ONE PIECE-彼を王に- (完全怠惰宣言)
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Rを継ぐ者/その男、風使い

STAMPEDEをやっと見れた勢いと、エースを王にしたいという欲望をエネルギーに描いた作品です。
こちらでは他作品のキャラクターは出さずに、なおかつ時系列的に仲間にできそうな奴らを引っ張り込んでいく所存です。
よろしくお願いします。


オレの名はフェンシルバード・レイズ。

ある日気が付くとオレはキャンピングカーのような船の上にいた。

そして、激しい頭痛に襲われ”この世界”と自分という存在を正確に認識することになった。

オレの素性は「海賊王の右腕」と呼ばれた「”冥王”シルバーズ・レイリー」を叔父に持つ賞金稼ぎだ。

そして、俗にいう”転生”し”渡界”した存在でもある。

転生したからと言ってルフィの仲間になろうとは思わなかった。

絶対に苦労するから。

じゃあ、ナミたちを助けようとしたのか。

気が付いたら既に18歳だったから無理だ。

かといって海軍に入ろうとは思わなかった。

上下関係と世界貴族(バカ)の相手が嫌だった。

そうして、この世界に来て5年。気が付いたら異名持ちの賞金稼ぎとなっていた。

 

風迅(ふうじん)のレイズ”

 

東の海(イーストブルー)において、この名を知らぬ者はいないとされるほどに有名になったオレを倒して名を上げようとする小物海賊を捕縛しては海軍に引き渡し、中級海賊団を潰しては海軍に引き渡し、そんな生活を繰り返していたある日だった。

 

時は昼時。

 

前世今世において一人暮らしが長かったせいか料理は得意な料理男子なオレはつい先日、顔馴染みとなった“煙中佐”から懸賞金をもらい、その足で買った「霜降りマグロ」で優雅に昼飯をしようと刺身にして飯の準備をしていた。

前世が日本人なためか、米が好きなオレは味噌汁も作り、冷蔵庫に作り置きしていた沢庵を切り出し、朝に釣った白身の魚も添えて豪勢な昼飯を始めようとしたその時だった。

ふと目線を上にあげると口から唾液を滝のように流した青年がこちらを見ていたのであった。

ずぶ濡れな上に腹から獣の唸り声のような音を響かせる青年を見て思わず聞いてしまった。

 

「一緒に食べます?」

 

 

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「ふぃ~、食った食った」

 

刺身定食もどきだけでなく冷蔵庫の中身も粗方食い漁った青年は笑顔を浮かべて船内に置いてあるソファーに寝そべっていた。

 

「そりゃ、人様の1週間分の食料食い漁れば満足するだろうよ」

 

そう、食後のお茶を飲みながら目の前の馬鹿に視線を送る。

 

「いや、すまない。乗ってた船が転覆しちまってよ。なんとか泳いでこの島まで来たのはいいが財布まで流されちまったようで」

 

“オレンジのテンガロンハット”を被りなおした青年は身なりを整えると改めてオレに向かい合った。

 

「いやいや、食後のお茶まで申し訳ない。それにしてもいい船だな、あんたどこかの金持ちか」

「だぁほ、賞金稼ぎだよ。そろそろ、身の振り方を考えようとしてる最中のな」

「“賞金稼ぎ”か」

「あぁ、父親は元々知らねえし、母親はオレを生んで病死した。つい最近まで婆ちゃんが育ててくれたけど婆ちゃんもこの間旅立っちまった。

 この船は、婆ちゃんの遺産だ」

 

そう言って、本を取り出し茶をすするオレをどこか同類を見るような目で見てくる青年。

 

「悪かったな、言いたくないこと言わせて」

 

そう言ってテンガロンハットを顔を隠すように傾ける青年。

先ほどから目の前の青年をどこかで見たことがあるようなそんな気がしてならないのだが。

そこからしばらく互いにお茶を啜る音と波の音以外は消えていた。

 

 

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目の前の男を注意深く観察する。

出生が出生なだけに”他人”を観察する”癖”が出来ちまったオレは飯を“奢ってくれた”目の前の男を注意深く観察している。

白銀を思わせる肩まで伸ばした髪。

猛禽類を連想させる青い瞳。

獰猛に思われる外見とは裏腹に、会って間もない自分に飯を“奢ってくれる”人情味を持っている。

そんな男の家族関係を図らずも知ってしまい、気まずい空気の中茶を啜っている。

すると、外から怒鳴り声が聞こえてきた。

 

『おい、“風迅”出てきやがれ』

 

海に出たばかりのオレに異名があるわけがなく、おそらく目の前で本を読みながら茶を啜っている男性のことだろうと辺りを付けた。

 

「おい、呼ばれてるぜ」

 

一応声をかけてみたが、目の前の男は読んでいた本からオレに目線をずらした後、また本に視線を戻してしまった。

 

「あと2ページ読んだらキリが良いとこまで行くから、そしたら相手してやるよ」

 

そう言ってまた本を読み始める男。

興味本位で窓から外をのぞくと、船の周りをぐるりと“いかにも”な男共が取り囲んでいた。

よく見ると誰しもが傷の手当てがなされており、明らかに手負いの様相だった。

 

「なぁ、もし良かったらオレが相手してこようか?」

 

そう、提案すると男は今度は視線を動かさずに答えてきた。

 

「ま、そうだな。食い荒らした食料分は働いてもらうか」

 

おいおい、奢りじゃなかったのかよ。

 

「それじゃ小僧。できる範囲でいいからな。ま、せめて“2分”は持たせてくれよ」

 

そう言うと今度こそ読書に意識を戻した目の前の男。

今のオレの“実力”がどの程度通じるのか。

オレがこの先の海で成り上がれるのか。

 

「その喧嘩、オレが買った」

 

こいつらには悪いがオレのちきん(・・・)石になってもらおうじゃないか。

 

 

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扉を勢いよく出ていく青年を見送りながら、実のところオレは顔がにやけそうになるのを必死にこらえていた。

 

「(おいおいおいおいおいおいおいおい、“エース”だよエース。オレが知ってるエースより若いし、泳げたってことはまだ海に出たばかりなのか)」

 

読書もそこそこに窓からエースの戦いを見る。

何処に置いてあったのか鉄パイプを片手に、雑魚はお呼びじゃねえとばかりに海賊無双しているエース。

体裁きに無駄が多いが後々のことを考えると十分な仕上がりなのではないかと思える。

そこいらのチンピラ相手だったら問題なく戦っていけるだろう。

 

「(でも、そいつらを甘く見てるとヤバイんだよな)」

 

なんせ、そいつら東の海(イーストブルー)では珍しい、能力者(・・・)がいる海賊団だったからな。

 

 

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雑魚は粗方片付け終えたオレは頭目である男と対峙していた。

 

「さて、あとはお前さんだけだな。降参するなら今のうちだぜ」

 

今のオレの実力は大体測れた。

これ以上の戦闘は意味がないと促すと目の前の男は体をブルブルと震わせ始めた。

 

「ちょっとあんた、あんまりアテクシのことお舐めになるんじゃないわよ」

 

いかつい図体に野太い声、いかにもな強面がオカマだった事実に少し噴き出してしまった。

 

「いいこと、坊や。あんたがぶっ飛ばしたのはうちの海賊団でも雑魚よ。本命はアテクシ、アテクシが相手してあげるわ」

 

そう言うと猛然と突っ込んでくるオカマにオレはタイミングを合わせて鉄パイプを振り下ろした次の瞬間。

ガキンという金属が互いにぶつかったようなような音がして鉄パイプが弾かれた。

 

「んおっほっほほほほほほほ、アテクシは“ゴチゴチの実”を食べた“全身硬化人間”。如何なる者もアテクシを傷つけることは出来なくてよ」

 

そう、勝利宣言をするかのようにオレを指差してくるオカマ野郎。

そこからは形勢逆転とばかりにオレが攻められ始めた。

能力者の土壌で戦うことの難しさはルフィで痛感していたが、こいつはルフィ以上に能力を熟知していやがる。

周りで倒れていた雑魚共も息を吹き返してオカマを応援してやがる。

時折、オレの足を引っ掻けたり、槍をつき出したりと邪魔してきやがる。

そして、ついにオレのスタミナが切れて足がもたついちまった。

その隙をオカマが見逃す筈がなくオレは恩人の船へと投げつけられた。

 

「んおっほっほほほほほほほ、雑魚はお呼びでなくてよ。あんたたち、その目障りなゴミを片付けちゃあなさい」

 

オカマの声が響くのと同時に周りの奴等が一斉に撃ってきやがった。

オレはこんなとこで死んじまうのか。まだ“サボ”との約束も果たしてないのに。

 

「ジャスト3分、それが今のお前の実力か」

 

いつの間にか瞑っちまってた目を開けるとそこには、扇を片手に優雅に立つ恩人がいた。

 

 

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オレは、既にキリのいいところまで読み終えていた本を机に置いて窓から戦闘を覗いていた。

オレの知る“エース”は“能力”を主軸にした肉弾戦を得意としている。

でもそれは“能力者”になった後に構築したスタイルだったんだろう。

“今”のエースは鉄パイプを使用しての棒術擬きで戦っていた。

肉体を瞬間的に自然現象へ変化させられる自然系(ロギア)の能力を持たないエースは常に周囲に気を配り、自分の死角を作らない見事な戦いぶりだった。

ただ、時折“誰か”に背中を預けていたような仕草が垣間見えたことからエースの中にまだ“サボ”が生きているように思えて少しうれしく思えた。

そして、自分の中にある思いが芽生えていた。

 

-エースを“王”にしたい-

 

原作で涙ながら放たれた彼の心からの感謝の言葉。

そう思わせる世界がこの世界である。

ただ一人の青年にこのように思わせる世界なのだと。

そして、そんな青年を“王”にしてやりたい。

不特定多数から愛されなくていい、エースを慕ってくれる誰かに愛されていると感じてほしい。

そんな風に思ってしまった。

そう思ったからか、気が付くとエースの前に立っていた。

 

「ジャスト3分、それが今のお前の実力か」

 

そう言ってしまったが、慣れない能力者相手で本当にゴロツキ共を相手にした経験がないと考えると十分だった。

 

「ここからは、オレが相手だ」

 

扇を広げ風を回す。

 

「“風迅(ふうじん)のレイズ”、“エアエアの実”の力を得た大気・気圧操作人間。切り刻まれる覚悟はできているか」

 

 

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恩人、レイズが現れてからの戦闘は一方的だった。

オレが苦戦した能力者も気が付けば気絶していやがった。

その後、海賊団全員を海軍に引き渡しホクホクした顔で戻ってきたレイズを見て、似ても似つかないはずの“相棒”を思い出した。

 

「なあレイズさん、この後はどうするんだ」

 

なぜだか、この人はオレを受け入れてくれる気がした。

 

「そうさな、とりあえず一旦偉大なる航路(グランド・ライン)に戻って、そこから考えようと思う」

 

そう言って笑ったその顔は年上のはずなのにルフィを思い出させる無邪気さがあった。

だから、つい言っちまったんだろうな。

 

 

「オレの名はポートガス・D・エース。レイズ、オレと一緒に世界を周ろう。この出会いは“運命”だ」

 

 

誰も知らない物語。

後に五帝の一人「焔皇(えんこう)」と呼ばれ、偉大なる航路(グランド・ライン)に最年少で君臨することになるシャッフル海賊団船長“ポートガス・D・エース”。

後に「焔皇の右腕」、「空魔(くうま)」と呼ばれるシャッフル海賊団副船長“フェンシルバード・レイズ”。

彼らの出会いはこんなものだった。

 

 




時系列的に可笑しいだろうとか、なぜサラダ?という内容も今後は出てきますがご容認いただきたい。
作者はサラダだとローが好きです。


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Aの男/二人のコウカイ

前話において「五皇」ではなく「五帝」と表記しましたが、敢えてです。
記載ミスではありませんのであしからず。



「エースは“悪魔の実”についてどこまで知ってるんだ」

 

あの後、オレの華麗なる交渉術(嘘)により仲間になることを承諾してくれたレイズ。

現状、仲間も船も金も知識も足りてないオレ達が「海賊団」を名乗るのは烏滸がましいとレイズに言われ、最低でも後 3人仲間が増えるまでは「海賊“団”を名乗らない」、「海賊旗を掲げない」の二つを約束させられた。

そんな状況の中、レイズの方が物事を知っているため、オレは毎日“お勉強”させられていた。

 

「“悪魔の実”、ていうと食えば何らかの“特別な力”が手に入るってことと、味が最悪だってぐらいかな」

 

そうオレの言葉を聞いたレイズは頭を押さえやがった。

あ、これはマジ勉強パターンだ。

 

「大体は、“大体(・・)”はその理解で良いけど、今後のこともあるから少し勉強しようか」

 

そう言うとマキノさんが本気で怒った時のような笑顔を顔に張り付けたレイズと視線が合った。

 

「ハイ、オレガンバリマス」

 

めっちゃ怖かった。

 

悪魔の実

「海の悪魔の化身」と言われる果実で、いかなる生物が食べても特殊な能力を得られる。

悪魔の実の種類は多岐にわたり、食べた実の種類に応じた能力を得られる。

実を一口でもかじると、その時点で食べた者に能力が発現し、残りの実はただのマズイ果実となる。

 

「それじゃよ、1つの実から同じ能力を持つ奴が沢山できるわけじゃないんだな」

 

そういうことだ。

一般的に希少と言われている悪魔の実だが、偉大なる航路(グランド・ライン)にはかなりの数の能力者が存在している。

能力者になることでデメリットもあるが、それにも勝る”強さ”を得ることが出来ることから、偉大なる航路(グランド・ライン)に能力者が集まってくると言われている。

 

「能力者のデメリットって海で泳げなくなる“カナヅチ”になることじゃないのか」

 

この場合、“海”は「水が溜まっている場所」、更に言うと「“全身”を一定時間濡らせられる場所」と解釈したほうがいい。

流水は特に問題ないが、風呂なんかでも力が入らなくなるからな。

あと、理由は定かではないが二つ以上の能力を得ることができない。

 

「そういうもんなのか」

 

そう考えてもらって構わない。

悪魔の実の大分類についてはこの前やったからいいとして、悪魔の実には明確な能力の上下関係がある事が最近分かった。

 

「あぁ、この前言ってた似たような能力の相互関係性ってやつか」

 

正解、同種の能力を持つ悪魔の実の間には、明確な上下関係がある場合がある事が最近の研究で判明したんだ。

ただし、能力の強さと能力者の強さが必ずしも一致するわけではないんだ。

ようは使い方だな。

 

「さて、今日はこれくらいにして、エースは魚釣りな」

「え~、少し休ませろよ」

「冷蔵庫の中身がだいぶ減ってるんだけど、誰かがつまみ食いしたのかな」

「ハイ、行ってきます」

 

そういって元気よくエースは釣りに出掛けた。

エースがいなくなり、これからのことを考えた。

航海士としての技能はある事はあるんだが、料理人もやりながら、船医に船大工の真似事も、という状況だと満足に航海がしにくい。

どこかで、せめて航海士だけでも見つけないとな。

 

 

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レイズに言われて仕方なく釣りを始める。

ここ最近レイズに言われてきたことだが、この先成り上がって行くためには“頭”を使えて、“情報”を常に集め続けられる状況が一番望ましいとも言っていた。

無作為に飛ぶニュースクーから買う新聞じゃ制限された情報しか集まらないと言っていたし、どうしたものか。

ない頭で知恵を絞っていると竿に当たりがきた。

竿の撓りから見てかなりの大物だろう。

見てろよレイズ、船長(仮)の底力を見せてやる。

 

 

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エースが釣りを始めてそろそろ1時間。

洗い物も終わり、おやつのクッキーを焼いている。

ルフィの義兄だからと侮っていたが、そこそこ節制した食事に満足してもらっているので、手が空いたときはおやつを作ってやるようにしている。

オーブンに形成したクッキーを入れて焼き上がりを待っていると外からエースの悲鳴が聞こえてきた。

また、海王類の稚魚でも釣り上げたのだろうと呑気に甲板に顔を出したのが運のつきだった。

 

レ、レ、レ、レ、レイズ。“女の子”が釣れた

何つう物を釣り上げとるんじゃ、このお馬鹿

「あと息してねえ」

先にそれを言え、ド阿呆

 

救命処置は大切。

みんなも機会があったら覚えようね。

レイズお兄さんとの約束だよ。

 

 

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レイズがオレが釣っちまった女の子とキスして胸揉んでから、女の子が息を吹き返した。

キスして乳揉めば女の子は息吹き返すんだなと言ったら、思いっきり殴られた上に、おやつ抜きで救命処置の勉強を正座でさせられた。

理不尽だ。

 

今は余っていたベッドルームに寝かせているがいつ目を覚ますのかはレイズにも判らないとのことだった。

 

「ただの“遭難者”では無さそうだな。身体中見える範囲で傷だらけだったし、その傷も鎖を打ち付けられた痕のようにも見えたしな」

「ひでぇことしやがるぜ。何かこの子の身の上が判るような物はあったか」

「ダアホ、気絶した女の子をまさぐれるか。「乳は揉んだのにな」

 

 

ガス、バキ、ドコ、ドカ、バキ、ドゴス

 

 

「それに何か、あの子のことどこかで見たことあるような」

「リェ、リェイジュしゃん。もうひわけありまひぇんでひた」

 

 

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シリアスな顔をし何かを思い出そうとしているレイズ。

そのレイズにボコボコに殴られ顔を大きく張らしたエースが鎮座する扉の中。

少女は目を覚ましていた。

 

「ナミ、無事逃げられたかな」

 




助けられた少女は誰なのか?
なぜ、ウチのエースは一言多くなってしまうのか?
救命処置は本当に大切です。
皆さんも機会があったら是非、講習を受けてみてください。
昔は免許取る時にあったんですが今はどうなんでしょう?


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Cの快盗/嘘はドロボウと女の子の特権

(出来)上がったら、出す。
そんなスタイルでお送りしておりますが、そろそろ息切れしそう。



“98”。

この数字が何を意味するのか。

答えはレイズの賞金首確保率である。

唐突だが、レイズは“新世界”の出身である。

馬鹿息子の悪評が及ぶ前にと祖母が故郷である東の海(イースト・ブルー)へとレイズが物心つくかつかないかの年齢の時に連れ出してくれたため、本人もぼんやりとしか覚えていないのが実状であるが。

そんなレイズは幼少期に“母から受け継いだ”悪魔の実の力が発現し、突如として様々な声が異常なまでに聞こえてしまう時期があった。

レイズ本人は未だに“能力の暴走”と考えているが、実際は“覇気”と呼ばれる力の一端が同時に覚醒してしまったことによる弊害であった。

祖母はこの異常な孫の将来を懸念してか、レイズが幼い頃から某中将と同等の訓練をしてきた。

おかげで、現在のレイズは“能力”と“覇気”を行使して周囲の状況を音で聴き、脳内で映像化するまでに至っている。

そんな、レイズだからこそ視覚を塞がれたとしても、“音”を感知して対象を捕捉してしまうのであった。

エースに説明した際には“恐ろしい地獄耳”という認識で終わったが、強ち間違っていないと思ってしまったのは言うまでもない。

なお、レイズは未だに“覇気”の概要を知らないという事実を記しておこう。

もう一つ、レイズは“原作知識を有する転生者”ではあるのだが、その知識には“穴”があるのである。

こんなキャラクターいたな、“悪魔の実”に関する知識、この世界の刀剣類に関する知識、ストーリー(ルフィの冒険の物語)に関わることは大抵思い出せるのだが、細かい内容については“インクで塗り潰されている”ような感覚で思い出そうとしてもはっきりと思い出せない状況にある。

しかし、知識を得ることでその“インクで塗り潰されているような箇所”が思い出されることに気が付いて以降、レイズは“情報”を得る重要性に重きを置いて、賞金稼ぎ業に勤しんでいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「助けていただきありがとう御座います、私は“カトリーナ”と申します」

 

エースに釣り上げられた少女が部屋から出てきたのは、翌日の朝方になってからだった。

“カトリーナ”を名乗る少女は現在、身体が一回り大きく、裾の長い服を好むレイズの服を借りていた。

身体中の治療に関しても了承を得た後に確りと成されていた。

 

「おう、オレはエース。このかい・・・・わいで旅をし始めた者だ。この船の船長もやっている」

 

人好きする笑みを浮かべながら挨拶を返すエース。

途中でレイズとの約束を思い出し、“海賊”と名のりそうになったが、何とか誤魔化した。

決して対面にいるレイズに睨まれたからではない。

 

「そっちで料理しているのは、相棒のレイズ」

 

エースに紹介され、軽く会釈をするレイズ。

お昼に近いというのもあってか、ダイニングに隣接する対面キッチンからだが、顔をしっかり出しての会釈だった。

 

「改めまして、助けていただいて本当にありがとうございます」

「あんた、傷だらけだったけど襲われでもしたのか」

 

エースの質問に突如として青ざめたカトリーナ。

震える身体を自分を守るように抱きしめた。

 

「あの、その事については・・・・」

「あ、イヤなオレ達も無理矢理聞こうって訳じやなくてな。あのよ、そのな・・・・」

 

カトリーナの態度に思わず狼狽えてしまうエース。

確かに見目可愛らしい少女が明らかに訳有りな状態で発見されたなら事情を聞こうとするのは当たり前である。

如何に此処が“東の海(イースト・ブルー)”と言っても大海賊時代真っ只中の今、どういった危険が待っているのか知れたものではないからだ。

 

「ま、事情は追々にして、エース取り敢えず飯にするか」

 

湿っぽい空気を打ち消すようにレイズが出来上がったばかりの昼食をダイニングテーブルにおいた。

大皿にはたくさんの肉団子とトマトソースがからめられた特盛のスパゲティーが置かれていた。

 

「男料理で悪いがカトリーナもまずは食べな」

「そうそう、腹が減ってたら悪いことばっか考えちまうからな」

 

そう、にこやかに話しかけてくるレイズと既にいただきますしているエースの姿が面白かったのか、カトリーナの顔も笑顔になっていた。

 

「それでは、お言葉に甘えまして」

「おう、レイズの飯は美味ぇぞ」

「サラダも食えよエース」

 

三人の昼食は穏やかに進むのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

レイズと航海をするようになってエースには日課と言うものが出来た。

まずは、「早寝早起き」である。

異世界の知識を持つレイズはエースを王にするために、エースを鍛え直すことにした。

その為、成長ホルモンが分泌される黄金時間に睡眠を取れるように夕食の時間を調整して早寝させるようにした。

そして、部屋を別々にしたのを利用して早朝に釣りをさせるようにし、早起きの習慣を身に付けさせたのである。

次に、エースの身体の使い方を矯正し始めたのであった。

祖母直伝のこの特訓、簡単に言ってしまうと自分の身体がどのように動いているのかを把握させることで、攻撃に移る際の体重移動や、攻撃を繰り出す最高のタイミングを掴ませることで、どうなるか解らない未来に置いてエースの基礎能力を上げる目的があったのである。

その中には太極拳擬きの動きもあり、地味にエースの戦闘技能向上に役立っていたのである。

そして、最後が短時間睡眠つまりお昼寝であった。

昼前に行う身体の動作確認はエースが思っていた以上に体力を消耗させてしまう。

そのため、午後からも元気に動くために昼寝をするようになったのである。

ちなみに、最初期はご飯食べながら寝るという一コマもありレイズは地味に原作的な行動に喜んでいた。

 

「エースさんってこうして寝顔を拝見していますと本当に子供みたいですね」

 

一応の部外者がいるにも関わらずソファで爆睡しているエースを見てカトリーナの感想がそれであった。

 

「食って、寝て、遊んで。こう見ると確かに子供だな」

 

昼食の後片付けで皿を拭きながらレイズの同意を得てついついクスリと笑ってしまうカトリーナ。

 

「レイズさん、この後はどうかされるんですか?」

「今日は無風状態だし、オールでっていう気分でもないからな。部屋で本を読んでいるよ」

「それでしたら、私もお借りしているお部屋に戻らさせていただきます」

 

そう言ってダイニングを後にするカトリーナ。

 

「”彼女”のことは任せてもらうぞエース」

「おう、レイズなら悪いことにならないだろうからな」

 

レイズの手の中にはキツネを模した一対のイヤリングが握られていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

「あれ、おかしいな、“あんな物”外れるはずないのに」

 

部屋の中を探し回っているカトリーナ。

先ほどまでの怯えていた様子もなく、かといって奥ゆかしさも見当たらない元気な少女の姿がそこにはあった。

 

「にしても、このご時世に呑気にクルージングって訳でもなさそうね」

 

捜索を一区切りつけて自分の借りている部屋を見渡すカトリーナ。

調度品もけして安いというわけでもなく、かといって馬鹿みたいに高いというわけでもない。

 

「エースっていう金持ちの放蕩息子に付き合わされている執事のレイズ・・・・・でもなさそうだしな」

 

先ほどのやり取りと生来の自分の他人の気配に対する鋭さから周りに誰もいないことを確信して素に戻ってしまっている。

 

「救助ボートで逃げ出そうにもな・・・・・はい、考えタイム終了。探し物続きしないと」

 

いつもの彼女なら気が付くはずだった自分が背を向けたドアが開いていたことに。

そして、そこに人が立っていたことに。

 

「探し物はこれかな“カリーナ”」

 

そう、後ろからイヤリングを目の前に垂らされ、思わず安堵したような雰囲気を出すカトリーナ”だった”少女。

 

「あら、ご親切にありが・・・と・・・・う?」

 

さび付いたブリキのおもちゃのように後ろを振り向くと入り口にはダイニングにいるはずのレイズが開けられたドアに背を預けながら立っていた。

 

「あの、レイズさん私は「“女狐”カリーナ、海賊や無法者を相手取る盗賊のお前がなんて漂流してたんだ」

「・・・・・・・・なんだ、バレてたのか。ウシシシシシシシシシシ」

 

カリーナは悪戯がばれた子供のような顔をして笑ったのだった。

 

 




個人的な話ですが01のイズちゃんがめっさ可愛い件について東映さんありがとう。


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Cの快盗/彼女は如何にしてその道を選んだのか

暗いよ、辛いよ。
捏造だけどさ、辛いよ。


“女狐カリーナ”

アウトローをターゲットにする新進気鋭の女盗賊。

弱冠13歳ながら盗んだお宝は数知れず、あまりに鮮やかな手口は古参の泥棒達からも称賛されるほどであった。

そんな、彼女は如何にして“盗賊”という道を選んだのだろうか。

意外かもしれないが、カリーナは“新世界”で育った、幼少期まで何処にでもいそうな少しお転婆が過ぎる女の子だった。

彼女が、10歳になったとき人生が大きく変わった。

カリーナはその日、家族と共にシャボンディ諸島を訪れていた。

そこで、彼女は“とある存在”と出会ってしまった。

 

世界貴族“天竜人”

 

カリーナは“誰か”に押し出され、天竜人の歩く前に飛び出してしまった。

不敬を咎められたカリーナはその場で奴隷にされてしまった。

両親に助けを求め、辺りを見回すと自分の知らない誰かから多額のベリーを受けとる両親の姿があった。

彼らは、カリーナに目もくれることなくその場を後にした。

天竜人は余興だといってヒューマンショップにカリーナを売り払い、なにもせずに帰っていった。

ある意味、カリーナは幸運だったかもしれない。

彼女には竜の爪痕が残ることはなかったのだから。

檻に容れられたカリーナを買い取ったのは好色家で知られる貴族だった。

幼いながらも美しさがあったカリーナを気に入り競り落としたのであった。

貴族が帰国することとなり、船にのせられたカリーナ。

しかし、彼女は両親に会いたい一心で走る船から海へと飛び込んだのであった。

何とか近くの島に流れ着いたカリーナは、両親から教えられたある技術を駆使して両親の元に帰るための資金を作り始めた。

それが、“盗み”だった。

子供だからこそ侵入可能なルートを駆使して盗み続けた。

換金の際には子供だからと低く査定されることは日常茶飯事だった。

それでも、両親に会いたい一心で彼女は盗み続けた。

気がつくと、新世界から東の海に流れ着き3年の月日が流れていた。

そして、現在彼女は人生最大の窮地にたたされていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「もう一度だけ聞こう。女狐”カリーナ、お前ほどの盗賊が何で傷だらけで漂流なんかしてんの」

 

一目見たときから、自分の中に育った“快盗の勘”が警告をならしていることにカリーナは気がついていた。

目の前の男レイズは口調は砕けているが、先程の柔らかな笑みと違い、目が笑っていないのだ。

嘘をつけば殺される。そんな考えが頭をよぎるほどだった。

 

「ま、バレてるなら仕方ないか。実は此の辺りで仕事をしたんだけどね、思いの外身体が成長してたみたいで今までだったら通れてた場所でつっかえちゃってね」

 

そう言ってカリーナは年不相応に育った胸を腕を組むことで持ち上げ、レイズに見せつけ反応を試した。

しかし、自分から一切視線をそらさないレイズに少しだけ女のプライドが傷ついたのはカリーナの秘密である。

一方のレイズも内心では某一味のコック(未定)のように目をハートにしメロリンしていたのであった。

 

「その時に、そこの城主に出くわしちゃってね。しかもそいつがジャラジャラの実の能力者で、此の有り様よ」

 

そう言いながらも悪戯小娘を思わせるおどけた笑みを浮かべた。

その時、カリーナは暖かな暗闇に覆われた。

まるで、暖かな布団にくるまれているような安心感が彼女を包み込んでいた。

 

「・・・・や、やだなレイズ。いくら私が美少女だからって急にこんな「もう、良いから」

 

カリーナの耳にレイズの声が聞こえてきた。

 

「カリーナ、もう良いから。頑張ったな、本当に頑張ったんだな」

 

そう言うレイズの声が震えていることにカリーナは気が付いていた。

それだけではない。

レイズを退けようとした手に水が落ちてきているのが分かった。

そして、それが涙であることも。

 

「お前にとっては、憐れみの行動だと断じられてもオレはなにも言えない。だけどな」

 

―泣いてる女の子を平気な顔で見てられるほど汚くなれないんだ―

 

カリーナがはっきりと覚えているのはここまでだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「もう、良いのか」

 

カリーナが泣き疲れて眠ったのを確認して部屋を出たレイズへと声をかけたのは湯気がたつミルクが入ったカップを両手に持ったエースだった。

 

「なんだ、やっぱり聞いてたんじゃないか」

「まぁ、あれだな。悪かった任せたのに」

 

そう言ってカップを差し出すエースとそれを受けとるレイズ。

扉の前、二人はただただじっと立っているだけだった。

 

「なあ、レイズ」

 

暫しの沈黙の後にエースは意を決したように切り出した。

 

「前にお前が話してくれた“人拐い村”の話だけど」

「あぁ、恐らくカリーナはそこの“商品”出身だろう。本人も薄々気がついているみたいだったがな」

 

賞金稼ぎ時代レイズは少なからず政府主導の作戦に参加したことがあった。

その一つが新世界のとある島を拠点にしていた人拐い屋の殲滅作戦だった。

その村は大人全てが人拐い屋を生業にしており、子供を赤ん坊の頃に拐ってきてまるで家畜を育てるように育て、ヒューマンショップに売り捌いていたのだ。

彼らは、必要とあれば町一つを虐殺して赤ん坊を全て拐ってくる残虐性を持っていた。

いくら世界政府加盟国に“お得意様”がいたとしても、庇いきれる範囲にも限度があった。

そして、人拐い村は村民全員が賞金首となり、海軍主導の殲滅作戦によりその全てを消されたのだった。

その作戦にレイズは参加していたのだった。

皮肉なことにこの作戦に参加したことでレイズは「風迅」の異名を得たのであった。

 

「カリーナの奴、この後どうするんだろうな」

 

エースとて“鬼の子”、知られれば確実に良い未来は訪れない。

そんな自分よりも、カリーナのことが心配でならなかった。

 

「なんで、世界はこんなにも残酷なんだろうな」

 

エースのそんな呟きを最後に二人の間から会話がなくなった。




まだまだ頑張りますよ


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Cの快盗/激情と兆し

パソコンの不調により書いていた半分が消える。

でもアオハル-ナミ編-見て復活。

オレって結構安いな。


カリーナにとって夜とは最も恐ろしいものだった。

暗闇が自分を覆い隠し、この世界に自分は必要とされていない錯覚に襲われるからであった。

そんな彼女は、久しぶりに夜に眠りについていた。

なぜだか知らないが、”あの二人”を感じれるこの船は大変落ち着けたからであった。

翌朝、久しぶりに熟睡したカリーナが甲板に顔を出すとそこには目を疑う光景が映し出された。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

深夜、甲板で夜空を見上げるエースがいた。

エースはこの世の不条理を嘆くだけだった子供時代に思いをはせていた。

義兄弟が無残に殺されたと知った後、ダダンに止められてもなお、敵討ちに行こうとした。

しかし、その夜ダダンが電伝虫を使用しているのが聞こえてきた。

 

「ガープさんよ、あたしにとってエースもサボもルフィも正直”ただのクソ餓鬼”なんだよ」

 

口から出てくる言葉とは裏腹にその声には悲壮感が滲み出ていた。

 

「エースはクソ生意気なクセして無鉄砲で、誰にでも喧嘩吹っ掛けるようなやつだ。

 でもよ、あいつの心根は誰よりも真っすぐなんだよ。

 ルフィは甘ったれでエースとサボの後にくっ付いてるだけのはなたれさ。

 そんなあいつは誰よりも自分に正直なんだ。

 サボも、生まれを知った時は心底驚いたけど、あいつが一番真っすぐに生きようとしてたさ。

 でもよ、なんでだよ。

 

 なんでサボは死ななきゃなんなかったんだ

 

 悪いけどガープさん、しばらくウチに顔出すのは控えてください。

 今、あんたの顔見ちまったらあたしは、あたしは歯止めが利きそうにないんでね。

 後、これだけは言わせてもらうよ。

 

あたしの馬鹿”息子”達を二度と理不尽にさらすんじゃねえ

 

実の親の顔を知らないエースにとって、この時初めて”母親”が生まれたように思えた。

口を開けば喧嘩になり、何かあるとすぐ殴られる。

旅の門出にも顔を出しもしなかったクソババアだったけど、それでもエースは愛してくれたと感じることが出来ていた。

 

「なあ、ダダン。オレはお前が胸張って”息子”って言ってもらえるだけ立派になってやるぜ」

 

カリーナの出生を聞いてからレイズとの間に会話はなかった。

互いに思うところがあるのだが、前に進んでいるカリーナへどのように力になってやれればいいのか解らなかったからでもある。

ただ一つ、己の真ん中に熱い炎のような何かが灯ったような気がしたのだった。

 

「・・・・・エース」

 

甲板へと続く唯一の扉の前にレイズが立っていた。

 

「お前に、この間言ったこと覚えているか」

 

そう言って右手に握られた”手配書”を風に乗せてエースに投げるレイズ。

そこには、最近発行されたばかりの1000万ベリーの賞金首と900万ベリーの賞金首の顔が映し出されていた。

 

「カリーナを痛めつけたのはたぶんこいつらだ。貴族のくせに海賊を名乗って好き勝手やってきたツケがこのザマだ」

「”鎖縛(さばく)のジャラララ”懸賞金1000万、”鎌鼬のビュンゾウ”懸賞金900万か」

「そして、”運の悪い”ことにそいつらがこっちに近付いてきてるんだ」

 

レイズのその言葉を聞いたエースの顔は憤怒に染まっていた。

 

「なぁ、レイズ」

 

いつもの調子でレイズへと声をかけるエース。

 

「カリーナの部屋には”静寂の羽衣(サイレント・カーテン)”を展開してあるから音は遮断されている。

 カリーナ自身にも”艮の鎧(リジェクト・アウト)”掛けてあるから手は出させない」

 

レイズも普段と同じ調子で声をかけているが、普段の二人からは考えられないほどに、周囲の景色が歪むほどに怒気が溢れていた。

―――――――――――――――――

 

 

「ジャウラジャラジャラジャラジャラ、ジャウラジャラジャラジャラジャラ。あの船かあの餓鬼が乗っているのは」

 

体中に鎖を配した服を着た巨漢の男が大声をあげながら笑っていた。

 

「はい、ジャラララ様。”ビブルカード”はあの小さな船がある方角に動いておりますので、はい」

 

その横にいる刀を腰に差したモノクルを上下に頻回に動かす執事風の男が報告を上げている。

 

「しっかし、ビュンゾウの言う通り”あの小娘”をとっ捕まえた時に爪を切らせておいて正解だったぜ。まさか逃げられるとは思いもしなかったからな」

「いえいえ、私たち一同”若様”のお手を煩わせることこそなきように努めておりますゆえ万全を敷いたまでのこと」

 

甲板に鎮座する豪華絢爛なソファに体を預け肥え太った肉体を揺らし笑い声をあげるジャラララ。

その横では表情を一切変えることなく、手元のビブルカードと呼ばれる不思議な紙を見続けるビュンゾウ。

 

「(しかし、この木偶の坊に付いていくのもそろそろ限界かと。あの小娘を捕らえ小娘で遊んでいる隙に本国と連絡を取り私の今後の安定を確約させなければ)」

 

ビュンゾウにとってジャラララに付いてきたのは、自身が故郷で行っていた残虐非道な行いの追及を逃れるためとジャラララの父親である某国の国王に恩を売るためである。

某国親衛隊に所属していたビュンゾウは居合の名人であり、国に仇なす存在を今まで何人も斬り殺してきた。

一方で、彼は生粋の切り裂き魔だった。

軍に入ったのも定期的に人を斬れるからであった。

そんな彼の本性を見抜いていた当代の国王はジャラララのお目付け役を任せ、二人を国外で亡き者にする計画を遂行したのである。

無論、ビュンゾウにバレているとは知らずに。

ビュンゾウが今後の身の振り方を考えているその頃、見張り台にいた兵士は一つの違和感を覚えた。

望遠鏡でよくよく覗いてみるとそこには自分の常識をはるかに超えた景色が映っていたのである。

 

「若様、団長」

 

見張りの兵士の声が聞こえ見張り台の方に視線を向けるジャラララとビュンゾウ。

 

「ジャウラジャラジャラジャラジャラ、どうした”化け物”でも見えたのか」

 

ジャラララは能力者になって以降無敗を誇っていた。

それはビュンゾウが勝てそうな人間を判別していたのも大きいが、この東の海において”能力者”であることは大きなアドバンテージを占める要因になる。

勝ち続け、もともとあった虚栄心が肥大化していたジャラララは見張り台の兵士の声に”怯えの感情”が含まれていることに気づきもしなかったのである。

 

「う、海を。海を走り抜けてくる者たちがいm」

 

兵士は最後まで報告することが出来なかった。

なぜなら、彼のいた見張り台が突如として”削り取られた”のであった。

 

「おうおうおうおう、これまた大層な船だな。おいレイズ、オレは我慢しなくていいんだよな」

 

甲板に現れたオレンジのテンガロンハットを被り鉄パイプをステッキのように器用に回す青年が隣の男に声をかけた。

 

「そうだな、エース。あの”贅肉ダルマ”がお前の相手だ。後の”雑魚”はオレに任せろ」

 

まるで、これから買い物にでも出かけるような気軽な様子に周囲は困惑していた。

その中でジャラララとビュンゾウは其々に違う思いを巡らせていた。

 

「どっちも細っちい上に無礼だな、ワッシに逆らうとどうなるか教えてやるぞ。者どもかかれ」

 

ジャラララのその声に反応した兵士が一斉に二人へと襲い掛かった。

攻撃の間合いまであと一歩というところで兵士たちは突如として、得体のしれない寒気に襲われた。

その寒気は自分たちの目の前にいる二人の青年から発せられていた。

すると、今まで目を合わせることもなかった二人の青年と誰しもが目が合ったような気がした。

その時だった。

 

「「うるせえよ、お前ら黙れ」」

 

それは、大声ではなかった。

それは、怒りに任せた声ではなかった。

しかし、二人の声を聴いた甲板上にいたすべての兵士が、二人の声を聴いた瞬間に気絶してしまったのであった。

その異常ともいえる光景を前にビュンゾウは警戒心を露わにしていた。

 

「(今のは、まさか。イヤこの東の海(最弱の海)にましてや、あんな小僧共が”あれ”の使い手なはずはない)」

 

ビュンゾウが刀に手をかけながら自分の思い浮かんだ考えを否定するように顔を振る。

そんな中、ジャラララは形容しがたい顔をしていた。

 

「お前ら、一体何なんじゃ。ワッシを誰と心得ておる」

 

この期に及んで自分の立場を理解しようとしないジャラララの顔にエースと呼ばれていた男が2枚の紙を投げつけた。

その紙は突然の突風によりジャラララの顔に張り付いた。

 

「ああ、知ってるよ。手前らは薄汚ねえ賞金首ってことは」

 

そう言って手に持っていた鉄パイプをジャラララへと向けるエース。

 

「手前が何者だとか”どうでもいい”んだよ。手前はオレを怒らせた」

 

エースの頭に先ほどレイズに泣きついていたカリーナの声が聞こえてきた。

 

”本当は解っていたんだ、でも認めたくなかった”

 

その声には彼女のこれまでが詰まっているようだった。

 

”認めちゃったら、私には何もなくなっちゃうから”

 

この世の理不尽を自分も体験してきたつもりになっていた。

 

”大好きだったお父さんもお母さんも嘘になっちゃうから”

 

ふと隣を歩くレイズを見る。

 

”そうしたら、わたしまで”ウソ”になっちゃうから”

 

レイズの顔は一緒に旅するようになって初めて見る”無表情”だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

エースとジャラララの視線が合う。

 

()()()()()()()()()()

 

レイズとビュンゾウの視線が合う。

 

見張り台の残骸から双眼鏡が落ちてきた。

双眼鏡が甲板に落ち壊れる音ともに戦闘が始まるのであった。

 

 

 

 



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Cの快盗/故に彼は風と共にある

今さらですが、レイズの使用する技のもとネタは「東まゆみ」先生の「EREMENTAR GERAD」から引用しています。
作品も大変面白いので機会がありましたら是非読んでください。


レイズが”フェンシルバード・レイズ”となり“風迅”の名を得てしばらく、レイズは自身の能力を研究し始めた。

自身の能力を“正確に”把握することこそが能力者の力の向上に繋がることを知っていたからである。

何ができて、何が出来ないか。

どういった応用が出来るのか。

“エア”とは何を示すのか。

自身の戦いの経験値を稼ぐために賞金稼ぎをしながら、能力を使い続けたある日、レイズは自身の能力である“エアエア”の能力の一部に手を触れることが出来た様な気がしたのであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

鎌斬(かまきり)のビュンゾウ”

元はとある王国の国王直属の護衛部隊に所属する剣士だった。

次期国王であるジャラララの護衛のため、ひいては王に恩を売るために、ジャラララの護衛を買って出た彼は海に出て運命的な出会いをした。

とある商船を襲った際に、偶々目についた箱。

中身覗くと其処には奇妙な形のフルーツが置かれていた。

そのフルーツにまるで魅了されたかのように手をとりビュンゾウは気が付いたらフルーツに噛りついていた。

あまりの不味さに思わず残りを床に叩きつけてしまったが、彼は奇妙な感覚に目覚めていた。

自身の握る刀に周囲の風が纏わりついてくるのである。

試しに、刀を振るうと振るった先にあった扉が斬り裂かれたのであった。

以降、ビュンゾウはこれまで以上に“人”を斬ることに執着するようになったのである。

 

「カーマ、カマカマカマカマ。名持ちの賞金稼ぎと言っても所詮はこの程度か」

 

ビュンゾウとレイズの戦闘は開始当初からレイズが圧される形となっていた。

ビュンゾウが刀を振るう度に発生する鎌鼬による遠距離攻撃。

よしんば、その鎌鼬を潜り抜けたとしてもビュンゾウの達人とも呼べる剣士としての実力にレイズは一切の攻撃を許されないように見えていたのであった。

 

「それに、貴様。貴様もどうやら能力者のようだが、私の鎌鼬によって受けた傷から血が出ていることから見て、動物系か超人系に属する能力のようだが、どちらにしてもこのビュンゾウ様の敵ではないようだな」

 

事実、レイズは先程からビュンゾウの鎌鼬による攻撃を避けているだけにとどまっており、身体には数ヶ所とはいえ傷ができていた。

ビュンゾウの高笑いが木霊する戦場。しかし、ビュンゾウは自身が強者であると信じて疑わなかった。

だからこそ、気付けなかった。

レイズの顔に一切の表情が消えていることに。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ええ、レイズの能力は超人系なのか

 

まだ旅を始めたばかりの頃、レイズに彼の能力について聞いた時、あまりに予想外で、エースは驚きの声をあげてしまった。

 

「まぁな、事実オレは自然系の最大の特徴とも言える“身体を自然物そのものに変化させる”ことが出来ない」

 

そう言って器用に風を操り倉庫の中を片付けていくレイズ。

周囲には大人が複数人で運ぶような木箱がいくつも風に支えられ中に浮いていた。

 

「それじゃ、この間の攻撃をすり抜けたように見えたのは」

「あぁ、あれはだね・・・・・」

 

ジャラララと相対しているにも関わらず、身体に力が漲っているのを感じていたエースはふとレイズの能力について聞いた時のことを思い出していた。

 

「小僧、ワッシを前にして随分と余裕そうジャないか」

 

あまりにも自然体なエースを奇妙に思い、攻撃の手を緩めているジャラララ。

 

「おう、悪い悪い。あまりに退屈でな、相棒と話した時のこと思い出しちまった」

 

そう言って欄干へと器用に着地するエース。

 

「ジャウラジャウラジャウラ、今までどうだったか知らんがビュンゾウを相手にして生きていられる筈がなかろうに」

 

そう言って両手に握られた鎖を再び振り回し始めるジャラララ。

だが、エースは確信していた。

 

「そうかな、お前たちの最大の不運はオレ達を怒らせたことなんだぜ」

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

ビュンゾウは違和感を感じ始めていた。

先程から鎌鼬を飛ばし続けているのに、レイズに対して一向にダメージを与えられなくなって来ているのであった。

そして、レイズは一歩一歩ただビュンゾウに向かって歩いて来るだけで、一切避ける素振りをみせないのであった。

それなのに、自分が放つ鎌鼬が()()に逸れていくのである。

 

「オレのな」

 

突如、レイズが何かを話し始めた。

 

「オレの能力はな、自分を中心にした半径5m圏内の空気に干渉することで、自在に空気を操ることができるんだ。有効範囲も延び続けていてな、特に有効範囲内の空気の精密操作なんか最近じゃ簡単に出来るようになったのさ。その力を活用したのが今、オレが使用している“コレ”。名前を“艮の鎧(リジェクト・アウト)”って言うんだ」

 

ビュンゾウが目を凝らすと、レイズの周囲には幾つもの風が折り重なったような大気の流れのようなものができていた。

 

「周囲に風の障壁を発生させて、降りかかる攻撃の軌道をそらすことで攻撃を防ぐ技なんだけどな。ま、あくまで風だからか、オレの実力以上の攻撃は強引に突破されることもあるんだけどな、あんたの攻撃は簡単に反らしちまえてるこの現状。あんたなら、言わなくても理解しているよな」

 

坦々とただ歩み寄ってくるレイズの姿はビュンゾウにとって悪魔か死神のように見えていた。

 

「カリーナの左肩」

 

レイズの独白とも取れる言葉には一切の温度が感じられなかった。

其処には怒りな任せた灼熱も、殺意によって発生した冷気も一切なく、ただ坦々とビュンゾウの耳に流れ込んでくるように感じられた。

 

「カリーナの左肩にな、素人に斬られたような痕があったんだ。鎖による殴打痕でもなく、明らかな刀傷の痕だった。ま、斬った相手がド三流のド素人だったからか傷痕も残らなそうだけど」

 

不意に、レイズとビュンゾウの視線があったような気がした。

その時、初めてビュンゾウは正面からレイズの瞳を見てしまった。

その瞳は、まるで硝子玉のようにビュンゾウを写しているだけだった。

 

「お前にカリーナ以上の価値は無い」

 

右手を手刀の形をとると、それを前後に揺らし始めるレイズ。

ビュンゾウは何をしているのか分からなかったが、自身の背に嫌な汗が流れるのを感じていた。

手に持つ刀はガタガタと震え、自分が相手に怯えていることに、自身の能力を使う余裕もレイズが纏っていた風の鎧が消えていることに気が付く余裕すらも失われていた。

 

乾の魔槍(ブラスト・グニル)

 

レイズの腕が自分に向いてるのを見るよりも早くビュンゾウは愛刀での防御を試みたが、刀が折れるのと同時に自分がまるで風の槍で貫かれたような衝撃を受けて反対側の欄干に叩き付けられるのを感じた。

ビュンゾウの意識はそこで途絶えたのだった。

 

「お前は殺す価値もない」

 

意識を失ったのを確認したレイズはビュンゾウを縛りつけ、樽が満水になるまで海水を汲み、其処に縛り上げたビュンゾウを放り込むと空に輝く月を見上げた。

 

「さぁ、エース今のお前の実力をオレに見せてくれ」

 

レイズの頬を夜風が優しく撫でていくように吹き抜けて行くのだった。




アンケートを実施致します。
皆様ご協力のほどよろしくお願い致します。
(期限は年内を予定)


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Cの快盗/その心に灯る焔

この小説を書いていると私の作品制作において東映特撮(主にライダー系)の影響を多大に受けていることに今更ながら気づきました。
今回、本文内でエースがとある仮面ライダーの名セリフを言っていますが、大人になってもやっぱり彼らは永遠のヒーロなんだなと改めて実感しました。


2ヶ月。

エースとレイズが旅を始めてからそれだけの月日がたった。

その旅の中でエースはレイズから色々なことを教わった。

簡単な航海術、簡単に作れる料理、綺麗なお姉さんのいる店での楽しみ方、格好良く見える酔いにくい酒の飲み方、猿でもわかるギャンブルでのイカサマの仕方。

良くも悪くも色々なことを教えてくれるレイズはいつしかエースの中で嘗ての相棒と同じレベルで信頼のおける存在になっていった。

そんなある日、海賊になったらどっちが船長をはるかと言う話になった。

 

「そんなもん、エースがやりゃ良いだろ」

「そんなもんってレイズは船長やりたくないのかよ」

 

カリーナを釣り上げる前の晩、レイズが作ったノンアルカクテルを飲みながら話したのを何故かいまエースは思い出していた。

 

「レイズは船長に興味ないのか」

 

ストローを指したカクテルグラスを遊びながらエースが聞くと食べ物で遊ぶなとレイズに小突かれた。

 

「いいかエース、オレはな・・・・」

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

ジャラララとエースの戦いはジャラララが振るう鎖の嵐をエースが一方的に避け続ける展開となっていた。

 

「ジャウラジャウラジャウ、巧くよけるじゃないか。しかしいつまで持つかな」

 

掌から打ち出される鎖を振り回し続けるジャラララを前にしてエースは自分がひどく冷静であることに驚いていた。

 

「(コレならいつもレイズとやってる模擬戦の方が何倍も手強いな)」

 

レイズと出会い、ガープ(クソジジイ)による虐待擬き(特訓)とは違う、本当の意味での特訓を受けるようになり、エースの実力は格段に上がっていった。

賞金首を捕らえ、つれていった先の海軍支部で海兵を交えた戦闘訓練、無人島を見つければレイズによる広範囲攻撃に対する実践講習。

ただ危険地帯に放り込まれていた()()()と違い、その一時一時が確実に自分の力になっていることをエースは実感していた。

特に、“風”という目視しにくい攻撃を受け続けたことで、目に写る攻撃ならある一定までなら避けられるようになっていた。

ジャラララの鎖による攻撃は今のエースにとっては簡単に避けれてしまう程度の速さしかなかった。

 

「(こいつ()()に苦戦するようじゃオレはレイズに顔向けできねえ)」

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「オレはな、”夢”がなかったんだ」

 

あの日、どちらが船長をやるかという話し合いの中でレイズがぽつりとつぶやいた。

 

「”世界一周”、”国王になりたい”、”腹いっぱい旨いモノ食べたい”、”誰も見たことがない景色を始めて目にしたい”そういった夢や野望っていうのがなかったんだ」

 

エースにとってそれはレイズが零す初めての弱さだったかもしれない。

旅をするようになり、エースは何かにつけてレイズと一緒に行動した。

情報収集がてら歓楽街に行くこともあった。

賞金首を捕らえにスラム街へと足を踏み入れることもあった。

海軍に賞金を受け取りに出向き、そのまま賞金すべてを一晩で遊びきった。

どれもこれも、初めての経験だった。

レイズには言ってやらないと決めているが”兄貴”がいたらこんな感じじゃないかとずっと思っていた。

そんな男が漏らした初めての弱音だった。

 

「だから、新世界に一度帰って今後をどうしようか考えようとしてたんだがな。そんな時に”とんでもないアホ”に会っちまったんだ」

 

そう言って真っすぐに自分を見てくるレイズ。

その瞳には綺麗な焔が灯っているようだった。

 

「そいつは、初めて会ったばかりの人んちの冷蔵庫を空にしちまう考えなしで、悪びれもせずに豪快に笑いながら楽しげに笑うんだ。海に出たばかりていうのを差し引いても無計画すぎて目も当てられないアホなんだな。そんなアホは空っぽのオレを海に誘ってくれたんだ」

 

そう言って立ち上がるとエースの頭を乱暴に撫でまわした。

 

「そんなアホがどんな将来を描くのか、もしこいつが大物になるならその姿を間近で見てみたい。そう思ったんだ」

 

そう言って頭からてを離すと甲板へと足を進めた。

 

「だからよ、オレにとってお前がこの先の道標なんだ。あんま頼りにはしてないけど、お前がオレやこれから仲間になる奴らの前を走り続けてくれ」

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

「(オレよりも強くて、何倍も賢くて、大人で、カッコイイ。そんなレイズがオレを”(カシラ)”として認めてくれたんだ。そんな男に)」

 

今まで伏せていた顔をジャラララに向けるエース。

その顔には”覚悟”が映し出されているようだった。

それは、何の信念もなく、自分が優れていると勘違いしているジャラララには出来ない顔であった。

 

オレは、そんなレイズに顔向けできねえような男にはなりたくねえんだよ

 

そう叫ぶとエースは鎖の嵐の中を猛スピードで駆け抜けていった。

闇雲に走っているように見える行動だがよく見ると手に持った鉄パイプでジャラララの放つ鎖を絡めながら走りぬけていた。

鎖がすべて鉄パイプに巻き付いたのを本能的に理解したエースは鉄パイプを甲板に突き刺しジャラララの動きを完全に封じ込めてしまった。

その肥えきった体では身動き一つできないジャラララは目の前に来た鬼のような形相の青年に対して思わず弱腰になっていた。

 

「ジャ、ジャウラジャウラジャウラ。お、お前気に入ったぞ。オレ様の”部下”になれ」

 

怯えながらも自分が絶対の強者であることを疑わないジャラララはエースが自分にへりくだる姿を幻視していた。

 

「黙ってろ、この馬鹿野郎が。誰が手前みたいなクズの下に就くか」

 

ジャラララを見るエースの瞳は凍えるような寒さが感じられた。

 

「お、お前。ワッシが誰なのかわかっているのか。ワッシに手を出したらどうなるのか覚悟はできてるのか」

 

ジャラララはついに自分の立場を振りかざすことでエースを退けようとしてきた。

 

「は、出来てるよ」

 

しかし、それはエースには何も意味をなさなかった。

なによりも自由でありたいと願うエースにとっては。

その時、この場にいる誰もが気が付いていなかった。

エースが握りしめた右手が黒く染まっていることに。

 

「心火を燃やして、手前をぶっ潰す」

 

そう言ってジャラララの顔面を黒く染まった右手で思い切り殴りつけるエース。

ジャラララはその勢いのまま後方へと吹き飛ばされ、海に落ちていった。

 

「は、手前じゃオレの()()()()にもならなかったな」

 

決め顔をするエース。

そして、そばに寄ってきたレイズを見つけると子供のような笑顔で出迎える。

 

「どうよレイズ。オレの成長ぶり」

「あぁ、ま、合格じゃない」

 

頭を掻きながら何かを告げようとしているレイズと得意げに笑っているエース。

 

「なぁ、エース」

「なんだよ、こんなことで褒められても嬉しかねえぞ」

「もしかして()()()って言いたいのか」

 

数秒後、顔を真っ赤にして海に飛び込むエースがいた。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

カリーナが甲板に顔を出すとそこには所狭しと金銀財宝多種多様な宝石が所狭しと乱雑に置かれていた。

 

「おう、カリーナ起きたか」

 

財宝の中央に寝転がっていたエースがカリーナに気が付き声をかけてきた。

 

「なんなの、この財宝は」

 

さしものカリーナですら自身が見ている光景を疑っている。

昨晩まで何もなかったはずの甲板には小国の国王ですら目を回しかねない量のお宝であふれていた。

 

「ちょっと待っててくれ。今レイズがここの支部長に話つけにいってるからよ」

 

そう言って再び寝転び空を見上げたエース。

そんなエースにつられる様に空を見上げたカリーナ。

そこには雲一つない青空が広がっていた。




アンケートに関しまして期限は年末としましたがある程度集まりましたら期限内であっても終了させていただきます。
ホルホルネタはいずれ小ネタとして扱います。


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Cの快盗/We Are

今週のワンピースは何やらスゴいことになってますが、今後どうなるのでしょうか


「(私としたことが、まさかあんな餓鬼に痛手を負わせられるとは)」

 

ビュンゾウは新世界への護送船へと歩く道すがら、自分を敗北させた男のことを思い出していた。

今思い出しても、何故かあの時の恐怖は蘇らず、まるで自分が負けたこと自体が悪い夢に思えてしまうほどだった。

 

「(そう、ちょうど目の前の海兵と同じぐらいの年齢であったな)」

 

自分の目の前を歩く海兵。

階級も低そうだし、何より“強者の匂い”がまるでしなかった。

これから、自分に起こるだろうことを考えていると、その目の前の海兵が話しかけてきた。

 

「ビュンゾウ殿、確認したいことがありますが宜しいでしょうか」

 

そう、罪人である筈のビュンゾウへ最高礼をする海兵に気を良くしたビュンゾウはふと顔を上げてしまった。

次の瞬間、自分の胸に何かが突き刺さる感触がした。

恐る恐る確認すると、自分の右胸に目の前の海兵の人差し指が突き刺さっていたのであった。

 

「き、貴様、何を「C()P()9()()()()()()。貴様の存在が公になることは世界政府の威信に関わる。よって“闇の正義”の名のもとに貴様を殺す」

 

そう宣言した青年は指を引き抜くのと同時に姿を消した。

青年の立っていた後ろには、肩から切り裂かれ絶命したジャラララの遺体が横たわっていた。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「それじゃ、アイツ等の船にあった資産の90%と懸賞金は半額を貰い受けますからね。良いですね」

 

ジャラララ達を討ち取ったエース一行はレイズが贔屓にしている海兵が勤めている支部へと来ていた。

エースとカリーナを船に残し、レイズはジャラララ達の身柄の引き渡しと懸賞金及び海賊の資産の取り押さえにて生じる追加報酬の相談をしていた。

レイズの対面には実質この支部を取り仕切っている海軍本部所属の男性海兵が座っていた。

 

「返事くらいして下さいよ、()()()()()さん」

 

名を呼ばれ、対面にてヤのつく自由業顔負けのふてぶてしさを醸し出している、葉巻を豪快に3本同時に吸っていた男“スモーカー”が気だるげにソファーから上半身を起こした。

 

「あぁ、勝手にしやがれ。俺が“この支部”にいるのもあと数時間。テメエのその張り付けた笑顔も、見納めだと思うと清々するぜ」

 

机に足をかけ寛ぐその姿は罷り間違っても海兵には見えなかった。

 

「で、今頃アイツ等は世界政府に消されているということか。いったい何処までがテメエの()()()()通りにいったんだ」

 

右手に握っていた十手をレイズに向けるスモーカー。

 

「いやいや、どこぞの王様や支部長からリークされた情報を元に計画練ってたところに“女狐”が現れたんですよ、完全にアドリブですよ」

 

スモーカーの言う張り付けた笑みは消え、そこにはエースやカリーナには見せたことのない冷酷な笑みを浮かべたレイズがいた。

 

「まぁ、オレはテメエが“海賊”にさえならなければ問題ないがな」

「はは、それはどうかな」

 

数分後、鼻唄混じりで部屋を後にするレイズ。

先程自分に見せた冷酷な顔を思い出し、背筋に寒気が走るスモーカー。

 

「・・・・・・まったく、テメエが相手じゃ骨が折れる」

 

それは、独り言のように消えていった。

 

―――――――――――――――――

 

「ことの顛末を話すとこんな感じだ」

「はぁ、エースって強かったのね」

 

船の甲板にて金銀財宝をベッドにしてジャラララとの戦闘経緯を話すエースと何故かレイズのワイシャツを着たまま話を聞くカリーナ。

現在、二人はレイズの交渉待ちで暇になってしまい昨晩の顛末をエースの主観混じりで話していた。

自分が眠っている間に起きたことの凄さに改めて驚きを露にするカリーナだったが、ふとエースを真剣に見つめ、次の瞬間思いきり頭を下げていた。

 

「おいおい、カリーナ何を「騙していたことも謝るし、雑用もなんでもやります。だから、この船においてください」

 

そう言うとカリーナは更に体勢を低くしていく。

このまま、“次の姿勢”になられたらレイズからどんなお仕置きを受けるか分かったもんではないエースは慌てカリーナを立たせようとした。

 

「・・・・・エース」

 

しかし、時既に遅く振り向けば画面に文字を起こすことすら憚られるような顔をしたレイズがエースを蔑んで見ていた。

 

「お、オレは無実だーーーーーーーーーー

 

―――――――――――――――――

 

「悪かったって、そんなにヘソ曲げるなよ」

「エース、本当にゴメンね。この美少女に免じて許してよ」

 

支部を後にした船内では、実はからかわれていたことに気がついたエースが盛大に拗ねていた。

 

「・・・・イジメ、カッコワルイ」

 

そう呟くとレイズが作ってくれたフルーツパフェをマグマグと食べては二人をチラ見するという行為をエンドレスで続けているけているエース。

反対にレイズとカリーナはやり過ぎたなという苦笑を互いに漏らしながらエースの機嫌が治るのを遠巻きに眺めていた。

 

「今晩はレイズの特製唐揚げが出てくるなら、もう許す」

 

そう妥協点を提示するエースはとても幼く見えた。

 

「はいはい、元々今晩は大金が舞い込んだパーティーだったから出す予定だったから大丈夫だよ。あと、エースが頑張ったからブートジョロキアペペロンチーノも山盛りで出すよ」

 

レイズのパーティーメニューを聞くと、端から見ても機嫌を治していることが丸解りな顔をしてレイズとカリーナが座るソファーへと上機嫌で近付いて座り直すエース。

 

「よし、それじゃ許してやるよ。カリーナも冗談がキツいぜ」

「あら、あながち“冗談”じゃないわよ」

 

その言葉と共にカリーナは立ち上がるとエースとレイズ、二人が対面になるように移動すると再び頭を下げた。

 

「“女狐”カリーナしがない泥棒ですが、どうか一緒に旅をさせてください」

 

先ほどと違い、体からその言葉が真剣であることが伺える気迫のようなものがあった。

 

「あぁ、いいぞ」

「さしあたって、カリーナは航海士をやって貰おうか」

 

カリーナにとって一世一代の覚悟を決めた懇願はかなり軽めに了承された。

 

 

―――――――――――――――――

 

 

「エース呼び出してゴメンね」

 

東の海であることとレイズの探知領域で船及び周辺に害意がないと解ると3人其々の部屋で眠りに付いた。

暫くしてレイズが完全に眠りに落ちたのを確認したエースとカリーナは船首で顔を合わせていた。

 

「別に良いけどよ、レイズに相談しにくいことなんだろ」

 

頭の中でオレ船長ぽいな、とか余計なことを考えているエースとは対照的に仲間になると宣言した時と同じ覚悟を匂わせたカリーナ。

 

「エースには話しておくのがスジだと思ったから」

 

カリーナはそう言うと羽織っていたレイズのカーディガンで自分を抱き締めるように包み込んだ。

その仕草からエースは唐突に閃いてしまったのだった。

 

「(ま、まさかカリーナの奴オレに惚れたのか。いや、確かに今回のオレは自分で言うのも何だが滅茶苦茶カッコ良かった)」

 

勝手に納得していると意を決したカリーナがエースを見据えた。

 

「あのね、エース」

「おう(レイズ、オレは今日大人になるぜ)」

「あたし」

「(明日からどんな顔してレイズに会えばいいんだろうか)」

 

カリーナとエース、互いの心臓の音が聴こえているかのように周囲に静寂が訪れた。

 

「あたしね」

「おう(オレは準備出来てるぜ)」

「あたし、レイズが好きになっちゃった」

 

その瞬間、本当に世界から音が消えたような気がした。

 

「・・・・え、今なんて」

 

自分の想像の斜め横に行く展開に目を丸めるエース。

 

「だから、()()()()()()()()()()()()()()

 

きゃー言っちゃったと体をくねらせてカーディガンの裾で顔を隠し恥ずかしがるカリーナを前にやっと再起動したエース。

 

「あ、え、か、カリーナお前」

 

うまく口が動かないエースを後目に火の付いたカリーナは止まらなかった。

 

「最初見た時から「あぁアタシのタイプだなぁ」、て思ってたんだけどあんなに優しく抱き締められちゃった上に、頭ナデナデしてくれて、それでねそれでね・・・・」

 

一度火の付いたカリーナは止まることなくエースに自身の思いの丈をぶつけるのだった。

 

「あ、あのよカリーナ「解ってるわエース。確かにアタシも「あれ、アタシチョロ過ぎない」とか思ったけどね、けどね」

 

カーディガンの袖で隠れていた顔を覗かせるカリーナ。

エースは不覚にもときめいてしまった。

 

「カッコ良かったの」

 

そう言うとまた顔を隠し照れ始めるカリーナ。

 

「(オレはーーーーーーー?)」

 

心の中で叫ぶエース。

それを顔に出してないだけスゴいことなのだろう。

 

「だ・か・ら、レイズの相棒のエースにはそっち方面でアタシのサポートお願いしたくてね。

それじゃ、ヨロシクね、せ・ん・ち・ょ・う。

あぁースッキリした。それじゃ明日からヨロシクねエース」

 

そう言うとスキップで船内に戻っていくカリーナ。

エースはこの日、よく解らない失恋を、そして違う意味で相棒をめぐるライバルが生まれたのだった。

 

「なんだか、よくわからんけど」

 

海へと向き晴れ晴れとした顔をするエース。

思いきり息を吸い込んだエースは。

 

「良くわからねぇけど、レイズの馬鹿野郎

ウルセエぞ、エース。さっさと寝ろ




アンケートの結果、100票を越えたキャラが現れましたのでアンケートを終了させていただきます。
近々、別項目のアンケートを開始しますのでその際は、またご協力お願い致します。


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Dに集え/其々の今

ノックスヤバい、けどそんな奴等と戦ったガープとロジャーも同じくらいヤバい

気がついたらお気に入りが500件を越えていたことに驚きが隠せません。
私のような物書きの作品でも楽しんでいただけているなら幸いです。


カリーナが正式に仲間になって気が付けば1年の月日が経っていた。

一口に1年と言っても様々なことがあった。

まず一つに船が新しくなった。

レイズの発案で中型のパドルシップに乗り換えたのだ。エースとカリーナは想い出の詰まった船を乗り換えたくないと駄々を捏ねたが、いつもの通りレイズが一枚上手で、今まで乗っていた船をきれいに解体し、船を新造する際のパーツに加えたので駄々を止めて、自分の注文をし始めた。

3人でも手狭だった船を新しくしたのだからそれなりにお金は飛んでいったのだが、そこはカリーナが“巧く”交渉したもんだから思いの外安くすんだ。

次に、エースとカリーナにも異名が付いた。

エースは鉄パイプを止めて、格闘術で相手を沈めていき、決め技とも言える正拳から“鉄拳(てっけん)”の異名が付いた。

カリーナもレイズに懇願した結果、旗を用いた棒術を修めている。

旗で己を守り、布槍術も応用した旗棒術とも呼べるカリーナ独自の技術で確実に戦えるようになっており、“女狐”とも“フラッグクイーン”とも呼ばれている。

そして現在、3人は新造した船を何故か海軍船に引かれ、海軍船の上“とある任務地”へと連れてかれていた。

 

「エース、このバカもんが。何故“賞金稼”なんぞやっておる」

「ウルセエ、クソジジイ。オレの勝手だろうが」

 

乗船してから毎日のように繰り広げられるエースとこの船の責任者である中将の口喧嘩がまた始まった。

 

「か、カリーナちゃん。もしよかったら今度お茶でも」

「前も言ったけど、ウチの男衆に勝てたら考えたげる」

 

この1年で更に色香に研きがかかったカリーナには、連日告白する海兵が長蛇の列を作っていた。

なお、この1年でカリーナのレイズに対する好意は連日鰻登りであることを付け加えておく。

 

「・・・あ、王手」

「レイズさん勘弁してくれ~」

 

当のレイズは海兵相手に連日如何様賭博で荒稼ぎしていた。

レイズからイカサマしてますよという宣言つきで、イカサマ見破れたら倍額返金を餌に日々あくどく稼いでいた。

賭けの対象には情報と技術も入っており、レイズは大まかな六式の情報と()()()()の情報を獲ていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「あぁ、痛ってぇな。あのクソジジイ」

 

日が沈み、自分達の船へと戻ったエースたちは日々の報告会を行っていた。

 

「それにしても、エースと“海軍の英雄”ガープが知り合いだったのには驚きね」

「本当にな。ほらエース、氷嚢でその腫れた顔冷やしとけ」

 

報告会とは名ばかりで大半はエースの愚痴こぼしのために開いている飲み会に近いのだが、頭脳労働ダントツになりつつあるレイズとカリーナは別途ちゃんとした報告会を開いていたりする。

 

「しっかしよ、すげぇな“六式”てのは。ジジイ相手に2分もつようになったぞ」

 

顔の腫れがひけたエースは最近習得し始めた体術“六式”の話題を挙げた。

 

「エースの習得スピードが異常なんだよ。聞いた話だと一式習得には最短でも一月掛かるらしいよ。しかも、六式を扱うための強靭な肉体が出来上がっている前提だから、ガープ中将の特訓も役に立ったってことだね」

 

夜のおやつとしてドライフルーツを準備してキッチンから戻ってきたレイズの発言にエースは心底嫌そうな顔をした。

 

「にしても、エースにも苦手なモノがあったのね、意外といえば意外ね」

 

サマーセーターにホットパンツという青少年には目に毒な格好をしたカリーナはレイズを横に呼びつけながら、いつもの意地の悪そうな笑顔でエースを見た。

 

「ジジイの特訓受けたことねぇカリーナには解らねえよ」

「ま、おかげでエースの底知れない生命力の根底を知れたから良かったよ。さて、俺達は今海軍船に牽かれて偉大なる海に居るわけだが目的地がわかった」

 

レイズはここ最近、ずっと様々な乗組員から情報収集を行っていた。

目的地が不明なのは3人共に不安があったからである。

エースは自身の出生のため。

レイズは血縁のため。

カリーナは今までの行いのため。

だからこそ、レイズはどのような手を使っても情報を獲ていた。

 

「しかし、ガープ中将は“あれ”で良いのか?少し煽てて孫の自慢話聞いたらすんなり喋ったぞ」

 

軽く言っているがぶっ続けで15時間話を聞き続けたレイズの忍耐力があったからの結果であるのだが。

 

「で、目的地はどこだったの?」

「そうだそうだ。ジジイのこと何かほっといて教えろよ」

 

レイズの横を陣取り腕を絡めようとして顔を真っ赤にしているカリーナ。

その反対側にどかりと座りレイズと肩を組んでカリーナに勝ち誇ったドヤ顔をするエース。

その光景は親を取り合う兄妹のようだった。

 

「目的地は海軍造船島、途中でもう2人名持ちの賞金稼ぎを拾ってかららしいけど」

 

エースとカリーナの目が獲物を狙う狩人のように細まる。

 

「目的はそこに現れる「海軍最大の汚点」とも呼ばれる“将軍”の異名を持つガスパーデとその一味の討伐準備と討伐だ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ここは偉大なる海にあるとある島。

黒帽子を被った細身の男がガスパーデの手配書を憎悪の眼差しで見ていた。

 

「アデル、お前の敵はにいちゃんが必ずつけてやるからな」

 

同時刻 島でただ一軒の酒場。

そこでは長刀を背負った銀髪に褐色肌が特徴の青年が窓から見える月を肴に酒を静かに楽しんでいた。

 

「・・・・・・オレの求める道はどこにあるんだ」

 

いま、歴史がまた一つうねりをあげ始めた。




アンケートその2を開始します。


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Dに集え/風迅と海賊処刑人

「お前が“海賊処刑人”か」

「あんたが迎いかよ、“風迅”」

 

死屍累々の海賊たちを周囲に積み上げ、方や黒く輝く鉄扇を打ち付け獲物を狙う猛禽類のような眼光を曝すレイズ。

方や近場に落ちていたモップの柄を打ち付け圧されまいと堪える野獣のような笑みを浮かべた“海賊処刑人”と呼ばれる男。

何故二人が戦闘を行っているのか。

時は1時間前に遡る。

 

――――――――――――――――――――――

 

「エース、悪いんじゃがお前さんたちに今回依頼した賞金稼ぎ2人を迎えにいって欲しいんじゃ」

 

ガープの海軍船の甲板にてレイズディーラーによるポーカーを行っていた時、突如ガープから声をかけられた。

 

「あぁん、どういうことだジジイ。何で俺たちが迎えになんざ行かなきゃなんないんだよ」

 

レイズとカリーナの見事な連携による絶妙なゲーム操作により金庫の中身が充実していた時に声をかけられたエースは不思議そうに顔をあげた。

その疑問に答えたのは、ガープの副官を任されたばかりの「ボガード」と呼ばれていた海兵だった。

 

「潜入させていた海兵からの連絡で、奴等は此方の情報を一部把握しているようだ。君ら協力者の情報を得ていないことは確認がとれたので、今回はそれを逆手にとり、君らには“DEAD END”レースに出るための仲間集めの名目で接触してもらう」

「それはいいんですけど、待ち合わせ場所と時間を教えてもらえませんか」

 

知略班であるレイズとボガードは仕事外の付き合いで友好に付き合いを深めており、数日に一回エースたちの船で愚痴を言い合う仲となった(99%がボガードのガープに対する物だが)。

 

「それはワシが決めておいた。”海賊処刑人”があの島の中央にある噴水広場に”午後1時”に、”銀獣”があの島の東にある高台に”13時”に来る手はずになっておる」

 

ガープの自信満々な発言を聞いた周囲全員が一度首を傾げた。

そして、近くの者同士で何やら話し始めること5分ほど、副官のボガードにその役を()()()()()

 

「ガープ中将、まさかと思いますがこれから向かっている場所が”海賊島”に準ずる場所である事と、”午後1時”と”13時”が同じ時間である事は理解されていますよね」

 

全員が固唾をのんで見守る中、ガープは呑気に海苔煎餅を齧っていた。

 

「ふむ、忘れ取った

「「「「「「「「「「ウソだろ――――――――――――――――」」」」」」」」」」

 

甲板に異口同音の悲鳴が木霊する中、嫌な予感がしたカリーナが胸元に手を突っ込み懐中時計を引っ張り上げ時間を確認する。

 

「・・・・・・レイズ」

 

その顔を若干青くしながらカリーナが最も信頼する男に声をかけた。

 

「まさか・・・・」

 

その意図を汲んでしまったレイズもその顔を同様に青く染めた。

 

「うん、今が午後1時」

 

甲板では先ほど以上の大きな悲鳴が上がったのは言うまでもない。

 

――――――――――――――――――――――

 

「(にしても遅えな海軍の連絡員は、こんなとこで待ち合わせなんて馬鹿だろう)」

 

噴水の縁に座り考え事をしている男。

彼の名は”シュライヤ・バスクード”、ガープの呼びかけに答えた賞金稼ぎの一人である。

そんな彼の周囲には300人を超える厳つい男たちが手に手に武器を持って集まっていた。

 

「おいおい、なんで”こんなところ”に”ハイエナ(賞金稼ぎ)”がいるんだよ」

 

いかにもガラの悪く、チンピラ風な男がシュライヤに声をかけてきた。

 

――――――――――――――――――――――

 

一味の中で最も”速い”レイズが一番の危険地帯であり、一番遠い中央にある噴水広場へと翔けていた。

エース同様に六式を習い、移動業である”剃”と”月歩”を体得したレイズは空をまさに疾風の如く翔けていた。

 

「(あのクソジジイ、いつか絶対にゼッタイに・・・諦めよ)」

 

エースからもどうにもならないと称される「歩く理不尽」に対して諦めることを選んだレイズは、能力も掛け合わせた月歩「無色の翼(エア・アキレス)」で目的地へと急いでいた。

あと少しで目的地が目視できるというところまで来たところレイズの耳にはっきりとした戦闘音が聞こえて来た。

 

海賊島で賞金稼ぎを見つけたら“そう”なるわな

 

――――――――――――――――――――――

 

300人を越える海賊に囲まれてしまったシュライヤだったが、その思考の大半は今回の仕事のことに占められていた。

 

「(やっとあのクズの情報をつかんだんだ。どんなことしても見失うわけにはいかねえな)」

 

思い出されるのは流されながらも必死にこちらへと手を伸ばし助けを求める妹の顔。

そして、自分の故郷を滅ぼしたクズの笑い声。

シュライヤの心はドロドロと煮えたぎった憎悪でいっぱいだった。

端から見れば心此処に有らずと云うのがはっきりと見てとれるシュライヤに対して声を掛けた男はしびれを切らした。

 

「さっさと答えやがれ。オレたちはあの”将軍”ガスパーデ様の一味なんだぜ」

 

その瞬間、シュライヤの周りにいた数人の海賊が宙を舞っていた。

 

「そうかそうか、手前ら”あいつ”の一味か。なら」

 

―ぶち殺しても問題ないよな?―

 

――――――――――――――――――――――

 

広場へと近づくにつれて人が空へと舞い上がる姿がレイズの目に映るようになった。

そんな奇妙な光景に少し好奇心が疼いたレイズは自分も気が付かないレベルで速度を落としていた。

その瞬間、レイズに向けて大砲の弾が飛んできたのだった。

そして、レイズが風を纏ったのと同時に大爆発を起こしたのだった。

ガープのいい加減さに多少イラついていたレイズ。

普段は子供っぽいところが多々目立つエースと体が急成長しているがまだまだ子供のカリーナが一緒にいるので抑えているのだが、レイズは「相手に右の頬を叩かれたら、その相手を往復ビンタし、フラついたところでトドメを刺す」過激的半〇スタイルな男であった。

そして、現在「歩く理不尽(モンキー・D・ガープ)」によって受けたストレスにより、普段はナリを潜めている報復主義な一面がちょうどいい言い訳を見つけて顔を出したのであった。

見た者を虜にするような笑みを浮かべたレイズは空中にて姿勢を保てる最低限の風を残し、残りの纏っていた風を広域に拡げ、自身の最大干渉可能領域である半径5kmの大気へと能力を伝播させていった。

そして、懐から扇を取り出すと干渉を受けた風を扇に纏わせ、圧縮し始めた。

扇を核にし圧縮された風は長刀を思わせる外観となりレイズの右手に現れた。

その風の刀を恰も居合いの如く構え広場の密集地帯に狙いを定めたレイズ。

次の瞬間、居合いのように風の刀を振り抜いた。

すると、刀の形状をしていた風は巨大な真空刃となり密集地帯へと撃ち込まれ、砂煙を上げて大地を抉り取ったのだった。

 

西風の阿(ゼフィロス・アート)

 

その惨状を上空から見ながら、呟かれた声色には何処か晴れ晴れとした気配があった。

 

――――――――――――――――――――――

 

周辺の雑魚を手を変え武器を変え吹き飛ばしていくシュライヤ。

その数が50人を越えた時だった。

 

「舐めやがってこの野郎、“これ”を見てもまだそんな態度でいられるか?」

 

先ほどシュライヤに声をかけた男がバカみたいにデカイ大砲を持ち出してきた。

 

「おいおい、品がねえな」

「しゃらくせぇ、食らいやがれ」

 

発射された大型の弾はシュライヤを目掛けて飛んできた。

誰しもがシュライヤの終わりを疑わなかった。

すると、シュライヤは自分の側に落ちていたスコップを蹴りあげると逆手で構え、スコップの緩やかなカーブと体捌きで上空へと大砲の弾を打ち上げた。

 

「「「「「えぇーーーーーーーーーーーーーー」」」」」

 

その光景を目撃してしまった海賊たちは一斉に驚きの声をあげていた。

パッと見細身のシュライヤが直径が5mは有ろう砲弾を上空へと打ち上げてしまったのだから仕方ないだろう。

数秒とたたずに爆発音が聴こえ、シュライヤも安心し上空を見上げた次の瞬間、シュライヤは自分へと降ってくる巨大な刀を見た。

 

「おいおいおいおいおい、洒落にならねぇぞ」

 

そう呟くや否や、シュライヤは走り出した。

少しでも、あの刀から逃げるために。

その咄嗟の判断がシュライヤの命を救った。

刀が地面に触れた瞬間、シュライヤはあまりの風圧に吹き飛ばされ、民家へと吹き飛ばされた。

 

ゼフィロス・アート

 

誰かの呟きをシュライヤは確かに聞いた。

 

――――――――――――――――――――――

 

シュライヤを囲んでいた海賊たちは先程の数十秒に起こった出来事に我が目を疑っていた。

すると、広場の反対側に何者かが着地する音が聞こえた。

振り向くとそこには、笑顔を顔に張り付けた優男(レイズ)が扇を開いたり閉じたりしながら此方にゆっくりと歩いていた。

突如現れた男に気を取られていると、崩壊した家から瓦礫をどける音が聴こえ、シュライヤがそこから現れた。

帽子で顔は見えないのが逆に不気味な気がした。

ふと、シュライヤとレイズの視線が交差した。

すると、突如準備体操を始めるシュライヤ。

かたや、身体中の関節を鳴らし始めるレイズ。

一通りの動作を終え、再び視線が交差したその時だった。

 

「「てめぇ(お前)か、やりやがったのは?」」

 

数秒の静寂が訪れた。

 

「「上等だ!!!」」

 

その声と共に二人は駆け出し、進行上の邪魔者たちを吹き飛ばしながら近づいていった。

そして、冒頭に戻るのだった。

 

――――――――――――――――――――――

 

「で、遅れた理由は?」

 

すべての海賊(多少のとばっちりを含む)をなぎ倒し、無事だった噴水に腰掛け、互いに休憩をとり始めたレイズとシュライヤ。

ちゃっかりと飲み物を互いに拝借してきてるあたり抜け目がない。

 

「ガープ中将が原因」

 

その一言で、何となく察してしまったシュライヤは黙るために拝借してきたワインを呷る。

 

「しかし、いや。相手を知ればお前が出てくるのは当たり前かシュライヤ」

 

レイズもブドウジュースを呷るとシュライヤが今回の作戦に参加した理由に納得を示した。

 

「あいつは、あいつだけは、オレが手を下す」

 

思い詰めたような、濁りきった目をしながら呟くシュライヤをしり目にレイズは周りの気絶した海賊達から財布を抜き取っていた。

 

「ま、暫くは厄介になるぜ風迅」

「レイズで良いよ。ま、よろしくなシュライヤ」




アンケート終了。
王女の人気がスゴいのか、エースの人気がスゴいのか。


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Dに集え/その為の重要な寄り道

遅くなり申し訳ありません。
感想はいつもありがたく拝読させていただいております。
これからも拙い物書きとその作品を宜しくお願い致します。


レイズとシュライヤの大喧嘩が始まったのと同時刻。

 

「あ~あ、アタシもレイズと一緒に行きたかったなぁ」

 

頬を膨らましブウブウと文句を言いながら、空を歩くのはカリーナ。

レイズとの時間を長く取るために“剃”と“月歩”を習得した。

 

「速さの問題なら仕方ないだろ、此方も重要なんだからな」

 

方や“指銃”と“鉄塊”を習得しているエース。

中々移動補助系の技の習得が上手くいかず、今も“剃”習得に向けて動作を意識した歩き方を実践している。

そんな二人は海賊島の東の高台へと歩いて向かっていた。

 

「にしても、楽しみだな”銀獣”ってどんな奴なんだろう」

 

エースはまだ見ぬ噂の凄腕剣士に期待を膨らませているようだった。

 

--------------------------

 

一人の男が高台で座禅を組んでいた。

左手で刀の柄を握り、目を閉じ意識を集中させているその姿は刀を通じて世界と語り合っているようであった。

男は座禅を解き、腰に刀を差し込み立ち上がると左手で合掌の所作を行った。

次いで礼をし、腰の刀を徐に握る。

次の瞬間、男の左手には刀が握られており、その姿は居合い斬りの如く刀を振りぬいた姿をしていた。

 

「やはり、何か違う。一体何が違うんだ」

 

銀髪の剣士”サガ”。

彼は迷いの中にいたのであった。

 

サガには二人の幼馴染がいる。

一人はサガが通っていた道場の娘で、現在は海軍に仕官して着実に腕を上げている”くいな”。

もう一人はサガと同じく賞金稼ぎをしながら剣士として修行の旅をしている”ゾロ”。

「正義の剣」を極めることを目標としているサガとゾロは旅立つ日に師匠から譲り受けた刀と互いに渡しあった短刀を今も大切に持っている。

サガとゾロは武者修行の旅の途中悲劇が起きた。

二人で海賊船を襲った際、ゾロを庇って右腕の握力が極端に弱くなってしまい、サガは満足に刀を握れなくなってしまった。

サガを幼馴染二人は心配していたが、サガは気丈に振舞うことで二人の心配を払拭しようと今まで以上に刀の修行に邁進するようになていった。

名を上げていくサガ。

しかし、嘗ての自分の通りに動かせない身体にいつしか迷いが生じ、ここのところ満足が行く刀を振るえていないのであった。

 

--------------------------

 

「ねぇ、エースは“自分の成長”について考えることはないの」

 

道の半ばでカリーナは最近のエースの成長具合について話をしてきた。

 

「あん、どういうことだ?」

 

“剃”に至るための歩行訓練を一旦辞め、普通に歩いているエース。

何事もやりすぎは良くないというレイズの教育方針が馴染んでいる証拠であった。

 

「だって、エースの目標ってレイズと肩並べて戦えるようになることなんでしょ?今だって十分に肩並べて戦えてると思うんだけど、そこんとこどうなのよ」

 

カリーナから見て二人は本当に息があっており、エースの死角をレイズが、レイズの死角をエースが、互いに補いながら戦う姿はまるで軽快なダンスを見ているようでもあった。

そんなカリーナの感想に対してエースの答えは。

 

「なによ、そのイヤそうな歯痒そうな顔は」

 

非常に納得していない、そんな顔付きだった。

 

--------------------------

 

サガは己の右腕を見ていた。

日常生活を行う上では不便がないが戦うとなった時、途端に不便に感じてしまう。

元々左利きだったため、そこまで不便に感じていなかった。

だが、敵の強さが一段上がった時から苦戦を強いられるようになった。

剛剣士であるサガは力でねじ伏せる戦いを好んだ。

しかし、右腕が戦いにおいて不自由になってからは自慢の剛剣が振るえなくなり、何時しか迷いの中に陥ってしまったのである。

 

「・・・・なんで、オレなんだ」

 

蓋をしたはずの黒く濁った気持ちの悪い何かがサガの奥底から溢れだしてきた。

 

「オレは、なんであの時ゾロを助けようとしたんだ。なんであの賞金首を狙ったんだ。何でだ、なんでだなんでだナンデダナンデダ」

 

溢れだしてきた何かに突き動かされるように背面へと刀を振るうサガ。

一切答えのでない自問自答はただサガの心を蝕んでいくだけだった。

 

誰だ、ちきしょうが。危ねえだろ

 

そんな、誰かの怒声が響いたのはサガが刀を振り抜いた数秒あとだった。

 

--------------------------

 

「あのな、カリーナ。レイズは風使いなんだぜ」

 

ため息と同時にエースの口から漏れた言葉は仲間内では周知の事実であった。

 

「周辺の空気の流れを掌握してから戦闘に移るような怪物が隙を晒すわけないだろ。あれはオレが反応出来るギリギリを敢えて見逃すことでオレの気配察知力を上げているんだよ」

 

そう言うと不貞腐れたかのように頬を膨らますエース。

 

「実際、ウチの船で一番強いのはまず間違いなくレイズなんだ。そんな奴がオレに期待をかけている、そう聞けば聞えが良いだろうけどな、オレは“対等”でいたいんだよ」

 

例えレイズにその様なつもりがなくとも、エースにとってレイズは未だに先を歩く存在だった。

しかし、子供の駄々のように思える自分の我儘とも言えるプライドのようなそれは、今のエースの原動力になっているのも事実だった。

 

「(男ってバカねぇ)」

 

そんな内心の苦笑をおくびにださずカリーナはエースに微笑んでいた。

その時、レイズに無理矢理鍛えられた生存本能が二人に警鐘をならした。

カリーナは上空へ、エースは仰け反ることで“何か”を避けることに成功した。

カリーナが無事着地し、エースが体勢を戻し一緒に振り向くとそこには、横一文字に斬り込みが入った岩壁があった。

二人が避けるのが遅ければ確実に頭と首が別れている位置だった。

 

誰だ、ちきしょうが。危ねえだろ

 

--------------------------

 

誰かの怒声が聞こえサガが振り向くとそこにはテンガロンハットを被った青年と些か肌の露出に目がいきそうな少女がいた。

 

「すまない、人が来ていることに気がつかなかった」

 

先程までの“黒い何か”を押さえ込み謝罪するサガ。

 

「お前か、まったく気を付けろよな」

 

そんなサガに些か違和感を感じるエース。

 

「遅くなって申し訳有りません。“銀獣”サガさんでよろしいですか」

 

一瞬で猫をかぶるカリーナ、思考型の彼女が話を進めることにしていた。

 

「あぁ、今回は声をかけてくれて恩に着る」

「いえいえ、私達も“雇われた側”の人間です。諸事情で今回お迎えに上がった次第でして、依頼者がズボラでご迷惑をお掛けしました」

 

互いに頭を下げあうサガとカリーナ。

その様子を見ながらエースは何やら考え事をしていた。

 

「それじゃ、“船”に行きま「なぁ、あんた“何”に迷ってるんだ」

 

カリーナの先導を遮り発せられたエースの言葉に思わず動きが止まるサガ。

 

「エース、何言ってるの」

「こいつは確かに強い。だけどさっきの一撃にも其処までの迫力がなかった。今回、命を預けあう者としてオレはそれが知りたいんだ」

 

エースから発せられた言葉に思わずサガを見てしまったカリーナ。

一方のサガは何処か苛立ちを押さえるように頭を右手で押さえながエースへと視線を移す。

そこには、先程までのヘラヘラしていた青年は存在しておらず、“覚悟”を背負った一人の男が立っていた。

なぜかこの時サガは目の前の青年との付き合いが長くなるそんな確信を得ていた。

そして、サガは己のこれ迄とその心に巣くう黒い何かについて語った。

 

「「バッカじゃねぇの」」

 

それを聞いたエースとカリーナの返答は一句違わず同じものだった。

 

「え、いや、オレは真面目にだな「真面目さ(それ)がバカなんじゃねえのかっていってんだよ」

 

そこには、サガを蔑んだように見つめるエースが仁王立ちしていた。

 

「いいか、そんなこと言い出したらオレなんかなレイズに対して後ろめたさしかないんだよ」

 

何かのタガが外れたかのようにエースが捲し立てていた。

 

「ある時は、戦闘中にオレのせいで怪我させても笑って「大事にならなくて良かったな」って言って赦してくれるし、ある時はオレが原因で喧嘩になったのにその相手との仲裁を買ってくれるし、ある時はその日のおかずを味見と称して食いつくしても拳骨で赦してくれるし、泥棒が入ったって言って皆の金庫から少しばかり借りてもばれてなかったり「ほう、あれはお前かエース

 

エースが後ろを(震えながら)振り向くとそこには、菩薩も真っ青な笑顔の漆黒の闇を背負ったレイズと、そんなレイズに恐れおののくシュライヤがいた。

 

 

--------------------------

 

 

エースの悲鳴とレイズの怒声とシュライヤの笑い声をBGMにカリーナがあとを引き継いだ様に喋りだした。

 

「要約すると、あたし達は不完全で当たり前なのよ」

「不完全が当たり前?」

 

カリーナの発した意味不明な言葉にサガは固まっていた。

 

「レイズ、今あそこでとてつもない笑顔でエースをしばいている人ね、あの人もあたし達の中では最強だろうけどね、能力者だから海に落とされたらひとたまりもないの」

 

カリーナの発言に顔を横にし、レイズと呼ばれた男を確認すると、どこから取り出したのかロープでエースを宙吊りにしてお小言に移行していた。

 

「だから、アタシもエースもレイズと肩並べられる様に強くなって、少しでもレイズが楽になるように頑張ってるの」

 

そう言いきったカリーナの横顔は年不相応に艶を帯びた女性の顔をしていた。

そして、カリーナは笑顔のまま争乱の中心へと歩いていった。

その時、唐突にサガの中で何かが弾けた気がした。

それは、目の前の少女に恋をしたわけではない。

ただ、自分の疑問の答えへの道が見えた気がしたからであった。

 

「(・・・・、たまには寄り道も良いかもしれないな)」

 

そして、サガもまた四人を追うようにして歩いていった。

 

エース、レイズ、カリーナ、シュライヤ、サガ。

5人の初めての航海はこうして始まったのだった。




季節の変わり目、皆様も体調にだけは気をつけてお過ごしください。


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Dに集え/衝撃の出会い

お疲れ様です。
パソコンが死んだため、スマホとマンガ喫茶で書いています。
更新速度がかなり遅くなりますがご留意ください。


観光地も兼ねた海賊島。

そんな場所にあるとある酒場にて5人の若者が食事をしていた。

 

「っかぁ~、たまに食う酒場の飯は旨いな」

 

特徴的な帽子を首から後ろに下げひたすらに食事をかっ込む青年(エース)

 

「おい、エース。今オレのエビフライ盗ったろ」

 

目を離した隙に皿に乗っていたメインをかっさらわれ、立ち上がる青年(シュライヤ)

 

「黙って食事も出来んのかお前らは」

 

そんな光景を呆れたように見ながら、追加で注文した酒を楽しんでいる男性(サガ)

 

「♪♪♪♪」

 

鼻歌を口ずさみながら愛しい人が淹れてくれた珈琲に舌鼓を打っている少女(カリーナ)

 

「・・・・・はぁ」

 

そんな中、ただ一人手帳とにらめっこしては景気悪そうな顔をして溜め息をついている男性(レイズ)

 

「どうしたのレイズ?何か問題でも?」

 

極力相手を刺激しない声色でレイズの横の席をもぎ取ったカリーナが問いかける。

なお、丸テーブルなので席順も何も本来はないはずだがカリーナが先導する形でいつも席順が決められていた。

 

「あぁ、金が底ついた」

「「「「はい?」」」」

 

今月は元々出費が重なりに重なった。

止めにこの島に来ての爆買い。

金がないんだよと言う状況になった。

 

「よし、エースを売ろう(労働力的な意味で)(シュライヤ)」

「仕方ない、シュライヤに稼がせよう(軽業師的に)(サガ)」

「頑張ってサガ(ヤのつく自由業みたいな)(カリーナ)」

「カリーナ済まない(ホステス的な意味で)(エース)」

 

「「「「ふざけんなよ、コラ」」」」

「お前ら仲良いな」

 

4人に注目が集まるほどに口喧嘩が加熱していくなか、突如見知らぬ男性が話しかけてきた。

 

「あんら~、其処にいるのは“レイちゃん”じゃな~い」

「ん、この声は」

 

レイズが後を振り向くとそこにはバレリーナを思わせる見事な姿勢をキープした大柄なオカマが笑顔で回転していた。

 

「“サッちゃん”、久しぶり」

「おひさしぶ~りねぃ、あちしったらビックリし過ぎて思わず二度見しちゃったじゃないのよう。「オカマ拳法“あの初夏の夜の二度見”」だったわよぅ」

 

キャラが濃すぎるオカマの登場に誰しもが言葉を失っていたところに透き通るような声が聞こえてきた。

 

「あら、“Mr.3”。知り合いでもいたの?」

「あらヤダ、“サンディ”ちゃん。あちしったら久方ぶりに会ったダチに興奮しちゃっておいてっちゃったかしら」

 

キャラの濃いオカマの後ろから現れたのは、健康的に日焼けした肌とエキゾチックな色気を漂わせる美女だった。

 

「あれ、サッちゃん一匹狼じゃなかったっけ?」

「んがっははははは、じょ~だんじゃなぃわよぅ。あちし今就活中なのよぅ。サンディちゃんはあちし”達”の上司なのよぅ」

 

レイズと話す大柄なオカマに興味がいってしまっていたが、後ろから現れた美女にレイズ以外の男は見惚れていた。

そして、”彼女”の存在に気が付いたレイズは一瞬だけ驚きの表情をのぞかせるが、誰にも気づかれることなく普段の笑顔を顔に張り付けた。

 

「なんだよ、レイズのダチか立ち話もなんだから良かったら座れよ」

 

エースの言葉を受けてレイズのダチを自称するオカマと女性は笑顔で席に着いた。

 

「ちょっとレイズ、このオカマと女は誰よ」

 

途中だった家計簿を記載し終えたのか懐に仕舞うのを見計らいレイズに詰め寄るカリーナ。

自分の知らない女をレイズが知っている気配がしたのか少し苛立ちを隠せないでいる。

 

「こっちのあやふやな存在は”プリマバトラー”の二つ名で知られる賞金稼ぎ”白鳥のベンサム”だ」

「よろしくねぃ」

 

バチコンと聞こえてきそうな勢いでウィンクする謎存在に若干腰が引けているカリーナ。

 

「そんでもって、こちらはサンディちゃん。あちしの今の職場の上司なのよぅ」

「うふふ、仲良くしましょう」

「「はい、喜んで」」

 

アホ二匹(エースとシュライヤ)は本能レベルで返事を返していた。

 

「それにしちも、レイちゃんたら難しそうな顔して、一体全体どぅ~したっていうの」

「あぁ、実は・・・」

 

レイズはベンサムに今の状況を伝えた。

賞金稼ぎ5人で旅をしていること。

現状金欠であることも包み隠さずに。

 

「それだったら、あちしに任せなさ~い」

「ちょっと、Mr.3」

 

サンディを名乗る女性が慌てて黙らそうとするもテンションが高く上りきったベンサムには間に合わなかった。

 

「レイちゃんとそのお仲間達。あちし達と一緒に“DEAD END RACE”に出ましょう」

 

「「「「「(よっしゃ、釣れた)」」」」」

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「居場所が解らないたぁ、どういうことだジジイ」

 

シュライヤとサガを諸悪の根源へと連れ帰り、これからの話となった時だった。

ガープ中将から今回の標的であるガスパーデの居場所が解らないという事実が告げられた。

 

「どういうことも何も、今回奴がわしらの動きに気付いて“DEAD END RACE”の開催地までの道のりを複雑化させよった。

 何とか、開催地である島までは解ったがそこから先が一切解らんのだ」

「恐らく何らかの割符のようなものが存在していると推測されますが、こちらでは場所までしか捜査することが限界でした」

「なるほど、そこでオレ達(賞金稼ぎ)が必要になったわけだ」

「しかし、そこからどうしようというのだ。まさか我々に海賊のフリをしろというわけではあるまいな」

 

ガープとシェパードの説明で事情を察したレイズ。

レイズ同様に事情を理解したサガが刀に手をかけながら手立てを聞こうとする。

それをシェパードが片手をあげて待ったをかける。

 

「そこまでしなくても構わない、レースは何でもありが売りとなっている」

「となると、中には”同盟”を組もうと画策する奴らが出てきても不思議じゃないな」

「そして、そういった輩は自分達も何らかの焦りに追われている、となれば」

「そいつらを釣り上げてレースに参加すれば良いってことだな」

「??????」

「エースにはあとで教えてあげるから座ってようね」

 

シェパードの発言にシュライヤ、サガ、レイズは瞬時に当たりをつけた。

エースは義弟が困ったときのような顔をしていたがカリーナが確りと教え込んだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「(当初の予定とだいぶ違ったが良しとしよう)エースどうする」

 

自身の内心などおくびも出さずにエースへと声をかけるレイズ。

全員の視線が必然的にエースへと注がれる。

 

「レイズのダチなんだろう、宜しく頼むぜ」

 

腹を決めたエースはベンサムに握手をしようと手を差し出すが、それはベンサムによって遮られた。

 

「何をすっとぼけたこと言っているのよぅ。ダチとそのダチが困っていたら手を差し伸べるのは、男の道を逸れたとしても、女の道を逸れたとしても、決して逸れてはならぬ人の道。あんたたちは“レイちゃんのダチ”。つまり、あちしにとっても“ダチ”なのよぅ」

 

その言葉に衝撃を受けたような顔になるエースとシュライヤ。

 

「お、オメエ」

 

エースの声が震える中、エースとシュライヤが勢いよく立ち上がる。

 

「「良い奴だな」」

「にん!」

 

次の瞬間、3人は肩を組んでラインダンス宜しく踊り始めた。

 

「「「ジョーダンじゃないわよ、ジョーダンじゃないわよ、ジョーダンじゃないわよ、ほほほほほほほう」」」

 

まるでずっと一緒に育ってきた親友のようなその姿に知らず知らずの内に回りも巻き込み、大騒ぎの大宴会となっていった。

 

“DEAD END RACE”まであと3日。




今回二人を出した理由ですか?
好きなキャラだから絡みたかっただけです。


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Dに集え/其々の事情

私の悪い癖が出そうな今日この頃。



酒場を後にし、其々の宿へと戻っていく7人。

 

「そりじゃ~いくわよぅ、My Friends」

「おぅ、サッちゃん!」

「夜はまだまだこれからだぜ」

 

ベンサム、エース、シュライヤは酒場を出た後も途中まで肩を組んで大騒ぎだった。

 

「あー、もう3人ともいい加減にしてよ」

「たく、何か妙に波長があっちまっているな」

 

そんな3人が倒れないようにワタワタとサポートしているカリーナとサガ。

そんな5人を後ろから微笑ましそうに眺めながら歩くレイズとサンディ。

 

「サッちゃんが就活とは意外だな」

「あら、そうかしら?人は大事な何かのためなら、自分の良心も圧し殺せてしまうものよ」

 

そう、怪しく微笑むサンディ。

隣を歩くレイズは願掛けで伸ばし始めた銀髪を手で解かしながら、空に輝く月を見上げた。

 

「それじゃ、あんたを突き動かすその“大事な何か”の正体は教えてくれるのかな」

 

そう言ったレイズの顔には人好きするような笑顔が浮かんでいた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「あんら~、サンディちゃん何か良いこと有ったのかしら?」

 

宿として使用している高級ホテルでシャワーを浴びたベンサムとサンディは今後のことについて計画を練っていた。

 

「良いかしら、Mr.3。今回の貴方の昇級任務は覚えているかしら?」

「もちろんよぅ、「“将軍”ガスパーデの暗殺」なんて任務、あちしに掛かれば朝飯前なのよぅ」

 

言動こそハイテンションだが、シャワーを浴びた体で踊ることはせず、机に置かれたシャンパンへと優雅に手を出すベンサム。

 

「なら、なぜ“彼ら”を誘ったのかしら」

 

そう発したサンディの顔には何の表情も無かった。

まるで仮面のようなその顔にはベンサムは既視感を覚えた。

今日久方ぶりに会った友人も昔そんな顔をしてた。

世界中すべてが敵である、そう決めつけた人間のする顔だった。

ベンサムは自分が周囲から見て奇異な存在であることを自覚している。

それでも、今の自分を変える気はない。

自分を偽ることはしないと憧れの人の生きざまから学んだからだ。

 

「簡単な事よ、サンディちゃん」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

港に置かれた真新しい船。

エースたちが所有する「ジャック・ポット号」には現在とてつもない寒気が襲っていた。

 

「で、レイズは“あの女”と何をお喋りしていたの」

 

何故かダイニングエリアのフローリングに正座させられたレイズ。

目の前にはそれはそれは見惚れる程に愛らしい笑みを浮かべたカリーナが、背後にブリザードを背負って立っていた。

なお、エース・シュライヤ・サガはソファーを防壁にしてその様子を伺っていた。

 

「カリーナ、何を怒って「怒ってないよ」

 

レイズの言葉が終わる前に笑顔が更に深まった顔でレイズに顔を近づけるカリーナ。

 

「いや、おこっ「怒ってないよ」

「いや、お「怒ってないよ」

「けど「怒ってないよ」」

「で「怒ってないよ」

「「怒ッテナイヨ」

 

徐々に顔と言葉の距離が近づいていく二人を普段なら囃し立てるエースとシュライヤだか、今は涙目でソファーの影から出てこようとしなかった。

その時、レイズとサガの目があった。

 

「(助けて、サガ)」「(無理)」

 

言葉を発せずともその時、二人の意志は確かに通じあった。

 

「・・・・で、あの女に何を探りいれてたの」

 

 

ーーーーーーーーー

 

「そう、本当に簡単の事よ。だって“風死(ふうし)のレイズ”が心の底から笑っていたからよ」

 

“風死”。

レイズが政府主導で参加した大虐殺「人拐い村殲滅作戦」において作戦中に付けられた異名であった。

能力を“わざと”暴走させ、数多の風の刃を無慈悲に打ち出して最大人数を“殺害”したレイズに付けられた異名。

ベンサムは今でもあの時に見てしまった光景を忘れられずにいた。

まだまだ子供と言われても納得してしまうような幼さを残したレイズと出会ったのは、政府が用意した上陸船の上だった。

 

 

「あぁ~暇よぅヒ・マ。あちしったら暇すぎて思わず回っちゃうわ」

 

まだまだ、自分の拳法に名前を付けず切磋琢磨していたベンサム。

元々しなやかだった体を生かした戦闘法を模索していた彼は経験を積むために戦場を渡り歩いていた。

今回の召集も経験を積むために参加したに過ぎなかった。

何時ものようにクルクル回っていると遠くから何やら音が聞こえてきた。

音のした方に視線を向けるとそこには目を疑う光景が広がったいた。 

子供と思わしき人物を中心に死屍累々の地獄絵図が其処にはあった。

ある者は腕があり得ない方向に曲がっていた。

ある者は自分の得物と思われる刀で貫かれていた。

ある者は鋭利な刃物でズタズタに切り裂かれていた。

そして、一際体格に恵まれた男が透明な見えない何かに掴まれているかのように空中に浮いていた。

 

「わ、悪かった。“コレ”は還す、還すから許してくれ」

 

男は顔をグシャグシャに涙で濡らしながら子供に懇願していた。

ふと、男と対峙していた子供が男に向けて手を翳す。

そして、何かを握り締めるように徐々に手を握り込んでいくと男の悲鳴が大きくなっていった。

よく聞くと悲鳴に混じり男から何かが折れる音が聴こえていた。

その音が男の骨であると認識した瞬間ベンサムは子供の手を掴んでいた。

 

「ちょっと待ちぃねぃ」

 

ベンサムが手を掴んだことに気が付いた子供は顔をベンサムへと向けた。

その時、硝子玉のようにただ周囲を写すだけの瞳と目があった。

その瞬間、ベンサムを吹雪のような殺意がぶつかってきた。

それは、目の前の子供から発せられていることにベンサムは気付いていた。

 

「た、助かった」

 

ベンサムの後ろから先程宙に浮かんでいた男が声をかけてきた。

 

「いったい全体、な~にがあったのよぅ」

 

一部始終を“見ていた”が確認のために男へと声をかけるベンサム。

すると男は息を吹き返したかのように子供を指差し声を荒げ喋りだした。

 

「この餓鬼、俺の持ってるこの宝石を奪おうとしやがったんだ。だから、周りの奴等が止めに入ってくれたんだが、この有り様でよ」

 

ベンサムという後ろ楯を獲た事で強気になる男だが、後ろにいたためベンサムの憤怒の顔を見ることはなかった。

 

「まぁったく、あんた“たち”はぁ」

 

その場で回転し始めたベンサムに警戒心を露にする子供だったが、またしても周囲の予想の斜め上をいく結果が現れた。

 

「あんたたち、バカをお言いでnothing

 

ベンサムは己の回転力のすべてを乗せた蹴りを後ろにいた男に見舞った。

なお、対峙していた子供は初めて驚きの表情を浮かべていた。

 

 

「・・・・、ねぇ」

 

その後、少将ボルサリーノの仲裁により事なきを得た騒動。

騒動以降、子供がベンサムの傍を離れようとしなかった。

そんな子供が突如ベンサムに声をかけてきた。

 

「あんら、何かご用」

「なんで、あいつらに味方しなかったの?」

 

心底不思議そうに聞いてくる子供に対してベンサムは嬉しさを覚えていた。

 

「簡単なことよぅ。あーたの目が嘘ついてなかったからよぅ」

「・・・・ハァ、おじさんバカでしょう」

 

子供から放たれた悪意の塊のような言葉に少なくないダメージを負ったベンサムは甲板にヘタリこむと、何処からか取り出したハンカチを噛み締めて滝のような涙を流し始めた。

 

「おじさ、おじさんって、あちしは、あちしは・・・・」

 

そんなベンサムを面白いものを見るような目で見ていた子供。

 

「おじさん、早死しそうだから、僕がついていてあげる」

 

そういって子供の顔には年相応の笑顔が浮かんでいた。

 

 

「それから、殲滅戦が終るまであちしとレイちゃんはパートナーになったのよぅ」

 

顔に少し赤みを帯び、昔を懐かしむベンサムからは普段のエキセントリックな雰囲気はなく、そこはかとなく花のような色気が漂っていた。

 

「だから、久しぶりに会って笑顔だったあの子とそのFriendsに手を貸してあげたくなったのよぅ」

「ふふふ、あなたの過去が聞けるなんて良い夜ね」

 

サンディとベンサムの会話はそこで終わった。

街中の喧騒をBGMに二人は無言で酒を楽しんでいた。

 

「(ま、それ以外にも理由はあるんだけどねぃ)」




日頃は拙い物書きの作品にお付き合いいただきありがとう御座います。
パソコンで書いていたせいか、スマホやりにくいです。


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Dに集え/そして結ばれる手

あぁ、今年も終わる。
仕事は持ち越しだけど。


一夜明けてレース開始まで残り2日となった。

再度顔合わせをするためにベンサムとサンディを「ジャック・ポット号」へと招待したエースたち一行。

 

「サッちゃん、サッちゃん。今日はレイズが腕によりかけたランチなんだぜ」

 

我がことのように誇らしく語るエースはデッキに移動されたソファーにてカリーナが準備したミックスジュースに舌鼓を打っていた。

 

「あ~ら、レイちゃんの手料理なんて久しぶりねん。エーちゃん“タコパ”はあるかしら」

 

いつも以上にハイテンションにクルクルと回るベンサム。

そんな彼の後ろから現れたサンディの手にはバケットが握られていた。

 

「そちらだけで準備させるのは悪いから私たちも軽食を持ってきたわ」

 

そう言ってバケットを開けるサンディ。

開けられたバケットをエースが覗き込むとそこには見事に盛り付けられた多種多様なサンドイッチがあった。

 

「おぉー、旨そう。じゃまずは味見を「せんでいいから手伝えエース」

 

バケットの中身にエースが手を出そうとすると突如後ろから現れたサガに耳を引っ張られてテーブルへと連行されていった。

 

「あー、悪いな。こちらから招待しておいてまだ準備終わってないんだ」

 

その光景を見ていたシュライヤはバツが悪そうに頭を掻きながら現れた。

 

「いえいえ、おかまいnothing。あちしたちはソファーで寛がせてもらうわ」

 

そう言うとサンディをエスコートするように先に座らせ自身もソファーへと優雅に着地するベンサム。

 

「あら、お姉さまに男姉さま。もうすぐ準備できるから先にオードブルでも摘まんでて」

 

船内から現れたカリーナの手には鮮やかに彩られた多種多様な野菜やフルーツが盛られたクラッカーが乗ったトレイがあった。

 

「ワインとシャンパンも準備してある。楽しんでくれ」

 

その後ろから姿を見せたサガの両手にはワインボトルとシャンパンボトルが握られていた。

ここに至り、サンディはある事に気が付いた。

今まで出て来た今回の共同参加者は誰一人敵意が見えないのだ。

昨晩、話した“あの男”も姿を現さないのは自分に配慮したためであるとすぐに理解できた。

この船の上にはサンディに対して一切の敵意がなかったのだった。

 

 

-----------

 

 

「「「「サンディの正体?」」」」

 

時は昨晩、カリーナに問い詰められていたレイズはため息とともに自分の行っていたことを明かしていた。

 

「そう、何日か前に”賞金首リスト“の整理をしていた時に最近見ない顔を見てね、それで気になっていた時にサッちゃんと再会して、後ろから出て来た彼女を思い出してね」

 

そう言うと船に戻ってきてから取りに行っていた手配書を持ち出した。

そこには、年端もいかない少女が映し出されていた。

 

「おそらく、彼女は”ニコ・ロビン”本人だと思う。外見的にもこの子が成長したら彼女になりそうだし」

 

4人に手配書を渡したレイズは足を崩し近くにあった椅子に座りなおした。

4人には確証はないと言外に言っているがレイズには確証があった。

それは彼の裏技”塗りつぶされた原作の記憶”である。

以前にも記したがレイズは所々抜け落ちた原作知識を持つ転生者である。

原作の大まかな内容は思い出せるのだが、細かい内容については“インクで塗り潰されている”ような感覚で思い出そうとしてもはっきりと思い出せない状況にある。だが、知識を得ることでその“インクで塗り潰されているような箇所”が思い出されるのである。

そんなレイズは原作のルフィの仲間である”ニコ・ロビンという存在”をなんとなく覚えていたが容姿や能力、彼女の過去といったものに関しては霞がかかったかのように曖昧にしか思い出せなかった。

しかし、酒場でサンディと出会ったことで”手配書の少女”と”現在の姿”という情報が加わり、大まかにではあるが彼女のことを思い出していたのである。

そのことに現実味を帯びさせるためにサンディに話しかけて情報を引き出そうとしたのだが余計な警戒心を植え付ける結果に終わってしまった。

 

「なるほどな、彼女は”裏社会”じゃ有名だからな、それこそ真偽問わず情報が溢れているがレイズは何か知ってるんだろうな」

 

ソファーから出て来たシュライヤは椅子に座りこんだレイズへと視線を移した。

復讐の対象であるガスパーデの情報を探すために、一時期は裏社会に身を置いていたシュライヤも”ニコ・ロビン”の情報は多少有していた。

 

「・・・・は、胸糞悪い話だよ」

 

そう、レイズにしては珍しく、エースたちがいるにも関わらず嫌悪感を露わにした顔で語り始めた。

「オハラの悲劇」その真実について。

 

 

-----------

 

 

テーブルにところ狭しと並べられた料理の数々。

ビュッフェ形式で並ぶ料理の完成度に思わずロビンは声を失っていた。

隣を見るとMr.3が優雅な所作で暴飲暴食を開始していた。

 

「ちょっとちょっとちょっとジョーダンじゃないわよぅ。レイちゃん“タコパ”は?タコパが無いじゃないのよぅ」

 

常日頃から彼が求める謎の料理「タコパ」。

それを知っていることに戦慄を覚えたロビン。

 

「サッちゃんや、“あれ”はデザートでしょ。未々あるから先に食べきっちゃってよ」

 

昨晩金がないと言っていたにも関わらずこのおもてなし。

ますます、警戒心を抱くロビンだった。

 

「にしても、MyFriends。あーたたちお金無いんじゃなかったの?」

 

その問いを待っていましたとばかりにエースたちは笑顔を向けた。

 

「「「「レイズがやりました」」」」

「お陰で、もうこの島で賭博は出来ないけどな」

 

そう、レイズは今日のために昨晩島中の賭博場(表裏の関係無く)の金庫を空にしてきたのである。

当然、イカサマしてだが誰もいつイカサマが行われたのか理解できなかった為、レイズは無事に船に帰ってこれたのだが。

 

「そんなこと良いからさっさとパーティーしようぜ」

 

エースのその声を切欠にながらではあるが、宴が始まった。

エースの天性のモノによるのか、レイズが気が付くと当初は輪に加わろうとしていなかったロビンもカリーナの横で笑顔で料理を楽しんでいた。

デザートの準備でレイズが船内に戻った後も楽しそうな声が船上には響いていた。

 

 

「それじゃ、ビジネスの話といこうか」

 

デザートをもって現れたレイズ。

準備されたケーキやフルーツの盛合せ、タコパが机にならび、其々がお茶を飲んだところでレイズのそんな声が響いた。

 

「此方の条件はレース中の同盟関係の締結。それと“ジャック・ポット号(この船)”で一緒に参加すること。賞金の山分け」

「それと、何か有るんじゃないかしら」

 

互いに悪い顔をするロビンとレイズ。

周囲はそんな二人に割って入ることもなく、成り行きを見守っていた。

 

「ガスパーデの首は早い者勝ちでいこうよ“バロックワークス”」

 

その名前が出た瞬間、明らかにロビンは顔をこわばらせてしまった。

二人のやり取りをみていたベンサムは顔がにやけるのを止めることはなかった。

 

「(“コレ”よ。コレがあるからレイちゃんは怖いのよ)」

 

レイズの裏技を知らない者にとってレイズの知識量は脅威でしかなかった。

僅か5分前は知らなかったはずの情報を何処からか引き出し考察し答えを導き出してしまう。

わずかな時間であったが、バディだったからこそ理解してしまったその異常さ。

だからこそ、ベンサムはレイズを仲間にしようと共闘を申し込んだのだ。

“敵”とならないために。

 

「・・・・何のことかしら、私たちはそんな組織に属していないわよ」

 

顔の強張りに気が付いたのか笑顔を張り付けたロビンはレイズを正面に見据えて”ボス”との約定のために嘘をつくことを選んだ。

 

「バロックワークス、徹底した秘密主義が採られており、社員たちは社長の正体はもちろん、仲間の素性も一切知らされず、互いをコードネームで呼び合う「秘密犯罪会社」。

 基本的に男女ペアで行動し、男性は数字が若いほどに実力者とされ、パートナーの女性は曜日や祝日、記念日などからコードネームがつけられる」

 

レイズは顔を下を向いた姿勢のまま語られていく組織の全容に背筋に冷たい何かが走るのを覚えるロビン。

徐にあげられたレイズの顔を見たとき、ロビンは久しぶりに困惑を覚えた。

目の前の青年はなぜかとても悲しそうだったのだ。

その悲しみが何から来ているのかロビンには解らなかった。

今まで自分の存在を排除され続ける人生だった彼女に向けられてきた感情は憎悪、嫌悪といった感情が大半だった。

なのに目の前の青年はなぜか悲しみの感情を自分に向けてきている。

理解が追い付かないロビンにレイズは彼女にしか聞こえないであろう声で告げる。

 

「信じろとは言わない、あなたの半生は人間の汚いモノで塗りつぶされてしまっているから。打算でもいい、オレを信じなくてもいい。利用してくれてもかまわない」

 

そうポツポツとつぶやかれる言葉が不思議とロビンの心に沁み込んでいった。

 

「だけど、忘れないでほしい。あなたを愛してくれる人は必ずいるから」

 

そう呟くとレイズはロビンの後ろにいる仲間に目をやる。

その奥にただ無言を貫き、真剣な眼差しでこちらを見てくるエースを見て心を決めるようにレイズはロビンに語る。

 

「オレは死ぬ間際にただ一人の存在が”愛してくれて、ありがとう”なんて言わせる世界を嫌悪する、オレは”世界のための小さな犠牲”を軽蔑する」

 

レイズの言葉に宿る熱が徐々に上がっていくのを船上誰もが気が付いていた。

 

「だから、心を殺してまでやり遂げようとするサッちゃんもあなたも尊敬している。その踏み台程度でいいから」

 

レイズの頬に涙が伝うのをロビンは見とれてしまっていた。

 

「少しの間だけ信じてくれ、オレじゃなくてエースたちを」

 

 

気が付くと空は夕暮れに染まっていた。

 

「・・・・わかったわ、あなたはやっぱり信じられないけど」

 

ロビンは後に語っている。

 

「あなた”達”は信じてあげる」

 

あの時、久しぶりに心から笑顔になれたと。




年末はいいなぁ~。
死に物狂いで終わらせたけど。


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その果てに掴み取れ

彼王日間ランキング61位
友人に自慢したら今までもちょくちょくランキング入りしていたという驚愕の事実が発覚。
私の作品にこのような評価を頂き誠にありがとうございます。



「よっしゃ、行くぜ野郎共」

 

紆余曲折はあったが、チームを組むこととなり参加を申し込みに全員で出会った酒場へと歩いていた。

先頭を歩くエースは満面の笑顔を浮かべて人混みの中を歩いていた。 

 

「ねぇ、エース分かりやす過ぎない」

 

最後尾を“歩きにくそうに”レイズに捕まりながら歩くカリーナ。

 

「仕方ないよ、一時とはいえ“海賊”を名乗れるんだから。あとカリーナはいい加減に離れてくれると嬉しいんだけどなぁ」

()()()()のせいでまだ何か挟まっている感じがするの」

「海楼石の手錠使って拘束した上で跨がってきたのはどっちだ」

 

最後尾で話すそんなレイズとカリーナを尻目にその前を歩くのはサガとロビン。

 

「あら、(レイズ)食べられちゃったの」

「あぁ、昨晩にな。カリーナの我慢が限界を越えたらしい」

 

笑顔で核心をついてくるロビンと頭を押さえながらその横を歩くサガ。

 

「しかし、サンディよ」

「何かしら?」

「オレから見たら、お前の笑顔も大分凄味が出ているがな」 

 

サガの指摘を受けて思わず自分の両頬を押さえるようにムニムニと揉んでいるロビン。

同盟を組んだあの日、船に乗り移り生活を共にしていた。

昨晩は、面白半分でカリーナを焚き付けたロビンだったが何故か今彼女の心を占める感情は嫉妬に近い感情だった。

知略班として組むことになったレイズとはあらゆる手段を考察しており、一緒にいる時間が増えていた。

反面、時間が取られたエースとカリーナは誰が見ても不満な顔をしており、二人が一緒に買い物に出掛けた時などカリーナは“あの時”の笑顔で周囲を威嚇していた。

それを面白がったロビンはカリーナを焚き付けて、ナニも出来ずに撃沈するだろうと悪い笑顔を浮かべていた。

しかし、翌朝現れた二人はあからさまに事後であった。

その二人を見たロビンはその時から笑顔に凄味があふれでてきていた。

なお、その事についてロビンは認識していなかったようである。

 

「んがっはははは、サンディちゃんたら“人らしく”なってきたじゃな~い」

「あんた、それも狙いだったのかい」

 

エースを前に後二組の会話を聞きながらベンサムとシュライヤは歩いていた。

エースの保護者(レイズ)が手一杯だからだろうか、先頭を行くエースのお守りをかって出てくれたのてある。 

 

「んふ、レイちゃんたら無自覚なんでしょうけど人の心の内側に入り込むのが上手だからねい。サンディちゃんったら最近怖い顔ばっかしてるんだから」

「・・・本当に偶然か、あいつ(レイズ)との再会は」

「もちこーす。あちしもそこはびっくらしてるのよう」

 

戦闘訓練や買い出し、夜番と一緒になって以降なにかとバディを組んで行動することが多かったベンサムとシュライヤ。

互いに腹に抱えた”何か”を悟らせないように行動しているが、それでも一応の信頼関係を結んでいるようであった。

レイズを通して知り合った二人ではあるが互いに成し遂げたい何かのために邁進する姿勢は共感を覚えたのだろう。

 

「お、飯屋だ寄ってこうぜ」

「「「「「「寄らない、さっさと行く」」」」」」

 

そんな”雰囲気”を感じたエースはいつも以上に自由に振舞い裏通りを歩いていた。

エースは今の雰囲気が大変気に入っていた。

自分が憧れた海賊という名の自由の象徴のように互いが好きなことをやりながらそれでも一つの目標に向かっている雰囲気が。

ただし、一番後ろで相棒と戯れるカリーナに対しては兄を取られた弟のような変な嫉妬を覚えているが。

 

 

酒場につくとロビンを先頭にカウンターへと歩く一同。

 

「こんにちわ」

「おう、何かようか」 

 

ロビンの挨拶にぶっきらぼうに返す店主。

そんな様子を気にすることなくロビンは胸元から3枚の古い貨幣を取り出した。

 

「【ジャック・ローズをお願い】」

 

ロビンの言葉と貨幣を確認した店主は拭いていたグラスを棚に戻すと、改めてロビンに振り返る。

 

「【アップル・ジャックの上物が入ったとこだ】」

「あら良かった。そうしたら【”7人分”よくかき混ぜてショットグラスに注いでちょうだい】」

「・・・・・全員こっちに来い」

 

店主に顎で示された先には一つのドアがあった。

真っ暗な部屋にエースたち全員が中に入ると店主は徐に明かりをつけた。

そこには所狭しと酒棚があるが明らかに一番奥に場違いな扉があった。

 

「ここから先はこのランプを持って行きな」

 

そう言うと店主は壁に架けられていたランプに火をつけエースへと手渡した。

 

「おう、あんがとな」

 

満面の笑みでランプを受け取るエースを見て店主の男は驚いた顔をし、何かを考えるようなそぶりを見せた。

 

「・・・・おい、あんちゃん」

「あん、なんだ」

 

扉を開けようとするエースに対して店主はある言葉を投げかけた。

 

「何がそんなに楽しいんだ?」 

 

それは何か答えを求めているような声色だった。

 

「こいつら仲間と冒険が出来る、それが嬉しくて楽しいのさ」

 

これから起こることを想像しないわけでもないが、エースは満面の笑みを店主へと向けた。

 

そんなエースを見て、店主の男は少し笑みを浮かべるとどこから取り出したのか煙草を銜え火をつけた。

 

「こいつは独り言だが、オレは”このレース”の敗北者だ。この島にはそういった輩で溢れていやがる。今回のレース裏でガスパーデが何か企んでいるらしい、何もかも疑ってかかるくらいの覚悟がなきゃ生き残れないと思いな。・・・・・ここからは一本道だからよほどの馬鹿じゃなければ迷うことはねえぞ」

「おう、解った」

 

そうエースは満面の笑みで答えたのだった。

 

 

店主の言葉通り、一本道の洞窟を元気よく歩くエース。

腕を振りすぎてランプが飛んでいかないか心配になってしまうレベルだった。

 

「レイズ、どうだ」

 

シュライヤの声にエースも歩みを止め、最後尾を歩くレイズに視線を向ける。

 

「風を流し続けて探索してるけど問題ないよ」

「そうか、てかその両腕どうにかしろ」

 

レイズの風の探知網の精度を知る全員が安堵した中、シュライヤのツッコミがレイズへと突き刺さる。

そこには右腕をカリーナが、左腕をロビンに抱きつかれながら彼女たちの負担にならないようゆっくり歩くレイズがいた。

 

「何よシュライヤ。文句あるの」

「あら、ご免なさい。こんなに歩きづらいとは思わなかったの」

 

カリーナとロビンは悪びれもせず、かといって離れる素振りをみせるどころか、より確りとレイズの腕にしがみつくように腕の力を強めていた。

 

「落ち着きなさいなシューちゃん」

「騒がれるよりましだろ」

 

肩にベンサムとサガが労るように優しく手を置かれたシュライヤ。

 

「いや、羨ましいわけじゃないからな」

 

その慈愛の目線に込められた言葉を読み取ってしまい、大慌てで否定するが逆に怪しさが増すだけだった。

 

「おーーーーい、出口あったぞ」

 

気が付くと遠くの方でエースがランプを振っている姿があった。

その姿に毒気を抜かれたのか、全員が歩く速度を早めたのだった。

 

 

「全員いるな、それじゃ開けるぞ」

 

エースはそう言うと簡素な造りのドアを開け放った。

その後には目を疑うような光景が広がっていた。

そこには広大な縦穴が存在しており、島民以上の数の海賊達がひしめき合っていたのである。

 

「うはーーーー、コレ全員が参加者か」

 

エースが目を輝かせながら周囲を見渡していると最後尾にいたレイズが話しかけてきた。

 

「はい、それじゃオレとサンディは受付してくるから皆は“大人しく”座ってご飯楽しんでてね、タダらしいから」

「アタシも行く」

「あらあら、そうしたらこのまま行きましょう」

 

カリーナの一言に反応したロビンに連行されるように連れていかれたレイズ。

傍目には「両手に花」に見えるだろうが、レイズからしたら色々と複雑な状況なのであった。

 

「それじゃ、受付はレイズ達に任せて、オレ等はメシにしよう」

 

DEAD END RACE。

エース達の冒険が始まったのである。




ジャック・ローズはカクテルの名前です。
本文中の作り方は間違った作り方ですので興味がある方は調べてみてください。


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その果てにつかみ取れ/現れるT

区切りが良いので投稿。
相変わらずこんな感じですがガンバリマス。


シュライヤの体から立ち込めるどす黒く染まり濁った殺意。

その目はレイズが時折する硝子玉のようにただただ目の前の映像を景色として脳に映すだけだった。

時間は少し遡る。

 

夕御飯を誰よりも食べたはずのエースは席につくなりメニューの端から端まで注文し手当たり次第食べ始めていた。

 

「うお、このペペロンチーノ案外旨い」

「おいエース、このマルゲリータも中々いけるぞ」

「んがはははは、シューちゃんあちしのたこ焼き少し食べる?」

「お前らは本当によく食べるな、しかしこのピクルスつまみに良いな」

 

そんなエースにつられたかのようにシュライヤとベンサムも食事をし始め、その様子に呆れながら樽をジョッキ替わりに酒を飲むサガ。

 

「まぁ、」

「でもな」

「やっぱし」

「だな」

 

突如食べる手を止めた4人は何かに納得したように空になった皿にフォークを置く。

 

「「「「レイズ(レイちゃん)のメシ(ご飯)の方が旨い(わねぃ)!!!」」」」

 

何故か勝ち誇ったような顔をして周囲を見渡す4人だった。

 

「おいおい、嬉しいこと言ってくれるね」

 

4人の感想に答えるように返答が聞こえ、その声を待っていましたとばかりに満面の笑顔で振り向くエース。

 

「遅えぞレイズ」

 

そこには、湯気たつカップとソーサーを器用に両手で7つ持ち、未だにカリーナ(美少女)ロビン(美女)を侍らしているように見える状態でレイズたちがいたのであった。

 

「悪かった、途中で絡んでくるアホが多かったからな。淑女のエスコートに時間をかけたんだよ」

 

そう言うとエースの隣に座ろうとするレイズだったが、両腕の淑女により強制的に現状のままの位置関係で座らされていた。

 

「んで、どうだったのよう。早く教えなさいよぅ」

 

カリーナから紅茶を受け取ると優雅に一息つけレースの概要を聞くベンサム。

 

「落ち着いてMr.3、今話すから」

 

ロビンに窘められるような形になったが、レースの報告が始まった。

今回のDead End Race概要は通常通りの何でもありのハチャメチャレースで、最初にゴールの島についた船が優勝となる。

途中までの航海で妨害戦闘何でもあり、文字通り悪党による悪党のためのレースだった。

ゴールは酒と祭りの島「エントローリ」。

 

「って訳なんだけど、オレ等のターゲットを考えるとこの状態でなにもしてないとは考えづらいわけで」

「このエターナルポースも何かしらのトラップが仕掛けられていると考えているのよ」

「だから、帰ったらサンディとレイズそれにアタシも()()()も頭使うから出航準備ヨロシクね」

 

知略班に分けられていたロビンとレイズ。

そこにカリーナが加わることを本人の口から強く念を押される他4人。

カリーナの意図を汲み取ったのかその顔は苦笑いだった。

 

「おうおうおうおう、こんな場所でナニしてんだよオメエは」

 

レースの話もそこそこに周囲の参加者の確認をしているとあからさまに柄の悪い男たちがエース達の机に近づいてきた。

現状、無用な争いを起こさないようにしていた7人は無視を決め込んだ。

 

「こんな良い女テメエみてえな優男には勿体ないぜ」

 

男達にとって最大の不幸は彼らの存在だった。

 

「やっぱ、オレ等“ガスパーデ海賊艦隊”のメンツみちゃいなゃ」

 

先頭にいた男は気が付くと仲間を巻き込み蹴飛ばされていた。

 

「テメエ等」

 

レイズが視線を上げるとそこには、自分の対面に座っていた筈のシュライヤが蹴り抜いた形で椅子に立っていた。

 

「オレの前でその名前出してタダで済むと思うなよ」

 

その声と共に一団へと襲いかかるシュライヤ。

 

 

「少しは自重できんのかあいつは」

 

レイズが持ってきたコーヒーを飲みながら下の階へと場所を移したシュライヤ無双による喧騒をBGMにサガが呟いた一言はテーブルに残った4人も無意識に首を縦に振っていた。

 

「でゅーも、シューちゃんからしたら復讐の対象なんだから“あんな状態”になってもしょうがないんじゃなーい」

「でもね男姉(オネエ)様、一応レース開始まで手を出さないって取り決めしたんだから守らないと」

「カリーナの言う通りね。私達はあくまで協力関係なんだから決めたことは守って貰わないと」

「サンディが正しいとは言わないけど、作戦決めた時に念を押したはずなのにな」

 

 

「「「「「はぁ~~~~」」」」」

 

5人同時に溜め息をついた時、レイズはある違和感に気がついた。

徐に指差し確認でテーブルに着席している人数を数え、周囲を見渡し頭を捻るように奇妙な行動をしていた。

 

「ところでさ」

 

意を決したようにレイズが4人に話し掛けた。

それと同時に下の階がまた一段と煩くなってきた。

 

「エースは?」

 

突然だが、現在彼らのいる席はテラス席のようになっており、目の前をエレベーターのような滑車が上下して上層と下層のやり取りをしているようだった。

その滑車は帆船用の鎖でいったり来たりを行っていた。

レイズ達の目の前にはそんな鎖の一つがある。

 

「はん、来いや雑魚供が」

 

下から上がってきているであろう集団をこれでもかと煽りながら上がっていくシュライヤを見送った一同。

 

「おっしゃー、やったれシュライヤ」

 

少し遅れてシュライヤに声援を送りながら上がって行くエースを認識してしまった。

 

「「「「「なにを煽ってんだ、てかなにをやってんだあのバカ!!!」」」」」

 

滑車の頂上、キッチンを兼ねた小型船の船体に上ったシュライヤとエースは端にまるで相手を歯牙にもかけていないようにふざけた態度で座っていた。

 

「テメエら調子に乗りやがってもう逃げ場はねえぞ」

 

どう見ても悪人面の小物感丸出しの男が威勢良く吠えている。

そんな様子を意に返すことなくシュライヤとエースは雑談を始めていた。

 

「あぁ~、やっちまった。絶対にレイズに怒られるわ」

「なっはははは、シュライヤは馬鹿だな」

「いや、煽ってたお前も同罪だからなエース」

 

一切の緊張感も追い詰められた恐怖すら感じていないように陽気に喋る二人を見て海賊たちはついに我慢の限界に達した。

 

「行くぞ、お前ら」

 

先頭集団が駆け出したその時、エースとシュライヤは悪戯が成功したような悪い顔をしていた。

 

 

「んの馬鹿どもは」

 

突如レイズが額を抑えるように立ち上がるとロビンとカリーナを立たせて後ろへと移動し始めた。

 

「どぅーしたのよぅ、レイちゃん?」

 

その奇妙な行動に目をぱちくりしているベンサム。

 

「サッちゃん、サガ”ここ”まで来ないと濡れるよ」

 

レイズがそう言った瞬間上から船が落ちてきたのであった。

 

 

「いいかエース、あいつらをバカにするためにこの船を落とそう」

「あん、どういうことだ?」

 

海賊たちが追いつく前、船体にたどり着いたシュライヤはエースに提案していた。

 

「この船をつるしているロープ、いくら頑丈と言ってもあんな人数が乗ったら落ちちまうだろうな」

「そうだな」

「だからよ”落とす”手伝いをしてやろうぜ」

 

そう言うと懐から机に置かれていたナイフを取り出しロープに投げつけ切れ目を入れていくシュライヤ。

 

「これで船が落ちても”あいつら”が原因になるし何よりバカにできる」

「いいなそれ、のった」

 

エースも自分たちが落ちないようにロープを準備し、下っ端共が上がってくるのを待っていたのであった。

 

 

「あっはははははは、バーカバーカ」

「本当に間抜けじゃねえか」

 

一番上で大声で相手を小馬鹿にしているエースとシュライヤ。

ひとしきり馬鹿にし終えると近場のテラスへと飛び降りたのだった。

 

「おい手前ら、ふざけんじゃねえぞ」

「「んお」」

 

その時、運良く助かった追い回してきていた海賊の一人がギリギリ助かったのかエースたちにピストルを構えていた。

 

「なぁ、もう諦めろよ」

「そうそう、お前たちじゃオレ達に敵わねえからさ」

 

エースとシュライヤは息切れすらしておらず、かたや下っ端海賊の男は息も絶え絶え疲労困憊という状態だった。

 

「ふっざけんなよ、オレ達にも意地ってもんがな」

 

男が最後まで言葉を発しようとした瞬間、エースとシュライヤの間を縫うように槍のような何かが通りすぎた。

次の瞬間、ピストルを構えていた男の体には穴が開いていた。

 

「騒々しいぞ、手前ら」

 

その声とともにテラスの奥、暗闇から男が二人現れた。

そして、一人の男を見た瞬間、シュライヤは自分でも抑えきれない殺意に押しつぶされかけた。

 

「将軍、ガスパーデ」

 

暗闇の奥から現れた今回の標的にして、シュライヤの殺したい相手は気怠そうに現れたのだった。




今年の目標
今年中にビビ編に入りたい。


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その果てにつかみ取れ/Rであること

皆さん、体には本当に気を付けましょう


最上階のテラスは見るも無残な状態となっていた。

ガスパーデとにらみ合うエース。

ガスパーデの腹心ニードルスの鉄爪と刀で競り合っているサガ。

その光景を欄干に背を預けて眺めているレイズとベンサム。

レイズの傍にある階段から救急箱と濡れタオルを持って駆け上がってくるロビンとカリーナ。

そして、無残にもやられ欄干に吹き飛ばされ傷だらけのシュライヤ。

朦朧とする意識の中、シュライヤは先ほどまでのやり取りを思い出していた。

 

 

「お前がガスパーデか」

 

湯気のようにシュライヤの体から憎悪が立ち上っているようにエースは見えていた。

シュライヤの事情は手を組むと決めた日に聞いていたが、実際目の前でその姿を見るとシュライヤに恐怖だけしかなかった。

一緒に行動するようになり、一緒に馬鹿なことしてレイズに叱られる。

ご飯時はおかずの取り合いをしてカリーナに殴られる。

サガとの戦闘訓練でボコボコにされ、その間抜け面を互いに見て笑い合う。

そんなイメージとはかけ離れた友の姿にエースは恐怖していた。

 

「あぁ、だったら何だってんだクソ餓鬼」

 

その言葉に歪な笑みを強めるシュライヤ。

 

「今ここで死ね

 

そう叫ぶと手近に落ちていたサーベルを拾い上げ、ガスパーデへと投げつけ、そのまま加速してガスパーデへと迫るシュライヤ。

 

おい、待てシュライヤ

 

危険を察知したエースに呼び止められるも、今のシュライヤには効果はなかった。

目の前に殺すと決めた復讐の対象がいる。

いつもなら、冷静になれと言う自分がいる。

しかし、この時はシュライヤの思考の全てがガスパーデへと向いてしまっていた。

だからこそ、気づけなかった。

 

「邪魔だ」

「ガッ」

 

横合いから伸びてきたニードルスの蹴りを。

 

 

シュライヤの最高速に達していたスピードに合わせるように放たれた蹴りは腹部にめり込むように極り、その場へとシュライヤを押し留めた。

全ての衝撃が一点に集中してしまったがゆえに、シュライヤの受けたダメージは想像を絶するものとなっていた。

しかし、シュライヤは倒れこむことはなかった。

それはもしかしたら、シュライヤがこれまで積み重ねてきたモノがそうさせたのかもしれない。

だが、現実はひどく残酷であった。

 

「邪魔だと言っただろうが」

 

ニードルスは追撃にとシュライヤへ蹴りを放つと、いともたやすくシュライヤは欄干へ叩きつけられた。

ニードルスが鉄爪を装備し走り出し、意識を朦朧としたシュライヤへと襲い掛かる。

朦朧とする意識の中、シュライヤはその攻撃を避けようとするが体が一切動いてくれなかった。

シュライヤが死を予感した次の瞬間、金属が打ち合う甲高い音が彼の耳に届いたのだった。

 

「邪魔をするな”剣士”」

「邪魔させてもらうぜ”刺青野郎”」

 

左腕で逆手に抜刀した刀で鉄爪を受け止め、尚且つニードルスのパワーと拮抗しているサガがそこにはいた。

 

 

下から登ってきてその惨事を目撃したロビンはカリーナを伴い治療道具を探しに戻った。

ベンサムとレイズは欄干にもたれ掛かるシュライヤの両脇に陣取り、事の成り行きを見守っているような体勢でいる。

しかし、見る者が見ればいかなる攻撃にも対処できるように迎撃態勢を整えていた。

エースはそんな光景を見ながら久方ぶりに頭に血が上っていく感覚を覚えた。

ゆったりとした足取りでガスパーデへと歩むエース。

その姿を不敵に、傲慢な笑顔を浮かべながら酒を飲み干すガスパーデ。

エースとガスパーデ、二人の間合いがついに重なった。

 

「ふん、雑魚の集まりかと思ったら中々に骨がありそうな奴らじゃないか。おいニードルス手を引け」

「・・・・・・・・・・・フン」

 

ガスパーデの言葉に従うように得物をおさめ目にもとまらぬ速さでガスパーデの右隣に現れるニードルス。

ニードルスが戻ったのを確認すると笑顔を浮かべたまま、エースに話しかけ始めるガスパーデ。

 

「お前ら、面白え連中だな。今のバカ騒ぎでだいぶ部下が減っちまったな」

 

そう言うと値踏みするようにエースたちを見回し始める。

次の瞬間、驚くべき言葉が彼の口から放たれた。

 

「お前ら、オレの部下になれ」

 

静寂が支配する空間。

その静寂を破ったのはどこからか聞こえてきた笑い声だった。

 

「ハハハハハハハ、エースどうする気だい?」

 

それは喜劇でも見ているような笑みを浮かべたレイズだった。

そして、言外に決定権をエースに委ねていると言っている物言いだった。

 

断る!!!!!

 

それは、そのフロアー以外の存在にも響くような大声だった。

 

「こいつからはオレの嫌いなクズの匂いがする」

 

エースのその一言を合図にガスパーデ側から複数の殺気が放たれる。

目を凝らすと暗闇に潜むようにニードルスと同等と思える実力者がこちらを見ていた。

 

「おいおい、やめねえかお前ら」

 

気だるげに手を上げ()()を制するガスパーデ。

 

「楽しみはレースまで取っておこうぜ。じゃあな新人共(ルーキーズ)

 

シュライヤが覚えていたのはそこまでだった。




そう言って風邪をひいているアホ作者


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その果てにつかみ取れ/Lがあるということ

今行っている会社の周辺でここ最近マスクとアルコールティッシュを見なくなりました。
一時の衝動買いや転売目的の方は自重してください。


「結局、目覚まさなかったなシュライヤ」

 

甲板で仁王立ちをしながらレース開始のファンファーレを待っていた。

あの後、簡易的な治療を行われたシュライヤはジャック・ポット号の私室に運び込まれ、ロビンとレイズによって治療が行われた。

数日が経ち、今なおベッドで死んだように眠るシュライヤ。

 

「体は回復してるはずだよ。あとは心の問題なんだよ」

 

その後ろでデッキチェアに座りモクテル(ノンアルコールカクテル)を飲むレイズ。

つい先ほどまでシュライヤの容態を診ていたが、医者でない彼はすでに手は尽くしたと休んでいる。

その隣ではレイズと共に現在までシュライヤの看護をしていたロビンとカリーナがレイズの肩を枕に寝ている。

 

「シューちゃんにとってガスパーデに勝てなかったことは起きるのを拒否るぐらいにショックだったのねん」

「目的がはっきりしていただけに”それ”が折れた衝撃は相当だったんだろうな」

 

出航の準備を終え、レイズの入れたお茶で休憩しているサガとベンサム。

中型船に分類されるジャック・ポット号だが、最低人数で航海ができるように作られている。

3人いれば楽に航海できるように設計された船は今、出航の合図を待っていた。

 

「いいんだ、オレはシュライヤが起きるのまってるから」

 

そう仁王立ちのまま前だけ見据えるエース。

 

そんなエースの背をレイズは眩し気に見ていた。

船全体に流した風で船底の倉庫に潜む存在を感知していたが、ぐっすりと眠るその存在に対して起きるまで放置をすると決めた。

そして、風を操り熟睡するロビンとカリーナを横にしブランケットを掛けなおすと徐に立ち上がった。

 

「シュライヤの様子見てくる、始まったら後は頼むぜ”船長(エース)”」

 

そう一言つけたすと船内へと歩いて行った。

レイズが船内へと消えてから一向に仁王立ちをやめないエース。

 

「いつまでそうしてるつもりだエース、さっさとこっち来い」

 

サガに呼ばれ後ろを振り返ったエース。

 

「ちょっちちょっちエースちゃん。なんなのようその顔」

 

振り返ったエースの顔はとてつもなくだらけ切った、見るに堪えない顔をしていた。

 

「デヘヘヘヘヘヘヘヘ、オレ”船長”だって」

 

認められたいと願っていた男に、この時だけとはいえ”船長”と呼ばれたことに嬉しさがあふれ出し、顔だけでなく全身がとろけ切っていた。

 

「ヴァカなのエースちゃん」

「バカだなエースは」

 

そんな感想を受けたエースはそれでも顔のニヤケを正せそうになかった。

 

「・・・・・・で準備は出来てるの」

 

寝起きにレイズがいないことに不機嫌を隠そうとしないカリーナ。

 

「大丈夫そうよカリーナ。あとは開幕の合図を待つだけね」

 

顔は笑顔だが雰囲気は冷たいロビン。

 

「さあ、レースを楽しもうぜ」

 

そこには、無邪気に笑うエースがいた。

 

 

レイズは船底の倉庫に来ていた。

 

「お、“これ”だな」

 

目の前に子供一人が隠れられそうな箱があった。

箱を開けると中には汚れた子供が眠っていた。

 

「・・・はぁ、起きろガキ」

 

そう言うと子供が入っている箱を転がした。

その勢いもあってか、盛大に転がりながら中の子供は転がり出てきた。

 

「痛えな、何しやがる」

 

頭をぶつけたのか痛そうに押さえながら立ち上がる子供。

その子供に冷やかな視線を向けながら床に落ちていたナイフを拾うと手で遊び始めるレイズ。

 

「はい、良いですか。君は今海賊船(に偽装しているけど)に武器を所持して密航している訳なんですが、そんな君はオレに()()されても文句が言えない、状況おわかり?」

 

そういって意味もなく笑顔を子供に向けるレイズ。

それは決して子供に向けてはいけない大人が放つ妖艶さと絶対的捕食者の側面を併せ持った笑みだった。

真っ正面からその顔を見てしまった子供は処理が追い付かず気絶した。

 

「・・・クフフフフ、シュライヤ早く起きろよ。()()()()が向こうから来てくれたぞ」

 

その呟きは船底の静かさに消えていった。

 

 

「おーおーおーおーーー。なんかすごいことになってるけど皆大丈夫?」

 

船底の倉庫から密航した子供を空気圧で作り上げた風で触れないようにして持ち上げながら、両手に飲み物と軽食を乗せたお盆を持って甲板に現れたレイズが見たのは死屍累々に甲板に寝っ転がるエースたちだった。

 

「あ、あーーーーーーーーーーーーレイズ、おま、お前何してたんだよ

 

レイズを、というかその両手にある軽食と飲み物を見て多少元気になったエースがレイズに詰め寄る。

その後ろをいつもより回転速度が遅いベンサムが、その後ろを某〇子さんのように這いずりながら近寄るサガ。

ロビンとカリーナはその場で座り込んで動く気配すらなかった。

 

「ワリィ、ワリィ。とりあえず食べれるなら食べて飲んで休んでよ。ここからはオレの能力で船進ませるから」

 

そう言うと甲板に折り畳み机を広げ持ってきた軽食(ソフトボールほどの大きさのおにぎり50個)を置くとロビンとカリーナのもとに近寄る。

その後ろではエースが両手におにぎりを持って自分たちがいかに大変な思いをしていたのかを熱弁している。

 

「二人は先にお風呂かな?もしよかったらこの子も一緒に入れてあげてよ」

 

そう言うと風で浮かせていた未だ気絶中の子供を二人の間に降ろす。

 

「別にいいけど、この子は誰よレイズ」

 

ワタシツカレテマス、カマッテクダサイイタワッテクダサイ。

そんな心の声が聞こえてきそうなカリーナの声に可笑しそうにクスリと笑いながら笑顔で爆弾を落とすレイズ。

 

「密航者」

 

レイズの発言から数秒甲板では一切の音が消えた。

 

「「「「密航者!?」」」」

「あら、大胆な子ね」

 

ロビン以外の4人は驚きのあまり疲れを忘れて叫んでいる。

マイペースなロビンがレイズには可笑しく見えた。

 

・・・・・・・・・・にいちゃん、じいちゃん

 

子供の声を聴けたのはレイズだけであった。

 




蛞蝓よりも話の進みが遅いですが、これからもよろしくお願いします。


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その果てにつかみ取れ/だから、笑うんだ

一人の子供が必死に手を伸ばしていた。

 

「・・・・、・・・・・ん」

 

その子供は川に流されている女の子を助けようと必死に手を伸ばしていた。

 

「ア・・、・・・」

 

しかし、虚しくもその手が少女の手を掴むことは無かった。

少年の目には再び少女が流されていく場面が写しだされた。

 

「たす・・、おに・・ん」

 

結果が分かっているはずなのに、少年は再び手を伸ふばす。

 

「アデ・、・デ・」

 

また、その手が少女の手を掴むことは無かった。

再び少女が流されていく場面が写しだされた。

 

「たすけて、おにいちゃん」

 

今度はしっかりと自分に助けを呼ぶ声が聞こえた。

 

「アデル、アデル」

 

そして、少女の手を掴むことができ、安堵の笑みを浮かべる少年。

次の瞬間、少女はものすごい力で少年の腕を掴むと川へと少年を引きずり込んでしまった。

もがき苦しむ少年を放そうとせず、寧ろ愉快そうに笑みを浮かべる少女。

意識がもうろうとする中、少年が少女へ目を向ける。

そこには、少女の面影もなくヘドロの化け物のような存在が自分の腕を掴み川へ引きずり込もうとしていた。

 

「オニイチャン、イッショニシノウ」

 

そう、ヘドロの化け物が自身の“妹”の声で語りかけてきたのだった。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

レースが始まり、密航者である子供が気絶している中シュライヤは悪夢と共に目覚めたのだった。

 

「お、起きたかシュライヤ。ヒデェ顔だな」

 

そして、シュライヤが一番最初に見たのはアホみたいに陽気に笑うエースの顔だった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

密航者だった子供と共にお風呂をすまして3人で現れたロビンとカリーナ。

替えの服がなかったのか、カリーナの一番丈の長いキャミソールを着せられていた子供。

 

「あ、やっぱり女の子だったんだ」

 

夕食の調理中のレイズのそんな能天気な声を聴いて、無表情のまま詰め寄るロビンとカリーナ。

恐らく子供の証言でレイズが見せた笑顔についてか、裸も見ていないのに何でわかったのかを問い詰めているのだろう。

 

 

「それで、あなたデューして密航なんて危なっかしい真似したのよぅ」

 

対面座る形になったベンサムが聞き取りを始めた。

恐らく風呂場で女性陣に色々されたのだろう、サガが持ってきたハチミツ入りのホットミルクを一口飲むとポツポツと語り始めた。

 

「オレ、ガスパーデの船で大工見習いやらされてたんだ。そこでオレを守ってくれてたじいちゃんが病気で、薬が必要で、だがら、だから目についたこの船に忍び込んだんだけど、どれが薬か解らなくて、匂いを嗅いでみたら寝ちゃった」

「船底の倉庫ってレイズが時々なにか作ってる所か」

「海王類も一発でオネムしちゃう睡眠薬とか、唐辛子の辛さだけ抽出した液体とか置いてあるあそこねぃ」

「「よく、無事だったな」」

 

実は勝手に入って痛い目にあったことのある二人は、子供があんな危険な場所にいたことに寒気を覚えていた。

 

「扉に”入るな危険”って書いてあるのに無断で入る奴が悪い」

 

そう言いながら両手にお盆を持ったレイズがキッチンから出て来た。

その後ろから少し大きめのお盆を持ったロビンとカリーナが現れた。

 

「とりあえず、一日目はお疲れ様。お腹にたまる物ってリクエストだったからグラタンにしたよ」

 

そう言うと少女の前に大きめのグラタンを置くレイズ。

サガとベンサムも各々に受け取る。

 

「オレはエースたちの様子見に行ってくるから先食べててな」

 

そう言って船内に降りる階段へと進むレイズ。

 

「あ、あとさぁ、少女よ」

 

何かを思い出したかのように立ち止まり顔だけ後ろへ向けるレイズは最近伸ばし始めた髪も相まって若干ホラーだった。

 

「素人判断で薬を持ってくのは危険だよ、後でちゃんと渡してあげるから大人しく待ってなさい」

 

言うことだけ言うと歩いて行ってしまったレイズの背中を少女はジッと見ていた。

しかし、空腹には敵わなかったようで恐る恐るであったがグラタンに口をつけるのであった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「・・・・・オレを笑いに来たのならいいタイミングだな、エース」

 

シュライヤが起きてから数分、一切会話のなかった室内で最初に言葉を発したのはそのシュライヤだった。

 

「オレは、あのクズを殺すためだけに生きてきた。後ろ暗いことも色々やらかしてきた。なのにこのザマさ」

 

そう言うと自分をあざ笑うかのように乾いた笑いを漏らすシュライヤ。

そんなシュライヤに対して何か言うわけでもなく、かといって出ていくわけでもなくエースはイスに座りながらそんなシュライヤを見続けた。

 

「結局口だけの野郎だったんだよオレは。だがら、アデルも守れなかったんだ」

 

シュライヤの独白が続くなか、徐に立ち上がりストレッチを始めたエース。

 

「笑えるだろ。なぁ、嗤えよエース」

 

入念にストレッチをするエースにシュライヤは気がつく様子を見せない。

そして、エースは最後に深呼吸をし始めた。

 

 

「・・・はっ、オレにはそんな価値もな「うるさい、女々しい」ゴハゥ!!」

 

シュライヤが続けてしゃべろうとした矢先、エースの助走をつけたドロップキックが見事に決まった。

 

「さっきから聞いてればウダウダグチグチと、まぁー女々しい」

 

つい先程まで起きる気配のなかった重症者にドロップキックをかましたとは思えないイライラした顔でシュライヤへと言葉を投げつけるエース。

最後の方はベンサム化した言い方をしているためか、育ての親であるダダンにそっくりであった。

 

「何ですかぁ~?一回負けたらそこで終わりなんですかぁ~?そもそも、作戦もなく突っ込んでいって勝てるとか本気で思ってたんですかぁ?どんだけ自信過剰なんだよお前は 」

 

ドロップキックのダメージから幾分か回復したのかヨロヨロとベッドから立ち上がるシュライヤ。

 

「エース、テメェ何しやがる」

 

怒りで全身に力が漲ったのかエースを睨み付け怒声をあげるシュライヤ。

 

「おやおや、今度は逆ギレですか~?そんなんだから負けんだよ~」

 

負けじと睨み返し、さらにシュライヤを煽るエース。

互いにてが届く位置まで歩み寄る。

方や完全にバカにした顔でおちょくるエース。

方や怒り心頭で痛みが消え去ったシュライヤ。

 

「んだよ、怪我人は大人しく寝てたらいいんじゃねえのぉ?」

 

とうとう耳までかきはじめた完全にバカにした顔のエース。

 

「テメェ、フザケンナ

 

その声と共に放たれたシュライヤの右ストレートが喧嘩の合図となった。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ドタバタと喧嘩の音がするドアの前で笑顔になっているレイズ。

食事が出来たのでエースと看護の交代に来たのだがその必要はなさそうだと満面の笑みになっている。

 

「あんら~、エースちゃんたち喧嘩?」

 

二人のケンカの音に気が付いてなのかダイニングで食事をしていた面々が全員シュライヤの部屋の前へと集まってきた。

そこには密航者の少女もいたが、彼女以外の全員が笑顔でいるのはシュライヤが起きたことを喜んでいるからだろう。

 

「起き抜けに、あの馬鹿どもは何をやっているんだ」

「サガの言うとおりね、ケンカする体力があるならこれから先の”戦闘”も大丈夫でしょ」

「あらあら、カリーナったら人使いが荒いんだから」

 

サガ、カリーナ、ロビンと三者三様の感想も信頼の証だろうか声は明るかった。

そんな時、ふと何かを思い出したかのようにレイズは少女へと視線を向けた。

 

「な、なんだよ」

 

突如注目され怪訝そうな顔をする少女。

そんな少女にレイズは”ある爆弾”を投げるタイミングを見計らっていた。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

扉の外でそんな会話がなされているとも知らずにエースとシュライヤのケンカは子供の殴り合いのようになってきていた。

 

「さっきから聞いてりゃ、女々しい女々しいと誰も死なせたことのないお前に何がわかるんだエース」

 

シュライヤのその言葉にエースの顔から一切の感情が消えた。

短い間だったとはいえ、ほぼ毎日馬鹿をしてきたエースとシュライヤだったが、そんな彼でも初めて見る顔であった。

 

「オレには2人の兄弟がいる」

 

立ち止まり動かなくなったエースから突如身の上話が始まった。

 

「兄弟っていっても杯を交わした義兄弟なんだがな、弟は泣き虫でビビりで本当に心配ばっかかけやがる」

 

その声はシュライヤだけでなく扉の前にいる全員に聞こえていた。

 

「もう一人の兄弟は同い年でな、いつかこの自由な海に冒険にくり出すことをずっと夢見てたんだ」

 

そんなエースの独白はどこか悲しみを宿し、誰も声が出せない状況になっていた。

 

「でも、そいつは、いなくなっちまった」

 

そう言ってシュライヤと目線を合わせるエース、そこには怒りの焔が宿っていた。

 

「天竜人の船の前を”横切った”。それだけで、あいつは船事砲撃されたんだ」

「オレはその事実を知らされた後、オレの兄弟に攻撃した奴を殺してやろうとして家を飛び出そうとした」

「だけど、クソババアに止められて、弟を守ると誓った兄弟の置手紙に止められて、今こうして旅をしている」

 

エースの瞳に宿っていた焔は徐々に消えていき、今はなぜかスッキリとした色を宿していた。

 

「旅を始めてカリーナが仲間に加わった時にレイズにもこの話をしたんだ。そしたらあいつなんて言いやがったと思う」

「レイズが・・・か?」

 

いつの間にか座り込んだ二人。

少しの静寂が辺りを包む。

 

「『誰も亡骸を見ていていないのに何で勝手に殺してんだ』」

「・・・はい?本当にそう言ったのか」

 

扉の前でもカリーナ以外の面々がレイズを凝視していた。

 

「おう、『誰も亡骸を見ていていないのに何で勝手に殺してんだ。なんで生きてるって信じてやれないんだ』だってさ」

 

普通であれば妄言かバカの戯言と言われるようなその言葉。

しかし、エースはなぜかスッキリとした笑顔でいた。

 

「確かに、誰も見てないんだ。そうしたらよ、兄弟のオレがあいつを、サボを信じてやれないで誰が信じてやるんだ。そう思った時、なんか体が軽くなった気がしたんだ」

 

それは、レイズが未来を知っているからこそ言えた言葉であった。

でも、レイズは本気で思っていた。

少なくとも、誰かを信じることが力になるエースを自分は信じているんだぞという意思表示も込めただったが。

 

「だから、オレは信じてるんだ。あいつはこの海のどこかで生きているんだって。今会えないのも理由があるんだってな」

 

エースの笑顔とその言葉にシュライヤはなぜか心が軽くなっていく感覚に襲われていた。

エースの顔からは「お前は違うのか」という声が聞こえてきそうであった。

体の痛みはもう引いていた。

心の痛みもなぜか軽くなっていた。

 

「ははは、バカじゃねえのお前ら」

 

シュライヤは久方ぶりに心から笑顔になれたような気がした。

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「ギュヒュ-------------、えぇ話や------------------」

 

ベンサムは扉の隙間から聞こえてきた会話に持っていたハンカチを噛みちぎれるほどに噛みしめ、床を涙で濡らしていた。

周りを見渡すとサガもそっぽを向いて自分の涙を隠そうとし、ロビンも感動を隠そうと必死になっていた。

そして、少女も感動の涙を流しているのを確認したレイズはワザと中に聞こえるように声を出した。

 

「そういえば、少女。君の名前って”アデル”っていうんだっけ?」

 

名を呼ばれた少女はポカンとした顔をしてレイズへと顔を向けた

 

「そうだけど、なんで知ってんの?」

 

心底不思議そうに見上げてくる少女アデル。

その顔があまりにもあっけにとられていた思わず吹き出しそうになったレイズ。

 

「それはね・・・・・・・・」

 

服に書いてあったよ、と嘘でもつこうとしたレイズを天罰が見舞った。

 

アデル

 

扉が勢いよく開きレイズを吹き飛ばしたのだった。

 

全身包帯まみれで顔も痣だらけのシュライヤがそこには立っていた。

そして、アデルと名乗った少女と顔を合わせた時、二人の頬に涙が流れていた。

 

「アデル・・なのか?」

「にいちゃん・・・なの?」

 

二人は恐る恐る近づく。

シュライヤがアデルに目線を合わせるように屈む。

アデルがシュライヤの顔を恐る恐る触る。

すると、二人の頬を涙が流れた。

そのまま、二人は互いを抱きしめ合うと無言で泣き続けた。

その光景を周囲は感動の涙を流しながら見守っていた。

吹き飛ばされて気絶しているレイズ以外は。



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その果てにつかみ取れ/開戦へと

「えー、というわけでとりあえずガスパーデをぶっ飛ばしに行くことになりましたが」

 

額を真っ赤にしたレイズが、無表情で話し始めたことで会議が始まった。

シュライヤとアデルの感動的再会の裏で皆に忘れ去られていたレイズはカリーナが思い出すまで気絶していた。

 

「そ、それは、解った、から、いい加減に、たすけ、助けてレイズ」

 

そして、なぜか苦しそうに話すエースは最後までレイズを指さして爆笑していた。

そんなエースは現在。

 

「トリアエズアトゴフンツイカネ」

ゴメン、マジで悪かったから、いい加減弛めてください

 

見事に極まったレイズによる逆エビ固めの餌食になっていた。

 

-”15”分後-

 

レイズの気が済むまでありとあらゆる関節技の犠牲になったエースは、疲労困憊の顔でソファーに寝そべっていた。

とりあえず言葉を上げる気力もないらしく、アデルが先ほどから突っついても反応できないでいる。

 

「さっきも言ったように、ガスパーデを追いかけてぶっ飛ばすことが決まったのですが、一つ問題があります」

 

そう言うとロビンに目配せをするレイズ。

レイズの視線を受け、自身の豊満な胸の間から配られたエターナルポースを”ムニュ”っと取り出すロビン。

なお、その時の反応は人それぞれだったと言っておこう。

 

「言われた通り調べさせてもらったけど、これはゴールへと向かうエターナルポースじゃなかったわ」

 

そう言うと島の名前が彫られていた彫金をナイフで取り外すロビン。

彫金は二重になっており、下からはエースたちにとって見知った名前が出て来たのであった。

 

「『海軍造船島』っておいおい、ガスパーデの野郎と頭目はグルだったのか」

「だとすると、ガスパーデの野郎まんまと逃げやがったということか」

 

エターナルポースをマジマジと見ながら苛立ちを隠そうとしないサガ。

ガスパーデを”ぶっ飛ばす”ことに目標を切り替えたシュライヤもその小悪党ぶりにあきれ返っていた。

 

「まあ、今頃頭目のお馬鹿さんも嵐の海域にでも送られてる頃ねぃ」

「人を信じないということは徹底しているみたいだな」

「イシシシシシシ、そ・こ・で、”これ”が役に立つのよ」

 

そういうと、カリーナもまた自身の年不相応に育った胸の谷間からある物を取り出して机の上にふわりと置いたのであった。

 

「「「「何、”これ”?????」」」」

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

 

ガスパーデ、ワシの孫はどこに行った

 

ガスパーデの海賊船「サラマンダー号」にて一人の老人が叫んでいた。

老人の名はビエラ、ガスパーデの「サラマンダー号」のボイラーマンをしている。他の海賊団員からは「モグラ」と呼ばれ蔑まれていた。

実は、溺れかけていたアデルを救い保護したが、ガスパーデの部下に捕まってしまった。

以降、ボイラー室で大人しく働いていたが、ここ最近体調を崩しベッドで横になっていた。

そして、気が付くとアデルが消えていたのであった。

 

「あぁ、ガキなんざ知らねえよ。どうせ海にでも落ちたんだろ。それよりも手前はボイラーの様子でも見てやがれ」

 

ガスパーデはそう言うとビエラを蹴り飛ばした。

この数年間、ガスパーデに一矢報いようと様々な準備をしてきた。

心の支えだった少女がいなくなった今、老人はボイラーの前で一人涙を流していた。

 

「しかし、ガスパーデ様の見事な策略には私敬服いたします、はい」

 

執事風の筋骨隆々の男性がガスパーデの隣に現れる。

 

「いきなり出てくるんじゃねえよ、”ミンチック”」

「申し訳ありません。しかし、今回のように定期的に雑魚を消し去り、収入を得られるのは大変ありがたく、はい」

 

ミンチック。

ガスパーデの側近であり、元海軍本部所属の海兵。

弱者を嬲ることに快感を覚える厄介な男でガスパーデとはその頃からの付き合いになる。

 

「しかし、”将軍閣下”。そろそろ、先の海に進んでもよい時期ではあ~りませんか?」

 

ミンチックの後ろからマカロニのような巻き毛をしたいかにも音楽家という井出達の男が現れガスパーデに声をかける。

 

「”ミルキサー”か。まぁ、手前の言う通りだな。戦力増強の目途も立ったことだし、そろそろ先に進むのもいいかもしれねえな」

「そうではあ~りませんか。ニードルス殿もそろそろ退屈でしょうし」

「そうなのか?おい、ニードルスどうなんだ」

 

壁によりかかり腕組みをしているニードルスは何の反応も示さなかった。

 

「相変わらず暗い男だぜ」

「まったくですね、はい」

「それでもよいではあ~りませんか。我々の貴重な戦力なのですから」

 

そう言うと三人は大声で笑い始めた。

天候が変わりやすいグランドライン、曇りである事から天気が崩れるのではと考え船の速度を上げるようにガスパーデが指示を出そうとしたその時だった。

 

「ガスパーデ将軍、後ろから船が追い付てきます」

「なに、そんな馬鹿なはずあるか」

「いえ、あれは参加リストにある船です。名前は」

 

 

---------------------------------------------------------------------

 

 

「あった、あれがガスパーデの船だよ」

 

小雨が舞う天候の中、船首にてアデルが声を上げている。

彼女の指差す方向にサラマンダー号が目指できる距離までエースたちは近付いていた。

 

「しかし、便利だなぁ、その”紙”」

「”ビブルカード”っていうんだよ、エースの分も作ってあるから」

「イシシシシ、レイズの手際の良さに脱帽ね。こうなる事見越してあの時気絶していたガスパーデの部下の爪切っておいたなんてね」

「まったくだぜ。それをカリーナにお使いさせて作りに行かせるなんてあの短時間で良く考え付いたな」

「シュライヤよ、レイズは策士だ。”愚鈍な馬鹿(ガスパーデ)”とは違うんだよ」

「あらあら、サガったら案外毒舌ね」

「そんなことどうでも良いのよぅ。あちしは早く戦いたくてウズウズしてきたわよぅ」

 

そんなアデルの後ろに横一列に並ぶ男女(とオカマ)。

 

「さてと、レイズ」

「“道”は造ってやる。だから」

 

レイズは瞳を閉じ、穏やかな笑みを浮かべた。

 

「存分に暴れてこい」

「「「「「「おう!!」」」」」」

 

仲間の気合いの入った声を満足そうに聞くと、レイズは一歩前へと踏み出す。

両腕を鳥が飛び立つかのように広げ、サラマンダー号へと視線を向ける。

 

凪の架け橋(エアリアル・ロード)

 

その声と共に、レイズの目の前に変化が現れた。

周囲の大気が徐々に形となっていく。

それは、アーチとなりものすごい速さでサラマンダー号へとたどり着き、風の道となった。

 

「さぁ、行ってこい」

 

そんなレイズの声に後押しされて皆が走り出した。

 

 

「(大気が更に不安定になってきてやがる。何事もなければいいけど)」

 

レイズの前方には嵐を予見させる積乱雲が渦巻いていた。

それは、これからの戦いを象徴するかのようにレイズは思えたのだった。



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その果てにつかみ取れ/心に刀を

ガスパーデの船にたどり着いたエースたちは示し合わせていたかのように全員がバラバラになって走り出した。

全員の実力を顧みて、幹部以下の相手“程度”なら戦う必要がないと判断したレイズによる速攻作戦にうってでたのであった。

そうは言っても、どこからともなく現れるガスパーデ配下の海賊たち。しかし、レイズの目論み通り障害になることもなく全員が無事に駆け抜けていった。

 

 

ーデッキ中央ー

 

 

其処には、刀を腰におさめ油断なく前方を見据えるサガがいた。

船内を移動していたはずなのに気が付いたらデッキ中央にいた彼は薄暗い船首の方から放たれる殺気を感じ取り臨戦態勢を整えていた。

 

「(この気配、感じたことがある)」

 

サガの意識がほんの少しだけズレた次の瞬間、暗がりから大型の獣を思わせる殺気が放たれた。

殺気に反応し、刀を眼前へと構えるとそこに交差するように鉄爪が鋭い音を立てながら現れる。

 

”ガスパーデ海賊艦隊・戦闘隊長 鉤爪のニードルス” V.S. ”賞金稼ぎ 銀獣のサガ”

 

二人の再戦が始まりを告げた。

 

 

雨が強まる中、互いに間合いを意識しながら相手の出方を窺うサガとニードルス。

時折、その俊足でサガに対して揺さぶりをかけるニードルスだがサガは自身に向けられる攻撃のみを的確に必要最小限の動きで避けていく。

一方でサガも自身の間合いに立ち入ったニードルスを撃退すべく刀を振るうが、ニードルスの俊足の前にダメージを与えきれずにいた。

そうして再び相手を自身の間合いギリギリに感じる位置での膠着状態となった。

 

「貴様」

「あん、なんだ」

 

突如、ニードルスがサガに話しかけてきた。

ニードルスは酒場での手合わせにも満たないやり取りで、サガのおおよその実力を把握していた。

腐っても元海兵、相手の力量を瞬時に見抜く力はこの場にいる誰よりも高いという自負がニードルスにはあった。

 

「貴様、この数日で何があった」

 

しかし、ニードルスの目の前で油断なく居合の構えを見せるサガはたった数日で見違える程に成長していた。

それは、ニードルスの経験上ありえないことではない。

ただの一介の剣士がその境地に至ることはあり得ない。

それこそ”大剣豪”と謡われる”あの男”のような存在しか、ニードルスは考え付かなかった。

そんなニードルスの問いにサガは沈黙をもって答え、そしてこの数日で己に起きた奇跡に思いをはせていた。

 

 

-----------------------------------------

 

 

「アァン、デュー、ゴラ--------

 

酒場での一件以降、サガはベンサムという強者に戦いを挑み続けていた。

サガからみてもベンサムは数段格上の戦闘者であり、その独特の戦い方は先読みを習得しようとしているサガにとって絶好の教本だった。

 

「アァン、デュー、ウォラ--------

 

そしてサガは、今日も何もできずにベンサムに吹き飛ばされ気絶してしまった。

 

「ン、ガッハハハハハハ。サガちんたらヨ~ワ~ウィ~」

 

そんな癪に障るセリフを聞きながら暗闇へと意識が沈んでいった。

気が付くと甲板のデッキチェアーに横にされていたサガは起き上がり、眼前の光景へと意識を向ける。

 

 

「アァン、デュー、ウォラ--------

ウォラ--------

「アァン、デュー、ゴラ--------

負けてたまるか

 

そこにはエースがベンサムと模擬戦の域を超えかけた戦闘を行う姿があった。

 

「悔しそうね」

 

サガの背後、正確には船内へと下るドアから出て来たカリーナの第一声に思わず否定の言葉が出かけた。

だが、今目の前で起きている光景を目の当たりにして自分に嘘をつく気はサガにはなかった。

 

「あぁ、悔しいな」

 

それほどまでにベンサムとエースの模擬戦は凄まじかった。

 

「なぁ、お前らはなんでそんなに戦えるんだ」

 

それは当然の質問であった。

非戦闘員と括られるカリーナも、ロビンとの戦闘訓練で旗を駆使した独特の戦いで制限時間全てを危なく逃げ切った。

エースとカリーナ、二人と自分の違いを知りたいと思ったサガからそんな言葉が不意に漏れたのだった。

 

 

-----------------------------------------

 

 

「・・・邪魔をするな」

「あぁん」

 

突然、ニードルスがサガに対して語りかけたきた。

 

「邪魔をするなと言っているんだ。お前たちではどう転んだところで、あの化け物を倒すことなどできない。オレから海兵の誇りを奪ったあの男だけはオレが倒す」

 

ニードルスのその発言にサガの表情が曇る。

その僅な隙を見逃す程ニードルスは甘くも優しくもなかった。

 

「(好機)」

 

自身が出せる最高速でサガへと迫るニードルス。

その鉄爪がサガの心臓を抉り取ろうとさし迫る。

その時、ニードルスは不思議な感覚に見舞われた。

視線を上げたサガと目があい、その目は憤怒に染まっていた。だが、戦闘者としての自身はサガから攻撃の気配を一切感じなかった。

 

 

-----------------------------------------

 

 

「私は心に旗を掲げているの」

 

カリーナからの返答は意味不明な物だった。

 

「あたしもエースもレイズに追い付こうと無理してたこたがあってさ。その時に、ガープ中将とレイズの会話を聞いたんだ。そしたらあの二人同じこと言ってたんだ」

「それは、一体?」

「それは、“心の真ん中に絶対譲れない象徴を掲げる”ことだってさ」

 

ひどく抽象的な答えにさすがのサガも戸惑いを隠せないでいる。

 

「自分がこう有りたいと思える何か、それが心の真ん中にあり続ければその人は何度倒れても立ち上がれるんだって」

 

そう言うとカリーナは船内へと帰っていた。

恐らくサンディとレイズが良い雰囲気になるのを邪魔するために。

 

「”絶対譲れない象徴”・・・・・かぁ」

 

それはサガが考えてこなかった気持ちの在り方だった。

我武者羅に鍛えれば体に力はつき、その力こそが刀を振るうのに重要なのだと考えていた。

 

「ちょっとちょっと、なーにを黄昏ちゃてんのサガちん」

「へいへいへいへい、次はシュライヤとサガが対戦するぜ」

「よっしゃ、それじゃ今晩のおかずをかけるぞ」

 

いつの間にかシュライヤまで加わっていた模擬戦。

その光景に頬が緩むのをサガは確かに感じていた。

 

「(それが先生の言っていた”無天の極致”なのかもしれないな)」

「バレてレイズに怒られてもオレは助けないぞ」

「「「えぇ~、助けてよ」」」

 

 

-----------------------------------------

 

 

-我が心に刀を-

 

いつになく穏やかな気持ちでサガはニードルスが突撃してくるのを見ていた。

 

-未だ鈍らなれど、いずれ世界の頂へと駆け上がるその日まで-

 

しかし、一方で灼熱の焔のような怒りが全身を駆け巡っていることも実感していた。

 

-オレは心刀(やいば)を鍛え続ける-

 

「くたばれ、剣士」

 

ニードルスがサガの間合いに触れた。

 

「一刀流」

 

この時、サガは自身の奥底で刀の抜刀する音を聞いた気がした。

 

「居合」

 

サガは慣れた動作で刀を抜き、ニードルスの鉄爪ごと刀を振るう。

 

獅子歌歌(ししそんそん)

 

 

サガの刀が砕け、サガが崩れ落ちる音がした。

その音を聞き、暗く笑うニードルス。

 

「お前からはエースのような魂が燃える熱さも、レイズのような何者にも捕らわれない風のような気高さも」

 

サガが語り掛けるのと同時にニードルスの鉄爪が砕けた。

 

「カリーナのような満月のような心を躍らせる煌びやかさも、シュライヤのような大樹のような何ものにも代えられない信念も」

 

鉄爪が砕けると今度はニードルスの体に斜めに刀傷が走る。

 

「ベンサムのような太陽のような温かさも、サンディのような咲き誇る花のような強さも何も感じない」

 

身体を起き上がらせニードルスへと視線を向けるサガ。

その目に貫かれた時、ニードルスは自身の心が折れる音が聞こえた。

 

「この船から逃げ出さずに、ガスパーデの元にい続けることを選んだ時点でお前は海兵じゃなくなったんだよ」

 

サガの声が聞こえたのかどうかは定かでないが、刀傷から大量の血を流しニードルスは気絶した。

 

「ちっ、また刀探さないとな」

 

”ガスパーデ海賊艦隊・戦闘隊長 鉤爪のニードルス” V.S. ”賞金稼ぎ 銀獣のサガ”

勝者 サガ



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その果てにつかみ取れ/至、梵呉

お久しぶりです。
一連の騒動の中、皆さんは無事に過ごされた居ましたか。
まだまだ、完全終息には至っていませんがどうかご自身と周囲の皆様のためにご自愛なあって生活してください。


ベンサムにとって人生のターニングポイントと呼ぶべき出会いが2回あった。

一つは憧れの“あの人”との出会い。

自分というあやふやな存在に対して形容しがたい違和感を常に抱えて生きてきたベンサム。

そんな自分を肯定してくれるような大きな存在。

彼の女王との出会いが、本当の自分と向き合う切っ掛けとなったのだから。

その数年後、今度は不思議な少年に出会った。

人形のように唯々、周囲を写すだけの硝子のような瞳。

目的も、夢も無く生きるだけの人形のような少年。

自分を変えてくれた、憧れの女王のように、そんな少年を変えたいと付き添い続け、別れの時に見せた笑顔の眩しさに確信した。

 

“自分はコレでいいのだ”と。

 

それから数年、自らの信念を曲げてまで掴みかけた憧れの人の行方。

またあやふやになり始めた自分は彼の少年に再会した。

そして再び、期間限定ではあるが供に戦いに身を投じている。

そんな青年になったかつての相棒に顔向けできないことだけはしたくない。

そう考えていた。

 

 

“ガスパーデ海賊艦隊 鏡舞(きょうまい)のミルキサー” V.S. “賞金稼ぎ 白鳥のベンサム”

 

 

 

「アン」

    「あん」

「デュー」

    「どー」

 

 

「「ウォラー」」

 

ベンサムの攻撃にマカロニのような巻き毛をしたいかにも音楽家という井出達の男“ミルキサー”が鏡に映したように同じ蹴りを放つ。

 

「アン」

    「あん」

「どー」

「デュー」

    

 

 

「「くぅぉらー」」

 

再び、同時に放たれる回し蹴り。

先程まで半歩遅れて放たれていたミルキサーの攻撃は徐々にベンサムの攻撃速度を上回り始めていた。

 

「ん~も~、あんたったら何なのよぅ。さっきっからあちしの“マネ”ばかりしてぃ」

 

そんな現状に苛立ちを隠せないベンサム。

反対に自慢巻き毛をきにする余裕をまで見せるミルキサー。

 

「“マネ”とは心外な。これは、わたくしの拳法」

「“ケンポウ”?」

「そう、相手の攻撃を観察し、見切り、その呼吸に合わせる。そうすることで相手の攻撃の威力を乗せた攻撃を放つ、その名も“輪唱アタック”」

 

室内での戦闘にも拘らず、何故か背面で爆発を起こすミルキサー。

煙と音がすごいだけで室内が燃えてはいなかった。

 

「うっわぁ~、ダッサ~」

 

そんなミルキサーを思わず真顔で感想を返してしまったベンサム。

しかし、誰も攻めはしないだろう。

 

「だ、ださ、ダサいとはあなた失礼ではあ~りませんか?そう言いながらもあなたは既にワタクシの美しいマッスルとこの洗練された髪型の前に他も足も出てないではあ~りませんか」

「髪型は関係ないでしょうよ」

 

多少の怒りを込めたベンサムの蹴り。

しかし、ミルキサーは気持ち悪い笑みを浮かべるとその攻撃をベンサムのようにまるでオカマを舞うように回転して避けてしまう。

 

「ふん、だから無駄だと言ってるではあ~りませんか。あなたの軟弱なマッスルではワタクシの鍛え抜かれた美しいマッスルの前には意味をなさないと」

 

そして、その回転の威力も乗った回し蹴りがベンサムを捉え壁へと打ち付ける。

 

「(うん?今の感触、少しおかしかったではあ~りませんか。まるで紙を蹴り挙げたように軽かったような?)」

 

壁まで吹き飛ばされたベンサム。

しかし、ミルキサーの考えているとおり、実は攻撃の瞬間自ら後ろに跳ぶことで勢いを殺し、ダメージを最小限に減らしていたのであった。

 

「(本当にもうジョーダンじゃないわよぅ!)」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「サッちゃん」

 

それは、久方ぶりに会ったダチからの会話から始まった。

 

「あらレイちゃんどうしたの」

 

思い起こせば、目の前の友が張り付けた表情の大半は“無”だった。

別れたあの時も最後のその一瞬までもしかしたら笑顔を見たことかなかったかもしれない。

ベンサムにとってレイズという存在は過去に置いて来てしまった後悔の象徴だったのかもしれない。

だから、あの時思わず声をかけてしまったのかもしれない。

 

「サッちゃん」

 

今まで笑顔だったレイズは一転して真剣な眼差しをベンサムへと向けている。

 

「“人の道”から外れることを一番嫌う貴方が“ソコ”に居続ける理由を聞こうとは思わない」

「レイちゃん」

「“オレ”が悪役で構わないから頼みがあるんだ」

 

そう言って笑ったレイズの顔はベンサムが知る中で最も輝いているように思えた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そろそろ、終わりにしようじゃあーりませんか」

 

 

ほんの一時、目の前の敵から意識を外していたことにベンサムは笑いそうになった。

しかし、友が建てた計略と自分の野望のために自分はこの役割を全うするほかなかった。

 

「それじゃ、死んでもらおうじゃあーりませんか」

「ふん、何ふざけたことホザイてんのよぅ。終わるのはあんたのほうよぅ」

 

二人の間合いが重なり、互いが攻撃に移ろうとした次の瞬間、突如として船が大きく揺れた。

慌てて身構え攻撃の構えを解いてしまうミルキサーに、一振りの鎗と化した強烈な脚激が突き刺さった。

次の瞬間、ミルキサーは部屋の壁を突き抜け2つ先の鉄扉まで蹴り飛ばされた。

 

「んがーっはっははー。あんた勘違いしてんじゃないの」

 

依然として揺れる船内、立ち上がることで精一杯のミルキサーの目前には目を疑う光景が映っていた。

 

「そんなブッサイクな筋肉であちしのオカマ拳法を真似しようなんて、あんたヴァカじゃないの」

 

そう言って揺れる船内で一切ぶれることなく真っすぐに自分に向かって歩いてくるベンサムの姿があった。

 

「来日も来日もレッスン、レッスン。日々レッスンに打ち込み続けたこのあちしの柔軟で柔らかなバディこそがあちしのオカマ拳法の持ち味なのよう」

「ワタクシの美しいマッスルとこの洗練された髪型をこともあろうにブ、ブサイクとは失礼な」

「もう終わりにしてあげるわ。見なさい、これこそがオカマ拳法の主役(プリマ)

 

ベンサムは懐から取り出した数字の“3”にも見える白鳥の嘴のような器具をトウシューズの先端にセットした。

 

「受けなさい、そして華々しく散るがいいわ」

「黙りなさい、ワタクシが負けるはずが有るわけ無いではあーりませんか」

 

「オカマ拳法・主役(プリマ)

       「輪唱アタック・最終楽章」

 

爆撃白鳥(ボンバルディエ)」「輪唱DEカウンター」

 

互いが技を放った瞬間、あれだけ揺れていた船は静寂を取り戻していた。

互いが己の持てる最高の技を放ち、その残心にある最中、ミルキサーは自身の勝ちを確信し笑みを浮かべた。

しかし、先に動いたのはベンサムだった。

 

「あんたの敗因はただ一つ」

 

そう言ってミルキサーを見ようとせず、そのまま自分がぶち抜いた壁から廊下へと出ていく。

 

「相手があちしだったことよぅ」

 

 

“ガスパーデ海賊艦隊 鏡舞(きょうまい)のミルキサー” V.S. “賞金稼ぎ 白鳥のベンサム”

 

勝者 ベンサム



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その果てに掴み取れー躍進と厄神ー

ワノ国編で三船長が揃った時は嬉しかったな


ガスパーデは一人船長室で酒を飲んでいた。

政府とのコネも使い大きくした自分の一味。

元々海軍の掲げる“正義”の二文字に対して何も感じていなかったガスパーデが海軍に入ったのも明確な力を手にするためだった。

ソコで出会った、出逢ってしまった“世界の暗部”とも呼べるモノにガスパーデはひどく引かれてしまった。

彼らからの提案に応じて海賊となり仕事を請け負いながら、ガスパーデは次第に逃れることの出来ない底無し沼へと墜ちていった。

 

「・・・、今回の“仕事”が済めばオレもとうとう七武海か」

 

今回のレースを最後に、ガスパーデは完全な政府側の海賊として七武海に召集されることを通達されていた。

その為、今回のレースでは自分以外の一味を“消す”必要があり、その為にこの嵐の多発地帯である海域を抜け道に選んだのだった。

外の喧騒をBGMに輝かしい未来を夢描くガスパーデ。

その最中、外の喧騒に異音が混ざっていることに気が付いてしまった。

 

「「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

 

それは、次第に自分のいる船長室に近づいてきていた。

 

「「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

 

二人分のその声に訝しげに扉へと顔を向けるガスパーデ。

飲み干した酒瓶を捨てると扉へと近づいていった。

どうせ馬鹿な部下だった(・・・)奴らが騒いでいるのだと思い、最期に顔ぐらい見てやろうと思い、扉に手をかけた。

 

「「ガスパーデは此処かーーーーー!!」」

 

その声と共に扉は蹴破られ、そこから見覚えのある顔をした男を認識したと共に、扉の破片ごとガスパーデは蹴り飛ばされたのだった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「「ガスパーデは何処だーーーーー」」

 

 

敵船に乗り込んでから、というか乗り込む前からやる気MAXだったエースとシュライヤは乗り込むやいなや目に映る敵を片っ端からぶっ飛ばしていった。

ある時は走りの勢いのままに殴り付け、そこら辺に落ちていた鉄パイプを振り回して殴り付け、我武者羅に走り回っていた。

なお、その姿をレイズが見たなら

 

「リアル海○無双だ」

 

と人知れず感動したに違いない。

とにかく、我武者羅に船内を走り回る2人だったが実は乗り込む前にレイズが言っていた言葉を頼りに突き進んでいたのであった。

 

「ガスパーデの居場所だぁ?今回は“凪の橋”創るから“風の探知網”使えないんだけど。まぁ、でもああいった馬鹿は一人になれる場所、船長室とか居るんじゃない?」

 

その言葉を頼りに偉そうな奴が居そうな扉を片っ端から蹴破っていたのであった。

 

「「ガスパーデは何処だーーーーー」」

 

また、その最中に幹部ぽい何かも吹っ飛ばしたが猪突猛進を地でいってる上にブレーキ役(レイズとアデル)不在のため、片っ端からモノを壊しながら船内を走り回っていた。

 

「「ガスパーデは何処だーーーーー」」

 

なお、先程から叫び倒しの上、破壊する船内と吹っ飛ばされる下っぱ海賊の数がそろそろ可愛そうなことになってきたのだが、ツッコミ(レイズとアデル)不在のため止まることはなかった。

そして、遂に二人は何か偉そうな奴が居そうな扉見つけやっと立ち止まったのであった。

 

「此処か?」

「どうだろうな?」

「でも、ぶっ飛ばしてない扉これだけだぜ」

「其じゃぶっ飛ばしてみるか」

「そんじゃ、シュライヤいくぞ」

「ちゃんと合わせろよ、エース」

 

二人は徐に後ろに下がり始めると、艦艇の無事な場所でたちどまった。

 

準備体操のようにその場で何度かジャンプを繰り返すとその勢いを活かして、走り出したのであった。

 

「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

そして、示し合わせたかのようにある地点でジャンプし、空中で一回転すると無事だった扉へと蹴りを放つのであった。

 

「「ガスパーデは此処かーーーーー!!」」

 

奇しくも、それは二人が探していたガスパーデが扉を開こうとしたちょうどその時であった

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あれ、此処にも居ねぇぞ」

 

自分達で壊した瓦礫を踏みながら室内へと歩いていくエース。

 

「まさか、逃げたか」

 

その後ろを、手にしたスコップを肩に担ぎながらシュライヤが着いていく。

二人が辺りを見回しながら室内に入りきった時だった。

 

「テメぇ等、何しやがんだ」

 

暗がりの置くからガスパーデの声が聞こえてきた。

二人が声がした方に顔を向けると其処には普通ではあり得ない筈の光景があった。

全身を瓦礫で貫かれ、右肩は今にも千切れそうになっており、首もあり得ない方向に曲がっているガスパーデが気だるそうに立っていた。

 

「おいおい、お前それで生きてんのかよ」

「くたばってはいねえだろうと思ってたけど、人間辞めてんなおい」

 

その光景に思わず軽口を叩いてしまうエースとシュライヤだっが、二人が瞬きをした一瞬の間に気が付くとガスパーデに顔を捕まれ、外まで押し出されてしまった。

そして、ガスパーデはその勢いのまま二人を反対側の壁へと投げ棄てたのであった。

 

「この程度、痛くも痒くもねぇ」

 

そう言うと、ガスパーデの身体中に刺さっていた瓦礫がズルリと身体から落ち、身体に空いていた穴はみるみる塞がっていった。

 

「オレは“アメアメの実”を食った全身アメ人間」

 

千切かけていた腕も曲がった首も何事もなかったかのように元に戻るとエースとシュライヤへ歩き近づいていった。

 

「打撃も斬撃も銃撃も決してオレに傷を負わせることはできない」

 

二人の近くに来る頃には、一切のダメージが痕跡をなくしていた。

 

「誰もオレを倒すことは出来ねぇんだよ」




感想は必ず拝読させていただいております。
このようなダメ作者に暖かいお言葉をかけていただき、この場を借りておれいもうしあげます。


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その果てに掴み取れー焔人ー

言い訳も出来ませんが遅くなり申し訳ありません。
皆さんが少しでも楽しんでいただけるのなら幸いです。


ジャク・ポッド号デッキには降り始めた雨にうたれながらレイズが1人仲間の帰りを待っていた。

エース達が不在の今、船に掛けた空気の橋である「凪の架け橋」の維持と襲いかかってくるガスパーデの部下達の対処に当たっているため、仲間を追いかけられないでいた。

 

「エース、みんな。無事に帰ってこいよ」

 

しかし、その目には一切の不安が写されていなかった。

彼にとって始まりはエースだったかもしれない。

現在の「フェンシルバード・レイズ」という存在が確立され、記憶と自意識の混濁が起き、自我が不安定な日々が続いたそんな時にエースと出会った。

〇〇〇〇だった頃に知りえた物語、その結末を思い出したい。

そんな願いがあったこともとうに忘れた。

今はただ仲間達と共にありたいと心から願っている。

そんなレイズの胸中を知る者はいないだろう。

だから、そんな彼の本音は一人の時に呟かれるようになった。

 

「まだまだ、旅も始まってないんだ。もっともっと世界を見て周ろうぜ」

「だから、エース」

 

その視線の先には半壊した船が見えていた。

しかし、レイズにははっきりと見えていた。

 

「こんなところで躓いてんじゃねえぞ」

 

太陽のように明るい笑顔で自分の前を走り続けるエースの姿が。

 

 

 

----------------------------

 

 

サラマンダー号のデッキでは対照的な光景が広がっていた。

船はズタボロになり廃船でももう少しマシじゃないかというような姿のデッキに無傷のガスパーデが気怠そうに立っていた。

そして、その反対側、ガスパーデが立っている場所よりは破壊の後が見当たらない。

しかし、そこに倒れ伏しているエースとシュライヤは目を背けたくなるような悲惨な有様だった。

 

「手前ら、口ほどにもねえな。まったく船をこんなに壊しやがってどうしてくれるんだ」

 

何処からか引っ張り出してきた椅子に腰かけたガスパーデが悠々と二人を見下す。

喋る気力すらないのか、荒い息を整えるのに必死で意識が飛びそうになっているエースとシュライヤ。

 

「雑魚どもが。暇つぶしにもなりゃしねえじゃねえか」

 

ガスパーデから放たれる屈辱の言葉すら返す余裕が二人にはなかった。

それでも、ガスパーデに負けたくないという二人の意地が、その闘争本能に火を入れる。

 

「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」

 

もはや獣の咆哮にも聞こえる叫びをあげてガスパーデへと突撃する二人。

そんな二人を哀れそうに見ながら椅子から立ち上がることなくガスパーデは両腕を振るった。

飴と化したその腕は鞭のように二人を捕らえ何度も何度もデッキへとぶつけ、最後に適当な壁へと投げつけた。

 

「本当に、暇つぶしにもならねえな」

 

そう呟くとガスパーデは船長室だった場所へと歩いて行った。

 

 

 

----------------------------

 

 

 

エースは歩いていた。

そこには空も大地も海もない闇だけが広がる場所だった。

足を動かすたびに闇は纏わりつき、思考が徐々に黒く染まっていくのを自覚した。

 

ロジャーに餓鬼が居たら、真っ先に殺してやるのによ

 

歩いている最中、今まで生きてきた中で言われてきた罵詈雑言が呪いのように木霊していた。

何時から歩いていたのか分からず、ただただ歩いているエース。

 

“鬼の子”なんて、居なくて正々するぜ

くたばっちまえ

ロジャーの血族は皆死んじまえばいいんだ

 

その間もひたすらに聞こえる言葉に何故か耳を覆うことすらできなかった。

そんな時だった。

 

オレの名前はサボ、いつかこの自由な海に出るのが夢なんだ

 

初めて出来た兄弟の声が聞こえた。

 

エースもサボもオレのにいちゃんだ

 

今も故郷にいるであろう弟の声が聞こえた。

 

あたしの馬鹿”息子”達を二度と理不尽にさらすんじゃねえ

 

決して認めることはないであろう義母の声が聞こえた。

 

エース、あなたはお母さんが守ってあげるからね

 

知らないはずの女性の心地いい声が聞こえた。

 

そうして、次々聞こえてくる声を目指し次第に歩みは軽く、早くなっていくエース。

 

そして、目の前には太陽のように輝く何かがあった。

その何かを前に躊躇していた次の瞬間、誰かに優しく背中を叩かれる感覚がした。

 

こんなとこで何遊んでんだよ、とっとと行こうぜエース

 

そう言われエースは後ろを振り向いた。

そこにはレイズを中心に、カリーナが、シュライヤが、サガが仲間が笑って立っていた。

仲間たちに手を伸ばした時、エースは何かに触れた感覚を持った。

周りを見渡すと瓦礫と化した部屋だった。

そこには仲間はおらず、一人倒れている自分だけがいた。

頭を振るうと自分がガスパーデにやられた記憶がよみがえってきた。

 

「しっかし、どうすればあいつを殴れるんだ」

 

考えようと腕を組んだエースの目の前に宝箱が何故かあった。

 

「なんだ、コレ?」

 

警戒心を見せることなく宝箱を開けるエース。

中には奇妙な形をした果物のようなモノが入っていた。

 

「まさか、こいつは“悪魔の実”か」

 

そんな自分のつぶやきに、以前レイズに教わったことが思い出された。

 

 

 

「“悪魔の実”を食べて能力者になることで“弱く”なることはまずない」

 

そう言い切ったレイズはソファーに座りながらオレンジジュースを飲んでいた。

 

「なんでそんな事言い切れるんだよ」

 

まだ二人で旅をしていた頃、ひょんなことからエースが「能力のアタリ・ハズレ」についてこぼしたのが始まりだった。

 

「だってよ、オレの弟は体がゴムみたいに伸びたり縮んだりするだけでレイズみたいに風を操って斬ったり浮かしたり出来ないんだぜ」

「いいかエース、悪魔の実の能力者に求められるのは発想と着眼点そして能力の理解度だとオレは思ってる」

「はっそう?ちゃくがんてん?りかいど?」

 

エースが不思議そうに顔を傾けるのを見て、レイズは徐にジュースの入ったグラスをエースの目線まで持ち上げた。

そして、能力を使用してグラスの中のジュースを自分の口に運び、ジュースを綺麗に飲みほした。

 

「風を操ると言うけど実際にオレが操っているのは“空気”。もっと詳しく言えば地面から数ミリ離れた個所から存在する“大気”を操ることでこういった芸当も行えるようになった」

「それがなんだ」

「つまり、オレの場合“大地”や海に少しでも接してしまっている個所に存在する“大気”を操作することが出来ない。それに流動的な“大気”を停止させたりすることは不可能だ」

「その代わり、一定範囲の大気を操ることで空気の中に含まれる様々なモノの濃度を上げたり下げたりできるし、お前の言ってたカマイタチで斬りつけたり、全身に大気を纏って空を飛ぶことも可能だ」

「これは、オレが今まで能力を使用してきた中でこんなことが出来るんじゃないかという発想、そもそもエアエアのエアが何なのかっていうところに疑問を持つことが出来た着眼点、そして色々と試行錯誤をしてきた結果、自分が今現状この“エアエアの実”の能力を理解しきれているから細かい操作も出来るんだ」

 

そう言うと、テーブルに置かれていた空の皿をシンクへと風に乗せて運ぶレイズ。

 

「自然系なら自分の能力がどういったものか知れば知るほどに出来ることを突き詰めれることが出来るし、動物系ならそもそも身体能力の向上が約束されているようなもんだろ」

「そんなもんかね」

「とにかく、この先もしお前が“機会”を得たとしてそれをどうするかは自分で決めろ」

「もし、オレが能力者にならずに売っぱらちまおうって言ったらどうすんだよ」

「そん時は豪勢に遊び尽くす」

 

 

 

そんな会話を思い出しながら目の前にある不思議な形の実をエースは見つめた。

 

「今、オレに必要なのは“力”だ。そうだよなレイズ」

 

エースは迷うことなく目の前の実に齧り付いた。

 

 

 

----------------------------

 

 

 

船長室の残骸でガスパーデは世界政府から預かった電伝虫の入った箱を探していた。

 

「たく使えないゴミ共ばっかだ、さっさと連絡とってこんな場所から移動するか」

 

そうぼやいていたガスパーデは突如として襲われた悪寒に後ろを振り向いた。

それと同時に瓦礫と化した船から突如巨大な火柱が立ち上がった。

その中から悠々と一人の男が姿を現した。

 

「よう、ガスパーデ」

 

それは火が徐々に人の姿を模っていき、ついに一人の男の姿となった。

 

「第二ラウンドと行こうじゃないか」

 

炎の悪魔の力を得た鬼の子。

“火拳のエース”が誕生した瞬間であった。



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作者の何となく書いた駄文

タイトル通りの話です。
本編に一切関係のない訳ではないですが、書いたので載せちゃお程度のノリです。
こんなん書いてる暇があるなら、本文さっさと書けよお前。


世界経済新聞の者です。

この度は我が社の企画にご協力いただき誠にありがとう御座います。

それでは、早速インタビューの方に入らせていただきます。

 

早速ですが、お二人の出会いについてお聞かせ願えますか。

 

「おう、あれはオレが旅でたばかりの頃だ。一人航海をしていたら海賊に囲まれたアイツがスゲー強さで立ち回ってんだよ」

「其処にオレが助太刀して、礼にと飯に誘われてな。そこで意気投合してオレが仲間に誘ったのさ」

 

なるほど、何やら噂に聞く海賊王(お父上)と冥王の出会いのようですね。

 

「まぁ~、癪だけどよ“運命”っていうのをよ初めて感じたぜ」

 

確かに、お二人の息のあった立ち回りは世間でも有名ですからね。

実際、お二人が組んでの戦闘では被害が甚大で、自然災害にカウントされているとかいないとか。

 

「会った当時から、既に戦闘に関しては一級品だったよ」

 

その後、順調に成り上がっていかれて様々な事件の果てに今に到っていられる訳ですが、かの海賊万博でも何やら自慢されていたとか。

 

「ま、兎に角よ人脈がスゴいんだよ。アイツ自身を賞品にしたレースでそれを痛感させられたというか。オレ達の飛躍の要因の一つではあるな。後、無駄に胆が据わっているからこっちがハラハラするようなこと平気でやりやがるんだよ。それで最終的に勝ちまうんだからな」

 

そういえば、以前当社から写真集を出させていただいた際も、売上も発行部数もシャッフル海賊団が一位でしたが、その後の個人発行でも一位になられてましたね。

 

「そうなんだよ、アイツが一番モテるんだよ。ウチの女共も大半はアイツ好きだしよ。だけど、アイツはオレの右腕だからな。其処んとこ忘れないで欲しいぜ」

 

確かに“白馬”の登場で一時期は人気に陰りが見えましたが、未だに当社に届くファンレターの数はトップですからね。

 

「その話、絶対にウチの女共に言うなよ。嫉妬でボコボコになるのを見てると不憫でならねぇ」

 

そこは、まぁ社長の判断ですから。

そういえば、何やら感謝されていることがあると聞きましたが?

 

「それ聞くか、まぁ“感謝”なんて大袈裟なもんじゃないんだけどよ。アイツが居てくれたから、今のオレ達があるっていうか、この世界で誰かが愛してくれてるって実感できたことかな」

 

以前、噂がたっている女性を集めて似たようなインタビューをさせていただいた際には、ホテルの一室が半壊になる大喧嘩をされましたからな。

 

「“誰が正妻か”みたいな奴だろ。お陰で1週間は毎晩絞り尽くされたアイツが不憫でならなかったぜ」

 

イヤイヤ、誠に申し訳ないことをいたしました。

最後に、一言宜しいでしょうか。

 

「まぁ、兎に角よ。オレがここまで来れたのは間違いなくアイツのお陰だ。色々と迷惑掛けるけどよ、これからもヨロシクな」

 

本日はありがとうございました。

 

短期連載:王の右腕

第一回

炎魔(えんま)太王(たいおう)ーポートガス・ゴール・D・エースの右腕

空魔(くうま)風迅(ふうじん)ーフェンシルバード・レイズ

     

 




折を見て削除する予定です。
作者なりに頑張ってますので気長に待ってやってください。


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書いたら出す。
たとえそれが下手糞でも。


「オレの財宝か、欲しけりゃくれてやる」

 

大いなる時代の転換期。

ガスパーデにとっても、その日の記憶はとても鮮明に焼き付いているはずだった。

 

「探せ!!」

 

いつからか、忘れたフリをして自分の魂に灯った筈のその何かに蓋をし続けた。

 

「この世の全てを其処に置いてきた」

 

そして、“あの男(・・・)”が浮かべた最期の表情も忘れてしまった。

 

ガスパーデも最初は純粋に世界平和のためにと海軍に入隊した新兵だった。

順調に地位が上がっていき、念願だった海軍本部への栄転が決まったその夜、全てが変わってしまった。

 

 

栄転祝いでシャボンディ諸島の歓楽街に来ていたガスパーデと本部の海兵。

楽しく飲みかわし店を出た時だった。

頭をシャボンで包んだ男が無理矢理女性を拐おうとしていた。

周囲は誰も助けようとせず、しかし懺悔の表情を顔に浮かべていた。

泣き叫ぶ女性傍らには、血だらけの男性の見るも無惨な死体が転がっていた。

激昂に駆られ女性を助けようとしたガスパーデを、後ろから物凄い力が地面に叩きつけた。

それは、先程まで一緒に飲んでいた本部の海兵だった。

 

「馬鹿野郎、“あの方がた”に楯突くな。忘れろ、お前が無茶したら俺達も殺されるんだぞ」

 

その声が呼び水になったかのように突如雨が降り始めた。

全てを覆い尽くすように。

 

ガスパーデの任務地は定例通りシャボンディ諸島だった。

そして、ガスパーデは来日も来日も“天竜人”と呼ばれる世界貴族の横行を、護衛という立場で見せられ続けた。

欲しければそれが何であれ誰のものであれ“奪い”。

飽きれば、気に入らなければそれが誰であっても“殺し”。

自身が、自身こそが優れていると自負する“傲慢”。

 

時が立つにつれてガスパーデは変わっていった。

天竜人の横行を“静観”し。

彼らの気まぐれで得られる金銭を“享受”し。

彼らの命令であれば、それが無垢な子供だろうと“殺害”した。

そんなガスパーデの心には、ある日から黒く澱んだ火が灯るようになっていった。

シャボンディ諸島での任務が終わりに近づいていたある日。

その日は朝からどしゃ降りの雨だった。

職務室で酒を飲んでいたガスパーデにアポもなく客が訪れた。

全身を白いスーツで統一した彼らの存在をガスパーデは知っていた。

 

「“CP-0(世界政府の闇)”がオレに何のようだ」

「ガスパーデ君、“我々の側”に付く気はなかい?」

 

世界政府とて一枚岩ではなかった。

ガスパーデは完全な政府の犬として海賊側から世界政府に貢献することを望まれた。

かつて、“正義の味方”を志していたガスパーデならその手を払いのけていただろう。

だが、今の彼にはその手を取ることに微塵の躊躇もなかった。

そして、手付金代わりに“能力者”となったのだった。

海軍本部へと戻り、少将となったガスパーデはCP-0から送られてきた協力者と共にとある航海で海軍から離反。

数名の“使える”人間を残し虐殺の限りを尽くした。

政府の助けもあったが、黒く淀んだ炎に焦がれた彼は数多の都市を焼き尽くし、多くの人間を惨殺し、無数の略奪品を世界政府へと秘密裏に流し続けた。

その結果、ガスパーデは「王下七武海」へ招集される程に悪名を得たのであった。

 

そんな彼にとって“DEAD END RACE”は唯一の娯楽でもあった。

世界政府から許された殺戮の手段であったが、何も気にすることなく気儘に壊せることはガスパーデにとって自身の意思が通せる場所でもあった。

今回で最後になる予定だった始まりの地点でこの目の前の男を目にするまでは。

 

粋がる賞金稼ぎを使える部下に処理させたその時、自分を見る男と目が合った。

そこには自分に対する“畏怖”もなく、ただただ目の前の景色を写しているだけのように見えた。

 

「お前ら、オレの部下になれ」

 

気が付くとそんな言葉が漏れていた。

自分でもなぜそんな言葉が出たのか理解できなかった。

 

静寂が支配する空間。

その静寂を破ったのは欄干にもたれ掛かる様にしてこちらを見ていた“銀髪”の男だった。

 

「ハハハハハハハ、エースどうする気だい?」

 

それは喜劇でも見ているような笑みを浮かべた男の笑い声だった。

何が可笑しいのか理解できずにいたその時、目の前まで来ていた男が勢いよく顔を上げ自分を“見下した”。

 

「断る!!!!!」

 

その声はけして大声と呼べるような音量ではなかった。

しかし、自分たちのいるフロアー以外の存在にも響くような大声だった。

 

「こいつからはオレの嫌いなクズの匂いがする」

 

自分を貶すようなその返答。

そして、当然とばかりに挑発してくるような笑みを浮かべる顔。

その時、ガスパーデに脳裏に一人の男の笑みが浮かび上がった。

 

その場を離れ船に戻ったガスパーデは酒を煽り続けた。

あのエースと呼ばれた男のことがどうしても頭から離れなかった。

気が付くと自分の半生を振り返っていた。

正義を求めながら明確な力を手にするために入った海軍時代。

自分の“狂気”が目覚めた“世界の暗部”との出会い。

黒く濁った炎に身を焼かれながらも次第に逃れることの出来ない底無し沼へと墜ちていった。

そんな時に討ち入りに来た馬鹿どもと最後に遊ぼうと決めこんだのだった。

結局、自分を傷付けることはできず吹き飛ばされていった二人であったが、その時見た“目”が気に入らなかった。

その目には紅蓮に燃え盛る炎が灯っていたのであった。

かつて自分が消してしまった、純粋に燃え滾る心の焔が。

苛立ちを抑え世界政府に帰りの船を寄こすよう連絡を取ろうと背を向けた時、不意に“あの時の記憶”が蘇ってきた。

 

「よう、ガスパーデ」

 

思い出せば自分の運命の転換期はいつも雨が降っているな、とガラにもなくセンチメンタルに浸っているガスパーデの心に再び黒く淀んだ炎が灯った。

目の前の箸にも棒にもかからないような雑魚と断じた男がどうしても気になった理由がハッキリと解ったからだろう。

 

「第二ラウンドと行こうじゃないか」

 

その男が浮かべた笑顔は、あの雨の日に見た“あの男(海賊王)”が浮かべた笑顔と重なって見えたからだろう。



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 皇

スッスススススランプ
くそ雑魚メンタルな作者をお許しください。


悪魔の実。

『ONE PIECCE』という物語を語る上でなくてはならないアイテムの一つとも言える。

「海の悪魔の化身」と言われる果実で、食べた者には特殊な能力を得ることが出来る。

味は非常に不味く、一口でも齧ればその齧った者が能力を得られ、余った身を食べたところで能力を得ることはできない。

同じ悪魔の実が、同時期に世界に2つ存在することはないが、悪魔の実の能力者が死ぬと、世界のどこかにその能力を秘めた悪魔の実が復活すると言われてる。

いかなる生物、果ては兵器等の無機物が食べても能力を得られる摩訶不思議な果実。

 

火。

物質と酸素が結びつくことを酸化と言い、この酸化反応がある条件で起こるときに熱と光を発する。

この時に感じる光と熱の正体が火・炎といわれている“現象”。

 

原作のエースは自身を火に変えていたが、実際にはどのようなプロセスを経てその能力は使われていたのか。

そして、彼は何をエネルギーとしての炎を燃やし続けたのか。

 

悪魔の実を口にした瞬間、エースは不思議な感覚に襲われた。

エースを囲うようにしてボンヤリと人影が現れたからであった。

 

“歴史のその先を見るために”

 

レイズが。

 

“理不尽から希望を盗み返すために”

 

カリーナが。

 

“世界最高の剣士になるために”

 

サガが。

そして

 

“この“カリ”を帰して、新しい夢のために”

 

シュライヤの全員の声が聞こえてきたような錯覚を覚えた。

レイズと旅をする中で、時折“誰か”の声が聞こえるような気がしていたエース。

ボンヤリと聞こえていた声が、今はハッキリと聞こえた気がした。

自分の身体の中心に本来では感じられない筈の熱を感じ取っていた。

 

「“心火”」

 

その呟きに反応するようにエースを中心に巨大な火柱が立ち上がった。

 

「あぁ、そうか」

 

エースが感じているこの僅かな時間。

もしかしたら、数秒にも満たない時間の筈なのにエースは長い時間に感じていた。

 

「オレは、“火”だ」

「オレが前を走っているのに、そんなオレが迷ったら仲間に迷惑だよな」

 

エースは火柱の中、握り締めた拳を空へと掲げる。

 

「今一度、オレは誓うぜ」

「オレはこの海で誰よりも自由に生きてやる」

「オレは仲間のために前に走り続けてやる」

「その為に」

 

掲げていた拳を胸の前に置き、熱が灯った体の中心にエースが拳を叩きつけると、エースの周りで燃え盛っていた炎は更に勢いをまし、その火柱は空を貫いた。

 

「オレはこの心に宿る火を、“心火”を燃やし続ける」

 

そんな呟きと同時に、一歩を踏み出そうとしたエースを誰かが背中を押した気がした。

 

“いつまでも待たせんじゃねえよ”

“そんな奴に遊んでる余裕あるの?”

“さっさと決めて帰ってこい”

“頼んだぜ、エース”

 

そんな、仲間達の声に推されるような感覚がひどく心地よかったエースだった。

一歩踏み出した足は軽く、ついさっきまでエースが感じていた痛みや疲労感を感じさせない、まるで気の合う仲間と冒険に繰り出そうとしているような感覚をエースに与えた。

 

「よう、ガスパーデ」

 

先程まで感じていた筈の強さが目の前の敵からは感じられなかった。

自らを濡らすように降る雨すらも今のエースにとっては心地よさを与えるモノでしかなかった。

 

「第二ラウンドと行こうじゃないか」

 

ふと気が付くとこの場を覆っていた真っ黒い雨雲はエースの頭上のみ消え去り、エースだけが快晴の空のした無邪気に笑っていたのだった。

エースは不思議と負ける気がしなかった。

 

その一言が切欠になったのか、ガスパーでは今までの気だるげな動きが嘘のようにエースへと突撃してきた。

全身をトゲで覆い突進してくるその姿は巨大な鉄球を思わせる。

ガスパーデ渾身の突撃を前にエースはただ立ち尽くしているかの様に思えた。

しかし、ガスパーデがエースに当たったその時エースの姿が霞のように揺らぎ消えた。

 

歩斑陽炎(ほむらかげろう)

 

エースの声はガスパーデの遥か後ろから聞こえ、その姿を現した。

 

「レイズの言う通りだ、何がしたいか体がその通り動いてくれる。まるで昔からこの(メラメラ)能力を知っていたように」

「てめぇ、何だ今のは」

 

雨が強さを増すなか、互いに牽制をし合うように話し始めるエースとガスパーデ。

 

「元海軍のお前なら知ってるだろ?“剃”と炎の力を使った幻影だよ」

 

そう、エースが呟くとエースの姿がまた揺らぎ、ガスパーデの後ろに姿を現す。

 

「能力を得たからといって油断はしねぇ。能力の細かい調整、何より能力に対する理解力は今しがた能力者になったオレよりガスパーデ、お前の方が上手だ」

「何を長々と負けた時の言い訳か」

 

エースを嘲笑うかの様に顔を歪めるガスパーデに対し、不遜な態度を崩さず、勝ち誇ったかのような顔をするエース。

 

「いや」

 

エースが顔をあげる。

 

「時間稼ぎだ」

 

その時、ガスパーデに二つの麻袋が投げつけられた。

ガスパーデは咄嗟に両腕を刃状にし袋を切り付けると中から白い粉が溢れだした。

 

「よう、知ってるかガスパーデ」

 

袋を投げつけた張本人であるシュライヤは、瓦礫に腰かけると憎んでいるはずのガスパーデに気軽に話しかけた。

 

「飴を細工する時、職人によっては手に粉を付けるんだそうだ」

「それが?何だってんだ」

「そうするとな」

 

シュライヤの言葉に続くように、今度はエースがガスパーデに飛びかかった。

物理攻撃に対してダメージを受けない自身のあるガスパーデは不敵に笑っていた。

 

「飴が掴みやすく成るんだそうだ」

 

エースの握りしめた拳はガスパーデの予想に反して深々と体に突き刺さるようにダメージを与えた。

 

エース(船長)、あとは任せるぞ」

 

そう言うと気絶するように倒れるシュライヤ。

 

「おう、任せとけ」

 

そう言って肩をグルグルと回しガスバーデはと歩みを進めるエース。

肩を回し終えたエースはそのまま助走を付けてガスパーデへと走り出した。方やガスパーデも全身をトゲで覆いエースの攻撃を防ぐ準備をした。

この時、ガスパーデは思い違いをしていた。

エースの食べた悪魔の実が超人系だと。

それが勝負を分けたのだった。

走り出したエースはその勢いのまま、全身を炎に変じさせ、速度を上げた。

その勢いのまま 利き手の右手を引き、左手は狙いを定めるように眼前へとつきだした。

炎と速さ、この二つが一気に右手に収束していき、気が付くとエースは叫んでいた。

 

火拳(ひけん)

 

紅蓮の拳がガスパーデに突き刺さり、その勢いのままガスパーデは瓦礫と化した船の外に飛ばされていった。

そして、発達した積乱雲へと飲み込まれたのだった。



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