ONE PIECE-彼を王に- (完全怠惰宣言)
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Rを継ぐ者/その男、風使い

STAMPEDEをやっと見れた勢いと、エースを王にしたいという欲望をエネルギーに描いた作品です。
こちらでは他作品のキャラクターは出さずに、なおかつ時系列的に仲間にできそうな奴らを引っ張り込んでいく所存です。
よろしくお願いします。


オレの名はフェンシルバード・レイズ。

ある日気が付くとオレはキャンピングカーのような船の上にいた。

そして、激しい頭痛に襲われ”この世界”と自分という存在を正確に認識することになった。

オレの素性は「海賊王の右腕」と呼ばれた「”冥王”シルバーズ・レイリー」を叔父に持つ賞金稼ぎだ。

そして、俗にいう”転生”し”渡界”した存在でもある。

転生したからと言ってルフィの仲間になろうとは思わなかった。

絶対に苦労するから。

じゃあ、ナミたちを助けようとしたのか。

気が付いたら既に18歳だったから無理だ。

かといって海軍に入ろうとは思わなかった。

上下関係と世界貴族(バカ)の相手が嫌だった。

そうして、この世界に来て5年。気が付いたら異名持ちの賞金稼ぎとなっていた。

 

風迅(ふうじん)のレイズ”

 

東の海(イーストブルー)において、この名を知らぬ者はいないとされるほどに有名になったオレを倒して名を上げようとする小物海賊を捕縛しては海軍に引き渡し、中級海賊団を潰しては海軍に引き渡し、そんな生活を繰り返していたある日だった。

 

時は昼時。

 

前世今世において一人暮らしが長かったせいか料理は得意な料理男子なオレはつい先日、顔馴染みとなった“煙中佐”から懸賞金をもらい、その足で買った「霜降りマグロ」で優雅に昼飯をしようと刺身にして飯の準備をしていた。

前世が日本人なためか、米が好きなオレは味噌汁も作り、冷蔵庫に作り置きしていた沢庵を切り出し、朝に釣った白身の魚も添えて豪勢な昼飯を始めようとしたその時だった。

ふと目線を上にあげると口から唾液を滝のように流した青年がこちらを見ていたのであった。

ずぶ濡れな上に腹から獣の唸り声のような音を響かせる青年を見て思わず聞いてしまった。

 

「一緒に食べます?」

 

 

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「ふぃ~、食った食った」

 

刺身定食もどきだけでなく冷蔵庫の中身も粗方食い漁った青年は笑顔を浮かべて船内に置いてあるソファーに寝そべっていた。

 

「そりゃ、人様の1週間分の食料食い漁れば満足するだろうよ」

 

そう、食後のお茶を飲みながら目の前の馬鹿に視線を送る。

 

「いや、すまない。乗ってた船が転覆しちまってよ。なんとか泳いでこの島まで来たのはいいが財布まで流されちまったようで」

 

“オレンジのテンガロンハット”を被りなおした青年は身なりを整えると改めてオレに向かい合った。

 

「いやいや、食後のお茶まで申し訳ない。それにしてもいい船だな、あんたどこかの金持ちか」

「だぁほ、賞金稼ぎだよ。そろそろ、身の振り方を考えようとしてる最中のな」

「“賞金稼ぎ”か」

「あぁ、父親は元々知らねえし、母親はオレを生んで病死した。つい最近まで婆ちゃんが育ててくれたけど婆ちゃんもこの間旅立っちまった。

 この船は、婆ちゃんの遺産だ」

 

そう言って、本を取り出し茶をすするオレをどこか同類を見るような目で見てくる青年。

 

「悪かったな、言いたくないこと言わせて」

 

そう言ってテンガロンハットを顔を隠すように傾ける青年。

先ほどから目の前の青年をどこかで見たことがあるようなそんな気がしてならないのだが。

そこからしばらく互いにお茶を啜る音と波の音以外は消えていた。

 

 

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目の前の男を注意深く観察する。

出生が出生なだけに”他人”を観察する”癖”が出来ちまったオレは飯を“奢ってくれた”目の前の男を注意深く観察している。

白銀を思わせる肩まで伸ばした髪。

猛禽類を連想させる青い瞳。

獰猛に思われる外見とは裏腹に、会って間もない自分に飯を“奢ってくれる”人情味を持っている。

そんな男の家族関係を図らずも知ってしまい、気まずい空気の中茶を啜っている。

すると、外から怒鳴り声が聞こえてきた。

 

『おい、“風迅”出てきやがれ』

 

海に出たばかりのオレに異名があるわけがなく、おそらく目の前で本を読みながら茶を啜っている男性のことだろうと辺りを付けた。

 

「おい、呼ばれてるぜ」

 

一応声をかけてみたが、目の前の男は読んでいた本からオレに目線をずらした後、また本に視線を戻してしまった。

 

「あと2ページ読んだらキリが良いとこまで行くから、そしたら相手してやるよ」

 

そう言ってまた本を読み始める男。

興味本位で窓から外をのぞくと、船の周りをぐるりと“いかにも”な男共が取り囲んでいた。

よく見ると誰しもが傷の手当てがなされており、明らかに手負いの様相だった。

 

「なぁ、もし良かったらオレが相手してこようか?」

 

そう、提案すると男は今度は視線を動かさずに答えてきた。

 

「ま、そうだな。食い荒らした食料分は働いてもらうか」

 

おいおい、奢りじゃなかったのかよ。

 

「それじゃ小僧。できる範囲でいいからな。ま、せめて“2分”は持たせてくれよ」

 

そう言うと今度こそ読書に意識を戻した目の前の男。

今のオレの“実力”がどの程度通じるのか。

オレがこの先の海で成り上がれるのか。

 

「その喧嘩、オレが買った」

 

こいつらには悪いがオレのちきん(・・・)石になってもらおうじゃないか。

 

 

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扉を勢いよく出ていく青年を見送りながら、実のところオレは顔がにやけそうになるのを必死にこらえていた。

 

「(おいおいおいおいおいおいおいおい、“エース”だよエース。オレが知ってるエースより若いし、泳げたってことはまだ海に出たばかりなのか)」

 

読書もそこそこに窓からエースの戦いを見る。

何処に置いてあったのか鉄パイプを片手に、雑魚はお呼びじゃねえとばかりに海賊無双しているエース。

体裁きに無駄が多いが後々のことを考えると十分な仕上がりなのではないかと思える。

そこいらのチンピラ相手だったら問題なく戦っていけるだろう。

 

「(でも、そいつらを甘く見てるとヤバイんだよな)」

 

なんせ、そいつら東の海(イーストブルー)では珍しい、能力者(・・・)がいる海賊団だったからな。

 

 

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雑魚は粗方片付け終えたオレは頭目である男と対峙していた。

 

「さて、あとはお前さんだけだな。降参するなら今のうちだぜ」

 

今のオレの実力は大体測れた。

これ以上の戦闘は意味がないと促すと目の前の男は体をブルブルと震わせ始めた。

 

「ちょっとあんた、あんまりアテクシのことお舐めになるんじゃないわよ」

 

いかつい図体に野太い声、いかにもな強面がオカマだった事実に少し噴き出してしまった。

 

「いいこと、坊や。あんたがぶっ飛ばしたのはうちの海賊団でも雑魚よ。本命はアテクシ、アテクシが相手してあげるわ」

 

そう言うと猛然と突っ込んでくるオカマにオレはタイミングを合わせて鉄パイプを振り下ろした次の瞬間。

ガキンという金属が互いにぶつかったようなような音がして鉄パイプが弾かれた。

 

「んおっほっほほほほほほほ、アテクシは“ゴチゴチの実”を食べた“全身硬化人間”。如何なる者もアテクシを傷つけることは出来なくてよ」

 

そう、勝利宣言をするかのようにオレを指差してくるオカマ野郎。

そこからは形勢逆転とばかりにオレが攻められ始めた。

能力者の土壌で戦うことの難しさはルフィで痛感していたが、こいつはルフィ以上に能力を熟知していやがる。

周りで倒れていた雑魚共も息を吹き返してオカマを応援してやがる。

時折、オレの足を引っ掻けたり、槍をつき出したりと邪魔してきやがる。

そして、ついにオレのスタミナが切れて足がもたついちまった。

その隙をオカマが見逃す筈がなくオレは恩人の船へと投げつけられた。

 

「んおっほっほほほほほほほ、雑魚はお呼びでなくてよ。あんたたち、その目障りなゴミを片付けちゃあなさい」

 

オカマの声が響くのと同時に周りの奴等が一斉に撃ってきやがった。

オレはこんなとこで死んじまうのか。まだ“サボ”との約束も果たしてないのに。

 

「ジャスト3分、それが今のお前の実力か」

 

いつの間にか瞑っちまってた目を開けるとそこには、扇を片手に優雅に立つ恩人がいた。

 

 

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オレは、既にキリのいいところまで読み終えていた本を机に置いて窓から戦闘を覗いていた。

オレの知る“エース”は“能力”を主軸にした肉弾戦を得意としている。

でもそれは“能力者”になった後に構築したスタイルだったんだろう。

“今”のエースは鉄パイプを使用しての棒術擬きで戦っていた。

肉体を瞬間的に自然現象へ変化させられる自然系(ロギア)の能力を持たないエースは常に周囲に気を配り、自分の死角を作らない見事な戦いぶりだった。

ただ、時折“誰か”に背中を預けていたような仕草が垣間見えたことからエースの中にまだ“サボ”が生きているように思えて少しうれしく思えた。

そして、自分の中にある思いが芽生えていた。

 

-エースを“王”にしたい-

 

原作で涙ながら放たれた彼の心からの感謝の言葉。

そう思わせる世界がこの世界である。

ただ一人の青年にこのように思わせる世界なのだと。

そして、そんな青年を“王”にしてやりたい。

不特定多数から愛されなくていい、エースを慕ってくれる誰かに愛されていると感じてほしい。

そんな風に思ってしまった。

そう思ったからか、気が付くとエースの前に立っていた。

 

「ジャスト3分、それが今のお前の実力か」

 

そう言ってしまったが、慣れない能力者相手で本当にゴロツキ共を相手にした経験がないと考えると十分だった。

 

「ここからは、オレが相手だ」

 

扇を広げ風を回す。

 

「“風迅(ふうじん)のレイズ”、“エアエアの実”の力を得た大気・気圧操作人間。切り刻まれる覚悟はできているか」

 

 

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恩人、レイズが現れてからの戦闘は一方的だった。

オレが苦戦した能力者も気が付けば気絶していやがった。

その後、海賊団全員を海軍に引き渡しホクホクした顔で戻ってきたレイズを見て、似ても似つかないはずの“相棒”を思い出した。

 

「なあレイズさん、この後はどうするんだ」

 

なぜだか、この人はオレを受け入れてくれる気がした。

 

「そうさな、とりあえず一旦偉大なる航路(グランド・ライン)に戻って、そこから考えようと思う」

 

そう言って笑ったその顔は年上のはずなのにルフィを思い出させる無邪気さがあった。

だから、つい言っちまったんだろうな。

 

 

「オレの名はポートガス・D・エース。レイズ、オレと一緒に世界を周ろう。この出会いは“運命”だ」

 

 

誰も知らない物語。

後に五帝の一人「焔皇(えんこう)」と呼ばれ、偉大なる航路(グランド・ライン)に最年少で君臨することになるシャッフル海賊団船長“ポートガス・D・エース”。

後に「焔皇の右腕」、「空魔(くうま)」と呼ばれるシャッフル海賊団副船長“フェンシルバード・レイズ”。

彼らの出会いはこんなものだった。

 

 




時系列的に可笑しいだろうとか、なぜサラダ?という内容も今後は出てきますがご容認いただきたい。
作者はサラダだとローが好きです。


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Aの男/二人のコウカイ

前話において「五皇」ではなく「五帝」と表記しましたが、敢えてです。
記載ミスではありませんのであしからず。



「エースは“悪魔の実”についてどこまで知ってるんだ」

 

あの後、オレの華麗なる交渉術(嘘)により仲間になることを承諾してくれたレイズ。

現状、仲間も船も金も知識も足りてないオレ達が「海賊団」を名乗るのは烏滸がましいとレイズに言われ、最低でも後 3人仲間が増えるまでは「海賊“団”を名乗らない」、「海賊旗を掲げない」の二つを約束させられた。

そんな状況の中、レイズの方が物事を知っているため、オレは毎日“お勉強”させられていた。

 

「“悪魔の実”、ていうと食えば何らかの“特別な力”が手に入るってことと、味が最悪だってぐらいかな」

 

そうオレの言葉を聞いたレイズは頭を押さえやがった。

あ、これはマジ勉強パターンだ。

 

「大体は、“大体(・・)”はその理解で良いけど、今後のこともあるから少し勉強しようか」

 

そう言うとマキノさんが本気で怒った時のような笑顔を顔に張り付けたレイズと視線が合った。

 

「ハイ、オレガンバリマス」

 

めっちゃ怖かった。

 

悪魔の実

「海の悪魔の化身」と言われる果実で、いかなる生物が食べても特殊な能力を得られる。

悪魔の実の種類は多岐にわたり、食べた実の種類に応じた能力を得られる。

実を一口でもかじると、その時点で食べた者に能力が発現し、残りの実はただのマズイ果実となる。

 

「それじゃよ、1つの実から同じ能力を持つ奴が沢山できるわけじゃないんだな」

 

そういうことだ。

一般的に希少と言われている悪魔の実だが、偉大なる航路(グランド・ライン)にはかなりの数の能力者が存在している。

能力者になることでデメリットもあるが、それにも勝る”強さ”を得ることが出来ることから、偉大なる航路(グランド・ライン)に能力者が集まってくると言われている。

 

「能力者のデメリットって海で泳げなくなる“カナヅチ”になることじゃないのか」

 

この場合、“海”は「水が溜まっている場所」、更に言うと「“全身”を一定時間濡らせられる場所」と解釈したほうがいい。

流水は特に問題ないが、風呂なんかでも力が入らなくなるからな。

あと、理由は定かではないが二つ以上の能力を得ることができない。

 

「そういうもんなのか」

 

そう考えてもらって構わない。

悪魔の実の大分類についてはこの前やったからいいとして、悪魔の実には明確な能力の上下関係がある事が最近分かった。

 

「あぁ、この前言ってた似たような能力の相互関係性ってやつか」

 

正解、同種の能力を持つ悪魔の実の間には、明確な上下関係がある場合がある事が最近の研究で判明したんだ。

ただし、能力の強さと能力者の強さが必ずしも一致するわけではないんだ。

ようは使い方だな。

 

「さて、今日はこれくらいにして、エースは魚釣りな」

「え~、少し休ませろよ」

「冷蔵庫の中身がだいぶ減ってるんだけど、誰かがつまみ食いしたのかな」

「ハイ、行ってきます」

 

そういって元気よくエースは釣りに出掛けた。

エースがいなくなり、これからのことを考えた。

航海士としての技能はある事はあるんだが、料理人もやりながら、船医に船大工の真似事も、という状況だと満足に航海がしにくい。

どこかで、せめて航海士だけでも見つけないとな。

 

 

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レイズに言われて仕方なく釣りを始める。

ここ最近レイズに言われてきたことだが、この先成り上がって行くためには“頭”を使えて、“情報”を常に集め続けられる状況が一番望ましいとも言っていた。

無作為に飛ぶニュースクーから買う新聞じゃ制限された情報しか集まらないと言っていたし、どうしたものか。

ない頭で知恵を絞っていると竿に当たりがきた。

竿の撓りから見てかなりの大物だろう。

見てろよレイズ、船長(仮)の底力を見せてやる。

 

 

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エースが釣りを始めてそろそろ1時間。

洗い物も終わり、おやつのクッキーを焼いている。

ルフィの義兄だからと侮っていたが、そこそこ節制した食事に満足してもらっているので、手が空いたときはおやつを作ってやるようにしている。

オーブンに形成したクッキーを入れて焼き上がりを待っていると外からエースの悲鳴が聞こえてきた。

また、海王類の稚魚でも釣り上げたのだろうと呑気に甲板に顔を出したのが運のつきだった。

 

レ、レ、レ、レ、レイズ。“女の子”が釣れた

何つう物を釣り上げとるんじゃ、このお馬鹿

「あと息してねえ」

先にそれを言え、ド阿呆

 

救命処置は大切。

みんなも機会があったら覚えようね。

レイズお兄さんとの約束だよ。

 

 

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レイズがオレが釣っちまった女の子とキスして胸揉んでから、女の子が息を吹き返した。

キスして乳揉めば女の子は息吹き返すんだなと言ったら、思いっきり殴られた上に、おやつ抜きで救命処置の勉強を正座でさせられた。

理不尽だ。

 

今は余っていたベッドルームに寝かせているがいつ目を覚ますのかはレイズにも判らないとのことだった。

 

「ただの“遭難者”では無さそうだな。身体中見える範囲で傷だらけだったし、その傷も鎖を打ち付けられた痕のようにも見えたしな」

「ひでぇことしやがるぜ。何かこの子の身の上が判るような物はあったか」

「ダアホ、気絶した女の子をまさぐれるか。「乳は揉んだのにな」

 

 

ガス、バキ、ドコ、ドカ、バキ、ドゴス

 

 

「それに何か、あの子のことどこかで見たことあるような」

「リェ、リェイジュしゃん。もうひわけありまひぇんでひた」

 

 

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シリアスな顔をし何かを思い出そうとしているレイズ。

そのレイズにボコボコに殴られ顔を大きく張らしたエースが鎮座する扉の中。

少女は目を覚ましていた。

 

「ナミ、無事逃げられたかな」

 




助けられた少女は誰なのか?
なぜ、ウチのエースは一言多くなってしまうのか?
救命処置は本当に大切です。
皆さんも機会があったら是非、講習を受けてみてください。
昔は免許取る時にあったんですが今はどうなんでしょう?


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Cの快盗/嘘はドロボウと女の子の特権

(出来)上がったら、出す。
そんなスタイルでお送りしておりますが、そろそろ息切れしそう。



“98”。

この数字が何を意味するのか。

答えはレイズの賞金首確保率である。

唐突だが、レイズは“新世界”の出身である。

馬鹿息子の悪評が及ぶ前にと祖母が故郷である東の海(イースト・ブルー)へとレイズが物心つくかつかないかの年齢の時に連れ出してくれたため、本人もぼんやりとしか覚えていないのが実状であるが。

そんなレイズは幼少期に“母から受け継いだ”悪魔の実の力が発現し、突如として様々な声が異常なまでに聞こえてしまう時期があった。

レイズ本人は未だに“能力の暴走”と考えているが、実際は“覇気”と呼ばれる力の一端が同時に覚醒してしまったことによる弊害であった。

祖母はこの異常な孫の将来を懸念してか、レイズが幼い頃から某中将と同等の訓練をしてきた。

おかげで、現在のレイズは“能力”と“覇気”を行使して周囲の状況を音で聴き、脳内で映像化するまでに至っている。

そんな、レイズだからこそ視覚を塞がれたとしても、“音”を感知して対象を捕捉してしまうのであった。

エースに説明した際には“恐ろしい地獄耳”という認識で終わったが、強ち間違っていないと思ってしまったのは言うまでもない。

なお、レイズは未だに“覇気”の概要を知らないという事実を記しておこう。

もう一つ、レイズは“原作知識を有する転生者”ではあるのだが、その知識には“穴”があるのである。

こんなキャラクターいたな、“悪魔の実”に関する知識、この世界の刀剣類に関する知識、ストーリー(ルフィの冒険の物語)に関わることは大抵思い出せるのだが、細かい内容については“インクで塗り潰されている”ような感覚で思い出そうとしてもはっきりと思い出せない状況にある。

しかし、知識を得ることでその“インクで塗り潰されているような箇所”が思い出されることに気が付いて以降、レイズは“情報”を得る重要性に重きを置いて、賞金稼ぎ業に勤しんでいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「助けていただきありがとう御座います、私は“カトリーナ”と申します」

 

エースに釣り上げられた少女が部屋から出てきたのは、翌日の朝方になってからだった。

“カトリーナ”を名乗る少女は現在、身体が一回り大きく、裾の長い服を好むレイズの服を借りていた。

身体中の治療に関しても了承を得た後に確りと成されていた。

 

「おう、オレはエース。このかい・・・・わいで旅をし始めた者だ。この船の船長もやっている」

 

人好きする笑みを浮かべながら挨拶を返すエース。

途中でレイズとの約束を思い出し、“海賊”と名のりそうになったが、何とか誤魔化した。

決して対面にいるレイズに睨まれたからではない。

 

「そっちで料理しているのは、相棒のレイズ」

 

エースに紹介され、軽く会釈をするレイズ。

お昼に近いというのもあってか、ダイニングに隣接する対面キッチンからだが、顔をしっかり出しての会釈だった。

 

「改めまして、助けていただいて本当にありがとうございます」

「あんた、傷だらけだったけど襲われでもしたのか」

 

エースの質問に突如として青ざめたカトリーナ。

震える身体を自分を守るように抱きしめた。

 

「あの、その事については・・・・」

「あ、イヤなオレ達も無理矢理聞こうって訳じやなくてな。あのよ、そのな・・・・」

 

カトリーナの態度に思わず狼狽えてしまうエース。

確かに見目可愛らしい少女が明らかに訳有りな状態で発見されたなら事情を聞こうとするのは当たり前である。

如何に此処が“東の海(イースト・ブルー)”と言っても大海賊時代真っ只中の今、どういった危険が待っているのか知れたものではないからだ。

 

「ま、事情は追々にして、エース取り敢えず飯にするか」

 

湿っぽい空気を打ち消すようにレイズが出来上がったばかりの昼食をダイニングテーブルにおいた。

大皿にはたくさんの肉団子とトマトソースがからめられた特盛のスパゲティーが置かれていた。

 

「男料理で悪いがカトリーナもまずは食べな」

「そうそう、腹が減ってたら悪いことばっか考えちまうからな」

 

そう、にこやかに話しかけてくるレイズと既にいただきますしているエースの姿が面白かったのか、カトリーナの顔も笑顔になっていた。

 

「それでは、お言葉に甘えまして」

「おう、レイズの飯は美味ぇぞ」

「サラダも食えよエース」

 

三人の昼食は穏やかに進むのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

レイズと航海をするようになってエースには日課と言うものが出来た。

まずは、「早寝早起き」である。

異世界の知識を持つレイズはエースを王にするために、エースを鍛え直すことにした。

その為、成長ホルモンが分泌される黄金時間に睡眠を取れるように夕食の時間を調整して早寝させるようにした。

そして、部屋を別々にしたのを利用して早朝に釣りをさせるようにし、早起きの習慣を身に付けさせたのである。

次に、エースの身体の使い方を矯正し始めたのであった。

祖母直伝のこの特訓、簡単に言ってしまうと自分の身体がどのように動いているのかを把握させることで、攻撃に移る際の体重移動や、攻撃を繰り出す最高のタイミングを掴ませることで、どうなるか解らない未来に置いてエースの基礎能力を上げる目的があったのである。

その中には太極拳擬きの動きもあり、地味にエースの戦闘技能向上に役立っていたのである。

そして、最後が短時間睡眠つまりお昼寝であった。

昼前に行う身体の動作確認はエースが思っていた以上に体力を消耗させてしまう。

そのため、午後からも元気に動くために昼寝をするようになったのである。

ちなみに、最初期はご飯食べながら寝るという一コマもありレイズは地味に原作的な行動に喜んでいた。

 

「エースさんってこうして寝顔を拝見していますと本当に子供みたいですね」

 

一応の部外者がいるにも関わらずソファで爆睡しているエースを見てカトリーナの感想がそれであった。

 

「食って、寝て、遊んで。こう見ると確かに子供だな」

 

昼食の後片付けで皿を拭きながらレイズの同意を得てついついクスリと笑ってしまうカトリーナ。

 

「レイズさん、この後はどうかされるんですか?」

「今日は無風状態だし、オールでっていう気分でもないからな。部屋で本を読んでいるよ」

「それでしたら、私もお借りしているお部屋に戻らさせていただきます」

 

そう言ってダイニングを後にするカトリーナ。

 

「”彼女”のことは任せてもらうぞエース」

「おう、レイズなら悪いことにならないだろうからな」

 

レイズの手の中にはキツネを模した一対のイヤリングが握られていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「あれ、おかしいな、“あんな物”外れるはずないのに」

 

部屋の中を探し回っているカトリーナ。

先ほどまでの怯えていた様子もなく、かといって奥ゆかしさも見当たらない元気な少女の姿がそこにはあった。

 

「にしても、このご時世に呑気にクルージングって訳でもなさそうね」

 

捜索を一区切りつけて自分の借りている部屋を見渡すカトリーナ。

調度品もけして安いというわけでもなく、かといって馬鹿みたいに高いというわけでもない。

 

「エースっていう金持ちの放蕩息子に付き合わされている執事のレイズ・・・・・でもなさそうだしな」

 

先ほどのやり取りと生来の自分の他人の気配に対する鋭さから周りに誰もいないことを確信して素に戻ってしまっている。

 

「救助ボートで逃げ出そうにもな・・・・・はい、考えタイム終了。探し物続きしないと」

 

いつもの彼女なら気が付くはずだった自分が背を向けたドアが開いていたことに。

そして、そこに人が立っていたことに。

 

「探し物はこれかな“カリーナ”」

 

そう、後ろからイヤリングを目の前に垂らされ、思わず安堵したような雰囲気を出すカトリーナ”だった”少女。

 

「あら、ご親切にありが・・・と・・・・う?」

 

さび付いたブリキのおもちゃのように後ろを振り向くと入り口にはダイニングにいるはずのレイズが開けられたドアに背を預けながら立っていた。

 

「あの、レイズさん私は「“女狐”カリーナ、海賊や無法者を相手取る盗賊のお前がなんて漂流してたんだ」

「・・・・・・・・なんだ、バレてたのか。ウシシシシシシシシシシ」

 

カリーナは悪戯がばれた子供のような顔をして笑ったのだった。

 

 




個人的な話ですが01のイズちゃんがめっさ可愛い件について東映さんありがとう。


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Cの快盗/彼女は如何にしてその道を選んだのか

暗いよ、辛いよ。
捏造だけどさ、辛いよ。


“女狐カリーナ”

アウトローをターゲットにする新進気鋭の女盗賊。

弱冠13歳ながら盗んだお宝は数知れず、あまりに鮮やかな手口は古参の泥棒達からも称賛されるほどであった。

そんな、彼女は如何にして“盗賊”という道を選んだのだろうか。

意外かもしれないが、カリーナは“新世界”で育った、幼少期まで何処にでもいそうな少しお転婆が過ぎる女の子だった。

彼女が、10歳になったとき人生が大きく変わった。

カリーナはその日、家族と共にシャボンディ諸島を訪れていた。

そこで、彼女は“とある存在”と出会ってしまった。

 

世界貴族“天竜人”

 

カリーナは“誰か”に押し出され、天竜人の歩く前に飛び出してしまった。

不敬を咎められたカリーナはその場で奴隷にされてしまった。

両親に助けを求め、辺りを見回すと自分の知らない誰かから多額のベリーを受けとる両親の姿があった。

彼らは、カリーナに目もくれることなくその場を後にした。

天竜人は余興だといってヒューマンショップにカリーナを売り払い、なにもせずに帰っていった。

ある意味、カリーナは幸運だったかもしれない。

彼女には竜の爪痕が残ることはなかったのだから。

檻に容れられたカリーナを買い取ったのは好色家で知られる貴族だった。

幼いながらも美しさがあったカリーナを気に入り競り落としたのであった。

貴族が帰国することとなり、船にのせられたカリーナ。

しかし、彼女は両親に会いたい一心で走る船から海へと飛び込んだのであった。

何とか近くの島に流れ着いたカリーナは、両親から教えられたある技術を駆使して両親の元に帰るための資金を作り始めた。

それが、“盗み”だった。

子供だからこそ侵入可能なルートを駆使して盗み続けた。

換金の際には子供だからと低く査定されることは日常茶飯事だった。

それでも、両親に会いたい一心で彼女は盗み続けた。

気がつくと、新世界から東の海に流れ着き3年の月日が流れていた。

そして、現在彼女は人生最大の窮地にたたされていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「もう一度だけ聞こう。女狐”カリーナ、お前ほどの盗賊が何で傷だらけで漂流なんかしてんの」

 

一目見たときから、自分の中に育った“快盗の勘”が警告をならしていることにカリーナは気がついていた。

目の前の男レイズは口調は砕けているが、先程の柔らかな笑みと違い、目が笑っていないのだ。

嘘をつけば殺される。そんな考えが頭をよぎるほどだった。

 

「ま、バレてるなら仕方ないか。実は此の辺りで仕事をしたんだけどね、思いの外身体が成長してたみたいで今までだったら通れてた場所でつっかえちゃってね」

 

そう言ってカリーナは年不相応に育った胸を腕を組むことで持ち上げ、レイズに見せつけ反応を試した。

しかし、自分から一切視線をそらさないレイズに少しだけ女のプライドが傷ついたのはカリーナの秘密である。

一方のレイズも内心では某一味のコック(未定)のように目をハートにしメロリンしていたのであった。

 

「その時に、そこの城主に出くわしちゃってね。しかもそいつがジャラジャラの実の能力者で、此の有り様よ」

 

そう言いながらも悪戯小娘を思わせるおどけた笑みを浮かべた。

その時、カリーナは暖かな暗闇に覆われた。

まるで、暖かな布団にくるまれているような安心感が彼女を包み込んでいた。

 

「・・・・や、やだなレイズ。いくら私が美少女だからって急にこんな「もう、良いから」

 

カリーナの耳にレイズの声が聞こえてきた。

 

「カリーナ、もう良いから。頑張ったな、本当に頑張ったんだな」

 

そう言うレイズの声が震えていることにカリーナは気が付いていた。

それだけではない。

レイズを退けようとした手に水が落ちてきているのが分かった。

そして、それが涙であることも。

 

「お前にとっては、憐れみの行動だと断じられてもオレはなにも言えない。だけどな」

 

―泣いてる女の子を平気な顔で見てられるほど汚くなれないんだ―

 

カリーナがはっきりと覚えているのはここまでだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「もう、良いのか」

 

カリーナが泣き疲れて眠ったのを確認して部屋を出たレイズへと声をかけたのは湯気がたつミルクが入ったカップを両手に持ったエースだった。

 

「なんだ、やっぱり聞いてたんじゃないか」

「まぁ、あれだな。悪かった任せたのに」

 

そう言ってカップを差し出すエースとそれを受けとるレイズ。

扉の前、二人はただただじっと立っているだけだった。

 

「なあ、レイズ」

 

暫しの沈黙の後にエースは意を決したように切り出した。

 

「前にお前が話してくれた“人拐い村”の話だけど」

「あぁ、恐らくカリーナはそこの“商品”出身だろう。本人も薄々気がついているみたいだったがな」

 

賞金稼ぎ時代レイズは少なからず政府主導の作戦に参加したことがあった。

その一つが新世界のとある島を拠点にしていた人拐い屋の殲滅作戦だった。

その村は大人全てが人拐い屋を生業にしており、子供を赤ん坊の頃に拐ってきてまるで家畜を育てるように育て、ヒューマンショップに売り捌いていたのだ。

彼らは、必要とあれば町一つを虐殺して赤ん坊を全て拐ってくる残虐性を持っていた。

いくら世界政府加盟国に“お得意様”がいたとしても、庇いきれる範囲にも限度があった。

そして、人拐い村は村民全員が賞金首となり、海軍主導の殲滅作戦によりその全てを消されたのだった。

その作戦にレイズは参加していたのだった。

皮肉なことにこの作戦に参加したことでレイズは「風迅」の異名を得たのであった。

 

「カリーナの奴、この後どうするんだろうな」

 

エースとて“鬼の子”、知られれば確実に良い未来は訪れない。

そんな自分よりも、カリーナのことが心配でならなかった。

 

「なんで、世界はこんなにも残酷なんだろうな」

 

エースのそんな呟きを最後に二人の間から会話がなくなった。




まだまだ頑張りますよ


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Cの快盗/激情と兆し

パソコンの不調により書いていた半分が消える。

でもアオハル-ナミ編-見て復活。

オレって結構安いな。


カリーナにとって夜とは最も恐ろしいものだった。

暗闇が自分を覆い隠し、この世界に自分は必要とされていない錯覚に襲われるからであった。

そんな彼女は、久しぶりに夜に眠りについていた。

なぜだか知らないが、”あの二人”を感じれるこの船は大変落ち着けたからであった。

翌朝、久しぶりに熟睡したカリーナが甲板に顔を出すとそこには目を疑う光景が映し出された。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

深夜、甲板で夜空を見上げるエースがいた。

エースはこの世の不条理を嘆くだけだった子供時代に思いをはせていた。

義兄弟が無残に殺されたと知った後、ダダンに止められてもなお、敵討ちに行こうとした。

しかし、その夜ダダンが電伝虫を使用しているのが聞こえてきた。

 

「ガープさんよ、あたしにとってエースもサボもルフィも正直”ただのクソ餓鬼”なんだよ」

 

口から出てくる言葉とは裏腹にその声には悲壮感が滲み出ていた。

 

「エースはクソ生意気なクセして無鉄砲で、誰にでも喧嘩吹っ掛けるようなやつだ。

 でもよ、あいつの心根は誰よりも真っすぐなんだよ。

 ルフィは甘ったれでエースとサボの後にくっ付いてるだけのはなたれさ。

 そんなあいつは誰よりも自分に正直なんだ。

 サボも、生まれを知った時は心底驚いたけど、あいつが一番真っすぐに生きようとしてたさ。

 でもよ、なんでだよ。

 

 なんでサボは死ななきゃなんなかったんだ

 

 悪いけどガープさん、しばらくウチに顔出すのは控えてください。

 今、あんたの顔見ちまったらあたしは、あたしは歯止めが利きそうにないんでね。

 後、これだけは言わせてもらうよ。

 

あたしの馬鹿”息子”達を二度と理不尽にさらすんじゃねえ

 

実の親の顔を知らないエースにとって、この時初めて”母親”が生まれたように思えた。

口を開けば喧嘩になり、何かあるとすぐ殴られる。

旅の門出にも顔を出しもしなかったクソババアだったけど、それでもエースは愛してくれたと感じることが出来ていた。

 

「なあ、ダダン。オレはお前が胸張って”息子”って言ってもらえるだけ立派になってやるぜ」

 

カリーナの出生を聞いてからレイズとの間に会話はなかった。

互いに思うところがあるのだが、前に進んでいるカリーナへどのように力になってやれればいいのか解らなかったからでもある。

ただ一つ、己の真ん中に熱い炎のような何かが灯ったような気がしたのだった。

 

「・・・・・エース」

 

甲板へと続く唯一の扉の前にレイズが立っていた。

 

「お前に、この間言ったこと覚えているか」

 

そう言って右手に握られた”手配書”を風に乗せてエースに投げるレイズ。

そこには、最近発行されたばかりの1000万ベリーの賞金首と900万ベリーの賞金首の顔が映し出されていた。

 

「カリーナを痛めつけたのはたぶんこいつらだ。貴族のくせに海賊を名乗って好き勝手やってきたツケがこのザマだ」

「”鎖縛(さばく)のジャラララ”懸賞金1000万、”鎌鼬のビュンゾウ”懸賞金900万か」

「そして、”運の悪い”ことにそいつらがこっちに近付いてきてるんだ」

 

レイズのその言葉を聞いたエースの顔は憤怒に染まっていた。

 

「なぁ、レイズ」

 

いつもの調子でレイズへと声をかけるエース。

 

「カリーナの部屋には”静寂の羽衣(サイレント・カーテン)”を展開してあるから音は遮断されている。

 カリーナ自身にも”艮の鎧(リジェクト・アウト)”掛けてあるから手は出させない」

 

レイズも普段と同じ調子で声をかけているが、普段の二人からは考えられないほどに、周囲の景色が歪むほどに怒気が溢れていた。

―――――――――――――――――

 

 

「ジャウラジャラジャラジャラジャラ、ジャウラジャラジャラジャラジャラ。あの船かあの餓鬼が乗っているのは」

 

体中に鎖を配した服を着た巨漢の男が大声をあげながら笑っていた。

 

「はい、ジャラララ様。”ビブルカード”はあの小さな船がある方角に動いておりますので、はい」

 

その横にいる刀を腰に差したモノクルを上下に頻回に動かす執事風の男が報告を上げている。

 

「しっかし、ビュンゾウの言う通り”あの小娘”をとっ捕まえた時に爪を切らせておいて正解だったぜ。まさか逃げられるとは思いもしなかったからな」

「いえいえ、私たち一同”若様”のお手を煩わせることこそなきように努めておりますゆえ万全を敷いたまでのこと」

 

甲板に鎮座する豪華絢爛なソファに体を預け肥え太った肉体を揺らし笑い声をあげるジャラララ。

その横では表情を一切変えることなく、手元のビブルカードと呼ばれる不思議な紙を見続けるビュンゾウ。

 

「(しかし、この木偶の坊に付いていくのもそろそろ限界かと。あの小娘を捕らえ小娘で遊んでいる隙に本国と連絡を取り私の今後の安定を確約させなければ)」

 

ビュンゾウにとってジャラララに付いてきたのは、自身が故郷で行っていた残虐非道な行いの追及を逃れるためとジャラララの父親である某国の国王に恩を売るためである。

某国親衛隊に所属していたビュンゾウは居合の名人であり、国に仇なす存在を今まで何人も斬り殺してきた。

一方で、彼は生粋の切り裂き魔だった。

軍に入ったのも定期的に人を斬れるからであった。

そんな彼の本性を見抜いていた当代の国王はジャラララのお目付け役を任せ、二人を国外で亡き者にする計画を遂行したのである。

無論、ビュンゾウにバレているとは知らずに。

ビュンゾウが今後の身の振り方を考えているその頃、見張り台にいた兵士は一つの違和感を覚えた。

望遠鏡でよくよく覗いてみるとそこには自分の常識をはるかに超えた景色が映っていたのである。

 

「若様、団長」

 

見張りの兵士の声が聞こえ見張り台の方に視線を向けるジャラララとビュンゾウ。

 

「ジャウラジャラジャラジャラジャラ、どうした”化け物”でも見えたのか」

 

ジャラララは能力者になって以降無敗を誇っていた。

それはビュンゾウが勝てそうな人間を判別していたのも大きいが、この東の海において”能力者”であることは大きなアドバンテージを占める要因になる。

勝ち続け、もともとあった虚栄心が肥大化していたジャラララは見張り台の兵士の声に”怯えの感情”が含まれていることに気づきもしなかったのである。

 

「う、海を。海を走り抜けてくる者たちがいm」

 

兵士は最後まで報告することが出来なかった。

なぜなら、彼のいた見張り台が突如として”削り取られた”のであった。

 

「おうおうおうおう、これまた大層な船だな。おいレイズ、オレは我慢しなくていいんだよな」

 

甲板に現れたオレンジのテンガロンハットを被り鉄パイプをステッキのように器用に回す青年が隣の男に声をかけた。

 

「そうだな、エース。あの”贅肉ダルマ”がお前の相手だ。後の”雑魚”はオレに任せろ」

 

まるで、これから買い物にでも出かけるような気軽な様子に周囲は困惑していた。

その中でジャラララとビュンゾウは其々に違う思いを巡らせていた。

 

「どっちも細っちい上に無礼だな、ワッシに逆らうとどうなるか教えてやるぞ。者どもかかれ」

 

ジャラララのその声に反応した兵士が一斉に二人へと襲い掛かった。

攻撃の間合いまであと一歩というところで兵士たちは突如として、得体のしれない寒気に襲われた。

その寒気は自分たちの目の前にいる二人の青年から発せられていた。

すると、今まで目を合わせることもなかった二人の青年と誰しもが目が合ったような気がした。

その時だった。

 

「「うるせえよ、お前ら黙れ」」

 

それは、大声ではなかった。

それは、怒りに任せた声ではなかった。

しかし、二人の声を聴いた甲板上にいたすべての兵士が、二人の声を聴いた瞬間に気絶してしまったのであった。

その異常ともいえる光景を前にビュンゾウは警戒心を露わにしていた。

 

「(今のは、まさか。イヤこの東の海(最弱の海)にましてや、あんな小僧共が”あれ”の使い手なはずはない)」

 

ビュンゾウが刀に手をかけながら自分の思い浮かんだ考えを否定するように顔を振る。

そんな中、ジャラララは形容しがたい顔をしていた。

 

「お前ら、一体何なんじゃ。ワッシを誰と心得ておる」

 

この期に及んで自分の立場を理解しようとしないジャラララの顔にエースと呼ばれていた男が2枚の紙を投げつけた。

その紙は突然の突風によりジャラララの顔に張り付いた。

 

「ああ、知ってるよ。手前らは薄汚ねえ賞金首ってことは」

 

そう言って手に持っていた鉄パイプをジャラララへと向けるエース。

 

「手前が何者だとか”どうでもいい”んだよ。手前はオレを怒らせた」

 

エースの頭に先ほどレイズに泣きついていたカリーナの声が聞こえてきた。

 

”本当は解っていたんだ、でも認めたくなかった”

 

その声には彼女のこれまでが詰まっているようだった。

 

”認めちゃったら、私には何もなくなっちゃうから”

 

この世の理不尽を自分も体験してきたつもりになっていた。

 

”大好きだったお父さんもお母さんも嘘になっちゃうから”

 

ふと隣を歩くレイズを見る。

 

”そうしたら、わたしまで”ウソ”になっちゃうから”

 

レイズの顔は一緒に旅するようになって初めて見る”無表情”だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

エースとジャラララの視線が合う。

 

()()()()()()()()()()

 

レイズとビュンゾウの視線が合う。

 

見張り台の残骸から双眼鏡が落ちてきた。

双眼鏡が甲板に落ち壊れる音ともに戦闘が始まるのであった。

 

 

 

 



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Cの快盗/故に彼は風と共にある

今さらですが、レイズの使用する技のもとネタは「東まゆみ」先生の「EREMENTAR GERAD」から引用しています。
作品も大変面白いので機会がありましたら是非読んでください。


レイズが”フェンシルバード・レイズ”となり“風迅”の名を得てしばらく、レイズは自身の能力を研究し始めた。

自身の能力を“正確に”把握することこそが能力者の力の向上に繋がることを知っていたからである。

何ができて、何が出来ないか。

どういった応用が出来るのか。

“エア”とは何を示すのか。

自身の戦いの経験値を稼ぐために賞金稼ぎをしながら、能力を使い続けたある日、レイズは自身の能力である“エアエア”の能力の一部に手を触れることが出来た様な気がしたのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

鎌斬(かまきり)のビュンゾウ”

元はとある王国の国王直属の護衛部隊に所属する剣士だった。

次期国王であるジャラララの護衛のため、ひいては王に恩を売るために、ジャラララの護衛を買って出た彼は海に出て運命的な出会いをした。

とある商船を襲った際に、偶々目についた箱。

中身覗くと其処には奇妙な形のフルーツが置かれていた。

そのフルーツにまるで魅了されたかのように手をとりビュンゾウは気が付いたらフルーツに噛りついていた。

あまりの不味さに思わず残りを床に叩きつけてしまったが、彼は奇妙な感覚に目覚めていた。

自身の握る刀に周囲の風が纏わりついてくるのである。

試しに、刀を振るうと振るった先にあった扉が斬り裂かれたのであった。

以降、ビュンゾウはこれまで以上に“人”を斬ることに執着するようになったのである。

 

「カーマ、カマカマカマカマ。名持ちの賞金稼ぎと言っても所詮はこの程度か」

 

ビュンゾウとレイズの戦闘は開始当初からレイズが圧される形となっていた。

ビュンゾウが刀を振るう度に発生する鎌鼬による遠距離攻撃。

よしんば、その鎌鼬を潜り抜けたとしてもビュンゾウの達人とも呼べる剣士としての実力にレイズは一切の攻撃を許されないように見えていたのであった。

 

「それに、貴様。貴様もどうやら能力者のようだが、私の鎌鼬によって受けた傷から血が出ていることから見て、動物系か超人系に属する能力のようだが、どちらにしてもこのビュンゾウ様の敵ではないようだな」

 

事実、レイズは先程からビュンゾウの鎌鼬による攻撃を避けているだけにとどまっており、身体には数ヶ所とはいえ傷ができていた。

ビュンゾウの高笑いが木霊する戦場。しかし、ビュンゾウは自身が強者であると信じて疑わなかった。

だからこそ、気付けなかった。

レイズの顔に一切の表情が消えていることに。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ええ、レイズの能力は超人系なのか

 

まだ旅を始めたばかりの頃、レイズに彼の能力について聞いた時、あまりに予想外で、エースは驚きの声をあげてしまった。

 

「まぁな、事実オレは自然系の最大の特徴とも言える“身体を自然物そのものに変化させる”ことが出来ない」

 

そう言って器用に風を操り倉庫の中を片付けていくレイズ。

周囲には大人が複数人で運ぶような木箱がいくつも風に支えられ中に浮いていた。

 

「それじゃ、この間の攻撃をすり抜けたように見えたのは」

「あぁ、あれはだね・・・・・」

 

ジャラララと相対しているにも関わらず、身体に力が漲っているのを感じていたエースはふとレイズの能力について聞いた時のことを思い出していた。

 

「小僧、ワッシを前にして随分と余裕そうジャないか」

 

あまりにも自然体なエースを奇妙に思い、攻撃の手を緩めているジャラララ。

 

「おう、悪い悪い。あまりに退屈でな、相棒と話した時のこと思い出しちまった」

 

そう言って欄干へと器用に着地するエース。

 

「ジャウラジャウラジャウラ、今までどうだったか知らんがビュンゾウを相手にして生きていられる筈がなかろうに」

 

そう言って両手に握られた鎖を再び振り回し始めるジャラララ。

だが、エースは確信していた。

 

「そうかな、お前たちの最大の不運はオレ達を怒らせたことなんだぜ」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ビュンゾウは違和感を感じ始めていた。

先程から鎌鼬を飛ばし続けているのに、レイズに対して一向にダメージを与えられなくなって来ているのであった。

そして、レイズは一歩一歩ただビュンゾウに向かって歩いて来るだけで、一切避ける素振りをみせないのであった。

それなのに、自分が放つ鎌鼬が()()に逸れていくのである。

 

「オレのな」

 

突如、レイズが何かを話し始めた。

 

「オレの能力はな、自分を中心にした半径5m圏内の空気に干渉することで、自在に空気を操ることができるんだ。有効範囲も延び続けていてな、特に有効範囲内の空気の精密操作なんか最近じゃ簡単に出来るようになったのさ。その力を活用したのが今、オレが使用している“コレ”。名前を“艮の鎧(リジェクト・アウト)”って言うんだ」

 

ビュンゾウが目を凝らすと、レイズの周囲には幾つもの風が折り重なったような大気の流れのようなものができていた。

 

「周囲に風の障壁を発生させて、降りかかる攻撃の軌道をそらすことで攻撃を防ぐ技なんだけどな。ま、あくまで風だからか、オレの実力以上の攻撃は強引に突破されることもあるんだけどな、あんたの攻撃は簡単に反らしちまえてるこの現状。あんたなら、言わなくても理解しているよな」

 

坦々とただ歩み寄ってくるレイズの姿はビュンゾウにとって悪魔か死神のように見えていた。

 

「カリーナの左肩」

 

レイズの独白とも取れる言葉には一切の温度が感じられなかった。

其処には怒りな任せた灼熱も、殺意によって発生した冷気も一切なく、ただ坦々とビュンゾウの耳に流れ込んでくるように感じられた。

 

「カリーナの左肩にな、素人に斬られたような痕があったんだ。鎖による殴打痕でもなく、明らかな刀傷の痕だった。ま、斬った相手がド三流のド素人だったからか傷痕も残らなそうだけど」

 

不意に、レイズとビュンゾウの視線があったような気がした。

その時、初めてビュンゾウは正面からレイズの瞳を見てしまった。

その瞳は、まるで硝子玉のようにビュンゾウを写しているだけだった。

 

「お前にカリーナ以上の価値は無い」

 

右手を手刀の形をとると、それを前後に揺らし始めるレイズ。

ビュンゾウは何をしているのか分からなかったが、自身の背に嫌な汗が流れるのを感じていた。

手に持つ刀はガタガタと震え、自分が相手に怯えていることに、自身の能力を使う余裕もレイズが纏っていた風の鎧が消えていることに気が付く余裕すらも失われていた。

 

乾の魔槍(ブラスト・グニル)

 

レイズの腕が自分に向いてるのを見るよりも早くビュンゾウは愛刀での防御を試みたが、刀が折れるのと同時に自分がまるで風の槍で貫かれたような衝撃を受けて反対側の欄干に叩き付けられるのを感じた。

ビュンゾウの意識はそこで途絶えたのだった。

 

「お前は殺す価値もない」

 

意識を失ったのを確認したレイズはビュンゾウを縛りつけ、樽が満水になるまで海水を汲み、其処に縛り上げたビュンゾウを放り込むと空に輝く月を見上げた。

 

「さぁ、エース今のお前の実力をオレに見せてくれ」

 

レイズの頬を夜風が優しく撫でていくように吹き抜けて行くのだった。




アンケートを実施致します。
皆様ご協力のほどよろしくお願い致します。
(期限は年内を予定)


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Cの快盗/その心に灯る焔

この小説を書いていると私の作品制作において東映特撮(主にライダー系)の影響を多大に受けていることに今更ながら気づきました。
今回、本文内でエースがとある仮面ライダーの名セリフを言っていますが、大人になってもやっぱり彼らは永遠のヒーロなんだなと改めて実感しました。


2ヶ月。

エースとレイズが旅を始めてからそれだけの月日がたった。

その旅の中でエースはレイズから色々なことを教わった。

簡単な航海術、簡単に作れる料理、綺麗なお姉さんのいる店での楽しみ方、格好良く見える酔いにくい酒の飲み方、猿でもわかるギャンブルでのイカサマの仕方。

良くも悪くも色々なことを教えてくれるレイズはいつしかエースの中で嘗ての相棒と同じレベルで信頼のおける存在になっていった。

そんなある日、海賊になったらどっちが船長をはるかと言う話になった。

 

「そんなもん、エースがやりゃ良いだろ」

「そんなもんってレイズは船長やりたくないのかよ」

 

カリーナを釣り上げる前の晩、レイズが作ったノンアルカクテルを飲みながら話したのを何故かいまエースは思い出していた。

 

「レイズは船長に興味ないのか」

 

ストローを指したカクテルグラスを遊びながらエースが聞くと食べ物で遊ぶなとレイズに小突かれた。

 

「いいかエース、オレはな・・・・」

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

ジャラララとエースの戦いはジャラララが振るう鎖の嵐をエースが一方的に避け続ける展開となっていた。

 

「ジャウラジャウラジャウ、巧くよけるじゃないか。しかしいつまで持つかな」

 

掌から打ち出される鎖を振り回し続けるジャラララを前にしてエースは自分がひどく冷静であることに驚いていた。

 

「(コレならいつもレイズとやってる模擬戦の方が何倍も手強いな)」

 

レイズと出会い、ガープ(クソジジイ)による虐待擬き(特訓)とは違う、本当の意味での特訓を受けるようになり、エースの実力は格段に上がっていった。

賞金首を捕らえ、つれていった先の海軍支部で海兵を交えた戦闘訓練、無人島を見つければレイズによる広範囲攻撃に対する実践講習。

ただ危険地帯に放り込まれていた()()()と違い、その一時一時が確実に自分の力になっていることをエースは実感していた。

特に、“風”という目視しにくい攻撃を受け続けたことで、目に写る攻撃ならある一定までなら避けられるようになっていた。

ジャラララの鎖による攻撃は今のエースにとっては簡単に避けれてしまう程度の速さしかなかった。

 

「(こいつ()()に苦戦するようじゃオレはレイズに顔向けできねえ)」

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「オレはな、”夢”がなかったんだ」

 

あの日、どちらが船長をやるかという話し合いの中でレイズがぽつりとつぶやいた。

 

「”世界一周”、”国王になりたい”、”腹いっぱい旨いモノ食べたい”、”誰も見たことがない景色を始めて目にしたい”そういった夢や野望っていうのがなかったんだ」

 

エースにとってそれはレイズが零す初めての弱さだったかもしれない。

旅をするようになり、エースは何かにつけてレイズと一緒に行動した。

情報収集がてら歓楽街に行くこともあった。

賞金首を捕らえにスラム街へと足を踏み入れることもあった。

海軍に賞金を受け取りに出向き、そのまま賞金すべてを一晩で遊びきった。

どれもこれも、初めての経験だった。

レイズには言ってやらないと決めているが”兄貴”がいたらこんな感じじゃないかとずっと思っていた。

そんな男が漏らした初めての弱音だった。

 

「だから、新世界に一度帰って今後をどうしようか考えようとしてたんだがな。そんな時に”とんでもないアホ”に会っちまったんだ」

 

そう言って真っすぐに自分を見てくるレイズ。

その瞳には綺麗な焔が灯っているようだった。

 

「そいつは、初めて会ったばかりの人んちの冷蔵庫を空にしちまう考えなしで、悪びれもせずに豪快に笑いながら楽しげに笑うんだ。海に出たばかりていうのを差し引いても無計画すぎて目も当てられないアホなんだな。そんなアホは空っぽのオレを海に誘ってくれたんだ」

 

そう言って立ち上がるとエースの頭を乱暴に撫でまわした。

 

「そんなアホがどんな将来を描くのか、もしこいつが大物になるならその姿を間近で見てみたい。そう思ったんだ」

 

そう言って頭からてを離すと甲板へと足を進めた。

 

「だからよ、オレにとってお前がこの先の道標なんだ。あんま頼りにはしてないけど、お前がオレやこれから仲間になる奴らの前を走り続けてくれ」

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「(オレよりも強くて、何倍も賢くて、大人で、カッコイイ。そんなレイズがオレを”(カシラ)”として認めてくれたんだ。そんな男に)」

 

今まで伏せていた顔をジャラララに向けるエース。

その顔には”覚悟”が映し出されているようだった。

それは、何の信念もなく、自分が優れていると勘違いしているジャラララには出来ない顔であった。

 

オレは、そんなレイズに顔向けできねえような男にはなりたくねえんだよ

 

そう叫ぶとエースは鎖の嵐の中を猛スピードで駆け抜けていった。

闇雲に走っているように見える行動だがよく見ると手に持った鉄パイプでジャラララの放つ鎖を絡めながら走りぬけていた。

鎖がすべて鉄パイプに巻き付いたのを本能的に理解したエースは鉄パイプを甲板に突き刺しジャラララの動きを完全に封じ込めてしまった。

その肥えきった体では身動き一つできないジャラララは目の前に来た鬼のような形相の青年に対して思わず弱腰になっていた。

 

「ジャ、ジャウラジャウラジャウラ。お、お前気に入ったぞ。オレ様の”部下”になれ」

 

怯えながらも自分が絶対の強者であることを疑わないジャラララはエースが自分にへりくだる姿を幻視していた。

 

「黙ってろ、この馬鹿野郎が。誰が手前みたいなクズの下に就くか」

 

ジャラララを見るエースの瞳は凍えるような寒さが感じられた。

 

「お、お前。ワッシが誰なのかわかっているのか。ワッシに手を出したらどうなるのか覚悟はできてるのか」

 

ジャラララはついに自分の立場を振りかざすことでエースを退けようとしてきた。

 

「は、出来てるよ」

 

しかし、それはエースには何も意味をなさなかった。

なによりも自由でありたいと願うエースにとっては。

その時、この場にいる誰もが気が付いていなかった。

エースが握りしめた右手が黒く染まっていることに。

 

「心火を燃やして、手前をぶっ潰す」

 

そう言ってジャラララの顔面を黒く染まった右手で思い切り殴りつけるエース。

ジャラララはその勢いのまま後方へと吹き飛ばされ、海に落ちていった。

 

「は、手前じゃオレの()()()()にもならなかったな」

 

決め顔をするエース。

そして、そばに寄ってきたレイズを見つけると子供のような笑顔で出迎える。

 

「どうよレイズ。オレの成長ぶり」

「あぁ、ま、合格じゃない」

 

頭を掻きながら何かを告げようとしているレイズと得意げに笑っているエース。

 

「なぁ、エース」

「なんだよ、こんなことで褒められても嬉しかねえぞ」

「もしかして()()()って言いたいのか」

 

数秒後、顔を真っ赤にして海に飛び込むエースがいた。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

カリーナが甲板に顔を出すとそこには所狭しと金銀財宝多種多様な宝石が所狭しと乱雑に置かれていた。

 

「おう、カリーナ起きたか」

 

財宝の中央に寝転がっていたエースがカリーナに気が付き声をかけてきた。

 

「なんなの、この財宝は」

 

さしものカリーナですら自身が見ている光景を疑っている。

昨晩まで何もなかったはずの甲板には小国の国王ですら目を回しかねない量のお宝であふれていた。

 

「ちょっと待っててくれ。今レイズがここの支部長に話つけにいってるからよ」

 

そう言って再び寝転び空を見上げたエース。

そんなエースにつられる様に空を見上げたカリーナ。

そこには雲一つない青空が広がっていた。




アンケートに関しまして期限は年末としましたがある程度集まりましたら期限内であっても終了させていただきます。
ホルホルネタはいずれ小ネタとして扱います。


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Cの快盗/We Are

今週のワンピースは何やらスゴいことになってますが、今後どうなるのでしょうか


「(私としたことが、まさかあんな餓鬼に痛手を負わせられるとは)」

 

ビュンゾウは新世界への護送船へと歩く道すがら、自分を敗北させた男のことを思い出していた。

今思い出しても、何故かあの時の恐怖は蘇らず、まるで自分が負けたこと自体が悪い夢に思えてしまうほどだった。

 

「(そう、ちょうど目の前の海兵と同じぐらいの年齢であったな)」

 

自分の目の前を歩く海兵。

階級も低そうだし、何より“強者の匂い”がまるでしなかった。

これから、自分に起こるだろうことを考えていると、その目の前の海兵が話しかけてきた。

 

「ビュンゾウ殿、確認したいことがありますが宜しいでしょうか」

 

そう、罪人である筈のビュンゾウへ最高礼をする海兵に気を良くしたビュンゾウはふと顔を上げてしまった。

次の瞬間、自分の胸に何かが突き刺さる感触がした。

恐る恐る確認すると、自分の右胸に目の前の海兵の人差し指が突き刺さっていたのであった。

 

「き、貴様、何を「C()P()9()()()()()()。貴様の存在が公になることは世界政府の威信に関わる。よって“闇の正義”の名のもとに貴様を殺す」

 

そう宣言した青年は指を引き抜くのと同時に姿を消した。

青年の立っていた後ろには、肩から切り裂かれ絶命したジャラララの遺体が横たわっていた。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「それじゃ、アイツ等の船にあった資産の90%と懸賞金は半額を貰い受けますからね。良いですね」

 

ジャラララ達を討ち取ったエース一行はレイズが贔屓にしている海兵が勤めている支部へと来ていた。

エースとカリーナを船に残し、レイズはジャラララ達の身柄の引き渡しと懸賞金及び海賊の資産の取り押さえにて生じる追加報酬の相談をしていた。

レイズの対面には実質この支部を取り仕切っている海軍本部所属の男性海兵が座っていた。

 

「返事くらいして下さいよ、()()()()()さん」

 

名を呼ばれ、対面にてヤのつく自由業顔負けのふてぶてしさを醸し出している、葉巻を豪快に3本同時に吸っていた男“スモーカー”が気だるげにソファーから上半身を起こした。

 

「あぁ、勝手にしやがれ。俺が“この支部”にいるのもあと数時間。テメエのその張り付けた笑顔も、見納めだと思うと清々するぜ」

 

机に足をかけ寛ぐその姿は罷り間違っても海兵には見えなかった。

 

「で、今頃アイツ等は世界政府に消されているということか。いったい何処までがテメエの()()()()通りにいったんだ」

 

右手に握っていた十手をレイズに向けるスモーカー。

 

「いやいや、どこぞの王様や支部長からリークされた情報を元に計画練ってたところに“女狐”が現れたんですよ、完全にアドリブですよ」

 

スモーカーの言う張り付けた笑みは消え、そこにはエースやカリーナには見せたことのない冷酷な笑みを浮かべたレイズがいた。

 

「まぁ、オレはテメエが“海賊”にさえならなければ問題ないがな」

「はは、それはどうかな」

 

数分後、鼻唄混じりで部屋を後にするレイズ。

先程自分に見せた冷酷な顔を思い出し、背筋に寒気が走るスモーカー。

 

「・・・・・・まったく、テメエが相手じゃ骨が折れる」

 

それは、独り言のように消えていった。

 

―――――――――――――――――

 

「ことの顛末を話すとこんな感じだ」

「はぁ、エースって強かったのね」

 

船の甲板にて金銀財宝をベッドにしてジャラララとの戦闘経緯を話すエースと何故かレイズのワイシャツを着たまま話を聞くカリーナ。

現在、二人はレイズの交渉待ちで暇になってしまい昨晩の顛末をエースの主観混じりで話していた。

自分が眠っている間に起きたことの凄さに改めて驚きを露にするカリーナだったが、ふとエースを真剣に見つめ、次の瞬間思いきり頭を下げていた。

 

「おいおい、カリーナ何を「騙していたことも謝るし、雑用もなんでもやります。だから、この船においてください」

 

そう言うとカリーナは更に体勢を低くしていく。

このまま、“次の姿勢”になられたらレイズからどんなお仕置きを受けるか分かったもんではないエースは慌てカリーナを立たせようとした。

 

「・・・・・エース」

 

しかし、時既に遅く振り向けば画面に文字を起こすことすら憚られるような顔をしたレイズがエースを蔑んで見ていた。

 

「お、オレは無実だーーーーーーーーーー

 

―――――――――――――――――

 

「悪かったって、そんなにヘソ曲げるなよ」

「エース、本当にゴメンね。この美少女に免じて許してよ」

 

支部を後にした船内では、実はからかわれていたことに気がついたエースが盛大に拗ねていた。

 

「・・・・イジメ、カッコワルイ」

 

そう呟くとレイズが作ってくれたフルーツパフェをマグマグと食べては二人をチラ見するという行為をエンドレスで続けているけているエース。

反対にレイズとカリーナはやり過ぎたなという苦笑を互いに漏らしながらエースの機嫌が治るのを遠巻きに眺めていた。

 

「今晩はレイズの特製唐揚げが出てくるなら、もう許す」

 

そう妥協点を提示するエースはとても幼く見えた。

 

「はいはい、元々今晩は大金が舞い込んだパーティーだったから出す予定だったから大丈夫だよ。あと、エースが頑張ったからブートジョロキアペペロンチーノも山盛りで出すよ」

 

レイズのパーティーメニューを聞くと、端から見ても機嫌を治していることが丸解りな顔をしてレイズとカリーナが座るソファーへと上機嫌で近付いて座り直すエース。

 

「よし、それじゃ許してやるよ。カリーナも冗談がキツいぜ」

「あら、あながち“冗談”じゃないわよ」

 

その言葉と共にカリーナは立ち上がるとエースとレイズ、二人が対面になるように移動すると再び頭を下げた。

 

「“女狐”カリーナしがない泥棒ですが、どうか一緒に旅をさせてください」

 

先ほどと違い、体からその言葉が真剣であることが伺える気迫のようなものがあった。

 

「あぁ、いいぞ」

「さしあたって、カリーナは航海士をやって貰おうか」

 

カリーナにとって一世一代の覚悟を決めた懇願はかなり軽めに了承された。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「エース呼び出してゴメンね」

 

東の海であることとレイズの探知領域で船及び周辺に害意がないと解ると3人其々の部屋で眠りに付いた。

暫くしてレイズが完全に眠りに落ちたのを確認したエースとカリーナは船首で顔を合わせていた。

 

「別に良いけどよ、レイズに相談しにくいことなんだろ」

 

頭の中でオレ船長ぽいな、とか余計なことを考えているエースとは対照的に仲間になると宣言した時と同じ覚悟を匂わせたカリーナ。

 

「エースには話しておくのがスジだと思ったから」

 

カリーナはそう言うと羽織っていたレイズのカーディガンで自分を抱き締めるように包み込んだ。

その仕草からエースは唐突に閃いてしまったのだった。

 

「(ま、まさかカリーナの奴オレに惚れたのか。いや、確かに今回のオレは自分で言うのも何だが滅茶苦茶カッコ良かった)」

 

勝手に納得していると意を決したカリーナがエースを見据えた。

 

「あのね、エース」

「おう(レイズ、オレは今日大人になるぜ)」

「あたし」

「(明日からどんな顔してレイズに会えばいいんだろうか)」

 

カリーナとエース、互いの心臓の音が聴こえているかのように周囲に静寂が訪れた。

 

「あたしね」

「おう(オレは準備出来てるぜ)」

「あたし、レイズが好きになっちゃった」

 

その瞬間、本当に世界から音が消えたような気がした。

 

「・・・・え、今なんて」

 

自分の想像の斜め横に行く展開に目を丸めるエース。

 

「だから、()()()()()()()()()()()()()()

 

きゃー言っちゃったと体をくねらせてカーディガンの裾で顔を隠し恥ずかしがるカリーナを前にやっと再起動したエース。

 

「あ、え、か、カリーナお前」

 

うまく口が動かないエースを後目に火の付いたカリーナは止まらなかった。

 

「最初見た時から「あぁアタシのタイプだなぁ」、て思ってたんだけどあんなに優しく抱き締められちゃった上に、頭ナデナデしてくれて、それでねそれでね・・・・」

 

一度火の付いたカリーナは止まることなくエースに自身の思いの丈をぶつけるのだった。

 

「あ、あのよカリーナ「解ってるわエース。確かにアタシも「あれ、アタシチョロ過ぎない」とか思ったけどね、けどね」

 

カーディガンの袖で隠れていた顔を覗かせるカリーナ。

エースは不覚にもときめいてしまった。

 

「カッコ良かったの」

 

そう言うとまた顔を隠し照れ始めるカリーナ。

 

「(オレはーーーーーーー?)」

 

心の中で叫ぶエース。

それを顔に出してないだけスゴいことなのだろう。

 

「だ・か・ら、レイズの相棒のエースにはそっち方面でアタシのサポートお願いしたくてね。

それじゃ、ヨロシクね、せ・ん・ち・ょ・う。

あぁースッキリした。それじゃ明日からヨロシクねエース」

 

そう言うとスキップで船内に戻っていくカリーナ。

エースはこの日、よく解らない失恋を、そして違う意味で相棒をめぐるライバルが生まれたのだった。

 

「なんだか、よくわからんけど」

 

海へと向き晴れ晴れとした顔をするエース。

思いきり息を吸い込んだエースは。

 

「良くわからねぇけど、レイズの馬鹿野郎

ウルセエぞ、エース。さっさと寝ろ




アンケートの結果、100票を越えたキャラが現れましたのでアンケートを終了させていただきます。
近々、別項目のアンケートを開始しますのでその際は、またご協力お願い致します。


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Dに集え/其々の今

ロックスヤバい、けどそんな奴等と戦ったガープとロジャーも同じくらいヤバい

気がついたらお気に入りが500件を越えていたことに驚きが隠せません。
私のような物書きの作品でも楽しんでいただけているなら幸いです。


カリーナが正式に仲間になって気が付けば1年の月日が経っていた。

一口に1年と言っても様々なことがあった。

まず一つに船が新しくなった。

レイズの発案で中型のパドルシップに乗り換えたのだ。エースとカリーナは想い出の詰まった船を乗り換えたくないと駄々を捏ねたが、いつもの通りレイズが一枚上手で、今まで乗っていた船をきれいに解体し、船を新造する際のパーツに加えたので駄々を止めて、自分の注文をし始めた。

3人でも手狭だった船を新しくしたのだからそれなりにお金は飛んでいったのだが、そこはカリーナが“巧く”交渉したもんだから思いの外安くすんだ。

次に、エースとカリーナにも異名が付いた。

エースは鉄パイプを止めて、格闘術で相手を沈めていき、決め技とも言える正拳から“鉄拳(てっけん)”の異名が付いた。

カリーナもレイズに懇願した結果、旗を用いた棒術を修めている。

旗で己を守り、布槍術も応用した旗棒術とも呼べるカリーナ独自の技術で確実に戦えるようになっており、“女狐”とも“フラッグクイーン”とも呼ばれている。

そして現在、3人は新造した船を何故か海軍船に引かれ、海軍船の上“とある任務地”へと連れてかれていた。

 

「エース、このバカもんが。何故“賞金稼”なんぞやっておる」

「ウルセエ、クソジジイ。オレの勝手だろうが」

 

乗船してから毎日のように繰り広げられるエースとこの船の責任者である中将の口喧嘩がまた始まった。

 

「か、カリーナちゃん。もしよかったら今度お茶でも」

「前も言ったけど、ウチの男衆に勝てたら考えたげる」

 

この1年で更に色香に研きがかかったカリーナには、連日告白する海兵が長蛇の列を作っていた。

なお、この1年でカリーナのレイズに対する好意は連日鰻登りであることを付け加えておく。

 

「・・・あ、王手」

「レイズさん勘弁してくれ~」

 

当のレイズは海兵相手に連日如何様賭博で荒稼ぎしていた。

レイズからイカサマしてますよという宣言つきで、イカサマ見破れたら倍額返金を餌に日々あくどく稼いでいた。

賭けの対象には情報と技術も入っており、レイズは大まかな六式の情報と()()()()の情報を獲ていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あぁ、痛ってぇな。あのクソジジイ」

 

日が沈み、自分達の船へと戻ったエースたちは日々の報告会を行っていた。

 

「それにしても、エースと“海軍の英雄”ガープが知り合いだったのには驚きね」

「本当にな。ほらエース、氷嚢でその腫れた顔冷やしとけ」

 

報告会とは名ばかりで大半はエースの愚痴こぼしのために開いている飲み会に近いのだが、頭脳労働ダントツになりつつあるレイズとカリーナは別途ちゃんとした報告会を開いていたりする。

 

「しっかしよ、すげぇな“六式”てのは。ジジイ相手に2分もつようになったぞ」

 

顔の腫れがひけたエースは最近習得し始めた体術“六式”の話題を挙げた。

 

「エースの習得スピードが異常なんだよ。聞いた話だと一式習得には最短でも一月掛かるらしいよ。しかも、六式を扱うための強靭な肉体が出来上がっている前提だから、ガープ中将の特訓も役に立ったってことだね」

 

夜のおやつとしてドライフルーツを準備してキッチンから戻ってきたレイズの発言にエースは心底嫌そうな顔をした。

 

「にしても、エースにも苦手なモノがあったのね、意外といえば意外ね」

 

サマーセーターにホットパンツという青少年には目に毒な格好をしたカリーナはレイズを横に呼びつけながら、いつもの意地の悪そうな笑顔でエースを見た。

 

「ジジイの特訓受けたことねぇカリーナには解らねえよ」

「ま、おかげでエースの底知れない生命力の根底を知れたから良かったよ。さて、俺達は今海軍船に牽かれて偉大なる海に居るわけだが目的地がわかった」

 

レイズはここ最近、ずっと様々な乗組員から情報収集を行っていた。

目的地が不明なのは3人共に不安があったからである。

エースは自身の出生のため。

レイズは血縁のため。

カリーナは今までの行いのため。

だからこそ、レイズはどのような手を使っても情報を獲ていた。

 

「しかし、ガープ中将は“あれ”で良いのか?少し煽てて孫の自慢話聞いたらすんなり喋ったぞ」

 

軽く言っているがぶっ続けで15時間話を聞き続けたレイズの忍耐力があったからの結果であるのだが。

 

「で、目的地はどこだったの?」

「そうだそうだ。ジジイのこと何かほっといて教えろよ」

 

レイズの横を陣取り腕を絡めようとして顔を真っ赤にしているカリーナ。

その反対側にどかりと座りレイズと肩を組んでカリーナに勝ち誇ったドヤ顔をするエース。

その光景は親を取り合う兄妹のようだった。

 

「目的地は海軍造船島、途中でもう2人名持ちの賞金稼ぎを拾ってかららしいけど」

 

エースとカリーナの目が獲物を狙う狩人のように細まる。

 

「目的はそこに現れる「海軍最大の汚点」とも呼ばれる“将軍”の異名を持つガスパーデとその一味の討伐準備と討伐だ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ここは偉大なる海にあるとある島。

黒帽子を被った細身の男がガスパーデの手配書を憎悪の眼差しで見ていた。

 

「アデル、お前の敵はにいちゃんが必ずつけてやるからな」

 

同時刻 島でただ一軒の酒場。

そこでは長刀を背負った銀髪に褐色肌が特徴の青年が窓から見える月を肴に酒を静かに楽しんでいた。

 

「・・・・・・オレの求める道はどこにあるんだ」

 

いま、歴史がまた一つうねりをあげ始めた。




アンケートその2を開始します。


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Dに集え/風迅と海賊処刑人

「お前が“海賊処刑人”か」

「あんたが迎いかよ、“風迅”」

 

死屍累々の海賊たちを周囲に積み上げ、方や黒く輝く鉄扇を打ち付け獲物を狙う猛禽類のような眼光を曝すレイズ。

方や近場に落ちていたモップの柄を打ち付け圧されまいと堪える野獣のような笑みを浮かべた“海賊処刑人”と呼ばれる男。

何故二人が戦闘を行っているのか。

時は1時間前に遡る。

 

――――――――――――――――――――――

 

「エース、悪いんじゃがお前さんたちに今回依頼した賞金稼ぎ2人を迎えにいって欲しいんじゃ」

 

ガープの海軍船の甲板にてレイズディーラーによるポーカーを行っていた時、突如ガープから声をかけられた。

 

「あぁん、どういうことだジジイ。何で俺たちが迎えになんざ行かなきゃなんないんだよ」

 

レイズとカリーナの見事な連携による絶妙なゲーム操作により金庫の中身が充実していた時に声をかけられたエースは不思議そうに顔をあげた。

その疑問に答えたのは、ガープの副官を任されたばかりの「ボガード」と呼ばれていた海兵だった。

 

「潜入させていた海兵からの連絡で、奴等は此方の情報を一部把握しているようだ。君ら協力者の情報を得ていないことは確認がとれたので、今回はそれを逆手にとり、君らには“DEAD END”レースに出るための仲間集めの名目で接触してもらう」

「それはいいんですけど、待ち合わせ場所と時間を教えてもらえませんか」

 

知略班であるレイズとボガードは仕事外の付き合いで友好に付き合いを深めており、数日に一回エースたちの船で愚痴を言い合う仲となった(99%がボガードのガープに対する物だが)。

 

「それはワシが決めておいた。”海賊処刑人”があの島の中央にある噴水広場に”午後1時”に、”銀獣”があの島の東にある高台に”13時”に来る手はずになっておる」

 

ガープの自信満々な発言を聞いた周囲全員が一度首を傾げた。

そして、近くの者同士で何やら話し始めること5分ほど、副官のボガードにその役を()()()()()

 

「ガープ中将、まさかと思いますがこれから向かっている場所が”海賊島”に準ずる場所である事と、”午後1時”と”13時”が同じ時間である事は理解されていますよね」

 

全員が固唾をのんで見守る中、ガープは呑気に海苔煎餅を齧っていた。

 

「ふむ、忘れ取った

「「「「「「「「「「ウソだろ――――――――――――――――」」」」」」」」」」

 

甲板に異口同音の悲鳴が木霊する中、嫌な予感がしたカリーナが胸元に手を突っ込み懐中時計を引っ張り上げ時間を確認する。

 

「・・・・・・レイズ」

 

その顔を若干青くしながらカリーナが最も信頼する男に声をかけた。

 

「まさか・・・・」

 

その意図を汲んでしまったレイズもその顔を同様に青く染めた。

 

「うん、今が午後1時」

 

甲板では先ほど以上の大きな悲鳴が上がったのは言うまでもない。

 

――――――――――――――――――――――

 

「(にしても遅えな海軍の連絡員は、こんなとこで待ち合わせなんて馬鹿だろう)」

 

噴水の縁に座り考え事をしている男。

彼の名は”シュライヤ・バスクード”、ガープの呼びかけに答えた賞金稼ぎの一人である。

そんな彼の周囲には300人を超える厳つい男たちが手に手に武器を持って集まっていた。

 

「おいおい、なんで”こんなところ”に”ハイエナ(賞金稼ぎ)”がいるんだよ」

 

いかにもガラの悪く、チンピラ風な男がシュライヤに声をかけてきた。

 

――――――――――――――――――――――

 

一味の中で最も”速い”レイズが一番の危険地帯であり、一番遠い中央にある噴水広場へと翔けていた。

エース同様に六式を習い、移動業である”剃”と”月歩”を体得したレイズは空をまさに疾風の如く翔けていた。

 

「(あのクソジジイ、いつか絶対にゼッタイに・・・諦めよ)」

 

エースからもどうにもならないと称される「歩く理不尽」に対して諦めることを選んだレイズは、能力も掛け合わせた月歩「無色の翼(エア・アキレス)」で目的地へと急いでいた。

あと少しで目的地が目視できるというところまで来たところレイズの耳にはっきりとした戦闘音が聞こえて来た。

 

海賊島で賞金稼ぎを見つけたら“そう”なるわな

 

――――――――――――――――――――――

 

300人を越える海賊に囲まれてしまったシュライヤだったが、その思考の大半は今回の仕事のことに占められていた。

 

「(やっとあのクズの情報をつかんだんだ。どんなことしても見失うわけにはいかねえな)」

 

思い出されるのは流されながらも必死にこちらへと手を伸ばし助けを求める妹の顔。

そして、自分の故郷を滅ぼしたクズの笑い声。

シュライヤの心はドロドロと煮えたぎった憎悪でいっぱいだった。

端から見れば心此処に有らずと云うのがはっきりと見てとれるシュライヤに対して声を掛けた男はしびれを切らした。

 

「さっさと答えやがれ。オレたちはあの”将軍”ガスパーデ様の一味なんだぜ」

 

その瞬間、シュライヤの周りにいた数人の海賊が宙を舞っていた。

 

「そうかそうか、手前ら”あいつ”の一味か。なら」

 

―ぶち殺しても問題ないよな?―

 

――――――――――――――――――――――

 

広場へと近づくにつれて人が空へと舞い上がる姿がレイズの目に映るようになった。

そんな奇妙な光景に少し好奇心が疼いたレイズは自分も気が付かないレベルで速度を落としていた。

その瞬間、レイズに向けて大砲の弾が飛んできたのだった。

そして、レイズが風を纏ったのと同時に大爆発を起こしたのだった。

ガープのいい加減さに多少イラついていたレイズ。

普段は子供っぽいところが多々目立つエースと体が急成長しているがまだまだ子供のカリーナが一緒にいるので抑えているのだが、レイズは「相手に右の頬を叩かれたら、その相手を往復ビンタし、フラついたところでトドメを刺す」過激的半〇スタイルな男であった。

そして、現在「歩く理不尽(モンキー・D・ガープ)」によって受けたストレスにより、普段はナリを潜めている報復主義な一面がちょうどいい言い訳を見つけて顔を出したのであった。

見た者を虜にするような笑みを浮かべたレイズは空中にて姿勢を保てる最低限の風を残し、残りの纏っていた風を広域に拡げ、自身の最大干渉可能領域である半径5kmの大気へと能力を伝播させていった。

そして、懐から扇を取り出すと干渉を受けた風を扇に纏わせ、圧縮し始めた。

扇を核にし圧縮された風は長刀を思わせる外観となりレイズの右手に現れた。

その風の刀を恰も居合いの如く構え広場の密集地帯に狙いを定めたレイズ。

次の瞬間、居合いのように風の刀を振り抜いた。

すると、刀の形状をしていた風は巨大な真空刃となり密集地帯へと撃ち込まれ、砂煙を上げて大地を抉り取ったのだった。

 

西風の阿(ゼフィロス・アート)

 

その惨状を上空から見ながら、呟かれた声色には何処か晴れ晴れとした気配があった。

 

――――――――――――――――――――――

 

周辺の雑魚を手を変え武器を変え吹き飛ばしていくシュライヤ。

その数が50人を越えた時だった。

 

「舐めやがってこの野郎、“これ”を見てもまだそんな態度でいられるか?」

 

先ほどシュライヤに声をかけた男がバカみたいにデカイ大砲を持ち出してきた。

 

「おいおい、品がねえな」

「しゃらくせぇ、食らいやがれ」

 

発射された大型の弾はシュライヤを目掛けて飛んできた。

誰しもがシュライヤの終わりを疑わなかった。

すると、シュライヤは自分の側に落ちていたスコップを蹴りあげると逆手で構え、スコップの緩やかなカーブと体捌きで上空へと大砲の弾を打ち上げた。

 

「「「「「えぇーーーーーーーーーーーーーー」」」」」

 

その光景を目撃してしまった海賊たちは一斉に驚きの声をあげていた。

パッと見細身のシュライヤが直径が5mは有ろう砲弾を上空へと打ち上げてしまったのだから仕方ないだろう。

数秒とたたずに爆発音が聴こえ、シュライヤも安心し上空を見上げた次の瞬間、シュライヤは自分へと降ってくる巨大な刀を見た。

 

「おいおいおいおいおい、洒落にならねぇぞ」

 

そう呟くや否や、シュライヤは走り出した。

少しでも、あの刀から逃げるために。

その咄嗟の判断がシュライヤの命を救った。

刀が地面に触れた瞬間、シュライヤはあまりの風圧に吹き飛ばされ、民家へと吹き飛ばされた。

 

ゼフィロス・アート

 

誰かの呟きをシュライヤは確かに聞いた。

 

――――――――――――――――――――――

 

シュライヤを囲んでいた海賊たちは先程の数十秒に起こった出来事に我が目を疑っていた。

すると、広場の反対側に何者かが着地する音が聞こえた。

振り向くとそこには、笑顔を顔に張り付けた優男(レイズ)が扇を開いたり閉じたりしながら此方にゆっくりと歩いていた。

突如現れた男に気を取られていると、崩壊した家から瓦礫をどける音が聴こえ、シュライヤがそこから現れた。

帽子で顔は見えないのが逆に不気味な気がした。

ふと、シュライヤとレイズの視線が交差した。

すると、突如準備体操を始めるシュライヤ。

かたや、身体中の関節を鳴らし始めるレイズ。

一通りの動作を終え、再び視線が交差したその時だった。

 

「「てめぇ(お前)か、やりやがったのは?」」

 

数秒の静寂が訪れた。

 

「「上等だ!!!」」

 

その声と共に二人は駆け出し、進行上の邪魔者たちを吹き飛ばしながら近づいていった。

そして、冒頭に戻るのだった。

 

――――――――――――――――――――――

 

「で、遅れた理由は?」

 

すべての海賊(多少のとばっちりを含む)をなぎ倒し、無事だった噴水に腰掛け、互いに休憩をとり始めたレイズとシュライヤ。

ちゃっかりと飲み物を互いに拝借してきてるあたり抜け目がない。

 

「ガープ中将が原因」

 

その一言で、何となく察してしまったシュライヤは黙るために拝借してきたワインを呷る。

 

「しかし、いや。相手を知ればお前が出てくるのは当たり前かシュライヤ」

 

レイズもブドウジュースを呷るとシュライヤが今回の作戦に参加した理由に納得を示した。

 

「あいつは、あいつだけは、オレが手を下す」

 

思い詰めたような、濁りきった目をしながら呟くシュライヤをしり目にレイズは周りの気絶した海賊達から財布を抜き取っていた。

 

「ま、暫くは厄介になるぜ風迅」

「レイズで良いよ。ま、よろしくなシュライヤ」




アンケート終了。
王女の人気がスゴいのか、エースの人気がスゴいのか。


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Dに集え/その為の重要な寄り道

遅くなり申し訳ありません。
感想はいつもありがたく拝読させていただいております。
これからも拙い物書きとその作品を宜しくお願い致します。


レイズとシュライヤの大喧嘩が始まったのと同時刻。

 

「あ~あ、アタシもレイズと一緒に行きたかったなぁ」

 

頬を膨らましブウブウと文句を言いながら、空を歩くのはカリーナ。

レイズとの時間を長く取るために“剃”と“月歩”を習得した。

 

「速さの問題なら仕方ないだろ、此方も重要なんだからな」

 

方や“指銃”と“鉄塊”を習得しているエース。

中々移動補助系の技の習得が上手くいかず、今も“剃”習得に向けて動作を意識した歩き方を実践している。

そんな二人は海賊島の東の高台へと歩いて向かっていた。

 

「にしても、楽しみだな”銀獣”ってどんな奴なんだろう」

 

エースはまだ見ぬ噂の凄腕剣士に期待を膨らませているようだった。

 

--------------------------

 

一人の男が高台で座禅を組んでいた。

左手で刀の柄を握り、目を閉じ意識を集中させているその姿は刀を通じて世界と語り合っているようであった。

男は座禅を解き、腰に刀を差し込み立ち上がると左手で合掌の所作を行った。

次いで礼をし、腰の刀を徐に握る。

次の瞬間、男の左手には刀が握られており、その姿は居合い斬りの如く刀を振りぬいた姿をしていた。

 

「やはり、何か違う。一体何が違うんだ」

 

銀髪の剣士”サガ”。

彼は迷いの中にいたのであった。

 

サガには二人の幼馴染がいる。

一人はサガが通っていた道場の娘で、現在は海軍に仕官して着実に腕を上げている”くいな”。

もう一人はサガと同じく賞金稼ぎをしながら剣士として修行の旅をしている”ゾロ”。

「正義の剣」を極めることを目標としているサガとゾロは旅立つ日に師匠から譲り受けた刀と互いに渡しあった短刀を今も大切に持っている。

サガとゾロは武者修行の旅の途中悲劇が起きた。

二人で海賊船を襲った際、ゾロを庇って右腕の握力が極端に弱くなってしまい、サガは満足に刀を握れなくなってしまった。

サガを幼馴染二人は心配していたが、サガは気丈に振舞うことで二人の心配を払拭しようと今まで以上に刀の修行に邁進するようになていった。

名を上げていくサガ。

しかし、嘗ての自分の通りに動かせない身体にいつしか迷いが生じ、ここのところ満足が行く刀を振るえていないのであった。

 

--------------------------

 

「ねぇ、エースは“自分の成長”について考えることはないの」

 

道の半ばでカリーナは最近のエースの成長具合について話をしてきた。

 

「あん、どういうことだ?」

 

“剃”に至るための歩行訓練を一旦辞め、普通に歩いているエース。

何事もやりすぎは良くないというレイズの教育方針が馴染んでいる証拠であった。

 

「だって、エースの目標ってレイズと肩並べて戦えるようになることなんでしょ?今だって十分に肩並べて戦えてると思うんだけど、そこんとこどうなのよ」

 

カリーナから見て二人は本当に息があっており、エースの死角をレイズが、レイズの死角をエースが、互いに補いながら戦う姿はまるで軽快なダンスを見ているようでもあった。

そんなカリーナの感想に対してエースの答えは。

 

「なによ、そのイヤそうな歯痒そうな顔は」

 

非常に納得していない、そんな顔付きだった。

 

--------------------------

 

サガは己の右腕を見ていた。

日常生活を行う上では不便がないが戦うとなった時、途端に不便に感じてしまう。

元々左利きだったため、そこまで不便に感じていなかった。

だが、敵の強さが一段上がった時から苦戦を強いられるようになった。

剛剣士であるサガは力でねじ伏せる戦いを好んだ。

しかし、右腕が戦いにおいて不自由になってからは自慢の剛剣が振るえなくなり、何時しか迷いの中に陥ってしまったのである。

 

「・・・・なんで、オレなんだ」

 

蓋をしたはずの黒く濁った気持ちの悪い何かがサガの奥底から溢れだしてきた。

 

「オレは、なんであの時ゾロを助けようとしたんだ。なんであの賞金首を狙ったんだ。何でだ、なんでだなんでだナンデダナンデダ」

 

溢れだしてきた何かに突き動かされるように背面へと刀を振るうサガ。

一切答えのでない自問自答はただサガの心を蝕んでいくだけだった。

 

誰だ、ちきしょうが。危ねえだろ

 

そんな、誰かの怒声が響いたのはサガが刀を振り抜いた数秒あとだった。

 

--------------------------

 

「あのな、カリーナ。レイズは風使いなんだぜ」

 

ため息と同時にエースの口から漏れた言葉は仲間内では周知の事実であった。

 

「周辺の空気の流れを掌握してから戦闘に移るような怪物が隙を晒すわけないだろ。あれはオレが反応出来るギリギリを敢えて見逃すことでオレの気配察知力を上げているんだよ」

 

そう言うと不貞腐れたかのように頬を膨らますエース。

 

「実際、ウチの船で一番強いのはまず間違いなくレイズなんだ。そんな奴がオレに期待をかけている、そう聞けば聞えが良いだろうけどな、オレは“対等”でいたいんだよ」

 

例えレイズにその様なつもりがなくとも、エースにとってレイズは未だに先を歩く存在だった。

しかし、子供の駄々のように思える自分の我儘とも言えるプライドのようなそれは、今のエースの原動力になっているのも事実だった。

 

「(男ってバカねぇ)」

 

そんな内心の苦笑をおくびにださずカリーナはエースに微笑んでいた。

その時、レイズに無理矢理鍛えられた生存本能が二人に警鐘をならした。

カリーナは上空へ、エースは仰け反ることで“何か”を避けることに成功した。

カリーナが無事着地し、エースが体勢を戻し一緒に振り向くとそこには、横一文字に斬り込みが入った岩壁があった。

二人が避けるのが遅ければ確実に頭と首が別れている位置だった。

 

誰だ、ちきしょうが。危ねえだろ

 

--------------------------

 

誰かの怒声が聞こえサガが振り向くとそこにはテンガロンハットを被った青年と些か肌の露出に目がいきそうな少女がいた。

 

「すまない、人が来ていることに気がつかなかった」

 

先程までの“黒い何か”を押さえ込み謝罪するサガ。

 

「お前か、まったく気を付けろよな」

 

そんなサガに些か違和感を感じるエース。

 

「遅くなって申し訳有りません。“銀獣”サガさんでよろしいですか」

 

一瞬で猫をかぶるカリーナ、思考型の彼女が話を進めることにしていた。

 

「あぁ、今回は声をかけてくれて恩に着る」

「いえいえ、私達も“雇われた側”の人間です。諸事情で今回お迎えに上がった次第でして、依頼者がズボラでご迷惑をお掛けしました」

 

互いに頭を下げあうサガとカリーナ。

その様子を見ながらエースは何やら考え事をしていた。

 

「それじゃ、“船”に行きま「なぁ、あんた“何”に迷ってるんだ」

 

カリーナの先導を遮り発せられたエースの言葉に思わず動きが止まるサガ。

 

「エース、何言ってるの」

「こいつは確かに強い。だけどさっきの一撃にも其処までの迫力がなかった。今回、命を預けあう者としてオレはそれが知りたいんだ」

 

エースから発せられた言葉に思わずサガを見てしまったカリーナ。

一方のサガは何処か苛立ちを押さえるように頭を右手で押さえながエースへと視線を移す。

そこには、先程までのヘラヘラしていた青年は存在しておらず、“覚悟”を背負った一人の男が立っていた。

なぜかこの時サガは目の前の青年との付き合いが長くなるそんな確信を得ていた。

そして、サガは己のこれ迄とその心に巣くう黒い何かについて語った。

 

「「バッカじゃねぇの」」

 

それを聞いたエースとカリーナの返答は一句違わず同じものだった。

 

「え、いや、オレは真面目にだな「真面目さ(それ)がバカなんじゃねえのかっていってんだよ」

 

そこには、サガを蔑んだように見つめるエースが仁王立ちしていた。

 

「いいか、そんなこと言い出したらオレなんかなレイズに対して後ろめたさしかないんだよ」

 

何かのタガが外れたかのようにエースが捲し立てていた。

 

「ある時は、戦闘中にオレのせいで怪我させても笑って「大事にならなくて良かったな」って言って赦してくれるし、ある時はオレが原因で喧嘩になったのにその相手との仲裁を買ってくれるし、ある時はその日のおかずを味見と称して食いつくしても拳骨で赦してくれるし、泥棒が入ったって言って皆の金庫から少しばかり借りてもばれてなかったり「ほう、あれはお前かエース

 

エースが後ろを(震えながら)振り向くとそこには、菩薩も真っ青な笑顔の漆黒の闇を背負ったレイズと、そんなレイズに恐れおののくシュライヤがいた。

 

 

--------------------------

 

 

エースの悲鳴とレイズの怒声とシュライヤの笑い声をBGMにカリーナがあとを引き継いだ様に喋りだした。

 

「要約すると、あたし達は不完全で当たり前なのよ」

「不完全が当たり前?」

 

カリーナの発した意味不明な言葉にサガは固まっていた。

 

「レイズ、今あそこでとてつもない笑顔でエースをしばいている人ね、あの人もあたし達の中では最強だろうけどね、能力者だから海に落とされたらひとたまりもないの」

 

カリーナの発言に顔を横にし、レイズと呼ばれた男を確認すると、どこから取り出したのかロープでエースを宙吊りにしてお小言に移行していた。

 

「だから、アタシもエースもレイズと肩並べられる様に強くなって、少しでもレイズが楽になるように頑張ってるの」

 

そう言いきったカリーナの横顔は年不相応に艶を帯びた女性の顔をしていた。

そして、カリーナは笑顔のまま争乱の中心へと歩いていった。

その時、唐突にサガの中で何かが弾けた気がした。

それは、目の前の少女に恋をしたわけではない。

ただ、自分の疑問の答えへの道が見えた気がしたからであった。

 

「(・・・・、たまには寄り道も良いかもしれないな)」

 

そして、サガもまた四人を追うようにして歩いていった。

 

エース、レイズ、カリーナ、シュライヤ、サガ。

5人の初めての航海はこうして始まったのだった。




季節の変わり目、皆様も体調にだけは気をつけてお過ごしください。


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Dに集え/衝撃の出会い

お疲れ様です。
パソコンが死んだため、スマホとマンガ喫茶で書いています。
更新速度がかなり遅くなりますがご留意ください。


観光地も兼ねた海賊島。

そんな場所にあるとある酒場にて5人の若者が食事をしていた。

 

「っかぁ~、たまに食う酒場の飯は旨いな」

 

特徴的な帽子を首から後ろに下げひたすらに食事をかっ込む青年(エース)

 

「おい、エース。今オレのエビフライ盗ったろ」

 

目を離した隙に皿に乗っていたメインをかっさらわれ、立ち上がる青年(シュライヤ)

 

「黙って食事も出来んのかお前らは」

 

そんな光景を呆れたように見ながら、追加で注文した酒を楽しんでいる男性(サガ)

 

「♪♪♪♪」

 

鼻歌を口ずさみながら愛しい人が淹れてくれた珈琲に舌鼓を打っている少女(カリーナ)

 

「・・・・・はぁ」

 

そんな中、ただ一人手帳とにらめっこしては景気悪そうな顔をして溜め息をついている男性(レイズ)

 

「どうしたのレイズ?何か問題でも?」

 

極力相手を刺激しない声色でレイズの横の席をもぎ取ったカリーナが問いかける。

なお、丸テーブルなので席順も何も本来はないはずだがカリーナが先導する形でいつも席順が決められていた。

 

「あぁ、金が底ついた」

「「「「はい?」」」」

 

今月は元々出費が重なりに重なった。

止めにこの島に来ての爆買い。

金がないんだよと言う状況になった。

 

「よし、エースを売ろう(労働力的な意味で)(シュライヤ)」

「仕方ない、シュライヤに稼がせよう(軽業師的に)(サガ)」

「頑張ってサガ(ヤのつく自由業みたいな)(カリーナ)」

「カリーナ済まない(ホステス的な意味で)(エース)」

 

「「「「ふざけんなよ、コラ」」」」

「お前ら仲良いな」

 

4人に注目が集まるほどに口喧嘩が加熱していくなか、突如見知らぬ男性が話しかけてきた。

 

「あんら~、其処にいるのは“レイちゃん”じゃな~い」

「ん、この声は」

 

レイズが後を振り向くとそこにはバレリーナを思わせる見事な姿勢をキープした大柄なオカマが笑顔で回転していた。

 

「“サッちゃん”、久しぶり」

「おひさしぶ~りねぃ、あちしったらビックリし過ぎて思わず二度見しちゃったじゃないのよう。「オカマ拳法“あの初夏の夜の二度見”」だったわよぅ」

 

キャラが濃すぎるオカマの登場に誰しもが言葉を失っていたところに透き通るような声が聞こえてきた。

 

「あら、“Mr.3”。知り合いでもいたの?」

「あらヤダ、“サンディ”ちゃん。あちしったら久方ぶりに会ったダチに興奮しちゃっておいてっちゃったかしら」

 

キャラの濃いオカマの後ろから現れたのは、健康的に日焼けした肌とエキゾチックな色気を漂わせる美女だった。

 

「あれ、サッちゃん一匹狼じゃなかったっけ?」

「んがっははははは、じょ~だんじゃなぃわよぅ。あちし今就活中なのよぅ。サンディちゃんはあちし”達”の上司なのよぅ」

 

レイズと話す大柄なオカマに興味がいってしまっていたが、後ろから現れた美女にレイズ以外の男は見惚れていた。

そして、”彼女”の存在に気が付いたレイズは一瞬だけ驚きの表情をのぞかせるが、誰にも気づかれることなく普段の笑顔を顔に張り付けた。

 

「なんだよ、レイズのダチか立ち話もなんだから良かったら座れよ」

 

エースの言葉を受けてレイズのダチを自称するオカマと女性は笑顔で席に着いた。

 

「ちょっとレイズ、このオカマと女は誰よ」

 

途中だった家計簿を記載し終えたのか懐に仕舞うのを見計らいレイズに詰め寄るカリーナ。

自分の知らない女をレイズが知っている気配がしたのか少し苛立ちを隠せないでいる。

 

「こっちのあやふやな存在は”プリマバトラー”の二つ名で知られる賞金稼ぎ”白鳥のベンサム”だ」

「よろしくねぃ」

 

バチコンと聞こえてきそうな勢いでウィンクする謎存在に若干腰が引けているカリーナ。

 

「そんでもって、こちらはサンディちゃん。あちしの今の職場の上司なのよぅ」

「うふふ、仲良くしましょう」

「「はい、喜んで」」

 

アホ二匹(エースとシュライヤ)は本能レベルで返事を返していた。

 

「それにしちも、レイちゃんたら難しそうな顔して、一体全体どぅ~したっていうの」

「あぁ、実は・・・」

 

レイズはベンサムに今の状況を伝えた。

賞金稼ぎ5人で旅をしていること。

現状金欠であることも包み隠さずに。

 

「それだったら、あちしに任せなさ~い」

「ちょっと、Mr.3」

 

サンディを名乗る女性が慌てて黙らそうとするもテンションが高く上りきったベンサムには間に合わなかった。

 

「レイちゃんとそのお仲間達。あちし達と一緒に“DEAD END RACE”に出ましょう」

 

「「「「「(よっしゃ、釣れた)」」」」」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「居場所が解らないたぁ、どういうことだジジイ」

 

シュライヤとサガを諸悪の根源へと連れ帰り、これからの話となった時だった。

ガープ中将から今回の標的であるガスパーデの居場所が解らないという事実が告げられた。

 

「どういうことも何も、今回奴がわしらの動きに気付いて“DEAD END RACE”の開催地までの道のりを複雑化させよった。

 何とか、開催地である島までは解ったがそこから先が一切解らんのだ」

「恐らく何らかの割符のようなものが存在していると推測されますが、こちらでは場所までしか捜査することが限界でした」

「なるほど、そこでオレ達(賞金稼ぎ)が必要になったわけだ」

「しかし、そこからどうしようというのだ。まさか我々に海賊のフリをしろというわけではあるまいな」

 

ガープとシェパードの説明で事情を察したレイズ。

レイズ同様に事情を理解したサガが刀に手をかけながら手立てを聞こうとする。

それをシェパードが片手をあげて待ったをかける。

 

「そこまでしなくても構わない、レースは何でもありが売りとなっている」

「となると、中には”同盟”を組もうと画策する奴らが出てきても不思議じゃないな」

「そして、そういった輩は自分達も何らかの焦りに追われている、となれば」

「そいつらを釣り上げてレースに参加すれば良いってことだな」

「??????」

「エースにはあとで教えてあげるから座ってようね」

 

シェパードの発言にシュライヤ、サガ、レイズは瞬時に当たりをつけた。

エースは義弟が困ったときのような顔をしていたがカリーナが確りと教え込んだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「(当初の予定とだいぶ違ったが良しとしよう)エースどうする」

 

自身の内心などおくびも出さずにエースへと声をかけるレイズ。

全員の視線が必然的にエースへと注がれる。

 

「レイズのダチなんだろう、宜しく頼むぜ」

 

腹を決めたエースはベンサムに握手をしようと手を差し出すが、それはベンサムによって遮られた。

 

「何をすっとぼけたこと言っているのよぅ。ダチとそのダチが困っていたら手を差し伸べるのは、男の道を逸れたとしても、女の道を逸れたとしても、決して逸れてはならぬ人の道。あんたたちは“レイちゃんのダチ”。つまり、あちしにとっても“ダチ”なのよぅ」

 

その言葉に衝撃を受けたような顔になるエースとシュライヤ。

 

「お、オメエ」

 

エースの声が震える中、エースとシュライヤが勢いよく立ち上がる。

 

「「良い奴だな」」

「にん!」

 

次の瞬間、3人は肩を組んでラインダンス宜しく踊り始めた。

 

「「「ジョーダンじゃないわよ、ジョーダンじゃないわよ、ジョーダンじゃないわよ、ほほほほほほほう」」」

 

まるでずっと一緒に育ってきた親友のようなその姿に知らず知らずの内に回りも巻き込み、大騒ぎの大宴会となっていった。

 

“DEAD END RACE”まであと3日。




今回二人を出した理由ですか?
好きなキャラだから絡みたかっただけです。


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Dに集え/其々の事情

私の悪い癖が出そうな今日この頃。



酒場を後にし、其々の宿へと戻っていく7人。

 

「そりじゃ~いくわよぅ、My Friends」

「おぅ、サッちゃん!」

「夜はまだまだこれからだぜ」

 

ベンサム、エース、シュライヤは酒場を出た後も途中まで肩を組んで大騒ぎだった。

 

「あー、もう3人ともいい加減にしてよ」

「たく、何か妙に波長があっちまっているな」

 

そんな3人が倒れないようにワタワタとサポートしているカリーナとサガ。

そんな5人を後ろから微笑ましそうに眺めながら歩くレイズとサンディ。

 

「サッちゃんが就活とは意外だな」

「あら、そうかしら?人は大事な何かのためなら、自分の良心も圧し殺せてしまうものよ」

 

そう、怪しく微笑むサンディ。

隣を歩くレイズは願掛けで伸ばし始めた銀髪を手で解かしながら、空に輝く月を見上げた。

 

「それじゃ、あんたを突き動かすその“大事な何か”の正体は教えてくれるのかな」

 

そう言ったレイズの顔には人好きするような笑顔が浮かんでいた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「あんら~、サンディちゃん何か良いこと有ったのかしら?」

 

宿として使用している高級ホテルでシャワーを浴びたベンサムとサンディは今後のことについて計画を練っていた。

 

「良いかしら、Mr.3。今回の貴方の昇級任務は覚えているかしら?」

「もちろんよぅ、「“将軍”ガスパーデの暗殺」なんて任務、あちしに掛かれば朝飯前なのよぅ」

 

言動こそハイテンションだが、シャワーを浴びた体で踊ることはせず、机に置かれたシャンパンへと優雅に手を出すベンサム。

 

「なら、なぜ“彼ら”を誘ったのかしら」

 

そう発したサンディの顔には何の表情も無かった。

まるで仮面のようなその顔にはベンサムは既視感を覚えた。

今日久方ぶりに会った友人も昔そんな顔をしてた。

世界中すべてが敵である、そう決めつけた人間のする顔だった。

ベンサムは自分が周囲から見て奇異な存在であることを自覚している。

それでも、今の自分を変える気はない。

自分を偽ることはしないと憧れの人の生きざまから学んだからだ。

 

「簡単な事よ、サンディちゃん」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

港に置かれた真新しい船。

エースたちが所有する「ジャック・ポット号」には現在とてつもない寒気が襲っていた。

 

「で、レイズは“あの女”と何をお喋りしていたの」

 

何故かダイニングエリアのフローリングに正座させられたレイズ。

目の前にはそれはそれは見惚れる程に愛らしい笑みを浮かべたカリーナが、背後にブリザードを背負って立っていた。

なお、エース・シュライヤ・サガはソファーを防壁にしてその様子を伺っていた。

 

「カリーナ、何を怒って「怒ってないよ」

 

レイズの言葉が終わる前に笑顔が更に深まった顔でレイズに顔を近づけるカリーナ。

 

「いや、おこっ「怒ってないよ」

「いや、お「怒ってないよ」

「けど「怒ってないよ」」

「で「怒ってないよ」

「「怒ッテナイヨ」

 

徐々に顔と言葉の距離が近づいていく二人を普段なら囃し立てるエースとシュライヤだか、今は涙目でソファーの影から出てこようとしなかった。

その時、レイズとサガの目があった。

 

「(助けて、サガ)」「(無理)」

 

言葉を発せずともその時、二人の意志は確かに通じあった。

 

「・・・・で、あの女に何を探りいれてたの」

 

 

ーーーーーーーーー

 

「そう、本当に簡単の事よ。だって“風死(ふうし)のレイズ”が心の底から笑っていたからよ」

 

“風死”。

レイズが政府主導で参加した大虐殺「人拐い村殲滅作戦」において作戦中に付けられた異名であった。

能力を“わざと”暴走させ、数多の風の刃を無慈悲に打ち出して最大人数を“殺害”したレイズに付けられた異名。

ベンサムは今でもあの時に見てしまった光景を忘れられずにいた。

まだまだ子供と言われても納得してしまうような幼さを残したレイズと出会ったのは、政府が用意した上陸船の上だった。

 

 

「あぁ~暇よぅヒ・マ。あちしったら暇すぎて思わず回っちゃうわ」

 

まだまだ、自分の拳法に名前を付けず切磋琢磨していたベンサム。

元々しなやかだった体を生かした戦闘法を模索していた彼は経験を積むために戦場を渡り歩いていた。

今回の召集も経験を積むために参加したに過ぎなかった。

何時ものようにクルクル回っていると遠くから何やら音が聞こえてきた。

音のした方に視線を向けるとそこには目を疑う光景が広がったいた。 

子供と思わしき人物を中心に死屍累々の地獄絵図が其処にはあった。

ある者は腕があり得ない方向に曲がっていた。

ある者は自分の得物と思われる刀で貫かれていた。

ある者は鋭利な刃物でズタズタに切り裂かれていた。

そして、一際体格に恵まれた男が透明な見えない何かに掴まれているかのように空中に浮いていた。

 

「わ、悪かった。“コレ”は還す、還すから許してくれ」

 

男は顔をグシャグシャに涙で濡らしながら子供に懇願していた。

ふと、男と対峙していた子供が男に向けて手を翳す。

そして、何かを握り締めるように徐々に手を握り込んでいくと男の悲鳴が大きくなっていった。

よく聞くと悲鳴に混じり男から何かが折れる音が聴こえていた。

その音が男の骨であると認識した瞬間ベンサムは子供の手を掴んでいた。

 

「ちょっと待ちぃねぃ」

 

ベンサムが手を掴んだことに気が付いた子供は顔をベンサムへと向けた。

その時、硝子玉のようにただ周囲を写すだけの瞳と目があった。

その瞬間、ベンサムを吹雪のような殺意がぶつかってきた。

それは、目の前の子供から発せられていることにベンサムは気付いていた。

 

「た、助かった」

 

ベンサムの後ろから先程宙に浮かんでいた男が声をかけてきた。

 

「いったい全体、な~にがあったのよぅ」

 

一部始終を“見ていた”が確認のために男へと声をかけるベンサム。

すると男は息を吹き返したかのように子供を指差し声を荒げ喋りだした。

 

「この餓鬼、俺の持ってるこの宝石を奪おうとしやがったんだ。だから、周りの奴等が止めに入ってくれたんだが、この有り様でよ」

 

ベンサムという後ろ楯を獲た事で強気になる男だが、後ろにいたためベンサムの憤怒の顔を見ることはなかった。

 

「まぁったく、あんた“たち”はぁ」

 

その場で回転し始めたベンサムに警戒心を露にする子供だったが、またしても周囲の予想の斜め上をいく結果が現れた。

 

「あんたたち、バカをお言いでnothing

 

ベンサムは己の回転力のすべてを乗せた蹴りを後ろにいた男に見舞った。

なお、対峙していた子供は初めて驚きの表情を浮かべていた。

 

 

「・・・・、ねぇ」

 

その後、少将ボルサリーノの仲裁により事なきを得た騒動。

騒動以降、子供がベンサムの傍を離れようとしなかった。

そんな子供が突如ベンサムに声をかけてきた。

 

「あんら、何かご用」

「なんで、あいつらに味方しなかったの?」

 

心底不思議そうに聞いてくる子供に対してベンサムは嬉しさを覚えていた。

 

「簡単なことよぅ。あーたの目が嘘ついてなかったからよぅ」

「・・・・ハァ、おじさんバカでしょう」

 

子供から放たれた悪意の塊のような言葉に少なくないダメージを負ったベンサムは甲板にヘタリこむと、何処からか取り出したハンカチを噛み締めて滝のような涙を流し始めた。

 

「おじさ、おじさんって、あちしは、あちしは・・・・」

 

そんなベンサムを面白いものを見るような目で見ていた子供。

 

「おじさん、早死しそうだから、僕がついていてあげる」

 

そういって子供の顔には年相応の笑顔が浮かんでいた。

 

 

「それから、殲滅戦が終るまであちしとレイちゃんはパートナーになったのよぅ」

 

顔に少し赤みを帯び、昔を懐かしむベンサムからは普段のエキセントリックな雰囲気はなく、そこはかとなく花のような色気が漂っていた。

 

「だから、久しぶりに会って笑顔だったあの子とそのFriendsに手を貸してあげたくなったのよぅ」

「ふふふ、あなたの過去が聞けるなんて良い夜ね」

 

サンディとベンサムの会話はそこで終わった。

街中の喧騒をBGMに二人は無言で酒を楽しんでいた。

 

「(ま、それ以外にも理由はあるんだけどねぃ)」




日頃は拙い物書きの作品にお付き合いいただきありがとう御座います。
パソコンで書いていたせいか、スマホやりにくいです。


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Dに集え/そして結ばれる手

あぁ、今年も終わる。
仕事は持ち越しだけど。


一夜明けてレース開始まで残り2日となった。

再度顔合わせをするためにベンサムとサンディを「ジャック・ポット号」へと招待したエースたち一行。

 

「サッちゃん、サッちゃん。今日はレイズが腕によりかけたランチなんだぜ」

 

我がことのように誇らしく語るエースはデッキに移動されたソファーにてカリーナが準備したミックスジュースに舌鼓を打っていた。

 

「あ~ら、レイちゃんの手料理なんて久しぶりねん。エーちゃん“タコパ”はあるかしら」

 

いつも以上にハイテンションにクルクルと回るベンサム。

そんな彼の後ろから現れたサンディの手にはバケットが握られていた。

 

「そちらだけで準備させるのは悪いから私たちも軽食を持ってきたわ」

 

そう言ってバケットを開けるサンディ。

開けられたバケットをエースが覗き込むとそこには見事に盛り付けられた多種多様なサンドイッチがあった。

 

「おぉー、旨そう。じゃまずは味見を「せんでいいから手伝えエース」

 

バケットの中身にエースが手を出そうとすると突如後ろから現れたサガに耳を引っ張られてテーブルへと連行されていった。

 

「あー、悪いな。こちらから招待しておいてまだ準備終わってないんだ」

 

その光景を見ていたシュライヤはバツが悪そうに頭を掻きながら現れた。

 

「いえいえ、おかまいnothing。あちしたちはソファーで寛がせてもらうわ」

 

そう言うとサンディをエスコートするように先に座らせ自身もソファーへと優雅に着地するベンサム。

 

「あら、お姉さまに男姉さま。もうすぐ準備できるから先にオードブルでも摘まんでて」

 

船内から現れたカリーナの手には鮮やかに彩られた多種多様な野菜やフルーツが盛られたクラッカーが乗ったトレイがあった。

 

「ワインとシャンパンも準備してある。楽しんでくれ」

 

その後ろから姿を見せたサガの両手にはワインボトルとシャンパンボトルが握られていた。

ここに至り、サンディはある事に気が付いた。

今まで出て来た今回の共同参加者は誰一人敵意が見えないのだ。

昨晩、話した“あの男”も姿を現さないのは自分に配慮したためであるとすぐに理解できた。

この船の上にはサンディに対して一切の敵意がなかったのだった。

 

 

-----------

 

 

「「「「サンディの正体?」」」」

 

時は昨晩、カリーナに問い詰められていたレイズはため息とともに自分の行っていたことを明かしていた。

 

「そう、何日か前に”賞金首リスト“の整理をしていた時に最近見ない顔を見てね、それで気になっていた時にサッちゃんと再会して、後ろから出て来た彼女を思い出してね」

 

そう言うと船に戻ってきてから取りに行っていた手配書を持ち出した。

そこには、年端もいかない少女が映し出されていた。

 

「おそらく、彼女は”ニコ・ロビン”本人だと思う。外見的にもこの子が成長したら彼女になりそうだし」

 

4人に手配書を渡したレイズは足を崩し近くにあった椅子に座りなおした。

4人には確証はないと言外に言っているがレイズには確証があった。

それは彼の裏技”塗りつぶされた原作の記憶”である。

以前にも記したがレイズは所々抜け落ちた原作知識を持つ転生者である。

原作の大まかな内容は思い出せるのだが、細かい内容については“インクで塗り潰されている”ような感覚で思い出そうとしてもはっきりと思い出せない状況にある。だが、知識を得ることでその“インクで塗り潰されているような箇所”が思い出されるのである。

そんなレイズは原作のルフィの仲間である”ニコ・ロビンという存在”をなんとなく覚えていたが容姿や能力、彼女の過去といったものに関しては霞がかかったかのように曖昧にしか思い出せなかった。

しかし、酒場でサンディと出会ったことで”手配書の少女”と”現在の姿”という情報が加わり、大まかにではあるが彼女のことを思い出していたのである。

そのことに現実味を帯びさせるためにサンディに話しかけて情報を引き出そうとしたのだが余計な警戒心を植え付ける結果に終わってしまった。

 

「なるほどな、彼女は”裏社会”じゃ有名だからな、それこそ真偽問わず情報が溢れているがレイズは何か知ってるんだろうな」

 

ソファーから出て来たシュライヤは椅子に座りこんだレイズへと視線を移した。

復讐の対象であるガスパーデの情報を探すために、一時期は裏社会に身を置いていたシュライヤも”ニコ・ロビン”の情報は多少有していた。

 

「・・・・は、胸糞悪い話だよ」

 

そう、レイズにしては珍しく、エースたちがいるにも関わらず嫌悪感を露わにした顔で語り始めた。

「オハラの悲劇」その真実について。

 

 

-----------

 

 

テーブルにところ狭しと並べられた料理の数々。

ビュッフェ形式で並ぶ料理の完成度に思わずロビンは声を失っていた。

隣を見るとMr.3が優雅な所作で暴飲暴食を開始していた。

 

「ちょっとちょっとちょっとジョーダンじゃないわよぅ。レイちゃん“タコパ”は?タコパが無いじゃないのよぅ」

 

常日頃から彼が求める謎の料理「タコパ」。

それを知っていることに戦慄を覚えたロビン。

 

「サッちゃんや、“あれ”はデザートでしょ。未々あるから先に食べきっちゃってよ」

 

昨晩金がないと言っていたにも関わらずこのおもてなし。

ますます、警戒心を抱くロビンだった。

 

「にしても、MyFriends。あーたたちお金無いんじゃなかったの?」

 

その問いを待っていましたとばかりにエースたちは笑顔を向けた。

 

「「「「レイズがやりました」」」」

「お陰で、もうこの島で賭博は出来ないけどな」

 

そう、レイズは今日のために昨晩島中の賭博場(表裏の関係無く)の金庫を空にしてきたのである。

当然、イカサマしてだが誰もいつイカサマが行われたのか理解できなかった為、レイズは無事に船に帰ってこれたのだが。

 

「そんなこと良いからさっさとパーティーしようぜ」

 

エースのその声を切欠にながらではあるが、宴が始まった。

エースの天性のモノによるのか、レイズが気が付くと当初は輪に加わろうとしていなかったロビンもカリーナの横で笑顔で料理を楽しんでいた。

デザートの準備でレイズが船内に戻った後も楽しそうな声が船上には響いていた。

 

 

「それじゃ、ビジネスの話といこうか」

 

デザートをもって現れたレイズ。

準備されたケーキやフルーツの盛合せ、タコパが机にならび、其々がお茶を飲んだところでレイズのそんな声が響いた。

 

「此方の条件はレース中の同盟関係の締結。それと“ジャック・ポット号(この船)”で一緒に参加すること。賞金の山分け」

「それと、何か有るんじゃないかしら」

 

互いに悪い顔をするロビンとレイズ。

周囲はそんな二人に割って入ることもなく、成り行きを見守っていた。

 

「ガスパーデの首は早い者勝ちでいこうよ“バロックワークス”」

 

その名前が出た瞬間、明らかにロビンは顔をこわばらせてしまった。

二人のやり取りをみていたベンサムは顔がにやけるのを止めることはなかった。

 

「(“コレ”よ。コレがあるからレイちゃんは怖いのよ)」

 

レイズの裏技を知らない者にとってレイズの知識量は脅威でしかなかった。

僅か5分前は知らなかったはずの情報を何処からか引き出し考察し答えを導き出してしまう。

わずかな時間であったが、バディだったからこそ理解してしまったその異常さ。

だからこそ、ベンサムはレイズを仲間にしようと共闘を申し込んだのだ。

“敵”とならないために。

 

「・・・・何のことかしら、私たちはそんな組織に属していないわよ」

 

顔の強張りに気が付いたのか笑顔を張り付けたロビンはレイズを正面に見据えて”ボス”との約定のために嘘をつくことを選んだ。

 

「バロックワークス、徹底した秘密主義が採られており、社員たちは社長の正体はもちろん、仲間の素性も一切知らされず、互いをコードネームで呼び合う「秘密犯罪会社」。

 基本的に男女ペアで行動し、男性は数字が若いほどに実力者とされ、パートナーの女性は曜日や祝日、記念日などからコードネームがつけられる」

 

レイズは顔を下を向いた姿勢のまま語られていく組織の全容に背筋に冷たい何かが走るのを覚えるロビン。

徐にあげられたレイズの顔を見たとき、ロビンは久しぶりに困惑を覚えた。

目の前の青年はなぜかとても悲しそうだったのだ。

その悲しみが何から来ているのかロビンには解らなかった。

今まで自分の存在を排除され続ける人生だった彼女に向けられてきた感情は憎悪、嫌悪といった感情が大半だった。

なのに目の前の青年はなぜか悲しみの感情を自分に向けてきている。

理解が追い付かないロビンにレイズは彼女にしか聞こえないであろう声で告げる。

 

「信じろとは言わない、あなたの半生は人間の汚いモノで塗りつぶされてしまっているから。打算でもいい、オレを信じなくてもいい。利用してくれてもかまわない」

 

そうポツポツとつぶやかれる言葉が不思議とロビンの心に沁み込んでいった。

 

「だけど、忘れないでほしい。あなたを愛してくれる人は必ずいるから」

 

そう呟くとレイズはロビンの後ろにいる仲間に目をやる。

その奥にただ無言を貫き、真剣な眼差しでこちらを見てくるエースを見て心を決めるようにレイズはロビンに語る。

 

「オレは死ぬ間際にただ一人の存在が”愛してくれて、ありがとう”なんて言わせる世界を嫌悪する、オレは”世界のための小さな犠牲”を軽蔑する」

 

レイズの言葉に宿る熱が徐々に上がっていくのを船上誰もが気が付いていた。

 

「だから、心を殺してまでやり遂げようとするサッちゃんもあなたも尊敬している。その踏み台程度でいいから」

 

レイズの頬に涙が伝うのをロビンは見とれてしまっていた。

 

「少しの間だけ信じてくれ、オレじゃなくてエースたちを」

 

 

気が付くと空は夕暮れに染まっていた。

 

「・・・・わかったわ、あなたはやっぱり信じられないけど」

 

ロビンは後に語っている。

 

「あなた”達”は信じてあげる」

 

あの時、久しぶりに心から笑顔になれたと。




年末はいいなぁ~。
死に物狂いで終わらせたけど。


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その果てに掴み取れ

彼王日間ランキング61位
友人に自慢したら今までもちょくちょくランキング入りしていたという驚愕の事実が発覚。
私の作品にこのような評価を頂き誠にありがとうございます。



「よっしゃ、行くぜ野郎共」

 

紆余曲折はあったが、チームを組むこととなり参加を申し込みに全員で出会った酒場へと歩いていた。

先頭を歩くエースは満面の笑顔を浮かべて人混みの中を歩いていた。 

 

「ねぇ、エース分かりやす過ぎない」

 

最後尾を“歩きにくそうに”レイズに捕まりながら歩くカリーナ。

 

「仕方ないよ、一時とはいえ“海賊”を名乗れるんだから。あとカリーナはいい加減に離れてくれると嬉しいんだけどなぁ」

()()()()のせいでまだ何か挟まっている感じがするの」

「海楼石の手錠使って拘束した上で跨がってきたのはどっちだ」

 

最後尾で話すそんなレイズとカリーナを尻目にその前を歩くのはサガとロビン。

 

「あら、(レイズ)食べられちゃったの」

「あぁ、昨晩にな。カリーナの我慢が限界を越えたらしい」

 

笑顔で核心をついてくるロビンと頭を押さえながらその横を歩くサガ。

 

「しかし、サンディよ」

「何かしら?」

「オレから見たら、お前の笑顔も大分凄味が出ているがな」 

 

サガの指摘を受けて思わず自分の両頬を押さえるようにムニムニと揉んでいるロビン。

同盟を組んだあの日、船に乗り移り生活を共にしていた。

昨晩は、面白半分でカリーナを焚き付けたロビンだったが何故か今彼女の心を占める感情は嫉妬に近い感情だった。

知略班として組むことになったレイズとはあらゆる手段を考察しており、一緒にいる時間が増えていた。

反面、時間が取られたエースとカリーナは誰が見ても不満な顔をしており、二人が一緒に買い物に出掛けた時などカリーナは“あの時”の笑顔で周囲を威嚇していた。

それを面白がったロビンはカリーナを焚き付けて、ナニも出来ずに撃沈するだろうと悪い笑顔を浮かべていた。

しかし、翌朝現れた二人はあからさまに事後であった。

その二人を見たロビンはその時から笑顔に凄味があふれでてきていた。

なお、その事についてロビンは認識していなかったようである。

 

「んがっはははは、サンディちゃんたら“人らしく”なってきたじゃな~い」

「あんた、それも狙いだったのかい」

 

エースを前に後二組の会話を聞きながらベンサムとシュライヤは歩いていた。

エースの保護者(レイズ)が手一杯だからだろうか、先頭を行くエースのお守りをかって出てくれたのてある。 

 

「んふ、レイちゃんたら無自覚なんでしょうけど人の心の内側に入り込むのが上手だからねい。サンディちゃんったら最近怖い顔ばっかしてるんだから」

「・・・本当に偶然か、あいつ(レイズ)との再会は」

「もちこーす。あちしもそこはびっくらしてるのよう」

 

戦闘訓練や買い出し、夜番と一緒になって以降なにかとバディを組んで行動することが多かったベンサムとシュライヤ。

互いに腹に抱えた”何か”を悟らせないように行動しているが、それでも一応の信頼関係を結んでいるようであった。

レイズを通して知り合った二人ではあるが互いに成し遂げたい何かのために邁進する姿勢は共感を覚えたのだろう。

 

「お、飯屋だ寄ってこうぜ」

「「「「「「寄らない、さっさと行く」」」」」」

 

そんな”雰囲気”を感じたエースはいつも以上に自由に振舞い裏通りを歩いていた。

エースは今の雰囲気が大変気に入っていた。

自分が憧れた海賊という名の自由の象徴のように互いが好きなことをやりながらそれでも一つの目標に向かっている雰囲気が。

ただし、一番後ろで相棒と戯れるカリーナに対しては兄を取られた弟のような変な嫉妬を覚えているが。

 

 

酒場につくとロビンを先頭にカウンターへと歩く一同。

 

「こんにちわ」

「おう、何かようか」 

 

ロビンの挨拶にぶっきらぼうに返す店主。

そんな様子を気にすることなくロビンは胸元から3枚の古い貨幣を取り出した。

 

「【ジャック・ローズをお願い】」

 

ロビンの言葉と貨幣を確認した店主は拭いていたグラスを棚に戻すと、改めてロビンに振り返る。

 

「【アップル・ジャックの上物が入ったとこだ】」

「あら良かった。そうしたら【”7人分”よくかき混ぜてショットグラスに注いでちょうだい】」

「・・・・・全員こっちに来い」

 

店主に顎で示された先には一つのドアがあった。

真っ暗な部屋にエースたち全員が中に入ると店主は徐に明かりをつけた。

そこには所狭しと酒棚があるが明らかに一番奥に場違いな扉があった。

 

「ここから先はこのランプを持って行きな」

 

そう言うと店主は壁に架けられていたランプに火をつけエースへと手渡した。

 

「おう、あんがとな」

 

満面の笑みでランプを受け取るエースを見て店主の男は驚いた顔をし、何かを考えるようなそぶりを見せた。

 

「・・・・おい、あんちゃん」

「あん、なんだ」

 

扉を開けようとするエースに対して店主はある言葉を投げかけた。

 

「何がそんなに楽しいんだ?」 

 

それは何か答えを求めているような声色だった。

 

「こいつら仲間と冒険が出来る、それが嬉しくて楽しいのさ」

 

これから起こることを想像しないわけでもないが、エースは満面の笑みを店主へと向けた。

 

そんなエースを見て、店主の男は少し笑みを浮かべるとどこから取り出したのか煙草を銜え火をつけた。

 

「こいつは独り言だが、オレは”このレース”の敗北者だ。この島にはそういった輩で溢れていやがる。今回のレース裏でガスパーデが何か企んでいるらしい、何もかも疑ってかかるくらいの覚悟がなきゃ生き残れないと思いな。・・・・・ここからは一本道だからよほどの馬鹿じゃなければ迷うことはねえぞ」

「おう、解った」

 

そうエースは満面の笑みで答えたのだった。

 

 

店主の言葉通り、一本道の洞窟を元気よく歩くエース。

腕を振りすぎてランプが飛んでいかないか心配になってしまうレベルだった。

 

「レイズ、どうだ」

 

シュライヤの声にエースも歩みを止め、最後尾を歩くレイズに視線を向ける。

 

「風を流し続けて探索してるけど問題ないよ」

「そうか、てかその両腕どうにかしろ」

 

レイズの風の探知網の精度を知る全員が安堵した中、シュライヤのツッコミがレイズへと突き刺さる。

そこには右腕をカリーナが、左腕をロビンに抱きつかれながら彼女たちの負担にならないようゆっくり歩くレイズがいた。

 

「何よシュライヤ。文句あるの」

「あら、ご免なさい。こんなに歩きづらいとは思わなかったの」

 

カリーナとロビンは悪びれもせず、かといって離れる素振りをみせるどころか、より確りとレイズの腕にしがみつくように腕の力を強めていた。

 

「落ち着きなさいなシューちゃん」

「騒がれるよりましだろ」

 

肩にベンサムとサガが労るように優しく手を置かれたシュライヤ。

 

「いや、羨ましいわけじゃないからな」

 

その慈愛の目線に込められた言葉を読み取ってしまい、大慌てで否定するが逆に怪しさが増すだけだった。

 

「おーーーーい、出口あったぞ」

 

気が付くと遠くの方でエースがランプを振っている姿があった。

その姿に毒気を抜かれたのか、全員が歩く速度を早めたのだった。

 

 

「全員いるな、それじゃ開けるぞ」

 

エースはそう言うと簡素な造りのドアを開け放った。

その後には目を疑うような光景が広がっていた。

そこには広大な縦穴が存在しており、島民以上の数の海賊達がひしめき合っていたのである。

 

「うはーーーー、コレ全員が参加者か」

 

エースが目を輝かせながら周囲を見渡していると最後尾にいたレイズが話しかけてきた。

 

「はい、それじゃオレとサンディは受付してくるから皆は“大人しく”座ってご飯楽しんでてね、タダらしいから」

「アタシも行く」

「あらあら、そうしたらこのまま行きましょう」

 

カリーナの一言に反応したロビンに連行されるように連れていかれたレイズ。

傍目には「両手に花」に見えるだろうが、レイズからしたら色々と複雑な状況なのであった。

 

「それじゃ、受付はレイズ達に任せて、オレ等はメシにしよう」

 

DEAD END RACE。

エース達の冒険が始まったのである。




ジャック・ローズはカクテルの名前です。
本文中の作り方は間違った作り方ですので興味がある方は調べてみてください。


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その果てにつかみ取れ/現れるT

区切りが良いので投稿。
相変わらずこんな感じですがガンバリマス。


シュライヤの体から立ち込めるどす黒く染まり濁った殺意。

その目はレイズが時折する硝子玉のようにただただ目の前の映像を景色として脳に映すだけだった。

時間は少し遡る。

 

夕御飯を誰よりも食べたはずのエースは席につくなりメニューの端から端まで注文し手当たり次第食べ始めていた。

 

「うお、このペペロンチーノ案外旨い」

「おいエース、このマルゲリータも中々いけるぞ」

「んがはははは、シューちゃんあちしのたこ焼き少し食べる?」

「お前らは本当によく食べるな、しかしこのピクルスつまみに良いな」

 

そんなエースにつられたかのようにシュライヤとベンサムも食事をし始め、その様子に呆れながら樽をジョッキ替わりに酒を飲むサガ。

 

「まぁ、」

「でもな」

「やっぱし」

「だな」

 

突如食べる手を止めた4人は何かに納得したように空になった皿にフォークを置く。

 

「「「「レイズ(レイちゃん)のメシ(ご飯)の方が旨い(わねぃ)!!!」」」」

 

何故か勝ち誇ったような顔をして周囲を見渡す4人だった。

 

「おいおい、嬉しいこと言ってくれるね」

 

4人の感想に答えるように返答が聞こえ、その声を待っていましたとばかりに満面の笑顔で振り向くエース。

 

「遅えぞレイズ」

 

そこには、湯気たつカップとソーサーを器用に両手で7つ持ち、未だにカリーナ(美少女)ロビン(美女)を侍らしているように見える状態でレイズたちがいたのであった。

 

「悪かった、途中で絡んでくるアホが多かったからな。淑女のエスコートに時間をかけたんだよ」

 

そう言うとエースの隣に座ろうとするレイズだったが、両腕の淑女により強制的に現状のままの位置関係で座らされていた。

 

「んで、どうだったのよう。早く教えなさいよぅ」

 

カリーナから紅茶を受け取ると優雅に一息つけレースの概要を聞くベンサム。

 

「落ち着いてMr.3、今話すから」

 

ロビンに窘められるような形になったが、レースの報告が始まった。

今回のDead End Race概要は通常通りの何でもありのハチャメチャレースで、最初にゴールの島についた船が優勝となる。

途中までの航海で妨害戦闘何でもあり、文字通り悪党による悪党のためのレースだった。

ゴールは酒と祭りの島「エントローリ」。

 

「って訳なんだけど、オレ等のターゲットを考えるとこの状態でなにもしてないとは考えづらいわけで」

「このエターナルポースも何かしらのトラップが仕掛けられていると考えているのよ」

「だから、帰ったらサンディとレイズそれにアタシも()()()も頭使うから出航準備ヨロシクね」

 

知略班に分けられていたロビンとレイズ。

そこにカリーナが加わることを本人の口から強く念を押される他4人。

カリーナの意図を汲み取ったのかその顔は苦笑いだった。

 

「おうおうおうおう、こんな場所でナニしてんだよオメエは」

 

レースの話もそこそこに周囲の参加者の確認をしているとあからさまに柄の悪い男たちがエース達の机に近づいてきた。

現状、無用な争いを起こさないようにしていた7人は無視を決め込んだ。

 

「こんな良い女テメエみてえな優男には勿体ないぜ」

 

男達にとって最大の不幸は彼らの存在だった。

 

「やっぱ、オレ等“ガスパーデ海賊艦隊”のメンツみちゃいなゃ」

 

先頭にいた男は気が付くと仲間を巻き込み蹴飛ばされていた。

 

「テメエ等」

 

レイズが視線を上げるとそこには、自分の対面に座っていた筈のシュライヤが蹴り抜いた形で椅子に立っていた。

 

「オレの前でその名前出してタダで済むと思うなよ」

 

その声と共に一団へと襲いかかるシュライヤ。

 

 

「少しは自重できんのかあいつは」

 

レイズが持ってきたコーヒーを飲みながら下の階へと場所を移したシュライヤ無双による喧騒をBGMにサガが呟いた一言はテーブルに残った4人も無意識に首を縦に振っていた。

 

「でゅーも、シューちゃんからしたら復讐の対象なんだから“あんな状態”になってもしょうがないんじゃなーい」

「でもね男姉(オネエ)様、一応レース開始まで手を出さないって取り決めしたんだから守らないと」

「カリーナの言う通りね。私達はあくまで協力関係なんだから決めたことは守って貰わないと」

「サンディが正しいとは言わないけど、作戦決めた時に念を押したはずなのにな」

 

 

「「「「「はぁ~~~~」」」」」

 

5人同時に溜め息をついた時、レイズはある違和感に気がついた。

徐に指差し確認でテーブルに着席している人数を数え、周囲を見渡し頭を捻るように奇妙な行動をしていた。

 

「ところでさ」

 

意を決したようにレイズが4人に話し掛けた。

それと同時に下の階がまた一段と煩くなってきた。

 

「エースは?」

 

突然だが、現在彼らのいる席はテラス席のようになっており、目の前をエレベーターのような滑車が上下して上層と下層のやり取りをしているようだった。

その滑車は帆船用の鎖でいったり来たりを行っていた。

レイズ達の目の前にはそんな鎖の一つがある。

 

「はん、来いや雑魚供が」

 

下から上がってきているであろう集団をこれでもかと煽りながら上がっていくシュライヤを見送った一同。

 

「おっしゃー、やったれシュライヤ」

 

少し遅れてシュライヤに声援を送りながら上がって行くエースを認識してしまった。

 

「「「「「なにを煽ってんだ、てかなにをやってんだあのバカ!!!」」」」」

 

滑車の頂上、キッチンを兼ねた小型船の船体に上ったシュライヤとエースは端にまるで相手を歯牙にもかけていないようにふざけた態度で座っていた。

 

「テメエら調子に乗りやがってもう逃げ場はねえぞ」

 

どう見ても悪人面の小物感丸出しの男が威勢良く吠えている。

そんな様子を意に返すことなくシュライヤとエースは雑談を始めていた。

 

「あぁ~、やっちまった。絶対にレイズに怒られるわ」

「なっはははは、シュライヤは馬鹿だな」

「いや、煽ってたお前も同罪だからなエース」

 

一切の緊張感も追い詰められた恐怖すら感じていないように陽気に喋る二人を見て海賊たちはついに我慢の限界に達した。

 

「行くぞ、お前ら」

 

先頭集団が駆け出したその時、エースとシュライヤは悪戯が成功したような悪い顔をしていた。

 

 

「んの馬鹿どもは」

 

突如レイズが額を抑えるように立ち上がるとロビンとカリーナを立たせて後ろへと移動し始めた。

 

「どぅーしたのよぅ、レイちゃん?」

 

その奇妙な行動に目をぱちくりしているベンサム。

 

「サッちゃん、サガ”ここ”まで来ないと濡れるよ」

 

レイズがそう言った瞬間上から船が落ちてきたのであった。

 

 

「いいかエース、あいつらをバカにするためにこの船を落とそう」

「あん、どういうことだ?」

 

海賊たちが追いつく前、船体にたどり着いたシュライヤはエースに提案していた。

 

「この船をつるしているロープ、いくら頑丈と言ってもあんな人数が乗ったら落ちちまうだろうな」

「そうだな」

「だからよ”落とす”手伝いをしてやろうぜ」

 

そう言うと懐から机に置かれていたナイフを取り出しロープに投げつけ切れ目を入れていくシュライヤ。

 

「これで船が落ちても”あいつら”が原因になるし何よりバカにできる」

「いいなそれ、のった」

 

エースも自分たちが落ちないようにロープを準備し、下っ端共が上がってくるのを待っていたのであった。

 

 

「あっはははははは、バーカバーカ」

「本当に間抜けじゃねえか」

 

一番上で大声で相手を小馬鹿にしているエースとシュライヤ。

ひとしきり馬鹿にし終えると近場のテラスへと飛び降りたのだった。

 

「おい手前ら、ふざけんじゃねえぞ」

「「んお」」

 

その時、運良く助かった追い回してきていた海賊の一人がギリギリ助かったのかエースたちにピストルを構えていた。

 

「なぁ、もう諦めろよ」

「そうそう、お前たちじゃオレ達に敵わねえからさ」

 

エースとシュライヤは息切れすらしておらず、かたや下っ端海賊の男は息も絶え絶え疲労困憊という状態だった。

 

「ふっざけんなよ、オレ達にも意地ってもんがな」

 

男が最後まで言葉を発しようとした瞬間、エースとシュライヤの間を縫うように槍のような何かが通りすぎた。

次の瞬間、ピストルを構えていた男の体には穴が開いていた。

 

「騒々しいぞ、手前ら」

 

その声とともにテラスの奥、暗闇から男が二人現れた。

そして、一人の男を見た瞬間、シュライヤは自分でも抑えきれない殺意に押しつぶされかけた。

 

「将軍、ガスパーデ」

 

暗闇の奥から現れた今回の標的にして、シュライヤの殺したい相手は気怠そうに現れたのだった。




今年の目標
今年中にビビ編に入りたい。


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その果てにつかみ取れ/Rであること

皆さん、体には本当に気を付けましょう


最上階のテラスは見るも無残な状態となっていた。

ガスパーデとにらみ合うエース。

ガスパーデの腹心ニードルスの鉄爪と刀で競り合っているサガ。

その光景を欄干に背を預けて眺めているレイズとベンサム。

レイズの傍にある階段から救急箱と濡れタオルを持って駆け上がってくるロビンとカリーナ。

そして、無残にもやられ欄干に吹き飛ばされ傷だらけのシュライヤ。

朦朧とする意識の中、シュライヤは先ほどまでのやり取りを思い出していた。

 

 

「お前がガスパーデか」

 

湯気のようにシュライヤの体から憎悪が立ち上っているようにエースは見えていた。

シュライヤの事情は手を組むと決めた日に聞いていたが、実際目の前でその姿を見るとシュライヤに恐怖だけしかなかった。

一緒に行動するようになり、一緒に馬鹿なことしてレイズに叱られる。

ご飯時はおかずの取り合いをしてカリーナに殴られる。

サガとの戦闘訓練でボコボコにされ、その間抜け面を互いに見て笑い合う。

そんなイメージとはかけ離れた友の姿にエースは恐怖していた。

 

「あぁ、だったら何だってんだクソ餓鬼」

 

その言葉に歪な笑みを強めるシュライヤ。

 

「今ここで死ね

 

そう叫ぶと手近に落ちていたサーベルを拾い上げ、ガスパーデへと投げつけ、そのまま加速してガスパーデへと迫るシュライヤ。

 

おい、待てシュライヤ

 

危険を察知したエースに呼び止められるも、今のシュライヤには効果はなかった。

目の前に殺すと決めた復讐の対象がいる。

いつもなら、冷静になれと言う自分がいる。

しかし、この時はシュライヤの思考の全てがガスパーデへと向いてしまっていた。

だからこそ、気づけなかった。

 

「邪魔だ」

「ガッ」

 

横合いから伸びてきたニードルスの蹴りを。

 

 

シュライヤの最高速に達していたスピードに合わせるように放たれた蹴りは腹部にめり込むように極り、その場へとシュライヤを押し留めた。

全ての衝撃が一点に集中してしまったがゆえに、シュライヤの受けたダメージは想像を絶するものとなっていた。

しかし、シュライヤは倒れこむことはなかった。

それはもしかしたら、シュライヤがこれまで積み重ねてきたモノがそうさせたのかもしれない。

だが、現実はひどく残酷であった。

 

「邪魔だと言っただろうが」

 

ニードルスは追撃にとシュライヤへ蹴りを放つと、いともたやすくシュライヤは欄干へ叩きつけられた。

ニードルスが鉄爪を装備し走り出し、意識を朦朧としたシュライヤへと襲い掛かる。

朦朧とする意識の中、シュライヤはその攻撃を避けようとするが体が一切動いてくれなかった。

シュライヤが死を予感した次の瞬間、金属が打ち合う甲高い音が彼の耳に届いたのだった。

 

「邪魔をするな”剣士”」

「邪魔させてもらうぜ”刺青野郎”」

 

左腕で逆手に抜刀した刀で鉄爪を受け止め、尚且つニードルスのパワーと拮抗しているサガがそこにはいた。

 

 

下から登ってきてその惨事を目撃したロビンはカリーナを伴い治療道具を探しに戻った。

ベンサムとレイズは欄干にもたれ掛かるシュライヤの両脇に陣取り、事の成り行きを見守っているような体勢でいる。

しかし、見る者が見ればいかなる攻撃にも対処できるように迎撃態勢を整えていた。

エースはそんな光景を見ながら久方ぶりに頭に血が上っていく感覚を覚えた。

ゆったりとした足取りでガスパーデへと歩むエース。

その姿を不敵に、傲慢な笑顔を浮かべながら酒を飲み干すガスパーデ。

エースとガスパーデ、二人の間合いがついに重なった。

 

「ふん、雑魚の集まりかと思ったら中々に骨がありそうな奴らじゃないか。おいニードルス手を引け」

「・・・・・・・・・・・フン」

 

ガスパーデの言葉に従うように得物をおさめ目にもとまらぬ速さでガスパーデの右隣に現れるニードルス。

ニードルスが戻ったのを確認すると笑顔を浮かべたまま、エースに話しかけ始めるガスパーデ。

 

「お前ら、面白え連中だな。今のバカ騒ぎでだいぶ部下が減っちまったな」

 

そう言うと値踏みするようにエースたちを見回し始める。

次の瞬間、驚くべき言葉が彼の口から放たれた。

 

「お前ら、オレの部下になれ」

 

静寂が支配する空間。

その静寂を破ったのはどこからか聞こえてきた笑い声だった。

 

「ハハハハハハハ、エースどうする気だい?」

 

それは喜劇でも見ているような笑みを浮かべたレイズだった。

そして、言外に決定権をエースに委ねていると言っている物言いだった。

 

断る!!!!!

 

それは、そのフロアー以外の存在にも響くような大声だった。

 

「こいつからはオレの嫌いなクズの匂いがする」

 

エースのその一言を合図にガスパーデ側から複数の殺気が放たれる。

目を凝らすと暗闇に潜むようにニードルスと同等と思える実力者がこちらを見ていた。

 

「おいおい、やめねえかお前ら」

 

気だるげに手を上げ()()を制するガスパーデ。

 

「楽しみはレースまで取っておこうぜ。じゃあな新人共(ルーキーズ)

 

シュライヤが覚えていたのはそこまでだった。




そう言って風邪をひいているアホ作者


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その果てにつかみ取れ/Lがあるということ

今行っている会社の周辺でここ最近マスクとアルコールティッシュを見なくなりました。
一時の衝動買いや転売目的の方は自重してください。


「結局、目覚まさなかったなシュライヤ」

 

甲板で仁王立ちをしながらレース開始のファンファーレを待っていた。

あの後、簡易的な治療を行われたシュライヤはジャック・ポット号の私室に運び込まれ、ロビンとレイズによって治療が行われた。

数日が経ち、今なおベッドで死んだように眠るシュライヤ。

 

「体は回復してるはずだよ。あとは心の問題なんだよ」

 

その後ろでデッキチェアに座りモクテル(ノンアルコールカクテル)を飲むレイズ。

つい先ほどまでシュライヤの容態を診ていたが、医者でない彼はすでに手は尽くしたと休んでいる。

その隣ではレイズと共に現在までシュライヤの看護をしていたロビンとカリーナがレイズの肩を枕に寝ている。

 

「シューちゃんにとってガスパーデに勝てなかったことは起きるのを拒否るぐらいにショックだったのねん」

「目的がはっきりしていただけに”それ”が折れた衝撃は相当だったんだろうな」

 

出航の準備を終え、レイズの入れたお茶で休憩しているサガとベンサム。

中型船に分類されるジャック・ポット号だが、最低人数で航海ができるように作られている。

3人いれば楽に航海できるように設計された船は今、出航の合図を待っていた。

 

「いいんだ、オレはシュライヤが起きるのまってるから」

 

そう仁王立ちのまま前だけ見据えるエース。

 

そんなエースの背をレイズは眩し気に見ていた。

船全体に流した風で船底の倉庫に潜む存在を感知していたが、ぐっすりと眠るその存在に対して起きるまで放置をすると決めた。

そして、風を操り熟睡するロビンとカリーナを横にしブランケットを掛けなおすと徐に立ち上がった。

 

「シュライヤの様子見てくる、始まったら後は頼むぜ”船長(エース)”」

 

そう一言つけたすと船内へと歩いて行った。

レイズが船内へと消えてから一向に仁王立ちをやめないエース。

 

「いつまでそうしてるつもりだエース、さっさとこっち来い」

 

サガに呼ばれ後ろを振り返ったエース。

 

「ちょっちちょっちエースちゃん。なんなのようその顔」

 

振り返ったエースの顔はとてつもなくだらけ切った、見るに堪えない顔をしていた。

 

「デヘヘヘヘヘヘヘヘ、オレ”船長”だって」

 

認められたいと願っていた男に、この時だけとはいえ”船長”と呼ばれたことに嬉しさがあふれ出し、顔だけでなく全身がとろけ切っていた。

 

「ヴァカなのエースちゃん」

「バカだなエースは」

 

そんな感想を受けたエースはそれでも顔のニヤケを正せそうになかった。

 

「・・・・・・で準備は出来てるの」

 

寝起きにレイズがいないことに不機嫌を隠そうとしないカリーナ。

 

「大丈夫そうよカリーナ。あとは開幕の合図を待つだけね」

 

顔は笑顔だが雰囲気は冷たいロビン。

 

「さあ、レースを楽しもうぜ」

 

そこには、無邪気に笑うエースがいた。

 

 

レイズは船底の倉庫に来ていた。

 

「お、“これ”だな」

 

目の前に子供一人が隠れられそうな箱があった。

箱を開けると中には汚れた子供が眠っていた。

 

「・・・はぁ、起きろガキ」

 

そう言うと子供が入っている箱を転がした。

その勢いもあってか、盛大に転がりながら中の子供は転がり出てきた。

 

「痛えな、何しやがる」

 

頭をぶつけたのか痛そうに押さえながら立ち上がる子供。

その子供に冷やかな視線を向けながら床に落ちていたナイフを拾うと手で遊び始めるレイズ。

 

「はい、良いですか。君は今海賊船(に偽装しているけど)に武器を所持して密航している訳なんですが、そんな君はオレに()()されても文句が言えない、状況おわかり?」

 

そういって意味もなく笑顔を子供に向けるレイズ。

それは決して子供に向けてはいけない大人が放つ妖艶さと絶対的捕食者の側面を併せ持った笑みだった。

真っ正面からその顔を見てしまった子供は処理が追い付かず気絶した。

 

「・・・クフフフフ、シュライヤ早く起きろよ。()()()()が向こうから来てくれたぞ」

 

その呟きは船底の静かさに消えていった。

 

 

「おーおーおーおーーー。なんかすごいことになってるけど皆大丈夫?」

 

船底の倉庫から密航した子供を空気圧で作り上げた風で触れないようにして持ち上げながら、両手に飲み物と軽食を乗せたお盆を持って甲板に現れたレイズが見たのは死屍累々に甲板に寝っ転がるエースたちだった。

 

「あ、あーーーーーーーーーーーーレイズ、おま、お前何してたんだよ

 

レイズを、というかその両手にある軽食と飲み物を見て多少元気になったエースがレイズに詰め寄る。

その後ろをいつもより回転速度が遅いベンサムが、その後ろを某〇子さんのように這いずりながら近寄るサガ。

ロビンとカリーナはその場で座り込んで動く気配すらなかった。

 

「ワリィ、ワリィ。とりあえず食べれるなら食べて飲んで休んでよ。ここからはオレの能力で船進ませるから」

 

そう言うと甲板に折り畳み机を広げ持ってきた軽食(ソフトボールほどの大きさのおにぎり50個)を置くとロビンとカリーナのもとに近寄る。

その後ろではエースが両手におにぎりを持って自分たちがいかに大変な思いをしていたのかを熱弁している。

 

「二人は先にお風呂かな?もしよかったらこの子も一緒に入れてあげてよ」

 

そう言うと風で浮かせていた未だ気絶中の子供を二人の間に降ろす。

 

「別にいいけど、この子は誰よレイズ」

 

ワタシツカレテマス、カマッテクダサイイタワッテクダサイ。

そんな心の声が聞こえてきそうなカリーナの声に可笑しそうにクスリと笑いながら笑顔で爆弾を落とすレイズ。

 

「密航者」

 

レイズの発言から数秒甲板では一切の音が消えた。

 

「「「「密航者!?」」」」

「あら、大胆な子ね」

 

ロビン以外の4人は驚きのあまり疲れを忘れて叫んでいる。

マイペースなロビンがレイズには可笑しく見えた。

 

・・・・・・・・・・にいちゃん、じいちゃん

 

子供の声を聴けたのはレイズだけであった。

 




蛞蝓よりも話の進みが遅いですが、これからもよろしくお願いします。


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その果てにつかみ取れ/だから、笑うんだ

一人の子供が必死に手を伸ばしていた。

 

「・・・・、・・・・・ん」

 

その子供は川に流されている女の子を助けようと必死に手を伸ばしていた。

 

「ア・・、・・・」

 

しかし、虚しくもその手が少女の手を掴むことは無かった。

少年の目には再び少女が流されていく場面が写しだされた。

 

「たす・・、おに・・ん」

 

結果が分かっているはずなのに、少年は再び手を伸ふばす。

 

「アデ・、・デ・」

 

また、その手が少女の手を掴むことは無かった。

再び少女が流されていく場面が写しだされた。

 

「たすけて、おにいちゃん」

 

今度はしっかりと自分に助けを呼ぶ声が聞こえた。

 

「アデル、アデル」

 

そして、少女の手を掴むことができ、安堵の笑みを浮かべる少年。

次の瞬間、少女はものすごい力で少年の腕を掴むと川へと少年を引きずり込んでしまった。

もがき苦しむ少年を放そうとせず、寧ろ愉快そうに笑みを浮かべる少女。

意識がもうろうとする中、少年が少女へ目を向ける。

そこには、少女の面影もなくヘドロの化け物のような存在が自分の腕を掴み川へ引きずり込もうとしていた。

 

「オニイチャン、イッショニシノウ」

 

そう、ヘドロの化け物が自身の“妹”の声で語りかけてきたのだった。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

レースが始まり、密航者である子供が気絶している中シュライヤは悪夢と共に目覚めたのだった。

 

「お、起きたかシュライヤ。ヒデェ顔だな」

 

そして、シュライヤが一番最初に見たのはアホみたいに陽気に笑うエースの顔だった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

密航者だった子供と共にお風呂をすまして3人で現れたロビンとカリーナ。

替えの服がなかったのか、カリーナの一番丈の長いキャミソールを着せられていた子供。

 

「あ、やっぱり女の子だったんだ」

 

夕食の調理中のレイズのそんな能天気な声を聴いて、無表情のまま詰め寄るロビンとカリーナ。

恐らく子供の証言でレイズが見せた笑顔についてか、裸も見ていないのに何でわかったのかを問い詰めているのだろう。

 

 

「それで、あなたデューして密航なんて危なっかしい真似したのよぅ」

 

対面座る形になったベンサムが聞き取りを始めた。

恐らく風呂場で女性陣に色々されたのだろう、サガが持ってきたハチミツ入りのホットミルクを一口飲むとポツポツと語り始めた。

 

「オレ、ガスパーデの船で大工見習いやらされてたんだ。そこでオレを守ってくれてたじいちゃんが病気で、薬が必要で、だがら、だから目についたこの船に忍び込んだんだけど、どれが薬か解らなくて、匂いを嗅いでみたら寝ちゃった」

「船底の倉庫ってレイズが時々なにか作ってる所か」

「海王類も一発でオネムしちゃう睡眠薬とか、唐辛子の辛さだけ抽出した液体とか置いてあるあそこねぃ」

「「よく、無事だったな」」

 

実は勝手に入って痛い目にあったことのある二人は、子供があんな危険な場所にいたことに寒気を覚えていた。

 

「扉に”入るな危険”って書いてあるのに無断で入る奴が悪い」

 

そう言いながら両手にお盆を持ったレイズがキッチンから出て来た。

その後ろから少し大きめのお盆を持ったロビンとカリーナが現れた。

 

「とりあえず、一日目はお疲れ様。お腹にたまる物ってリクエストだったからグラタンにしたよ」

 

そう言うと少女の前に大きめのグラタンを置くレイズ。

サガとベンサムも各々に受け取る。

 

「オレはエースたちの様子見に行ってくるから先食べててな」

 

そう言って船内に降りる階段へと進むレイズ。

 

「あ、あとさぁ、少女よ」

 

何かを思い出したかのように立ち止まり顔だけ後ろへ向けるレイズは最近伸ばし始めた髪も相まって若干ホラーだった。

 

「素人判断で薬を持ってくのは危険だよ、後でちゃんと渡してあげるから大人しく待ってなさい」

 

言うことだけ言うと歩いて行ってしまったレイズの背中を少女はジッと見ていた。

しかし、空腹には敵わなかったようで恐る恐るであったがグラタンに口をつけるのであった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・・・オレを笑いに来たのならいいタイミングだな、エース」

 

シュライヤが起きてから数分、一切会話のなかった室内で最初に言葉を発したのはそのシュライヤだった。

 

「オレは、あのクズを殺すためだけに生きてきた。後ろ暗いことも色々やらかしてきた。なのにこのザマさ」

 

そう言うと自分をあざ笑うかのように乾いた笑いを漏らすシュライヤ。

そんなシュライヤに対して何か言うわけでもなく、かといって出ていくわけでもなくエースはイスに座りながらそんなシュライヤを見続けた。

 

「結局口だけの野郎だったんだよオレは。だがら、アデルも守れなかったんだ」

 

シュライヤの独白が続くなか、徐に立ち上がりストレッチを始めたエース。

 

「笑えるだろ。なぁ、嗤えよエース」

 

入念にストレッチをするエースにシュライヤは気がつく様子を見せない。

そして、エースは最後に深呼吸をし始めた。

 

 

「・・・はっ、オレにはそんな価値もな「うるさい、女々しい」ゴハゥ!!」

 

シュライヤが続けてしゃべろうとした矢先、エースの助走をつけたドロップキックが見事に決まった。

 

「さっきから聞いてればウダウダグチグチと、まぁー女々しい」

 

つい先程まで起きる気配のなかった重症者にドロップキックをかましたとは思えないイライラした顔でシュライヤへと言葉を投げつけるエース。

最後の方はベンサム化した言い方をしているためか、育ての親であるダダンにそっくりであった。

 

「何ですかぁ~?一回負けたらそこで終わりなんですかぁ~?そもそも、作戦もなく突っ込んでいって勝てるとか本気で思ってたんですかぁ?どんだけ自信過剰なんだよお前は 」

 

ドロップキックのダメージから幾分か回復したのかヨロヨロとベッドから立ち上がるシュライヤ。

 

「エース、テメェ何しやがる」

 

怒りで全身に力が漲ったのかエースを睨み付け怒声をあげるシュライヤ。

 

「おやおや、今度は逆ギレですか~?そんなんだから負けんだよ~」

 

負けじと睨み返し、さらにシュライヤを煽るエース。

互いにてが届く位置まで歩み寄る。

方や完全にバカにした顔でおちょくるエース。

方や怒り心頭で痛みが消え去ったシュライヤ。

 

「んだよ、怪我人は大人しく寝てたらいいんじゃねえのぉ?」

 

とうとう耳までかきはじめた完全にバカにした顔のエース。

 

「テメェ、フザケンナ

 

その声と共に放たれたシュライヤの右ストレートが喧嘩の合図となった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ドタバタと喧嘩の音がするドアの前で笑顔になっているレイズ。

食事が出来たのでエースと看護の交代に来たのだがその必要はなさそうだと満面の笑みになっている。

 

「あんら~、エースちゃんたち喧嘩?」

 

二人のケンカの音に気が付いてなのかダイニングで食事をしていた面々が全員シュライヤの部屋の前へと集まってきた。

そこには密航者の少女もいたが、彼女以外の全員が笑顔でいるのはシュライヤが起きたことを喜んでいるからだろう。

 

「起き抜けに、あの馬鹿どもは何をやっているんだ」

「サガの言うとおりね、ケンカする体力があるならこれから先の”戦闘”も大丈夫でしょ」

「あらあら、カリーナったら人使いが荒いんだから」

 

サガ、カリーナ、ロビンと三者三様の感想も信頼の証だろうか声は明るかった。

そんな時、ふと何かを思い出したかのようにレイズは少女へと視線を向けた。

 

「な、なんだよ」

 

突如注目され怪訝そうな顔をする少女。

そんな少女にレイズは”ある爆弾”を投げるタイミングを見計らっていた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

扉の外でそんな会話がなされているとも知らずにエースとシュライヤのケンカは子供の殴り合いのようになってきていた。

 

「さっきから聞いてりゃ、女々しい女々しいと誰も死なせたことのないお前に何がわかるんだエース」

 

シュライヤのその言葉にエースの顔から一切の感情が消えた。

短い間だったとはいえ、ほぼ毎日馬鹿をしてきたエースとシュライヤだったが、そんな彼でも初めて見る顔であった。

 

「オレには2人の兄弟がいる」

 

立ち止まり動かなくなったエースから突如身の上話が始まった。

 

「兄弟っていっても杯を交わした義兄弟なんだがな、弟は泣き虫でビビりで本当に心配ばっかかけやがる」

 

その声はシュライヤだけでなく扉の前にいる全員に聞こえていた。

 

「もう一人の兄弟は同い年でな、いつかこの自由な海に冒険にくり出すことをずっと夢見てたんだ」

 

そんなエースの独白はどこか悲しみを宿し、誰も声が出せない状況になっていた。

 

「でも、そいつは、いなくなっちまった」

 

そう言ってシュライヤと目線を合わせるエース、そこには怒りの焔が宿っていた。

 

「天竜人の船の前を”横切った”。それだけで、あいつは船事砲撃されたんだ」

「オレはその事実を知らされた後、オレの兄弟に攻撃した奴を殺してやろうとして家を飛び出そうとした」

「だけど、クソババアに止められて、弟を守ると誓った兄弟の置手紙に止められて、今こうして旅をしている」

 

エースの瞳に宿っていた焔は徐々に消えていき、今はなぜかスッキリとした色を宿していた。

 

「旅を始めてカリーナが仲間に加わった時にレイズにもこの話をしたんだ。そしたらあいつなんて言いやがったと思う」

「レイズが・・・か?」

 

いつの間にか座り込んだ二人。

少しの静寂が辺りを包む。

 

「『誰も亡骸を見ていていないのに何で勝手に殺してんだ』」

「・・・はい?本当にそう言ったのか」

 

扉の前でもカリーナ以外の面々がレイズを凝視していた。

 

「おう、『誰も亡骸を見ていていないのに何で勝手に殺してんだ。なんで生きてるって信じてやれないんだ』だってさ」

 

普通であれば妄言かバカの戯言と言われるようなその言葉。

しかし、エースはなぜかスッキリとした笑顔でいた。

 

「確かに、誰も見てないんだ。そうしたらよ、兄弟のオレがあいつを、サボを信じてやれないで誰が信じてやるんだ。そう思った時、なんか体が軽くなった気がしたんだ」

 

それは、レイズが未来を知っているからこそ言えた言葉であった。

でも、レイズは本気で思っていた。

少なくとも、誰かを信じることが力になるエースを自分は信じているんだぞという意思表示も込めただったが。

 

「だから、オレは信じてるんだ。あいつはこの海のどこかで生きているんだって。今会えないのも理由があるんだってな」

 

エースの笑顔とその言葉にシュライヤはなぜか心が軽くなっていく感覚に襲われていた。

エースの顔からは「お前は違うのか」という声が聞こえてきそうであった。

体の痛みはもう引いていた。

心の痛みもなぜか軽くなっていた。

 

「ははは、バカじゃねえのお前ら」

 

シュライヤは久方ぶりに心から笑顔になれたような気がした。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ギュヒュ-------------、えぇ話や------------------」

 

ベンサムは扉の隙間から聞こえてきた会話に持っていたハンカチを噛みちぎれるほどに噛みしめ、床を涙で濡らしていた。

周りを見渡すとサガもそっぽを向いて自分の涙を隠そうとし、ロビンも感動を隠そうと必死になっていた。

そして、少女も感動の涙を流しているのを確認したレイズはワザと中に聞こえるように声を出した。

 

「そういえば、少女。君の名前って”アデル”っていうんだっけ?」

 

名を呼ばれた少女はポカンとした顔をしてレイズへと顔を向けた

 

「そうだけど、なんで知ってんの?」

 

心底不思議そうに見上げてくる少女アデル。

その顔があまりにもあっけにとられていた思わず吹き出しそうになったレイズ。

 

「それはね・・・・・・・・」

 

服に書いてあったよ、と嘘でもつこうとしたレイズを天罰が見舞った。

 

アデル

 

扉が勢いよく開きレイズを吹き飛ばしたのだった。

 

全身包帯まみれで顔も痣だらけのシュライヤがそこには立っていた。

そして、アデルと名乗った少女と顔を合わせた時、二人の頬に涙が流れていた。

 

「アデル・・なのか?」

「にいちゃん・・・なの?」

 

二人は恐る恐る近づく。

シュライヤがアデルに目線を合わせるように屈む。

アデルがシュライヤの顔を恐る恐る触る。

すると、二人の頬を涙が流れた。

そのまま、二人は互いを抱きしめ合うと無言で泣き続けた。

その光景を周囲は感動の涙を流しながら見守っていた。

吹き飛ばされて気絶しているレイズ以外は。



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その果てにつかみ取れ/開戦へと

「えー、というわけでとりあえずガスパーデをぶっ飛ばしに行くことになりましたが」

 

額を真っ赤にしたレイズが、無表情で話し始めたことで会議が始まった。

シュライヤとアデルの感動的再会の裏で皆に忘れ去られていたレイズはカリーナが思い出すまで気絶していた。

 

「そ、それは、解った、から、いい加減に、たすけ、助けてレイズ」

 

そして、なぜか苦しそうに話すエースは最後までレイズを指さして爆笑していた。

そんなエースは現在。

 

「トリアエズアトゴフンツイカネ」

ゴメン、マジで悪かったから、いい加減弛めてください

 

見事に極まったレイズによる逆エビ固めの餌食になっていた。

 

-”15”分後-

 

レイズの気が済むまでありとあらゆる関節技の犠牲になったエースは、疲労困憊の顔でソファーに寝そべっていた。

とりあえず言葉を上げる気力もないらしく、アデルが先ほどから突っついても反応できないでいる。

 

「さっきも言ったように、ガスパーデを追いかけてぶっ飛ばすことが決まったのですが、一つ問題があります」

 

そう言うとロビンに目配せをするレイズ。

レイズの視線を受け、自身の豊満な胸の間から配られたエターナルポースを”ムニュ”っと取り出すロビン。

なお、その時の反応は人それぞれだったと言っておこう。

 

「言われた通り調べさせてもらったけど、これはゴールへと向かうエターナルポースじゃなかったわ」

 

そう言うと島の名前が彫られていた彫金をナイフで取り外すロビン。

彫金は二重になっており、下からはエースたちにとって見知った名前が出て来たのであった。

 

「『海軍造船島』っておいおい、ガスパーデの野郎と頭目はグルだったのか」

「だとすると、ガスパーデの野郎まんまと逃げやがったということか」

 

エターナルポースをマジマジと見ながら苛立ちを隠そうとしないサガ。

ガスパーデを”ぶっ飛ばす”ことに目標を切り替えたシュライヤもその小悪党ぶりにあきれ返っていた。

 

「まあ、今頃頭目のお馬鹿さんも嵐の海域にでも送られてる頃ねぃ」

「人を信じないということは徹底しているみたいだな」

「イシシシシシシ、そ・こ・で、”これ”が役に立つのよ」

 

そういうと、カリーナもまた自身の年不相応に育った胸の谷間からある物を取り出して机の上にふわりと置いたのであった。

 

「「「「何、”これ”?????」」」」

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

 

ガスパーデ、ワシの孫はどこに行った

 

ガスパーデの海賊船「サラマンダー号」にて一人の老人が叫んでいた。

老人の名はビエラ、ガスパーデの「サラマンダー号」のボイラーマンをしている。他の海賊団員からは「モグラ」と呼ばれ蔑まれていた。

実は、溺れかけていたアデルを救い保護したが、ガスパーデの部下に捕まってしまった。

以降、ボイラー室で大人しく働いていたが、ここ最近体調を崩しベッドで横になっていた。

そして、気が付くとアデルが消えていたのであった。

 

「あぁ、ガキなんざ知らねえよ。どうせ海にでも落ちたんだろ。それよりも手前はボイラーの様子でも見てやがれ」

 

ガスパーデはそう言うとビエラを蹴り飛ばした。

この数年間、ガスパーデに一矢報いようと様々な準備をしてきた。

心の支えだった少女がいなくなった今、老人はボイラーの前で一人涙を流していた。

 

「しかし、ガスパーデ様の見事な策略には私敬服いたします、はい」

 

執事風の筋骨隆々の男性がガスパーデの隣に現れる。

 

「いきなり出てくるんじゃねえよ、”ミンチック”」

「申し訳ありません。しかし、今回のように定期的に雑魚を消し去り、収入を得られるのは大変ありがたく、はい」

 

ミンチック。

ガスパーデの側近であり、元海軍本部所属の海兵。

弱者を嬲ることに快感を覚える厄介な男でガスパーデとはその頃からの付き合いになる。

 

「しかし、”将軍閣下”。そろそろ、先の海に進んでもよい時期ではあ~りませんか?」

 

ミンチックの後ろからマカロニのような巻き毛をしたいかにも音楽家という井出達の男が現れガスパーデに声をかける。

 

「”ミルキサー”か。まぁ、手前の言う通りだな。戦力増強の目途も立ったことだし、そろそろ先に進むのもいいかもしれねえな」

「そうではあ~りませんか。ニードルス殿もそろそろ退屈でしょうし」

「そうなのか?おい、ニードルスどうなんだ」

 

壁によりかかり腕組みをしているニードルスは何の反応も示さなかった。

 

「相変わらず暗い男だぜ」

「まったくですね、はい」

「それでもよいではあ~りませんか。我々の貴重な戦力なのですから」

 

そう言うと三人は大声で笑い始めた。

天候が変わりやすいグランドライン、曇りである事から天気が崩れるのではと考え船の速度を上げるようにガスパーデが指示を出そうとしたその時だった。

 

「ガスパーデ将軍、後ろから船が追い付てきます」

「なに、そんな馬鹿なはずあるか」

「いえ、あれは参加リストにある船です。名前は」

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

 

「あった、あれがガスパーデの船だよ」

 

小雨が舞う天候の中、船首にてアデルが声を上げている。

彼女の指差す方向にサラマンダー号が目指できる距離までエースたちは近付いていた。

 

「しかし、便利だなぁ、その”紙”」

「”ビブルカード”っていうんだよ、エースの分も作ってあるから」

「イシシシシ、レイズの手際の良さに脱帽ね。こうなる事見越してあの時気絶していたガスパーデの部下の爪切っておいたなんてね」

「まったくだぜ。それをカリーナにお使いさせて作りに行かせるなんてあの短時間で良く考え付いたな」

「シュライヤよ、レイズは策士だ。”愚鈍な馬鹿(ガスパーデ)”とは違うんだよ」

「あらあら、サガったら案外毒舌ね」

「そんなことどうでも良いのよぅ。あちしは早く戦いたくてウズウズしてきたわよぅ」

 

そんなアデルの後ろに横一列に並ぶ男女(とオカマ)。

 

「さてと、レイズ」

「“道”は造ってやる。だから」

 

レイズは瞳を閉じ、穏やかな笑みを浮かべた。

 

「存分に暴れてこい」

「「「「「「おう!!」」」」」」

 

仲間の気合いの入った声を満足そうに聞くと、レイズは一歩前へと踏み出す。

両腕を鳥が飛び立つかのように広げ、サラマンダー号へと視線を向ける。

 

凪の架け橋(エアリアル・ロード)

 

その声と共に、レイズの目の前に変化が現れた。

周囲の大気が徐々に形となっていく。

それは、アーチとなりものすごい速さでサラマンダー号へとたどり着き、風の道となった。

 

「さぁ、行ってこい」

 

そんなレイズの声に後押しされて皆が走り出した。

 

 

「(大気が更に不安定になってきてやがる。何事もなければいいけど)」

 

レイズの前方には嵐を予見させる積乱雲が渦巻いていた。

それは、これからの戦いを象徴するかのようにレイズは思えたのだった。



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その果てにつかみ取れ/心に刀を

ガスパーデの船にたどり着いたエースたちは示し合わせていたかのように全員がバラバラになって走り出した。

全員の実力を顧みて、幹部以下の相手“程度”なら戦う必要がないと判断したレイズによる速攻作戦にうってでたのであった。

そうは言っても、どこからともなく現れるガスパーデ配下の海賊たち。しかし、レイズの目論み通り障害になることもなく全員が無事に駆け抜けていった。

 

 

ーデッキ中央ー

 

 

其処には、刀を腰におさめ油断なく前方を見据えるサガがいた。

船内を移動していたはずなのに気が付いたらデッキ中央にいた彼は薄暗い船首の方から放たれる殺気を感じ取り臨戦態勢を整えていた。

 

「(この気配、感じたことがある)」

 

サガの意識がほんの少しだけズレた次の瞬間、暗がりから大型の獣を思わせる殺気が放たれた。

殺気に反応し、刀を眼前へと構えるとそこに交差するように鉄爪が鋭い音を立てながら現れる。

 

”ガスパーデ海賊艦隊・戦闘隊長 鉤爪のニードルス” V.S. ”賞金稼ぎ 銀獣のサガ”

 

二人の再戦が始まりを告げた。

 

 

雨が強まる中、互いに間合いを意識しながら相手の出方を窺うサガとニードルス。

時折、その俊足でサガに対して揺さぶりをかけるニードルスだがサガは自身に向けられる攻撃のみを的確に必要最小限の動きで避けていく。

一方でサガも自身の間合いに立ち入ったニードルスを撃退すべく刀を振るうが、ニードルスの俊足の前にダメージを与えきれずにいた。

そうして再び相手を自身の間合いギリギリに感じる位置での膠着状態となった。

 

「貴様」

「あん、なんだ」

 

突如、ニードルスがサガに話しかけてきた。

ニードルスは酒場での手合わせにも満たないやり取りで、サガのおおよその実力を把握していた。

腐っても元海兵、相手の力量を瞬時に見抜く力はこの場にいる誰よりも高いという自負がニードルスにはあった。

 

「貴様、この数日で何があった」

 

しかし、ニードルスの目の前で油断なく居合の構えを見せるサガはたった数日で見違える程に成長していた。

それは、ニードルスの経験上ありえないことではない。

ただの一介の剣士がその境地に至ることはあり得ない。

それこそ”大剣豪”と謡われる”あの男”のような存在しか、ニードルスは考え付かなかった。

そんなニードルスの問いにサガは沈黙をもって答え、そしてこの数日で己に起きた奇跡に思いをはせていた。

 

 

-----------------------------------------

 

 

「アァン、デュー、ゴラ--------

 

酒場での一件以降、サガはベンサムという強者に戦いを挑み続けていた。

サガからみてもベンサムは数段格上の戦闘者であり、その独特の戦い方は先読みを習得しようとしているサガにとって絶好の教本だった。

 

「アァン、デュー、ウォラ--------

 

そしてサガは、今日も何もできずにベンサムに吹き飛ばされ気絶してしまった。

 

「ン、ガッハハハハハハ。サガちんたらヨ~ワ~ウィ~」

 

そんな癪に障るセリフを聞きながら暗闇へと意識が沈んでいった。

気が付くと甲板のデッキチェアーに横にされていたサガは起き上がり、眼前の光景へと意識を向ける。

 

 

「アァン、デュー、ウォラ--------

ウォラ--------

「アァン、デュー、ゴラ--------

負けてたまるか

 

そこにはエースがベンサムと模擬戦の域を超えかけた戦闘を行う姿があった。

 

「悔しそうね」

 

サガの背後、正確には船内へと下るドアから出て来たカリーナの第一声に思わず否定の言葉が出かけた。

だが、今目の前で起きている光景を目の当たりにして自分に嘘をつく気はサガにはなかった。

 

「あぁ、悔しいな」

 

それほどまでにベンサムとエースの模擬戦は凄まじかった。

 

「なぁ、お前らはなんでそんなに戦えるんだ」

 

それは当然の質問であった。

非戦闘員と括られるカリーナも、ロビンとの戦闘訓練で旗を駆使した独特の戦いで制限時間全てを危なく逃げ切った。

エースとカリーナ、二人と自分の違いを知りたいと思ったサガからそんな言葉が不意に漏れたのだった。

 

 

-----------------------------------------

 

 

「・・・邪魔をするな」

「あぁん」

 

突然、ニードルスがサガに対して語りかけたきた。

 

「邪魔をするなと言っているんだ。お前たちではどう転んだところで、あの化け物を倒すことなどできない。オレから海兵の誇りを奪ったあの男だけはオレが倒す」

 

ニードルスのその発言にサガの表情が曇る。

その僅な隙を見逃す程ニードルスは甘くも優しくもなかった。

 

「(好機)」

 

自身が出せる最高速でサガへと迫るニードルス。

その鉄爪がサガの心臓を抉り取ろうとさし迫る。

その時、ニードルスは不思議な感覚に見舞われた。

視線を上げたサガと目があい、その目は憤怒に染まっていた。だが、戦闘者としての自身はサガから攻撃の気配を一切感じなかった。

 

 

-----------------------------------------

 

 

「私は心に旗を掲げているの」

 

カリーナからの返答は意味不明な物だった。

 

「あたしもエースもレイズに追い付こうと無理してたこたがあってさ。その時に、ガープ中将とレイズの会話を聞いたんだ。そしたらあの二人同じこと言ってたんだ」

「それは、一体?」

「それは、“心の真ん中に絶対譲れない象徴を掲げる”ことだってさ」

 

ひどく抽象的な答えにさすがのサガも戸惑いを隠せないでいる。

 

「自分がこう有りたいと思える何か、それが心の真ん中にあり続ければその人は何度倒れても立ち上がれるんだって」

 

そう言うとカリーナは船内へと帰っていた。

恐らくサンディとレイズが良い雰囲気になるのを邪魔するために。

 

「”絶対譲れない象徴”・・・・・かぁ」

 

それはサガが考えてこなかった気持ちの在り方だった。

我武者羅に鍛えれば体に力はつき、その力こそが刀を振るうのに重要なのだと考えていた。

 

「ちょっとちょっと、なーにを黄昏ちゃてんのサガちん」

「へいへいへいへい、次はシュライヤとサガが対戦するぜ」

「よっしゃ、それじゃ今晩のおかずをかけるぞ」

 

いつの間にかシュライヤまで加わっていた模擬戦。

その光景に頬が緩むのをサガは確かに感じていた。

 

「(それが先生の言っていた”無天の極致”なのかもしれないな)」

「バレてレイズに怒られてもオレは助けないぞ」

「「「えぇ~、助けてよ」」」

 

 

-----------------------------------------

 

 

-我が心に刀を-

 

いつになく穏やかな気持ちでサガはニードルスが突撃してくるのを見ていた。

 

-未だ鈍らなれど、いずれ世界の頂へと駆け上がるその日まで-

 

しかし、一方で灼熱の焔のような怒りが全身を駆け巡っていることも実感していた。

 

-オレは心刀(やいば)を鍛え続ける-

 

「くたばれ、剣士」

 

ニードルスがサガの間合いに触れた。

 

「一刀流」

 

この時、サガは自身の奥底で刀の抜刀する音を聞いた気がした。

 

「居合」

 

サガは慣れた動作で刀を抜き、ニードルスの鉄爪ごと刀を振るう。

 

獅子歌歌(ししそんそん)

 

 

サガの刀が砕け、サガが崩れ落ちる音がした。

その音を聞き、暗く笑うニードルス。

 

「お前からはエースのような魂が燃える熱さも、レイズのような何者にも捕らわれない風のような気高さも」

 

サガが語り掛けるのと同時にニードルスの鉄爪が砕けた。

 

「カリーナのような満月のような心を躍らせる煌びやかさも、シュライヤのような大樹のような何ものにも代えられない信念も」

 

鉄爪が砕けると今度はニードルスの体に斜めに刀傷が走る。

 

「ベンサムのような太陽のような温かさも、サンディのような咲き誇る花のような強さも何も感じない」

 

身体を起き上がらせニードルスへと視線を向けるサガ。

その目に貫かれた時、ニードルスは自身の心が折れる音が聞こえた。

 

「この船から逃げ出さずに、ガスパーデの元にい続けることを選んだ時点でお前は海兵じゃなくなったんだよ」

 

サガの声が聞こえたのかどうかは定かでないが、刀傷から大量の血を流しニードルスは気絶した。

 

「ちっ、また刀探さないとな」

 

”ガスパーデ海賊艦隊・戦闘隊長 鉤爪のニードルス” V.S. ”賞金稼ぎ 銀獣のサガ”

勝者 サガ



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その果てにつかみ取れ/至、梵呉

お久しぶりです。
一連の騒動の中、皆さんは無事に過ごされた居ましたか。
まだまだ、完全終息には至っていませんがどうかご自身と周囲の皆様のためにご自愛なあって生活してください。


ベンサムにとって人生のターニングポイントと呼ぶべき出会いが2回あった。

一つは憧れの“あの人”との出会い。

自分というあやふやな存在に対して形容しがたい違和感を常に抱えて生きてきたベンサム。

そんな自分を肯定してくれるような大きな存在。

彼の女王との出会いが、本当の自分と向き合う切っ掛けとなったのだから。

その数年後、今度は不思議な少年に出会った。

人形のように唯々、周囲を写すだけの硝子のような瞳。

目的も、夢も無く生きるだけの人形のような少年。

自分を変えてくれた、憧れの女王のように、そんな少年を変えたいと付き添い続け、別れの時に見せた笑顔の眩しさに確信した。

 

“自分はコレでいいのだ”と。

 

それから数年、自らの信念を曲げてまで掴みかけた憧れの人の行方。

またあやふやになり始めた自分は彼の少年に再会した。

そして再び、期間限定ではあるが供に戦いに身を投じている。

そんな青年になったかつての相棒に顔向けできないことだけはしたくない。

そう考えていた。

 

 

“ガスパーデ海賊艦隊 鏡舞(きょうまい)のミルキサー” V.S. “賞金稼ぎ 白鳥のベンサム”

 

 

 

「アン」

    「あん」

「デュー」

    「どー」

 

 

「「ウォラー」」

 

ベンサムの攻撃にマカロニのような巻き毛をしたいかにも音楽家という井出達の男“ミルキサー”が鏡に映したように同じ蹴りを放つ。

 

「アン」

    「あん」

「どー」

「デュー」

    

 

 

「「くぅぉらー」」

 

再び、同時に放たれる回し蹴り。

先程まで半歩遅れて放たれていたミルキサーの攻撃は徐々にベンサムの攻撃速度を上回り始めていた。

 

「ん~も~、あんたったら何なのよぅ。さっきっからあちしの“マネ”ばかりしてぃ」

 

そんな現状に苛立ちを隠せないベンサム。

反対に自慢巻き毛をきにする余裕をまで見せるミルキサー。

 

「“マネ”とは心外な。これは、わたくしの拳法」

「“ケンポウ”?」

「そう、相手の攻撃を観察し、見切り、その呼吸に合わせる。そうすることで相手の攻撃の威力を乗せた攻撃を放つ、その名も“輪唱アタック”」

 

室内での戦闘にも拘らず、何故か背面で爆発を起こすミルキサー。

煙と音がすごいだけで室内が燃えてはいなかった。

 

「うっわぁ~、ダッサ~」

 

そんなミルキサーを思わず真顔で感想を返してしまったベンサム。

しかし、誰も攻めはしないだろう。

 

「だ、ださ、ダサいとはあなた失礼ではあ~りませんか?そう言いながらもあなたは既にワタクシの美しいマッスルとこの洗練された髪型の前に他も足も出てないではあ~りませんか」

「髪型は関係ないでしょうよ」

 

多少の怒りを込めたベンサムの蹴り。

しかし、ミルキサーは気持ち悪い笑みを浮かべるとその攻撃をベンサムのようにまるでオカマを舞うように回転して避けてしまう。

 

「ふん、だから無駄だと言ってるではあ~りませんか。あなたの軟弱なマッスルではワタクシの鍛え抜かれた美しいマッスルの前には意味をなさないと」

 

そして、その回転の威力も乗った回し蹴りがベンサムを捉え壁へと打ち付ける。

 

「(うん?今の感触、少しおかしかったではあ~りませんか。まるで紙を蹴り挙げたように軽かったような?)」

 

壁まで吹き飛ばされたベンサム。

しかし、ミルキサーの考えているとおり、実は攻撃の瞬間自ら後ろに跳ぶことで勢いを殺し、ダメージを最小限に減らしていたのであった。

 

「(本当にもうジョーダンじゃないわよぅ!)」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「サッちゃん」

 

それは、久方ぶりに会ったダチからの会話から始まった。

 

「あらレイちゃんどうしたの」

 

思い起こせば、目の前の友が張り付けた表情の大半は“無”だった。

別れたあの時も最後のその一瞬までもしかしたら笑顔を見たことかなかったかもしれない。

ベンサムにとってレイズという存在は過去に置いて来てしまった後悔の象徴だったのかもしれない。

だから、あの時思わず声をかけてしまったのかもしれない。

 

「サッちゃん」

 

今まで笑顔だったレイズは一転して真剣な眼差しをベンサムへと向けている。

 

「“人の道”から外れることを一番嫌う貴方が“ソコ”に居続ける理由を聞こうとは思わない」

「レイちゃん」

「“オレ”が悪役で構わないから頼みがあるんだ」

 

そう言って笑ったレイズの顔はベンサムが知る中で最も輝いているように思えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そろそろ、終わりにしようじゃあーりませんか」

 

 

ほんの一時、目の前の敵から意識を外していたことにベンサムは笑いそうになった。

しかし、友が建てた計略と自分の野望のために自分はこの役割を全うするほかなかった。

 

「それじゃ、死んでもらおうじゃあーりませんか」

「ふん、何ふざけたことホザイてんのよぅ。終わるのはあんたのほうよぅ」

 

二人の間合いが重なり、互いが攻撃に移ろうとした次の瞬間、突如として船が大きく揺れた。

慌てて身構え攻撃の構えを解いてしまうミルキサーに、一振りの鎗と化した強烈な脚激が突き刺さった。

次の瞬間、ミルキサーは部屋の壁を突き抜け2つ先の鉄扉まで蹴り飛ばされた。

 

「んがーっはっははー。あんた勘違いしてんじゃないの」

 

依然として揺れる船内、立ち上がることで精一杯のミルキサーの目前には目を疑う光景が映っていた。

 

「そんなブッサイクな筋肉であちしのオカマ拳法を真似しようなんて、あんたヴァカじゃないの」

 

そう言って揺れる船内で一切ぶれることなく真っすぐに自分に向かって歩いてくるベンサムの姿があった。

 

「来日も来日もレッスン、レッスン。日々レッスンに打ち込み続けたこのあちしの柔軟で柔らかなバディこそがあちしのオカマ拳法の持ち味なのよう」

「ワタクシの美しいマッスルとこの洗練された髪型をこともあろうにブ、ブサイクとは失礼な」

「もう終わりにしてあげるわ。見なさい、これこそがオカマ拳法の主役(プリマ)

 

ベンサムは懐から取り出した数字の“3”にも見える白鳥の嘴のような器具をトウシューズの先端にセットした。

 

「受けなさい、そして華々しく散るがいいわ」

「黙りなさい、ワタクシが負けるはずが有るわけ無いではあーりませんか」

 

「オカマ拳法・主役(プリマ)

       「輪唱アタック・最終楽章」

 

爆撃白鳥(ボンバルディエ)」「輪唱DEカウンター」

 

互いが技を放った瞬間、あれだけ揺れていた船は静寂を取り戻していた。

互いが己の持てる最高の技を放ち、その残心にある最中、ミルキサーは自身の勝ちを確信し笑みを浮かべた。

しかし、先に動いたのはベンサムだった。

 

「あんたの敗因はただ一つ」

 

そう言ってミルキサーを見ようとせず、そのまま自分がぶち抜いた壁から廊下へと出ていく。

 

「相手があちしだったことよぅ」

 

 

“ガスパーデ海賊艦隊 鏡舞(きょうまい)のミルキサー” V.S. “賞金稼ぎ 白鳥のベンサム”

 

勝者 ベンサム



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その果てに掴み取れー躍進と厄神ー

ワノ国編で三船長が揃った時は嬉しかったな


ガスパーデは一人船長室で酒を飲んでいた。

政府とのコネも使い大きくした自分の一味。

元々海軍の掲げる“正義”の二文字に対して何も感じていなかったガスパーデが海軍に入ったのも明確な力を手にするためだった。

ソコで出会った、出逢ってしまった“世界の暗部”とも呼べるモノにガスパーデはひどく引かれてしまった。

彼らからの提案に応じて海賊となり仕事を請け負いながら、ガスパーデは次第に逃れることの出来ない底無し沼へと墜ちていった。

 

「・・・、今回の“仕事”が済めばオレもとうとう七武海か」

 

今回のレースを最後に、ガスパーデは完全な政府側の海賊として七武海に召集されることを通達されていた。

その為、今回のレースでは自分以外の一味を“消す”必要があり、その為にこの嵐の多発地帯である海域を抜け道に選んだのだった。

外の喧騒をBGMに輝かしい未来を夢描くガスパーデ。

その最中、外の喧騒に異音が混ざっていることに気が付いてしまった。

 

「「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

 

それは、次第に自分のいる船長室に近づいてきていた。

 

「「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

 

二人分のその声に訝しげに扉へと顔を向けるガスパーデ。

飲み干した酒瓶を捨てると扉へと近づいていった。

どうせ馬鹿な部下だった(・・・)奴らが騒いでいるのだと思い、最期に顔ぐらい見てやろうと思い、扉に手をかけた。

 

「「ガスパーデは此処かーーーーー!!」」

 

その声と共に扉は蹴破られ、そこから見覚えのある顔をした男を認識したと共に、扉の破片ごとガスパーデは蹴り飛ばされたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「「ガスパーデは何処だーーーーー」」

 

 

敵船に乗り込んでから、というか乗り込む前からやる気MAXだったエースとシュライヤは乗り込むやいなや目に映る敵を片っ端からぶっ飛ばしていった。

ある時は走りの勢いのままに殴り付け、そこら辺に落ちていた鉄パイプを振り回して殴り付け、我武者羅に走り回っていた。

なお、その姿をレイズが見たなら

 

「リアル海○無双だ」

 

と人知れず感動したに違いない。

とにかく、我武者羅に船内を走り回る2人だったが実は乗り込む前にレイズが言っていた言葉を頼りに突き進んでいたのであった。

 

「ガスパーデの居場所だぁ?今回は“凪の橋”創るから“風の探知網”使えないんだけど。まぁ、でもああいった馬鹿は一人になれる場所、船長室とか居るんじゃない?」

 

その言葉を頼りに偉そうな奴が居そうな扉を片っ端から蹴破っていたのであった。

 

「「ガスパーデは何処だーーーーー」」

 

また、その最中に幹部ぽい何かも吹っ飛ばしたが猪突猛進を地でいってる上にブレーキ役(レイズとアデル)不在のため、片っ端からモノを壊しながら船内を走り回っていた。

 

「「ガスパーデは何処だーーーーー」」

 

なお、先程から叫び倒しの上、破壊する船内と吹っ飛ばされる下っぱ海賊の数がそろそろ可愛そうなことになってきたのだが、ツッコミ(レイズとアデル)不在のため止まることはなかった。

そして、遂に二人は何か偉そうな奴が居そうな扉見つけやっと立ち止まったのであった。

 

「此処か?」

「どうだろうな?」

「でも、ぶっ飛ばしてない扉これだけだぜ」

「其じゃぶっ飛ばしてみるか」

「そんじゃ、シュライヤいくぞ」

「ちゃんと合わせろよ、エース」

 

二人は徐に後ろに下がり始めると、艦艇の無事な場所でたちどまった。

 

準備体操のようにその場で何度かジャンプを繰り返すとその勢いを活かして、走り出したのであった。

 

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

そして、示し合わせたかのようにある地点でジャンプし、空中で一回転すると無事だった扉へと蹴りを放つのであった。

 

「「ガスパーデは此処かーーーーー!!」」

 

奇しくも、それは二人が探していたガスパーデが扉を開こうとしたちょうどその時であった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あれ、此処にも居ねぇぞ」

 

自分達で壊した瓦礫を踏みながら室内へと歩いていくエース。

 

「まさか、逃げたか」

 

その後ろを、手にしたスコップを肩に担ぎながらシュライヤが着いていく。

二人が辺りを見回しながら室内に入りきった時だった。

 

「テメぇ等、何しやがんだ」

 

暗がりの置くからガスパーデの声が聞こえてきた。

二人が声がした方に顔を向けると其処には普通ではあり得ない筈の光景があった。

全身を瓦礫で貫かれ、右肩は今にも千切れそうになっており、首もあり得ない方向に曲がっているガスパーデが気だるそうに立っていた。

 

「おいおい、お前それで生きてんのかよ」

「くたばってはいねえだろうと思ってたけど、人間辞めてんなおい」

 

その光景に思わず軽口を叩いてしまうエースとシュライヤだっが、二人が瞬きをした一瞬の間に気が付くとガスパーデに顔を捕まれ、外まで押し出されてしまった。

そして、ガスパーデはその勢いのまま二人を反対側の壁へと投げ棄てたのであった。

 

「この程度、痛くも痒くもねぇ」

 

そう言うと、ガスパーデの身体中に刺さっていた瓦礫がズルリと身体から落ち、身体に空いていた穴はみるみる塞がっていった。

 

「オレは“アメアメの実”を食った全身アメ人間」

 

千切かけていた腕も曲がった首も何事もなかったかのように元に戻るとエースとシュライヤへ歩き近づいていった。

 

「打撃も斬撃も銃撃も決してオレに傷を負わせることはできない」

 

二人の近くに来る頃には、一切のダメージが痕跡をなくしていた。

 

「誰もオレを倒すことは出来ねぇんだよ」




感想は必ず拝読させていただいております。
このようなダメ作者に暖かいお言葉をかけていただき、この場を借りておれいもうしあげます。


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その果てに掴み取れー焔人ー

言い訳も出来ませんが遅くなり申し訳ありません。
皆さんが少しでも楽しんでいただけるのなら幸いです。


ジャク・ポッド号デッキには降り始めた雨にうたれながらレイズが1人仲間の帰りを待っていた。

エース達が不在の今、船に掛けた空気の橋である「凪の架け橋」の維持と襲いかかってくるガスパーデの部下達の対処に当たっているため、仲間を追いかけられないでいた。

 

「エース、みんな。無事に帰ってこいよ」

 

しかし、その目には一切の不安が写されていなかった。

彼にとって始まりはエースだったかもしれない。

現在の「フェンシルバード・レイズ」という存在が確立され、記憶と自意識の混濁が起き、自我が不安定な日々が続いたそんな時にエースと出会った。

〇〇〇〇だった頃に知りえた物語、その結末を思い出したい。

そんな願いがあったこともとうに忘れた。

今はただ仲間達と共にありたいと心から願っている。

そんなレイズの胸中を知る者はいないだろう。

だから、そんな彼の本音は一人の時に呟かれるようになった。

 

「まだまだ、旅も始まってないんだ。もっともっと世界を見て周ろうぜ」

「だから、エース」

 

その視線の先には半壊した船が見えていた。

しかし、レイズにははっきりと見えていた。

 

「こんなところで躓いてんじゃねえぞ」

 

太陽のように明るい笑顔で自分の前を走り続けるエースの姿が。

 

 

 

----------------------------

 

 

サラマンダー号のデッキでは対照的な光景が広がっていた。

船はズタボロになり廃船でももう少しマシじゃないかというような姿のデッキに無傷のガスパーデが気怠そうに立っていた。

そして、その反対側、ガスパーデが立っている場所よりは破壊の後が見当たらない。

しかし、そこに倒れ伏しているエースとシュライヤは目を背けたくなるような悲惨な有様だった。

 

「手前ら、口ほどにもねえな。まったく船をこんなに壊しやがってどうしてくれるんだ」

 

何処からか引っ張り出してきた椅子に腰かけたガスパーデが悠々と二人を見下す。

喋る気力すらないのか、荒い息を整えるのに必死で意識が飛びそうになっているエースとシュライヤ。

 

「雑魚どもが。暇つぶしにもなりゃしねえじゃねえか」

 

ガスパーデから放たれる屈辱の言葉すら返す余裕が二人にはなかった。

それでも、ガスパーデに負けたくないという二人の意地が、その闘争本能に火を入れる。

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」

 

もはや獣の咆哮にも聞こえる叫びをあげてガスパーデへと突撃する二人。

そんな二人を哀れそうに見ながら椅子から立ち上がることなくガスパーデは両腕を振るった。

飴と化したその腕は鞭のように二人を捕らえ何度も何度もデッキへとぶつけ、最後に適当な壁へと投げつけた。

 

「本当に、暇つぶしにもならねえな」

 

そう呟くとガスパーデは船長室だった場所へと歩いて行った。

 

 

 

----------------------------

 

 

 

エースは歩いていた。

そこには空も大地も海もない闇だけが広がる場所だった。

足を動かすたびに闇は纏わりつき、思考が徐々に黒く染まっていくのを自覚した。

 

ロジャーに餓鬼が居たら、真っ先に殺してやるのによ

 

歩いている最中、今まで生きてきた中で言われてきた罵詈雑言が呪いのように木霊していた。

何時から歩いていたのか分からず、ただただ歩いているエース。

 

“鬼の子”なんて、居なくて正々するぜ

くたばっちまえ

ロジャーの血族は皆死んじまえばいいんだ

 

その間もひたすらに聞こえる言葉に何故か耳を覆うことすらできなかった。

そんな時だった。

 

オレの名前はサボ、いつかこの自由な海に出るのが夢なんだ

 

初めて出来た兄弟の声が聞こえた。

 

エースもサボもオレのにいちゃんだ

 

今も故郷にいるであろう弟の声が聞こえた。

 

あたしの馬鹿”息子”達を二度と理不尽にさらすんじゃねえ

 

決して認めることはないであろう義母の声が聞こえた。

 

エース、あなたはお母さんが守ってあげるからね

 

知らないはずの女性の心地いい声が聞こえた。

 

そうして、次々聞こえてくる声を目指し次第に歩みは軽く、早くなっていくエース。

 

そして、目の前には太陽のように輝く何かがあった。

その何かを前に躊躇していた次の瞬間、誰かに優しく背中を叩かれる感覚がした。

 

こんなとこで何遊んでんだよ、とっとと行こうぜエース

 

そう言われエースは後ろを振り向いた。

そこにはレイズを中心に、カリーナが、シュライヤが、サガが仲間が笑って立っていた。

仲間たちに手を伸ばした時、エースは何かに触れた感覚を持った。

周りを見渡すと瓦礫と化した部屋だった。

そこには仲間はおらず、一人倒れている自分だけがいた。

頭を振るうと自分がガスパーデにやられた記憶がよみがえってきた。

 

「しっかし、どうすればあいつを殴れるんだ」

 

考えようと腕を組んだエースの目の前に宝箱が何故かあった。

 

「なんだ、コレ?」

 

警戒心を見せることなく宝箱を開けるエース。

中には奇妙な形をした果物のようなモノが入っていた。

 

「まさか、こいつは“悪魔の実”か」

 

そんな自分のつぶやきに、以前レイズに教わったことが思い出された。

 

 

 

「“悪魔の実”を食べて能力者になることで“弱く”なることはまずない」

 

そう言い切ったレイズはソファーに座りながらオレンジジュースを飲んでいた。

 

「なんでそんな事言い切れるんだよ」

 

まだ二人で旅をしていた頃、ひょんなことからエースが「能力のアタリ・ハズレ」についてこぼしたのが始まりだった。

 

「だってよ、オレの弟は体がゴムみたいに伸びたり縮んだりするだけでレイズみたいに風を操って斬ったり浮かしたり出来ないんだぜ」

「いいかエース、悪魔の実の能力者に求められるのは発想と着眼点そして能力の理解度だとオレは思ってる」

「はっそう?ちゃくがんてん?りかいど?」

 

エースが不思議そうに顔を傾けるのを見て、レイズは徐にジュースの入ったグラスをエースの目線まで持ち上げた。

そして、能力を使用してグラスの中のジュースを自分の口に運び、ジュースを綺麗に飲みほした。

 

「風を操ると言うけど実際にオレが操っているのは“空気”。もっと詳しく言えば地面から数ミリ離れた個所から存在する“大気”を操ることでこういった芸当も行えるようになった」

「それがなんだ」

「つまり、オレの場合“大地”や海に少しでも接してしまっている個所に存在する“大気”を操作することが出来ない。それに流動的な“大気”を停止させたりすることは不可能だ」

「その代わり、一定範囲の大気を操ることで空気の中に含まれる様々なモノの濃度を上げたり下げたりできるし、お前の言ってたカマイタチで斬りつけたり、全身に大気を纏って空を飛ぶことも可能だ」

「これは、オレが今まで能力を使用してきた中でこんなことが出来るんじゃないかという発想、そもそもエアエアのエアが何なのかっていうところに疑問を持つことが出来た着眼点、そして色々と試行錯誤をしてきた結果、自分が今現状この“エアエアの実”の能力を理解しきれているから細かい操作も出来るんだ」

 

そう言うと、テーブルに置かれていた空の皿をシンクへと風に乗せて運ぶレイズ。

 

「自然系なら自分の能力がどういったものか知れば知るほどに出来ることを突き詰めれることが出来るし、動物系ならそもそも身体能力の向上が約束されているようなもんだろ」

「そんなもんかね」

「とにかく、この先もしお前が“機会”を得たとしてそれをどうするかは自分で決めろ」

「もし、オレが能力者にならずに売っぱらちまおうって言ったらどうすんだよ」

「そん時は豪勢に遊び尽くす」

 

 

 

そんな会話を思い出しながら目の前にある不思議な形の実をエースは見つめた。

 

「今、オレに必要なのは“力”だ。そうだよなレイズ」

 

エースは迷うことなく目の前の実に齧り付いた。

 

 

 

----------------------------

 

 

 

船長室の残骸でガスパーデは世界政府から預かった電伝虫の入った箱を探していた。

 

「たく使えないゴミ共ばっかだ、さっさと連絡とってこんな場所から移動するか」

 

そうぼやいていたガスパーデは突如として襲われた悪寒に後ろを振り向いた。

それと同時に瓦礫と化した船から突如巨大な火柱が立ち上がった。

その中から悠々と一人の男が姿を現した。

 

「よう、ガスパーデ」

 

それは火が徐々に人の姿を模っていき、ついに一人の男の姿となった。

 

「第二ラウンドと行こうじゃないか」

 

炎の悪魔の力を得た鬼の子。

“火拳のエース”が誕生した瞬間であった。



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作者の何となく書いた駄文

タイトル通りの話です。
本編に一切関係のない訳ではないですが、書いたので載せちゃお程度のノリです。
こんなん書いてる暇があるなら、本文さっさと書けよお前。


世界経済新聞の者です。

この度は我が社の企画にご協力いただき誠にありがとう御座います。

それでは、早速インタビューの方に入らせていただきます。

 

早速ですが、お二人の出会いについてお聞かせ願えますか。

 

「おう、あれはオレが旅でたばかりの頃だ。一人航海をしていたら海賊に囲まれたアイツがスゲー強さで立ち回ってんだよ」

「其処にオレが助太刀して、礼にと飯に誘われてな。そこで意気投合してオレが仲間に誘ったのさ」

 

なるほど、何やら噂に聞く海賊王(お父上)と冥王の出会いのようですね。

 

「まぁ~、癪だけどよ“運命”っていうのをよ初めて感じたぜ」

 

確かに、お二人の息のあった立ち回りは世間でも有名ですからね。

実際、お二人が組んでの戦闘では被害が甚大で、自然災害にカウントされているとかいないとか。

 

「会った当時から、既に戦闘に関しては一級品だったよ」

 

その後、順調に成り上がっていかれて様々な事件の果てに今に到っていられる訳ですが、かの海賊万博でも何やら自慢されていたとか。

 

「ま、兎に角よ人脈がスゴいんだよ。アイツ自身を賞品にしたレースでそれを痛感させられたというか。オレ達の飛躍の要因の一つではあるな。後、無駄に胆が据わっているからこっちがハラハラするようなこと平気でやりやがるんだよ。それで最終的に勝ちまうんだからな」

 

そういえば、以前当社から写真集を出させていただいた際も、売上も発行部数もシャッフル海賊団が一位でしたが、その後の個人発行でも一位になられてましたね。

 

「そうなんだよ、アイツが一番モテるんだよ。ウチの女共も大半はアイツ好きだしよ。だけど、アイツはオレの右腕だからな。其処んとこ忘れないで欲しいぜ」

 

確かに“白馬”の登場で一時期は人気に陰りが見えましたが、未だに当社に届くファンレターの数はトップですからね。

 

「その話、絶対にウチの女共に言うなよ。嫉妬でボコボコになるのを見てると不憫でならねぇ」

 

そこは、まぁ社長の判断ですから。

そういえば、何やら感謝されていることがあると聞きましたが?

 

「それ聞くか、まぁ“感謝”なんて大袈裟なもんじゃないんだけどよ。アイツが居てくれたから、今のオレ達があるっていうか、この世界で誰かが愛してくれてるって実感できたことかな」

 

以前、噂がたっている女性を集めて似たようなインタビューをさせていただいた際には、ホテルの一室が半壊になる大喧嘩をされましたからな。

 

「“誰が正妻か”みたいな奴だろ。お陰で1週間は毎晩絞り尽くされたアイツが不憫でならなかったぜ」

 

イヤイヤ、誠に申し訳ないことをいたしました。

最後に、一言宜しいでしょうか。

 

「まぁ、兎に角よ。オレがここまで来れたのは間違いなくアイツのお陰だ。色々と迷惑掛けるけどよ、これからもヨロシクな」

 

本日はありがとうございました。

 

短期連載:王の右腕

第一回

炎魔(えんま)太王(たいおう)ーポートガス・ゴール・D・エースの右腕

空魔(くうま)風迅(ふうじん)ーフェンシルバード・レイズ

     

 




折を見て削除する予定です。
作者なりに頑張ってますので気長に待ってやってください。


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書いたら出す。
たとえそれが下手糞でも。


「オレの財宝か、欲しけりゃくれてやる」

 

大いなる時代の転換期。

ガスパーデにとっても、その日の記憶はとても鮮明に焼き付いているはずだった。

 

「探せ!!」

 

いつからか、忘れたフリをして自分の魂に灯った筈のその何かに蓋をし続けた。

 

「この世の全てを其処に置いてきた」

 

そして、“あの男(・・・)”が浮かべた最期の表情も忘れてしまった。

 

ガスパーデも最初は純粋に世界平和のためにと海軍に入隊した新兵だった。

順調に地位が上がっていき、念願だった海軍本部への栄転が決まったその夜、全てが変わってしまった。

 

 

栄転祝いでシャボンディ諸島の歓楽街に来ていたガスパーデと本部の海兵。

楽しく飲みかわし店を出た時だった。

頭をシャボンで包んだ男が無理矢理女性を拐おうとしていた。

周囲は誰も助けようとせず、しかし懺悔の表情を顔に浮かべていた。

泣き叫ぶ女性傍らには、血だらけの男性の見るも無惨な死体が転がっていた。

激昂に駆られ女性を助けようとしたガスパーデを、後ろから物凄い力が地面に叩きつけた。

それは、先程まで一緒に飲んでいた本部の海兵だった。

 

「馬鹿野郎、“あの方がた”に楯突くな。忘れろ、お前が無茶したら俺達も殺されるんだぞ」

 

その声が呼び水になったかのように突如雨が降り始めた。

全てを覆い尽くすように。

 

ガスパーデの任務地は定例通りシャボンディ諸島だった。

そして、ガスパーデは来日も来日も“天竜人”と呼ばれる世界貴族の横行を、護衛という立場で見せられ続けた。

欲しければそれが何であれ誰のものであれ“奪い”。

飽きれば、気に入らなければそれが誰であっても“殺し”。

自身が、自身こそが優れていると自負する“傲慢”。

 

時が立つにつれてガスパーデは変わっていった。

天竜人の横行を“静観”し。

彼らの気まぐれで得られる金銭を“享受”し。

彼らの命令であれば、それが無垢な子供だろうと“殺害”した。

そんなガスパーデの心には、ある日から黒く澱んだ火が灯るようになっていった。

シャボンディ諸島での任務が終わりに近づいていたある日。

その日は朝からどしゃ降りの雨だった。

職務室で酒を飲んでいたガスパーデにアポもなく客が訪れた。

全身を白いスーツで統一した彼らの存在をガスパーデは知っていた。

 

「“CP-0(世界政府の闇)”がオレに何のようだ」

「ガスパーデ君、“我々の側”に付く気はなかい?」

 

世界政府とて一枚岩ではなかった。

ガスパーデは完全な政府の犬として海賊側から世界政府に貢献することを望まれた。

かつて、“正義の味方”を志していたガスパーデならその手を払いのけていただろう。

だが、今の彼にはその手を取ることに微塵の躊躇もなかった。

そして、手付金代わりに“能力者”となったのだった。

海軍本部へと戻り、少将となったガスパーデはCP-0から送られてきた協力者と共にとある航海で海軍から離反。

数名の“使える”人間を残し虐殺の限りを尽くした。

政府の助けもあったが、黒く淀んだ炎に焦がれた彼は数多の都市を焼き尽くし、多くの人間を惨殺し、無数の略奪品を世界政府へと秘密裏に流し続けた。

その結果、ガスパーデは「王下七武海」へ招集される程に悪名を得たのであった。

 

そんな彼にとって“DEAD END RACE”は唯一の娯楽でもあった。

世界政府から許された殺戮の手段であったが、何も気にすることなく気儘に壊せることはガスパーデにとって自身の意思が通せる場所でもあった。

今回で最後になる予定だった始まりの地点でこの目の前の男を目にするまでは。

 

粋がる賞金稼ぎを使える部下に処理させたその時、自分を見る男と目が合った。

そこには自分に対する“畏怖”もなく、ただただ目の前の景色を写しているだけのように見えた。

 

「お前ら、オレの部下になれ」

 

気が付くとそんな言葉が漏れていた。

自分でもなぜそんな言葉が出たのか理解できなかった。

 

静寂が支配する空間。

その静寂を破ったのは欄干にもたれ掛かる様にしてこちらを見ていた“銀髪”の男だった。

 

「ハハハハハハハ、エースどうする気だい?」

 

それは喜劇でも見ているような笑みを浮かべた男の笑い声だった。

何が可笑しいのか理解できずにいたその時、目の前まで来ていた男が勢いよく顔を上げ自分を“見下した”。

 

「断る!!!!!」

 

その声はけして大声と呼べるような音量ではなかった。

しかし、自分たちのいるフロアー以外の存在にも響くような大声だった。

 

「こいつからはオレの嫌いなクズの匂いがする」

 

自分を貶すようなその返答。

そして、当然とばかりに挑発してくるような笑みを浮かべる顔。

その時、ガスパーデに脳裏に一人の男の笑みが浮かび上がった。

 

その場を離れ船に戻ったガスパーデは酒を煽り続けた。

あのエースと呼ばれた男のことがどうしても頭から離れなかった。

気が付くと自分の半生を振り返っていた。

正義を求めながら明確な力を手にするために入った海軍時代。

自分の“狂気”が目覚めた“世界の暗部”との出会い。

黒く濁った炎に身を焼かれながらも次第に逃れることの出来ない底無し沼へと墜ちていった。

そんな時に討ち入りに来た馬鹿どもと最後に遊ぼうと決めこんだのだった。

結局、自分を傷付けることはできず吹き飛ばされていった二人であったが、その時見た“目”が気に入らなかった。

その目には紅蓮に燃え盛る炎が灯っていたのであった。

かつて自分が消してしまった、純粋に燃え滾る心の焔が。

苛立ちを抑え世界政府に帰りの船を寄こすよう連絡を取ろうと背を向けた時、不意に“あの時の記憶”が蘇ってきた。

 

「よう、ガスパーデ」

 

思い出せば自分の運命の転換期はいつも雨が降っているな、とガラにもなくセンチメンタルに浸っているガスパーデの心に再び黒く淀んだ炎が灯った。

目の前の箸にも棒にもかからないような雑魚と断じた男がどうしても気になった理由がハッキリと解ったからだろう。

 

「第二ラウンドと行こうじゃないか」

 

その男が浮かべた笑顔は、あの雨の日に見た“あの男(海賊王)”が浮かべた笑顔と重なって見えたからだろう。



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 皇

スッスススススランプ
くそ雑魚メンタルな作者をお許しください。


悪魔の実。

『ONE PIECCE』という物語を語る上でなくてはならないアイテムの一つとも言える。

「海の悪魔の化身」と言われる果実で、食べた者には特殊な能力を得ることが出来る。

味は非常に不味く、一口でも齧ればその齧った者が能力を得られ、余った身を食べたところで能力を得ることはできない。

同じ悪魔の実が、同時期に世界に2つ存在することはないが、悪魔の実の能力者が死ぬと、世界のどこかにその能力を秘めた悪魔の実が復活すると言われてる。

いかなる生物、果ては兵器等の無機物が食べても能力を得られる摩訶不思議な果実。

 

火。

物質と酸素が結びつくことを酸化と言い、この酸化反応がある条件で起こるときに熱と光を発する。

この時に感じる光と熱の正体が火・炎といわれている“現象”。

 

原作のエースは自身を火に変えていたが、実際にはどのようなプロセスを経てその能力は使われていたのか。

そして、彼は何をエネルギーとしての炎を燃やし続けたのか。

 

悪魔の実を口にした瞬間、エースは不思議な感覚に襲われた。

エースを囲うようにしてボンヤリと人影が現れたからであった。

 

“歴史のその先を見るために”

 

レイズが。

 

“理不尽から希望を盗み返すために”

 

カリーナが。

 

“世界最高の剣士になるために”

 

サガが。

そして

 

“この“カリ”を帰して、新しい夢のために”

 

シュライヤの全員の声が聞こえてきたような錯覚を覚えた。

レイズと旅をする中で、時折“誰か”の声が聞こえるような気がしていたエース。

ボンヤリと聞こえていた声が、今はハッキリと聞こえた気がした。

自分の身体の中心に本来では感じられない筈の熱を感じ取っていた。

 

「“心火”」

 

その呟きに反応するようにエースを中心に巨大な火柱が立ち上がった。

 

「あぁ、そうか」

 

エースが感じているこの僅かな時間。

もしかしたら、数秒にも満たない時間の筈なのにエースは長い時間に感じていた。

 

「オレは、“火”だ」

「オレが前を走っているのに、そんなオレが迷ったら仲間に迷惑だよな」

 

エースは火柱の中、握り締めた拳を空へと掲げる。

 

「今一度、オレは誓うぜ」

「オレはこの海で誰よりも自由に生きてやる」

「オレは仲間のために前に走り続けてやる」

「その為に」

 

掲げていた拳を胸の前に置き、熱が灯った体の中心にエースが拳を叩きつけると、エースの周りで燃え盛っていた炎は更に勢いをまし、その火柱は空を貫いた。

 

「オレはこの心に宿る火を、“心火”を燃やし続ける」

 

そんな呟きと同時に、一歩を踏み出そうとしたエースを誰かが背中を押した気がした。

 

“いつまでも待たせんじゃねえよ”

“そんな奴に遊んでる余裕あるの?”

“さっさと決めて帰ってこい”

“頼んだぜ、エース”

 

そんな、仲間達の声に推されるような感覚がひどく心地よかったエースだった。

一歩踏み出した足は軽く、ついさっきまでエースが感じていた痛みや疲労感を感じさせない、まるで気の合う仲間と冒険に繰り出そうとしているような感覚をエースに与えた。

 

「よう、ガスパーデ」

 

先程まで感じていた筈の強さが目の前の敵からは感じられなかった。

自らを濡らすように降る雨すらも今のエースにとっては心地よさを与えるモノでしかなかった。

 

「第二ラウンドと行こうじゃないか」

 

ふと気が付くとこの場を覆っていた真っ黒い雨雲はエースの頭上のみ消え去り、エースだけが快晴の空のした無邪気に笑っていたのだった。

エースは不思議と負ける気がしなかった。

 

その一言が切欠になったのか、ガスパーデは今までの気だるげな動きが嘘のようにエースへと突撃してきた。

全身をトゲで覆い突進してくるその姿は巨大な鉄球を思わせる。

ガスパーデ渾身の突撃を前にエースはただ立ち尽くしているかの様に思えた。

しかし、ガスパーデがエースに当たったその時エースの姿が霞のように揺らぎ消えた。

 

歩斑陽炎(ほむらかげろう)

 

エースの声はガスパーデの遥か後ろから聞こえ、その姿を現した。

 

「レイズの言う通りだ、何がしたいか体がその通り動いてくれる。まるで昔からこの(メラメラ)能力を知っていたように」

「てめぇ、何だ今のは」

 

雨が強さを増すなか、互いに牽制をし合うように話し始めるエースとガスパーデ。

 

「元海軍のお前なら知ってるだろ?“剃”と炎の力を使った幻影だよ」

 

そう、エースが呟くとエースの姿がまた揺らぎ、ガスパーデの後ろに姿を現す。

 

「能力を得たからといって油断はしねぇ。能力の細かい調整、何より能力に対する理解力は今しがた能力者になったオレよりガスパーデ、お前の方が上手だ」

「何を長々と負けた時の言い訳か」

 

エースを嘲笑うかの様に顔を歪めるガスパーデに対し、不遜な態度を崩さず、勝ち誇ったかのような顔をするエース。

 

「いや」

 

エースが顔をあげる。

 

「時間稼ぎだ」

 

その時、ガスパーデに二つの麻袋が投げつけられた。

ガスパーデは咄嗟に両腕を刃状にし袋を切り付けると中から白い粉が溢れだした。

 

「よう、知ってるかガスパーデ」

 

袋を投げつけた張本人であるシュライヤは、瓦礫に腰かけると憎んでいるはずのガスパーデに気軽に話しかけた。

 

「飴を細工する時、職人によっては手に粉を付けるんだそうだ」

「それが?何だってんだ」

「そうするとな」

 

シュライヤの言葉に続くように、今度はエースがガスパーデに飛びかかった。

物理攻撃に対してダメージを受けない自身のあるガスパーデは不敵に笑っていた。

 

「飴が掴みやすく成るんだそうだ」

 

エースの握りしめた拳はガスパーデの予想に反して深々と体に突き刺さるようにダメージを与えた。

 

エース(船長)、あとは任せるぞ」

 

そう言うと気絶するように倒れるシュライヤ。

 

「おう、任せとけ」

 

そう言って肩をグルグルと回しガスバーデはと歩みを進めるエース。

肩を回し終えたエースはそのまま助走を付けてガスパーデへと走り出した。方やガスパーデも全身をトゲで覆いエースの攻撃を防ぐ準備をした。

この時、ガスパーデは思い違いをしていた。

エースの食べた悪魔の実が超人系だと。

それが勝負を分けたのだった。

走り出したエースはその勢いのまま、全身を炎に変じさせ、速度を上げた。

その勢いのまま 利き手の右手を引き、左手は狙いを定めるように眼前へとつきだした。

炎と速さ、この二つが一気に右手に収束していき、気が付くとエースは叫んでいた。

 

火拳(ひけん)

 

紅蓮の拳がガスパーデに突き刺さり、その勢いのままガスパーデは瓦礫と化した船の外に飛ばされていった。

そして、発達した積乱雲へと飲み込まれたのだった。



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煌~此処から始まる物語~

この拙い物書きの作品に感想を掻いていただいている皆様。
感想には必ず眼を通しております。
お返事を返すことが今だできませんが、この場を借りてお礼申し上げます。


エースがガスパーデを倒して数日、エース達はセンゴク元帥が用意したとあるリゾート島の水上コテージの一軒で寛いでいた。

 

「はぁ、サッちゃん」

「あぁ、サンディお姉さま」

 

外を見ながら黄昏るエースとカリーナは、ここ数日お昼前になるとデッキに座りながらベンザムとロビンを思い出すように名前を呟くようになっていた。

 

「またか、お前らいい加減にしろよ」

 

酒瓶を片手にトレーニングの汗を流したサガがいつもの光景と化しているその姿に苦言を放つ。

その声に反応しサガへと顔を向けるエースとカリーナ。

 

「「ざびじぃ~」」

「阿保共が、協定関係が済んだら居なくなることは前から解っていたことだろうに」

「なんだと、サガ。お前は寂しくないのか、この飲兵衛が」

「そうよ、この野蛮人。あんたには血も涙もないの」

「そこまで言うか」

 

ガスパーデを倒し、ガープとの合流地点の無人島についた時、既に二人の姿は無くなっていた。

レイズだけは挨拶をしたそうだが、僅か数日とはいえ、仲間がなにも言わずに居なくなることは辛いことであった。

 

「二人とも、海軍に存在を知られたくない事情があるんだろ。サンディに関しては、レイズから理由は聞いてるだろ」

 

酒瓶に口をつけ、半ばまで飲むとサガは呆れたように二人を見つめる。

 

「んなこた、解ってんだよ」

「あたし達だって馬鹿じゃないのよ」

「「でも、ざびじぃ~」」

「・・・・、アホゥ共が(にしても、何処で何してんのかね)」

 

サガも二人の空気に感化せれてきた同じ頃。

 

「んが~っはっはっは、もうすぐスパイダーカフェねぃ」

「えぇ、私も少し喉が渇いてきたわ」

 

広大な砂漠のど真ん中を爆走する亀の背に二人は座っていた。

 

「んにしても、今回の任務は有意義だったわねぃ。懐かしい顔にも会えたし、友達も増えたし」

「ボスにどう報告するか迷うとこね、彼らとの関係がどう転ぶかに懸かってくるわ」

 

今回の任務の余韻からか、いつも以上に喋る二人だったが徐々にその顔から笑顔が薄れていく。

 

「サンディちゃん、降りるなら今しかないわよ」

「Mr.3、あなたもそうなんじゃない」

 

真剣な眼差しで遠くを見つめる二人。

エース達とのこの数日間は二人にとって、まるで久方ぶりの休暇のような感覚であった。

 

「ま、あちしにはあちしの、サンディちゃんにはサンディちゃんの、譲れない目的のために他人が不幸に成るのを黙って見過ごしてるんだからあちしたちは立派な悪人ねぃ」

 

ベンザムのその言葉を最後に二人は喋らなくなった。

 

「(世界の真実を知るために)」

「(“あの方”の所在を知るために)」

 

二人の芯にある目的のために、他人を見捨てる。

そんな二人がエース達と再会することになるとは、この時は誰にも予想がつかないことだった。

 

 

個室に篭り、手紙を書くレイズ。

最後の手紙を書き終えると封筒にビブルカードを同封して4通を上着に仕舞うと、残り1通を手に取りエース達が居るリビングルームへと歩いていく。

 

「あぁ~あ、なにしてんの“3人”共」

「「「ざびじぃ~」」」

 

そこには、ソファに寝転がり悲しみを一身に著しているエースとカリーナ、“サガ”がいた。

 

「全く、今日はオレ忙しいんだからツッコんでいられないよ。それと、ちょっと出掛けてくるから後のこと宜しくね」

「「「は~い。はぁ、ざーびーじーい」」」

 

その光景を苦笑いで見ながらレイズは出掛けた。

 

「(船の改造、終了。荷物の積み込み、終了。後は・・・)“これ”だけか」

 

レイズが立ち止まり見上げた先は島唯一のシュライヤが入院させられていた病院だった。

本来であればエースも強制入院中だったのだが、大量の肉を食った翌日に完全回復していた。

しかし、“まだ”一般人の範疇に居るシュライヤは確りと入院させられており、本日退院の運びとなったのだった。

 

「おう、出迎えご苦労レイズ」

「取り敢えず、退院おめでとうシュライヤ」

 

コテージにいく道すがら、二人は取り留めない話を続けた。

 

「アデルちゃん、良く許したな」

「賞金首にでも成ればそれが何よりの便りだなんて、一体誰に似たんだか」

 

シュライヤの入院中、兄妹で話し合った末に何とか認められた海賊への道。

アデルとビエラに認められ、エースの仲間になるならと許可が降りたのだった。

もとより、エースの仲間に成ることしか考えていなかったシュライヤは笑顔で承諾したのだった。

 

「シュライヤ、悪いんだけど“これ”持って先に帰ってて」

 

そう言うとレイズは少々厚い封筒をシュライヤに押し付ける。

 

「なんだこれ?」

「オレ用事があって少し空けるけど、明日の朝になってもオレがいなかったら中身見ちゃって良いから」

「お前宛じゃないのか?」

「さぁ、ね。後は此処から真っ直ぐだから」

 

その声を合図にレイズは喧騒の中に消えていった。

 

 

「社長自ら来てくれるなんて。悪いねモルガンズさん」

 

シュライヤと別れ、カフェで一息着くレイズ。

背中合わせになる位置に座る巨大な鳥に話しかけた。

 

「君が連絡をくれる時は、世界がひっくり返りかねないビッグニュースが有る時だからね。私直々にくるのが礼儀というものだろう」

 

そこにいたのは「世界経済新聞」社長であり、暗黒街の上役「ビッグニュース」の異名を持つ「モルガンズ」本人だった。

声の大きさや、位置関係から二人が会話をしているようには見えない。

 

「この4通をあなたの伝で渡してもらいたい、出来れば2日以内に」

 

そう言うと巧みにモルガンズに4通の封筒を手渡すレイズ。

 

「中身は見ないのが約束だが、一つ教えて欲しい。これが一体どんなニュースに化けるんだい?」

「・・・にひ」

 

レイズが大気を操作して呟いたその一言。

モルガンズは叫びそうになる口を押さえつけ何とか堪えた。

 

「じゃ、宜しくね」

 

店を後にするレイズの後ろ姿を眺めながら、モルガンズは今自分が大きな時代の波の始まりに立っている感覚に襲われていた。

 

「こうしちゃいられん」

 

再起動を果たしたモルガンズは急ぎ、頼まれた封筒を指定先に届けるようニュース・クーに運ばせた。

 

翌日、朝になっても帰ってこないレイズ。

エースはリビングに仲間を集めるとシュライヤから預かった封筒を開き、中身の手紙を確認した。

 

同時刻 グランドライン後半の海。

レイズがモルガンズに託した封筒が指定された人物達の手に渡っていた。

 

「親父、一体誰からの手紙だよい」

 

母船に急遽集められた白髭海賊団の各部隊長を代表して副船長的立場にいるマルコが敬愛する船長へ声をかける。

 

「グララララララ、風使いの小僧からだ」

 

その異名に不思議な緊張感に襲われる隊長達。

 

同時刻 万国 ホールケーキアイランド 女王の間

 

「ママ、それでアイツは何て寄越したんだ」

 

長男ペロスペローにとって最も厄介で最も便りになる他人の名前は、そこにいた全ての海賊団員に冷や汗を流させるのに十分だった。

 

「ママママ、そう慌てるなよ可愛い子供達」

「ママ、カタクリがいない今、レイズの手紙が我々海賊団にとってどれ程厄介か解っているだろう」

「落ち着け、ペロスペロー。大方“あの事”だろう」

 

同時刻 ワノ国 百獣海賊団アジト鬼ヶ島

 

「“あの事”、まさか親父まだ諦めてなかったのか!!」

 

朝から酒を浴びるように飲む血縁上の父親に怒鳴り付けるヤマト。

 

「うるせぇなぁ。お前とアイツが夫婦になる話なら諦めてねぇぞオレは」

「クドイ、ボクは必ずワノ国を開国するんだ」

「ウロロロロロロ、だが安心しろ。今回はアイツが胴元のアイツが賞品のレースの案内だ」

 

同時刻 とある無人島

 

「なんだ遂に腹括ったのかレイズは」

 

本来、封筒を受け取るべき男であるシャンクスが久方ぶりに本気の二日酔いで地獄を見ている頃、副船長ベン・ベックマンは代表として中身の確認をしていた。

 

「しかし、頭もこんな時に働けない状態になるなんて大丈夫なのか」

「兎に角、手紙の内容を話するぞ」

 

拝啓

 この手紙が届いているであろう皆様。

 この度、私事で申し訳有りませんが、この海の王にしたい存在と会いました。

 しかし、今まで私のような輩を重宝していただいたり、ご息女との結婚まで進めて頂いた方々に仁義が通らないだろうと思い、一つゲームを開始いたします。これからお手元に届いたビブルカードを用いて、私を探しだしてください。景品として“フェンシルバード・レイズ”を一番最初に見つけられた船長のいらっしゃる海賊団に在籍させていただきます。皆様、奮ってご参加ください。

 

この手紙が引き金となり四皇を巻き込んだ事件が起こるのだった。

 



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趣味=暗躍

遅ればせながら、明けましておめでとう御座います。
昨年の終わりからフィクションか、と突っ込みたくなる程様々なことが起きた作者です。
幸いにコロナ禍にありながら作者はなんとか陰性を保ち続けています。


「恐らく、手紙その物が“レイズ”のビブルカードだな」

 

同封されていたビブルカードに目を向けながら、カリーナが大事そうに机に置いた手紙に意識を向けた。

 

「あ、どういう事だ」

 

付き合いが比較的に短いサガはエースの発言に納得ができずにいた。

さてさて、レイズという男は90%以上の勝ちを確信するまでギャンブルを行わない良く言えば慎重な、悪く言えば臆病な男である。

それはエースも解りきったことであり、今回の置き手紙も穴が空くほど(実際、炙り出しを疑い燃やしかけた)眺めた。

 

「だってよ、同封してある紙が“レイズ”のビブルカードだなんて一切書いて無いんたぜ」

 

確かに手紙には「手元に届いたビブルカード」と書かれている。

しかし、どこにも「同封された紙が“レイズ”のビブルカード」とは書かれていないのである。

 

「それに、手紙と一緒に入ってたこの紙。確かに“誰かの”ビブルカードで間違えないけど、レイズが作ったにしては妙に古い」

 

そして、エースが言うとおり同封されたビブルカードは手紙と違い多少色がついており、昔に作られた事が見受けられた。

 

「何より、その手紙がさっきから動いてんだよな」

 

机に置かれた手紙は確かにゆっくりと海のある方向に動いていた。

 

「しかし、それ自体がレイズの罠である可能性も」

「それはないな」

 

エースが自信満々に断言する。

彼には確信があった。

 

「だって、その手紙はよ“シュライヤ(仲間)”に直接預けたんだぜ」

 

何らかの手段で一斉に配られた訳でなく、この手紙だけはレイズが直接手渡した。

だからこそ、エースは断言するのだった。

 

「それに、下書きに紛れてヒントまで残しやがった」

 

レイズの使っていた部屋に残された下書。

無駄に書きなぐられたように見えるその紙の一番最初の文字だけ上から読んでいくとこんな文が現れた。

 

「やくそく、まもる、なかま、ふやす」

 

エースに言っていた航海に必要な人員で欠落しているのは「船大工」と「船医」であり、「船大工」については宛があると言っていたのをエースは覚えていた。

それに、男ばかりの航海は女の子のカリーナに知らず知らずストレスになるんじゃないかと愚痴を溢していたのも知っている。

 

「さて、レイズ(仲間)を迎えに行くぞ」

 

エースの号令で彼等は動き始めた。

 

グランドライン某所

 

「あぁ、なぜ大天才である私が貴様ごときにアゴで遣われなければならないんだ」

「“お母ちゃま”に外の世界を見てくるように言われたのはお前のせいだろ。文句言わずに働け“ラチェット”」

 

小型のキャラベル船に乗りながら、とある海域を進んでいるのはレイズとガリガリの男性。

「ラチェット」と呼ばれたこの男性、賞金稼ぎ時代のレイズが偶々立ち寄ったカラクリだらけの島の領主であったが、紆余曲折を経てボコボコにされた上に彼の母親であるローバにお仕置きされ、性根を叩き直すためにレイズに預けられた。

自尊心の塊であったが、レイズが迎えに言った際には一般人くらいには筋肉をつけていた。

それで勝てると思い再びレイズに喧嘩を吹っ掛けたところ4日ほど気絶させられて、起きたら海の上にいた。

 

「にしても、何処に向かっているんだ?この先には確か」

「いや、そいつに貸してる“負債”を取り立てに行くんだよ」

「いや、あのな」

「そろそろ、気づく頃だな」

 

呑気に双眼鏡で何かを見つめているレイズ。

ラチェットもそれにならい、デッキチェアでレイズが準備したミックスジュースを飲み始めた。

 

「お、キタキタキタ」

「ん?いったい何が来たというのだ」

「ん」

 

双眼鏡を差し出され、ラチェットが覗き込む。

そこには、ラチェットの想像を越えるモノが写っていた。

 

「お、おおおおおおおおお女の子が空を飛んでる」

「しばらく見ない間にまた一段と可愛くなったな」

 

そこには“空”を飛ぶ少女の姿があった。

 

「レーーイーーズーー」

「元気そうだな“ペローナ”」

 

ピンクブロンドを靡かせて、猛スピードで空を駆け抜ける少女、ペローナの姿があった。

 

「キッシシシシ、久しぶりだな風迅」

「お久し振りです、“ゲッコー海賊団船長”“ゲッコー・モリア”」

 

ラチェットをペローナに任せ船長室に来ていたレイズ。

その目の前には、ニンジンを彷彿とさせる体型と悪魔のような人間離れした容姿の巨漢。

周囲にあからさまな輩集団。

そんな最中、レイズは朗らかに笑顔で対峙していた。

 

「ガスパーデをブッ飛ばすのに一枚噛んでるそうじゃないか」

「王下七武海の打診があったとか、おめでとうございます」

「てめぇ、オレの仲間になるんだよな」

「いい加減お貸ししたお金返してください」

「副船長の席を用意するぜ」

「最後通告です、いい加減金返せ」

「「人の話を聞きやがれ」」

 

噛み合わない(合わせない?)不毛な会話を続ける2人。

すると、レイズは懐から懐中時計を取り出すと何かを確認するように笑みを浮かべた。

 

「モリアさん」

「あぁん、なんだ」

「貴方が七武海の地位を利用して海賊王になろうとしているのは存じております」

「キシシシシ、それがどうした」

「借金だけでなく、オレへの賃金支払いも滞っている。約束を守ろうとしない奴を信用しろと言う方が可笑しいんじゃないですか?」

「それは、お前が仲間になればチャラだろ」

 

レイズはより一層笑みを深める。

 

「戦争孤児のペローナを預かっていただき、その事には感謝しております。だから、賃金の未払いについては忘れましょう」

「それは、つまり」

「だから、借金の踏み倒しとオレを利用して七武海入りを果たしたことについては、“これ”でチャラにしましょう」

「てめぇ、何言ってやがる」

「船長!!」

 

突如、船長室にゲッコー海賊団の船員の悲鳴が木霊した。

 

「なんだ、騒がしいぞ」

「た、大変です」

「さっさと報告しやがれ」

「ひゃ、百獣海賊団と接敵しました」

「何!?」

「(来たのはカイドウの大旦那達か)」

 

船内が突如として動き始めるなかモリアの耳にだけレイズの声が聞こえた。

 

「運が無いですねモリアさん。まぁ、オレとの約束を破るだけ破った上に最後まで利用しようとしたんだから悪いのは貴方ですよ?」

 

モリアが辺りを見回すと、先ほどまでいた筈のレイズの姿は消えていた。

 

「レイズ、てめぇの差し金か!!」

「クフフフフフ、まさか。四皇の何方かがいらっしゃるとは思ってましたが、辺りを付けていたわけではありませんよ」

「てめぇ、何が目的だ」

「強いて言えば、嫌がらせでしょうか。まぁ、1時間凌げれば海軍が来てくれますよ。それじゃ踏み倒された分の金はチャラにしますけど変わりにペローナを貰っていきますね」

 

この時、モリアはレイズが何をしに来たのか正確に把握した。

七武海になるために政府の闇とも繋がったモリア。

その闇を毛嫌いするレイズを騙して仕事を手伝わせていたことに気が付かれていたことを。

これは、その報復であると。

 

「それじゃ、お達者で~」

 

レイズの声が途絶えてから1時間後。

海軍が到着した時には百獣海賊団は姿を消していた。

そこには重症を負った船長のモリア。

そして、モリア以外の船員の死体が残っているだけだった。

 

 

「でぇい、あの餓鬼確かにあそこにいた筈なのに」

 

百獣海賊団本船ではカイドウが浴びるように酒を飲みながら当たり散らしていた。

その光景をクイーンは黙って見ていた。

 

「(お嬢がいなくて良かったぜ)」

 

何を隠そう、カイドウをこの場所に誘導したのはクイーンだった。

弱味を握られ、自身の趣味の疫病菌にかかりにくいレイズを様々な意味で苦手扱いしていた。

そんな中、レイズから個別で来た“依頼”。

 

『指定された日に、指定された場所に“少し酔った”カイドウを誘導させる』

 

この条件を守れば、クイーンの弱味の証拠を目の前で燃やす。

互いに海賊規約に乗っ取り結んだ約束はカイドウをゲッコー海賊団の船に誘導し、レイズが持つ弱味の証拠が燃えるのを確認して終結した。

 




出向先での仕事が一段落したので契約解除となり、次に行こうとしたところ出向予定先が全てコロナ対応のため半年先までニート確定です。
これを気に何か資格でもと考えております。
今年は自分のペースでまったりと更新していく予定です。


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お菓子な話し

「お前ぐらいなものだ」

「そうっすかね、今日の出来はいかがですか?」

「実に美味(うま)し、うちのパティシエにしたいぐらいだ」

「本職と比べられるとは、貴殿方ご兄妹に誉められるのは嬉しいですね」

「ふん、貴様はオレ達の誰とも普通に接してくれたからな」

 

桜咲き乱れる春島。

一際見事な桜の大樹の下でレイズと大男は優雅にメリエンダを楽しんでいた。

 

「しかし、本当にこんなことで良かったのか。ママがお前に与えた負債はこんなことで済む物ではないだろう」

「かといって、かの女王に何かを願うなんて自殺行為ですよ。オレだけが知っている“背を預ける”貴方とこうしてメリエンダを楽しませて貰える。その間、ペロスの旦那達が女王を誘導してくれる。それでお仕舞いにしましょう」

 

適温の紅茶で喉を潤し、目の前に堆く積まれた巨大なドーナツの山を瞬く間に消費していく大男。

もし、エースに出会わず、この男が船長になると言っていたのならそんな未来があったかもしれないと思ってしまうまでに、レイズは目の前の男に憧れていた。

 

「それで、“カタクリ”さん。今回の出来レースについてはご兄妹皆様承知いただけていると言うことで宜しいでしょうか?」

 

レイズは自分のグラスにアイスティーを注ぐ。

 

「然別。もっとも、貴様の花嫁候補達はあまり納得してなかったがな」

 

カタクリと呼ばれた巨大な口を更に大きく開け、巨大なドーナツを優雅に食べ続ける男は、兄妹達のみで行われた話し合いの席で癇癪を起こした妹達の顔を思い浮かべていた。

 

「ははは、こんな奴相手に過大評価ですよ」

 

その様が思い起こされるのだろうか、レイズはただただ笑っていた。

 

「ふん、貴様が婿に着てくれるのであればオレも安心なのだがな」

「オレも、あんたが旗揚げするって言ってくれたらこんな面倒事にならなかっただろうにな」

 

互いの奇縁により自身の知られたくない素性を同時に知ってしまった。

故に生まれた奇妙な友情。

シャーロット・カタクリにとって目の前の歳の離れた友人は実母以上に奇妙な存在だった。

 

 

「マンママンマ、オレは今機嫌が良いんだ。ソコを退くなら見逃してやるぜ“赤犬(サカズキ)”」

「ガキ1人に豪勢な出迎えじゃのリンリン。風の小僧の価値を知っていればそうなるかもしれんが」

 

新世界とある海域。

シャーロット・リンリン率いるビック・マム海賊団本隊と海軍きっての過激派大将サカズキ率いる赤犬大隊は互いのトップがメンチをきりあっていた。

 

「センゴクからオレ達に手を出すことを禁じられているだろうに。“上”は何があっても今の均衡を崩すつもりはないだろうからな」

「黙れや海賊風情が!!」

 

海軍の演習航路に突如現れたビック・マム海賊団の大艦隊。

大隊演習の名目で着ているため手が出せず苛立ちから全身がマグマ化し始めているサカズキ。

そんな2人の後ろには今回のレイズの協力者が冷や汗を盛大に流していた。

 

「(ママを遠回りさせるだけのはずが、何で海軍が居やがる)」

 

長男シャーロット・ペロスペローは母が海賊島で交わしてしまい結果、レイズを騙した形になっているとある男の大切な物の返還期間の延長を打診され、弟妹達との協議の結果現状に至っているこの状況をひどく後悔していた。

 

「(ち、ドフィのためとは言えこんな問題の処理に駆り出されるなんて)」

 

海軍にスパイとして潜入しているヴェルゴ。

偶々、本来の主との関係を知られ尚且つ消すに消せない状況にて持ちかけられた取引。

自分よりも遥かに格下のはずのレイズだが約束は守ることを知っていたため、仕方なく自分の正体を隠匿する変わりに演習航路の変更を行った。

その結果がこれである。

 

「「(あのクソガキ、ここ迄計算してやがったな)」」

 

このにらみ合いは2日にも及び、結果何事もなく終わったがこれが全て一人の青年が起こした企ての結果であることは協力者だけが知る事実であった。

 

「さ・て・と、そろそろ次行きますか」

 

3日間に及ぶカタクリとの休暇を楽しんだレイズ。

そう呟くと机の上にとある島へのエターナルポースを置いた。

 

「こいつがそうか」

 

きっちりと身支度を整え、口元をマフラーで隠したカタクリがエターナルポースを手にするとまじまじと見つめる。

 

「はい、幻の蜜蜂“ドラゴンハニー”の生存確認がとれている旅島の一つです」

「ふん、これでママを宥める材料が一つ増えたな」

「究極の蜂蜜ですもんね」

 

カタクリは旅島と呼ばれる海流にのって移動する島の一つであるレイズが発見した島を探していることになっていた。

その島に生息する巨大な蜜蜂“ドラゴンハニー”が作る蜂蜜は市場に出回ればグラム単位で1000万ベリーはくだらないといわれる高級品であった。

今回、その成果を手土産に我儘な母を宥める材料としてその島への航路を開拓するためにレイズ捜索から離れていることになっていた。

実際は2人で呑気にお茶会を楽しんでいたのだが。

 

「しかし、よく海軍を動かせたな」

「別に、何てことありゃしませんよ。その人が勝手に勘違いしただけで勝手に動いてくれただけですから」

「悪魔め」

「カッカカカカカ」

「次、会う時は敵同士だな」

「貴方とはやりあいたくないですよ」

 

2人は背を向け歩き出した。

 

レイズが準備した小船にはその船体に似合わないサイズの木箱が鎮座していた。

 

「カタクリさんからの差し入れかな?」

 

木箱には手紙が貼り付けられており、差出人は確かにカタクリだった。

 

『レイズ、今回は我々が譲渡され過ぎでありお前に貸しを作る形になるのほ明白だ』

「でしょうね、そうなるように動いてるんですから」

『貸しの清算にもならないが、お前がコックを探していると聞いた、こいつを連れていけ。ママにはオレから言っておく』

「おや、ありがたいですけど誰が入っているんでしょうか?」

 

手紙には追伸文があったがいつまでも木箱に入りっぱなしでは大変だろうと思い、レイズは木箱の蓋を開けた。

 

『追伸』

 

レイズにしては珍しく、注意が散漫であった。

何時もなら風を流して中身を大まかに確認するはずだった。

しかし、憧れた男と過ごした時間が警戒心を薄れさせていた。 

箱を明けると中には色とりどりの愛らしいクッションと自前であろう調理器具、その中央には綺麗な三眼をパッチリ明け、悪戯が成功したような嬉しそうな顔をした可愛らしい美少女がいた。

 

『オレ達の可愛い妹を宜しく頼む』

「えへ、お嫁に着ちゃいました」

 

シャーロット・リンリンが実子、三十五女。

シャーロット・プリンが花嫁修業の名目で参戦。



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怪物に挑む者

レイズを探して船を進めるエース一行。

カリーナが何かを感知したかのようにハッとし、言葉では言い表せないような恐怖をまき散らす真顔になることがあったが、概ね順調に航海は進んでいた。

レイズを探す航海の最中、休憩のため降り立った無人島。

決してレイズが計算して積んでくれた食料を食い切ったとかそういったわけではない。

そこでキャンプを張っていると森の中から複数の人影が姿を現した。

 

「ゼハハハハハハハハ、オヤジいたぜ」

 

先頭を歩いていた黒髪の巨漢が後ろに声をかけると、その巨漢よりもさらにデカい男が姿を現した。

 

「グラララララララ、手前が風小僧の船長か」

「何の用だ、オレの相棒は今いねえぞ。アイツに用事なら後にしてくれ」

 

いつも通り強気の対応をするエースだが内心はそうもいかなかった。

レイズの半調教ともいえる教育を受けた結果、エースは現状の海の勢力図を頭に叩きこまれており、勢力図の頭の顔は直に出てくる。

無論、目の前の男が“白ひげ”の異名を世界に轟かせる“最強の海賊”と言われる“エドワード・ニューゲート”である事は既に分かっていた。

 

「小僧」

「あぁん?なんだジジイ」

 

船長同士のメンチのキリ合い。

しかし、どうみてもエースがチンピラにしか見えない。

 

「鼻垂れにアイツは過ぎた存在だ。悪いことは言わねえから諦めろ」

 

白ひげのその言葉が終わるのと同時に、彼には炎と斬撃、斬脚が飛んできた。

 

「おい、何手を出してんだよ」

「“手”じゃねぇ“刀”だ」

「“手”じゃねぇし、“脚”だ」

 

全身から炎を滾らせ、完全に戦闘態勢に有るエース。

刀を鞘に納めつつ、白ひげから視線を外そうとしないサガ。

一味で最も脚技の習熟度が高いシュライヤもまた白ひげから眼を外さず、かといって気をはらないように努めて普段どおりの声色を出していた。

 

「それで勝てたら、苦労しないのにね」

 

一人船から全体を見ているカリーナはこの仕組まれたであろう戦いの行く末を見守ることしか出来ない自分に歯がゆさだけを覚えていた。

 

「グラララ、威勢の良い餓鬼共じゃねぇか」

 

燃え盛る炎の中、白ひげは笑っていた。

全身に覇気を纏い、受けた攻撃は彼にして見たら痒い程度だった。

そんな中、レイズから受けた電々虫の会話が思い出される。

 

 

『お久しぶりです、白ひげの旦那』

『グラララ、小僧久し振りだな』

 

レイズから手紙が届いて直ぐに連絡があった。

息子に来いとおこなった勧誘を笑顔で流されて以来、仕事を任すことはあってもけして良い返事が貰えない。

そんな日が続いた最中のことだった。

 

『旦那のところに入っているビブルカードなんですけどね』

『あぁ、お前のじゃねえんだろ』

 

白ひげのその言葉に電々虫からはレイズの笑い声が聞こえてきた。

 

『さすが旦那、オレのビブルカードは旦那に預けてありますからね』

『さっさと要件を言いやがれ』

 

すると、さっきまで陽気な声色だったレイズの声が止まり、受話器から異様な冷たさが流れてきた。

 

『エドワード・ニューゲート、そのビブルカードはオレが王にしたいと心から思った男のだ』

『お前にそこまで言わすのか』

『あんたに見極めて欲しい』

『世界は“見えない力”で動かされていると言うのなら、オレはそんなモノすら乗り越える力をアイツに見た』

『だから、エースを見極めてやって欲しい』

『小僧、オレになんの得があるんだ』

『“親子二代”であんたと喧嘩できれば、それこそが海賊王が遺した“Dの意志”を受け継ぐに値する、そう思いませんか』

 

白ひげはレイズの妙なもの言いから、ハッキリと意味を汲み取ってしまった。

 

『グラララ、面白ぇ。もし、オレが不合格だと思ったらどうする気だ』

『・・・・ハッ、      』

 

目の前に並ぶ3人、真ん中で体から炎を発している男が件の男であると理解した白ひげ。

 

「生ぬるい、オレは“白ひげ”だぞ」

 

片手をただ振るうだけで炎は消え去り、その体には傷らしい傷も、ダメージすら見受けられなかった。

 

「グラララ。餓鬼共、もっと本気で来やがれ」

 

その一言と共に右手の長刀は振り下ろされた。

 

長刀を振るう。

ただ、それだけの筈なのにエース達は確実に気力が削られていた。

筋骨隆々、巨漢の伊達男。

そんな言葉が似合いそうな目の前の男からは、全盛期をとうに過ぎたなどと言われる衰えを一切感じなかった。

 

「くぁ~、なんだあのジジイは」

 

長刀から放たれる風圧で吹き飛ばされてばかりで対して自分達にダメージがない。

それを認めてしまえば何てこともない、相手にされていないという事実だけが残される。

エースにとっての理不尽の象徴であるガープとの特訓と似たような感じのこの立ち合いは、目の前の怪物からすればもしかしたら遊びにも等しい行為なのかもしれない。

 

「おい、エースなに寝転んでやがる」

 

息も絶え絶え、刀を杖の代わりになんとか立ち上がったサガ。

 

「まじで、“始まりの世代”の海賊は怪物かよ」

 

脚をガクガクと震えさせながらも気力だけで立ち上がるシュライヤ。

エースは2人を見て、何か心の真ん中にストンと填まった感覚を覚えた。

 

「はぁ~、オレは馬鹿だな」

 

レイズという兄貴分兼相棒を得て、カリーナが仲間になってサガとシュライヤが居ついた。

エースはそう思うようにしていた。

だが、実際はどうだ。

サガもシュライヤもエースという存在を見てくれる、共にある仲間と認めてくれている。

 

「サガ、シュライヤ」

 

だったら、船長なんて肩書を預けてくれた仲間に最大限の感謝を、エースは恐らく初めてサガとシュライヤを心から信頼した。

 

「2分、いや1分くれ。あのジジイに一撃かましてやる」

 

その目に紅蓮に燃え滾る意志を宿して立ち上げる。

 

 

エースの雰囲気が変わった。

歴戦の戦士でもある白ひげはその僅かな差を然り感じ取っていた。

 

「グララララ、似てるじゃねえか」

 

かつて幾度となく戦い、語らい、酒を酌み交わした海賊王(ロジャー)を幻視させる雰囲気を放つエース。

その前で屈伸やら腰を回すなどの準備運動を始めるサガとシュライヤ。

 

「(グララララ、レイズ。オメエの“家族”は化けるぜ)」

 

その時、レイズと最後に交わした会話の内容が白ひげの頭に浮かんだ。

 

『もし、オレが不合格だと思ったらどうする気だ』

『・・・・ハッ、“オレの家族”を“次代の海賊王”と“海賊王のクルー”を嘗めんじゃねえよ』

 

ニィッと顔が笑ってしまう白ひげ。

長刀を砂浜に突き刺すと右手に力を込め始めた。

 

「おい、オヤジまじか」

「全員退避、オヤジの“アレ”がくるぞ」

 

白ひげ海賊団のクルーは森の中へと逃げていくが、エースたちはその光景に不敵な笑みをもって答えた。

 

「1分だぁ、嘗めんじゃねえぞエース」

 

鞘に納めた刀を逆手に握り、餓えた虎のように獰猛な笑みを浮かべるサガ。

 

「オレたちにあのジジイがぶっ飛ばされる前に、やろうとしてることの準備終わらせれるのか?」

 

両脚の震えは収まり、その目に猛禽類を幻視させる鋭さを再び宿したシュライヤ。

 

「あぁ、“前座”は任せた」

「「上等!!」」

 

その言葉と共に駆け出すシュライヤとサガ。

シュライヤは「嵐脚」、「剃」を体得していた。

短期間で二式も体得できたのは、一種の才能とも言える。

教えていたレイズ曰く、シュライヤの身軽さと常人場馴れした体幹が有ってこその体得速度だった。

そして、レイズを探す旅の中、シュライヤはこの二式から一つの技を編み出そうとしていた。

速さが乗った攻撃ほど避けにくく、威力の有るものはない。

「剃」による加速、その速さというエネルギーを全て脚に乗せて放つ「嵐脚」は恐らく自身の新たな技になる。

その確信のもと、暇を見つけては練習を繰り返していた。

自分が“今”出せる最高の技を持って“世界最強”を押し留めるために、シュライヤは駆け出していた。

 

サガは自身の握る刀から“悲鳴”のような何かが聞こえている気がした。

所々にヒビが入り、あと一振すれば確実に砕け散る。そう確信が持てる状態の数打ちの一振から聞こえる悲鳴のよう何か。

しかし、それはサガに対する怨嗟の声ではなく、主人の働きに答えきれない自身に対する怨嗟の声にサガは聞こえた。

 

「怨むなら、オレだろう」

 

刀一振一振、等級に関係なく自分が握った刀を万全に扱えていない。

ヒビの一つ一つがサガの実力不足を著していた。

懐にしまわれた、今まで使ってきた刀の欠片からも、息遣いのような何かが伝わってくる。

 

「オレみたいな下手くそに使われて、さぞ怨まれていると思ったいたが」

 

“今の相棒”を握る左手に一段と力が入る。

 

「お前“たち”の心、この一太刀に乗せて、あの化け物に目にもの見せてやろう」

 

師から教わり、友を越えることができた唯一つの技。

毎日毎日素振りをし、自分の体に教え込んでいくうち一つの試みを行った。

握力の弱くなった右手で柄を逆手に持ち、体だげでなく全身の関節から発生する“捻り”を一点に凝縮し刀を抜き放った。

その時の感覚を体に思い出させながら、目の前の怪物を改めて見直す。

 

「せめて、一太刀」

 

その身体に斬りつけてやる。

 

エースは深く息を吐く。

自分以外の全てを意識の外に追いやり、自分と自分に宿った“力”に意識を向ける。

“炎”という自然界の第四物質である「プラズマ」は気体・液体・固体どれにも当てはまらない。

だからこそ、漠然と“燃える”ことが自身に宿ったメラメラの実の力なんじゃないかと考えていた。

全身を炎に変えることのできる、と考えていたがこの力は自分だけで完結する力なのか。

炎は燃え上がり、燃え移り、燃え滾る、そうだったはずだ。

悪魔の実の力を使う時、レイズを手本にしてみた。

なのに、今まで自分の力を外に働かせることはしてこなかった。

燃え上がった炎を制御して自身の力とする。

これは、「メラメラの実」の能力者である自分しか出来ないことではないか。

 

「うっし、覚悟決めるぜ」

 

白ひげが自身の能力を使うために力を溜め込んだ右腕。

それを解き放とうとした、その時だった。

 

「嵐脚」

 

高速で接近したシュライヤ、その勢いを右脚に乗せて、今まで以上の速さが乗った蹴りを白ひげの右腕に叩き込んだ。

 

空牙(くうが)

 

その一撃は白ひげが振り下ろそうとしていた右腕を跳ね上げ右腕に溜まっていた力場を上空に打ち上げさせる程だった。

しがし、白ひげもシュライヤの行動を読んでいなかったわけでなく、空いていた左腕に僅かに力場を生み出しでシュライヤを殴り付けた。

本の僅かとは言え、白ひげの能力を受けたシュライヤはそのままの勢いで海に飛ばされていった。

 

「一刀流逆手居合」

 

サガはその僅かな隙を見逃さず、白ひげに肉薄していた。

身体を限界まで捻りその捻りを解放させ、その回転を利用しての超高速抜刀術。

今も世界の何処かで高みを目指す友に唯一つ勝てた、己の中で昇華した技。

 

巳雷衛昂(みらいえいごう)

 

サガの接近に気が付いていた白ひげは、左腕を黒く染めるとサガの一撃をその左腕で受け止めた。

金属が互いに打ち付けられる音が響き渡ると同時にサガは白ひげに飛ばされ森林へと吹き飛ばされていった。

 

炎戒(えんかい)

 

エースを中心にして、炎の円が広がる。

炎色が黄色く変わり火柱が上がる。

火柱が修まるとエースは自身の代名詞となった技を放つ構えをとっていた。

 

火拳(ひけん)

 

白ひげは両腕を振り切った状態。

それは、2人が作ってくれた大きな隙だった。

だからか、エースの攻撃は白ひげの身体へ到達した。

しかし、今回放った火拳はいつもと何か違った。

白ひげに打ち出された火は弾丸のような火玉で通常の火拳の速度を越えていた。

そして、白ひげの身体に当たった次の瞬間。

 

火巌華(ひがんばな)

 

火玉は華が開くように弾け、白ひげを火柱が包み込んだ。

気力を振り絞り目の前の怪物から目をそらさないエース。

燃え上がる白ひげは暫しその業火の中で動くことはなかった。

エースが一瞬、気を失いかけたその時、白ひげは両腕を振るいその業火を消し飛ばした。

 

「グララララ、中々だったぞ小僧共」

「ちくしょう、世界の頂きは高ぇな」

 

そう呟くとエースは意識を手放した。



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揺らめいく焔、されど消えることなく

せぇーーーーーーーぞぉーーーーーーーん、ほぉーーーーーーーーこぉーーーーーーくぅーーーーーー。


バイキング諸島。

生態系の全てが何らかの食材になる大食いの猛者達にとってまさに楽園のような島。

しかし、その島の固有種は化け物のように強く下手をしたら逆に刈り取られてしまうまさに弱肉強食の島。

そんな島の砂浜には複数のワンポールテントが建てられていた。

 

「そろそろかなぁ?」

 

今回の騒動の原因・賭けの胴元であり商品のレイズは絞りこまれた上半身を露にし、林へと視線を向けていた。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

そんな林の中から男性の叫び声が聞こえてきた。

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ」

「お、ランスドボアか久し振りに豚カツにしよう」

「呑気にしとらんで助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

林の中から全身傷だらけになりながら8mはありそうなランスのような牙を持った猪に追いかけられてきたラチェットが助けを求めていた。

 

「テラーズホロウ」

 

レイズの出てきたテントから女性の声が聞こえた。

 

「スクリーム」

 

真っ白で巨体な何かが現れ、口にあたる部分が裂けると、そこから風が吹き出した。

その風に当たったランスドボアは突如白目を向き倒れてしまった。

その顔はまるで本能に訴えかけられる恐怖による顔であった。

 

「れいずぅ、うるしゃいぃ」

 

身体にシーツを巻き付けテントから顔を出したペローナは自身に巻き付けたシーツが落ちないように支えつつレイズに抱きついた。

 

「ふふ、ごめんね。そろそろお昼だからラチェットに食材取りに行ってもらってたんだ」

「こ、殺す気か君たちは!!」

「「生きてるから問題なし」」

 

ラチェットの不満はレイズとペローナの二人のサムズアップにより無かったことにされてしまった。

 

「あふぁ、おはようれいずぅ」

 

新たにレイズのテントから現れたのは、素肌にサイズ違いのパーカーを胸のしたの位置までしかジッパーで閉じていないプリンだった。

 

「おはよう、じゃない!!いったい今何時だと思ってるのかね君らは」

「「えぇー、煩いなぁラチェットのくせに」」

「ぐ、数日前の私のバカ」

 

島についた数日前、絶対強者のレイズを除き格付けを行った結果、断トツで負けたラチェットは下っ端として扱われていた。そんなラチェットは未だ少女という年齢のプリンがほぼ半裸で男のテントから現れたことに今更ながら気がついた。

 

「ん?うぅん?まさか!?レイズそこまで落ちたか!!」

「ド阿保が、プリンにはまだ手を出してないよ」

「うにぃ?私は良いのにぃ」

「プリン、せめて16までは耐えろ。そしたらアタシも応援するから」

「あと4年かぁ、ペローナその時はヨロシク!」

「まかせな(レイズが凄すぎて後2・3人居ないとアタシがイキ死ぬ!)」

 

4人は和やかに過ごしていた。

一方、洋上では。

 

「なぁエース、いい加減機嫌治せよ」

 

船のちょうど真ん中で膝を抱え頬を膨らませて不機嫌さを隠そうともしない船長に対してクルー全員で手を焼いていた。

 

「(負けた、誰にも負けないなんて傲慢なことは言わない。だけど、世界の高みはあんなにも遠いのか)」

「あぁこりゃダメだ。ウチはカリーナが一番ベッタリだと思ってたけど、エースが一番ベッタリだったんだな」

 

「ジャック・ポット号」の設計思想が「2人いれば動かせる船」という厄介極まりないものだったが、世界政府のコネを使える時に使ったことで中型船舶でありながら自動化されるところはされており、秘密兵器まで詰め込んだ夢の船となっていた。

 

「そう言えば、カリーナは?」

 

風を受け進む船、操舵輪とビブルカード、船の水平機を確認しながらこの場に居ない唯1人の女性存在に不思議がるシュライヤ。

 

「新しく手に入れた武器が中々懐かないらしくてな、今も部屋で格闘してるよ。それよりもエースはいつまで拗ねてるつもりだ」

 

本日の食事当番のサガは桶には入ったちらし寿司を折り畳み机の上に置くと飲み物の準備に取り掛かっていた。

 

「(レイズに会いてぇ)」

 

この海で誰よりも自由に生きるために、憧れた海賊になるために出た旅路。

その最初の仲間であり、心の底で兄と慕う男。

バカ騒ぎもした、真面目に怒られもした、知らなかったことを沢山教えてくれた。

自分が指針になると決めた筈なのに、未だに目で追いかけてしまう。

自分はこんなにも弱かったのかと自問自答をしているエースは自身の背後の影に気がつけなかった。

 

「いつまでふて腐れてんのよ、このブラコン!!」

 

エースの背後、見事なバッティングフォームで新たに手に入れた棍を振り抜いたカリーナが立っていた。

そして、完全に油断していたエースは炎に変化出来ずメインマストへと見事に打たれていた。

 

「何しやがる、カリーナ!!」

「いつまでもめそめそしてるアンタが悪いんでしょ、このブラコン!!」

「だ、だれがブラコンだ!!この性悪女狐」

「へへぇーん、そんなアタシでもレイズは問題ないって言ってくれるはずだもん。たぶん、きっとおそらく

「おい、それただの希望じゃねえか」

「うっさいわね、あんただっていつまでイジイジメソメソしてんじゃないわよ。

 会いたいなら早く捕まえて、それから言いたいこと言えばいいじゃない」

「そう簡単じゃねえんだよ」

 

ワァーキャーと始まる喧嘩を肴にサガとシュライヤは昼食を取り出した。

 

「しかし、オレらも反省だな。航海関係はレイズに頼りっぱなしだった」

「あぁ、再会したらその時は今後もよろしくと願わせてもらおう」

 

寝ていてもご飯が出てくる、出しとけば洗濯されている、無人島が有ったら訓練に付き合ってくれる、エースとカリーナの面倒を見てくれる、等々面倒なことはレイズに押し付けてきた感が満載なサガとシュライヤは心に沿う固く誓ったのだった。

 

「だいたいね、エースは狡いのよ!!」

 

練習用に作られた棍を杖にしてエースを睨みつけ指を突き刺すカリーナ。

 

「あぁん、何がだ!!」

 

思わずという感じで言い返すエースはカリーナのその強気に押されてしまった。

 

「あたし知ってるんだから。レイズがどうしてあんたと旅してたか」

 

 

 

それはまだ船も小さく3人しか居なかった時。

 

「エースは爆睡ね、ほんとお子ちゃま」

 

東の海のとある島、村もあり買い出しを終えたエースは夕飯を食べ終えると部屋に戻りすぐに寝てしまった。

 

「ははは、まぁ無人島で2日間オレとやり合ったんだから疲れて当然でしょ」

 

コーヒーと緑茶の準備をして甲板に出て来たレイズにカリーナは若干恥ずかしそうにしながら腕を絡めた。

カリーナが準備した机に飲み物を置くと2人は星空を眺めた。

 

「ねぇ、レイズはどうしてエースと旅してるの」

「ん?どういうこと?」

 

コーヒーを味わい、レイズが準備してくれたお団子を摘まみながら、カリーナは予てからの疑問を呟いた。

 

「だって、正直エースと一緒にいる意味が解らないんだもん。あ、悪く取らないでね。レイズの方が強いし、レイズの方が賢いし、船だってレイズの所有物。ここまで言って何だけどエースに魅力が無いのよね」

 

カリーナの発言に苦笑しながらレイズは星空を見上げた。

カリーナの言っていたことは確かに的を得ている。

現状、エースは何も持っておらず、何者でもなかった。

しかし、レイズにとってエースである事が何よりも魅力的だった。

 

「いいかい、カリーナ」

 

そこから語られる2人の出会い、レイズを海に連れ出したエースの言葉。

カリーナと出会うまでの全てをレイズは語った。

 

「確かに、エースは何もまだ持っていないけど、空っぽのオレを海に誘い出してくれた。だから、オレはエースが何者になるか見てみたいんだ」

 

そう、夜空に浮かぶ満月を見ながら微笑むレイズはカリーナからしたら、とても神秘的に映ったのだった。

 

あたしたち(カリーナ、シュライヤ、サガ)はあんたとレイズがいたから、今こうしてあんたの船に乗ってる。だけど、レイズは違う。レイズはあんたが、エースが海に連れ出したんだ。決めたのはレイズだし、そこをエースの手柄とかエースが理由とか正直どうでもいいけど、少なくともレイズにとってエースがいることが海に出た理由の一つである。それを自覚しなさい」

 

エースは心を思い切り殴られたような気がしていた。

レイズと出会い、海に出ようと口説き落とし、旅をしながら色々なことを教わり、気が付いたら仲間が増えた。

それでも、レイズと一緒にいる時は義兄弟といた時とも、仲間といる時とも、何か違う安心感があった。

それは、エースにとって初めて背中だけでなく、心と魂を預け合える存在に出会えた証だったのかもしれない。

 

「この先、あたしがどんなに魅力的になって、世界有数の美女になって、世界中の男を虜にする美貌を持ち合わせるようになっても」

「盛ってるな、てか願望だろそれ」

「確かに、どのような大人になるかはまだ解らんが、自身の願望山盛りだな」

「そこの2人黙れ」

 

サガとシュライヤのヤジを切り捨てると、また一段と大きくなった胸を張りカリーナはエースを睨みつける。

 

「そんなアタシでも、レイズがの隣が一番似合うのは『ポートガス・“ゴール”・D・エース』だと確信できちゃう。そう確信しちゃうくらいエースの隣にはレイズが、レイズの隣にはエースが居るのが当たり前なの。あぁ、もう本当にあんたは狡いわ」

 

いつの間にか、甲板にへたり込んでいたエース。

自分がいじけている間も、仲間たちは号令を待っていてくれていた。

そう感じた時、不意に潮風とは違う涼やかな風がエースを通り過ぎていった。

 

-いつまで待たせるつもりだ、早く迎えに来いよ-

 

「ッ!!」

 

急いで声のした方に振り向くエース。

そこにはレイズのいつも座っていたデッキチェアとレイズの愛用している扇があった。

 

「へ、へへへ。そうだよな、オレは馬鹿だな」

「そうよ、あんたは大馬鹿よ」

「おまけに兄貴が大好きなブラコンだもんな」

「船長なのに副船長が居なければ腑抜けっぱなしだものな」

 

カリーナのヤジにサガとシュライヤも乗っかる。

 

「あぁー、レイズとまた騒ぎたいな」

「あたしは抱きしめて貰って、ショッピングデート」

「また、二人で賭場荒らししたいな」

「訓練の手伝いをしてもらわねば」

 

4人それぞれレイズとやりたいことを呟き始める。

そして、誰からか漏れた笑いが船に響き、4人の笑い声が船内に響いていった。

それは、まるで船も笑っているようであった。

 

「うっし、レイズを迎えに全速力でレイズを迎えに行くぞ!!」

「「「アイサー、キャプテン」」」



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追われ、戯れ、されど風は舞い踊る

区切り良いから出す!!


“三竦み”という言葉がある。

三者が互いに得意な相手と苦手な相手を一つずつ持つことで、三者とも身動きが取れなくなるような状態のことである。

 

「グラララララ、お前らまだ諦めてなかったのか」

 

白鯨を彷彿とさせる自身の船『モビー・ディック号』船首に長年戦場を共にしてきた『むら雲切』を片手に豪快に笑う男。

“白ひげ”の異名と共に『最も“海賊王”に近い』と目される巨漢。

『エドワード・ニューゲート』は三竦みの均衡に陥っている残り2人を見ていた。

 

「ウオロロロロ、死に損ないのクソジジイが。いつまでも上から見てるんじゃねえ」

 

龍を象った船首に立ち、自慢の金棒を担ぎ上げ今にも戦闘開始を告げそうな白ひげを越える巨漢。

眼窩上隆起で発達した眉骨辺りと目の下部にある複数の縦皺、血走った目など見る者に恐怖を与える威圧感のある人相。

そして、“龍”を連想させる特徴的な髭。

“百獣”の異名と共に『世界最強の生物』と恐れられる漢。

百獣海賊団“総督”『カイドウ』が獰猛な笑みを浮かべ開戦を待ちわびていた。

 

「マンママンマ、お前らオレの可愛い婿様に用事か?」

 

丸々とした体つきで、先程から子供のように表情がコロコロと変わり、はっきりとした表情と口紅や大きな鼻と丸い形の強靭な歯が特徴的。ピンク色の巻き毛の髪にこれまたピンクの水玉模様のキャミソールのようなワンピースや白と黄色のマントを着用。左腕にハート型の赤いタトゥーを入れている女性。四皇の紅一点であり、

海軍からは「生まれついてのモンスター」と称される程の怪物。

ビッグ・マム海賊団の船長にして万国(トットランド)の女王。

『シャーロット・リンリン』は愉快そうに嗤っていた。

 

嘗て同じ海賊団に所属した3人は長い年月を経た今、実力的にも条件的にも互いに拮抗していた。

純粋な戦闘力で言えば白ひげに軍配が上がるだろう。

事実、彼が睨みを効かせるビック・マムは彼と戦えば僅差で負けるだろう。

そんなビック・マムだが、彼女の能力から考察される手数の多さはカイドウにとって脅威であった。

一対一であれば間違いなく最強と目されるカイドウ。

最も年若い彼が暴れると、身体を病魔に蝕まれ年々衰えている白ひげには倒しきれない相手として認識されていた。

そんな三竦み状態になったとある島を目の前にした現在、最も神経をすり減らしているのは各船に乗船している副船長たちだった。

 

「まったく、オヤジも人が悪いよい」

 

白ひげの艦隊において一番隊の隊長を務めるマルコは白ひげの号令が掛かれば、いつでも飛び出せるように臨戦態勢に入っていた。

 

「ちっ、ここでミスったらキングのアホに何言われるか解ったもんじゃねぇぜ」

 

百獣海賊団“大看板”を背負い『疫災』の異名を持つクイーンは今回持ち込んだ『疫災弾』の残弾と効果を頭に浮かべながら、戦闘にならないよう心の底で祈っていた。

 

「ペロリン♪ホーミーズ、ママの合図があり次第戦闘だ」

 

シャーロット家長子であるペロスペローは母であり“便宜上”の船長であるビック・マムの号令を待ちつつ、いかに戦闘を回避するか頭を回していた。

 

「うひゃひゃ、どうよ社長?」

 

白いワイシャツに少し緩めのジーパン、足首まで覆うサンダルという姿のレイズは隣で興奮を隠そうとせずシャッターを切り続ける今回の一番の協力者に声をかけていた。

 

「いいぞいいぞ、嘗てロックス海賊団にいた四皇達の三竦み。これはビッグニュースだ!!」

 

世界経済新聞社長モルガンズは用意された撮影スペースから有りとあらゆる手段を用いてその光景を撮影していた。

 

「(クスッ)“あれ”を越えるビッグニュースがもう少しで届きそうなんだけどな

「ん、何か言ったか、レイズ?」

「んにゃ、お気になさらずに」

 

ニコニコとモルガンズに手を振るレイズ。

再び水平線へと目を向ける。

 

「ほら、オレの勝ち」

 

そこには、1隻の船が風に逆行する勢いと加速力で島へと向かってきている光景があった。

 

「おいおいおいおいおいおいおいおい、“あれ”を突っ切って行くのか?」

 

操舵を任されたサガは目の前の化け物の三竦みを見て声をあげていた。

 

「そのための秘密兵器が船尾にあるから、それを使うためにエースが船尾に行ってるんだが。おいカリーナ、マジで突っ込むのか?」

 

張ってあった帆を畳み終えたシュライヤがカリーナの真後ろに降り立つ。

真っ直ぐ前を見据えるカリーナからはなにやら黒い気配が感じられた。

 

「レイズの傍に女の気配がする、しかも1人は喰ってる気配がする」

 

光を消失した瞳が真っ直ぐ捕らえる島。

ことレイズの“そういったこと”へと働くカリーナの勘はバカにできないものがあった。

 

「「(関わらないどこ)」」

 

サガとシュライヤ、末っ子二人の面倒を押し付けてた自覚はできたが、男と女の関係で口を出す気は更々なかった。

 

「エース!!まだなの!!」

 

船尾にいるエースへ伝声管を通してカリーナのゲキが飛んだ。

 

『まだ説明書読み終わったばっかだ。もう少し待てよ』

 

ジャック・ポッド号船尾に新たに設置された装置に入ったエース。

先程まで読んでいた説明書によれば、この装置は今後の冒険をよりスリリングかつエキサイティングにしてくれる装置だった。

 

【この説明書を読んでいるのはエースだろうから簡単に書く】

「うるせぇよ」

【エースがメラメラの能力を後の巨大な鉄の筒におもいっきり撃ち出すことで炎の力を推進力にした爆速ダッシュが可能になる】

「まじか!?」

【追伸、帆はちゃんと畳んでおくこと】

「そこまでバカじゃねえよ!?・・・・シュライヤ、帆を全部畳んでくれ」

 

装置の前で深く息を吐くエース。

全身を炎に転化し、徐々に炎を右手に集中させていく。

右手の炎の色が変わっていき、白く輝きだした。

筒を見据え、その中心を叩くように右手を思い切り撃ち出す。

 

「火拳」

 

一点に凝縮された炎は白く輝き船尾の大筒から物凄い音と共に放たれた。

その凄まじい勢いはジャック・ポッド号を強制的に超加速させ、真っ直ぐに海を滑るように翔んでいった。

 

「うん?」

「あぁ?」

「おやぁ?」

 

白ひげ、カイドウ、ビッグ・マムの3人がその異変に気がついたのは、3人が睨みあうために立っていた船首を物凄い速さで通り抜けていった一隻の海賊船を微かに視認したのと同時だった。

3人が一斉に島を見ると、船は島へと突き刺さり今回の胴元兼賞品であるレイズには嬉しそうに抱きつく小僧達が目に入ってきたのだった。

 

「「だ、出し抜かれたーーーーーー!!」」

「グラララララ、レイズの野郎の言う通りになったな」

 

物凄い音と共に突貫してくる一隻の船。

 

「おいおいおいおい、レイズ“あれ”はなんだ!?」

 

流石のモルガンズも船が海の上を滑るように翔んでくる姿に度肝を抜かれていた。

 

「あれこそが、社長に言ってた今回の目玉『次代の海賊王』の乗ってる船さ(あれ?でもあの勢いで止まれるかな?)」

 

レイズの心配は持ち論的中し、モルガンズの横ギリギリに船が突き刺さった。

 

「あちゃー、引き抜くの大変そうだなぁ」

 

呑気に笑うレイズの耳に、久方振りの声が聴こえてきた。

 

ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ

 

その呑気そうな声は目の前の船からではなく、何故か空から聴こえてきた。

 

おおおおおおおおおおお

 

徐々に自分に近づいてくるその声にレイズは空へと視線を移した。

 

おおおおおおおおおおおお

 

声のする方向に目をやると、そのバカは太陽を背にして猛スピードで落ちてきていた。

 

「おおおおおおおおおお、あ!!レイズーーー!!

 

その勢いで突っ込んでこられると流石に痛いじゃ済まないので、レイズは徐にその人影へと手を伸ばした。

 

艮の鎧(リジェクト・アウト)

 

レイズの周囲に風の障壁が発生する。

その風の障壁により物凄い勢いで飛んできた人影は軌道を逸らされ再び空に打ち上げられた。不思議そうな顔をした件の人影は、勢いがつきすぎたことに気がつくと、少し勢いを殺して再び落ちてきた。

 

「レイズーーー!!見付けたーーーー!!」

 

そして今度は、風に誘導されレイズへと抱き付いてきた。

 

「遅えぞ、エース」

「わりぃ、待たせたレイズ」

 

久々の再会に子供のような笑顔をするエース。

そんなエースに少し困ったような、嬉しそうな顔で答えるレイズ。

その声を合図にしたのか、船から次々と人が降ってきた。

 

「レイズーーー、寂しかった」

「ごめんねカリーナ」

「よぉし、賭場荒らしに行くぞ」

「それはもう少し待ってねシュライヤ」

「また、鍛練の手伝いを頼む」

「おう、任せろサガ」

 

降ってきた3人に潰されているエース。

その顔は何故かとても嬉しそうだった。

 

「ところで、れいずからおんなのにおいがするんだけど、どういうこと?しかもふたりぶんも」

 

カリーナの抑揚のない声が聞こえたのかエース・シュライヤ・サガはサッとその場から離れた。

 

「おい、お前」

 

そんな薄情な男達の後からフワフワと少女が浮きながら現れた。

素肌の上には見慣れた男物の白いワイシャツ。

黒いミニスカートと合間って大変可愛らしい。

そんな少女、ペローナは目の前の胡散臭い女(ペローナ視点)を値踏みするように見る。

対するカリーナもどこかムカツク目の前の浮いてる女(カリーナ視点)を値踏みするように見据える。

互いに納得したように小馬鹿にするように鼻で笑う少女。

 

「あたしが本妻だからな!!ホロホロホロホロホロホロ」

「ハッ!あたしが本妻よ!!うししししししししししし」

「「あぁん」」

 

睨み会う美少女、そんな光景が繰り広げられたいるなか、レイズはというと。

 

「レイズ大丈夫?はいお水」

「ありがとねプリン」

「ううん、気にしないで(あのアホ共が醜く争っている間に、あたしはレイズの好感度稼いでレイズの幼妻として確固たる地位を築き上げてやる)」

「(プリンも悪い笑顔浮かべてるんだけどなぁ)まぁ、良いか」

 

「オレのレイズが~」

「誤解を招くからその言い方やめろエース」

「君らがレイズの認めた海賊団かね。フム、まぁ合格だ」

「なんだこのガリガリ貧弱で傷だらけの優男は」



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道化芝居は終わりを迎え、新たな時代の幕が開く

アニメ1000話には間に合わなかったけど、ONE PIECEに関わる全ての方々に感謝を


とある島の砂浜。

現在そこでは世にも珍しい光景が広がっていた。

 

「ウオロロロロ、オレ達はレイズの野郎に一杯食わされたってことか」

 

砂浜に造られた櫓に腰を据え、大樽5個を空にしたカイドウは海王類の蒲焼きを肴にして、6個目の大樽を上機嫌に飲み干していた。

 

「マンママンマ、相変わらず細々した子だね。まぁ、このレモネードのレシピで許してやるとするか」

 

こちらも大樽に造られたレイズ特製のレモネードと、決着後到着したカタクリ手製の特大ドーナツを物凄いスピードで消費していくビッグ・マム。

 

「グラララララ、それでこの小僧がレイズの“頭”になる訳か」

 

巨大な杯に溢れんばかりの酒を注ぎ飲み干した白ひげ、肴として準備された干物などを食べながら自分の隣に座る男に目をやる。

 

「は、えっと宜しくお願いします(無理無理無理無理無理、何この化物の集団は)」

 

ガチガチに固まり珍しく正座して目の前の食事にも一切手をつけない件の船長であるエース。

 

レイズ争奪戦終了後、既に準備された宴の席。

最初こそ怒りを露にしていたカイドウとビッグ・マムであったが、滅多に味わえない物に意識を削がれ、気を良くしていた。

さして、今回の道化芝居の協力者である白ひげもまた、体に馴染む酒を飲みながら、宴を楽しんでいた。

 

「ペロリン、おいレイズ!お前、今回の騒動でママと結んだ海賊協定に関する内容全部履行させる話だったろ!!」

「えぇ、そのつもりですけど?それよりペロスの旦那、お茶は口にあいましたか?」

 

調理場として造られた一角、そこで料理や飲み物を準備し続けたいるレイズ。

助手としてシュライヤにサガ、3海賊団の下っ端が駆り出されている。

そこに現れたのはビッグ・マム海賊団の実質的No.2シャーロット・ペロスペローだった。

 

「く、いまいましい。お前本当にうちの婿に来いよ」

「おいおいおいおいおいおい、諦めろよペロスペロー」

 

そこに横から現れたのは見事に“丸”な男だった。

 

「おや、クィーンの兄御。うちの料理長(プリン)の作ったお汁粉はいかがですか?」

「おう、何だ初めて食ったが白玉の中にチョコが入ってるじゃねえか!!しかし、チョコの甘さを殺すことなく小豆の風味を損なうことなく、何てすげえお汁粉だ」

 

クィーンは初めて食べるお汁粉の新たな可能性にご機嫌だった。

既に大鍋5杯を完食しているにも関わらずその食欲が衰えることはなさそうであった。

 

「おいおい、レイズあまり調子に乗らすんじゃねえよい」

「あれ、そろそろドクターストップかなマルコ?」

 

マルコもまた、綺麗に盛られたワンプレートを片手に集まってきた。

顔に赤みがさしていることから、少し酔っているようではあった。

 

「うちの奴らがそろそろ連れてくるころだから、準備だけしておけよい」

「了解っす。はい注目、調理は20分休憩。調理組も食べて飲んで少し落ち着いて」

 

レイズの声と共に調理場にいた人間すべてが疲れ切ったかのようにその場に座り込んだ。

最奥で鍋をかき回していたプリンへと近付くレイズ。

その前をスラリと綺麗な長脚が行く手を阻んだ。

 

「レイズ、いくら何でも“あの子”はカタクリ兄さんから聞いている以上の報酬じゃないか?」

「くふふふ、スムージーさんお久しぶりです」

 

足長族特有のタトゥーの入った脚を宝物を扱うように地面に降ろし、自身を超える長身の女性であるスムージーと相対するレイズ。

 

「だったら、今この場であなた方がどれだけの契約違反をしてきたか暴露しましょうか?言っては何ですが、僕は相当の不利益を被っている筈ですが?」

 

笑顔を浮かべ、スムージーと相対するレイズ。

スムージー自身も、ビッグ・マム海賊団としてレイズに犯している契約違反を四皇が3人も集まっているこの場で暴露されることで生じる不利益を計算できているわけではなかった。

 

「貴様、我々を脅す気か!!」

 

その言葉に笑顔をより深めるレイズ、その笑顔を直視したスムージーは、瞬間的に背筋を凍らせてしまった。

 

「脅す気“は”ありませんよ。どちらの立場が現状で上なのか理解していないのは貴女ではないでしょうか?解ったら退け、邪魔だ」

 

その言葉に思わず愛刀に手が伸びるスムージー。

そのスムージーの手を掴んだ者がいた。

 

「“邪魔をするな”ではない。落ち着けスムージー」

「邪魔をするな、カタクリ兄さん」

 

ドーナツ造りを終えたカタクリであった。

 

「レイズ、お前もスムージーに当たるような真似をするな。今日という日にお前と決着をつけさせるな」

 

カタクリに睨みつけられたレイズ。しかし、その顔にはどのような感情も写ってはいなかった。

しかし、カタクリと顔を合わせると。

 

「へいへい、申し訳ありません。それじゃ、オレは行かせていただきますよ」

 

ヘロヘロのプリンへと一直線で歩いていき、お姫様抱っこでプリンを抱き上げると近くのソファーへと進むレイズ。

その姿に、同じくヘロヘロの筈のカリーナとペローナ、ページワンを引き摺りながら突進してくるうるティと上機嫌に大股で近づくヤマトの姿があった。

 

「カタクリ兄さん」

「解っている、だが此処で我々の負債をばらされることの方がどれだけの不利益になるか考えろ。それとも、“婿”をプリンに盗られたことがそんなに気に食わないか」

 

レイズへの負債の相殺のために、花嫁修業として送り出される候補にスムージーも確かにいた。

しかし、年齢や立場などの観点からプリンが選ばれたのだった。

そんなスムージーの視線の先には複数の美少女に抱きつかれ、困ったような笑みを浮かべるレイズがいた。

 

「ふん、わたしはもう知らん」

 

苛立ちを隠すこと無く本船に戻っていくスムージー。

 

「ペロリン、レイズと関わって一番の不利益は可愛い妹達の姉妹喧嘩が増えたことだな」

「ペロスにぃ。その不利益すら帳消しに出来るほどの魅力があいつにはある」

「解っている、クラッカーまでの兄妹たちからの評価が高いなんて珍しいこともあるからな」

 

ビッグ・マム海賊団を支えるペロスペローとカタクリ。

二人の心労は当分癒されそうになかった。

 

「プリン、お疲れさま」

「むぅ、まだ大丈夫だもん」

 

レイズに抱き抱えられながらソファーへと着席したプリン。

口では余裕そうにしていても、動けるだけの体力が無かった。

だから、この状況に甘んじて抱きついているのであった。

 

「レイズ~、何でワッチらのとこにこないんでありゃしんす?」

 

プリンが人生の春を謳歌していると、ソファーの後ろからレイズの首めがけて猛スピードで突っ込んできた女がいた。

 

「うるティ、勢いを殺して飛び付こうね。あれ、ペーは?」

 

背中への頭突きで多少ダメージを受けたレイズだったが、いつもセットで付き合わされているうるティの弟であるページワンの姿か無いことに気が付いた。

 

「へ?ぺーたん?あれ、いりゃしゃんせ?ぺーたーん何処いったでありゃしゃんせ?」

 

周囲をレイズに肩車させて見渡すうるティ。

すると。

 

「あ、兄貴」

 

ソファーの真後ろに砂に埋まったページワンがいた。

 

「えぇ!!ぺーたーん、どうしたんでありゃしんす?」

「姉貴がオレ事突貫したせいで埋もれたんだよ!!そんなんだから、兄貴に貰われないんだよ」

「あぁん、誰が粗暴で可愛げがないだコラァ!!」

「そこまで言ってないけど概ねそうだろうが!!」

 

レイズの真後ろの砂浜で起こる一方的な姉弟喧嘩。

それをBGMに笑っていると、レイズの後ろからスルリと腕が延びプリンごとレイズを抱き締めた。

 

「レイズ、いつになったら僕のトキになってくれるんだい」

 

酒気を帯び、頬を染めたヤマトが自分の体を押し付けながらレイズに抱きついていた。

 

「前も言ったけど、オレを惚れさせたいなら憧れになろうとするなよ」

「でもぉ、ぼくはぁ、おでんになるんだぁ」

「はいはい、っとみんなゴメン。ちょっと用事」

 

そう言うと船長たちの集まる席へと歩いていくレイズ。

その顔に笑顔の仮面を張り付けて。

 

「(あ、あかん。胃が死ぬ)」

 

化物3人に囲まれ顔色を悪くしていくエース。

目の前の好物もすっかり冷めきり、氷で満たされていたオレンジジュースも氷が溶け不味そうだ。

 

「はいはいはいよ、ちよっと失礼させてもらうよ」

 

そんなエースの背後から両手と風を操り、追加の食べ物を持ってきたレイズが唐突に船長だけの会合に参戦した。

 

「ウオロロロロ、おいレイズ。いくらお前でも場を弁えた方が身のためだぞ」

「マンママンマ、海賊の酒宴で船長同士が顔を付き合わせているのに、他の人間が来ることなんてご法度だろう」

「グララララ、お前らが仁義をぬかすか」

 

化物3人の意識がレイズに向いたことで盛大に息を吐いて落ち着くエース。

 

「いやぁ、歴戦の王者が孵りたての雛に寄って集って威圧してるところなんて面白味無いですからね。それに」

 

そう言葉を切るとレイズはエースへと視線を向ける。

少し落ち着いたのかいつもの笑顔に近い顔立ちになったエース。

そんなエースの顔に顔を綻ばせるレイズ。

 

「それに、今は雛でもいずれ“王”になる器と見定めた男だ。船長のために命張れないようなダセエ真似オレがするとか思われてるのは正直癪だ」

 

レイズから笑顔の仮面が剥がれ、無表情の仮面のような顔が現れた。

 

「白ひげの親爺にカイドウの旦那はオレにある負債は今回の件でチャラに出来たけどシャーロット・リンリン、たんまり溜め込んだあんたらの負債はどうするつもりだい」

「んが!?レイズ、お前ぇ!!」

 

4人の皇の一人、ビック・マムとして国を治め、女傑として君臨するシャーロット・リンリン。

そんな彼女の恥をかかされているという怒りの感情の乗った睨みに対して負けること無く、冷徹に睨み返すレイズ。

 

「頭張ってる男を守れないからと尻尾巻いて逃げたす男と思われてたならますます癪だ!叔父貴の名で飯食ってるわけでもねぇし、オレが惚れ込んだ男をバカにしたいならまずは溜まりに貯まった負債の清算をしてもらおうか!!」

「このクソ餓鬼が!!」

 

ビック・マムがその手に何かを掴もうとした時、両脇から薙刀と棍棒が突き付けられた。

 

「おいリンリン、口で負けそうだから攻撃しようとした訳じゃねえよな」

「ババア、この宴も協定の範囲だぞ。オレも戦争がしたいが今は未だその時じゃねぇんだ」

 

白ひげとカイドウの覇気にあてられ、冷静さを取り戻したビック・マム。

 

「マンママンマ、冗談だよ。レイズ、お前も忘れてないかい?“アイツ”に返すのは問題ないが、“アイツ”がここにいることがそもそもの条件だろ。いない奴に返せとは虫が良すぎじゃないか?」

 

勝ち誇ったようにレイズを見下すビック・マム。

顔を下げたレイズを言い負かしたと思い笑っているビック・マムだったが、レイズの耳にはとある男が息を切らし走ってきた音が聞こえていた。

 

「だとよ、良かったな“ペドロ”」

「そ、それは本当か!?ビック・マム!!」

 

レイズの呼び掛けに応じるようにその場に辿り着いたのは一人の男。

悪魔の実のゾーン系統の特徴と一致しない獣人。

グランドラインに存在するミンク族の男、ジャガーのミンクであるペドロが息を切らして立っていた。

 

「ぺ、ペドロ!?お前なんでここにいるんだい!?」

「グララララ、間に合ったかマルコ」

「あぁ、どうやらギリギリだったぽいなオヤジ」

 

酒気帯び飛行禁止のタスキを掛けられたマルコが白ひげの後ろから現れた。

海賊王と共通の男と交友のあった白ひげにレイズはペドロを迎えに行くよう頼んでいた。

 

「くそがぁ!!でも約束は約束だ!!オレだって仁義は弁えてるつもりだ」

 

ビック・マムはそう叫ぶと右手を空に掲げた。

すると、彼女の一団に属する船から大量の光る玉が彼女の元に集まってきた。

 

「ほらよペドロ、お前のソウル消費しきれなかった50年分だ」

 

その言葉と共にペドロにソウルを投げつけるビック・マム。

ペドロと呼ばれた獣人にソウルがぶつかると、ペドロの身体は金色に輝きだした。

 

「ビック・マム今し方の無礼申し訳ない。その詫びに此方を受け取っていただきたい」

 

ペドロの一幕が終えたのを見計らい、懐から拳大の宝箱を差し出すレイズ。

 

「んぁ~?こりゃなんだい?」

「タマゴさんの失くされた瞳の代わりになればと探していたモノです」

 

レイズの言葉を合図に宝箱を開けるビック・マム。

 

「おやまぁ、なんて綺麗な宝石だい」

「義眼、としてお使いいただければタマゴさんもさらに箔がつくでしょう」

 

先程までの険悪な雰囲気は消え去り、宴の状況も手伝い、先ほど以上に場に楽しさが溢れていた。

エースはそれを成した自身の副船長を見ていた。

 

「おい、小僧」

 

そんなエースに白ひげは飲み干し空となった巨大な杯を差し向けてニヤリと笑う。

 

「テメエのとこの副船長にここまでさせておいて、いつまでビビってるつもりだ?」

 

白ひげのその言葉に、エースは今とある感情と決別する決心を着けた。

白ひげの差し出した杯を掴み取るとそこに並々とカイドウが飲んでいた酒を満たす。

突然の行動に、その場にいた全員の視線が必然的にエースへと向けられる。

エースは覚悟を決めたように杯を持ち上げると一気に酒を飲みだした。

一滴も溢すこと無く、その場にはエースの酒を飲み干す音だけが存在していた。

 

「お控えなすって!!」

 

飲み干した杯を櫓に置き、立ち上がるエース。

そして、始まるのは自身が定めた襲名式だった。

 

「手前、東の海にて生を受け、山賊にて育った無鉄砲者にございます」

「憧れに身を焦がし、義兄弟との約束のため海に出たまだまだ新参者にございます」

「歴戦のお歴々方から見れば、未々ひよっこ、生意気なクソ餓鬼ではございます」

 

そう言葉を切るとエースの視線はレイズへと向かった。

そして、レイズはエースが今まで見たこと無いような優しい笑顔を向けていた。

 

「ですが!!この身を流るる鬼の血と共にいずれは王になろうとする野心は本物にございやす!!」

 

エースのその言葉に何かに気がついた顔をするカイドウとビック・マム。

そして、事前に知らされていた白ひげは嬉しそうに笑顔になっていた。

 

「名を『ポートガス・“ゴール”・D・エース』と申す駆け出しの海賊を以降宜しくお願い致しやす」

 

その言葉と共に気絶するように倒れたエース。

 

「グララララ、良い啖呵だったぞ小僧」

「まったくよい、おい点滴準備」

 

エースのきった啖呵に気をよくして再び酒を飲み始める白ひげと、気絶したエースを白ひげの宿営地に運ばせるマルコ。

 

「ウオロロロロ、やはり血は途絶えてなかったか」

「マンママンマ、ただの小僧で終わるか鬼になるか楽しみじゃないか」

 

エースの出自を察したカイドウとビック・マムもまた気分よく宴を再開した。

 

「アイツが、ロジャーの子」

 

そして、憧れた男との約束それだけを胸に生きてきたペドロの前にそれまでとは別の光が射していた。

 

「ペドロ」

 

そんなペドロに声を掛けたのは得意気に笑うレイズ。

 

「オレはエースを王にする」

「お前、それは」

「お前はどうしたい?これからも木の上で夜明を待つのかい」

「オレは「それとも、夜明を間近で感じたいなら、いい加減に降りてこいよ」

 

レイズとペドロの視線の先には顔を真っ赤にして目を回すエースとそれを取り囲み大騒ぎに発展している宴の場があった。

 

「オレは、もう一度海に出ても良いのだろうか?」

「決めるのはお前だけど、あの太陽を支えてくれる奴は多い方が嬉しいかな」

 

時代のうねりは加速し、ここから一気にその姿を現していくことになるのだが、それはまた次回。




凍結解除後もこんな感じでゆっくりとやっていく所存です。
次回から一気に時間が飛びますがご容赦ください。


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兄弟

キリが良いので投稿しました。
宜しかったらどうぞ。


クロッカスの前には一人の青年が座っていた。

この2年間、話題に事欠かなかった一味の頭を任されている青年はある日ふらっと現れると土産とともに盛大な爆弾を落とし、クロッカスの悩みの種であったラブーンとの問題を解決してくれた人物だった。

 

「それで、新世界は楽しいかエース?」

 

クロッカスの対面に座り、紅茶を楽しんでいる(素振りを見せている)男『“炎魔(えんま)”のエース』は人好きしそうな笑顔を浮かべる。

 

「おう、クロッカスさん!この2年間滅茶苦茶楽しかったぜ!!」

 

エースが海賊として正式に旗揚げし双子岬を出港してから2年の月日が流れていた。

その間、エース率いるシャッフル海賊団は話題に事欠かなかった。

東西南北の4つの海で潰した悪徳海軍の支部は20を越え。

新世界に入ってからも勢力を持っていた名のある海賊を潰して回り、壊滅に追い込んだ海賊団は50を越え。

そのついでに名前を無くした国は10ヶ国に及んだ。

一味の主戦力である5人は全員が億越えの賞金首となり、その賞金額に恥じない戦力となっていた。

一方で、一味と関わりを持ってしまった民衆の反応といえば、ひどく友好的であり、進んでシャッフル海賊団の海賊旗を掲げる島もあるほどであった。

エースとしての目的であったシャンクスへの挨拶も滞りなく行われたが、エースの仲間の面子に流石のシャンクスも腰を抜かしていた。

そして、ラブーンの定期検診とエースの近況報告に双子岬を訪れていたそんな日のことだった。

 

「エース、お待たせしました」

「おう、“マヤ”!ラブーンの調子はどうだった?」

 

シャッフル海賊団船医であるマヤの診察が終わり遠くからラブーンの鳴き声が聞こえてきた。

 

「新しい傷は確認できなかった。本当にエースとの約束を守っているんだな」

「おう、サガ。今回は邪魔しなかったようだな」

「あれは、マヤが襲われると思ったからであって、けして診療の邪魔をしようとしたわけでは」

「ほう、お前さん等は相変わらずの仲のようだな」

 

2年前は居なかった船医であるマヤ、そんなマヤに付き従うように隣を歩くサガ。

そんなサガの腰には居合い刀が携えられていた。

 

「さぁて、そろそろ行くか」

「あまり帰りが遅いとレイズが干からびちゃうもんね」

「あいつ、“あの状況”でよく死なないよな」

「はっははは、変わらんなお前さんら」

 

4人が灯台の隣に建てられたクロッカスの小屋から外に出た、ちょうどその時だった。

 

「おまえ、オレの特等席に何しやがる!!」

 

そんな怒鳴り声と共に4人の目の前で山ほどの巨体を誇るクジラのラブーンが殴られたのだった。

遡ること数分前、東の海の入口に一組の海賊達が現れていた。

 

「おおぅ、ナミ!!あれか?」

 

麦わら帽子を被り、子供のように眼を輝かせる一人の少年、“モンキー・D・ルフィ”は興奮をおさえること無く、後ろに控える少女へと声をかけていた。

 

「えぇ、あれこそが“偉大なる航路(グランド・ライン)”、そして今メリー号が走っているのがリバースマウンテンよ」

 

オレンジ色の髪をはためかせながら、自身の興奮に胸を躍らせる航海士“ナミ”。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ、興奮しているナミさんも素敵だ!!」

 

目をハートにし、高速で回転し続けながらも軽食の準備を手早く済ませていくコック“サンジ”。

 

「・・・・・、うるせぇぞエロコック」

「おぉ、なんか言ったかクソマリモ」

 

船を流れに任せることで舵きりから離れた戦闘員“ロロノア・ゾロ”は犬猿の仲であるサンジの奇行に悪態をつき、二人のいつも通りのにらみ合いが始まった。

 

「おいナミ!前方に山があるぞ」

 

砲撃手“ウソップ”が見張り台から叫ぶ。

彼のゴーグルにはハッキリと巨大な山が見えていた。

 

「はぁ山?霧で何も見えないけどそんなもの下った先には海しか見えない筈よ?」

「くぉらぁ、ウソップ!!てめえ愛しのナミさんが嘘ついてるとでも言うのか」

「でもよぉ、確かに山が」

 

3人のそんなやり取りの中、徐々に霧が晴れていき前方の視界が開けた時だった。

 

「ブオォォォォォォォォォォォォォ」

 

山と思われた巨大な何かから遠吠えのような声が聞こえてきた。

 

「や、山じゃねぇクジラだ。バカでけぇクジラだ!!」

 

その正体にいち早く気がついたサンジが叫ぶ。

 

「どどどどどどど、どうするよ!?」

 

あまりの事態に声も体も震えるウソップ。

 

()るか?」

 

そんな2人を余所に呑気な声色でルフィが喧嘩を提案する。

 

「あんたはじっとしてなさい!!」

 

そんないつもの調子のルフィに拳骨をいれて黙らせるナミ。

 

「おい!左に抜けられるぞ!!」

 

そんなパニック状態の中、ゾロが活路を見出だし全員がその声にしたがい、メリー号を全力で左に傾けていた。

 

「あ、オレ良いこと思い付いた!」

「ちょっとルフィどこ行くのよ?」

「ナミさん、取り敢えずあのバカのことより今はこっちだ」

 

ルフィが持ち場を離れ船内へと消えていく。

一味の最大のピンチにいなくなった船長よりも、まずはこの窮地を脱するべきだと残りのクルー全員でメリー号を左に傾けるが、勢いが殺しきれずかなりの速度でクジラに突っ込んでいく。

 

「「「「(終わった)」」」」

 

ルフィを除くクルーの心が絶望に染まった時、ズドンと砲撃の音が聞こえ、正面のクジラに砲撃が当たったのを4人が目視した。

 

「良し!!」

 

砲撃を実行した犯人であるルフィはメリー号が減速していくのを感じ得意気に笑った。

メリー号は徐々に減速していくがそれでも止まることはなくクジラに見事ぶつかり、羊を模したフィギアヘッドが折れ、デッキに飛んできた。

 

「し、死んだ」

 

これから起こる最悪を予感したナミが悲嘆に暮れる。

そんな中、ゾロとサンジ、ウソップはオールをひたすらに漕ぎ少しでも速くクジラから逃げようとした。

顔を上げることの出来ないナミの隣にルフィが息を切らして立っていた。

 

「る、ルフィ?」

「おまえ、オレの特等席に何しやがる!!」

 

そう叫ぶと、勢いをつけ右腕を伸ばしその反動を利用して高速の右ストレートをクジラの目に打った。

 

「「「「お前が何しとんじゃ!!」」」」

 

4人にツッコマレたルフィの顔は自分が何をしたか理解していない顔だった。

そんなルフィの(苛立たせる)顔に炎を纏った拳が突き刺さり、ルフィはダイニングスペースへと壁を突き破り吹き飛ばされた。

 

「てめぇ!!オレのダチに何してくれてんだ!!」

 

理解が追い付かない麦わらの一味に更なる混沌が舞い降りた。

瞬間、動いたのはゾロとサンジの2人だった。

2人は反射的に侵入者へと攻撃を仕掛けていた。

 

(おに)

 

二本の刀を交差させ侵入者へと突進して行くゾロ。

 

斬り(ぎり)

 

彼の代名詞とも言える3本の刀を使用した斬撃術「鬼斬り」。

今まで幾人の敵を斬りつけてきたこの技。

 

「あら、危ないわね。刃物はダメよ」

 

そんな彼の攻撃は腰からサソリの尾を生やした女性の、そのサソリの尾により軽々と防がれ、その先端の針がゾロの首筋へと伸ばされていた。

 

粗砕(コンカッセ)!!」

 

落下の勢いも利用し、空中で身体を何回も縦回転させ、あたかもナッツを粗く砕く行程のように敵を叩き潰す踵落とし。

今まさに侵入者を捕らえんとした脚撃。

 

「ほぅ、見事な技だ。だがまだ温いな」

 

侵入者との間に現れた銀髪の新たな侵入者が持つ刀の柄頭で受け止められてしまい、その衝撃すらメリー号に伝わらない様に霧散させられ、その体裁きからサンジの動きを封じてしまった。

ナミとウソップは自分が見ている光景を信じることが出来なかった。

東の海での激闘という確かな結果があり、勝ち進んできた一味三強。

その三人が簡単にいなされていた。

 

「・・ォムの」

 

ルフィが吹き飛ばされたダイニングスペースから彼の声が聞こえてきた。

 

「バズーカー!!」

 

多くの敵を粉砕してきたルフィ最大の技が侵入者へと叩き付けられる。

その確信は無惨に砕かれた。

 

「悪りぃな、オレには効かねぇんだよ」

 

ルフィの技が当たる瞬間、侵入者の身体が燃え上がりルフィの技がすり抜けた。

 

「ん?おい、ルフィ!?」

 

あまりの勢いで侵入者を通りすぎてしまったルフィ。

そんな彼の服を侵入者が掴む。

 

「なんだ、お前!!ん?エース!?」

「「久しぶりだな」」

 

周囲を置いてきぼりにして義兄弟は再会した。

原史よりも大分速く。




もしかしたら年内最後になるかもしれません。
来年もこんな感じで細々とやらせていただけたら幸いです。


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初対決

はい、今年最後の投稿になります。
来年も宜しくお願いいたします。


「なははははは、そうか遂にルフィも賞金首か」

「おう!!エースなんかすぐに追い抜いてやるからな」

「おぉ!?いっちょまえに言うようになったじゃないか」

 

ナミとウソップの目の前、ルフィと侵入者もとい兄を名乗る男エースが楽しげに語り合っていた。

 

「なんなの、あれは」

「ナミナミ、あっちも見てみろ」

 

ウソップの指差す方角にはゾロとその親友であるサガが酒を汲み交わしていた。

 

「まさか、サガも海賊になってるとはな」

「それはこっちの台詞だぞゾロ」

「「くいなの奴ぶちギレてるんだろうなぁ」」

 

互いに盃を傾けつつ、遠い目をしながら海軍に所属する幼馴染みの少女を思い出していた。

そんな2人の奥、クジラのラブーンの近くでは。

 

「はい、問題なし。良い子ねラブーン」

「ブオォォォォォォォォォォォォォ」

「マァヤァちゅわーーーーーん、紅茶とケーキはいかが?」

 

砲撃を受け、目を殴られたラブーンの診察を終え一息つくマヤと、そんな彼女の傍でメロリーンモードのサンジがティータイムの準備をしていた。

 

「一味に知り合いが2人もいるなんて、一体どういう偶然だよ」

「にしても、ルフィのお兄さんとゾロの友達にすごい見覚えがあるんだけど」

 

麦わらの一味(ひ弱)戦闘員(自称)の2人が意識を飛ばしているなか、ラブーンが何かを察したかのように潮吹きを思い切り吹いた。

すると、上空に2人の人影が飛び出してきた。

 

「あ!クロッカスさんあいつらか」

 

その2人に気が付いたのかエースが灯台守りのクロッカスに話しかけた。

 

「んん、あぁそうだ。あいつらがラブーンを狙ってる近隣のゴロツキどもだ」

「しかし、あの高さから落ちると流石にヤバいか」

 

エースは徐に立ち上がる。

 

「んぁ?どしたエース?」

「ルフィ。お前“こんなこと”出来ないだろう?」

 

ニャっと笑うとエースは落ちてくる人影に目をやる。

 

「“剃刀(かみそり)”」

 

その言葉が響くのと同時にエースは空を走っていた。

 

「“焔鵺晃路(えんやこうろ)”」

 

脚に焔を纏い空を高速で駆け巡るエース。

 

「うほぉー、スッゲー!!エースが空飛んでる!!」

「何よあれ!?あれも悪魔の実の力なの?」

 

純粋にその光景を見いるルフィと今まで見てきた能力者のデタラメ性からエースも悪魔の実の能力者ではないかと考えるナミ。

 

「まぁ、あながち間違いではないわね」

 

そんな2人に声をかけたのは治療道具を仕舞い終えたマヤだった。

 

「でもあれは、能力と体術の組み合わせよ。もとになった体術なら頑張れば出来るようになれるわよ」

 

そう言って微笑むマヤ。

その頃、上空では。

 

「よっと、流石にこの高さから落ちると死ぬぜお前ら」

 

落下してきていた男女2人組をエースが救出していた。

 

「おおおおおおおおおおおお前、お前のような奴がなんでこんなとこに!?」

「おおおおおおおお落ち着きなさいMr.9」

「なははははは、オレ達のことは下に着いたら黙ってくれてると有難いんだが」

「「無論です!!」」

 

そんな会話をしていた。

 

「クロッカスさん、コイツら?」

「あぁ、ラブーンを狙ってるゴロツキどもだ」

 

クロッカスの前で涙を滝のように流しながら正座させられている男女。

そんな2人の後ろにはサガが刀に手を掛けて控えていた。

 

「うぅぅぅ、Mr.9。私、もう、ラブーンを殺すことなんて無理よ」

「ぶぉぉぉぉ、オレもだミス・ウェンズデー。こんな健気なラブーンを殺すことなんて、オレ達には出来ない」

「いや、お前ら大丈夫かよ?」

 

ラブーンの境遇を聞き、悲嘆にくれるMr.9とミス・ウェンズデー。

その向かい、クロッカスの後ろでは麦わらの一味もやり場の内感情を持っていた。

 

「だが、エース達のお陰でラブーンも気持ちを持ち直してくれた。そう思うとワシも奴らの事を信じてやれてなかったんだな」

 

クロッカスのその場を締めるような言葉に違和感を覚えつつ、ナミがルフィに声をかけようと辺りを見回した。

 

「いいかクジラ!!オレも今日からお前と友達だ!!いつか、お前の仲間達の事を土産にまたもどってくるから、その時はまた遊ぼうぜ!!」

「ブオォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

いつの間にかラブーンと友達になっていた。

 

「さて、ルフィ“これ”お前にやる」

 

再会を祝したサンジのランチを食いつくし、グランド・ラインの滅茶苦茶さを知った麦わらの一味による一悶着の後、エースがルフィに紙切れの入ったペンダントを渡した。

 

「なんだ?」

「御守りみたいなもんだ、出来れば肌身離さずに持っててくれ」

「よく解んねぇけど、エースがそう言うなら解った」

 

ルフィとエースが話し込んでいるなか、双子岬に船が近づいてきた。

メリー号の数倍はある船首シンボルに焔のような鬣と頭部に巨大な槍をもつ黒馬があしらわれた巨大な帆船だった。

 

「エース」

 

その帆船から男性の優しい声が響いた。

その声に名前を呼ばれたエースだけが顔を青ざめているが。

そんなエースの反応をよそに帆船から男性が飛び降りてきた。

男性は“ふわり”と地面に降り立つとエースの隣を通り過ぎ、ルフィの前に立った。

 

「麦わらの一味船長“モンキー・D・ルフィ”さんですね?」

「おう、ルフィはオレだ!お前誰だ?」

 

線の細い柔和な優男、そんな印象の男性を前に戦闘を本能で捉えるルフィが油断無く警戒していることにナミは気が付いた。

 

「初めまして、貴方の自慢はそこのバカ(エース)から伺っております。突然の来訪ご容赦ください。シャッフル海賊団にて副船長をやらしてもらってます“フェンシルバード・レイズ”と申します」

「なんだなんだ、あんたルフィの兄ちゃんの部下か」

 

深々と頭を下げる男の雰囲気に、ついいつもの通りに調子にのったウソップ。

 

「黙れ」

 

そんなウソップを見ること無く、レイズと名乗った男はただ静かに頭を下げたまま一言呟いた。

けして脅すような声でなく、なにかを諭すような声色だったにも関わらず、ウソップは瞬間的に自分が殺されるイメージを叩きつけられた。

 

「少なくとも、他海賊団の相手が船長と話していて、しかも役職持ちであるならば、少なくとも通すべき筋があるだろ」

 

そう言って頭を上げたレイズの顔には一切の表情が無かった。

 

「覚えておけ、この海を渡るなら普段はともかく、船長の雰囲気を察せれるようになってないと恥をかくのは自分達の船長だということを。そして、自分達が今までの海でどれだけ名を上げていてもこの海に来た時点で新人共(ルーキーズ)に成り下がったことを」

 

その顔には麦わらの一味を見下すような感情も視線も無かった。

ただただ、事実を述べているだけというその事しかなかった。

 

「なぁ、レイズ」

「道草食って着くの遅れた馬鹿が、なんか言ったか」

「あ、あぁー、ご免なさい。ご免なさい次いでに頼みが有るんだけど」

 

流石に自分が悪いと自覚があるエースは素直に謝りつつ、義弟(ルフィ)と再会したら頼もうと思っていたことを実行中に移した。

 

「ルフィと戦ってくれ」

「「はぁ!?」」

 

その言葉にレイズだけでなくルフィも不思議そうにエースを見つめる。

 

「お前、強そうだな」

 

戦闘モードに意識が移行しているルフィ。

そんなルフィを見て溜め息を漏らすレイズ。

 

「義兄弟揃って、人の話し聞かないんだから」

「よーし、いいかルフィ。ルールは簡単3分間の乱取りみたいなものだ!」

 

1人ニコニコと笑みを浮かべるエース。

 

「開始の合図はラブーンに鳴いてもらおう、ラブーン頼む」

 

エースの声が聞こえたのかラブーンはその体を空へと向ける。

 

「ブオォォォォォォォォォォォォォ!!」

 

その巨体から発せられる声に一同が耳を塞ぐなか、ルフィの行動は速かった。

 

「ゴムゴムのぉぉぉぉぉ!!」

 

パンチをくり出すように右手をその場で引くと右腕はゴムのように伸びていく。

 

「ピストル!!」

 

ゴムの反動を利用した右ストレートが、常人の反応速度を凌駕した勢いでレイズへと迫る。

麦わらの一味の面々はルフィの必殺の一撃が男に突き刺さる瞬間を目にした。

そのはずだった。

しかし、ルフィの拳はレイズに当たること無く、勝手に右にそれていった。

 

「ありゃ?可笑しいなぁ?」

「喋ってる暇があるなら打ち込んでこい」

「なんだとぉ!?このやろう」

 

そこから、ルフィが一方的に攻撃を仕掛けるが何故か当たらず、レイズはその場にただただ立っているだけだった。

 

「ゼェ、ゼェ、ちくしょなんで当たらねぇんだ」

「やれやれ、未だこんなものですか」

 

肩で息をする見るからに疲弊したルフィとは対照的に、どこか冷めた目でルフィを見るに留まっているレイズ。

 

「解った」

 

そんな二人の戦いの様子を眺めていたナミはレイズの秘密に気が付いたようだった。

 

「ルフィ!その人もきっと能力者よ!多分風か大気を操ってあんたの攻撃を反らしてるのよ」

「本当かナミ?」

「天候に関係することで私はウソつかないわよ!」

 

ルフィがナミの言葉を確かめるようにレイズに視線を移す。

 

「どうやら優秀な航海士がいるようだね。ご明察、私はエアエアの実を食べた大気自在操作人間。既に私の周囲の大気は私の支配下にあります」

 

レイズは地面の砂を蹴り上げる。

すると、レイズの周囲に風の流れ道のような壁のようなものが見えるようになった。

 

「“艮の鎧(リジェクト・アウト)”、自分の周りに壁の様に纏わせた風の鎧。攻撃を受け止めるのではなく、軌道を変える事で相手からの攻撃を防御する技です」

 

風の鎧が目視出来るようになった、その事でナミとウソップはルフィが勝機を見いだしたと思っていた。

 

「実力差が有りすぎる、ルフィの負けか」

「あんだよ、レイズさんあんなに強かったのかよ。そりゃジジイが認めるわけだぜ」

 

しかし、戦闘力高めの2人ゾロとサンジは隔絶した実力差をその肌で感じ取っていた。

ゾロはミホークとの戦闘を経て得た強者に対する感覚から、サンジはかつて師であるゼフが下していた評価から、ルフィであっても“今は”勝てない相手であると悟った。

そんな中、レイズがチラッとエースに視線を送る。

正確にはエースの側にいつの間にか立っていたドでかい懐中時計を持つシュライヤへ視線を送っていた。

 

「3分経ったぞ。会ったばかりのエースでも、もう少し頭使って戦ってた気がするが生来の気質というものか」

 

そう、レイズが呟くと海ギリギリまでジャンプして下がる。

 

「ルフィ、君は恐らく本能的に自分がどうにかしなきゃならない相手をかぎ分けて戦うタイプなんだろう」

 

レイズの右手に取り出された扇に周囲の風が集められていく。

その最中でも攻撃の手を緩めないルフィであったが、今度は完全に見切られて攻撃を避けられていた。

 

「自分に出来ることだけを研ぎ澄ますことも大事だが、少しは頭を使うようにしな。まぁ、仲間を信じてるならそれで良いかもね」

 

右手に集まった風を扇に纏わせると風が流れているからかレイズの計らいか風の刃が形成されているのが解った。

そのまま剣士のように居合の姿勢に身体を創るとルフィを見据える。

 

「オレはエースを“王”にする」

 

その呟きが放たれると同時に、ルフィが駆け出した。

 

「ゴムゴムのぉ!!」

 

そして、両手を後ろに伸ばした。

 

「バズゥーーーカァーーーー!!」

 

その勢いを利用した掌底をレイズに打ち込む。

 

南風の弦(ノトス・コード)

 

ルフィ渾身の攻撃と同時に扇が振るわれると三本の風の斬撃がルフィ目掛けてを放たれた。

三本の風の斬撃を受け岸壁にめり込むまで吹き飛ばされ気絶するルフィ。

 

「・・・、まぁ合格点かな?」

 

そう呟くとレイズの頬に一筋の切り傷ができた。

先程のバズーカーは確りとレイズに届いていた。




皆様にとって来年がより良い年になりますように。


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サブタイトルを考えれるセンスが欲しい(by作者)

今年は映画もあるし、原作も盛り上がってるし良いですね


レイズとの(一方的な)試合を終え、ルフィはそれはそれは盛大に不貞腐れていた。

 

「ぶぅぅぅぅぅぅぅ」

「いや、ルフィお前なに不貞腐れてんだよ」

 

その傍でいつものように陽気な口調で話しかけるエースに対してわざと顔を合わせないように器用に回転しながらブスッとふて腐れ続けていた。

 

「しかたねぇだろ、あれだけあからさまに手加減されたら誰でも腹がたつってもんだ」

 

岬の岩に座り酒樽を片手にルフィの気持ちを代弁するゾロ。

 

「ほぉぉぉぉぉ、ゾロ“でも”少しは成長するもんだな」

「だからこそ、サガの刀がここまで冴え渡っているのが気に入らねぇ」

 

その反対側に腰掛け同じく酒樽を豪快に飲み干しながら一切の隙を見せない、サガの剣士としての完成度に実は嫉妬しているとはバレたくないゾロ。

 

「どうよレイズさん、オレの飯は」

「ふふ、昔から言ってるけど美味しいよ。それにまた腕上げたね」

「やっべ、レイズが言ってた通りお前マジモンの天才だな」

「へへへ、だろぉ」

 

サンジが珍しく美女美少女が集まるナミの周辺に一目散にメロリンするのでなく、レイズとシュライヤの(比較的)大人組にサンジ特製のフルコースを提供していた。

そして、2人が綺麗にたいらげていた元に行き、子供のような笑顔で誉められたことを喜んでいた。

 

「まさか、カリーナが海賊になってるなんて」

「うししし、それはナミもそうでしょ?」

「ホロホロホロ、なんだ2人は知り合いか」

「うふふふ、仲良いわね」

「(レイズに色目使ったら記憶切り取ろう)皆はお茶お代わりいる?」

「えっと、わたしもご馳走になって良いの?」

 

ナミの周りにはシャッフル海賊団の女性陣とエースに助けられた青髪の女性がプリンが準備したお菓子と紅茶でティーブレイクを楽しんでいた。

 

「しかし、立派になったなペドロ。船長も喜んでるだろうな」

「クロッカス、ゆがらも息災のようで。オレはオレの船長に出会ったぞ」

「しかし、あいつ(エース)を選ぶとはな。これも運命か」

 

顔馴染みのクロッカスとの久しぶりの再会に話を弾ませるペドロ。

 

「うぉー!なんじゃこの船は」

「当たり前だ私が改装を担当した船だぞ外観だけでなく機能まで追求するのは当たり前だ」

「しかし、色々と便利な機能が有るな」

 

外観からメリー号と違いすぎる巨大な帆船。

ラチェットによる改装を受けたことで「補助外輪(パドル)」も追加され機動力を増したジャック・ポッド号。

その勇姿にウソップとMr.9は目を輝かせていた。

 

「さてと、サンジ“くん”レディ達に君特製の紅茶を準備してくれないかな?」

「“くん”なんてよしてくれ、オレはもうチビナス何かじゃねぇんだよ。ところでなんでっすか?」

 

不思議そうにしながら麗しの女神達のもとに参ずれる言い訳が出来て嬉しそうなサンジ。

 

「くふふふ、ごめんね。君のところの航海士に“この海”の常識を教えておこうと思ってね」

 

そこには年不相応の悪戯っ子のように無垢だけど汚い大人の腹黒さを兼ね備えた悪い悪い男がいた。

 

「そんな、私の航海術が、常識が通じないなんて」

「正確には今までの海での常識が通じないだけなんだけどね。クロッカスさんから渡された“ログポース(それ)”がないと目的地には着けないと考えた方がいいよ」

「この針しかない羅針盤がねぇ?」

「グランド・ラインの島々は固有の磁場を帯びていて、そのログポースに滞在地の「記録(ログ)」を貯めることで次の目的地を指すようになるんだ」

「ふぅーん、ありがとう」

「君なら、この海に直ぐに順応出来そうだね」

 

ニコッと何の邪気も無いただただまっすぐな笑顔。

仲間以外から向けられる、そして年の近い大人から向けられる屈託の無いそれにナミは思わず赤面してしまう。

 

「ダメだ、ナミさん!その人だけはダメだーーーー!!」

 

二人の間に突如として割ってはいったのはラブコックモードのサンジだった。

片付けを終え、メリー号の甲板で一服していた彼のレディセンサーにナミを関知し、そちらへと視線を向けるとそこにはかつてサンジにとってのバラティエの悪魔が存在していた。

 

「お久しぶりです、ゼフさん」

「悪いな、突然呼んだりしてよ」

「あまり気にしないでください、ちょっと燃え尽き症候群みたいな感じで、これからのこと考える時間が欲しかったので」

「そうか、それじゃ悪いが1ヵ月程だがウェイター頼むぞ」

「ウィ、オーナー」

 

いつもの如くウェイター全員逃げ出してしまい、サンジも厨房から離れられないそんな時期だった。

ゼフが連絡を取ってから2日とかからず現れた青年は親しそうにゼフと話ながら臨時のウェイターとなることが決まった。

それこそが、サンジにとっての悪夢の始まりだった。

サンジはモテる、外面は良いし料理に関する知識はさすがプロと言える。そんな彼が思春期に突入し女性に興味を持ち始めた多感な時期にバラティエは恐ろしく繁盛し始めた。

海上にありながら陸のレストランに負けない美食を提供し、海賊が来たらコック一同で迎え撃つアトラクションじみた行動。

人間という生き物は可笑しなもので、危険を遠ざける一方で危険を求める生き物であった。

バラティエはそんな彼らにとって、かっこうの場所であった。

そんな場所に現れた美麗なウェイター。

淑女たちのお気に入りの可愛らしい副料理長に負けない知識と、洗練された話術。

彼が担当するようになって更に動きが良くなったホール。

何より。

 

「俺達は「客でないなら帰れ」

 

あからさまに海賊だという格好をした珍客を蹴り飛ばすウェイター。

その手に持つ完成された料理を崩すこと無く、外敵を駆除するその姿に淑女たちは目をハートにしていた。

サンジが料理に集中出来た1ヶ月後、レイズは居なくなった。

 

「あら、あのウェイターさんいなくなっちゃったの」

「折角プレゼント持ってきたのにぃ」

 

サンジがウェイターをやらされることになっても、淑女たちから既にいないレイズを残念がる言葉が無くなるのに2ヵ月かかるのだった。

 

「それ以降、ジジイがレイズさんを呼ぶことはなかったけど、それから半年間バラティエは今だかつて無い程に売り上げが落ちたんだ」

 

ことの詳細を話し終えたサンジ。

その姿は強敵との戦闘にうち勝った後のような雰囲気を出していた。

 

「それで、何が言いたいのサンジくん?」

 

その姿に意味が解らず、首を傾げるナミ。

 

「レイズさんは博学だし、大人だし、でも少し子供っぽいし、強いし、だからいろんなレディにモテる!!きっとナミさんもその虜になってしまうから、ダメなんだ」

 

地面に拳を打ち付け男泣き状態のサンジ。

言いたいことは伝わらなかったが、何となくのニュアンスは通じたようだ。

 

「流石、サンジくんが見定めたレディだねナミちゃんは。だけど、オレもいっぱいいっぱいだからそんな余裕無いよ?」

 

レイズのその言葉に後ろから駄々漏れだった殺気が霧散した。

 

「まぁ、兎に角オレ等は一度“島”に戻るからここで一端お別れだね。わかってね特にエース」

 

ぎゅるりと体ごと名指ししたエースへと振り向くレイズ。

エースの顔には若干の不満があった。

 

「君自慢の義弟ともう少しいたいだろうけど、“島”の問題を片付けてからでも大丈夫でしょ?いい加減片付けないと色々めんどくさいよ?」

 

レイズのそれはそれは優しそうな笑顔で諭すようにエースに話しかける様を見たナミは「この人も苦労してるんだろうなぁ」と親近感を抱いた。

そして、全員に注目された中エースは重い口を開けた。

 

「・・・・・、ヤダ残る

「(ブチッ)はぁ、マヤいつもの」

「はい、副船長。“スコルピア」

 

レイズに声をかけられたマヤ、それに返事をしたマヤの三つ編みに変化が現れた。

三つ編み全体が硬質化していき、まるでサソリの尾のような形になった。

 

「インジェクト”」

 

その声と共にエースへと突き刺さるマヤのおさげ。

おさげがエースに綺麗に突き刺さるとビクッと一瞬エースが痙攣した。

そして、身体の力が抜けていくかのようにズルズルと地面へと倒れていった。

 

「さて、ルフィ。ちょっと手を見せて」

「手?なんでだ?」

 

船長と副船長と船医がコントをしている最中、ルフィはシュライヤに手を見られていた。

 

「あららぁ、こんなに爪伸ばしちゃって。爪が長いと手を握り混むとき邪魔になるんだぜ」

「なにぃ!そうなのか!」

 

するとシュライヤは手品のように何もない左手から爪切りを取り出した。

 

「こりゃ、レイズとやった時も無意識に握りしめてられなかっただろうなぁ、とはい終わり。理想を言えばヤスリとかで爪を整えた方がいいんだが、そこら辺は女の子の方が詳しいから気が向いたら聞いてみな」

「おう、ありがとなシュライヤ!」

 

手を振り離れていくルフィを笑顔で見送り、レイズの側に歩み寄るシュライヤ。

 

「ほい、ルフィの爪。エースに甘いなお前は」

「自覚はしてる、というか一味に甘い気がする」

「はははは、そうかもな」

「で、ユガラ今回は何故エースにまでこの寸劇を手伝わせた」

 

レイズの後ろからゆるりと姿を現したペドロが何とはなしに質問をぶつけた。

ナミにグランドラインの天候を教え終わってからその全てが実は小芝居であり、彼らがウィスキーピークに向かうことは既に知っていた。

 

「この海を渡る試しには丁度良いだろう。それに調べたいこともあるからなぁ」

 

レイズが笑みを浮かべ麦わらの一味、正確にはその船に乗り込んだスカイブルーの綺麗な髪をした少女を見ながらそれはそれは意地の悪い笑みを浮かべていた。

 

「あぁ、レイズがまた悪い顔してる」

「ふふふ、カリーナ。君が会いたがってたお姉さまにもしかしたら会えるかもよ」

「ふぇ?」




相変わらずこんな調子ですが、よろしくお願いします。


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結構早い再会

GW皆さんはいかがお過ごしの予定でしょうか。
作者は何も考えていません。


船尾にて不満を隠そうとしないエース。

周囲は自身がやるべきことをやり、“鎮圧”した海賊島の財宝を金庫にしまい、プリンとペドロの作る昼食を心待ちにしていた。

 

「うらぁ、いつまでも拗ねてんじゃねぇよガキか?」

 

両手で書類を抱えたレイズがエースへと声をかけてきた。

 

「うっせぇな!島の件があったにせよまだ余裕あったろうになんであのタイミングで一旦離れたんだよ!」

「あの航路ならナミちゃんさえいれば“あの馬鹿共”の島まで渡りきれる。“船長”、晴れた日に降る雨のように清らかな青い髪、ここ最近姿を見せない王女がいるだろ」

「んっ?なんの話だ?」

「そこの国の王国護衛隊長も姿を見せないらしい」

「んー?あ!」

「皆、料理の準備が出来たぞ」

 

エースが何かを気が付いたのと同時にペドロから昼食の準備が出来たと報せがあった。

 

「まぁ、飯食いながら話すさね。行くぞ」

 

書類を風で浮かせるとエースの頭を優しく叩き歩いていくレイズ。

 

「あいつぅ、まぁた悪い顔してたなぁ」

 

「行儀が悪いけど食いながら聞いてくれ、お宝の話だ」

 

ペドロの作った海老カツサンドを食べながら、レイズは机に置いた書類に視線を送る。

 

「世界政府加盟国にして砂漠の楽園“アラバスタ”。とある海賊が縄張りにしてから雨が降らなくなり、民衆の反乱が目立つようになった」

「ママも面白がってほっておいたけど、レイズ“お宝”って」

「ユガラ、まさか」

「そろそろ本腰いれるか、ポーネグリフ探し」

 

“ポーネグリフ”、その単語が船内に響いた。

シャッフル海賊団全員の顔に意味深な笑顔が浮かぶ。

 

「なんでこの話になるとお前らスッゲェ悪い顔になるんだよ?」

 

エースは、エースだけは知らない。

レイズは仲間全員に頭を下げている。

エースが自身の出生を話した仲間にだけだが。

 

「“鬼の子”だから生きていてはいけないというなら、オレがそんな世界を否定する」

 

その瞳には世界に向けての憎悪がハッキリと映し出されていた。

 

「“あのバカ”が“あのバカ”らしく生きることを許さないならオレがそんな理をぶち壊す」

 

レイズの気の昂りに呼応するように周囲の風が徐々に冷たくなっていく。

 

「オレは、オレの船長を王にしたい。この船に乗った仲間が不幸にあうならあのバカとそんな理不尽をぶっ壊していきたい」

 

その時、クルーは始めて“フェンシルバード・レイズ”の素顔を見る。

 

「だから、あの太陽を沈めないために、力を貸してくれ」

 

そう言って頭を下げるレイズの答えを拒否するクルーは居なかった。

皆が知らず知らずエースという太陽と共に海を行くことが楽しくてしかたがなくなっていた。

だから、レイズの願いを承諾する。

ただ、一部の女子にとってエースこそレイズを手にするための一番の障害であると認識されることになるのだが。

 

「お前は気にせず前向いて走り続けろ、オレ達が勝手に着いてってやるだけだ。ほれ、ルフィくんのビブルカード」

 

エースの首に掛けられた紙の入ったネックレス。

可愛い弟の生存を知らせるその紙にエースはニンマリと笑顔になる。

 

「よっしゃ、野郎共!!目指すはウィスキーピークだ!急ぐぞ急げ!」

「記録室にエターナルポースあるから久し振りに“飛ぶ”よ」

「ほらほら、帆畳んで!!エースとレイズ二人掛りで飛ばすよ。2人は船尾にさっさと行く」

 

この数分後、壊れるんじゃないかなぁという速度で空を飛ぶジャック・ポッド号がいたとかいないとか。

ひとっ飛びの後、目的地に向けて順調に航海をするジャック・ポッド号、見張り台には夜目も鼻も利くペトロがいた。

レイズの「血反吐吐いただぁ?大丈夫、生きてるならまだ逝けるでしょ」という文字通りの「殺してくれ(精神が)死ぬ前に」訓練を瀕死で乗り越えたペドロは満月であろうと己の野生をコントロールする術を身につけていた。

そして、今晩の満月に際して集中させることで集中させることでとんでもない距離の見張りを可能としていた。

 

「お、あれは。夜組起床、島が見えたぞ」

 

伝声管を通して本日の夜対応組およびエースとレイズを起こしたペドロは自身の知り得た情報を伝達していった。

 

「あはははははははは、この状況下で喧嘩するのか」

「あー、多分あれだな。ルフィの奴が騙されたんだな」

「それでいて敵は倒すし、ナミはナミで一国の王女様を脅すなんてホント面白い一味ね」

 

甲板に集合したエース・シュライヤ・カリーナは抱腹絶倒といわんばかりに大笑い。

 

「んで、隊長殿が囮になって相手を撒く算段という訳か、・・・・・エース」

 

未だに笑いっぱなしのエースの頭を叩き正気に戻させたレイズ。

何やらエースに指示を出し、それに笑顔で了承したエースは空へと駆け飛んでいった。

 

「さてと、カリーナ悪いけど空き部屋一つか二つベッドメイクしておいて」

「え?良いけど王女様をこっちに乗せるの?」

 

カリーナに空き部屋の準備をさせる、ということは女性を乗船させる予定があるということなのだが、カリーナの言葉に苦笑いを浮かべるレイズ。

 

「まぁ、あれだ使うか使わないかは本人次第だけど、多分使うでしょ   なら」

 

レイズの最後の言葉は偶然吹いた夜風で消し飛ばされた。

それを聞き逃したことをカリーナは大変後悔することになる。

そして、カリーナが船内に入ろうとした時だった。

闇夜にも明かりを与える巨大な爆発が起きた。

 

「あちゃ、やり過ぎだよエース」

 

その有様にレイズだけは頭を抱えていた。

一方、ここは麦わらの一味の母船『ゴーイング・メリー号』。

操舵室前の手すりに座り、妖艶に微笑む2人(・・)の美女。

髪の色が黒と白という違いこそあれどその顔は瓜二つであった。

 

「さっきそこでMr.8に会ったわ」

「まぁ、あの爆発じゃあ跡形もないでしょうけど」

「なんであんた達がここにいるのよ」

 

ミス・ウェンズデー、ビビの怒りの形相でその2人が敵であることを把握した麦わらの一味。

 

「ビビ、あの2人は誰のペアなの」

 

ナミはこの状況であろうとも情報を流すことを第一と考え、実情を知るビビへと話しかける。

 

「さっきも言ったけど、Mr.0にはペアとなる女性エージェントが2人いるの。それがあの2人。黒髪がミス・オールサンデー、白髪がミス・ヴァケーションよ」

 

そのビビの叫びともとれる声にミス・オールサンデーとミス・ヴァケーションを挟むようにパチンコを構える狙撃手ウソップと銃を構えるサンジが姿を見せる。

 

「おい、サンジ状況わかるか?」

「いや、愛しのミス・ウェンズデーの危機に身体が反応しちまってよ」

 

そんな状況の飲み込めていない2人に対してなのかミス・オールサンデーがため息と共に手をクロスさせる。

 

「申し訳ないけど」

 

その言葉と共に甲板にて武器を持っていたゾロ・ナミ・ウソップ・サンジの手から武器がはたき落とされる。

 

「私たちにそんな物騒なモノ向けないでくれるかしら」

「そうね、思わず怖くなってしまうわ」

 

それに同調するようにミス・ヴァケーションが指を鳴らすと甲板にいる全員が蔦のような植物に拘束されてしまった。

 

「半端な実力で“この海”に来たからかえって哀れね」

「そうかしら?無鉄砲は新人に許された数少ない特権じゃない?」

 

ミス・ヴァケーションが蔦に拘束されたルフィ達を少し馬鹿にし、ミス・オールサンデーがそれを嗜めるようでいて小馬鹿にしたような言い草に全員がカチンときている。

そんな時だった。

 

「ちょっくら、ゴメンよ」

 

メリー号へと巨大な炎が降り立った。

 

「ほれ、こいつは無事だぜお姫様」

 

炎は人の形となり、ついでに持ってきたような言い草でビビの前に男性を優しく下ろす。

 

「ご無事ですかビビ様!!」

「イガラム!?あなたも無事だったのね」

「はい、こちらの御人が爆発の瞬間に私ごと上空に飛んでくださいまして」

 

炎が止むとそこには麦わらの一味にとってはつい最近あったばかりの存在が立っていた。

 

「エース!!なんでここにいんだ?」

 

ルフィのいち早い反応に苦笑しそうになるエースだったが、その不遜な態度に冷たい汗を感じるミス・オールサンデーとミス・ヴァケーション。

 

「にひ、久しぶりだなぁロビン姐さん。レイズに会えなくて大丈夫だったか?」

「!?久しぶりねエース。あまり年上を揶揄うモノじゃないわよ」

「ロビン!!“火拳”と知り合いなんて報告受けてないわよ」

「ごめんなさい、ノイン。現Mr.2の昇格試験の時に協力した賞金稼ぎが彼らよ」

「そいじゃ、役得で後ろから拘束させていただきますか」

 

ミス・オールサンデーもといロビンの気が抜けていたのか後ろから優しくハグされ動きを封じられた。

 

「レイズ!なんで」

「よ、久しぶり。あとカリーナは殺意を引っ込めて」

「ロビン姐さん久しぶりといいたいけどレイズに抱きしめられて羨まし」

 

つい最近あったばかりのエースの仲間たち。

彼らとビビの宿敵が何やら乳繰り合っている現場に全員が置いてきぼりになっていた。

 

「あ、そっちのお姉さん。っとノインさん?でしたっけとりあえずうちの船に護送という形で」

 

ロビンを姫抱っこ状態で連れ去るレイズ。

ノインの横を通り過ぎるときにノインにしか聞こえない何かを呟いて。

そんなノインもペドロに剣を突きつけれれ連れて行かれた。

 

「それじゃ、朝まで碇泊ということでよろしくな」

 

そう一言いうとエースも自身の船へと帰っていた。

 

「いいから、助けなさいよ!!」

 

ナミのそんな怒声を聞かないふりして。



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Ex.微睡みの中で君と

突発性で書いたものなので気にしないでください。
映画楽しみ。
ウタ可愛い。


「君、こんなとこで何してんの?」

 

本日、まだまだ子供という年齢のレイズが祖母ととある島に補給で立ち寄った際に見つけた日当たりの良い大きな木の下には蹲って泣く少女がいた。

 

「グス、いえでしてきた」

 

そう言って泣き腫らした顔を再び抱えた膝で隠しグスグスと泣く少女。

現在のレイズならその場で少女が泣き止むまで待っていただろうが、当時のレイズは嫌そうにため息をつくと町へと戻っていった。

本日、祖母は昔馴染みと会うからとお小遣いを手渡され町へと放り出されていた。

だから、軍資金はあるから普段できない豪遊をしようと意気込んで一歩を踏み出した。

 

「はい」

 

少女が蹲って動こうとしなかった木の下。

そこには両手にソフトクリームを持ったレイズが眠そうな目をしながら立っていた。

 

「え?」

「早く取れ、溶ける」

 

そう言われ少女は思わずソフトクリームに手を伸ばしていた。

 

「冷たくて美味しい」

「そか」

 

先程までの泣き顔が嘘のようにハニカミながらソフトクリームを美味しそうに嘗める少女。

 

「聞かないの?」

「何を?」

 

半ばまでアイスクリームを食べ終えた少女がレイズに問い掛ける。

アイスクリームを食べ終えているレイズはどこから取り出したのか、バイオリンの調律をしていた。

 

「あたしが家でした理由」

「興味ない」

 

そこから再び会話が途切れる。

風が心地よく少女の頬を撫でる。

少女が隣を見るとレイズがバイオリンを構えていた。

そして、始まる演奏。

それは。

クラシックと呼ぶには軽快で。

ジャスト呼ぶにはポップで。

少女の心を、頑なに閉じ籠っていた殻を糸のように解きほぐしていった。

 

「すごい、カッコいい!!」

「ただの即興演奏(アドリブ)だよ、はしゃぐ程かな?」

「だって、本当にカッコ良かったんだもん」

 

するとレイズは再び木に寄り掛かると紙に何かを書き始めた。

 

「それなに?」

「さっきの曲の楽譜」

「書けるの!?」

「バアちゃんが煩くてね、書けるようになったの」

 

少女は身を乗り出してレイズの書く楽譜を見詰めていた。

 

「むぅ、読めないよぉ」

「そうしたら、“船”に戻った時にでも音楽家に聞いてみな“海賊”だろ?」

「なんで解ったの?」

「ここ、“海賊島”だよお嬢ちゃん」

 

2人がいるのはとある海の気候穏やかな海賊島。

引退した海賊の集まる場所であり、誰もが穏やかに暮らしている。

 

「うむぅ、ふぁああ」

「ふ、おネムかな?」

「おにいちゃん、もう少しここにいてね。起きたら帰るから」

「あぁ、迎えが来るまではいてあげるよ」

「あいがとぅ」

 

その言葉を最後に少女は眠りについた。

レイズは約束通り楽譜を書きながら迎えに来た男に一言だけ言った。

 

「娘、大切にしろ“シャンクス”」

「あぁ、世話掛けたなレイズ」

 

その言葉と共に空へと翔んでいくレイズ。

木の麓には自分が来ていたサマーカーディガンを着せた少女、“ウタ”と楽譜が数枚置かれていた。

 

「忘れもんだぞ」

 

シャンクスが楽譜を手渡そうとするが、レイズは顔を横にふり受け取りを拒んだ。

 

「ウタに上げる」

「曲名も無い楽譜を渡すのか」

 

そう言われて少し考え込むレイズはインク壺風を通して楽譜に曲名をいれた。

 

“新時代”

 

そう書かれた楽譜をシャンクスは笑いを堪えたような笑顔で胸にし舞い込む。

 

「それじゃあなレイズ」

「またいつか、シャンクス」

 

ふっと、意識が浮上してきたのを自覚して起き上がるレイズ。

 

「“記憶の挿し込み”か。久し振りだな」

 

レイズ自身が自覚している特典のような何か。

正史で新たな情報が解り、それが何らかの理由で自分が関わる時、“後付け”された記憶が挿し込まれ、歴史が修正される。

 

甲板で誰かが流しているであろうラジオから歌が聴こえてきた。

 

「良い曲じゃないか、なぁウタ」

 

レイズの部屋の壁に無理なく挿し込まれた新たな品。

そこに描かれているのは世界的な歌姫となった少女。

新たな冒険が幕を開ける。




僕を信じて?
信じますとも!


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"海賊同盟"

お待たせしました。


「成る程ね。にしても思いの外、組織が大きくなったね」

「ちょっとそこの若白髪、馴れ馴れしくアタシのロビンに近づかないで」

「えぇ、お姫様達には悪いと思ったけど、やっぱり私は歴史の真実が知りたいの」

「きゃー、ロビンたら相変わらず可愛いわぁ!お姉ちゃんちょっと濡れちゃう」

「・・・・(プッチン)、煩い黙ってろこのシスコンが!!」

「あぁ?ナニよ、喧嘩売ろうってんなら買うわよ若白髪!!」

「「あぁん!!」」

 

レイズの執務室となっている部屋にてミス・オールサンデーとミス・ヴァケーション、(作者が面倒くさいから)もといニコ・ロビンとニコ・ノインへの尋問が行われていた。

そして、ロビンへの形式的な尋問を終えると一息つき、プリンの煎れてくれたアイスティを飲む。

そんな中、扉の前で待っていたカリーナにロビンを連れていかせるとレイズにとっての本番が始まった。

 

「「で、お前誰よ?」」

 

ニコ・ノインという女にとってこの転生は自ら望んで得た権利であった。

生前、色々な意味でONE PIECEと言う作品のファンで腐女子で貴腐人だった彼女はその日、戦利品と言う名の薔薇で百合な毒本を大きい紙袋6袋に詰め込んでルンルンと一目も気にせず歩いていた。

そんな時、目の前の道路に(美)少女が走り出てきた光景を目にしてしまった。

そして、その(美)少女に向けて大型車が急ブレーキをかけて止まろうとしている姿も目に入ってきた。

 

「子供(ショタとロリ)は国の宝!!」

 

その言葉と共に、彼女は気付くと(美)少女を押し退けていた。

そして、彼女は大型車に引かれること無く、自らの思い込みで心臓を止めて亡くなったのであった。

それからは、古き良きテンプレの通りにONE PIECEの“ニコ・ロビンの双子の姉”として転生し、可愛い妹と共に歴史をなぞっていった。

そんな彼女の目の前に自身の知るストーリーに存在しない異物がいるのであった。

それは、レイズからしても同じであった。

ノインの存在はロビンの情報を精査していくなかで何度も出てきていたが、あえて無視していた。

しかし、実際に目の前にしても記憶の更新が起こらないことから、目の前の存在が自分と同じ異物であると認識していた。

 

「でっさぁ若白髪。あんた何が目的なのよ」

「はん、それが素かよ。お前こそ何が目的なんだよ」

 

 

互いに笑顔を浮かべ見つめ合う2人。

しかし、2人から発せられるのは明確な殺意。

テーブルの上のカップには2人の殺意でヒビが入り、海が2人の殺意に呼応するかのように少し荒れていた。

 

「オレはエースを王にする」

「無理よ」

 

レイズの目的を明かす、その瞬間なんの感慨もなくただただ真顔でノインがきっぱりと切り捨てた。

 

「あんたがどこまで知ってるか解らないけど、エースは死ぬ。これは決定事項なの」

「知るか、あいつが笑顔で死ねない世界なんて興味ねえ。ウチのバカ共は死ぬときはベッドの上と勝手に決めたんだよ」

「エースが死ななきゃルフィが上に行けない、目標を一度失うことで彼はその先に進めるのよ」

「それはお前の都合だろ。オレはオレの都合を世界に押しつけるだけだ」

 

再びの硬直状態。

そこにドアをノックする音が響いた。

 

『なぁ、レイズよ難しいことは明日にしようぜ。てか早くこっち来てくれねえかな、ロビンが追い詰められて見てて可哀想なんだが』

 

エースの声に2人から放たれていた殺意はその身に収まっていった。

 

「とりあえず、オレ(レイズ)お前(ノイン)の考えは平行線だな」

「えぇ、アラバスタの件が片付いたら私は麦わらの一味に加わるわ」

「勝手にしろ」

 

そして、ドアを開けるとそこには。

 

「だから、レイズとはまだ何もないから。ね、信じて」

「ウソつくなコラァ。あたし達にない大人の色気って武器を持ちながら手を出されないなんてあり得ない」

「そうよ、ペローナの言う通りよ。何よ見せつけてくれちゃって。あたしもあと2年でそこまで大きくなるもん」

「プリン落ち着いて、その視線はダメよ。てことでロビンもちゃっちゃと白状しなさいよ、お姫様抱っこされた時ちょっとはムラっとしたんでしょ」

 

ロビンに詰め寄る少女達がいた。

 

「・・・・・うん、ウチの娘らが申し訳ない」

「あんなに顔に感情出てるロビン久しぶりだから許す、てかカリーナちゃんもペロちゃんもプリンちゃんもカワユス」

「素が出てるぞ貴腐人」

「え、ちょっとなんで三○様がいるの、ゴ○ちゃんもいるし。この船は楽園ね」

「落ち着け、腐れ。あとペドロとラチェットはウチのクルーだ」

 

そして、夜は更けていく。

朝日が上がると共に海には沢山の樽が浮かんでいた。

その樽の上に上半身裸のエースとペドロが立っていた。

互いに礼をし息を整え目を見開くのと同時に姿を消した。

 

『ドゴッ!!』

「な、何!?」

 

巨大な物がぶつかり合う音で目を覚ましたナミ。

甲板へと出てきて彼女が見たのは無数の樽が浮かぶ海で拳をぶつけ合うエースとペドロだった。

 

「軸がブレてるぞ!」

「うるせぇ!ミンク族に体幹でどうこう言われると腹立つんだよ!!」

 

怒鳴り合いながら樽の上だけを足場に行われる殴り合い。

互いの拳がぶつかり合うだけでそれこそ巨大な戦艦がぶつかったような音が轟く。

目の前の2人がどれだけ非常識な存在なのか思い知らされてしまう。

更にナミは気づいた。

樽の上という不安定な足場であるにもかかわらず2人の攻撃はしっかりと足場を踏み込んで行われていた。

そして、着地した樽は波に揺れることはあってもけして沈むことはなかった。

さらに、海流によって動く樽の位置を正確に把握し続けないと海に落ちるというのに一向に落ちる気配がない。

 

「これが、“シャッフル海賊団”。この海で今、注目の的になっている海賊団よ」

「あらビビお目覚め?」

「これだけ、爆音が響けば起きるわよ。でも、実際に目にすると恐ろしいわね」

 

樽は流されていき、流れ着く先に準備された網に溜まっていっておりその数は徐々に少なくなっていた。

 

「今日こそオレ“が”勝ーーーーーーーつ!!」

「悪いが、今日もオレの勝ちだ」

 

ペドロのその言葉と共に蹴り抜かれたエースは海へと叩きつけられた。

 

「はいエースの負けぇ。今日の皿洗いはエースだね」

 

ペドロに担がれて甲板に戻ったエースに暖かいココアを手渡したレイズは悪戯が成功した子供のような顔をしていた。

 

「だぁ、また負けた」

「しかし、始めた頃に比べて格段によくなってきているな流石だエース」

「褒めるの禁止、負けたエースが悪い」

 

ワイワイガヤガヤと五月蠅くなっていく向こう側の甲板。

ふと見るとマストの上で刀を正眼に構え微動だにしない男をナミとビビは見つけた。

ゾロの幼馴染みと言っていた男、サガはナミで揺れる船のマストポールの上で大地の上に立っているかのような安定感で正眼の構えをとり続けていた。

すると、サガは両目を開き刀を鞘に収める。

次の瞬間、気がつけばサガは刀を振り抜いた姿勢でマストの上に立っていた。

15kmは先にある積乱雲に発達仕掛けていた雲が10等分に斬られていることに気がついたナミはその恐ろしさにようやく気が付いた。

 

「サガ、朝の日課が終わったら寝ている麦わらのクルーに声かけてくれ」

「目を覚ましている奴らはどうする?」

「あっと、お嬢さん方。サンジもこっちで朝飯準備してるからさ、色々思うところがあるかもしれないけど朝飯食べに来なよ」

 

そう笑ってこちらを呼ぶ男、レイズと呼ばれていた銀髪の青年の声に思考を巡らせ。

 

「ビビ、良いわね」

「えぇ、ミス・ダブルフィンガーにオールバケーションの思惑も知りたいし」

 

寝ている男共を置き去りに相手の船へと渡っていった。

 

「おはようナミさん、オレンジジュースはいかが?」

 

甲板に降り立ったナミが見たのは女性に目もくれず本当に楽しそうに料理するサンジの姿だった。

 

「いや、マジでありがてえ。お古でも鍵付き冷蔵庫もらえるなんて」

「型落ち品でよければ貰っていってよ。今度新型のオーブン入れるスペース確保したいんだから」

「しかし、プリンちゃんのパティシエールとしての腕もたいしたもんだな」

「サンジもそうね。お菓子が専門って言ってるけど、料理だって負けない自信あったけどあんな出汁の取り方あったのね」

「いや、プリンちゃんも確かにアレなら簡単にクッキーやらパイやらが作れるぜ」

 

料理人談義に花が咲いていた。

 

「おい、エース!!お前朝からこんな御馳走食ってるのか狡いぞ!!」

 

ご飯の匂いにつられて現れたルフィ。

サンジの手料理であることを差し引いても品数も量も自分のところでは考えられない豪華さに嫉妬していた。

 

「バーカ、いいかルフィ。うちではつまみ食いをする奴はいないし、暇があれば魚釣ったりしてるし食料を大切ににすることは当たり前なんだよ」

「つい最近まで肉見つけたら冷蔵庫に行く前に自分で焼いて食ってた奴が何言ってる。行儀が悪いけど食べながら話しましょうか」

 

ジャック・ポッド号甲板での朝食会。

エースとルフィが肉を取り合う時あまりに行儀がなってなければ、ナミとカリーナの極低温の視線で黙らされ。

ゾロとサガが朝から酒を飲もうと酒蔵エリアに近づけば、マヤのインジェクションで麻痺させられ。

サンジとプリンが真面目に料理人談義をしていたら、レイズがスマートに2人分の軽食を準備し。

ロビンとノインが机から離れた位置を取ろうとしたら、シュライヤとペドロに華麗にエスコートされ。

ビビとイガラムが無駄に警戒を示したら、ウソップとラチェットとペローナの陽気な声に誘われてしまった。

そんな賑やかな朝食会の最中。

 

「さて、今後の方針を話す前にアラバスタ組にはニコ姉妹の目的を知っておいて欲しいわけだ」

「2人の目的ですと?」

 

エースが場の空気から方針決定前に多少の蟠りを解くべくいつものおちゃらけた拍子で会話を開始する。

そして、エースの言葉にイガラムが何かを感じ取ったように聞き返す。

 

「おう、2人の目的?というか夢だな。そいつを知ってもらうのは実はオレ達シャッフル海賊団が今回の件に関わる理由でもある訳だ」

「国一つをボロボロにしてまで果たしたい夢?それってそんなに大事なことなの!?」

 

ビビの声に若干顔色を悪くするロビン、そんなロビンの姿を隠すように笑顔のエースはレイズをロビンの壁にして、自分はビビの前に立った。

 

「言うねぇお姫様、あんたにとってアラバスタという国はそれ位大切なんだろうな。王女という肩書きだけでなくあんた一個人が国を愛していることは今回の行動で理解はした」

 

そう言い終えるとエースの顔から一切の感情が消え、それと同時にビビは首を捕まれた状態で甲板へと叩きつけられていた。

ビビの危機を察知しイガラムとサンジが動こうとするが、イガラムは後ろからペドロの濃密な殺気を叩きつけられ動けなくなり、サンジはシュライヤが先回りして攻撃の意思を見せたことで止まってしまった。

あまりの展開にナミが周りを見回すと。

ルフィはレイズが作り出した風の牢獄で身動きがとれなくなっており。

ゾロはサガと共に刀に手をかけた状態で間合いの探り合いにより動きを止められ。

ウソップはラチェットの背中から現れたマジックハンドで身体ごと持ち上げられており。

ナミ自身もカリーナの持つ旗が篩われる間合いに止められていた。

 

「だがな、その人が人生かけて為し得たいと思っている“夢”をあんたの尺度で善悪をつけるな傲慢な王族が!!」

 

エースのその言葉にビビは思い切り殴られたような感覚を覚えた。

 

「大方の話は昨日ロビンとノインの姐さんから聞いてるがよ。クロコダイル(王下七武海)を受け入れると決めたのも、そいつが海賊なのに無条件で信じたのも、そいつが裏で何かしてるか考えなかったのも全部全部あんたらが悪いんじゃないか」

 

ルフィは初めて見る“海賊(覚悟)”を背負ったエースの雰囲気に飲まれていた。

僅かな差で海に出た義兄は自分が知らぬ間にとんでもないところに進んでいた。

 

「国民は何も知らない?知ろうとしないだけだろ!オレ達はどこまで行っても海賊、自分たちのやりたいようにやる無頼者(アウトロー)だ。そんな奴を盲目的に信じて知ろうとしなかったのはあんたらの罪だろ?確かにロビンもノインの姐さんも誰が見てもやってることは“悪”だろう。けどな」

 

すっとエースがビビから手を離し立ち上がる。

 

「自分の“夢”を叶えたい。たった其れだけのために生きてることを“悪”とされる奴の気持ちが解るか?解らねえよな、悲劇によって被害者面して自分達は何も悪くないと考えてる奴は」

 

その時、ビビが見たエースの顔は声色とまったく別の物だった。

声色こそ怒りに満ちていたが、その顔には悲嘆の色が出ていた。

 

「そこまでだ船長(エース)、少し落ち着け」

 

エースの肩を優しく諭すように叩いたレイズは周囲を見渡しため息が漏れてしまった。

 

「話し合う雰囲気ではないけど進ませて貰う。オレ達とニコ姉妹の目的はアラバスタに保管されている“歴史の本文(ポーネグリフ)”を読むことだ」

 

歴史の本文(ポーネグリフ)”と言う単語が出た時、ビビは何を言っているか解らないと言う表情をしたが、イガラムは顔を青ざめさせ、そして理解してしまった。

 

「まさか、クロコダイルの目的も」

「貴方たちが潜り込んだ際に聞かされた“楽園(ユートピア)”の建設。そのためにアラバスタを乗っ取ると言うことも事実だけど、そのために彼が探している物がポーネグリフに書かれていると解ったの」

「つまり、クロコダイルもまたポーネグリフを狙っていると。“あれ”が安置されている場所は現在はコブラ王しか知らない、だからか」

「つまり、あんたらアラバスタ組はいつ起こるか解らない状態の反乱を止めたい。麦わらの一味はその戦力として雇われ、かつバロックワークスから狙われている状況を打破するためにアラバスタへと向かわなければならない。そして我々シャッフル海賊団はポーネグリフに何が書かれているか知りたい。つまり利害が一致しているわけだ」

 

そう言うとレイズは風を操りエースの目の前に机と葡萄ジュースのボトル、3つのグラスをセッティングし、そこにルフィとビビをこれまた風を操り無理矢理立たせた。

 

「利害が一致している期間だけ手を組めば良い。つまり組んじゃえば良いんだよ“海賊同盟”を」

「「「「「はぁっ!?」」」」」

「いいなそれ、面白そう」

「悪くねえな、それ」

「・・・・・・・・・・」

 

レイズがグラスにジュースを注ぎテーブルに戻すとルフィとエースはノリノリでグラスを手に持つがビビだけは何かを考えるかのようにグラスに手を出そうとしなかった。

 

「ビビ王女、戦力が欲しいでしょ?今回の同盟、実質2対1みたいなもんじゃないですかこれから見極めていけばいいんですよ。それに」

 

言葉を態と切ったレイズはビビにしか聞こえない声でしゃべりかけた。

 

「強くなりたくないですか?」

 

その言葉に思わずレイズを見つめるビビ。

 

「ウチと同盟組んでいる間は貴方を鍛えてさし上げてもいいですよ。実際、貴方弱いでしょ?」

 

その挑発にしか聞こえない言葉で吹っ切れたのかグラスを勢いよく手に取ってビビ。

 

「私は、アラバスタのために出来ることは全てやる。そう決めました!!」

「よっしゃ、それじゃ“海賊同盟”締結だな」

「にししし、それじゃ乾杯」



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メマーイダンスって、今思うと・・・・。

生存報告がてらの投稿です。
こんなはずじゃなかったのにな。


ロビンとノインがノリにのって全長2mに及ぶ退職届を書き乗ってきた巨大亀のバンチに持たせてから2日。

とある無人島に停泊したジャック・ポッド号とゴーイング・メリー号。

“それ”は、2隻の船の前に広がる砂浜で行われていた。

 

「しっ!!」

 

その人物が勢い良く腕を振るうと右手の中指についた細長いチェーンが腕の延長と言わんばかりに勢い良く伸びる。

そして、先端についた羽のような刃物がランダムに立て掛けられた板に勢い良く突き刺さる。

 

「ふっ!!」

 

その動作に繋がるように身体を回転させ今度は左手の中指についたチェーンがカーブを描いて重なるように置かれた2枚の板、その後ろの板に先端の刃物を突き刺す。

そして、再び身体を回転させ指についた指輪状の器具の中にチェーンが勢い良く戻ってきて収納された。

その姿はダンサーが華麗に踊りを踊るようであった。

そして、最後に回転する身体を無理矢理止め回転の勢いを全てを右腕に乗せるようにすると、右手のチェーンが今までで一番の速さで真っ直ぐと伸び、砂浜に植わっていたヤシの幹を貫通し倒してしまった。

 

お手本(シュライヤ)が張り切りすぎたけど、これぐらい出来ればいいかな?」

「「「「「出来るか!!」」」」」

 

“軽い”運動をしたかのように笑顔で顔の汗を拭うシュライヤを後ろに戯れ言をのたまうのは鍛えると約束したレイズ。

そして、その戯れ言に対してツッコミをいれるのは身体能力一般人組(ナミ、ウソップ、ビビ、イガラム)だった。

始まりは“とある島”へと向かう途中、無人島を見つけたエースがルフィと修行したいと駄々をこねてそれをレイズ(お母さん)が苦笑しながら認めたことによりサガとゾロも巻き込んで教導指南(お目付)役にペドロを置き修行が始まったそんな時だった。

 

「ビビ王女、今時間よろしいですか?」

 

海を眺めるビビにレイズが声をかけてきた。

レイズの方を向くビビの視線の先、砂浜には大量の板が立てられており、その側でラチェットとウソップが息も絶え絶えに倒れていた。

 

「鍛え上げる、とお約束しましたから今からやろうと思うので動きやすい服着て砂浜集合してください」

「えっと、今からですか?」

「まぁ、現状で貴方がどれだけ動けるかを見させていただきたいと思いまして。小煩いお目付役(イガラム)ウチの金庫番(ペローナ)と話しつけてる間にやってしまおうと思いまして」

 

そう言われてしまうと、イガラムから反対されるのが目に見えていたビビには拒否権はなかった。

カリーナから借りたジャージを身に纏い砂浜に降り立ったビビは武器である「孔雀スラッシャー」でレイズの指示があった的を攻撃するべく、砂浜を縦横無尽に動き回っていた。

レイズの終了の声とともに砂浜に座り込んでしまうビビ。

そして、以外に戦闘が出来たことに驚くナミとウソップ、自分が目を離した隙にまた無茶をしているビビを心配そうに見つめるイガラム。

これだけ動ければ、そう4人の思考が一致した中で言われた言葉は衝撃だった。

 

「え、本気?」

 

それは、心底「この娘、大丈夫かなぁ?」と心配している顔をしたレイズの声だった。

 

「まず、“護身”を目指すなら合格点でした」

 

ウソップ特製折り畳み黒板を設置したゴーイング・メリー号甲板にて「おめでとうパチパチパチ」、と抑揚の無い声で死んだ魚のような目をしたレイズが立っていた。

 

「それの何が悪いのですか!姫様に殺しをさせる気など私はありません!」

 

その明らかに人をバカにした態度を受けてイガラムが思わず返してしまう。

その後ろではナミとウソップも頷いていた。

 

「いや、“倒す=殺す”って発想が間違いですよ。さっきも言ったようにビビさんの今の力では格上に手も足も出ないということを認識してほしいのです」

 

眼鏡を指で押し上げイガラムの考えを訂正させるレイズ。

 

「No.0~No.5ペアまでが能力者で構成されていると伺いましたが、No.6及びNo.7ペアに関してはどうでしょうか。非能力者であると掴んでらっしゃるそうですが実際は能力者である可能性も残っている上に非能力者であってもそこら辺の能力者よりも強い奴なんて普通にいます」

「でも、ビビにはゾロすら誘惑させたダンスが」

「あんなんガチの実戦で使えるかボケ」

 

旗色が悪くなる一般人組の中、ウソップが起死回生とばかりに一味の戦力であるゾロすら嵌まった踊り“メマーイダンス”を話に出そうとする。

しかし、それすら一蹴の元に切り捨てられる結果となった。

 

「ナノハナでしか作られない特殊調合の香水と視覚効果により酩酊に近い状態にする服。どちらかが欠けてたら使うことが出来ない技を戦力としてカウントするのは無駄」

 

バッサリと言い切るレイズ、ビビ以外の3人が項垂れている後ろでビビが必死にレイズを拝んでいるのだがそれには理由があった。

それは、実技よりも前に学習した方が良いなとメリー号に来る途中のことだった。

 

「ビビさん、正直“メマーイダンス”ってどうなの?」

 

準備の関係で先にメリー号に戻ったウソップとナミの後を歩いているとビビにとって触れて欲しくないモノにさらっと触れてきたレイズ。

 

「えっと、正直なところ嫌です」

「だよね、“ミス・ウェンズデー”は“そういうキャラ”だったけど、アレ使いどころが難しいし正直使えないし」

「え!?ネフェルタリ家の女は覚えるべきだってイガラムが」

「使うのに必要条件がありすぎる技は意味が無い。だったら、切り捨ててスラッシャーの方を鍛えた方が良い」

「私、結構恥ずかしかったのに」

「(まぁ、一般的な男からしたか眼福なのは黙っとこ)」

 

そんな経緯もあり、ビビとレイズの間で孔雀スラッシャー自体の強化及びビビの強化が決定したのだった。

そして、冒頭に戻る。

ラチェットによる強化・改修を受けた孔雀スラッシャーは武器としての強度も上がったことにより、潜入時よりも格段に攻撃力が上がっていた。

使っている人間がある種の規格外であることも含めてビビの目指す理想の形を実演した訳だが、結果総ツッコミを受けることになった。

そして現在、ビビは“あるモノ”を手に甲板で真剣な面持ちでいた。

 

「ねぇ、あんなことしてて本当に大丈夫?」

 

デッキチェアに座り、オレンジジュースを片手にビビを見守るナミはどう見ても遊んでいるようにしか見えない状況に疑問を浮かべていた。

 

「遠回りに見えるでしょうが、“あれ”が一番安全なんで」

 

若干眠そうなレイズはビビと一緒に“それ”を器用に操るウソップを眺めていた。

 

「手首の動きや身体との連動性を覚えるなら“ヨーヨー”の方が安全なんですよ」

 

レイズの視線の先、そこにはヨーヨーで様々なトリックを決めるウソップ、その後ろで上手く手元まで戻ってこずに悪戦苦闘しているビビとそのビビに丁寧に教えているシュライヤがいた。

 

「ナァミすわぁーーーーーん、オレンジジュースのおかわり御持ちしました」

「はい、レイズに頼まれたレモン水と経口補水液持ってきたよ」

 

そこにラブコックサンジとプリンも加わり、メリー号のデッキは騒がしくなっていった。

 

「ところでよエース、どこ向かってんだ?」

 

昼食時、頬と腹を目一杯膨らませたルフィがエースに尋ねたのは船の進路だった。

 

「あぁ、ちと知り合いの婆さんに頼まれてな。喧嘩の仲裁に行くことになったんだよ」

「それが、ウィスキーピークの次に示す島。太古の姿残る伝説の島“リトルガーデン”ということですな」

「まったく、エースがあの婆さんに賭けで負けるからこんな面倒ごと頼まれるんだよ」

「イヤ、お前も思いっきり負けてるだろシュライヤ」

「まぁ兎に角、お使いを済ませるために行くからよろしく」

 

そう言うとキッチンへと歩いて行くレイズと肩を組んでともに歩いて行くエース。

 

「・・・・本当に良いのかエース?下手したら“死ぬ”よ彼ら」

「あぁ、あの爺さん達の相手は兎も角としてロビン達の予想が正しければ確実にオフィサーエージェントがいる。だけどよ、七武海なら余計に経験値が必要だろ」

「まったく、“お兄ちゃん”は心配性だな」

「すまんな、けどアラバスタの件まではあいつのこと見ていたいんだ」

 



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話は進まないけど、時間だけは進むよ(涙)

えぇ~、会社の定期診断で軽度鬱症状と診断された作者です。
だからといって今の現場から離れられませんし、勤務形態も変えられないのでお薬貰って定期的に病院に通うことになりました。


「ゲギャギャギャ!!量は少ねぇが旨いメシだな!!」

「ガババババ!!酒も少ないが旨いし言うことねぇな!!」

「あっひゃひゃひゃひゃひゃ、あったり前だ、サンジの飯は世界一だからな!!」

「うぉーーー!!ドリー師匠とブロギー師匠の話もっと聴かせてくれ!!」

 

巨人と意気投合したルフィと彼等に憧れの眼差しを向けるウソップ。

ゾロとサンジも、果てはイガラムまでも興味を引かれているのは明白だった。

 

「ねぇ、ビビ。あたし達、あの“2人”と喧嘩しなきゃならないのよね?」

「えぇ、ナミさん。私達は目の前の“巨人”と喧嘩しなきゃならないの」

「大丈夫かしら、こんな状態で?(あの糞銀髪がぁ!!何してくれてんのよ!!)」

 

時は遡ること数十分前

 

「よう、お二方。相変わらずかい?」

 

リトルガーデンに到着した一行は船番を麦わらの一味に任せ、とある目的のためにエースとレイズのみが上陸していた。

とある一族の老婆との契約により、シャッフル海賊団は定期的にリトルガーデンに酒を大量に運びいれていた。

それは、現在エースとレイズの前で疲弊して寝転がっている2人の巨人族の戦士のためであった。

 

「ゲギャギャギャ、久し振りだな火拳に風迅!」

「ガババババ、やっと酒が飲めるぞ!」

 

かつて巨人族エルバフの戦士のみで構成されその名を世界に轟かせていた巨兵海賊団二大船長「赤鬼ブロギー 」と「青鬼ドリー」。

その事すら忘却の彼方にありそうな2人は“とあること”が原因で100年前から仲良く喧嘩していた。

そんな2人を心配してか、とある海賊島を仕切る一族の長である老婆は理由をつけてはその喧嘩の仲裁を行っていた。

 

「婆さんからの伝言だ「いい加減、理由も忘れた喧嘩は辞めちまいな」だとよ」

 

エースが老婆からの伝言を伝える一方で、レイズは全長1kmは有りそうな巨大な大樽を大気を操作して運んでいた。

 

「ゲギャギャギャ、こればかりは古き友の頼みとはいえ断らせてもらおう!」

「ガババババ、これはエルバフの戦士が始めた神聖な決闘。いかに古き友とはいえそれを止めることは出来ん!」

 

疲労が回復したのか、その場でデンッと構えて拒否を言葉と態度で表すドリーとブロギー。

 

「そうかぁ、そうだよなぁ」

 

テンガロンハットを深々と被り直したエース。

 

「残念だよ“赤鬼”・“青鬼”」

 

直後、テンガロンハットの下から覗いたエースの瞳は、海賊としての覚悟を決めた瞳だった。

 

(えん)(かい)

 

突如、エースを中心として炎の渦が発生する。

炎の渦は数秒と経たずに広がると中心から白く光り輝く5mは有りそうな光球を携えたエースが現れた。

 

焔帝(えんてい)迦楼羅(かるら)

 

エースはその光球を島で一番大きな火山へ向けて投げ付ける。

火山に向けて投げられた光球は中程で割れ、中から巨大な火の鳥が姿を現した。

割れた光球は火の鳥に吸収されると更に火の鳥が大きくなり遂には火山へと到達。

巨大な火柱を上げて火山を焼滅させていまった。

 

「婆さんからの伝言の続きだ「もし、断るようなら此方もあんたらの仕来たりに乗っとり、喧嘩を売らせてもらう」だとよ」

 

エースの暴挙に殺気を放ち立ち上がろうとするドリーとブロギー。

 

「あ、でも御二人ともオレ“達”に負けてますよね?」

 

そんな中にいても平常心で相手を煽っていくレイズ。

実は過去にドリーとブロギー、2人対シャッフル海賊団による喧嘩は起きていた。

その時は僅差でシャッフル海賊団が勝利を収めた。

その時から数年、新世界にて名を上げたシャッフル海賊団はドリーとブロギーをもってしても敗けが確定しているようなものだ。

そんな思考がドリーとブロギーの頭をよぎったのをレイズが見逃すことはなかった。

 

「だから、今回はエースの弟が頭やってる海賊団と喧嘩してください。それで御二人が勝ったら、お婆様にはエースからキッチリ話つけさせますんで」

 

その言葉への反応は三者三様。

侮られていると怒りを露にするドリー。

勝てないと悟った自分に落胆するブロギー。

え?オレが話つけるの?という顔をしているエース。

 

「まぁ、その前に久方振りの再会ですし宴にしましょうよ」

 

そして、冒頭に戻るのであった。

飲んで騒いで大いに盛り上がる一方で麦わらの一味に加え、ビビとイガラム、更にはノインまで強制参加させられた作戦会議が始まっていた。

 

「いいなぁ、エース達はまだオッサン達と宴ができて」

 

両手合わせて10本の骨付き肉を持ちながら、渋々参加しているルフィ。

そんな彼の発言に隣に座っていたナミの鉄拳が突き刺さる。

 

「真面目にやらんか!!あぁぁぁぁ、でもなんでいきなり巨人族と喧嘩なんきゃしなきゃならないのよ?」

「オレ達がまだルフィの兄貴達と同レベルに至っていないからだろ」

 

ナミの不満をゾロが刀で斬り付けるように遮る。

 

「オレと同門のサガは明らかにオレよりも上の階位に立っている。それは立ち居振る舞いを見ればはっきりと解る。そんな男が(かしら)として認める男が弱いわけがねえ」

「それに、レイズさんは賞金稼ぎ時代“風迅”の二つ名を持つほどに優れた男だ。ウチのクソジジイが用心棒代わりに雇う程には実力があると言うことだ」

「つまり、そんなお2人が認める集団が“シャッフル海賊団”であり、他の船員達も少なくとも足を引っ張ることの無いレベルでは実力者であるということですね」

 

ゾロに続き、サンジも自身が実力の一端を知っていると思っているレイズを引き合いに出し、そんな2人が戦闘面でも信頼を置く他の船員の実力も現段階で麦わらの一味よりも上であるのではとイガラムは全員の心証を代弁していた。

 

「まぁ、何よりも以前師匠達とやり合って勝っていると言う事実があるからな」

「それに、恐らく彼らと戦うことで貴方たちのレベルアップを目論んでいるように思えるわね」

 

ウソップは脚を震わせながら、師匠と慕うドリーとブロギーに勝ったという事実を再確認し、ノインに至っては今後来るであろうシングルナンバーエージェントペア、そしてボスであるクロコダイルに勝てるレベルまで麦わらの一味とビビを高める必要性を感じ取っていた。

 

「うっし、それじゃナミ。作戦は任せた!!」

「あんたも少しは考えなさい!!」

 

ところ変わってグランドラインにあるリゾート島。

 

「あんむ」

 

彼女はその優雅な空気を気にせず豪快に堅焼きせんべいを囓るとバリボリと音をたてて咀嚼していた。

 

「ねぇ、ねえ“Mr.3”」

 

そんな彼女の目の前、ロッキングチェアーに優雅に寝転びアフタヌーンティーを楽しむ男性。

 

「何かね、いま紅茶の香りを楽しんでいるんだ少し待ちたまえ」

 

自身で注ぎ入れた紅茶の香りを楽しむように嗅ぎ取る曇で顔に影が覆っている男性。

 

「んん、素晴らしい。今年のエールホワイトは出来が良いガネ」

 

そんな男性を横目で見つつ、数日前から所持している紙を見ながら女性は口を開く。

 

「私ヒマだわ、すごくヒマ」

「ヒマヒマってキミ働くの嫌いじゃないかね」

「うん、働くの嫌い」

「だったら、この任務も何もない静かで優雅な一時を楽しんだらどうだガネ」

「そうね」

「それと、こういった公の場で軽々しくコードネームを呼ぶのは止めたまえ」

 

男性がティーカップをソーサーに置くと雲が流れていき、男性の顔が日に照らされていく。

そこには、「3」をあしらったメガネと「3」の形をした丁髷の髪型をしている。

 

「私が“Mr.3”だとバレてしまうガネ、解ったかね“ミス・ゴールデンウィーク”」

「そうね」

 

そして再び訪れる静寂。

ふとMr.3は気になっていたことを彼女に問うてみた。

 

「ところでここ数日、キミはずっとその紙切れを眺めているけど、それはいったいなんなのかね」

 

そう言われたミス・ゴールデンウィークは自分が眺めていた面をMr.3に見せると何事もないかのように言い放ったのだった。

 

「ボスからの指令」

「はよ言わんかい!!」

 

そう叫ぶと指令書を奪うMr.3。

指令書の内容を読み言葉を漏らす。

 

「ふん、Mr.5ペアがやられたらしい。どうせだったら邪魔なMr.2(オカマ)がやられてくれれば良かったのだガネ」

「そうしたら、私たち簡単に昇格できたのにね」

「そして、Mr.5ペアとウィスキーピークで合流し組織に敵対した愚か者を抹殺せよと言うことらしいガネ」

「・・・・・、Mr.3」

 

感情の読み取りにくい顔をしていたミス・ゴールデンウィークから真剣さが宿った声を掛けられ、優雅に微笑むMr.3。

 

「解っているガネ、その者共に教えてやらねばならないガネ」

 

そう言って紅茶を飲み干すとカップをそっとソーサーに置き両手を顔の前で組み不気味な雰囲気を醸し出すMr.3。

 

「犯罪組織、もとい我々“秘密犯罪会社”であるバロックワークスを敵に回すことがどれだけ恐ろしく、どれだけ愚かな行為だったのかということを」

 

そう言うと不敵な笑みを浮かべるMr.3。

そんなMr.3に対してミス・ゴールデンウィークの口から放たれた言葉は。

 

「私、疲れるのはイヤだわ」

「キミは先程ヒマだとかぬかしていたじゃないかね!!」




合わない人っていますよね、人間だもの。


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ハートの痺れ注意報

「ゴムゴムのぉぉぉ」

 

弾き飛ばされた空中で姿勢を整えながら、弾き飛ばされた勢いを利用して両腕を遥か後方に伸ばすルフィ。

腕が限界近くまで伸びたその勢いを力に加えて突き出す。

 

「バズゥゥゥゥゥゥカァァァァァァァァ!!」

 

自分を弾き飛ばした刃溢れだらけの巨大な剣、ドリーの「テリーソード」その根本めがけて両腕は撃ち出された。

 

「三刀流」

 

自身へと振り下ろされ、猛スピードで迫り来る刃。

それに対して、精神を落ち着かせ自らが携える3本の刀がその刃に触れるのと同時に全身の力を抜き、自らの望む方向へとその刃を去なすゾロ。

 

「刀狼流し!!」

 

ゾロの命を刈り取るべくふるわれたブロギーの「ブルーザーアックス」は力の流れを去なされてしまい、ゾロの真横へとその刃をずらされてしまった。

 

「うぉ!?」

 

ただし、斧が振るわれることで起きた風圧までは往なすことが出来ずにゾロは軽々と吹き飛ばされてしまった。

 

「退いてろクソマリモ」

 

斧が地面に突き刺さり動きが止まった本の僅かな時間、それが来ると解っていたように走り出していたサンジは斧の柄その根本へと駆けてきた。

空中で高速で縦回転するとその勢いのまま根本へとその脚を振り下ろす。

 

粗砕(コンカッセ)!!」

 

巨岩をも蹴り砕くサンジの踵落しが柄を砕こうと迫った。

 

「ゲギャギャギャギャ!!そうはいかんぞ!!」

 

僅に、ほんの僅に速くその柄はドリーに蹴り上げられ、逆に鈍器となってサンジへと当たってしまう。

 

「ガババババ!!“武器破壊”を狙うか!!それもまた良し!!」

「ゲギャギャギャギャ!!お互い危なかったなブロギー!!」

 

麦わらの一味+アラバスタチームと巨人2人の戦いが始まり数分。

予想通り、麦わらの一味+アラバスタチームは苦戦を強いられていた。

 

「やっぱ“それ”狙うわな」

 

前回の喧嘩で出来た高台で呑気に肉を食いながら弟の一味の戦いを眺めているエース。

 

「まぁ、それなりにヒントは出した。ラチェットのおもちゃ(試作品)も渡した。ドリーとブロギーの旦那たちも隠しルールに同意してくれた。ここまでお膳立てして負けるようなら、本当に目も当てられないな」

「あら?あの麦わら帽子の子はエースの弟なんでしょ?なら可能性はあるんじゃないの?」

 

デッキチェアに優雅に座りながら、これまた優雅に工芸茶を飲みながら眠そうに欠伸をするレイズ。

レイズの反対側、パラソルに机に歴史書を完備して戦況を見ているロビンは疑問を口にしていた。

 

「まぁ、色々あんだよ。しかし、ゾロの奴は相変わらず“剛剣”に傾倒した刀裁きしているな」

 

自身の身長と変わらぬ酒樽をジョッキの代わりに酒を飲んでいるシュライヤが話を濁すように話題の転換を図る。

決闘が始まって15分、見届け人として残った4人はその戦いの行く末を眺めていた。

 

「ふぅ(落ち着けあたし)」

 

ナミは戦場が見渡せる木上で腰に3本のロッドを携えて緊張する自身の心身に活をいれていた。

徐に腰から2本のロッドを抜くと息を整え、バトンのように回転させ始めた。

 

「ねぇ、“この棒”は何なの?」

 

決闘前、ラチェットの工房になにか武器はないか確認しに来ていたナミの目の前には3本に分割されたバトンのようなものがあった。

 

「あぁ、それは“ヒートロッド”と“クールロッド”それと“マグネティックロッド”だ」

 

ナミほどの美少女を前に興味無しと言いたげに機械をいじり続けるラチェット。

彼曰く、その3本のロッドは裏ルートで流れてきた新世界のとある島でとれる鉱石を加工したおもちゃで赤いロッドは空気を送り込むことで送り込まれた空気を瞬間的に熱風に変え、青いロッドは空気を送り込むことで送り込まれた空気を瞬間的に冷風に変え放出できるという代物。

そして、黒いロッドは回転させることで内部で強力な電気を発生させ放出できる代物だと言うのだった。

 

「うちの女性陣からドライヤーやら蓄電池やらを作れと言われた時の試作品だ。欲しいなら持っていけ」

 

おもちゃにしかならんがな、と言われたその3本のロッド。

そのロッドからナミは視線を外すことが出来なくなっていた。

そして、一目見た時からナミはある予感がしていた。

 

「(あたしなら、この“おもちゃ”を“武器”に出来る!!)」

 

今まで、かつて故郷で見せた以上の覚悟を宿したナミの瞳は2人の巨人族を捕らえた。

 

「ヒートロッド!!」

 

右手で赤いロッド、“ヒートロッド”を華麗に回し。

 

「クールロッド!!」

 

左手で青いロッド、“クールロッド”を華麗に回す。

すると、2本のロッドの両端から熱気と冷気の球状の塊が飛び出してきた。

 

「やっぱり、“この子達”はあたし(航海士)にとって最大の武器になるようね」

 

リトル・ガーデンの熱帯気候も手伝ってか、ナミが見上げる戦場の真上には巨大な雲が出来上がっていた。

 

「さぁ、仕上げよ」

 

最後に黒いロッド“マグネティックロッド”をバトンのように回転させる。ロット内部では回転に感化されたように電気が走るバチバチという音が響いてきた。

回転を止めたロッドの片側からドリーとブロギー目掛けて黄色の球体が飛んでいく。

そこから更に回転させマグネティックロッドが発光し始めた。

それを合図に上空に“黒く”育った雲に向けてバチバチと鳴き続ける金色の発光球体が打ち上げられていく。

 

「ハートの痺れにご注意ください」

 

ドリーとブロギーがその異変に気がついたのは自分に接近して攻撃を仕掛けているのがルフィだけになったことに気がついたのと同時だった。

遠方からウソップとイガラムが絶え間無く援護をしているが、先程まで中距離でカルーの剛脚による高速移動で翻弄し続けていたビビすらもゾロとサンジの控える位置まで下がって待機している。

その瞬間、自分たちすら覆う巨大な影の下にいることに気が付いた。

ふと、自身の戦士としての予感に突き動かされたドリーとブロギーはとある位置、ナミが立つ位置に視線を向けれた。

そこには黒いロッドを自分たちに向けて振り下ろさんとする姿があった。

 

「ハートの痺れにご注意ください」

 

その言葉と共にドリーとブロギーはグランド・ラインでも、もしかしたら新世界でも滅多にお目にかかれないような稲妻に打たれた。

そして久方ぶりに、エース達との喧嘩以降本当に久方ぶりに意識を失うのであった。

 

「あ、ルフィごとやっちゃった」

 

可愛らしく舌をだし自分をコツンと叩くナミ。

 

「「「「ちょいちょいちょいちょいちょいちょい!!」」」」

「ルフィさん大丈夫ですか!?」

 

流石のサンジもツッコミに回る。

ビビが慌てて声をかける。

全員の視線がナミの引き起こした惨劇の中心地へと注がれる。

そこには。

 

「んぅ?んんんんんん?」

 

なぜか困ったような顔をして腕を組み首をかしげる一寸だけ焦げたルフィが立っていた。

 

「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」」」」

「おいおいルフィマジか?」

「あいつは本当にどういう身体の構造してんだよ?」

「てかなんで雷はノーダメージですんでんだよ!」

「これが、賞金首の海賊の力!?」

「クェーーーーー!」

「まさか、ルフィ君がここまでの男だとは」

 

ルフィの無事を確認した一同はいつもの空気になりツッコミと称賛をルフィに向けていた。

 

戦闘の数分前。

試しにロッドを回転させるナミ。

ラチェットの説明どおり、其々のロッドからは熱球と冷球と電気球が飛び出してきた。

物は試しと男達で試し打ちをしてみたが特にダメージを受けた様子もなく、ナミは自分の直感が外れたようで意気消沈していた。

そんな時だった。

 

「あれ?なんであの高度に雲があるの?」

 

なんと無しに見上げた空。

そこには本来ありえない高度に鎮座する小さな雲があった。

 

「もしかして」

 

そして、その雲目掛けて熱球と冷球をぶつけていくナミ。

すると雲は徐々に大きくなっていき遂にはその雲から雨が降り始めた。

 

「雨雲、ということは!」

 

そして、そこに放たれる電気球。

その結果を見たナミはとても満足そうであった。

そして、現在に至ったのであった。

 

「天候を操る、そう今日からあなた達は“天候棒(クリマ・タクト)”よ!!」



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かれおうNGシーン

生存報告!!
今回、というか今年はまじで仕事ヤバい。
うちの会社大丈夫かと言う案件しか回ってこない。
そんな感じの作者ですがちゃんと生きてます。
今回は各所で出回っている。

「ONE PIECEがドラマだったら」

です。


①実は技名が変更になった役がいるんですよ

 

「秘拳っっっっっっっ!!」

「お、エース君それ良いね。使わせて」

「え?」

 

休憩時間中、遊びで勝手な技名を叫んでいたら技名が変更になったエース。

後に元々の技名はルフィの「火拳銃(レッドホーク)」に流用される。

 

 

②本人は実はメチャクチャウブなんです。

 

「何よシュライヤ。文句あるの」

「あら、ご免なさい。こんなに歩きづらいとは思わなかったの」

 

カリーナとロビンは悪びれもせず、かといって離れる素振りをみせるどころか、より確りとレイズの腕にしがみつくように腕の力を強めていた。

 

「カット!!」

「うわ、レイズさん顔真っ赤っすよ」

「あら、相変わらずウブなんだから」

 

中堅俳優になっても綺麗な女性に抱きつかれると顔を赤くして照れてしまうレイズ。

演技中はまったく関係ないことを考えて気をそらしていることは結構有名な話。

 

 

③芸歴だけで言えば・・・・・・。

 

エース「2年!!(街でスカウトされた系中堅事務所アイドル)」

レイズ「15年です(シャッフル海賊団役最年長中堅俳優、実年齢を公開しているのに20代で通る)」

カリーナ「16年よ(生まれた頃からどっぷり役者な元天才子役)」

 

エース・レイズ「「先輩、ご飯奢ってよ」」

カリーナ「黙れ、高額納税者ども!!」

 

 

④この作品で1番辛いのは?

 

エース「やっぱ宴のシーンかな」

ルフィ「解る!!それスゲー解る」

リンリン「本当に、聞いていた以上だもんね」

 

3人「あんなに食べられないよ(素が小食組)」

 

レイズ「毎回、結構な量用意してくれるけど」

ゾロ「なんなら、その手のスポンサーがまた増えたんですよね?」

カイドウ「本当に、過去の文献読み解くとこんなに飲んでいたんだといわれてもな」

 

3人「下戸にはキツいぜ(どちらかと言えば甘党)」

 

 

⑤実は役が切欠で

 

レイズ「大学に入り直しました(考古学専攻)」

カリーナ「歌手デビューしました」

ナミ「気象予報士の資格を取りました」

ラチェット「工作系Y〇uTuberはじめました」

サンジ「料理が趣味になりました」

シュライヤ「世界4カ国のSAS〇KE完全攻略してきました」

フランキー「ズボンが全てショートパンツになりました」

サガ「サケソムリエの資格取りました」

ゾロ「口に物を咥えながら流暢にしゃべれるようになりました」

 

ゾロ以外「お前が1番なにげにスゴいな」

 

⑥役とリンクしてるところありますか?

 

エース・ロジャー・ルージュ「本当に親子です(ルージュさん後妻、エースにとっては年の近い義母)」

アーロン・ジンベエ「魚人から手師範代です(この2人のせいで一切やってこなかったクロオビが現場でしごかれることになる)」

レイズ・レイリー「血縁(親子)です」



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電々虫の顔芸は金取れるレベル

「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!あのねえちゃんスゲえな!!」

「ラチェットの玩具を完全に武器にしてやがる。なんだあの発想力」

「こんな亜熱帯で落雷なんて」

 

ナミがとどめを刺した現場を見て興奮MAXのエース。

サガですら目を見開き驚愕で満ちた顔をしていた。

ロビンに至っては開いた口が塞がらないという顔で驚愕を隠そうともしていなかった。

そんな中、レイズは唯一人史実と分史の修正力について考えていた。

 

「(恐らく、天気棒(アレ)は能力でも無くあくまで技術として出来上がる武器だから彼女(ナミ)が使用者だからか兎に角彼女の手に渡った段階でこうなることは確定事項だったんだろう)」

 

次にナミの武器に興味を示しているウソップに視線を移す。

 

「(ラチェットの玩具でしか無かったアレには奥の手が仕込まれていない。恐らくウソップが弄って追加するのだろう、天候棒にはウソップが関わったという事実を史実が影響を与えるから)」

 

同じくノインもまた、世界が史実の影響を受ける修正力に頭を悩ませていた。

 

「(麦わらの一味に“考古学者”が仲間になることまでが修正力による決定事項なら、私とロビン両方仲間になる確率は低くなる。それに、エースが死ぬ事までが修正力の事案なのかどうかこれからの考えどころね)」

 

異物とお互いをそして自分を認識しているレイズとノイン。

互いに知る史実が途中で途切れているが世界から送られた異能(ギフト)が違うからこそ抗う。

改めてこの世界を生き抜くことを、自らの目的のために出来ることをやり尽くす事を誓う二人であった。

 

「プルプルプルプル、プルプルプルプル、プルプルプルプル、プルプルプルプル」

 

するとエースの傍に置いてあった電々虫が鳴き始めた。

 

「おう、こちらスーパーイカした船長。どうした?」

『こちらラチェット。お前、今朝ちゃんと鏡見たか“ファミコン船長”?レイズとロビンの予測が当たったぞ』

「お、ということは」

『あぁ、今し方我が船の前を“3”を意識した船と“5”を意識した船が通過していった』

「ははは、ルフィ達も連戦は辛いだろうけどこれも経験だな、というかラチェット」

『なんだエース、そろそろ移動するんだが』

「誰が“ファミコン”だというか“ファミコン”てなんだ」

『仲間や家族が好きすぎる奴、“ファミリーコンプレックス”の略だ。いい加減に少しは兄貴分(レイズ)離れしろ』

「はぁ!?嫌ですぅ、レイズはオレの相棒なんですぅ。他の有象無象よりもオレの方が」

『それは、船に戻ってきて女性陣の目の前で言ってくれ』

「オレに死ねと!?」

『それじゃ、手はず通りに(ガチャ)』

「もしもし、もしもし、切りやがったラチェットの野郎」

 

エースのその姿にサガ、ロビンが意識をそちらに向ける。

 

「お、ゾロ達は連戦か?まぁ戦闘の経験値を得るには今の状態でやり合うのが一番かもしれないが」

「でも、大丈夫かしら?この状態のままでMr.3達と戦わせて万が一負けるようなことがあったら」

「それはない」

 

2人の心配をかき消すように話の外にいたレイズが否定の言葉を継げる。

 

「寧ろ、今の彼らとやり合うことに同情するよ。条件付きではあったけど格上との戦闘での勝利経験、今彼らはそれを糧にしようと頭を働かせている。そんな状況の中でもう一度タイプが違う敵とやり合える、最初っからフルスロットルな彼らとやり合うなんてオレだったら嫌だな」

 

そう言うと空を歩き出すレイズ、その顔はいつもの昼行灯を気取った表情ではなく、何かを決めた覚悟を宿した顔だった。

 

「ぶへぇぇぇぇぇぇ、ちかれた」

 

黒焦げになった地面の中心で大の字になり、疲れてますと体全身で表現しているルフィ。

それ以外の面子は今回の戦いを思い返して何かを掴んだようであった。

 

「ちょっと船長s「3と5ペアが上陸したよノインさん」

 

それはノインにだけ聞こえる大気を利用した通信手段だった。

その声に導かれるように上空を見上げるノイン。

その視線の先にはこちらを見下すように冷徹な目で自分を見るレイズが空に立っていた。

 

「自分の手札晒さずに凌ごうなんて許さないよ、君の手札はこの場で晒させてもらう」

 

その声が途切れるのと同時にノインへと白い物体が木々を切り倒しながら迫ってきた。

危機一髪で何とかよけるノイン。

その白い物体はブーメランのごとく飛んできた方向に戻っていった。

 

「ふぅん、おかしいがね。裏切り者が3人に雑魚が4人。1人足りないようだが何処に匿ったんだがね“ヴァケーション”?」

「くっ、Mr.3」

 

ズタボロのルフィ・ゾロ・サンジ(主戦力)、余力の無いナミ、弾の補充とスタミナが切れかけているイガラム。

今真面に戦力としてカウントして良いのは自分自身とウソップとビビであることに気が付き、久方ぶりの戦闘で多少の疲れがあったにせよ本筋通りなら来るであろう敵の存在に気が付けなかった事に気を抜きすぎたと反省するノイン。

 

 

「・・・・、オレはやるぜノイン」

 

そんな彼女の背を押すようにウソップがゴーグルをかけ直す。

 

「今回、オレは本当に援護しかしてないからな。全然余裕だぜ」

 

脚を震わせながら無理矢理笑顔を作るウソップ。

 

「ミス・ヴァケーション、私もやるわ。これは私の戦争なんだから」

 

目に強さをともしたビビが立ち上がる。

ノインにとってこの段階の2人は正直足手まといという認識しかなかった。

しかし、歴史の中で生きる彼らは自分が思っているよりも強かった。

癪だが頭上に浮かぶ同郷の人間に踊らされているようであったが、自身の手札を晒すのには丁度良い舞台が出来上がっていた。

 

「ふふ、困った子たちね」

 

サンジが直視したら致死量の鼻血をふきそうな怪しげなかつ誰をも魅了しそうな魔性の笑みを浮かべるノイン。

 

「あなた達が頑張るなら、お姉さんも頑張らなくちゃ」

 

上空から連戦を眺めるレイズ。

眼下で繰り広げられる戦闘を一瞬も見逃さないように、そんな姿勢で観察していた。

 

「(ハナハナではないのは解ってたけど、“あれ”は“あれ”で恐ろしいな)」

 

戦線復帰したルフィ・ゾロ・サンジ、3人はMr.3が引き連れてきたミリオンズと呼ばれる構成員を相手取っていた。

先程の戦闘の疲れがあるにも関わらず数で押す構成員が吹っ飛ばされる光景はまるでゲーんのようであった。

3人の打ち洩らしをビビが倒しており、僅かな期間での成長に目を見張るものがあった。

だが、その光景の中でもっとも異質だったのはMr.3・Mr.5と相対していたノインとウソップであった。

 

「ぐぉ、この野郎!!」

「へっ、悪いがオレはウソつきなんでな」

 

ウソップはMr.5相手に善戦していた。

所々汚れが目立つがカルーに跨がり流鏑馬のごとくMr.5を翻弄し正確無比な狙撃で的確にダメージを与えていた。

また、火薬を詰め込んだ「火薬星」・濃縮した辛み成分の液体を詰め込んだ「タバスコ星」・粉状のしびれ薬を仕込んだ「痺れ星」を言葉巧みに使い分け、原作以上にMr.5を追い詰めていた。

そして、ノインは箍を外してきたのだった。

 

美髪武装(ヘアーメイク)

 

両手を交差し目を閉じたノイン。

肩までしかなかった彼女の髪は彼女の言葉を合図にしたかのように一気に腰まで伸びていった。

 

白鷲の翅矢(フェザーアロー)

 

そして、髪は鳥の翼を思い起こす形になると羽根のような形の髪を撃ちだし始めた。

 

「くぅ、相変わらず容赦のない女だがね」

「あら?それは彼女のことを言ってるのかしら?」

 

二人の視線が同時に動く。

そこには白い蔦のように伸びた髪に絡め捕られ、蔦の牢獄に捕まったミス・ゴールデンウィークがいた。

 

「きゃー、たすけないでぇみすたーすりー、あむぅ」

「何を呑気に茶をしばいとるんだがね」

 

当然のごとくお茶とお煎餅を持ち出して観戦しながら。

 

「だって、こうなったら私の力意味ないもの。それにミス・バレンタインだって“あんな状態だし”」

 

そう言って上空を見上げるミス・ゴールデンウィーク。

 

「あ、や、だめ。“見えちゃうぅ”」

「サンジィィ、このお姉さん結構エグいパンツだよぉ」

「きゃーーーーー、なに言ってんのよ変態!!」

 

レイズがいる高さまで飛んできたミス・バレンタイン。

彼女最大の不幸はレイズは紳士だけど敵対すると容赦が皆無にならるとこだった。

 

「いやぁ、この高さで落ちたらいくら能力者でも危ないから」

「だからって、ちょっとどこ触ってんのよ」

「直には触ってませーん。しっかし意外と肉付き悪いな、肌艶も普通だし。ちゃんと御飯食べてる?」

「お尻触るなぁぁぁぁぁ!!、でも風を消さないでぇぇぇぇ!!」

「サンジィィィィィィィ、確りしろ!!」

「ぶはっ(過度な想像により鼻血大量出血)」

「アホか」

 

麦わらの一味最大戦力(バカ3人)のコントに目が行きかける。

一方でMr.3はこの状況から“逃走”するための計画を練り続けていた。

ボスに次ぐ戦闘強者と言われるニコ・ノイン。

超人系でありながら能力の幅が広く、ここ数年間戦闘に置いて無傷との噂が立つほどの才女。

スカウトリストの最上位に上がっていたフェンシルバード・レイズ。

能力もさることながら悪魔的な思考能力をボスが高く買っていた。

Mr.3という狡猾な男最大のミスはこの場にいるのが2人だけでは無かったと言うことだった。

 

「ぐぅ、は、腹がぁぁぁ」

 

突如として腹痛を訴えるMr.5。

そんな彼の頭上にはトンカチを両手で振り下ろすウソップがいた。

数分前、Mr.5の相手がウソップであったことこその結果である。

 

「くそが、だがその玉の色は覚えた。火薬なら全身起爆人間のオレには意味をなさない」

「くそぉ、まじかよ!!もう他に弾がねえ!!」

 

タバスコ星・痺れ星が無くなり、火薬星のみで対応していたウソップ。

その全てはMr.5によって弾かれていたが、今ではおやつ代わりに食べられる始末であった。

 

「くそ、あたれあたれあたれあたれ!!」

「だから、全身起爆人間のオレに火薬は意味をなさないと言っているだろう」

 

そう言って再びウソップの放ったパチンコの玉を全て食べ尽くしたMr.5。

そして、その変化は唐突に訪れた。

 

『ぐぎゅるるるるるるるるるるるるるるるるるるるるる』

 

明らかに腹を下したような音が響き渡った。

全員の意識が音の発生源へと向かう。

そこには、五体投地し僅かに腰を高くした状態で苦しそうに腹部を押さえるMr.5の姿があった。

 

「て、てめぇ!!オレに何を撃ちやがった!!あうっ!!」

 

身体に力を入れると何かが漏れ出してしまうのだろうか、彼の人間として絶対に超えてはいけない尊厳を死守しようとするもその姿を見ているウソップの顔は悪戯が成功した小僧のような笑みを浮かべていた。

 

「へっへーん、悪いがオレは嘘つきでな。さっきお前が食べたのは一粒でゾウすら下すと言われている超即効性便秘薬を10粒粉にして固めて作ったその名も“超速開運星”だ」

「くそが、調子にのりやがっ、はう!!」

 

立ち上がろうと身体に力を入れれば即開運しそうになるMr.5。

今彼はギリギリの所にいた。

しかし、相手は海賊である。

 

「ウソーーーーーーーーーップハンマーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

ゴキンという音が周囲に木霊した。

Mr.5の頭には巨大なコブ。

 

「しかし、オレも男だ。お前みたいな外道でも尊厳までは奪わない!!武士の情けで一緒に快速下痢止めも飲ませてやったぜ」

 

Mr.5、人間としての尊厳だけは守られたのだった。

 

 



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バロックワークス、今思うと・・・・・・。

自分の裁量以上の仕事を任されるとテンパるよね。


「ドルドル彫刻(アーツ)

 

Mr.3が両腕を勢いよく振り抜く。

 

投合剣群(ブレードショット)!!」

 

腕から溢れ出た蝋、その蝋から様々な形の刀剣がノインへと迫り来る。

しかし、ノインは目を閉じ、両腕をクロスしたまま動こうとしなかった。

 

「美髪武装・・・・」

 

その言葉が紡がれるのと同時にノインへと刀剣群が突き刺さっていく。

 

「ふぅん、こんなもんかねミス・ヴァケーション」

 

土煙で姿が見えなくなってしまっているが刀剣が突き刺さったシルエットが浮かび上がっている現状に疑問を浮かべるMr.3。

彼の恐ろしさは戦闘能力ではなく、任務遂行に対する執念とそのための思考力。

能力者になる以前からその知略で出世し続け現在に至る彼の思考が疑問符を浮かべていた。

 

「あら、油断してくれないのね」

 

土煙が晴れ渡る。

そこには純白の巨大な翼で自身を包み込むノインの姿があった。

 

堕天使の白翼(フォールダウン・ウィング)!!」

 

翼により塞がれた刀剣の先は固い何かにぶつかったように押し潰れていた。

 

「本当に厄介だがね、貴女という人は」

 

2人の戦闘が繰り広げられている上空、その姿を片時も見逃さぬように見つめるレイズ。

 

「(“カミカミの実”の頭髪自在人間、というところか)」

 

眼下で繰り広げられる目まぐるしい速さで行われる戦闘。

 

「(頭髪を自在に操る、と言うけど恐らく髪の毛一本一本に疑似神経のようなモノが通っているから相手の“起こり”が解る。だから、後の先が成立していると言うところか)」

「(てか絶対に見聞色使えてないなあの女)」

 

上空から宿敵認定した存在を観察し続けるレイズ。

エースですら久方ぶりに見る戦闘モードの真剣な眼差しのレイズを遠くから望遠映像電々虫で盗撮し女子会モードで堪能しているシャッフル海賊団女子ズ(未婚者)がいることは公然の秘密である。

ノインのギフト、それは「“ニコ・ロビン”よりも数段上をいく」という抽象的なモノであった。

ノインにとっては“原作”のロビンよりもやや上の存在になると思っているため、覇気に関しては使え“ない”と考えているためノインは覇気を使えない。

その結果、彼女の得た「自身の髪を自在に操る」という能力を利用して戦い続けた。

そのため、現行のロビンよりも僅かに上をいく成果を挙げ続けたため、ギフトが正常に機能していると考えている。

しかし、ノインが知らない事実をレイズは知っている。

 

「(ロビン、使えるんだよなぁ。“武装色”をだけど)」

 

それは、リトルガーデンに到着する数日前。

ノインがサンジと物資調達に行っている間のことだった。

ロビンが頼んでエースとの模擬戦で露呈した。

 

「え、何その黒光りする手。“火”のオレぶん殴られたんだけど」

「でも、火傷までは防げなかったみたい。まだまだね」

 

シャッフル海賊団一同エネル顔で見たその光景。

 

「まさか、それは“覇気”か」

「えぇ、以前組んでいた頃にエースが時々、腕を真っ黒に染めて戦っていたのを見て興味がわいて調べてみたの」

「そしたら、覇気の存在に行き着いたと。ロビン、知識欲半端ないな」

「うふふ、レイズを驚かせられて少し嬉しい」

 

この時の経験から“この世界線”での強化はレイズの“虫食いの原作知識”には保管されないことが発覚したのだがそれ以上に衝撃だった。

 

「(つまり、あのアマ(ノイン)の特典は“原作時間軸のロビン”に準じているということか)」

 

心の内で呟いた言葉、しかしそれはレイズにとって今後を決める重要な情報の一つだった。

 

「(あくまで、“この世界線”での出来事に影響を受ける事柄に関してはオレの“虫食いの原作知識”に影響を与えないということか)」

 

そんな風に考察していると眼下の戦闘も佳境に入っていた。

 

「受けるがイイ、私の最高傑作、“キャンドルチャンピオン”」

 

そこには綺麗に着色され首を除く全身を硬いロウで包み、巨大なロボットのような外見になったMr.3がいた。

 

「「か、カッコイイイイイィィィィィィィィィィ!!」」

 

その姿にルフィとウソップは目を輝かす。

遠くから覗いていたエースも目を輝かせているが今は置いておく。

 

「あら?ミス・ゴールデンウィークたらそんな遠くからも色づけできたのね」

「えぇ、私も意外と負けず嫌いなのだからココまでは頑張るわ。後はお願いねMr.3」

「ふん、寧ろ手出し無用と言わせてもらおう!!4200万ベリーの賞金首を仕留めたことのある私の最高芸術!!たっぷりと堪能してくれたまえ!!」

 

その言葉と共に繰り出されるのは腕を回転させる一般的に「ぐるぐるパンチ」と言われるものであったが、そんな可愛らしいものではなかった。

腕を縦横無尽に回転させて放たれるその技、どこかルフィの「ゴムゴムの銃乱打」を思い起こす鉄球の嵐が周囲の木々をなぎ倒していきながらノインへと迫り来る。。

 

「チャンプファイト「おらが畑Ver.02」」

「あら、怖いわね」

 

しかし、ノインはその姿に対して未だに笑顔を崩さないでいた。

 

美髪色付加(カラーチェンジ)

 

その言葉と共に長く伸びていた白髪がうねり始め先端からその色を替え始めた。

 

炎々ノ赤(フレイムルージュ)

 

ノインの髪が赤く染まった、それと同時に彼女の髪はまるで炎のように燃え上がった。

 

「ほう(悪魔の実の能力者に求められるのは“発想”と“着眼点”そして“能力の理解度”だと思っていたが、まさかここまでやるとは)」

 

ノインの見せた能力に感嘆のため息を思わず漏らしてしまうレイズ。

髪というモノを理解し、その性質を熟知し、自身の能力の理解度を高めることで過大解釈による能力範囲の向上。

ノインはそれらを成し遂げていた。

 

「(これは、少し甘く見ていたと理解せねばならない)」

 

一口に頭が良いと言っても色々な意味があり、ノインの場合は前世の知識を引っ張り出し現世の知識と統合して活用できる応用力に秀でているとレイズは考えた。

実際、「劇場版」などでフランキーやブルックの髪色が変わっていることを考えると「髪の染色」という概念自体はこの世界にも存在しているのだろう。

しかし、それを能力に落とし込み自在に使いこなすにはそれ相応の理解力と応用力が求められる。

ノインを少し甘く見ていたことを反省しつつ戦いの最後をレイズは見届けることにした。

 

炎々ノ赤(フレイムルージュ)美髪ノ炎蛇(サラマンダー)

 

長く伸びた髪が蛇のような姿を象る。

それはまるで燃えたぎる炎を纏った蛇の怪物の様であった。

 

「あなたの能力の弱点、それは“熱さ”」

 

その声に呼応するように髪の大蛇はMr.3へと巻き付いていく。

 

「や、止めるがね!!」

「私たちに敵対したこと、不運に思いなさい」

 

燃えたぎる髪の大蛇がMr.3の蝋の鎧を締め上げていく。

 

美髪ノ炎蛇(サラマンダー)締上捕縛(ツイスト)

 

赤く燃える大蛇が鎧を締め上げるとその炎の熱量で鎧は溶け砕け散った。

 

「かひ。な、なんて無粋な女だがね」

「まだよ、Mr.3」

 

蝋の鎧を剥がされ無防備になったMr.3へと迫り来るビビ。

Mr.3が手に入れていた事前情報よりも数段早いその移動速度に思わず思考が纏まらず止まってしまった彼の運命はそれまでだった。

 

孔雀(クジャッキー)スラッシャー」

 

手の両小指に小さい刃物をつけた紐を取り付け、その刃物を回転させながら相手を切り裂くその技はMr.3を傷つけることなく逸れてしまった。

それを察したMr.3は逃げようとするも彼の目に写ったのは衝撃の光景だった。

 

尾翼ノ檻(ピーコックゲージ)

 

的外れに放たれた筈の紐は周囲の木々や岩・大地といった周辺の環境を巧みに使いMr.3を捉える檻となっていた。

 

「ち、ちからがぬけるがね」

「これが、海楼石の力」

 

ビビの孔雀スラッシャーはラチェットによって素材全てが海楼石に置き換えられていた。

対能力者、そしてビビの事を知っている存在であればあるほどこの攻撃は必ず当たると考え紐も特定条件下で伸縮する素材を併用する拘りぶりである。

そして、Mr.3を縛り上げるとビビは両手を思いっきり振り下ろした。

突如後に引っ張られるMr.3、そして尾翼ノ檻に叩きつけられると反動で前に押し出される。

そこには、紐の伸縮を利用して加速したビビ自身がドロップキックの構えをとってMr.3へと飛んできていた。

 

王印両脚撃(ロイヤリティドロップ)!!」

 

紐の反動と加速、それにビビの体重とヒールによる衝撃の一点集中。

Mr.3が意識を保てたのはそこまでだった。

 

「ん(勝った、私“でも”オフィサーエージェントに勝てた!!)」

 

ビビが喜びをかみしめる後でノインはあることに気が付いた。

 

「!?(あの男、私を踏み台にしてビビに自信を付けさせたわね!!)」

 

上空を見上げるノイン。

そこには自分に向けて舌を出して戯けたように身を竦めるレイズがいた。

 



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親が体調を崩すとこの方が病気に見えてくる不思議

本当に短いけど許してください


「・・・・・・・、だるい」

「し゛ぬ゛な゛、れ゛い゛す゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛」

「く、若白髪の分際でエースに看病されて」

「ねえさんもダマって寝てなさい」

 

あれから、ドリーとブロギーはエルバフに戻るべく船を作ることになりそれ以外は原作通りでアホみたいにでかい金魚を真っ二つにしてから何日かたった。

航海も順調に進んでいた、そう順調に進んでいた。

レイズとノインが倒れるまでは。

 

「“ケスチア熱”ってなんだ?」

 

倒れた二人の診察を行ったマヤが診察結果を全員に告げた。

それは聞き覚えのない病名だった(なお一部病気にすら係ったことのない論外達もいたが)。

 

「ケスチア熱、別名5日病といって高温多湿の森林に住んでいる有毒のダニ「ケスチア」に刺されると発症する病気です。

 傷口から細菌が入り、40度以下に下がらない高熱・重感染・心筋炎・動脈炎・脳炎などを引き起こし、5日後には死に至ります。

 感染すると特徴的な痣が出ます、こんな風に」

 

マヤがめくった見せたレイズの首筋、そこには花のような赤い痣があった。

 

「ん、てことはレイズ死ぬのか!!」

「ノインちゃんも!!」

 

同盟を組んでからブレインとして活躍してきた2人、その2人が倒れたことで少なくない不安が広がる。

 

「手はあります、私の師匠が抗生剤を持っていますので師匠の島にいけばお二人は治療できます」

「そうか、婆さんなら助けてくれるか!!」

「でも、それとは別の問題があります、そうですよねナミさん」

 

マヤが促すようにナミへと話題を振る。

その手には、2日前に届いたある記事が見えるように開かれた新聞が握られていた。

 

『アラバスタで内乱激化!!』

 

その見出しだけで全てを察してしまったビビであったが、力の入らない身体で新聞を握りしめ記事を読んでいく。

その後ろでビビを不安そうに見つめるイガラムも手をキツく握りしめ自分の心を自制していた。

エターナルポースのある今、直ぐにでもアラバスタに向かいたい。それはビビの偽りない本心である。

天性の航海術を持つナミという航海士に化け物級の戦闘力を持つルフィ達。

今倒れている2人に関しても、元々の目標であるアラバスタまでの同盟と割り切ってしまえればどれほど楽だったか。

 

「シャッフル海賊団の最速航海のため、そして私自身が強くなるために。レイズさんは必要です」

「そして、使える手札は多い方がいいですし、この同盟でも指折りの実力者であるノインさんを死なせることは損失です」

 

振り返ったビビの顔、そこには迷いはなかった。

 

「行きましょう、マヤさんのお師匠さんのところへ!!」

 

ビビが判断を下してから数日。

シャッフル海賊団の操舵室にナミはいた。

 

「うん、順調。航海に異常なし」

 

目的地へのエターナルポースを持つシャッフル海賊団を戦闘にゴーイングメリー号は牽引されながらの航海。

感染の心配はないが船の構造上、揺れにくいシャッフル海賊団の船で療養中の患者2人。

平気そうに見えても時間を追う毎に明らかに言葉数が少なくなり、辛そうにしているのをどうにも出来ない無力感が船内を包んでいった。

 

「お前ら、海の上に人が立てると思うか?」

「幻覚ね、引きなさい」

「オイッ!!」

 

見張り台の上に立つゾロからの報告を受けたカリーナは即決した。

海の上に人が立てるはずはない、もし仮に立っていたとしてもこっちはそれ以上に重大な事態なんだ。

その思いで発した言葉だったが、ツコッミをいれたゾロであったが、シャッフル海賊団本船は速度を上げて本当に引いた。

 

「マジか、マジで引きやがった!!この女!!」

「良いロロノア?私達にとって大切なのはレイズとノインさんの治癒よ。あんなあからさまに怪しいものに関わってる余裕はないわ」

「だけどよ」

「それに、あんなあからさまに待ち伏せされてたら警戒するもんでしょ?」

 

カリーナのその言葉に甲板にいた全員が首をかしげる中、ナミだけは気がついていた。

ナミも視認した海の上に立つ存在のその下に巨大な影があったことを。

 

「(カリーナ、危機察知能力はずば抜けてたわね。カリーナのそういった勘はバカに出来ないのよね)兎に角、過ぎたことはしょうがないとして行くわよ“旧ドラム王国”へ」

 

『というわけでご迷惑をおかけします、先生』

 

雪が吹雪く山頂にて電々虫から流れてくる女性の言葉に先生と言われた女性は口角が上がるのを自覚する。

 

「ひひひひひひひひ、なんだいあの坊主が羅漢するなんて笑える話だね」

『患者は2名、あと1日もあれば着きますのでどうかよろしくお願いいたします』

「あぁ、まかせな“国王”にはあたしから伝えておくから安心しな」

『ありがとうございます』

 

ガチャっという音共に受話器を下ろすと机に置かれていた“この海で“一番格好いい”酒”を煽る。

この間来たとき、件の副船長が置いていった物だ。

 

「ドクトリーヌ、マヤが来るのか?」

 

ノックも無しにレディの部屋にやってきた馬鹿弟子、その顔には笑顔が溢れていた。

 

「まったく、“兄”弟子の癖に“妹”弟子の方が確りしてるじゃないか。ボサボサしてんじゃないよワクチンの保管庫に行くよ!!」

「マヤに会えるの久しぶりだなぁ」



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