私の居場所を求めて (足でされたい)
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プロローグ

早めの更新出来るように頑張ります。シリアス物を書くのは慣れていないので表現力や文章力が酷いところもあると思いますが宜しくお願いします。


登場人物

 

 

 

 

瑠衣(5歳)

 

赤ん坊の頃に両親に捨てられ孤児院に入る。内気な性格で5歳児とは思えない程頭が良い。その為他の孤児院の子達から浮いてしまい孤立してしまった。ずっと変わらなくつまらない日常を過ごしていたが、孤児院に来た楓達を見て心が変わり始める。

 

橘 紅葉(41歳)

 

孤児院の職員。明るく綺麗で子供達から1番の信頼を得ている。瑠衣にも積極的に声を掛けているが、中々心を開いてくれず困っていた。楓の実の母親でもある。

 

月村 楓(22歳)

 

旧姓 橘楓。19歳の時に月村エレナと同性婚をする。昔は月村エレナのメイドとして働いていたが、今はそれをやることもなく、主婦として家を任されている。

 

月村エレナ(23歳)

 

名前のある月村家の当主。現在は、住んでいたお屋敷を同性に向けた結婚相談所に変えて仕事をしている。現在の自宅は、特に特徴のない一軒家。持ち前のカリスマ力は相変わらずで、エレナの結婚相談所には人が絶えないだとか。

 

 

-------------------------------

 

 

『〇〇ちゃんごめんね……』

 

暗い部屋の中、私の目の前で自分の首にロープをかける母親の姿が鮮明に映されていた。

 

「ママ!!待ってよ!!ママ!!!」

 

『もう戻れないのよ……ごめんね……』

 

「ママ!!!いやぁ!!!!」

 

「瑠衣ちゃん!!瑠衣ちゃん!!大丈夫!?」

 

私を呼ぶ声が頭上から降り注いでいた。

 

「はぁ……はぁ……夢……?」

 

「大丈夫?すんごいうなされてたよ?うわ、凄い汗じゃない。今拭くもの持ってくるからね」

 

声の主は、ここの孤児院の職員の橘紅葉さん。施設の子供から優しいお母さんみたいと、とても評判がいいらしい。それでも本当のお母さんじゃないのにね。

 

私は物心つく前に捨てられ、ここの孤児院、確か名前はさくらんぼハウス。私の他にも身寄りの無い子供が20人近く住んでいた。

 

「ありがとうございます」

 

なんであんな夢を見たんだろうか……私は、母親の名前も顔も覚えていない。この瑠衣という名前も、聞けば施設の人に付けてもらったらしい。自分の名前もわからない。本当に何も知らずにこの施設で過ごしていくしか生きる術がなかった。いつか私の母親となってくれる人が素敵な名前を付けてくれないかな……そんな風な夢物語を頭の中で考えたりもするが、所詮は夢の産物。現実はそんな甘くない。確かに身寄りの無い子供を、子宝に恵まれなかった夫妻が預かるという事もあるらしいが、それで幸せになれるかと言ったら分からないだろう。血の繋がっていない子供を本当に愛せるのか?と私は思ってしまった。こんな事を考えているから、私には友達が出来ないんだなとも思う。5歳児だとは思えないぐらい頭がいいのも自分でも分かっていた。他の子は施設に馴染み、友達を作って毎日を楽しく過ごしているというのに、私は何をやっているんだろうか……

 

「お待たせ。怖い夢でも見ちゃった?」

 

そう言いながら紅葉さんは、私の額の汗を拭いながら心配そうに私の顔を覗き込んでいた。私の事をこんな風に気にかけてくれるのも施設の中では紅葉さんぐらいだろう。考え方が子供じゃないよ。って他の職員さんには煙たがられている、という事も他の子から聞いたこともある。近寄りたくなければ近寄らなければいい。私は馴れ合いなんてこっちからお断りだ。本当に自分という存在を分かってくれて、認めてくれる人。そんな人が1人いてくれればいいんだ。

 

「ご心配お掛けしてすみません。大丈夫ですから」

 

そう言って私は、再び布団の中に入り朝を待った。朝起きてご飯を食べて読書をする。昼ご飯を食べてまた読書。夜ご飯を食べてお風呂に入って寝る。もうこんなつまらない日常にも飽きちゃったな……何か少しでも変わってくれればいいのに……私が変わろうとしてない時点でダメかもしれないけどね。私を変えてくれるような人に出会えたらな……そう思いながら私の意識は夢の中に消えていった。

 

 

翌朝、私はいつも通り朝6:30に目が覚めた。8時寝6:30起きが私の生活サイクル。この施設に入って4歳の誕生日を迎えた時にこの生活サイクルを初めてからは、未だにこのサイクルを破った事がない。早寝早起きは三文の徳になるって本にも書いてあったし悪い事ではないだろう。

 

私は、自分の部屋から出ると顔を洗いに生徒共有の洗面所まで歩いて行った。相変わらず他の子達は寝ているみたいだ。基本的にこの施設の朝ごはんは9時。大体の子は紅葉さんや他の職員さんが起こしに来るまでは寝ていることが多い。ちなみに歳が4歳以下の子は職員さんと一緒に寝る事が義務付けられているみたいだった。この施設では5歳になってからは、自室が一応与えられることになっている。それでも職員さんと一緒じゃなきゃ嫌だって人は、枕を持って行って一緒に寝ているみたいだった。私は、5歳を迎えた時に自室を与えられたことがとても嬉しかった。誰にも邪魔されずに読書を出来る環境を与えて貰ったことはとても嬉しかった。今までは他の子がうるさくてそれどころではなかったからだ。

 

「瑠衣ちゃんおはよ。よく眠れた?」

 

洗面所で顔を洗っていると紅葉さんに声を掛けられた。これから皆の朝ごはんを作るんだろう。腰には可愛いエプロンが巻かれていた。

 

「おはようございます。お陰様でよく眠れました」

 

「そっか。なら良かった。何か飲む?」

 

「お気遣いなくです。部屋にまだお茶がありますので。失礼します」

 

「あ!ちょっと待って。今日ね、私の娘とその友達が施設に遊びに来るんだ。その時良かったら瑠衣ちゃんも顔出してね。2階の空き教室の場所分かるよね?そこで皆で遊ぶ予定だから」

 

「わかりました。気が向いたら行くことにします」

 

私はそう言うと自室に戻り、本棚から本を出して読書に浸ることにした。娘さんか……きっとあの人の子供だもん。明るくて優しいんだろうな……私もそういう人が親だったら今の性格を変えることが出来るのかな。……何を考えてるんだろ。絶対にそんな事有り得ないのにね。無駄な事を考えるのをやめ、私は再び本に目を向けた。

 

コンコンコン

 

「瑠衣ちゃん朝ごはん出来たよ」

 

「今行きます」

 

もうそんな時間なんだ。私は、本にしおりを挟むと食堂へと向かった。

 

食堂に着くと、既に私以外の子供は既に席に着いているようだった。

 

「瑠衣ちゃん遅いよぉ!」

 

「瑠衣ちゃんのせいで朝ごはん冷めちゃうじゃん!」

 

「部屋で引きこもってるからだよ!」

 

これもいつもの光景。一人の子が私を非難するとそれに続けて周りの子も便乗して言ってくる。そしてこの後は、

 

「こら!そういうこと言わないって何回言ったら分かるのよ!そういう子にはご飯あげないからね?ごめんなさいは?」

 

「……」

 

「じゃあご飯いらないのね?下げちゃうよ?」

 

「瑠衣ちゃんごめんなさい!」

 

「私もごめんね」

 

「ごめんなさい」

 

紅葉さんが周りの子を叱って謝らせる。これも何回も見てきた光景だった。こういう事が起きる度に申し訳なさそうに私に謝りに来るけど何も変わってないんじゃ意味が無い。結局1番子供から信頼されている紅葉さんも現状を変えられないのだ。

 

「それじゃ、皆朝ごはん食べよっか。頂きます」

 

一同「頂きます!」

 

朝ごはんを食べてる途中に紅葉さんから皆に声がかかった。

 

「今日のお昼にね、お姉さん2人が施設に遊びに来てくれる事になりました!一緒に遊びたい人は2階の空き教室に集まって下さい!」

 

紅葉さんがそう言うと皆の反応は、わかりやすく喜んでいた。男子に関しては、おっぱい大きいのかな?とかちょっとだけなら触ってもいいよな!?とあからさまなセクハラ目的の声や、純粋に遊んでもらうことを楽しみにしてる子からは、トランプとか持っていこうよ!などと話が上がっていた。しかしお姉さん2人で20人の相手も出来るのだろうか?年齢層もバラバラで4歳までで5人。5歳から9歳までがもっとも多く13人。10歳が2人と言った感じだった。

 

まぁいっか。私もとりあえずどんな人か気になるし見に行くだけ行ってみよう。決して何かを期待している訳ではい。結局誰も私を変えられる人なんているわけないに決まってる。

 

朝ごはんを食べ終え、私は自室で2人の来訪者を読書をしながら待つことにした。

 

いつものように読書をしているはずなのに、時間が経つのがとても遅く感じられた。

 

「おかしいな……いつものように集中出来ない。もしかして楽しみにしてるの?いやいやそんなわけない。たまたま集中出来てないだけだ」

 

私は再び読書へと意識を向けその時を待った。

 

丁度1冊の文庫本を読み終えた時だった。廊下が騒がしいと思い、自室の扉を開けると綺麗なお姉さん2人が子供達に囲まれていた。

 

あれが紅葉さんが言っていた人か……娘さんはどっちだろ。1人は綺麗な黒髪を腰の辺りまで伸ばしたお姉さん。それにとても綺麗な人だった。少なくとも私が見た事のある女の人の中ではダントツで綺麗だと思う。もう1人は茶色の髪を肩まで伸ばしているお姉さん。黒髪の女の人より10センチぐらい小さく、優しそうな笑顔を子供たちに向けていた。なんとなくだけど茶髪のお姉さんが紅葉さんの娘さんだと私は思った。目元の辺りがそれとなく似ている気がするし、いつも私達が向けられている笑顔と同じような笑顔を見せていたからだ。

 

「はいはい!皆慌てないの!色々聞きたいこともあるだろうけど続きは空き教室でね!皆でお姉さん達を案内してあげてね。出来る?」

 

一同「はーい!!!」

 

「いいお返事!じゃあ行きましょっか。私は他の子達に声掛けてくるから先行っててね」

 

そう紅葉さんが答えると、お姉さん達を囲んでいた輪が無くなり、視界が開けると、茶髪のお姉さんと目が合ってしまった。

 

突然の出来事で私はその場で固まってしまった。

 

こういう時どうしたらいいんだろう。えっと!確かさっき読んだ本では手を振って挨拶してたしとりあえず手を振っておけばいいのかな。いつもの冷静な私はそこに見る影もなく、咄嗟に茶髪のお姉さんに手を振ってしまった。そうすると茶髪のお姉さんは私に笑顔を向けると、手を振り返し「後でお話しようね!」と言って他の子達に手を引かれ空き教室に向かって行った。

 

「はぁ……何してるんだろ私……お姉さんの笑った顔可愛かったな……って何考えてるのよ私!と、とにかく空き教室の方に行かなきゃ。他の子達は皆行くだろうし、私だけ行かないのはおかしいってだけだからね。別にお姉さんにお話しようね!って言われて話してみたいとか思ってないから!………ホントに私どうしちゃったんだろ。こんなに胸がドキドキなんてした事なかったのに……」

 

私はこの知らない感情を押し潰して、いつもの冷静な私に戻れ。と念じながらお姉さん達が待つ空き教室へと向かった。




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瑠衣の洞察力

2話です。宜しくお願いします。


空き教室へと行くと、お姉さん達2人と紅葉さんが教壇に上がり、生徒達はその前にバラバラに座っていた。私はお姉さん達から1番遠くの左の後ろの方に座る事にした。

 

「それじゃ楓、自己紹介してあげて」

 

紅葉さんが茶髪のお姉さんに声をかけていた。やっぱりあの人が娘さんだった。私の目は、意識などしていなかったが茶髪のお姉さんから目が離せなかった。先程の優しそうな笑顔が脳裏から離れていないのだ。

 

「わかった。えっと、皆初めまして。私は楓って言います。宜しくね。気軽に楓って呼んでね!それでこっちのお姉さんが」

 

楓さんが黒髪のお姉さんの肩をとんとんと叩き、自己紹介が楓さんから黒髪のお姉さんに変わるみたいだ。

 

「私はエレナ。月村エレナよ。宜しくね。仕事であまり顔は出せないかもだけどこれから少しずつ来るつもりだから宜しくね。こっちの楓は、これから2日に1回ぐらいのペースでお邪魔すると思うから皆仲良くしてあげてね」

 

ただ遊びに来たって訳ではなさそうだ。じゃなかったらわざわざまた来るなんて話はしないだろう。それにしてもなんでこんな何もない孤児院なんかにお姉さん2人が来たのだろうか。紅葉さんに何か頼まれたのかな。正直それぐらいしか思い浮かばなかった。じゃなかったらあんな綺麗な人達がこんな何も無いところに通うなんて有り得ないと思ったからだ。

 

「それじゃお姉さん達に質問ある人!」

 

そう紅葉さんが言うと一斉に皆の手が挙がった。

 

「それじゃ皆で一つずつ質問していこっか。1人1つまでね。被っちゃったら〇〇君と同じでしたって言ってね。それじゃ佐藤君からどうぞ」

 

え?それって私にも回ってこない?まぁいいか。適当に同じ質問だったって言って流そ。

 

「やった!えっと、その」

 

「佐藤君落ち着いて、ゆっくりでいいのよ」

 

どんだけ興奮してるんだか。確か佐藤君は8歳。もう8歳なら普通に話ぐらい出来るでしょうに。

 

「好きな食べ物はなんですか?」

 

「んー。私はお刺身かな」

 

楓さんはお刺身っと。私は、頭の中でメモをした。

 

「私は特に無いわね。まぁ強いて言えば甘いものかしら」

 

その後も質問大会が続き、どうでもいいような質問が続いた。好きな飲み物は?紅葉さんは、家でも優しいんですか?とか特に私が気になるような質問は無かった。まぁ小学生の質問なんてこんなとこだろう。

 

「じゃあ次沙也加さん」

 

この孤児院で1番歳上の人だ。どんな質問をするのだろうか。

 

「えっと……お二人はお付き合いしてる人とかいるんですか?2人とも綺麗だからどうなのかなって」

 

「私は残念ながらそういう人はいないかな」

 

「楓に同じくよ」

 

ん?気のせいかな。エレナさんの表情が一瞬崩れた気がする。孤児院に来てから先程までは、クールって言うか全く表情を崩していなかったのに、今は視線も前ではなく上の方を見ているし何か隠しているような気がする。別に恋人がいるぐらいエレナさんぐらいの歳なら普通だと思うしいいと思うけどな。

 

「そうなんですね。いい人が見つかるといいですね!」

 

「うん。ありがとう」

 

「そーね」

 

次は楓さんの表情が曇った。まさか楓さんも?嘘をついている罪悪感か。それともただいい人が見つからない事への不安かは分からないが先程までの明るい表情がそこにはなかった。まぁ嘘をついていようがどうでもいいか。

 

「それじゃ後は2人ね。じゃあ結衣ちゃん」

 

「エレナさんに質問です。お仕事って何をしてるんですか?」

 

「仕事は、同性ゴホン。失礼しました。結婚相談所をやってるのよ。結婚に悩んでいる人や、結婚式の費用の相談とかかな」

 

「そうなんですね。ありがとうございます。お仕事大変だと思いますけど頑張ってください!」

 

「ありがとう」

 

なるほど……そういう事ね。今ので読めちゃった。普通の子なら何も気付いてないと思うし、考えつかないと思う。でもこれまで数百冊の本を読んだ私にはお付き合いしてる人の質問で表情に変化があった2人、更にはエレナさんの同性発言。同性って言った瞬間楓さんの手がエレナさんを軽く叩いていたのも右後ろの1番遠くから人を見れる場所にいた私にはしっかり見えていた。それでも隠す必要はないと思うけど。別に最近はそういう恋愛だって認められてきているって本に書いてあった。海外では普通に結婚出来ているって言ってたしね。

 

「じゃあ最後に瑠衣ちゃん。何かあるかな?」

 

私にだけ何かあるかな?と聞いてきたってことは、いつも通り関心を示さないと思ったんだろう。私もさっきの質問が無ければ何も言うつもりはなかった。ハッキリさせようよお姉さん。私は紅葉さんにこう返答を返した。

 

「はい。私からも質問宜しいですか?」

 

「もちろんだよ!さっき廊下で手振ってくれた子だよね?瑠衣ちゃんって言うんだね。宜しく!」

 

人のいい笑顔で楓さんが私に話しかけてくる。やっぱり言うのやめようかな……なんか隠してるみたいだし。

 

「宜しくお願いします。えっと、その……」

 

「ゆっくりでいいからね。自分のタイミングで」

 

楓さんは優しく語りかけてくれている。こんなに優しく接してくれた人なんて今まで紅葉さんだけだったな。

 

「あ、あの!楓さんとエレナさんに後で聞きたいことあるんです。ここではちょっと言いづらいと言いますか……その、エレナさんの表情と発言で確認したい事があって」

 

そう言うと楓さんとエレナさんは、何かを察したのか、孤児院の皆に声をかけた。

 

「ちょっと皆遊んでてね!瑠衣ちゃん何処か体調悪いみたいだから!お母さんちょっと後宜しく」

 

「全く……あれだけバレないようにねって言ったのに……皆ちょっと待っててね。楓さんとエレナさんすぐ戻ってくるから」

 

一同「はーい」

 

そう言うと楓さんは、私に外に来るようにと手招きしていた。外に出たはいいものの、エレナさんに楓さんが何処に行けばいいのかな?なんて話していた為、私はこう提案した。

 

「あの、他の人に聞かれたくないと思いますし私の部屋に来ませんか?」

 

「ならお願いしようかな。エレナ、いいよね?」

 

「私の落ち度だし仕方ないわね……」

 

私は、2人のお姉さんを自分の部屋に案内した。この時だけは、皆のお姉さんを独占していると思ったら何故か気分が良かった。

 

「こちらになります」

 

私は部屋の扉を開けて、お姉さん2人を中に入れた。私の部屋の中は、150センチぐらいの本棚が2つとベッドと机が置いてあるぐらいだった。それでも他の子に比べたら本のせいで物はとても多い方だった。

 

「綺麗な部屋だね。これ全部読んだの?」

 

「はい」

 

「楓、あんまり話してる時間はないわよ。それで瑠衣ちゃんだっけ?聞きたいことって言うのは?まぁだいたい想像はついてるけど」

 

「単刀直入にお伺いします。お二人は恋人同士、いえ、結婚されてますよね?間違ってたらごめんなさい」

 

「間違ってないわよ。でもよく分かったわね。こっちからも質問いいかしら?」

 

「はい」

 

「今何歳なの?外見は5.6歳にしか見えないんだけど。でも、その洞察力といい頭の良さといい中学生とかじゃないわよね?」

 

エレナさんが真剣な目をしながら聞いてきた。

 

「5歳ですよ。人よりちょっとズレてるのは自覚しています。そのお陰でこんな部屋で1人で読書してるんですよ」

 

「なるほどね……まずったなぁ。まさかバレるなんて思わなかったんだけど。瑠衣ちゃんには言うけどここに来たのは、私達の子供にする子を探すため。だから変に勘づかれて争いが起こらないために隠したのよ。それとも貴方が私達の家に来る?ふふ、そんな変な顔をしないで頂戴。冗談よ」

 

よっぽど私が変な顔をしていたんだろう。真面目な顔で話していたエレナさんが突然笑っていた。

 

「それにしても5歳児にツインベットで凄いわね。紅葉さんが持ってきたの?」

 

「なんか、貰い物って言ってました。どうせなら友達多い子の部屋に置いてあげたらって言ったんですけどね」

 

「友達いないの?」

 

きょとんといった表情でエレナさんは訪ねてきた。この人はストレートに言ってくれるからこっちも答えやすいなと思った。

 

「ちょっとエレナ!言い方少し考えなよ」

 

楓さんは私が傷つくと思ったんだろう。ホントに優しすぎるってぐらいいい人。エレナさんも好きになるよね。

 

「大丈夫ですよ楓さん。はい。友達はいません。それでこんなに大量の本があるんです。早く立派な大人になって自立したいんです」

 

「なるほどね……まぁ今日の事は内緒でお願いね。私達は戻るけど貴方はどうするの?」

 

「もう聞きたいこともないですし、ここに残ります」

 

「分かったわ。それじゃまたね」

 

「瑠衣ちゃん、何か私に出来ることあったら言ってね。また明後日来るからさ。またね!」

 

「さようなら」

 

そう言うとエレナさんと楓さんは、私の部屋から出ていった。

 

「なんか疲れた……もういいや、寝よ」

 

私は、ベッドに潜り込むとすぐに意識は夢の中へと消えていった。

 

--------------------

side楓

 

「まさかバレるなんて思わなかったね」

 

孤児院から自宅へと戻ると、私はエレナにお茶を出しながら話を切り出した。

 

「普通なら気付かれないわよ。相手は大人じゃなくて子供なのよ?あの子の観察力は大した物ね。それに思わなかった?」

 

「何が?」

 

「外見よ。私の小さい時にそっくりだと思わない?黒髪を腰まで伸ばして、目も綺麗な二重だし将来美人になるわよ」

 

エレナの言っていることは確かに間違いないと思った。5歳という歳で可愛いというより綺麗って表現が合う子だと思っていた。人形のように整った顔立ちに、小さいながらもスラッと伸びていた綺麗な足。確かに小さい頃のエレナに似ているかもしれない。

 

「なら、性格こじらせなきゃいいけどね。中学生ぐらいで人にきつく当たるようになったりしなきゃいいけど」

 

私は冗談交じりにエレナに話しかけた。中学生の頃のエレナは酷かったからなぁ……

 

「その話は辞めて頂戴……ねぇ楓、あの子を養子にする気は無い?」

 

「いいんじゃない?」

 

「随分軽いわね……あの子の将来を私達が受け持つって事よ?」

 

「分かってるよ。でも決めるのは瑠衣ちゃん自身だもん。私達に決められることじゃないよ。2週間通って最後の日に聞いてみるよ。私達の家に来ないかって。私は瑠衣ちゃんの事可愛いと思ってるし、反対意見はないよ」

 

「そうね……それじゃ悪いけどお願いね。私は、次の相談者の書類まとめなきゃいけないから。おやすみ楓」

 

「おやすみ」

 

エレナと私は軽いキスをして別れた。新しい家では、エレナの仕事の都合もあり、寝室は別で寝ていた。少し寂しい所もあるが仕事が落ち着くまでは我慢しなきゃだよね。

 

「寝ようかな。明日は部屋の掃除してまた明後日孤児院の子達に会いに行くんだから体調管理はちゃんとしておかなくっちゃ」

 

布団に入ると、眠気はすぐにやってきて意識は夢の中へと消えていった。




瑠衣ちゃんの外見をやっと書くことが出来ました。黒髪ロングのロリっ子ですね。孤児院の中では、密かに瑠衣の事を好きな子もいるみたいですよ。

感想、評価宜しくお願いします!作者のモチベーションにも繋がりますので良かったら宜しくです!


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瑠衣の思い

更新遅れてしまってすみません。ジャンル分けされたことすら知りませんでしたw


「紅葉さんちょっといいですか?」

 

「ん?どうしたの?」

 

楓さん達が来た日の翌日。私は、いつものように朝早く起きると、洗面台で顔を洗っていた紅葉さんに声をかけた。

 

「失礼かとは思ったんですがどうしても気にしてることがありまして、質問しても大丈夫ですか?」

 

「ん?何かしら。別に気にしなくていいわよ。何でも言ってちょうだい」

 

「えっと……それでは失礼して……紅葉さんも同性愛者なんですか?」

 

「ぶっ!!けほ!けほ!」

 

「大丈夫ですか!?」

 

きっとこの手の質問は予想していなかったんだろう。うがいをしていた水を吹き出して変なところに水が入ったみたいだった。

 

「びっくりしたわよ。どうしてそんな話に?あぁ……楓とエレナちゃんが結婚してるって昨日聞いたのね?」

 

「はい。それで紅葉さんはどうなのかなって思って」

 

「この話は私と楓とエレナちゃん以外とはしちゃダメだからね?それを守ってくれる?」

 

「はい」

 

そもそもこの施設で話す人なんて紅葉さんぐらいのものだ。何も問題は無いだろう。

 

「きっと瑠衣ちゃんなら子どもはどう出来るかとかも知ってるわよね?」

 

「えぇ。本の知識でそれぐらいわ」

 

「私も最初は普通に男の人が好きだったわ。でも、その人とはウマが合わなくてね。それで気付いたら今結婚してる人は女性だったわ。逆に質問だけどそれを聞いてどう思った?」

 

「別に何とも思いませんよ。好きの形は人それぞれだと思います」

 

私は思ったことをそのまま伝えた。本当に気にしてないんだよ。私は人を好きになったことなんてないから尚更気持ちが分からなかった。

 

「そう……それじゃこの話はおしまい!また後でね」

 

そう言うと紅葉さんは、施設の大人達が集まっている職員室へと入っていった。

 

「はい。また後ほど」

 

時間が少し経ち、朝ご飯の時間となり私はいつものように食堂へと向かった。珍しく私への罵声が浴びせられることが無かった。

 

「珍しい……どうしたのかな皆」

 

普段は、他の子の話なんかは気にもならなかったが、今日だけは違った。何か面白い事でも見つけたのだろうか。喧嘩して口数が少ない訳ではないようだしどうしたのだろうか。

私は、耳を済ませて会話を聞くことにした。

 

「今日は、楓お姉さんとエレナお姉さん来ないんだっけ?」

 

「明日かな?早く来て欲しいよね!」

 

「ホントそれ!楓さんホントに可愛くて羨ましいなぁ……私もあんな大人になりたい」

 

どうやら話の中心は、楓お姉さんとエレナお姉さんみたいだった。昨日の訪問は皆に大きな影響を与えたみたいだった。それもそうなるかな。最近施設に来た人なんていなかったもんね。それに来てもご老人だったし、お姉さんが来たのなんて初めてじゃないかな。

 

「はいはい!皆そろそろご飯にするよ!楓お姉さんは明日来るから楽しみに待ってようね!」

 

一同「はーい!!!」

 

紅葉さんの声に施設の子達は、今までで1番大きな声とも言える声量で返事を返していた。

 

そっか、楓お姉さんとエレナお姉さん今日は来ないんだ……そう思うと何故だか胸のあたりが切なくなるのが分かった。

 

「何なんだろこの気持ち……」

 

「瑠衣ちゃん何か言った?」

 

「なんでもないです」

 

正面に座っている紅葉さんから声をかけられ、私は動揺を見せないように返事を返した。朝ご飯が終わると一目散に部屋へと戻って自室のベッドに頭から突っ伏した。

 

「んーーー!!!!!!なんなのこれ!」

 

自分もこんなに大きな声が出るんだな……今までこんな風に叫んだことなんてあったかな。原因は分かってる。間違いなく楓お姉さんとエレナお姉さんの件だ。どうやら自分が思っている以上にあの二人の事が気になっているみたいだった。

 

「私らしくない。こんなベッドでうだうだしてたら他の子達と同じじゃん。私から動かなきゃ」

 

私の今の気持ちは1つだった。あの二人と会って話がしたい。ううん違う。楓お姉さんと会いたいんだ。昨日の優しい笑顔で瑠衣ちゃんって言って欲しい。どうやら私は昨日の楓お姉さんの笑顔に夢中になってしまったらしい。私も結構単純と言うかなんというか……とにかく紅葉さんに聞いてみなきゃ。もちろん他の子にはバレないようにしなくっちゃ。

 

私は、一直線に紅葉さんがいるであろう職員室へと早足で向かった。

 

職員室の前へと着くと、深呼吸をしてからノックをした。

 

「失礼します。瑠衣です。紅葉さんいますか?」

 

「入っていいよー。奥の方にいるから」

 

どうやら職員室にいるのは紅葉さんだけみたいだった。他の人は小さい子についているんだろう。たまたま紅葉さんがついなくて良かったな。普段は紅葉さんも子供たちから1番人気の存在だから朝以外はそんなに話せないからね。

 

紅葉さんは言っていた通り一番奥の机に座って、コーヒーを飲んで資料か何かを見つめていた。

 

「すみません今大丈夫ですか?」

 

「大丈夫だよー。それにしても珍しいね瑠衣ちゃんがここに来るなんて。何かあった?」

 

「えっと……その……」

 

「ん?」

 

不思議そうに紅葉さんは私の瞳を覗いていた。それもそうだろう、普段ならこんなに言葉に詰まることなんて1度も無かったんだから。ただ楓お姉さんの事を聞きたいだけで、どうして恥ずかしいような、少し照れくさい気持ちになるのだろうか。

 

「あの、楓お姉さんの事で聞きたくて」

 

「楓の?どうしたの?それに顔真っ赤だよ?何処か体調とか悪くない?」

 

「ふぇ!?だ!大丈夫です!どこも悪くないです!」

 

「ふふ、もしかして楓の事気に入ってくれたのかしら?」

 

紅葉さんはニヤニヤと私の方を見て笑っていた。この人絶対勘違いしてるよ……

 

「そういうのじゃないですけど……その、楓お姉さんに会えないかなって思って。初めてなんです。こんなに他人が気になるなんて。それでこの気持ちがなんなのか知りたくて」

 

私の真剣な思いが伝わったのか、先程まで笑っていた紅葉さんの表情もいつの間にか元に戻っていた。

 

「そうねぇ……会わせてあげたいんだけど瑠衣ちゃんだけ会ったって知ったら他の子に何か言われるんじゃない?」

 

それはほぼ間違いないと思う。ただでさえ私は周りの子から好かれていない。仮に今日紅葉さんに楓お姉さんに会わせてもらった事がバレたら何を言われるか分かったものじゃない。それでも私は……

 

「それは100も承知です。なんとか皆に気付かれずに会いに行けたりしないでしょうか」

 

私は必死の思いで紅葉さんに訴えかけた。明日になれば会えるのは分かってる。でも、明日会う時には他の子達に楓お姉さんを取られてしまってまともに話すことなんて出来ないだろう。私は楓お姉さんを独占したいんだ。二人っきりで話がしてみたい。私の意中はそれで埋め尽くされていた。

 

「やっぱり瑠衣ちゃんってエレナちゃんに似てるわね。楓さんを私に下さいって言ってきた目そのものだったわよ。それにたまたまなのかエレナちゃんと同じような綺麗な黒髪にお人形さんのような顔なんてそっくりよ?話がそれたわね。楓に電話してみるからちょっと待っててね」

 

そう言うとポケットからスマートフォンを取り出し楓お姉さんに電話をかけたみたいだった。それにしても紅葉さんが言ってたエレナお姉さんに似てるって有り得ないよ。私はあんなに綺麗じゃないもん。背も高くないし、あんな堂々とした態度で皆の前に出るなんてもってのほかだ。

 

「もしもし楓?今どこにいるの?うん。ならよかった。今から可愛いお客さんが1人そっちに行くから宜しくね。え?それは来てのお楽しみよ。今から車で行くから。それじゃあね」

 

そう言うと紅葉さんは電話を切った。

 

「お待たせ。それじゃ行きましょうか」

 

「いいんですか!?」

 

「内緒ね?普段わがまま言わない子のたまのわがままぐらい聞いてあげるわよ。裏門から私の車で行くから裏門で待っててもらえる?」

 

「ホントにありがとうございます」

 

私は、深く紅葉さんに頭を下げると裏門へと向かった。紅葉さんもすぐにやってきて車を出すと私を乗せて楓お姉さんが住んでいる家の方へと走り出した。

 




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月村家にて

前作を読んでいる方ならエレナの首輪にも納得が行くと思いますw


「楓お姉さんの家は施設からどのぐらいかかるんですか?」

 

「だいたい15分ぐらいかな」

 

「なるほどです」

 

施設から車を走らせてだいたい10分ぐらいたっただろうか。っていうことは残り5分ぐらいで楓お姉さんと会えるのか……

 

私は胸の高鳴りを抑えられずにいた。施設を出てから心臓の音が紅葉さんにも聞こえるんじゃないかと思うぐらい激しく動悸していた。

 

「瑠衣ちゃんがそんなに楽しそうな顔初めて見たわよ」

 

「え!?私そんな表情してますか?」

 

紅葉さんはなんだか楽しそうだった。迷惑をかけてるはずなのになんでだろうか。

 

「なんだかソワソワしてるって言うかまだ頬少し赤いよ?緊張してる?」

 

「えっと……ちょっと緊張してるかもです。誰かと2人で話すことなんて紅葉さん以外いませんでしたし」

 

「ふふ、確かにそうだね。でも大きくなったら二人っきりで話す事だって多くなると思うし練習だと思ったら?恋人だってそのうち出来るんだしさ」

 

「そういう事にしておきます」

 

大きくなったら……か。大きくなる前にこの施設を出れるのだろうか。先のことなんて全然考えられないや。

 

「着いたよ」

 

紅葉さんが指をさした先には、普通の一軒家があった。楓お姉さんとエレナお姉さんってなんかお嬢様みたいな雰囲気あったからもっと大きいお家に住んでるのかと思った。

 

「ほらほら、私はこのまま戻っちゃうからピンポンしてきなさいな」

 

「え!?私がですか?てっきり紅葉さんが声かけてくれるものかと……」

 

「なんとなくそっちの方が面白そうなんだもん。後ろ車来るといけないから早く降りちゃって」

 

「面白そうって……あ、すみません今降ります」

 

私は、後ろを確認すると紅葉さんの車から降りた。

 

「それじゃ後は頑張るんだよ!今日は泊まってくること!皆には体調悪くて寝てるって言っておくからね!それじゃ!」

 

「え!?ちょっと泊まりなんて聞いてませんよ!」

 

私の言葉を無視して紅葉さんは、窓から手をこちらに振って車を発進させてその場からいなくなってしまった。ってか5歳児1人にする教育者がいていいの!?と、とりあえず落ち着かなきゃ。とにかくピンポン押さなきゃだよね。

 

「押していいんだよね……紅葉さんが電話してたし大丈夫だよね?」

 

私が門の前でピンポンを押そうか迷っていると、不意に楓お姉さんの家の扉がガチャりと開いた。

 

「あれ?瑠衣ちゃん?」

 

扉から顔を出したのは楓お姉さんだった。透き通るような綺麗な声に私はすぐに楓お姉さんだと分かった。昨日は、しっかりオシャレをしていた服装だったが今日はスウェットに長袖のTシャツにパーカーを羽織ったラフな格好をしていた。

 

「ホントに可愛い人だなぁ……」

 

私は、無意識のうちに楓お姉さんに見とれてしまっていた。天使のような声と少し童顔な可愛い顔から目が離れなかった。

 

「瑠衣ちゃん?」

 

「ひゃい!す、すみません突然来てしまって!ご迷惑でしたよね……」

 

楓お姉さんから声をかけられ、ようやく正気に戻れた。何を考えているんだろう私……

 

「全然大丈夫だよ。とにかくここじゃなんだし入って入って」

 

「すみませんお邪魔します」

 

私は、門を開け楓お姉さんが待つ玄関へとゆっくりと歩いて行った。

 

「お母さんはもう行っちゃった?」

 

「はい。施設の方にすぐ戻るって言ってました」

 

扉を開けると玄関は綺麗に整理整頓されていて靴なども綺麗に並べられていた。家の中はすぐ右側がリビング、左側に多分和室かな?畳が見えるし。そして目の前に2階に通じている階段があった。

 

「そっか。瑠衣ちゃんオレンジジュースと紅茶どっちが好きかな?」

 

「嫌いなものは無いのでどちらでも大丈夫です」

 

「分かった!じゃあミルクティーいれてあげるからそこに座って待っててくれる?」

 

「すみませんありがとうございます」

 

私は、楓お姉さんに言われるがままリビングにある椅子に腰をかけた。リビングの中にはエレナお姉さんとの結婚した時の写真だろうか、2人がウエディングドレスを着た写真が飾られていた。

 

「綺麗……」

 

「お待たせ。綺麗って私達の事かな?ありがと」

 

楓お姉さんは、私の前にミルクティーを置くと自分も私の対面に座って一息ついていた。

 

「ありがとうございます。はい。二人とも凄く似合ってて綺麗だと思って」

 

「もうこんなんでも3年経つんだよ結婚してから」

 

楓お姉さんはミルクティーを啜りながら話していた。

 

「もうそんなに経つんですね。いつから付き合ってたんですか?」

 

「高校2年生になった時ぐらいだったかな。だから結婚するまでに3年かな」

 

「そうなんですね」

 

高校生の時からだったんだ。周りの目とかどうだったんだろうとかは思っちゃダメだよね。でも凄いな……しっかり結婚までして生活も安定してるみたいだしホントに大変だったんだろうな……

 

「それで瑠衣ちゃんはどうして私に会いに来てくれたのかな?」

 

「えっとですね……」

 

そりゃ聞かれるよね。でもなんて答えたら。楓お姉さんの笑顔が見たくてなんて言えるわけないじゃん……

 

「もしかして怒らせちゃったかな?昨日エレナが酷い言い方したもんね……ごめんね無神経な事エレナが言っちゃって」

 

しゅんとした表情で楓お姉さんが話す。その表情は子犬が飼い主に怒られているような表情で失礼だとは思ったが少しだけ可愛いと思えてしまった。

 

「ち、違いますよ!むしろその逆で!」

 

「逆?」

 

焦りのあまり余計な事まで喋っちゃったよ……この際仕方ないかな。

 

「はい。今まで施設で生活してきて他人を気にした事なんて全く無かったんです。昨日も言ったと思いますが私は友達がいません。施設にいてもやってることは読書と勉強だけでにた。でも楓お姉さんだけは違かったんです。昨日少しお話しさせてもらって、すぐ会いたい、またお話したいと思ってしまったんです。それで紅葉さんに無茶言って楓お姉さんの家まで来ました」

 

私は楓お姉さんの目をしっかりと見て話をした。

 

「そっか。私達が施設に行ったことが少しでも瑠衣ちゃんにプラスになってるんなら良かったよ。今日は泊まってくよね?エレナもそろそろ帰ってくるだろうしお風呂沸かしてくるから一緒に入ろっか」

 

「一応楓お姉さんさえ良ければ泊まらせてもらおうかなと思ってました。すみませんご迷惑をおかけして……え?一緒に?いやいや!あの!嫌とかではないんですけどえっと」

 

施設の子や紅葉さんと一緒にお風呂にはもちろん入ったこともあるし、それに対して何とも思ったことも無い。でも楓お姉さんと一緒に?いやいや無理!なんでかわかんないけど恥ずかしいしそれに意識しちゃいそうっていうか……あぁもうわかんない!何なのよこの気持ち!

 

「ん?どうしたの?もしかして1人で入りたかった?ごめんね気付いてあげられなくて」

 

「えっとそうじゃないんです。その……ご心配おかけしてすみません大丈夫です。一緒に入って貰えますか?」

 

「瑠衣ちゃんさえいいなら私は喜んでだよ」

 

楓お姉さんは、私に向かって笑顔で返事を返した。ホントにその笑顔を見ると嫌な事を全て忘れられるんじゃないかって思えるほど楓お姉さんの笑顔には癒し効果があると思う。

 

「はい。宜しくお願いします!良かったらお背中流させて貰えませんか?」

 

「ホントに!?じゃあお願いします!私も瑠衣ちゃんの背中流してあげるね」

 

「いいんですか?ありがとうございます」

 

「もちろんだよ。それじゃお風呂沸かしてくるからちょっと待っててね。瑠衣ちゃんが読みそうな本は左手に見える本棚に入ってると思うから良かったら読んでていいからね」

 

「ありがとうございます。そうさせてもらいますね」

 

私の返答を聞くと楓お姉さんはリビングがら出ていった。

 

「はぁ……なんでこんなに疲れてるんだろう私。気紛らわせるために楓お姉さんが勧めてくれたし本でも読んでようかな」

 

私は椅子からひょいと降りると本棚がある方へと向かって、読む本を探す事にした。

 

「んー……恋愛小説が多いみたいだけど楓お姉さんが好きなのかな?あれ?何か本と本の間に挟まってる。本が痛んじゃわないように取らなきゃ。せっかく綺麗に並べられてるのにもったいないよ。えっと……何で本棚に首輪が……前に犬でも飼ってたのかな?」

 

何故かは分からないが本と本の間に恐らく大型犬用の首輪が挟まっていた。何か思い出の品だろうか?そう考えると元の場所に戻した方がいいのかな?がお姉さんが戻ってきた時に聞けばいいかな。考えているとリビングの外の方から足音が聞こえてきた。丁度戻ってきたかな?

 

「ふぅ……瑠衣ちゃんお待たせ。多分後20分もしたらお風呂沸くと思うからちょっと待っててね。何か本見つけられた?」

 

「あ、その本を探してたらこんなものを見つけたんですけれど前に犬を飼われてたんですか?見つけて元に戻すか考えていたんですけれども」

 

楓お姉さんに首輪を見せると何故かさっきまで柔らかな表情の楓お姉さんがしまったといった表情に変わっていた。何か事情がありそうだね……

 

「そ、そうなの!半年前まで犬飼ってたんだけど今はもう死んじゃったから大切に残してあるんだ」

 

楓お姉さんも嘘が下手だよね……きっと嘘を普段ついていないからいざと言う時にボロが出るんだろう。いつもの楓お姉さんと180°態度が違うし焦っているのがみえみえだった。ここには私と楓お姉さんしかいないしちょっと聞いてみようかな。何か隠し事したままっていうのは私の性にあわないし。

 

「その犬の名前はエレナっていう犬じゃないですよね?」

 

「っ!?さ、流石に結婚相手の名前を犬にしたりしないよ」

 

当たりみたいだ……前に本でそういう事をするカップルもいるみたいな事を読んでたまたま頭の片隅に置いておいたけどまさかこんな近くにいるなんて。

 

「隠さなくてもいいですよ。私そういうの気にしませんから」

 

「はぁ……瑠衣ちゃんちょっと色々ずば抜けすぎだよ……普通の5歳児らしくしてもいいんじゃない?」

 

「ひねくれてるのは分かってます。ごめんなさい突っ込みすぎましたよね」

 

「まぁこれはエレナのミスだから……お母さんとかには言っちゃダメだからね?」

 

「口は堅いほうなので大丈夫ですよ」

 

「ホントにお願いね……」

 

ピンポーン……ピンポーン

 

「あ、エレナ帰ってきたみたいだよ。瑠衣ちゃんいるって知ったらびっくりするんじゃないかな」

 

「エレナお姉さんには言ってないんですか?」

 

「うん。サプライズにしようかなって思って。後今すぐにその首輪元の場所に戻しておいてもらえる?」

 

「あ、すみませんそうですよね」

 

楓お姉さんは苦笑いで私に言った。エレナお姉さん私がいるって知らないらしいけどホントにお邪魔じゃないのかな……

 

「ただいま」

 

「おかえりなさい。今お茶入れるから座って待ってて」

 

「いつもありがとうね楓」

 

「ううん。エレナもお仕事毎日ありがと。お疲れ様でした」

 

玄関からは2人の声が聞こえていた。

 

「疲れた……あら?お客さんかしら?」

 

「お邪魔してます。突然すみません」

 

「びっくりでしょ?わざわざ来てくれたんだよ。これお茶ね」

 

楓さんがお茶をエレナお姉さんに出しながら笑顔で話していた。

 

「ありがとう。どうしたの?もしかして私に会いたくなったとか?」

 

「楓お姉さんに会いたくなっちゃって。あ、エレナお姉さんにも会いたかったですよ」

 

「私はついでってことね……ホントに可愛くないわよ貴方」

 

「自分でも分かってますよ。お仕事お疲れ様です。色々あって今日お世話になることになったんですけれども大丈夫ですか?」

 

「別にそんな改まらなくていいわよ。敬語も別にいらないし。子供は子供らしく世間体も気にしないぐらいでいいのよ。試しにエレナって言ってみなさいな。エレナお茶ちょーだいぐらい言っても怒る人はいないわよ」

 

なんていうか思ってたよりエレナお姉さんも優しい人みたいだ。エレナさんは私の警戒心を解くためかも知れないが優しそうな笑顔で私に話しかけてくれた。クールな印象から少しだけだけど堅いイメージがあったんだよね。まぁさっきの首輪事件で警戒する必要もなかったかな。

 

「じゃあ失礼して……エレナ、お手!」

 

「ぶー!ちょっと楓!?何言ったのこの子に!?」

 

エレナお姉さんは飲んでいたお茶を吹き出していた。それを見た楓お姉さんは、頭を抱えて瑠衣ちゃんそれは言っちゃダメだよと呟いていた。

 

「エレナが本の間に首輪入れてるなんて思わないもん!もう少しまともな隠し場所あったでしょ?」

 

「仕方ないじゃない瑠衣ちゃん来るなんて知らなかったし、すぐ使うと思ったから近くにおいて置いたのよ!」

 

エレナお姉さんは顔を真っ赤にして楓お姉さんに抗議をしていた。なんだか今の2人は施設に来た2人とは全く違くて、面白おかしくて自然と笑みが零れてしまった。

 

「あら、やっと笑ったわね」

 

「え?私ですか?」

 

エレナお姉さんが私の方を見て言ってきた。

 

「そうよ。施設にいた時から表情が固すぎると思ってたのよね。笑った顔すんごく可愛いんだからそんな仏頂面してたんじゃ勿体ないわよ」

 

「えっと……ありがとうございます」

 

ストレートに褒められて私は少し照れてしまった。誰でも目の前にモデル級の美人に自分の容姿を褒められたら照れるよね。

 

「あら、赤くなった顔も可愛いじゃない。楓もそう思うでしょ?」

 

「うん。瑠衣ちゃんはもっと感情表に出してもいいと思うよ。結構心の内に溜め込んだりしてない?」

 

溜め込むか……間違いないと思う。こんなに表に表情を出したのは楓お姉さんとエレナお姉さんの前ぐらいな気がする。

 

「ちょっとそういう所はあったと思います」

 

「これから出していけばいいと思うよ。瑠衣ちゃんホントに可愛いんだから自信持って大丈夫だよ。あ!お風呂沸いたから行こっか」

 

「ありがとうございます。はい」

 

「え?2人で入ってくるの?」

 

「折角だからね。あんまりこんな機会ないしさ」

 

「なら私もご一緒しようかしら。瑠衣ちゃん私もいい?」

 

「もちろんです」

 

「なら決まりだね。着替えとかは私の小さい時の服があるからそれ貸してあげるね」

 

「ありがとうございます」

 

私は楓さんに手を引かれてお風呂場に向かっていった。




楓「ホントに勘弁してよね!瑠衣ちゃんが右手に首輪持ってた時心臓止まるかと思ったんだから」
エレナ「ごめんなさい……でも普通に考えて5歳児がそんな知識あるなんて思う方がおかしいでしょ?あの子精神年齢20は超えてるわよ」
楓「まぁ確かにそうだね。とにかく今度からあんなとこに置くのは辞めてよね。えっと次回も月村家での話になると思います。良かったら感想、評価など宜しくお願い致します!」


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楓お姉さんの大切な話

お風呂回


「洗濯物はそこのカゴに入れて置いてね。着替えはそっちのタンスの中に入れて置いたから」

 

「ありがとうございます」

 

流れでお風呂場まで来たのはいいが、いざ服を脱ごうとするとためらってしまう自分がそこにはいた。5歳児でなおかつ相手が同性のお姉さんなのに何を気にする必要があるの?って自分でも分かっているが、なんだか恥ずかしくて仕方がなかったのだ。

 

「何恥ずかしがってるの?そんな気にする歳でもないでしょ」

 

服を脱ぎながらエレナお姉さんに声をかけられた。どうやら恥ずかしがってるのがエレナお姉さんには分かってるみたいだ。

 

「施設以外のお風呂に入るのが初めてなのでちょっと緊張してるかもです」

 

「そんな気にしなくてもいいのよ。ほら瑠衣ちゃんバンザイしてバンザーイ」

 

「バンザーイですか?」

 

私は言われるがままエレナさんの前で両手を上に掲げた。

 

「そーれ!女しかいないんだからこのぐらい解放的になりなさいな。ほら次は下。自分で脱げないなら私が脱がしちゃうからね?」

 

「で!出来ます!自分で脱ぎますから迫ってこないでください!」

 

両手をわきわきとさせながら私の方に迫ってくるエレナお姉さんを必死に私は止めた。

 

「あんまりいじめちゃダメだよエレナ。自分のペースでいいからね瑠衣ちゃん」

 

「いえ……大丈夫です」

 

私はズボンとパンツをまとめて脱ぐとすぐに洗濯カゴに服を入れ逃げるようにお風呂場の中へと入った。

 

お風呂場の中は広く浴槽は3人で入ってもそれなりに余裕がありそうだった。私は浴槽からお湯を取り軽く汗を流すと肩までお湯に浸かった。

 

「湯加減はどう?」

 

「丁度いいです。っ!?凄い……」

 

最初に入ってきたのは楓お姉さん。こういう時相手の体をじろじろ見るのはマナー違反だとは思うけど私は楓お姉さんから目を離せずにいた。

 

「あはは……そんなにおっぱい見られるのはちょっと恥ずかしいかな」

 

「ご!ごめんなさい!」

 

「まぁ瑠衣ちゃんの気持ちは痛いほど分かるわよ。大きな胸って目を引かれるもんね」

 

続いてエレナさんが入ってきた。あれ、エレナさんって私と胸の大きさ変わらない気がするんだけど……

 

「瑠衣ちゃん、次同じ事考えたら今日の夜ご飯が無くなるからね」

 

「人の心を読むのやめてもらってもいいですか……でもスラーっとしてて羨ましいです。私もエレナお姉さんぐらい身長大きくなればいいんですけど」

 

エレナお姉さんは本当にモデルと言っても通用すると思う。長い脚に整った綺麗な顔。逆に楓お姉さんはアイドルなんかやったら人気出る気がするけどな。

 

「しっかりご飯食べて寝ていれば自然と身長なんて伸びるわよ。そろそろ私達も湯船浸からないと体冷えちゃうわよ楓。何ぼーっとしてるのよ」

 

「やっぱり瑠衣ちゃん小さい頃のエレナに似てるなって思って。そうだね、入ろっか」

 

そう言うと楓お姉さんとエレナお姉さんは私を挟むようにして浴槽の中へと入った。

 

「確かに似てるわね。瑠衣ちゃんちょっとこっちに来てもらえる?」

 

「え?分かりました」

 

私はエレナお姉さんに手招きされ体をエレナお姉さんの方へと寄せた。

 

「よいしょっと。やっぱり子供って抱き心地いいわね。しばらくこのままでいいかしら?」

 

「別に構いませんけど……何でいきなり抱きついてきたんですか」

 

エレナお姉さんは私を自分の膝の上に乗せると後ろから優しく抱きしめてきた。

 

「紅葉お母さんの子供に若菜ちゃんって子がいるんだけど、その子抱きしめた時柔らかくて抱き心地よかったから貴方はどうかなって思ったのよ」

 

「まぁ私なんかで良ければ抱き枕に使ってください」

 

「しばらくこうさせてもらうわ。っていうかさっきまで緊張してたくせに随分余裕じゃない。やっと慣れた?」

 

「慣れたっていうよりエレナお姉さんの行動が読めなさすぎて疲れたんですよ……」

 

まぁそのおかげで緊張が解れたのは事実だけどね。

 

「楓ぐらいじゃないかしらね。私の行動読める人なんて。楓も最初は今の瑠衣ちゃんぐらい参ってたのよ。付き合い始める前はホントに酷かったんだから」

 

「そうだったんですか?」

 

「えぇ。そうよね楓?」

 

私達の正面で二の腕をマッサージしていた楓お姉さんにエレナお姉さんは声をかけた。

 

「ほんっとに酷かったんだよ。何回ふざけんな!って思った事かわからないぐらいだよ。まぁ今となってはいい思い出だけどね。エレナ、私にも瑠衣ちゃん貸して。若菜ちゃん抱きつこうとするといっつも逃げられちゃうんだもん」

 

やっぱり最初っから仲良いカップルなんていないよね。え?貸してって?

 

「仕方ないわね。はい」

 

「エレナお姉さん!?」

 

エレナお姉さんは私を抱き上げるとそのまま楓お姉さんへとパスした。抱き上げた時ニヤッと笑ったのを、私は見逃さなかった。この人私が楓お姉さんの事を気になってることを分かってて!?

 

「ホントだぁ瑠衣ちゃんあったかいし柔らかいね。ずっとこうして抱きしめてたいかも」

 

「あ………楓お姉さん背中にその……」

 

エレナお姉さんの胸は柔らかいっていうよりコンクリートって感じだったけど楓お姉さんに抱き着かれると、大きな2つの果実が私の背中に当たっていてそれはとても柔らかかった。

 

「ん?やっぱり嫌だった?」

 

「い、いえそんな事ないです。むしろ嬉しいぐらいです」

 

自分でも顔が沸騰するぐらい赤くなっているのがわかった。エレナお姉さんに抱き着かれていた時にはなんとも思わなかったが、楓お姉さんに抱き着かれると安心すると言うか恥ずかしいけれどずっとこうしていたいような気分になった。

 

「そっか!なら良かった!」

 

楓お姉さんは抱きしめている腕の力を更に強めて自分の胸がめちゃくちゃ当たっていることなんて気にしていないようだった。

 

「随分瑠衣ちゃんが気に入ったみたいね」

 

「うん。なんか放っておけないっていうか可愛くて仕方ないんだよね」

 

私が可愛い?いやいやそんなはずあるわけない。こんな性格な5歳児が可愛いわけない。

 

「ふふ、そんなに楓がこだわるのも珍しいわね。楓、あの話瑠衣ちゃんにしてもいいんじゃないの?せっかく3人集まってるんだから」

 

「ちょっと早い気もするけどいいかな。瑠衣ちゃん真面目な話があるんだけど聞いてくれないかな?」

 

「話ですか?大丈夫ですよ。でもお風呂場でですか?」

 

「こういう時の方がリラックス出来るかなって。エレナこっちに来てもらえる?瑠衣ちゃんは向こうに」

 

そう言うと私を抱きしめた腕を離し、その表情を見ると真剣な顔をしていた。一体なんの話だろうか。

 

「瑠衣ちゃんのぼせてないよね?そんなに湯船つかってないけどもし熱いと思ったら浴槽に腰掛けちゃって大丈夫だからね」

 

「ありがとうございます。大丈夫ですよ。楓お姉さんとエレナお姉さんこそ大丈夫ですか?」

 

「私は大丈夫よ。楓は?」

 

「大丈夫。それで話って言うのはね。単刀直入に言うね。瑠衣ちゃんに私達と家族になって欲しいの。施設で私達が同性婚をしてるって分かっていても、瑠衣ちゃんは今日も会いに来てくれて凄く嬉しかった。普通の子なら少しは拒絶的な反応を示してもいいと思ったけど瑠衣ちゃんは違かった。それでこの子しかいないなって思ったの」

 

「突然びっくりしたわよね。でも楓と私は本気よ。私達が瑠衣ちゃんを引き取って新しい幸せをあげたいの。もう私は楓からたくさんの幸せを貰って満足なのよ。だから次は瑠衣ちゃんが貰う番よ」

 

私が楓お姉さんとエレナお姉さんの家族に?そんな幸せな事があっていいのだろうか。いつか素敵な人がお母さんになってくれないかな……なんてずっと考えていた事だった。その夢が叶う……こんな素敵な人が私のお母さんになってくれるんだ……気が付けば私は瞳から涙を流していた。今までずっと我慢してきた思いと辛さが一変に私を包み込んだ。

 

「っく……ずっと施設にいた時から考えていたんです。誰か素敵な人がお母さんになってくれないかなって。その夢叶えてもらってもいいですか?楓お姉さん、エレナお姉さん」

 

「瑠衣ちゃん……うん。私達と一緒に幸せになろ」

 

楓お姉さんはそう言うと、私を優しく抱きしめてくれた。その腕の中で私は声が枯れるぐらい泣き続けていた。

 

--------------------

 

side楓

 

「瑠衣ちゃん寝ちゃったね。あれだけ泣いて疲れたのかな」

 

「安心感からかもね。でもよかったわね。瑠衣ちゃんに了承して貰えて」

 

「うん」

 

時刻は22時。お風呂から出ると瑠衣ちゃんがうとうとしていたのを見た私は、眠いなら寝ちゃってもいいんだよ?と言うと、

 

「すみませんちょっと疲れちゃったみたいで……何処の部屋に行けばいいですか?」

 

「せっかくだから3人で寝よっか。ツインベッドだけど瑠衣ちゃんぐらいの子が入る分には構わないし。どうかな?」

 

瑠衣ちゃんは少し顔を赤らめるとこう返事を返した。

 

「その……少し恥ずかしいですけどそれでお願いします」

 

「おっけー!」

 

そう言って寝室に連れてきたのはいいものの、5分もしないうちに瑠衣ちゃんは私とエレナの間ですーすーと寝息をたてていた。

 

「子供を持つって事がどれだけ大変になるかは分からないけど私達ならやっていけるよね?こんなに可愛い子をもう泣かせるわけにはいかないもん」

 

「大丈夫よ。何も心配する事なんてないわ。それにしてもホントに懐かれてるみたいね。楓の手ずっと握ってるもの。ホントに私に似てるのかもね」

 

瑠衣ちゃんは、私の手を握るとそこに存在があるのを確認するように、時折手を動かしては強く握っていた。

 

「ふふ、ホントに可愛いよね。ホントは夜ご飯食べようとしたんだけどもう私もこのまま寝ちゃうよ。それと役所とかの手続きもあるでしょ?明日やりに行こうか。あーでも相談所の方はどう?」

 

「私は適当に後で食べてくるわ。そうね、臨時休業にするわ。予約は入ってないからネットにだけ書いておくわ。その前にお母さんには言ったの?」

 

「言ったよ。そしたら瑠衣ちゃんの荷物明日に送るって。本とかは、瑠衣ちゃんが起きたらどうするか聞いてみるって送っておいたから」

 

「わかったわ。それじゃちょっとご飯食べてくるわね。先寝ててもらって構わないからね。おやすみ」

 

「うん。おやすみエレナ」

 

そう言うと瑠衣ちゃんを起こさないように気を使ってか物音を立てずに静かにエレナはリビングの方へと向かっていった。

 

「楓お姉さん……?」

 

「ごめん起こしちゃった?」

 

「絶対私の前からいなくならないでくださいね……」

 

どうやら寝言だったみたいだ。瑠衣ちゃんからは規則的な寝息が聞こえていた。絶対私の前からいなくならないで。瑠衣ちゃんの過去に何があったかは私は知らない。でも、もう悲しい思いはさせないから大丈夫だよ。

 

私は瑠衣ちゃんを抱き寄せると耳元で小さく呟いた。

 

「私はずっと瑠衣ちゃんのそばに居るからね。だから心配しないで」

 

私もそろそろ寝ようかな。明日からは色々と忙しくなるだろうからね。

 

「瑠衣ちゃんおやすみ」

 

私は瑠衣ちゃんを腕の中で優しく包み込んだまま眠りについた。

 

 

 




エレナ「コンクリートみたいな胸って何よ……」
楓「まぁあながち間違ってないような気もするけどね」
瑠衣「私も将来コンクリートになるんでしょうか……楓お姉さんまでとはいいませんけどコンクリートは勘弁して欲しいです」
エレナ「貴方達そんなに私をいじめて面白いかしら?」
楓「楽しいよね瑠衣ちゃん?」
瑠衣「はい!」
エレナ「全く……えっと、次回はお引越し回の予定です。感想、評価など良かったら宜しくお願いします!」


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新しい名前

前作読んでる方は分かると思いますが久々のエレナ感激です!回です。


「んん……私あのまま寝ちゃったんだ。あれ?」

 

私は右手と左手から誰かの体温を感じた。その温もりの正体は、右手は楓お姉さんが、左手はエレナお姉さんが私と手を繋いでくれていたみたいだった。

 

「そっか……今日から楓お姉さんとエレナお姉さんが私のお母さんなんだ……」

 

私はその幸せを確かめるように2人の手を強く握って再び布団の中へ入った。2人が起きるまではこうしてずっと手を握っていたいと思ったのだ。血は繋がっていなくても私達はしっかりとした家族なんだ。

 

「楓お母さん、エレナお母さん。これから宜しくお願いします」

 

お母さん……か。なんだかとっても恥ずかしいな。昨日までお姉さんって言ってたんだもんね。

 

「んん……おはよ瑠衣ちゃん」

 

「おはようございます」

 

先に楓お姉さんが目を覚ましたみたいだ。

 

「もう家族になるんだから敬語じゃなくていいんだよ?」

 

楓お姉さんが笑いながら私に話していた。

 

「えっと……まだ慣れなくて。慣れたらタメ語って形じゃダメでしょうか?」

 

「瑠衣ちゃんのペースでいいよ。少しずつでいいよ」

 

「ありがとうございます」

 

ホントに楓お姉さんは優しい。こんなに綺麗な笑顔を浮かべる人は今まで見たことがなかった。

 

「後ね、多分もう少ししたらお母さん来ると思うからさ。一応施設でお世話になったんだしちゃんとお礼しなきゃダメだからね?出来る?」

 

「もちろんです。私の事を1番見てくれていたのは紅葉さんでしたから」

 

「そっか!それじゃ朝ごはん作ってあげるからエレナ起こしてリビング連れてきてくれる?」

 

「分かりました」

 

そう言うと楓お姉さんは寝室からリビングの方へと向かって行った。

 

さてと、私はエレナお姉さんを起こさなくっちゃ。こうしてまぶたを閉じているとホントにお人形さんみたいだなこの人……綺麗すぎて逆に怖いよ。この人に欠点とかあるのかな?

 

「エレナお姉さん朝ですよ。楓お姉さんが朝ごはん作ってくれてるので起きてください」

 

「ん……後少し……」

 

「ちょっとエレナお姉さん!」

 

エレナお姉さんは寝返りを打って私から距離を置くようにくるくると転がっていた。

 

器用な逃げ方するなぁ……朝弱いのかな?じゃあ1つ欠点見つけちゃったかな。

 

私は、頭の中にエレナお姉さんは朝が弱いと言うことをメモした。ってか起こさなきゃだよね。楓お姉さんから頼まれてるんだし。

 

「エレナお姉さんいい加減起きてくださいよー!もう……これじゃどっちが子供か分からないじゃないですか……」

 

声だけじゃ拉致があかないと思った私はエレナお姉さんに馬乗りになって体を揺することにした。私ぐらいの体重なら痛くないだろうし大丈夫だよね?

 

「お姉さん朝ですよ。起きてください」

 

「んーー……楓?」

 

「楓お姉さんじゃないですよ。瑠衣です」

 

「楓様エレナを虐めてくれるんですね!?わざわざ上に乗ってくれるなんてエレナはホントに嬉しいです!」

 

「ちょ!ちょっとエレナお姉さん!楓お姉さんじゃないってば!」

 

どどどどうしちゃったんだろエレナお姉さん。何か変なものでも食べたのだろうか。私はエレナお姉さんの視線がある一点に向いていることに気が付いた。

 

「あの……なんでずっと私の足を見てるんですか……」

 

「楓様焦らさないで下さい……いつもみたいにエレナに口で綺麗にしてよって命令して欲しいです……」

 

「………楓お姉さーん!助けてー!!!」

 

拉致があかないとふんだ私は、楓お姉さんに助けを求めるべくリビングまで届くように大きな声を出した。きっとエレナお姉さんは寝ぼけて私と楓お姉さんを間違えているみたいだった。重大な欠点見つけちゃったかなそれにしても……エレナお姉さんは極度なマゾみたいだった……

 

「どうしたの瑠衣ちゃん!あれ?特に何ともないみたいだけどどうしかした?」

 

息を切らせながら楓お姉さんは寝室に現れた。ホントにこんな事で呼んでしまって申し訳ない。

 

「実はエレナお姉さんが寝ぼけて……ゴニョゴニョ」

 

少し悪い気はしたが、私は楓お姉さんに先程のエレナお姉さん寝ぼけ事件を全て話した。それを聞いた楓お姉さんはと言うと……

 

「ちょっとエレナ!!!」

 

初めて楓お姉さんが怒っているのを見た。やっぱり楓お姉さんも怒る時は怒るよね。

 

「んー………何よ朝から騒々しいわね。って…楓さん?何でそんな怖い顔をしてるのかしら……私何もしてないわよね?」

 

「してなかったら怒ってないぐらいわかんないの?ねぇ?瑠衣ちゃんが折角エレナの事起こそうとしたのにエレナはどうしたと思う?」

 

「えっと……もしかして手を出したりしてないわよね?寝ぼけててパチーンとかビンタとかしたとかじゃ……」

 

エレナお姉さんの顔がどんどん青ざめていくのがわかった。手を出したの意味合いが違うんだよね……

 

「そんな事したら今すぐ別れてるよ。何をしたか聴きたい?」

 

「えぇまぁ。そんなに楓が怒るのも珍しいし」

 

「はぁ……エレナがした事って言うのはね」

 

楓お姉さんは若干呆れながらエレナお姉さんに説明していた。それを聞いたエレナお姉さんはと言うと……

 

「マジ……?」

 

「マジだから怒ってるんでしょ……ホントに勘弁してよね。瑠衣ちゃんに変な性癖ついたらどう責任取るわけ?それにまだ5歳の女の子に変な事教えないでよね。いくら瑠衣ちゃんが頭いいからって」

 

「あ、あの、私は大丈夫ですからここら辺で……」

 

「瑠衣ちゃんがそう言うならいいけど……」

 

楓お姉さんの怒りが鎮む様子が無かったので私は会話を切った。

 

「瑠衣ちゃんごめんね。折角起こしてくれようとしたのに」

 

謝るエレナお姉さんは、本当に反省しているみたいで暗い表情をしていた。

 

「大丈夫ですよ。誰にでも人間欠点ぐらいありますから。それじゃリビング行きましょうよ」

 

「ありがとう。そうね」

 

朝の珍事は無事に解決し、私は楓お姉さんが作る朝ごはんを楽しみに待っていた。

 

ピンポーン……ピンポーン

 

「あ!多分お母さんだからエレナ出てあげて」

 

「随分早いのね。分かったわ」

 

時刻は朝の9:30。施設なら丁度ご飯を食べてる時間ぐらいかな。きっと皆がご飯を食べてる時に抜けてきたのかな。

 

玄関から紅葉さんの声が聞こえてきた。やっぱり紅葉さんだったみたいだった。

 

「ごめんね朝早くに。瑠衣ちゃん昨日はよく眠れた?」

 

「おはようございます。はい。いつも通りに寝れましたよ」

 

「そっか。なら良かった。それで引き継ぎ前に大切な事を言わなきゃいけないんだけどいいかしら?」

 

「お母さん。後ちょっとで朝ごはん出来るから食べながらでもいい?」

 

「大丈夫よ」

 

「ありがと。コーヒー飲むよね?」

 

「うん。お願い」

 

大切な事?戸籍とかも変えなきゃだと思うしそれ以上に何かあるのかな?

 

楓お姉さんの言った通り数分でテーブルの上には焼き鮭、わかめのお味噌、白米、レタスをちぎったものが並べられた。

 

「皆お待たせ!それじゃ食べよっか。いただきます」

 

「「いただきます」」

 

「さてと……私もあまり時間がないから早速だけど本題ね。瑠衣ちゃんの名前についてなんだけど、瑠衣って言うのは私達が付けた名前なのよ。仮名って言うのかな。もちろん瑠衣ちゃんさえよければ今の名前のまま月村瑠衣で戸籍登録しても構わないわ。でも、瑠衣ちゃんが楓やエレナちゃんに違う名前を付けて欲しいんならそっちにした方がいいと思ったのよ」

 

名前か……深く考えたことは無かったけどせっかくだから楓お姉さんとエレナお姉さんに付けて欲しい。新しいスタートを切るのにも丁度いいとも思えた。

 

「えっと……楓お姉さん、エレナお姉さん。私に名前を付けて貰えませんか。私は今日からお二人の娘です。施設の仮の名前で呼ばれるならお二人に名前を付けて欲しいです」

 

私は2人の目を見ながら真剣に話した。

 

「そっか。じゃあエレナ。前から決めてた名前にしよっか」

 

「そうね。私も賛成よ」

 

どうやら楓お姉さんとエレナお姉さんは前から私の名前について考えてくれていたみたいだった。

 

「前からですか?」

 

「うん。実は言うとね。瑠衣ちゃんと初めて会った日から私達と家族になって欲しいなって思ってたんだ。それで名前なんだけど……」

 

一体どんな名前になるのだろうか……きっと人生で2回目の名前を貰う人なんて日本じゃホントに少ないよね。

 

「はい」

 

「彩葉って名前はどうかな?彩ろに葉っぱの葉。彩りある人生を歩んで欲しいっていう思いでこの名前にしたの。もちろん瑠衣ちゃんが嫌なら考え直すよ」

 

彩葉……嫌いじゃない。今の私は色で表したら透明色だもん。色々な色を重ねてこれから生きていきたい。私には豪華な名前かもしれないけどせっかく楓お姉さんとエレナお姉さんが考えてくれたんだもん。名前に恥じないように生きていかなくっちゃ。

 

「彩葉……とっても素敵な名前だと思います。名前負けしないように頑張って生きていきますね」

 

「改めて宜しくね彩葉」

 

「はい。宜しくお願いします楓お姉さん、エレナお姉さん」

 

「ふふ、お母さんでいいって言ってるのに」

 

「まぁ彩葉らしくていいんじゃない?でもずーっとお姉さん呼び続いたら私が彩葉の足舐めるからね?それが嫌なら半年以内にちゃんとお母さんって言えるようになること?いいわね?」

 

「それだけは勘弁して下さい……」

 

エレナお姉さんの発言に楓お姉さんと紅葉さんは笑っていた。こうやって家族皆でこれから笑って過ごして行くんだろうなと思うと楽しみで仕方がなかった。

 




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家族になって

今回短いです。


戸籍など書類上のものを全て片付け終え、私と楓お姉さんとエレナお姉さんは自宅へと戻った。やはり同性婚という事からか、役所の人達が少し驚いていた。それに対してエレナお姉さんは笑顔で対応してるし、楓お姉さんも嫌な顔をせず役所の人と話していた。

 

「彩葉?おーい彩葉どうしたの?さっきから難しい顔してるけどまた考え事?」

 

楓お姉さ、ううん。楓お母さんからぼーっとしているところで声をかけられた。

 

「すみません少しぼーっとしてました」

 

ちなみに家族になってから1週間が経ったがまだお母さんと呼べたことは1度もなかった。何故だかはよく分からないが、呼ぼうとすると喉の奥に言葉が引っかかってしまって上手く声が出せなかった。

 

「ならいいけど。来月からは小学校に転入するんだからあんまり気抜いちゃダメだからね?まぁ彩葉なら大丈夫か。そろそろ3時だからおやつにしよっか。今紅茶入れてあげるから待っててね」

 

楓お母さんは優しい笑顔を見せながらパタパタとキッチンへと足を運んだ。

 

私は、来月からは施設ではなく近くの聖チェリチョウ大学付属小学校へと転入が決まっていた。初めて知ったことだが、紅葉さんが結婚している人は聖チェリチョウ大学の校長先生らしい。楓お母さんとエレナお母さんが転入先について相談したら2つ返事で了承してくれたとか。それにしても紅葉さんの結婚相手って事はおばあちゃんになるんだよね……確か校長先生って36歳とかだったと思うんだけどおばあちゃんって呼び方でいいのかな…本人が気にしてないならいいんだけどね。実際紅葉さんはおばあちゃんって呼んで貰って構わないからねって言われたけど施設での呼び方に慣れすぎたせいでこっちの方もおばあちゃんだなんて呼べる気がしなかった。

 

「なんだかなぁ……」

 

「何よ溜息なんてついて。幸せが逃げるわよ?」

 

「あれ?エレナお姉さん帰ってたんですか?」

 

いつの間にかリビングにはスーツ姿のエレナお母さんが私の目の前にいた。どうやら今帰りらしい。エレナお母さんのスーツ姿はいつ見ても出来る社会人!って感じがしてとても素敵だった。前にエレナお母さんと2人で買い物に行った時は、待ち行く男性が必ずと言っていいほど振り返ってエレナお母さんを見ていた。

 

「えぇ。丁度今帰ったわ。彩葉、後で私の部屋に来て貰えるかしら。その溜息の事で少し話さない?楓には席を外してもらうわ。17時に私の部屋に来て頂戴。それじゃ私は少し寝てくるわ」

 

そう言うとエレナお母さんは、自室がある二階へと向かって行った。

 

「あれ?エレナ帰ってきたの?」

 

「はい。なんか少し寝てくるって言ってました」

 

「声掛けてくれたっていいのに」

 

少し頬を膨らませて怒る楓お母さんはとても可愛くてなんだか微笑ましかった。

 

それから楓お母さんがいれてくれた紅茶と手作りのクッキーを少し食べて、楓お母さんとくだらない話をしてエレナお母さんが指定した17時を待っていた。




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自覚

コンコンコン

 

「どうぞ」

 

「彩葉です。失礼します」

 

約束の17時になり、私は本を読んできますと楓お母さんに言ってエレナお母さんの部屋へと来ていた。

 

「そんなに固くならなくていいわよ。って言ってもまだ無理か。椅子はひとつしかないからベッドの上に座って楽にしていいわよ」

 

「ありがとうございます。それで楓お姉さん抜きで話なんて何かあったんですか?」

 

私はベッドの上にちょこんと腰掛けるとエレナお母さんに話しかけた。

 

「やっぱりね。貴方私と話す時は力が抜けてるのよ。今も足投げ出して楽にしてるでしょ?楓と話してる時だけやけに固いのよね。無理してるって言うか気を使ってるっていうかさ。今の彩葉ぐらい自然体でいいと思うわよ。勝手な推測で悪いけど、私にはもうタメ口で話せるんじゃないの?」

 

やっぱりこの人は凄い……ドMで朝弱いけど人を見る目は確かだと思う。まさかここまで見透かされてるなんて思わなかった。

 

「うん。やっぱりエレナお母さんには叶わないね」

 

私がエレナお母さんと言った時少しだけ頬を赤らめさせ、照れているみたいだった。まさかいきなり自分の発言を認めて、お母さんと言ってくるなんて思ってもいなかったんだろう。

 

「私とやっぱり似てるのよ。それで楓にお母さんって言えない理由もだいたい分かってるわ。あの子の事が好きなんでしょ?お母さんを好きだなんて根本的に間違ってるから言えない。敬語を外せないのは自分の気持ちがちゃんと整理出来てないから。違う?」

 

ホントに凄いな……私がエレナお母さんと似てるっていうのはよくわからないけど、楓お母さんの事をお母さんと呼べない理由はだいたいあっていた。やっぱり楓お母さんの笑顔や、優しい声を聴くとドキドキするって言うのは楓お母さんの事が好きだからなんだろう。今までこんな気持ちになった事がなかった私は、エレナお母さんに言われてようやく自覚する事が出来た。そっか……私も女の人が好きになっちゃったんだ。それに17個も上の人が初恋だなんて思わなかったな。

 

「エレナお母さんには敵わないや。どうして分かったの?」

 

「目を見てれば嫌でも分かるわよ。私と話す時は普通に目合わせて話してるのに楓と話してる時だけ焦点があってないもの。それに顔も時々赤かったしね。それでどうするの?いつまでもこのままってわけいかないでしょ?楓は鈍感だから絶対言わなきゃ彩葉の気持ちなんてわからないわよ?まぁ普通の人なら5歳の女の子に恋されてるなんて思わないでしょうしね。彩葉を呼んだのはこの話をするためよ。後は自分で考えること。私は楓と違ってそこまで甘くないからね」

 

椅子に座りながらエレナお母さんは表情を一つ変えずに淡々と話していた。

 

「叶わない恋だって言うのは分かってるよ。私だってこのままでいいなんて思ってないもん。だけどまだ気持ちの整理がつかないのも事実なの。だからエレナお母さんに協力して欲しい」

 

「協力?」

 

きょとんとした表情でエレナお母さんは首をかしげていた。

 

「うん。しばらくは黙っていて欲しいの。楓お母さんに隠し事はしたくないけど、私がエレナお母さんとは普通に話せることも内緒にして欲しい。だから楓お母さんの前では敬語を貫くから」

 

「嫌だって言ったら?」

 

「楓お母さんに足舐められたって今から言ってくる」

 

「私と彩葉の発言どっちが信用されると思ってるのよ……それじゃ勝負にならないわ。そんな事言っても笑って誤魔化されるわよ」

 

「どうかな?そういうことに関してはエレナお母さん信用されてないみたいだよ。最悪別れるなんて事もあるんじゃないの?」

 

そう言うとあからさまにエレナお母さんの態度が変わった。

 

「ったく……ホントに嫌な性格してるわね。私に似すぎてて嫌いになりそうよ。楓の時は敬語ね。分かったわ。でも1ヶ月よ。その期間までに何とかしなさい。いいわね?これはエレナお母さんとの約束」

 

「ありがとうエレナお母さん。約束する」

 

「宜しい。それじゃあんまり楓1人にすると心配するから戻るわよ。それにしても普通に私となら話せるなら良かったわ。何かあったら何でも言ってね」

 

優しい笑顔でエレナお母さんは私に語りかけた。甘くないって言ってた人がする笑顔じゃないですよ。っていうのは野暮だと思い私は返事を返した。

 

「ありがとエレナお母さん」

 

私達は、楓お母さんが待っているリビングへと向かった。

 




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準備

「あ、2人一緒だったの?夜ご飯何かリクエストとかある?」

 

リビングへと降りるとエプロン姿の楓お母さんが料理本を片手に台所に立っていた。薄いピンクのエプロンは楓お母さんにとても似合っていて楓お母さんの可愛さをさらに引き立てていた。

 

「天使ですか……」

 

「何言ってるのよ彩葉……私でもそんな反応したことないわよ」

 

心の中の声が口に出ていたらしい。私はエレナお母さんを無視して楓お母さんの元へと向かった。

 

「夜ご飯のメニューですか?」

 

「うん。最近手抜き料理ばっかりだったから久しぶりにしっかり作ろうかなって。何か食べたい物とかある?」

 

「楓お姉さんのご飯なら何でも食べたいですけどしいて言うならカレーが食べたいです。子供っぽいかもしれないですけどダメですか?」

 

「ふふ、子供っぽいって言うか彩葉は子供なんだから好きな物言ってくれていいんだよ?大人になっても私もカレー大好きだし恥ずかしい事なんて何にもないんだからね。エレナもカレーでいいよね?」

 

楓お母さんが笑いながら返事を返した。なんだろう……私ががお母さんの事を好きだと自覚してから更に楓お母さんの顔をまともに見れない気がする。今の笑顔だって可愛すぎて自分の頬が緩んでいくのが分かったぐらいだ。

 

「えぇ。何か手伝おうか?」

 

「ううん。せっかくお仕事早く終わって家に居るんだからゆっくりしてていいよ。彩葉と遊んでてあげて」

 

「それじゃそうさせてもらおうかしらね。彩葉何かしたい事ある?」

 

「ちょっと来てください」

 

「え?ちょっと彩葉!?」

 

私はエレナお母さんを強引に自室へと引っ張りだした。ちなみに私の部屋はエレナお母さんの隣の部屋で、中にはベットと本棚だけ置いてある。けれど部屋にいることは少なくなった為引きこもることが減っていた。施設にいる時とは違って、日中は楓お母さんにくっついている事が多いためあまり部屋に引きこもらなくなった。

 

「どうしたのよいきなり……彩葉がこんなに強引だったなんて知らなかったわよ」

 

「やばいよ……楓お母さんが可愛いすぎる……好きって自覚してからまともに顔見れなくなってるしどうしたらいいのか分かんなくて」

 

「そういう事ね……それにしても敬語でクールに話してる彩葉と楓の前の彩葉とじゃ天と地との差があるわね。ホントに彩葉には驚かされるわ……紅葉さんが言ってた通りね。子供には驚かされることが多くて見てて面白いって言ってたのが今分かったわ」

 

「私自身こんなに話せるなんて思ってなかったよ。なんていうのかな……やっぱり似てるのかもねエレナお母さんと。すんごい話しやすいんだもん。それで……ねぇどうしたらいいの!?」

 

私はエレナお母さんの腰にしがみつきながら答えを待った。自分がこんなに動揺しているのも初めてだし、こんなに話したのも初めてだった。今までは施設の子にも敬語は外したことなかったのにエレナお母さんだけには敬語使わなくていいかなってなんか思ったんだよね。

 

「落ち着きなさいな……悪いけど私と楓ってそんな風にはならなかったのよ。なんていうか流れで付き合い始めてそのまま結婚したんだもの。もちろん流れって言っても楓の事は誰よりも愛しているわ」

 

「羨ましいなぁ……それでドMお母さん。楓お母さんってやっぱりモテたの?」

 

「誰がドMお母さんよ!」

 

「なんか自慢見たく言うからつい」

 

「全く……次言ったら楓に彩葉の事ばらすからね。話を戻すわね。モテてたかは知らないけど1人の女の子からは告白されてたわよ」

 

「女の子!?楓お母さんって同性に好かれやすいとかあるのかな」

 

「私もびっくりしたわよあの時わ。そうだ。ならその子に話聞いてもらえば?連絡してあげようか?多分私なんかよりは力になってくれると思うわよ」

 

楓お母さんとエレナお母さんの友達なら悪い人じゃないと思うし話聞きたいかも。私なんかでも話しやすい人ならいいんだけど……

 

「ホントに?でも私みたいな子供の話でもいいのかな?」

 

「大丈夫よ。なんなら精神年齢は彩葉の方が上よ。ちょっと待ってなさい」

 

エレナお母さんはポケットから携帯を取り出すと、何処かに電話をかけていたみたいだった。

 

「もしもしジェシカ?久しぶり。ちょっと貴方にお願いがあるのよ。は?あんたのお願いでいい覚えがないって?いいから明日15時にうちの相談所に来なさい。いいわね?そういう事言うのね。せっかく楓1日貸してあげようとしたのに。なんなら泊まりでもいいのよ?そう。ジェシカが優しい人でよかったわ。それじゃまた明日ね」

 

なんかエレナお母さんの黒い所を見た気がする……それに楓お母さんをだしに使っていいんだろうか……

 

「っていうことよ。彩葉来月までは暇なんだから明日も空いてるわよね?私の仕事が終わったら知り合いに車出させるからそれに乗って私の仕事先まで来てちょうだい」

 

「え?わざわざ車出さなくてもエレナお母さんの仕事先なら歩いて20分ぐらいで行けるよ?」

 

「何言ってんのよ。あんたみたいな小さな子1人で歩かせたら危ないでしょ。いいのよ遠慮なんてしなくて。それじゃそういう事だから戻るわよ」

 

「わかった。ありがと」

 

どこが私は甘くないわよ。だよ……エレナお母さんもめちゃくちゃ甘いじゃん。じゃなかったらわざわざ電話してくれたり車回そうとなんてしてくれないよ。

 

その後楓お母さんが作ってくれたカレーを皆で食べてお風呂に入ってその日は幕を閉じた。

 

--------------------

 

sideエレナ

 

「はぁ……まさか彩葉がね」

 

私は、横でスヤスヤと眠る楓を見ながらため息をついていた。最初はただここの環境に慣れていなくて彩葉が敬語で喋っていたとばかり思っていたんだけどな。まさか楓の事が好きでお母さんって認めずらいなんて理由だなんて思わないわよ。当の楓は、全く気づく様子がないからいいが、楓本人が気付いたらどういう反応をするのかな。多分あの子の事だから優しく何か言うんだろうけどね。

 

prrrrrr……prrrrrrrr

 

「誰よこんな時間に……楓が起きたらどうしてくれるのよ。もしもし?」

 

「あ、エレナ?ごめんねこんな時間に」

 

「ホントよ。楓が起きたら可哀想じゃない。それで何よ詩織」

 

「何よはないでしょうよ……明日の事。15時に彩葉ちゃん迎えに行けばいいんだよね?」

 

中村詩織。私が月村家当主をしていた時のメイドの1人だ。歳は11歳差の33歳。巨乳。だが未婚である。結構な男性からのアプローチがあったらしいが全部を断っているみたいだ。詩織本人は、気になってる人がいるからと断っているみたいだがその人は私も楓も知らない。

 

「そうね。悪いけど彩葉の事宜しく頼むわ。怖がらせないでよ?」

 

「あんたじゃないんだから大丈夫よ。それじゃあね」

 

そう言うと電話は切れた。

 

「詩織さん?」

 

「ごめんね起こしちゃった?」

 

楓が目を擦りながら声をかけてきた。どうやら電話の声で起こしてしまったらしい。

 

「ううん、大丈夫。明日彩葉と出かけるの?」

 

「彩葉が私の職場がどんなところか見てみたいんだって。だから詩織にここから職場まで乗せていってって頼んだのよ」

 

「そーなんだ。じゃあ私は夜ご飯作って待ってるよ」

 

「ありがとう。詩織の分も頼んでおいていいかしら?あの子今は一人暮らしでしょ?ガサツだしまともなもの食べてないかもだから」

 

「分かった。それじゃまた明日ね。おやすみ」

 

「おやすみ」

 

そう言うと楓は目を閉じて布団の中へと戻っていった。私もそろそろ寝ようかな。仕事に支障でたらいけないしね。

 

--------------------

 

「彩葉!朝ごはんそろそろ出来るから降りておいで!」

 

「んん……朝か……」

 

階下から楓お母さんの声がして、私は目を覚ました。今日はエレナお母さんの友達と会う約束をしている日だ。失礼のないようにしなくちゃだよね。

 

「彩葉!起きてるなら返事して!」

 

「起きてます!着替えたら行きます」

 

私はきっとリビングにいるだろう楓お母さんに声を返してパジャマから私服に着替えた。

 

リビングへと降りると、楓お母さんが忙しそうにせかせかとフライパン片手に料理をしていた。

 

「おはようございます。何か手伝いましょうか?」

 

「おはよー。じゃあ悪いけどエレナ起こしに行って貰ってもいい?いくら電話かけても起きてくれなくて……ホントにどれだけ朝弱いんだか……」

 

「分かりました」

 

まだ起きてないのかあの人……学生時代一緒に住んでいたって言っていたけどその時も苦労したんだろうな楓お母さん。私は再び2階へと上がり、エレナお母さんの寝室へと向かった。

 

「エレナお母さん起きて。楓お母さん待ってるよ。あれ?いないじゃん」

 

エレナお母さんの部屋へと行ったのはいいが、問題のエレナお母さんが中に居なかった。入れ違いにでもなったのだろうか。

 

「一応他の部屋も見とこうかな。トイレかも分からないし」

 

私の部屋の前を通って後は楓お母さんの部屋だけだけど……私入っていいんだよね?いや、別に意識してるとかではないんだけど、想いを寄せてる人の部屋に入っていいのかな。中入って下着とか転がってたらその、ちょっとあれだと思うし……

 

「って何考えてるのよ!私と楓お母さんは親子なんだもん。気にすることなんて何も無いじゃん」

 

私は意を決してドアを開けた。

 

「え?なんでエレナお母さんが楓お母さんのベッドで寝てるの?」

 

楓お母さんの部屋の中はシンプルでベッド、机、タンス、ちょっとした小物以外は特に置いていなかった。まぁベッドがダブルベッドなんだけど昨晩はそういう事だったのかな。

ちょっとだけ妬けるな……

 

「エレナお母さん起きて。朝だよ」

 

「後少し……」

 

「起きて!昨晩はお楽しみで疲れたのかもしれないけど起きて!」

 

私はこの前と同じようにエレナお母さんに馬乗りになって体を揺すっていた。まぁ一言余計だったかもだけどね。

 

「彩葉か……起きたからちょっとどいてもらってもいいかしら」

 

ようやくエレナお母さんが目を覚ました。眠たそうな目を擦りながら私の顔を見ながら喋っているしもう大丈夫だろう。

 

「おはよ」

 

「おはよ彩葉。どう?初めての楓の部屋に入った感想は?」

 

「昨晩はお楽しみだったんだろうな以外何もないよ。ってかなんで何も着てないの……やっぱりお楽しみの後って服着ないのがお約束なの?」

 

「ちょっと落ち着きなさいな……私は小さい頃から寝る時何も着ないのよ。ってか顔が怖いわよ彩葉……何か怒ってる?」

 

「怒ってない。早く服着て降りてきてね」

 

「ふふ、ホントに分かりやすいわね。分かったわ。すぐ行くね」

 

後ろでエレナお母さんが何か笑っていた気がするが、気にせずに私は楓お母さんが待っているリビングへと降りていった。

 

その後は朝ごはんを食べ、家事を手伝い詩織さんとの約束の時間まで部屋で読書をする事にした。

 

コンコン

 

「ん?楓お姉さんですか?」

 

「うん。今日出かけるんでしょ?服とかってどうするのかなって思って」

 

時刻は14時。後約束の時間まで1時間という所で楓お母さんが自室にやってきた。

 

「服ですか?このままでいいかなって思ってたんですけど」

 

今の私の服は、黒いズボンに黒いワンピースを着ていた。黒1色になってしまったが別にエレナお母さんの職場だしこれでいいかなと思っていたのだが……

 

「はぁ……服のセンスまでエレナそっくりなんだね。エレナも黒の服ばっかり着て、カラスみたいで嫌だからやめてよって言っても、私みたいな綺麗な人はこういう服でバランス取ってるのって言って聞かなかったんだから。でも彩葉はダメだからね?はい服脱いで。今お母さんがコーディネートしてあげるから」

 

エレナお母さんそんな事言ってたのか……私は別に服装とか気にしてないから何でもいいかなって思ってたんだけどな。

 

「でも私そんなに服持ってないですよ」

 

「大丈夫。この前彩葉の服なら買っておいたから。ほらバンザーイして。着替えさせてあげるから」

 

楓お母さんの足元を見ると、確かに洋服っぽいものが置かれていた。それに着替えなさいって事か……

 

「分かりました」

 

私は、楓お母さんに言われるがままにバンザーイをして下着以外の服を全て取られてしまった。好きな人に見られてるって思うと恥ずかしくて仕方がないけど、気付かれないように無心で私は楓お母さんの着せ替え人形になっていた。

 

「出来たよ!鏡見てみて」

 

やっと終わった……楓お母さんの手が自分の肌に触れる度に変な声が出そうになるのを抑えるのでいっぱいいっぱいでどんな服なのかも見ていなかった。

 

「これが私……」

 

鏡を見ると、楓お母さんにコーディネートされた私がそこにはいた。白のミニスカートに上は黒色のワンピース。それに黒のタイツまで履いていた。長い黒髪はツインテールにされていた。でもこの髪留めって楓お母さんが使っていたやつだった気がするけどいいのかな?

 

「あの、この髪留めって楓お姉さんが使っていたものじゃないですか?」

 

私はハート型の髪留めに指を差しながら話した。前に楓お母さんがしている所を見た気がしたからだ。

 

「そうだよ。でも彩葉にあげる!大切に使ってね」

 

「ありがとうございます」

 

好きな人が付けていたものを自分が付けているという事実だけで私は顔がにやけてしまいそうなのを必死に隠した。

 

「それじゃもうそろそろ時間だからリビングに降りてよっか。詩織さんの車大きな音するからすぐ分かると思うよ」

 

「分かりました」

 

私は楓お母さんの背中を追うように下へ降りていった。

 

数十分もすると外から普段は聞かないような大きな車のエンジン音が聞こえた。さっき楓お母さんが言っていた通りすぐに分かるねこれなら。

 

「来たみたい。行ってらっしゃい彩葉。詩織さんに失礼のないようにね」

 

「行ってきます。分かりました」

 

いったいどんな人なんだろうか。大きな音する車乗ってる人って怖いイメージあるんだけど大丈夫かな……私は、エレナお母さんの職場へ向かうために玄関の扉を開け、詩織さんが待つ場所へと向かった。




感想、評価など宜しくお願い致します!次回はジェシカ初登場回になります!前作から3年経ったジェシカがどうなったのか楽しみにしていて下さい!


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ジェシカお姉ちゃん

ジェシカ初登場回です。dmで感想下さったリーファさんありがとうございます!


家を出ると目の前には大きなシルバーの車が止まっていた。私は車の前まで恐る恐る近付いていった。よく見ると車の前に背が高い金髪のお姉さんが車に寄りかかるようにして立っていた。

 

「あ、あのぉ……楓お母さんのお知り合いの方ですか?」

 

私は、恐る恐る金髪のお姉さんに話しかけた。

 

「お!君が彩葉ちゃんだよね?沢山話したいことあるけど取り敢えず乗っちゃって乗っちゃって!」

 

「は、はい!分かりました!」

 

私は詩織さんに助手席に乗るように言われ急いで飛び乗った。

 

「さてと、それじゃ改めて。私は中村詩織って言うの。宜しくね彩葉ちゃん。楓ちゃんとエレナとは小さい頃からの知り合いだからそんな警戒しなくても大丈夫だよ」

 

「えっと、月村彩葉です。宜しくお願いします。お忙しい所わざわざすみません」

 

どうやら悪い人ではなさそうだ。外見はちょっと怖かったけど、話して見たら明るくていい人そうだ。

 

「エレナから聞いた通りホントにしっかりした子だね。別にタメ口でもいいんだよ?」

 

「流石に初対面の人にタメ口は良くないかなって思いまして……後1つ質問なんですけど、エレナお母さんの小さな頃に私が似てるってよく言われるんですけど詩織さんもそう思いますか?」

 

「確かに外見はそっくりってレベルで似てると思うよ。モデルみたいにすらっとしてるしその綺麗な黒髪なんて特にね。そのツインテール可愛いね。楓ちゃんにやって貰ったの?」

 

「ありがとうございます。はい!楓お母さんにやってもらいました」

 

やっぱり私とエレナお母さんって似てるんだ。私も将来あんな美人さんになれるならいいんだけどね。

 

「ふふ、なんだか笑っちゃうな。楓ちゃんとエレナがお母さんって呼ばれる日が来るなんて思わなかったわ。ちなみに私何歳だと思う?」

 

難しい質問が来てしまった。多分30手前ぐらいだと思うんだけど、もしそれで20前半とかだったら相手に悪い印象与えかねないし、逆に若く言いすぎても失礼だよね。悩んで私が出した答えは……

 

「28ぐらいですか?」

 

「嬉しい事言ってくれるじゃん。こう見えても今年で34だよ!」

 

私の髪を優しく撫でてくれる詩織さんは、とても優しそうな目をしていた。

 

「ええ!?34ですか?20代だと思ってました」

 

「エレナと違っていい子だわこの子。あ、着いたよ彩葉ちゃん。ここがエレナがやってる

結婚相談所だよ」

 

「お城ですか……」

 

私は詩織さんが指をさした方を見ると、そこには大きなお屋敷があった。楓お母さんから聞いてはいたが、月村エレナって人物はホントに偉い人みたいだ。普通の人はこんな所に住めないよ。それにこの大きなお屋敷を一人で管理していた楓お母さんも凄いや……

 

「やっぱりびっくりするよね。それじゃ行こっか」

 

駐車場に車を止めると、詩織さんが私の手を取ってお屋敷の入り口へと引っ張っていった。詩織さんはノックもせずに私の手を持ったまま片手で大きな扉を開けるとお屋敷の中へと入っていった。廊下には部屋が何個もあり、きっとそこで個別に相談を受けているのかななんて思っていた。

 

それにしても広すぎる……私1人だったら絶対お屋敷の中で迷子になってたよ。

 

「エレナ。連れてきたよ」

 

「ありがとう詩織。彩葉もいらっしゃい。詩織おばさんに何もされなかった?」

 

きっとここが一般的に言うリビングなんだろう。旅館で言う大広間ぐらいの大きさで私はびっくりしていた。

 

「うん。優しいお姉さんだったよ。それにしても広すぎじゃない?」

 

「え?エレナにはタメ口なんだ。楓ちゃんからは私達にも敬語って聞いてたんだけど。それと……次おばさんって言ったらはっ倒すからね」

 

「この子は色々訳アリなのよ。それでジェシカを呼んだんだから。それにしても遅いわねジェシカのやつ。3時には来てって言ったのに」

 

「なるほどね。私が連絡した時にはもう出たって言ってたんだけどなぁ……」

 

どうやらジェシカって言う人がまだ来ていないみたいだった。ってか気にしてなかったけど外国人の人だよね?外国の人となんて話すの初めてかも。

 

「ごめーん!遅れた!」

 

その時リビングの扉が勢いよくあると小さな女の子がこちらへと駆けてきた。髪色は水色で私と同じようなツインテールをしていた。詩織さんの子供さんかな?身長も140センチいくかいかないぐらいだし中学生かな?

 

「全く何してたのよ。こっちは集まってるわよ」

 

「仕方ないじゃない!私だって暇じゃないのよ。ママとパパが勝手に受けたお見合い全部丁寧に断ってる身にもなりなさいよ!」

 

「それでジェシカ、この子が彩葉よ」

 

エレナお母さんが私のほうを指さすと水色の髪の女の子が私の方へ体を向けた。え?ジェシカって言ったの今?それじゃ中学生じゃなくてエレナお母さんと同い年!?

 

「貴方が彩葉ちゃん?うっそー!すんごい可愛いんだけど!ねぇエレナ抱きしめてもいい!?」

 

「まぁいいんじゃない?」

 

え?いいんですか……私何も言ってないんだけどな。

 

エレナお母さんの返事を聞いて一目散にジェシカさんは私を抱きしめてきた。

 

なんだろう……すんごいいい匂いするしエレナお母さんと違ってなんだか柔らかくて気持ちいい……エレナお母さんに抱きしめられた事は無いけど絶対固いもんあの人。

 

「エレナにはもったいないぐらい可愛いじゃん。彩葉ちゃん今何歳なの?」

 

「5歳です」

 

「5歳にしてはしっかりしてて偉いじゃない。いいなー私も子供欲しいなぁ!」

 

「いくらでも相手はいるでしょ。お見合い受けて早く子供作ればいいじゃない?」

 

横からエレナお母さんがジェシカさんに嫌味ったらしく言っていた。

 

「あんたね……まぁエレナの小言にも慣れたわよ。それで何で私が呼ばれたの?彩葉ちゃんを紹介したいだけじゃないわよね?」

 

私を抱きしめていた腕を話すとエレナお母さんの方にジェシカさんは向き合っていた。

 

「そうね。自分の口から言いなさい彩葉。私が言っても仕方ないでしょ」

 

「うん。そうだね。ジェシカさんお話って言うのはですね……」

 

私が今楓お母さんの事を1人の女性として恋をしていること。それが原因で上手く楓お母さんと話せないことをジェシカさんに包み隠さず伝えた。

 

「なるほどね。じゃあ彩葉ちゃんは私のライバルだね。私もまだ楓の事が好きだもん。どうしようとか悩んでる場合じゃないよ。好きならアタックしなきゃ!歳の差も性別も恋愛には関係ないんだからゴーゴーだよ!」

 

ジェシカさんは私の目を見ながら真剣に話してくれた。5歳の私ですらライバルって言ってくれるなんて思ってもいなかった。子供だから適当にあしらわれると思っていたがそんな事は一切なかった。

 

「そうですよね……私にだってアタックする権利ぐらいありますよね。ありがとうございますジェシカさん。自分なりに頑張って見ます!」

 

「その意気だよ!エレナから奪い取ろうね!」

 

「はい!」

 

ジェシカさんと私は固い握手をしてエレナお母さんの方を見てニカッと笑った。エレナお母さんの方を見ると呆れたような表情をしていた。

 

「全く……私が居ないとこでそういう話はしなさいよね。まぁいいわ。頑張ってみなさい。結婚してる私が言うのもあれだけどやれるだけやってみなさいな。ジェシカは手だしたらただじゃおかないからね?」

 

「えぇ!?なんで私だけ!?」

 

「当たり前でしょ。あんたは大学の時に諦めるって約束したでしょ。それじゃバカは放っておいて帰るわよ。詩織、車出して貰ってもいいかしら?」

 

「は!?私この為だけに呼び出されたわけ!?」

 

どうやらジェシカさんはこれだけのために呼び出されたとは思っていなかったようだ。ん

 

「そーよ。私の大切な一人娘の悩み事だもの。放っておく訳にはいかないでしょ」

 

「そう言われると私も反論しずらいわね……この後って詩織も楓の家行くの?」

 

「うん。せっかくだから夜ご飯食べてから帰ろうかなって。久しぶりに楓ちゃんのご飯食べたかったし」

 

「なら私も行く!あ!もしもし楓?私も行っても大丈夫?ホント!?じゃあ詩織の車で今から皆で行くわね。うん!それじゃまた」

 

行動力のある人だなぁ……ジェシカさんはポケットから携帯を取り出すと、楓お母さんに電話を入れたみたいだった。

 

「仕方ないわね……皆で行きましょうか」

 

「彩葉ちゃん行こ!」

 

「あ、はい!」

 

私はジェシカさんに手を引かれて詩織さんの車へと向かった。

 

「なんだかジェシカと彩葉ちゃんが並んでると姉妹みたいね。ジェシカってはたから見たら中学生だもん。試しにジェシカお姉ちゃんって言ってみてよ彩葉ちゃん」

 

詩織さんがジェシカさんをからかうように言葉をかけていた。

 

「あ!いいわねそれ!私妹欲しかったんだ!言ってみてよ彩葉ちゃん」

 

いいんですか……どうやらジェシカさんはからかわれてることに気付いてないみたいだった。

 

「えっと、ジェシカお姉ちゃん?」

 

私がそう言うとジェシカさんは凄く嬉しそうな顔をしていた

 

「ねぇエレナおばさんこの子私に下さいな」

 

「ぶっ飛ばすわよ」

 

「あんたのぶっ飛ばすわよは冗談に聞こえないからやめて……」

 

エレナお母さんとジェシカさんのやり取りがおかしくて私と詩織さんは笑ってしまった。きっとこの4人はずっと仲が良かったんだろうな……私もエレナお母さんと同じぐらいの時に生まれたかったな。

 

「彩葉ちゃん一緒に後ろ乗ろ!」

 

「はい!」

 

詩織さんの車に乗っても、ジェシカさんは私の手をずっと離さずに楓お母さんとエレナお母さんの大学時代の話を聞かせてくれた。なんだかホントのお姉ちゃんが出来たみたいで私も嬉しかった。

 

数分車を走らせると、詩織さんが近くの駐車場に車を止めるから先に行っててと言うので私とジェシカさんとエレナお母さんは先に自宅へと向かった。

 

「久しぶりだなぁ楓と会うの。3ヶ月ぐらいあってなかったかな。なんだかんだ私も家が忙しかったからなぁ」

 

「そう言えばお母さんは元気?結婚式以来見てないんだけど、今度また会わせてよ」

 

「ママはずっと元気だよ。オッケー!帰ったら言っとくね」

 

そう言えばジェシカさんって何のお仕事をしてる人なんだろ。差し支えなければ聞いてみたいな。

 

「彩葉、ジェシカに聞きたいことあるなら遠慮なんてする必要ないのよ」

 

「毎度毎度人の心読むのやめてよ……」

 

「ん?私に質問?」

 

「えっと、差し支えなければでいいんですけど、お仕事って何してるのかなって」

 

「え?エレナ言ってなかったの?私これでもロシアのお姫様よ」

 

聞き間違いだろうか。今ジェシカさんはロシアのお姫様って言ったの?

 

「えっと……お姫様?」

 

「そうよ。ママが私が18歳になった時に継承したの」

 

「えええええええ!!!!」

 

私は、この日1番大きな声をあげて驚いた。

 

「なんだ知らなかったのね。てっきり彩葉なら知ってると思ってたわ」

 

「知ってたら気軽にお姉ちゃんなんて呼んでるわけないでしょ。なんでエレナお母さんもそんなに軽く女王様相手に話せるのか不思議だよ」

 

「私だって月村家元当主よ?そんな変わらないでしょ?」

 

「実はエレナお母さんって頭悪いでしょ?」

 

「そんな舐めた口聞くのはどの口かしら?」

 

「ごへぇんなしゃい」

 

エレナお母さんに口の両端を掴まれて引っ張られた。そのやり取りを見たジェシカさんは横で笑っていた。

 

「別にタメ口でいいんだよ?それに私も妹が出来たみたいで嬉しいし。エレナにタメ口で話せるなら私も大丈夫だよね?それに外見は中学生って言われるぐらいだから遠慮しなくていいんだよ?」

 

ジェシカさんはわざわざ私と目線があうようにその場に屈んで私の目を見ながら言った。ホントにエレナお母さんと楓お母さんの周りには優しい人だらけなんだなと改めて思った。

 

「ジェシカお姉ちゃんがいいって言うならそうしようかな」

 

「そっか!じゃあ改めて宜しくね彩葉ちゃん」

 

「うん!」

 

私はジェシカさんが差し出した手を握り返して楓お母さんが待っている自宅へと後から合流した詩織さんも交えて4人で向かった。

 




感想、評価など宜しくお願いします!
前作から読んで下さってる方から天音とさゆりは出るかと聞かれたのでここで回答させていただきますね。

近いうちに出ると思います。全作の主要キャラは全員出します。


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自宅に戻って

久しぶりの更新になってしまって申し訳ありません。


「ほら彩葉。早くインターホン押してちょうだい。皆待ってるわよ」

 

「え?エレナお母さん鍵持ち歩いてないの?」

 

エレナお母さんの仕事場から戻り、今は自宅の前に4人でエレナお母さんが鍵を開けるのを待っているとばかり思っていたのだが、どうやらエレナお母さんは鍵を持ち歩いていないらしい。楓お母さんがふらっと出歩いていたらどうするつもりだったんだろうか……

 

「昔から楓が常に横にいたし持ち歩く事なんてなかったからね。ほら彩葉早くして」

 

「分かったよ」

 

ジェシカお姉ちゃんと詩織さんは私達のやり取りが面白かったのか、後ろでクスクスと笑っていた。

 

ピンポーン……ピンポーン

 

『はーい』

 

「あ、えっと、彩葉です。皆も一緒にいるので開けてもらってもいいですか?」

 

『ちょっと待っててね』

 

「ホントに楓の前だとガチガチになっちゃうのね……」

 

ジェシカお姉ちゃんは、私の態度の変わりようにびっくりしていたみたいだった。

 

「うん。ジェシカお姉ちゃんだけ敬語じゃなくするね。楓お母さんの前ではエレナお母さんにも敬語使ってるからさ」

 

「おっけー!」

 

30秒程立ったところで中から楓お母さんが顔を出した。先にお風呂でも入っていたんだろう。ピンク色のパジャマに白いパーカーを羽織っていた。

 

「こんな格好でごめんね。皆入って入って」

 

「おじゃましまーす!」

 

ジェシカお姉ちゃんが我先にと家の中へと入って行った。きっと学生時代からジェシカお姉ちゃんはこんな感じだったんだろうな。

 

「何ぼーっとしてんのよ。早く入って。後ろがつっかえてるわよ」

 

後ろからエレナお母さんから肩を押され、私はエレナお母さんを軽く睨むと玄関をくぐってジェシカお姉ちゃんの後へとついていった。

 

「ふふ、ホントにエレナには懐いてるみたいねあの子」

 

「どーなんだかね。やっぱり子供って面白いわね。喜怒哀楽分かりやすくって飽きないわ」

 

「あんたも分かりやすい方だけどね……そんじゃおばさん組も入りますか」

 

「私を巻き込まないで頂戴、詩織おばあちゃん」

 

「なんですってぇ!?」

 

なんだか後ろがうるさいなぁ……きっとエレナお母さんがなんか言ったんだろうし放っておこう。私は靴を脱ぐと、リビングへと向かった。

 

「おかえり彩葉。エレナお母さんの職場大きかったでしょ?」

 

「ただいまです。はい。最初はお城かと思いました。前まではあそこにお二人で住んでたんでしたっけ?」

 

「ううん。詩織さんもいたよ。だから3人だね。まぁ3人でもあのお屋敷は広すぎたけどね」

 

「良かったら今晩おやすみ前にでも3人のお話し聞かせて貰えませんか?」

 

「もちろんおっけーだよ」

 

その後は5人で楓お母さんが作ってくれたご飯を食べて、楓お母さんとエレナお母さんの学生時代の話を聞いて詩織さんとジェシカお姉ちゃんは私の家を後にした。

 

私は、疲れていたのか詩織さんとジェシカお姉ちゃんが帰った後はすぐに眠ってしまい、目が覚めたのは翌日の昼間だった。

 

「彩葉、起きて。もうお昼だよ」

 

「ん……楓さん?今何時ですか?」

 

私は体を揺さぶられて目を覚ました。目を開けると、すぐそこに楓さんの可愛い顔があった。朝起きて好きな人の顔が目の前にあるなんて、なんて幸せなんだろうと浸っていた。

 

「ちょっと彩葉、なーにボケっとしてんのよ。お昼ご飯冷めちゃうから早く着替えちゃいなさい」

 

「エレナお姉さん!?今日仕事じゃなかったんですか?」

 

私の部屋の前の扉に寄りかかりながらエレナお姉さんがニヤニヤした顔で私を見ていた。

 

「予約がキャンセルになったのよ。いいから早くなさい」

 

「着替えるので部屋から出て貰ってもいいですか?」

 

「そんな気にする歳でもないでしょう?なんなら楓に着替えさせて貰ったら?」

 

「もー。あんまからかっちゃ可哀想だよ。ごめんね彩葉。エレナ追い出すから着替えてリビング来てね」

 

そういうと楓お姉さんは、扉の前に仁王立ちしていたエレナお姉さんを引っ張ってリビングの方へと向かっていった。

 

「もう……エレナお母さん私が楓お母さんの事が好きって分かってからずっとこんなんじゃん。私の気持ちにもなってみてよね」

 

私は小言を言いながらパジャマから普段着に着替えて楓お母さんとエレナお母さんがいるリビングへと向かった。




楓「私達の物語終わったのかと思ってたよ……作者は3ヶ月も何してたの?」
エレナ「ホントに何の連絡もないんだもん。彩葉からも何か言ったら?」
彩葉「私の居場所を探してってタイトルなのに居場所みつからないまま終わるかと思いましたよ」

本当に遅くなってしまって申し訳ありませんでした。更新ペースは出来る限り上げていくので宜しくお願いします!


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握った手は温かくて

「楓お姉さん、エレナお姉さんお待たせしました。ごめんなさいこんな時間に起きてしまって」

 

リビングに降りるとテーブルには、お昼ご飯のオムライスが三人分きっちり並んでいた。

 

「休みの日なんだからいつ起きたっていいんだよ。お昼ご飯オムライスで良かった?」

 

楓お母さんは、優しそうな笑顔で私に返事を返した。ホントにその笑顔だけでお腹がいっぱいになるのでは?と思ったぐらいだ。

 

「はい!とっても美味しそうです。もう食べてもいいですか?」

 

「ふふ、そんな慌てないの。それじゃ食べよっか!いただきます」

 

「「いただきます」」

 

楓お母さんの声に合わせて、私とエレナお母さんも食事に手をつけた。ひと口食べると卵の甘みが口の中に溢れた。

 

「美味しい……私こんなに美味しいオムライス食べたの初めてです!」

 

「ホント?それなら良かった。あ、そう言えば彩葉に言わなきゃいけないことあるんだった。今日だったよね天音様とさゆりが遊びに来るのって?」

 

「そうね。相変わらずいきなりなんだもの。突然昨日の夜、明日遊びに行くからよろしく!なんて来たんだもん驚いたわ」

 

エレナお母さんが呆れたような顔をしながら話していた。

 

「天音様?さゆりさん?お二人のお知り合いですか?」

 

「うん。天音様は数少ないエレナの小さい時からのお友達だよ。さゆりは天音様のメイドね。彩葉の事が見たいんだってさ」

 

「エレナお姉さんにもお友達っていたんですね」

 

「何か言ったかしら?」

 

「なんでもないです」

 

エレナお母さんは私の方を睨みながら一喝すると話を戻した。

 

「まぁとにかく天音達15時までには来るらしいから、ご飯食べ終わったらその眠たそうな顔洗ってきちゃいなさいな」

 

「わかりました」

 

私は、エレナお母さんに言われた通りご飯を食べ終わった後に顔を洗い、少し寝癖がついていた髪をクシで梳かして天音様という人の到着を待つことにした。

 

「ねぇ彩葉、最近エレナと仲良くなったみたいだけど何か2人で共通の趣味とか見つけた?さっき彩葉がエレナに冗談言ってるの見てびっくりしちゃったよ」

 

リビングのテーブルに楓お母さんと二人っきりになった時突然エレナお母さんとの事で言われ、少しびっくりしてしまった。しまった……最近楓お母さんが居ないところで話していた事が多かったらちょっと気が抜けてしまっていた。

 

「えっと……昨日エレナお姉さんの仕事先に言った時に結構いじられてたのでもしかしたらエレナお姉さんっていじられキャラなのかな?って思ってちょっと弄ってみました」

 

「ふふ、そうなんだ。エレナって優しいから結構周りから弄られてるんだよね。本人はいじられキャラって自覚はないみたいだよ。でもよかった。ちゃんと打ち解けてきてるみたいだね。私とも普通に話せてるし安心した」

 

楓お母さんは、優しい笑顔を見せていた。打ち解けられるか心配してくれてたのかな。少しでも私の事を思っていてくれたのかと思うとそれだけで嬉しかった。

 

「心配してくれてたんですね。ありがとうございます。でも大丈夫です。私は本当にここに来て良かったって思ってますから」

 

「そっか。私もエレナもお母さんとしては、半人前だから何か気になったこととか気付いたことあれば教えてね」

 

「わかりました」

 

「なんか真面目な顔して話してると思ったら急に笑顔になったり忙しそうね楓。何か彩葉と話してたの?」

 

「別になんでもないよね彩葉?」

 

「はい!」

 

私は、楓お母さんと一緒に笑顔でエレナお母さんに向かって言葉を返した。

 

「まぁ後で彩葉から聞くからいいわ」

 

ピンポーン……ピンポーン……

 

「あら、来たみたいよ。彩葉、楓と一緒にお客さん迎えに行ってあげて」

 

「分かりました」

 

「行こっか!」

 

「!?はい!」

 

楓お母さんは、私の前に右手を差し出し、その手を私は握り返した。好きな人の手を握るってこんなに嬉しい事なんだなって言うのが初めて分かった。それに楓お母さんの手は、とても温かくてずっと握っていたくなるようだった。




次回!久々の天音とさゆりの登場になります!


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初顔合わせ

「楓ちゃーん!エレナー!わたしー!」

 

扉の前から大きな声が聞こえた。お嬢様だよね?それにしてはなんていうか……普通の人のような気がするんだけどこう思うのって失礼かな?

 

「今開けますね」

 

そう言って楓お母さんが扉を開けた。一体どんな人なんだろう……私は少し緊張しながら対面を待った。

 

「ひっさしぶりー!かーえでちゃーん!」

 

「天音様苦しいです!さゆりも見てないで止めてよ!」

 

「久しぶりに会えたから嬉しいんでしょ。学生時代ずっとやってたんだからちょっとは私も見て見ぬふりしてあげる」

 

「えぇ……」

 

「何してんのよこのバカ!」

 

「あいたぁ!何すんのよエレナ!」

 

楓お母さんに抱きついてきた天音様をエレナお母さんがひっぺがして頭を叩いていた。結構強く叩いてたけど大丈夫なのかな……っというかちょっとだけ天音様が羨ましいな……

私もあんな風に楓お母さんに抱きつきたい。

 

「前から楓にセクハラするなって言ってるわよね?はぁ……あんたとこの会話も飽きたわ。早く中に入って頂戴。彩葉なんてポカーンとしてるじゃないの」

 

天音様と呼ばれた人は、肩まで伸ばした綺麗な茶色の髪に目はパッチリしていて、体つきはエレナお母さんとは違って、出ているところは出ていて、しまっているところは締まっていそうな体つきをしていた。さゆりさんは茶髪のショートカット。なんだか大人しそうな感じがする人だ。お胸の方はエレナお母さんと同じぐらいだった。ただお二人ともとても綺麗な人だった。身近に綺麗な人しかいないんじゃ、学生時代この4人で固まってたら目立って仕方なかったんじゃないかな。

 

「あ!貴方が彩葉ちゃんね!キャー!小さい頃のエレナにそっくりじゃない!めっちゃ可愛い!」

 

「苦しいです……」

 

私は天音様に抱き着かれていた。胸が口に当たって苦しい……でも綺麗な人に抱きつかれて悪い気はしなかった。それにすんごいいい匂いするし。

 

「あーごめんごめん!大丈夫?」

 

あんがいすぐに天音様は、私を解放してくれた。流石に初対面な私と楓お母さんとではちょっと遠慮してくれたらしい。

 

「大丈夫ですよ。月村彩葉って言います。宜しくお願いします」

 

「緒方天音です。ちゃんと挨拶出来て偉いね。別にタメ語で大丈夫だよ?それでこっちが、ほらさゆり、彩葉ちゃん挨拶してくれたんだからさゆりも」

 

天音様は、楓お母さんと話していたさゆりさんをこっちへと呼んで私の前にちょこんと座らせた。

 

「えっと、緒方さゆりです。宜しくね彩葉ちゃん」

 

「宜しく御願いします」

 

私は、さゆりさんが差し出した右手に自分の右手を合わせた。

 

「それじゃこんな所で自己紹介してないで中行きましょ。彩葉おいで」

 

「え?ちょっとエレナお姉さん?」

 

私はエレナお母さんに手を掴まれると、引きずられるようにして部屋の中へと連れていかれた。

 

--------------------

 

side楓

 

「しっかりした子だね。5歳とは思えないよ」

 

「私もびっくりしちゃった。でもホントエレナの小さい頃にそっくり。性格までとは言わないけど外見なんて瓜二つじゃん。楓ちゃんもそう思わなかった?」

 

エレナと彩葉が先に部屋へ向かって行った後で玄関先で私と天音様とさゆりとで少し話していた。やっぱり皆彩葉が5歳だとは思えないよね。あの並外れた頭の回転の早さや、人との接した方や目上の人に対しての話し方など社会人と変わらないぐらいだもん。

 

「まぁ確かに似てるとは思いますけど、中身は180°違いますね。5歳の頃のエレナって頭は良かったですけど彩葉みたいに大人しくなかったですもん」

 

「まぁそーだよね。それにしても相変わらず独占欲強いのねエレナって。私に彩葉ちゃん取られたのが面白くなくて部屋連れてくだなんて相変わらずなんだから」

 

「私もそう思います。でもあの二人って結構仲良いみたいですよ。なんなら私よりエレナの方によく懐いてるみたいです」

 

「えぇそーなの!?以外すぎる……若奈ちゃんも楓ちゃんよりエレナに懐いてたし何か子供に惹かれるのがエレナにはあるのかもね」

 

「分かんないですけどもしかしたらあるのかもですね。そろそろ私達もこんな所で話してないでリビングの方に行きますか。紅茶入れておきますね」

 

「そーだね。ありがとう楓ちゃん」

 

「いえいえ。さゆりも紅茶でいい?」

 

「大丈夫だよー。私も後で彩葉ちゃんと話しても大丈夫かな?」

 

「あの子は人見知りとかするように見えないし全然大丈夫だと思うよ」

 

「おっけー」

 

私達はエレナと彩葉が待っているリビングへと向かった。

 

side楓終

-------------------

その頃彩葉とエレナは……

 

「そんな慌てて来なくてもいいじゃないですか……普段のエレナお姉さんらしくないですよ」

 

「まぁそうなんだけどなんか面白くなくてね。天音の事だからダラダラ話してることでしょうし仕方ないからお茶でもいれましょうかね」

 

なんか面白くなくて……か。エレナお母さんそれ言ってることまあまあ恥ずかしいこと言ってるの分かってるのかな。それって私が天音様と話していて取られてるのが嫌だって事でしょ?私も結構気に入られたのかな。

 

「エレナお姉さんって私の事結構好きですよね」

 

「はぁ?そんな事当たり前でしょ。娘の事好きじゃない親なんていないわよ」

 

「えっと……ありがとうございます」

 

何言ってんのよ彩葉馬鹿なの?ぐらいの返事が返ってくると思っていた私は意表を突かれ自分の顔が赤くなっていくのが分かった。こんなにストレートな好意をあっさり言われたこともなくびっくりした。エレナお母さんにはバレないようにそっぽを向いて返事をした。

 

「何よ。あんた自分で聞いといて照れてるの?可愛いとこあるじゃない」

 

「こっち見ないで下さい」

 

「嫌よ。なんならその赤い顔写真に収めてあげるわ。おいで彩葉」

 

「ちょ!?エレナお姉さん何してるんですか!」

 

私はエレナお母さんにガッチリ抱きかかえられるとエレナお母さんの膝の上に載せられ何故かそこで写真を撮られた。

 

「美人親子って感じのいい写真が撮れたわよ。ほら見てみなさいな」

 

見せられたiPhoneの画面には、優しい笑顔をしたエレナお母さんと恥ずかしがって顔を赤くした私がしっかりとそこに写っていた。

 

「楓お姉さんには内緒ですからね」

 

「分かってるわよ。ほら、いつまで私の膝の上に乗ってるのよ。皆そろそろ来るわよ。こんなとこ見られたくないでしょ?」

 

誰が乗せたと思ってるんですか……と言う言葉を飲み込んで私は、エレナお母さんの膝の上から降りると皆がいつ来てもいいようにソファーの上にちょこんと座った。




彩葉とエレナの絡みがなんだかんだで1番書きやすかったりしますw

更新頻度出来るだけ落とさないように頑張っていくので宜しく御願いします!

感想、評価など励みになるのでよかったら宜しくです。


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新婚旅行に同行?

天音様とさゆりさん、それにエレナお母さんがテーブルに着くと私と楓お母さんは、キッチンへ行ってお客様に出す紅茶をいれていた。

 

「わざわざ手伝ってくれてありがとね彩葉。先にテーブルで座っててもよかったんだよ?」

 

「1人で運ぶの大変でしょうし手伝いますよ。これは天音様とさゆりさんに渡せばいいですか?」

 

「ありがと。1つずつでいいからね。熱いから気を付けて運んでね」

 

「分かりました」

 

私は楓お母さんがいれた紅茶を、最初は天音様へと持って行った。

 

「お待たせしました」

 

「お手伝い出来るなんて偉いね。ありがとう彩葉ちゃん」

 

天音様は、ティーカップを受け取ると私の頭を撫でて褒めてくれた。

 

「このぐらいなら誰でも出来ますよ」

 

とは返答したものの、綺麗な人から頭を撫でられて内心とても嬉しかった。その後さゆりさんに紅茶を出した時も同じように頭を撫でられてとても嬉しかった。

 

さゆりさんに紅茶を出すと楓お母さんからもう座ってていいよと言われたので、私は椅子に座って楓お母さんを待った。

 

「お待たせー。彩葉はミルクティーで良かった?」

 

「はい。ありがとうございます」

 

テーブルに座っている5人全員分の紅茶をいれ終わり、ようやく楓お母さんも一息つけるみたいだった。

 

「ありがと楓。それで天音は急に何のようなの?」

 

エレナお母さんは、正面に座っている天音様に言葉を投げていた。いっつも天音様は急だって言ってたけど今回は、私を見に来るって話じゃなかったんだっけ。

 

「え?あーそーだった。ごめん大事な事言いに来たんだった忘れてたよ」

 

天音様は、いれられたばかりの紅茶を飲みながらエレナお母さんに言葉を返していた。

 

「やっぱり貴方のことだからただ彩葉に会いに来たわけじゃないと思ってたわ。それで何なの話って」

 

「いやぁさ、私達も最近結婚式あげたじゃん?それで2人で新婚旅行って言うのもあれだし月村家と合同でどうかなって思って。エレナ達新婚旅行行ってないんでしょ?」

 

「え!?新婚旅行って天音様とさゆりさんも同性婚されてたんですか!?」

 

私は、天音様の発言にびっくりして反射的に声を上げてしまった。

 

「あれ、エレナ言ってなかったの?」

 

「別に言う必要もないでしょ。それに彩葉はそういう事気にしないもの。むしろ彩葉もこっ!?ちょっと何よ彩葉今話してるじゃない」

 

「馬鹿なんですか!?いやごめんなさい馬鹿でしたね。ちょっと来てください!」

 

私は、エレナお母さんの腕を掴むと強引に私の部屋へと連れて行った。天音様は、何かに気付いた様子で振り返ってみると笑いながら手を振っていた。まさかあのやりとりで気付かれたなんて事はないよね……

 

「何よもう。せっかく皆で集まってるのに。もしかしてトイレ?1人で行けないの?」

 

「はぁ……やっぱりバカ。よくそんなんでお嬢様やってたよねエレナお母さん」

 

「好きでなったわけじゃないわよ。それで本題は?」

 

「あの話の流れで私も同性愛者ってバラそうとしたよね。しかも私が好きになる相手ってちょっと考えたらお母さんしかいないってわかるでしょ。今後ホントにやめてよね」

 

「あー……確かに彩葉ぼっちだったものね。大丈夫よ。そこら辺は楓鈍いから気付きはしないって」

 

「でも天音様には気付かれたかもよ。そこにいますよね?気配でバレバレですよ」

 

私は、自室に入った時に扉の向こうにずっと気配を感じていた。最初は考えすぎかと思ったが、耳をすませて意識を扉の方へと集中したらカサカサと音が聞こえたのだ。

 

「ホント5歳には思えないぐらいの洞察力だね。ホントは20超えてるでしょ彩葉ちゃん。後天音お姉さんでいいよ」

 

観念したのか天音様は、扉を開けて私の部屋に入ってきた。

 

「ピチピチの5歳児ですよ。それで全部聞いちゃったんですよね」

 

「ごめんねー。エレナが口滑らせて彩葉ちゃんの反応があからさまだと思ったから施設で同性の子好きになったのかなぁ思ったら楓ちゃんだったんだね彩葉ちゃんの好きな人。それでエレナには前から相談してたって感じかな?」

 

「はい。出来れば話をこれ以上広げて欲しくはないのですが……」

 

「大丈夫だよ!こう見えても口は堅い方だから!」

 

ぐーさいんをつくって私の前に天音様は突き出してきたがホントだろうか……

 

「全く……私からもお願いするわ。タダでさえややこしいんだからこれ以上ややこしくしたら太平洋に沈めるからね」

 

「あんたが言うと冗談に聞こえないからやめて。まぁホントに言わないから大丈夫だよ。後、彩葉ちゃんってもしかしてエレナにはタメ口で喋れるの?」

 

「ホントにお願いしますね。はい。エレナお母さんには普通にお母さんとも呼べますし普通に話せます。楓お母さんの前だとちょっと緊張する事が多くて敬語で話したりお姉さんって呼んでます。それにお母さんって呼ぶと叶わない恋って言うのが尚更感じてしまうので……」

 

最後の方は小声で話した。叶わない恋……か。自分でもそれは分かってるんだけどね。

 

「そんな暗い顔してちゃ可愛い顔が台無しだよ彩葉ちゃん」

 

「え?天音様?」

 

突然天音様が私を抱きしめながら話した。

 

「子供の時なんて自分の好きにやるのが1番だよ。だからそんな暗い顔しちゃダメ!分かった?エレナもどうせ彩葉の好きにやりなさいとかカッコつけたこと言ったんでしょ?もっと前向きにやらなくちゃだよ!ってなんでぶつのよエレナ!」

 

「なんかムカついたからよ。彩葉戻りましょ。あんま待たせると怪しまれるでしょ」

 

「あ、うん。天音お姉さん」

 

「んー?」

 

「ありがとうございます。もっと前向きにやって行きますね」

 

私は笑顔で天音様に返事を返した。

 

「どういたしまして」

 

私達は、仲良く3人でリビングへと戻った。楓お母さんに3人で何してたの?と聞かれたがエレナお母さんが適当な口実を作って上手く逃げてくれたのでバレずに済んだ。

 

「さて、話を戻すわよ。天音はいいとしてさゆりちゃんもいいの?一生に一度あるかない事のイベントに私達3人がお邪魔しちゃって?」

 

どうやら話は、2人の新婚旅行に同行するか否かの話に戻ったらしい。確かに新婚旅行って行ったら普通は2人で行くものだしどうなんだろうか。

 

「私としてもエレナさん達に来て欲しいかなって思ってます。私と天音が結婚まで辿り着けたものエレナさんと楓のおかげと言っても過言では無いですし、大勢の方が楽しいと思うんです。彩葉ちゃんも初めての旅行って意味で記念になると思いますし」

 

「なるほどね。それじゃ遠慮なくお邪魔しましようかしらね。楓は?」

 

「天音様とさゆりが良いって言うなら喜んでだよ。もちろん彩葉も一緒に行くからね?」

 

「さゆりお姉さんが言ってた通り旅行なんて行ったことが無かったので楽しみです」

 

「なら決まりだね!場所とスケジュールは私とさゆりで決めちゃうけどいいかな?」

 

「貴方達の新婚旅行なんだから当たり前でしょ。スケジュールはなんとか合わせるわ」

 

「サンキュ。それじゃ話す事も話したし私達は帰ろっかな」

 

「え?夜ご飯食べて行かれないんですか?」

 

「うん。それに彩葉ちゃんにも悪いしね。ね!彩葉ちゃん!」

 

私の方を見て天音お姉さんは、ニヤニヤと笑っていた。

 

この人もか……エレナお母さんと親友って言うのも頷けるよ。

 

「そうですね。そうやってからかって来るお姉さんとは夜ご飯一緒に食べたくないかもです」

 

「ふふ、言われてるわよ天音」

 

「ふええんごめんてばぁ!」

 

私は、天音お姉さんの謝罪を無視して少し冷たくなったミルクティーを口に含んだ。

 

結局この後仲良く5人で夕食を食べて天音お姉さんとさゆりお姉さんは帰って行った。

 

 




その後、2人の寝室にて

楓「なんだか天音様ともすぐ打ち解けられたみたいで安心したよ」
エレナ「まぁ色々あったのよ。見かけによらず彩葉って結構言う時は言う子だって分かったわ。昔の私にそっくりよ」
楓「これ以上悪化したら全力で性格強制するからね。嫌だよ彩葉が洗濯したての洋服にわざと紅茶零して洗えてないじゃないの!とか言うようになったら」
エレナ「そんな事言う人なんているわけないじゃない」
楓「エレナの事だけど?」
エレナ「記憶にないわ」
楓「あ、そういう事言うんだ。なら今夜はお預けね。おやすみなさいエレナお嬢様」
エレナ「あー許して!ごめんってばぁ!」

隣室の彩葉はというと……
彩葉「静かにしてよ……」
深夜に騒ぐ両親にうんざりしていた。


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早めの思春期?

天音お姉さんの新婚旅行の話をしてから3日後、エレナお母さんのiPhoneに場所決めたからこれから行くね!という連絡が来たらしく、私達は前と同じように天音お姉さんとさゆりお姉さんを待っているところだった。

 

「今日は何時に来るって言ってたんですか?」

 

「何にも言ってないわよ。だからこうしてダラダラ待ってるんじゃない。私が休みの日で良かったわよ」

 

エレナお母さんは、テーブルに肘をついてふくれ顔をしていた。連絡が入ったのは10時。今の時刻は17時を指していた。今日は日曜日で結婚相談所の方もお休みでゆっくりしていた。

 

「いろはー!ちょっと来て貰える?」

 

ベランダに洗濯物を取り込みに行ってる楓お母さんから突然呼ばれた。自分の名前を呼ばれるだけで嬉しいと思ってしまうのはちょっと病的かな。

 

「ん?楓お姉さん?はーい!今行きます!」

 

「良かったじゃない二人っきりよ」

 

「うるさい!」

 

エレナお母さんからのからかいもここの所また増えた気がする。楓お母さんと一緒にお風呂に入った時なんてわざわざ外から楓お母さんと一緒で嬉しいね彩葉ちゃんなんて言ってくるぐらいだ。

 

私はエレナお母さんを一喝して、すぐに楓お母さんの方に向かった。

 

「お待たせしました。どうかしましたか?」

 

「洗濯物取り込んだのはいいんだけど量が多くってさ、彩葉の洋服まとめておいたから自分の部屋に持って行って貰ってもいいかな?持っていったら衣装ケースにちゃんとしまうんだよ?分かった?」

 

「わかりました」

 

私は、楓お母さんが綺麗に畳んでくれた洗濯物を持って自分の部屋へと向かった。

 

「よいしょっと……えっと、上着はこっちの棚でこの下着は……!?これってもしかして……」

 

私は、自分の部屋の扉が閉まっていることを確認すると自分の物では無い大人用の下着を手に取って眺めていた。

 

ゴクッ……自分の喉が鳴るのがわかった。それになんだろうこの気持ち。なんだか胸が熱くなるような、それでいて体が切なくなるような気もする。

 

「これって楓お母さんの……って私何考えてんの!早く楓お母さんに間違って入ってましたよって言ってこなきゃだよね」

 

 

言葉では分かっていても行動に移すことが出来ず、私はただ楓お母さんのと思われる下着をマジマジと見る事しか出来なかった。大人の下着を見るのも初めてだったし、私が履いているような子供っぽいのとデザインやら肌触りが違うことにとても驚いていた。

 

普段楓お母さんがこれを履いて生活してるんだよね。

 

「欲しい……ちょっとぐらい匂いとか……」

 

ダメだと分かってても私は止まれることが出来なくなった。楓お母さんの下着に顔を近づけようとした時だった。

 

「彩葉、楓がホットケーキ焼いたから食べにおいでだって。へぇ彩葉ちゃんもうそんな時期なんだねぇ。ごめんねお母さん気付かなくて」

 

ノックもなく扉がガチャりと空いてそこには、エレナお母さんが立っていた。

 

「な!な!なんでぇ!ノックぐらいしてよバカ!」

 

私は自分の顔が真っ赤に沸騰しているのが分かった。まさか見られるだなんて思わなかった。楓お母さんに見られるよりはマシだけどさ……

 

「続きはしなくていいの?なんならお母さんが自分の慰め方教えてあげよっか?」

 

「何もしてないし!いいから出てっよ!早く!」

 

「何よ連れないんだから。ほら貴方も出るのよ。せっかくの楓のホットケーキが冷めちゃうでしょ」

 

「で、でも……楓さんの下着が」

 

下着が……と言うのは恥ずかしさからほとんど声にならないような声になってしまった。あれを放置して下に行って、何かの用事で私の部屋に入ったらと思うと気が気じゃなかった。

 

「大丈夫よ。娘が変なことに使うなんて普通の親なら思わないもの。まぁ後で何に使おうとしたか私には話してくれるわよね彩葉ちゃん?」

 

「ホントに内緒にしてよ」

 

「はいはい。とにかく早く行くわよ」

 

残していった楓お母さんさんの下着は心配だったが、これ以上言ってもエレナお母さんには通じないと思い、私は仕方なくエレナお母さんについていった。

 

「彩葉ごめんね手伝って貰っちゃって」

 

「いえいえ、このぐらいいつでもやりますよ」

 

私は、テーブルの正面に座る楓お母さんの顔を直視出来ないでいた。あんな後で顔見れるわけないじゃん!

 

「あら?彩葉顔赤いけどどうしたの?熱とかないといいんだけど。ちょっとごめんね。うん。熱は無さそうだね」

 

「ち、近いです楓お姉さん!」

 

「え?ごめんね嫌だったかな……」

 

楓お母さんのおでこが私のおでこに……いや、熱計ってくれてるのは分かるんだけどめちゃくちゃ恥ずかしかった。なんならそのままチューしたかったもん。ってかなんでそんな悲しそうな顔してるんですか。もしかして私が近いですって言ったからかな……

 

「え!えっと違くて!もし風邪だったらうつしちゃうかなって思って。楓お姉さんのことが嫌だなんてほんっとに思ってませんから」

 

「なんだよかったぁ……ありがとね気を使ってくれて」

 

ほっとした楓お母さんの顔を見ると私までほっとしてしまった。些細な事でも楓お母さんに勘違いして欲しくないもん。

 

「私は何を見せられてるのかしらね……ほら、早く食べちゃいなさいよ。いつ天音達来るか分からないんだから」

 

エレナお母さんの一声でまだホットケーキに手をつけてないことに気付いて私は急いでホットケーキを平らげた。ホットケーキはとても甘くて美味しくて楓お母さんの性格を表しているんじゃないかと思ったぐらいだった。

 

 

 

 




エレナ「何よ楓お母さんの性格を表しているんじゃないかと思ったって。貴方ポエマーの素質あるわよ。ポエムでも書いてみたら?」
彩葉「バカ言わないでよ。私は思った事を書いただけだもん」
エレナ「じゃあ楓は舐めたら甘いって事でいいのかしら?ごめんね彩葉……その味を知ってるのは私だけなの」
彩葉「二度と話しかけないで」
エレナ「ふふ、ホント可愛いんだから」
彩葉「調子いいんだから……」


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彩葉の変化

ピンポーン……ピンポーン……

 

「ったくやっと来たわね」

 

時刻は18時。楓お母さん下着事件から2時間ほど経っていた。

 

「随分ゆっくりだったね。慌てること無かったかな。彩葉お出迎え一緒にしよっか」

 

「はい」

 

私は、エレナお母さんを置いて楓お母さんと2人で玄関に向かった。扉を開けると天音お姉さんとさゆりお姉さんが立っていた。

 

「やっほー楓ちゃん!それにいーろーはーちゃん!!!」

 

「んーー!!苦しいです!」

 

どうやら長年やっていたという楓お母さんへのセクハラが私に回ってきたらしい。

 

「やっぱり子供の体温って温かいよね。抱き枕にして寝たいもん。ほっぺもぷにぷにしてて気持ちいいよ」

 

天音お姉さんは、私の体を撫で回しながら言った。まぁ綺麗なお姉さんに触られて悪い気はしないけどこれを何年も楓お母さんはやられてたのか……

 

「人の体温なんて変わりませんよ。天音お姉さんも温かいし柔らかいです」

 

私は天音お姉さんに体を預けながら言葉を返した。なんだかこの人には甘えてもいいようなそんな気がしたのだ。

 

「珍しいわね彩葉が甘えてるなんて。蹴飛ばそうとしたら胸の中に収まってるんだもの。流石に邪魔出来なかったわ」

 

知らない間にエレナお母さんも玄関に姿を表していた。楓お母さんへのセクハラが無いか確認しに来たのかな。

 

「私も初めて見たかも。ってか彩葉甘えられるなら私にも甘えてくれたっていいのに……」

 

楓お母さんは、驚いたような表情をしていた。それに少しだけ怒ってるような気もするけど気のせいかな?

 

「あー!楓ちゃん私に嫉妬してるー!彩葉ちゃんは渡さないからね!」

 

「私の子です!ほら彩葉同じように甘えてくれていいんだからね?」

 

「!?はい……」

 

天音お姉さんから私をひったくるようにして楓お母さんの胸の中に、私は抱き抱えられた。

 

謀ったな天音お姉さん……敢えて楓お母さんを煽ってこうなるように仕向けたんだ。私は、楓お母さんが自分の胸に私の顔が当たるように強く抱きしめていて、その柔らかい感触をいつまでも感じていたいような気持ちになった。それに好きな人から抱きしめられるなんてこんなにも嬉しくて心臓が爆発しそうなぐらいドキドキする事も分かった。

 

「ほら彩葉、天音お姉さんにやったように甘えていいんだよ?ってか1回甘えてくるまで離してあげない。天音お姉さんとさゆりお姉さんずっと玄関にいさせるわけ行かないよね?」

 

楓お母さんがニコッと笑いながら言ってきた。なんかキャラ変わってませんかね……

 

「エレナお姉さん、楓お姉さんお酒とか飲みました?いつもこんな感じじゃないですよね?」

 

私は、話を逸らそうとエレナお姉さんに声をかけた。これ以上密着していると私もボロを出してしまいそうな気がしたからだ。

 

「この子は結構頑固なとこもあるってだけよ。それに私と天音には甘えられて何で私には?って不満もあるでしょうよ。ほら彩葉、楓お母さんをギュッて抱きしめて上げて」

 

「別にエレナお姉さんに甘えた覚えなんてないんですけど……」

 

それを言うとエレナお母さんが楓お母さんに聞こえないように耳元でボソッと呟いた。

 

「パンツ。頭の良い彩葉なら分かるよね?早くしないとバラすわよ」

 

1番人が気にしてることをこの人は……分かったよやればいいんでしょやれば。

 

私は自分の両手を楓お母さんの腰に回すと抱き着くように身体を預けた。顔だけは見られたくなかったから楓お母さんの胸の中に顔を埋めた。決してやましい思いはない。ただ真っ赤になった顔を見られたくないだけ。うん絶対そう。

 

「よしよし。普段からこれぐらい甘えてよね。まだ5歳なんだから私とエレナに気を使ったりする必要ないんだから。やりたい事や欲しいものがあったら言ってくれていいんだからね」

 

私の背中を擦りながら楓お母さんは優しい声で私に語りかけた。ホントにどれだけ優しい人なんだろうか……きっと私が気を張ってたと思ってたんだろうな……

 

「ありがとう楓お母さん。大好き」

 

「うん。私も大好きだよ彩葉」

 

私の大好きと楓お母さんが言う大好きの意味は違うけれども、私は楓お母さんから言われた大好きという言葉を忘れる事はないだろう。そして疲れていたのか、楓お母さんの胸の中で安心したのかは分からないが急な眠気に襲われ、楓お母さんの胸の中で私の意識は夢の中へと消えていった。

 

--------------------

 

side楓

 

「やっぱり気張ってたのかな。すんごい幸せそうな顔で寝てるよ。それにちゃんと聞いてた?私の事お母さんって言ってくれて大好きって。ホントに彩葉の親になれて良かったよ」

 

私は、ベッドで眠る彩葉の髪を撫でながらエレナに話していた。初めて彩葉に言ってもらったお母さんという言葉が嬉しすぎて、あの後、天音様とさゆりの新婚旅行の計画の話を聞く時も顔がにやけっぱなしだったらしい。自分ではそんな顔になってるとは思わなかったけどエレナから見たら一目瞭然だったみたいだ。

 

「よっぽど嬉しかったみたいね。私も彩葉があそこまで素直に甘えるなんて思わなかったわ。私と同じように彩葉の本音を引き出したのはまた天音だったわね。適当な事ばっか言うくせに人の本質はあの子には見えてるのかもね」

 

「そう言えばエレナの私への態度が変わったきっかけも天音様だったね。1番私達のこと気にかけてくれたのって天音様だったんじゃない?今度お礼しなきゃだね」

 

「そうかもね。私も天音の事は楓の次に信頼してるし感謝もしてるわ。天音に言ったら調子に乗るだろうから言わないけどとても感謝してるわよ。彩葉ともすぐに打ち解けてあの子も天音の事は好きだと思うわ」

 

少し顔を赤くしながらエレナはそう言った。相変わらず誰かを褒める時に顔を赤くするのは変わらないらしい。恥ずかしがり屋で優しいのは私と付き合い出した時からホントに変わらないんだなって思う。結婚したら子育てで仲違いしたりレスになったりしてすぐに別れる夫婦も少なくないってお母さんから聞いたけど、私達は絶対そうはならないなって思う。こんなに綺麗で子供の事も大切に扱ってくれて仕事もこなしてくれる人なんて私にはもったいないぐらいだもん。

 

「エレナ」

 

「ん?どうしたの?」

 

「しよっか。彩葉が心開いてくれた記念日だもん。ちょっと気持ちが舞い上がっちゃってるしこの気持ち沈めてよ」

 

私がそう言うと一瞬エレナは驚いていたが何かを察したのか、私の手を引いて彩葉が寝静まっているのを確認すると静かに彩葉の部屋を出た。

 

「楓からの誘いなんて珍しいじゃない。ホントに今日はどうしたのかしらね」

 

「なんだか嬉しくってさ。それにエレナの少し照れた表情見たら我慢出来なくなっちゃった」

 

「キャッ!ちょ、ちょっとそんないきなり」

 

私は、ベッドにエレナを押し倒すと自分の右足をエレナの顔の前に差し出した。

 

「そんないきなりって言ってる割に拒否しないんだね」

 

「ずるいわよ……早く私に命令して下さい楓様……」

 

期待するような眼差しでエレナが見つめてくる。今は私がご主人様。絶対彩葉には見せられないけどね。

 

「いいよ。私の足舐めて綺麗にしてくれるよね?」

 

「はい……」

 

その日の私は、普段よりSっ気が強くエレナを逃がさなかった。次の日の仕事が午後からということもあり、翌朝4時までエレナの事を責め続け、2人で知らない間に眠ってしまっていたらしい。なんとか彩葉が起きる前に起きた私はエレナを叩き起して濡れたシーツなどを洗濯機に突っ込んでシャワーを浴び事なきを得た。

 

「気付いてないよね……」

 

「気付かれてたら今回は貴方のせいよ……」

 

私達は2人で彩葉を起こしに行った。

 

「おはよ彩葉。朝ご飯出来てるから早く降りておいで」

 

「おはよ」

 

そう言うと眠たそうな顔をした彩葉は小さな体を起こしながらこう言った。

 

「明け方近くまでお盛んなのはいいけどもう少し静かにしてもらってもいい?隣の部屋だからエレナお母さんの奇声こっちにまで聞こえてるからね。着替えるから下先に行ってていいよ。なんでわかったの?って顔してるけどあれで気付かない方がおかしいよ。えっと、後敬語外したんだけどどうかな?」

 

私達の小さな天使に昨晩の行為がバレていたみたいだった……私とエレナは顔を見合わせると気まずそうに彩葉に謝ることしか出来なかった。でもやっと普通に話してくれて私はとても嬉しかった。

 

「そう言うのは聞こえないふりしておくんだよ。わかった?それじゃ待ってるね」

 

「5歳児に奇声なんて聞かさしたら普通はお母さん何かあったの!?って飛び込んでくるからね。うん。また後でね」

 

「あ!後で新婚旅行の話するからそれだけちゃんと聞いてね!」

 

「はーい」

 

旅行の準備もしっかりしなくっちゃだね。天音様とさゆりの大切な新婚旅行に同行させてもらうんだもん。それに彩葉が家族になってから初めての旅行。絶対成功させなくっちゃ!私は気を引き締め直してリビングへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 




エレナ「楓、今回は貴方に非があるわよ……」
楓「エレナだって喜んでたんだからお互い様じゃん。ちょっとやりすぎたかなとは思うけども……はぁ、気付かれてた……やっちゃったよ私」
エレナ「まぁあの子のことだから気にしないでしょ」
楓「まぁ首輪がバレてるしエレナがドMなのも知ってたしね」
エレナ「うんって言いたくないわね……とにかく次からは静かにね」
楓「いやだいたい甲高い声あげるのエレナじゃん」
エレナ「……」


次回は新婚旅行の予定について月村家で3人が作戦会議をする予定です。

感想、評価お気に入りなど宜しくお願いします!


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旅行の話

「全く私が普通に話してくれて嬉しいんだろうけど楓お母さんもエレナお母さんも今朝方までお盛んなんだもん。壁そんなに厚くないんだから丸聞こえだったよ……」

 

時刻は10時。楓お母さんの胸の中で眠ってしまった私は、天音お姉さんの新婚旅行の計画を聞かずに寝てしまった。まぁ楓お母さんから話があると思うから大丈夫かな。それに私の中でも1つ変化があった。楓お母さんと普通に話せるようになったことだ。好きという気持ちは変わっていないけど、自然にタメ口で話せるようになり、お母さんとも呼べるようになった。それと私が楓お母さんと言った時の楓お母さんの表情がとても嬉しそうで、しっかり呼べて本当に良かった。

 

「よいしょっと。うん。これでおっけーだね」

 

私は、パジャマから部屋着に着替えると楓お母さんとエレナお母さんが待つリビングへと向かった。

 

「おはよう楓お母さん、エレナお母さん」

 

「おはよー」

 

「おはよ」

 

2人の綺麗なお母さんが私を待っていた。テーブルには朝ご飯のハムのサンドイッチとスクランブルエッグ、ヨーグルトが並べられていた。それに私の席にだけプリンが置いてあった。

 

「2人はプリン食べないの?」

 

「昨晩お騒がせしてしまったお詫びだから気にしないで食べてね。元はエレナが自分用に買ってきたプリンだから大丈夫だよ。味はエレナが買ってくるぐらいだから保証してあげる」

 

「なんだエレナお母さんのか。それなら遠慮なく食べるね」

 

「最近私の扱い雑すぎじゃない?まぁ別にいいけど。1つ1500円のプリンだからね味わって食べなさい」

 

「え!?これ一つで1500円!?」

 

私は目の前の小さなプリンを指差して驚いた。普通のプリンって100円とかじゃなかったっけ……

 

「そうよ。私の行きつけのお店なの。他にも種類あるから彩葉が気に入ったなら今度3人で行きましょうか」

 

「うん!」

 

「それじゃ食べよっか。いただきます」

 

「「いただきます」」

 

楓お母さんの声に合わせて私とエレナお母さんも同じように言うと朝食に手をつけた。

 

出された料理は全部が美味しくて、ファミレスやコンビニのご飯なんて絶対食べれなくなると思った程だった。まぁファミレスもコンビニも行ったことないけどあんまり美味しくなさそうだしね。

 

私は、出された朝食をぺろりと平らげると1500円のプリンに手を付けた。1口食べてみると……

 

「んー!!!何これすんごく美味しい!」

 

私にしては珍しく年相応の反応をしてしまった。1口食べた瞬間に甘みが口の中に広がって私がとろけてしまいそうなぐらいだった。

 

「ふふ、美味しいでしょ?彩葉がそんなに喜んでくれるなら上げたかいあったわね」

 

「うん。こんなに美味しいプリン食べたの初めてだったよ。ちょっとはしゃぎすぎちゃって恥ずかしかったな」

 

私は、エレナお母さんに少し顔を赤くしながら言葉を返した。こんなの施設にいたら絶対経験出来なかっただろうな。

 

「いいのよ子供はそれで。さてと、それ食べ終わったら旅行の事で少し話そうかしら。大好きな楓お母さんに包まれて寝ちゃったもんね彩葉」

 

ニヤニヤとした顔で話すエレナお母さんは、朝から楽しそうだった。ホントにこの人は人をいじるのが好きなんだなって思う。これで中身はドMって言うんだから面白いよね。

 

「恥ずかしいから思い出させないで。はぁ美味しかった!ご馳走様でした」

 

「お粗末さま。食器だけ台所に持って行ってくれる?」

 

「うん」

 

私は、食器を台所に持って行くとテーブルへと戻った。

 

「それで旅行の話って?」

 

私は、席に着くと正面でコーヒーを飲んでるエレナお母さんに話しかけた。

 

「楓が来たらにしましょ。貴方も何か飲む?」

 

「コーヒー飲んだことないから私も飲んでみたいかも」

 

「私の1口飲んで飲めたら楓にいれてもらいましょ」

 

そう言ってエレナお母さんは私の前に自分が飲んでいたコーヒーカップを差し出した。

 

「これってブラック?」

 

「そうよ」

 

「いただきます……ごめん私にはまだ早いみたい」

 

少し舐める程度しか口に含まなかったが、苦味が口に広がって何も美味しいとは思わなかった。

 

「まぁそーよね。逆に味覚まで大人だったらびっくりするとこだったわよ。はいこれ口直しのホットミルク。カフェオレにするように残しておいたんどけどあげるわ」

 

「ありがと」

 

ミルクを口に含むと口の中から苦味が消え、嫌悪感が無くなった。やっぱり私にはブラックコーヒーは早かったみたいだ。

 

「お待たせー。彩葉ミルクティーいれてきたから飲むよね?」

 

「ありがとう楓お母さん」

 

「それじゃ話を始めましょうか。私も午後から仕事だからそんなに時間ないからね」

 

「うん」

 

コトンとコーヒーカップを置くと、iPhoneをポケットから取り出してエレナお母さんが話を始めた。

 

「まず日程だけど今日から2週間後の6月30日~7月3日に決まったわ。場所は沖縄。天音のご両親は海外を進めてたらしいんだけどどうにも天音とさゆりちゃんが沖縄がいいって聞かなかったらしくてそこになったわ。正直言うと私達の用意することって特にないのよね。費用も全部緒方家持ちだって言うし」

 

なんていうか流石はお嬢様だなと思う。普通の家庭なら金銭面とか気にしたりすると思うし……あ!そう言えば来月って……

 

「なるほどね。後、来月から私って学校に編入するんじゃなかったっけ?」

 

「あーその事なんだけど」

 

何故だかバツが悪そうな顔をエレナお母さんはしていた。何かあったのだろうか。

 

「実は夏休み中なのよ。7月半ばに担任の先生と顔合わせと学校の適当な説明してもらって本当に通い始めるのは9月頭からになるわ。ごめんね私の確認不足で遅くなって」

 

「ううん。そういう事なら大丈夫。ちょっと緊張してたからさ」

 

「ふふ、彩葉でも緊張するのね」

 

「そりゃするよ。だってまだ5歳だよ!?普通なら6歳からでしょ?だからちょっと怖いなって思ってたの」

 

私は思っていたことをそのままエレナお母さんに言った。私の年齢は満5歳。普通なら年中さんか年長さんぐらいだもん。

 

「可愛いとこもあるのね。私ならもう中学校にも行けるのに!って言うのかと思ったわよ」

 

「言うわけないでしょ……話を戻すね。とにかく私が旅行に向けてやる事って特にないって事だよね?」

 

「仰る通りです」

 

「りょーかい。仕事前に時間作ってくれてありがとう。お仕事頑張ってね」

 

「ありがとう。それじゃ行ってくるわね楓、彩葉。お留守番宜しく」

 

「うん。行ってらっしゃいエレナ」

 

「ん」

 

「ちょっと!彩葉いるんだから考えてよね」

 

「じゃーねー」

 

あの人はホントに……エレナお母さんは、楓お母さんを自分の方に寄せると頬にキスして仕事に行った。完全に見せつけじゃん……

 

「ごめんね変なとこ見せて。それじゃ私達はのんびりしてよっか」

 

「うん」

 

私達は、エレナお母さんが帰ってくるまでテレビを見たり一緒に本を読んだりして過ごした。

 

 




彩葉「ホントに嫌な性格してるよね」
エレナ「なんの事?」
彩葉「わざわざ見せつけなくてもいいじゃん。別に2人の時は何してもいいけど私いるんだからね」
エレナ「何よ彩葉もやって欲しいなら言ってくれればいいのに。ん。あら柔らかい」
彩葉「もー!何してんのよこのバカ!」
エレナ「それでは次話で会いましょう!感想、評価など宜しくお願いします!」
彩葉「逃げるなぁ!」


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旅行前夜

時は流れて旅行の前日の6月29日。私も大分月村家の生活に慣れてきた所だった。

 

「彩葉、手を丸めて。伸ばしたままだと指切っちゃうかもだから気を付けてね」

 

「うん。こんな感じかな?」

 

「そうそう上手だよ!それじゃ切ったじゃがいもをボールに入れてね」

 

「わかったー」

 

ここ最近私は、楓さんに暇な時間に料理を教えて貰っていて、今は特訓の真っ最中。エレナお母さんには内緒で、今度目の前で手料理を作ってあげてびっくりさせたいな。って思ったのが最近やっている理由だった。まぁそれは建前で本音は、楓お母さんの近くにいられて、少しだけでも肌に触れていたかったからだ。エレナお母さんを利用するような形になって申し訳ないけどエレナお母さんが私に与えた猶予は2週間。少しでも楓お母さんにアピールしなくっちゃ!

 

「そろそろエレナ帰ってくると思うからお湯沸かしておいてもらってもいい?コーヒーの淹れ方はもう覚えた?」

 

「うん。もう完璧だよ」

 

「ホントに物覚え早くて偉いね」

 

「えへへ」

 

少しの事でも私が出来ると、楓お母さんは私の事のように喜んでくれて頭を撫でてくれる。そんな所がホントに好きでたまらなかった。この前エレナお母さんがふざけて楓お母さんにしたキスが羨ましくて仕方なかった。私もいつか楓お母さんにキス出来る日が来るんだろうか。

 

楓お母さんの言った通り私がお湯を沸かし終わってティーカップを出している間にエレナお母さんが帰ってきた。私は、パタパタと玄関の方にエレナお母さんを迎えに行った。

 

「ただいまー。お出迎えありがとう彩葉」

 

私は、無言でエレナお母さんが持っていた鞄を受け取るとエレナお母さんの部屋に持って行って鞄を置いてきた。私が来る前は楓お母さんの仕事だったんだけど、少しでも楓お母さんが楽出来るようにこれから私がやるからいいよって言ったのがきっかけだった。

 

「おかえりなさいエレナお母さん。コーヒー入ってるよ」

 

「ありがと。行こっか」

 

「うん!」

 

エレナお母さんも優しい人で私が2階のエレナお母さんの部屋に鞄を置きに行って帰ってくるまで玄関で待ってくれていた。

 

リビングに戻ると夜ご飯がテーブルに並べられていた。今日のメニューはカレーライス。野菜とお肉は私が切ったことはエレナお母さんには内緒だ。

 

「それじゃ食べよっか。いただきます」

 

「「いただきます」」

 

私は、エレナお母さんが自分が具材を切ったことに気付かれるんじゃないかとドキドキしていた。もちろんカレーは楓お母さんがルーを1から作っているから美味しくないはずがないが、具材が不格好なんだよね……

 

「相変わらず楓のカレーは美味しいわね。そこら辺でお店出してるとこよりよっぽど美味しいわ。後、彩葉もお手伝いありがとね。ちゃんと切れてるじゃない。手切らなかった?」

 

エレナお母さんは当たり前のように話した。流石に楓お母さんと私とじゃ切り方でバレるか……

 

「やっぱり分かっちゃうよね。楓お母さんが教えてくれたから大丈夫だよ」

 

「なら良かったわ。それで貴方達旅行の準備は出来た?」

 

「私はもう確認終わらせて玄関に荷物置いてあるよ。彩葉は?」

 

「私も一昨日のうちにまとめておきました」

 

ホントに着替えと水着ぐらいしか持っていくものないし30分ぐらいで終わったから楽だったな。それにしても沖縄かぁ……テレビでしか見たことないけど綺麗なんだろうなぁ。それに海って言ったら水着だよね。楓お母さんの水着姿とっても楽しみだなぁ。別に私泳げるけど泳げないフリして楓お母さんに抱き着いたりしたら怒られるかな。でもこの旅行が1番距離詰められるチャンスだしそのぐらいしなきゃだよね。

 

「あ、彩葉。後で話があるから私の部屋に来てもらえるかしら」

 

「え?うん」

 

突然のエレナお母さんからの呼び出しに少しビクッとした。何かしたかな私。

 

「そんな怖い顔しなくも大丈夫よ。悪い話じゃないわ」

 

「ならいいけど……」

 

「え?私は?」

 

「楓には内緒の話よ」

 

「なんか私だけ仲間外れじゃん。まぁいいや。片付けしとくから早くしてきちゃいなよ。明日早いんだから彩葉夜遅くまで拘束してたら怒るからね」

 

楓お母さんは少し不機嫌そうな顔をしながら言葉を返した。まぁ多分私関係の話ってなると楓お母さんについてだから聞かれたらまずいしね……

 

「分かってるわよ。それじゃ食べ終わったら私の部屋ね」

 

「りょーかい」

 

私は、夜ご飯を食べ終わると食器を台所にさげた後でエレナお母さんの部屋に向かった。

 

コンコンコン

 

「エレナお母さん、私だけど」

 

「入っていいわよ」

 

部屋に入るとエレナお母さんはどうやら明日の最終確認をしているみたいだった。鞄の中を開けてメモと照らし合わせていた。こういう所はしっかりしてるんだなぁとエレナお母さんの新しい一面を見れた気がする。それにエレナお母さんには珍しく赤いメガネをかけていた。なんていうか絵になるって言い方が正しいのかな。綺麗な人には何でも似合うって言うけどそれぐらいエレナお母さんに赤いメガネが似合っていた。

 

「普段からメガネかければいいのに。すんごい似合ってるよ」

 

「ありがとう。楓に言われてからなのよ、細かい作業したりする時にメガネをするようになったのって。あの子がエレナすんごく似合ってるよ!って毎回言ってくるから嬉しくってね。あ!ごめんね惚気けちゃって。何よ、少しは反応してよね。ボケてる身にもなりなさいよ」

 

「くだらない話してるなら私楓お母さんのお片付け手伝いたいんだけど?要件は何?」

 

私はエレナお母さんのボケを完全に無視して話を続けた。

 

「面白くない子ね。それでどうするつもり?私が言うのもなんだけど告白するなら旅行中が1番いいと思うけど?私と天音は事情知ってるし彩葉と楓を二人っきりにしてあげることだって簡単なの。なんなら寝室も2人だけの部屋にだってね」

 

案の定楓お母さん絡みの話だった。私だって自分の頭の中ではそこがベストだって分かってる。前に読んだ恋愛小説でもムードは大事って書いてあったもん。でもどうやって言葉にすればいいか分からないんだよ……

 

「うん。旅行中に楓お母さんに告白するよ。でも寝室は私とエレナお母さんと楓お母さんの3人にして貰ってもいい?絶対寝不足で旅行どころじゃなくなるからさ。でもどう言葉にしたらいいのか分かんないんだよ。仮に私が告白して楓お母さんに拒絶されたらって思うだけで嫌になるし、告白なんてしなきゃよかったってならないかなって……」

 

私は、エレナお母さんに思っていることをそのまま伝えた。人に弱音なんてみせるのは嫌だけどホントに怖いんだよ。もし楓お母さんに気持ち悪いなんて思われたら次の日からどう接していいか分からないもん。

 

「ジェシカに言われた言葉を思い出しなさい。当たって砕けろよ。それに楓がそんな子に見える?あんまり私の女の悪口言うとぶっ飛ばすわよ。拒絶?嫌悪?そんなふうになるわけないじゃない。弱音なんて彩葉らしくないわよしっかりなさい」

 

「でも……それでももしかしたら!」

 

「ったく仕方ないわね」

 

「エレナお母さん……?」

 

私が半分泣きそうになっていた所でエレナお母さんに優しく抱き締められた。楓お母さんの胸の中と同じように安心感があって先程まであったぐちゃぐちゃとした感情が洗い流されていく感じだった。

 

「大丈夫よ。自分の思った通りに動けば絶対後悔しないわ。彩葉は強い子でしょ。私の子なんだもん。弱い子のわけないわ。だからこれはお母さんとの約束。後悔しないように全力で楓にぶつかってきなさい。いいわね?」

 

エレナお母さんは、私の背中を擦りながら優しく語りかけてくれた。

 

「ありがと……エレナお母さん。私全力で楓お母さんにぶつかってくる!」

 

「分かればよし。それじゃ解散!明日に備えて早く寝ちゃいなさい。おやすみ」

 

「うん。おやすみ」

 

私は、エレナお母さんの部屋を出ると決意を新たにして自分の部屋へ入り、明日に備えて寝ることにした。

 

--------------------

 

sideエレナ

 

「ちょっと追い込みすぎちゃったかしらね。期限なんてつけるべきじゃなかったかしら」

 

私は、先程の彩葉の苦しそうな顔を思い出すと少しやりすぎたかなと言う思いが心に残っていた。頭が良いとは言え中身は5歳児。分からないことだらけなのにいきなり告白だなんて無茶させすぎかな……

 

「はぁ……私らしくもない。私は、あの子が最高のパフォーマンスを出せる環境を整えて上げるだけ。結局最後に悩むのは彩葉じゃなくて楓だもの。どーせ私の所に泣きついてくるんでしょうけど今回はアドバイスはあげないからね楓。ふぁーあ。私も早く寝ようかしらね」

 

私は、1人リビングにいる楓に声をかけるとすぐにベッドの中に入り意識は夢の中へと消えていった。

 

 

 

 

 




楓「あ、もしもしさゆり?明日なんだけど何時にお屋敷行けばいいの?」
さゆり『朝8時に来てくれれば大丈夫!楽しみだね!天音なんて今日ずっとソワソワしててホントに面白かったよ』
楓「そりゃ新婚旅行だもん。誰だって楽しみだよ。それじゃ全力で楽しもうね!おやすみ!」
さゆり『うん!おやすみ楓』

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朝、お風呂にて

ピピピピピピピピピ!!!

 

「んーー!もう朝か……全然眠れなかった……」

 

時刻は朝の6時。旅行が気になりすぎて全然寝付けず寝起きは最悪だった。私は、目を覚ます為にシャワーを浴びようと思いお風呂場へ向かった。

 

まだ誰も起きてないのか私の部屋がある2階と1階には電気が灯っていなかった。

 

「ちょっと早く起きすぎちゃったかな?まぁいっか。お母さん達起きる前にシャワー浴びちゃおっと」

 

私は誰もいないと思い、ノックもせずお風呂場の扉を開けた。

 

「キャッ!?なんだ彩葉か。びっくりしたぁ……彩葉もお風呂?」

 

「え、えっと、うん。目が覚めてないから無理矢理にでも体起こそうかなって」

 

誰もいないと思って開けた扉の先には産まれたままの姿の楓お母さんがそこにはいた。

 

「なら一緒に入ろ。先に中で待ってるからね」

 

「う、うん」

 

嘘でしょ!?いや、別に嫌なことはないしむしろ嬉しいぐらいだけど、まさか鉢合わせるなんて思いもしなかった。楓お母さんとは何回か一緒にお風呂入ってるけどやっぱり好きな人の裸ってなんだか見てるとドキドキしてくるし触りたい。って思えてくるようになっちゃったし……って何考えてるのよ私!しっかりしなさい彩葉。別にいつも通り普通に入ればいいだけだよ。そうでしょ?

 

「はぁ……ふぅ」

 

私は、服を脱いで深呼吸をすると楓お母さんが待っているお風呂場へと足を踏み入れた。

 

「楽しみで全然寝れなかったんじゃないの?」

 

「うん。旅行なんて初めてだし意識してたら目冴えちゃって全然眠れなかったよ。あ!私先に体洗っちゃうね」

 

湯船に浸かっている楓お母さんから声をかけられた。半身浴のせいか、楓お母さんが持っている大きな2つの果実が顔を出しており、私は楓お母さんを直視出来なかった。私は逃げるように楓お母さんから視線を外して体を洗うことにした。

 

「あ!今エレナもいないし背中流してあげるよ!私達2人だけの内緒にするからさ!ね!?多分エレナに子供っぽいって言われたくないからいっつも断ってたんだよね?」

 

逃げ場がなくなった……そう。楓お母さんの言った通り一緒にお風呂に入る度に背中流してあげるよ!と言われ毎回断っていたのだ。楓お母さんに触られたらと思うと、自分の中で知らない気持ちが溢れ出そうで全てを断っていた。まさかエレナお母さんにからかわれるから断っていたと思われてたなんて……

 

「えっと……」

 

「いや……かな?」

 

「エレナお母さんには内緒だからね」

 

「うん!」

 

……私のバカ!楓お母さんの寂しそうな目を見たら断るなんて選択肢頭から吹っ飛んじゃったよ……楓お母さんは嬉しそうに私の後ろに座って、タオルにボディーソープを付けていたところだった。

 

「痛かったら言ってね」

 

「うん」

 

楓お母さんは私の肌を傷つけないようにか、丁寧に優しく背中を洗ってくれた。メイドをやっていたって言ってたしエレナお母さんの背中とかも流してあげてたのかな?

 

「気持ちいい?」

 

「うん。楓お母さん上手だね」

 

「えへへ。メイドやってた時にこういうの教えこまれたからね。洗い終わったよ!それじゃせっかくだから前も洗ってあげる!」

 

楓お母さんは、私の背中をお湯で洗い流すと私の体を優しく持ち上げると自分と向き合うように私を目の前に座らせた。

 

「いやいや!前は大丈夫だから!自分で洗えるよ!」

 

私は慌てて体の向きを戻すと真赤になっている顔を隠すように言葉を返した。

 

「ホントに恥ずかしがり屋さんなんだから。それじゃ私の背中流してよ。それぐらいならいいでしょ?」

 

「そ、それぐらいなら全然やるよ」

 

エレナお母さんに怒られないかな……私は、条件反射のように言葉を返してしまった。楓お母さんの柔肌に触れられると思ったら食い気味に返事を返してしまった。

 

「ありがと!それじゃお願いね」

 

そう言うと楓お母さんは私の前にゆっくりと座り込んだ。綺麗な背中……それに柔らかそうなお尻に普段は見えないうなじなど私の目を奪うものがたくさんあって正直背中を流す所の話じゃなかった。

 

「痛かったら言ってね」

 

私は緊張気味にタオルを楓お母さんの背中にあてた。楓お母さんが痛くないように、私はゆっくりと手を上下させ楓お母さんの背中を丁寧に擦っていた。

 

「彩葉も上手だよ。夢だったんだよね。子供と背中の流しっ子するの」

 

楓お母さんは嬉しそうに話していた。そうだったんだ……それなのに私は下心で楓お母さんに触れてしまったと思うと少しだけ心が傷んだ。

 

「そーだったんだ。今度から一緒にお風呂入った時は流しっ子しようね。エレナお母さんも混ぜて」

 

「ふふ、そうだね。でもエレナお母さんエッチだからあの人はほっといて2人でしよっか」

 

「確かに」

 

私と楓お母さんは、2人してお腹を抱えながら笑った。なんだかこういうのっていいなって思った。好きな人と思いを共感してそれで笑いあったりなんてとても素敵だなと思った。

 

「随分な言われようじゃないの」

 

その時ガラッとお風呂場の扉が開いた。

 

「エレナお母さん!?」

 

「いつからいたの?」

 

私と楓お母さんはびっくりして扉の方を見た。いったいいつからこの話聞いてたんだろうか。

 

「彩葉の前を洗ってあげようかなって言ってた辺りからかな。楓が彩葉に性教育でもするのかと思ったわよ」

 

またこの人はそういう事を……私だって意識してないって言ったら嘘になるけど我慢したもん。まぁそりゃちょっとは見ちゃったけども……

 

「そういう事言うからハブられるんだよエレナお母さん」

 

「なんですって?そういう事言っていいのかしら彩葉ちゃん?」

 

「それはずるい……」

 

「なになに?何の話?」

 

「そうね……彩葉。私の背中流してよ。それで黙っといてあげるわ」

 

エレナお母さんは、先程まで楓お母さんがいた所に座り込むと私にタオルを渡した。

 

「もー!また私だけ知らない話し!今度ちゃんと教えてよね!あんま時間ないから早く上がってよエレナ。私朝ごはん作ってくるね」

 

「ありがとう。お願いね楓」

 

そう言うと一足先に楓お母さんは、お風呂場を後にした。

 

「さて、邪魔者はいなくなったわね。それで胸ぐらい触ったの?」

 

「さ!触ってるわけないでしょ!」

 

まぁだいたいエレナお母さんから何を言われるかは分かってたけどね……こういう人だし。

 

「全く……楓お母さんのおっぱい大きい!触ってみてもいい?ぐらい言えないの?」

 

エレナお母さんはわざとらしく声色を高くしていた。

 

「キモいよ……私がそんな事言えるわけないでしょ。楓お母さんの背中流してただけで心臓破裂するンじゃないか。ってぐらい緊張してたんだからね」

 

「まぁそれもそうね。会話聞いてた面白かったわ。まさか楓も前洗ってあげるよなんて言うなんてね」

 

「ホントにびっくりしたんだからもう5歳なんだから1人で洗えるもん。それに何故だか前だけはダメって思ったんだよね」

 

「まぁそれはもう少ししたら分かることよ。彩葉手が止まってるわよ。もう疲れたの?それとも楓の裸思い出してたの?あらやーらしー」

 

背中を流しているからエレナお母さんの表情は見えないけど絶対バカにしてる……そういう事なら私にも考えがあるんだから。

 

「まぁエレナお母さんの裸よりは目がいっちゃうよね。ねぇエレナお母さん?なんでお胸の成長小学生で止まっちゃったの?あ!ごめん幼稚園かな?私と変わらないよね!」

 

私は後ろからエレナお母さんの胸に手を当てながら声をかけた。掴んでみるとホントに私と胸の大きさに関してはほとんど変わらなそうだった。

 

「貴方が娘じゃなかったら今頃太平洋に沈んでたわよ。失礼しちゃうわね。流石に彩葉よりはあるわよ」

 

そう言うとエレナお母さんは私の方に振り返って、私の小さな胸に手を当てながら話していた。

 

「5歳と比べないでよ……そろそろ上がろ。楓お母さん待たせちゃ悪いよ」

 

「そーね。湯船に1分浸かったら行きましょうか」

 

「うん!」

 

「彩葉?」

 

「ん?」

 

「旅行楽しみましょうね」

 

「エレナお母さんもね」

 

私達は、湯船から出ると楓お母さんが待つリビングへと向かった。

 

そして、朝ご飯を食べ終えついに出発の時となった。

 

「忘れ物はないよね?」

 

「うん!」

 

「それじゃ行こっか!」

 

「そんな慌てないの。って言っても無理そうね。彩葉、手貸しなさい」

 

そう言うとエレナお母さんは、私の左手を自分の右手で握った。

 

「あ!私も!」

 

楓お母さんは私の右手を握った。

 

「そんな子供じゃないのに……」

 

「いいのよ子供なんだから。行くわよ」

 

私達は、3人で仲良く手を繋ぎながら天音お姉さんのお屋敷へと向かった。

 




鈍行ですみません……次回から旅行編本編突入します。
評価を入れてくださったなみだうさぎさん、社畜芝爺さんありがとうございます!励みになります!

良かったら感想、評価など宜しくお願いします!


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天音の起こし方

後半はエレナ主体になります。


「天音お姉さんのお屋敷までどのぐらいなの?」

 

「歩いて10分ぐらいだからすぐだよ」

 

私達は3人で待ち合わせ場所である天音お姉さんのお屋敷へと向かっていた。最初は3人で手を繋いで歩いていたが、エレナお母さんが気を使ってくれたのかはわからないが、途中で手が疲れたから彩葉の事任せるわね。と言って私達の後ろを歩いていた。今は楓お母さんと2人で手を繋いで歩いている。天音お姉さんのお屋敷までの短い道のりだけだったが、その時間はとても幸せに思えた。

 

「着いたよ。ここが天音様のお屋敷。エレナの仕事場とそんなに変わらないでしょ?」

 

楓お母さんが指を指した方を見ると、そこには立派な豪邸が建っていた。大きな門には警備員さんが立っていて、中庭を歩いて本邸があるといった感じだ。中庭だけでどれぐらいの広さなんだろう……エレナお母さんのお屋敷も凄いけど、それに劣っていないぐらい立派な建物で、近場に2軒もこんな建物が立っているなんて知らなかったな。ご近所さんからしたらちょっとした観光名所とかになってたりしそうだけどどうなんだろうか……

 

「ホントにお嬢様って感じだね……あれ?エレナお母さんは?」

 

気が付けば先程まで後ろを歩いていたエレナお母さんの姿が見えなくなっていた。

 

「エレナなら先に行ったよ。私達も入ろっか」

 

私と楓お母さんは、大きな門をくぐると中庭を進んで豪邸の方へと向かった。

 

「私も天音様のお屋敷に来るのってすんごい久しぶりだからちょっと緊張しちゃうな」

 

大きな中庭を進みながら楓お母さんが私に話しかけてきた。

 

「そうなの?」

 

「うん。エレナがあんな性格だから滅多にお屋敷から出なかったんだよね。天音様とさゆりはしょっちゅう来てくれたんだけど私達が天音様のお屋敷に行ったのって今日含めて3.4回しかないんだよ」

 

「あぁ……確かにエレナお母さんって引きこもり体質ですよね」

 

まだそんなに長い時間エレナお母さんと一緒にいる訳では無いけれども、この数週間でエレナお母さんの性格はだいたい分かってきた。基本的に面倒臭い事はしないし、基本的には自分から動かない人だ。まぁ楓お母さんと私が絡むと率先的に動いてくれてるから私の中では優しくて綺麗で性格の悪いお母さんだけどね。楓お母さん絡みで何回からかわれたかもうわからないよ……

 

「ふふ、彩葉も大分エレナと仲良くなったもんね」

 

「不本意だけどそうかもね」

 

私達は2人して笑っていた。なんだかんだ言っても私はエレナお母さんの事も好きになっていたみたいだ。まぁ楓お母さんの好きとはちょっと違うけどね。

 

「楓!彩葉!早くなさい!閉めちゃうわよ!」

 

「はーい!今行く!」

 

私達は、玄関の扉を開けて待っているエレナお母さんの元へと走った。

 

扉の先にはメイド服を着たさゆりお姉さんが立っていた。

 

「おはようございますエレナさん、それに楓と彩葉ちゃんも」

 

ペコりと頭を下げながら話すさゆりお姉さん。しかし天音お姉さんの姿が見当たらなかった。

 

「さゆり、天音はどうしたの?」

 

「それがまだ起きてこなくて……私はこのとおり後はメイド服から普段着に着替えればいつでも出れます」

 

玄関にはさゆりお姉さんの荷物と思わしき物が置いてあった。

 

「全くこんな日に寝坊とはね……天音の部屋まで案内して貰えるかしら?」

 

「わかりました。楓と彩葉ちゃんは私の部屋で待ってて貰える?天音の横の部屋だから」

 

「おっけー」

 

そう言うとお屋敷内の広い廊下を真っ直ぐ進んで2階に上がってすぐの部屋の前でさゆりお姉さんは立ち止まった。

 

「ここが天音の部屋で横が私の部屋です。それじゃ悪いけど楓と彩葉ちゃんは私の部屋で待っててね」

 

そう言うとさゆりお姉さんとエレナお母さんは天音お姉さんの部屋へと入っていった。

 

「それじゃ私達はさゆりの部屋で大人しくてよ」

 

「うん」

 

横の部屋の動向が気になったが私は大人しく楓お母さんの言ったことに従ってさゆりお姉さんの部屋の中へと入った。

 

--------------------

sideエレナ

 

「ったく……幸せそうな顔してるのが腹立つわね」

 

天音は大きなベッドでお腹を出しながら幸せそうな寝顔を浮かべていた。天音の性格からして部屋の中は散らかってるものだと思っていたがゴミひとつとして落ちておらず、本や洋服などもしっかりと整理整頓されていた。以外に綺麗好きなのかしらね。

 

「ホントにすみません……」

 

「貴方が謝ることじゃないわよ。それじゃ起こしますかね」

 

「こうなったら中々起きないので多少手荒にしてもらって構わないので」

 

「元よりそのつもりよ。天音、いつまで寝てるのよ飛行機間に合わなくなっちゃうわよ」

 

軽く体をゆすっても天音はうんともすんとも言わなかった。これじゃさゆりちゃんもお手上げよね……

 

「ったく朝だって言ってるでしょ!起きなさい!」

 

私は、天音が大事そうに抱えていた布団を取ると部屋のカーテンを開け日差しがもろに顔に当たるようにしたのだが……

 

「ねぇ……なんでこいつ下着だけなの?普段から?」

 

「これでも寝る時は基本裸だったのを強制させたんですよ……すみませんだらしない所を」

 

「なるほどね」

 

まぁ私もそこら辺に関しては人の事言えないからいいわ。でも天音と同じだったと思うとちょっと嫌だわね……

 

「ちょっと起きなさいよ。あんま寝てると胸握りつぶすわよ」

 

いくら揺すってもうーんうーんと唸るだけで一向に起きる気配がなかった。ホントにめんどくさいわね……

 

「いつもはどーやって起こしてるの?」

 

「えっと……楓には内緒にして貰ってもいいですか?」

 

何故かさゆりは顔を赤くしながらモジモジとしていた。もしかして……

 

「キスでもして起こしてるの?白雪姫なのこいつは?」

 

「ち、違いますよ!ま、まぁそれに近いんですけど……私と天音の結婚式当日も寝坊してちょっとしたやり方で強引に起こしたことがあってそれやったら起きないかなって……」

 

「それで頼むわ。これ以上は私も手出さないと無理だもの」

 

「あの、エレナさん申し訳ないんですけど私の部屋で待ってて貰えませんか?ちょっとエレナさんに見せずらいと言うかなんというか……」

 

まぁそういう事かなとは思っていた。でもそんな事言われたら逆に出ていきたくないよね?

 

「私の性格知ってるでしょ?嫌よ」

 

私は笑顔でさゆりに返事を返した。

 

「ですよねぇ……ホントに秘密でお願いしますよ」

 

「えぇ。月村家当主として約束は守るわ」

 

「はぁ……天音?寝たフリしてるなら起きてよ?いいのねエレナさんの目の前であれやって?……もー!起きてよー!!!」

 

よっぽど恥ずかしいのか最後の最後まで粘るみたいだった。でもこの1時間後には飛行機に乗らなくてはならないとなるとあまりここで時間を使う訳には行かなかった。

 

「さゆり、そろそろ間に合わなくなるんじゃないの?天音の支度もあるでしょ?」

 

「わかりましたよ……はぁ……」

 

そう言うとさゆりは天音が付けていたブラを外して、胸の近くに顔を持って行くと……

 

「ふふ、いやごめんなさい笑っちゃ失礼よね」

 

何故か胸を吸い始めた。ったくどうして私の知り合いにはこんなのばっかなんでしょうかね。

 

『エレナがそれを言うの……』

 

なんだか空耳が聞こえた気がしたが気の所為だろう。それにしてもあの胸腹立つわね。胸も大きいくせに形も綺麗だし、なんで私だけこんな……そう思うと腹がたって仕方がなかった。

 

「さゆり、退きなさい」

 

「え?はい」

 

一心不乱に乳を吸っていたさゆりを天音の傍からどかすと私は、思いっきり胸を引っぱたいた。

 

「いったぁ!!!ちょっと何すんのよ!ってエレナ!?え!?やばい私寝坊した!?」

 

どうやらようやく起きたらしい。私が胸を引っぱたいたせいで天音の胸に綺麗な手の跡がついているのは内緒にしておこう。そう思ったエレナだった。

 

「ったく何時だと思ってるのよ。早く支度してよね」

 

「ごめん……ってかなんで私ブラつけてないの?まさかエレナ……」

 

「さゆりが乳首吸ってたわよ」

 

「さゆりさん!?」

 

珍しく天音が慌てていた。いつも通り笑いながら流すものだと思っていたんだけどね。

 

「だって起きないんだもん!前それで起きたから起きると思って……」

 

「まぁいっかエレナだし。さゆりは向こう着いたらお仕置きね。さてと!5分で支度するから玄関で待ってて。さゆりも着替えちゃいな」

 

「おっけー。ホントに寝坊癖治してよね」

 

「ごめんね。エレナもなんかごめん汚いもの見せて」

 

「ホントよ。次寝坊したらその無駄な脂肪無くなると思いなさい」

 

そう言うと私は、楓と彩葉を連れ出して玄関で2人を待つことにした。天音が言った通り5分もしないうちに乱れた髪を整え、いつもの天音の姿がそこにはあった。

 

「それじゃしゅっぱーつ!」

 

「ホントに元気ですよね天音お姉さん……」

 

天音の変わり者っぷりに彩葉もため息をついていた。私達5人は天音の使用人の車に乗り込むと羽田空港へと向かった。

 




楓「彩葉そっちに行かせなくてよかった……天音お姉さんの様子見に行かない?ってずっとそわそわしてたんだよね」
エレナ「あの子にしては珍しいわね。まぁ他の人の家なんて全然行ったことないだろうし興味本位だろうね。もしくはあの子がスーパーむっつりでこの展開読んでたのかもよ」
楓「彩葉をエレナと一緒にしないでよね。あ、彩葉来たからこの話はここで終わりね」
彩葉「なんの話ししてたの?」
楓「エレナお母さんが変態でどうしようもない人だよねって話だよ」
彩葉「また楓お母さんに変なことしようとしたら許さないからね」
エレナ「いつ、どこで私が楓に変なことしたのよ?」
彩葉「結婚する前の大学の夏休み。更衣室で発情したんでしょ?天音お姉さんが言ってたよ」
エレナ「……ちょっと天音殺ってくるわ」
楓「全くもう……次回は沖縄入りです!良かったら感想評価なども宜しくお願いします!」
彩葉「お願いします!」


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羽田発沖縄便!

天音お姉さんのメイドさん?でいいのかな。その人の車に乗ること30分ほどが経った。

 

「彩葉ちゃん向こう着いたら1番に海行こうね!せっかくの沖縄だもん。海行かなきゃ損だよ!」

 

「そうですね。私も楽しみです」

 

前に座っている天音お姉さんが私に話しかけてきた。相変わらず笑顔が素敵な人で、ニコニコ笑っていた。一方こちらの2人のお母さんはと言うと……

 

「すぅ……すぅ……」

 

「んー……楓様ぁ……」

 

楓お母さんは規則正しい寝息をたてながら私の左で寝ていて、エレナお母さんは訳の分からない寝言を話しながら寝ていた。もしかしたら二人とも昨日あまり眠れなかったのかな?かく言う私も全然眠れなかったんだけどね。

 

「ん?天音お姉さん何してるんですか?」

 

天音お姉さんは携帯をこちらに向けながらニヤニヤと笑っていた。

 

「ん?旅先の1ページだからね。可愛い楓ちゃんの寝顔と普段は見れないようなエレナの寝顔でも記念に撮っておこうかなって。ほら彩葉ちゃんももっと楓の方よって。寄せが甘いよ!今寝てるんだから腕に抱きついちゃいなよ」

 

なんだかこの人には逆らえないんだよな……それに今は楓お母さん寝てるんだしそのぐらいならいっか。

 

私は楓お母さんの腕に自分の手を重ね、ちょこんと体を預けた。温かいし柔らかい。いつまでも体を預けていたくなるような感覚に私は駆られていた。

 

「ホントに好きなんだね。今すんごい幸せそうな顔してるよ彩葉ちゃん」

 

「当たり前ですよ。私に色んなことを教えてくれて、何より居場所をくれた人です。好きにならないわけないじゃないですか」

 

「ふふ、じゃあエレナお母さんは?」

 

「んーと……ドMでちょっとバカだけどなんだかんだ優しいお母さん……ですかね。って痛い!なんで叩くの!」

 

「目が覚めたと思ったらなんか彩葉が楓に抱き着きながら私の悪口言ってるんですもの。叩かない方がおかしくないかしら」

 

いつ目を覚ましたんだろうか。気が付けば先程まで寝言を垂れ流していたエレナお母さんが目を開けてこちらを見ていた。

 

「あ、そーだ天音。もう1枚撮って欲しい写真あるんだけどいい?」

 

「え?別にいいけど」

 

「ありがと。彩葉、おいで」

 

エレナお母さんがトントンと自分の膝を叩いていた。まさかそこに座れと……?私が少し嫌な顔をしたからだろうか。エレナお母さんが私の耳元で一言呟いた。

 

「パンツ」

 

「はい……」

 

ホントにあの時ちゃんと楓お母さんに返しに行っていればこんな事にならなかったのに……え?今は、あのパンツどこに置いてあるかって?それは内緒です。私は仕方なくエレナお母さんの膝の上に座った。

 

「偉い子ね」

 

私の髪を撫でながらエレナお母さんは呟いていた。

 

「全く……少しだけだからね」

 

前に膝に座った時に抱き心地が良かったのかは知らないが、どうやらエレナお母さんはこれをするのが好きなみたいだ。なんだか幸せそうな顔してるんだよね。

 

「ホントにエレナに懐いてるんだね。なんだかそうしてるとホントの親子みたいだよ。顔もそっくりだし大人になったら彩葉ちゃんもエレナぐらいの美人さんになるんじゃないかな」

 

1枚写真を撮ると天音お姉さんは笑いながら話していた。

 

「エレナお母さんぐらい美人になれたらホントに嬉しいですけどね。あ、でもお胸はもう少し欲しいかもです」

 

「ふふ、間違いないね」

 

「いーろーはー!」

 

「痛い痛い痛い!ごめんてば!」

 

私はエレナお母さんから頭をポンポンと叩かれていた。

 

「天音、エレナさんそろそろ着くみたいですよ。楓起こしてもらってもいいですか?」

 

「あら、早いわね。彩葉、楓起こしてもらえるかしら?」

 

エレナお母さんは、私を膝の上から降ろすと楓お母さんの横にぽつりと座らせた。

 

「楓お母さん、そろそろ着くみたいだよ」

 

「ん……ごめん寝ちゃってたみたい……ふぁーあ」

 

楓お母さんは眠たそうな目を擦りながら小さくあくびをしていた。ホントに可愛いなぁ……その一つ一つの仕草が愛おしくして仕方がなかった。

 

「昨日眠れなかったの?」

 

前の席のさゆりお姉さんが楓お母さんに声をかけた。

 

「んー……ちょっと今日の事考えてたら中々眠れなかったんだよね。彩葉がどんな風にしたら楽しんでくれるかな?とか考えてたらもう朝だったんだよね」

 

白い歯を見せながらはははと楓お母さんは笑っていた。私の事を考えていてくれたんだと思ったら嬉しくて仕方がなかった。

 

「良かったじゃない」

 

小声でエレナお母さんが耳打ちしてきた。

 

「うん」

 

私は少し顔を赤らめながらエレナお母さんに返事を返した。

 

「着きましたよ天音お嬢様。ここからそこの階段を登って行けばすぐに電車で言うところの改札口がありますので」

 

「ここまでありがとね。それじゃ皆行こっか」

 

「ありがとうございました」

 

「あ、ありがとうございました」

 

私は楓お母さんの後に続いてメイドさんにお礼を言った。

 

車から出てすぐに耳をつんざくような轟音が頭上から響いた。

 

「うわぁ……これが飛行機……こんなに近くで見たのは初めてかも」

 

「私も飛行機に乗るのは初めてだよ。人多いと思うから私から離れちゃダメだからね」

 

「わかった」

 

楓お母さんは、私の右手を掴むと空港の中に入っていく天音お姉さん達に続いた。

 

--------------------

 

『7:49分羽田発、沖縄行きご搭乗のお客様は5番ゲートまでお願いします。プレミアムメンバーの方をお先にお通ししますのでプレミアムメンバーの方はお早めにお集まり下さい』

 

受付を済ませ、私達5人はロビーの椅子で座っていた。私はぼーっと空港内に止まっていた飛行機を眺めていた。こんな大きい機械が空を飛ぶんだなぁ……本当に外に出てきてたくさん発見があって飽きない。本の中だけじゃ分からないものがたくさんあるんだなとしみじみ痛感していた。

 

「あ!皆早く!今のアナウンス私達だよ!」

 

「え?貴方いつからプレミアムメンバーなんかになってたのよ」

 

「お母様の名前借りたのよ。せっかくだから席ぐらい貸切クラスで行こうかなって。私達以外の人は一般だからプレミアムメンバー席は貸切だよ」

 

「これだからお嬢様は……」

 

「エレナだって人の事言えないでしょ……ほら皆行った行った!」

 

天音お姉さんの声と共に私達は、飛行機の搭乗口へと歩いて行った。

 

「こんにちは。チケットはこちらに。良い旅を」

 

事務的な言葉を話すお姉さんに一礼して私は飛行機の中に入っていった。

 

「彩葉、段差あるから気を付けてね」

 

「うん」

 

そしてついに人生初となる飛行機内へと足を踏み入れた。

 

「良かったら飴どうぞ。お母さんと旅行かな?楽しんできてね」

 

キャビンアテンダントさんかな?エレナお母さんには劣るけれども綺麗な人だった。

 

「ありがとうございます」

 

私はペコりと一礼して飴を受け取った。

 

「さぁ好きなとこ座っていいからね!」

 

「うるっさいわね。好きなとこ座っていいからねって8席しかないじゃないのよ」

 

貸切と言われていた席は全部で8席。前から3.3.2と別れていた。

 

「私とさゆり1番前ね!」

 

真っ先に天音お姉さんが前の3席を陣取った。残りは3と2だけど……私は少しエレナお母さんに意地悪をしたくなった。

 

「じゃあ私と楓お母さん1番後ろの2席に座りますね。楓お母さん、1番外が見えるここじゃダメかな?エレナお母さんどうせ寝ると思うし」

 

そう言うと楓お母さんは少し驚いていたが、こう返事を返した。

 

「彩葉の初めての旅行だもんね。いいよ。エレナはどうせ無関心だしせっかくだから見やすい位置に座ろっか!」

 

「うん!」

 

「いい性格してるわねあんた……」

 

「エレナお母さんの娘ですから」

 

「まぁいいわ。そろそろ離陸よ。皆席に着いて」

 

エレナお母さんがそう言うと3分もしないうちに機内アナウンスが流れ始めた。

 

『これより羽田発沖縄行き離陸致します。シートベルトの着用を宜しくお願いします』

 

ついに離陸の時。この時楓お母さんには言えなかったがガチガチに緊張していた。それがまさかあんな事になるなんて……




エレナ「よくも私を寂しく1人席にしたわね」
彩葉「だってすぐ寝るし関係ないでしょ?それにアタックの仕方については何も言われてないもん」
エレナ「楓も楓よ。こんなに綺麗なお嫁さん置いて一人娘に夢中にならなくなったっていいじゃない。違う?」
彩葉「ふふ、エレナお母さん妬いちゃって可愛いんだから」
エレナ「私みたいな性格になってきてるわよ」
彩葉「親子ですから」
エレナ「まぁそれもそうね。って事は将来ドMだけどいいかしら?」
彩葉「それだけは絶対に嫌だ」
エレナ「………」


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彩葉の苦手な事

悲報

作者コロナ説

体調悪いなりに頑張って書きました……いつも以上に表現力など酷くなっていたらご指摘頂ければと思います……

追記
評価バーに色がつきました。ホントに評価入れてくださった方ありがとうございます。これからも頑張っていくので宜しくお願いします!


ポンとシートベルトのランプが点灯した。

 

「顔色悪いけど大丈夫?」

 

「うん」

 

実は全然大丈夫では無かった。初めての飛行機で緊張しないわけがなかったのだ。機内の少しの揺れでも怖くて仕方がなかった。

 

「これより飛行機が離陸します。離陸の際揺れますのでシートベルトの着用を宜しくお願いします」

 

そう機長が言うと、飛行機は動き始めて空へと向かっていった。

 

「楽しみだね沖縄!彩葉?ホントに大丈夫?」

 

「!?」

 

離陸する時特有のふわっとした感じに私は、耐えられなくなり楓お母さんに抱きついた。何この気持ち悪い感じ……なんか宙に浮いてるっていうのか、体が浮き上がってる気がして気持ち悪い……それに窓の方を見るとみるみる私達が住んでいた街が小さくなり、自分達が空の上に飛んでいるということを主張しているみたいだった。

 

 

怖い。私が今思っている感情はこれだった。下を見るだけで何故だか鳥肌が止まらなく泣きそうになっていた。

 

「楓お母さん……手繋いでもいい?」

 

「え?どうしたの?どこか痛い?」

 

「ごめんなさい怖くて……」

 

私はたまらず手を繋ぐだけでは我慢出来ずに楓お母さんの腕に抱き着いた。

 

「大丈夫だよ。安心するまで手離さないからね」

 

楓お母さんは、私の背中をゆっくりと擦りながら優しく言葉をかけてくれた。

 

「彩葉どうかしたの?」

 

「ちょっと離陸にびっくりしちゃったみたい。少ししたら落ち着くと思うし多分大丈夫だと思う。私が見ておくから心配しないで」

 

「そう……何かあったら言ってね。酔い止めとかは持ってきてるからさ」

 

「わかった」

 

まさか高い所が怖かったなんて……楓お母さんと2人並びに座ってたくさんお話しようとしたのにこれじゃ逆効果だよ……

 

「怖くないからね。大丈夫だから心配しないで」

 

「ごめんね。折角の旅行なのに……」

 

「ううん。彩葉にも苦手なものがあるって新しい1面見れたしそんな事ないよ。高い所もしかして苦手?」

 

「そうみたい……さっきから下見ると鳥肌止まらなくて」

 

「誰にでも苦手な事1つぐらいあるからそんなに落ち込まなくても平気だよ。それに私が付いてるんだから怖くないでしょ?」

 

「うん。楓お母さんの手握ってると安心する。しばらくこのままでもいい?」

 

「彩葉が落ち着くまで絶対離さないから安心して」

 

楓お母さんは、私に声をかけている時も背中をさすることをやめずに優しく語りかけてくれていた。

 

私は、震える体を楓お母さんに抱きつくことで安心感を得ていた。5分もすれば震えていた体が楓お母さんのお陰でほとんど離陸前の時と変わらない体調に戻っていた。

 

「少しはよくなった?」

 

「うん。ホントにごめんね迷惑かけちゃって」

 

「そんなに謝らなくても大丈夫だよ。そんな泣きそうな顔しないで」

 

楓お母さんは、まだ心配そうな顔で私を見つめていた。その時、機内のシートベルト着用を義務付けるランプが消えた。どうやら機体が安定したみたいだ。

 

「彩葉、大丈夫?」

 

「楓お母さんがずっと近くにいてくれたから大丈夫だよ。ごめんね慌てさせちゃって」

 

すぐにエレナお母さんがシートベルトを外して私の方に駆け寄ってきてくれた。ホントに二人とも優しいんだなと改めて認識させられる。

 

「はぁ……全く。彩葉、1つ私と楓と約束して貰えるかしら?これは大事な事だからちゃんと聴くこと。いいわね?」

 

「うん」

 

珍しくエレナお母さんが真面目な顔をして私に話しかけた。一体何の話だろうか……

 

「前にも言ったけど彩葉はまだまだ小さいんだから迷惑かけたっていいの。私と楓が彩葉ぐらいの時なんて迷惑かけてばかりだったもの。それとごめんなさいって言われるよりありがとうって言われる方が私達は嬉しいんだからね?分かった?分かったらそんな悲しそうな顔しないの。貴方には笑顔が1番似合うんだからね」

 

エレナお母さんは優しく微笑みながら私の髪を撫でてくれた。それを聞いていた楓お母さんも笑っていた。

 

そっか……そうだよね。ごめんなさいよりありがとう、か。謝られるよりはお礼言われる方が確かに私も嬉しいしね。

 

「分かった。ありがとうエレナお母さん、楓お母さん。そう言えば天音お姉さんとさゆりお姉さんは?」

 

離陸した時から2人の全く声が聞こえてこないのに私は気付いてエレナお母さんに訪ねた。

 

「2人なら寝てるわよ。どーして?」

 

「よかったぁ……ちょっと恥ずかしいところ見せちゃったからさ」

 

「帰りにまたバレるんじゃないかしら?とにかく今のうちに彩葉は窓際の席から離れなさいな」

 

「そっちの方がよさそうだね……楓お母さん、一緒にエレナお母さんの横行こ」

 

私は、楓お母さんの指をちょこんと持つと前の席に移動した。窓際にエレナお母さん、その横に私、その横には楓お母さんが座ることになった。

 

「ほら彩葉、手貸しなさい」

 

「え?うん」

 

エレナお母さんから手を貸せと言われたので私は、手を差し出した。

 

「これで怖くないでしょ。楓も逆持ってて上げたら?」

 

「そんな怖がりじゃないもん!大丈夫だって!って楓お母さんまで手繋がなくても大丈夫だってば!」

 

楓お母さんは笑いながら私に手を重ねてきた。私が声を荒らげたのがおかしかったんだろう。

 

「私を1人座席にしようとした罰よ。沖縄着くまでこの手離さないからね」

 

そう言うとエレナお母さんは目を閉じて寝る体勢に入ってしまった。楓お母さんの方を見ると同じように静かに目を瞑っていた。

 

「私も寝ようかな……空見るとまた怖くなりそうだし……」

 

私もしばらく目を瞑って静かにしていたら気が付けば意識は夢の中へと落ちていった。

 




天音「彩葉ちゃんにも可愛いとこあるんだね。高所恐怖症かぁ。今度お屋敷の屋上連れて行って上げようかな」
さゆり「やめてあげなよ……やっぱ誰にでも苦手なものってあるよね。私もホラーとかダメだし小学生の頃は天音によくトイレ着いてきて貰ってたっけ」
天音「そんな事もあったね。久々に着いてってあげよっか?」
さゆり「中まで入ってきて碌でもない事するの見え見えだから絶対やだ」
天音「っち」
さゆり「今舌打ちしたよね……まぁいいや。作者が体調不良でしばらく更新出来ないかもです。出来るだけ早めの更新するようには言っておいたので気長に待って頂けると幸いです」


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ホテル到着!

体調くそ悪い原因は尿膜管遺残というものらしいです……成人の数パーセントにしか見られないはずなのになんでそんなものになるかな……更新ペース遅れてしまってホントに申し訳ありませんでした。


「彩葉起きなさい。着いたわよ」

 

「ん……あれ、ここは……」

 

エレナお母さんに体を揺すられて目を覚ました。

 

「何寝ぼけてんのよ。沖縄着いたわよ。それと貴方が抱き着いて離さないから楓が困ってるから離してあげて」

 

「え?」

 

私はエレナお母さんに言われて、自分の両腕が何かを掴んでいることに気が付いた。

 

「おはよ彩葉。体調は大丈夫?」

 

「え、えっと……うん」

 

私は知らない間に楓お母さんに抱きついていたらしい。怖さによるものかそれとも好きな人に抱き着きたいという本能から来るものかは分からないがとても恥ずかしかった。

 

「それじゃ行こっか!」

 

「うん!」

 

楓お母さんは私の手を取って飛行機の出口の方へと歩いて行った。ずっと座っていたからか、立ち上がると体が少しフラフラする感じがあった。

 

出口へと行くとエレナお母さん達が待っていた。

 

「もう大丈夫そうね。これからの予定確認するから集まってちょうだい」

 

エレナお母さんはカバンからiPadを取り出すと、当日の予定のメモを私達に見せた。

 

「まずホテルにチェックインして荷物を置いて、そこで水着に着替えてそのまま海に行きましょうか。ホテルから海は目の前だから歩いて5分もかからないわ。夜は浜辺でバーベキューって感じでどうかしら?」

 

「いいんじゃない?さゆりと楓ちゃんと彩葉ちゃんもそれでいい?」

 

「賛成!」

 

「私もそれで大丈夫です。彩葉もそれでいい?」

 

「うん!」

 

私達がそう返すとエレナお母さんと天音お姉さんは空港の出口を出るとタクシー乗り場の方へと向かった。

 

「タクシーで15分ぐらいでホテル着くと思うよ。ホテルからの眺めは絶景だから期待しててね!」

 

自信満々で天音お姉さんが私を見ながら言った。

 

「楽しみです」

 

私は笑顔で天音お姉さんに返事を返した。

 

タクシー乗り場で待つこと数分、タクシーが到着すると、私達はトランクに荷物を入れ、車の中へと入っていった。

 

「どちらまで行かれますか?」

 

「シーサイドホテルまでお願いします」

 

天音お姉さんがタクシーの運転手に伝えると運転手は車を走らせた。

 

「お母さんと旅行かい?楽しんでいってね」

 

タクシーの運転手さんはミラー越しに私を見て話した。

 

「はい。ありがとうございます」

 

「お父さんはお留守番かい?お土産買っていってあげなね」

 

「えっと……はい」

 

まぁ普通の人はお父さんがいると思うよね。タクシーの運転手さんは悪気があって聞いてるわけじゃないんだし素直に返さなきゃだよね。しかし、横に座るエレナお母さんを見ると、不機嫌そうな顔でタクシーの運転手さんを睨みつけていた。相変わらずおっかない人だなこういう所は……

 

「ちょっとエレナお母さん目が怖いよ」

 

私はたまらずエレナお母さんの耳元でタクシーの運転手さんに聞こえないようにエレナお母さんに話しかけた。

 

「え?あーごめんね。あまり顔には出してないつもりだったんだけど」

 

「バリバリ顔に出てるから……エレナお母さんわかりやすいからね?」

 

「気を付けるわ。そんな事より左側見てみなさい」

 

エレナお母さんに言われるがままに私は左側の窓から外の景色を見た。

 

「うわぁ………綺麗……海ってこんなに綺麗なんだね」

 

タクシーの窓から外を見るとそこには一面の海が広がっていた。太陽の光に反射して水面はキラキラと光り輝いていた。

 

「そんなに喜んでくれるなら連れてきて良かったよ。あ、あそこが泊まるホテルね」

 

天音お姉さんが指をさした方を目視するとそこには、海岸沿いに大きくたっているホテルがあった。いったいここに泊まるのにいくらかかるんだろうか……私は気になったが、お金のことは余り聞かない方がいいって本に書いてあったから聞くのをやめ、言葉を飲み込んだ。

 

「到着しました。お嬢ちゃん楽しんできてね」

 

「ありがとうございます」

 

最後まで愛想のいい運転手さんだった。沖縄の人は皆あんな感じなのかな?

 

「それじゃ行くわよ。ホテルの部屋割りは天音とさゆり、私と楓と彩葉の3人ね。2人部屋だけど彩葉の背丈なら私か楓と同じベッドで寝れると思うから3人部屋は取らなかったわ。それで大丈夫よね彩葉?」

 

「え?うん大丈夫だよ」

 

エレナお母さんの意図はだいたい読めたが私は、何も問題ないよ。といった風に真顔で返事を返した。

 

「そ。それじゃ荷物置いて着替えて裏口に集合しましょ。幸い夏休み前ってこともあってそんなに人はいなさそうだし」

 

「おっけー!さゆり行こ!」

 

「あー!ちょっと待ってよ天音!鍵もらわなきゃ入れないってばぁ!」

 

ダッシュで部屋へ行こうとする天音お姉さんを必死にさゆりお姉さんが止めていた。

 

「ふふ、相変わらずだねあの二人」

 

私は2人のやり取りを見て笑ってしまった。

 

「高校生ぐらいからあんな感じだから私達は見慣れちゃったよ。それじゃ私達も行こっか!」

 

「うん!」

 

私は楓お母さんの手を掴むとホテルのフロントへと向かった。そう言えば前に比べたら大分自然に楓お母さんと手を繋げるようになったかな。親子だから当たり前のことなんだけど私にとってはとても大切な事に思えた。

 

「エレナ何してるの?早く行こうよ」

 

「ん?あぁごめんなさいちょっと考え事してたわ。今行く」

 

何を考えていたんだろうか?どーせ私への嫌がらせか何かだろうし放っておいていいよね。

 

この8時間後エレナの考えていた事を知ることになるとはいざ知らず……




天音「彩葉ちゃん大丈夫かな?多分告白するならこの旅行中のどこかだよね」
さゆり「そう言えば期限つけてたもんねエレナさん。しっかり自分の気持ち伝えられたらいいんだけど……」
天音「あの子なら大丈夫だよ。しっかりしてるもん。ほらさっさと着替えなよ。遅れちゃうよ?なんなら私が着替えさせてあげようか?」
さゆり「結構です」
天音、さゆり「「それではまた次話でお会いしましょう!」」


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沖縄旅行(前編)

お久しぶりです。世の中コロナで大変なことになってますね……少しでも自分の作品を読んでくださる方の暇つぶしにでもなれたらと思います。自分は今のところ元気ですがいつ感染するか分からないのて正直不安でたくさんです……


「えっと、1203号室は……あったここだね」

 

私達の部屋はこのホテルの最上階にあった。ちなみに天音お姉さん達の部屋は私達の隣の1204号室らしい。

 

中へ入ると2つ大きなベッドが置かれていて外には海を見ながらお酒などが飲めるテラスがあった。

 

「中々いい部屋じゃない。それで彩葉は私と楓どっちのベッドに入る?このぐらい大きければ文句ないでしょ?」

 

ベッドの大きさはエレナお母さんぐらいのスタイルの人が2人寝っ転がってもスペースが余るぐらい大きなベッドだっだ。狭かったら体が密着してしまいそうで恥ずかしかったけどこんなに広ければ恥ずかしがることなんてないかな。

 

「もちろん楓お母さんのベッドに入るよ。寝てる間になんかされそうだもん。えっと、楓お母さんは私と一緒のベッドでも大丈夫?」

 

私が少し恥ずかしがったかは分からないけど楓お母さんは嬉しそうに私に返事を返し、私の事を抱きしめた。

 

「遠慮なんてしなくていいんだよ。いっぱいお喋りしながら寝ようね」

 

「うん……」

 

温かい……私はこの温もりにずっと包まれていたかった。私も思い切って楓お母さんに体を預けようとしたのだが……

 

「はいはいあんまりイチャイチャしないの。天音達待たせちゃうでしょ」

 

「焼きもち妬かないの。それじゃ着替えちゃおっか。水着は持ってきてるよね?」

 

「うん」

 

エレナお母さんの意地悪……

 

「なんか言いたげな目してるじゃない。何かあったのかしら彩葉ちゃん?」

 

いつもの人をからかう時の顔。この顔もそろそろ見飽きたかな……

 

「なんでもないよ。エレナお母さんだけトイレで着替えてきてよ」

 

「はぁ?なんで私が1人孤独にトイレ行かなきゃいけないのよ。その歳で恥ずかしがることないでしょ?」

 

「まぁまぁ。私達後ろ向いておこうか?」

 

「ううん大丈夫。ちょっとエレナお母さんに冗談言っただけだから。一緒にお風呂だって入ってるんだから普通に着替えられるよ」

 

内心は全然大丈夫じゃないんだけどね……

 

私は、楓お母さんに言葉を返すと旅行前に買って貰った水着を鞄から取り出した。

 

「やっぱりちょっと派手だと思うんだけどな……」

 

エレナお母さんが楓お母さんに無理言って選んだとか言ってたけど5歳の子に黒いビキニってどーなんだろ……普通は可愛らしいピンクのワンピースみたいな水着なんじゃないのかな?いや私海なんて言ったこともないし見たことも無かったら、私と同い年ぐらいの子がどういうの着ているのかなんて知らないけどさ。まぁせっかく買って貰ったんだから文句言うのも悪いし黙って着替えよっと。

 

「彩葉後ろの紐結んであげようか?大丈夫?」

 

上着を脱いだところで楓お母さんから声をかけられた。楓お母さんの方を見ると私と同じように上着を脱いでいて下着だけの姿になっていた。

 

「だ、大丈夫。1人で出来るよ」

 

「そっか。もし駄目だったら言ってねやってあげるから」

 

「ありがと」

 

見てないふり!見てないふり!私は、前に洗濯物からくすねた楓お母さんの下着の事を思い出してしまった。結局あの下着も返せてないんだよね……返せるタイミングを完璧に失っちゃったから今度エレナお母さんのタンスにこっそり紛れ込ませておこうかな。

 

私は、楓お母さんとエレナお母さんに背を向けると、下着を脱いですぐに用意していた水着に着替えた。少し心配していたビキニの紐だったがなんの苦労もなく結べてほっとした。

 

「楓お母さん着替え終わった?」

 

「終わったよー。彩葉すんごく似合ってるよ!やっぱりエレナと同じで黒の水着似合うね」

 

「ありがと。楓お母さんに言われると悪い気はしないかな。楓お母さんもすんごく綺麗だよ」

 

楓お母さんの水着は白のビキニで首にはストールを巻いていた。

 

「ふふ、ありがとう。これもエレナが選んでくれたんだよ?前よりはファッションセンスまともになってくれたみたいで私も一安心したよ」

 

「全く失礼しちゃうわね。私だって真面目にコーディネートすればまともよ」

 

そう言うエレナお母さんは、私とお揃いで黒のビキニを着ていた。

 

「うん。全員綺麗で可愛いわね。それじゃ行きましょうか。彩葉、羽織るもの忘れないでね。ホテル内その格好でウロウロするわけいかないからね」

 

「あ、うん!そうだよね。私達の他にもお客さんいるもんね」

 

「え?いないわよ?」

 

「はい?あーたまたま空いてたのか」

 

「貸し切ったのよ。大浴場から休憩所まで私達しかいないからね。ホテルのスタッフさんも女性しかいないみたいよ。私が言いたいのは体冷やすといけないから羽織るもの持っていってねって言ったのよ」

 

エレナお母さんは顔色一つ変えずに私に返事を返した。

 

「あ、そう……少しは慣れたつもりだったけど相変わらず大胆というかなんというか……まぁそれなら安心だね」

 

「そいこと。行くわよ」

 

私達は天音お姉さん達との待ち合わせ場所であるホテルのロビーへと向かった。

 

「あ!やっときた!おっそいよぉ!」

 

「仕方ないじゃないこっちは彩葉もいるんだからね?分かってあげてよ天音ちゃん」

 

「そうだったね……楓お母さんの前じゃ恥ずかしいもんね。エレナちゃん悪口言ってごめんね」

 

気持ち悪いなこの2人……いい歳したお姉さん2人の会話には見えないよ。

 

「………バカやってないで早く行こーよ。楓お母さん一緒に行こ!」

 

「もーそんな慌てないの!」

 

私は、楓お母さんの手を取って砂浜へと駆け出した。

 

「凄い……こんなに海って綺麗なんだね」

 

「神奈川県の海はこんなに綺麗じゃないんだけどね。沖縄だからこんなに綺麗なんだよ。泳ぐ前に先にシートとか敷いちゃおっか。彩葉、手伝ってくれる?」

 

「うん!」

 

楓お母さんは、鞄からまずレジャーシートを取り出すと砂浜の上に広げた。大きなシートで私達5人が座るのには十分なスペースがあった。

 

「そっちの角持ってくれる?そうそうそんな感じ。そしたら置いて重りでカバン置いて。おっけー!そしたら後はやっておくから日焼け止め塗ってていいよ」

 

「はーい」

 

私は楓お母さんの指示に従ってシートを敷くと日焼け止めを手に取って塗ることにした。日焼けしたらお風呂の時痛いって言うしちゃんと塗らなきゃだよね。

 

「背中塗ってあげるわよ。やっぱり沖縄ってだけあって綺麗ね」

 

「びっくりした。いつの間にいたの?」

 

「あなた達がテント張ってる時にはいたわよ。天音とさゆりももう来ると思うわ。ほらうつ伏せになりなさいな」

 

「それじゃお願い」

 

私はシートにうつぶせになった。

 

「キャッ!つめた!ってなんで紐ほどくの!?」

 

思っていたより日焼け止めクリームが冷たくて変な声を出してしまった。それとエレナお母さんが突然ビキニの紐を外してきた。

 

「紐のとこ泳いでるうちにズレるんだから、紐の下も塗っておかなきゃダメでしょ。ってか彩葉も可愛い声出せるのね」

 

うつぶせになっているからエレナお母さんの表情は見えないがいつもみたいにニヤニヤとした顔をしているんだろうなと思った。

 

「別に可愛くないし。恥ずかしいから早く塗ってよ」

 

「はいはい」

 

時々エレナお母さんの手つきがいやらしい感じがしたが、数分経った後にもういいわよ。と言われ解放された。

 

「ありがと。エレナお母さんは日焼け止め塗らなくていいの?」

 

「私は楓に塗ってもらうから大丈夫よ」

 

「あっそ。あ、天音お姉さんこっちです!」

 

ホテルの方から歩いてくる天音お姉さんとさゆりお姉さんが見えたので私は声をかけた。それにしても綺麗な2人が手を繋ぎながら浜辺を歩いていると絵になるなぁ……天音お姉さんは、透明感のある白のビキニ。さゆりお姉さんは、水色のビキニにパーカーを羽織っていた。2人共とても綺麗で男のお客さんがいたら目を奪われていたんだろうなぁと思う。学生の頃とかエレナお母さんも女の子のファンがいたってぐらいだしあの2人ももてたんだろうな。

 

「潮風が気持ちいいね彩葉ちゃん。日焼け止め塗ってもらった?」

 

「はい。エレナお母さんに塗ってもらいました。今楓お母さん達も塗り終わるのでそれ終わったら皆で入りませんか?」

 

「そーだね!エレナに早くしてって言ってきてよ彩葉ちゃん」

 

「分かりました」

 

私は様子を見にテントで日焼け止めを塗っている2人に話しかけようとしたのだが……

 

 

「ちょっとエレナ!触り方がおかしいって!場所考えてよね!」

 

「別にいいじゃない私達しかいないんだから。怒る楓も可愛い」

 

多分日焼け止め塗ってあげるからうつぶせになりなさいって私と同じようにしてたんだろうけど、エレナお母さんは楓お母さんに馬乗りになりながら無駄なところにまで日焼け止めを塗っているみたいだった。私達しかって言ってるけど娘の私も天音お姉さんもさゆりお姉さんもいるんだけど……

 

「ちょっとエレナお母さん!楓お母さん嫌がってるじゃんやめなよ」

 

「ん?これが嫌がってるように見えてるなら彩葉はまだまだね。こんなんでも楓はっていたぁ!何するのよ楓」

 

私が来たからだろうか、楓お母さんは飛び起きてエレナお母さんの頭を叩いていた。

 

「はぁ……ホントにエレナは場所考えないんだから彩葉ごめんね。海行こっか」

 

「全く……子供じゃないんだから少しは考えてよね二人共。エレナお母さんは荷物番でもしてたら?」

 

「私も行くに決まってるでしょ。そうと決まれば善は急げよ」

 

そう言うと誰よりも早く駆け足で海の中へとエレナお母さんは入っていった。

 

「もしかして1番楽しんでるのってエレナお母さんなのかな?」

 

「そうかもね。彩葉が来て初めての旅行だからハメ外してるのかも」

 

「まぁ外しすぎないようにね……楓お母さん私達も行こ」

 

「そーだね!天音様!さゆり!先行きますね!」

 

「はーい」

 

楓お母さんは、天音お姉さんとさゆりお姉さんに声をかけると私の手を取って海の方へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 




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沖縄旅行(中編)

「彩葉私から手離しちゃダメだからね!浅くても潮の満ち干きで海に引っ張られたら戻ってこれなくなっちゃうよ」

 

いつにもまして真剣な表情で楓お母さんは私に話しかけた。それにしても綺麗な海。水が透けて海水の中に入っている私の足が透けて見えるほどだった。

 

「大丈夫だよ楓お母さん。私こう見えても泳ぎは上手いんだよ?施設の中で小学六年生の子にも負けなかったんだから」

 

「プールと海はぜんっぜん違うから甘く見ちゃダメ!分かった?」

 

「はーい」

 

「随分厳しいのね。私が見てるから平気よ」

 

「何かあってからじゃ遅いんだから。キャッ!?もーやったなぁ!」

 

厳しい雰囲気を壊すようにエレナお母さんが楓お母さんに水をビシャビシャとかけていた。正直ちょっと気にし過ぎだよ。って思っていたから助かった。

 

「ほら彩葉も!」

 

「冷た!やったなぁ!」

 

エレナお母さんから容赦なく海水をかけられて顔がびしょびしょに濡れてしまった。それにしても皆楽しそう。天音お姉さんとさゆりお姉さんは砂浜に座りながら楽しく話しているみたいだった。楓お母さんとエレナお母さんは水をかけあっては笑っていた。

 

「ねぇ楓お母さん。少し浮き輪外して泳いでもいい?沖の方には行かないからさ」

 

「ダメだよ。今でも足ついてないでしょ?」

 

「楓お母さんに見て欲しいの!私がちゃんと泳げるよって」

 

「んー……」

 

「別にいいじゃない少し泳ぐぐらい。私が彩葉に並走するから大丈夫よ。それに貴方泳げないから彩葉に嫉妬してるでしょ?」

 

「はぁ?そんなんじゃないよ。ホントに何かあったら困るからだよ。まぁエレナが見てくれるっていうなら大丈夫かな」

 

「って言うことよ。よいしょっと。楓、浮き輪持ってて。ほら彩葉私に掴まってて。もう足ついてないんだから」

 

「うん。大丈夫だよ」

 

そんなに怖いものなのかな?別に泳げるんだから大丈夫だと思うけど。妙に過保護な2人のお母さんに私は少し驚いていた。私は、エレナお母さんに壊れ物を持つかのように丁寧に抱かれていた。

 

「それじゃ離すわよ。危ないと思ったらすぐ私に抱きつくこと?いいわね?」

 

「分かってるよ」

 

そう言うと拘束されていた体は解放され、私は自由に泳ぎ始めた。

 

「気持ちいい!凄いよ!潜ったら水の中綺麗だからエレナお母さんの足だってしっかり見えたんだから!」

 

私は、沖縄の綺麗な海に感動していた。本で読んだ知識では大抵の海は濁っていて目を開けてもほとんど何も見えないと聞いていたからだ。

 

「ふふ。そんなにはしゃがないの。ホントに泳ぎ上手なのね彩葉。楓なんてほとんど泳げないのに」

 

「そーなんだ。あ、楓お母さん手を振ってるよエレナお母さん」

 

少し離れたところで心配そうに見守っていた楓お母さんが私達に手を振っていた。私達はそれに気が付くと手を振り返した。

 

「楓だけ1人で可哀想だから一緒に迎えに行きましょうか。浮き輪があればあの子も大丈夫だと思うし」

 

「うん!」

 

私とエレナお母さんは、砂浜近くで待っていた楓お母さんを迎えに行って再び沖近くまで泳ぎに行った。

 

「ホントに上手なんだね彩葉。どこで泳ぎ覚えたの?」

 

「ずっと1人だったから本を読んでるだけだったけど泳ぎ方とかは勉強してたんだ。それで家で1人でお風呂入った時とかに練習してたら泳げるようになったんだ」

 

「そっかぁ。凄いね彩葉」

 

そう言いながら楓お母さんは私の頭を撫でてくれた。

 

「えへへ。エレナお母さんあそこの岩場まで競走しようよ!別にエレナお母さんが横にいたら競走してもいいよね楓お母さん?」

 

「いいよ。ただエレナお母さんの言うことは絶対聞くこと!いい?」

 

「うん!」

 

今思い返せば、私は人より少し泳ぎが上手かった事に浮かれていた。ちゃんとこの時の楓お母さんの言うことを守っていればあんな事には……

 

「それじゃよーいドンでスタートね。エレナもいい?」

 

「もちろんよ。彩葉なんかに負けるわけないしね。ちゃんと並走して見ててあげるわ」

 

「子供扱いしないでよね。たまにはエレナお母さんに勝つところも楓お母さんに見てて欲しいもん」

 

私とエレナお母さんは、横に並んで楓お母さんの合図を待った。

 

「それじゃいくよー!よーい…ドン!」

 

私は、助走を付けるために横でのんびり私の後ろを付けようとしていたエレナお母さんの足を使って壁キックの容量で綺麗なスタートを決めた。

 

「あら……ちょっとおいたがすぎるんじゃないかしら彩葉?」

 

絶好のスタートを切ったにも関わらず数秒もすればエレナお母さんが余裕の笑みで私を見ていた。

 

「まだ半分だもん!」

 

私は負けじと必死に足を動かした。少しでも早く!少しでも先へ!無我夢中になっていてゴール近くの大きな岩に気が付かなかった。

 

「っ!彩葉!前!危ない!!!っ!?何であの子こんなに早いのよ!私だって全力で泳いでるのに!彩葉待って!!!前見なさい!!!」

 

エレナお母さんが必死に叫んでいた事など全く聞こえなかった。自分の頭の中ではゴールの岩場まではまだ距離があると思っていたのだ。

 

次の瞬間だった……

 

ゴン!!!

 

「っ!?」

 

「いろはぁ!!!」

 

私が最後に見たのは必死に泳いでこちらに向かってくるエレナお母さんだった。

 




始めての彩葉のやらかし。次の話は大切な回なので少し時間を頂くかもです。

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沖縄旅行(後編)

遅れてしまって申し訳ありません。


『彩葉ごめんね……』

 

ここはどこ……私は小さな公園で楓お母さんとエレナお母さんと手を繋いでいるみたいだった。でもなんで楓お母さんが悲しそうな顔をしながら私に謝っているかが分からなかった。

 

「どうして謝るの?」

 

私は、意識がはっきりしないまま返してお母さんに問いかけた。

 

『言うことちゃんと聞けない子は私達の子供にはいらない。だからごめんね』

 

そう言うと楓お母さんとエレナお母さんは握った手を離し、公園の出口へと向かっていった。

 

「え……やだ!待ってよ!!!私楓お母さんにまで捨てられたら何処に行けばいいの!?やっと見つけた私の居場所だったんだよ!」

 

私の必死な声は届かない。いくら呼びかけても楓お母さんとエレナお母さんは反応が無かった。

 

「彩葉!彩葉!しっかりして!」

 

「え……」

 

意識がはっきりしている……さっきまで公園にいたのは嘘みたいに、今はどこかの室内にいるみたいだった。目を開けると目を真っ赤に腫らした楓お母さんが目の前にいた。

 

「いったぁ……」

 

意識がはっきりしたと同時に頭に鈍痛が走った。痛みのある場所を触ってみると包帯をされていたみたいだ。そっか……私あの時岩に頭をぶつけて……

 

「よかったよぉ!もう!何日目を覚まさなかったと思ってるの!?自分の名前分かる?何処か痛いところない?」

 

楓お母さんは、子供のように私に抱き着いて涙を流していた。一体どれだけ心配してくれていたのだろう……楓お母さんの目の腫れをみたらどれほどの心配をかけたか分からなかった。ホントに何してるんだろう私……

 

すると部屋の外からエレナお母さんが入ってきた。エレナお母さんは、私に抱き着いていた楓お母さんを宥めると、私に話を始めた。

 

「貴方が落ち着きなさいな……彩葉。色々言いたいことはあるけどそれは後ででいいわ。ここは都内の病院。彩葉は大きな岩に頭をぶつけて救急車で沖縄の病院に搬送されたの。命に別状は無かったから私の使用人が設備のいい病院に運んでくれたのよ。それで彩葉が目を覚ますまでに4日。ちゃんと楓に謝っておきなさいよ。彩葉が目を覚ますまでずっと付き添っててくれたんだからね。それと……」

 

パーン!

 

エレナお母さんは、私の頬を軽く平手で打った。

 

「どれだけ心配かけたと思ってるの!海は危ないってあれだけ楓に言われてたでしょ。言うこと聞けない子は連れていけないんだからね。分かるでしょ?今回は死なずに済んだからいいけどホントに死んじゃってたかもしれないんだからね!分かる!?」

 

エレナお母さんは、涙ながらに私を怒った。エレナお母さんにもどれだけ心配をかけていたのだろうか……私は、自分がやってしまった事の重さと申し訳なさから自然と涙が出てきた。

 

「ホントにごめんなさい……私、楓お母さんにいい所見せようって思ってそれで……ホントにごめんなさい」

 

「分かればいいのよ。それじゃ後は楓と2人で話なさい。私はお医者様に彩葉が目を覚ました事を言ってくるからね」

 

私の頭を撫でるとエレナお母さんは、部屋の外へと出ていった。

 

「楓お母さん……ホントに迷惑かけてごめんなさい……私、私!ホントに取り返しのつかないことしちゃったなって……」

 

「ううん。もう謝らないで。私達は彩葉が元気でいてくれたらそれでいいんだからさ。後はお医者さんの言うことちゃんと聞くこと!守れるよね?」

 

「うん。もう二度とこんな間違い起こさない。私も楓お母さんとエレナお母さんの傍にずっといたいもん」

 

私は、横に座る楓お母さんの手を握りながら真っ直ぐ目を見つめながら言った。もうだいすきな人を悲しまさせない。私はこの事を胸に誓った。

 

「ならよかった。それでなんであんな無茶したの?普段の彩葉らしくなかったよ。エレナに負けたくないのは分かるけどあんなに無茶するような事でも無かったでしょ?」

 

「えっと……エレナお母さんに1つでも勝ちたかったの。いっつも楓お母さん取られちゃうし何か1つでもエレナお母さんに勝てたらなって思っちゃって……」

 

「そーだったんだね。取られちゃうって私はエレナだけの私じゃないんだから大丈夫だよ。彩葉の事もエレナの事も大好きなのは一緒だよ」

 

楓お母さんは、私を励ますように優しく話していた。そうじゃないんだよ。何度も楓お母さんに好きだよって言われる度に私は、自分の中に不満を感じていた。もちろん家族として好きだよって言われることが嫌いなわけではない。でもエレナお母さんに好きって言っている意味と同じような好きを私も言って欲しいのだ。

 

「違うよ……楓お母さん。もうこの気持ち我慢出来ない。ん……」

 

私は、自分の気持ちを楓お母さんに分かって貰えるように楓お母さんの唇に自分の唇を重ねた。

 

「私の好きはこういう好きなの。でも楓お母さんの好きはこうじゃないよね……ごめんね急にこんな変な事言って」

 

「えっと、その彩葉は」

 

コンコンコン

 

楓お母さんが私に言葉を返そうとした時、部屋に誰か来たみたいで言葉が遮られた。

 

「失礼します。1度レントゲン撮りたいので彩葉ちゃんお借りしますね。お母さんはレントゲン室の前でお待ち下さい」

 

「わ、分かりました。宜しくお願いします」

 

「彩葉ちゃんそのままでいいからね。お写真撮る部屋行くからじっとしててね」

 

「分かりました」

 

私は、ベッドで寝かされたままレントゲン室へと運ばれた。病室から出る時に楓お母さんの顔を怖くて見れなかった。もし拒絶しているような顔をしていたら……嫌な反応をしていたら耐えられないと思ったからだ。

 

「彩葉ちゃん体調とかはどう?気持ち悪い所とかない?」

 

「大丈夫です。少し頭が痛いぐらいです」

 

レントゲン室へと着くと、優しそうな顔をした看護師さんが私に声をかけた。きっと暗い部屋だから緊張とか不安感を紛らわすために声をかけてくれたのだろう。普通の5歳児ならば怖がっていてもおかしくはないだろう。でも、私は楓お母さんとエレナお母さんと会うまでは、暗い部屋でずっと過ごしてきた事もあり、何も感じなかった。

 

「そっか!それじゃ写真撮るからそのままじっとしててね」

 

そう言って看護師さんはレントゲン室を出ていった。今の私は、レントゲンや自分の病状などはどうでもよく、楓お母さんが私の言動に大してどう思っているのか気になって仕方がなかった。

 

「終わったよー!あ!月村さんもう入って大丈夫ですよ。彩葉ちゃんじっとしてていい子ですね」

 

!?もしかして楓お母さん!?私どんな顔して合えばいいのか分かんないよ。

 

「ご迷惑をかけていないようでしたら何よりです。彩葉、ゆっくり立てるかしら?無理しないでいいからね」

 

そこに表れたのはエレナお母さんだった。私は、ほっと一息つくとエレナお母さんが言った通りゆっくりと地面に足を立てた。

 

「大丈夫?ふらふらしない?」

 

「うん。ホントに頭が痛いだけだから大丈夫だよ」

 

「ホントに大事にならなくてよかったわ……今日1日泊まって明日の昼には退院出来るからまた迎えに来るわね」

 

「うん。ホントにごめんねエレナお母さん」

 

「子供を持ったんだからこのぐらいの覚悟は出来てるわよ」

 

「それじゃまた明日ね」

 

「うん」

 

そう言って手を振るとエレナお母さんはレントゲン室から出て行った。

 

「それじゃゆっくり歩いて病室まで行こっか。お姉さんの手離さないようにね」

 

「はい」

 

私は、看護師さんに手を引かれ自分の病室まで戻りベッドに入ると、疲れていたのかすぐに意識は夢の中へと落ちていった。

 

--------------------

side楓

 

「それで彩葉ちゃんは大丈夫そうなのね?楓?楓ちゃん聞こえてますかー?」

 

「あ!ごめんなさいちょっと考え事してました。明日には退院出来るみたいです。何回も病院まで送り迎え頼んでしまってホントにすみません」

 

「気にしないでいいのよ。私も気になってたしね。でもホントによかったぁ……1時はどうなる事かと思ったもん」

 

病院の帰り道。いつもの詩織さんの車で私とエレナは自宅へと向かっていた。彩葉が倒れたと連絡した矢先に詩織さんが車を回してくれて、目を覚ます間ずっと送り迎えをしてくれた。本当に詩織さんには頭が上がらない。

 

「私もようやく一息つけそうですよ。ずっと気張ってたんで疲れちゃいました」

 

「そうだよね。今日はゆっくり休んでね。エレナにこき使われそうになっても無視していいからね」

 

詩織さんは冗談半分に笑いながら言っていた。

 

「全く失礼しちゃうわね。そんな事する訳ないでしょ。私も安心したら少し眠くなったからすぐ寝るわよ」

 

エレナは後部座席でぐったりとしていた。エレナもこの件で疲れたのだろう。私もエレナも心配でほとんど眠れなかったのは事実だ。気を紛らわす為にくだらない話やいつも通りの行為をしたりしていたけど、全然気は紛れず最後には彩葉大丈夫かな……って口を揃えて言っていた。

 

気が付けば車は、もう家の前まで来ていた。

 

「ほら着いたよ。彩葉ちゃん退院したら会わせてよね。それじゃまたね!」

 

 

「ありがとうございます」

 

「ありがとね」

 

詩織さんは、私達を降ろすとそのまま自宅へと戻って行った。私達も詩織さんに一礼すると重たい足を引きずるかのようにゆっくりと進み、鍵を空け自宅へと入った。

 

「疲れたわ……」

 

エレナは、荷物を置くとソファーに身体を投げ出し顔を埋めていた。

 

「寝るならちゃんと布団で寝ないと体痛めちゃうよ」

 

「分かってるわよ。んーーー。それで楓。私がいない間に彩葉と何があったの?彩葉がレントゲン室に行く時、貴方放心状態だったわよ」

 

「別に何も無いよ。お医者さん来たからお医者さんに任せようと思って黙ってたの」

 

私は、平静を保ちながら言った。彩葉からの告白。別に隠す事では無いけれどもなんだか彩葉に悪い気がしたのだ。

 

「楓。私に嘘は通じないわよ。何年一緒にいると思ってるのよ」

 

呆れたようにエレナは私から目線を逸らさず言葉を返した。

 

「もー!別にいいじゃんなんでも!」

 

エレナに隠し事はやっぱり出来ないか……ホントにこの人の洞察力は侮れない。普通に返事を返したつもりだったんだけどな。

 

「彩葉にエレナお母さんの好きと私への好きとでは意味が違うんですよ!私は楓お母さんを1人の女性として好きです!とか言われたんじゃないの?」

 

ホントに何で分かるのか……まるで見てきたように話をするエレナは少し怖かった。

 

「見てたの?」

 

「彩葉が貴方の事を好きだって聞いてたからよ。よく相談受けてたのよ。どうしたらいい?って。それで今日楓の顔を見て、彩葉もずっとレントゲン室でソワソワしてるし、あー……言ったのかなって思ったのよ」

 

「ずっと2人でこそこそしてたのはそういう事だったんだね。はぁ……傷付けずになんて言ったらいいと思う?私達が5歳の頃なんてそんな事思いもしなかったよね。私の初恋も高校生の時だったし、あの子は色々早すぎるよ。まさかキスされるなんて思わなかったもん」

 

しまった。キスされたなんて流れで言っちゃったけどエレナはそこまで読めてなかったし、余計な事言っちゃったな。

 

私の焦りとは裏腹に興味が無さそうにエレナは言葉を返した。

 

「これは楓と彩葉の問題よ。私には関係ないわ。それじゃおやすみなさい」

 

「え!?それだけ!?」

 

「疲れてるのよ。おやすみ」

 

エレナはそう言うとフラフラと2階の寝室に上がって行った。

 

「ちょっとぉ……娘の問題なんだから一緒に考えてくれたっていいじゃん!はぁ……私も寝て明日考えよ……」

 

私もこれ以上考える体力は残っていなかったようで、ベッドに入るとすぐに夢の中へと意識が消えていった。

 

 

 

 

 




天音「私達も心配したんだからね!沖から彩葉ちゃん抱えたエレナが血相変えて天音!救急車!早く!って叫んだ時はホントにびっくりしたんだから。楓ちゃんはずっと泣いちゃってて私のせいだって自己嫌悪してるしホントに何事もなくてよかったよ。でも冷静にエレナが救急隊員の人とかに何が起きてこーなったってしっかり説明してたのは流石って思ったよ。やっぱりあの子は凄いや」
さゆり「ホントに何事もなくて良かった……楓の泣き顔ももう見たくないもん。やっぱりあの3人には笑ってて欲しいもん!」
天音「だね!次話からはエレナのサポートを貰えない楓ちゃんが苦悩するシーンから始まります!それではまた次話で会いましょう!」


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彩葉とエレナ

更新遅くなってしまって申し訳ありませんでした。


sideエレナ

 

「はぁ……何も今言わなくてもいいじゃない。やっと元気な顔楓に見せられたんだからそれで終わりで良かったのに。私がプレッシャーかけすぎたかしら……」

 

確かに私は、彩葉に旅行中にどうにかしなさい。とは言ったけどまさか病院で言うだなんて思わなかったわ。きっと頭の中が楓に思いを伝える事でいっぱいいっぱいになってたのね……少し悪いことをしたわねあの二人には……

 

「とにかく明日ちゃんとあの子と話さなきゃ。楓には悪いけどお留守番してもらう事にしてもらうわ」

 

今の彩葉と楓を会わせたらどんな風になるかも分からないし落ち着くまでは私が顔を出す事にしよう。楓には自分で考えなさいとは言ったけどやっぱり放っておく訳にはいかいわね。

 

布団に入って横になるとすぐに私の意識は夢の中へと落ちていった。

 

 

時刻は朝の8時。私達月村家で言うところの朝ごはんの時間なのだが、珍しく楓が起きてこなかった。

 

「珍しい事もあるのね。あの子が寝坊するだなんて」

 

起こすのも可哀想だと思い、私は楓の分の朝ごはんを作ってラップをかけてテーブルに置いておいた。

 

朝食をサクッと済ませ、外行き用の服に着替えると私は1人で、彩葉の病院へと向かった。

 

--------------------

 

side彩葉

「ぜんっぜん寝れなかった……」

 

私は、病院のベッドで、1人天を仰いでいた。寝よう寝ようと目を瞑り静かにしていたのだが、目を瞑る度にキスをした時の楓お母さんの顔が出てきて寝れなかったのだ。

 

コンコンコン

 

「彩葉ちゃん起きてる?朝ごはんだよ」

 

そう言いながら看護師さんは入ってきた。私が今いる病室は一人部屋。他に誰もいないせいで少しばかり寂しかった。いつも3人一緒にいたせいで心が弱くなってしまったのかもしれない。施設にいた時はずっと1人だったののね……

 

「おはようございます」

 

「おはよー。どこか痛いところとかはある?」

 

優しそうな笑顔で看護師さんは私に話しかけてきた。凄く人の良さそうな笑顔だった。

 

「大丈夫です。怪我したところも今のところ痛みはないです」

 

「そっかそっか。昨日レントゲン撮ったでしょ?あれを見ても異常は無かったから明日には退院出来ると思うよ」

 

「ホントですか!?嬉しいです」

 

いつまで1人の病室にいるのかな……って思っていたところもあって私は、少しだけ安心した。まぁ家に帰れたらそれはそれで問題が出てくるんだけど……

 

「それじゃ朝ごはん置いていくね。食べ終わったらそのまま置いてもらって大丈夫だから。また取りに来るね」

 

「ありがとうございます」

 

そう言うと看護師さんは、病室を後にした。また1人になっちゃったな……

 

きっと病院だからだろう。朝ごはんはどれも味が薄くて食べた気が全くしなかった。早く楓お母さんの美味しいご飯が食べたいな……

 

私は、朝ごはんを食べるとまたベッドに潜り込んで眠気が来るのを待った。何分経っただろうか?全然眠れずにいると病室の扉が開いた音がした。看護師さんがお盆を下げに来たのかな?私は、布団から顔を出し確認すると、そこに立っていたのは……

 

「眠そうね彩葉。体の具合はどう?」

 

「エレナお母さん!?って事は楓お母さんも一緒だよね?え、どんな顔して会えばいいの!?いでっ。何で叩くの!?」

 

私は、エレナお母さんに軽く頭を叩かれた。頭を打って入院してる人にその対応はどうかとも思ったけどね……

 

「全く……少しは落ち着きなさい。楓ならまだ起きてないわよ。まぁそれだけ元気なら体調の方は大丈夫そうね。林檎買ってきたけど食べる?」

 

エレナお母さんは、持っていた袋から赤い林檎を私に見せてきた。

 

「よかったぁ……ちょっと今は、楓お母さんに顔見せずらかったんだよね。エレナお母さん林檎剥けるの?」

 

「あなた私を舐めてるわね。林檎ぐらい剥けるわよ。ってか普通に私がご飯作ってる時だってあるでしょ。ちょっと待っててね」

 

そう言うとエレナお母さんは、鞄から小さなナイフを取り出すと慣れた手つきで林檎を剥いていった。

 

「はい。どうせ病院食だけだとお腹いっぱいになってないだろうなって思ってたのよ」

 

「ありがとう。いただきます」

 

林檎を1口かじると口の中いっぱいに甘味が広がった。今までこんなに美味しい林檎なんて食べたことあったかなと思わせるほどだった。

 

「美味しい……」

 

「食べたわよね?」

 

「え?」

 

私が食べた事を確認すると、不敵な笑みをエレナお母さんは浮かべていた。

 

「さてと、楓との事を洗いざらい吐いてもらうわよ。彩葉って時々大胆になるのね。今後覚えておくわ。彩葉の大胆な行動のせいで楓が寝坊するぐらいだもん。一体なんて言ったのよ」

 

いつかは聞かれると思っていたが、林檎1つでこうなるとは……まぁいずれエレナお母さんには言うつもりだったし隠す必要ないか。

 

「いや……エレナお母さんに旅行中に気持ちを伝えなさい。って言われてたでしょ?だから早く言わなきゃ!って思って2人になれた時に言いました」

 

「それで好きって気持ちを分からせるためにキスしたと……」

 

「ふぇ!?それも言っちゃったの楓お母さん!?」

 

自分の顔が真赤になっているのが分かった。少し大胆すぎたかな……って思っていたことがもう伝わっているとは思わなかった。

 

「私に隠し事は無理よ。えっとそのなんだ、ごめんなさい。ちょっとプレッシャーかけすぎたよね」

 

「え?」

 

まさかエレナお母さんが頭を下げてるところを見れる日が来るなんて思わなかった。私が知ってる月村エレナは、好きな人にベッタリで他の人には常に凛々しい態度というか強気を貫いているものだと思っていたからだ。

 

「今思うと私が少し彩葉に意地悪したから、あの事故も起きたのかなって……じゃなかったらあの時意固地にならなかったんじゃない?違う?」

 

エレナお母さんがこんなに弱気で暗い顔をしている所は初めて見た。全く……なんで私が励まさなきゃいけないのかな。エレナお母さんは、強気なところがかっこよくて似合ってるのに。

 

「エレナお母さんこっち来て」

 

「え?いいけどどうしたの?」

 

エレナお母さんを私の手が届くところまで呼ぶと私は、思いっきりエレナお母さんの頭をひっぱたいた。

 

「いった!」

 

エレナお母さんは、一体何が起きたんだがわからないような顔をしてキョトンとしていた。まさか娘に頭を叩かれる日が来るとは思わなかったんだろう。

 

「さっきの仕返し!別にエレナお母さんは何も気にしなくていいんだよ。私がやりたいようにやっただけなんだからさ。そんな事より楓お母さんの返事早く届けてよ。私はそれが1番気になってて寝れないぐらいなんだからね。だからエレナお母さんは元気出していつも通り強気なエレナお母さんでいてよね」

 

私は、笑顔でエレナお母さんに言った。それを聞いたエレナお母さんは少し照れくさかったんだろう。少し顔を赤くして私に返事を返した。

 

「全く……彩葉に励まされてるようじゃ私もダメね。ありがと。それじゃ退院したら楓に返事出すように言っとくわね。ここに来る前お医者さんに聞いたら明日には退院出来るそうよ。良かったわね」

 

「うん。退院祝いで美味しいもの作って!って楓お母さんに言っといて」

 

「もちろんよ。それじゃまた明日迎えに来るわね」

 

「うん!」

 

エレナお母さんは、私の髪を撫でると病室を後にした。エレナお母さんが来てくれて安心したからだろうか?急に睡魔が襲ってきて、私の意識は夢の中へと落ちていった。

 




楓「4ヶ月!?嘘でしょ……ホントに更新遅くなってしまって待ってくれていた読者様に申し訳がつかないです……」
エレナ「定期的に来るサボり癖どうにかして欲しいものね……まだまだ私達の物語は終わらないもの。ちゃんとして欲しいわ」
彩葉「私の恋の行方分からずじまいになる所だったじゃないですか……勘弁してくださいよほんと」
3人「次回は早めの更新させるので宜しく御願いします!」


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エレナが帰ってきて

今回めちゃくちゃ短いです。ごめんなさい。


「ん……あれ?エレナ?」

 

窓から入り込む陽射しの眩しさで私は目を覚ました。しかし、いつも横で寝ているエレナの姿が何故か無かった。

 

「あれ……今って……嘘でしょ!?11:30!?」

 

大寝坊だった。今日は朝から彩葉の所に行く予定だったのに。でもなんでエレナは起こしてくれなかったのだろうか……

 

パジャマのままリビングへ行くと、ラップに包まれた朝ごはんと置き手紙が置いてあった。

 

『彩葉の所に行ってくるね。お昼には戻ると思うから』

 

やっぱり1人で行ったみたいだった。昨日の件もあったしエレナなりに気をつかったのかな。確かに今日どんな顔をして彩葉に会えば分からなかったのは事実だ。

 

「とりあえずせっかく朝ごはん作ってくれたみたいだし食べちゃおうかな」

 

朝ごはんは、目玉焼きとベーコンとピザトーストだった。レンジでチンをして目玉焼きを食べたが、黄身が少し固く温かいうちに起きて食べたかったなと思った。

 

ご飯を食べ終わって後片付けをしていると玄関の扉が開いた音がした。エレナが帰ってきたみたいだった。

 

「ただいま」

 

いつもと変わらない表情でエレナは私の前に姿を現した。いったい彩葉と何を話していたのだろうか。

 

「おかえりなさい。別に起こしてくれても良かったんじゃないの?」

 

そう言うとエレナは少しバツの悪そうな顔をした。やっぱり起こさなかったのはわざとだったんだろう。

 

「そうね。ごめんなさい。ちょっとあの子と2人で話したかったのよ」

 

「まぁそうだと思ったけどさ……それで何か収穫はあったの?」

 

「そうね。あったと言えばあったわ」

 

そう言うとエレナは、病院での出来事を教えてくれた。まさかエレナが元気づけられるなんてね。知らない間に彩葉も随分成長したみたいでなんだか嬉しかった。

 

「なるほどね。分かった。明日退院でしょ?私もそれまでにちゃんと彩葉への返事考えておくね。でもさ、なんか嬉しいよね。ここに始めてきた時の彩葉よりなんか成長してる気がしてさ」

 

「ふふ、そうね。初めはあんなに大人しい子だったのに今ではちゃんと自分の意思で行動して母親の頭を引っ張たけるぐらいだもん。退院したら仕返ししなきゃね」

 

エレナは笑いながら話していた。きっとエレナ自身も彩葉の成長が嬉しいんだろう。

 

その日は、彩葉の話で1日盛り上がってしまった。彩葉と最初に会った日の事。初めてお母さんって言ってくれたこと。今では私達に欠かせない存在になっていた。いよいよ明日。彩葉が帰ってくる日だ。親として、彩葉の思われ人としてちゃんと迎えてあげなきゃだね。




次回、第一章最終回です。この物語も前作同様長丁場になる予定です。


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楓お母さんの答え

第1部最終回になります。


「彩葉ちゃん起きて。朝だよ」

 

私は看護師さんに声をかけられて目を覚ました。時刻は……もう8時になるんだ。朝は苦手なイメージなかったんだけど疲れてたのかな。

 

「おはようございます。朝ごはんですか?」

 

「うん。10時には退院だから病院での最後の食事だから少し豪華にしておいたよ!」

 

そう言う看護師さんが持っていたお盆には、前まで質素だったご飯とくらべものにならないぐらい豪華な食事だった。フレンチトーストにホットケーキ。デザートにプリンまでついていた。

 

「美味しそう!いただきます!」

 

「はーい。それじゃまた取りに来るわね」

 

そう言うと看護師さんは外へ出て行った。朝ごはんは、どれも美味しく最高の食事となった。楓お母さんにも今度フレンチトースト作ってもらおうかな。

 

ご飯を食べ終わり、少し本を読んでいたら病室の扉を叩く音が聞こえた。

 

コンコンコン

 

「はい」

 

「おはよー彩葉。体調はどう?」

 

「楓お母さん!?お、おはよ。うん。もうどこも悪くないよ」

 

病室の入口には楓お母さんが立っていた。退院に合わせて迎えに来てくれたのだろうか。私は、エレナお母さんが1人で迎えに来るものだと思っていたからとてもびっくりした。

 

「そんなびっくりしなくてもいいでしょ。今、エレナが退院の手続きしてるから準備して待っててね。そこ座ってもいい?」

 

楓お母さんは笑いながら話していた。よっぽど私の態度がおかしかったのだろう。

 

「うん。大丈夫だよ」

 

楓お母さんはゆっくりとベッドの近くの椅子に腰を下ろした。私は、楓お母さんに言われた通り服を着替えていつでも退院出来るよう準備を終わらせた。数分もするとエレナお母さんが病室に現れた。

 

「お待たせ。それじゃ二人とも帰るわよ。彩葉。ちゃんとお世話になった看護師さんにお礼言っとくのよ。出来る?」

 

「そんなの言われなくても出来るよ」

 

私は、ぴょんとベッドから飛び降りるとエレナお母さんの元へと駆け寄った。

 

「随分嬉しそうな顔してるけど何かいい事でもあったの?」

 

「ううん。なんでもないよ。私看護師さんに挨拶してくるから先下行ってていいよ」

 

私は、エレナお母さんに一声かけるとお世話になった看護師さんに感謝の言葉を言ってエレナお母さん達が待っている出口へと向かった。挨拶をした時看護師さん達は、ちゃんと挨拶出来て偉いねって頭を撫でてくれて嬉しかったな。

 

出口近くへと行くと楓お母さんが待ってくれていた。

 

「行こっか。今日は退院祝いで彩葉の好きなカレー作ってあげるからね」

 

「ホントに!?やったー!」

 

私は久しぶりに病院の外へ出たこともあり浮かれていたらしい。ちょっと喜びすぎた自分にびっくりして恥ずかしくなってしまった。

 

「随分と可愛い声を出すのね」

 

詩織さんの車の横にエレナお母さんが立っていた。きっと気を使って2人にしてくれたのだろう。でも1番見られたくないところを見られちゃったな。私は、自分の顔が真赤になって行くのがわかった。

 

「いたなら来てくれればいいのに」

 

「せっかく楓と二人きりにさせてあげたのに酷いわね。手繋ぎながら迎えに行っても良かったのよ?」

 

そこにはいつもの月村エレナがいた。この前病室で弱みを見せていた人とはまるで別人だった。

 

「はぁ……慰めなきゃ良かったかな。早くお家帰りたいから車乗ろうよ」

 

私は、楓お母さんの手を引くと詩織さんの車の中へと入った。

 

「退院おめでとう!もうどこも痛くない?」

 

「はい。ホントにご迷惑をおかけしてすみませんでした」

 

私は詩織さんに頭を下げた。ホントに今回の1件でどれくらいの大人に迷惑をかけたんだろう……それを考えると胸が苦しくなった。

 

「そんな暗い顔しないでいいんだよ彩葉ちゃん。私達は何事もなく帰ってきてくれたことが1番嬉しいんだからさ。そうでしょ?エレナ、楓ちゃん」

 

「そうね。もう言うことは言ったし切り替えていきなさい。小さい頃のミスなんていくらでも修正効くんだからね。問題はその後の行動よ」

 

「うん。彩葉の笑顔が皆大好きだからそんな顔しないで」

 

「……ありがとうございます」

 

私は、皆に見られないように涙を流した。エレナお母さんは気付いていたみたいでそっとハンカチを差し出してくれた。

 

「着いたよ。それじゃまたね彩葉ちゃん」

 

車を数十分を走らせるとすっかり見慣れた景色になった。やっと帰ってこれた……数日帰っていなかっただけなのに凄く懐かしく感じられた。

 

「はい!」

 

私は笑顔で詩織さんの車を降りた。

 

「やっと元気になったみたいね。それじゃ行きましょうか」

 

エレナお母さんの後を追うように私は、家の中へと入った。

 

「ただいま」

 

私はそう言うと靴を脱いで並べるとリビングへと向かった。

 

「それじゃ私は溜まってる仕事があるから自室こもっちゃうから何かあったら言ってね」

 

「え!?ちょっとエレナお母さん!?」

 

不敵な笑みを残してエレナお母さんは2階へとあがっていった。

 

「全く……何か飲みたいものとかある?」

 

楓お母さんも察したのだろう。やれやれといった表情をしていた。

 

「えっと……楓お母さんと同じのでお願い」

 

私は自分の心臓がバクバクしているのが分かった。口の中も乾ききっていて落ち着いていられなかった。好きな人と二人きりになるってこんな感じになっちゃうんだ……私はまたひとつ知らない感情を覚えた。

 

「じゃあミルクティー作ってあげるからちょっと待っててね」

 

楓お母さんは優しそうな顔で私に返事を返した。この優しそうな顔を向けてくれたから今の私がいるんだよね……施設で楓お母さんに声をかけてもらっていなかったらきっと今でも静かにずっと本を読んで寝ての繰り返しだったんだろうな。

 

私はソファに腰を降ろして楓お母さんを待った。

 

「お待たせ。それじゃ早速だけどあの時の返事言ってもいいかな?」

 

私にミルクティーを出すと、ぽつんと楓お母さんは横に座った。

 

「うん……」

 

返事は分かってる。私はそれを聴くのがとても怖かった。

 

「そんな怖い顔しなくても大丈夫だよ。えっとね。まずはありがとう。正直心配だったんだ。彩葉とちゃんと仲良くなれるかなって。私も初めて子供を持ってどう接したらいいか分からなかった。でも彩葉は母親としては未熟な私達にちゃんとついてきてくれたよね。ホントにありがとう。それじゃ本題に入るね。ごめんね彩葉。彩葉とは恋人同士にはなれないよ。これから彩葉は色んな人と会って、色んな経験をすると思うんだ。だからもっと広い世界で色んなものを見て欲しい。彩葉って名前の由来覚えてる?彩りある人生を歩んで欲しいって言ったよね。だからこれから長い時間をかけていろんな色を見つけて欲しいんだ」

 

楓お母さんは、私から目を離さないでゆっくりと話した。答えはやっぱりダメだった。でも自分で思っていたよりショックでないことに気付いたのだ。理由は分かってる。楓お母さんが私の事を真剣に考えてくれたからだ。そうだよね。私の人生はまだ始まったばかりなんだもん。

 

「ありがとう楓お母さん。私これから頑張るね!それで楓お母さんに紹介しても恥ずかしくない人を連れてくるから!エレナお母さんより素敵な人絶対に見つけてくるね!」

 

「ふふ、楽しみにしてるね。それじゃエレナ呼んでこよっか。きっと気使って2人にしてくれたと思うしあんまりほっとくと拗ねちゃうからね」

 

「そーだね」

 

私と楓お母さんは2人でエレナお母さんがいる2階に向かった。

 

「ねぇ彩葉?」

 

「うん?何?」

 

「これからも3人で仲良くずっと暮らそうね」

 

「ふふ、何それ。言われなくてもずっと一緒だよ」

 

私は、楓お母さんに抱き着いた。やっと見つけた私の居場所。これからどんな事が起きてもこの3人なら絶対やって行けると思った私だった。

 

 




投稿遅れてしまって申し訳ありません……
次回からは彩葉が中学生になった話を書いていきます。ここまで読んでくださってありがとうございました!


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中学生になりました!

登場人物

月村 彩葉(12)

月村 楓(29)

月村エレナ(30)

第2部スタートです!宜しくお願い致します!


 

 

時は流れて7年後。私、月村彩葉は12歳になって中学生になりました。エレナお母さんの計らいで学力などが既に中学生レベルを超えているとの事で普通の子より1年早く中学生になる事が出来ました。

 

それで私の2人のお母さんは7年経ってどうなったかですが……

 

「楓様お願いします……楓様に虐めて貰わないと動けないんです……」

 

「ちょっとエレナ!朝っぱらから何言ってるの……そろそろ彩葉の事起こさなきゃいけないしそんな時間無いよ。それに彩葉に聞こえたらどうするの」

 

私と2人のお母さんの部屋は隣接していて、よくこんな言葉が聞こえてくるのだ。流石に7年も聞いていると慣れてしまった。最初の頃は壁を叩いて聞こえてるんだけど!?っていう意思表示をしていたが、それも面倒くさくなって気にしないようにしたのだ。まぁ両親が毎晩毎晩SMプレイをして声を上げているのって普通に考えたらおかしいけどね……

 

「彩葉ちゃんならもう1人でなんでも出来るから大丈夫ですよ。だから……ね?楓様の綺麗な足を舐めたいんですが……」

 

ホントに朝っぱらから何をしてるんだろうエレナお母さん……彩葉ちゃんなんて呼び方されたこと1度も無いんだけどな。それに今日に関しては一応私の入学式なんだけど……

 

「もーー。ちょっと待ってて!」

 

そう楓お母さんが言うと隣の部屋の扉が開いた音がした。どうやら私を起こしてから事を始めるみたいだった。

 

コンコンコン。

 

「彩葉、入るね」

 

そう言うと楓お母さんは、薄いピンク色のパジャマ姿で部屋に入ってきた。7年経った今でもスタイルは変わらず、見た目は20代前半と言っても普通に通じると私は思っている。相変わらず楓お母さんは可愛い。

 

「ん。おはよう楓お母さん」

 

「おはよ!ちゃんと起きてるみたいで偉いね」

 

楓お母さんは、ちょっとした事で褒めてくれるから今でも変わらず大好きだ。もしかしたら7年前より今の方が私の楓お母さんに対しての好きは大きくなっているかもしれない。新しい人見つけてくると啖呵を切ったものの未だに楓お母さんの事が好きで仕方がなかったのだ。ちょっとした事で甘えて、時には強引に一緒にお風呂とか入ってもらったっけな。

 

「それで朝ごはんなんだけど……」

 

「エレナお母さんの持病でしょ?いいよ何か自分で作るから」

 

「あはは……」

 

私はそう言うとベッドから降りて下の階へと降りた。ちなみにだがエレナお母さんに関してはホントに性格から性癖まで何一つ変わっていない。私が初めて会った時から外見も何もかもが変わっていないのだ。エレナお母さんの友達皆が口を揃えて妖怪と言っていた。老けると言うことを知らないのだろうか……もう30歳になるはずなんだけどね。あ、私はどうなってるか言ってなかったよね。私はこの7年で身長が凄く伸びて155センチになりました。学校にいる女の子の中で1番大きかったみたいです。これも楓お母さんの美味しい料理のおかげだと思います。ただ1つ悩みなのが胸がエレナお母さんみたいに全く発育してないんだよね……5歳の頃とほとんど変わってなくて、エレナお母さんに笑顔で彩葉は私にそっくりねって毎回言われるんだもん。楓お母さんみたいに大きくなくてもいいけどそれなりにはなって欲しいかな……

 

「さてと……朝ごはん何食べようかな。面倒だし置いてある菓子パン食べてとっとと制服に着替えて行く準備しなくっちゃ」

 

あまりお行儀はよくないが、私は置いてあったあんパンを咥えて自分の部屋に戻ろうと階段を登っていたのだが……

 

「楓様!エレナ感激です!!!」

 

「ぶっ!!!あーーー!!!私のあんぱん……」

 

エレナお母さんの奇声を聞いて吹き出してしまったせいで貴重な朝ごはんを落としてしまった……

 

「ちょっとエレナお母さん!うるさい!」

 

「え!?彩葉今は入ってきたらダメだよ!」

 

 

 

「はぁ……別にいいよ2人の裸なんて何回も見てるし。楓お母さんあんパン落としちゃったから何か作ってよー」

 

「もー何してるのよ……制服に着替えて待っててね。シャワー浴びたらすぐ作っちゃうから。ほらエレナも早くして。いつまでもこんな調子じゃ困るよ」

 

「彩葉……少しは両親のこういう所見ることに抵抗を覚えなさいよ……」

 

エレナお母さんはこうなってるとは私が知らないと思っていたのだろう。顔を赤くして布団を被っていた。その姿はさっきの奇声をあげていた人物と同一人物とはとても思えなかった。

 

「もう7年エレナ感激です!を聞いてる身にもなってよね。こんな朝早くに聞いたのは初めてだけどさ。ほら早くシャワー浴びてこないと楓お母さんに嫌われちゃうよ」

 

「分かってるわよ。はぁ……育て方間違えたかしら」

 

エレナお母さんはそう言うと下着もつけずにお風呂場へと向かっていった。私は気を取り直して真新しい制服に袖を通した。紺色のブレザーに紺色のスカート。シンプルだったが私としては、派手なものが好きじゃないのでとても気に入った。

 

「彩葉、お待たせ!ご飯出来たよ!」

 

「はーい!」

 

どうやら朝ごはんが出来たらしい。私は、スクールバッグを持って下へと降りた。

 

リビングへと行くと、テーブルの上にはトーストと目玉焼きが置かれていた。やっぱり朝は楓お母さんの手料理がいい。エレナお母さんの料理はちょっとしょっぱいんだよね。どうやら濃いめの味付けがエレナお母さんは好みみたいだった。

 

「何か言いたいことでもあるのかしら?」

 

「相変わらず人の心読むのやめてもらってもいいかな……そう言えばエレナお母さんも入学式来れるの?」

 

「当たり前よ。大切な一人娘の入学式ですもの。行くに決まってるじゃない。それで今回こそはちゃんと友達作ること。いいわね彩葉?」

 

「う……いやぁ作ろうとはしてるんだけどね……」

 

私には小学生時代からの悩みがあった。それは人付き合いがとても苦手だということ。別に人と話せないとかそういう訳ではない。何故だか面倒くさくなってしまうのだ。小学校入りたての頃は友達もいたが、気が付けばひとりぼっちになっていた。まぁ原因を聞いたら彩葉ちゃん放課後遊んでくれないんだもん。との事だった。

 

「部活かなんかやりなさいよ。中学に入学と同時に習い事は全てやめたでしょ?このままだと一生ひとりぼっちで私以下になるわよ。それでもいいの?私だって天音がいたからぼっちじゃなかったんだからね」

 

私は、小学生の時に水泳と空手をやっていた。理由は、5歳の時に事故を起こして水が怖くなってそれを克服するためと楓お母さんを守ってあげれる人になりたいと思ったから空手を習った。どうやら両方センスに恵まれていたらしく、水泳は25メートル自由形の県記録を塗り替え、空手では全国優勝をした。有名校からの誘いも多かったが、家から離れた中学に通いたくなかったので私は、楓お母さん達が通っていたチェリチョウ大学付属中学に進学することを決めた。

 

「放課後の貴重な楓お母さんとの2人っきりの時間を他の子に使えるわけないじゃん。中学は部活は入る気ないよ。友達は欲しいとは思うけどね」

 

「あのね……楓が貴方が5歳の時になんて言ったか覚えてないのかしら……」

 

エレナお母さんは頭を抱えながら話していた。この7年間で立派なマザコンになった私に困っているのだろう。

 

「覚えてるよ。だからもう彼女にしてなんて言ったことないでしょ?」

 

「そういう事じゃなくて……あー!楓!どうにかしなさいな!気が付いたら彩葉が立派なマザコンになっちゃったじゃない!」

 

楓お母さんは、私とエレナお母さんの話を軽く流していたように見えたのだがそうでは無かったらしい。箸を置くと楓お母さんは、私にこう言い放った。

 

「そうだね。もう中学生になるしそろそろ楓お母さん楓お母さんじゃ困るもんね。じゃあこうしようか。入学式の日はともかくとして明日から友達出来るまで私に甘えるの禁止。帰ったら私に抱きつかせないしお風呂も別々。可哀想だからエレナに抱きついたりお風呂一緒に入ることは許すね。それじゃ私も準備するからエレナ後片付けお願いね」

 

そう言うとそそくさと楓お母さんは自分のお皿を下げて2回へと上がって行った。

 

「え……ええええ!!!!!」

 

私が悲鳴をあげている横でエレナお母さんは楽しそうにクスクスと笑っていた。

 

 

 




彩葉「どうしてこんな事に……」
エレナ「マザコン拗らせるからよ。私にならいくらでも抱き着いていいのよ。ほら彩葉おいで?」
彩葉「ごめんなさい。コンクリートに抱きつく趣味はないので……」
エレナ「ホントにいい性格してるわね……」



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通学路にて

「どうしてこうなったかなぁ……」

 

彩葉はこの7年間ですくすくと育ってくれた。エレナと同じように言えば何でも出来る子で、学校の成績はオール5。習いたいと言った水泳と空手では初心者とは思えない程の動きを見せて先生達を驚かせていた。外見も綺麗な黒髪を背中の辺りまで伸ばして、ホントに子供の頃のエレナそっくりになってとても綺麗になっていた。彩葉は知らないが、前に先生と私2人で面談した時に言われた事だが、既に学校中で彩葉の名前は知れ渡っているらしく、女子校ながら彩葉の事を好きと言う子がたくさんいたらしい。そこまでエレナに似なくてもいいんだけどね……エレナもずっとモテモテだったからなぁ。ちなみに彩葉は、同学年の子からは氷帝と呼ばれていたらしい。ほとんど表に感情を出すことがなくて友達から話しかけられても無表情を貫いていたとか。家ではあんなに表情豊かなんだけどなぁ……ちょっと甘やかしすぎたかな。だからこそ今回は友達を作って欲しくて私に甘えるのを禁止させたわけだけど大丈夫かな……あぁ言ったはいいものの心配で仕方がなかった。

 

「楓、彩葉行ってくるって。お見送りぐらいしてあげたら?」

 

「はーい!今行く」

 

入学式の日ぐらいは良いだろう。私はそう思って新しい制服に身を包んだ彩葉を見送った。

 

「行ってくるね。それと楓お母さん……制服どうかな?似合ってる?」

 

彩葉は、少し顔を赤らめながら私の返答を待っているみたいだった。全く……母親に見せる顔じゃないんだけどなその顔……

 

「とっても似合ってるよ。入学式頑張ってね。友達もちゃんと作るんだよ!」

 

「わかってるもん!」

 

そう言うと彩葉は、玄関の扉を開けて学校へと向かっていった。

 

「エレナ、私達も準備しなきゃ。1時間後には式だからね」

 

「そうね。あの続きしてもいいのよ?」

 

きっと私が彩葉に言った事が面白かったのだろう。さっきからずっとエレナはニコニコしている。全く心配している様子がないけどそれもエレナなりの優しさなんだろう。

 

「馬鹿なこと言って準備間に合わなかったら置いてくからね」

 

そう言うと私はエレナを放置して自分の部屋へと支度をしに向かった。

 

「全くつれないんだから。置いてかれるのは嫌だしさっさと終わらせましょうかね」

 

--------------------

 

「はぁ……」

 

私は、家を出てから何度目か分からない溜息をした。今日の入学式だって楓お母さんに見てもらうためだけに頑張って起きたのに……それで帰ったら彩葉可愛かったよ!って優しく抱きしめてもらう予定だったのにな……

 

「はぁ……」

 

「ちょっとちょっと、そんな溜息ばっかりついてどうしたのよ?幸せ逃げちゃうよ?」

 

「え?」

 

横を見ると知らない間に私と同じ制服の子が横に立っていた。綺麗な黒髪をポニーテールにしている子だった。きっと表情が豊かなんだろう。私を見るそれは好奇心の塊と言ったような顔をしていた。身長は私より一回り小さく140センチほど。楓お母さんより少し小さいぐらいだろうか。でも不思議と初対面だったが嫌な感じはしなかった。

 

「えじゃないよー!ずっと横にいるのに気付かないんだもん!チェリチョウ中学の1年生だよね?これも何かの縁だし一緒に行こーよ!」

 

見知らぬ女の子は私の気持ちなどお構い無しにガツガツと距離感を詰めてきた。まぁ別にいーか一緒に行くくらい。

 

「まぁ別にいいけど……」

 

「元気ないなぁ。何か心配な事でもあるの?」

 

「いきなり知らない人に声を掛けられてびっくりしてるだけだよ」

 

そう言うと女の子は私の前に立つと、自分の事を話し始めた。

 

「あー!名前だよねごめんごめん!私は綾小路彩香(さやか)!宜しくね!君は?」

 

ホントに元気な子。きっと私と違って友達も多くいんだろうなぁ。

 

「月村彩葉。そろそろ行かないと遅れるよ」

 

私は名前だけ名乗って学校へと足を向けた。

 

「あ!ちょっと待ってよ月村!」

 

なんだかんだで私達は2人1緒に学校に向かうこととなった。

 

 




エレナ「貴方もう少し可愛く対応出来ないわけ?あ!私彩葉って言うの!宜しくね!ぐらい言えばよかったのに」
彩葉「私がそういうキャラに見える?あーやっぱりエレナお母さんに似たんだろうなぁ。楓お母さん似がよかったよ」
エレナ「自分でそういう性格になったんでしょうが……」
彩葉「はぁ……」

感想、評価など宜しくお願い致します!


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月村エレナの偉大さ

「ねー!聞いてるの月村!」

 

「あーもう!うるさい!聞いてるってば!」

 

私と綾小路さんはずっとこんな感じだった。道中小学生の時はどんなだったの!?ってかなんで溜息ついてたの!?ってか良く見たらめちゃくちゃ可愛いじゃん!モデルとかやってんの!?などなど質問攻めにされていたのだ。

 

「だって何一つ返事返してくれないんだもん。いいじゃん着くまで暇なんだし。あ!あれじゃん!学校見えてきたよ!」

 

ホントに自由な子だなぁ。綾小路さんは目の前に見えてきた大きな建物を見つけると目を輝かせて指を指していた。

 

チェリチョウ大学付属中学校は、高校、大学と共にここら辺では有名なお嬢様学校らしい。設備は充実していて、有名なお嬢様もここに入ってくるらしい。実際エレナお母さんと楓お母さんもいた事だしね。エレナお母さんがエレナお嬢様って呼ばれてるとこあんまり想像つかないんだけどね。だってあんなだし……

 

「くしゅん!」

 

「ちょっとエレナ風邪とかじゃないよね?」

 

「誰かが噂でもしてるんじゃないの?」

 

校舎の近くには新入生と思われる人達がたくさん集まっていた。皆真新しい制服に身を包んで嬉しそうだった。

 

「うわー!見て見て月村!リムジンで来てる人いるよ!」

 

「指さしたらダメだよ。でも凄いね。ホントにお嬢様学校なんだここ」

 

「私も良く分からないけどオバサンがここの学校なら安心して入れさせられるって言ってここに入ることになったんだ。月村もそんな感じ?」

 

「まぁそんな感じ」

 

どうやら綾小路さんは私と同じでお嬢様とかではないのかもしれない。まぁ言動的にお嬢様なわけないか。

 

「ふーん。あ!クラス分け発表されてるみたいだよ!見に行こーよ!」

 

「ちょっと引っ張らないでよ」

 

私は、綾小路さんに手を引かれながら学校の中へと足を踏み入れた。

 

お嬢様学校だけあって校舎は綺麗でグラウンドもとても広かった。門の近くでは上級生が部活の勧誘などを行っているみたいだ。

 

「あ!私B組だ!月村は……一緒じゃん!やったね!」

 

手を差し出され私は条件反射で手を上げてしまった。

 

パァン!

 

「これから宜しくね!」

 

「あ、うん。宜しく」

 

生まれて初めてのハイタッチに少しドキマギしてしまった。それに他の生徒達に見られたんじゃないかな。どうしようおかしな人だと思われてたら。

 

「どうかした?」

 

「ううん。何でもない。早く行こ。入学式まで教室待機って書いてあったでしょ」

 

私は他の人から変な目で見られてないか気になってその場にいられなくなり綾小路さんを置いてそそくさと校舎の中に入った。

 

「えっとB組は……4階みたいだね。面倒くさい……」

 

小学校の時は3階建てだったからなぁ。私は面倒くさいと思いつつ4階まで一気に駆け上がった。

 

「ちょっと月村……早いって……」

 

私の後ろでぜぇぜぇと息を荒らげて肩で息をしている綾小路さんがいた。もしかして運動とかは苦手なのかな?

 

「別に一緒に来ること無かったのに」

 

「冷たいね……」

 

「こういう性格だから」

 

「そう……よーし!復活!行こっ!」

 

「だから手を引っ張らないで!」

 

私は綾小路さんに手を引かれながら教室に入ったのだが、それが良くなかった。教室に入った瞬間皆が私達のことをいっせいに凝視したのだ。

 

「え?あの二人手繋いで入ってきたよ」

 

「もしかして付き合ってたりするのかな?」

 

「ってか背の高い子モデルみたいですんごい可愛くない!?」

 

意見は十人十色だったがその色々な声が私の耳に入ってめちゃくちゃ恥ずかしくなってしまった。なんで手を繋いだだけで付き合ってるってなるのよ……ってか綾小路さんはたまたま行きにあっただけで友達でもなんでもないし。

 

私は、繋がれていた手を振りほどくと自分の席である窓側の1番後ろの席へと座った。1番後ろかぁ。身長的に後ろになったのかな。そう言えば綾小路さんはどこだったんだろ。身長順なら前の方になりそうだけど。

 

綾小路さんは廊下側の1番後ろの席で隣の子にすぐ話しかけていたみたいだった。コミュ力の塊かなあの子は……っていうか身長順じゃなかったんだね。それなら前が良かったなぁ……前の方が黒板良く見えるし勉強も集中しやすいんだけどね。

 

「ちょっと柚月!ちんたらしてないで早くしなさいよ!」

 

廊下の方からだろうか。甲高い声が聞こえてきた。何か揉め事だろうか。

 

「申し訳ありません。皐月お嬢様、こちらが教室になります」

 

そう言って後ろの扉が開いて入って来たのは、私と同じぐらいの身長で綺麗な金髪を肩まで伸ばした女の子と自信がなさそうに金髪の子の後ろにくっついて歩く黒髪のショートの子がそこにはいた。それにしても綺麗な人。エレナお母さんや楓お母さんには届かないにしても、彼女達が入って来て教室内の雰囲気がガラッと変わった。

 

「皐月お嬢様。席はこちらになります」

 

「ふん。喉が乾いたわ。何か買ってきてちょうだい」

 

「は、はい!直ぐにお持ちします」

 

人使い荒いなぁ……きっとお嬢様とそのメイドなんだろうけどもう少しあの子の気持ちも考えてあげた方がいいと思うけどな。ってか私の前の席ってなんかやだな……彼女らの第一印象は横暴な主人と気の弱い従者。そんな所だろうか。

 

「ちょっと貴方、聞いてるの?」

 

「え?私ですか?」

 

綺麗な顔が私の目の前にあった。きっと考え事をしていたせいでこの金髪さんの言葉が全く私の耳に入っていなかったのだろう。

 

「貴方以外誰がいるっていうのよ。私は堂場皐月よ。これから1年間宜しくお願いするわね」

 

皐月さんは優しそうな笑顔を私に見せながら手を差し出してきた。予想していたよりまともな対応だった。メイドさん以外にはこんな感じなのかな。その優しそうな笑顔あの子にも見せてあげたらいいのに。

 

「月村彩葉。宜しくね」

 

私は、いつもの通り名前だけを言って皐月さんの手をそっと握った。それだけで終わると思ったが私が月村と名を名乗ったところ教室内の雰囲気がまたガラッと変わり周りがざわついた。皐月さんも表情が少し固くなったように見えたが気のせいだろうか。

 

「ん?なにか変な事言ったかな私」

 

私にはなんの心当たりもなく、ぼそっと皐月さんに言葉を投げた。変な事言ったつもりはないんだけどな。

 

「多分周りの子がざわついたのは貴方が月村って言ったからよ。ここら辺ではその苗字は有名ですもの。月村エレナ。ここの学校で数々の伝説を残したって言われてる人よ。ある時はクラス全員を相手にして全員を返り討ちにしたり、メイドの橘楓さんを守るためならなんだってしたって聞いたわ。とにかく凄い人って事で広まってるのよ。職員室前の部活や学業成績優秀者だけが名前が乗るところにしっかりあるのよ」

 

そんなに凄い人だったんだエレナお母さん……家ではあんなんなのに……

 

「それで、月村さんはエレナさんとはお知り合いなの?」

 

 

「月村エレナは私のお母さんだよ」

 

別に隠す必要もないと思い私は皐月さんに二つ返事で返した。

 

「えええええ!!!」

 

私がそう言った瞬間クラス中から声が上がり、席を立って皆が私の元へとやってきた。

 

「月村さん今度お母さんに会わせて!」

 

「家でもやっぱりかっこいいお母さんなの!?エレナ様と毎日一緒だなんて羨ましすぎる!いいなー!」

 

どうやら選択肢を間違えたらしい。黙っておけば誰にも干渉されずにただの同じ苗字で終わっていたかもしれないのに……

 

「えっと……機会があれば紹介するね」

 

私はクラスの人にそれだけ伝えて学校のトイレに逃げ込んだのだった。

 




彩葉「そうだ……皆に楓お母さんの足を舐めてる動画見せれば全て丸く収まるんじゃないかな。月村エレナっていう人間の本性ってタイトルで動画編集して学校中に流してもらえば……」
エレナ「恐ろしい事しようとしないで貰えるかしら……」
天音「その役目任された!絶対面白い!!!」
彩葉「ホントですか天音さん!お願いします!」
エレナ「貴方達の命が惜しかったらやめることね」
彩葉、天音「……」


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エレナのミス

入学式まで行きたかったですが長くなってしまいそうなので次回にします!


まさかエレナお母さんがあんな人気者だったなんて思いもしなかった。きっと皆のお母さんがエレナお母さんの先輩ぐらいにあたる年齢で子供にエレナお母さんの話をしたんだろう。ってか今日の入学式エレナお母さん来ると思うんだけど大丈夫かな……

 

「おーい。月村そろそろホームルームはじまるぞ。腹痛いのか?大丈夫?」

 

トイレの外から綾小路さんの声がした。わざわざ心配してくれて見に来てくれたのかな。だとしたらちょっと申し訳ない気持ちになった。ただ人と話すのが面倒になってトイレに逃げ込んだとは思っていないだろうしね。

 

「大丈夫だよ。もう出るから戻ってて」

 

「そっか。無理すんなよー」

 

それだけ言うと足音はトイレの中から外へと流れて行った。優しい人なんだね。

 

私は、トイレから出ると教室へと戻ろうとしたのだが。

 

「大丈夫?なんか周りの子に囲まれてた時死にそうな顔してたからちょっと心配してたんだ。ここに来る時に思ったんだけど月村ってあんまり人と話すの得意じゃないだろ?だから疲れてないかなって思ってさ」

 

大雑把な性格かと思っていたがそうではないらしい。私の態度が分かりやすいのか、この子が鋭いのか……エレナお母さんならこんな時軽くあしらっちゃうんだろうな。逆に楓お母さんならちょっとアタフタしてエレナお母さんが助けにいくんだろうなぁ。とにかく今はエレナお母さんと楓お母さんの前で恥かく訳にいかないから入学式ちゃんと成功させなきゃだよね。

 

「ありがとう。綾小路さんって優しいんだね」

 

「別にそんなんじゃないよ。ってかやっと笑ってくれたね。笑った顔可愛いんだからむすっとしてない方がいいと思うよ」

 

「はぁ!?別に可愛くないから。早く戻ろ!」

 

面と向かって可愛いなんて言われたせいで自分の調子が完全に狂ったのが分かった。それに私なんかより綾小路さんの方が可愛いと思うけどな。

 

「照れることないじゃんか。ちょっと待ってよー!」

 

「うるさい!」

 

私は綾小路さんを置いて1人教室へと戻った。

 

教室に戻ると、前の席の堂場皐月さんが私に申し訳ないと言った顔で話しかけてきた。

 

「ごめんなさいね。まさかあんなに騒がしくなるなんて思わなくて……」

 

やっぱり皐月さんはメイドの柚月さん以外には優しいのかも知れない。

 

「別に大丈夫だよ。お母さんがあんな人気者だったなんて知らなかったからさ。まぁまた騒ぎになるのだけは勘弁して欲しいかな」

 

「そこら辺は大丈夫だと思うわよ。綾小路さんがあんまり人の家の事で突っ込むのはどうかと思う。って皆を一喝してくれたからしばらくは大丈夫じゃないかしら」

 

「綾小路さんが?」

 

「えぇ。貴方が居なくなってからすぐにね。友達が困ってるから助けてくれたんじゃない?いいお友達がいて羨ましいわ」

 

「いや綾小路さんは別にそんなんじゃ……ううん。そうだね。後で改めてお礼言うことにする」

 

流石にそこまでしてもらって私の口から友達じゃないなんて死んでも言えなかった。向こうが私の事を友達と思っているのかは分からないが今はそういう事にしておこう。

 

コンコンコン。

 

「失礼するわね。皆、席に着いて貰っていいかしら」

 

教室のノックと共にこのクラスの担任の先生らしき人が入ってきた。なんだか真面目な人っぽい。そんな気がした。外見は黒髪のショートカットで薄い化粧をしていた。年齢はお母さん達と同じぐらいだろうか。

 

「まずは入学おめでとうございます。私は今日からB組の担任をする事になった乾梨花と言います。宜しくね」

 

そう言うと、乾先生は黒板に今日の大まかな予定を書き出していた。この後すぐに体育館に移動して入学式。それが終わったら流れ解散になるらしい。本格的なクラスでの活動は明日からになるみたいだった。

 

「それと月村さんには新入生代表挨拶をしてもらう事になってるけどお母さんから聞いてるよね?」

 

ん?今、月村って言わなかったかな。新入生代表挨拶?お母さんから何か聞いてる?いや全部初耳なんですけど……

 

「今の今までそんな事知りませんでしたけど……」

 

「え……エレナお母さんから何も聞いてない?」

 

「はい。全く言われてませんが……」

 

乾先生もこの事態は想定していなかったのだろう。明らかに顔に焦りの色が出ていた。

 

「はぁ……何してるのエレナ……ちょっと待っててね。今原稿持ってくるから。この際暗記なんてしなくてもいいからさ。読んでもらうだけでいいから……ホントにごめんね」

 

「い、いえ。こちらこそ母が何かすみません……」

 

こうして私が新入生代表の挨拶をする事となった。ホントに何してるのよエレナお母さん!

 

--------------------

 

さてと。いつも通り黒の服装でいいかしらね。それと鞄を持って。ん?何これ?月村エレナ様?こんな封筒あったかしら。

 

「エレナー!後10分で出るからね!」

 

「分かってるわ!ちょっと待ってて!」

 

階下から楓の呼ぶ声がする。ただこの封筒のシールに心当たりがあったのだ。確かあれは2週間前ぐらいに酔って帰ってきて今はチェリチョウ学院の先生をやってる梨花ちゃんから電話があって……

 

『もしもしエレナ?久しぶり!私の事覚えてる?』

 

「久しぶりね。もちろん覚えてるわよ。何かあったの?」

 

『娘さんうちの中学に来てくれるんでしょ?なら生徒代表の挨拶を頼みたいんだけどどうかなって思って』

 

「ふふ、彩葉なら何でもこなしてくれるから任せなさいな。なんたって私の娘なんだから挨拶ぐらい難なくこなすわよ!」

 

『ホントに!?なら言っといてね!私忙しいから手紙送るからそれに詳しい詳細とか載ってるから娘さんに伝えてあげてね。それじゃまたね!』

 

「わかったわ。あー……頭痛い。早く寝なきゃ……」

 

………

 

「あーーー!!!」

 

「ちょっと何!?エレナ!?何かあったの!?」

 

って事はこの封筒の中身って……

 

私は、封筒を開けると予想通り今日の入学式についての流れなどが細かく書いてあった。今頃彩葉と梨花ちゃん困ってるだろうな……昔っからホントにお酒が絡むとろくな事がないわね。ってかこの事楓に言わない方がいいんじゃないかしら。多分めちゃくちゃ怒られるわよねこれ。それでしばらくの間晩酌禁止ってなりかねないし……よし。この封筒の事は何も見てないし知らない。

 

「エレナ、その手紙何?そのシール学校からだよね?」

 

「え?あぁ。同窓会のお知らせみたいな感じよ。だから大したものじゃないわ。ほら、早く行きましょ。彩葉も待ってるだろうし」

 

私の行動がよそよそしかったのか変なところがあったのかは分からないが、楓はそんな甘い人ではなかった。私の手を払いのけるとそのまま手紙を手に取って中を確認していた。

 

「ふーん。彩葉に新入生代表挨拶ね。それでエレナ。この事ちゃんと彩葉に教えてあげた?まさか今思い出して誤魔化そうとしたなんて事ないよね?」

 

しまった……とにかく今は誤魔化さないと。

 

「そんな訳ないじゃない。私を誰だと思ってるのよ」

 

「エレナ。最後の質問ね。彩葉にちゃんと伝えたの?もし、彩葉が帰ってきた時に何も聞いてなかったって言って泣きついてきたらどうなるか分かるよね?まさかあの月村エレナが嘘ついて誤魔化そうだなんて思わないよね?」

 

楓に私の嘘は通用しないんだったわ……完全にお怒りモードになっていた。

 

「すみませんでした……」

 

私は、一通りこうなってしまった経緯を楓に話した。

 

「もー!ほんっと有り得ない!しばらくはお酒は禁止だからね!彩葉大丈夫かな……」

 

「大丈夫よ。あの子ならしっかりやってくれるわよ」

 

「あのね……彩葉は人前とか得意な方じゃないんだからホントに金輪際やめてよね」

 

「気を付けるわ」

 

確かに私達の前ではしっかりしてるけど実際他の人の前だとどうなっているのかは気になった。楓からは、ほとんど学校では話さないって聞いたけど、あまり信じられないのよね。実際私の友達と話す時は表情豊かでいい子なんだもん。まぁ今日しっかり挨拶が出来たら大丈夫ね。楽しみに待つ事にするわ。

 

--------------------

 

「ええっと……暖かな春の光に誘われて桜のつぼみも膨らみ始めた今日の良き日、私たちは聖チョリチョウ大学付属中学校に入学しました。どんな生活が待っているのだろうと不安と期待が入り混じった複雑な気持ちです。

授業について行けるのか、部活動はきつくないか、友達とうまくやっていけるのか、不安は尽きません。しかし、この不安も楽しみながら一歩一歩確実に中学生として頑張っていけるよう努力してまいります。先生方、並びに来賓の方々、御面倒をおかけすることがあるかもしれません。優しく、時に厳しくご指導していただけると嬉しいです。………長いよ!こんなの覚えられるわけないじゃん。いいや普通に紙持ちながら読も」

 

私は乾先生が考えてくれた新入生代表の挨拶文を読んでいた。流石にこの量を30分で覚えられるわけがない。だいたい今回はエレナお母さんのせいでこんなことになってるんだし、無理することもないよね。

 

「……でもエレナお母さんならこんな時も何の問題もないわよって感じでこなしちゃうんだろうな。仕方ない、やるだけやってみるかな」

 

1度は諦めかけたが入学式が始まるギリギリまで挨拶文と睨めっこすることとなった。流石に空気を読んでくれたのか前の席の皐月さんや綾小路さんは話しかけてこなかった。

 

〜入学式5分前〜

 

「それでは皆さん廊下に出席番号順に並んで下さい。月村さんは1番前に。ホントにごめんね急になっちゃって」

 

乾先生は申し訳なさそうに私に向かって頭を下げていた。もう何度頭を下げて貰ったか分からない。エレナお母さん今日来るならちゃんと乾先生に謝ってよね。もちろん私にもだけど。

 

「気にしないで下さい。どれもこれもあの人が悪い事なので。なんとか少しは覚えましたが心配なのでメモ帳に文章写したのでそれは持っていってもいいですか?」

 

「むしろあの短時間でもうそんなに覚えたの!?凄いね。もちろん大丈夫だよ。頑張ってね!」

 

「ありがとうございます」

 

クラスで列になって待っていると、前のクラスの人達が動き始め私達のクラスも入学式が行われる体育館へと向かった。




エレナ「なんだか前に皆で一緒に海行った時あたりからどうも酒癖が悪いって言うか弱い気がするのよね……アルコールに弱いのは楓だけだと思ったんだけど……」
楓「別に私はお酒苦手じゃないよ?前に詩織さんと飲んだ時ストゼロ2リットル普通に飲めちゃって自分でもちょっと引いちゃった」
エレナ「マジ……?ってかストゼロって言うのやめなさい。別に家でも飲んだらいいのに」
楓「ううん。私は別にお酒好きってわけでもないからエレナが飲みたい時に一緒に飲めたらそれでいいかな」
エレナ「好き」
楓「なにそれ、変なエレナ」

詩織「何を見せられてるの私達……」
彩葉「私に聞かないで下さい……毎日毎日こんな感じですよ。全く、ホントに今回は大変だったんだから反省してよねエレナお母さん。あー……ダメだ。完全に2人の世界に入っちゃった。それでは次回は入学式になります!私がちゃんと新入生代表として挨拶出来たか見てくださいね!」


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緊張と本番

「それではこれより第45回聖チョリチョウ大学付属中学校の入学式を始めます。新入生は入場の準備をして整列してください」

 

司会の先生の合図で私を含めた新入生が体育館の前で待機していた。私達B組も入学式のその時を、今か今かと待っていた。外から中をちらっと見た時に、皆のご両親や来賓の方、それに在校生で体育館内は凄い人で溢れかえっていた。

 

「私こんな人の前で挨拶するのか……」

 

正直今まで大勢の前で挨拶などをした事がなかった私は不安でいっぱいだった。先程まで8割程暗記していた挨拶文も体育館の前に来た瞬間全てを忘れてしまっていた。どうしよう……こんな時エレナお母さんならどうやって緊張をほぐしたのだろうか。そもそも緊張なんてしなかったのかな。

 

「顔色悪いけど大丈夫?」

 

「綾小路さん?何で一番前に?」

 

「綾小路のあで出席番号1番だからだよ」

 

声をかけられて振り向くとそこには、心配そうに私を見つめる綾小路さんがいた。なんだかポニーテールが朝見た時よりしゅんとしているのは気の所為だろうか。

 

「なるほどね」

 

それ以上の言葉が出てこなかった。緊張で喉は乾ききっているし手は震えているしでこの場から逃げ出したくなっていた。

 

「乾先生。予定では何時から入場でしたっけ?」

 

「ん?後15分後よ。ちょっと在校生の入場に手間取って予定より送れてるみたい。ごめんね待たせちゃって」

 

「ありがとうございます。ちょっと月村さんトイレ我慢してるみたいなのでダッシュで行ってきますね!ほら月村早く!我慢は体に良くないよ!」

 

「え?ちょ!ちょっと引っ張らないで!」

 

綾小路さんが何を考えているのか私には、全く分からなかった。トイレに行きたいなんて一言も行ってないし我慢もしてない。

 

「え?ここトイレじゃなくて中庭だよ?」

 

「いいからそこ座って。綺麗なとこだよねここ。私入学する前におばさんに特別に入れてもらってここの桜の木が大好きなんだ」

 

綾小路さんが私を連れてきたのはトイレではなく、体育館のすぐ横にある中庭だった。中庭と言っても小さくはなく、木や花などが植えられていてとても綺麗に咲き誇っていた。桜の花のすぐ傍のベンチに私は半ば強引に座らされた。

 

「そうなんだ。って何で私をここに連れてきたの!?そろそろ入学式始まっちゃうのに。まだ暗記だって勘弁じゃないから遊んでる暇ないよ!」

 

私は今すぐにでも中庭を出て元の場所に戻ろうとしたが、それを綾小路さんは止めた。

 

「全く……そんな焦っても仕方ないでしょ。ちょっとは落ち着きなよ」

 

「別に焦ってなんてないし落ち着いてるよ。だからどいて」

 

綾小路さんはそれでも私の前をどかなかった。

 

「声は震えてるし手汗もびっしょりな人が落ち着いてる?それはちょっと無理があるんじゃない?全く。せっかく私が緊張ほぐしてあげようと思ってゆっくり出来る場所連れてきてあげたのに」

 

「え……?」

 

綾小路さんは私を落ち着かせるためにここに連れ出してくれたの?確かに今は手の震えもないしさっきまでの緊張感や喉の乾きも消えていた。

 

「え?じゃないよ。流石に目の前であんな顔白くなられたら心配にならない方がおかしいって。朝はため息ついてるし体調悪いなら休んだ方がいいって」

 

そこまで心配してくれてたんだ。それで先生に気づかれないように私を連れ出してくれたんだ……でもなんで出会ったばっかの私にそこまでしてくれるんだろうか。私は思い切って綾小路さんに聞いてみることにした。

 

「ありがと。でも何で出会ったばっかの私にそこまでしてくれるの?綾小路さんに何の得もないはずだよ。朝もエレナお母さんの件で周りの子に言ってくれたみたいだけど、それで綾小路さんが悪く見られたりしたら大変だと思うし」

 

「特に理由はないかな。強いて言うならなんかほっとけないんだよね。それに可愛い子と仲良くなりたいっていうのは自然の摂理だと思うし。あ、また赤くなったね」

 

「もー!別に可愛くないって言ってるでしょ!……まぁありがとう。大分落ち着いたからもう大丈夫。先戻るね」

 

私は恥ずかしさの余り綾小路さんの顔を見れず、逃げるようにその場からいなくなった。でも助けられたのは事実で、先程までの緊張などは全てなくなり、さっきまで暗記していた文章が頭の中に戻ってきた。入学式が終わったらなにかお礼しなきゃ。楓お母さんから何かしてもらったら絶対お礼するんだよと小さい頃から口酸っぱく言われていたからであって私自信が綾小路さんに何かしてあげたいとかでは断じてないから。

 

「ふふ、ホントに不思議な子。頑張れ月村」

 

--------------------

 

「すみません戻りました」

 

私は綾小路さんより一足早く体育館の前へへと戻った。丁度私達の前のクラスが入場している所でギリギリだったみたいだ。

 

「次からはもっと早くトイレ済ませてね。それで新入生代表の挨拶だけど大丈夫?さっきも言ったけど私があげた紙見ながら言っても大丈夫だからね?」

 

「いえ、大丈夫です。エレナお母さんが同じ立場に立っていたら間違いなく全文暗記して完璧にこなすはずです。だから紙は見ません。もしもの為にポケットに入れておきます」

 

「それなら頑張ってきなさい!きっとお母さんも楽しみに席で見ているはずよ。さてと、それじゃ皆私についてきてね!」

 

そう言うと乾先生は、体育館の中へと入っていった。それを追うように私達はゆっくりと体育館への中へと入場した。知らない間に綾小路さんも戻っていた。

 

体育館に入って1番に目に入ったのは大きなステージと教壇。あそこで私は皆の代表として挨拶をするんだ……絶対成功させなくっちゃ。入ってすぐは在校生とご来賓の方々が座っていた。そして、体育館の中央辺りに保護者の席があった。流石にこの広い保護者席で楓お母さんとエレナお母さんを見つけるのは難しいと思ったがすぐにエレナお母さんを見つけられた。何故だか理由は分からないが、A組の人達がエレナお母さんを取り囲んでいた。ある人は握手をしていたりある人は写真やサインを求めていた。横にいる楓お母さんは、呆れているようなまたか……という表情をしていた。ホントにどれだけ人気なんだあの人……

 

「凄い人気だねエレナさん」

 

後ろを歩いていた綾小路さんが小さな声で私に声をかけてきた。丁度A組の人が立ち止まってしまったせいで私達も足止めを食らっていた。

 

「私には何であんな人気出るのか分からないけどね」

 

『新入生の方は立ち止まらずに入場して下さい。保護者の方やご来賓、在校生の方に声をかけないようお願いします』

 

見かねた先生がアナウンスで新入生に注意喚起のアナウンスを入れていた。ホントに何してるんだか……そして私もエレナお母さんの横を通る時にちらっとエレナお母さんの顔を見たら苦笑いで顔の前でごめんねの仕草をしていた。私はそれを無視して自分の席へと座った。そして、新入生全員が所定の位置に座るとついに入学式が始まった。

 

最初に校長先生の挨拶、国歌斉唱、在校生からのお言葉、ご来賓の方々からのお話などがあり、ついに私の出番が来た。

 

『それでは次に新入生代表の挨拶となります。1年B組月村彩葉さん。ステージまでお願いします』

 

「はい」

 

月村と言う名前が呼ばれた時にまた周りがザワついたのが分かった。ホントにどれだけ知名度があるんだか。私は特に緊張もすること無くステージの上へとあがった。ステージの上へと上がると全体を見ることが出来たが、周りを見すぎると緊張すると思い、楓お母さんを見ながら話す事にした。楓お母さん以外の人は全て物語で言うところのモブなんだ。わざわざ視界に入れることは無い。そして私は、話し始めた。

 

「暖かな春の光に誘われて桜のつぼみも膨らみ始めた今日の良き日、私たちは聖チョリチョウ大学付属中学校に入学しました。どんな生活が待っているのだろうと不安と期待が入り混じった複雑な気持ちです。授業について行けるのか、部活動はきつくないか、友達とうまくやっていけるのか、不安は尽きません。しかし、この不安も楽しみながら一歩一歩確実に中学生として頑張っていけるよう努力してまいります。先生方、並びに来賓の方々、御面倒をおかけすることがあるかもしれません。優しく、時に厳しくご指導していただけると嬉しいです。新入生代表、1年B組月村彩葉」

 

パチパチパチパチパチパチ。私が挨拶を終えると周りから拍手が送られた。ミス無く言えてよかった。私は一安心してステージから降り、元の席へと戻った。席へ座ると綾小路さんに話しかけられた。

 

「完璧だったね。お疲れ様」

 

「ありがと」

 

淡白な返事だったが今はこれでいいだろう。お礼はちゃんとするから待っててね綾小路さん。そして、自分の出番が終わった事で安心しきってしまった私は気が付けば睡魔に襲われ意識は夢の中へと消えていった。




彩葉「なんで新入生にたかられてたの?」
エレナ「んーなんかエレナ様ファンクラブみたいなのがあるらしいわよ。それで私見つけて驚いてその勢いみたいよ。それに保護者じゃなくて来賓の人だと思われてたらしいわ。まぁ新入生代表の挨拶が彩葉だったしそこで気付いたかもね」
彩葉「なるほどね。めんどくさいなぁ……エレナお母さんと比較されたらこの先めちゃくちゃだるいよね」
エレナ「いいじゃない?目指すべきものは大きいものの方がいいのよ」
彩葉「そうだね。それじゃ高校に上がるまでに友達3人作って胸をエレナお母さんより大きくすること目標にするね。今Aカップだよね?」
エレナ「失礼ね!Bはあるわよ!」
楓「嘘つくのは良くないと思うな。エレナはBよりのAだよ」
彩葉「エレナお母さん……」
エレナ「そんな目で私を見ないで……」

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名前呼びと遭遇

「月村起きて。入学式終わったよ」

 

「ん……」

 

どうやら知らない間に眠ってしまっていたらしい。入学式早々寝るってこの先大丈夫かな……

 

「おーい。そろそろ私の肩が月村の体重支えきれなくなってるから早く起きてー」

 

「え?」

 

ちらっと綾小路さんの方を見ると吐息が当たってしまうんじゃないかってレベルの近くに顔があって本当にびっくりした。ってかよく見るとめちゃくちゃ可愛いじゃん綾小路さん。目は二重でパッチリしているし唇が小さくて小顔でとにかく私なんかよりずっと可愛い人だと思った。って違う!!!

 

「ご、ごめん!もしかしてずっと寄っかかってたの私?」

 

「気にしなくていいよ。緊張の糸が切れて安心したのかなって思ってたから。それに月村の寝顔可愛かったし」

 

綾小路さんはニヤニヤと笑いながら私に言葉を返した。ホントにまたそういう事言うんだから。

 

「ホントに色々とありがと。正直綾小路さんにさっき連れ出して貰えなかったらどうなってたか分からなかったかも」

 

「別に気にしなくていいって。私がやりたいようにやっただけだしさ。ほら退場だよ。とっとと進んだ進んだ」

 

「とにかく後でしっかりお礼したいからすぐ帰らないで待っててね」

 

「それなら楽しみにしとくね」

 

こうして私の入学式は無事に終わり、教室へと戻った。退場途中エレナお母さんがなんだかニヤニヤしていた気がするのは気の所為だろうか。あの人の含みのある笑み見た時って絶対何か変な事考えてるんだよね。気のせいだといいけど……

 

--------------------

 

教室に戻ると、私はクラスの皆に机を囲まれていた。

 

「凄いね月村さん!かっこよかったよ!」

 

「別にそんなことないよ」

 

どうやら先程の挨拶でクラスの人気者になってしまったらしい。いや嬉しいんだけどこうも周りから褒められたことってないからどんな対応していいか分からないからめちゃくちゃ困った。

 

「ほらほら皆さん。月村さん困ってるじゃないの。そろそろ先生戻ってくるし席に戻りましょ」

 

私があたふたしていたら前の席の皐月さんが助け舟を出してくれた。流石お嬢様の一声だ。さっきまで私の周りを囲んでいた人達が一瞬でいなくなった。家柄とかも有名なのかな?私はそういうの分からないし同じ1年生に上下関係なんていらないと思ってるからね。

 

「ありがとう皐月さん」

 

「いえいえ。それにしても本当にかっこよかったですわよ。お疲れ様」

 

そんなにかっこよかったら家に帰ったら楓お母さんにも褒めて貰えるかな。楓お母さんに彩葉かっこよかったよ!って言って貰える所を想像したら頬が緩んでいくのが自分でも分かった。

 

その後は乾先生が戻って来て明日からの日程をざっと説明すると今日は解散となった。

 

ホームルームが終わると綾小路さんが私の方に向かって歩いて来た。

 

「終わったねー。一緒に帰ろ」

 

「うん」

 

あれだけの事をしてもらって流石に1人で帰るなんて言えなかった私は、綾小路さんのその提案に乗ることにした。

 

「それで私にお礼って何してくれるの?何かお礼したいって言ってたよね?」

 

綾小路さんは目を輝かせて私の方を見ていた。何にも考えてなかった……こういう時どうしたらいいんだろ。

 

「逆に何か私にして欲しい事ってある?出来る範囲の事なら何でもするよ」

 

「んーそーだね。後一つだけ忠告しとくね。『何でも』なんて言葉は軽々しく使わない方がいいよ。私が難しい事言ったらどうするつもりだったの?」

 

「大丈夫だよ。その時は何にもあげないから」

 

「ホントにいい性格してるね……これはお礼じゃなくて提案なんだけどさ、綾小路さんって呼び方他人行儀で嫌だから彩香って呼んでよ。私も彩葉って呼びたいからさ。ダメかな?」

 

なんだか綾小路さんの頬がほんのり赤くなっているのは気のせいだろうか。名前呼びね。別にそれぐらいなら構わないかな。前の席の皐月さんも名前で呼んでるしね。

 

「別にいいよ」

 

そう言うと綾小路さん、ううん。彩香の顔がぱぁっと明るくなったのが分かった。

 

「よかった!それじゃ改めて宜しくね彩葉」

 

「こちらこそ宜しくね彩香」

 

別に名前呼びくらいなんて事ないと思っていた私だったが少しだけなんだか恥ずかしかった。私は恥ずかしさを隠すために彩香に早く帰ろうと言って帰路を急いだ。

 

「お礼だけどさ、今度何か飲み物奢ってよ。私はそれぐらいで満足だよ」

 

「そっか。それなら今度お昼一緒に食べた時にでも奢るね」

 

そんな会話をしつつ私と彩香は2人で通学路をのんびりと帰っていたのだが……家まで後もう少しの所まで来た時に私は、いつも見ている2人の背中を確認した。

 

なんであの人達まだ帰ってないの!入学式終わってからすんごい時間経ってるのになんでまだこんなとこうろちょろしてるのよ。

 

なんとなくだけど、2人で一緒に帰っている所をエレナお母さんに見られたくなかったのだ。楓お母さんに見られたところで「お友達?こんにちは」ぐらいで終わると思うけどエレナお母さんに関してはどんな事を言うか全く予想出来なかった。

 

「ねぇ彩香。ちょっと回り道していかない?」

 

「え?でも彩葉の家ってもうここら辺なんじゃないの?」

 

「そうだけどちょっとこのまま真っ直ぐ帰ると色々面倒な事になる気がして」

 

彩香は、何を言ってるのか分からないと言った表情をしていた。それはそうだろう。帰るべき家が目の前にあるのになんで今更迂回したがるのかなんて分かるわけが無い。取り敢えず接触だけは避けたかった私だったがそのお願いは神様に聞き取って貰えなかったらしかった。

 

「あ、彩葉じゃない。おかえりなさい」

 

エレナお母さんに見つかってしまった。もー!わざわざ声掛けなくたっていいのに!

 

「彩葉?お母さんおかえりなさいって言ってるよ?」

 

「あーうん。ただいまエレナお母さん、楓お母さん」

 

私が2人にお母さんと言ったからだろうか彩香は、不思議そうな顔をこちらに一瞬向けたがすぐに2人のお母さんの方に顔を向けていた。

 

「こんにちは」

 

私がエレナお母さんに返事を返すと横の彩香もエレナお母さんと楓お母さんにぺこりとお辞儀をしていた。

 

「こんにちは。お友達……よね?彩葉を宜しく頼むわね」

 

「は、はい!綾小路彩香と言います。こちらこそ宜しくお願い致します!」

 

流石の彩香もエレナお母さんの前では低姿勢になっていた。まぁそれが普通か。

 

「綾小路?聞いていいかしら。綾小路由紀さんって人はご存知?」

 

「はい。私の叔母にあたる人です。この学校を進めてくれたのも叔母で小さい頃から面倒みて貰ってました」

 

「そうなのね。良かったらお茶でも飲んでいかない?楓もいいわよね?」

 

「もちろんだよ。私は楓。宜しくね彩香ちゃん」

 

楓お母さんがニッコリと笑いながら彩香に自己紹介をしていた。やっぱり楓お母さんの優しい笑顔は天使そのものだった。

 

「宜しくお願いします!ほんとですか!?それじゃお言葉に甘えてお邪魔します!」

 

え?私の意見は?ってかそんなとんとん拍子に家にあげていいの!?うちの家系ちょっと複雑なの忘れてるわけじゃないよねエレナお母さん。

 

「ほら彩葉。彩香ちゃんを案内してあげて。先に帰って準備しておくわね」

 

「え?うん。分かった」

 

そう言うとエレナお母さんと楓お母さんは、一足先に自宅へと戻って行った。

 

「めちゃくちゃ緊張した……エレナさんホントに綺麗で凛々しくてなんか私なんかとオーラが違うもん。お茶した時に彩葉の小さい頃の話とか聞いちゃおっと!ほら早く行こ行こ!」

 

綺麗で凛々しくてオーラがある。か……その魔法がとけないといいね彩香……

 

私と彩香はエレナお母さんと楓お母さんが待っている自宅へと急いだ。




エレナ「良かったじゃない楓。初日で可愛い友達作ったみたいよ」
楓「みたいだね。でもエレナ、あんまり彩葉は家にあげることに同意してはなかったみたいだよ。ちょっと不機嫌そうな顔してたし」
エレナ「由紀ちゃんの話も聞きたいしね。それになんだか面白そうだし」
楓「もー……後者が9割でしょ。とにかくせっかく来てくれるんだからくれぐれも変な事言わないでよ」
エレナ「分かってるわよ」

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月村家にて

「着いたよ。ここが私の家」

 

「おー。普通だ。なんかもっと凄い豪邸に住んでるのかと思ってたよ」

 

結局エレナお母さんに言われるがままに彩香を連れてきてしまった。まぁ大丈夫だとは思うけどうちにはお母さんが2人いたりお父さんがいないこと、それに私は養子だって言うことが一瞬でバレると思うけど彩香はなんて思うかな。ちょっとそこがひっかかっていてあまり乗り気ではなかった。

 

「エレナお母さんと楓お母さんが学生の頃はちゃんとした御屋敷に住んでたみたいだけど今はこのぐらいがいいんだって。とにかく入って。彩香連れてきたよエレナお母さん、楓お母さん」

 

「お邪魔します」

 

そう言うと中からエプロン姿の楓お母さんがリビングからチラッと顔を覗かせ、パタパタとこちらに向かってやってきた。

 

「おかえりなさい。彩香ちゃん?でいいんだよね。いらっしゃい。今紅茶いれてるから彩葉の部屋使ってね」

 

「はい。ありがとうございます!彩葉の部屋ってどこ?」

 

「2階だよ。ついてきて」

 

良かった。リビングでお茶したら間違いなくエレナお母さんに茶々入れられるとこだったけど私の部屋なら大丈夫だろう。私は彩香を手招きすると自分の部屋へと案内した。

 

「なんかそんな気がしたけどシンプルな部屋だね。彩葉らしい気がする」

 

「まぁ余計な物とか装飾しないしね私。そこ座っていいから」

 

特に座るところもないなと思った私は自分のベットを指さすと2人並んでそこに座ることにした。

 

「いいなーベット。私の部屋和室だから敷布団だからちょっと憧れてたんだ」

 

「そうなんだ。でも和室も素敵だと思うよ」

 

そういうと彩香の顔がぱあっと明るくなったのが分かった。少し話してみて思った事はこの子も結構顔に出るんだなって私は思った。

 

コンコンコン

 

「彩葉、入るわよ」

 

「え?」

 

私が返事を返す前にエレナお母さんが私の部屋へと入ってきた。手にはお盆を持っていて私達にお茶やお菓子などを持ってきてくれたみたいだ。

 

「紅茶と楓が焼いてくれたクッキー置いておくわね。よいしょっと」

 

「ありがとうございます」

 

「ありがと。それでなんでエレナお母さんは私の前に座ってるのかな?もう用は済んだでしょ?」

 

お盆を置いて撤退するのかと思いきや、エレナお母さんはどうやら部屋に居座りたいらしかった。こうなる気がしたからやだったんだよ……

 

「せっかく娘が最初に連れてきてくれた友達ですもの。少しは居てもいいでしょ?ねぇ彩香ちゃん」

 

「私もあのエレナさんとお話出来るなら喜んでお話したいです」

 

彩香は、目を輝かせていた。やっぱり月村エレナという人物に憧れを抱くのはあの学校にいればそうなってしまうものなのかな。

 

「まぁ彩香がいいっていうならいいけど少しだけだからね」

 

「ありがと。それで由紀ちゃんは元気?」

 

早速エレナお母さんは彩香に質問しているみたいだった。そう言えば彩香の叔母さんとエレナお母さんは知り合いだって言ってたっけ。

 

「元気どころか毎日うるさすぎるぐらいですよ……色々あって今は叔母さんと2人で住んでるんですけどホントに細かいんですもん」

 

「ふふ、そうなのね。元気そうで安心したわ。あんまり長居するのも悪いし私はここら辺で失礼するわね。何か聞きたい事があったら彩葉に聞けば教えてくれると思うわ。それじゃぁね」

 

「はい!」

 

そう言うとエレナお母さんは、私の部屋を出ていった。って言うか彩香は今ご両親と一緒に住んでないのか。まぁ他の家庭の事情には首突っ込まない方がいいよね。私も突っ込まれたら色々説明しずらいし……

 

「やっぱり綺麗だなぁエレナさん。彩葉がエレナさんの娘って言うのも納得いくもん」

 

「どういう意味よ……まぁ私も綺麗な人だとは思うよ」

 

エレナお母さんが出て行って、彩香は緊張が解れたのか私のベットにゴロンと横になっていた。

 

「そのまんまだよ。彩葉だって学校内で1番綺麗だと思うからやっぱりエレナさんに似てるなって。最初見た時モデルさんかと思ったもん」

 

ホントにこの子は裏表が無さそうに話す子だなと思う。ここまで言って貰って悪い気はしなかった。

 

「まぁありがとう。別に私自身は可愛いだなんて思ってないけどね。ってかなんで私の布団に潜り込んでんの……」

 

「いやなんか眠くって……おやすみ……」

 

そう言うと彩香は本格的に寝ようとしてるみたいで顔まで布団の中に隠れてしまった。まだ私達会って数時間だと思うけどよくそんな事出来るね……まぁなんかその行為が可愛いく見えてしまって私は彩香を止めなかった。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「ホントに寝ちゃったよ……今日はありがとね彩香。色々助けて貰ったお礼にしばらく寝かしといてあげる。ってか彩香の方が私なんかよりよっぽど可愛いと思うよ。ふふ、本人起きてたら絶対こんな事言えないけどね」

 

私は彩香が規則正しい寝息を立てているのを確認してからまだ読んでいなかった本を取るとベットの前で読む事にした。

 

 

--------------------

彩香side

 

ごめん彩葉。ガッツリ起きてる……どうしようまさかそんな事彩葉に言って貰えると思ってなくて、私は気が動転してしまっていた。

 

私が彩葉に近付いた理由は本当に単純だった。ただ綺麗な子がしょんぼり歩いていたからなんだな放っておけなかったのだ。下心が無かったと言ったら嘘になる。小さい時から可愛い物や綺麗な人が好きで、どうせ友達を作るなら綺麗な人が良いななんて思っていた所に彩葉が現れたのだ。最初は無愛想で自分勝手な人かと思ったけど、少し打ち解けてくれたのかは分からないけど、笑顔が増えていってお母さんの前では恥ずかしそうに怒ったりそういう所が可愛いくて仕方なかった。

 

でも

「彩香の方が私より可愛いと思うよ」

 

はずるいと思う。耳元で綺麗な子に囁かれたら誰でも真っ赤になるに決まってるじゃん。別に恋愛感情とかは無いけど普通の女の子なら彩葉に落とされてたかもね。そもそも女子校だからといって女の子同士でなんてほとんど聞いた事ないし、ましてやあの彩葉があるわけない。ってかどうしようこれ。適当に1時間ぐらいしたら起きた事にしようかな。なんかいい匂いするししばらくこのままでいいや。少しすると私は、居心地の良さと布団の温かさに負けて意識は夢の中へと落ちていった。




エレナ「案外早かったわね。よっぽど楓に甘えられなくなるのが嫌だったのかしら」
楓「多分だけど彩香ちゃんが彩葉と仲良くなりたかったんじゃないかな。彩葉がそんなガツガツ行くとは思えないし」
エレナ「まぁそれで彩葉が折れたって感じでしょうね。まぁ良かったじゃない友達が出来て。後は彩葉がどんな恋愛観を持ってるかなのよね。私達の子とは言え女の子が好きだとも限らないしそこらへんはちょっと楽しみにしてるのよ」
楓「私は彩葉が選んだ人ならそれを信じるよ」
エレナ「そうね。あの子の道ですもの。私達は見守りましょ」
楓「そうだね」


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妹みたいだね

今回少し短めになりますごめんなさい。
グリザイアのアプリやりすぎて全然書けなかった……


彩香がスヤスヤと寝息を立ててからどれぐらい経っただろうか。私も読書に集中していて全く時計を見ていなかった。

 

「んー……」

 

「起きた?」

 

「起きた……私寝ちゃってたんだ」

 

眠たそうに目を擦りながら布団からゆっくりと彩香は顔を出した。

 

「おはよ。すぐ寝ちゃうんだもん。びっくりしたよ。私も気付かなかったけど1時間以上寝てたみたいだよ」

 

「マジで!?そろそろ帰らなきゃ。ごめんねせっかく色々話せるかと思ったんだけど寝ちゃって……」

 

流石の彩香も本格的に寝るとは思ってなかったのだろう。顔に動揺の色が見えていた。

 

「疲れてたんでしょ。今日色々して貰ったお礼って事にしとくよ。玄関まで送るね」

 

「ありがと」

 

彩香は布団から出ると直ぐに私の部屋を後にしようとしたが私はそれを止めた。

 

「あーちょっと待って彩香。布団入ってたからだろうけど髪乱れちゃってるよ。櫛で少し治してあげるから待ってて」

 

「大丈夫だよ帰るだけだし」

 

「おばさんが心配するかもだし、それに女の子なんだからそれぐらい気にしなよ……とにかく座ってて」

 

「まぁそこまで言うならお願いしようかな」

 

そう言うと彩香は再びちょこんとベッドの上で座っていた。私は、楓お母さんが使わなくなった化粧台の引き出しから櫛を出すと彩香の後ろに座った。

 

「1回ゴム外すよ?ポニーテールも治してあげるから」

 

「なんだか彩葉ってお母さんみたいだね」

 

「せめてお姉ちゃんって言ってよ……」

 

彩香は笑いながら私にそう言った。っていうか年齢的にはわたしのほうが妹なんだけどね。

 

彩香を私の前に座らせて思ったのはやっぱり小柄だなと改めて思った。私と20センチぐらい違うのかな?まさかこんなに私も身長伸びると思わなかったけどね。

 

「髪綺麗だね。いつも自分でお手入れしてるの?」

 

 

「そーかな?ありがとう。自分でやる時もおるけど叔母さんにやってもらう事の方が多いかな。彩葉もその長い髪めちゃくちゃ綺麗だよね」

 

 

髪を褒められて恥ずかしかったのか、彩香の首の辺りが少し赤くなっていた。照れ隠しかは知らないが彩香は私の毛先を撫でていた。お母さんと紅葉さん以外に髪を初めて触られたからは分からないが少し照れくさかった。

 

「ありがと」

 

照れた事を気付かれないように私は彩香の髪を纏めると、彩香の肩をぽんと叩いた。

 

「終わったよ。ちょっとなんでよっかかるのよ……」

 

「んー?なんとなく居心地良かったからちょっとだけ甘えちゃおうかなって」

 

彩香は、私に体重を預けて体を楽にしていた。彩香の小さな体は柔らかく女の子特有のいい匂いがした。

 

「まぁ別にいいけど。なんかホントに妹みたい」

 

「えー!絶対私の方がお姉ちゃんっぽいって!それに彩葉って私より1つ下なんでしょ?」

 

いやいや、よっかかって甘えるお姉ちゃんってどーなのよ……

 

「え?知ってたの?」

 

「自分が有名人って自覚がないのね……堂場さんが月村の名前を聞いた時に小学校が同じだった子を探して色々情報を聞いたのよ。しかし飛び級って凄いね。私なんて勉強とかはホントにダメだからさ」

 

「あー……まぁ私が歳下って分かっても同じように接してくれるなら何でもいいや。ってかいつまでこうしてるのよ。いい加減重い」

 

「そろそろ帰るよ。今日はありがとう」

 

そう言うと、彩香はベッドから降りた。少しだけさっきまで感じていた彩香の温もりを寂しく感じたような気がした。

 

「こちらこそありがと。送って行こうか?」

 

「玄関まででいいよ。エレナさんと楓さんに挨拶してきてもいい?」

 

「うん」

 

私達はリビングにいるエレナお母さんと楓お母さんの元へと向かった。

 

 




乾梨花(先生)「エレナと楓ちゃんの子供すんごい美人だったよ。そろそろ私達も子供欲しくない?」
綾小路由紀(彩香の叔母)「んー……欲しいとは思うけどやっぱり難しいよね。今は彩香もいるしさ。何より私と梨花が付き合ってるってバレたらあの子も梨花と接しずらいと思うしね。姉さんが彩香を置いて家を出て数年経つけどホントに大変だったなぁ……子供の育て方なんて分からなかったからメイドの皆に協力して貰ってなんとかなったって感じだもん。それでうちの彩香についての感想はないの?」
梨花「小さくて可愛い子だよね。彩葉ちゃんと仲良くなったみたいだよ。そうだね。しばらくは由紀と付き合ってる事は内緒にしておくね」
由紀「色々話聞いて貰ってありがと。愛してる。おやすみ」
梨花「私も愛してるよ。おやすみ」


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一段落して

「お邪魔しました」

 

「またいつでも遊びに来てね」

 

「これからも彩葉を宜しくね彩香ちゃん」

 

リビングへと行くとエレナお母さんと楓お母さんは椅子に座って紅茶を飲んでいるところだった。彩香はぺこりと2人に挨拶をして、私は玄関まででお見送りをする事にした。

 

「ねぇ彩葉、良かったら明日から一緒に学校行かない?今朝会ったみたいに丁度通学路なんだよねこの道」

 

「いいよ。何時に家の前いればいい?」

 

「ホントに!?よかった。それじゃ8:15分にここでお願い」

 

彩香は、私がいいよと言ったら嬉しそうに顔を輝かせていた。別にそこまで喜ぶことではないと思うけれど、なんだか彩香の喜んだ顔を見ていたらなんだかおかしくて、私まで笑みが零れた。

 

「りょーかい。それじゃまた明日」

 

「うん!また明日!あ!ちょっと待って!RINE教えてよ」

 

「あー……私携帯持ってないんだよねごめんね」

 

「マジで!?それなら仕方ないね……それじゃまた明日!」

 

「はーい」

 

そう言うと彩香は玄関の扉を開けて帰って行った。

 

携帯かぁ……今まで欲しいって思った事無かったなそう言えば。小学生の頃から持ってる子もいたけど友達いなかったし持っていたところで何かに使いたいとも思わなかったしなぁ。

 

「彩葉、ご飯もう少し待ってて貰える?」

 

「ん?全然ゆっくりで大丈夫だよ」

 

ひょっこり楓お母さんがリビングからこちらに顔を出していた。そうだ思い出した。私に友達出来たってことはもう甘えてもいいんだよね?私は考えるより先に楓お母さんに抱きついた。

 

「彩葉?彩香ちゃんと何かあったの?」

 

楓お母さんは私の突然の奇行に驚いているみたいだった。まさか何も言わずにいきなり抱き着かれるとは思わなかったんだろう。

 

「疲れただけだよ。やっぱりここが1番落ち着く」

 

「全くもう……もう私より背も大きいのにそんなに甘えないの」

 

「だって楓お母さんの腕の中が私の1番のお気に入りの場所だもん。友達も出来たしいいよね?」

 

小学生の時から私のお気に入りの場所だもん。ふかふかだしいい匂いするし何より安心する。確かにちょっと身長伸びすぎて抱き着きにくくなったのは確かだけどね。

 

「そろそろ親離れして欲しいんだけど……」

 

「やーだ!頑張ったんだから頭撫でてくれたら話してあげる。代表の挨拶だってちゃんとやったよ?」

 

自分でも分かるぐらいに今日はいつも以上に楓お母さんに甘えていた。普段は抱き着いて楓お母さんの匂いを嗅げば落ち着いたんだけど、今日だけはもう少しだけ甘えたくなったのだ。

 

「仕方ないなぁ。ちゃんと見てたよ。よく頑張ったね」

 

そう言うと楓お母さんは、私に抱き着き返しながら頭を撫でてくれた。私が幸せな感情に入り浸っているとリビングからエレナお母さんが私の事を死んだ魚のような目をして見ていた。

 

「彩葉……ホントに楓の前だとダメ人間になるわね……って言うかマザコンなら私にもそういう態度とってくれてもいいんじゃないかしら?」

 

「別にマザコンでいいもん。エレナお母さんはなんか違う……」

 

エレナお母さんはどっちかと言うとお父さんに近いんだよね。なんだかんだ色々と勉強や世の中のルールをこの5年間で教えてくれたのはエレナお母さんだった。そのお陰もあって人から嫌われるようなことは無かったと思うし、テストとかも苦労することは無かった。楓お母さんは私にメンタル面のサポートやエレナお母さんと喧嘩した時などに心身となって話を聞いてくれた。それに小さい頃から大好きだった笑顔を毎日見せてくれるお陰で私はずっと幸せだった。

 

「はぁ……まぁそろそろ楓を離してあげなさいな。この調子だと親離れするのは大分先になりそうね」

 

「それじゃご飯作っちゃうね」

 

「私も手伝うよ」

 

「ありがと」

 

私と楓お母さんは、仲良くエレナお母さんがいるリビングへと入った。

 

小学校の高学年からようやく楓お母さんから包丁を持っていいことが許可された私は、暇があれば楓お母さんに料理を教えて貰っていた。まぁ少しでも楓お母さんの近くにいたいし少しでも負担が減ればと思ってやってるんだけどね。台所に私と楓お母さんが並んで立っていると、よくエレナお母さんにどっちが娘だか分からないわね。なんてよく言われていた。確かに後ろから見たら私の方が一回り大きいもんね。

 

楓お母さんがご飯を作り終え、私はテーブルに料理を運んでいた時にふと思い出したことがあった。彩香が家に来たり、楓お母さんに甘えていたりで忘れていたがエレナお母さんに言う事があったじゃないか。

 

「ねぇエレナお母さん」

 

「ん?何かしら?」

 

ぼーっとテレビを見ていたエレナお母さんに私は声をかけた。

 

「今日ご飯抜きでいいよね?代表挨拶の事忘れたとは言わせないよ」

 

そう言うとエレナお母さんの顔がしまったという顔に変わっていた。きっとエレナお母さんからしたら私が気付いてない事を良いことに何も言わなかったんだろう。

 

「まぁ何事も無く終わったから良かったんじゃない?それに先生達の評価もいきなりやらせて完璧に出来たってなった方がインパクトあるし結果オーライって事で終わりにならないかしら」

 

「ふーん。そういう事いうんだ。楓お母さん、エレナお母さんの料理下げてもいいかな?」

 

「いいと思うよ。エレナ、私朝言わなかったっけ?ちゃんと彩葉に謝ってって」

 

そう言うとエレナお母さんは慌てたように私の服の裾を掴むと私に頭を下げた。

 

「えっと……この度は私のミスで彩葉に大変なご迷惑をお掛けしてしまい誠に申し訳ございませんでした……」

 

不本意ながら謝るエレナお母さんを見てると何故だか笑いが込み上げてきた。娘に謝るのが恥ずかしいのかちょっとだけ顔が赤いし、楓お母さんの方をチラチラ見て何かを気にしていた。

 

「ふふ、もういいよエレナお母さん。そんなに私に謝るのが嫌だったの?」

 

「別にそんなんじゃないわよ。楓の朝の怒った顔思い出したらちょっと私が私でいられなくなりそうだったから危なかっただけよ」

 

それってドMの病気なんじゃ……と突っ込みそうになったが私はだんまりを決め事にした。でもちょっとだけ楓お母さんの気持ちが分かったかもしれない。内気になってるエレナお母さんはいつもよりちょっとだけ可愛く見えた。

 

「はいはいくだらないこと言ってないでご飯食べちゃってね。彩葉は明日から本格的に学校始まるんだから早く寝るんだよ?」

 

「分かってるよー。いただきます」

 

「いただきます」

 

私達は仲良く3人でご飯を食べると、楓お母さんは片付けがあるからという事で私を先にお風呂へと向かわせた。

 

「楓お母さんと一緒にお風呂入りたかったのになぁ……まぁいっか。早くお風呂入って寝ちゃお」

 

学校始まったばかりで寝坊するわけ行かないし彩香とも一緒に行く約束しちゃったしで今日は早く寝ることにした。

 

1人湯船でぼんやりと浸かっていると脱衣場でガサゴソと服を脱ぐ音がした。もしかして楓お母さんかな?いやあのシルエットは違う……

 

「人をシルエットで判断するのはやめてもらってもいいかしら?」

 

「人の心を読むのやめてってば。狭いんだけど……」

 

エレナお母さんは何も言わずに湯船に入ってきた。幸いこの家の湯船は人2人が入るぐらいならなんて事はないが160センチオーバーの2人が足を伸ばして入るには少し窮屈だった。

 

「まぁたまにはいいじゃない。ほらおいで彩葉」

 

エレナお母さんは自分の体の前で両手を広げて私が上に座るのを待っていたみたいだ。

 

「もうそんな歳じゃないよ。普段おいでなんてしないくせに楓お母さんと喧嘩でもしたの?」

 

「楓と喧嘩なんてする訳ないでしょ。よいしょっと。やっぱりちょっと抱っこすると大きいわね……」

 

エレナお母さんは私を抱き上げると自分の上に座らせた。そりゃ身長だけは大きいんだから大きいのは当然でしょ……

 

「あんまり言いたくないんだけどさ、やっぱり背中にふかふかしたものがないと悲しいよね。人肌は感じるけど壁に寄りかかってるみたいな」

 

「胸の大きさに関しては彩葉だって人の事言えないでしょ……ここに来てから全く変わってないわよ」

 

胸の大きさは私の悩みの一つだった。まだ中学生になったばかりなんだから気にしなくていいんだよと楓お母さんは笑っていたが、流石にAAカップというのはどうなのだろうか……エレナお母さんですらAはあるというのに……

 

「それを言われると困る……このまま身長だけ伸びてエレナお母さんと同じようにコンクリートとかまな板とか言われたらって思うと死にたくなるよね」

 

「あんたホントいい性格してるわね……それと彩葉」

 

「ん?」

 

「今日はホントにごめんね。私のミスで朝困らせてしまったでしょ」

 

割と真剣にエレナお母さんはきにしていてくれたらしく、声色から元気が無くなっていた。最初は何してくれてんのよドMお母さんって思ってはいたが別に今は全く気にしてないんだけどね。

 

「別に気にしてないよ」

 

「良かった……嫌われたらどうしようかと思ってたのよ」

 

「嫌いになんてなるわけないじゃん。私は楓お母さんはもちろんだけどエレナお母さんの事も大好きなんだからね」

 

「ふふ、ありがとう」

 

そう言うと後ろからエレナお母さんは私の事を優しく抱きしめた。ホントにこういう所は可愛いと思う。毎回喧嘩をした後とかに気にしてくれてエレナお母さんはよく私の事を抱きしめてくれる。

 

明日からは本格的に学校が始まる事だし2人のお母さんに迷惑かけないように頑張らなくっちゃだよね。




綾小路由紀「え!?彩葉ちゃんと仲良くなったの?」
彩香「うん。めちゃくちゃ綺麗な子だったよ」
由紀「まさかエレナちゃんのとこの彩葉ちゃんが最初の友達になるなんて思わなかったわ。絶対エレナちゃんだけは怒らせちゃダメだからね!?わかった!?」
彩香「え、うん。(何で彩葉じゃなくてエレナさんなんだろう……)」


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それぞれの朝

遅れてしまって大変申し訳ありませんでした。


ピピピピピ!ピピピピピ!

 

「んー……」

 

ピピピ!

 

「分かったよ起きるって……」

 

私はけたたましい音が鳴る目覚まし時計を止めるとベッドの上で体を伸ばした。

 

「んーーーーー!顔洗って早いとこ準備終わらしちゃおっと」

 

私は小さい時から早寝早起きを心がけていたためか朝は強い方だった。1階に降りるとよくエレナお母さんを起こしてきてと楓お母さんに言われることも多かった。

 

1階へと降りると楓お母さんが朝ごはんの準備をしているところだった。

 

「楓お母さんおはよ」

 

「おはよー。早いね。まだ7時になってないよ?」

 

「流石に初日から彩香待たせることになったら何言われるか分かんないからね。顔洗って歯磨いたらでいいならエレナお母さん起こしてこよっか?」

 

「悪いけどお願い出来るかな?」

 

「おっけー」

 

時刻は6:40分。彩香との待ち合わせまでは1時間半近くあった。これだけあれば準備には余裕で間に合うだろう。

 

私は降りてきた階段を上がってエレナお母さんの寝室へと向かった。

 

コンコンコン。

 

ノックをしても扉の向こうから返事はない。どうやらまだ寝ているみたいだ。

 

「エレナお母さん入るよ」

 

私は一言声をかけてたからエレナお母さんの寝室へと入った。

 

寝室へと入ると下着すら身に付けていないエレナお母さんが彫刻の様に眠っていた。どうやら小さい時から寝る時に服を着ていなかったらしく、それが習慣化しているらしい。もう30歳になると言うのに見た目は20代前半かそれ以下に見え、昔からの美貌に衰えを一切見せていなかった。ホントに黙ってれば綺麗な人なんだけどな……

 

「エレナお母さん起きて。お仕事間に合わなくなっちゃうよ」

 

「んー……後10分……」

 

「子供じゃないんだからそういうこと言わないでよ……あー!布団の中入り直さないでちゃんと起きてってば!」

 

私はエレナお母さんから布団をひったくると体を揺すった。

 

まぁエレナお母さんが朝弱いのにはもう慣れたけどね。月村エレナの数少ない弱点だと思う。

 

「んーーー……おはよ彩葉」

 

「おはよ。服着たら下来てね。楓お母さんご飯作って待ってるよ」

 

「はーい」

 

しっかり起きたことを確認すると、私は朝ごはんの前にパジャマからチェリチョウ中学の服装に着替えた。スカート丈はきっちり膝下3センチ。服にシワなどが無いことを確認すると私は楓お母さんの元へと向かった。

 

「あ、起こしてきてくれてありがとね。悪いんだけどこれテーブルに運んでもらってもいい?」

 

「はーい」

 

私は楓お母さんが作ってくれた朝ごはんをテーブルに並べると席へと座った。

 

数分してエレナお母さんも下へと降りてきた。何も身につけていなかった先程とは違い、今は仕事用のスーツに身を包んでいる。こうやってしっかりしたエレナお母さんはホントにカッコイイと思う。同性の人の為の結婚相談所を開いていると言っていたがエレナお母さんに一目惚れしたりする人もいるんじゃないかな?

 

「それじゃ頂きましょうか」

 

「うん。いただきます」

 

「いただきます」

 

--------------------

 

彩香side

 

「彩香起きて!今日から彩葉ちゃんと一緒に学校行くんでしょ!」

 

頭上からキャンキャンと甲高い声が鳴り響いていた。うるさいなぁ……昨日あんまり寝れなかったんだから起こさないでよね。昨日は彩葉の家に行ってエレナさんにも会えて……あれ?彩葉?

 

「あー!今日から彩葉と一緒に行くんだった!今何時!?」

 

「もう7:40分よ!早く顔洗って歯磨いてきなさい!」

 

私は布団から飛び起きるとパジャマから制服に着替え、急いで出る支度を進めた。

 

「それじゃ行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい。忘れ物とかはないよね?」

 

「んー、多分平気!それじゃ!」

 

そう言うと私は、急いで家を飛び出して彩葉の家へと向かった。現在の時刻は8:10分。彩葉の家までは走って5分程なのでそんなに急ぐ必要は無さそうだ。でも彩葉の事だからきっちり5分前とかに家の前で待っていそうだし少しだけ急ごうかな。

 

--------------------

 

「それじゃ行ってくるね楓お母さん」

 

「行ってらっしゃい。頑張ってね」

 

時刻は8:07分。少し早いとは思ったがもしも彩香が先に来ていたら待たせるのも悪いと思い、少し早めに出ることにしたのだ。ちなみにエレナお母さんは8時前には家を出て職場である昔の御屋敷へと出かけていた。

 

「うん!」

 

私は楓お母さんにいっぱいの笑顔を見せると忘れ物が無いことを確認して彩香を待つことにした。

 




彩葉「遅い!2ヶ月もサボって何してたの!?」
彩香「ホントに困っちゃうよ。私の出番はこれからだって言うのに。今後は早くしてよね」
彩葉「まぁここら辺にしといてあげよ。次回から舞台は学校中心になります。私のクラスでの立ち位置などがしっかりしてくると思います。月村エレナの娘ってだけでカースト上位は勘弁して欲しいけどね……それでは次回をお楽しみに待っていてください!」


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通学路と嫌がらせ

彩葉さん初めてのお怒り編のスタートです。


「ちょっと早く出過ぎちゃったかな」

 

家を出て数分経っても彩香の姿は一向に見えなかった。彩香の性格だとちょっと遅れてくることも考えてもう少しゆっくり出ればよかったかな。楓お母さんとの二人の時間がちょっと減っちゃったよ。

 

「なーに不機嫌な顔してるのよ彩葉」

 

「え?」

 

「おはよ!ちょっと遅れちゃってごめんね」

 

顔を上げると少し顔が赤くなって息が荒くなっている彩香がいた。遅れそうになって走ってきてくれたのかな?

 

「おはよ。私も今出てきたとこだし気にしないで。それじゃ行こ」

 

「よかったー。うん!」

 

私と彩香は2人で並んで学校へと向かった。通学路ということもあってか在校生が多く、時々あの人がエレナさんの娘さんだよね?という声が時々聞こえてきた。昨日の代表挨拶の1件で随分有名になってしまったらしい。

 

「はぁ……私は静かに中学生活送りたかったんだけどな」

 

「いやいや……そんなに背が高くて綺麗な人ならエレナさんの娘以前の問題だと思うけど……」

 

「私より綺麗な人なんてたくさんいるよ。ほら、私の前の席の……あ!堂場皐月さん。あの人なんて私の数倍綺麗じゃん」

 

「嬉しい事を言ってくれますのね」

 

「「え?」」

 

声の方に振り返るとそこには堂場皐月さんとメイドの柚月さんが私達の丁度後ろを歩いていた。いったいいつから私達の後ろにいたのだろうか……輝いて見える綺麗な長い金髪がとても特徴的な人だ。柚月さんは対照的に黒髪のショートカット。この前と同じで皐月さんの後ろに隠れるようにして立っていた。

 

「おはようございます。月村さん、綾小路さん」

 

流石お嬢様。挨拶ひとつだけでもとても品があるように見えた。昔はエレナお母さんもこんな感じだったのかな。

 

「おはよ。彩葉でいいよ。」

 

「私の事も彩香で大丈夫だよ」

 

「それなら私の事も皐月とお呼びください。こちらはメイドの柚月です」

 

「あ、えっと……堂場柚月です。宜しく御願いします。」

 

皐月さんにポンと肩を叩かれるとビクビクしながら私達の前で自己紹介をしてくれた。人と話すのが苦手なのだろうか。

 

「よろしくね柚月さん」

 

「よろしくー!」

 

「それではここで会ったのも何かの縁ですし一緒に行きましょうか」

 

「そーだね」

 

4人で歩いていると彩香が小声ではなしかけてきた。

 

「ねぇ、この4人目立ちすぎるって。クラス内で一二を争う美人とそれなりに可愛い私と小動物みたいで可愛い柚月さんの4人だよ?やばくない?」

 

一体何を言ってるんだこいつは……ってかさりげなく自分の事それなりに可愛いって言ったわね……

 

「別にどうでもいいでしょ。誰も気にしてないよそんな事」

 

「彩葉は女子高ってとこ舐めてるよ……」

 

私はこれ以上の会話は無駄だと思い学校に着くまでは、皐月さんに話しかけられた時以外ほぼ無言だった。

 

しかし、彩香の言っていた意味を下駄箱を開けてすぐ理解する事になるとは思わなかった。

 

「疲れた……学校まで車で来れたらいいのに」

 

なんて無駄口を叩きながら自分の下駄箱を開けてその中身に驚愕した。

 

「何これ……」

 

「ん?彩葉どーしたの?って酷い!何これ!」

 

下駄箱の中には昨日までは新品同様真っ白だった上履きに誹謗中傷の落書きがこれでもかというぐらい書き込まれていた。昨日までの白さはどこにもなく、ドブにでも入れられたんじゃないかって言うぐらい黒ずんでいた。

 

「はぁ……子供じゃないんだから……」

 

「え!?ちょっとそれ履いていくつもりなの!?」

 

「別にいいよこれで。幸い濡れてたりはしないし今日1日ぐらいこれで過ごすよ」

 

「そんなのダメだよ!ちょっと待ってて私職員室からお客さん用のスリッパ持ってくるから」

 

彩香が大きな声を出したせいか、私の周りには人だかりが出来始めていた。

 

「酷い……彩葉さん、私の執事に連絡して新しいものを持ってこさせましょうか?」

 

「ううん。気持ちだけで大丈夫。そんなことして皐月さんにまでこんなこと書かれたら嫌だしね。皐月さんの方は大丈夫だったの?」

 

「えぇ……私の方は特に何も無かったですわ」

 

皐月さんの表情を見ると何かに怯えているような顔をしていた。過去に同じような事をされたことがあったのだろうか。

 

「彩葉!持ってきたよ!後その上履き貸して。乾先生が証拠として持っておくって」

 

「ありがと」

 

私は、彩香からお客さん用のスリッパを預かるとそれに履き替え、汚くなってしまった上履きを彩香に渡した。

 

「先教室行ってて。これ渡して来るからちょっと遅くなるから」

 

「ごめんねありがと」

 

なんで朝からこんな事に巻き込まれなくちゃいけないのかな……別にこんな子供の遊びで泣くようなメンタルしてるつもりもないし、ギャーギャー騒ぐ気もない。特に何も気にしてないふうに装っておけばすぐ辞めてくれないかな。

 

っていうかやられたのが上履きだけだといいんだけど……私の思いは一瞬で崩れる事になった。教室を開けて私の席の方に目をやるとそこにもまた人だかりが出来ていた。

 

「月村さん……あの……机に落書きが……」

 

大人しそうなメガネに三つ編みの女の子が私に声をかけてきた。遠目から私の机を見ても何か書かれてあるということはすぐにわかった。

 

「机もか……はいはい一体どんな落書きなんですか」

 

「ごめんね。一生懸命擦ったんだけど落ちなくて……私が朝来た時にはこうなってたの……」

 

三つ編みの子の手にはスポンジと洗剤が握られていた。きっと私が来る前に消してくれようとしたのだろう。

 

「ううん。あなたが悪いわけないから気にしないで。どうせ子供の落書きなんだし」

 

私が自分の机を見るとそこには目を疑うような文章が書かれていた。上履きに書かれていたバカだとかブスみたいなただの落書きではなかったのだ。

 

「っ……一体誰がこんな事……」

 

机の上に書かれていた内容はこうだった。

 

月村彩葉は、月村エレナの本当の娘では無いということ。

 

月村エレナは同性の人と結婚して、仕方なく親に捨てられた彩葉をどこかの施設から引き取っている。結婚相手の名前は橘楓。昔のメイドらしい。ってか女同士とか気持ち悪すぎて鳥肌が立つよね。もしかしたら月村彩葉も同性愛者かも知れないし皆気を付けた方がいいよ。エレナの名前を使って強姦されちゃうかも。

 

「誰がこんな事……」

 

「ねぇ、これってホントの事なの月村さん?」

 

野次馬の1人からの質問に私は返事を返せなかった。子供の落書きのレベルじゃない。一体どこで私がエレナお母さんの本当の子じゃないって事を知ったの……それに私が1番許せないところは楓お母さんまで巻き込んでいるところだった。きっと楓お母さんがこの事を知ったら自分のせいで彩葉が巻き込まれたって思い込んで悲しい顔をするだろう。絶対にそんな顔は見たくない。楓お母さんに1番似合うのは笑顔なんだから。その笑顔を壊そうとする人だけは許せない。その時私は、初めて人に対して本気で怒っている事に気付いた。今までなんだかんだでこんな風に腸が煮えくり返る事なんて無かったのだ。

 

「彩葉!大丈夫!?」

 

心配そうな顔をして彩香が私の元へと駆け寄ってきた。

 

「酷い……誰だよこんな事やったの!!!彩葉に何かされたの!?されてないよね!?こんな嘘を書いて彩葉に変な噂出来たらどう責任取ってくれるの!?」

 

彩香は教室に入ってくるなり私の元に駆け寄ってくれて、誰よりも大きな声で怒ってくれた。

 

「ちょっと悪ふざけが過ぎましてよ。私の友達になんてことしてくれるのかしら」

 

先程までの明るい表情だった皐月さんはそこにはいなかった。皐月さんは、歯を食いしばって怒りを抑えているようだった。

 

「彩香、皐月さん。もう大丈夫だから」

 

「でも!」

 

彩香は納得していないようだった。きっと今犯人が見つかったら、その子に噛み付きにいくんじゃないかっていうぐらい怒っていた。

 

「いいの。私の為に怒ってくれてありがと。皐月さんもありがとう。後は自分で何とかするから」

 

「でも自分でって言ってもこんな全校生徒の中で犯人を見つけるなんて無理だよ……」

 

 

「大丈夫だよ。私は月村エレナの娘だから。私ね、他人に本気で怒った事って今までで1回も無かったんだ。今までどれだけ平和ボケしてたかって気付かされたよね。ねぇ。犯人さん。聞いてるんでしょ。絶対に許さないから。エレナお母さんはともかく楓お母さんの悪口言った人は絶対に許さない。何がなんでも見つけ出して私の前で土下座させてやるから覚えててね」

 

「私も協力する」

 

「私もですわ。柚月!貴方もよ」

 

「はい」

 

「ありがと」

 

入学して2日目。いきなりトラブルに巻き込まれたみたいだ。度が過ぎたイタズラをした代償を払ってもらわないとね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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犯人は誰?

「皆も知っての通り入学して2日目で残念な出来事が起こってしまいました。皆の前では言いづらい事だと思うけど反省してるなら後で私のところに来てください。後になって私でした。は許されないからね」

 

HRがはじまると私の汚れた上履きを持って乾先生が難しい顔をして黒板の前に立っていた。乾先生の表情からもすごく怒っていることが分かり、クラスの皆は静かに聞いていることしか出来ないみたいだった。

 

「それじゃ1時間目もそろそろ始まるのでこれで朝のHRは終わります。もうこんな悲しい出来事は二度と起きない事を祈っています」

 

平静を装って言っていたみたいだが、声は少し震えていたし乾先生も真剣に怒ってくれているみたいだった。

 

「それでどうするの?犯人探すって言ったって彩葉の事知ってる人はクラスだけじゃなくて学校全体の人が知ってるし、どこで恨み買ったかも分からないよ」

 

HRが終わると、すぐに彩香が私の席へと駆け寄ってきた。

 

「まぁ確かにね。とりあえず手当り次第聞いてみるよ。いつからこの落書きがあったかっていうのさえ分かればそれなりに絞れると思う。今日の昼休みにでも私がクラスの人に聞いてみる」

 

「それなら私は隣のクラスの人に聞いてみるね」

 

「では私は知り合いの先輩がいるので不審な人を見なかったか柚月と聞いてきますわ」

 

「皆ありがとう。ごめんねまだ会って2日目なのにこんな事に付き合わせちゃって」

 

彩香と皐月さんと柚月ちゃんにはホントに頭が上がらなかった。まだ会って2日目の私にどうしてここまでしてくれるんだろうか。私が彩香や皐月さんの立場だったら同じ事が出来たとは思えない。

 

「気にしないで。困った時はお互い様でしょ」

 

「そういう事ですわ。早くあんな嘘は嘘だったってその子に言わせなきゃですもの」

 

「私も流石にあれは酷いと思います……お嬢様の意思ではなく、私の意思で行動しているので気にしないで下さい彩葉様」

 

「皆……ホントにありがとう」

 

そう言うと3人は笑顔で私の方を見ていた。

 

私達は、昼休みを待って各自聴きこみ調査へと向かった。私は誰から聞けばいいかな。

 

「んー……そう言えば私の机拭いてくれてた子にお礼も兼ねて聞きに行こうかな」

 

私は朝自分がやられた訳ではないのにわざわざ私の為に机を吹いていてくれた子を探した。確かメガネに三つ編みの子だった気がするんだけど……あ!あの子かな。

 

私は教卓の前で1人ぽつんとご飯を食べている三つ編みの子に声をかけた。

 

「今ちょっといい?」

 

「え……あ、月村さん。大丈夫ですよ」

 

私が急に声をかけたせいか、その子はびくっと肩を震わせ驚いているみたいだった。私と同じように余り人付き合いが得意な子じゃないのかな。

 

「朝はありがとね。わざわざ消してくれようとしたみたいで」

 

「ううん。私が同じ事やられたら嫌だと思ったから……」

 

目線が合わない。やっぱり人と話すのがそんなに得意じゃないのかな。得意じゃないこと強いるのも可哀想だし聞くこと聞いちゃおうか。

 

「それで話って言うのはね。えっと……ごめん名前なんだっけ」

 

「湊 奏(みなと かえで)です」

 

「湊さんね。それで本題なんだけど湊さんが来た時にはあの落書きがあったんだよね?湊さんが初めて見つけた時クラスに他の人がいたか教えて欲しいんだ」

 

私の考えはこうだった。誰かうちのクラスの人が朝早く来て書いたものじゃないかなって。夜遅くに書いていたって事も考えられるけどうちの学校ってセキュリティに関しては日本一だってエレナお母さんが言ってたし、いくら先輩と言えど入学して初日の教室に簡単に入れるとは思えないんだよね。初日は部活の仮入団も禁止だしよっぽどの用が無い限り1年生の教室に近寄るとは考えられなかった。

 

「えっと……私が1番最初だったよ……それで私が来た時には書き込みがあって……」

 

「そうなんだ。ご飯食べてるところにごめんね。ありがと」

 

「いえ……」

 

最後まで結局目が合わなかった。前髪で表情は隠れていて何も読み取れないしちょっと苦手な子かもしれない。今回の件が無ければまず話すことはない子だったかな。

 

っていうか……

 

「私の考え詰んだんじゃ……てっきり誰かが朝一番に書いてたと思ったのにあの子が1番じゃうちのクラスの人じゃ100%無いじゃん……」

 

いざという時ホントに使い物にならないな私の考えって……後は彩香とかが帰ってくるまで無駄に聞きこまないで待ってようかな。また変な恨み貰いたくないし……

 

それから15分後に彩香達3人はB組の教室に戻ってきた。何か収穫はあったのだろうか。

 

「どうだった?」

 

「いつ書かれたものかっていうのは私達3人の聞き込みでだいたい絞れたよ。まず絶対白なのが先輩達。乾先生に聞いたら部活動の強引な勧誘とかを防ぐために3日間は1年生の教室っていうかこの4階には立ち入り禁止なんだって。私達が昨日入学式終わって、1年生全員が下校してから誰一人この4階には来てないって。だから書けるとしたら朝しかないと思う。まぁ生徒じゃなくて先生があれを書いてたら正直いくらでもごまかせると思うし、打つ手なしだけどね」

 

「なるほど……でもうちのクラスの人じゃないと思う。朝一番に登校した子じゃないかって私も考えたんだけど、うちのクラスで1番最初に登校してるの私の机の落書き消そうとしてくれてたあの子なんだよね」

 

「ならその子しかいないんじゃないでして?」

 

「え?でも消そうとしてくれてたんだよ?」

 

「だからこそですわ。入学して2日目でいきなり他人が嫌がらせをされててそれを助けます?私ならしませんわね。自分に飛び火しかねませんし。お友達ならともかく他人相手にそこまでしますかしら」

 

そういう考え方も確かに出来なくはないか。皐月さんが言う通り偽善者の振りをしていれば真っ先に自分が犯人候補から消されるもんね。これでホントに普通に良い人だったら後で皐月さんと謝りにいかなきゃだけど……

 

「ちょっと別ルートで調べてみる。あまり使いたくない手ではあるんだけどね」

 

「え、そんなのあったの!?最初からそれ使ってよ彩葉」

 

「いや……ホントはマジで使いたくないんだけどね……」

 

「それでその使いたくない手というのはどういうものでして?」

 

「それはね」

 

私がその使いたくない手を話すと、周りの3人は確かにそれなら高速で犯人が見つかりそうだと納得した様子だった。ホントにこれだけは使いたくなかったんだけどなぁ……

 




次回 お母さん乱舞


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私のかっこいいお母さん

「ただいまー」

 

「おかえり。何か飲む?」

 

「ううん。宿題出てるからさくっとやってきちゃうね。夜ご飯までには降りてくるから」

 

「そっか。頑張ってね」

 

「ありがと」

 

家に帰ると楓お母さんがいつも通り笑顔で私を迎え入れてくれた。今はその楓お母さんの笑顔を見ると少しだけ心が痛かった。結局自分の手で犯人を見つけることは出来なかった。皐月さんは絶対に湊さんだって言ってたけど証拠もないし、彼女を問い詰めることは出来なかった。それで結局最後の手段を使うことにしたのだ。私の最後の手段とは、エレナお母さんの力を借りること。あまり親の力を借りたくないし、かかれた落書きの内容があれなだけにあまり使いたくない手ではあったんだけどこのままだと時間がこの問題を流してしまいそうで嫌だったのだ。

 

 

 

私はエレナお母さんの帰りを待って自分の部屋で本を読んで落ち着くことにした。

 

それから3時間後。エレナお母さんが帰ってきたみたいだった。さて……どのタイミングで声をかけようかな。基本的に帰ってきてすぐご飯を食べて楓お母さんと一緒にお風呂入ってその後はリビングで楓お母さんとくつろいで……あれ?あの2人ほとんど一緒にいるじゃん。どこか1人になるタイミング探さなきゃ。

 

「彩葉!ご飯出来たから降りてきて!」

 

階下から楓お母さんが私を呼んでいる。どうやらご飯が出来たらしい。

 

リビングに降りると既に仕事着から部屋着に着替えたエレナお母さんがテーブルにちょこんと座っていた。

 

「おかえりなさいエレナお母さん」

 

「ただいま。どう?学校の方は馴染めてるの?」

 

「まぁぼちぼちかな。新しい友達も出来たしね」

 

「それは良かったわね」

 

「ホントに!?良かったね彩葉。それなら夜ご飯豪勢にしたのに早く言ってよー」

 

「別に友達出来たぐらいで感動されても困るって。でもありがとう。喜んでくれたなら私も嬉しいし」

 

楓お母さんは嬉しそうに料理を運んでいた。ホントにこの笑顔を悲しませようとしている人がいる事が許せない。楓お母さんは私が絶対守る。

 

「それじゃ頂きましょうか」

 

「うん。いただきます」

 

楓お母さんがせっかく美味しい食事を作ってくれたのに全然味が分からなかった。私の頭の中は、完全にこの後どうエレナお母さんと2人で話そうかと言う事だけだった。

 

夜ご飯を食べ終えて楓お母さんが後片付けをしていて、エレナお母さんは食後のお酒をちびちびと飲んでいた。そう言えば私の入学式の代表挨拶の1件でお酒は1杯までになったんだっけ。

 

「あ、私さゆりから夜電話するって言われてたんだった。エレナ、悪いけど先にお風呂入って貰っててもいい?」

 

「わかったわ。それとも彩葉一緒に入る?なんてね」

 

「いいよ。たまには背中流してあげる」

 

私がいいよなんて言うと思っていなかったんだろう。エレナお母さんはびっくりしたような顔をして私に返事を返した。

 

「あらあらどうしちゃったの?もしかしてエレナママに甘えたくなっちゃったのかしら」

 

「なわけないでしょ。2人バラバラに入って楓お母さんがお風呂入る時間遅くなったら可哀想だからだよ。先行くね」

 

「全く可愛くないんだから」

 

「エレナお母さんに似たからね」

 

私はそう言うと、自室から着替えを取るとエレナお母さんより先にお風呂に入って待つことにした。多少強引だけどここしか言うチャンスは無さそうだしね。

 

湯船に浸かってのんびりしていると、脱衣場の方からガサガサと音がした。どうやらエレナお母さんが来たみたいだった。

 

「入るわよ」

 

「うん」

 

そう言うとタオルすら身に付けていないエレナお母さんが浴場へと入ってきた。まぁ家族だし何も付けてないのは当たり前だけどね。それにしてもホントに30超えてるとは思えないな……もう少しお腹のお肉とか出てきてもいいんじゃなかろうか。

 

「んーーー。疲れた。学校は順調?」

 

湯船に入るなりエレナお母さんは私に言葉をかけた。

 

「ボチボチだよ」

 

さて……どのタイミングで切り出そうか……っていうかなんて説明したらいいんだろうか。エレナお母さんの事だからあの事をオブラートに包まずそのままのことを伝えたら犯人見つかった時半殺しとかしそうな気もするし……

 

私が悩んでいるとエレナお母さんから声がかかった。

 

「それで、私と2人になりたかったんじゃないの?どうせ学校で何かあって楓には言えない事なんでしょ?」

 

「相変わらず鋭いね……なんで分かったの?」

 

「もう何年一緒にいると思ってるのよ。小さい頃から楓に言いづらい事となると何か理由をつけて私を引っ張り出したのは貴方よ。楓に片想いしてた時もそうだったじゃない。楓に聞かれるとまずいんでしょ?早く言って楽になりなさいな」

 

そこまで読まれているとは思わなかった。流石月村エレナといったところか私がわかり易すぎるのか。とにもかくにもこれで話が出来る。オブラートに包もうかとも思ったけど楓お母さん侮辱してる人に気使う必要もないか。私は、今日起きた出来事をそのままエレナお母さんに話した。

 

「まぁ予想はしてたけどね。絶対そういう事がこの先どこかであるとは思ってたわ。楓に言わなかったのはいい判断ね。多分あの子自分を責めちゃうと思うから。後は任せなさい。犯人は私が絶対見つけるわ。誰に喧嘩売ったかって言うのをちゃんと自覚してもらわなきゃね」

 

もっと怒るかと思ったがエレナお母さんの声からは怒気は感じ取れず冷静に話してるように見えた。

 

「怒ってないの?」

 

「怒ってるに決まってるじゃない。大切な楓と彩葉が嫌な思いしてるのに怒らない月村エレナがいると思うの?」

 

そう言うとエレナお母さんは私の方をじっと見てきた。いつものふざけさエレナお母さんはそこにおらず、真剣なまなざしで私を見つめていた。

 

「だよね。ごめんなさい」

 

「彩葉が謝ることじゃないわ。それで犯人見つけてどうするの?正直あの学園の監視カメラを見せてもらえばすぐに誰が犯人かなんて突き止められるわ。犯人見つけるだけ見つけて終わりなら正直私が出る意味はないと思うのだけれど」

 

「私の前で土下座させる。私ね、今までホントに幸せで平和ボケしてたんだなって痛感したの。誰かに本気で怒ったことも無くて、今回初めて人を憎いって思った。小説の登場人物が怒る時ってこんな感じなんだなって初めてわかったんだ。だから思い知らせてあげる。誰に喧嘩を売ったのかって事。月村彩葉に今後変な気を起こさないようにするって」

 

私は湯船から出てエレナお母さんを見下ろすように話を続けた。

 

「私の大好きな楓お母さんとエレナお母さんを侮辱した事を死ぬまで後悔させてあげるから。だからエレナお母さん、力を貸して」

 

そう言うとエレナお母さんは満足したように湯船から勢いよく出ると私を抱きしめた。

 

「それでこそ私の娘よ。後は任せなさい。明日彩葉が学校から帰るまでに探しといてあげる。それじゃ話はここまで。先に出るわね」

 

そう言うとエレナお母さんはお風呂場を出ていった。

 

ホントにかっこいいお母さんだなって改めて思った。私の後ろにはエレナお母さんがついていると思うとそれだけでとても心強かった。

 

「あれ、エレナお母さん体洗うの忘れてない……?」

 

「ちょっとエレナお母さん体も髪も洗ってないけどいいの?」

 

「え?私は楓が用事終わるまで待ってるわ。やっぱり楓の胸吸わないと一日の疲れ取れないもの。貴方はちゃんと体洗って出てくるのよ」

 

そう言うと脱衣場からそそくさとエレナお母さんは出ていった。

 

「さっきまでのエレナお母さん返してよ……」

 

私は1人でため息をついたのだった。

 

 




彩葉「なんでだろう……女性に力強く抱きしめられたら柔らかさを感じるはずなのに骨しか当たってなかったような……」
エレナ「ぶっとばすわよ」
彩葉「だって楓お母さんに抱きしめられたら自然と頬緩むのにエレナお母さんに抱きしめられてもちょっと苦しいだけなんだもん」
エレナ「貴方だって人の事言えないんだからね!?あの後楓の胸吸ってた時の話でも1時間ぐらいしてあげましょうか?」
彩葉「遠慮しときます。あーひとつだけ忠告しとくね。浴槽でエレナ感激です!はやめた方がいいよ。声響くからね。外に聞こえてたらどうするの。世間体もあるんだから考えてよね」
エレナ「ごめんなさい……」

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犯人の名は?

「それでどうなったの?」

 

朝の通学途中に彩香から声をかけられた。結局お風呂の後エレナお母さんとあの話をする事もなく私は寝てしまった。完全にエレナお母さんに任せっきりになってしまったが大丈夫だろうか……

 

「まだなんともかな。エレナお母さんは協力してくれるみたいだけど犯人見つけられるかは分からないかな。正直これ以上私達でどうこうできるものでもないし任すしかないと思う」

 

「まぁそうだよね。あんまりこの話したくないし違う話しよ。せっかく彩葉と2人なのにこんなしんみりした話したくないもん」

 

そう言うと彩香はニコッと可愛い笑顔を私に向けてきた。彼女も彼女なりで気を使ってくれているのだろう。最初に出来た友達がホントに優しい人でよかった。

 

「なにそれ。遅れちゃうから早く行こ」

 

「え!?ちょっと待ってよ彩葉!」

 

私は少しだけ赤くなった顔を見られないように彩香をあしらうと学校へと向かった。

 

学校に着くと昨日の事もあってか、私に話しかけてくるクラスメイトは誰もいなかった。入学式の時に今度エレナさんの事聞かせてねって言ってた子もいたけどあからさま私の方に目を向けようとはしなかった。まぁそうだよね。私が貴方達の立場だったら庇ったら次は自分が標的にされるかもって思うし最善の選択だと思う。

 

「彩葉さん、彩香さん。おはようございます」

 

「おはようございます」

 

声をかけられ振り向くとそこには皐月さんと柚月ちゃんが2人並んで私の方を心配そうに見ていた。

 

「おはよ。別に敬語じゃなくていいのに」

 

「なんというかこれは家柄もあるので気にしないで下さいな。それでどうなりましたの?」

 

「とりあえずエレナお母さんに協力頼んだから何とかしてくれると思う。だからそれまではいつも通り何事も無かったように過ごすと思うよ」

 

「そうですか……何かあれば言ってくださいね。少しでもお力になりたいので」

 

「ありがと」

 

皐月さんは、最初の怖そうな印象はどこかへいってしまった。やっぱり話してみないと分からないことってあるよね。この件が無かったらただメイドにきつく当たってるお嬢様っていう認識しか生まれなかったかもしれない。

 

そして朝のHR、1時間目2時間目の授業をこなして3時間目に入ろうとした所で校内放送が入った。

 

ピーンポーンパーンポーン。

 

『1年B組の月村彩葉さん。至急校長室までお越しください。お母様がお見えになられました』

 

え?今私の名前呼ばなかった?幻聴かと思ったが彩香がダッシュで私の席の方までかけてくるところを見ると間違いないのだろう。

 

「ねぇ彩葉!今のってもしかして」

 

「いや、お願いはしたけどわざわざ学校まで来なくてもいいって……それにこんなタイミングで学校来たら私がお母さんに頼ったってバレてお母さんの力使ったのバレるじゃん。まぁいいや……とりあえず行ってくるね」

 

「野次馬達の処理は私にお任せ下さい。あり1匹入らないように堂場家の力を使って近付けさせんまから」

 

「あはは……まぁあんまり手荒な真似はしないでね」

 

そう言って私は、お母さんが待つ校長室へと向かった。ってかあんな大体的に放送されちゃったらエレナお母さんのファンの人達校長室の前で溢れかえっちゃうんじゃ……

 

私の予想通り校長室の前では人だかりが出来ていた。1年生だけではなく、2.3年生も来ているみたいだった。

 

「やっぱりこーなるよね……」

 

あんな人だかりのど真ん中を通る度胸もない私は校長室の通路の影から行くタイミングを見計らっていた。迂闊にぱっと出たら囲まれて質問攻めされるに決まってる。対応するのもめんどくさいし、出来るだけ関わりたくなかった。

 

どうしようかどうしようか悩んでいると、後ろから肩を叩かれた。

 

「ふぇ!?」

 

「驚かせてしまったらごめんなさい。私達は皐月お嬢様の執事です。今すぐあそこにいる人達にどいてもらいますので少々お待ちください」

 

その数5人。スーツに身を包んだ若い人達が校長室へと向かっていった。お嬢様ってホントに凄いんだな……

 

行く末を見守っていると黒服のお兄さん達が野次馬の人達に声をかけていた。ここからでは話の内容は聞こえないが、皆の顔色が青くなっていくのが見て分かった。一体なんの話をしているんだろうか……

 

数分もすると校長室の前に出来ていた人だかりはなくなり、今は誰もいなくなった。

 

「月村様お待たせしました。外は私達が見張っているので気にせず中でお母様と話されてください」

 

「ありがとうございます」

 

私は黒服の人達にお礼を言うとお母さんが待つ校長室の中に入った。

 

「失礼します。遅くなってしまってごめんなさい。それでなんの用?」

 

中に入ると、エレナお母さん、中等部の校長先生と高等部の校長先生の佳奈おばあちゃんがいた。おばあちゃんと会ったのも久しぶりかな。橘 佳奈。旧姓は観月 佳奈。年齢的にはおばあちゃんなんて年齢では無いけれども紅葉おばあちゃんと同性婚をして関係的には私のおばあちゃんという事になる。入学する時にとてもお世話になったし紅葉おばあちゃんと同じように優しい人だ。

 

「冷たいのね。せっかく佳奈さんの手を借りて犯人見つけてあげたのに」

 

エレナお母さんは来客用の椅子に座って紅茶を飲みながら話していた。ってか校長先生2人立ってるのになんで1人だけ立ってるのよ……

 

「それはめちゃくちゃ有難いけどわざわざここに来なくても……エレナお母さん自分が有名人だって自覚あるの?」

 

「仕方ないじゃない。早く伝えてあげた方が貴方も楽になると思ったのよ。まぁ私もあまり時間がないから単刀直入に言うわね。犯人は湊って子。貴方の机が窓際だった事に感謝した方がいいわね。外からの監視カメラですぐに分かったわよ」

 

私は犯人の名前を言われて少しだけ悲しい気持ちになった。なんであんな優しそうな子があんな事……

 

「そっか……ありがとうエレナお母さん。それに佳奈さんもホントにありがとうございます。ご迷惑おかけしちゃってすみません」

 

「ううん。私こそ事前に防げなくてごめんね彩葉ちゃん。エレナに怒られちゃったよ。こういう事が起こる想定は出来たんじゃないかって。ホントに辛い思いさせてごめんね」

 

そう言いながら佳奈おばあちゃんは私の髪を撫でた。

 

「佳奈さんが悪いわけないですよ。同じクラスの子が2日目の朝に何かやるなんて想定する方が難しいです。エレナお母さんも私のために怒ってくれたのは嬉しいけど佳奈さんに無茶言っちゃダメだよ」

 

「まぁそうね。思いのほか私もかなり怒ってるって事よ。湊って子に貴方が何かする前に私が1発やりたいぐらいだわ」

 

「ホントにやめて……」

 

エレナお母さんが言うと冗談に聞こえないんだよね。とにかくこれは私の問題。湊さんにちゃんと話さなきゃ。

 

「それじゃ私は帰るわね。この後の事は彩葉に任せるわ」

 

「わかった。ありがとね」

 

そう言うとエレナお母さんは校長室を後にして帰ったみたいだった。

 

「それじゃ月村さん、これが証拠の写真になるわ。辛いだろうけどちゃんと湊さんと話しておいで。本来なら私が話にいきたいんだけど自分で話したいんでしょう?」

 

「はい。校長先生には申し訳ないですがこの後の処理は私に任せてください。事を大きくするつもりもないので。話が終わったあとの処分はそちらにお任せします。それでは私もこれで失礼します」

 

「わかったわ」

 

さてと……湊さんに察されないようにしなきゃ。逃げられたらつまんないからね。放課後どこか遊びに行かない?って感じで誘ってみればいいか。

 

私は、証拠の写真をスカートのポケットに入れて教室へと戻った。




エレナ「別にお義母さんが来なくても良かったのに」
佳奈「紅葉にお願いされてたのよ。エレナちゃんが暴走しないように見張っててって」
エレナ「私そんなに何かやらかすって思われてるのかな……」
佳奈「昔やんちゃしてたって楓が言ってたよ。ジェシカちゃん締め上げたりしてたでしょ?まぁ念の為の保険よ。それで彩葉ちゃん1人に任せてよかったの?」
エレナ「私に似てるから。間違いなく私がやられたら自分でなんとかしようと思うしね。私を頼ったのも仕方なくだと思うわ。とにかくちゃんと話せることを私は祈ってるわよ」
佳奈「そうだね。帰ってきたらたくさん優しくしてあげてね」
エレナ「そこら辺は楓に任せるわ」
佳奈、エレナ「それでは次回をお楽しみに!」


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保健室

話が鈍行でごめんなさい。


私が教室に戻ると既に授業は始まっていた。私が入ってきて私の方を見たのは彩香と皐月さんと問題の湊さんだけだった。他の子は触らぬ神に祟りなしといったかんじで私の方を見ようとはしなかった。完全に浮いてるなぁ……

 

席へと着くと私は授業の準備を始め、先生への方へと向き直ったが正直これからどうしようかという思いでいっぱいで授業どころじゃなかった。

 

3時間目の授業が終わると私の席に彩香、皐月さん、柚月ちゃんが集まった。

 

「それでどうだったの?」

 

開口一番彩香がそう私に訪ねた。正直彩香を信用していないわけではなかったが態度に出て湊さんを睨みつけそうで怖かったのだ。ここでバレて湊さんに逃げられても面白くもないし私は少し大きめな声で彩香や皐月さんにこう返した。

 

「いやぁそれが何も分からなかったんだよね。結局犯人見つからなくて困っちゃったよ」

 

「えぇ!?結局ダメなの!?それじゃまた昼休みに聞き込み行こうよ!」

 

案の定彩香は大きな声で周りに聞こえるように私に返事を返した。これで少しでも湊さんが油断してくれればいいんだけど。

 

「ううん。もういいの。ちょっと疲れちゃったから私保健室行ってくるね」

 

「え?大丈夫?付き添おうか?」

 

「ううん。そんな大事でもないから。それじゃちょっと行ってくるね」

 

「ご無理をなさらないでくださいね」

 

「ありがと」

 

皐月さんは私に声をかける時にウインクをしていた。どうやら私の意図が皐月さんには伝わっていたみたいだ、誰が真犯人までかは皐月さんも分かっていないけど今は教えられないって意図は伝わったんじゃないかな。

 

私が保健室に行ったのは途中でボロを出すのが怖いからだった。何かのきっかけで湊さんに情報が伝わったり、変に警戒されたくないからだ。エレナお母さんと楓お母さんには高い授業料払ってもらってサボってしまって申し訳ないけれども今日だけは許してください。

 

「ってか保健室ってどこだっけ……」

 

ろくに校内を歩いた事がなかった為結局保健室についたのは教室を出てから20分後の事だった。もしかして私って方向音痴だったりするのかな……

 

コンコンコン

 

「失礼します」

 

「はーい。どーぞー」

 

保健室の中には綺麗な若い先生がナース服姿で椅子に座っていた。エレナお母さんより若そうだな。まぁエレナお母さんも一般的にはおばさんだしね。

 

「へっくしゅん!」

 

「ちょっとエレナ下品だよ……」

 

「誰かが噂してるのよ」

 

話がズレましたね。って言うかスカート丈短いなこの先生。いくら学校に男子がいないといっても膝上10センチぐらいの保健室の先生とはどうなんだろうか……

 

「それでどうしたの?私の足ばっかり見てもしかしてそういう性癖なの?」

 

「違います……ちょっと頭が痛いのでベッド使わせて貰ってもいいですか?」

 

髪色は詩織さんみたいな綺麗な金髪。その綺麗な金色の髪を背中まで長く伸ばしているのがその先生の特徴だった。顔は童顔で大きい胸さえなければ中学生に見えてしまうのではないかと思った。自己主張している大きな胸は楓お母さん以上に見えた。

 

「ダメよ。だって貴方サボりでしょ?月村彩葉さん」

 

見え透いたように保健室の先生は私に返事を返した。そんな私嘘つくの下手なのかな。それになんで私の名前を知っているのだろうか。新入生代表の挨拶の時だろうか。やっぱり断ればよかったかな。有名人なんかになりたくなかったんだけど。

 

「私の名前知ってるんですね。そこをなんとかお願い出来ませんか?」

 

「そりゃもう有名人だからね。そんな高身長で綺麗な女の子が有名にならないわけないじゃない。それでホントの理由は何?小学生の時から真面目だった彩葉ちゃんが仮病なんて珍しい事が起きるんだもん。それなりの理由があるんでしょ?」

 

どうやらこの先生は私の事を小学生の時から知っているような口ぶりだった。

 

「やっぱり言わなきゃダメですか?」

 

「そんな敵意剥き出しの目で見ないでよ。別に貴方に嫌がらせしてるわけじゃないんだから。保健室の先生という職務を全うしてるだけよ。まぁ今回だけは特別ね。エレナの娘さんだから今日だけは見ないことにしてあげる。でもまぁ、あのエレナに娘さんがいるなんてびっくりだわ」

 

「エレナお母さんとお知り合いなんですか?」

 

「元クラスメイトよ。佐々木恵子って言うの。昔の苗字は宇田だったわ。今は結婚して変わったのよ。懐かしいなぁ……エレナがいなかったら今の私はいないってぐらいあの人には感謝してるのよ。話が逸れたわね。私の話は別にいいわよね。それじゃおやすみ月村さん。でも5時間目の授業には出るとこ!いい?」

 

「はい。ありがとうございます。帰ったらエレナお母さんに佐々木先生の話しておきますね。おやすみなさい」

 

そう言うと私は、保健室のベッドに潜り込むと目を閉じた。佐々木先生か。自分の意見をはっきり言えてなんていうか気が強くて曲がったことが嫌い!って感じの人っぽいな。私もあんなふうに堂々と話せたらいいんだけど。

 

「ふぁーあ……色々考えてたらホントに眠くなっちゃった。お言葉に甘えて寝させてもらお」

 

自分では気付いていなかったみたいだが、とても精神的に疲れていたみたいで、私は目を閉じ、考える事を放棄すると数秒で意識は夢の中へと落ちていった。

 

 

 




天音「え!?佐々木先生って宇田さんだったの!?」
エレナ「私も初めて知ったわよ。昔はもっと静かな感じであんな自己主張するような格好する子じゃなかったと思うわ。どこかで垢抜けたのかもね。昔は由紀ちゃんの後ろにくっついてるイメージが強かったけど今じゃ完全に違うみたいだね」
天音「人って変わるもんだねぇ……エレナも金髪にしてみたら?」
エレナ「嫌よ。髪が傷んで将来禿げたらどう責任取ってくれるのよ。私はこの自分の綺麗な黒髪を気に入ってるのよ」
楓「でもエレナの金髪ちょっと見てみたいかも……絶対似合うと思う」
エレナ「ちょっと美容室にでも行ってこようかしら」
天音「ちょろすぎんだろ!!!」

次回、決着


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決着

「月村さん起きて。もうそろそろ昼休み終わるよ」

 

「ん……」

 

どうやら熟睡してしまっていたらしい。体を起こして時計を見ると、昼休みが丁度終わる時間の13時30分を示していた。

 

「起こして頂いてありがとうございます。それじゃ私は戻りますね」

 

「気にしないで。それじゃエレナに宜しくね彩葉ちゃん」

 

「はい。失礼しました」

 

そう言うと私は保健室を出て自分の教室へと足を進めた。

 

 

 

 

 

 

教室へと戻ると、窓際で皐月さんと柚月ちゃんと話していた彩香が、一目散に私の方へと駆け寄ってきた。

 

「大丈夫?」

 

いつもの元気な笑顔の彩香とは真逆で、私を心配そうに見つめる彩香の顔がそこにあった。

 

「うん。ホントにただちょっと疲れただけだから」

 

「ならいいけど……何かあったら少しの事でもいいから言ってよね。友達を頼る事も大切ってエレナさんも言うと思うよ」

 

「ホントにありがとう。でもホントに疲れただけだから大丈夫だよ。また何かあったら言うね」

 

「わかった……」

 

若干腑に落ちていないみたいだったが、彩香は皐月さんと柚月ちゃんの元へと戻って行ったみたいだった。

 

 

5時間目が始まるとすぐに前の席の皐月さんから私宛に小さなノートの切れ端が送られてきた。書いてあった内容は、

 

『真犯人は分かったみたいですね。いつでも力になりますから仰って下さいな。皐月』

 

やっぱり皐月さんにはバレていたみたいだった。エレナお母さんまではいかなくとも、皐月さんもよく人の事を見ている人だなと思った。私が皐月さんの立場だったら気付いているとは思えない。

 

私は皐月さんの手紙に

『大丈夫だよ。心配してくれてありがとう』

という文章だけを返した。

 

さて、どうやって湊さんに声をかけようかな。良かったら一緒に帰らない?いやいやこんなの不自然すぎる。どうしていきなり私と?ってなるに決まってるし、逃げられたら私の当初の目的である土下座をさせることが出来なくなってしまう。土下座させるなんてバカバカしいと思われるかもしれないが、今後私になにかしたらこうなるって分からせるためでもあるんだから。昔エレナお母さんも何回も揉めたって言ってたし、月村エレナの娘なら同じようにどうにかしなくっちゃ。

 

悩んでいるとまた皐月さんから手紙が届いた。

 

『女は度胸ですわ。単刀直入に聞くのが1番だと、私は思いますよ』

 

なんで前向いてるのに私の考えてる事分かるんだろう……お嬢様って皆心が読める特殊能力でもついてるの?

 

でも単刀直入か。それもいいかもね。なんたって私には湊さんが机にイタズラ書きをしている証拠写真だってあるんだ。わざわざ遠回りする必要もないか。

 

私は帰りのホームルームが終わったらすぐに湊さんに声をかけることを決意して、彩香には先生に呼び出されてるから先に帰っててという手紙を回してもらった。彩香の事だから待ってるよっていいそうだけど、そうなったら皐月さんにちょっと足止めして置いてもらおうかな。

 

私は皐月さんにその有無を伝えた手紙を渡して5時間目の授業終了のチャイムを待った。

 

 

キーンコーンカーンコーン……

 

これで後は帰りのホームルームだけ。私は湊さんに悟られないように平静を保ってその時を待っていた。内心は小さい頃楓お母さんに気持ちを伝えた時ぐらい心臓がバクバクしていて、前の席の皐月さんにその心音が聞こえるのではないかと思うぐらいだった。

 

帰りのホームルームはいつも通り進行し、乾先生が明日の予定を軽く説明すると……

 

「起立」

 

「さようなら」

 

そう言うと生徒は一斉に教室の出口へと足を運ぶ。でも私が向かうべき所はそこじゃない。私は彩香が皐月さんと教室を出たのを確認してから、丁度教室を出ようとする湊さんの腕を掴んだ。

 

「ちょっと来て」

 

私はこの時、自分がこんなにも感情のこもってない声を出せたんだなと思った。元から私の声は少し低かったがそれよりも更に低い声が喉から出たのだ。

 

「え?なんですかいきなり?」

 

湊さんは明らかに動揺していた。クラスの子もどうしたんだろう?といった表情で私達の事を見ていた。幸いそこに彩香の姿は無く、上手いこと皐月さんがやってくれたみたいだった。

 

「うるさい。黙ってついてきて」

 

そう言うと、私は返事も聞かず湊さんの腕を引っ張って屋上へと向かった。

 

きっと周りの人達は、興味本位でついてくるんだろうなと思ったが、私がいじめられているのを見ているからだろうかは分からないが、誰一人として触らぬ神に祟りなしといったぐあいについてこなかった。

 

私は屋上へと着くと、内側から鍵をかけて外部から人が入ってこないようにした。途中で先生やら野次馬がきても面倒だしね。

 

「さてと、何が言いたいか分かるよね?」

 

「分からないです」

 

強引に連れて来たと言うのに表情1つ変えず湊さんは機械のように私に返事を返した。

 

「しらばっくれないで。もう分かってるの。全部あんたがやった事なんでしょ?」

 

そう言うと私は湊さんに先程校長室で貰った写真を湊さんに投げた。

 

「あーあ。バレちゃってたか」

 

そう言うと湊さんは開き直ったかのように私を見た。先程までのおどおどしていた態度と全く違い、堂々とそこに立ち尽くしていた。いつもの湊さんとは完全に別人だった。大人しそうな印象だったのに、今目の前にいる人物は反省する様子もなく写真を眺めながら笑っていたのだった。

 

「それで?私をどーするつもり?屋上から突き落としてみる?それはそれでいいね。月村エレナの娘が殺人犯なんて事になったら大スクープじゃん」

 

未だに反省の色が見えずただただ人を馬鹿にしているような声色で湊さんは話していた。

 

「ふざけないで。でもなんで私の事をあんなに知っていたの?それだけ最初に聞かせて」

 

そう言うと先程までこちらをバカにしていた表情は消え、怒気を孕んだ声で私にこう言った。

 

「やっぱり覚えてないんだ。私はあんたと同じ孤児院にいたの!1人だけ何でも出来ていっつもいっつも自分が中心に世界を回してた。私みたいな出来損ないと違ってあんたはなんでも出来たよね。勉強だって運動だって何もかも。それに月村エレナと橘楓が来た時も自分だけ独り占めにして、挙句の果てに娘に???冗談じゃないわよ!私だって裕福な家に拾われたかった!今私が拾われたのはどんな家だと思う?父親はギャンブル三昧。母親は毎晩男を引っ掛けて帰ってきて、まともにご飯を食べられないぐらいの生活をしてるのにあんたは何?綺麗なお母さんに美味しい食事に頼めばなんでも出てくるような家庭でしょ!あんたに私の気持ちなんて分からないわよ!ちょっと机にイタズラ書きしたぐらいでわざわざ呼び止めないでよね。私帰るから」

 

私は必死に孤児院の頃の記憶を思い出していた。ダメだ全然思い出せないや。そもそも他人と関わろうとなんてしてなかったんだから湊さんの事なんて分かるはずもない。

 

「だから何?」

 

自分でもびっくりするぐらい冷たい声が出た。

 

本来なら同情してあげる場面なんだろう。確かにそんな家庭に拾われたのは運が悪かったとしか言いようがないが、それとこれとは話が別だ。今はそんな言葉が聞きたいんじゃない。

 

「今なんて言ったの?」

 

私の横を通り過ぎた湊さんが私を思いっきり睨んでいた。それはそうだろう。まさか同情されるどころかだから何?なんて言われたら火に油を注ぐようなものだ。

 

「だから何?って言ったのよ。別に愚痴ならいくらでも後で聞いてあげるわ。あんたが私を妬んで今回の行動を取った事は分かったよ。上履きを汚したり机にイタズラ書きなんてしなかったら力になれたかもしれないし、泣きながら同情してあげたわよ。ぐすん……奏ちゃん可哀想だねって」

 

ばしーん!

 

「何すんのよ」

 

湊さんは私に思いっきり平手打ちをした。叩かれたのなんていつ以来かな。痛みは無く、少しヒリヒリする程度だったが湊さんの方を見ると目に涙を溜めながらこちらを睨んでいた。

 

「あんた最低だね。こんなやつだなんて思わなかった。私だって裕福な家に拾われたかっただけなのに……」

 

湊さんの目からぽたぽたと涙が零れ落ちていた。

 

「最低なのはどっちよ。確かに私はホントに運がよかった。家に帰れば可愛いお母さんが笑顔でおかえり。って言ってくれて美味しいご飯も出てくるし寝る場所にも困ってない。だからってあんな机の落書きをされて被害者ぶられても困るわよ。なんで私が加害者になってるのかホントに訳がわからないわ」

 

そう言って湊さんの方を見ると、歯を食いしばって黙ってこちらを睨みつけているだけだった。これ以上は時間の無駄だと思って私は、湊さんにこう言った。

 

「土下座して。それで全部無かった事にしてあげる。先生にはもちろん、クラスの子にも言わないであげる。こんな良い条件他に無いと思うけどどう?あんたはこれまで通り優等生を演じていればいい。私は何も無かったかのように、今まで通り学校生活を送るつもり。もちろんまた何かしてくるようなら今度は退学まで追い込むよ。どうする?」

 

私は、見下すようにして、湊さんの前に仁王立ちをして返答を待った。未だに湊さんはずっと私を睨みつけていたが、これ以上何を言っても無駄だと思ったのか、真意は分からないが、湊さんは私の前に座るとそのまま頭を下げた。

 

「すみませんでした。もう二度としません」

 

「じゃあこの件はこれで終わりね。もう行っていいよ」

 

そう言うと、湊さんは私の方を一切見ないで屋上から立ち去ろうとしたが、

 

「ちょっと待って!」

 

私は、帰ろうとする湊さんを呼び止めると、鞄の中から急いでノートを取り出し、そこに紅葉おばあちゃんの連絡先を書いて湊さんに渡した。

 

「どういうつもり?」

 

「言ったでしょ。別に変なことしなければ力になるかもって。それは孤児院の紅葉先生の電話番号。電話したら力になってくれるかもしれないよ。それじゃ私も楓お母さんが心配すると困るから帰るね」

 

そう言うと、私は屋上の内鍵を空けて校舎へ戻った。もうこれ以上話していても湊さんを傷付けるだけかもしれないし、これ以上長居しても仕方ないしね。

 

 

 

それにしても人に土下座させるのって何も気持ちよくないな……

 

 

私は、さっきの湊さんの土下座を思い出していた。少しやりすぎてしまったんじゃないかと、罪悪感が押し寄せていたのだ。それにあんな家庭環境の子にだから何?は無いでしょ……いくらムカついてたからってあれは流石に良くなかったかな……また話す機会があったら謝らなきゃだよね。

 

考えながら学校を出ると昇降口に、見知った人影が立っていた。

 

小柄でポニーテールが似合う私の最初の友達だ。

 

「彩葉!!!」

 

大きな声を上げ、一目散に彩香は私の元へと走り寄った。

 

 




彩葉「ちょっと……もう1年過ぎてるんですけど?前話から1年超えてるんですけど!?」
エレナ「今回ばかりはホントに私達の話が終わったかと思ったじゃないのよ。しっかりしてよね」
楓「まぁまぁ2人ともこうしてまだ続けられたわけだから」
彩葉「楓お母さんは作者さんに甘すぎるよ。危うく自然消滅するところだったんだからね」
エレナ「ホントに困った作者よ……次は頼むわね」


ホントの本当に遅れてしまって申し訳ありませんでした。新しい読者さんも今まで読んでくれていた読者さんも次回は早めに投稿できるよう頑張ります。良ければ感想、評価宜しくです。

前作はこちらからどーぞ!

https://syosetu.org/novel/153653/

それではまた次のお話で!


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決着(彩香side)

彩香視点のお話です。


 

 

『先生に呼び出されたから先に帰ってて』

 

5時間目の授業中彩葉からノートの切れ端に書かれた手紙が私の元へと送られた。呼び出されたって多分いじめの件だよね。彩葉ホントに大丈夫かな……先に帰っててとは言われたけど、心配だし教室で終わるまで待ってようかな。

 

授業が終わって彩葉の方を見ると、なんだかいつもの彩葉とは違って、ずっと怒っているような目をしていた。でも、それは当たり前か。あんな事されたらいくら彩葉が優しい人だったとしても怒るよね。とにかくホームルーム終わってものんびり待ってよっと。

 

ホームルームが終わって、せっかくだから待ってる間宿題でもしようとしたところで皐月さんから声をかけられた。

 

「彩香さん、ちょっと調べ物を手伝っては頂けませんか?」

 

「あ!なんか彩葉が丁度先生に呼び出されたみたいだからそれ終わるまでで良ければ付き合うよー」

 

「ありがとうございます。それでは図書室へと行きましょうか」

 

「おっけー」

 

彩葉を待つ時間の丁度いい時間潰しになると思って、私は二つ返事で皐月さんの誘いを承諾した。その後ろではちょこんと柚月ちゃんが付いていた。

 

この時彩葉が湊さんと話してるって分かってたら絶対に自分の気持ちに気付かなかったんだろうなとは、この時の私は思いもしなかった。

 

図書室に着くと、中には勉強している生徒などがいた。私達は、窓際の近くの4人席を取って席に着いた。

 

「それで皐月さんの調べ物って何?図書委員さんにそこら辺のジャンルのとこ聞いてきてあげるよ」

 

「ごめんなさい彩香さん。私嘘をつきましたわ。図書室なのであまり大きな声を出さないで聞いていただけますか?」

 

「え……?うん。分かった。彩葉の事?」

 

「そうですわね」

 

それから私は皐月さんの話を黙って聞いた。真犯人は彩葉が校長室に行った時に既に分かっていた事。皐月さんは彩葉に頼まれて私を足止めしておいて欲しかったと言うこと。

 

「私ってそんなに信用ないのかな……確かに出会ってまだ3日とかだけど、ちゃんと私にも話して欲しかったな。そしたら何か手伝えたかもしれなかったのに」

 

少しだけだけど悲しい気持ちになった。彩葉の事だから私達に迷惑かけないでこういう選択肢を選んだんだとは思う。でも友達なんて迷惑かけてなんぼだと私は思ってるし、もっと色々相談して欲しかったな。それに湊さんと一対一なんて何されるか分からないし、無事に帰ってくるのを待つだけなんて私は嫌だよ。

 

「それは違いますわ。彩葉さんは彩香さんに迷惑をかけたくないから私にお願いしたんですよ。大切な友達に何かあったらいけないからに決まってるじゃないですか」

 

「私も同じだよ。彩葉が大切な友達だから湊さんに何かされるんじゃないかって心配してるの。今2人はどこに?」

 

「分かりませんわ。私はそれを伝えて欲しいって頼まれただけですので」

 

よく見ると皐月さんも心配そうな顔をしていた。皐月さんの横にちょこんと座っている柚月ちゃんも落ち着きがないようにキョロキョロと周りを見渡していた。

 

「そっか……ごめん皐月さん。私ちょっと下駄箱見てくる。それでまだ彩葉が校内にいるならずっと昇降口で待ってるよ」

 

そう言って私は鞄を取ると、彩葉の靴が入っている下駄箱を目指して駆け出した。早く彩葉に会って話がしたい。今の私の心の中はそれだけだった。

 

「まだ帰ってないか」

 

彩葉の下駄箱を除くとまだ新しい綺麗なローファーがしっかりとそこに置いてあった。

 

どうしようか。校内を闇雲に探しても仕方ないし……それに彩葉自身は私に迷惑をかけたくないから皐月さんにあんな事言ったんだもんね。

 

「待つか」

 

何時になるか分からないけど私は昇降口で待つことに決めた。本当は今すぐにでも校内放送をかけて貰って探したかったが我慢した。でもちゃんと湊さんとの話が終わったら、私に聞かせてよね。

 

 

どのぐらいの時間が経っただろうか。校舎の入口から外に人が出てくる度に、彩葉では無いかと駆け出してしまいそうになるのを我慢していた。

 

待ち始めてから数十分が経過した時だった。

 

背が高く、綺麗な黒髪を長く伸ばしてこちらに歩いてくる人影が見えた。

私は、この時だけ反射神経が全世界で1番早くなったんじゃないかな?というぐらいのスピードで彩葉に駆け出した。

 

「彩葉!!!」




皐月「ごめんなさい彩葉さん。彩香さんをもう少し上手く足止め出来ればよかったんですけれど……」
彩葉「気にしないで。無茶言ってるのは私だし彩香の性格なら飛んでくるに決まってるもん」
皐月「そう言って頂けると幸いですわ。でも次はちゃんと止めてみせますわ。家の人間全員使ってでも彩香さんを止めてみせます!」
彩葉「それは彩香が可哀想だからやめてあげて……」

感想、表情など宜しくお願いします!

前作はこちらからどーぞ!

https://syosetu.org/novel/153653/


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結末

「彩葉!!!」

 

大きな声が聞こえて、そこを見ると彩香が立っていた。皐月さんから全て聞いたのだろう。私の事を心配そうな顔をして覗き込んでいた。

 

「大丈夫!?湊さんに何もされてない!?ってか顔!殴られたの!?大丈夫!?って痛い!なんで叩くの!?」

 

あまりにもテンパっている彩香を落ち着かせるために軽く頭を叩いた。

 

「ちょっと落ち着きなよ。心配してくれるのは分かったからとりあえず外出るよ」

 

私は彩香の手を取って学校の外へと出た。湊さんと鉢合わせた時に彩香が何をするか分かったものじゃないし、とにかく今は落ち着かせるためにも少し時間を使った方がいいと思ったからだ。

 

学校から出て、少し歩いたところで改めて彩香に声をかけた。

 

「皐月さんに聞いたの?」

 

「うん。だけど皐月さんを責めないでね。勝手に私が彩葉を待っただけだから」

 

「別に怒ってないわよ。まぁ分かってるならいいわ。全部の説明は私の家でいい?外で話すのもなんだしさ」

 

「分かった」

 

そう言うと彩香はすんなり承諾したようだ。さて、この顔の腫れはどう説明したものか……素直に叩かれたって言ったら湊さんに次会った時彩香がなんかしそうで怖いしなぁ……それに土下座させたとも言えないし、穏便に解決したって言っとこうかな。

 

 

それから私の家までは、お互い一言も喋らずただ淡々と歩いた。何か声をかけるべきなのかもしれないが、人付き合いなどほとんどしてこなかったからこういう時の対処の方法が分からなかったのだ。

 

「今開けてもらうから待っててね」

 

そう言うと私は玄関のチャイムを鳴らした。

 

『はーい』

 

インターホン越しからでも分かる楓お母さんの優しくて可愛い声。今日一日で凄く疲れてるから彩香がいなかったらめちゃくちゃ甘えていたに違いない。

 

「彩葉。帰ったよお母さん。後、また友達連れてきたから部屋に入れても大丈夫?」

 

『彩香ちゃんかな?今開けるから待っててね』

 

そう言って玄関のドアが開くと、中からラフな格好をした楓お母さんが顔を出した。

 

「おかえりー。彩香ちゃんもお疲れ様」

 

「お邪魔します」

 

楓お母さんと会うのも2回目という事もあり彩香も初日ほど緊張はしていないみたいだった。

 

「ただいま。彩香、先私の部屋行ってて貰える?お菓子とか持って行くから」

 

「手伝おうか?」

 

「ううん。大丈夫」

 

「分かった。それじゃ部屋で待ってるね」

 

彩香が2階へ上がっていったのを確認した後で、私は楓お母さんにちょこんと体を預けた。今日は色々ありすぎた。彩香を待たせるのはちょっと悪い気もするが、話す前に楓お母さん成分を補給しておきたかったのだ。

 

「ちょっと彩葉……彩香ちゃんも来てるんだから今は違うんじゃないの?」

 

「無理。疲れた」

 

「学校行くたびそれじゃお母さんも困るよ……ってかなんか顔腫れてない?どこかぶつけたんじゃない?」

 

楓お母さんは、私の顔をまじまじと見ながら言った。

 

「楓お母さん顔近すぎ……」

 

好きな人の顔が目の前にある。なんかこれだけで一気に疲れが吹き飛んだ気がした。

 

「彩葉……その顔は親に見せる顔じゃないよ。冷やさなくて平気?」

 

「うん。大丈夫だよ。ホントにちょっとぶつけただけだから」

 

これ以上彩香を待たせるのも悪いので、私は適当なお菓子とお茶を持って自分の部屋へと向かった。

 

自分の部屋へと行くと、先程までの彩香とは違い、何故か私の方を見てニヤニヤしていた。

 

「ん?何か私の顔についてる?」

 

「ううん。彩葉みたいな人でもお母さんには甘えるんだなって。御手洗の場所聞こうと思ったらすんごい甘えててびっくりしちゃった」

 

見られてた……まさかこんなに早く同級生に極度のマザコンだってバレるとは……

 

「忘れないと彩香を退学に追い込まなきゃ行けなくなるから忘れて貰ってもいいかな?」

 

「怖すぎ。まぁ別に他の人になんて言わないから心配しないで。私だけが知ってる秘密ってなんか嬉しいし。楓お母さんの事好きなんだね」

 

「大好きだよ。だから机に楓お母さんの悪口も書いてあったからあんなに怒ったんじゃん。別に私やエレナお母さんの悪口書かれるのはどうだっていいけど大好きな楓お母さんの悪口なんて書いたら、私に刃向かおうなんて二度と考えさせないようにするわよ。それじゃそろそろ今回の結末を話そうかな。彩香もそれが知りたいから待ってたんでしょ?」

 

私は楓お母さんへの好意を隠さない。この世界で1番好きな人なんだもん。マザコンってバレてるなら隠す理由も無いしね。

 

「まぁ知りたいから待ってたっていうのはちょっと違うかな。彩葉が心配だったからだよ。だってその腫れって湊さんに殴られたんでしょ?」

 

「違うよ。これはぶつけただけ」

 

そう言うと彩香は、少しの沈黙の後にこう続けた。

 

「そんなに私って信用無いかな……言ったじゃん。友達なんだから迷惑かけたっていいって。嘘ついて彩葉が抱え込む理由なんて何一つ無いんだよ。小学校の頃の彩葉の事は知らないよ。でも今の彩葉には私達がいるでしょ?だから嘘はつかないでよ……」

 

そんな目で見られると私も困る。どうして彩香がこんなに私に真剣になってくれるのかがホントに分からなかった。別に無事に解決したって言えば終わりじゃないのかな?私にはそこまでして彩香が私を気にかける理由が分からなかった。

 

「んー……ちょっと泣きそうな顔しないでよ。分かったわよちゃんと話すから」

 

流石に目の前で泣きそうになってる彩香を見て、このまま嘘を突き通す自信は無かった。

 

私は今回の結末を1から彩香に説明した。屋上に呼び出した事、湊さんとは昔孤児院で一緒で、エレナお母さんと楓お母さんは血の繋がっていない家族で父親がいない事。もちろんぶたれた事もだ。最後に私が湊さんに土下座を強要させた事。正直最後のだけは言うか悩んだ。これを言ったらせっかく出来た友達に引かれるんじゃないか、そんな人だと思わなかったって拒絶されるんじゃないかと思ったからだ。

 

「そっか……ちゃんと話してくれてありがと。彩葉も複雑な家庭に産まれてたんだね。私も似たような感じだからさ。まぁ土下座で済んだなら良かったかもね湊さん。私が横にいたら思いっきりぶん殴ってたかもだし」

 

そう言ってえへへと笑う彩香を見て私は安心した。彩香の家庭の事情は知らないけど、私達月村家の事を何とも思ってないなら良かった。

 

「やっぱり彩香に言わなくて良かったわ。私が止めるはめになってたじゃん」

 

「そーかもね。よいしょっと」

 

話を聞き終わって満足して帰るために腰を上げたのかと思ったが彩香は、私の横にちょこんと座ると体を預けてきた。

 

「重いんだけど……」

 

「安心したらちょっと疲れちゃったから休ませてよ。さっき彩葉も楓さんにやってたじゃん」

 

 

「それは楓お母さん成分が枯渇してたからよ。貴方の疲れたから休ませてとは違うわ」

 

「一緒だよ。前に言ったじゃん可愛い女の子と仲良くなれて良かったって。だから彩葉成分補給させてよ」

 

そう言うと彩香は顔を私の胸に埋めると全体重を預けた。

 

「もう……彩香って結構私の事好きでしょ?私は好きな人の匂いとか体の柔らかさで補給してるからさ。彩香もそーなの?」

 

我ながら馬鹿げた質問をしたと思う。それに昔の私なら重いから嫌だよって突き飛ばしていたと思うし、なんで突き飛ばさず受け入れたかがこの時の私には分からなかった。

 

「好きだよー」

 

「どのぐらい?」

 

「食べちゃいたいぐらいかな」

 

「はいおしまい!そろそろ楓お母さんに甘えたいから帰って貰える?」

 

そう言うと少しだけ顔を赤くした彩香が顔を上げてこちらを見た。

 

「少しぐらい照れてくれてもいいじゃん」

 

「なんで私が彩香に好きって言われて照れなきゃ行けないのよ……ほら早く帰る準備する!」

 

ホントは少しだけドキッとした。人から面と向かって好きと言われた事なんて初めてに等しかったし、可愛い女の子から言われて悪い気はしなかった。

 

「ひっどーい!絶対いつか照れさせてやるから覚えててよ!」

 

 

「はいはい」

 

嫌がる彩香を無理やり部屋から連れ出して扉の前まで連れてきた。

 

「お邪魔しました」

 

「またいつでも来てね彩香ちゃん」

 

「はい!それじゃまた明日ね彩葉」

 

「うん。また明日ね」

 

そう言うと彩香は帰って行った。

 

また明日、か。友達って言うのも悪くないかもしれないね。小学校の時はまた明日なんて言ってくれる子なんていなかったから、その言葉を聞いて少しニヤニヤしてしまった。

 

「いい友達が出来て良かったね彩葉」

 

「うん。でもそろそろ限界だから今日一緒にお風呂入ろ楓お母さん」

 

「全く……バカ言ってないで夜ご飯作るの手伝ってね」

 

「あー!待ってよ楓お母さん!」

 




エレナ「ふーん」
楓「また変な事考えてるでしょ」
エレナ「別に何も考えてないわよ。ただ私が考えてるより早いなってだけ」
楓「頼むからあの二人に変な事しないでよね」
エレナ「私は楓にしか変な事はしないわよ」
楓「はいはい」

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彩香と由紀

彩香視点でのお話になります。


「ただいまー」

 

「おかえり。今日も彩葉ちゃんのどこ行ってたの?」

 

「そんな感じ。由紀おばさん今日のご飯なにー?」

 

「ごめんちょっと忙しくてまだ作ってないから少し待っててくれる?」

 

「あ、なら私作っちゃうよ。カレーでいい?」

 

「ごめんねー。ありがと」

 

私の家庭は少しだけ複雑だ。

小さい頃に私の本当のお母さんだった綾小路結衣さんがお父さんと一緒に突然いなくなってしまったらしい。私は、数日間放置されていた事もあって、餓死する寸前だった所、連絡を取れない事を不思議に思い心配になったお母さんの妹である由紀おばさんが私を発見して保護してくれたのだ。実の娘じゃない私を女手1つで育ててくれたのだ。本当に由紀おばさんには感謝しかない。私も中学生になった事だし、そろそろ由紀おばさんも結婚とかしないのかな?私のせいでずっと自分の時間なんて作れなかっただろうし。

 

「ねぇ?由紀おばさん」

 

「ん?どした?」

 

「彼氏とかいないの?」

 

「どうしたの急に?好きな人でも出来たの?」

 

私が突然変な事を言ったからだろう。由紀おばさんは、普段見せないびっくりした表情をしていた。恋愛沙汰の話なんて今までした事も無かったしね。

 

「違うよ。私も中学生になったし由紀おばさんもいい歳だし恋愛の1つや2つしないのかなって思ってさ」

 

「あんたそんな事考えてたの?別に私が好きで彩香の事を任されたんだから気にしなくていいんだよ」

 

「なんかめちゃくちゃいい人だね」

 

「なにそれ、別に普通よ普通。彩香こそ好きな人じゃなくてもいいなーって思った人とかいないの?」

 

由紀おばさんは笑いながら私に返事を返した。普通の事か。これを普通って言える由紀おばさんが本当に凄いと思った。

 

「好きな人も何も女子中学校って事覚えてるよね?女の子同士なんだから何も起きなくない?」

 

そう言うと、これだからと言った表情を由紀おばさんはしていた。由紀おばさんが学生時代の頃は女の子同士って言うのも結構あったのかな?

 

「甘いよ彩香。私が学生の頃なんて月村エレナに恋してた人が何人いたか分からないんだからね?私も同級生から告白されたりって言うのもあったし結構女の子同士って言うのも普通だよ?」

 

「そーなの?」

 

私はカレーにいれる食材を切りながら由紀おばさんに返答を返した。

 

「そーだよ。だから彩香があんまりモタモタしてると彩葉ちゃん誰かに取られちゃうかもよ?」

 

「いやいや……あの彩葉が女の子と付き合うって考えられないんだけど。確かに背は高くてモデルみたいに綺麗だけど彩葉自信が他の人に興味無さそう」

 

彩葉が他の女の子と付き合ったらどんな感じになるんだろう。例えばだけど、皐月さんとだったら……

 

『彩葉さん。私ずっと貴方を愛していますわ』

 

『皐月さん、私もだよ』

 

いやいやいや。絶対無いからそんなの。って言うかなんで彩葉が他の女の子とそういう事してたらって思ったらちょっとイラッとしたんだろうか。胸の奥が落ち着かないというか……

 

「ちょっと切なくなるような?」

 

「うん。って何で人の考えてること分かったの?」

 

「急に難しい顔になったと思ったらちょっと悲しそうな顔するんだもん。あんた自覚ないだろうけど結構彩葉ちゃんの事好きなんだと思うよ」

 

「彩葉の事は友達として好きだよ。絶対恋愛とかとは違うよ。小学生の時も仲良い女の子いたけどそんな気持ちになった事ないもん」

 

「でも他の女の子と彩葉ちゃんがイチャイチャしてたら嫌だ!って思ったんでしょ?」

 

「まぁそれはちょっとだけ……」

 

「まぁ私も同性愛者だから困ったことがあれば言いなさいな」

 

「えぇ!?初めて知ったんだけど!?」

 

「そりゃ言うわけないでしょ」

 

「まぁそれもそうか。ホントに彩葉の事そういう好きなのかな私って?」

 

「決めつける必要は無いけど、これからゆっくり彩葉ちゃんと友達として付き合ってみてホントに好きだって思ったら、その時は勇気を出して言ってみてもいいかもね。彩葉ちゃんの家庭の事情もちょっとは知ってるでしょ?気持ち悪がられて友達辞める!なんて事は300%言われないと思うから安心しなさい。それにしても彩葉ちゃんかぁ。まぁ頑張りなさいな」

 

「分かった。ちょっと自分でも考えて見るね。あ!由紀おばさん鍋!それ煮すぎだから!じゃがいも溶けちゃうよ!」

 

「え!?嘘ホントだ……」

 

「全く……話に夢中になってるからだよ。娘の事からかい過ぎ。ほら早くルー入れて混ぜちゃって。私サラダ作るから」

 

「ごめんね彩香。ホントに料理だけは上達しなくってダメね」

 

「そのお陰で逆に私が料理覚えてるからいいよ。ちょっと火強すぎ!弱火でいいって何回も言ってるじゃん」

 

「ホントにどっちがおばさんか分からないわね」

 

「おばさんって言うかお母さんでしょ。しっかりしてよね由紀お母さん」

 

「急にお母さんなんて言わないでよ、ちょっと泣きそうになったじゃない」

 

「そのぐらいで泣くなんてやっぱり私のがお母さんっぽいかもね」

 

「もー!彩香のいじわる!」

 

「なにそれ、ふふ」

 

お互いおかしくて笑ってしまった。私は本当にこの人がお母さんになってくれて良かったと思った。

 

それにしても彩葉の事を恋愛的に好きなんじゃない?って言われてから彩葉の事を考えると顔が熱を出した時みたいに赤く熱くなっていくのが分かった。

 

ううん。ただ由紀おばさんに言われただけで絶対恋愛的な意味合いはないよ。小学生の時は、確かに男の子の事好きになる事は無かったけどもちろん女の子に恋したことなんてなかったしね。まぁこれからそれを証明していけばいいか。




由紀「エレナ的にはどう思う?ワンチャンありそう?」
エレナ「んー、私的にはそんな感じになってくれたらおもしろ、ううん。嬉しいわね」
由紀「今面白いって言ったわよね……彩葉ちゃんって小学生の時好きな男の子とかいなかったの?」
エレナ「好きな男の子所か彩葉をうちに招き入れた時からあの子は楓一筋なのよ……マザコンとかそういうレベルじゃないわね。多分楓がエッチしよ?なんて言った日には秒で彩葉ならやるわね。とにかく重症なのよ……」
由紀「楓ちゃん優しいし可愛いもんね」
エレナ「楓はあげないわよ」
由紀「あんたのその目怖いのよ……睨まないで。心配しなくても私は梨花一筋よ」
エレナ「ならよろしい」

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お風呂と説教と目覚め

「えへへ、楓おかぁしゃーん」

 

「彩葉……そろそろ甘えるのやめない?ちょっとどこ触ってんの!?今日なんかいつにも増しておかしくない?」

 

「おかしくないもん!どこって楓お母さんのおっぱい触ってるだけじゃん。これの為に生きてるもん」

 

「ホントに勘弁してよ……」

 

彩香が帰って2時間が経った。

私は、夜ご飯を食べ終えるとエレナお母さんが今日は遅くなると言うことで楓お母さんにわがままを言って一緒にお風呂に入らせて貰う事にしたのだった。久しぶりに一緒に入れた喜びと、昨日今日の疲れから解放されてネジが外れてめちゃくちゃ甘えたいモードになってしまっていたのだ。

 

「何か学校で嫌な事でもあったの?」

 

余りにも私の様子がおかしかったのもあってか、楓お母さんが心配そうに私を見つめてきた。私はその綺麗な顔に吸い込まれるように近付いて唇を……

 

「奪わせないわよ。ちょっと何してるのよ楓。その子にそんな近付いたらキスして押し倒されて犯されても責任取れないわよ」

 

キスしようとした直前にお風呂場のドアがガラリと空いてスッポンポンのエレナお母さんがそこに立っていた。

 

「良いところだったのに……」

 

「楓と彩葉を2人っきりにさせたらろくな事ないって分かるわよ。それに今日は色々決着付けてきたんでしょ?それならスーパー楓に甘えたいdayになるに決まってるじゃない。本当ならもっと早く帰ってきて楓の貞操を守りたかったんだけどちょっと仕事が押しちゃってね。楓、何もされてない?大丈夫?」

 

「実の娘に何かされるわけないでしょ……まぁちょっと今日は甘えすぎ。せっかく黙ってれば学校一の美人にだってなれるのになんで私の前だとこうなっちゃうのかな……」

 

「好きな人の前ではこうなっちゃうもんだよ。ね?エレナお母さん」

 

「私に同意を求められても困るわよ……まぁいいわ。それでどうなったの?簡潔にまとめて教えて貰えるかしら」

 

先程までのおふざけの様子とは違い、エレナお母さんは真剣な顔をして私に言葉を投げた。今楓お母さんいる事分かってて言ってるのかなこの人。

 

「特に何もないよ。エレナお母さんのおかげで何事も無く終わったから心配しないで」

 

「そ。ならいいわ」

 

「ん?どういう事?」

 

何の話?と言った感じで楓お母さんは頭の上にはてなマークがずっと出ているみたいだった。

 

「楓には関係ない事よ」

 

いやそんなにバッサリ楓お母さんだけ仲間外れにするような言い方しなくても……と言おうとした時にはもう遅かった。

 

「また私だけ仲間外れにするんだ。彩葉、背中流してあげるからおいで」

 

「え!?いいの!?」

 

「捕まえた。エレナには話せなくて私には話せないなんておかしいよね彩葉。私にも何があったか教えて」

 

私は楓お母さんの策略に見事に引っかかってしまった。いい加減楓お母さんも前からちょくちょく仲間外れにされる度にイラッと来ていたみたいだった。でも、そんな事より楓お母さんに後ろから抱きしめられてお風呂場で耳元で囁かれるなんて今日はなんていい日なんだろうか……

 

「楓、それは彩葉には意味ないんじゃないかしら。捕まってしまった!?っていう表情してないわよその子。嬉しそうにずっとニヤニヤしてるしあんたが耳元で囁いたせいでASMRみたいになってるじゃないのよ」

 

「全くホントにこの子は……彩葉、でも何があったかは教えて。じゃないと今後私に触る事を禁じます。それでもいいならこのまま黙っててもいいよ」

 

「ちょっとした嫌がらせにあいました」

 

楓お母さんに触れなくなる。って言われて私は条件反射で楓お母さんに言葉を返してしまった。

 

「どうして隠しておくのかな?」

 

「痛い痛いよ楓お母さん!」

 

後ろから思いっきり楓お母さんに頭をぐりぐりされてしまった。だけどよく分からないけど少しだけ気持ちいい気もした。

 

「喜びながら痛いって言うんじゃないわよ……なんか私を見てるみたいで嫌になるわね……」

 

「エレナお母さんと一緒にしないで。でも言わなかったのは楓お母さんに迷惑かけたくなかったからで、そのなんて言うか悪い意味で隠したりはしてないよ」

 

「さてと、私はそろそろ上がりましょうかね」

 

これから楓お母さんに何か言われると思ったのか逃げるようにエレナお母さんはその場を立ち去ろうとした。まだ体も髪も洗ってないでしょ……

 

「前に言わなかったかな?家族で隠し事は厳禁って。エレナもだよ。なんで私に言わないの?正座。彩葉も小学生の時と違って甘やかさないからね。湯船のとこなら風邪引かないからそこで正座して」

 

「「はい……」」

 

私とエレナお母さんは2人して楓お母さんの前で裸で正座をする事になった。構図だけ見たらホントに情けないなこれ。

 

それから楓お母さんにこうなった経緯を話して説教が終わったのは30分後だった。

 

この1件がきっかけで月村家には、

【家族に隠し事をしない。これを破った場合は1週間のトイレ掃除とエレナの場合はお酒禁止、彩葉の場合は楓お母さんに甘えるのを禁止】

という条例が出来た。

 

「ホントにもう……私に別に気遣わなくて大丈夫だからね。同性婚してる時点で何か言われるぐらい覚悟してるんだからさ。彩葉も私の事より自分優先してよね。なんで怒ったきっかけが自分に対する嫌がらせじゃなくて私の事が書いてあったからなのよ……とにかくいつまでもお風呂入ってる訳にもいかないから2人ともちゃんと体と髪洗って出てきてね。私はなにか飲み物容れて待ってるから」

 

そう言うと楓お母さんは足早にお風呂場から出て行った。

 

「疲れたわね……楓を怒らせるとこうなるんだからもうやめなさいよね」

 

エレナお母さんはずっと正座をしていたせいで足が痺れたのか細くて白い綺麗な足を思いっきり浴槽で伸ばしていた。

 

「エレナお母さんも楓には言わなくていいって言ったじゃん。今回はお互い様でしょ」

 

「まぁ私にも落ち度があったわね。でもこれでしばらくは彩葉に何かする子なんて出てこないでしょ」

 

「そうなる事を祈るよ。めんどくさいだけだもん」

 

「でも月村エレナの娘になったって少しは実感出来たんじゃない?」

 

なんでこの人は得意気に言ってるんだろうか。月村って名前のせいでどれだけクラスの人や上級生に声かけられたと思ってるんだ……

 

「まぁ嫌ってほど分かったよ。後話ちょっと変わるんだけどさ」

 

「ん?何かしら」

 

「もしかして好きな人に怒られたりしたら嬉しくなるって当たり前の事なのかな?楓お母さんに正座って冷たい声で言われた時なんか嬉しかったんだよね」

 

「彩葉……もう戻れないわよそこまで来ると。おかしいわね。親子揃って性癖似る必要なんてないはずだけど」

 

「エレナお母さんはドMでしょ。私はちょっとそういうのも悪くないかなって思っただけだから」

 

「いや……中学一年生でそれは結構重症よ……そろそろ上がるわね。これ以上重症化しない事を祈るわ」

 

そう言うとエレナお母さんはお風呂場から出て行った。いやエレナお母さん体と髪洗ってないでしょ……

 




彩葉「汚いよ。なんで洗って出てかなかったの?」
エレナ「私は朝シャワー浴びるからいいのよ。お風呂行ったのは彩葉が楓に変な気を起こすんじゃないかって思ったから行っただけだし」
彩葉「ホントにいいタイミングで来るんだもん。勘弁してよね。私にお金があったらお風呂に鍵付けてエレナお母さん入って来れないようにするんだけどな」
エレナ「そんな事にお金を使うんじゃないの」
彩葉「それを言うならエレナお母さんだって首輪だったり鞭だったりネットで買ってるの知ってるんだからね」
エレナ「そんな嘘を言っても効かないわよ」
彩葉「ふーん。そういう事言うんだ。家族に隠し事はなしなんだよね?誰が宅配便受け取ったと思ってるのかな?あ!楓お母さん!エレナお母さん隠し事してるよ!!!お酒禁止ね!!!」
エレナ「私が悪かったから楓を呼ぶのはやめて!!!」

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ラブレター?

ピピピピピ!ピピピピピ!ピピ!

 

「うーん……もう朝か……」

 

時計を見ると時刻は6:30分。彩香との待ち合わせには十分間に合いそうだ。

 

私の朝のルーティンは、起きてすぐにリビングに降りて楓お母さんにおはようを言う事。とにかくこれだけは5際の時から欠かすことは無かった。いつでも笑顔でおはよう!って言ってくれる楓お母さんを見ると朝の憂鬱な気分なんてすぐにどこかへ行ってしまうからだ。

 

「おはよう楓お母さん」

 

「おはよー。今日もちゃんと起きれて偉いね彩葉。顔洗って着替えたらエレナ起こしてきて貰っていい?」

 

「はーい」

 

私は楓お母さんへの挨拶を済ませると顔を洗い歯を磨いてエレナお母さんを起こしに行った。エレナお母さんの部屋に入ると宝石みたいな綺麗な身体が布団の上で静かな寝息を立てていた。小さい時から何もつけないで寝ていることが習慣づいているエレナお母さんを最初起こしに行くのはホントに慣れなかったな。

 

「エレナお母さん起きて、楓お母さん待ってるよ」

 

「ん……おはよう彩葉。もうそんな時間なのね。着替えて降りるから先に行ってて頂戴」

 

「分かった。二度寝しないでよ」

 

「しないわよ」

 

そう言って私は再びリビングへと戻った。

テーブルには楓お母さんが作った朝ごはんが3人分綺麗に並べられていた。今日の朝食の献立は、クロワッサンとコーンスープとサラダとヨーグルトだった。クロワッサンは市販では無く、楓お母さんが自分で生地から作っているらしくて驚いた。

 

「もう手伝うことはなさそうかな?」

 

「うん。大丈夫だよありがとね。それじゃエレナどうせ少し時間かかるだろうから先食べちゃおっか」

 

「うん!」

 

「「いただきます」」

 

そう言って私は15分もしないうちに楓お母さんが作ってくれた朝食を食べて再び自室に戻り、学校の支度を始めた。まぁ昨日のうちに持っていくものは詰めてるしちょっとのんびりするだけって方が正しいかな。まだ彩香との待ち合わせには20分もあるしちょっとゆっくりしよ。

 

「いろはー、エレナ仕事行くからお見送りしてあげてくれる?ちょっと手離せないの」

 

階下から楓お母さんの声が聞こえた。楓お母さんも家事で忙しいのだろう。1人で行かせるのも可哀想だと思い玄関へと向かった。

 

玄関にはスーツを身にまとったエレナお母さんが立っていた。ホントに喋らなければ世界で1番綺麗なんじゃないかと思わせるぐらいには似合っていた。

 

「お見送りありがとう。それじゃ行ってくるわね。ん」

 

「行ってらっしゃい。楓お母さんいないからって私のほっぺにチューしないでよ」

 

「ふふ、それじゃね」

 

「全くもう……」

 

ここは海外じゃなくて日本だよって何回突っ込んだか分からない。小学生の時はずっと気にしてたんだけどこうも毎回されると慣れるものだなと思った。

 

「彩葉、もう彩香ちゃん来てるみたいよ。用意出来てるなら行ってあげたら?」

 

 

先程閉めたはずのドアがすぐに開いてエレナお母さんがまた顔を出した。

 

「え!?ホントに!?急いで行くって言っといて」

 

もうそんな時間だっけ?時計を見るとまだ時刻は8時だった。待ち合わせより15分も前に来るなんて珍しいな。昨日の事をまだ心配してくれて早く来てくれたのだろうか。

 

「楓お母さん行ってくるね!」

 

「はーい!行ってらっしゃい!」

 

私は楓お母さんに声をかけると外へ飛び出した。門のすぐ外にちょこんとポニーテールの女の子が立っていた。彩香だった。

 

「おはよう彩香。早いじゃん」

 

「うぇ!?あ、おはよう彩葉。アハハごめんねちょっと早く出過ぎちゃった」

 

「なんでそんな驚いてんのよ。顔も赤いし熱でもあるんじゃないの?」

 

そう言って私は彩香のおでこに自分のおでこをくっつけた。

 

「うーん。別に熱は無いみたいだね。ちょっとなんで固まってるのよ。いつものあんたらしくも無い」

 

「ごめんちょっと寝起きでぼーっとしちゃってたかも、遅れないうちに行こ」

 

そう言うと彩香はそそくさと先に歩き出した。なんか彩香の様子がおかしいけど何か家であったのかな?

 

「なんかあった?」

 

「え?そんなに私おかしかったかな?」

 

「元からおかしいけど今日はもっとおかしいよ。なんか落ち着きないように見えるよ」

 

「誰が元からおかしいけどよ。多分彩葉の気のせいじゃない?ほら行こ」

 

「うん」

 

少し様子がおかしい事が引っかかったが、まぁ特に気にするようなことでも無いかと思い、私達は学校へと向かった。

 

校門前に着くと丁度皐月さんと柚月ちゃんが車から降りてくるところだった。

 

「あら、彩葉さんに彩香さん、おはようございます」

 

「おはよー」

 

「おはよ」

 

皐月さんの後ろで小さく柚月ちゃんもぺこりとお辞儀をしていた。

 

「彩葉さんは大丈夫でしたか?昨日は約束をまっとうできなくて申し訳なかったですわ」

 

「気にしないで。ただ彩香が暴走しただけでしょ。もう大丈夫だよ。心配させてごめんね」

 

「でしたら良かったですわ。全然謝る必要はないですわよ。また何かあったらすぐに相談してくださいね。私で出来ることでしたら何でも致しますから」

 

笑顔で皐月さんは私に返事を返した。本当に綺麗な笑顔だなと思った。楓お母さんの笑顔には勝てないけど私が男の子だったらその笑顔で絶対に好きになってたよ。

 

「立ち話もあれですし教室へ行きましょうか。柚月、鞄」

 

「はい」

 

んー。やっぱり柚月ちゃんには厳しいのは変わらないのかな。人様の事だから言えないけどもう少し優しくしてあげてもいいのに。

 

「どうする彩葉?また上履きになんかされてたら怒る?」

 

「引っぱたいてやるわよ。あれ?何この手紙」

 

私が下駄箱を開けると、そこに入っていたのは何かイタズラされた上履きとかではなく、可愛くデザインされた手紙がちょこんと上履きに乗っていた。

 

「あらまぁ、入学して早々ラブレターとは彩葉さんもすみにおけませんわね」

 

「え!?彩葉にラブレター!?」

 

「ちょっと2人とも声が大きい。他の人に聞かれたら面倒でしょ」

 

「ねぇ!?誰から!?」

 

「あーもううるさい。後で教えてあげるからとにかく教室行くわよ」

 

グイグイくる彩香を制して私は、これ以上話をややこしくしない為にも早く教室へと向かった。

 

教室について座席へ荷物を置いて手紙を空けようと思ったが、いかんせん彩香と皐月さんの目がこっちに向いていて読みずらかった。どうせ誰に何を言われても付き合わないのは決めているし読まずに捨ててもいいんじゃない?とも思ったが流石にそれは可哀想すぎるもんね。

 

「ちょっとお手洗い行ってくる」

 

「ふふ、行ってらっしゃいませ。彩香さんは止めておきますわね」

 

「何がなんでも止めて」

 

「承知致しましたわ」

 

皐月さんには意図が伝わったようだった。他の誰にもバレずにこの手紙を空けるところなんてトイレの個室ぐらいしかないと思ったのだ。私は朝のホームルームが始まる前に急いでトイレへと向かった。

 

「そもそもホントにラブレターかなんて分からないしね。えーっと……」

 

『月村彩葉さんへ。突然の手紙でごめんなさい。今日の放課後1人で屋上に来て貰えませんか?話したい事があります。 今村美彩より』

 

誰すぎ???

 

ってかこれなんて読むんだろ名前。みいろでいいのかな?なんか彩葉、彩香に美彩ってどんだけこの学校は彩りたいのよ……まぁ名前はどうでもいいとして、告白って確定したわけでもないし話なら聞きに行こうかな。

 

 

この時の軽い決断を後悔する事になるとは彩葉はまだ知らなかった。

 

 




皐月「彩葉さんは凄いですわね。入学してすぐにラブレターなんて中々貰えませんもの。柚月もそう思わない?」
柚月「はい。ですが皐月お嬢様も小学生の時貰ってましたよね?」
皐月「まぁそうね。全部断ったけど。私には柚月もいるし彼氏も彼女も作る気はないですわ」
柚月「私では役不足ですよ」
皐月「そんな事無いわよ。貴方も十分に綺麗よ」
柚月「ありがとうございます」

彩葉、彩香「皐月さんが柚月ちゃん褒める所初めて見た……」


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美彩感激です!

「それで手紙って誰からだったの?やっぱりラブレターだった?」

 

トイレから戻ると教室の入口で彩香が待ち構えていた。

 

「さぁ誰からだろうね。ホームルーム始まるから早く席戻った方がいいよ」

 

私は軽く彩香を流して席に戻ろうとしたのだが、今日の彩香は一味違うようだった。

 

「内容教えてくれなきゃ戻らないよ」

 

私を制するように彩香が私の前で立ちはだかった。

 

「もー……ホントにまだ分からないんだって。今日放課後話があるからってだけの手紙だよ。内容分かったら教えてあげるからとりあえず通してくれる?」

 

「絶対だからね!?」

 

「分かったわよ」

 

そう言うと満足したのかやっと彩香は私を通してくれるみたいだった。席に戻ると前の席の皐月さんがニコニコしながらこちらを見てきた。

 

「何よ」

 

「ふふ、彩香さんも大変だねって思っただけですわ」

 

「ん?なんで彩香?私じゃなくて?」

 

「えぇ。まぁ近いうちもしかしたら私がこう言ってる理由が分かると思いますわ」

 

皐月さんが何を言ってるかよく分からなかったがそれ以上の言及はしなかった。また何か変なお嬢様的感が働いたのだろうぐらいにしか思わなかったのだ。皐月さんの方からもそれ以上は何も言ってこなかったし、きっとどんな事が書いてあったかも大方見当はついているのだろう。

 

それからの今日の一日はとても長く感じた。特に手紙の事なんて気にしてないつもりではいたが、授業の合間には彩香が毎回私の方に来て顔色を伺っているし、私自身今村美彩っていう名前を近くのクラスで探してしまっていた。

 

 

「それでは今日一日お疲れ様でした。さようなら」

 

やっと終わった……ってかここからが本番なんだけど。いつも通りやっている授業がこんなに疲れたと感じたのは入学してから初だった。

 

「それじゃ行こっか彩葉」

 

「は?」

 

「は?じゃないよ。なんで彩香が着いてくるのよ」

 

突然訳の分からないことを彩香が言い出した。あんたは私の保護者か……それに1人で来てって言ってるのにあんた連れてける訳ないでしょうに……

 

「はぁ……皐月さん。お願いします」

 

「承知致しましたわ。柚月」

 

「はい。皐月お嬢様」

 

皐月さんが柚月ちゃんに声をかけると、いつものおっとりした姿はどこにもなく、彩香を机の上に拘束してみた。

 

「彩香ごめんね。でも手紙には1人でって書いてたからさ。そこで皐月さん達とおしゃべりでもしてて」

 

「いろはぁ!待ってよー!」

 

私は柚月ちゃんに拘束されている彩香を放置して約束の場所である屋上へと急いだ。

 

「なんか面倒くさくなってきたな。小学生の頃の私なら絶対行ってないもんねこういうの」

 

実は小学生の頃も同じような事が2.3回あったのだ。まぁそれはあからさまに告白されるって分かってたし、断り方とかも幼い私には分からなかったのだ。今思えば悪い事しちゃったな。

 

「はぁ……ふぅ。よし」

 

私は一呼吸置いて屋上へ繋がる扉に手をかけた。

 

「手紙をくれたのは貴方?」

 

「あ!はい!呼び出してしまって本当にごめんなさい」

 

そこに立っていたのは私と同じぐらい髪を伸ばした綺麗な人だった。身長は、私より少し小さいぐらいで150センチとかかな。顔立ちは整っていて、彩香が可愛いタイプならこの人は綺麗なお姉さんみたいだなと思った。パッチリ二重で目も大きく、何か見透かされているような嫌な感じがした。それに何だかさっきから視線が私の足元に向いているような気がするのは気の所為だろうか。

 

「あれ?先輩ですか?」

 

その人の上履きを見ると、つま先の色が青かった。私達の学校は、各学年で上履きの色が違うのだ。1年生は白、2年生は青、3年生は赤。といった形で分けられているのだ。

 

「あ、ごめんね。まずは自己紹介しなきゃだよね。2年A組の今村美彩(みいろ)です。宜しくね彩葉ちゃん」

 

声も透き通っていて綺麗だな。この人もきっとどこかのお嬢様なのだろう。立ち振る舞いがとても上品に見えた。

 

「宜しくお願いします。知ってるとは思いますが1年B組の月村彩葉です」

 

「それで早速本題に入りたいんだけど大丈夫かな?」

 

「はい。話があるから私を呼んだんですもんね」

 

私がそう言うと少しだけ今村先輩の顔が赤くなって行くのが分かった。やっぱり告白の話なのかな?それだったら上手く断って傷付けないようにしないとだよね……

 

「実はね、この場所って私のお昼寝スポットなんだよね。それで昨日彩葉ちゃんお友達かは分からないけどちょっと喧嘩してたでしょ?」

 

「まぁそうですね。全然先輩いたなんて気付きませんでしたよ」

 

見られてたか……昨日屋上には誰もいなかったと思うんだけどな。鍵もかかってたし。

 

「まぁ私が寝てるのってそこだからね」

 

先輩は、屋上にある給水タンクを指さした。え?そこに寝るスペースあるの?

 

「あんな高いところ怖くないんですか?」

 

「最初は怖かったけど風が気持ち良くてすんごい寝やすいんだよね。ほら、よく見ると裏から登れるし、2人ぐらいなら人が座れるスペースだってあるんだよ」

 

「なるほど……それで口止め料でも請求する気ですか?」

 

「ううん。いや、少しだけあってるかな。話を戻すね。それで彩葉ちゃん土下座させてたでしょ。それでその……」

 

いやいやいや、なんでそこでモジモジするの!?私はめちゃくちゃ嫌な予感がした。5歳の時に初めて見たエレナお母さんのあの気持ち悪い顔。罵られて喜んでいた顔が今急に頭から離れられなくなったのだ。

 

「私のご主人様になってくれない?」

 

「嫌です」

 

予想通りだった。この人はエレナお母さんと同じ人種で、罵られて性的興奮を覚えるドMの変態だった。

 

「その冷たい目も素敵よ彩葉ちゃん。入学式の時からこんなに綺麗で可愛いご主人様が欲しくて仕方なかったの。週一回でいいの。それで彩葉ちゃんがここで何をしていたかの秘密も言わないから。ダメ?」

 

確かに私がここで湊さんを土下座させていたなんて噂が広がったら面倒くさくなるのは間違い無かった。この人みたいに奴隷志望の子も現れるかもしれないし、月村さんってエレナさんの娘って地位利用してどうこうしてるとも思われるのはごめんだった。

 

「はぁ……分かりました。ホントに週一回だけですからね」

 

「契約成立ね」

 

そう言うと今村先輩はとても嬉しそうな表情をしていた。ホントに何でこんな事に……

 

「それで私は何をしたらいいんですか?」

 

「えっと……まず今村先輩って呼び方をやめて欲しいかな。美彩でいいよ。後敬語も辞めてね。それで今日からスタートでいいのかな?」

 

同性の私相手にそんな顔を赤らめられても困る……まぁそれは人の好きの形だから何も言わないけど、美彩の好きの形は歪みすぎてる。

 

「まぁいいけど。それで私は何をしたらいいの?」

 

「そうね。まずは軽めに頭を踏んでもらえる?」

 

「軽めに???それで軽いの?まだ先があるのめちゃくちゃ怖いんだけど」

 

「大丈夫だよ。それじゃ強気に命令して貰える?何私の前に立ってるの?早く土下座してよこの雌豚!って」

 

「気持ち悪い……」

 

やべ、素が出ちゃった。流石に先輩相手に悪いと思って謝ろうとしたのだが美彩は逆だった。

 

「はぅ!セルフで罵って貰えるなんて美彩は幸せです」

 

喜んでる……エレナ感激です!の顔してるよこの人。

 

 

「はぁ……何私の前に立ってるのよ?早く土下座してよこの雌豚!早く土下座してよほんっとに気持ち悪い!」

 

「はい!私如きが二足歩行しててごめんなさい!こんな私に罰をお与え下さい彩葉様!」

 

そう言うと美彩は、私の前にすんごい勢いで土下座をした。ホントにこんな綺麗な人の頭踏んでいいの……

 

流石に上履きで踏むのはあれだったので、上履きを脱いで靴下でちょこんと美彩の頭を踏んだ。

 

「最高すぎて死にそう……美彩感激ですわ!」

 

私の足の下ではぁはぁと息が荒くなっている美彩を見ると、楓お母さんの足を舐めて喜んでるエレナお母さんを思い出して頭が痛くなってきた。

 

「あんたも感激です言うんかい!!!はぁ……楓お母さん助けて……」

 

最悪な関係がスタートしてしまった。こんな事なら屋上に来なければよかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




彩葉「はぁ……エレナお母さんいつものやつやって」
エレナ「何よいつものやつって?」
彩葉「感激です!」
エレナ「別にあれは持ちネタじゃないわよ……何かあったの学校で?」
彩葉「別に何もないよ。楓お母さん1番最初にエレナお母さんに足舐められた時どんな気分だった?」
楓「そりゃ気持ち悪かったよ……しかもあの頃ってメイドとお嬢様だったから尚更複雑な気持ちになったもん。ほらエレナ別に今そういう雰囲気じゃねいから」
彩葉「楓お母さん、エレナお母さん踏んで欲しそうだから踏んであげたら?」
楓「なんで娘の前でそんな事しなきゃいけないのよ……」
エレナ「放置プレーですね!エレナ感激です!」
彩葉、楓「はぁ……」


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