 

「“罰”こそが魔女の罪(クリムソルシエール)の掟だろ? みんなで決めたじゃないか。光の道を進む者を愛してはいけない。オレはエルザが幸せならばそれでいい」

 

「・・・・にしても、もっとマトモなウソなかったの?」

 

「サイテーね。なーにカッコつけてんのかしら」

 

メルディとウルティアはガールズトークのように個人だけの意見をジェラールにビシッバシッズシュッ! と容赦無しにぶつけてきているが、ジェラールも『な、なんだと!?』といったような顔で驚いているのだからしょうがない。

 勿論ジェラールの気持ちも理解して言っている。そんな意地を無駄に張っちゃって、と。

 だが逆にザンクロウはその話を聞いて、自分の願いが叶うことが判明した。

 

「ジェラールの理屈だと、オレっちの好きな奴を愛せることが出来るって」

 

「ザンクロウの好きな奴って・・・・あぁ、それなら確かに愛し合えるかもしれんな」

 

「・・・?・・・なんの話よ」

 

ザンクロウとジェラールが互いに笑い合っているのに、女性陣はまったく気付かない。すると、ガバッ! いきなりメルディとウルティアの間に座るザンクロウ。それを不思議そうにしている二人に、

 

「オレっちは二人がダァイ好きだから愛せるってよォ」

 

「「きゃあっ!」」

 

ウルティアとメルディを立派な膂力で自分の元に寄せて抱き着かせるザンクロウ。

 

「ウルティアもメルディも大好きだし、ウルティアもメルディも闇を進んだ者同士ってよ! これはもう結婚しか無ぇー!」

 

「「何故かぁー!!」」

 

ぎゅううううぅぅぅぅ!!! と両サイドから押し込まれ、顔が両方からプレスされているザンクロウに、ジェラールは笑いが込み上げていた。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 年に一度という稀少な大祭、それがフィオーレ王国を今最大に熱気を包む話題となっていた。どの街にも行けばその開催される大き祭の為に出展の準備や、フィオーレ王国の王都・花咲く都『クロッカス』に向けての《隊商一団(キャラバン)》が、群を成すように進んでいたのだ。祭事だけあり、どれの隊商一団(キャラバン)も豪奢な品と名産品なども沢山の品物が運び込まれていた。

 そんな隊商一団(キャラバン)の一隊に、まるで何かに取り憑かれたかのように目が虚ろな者達が静かに荷馬車を揺らして進んでいる。その荷馬車の中には、黒いスーツを着込み、隠す気が無いのか、それとも単なる無知なのか。体内から強力な『魔力』を発している者が居た。

 

「・・・まったく~。何を殺気立つの? 久しぶりに会ったというのに?」

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

「君も元気で助かったよ? まぁ、魂魄(スピリット)がだけどね」

 

 微笑するその黒いスーツを着込んだ少年は、不要に微笑んで一人(・ ・)で笑っている。だが確実にこれは一人で喋っている感じでは無い。相手が居て、それを応答してくるているしゃべり方なのだ、絶対に居るはずなのに、まるで見当たらない。

 

「“久しぶりに”彼女に会えるというのに・・・・・・・・・・」

 

『・・・・・不語(かたらず)・・・』

 

 それだけを何処から呟かれた後。それは本当に居なくなっていた。そう感じさせる消失の仕方に、その一人語っていた少年は『・・・ハハハ』と虚しく一人で笑っているも。すぐに、また別の微笑みを浮かばした。

 その顔の動作一つで、()()()()()()()ことで、憑かれたように虚ろに静かに荷馬車を運転していた男は『うおっ! なんだ?』と急に意識がはっきりしたことで、馬も驚き荷馬車を鈍くさせてしまう。

 

「とととっ、すまねぇな兄ちゃん。なんかちょっと(・ ・ ・ ・)だけボウ(・ ・ ・ ・)っとして(・ ・ ・ ・)たわ(・ ・)

 

「あ、いえ。おきになさらずに。乗せてって貰っているのはこちら側なので」

 

 謝ってきた男にまた謝り返す少年と奇妙な光景となっているが、もっと奇妙にして不気味なのが。自分が操(・ ・ ・ ・)られていた(・ ・ ・ ・ ・)ことをまったく意識していない荷馬車の主に、少年は片方の目が『隻眼』ながら優しい眼差しを向けてくる少年に、荷馬車の主もにこやかに笑って返し、あとは通常通りと戻っていた。

 

 だが、その『隻眼の少年』は、眼帯で覆った眼を優しく摩りながら、ニヤニヤと笑顔になってしまう顔を手で覆い隠しながらも声を出して呟いてしまう。

 

「あぁ、やっと・・・やっと会えることが出来るのだ・・・これほど嬉しいことは無いと言えるよ。・・・・・・・・さぁ。久しぶりの再会を喜ぼうじゃないか、我が愛しきマスター〝メイビス〟よ」

 

 クツクツと笑いが込み上げながら、『隻眼の少年』は王都『クロッカス』の街へと堂々(・ ・)入門した。




恐らくまたも誤字脱字があるかもしれません(涙)

気兼ねなくご指摘など受け付けますです(涙)

感想やコメントお待ちしております!


2015/03/15 修正。


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第8話「大魔闘演武予選、開始」

冥府の門(タルタロス)とか凄い闇ギルドがまた出てきましたね!
でも最強の闇ギルドは『悪魔の心臓(グリモアハート )』だと思ってます(勝手な妄想)


今回のザンクロウはどうなのだろう(((・・;)

読者の皆様の反応が怖いです


「流石はフィオーレ王国が首都・花咲く都《クロッカス》! ものすげぇ活気だってよ」

 

 年の一度の大祭である『大魔闘演舞(だいまとうえんぶ)』翌日の王都では、正に賑わいが大盛況となり見物人や観光客などで大いに賑わっていた。

 そんな賑わいの声が大いに張り巡る中、漆黒のフードをマントのように靡かせて歩くのは金色の髪を獅子の(たてがみ)のように尖らせ、紅色の渦巻き状の瞳をギラつかせているのは元最強の闇ギルド《悪魔の心臓(グリモアハート)》の七眷属が一人、『炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)』であるザンクロウであった。

 そんなザンクロウはまるで周囲の目を気にすることもなく堂々と首都・クロッカスの中央区へと続く中央道を笑みを浮かばせながら歩いていた。

 本来ならばザンクロウが取っている行動は自ら『捕まえてください』と自己アピールをしていることになるのだが、俗に言う逆手にとる方法でザンクロウは首都を守護する騎士隊や警備隊に見られても見咎められないようになっているのだ。

 

 その堂々とした理由の一つは、

 

「おい。そこのお前」

 

「あん? オレっちの事かい?」

 

 ザンクロウは中央道に広がる露店などを眺めながら歩いていると、人の群れから一際目立つ騎士甲冑を纏った一人がザンクロウに話しかけてきた。

 

「お前・・・どこかで見たような顔だな」

 

「おっ! オレっちを知ってるのか! いやぁ、やっぱりモテるワイルドなオレっちには何処に行ってもバレてしまうもんだってよ」

 

「あー違う違う。お前の有名云々の話ではない」

 

「あっ? じゃ男がオレっちに惚れたのか?」

 

「なぜ惚れる前提なのだ! どちらかと言うとお前悪人面だ!」

 

「オイィてめぇ! 初対面に言う台詞かコラァ!」

 

 明らかに自ら悪化させていくザンクロウに、何故か騎士は怯む。

 

「ま、待て。事を荒立てる訳にはいかない」

 

「おー? そいつァはナンデだぁ?」

 

 言葉に詰まる騎士に、ザンクロウは傍らまで近付き騎士の首に腕を回す。騎士にしか聞こえない声量でザンクロウは笑みを浮かばせて呟く。

 

「(アーその理由ってーのは・・・・明日の『大魔闘演舞』関連なんじゃありませんかねぇ?)」

 

「・・・・・ッッ!?・・・」

 

 明らかに怯んだ騎士に、ザンクロウは腕に力を入れて揺れる甲冑を静かにさせる。

 

「(そして、それは騎士隊の不備(・・)によるモンだ。違うか?)」

 

「(な・・・・なにを言う)」

 

「(アッハッハ・・・・しらばっくれんなよォ。オメェも小声になった時点でソレは確定しただろ、その不備の件はよォ)」

 

「・・・・グッ」

 

「(本来、騎士隊と警備隊が連携して明日に開かれる祭の会場の整理や警備を命じられていたお前らは、ある不出来を起こした。アァそれはこの一週間の間かァ? まぁどっちでも良いが、何故それが今日まで問題にならなかったと言うと、それはとても簡単に済む話だったからだ)」

 

 ザンクロウの言うように、王都・クロッカスで開かれるであろう『大魔闘演舞』の会場となるクロッカス西方の山に作られた演舞会場『ドムス・フラウ』の警備を任されたのは王国に仕える『騎士隊』と街の治安維持などを主とした魔導士たちが集う『警備隊』の二つの部隊だった。

 だが、大なり小なりこの二つの部隊は軋轢(あつれき)を産む衝突は王のお膝元である《クロッカス》でも多少起きていた。だが、それを上手く鎮静にへと繋ぐ為、王と重臣たちはこの二つの部隊を同時に今大会の目玉でもある『大魔闘演舞』会場のドムス・フラウの協力体勢で警備を任せた。という話が城下町まで広がっている情報だった。

 

 王の大言を無下にする騎士や魔導士たちは居らず、当初不安に煽られていた二隊協力体勢だったが、この大祭翌日まで何事もなく続いてきたことは今の街中の賑わいが証拠になっているだろう。だが、やはり小さな傷口から逃れる事は無かった。

 

「・・・・最初は睨み合ってた騎士隊と警備隊だったんだが、一緒に仕事をしていくにつれてどんどんと和解していったんだ。よく互いのことを知らなかったから衝突が多かったんだと知った。だが・・・次の問題が発生した」

 

 ザンクロウと騎士は中央道では目立つということから、脇の道端に展開されて露店型レストランで共にご飯を食べるという奇妙な構図を展開しつつ、出されたコーヒーを飲みながら騎士はザンクロウにへと語った。

 

「険悪だった騎士隊と警備隊の中で、その、れ・・・恋愛事が生じることが起きてしまったのだ」

 

「それが何がいけないってよ? 男と女が居りゃあそうなるや」

 

「・・・前までの私ならそれを咎めただろうな。騎士たる者が忠義以外で剣を抜くなと・・・・だが、私は、恋に落ちた」

 

「オッ、なんだ? ノロケか?」

 

 途端にザンクロウが『へっ・・・』と鼻を小指でほじりながら他所を向く。

 

「そう。私は魔導士の女性と恋に落ちた。その女性は警備隊と整備隊にも所属していて、ある晩、二人でデートをしていた時だった」

 

「オーオー早ぇな王都の騎士男子は、それで何で不備(・・)が起きた。普通にデートでもしてりゃァ何のトラブルも起きそうに無ぇだろ」

 

「あの夜、彼女が整備担当していたであろう【宿屋】に泊まったのだ。彼女の仕事が終える前に熱い一時を・・情熱的な夜を─────」

 

「誰がテメェのチェリー卒業の話聞かせろ()ったよゴラァ! フビだ不備! 原因教えろ()ったんだよ! あぁー聞く気失せるぅー!」

 

「ど、どうして私が純潔たる騎士だったことをしっている!? きっ! 貴様もしやパパ上の差し金だな!?」

 

「とんだ坊っちゃんだってよォ! なぁにが純潔たる騎士だ! 純潔たる()()だろ!?」

 

「く、屈辱的なルビ!」

 

 脱線へ脱線へと、段々と騎士までもが店員や客たちに怪しい眼差しで見られてきた頃、騎士は真顔になって再び話を振る。

 

「話を戻すが───」

 

「テメェが脱線してんだろがァ」

 

「彼女と一夜を共にした後、朝一番に勤務にへと付いたのだ」

 

「アァ?」

 

「・・・そうだ。帰ってしまったのだ。整備(・・)をしないで・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 あのザンクロウが阿呆を見るような目でこの王都クロッカスを守護しているであろう騎士の一人に情けない眼差しを向けて大きな溜め息を吐いてやる。これは相当に情けない話である。

 下手をすれば騎士剥奪まで脅かす行為をしてしまったのだから、それも若さ故の過ちだとザンクロウは大分年老いた頭で、話して分かった若い騎士に言葉をかける。

 

「まぁぶっちゃけると知ってたわ」

 

「えっ?」

 

「先に彼女の方がオレっちの相方と会って話を聞いてる頃だろう。さっきも出てきたが、お前の父親からの依頼でもあった」

 

「なっ!」

 

「言いたいことは分かる。騎士にまでなって親に頼ることもそうだが何故彼女との付き合いまで知っていたのか。それも答えよう。お前の父親とはオレっちのお得意先でな・・・結構有名な魔法道具屋からの魔法道具を譲ってもらったりして今みたいに依頼を受けたりする。つまり──────」

 

「つまり、私や彼女たちの付き合いを調べたのも───」

 

「オレっち」

 

「さっき中央道で出会ったのも───」

 

「偶然じゃねぇ。オレっちがお前のパパ上から譲って貰った魔法道具で意図的にこうなった、という訳だ」

 

 騎士は机を叩き上げそうになるのを必死に堪えた。まさか騎士にまでなって親の手を借りるとは、と。

 

だが、

 

「でも・・・分かってたかもしれない。私の父親は異常なまでに神経質だから、周りに起きた出来事を最低限まで調べ尽くすから」

 

「だがそれだけじゃねぇってのも分かるだろ? オメェの父親は息子が悪い連中に命狙われてねぇか心配だったんだからよォ」

 

 ザンクロウが王都でも堂々と巡り歩けたのはある人物との繋がりかあったからだった。その者から魔法道具を譲り受け、自由闊歩することを可能にしていたのだった。

 

 そのザンクロウの協力者は、魔法界全体の秩序を保つためにルールを取り決めている機関【評議院】議員の一人だった。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 ザンクロウと若い騎士が互いに話し合っている頃、その騎士と付き合っている女性と、ザンクロウと同じく『悪魔の心臓(グリモアハート)』に七眷属に居た伸びたピンク色の髪をポニーテールに纏めたメルディが整備をしなかったであろう宿屋の前まで来ていた。

 

「ここがそうなの?」

 

「あっ・・・はい。ここです」

 

 先程、赤裸々に話した内容からずっと口ごもっている女性に、メルディもどのような反応をしていいのか分からず仕舞いだった。

 そもそも、王都クロッカスに入ること事態メルディは了承せずにザンクロウに連れて来られたかと思えば、いきなり『依頼を手伝って欲しいってよ』とか言ってきた時は、【魔力の剣(マギルティ=ソドム)】を突き刺してやろうかと思ったが、折角都に来れたのだから観光もしたいという欲求に負け、ザンクロウの手伝いをしてしまっている。

 

(はぁ~・・・せっかくならウルと来たかったよ~)

 

 よくもあの二人も承認したものだと、メルディは都を巡ってるときに思った。まずウルティアがザンクロウを叱るのかと思っていたのだが、逆にザンクロウの案を喜び、メルディに勧めて行かせてくれたのだった。

 

「あ、あの整備終わりました!」

 

「ひゃあ! び、びっくりした」

 

 思考に耽っていたメルディに思いっきり大声で整備完了の報告してきた女性に思わず可愛い声を上げてしまい。一人赤くして彼女と向き合う。

 

「あ、あの! 本当にありがとうございました! ずっっと気になってて安心して眠ることが出来ませんでした! ワタシの不注意で彼を騎士隊を辞めさせるくらいまでのご迷惑を掛けて本当に大勢の人を巻き込ませる問題にまで発展したことが心苦しくてつらくて、泣いちゃうくらいビクビクしてました・・・! だって・・・整備できるのはその日しか無くて、他の時間帯では宿屋の許可が下りることも無くて、上司にも仲間にも、親にも話せなくて・・・でもそんなの自分がしっかりしてないで失敗したことだし・・・・・・うっう!」

 

「大丈夫よ。もう大丈夫。安心していいの。だってアナタが今しっかり整備したんでしょ?」

 

「うっう・・・グス、はい」

 

「ならもう心配いらないじゃない。でも、絶対に次からはこんな事起きないようにするのよ? アナタだけじゃなく彼も、そしてもしかしたら大勢の人たちが迷惑を掛けたかもしれないのよ?」

 

 警備隊兼整備隊にも所属している彼女だから想像したのか、自ら起こした整備不備による被害を連想させてまたも涙声になって一人謝る整備隊の彼女。メルディは優しい声色で頭を撫でて上げる。

 

「だから、次は失敗しないようにね? そんなに泣かないで、アナタは自分のした失敗を真正面から受けて、反省し、次はしないことを学んだわ。だったらもう泣くんじゃなくて・・・前を向こうよ」

 

 ぎゅっ、と彼女の手を握って、メルディがこの7年間感じ学んだことを彼女にも伝える。数年前までは感情なんて入らないと考えていたというのに、

 

「ね?」

 

「・・・グス、うん。絶対に失敗しない」

 

 うん、とメルディも自然と笑顔となった。

 ハッキリと言って、このような依頼は久しぶりだった。

 

 ザンクロウと同じく正規でも闇ギルドでもない独立ギルド『魔女の罪(クリムソルシエール)』での依頼はやはり闇ギルドの討伐や、ゼレフの情報収集など裏による仕事が多かった。

 勿論、メルディたちが行ってきた罪を考えればそれは罪滅ぼしになるかならないかと問われたら小さな行為だったかもしれない。しかしメルディも常に気を張っているのには疲れていたらしい。今日受けたこの依頼は、少なくとも整備隊の彼女に悪いが普段請け負う依頼よりあらゆる【悪】が無く、気が楽になったような気がした。

 

「おーい。そっちは終わったかー?」

 

「あ、ザンクロウ!」

 

 涙流す警備隊の女性に、メルディはハンカチを取り出して涙を拭ってあげる。

 

「もー長くない? もう終わっちゃったよ?」

 

「あぁ? 終わっちまったか。仕方ねぇな、あの騎士くんもすぐそばまで来てたから行ってあげなよ姉ちゃん」

 

 メルディに感謝の言葉を送ってからザンクロウの言葉に、警備隊の彼女は反応する。

 

「わ、分かりました! す、すぐに説明して・・・───」

 

「そしたら二人はもう通常勤務に戻ってオッケー。これにてオレっちたちも観光に戻るってことでオッケー終いだぁ」

 

 メルディも依頼に関しては説明していたが、騎士の彼と共に二人で改めて礼が言いたいと言ってきたが、ザンクロウがやんわりと断った。

 ザンクロウから貰った魔法道具『不可侵の耳飾り(ミラージュ・イヤリング)』の効力もあり、余り長時間使用することが出来ないのだ。

 

 大丈夫だから、とメルディの言葉にも重なったことで整備隊の彼女も深く頭を下げて、彼の元へと戻って行った。

 

「《不可侵の耳飾り(ミラージュ・イヤリング)》は使用者から発した声量領域から認識を戻されるが、ある程度時間を置いたり、相手を一瞬でも気を逸らすと気配や認識を消えることが出来る魔法道具。かなりの高額だったんだぜ」

 

「よく手に入ったものよ」

 

 宿屋の前は人通りも少なく、熱気が溢れる街中とは違う落ち着き払った通路で、メルディとザンクロウは二人で座れる場所を探しながら話した。

 

「この依頼。メルディも分かったようだが、明日の『大魔闘演舞』の〝予選〟の為の〝競争〟が行われる」

 

「えっ? そんなの前回の大魔闘演舞では無かったわよ?」

 

「そうだようなァ、普通は事前に通達やら知らせをする筈なんだが、主催者側は一切何も情報を開示していない。不可解な段取りになってるってよ」

 

 適当な小さな公園を見つけたザンクロウはメルディより先に木の椅子に座り何故かドヤ顔になりながらメルディを見るが、後になって椅子に鳥の糞があったことを尻からの感触で感じながら続ける。

 

「FTの、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の復活もそうだが今年から色々と細工をしているらしいのをオレっちの方で知ったのよ。だァからジェラールやウルティアさんに前もって話して、祭り前日の今日を下調べに再度訪れたってワケだ。ヒハハハハ、ホント行ったり来たりで大変だったぜ?」

 

 メルディも空いてる綺麗な木製の長椅子に座り、ザンクロウの知られざる働きに開いた口が閉じなかった。

 

 前もっての事前調査や秘密の人脈。表ではまずお目にかかれない高額の魔法道具。そしてそれを伴った核心を突く内容。メルディは段々とザンクロウの認識が〝また変わった〟。

 

(ザンクロウって、意外に頭使ってるのよねぇ。悔しいけど・・・)

 

 メルディは軽く頬を膨らませて、意外と自分より仕事をしていたザンクロウに少し軽い嫉妬のようなものを覚える。だが、それを眺めていたザンクロウへ直ぐ何かを悟り、昔とは違う獰猛(どうもう)な笑みでは無く、穏やかでありながら野性味ある笑顔を向けてメルディの頭に手を乗せる。

 

「っちゅーワケでだ。もう調べものは終わったことだし、万能道具もあることだし、デートの続きでもしようってよォ!」

 

「ちょ・・・はぁ?!」

 

「お金もたんまりあるし大丈夫だってよォ」

 

 グイグイとメルディの手を引きながらザンクロウは中央道にへと続く道を進む。だが『その前にズボンだけでも変えて!』とメルディはザンクロウの尻に大量にくっついてあった鳥の糞を見ながら必死に叫んだ。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 夕暮れの日が王都を照らす頃には、ザンクロウとメルディは思う存分に祭りの露店や建造物やフィオーレ王国の遺産などを見て回ることが出来ていた。

 

「まだ1000(ジュエル)残ってるってよ! クロッカス名産『サフランピッザ』を買おうって!」

 

「名産って言ってる割りに普通のピザだったからアレはもういいわ。それより私は【華灯宮(かとうきゅう)メルクリアス】が壮観だったと思う!」

 

 二人は自分たちが指名手配犯並の有名人だということを忘れているぐらいに大いにはしゃいでいた。一日では回りきれない花咲く都《クロッカス》を堪能した二人は、しっかりとジェラールやウルティアのお土産も買ったことを確認して、クロッカス付近の山頂にて待機している場所に帰ろうとすると、ふとメルディが疑問に思っていたことを口にした。

 

「そう言えば、どうして〝宿屋〟なんかに整備隊がわざわざ来て、何を整備していたりしたのかしら?」

 

「メルディはまだ聞かされちゃいなかったか?」

 

 やはりザンクロウは知っていたか、とメルディはまたも軽く嫉妬する。情報の仕入れは一体どうやって? と。

 

「今日請け負った依頼から察するに、宿屋に何かしらの整備する『仕込み』がありそうな感じだったけど、あの整備隊の彼女から『・・・今回の祭りにとって最初で一番大切な整備(しごと)』と言ってから・・・・ザンクロウの言ってた〝予選〟や〝競技 〟関係するもの、かなって」

 

「さっすがメルディ! 頭が回って可愛いってよォ! まさか今日それを考えてたのか?」

 

「と、途中まではね・・・ふとアレ? って思ったのよ。整備隊の彼女にもなるべく内容を教えるのは避けたいという願いもあったから深く追求はしなかったから」

 

 律儀に考えていた整備隊の女性にザンクロウは笑みを浮かばせてはメルディに買ってきていた露店の飴菓子を渡しながら説明も付け加える。

 

「メルディの考察の通り、今日請け負った依頼の宿屋には『仕掛け』があったんだってよ。それも今日(・・)起きるぜ」

 

「えっ? 今日!?」

 

 ザンクロウは不敵な笑みを浮かべて夕暮れに染まる都を眺め、これから起きるであろう祭りを、ただただ面白げに笑っているだけだった。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 真夜中の12時に差し掛かった時、王都を震わせる鐘の音が響き渡った。どこまでも響かせるような鐘の音が鳴動し、きっちり鐘の音が響き渡った後、王都《クロッカス》の上空にて光学映像魔法を使ったとても巨大なカボチャの被り物をした人が現れた。立体映像による開始予告をするカボチャの進行役は色々な動きをしては説明に入る。

 

『大魔闘演舞にお集まりのギルドの皆さん♪ おはようございます♪ これより参加チーム113を8つにしぼる為の〝予選〟を開始しま~す♪♪』

 

 『大魔闘演舞』に参加しようとしていたギルド達はきっと驚愕に満ちていたであろう。それは今年に限って初めての試みだったからだ。前年度までそのような『予選』などという参加資格を会得する必要も無かったというのに。

 

『毎年参加ギルドが増えて~内容が薄くなってるとの指摘をいただき~今年の本線を8チームのみで行う事になりました~♪ 予選のルールは簡単!!』

 

 カボチャの進行役がそう言えば、途端に王都の各区にありとあらゆる点在する宿屋が突如、ゴゴゴゴゴゴッッッ!! と建物を機械設備によって上へ上へと盛り上がっていった。

 

『これから皆さんには競争をしてもらいます♪ ゴールは本線会場でもある《ドムス・フラウ》~♪ 先着8チームの本線出場となりま~す♪』

 

 ガチンゴチン、と宿屋を持ち上げていた機械設備が次々と変型し、各宿屋が予選のスタート地点となっている。

 

『魔法の使用は自由制限はありません♪ 早くゴールした上位8チームのみ予選突破となりま~す♪ ただし〝五人全員〟そろってゴールしないと失格♪ そ・れ・と♪ 【迷宮】で命を落としても責任はとりませんのでご了承を~♪』

 

 【迷宮】それが予選によって行われる挑戦。街中から出てくる喧騒から、これから始まるであろう真夜中の迷宮挑戦に活気の声が夜空へ響く。

 

『ではでは~♪ 皆様が盛り上がってきたところではじめましょ~う! ──────大魔闘演舞予選!!!! 《空中(スカイ)迷宮(ラビリンス)》!! 開始ッッ!!!!』




感想やコメントをお待ちしてます(^-^ゞ



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第9話「微動する花の都」

 

 今正に王都クロッカスの空中にて巨大な魔法により作り上げられた大魔闘演舞の『予選』の為の競争が始まったばかりだった。

 

 そんな誰もが夜空に広がる巨大な『空中(スカイ)迷宮(ラビリンス)』を見上げている中、ある一人の男が行動していた。

 

「おーおー。始まったって」

 

 金髪を獅子の(たてがみ)のように突っぱねた髪をして、深紅の眼で辺りを見ながらクロッカスの街中を遊歩する。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)も参加してんだろうが、内容が内容。まず予選は突破するんだろうが・・・・・・オレっちがただ待ってるって可笑しいだろう?)

 

 黒いフードをマントにして、炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)・ザンクロウは賑わうクロッカス中央区からフィオーレ王が住まう居城。メルクリアスにへと向かっていた。

 

「カッカッカ!! まぁさか、オレっち一人で城に行くとは思ってねぇだろウルティアさんもメルディも! たんまりウルティアさんが好きな菓子と魔法人形に高額の魔本をお土産にしたおかげだって」

 

 メルディも一緒にクロッカスで満喫出来たことを、ザンクロウの気回しだったのを感じ取り、暗黙の了解としてザンクロウが単独行動することを見逃してもらっていた。

 もちろん、定期的に連絡を入れる条件として、

 

「さぁてさて。イッヒヒヒヒ! ぜってぇ城になんかあんぜ。これぜってぇだわ! 最初からジェラールも城に入れば良いのによォ!」

 

 勿論、フィオーレ王国の城なのだから、国家秘蔵の何かを隠すならフィオーレ王の居城に置いておくと誰もが理解していると思うのだが、ジェラールも元評議院の議員だ。顔が割れているし馬鹿みたいに国を相手に喧嘩は売らない。利口なら。

 

「イヒャハハハ!!!」

 

 だが、世界は広い。愚か者が存在しても世界は許してしまうのだ。

 

 ザンクロウは本当に迷いもなく幾重にも警備を張られた城門前まで疾走していた。誰かが見ていればポカンと唖然として見ているか騒いでいたりして良かったのだが、今の時間帯は夜中の12時。警備を弛くなるどころか強くなる時間帯であろうその時にザンクロウは満面な笑顔も奇妙な笑い声を上げて、全力疾走で駆けくるのに対し、フィオーレ騎士隊がフル稼働して止めに入っても可笑しくはない。

 

「止まれこの酔っ払い!」

 

「悪人面しやがって、止まれ! ・・・止まれ、止まれって、とま・・・・・・」

 

「止まれぇぇぇぇ! 話聞い───って、止まれえええええ!!」

 

「ヒヒハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

「「「うわああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」」」

 

 きっと頭イっちゃてる人だー! と叫びながら騎士隊の男たちは城壁を囲む城の門に隊列を組んで盾になる。だが、ザンクロウは気にせず突進しようと得意の『滅神魔法』を使おうとするが、止めた。

 

(魔法使うと面倒かァ・・・チィッ! なら新しく覚えた体術(こっち)か?)

 

 ザンクロウはぶつかるか否かという合間に、僅か数歩一瞬して後方にへと下がり、騎士隊の力を入れさせるタイミングをずれさせ、そして一気に掌を静かに甲冑に付ける。

 

炎神(えんしん)体術・〝炎勁(えんけい)〟」

 

 すると、まるで衝撃を与えられたかのように騎士が後方にへと吹っ飛んでいった。他の騎士が呆気にとられている内にザンクロウはまた一人の騎士に同じ技で吹き飛ばす。

 

「き、貴様ァ!」

 

「コイツ!!」

 

 周囲に居た騎士たちも騒ぎに気付き、どんどん群れ集まっていく。ザンクロウはこんな状況だというのに笑みがはち切れんばかりに広がる。

 

 だが、これを善しとしない者が現れる。

 

 ゴワァアッ!!! とザンクロウの瞳がいきなり光によって遮られたのだ。まるで太陽の日光を直視したかように目が一瞬にして焼けてしまい、視界が伏せる。

 呻き声を軽く上げて後ろに大きく下がり、目の回復を優先するも同時に耳から情報を得る。

 

(騎士たちの声と、鎧と足音が消えてんなぁ。そういう魔法か?)

 

 それなりの魔導士が警備に居ると思い、ザンクロウはその者を捕まえて利用しようと考えていたのだ。馬鹿正直者、というより馬鹿者の対応をする代表者なのだからそれなりの情報を掴んでいる奴だろう、と考えていたザンクロウだったが、やはり世はそんなに甘くなど無かった。

 

「ちょっと、困りますってそんな勝手な事。マジ勘弁して欲しいスけど・・・」

 

「アァ?」

 

 視界がまだ回復してこない中、音から得た情報によると、随分と若い声が帰ってきた。

 

「・・・それがこの滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)だ。他の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)とは斯くも大きく違う」

 

「オォ?」

 

 視界が回復してきた頃、次は女の声が聞こえてきた。ザンクロウはゆっくりと立ち上がり、目を細めて見てみると、

 

「オーなんだァ? まだぼやけてんのか? 目の前に変なお面被った奴と錫杖を握った綺麗なお姉さんが居るってよ」

 

(ほの)めかすのも良いかもしれんが、しゃんとせい。炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)

 

 よく見てみると周囲の騎士たちが居なくなっていた。ざっと20人くらいは集まって来たと思っていたのだが、とザンクロウが見渡していると、コツンコツン! と仮面を叩いている男に振り向く。

 

「あー・・・あー・・・・・・説明しようかと思ったスけど。えー面倒になってきったス。あー」

 

 仮面の男はポリポリとザンクロウの前まで来ると、

 

「何ぃ勝手な事してんのアンタ!?」

 

「ぐぼォ!?」

 

 急に脈絡も無くキレて殴ってきた仮面の男に流石のザンクロウも殴られた頬を撫でながら呆然とするしか無かった。鼻血まで出てきている。

 

「あー・・・うん。マジ怒ってるんスよ。こういう勝手なことされっと困るんス」

 

「さっきから何だってんだよォ! そしてこっちもいきなりの右ストレートぉぉぉ!!」

 

 いきなり訳分かんなく殴ってきた仮面の男にザンクロウの容赦の無い本気のパンチが繰り出される。それはかなり感触のあるハズのパンチだったのだが、ザンクロウのパンチは虚しく仮面の男をすり抜けて(・ ・ ・ ・ ・)いった。

 

「なッ!」

 

「うわこわー。いきなり殴ってきたっスねぇ。でも効かねぇっス。オレには一切の攻撃は効かねぇんスよ」

 

 仮面の男は、何の顔のパーツの無い無貌(むぼう)の仮面の男は本当にやる気の無い声を出してポリポリと頭を掻いて説明する。

 

「あーオレたちは勝手なコンビを組んでいる『傍観者』なんスよ。オレの名前は虚無(ノーバディ)っス。コムでもムウでも可っス。よろすぃ」

 

「勝手ながらのコンビの2、夢幻(ムゲン)だ。記憶しておけよ炎の」

 

 ザンクロウの目の前に立つ二人の異様な魔力と格好に面食らう。

 無貌の仮面の男が虚無(ノーバディ)と名乗り、ザンクロウたちが着ている服に似た黒いフードを目深く被っており、黒い鎧も装備し、かなり怪しい。

 綺麗なお姉さん、に〝見える感覚〟に襲われるこの夢幻(ムゲン)と名乗った女は入れ替わるように人が〝変わった〟。これは『人が変わる』という言葉のままではなく。丸っきり別人にへと変化していた。

 

「魔法の招待も分からねぇわ、本当に何者なのかも分からねぇわで怖ぇってよ。虚無(ノーバディ)夢幻(ムゲン)だぁ?」

 

「その名も所詮は虚像よ。真に受けるなよ。どっちでも良いがな」

 

 城門前でとんでもない相手に遭遇してしまったザンクロウは体術だけではなく、『滅神魔法』も使う意気込みで構えを取る。

 

「片方はすり抜けんならもう片方もすり抜ける、なんて同じネタ晒すワケじゃねぇんだろ? だったらコレでも食らって正体見せろってよオ!」

 

 人の目が相手側の魔法により無いことを確認していたザンクロウは、腕に〝黒炎〟を纏って一気に駆ける。

 

「炎神のォ! 轟拳(ごうけん)ッ!」

 

 ピシンッ、と場違いが音が支配する。

 

「───ッ こいつ!」

 

 放たれた黒炎の拳撃がどれほど危険なものなのか目の前に気怠い立ち姿のままだった無貌の仮面の男・虚無(ノーバディ)が初めて怠慢な声じゃない、焦りの声を上げた。

 ザンクロウの〝黒い炎〟が拳に纏い、余りにも強烈過ぎるその炎熱は周囲の空気を焦がして(・ ・ ・ ・)いき、まるで硝子でも割っているかのような音が周囲の空気を振動させて巨大な砲撃の如く打たれたのだ。

 

 だが、その余りにも『危険』な拳撃を、まるで身体を動かずに、 止めて(・ ・ ・)しまっていた。

 

(なァ!?)

 

 これに一番衝撃を受けたのは、何よりも本人、ザンクロウだった。唖然として目前で拳が止められている己の拳と相手を交互に見比べたりもして、混乱する。

 

「な、んだ? 見えない壁にでも防がれたのか・・・・・?」

 

「ふぃ~死ぬかと思ったっス。まさかいきなり『滅神魔法』使ってくるとは・・・・」

 

「・・・・・・流石の私も焦ったぞ。あれは紛れもなく本気の攻撃だった」

 

 虚無(ノーバディ)は掌をザンクロウの拳撃を受け止めようとしている『構え』をしているだけであり、やはり直接的に止めていない。ザンクロウの《炎神の轟拳》は本当になにも見えない壁にでも防がれたかのように、虚無(ノーバディ)夢幻(ムゲン)の前で止まっていた。

 

「あ゛ぁぁああ!? マジむかつくってよォ!」

 

「うわぁ待って待って、本当に争う気はこっちサラサラ無いの聞いてたスか?」

 

「まぁこちらも話してはおらんかった」

 

 虚無(ノーバディ)は無貌ながらに隣でずっと眺めて何もしていない夢幻(ムゲン)に蹴ろうとするが錫杖によって防がれ、逆に足を突かれ身体のバランスを崩す。

 

「話を聞け炎の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)。これは《傍観者》として助言する。城にはまだ入るな。ウルティアやメルディたちが居る場所にへと戻れ」

 

 ザンクロウは静かに、僅かながら殺気を噴出してしまう。

 ガシッ!!! と首を手で締め上げられるのではないか、と錯覚してしてまうくらいの殺気に、夢幻(ムゲン)は冷や汗が大量に流れ出る。

 

(こ、れほど・・・とはッ)

 

 手の震えで錫杖の遊環(ゆかん)がシャンシャンと鳴り響く。

 

(大切なもの、護るものがあると、ここまで・・・・・・殺気と闘気が入り乱れ、こんなにも息苦しくするものなのかっ?)

 

 ハァハァ、と夢幻(ムゲン)は数歩ほど下がり、少しずつ少しずつ息を整える。そして、整える時に隣に居るであろう虚無(ノーバディ)に目を向ければ、男は無を現すかように、不動のままザンクロウを見据えていた。

 

 そしておもむろに無貌の仮面から言葉を吐かれる。

 

「今は『大魔闘演舞』予選の開始が始まったばかりっスよー? 急がずにこれを眺めて楽しんでりゃぁ良いんスよ。あーほんと説明するのに、どうしてこんなことになってんスか? マジ嫌っス」

 

 ペタンと地に座り、ザンクロウが未だに殺気を収めていないのに気付く。

 

「あー、ウルティアさんにメルディさんの事っスね? そんなのちょー簡単な理由っスよ。『傍観者』を自称すんスから情報もってんのも当たり前じゃないスか、分かるんスよ。そーゆー魔法っス」

 

「・・・・・・どぅにも気に食わねぇってよ。何で邪魔をする? 何で言うこと聞かないといけない?」

 

「あーそういえばザンクロウさんやウルティアさん、メルディさんざワザワザ探して、入れて上げた『青い天馬(ブルーペガサス)』の子もすっかり元気みたいっスねぇ。今の『空中迷宮(スカイラビリンス)』も頑張ってみてるみたいっス。・・・んー『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』のあの娘も知り合いみたいっスねぇザンクロウさん」

 

「・・・オイオイ。まさかテメーおい。本当に〝視えてる〟のか?」

 

 虚無(ノーバディ)は整備された城門前の石道に横になる。自由過ぎるこの仮面の男にザンクロウはすぐにでも万物全てを灰塵に出来る『炎神の怒号』でも放って消し炭にしたくなるが、我慢する。この相手は計り知れない。

 

「戻りなってザンクロウさん。祭りは始まる。これからね」

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 ザンクロウはまだまだ言い足りないくらいあったのに、全てを喉で詰まらせ、無言で従うことを選んだ。

 別に相手の考えにまで従っていたわけじゃない。たまそれが何より一番手っ取り早く終わることを予想したからだった。

 

「カッ! あれだろ? やっぱ城にはネタバレしそうなのが沢山あるから来させないでって自主規制が掛かったんだろゥ?! ふっざけんなよ」

 

 そしてあの虚無(ノーバディ)の男の能力は未知数だ。『身体をすり抜ける魔法』に『強力な防御魔法』の二つを使用し。それにザンクロウの身の周りの人物、しかも親しい仲間の名さえ手にしていた。

 警戒するに越したことは無い。

 ザンクロウは思考を巡らせながらも王都・クロッカスの街中まで戻り、喧騒が止まない真夜中の居酒屋にへと入っていた。珍しくも和風の居酒屋で、東方の酒が沢山ある店だった。

 中は既に数人しか居らず、外に出てお酒を飲むサービスにありつけている客人は最高に盛り上がっていた。

 

(だが、分かったこともあったぜ)

 

 ザンクロウは適当な酒を店員に頼み、先程分かったことを頭の中で整える。

 

(年に一度の大祭り、そりゃ王城の警備が厚くすることには何の疑問も浮かばなかったろうが、ありゃ少し無意味に多かった。・・・精々屈強な騎士や魔導士を配備させるだけでも王城の城壁は固められるだろう。だが、城門前に20人もの騎士(・・)、〝王に仕える騎士(・・)〟のみの警備だった)

 

 注文した酒を一気に煽り、一息つく。

 

「これは、なんかあんだろうって」

 

 ニヤリ、と笑ったザンクロウは、また酒を勢い良く喉に通していった。

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

「お客さーん。もう店閉めるよ? 起きてくれねぇかなぁ!」

 

 考えに耽り、一人で飲んでいたザンクロウは先程邪魔されたのが気にくわなかったのか、酒を沢山飲んではまた飲んでの繰り返しをして、一人で潰れてしまったのであった。

 居酒屋の店主はザンクロウが記憶が飛ぶ前に置いたのか、ちゃんと手元にはお金が置いてあった。これに店主は『酔っ払いにしては律儀だ』と感じ思い、店が閉まるまでは寝かせていたがもう朝だ。この居酒屋は朝まで営業をして、早朝には閉めるようになっているのだが、ザンクロウのように泥酔して爆睡するお客は沢山扱ってきた。なので店主はそれと同じようにザンクロウも扱うように、

 

「朝だぜ兄ちゃん!! 起きなぁぁぁぁあああああああああああ!!!!」

 

「うぉぉぉおおおおおおおおおおおっっっ!!? なんだって!!?」

 

 ガクンッガシャンバタァン! と豪快に驚いたザンクロウは面白いように飛び上がり、床に転がり落ちた。店主の厳つい大きな声にザンクロウは目を吊り上げて抗議する。

 

「オイオイオイオイ! 客になんつー対応だっつーのって」

 

「悪ぃな、だがアンタを最後まで寝かせてやってたんだ。感謝して欲しいぜ。ほらほら、早く出てけ、オレはこれから寝ずに『大魔闘演武』を見に行くんだ。これを逃したら年を越せないぜ」

 

「あ? へ? もう、朝か?」

 

「そう言ってるだろう? ほら早くしてくれ。誰よりも速く行かないとすぐ混んで良い席が取れなくなっちまうよ」

 

 ザンクロウはワシャワシャと獅子の鬣のように乱れた頭をまた掻き乱し、寝たことで少しだけ減った酔いを他所に再度思い出す。

 

(予選はどうなった?)

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)は勝ち進んだのだろうか、と。ふと思い出したかよのうにザンクロウは店主に礼を告げて居酒屋を出て、朝日が登っているのに気づく。

 周囲に喧騒は無く、静かな音と、朝特有の冷たい空気が王都を包み込んでいる。欠伸を一つ吐き、ザンクロウは大魔闘演武会場である《ドムス・フラウ》にへとゆっくりと進んでいった。また堂々とした足取りで。

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 日が上り、太陽の光が花の都を照らした時刻には既に大魔闘演武会場の《ドムス・フラウ》は数千万人以上もの見物客で満員となっていた。

 年に一度の祭りなだけあり、大きな歓声と盛り上がる心臓の高鳴りを感じさせるような熱気が《ドムス・フラウ》を更に暑くさせていた。

 今年も最高に盛り上がっているこの魔法の祭典『大魔闘演武』に、フィオーレ王国随一の、輝かしい一位という(いただき)を手に入れんとばかりに強豪なギルドが弱肉強食の如き生き残り、栄光なる参加資格を得たギルドが、

 

 今、会場にへと足を踏み入れるのだった。

 

 

 

 

 

『さぁ! 今年もやってきました!! 年に一度の魔法の祭典!!! 《大魔闘演武》!!!! 実況は(わたくし)チャパティ・ローラ。解説には元・評議員のヤジマさんにお越しいただいておらます。ヤジマさんよろしくお願いします』

 

『よろスく』

 

『一日目のゲストにはミス・フィオーレにも輝いたギルド『青い天馬(ブルーペガサス)』のジェニー・リアライトさんをお招きしています』

 

『今年は青い天馬(ウチ)が優勝しちゃうぞ~ ♡』

 

 ワアアアアアア!! と歓声が会場を、いや都に轟くほどに賑わいが最高潮に鳴り響く。

 実況のチャパティが今大会の流れや、会場での禁止事項やらを面白い冗談など入れて聞き手を飽きさせない話術で会場を程よい雰囲気で落ち着かせる。後のギルド紹介の為に。

 

『さあ、(わたくし)の話もここまでにして、会場の皆さんも、もう期待で胸の高鳴りが治まらなくなってきたようですねぇ・・・・・いよいよ選手入場です』

 

『よろスく、あー・・・・・あー・・・・・よろスく』

 

『ヤジマさん!! ちゃんと拡声器音出てますから』

 

 あはははははっ!! と会場が活気の笑いで満たされる。ヤジマの(恐らく)冗談に観客たちが沸く中、とうとう勝ち進んだ選手たちの入場。

 

『まずは予選8位、過去の栄光を取り戻せるか! 名前に反した荒れくれ集団! 〝妖精の尻尾(フェアリーテイル)〟!!!』

 

 一番に入場してきたのは、ギリギリ勝ち進んだであろう妖精の尻尾(フェアリーテイル)の主要メンバーである、ナツたちであった。

 堂々と腕を天に衝かんばかりに翳したナツ。他のメンバーの顔も凛々しく堂々としたものだったが、反対に観客からの声援は無く、逆のブーイングを浴びせてきたのだ。

 

「んなっ!?」

 

「ブーイング・・・・・だと?」

 

「うぬぬ・・・・・」

 

 ナツはまさかの反応に、グレイはまさかここまで非難を受けるとはと感じ、エルフマンは悔しさで唸る。

 

『毎年最下位だった妖精の尻尾(フェアリーテイル)が予選を突破し、すでに8位以内決定ですからね~。大陸中を騒がせた〝天狼組〟の帰還により、フィオーレ(いち)となるか!?』

 

 実況のチャパティの脇でヤジマが妖精の尻尾(フェアリーテイル)に向けて親指立てて密かに声援を送りながらも、やはり会場のブーイングは止まない。

 

「うう・・・・・」

 

「気にするな、ルーシィ」

 

 止まぬブーイングに、気分的に愉快になるはずも無く、気落ちする中、エルザがルーシィに声を掛ける。そして同時に、耳にはブーイングではない声もあった。下を向いていたルーシィだったが、すぐに顔を上げて声がする方向へ向くと、出場していない妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーたちが声をはち切れんばかりに応援をしていくれていた。

 

 その声援はこの会場で何よりも小さかったかもしれないが、ルーシィには何よりも元気にしてくれる声援だった。だが、ふと妖精の尻尾(フェアリーテイル)のマスター・マカロフや他のメンバーとは別の人物も応援していた。

 

 その人物とは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の創設者にして、初代妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターである、マスター・メイビスの姿があった。遠目から見れば小さな女の子がはしゃいでいるだけに見えていたのだが、その正体を知ってしまってはルーシィやあのエルザも唖然としてしまった。

 本人曰く『天狼島にいるのもヒマなんですよ』と、わざわざ遠くまで来て応援してくれる初代マスターにナツは喜んで笑っていた。グレイは幽霊の凄さに冷や汗を流していたが。

 

 そして、たとえ今まで最下位でブーイングを受けていたが妖精の尻尾(フェアリーテイル)だったが、やはり待ちに待った『大魔闘演武』の最初を飾った入場だけあり、会場の興奮の熱気はまたも増すようだった。

 この盛り上りを掴むように、実況や進行を務めるチャパティは続けて次の予選突破した選手紹介に移った。

 

『さあ! 続いては予選7位!! 夕暮れに(たたず)む戦い狂う鬼!! 〝黄昏の鬼(トワイライトオウガ)〟!!!』

 

 それを聞いた妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバー面々とナツ達。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の登場とは違う、熱気ある歓声が会場を震わせた。

 入ってきたのは、一番先頭に進み《黄昏の鬼(トワイライトオウガ)》 のマークが大きく刻まれた巨大な旗を片手に持ち、真っ赤な真紅の髪がボサボサに伸ばされ、その頭から抜きでた二本の角と、顔を覆う鬼面にも二本の角が生え、計四本の角を鋭く尖らせた青年が堂々と旗を振って入場し、続いて入ってくるメンバーも独自性が強そうな面々だった。

 

 続いて次の予選突破した選手紹介にへと移る。

 

『6位には女性だけのギルド!! 大海原の舞姫!! 〝人魚の踵(マーメイドヒール)〟!!!』

 

 ウォォォオオオオオオオオオオっっ!! と主に男性観客たちが人魚の踵(マーメイドヒール)の食い付きが凄かった。どの女性も美しく、凛々しく、そして何処か男とは違う『強さ』をも感じさせる雰囲気が独自的だった。だが、やはりどの世界 の男たちも、美しき女の前では魂が抜かれるが如く虜になっていくのにはそう短くは無かった。

 

『5位は漆黒に煌めく蒼き(つばさ)!! 〝青い天馬(ブルーペガサス)〟!!!』

 

 キャアアアアアアアアアアアアアっっ!!! 続いて登場してきたのは人魚の踵(マーメイドヒール)に負けぬ黄色い歓声が青い天馬(ブルーペガサス)を包んだ。

 青い天馬(ブルーペガサス)を語るのならこの男を忘れてならない、と言わんばかりに一番前に出て、屈みながら決めポーズをしているのは頭身がかなり低いながらも、なぜか青い天馬(ブルーペガサス)で有名なイケメン魔導士三人組《トライメンズ》に慕われている一夜=ヴァンダレイ=寿。周囲からの反応は全て《トライメンズ》の美男が成す黄色い歓声なのだが、一夜だけがかなりの異色を放っていた。主に残念な方向に。

 そして誰もが言わずと知れた『青い天馬(ブルーペガサス)』イケメン魔導士の三人組《トライメンズ》。

 別名『白夜のヒビキ』と呼ばれるヒビキ・レイティス。週刊ソーサラー「彼氏にしたい魔導士ランキング」不動の1位。その記録は7年間続くという偉業とも呼ばれる伝説を作った。

 《トライメンズ》のツンデレ枠として人気を誇る別名『空夜のレン』のレン・アカツキ。肌を焼いたレンはとてもワイルドに決めて、同世代であるヒビキと並び女性の人気が規格外。

 そして《トライメンズ》の別名『聖夜のイヴ』と呼ばれるイヴ・ティルム。7年後は比較的大人な男性に成長し、もはや「弟キャラ」として年齢に危惧を早めに感じ始めたのが最近の悩みという。

 青い天馬(ブルーペガサス)のフレッシュな空気を醸し出しながら、登場を終える。

 

『4位!! ・・・・愛と戦いの女神!! 聖なる破壊者!! 〝蛇姫の鱗(ラミアスケイル)〟!!!』

 

 ドッッ!! と会場がまた熱気が上がるのを感じた。堂々と入場してくる蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のメンバー。

 グレイの兄弟子でもあるリオンも所属しているそのギルドには、なんと『聖十大魔道』の一人である別名『岩鉄のジュラ』と呼ばれるジュラ・ネェキスも参加していた。

 この『聖十大魔道』通称は聖十と呼ばれ、《評議院》が定めた大陸で特に優れた10人の魔導士のことをそう呼んでいた。これには妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターであるマカロフも数えられている。

 だが、この〝4位〟という実績に不満を(こぼ)すのは『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』のマスターであるオーバ・ババサーマという老婆がクルクルと手を回して叱責する。

 

「何で予選4位なんだ!! 手を抜いたのかいっ!!? バカモノ!!」

 

 〝聖十〟が居るジュラを思えば、遥か上位まで狙えたと考えるオーバには確かに、と他と蛇姫の鱗(ラミアスケイル)メンバーも頷いていたが、すぐにそうなった理由が判明する。

 

「ごめんなさいオババ様。アタシ・・・ドジしちゃって」

 

 とっとっ、と緊張でもしてるのかと思わせるほど足取りがおぼろげで、赤紫色のピッグテールにリボンが特徴の少女がオーバに謝るが、途中で突起物が何もない砂場で転ぶ。

 

「シェリアあわてるな」

 

「ごめんね、リオン」

 

 リオンがシェリアと呼ばれた少女に、改めて間の抜けた小さな失敗をするなよ、と頭を軽く手を当てて冷や汗を流す。

 

「誰だアイツ?」

 

「いつもの〝愛〟はどうした? 〝愛〟は?」

 

青い天馬(あっち)も見たことない人だけど・・・・人!!?」

 

 揃いに揃った他のギルドメンバーに妖精の尻尾(フェアリーテイル)も馴染みのある面々も目に移る。ナツとグレイは顔馴染みでもある『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』のメンバーに一人だけ違うのに気付き、ルーシィも何度も助けてくれた『青い天馬(ブルーペガサス)』にも見たこともないウサギのようなキグルミを着た新人(ニューメンバー)も居ることに驚いていた。

 

「シェリアはシェリーの従妹なんだ」

 

「おおーん。めちゃくちゃ強いんだぞ」

 

「ううん。アタシなんかまだまだ〝愛〟が足りないの」

 

「ほめてんだよっ!」

 

「やっ! ごめんねトビー」

 

「キレんなよ」

 

 蛇姫の鱗(ラミアスケイル)の一連の漫才的なやり取りを懐かしく感じながら聞いていたナツ達だったが、グレイに不敵な笑みを浮かべてやってきた兄弟子に自然と口角が吊り上がる。

 

「グレイ。あの約束忘れるなよ? オレが勝てばジュビアを我がギルドに」

 

「約束なんかした覚えはねーけど、おまえらだけには負けねーよ」

 

 何やら勝負事をすることを前もって約束するのなが、と勘違いした青い天馬(ブルーペガサス)の一夜が小気味良いステップを踏みながら美しく大魔闘演武用の衣装を纏ったエルザにへと近付く。

 

「そういう事なら私はエルザさんを戴こう!!」

 

「い・・・・戴くなっ!」

 

「う~~ん相変わらずいい香り(パルファム)だ」

 

 何度も断れているエルザにアタックし続ける不撓不屈(ふとうふくつ)の精神を持った一夜に《トライメンズ》はまたも『い、一夜さん・・・・なんてお方だ』と大きな感銘を受け、負けじと妖精の尻尾(フェアリーテイル)の女性メンバーに口説き落としに迫った。

 

「オレはおまえにするよ・・・・ふん、べ、別に好きで選んでる訳じょねーぞ」

 

「アンタ・・・・そのキャラ7年もやってたの?」

 

「そうなんだルーシィ聞いてくれ。オレはこのスタイルを墓場まで持っていくつもりなんだが、ぶっちゃけ悩んでることも──────」

 

「いや本当にこんな時にどんな話よ!?」

 

 レンが何気に気安く女性に肩を回し、その見惚れてしまうほどの男前な顔が急にドアップされ、そして口から出されたツンとした後のデレも、ワイルドなレンから出されれば並大抵の女性はそれで落ちてしまうが、ルーシィは逆にこのツンデレ(スタイル)を7年も貫き通していたことに驚いていた。

 それを見たイヴも、『じゃあ僕はウェンディちゃんだね ♡』と意気揚々に向かうが、現在居る妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーには、小さくも保護欲を誘い、それでいて健気で優しい可愛いウェンディをイヴは必死に探すが残り一人だけしか居なかった。

 きっとこの7年間で何かあったのだろう、イヴも色々な経験してきたし人生は死んでも分からないことばかりだと僅かながらも感じとるくらいは成長した、と自負している。

 だから、と。

 イヴが向かう先に居る人物が、あの可愛らしかった小さな少女が、たとえ筋骨隆々(マッチョ)な男っぽい風貌になってたとしてもイヴは訊ねた。

 

「成長・・・・・・・・・・・・・・・・したね。残念な方向に・・・・・・・・・」

 

「アホか」

 

 ウェンディと間違えられるとは最初(はなっ)から思ってはいなかったのだが、まさか間違えるとは・・・・間違えるのか? とエルフマンは美少年風の美青年に正直な感想を返した。

 そして残る《トライメンズ》のヒビキが女性だけギルド『人魚の踵(マーメイドヒール)』に笑みを浮かべて、

 

「僕は人魚の踵(マーメイド)に入ろうかな!」

 

「主題がズレてるよっ!!」

 

 集まったギルドには、数多くの魔導士が我先にと因縁があるものや、関係のある者同士で既に火蓋を切ろうとしていたが、とあるギルドに妖精の尻尾(フェアリーテイル)が、特にルーシィが気になって眺めていた。

 

「あれって、本当に『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の魔導士たち? とてつもなく異質って感じの雰囲気なんですけど」

 

「・・・・この間報復(あいさつ)しに行った時には居なかった奴が居るな」

 

 『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の刻まれた旗を持つ深紅の髪をした鬼面の男はルーシィたちが見ているのに気付き、他の黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のメンバーに知らせる。

 すると、まるだ花魁(おいらん)のように肩を露出した着物姿の美しい女性は深く礼をして、他のメンバーも習って頭を下げ挨拶をした。

 これに驚いたルーシィはあたふたとし、エルザは怯まずに手を僅かに上げ、挨拶する。

 

「び、びっくりしたし、なんかあの人、凄い優しそうな笑顔だった」

 

「あぁ。本当にあのギルドの者なのか疑ってしまう笑顔だったな。他の者も習って頭を下げていたし、もしかするとあの人がリーダーなのかもしれないな」

 

 ルーシィやナツ、グレイを合わせ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)内でS級魔導士を名乗るエルザがよく指示をすることで、皆がリーダー的存在をエルザに例えるなら、先ほど挨拶してきた女性は、温かみある優しさで皆を上手く誘導するリーダーにも見えた。

 エルザは深く彼女を見ていたが、挨拶を交わすだけだ、それ以上の介入はなかった。

 

 それぞれのギルドが挨拶を交わしていると、実況のチャパティが流れを進行する。

 

『続いて第3位の発表です! ・・・・おおっと! これは意外・・・・!! 初出場のギルドが3位に入ってきた!!』

 

 その実況の声と共に会場に入ってきたのは、漆黒の色がギルド覆っているかのように、その者たちが現してきた。

 

『真夜中遊撃隊!! 〝大鴉の尻尾(レイヴンテイル)〟!!!!』

 

 先頭に立ち、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)紋章(マーク)を刻んだ巨大な旗を片手に、黄金の鎧と黒いマントを靡かせて歩くその男は、異様な雰囲気を装い会場中央へと悠々と歩いてくる。他のメンバーも異様な魔力と邪気が漂っている。

 

大鴉の尻尾(レイヴンテイル)だぁ!!?」

 

「これは・・・・マスターの息子、イワンのギルド」

 

「でも・・・それって・・・・!」

 

 ガバァッ! と反応を起こしたのは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターであるマカロフだった。

 

「闇ギルドじゃっ!!! こんなのが大魔闘演武に参加してよいのかっ!!! おおぅ!!?」

 

「マスター落ち着けよ」

 

 怒りを、いやそれよりも闇ギルドが参加を許していいものなのかとマカロフは大声を上げて誰に対して抗議していいのか分からず、その場で叫んでいた。だがそれは息子のギルドだけでもあり、特別危惧していたことだった。

 

「確かに邪気を感じますね」

 

 幽体でもある初代マスターのメイビスでさえ、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)の邪気を察知する。

 そしてマカロフが叫んだことにより、他の観客たちもこのギルド『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』の存在が今まで聞いたことがないものだと口に出して確かめ合っていた。

 すると実況であるチャパティが説明を補足した。

 

『えーー公式な情報によりますと、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)は7年以上前から存在していましたが、正規ギルドとして認可されたのは最近のようですね』

 

『ギルド連盟に認可されてる以上、闇ギルドじゃないよな』

 

 これには解説のヤジマも納得せざるを得なかった。きちんとした取り決めを通して認可したギルド連盟。違反をすれば多大な罰則が付くのに対し、認可したものならばたとえどのような事を言おうと国の決め事を批判したこととなり、ますます面倒な方面にへと突き進んでしまう。

 マカロフは歯軋りを起こし、冷や汗を流す。

 

「イワンめ・・・・どのような手を使って・・・・」

 

 盛り上がる観客の出入口にて、その『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』のマスターにして、マカロフとラクサスの親族でもあるイワンが壁に寄りかかりながら黒い笑みを零す。

 

「おとなしくしていただけだよ、親父殿。この日の為に」

 

 盛り上がる声援の中、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)の黄金の鎧の男が妖精の尻尾(フェアリーテイル)にへと近付く。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)。小娘は挨拶代わりだ」

 

 そう言うと、目元に仮面をした青い肌の奇妙な男が、肩に乗っている小動物が『キキキ』と鳴き、魔法を使い顔だけをウェンディになると、倒れるような仕草をしてウェンディが倒れた原因が分かった。

 

 それを見たナツはすぐに血管を浮き出るほど怒りの顔となり、ルーシィや他のメンバーも同様に『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』一同を睥睨(へいげい)する。

 

 それを鎧の男は面白いように鼻で笑いながら、

 

「祭を楽しもう」

 

 鎧の男の発言に、マカロフは離れてながらも聞き、息子・イワンの変わらぬ卑怯な手に怒りを現していた。

 

『さぁ・・・・さあ予選突破チームは残すとこあと2つ 』

 

 あれ? と観客たちは首を傾げて不思議に思う。一つは現在ファオーレ(いち)のギルド『剣咬の虎(セイバートゥース)』なのは分かる。だがもう一方のギルドとは? とファオーレ王国での主力ギルドは出揃ったはずなのにと。

 

 そこでグレイとエルザはまだ見ぬ知らない強いギルドがあるのかと身構え、そして同時にジェラールたちに頼まれた『謎の魔力』が関係するのでは、と出てくるギルドを待っていた。

 

 ザワザワと会場があのギルドか、いやそれともあのギルドかと互いに話し込んでどのギルドの者がこの『大魔闘演武』2位の座に着いたのか気になってしょうがない様子だった。

 一つは『剣咬の虎(セイバートゥース)』だというのは間違いないと豪語している観客に、出場しているナツたちは他のギルドと共に待っていれば、実況のチャパティがとうとう進行する。

 

『さあ!! 予選2位のチームの入場です! ・・・・んんん!? おおっとこれは意外!!! 堕ちた羽のはばたく鍵となるのか!? まさかまさかの・・・・』

 

 オオオオオオオオオオオッッ!!! と歓声が上がる。そして、実況の声と共に現れたのは、突如一瞬にして会場に(まばゆ)い雷が光り、そして、

 

『〝妖精の尻尾(フェアリーテイル)〟Bチームだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』

 

「「「「何ぃぃぃーーーーーーーーっっ!!!?」」」」

 

 そう。そこに現れたのは同じ妖精の尻尾(フェアリーテイル)であるが、揃っているのは同じ妖精の尻尾(フェアリーテイル)だからこそ分かる精強な魔導士たちだった。

 まずそれに一番反応したのは、エルフマン。

 

「姉ちゃん!?」

 

「ガジル!!?」

 

「ジュビア!!!?」

 

「ラクサスとか反則でしょーーーーっ!!!」

 

 会場も驚く妖精の尻尾(フェアリーテイル)のもう一チームに沸く中、何より驚くことが、

 

「つーかつーかつーか! 何でミストガン(・ ・ ・ ・ ・)がいるんだよっ!?」

 

「まさか、おまえ・・・・・ジェラール・・・?」

 

 すると、顔が迷彩柄のマスクと布で覆っており、目元以外の肌が確認できないミストガンを見て、エルザは冷や汗を長し、確認をとってみれば、ミストガンは人差し指を口元まで持ってくると、『シーー』と静かに肯定した。

 

『いやー今回からのルール改正により、戸惑ってる方も多いみたいですね、ヤジマさん』

 

『ウム・・・今回の大会は各ギルド1チームない()2チームまで(・ ・ ・ ・ ・ ・)参加できるんだよなぁ』

 

 ヤジマの席からでも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の、というよりマスターのマカロフが『見たかーっ! これが妖精の尻尾(フェアリーテイル)じゃーーっ!!』と叫んでいた。

 

『決勝では各チームごとの戦いになる訳ですが、同じギルド同士で争う事が出来るのでしょうか?』

 

『大丈夫じゃないかね、あそこは』

 

『でも・・・ちょっとずるくない? 例えば一人ずつ選出して争う競技があったとして、妖精の尻尾(フェアリーテイル)だけペアで戦えるって事だよね?』

 

『100以上のチームの中、決勝に2チーム残った妖精の尻尾(フェアリーテイル)のアドバンテージという事ですね』

 

『これは有利になったねぇ、マー坊(ズズズズッ!)』

 

『マー坊? あ、すみません。急に拉麺(ラーメン)食べ始めるの止めてもらって良いでしょうか? ってアレ?? 何処から?!』

 

 その解説にルーシィが予選開始時に思った大量のギルド参加数の意味が分かった。妖精の尻尾(フェアリーテイル)だけでは無く、他のギルドも2チーム出していたということらしい。

 一人冷や汗を流して意味かま分かったルーシィだったが、横を一人前に出る者が居た。それは、

 

「冗談じゃっっっねえッ!!」

 

 ナツの大声量が会場を一瞬だけ静まり返る。

 

「たとえ同じギルドだろーが勝負は全力!!! 手加減なしだ!! 別チームとして出場したからには敵!! 負けねえぞコノヤロウ!!」

 

 ナツの前に立っているのは同じギルドでも、精強過ぎる『S級魔導士』として認められているラクサスを筆頭にミラジェーンとミストガン(ジェラール)に、そしてそれに並び立っているS級に次ぐ実力を持つ『鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスライヤー)』ガジルに、身体を水に変える魔法を扱うジュビアも居るこの妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチーム。

 マカロフの真剣(ガチ)チームただけあり、やはり啖呵を切るには不味い相手でもあるが、ナツの性格をよく知っているラクサスは鼻でため息を吐き、ミラジェーンは美麗な顔で微笑み。ミストガンもジェラールの時の経験上でナツの負けん気をよく知っている為、迷彩柄のマスク越しに口角が上がった。

 

「望むところだよ。予選8位(・ ・ ・ ・)のチームさんよォ」

 

「ぬぐっ!」

 

 そしてガジルも、負けず嫌いのせいか、ナツの啖呵に軽く挑発するように予選ギリギリ突破という痛い所を突かれたナツは言葉を詰まらせた。

 

「姉ちゃぁ~ん」

 

「うふふふ。がんばろうね。エルフマン」

 

 そしてエルフマンも、最愛の姉妹に見せる為に出場した理由だったのに対し、まさか姉のミラジェーンが出場するとはと驚愕の事実と、家族だから分かる『魔人』ミラジェーンの果てなき強さを前に、がっつりとやる気を削ぎ落とされた。

 だが姉もそんな弟の気持ちが分かっているからか、からかうようにしてミラジェーンはエルフマンに共に頑張ろうと励ましていた。戦いになれば情け容赦しなさそうだが。

 

「ジェ・・・・・・ミストガン。おまえ・・・・・」

 

「なかなか話の分かるマスターだ。事情を話したら快く承諾してくれたよ」

 

「会場には近づけんと言っていただろう。ルール違反だ。おまえはギルドの人間じゃない」

 

「この方法は思いつかなかったんだ。それに、オレとミストガンはある意味、同一人物・・・・・と聞いているがな」

 

 エルザはまさかジェラールが参加してきたことに驚くが、それでは皆に見付かるという危険な行為では無いか、と心の底では思っても、口では言えない為に少しきつい口調で叱責する。

 そして、ジェラールもエルザが思って言ってくれているのを感じながらも、『謎の魔力』をより細緻(さいち)に調べる為にやって来たのだから簡単には引けなかった。最初こそもともと冷静な二人だから小声で会話していたが、逆に二人も頑固な面があるのを横から見ていたラクサスが感じ取り、面倒なことは早めに終らす為にもラクサスが入ってきた。

 頑固な所がある二人だが、要点を冷静に見据えるのには卓越した二人には、流れを話せば終わることもラクサスは理解していたので、ジェラールに『ミストガンはもう少し無口だ。気をつけな』と彼に腕を回してエルザに悟らせる。

 エルザも腕を組んで溜め息を吐き、ラクサスを軽く睨む。ラクサスは肩を竦めるだけで、エルザはそれで行くんだな、と理解し、それ以上は言及してこなかった。

 

 何やら妖精の尻尾(フェアリーテイル)応援団の方でもマカロフが初代に向けて両手合わせて必死に謝っているのを見えてしまったエルザは、最早笑うしかなかった。

 それに、初代は『妖精の尻尾(フェアリーテイル)が優勝する為ならOKです』まで許可された。凄い豪快な許可範囲内だ。、

 

 そして、早速ジェラールはエルザに何か気付いたことは無いか、と訪ねるのだったが元闇ギルドであった『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』が怪しいという以外は特に無い、と答えた。

 だが、エルザも分かるように『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』は今年初出場のギルド。毎年感じる『謎の魔力』とはつじつまが合わない。

 そんな事を話している途中に、一気に会場がオオオオオオオオ!!! と歓声が盛り上がる。

『さぁ! いよいよ予選突破チームも残すとこ、あと一つ!! そう!!! すでに皆さん御存じ!!! 最強!!! 天下無敵!!! これぞ絶対王者!!! 〝剣咬の虎(セイバートゥース)〟だぁぁぁぁあああああああああああッッッ!!!!』

 

 遂に、会場の観客たちが待ち焦がれた猛虎のギルドに、ウウウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!! と地が揺れるのでは無いかと思わせるほどの大声援に、ギルド『剣咬の虎(セイバートゥース)』の人気がどれほどのものなのか理解させられたのだった。

 これは妖精の尻尾(フェアリーテイル)だけに理解するものでは無く、他のギルドもそうであるように、改めてフィオーレ最強のギルドを名乗るメンバーだった。

 先頭にはナツやガジル、ウェンディと同じ滅竜魔導士(ドラゴンスライヤー)のスティングとローグが溢れ出る威勢を湧然(ゆうぜん)として歩いてきた。

 ナツ、ガジル共に闘争心をギラつかせながら剣咬の虎(セイバートゥース)を睨むが、当の剣咬の虎(セイバートゥース)の面々は妖精の尻尾(フェアリーテイル)も、他のギルドもまるで眼中にでも無いように悠然としている。

 

『これで全てのチームが出揃った訳ですが、この顔ぶれを見てどうですか、ヤジマさん』

 

『あ~若いって、いいねぇう~ん』

『いや・・・・・そういう事じゃなくて』

 

『ぅん~?』

 

『うぅ、ゴホン。えーでは・・・・・皆さんお待ちかね!!』

 

 ゴゴゴゴゴッッ!! と会場の中心から、巨大な石板のようなものが会場を揺らしながら盛り上がってきた。

 

『大魔闘演武のプログラム発表です!!』

 

 オオオオオオオオ!!! と観客たちは大いに盛り上がる。これでどのような競技をするのか分かるからだった。

 

「一日に競技とバトルがあるのか?」

「バトルかー!!」

 

 グレイは一日の組み合わせに何か理由を感じ、ナツはバトルがあることに喜んでいた。

 

『まずは競技の方ですが、これには1位から8位までの順位がつきます。順位によって各チームにポイントが振り分けられます。競技パートはチーム内で好きな方を選出する事ができます。続いてバトルパート。こちらはファン投票の結果などを考慮して主催者側の方でカードを組ませてもらいます』

 

「何だと?」

 

「勝手にカードを組まれるのか」

 

「つまり運が悪いと競技パートで魔力を使い切った後にバトルパート突入?」

 

 グレイもエルザも、このルールがよく出来、尚且つ不鮮明な相手との戦闘も考えて『競技』から『バトル』へと繋ぐ魔力の使いようで、勝利を左右せれる可能性もあるということ。

 

『バトルパートのルールは簡単! 各チームランダムで対戦していただき、勝利チームには10(ポイント)。敗北チームには0(ポイント)。引き分けの場合は両者5ポイントずつ入ります』

 

 競技で稼いだあと、バトルパートで更に稼ぐことも可能ならば、競技で稼げなかったポイントをバトルパートで挽回する。という幾らでもやりようがあるという内容だった。

 この大会ルールに観客たちも見所がある場面が多々出来、更には《演武》なだけあり、バトルパートという『魔』を競い闘うのを見られるという興奮で、歓声が上がりに上がっていた。

 

『では皆さん!! これより大魔闘演武オープニングゲーム!! 〝隠密(ヒドュン)〟を開始します』

 

 

 

 

 

 




更新遅くなり申し訳ない!
ザンクロウのキャラ崩壊半端ないですけど、よろしくお願いいたします!


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第10話「進む大魔闘演武」

亀さんよろしく遅々微々更新(泣)
もう、大変です。仕事とか(泣)
もく(泣)しか出てこない(泣)



・誤字脱字あるかもしれません。
・なんかまたオリキャラ出てますゴメンなさい。


 参加人数が限られた中、それが始まった。

 

 『大魔闘演武』オープニングゲーム〝隠密(ヒドゥン)〟。

 

 今それが開始しようとしていた。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)を応援するであろう観客席で、マスター・マカロフ達が居る席の隣では静かに、だが一見すれば絶対に目が離せないであろうその存在を、『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』創設者である初代マスターのメイビスが気付いた。

 

(こ、これは!)

 

 姿は少女然としているメイビスだが、それでも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の伝記を数多残したのも事実であるそのメイビスが戦慄したのだ。

 この事実を早く知らせるべく、三代目と六代目を務めている妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターのマカロフにへと叫ぶ。

 

「マスターマカロフ!」

 

「ぬぉぉおっ!? 急に大声を出してどうされたのですか初代?」

 

 応援ということもあり、年に合わず応援団を彷彿させる学ランを着込んだマカロフに、若干興奮気味で、まるで近未来の出来事を目の当たりにしたかのような反応をしている少女のメイビスが指差した方向にへと顔を向けると、

 

「おぉおうッッ!?」

 

「どうしたのマスター!? マスターメイビスも! ・・・・うん? どうしたのアスカ?」

 

「みてみてー」

 

 メイビスとマカロフのマスター二人がワナワナと震え始めていることに不審に思ったビスカが、愛娘であるアスカが服を引っ張って何かを指差している。父のアルザックと共にそちらに顔を向けるとそこには、

 

「ほほぉ~。やっと偉大なる俺に気付いたか? 本来ならば偉大なる(オレ)に気付かなかったこと万死に値するところなのだが・・・・まぁ、(オレ)とは寛容なることこそが(オレ)なのだから許してやらんこともない。喜べ!」

 

「さ、流石は黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のマスター代理! もうマスターとも呼ばせてくだせぇ!」

 

 今まで妖精の尻尾(フェアリーテイル)を借金の圧力を掛けていた《黄昏の鬼(トワイライトオウガ)》マスターの筈であるバナボスタを椅子(・・)にして座っているのは、獅子のように髪が逆立て、何処までも真っ直ぐにギラつかせた瞳は誰の指図も受けないと無言で言っているかのように強くはっきりとした眼光を放っている青年だった。

 そんな青年がバナボスタを椅子にしているというこの場面、どう見ても青年が目上となっていそうだが、あの巨漢をここまで、あの妖精の尻尾(フェアリーテイル)に借金返済を理由に食い潰していたあの『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のマスター・バナボスタがここまでされて笑って媚を売っているのに、あのマカロフさえ不審に思った。

 アスカと一緒にビスカが『ハイ見ちゃダメよー? 今のは忘れるのよ?』と他のメンバーと共にアスカを安全地帯へと移動させた。

 

 ゴホン、と。この人間イスという近代的嗜好(隔たった情報)に気になってしょうがなかった幽体のメイビスの代わりに、マカロフが聞く。

 

「あー、そこの青年や? そのー、それって・・・・」

 

「フハハハハ! 何だご老人よ? このバナなんとかいう椅子のことが気になるのか? あぁ、まぁこれは『気にするな(キ ニ ス ル ナ)』」

 

 その言葉に、

 

(なにっ?)

 

 ビキィ! と意識はあると言うのに、何故かバナボスタが這うような姿勢なっているのを〝疑問に思わなくなってしまった〟のだった。

 まるで、無理矢理引き剥がされたかのように。

 他の妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーである者も、ピィン! と一切そちらに向けることが出来なくなってしまったのだった。

 

「魔法、ではありませんねこれは」

 

 それを眺めていたのは唯一幽体であるメイビスだけがその事象を冷静に分析していた。

 

「ふむ。今の(オレ)は『寛容』こそを主体に思考を向けさせていたのだが、やはり直ぐに『王言(おうのことば)』を使うのはいけないな。うむ。以後気を付けよう。許せ」

 

 どこまで上から目線で言ってくるのか分からないが、だが彼の言葉は何処か重みが違うように聞き感じ、二度(ふたたび)聞くマカロフ。

 

「君の、名は?」

 

「うむ。(オレ)の名か、ならば心して聞け! この名こそ絶対にして最強の王の名! 我が名は───」

 

「〝(キング)だよ。でもこの国の王様の前でそんなこと言えるのキングぐらいだねぇ。でもさすがに気軽に呼び捨てされたぐらいじゃ『寛容になった』キングとは言わないかもねぇ」

 

 ぶわっ! と沸き出る観客から出た歓声が最前列で応援していた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々を包む中から、急に現れたのは可愛らしい中性的な顔立ちをした白髪の子供が、何やら会場で購入でもしたのか、唐揚げを串に刺して呑気に食べながら王土の前までゆっくりと歩いてきた。

 

「なっ!! いつの間に!?」

 

「おわあぁあ!? えっ?」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーが各々の反応をしている中、その子供らしき人物は満足そうにしてキングの前まで来る。

 そんな子供にキングと呼ばれた獅子のように、王のような構えるその青年に笑みを浮かべたまま溜め息をつく。

 

「おいおい、ヲユキ。俺の堂々たる王としての言葉を邪魔するとは・・・・万死である万死!」

 

「王だからってね、万死万死使えば良いってハナシじゃないんだよ王さま? あっ、自己紹介がまだだったね。ボクはこのキングと同じギルド《黄昏の鬼(トワイライトオウガ)》のメンバーであるヲユキって言うんだよ。気軽に呼んで良いからね♪ ヲ・ユ・キってね♪」

 

 にこやかに笑う少女の子供に、マカロフやマカオ、ワカバも対応が困っている。

 

「まぁ、王の冗句(ジョーク)もこの辺にして、共に観戦しようではないか。同じマグノリアのギルドとして応援してやっているのだからな」

 

「何ぃ?」

 

 キングの不躾過ぎる物言いに勿論のこと妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーが食って掛かろうとしたが、マカロフが手で『止めろ』と合図する。

 キングに向き合い、人差し指を椅子にしている顔がカクカクしている巨漢に向けて、言い放つ。

 

「報復、ですかな?」

 

「この境遇を見てそれを語っているのか妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスター・マカロフ? それにそれでは『報復の報復』になってしまうではないか・・・・それは面倒だぞ、実に。(オレ)は面倒が嫌いだ。あぁ、道楽は別だぞ? (オレ)は小さき道楽から大きな道楽まで愉悦したい。ぜひ(すべから)く遊戯するべきであるな道楽とは、・・・・・・・・ん? なんの話だ?」

 

「つまりこの王サマが言いたいことはですねお爺ちゃん。ギルドをメチャメチャにされたからこれで互いに納めましょう、と言っているんだよ? まぁ、ボクたち(・ ・ ・ ・)が留守の間にあった出来事だったからさ。帰ってきたら元あった場所のギルドが無くなってて、街中探して聞いてたらなんか有名になっちゃってるし」

 

 ヲユキがそう言いながら、キングに唐揚げの串刺しを分けて、椅子になっていたバナボスタをヲユキから助けると、用意された観客席に座り、またも箱ごと買ってきていた唐揚げの串刺しを再び美味しそうに口に頬張っている。そして、事も無し気に『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の後の方針を告げる。

 

「そして、あの有名なギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』に対しての対応を聞いて、見事にボロボロにされたんでこれでお相子だ、っていうウチの頭領(マスター)の方針なんだよ」

 

「な、に? マスターじゃと? では、そこの男は!」

 

「いやいや、確かにバナボスタもマスターだった(・ ・ ・)

 

 パクパクと真剣な話をしているのだが、気にしないで食べるこのヲユキという子供のペースに、他のメンバーであるマカオやワカバ達は肩をすくめている。

 

「マスター交代。それをした時に君たち妖精の尻尾(フェアリーテイル)に潰されちゃったんだよね黄昏の鬼(ウチ)は」

 

 笑顔で答えるこの子供だが、そう言えばと周りのメンバーたちが気付き始めた。

 そう、子供の割には重要過ぎる話を知りすぎていないか? という疑問だった。ギルド同士の紛争は多くは無いが少なくもない。だがそれは幾らギルドのメンバーである子供にまで知らせるのか? と。

 よく見れば妖精の尻尾(フェアリーテイル)のウェンディにも相応の歳にも見えるその子供に、マカロフはありもしない不安を駆り立てられる。

 一体何者なのか、と。

 

「まぁ。そういうことですよ? マカロフさん。別に邪な考え(・ ・ ・ ・)は持ち合わせていませんよ、ヤダなぁ」

 

 にこにこと笑ったヲユキの可愛らしい顔に、マカロフは血の気が引くのを覚えた。

 いや違う。たまたまじゃ、たまたま心を読ま(・ ・ ・ ・)れたかの(・ ・ ・ ・)ように(・ ・ ・)聞こえた(・ ・ ・ ・)のじゃ、とマカロフは汗が垂れているのにも気付かずにヲユキを見た。

 白髪に可愛らしい顔。ぶかぶかの服を着てマフラーさえ巻いている少し奇妙な格好の子供。やはり何処からどう見てもウェンディのように小さき子供にしか見えなかった。

 

「ふふふ。ありがたい感想だよ。お爺ちゃん」

 

 ゾッ!! とマカロフは思わず子供に向ける目ではない、まるで脅威を目の当たりにした瞳を向けてしまった。

 

「むぅ、ヲユキよ? お前は少し喋り過ぎているぞ? この会場の活気と歓声と共に見ていようじゃないか、我ら『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』と『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』が活躍するマグノリアのギルドの強さをな」

 

「ごめんごめんよ。ボクも妖精の尻尾(フェアリーテイル)を応援したくなっちゃったよ。だってあっちには強くてカッコいいお兄さんとお姉さんが沢山居るからねぇ!」

 

 純粋に笑い合ってキングと話すヲユキに、マカロフは未だに警戒の念を心の内だけでも潜めていた。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

『参加人数は各チーム1名。ゲームのルールは全選手出そらった後に説明します』

 

 そうして実況のチャパティが説明を終えると、一番に話し込んだのは『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』だった。

 

「ふっふっふ! 隠密(ヒドゥン)の名から察するに、やはりここは(それがし)が・・・・」

 

「カカカ! 狙ってんじゃねぇかこのゲーム」

 

「そう言うなよ、カクキ。普段手伝いと称して他のギルドに出入りをするほどの暇人フウキがたまに活躍する場面なんだからよぉ」

 

「アレ? これ声援じゃないでござるよな? そうでござるよなヨウキ殿!?」

 

(わっち)も応援してやろうかえ」

 

「素直にありがとうでござる、ゲンキ殿!」

 

「がんばれ」

 

「あれ? 声援は嬉しいのに全然顔こっち向いてないでござるよ、ボウキ殿?」

 

 恐らく弄られキャラなのか、忍者装束を纏う青年は、目元が見えないくらいの丸い兜を揺らして仲間から応援を受け、前に出た。

 

『まず名乗りを挙げたのが『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のフウキィー!!』

 

 そして、相談していたのは黄昏の鬼(トワイライトオウガ)だけでは無く、次々と他のギルドからも名が上がっていった。

 

「最初は様子見っ! アチキにやらせて」

 

「許可しよう」

 

『『人魚の踵(マーメイドヒール)』からはベス・バンダーウッドォー!!』

 

 続いて黒き鴉から、黄金の鎧の男がメンバーを選定。

 

「ナルプディング。お前が行け」

 

「了解でサー!!」

 

『『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』からはナルプディングゥー!!』

 

 スーツを上着を脱ぎ、やる気十分に向かうは青き天馬から、出てきたのは。

 

「僕が出るよ」

 

「☆ぅぁイヴくんが~一番手っ!!!☆」

 

「「イヴくんがっ~! 一番手っ!!!」」(♪わっしょいわっしょい♪)

 

『イヴコールに送り出され、『青い天馬(ブルーペガサス)』からはイヴ・ティルムゥー!!』

 

 各チームが次々と出場選手が決まっていく中、会場が注目している人気ギルド『剣咬の虎(セイバートゥース)』から出てくる選手は、

 

「私が出よう。今日は小鳥たちの歌声が心地よい」

 

『大注目! 『剣咬の虎(セイバートゥース)』から赤い月に歌う吟遊詩人!! ルーファス登場ォー!!』

 

 その瞬間、年頃の女性たちが黄色い歓声を上げてテンションをまたも上げていく。どれほどの人気を誇るのか、剣咬の虎(セイバートゥース)の人気高さが計り知れない。

 だが、もちろんこの人気には妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバー、というよりナツが気に触った。

 

「なんでこんなに騒いでんだコノヤロウ!!!」

 

 うがー!! と観客たちを見るが、それは仕方もないこと。この七年でここまで人気を博している実力があったからこそ、今に至るのだろう。ナツを宥めながらそう考えていたエルザだった。

 

「ここは(おとこ)として一番槍となって!」

 

「お前のどこが隠密(ヒドュン)って感じだよ。肉団子」

 

「ゲームの内容が分からんが、隠密(ヒドュン)という名から〝隠れる〟事が必須か」

 

「ウェンディが居てくれたらなぁ。小っちゃいし」

 

 それぞれがゲーム内容に気にして話し合ってる中、蛇姫のギルドも隠密(ヒドュン)という内容から、体が小さいのが有利。だと勘づき。新人(ニューメンバー)であるシェリアと同じ小柄な身長ぐらいのユウカだね、と笑顔で言っているが、ユウカが身長を気にしてか、吊り上がった目で睨みながら『小さい言うな』と告げる。

 だが、そんな話を聞いてる中でも、白髪の青年が勇み足で前に出る。

 

「いや・・・・初めからとばしていく。オレが出よう」

 

『おぉーと! 『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』からリオン・バスティアァー!!』

 

 それにやはり一番に反応したのが、この男。

 

「ほう、だったらオレが出よう。この大会。どんなモンか見させてもらうぜ」

『そして『妖精の尻尾(フェアリーテイル)・Aチーム』からは、グレイ・フルバスタァー!!』

 

 そしてここでもやはり一番に嬉々として反応したのが、この女性。

 

「あぁ~ん♡ グレイ様が出るならジュビアも!!」

 

「オイ!! わざと負けたらただじゃおかねーぞ」

 

『『妖精の尻尾(フェアリーテイル)・Bチームからはジュビア・ロクサァー!!』』

 

 ワァアアアアアアアア!!! とジュビアが決まったことにより、全チームの選手が決まった。会場の熱気も渦巻くばかり。

 

『以上! 8チームの参加選手が決まりました! そして! いよいよオープニングゲーム《隠密(ヒドュン)》!! そのルールとは!?』

 

 

 これにより、大魔闘演武開会試合(オープニングゲーム)が開始された。

 

 




感想やコメント貰えたら嬉しいです(´Д`)

そして、オリジナルなフェアリーテイルを楽しみたかった人には手酷い裏切り行為をおこなったかもしれません。
まさかのあの王様キャラ!
本当にすみません(泣)
でも生暖かい目で見ていってほしいです(涙)


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第11話「星降ル夜ニ」

間違えて先に12話を更新させてしまったべ

焦った焦った(((・・;)


 『大魔闘演武』の会場となる『ドムス・フラウ』の裏手に、(そび)え立つ天まで届きそうな高層な岩山に、待機していた独立ギルド『魔女の罪(クリムソルシエール)』メンバーが揃っていた。

 揃ってはいるが、事はそう簡単じゃなかった。

 

「ふん!」

 

「ごぶぅっ!!?」

 

 ゴチンッ! と耳から伝わる音が聞いている者さえ痛くさせてしまうほど響いた。

 理由は簡単だが、今回はやけに激しかった。

 

「いつまで情報集めに行ってたのこの放蕩バカ!」

 

「続けてメルディからもゴバァ!!?」

 

 ズササササっ! と地に滑り流れるかのように、ザンクロウは殴り飛ばされていた。

 もちろん殴ったのは魔女の罪(クリムソルシエール)の女性たちだった。

 

「情報集めが遅くなったのを悪く思うのは良いことだわ、うん、成長してえらいえらいよ」

 

「そうだね。でも、その反省の証拠として、お土産を買ってきてくれたわ。・・・・でもね、ザンクロウ」

 

 わなわなと震える彼女たちの手にはあるものが強く握られていた。余りにも強く握っているものだからどういう物なのかさえ分からない。

 だが、すぐに分かってしまった。

 

「教えてあげましょうザンクロウ! あなたなんで私たちの下着(・ ・)を買ってきたの!?」

 

「うぅ…………しかもサイズがピッタリだよウル~」

 

「うえっへっへっへ……オレっちも甘く見られたもんだぜ! もう二人の体はオレっちが緻密にゲボラァッ!?」

 

 恥ずかしさの余り、ウルティアが神速のパンチが妙に良く入る。

 

「ここここのっ! ジェラールが居なくなると急にテンション上がんないでくれないかしらッ?」

 

「うぅ~しかも個人的に好みの柄だよウル~」

 

 泣き泣きメルディはザンクロウから貰った下着を広げたりして見ていた。ウルティアもゆっくりとだが、下着を見てみる。

 

「ウルティアのはやっぱり黒だよな。なんつーの………………黒が似合うっつーか、むしろ黒しか似合わない?的な。オレっち的には何色でも構わないけど、巨乳安産型のウルティアさんには異性を惑わし蕩けさせる黒が一番だとピキーンッ! って来たんだってよ! なにせそのブラジャーなんて単純な黒色だけではなく細かにきらびやかな装飾の刺繍が縫られていて変な下着より一番にウルティアの胸に似合う。なによりその布の性質も違う。その下着は女性が不快に思う感覚を無くすことを最上の問題としてそれを無くすために開発さた最新の下着なんだってよ。フィオーレ全女性たちがもっとも使う下着として有名な下着屋から買った代物なんだってよ! ウルティアは巨乳だからオレっちも探すのに張り合いが出てきてよォ・・・・・」

 

「もう分かった黙ってお願いィィーー//////!!」

 

 恥じらいながらもしっかりとザンクロウの頭部を残像を残すほどの威力が籠るパンチを繰り出す。

 ザンクロウもザンクロウでよくもあそこまで言えたものだ、とメルディが傍から見ていたが、そこで一瞬にして頭に考えが上がる。

 

(も、もしかして、私もウルみたいに思われてた考えがっ!?)

 

 紅潮する顔をしながら、ふとザンクロウを見てみれば、何故かグッ! と親指立てて地に伏している。

 

「ハァ~……バカはほっときましょう、バカは」

 

「二回も、ちょっとウル怒り過ぎじゃない? ザンクロウが買ってきてくれた物、何かと言いながらちゃんとしまって…………」

 

「ちょっ、ちょっとメルディ!」

 

「ひ~ん! ごめんなさ~い!」

 

 可愛らしく舌を出して謝るメルディに、ウルティアは何度目か分からない溜め息をついて、自身で生み出した水晶を取り出した。

 

「とにかく大魔闘演武を監視しないといけないの、だから私たちが喜ぶ喜ばないは関係ないのよ。いい、メルディ?」

 

「はーい」

 

「じゃ、さっそく見ようって」

 

「「復活はやっ!?」」

 

 毎度のことながら、ウルティアの打撃では今のザンクロウには効かないのか、相変わらずケロっとしとした顔で笑っている。そして懲りずにウルティアに抱きつこうとしているザンクロウに、今まさに大会の様子を見るべく大切な水晶を、なんの躊躇いとなく鈍器にと変化させて撃退している。

 話が進まないこの上ない。

 

「ザンクロウ止めなって、本当にやめないとウルがマジギレするよ?」

 

「えっ」

 

 一瞬にして物凄い蛇に睨まれた蛙の如く怯え始めた。

 前にザンクロウがしつこくし過ぎて、本気のウルティアの魔法・氷の造形魔法を受けてからこの様子だ。肉体的に炎の滅神魔法を扱うザンクロウには微々たるものだったが、精神的に本気で嫌がれたことが絶大な衝撃を受けたことがあったのだ。あの時メルディが取り合わなかったらずっとザンクロウは落ち込んだままだったろう。

 そして、メルディがそう言った途端に素早くウルティアに対しての行為(好意)を止めて、早足にメルディの背後に回り、ヒシッと覆い被さるように抱きつかれた。

 

(う、うぅ//// なんでザンクロウはいつもこんな大胆なことを平然と……)

 

 ザンクロウの顔がメルディの横にまでくっついて、ブルブルと震えている。

 

(い、いつもの考えよ! えーと、えーと……ザンクロウは〝犬〟なのよ! 好きなメスに好意を寄せるけど、いつも失敗して落ち込む犬なの! だから今のザンクロウは好きなメスに叱られて噛みつかれた記憶を思い出してビクビクしてるのよ! だから大丈夫、大丈夫。平常心、平常心)

 

 異性対してのドキドキな年頃の女の子に、不躾無遠慮なザンクロウに寛大な考えで対処しようとしているメルディに、ザンクロウがボソッと。

 

「…………(クンクン)…………ちょー良い匂いだって……(クンクン)」

 

(ウキャァァァァァァァァァァァァっぅぅ!!??)

 

 そして抱きつく力が更に強くなって、耳元で囁く&匂いを嗅がれ始めたザンクロウに最早メルディは赤面どころか若干涙目になりはじめた。

 

「メ、メルディ? その男を剥がしてあげる?」

 

「いいいいいいよもう! 絶対話が進まないから早く演武見よう!」

 

 逞しいザンクロウの腕が強く締める、だがそれはメルディの体も気遣った程度の力強さで、考慮された強さが逆にもどかしく、押されて丸まってしまった体に耳元から度々聞こえるザンクロウの吐息が聞こえてはクラクラしそうなぐらい大丈夫よ、とメルディは告げる。

 ウルティアはそれを何故か生暖かい目で見つめ、ザンクロウに『それ以上私の可愛いメルディに何かしたら……殺すわ』とメルディでさえ聞こえた冷たい声でそう言ってきた。逆に今のままなら何も問題がないということになるが、メルディはそこまで思考が巡回できなかった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 一方、大魔闘演武の開会試合(オープニングゲーム)が始まろうとしていた。

 

「えぇ~それでは各チーム、隠密(ヒドュン)の参加者は前へ」

 

 そう告げたのは実況進行を務めるのがチャパティなら、今目の前に立っている南瓜(カボチャ)頭の方が司会実行役らしい。

 それぞれのギルドチームから参加選手が出てくる。

 

「行ってくるぜ」

 

「がんばってー!」

 

「絶対負けんなよ!! 特にガジルのチーム!!! それと剣咬の虎(セイバートゥース)大鴉の尻尾(レイヴンテイル)……それと───」

 

「うぉぉぉぉ!! (おとこ)なら勝ってこい、グレイ!!」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)も選手であるグレイにエールを送る。だが、それを遠目から見ている者が居た。

 

(グレイ殿でござるか・・・・彼の有名な『火竜(サラマンダー)』と対となる〝氷〟の造形魔導士……競うのが楽しみでござる!)

 

 黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の忍者装束の男、フウキだった。

 丸い兜に真っ黒な手甲。だが所々に銀色が輝いており、程よくバランスを取った黒銀の印象の男。

 仲間から散々弄られていたが、その仲間誰もが一番槍を託せるほどの実力を有する男。

 グレイはエルザたちが蹴散らしたオウガの話は聞いていたが、この忍者の男もあのオウガのような汚い真似をするのか、少しだけ気になった妖精の尻尾(フェアリーテイル)に所属しているグレイとジュビアだったが、その注視されていた本人は嬉しそうに手を振ってきた。

 グレイは『な、なんだコイツ』と訝しげにただ見るだけに徹し、ジュビアなんかグレイをガン見してた。フウキは振った手が誰も答えてくれなくて一人落ち込む。

 

『いよいよ始まりますね。はたして隠密(ヒドュン)とはどんな競技なのか。ヤジマさん、注目の選手はいますか?』

 

『んー……本命はルーファスくんだろうけど、ワスはグレイくんに注目したいね』

 

『復活した妖精の尻尾(フェアリーテイル)の選手ですね! 確かに一体どんな魔法を使って競ってくれるのか楽しみですね! そして本日のゲスト! 『青い天馬(ブルーペガサス)』のジェニーさんは?』

 

『もちろん♡ ウチのイヴくんよ、強いんだから!』

 

 ワァァァァァァァ、と盛り上がる会場に、元・評議員のヤジマからの支持もあり、多少なりとも妖精の尻尾(フェアリーテイル)に注ぐ目が微々たるものだが増えただろう。

 そこからどう上がってくるのか、それは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力が試される。

 

 選手たちがカボチャ頭の司会者に集まっていく。

 

「これらマーメイドのベス殿! お互い全力を尽くしましょう!」

 

「あぁー! 郵便屋さんじゃないのー! ギルド『青い鳥(ブルーバード)』に所属してたんじゃないのー?」

 

「某、手伝いで色んなギルドを手助けしてるのでござるよ。少し図々しいでござるが……」

 

「ううん。この間はマーメイドにも沢山の配達をしてくれて皆喜んでたんだよー? あの忍者さんはどこまでも熱心に配達してくれたって!」

 

「おぉ! それは大変嬉しゅう思いまする!」

 

 集まった選手には顔合わせが既にしてあった人たちも居り、挨拶など交わしていた。

 

「ラミアにも来てくれたな。しかも仕事で放れていた場所まで持って来てくれたのは助かったぞ」

 

 と、さきほどまで妖精の尻尾(フェアリーテイル)の青い髪が特徴的な美女と話していたリオンも入ってきた。どうやらフウキは顔が広いらしい。顔兜と布で隠してるくせに。

 

「おぉ! リオン殿。彼の有名な〝聖十(せいてん)〟の称号を持って居られるジュラ殿と並ぶかこように名を轟かせるリオン殿! これはこれは、この競技、やはり一筋縄ではいきますまい」

 

「まったく。お前は忍のくせに口達者だぞ? いや、忍だからか?」

 

 あのリオンとさえ結構な砕けた関係を築いているこのフウキに、グレイとジュビアも一気に興味が沸く。

 そして、フウキが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の二人に挨拶に行こうとすれば、司会者が進行を始めた。

 フウキは名残惜しそうに、軽くお辞儀をして挨拶カボチャ頭の司会者の話を聞いた。

 

「えーそれでは説明をさせてもらいますよー? あ、わたしカボチャですので」

 

「いや、分かってるが……」

 

「毎年のことだから、グレイくん。気にしちゃったらキリがないよ。でも、」(キリッ)

 

「たぶん主催者側の役員だと思うのー。でも、」(キリッ)

 

「「キャラ作りご苦労様です」」

 

 ペコリと真摯に労いの言葉を送る青い天馬(ブルーペガサス)のイヴと、人魚の踵(マーメイドヒール)のベス。

 

「ノンノン、楽しんでやってるからいいんだカボー(・ ・ ・)

 

「無理矢理キャラ濃くすんなよ」

 

 そんなやり取りの間から、明らかに人間の肌色ではない男が入ってくる。

 

「ちょっと待ってくださいや。これならどん始まる競技……どんなモンか知りやせんがね。いいや……今後全ての競技に関してですがね。どーーーう考えても二人いる妖精さんが有利じゃありませんかねぇ」

 

 ナルプディングのこの質問に、難癖に聞こえてしまうのも仕方ないだろう。この演武を進めていくには、やはり妖精の尻尾(フェアリーテイル)の実力をある程度納得した上で進行していくのだから、ナルプディングがわざわざ聞くことでもないだろう。

 だが、やはり大鴉の尻尾(レイヴンテイル)からすれば、少しでも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の力を削ぎ落としたいと考えての行動かもしれないが、グレイとジュビアは感情的にナルプディングを睨んでいる。

 

「し、仕方ありませんよ。決勝に同じギルドが2チーム残るなんて凄いことなんですから…………あっ、カボ」

 

「いいのではないのかな」

 

 その言葉に剣咬の虎(セイバートゥース)のルーファスに注目を浴びる。

 

「私の記憶が(うた)っているのだ。必ずしも二人いる事が有利とも言えない……と」

 

「ふむ。ルーファス殿の言う通り。某も別にかまいませぬ」

 

「アチキもいいと思うよ」

 

「チッ」

 

 事が上手くいかなく、思わずナルプディングは舌打ちをするが、グレイたち妖精の尻尾(フェアリーテイル)標的(ターゲット)としている剣咬の虎(セイバートゥース)からの援護に、思わず口走る。

 

「さすがだねー。それが王者の余裕ってヤツかい」

 

「仲間は君にとっても弱点になりうる。人質・脅迫・情報漏洩他にもいくつかの不利的状況を構築できるのだよ。記憶しておきたまえ」

 

「忘れなかったらな」

 

 ある程度の話が終わったところを見計らい。カボチャ頭の司会者が合図する。すると、とうとう待ちに待った演武が開始されたのだ。

 ステージとなる会場の中央に魔法により作り出されたフィールドが光学魔法音を発しながら展開していく。

 参加者の数人はこのシステムに唖然としている中、そのフィールドステージが徐々に出来上がっていった。

 そこに出来上がったのは、まさかの〝街〟であった。かなりの規模を誇る〝街〟が競技場の中でいとも簡単に構築させていったこの魔法には詠嘆の溜め息がつく。

 

(街並みの具現だと? 一体どれほどの魔力を……)

 

 一方で、謎の魔力を調査をしに来ていたジェラールも、この増大な魔力で構築させていく街の具現化に疑いを持って観察していた。

 

 そして選手たちをも包み込んだその〝街〟は既に競技場に立派な街を作り出してしまった。

 そこでグレイやジュビア、リオンやルーファスといった選手たちは見事にランダムでバラけて街中に配置させられていた。

 

「魔法とは、やはり神業のようにも見えるでござるなぁ。改めて見て……フムフム。納得させられてしまうでござる」

 

 街中の風景も、街に並び立つ建物も立派な作りになっている。(れっき)とした現物(ホンモノ)だ。

 

「しかしながら、隠れん坊とは…………『鬼』を名乗る某らとして、負けられる競技でござるなぁ(ていうか、負けたりしたら後で皆にボコられるでござる!)」

 

 辺りを見渡す黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のフウキ。

 他のメンバーも同じように、ゲームの主旨を予想している。

 

『会場の皆さんは街の中の様子を魔水晶(ラクリマ)ビジョンにてお楽しみください! 参加している8名には互いの様子を知ることは出来ません。隠密(ヒドュン)のルールは簡単。互いが鬼であり追われる側なのです! この街の中で互いに見つけ、どんな魔法でもかまいません、一撃与える。ダメージの有無を問わず〝攻撃を与えた側が1(ポイント)獲得〟です!』

 

 実況のチャパティが乱れない説明をしていく中、新たにステージに付加するシステム。続々と光の粒子が渦巻くように出現したと思えば、そこには、

 

「どうなってんだコリャア!!!」

 

 グレイやジュビア、リオンやルーファスといった参加選手たちが出現したのだ、しかも一人だけではなく大量にだ。

 

「同じ顔がいっぱい!!」

 

「うぷ!」

 

「酔うのかそこで」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーもこのゲームの厄介さを早くも理解した。

 

『これは皆さんのコピーです! 間違えてコピーへ攻撃してしまった場合、1(ポイント)の減点となります! さあ!! 消えよ! 静寂の中に! 闇夜に潜む黒猫が如く! 《 隠密(ヒドュン) 》! 開始!!』

 

 オオオオオオオオオオっっ!! と競技場が割れんばかりの歓声と共に震える。

 試合が始まったのだ。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「ググ・・・グ・・・グレイ様が、いっぱい♡♡ これだけいるんだから一人くらいジュビアがもらっても~♡」

 

(むむ、あれは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の水使いの美女、ジュビア殿では)

 

 試合が開始して、早速フウキが建物の影にへと身を潜めると、近くに居たのか、ジュビアがすっかり惚れ込んでいるグレイに平常心なんて捨てていた。

 恋い焦がれ、愛に溺れるジュビアは愛しのグレイのコピーに思わず抱きついている。

 それを影から眺めていたフウキは、

 

(おォのれイケメンがぁぁぁぁ!! 標的絶対必殺(ターゲットロックオン)ンンンンッッッ!!!)

 

 勝手に醜い嫉妬を(たぎ)らせていた。あんな巨乳美人を手にして優勝まで手にするなんてふざけんなよコンニャロウがぁ!! とどんどん醜い嫉妬が膨張していく中、このゲームで貴重な場面を遭遇する。

 

 ブーー!!

 

「えっ?…………ッきゃうん!?」

 

『おーーっと! ジュビア選手がコピーへの攻撃で減点1です! この場合、十秒後に別のエリアからリスタートとなります。また他の魔導士にやられてしまった場合も1(ポイント)減点され、十秒後に別エリアにてリスタートです。制限時間内であればリスタートは何度でも可能です。制限時間は30分。一番得点を稼いだチームが一位です!』

 

 ヌルリと、建物の影から顔を出したフウキは早くもこのゲームの内容を理解した。

 というか、こういう展開はギルドの依頼での『戦闘』で経験したばかりだ。

 

(新たに付加されたと言うなれば、それは制限時間内でどれほど点を稼げるかどうかでござろう・・・厄介と言えばあのルーファス殿の魔法か)

 

 だが、とフウキは再び暗闇の影へと潜む。息を殺し、気配も殺し、四肢に入る力も殺す。

 すべてを無に戻して、そして再び〝入る〟のだ。

 

「………………………………………………………………………………」

 

 そしてフウキは、不透明な掴めもしない……〝風〟となった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「ぐわぁー!」

 

 さっそく静かなる競技が各所で起こってる中、グレイは大鴉の尻尾(レイヴンテイル)のナルプディングに執拗に狙われていた。

 一体どうやって本物を見分けつけているのか、グレイには分からなかったが、この隠密(ヒドュン )のゲームがここまで考え抜かれたものだったことに身をもって実感していた。

 ナルプディングは自分のコピーを利用して敵に近づき、不意討ちすることも可能なゲームなのに逸早く気付いた。それにまんまと攻撃を食らうグレイは舌打ちを鳴らして苛立ちを募る。

 ゲームの主旨を理解した者たちはさっそく、コピーのふりをして、他の選手から目を欺き、どのような手段で攻撃するかを考えるようになっていた。

 息を殺して、敵を倒す。これが『隠密(ヒドュン)

 

「くっくっく! いいカモでサァ」

 

 ナルプディングは〝本物〟のグレイの背後に既に回っていた。一体どのような魔法を使って特定しているのかわからないが、結果が物を言う。間違いなくナルプディングは妖精の尻尾(フェアリーテイル)狙いだが、首位を立っている。

 観客席からもこの『隠密(ヒドュン)』の特性をどのような魔法か方法で打ち破るのかで盛り上がっていた。

 

「それでは、またいただきましょーかネェ?」

 

「っ!?」

 

 気付いた時には既に遅し、ナルプディングの痛々しい刺の付いた豪腕が巨大化して、グレイを容赦なく叩き潰す。

 ダメージは無いものの、このポイントを取られていく感覚はグレイのプライドをズキズキと刺激するものだった。

 

『この自分や敵のコピーだらけのフィールドで敵……実体を見つけ出すにはどうしたらいいのでしょう?』

 

『いろいろは方法はあるけどね。たとえば相手の魔力をさぐるとかね』

 

『ふふん♪ イヴくんならもっとすごい方法を使うと思うわ』

 

 実況席でもこの隠密(ヒドゥン)のゲーム性に多種多様な看破策があると元・評議会議員のヤジマの説明で観客たちは試合に目が離せないでいたが、街中のフィールドでは、またも誰かが得点を稼いでいた。

 

「これならどォうだ!! アイスメイク、(フロア)ッ!」

 

 再びグレイはナルプディングと対峙する。

 だが、何度もグレイも襲撃を喰らうほど学習能力がない訳じゃない。魔力の発動の際、発生する魔力に微々ながらも感じとり、それだけを頼りにグレイは氷を発生させ、その場から逃れる事に成功した。

 それはナルプディングも想定内のことか、追撃はせず、また影に籠り背からの攻撃に専念しようとしていた。それはこのゲームの主旨として大いに乗っ取った計画的逃避だが、そのを見逃すほどグレイも劣っていない。

 氷の台を使い、一気にナルプディングに近付くと、煉瓦の道にそっと手を当てれば、一気に己の魔法を展開させる。

 床一面に氷が張られ、一切の凹凸の無い氷上にて必然的に歩けば滑る自然の摂理に、ナルプディングはジャンプしようにも踏ん張れず、その場に転倒してしまう。

 

「これはまたしち面倒なことでサァ!」

 

(ポイント)頂きだゴラァ!」

 

 氷の魔法か、グレイは氷上を何事もないように普通に走ってやって来る。 そして魔法を追撃しようと手を重ね、展開しようとしたが、

 

「カハハハ! おいでませェ!」

 

「なっ!」

 

 ナルプディングは凍りついた地面を刺を生やした手の握力だけ地面に突き刺し、片手で体全体を浮かした。

 なんという微々たる魔法と体力だけを使った回避法だが、これにはグレイも面食らうと発動時間がかなり遅れてしまった。

 そして、ナルプディングは迫ってきたグレイが攻撃範囲まで来ると、再びグレイを突き飛ばした。

 

「クソォォォォォっウ!!!」

 

「大漁~大漁~でサァ!」

 

 グレイはそのまま別の場所にへと移転される。

 この『隠密(ヒドゥン)』、参加者が如何に考えて行動すれば良いのか安易に想像がつく。

 ナルプディングは上機嫌になり、大体の予想でどこにランダム移転したのかグレイの元にへと向かおうとすると、ヒュウゥ! と耳から風の音が聞こえた。

 

「あん? 風?」

 

 そこでナルプディングは『そう言えば』と思い出す。

 

(『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』…………妖精と繋がりは無い筈ですけどねぇ?)

 

 そんは事を考えていれば、背後からただならぬ気配を感じた。しかも……これは、わざと誘っている。

 

「むしろ恨んでいても可笑しくないギルドだと思ったんですがねぇ……そうじゃありませんか? 黄昏の鬼(トワイライトオウガ)、序列八鬼(ハッキ)の『風邪影鬼(カゼオニ)のフウキ』さん?」

 

 ナルプディングは確認もせずに、その剛腕を持って薙ぎ払う。風圧が纏い、音まで聞こえるその攻撃に確かな魔力も込もっており、グレイ以上の破壊力のある拳撃なのは目に見えて分かった。

 だが、ナルプディングも闇で元は生きていた者。

 今自分が仕出か(・ ・ ・)した(・ ・)過ちに気付くのも遅かった。

 

ドカァアッ! と打撃音が耳に届くと同時に、『……やっちまったでサァ』と意気消沈していた。

 それに怪訝に思った観客や妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーや他の者たちは見ていると、競技場に広がった音は『ブーー!』という減点音だったのだ。

 これには皆不思議がって見ていれば、ナルプディングが攻撃したのは『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』の忍者装束の男・フウキだったが、それはコピーだったのだ。

 だが、それなら何故ナルプディングがあそこまでフルスイングしてまで本気の攻撃をしたのか腑に落ちないでいると、解説のヤジマが面白いように説明する。

 

『いやぁ、これは凄いね。黄昏の鬼(トワイライトオウガ)だっけ? 技術力がここまでなんてね』

 

『今のナルプディング選手は何故思いっきりコピーに攻撃を? 確かに映像で私たちから見てると、背後に回ったのが偶然(・ ・)コピーだったのに対し、反射的に豪快なパンチを繰り出しましたが……』

 

『ふむ。アレはナルプディングくんが異常に周囲に警戒していが故に起きた事だねぇ。アレは多分だけど『気』を当てられたんじゃないかねぇ~』

 

『『気』ですか……? それは俗に言う達人などが気付く怒気や霊気といった類いでしょうか?』

 

『う~む。きっとそうじゃろう。それを日頃のギルドの仕事で、まぁ内容で異なると思うが、ナルプディングくんはきっと日常的にか、それとも経験でか、それを敏感に察知して攻撃してしまった、というワスの所見での見解じゃがのう』

 

『ですが、それでは先程からのグレイ選手に対するあの手は……』

 

『まぁ、あの反射反応からして、得た自分が得意としたこの『隠密(ヒドゥン)』の決め手じゃろうのう』

 

 この説明に、他のギルドメンバーはナルプディングの異常な反射速度と少しながらの実力、そしてそれを見越しての『気』を放つことの手法を取った『黄昏の鬼(トワイライトオウガ)』のフウキに注目が集まる。のだが、

 

「メェ~ン☆ だが、肝心の相手側、フウキくんが見当たらない」

 

 濃い顔で前髪を払いながら、天馬の一夜が呟くと、エルザやナツたちも街中を張り巡る映像を見ているが確かに見当たらない。

 

「どこに、居やがるんですかねぇ。ちょっとお礼をしに参りたいんですが……」

 

 復活したナルプディングは、ヤジマの解説の通り、背後から『殺気』を感じて思わず反応してしまったのだ。

 あれは闇に生きた者にしか伝わらない、黒々とした禍々しい殺気。どろりと流れるように腐敗を表す臭い匂いを放つ殺意。あの手の者はこのゲームは不味い。不味すぎる。

 ナルプディングは口では憎く開いているが、もう相手は妖精の尻尾(フェアリーテイル)しかない。

 あのフウキと呼ばれた男はもう相手をしない。してはいけない。

 

「あの人は…………不味い」

 

 だが、それを思ったのはナルプディングだけでは無かった。

 参加選手の一人でもあるギルド『青い天馬(ブルーペガサス)』のイヴも映像を見て一瞬にして警戒を最高値に上げていた。

 元は評議会『強行検束(けんそく)部隊〝ルーンナイト〟』に所属していたエリート。それだけに、戦闘も()む無く行使していた。

 だがそれは、経験を踏んできているということもある。

 

(さっきナルプディングさんが口走った『風邪影鬼(カゼオニ)』……だとすれば、彼は噂の仕事人………………そりゃあ……隠密行動(・ ・ ・ ・)が大の得意のハズだ)

 

 『風邪影鬼』、それは最近東方の国から伝わった【影の仕事人】の呼び名だった。

 その者は風が通る(みち)なれば何処へでも浸入し、常に影となり後ろでゆるりと眺め、隙あらば鬼の爪牙で突き殺す。

 だが、そんなもの噂が尾ひれが付いて回った物。真実が一体どんなものなのか分からないが、それは間違いなく【隠密】に優れているということ。それは間違いなかった。

 

(現に、この試合で〝遊び〟を少しも感じていなかったあの手法。そして、他の人と違う絶対的は冷静さが物語ってる……! 折角ポイントを得たのに何のアピールもせず淡々と次の標的を探しているに違いない!)

 

 イヴはスーツの裾を腕捲りし、完全に本気になる。ていうかならないとマジヤバい。

 

(お、お~い! これはそこまで殺気立てしてやるもんじゃないですよ~!)

 

 もう焦りしか出てこないイヴはビクビクして、この『隠密(ヒドゥン)』の特性を生かした魔法を展開する。早めに行動に移そうと考えたのだ。

 

「……魔法の展開はこのフィールド全体にだ」

 

 青い天馬も負けてはいられない。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

『おーーっと!! これは一体!!? 街の中に雪が降ってきたー!!』

 

 フィールドの街には真っ白な雪がしんしんと降り始めた。

 これにより、一時とはいえ冬並の寒さが街を包み込んだのだ。

 

「寒さに強い魔導士が何人かいるのは誤算だったよ。でも……人は寒ければ震えるし吐息も白くなる」

 

 このイヴの《雪魔法》の威力は果てしなく、数時間あれば銀世界はあっという間だろう。

 

「見えたよ」

 

 これにより、白い息を吐いていたマーメイドのベスにナルプディングがイヴの餌食となる。

 

(残りは寒さに強いグレイくんにリオンくん、だがもう一人居るハズなんだけど……!)

 

 イヴは屋根上から周囲を確かめるが、コピーのフウキは沢山居るのに、本物が依然と現れないのだ。

 

「もぉー! 出てきて下さいよー!」

 

 じゃないと、さっきから後を着いてきているリオンに氷の造形魔法で構築していく氷鳥に攻撃されてしまう。一気呵成にポイントを稼ぎたかったのだが、本当に風か影のように姿が掴めないフウキに不気味に思えてしまう。

 だが、そんなイヴの元にちゃんと姿を現し た忍が居た。

 

 彼の足下に、

 

「…………ッ!?……」

 

 急激な攻撃魔法の気配が足下から感じ取り、急いで屋根から降りようとすると、影で見えなかったお店の看板によって、バランスを崩して着地した。

 だが今度は着地した場所には数々の罠とコピーたちで仕掛けられていた。

 

「布ぉぉ~!?」

 

 突如、店に掛けられてあった屋根代わりの厚布がイヴに被さるように広がって、足下に力を入れていた為に魔法を展開するのを間に合わず、イヴの頭から丸々と被さってしまう。

 映像から見えないが、厚布に被さった瞬間、ほぼ同時に得点の音が鳴った。

 相変わらず姿を見せないが、残された布の映像には【黄昏の鬼(TWILIGHT OGRE):フウキ +2P(ポイント)】と表示された。先程のナルプディングと、今のイヴを合わせて2得点(ポイント)

 

「……一体何者だ、フウキという男は?」

 

「あぁ、あれ? あれ忍者がやったのか?!」

「嘘だろ? あの一瞬でか!?」

 

「一体どんな魔法なの、フウキっていう人の」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aチームの面々はそれぞれの言葉をするが、エルザは少し感じた。あれは魔法を少ししか使用しておらず、本の僅かな隙で狙ったの身体能力の技量だと。

 これには会場も思わず息を飲む。

 フウキという男は、最初の時(・ ・ ・ ・)しか姿を見せていないのに気付いたのだ。

  彼は行動で語った。

 これが【隠密】なのだと。

 

 布もイヴが転移してからは、ストンと平面な地面に落ち、フウキもいつの間にか居なくなっている。

 そんは静かなる凄さを会場に見せつけたフウキだったのだが、もう各地では堂々たる戦闘を繰り広げていた。

 

「アイスメイク『大鷲(イーグル)』ゥ!」

 

「『氷鎚(アイスハンマー)』ァ!」

 

 氷の造形魔導士同士のぶつかり合い。

 隠密(ヒドゥン)もあったもんじゃない。

 リオンは数多の美しい氷の大鷲をグレイ目掛けて飛翔させ、グレイとパワーアップした氷槌にて撃退している。

 だがこの二人、器用にコピーに当たらないようにして戦っていた。

 

「鴉だけやられるのは癪だろうグレイ! 俺が相手取ってやる! そしてジュビアはなんて美しいんだ!!」

 

「気ぃ使ってるのか私欲なのか分かんねぇがリオン!! 妖精の尻尾(ウチ)のモンに手ェ出したらタダじゃおかねぇぞ!」

 

 何処からか『キャー!! そんな(ウチ)(モン)だなんてキャー♡』と水が噴水するかのように天高く水流かわそびえ立っているが、この氷の造形魔導士たちは屋根上まで上がり、本格的邪魔が入らない場所で戦闘を始めようとしていた。

 隠密(ヒドゥン)に基づいていないが、ルールでは違反ではないし、観客も盛り上がれば主催者側は大歓迎だ。

 

「くらえ!」

 

「くらうか!」

 

 雪が降り続ける中、フィールドで氷魔法による合戦を続ける二人に、他の選手もシメシメとポイントを稼いでいた。

 

「イヒヒヒ!」

 

「なっ!」

 

 だが、意地でも妖精の尻尾(フェアリーテイル)狙いである大鴉の尻尾(レイヴンテイル)のナルプディングが建物ごと破壊して二人の決闘を邪魔をし、更にグレイの追撃も欠かさない。

 リオンも邪魔が入り、グレイと共にナルプディングを撃破しようとするが、制限時間があることをリオンも気付いた。

 

(悪いなグレイ。個人での競技ならば色々とやれることがあっただろうが……これはチーム戦で勝ち抜くものなのだ……)

 

 リオンは顔を一旦(しか)めると、氷の模型(デコイ)を造ってからその場を離脱した。まだ足りないポイントを得に向かったのだろう。

 グレイも別になんとも思わない。これが、この勝負がチームのこれからの戦況に繋がる大事な初戦なのも理解している。

 だからリオンの判断も間違っていない。そこはまだいい。だが、この大鴉の奴らだけは本当に腸が煮え返るほど苛立ちが収まらなかった。

 

「当たりやがれェ! 『氷鎚(アイスハンマー)』ァァァァ!!」

 

 巨大な氷の鎚球が迫るが、ナルプディングはこれを余裕で避け、不気味な笑顔を浮かべて追撃をするも、グレイも負けじと避けては攻撃、避けては攻撃の繰り返しだった。

 その戦闘を、高いところから見下ろして見ていた者がいた。

 

(これがスティングが言っていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)? 余り大したことはない記憶だが……)

 

 紅い仮面の貴公子。フィオーレ王国一のギルド『剣咬の虎(セイバートゥース)』のルーファスだった。

 彼の魔法にかかればこのような競技(イベント)は一発で終わってしまう。故に余裕、故に観察。ルーファスは高い場所から参加選手たち一人ひとり眺めていた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)のグレイは氷の造形魔導士……これは蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のリオンも同じ、そしてもう一人の妖精の尻尾(フェアリーテイル)の選手であるジュビアは水使い。人魚の踵(マーメイドヒール)のベスは植物系統の魔法。ここまでは周知の事実となっている。だが、…………)

 

 ルーファスは本当に足下の、搭の影にへと目を向けた。

 

「君の記憶だけは新しい……そして、興味深い。これが今まで無名だったギルドの実力とは思えなくもないよ」

 

思えなく(・ ・ ・ ・)もない(・ ・ ・)、でござるか。流石は天下無双のギルドのメンバーでござるなぁ……そう簡単(・ ・)にはいかぬでござる』

 

 眼下のもとで、影が不気味に蠢き出す。だが依然と姿を現さず、ルーファスの足下の影から伝わる念話魔法にて脳髄に響く声がとても不気味だ。

 

(……ふふ! まさかここまで接近して気付かないなんて! 中々な隠密記憶(メモリー)!)

 

 歓喜する。

 このフウキの男から新たな記憶(まほう)を収穫できたことに。ルーファスは自然と口角が吊り上がった。

 

「まぁ……だが、この競技はジミ過ぎる。新たに記憶されるものが増えるのは嬉しいが、早く終わらせよう」

 

 ルーファスは魔力を一気に膨張させた。

 そんなことをすれば参加選手に気付かれてしまうのだが、当然知っての行動。

 ルーファスが搭の頂点に立ち、堂々としたその姿は王者のギルドを体現させたものだった。

 その構えに、勿論ほかの選手たちは挑発に受けとるが、ルーファスは会場に透き通った声で発した。

 

「私は憶えているのだ。一人一人の鼓動・足音・魔力の質」

 

 ルーファスの大胆不敵な行動に、反応してみせたのは今回初の参加となる妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aチームのメンバーたち。

 

「あいつ……あんな目立つ所に!? なんでっ!?」

 

「グレイ!! 上だ!」

 

「これじゃ見つけて下さいって言ってるようなモンだぞ!?」

 

 そんな言葉も意に介さないルーファスは、魔法陣を空中展開させ、イメージも固まる。

 

「憶えている。憶えているのだ…………〝記憶造形(メモリーメイク)〟……」

 

 メモリーメイク。造形魔法。これに反応したのは悪い予感がしたエルザに、同じ造形魔法を扱うグレイにリオンだった。

 ルーファスの造形魔法が展開していくと、小規模とはいえ街全体の天候を『夜』に変え、更に模型(コピー)ではない本物のグレイたちに狙いを定めると、ルーファスが溜めた魔力を一気に、美しく放つ。

 

「『星降ル夜ニ』!!!」

 

 ルーファスから放たれた閃光は、闇夜を駆ける流星のように輝きながら、無情に標的にへと飛翔していく。逃れられない光速の星に、狙いを定められたルーファス以外の選手に落下した。

 ベス、グレイ、リオン、ジュビア、イヴに見事に直撃し、一気にポイントが加算されていくが、ナルプディングはヒラリと躱し、堂々目立つルーファスにその豪腕が襲う。

 

「ヒヒヒ! あんたは目立ちすぎでサァ!!」

 

 豪風が荒むが、その豪腕がルーファスに届くことは無く、残像の記憶造形(メモリーメイク)でルーファスは余裕にナルプディングの攻撃を避け、追撃でナルプディングも見事に倒す。

 

「君もだ。隠れるのは疲れるだろう?」

 

 そう言ったルーファスは最後の敵も逃さない。

 最後まで見つからないと思っていた筈の黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のフウキに放った光輝くその攻撃は依然と空に彷徨っていたが、意識を集中させたルーファスは、建物の影にではなく。グレイやリオン、他の参加選手たちと同じ模型(コピー)である自身にへとその攻撃を届かせた。

 

「ぬぅ!?」

 

 すると、模型(コピー)である筈の模型ルーファスから声が聞こえたのだった。

 

「まさか見破られたもうとはッ!? アッお見事!」

 

 消える中、紅い仮面の貴公子に化けていたフウキは偽ルーファスのままニヤけて何処かにへと転移した。

 このフウキの妙技に、そして見事それを見破り全滅させたルーファスに会場は歓声によって轟き満ちていたのであった。

 

 そして、最後まで妖精の尻尾(フェアリーテイル)大鴉の尻尾(レイヴンテイル)に邪魔され続けられた後、無念にも試合(ゲーム)終了となった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 試合が終了した。

 結果を残したかった筈である妖精の尻尾(フェアリーテイル)のグレイとジュビアは口惜しく歯軋りし、下を向いての帰還だった。

 

『やはり予想通り1位は剣咬の虎(セイバートゥース)でしたね~~!!』

 

『見事だったねぇ』

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は2チームとも善戦したのですが残念な出だしです』

 

『次に期待スような』

 

 惜しみ無く実況のチャパティとヤジマは選手たちに称賛の声が掛けられるが、観客たちは違う反応をしていて。

 

「あははははははは!!!」

 

「わははははははは!!!」

 

 四方から聞こえるのは嘲りの笑い声。

 

「やっぱ弱ェじゃん妖精の尻尾(フェアリーテイル)!!」

 

「万年最下位ーーーっ!!」

 

「もうお前らの時代は終わってるよーーっ!」

 

 時代が進む。かつての栄光を放っていた妖精の尻尾(フェアリーテイル)と、七年も輝きを失っていれば、その栄光も見えなく曇るもの。

 

(……なんたるものか……王都の者はここまで不躾でござるか)

 

 黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のチームが集まる所に戻ろうとしていたフウキだったが、余りにも参加選手に対しての扱いが不適切過ぎる観客たちに苛立ちを覚えるも、それも自由。自ら品位を落としているだけ、何もメリットも無い筈なのに、やはりただそれだけに自由。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一ファンであるフウキは悔しそうに隠れた口元で歯軋りをする。

 フウキより、なにより辛いのは参加したであろうグレイとジュビアだ。

 ここでフウキが庇っても何一つ変わりはしない。

 

「早く戻れよ、フウキ」

 

「……ヨウキ殿」

 

 何時までも帰らないフウキに、綺麗な声音にフウキは振り返る。

 奇抜な格好をしている黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のヨウキだった。口と目以外は開いていない包帯だらけの頭部から、隙間から流れ出た黒髪が不気味であるが、白布と黒い着物姿の肢体はシルエットだけでもスラリとして、出るところが出ているので微妙に艶かしい。

 

「ヤツら勝てなかった。それだけだろゥが」

 

「……しかし」

 

「しかしもなんもねェんだよ。全部勝てなきゃ意味がねェ」

 

 ヨウキは事実をフウキに叩きつける。

 確かにこれは生死を分けた戦いではないが、勝てねば結果も得られないのは同じ。

 勝つことこそが、結果を生じる。

 フウキはヨウキの言葉を深く咀嚼して、なんとか言い返そうとしようとするも、

 

「何がおかしいんだコノヤロウ!!!! おぉ!!?」

 

 うわキレたぜ!? こえーヒャハハハ!! と絶えない罵声非難(ブーイング)妖精の尻尾(フェアリーテイル)を囲むが、やはり黙っていなかったのがナツだった。

 だがそれは妖精の尻尾(フェアリーテイル)が誰よりも叫びたかったこと。

 

「……子供(ガキ)が」

 

「カカカッ! いーじゃネェか! 元気があってよォ!」

 

 ヨウキはナツの感情むき出しの行動を吐き捨てるように視界から伏せ、真っ赤な出で立ちのカクキは大声で笑いながら妖精の尻尾(フェアリーテイル)を興味ありげに見ていた。

 そしてフウキも、ナツの仲間を馬鹿にされ、怒るその心根に好感を持てた。やはり自分が志したマグノリアのギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』はそうであると、素顔を隠したフウキは密やかに笑っていた。

 

「次はバトルパートかや。ほれ、皆も騒いでおらんて並べんす」

 

 花魁姿のゲンキは騒ぐ黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のメンバー(騒いでたのは二人だけだったが)を母親が誘導させるかように優しい声音で促す。

 

『引き続いてバトルパートに入ります! 名前を呼ばれた方は速やかに前へ』

 

 実況のチャパティかバトルパートの説明に入る。

 

『えぇ~バトルパートのシステムの確認ていきましょう。魔水晶(ラクリマ)に映る図表を書かれてあります。各チーム一試合ずつ行ってもらいます。トーナメントではありません』

 

『組み合わせは主催者側が決めるんだったわね』

 

『面白そうな組み合わせになるといいね』

 

『そうですねぇ~……っと! さっそく私のもとへ対戦表が届いてますよ! まず一日目、第一試合! 『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』A! ルーシィぃぃぃぃ・ハートフィリアぁぁぁ!!』

 

 緊張の強張りを感じるが、力強くルーシィは前に出た。

 そして、対戦側も発表される。

 

『VS.『大鴉の尻尾(レイヴンテイル)』フレアぁぁぁ・コロナぁぁぁ!!』

 

 大鴉から解き放たれた、紅髪の美女がルーシィの対戦相手だった。




もう好き勝手書いちゃってます。
なんだよコレとか思われるかも……(T-T)

妄想なので生暖かい眼差しでよろしくお願いします


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第12話「ルーシィ VS フレア」

アニメや漫画でどんどんフェアリーテイルが進んでいく(震え声)

だと言うのにまだ大魔闘演武編…………早く進ませねば!

今回、というか、この作者書いてるフェアリーテイルは二次小説。楽しんで頂けることを至上にしていますが、やはり二次小説。作者の妄想が暴想(暴走)していますww

先ずはご了承のほど……


 大魔闘演武プログラム。

 1日目

 競技パート『隠密(ヒドュン)

 結果順位:1.剣咬の虎(セイバートゥース)

      2.大鴉の尻尾(レ イ ヴ ン テ イ ル)

      3.蛇姫の鱗(ラミアスケイル)

      4.青い天馬(ブルーペガサス)

      5.人魚の踵(マーメイドヒール)

      6.黄昏の鬼(トワイライトオウガ)

      7.妖精の尻尾(フェアリーテイル)

      8.妖精の尻尾(フェアリーテイル)

 

 

バトルパート※各チーム一日一試合決行。

1日目:ルーシィVS.フレア

 

 尚、バトルパート勝ちにつき10P。負けにつき0P。引き分けで互いに5Pである。

 バトルパートで勝負を変えれば順位も変わる。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

(───フレア)

 

 そう優しい声音が闇から広がった。

 長く綺麗な深紅色の赤髪を三つ編みにし、首を傾げる癖がある少女。赤いドレスを身に包んだその少女は、ギルド《大鴉の尻尾(レイヴンテイル)》に加入した頃より優しくしてくれた大切な人の『声』に耳を傾けた。

 

(───気をつけて)

 

 大丈夫だよ、と紅髪の少女・フレアはにこやかに微笑んで心の中で答えた。

 『いつも(・ ・ ・)みたいに(・ ・ ・ ・)倒すか ら』

 そう答えたフレアに、その『声』からはまるで何かが詰まるような息が聞こえた。でもフレアには分からない。教えてくれないから。

 

(───守るよ)

 

 頭に届くその声に、いつも怖がっていたギルドの中でも気丈にふるまえた。

 だから今回も大丈夫。

 

(あんな金髪ぅ。楽勝よ)

 

 だから見ててよ、とフレアは目の前に立つ金髪の女を傾げて見下げる。これから無惨に無様に倒すところを見させてあげるよ、そう『声』に返答するが、答えはない。

 だが、それでも変わらない。

 あの女はなんか睨んだきた。だからムカつく。だから徹底的に潰す。それがギルドのやり方。そう教えてくれた。

 それに、勝たないと、……怖くて痛い……。フレアはすこしだけ思いだし、身を震わせた。マスターの暴行に。

 

『ここから闘技場全てがバトルフィールドとなる為、他の皆さんは全員控え室へ移動してもらいます。制限時間は30分!! その間に相手を戦闘不能状態に出来たら勝ちです。それではッ!! 第一試合…………開始ッッ!!』

 

 オオオオオオオオッッッ!! と会場が沸き出す中、二人の女の魔導士が対峙する。

 

 二人の戦闘が開始した中、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)陣営では黄金の鎧に身に包んだ仮面の男・アレクセイが上半身が程よく鍛え上げられた筋肉を黒タイツで張りを見せ、蛇のような鋭い顔つきが特徴である大鴉の尻尾(レイヴンテイル)のクロヘビに話しかけた。

 

「勝てるかな?」

 

「……いや、恐らく……」

 

 そうクロヘビが答えると、相手方の魔導士、ルーシィが星霊魔導士である証でもある《星霊の鍵》を翳して戦っていた。

 金牛宮の扉を開け、斧を持った牛人の戦士・タウロスを喚び起こし、更に天蠍宮の扉を開きスコーピオンまで喚び、星霊二体同時開門を可能にさせていた。

 

「……はっ、これは無理だな。オーブラ、準備しておけ」

 

「……まだ始まったばかりですよ?」

 

「ふん。初見で分かるだろう」

 

 それだけ言ってアレクセイは黄金の鎧を軋ませて音を鳴らす。まるで期待していなかったようにもう目を向けていなかった。クロヘビは表情は変えずも、拳を握り締めていた。

 フレアも自在に操れる己の紅髪を使い、ステージに広がる砂を利用したスコーピオンの風撃を防いでみせた。

 だが、ルーシィは更に星霊に指示を出す。

 

「タウロス!! スコーピオンの砂を!!」

 

MO(モオ)バッチリ!!」

 

 逞しき身体で巨大な斧にスコーピオンの風撃(サンドバスター)を吸収させ、合体技にさせたらしい。

 

「『砂塵斧(さじんぶ)アルデバラン』!!!」

 

 ゴオオオオ!! と砂の竜巻を数多に発生させた。人の身体など簡単に吹き飛ばすほどの風力を放ち、フレアも当然簡単に宙に舞った。

 

「ぐあああああああああ!! くぅ!! 金髪ぅ!! <髪しぐれ狼牙>!!」

 

 だがフレアもそれだけでは終わらず、髪を自在に操る魔法で、己の赤髪を巨大な狼に変化させ突進させた。まるで本物の狼のように鋭利な牙がルーシィを襲おうとする。

 

「開け!! 《巨蟹宮(きょかいきゅう)》の扉・キャンサー!!」

 

「エビ!」

 

 次に喚ばれたのは蟹のような甲殻の脚を背から生やし、ドレッドヘアとハサミが特徴的なダンディが現れた。巨蟹宮と言っていたが、何故か『エビ!』を語尾に付けている。

 キャンサーは人間の視認では追い付けない光速の巧みなハサミさばきでフレアの赤髪で出来た赤狼を切断した。

 これにはフレアも『私の……髪が!!』と吃驚(きっきょう)し、別の方法にてルーシィに攻撃する。

 

「おのれぇっ!!」

 

 赤髪をステージである闘技場の砂の地面に突き刺し、突き進ませる。すると、ルーシィの足下にフレアの赤髪がしっかりと捕まえられてしまう。

 

「えっ! きゃああああああああ!!!」

 

 人間一人を体が浮くくらい軽々と体勢を崩させ、フレアは構える。

 

「私の赤髪は自由自在に動くのよ……」

 

 まるで狂気が含んでいるのでは、と思わせるくらいに目が歪んで笑うフレアに、ルーシィは心の内で微かな怯みを生むが、関係ないと言わんばかりに冷静に、そして対応策として腰に差してあった伸縮可能な鞭を遣う。

 

「だったらあたしの星の大河(エトワールフルーグ)も、自由自在なのっ!!」

 

「何っ!?」

 

 ルーシィの星の大河(エトワールフルーグ)に手を絡め取られ、フレアも己が放った回転が自分にも巻き込まれてしまい、一緒となって宙にて無造作に回ってしまった。

 誰も地に足が付いてないことで二人は闘技場の砂地をクッションに転がり落ちてしまう。

 頭から落ちた二人だが、ルーシィは逸早く飛び起き、フレアは金髪(ルーシィ)の強さに困惑気味で半身だけ起こし冷や汗を垂らしていた。

 

『これは一回戦から息つくヒマもない攻防戦ーーーッ!!! 親子ギルド対決!!! 女同士の戦い!! どっちも引かず!!』

 

『でも妖精の尻尾(フェアリーテイル)の方がちょっと優勢に見えるわね』

 

 実況を耳にしながらも、フレアは自分の炎の赤髪により足を掴んでいたことで、大火傷を負った筈であろくルーシィにニタリと口角を吊り上げるが、

 

「つ……! ブーツが……!?」

 

 ルーシィの足には焼き焦げたブーツが無惨に残り、ボロボロの靴と化してしまったが、代わりに直接肌に触れていなかったことが幸いとして、ブーツを脱ぎ捨て素足で勝負を続行しようとしていた。

 

「もォ! これ結構お気に入りだったのにこのブーツ!」

 

「……ッ!……私の……焼ける髪……赤髪が……その程度のダメージ……!?」

 

 このフレアの得意として自慢であった赤髪による攻撃を、ふざけたこの女は何も影響を与えられないことに苛立ちに、更に狂気染みた目が血走る。

 

(金髪ぅ……!!!)

 

 この異様な雰囲気に気付いたのは、同じ大鴉の尻尾(レイヴンテイル)のメンバーたちだった。

 

「おぉ! どうやらやるようでさァ」

 

「……ふん」

 

「………………………………」

 

(…………フレア)

 

 ナルプディングは笑みが止まらず、アレクセイは一応再びフレアに目を向け、オーブラは相変わらず黙然とし、クロヘビも蛇のようは顔しながらも鉄面を装いながらフレアを見ていた。

 そして、フレアは癇声でも思えるような声を上げて再び赤髪を地面に突き刺した。

 

「また足を狙うつもりね!(素足の状態であの髪に触れられた確かに戦況不利になる)」

 

 ルーシィは周囲の地面、足下から全ての意識をそちらに回すが、一向に仕掛けてこない。

 これにルーシィは警戒を怠らず対戦相手のフレアを見て伺うると、突き刺した髪をそのまま不気味に首を傾げたまま、狂気に染まりしも美しいその顔は黒く微笑み、静かに人差し指をある観客席にへと向けた。

 

(なに?)

 

 ルーシィは素直に指された方向に目を向けると、そこには声を張り上げて応援してくれる大切な仲間(ギルドメンバー)たちの観客席だった。

 そして、皆の邪魔にならないようにと子供ながら健気に配慮して端から笑顔で試合を応援してくれてるビスカとアルザックの愛娘・アスカに、フレアの赤髪が密かに狙っていた。

 

「アスカちゃ…………んぐっ!!?」

 

 思わず声を上げてしまうが、フレアが赤髪でルーシィの首周りを縛り上げた。

 

「声を出すな……これは命令。逆らったらどうなるか分かるわよね? いくら頭の弱そうな金髪でも」

 

(きたない……!!!)

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「……見えてるんでしょ、キング」

 

「あぁ。見えているぞ? ヲヨキ」

 

 親子ギルドの対決に、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーたちは声を渇れるほどの声を上げて試合を応援している中、獅子然とした堂々たる悠然とした格好で、黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の観客席に逆立てた金髪のキングに、真っ白な髪に真っ白な肌が特徴的なヲヨキは、隣で応援している妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーたちに気疲れないくらい小さな声で話していた。

 ヲヨキは先程バナボスタに買いに行かせた鳥の串焼きを食べながら顔の表情を変えずにキングに問う。

 

「道楽は好きだけど面倒が嫌いな王様はどうするのかな? 見ているだけ?」

 

「ふむ……(オレ)が手を下し、裁定してやっても良いのだがな……ククク」

 

 獅子の(たてがみ)を逆立てるように、キングは頬杖をついて眺める姿勢に徹した。

 

「それが王様(きみ)判決(こたえ)かい?」

 

「王とは常に新しきものに眼を向いておらねばならんのだ。これからどのような結末が待っておろうが、それがどのような結果になろうが、面白ければ良いのだ」

 

 キングは目の前で止められる悲惨な物も、結果結末が面白ければそれでいいという快楽主義な嗜好を求めている。

 

「是非も、なし……クックックック」

 

「そっか」

 

 クツクツと喉から笑うキングに、ヲヨキは嫌悪を表す訳でも好感が沸くこともなく、ただ眺める。諌めることが出来ないのを理解しているならば、同じく咎を受けることくらいは出来る。だから、一緒に眺めるその王と名乗る青年と傍らから、

 

(……ま、いざとなったらボクが助けて上げるよ、あの可愛い女の子をね。感謝しなよ妖精の尻尾(フェアリーテイル)の皆さん)

 

 ヲヨキはパタパタと足をバタつかせ、焼きたてのタレ特有の匂いを放つ串焼きをまた一つ頬張っていた。

 バナボスタが脇の視界から収まった。

 また新しい祭りの食べ物を買って来てくれたのだろう。ヲヨキの命令で。

 

(さぁてと、食べ物も新しく来たけど、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の金髪ナイスボデーのお姉さん。赤髪姫とはどうやって戦うかな?)

 

 ヲヨキは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔法の凄さに興味が尽きることはなかった。

 例え卑怯な手段を用いられても、どんな逆転を見させてくれるのかを。

 

 ただ面白く眺めていた。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「あ は は は は !!!」

 

「うっ!」

 

 調子を取り戻したフレアは一方的な攻撃でルーシィを追い詰めていった。

 

「どうしたルーシィ!?」

 

「どうしたんだ! さっきまで互角にやり合ってただろ」

 

 急な一方的攻戦に苦い顔になりながらただやられていくルーシィにエルザらエルフマンが疑問と心配の声が上がった。

 観客席からも疑問の声が上がる。ルーシィがどのような状況に置かれているかも知らずに、

 

『これは一体どういう事でしょう。さきほどまでの激戦からうってかわって一方的な展開に!!』

 

 実況のチャパティも驚いているが、フレアは構わずルーシィを燃える赤髪で攻め立てた。

 ルーシィはチラリとアスカの方向に向く。そこには変わらず焼ける赤髪が無垢な少女に狙いを定めて構えている。それだけでルーシィが動けなくなるのは十分だった。

 

(くっ! アスカちゃん!)

 

 誰にも気付いてくれないこの状況。ルーシィは歯を強く食い縛ることしかできない。

 バシンッ! とルーシィに連続的に赤髪が鞭のようにして柔肌を傷付けるよう打ちつける。打たれた場所は無情に腫れ上がる。そこには火傷も更に負わせられる為尚酷くなっている。

 そしてルーシィが今一番に思ったのは『悔しい』という気持ちだけだった。

 本当に、それだけしか頭になく。激しく打たれながらもルーシィは一切消えないで考え続けていた。

 ギルドの皆と目標を掲げ楽しく騒いだあの日を、戦える準備も心構えも出来ていたのに何者かのせいで不参加を余儀なくされ悔しく泣いていたウェンディを、つい先程まで試合をして蓄積された筈の実力を十分に発揮できなかったグレイを、ルーシィは鮮明に思い出していた。

 

(悔しい……くやしい……くや、しいよ)

 

 ボロボロになりながらも、どうすればいいのか最善なものを考えたルーシィが出した答えは一つ。

 

「降…………さ……」

 

 アスカちゃんを絶対に傷つけたくない。

 フィオーレ1のギルドになりたいけど、その為に誰かを傷つけてまでなりたいとはルーシィは思わなかった。

 ごめんない、胸中で皆に謝りながらルーシィがリタイアを宣言しようとするが、

 

「んぐっ!?」

 

 ギュルルルとルーシィの口がフレアの赤髪で塞がれてしまった。

 

「誰が喋っていいって言ったよ金髪ぅ!!」

 

「んんんんんんッッ!!」

 

「降参なんかさせないわよ…………これからたっぷりと遊んであげるんだから」

 

 フレアはルーシィの四肢を赤髪で持ち上げ、自由を奪った。

 

「いい? 声を出さないでちょうだい。ただし悲鳴は許すわ♪ あはは!」

 

 フレアは歪んだ笑顔で目の前のルーシィに訪ねる。

 

「そうね……まずはどうしてくれようかしら? 裸にひんむいてやるのもいいわね。この大観衆の前で」

 

 口元を解放されたが、フレアの冷酷な提案にルーシィは羞恥でブルブルとその場で震えてしまう。まともにフレアさえ見れない。

 

「それも面白そうだけど、もっといい事思いついちゃった。お前の体に大鴉の尻尾(レイヴンテイル)の焼き印を入れてやるわ。一生消えない焼き印をね。どこに入れてほしい? ん?」

 

 フレアが目に入ったのは、手の甲に刻まれた彼女の誇り。彼女の証明。彼女の夢が詰まったもの。

 

「そうか。〝妖精の尻尾(フェアリーテイル)〟の紋章の上にしてほしいのねぇ」

 

「お願い!! それだけはやめてっ!!」

 

「喋んなっつったろォ!?」

 

「いや!!! やめてっ!!」

 

 ルーシィは必死にその場でもがくが、フレアは依然と力を弛めず、逆に力を入れ直した。完全に抜けることが出来ないでいる。

 そんなルーシィの様子にやっと違和感を抱いたエルフマンとエルザだったが、エルザがナツが居ないことに気付いた。

 そして、その当のナツはというと、いつのまにか会場から観客席にへと移動し、観客の間を全力で走り抜け、あっという間に妖精の尻尾(フェアリーテイル)の応援していた席にへと到着していた。

 

「オレは耳がいいんだよョ!!! 確かに聞こえたぞ!! 『アスカちゃん』ってな!!」

 

「ナツお兄ちゃん?」

 

 んがー! とナツがフレアの赤髪を見つけ、見事にそれを引き千切りアスカを守った。だが当のアスカは単純に疑問に思ったのか『どーしたの?』と見上げている。

 ビスカが我が子を引き寄せ、ナツに理由を聞いていると、横目に映る金髪の男が目に入る。

 

「……うん。お前……」

 

「フハハ」

 

 ナツは金髪の男、黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のマスター代理であるキングに何かを聞こうとすると、

 

「これナツ! アスカを守ってくれたのは助かったが早う戻れ。後は儂が言っておく」

 

「ナツー! がんばれー!」

 

 マカロフに止められ、ナツは意識がルーシィにへと向かう。

 そして、キングは顎を摩りながらナツを背中から眺める。ヲユキはそれ見てまた新たにバナボスタから買ってきてもらったポップコーンを一つひとつを頬張りながら美味しそうに咀嚼(そしゃく)しながら食べていると柔和な笑顔を浮かべていた。ナツは言いたいことをルーシィに叫んだ後、キングを一瞥して、すぐに駆け戻っていった。

 それを見ていたキングは小さな笑みを浮かばせて、ヲユキはそれを眺め、一抹の不安を抱きながらも試合を見ることを続行した。

 

「何っ!」

 

 そして、ナツの行動( あ れ )には予想外過ぎたのか。フレアは少しのラグを生んで驚くが、ナツのありがたい援護にようやく反撃のチャンスを手に入れたルーシィはすぐ様に《 双子宮》のジェミニを喚ぶ。

 

「ジェミニ!」

 

「「ピッキッーリッ!」」

 

 二体の星霊(せいれい)が開門され、一気にフレアの赤髪を切っていくと、ルーシィはジェミニと何かを鍛練していたのか、『アレやるわよ!!』とジェミニに言う。

 

「とにかくあたし(・ ・ ・)に変身!!」

 

「了解」

 

 ボンッと変身したジェミニの姿は、会場の男たちが思わず席を立ち上がって喜ぶ。なんとバスタオル一枚のルーシィ(・ ・ ・ ・)の姿が現れたのだった。

 これにはルーシィも『 ウェ(゚Д゚)!? 』といった感じに驚いていて、すぐに反応するが、理由はどうやらコピー時の姿でいるため、服装もそのままだったらしい。

 会場も勿論これには野太い歓声が上がり、盛り上がる。

 だが勿論フレアは面白くないし、形勢逆転の予想図が完全に脳裏を横切るばかり。

 

「金髪ぅ!!」

 

 フレアだけでは無く、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)陣営の控えで待っているアレクセイは鋭利ある手甲を灰色の煉瓦にぶつけ砕き、怒りを表している。

 ナルプディングは恐れ、オーブラは無反応、そしてクロヘビはアレクセイの横に控えると冷静に分析したことを呟く。

 

「……あの双子宮の星霊、ジェミニはコピーの魔法を得意とする星霊の様子。だがあの様子からして高い実力がある魔導士には変身できない様にも見られます。そこから導き出されるのは、同系統、同質の魔力…………つまりはジェミニのマスターである星霊魔導士ルーシィの強さも比例されるということ」

 

「…………では、ラクサスやマカロフといった妖精の尻尾(フェアリーテイル)の実力者には変身(コピー)できない。そういうことか」

 

「恐らくは…………ですが、甘く見れないのは確かです」

 

 アレクセイはそのことも気にくわないのか、握力だけで煉瓦を潰し壊していく。だが、アレクセイの視線がオーブラに移すと、

 

(ふん……アイツがどうなろうと構わんが、もしもの時は、)

 

 アレクセイの視線や思惑に早くから気付いていたのか。オーブラは肩に小さな黒い生き物を既に待機させていた。それにアレクセイは仮面越しに微笑み、そしてクロヘビは冷や汗を垂らしていた。

 そんな思惑を露知らず。フレアはルーシィのただならぬ魔力の向上に冷や汗が滝のように流れるか、状況を打破出来る訳でもない。

 そんなフレアに、ルーシィは次の一手をかけた。

 

「天を測り、天を開き、あまねく全ての星々。その輝きをもって我に姿を示せ」

 

 ルーシィが唱えたこの言葉に、青い天馬(ブルーペガサス)のトライメンズが反応する。

 

「その魔法はまさか!!」

 

「何かすげー魔力だぞ!!」

 

「なるほどね。自分を二人にして魔力を高めてるのか」

 

 それは、かつて『六魔将軍(オラシオンセイス)』の戦いでみせた星霊魔導士と星霊が協力なくしては出来ないであろう星々の超魔法。

 

「テトラビブロスよ。我は星々の支配者。アスペクトは完全なり…………」

 

 今のルーシィの魔力では二人(・ ・)合わせてもあの時の力は出せない。それは本人が一番に理解している。だが、それでもルーシィは見せたかったという。

 

「な……何よコレェ…………!」

 

 星野の輝きを、放て。

 

「荒ぶる門を解放せよ!」

 

 これが妖精の尻尾(フェアリーテイル)。これがギルドの誇りをかけた一撃。

 

「全天88星……光る! 〝ウラノ・メトリア〟!!!」

 

 オオオオオオオオオオオオォォォォォ!!!!! と会場は地上で放たれた

 

 それは、かつて『六魔将軍(オラシオンセイス)』の戦いでみせた星霊魔導士と星霊が協力なくしては出来ないであろう星々の超魔法。

 星々の輝きが地上から発せられる。

 目が焼かれてしまうのではと恐れてしまうほどの閃光。輝きは一瞬にして会場を包み込んだ。

 

 誰もが期待に満ち溢れ、観客たちは歓声を上げ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーは次々と勝利への確信でなのか、自然と笑みを溢していた。

 

 だが、

 

(えっ?)

 

 何も起こ(・ ・ ・ ・)らなかった(・ ・ ・ ・ ・)のだ。

 

 まず誰よりも、それを理解出来なかったのは、魔法を行使しようとしたであろう。ルーシィが一番に理解を苦しんでいた。

 

(なんで? どうして? 星霊たちに教えてもらった魔法、それが不発?! ちが……う……魔力もちゃんと無くなってる……ちゃんと発動はした、感触もあった……それなのに……なんで)

 

 崩れ行くルーシィ。

 片やフレアはと言うと、カタカタと震えていた体がまだ言うことを聞かないが、首だけを大鴉の尻尾(レイヴンテイル)陣の方へ向ける。

 

(オーブラ!! おまえか!!)

 

 ニヤリと黒い笑みを浮かばせるフレア。

 それに気付かずに、ルーシィは体勢を崩して倒れてしまう。

 

『オォー!? これは一体何が起きたのか!? ルーシィほ魔法は不発!!? ヤジマさん!! これは……!!?』

 

『……………………………………』

 

『ヤ…………ヤジマさん?』

 

 実況のチャパティは今起きたであろう事実を観客たちに言葉にしてあらためて分からせるよう再びそう実況していたが、ヤジマのただならぬ雰囲気に思わず言葉を詰まらせるが、

 

『おォーっと、ルーシィがダウーーン!! 試合終了ーー!! 勝者《大鴉の尻尾(レイヴンテイル)》フレア・コロナ!!』

 

 ここにきて、勝負が決まってしまった。

 

 黒い(ハネ)を落としながら、鴉は這いつくばる妖精を嗤った。




フレアが大好きです。クロヘビも大好きですww

てかフェアリーテイルは魅力あるキャラが多いですね。書いてるときなんてもう妄想が暴想して暴走してww

月刊フェアリーテイルマガジンが馬鹿にならない値段ですが今のところ全巻揃ってる……そこで連載しているフェアリーテイル―ZERO―…………

まさかあんな展開[壁]ω´・)チラッ

亀更新ですが、またご贔屓にお願いします(T-T)


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第13話「オルガ VS カクキ」


本当に、週刊の漫画だからあっという間にどんどんと展開が進んでいきますフェアリーテイル!
『冥府の門』編が終わり、新しい展開になるのは大変うれしいのでありますが、笑っちゃうほど間に合わない。でも諦めないぞ!
自分の妄想の暴走は終わらない!!

ザンクロウ全然出てきませんが、ホントにすみません。出すタイミングを逃している作者です。

オリキャラ出して本末転倒なんて洒落にならないぞ……頑張らないと(-_-;)


※注意※
・この作品では勝手なカップリングなどあります。『ちょっとソレないわ~。ダメやわ~』という方は注意してくださいまし


 『大魔闘演武』会場〝ドムス・フラウ〟。

 

 その会場は年に一度開催されるこの祭りに参加するべく数多くのフィオーレ王国の各地方から行商人やら旅人が王都〝クロッカス〟に(つど)いに集っていた。

 そこには色々な思惑を持った者たちも少なからずおり、今はただ祭りの賑わいによって掻き消されているだけ。そんな都の中で、浮き足立たせた者も少なからず居た。

 

「今日黄昏の鬼(トワイライトオウガ)が三試合目に入っているから急げだと?」

 

 だが同時に、その賑わいに乗じて、普段なら忙しく遊びになんて洒落込めない職業柄の人たちの解放される日でもあったのだ。

 

「そうだよ団長急いでー! オウガとセイバーが闘うっていうのにさー!」

 

「ま、まて。そう急ぐな。それと規則を守れ阿呆!」

 

 賑わいが王都を包み込んでいる中、ある一組が今絶世開催中である闘技場《ドムス・フラウ》にへと向かうために、人と人の間を器用に避けて進む少女を追うように、紫色の髪を坊主にした少々キツめの目つきをした男が必死に追いかけていた。傍から見たら警備隊や警備兵に報告ものだが、今は良くも悪くも誰も気にも留めなかった。

 男はそんな器用に突き進む元気な少女を必死に追いかけながらも、男と一緒に歩いていた黒髪の少女にも目を向ける。

 

「大丈夫かカーミー? コスモめ、何をそんなにはしゃいでいるのだ」

 

「それは団長と……うぅ、ちがった。カマ(・ ・)さんと外出出来たからじゃないかな?………………私も嬉しい、から」

 

「うん? 最後はなんと言ったのだ? この賑わいでは大声で話さないと大変だ」

 

 カマと呼ばれた男は整えられた紫の顎髭を揺らして、はぐれないようにと和装に長い黒髪をツインテールのように纏めた少女と、手を繋ぎながら都の中央通行路を人を掻き分けて進む。

 様々なフィオーレ王国自慢の老舗店が中央を占めており、今も他店に客を取られまいと必死に客寄せをしている者もいる。

 人が(ひし)めくその王都クロッカスを、元気に突き進む帽子を被ったピンク色の髪をした少女は、元気に笑い、進んでいく。

 後ろから見える大好きな二人。

 後から追いかけてきてくれることがとても嬉しくて楽しい。そんな気分を感じているらしい。

 

「むぅ……しかし、どうして他のアイツらは今日来なかった? 年に一度のフィオーレの大祭(たいさい)《大魔闘演武》だと言うに……」

 

「……く、空気を読んでくれたのよ、きっと」

 

 顔を赤くして、しっかりとカマと呼ばれた男の手を握っていた和服の少女・カーミーはそんなことを消えそうな声で呟く。

 だがカマはそんな小さな声に気付かずに、まるで妹か娘を守る兄か父のようにしっかりとカーミーの手を握り、人混みを突き進んでいけば、《ドムス・フラウ》に続く石階段が見えてきた。まだ階段の入り口だと言うのに、そこでも様々な露店が広がっている。

 するとそこで、何やらふっくらと頬を膨らませてカマたちを睨むように見ていたのは、先行していた桃色をした髪が特徴的な少女・コスモだった。

 

「カ、カーミーずるい! 団長と手ぇ繋いでる!」

 

「しょ、しょうがないでしょ!? 貴女が先にグイグイ行っちゃうんだから」

 

 それを見たコスモは帽子を目深く被り直し、カマの空いている片方の腕に絡み付く。

 カーミーより数段ほどバージョンアップしたそのスキンシップに、カーミーは負けじと繋いであった腕に自らの腕を絡ませてコスモに負けじと顔を赤くして睨んでいた。

 

「はぁ~…………」

 

 二人は美少女の部類に入るほどの美を兼ね揃えている。だが、やはり子どもの面として見てしまうカマは互いに言い争っている二人を、やはり娘か妹か、そんな気持ちで引っ張っていくように、完全にスルーして歩を進める。

 しかし、そんなカーミーやコスモの言葉から少しだけ気になり始めたカマ。

 その黄昏の鬼(トワイライトオウガ)剣咬の虎(セイバートゥース)の闘いの観戦に赴くのにあたって、内に潜む『刈る』ことに特化したの己の魔力が、ひしひしと震えていることに気付き始めていた。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 過去、フィオーレ王国最強のギルドを(うた)ったあの《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》と同じ街であるマグノリアから進出してきたギルド《黄昏の鬼(トワイライトオウガ)》。

 改めて説明をするわけでもないが、このギルド、何気に妖精の尻尾(フェアリーテイル)マスターであるマカロフが生まれてくる前から存在しているギルドであり、名こそ有名ではなかったが、コツコツと築き上げてきた地道な仕事を数多にこなしてきたことで、潰れることも、トラブルを巻き起こすこともなかった。

 たとえそういう問題を直面したとことがあっても、やはり街で起こりうる大きなトラブルの被害は大抵は妖精の尻尾(フェアリーテイル)が持ち込んだものが多く、大抵はことを軽く目を瞑ってくれることが多かったのだ。もちろん目を潰れる範囲で。

 だが、勿論それだけでギルドの相続が続くはずがなかった。

 依頼もそうだが、何も魔物の退治だけが依頼として舞い込んでくるわけでもなく、街中の修理や配達、採取、物造り、建造物や農業など多種多様にその行動範囲を広げてきた。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の主戦力が居なくなった日から、黄昏の鬼(トワイライトオウガ)は大きな顔をきかせるようになったと聞いたが、それは実は『表の顔』であったのだ。

 

 だが、本物の顔は、裏にある。

 

 『(ニセモノ)』ではなく『(ホンモノ)』の《黄昏の鬼(トワイライトオウガ)》のメンバーは元あったであろうマグノリアの周辺にある森の中のアジトに揃っていたのだ。

 『(ニセモノ)』の黄昏の鬼(トワイライトオウガ)メンバーを率いていたのはマスター代理を務めていたボナボスタ。この四角い角のとった顔が特徴的なだけの大男だけが、黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の『(ホンモノ)』のメンバーを知っていた。

 

「鬼が表に出てくるのは徹底とした破壊を目的にしたものだけ、それ以外での鬼の外出は気高き(オレ)より高位である我が父・頭領(マスター)が許さぬ」

 

黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のマスターか、のう…………」

 

 その話をしていたのは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の応援席の隣を陣取っていた獅子然とした金髪の雄々しき男、キングから発せられたものからだった。

 話を聞いているのはマスターであるマカロフや、メイビスのみ、他のメンバーは只今戦っている第二試合の《青い天馬(ブルーペガサス)》対《人魚姫の踵(マーメイドヒール)》に熱中していた。

 

黄昏の鬼(トワイライトオウガ)……最近出来た新人たちのギルドかと思っておったら、そんなに長い間あったというのか? 全く知らんかったぞ)

 

 マカロフはマグノリアに長年住んでいたが、黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の名は聞かなかった。

 

「我らは極一部の者にしか依頼を受けていなかったからな。だが、達成率はどれも確実にしてきた」

 

「だったら、少しでも名くらいは通ると思いますが……」

 

 メイビスは妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章を持っている者にしか幽体が見れない様子だった為に、キングには見えていなかった。

 

「ふっふっふ。話してやろうか? 小うるさいヲユキも頭領(マスター)に呼ばれて居なくなったことだしな」

 

 不遜に、キングはただ王のように構えて座る。

 

「ま、こうして(オレ)(オレ)として振る舞えるのも、こうやって大々的に表立つことが可能になったからだがな。『裏』のままでは『(オレ)』としては振る舞えなかった」

 

 一体今まで何を? そう聞こうと思っていたマカロフだったが、

 ワアアアアアアアアァァァァ!!! と歓声が響き渡る。

 第二試合が終了したらしい。

 

「積もる話もあるだろうが、(オレ)はこれから家臣たちの魔闘を眺めてやらねばならぬ故、話は次にしてやろう」

 

 マカロフは既にこの不遜な態度に慣れ始めていることに驚いていた。これといった燗に障ることもないのが不思議である。自信から溢れるなにかだろうか?

 

『第二試合勝者、青い天馬(ブルーペガサス)、レン・アカツキ!!! これで青い天馬(ブルーペガサス)は一日目、14(ポイント)! 人魚姫の踵(マーメイドヒール)は3(ポイント)ォォーーー!!!』

 

 解説席に居たゲストの青い天馬(ブルーペガサス)所属、ジェニーがかなり高めのテンションで喜んでいる。

 青い天馬(ブルーペガサス)の強さに、ナツやエルザたちが称賛や感想を洩らしていると、闘技場の砂場を魔法により一瞬にして綺麗にされると、休憩を挟んで続く一日目の第三試合が開始しようとしていた。

 

『続いて一日目第三試合!! 《黄昏の鬼(トワイライトオウガ)》カクキVS《剣咬の虎(セイバートゥース)》オルガ・ナナギア!!!』

 

 おおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!! と歓声が轟き渡る。正にオルガの登場と同時にそれがおこった。

 

『この大歓声!!! すごい人気だオルガ・ナナギア!!』

 

 特に猛る様子もない、仏頂面のオルガはトゲトゲしい長髪を揺らし、上半身が裸だと言うのに堂々とした戦士の様に勇然としていた。

 対してのカクキは、真っ赤な深紅の髪をこちらも逆立てるようにトゲトゲしくした長髪で、両手を広げ、上半身裸で、何故かゆらゆらと上半身を左右にゆれながら歩いてくる。

 

黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の、戦鬼としての力を魅せてやれよ……〝赫鬼(カクキ)〟よ」

 

 キングは凶悪な笑みを浮かべ、(わら)った。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 第三試合開始の銅鑼が会場を包み込んだ。

 会場の皆が、一体あの常勝無敗のギルド《猛虎(セイバートゥース)》にどう噛みつくのか、《戦鬼(トワイライトオウガ)》は両手を広げて構えている。

 

「よぅよぉ……オレぁアンタを知ってんぜ? アンタはオレを知らないだろゥが、オレぁ知ってるぞ、カカカカ!」

 

「……あァん?」

 

 闘いを開始することでもなく、カクキはケラケラと笑ってオルガを中心にして円を描くように歩く。

 

「アンタはオレを倒せやしねぇのさ。ただ馬鹿ショージキに力を使うアンタじゃ踏み抜く足場も全然チガウ」

 

(……なんだコイツ? 頭でもイッてんのか?)

 

 オルガはさっそく己の魔法で速攻勝利を狙おうと、鬼面の赤毛男に掌を向ける。

 だが、魔法を行使しようと、そうしようとしたその刹那、カクキは笑って(・ ・ ・)いた。

 

(な…………に?)

 

 だが、放ってしまった。

 まるで轟音。光速が(はし)ったと思えば、次に遅れてやってきた音速が音圧と共に会場を震わせたのだ。

 晴天の霹靂(かみなり)がその場を支配した。

 

 その誰もが目を見開いて驚いている中で、もっとも驚いていたのはオルガ本人だった。

 

(なんだ!? コイツは!?)

 

 何に驚いているのかと思っていると、なんとオルガの『雷の魔法』が直撃をしないで、(すんで)の所でカクキは躱していたのだ。

 そして、その『雷の魔法』から発せられた光がカクキの口元を照らしていると、口唇の動きでオルガの元へ届いた。

 

(『お前……雷神の滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)か』……だと!)

 

 僅かな口唇の動きだけでオルガは読唇する。

 

『ぅあぁーーっと!!? なんということだ!? 開始数秒後にオルガは速攻でカクキを仕留めに黒雷を放つも、なんとなんと!! カクキは未だに健全だぁ!!』

 

 ワアアアアアアアアアアアアア!!!! と観客たちは一発目からド派手な攻撃を放ったオルガに歓声を上げているが、殆どの者はそのオルガが放った『黒雷』を避けたカクキにも注目を浴びていた。

 

「カヒヒヒヒ!! そりゃぁ簡単に終わっちまったらつまんねーだろォがよ! カヒヒヒヒ!!」

 

「お前ェ……!!」

 

 オルガは拳を握り、怒りを表していた。

 それもその筈、オルガはこの黒雷に己の強さを込めた攻撃の1つだったのだ。

 それだと言うのに、オルガの目の前で大きな声を上げて笑うこの男に神経を逆撫でさせられる。

 カクキは鬼の象徴でもある《角》を指で撫でながらオルガを見る。

 

「余程の余裕で挑んだんだろォ? 余裕の強さで挑んだんだろうォ? カヒヒヒヒ!! ダメだなぁオルガちゃん!!」

 ブチブチとカクキに聞こえてきそうな何かか切れる音がした。

 オルガは怒り心頭で両手でカクキを向けて、放とうとする。

 だが、

 

「もっと周りを見ろよォ! オルガちゃぁん!!」

 

 ガツゥン!!! とオルガの視界が炎によってカクキの姿を遮られた。

 

「あぁ!?」

 

 こんな炎ごとき、オルガの前では効かない。自らの黒雷を炎を払うかのように広範囲に放とうとしようとする、だが、オルガの動作に合わせるかのように炎がますます勢いが増し、とうとうオルガの周辺だけ(・ ・ ・ ・)が炎の柱のように燃え上がったのだ。

 闘技場から天まで伸びる赤々と炎の柱が周囲に高熱の空気が覆われる。

 だが、観客席の最前列数センチ前まできちんと抑制(セーブ)されており、業炎がただ竜巻のように柱立つそれを、観客たちは歓声を上げて眺められていた。

 

『こ、これは凄すぎる!! まさかここまでの炎使いがフィオーレ王国に居たとはーー!! あ、熱い!! カクキは観客にまで及ばないように抑制(セーブ)しているが見ているだけで汗が止まらないィーー!! ヤ、ヤジマさん!! こんな猛る炎を放っておきながら、ここまで精密に制御を誇った人は居たでしょうか!?』

 

『いやぁ……これまた驚きだねぇ。こんなに炎を放ってさぞオルガくんやカクキくんは熱そうだねぇ』

『いや、スルー……』

 

 炎々と燃える焔の柱に、火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)であるナツは興奮せずには居られなかった。

 

「すげぇすげぇ!! あんな炎食ってみてぇ!」

 

「そこなのかナツ!?」

 

 エルフマンは目の前で起こっている現実に冷や汗を垂らしながらも、興奮して乗りだそうとしているナツを抑え込んで、エルザも両選手の魔法には驚いていた。

 

「ここまでの実力があったのか、黄昏の鬼(トワイライトオウガ)剣咬の虎(セイバートゥース)とは……」

 

 ジェラールから知らされた謎の魔力も関係しているのではと勘ぐっていたエルザだったが、どちらも己が手にした魔力だと肌からヒシヒシと伝わってきた。

 どれほどの苦労を重ね、どれほどの戦いに身を投じてきたのか、この魔法とのぶつかり合いで分かったのだ。

 だから、ナツも純粋なこの魔力を感じ取ったのか。あの燃え盛る炎柱を食べてみたいと、火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)として言っている。

 エルザも元から戦い好きもあるせいか、自然と笑みを溢して(たぎ)る闘気を必死に抑え込んでいた。

 

 肝心のその両名、オルガとカクキはあの天まで届く炎の柱の中で闘っているのか、中々姿を表さない。だが、長期戦、長く続くのかと皆が思った瞬間だった。

 

 バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリィィィ!!!! と炎の柱の中から轟音が轟いたかと思えば、黒い雷が内側から洩れ出した。突き破るかのように黒雷が炎柱を消し飛ばした。

 皆が固唾を呑んでいると、中からは無傷のオルガが勝利を勝ち取ったかのように空に向けて拳を上げ、対戦相手であるカクキは黒焦げになって倒れていた。

 

 おおおおおおおおっっ!!!! とオルガの勝利に観客たちは席を立つほど盛り上がりを見せていた。

 オルガは倒れているカクキを一瞥したあと、観客ちに勝利のポーズを決めていた。

 

『試合終了ォーーーっ!!!! 炎の竜巻をオルガの黒雷で一閃!!! 強い!! やはり強いぞ!! だがそのオルガと闘ったカクキも凄かった!!! なんてド派手な試合だったんだぁーーっ!!!』

 

 実況のチャパティが試合終了を宣言し、両名の魔導士は戻っていく。

 

「……………………」

 

「どうしたの、ラクサス?」

 

 そして、そんな黒雷を操った魔導士・オルガに視線を送っていたのは、妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチームとして出場した妖精の尻尾(フェアリーテイル)S級魔導士の一人であるラクサスにミラジェーンは不思議に思い、顔を近付かせて確かめようとするも、ラクサスはフンと鼻を鳴らすだけで特に反応を示さなかった。

 ミラジェーンは『もう!』と言いながら諦めずにラクサスを追及するが昔とは違う、ゆるやかな態度でミラジェーンから逃げる。

 同じBチームであるガジルはこの男に雷で焼かれたことがあるのだが、今のラクサスを見ているとどうにも恐怖というものを感じない。

 

「オラ、今はそんなことより次だろ次。残ってるのは俺たち妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチームに蛇姫の鱗(ラミアスケイル)。一体どんな組み合わせになるんだァ」

 

「むぅ。なんだか旅に出てから(かわ)し方を覚えたわねラクサス」

 

 ラクサスの言う通り、これからチャパティは対戦相手を発表しようとしていた。

 

「誰が出ても勝たないとね」

 

「はっ! 当たり前だろゥが、つかオレを出させろ!!」

 

「……(まか)…………せろ……」

 

「ミストガンよう、小声過ぎて後半しか聞こえてねえぞ」

 

 

 先に出場し、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に勝利を送れなかったジュビアは今は一人になっている。

 だが、悔しさは皆一つだった。

 ここに居る者すべてが本気になるだろう。

 自分の為ではなく、汚名を馳せられた妖精の尻尾(フェアリーテイル)の輝きを取り戻す為に。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 上から眺める会場に、観戦に来ていたマカたちは肝心の黄昏の鬼(トワイライトオウガ)の魔闘を観れて満足そうに話し合っていた。

 席が上方にしか無かったのだが、中央上空に魔水晶(ラクリマ)ビジョンが映し出されていた為にどんな闘いをしているのか詳しく観れるようになっていたのだ。

 闘技場内で売られていた大量に積め仕込まれたポップコーンの箱を、両手で震えながら零れないよう慎重に持って座っているカマを、二人の少女は囲むよう両隣に座って食べていた。

 

「大丈夫? やっぱり私が持とうか?」

 

「カーミーは優しいな、だが大丈夫だ。この席並びならばこのポップコーンは持つのは自分である」

 

「それがもっとも美しい並びよ。でも大丈夫、だって私が食べさせて上げるのだからね」

 

 そう言ってコスモはポップコーンをカマに食べさせようと口に運んであげる。

 帽子から覗いた瞳に、悪戯の思惑があるのに気付いたカマは溜め息をついてコスモを少し叱ってやるかと思っていると、カーミーはそれを本気だと気付き『わ、私だって、やる!』とポップコーンをカマに押し付けてくる。

 

「ま、まて、落ち着け。うん? ほら、見てみよ。次の対戦相手が決まったようだぞ?」

 

 カマは話の流れを正常に戻させると、次の対戦カードが決まった。

 

『一日目最後の試合となります第四試合!!! 《妖精の尻尾(フェアリーテイル)B》〝ミストガン〟VS《蛇姫の鱗(ラミアスケイル)》〝ジュラ・ネェキス〟!!!!』

 

 

 『聖十』の一人が次の対戦に出てくるらしい。

 それだけでも、先程試合をしていた黄昏の鬼(トワイライトオウガ)剣咬の虎(セイバートゥース)に続くくらい興味を持った。

 

 






あ、はい、すみません。
凄いところで終わってしまった。


読んでくださった方々、ありがとうございました。
感想やコメントをお待ちしております!


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第14話「それぞれの出会い」


久しぶりの投稿。読んでくださってる人には大変申し訳なく思います(T-T)
今回もオリジナル展開し過ぎて申し訳なく(T-T)

てかアニメ進むの早いよ!
えっ? もうタルタロス編やっちゃってるよ!
こっちはまだ大魔闘演武だというに! えっ、お前が書くの停滞すっから悪いんだろ?
…………正にその通りです(T-T)


 

 

 魔水晶(ラクリマ)ビジョンのように、《大魔闘演武》を遠方から眺めている者たちが居た。

 それは闇ギルドを次々と壊滅させていく独立ギルド《魔女の罪(クリムソルシエール)》のメンバー。

 

 その中で、ちょこんと正座を崩したように座っている美しい女性二人は、演武の進行に驚いていた。

 まさか魔女の罪(クリムソルシエール)に属して、王国でも凶悪屈指の名で指名手配を受けている逃亡犯・ジェラールが妖精の尻尾(フェアリーテイル)Bチームとして参加していたからだった。

 

「……ちょ……」

 

「ヒィハッハッハッハッ!!!」

 

「ザンクロウうるさい! またウルに氷浸けにされるよ」

 

 先程まで勝手な行動をするな、ときつく叱った後だと言うのに、ジェラールが勝手な行動をしていた。

 まるで母親が、言うこと聞かない子供を叱り、やっと宥めた思った矢先に父親が悪い手本の如く先行して好き勝手やっているのを目撃したような反応だった。

 メルディもまるで母親に刺激を与えぬようお馬鹿な兄を止めようとしている妹の図と化しているのだが、お構い無しにザンクロウは笑い転げている。

 ピクピクと震えているウルティアを横に、メルディは『ヒハハハハ! ヒィ腹痛い!』と笑い転げているザンクロウに飛び込んで口元を押さえ込もうとするも、ザンクロウは好機とばかりメルディに抱きつく。

 どさくさに紛れて太股やら胸にやらちょんちょんと問答無用に触ってくるザンクロウにメルディは顔を赤くして本気で酸素を取り込めないほど強く口を押さえようと行動に出るが、体力でザンクロウに勝てる訳がなく、抱きつかれたまま体の自由を奪われてしまう。

 (はた)から見たらイチャイチャしてるとしか見えないのだが、ウルティアからすれば兄妹がじゃれあってる風にしか見えてないらしい。

 

「ちょっと、笑いが止まったなら(じゃ)れ合ってないでちゃんと見ときなさい。何処かに私たちが見落とした箇所があって、そこから得られる謎の魔力の手がかりがあるかも」

 

「待って!! これ(じゃ)れあってるって範疇なの!? そう見えてるのウル!? ちょぉ! ザンクロウ本気で怒るよォ!!」

 

「デヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘヘ」

 

「ダメだぁ!! 目が変わってる! 目がっ、目がなんかハートっぽい何かに変わってるぅ!!」

 

 メルディは両拳を力一杯振りかざし、ザンクロウの視力を奪いかかる。だが、この男。メルディが編み出した対ザンクロウ必殺技の一つ『目殺(めっさつ)グリグリ拳』を繰り出しても離そうとしない。物理的に眼球を瞼越しとはいえグリグリ押し潰しにかかっているのにこの男若い女の子の身体

触りたいのに必死だったのだ。

 その必死さに戦慄し、そろそろ魔法を行使しようかと思えば、ガバッ!! とザンクロウが体勢を立て直したのだ。

 さっきまで変態行動をしていた(ゆる)んだ顔では無く、まさに真剣そのものの顔に変化し、何事かとウルティアと一緒にザンクロウに問うかと口を開きかけた瞬間、

 

「チィッ!」

 

 ボォォオッ!! とザンクロウの腕から黒い炎がメルディの眼前まで迫り、『何か』を弾き返した。

 高速に飛来してきた『何か』を気付く以前に、メルディ達がその『何か』を飛来させた何者かの接(・ ・ ・ ・ ・)近をここ(・ ・ ・ ・)まで許した(・ ・ ・ ・ ・)ことに気付く。

 

「何だってよォ、こっちは幸せイチャパラしてたっつーのにこんな湿気(シケ)た襲撃してくる奴の相手してやんねぇといけねぇんだって」

 

「ザンクロウ、何に気付いたの」

 

「一瞬、さっきの攻撃してくるとき『殺意』を感じた」

 

 なるほど、とウルティアは立ち上がり、手にした水晶を宙に浮かせる。

 

「私の『視覚』から逃れ、更にはこんな接近まで探知させなかったなんて……余程の腕の持ち主ね」

 

「待って……確かに襲撃してきたことや、ザンクロウに助けられたことには凄く感謝してる。けど、えっ? なんでここ(・ ・)に居るってバレたの?」

 

 現在、ウルティア、メルディ、ザンクロウの魔女の罪(クリムソルシエール)の残りメンバーは王都クロッカスが栄える都から離れた、《大魔闘演武》が見える山中に潜んでいたのだ。

 都から離れ、正しく何か情報を得られてなければ絶対に見つかる筈もなかった場所。

 

(…………城に向かおうとしてたオレっちに、手だして奴ら……っていう線でも無さそうだなァ。こんな小細工無しにしてあの強さを誇ってんだ。こんはセコいことしてくるとは考えられねぇって)

 

 考えるが、思い付かない。

 ウルティアも幾つか推測を立てるが、どれもウルティアにとって絶対に気付く(・ ・ ・)行動に魔法が関係してくる。

 

「…………少し移動するわよ。周囲の警戒を怠らないで、クロッカス西方にある都市近辺の山に向かいましょう。ジェラールとは連絡の取り合いも出来るからそこで合流することもできるわ」

 

「あ? なんでその山なんだ? もっと遠くの方が怪しまれないし、今の襲撃者も詮索する範囲が広がって誤魔化せることも出来っぜ?」

 

「確実性をもってここに襲撃してきたのよ。だったら遠くても意味も無いし、西方だと木々に囲まれた薄暗い森が広がって、身を隠しながらすぐ都に入れるようになっている。……勿論、この西方の森にさっきの襲撃者が居たとしても、互いに視認することが困難とする場所でもあるわ。これはこちらも動きを制限されるけど向こうも同じ。それを魔法でカバーしたとしても二度も私がそれを感知出来ない筈もない」

 

「何かを飛来させたり、飛び道具あるいは魔法だとしても木々がある森の中だと遮るものがある。だからそこなんだね! さすがウル!」

 

 勿論、一体何を飛来させたのか分からない。それに居場所を感知されるならその都市近辺の山中も安心出来はしない。だが、だからと言って離れすぎると王都の謎の魔力が判明した際、駆けつけるのにどうしても時間がかかってしまう。

 襲撃者の強さも分からない。使用した魔法も分からない。何の目的なのかも、こちらの正体を分かった上での攻撃なのか? 色々な憶測が憶測を呼んでしまう。

 

「…………続けて襲撃してくる気配も無いし、相手のしたいことも分からない。じゃあどうすんの? 答えは突き進む! そういう(ノリ)にするのが相手の狙い所だったって話になってたら、こりゃ大変だってよ。ヒハハハ」

 

「ハァ……他人事じゃないのよ? まぁでも、これは……全く新し(・ ・ ・ ・)い進展(・ ・ ・)よ」

 

「そうだね。去年とか襲撃(こういうこと)は一切無かった」

 

 時を見て、ジェラールに連絡しておきましょう。ウルティアがそう言って、ザンクロウたちは旅の荷物を背負い、その場から離れ、王都の西方に構える森林に繋がる山に身を潜めに向かった。

 

 それを遠くから、遥か向こう側であろう喧騒(・ ・)の中から(・ ・ ・ ・)眺め(・ ・)視て(・ ・)いた者が居ることに気づかずに、ザンクロウたちは移動していった。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

「まったく……覗いた(・ ・ ・)瞬間に、君が悪戯なんかするから彼らが移動してしまったじゃないか」

 

『……………………不語(かたらず)

 

「試してみたかった、そんな所?」

 

『……………………………………』

 

「あれあれ~? 居ないのですか~? 消えちゃいましたかゴーストさん」

 

 狭い煉瓦で作られてあるであろう通路を、黒いスーツを着こなした少年が独り言(・ ・ ・)を話しているかのように歩いていた。

 少年の周りには誰も居ない。だと言うのに、まるで誰か居るかのように語りかけて喋っているこの少年に、不審に思うのはしょうがないだろう。

 当の本人はそんなこと気にもせず、静かな足取りで〝ある場所〟にへと向かっていた。

 

「しつこく言ってたから何処かに飛んでちゃったかな? でもしょうがないでしょう、僕は元来お喋りだから口が止まらないんだから。そりゃ独り言もブツブツとブツブツと言ってるけど、これは決して寂しいとか、話し相手ほしいなとか、独りだと怖いとかそんなんじゃ…………なんでブツブツ二回言ったんだろう……アレ? 自分で言って不思議なんですけど…………」

 

 カタンッ。

 

「うわあああぁぁぁッ!! ななななななッッ!! なになになになになになになになになになにィィーー!? 怖いんだけど何なんだけど怖いんだけど何なんだけど怖いんだけどォォォーー! スゲェ死ぬほどやめて欲しいんだけどぉ!!」

 

 スーツを着込んだ少年はごろんごろん! と転びながらも音を確かめる。

 確かめると、普通に老朽化した煉瓦の一部分(欠片)落ちていた。

 

「…………………………………………………………」

 

 スクッ! とまるで何事もなかったかのように歩き出す少年。だが顔は羞恥の色に染まっている。

 

「えっ? なに? 分かってるよ。独りだとこうなる。病的に怖がってしまうんだよ仕方ないだろ! おれだって、おれだって分かってる……」

 

 スーツを着た少年は、隻眼である片目に覆っている眼帯を指でなぞる。

 

「分かってるよ……今から行くもところはおれの個人的な、ところだから。『妖精』には後で行くつもりさ」

 

 なぞりながら、少年は漆黒の髪を揺らしてある部屋の前まで来ていた。

 少年が会いたくて会いたくて、待ち焦がれた少女に、

 

「………………………………………………………………………………」

 

 だが、少年はその部屋。大魔闘演武会場である闘技場の各ギルドが借り受け、入り組んだ深部にある『医務室』前に来ていた。

 中では恐らく、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のチームとして出場を果たそうとしていたウェンディ・マーベルが寝ている。

 

「………………………………………………………………………………」

 

 まるで押し込むように、強く強く、眼帯を押し込んでいた。

 

(…………君を、一目見たい。でも……『眼』を使えば簡単に君を〝視て〟しまうだろう)

 

 押し込んだ指を戻し、そのまま拳を強く握り締めて作る。

 笑ってしまうほど、今の自分の姿を情けなく感じてしまった少年の目から涙が流れている。

 

(……気持ち悪い……涙を、流すなんて…………気持ち悪い)

 

 気持ち悪いより、男として情けなくて、悔しくて、涙を流したせいで少年な感情的になりつつある心を落ち着けようも、再び闇が広がる廊下にへと戻る。

 感情が爆発しそうだ。

 

「わがっでるよ……っ。…………わがっでるげど、なぐんだよぢぐじょう」

 

 昔から泣き虫だと馬鹿にされていたことを思いだし、少年はまた独り言を呟きながら、力強く腕で涙を払った。

 

 涙を払い、〝眼〟を見開く。

 

 少年がやることは、正しく眼前に、光の道筋のように明確に決まっているから、迷わずその足を踏み出せた。

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 王都クロッカスの巡る巡るところそこかしこに、《大魔闘演武 一日目結果(リザルト)》が魔法文字となった〈光字〉が壁やら、店の屋根からに書かれてあった。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)……妖精の尻尾(フェアリーテイル)……」

 

 そんな文字を呼んでいるのは、忍者装束に身に包んだ素顔を隠した男・フウキ。つい一日の競技パートで観客たちを湧かせた《黄昏の鬼(トワイライトオウガ)》の『戦鬼』の一人として数えられる強者(ツワモノ)の男である。

 忍者(シノビ)なのに派手であろうその姿に、お祭り騒ぎに広がる夜空の下の王都では目立ちに目立っていた。

 皆が立ち止まり、その黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のフウキにどう声を掛けるか迷っている者までいるし、魔水晶(ラクリマ)製に作られた写真で撮っている者まで居る。

 これが《大魔闘演武》に参加した証とも言える知名度だろう。少なからず好成績を残した魔導士は皆に注目されるし、ファンも増えることになる。簡単に言ってしまえば好奇の的となるだろう。

 

 フウキはそのカラフルに輝く〈光字〉を目で追いかけて、彼がファンだと公言した妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名をやはり追っていた。

 

「むう……皆は妖精の尻尾(フェアリーテイル)を馬鹿にしているが、必ずや巻き返すでござろう! 油断など出来ぬでごさるなぁ!! ワクワク!」

 

「……会いに行っても、その、大丈夫なのでしょうか」

 

「オニマルよ。そんなに臆することもないでござる。妖精の尻尾(フェアリーテイル)の皆さまも話を聞いて下さるだろう。それにオニマルは自ら行動を起こし、怪我をしてまで示してみせたのだ。話を聞きに言っても(ばち)は当たらんと思うでござる」

 

 オニマル。そう呼ばれた青年は『恐縮です』と言いながらフウキに頭を下げた。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)に莫大な利子を叩きつけ、借金地獄にさせた『(ニセモノ)』が起こした事件に、少なからず関わっていたであろう黒髪 トゲトゲしく逆立てた好青年が、鉄網で作った忍者装束(シノビスタイル)をじゃらじゃら鳴らしたフウキに申し訳なさそうな顔で頭を掻く。

 

「……まさか自分が黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のリザーブメンバーとして選ばれるなんて」

 

「むむむ。リザーブメンバーだけで納得してきゃいけないでござる。もっと志を高くでごさるね───」

 

「ぶふぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ」

 

「えっなっ酒臭ぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっ!!!??」

 

 突然とフウキの肩に顔を乗っからせて、そこから肺から行き渡った息を吐き出しながらやって来たのは、髪を後頭部に団子(シニヨン)にして、上半身をプロテクターで囲んでおいて、鍛え抜かれた筋肉を出し惜しみなく露にしている屈強な男がフウキの口やら鼻孔にまで口の臭いを嗅がせると、

 

「うぅ……ヴゥブフっ!?」

 

「オゥッゥっふぅ……っゥォオふっ!!」

 

「あ、あの……お二人! だ、だめ! こんな公共の場でダっっ!!」

 

 オニマルは目の前の二人の顔が紫に変色した時点で諦め、後方に下がったと同時に、二人は一気に、

 

 

「「ぉうううぇええええええええええええええええええええッッッ!!!!」」

 

 二人は仲良くその場で胃の中身を吐いてしまった。

 

「おげぇぇぇえぇぉゴホッゴホッゴホ!!?」

 

「おぇおぇぉっおぇぅおえっおぇぇぇぇぇ」

 

 あと数秒でフウキは口に当てていたマスクをはずしてなければもっと悲惨な展開になっていた。

 もう一人の男、バッカス・グロウは吐いたお陰で大分回復したのか、既に立ち上がって目の焦点も合っていた。

 

「おぇぇぇ……うぷっ………っし、ぅっし、よォォーーし!! よっしゃゴラぁ次に行くぞ!!」

 

「うん!? うん!?」

 

 まるで行くのが当たり前みたいな空気でオニマルの肩に腕を回してきてバッカスに、オニマルは回避運動に出るが、

 

「くっ、くそ! がっちりと締め押さえ込んで逃げなくしている!? 上等だ! こんなめんどくさい酔っぱらいオヤジから逃げてやる!」

 

「ガッハッハッハ!! なんだ相撲か!? やろうぜやろうぜ! ヒューヒュー!」

 

「待て待てぇぇぇい! 今一番激おこプンプンなのは(それがし)だから!? めちゃめちゃ某だからだってそうでしょう!? だって某だって貰いゲ●しちゃったんだから!! 貰い●ロしちゃったせいで公法の場汚しちゃったんだからァァァァ!! あっはいあっ、すみません! 今すぐこの吐瀉物片付けますんでハイすみません!!」

 

 もう『王都』だと言うのにこの騒ぎまくりの始末なのだが、年に一度の大祭。広大な王都ではあっちこっちでそんな騒ぎが何件も上がってきている。

 だが、勿論、ここまで騒ぎ立てる者は大抵決まって〝ギルド〟者なのだが、他の人たちも笑いながらゲ●を掃除するフウキや、バッカスと相撲をとる為に互いに四股を踏んでいたオニマルたちを、大笑いして道行く人たちに溢れていた。

 

「ちょっと待て! ……ぅ~ぃちょつとまつて!」

 

「バッカスさん呂律が、呂律が回ってないよ」

 

「ふぅ~~……ふぅ~」

 

「危ないよね、飲み過ぎだよね」

 

「いや、オレは大丈夫だから妖精の尻尾(フェアリーテイル)に行くぞ! あそこにはベッピンさんが沢山居るんなら~!」

 

「最後までいくと呂律が可笑しくなるのか」

 

「行くぞオラァ!」

 

「フ、フウキさんは!?」

 

「くっ! すまないオニマル。某めっちゃ行きたいでござるが、そこの酒乱のゲ●を片付けなければ…………」

 

 そこまでするのか……。好い人過ぎるだろ、と改めてフウキの懐の大きさに感銘を覚えていると、首に回していたバッカスの腕がいつのまにか無くなっており、そしてこれもいつの間にかフウキの背後に立つバッカス。

 果てしなく嫌な予感がしたオニマルは、ニヤけだしたバッカスに、もうこれ駄目(アウト)のニヤけだと判断した時には既に遅し。

 がっしりと健気に雑巾っぽい道具で吐瀉物を掃除していたフウキの後頭部を容赦なく掴んだと思えば、これまた容赦なく、

 

「ワイルドぉぉぉぉぉぉぉ?」

 

 頭を掴まれた時、フウキと目が合った感じがして、そして同時に『あっ』と気の抜けた声がハモり、そして、

 

「フォーォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!」

 

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッやめブフジュ!?!?」

 フウキは黄色い(なんで?)ゲ●に頭から突っ込まされた。それはもう壮大に、

 

「ノリ悪いぜェ~、フウキよ~」

 

「うあああああああああ!?!? なにやってんだなにやってんだぁぁぁ!?」

 

「おっし!! もう目の前が妖精の尻尾(フェアリーテイル)が飲んでいる酒屋らしいから行くぞォ!」

 

「オィィィ!! そのまま行くのかこのド鬼畜外道!? あんたウチのギルドに喧嘩を堂々と、堂々と!」

 

 オニマルの意見など通る筈も無く。

 筋肉ムッキムキな兄貴に連れて行かれたのであった。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「……大丈夫か?」

 

「おぉ、ひさしぶり……ラクサス」

 

 中に無理矢理連れて行かれた嵐のような男・バッカスは、入店したと同時に適当にオニマルをぶん投げて、後は放置して妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーたちが飲んでいるテーブルにへと向かっていっていた。

 もう思考を巡らすことに何の意味もなさないあの男に、破壊されたテーブルに埋もれて天井を眺めながらもうふて寝しようかなどうしようかな、としていたオニマルに、声をかけてきた相手の顔を見て安堵する。

 屈強な男となったラクサスだった。

 

「子供の頃、ミラと一緒に遊んでた記憶は残ってたか? もうすっかり忘れられていたもんだと思ったよ」

 

「……ふん。それより席に座ったらどうだ。そこは邪魔だ」

 

「そんなにハッキリ言うなよ! 分かってたよなんだよオレは本当は真面目なんだよ! いきなりの展開に弱いんだよなんだよ貸せよその酒ごくんオェェェェ!!」

 

「一体どうした!?」

 

 やけくそ気味にオニマルは涙垂らして、ラクサスが飲んでいたであろうボトルのお酒を奪い取るが、余りにもアルコール度数が高かったのか飲み込んだ瞬間胸が焼く感覚に襲われ、脳も蒸気しそうな感覚になる。

 バシンバシン! とテーブルを叩きながらもがくオニマルのところに、水を持ってきたミラジェーンが優しく飲ませてくれた。

 

「ラクサスのは少し強めのやつよ? きっとオニマルはお酒を余りにも飲んでなかったからきつかったのね」

 

「ゴクッゴクッ……プハァ! はぁはぁ……くそぉ、相変わらずラクサスは強くて、ミラは…………優しいなぁ……」

 

 ミラとしては、久しぶりに会った時と印象が大分違ったオニマルに戸惑いを見せていたが、今の言葉を聞いて思わず頬を弛ませてしまった。

 

「それ、昔遊んでた公園で言ってた言葉ね」

 

「……あぁ、そういや言ってたな」

 

 グビッとオニマルから返されたボトルの酒を飲んだラクサスは、懐かしそうに目を細めた。

 

 ギルドの家庭で育ったラクサスは、幼少時代から何かとギルドのトラブル。父の除名。祖父との言い争いなどで少しずつ心を荒んでいったあの頃。

 故郷で受けた迫害により居場所を無くしたミラジェーンは新しい家族(ギルド)に優しく迎い入れられながらも、やはり身の内に潜む【魔】に苦しみ悩んでいたあの頃。

 

 このオニマルという少年に出会った。

 

 オニマルはマグノリアにあるギルドの家族の一人なんだと、そして自分の魔法は凄いんだと自慢気に話していた子供時代。ラクサスとミラジェーンは当時、全く同じといっていいほどこのオニマルという少年を毛嫌いしていた。

 言うまでもなく、二人の琴線に触れる大部分を逆撫でするような言動を起こしていたから。

 もし、もし一定以上その琴線に触れていたりした瞬間、叩き潰そうと、ラクサスはそう思い。ミラジェーンは話しかけられても空気のように無視すると己の内で決めていた。

 公園に来ていたのもただの気紛れで訪れ、偶然オニマルと会っていたから。

 よく話すオニマルだったが、よくよく話を聞いていけば、不遇な扱いを度々受けていたと吐露し始めていた。オニマルの祖父やギルドの仲間たちは優しくも、両親は違っていたり、己の中に眠る【力】にずっと怯えて日々眠れない夜を過ごして居るなどと、ずっとオニマルは一人喋り続けていた。

 二人はとくに反応してる訳でもないというのに、とくに言葉らしきものを送ったことも無いというのに、どうしてそんなに話すのかと正直に疑問に思ったという。

 

───なんでそんな話をしたんだって? ん~なんで、なんでって、う~ん。…………ほらなんか、なんかねぇ。別に話してもいいかなって思ったから。

 

 その時のほど唖然とした時は無かったな、とラクサスもミラジェーンも思い出していた。

 その話を聞いてから、本当に徐々に、徐々にラクサスもミラジェーンも話すようになったのだ。

 だが、その後、ラクサスもミラジェーンも色々なことが起こってしまい、連絡が互いに不通になったのがのいつ頃だったのかさえ思い出せないくらい前だった。

 

「本当にあの日以来だった。ラクサスは性格がとんでもなくなるわ。ミラはその、妹さんの件もあって、話しかけ辛くなってね」

 

 オニマルは二人に顔を向けないで、ぽつりぽつりと語った。

 

「ここの酒場に来るのにも……その、連れの人が言ってくれなきゃ多分ずっと来れなかった」

 

「連れの人って……あの人のこと?」

 

「バッカスさん? あぁ、違うよ。あの人のオレの師匠でさ」

 

「師匠だぁ?」

 

「バッカスさんのギルド《四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)》は空中迷路でかなり上位まで登り詰めていたんだけど、ウチの……《黄昏の鬼(トワイライトオウガ)》が直前に戦って、ボロボロにしちゃったんだよね。バッカスさん空中迷路に出てなかったし」

 

「そうか、お前……」

 

「…………妖精の尻尾(フェアリーテイル)に行ってきた悪どい商法をしておいて……どの面下げてきたのかって言われても何も言えないけど、正真正銘実力で勝ちたかったんだ」

 

「オニマル……」

 

 ミラジェーンはマカロフと共に、黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のアジトにまで赴き、されてきたであろう暴行などされただ(・ ・ ・ ・)け返した(・ ・ ・ ・)のだ。

 その証拠に、マスターの地位に一時とはいえ就いたであろう大男・バナボスタが独断でおこなっていたということで、アジトを奪い返し、そしてボコボコにして返したということで今回は手打ちとなった筈なのだ。

 それでも、オニマルは『申し訳ない』『恨まれて当然』の気構えでやって来ている。

 

(真面目なんだよね。オニマル)

 

 ミラジェーンは微笑して、静かにオニマルが飲んでいた空いたコップに水を注いだ。

 

「今回の件はそれでけじめが着いたんだろうが、だったら後は何もない。いつまでメソメソしてやがる。男だったら顔を上げていろよオニマル」

 

 ラクサスはボトルの酒を飲み干し、まだ少ししか酔っていない頭で、オニマルに言う。

 

「勝負となったらそこには何も後腐れもねぇんだよ。なんのしがらみもねぇ。勝つか負けるかの世界だ。そこに何かを持ち込むって言うんなら、それは気概ぐらいなもんだろうが、それ以外になにがある」

 

「……ラクサス」

 

「だからオニマル。例え俺たち妖精の尻尾(フェアリーテイル)と戦うことになったとしても……それは全力を以て戦え。それを俺たちは全力で返してやっからよ」

 

 ラクサスはそれだけ言うと、新たなお酒の注文をウェイトレスに頼んでいた。

 オニマルはミラジェーンと顔を合わせれば、満面な笑顔で頷き、思わず涙腺が壊れそうになったオニマル。ほんの昔では考えられない。この友の繋がりに、確信をもった繋がりを感じたからだった。

 だが、そんな感動的な場面を、打ち壊すかのようにワァアッ!! と歓声が酒場を支配した。

 オニマルは『まさか』と思いながら音の元を辿れば、そこに居たのは、

 

「またかよ、バッカス師匠ォォォ~~!!!」

 

 《四つ首の猟犬(クワトロケルベロス)》のバッカスが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)自慢の酒豪・カナと酒飲み比べ対決をしていた所だった。

 勝負はもう決着がつくところで、バタン! と倒れたのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーが全員が驚いた。なんとカナの方が負けてしまったのだ。

 

「バ、バッカスさんと飲み比べなんて……あり得ない。よくあんなに飲み対決が出来たもんだ……ウチの頭領(マスター)と良い勝負を張れるくらいなんだぞ。バッカスさん」

 

「なんだ? 黄昏の鬼(トワイライトオウガ)のマスターも酒豪なのか?」

 

「酒豪というより、酒造ってるからなぁウチのは。皆酒には強くなる。オレは何故か例外として…………」

 

「えぇ!? うそ! ト、黄昏の鬼(トワイライトオウガ)が?」

 

「本当に本当。バッカスさんが使う最強の魔法格闘術《(すい)()()(しょう)》に使う清酒、酒銘『鬼哭酔』は黄昏の鬼(トワイライトオウガ)産だよ」

 

 衝撃的な話にラクサスもミラジェーンも驚いているが、まさか《黄昏の鬼(トワイライトオウガ)》が酒造まで手を伸ばしているなんて思いもしたかっただろう。

 

「最初は祖父たちが自分たちで呑みたい、という理由から始まったらしいんだけど、酒好きが酒好きに酒を売ってるだけの話なんだよ」

 

「まさかあの《鬼の名》シリーズの清酒がオウガが造ってたなんて、知らなかったぜ。オレも知ってる有名な名酒じゃねぇか」

 

「王さまにも献上しています」

 

「本当に凄いじゃない!」

 

「ただ本当にマニアにしか飲まないのがあの《鬼哭酔》なんだ。……妖怪の中の妖怪さえ酔わす酒として造られたもので、国が指定するほど危険性上位の超高度アルコールを誇った清酒。魔物に飲ませば酔い狂い、脳ミソが焼けるとまで言われてるんだ」

 

「なぜそこまで追求したのか、お酒に対する愛を感じるわね。もはやそれはただの薬物よ」

 

「だが、人間の適性効果みたいなのがあって、飲める人は飲めるんだよ……。でもそれを飲めたのはウチの黄昏の鬼(トワイライトオウガ)頭領(マスター)と、あの人(バッカス)だけだ」

 

 恐れ入る、とは違う。呆れ果てたような感じであった。なぜそこまで強い酒を飲みたいのかミラジェーンは少し分からない様子だったが、男ならきっとそうなのよね、と何故か収集がつかない結論でそう終わらせるも、その肝心のバッカスが敗者であるカナからなんと胸のビキニを貰っていたのだった。

 これに反応したのはミラジェーン……だと思ったオニマルは止めに入ろうと身構えるが、

 

「あ、あれ? 殴り込むのかと思ったんだけど……」

 

「やり過ぎだけど、あれは飲みすぎのカナも悪いと思うの」

 

「……もう昔のミラじゃないんだな。安心したのか、それとも少し味気ないのか……、なんか、不完全燃焼」

 

「何をミラに求めてんだおめぇ」

 

 グビグビと飲むラクサスも冷静に見ている。

 この二人昔はむき出しの刃みたいな奴らだったというのに、今は凄い大人になった感じがした。

 

「と、と言うかもう! あの人は何してんだ!」

 

 オニマルは憤慨して、バッカスを叱りに向かおうとすると、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドの者たちが、これは喧嘩を売られたと思ったのか、それとも仲間思いからきた怒りだったのか分からないが、マカオとワカバがバッカスに詰め寄ろうとしていた。

 

「危ない!」

 

 思わず叫ぶオニマルだったが、既にモーション(・ ・ ・ ・ ・)に入っているバッカスに、駆け寄ろうとするが間に合わず、マカオのパンチがバッカスの頬に目掛けて飛び出るが、酔い転びそれを避け『ウィ~~~♪』と言いながらもまるで流れるように迫り来るマカオとワカバをバチイィン!! と掌底(しょうてい)を食らわせた。

 木の床にめり込むほど強かった掌底だったが、何故か二人も大怪我するほどではなかった。が、完全に読まれて(・ ・ ・ ・)いた(・ ・)。手加減されてることも受けた本人たちが一番分かっているはずだ。

 

「ぐももも」

 

「いででで」

 

「何してるんですかバッカスさん!」

 

「ウィ~」

 

「ウィ~、じゃないですよ!! ホラ、謝ってくださいよ! すみません、本当にすみません!」

 

 オニマルは地につくほど謝りながらマカオとワカバ二人を起き上がらせ、カナの(ビキニ)もきちんと寝てる本人に律儀に返す。

 

「バッカスと一緒に居るとは……、オウガは《四つ首の番犬(クワトロケルベロス)》とも交流があるのだな」

 

「エルザ・スカーレットさん!」

 

 オニマルは綺麗な緋色の髪をした女性、エルザに恐れ多く謝罪した。

 

「いや、そんなに謝れてしまってもこちらも何も言わないさ。返してもらったしな。だが、まさかこの男とつるんでいるとは」

 

 エルザの思案顔に、ルーシィが不思議がっていると、復活したバッカスがエルザを見ると否や嬉しそうに立ち上がり駆け寄った。

 

「よぉう! エルザじゃねぇかヒック、相変わらずいい女だねぇ」

 

「久しぶりだな」

 

「7年も姿をくらませてたんだって?」

 

「まぁ色々とあってな……。しかし、おまえは大魔闘演武に参加していないようだが……」

 

「わはははっ!! 今回は若ぇ連中に任せておこうと思ってたんだけどよォ! そしたらコイツのギルドにボコボッコにされてよぉ、もうやけ酒飲むしか出来ねぇぜワッハッハッハ!!」

 

 バシバシッ! と近くに居たオニマルを叩きまくるバッカスに、とても気まずそうな顔になって叩かれてる本人は、エルザとバッカスの関係性を思案している。

 

「だからよォ、丁度弟子取ってたこともあってよォ、リザーブメンバー枠に入ってるオニマル(こいつ)使って、妖精の尻尾(フェアリーテイル)に一発打ってこいって訳でここに来たのよオ! ヒック」

 

 魂が震えてくらァ、と酔いながらも目が猛々しく、朦朧と揺らぐこともなく、しっかりとエルザを捉えていた瞳に、エルザも思わず唾を飲み込んでしまう。

 

「まァこんなの方便(ホーベン)だがよォ、やっぱ悔しいんだわオレは……」

 

 ペシペシとオニマルの頭を叩きながらそう語るバッカスの声は、本当に悔しいと感じ取れるモノだった。

 

四つ首の番犬(クワトロケルベロス)はまた来年に吠えるとするぜ。……だがよォエルザ」

 

 ヒック、と吃逆(しゃっくり)を繰り返しながらも、その声にはズッシリと重みが増すことを感じ、バッカスは最高の笑みを浮かばせてそれを言う。

 

(オニ)(つえ)ーぞ?」

 

 たったそれだけ。

 ただ擁護の言葉だと思うかもしれないそれは、エルザ以外にはそう感じたかもしれない。

 だが、エルザは純粋に、そして少し『焦り』を覚えてしまった。

 大抵のことには決して油断などせず全力を以て対峙するエルザだが、この男から改めてその言葉を送られてしまうと、これほど【脅威】かもしれないと危惧することはなかっただろう。

 それだけこのバッカスという男は強いのだ。

 エルザと勝負をつけられない、果てしなく続く闘いをしたとしてもそれは拮抗するだけのもの。

 

「明日以降ぶつかる事があるかもしれねぇなぁヒック。まぁオレは純粋にこの魔闘を肴に酒でも飲んでるぜわはははは!!」

 

 フラフラと千鳥足で外に向かうバッカスに、オニマルは妖精の尻尾(フェアリーテイル)メンバーに謝りながら着いて行く。

 だが何かを思い出したのか、バッカスは笑いながらエルザに振り向きながら、

 

「魂はいつでも……ワイルドォォォォ?」

 

「…………フォー」

 

「ノリ(わり)ィよエルザァ! わはははははっ!」

 

 

 

 水路に落ちそうになるバッカスを抱えて、再度謝罪を込めたお辞儀をしてその場を後にした。

 嵐のように騒いでいなくなったバッカスだったが、それは妖精の尻尾(フェアリーテイル)に挨拶を済ますようにしたバッカスの配慮も入っていたかもしれない、そう感じたオニマルだったが、完全に爆睡モードに入り、おんぶして帰路に付いていたオニマルは、どれだけ妖精の尻尾(フェアリーテイル)に迷惑かけてしまうのだろうかと思い悩んでいた。

 街中を歩きながら、オニマルは背中で寝る師に愚痴を聞かせる。

 

「《酔いの鷹》もどこまで酔えば気が済むんでしょうかねぇ。わざわざこれ《四つ首の番犬(クワトロケルベロス)》が泊まってる宿屋まで行く感じですよね? まったく」

 

 背中から感じる師の酒臭さに、妙に懐かしさを感じてしまうオニマル。

 他のギルドだと言うのに、わざわざ教示してくれるこの師匠には返しきれないほど恩がある。

 

「……妖精の尻尾(フェアリーテイル)には悪いけど……、オレが勝つ。《(すい)()()(しょう)》は強いことを示すんだ」

 

 オニマルが師匠に返せる恩と言えばそれだと思い至ったことを満足そうにしていると、なんと目の前に突如影から現れた人物に思わず『あっ』と声を出してしまう。

 

「……フウキさん」

 

 忘れてた、マジで。

 風の如く、空気のように忘れ去られていたフウキは、帰る二人を見つけたのだろう。珍しく『潜影(もぐりかげ)』の術を使って現れた。

 

「……………………………………帰るで、ござるか」

 

「……はい」

 

「……………………………………そう」

 

 凄く声が震えているが、もうオニマルには戻る気力は無い。バッカスのせいで、

 

「……………………ハァ…………」

 

 フウキの落胆さは計り知れないだろう。

 あんなに楽しみにしていたのに、バッカスにゲ●を頭なら吐きつけられた挙げ句、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の酒場で待っていることもしないで、勝手やって好きにやって、そして帰っているのだから。

 フウキは何故かオニマルからバッカスをおんぶするの変わると連呼して呼び続けてくれるが、オニマルは不安な部分を拭えないし、王都の近場には川やら水路もあるし、落っことせば死ぬくらいの高さを誇る場所もある。

 それ故に変わることは出来ないが、フウキにも同情するし、何よりもオニマルもこの師には恩はあるが、多大な迷惑をかけられたことが多々あるの。命に関わることさえあった。

 

「目が覚ましてからなら殺しに向かっても良いですけど、酔いつぶれてるところ叩くのはどうかと……」

 

「某ィ……暗殺者(ニンジャ)ですがァ?」

 

 さっそく暗器(クナイ)持ち出してプルプルし始めるフウキは完全に犯罪者に見えてしまう。顔隠れてるし。

 しょうがない、ここは自分に任せて下さいとオニマルはフウキを落ち着かせる。

 

「フシュー……フシュー……どうするのでござる」

 

「いやクナイ置いて下さい。めっちゃ怖いですから。……えーとですね、ささやかですが……吊るしておきましょうよ。昔は悪いことをした子をヒモで吊るして晒し者にすることで、悪事はいけないことなのだと教育する習慣があったらしいので」

 

「今の世じゃ、それは罪人に課せられるものじゃ……ゴホンゴホン! あーなんでもないでござる!」

 

 オニマルとフウキは早速魔法を帯びた縄を購入し、伸縮性バツグンのそれをバッカスを簀巻(すま)きの如く縛りまくって《四つ首の番犬(クワトロケルベロス)》が泊まる宿屋前に分かるよう、吊るしたのだった。





感想やコメントお待ちしています!

最近は雨が多くて大変ですね、まさか地震までダブルで来られた時には人間どうしようもないですよね。
この妖精の尻尾(フェアリーテイル)の世界の方が遥かに危険ですが(+_+)

余計な話でしたね(;´д`)
気軽に感想やコメントお待ちしております(>_<)


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第15話「黒い烏」

夏休み真っ只中の十握剣です!

フェアリーテイルがじゃんじゃん新展開にへと連載していく中、今だ大魔闘演武篇を抜け出せない状態ッ!(戦慄)

なんだよあの新たな敵はよぉぅ…………真島先生どんどん進めていくなぁ……。すげぇなぁ。やっぱ漫画家界を生き抜いている先生は違う……。

そんな素人が語る変な前書きでした




 

 

 

 とある酒場には、王都クロッカスで開かれる『大魔闘演武』に出場出来たギルドには、無料で提供される宿屋があった。

 勿論、王国(むこう)側からの指定の宿屋(ホテル)で、例え魔法を行使しても壊れない契約魔法が掛けられているのか、そう簡単に壊れるものは無い。

 

 だと言うのに、

 

「がはっ!」

 

『………………』

 

「いやぁ! クロ! クロォー!」

 

 そこに泊まっていたのは、()闇ギルトの一角であった【大鴉の尻尾(レイヴンテイル)】であった。

 宿屋の亭主は既に避難している。

 その宿屋の二階は既に、まるで台風が去ったかなような荒れ様だった。

 【大鴉の尻尾(レイヴンテイル)】の出場選手でもありリーダーでもある黄金の鎧に身に纏ったアレクセイが、蛇のような顔ながらも整った顔立ちであるクロヘビが、アレクセイの太い腕で首を絞めながら持ち上げていたのだ。

 クロヘビは息をするのも苦悶して、それを止めようとアレクセイの脚にしがみつく紅色長髪に真っ赤なドレスを着たレイヴンの唯一の女魔導士・フレアが泣きながら訴えている。

 

「……終わりか?」

 

『………………フッフッ』

 

 仮面と一体となっな兜から笑い声が聞こえると、また重い蹴りがクロヘビの腹部を容赦なく襲う。防御の魔法も無しの問答無用の暴力。それだけに抑えきれない激痛が襲うが、

 

「もう、もうやめてーー!! 私が殴られるから、もうクロを殴るのをやめてー!」

 

 大粒の涙を流しながらアレクセイを止めるフレア、得意の焼ける紅髪でアレクセイの四肢を絡めて止める。

 クロヘビが何故、アレクセイにここまで虐待を受けている理由はフレアにあった。

 【妖精の尻尾(フェアリーテイル)】に負けたことでの体罰(・ ・)をフレアに処そうとした所、クロヘビが代わりに受けると言って出たのだ。

 だが、それに対して面白くないと感じたのはチーム【大鴉の尻尾(レイヴンテイル)】のリーダー・アレクセイ。彼はこれ見よがしにクロヘビを執拗に殴る蹴るを行った後に、フレアに再び暴行をしようとするのだ。

 それにクロヘビが幾度と立ち塞がる為、またもアレクセイの怒りが溜まっていく。そして再びクロヘビへ暴行が始まるという繰り返し。

 

『…………ハァハァ……お前ェ』

 

 アレクセイも息を切らし、眼下で横たわるクロヘビを踏みつけながら睨む。

 

「……………………」

 

 死んでいるようにも見えるクロヘビだが、目が決して死んでいなかった。黒く濁る瞳の中に、僅かながら揺らぎ消えることも無いその〝眼光〟に。

 

(コイツぅぅぅ!!)

 

 アレクセイは怒りが爆発するのを堪えるのに必死だった。

 思えばこの男と、紅い髪の女を拾ったのもまったく偶然といった感じだった。

 魔力があり、しかも面白い能力だったが為の簡単な理由で入れてやったこの二人。だが後から【大鴉の尻尾(レイヴンテイル)】が闇ギルドだと知り、知恵が無かった子供同然だったフレアを守りながら連れて脱走しようとしたその時から、殺す勢いで様々な依頼をさせてきて、そこで過酷な任務に生き残る為に魔法や魔力を新たに開化させたこの二人を、この大事な『計画』に参加させてやったといのにこの始末。

 アレクセイは殺したい思いで沢山だったが、ここは抑える。

 フレアやクロヘビ意外のメンバーは、誰も近寄らせない為に周囲に待機と休憩を与えてやっていることを思い出すアレクセイは、〈念話〉を二人に送る。もう戻れと。

 

『…………惜しかったなぁ、既に日付も変わった時だ。今日はお前が参加する種目もあったハズだからこれで勘弁してやるが…………』

 

「きゃあ!」

 

 アレクセイは黄金の鎧をキシキシと音立てながら、一切効かないフレアの魔法を無視してその髪を握り、無理矢理引き剥がす。

 それを見たクロヘビが再び立ち上がろうするので、それに殺意に似た苛立ちを抱きながら、髪を掴まれたフレアをクロヘビに思いっきり放り投げる。

 

「きゃぁぁぁぁ!!」

 

「……っ……!」

 

 クロヘビは腫れた肢体を鞭打ちながら立ち上がると、フレアを庇うように受け止めると、そのまま勢いに乗って一緒に吹き飛ばされる。

 物が砕ける音がすると、見事にフレアを抱き抱えて耐え抜いたクロヘビの姿があったが既に満身創痍だった。

 その姿さえ気にくわなかったアレクセイだったが、本当に大魔闘演武に参加する選手がクロヘビだったが為に我慢する。

 

『……次も負ければ、気分によって罰だけ与えるか、それとも(むご)たらしく殺すかの2択だ。せいぜい死なないよう努力しろよ』

 

 アレクセイがそれだけを告げると、外にへと出ていく。

 

 そして遅れて聞こえるのは、外の喧騒。

 この大祭りに皆は賑わい騒いで楽しんでいるのだろう。

 クロヘビは折れた歯や指などを眺める中、暖かな感覚がやってくる。

 フレアの紅い髪だった。

 

「……ぅぅっ、ひぐっ、ぅひぅ」

 

 暖かいが、フレアの心は既に吹き荒ぶ風で冷え込んでいた。それを腫れた瞼から見たクロヘビは死ぬほど悔しく思った。

 泣かせたくなかった。

 

「……本当に、あの人は、こういうの……はぁはぁ、ごほっ、……嫌いだよね」

 

 クロヘビがそう言うと、泣きながらも、フレアは自在に伸ばしたり操れる己の髪を活かして、クロヘビの為にアイテムバッグから回復薬を取り出した。

 

「ひぐっ、……こ、これ。この前貰った、クロから貰った回復薬、ここでこれ使う。絶対使う」

 

 クロヘビはフレアの為に上げた道具だったが為に断ろうと口を開くが、そっと優しく口をフレアの紅い髪で閉ざされてしまう。

 まるで子供のように、相手の意見など無視してフレアはクロヘビから有無を言わさず回復薬を使った。

 クロヘビは痛みを引いていくのが分かったが、やはりまだ痛んでしまうが、『ありがとう』とフレアに告げる。

 

「……クロぉ」

 

 そして、痛みを忘れさせようと、フレアは髪を伸ばしてクロヘビを包み込む。体温が元々低い体質だったクロヘビに、フレアの暖かい(時には熱いが)紅い髪がとても心地よかった。

 そしてそっと手を握り、肩に頭を乗せてくる。

 

「これで眠れる……?」

 

「……あぁ、泣けてくるほどの安心感だよ。フレア」

 

 いつ頃だろうか、【大鴉の尻尾(レイヴンテイル)】のマスターがクロヘビがフレアに〈念話〉を使って、アドバイスをしていたことを気づかれたのは、

 

(あぁ……本当に綺麗な、髪だ)

 

 そして、クロヘビという男を最大限利用できるように、フレアを人質にして何度脅してきたことか。

 利用価値を見出だし、最早バレてしまったことで堂々とフレアを狙うようになってきた。

 

(……君を守れるなら……俺は……)

 

 だが、彼女(フレア)を守る為には強くならないといけない。

 

(…………俺は、黒蛇(ヘビ)となり、地べたを這いずり回ってでも……決して諦めない……)

 

 ぶつかりそうなほど近い隣から、泣き疲れてしまったフレアの寝息を聞きながら、暖かな深紅の髪をなぞって彼女の頬に手を添えた。

 本当は純真で、心も暖かいこの子を。

 優しいこの子を、

 

 

「……守るよ」

 

 そこには決して折れぬ、意志が籠った声が闇夜に響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 甲高い声が大都市・王都クロッカスを包み込む中に、再び舞い戻ってきた男が居た。

 

「……イヒヒ……」

 

 なんとも気品とも呼べぬ笑い声に聞こえるが、その男からは少しばかり普通(・ ・)の空気を纏っては居なかった。

 チリチリと、まるで焚き火の近くで木が灰になる時に起こる弾く音のようなものが、男の周囲から聞こえたきた。

 纏うは例えるなら『熱気』。

 それも身を焦がすような灼熱のもの。

 だが、王都の裏通りを通っているが、周囲に置いてある木箱も、木造建築の建物も焦げてなどいない。純水にこの男から放たれている魔力からきているもの。

 黒いローブをマントのようにして、それなのに頭巾も被らず堂々と素顔を晒しているのは、【魔女の罪(クリムソルシエール)】のメンバーにしてジェラールに次ぐ実力者。

 

「そんなに魔力を駄々漏れにしてると、ゼレフさんなんかに見つかるッスよ。ザンクロウさん」

 

「……出やがったな……。《傍観者》」

 

 そして、まるで空間を螺じ曲げて現れてきたのは、王城に乗り込む際、邪魔をしてきた計り知れない魔力量や正体が掴めない魔法の持ち主にして《傍観者》を語る仮面の男、《虚無(ノーバディ)》だった。

 

「いよっ! ノーバっちゃん」

 

「うわ、フレンドリーっスね」

 

 無貌(むぼう)の仮面を着け、衣服も灰や白を混ぜたような鎧を纏っているその男は、仰々しい格好くせに口調がなんとも適当に感じてしまう。本人も適当なのだろう。

 そんなまたも正体が掴めない魔法で現れたノーバディだったが、獅子の(たてがみ)の如きの金髪を揺らしたザンクロウは構うことなく片手に己の唯一にして最凶の魔法『炎の滅神魔法』を体現させる。

 肩まで燃え上がる漆黒の炎。

 熱気は計り知れないが、空気が明らかに可笑しくなった。もし普通の人が居れば呼吸困難に陥るほどの高濃度の炎熱による熱気。

 だが、当のノーバディはまるで幼児が癇癪を起こしているのを見ているが如く大人しかった。

 それを見たザンクロウも馬鹿らしく感じたが、黒炎を出した手前続かせてもらう。

 

「おいノーバちゃんその他《傍観者》ども。どうやらチョロチョロと間に入り込む奴が居るみたいなんじゃねぇか? この間、俺っち【魔女の罪(クリムソルシエール)】に襲いかかってきた奴とかみたいによォ」

 

「そうっスねぇ、居るっスねぇ」

 

「だからよォ……その態度(・ ・)が死ぬほどムカつくんだってよォ……」

 

 普通に首肯してきたノーバディに殺意が芽生える。

 燃える黒炎に、ノーバディはしまったと言わんばかりに無い口許を手で覆ってポーズを取る。更に苛立ちが募り怒るザンクロウ。

 

「なんスか! 素直に答えればそうやって返してくるのにはこっちとしても困るんスけど! 反抗期の息子相手してるみたいっス」

 

「……殴りてぇ」

 

 ノーバディは周囲が裏通りたということにも関わらず、その場に座り込み、無貌の仮面を指で擦りながら難しそうな声で答える。

 

「まぁこっちとしても、ただ観てるだけが良かったんスけどねぇ……」

 

 そう言いながら、まるで座ったその場から何かを手で取ろうとする動作をすると、腕がぼやけたと思ったら、目に見えないような空間を出現させ、そしてそこを無造作にいつのまにか突っ込んでいた腕を引っ張ると、黒い何かを掴んでいるなとザンクロウが認識した時には既に出現していた不思議な空間は消え、変わりにノーバディの腕には眼帯を着けた少年が掴まれていた。

 その一つの動作にザンクロウや、眼帯を着けた少年も理解が追い付けず、呆然としていると、仮面の男・ノーバディが、

 

「コイツが犯人っスよ。始末はアナタがやれば相子っしょ?」

 

 そう告げると、座ったままのノーバディは再び不思議空間を出現させ、霞みながらその場から消えていった。

 人間は己が培った知識や経験といったものが積めし込まれた脳が理解できない範疇に至ると、考えを放棄する行動に移ることがあると聞いたが、

 

「…………取り合えず……ご飯にするってよ」

 

「……ごちそうになります」

 

 まさかの襲撃者とご飯をお供にするくらい、混乱していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 大魔闘演武二日目競技パートが終了し、白熱する競技勝負に王都は活気に満ちていた。

 中でも、人気が無かった筈の《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》がここで返り咲き、少しずつ、微力ながらひファンが増え始めていた。

 それもやはりこの男、ナツが会場を奮わせていた。

 

(〝仲間の為だと〟……?)

 

 だが、その競技にはこの男も参加していた。

 

(〝仲間の為に前に進む〟?)

 

 ギルドの仲間たちが感動して、涙を流している中、この男、【大鴉の尻尾(レイヴンテイル)】の選抜選手として出てきたのは、衣服は綺麗だな少しボロボロに見えたクロヘビだった。

 

(……正に、フレアが入って欲しかった……ギルドだ)

 

 必死にゴールした【妖精の尻尾(フェアリーテイル)】のナツとガジル。競技は『戦車(チャリオット)』。乗り物酔いをする滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)たちには苦しい競技だったが、観客たちには感動を与えていた。

 

(……だが、俺は)

 

 そして、大魔闘演武二日目のバトルパートの一発目にやってきた。

 

『さぁ! 皆さんお待ちかねのバトルパートです! 今日はどんな熱い戦いを見せてくれるのか! 第一試合は新規ギルドながら現在トップの大鴉の尻尾(レイヴンテイル)のクロヘビ! VS! 蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のトビー・オルオルタ!』

 

 オオオオオオオオオオオオオオっっっ!!!

 演武場は何度も歓声を放ち震えていると、紹介されたクロヘビにとっては少し煩わしかった。

 先程の感動劇を見せた妖精の尻尾(フェアリーテイル)勢に興味を惹かれ、少し意識してこの煩い歓声を掻き消し、魔法を使い声を拾う。

 

『試合始まっちゃった?』

 

『ちょうどこれからだ』

 

『リオンとこの犬っぽい奴が出るみてーだぞ』

 

『相手はレイヴンだがな』

 

『レイヴン?』

 

 ルーシィ、エルフマン、グレイ、エルザのメンバーの声を拾う。

 やはり大鴉(レイヴン)を注意して見ている。それは分かりきっていることだ。どれだけ危ないギルドなのかも。

 

『えっ』

 

 だが少しおかしかったルーシィの声を広い、少しだけ見てみると、大鴉の尻尾(レイヴンテイル)の控え場を見て驚いていた。

 クロヘビは釣られて己の陣営を見てみると、

 

(…………ッッッ!!?)

 

 ついさっきまで一緒だったフレアが、アザだらけになっていた。

 

(どう、して……? 『戦車(チャリオット)』を終えた後もフレアと一緒だったのに……暴力を振るう暇なんてッ!)

 

 だが分かった。理解した。嫌でも一緒に仕事をしてきたから、嫌でも分かってしまった。

 

試合(この)……ッッ! 開始前(あいま)

 

 フレアは見てきたルーシィにまた敵意を向けていると、黄金の鎧の男・アレクセイが、まるでクロヘビに聞こえるかのように、告げる。

 

『フレア……二度と無様なマネはするな。勝てたのは誰のおかげだと思っている』

 

『で、でも……金髪がこっちにらんで……』

 

『また……』

 

 クロヘビを一目見て、アレクセイはフレアを口顎全体に分厚い手甲を装着した手で掴むと、そのまま力強く意識を『痛み』と『精神』で追い詰めて、問う。

 

『……ぶたれたいのか? それともクロヘビを痛みつけるか?』

 

 それを聞くと、フレアは、ガタガタと震えて、必死に謝罪の言葉を吐いていた。

 クロヘビを痛みつけないで、と。

 私もぶたないで、と。

 

「……ッッハーっ! っハーーッ!」

 

 怒りで吐き気まで起こり、今ここで試合を放棄し、あの鎧の男を殴りいければどれだけ楽なのか、どれだけ救われるのか、呼吸困難が起こるほど怒り狂いそうだった。

 泣き震える彼女に、今すぐにでも側に居てあげたい。

 唯一のその衝動を塞き止めていたのは、戦った側である星霊魔導士(ルーシィ)がとても心配そうに見ていてくれていたことにだった。

 

 精神を殺す。

 怒りを殺す。

 

 常に蛇であれ、一撃の牙さえあれば十分なのだ。

 

 クロヘビは怒りを収め、相手を見据える。

 

『それでは、第一試合開始です!!!』

 

 ゴォォォォーーーン!!!

 

 開始の合図と同時に、トビーは鋭利な爪を生え伸ばした。

 

「超麻痺爪メガメガクラゲ!!!」

 

 鋭い爪の連撃を繰り出してくるが、驚くほどクロヘビからしたらトロかった。

 この国の兵士ぐらいのレベルかと認識したクロヘビは、わざと間一髪のところで全て繰り出してくる爪の連撃を避けると、大きく後方にへと背中から落ちるようにジャンプする。

 いったい何をしてくれるのか、と期待を膨らませて見ていて観客たちに、クロヘビは注文通りその場から一瞬にして消えて(・ ・ ・)みせた。

 オオオオっっ!! と沸き上がる声に、トビーも『消えたっ!?』と期待通りの反応を示す。

 だが《聖十》の称号を持ち、ギルド【蛇姫の鱗(ラミアスケイル)】の代表の魔導士とも言えるジェラは既にその魔法を看破していたのか、吠えるようにトビーに叫ぶ。

 

「バカモン!! 擬態魔法(・ ・ ・ ・)だ!」

 

 だが遅い。

 クロヘビは闘技場となったステージに広がった砂場(・ ・)に擬態したのだ。

 少しだけ動いた砂が、一気に爆発と共にトビーを襲う。

 

「〝砂の反乱(サンドリベリオン)〟」

 

「ぐぼぉ~~ん!」

 

 トビーを砂の逆襲に見舞わせると、クロヘビは砂場から姿を現していた。

 会場は湧き、妖精の尻尾(フェアリーテイル)からも驚きの声や、同じ砂の魔法を操る男のものもあった。

 

(……擬態した属性の魔法が扱える俺の魔法〈擬態(ミミック)〉……本来、モンスターなどが扱ったりする魔法だが、俺は使えた。産まれ落ち、親から捨てられ、生きる為に身に付けた魔法)

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーはやはり大鴉の尻尾(レイヴンテイル)を目の敵にして蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のトビーを応援している声が聞こえるが、クロヘビも己の感情を捨て、極めて表に出さない態度で接する。

 

「おおーん、おまえ強いな」

 

「君もタフだね」

 

「クロヘビって名前かっこいいな」

 

「本名じゃないよ」

 

「本名じゃねえのかよっ!!!」

 

「キレるとこ?」

 

 トビーは素直にクロヘビのことを褒め称えていたが、本名じゃないのに凄くキレ始めた。

 すぐに爪の乱撃に繰り出すトビーに、クロヘビは余裕の声色で避けていく。

 

「おまえ!!! オレが勝ったら本名教えてもらうからなっ」

 

「別にいいけど、ボクが勝ったら?」

 

 そして、外では一人称を変えて不気味に微笑んで死んだ眼差しで相手を見据える。

 

「オレのとっておきの秘密を教えてやるよ!!」

 

「面白そうだね」

 

『何やら妙な賭けを成立したようですね』

 

『どっちも興味ないけどな』

 

CooooL(クーーール)ッ!!!!』

 

 実況など喧しいこの上ないが、クロヘビにとってどうでも良かった。

 この〝賭け〟も、〝勝負〟も、〝魔闘〟も、

 

 クロヘビが麻痺する爪で容赦無く襲いかかってくるトビーを横合いからの鋭い蹴撃(しゅうげき)を放つと、呆気なくよろめき体の軸を無様に晒す。

 

(……終わりだ)

 

 クロヘビは己の魔法を発揮する。

 砂場に瞬時に〈擬態(ミミック)〉で消え、最大の砂塵を吹き荒らす。

 トビーの視界を奪い、何処をどうすればいいのか、という判断さえも奪うと、クロヘビは砂塵が舞う空から姿を現し、垂直からの踵落しで脳天を揺らしてトビーをノックダウンさせる。

 意識が無くなりそうな、重い一撃を食らったトビーは大の字になって空を仰いだ。

 闘技場に居る観客たちは歓声に満ち、その魔闘(たたかい)が終えると誰しも盛り上がる声が上がっている中、悠々とした面持ちでトビーに背を向けて観客たちにその勝利者(しょうしゃ)の姿を晒していたクロヘビだったが、自分の陣営【大鴉の尻尾(レイヴンテイル)】に居るアレクセイを射殺す勢いで睥睨を止めないでいたが、横に居たフレアが心底嬉しそうに笑って手を振っていた。

 つい先ほどまで殴られ、暴力に怯えて震えていたというのに、クロヘビが勝った途端に自分のことのように喜ぶフレアにクロヘビは涙を誘う。

 

『試合終了ォォーーーー!!! 勝者・大鴉の尻尾(レイヴンテイル)、クロヘビ!!!』

 

 悠然としているクロヘビに、妖精の尻尾(フェアリーテイル)チームのエルザやグレイはズルなどもしなくても実力がある魔導士が居たことに少しだけ予想を外れ、驚いていた。

 

「強いな」

 

「ああ……まだ本気を出してるとは思えねぇ」

 

「卑怯なマネしなくても強い奴といるんだ」

 

 そしてルーシィも、対戦者だったフレアのことを思い出してそんなことを呟いてしまっていたが、当の本人の気持ちなど勿論知りもしない。

 

「……(別に聞かなくてもいいんだけど)……で? 君の秘密って?」

 

 案外、ていうか本当にミジンコ並みに少しだけ興味があったクロヘビは、負けて涙目になっているトビーに問いかけた。すると、トビーは歯を食い縛り、歯軋り音を鳴らして苦しそうに言う。

 

「くつ下……」

 

(……くつ……っえ?……)

 

 クロヘビはヘビのようなニヤついたその顔を崩さずに、内心アホな声を出してしまう。

 どうして、くつ下? くつ下って言ったよね?

 

「くふぅ! 片方……見つからないんだ」

 

 膨大な殺気が生まれ、殺したくなった。

 それが秘密? そんなので自分の本名を対価にした?

 

「うぅ……3ヶ月前から探してるのにッ! なぜか見つからないんだァァァ~…………ゥゥゥ……~! ォレ……ぐすっ、うぅ、誰にも言えなくてぇ」

 

 流石に殺意を引っ込める為に顔の調整を忘れ、無表情(まがお)になって、トビーに教える。その無くした(・ ・ ・ ・)片方のくつ(・ ・ ・ ・ ・)()がくっきりと首飾りのアクセサリー風に首に掛けていることを、胸を『トントン』とジェスチャーする。

 

「こんなとこにあったのかよッッッ!!!??」

 

 ええええええええええーーーっ!!!?

 観客席からでも見えていたトビーの首のくつ下に、誰もが呟いてツッコミを入れていた。

 終いにはトビーは探していた物を教えてくれたクロヘビに対して『おまえいい奴だな……おお~ん!』などと言ってきた。

 回りは呆れるなどといった感情に向けていたが、クロヘビは違った。

 

(……こ、こんな奴と、魔闘(バトル)してる間に、フレアが殴られていたのか? くつ下が自分の首に掛けてあることさえ気付きもしなかった、犬に?)

 

 コ ロ シ タ イ。

 なんという場違いな感情なのだろう、なんて一方的なものなのだろうと、その殺意さえ放っていたクロヘビ自身がそう思っていたが、黒い感情がどうしても湧き出てしまう。

 唖然とする空気に、クロヘビは殺意を隠して手をトビーに向ける。

 

『おーーっと!! 健闘をたたえあって二人が握手を──────!!?』

 

 何も無ければ……そうしていただろう。

 だが、クロヘビも『人間』だった。良いところも悪いところも、醜いところ(・ ・ ・ ・ ・)も『人間』だった。自分の大事で大切な人が暴力を振るわれていたというのに、目の前の奴は下らないことに対して泣きわめくその姿に、黒い感情が暴走する。

 クロヘビは握手するか、と思わせておき、そのトビーの大事なくつ下をブチっと紐を切ると、それを目の前で見せびらかすように、力強く引き千切ってみせた。

 

『しなーーーーーーーーーい!!!!? これはひどい!!! ひどすぎる!!!』

 

 人道的とは言えない、酷いことをクロヘビはやってみせた。

 人の大切な物を……その場で引き千切ったのだ。

 大切なものを無惨にされる虚しさを知っているというのに、やってしまった。やらかしてしまった。

 

 鋭い怒気含む視線がクロヘビや【大鴉の尻尾(レイヴンテイル)】にへと集まっていった。

 クロヘビは止まらない。止まる筈がなかった。

 愛する者を守る為ならば、黒く濁んだ泥水だって全て飲み干し勢いだった。

 

 

 




感想やコメントをお待ちしております!



※以下は個人的な作者の意見。読まなくても良いです。



自分はやはり、脇キャラを愛しているんでしょうね。真島先生が考えたキャラたちが個性的過ぎるので大好きなのですが、何分そのキャラ(脇キャラ)が早々に退出するのが自分的にとても『勿体ない』と感じてしまいました(;´д`)

いや、かなり個人的な意見ですね。でも、本当に心底そう思っております。フィオーレ王国の処刑人『餓狼騎士団』とかあれしか登場してませんもんね! いやいやいや! 少な過ぎでしょ出番が! と漫画読んでて実際声高にそう叫んだことは今だ鮮明に思い出します。
しかし、アニメ版だと若干大幅な出番が追加されてて凄い嬉しかったのですが、あり得ないくらい速効倒されて相変わらず納得出来ない終わり方でした(;´д`)

あれ、批判してる!?
そうじゃないです!
これは本当に個人的な意見です!

なのでっ! 自分は妄想を含んだフェアリーテイルを書いていってしまうかもしれません。ザンクロウが生きてる然り、勝手なカップリング然り!
でも、大好きなのですフェアリーテイル!
妄想空想予想が止まりません。止まることを知りません。ウェンディとかロリ可愛い過ぎてヤバイです。ルーシィとかエルザとか、もうヤバイですwww

今回の後書きは初の長々とした作者の勝手な何も関係しないものでした。 o(^-^o)(o^-^)o


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