ニンジャと世界樹と白亜の城寨と (酢豆腐)
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皇帝ノ月第1日目 飛行都市マギニア

◆忍◆ニンジャ名鑑#0xxx【ホーンドバイパー】◆殺◆
かつてネオサイタマと呼ばれた一帯で産まれ、
旧文明時代から生きていると称する胡乱なリアルニンジャの
弟子になる。その後は海都アーモロードにて冒険行に挑んだ。
師匠から実費で購入したヘビ・クリス短剣を愛用している。
迷宮の踏破者になるのが夢。

◆忍◆ニンジャ名鑑#0xxx【フブキ・ハヤシ】◆殺◆
ミズガルズ図書館にて修練を積み、海都アーモロードにて冒険者になる。
今回のレムリア行きに同行した理由はホーンドバイパーを
死なせたくないから。好き。邪魔物は杖で殴って壊す。
一見温厚に見えるのは擬態であり、実際迷宮の植物めいている。


皇帝ノ月第1日

飛行都市マギニア

 

目的地であるレムリアが近いのか、飛行都市マギニアの艦橋部に繋がる通路には窓越しではあるが、激しい風雨が叩きつけられている。景色が良く見える場所を探していたところ君がたどり着いてしまったのがここだった。実際のところ君が海都アーモロードに寄港したマギニアに乗り込んでからわずかに7日、未だにマギニア内部の地理に通ずるに至っておらず、君は飛行都市艦橋部付近へと迷い込んでしまったのだった。

 

君の視線の先には、橙の髪、碧眼、見事な宝石細工の冠と豪奢な甲冑を身に付けた女性の凛とした姿がある。君の予想が外れていなければ彼女こそが、この飛行都市マギニアの王女、ペルセフォネ姫だろう。君の確かなニンジャ野伏力によってか彼女はまだ君に気付いていない。

 

「レムリアは近いのか?」

 

君の問いかけに推定ペルセフォネ姫が驚き、振り向く。何となく君を警戒しているのか、振り向きざまに態勢を整えてからは油断ならないカラテを構えている。

 

「見たところ、我がマギニアの兵ではあるまい。何者か?」

 

鋭い視線と誰何の声が君に向けられる。

冒険者が名乗るように求められたならば、姓名よりも先に一党(ギルド)の名を答えねばならない。それはさながら、ニンジャ同士が出会いイクサとなればアイサツを交わさなければならないように。古事記にもそうある。

 

「ドーモ、アドベンチャラー・ドージョーのホーンドバイパーです」

 

君は素早く巻物を取り出し、広げる。そこには力強いオスモウフォントで『冒険者達が道場』の文字がショドーされていた。実際、心臓の弱い者やカラテの足りない惰弱者が長時間このショドーを見詰めていると急性NRS(ニンジャ・リアリティー・ショック:ある種のショック症状)を引き起こす可能性さえある代物であった。

 

「・・・まぁ、まだ俺含めて2人しかいないが」

 

「ふむ、パーティーメンバーを募るのはレムリアについてからでも遅くはあるまい。時にアドベンチャラー・ドージョー・・・汝は我らが募った冒険者か?」

 

君は首肯する。君自身はかつてネオサイタマと呼ばれた一帯で修行し、近隣のエトリアではなく海都アーモロードに渡った変わり者だ。海都の世界樹迷宮が他の一党によって完全踏破されたので新たな冒険を求めてマギニアへと乗り込んだのだ。

 

「遥か東の果てにあり、数多くの冒険者を輩出したというエトリア」

 

「四季を彩る美しい樹海を戴く北の公国ハイラガード」

 

「南海に位置し、多くの民が集う海洋都市アーモロード」

 

「名君と名高い辺境伯が治める最果ての街タルシス」

 

「これら諸都市の何れから来たにせよ、とにかくよくぞ馳せ参じてくれた!見れば中々に腕の立ちそうな出で立ちではないか!」

 

先程までの警戒とはうって変わって、推定ペルセフォネ姫の語り口と視線には確かな熱が込められていた。

 

「我らが向かう絶海の孤島レムリアは世界から隔絶された地と聞く。周辺海域は常に荒れ、厚い雲が島を覆うとはきいていたが・・・ここまでの道のりは正しく言い伝えの通りであった」

 

窓越しの荒天に目を向け、推定ペルセフォネ姫がひとりごちる。

 

「お前の最初の問いに答えよう・・・目的地はもうすぐだ。そろそろ雲を抜けるぞ!」

 

推定ペルセフォネ姫の言葉に君も窓の外に目を向ける。するとマギニアが暗雲を切り裂き巨大な世界樹が目に飛び込んでくる!おお世界樹!ゴウランガ!

 

「見たか!あの大樹こそ我らの目的地、汝らの挑む冒険の舞台である」

 

君がレムリアの世界樹を眺めていると、ニンジャ第六感が何者かの接近を告げる。

 

「姫?こちらでしたか。無事に到着しましたので演説のご準備を・・・」

 

漆黒の鎧に身を包んだ壮年の軍人とおぼしき男がペルセフォネ姫に声を掛ける。

 

「ミュラーか、分かった。準備は出来ている。ホーンドバイパー=サン、汝も広場へと向かうが良い」

 

ペルセフォネ姫が君に移動を促すと、漆黒の鎧の男、ミュラーが君へと向き直る。

 

「ホーンドバイパー=サンといったか。君は?」

 

「アドベンチャラー・ドージョーのホーンドバイパー=サン、集ってくれた冒険者だそうだ」

 

君が応えるよりも先に、今や推定の2文字が外れ、正真正銘のペルセフォネ姫本人と分かった彼女がミュラーに応えた。

 

「なるほど、志願してくれた冒険者か。私はギュンター・ミュラー、軍人としてこの飛行都市マギニアに仕えている」

 

ミュラーと名乗った男は重々しく今回の冒険行について語り始めた。

 

「今回の旅では、君のような冒険者が何千と集まっている。これらはみな伝説の古代文明とその秘宝に惹かれたためだ。とはいえ、集まった全員にレムリア踏破の意志が有るかは分からん。加えて実力面でも、誰もが君のようにあからさまに練り上げられたカラテを持つ訳ではない。」

 

一呼吸あけてミュラーは続ける。

 

「真摯に我らの声に応えるもの、未知の樹海を踏破したいもの、このマギニアに乗りたかっただけのもの、金儲けが目当てのもの、末は町で居場所を失ったヨタモノ崩れまでもが集った。我らは様々な思惑はあれど団結して迷宮攻略に当たらねばならぬ。故にこれから姫様がそれを促すべく演説をなさる。君も広場へ行きパーティーメンバーの目星でもつけるがいい」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

『互いに名も知らぬ冒険者なれど、未知なるものへ挑む心を持つ同志と思え』

 

君は先程のペルセフォネ姫の演説を脳内で反芻していた。心は良いにしても随分数だけは揃っている、というのが君の感想である。アーモロードの迷宮で錬磨された君の目には、広場へ集った多くの冒険者の半数はニュービーに映った。

 

(ニュービーが多いが、中には遣えそうな奴もいる・・・誰と組むべきか)

 

君のようなニンジャ戦士でも迷宮に1人では挑めない。シンプルに言って死ぬからだ。船酔いのために船室で休んでいるメディックを除けば、君のかつての一党のメンバーもいない。むしろ彼女ほどの癒し手が同行してくれた事は君にとって大変な幸運であったと言えよう。君は幸運の味を噛み締めつつ、ぞろぞろと冒険者ギルドへ向かう人の波を見送った。

 

 

「フブキ=サン、船酔いは治ったか?」

 

冒険者に与えられたマギニア中層の船室で、君は現状唯一のパーティーメンバーの少女と会話していた。

 

「折角の上陸日なのに・・・私に付き合わせてしまってすみません」

 

「気にするな。それを言うなら俺はフブキ=サンに何度命を救われたか分からん」

 

「ふふっ。それもそうですね、ホーンドバイパー=サン」

 

フブキはかのミズガルズ図書館で修練を積んだ癒し手にして、共に海都アーモロードの迷宮に潜った仲間だ。広場に集まっていた冒険者の中でも彼女ほどの手練れは珍しいのではないかと思われる。

 

「荷物は俺が持とう。取り敢えず常宿にできる宿をとってから冒険者ギルドへ向かおう」

 

「ありがとうございます。他の冒険者の方たちはいかがでしたか?」

 

「冒険者ニュービーが多いように感じた・・・だが、予想以上にヨタモノめいた連中は少ない」

 

「あらあらそうですか」

 

上層へと上がるエレベーターの中でぽつぽつと言葉を交わす。君が海都アーモロードの大港で酔っぱらいの船乗りからフブキを救って以来、彼女はいつもこの調子でにこにこしている。君も満更ではないから共にレムリアに挑もうと思ったのだろうが。

 

「ね、ホーンドバイパー=サン」

 

「どうした?」

 

「今度こそ私たちで踏破しましょうね」

 

「ああ、必ず」

 

そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

 



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皇帝ノ月第1日目夜 湖の貴婦人亭

皇帝ノ月第1日(夜)

湖の貴婦人亭

 

「明日からは冒険にでかけるんでしょ~?でも二人だけだと危ないんじゃないかなぁ~」

 

君達は首尾良く常宿を確保することができた。ここ湖の貴婦人亭は少女ヴィヴィアンと猫のマーリンが切り盛りする宿屋だが、4人や5人泊まるには十分以上な広さと快適さをもっている。

 

一方、パーティーメンバー探しは難航していた。かつて背中を預けあった一党の仲間は既にそれぞれの道を行き、このマギニアにはいない。かといって完全なニュービーと組むのも難しい。君達は指導の下手さを自認しているうえに前の一党でも指揮やその類いの役割は負ってこなかったからだ。

 

「たのもう!」

 

「騒がしくてすみません!まだ部屋は空いてますか?」

 

君達がラウンジで頭を悩ませていると、女性騎士と特徴的な民族衣装に身を包んだ槍戦士が宿へとなだれ込んできた。

 

「あ~空いてるよ~2階の右の部屋を使ってね~」

 

「うむ!飯も食えるか?」

 

背負い袋や鎧兜をがちゃつかせながら大股で湖の貴婦人亭へと踏み込み、飯の催促をしてから女騎士は君達の存在に気づいたようであった。

 

「む、先客か」

 

「ドーモ、アドベンチャラー・ドージョーのホーンドバイパーです」

 

「私は同じくアドベンチャラー・ドージョーのフブキです」

 

「丁寧なアイサツ痛み入る。私の事はししょーとでも呼ぶが良い!」

 

君達の前に現れた女騎士はどうやら残念な存在らしかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「なるほど、お二人はもともとアーモロードで世界樹の迷宮に挑んでいたんですね!」

 

民族衣装の青年が朗らかに言う。4人は夕食を共にしていた。

ヴィヴィアンが作ってくれる料理は量も味も満足のゆくものであった。

 

「そうだ。お前達はハイラガードの辺りから来たのか?」

 

「そうです!僕は元々エトリア辺りの出身なんですが、ししょーとはハイラガードの迷宮で冒険者やってる時に知り合ったんです!」

 

「こいつ筋は悪くなさそうなのにあんまりにもぽやぽやしていたから、私が面倒をみてやってるのだ!」

 

「あはは・・・」

 

確かに君の目から見ても、この青年は油断ならないカラテの持ち主だった。今もいつでも槍を手に戦える態勢を保っている。あるいは彼もまた君の蛇めいた視線や滲み出るカラテを警戒しているのかもしれない。

 

「ところでししょーとやらはともかく、お前の名前は?」

 

「あっ!確かに名前はまだいってませんでしたね!僕はハイランダーのウィリアムです。よかったらウィルって呼んでください!」

 

力強い握手、君とウィルの視線が交錯し一刹那、濃密なカラテが立ち上る。力自慢の冒険者であれば誰でも仕掛けるような可愛いいたずらである。

 

「ところでお前達2人で迷宮に挑もうとしているわけではあるまい」

 

「勿論。分け前の勘定を併せて考えても4人は必須でしょうね!」

 

もそもそと芋を咀嚼していた自称ししょーが応えるよりも早くウィルが返答した。

 

「ちょうど此処に4人冒険者がいるわけだが」

 

君は3人を順繰りに見つめる。

 

「前衛2人に中衛1人と後衛1人、ありがたいことに癒し手がいる」

 

間髪入れずにウィルが応える。

 

「私はホーンドバイパー=サンが望むなら如何様にも」

 

フブキの君に対する信頼は深く、重い。君は彼女の信頼に応えなければならない。

 

「うぁもぐしもさんもぐヴぁ!」

 

「ししょーは飲み込んでからでも良い」

 

「・・・私もホーンドバイパー=サンの提案に賛成だ。なんならこちらから提案しようと思っていたところだ!あからさまに手練れのニンジャとメディックなんて中々転がってないからな!」

 

「ではパーティー結成ということでいいな」

 

「乾杯しよう!乾杯!」

 

「ししょー飲みすぎは禁物ですよ・・・」

 

「ばか野郎ウィルお前私は飲むぞお前!」

 

「アイエエェェ・・・」

 

「まぁまぁ、いざとなったら私がリフレッシュさせますから」

 

「うちのししょーがスミマセン!スミマセン!」

 

こうして君と仲間達はレムリアにおける冒険と栄光の第一歩を踏み出した。なんといっても背中を預けられる仲間がいなければ冒険はできない。

 

仮に1人で樹海に挑むとすれば、一度の軽微で些細な過ちで命を失う覚悟をしなければならない。生きて成果と情報を持ち帰ってこその冒険であり冒険者だ。

 

君はアーモロードの迷宮でそれを嫌というほど分からされた。親しくなったものも樹海のつゆと消え、深海の邪神との戦いで倒れた友もいる。団結しなければ人の身で成し遂げられる事はあまりにも少ない。

 

例え君が半神的ニンジャ戦士存在でもドラゴンのブレスが直撃すれば死ぬし、魔法と呪術と星術を雨霰と浴びせられれば死ぬ。迷宮は多大な恩恵をもたらすが甘くはない。

 

「ところでホーンドバイパー=サン、ギルド名とかは決めてあるのか?マギニアの本営やら冒険者ギルドへ届けを出さねばならんぞ?」

 

君は仲間達の視線を正面から受け止め、胸元から巻物を取りだし広げた!

 

『冒険者達が道場』の文字が偉大なるオスモウフォントでショドーされている。

おお!アドベンチャラー!

 

「俺たちのギルド名はアドベンチャラー・ドージョーだ」

 

「うん!いいな!良いギルド名だ!」

 

「僕もギルド名に違わずますます強くなってやりますよー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!ガンバルゾー!」

 

「せっかくだし、乾杯、しましょうか?」

 

「乾杯!」「乾杯!」「乾杯!」「乾杯!」

 

こうして冒険者たちの夜は更けていく。

 



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皇帝ノ月第2日目 クワシルの酒場と依頼

◆忍◆ニンジャ名鑑#0xxx【ししょー】◆殺◆
ハイラガードの迷宮で鍛え上げたシールド・カラテが持ち味。
黙っていれば長身にブロンドが映える見事なパラディン(姫騎士)
だが彼女は大酒のみでタフなししょーだ。残念ながら。
粗にして野だが卑ではないというのは彼女のこと。

◆忍◆ニンジャ名鑑#0xxx【ウィリアム】◆殺◆
ハイランダーの冒険者。血を代償に力を発揮するジツの使い手。
民族衣装に身を包み槍をもって戦う。ししょーとの連携は見事の一言。
平時はぽやぽやしているとはししょーの評。本人はしっかりしているつもり。
兄弟姉妹がおおいらしい。



皇帝ノ月第2日目

クワシルの酒場

 

飛行都市マギニアに属する冒険者は、法と行政を司る司令部が発行するミッションとは別に、司令部より許認可を受けた冒険者の酒場が仲介するクエストを積極的にこなすことが求められる。

 

クエストは多岐にわたり、迷宮内部の調査を行っている兵団への消耗品や手紙等の配達、放牧時の護衛や食べられそうな動植物の調査、迷宮までの簡易な道路の整備、衣服や武器防具の材料になりそうな魔物の討伐等々の依頼が管区ごとの冒険者の酒場に舞い込むのだ。

 

君たちが拠点とした湖の貴婦人亭から最寄の冒険者の酒場は「クワシルの酒場」だ。酒場の主のクワシルという男は、これまでも人を煙に巻くような言動とは裏腹に適切に依頼を振り分けることで荒くれ者揃いの冒険者を上手くこきつかってきた辣腕との評判だ。

 

何故君たちがクエストと冒険者の酒場について思いを致すかといえば、発端は朝一番の冒険者ギルドでの出来事までさかのぼる。

 

「このまま司令部に行ってミッションを受領すれば良いのではないのか?」

 

君は訝しんだ。

 

「そうだ。如何なる冒険者であれ、先ずは管区ごとの冒険者の酒場にて難度の低いクエストを受注してもらう。都市への貢献度が一定になるまでは迷宮への挑戦は許可されない。そして簡単なクエストすら容易にこなすことが出来ない冒険者であれば迷宮に挑んでも無駄死にするだけだろう。」

 

ミュラーの言葉には有無を言わせぬ調子がある。この説明を一介の兵士に任せずに、直接ミュラーが行っていることからも司令部の本気度が伺える。

 

説明を受けた後は流れ作業的に地図や最低限の装備を渡していくのか、君の視線の先では担当の兵士から支度金を幾ばくか渡された一党が希望に満ちた表情で次々と出立していく。明らかにニュービーめいている。

 

君の視線の先を見てミュラーは苦笑しながら語った。

 

「ちなみにだが、新人未満の連中には兵団が行う戦闘訓練及び座学に参加することを義務とし、しばらくは難度の低いクエストで生計を立ててもらう計画になっている。この冒険者ギルドに併設された宿舎はまさにそういった連中を寝泊りさせるための物だ」

 

「随分と手厚いのだな」

 

それは君の素直な感想だった。アーモロードの冒険者ギルドもそれなりに面倒見は良かったが、あれには海都対深都、深都対深き魔なる者共の複雑な対立構造をどうにかできる優秀な冒険者を1人でも多く欲しているという事情があったからだ。

 

おおよそ冒険者ギルドというものの基本スタンスは『生き残ればよし、死んだのは残念だがかわりはいる』である。

 

「意外だな。もっと面倒がるか・・・もしくは、モータルが幾ら死のうと構わないとでも言うかと思っていたぞ、ホーンドバイパー=サン」

 

ミュラーが君を真っ向見詰めながら言う。ミュラーは間違いなく非ニンジャであるがその胆力と気迫は恐るべきものだった。

 

「からかうのは止せ。俺は確かにニンジャだが、ニンジャとて1人では死ぬのが世界樹の迷宮だ」

 

「すまんな。実際のところこのマギニアが一番補給し難い資源は人間なのでな。大事にするのは当然だろう?」

 

「確かに。それで一党として登録を終え、支度金やらを受け取った後はどこぞの冒険者の酒場に行けばいいのか?」

 

「いかにも。だがもうしばらく待て、今君たちの名前とギルド名が刻まれた認識票を用意しているところだ。宿はどこに泊まっているんだ?」

 

「湖の貴婦人亭だ」

 

「ああ、あのお嬢さんとデブ猫のところか。となると管区としては・・・よろしい、それでは支給品を受け取った後はクワシルの酒場に向かいたまえ。地図の見方は分かるな?ここが君たちが泊まっている宿で、クワシルの酒場は通り2本向こうだ」

 

こうしたやり取りの後、君たちはクワシルの酒場へとやってきた。

 

幸い君たちは既にある程度装備を整えているので商店・職人街には顔を出していない。

 

君自身は愛用のヘビ・クリス短剣以外はエテルから生成可能なため、しばらくは血中カラテとエテルから生成したニンジャ装束で冒険に挑むことにした。

 

君はアーモロードで世話になったネイピアのような職人兼商売人とめぐり合うことが出来れば、迷宮由来の素材で武器防具を作成してもらうのも良いかもしれないと思った。

 

実際のところ、君は愛用のヘビ・クリス以外の装備を全てあのアーモロードの迷宮最深部での決戦にて喪失していた。無限に復活してくる邪神の触手を永遠にも感じる時間、仲間たちとともに討ち続けたためだ。

 

本命の一党が邪神の本体を撃破した時、君の武器防具は師匠から実費購入したヘビ・クリス短剣を除いて全て見る影も無く破損していた。血中カラテも尽き果て、一党皆が満身創痍だった。

 

それなりの期間休養した後、君のかつての一党はそれぞれが別々の道を歩み始めた。幸い傷は癒えたが君の実力は決戦時の半分以下だろう。

 

(ネイピア=サンがこのマギニアにも出張して来てれば・・・いや、無いものねだりだな・・・)

 

「どうした?ぼんやりして。とっとと入るぞ!」

 

ししょーが君のわき腹を小突く。

 

「うわっお前の腹筋は鋼か何かか」

 

「ほら、ししょーもじゃれてないで早く進んでほらほら」

 

「悩み事ならいつでも相談にのりますからね?」

 

クワシルの酒場は昼間ながらかなり繁盛しているようだった。ウェイターと思しき少女が各テーブルに酒やら料理やらを配膳しているのを尻目に、君たちはクワシルらしき男の下に向かう。

 

「いらっしゃーい!クワシルの酒場へようこそ!初めて見る顔ばかりだね、となると・・・クエストの方かな?しっかし見るからに手練れ!ってかんじだね。いや助かるよぉ~本当にさ!どうみても来る人来る人新人の子ばっかり何だもんなぁ。まっ、これから色々と頼むと思うけどひとつよろしく!」

 

胡乱の極みである。まくし立てるように話しきった白髪の男からはえもいわれぬ胡散臭さが漂うが、提示してきたクエストはどれも手堅い物ばかりだ。

 

君はなし崩し的にだが一党のリーダーシップを取っている者として、2枚の依頼書を決断的に選び取った!

 

・放牧の護衛

・水源のヌシの調査(必要であれば討伐)

 

「うんうん!助かるよ!放牧の護衛の方は明日の朝方5つの鐘の頃に正門・・・一番大きい乗降口の前ね。あ、今晩は飲み過ぎないようにね~!まぁ僕も早起きは苦手なんだけどさ」

 

「なるほどな」

 

「遅くとも鐘4つには起きて支度しなきゃですね」

 

「朝の鐘4つか・・・早起きは苦手だ・・・ウィルぅ頼むぞ!」

 

「どのみち僕が起こすのはいつも通りじゃないですか」

 

「うふふ。ホーンドバイパー=サンもおねむだったら私が起こしてさしあげますね?」

 

君は別に早起きが苦手なわけではない。が、フブキのカワイイが過ぎたため君は黙って首肯するに留めた。 

 

「ではさっそく指定の水源の調査に出立する」

 

「はいはーい!釣餌はこれを使って!頑張ってね~!」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

皇帝ノ月第2日目

水源へ続く平原

 

「マギニアの衛兵によればこの辺りに大きな池が有るらしい。湧水も確認出来ていて、生活用水にちょうどよい立地らしいな」

 

辺り一面に草原が広がり、牧歌的風景だ。ここら一帯はまだまだ危険な動物や魔物は少ない様子である。

 

「それはいいですね。飛行中、水は節約するように厳しく言われ続けてましたし、これで皆人心地つけるでしょう」

 

「私はサウナに入りたいぞ!」

 

「あら、おししょーさん。それなら私と一緒に行きませんか?」

 

「良いぞ!フブキに近付く軟派男がいれば騎士としてちぎっては投げちぎっては投げ・・・」

 

「お前がちぎっている間に着いたぞ。潤沢な水量の池らしい」

 

君達が小高い丘を登りきると、眼前にはさながら湖沼地帯と呼ぶほうが適切なぐらいの大きさの池が広がっている。生活用水をとるには十分だろう。君は依頼にあったヌシとはどの程度のものなのか、と想像する。

 

「釣りが得意なものはいるか?」

 

「あっ、僕釣りなら得意ですよ!」

 

君がニンジャ第六感を研ぎ澄ませるなか、ウィルが釣糸を垂れる。ししょーとフブキは動ける姿勢をとりながらも少しリラックスした様子だ。無理もない。寄港しる機会はあれど何ヵ月も都市内に缶詰めでは、自然や地面が恋しくなるだろう。

 

そしてウィルが釣糸を垂れはじめてから一時間、ししょーが飽きはじめた頃にそれは起こった。

 

水面に降り立った水鳥が何らかの巨大生物に飲み込まれたのだ!一瞬見えた巨大生物の口内には鋭い牙がびっしりと生えている!飲み込まれれば死は確実不可避であろう!

 

これを読んでいる読者の中に旧文明の人類はおられるだろうか?もしいらっしゃったらこの怪物をご存じかもしれない!

 

そう!これはヨロシ・バイオサイバネティカ社が培養繁殖・脱走事故を起こした食肉用生物バイオアナゴである!レムリアの隔絶された環境下では、未だに旧世界の動植物が独自の進化を遂げて息づいているのだ!

 

とはいえ、マギニア住民に危険を及ぼす可能性があるなら排除するのが今回の依頼だ!君は決断的にスリケンを投擲!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」

 

ウィルが釣竿を投げ捨て槍を掴み、投げる!鎖付きの大槍が巨大獰猛バイオアナゴに直撃する!凶悪な返しがついたウィルの大槍がバイオアナゴに食い込む!

 

「イヤーッ!」「グワーッ!」「引っ張れ!引っ張れーッ!」「グワーッ!大槍グワーッ!」

 

FIIIIIISH!たまらず巨大獰猛バイオアナゴが釣り上げられる!ワザマエ!

 

「イイイイィィィヤアァァーッ!」ZDOOM!

「アババーッ!?」

 

降り下ろしハンマーパンチめいて君のヘビ・クリス短剣が巨大獰猛バイオアナゴの脳天に突き刺さる!脳破壊!

 

こうして水源地の脅威は君達によって排除された。君達は巨大獰猛バイオアナゴの首をはねて持ち帰ることにした。正門の衛兵や行き交う冒険者達の視線を浴びながら、君達は堂々とクワシルの酒場へ帰還した!

 

「うわぁ!?なんだいその頭・・・それが例のヌシ?んじゃ水源は利用可能になったわけね!流石!それじゃあこれが報酬ね!」

 

君達は200enの報酬を受け取った。素泊まりなら4人で1週間の宿泊費にはなろうか。だが、冒険者ならそのような使い方はしない。無事に帰ったなら先ずは乾杯だ!勝利の祝杯をあげたまえ!

 

「今日はこのパーティーでの初戦闘だったが、俺達は上手く切り抜けた。上々の結果だ」

 

「取り敢えず今回の報酬で宿代の先払いとメディカ幾つかは用意できそうですね」

 

「そうだな」

 

「金勘定の前に勝利の祝杯だろー!」

 

「ほら、お料理もきましたよ!」

 

「ヌッ。それでは今日の勝利に・・・」

 

「乾杯!」「乾杯!」「乾杯!」「乾杯!」

 

手練れの冒険者とはいえ冒険にも生活にも金は必要だ。明日も君達には放牧の護衛仕事がある。たが今だけは勝利の余韻とアルコールに包まれてあれ!



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