最低最悪の魔王 (瞬瞬必生)
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原作開始前
プロローグ


肉体を失い、刹那とも永遠とも取れぬ時間を、少年は過ごす。

目の前には様々な色彩で彩られており、それが無限に広がる世界で輝く、物語だと気付く。

 

数多の世界を彩る物語、それは……悲劇の物語。

 

——ある人は言った。死んでいく人を見たくない、と。助けられるものなら、苦しむ人々全てを助けることは出来ないかと。

 

元々、それは無理な話なのだ。

尽きることのない悪意と敵意により、繰り返されるのは憎悪の連鎖。勘違い、些細なすれ違いから起こる、争いの数々。

幸福の席は限られている。その席に座れるのはいつだって、全体よりも少ない人数。

相手が自分の意思や願いを尊重してくれるとは限らない。

当然、敵は尊重してくれない。

それが現実だ。

 

それでも。

 

世界にあるのは悲しみだけではない。たとえ花は枯れようと、枯れた花は腐って土に還り、またその上に花が咲く。

幸福も不幸も流転するもの。

この世界は不幸だけで構成されたものではないのだ。

 

目の前に広がる物語には、ヒーローがいた。

 

 

究極の闇に抗い伝説を塗り替えた戦士

創造主から人の運命を取り戻した戦士

自らの命を犠牲にしてまで戦いを止めようとした戦士

人々の夢を守るために戦った戦士

世界と友、どちらも救うために運命と戦う戦士

鍛え抜かれた、人知れず戦う鬼の戦士

神の如き速さで、時間の狭間で戦う戦士

時間を駆け抜け、時を守る戦士

相容れぬ人と魔のハーフとして生まれた戦士

二人で一人の、探偵にして戦士

どこまでも腕を伸ばす戦士

友と共に青春を生きる戦士

希望にして魔法使いの戦士

人を超越し、それでも人の優しさを信じる戦士

車を駆る、刑事にして戦士

死して尚、命を燃やす戦士

人々の命を救う医者にして戦士

愛と平和の為に戦った戦士

そして、最高最善の王を目指した戦士

 

 

悪意と敵意だけでなく、そんな悪意に立ち向かう世界の守り手たるヒーロー達がいた。

誰の心にもヒーローがいることに、誰だってヒーローになれることに気付いた少年は、託された力を片手に、夜明けへと進むために立ち上がった。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

この世界に、仮面ライダーというモノは存在しない。都市伝説にも、伝記にも、テレビの中の絵空事ですらない。

その名を知っているものは誰もおらず、人々の記憶に残ることも、認知されることもない。

果たして、仮面ライダーがいないことは喜ぶべきことなのか否か。

 

仮面で顔を隠し、その表情を偽りながら戦う人がいない、ということ自体は喜ぶべきなのかもしれない。

彼らの様な人が戦わないので済むのであれば、それに越したことはない。誰もがそう思うだろう。

が、彼らがいない=世界が平和である、なんて等式が成り立つわけではない。どうやら世界はそんな単純な作りではないらしい。

彼らがいなくても世界には悲劇が、悪意が満ち溢れている。

 

なら、もし彼らが、ヒーローがいたら平和だったのだろうか?

 

ヒーローが居るから平和、というのは論法としてありえない。

何しろ、正義の味方が活動しているという事は、彼らが戦わなければならない、すなわち、倒すべき悪が世界に存在しているという事になる。

もっとも、この世界に存在しているのは悪意だけでなく、まったく未知の超常の災害もあるのだが。

しかもその災害に関して、俺は一切の知識を持たない。周りにとっては常識でも、俺にとっては常識ではなく。俺にとっては常識でも、周りにとっては常識ではなく。

知識がない、というのは恐ろしいものだ。何が正しいのか、どう行動すれば良いのか、全てが不明なのだ、恐ろしくないわけがない。

 

人類共通の脅威とされ、人類を脅かす認定特異災害——ノイズには位相差障壁という物理法則から切り離された能力があるらしい。これにより、物理法則に則って人類が築き上げてきた叡智の結晶とも言える兵器はほぼ無意味と化した。

一応ほぼ、であり、効率を考えず絶え間なく攻撃を仕掛ける長時間の飽和攻撃によって殲滅は可能とのことだが、そんな攻撃を街中でしようものなら都市が機能不全になること待ったなしである。

ノイズとは即ち災害。災害相手に人間は殴る蹴る、なんて愚かな真似はしない。

有用かどうかはともかく、シェルターに引きこもり去るのを待つばかり。

政府に情報操作がされている様な気がしなくもないが、一般市民には知る由もなし。

 

仮面ライダーは存在しない。

でも、その力は、ここにある。

…………。

ああ、まったく。

彼らの代わりが、果たして本当に務まるのだろうか。

彼らの様に、人間の自由の為に戦えるだろうか。

 

「ーーーーーー!」

 

こうして、何処からともなくいきなり出現して、人々を炭素の塊にしてしまうモノが存在する、この世界で。

果たして、ライダーの記憶を人々に刻むことが出来るのだろうか。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

逃げ惑う人々を背に、少年は歩きながら目を細める。

逃げるのに夢中な人々はその場から離れることに、或いは足を動かすことに集中しており、誰も少年に意識など割いていない。

とあるライダーの力を借りて磁場を発生させ、監視カメラからその姿を消す。

油断なく、そして慢心なく、呟く。

 

「変身」

 

少年の腹部に、ベルトのバックルが浮かび上がり、周辺の地面は大きくヒビ割れながら巨大で赤黒く燃える時計が出現。

無数の赤黒い帯状のエフェクトが回転し、異形の姿を形成。

その姿は、人によっては悪趣味な高級時計のような印象を与えかねない装飾を付け全身が黒と金で統一されている。

その姿は見る者によっては『魔王』と印象付けることだろう。

 

「祝え」

 

様々な形のノイズに、少年が変身した異形がゆっくりと歩み寄る。

走ることはなく、王者の如き歩み。寧ろノイズがその異形へと駆け出していく。

その光景を見て、誰かが悲鳴をあげる。当然だ、ノイズに触れられた者は皆、抵抗する間も無く炭素へと変えられてしまうのだから。

 

故に災害。

故に避けられぬ死。

 

しかし、ソレは例外であった。

 

軍団と化したノイズが集まっていくが、ソレが片手を軽く振るっただけで大爆発を起こし雑音を一掃、更に自身の数倍の体格を持つ種類のノイズですら念動力の様な力で次々と投げ飛ばし、投げ飛ばした先でその存在を消し去った。

また手をかざしただけで、人々に襲いかかるノイズを時間停止したかの如くその場に静止させ、塵も残さずに消滅させた。

 

「侮るなよ、仮面ライダーの力を」

 

「仮面、ライダー?」

 

自分達の知らない単語に、近くにいた者達が繰り返す。

異形の姿を表す単語なのか、はたまた彼らを襲っていたノイズを消し去った能力を指す単語なのか。

 

何が起こったのかは誰一人として理解出来なかった。それでも、自分達は助かったのだと、その点だけは徐々に理解しだす。

 

「た、助かった……?」

 

「ねね、アレの写真撮っとこ」

 

「そうね……あれ?」

 

懐からデバイスを取り出し操作を始め、災害を駆逐した異形の姿を撮ろうとする。

瞬間。

その異形の姿は何処にも見当たらなかった。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

異形の姿を持つ黄金の戦士はそれ以来、突如として人々の前に現れた。

いや、ノイズが現れるとまた、その存在も現れた。

人々がノイズの襲撃で大混乱に陥っている最中、それは何も語ることもなく、ノイズの脅威に怯えることもなく、圧倒的な力でノイズを組み伏せた。

 

しかし、意外な事にその姿はどの記録にも残ることはなかった。

その姿をカメラなどに収めようとすれば、たちまちノイズのようなものが走り、まともに映すことが出来なかったのだ。

故に、世間にその存在を認知されながらもその姿が一切報道されないというあやふやな存在でもあった。目撃した者は確かにいる、が、証拠となるものが一切出てこない。

その為、マスコミは騒ぐに騒いだ。

 

その異形は何者なのか?

その異形は味方なのか?

その異形は本当に存在するのか?

 

それでも、皆が讃えたものだ。何故なら、これほど心強いものはなかったからだ。

災害であり、人の身ではどうすることもできない死の運命であったノイズを倒してくれる。あれほど恐ろしかったノイズを何でもないかの如く消し去ってくれる。

 

まるでヒーローだと。

正義の味方だと呼ばれていた。

 

皆がその正体に関心を持った。一体どのような人物なのだろうか、と。

しかし、彼が表に出ることはなく、ノイズの襲撃の現場に偶々いた記者の質問にも何一つ答えることはなかった。

 

そして、次第に。

より恐ろしいものとして、人々の目に映っていくこととなった。

なにしろ絶対的な力の持ち主だ。

どんな軍隊、政府であれ、ソレには敵わないのだ。むしろ、脅威とも言える。

あらゆる交渉、勧誘、果てには説得すら、ソレには通じなかったのだから。

 

その異形は、人々にとって正体不明な存在に映り、その疑いは加速する。

……理由など、語る必要もない。

一体どこの、誰が、何の見返りもなく、他人の為にその超常の力を使えるのだろう———?

 

『アイツは、きっと何か恐ろしい企みを持っているのではないか?』

 

『我々はあの存在の力に騙されているのではないか?』

 

『ノイズはアイツのせいで出現しているのではないか?』

 

疑心暗鬼がいらぬ風評を呼び、その風評はまるで真実かの如く広まった。

その結果が、ヒーローから魔王への転換。

こうして人々のヒーローであろうとした存在は、あっさり魔王へとジョブチェンジすることとなった。

 

これはきっと、その異形の誤算……であったのだろう。各国の政府は異形が恐ろしくなったのだ。

 

『この異形は、ノイズを殲滅する為に力を振るっているのかもしれないが———』

 

『いつか異形にとっての悪となれば、その力は此方に向けられる事になるだろう』

 

人々を助けるヒーローだと思っていた存在が、その実、破壊の限りを尽くす魔王だとしたら。

ノイズ以上の被害をもたらす悪魔だとしたら。

……だからこそ、政府は恐れた。

蹂躙されるノイズ達の姿は、未来の自分達の姿だと。

 

それでも、ソレは戦い続けた。

例え後ろ指を指されようとも。

 

特異災害対策機動部二課司令官、風鳴弦十郎は初めてそれを現実に視た時、恐ろしいと。そう言わざるを得なかった。

 

ノイズ襲撃の連絡を受け、更には魔王と呼ばれる異形の存在の目撃情報も重なり、司令自ら出向いた。

見極めねばならない。弦十郎は無意識に恐れる心から目を背け、現場へと急行した。

 

場所は某所の空き地。星々の微かな光が照らす深夜の闇の中、軍団と化した雑音と一人戦う魔王が居た。

深夜という本来なら静寂に包まれた時間帯。

ドン、ドン、ドン、と。

まるで爆発の中にいるかの様な爆音が、静寂を保っていた闇をを塗りつぶす様に大きく響く。

そして、弦十郎はその姿を遂に見た。

 

強い、極限的に。

その強さ、噂に違わぬ魔王の如し。

 

圧倒的な力を誇る魔王は、かつて人々を苦しめたノイズ達をそれぞれその手で直接触れることもなく掃討していく。

唯一ノイズに対抗できる装備と思われていたシンフォギアですら、この様なことはできない。

 

手をかざし、周囲にいた全てのノイズを消し去る。

その後に遺るものなど何もない。

風に吹かれた炭素が静かに空に舞う。

騒がしいほどの雑音は静寂へと変わり、ただ一人の勝者である魔王を包んだ。

 

物陰から一部始終を眺めていた弦十郎は駆け寄り彼を引き止めた。

 

「漸く会えたな、噂の戦士……」

 

 突然現れた弦十郎にちらりと真っ赤な複眼?を向ける。

 

「ラ、イダー……?」

 

顔にセットされた文字を見て、思わず声に出して呟いてしまう。

一体どのような意味が込められているのか。それは何を意味するのか。

聞きたいことは山程あった。だが、弦十郎が聞こうとするとその存在はその場から立ち去ろうとした。

 

「待ってくれ! きみは……っ」

 

聞きたいことは確かに山程ある。が、一番気になっていたことを、彼は聞く事にした。

 

「なんで、風評を否定しない」

 

 

沈黙。

魔王は数秒の間を置き、視線を弦十郎から外す。何かしらの感情が込められている訳でもない。

無機質、とも言える視線。

人とは違うその姿からは、表情を読み取ることも出来ない。

 

「意味のないことだ」

 

「ほう、ならば聞かせてくれ。君の目的と名を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正義。仮面ライダーオーマジオウ 」




ライダーがいない? なら誕生させればいいじゃない!
なお、纏まるかは未定

オーマジオウを見た私の感想
最初「おっ、主人公の闇堕ちルートのやつかな?」
中盤「アドバイスするなんて元気なお爺ちゃんやな」
映画視聴後「あっ、あっ、あっ……」
最終回「(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: サラサラ..」

感想、質問何でもござれ
ドMなんで批判ですら喜んじゃうかも


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仮面の噂

ソレは人類の敵か味方か、謎の異形の秘密に迫る!

……などという見出しの記事がそれなりに見られ初めたのは、異形の存在が世に広まり出した証拠と言えるだろう。

政府からの公式発表は相変わらず無く、ノイズの様な災害とも囁かれていたものの、明らかにノイズだけを襲う姿が複数確認されたのがことの始まりだ。

認定特異災害であるノイズとの交戦時、ノイズを倒し──いや、蹂躙した際に披露した力は、偶々近くにいたマスコミや市民により世間に知れ渡る事となり、撮影は出来なかったものの録音には奇跡的に成功した事により、異形が発した言葉は水面下で広がっていた。

それに確かなソースは無く、噂としてだけ広がる、ノイズとは違う異形を示す言葉。

 

『仮面ライダー』

 

人型の姿をとっており、しかし、その力は人間の常識を超えており物理法則すらも軽く凌駕している異形が話題にならない筈がない。

記録に残らないという特異体質の所為で動画や写真を残せないといった状況であるが故に、マスコミは人々の噂、証言、更には憶測で報道するという事態。

騒ぐのはマスコミだけでなく、インターネット上の掲示板なども同様。『仮面ライダー』

という存在は、ゆっくりと世間に広まっていった。

その噂は不確かなまま、誰が訂正できるでもない場所で、静かにその存在感を増していく『仮面ライダー』の話題。

良くも悪くも、『仮面ライダー』は人々にその存在を認知させていき、果てには実際に会ってみようなんて馬鹿げた企画を考案する人もチラホラ。

 

しかし、一部に期待された馬鹿げた企画も虚しく、異形との接触に成功した者はいない。ノイズが現れた際、遠目からその姿を確認する、という事は何度かあったらしいが直接会って取材すること成功させた記者はいない。そもそも意思疎通が出来るのか? と疑問を投げ掛ける声も上がっているが、言語を話せるのだから意思疎通は可能という見解が多い。

 

人々の期待とは裏腹に、幾たびのノイズとの交戦を経て尚『仮面ライダー』は表舞台に立つことはなかった。

これまで、ノイズに関連する目的で活動しているのではないかと思われる程にノイズを蹂躙してきた異形の存在。

一部の自称情報通の間では政府による生体兵器だと囁かれ始め、それと同時に『仮面ライダー』に関する情報は政府に規制され出し、新たな波紋を呼んだ。

そんな中、『仮面ライダー』の目的を知る者が、僅かながらに存在していた。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

特異災害対策機動部二課本部。

主に世間に知られている一課と違い二課は――ノイズ被害の対策を担っているのだが、唯一対抗策である物を所持している。それがシンフォギアシステムである。

元々は第二次世界大戦時に旧陸軍が組織した特務室『風鳴機関』を前身とし、 世界に先駆けてノイズを駆逐する有効手段を研究してきた特異災害対策機動部二課は、 ノイズ対策における先端組織であり、 世界規模で人類守護の砦として機能している。

のだが。

突如現れた、ノイズと交戦する、仮面ライダーを自称する異形。

ノイズに対して人類は打ち勝つことはできず、人の身でノイズに触れることは即ち、炭となって消える事を意味している。どれだけ身体を鍛えようが、どんな最新鋭装備を身に纏おうが、結果は皆同じ。また、ダメージを与えることもできない。

たった一つの例外が、シンフォギアだった。

 

しかし、例外がシンフォギアだけではなかった。

 

「仮面ライダー、か」

 

「あら、やっぱりあなたでも会話は不可能だった?」

 

「会話らしい会話はしていない。だが、奴の言葉に嘘がなければ……協力を要請出来そうなものなんだがな」

 

とある部屋にて、風鳴弦十郎と櫻井了子は眉間に皺を寄せてノイズの入った映像を参照していた。

 

『正義。仮面ライダーオーマジオウ』

 

戦闘時、ノイズを蹂躙していたらしい部分はいつものように記録出来ておらず未だ力は不明のままだが、ノイズが消えた後の風鳴弦十郎とのやり取りは例外だったのだ。

まだ幼さが残る、少年らしい声。

簡潔かつ、非常に定義が曖昧な目的と彼を表すであろう名前で〆られた言葉。

目的にしては純粋すぎる言葉に、彼らと目的が一緒であるであろうが故に、頭を悩ませる。

 

「再び、なんとか接触出来ないものか」

 

あれ以来、特異災害対策機動部二課はなんとかして接触を試みているものの、オーマジオウに接触は出来ていない。

オーマジオウは、ノイズが現れる場所に現れるということは確定している。しかし、移動手段が見当もつかないのだ。

ノイズが現れたと思えばその場に出現し、いざ戦闘が終わればその姿は消えている。まるで、最初からいなかったかのように。

単純に移動速度が速いのか、それともワープのような手段を取っているのか、或いはその姿を透明にしているのか。

 

「奴の力、あれはシンフォギアなのか……?」

 

「私からはなんとも。証言だけで、映像も残らないんじゃ推測の域を出ないわ。新しい聖遺物なのか、それとも別の由来の力なのか……候補は挙げられても絞り込むのは無理よ」

 

オーマジオウの力は現状、不明としか言いようがない。

ノイズに立ち向かえることから人智を超えた力ではあると分かるが、それが聖遺物関連の力なのかどうかは調べてみなければ分かるはずもない。

そして、その力を調べようにも映像などといった証拠は一切残らないため、技術部は更に頭を悩ませる。目撃情報の中には、まるでノイズの時間を停止させたかの様な動きさえ報告されている。

そして、解せないのが

 

「倒壊した建物の修復、ねぇ。謎の波動によって修復って報告書にはあるけど、いったいどんなテクノロジーなのかしらね?」

 

その言葉とは裏腹に、果たしてテクノロジーと呼んでいいのかという疑問が櫻井了子の頭をよぎる。

時間を操るなど神に等しい力であり、それをむやみやたらに使うなど一体どんな存在だというのか。

噂によれば、米国といった諸外国ではオーマジオウを捕獲、或いは死体の確保を試みているらしい。あわよくばその力を解明し、兵器に転用するのが大方の目的だろうと櫻井了子は予想している。

目的はなんであれ、アレは人を超越した何かだ。そんなものを制御出来るとは思えないし、制御出来ない兵器は最早兵器とは呼べない。

 

「シンフォギアと同じ、人智を超えた力とはな」

 

「どうするの?」

 

「ノイズと戦っていくのであればいずれ再び接触する機会もあるだろう。二人には細心の注意を払って行動してもらうしかない」

 

特異災害対策機動部二課のその目的上、オーマジオウと再び接触する機会は決してゼロではない。

こちらもまたノイズから人々の命を守る事を目的としている以上、現場での遭遇かつ接触は近いうちに訪れることだろう。

問題は接触した後のことなのだが、

 

「こればっかりは現場のアドリブになりそうね」

 

「やむを得まい」

 

そうするしか方法は無いしな。

そう言葉を続ける弦十郎を他所に、櫻井了子は、頰に手を当てたまま考えを巡らす。

この力は利用価値があるのか?

いったい何処の誰の力なのか?

 

目的、思想、それらがより分かればやりようはある。

 

(ちょっと、計画は見直さないといけないかしら)

 

シンフォギアと同じく、人智を超えた力。

それがどうした。

やるべきことは決まっている。

ならば、それに向かって走り続けるのみ。

 

櫻井了子は決意を新たにした。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

平和な世界がなにより、とはよく言ったものだ。

誰だって死ぬのは当然嫌だし、命を常に脅かすことになる戦争なども無いのが一番であるし、災害は起こらないに越したことはない。

だけど、残念ながらそれら全てがなくなるなんてことは理想を通り越して妄想に過ぎない。

 

現に、この世界ではノイズなんてよくわからない災害まである始末。災害として教科書に載っているもんだから台風や地震の様なものを俺はイメージしていたのだが、あれは予想外すぎた。

化け物じゃん、あれ。

アレに襲われて触れられると炭になります、なんて教科書に書いてあった時はまるで意味がわからなかったが、その現場を見たことで言葉通りだという事がよくわかった。

 

災害というよりももっと別の何かな気がしないでもないが、人が無力という点に関しては災害と同じなのだろう。

人の体が炭になる、というのがよくわからない理屈なのだろうが、果たして本当に自然の産物なのだろうか? 正直、どっかの国の生物兵器、或いは化学兵器と言われた方が納得出来る。

 

兵器と言えば、どっかのアングラサイト()によれば、オーマジオウは政府によって造られた生物兵器なのかもしれない、なんて突拍子もないことを囁かれているのを見て思わず頭を抱えてしまった。ライダーの力を兵器呼ばわりされるなんて、きっと天才物理学者が黙ってはいないだろう。

所詮、ネット内の戯言と思って放置していたが最近ではマスコミすらそんな戯言を報道する始末。

何故にこう、マスコミはおかしな報道しかしないのか。

 

こうなってくると今後の動きを見直さなければいけなくなってくる。ノイズが現れた場所に飛んでいって倒したら即退散を信条にやってきたが、その無計画な動きも今後は控えるべきか。

テレビの様に事件の現場に行き、解決してそのまま帰る、というのは現実では些か厳しい。

映像などには残らないよう工夫しておいたが、まさかただの目撃談だけでここまでなるとは正直俺の想像力不足だった。

俺の知ってる災害を例にあげれば、俺のしていることは台風に向かってパンチして消し去っているようなものなのだ。話題にならないわけがない。

 

物理による"今から晴れるよ"……確かにヤバイ。

 

閑話休題。

 

オーマジオウの力を人々の為に使おうと決意してはや数ヶ月。正直に言うと、ゴールが見えなかった。

ノイズは倒しても倒してもキリがなく、数が圧倒的に多い。災害、という意味では確かにキリがないのは当たり前なのだが、最近は現れる数が異常だ。

調べた限り、人がノイズに遭遇する確率は東京都民が一生涯に通り魔事件に巻き込まれる確率を下回る、となっていたはずなのだが……最近は一週間に一度のペースで現れている気がする。

この世界では通り魔が二日に一度のペースで現れるのであれば情報通りの出現率だが、幾ら何でもそれはありえない。現に、ニュースで異常事態と報じられている。

 

さて、どうしたものか。

 

「総悟くーん、ご飯できたよ」

 

と、対抗策を考えていたところでおじさんが部屋に入ってきた。

壁掛け時計を見ると、もう七時を回っている。

どうりで腹が減ってきていたわけだ。腹が減ってはなんとやら、一先ずはご飯を食べることにしよう。

もっとも、深夜にノイズが現れるのは勘弁願いたい。

 

「今行くー」

 

「あと、ご飯食べたらお風呂入っちゃってね。もう沸いてるから」

 

「はーい」

 

人助けもするが、出されたご飯はちゃんと食う。

何しろ俺は人間なのだから。

自分の部屋を出て、おじさんが待つ台所へと向かう。

今日はまだノイズも出ていないことだし、実にいい日だ。

まだノイズに関する事柄について原因解明の糸口は無い。

だが、慌てる必要も無いだろう。

ノイズが現れても近くに人がいなければノイズはその場から動かないし、ある程度の数ならば一瞬で殲滅できる。

気長にやろう。

でも、なるべく急ごう。

もしかしたら、の話だけど、これが大災害の前兆なのかもしれないのだから。

 

 

 




まさかプロローグの時点で様々な感想、評価をいただけて嬉しいでござるの巻
やっぱみんなシンフォギアと仮面ライダーが好きなんやなって
投稿ペースはゆっくりなので気長にお待ちいただければ、と

どんな感想も待っています。ついでに高評価も待っています。
ドシドシ送るのじゃ

祝ってくれてもいいのよ? いや、祝うべきなのでは……?
祝えと言っている……


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歌の戦士

時折、まだ会話とかをしたわけではないのだが、ノイズと戦う人達——少女達を目にする。

ライダーの力のせいで忘れがちになるが、ノイズは災害であり人の身ではどうしようもない存在であり、逃げるのが最善の選択となる。にも関わらず、ノイズと戦えているというのはどういう事なのだろうか。

俺の調べた範囲では、圧倒的な武力を誇るはずの軍隊でさえノイズには手出しできないのが現状であり、市民はシェルターに避難するのが最優先で警察などはその補助をしているとばかり思っていたのだが。

 

それに、何故か歌を歌ってる。

兵士が行軍しながら歌う軍歌というものも存在しているのでありえなくは無いのかもしれないが、見た限り、軍歌とは明らかに毛色が違う。

そもそも、軍歌とは軍隊の士気の鼓舞や戦意の高揚を目的としたものであり、決して戦いながら歌うものではない。

それに対し、二人の少女は戦いながら歌を歌っていたのだ。

己を奮い立たせる為に歌う……というのは余りに無理がある。普通、それなら雄叫びとかではなかろうか。

 

それはさておき。

いったい彼女達は何者なのだろうか。

物理では対抗がほぼ不可能なノイズに対し、どの様な手段を用いて戦っているのか。特殊な装備によって対抗しているのか、或いは特殊な能力を持って生まれたのか。

しかし、仮に特殊な装備だとして、それが警察などといった組織に配備されてないのは何故なのか。コストや作成方法に問題があってまとまった数を配備できないのが一番初めに思い浮かぶものではあるが、はて。

特殊な能力は知らん。こればかりは人の手ではどうしようもない。想像すらできない。誰もが持ってないからこその"特殊"なのだ。それを人工的に増やそうとすれば、そこには人道的な問題が出てくることだろう。

どちらにせよ、自分以外にもノイズから人々を守ろうと立ち向かっている人がいるのだとと知れただけでも儲け物である。人々の為に戦っている人が他にもいるだけで非常に心強い。

 

しかし、ここで新たな疑問が浮かび上がってくる。

何故、彼女達の存在が公になっていない?

 

自慢ではないがオーマジオウとしての俺の存在は、この短期間で世界中へと広まってしまい、テレビでは連日報道されるようになってしまい、新聞、雑誌関連、SNSでも話題に上がらない時を探すのが難しいレベルへとなってしまった。

見たところ、どういった原理かは不明だが彼女達もノイズを倒せているので、然るべき認知度へとなっているはずと予想したのだが……

 

調べた結果、彼女達の情報、評判は一切なし、ニュースなどでも報道はされていない。

仮面ライダー、再び現る! なんて見出しの記事は探せばいくらでもあるというのに、

 

ノイズを倒す二人の美少女、現る!

 

なんて記事はネットのどこを探しても見当たらない。この手の話題に記者が食いつかない筈がないと思っていたのだが、ここまで彼女達に関する情報が無いのは余りに不自然だ。

まるで、意図的に消しているかのような……まぁ、考えたところで答えなど出る筈もなし。

疑問は尽きないが、彼女達が今後もノイズと交戦していくのであればいずれ接触する機会もあるだろう、その時にでも話を聞けばいい。

 

問題はこちらだ。

SNSなどで騒がれるのは元より承知の上だが、最近はニュースなどでも嫌な目立ち方が増えてきた。曰く、駆除すべきである、と。もしくは、捕まえて利用するのがよい、と。

笑えない話だ。

ネットで騒がれるのはどうということはないが、これが政府、諸外国が騒ぐとなると話は別だ。

対応が国家規模となれば警察、軍隊が出動してくることとなるだろう。

国家権力、これは不味い。

 

オーマジオウの力ならば警察、軍隊が集まってこようが問題なく対処できる。

が、対処できるからといって、無闇にそれらと戦うわけにはいかないのだ。そもそも、警察などを相手する前提として考えるのが不味い。

必要のない戦いは憎しみを呼び寄せる。憎しみが募れば再び争いが生じる。争えば、悲劇が生まれる。

 

ともかく、仮に国家権力が牙を剥いてきても、逃げるのが得策。

戦ってしまえば、それこそ魔王ルート一直線となる。

 

「うん、なんかやばい気がする」

 

朝食も食べ終わり、気づけば既に登校時刻間近、学校の支度をする時間を考えればゆっくりする時間はない。

自転車で急げば遅刻はしないだろうが、慌てて学校へ行くのはどうも落ち着かない。

 

「あ、総悟くん。今から登校?」

 

さぁ行くかと支度を整えると、台所からおじさんが弁当を片手に出てくる。

勿論、それは俺の分のお弁当。

学食、持参のお弁当、購買会でのパンなどの購入と幅が広いうちの学校。別に俺としてはどれでも問題ないのだが、おじさんは俺のために入学から毎日欠かさずにお弁当を作ってくれている。

つまり、おじさんは神的に良い人なのだ。

 

「お弁当、作っておいたからね。あと、急ぎすぎて事故らないようにね」

 

「うん、ありがと。気をつけるね」

 

車とぶつかって車を吹っ飛ばしては大変だ、おじさんの言う通り気をつけなければ。

最近はノイズの出現も増えてきたことだし、外には危険が沢山、これでみんな普通に過ごしているのだから本当に凄い。

元々は遭遇する確率が極端に低いノイズだからこそ一度ぐらい出現しても、それはそれでしょうがないと思うだろう。だが、最近はほぼ週一だ、低いどころか寧ろ高い気がするのは果たして俺だけなのだろうか。

人が死ぬかもしれない災害が頻繁に発生しているのに日常が変わらないのは人間は強いと喜ぶべきか、平和ボケしていると嘆くべきか。

 

無論、平日だろうが祝日だろうが授業中だろうがノイズが出現することもある今。授業中に出た場合、最初はトイレに行くなり保健室に行くフリなどして対応していたが、こうも頻繁だと怪しまれると思い、どうしたものかと考えた結果、クロックアップして倒すことに。

これは実に素晴らしい。

まず、周りに怪しまれることなく自由に動ける。感覚を研ぎ澄ませてノイズの場所を特定、その後に現場にワープし速攻で殲滅、クロップアップを維持したまま教室に戻り授業を受ける。

この手法により目撃者を減らすだけでなく、オーマジオウの正体が俺だという証拠を限りなくゼロにする。

流石にノイズが出たという知らせがある度に「腹痛いんでトイレ行ってきます!」なんてことをするわけにもいかないしね。

 

「いやー、でも最近はノイズが頻繁に出るけど犠牲者もほとんど出ないし、悪いことばかりじゃないんだね。総悟くんの日頃の行いがいいんじゃない?」

 

「いやいや、俺は関係ないでしょ。それに、ホントは出ないのが一番なんだけどね」

 

ノイズが出現することもなく、オーマジオウの力が必要な事態が無いことがベストだ。

変身することなく過ごせればいいのだが、これがまた難しい。

世界は未だ一つにまとまっておらず、互いが牽制し合う嫌な状況……世の中、乱れすぎである。

 

「本当にね」

 

「あれ、それ何の修理してんの?」

 

「これ? これは音楽の再生機械だよ。うち、時計屋なんだけどね〜」

 

台所から出てきたおじさんがうめき声と共に眉を顰める。

 

「そっか、まぁ、時計みたいなもんだし直せるんでしょ?」

 

「いや、まぁ、直せるんだけどさ……」

 

直せるんかい。

冗談で言ってみたのに、まさか本当に直せるとは思わなかった。

 

「そういえば、総悟くんってあんまり音楽とか聴かないよね」

 

「音楽?」

 

音楽。それを聞いて一番初めに思い浮かぶのは、やはり歌いながら戦う少女達のこと。

頭の後ろで手を組みながら考えていると、おじさんは何やらチラシを取り出し、こちらを見ながら口を開いた。

 

「最近はさ、総悟くんと同い年ぐらいの女の子達が人気らしいじゃない。総悟くんも聴いてみれば?」

 

「女の子?」

 

なにそれ、やっぱ、歌ってる子達はみんな可愛いアイドルグループとかそんな感じ?

しかもそれがまだ大人に片足も突っ込んでない年齢である俺とほぼ同い年?

ヤバイのでは?(語彙力の低下)

小さい頃から身体を鍛える事ばかりを優先してせいでそういった物に疎い俺ではあるが、それでもアイドルといった存在は尊いと思う。

癒されるだけでなく、希望を与えてくれる。彼女達の良いところを挙げればキリがない。

何人規模のアイドルなのか知らないが、やはり数は多いものなのだろうか? 戦いとは基本、数がモノを言う。アイドルグループ同士の争いもまた、戦いである。

……この戦いに、数は関係ないか。

 

「そうそう、ツヴァイウィングっていうらしいよ」

 

そう言ってチラシを渡してくれるおじさん。

ファンになるかは別として、一体どんな子達なのかは気になるものである。それが可愛いとなればなおさら。

おじさんから受け取ったチラシを見るとあら不思議。

 

「あれ?」

 

なんか、この二人。何処かで見たことあるような、ないような。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

都内、某所。

時刻は昼の真っ最中である十二時半。

これからお昼時だということで、休日ということも相まって、街には昼食を取りに行こうとする人々で溢れかえっていた。

そんな中での、ノイズの出現を報せるサイレンが響き渡る。

 

先程までの平和だった空間は一変。

政府によって設置されたシェルターへ避難する為、昼食を呑気に食べていられる状況ではなくなった。

先週にノイズが出たばかりだというのに、再び人々が集まる都内に現れるという災害の連続により、街は混乱していた。

 

本部からの報せを受けたシンフォギアの装者である天羽奏と風鳴翼は、現場に現れたノイズを殲滅する為、そして人々を守る為に街へと急ぐ。

最近は突如現れた"仮面ライダー"を名乗る存在によって被害が最小限にとどめられてきたが、だからといってそれは安心できる理由にはならない。まだ、彼女達にとって仮面ライダーが味方かどうかが分からないのだから。

その存在が人々を守る為に再び現れるとも限らない。もしかしたら、もう現れる事はないかもしれないし、寧ろ、人々を襲う……なんて事もありえないとは断言できないのだ。

 

仮面ライダーという存在の強さは、ノイズに対抗できるという点を除いても、その多様な能力から人智を超えていることは明白だ。

無論、彼女達が扱うシンフォギアもまた人智を超えてはいるのだが。

その強さがノイズではなく、人類へと向けられた時、果たして人々は対抗できるのか。

そのことに対して不安に思う者も多くおり、政府の中でも意見が纏まらず、進まない会議により時間ばかりが費やされるのが現状。

 

このまま傍観を続けるのか。或いは接触するのか。接触した後の対応はどうするのか。もし捕獲するのであれば、どのような手段を用いるのか。存在を危険視して駆逐するのであれば、何処で、どのような兵器を用いてやるのか。

 

天羽奏は政府の現状に対し、不安に思うことはあれど、責めるつもりはなかった。

人智を超えた、ノイズとは異なる未知の生命体。その存在に対し、正しい選択肢を短期間で選び取れ、という方が無理があるのだ。

 

だからこそ、彼女は彼女にしか出来ないことを、今、精一杯やろうと決めている。

今は一刻も早く、人々をノイズから守ろうと現場へと急ぐ。

 

到着するとそこには、逃げ遅れた市民と、それを襲おうとしているノイズの集団。

それを止めようと、相棒である風鳴翼と共に胸に浮かぶ歌を歌う。

彼女達が持つ、人類がノイズに対抗する唯一の力。

しかし、手の中に既に備えていたペンダントが、彼女達に戦う力を与える鎧となるのはほぼ同時。

だが、僅かではあるがタイムラグはあり、その間にもノイズは人々が襲うのを止めることはない。

 

間に合わない。

止まることはないと知っていても、制止の声を上げてしまう。

ノイズが人々に触れる直前、その場にいたノイズの集団は一斉に上空へとその身を投げ出されて消滅することとなった。

まるで、物理法則を無視したかの如くノイズの動き。

 

唖然とするのは助けられた市民達だ。

昼間の住宅街のど真ん中の、あまりにも不可解な出来事。

或いは突如として現れた、自分達を襲うノイズの集団に対してか?

いや、違う。

 

「やはり、ノイズとやらは此方の都合など関係無しに何処へでも現れるのだな。何処にでも現れるというなら人の居ない所へ出ろ、人の居ないところへ」

 

その声と共に現れたのは、黒と金で彩られた鎧を纏う、仮面ライダーを名乗る者。

この場において、その存在を知らぬ者はいない。

風鳴翼はその姿を見た途端、己のアームドギアである刀を手に持っては構え、視線をそのまま仮面ライダーから外さない。

天羽奏もまたアームドギアを手に持ってはいるが、風鳴翼のように構えを取ることはしなかった。

 

「ほほう」

 

ざり、と、足元を擦りながら振り返る仮面ライダーが笑う。

 

「お前達がノイズに立ち向かう者達か……歌はどうやら私の空耳ではなかったらしいな」

 

非常に落ち着いた声。

先程までノイズと戦闘をしていたはずなのに、息を荒げる事もなく、まるで往来で友人に会ったかのような落ち着き様。

その様子に、風鳴翼は恐怖した。

 

「貴様の……貴様の目的はなんだ!?」

 

「落ち着け、翼」

 

アームドギアを向ける風鳴翼を手で制止し、一歩前へ出る天羽奏。

 

「悪いね、あたしの相方はマジメなもんでねぇ」

 

「気にするな、私は気にしない」

 

「でも、アンタも悪いんだぜ? いきなり現れてはノイズを殲滅。正体を明かすこともなく消えては、またノイズを殲滅。みんなの不安も汲んで欲しいものだけど」

 

「ふむ、此方にだけ正体を明かせとは不公平なことを。では貴様らも何故表舞台に出てこない? ノイズの対抗策として市民に認知されてない様だが」

 

肩をすくめて、やれやれと大げさに首を振る。

仮面越しである為に視線が伝わりにくいが、その視線は市民へと向けられており、つられて彼女達の視線もまた市民へと向けられる。

 

「で、どうする。王であるこの私を捕らえるのか?」

 

「王とはまた強く出たもんだ」

 

「不思議なことではない。この世界に生まれた時から王の資格を与えられた、生まれながらの王である」

 

何を言ってるんだ? とばかりに怪しげなモノを見るような視線を二人は送るが、仮面ライダーは気にした様子もなく、二人を見ることなく周りを眺める。

明らかな隙。

わざとか?

或いはそう思わせる為の行為か。風鳴翼とて、伊達に防人としてその身を鍛えてきたわけではない。幼少期から研鑽し続けてきたその技術は伊達ではなく、相手の様子からある程度のことは読み取れる程までに力を付けている。

 

(誘っている、のか)

 

仮面ライダーは明らかに、此方の出方を待っている。

 

戦闘するか、交渉するか。

どちらを選ぶのか、或いは他の選択肢を取るのかは、ほぼ現場の判断に任せられている。

たとえば、相手に交戦の意思があるのにも関わらず、上からの命令で交渉をしようとして倒されるなど愚の骨頂。

その点、彼女達は良い指揮官を持ったといえる。

 

「忍びとは、面白い者もいるのだな」

 

「っ!?」

 

もしもの時の為にと、随時到着した二課のメンバーが周りで待機していたが、それすらも仮面ライダーにはお見通しであった。

 

「私にも事情があるのでな、今日はこのへんで御暇させていただこう。──チャオ」

 

ぐっぱぐっぱと手を開閉させて見せながら、黒い煙を全身から噴出して消える仮面ライダー。

二人は、その姿が消えるのを見ていることしかできなかった。

 

 




エボルトォ!!!
実は私、エボルトが大好きなのです。あーいう悪役、良くない?

それはともかく、XVでは翼さんのメンタルがヤバイしらゼロワンではこっちのメンタルがヤバイしでもうヤバイ(語彙力)

高評価、様々感想、ありがとうございます! 嬉しすぎて、バーを二度見しちゃいましたよ。
これからも感想、評価、ドシドシくださいな!

あ、本当かどうかわかりませんが、ある方の話によると祝え! を感想でやると運営に消されるかもしれないらしいんで、これからは心の中で祝ってください。
皆さまの感想が消されるなんて事態、勿体無いんで!
それでは、私の趣味てんこ盛りではありますが、よろしければ気長にお待ちください


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嵐の前

ちゃんとした接触とは言いづらい結果ではあったが、ノイズと戦っていたのは間違いなくツヴァイウィングの二人と見て間違いないだろう。

あの後も何度も現場で見かけたことから、ツヴァイウィングのそっくりさんが、たまたまノイズが出た現場で、たまたまコスプレをしていた、なんて事はないだろう。

あれからも、ノイズの発生が止まることはない。

学生生活の合間合間にノイズが現れるのは二度や三度ではないし、酷い時には国外に現れることもある始末。ここまでくると、ノイズの発生とその駆除は日常の一部として割り切るしかなさそうだ。

 

……本当はノイズと戦うつもりなんて無かったのだから、頻度の高い駆除を日常として扱うのは些か抵抗はあるけれど、こうも頻繁に現れるとなるとやはり話は別だ。

ノイズの発生頻度が教科書に載っている"稀に発生する"程度であれば、災害と割り切って関わることもなかったのだけど。

当然といえば当然だ。

俺も身分としては一介の学生。力があるからといって、この世全ての命を助けようなんて馬鹿げた真似はできない。

全国の事件、事故、災害現場に助けに行っていては俺の時間は皆無となり、それでは勉学どころではない。それに、何より学校に行かせてくれているおじさんに顔向けできない。

 

ライフセーバーの資格を持っている人間が、わざわざ休暇に砂浜で待機し、溺れる人がいないか安全確認するだろうか?

否である。

 

そう思っていた矢先に、ノイズの大量発生。

最初は、たまたま現場にいたから。

二度目は、実家近くだったから。

それからは周辺で不定期にノイズの連続発生。こうなってくると、動かないわけにもいかない。

いったい、ノイズと遭遇する確率は非常に低いというのはなんだったのだろうか。

 

そんな訳で、多少の無理はしつつも、学校生活とノイズの駆逐を両立した生活を送っている。

時折、その場で後処理をしていると撮影用カメラを片手にこちらに向かって全力疾走してくるマスコミや再生数稼ぎの某投稿者達が来るのは如何なものか。いくら頑張ろうと、撮影などできないというのに。

だが、彼らの命がけの撮影と、撮影に掛かるリスクに比例する様に広がる仮面ライダーの悪評は俺も新聞で確認できた。

 

マスコミに対して、一つも思うところがないと言えば嘘になる。

余波で建造物を壊したのも一度や二度ではない。

直したから許せ、というのは違うということはわかる。

だが、ちょっとばかり広範囲に爆発が起きたからといって直ぐに"仮面ライダーは魔王"とかいう悪意ある報道をせずに、公平性に満ちた報道を心がけてほしい。

そして謎の黒服共、ツヴァイウィングが出た時にだけ箝口令を敷くのやめろ。どうせなら仮面ライダーについても箝口令を敷いてくれ。

そしてノイズの危険性を鑑みてツヴァイウィングの鎧的な武器とかを量産して全国にくまなく配備して被害を最小限にしてくれないだろうか。

そしたら俺も普通に学生に戻るから。

 

冗談はともかく。

最近のノイズの大量発生をみるに、どうも自然発生とは言い難い。いかなり襲いかかる災害とは言えないレベルになってきている。

そして、問題なのはここからだ。

いや、ノイズの発生自体も問題ではあったのだが……。

ノイズの動きが統制されているように思える。

 

最初は動物か何かの類かと思い意思疎通を図ってみたが、意思の疎通の不可能。特性を理解しようと観察してみた事もあるが、基本的に人間のみを襲撃、触れた人間を自分もろとも炭素の塊に転換させようとし、発生から一定時間が経過すると自ら炭素化して自壊する特性を持つ、という教科書以上のことは分からなかった。

他のノイズが消滅しようが恐れることはなく、時には他のノイズと合体、もしくは分裂なんて事も見かけた事を踏まえると、知性を有しているか怪しいレベルで、『個』は無いに等しい。

そんなバラバラであったノイズの動きが急に統制されるなど果たしてあり得るのだろうか。

 

誰かに指示されている?

いや、指示されようとそれを理解するような知性は無いだろうし、第一に指示を出した人間が襲われかねない。

ならば学習した?

だが、知性なく、死を恐れないモノが果たして学習するのだろうか。

 

警戒しておくに越したことはないのだが。

果たして、ツヴァイウィングの二人の実力はどれ程のものか、という疑問が思い浮かんだ。

できれば、数の暴力をされようとも余裕で殲滅出来るぐらいの力を持っていてほしい。

もし彼女達の力がノイズ数体分しかない、というのであれば流石に心許ない。

 

彼女達の力……装備?でノイズを倒せるのは確認した。

歌は……どういった役割なのか気になるが、現状特に問題になるようなことではないので放置。

後は彼女達の後ろに付いている組織についてか。警察関連か、それを超える政府に連なるものなのか。

 

民間組織という線もあるか……いや、ないな。

彼女達が持つ力は民間組織が持つには大き過ぎる代物であるし、何より政府とマスコミが黙っているはずがない。

現状のノイズの対抗策として、他の国ですら効果が有るのか分からないシェルターを推しているぐらいなのだ。そんな中、民間組織がノイズを倒す手段を秘匿していたとなれば総バッシングは避けられまい。

となると、やはり政府関連か。

 

考えれば考えるほど、思考の沼に嵌りそうになる。

 

「……ツヴァイウィングか」

 

「好きなの?」

 

無意識に呟くように口にした言葉に疑問で返す声。

気付けば目の前の席に、パンをかじっているクラスメイトの少女がいた。

お昼休みということで、昼食を友人達と一緒に食べていたはずだが、どうやら食べ終えて自分の席へと戻って来ていたらしい。……パンを食べているのは、お弁当だけでは物足りなかったからか。

椅子の背もたれに体を預けながら顔のみをこちらに向け、首を傾げている。

 

「いや……なんかこの前おじさんに勧められてさ。どんなのかなって」

 

「私も未来にオススメされたんだよね。かっこいいからきっと気に入るーって」

 

「へえー、あの小日向が」

 

「それにそれに! 普通はなかなかチケットが取れないらしいんだけど、運良く取れたらしくて今度一緒に行くんだ」

 

「立花ってライブとかってよく行くっけ?」

 

「ううん、行くのは初めてだよ」

 

なおもパンにかじりつく立花響のその姿を見るに、彼女はライブなどといったものよりも食事を楽しむ姿の方が似合っているように思える。

別にこれは彼女がライブに似合わないだとか、食べ過ぎて太っているというわけでは決してなく、ちょっとした感想だ。

しかし、話を聞く限りではチケットは簡単に取れないらしいので、今からチケットを取ってライブに参加するのは難しそうだ。いや、潜り込むこと自体はできるが、ただでさえ悪評があるのにこれ以上悪評を広めるわけにもいくまい。

 

仮面ライダーオーマジオウ、人気アーティストのライブを盗み見ようとする!

なんて馬鹿げた悪評などまっぴら御免だ。

どこぞの週刊誌などは喜んで記事にしそうだが、そんな下らないネタを提供するつもりはないので絶対にやらない。

そもそも、ライブであの対ノイズ用装備を披露することはないだろう。もしライブで披露するのであれば、秘匿という意味を俺は覚え直さなければいけなくなる。

そう考えると、わざわざライブに行く必要もないだろう。

 

「今度、ライブの感想でも聞かせてよ」

 

「もっちろん!」

 

そうと決まればこちらも昼食の時間だ。ツヴァイウィング関連の事を考え込んでいたせいで、お弁当を机の上に出したにも関わらず、まだ一度も手をつけてない。

……食事が必要かどうかを問われれば、今の俺の身体には必要ない。

生体増強装置のおかげで、ベルトが生み出すエネルギーを生体エネルギーへと変換すれば食事をせずとも生きる上で必要なエネルギーは賄える。賄えるのだが、それだけを頼りに生きていくつもりは毛頭ない。

食欲は三大欲求のうちの一つ、それを疎かにするべからず。

 

それに、なによりおじさんの作ったお弁当は食べていて飽きることがない。

栄養バランスの考えられた献立の時もあれば、和洋のジャンルを問わずに俺の好きな物をとにかく詰め込んだ夢のような献立の時もある。

毎日作るのも大変だろうに、おじさんには本当に頭が上がらない。

 

「あれ、総悟くんはお弁当? 美味しそうー」

 

どうやら今日の献立は俺の好きな物を詰め込んだものであり、どんなお弁当なのかと覗き込んでいた立花響が目を輝かせている。

 

「でしょ? おじさんの手作りなんだ」

 

内容はハンバーグ、タコさんウインナー、唐揚げ、だし巻き卵、煮物、梅干し、そしてトドメのふりかけと、子供が喜ぶであろうパーフェクトな中身となっており、誰であろうと満点を出すお弁当だと思う。

それは立花響も例外ではなかったらしく、興味津々ですと言わんばかりにおじさんのお弁当を見つめている。

 

「……一口、食べる?」

 

「いいの!?」

 

「別にいいよ」

 

えへへーと喜びを隠せずに頬を緩ませる立花響。

こんなにも美味しそうに食べるのならば、作ったおじさんも報われるというものだろう。いや、決して俺が不味そうに食っているわけではないのだが。

食事を楽しむのはいいことだ。

彼女のような笑顔を守るために戦うのいうのも、悪くないのかもしれない。

そう思うと、みんなの笑顔の為に戦った戦士は素晴らしい人間であったのだと再認識させられた。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「だいぶ、データは揃ったわね」

 

己の纏めた資料を参照しながら、櫻井了子……いや、"フィーネ"は満足そうに呟く。

 

ノイズ程度では相手にならないことは既に理解していたがために、オーマジオウを倒す目的ではなく、データ取りのために運用した。

映像に残らないという点は非常に厄介ではあるが、映像に残らないならば残らないなりに、やりようはある。

彼女は考えもなしにノイズを大量に発生させていたわけではない。

データが足りないなら、その分、多くオーマジオウとやらに戦闘させればいい。その考えのもと、彼女は様々なタイプのノイズを、異なる時間、異なる場所、異なるシチュエーションで試してきた。

 

「これで全部だったならいいのだけど、そんなわけないでしょうね」

 

陳列された能力に目を通し、ふん、と、不満げに鼻を鳴らす。空間転移、時間制御、高速移動、衝撃波、爆裂、などなど。

腹立たしい事に、オーマジオウの力はフィーネを上回る。それを理解しているのは他ならぬフィーネ自身だ。

彼女は、はっきりと言えば『戦う者』ではない。

勿論それは、戦えない、ということを意味しているのではなく、それを極めた者ではない、という意味合いだ。

彼女とて、そこいらの人間に負ける気などなく、寧ろ束になったところで返り討ちにすることすら可能ではあるが、()()だけは別だ。

 

忌々しい、と爪を噛む。

何を間違ったのか、この世の理から外れたかの様な存在であるオーマジオウが現れたのが事の始まりだった。

 

当時は、シンフォギアに相当するものが現れた、程度の考えだったと思う。

現代の技術では、ノイズの特徴である位相差障壁を無効化して攻撃するなどシンフォギアシステムしかなかったのだから、珍しいものが現れたもんだと思っていた。……シンフォギアシステムが現代の技術かと問われれば、回答に困るが。

ノイズ自体は効率を考えず間断なく攻撃を仕掛ける長時間の飽和攻撃によって殲滅は可能ではあるが、それははっきり言って人類の自滅を意味するので考える必要もなし。

 

一体だけという点で言えばシンフォギアをも上回り、後の展開などを考えて、適当にデータ取りを終えたら処分するなりなんなりすればいい。

そんな見通しは、次々と報告されるオーマジオウの能力により瓦解していった。

 

空間転移、時間制御、高速移動。どれか一つですら過分な力だというのに、それら全てを操る化け物じみた能力。それどころか、まだ他にも力を隠しているという底の見えなさ。

突如として現れ、ノイズを手をかざすだけで消滅させ、謎の衝撃波で吹き飛ばし、炎と瓦礫の中で魔王の如く立ちはだかるオーマジオウの力。

あれに恐れてしまった官僚は多い。

 

いや、あのフィーネですら、オーマジオウの力に、仮面ライダーという存在に、恐れを抱いていたのかもしれない。

 

勝てないかもしれない。

 

だが、いや、だからこそ、わざわざそんな存在と真正面からぶつかる必要性など無いのだ。

報告によれば、オーマジオウは必ず、人命救助を優先しているとか。

そこに、()()()がある。

噂では、警官に拳銃を発砲されたこともあるらしいが、反撃するどころか気にもしなかったらしい。

 

「……貴様ほどの者が何故人間を助けるかは知らないけど、それは甘さよ」

 

計画を進める。

ネフシュタンの鎧の機動実験まで、あと僅か。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降り続けるなか、都内のスクランブル交差点前に設置された大型ビジョンにてとあるニュースが流されており、しかしてそれは、人々の雑音を伴奏に、ニュースキャスターの声がつらつらと垂れ流されるものだった。

 

『ツヴァイウィングのコンサート事件から数日。ノイズ、及びオーマジオウによる襲撃により多くの被害が引き起こされました。この事件により、オーマジオウによって()()()()()された人々は後遺症に悩まされており、今も病院で苦しんでいます。また、"生存者は責任を取って欲しい"という声が相次いでいます。何故生存者はあのようなことを平然と――』

 

『また、今回、初めてオーマジオウの姿をカメラに収めることができました。それがこちらです』

 

映像には、破壊し尽くされ原型をとどめていないライブ会場に、一人佇むオーマジオウの姿が映し出されていた――

 

 

 

 

 




みなまでいうな。わかってるわかってる。
次回ね、次回
多分次回で判明するよ、うん

では、少し質問が多かった部分と分かりづらかった部分の解説を
Q、なんで最初のとこでディケイド省かれてるの?忘れたの?
A、そこ、わざと省きました。わざと省いたって言えば、だいたい分かるよね??

Q、なんでオーマジオウが人々から恐れられてんの?助けたんだから普通崇められたり感謝されたりしない?
A、これは助け方の問題ですね。例えば、街中に連続殺人犯がうろついているとします。そこに、いきなり覆面した男がやってきて殺人犯を殺したらどう思います?
実際、未確認生命体四号は当初は警察に銃を撃たれたり、ライジングマイティによる爆発で問題視されてましたしね
今回の話の最後? それは……うん

返信が遅かったりするけど感想、質問なんでもござれ。
誤字報告、高評価、ありがどうございます!励みになります

そんなこんなで好き勝手書いていますが、それでもよければ次回も気長にお待ちください





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ライブ会場の惨劇 前編

時は遡り、ツヴァイウィングのライブ当日。

 

某市場近くで、およそ市場では聞くことはないであろう音が響き渡る。

鋭利な物が風を切る音、連鎖して響く爆発の重低音。

それらは俗に言う戦闘音と呼ばれるものであった。

市場という一般市民が集まる事を考えれば、当然そんな戦闘音などその場に似つかわしくない音ではあるけれど、これは何もそこに来た市民が出している音などではない。

その音の発生源となる存在は、世間から仮面ライダーと認知されている者と特異災害であるノイズ。

 

奇しくも、ツヴァイウィングのライブ兼ネフシュタンの鎧の起動実験という重要な日に()()()()ノイズが発生。

いつものように、ノイズの発生を感知したオーマジオウが現場へと向かう。

しかし、状況がいつもと違った。

通常であればノイズは近くにいる人間を炭化させるべく襲うか、或いは敵わないと知りながらもオーマジオウへと向かっていく。

ターゲットは違えど、まるで鉄砲玉の如く相手に一直線で向かうのが今までのノイズであった。

 

しかし、市場に現れた大小、形態違いのノイズが五十体。

人型、鳥型、そして見上げるほどの大型といった複数のタイプのノイズ。

それらはオーマジオウから距離を取るように、建物といった障害物の後ろに隠れるようにして取り囲んでいる。

 

事の始まりはこのノイズ達の出現。

人々が目を覚ましてそれぞれの生活を始めた出した時刻、雑音と共に現れたのが特異災害。

それを殲滅する為に現れたオーマジオウ。

 

市民達にとっては脅威ではあるが、オーマジオウの前には無力、そう、オーマジオウの変身者たる常磐総悟は考えていた。

そもそも、市民を襲うでもなくオーマジオウを取り囲むように動いている時点で犠牲者を出す心配をせずに戦える事を踏まえればいつもよりも楽とすら言える。

ノイズはオーマジオウを前に攻めあぐねているどころか、攻めてこない。

念の為に目の前のノイズへと発動させた予知能力ですら、奴らが距離を取るようにしか動かない事を告げていた。

猿のように身軽で、時には鳥の形へと姿を変えて逃げる。

だが、それだけだ。

そんな事をしようと捉えきれないなんて事はない。

 

ベルトから己の武器たる剣を出現させながら、近くにいたノイズを衝撃波によって吹き飛ばす。

己の仮面を模した『ギレードキャリバー』に『ライダー』の文字が記されているのが特徴な剣。

自己顕示欲が強すぎる武装を片手に、周りで様子見を決め込んでいるノイズへと斬りかかりながら突撃する。

持ち主とリンクしてシステム的な同一化を行うことで、主の能力に追随する形で常に最強の武器であり続けることができるソレの前に、ノイズは紙切れ同然。更にもう一振りの剣を出現させては合体、大剣へと変化した武器を振るい続ける。

 

交差、すれ違いざまに一刀両断。

この武器に斬れぬものなし、という程に絶対的な信頼があった。

拮抗は無い。

敵対するソレを捕まえようと伸ばしてきた腕は、人を炭化させる超常の腕。しかし、相手する者もまた超常。

伸ばされた腕を、大剣が、容赦なく斬り裂く。

紙でも裂くように、本来なら触れることすら叶わないそれを斬り裂いてみせた。

片腕を切り落とされようともノイズは止まることなく、残った腕で相手を捕まえようとするもオーマジオウはそれを許さず、今度は体に大剣を刺されることに。

 

「とっとと終わらせる」

 

がこん、という音と共にオーマジオウはスイッチを操作し、剣のフェイス文字が変化する。

そして、無機質な電子音と共に大剣へエネルギーが集まり、「ジオウサイキョウ」と書かれた長大な光の刃が形成される。

 

『キングギリギリスラッシュ』

 

体に大剣を刺されたノイズは当然、周りにいたノイズ達もその長大な光の刃によって斬り裂かれ、あれだけいたノイズをものの数秒で跡形もなく消し飛ばして爆発へと変えていく。

 

今回もまた、無事に解決できた。

だからこそ、彼はこの事態を大事に捉えていなかった。

連続で、ノイズが出現するまでは。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

いったい何が起きているというのか。

 

いつものように一箇所に複数のノイズが現れるのではなく、沖縄から北海道といった全国の様々な場所に連続で出現しては逃げるように立ち回っている。

出現したかと思えば人を襲うでもなくこちらを様子見するばかりで、かと思えば次第に人気の無い場所ばかりに出現するようになっていった。

人を襲わない、人気の無い場所に出るのは歓迎ではあるが、かといってノイズを放置するわけにもいかないので休む間もなく戦闘を続ける羽目に。

今は襲っていないからといって、そのまま襲わないとは限らないのだ。そのまま何もせずに消えるのであれば万々歳だが、問題はそうでなかった場合。

実際、俺が現地に到着すれば取り囲むように動くし。

 

いつもみたいに馬鹿で野蛮で知能のカケラも見当たらない人間絶対殺すムーブをすることもなく、距離を取ったり、或いは逃げ出すなんて行動を取るのはなんの冗談だろうか。

そもそも、何故今になって人気の無い場所に現れる?

 

たまたまその場所に現れた?

偶然、では片付けられない。一回だけならまだしもこんな連続で起こることを偶然とは言えない。

人間がターゲットではない?

建物などの物を一切壊さずに、動物に目を向けることなく人間だけを執拗に狙っていたノイズに他のターゲットなど存在しているのか。

俺を狙っている?

そもそも、俺狙いならばいつものように馬鹿の一つ覚えで突撃してくるだろうし、何より全国に出現する意味がわからない。オーマジオウ=常磐総悟と認識しているかは知らないが、仮に認識しているならば自宅付近に連続で出現するはずだし、もし認識していないにしても全国に出現するなんて無駄な行動を取らずに一箇所に連続で出現すればいい。

 

このノイズは本当に自然発生しているものなのだろうか。いや、いつもいきなり現れるノイズも自然発生と呼んでいいのか知らないけど。

どんな災害にも原因はある、予兆も一切ない災害なんてものはない。

雲一つない空から雷は落ちてこないし、東京の真上にいきなり台風が発生するなんてこともない。

もっとも、だから"特異"災害なのだと言われてしまえばそれまでだけど。

人為的だ、と考えるのは俺の思い込みなのだろうか。

 

そんな考えを頭の片隅に、ひたすら戦い続けていると、ふと、視界の隅に少年が映る。

 

「────っ!」

 

ぷるぷる、と、木の裏に隠れて声が出ないよう口を手で塞いでいる。

逃げようにも、どうやら腰が抜けて動けないらしい。

腰を抜かした原因は、特異災害として知られるノイズと魔王と報道されているオーマジオウ、それらを目にしたせいだろう。

臆病者、とは言えまい。

恐怖するなと言う方が無理がある。

 

今いるこの森はハイキングコースで有名らしく、街からそう遠くないという事を考えれば、人がいてもおかしくはない。

子供が一人。親や友達とはぐれたのか、或いは本当に一人で来ていたのか。

 

放置するわけにもいかないので少年の方へと駆け、ノイズへと向き直る。

少年を背に、戦い続ける。

既にノイズの数も多くない。

その場にいたノイズを殲滅し、少年の方へと向き直って声を掛ける。

 

「無事か、少年」

 

「え、あ、うん……」

 

「早くこの場から離れろ。ノイズが再び出ないとも限らん」

 

まだまだ幼さの抜けない、恐らく小学生ぐらいの年頃。

あまり関わっても怖がらせるだけ、と思うのは、少年の顔が今にも泣きそうだからか。

 

「街へ……なに?」

 

新たに感じたノイズの気配。

場所はこの上空と、ツヴァイウィングのライブ会場。

上空はいい。だが、ライブ会場はここからでは遠すぎる。ワープを経由しなければ時間がかかり過ぎる。

いかに高速でこの場のノイズを倒しても、多少なりとも会場へ着くのが遅れてしまう。

 

「クソっ!」

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

同刻。

ツヴァイウィングのライブ会場は混乱の坩堝と化していた。

ライブ会場に、同時多発的に出現した、優に百は超える特異災害『ノイズ』。

 

事の始まりは会場の一部の爆発。

ツヴァイウィングの公演の裏側では、ライブ会場の別室に設けられた実験室にて特異災害対策機動部二課による、完全聖遺物「ネフシュタンの鎧」の起動実験が行われていた。

「ネフシュタンの鎧」の起動には成功したものの、直後、ネフシュタンから膨れ上がるエネルギーを安全弁が抑えきれず、 暴走。

これにより実験室は倒壊することとなった。

 

暴走の余波は当然会場にも伝わり、爆発という形で現れた。あまりにも突然の事態に、会場全体が騒然として誰も動けずにいた。

それはステージにいた天羽奏と風鳴翼も同様であり、曲の流れを無視し、歌を中断して食い入るようにして爆心地を視線を向けていた。

会場の人々は混乱、不穏な空気が漂い始めたその瞬間、異変に最初に気づいたのはツヴァイウィングの二人だった。

風に流されてきた煤を捉えて、二人の背筋が凍る。

 

「──これは、まさかっ」

 

「ノイズが、来る──!」

 

二人の口から零れた言葉通り、爆心地の近くに突如としてノイズが現れ、近くにいた人々は炭素の塊に変えられ、粉塵となってその場で崩れ落ちた。

次いで爆煙が晴れて観客たちも、目の前で炭素の塊へと変化した人だったモノを目にして、理解をせざるを得なかった。

 

「ぉおりゃっ!」

 

がっ、と、身の丈ほどある槍を持った戦姫の突きがノイズの胸部に直撃。

人間の複数人分の巨体を持つノイズはその突きに耐えきれず、身体を炭素へと変えていく。

しかし、五体、十体倒そうがその後ろからはその倍以上の数のノイズが押し寄せてくる。

 

槍を持つ戦姫、天羽奏は焦っていた。

 

今回の公演は、司令である風鳴弦十郎からネフシュタンの鎧の起動実験を兼ねた大事なものだと聞かされていた。

全て上手くいっている筈だった。

ライブの盛り上がりは絶好調であり、耳にはめた通信機からは成功を報せる声も流れてきていた。

完全聖遺物であるネフシュタンの鎧を起動・解析することが出来れば、櫻井理論をさらに発展させ、 より効率的なノイズの対抗策を打ち出す事が可能になる。そうすれば、ノイズによる被害を今以上に減らす事ができる。

 

だというのに、現在は司令達との通信途絶。

加えて、後天的な適合者である彼女は、この実験の為にギアの制御薬「LiNKER」を断っていたのだ。

それのせいで己のギアたるガングニールの出力が上がらず、苦戦を強いられていた。

 

圧倒的なノイズの数、それにより相棒たる風鳴翼とは距離を離され、連携もままならない。

だが、この状況で、相棒と合流することは不可能だ。

 

「くそっ、時限式はここまでかよ!」

 

ギアの出力は徐々に落ちていく。

弱音を吐こうとも、右も左も前後もノイズだらけなのは変わらない。天羽奏が今いる場所はノイズの発生源近くであり、無数のノイズが蠢く群れの中だ。

これだけの数のノイズを、数瞬で殲滅する程の力はない。

この騒動も、時間を掛けさえすれば対処できない事もないかもしれない。

ノイズは一定時間を経過すれば炭素化して自壊する運命。

いつか現れる仮面ライダーに後のことを任せれば、なんとかなるのかもしれない。

それでも。

その瞬間までに、どれほどの犠牲者が出るのか。

だからこそ、立ち止まれない。

 

地獄ともいうべき光景が、目の前に広がっている。

会場の至る所から悲鳴が、絶叫が聞こえるのだ。

ノイズに襲われ、為す術無く殺されていく人々の断末魔が、戦姫を、天羽奏を戦わせる。

 

「きゃぁぁぁ!」

 

直後、背後から瓦礫の崩れる音と共に生存者の声が聞こえてきた。

 

「あっうっ! 痛たたた……」

 

「大丈夫か!?」

 

「あ、危ないッ!」

 

天羽奏の背後から、ノイズの攻撃が迫り来る。

 

 

 

 

会場は未だ混沌の最中にあった。

だが、それもそう長くは続かないだろう。

多くの被害を出し続けるノイズの群れは、徐々にだが減りつつある。

多くの犠牲者を出し、しかし、程なくして、ライブ会場の混乱は収まるだろう。

 

 

しかし、その結果。

この会場から生きて帰る事のできた装者は──たった、一人のみ。

 

 

 

 




次回で分かるといったな、あれは嘘だ
いや、これ以上だとキリが悪くて長くなっちゃうし、投稿も遅れちゃうからという言い訳をさせてくれ
週一を心掛けているので……週一って難しいね

次回かな、次回。
オーマジオウの能力関連も多分説明します
ライブ会場のやつをちゃんと描写してから説明したいしね
もし忘れてたら説明してないやんか! って怒ってください

あと、いつも評価、感想などありがとです。返信とか遅いけどこれからもドシドシくださいな

さて、xvもいつのまにか次で最終回。まだ十二話観てないけど……終わってしまう……
いや、まだだ。まだ終わらんよ。

シンフォギアは終わっていない!諸君らの気高い理想は決して絶やしてはならない!アグニカ・カイエルの意思は常に我々と共にある!シンフォギアの真理はここだ!皆!バエルの元へ集え!



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ライブ会場の惨劇 後編

襲われる人の悲鳴、我先に逃げようとする人の怒声、親を呼ぶ子の泣き声。

歓声は消え失せ、あれほどまでに楽しげな雰囲気だったライブ会場を奏でる、非日常の音。

 

非日常の音色を発しているのは、ノイズから逃げ惑う人々。

後ろに迫り来るのは特異災害。

その姿は、日々、ニュースなどで報道されるソレや教科書に載るモノと寸分違わぬ。

空を飛ぶモノもいれば、人型のモノ、排出器官のようなところから新たなノイズを発生させる超大型のモノもいる。

先刻まで他の場所に出現していた数とは比べるのも馬鹿らしくなるほど、ノイズがライブ会場に溢れかえっているのを知る者は居ない。

いや、仮に知っていたところで気にする余裕がある者はこの場にいないだろう。

 

何故ライブ会場にノイズが現れたのか。

会場にいる観客からすれば今は理由などどうでもいい。

逃げなければ殺される。

目の前で次々とノイズによって殺されていく様を見れば、嫌でもそう思いしらされる。

 

ノイズの進行は止まらない。

装者たる天羽奏と風鳴翼が応戦しているが、圧倒的な数の暴力の前に、全ての観客に目を向けるほどの余裕はない。

大型ノイズは人と同サイズほどのノイズを撒き散らしながら、人々が逃げていく会場の出口へと進路を取る。

次々と撒き散らされる人型ノイズは、恐怖によって身を固めた周囲の人間へと、無造作に魔の手を伸ばす。

伸ばされたその手は人を掴み、

 

「いやぁぁぁぁ!!! 死にたくない死にたくない死にたくない!!!」

 

炭素の塊へと変える。

掴まれた者はその手を振り解こうとするも抵抗虚しく、叫びながら炭素へと変わっていった。

その姿を直で見た子供は悲鳴をあげてその足を止めてしまい、恐怖で身を固めてしまう。母親らしき女性はそんな子供を抱えて逃げようとするもノイズとの距離はもう無い。

ノイズがそのまま手を伸ばせば、抱え込まれた子供諸共母親は炭素の塊へと変えられその命を終える。

 

動けない。

動かなければならないということを本能が叫んでいるのに。

一度、足を止めてしまったが故に理性が告げるのだ。

助からない、と。

瞳からは涙が溢れ出て、恐怖と悲しみ、後悔がその身に宿る。

そして子供を抱えたその身体は、恐怖という鎖に縛られる。

 

「この子だけは……!」

 

我が子を強く抱きしめる。

どうしようもない。

他に何もできない。

ただ、迫る死からの逃避の為に。

だが、ノイズのゆっくりとした歩みは、じりじりと、確実に距離を詰めていく。

 

「助け……、助けてぇ……!」

 

その様な叫びに意味のない行為だと思いながら。

誰も自分達の事など見向きもしない事を知りながら。

たとえ助けに来たとしても、ノイズ相手には何一つできないと知りながら。

 

怖い。

目の前で何人もの人達がノイズによって炭素の塊へと変えられる様を嫌でも見せつけられた。

自分が死ぬという恐怖。

そして、なによりも愛する息子を死なせてしまうという、恐怖。

 

「誰か……、誰か助けて……!」

 

死にたくない。

死なせたくない。

その願いが声となり、

 

「ーーーーーー!」

 

母子の目前に迫っていたノイズは吹き飛ばされ、いや、消し飛ばされた。

爆音が鳴り響き、暴風が吹き荒れる。

だが、通常の爆発などではない。それがただの爆発でない事は、通常兵器が効かないノイズを消滅させた事が証明している。

それにより周囲にいたノイズを消滅させ、地面を大きく抉る。

運良く爆発から逃れたノイズは歩みを止め、それを目にした。

自分と同じ存在が、仲間が、同胞が、瞬く間に消え去っていく。

女性はいつまでもその身が炭素へと変わらないことを疑問に思いつつ、背後から感じる圧に感じて振り返り、それを目にした。

 

ぼう、ぼう、とまるでその身が燃えているかの如くオーラを纏いながら、その姿を現した。

漆黒の闇にて光を放つ、まるで王を連想させるかの如く豪華な黄金の鎧。

爆発により舞い上がる砂塵の中で、ライダーという文字が赤く、そして不気味に輝いている。

 

その姿を知る者はそう多くない。

名前は知っているが、どのような者かは曖昧。

されど、その姿を、力を見た者はその正体が何かは察する事となる。

 

「知性のカケラもないノイズごときが」

 

背中には時計の長短針を模したプレートによって構成される大時計がマントの様に揺れている。

赤く輝く瞳は、会場を一瞥する。

 

「コレが災害だと? そんなバカな話があるか」

 

手足をもがれ、顔を消し飛ばされ、胴を分断され。

母子を襲おうとしていたノイズの集団は、一瞬にして燃え上がり、跡形もなく消え失せた。

 

「仮面、ライダー……」

 

「早く逃げろ」

 

仮面ライダーオーマジオウ。

母子の安全を気にかけるようにして掛けられた声は、驚くほど低く。

しかし、明らかに怒りを滲ませた声であった。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ダメか」

 

小さく呟かれた言葉は、不思議とその場に集まる観客全ての耳に届いた。

困惑、憐憫、絶念、絶望。

幾らかの感情が薄く込められた言葉を発するのは、黄金の王。

身の丈程の大剣を持った王──オーマジオウはノイズを次々と斬り裂きながら口にしたのは、誰に向けられたモノでもない独り言……いや、絶望故の一言だった。

オーマジオウは上空のノイズを殲滅しながら、地上のノイズに襲われている人々の姿を確認し、大きく、その場の誰にでも聞こえる程の声で呟く。

 

「ごめん」

 

ざん、と、何かを斬り落とす音。

ノイズに触れられてしまったとある少女は、ノイズに捕まった、と認識する前に、自身の腕が宙を舞っていた。傷口からは一瞬血が流れ出し、しかし、未知なる力によってその傷口を無理矢理閉じられる。

 

「……っえ?」

 

何が起きたのか、いや自分の腕は何処に行ってしまったというのか。

ぼと、と足元には炭素となった自身の腕が落ちてくる。さっきまで目の前にいたノイズは、気づけば最初からそこにいなかったかのように消え去り、代わりに黄金の王が大剣を切り上げた姿で立っていた。

困惑した。

何が起きたかが少女は理解が出来なかった。

しかし。

自身の腕があった場所を不思議そうに見下ろし、そして現実を直視させられる。

理解したと同時に痛みがグツグツと湧き上がる。

 

ワタシノ、ウデ……キラレタ……斬られた!?

 

「ーーーーーー!?!?」

 

声にならない悲鳴が口からは溢れ出る。それを間近で見た人々もまた、何が起こったのかを嫌でも理解させられた。

少女は、オーマジオウによって腕を斬り落とされたのだと。

しかし、このような状況になったのは何もこの少女だけではない。

足を斬り落とされた青年がいた。指を千切られた老人がいた。手を斬り落とされた少年がいた。

 

それは側から見れば恐怖でしかなかった。

オーマジオウがいきなり目の前に現れたかと思いきや、いつの間にか自身の身体の一部を切断しているのだから。

ノイズのように目に見えて迫ってくるのではなく、ワープをしたのか超加速で迫ってきたのかの如く目の前に現れ、攻撃される……いや、攻撃された、という結果が残る。

ノイズの場合は逃げられるかは兎も角、後ろから、或いは上空から迫るノイズを避け続ければいいが、オーマジオウの場合は話が変わる。気づけば目の前にいる、気づけば手足を斬り落とされている。

逃げることも、抵抗することも許されず、次々とオーマジオウによる犠牲者は増えていく。

人々があげる悲鳴は苦痛からか恐怖からか。

 

オーマジオウが大剣を持っていない方の手を掲げる。

目に見えぬ衝撃波と共にその指先から未知の力が放たれ、複数のオーマジオウが現れた。

そのまま、会場に集まってくるノイズを常軌を逸した力で倒し、同時に人々にも襲いかかる。

気づけば、辺りには複数のオーマジオウが大剣を、槍を、矛を、銃を持って、時には辺りを爆発させて暴れている。

 

『逃げろ、逃げろ!』

 

誰が叫んだのか、何処からともなく聞こえる避難を促す声に人々は頷き、再び会場の外へ目指す。

その過程は、最悪の一言。

ノイズという恐怖とオーマジオウという絶望を見せられ、我先にと出口を目指す観客の秩序とモラルはとうに失われていた。

近くで助けを乞う者を無視、或いは退かして逃走経路を確保。

退かす、と言ってもそれは横にどけるといった生易しいものではなく暴行による強行的手段。

早く早くと列を鑑みずに走って逃げようとすることによって連鎖的に起こる将棋倒しによる被害。

 

凄惨な光景。

しかし、観客が混乱した程度で手を緩めるような知性はノイズには無い。

出口に一目散に駆ける観客に周囲のノイズが群がる。

 

「消えろ」

 

低く、籠もるような声でそう告げたオーマジオウは、向けられる畏怖の視線の一切を無視するようにノイズへと手をかざし、消滅させた。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

崩壊寸前の会場で、オレンジと白を基調とした装甲を纏った、身の丈を超える槍を持った女性が背後の少女を守るように戦っている。

無双の歌姫、天羽奏。

ツインボーカルユニット「ツヴァイウィング」の一人であり、シンフォギアシステム三号ガングニールの装者。

その後ろには、怪我によって地面に座り込み、逃げることのできない立花響。

 

ガングニールの出力は既に最低にまで落ちており、目の前に群がるノイズを殲滅するだけの余力は残っていない。

それでも、後ろの少女だけでも守り抜く為に槍を振るい続ける。

しかし、嫌な予感がした。

ノイズの一撃をガングニールで受け流すと同時に聞こえる、何かが壊れていく音。

徐々にその音は増え続け、その嫌な予感は的中することとなる。

ガングニールはノイズの攻撃に耐えきれず崩壊、立花響の胸へと破片は飛び込んでいった。

破片とはいえ何物をも貫き通す無双の一振りのガングニール、それもノイズの攻撃によって勢いよく飛んだそれは、少女に致命傷を負わせるには十二分な威力を持っていた。

 

「んなろおおおおおおおぉ!」

 

どん、と天羽奏は拳を突き出す。

怒りと力に任せた荒くれ者の振るうようなパンチにより、伸ばされたノイズの触手を消し飛ばす。

なお迫り来るノイズを徒手空拳で圧倒し、その拳に打ちのめされたノイズは炭素の塊へと成り果てる。

 

「おい、死ぬな! 生きるのを諦めるなッ!!」

 

「…………」

 

彼女の必死の呼び掛けの成果か、立花響は閉ざそうとしていた目を再び開ける。

儚いながらも、未だ命の炎を燃やそうとしている姿に天羽奏は安堵し、そして、決意する。

人々を守る為に、あの力を使おうと。

その足取りは軽い。

しかし、離れた場所で戦っていた風鳴翼は天羽奏が何をしようとしているのかを察知して、来るであろう最悪の未来を想像する。

そんな事をさせるわけにはいかない。

急いで天羽奏の元へと向かおうとするも、ノイズの大群による壁で中々前に進むことが出来ずにその場で足踏みをする形となる。

 

「奏ーーーッ!!!」

 

天羽奏のコンディションは決して良いとは言えない。

そんな状態で、アレを使ってしまえば、彼女の命は恐らく……。

 

「……こんなに沢山の観客がいるんだ。だからこそ、あたしも出し惜しみなしでいかなくちゃな……」

 

恐怖は、ある。

それでも。

後悔はない。

未来に、命をつなげられるなら。

 

「Gatrandis babel ziggurat edenal……」

 

「歌ってはダメ! その歌はぁぁぁッ!!」

 

会場全体に、彼女の荘厳でありながらも悲壮感を孕んだ歌声が響き渡る。

その穏やかさとは真逆に、天羽奏の身体からは通常よりも遥かに膨大なフォニックゲインが溢れ、激しくその身を傷つけながらまるで台風の如く荒れ狂っていた。

 

シンフォギアに備えられた決戦兵装──『絶唱』システム。

 

特定の詩編を唱えることで、フォニックゲインを限界を越えて高めて、一気に放出するという最大最強の攻撃手段。

しかし、その決戦兵装には代償がある。

高めたエネルギーによって歌い手の身体に深刻な負荷が与えられ、使い時を見誤れば最悪命を落としかねない諸刃の剣。

 

「歌が、聴こえる」

 

今まさに、絶唱が響こうとして……

 

 

 

 

「……lanede taruggiz lebab sidnartaG、な、なんだ今のは」

 

「まるで、時間が逆転したかのような……」

 

歌い始める前に戻された天羽奏。

ならばもう一度やるまでと口を開けようとして、

 

「が────、っ……」

 

その身は既に限界を迎えていた。

 

「────奏!?」

 

風鳴翼は、振り向けたその顔がひきつっていくのが分かる。

ごほ、と。

咳き込むように赤いものを吐き出して、天羽奏はシンフォギアが解除されその場に倒れ伏した。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

複数のオーマジオウが暴れたからか、会場はもう原形を殆どとどめていなかった。

ノイズの所為なのか。

俺の力の所為なのか。

 

「魔王、か」

 

変身を解除し、誰もいない会場でステージがあったであろう場所に立って周りを見る。

俺がまだ会場に残っている事を知っているのか、いつもの黒服達も、外で騒いでいる警察達も会場に入ってくる気配はない。

本来なら豪華なステージだったろうに、今や見る影もない。

適当なコンクリートの残骸に腰を下ろす。

モーフィングパワーでそこらに転がる破片を丸石へと変えて適当に積み、フラワーの魔法で出した花を添える。

この場所に作ってもすぐに事後処理で壊されるだろうが、まあ、こちらの気持ちの問題だ。

死人は花を見れないし、何も言えない。

彼らには埋めるべき死体も残らず、たとえ墓だろうがそこに彼らは眠っていない。

だから、ほんの少しばかりの気持ちを。

 

「ごめん」

 

口から出たのは謝罪の言葉。

誰に、何のことに対してなのかは語るまでもない。

だから、謝罪すべきなんだと俺は思う。

仮に相手の思惑を全て察知していれば。

会場の犠牲者は出ないで済んだんだろう。

そして、天羽奏が戦う力を失うこともなかったんだろう。

多くの人が手足欠損という重荷を背負わずにいられただろう。

それに、立花だって、あんな大怪我をしないで済んだんだろう。

 

思い出すのは、立花との、この間の昼食時の会話。

あんなにこのツヴァイウィングのコンサートを楽しみにしていたのに、蓋を開けてみればこんなだ。

思えば、小日向は会場には見当たらなかった。

分裂した俺と記憶を同期したが、そこにも小日向の姿はなかった。

用事でコンサートに来なかったのか、それとも……俺が来る前に死んだのか。

 

前者だったら、いいなぁ。

クラスメイトが死んだなんて思いたくない。

それに、小日向が死んでしまったら、彼女と仲の良かった立花が悲しむ。

けど、多分、俺にはそう思う資格なんて無いだろう。

 

うちの学校の生徒の、足を切断した俺には。

たしか、サッカー部のキャプテンだったか、将来を嘱望されていた男子だった気がする。

そんな彼の足を、俺は斬った。

多分、いや、サッカー人生はほぼ絶望的と言ってもいいだろう。

仕方がなかったなんていうのは言い訳か。

既にノイズに足が掴まれていた状態では、クロックアップを発動してそれ以上炭化が進行する前に斬るしかなかった。

 

一部の時を止めようと、その範囲外からノイズが次々と現れては襲いかかってくるのは完全にしてやられた。

こちらも増えて対応はしたが、パニックになった観客があちこちにいるから範囲攻撃も無理ときた。

 

こちらの情報が出揃っていないというのに、よくやる。

 

「彼も、こんな気持ちだったのかな」

 

惨劇を止められず、魔王と呼ばれた彼は一体何を思ったのか。

 

しかし、だ。

悲しいはずなのに、涙が出てこない。

それとも、本当は悲しくないのか。

ベルトの力なのかは知らない、けど、まぁ、精神が強くなるのはいいことなんだろう。

心が強くなければ王は務まらない、ってやつなんだろう、きっと。

ありがたいことだ。

立ち止まってなんて、いられないのだから。

 

空を見上げれば、五代さんの好きな青空……ではなく、今にも雨が降り出しそうな曇天。

いや、降ってきたか。

黒い空から大量の雨が降ってくる。

天候操作で青空にしようかと思ったが、やめた。

 

「……おじさんに怒られちゃうな」

 

ばしゃばしゃと振り続ける雨に打たれている内に、ふと唯一の家族を思い出した。

そういえば、父さんと母さんもノイズに殺されたんだっけ。

ノイズ、ノイズ、ノイズ。

バカみたいだ。

 

このまま会場から出たら大騒ぎだし、あちこちワープしながら帰るか。

ああ、びしょ濡れで帰ったら何事かと思われるな。

心配かけちゃマズイし、どこか適当な場所で乾かしてから帰ろう。

 

 

愛と平和の為にって、難しい。

 

 

 




心に愛がなければ真のスーパーヒーローにはなれない

それでは、能力関係の説明を。

タイムベント……特に使う予定はございません。
この能力は特定の時間地点に戻してやり直す、といった能力だと思いますが、恐らく制限としてある地点からしらやり直せない、と勝手に想像してます。自由に設定できるなら、神崎士郎ももっとやりやすい地点からスタートするだろうし。そもそもの元凶である子供時代に戻るよね、的な。それをしたらテレビ本編が始まらないなんてメタな発言はなしよ?
ぶっちゃけ、都合よく出来るとすると、ループものの小説でもないのに多用したら恐らくストーリーが崩壊しますしね。やり直しを求めて使う、といった場面でも正直オーマジオウの時空の創造のほうがね。はい

ハイパークロックアップ……過去に戻れる、ってあるけど原作からしてたまにおかしな事あるから使いづらい。
映画や、テレビ本編の未来の天道がハイパーカブトで何度か現在の天道を助けています。この描写を見る限り、タイムマシン的なものをイメージしています。過去に飛べば、そこには過去の自分がいる、的な。伝わる?
ですが、本編で初めて天道がハイパーカブトに変身した時に加賀美を過去に戻って助けています。そのままその時に残ってなんやらしているような気がしますが、実は画面外で元の時間軸に戻ってたりしたんかな?
まぁ、つまり、この総悟くんは天道と同じで特異点ではない為、過度の時間改変をすると消えてしまう。なのでハイパークロックアップは能力を使うことはあっても過去に飛ぶ機会はほぼない。

リセット……これは元々、ゲーム関連のものしかリセットできないので使い道はほぼない。ないとは言ってない。

ジオウIIの巻き戻し及び未来予知……正直、原作でも曖昧過ぎて独自解釈でやっていきます。多分、意外と使っていきそう。
私の解釈ですが、ジオウIIの巻き戻しは観測することによって可能になるんじゃないかと思っています。戦闘中に発動させる未来予知も、相手を見た上で発動してますし、それに連なる感じかなと。
黙っていれば何もせずやってくる未来なのではなく、当事者としてそれを「構築」しなければならない。そして、観測していない、全く関係ない他人の時間を操ることはできないのではないか、と。その為、本編ではウールなどを巻き戻しで生き返らすことが不可能だだったのかなーなんて。

ガタキリバのブレンチシェイド……みんなご存知、数の暴力。あんまり使いたくない
これのみ、一定の範囲内のみ使用可能と制限つけてます。どこにでも行けますってやると、地球の裏側だろうが何処だろうが五十体のオーマジオウが暴れて、尚且つダメージ喰らわないから実質デメリット無効という作者殺しなので。
そもそも、そんなことしたら小説ではなく短編でいいレベルの短さに……
ゴメンね!

要約。
タイムベント……都合よく戻れない
ハイパークロックアップ……特異点じゃないから消えちゃう
ジオウII……観測した相手にのみ、巻き戻しができる
ガタキリバ……近くのみという制限あり

以上! ガバガバかもしれないけどあくまでss、書きたいように書いていくのでご容赦を

ちょっとした裏話
実は今回の話、本当はおじさんが死ぬ話でした。会場の大勢の観客を取るか、一人を取るかですね。
見知らぬ大勢か、一人の身内か。
その話で元々は書いていましたが、ボツにして今回の形となりました。
書き終わった後、読んでみてヤベーなこれと思ったので急遽新しい話を作ることに。
そっちではもちろん奏も死亡ですよ、ガハハ

そういったボツネタがフォルダに眠っていますが、読んでみたかったりします?
アンケート機能があるらしいんで、よかったら、どぞ

あ、最終回観ましたよ。良い(満面の笑み
七年かー。そんだけ経てば、大人になっちゃうよな……(白目)


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鏡像

「心配したんだよ〜ホントに」

 

とりあえず服と髪を乾かしてから家に帰ると、おじさんに予想通り心配されていた。

 

「大丈夫だよ、怪我とかしてないし」

 

ノイズから攻撃されようがオーマジオウの耐久性なら炭素にされたりすることはない。

また、ノイズは物理的な攻撃手段を取ってくる訳でもないから、ハッキリ言って炭素化だけどうにか出来ればそれほど恐ろしいものではない。いや、それが普通出来ないから恐ろしいのだけど。

でも、オーマジオウだから大丈夫なんて言った日にはおじさんはストレスで倒れるに違いない。

なんせ、世間はオーマジオウの話題で持ちきりなのだから。もちろん、悪い意味で。

 

「外寒かったでしょ? お風呂沸いてるから入ってきなさい」

 

「んー、夕飯食べた後でいいよ」

 

「髪の毛濡れたままだと風邪引いちゃうよ」

 

「じゃあ入ってきまーす」

 

そういえば髪の毛は乾かしてなかった。

家の前で服だけは速攻で乾かしたはいいけど、髪の毛の事までは考えていなかった。

別に風邪を引く前に自力でなんとか出来なくはないけどおじさんの親切を無碍にするのは失礼だし、ここは素直にお風呂に入ることにしよう。

部屋に戻り、荷物を置いてお風呂場へ。

ポケットから端末を出して着替えと一緒籠に入れようとして、ふと、SNSのアプリを開く。

先のライブ会場の惨劇について軽く調べてみるも、出てくるのは頓珍漢な情報やオーマジオウがどうたらこうたらと叫んでいるものばかり。

あの場で戦っていた二人については、表の顔しか報じられていない。

 

「やっぱり、か」

 

情報の規制、制限。

 

まさかあの人数の情報制限となるとやはり絡んでいるのは国と考えるのが妥当か。

どのような手段を取って規制しているのか知らないが、その隠し具合はお見事という他ない。それが良いのか悪いのかはともかく。

しかし、他の情報は規制しているくせに『オーマジオウ』関連について規制しないとなると露骨だな。

対応出来なかった政府からのヘイト移しに見えなくもないが、実際、俺も被害を出したんだし無理もない。

俺は悪者じゃありませんーなんて声明を出すわけにもいかないし……。

今までより少し恨まれるだけだ、なんということもない。

 

脳裏に思い浮かぶのは人々の悲鳴と肉を斬る感触、そして、視界に映った手負いの天羽奏に庇われる胸に傷を負った立花。

小日向とライブに行く、と、この前聞いたばかりだった。

テストも近いのによく行く、とはあえて言わなかった。

ライブに行ったところで成績に大きな影響があるわけもないだろうし、努力でどうとでもなる範囲だ。

 

「……」

 

口を開いて、言葉が浮かばず、閉じる。

いったい何を言おうと思ったのか、自分でも分からない。

何かを言おうとしたが、何故、何かを言おうとしたのかもわからない。

独り言を、いや、泣き言をここで言ったところで何かが変わるわけでもない。

少しだけ、混乱している。

 

ガラッ、と、扉を開けて風呂に入る。

夕食の時刻も近いことだし、あまり時間も使いたくないし湯槽には入らずシャワーだけ浴びてさっさとあがろう。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

おかしい。

風呂場の鏡が曇っていて俺が映らない。

別に風呂場の鏡が湯気によって曇ること自体は何らおかしくはない。

しかし、本来なら鏡にシャワーを掛ければそこには服を脱ぎ、タオルすら纏っていない俺が映るはずなのだ。

不思議に思い、シャワーだけでなく水を操って絶え間なく鏡に水を浴びせ続けるも曇りは取れず、いよいよきな臭くなってきた。こうなれば此方も意地だと言わんばかりに能力を駆使して鏡の曇りを取りにかかる。

能力の無駄遣いだと言われるような気がしなくもないが、別に誰かが見ている訳でもないので遠慮なく使っていく。

仮に他人が俺の風呂を覗いていた場合は全く得にならないし犯罪なので素直にやめて欲しいものだが。

 

ここまでやり、ようやく曇りが取れ、少しばかりの達成感を感じながら、ふと気づく。

俺が映っていない。

 

「ねぇ、この世界にもミラーワールドはあったんだね」

 

俺の言葉を聞いたからか、それともタイミングでも図っていたのか、鏡にオーマジオウとなった俺が映り込んでくる。

もちろん、現実の俺は裸のままだし変身なんてしていない。

と、なれば結論は一つ。

しかし、なんでまたこんなタイミングで鏡像の俺が動き出したというのか、それも鏡を曇らせるなんてよく分からない手間をかけてまで。

しかし、鏡の俺は此方を見つめているだけで何か行動するでも話しかけてくるわけでもなく、何をしたいのかが分からない。

 

「……せめて何か言ってくれない?」

 

いわゆる、年頃の息子が反抗期を迎えて父親の事などを無視するのと同じなのだろうか。

ふん、いちいち話しかけてくんなよ親父、うっぜぇなぁ!

的な感じ。

がーん。

お父さんはそんな風に育てた覚えなんてありませんよ!

いや、鏡像の俺が息子って考えるのは些か無理があるし、反抗期だなんておかしな話ではあるのだけど。

 

それにこちらは裸だというのにそちらだけ変身しているなんていうのは不公平というものではないだろうか。

こっちが裸なんだからそっちも裸で来るのが礼儀というものだろう、いや、別に自分の裸だし見ても何も思わないし見たいとも思わないけどさ。

……自分の裸を見て何か思う人っているのだろうか。

自分に欲情。

生憎とそこまで精神に異常はないのでそのような事には決してならない。

 

そんな事を考えているうちに、鏡像のオーマジオウは無言で手招きをし、鏡の世界の奥へと消えていく。

どうやら、ミラーワールドへのお誘いらしい。

お誘いを断るという選択肢もなくはないが、それをした場合の鏡像のオーマジオウが何をしでかすか分からないので却下。

目的が分からない以上、ここで待っていても何も変わらないのであちらの誘いに乗るしかない。

 

「なんかまずい気がする……」

 

こちらもオーマジオウへと変身し、ミラーワールドへと足を踏み入れる。

自慢ではないが、今更多少の罠や小細工をされたところでどうにもならない程度の力は持っている。

漫画やアニメであるような殺気を感じるどころか、ある程度の未来なら見える、なんて、オーマジオウとなる前だったら『頭大丈夫かお前?』みたいなことも出来る。

故に、恐れることなく、誘いに乗り、ミラーワールドへと踏み込む。

反転した世界。

そこに人の気配はなく、あるのは静寂。

その静けさ故に聞こえてくる生理的耳鳴り。

家の外に出れば、そこには鏡像のオーマジオウ。

仮面で隠された表情は何一つ読めない。

不気味なほど真っ直ぐに、鏡像のオーマジオウが、現実のオーマジオウである俺を見つめてくる。

同じ自分だというのに、何故こうも威圧感があるというのか。

 

ああ。

なんとなく、分かってきた。

こいつは、俺と、ここで、戦う気だ。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

ミラーワールド、都内某所。

ビルや看板の文字など全てが反転した世界の中で、全く同じ姿の二体の黄金の異形が向かい合っている。いや、完全に同じというわけではないか。

一体はまるで鏡に映る存在の如く姿形が反転していおり、それは顔に描かれている『ライダー』の文字から見て取れる。

黄金の異形──オーマジオウは、どうするべきか内心困惑していた。

対する反転したオーマジオウは仮面に覆われた顔から表情を窺い知る事はできない。

 

「ねぇ、何で俺を呼んだの?」

 

『わざわざ説明する必要はあるか?』

 

そして、その声には感情が込められておらず、反転したオーマジオウが何を考えているのかを読み取ることができない。

 

「あるよ。訳わかんないからちゃんと説明してよ」

 

これにどういった意図があるのか、少年には理解できない。

 

『そうか』

 

肯く。

反転したオーマジオウはそのまま手をかざした。

それが何を意味するかは、自分であるが故によく理解していた。

今まで何度もオーマジオウがノイズ相手に奮ってきた力だ、その力がどういったモノなのかは誰よりも理解している。

オーマジオウもまた手をかざし、相殺するために己もまた同様の力を発動させる。

互いの手から衝撃波が放たれ、それは二体の間で相殺される。

 

金に縁取られた黒い重厚な装甲。

燃え盛る炎の如く、赤く不気味に光る眼に位置する文字。

その異形の存在は、異なる世界において、遥か未来に魔王として恐れられてきた最強で、最恐の存在。

オーマジオウ。

 

同じ姿。

同じ力。

同じ能力。

その二体がどちらもオーマジオウであるが故に、ノイズを蹂躙してきたその力は通用しない。

 

 

『ならば、力で説明してやろう』

 

反転した世界故、その世界には彼ら以外の生き物はその場に存在していない。

あらゆる制限を取り払われた能力を発動させ、互いの体を吹き飛ばし、そしてその肉体を燃焼させる。

が、その燃焼はすぐに沈黙し、衝撃波も意味をなさなくなる。

──それは、オーマジオウが、どんな奇跡かその力を受け継いだ一人の少年が、その記憶にある究極の名を冠するもの同士の戦いと、図らずも同じ構図。

 

誰一人として観戦者の無い反転した世界にて、異形と異形の、自分同士での壮絶な戦いが始まる。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

金属同士が生み出す鈍い音。

鏡像は迷うことなくオーマジオウへと突っ込んで目の前に発生した爆発を物ともせず、逆に爆発ごと斬り裂いてきた。

オーマジオウは慌てることなく突き出した大剣で鏡像の剣を受け止めるも、鏡像は乱暴にオーマジオウの剣を振り払った。

オーマジオウはその払われた勢いを利用して素早く体を反転、鏡像の脇腹に斬り込んだ。が、鏡像はその動きを読んでいたかの如き早業で、オーマジオウの剣を難なく受け止めた。

 

オーマジオウらは同時に剣を払うと剣からエネルギーの刃を伸ばして互いに構えを取り、必殺技を繰り出した。

高エネルギーの刃は真っ向から激しくぶつかり合い、互いの火力によってオーマジオウらは弾き飛ばされた。

しかし、滞空中にすら互いの手の中には銃が握られており、撃ち合う。

並の相手ならばそれだけで倒すに到る弾丸は空中で激突し、吹き荒れる暴風すら掻き消す。

 

風に揉まれ、どちらも受け身すら取れずにビルへと投げ出される。ビルはそのまま倒壊し、オーマジオウ達は瓦礫の山に埋もれる。

瓦礫の山から出てきた両名の見た目は、既に無傷。

どちらともなく立ち上がり、引き寄せられるかの如く走り出す。

 

オーマジオウが走りながらにもう一振りの剣を取り出し、合体させ大剣へと変化させる。

鏡像が走りながら、オーマジオウのそれと全く同じく大剣を手に持つ。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

『せぁぁぁぁ!』

 

キングギリギリスラッシュ。

それはジオウの能力に追随する形で常に「サイキョー」であり続ける武器が放つ文字通りの必殺技。

「ジオウサイキョウ」と書かれた長大な光の刃を発生させ正面からぶつけ合う。

まさに鏡合わせの如く放たれた技が激突し、両者の大剣が互いを斬り裂く。

普通の人間が受けようものなら体が真っ二つになるであろう攻撃を受けたにも関わらず、尋常ではない防御力で耐えたのか、或いは再生させたのか傷一つない。

獲物を握り込んだままに、彼らは拳にエネルギーを纏わせて振り抜く。

 

響くは、鈍く、重い、打撃音。

互いの動きが驚くほど同時に繰り出され、カウンター気味に殴り合う。

同時に放たれた拳により、きりもみしながら再び瓦礫の山へと吹き飛んでいく。

 

「っ、~~! いったぁ……」

 

『──はっ、やはりお前は俺ではない』

 

今まで経験したことのないダメージに、思わず呻き声を上げてしまう。

……それはそうだ、本来、オーマジオウの圧倒的な防御力を前にダメージを与えるのは至極困難。どれほどの攻撃力を持っていようと、オーマジオウの能力によりそれを上回る防御力を手に入れてしまう。しかし、相手がオーマジオウだったら?

自分同士であるが故に、互いにダメージを与えることが可能となっているのだ。

 

「……どういうこと? 君は鏡の世界の俺でしょ?」

 

『確かに俺は鏡の世界のお前だ。だが、お前は俺ではない』

 

「意味わかんないよ」

 

オーマジオウは相手の意図が理解できず、自身でも分からぬ怒りに身を任せて、猛然と鏡像へと突っ込んだ。

その動きを予知していたのか、それを躱しながら斬り込んできた鏡像とオーマジオウとが鍔迫り合いとなる。

力はやはり互角。

対等であるが故に、鍔迫り合いは硬直状態となった。

 

『いつものオーマジオウを真似たふざけた口調はどうした? 使わないのか?』

 

「自分相手に使う気は起きないね」

 

『それにオーマジオウの力を何故使わない。この理不尽な世界が嫌なんだろ? だったらこの時空を破壊して新しい時空を創造すればいい』

 

重なる剣の向こうから鏡像の顔がグッと近づいてきた。

 

『お前は心の底で思ったはずだ……破壊してしまえばいいって』

 

その言葉が鋭い刺となってオーマジオウの胸をついた。

それは彼が心の奥底で考えてしまったことだった。無論、すぐにその考えを彼は放棄した。

しかし、完全に捨て去ったかと問われれば……否。

一度思ってしまった思考はそう簡単に消すことなんて出来ないし、ましてやそれを誰に相談することもなく一人で考え込む事によって余計に思考の沼へと引き摺り込まれていく。

仲間もなく、頼れる友人もいない。

 

……だからこそ、彼が来たのだ。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

考えてしまった。

この時空を破壊すれば、新しい時空を創造してより良い明日が来るんじゃないか、と。

そうすれば悪かった昨日は無くなったと慰めることが出来る。

この時空が消えればノイズがいなくなり、そしてオーマジオウがいなくなる。

人々にとってはそれこそが望む世界なのではないかって。

 

思ってしまった。

何故、ノイズなんてものが存在するんだ。

人だけを殺す災害なんてものがなければ、こんな惨劇はなかったというのに。

助ける為だったとはいえ、手足を斬らないで済んだはずだ。

俺がこうして戦う必要もなかったかもしれないのに。

 

観測し(見て)てしまった。

これから、五体満足で逃げ延びた人々……立花へのバッシングが始まる。

ただ「無事に生き延びた」という理由だけで彼女らは迫害されていく。

ノイズによって死んだ者、オーマジオウによって手足を欠損させられた者。それらの人がいる中で、五体満足の人間にも渡される補償金。

己を優先させた者達による暴行によって多くの人が犠牲になったことも知っている。

……でも、立花はそんな事をしていないじゃないか。

何故悪くない彼女が責められるのだ。

 

許したくないのだろう、責めたくなる気持ちもわかる。

だが、あの極限状態の中で自分を優先するなというのは無理がある。

誰だって死にたくはない。

 

だけど、あの地獄の中で、なお生き残ろうと互いを励まし合って助け合った人々だっていた。

その、人間としての誇りを捨てずに足掻いた人を、何故責めることが出来る?

 

いくら俺が助けようと……

 

『ほらね? そういうとこ。最高最善を目指しておきながらお前が心で思ってる黒いことこそが、お前が聖人君子でない証だ』

 

鏡の世界の俺の言葉にギョッとする。

心を読んだのか、それとも俺だからこそ分かるのか。

 

『仮面ライダーになるなんて、お前には無理なんだよぉ。嫌だってんなら逃げちまえばいい。……お前がどうするのか、見せてもらう』

 

奴は俺を大きく突き飛ばして間合いを取る。

体勢が崩れ、視線が逸れる。

奴に視線を戻そうとすると、そこにはもう鏡像のオーマジオウはいなかった。

 

 

 

 

『ハイパークロックアップ!』

『Start up!』

『フォーミュラ!』

『高速化!』

『トライアル!』

 

無機質な電子音が連続で鳴り響く。

奴はいなくなったのではない。攻撃の体勢に移っただけだ。

俺は今まで味わったことのない、背筋に氷柱を突っ込まれたような悪寒を覚えた。

直感と未来予知が数秒先の未来に対して強い警告を発しているのだ。

奴は最悪のコンボで俺を倒そうとしている。

 

まずいまずいまずい。

やられる。このままでは確実に倒される。

 

俺も同様に加速のさらにその先の世界へと行く。が、既に遅かったようだ。

周りには()()()のオーマジオウが俺を囲むように必殺技の体勢へと移っている。

 

ああ、間に合わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『終焉の刻! 逢魔時王必殺撃!』

 

 




加速の加速……速そう(小並感)
書いてて、あれっ自分でも何を書いてるかよく分かんないや! ってなる時がくる
そして止まらなくなってまぁいけるべってなる
それが今回の話でした
まぁどんな展開になってるんじゃボケェと言われても消すのもどうかと思うのでこのままなのですが
修正はするかも
つまり、感想とか欲しいなって
返すの遅いのに欲しがっちゃう、ごめんね!

夜中にガンガン携帯が鳴って全く寝れんかった。緊急速報は切っておけばよかった
まぁ自宅でなんとかできてるので我がままと言えば我がままなのですが……道路の浸水はやばい。猫ちゃんがビックリして二階から降りてこなかったよ

そんなこんなで遅れました

あ、アンケートの結果なのですが、見たいという人が多かったのでボツネタも投稿しようと思います
ただ、投稿するタイミングはこの無印が始まる前の話が終わってから投稿しようかなと
ひと段落した方がいいだろうし、このペースならもうそろそろ無印始められそうだし

そして、ウィザードのタイムのことを忘れていた我。
いっそいで小説を棚から出して読み直してきました。
タイム……強すぎ! ノーリスク! ずるい!
以上! 閉廷!

いや、待って。石投げないで。冗談とかじゃなくて、晴人くんもヤバいから使うの自重するって言ってたし総悟くんも自重する

色々後書きに書きたい気もするけど、そんなことをする前に本編を書こうと思います
片付けのせいでまたちょい遅れたりするかもしれません、そんなこんなのssですがそれでもよければ次回もお楽しみに



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決意した日

夕食時ということもあって空は既に暗く、窓からは雨が打ちつけられる音が聞こえてくる。

雨が止む気配は未だなく、予報ではここ一週間は雨だとか。

常磐順一郎は雨は嫌いではない。

だが、あんな事件の直後に雨が降る、という事が嫌であった。

彼の心もまた、現在の空模様の如く穏やかではなかった。

 

共に暮らす我が子同然の常磐総悟がいきなり「遊びに行ってくる」と言って出ていくや否や、帰ってくるその直前まで何度連絡を取ろうとしても連絡が取れず、もしやライブ会場の事件に巻き込まれてしまったのではないかと思ったことも要因の一つかもしれない。

総悟の服は乾いてはいたが、髪の毛はビショ濡れである事から雨に打たれて帰ってきたのは言うまでもない。

常磐順一郎は総悟が帰ってくるなり直ぐに風呂へと入れることにした。

今までどこに行っていたのか、またそこで一体何をしていたのか、気にならないと言えば嘘になる。けれど、総悟は無事に帰ってくることができたのだ。

それに、帰ってきた時の総悟の顔を見れば……聞けなかった。

時間ならいくらでもある。

機会があれば聞けばいい。

彼はそう思ったが故に帰ってきた直後には特に追求はしなかった。

 

外からは雨の音だけでなく、遠くからサイレンの音が響く。

サイレンの音もまた暫くは止むことがないだろう。

テレビをつければ番組を中断して事件を報せるモノばかり。

順一郎には夜に観たかったドラマがあったけれど、あんな悲惨な事件の後なのだ。こればかりは仕方がないと割り切ってニュースを観る。

 

死者に行方不明者、そして重傷者が多数であることをニュースキャスターが報せる。

しかし、まだ情報が纏まっていないのか他の具体的な内容が入ってこない。

原因は特異災害であるノイズと魔王ことオーマジオウ。

分かるのはこれだけであり、後はこれといった情報が特にないのだ。

一体、ライブ会場で何があったというのか。

彼とて、事件後に直ぐにその全貌が判明する程簡単な物ではないことぐらい分かっている。けれど、知りたいと思わずにはいられないのだ。

 

このご時世、ネットが発達したことによって端末一つで様々な情報を瞬時に且つ容易に集めることができる。

が、ノイズ関連の事件だけは何故かその限りではない。

本来ならばその近くにいた者、もしくはその家族や友人がネットに呟くことによって情報は拡散していくのだが、ノイズとなると情報は一気にその数を減らす。

そして、それは今回のライブ会場の事件も例外ではなく、いくら探そうがノイズ関連の情報は殆ど無くオーマジオウに関連するものしか出てこない。

 

ライブ会場に家族、友人、恋人がいた人達は気が気でないのは容易に想像できる。

彼もまた、先程まで同じ状況だったのだから。

もし、共に暮らす家族が巻き込まれていたら?

もし、昨日まで共に遊んでいた友人が巻き込まれていたら?

もし、未来を誓った恋人が巻き込まれていたら?

気が狂いそうになる。

 

「はぁ……」

 

椅子に座りながら、溜め息をつく。

リモコンを操作してテレビを消し、壁に掛かった写真へと目を向ける。

 

「あの二人ならどうしてたかな……って言うのは野暮かぁ」

 

写真を眺めながらガシガシと頭を掻く。

総悟に対して甘い対応をしてしまう順一郎ではあるが、何も考えずに彼を甘やかしているのではない。

幼い頃に両親を亡くすという悲劇に見舞われた総悟に対して、どの様に接していいか距離感を測りかねているのだ。

順一郎の困惑とは裏腹に総悟は我儘一つ言うことなく育った。

順一郎の言うことに特に逆らうといったことはなく、俗に言う良い子へと育った。

挙げ句、勉学や……特に身体を鍛える事に関しては余念がない。

正直、これならもう少し我儘を言ってくれた方がいい。

どうすれば良いのか。

 

順一郎から見た総悟は……いつも一人だった。

学校の成績は決して悪くないし、身体を鍛えているおかげで体育の成績もだいぶ良い。

その事は素晴らしいと思う。

学業や運動に精を出すのは学生の特権というやつだ。

が、総悟を引き取ってからここに至るまで、特定の友人と遊んでいる姿を一度とて見たことが無かった。

そのことを心配し、担任との面談で聞いたことがある。しかし、返ってきた答えはまた想像とは違うものだった。

 

『総悟くんは特にいじめなどにあっていません。これは総悟くんが在籍するクラスの全員に聞いたことですので、ほぼ間違いないかと』

 

もちろん、担任は正直に総悟をいじめたか? などと聞くはずがない。そこは、担任なりのコミュニケーションで遠回しに聞いたのだ。当時はまだ小学生ということもあり、遠回しに聞けば、生徒は何の躊躇もなく答えてくれるし、普段から生徒と結構親しく話せる仲故の行動だっだ。

もっとも、問題はその先であったが。

 

『確かにいじめられていない。これは、事実です。ですが、話を聞いているうちに感じたことなんですが、彼、あまり―――いえ、まったく親しい友達がいないんですよ』

 

担任曰く、誰とでも仲良くし、皆と等しく距離を取るタイプの子供だと。

確かに総悟は誰もが知っていた。誰もが話したことがあった。誰の記憶にも残っていた。

だが、ただそれだけ。『いる』という事実は彼らの記憶に残ってはいるが、ただそれだけだ。何か記憶に残る会話も行動もなかった。

まるで、無色透明な人間。つまり、それは『いてもいなくても一緒』ということだ。

 

最近の順一郎から見た総悟はまるで何かの強迫観念に突き動かされてるよう。

もっと自由に、もっと気軽に、もっと阿呆に。

そうアドバイスしようという気持ちが無いと言えば嘘になるが、気長にやろう、という気持ちの方が彼には強くあった。

昔は夢に一直線であったが故に、家庭を持たず、子育ての経験が彼には無い。

焦ったからと言って、必ずしも良い方向へ向かうような物ではないと理解するのに時間はそう必要無かった。

 

「どうしようかな」

 

そう呟き、順一郎はテレビを消す。

特に得られそうな情報は無い。

ツヴァイウィングを知らなかった総悟がライブ会場にいたとは考えづらいし、少なくともライブのチケットなどは買っていなかった。

たまたま近くにいた、というのが一番考えられる線だが……

 

「っ、~~! いったぁ……俺じゃなきゃ絶対死んでるよ、これ」

 

唐突に、背後から上がった、何かが打ち付けられる音と共に聞こえた総悟の声に、順一郎が反射的に肩を竦ませる。

振り返れば、先ほど風呂場へと向かったはずの総悟が裸で倒れていた。

風呂場へと繋がる扉は総悟が倒れている場所からは正反対の位置しており、この様な移動は物理的に不可能。

風呂に入った後だろうか、総悟の身はタオル一つすら巻いてない姿。

違和感があるとすれば、順一郎には総悟が出てきた姿など見えなかったし、背後に移動する音も聞こえなかった事だろう。

もっとも、順一郎が総悟に驚かされるのはいつものこととも言えるのだが……。

 

「そ、総悟くん!? もう上ったの……というか、何処から出てきたの!?」

 

「えーと、鏡の世界、かな。あ、あはは……」

 

「裸で鏡の世界に行ってたの!?」 

 

「いや、まぁ」

 

口ごもる。

説明したいことは多くある。

そして、言ってはいけないけれど言いたい事も。

全部を全部、総悟は順一郎に説明できるわけでは無い。

それは説明能力とか欠けているとかではなく、素直に話していいのか、順一郎に迷惑になってしまうのではないか。

そう思うと、思うように口が開かなかった。

 

「鏡の世界かぁ」

 

「うん、まぁ、そんな感じかな」

 

「え、もしかして若い子の間でそんなの流行ってるの?」

 

「いや、俺だけかな」

 

「……やっぱ総悟くんは違うね。ごめん、疲れたから今日は早めに寝るね」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

事件の後でも日常は続くもので。 

学校は特に休校になるということもなく、いつものように授業が続けられていた。

いや、いつもと同じというのは少し違ったか。

うちの学校では二人の生徒が先のライブ会場の事件に巻き込まれて入院している。

一人は同じクラスの立花響。

もう一人は別のクラスの男子生徒、サッカー部のキャプテン。

たった二人で済んだと安堵すべきか、もしくは二人も被害者が出てしまったと嘆くべきか。

この辺は個人の価値観の違いが出てくるのでなんとも言えないが、被害者が出ることは決して良いこととは言えないだろう。

 

別に、何もテレビで悲しい事件が起きる度に泣いて同情しろ、なんて思っちゃいない。何か起きる度にそうしていたら、人間はいっそ情報を遮断した方が楽になれる。

テレビの向こう側の出来事を悲しむのは悪いことではないが、それはおそらく意味のない感傷なんだろう。テレビの向こう側ってのは所謂違う世界の話、自分の関わりのない所で悲しい出来事が起きたとしても、何もすることは出来ないのだから。

まぁ、事件を知ったことでその現地に赴き、悲しみを救いに行くってんなら話は別だが、人間、そこまで出来る人は希だ。

 

が、これは自分に関わりのない場所だったら、の話だ。

仮にもつい先日まで共に学校生活を送っていたクラスメイトが悲惨な事件に巻き込まれたというにも関わらず、皆は普通に学校生活を過ごしている。

 

最近はこんなんではなかった。

クラスメイトの皆が大なり小なり立花を心配しており、悲惨な事件の被害者として同情していた。

問題はとある週刊誌によってノイズによる被災で亡くなったのは全体の1/5程度で、 残りは混乱によって生じた将棋倒しによる圧死や、 逃走の際に争った末の暴行による傷害致死であることが掲載されてから。

これにより一部の世論に変化が生じた。

死者の大半がノイズやオーマジオウによるものではなく人の手によるものであることから、 生存者に向けられたバッシングがはじまり、 被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことから、 民衆による『正義』が暴走し始めた。

 

俺も一体何事かと週刊誌に目を通してみたが、ハッキリ言ってやり過ぎた内容であった。

記事内容は確かに正確で嘘ではなかったが、人々の気持ちを煽るような華美な言葉は読む人によって印象は大きく変わるのは想像に難くない。

一部の人間によって悲惨な結果が生まれたのは確かに事実、けれども生存者の全員が全員その様なことをした訳ではないのだ。

それを、あたかも生き残った人達は皆、生き延びる為に周りを犠牲にした、という様な内容はナンセンスだ。

 

そして、それに影響されたか知らないが、とある少女のヒステリックな叫びが全校生徒へと広がっていった。

『何故、キャプテンは足を失ったにも関わらず、なんの取り柄もない立花は五体満足で生き残ったのか。さては、誰かを犠牲にして逃げ延びたに違いない。生き残ったのだから、悪に違いない』

という様な、行き場のない怒りの矛先が、立花へと向けられた。

これによって、この事件に関係もなければ興味もなかった人間を巻き込んで、一種の憂さ晴らしとして扱われた。

あんなに心配していた人達が、今では手のひらを返して立花を責め立てる。

 

『他のみんなも言ってるから』

中身の無い批判とはまさにこの事か。

伝言ゲームの要領で伝わっていく立花の悪評は止まることを知らず、全校生徒へと拡がるのは予知を発動させなくても容易に想像できる。

的となった立花はというと、まだ絶対安静らしく、未だ入院中で学校へは来ていない。

なので、自分が学校で批判の的となっている事を、おそらくだがまだ知らないであろう。

当然といえば当然だが、わざわざ病院に行って「お前は何故生き延びたんだ?」なんていう狂熱的な人でもいない限り知る由もない。

或いは、この手の話題を扱った番組をたまたま観て、そういった事が身近でも起こり得ると思わなくもないだろうが、これは立花次第だろう。

 

……机の中にしまってあった教科書の類を鞄へとしまい、帰宅の準備をする。

帰りのHRも終わったということで、部活動がある者は部活動へ、部活に所属していない者は早々に帰宅するなり友達と談笑するなりしている。

特に学校に残ってするような用事なり委員会の仕事なりが無く、部活にも所属していない俺は早々と帰宅する組となる。

入ってみたい部活がないわけではないが、一日のリズムを縛られる部活は中々手が出しづらい。

どういう事かと問われれば。

 

部活動をしている余暇が無い、に限る。

ノイズが出る度に西へ東へと飛び回り時によっては国外へと行かなければならない身としては、残念ながら部活動をする暇は無い。

ノイズが毎日発生しているわけでも無いので最低限の時間は確保しているっちゃしているが、ノイズがいつ出てくるかも分からないので断念。

 

「さっさと帰って宿題済ますか」

 

教室を出ようと鞄を手に持つと、

 

「そんな真面目な常磐に一つ、頼み事をしたい」

 

どういう訳か、授業中に配られたプリント類や宿題を手に持った担任がその場に立っていた。

まさか俺だけ宿題が二倍なんて可笑しな状況でもないだろうから、考えられる理由は一つ。

けれど、何故俺に白羽の矢がたったのか。

と考えて、その理由が思い浮かび納得。

 

「ああ、小日向は、今日は休みでしたっけ」

 

「ご名答。立花と仲の良い小日向がダメとなると、後はなんでも頼れる常磐しかいないという訳だ」

 

今日は珍しく小日向は欠席、理由は体調不良とのこと。

別に立花の友人が小日向一人なんてことはないのだが、クラスの状況が状況であり……関わる事を恐れているのが大半だ。

立花に肩入れすることによって自分達も標的になるのではないか、という考えだ。

分からないでもないが、少し悲しい。

 

「先生はクラスの状況をどう思います?」

 

プリントを受け取って鞄にしまいながら、ふと質問してみた。

責めるでも煽るでもなく、ただ純粋に気になった。

担任の視線が俺から逸らされる。

クラスの皆が堂々と立花についての話をしているものだし、何よりテレビではその手の話題で持ちきりだ。

まさかここで知らない、なんてことはないだろう。

仮に知らないなんて嘘をついたところで、この場限りの嘘は無駄だと担任なら理解してるはずだ。

 

意地の悪い質問だったと口に出してから思う。

別にこの担任がこの雰囲気を作ったわけでもない。

それは立花に対して悪印象を抱いていないのは、彼女が休んでいる間のプリント類を必ず届けるようにしていることからわかる。

もし率先してこの悪い流れを作っているなら何かと理由をつけて届けない事もできるだろうし。

 

「私から言えることは教師はあくまで中立、ということだよ。()に、イジメなどがあった場合、被害者側を庇うことによって更にイジメがエスカレートする事もある」

 

周りに人がいない事を確認して話しだす。

それでも、俺にだけ聞こえるような声の大きさなのは念のためか。

仮に周りに人がいたところで何か問題があるのかと問われれば、分からないけど。

 

「こういうのは時間が解決するに越したことはない。大人の一言でイジメが無くなったとしても、再発しないとも限らないからね。……立花もそうだが、私は小日向も心配だ。アイツは立花と特に親しかったからなぁ」

 

頭をボリボリと掻き、改めてこちらを見てくる。

 

「イジメの対象と仲良くしてた者が連鎖的にイジメの対象になるのはよくある事だ。いつも頼んでいる私が言うのもなんだが、そうならない事を切に願うよ。……できることなら、この件が落ち着くまで引っ越してしまうのが一番なんだろうけどね」

 

「そうですね」

 

騒ぎが落ち着くまで引っ越すのが一番なのはその通りなのだろう。出来るかはともかく。

担任の対応は冷たいようにも感じるが、まぁそんなものだろう。

正直、このクラスだけの問題だけではなくなりつつある『生き残ってしまった』立花響の扱い。

遺族やその関係者が立花の家にイタズラをする、なんて事も今後は起こり得るかもしれないし。

そこまで担任にカバーしろ、なんていうのは無茶振りにも程がある。

 

「じゃ、職員室に戻るから」

 

振り返って、挨拶をして、担任はそのまま立ち去る。

さて、家に帰る前に用事ができてしまった。

別に帰ってからでもいいけど、帰る前に済ませられるなら済ましてしまおう。

学校からしばし歩いて、人が通らないであろう裏路地辺りで、立花の入院している病院へと転移した。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

生存者による傷害致死が死者の大半を占める、という報道を見る度に小さな子供は除外しろと思うのは果たして俺だけだろうか。

立花の様な年端の行かない子供達が自分よりも遥かに身体の大きい大人を殴り殺したと周囲が本気で信じているのなら、彼らには子供が悪魔にでも見えているに違いない。

成長期を終えた少年少女なら確かに不可能ではない。生き延びる為に火事場の馬鹿力でやった、という可能性もゼロではないだろうが……

 

実際に自分優先で他人に暴力を振るって逃げ延びた生存者がいる事も事実。

そういった人が非難されるのはわからなくもないが、果たして生存者の家に石を投げるなどの私刑をしている人はどうなのだろう。

そんな自分勝手な行動は、自分優先な生存者となんら変わりないように映る。

大体にして、被害者やその遺族に国庫からお金が支払われるのはおかしいというが、その為の税金だろうに。

ましてや、ノイズは災害という認識なのだから生存者は被災者のはず、そこで税金を使うのは当然のはず。

生き延びる為に人を殺した人にお金が支払われるのは納得いかない、という考えは確かにわかる。

非道な事をしながら、何故支援を受けるのかと叫びたくなる気持ちは俺にもある。

 

が、週刊誌如きにあれだけ踊らされているのもどうかと思う。

これだけ踊らされているのなら、どっかの組織はさぞ情報統制しやすいに違いない。

 

何はともあれ、クラスメイトである立花がこんなノイズの訳の分からない事件に巻き込まれた、というのは、とても不幸な事だと思う。

何か悪いことをしたというわけでもなく、ただライブを観に行った、ただそこに居た、ただ生き残ってしまった、という理不尽な理由で迫害を受けるのだ。

昔、何処で聞いたかはうろ覚えだけど、とあるお坊さんが言っていた。

間が悪かったのだ、と。その選択が、己を取り巻く環境が、たまたまその時にうまく噛み合わなかっただけなのだと。

……ああ、確かに、立花は間が悪かったのだろう。

 

「…………」

 

「入らないの?」

 

無言のまま病室の前で俯いている小日向未来。

片手に花束を持っていることからお見舞いに来たことぐらいは俺でもわかる。

たしか、今日は体調不良で学校を休んでいたはずだけれども、まぁそういうことなのだろう。

学校をサボるなんて、とは言うつもりはない。

確か立花との会話を思い出す限り、小日向は本来は立花と共にあのツヴァイウィングのライブを観に行くはずだったらしいが、小日向は家庭の都合により行かなかったそうだ。

たまたま行かなかったが故に巻き込まれなかった小日向ではあるが、自らが誘ったことによってこの結末になってしまったことに対して、彼女なりに思うところがあるらしい。

 

けれど、このまま病室の前で二人して突っ立ってるわけにもいかない。

改めて病室へと向き直る。

入り口に掛けられている名前は立花のみ、どうやら彼女の一人部屋のようだ。

ノックをし、中から大人の女性の返事を聞いて入室する。

 

「あら、貴方たち……」

 

「こんにちは……」

 

「どうも、お見舞いとプリント持ってきたのですが、今、大丈夫ですか?」

 

「ええ、大丈夫よ。娘も喜ぶわ」

 

シンプルな服装の、落ち着いた女性。

立花が成長すればこんな風になるんだろうな、と思うのは、彼女が立花響の母親だからだろう。

恐らく、立花は母親似だ。

 

「こちらを」

 

フルーツバスケットを渡す。

花束も考えたけれど、小日向が見舞いによく来ていることは知っていたので、花瓶に入りきらないだろうな、ということで果物を選択。

包丁などを必要としない物を多めに選んだけれど、どうするかは家族に任せるとしよう。

 

「ありがとうねぇ。小日向さんも毎日、大変じゃない?」

 

「いえ……」

 

どうやら、小日向はあれから毎日通い詰めているらしい。

俺は担任に頼まれたから来たのであって、なんだか申し訳ない。

ちら、と小日向の方へ目を向ければ、やはり彼女の表情は優れているとはいえず、思い詰めた表情。

自分のせい、と思っている彼女からすれば、やはり辛いものがあるだろう。

 

鳴り響くは、携帯端末の着信音。

俺のではなければ、小日向のものでもないらしい。

 

「ごめんなさい。ちょっと、席を外すわね」

 

となると、必然的に彼女の親御さんのものとなる。

親御さんは一言断りを入れて、部屋から出ていく。

どうやら、いつの時代でも、どの世界でも病室で携帯電話で話すのは禁止されているらしい。

嬉しくない発見だ。

 

親御さんが退室し、病室の中には俺と小日向、そして、ベッドに横たわり、目を瞑る立花だけが残る。

当然ながら、会話など起ころう筈もない。

彼女らが終始無言で居るというのは珍しい事だが、致し方ない。

夢の中に入って会話、なんて芸当をするわけにもいかないし。

意識のない怪我人と思い詰めたクラスメイトにそれを求める様な畜生などに育ったつもりはない。

 

「……」

 

口を開いて、言葉が浮かばず、閉じる。

気まずい。

早く元気に、なんて催促するのは俺の口からは言えない。言う資格が無い。

じゃあ、何を言いたいのか、というのも、自分の事なのにはっきりと把握できない。

何かを言おうとしたが、何故、何かを言おうとしたのかもわからない。

頭の中が、混乱している。

 

ふと、顔を上げた小日向がベッドの横に立ち、立花の手を握る。

このまま此処にいても邪魔かなと思い、俺も退出しようかとしたその時。

今まで黙っていた小日向が口を開いた。

 

「……起きてた?」

 

「あ、未来には、やっぱバレる?」

 

…………………………………………………………。

……?!

 

「目、覚めてたの!?」

 

背後からの不意の声に、思わず振り返る。

ベッドに横たわったまま、顔だけをこちらに向けている立花。

少しだけやつれたようにも見えるのは、多分気のせいじゃない。

俺の問いかけに、立花ははにかむように笑みを浮かべた。

 

「ううん、今起きたとこ。おはよ、総悟くん」

 

「え、あー、……おはよう?」

 

唐突な挨拶に、思わず疑問形で返してしまった。

はて、目が覚めるのは非常に喜ばしいことなのだが、正直驚きすぎて変な顔してそう。

今は鏡を見るのが怖い。色んな意味で。

と、いうか、小日向は知っていたのだろうか。

 

「え、小日向は知ってたの?」

 

「うん、三日前にお見舞いに来たときに目を覚ましたから、今日も起きてるかな〜って」

 

なるほど、そんな前に既に意識を取り戻していたのか。

なら、今回のに気付いてもおかしくはない。

だけど、

 

「教えてくれてもいいのに」

 

「その……、まだ秘密にしたくって」

 

「さいですか」

 

どうやら独占欲が強いようで。

 

「ゴメンね、わざわざ。こんな遠いとこまで、大変だったでしょ」

 

「気にしないでいいよ。そんな大変じゃなかったし」

 

転移したから、というのは内緒だ。

本来なら電車なり車なり使わないと来れない距離だけど、今回はオーマジオウの力に感謝だ。

一応、バレないようにトイレの個室に転移してきたけど、まぁ大丈夫だろう。

 

病院ではなく家に届ける、という手もあったが、家まで行くのならお見舞いした方がいいと思って来ることにした。

 

「未来は総悟くんと一緒に来たの?」

 

「ううん、たまたま病室の前でね」

 

「そっか」

 

立花は少し笑みを浮かべた、が、その笑みはすぐに消えることとなった。

 

「……でも、あんまり来ない方がいいよ。総悟くんも、その、みんなに……」

 

…………まだその事は知らないと思っていたが、どうやら、既に知っているらしい。

さて、どうしたもんか。

 

「私に関わっちゃうと、総悟くんが友達に……」

 

「あー、それは大丈夫。だって俺、友達いないし」

 

俺の言葉を聞いた立花と小日向は顔を上げ、ぱくぱくと口を動かしている。

少しでも場を和ませようとジョークのつもりで言ったのだが、俺にはジョークのセンスはないみたいだ。

やってしまった。

ジョークではなく、その後の俺のリアクションが面白かったのか、立花と小日向はくつくつと小さく笑いだした。

笑われる事自体は、それほど喜ばしい事ではないのだけど……。

 

「私たち、もう友達でしょ?」

 

「友、だち?」

 

友達。

友達、こんな俺にも友達、か。

 

「そ……っか。友達か」

 

「そう、友達。友達がいないなら、友達になればいいんだよ」

 

そう言ってみせるのは、彼女の強さなんだろう。

クラスの女子は言った。『立花響にはなんの取り柄もない』、と、

確かに立花は特段に成績が良いわけではない。

何かスポーツをやっているでもなければ、クラスの代表に選ばれるような事もない。

けれど。

立花のはにかむような笑みを見て、釣られて少しだけ、口の端が上がるのを自覚できた。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

太陽が既に沈み始め、面会時間も終わり。

病院の外へ出ながら、空を眺める。

どうやら雨は止んでいるらしく、夜空を見上げれば、浮かぶ雲の切れ間から、大きな月が覗いているのが見える。

 

「送って行こうか」

 

時刻もそろそろ子供一人で彷徨くには少々遅い時間帯。

小日向の家の詳しい場所まで分からないが、同じ中学に通っているわけだし、距離は俺の家までとそう変わらないはず。

この時間帯に女子を一人で帰らすのは流石に気が引ける。

不審者が出ないとも限らないので、用心するに越した事はない。

 

「ううん、お母さんが迎えに来てくれるから大丈夫」

 

と思っていたら親御さんが迎えに来るのか。

立花の入院しているこの大きな病院は、地元から少しだけ離れた場所にあるのだが、どうやって小日向は来たのだろうと思っていたが理解した。

 

誰も彼もがホイホイと転移出来るわけでもないし、ましてやまだ運転免許の取れない年齢となると、手段は限られてくる。

親に送り迎えしてもらうか、多少お金が掛かるが公共機関やタクシーを使うか。

ヒッチハイクなんて手もあるが、これはオススメできない。

お金があまり掛からない、という点では賢い選択かもしれないが、中学生の女子がやるもんではない。

 

「なら安心だ。また学校でね」

 

「ねぇ、総悟くん」

 

「うん?」

 

ゆっくりと振り返る。

今思うと、小日向とこうしてちゃんと話すのは初めてかもしれない。

今まで話したことといえば、クラスの仕事のことや他の人からの伝言を伝えることぐらいだったような。

もっとも、そもそもの話、俺が女子とそんな話をするタイプではないということもあるんだけど。

 

「ありがとう」

 

「感謝の言葉を言われるようなことはしてないよ」

 

「響のこと、心配してくれたでしょ。それだけで私は嬉しかった」

 

他の人はしてくれなかった。

そう、小日向は目を瞑り、呟いた。

 

立花と小日向のことを知らない俺がとやかく言えることじゃない。

だけど。

どうしても聞きたい事が一つある。

 

「小日向はどうするの?」

 

「え?」

 

担任が言ったように、俺も小日向が心配だ。

立花が学校へ再び来るようになれば、もしかしたら直接的な嫌がらせなどが今後出てくるかもしれない。

このまま立花と共に居続けるなら、同じくターゲットにされてもおかしくはない。

別に彼女らがターゲットにされようと、人の手によるイタズラなら片手間で全部防げるし、何か物を隠されようが一瞬で見つけて取り返すこともできる。

しかし、精神面は……

 

「私はずっと響の側にいるよ」

 

「虐められても?」

 

「……私は響の親友だもん。今だからこそ、こんな状況だからこそ言える、響は、誰よりも大事な人だって。……本人には恥ずかしくて言えないけど」

 

頷く。

ならば言うことはない。

 

「じゃ、また学校で」

 

「うん、またね」

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

ビュー、ビュー、ビュー、と。

まるで嵐の中にいるような強風が、静寂を保っていた空を塗りつぶす様に大きく響く。

時刻はもうすぐ日を跨ぐ、0時前。

少年はビルの屋上の柵にもたれ掛かり、そこから見える景色を一望する。

 

明らかな不審人物の姿に、もし近くに帰宅途中の一般市民でもいようものなら関わらないように避けたか、警察に通報していたことだろう。

落下を防ぐ為の柵の反対側にいるものだから、見方によっては今から飛び降り自殺をするようにも見える。

が、幸か不幸か、場所が時間的に人目につくということはない。

落下防止の柵に身体を預けたままの少年には一体の黄金の戦士が向かい合っている。

夜空の下、明らかに不似合いな二人。

少年──常磐総悟は、黄金の戦士──オーマジオウへと、困ったような笑みを向けていた。

対するオーマジオウの仮面に覆われた顔から表情を窺い知る事はできない。

 

『この時空を壊す気にでもなったか』

 

だが、声からはオーマジオウの煽り、そういった感情がありありと感じ取れる。

 

「まさか、この時空を壊す気はないよ。確かにこの時空には絶望で満ち溢れてるし目を覆いたくなることもある。でも、その存在を決して否定されるようなものでもない」

 

常磐総悟は肩を竦める。

 

『お前も見てきたはずだ、人の醜さを。世界が、誰もがオーマジオウを憎み、恐れている。今のお前は恐怖の対象でしかない』

 

「そうだね、でも……見てきたのはそれだけじゃない」

 

柵に預けていた体を引き戻す。

まるで何か吹っ切れたかのよう。

常磐総悟は歩み始める。

 

『自らの為に周りを犠牲にした人がいた』

 

「人を守るためにその身を犠牲にして戦う人達がいた」

 

一歩近づく。

 

『周りに流され、傷つける人がいたろ』

 

「友の為に手を伸ばし、救おうとする人がいた」

 

腰にベルトを出現させ、さらに一歩。

 

「人にはそういった素晴らしい面もあれば、君の言うように醜い面もある。だからこそ、あの人達にも素晴らしい面があるんだって信じてる」

 

『…………』

 

オーマジオウの視線と、常磐総悟の視線が絡み合う。

今にも挫けそうで、それでも希望に満ちた瞳。

 

『自分を犠牲にして、か』

 

「犠牲なんかじゃない。俺は俺の為に戦う――

 

――俺が信じた希望の為に!

 

――俺が望んだ結末の為に!!」

 

総悟の告げた言葉に、オーマジオウはぐらりと揺らぐ。

総悟から目に見えぬ攻撃を受けたわけではない。

ならば何故、これほど衝撃を受けているのか、彼自身にもわからない。

オーマジオウにかつての覇気がない。

その仮面の中の瞳には、己の理解できないものに対する畏怖で震えていた。

 

『何故そこまで信じられる? 何故そうまでして戦える!?』

 

オーマジオウの前まで迫り、そこで歩みを止める。

この世は絶望だけでじゃない。

何故ならば、自分は独りじゃないことを知ったのだから。

だから、そう。

立ち上がる。

この世界の為に。

 

「決まってる――仮面ライダーだからだ」

 

その姿に、嘗て見た多くの戦士の姿が、重なっていくように見えた。

 

 

 




なかなかに難産だった
キリがいいところが見つからなくて、気づいたらいつもの二倍以上になってるし

過去編はこれにて終了、これでようやく原作に突入できる……長かった
え、最後どうなったのかって? 原作のソウゴみたく融合したんじゃないですかね

ここからはかるーくキャラ紹介とかをば

◯総悟という名のン我が魔王
シンフォギア世界に飛ばされたオリ主
家族はおじさんのみ、両親は他界
オーマジオウの力を持ってるから実はラスボスなのかもしれない
シンフォギアとか知らないので、ノイズとかいう特異災害にビビってる

なんか俺は友達がいない、とかジョークで言ってるけど実は本当にいないパターンで、この世界で友達と遊んだ経験とかほぼ皆無だけど、普段は鍛えたりノイズと戦ってるからしょうがないのかなって
ビッキーの境遇を悲しんではいるけど、かといってみんなイジメはやめよーよー、なんていうムーブもできないので教室の片隅にいる
おじさんにツヴァイウィングを勧められて聴く程度には余裕がある
ビッキー達が友達になって喜ぶ位にはぼっち

ミラーワールドのオーマジオウは総悟の心の陰のつもりで書いてみた
でもみんなが色んな考察とかしてて、なんか嬉しかった
他人の考察は見るのが好きなんじゃ


◯我らがビッキー
あんなヤバイ状況なのに「へいき、へっちゃら」とか言える子
親父は出ていくし家にまで嫌がらせされてるのをみると、グレ響が正史
なんじゃねとしか思えない
OTONAとの特訓で全然わかりませんとか言いつつめっちゃ強くなるけど、この子にライダーキック仕込んだらなんだかんだ出来る疑惑がある
実はこの子も映画とか観ればもっと色んな進化できるのでは?
オーマジオウはなんか会場にいたなーぐらいの認識。特に喋ってないし

グレ響にはならない
393いるしね、へいき、へっちゃら

◯393
ビッキーの親友
愛が重すぎない? たぶん面会時間に制限なきゃベッドで一緒に寝てる
ライブに誘ったことで事件に巻き込んでしまったと罪悪感を感じてるんだろうけど、正直間が悪かったとしか
たとえ響が皆からいじめられようとも側に居続け、苦しい時も悲しい時も、響の陽だまりであり続けるのだ
なんで総悟に響が目覚ましたことを事前に言わなかったかというと、そもそも総悟は眼中になかった
クラスで特に話したりする仲じゃなかったし、まさか総悟がお見舞いに来るなんて思いもしなかったから
あの状況でクラスのみんなに「響が目を覚ましたよ!」なんて言えないし、むしろ言ってたらヤバイ

◯奏さん
本来は死ぬ予定だった人
適合係数が低いけど実戦経験で補うとかそういう設定、いいよね
絶唱しようとしたらどこかの誰かに予知されて戻された
でも、その時の負傷によって戦線からは離脱という設定を勝手に作り出した、許して許して
殺した方が書く方は楽だけど、でもなんかどっかで活躍させたいなぁっていう葛藤
たぶんなんかする

◯SAKIMORI
奏が生きてるからたぶん無印ほど情緒不安定ではないと思われる
過去編だから影が薄かったけど、これからはきっとたくさん活躍する子
メンタルが安定してればめっちゃ強い人だし、そもそも生身でも戦える時点で強い
今日も今日とて、防人として戦うのでした
胸で弄られてるけど、マジで小さくなってるようにしか見えないし……ユグドラシル絶対許さねぇ!(冤罪)

◯おじさん
神的にいい人

◯OTONA
イーブイ

無印やる前に、ボツネタ達を投稿しますので少々お待ちを
頑張って早めに投稿するつもりだけど頑張れなかったらこのSSは某司令官の如く爆発します
気長にお待ちくださいな


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ありえたかもしれない物語
逢魔が時を超えて


ボツネタ第一弾
※本編とは繋がってないので注意


「この身がここで果てようとも私の魂は果てはしない! どこかの場所、いつかの時代、何度でも私は蘇る!!」

 

櫻井了子──先史文明期の巫女、フィーネは高らかに叫ぶ。

その身に纏う完全聖遺物であるネフシュタンの鎧は既に機能不全となり、櫻井了子としての身体もまた機能不全になろうとしていた。

彼女の敗北は必然。

が、それでも彼女は笑う。

確かに敗北、だが、これは「フィーネの死」を意味するものではないからだ。

 

「ハハハハハ!! 私は永遠の刹那を生き続けるフィーネ! オーマジオウ、貴様が幾ら私を倒そうが私の末裔は世界中に存在する。貴様の頑張りすぎだ!!」

 

その言葉(呪い)を残して彼女は消滅した。

ここで、オーマジオウは己の過ちを悟ったのだ。

肉体の死は彼女の死を意味しない、と。

 

フィーネ自らが作り上げた輪廻転生システム「リインカーネイション」。

それは人間の遺伝子情報内に施された「刻印」を持つ者を器とし、未来永劫にフィーネを再誕させ続ける輪廻転生システムであり、その魂が残り続ける限り、彼女は何度でもこの世へと舞い戻ってくる。

 

故に、次は確実に彼女の魂を封印。もしくは消滅させなければならない。

 

そこからの彼の行動は早かった。

フィーネの関わっていた米国の研究機関の襲撃。つまりはF.I.S.の崩壊。

 

米国政府と通じてF.I.S.を組織したフィーネは、 まず手始めに「保険」の準備に着手していた。

彼女は仮に理想半ばに肉体を失ったとしても、 時間をロスすることなく計画を再開する為に次なる魂の器をあらかじめ手元に用意し、備えておく策を講じていた。

その器はレセプターチルドレンであった。

レセプターチルドレンがいる限り、フィーネは何度でも蘇り、組織を利用して計画を進める。

……だからこそオーマジオウは、レセプターチルドレンとして観測されていた数千名を放置しておくわけにはいかなかった。

フィーネの再誕を阻止する為に。

どのレセプターチルドレンがフィーネとして再誕するか判別出来ない以上、誰一人として逃すわけにはいかない。

そして……幸か不幸か、レセプターチルドレンは身寄りのない子供が大半を占めている。

だからこそ、彼は全員の殺しを決行した。

 

 

罪の無いレセプターチルドレンがフィーネと化す前に虐殺し、

 

ノイズに関する研究をしていた施設がフィーネに渡らぬ前に焼却し、

 

放置できない場所と数え切れない人々を消し去った。

 

 

『死にたくない』

『殺さないで』

『助けて』

 

その言葉が毎晩毎晩、いつまでも彼の耳に残り続ける。

まるで、今もそこで叫んでいるかのように。

 

しかし、この虐殺には当然、世界中の国家が黙っていなかった。

罪の無い子供たちの大虐殺。

フィーネにより米国を通じた『ノイズが現れ出したのはオーマジオウのせいだ』という情報操作。

そうやって、事実と嘘が入り混じった情報が流され、彼が世界にとっての敵と認識されるのには、そう時間はかからなかった。

一般人の観点からすれば、まるで理不尽な暴力であり魔王の所行に他ならなかった。

 

 

 

 

 

誰もいない荒野にて、玉座がぽつんと置かれている。

その玉座に座るのは、かつては常磐総悟と名乗っていた少年。

だが、今は誰もその名前で彼を呼ぶことはない。

『最低最悪の魔王』

『オーマジオウ』

この二つの名前でしか彼を呼ぶ者はいない。

 

ふいに気配。

とっさに飛びのけば、鉛玉が頬をかすめた。

舌を打ってそれを防ぐと、雨あられとミサイルが降り注いだ。

 

「オーマジオウだ!」

「奴を殺せ!」

「世界をアイツから救うんだ!」

 

オーマジオウを国連軍が囲む。

最初は遠距離からの砲撃、空爆、果てには弾道ミサイルでの攻撃を仕掛けていた国連軍だが、その全てが無力化、あるいは発射元へと撃ち返されたことで、現地での白兵戦が仕掛けられることとなった。

オーマジオウは向かってくる軍へを一瞥する。

この中に、もしかしたらフィーネが混じっているかもしれない。

だから、殺すのだ。一人残らず。

 

「ふん」

 

オーマジオウが腕を振るう。

ただそれだけで、周囲の全てが弾け飛んだ。

戦車、戦闘機、ヘリ、そして人も例外なく弾け飛ぶ。

だが死んでいくのはほとんどがこの騒動に無関係な、オーマジオウが守ると誓った無辜の民であった。

 

だが、"しょうがない"とオーマジオウは割り切る。

もしここで殺すのを躊躇えばフィーネが必ず再誕する。

そうなってしまえば、ここまでで出した犠牲が全て無駄になってしまう。

その心に葛藤はないが悲しみを捨てきれない。

オーマジオウは何も人を殺したかったわけではない。

魔王になんてなるつもりもなかった。

彼ははただ、罪のない人々を守りたかっただけだったのだ。

 

世界を救う為に、何百という人間の願いを踏みにじってきた。

踏みにじった者を無駄にしない為に、より多くの人間を蔑ろにしてきた。

大を生かすために、小を犠牲にした。

今度こそ終わりだと、今度こそ誰も悲しまないだろうと……一人意地を張り続けた。

人々を救うと口にして、その陰では多くの人間に絶望を抱かせていた。

 

それは、今も。

 

「撤退したか」

 

壊滅的な被害を被った国連軍はその場から撤退していく。

その後を追い、全滅させることも出来る。

武器を手に取る者を根絶させることもやろうと思えば出来た。

が、彼はそれをしなかった。

その一線だけは、越えることができなかった。

 

オーマジオウは、荒野にてポツンと置かれた玉座に腰を降ろす。

城もなく、民もなく、臣下もなく、仲間もない。

寂しい玉座、とはまさにこの事。

玉座の肘掛けに頬杖をつき、オーマジオウは体を休める。

 

『まただな、オーマジオウ』

 

声のする方へ顔を向ければ、そこには誰かが落としていった無線機から声が発せられていた。

 

『貴様は、また、関係の無い人間共を殺した』

 

「……黙れ」

 

『こうなる運命だったのさ』

 

ばき、と、オーマジオウは無線機を叩き潰す。

無線機からは、ただ、ノイズが流れるのみだった。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ふと、目を開ける。

 

「――――立花か」

 

「久しぶり……って言うのはおかしいかな」

 

シンフォギアと呼ばれるモノを纏った立花響が、目の前にいた。

玉座に預けていた身体を起こしながら、頭をガシガシと掻く。

彼女が来たということは、どうやら秘匿に拘っていた政府が重い腰を上げたらしい。

もはや、なりふり構っていられないのだろう。

 

「どうだろ、最近誰とも会話をしてないからわかんないや」

 

「…………」

 

知り合いがやって来るという精神的衝撃を受けながらも、周囲の視線とドローンといった類いの有無を確認できたのは、これまで戦ってきた経験がここで生きたからか。

周囲に自分達以外の人の気配は無く、ドローンなども飛んでいない。

つまり、彼女が一人で来た、ということを意味する。

今までシンフォギアシステムを秘匿してきたのにここで単独で来させるなんて作戦立案者がトチ狂ったのか、彼女が単独で飛び出してきたのか。

彼女の表情が変わる。

憎しみでも、敵意でもない。

あれは……悲しみ?

 

「まさか立花が来るなんて思わなかった」

 

「私もこんな事になるなんて思わなかったよ」

 

お互い様だよ、と軽口を叩いてくるのは案外余裕があるのか、それとも恐れを隠す為によるものか。

立花が来たのに座ったままとはいかないので、一先ずは玉座から腰を上げて一歩前へ出る。

 

「まさか世間話をしに来た、ってわけじゃないだろうし、とっとと終わらせよ」

 

そうであったならどれほど良かったか、なんて心の中で呟きながら、顔を俯かせたままの立花に向けて歩き出す。

何時ものように一瞬にも満たないスピードで身体をオーマジオウへと変身させ、戦う準備は万端となる。

どうしたって世界と敵対するとなれば不意打ち、夜間の襲撃、暗殺なんてものは常に付き纏うもので、こんな変身の仕方を習得してしまったのだが、こういうのはやっぱり少し悲しい。

 

「総悟くん」

 

「ん?」

 

顔を俯かせていた立花が、ふと顔を上げて口を開いた。

 

「私が、君を止めるよ」

 

「むむ、やっぱり?」

 

まぁ、此処にわざわざ立花一人で来るぐらいなのだから、俺を止めに来たのではないかと思っていたけれど。

……あれだけの結果を見せられればそうなるか。

どうしようもない事だ。

立花に事情を一から説明するわけにもいかないし、仮に説明してしまえば立花をこちらの事情に巻き込む事になる。

……こうやって敵対している時点で、半分巻き込んでいるような気がしなくもないが、一人なら話は別だ。

彼女の力の源を奪って無力化してしまえばいい。

 

俺に引き返す道など既に存在しない。

前に進むしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

ベルトが壊れる。

血で赤く染まり、破片が飛び散り、原型を留めることが不可能、大気が揺れる。

力の源であるそれが壊された事により変身状態を維持することは出来なくなり、己を守っていた鎧は砂塵と共に風となって消え失せた。

 

くしゃ、と、白く光り輝く翼を広げたギアを身にまとった少女が泣く。

晴れやかな笑顔が似合う筈の少女の顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃとなり座り込──むことなく、顔を上げたまま、こちらから視線を逸らすことはない。

彼女らしい。

だが、こんな状況でさえこちらを気遣うその優しさは、長所であり短所でもある。

 

「立花……君の勝ちだ」

 

立花へと吐き捨てる。

こちらはもう立ってることも出来ず、岩に背を預けたまま腰を下ろす。

なんなら膝に力が入らないどころか焦点が定まらず立花がブレて見える。

ベルトが残っていれば幾らでも回復できただろうが、跡形もなく消え去ったからもうそんな芸当はできない。

 

油断したつもりはない、慢心をしたつもりもない、やられるつもりなどなかった。

実は手を抜いていたんだ……なんてくだらない言い訳もするつもりはない、したくもない。

彼女は強い。

だが。

 

「変わらないな……君は」

 

立花の涙は止まらない。

学校に行き、友と未来を語らい、青春というかけがえのない時間を過ごす筈の少女の手を、汚させてしまった。

そんなものは似合わないと思いながら。

その実、俺がさせてしまっていた。

始まりは同じであったはずなのに。

 

あの病院で友となり。

人を助ける為に時には共に戦ってきた。

そして、今はこうして対峙している。

俺が死に、立花は生き残る。

 

「総悟くんは変わっちゃったよ……どうして? なんで全部一人で背負い込んで、ここまで来ちゃったの?」

 

「たしかに、ここまで一人で戦ってきたのは愚かだったかもしれない。フィーネが何処から蘇るか分からない以上、誰も信用することができなかったことも……」

 

「そこまで分かっていたなら、どうして……」

 

あんな事までしたの。

そう呟こうとして立花は、俯き、口を紡いだ。

俺は構わずに言葉を重ねる。

 

「だが、そこで止まってしまったら、今までの犠牲者達はどうなる? あの始まりの事件から、犠牲となった何千何万の無念はどうなる? その無念を俺は背負わなければならない」

 

「死んだ人達の為に更に犠牲を増やして、それで本当により良い未来はやってくるの!?」

 

ああ、わかっている。

けれど、止まれなかったのだ。

 

「俺は命を代償にして()を守ることしかできなかった……だが、もし立花のように他人と手を繋ぎ合わせて今を……未来を紡げていたら違ったのかもしれない。立花とも、友達でいられたのかもしれない」

 

虚空へと手を伸ばす。

誰とも繋がれなかった俺の手。

それでも。

 

「それは違うよ。私たちはたしかに道を違えたのかもしれない。でも、私たちの過去が消えてなくなったわけじゃない。傷つけあったことも、分かり合えず泣いたことも、バカな話で笑い合ったことも……私たちはずっと友達だよ。そうでしょ、総悟くん」

 

いっそ優しさすら感じさせる口調。

いや、それこそ、我が儘な子供をあやすかのような優しさ。

少し困ったような、慈愛に満ちた表情で虚空へと伸ばされた俺の手を繋ぎ、そしてそのまま抱きしめてくれる。

 

ああ。

きっと、立花なら大丈夫だろう。

俺はかつて選択を迫られた時、一人で悩むしかなかった。だから迷い、諦め、停滞した。

しかし立花は違う。こんな俺にすら手を差し伸ばす彼女なら、友と、仲間と前にきっと進める筈だ。

 

仲間がいる限り、いずれ傷つき絶望したとしても、誰かが肩を貸してくれる。

今まさに、俺に肩を貸そうとするみたいに。

 

「征け、立花」

 

残りの力を絞り集め、とあるライドウォッチを生成する。

この力を誰かに託すことになるなんて夢にも思わなかったけれど、この行動に後悔はない。

彼らもきっと、後押ししてくれる。

 

「俺の事は気にするな。クリスを失った時からすでに死んでいた。君が正しかった……他人と手を繋ぎ、そして……理解し(分かり)あえることこそが、人間の可能性なんだと」

 

ライドウォッチが光の粒子となり立花の体に溶け合っていく。

これでいい。

 

「ーーーーーーキミは、征くといい」

 

勝敗は決した。

魔王は討たれ、少女は進む。

この選択が正しかったのかは分からない。でも、最高最善の未来ではないことぐらいは分かる。

故に、彼は見送る。

未来という希望を持った勝者へと激励を手向けて。

 

ーーー征け、逢魔が時を超えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

常磐総悟の意識が薄れていく中、霞みつつある視界には銀髪の少女。

死んだはずの雪音クリスの姿を見る。

死後の世界か、なんて呑気に考える。

よくよく考えれば、この場所は二度目か。

 

 

「(ごめん、ごめん、ごめん……俺は君を)」

 

 

「(──おかえり、総悟)」

 

 

今際の際で再会した最愛の女性から、一番聞きたかった迎えの言葉を聞いた常磐総悟は、朝日の中柔らかな笑顔を浮かべながら逝った。

 




そんなこんなで、ボツネタその1でした

元々はこの結末を最初に書き上げていました。その後に、これに繋がるように他の話を書いていく、みたいな
結末が決まっている方が書きやすいと思ってやってたんですが、色々あってボツにしました
他の結末へとチェンジ
知りたい人は感想でなんでボツなんやーって突っ込んでください。多分答えます

さすがに分かりづらいと思うので軽く解説を

・常磐総悟
ライブ会場の惨劇の折に唯一の家族である叔父さんを失う
その後、立花響と小日向未来と友達になるが、イジメを目撃して心が擦り減っていく
ノイズ退治を継続していくなか、雪音クリスと出会い、交流していく
なんやかんやあって仲良くなって自宅で匿うことになるが、米国の特殊部隊により総悟のいない間に自宅を襲撃され、クリス死亡
フィーネによる仕業と知り、絶望
常磐総悟ではなくオーマジオウとして生きていくことを決意
世界の為、というのに偽りはないが、クリスの敵討ちが大半を占める
世界の存亡を賭けてフィーネと激突し、辛くもこれを撃破するも、
フィーネの完全撃破はできず、結果としてフィーネの再誕を許してしまう
レセプターチルドレンによって再誕していると知り、レセプターチルドレンを虐殺
更にノイズを世界中にばら撒かれ、多くの人々の命が失われ、世界は荒れ果ててしまった
そしてフィーネは民衆を煽り立てて「世界を荒廃させたのはジオウである」と吹き込み、世界を一つに
それでも、世界と対峙し続けた

・立花響
ライブ会場の惨劇によって重傷を負い、偶然ガングニールを受け継いだ
惨劇によって父親は蒸発、母と祖母の三人暮らし
未来と総悟がいたことでグレ響にはならずに済んだ
原作通り、私立リディアン音学院高等科に進学
そのため総悟とは高校では離れ離れ
高校生になった時にシンフォギアを纏い、ニ課に所属してノイズとオーマジオウと対峙することになる
オーマジオウの仕草などから正体は常磐総悟であると突き止める
「ねぇ、総悟くんってさ、オーマジオウだったりしない?」
「わかるよ、だって友達だもん」
クリスとも原作通り敵対していたが、和解した後すぐに死亡してしまったため交流は少なめ
オーマジオウ討伐後、フィーネと決戦、勝利した後に和解

・雪音クリス
メインヒロインにするつもりだった子
当初はフィーネに飼われており、オーマジオウの戦力把握のために捨て駒扱いされ、敗北後は放浪生活
後に総悟と出会い、なんやかんやあって和解して共同戦線を張る
痛みでしか繋がれない、人は分かり合えないという考えは総悟との交流でなくなり、冷め切っていたクリスの心は氷解していく
ネフシュタンの鎧は当然ないのでイチイバル
総悟とオーマジオウのギャップに驚きつつも、一人で全てを解決しようとする総悟を憂える
「このバカは誰かがそばにいて支えてやんなーとな」
共に暮らすようになる、が、おかえりはまだ一度も言ったことがない
仲良くなったのも束の間、米国による自宅襲撃により命を落とす
遺体は蜂の巣にされ、イチイバルは回収された
クリスの死によって、総悟はフィーネと分かり合える道が途絶えたのは皮肉としか

・おじさん
死亡

・小日向未来
響の親友
原作とそう変わらず
総悟とは友達

・天羽奏
死亡
原作とそう変わらず

・風鳴翼
最初は原作通り防人で響とはあまり協力しないが、途中から認める
ノイズの元凶はオーマジオウではないと分かっていたが、このルートではオーマジオウの乱入によって櫻井了子=フィーネと判明しない為、真犯人が分からずじまい
オーマジオウは元凶ではないと知りつつも、虐殺などの件から完全に信用してるわけではない
元凶を探す&ノイズ退治をしていく
最終的にはオーマジオウと戦えと国からの圧力により止むを得ず戦うが、敗北
療養中に響がオーマジオウを倒す

・風鳴弦十郎
みんな大好きなOTONA
原作とそう変わらないが、時折総悟たちにアドバイスをする

・フィーネ
オーマジオウの強さを目の当たりにしたことで強行策に
オーマジオウが強すぎたが故に分かり合えなかった
櫻井了子としての立場は早々に捨て、米国へ移動
これによってニ課の連中が元凶把握できなかった
レセプターチルドレンの虐殺などの事実を織り交ぜながら情報操作して、世界を一つに
一つにするとシェムハが来そうだけどまぁ響がなんとかするんじゃなかろうか

・マリア、切歌、調
オーマジオウに殺害される


そして、一番分かりづらいであろう最後の二人の解説

あれは少女には伝えるべき言葉があって、
少女は今度こそ、その言葉を口にできたのです。
——自分は、彼の帰る場所なのだと

あくまでボツネタなんで、変な矛盾とかあるかもしれませんがへぇ〜って流していただければ
もう少しボツネタ投稿したら本編やるんで、気長にお待ち下さいな


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禁断のコンテニュー

→シンフォギアじゃオーマジオウに勝てない
→過程をしっかり書け
……これは責任とって失踪するしかねぇな!と思ったので初投稿です

ボツネタ第二弾です
※本編とは繋がってないので注意


緊急時の時。

主に災害を報らせる時や緊急自動車が緊急走行の際にサイレンを鳴らすのが規定となっている。

サイレンの音が重大事案や緊急事案を周囲の人々へ報せる役割を持っており、避難や緊急自動車が通行する為の道空けを促す役割も持っている。

一昔前は空襲を報せる役割を担ってもいたとか。

もっとも、空襲を探知するレーダーの不足や通信設備などの不備によって上手く機能してない、なんで話もあるのだが。

空襲警報は聞いた事がなくとも、パトカーや救急車のサイレンを聞いた事がない者はほぼほぼいないのではなかろうか。

自動車を運転していれば「道を譲ろう」と思う筈だし、近くでサイレンが鳴り響けば何かあったと思う筈だろう。

 

サイレンはただの音にすぎず。

されど、その音には意味がある。

その意味を我々市民が理解してこそ、サイレンは初めてその役割を果たす事ができる。

逆を言えば。

サイレンの音の意味を理解していなければ、サイレンなど頭に響くただの煩い音にすぎない。

 

いわば一種の言語とも言えるのではなかろうか。

理解する事ができれば、相手の伝えたい内容を把握する事が出来るが、理解できなければ相手の伝えたい内容など分かるはずもない。

英語で道を聞かれても、英語が理解できなければそもそも何を聞かれているのか分からないように。

もっとも、言葉は通じても話は通じないなんて馬鹿げた話もあるので、ただ理解しても意味があるのか知らないが。

 

閑話休題。

 

現在、ノイズの発生を知らせるサイレンが鳴り響いているが、どうやら彼女──雪音クリスはこのサイレンの音を理解していないようで、周りの逃げ惑う人々を見て困惑している。

ノイズとは俺らが生まれる遥か前から存在していたもので、ある意味生活の一部と言っても過言ではないレベルで馴染んでいるはずなのだが、何故、雪音クリスはコレが分からないのだろうか。

ノイズの存在を知らなかった? いや、それは常識知らずにも程がある。ノイズは知ってないと恥ずかしいものではなく、知ってなくてはいけないものだ。

ノイズの発生しない地域で育った? そんな場所は一体何処にあるのだろうか。南極や北極、もしくは月とか?

どちらにせよ、ノイズが近くで発生した今、その事を彼女に一から説明している暇は勿論無いので連れて逃げるしかない。

まぁ、おおよそあのよく分からない姿が関係しているのだろう。

幸い、おじさんもいるから、避難先でおじさんに任せて俺はノイズに殲滅でもすればいい。

 

「おい、一体なんの騒ぎだ」

 

「なにって、ノイズだよノイズ!? ほら、早く逃げないと!」

 

おじさんがノイズであると知らせると同時にクリスは俯き、避難所へ向かう人々の流れに逆らうようにその中を突っ走っていった。

その行動に驚いたのか、おじさんは目を見開いてパニックになってる。

無理もないか。

普通であれば逃げるはずなのに、何故かノイズの方へと向かっていってしまったのだ。

言うなれば、津波が来たと皆が逃げてる中、一人津波に向かって走っているようなものだ。

おじさんがパニックになるのも分かる。

が、おじさんにまで奇想天外な行動をされるのは俺が困る。

 

ここから避難所までの距離は、走れば五分。

全力で走れば数分。

人混みで多少なりとも時間は左右するだろうが、ノイズの気配からして十分間に合う範囲だ。

たが、もし仮におじさんがクリスを助けに向かった場合はそうではない。

彼女がノイズの群れへと走って行ったことから、おそらく……いや、確実にノイズに囲まれることとなる。

クリスだけなら何とかなるかもしれない。

俺がオーマジオウの力を使えば多分平気だ。

でも。

わざわざそんな危険な場所におじさんを連れて行くわけにはいかない。

 

「は、早くクリスちゃんを助けないと!」

 

「おじさんストップ」

 

駆け出そうとしたおじさんの手を取って、それを直前で制止する。

勢いがあったのか、おじさんの足が一瞬だけ宙に浮いた。

少しオーバーリアクション気味なおじさんに、漫画なら声と同時に喉から心臓が出ていただろうかなんて場違いな考えが思い浮かぶ。

 

「なんで止めるの総悟くん! クリスちゃんが!!」

 

おじさんが言いたいことも分かる。

おじさんにとって、まだ会って少しのクリスでも見捨てられないのだろう。

例え、自分の命が危険に晒されようとも。

そこがおじさんの良いところだ。

俺がおじさんが大好きな理由だ。

でも、それでも。

俺はおじさんに危険な目にあって欲しくない、というのは我儘だろうか。

 

「わかってる。おじさんは先に避難所に行ってて。俺がクリスを迎えに行くから」

 

「でも……」

 

「大丈夫。俺の足が速いことは、おじさんが一番分かってるでしょ?」

 

思い詰めた表情になるおじさん。

ごめん、ごめんねおじさん。

させたくない選択をさせて。

でも、それ以上に、俺は……。

家族を失いたくない。

 

「……わかった。でも約束して、絶対クリスちゃんと帰ってくるって」

 

「うん、約束する。絶対帰るよ」

 

俺の言葉を聞いて、おじさんは避難所の方へと走り出す。

そっちの方からはノイズの気配は感じないし、おそらく大丈夫だろう。

問題はクリスの方。

彼女達の纏う鎧はノイズに対して人類唯一の矛たり得るモノであるが、それは決して無敵な訳じゃない。

一般人のように一瞬で炭素の塊にならないだけでダメージは負うし、攻撃を喰らい続ければいずれやられる。

 

クリスの状態は万全とは言い難いく、裏路地で倒れていたくらいだ、きっと体力だって回復してないだろう。

そんな状態で戦えば、予知などしなくても結果は見えて来る。

 

「俺も急がないと」

 

────新たなノイズの気配。

それも、ある一箇所から集中的に出現している。

まるで、人為的にやっているような。

そんな事ができるのは当然……

 

黒幕(フィーネ)か……!」

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

初めて雪音クリスと出会ったのは、戦いの場であった。

完全聖遺物と呼ばれる物を身につけた彼女は、オーマジオウである俺を狙ってノイズと共にやってきた。

初めは杖のような物でノイズを次々と出す彼女を黒幕かと思っていたが、年齢、知識、何より人気の無い場所で必ず襲って来ることから黒幕ではなく黒幕の手下だという事がすぐに分かった。

こちらが人気の無い場所で待ち構えていたのだから、彼女が人気の無い場所で戦うのは当然ではあるのだが、どんなに追い込まれようとも人質を取るなどといった戦法はしなかった。

もし彼女が黒幕であったのなら、市民の百人や二百人、軽く盾にでもしていた事だろう。

 

クリスを何度か様子見を兼ねて倒すのではなく撃退した後、夜の公園で初めて彼女と戦場以外で出会った。

当然、クリスは俺がオーマジオウだと看破しなかったけど。

 

彼女曰く、迷子になった兄妹の父親を探すのだと。

当初は兄妹に何かするんじゃないかと邪推してしまったが、そのようなことは一切なく、父親探しをしていた。

その兄弟に対して向ける慈愛の瞳は、およそ戦場で見た彼女の印象からは程遠いものだった。

 

彼女に再び出会ったのは後日。

夜、ノイズの反応を追って裏路地に行ってみればそこには既にノイズなどいなく、代わりに傷だらけで倒れていたクリスの姿があった。

そのまま放置、というわけにもいかず成り行きで自宅へ連れ帰ることに。

女子……それも傷だらけの子を連れ帰ったということでおじさんはてんやわんやの大騒ぎだったけど、なんとか納得してもらってついでに治療もしてもらった。

 

クリスが目を覚ました時に何があったのかを聞いてみると

 

「たった一人理解してくれると思った人に、捨てられたんだよ。道具の様に扱うばかりで、結局……」

 

一般人であると思ってか、細部は省かれていたが多分、黒幕に用無しとされたのだろう。

大方、オーマジオウに対する捨て駒扱いしようとしたが、それすらできなかった……そんなところだろう。

 

そこで初めて、俺は彼女の名前を知った。

雪音クリスは少し尖ってはいるが、根は優しい人だった。

あの迷子だった兄妹の件然り、俺がおじさんに対して隠し事してる事を相談すると、ぶっきらぼうながらもアドバイスをくれた。

多分、他者を放って置けない、そんな性格なんだろう。

 

「なぁ、お前夢ってあるか?」

 

「え?」

 

「私の夢は戦争を無くす事だ。パパもママも戦争に巻き込まれて死んじまった。あたしだって戦争なんかする汚い大人達のせいで……だからあたしは」

 

戦うんだ。そうクリスは言った。

その言葉から嘘は感じられなかった。

もし嘘であったなら、プロも顔負けの演技力だと言わざるを得ない。

冗談はさておき、彼女の夢は尊いものだ。

方法は間違っていたのかもしれない、でも、まだ引き返せないところじゃない。

今が全部じゃない。何度だってやり直せる。

 

だから俺は。

 

 

―――――――――――――――――――

 

商店街。

その奥、ノイズの大群に囲まれた雪音クリスの姿があった。

人混みから敢えて反対の方へ来た彼女は、自らを囮にしてノイズを迎撃しようとしたまではよかったが、体調不良のせいかシンフォギアを起動しようと聖詠を口ずさもうとしたところで咽せてしまい、シンフォギアを纏うことが出来ずにいた。

その隙をノイズが待ってくれるはずもなく、槍状へと変化したノイズ達が次々と襲い掛かる。

何とか躱してはいたが次第追い込まれ、その身にノイズが触れようとした瞬間……

 

「クリス!!」

 

彼女の体に衝撃が走り、突き飛ばされる。

彼女のいた場所へ視線を向けると、

 

「……バカ! お前、なんで!?」

 

「クリス、逃げ」

 

クリスの代わりにノイズの槍に貫かれた常磐総悟の姿があった。

クリスはその手を伸ばすも虚しく、次第にその姿は炭素の塊へと変化させられ、最後には塵となって消え失せた。

ノイズに触れられた者は、例外なく炭素の塊になる。

この時だけ、その法則が崩れ去るなんて事はあり得ない。

彼だったものは風に流され、もはや彼がここにいたという証は消え去った。

 

「なんで……なんであたしなんかを庇って……」

 

「あら、クリス。まだ生きていたのね」

 

コツコツ、と、ノイズの群れを分けて歩いて来たのは櫻井了子、ではなく先史文明の巫女の亡霊たるフィーネ。

その手には、クリスの歌で起動させた完全聖遺物であるソロモンの杖。

フィーネが手に持つ杖が何なのか、それは自身の歌で起動させたクリス自身が分からない理由が無い。

ノイズを召喚し、72のコマンドを用いてこれを使役するソレは、機能通り周囲のノイズを使役することに成功していた。

 

周囲のノイズを待機させ、クリスの前に立つフィーネ。

そんな彼女に対し、クリスは叫ばずにはいられなかった。

 

「なんで、なんで関係のない奴を巻き込んだ!? 関係のない奴を巻き込むんじゃねぇ!」

 

「別に関係なくないわよ? 貴女は私から逃げて、あのボウヤは貴女を匿った……ほら、よーく考えて見ればボウヤも関係者よ」

 

大量のノイズを侍らせたフィーネの言葉に一瞬だけ逡巡する。

確かにクリスを匿ったことは事実だ。

しかし、だからといってそれだけで関係者に成り得るのか。

仮に少しでも交流を持った人物が関係者になるのだとしたら、現状のノイズの被害を拡大させているのは自分なのではないか……。

 

「貴女が潔く消えてくれれば、いえ、最初から私の言う通りにしていればこんな面倒な事をしないで済んだものの」

 

苛立ちを含んだ言葉。

クリスを見ているようで、その実、クリスの事など石ころの様にしか認識していない鋭い視線。

 

「あのボウヤも気の毒ね。貴女のせいで──」

 

「いや、俺の選択だ。クリスのせいなんかじゃないよ」

 

「っ!?」

 

言葉を遮ったのは、常磐総悟の声。

ありえない、たった今死んだはずの、聞こえるはずのない声に、フィーネ、及びクリスも驚きを隠せない。

 

周囲を見渡す。

けれど、何処にもその姿は見当たらず、どういうことかと更に困惑する。

幻聴か? と一瞬フィーネの頭に過ぎったが、目の前のクリスもまた周囲を見渡してる時点でそれはない。

ならば一体どういうことか。

 

フィーネとクリスの間にこの場に似つかわしい物が出現する。

 

まるで土管のような異物。

 

その異物が現れると同時に、周囲に侍らせていたノイズ達が一斉にまるで初めからその場にいなかったの如く消滅する。

ソロモンの杖で命令したわけでもなく、シンフォギアによる攻撃でもない。

こんな芸当が出来るのは、フィーネが知るなかでただ一人。

 

「まさか、まさかまさかまさか……!」

 

土管の中から常磐総悟が現れる。

そして、その姿は変身し、

 

「やはり貴様か……オーマジオウ!!」

 

「フィーネェェェエエ!!」

 

 

 




\テッテレテッテッテー/

これがやりたかったけど、これだとラスボス(フィーネ)直行ルートなので、ボツに
オーマジオウならコンテニューできるんじゃね?という安直な発想
なんなら、リセットして残機無限もワンチャンありなのではとか妄想してる

一応長く書いていきたいなと思ってるので、直行ルートはなんだかなと思ってやめました
この世界だとおじさん生き残ってます(重要)

ボツネタ達は基本、こんな感じにしてこう的な箇条書きされてる奴らなので戦闘シーンはほぼないのだ
戦闘シーンて書くのめっちゃ大変だし、頭が疲れるのよねアレ
なので本編以外だと基本カットしてある
え、本編は戦闘シーンが濃密なのかって?
……さぁ?

前回の感想とか見てて、こういうクロス系では展開を慎重にしないとな……と実感した

そう、実感しただけ。実感したところで自分は基本書きたいように書いてくスタイルなので、これからもこんな感じで多分変わんない
感想は批判だろうが応援だろうが質問だろうがなんでもござれ
高評価も待ってるよ(ニッコリ)

そんなこんなでフリーダムな私ですが、そんなんでもよければ次回も気長にお待ち下さいな
ちなみに、次回から本編戻ります


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ルナアタック編
鼓動


無印、開始。


春。

桜が咲き誇り、また舞い散る季節。

別れの季節であり、また新たな出会いの季節でもある。

かくいう俺も、一つの別れを経験した。

別に恋人にフラれたとかそういう意味ではなく、この春、中学を卒業して俺の数少ない友人である立花や小日向と別れる形となった。

……別れるという言い方は余り適切ではなかったか。

彼女達は元ツヴァイウィングの一人であり、現在も歌手活動を続けているあの風鳴翼の通う『私立リディアン音楽院高等部』に進学する事となり、彼女達は彼女達の道を進むこととなった。

当初は、特に行きたい高校などが無かったので俺も私立リディアン音楽院高等部を志望していた。

 

実はあの事件後、ノイズの出現頻度が何故か目に見えて減った。

あのライブで俺を吊し上げるのが目的だったのか、天羽奏を戦線離脱させる事に成功したからか、或いは他に目的があったのか。

著しくノイズが減ったので平穏が訪れた訳なのだが、それで良いのかと問われれば否。

この平穏は別に事件を解決したから訪れたのではなく、黒幕が行動していないが故の平穏、要は次の戦いへのインターバル的な立ち位置だ。

 

黒幕の目的が何にせよ、ノイズが減るという事はツヴァイウィングの二人と接触する機会が無くなるということで、友人二人が行くのなら俺も風鳴翼目当てにリディアンに行こうかな、と思ってリディアンを志望していたのだが担任に呼び出され、そこで初めて女子校であると知った。

リディアンを志望しておきながら、共学なのか、どの程度の偏差値かなのすら把握していなかった。

当然、女子校を第一希望にするという頭のおかしな行動のせいで彼女らには大いに笑われたものだ。

ちなみに、ツヴァイウィングは天羽奏が引退したことで解散となり、風鳴翼はソロ歌手として現在は活躍している。

天羽奏も生死に関わるような重症は負ってはいないはずなので、多分何処かで療養しているのだろう。

 

それはさておき、俺はというと地元の公立校へ進学することに。

自宅から自転車で通える範囲、尚且つおじさんの負担にならない様にする為に公立校をチョイス。

ちなみに、もし当初の予定通りリディアンに通えたならば、お金の問題はちょっと能力の一つでも使ってなんとかしようと思っていたが、通うことはなかったので試す機会は無かった。

 

結果として、と言っていいのかわからないけれど、俺は高校は別という形になった。

仲の良い二人と離れるのはやはり寂しいし悲しいが、別に高校が別になっただけで会えなくなった訳でもないのだ、会おうと思えば幾らでも会える。

それでも、これまでよりは当然、会う機会は減るが。

また、立花と小日向は揃って寮に入ったので、彼女達は必然的に地元から離れることに。

地元から離れるといっても電車やバイクで行ける範囲内だし、なんなら少し距離はあるが歩きですら行ける範囲内だ。

学校帰りは厳しいかもしれないが、休日ならば余裕で行けることだろう。

 

そう、バイク。

バイクである。

高校生、つまりバイクの免許を取得出来る年齢になったということで、遂に念願の教習所へ通えるようになった。

やはり、仮面ライダーと言えばバイクである。

最近のライダーはバイクにあまり乗っていない、なんなら車に乗るライダーすらいるじゃないか、なんて感想を抱くかもしれないがそれは大人の事情なので突っ込むだけ野暮ってものだろう。

世の中、色々と難しいのである。

 

閑話休題。

 

バイクに乗れるようになったということで、新たな移動手段として活動の場を広げることが出来るようになった。

テレポートや瞬間移動出来るんだからいらないんじゃね? と思われるかもしれないが、それらは案外使い勝手が悪かったりする。

確かに一瞬で目的の場所へ行けるというのは非常に便利な移動手段ではある。

が、瞬間移動は『どこでもドア』にあらず。

場所を声に出したり思念すれば勝手に目的の場所へ連れて行ってくれるような能力ではなく、自分でその場所を把握していなければならないのだ。

簡単に言えば、どこでもドアと違い、俺の頭の中に地図は無い、ということだ。

 

今までノイズが現れた場合などは、大まかな位置を感覚で把握してその場所へ転移する手法を取っていたが、このような緊急時はこれでも別に構わない。

その時は既に変身しているし、とにかく現場に着けばそれで構わない。

しかし、普段からこの移動手段が使えるかと聞かれれば、使いづらいと俺は答えよう。

 

第一に、人目についた場合、十中八九騒ぎになる。

立花が入院した時に軽々しく転移を使ってしまったが、騒ぎにならなくて本当に良かったと今では思う。

念のため、トイレの個室に転移したけれど、万が一その個室が使われていたら大変なことになっていた。

そもそも変身したら大騒ぎになるんじゃね? という疑問はどうしようもない。

どんなものにも多少のリスクはつきもの。

第二に、構造把握が面倒なこと。

仮に、立花の家に転移する事になったとしよう。

けれど、俺は立花の家の位置は把握しているが、立花の家の構造まで把握しているわけではない。

するとどうなるか。

家の前に転移ならば別に問題ないが、家の中に転移しようとすると、何処に出るかが分からないのだ。

彼女の部屋かもしれないし、それ以外の部屋かもしれない。

なんなら風呂場に出て、「きゃー、総悟くんのエッチ!!」なんてこともあり得なくはないのだ。

やらないけど。

そう思うと、病院の時は運が良かった。

何度か行ったことのある病院だったのでトイレの位置も詳細に把握していたし、人目にもつくことが無かった。

 

何が言いたいかというと、公に使える移動手段は多いに越した事はないということだ。

もちろん、バイクはライドストライカーだ。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

それはそれとして、新学期。

 

高校の入学式を経て、新たな学友達と、ちょっとこう、もう少し短くできないのかと言いたくなるような、我らが校長先生のありがたい話を聞き終えて一日を終えようとしている。

今更何も言うまい。

校長先生の話が長いのはいつものことだ。

だが、このいつものことをいつも通り受けられるということは幸せな事だとノイズ関連の

事件に関わって改めて実感した。

一時期はほぼ毎日あちこちでノイズが出現していて、守る対象は触れただけで一発アウト、という最悪な前提の上で、人々を守るのはストレスを感じられずにはいられなかった。

いくらオーマジオウの力でこちらは傷付かないとはいえ、他の人はそうはいかない。

 

だが、今はノイズの発生は落ち着いているおかげで幾ばくか余裕を持てる。

勿論、次の瞬間に何処かでノイズが再び大量発生する可能性がないわけではない。

だが、日本の謎の組織さんも馬鹿ではない。

あのライブ事件の後、彼らにも思うところがあったのか、ノイズへの対応は前とは天と地の差ほど違いがある。

 

警察官や自衛隊による避難誘導。

ノイズへの圧倒的弾幕による足止め、そしてトドメの風鳴翼の剣。

 

動員される人数が大幅に増えた。

これだけで、市民の避難するスピードは速くなる。

ノイズにはそもそも、銃弾や爆弾といった物理攻撃が一切効かないという馬鹿げた条件を突破しなければ打ち倒すことなど出来ない。

ぶっちゃけた話、対応策は風鳴翼やかつての天羽奏の様な装備か、オーマジオウによるゴリ押ししかない。

しかし、事実、彼女達はその馬鹿げた条件を突破している。

ならば、後は彼女達の装備を量産さえできればどうとでもなる。

まぁ、その量産が難しいのだろうけど。

 

それはそれ。

そこをなんとかして解決するのが、専門家の仕事だろう。

ダメです、できませんでした、で簡単に諦めてもらうわけにはいかない。

今すぐなんとかしろ、とまでは言わないが、後々はなんとかしてほしいものである。

こちらも人々を守るために行動するのは吝かではないが、あくまで個人での行動。

組織に属してルールなどに縛られて動けないのは勘弁だし、なにより仮面ライダーの力を軍事利用されてはたまったものではない。

俺に出来ることは、彼らの手に負えない範囲をカバーすることと、ノイズが現れないよう祈ることくらいである。

 

数年経ったとはいえ、オーマジオウの悪評が完全に消えたわけじゃない。

ノイズを倒しているのに人々から後ろ指を指されるのは、精神的に参ってしまう。

もっと、こう、どうにならないものか。

 

「まぁ飲めよ」

 

ごん、と、机の上に置かれた缶コーヒー。

机から顔を上げれば、入学初日ではあるのだがそれなりの友好的な関係を築けたクラスメイトの一人が。

ぽん、と、肩を叩かれる。

 

「なかなか、思うようにいかないもんな」

 

訳知り顔でうんうんと頷くクラスメイト君。

なんと、まぁ、そんなに思い詰めた顔をしていたつもりはなかったが、心配を掛けてしまっていたらしい。

すぐに顔に出るのもなんだし、もっとポーカーフェイスを心がけるべきだろうか。

 

「女子との会話って緊張するもんな」

 

やっぱり通じ合うのは難しいってことを改めて実感した。

無論、俺はそういった悩みで思い詰めた顔をしたわけではないけれど。

 

「で?」

 

「で?って言われても」

 

ギッ、と、音を立てながら前の席の椅子に座って背もたれに寄り掛かったクラスメイト君は、意図がわからない問を投げかけてきた。

入学初日である教室は、ホームルームも終わり、これからの新たな環境について語り合うクラスメイト達が作り出す喧騒で溢れている為、多分周りには聞こえてないはず。

周りに聞かれてしまっては、初日から不名誉な渾名を付けられてしまいそうだ。

 

「だから、好みの子だよ。どの子がタイプだ……?」

 

露骨には視線を向けず、恐らくは視界の端に映る女子の集団に意識だけを向ける。

器用なものだ。

まぁ高校という中学とは違った環境に入ったことで、周りにいる異性に興味が惹かれるのは別に悪くはないけれど。

 

「タイプ……好みのタイプかぁ」

 

今思うと、そういう事に意識を向けたことって今まで特に無かった。

別に女子に興味がないだとか、俺に見合うだけの子がいないとかそんな事ではなく、ただ単純に考えたことがなかった。

小学生の頃は周りの皆も意識していなかったし、中学生はノイズの対処で普通にそれどころではなかった。

何らかの事情が無い限りは一生に一度であろう華の高校生、二度と戻らない青春。

修行やその為の学習にその時間の大半を使ってしまうのは余りにも考えなし過ぎるか。

 

「考えたことなかったな」

 

これから色々と、考えてみよう。

 

「女子はいいぞぉ。俺たちには持ってないものを持ってるからな」

 

腕を組み、瞑目し、うんうんと頷くクラスメイト君。

 

「?」

 

確かに生物学上、男に無くて女には在るものが幾つか在る。そのまた逆も然り。

クラスメイト君は、子宮とかが欲しいのだろうか?

ふと口に出そうとした瞬間、ポケットからブーブーと振動が伝わってくる。

画面を開けばそこには立花の名前が。

 

「悪い、電話掛かってきちゃった」

 

「いやいやなんの、気にせんでくれ……差し支えなければ、誰から?」

 

「中学の友達」

 

「男?」

 

「いや、女子」

 

クラスメイト君がクワッ、と目が見開いたのは多分気のせいじゃない。

 

―――――――――――――――――――

 

立花からの用件は、風鳴翼のCDを買いに行かないか、というものだった。

今のご時世、わざわざ店に行きCDを買わずとも端末でボタン一つで簡単に曲を買うことが出来る。

ダウンロードが主流となっている今、CDを買う者は少ない。

差別化を図る為にも、CD側には特典の充実度がダウンロード版よりも比較的良い場合が多い。

今回もその例だ。

折角のお誘いだし行こうとは思ったのだが、彼女の行こうとしている販売店が少々場所が遠かった。

ただ遠いだけなら別に問題ないが、今回は人気アーティストである風鳴翼のCDなので、早めにいかなければもしかしたら売り切れてしまう可能性がある。

そうなってしまった場合、彼女に申し訳ない。

なので、立花には先に行ってもらう事に。

最悪、俺の分は別に売り切れていても構わない。

 

「? どしたの?」

 

「あー……いや、常磐って凄いなって」

 

「バイクのこと? 俺たちの歳でもバイクの免許なら取れるよ。親の許可が必要だけど」

 

ライドストライカーは何処にも売ってないけれど。

そもそも、実は教習所に通ってるだけで免許はまだ取れてないのは内緒の話。

その事にクラスメイト君は気付いていないのか、ライドストライカーをマジマジと見つめている。

 

「カッコイイなぁ。俺もバイク、頑張って買おうかな……」

 

考える人のポーズをとってうんうん唸るクラスメイト君。

バイクというものは車と同じ乗り物なので決して安い買い物ではなく、簡単に手を出せるものでもない。

車ほどではないが、免許を取るにしても、取った後にバイクを買う事になったとしても子供ではなかなか手の出しづらい金額が必要となってくる。

お小遣いを貯めて買う、なんてレベルの金額ではないので必然的にバイトをしなければいけなくなる。

そういった面から、親との相談は必須だ。

大富豪のご家庭で、百万円ポンとくれるのなら話は別だが。

バイクに興味を持ってくれるのは非常に嬉しいし、是非ともこの魅力の沼にどっぷりとハマって欲しいところではあるが。

………………うん。

 

「応援はするけど、親とはよく話してね」

 

「うむ、説得は任されよ!」

 

明るく笑い、振り返りながらぐっ、と、元気よくサムズアップで返してくるクラスメイト君。

オーケー! と言わんばかりの元気はいいのだが、後ろ歩きのまま足元の小石を踏み、バランスを崩して転けそうになってしまった。

こういう部分が、おっちょこちょいなのだろう。

なんとかバランスを戻そうとして、今度は電柱にぶつかってしまっていた。

 

涙目でへーきへーき! なんて言ってるから、多分痛いけどそう思われたくない、なんていう年頃なのだろう。

心配し過ぎてもあれなので、手を振って見送る事にした。

 

―――――――――――――――――――

 

感覚が研ぎ澄まされる。

今まで何度もあった、ノイズどもが活動を開始した時の感覚。

最近はあまり感じることのなかった感覚だが……。

思ったより近い。

 

「…………ッ!?」

 

いきなりライドストライカーのスピードを上げて前方の車両をすり抜けて行ったので、運転手を驚かせてしまった。

 

「ごめん、でも、これは見過ごせない」

 

ノイズの場所を急いで特定し、スピードを更に上げて、腰にベルトを出現させながら、車と車の間をすり抜けていく。

ノイズは……ここからなら走るよりまだバイクの方が早い、という微妙な位置。

それも、反応が徐々に移動している。

そのまま脇道へ入って近道。

周囲に人がいない事を確認して、変身。

周囲の監視カメラは、申し訳ないがジャミングを仕掛けさせてもらおう。

万が一にも映るわけにはいかない。

 

しかし平穏だなんて言った矢先にこれだ。

自然発生か、または人為的か。

どちらにせよ、ノイズが現れた事に違いはない。

この方向は、立花と合流する予定であったCD販売店の近くだ。

立花が巻き込まれる可能性は大いにある……。

再び、彼女をあんな目に遭わせるわけにはいかない。

 

―――――――――――――――――――

 

コンクリートが砕け、破片が辺りに飛び散る。

月が顔を出し始めた夜に、日常では聞くことのない音と()()がその周辺に響き渡る。

 

その音色を奏でているのは、一人の少女。

彼女を囲むのは大小、多数の特異災害。

新聞や教科書、本など様々な媒体で一度は見たことのあるノイズそのものだ。

カエル型のノイズもいれば人型、鳥型と多くの姿と多くの種類がその場に存在している。

姿が異なれば、当然攻撃方法は異なってくる。

カエル型はその身体を活かして地上から、鳥型は空から強襲といった風にバリエーションがある。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

もっとも、色鮮やかな鎧を身につけた少女にその違いなどに意識している余裕はない。

オレンジ、黄色、白といった色をメインにした、何処か天羽奏の纏っていた鎧を連想させるソレを纏った少女は、迷子になった幼子を抱えながらノイズから逃げ回っていた。

明らかにその状態に慣れていない動きで、あちこちに走り回り、時にはその場から跳躍する。

しかし、跳躍の力を調節できていないのか度々壁に衝突する羽目になっていた。

それでも、幼子に衝撃がいかないよう必死に抱えているのは彼女の意地故か。

しかし、襲いかかるノイズの集団には、その不慣れさを慮る理由も無い。

 

「う、うわうわわわわわ!」

 

しゃがみ込んでいたオレンジの少女──立花響が、ノイズののしかかりを避けながら建物から再び跳躍する。

人間ではあり得ないその驚くべき跳躍力は、着地にも勿論適応される。

軽く十メートルはあろう建物の屋上から飛び降り、幼子を抱えたまま、彼女は無傷で地上へと着地する事に成功した。

 

「な、なにこれ!?」

 

驚きを隠せない声。

驚き、自分の身に起きた謎の事象による困惑。

何が起きているのか全く理解できないが故の焦り。

同時に、その手の幼子を守らねばという感情。

幼子にとって、今頼れるのは自分だけと言い聞かせて己を奮い立たせる。

しかし、どうすればいいかが彼女には分からない。

 

困惑。

胸の内からは何故か()が浮かび上がってくる。

それによって、力が高まっていくのもなんとなくではあるが理解できる。

しかし、その力をどのようにして解放すればいいのかが分からないのだ。

 

(どうしよう、どうしよう、どうしよう!)

 

後退る。

何か考えがあっての行動ではない。

ただ、迫る災害から生き残る為の生存本能に突き動かされて。

だが、ノイズはお構いなしに確実に距離を詰めていく。

 

「?!」

 

直後、ノイズが、唐突に爆発四散した。

そのまま暴風が吹き荒れる。

ノイズが自ら爆発したわけでも、立花響による攻撃によって爆発したわけでもない。

その場にいない第三者からの攻撃。

それは周囲のノイズへと拡散していき、連鎖的に爆発。

この光景を、彼女は知っている。

はっきりと覚えているわけじゃないが、圧倒的なソレは記憶に刻み込まれている。

 

ぶるん、ぶるん、とエンジンの音を立てながら、ソレは姿を現した。

過去に一度、あの事件の折にその姿が公になったそれは今では誰もが知っている存在。

 

「まったく、がむしゃらに逃げられると追いかけるのも一苦労だよ」

 

見たことのないバイクに跨がり、背中には時計の長短針を模したプレートによって構成される大時計がマントの様に揺れている。

真っ赤に輝くその瞳に位置するライダーの文字が、立花の方へ向けられる。

 

「ギリギリセーフかな」

 

爆発によって周囲は未だに燃えており、彼女が抱えている幼子はその光景に当然ながら怯えている。

 

「助けに来たよ」

 

魔王、オーマジオウ。

あの事件の元凶とされている存在。

その声は、魔王という名とは裏腹に気さくで。

しかし、彼女にとっては、どこかで聞いたことのあるような声な気がした。

 

 

 

 

 




翼さんもここはバイクで現れるし、ライダーなのでは?
投稿もギリギリセーフ
本当はクリスの誕生日に投稿したかったけど、まだクリス出てないし別いっかなって()
では軽くキャラ達の解説を

◯ン我が魔王
まだ免許持ってないくせにバイクで学校通ってるいけない子
勿論学校には申請していない
ホントはビッキー達と一緒にリディアンに通おうと思ってたけど、男だからリディアンに入らないよね?ってことで一人寂しく地元の高校へ
ノイズ最近減って平穏だと思いきや、全然そんなことなかったの巻
ノイズの感知は多分アギトの超能力的なやつで感知してる
ついでに監視カメラにも映らない、アギトって便利
転移もいいけど、やっぱバイクに乗ってこそのライダーでしょう!
バイク乗って駆けつけてほらほらあくしろよ

◯ビッキー
CD買いに行こうとしたらノイズに巻き込まれてしまった可哀想な子
実は原作とは少し違く、流れで言うと
ノイズ発生→みんな避難→幼女迷子→ほっとけないので助けに→ノイズから逃げるためにシェルターから離れてしまう
って感じ
あの逃げるビッキー、見直してたらなんかめちゃんこ可愛い気がしたんだけど、わかる?

ちなみに、余りイジメを受けなかったので精神ダメージは少なめ
周りがビッキーの物を隠そうとしたら何故か隠そうとした子の物が隠される、机に落書きしようとしたら自分の机に落書きしてた、ゴミなどを投げつけたら何故か跳ね返ってきた、上履きをカッターで刻もうとしたら自分のを刻んでた、などの怪奇現象が起きた為イジメは無くなったそうな
怖いね


ようやく本編始められました!
長かった!
いや、俺のせいだけど
原作に沿っていくのか、オリジナルをやるのかは内緒
多分オーマジオウは暴れちゃう
むしろ暴れない方が不自然なのでは?
オーマジオウとシンフォギアを書きたいがために書き始めたこの作品、ようやくちゃんとしたスタートを切れて一安心
あとは完結目指して突っ走るだけ

年末は忙しくて辛い
今年は大晦日まで仕事だからいつも以上に辛い
去年は休みだったのに、何故今年だけ営業するんじゃ
いいんだ、皆んなのご馳走様と笑顔が何よりの幸せだから……
嘘です
休みください社長!

新年は休みもらえたので、多分早く書けると思いますが、そんかこんなのフリーダムな作品ですが、それでもよければお待ち下さい

良いお年を



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それぞれの思惑

 

 

 

 

 

「──オーマジオウ、さん……」

 

立花響が声に出す。

彼女と幼子の前に現れたのは、見たことの無いバイクに乗っているが確かにオーマジオウであった。

魔王の放つ異常な圧に対し、彼女達が気を失うことなく立ち続ける事ができたのは、ひとえにその異常な圧が彼女達に向けられていなかったからだ。

向けられなかったのは、当然理由がある。

 

彼女達は知る由もないが、オーマジオウ──常磐総悟にとって立花響は初めてできた友人であり、敵意を向ける相手ではなくむしろ保護すべき対象であるから。

そもそも、オーマジオウがこの場所に駆けつけたのはノイズが現れたからでもあるが、立花響がノイズから逃げているのを察知したからこそライドストライカーに乗って駆けつけたのだ。

そんな彼に、彼女と敵対する理由はない。

 

しかし当然、その理由を知らない立花響は困惑する。

助けに来た、とオーマジオウは口にした。

オーマジオウが自分達を囲んでいたノイズを倒した状況から察するに、ノイズに襲われている自分達を助けに来たという意味合いで捉えることができる。

しかし。

何故、世間から魔王と恐れられているオーマジオウがわざわざ自分に話しかけてくるのかが理解できずにいた。

彼女視点、オーマジオウから気さくな声で話しかけられるほど仲良くなった覚えもなければ、助けられる間柄になった覚えもない。

 

一方、オーマジオウもまた立花響の姿を見て困惑していた。

目の前には、黄色を基調とし鎧ともスーツともとれる様な、ツヴァイウィングの一人こと天羽奏がノイズとの戦闘時に纏う姿に酷似した立花響。

天羽奏の纏っていた鎧に似たものを身につけた彼女の隣には、彼女が助けたであろう幼子が未だ恐怖が消えないのか、立花響の腰にしがみついたま離れようとはしない。

何故彼女がその姿をしているのか、聖遺物の知識が少しでもあれば予想なりなんなり立てられただろうが、シンフォギア・システムに関して無知なオーマジオウには解明する術はない。

 

更に言えば、立花響がガングニールを纏っているのは本来の運用とは全く別のイレギュラーであり、心臓付近に摘出不可能となったガングニールに破片によるもの。

はっきりと彼に分かるのは、立花響は幼子を助ける為に再びノイズの事件に巻き込まれてしまったということだけ。

オーマジオウの思考は、ただこの場に現れたノイズを殲滅するのではなく、説得、或いは無理矢理にでも連れ帰って何故このような状況になったのかを調べるにシフトしかけていた。

 

しかし、オーマジオウはどうすべきか思案する。

仮に彼女を無理に連れ帰ったところで、半ば混乱しかけている状態で調べられるのか分からず、もしかしたら本人ですら何故こうなったのかを理解できてないかもしれない。

或いは、オーマジオウに恐怖して発狂しないとも言い切れない。

魔王と恐れられている世間から恐れられているオーマジオウ。

皆が知っているのは、圧倒的な力と一度ではあるが人を襲ったという事実のみ。

立花響もまた、それ以上の知識は持ち合わせていない。

 

「さてと」

 

問題は、相手は立花響だけでなく、幼女もその場にいること。

仮に彼女を連れ帰ったとして、幼女はここではいさよなら、という訳にもいくまい。

立花響と幼女の詳しい関係性はオーマジオウの知るところでは無いが、彼女との関係あるなしに関わらず幼女を放置する選択肢は存在しない。

というより、できない。

かと言って、この姿のまま家に戻せるかと問われれば、答えに困る。

 

一応幼女の家の場所さえ分かれば帰すこと自体に然程苦労はしないが、付近の住人に誘拐と勘違いされずに無事に帰す手段が思いつかない。

彼女たちを抱えて転移しても側から見ればどう映るか分かったものではないし、ライドストライカーに乗せて移動などもってのほか。

このように広まってしまった悪評故に行動が制限されるのは、オーマジオウにとっても頭を悩ませる問題でもあった。

 

自慢には決してならないのだが、魔王としてのオーマジオウはライブ事件によって全国的、世界的に見ても知名度が高い。

何しろたった数枚の写真が幾度となく新聞や週刊誌に掲載され、ニュースでは被害者の家族などのインタビューが取り上げられている。

ここまで広がってしまった悪評は簡単には取り消せないし、取り消そうにも、わざわざ電波ジャックして弁明したところで、誰も信じないだろう。

それほどまでに、人々の心には魔王として根付いている。

姿を消して数年が経つために当時よりはマスコミなども沈静化しつつあるけれど、お蔭で伝言ゲームの要領であることないことが呟かれる始末。

 

立花響を無理やり捕まえることは簡単であろう。

未知の力を持っているとはいえ、走って逃げられても追いつける自信はオーマジオウにはあるし、なんならクロックアップといった自身のスピードをより速くする手段は幾らでもある。

立花響が荒事に慣れていないのは彼にとって前々から知っていることだ。

腕力や技といったもので振りほどかれる心配もない。

もっとも、友人に対してこれらの行動ができれば、の話ではあるが。

 

それに、もし幼女に悲鳴でも上げられようものなら、更に悪評が添付されてしまうことになる。

オーマジオウにとって、すでにお尋ね者になっているというのに、これ以上の厄介ごとというのはもう御免であった。

 

無理矢理に立花響を連れ帰る、という選択肢を彼は除外した。

立花響とは会おうと思えばいつでも会える。

今すぐにでも解決しなければならない、というわけでもなく、むしろ、彼女にノイズから自衛する力が備わったことで多少なりとも特異災害であるノイズから生存する確率は上がる。

もっとも、その力を悪用したい人間に狙われる、争いに巻き込まれる可能性も出てくるわけであるのだが。

 

とりあえず、一応聞くだけ聞いてみるかとオーマジオウがライドストライカーから降りて地に足をつけ、そのまま立花響と幼女へと一歩踏み出す。

オーマジオウが一歩踏み出したことによって、立花響は幼女を抱えて一歩後ずさる。

助けに来た、と確かにオーマジオウは自分に向かって呟いた。

けれど、その言葉が本当に真実とも限らず、完全に信用できるものではなかった。

或いは、テレビや新聞で目にするオーマジオウの悪評に、無意識のうちに恐れていたのかもしれない。

テレビが全て正しいとは立花響は考えていない。

が、オーマジオウの悪評が嘘である、と否定できるだけの情報を彼女は持っていなかった。

 

ふと、オーマジオウの強化された聴力が、ライドストライカーとは別のバイクのエンジン音を拾った。

それだけではなく、車やトラック、果てにはヘリコプターなどの音まで聞こえてくる。

彼らの位置に真っ直ぐ向かって来ていることから、たまたま通りかかったというわけでもない。

オーマジオウは内心、タイミングの悪さに舌打ちをした。

 

「来ちゃったのか」

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

「あったかいもの、どうぞ」

 

そう言ってコーヒーを立花響に差し出したのは、彼女とは初対面である女性。

特異災害対策機動部二課の一人であるらしい、政府の関係者を名乗る者。

オーマジオウにノイズから助けてもらったあと、どうしようと考えている間に、その者達は現れた。

辺りを一時的な立ち入り禁止区域とし、周辺に散らばるノイズであった炭素の塊の後片付けを始め、立花響と幼女は彼らに保護されることとなった。

目の前にいたはずのオーマジオウは、彼らがこの場所に到着すると同時に姿を消しており、痕跡一つ残すことなく、まるで元からいなかったの如く消えていた。

 

「あ、あったかいもの、どうも」

 

立花響が纏っていたオレンジ色の鎧は、あの後光の粒となって消え、彼女は聖リディアンの制服に戻っていた。

結局あれが何だったのかは、響自身わからなかった。

あの時、立花響はまだ状況に追いついてはいないものの、自分を頼ってくるその幼女を見て、ノイズからこの子を助けなければいけないと確信した。

が、ノイズに対して人間ができることなど、ノイズが自壊するのを待つか、逃げることだけだ。

必死になって幼女を連れてノイズから逃げるも、逃げた先にまでノイズがいる始末。

それでも、生きるのを諦めなかったことが原因かは分からないが、胸に歌が浮かび上がり、ノイズに対抗する手段(ガングニール)を得た。

が、実際のところ、力を手に入れたといっても使いこなすことはできず、寧ろ振り回されてしまっていた。

 

「いったい、なんだったんだろ……」

 

幼女の方を見れば、そこには母親と再会し、喜んでいる姿があった。

幼女の喜んでいる姿を見て、自分は人助けをする事ができたのだと思い、ほっと胸をなでおろした。

スーツを着た女性が、何やら母親に国家特別機密事項がどうたらこうたらと話していたが、その辺の知識がさっぱりな立花響にはてんで分からず、ぼーっと眺めていた。

本来であれば、今頃は友人である常磐総悟と特典付きのCDを買っていたはずなのに、ノイズに襲われ、謎の鎧を纏って、オーマジオウが何故か助けに来て、今はこうして政府の関係者を名乗る人達に囲まれているこの状況。

立花響は自分が呪われているとしか思えなかった。

目の前の女性の話によれば、今回の件で犠牲者は出でおらず、必然的に友人である常磐総悟も無事であることがわかった。

 

「ここにいたはずのノイズの大群、倒したのはあなた?」

 

風鳴翼の質問に立花響は首を横に振る。

先程まで纏っていた鎧の力のおかげ、不可能と思っていたノイズを何体かは倒すことができた。

が、あくまでその数は両手で数えられるほどであり、元いた数を考えれば塵にも等しい数だ。

自身の憧れの存在に会えたことにはしゃぎたい気持ちがないわけではなかったが、風鳴翼からの質問によって、頭の片隅に追いやられていた事柄を思い出す。

 

「あの、実はさっきまでオーマジオウ……さんがいて、ノイズを全部やっつけてくれました」

 

オーマジオウの起こした爆発を再現すべく腕を大きく広げ、言葉と共に身ぶり手ぶりで、立花響は風鳴翼にオーマジオウの存在を伝える。

 

「……そう。何か、オーマジオウに関して気になることは無かった? 何でもいいの」

 

ぐいっ、と顔を前に押し出し、少しでも情報を得ようとする。

 

「気になることって言われても、凄すぎて何がなんだか」

 

「行動じゃなくてもいい。何か、喋ったりとか」

 

「あ、なんか『助けに来たよ』って言われました」

 

「そんな馬鹿な」

 

風鳴翼と、周囲にいたスーツを着た者達の動きが止まる。

 

「『助けに来てやった』でも『助けてやる』でもなく、『助けに来たよ』と?」

 

迫るような表情で問う風鳴翼。

 

「えっと、たぶん……聞き違いじゃなければ」

 

「…………」

 

顎に手をやり、ここでいったい何が起こったのか、考えを巡らせる。

風鳴翼の知っているオーマジオウの情報と一致しない。

オーマジオウと遭遇した市民は何人かいるが、彼と会話をした者は殆ど存在せず、呟きなどを聞くのみ。

それも、どれもが高圧的なものばかりというのが二課が集めた情報だ。

実際に対峙したことがある風鳴翼も、少ししか会話はできなかったが、その話し方はどれも高圧的であった。

しかし、目の前の少女が言うには、どこか気さくな話し方だったと言う。

それがいったい何を意味するのか。

オーマジオウは実は一人ではないのか、或いは何か意図があるのか、もしくは目の前の少女が関係しているのか。

思考の沼に嵌りかけたところで、ここで一人悩んでも仕方なしと判断して思考を中断する。

 

風鳴翼にとって、目の前の少女には聞かねばならぬことが沢山ある。

オーマジオウのことも、そして、彼女が纏ったガングニールのことも。

 

「特異災害対策機動部二課まで、同行してもらいます」

 

「そ、そんなこと言われても……」

 

後ずさった立花響の周りには黒服、黒服、黒服。

サングラスを掛けた黒服の男達。

囲まれることによって逃げ場を失う。

映画やドラマでしか見たことのない光景に、立花響は己の置かれた状況を理解せざるを得なかった。

黒服の男達の一人、唯一サングラスを掛けていなかった優男をイメージさせる男性が、立花響が知っている手錠よりもよりゴツく、一目で堅固であると分かる手錠を手に近づき、ガシャンと付けられ、彼女は拘束された。

 

「すみませんね。あなたの身柄を、拘束させていただきます」

 

「いや、あの、ちょっと!?」

 

拘束されるようなことをした覚えは一切ない。

……多少、物や道路は壊してしまったかもしれないが、それでもここまで頑丈な手錠などされるとは思いもしない。

いきなりの出来事に抗議の声を上げようとした瞬間、元が如何なる形だったかもわからないほどに手錠が歪み、ぐしゃりとその形を変えて、立花響の手から落ちる。

 

その場の誰もが目を見開くと、誰もいないはずのトラックの上から、声が響いてくる。

 

「──随分頑丈にしたつもりらしい、だが無意味だ」

 

キーン、と音が鳴り響くと空間に歪みが発生し、大量の金色の時計が縁取るゲートから一つの影が現れる。

瞳の位置のライダーの文字が赤く輝く、豪華な黄金の鎧。

話題に事欠かない、黄金の魔王。

 

「拘束する事もなかろうに」

 

「馬鹿な……!」

 

「オーマジオウ!」

 

立花響と風鳴翼はその存在に驚き、緒川慎次はとっさにショルダーホルダーの銃へと手を伸ばしながら立花響と風鳴翼を庇うように前へ出る。

黒服の男たちもまた懐の拳銃を取り出し、上空にいるヘリは、ライトでオーマジオウを照らし出す。

第三者から見れば、銃を持った黒服にオーマジオウが囲まれている様にも見えるだろう。

だが、現実は、無力な兵士の前に魔王が降臨したに過ぎない。

 

「……彼女には申し訳ないが、アレを纏った者は、連行する決まりになっている」

 

「ふん、手錠をしてまでか」

 

「相も変わらず、高圧的な話し方なのだな」

 

「王だからな」

 

「私には気さくに話しかけないのか」

 

ほう、と、オーマジオウが感嘆の声を漏らす。

今までの会話、特に意識することなくオーマジオウは高圧的な話し方をしていた。

しかし、気の緩みか立花響との僅かな会話では、その話し方が崩れてしまっていた。

たった一度の崩した話し方、あの状況下でそこまで意識は回らないだろうと考えていたが……。

風鳴翼はそのたった小さな情報一つすら、見逃すことはなかった。

 

「仲良く話がしたいのか」

 

「そうではない。何故、彼女にだけ口調を変えた? 何か意図でもあったのか?」

 

風鳴翼の言葉に、オーマジオウは顎に手を当て首を傾げる。

 

「それを私に聞いてどうする。理由が欲しいのか。『実はその少女は私の親友で、どうしても助けたかった』と言えば、お前はなるほどそうだったのか、と言って納得するのか?」

 

風鳴翼はその表情を曇らせ、その視線の先にいるオーマジオウはそのままトラックに腰を下ろし、立て膝の状態で座った。

 

「それとも、『甘い言葉で彼女を油断させ、誘拐するつもりだった』とでも言って、私をこの場で倒す口実でも欲しかったか?」

 

「私は……いや、そうだな。例えどんな答えが返ってこようと、私は納得しないだろう」

 

「ならば……」

 

「それでも、いや、だからこそ。私たちは話し合う必要がある」

 

風鳴翼は一歩前へ踏み出し、オーマジオウと向き合う。

その手には、彼女の剣である聖遺物「天羽々斬」の欠片より造られたシンフォギアのペンダント。

 

「あなたの真意はわからない。だが、人々を助ける姿を私はこの目で見てきたつもりだ。世間ではなく、自分の心を、信じてみようと思う」

 

「それが真実とは限らんぞ」

 

「ならば尚のこと、真意を聞かせて欲しい。……同行、願いたい」

 

「断る、と、言ったら?」

 

「ただの一言で私が引き下がる道理など、ありはしない」

 

笑みを浮かべ、起動詠唱を口にする風鳴翼。

纏うは、日本神話のスサノオが八岐大蛇退治に使用した刀剣を原典とした天羽々斬。

シンフォギアシステム一号。

 

「首根っこを掴んででも同行させてみせる。話はベッドで聞くとしよう!」

 

溜息。

 

「眩しいな、ここまで真っ直ぐとは」

 

その場でゆっくりと立ち上がるオーマジオウ。

その背後には、無数の武器が展開され、その矛先は風鳴翼へと向けられる。

剣、槍、斧といった様々な武器。

 

「小手調べをするのも、悪くない」

 

 

 




早く投稿するとはなんだったのか
気がつけばすでに一月の終わり……バイトは次々と消えるし、社員も消えるという最高な事態……どうするんだろうねこれ
私は下っ端だから関係ないけど

◯ドジっ子属性待ちの魔王
ライドストライカーに乗って助けに来たはいいけど、もうちょい口調を統一しないとそのうちバレてしまうぞ?
追求されてもあえて堂々とすることでそれっぽくなってるけど、多分そのうちボロが出る
ビッキーをどうしようか悩んでるうちに二課が来たからやべって感じでインビジブルで消えてた
別にチキンではない
ライブ会場の事件でお尋ね者になったから捕まらないようにしただけなのだ
そしたらビッキーが手錠かけられてあら大変
女子高生に手錠はあかんやろってことで再び参上
王様だし、黄金だし、ゲートオブなんちゃらやってもいいよね?
答えは聞いてない!
平成ライダーの全部の武器も使えそうだし、数は物凄くなりそう
思ったよりも翼さんからの評価が良かったから内心はめっちゃ喜んでる
嬉しいからお礼に翼さんの好きそうな武器をたくさん飛ばしてあげますね

◯呪われてる娘
多分マジで呪われてるんじゃないかな
またノイズ関連に巻き込まれるは、ガングニールとオーマジオウのせいで黒服に囲まれるはで災難でしたね
でも憧れの翼さんに会えたからチャラにならない?ならないかぁ
特典付きのCDは買えなかったけど、多分緒川さんに頼めば手に入るんじゃない?
なんなら翼さんに頼むのもありなのでは?
でもなんか貰わなそうなイメージある
まだまだガングニールは使いこなせてないのであっちこっち飛び跳ねてた
そのうち特訓しなきゃだね
もちろん特訓はあの人とだよね

◯ズバババン
精神安定してる完璧なSAKIMORI
ガングニールを見ても取り乱すことはないし、オーマジオウを見てもいきなり殴りかからないぐらいには落ち着いてる
今回はオーマジオウがノイズ倒しちゃったからヤーンヤーンヤーンヤーンヤーーーンはお預けでござる
世論に流されることなく、真実を見極めようとしてる(キリッ
奏がいることでサキモリッシュにならないのかと言われるとそんなことはなく、むしろ堂々と迷いなくSAKIMORIしてる
でも馬鹿みたいにSAKIMORI、SAKIMORIと繰り返してるわけじゃない
ないんじゃないかなぁ
後はお父様のイベントを消化すればパーフェクトSAKIMORIが完成するけど、それは先の話
耄碌した翁が邪魔しそうやなぁ
でも翁はオーマジオウの方へ行きそうな気がする
行って帰ってこれるかは知らん

そろそろクリスちゃんが書きたいのです
なのでもうそろそろ話を進めていくぞ!
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくおねがいします!(遅い)
削るところは削るし、オリジナルも混ぜたりと多分すげーフリーダムになっていくと思うし、なんならもうプロット通りに書くかもわからない
てかだいぶ逸れてる
気が向いたらプロット通り書きますし気が向かなければ書かないです
そういうわけで、今年もそういう流れでよろしければ、感想など自由に書きつつ次回を気長にお待ち下さいな

並行世界の翼さんとクリス、いいよね……


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遊戯

オーマジオウの背後に出現した武器が一斉に風鳴翼へと狙いを定め、いつでも穿てるよう射出体勢を整える。

それに対し、対面する風鳴翼は目の前に広がる光景を目にして、背中に冷や汗が流れる。

目の前には、彼女の見たことのない武器の数々があり、それら全てが彼女に対し敵意を持っているかの如く、例外なく向けられる。

果たして、本当にそれらはオーマジオウの武器なのだろうか。

見た目の形状からして、剣や槍に類するものだということは推測できる。

が、その作りに統一性がなく、近未来的な物もあれば、原始的な物も存在している。

まるで、博物館のように、異なる文化の物を寄せ集めたかのようだ。

 

「いけ」

 

その言葉と共に、オーマジオウの右手は掲げられ、振り下ろされる。

その行動が号令となり、背後に待機していた武器が一瞬の予備動作の後、一斉に風鳴翼に向かって射出された。

対する風鳴翼はその物量を相殺すべく、己が持つ物量攻撃を発動する。

千ノ落涙。

空間から大量の剣を具現化して、広範囲に攻撃する技。

相手が物量攻撃を仕掛けて来るのならば、逆にそれを上回る数で押し切ろうという考えだ。

オーマジオウの射出する武器が両手で数えられる程度の数に対し、風鳴翼の具現化した剣の数は優に五十は超えている。

一寸たりとも手を緩めるつもりはなかった。

わざわざ相手の数に合わせて戦う程の余裕を持ち合わせているわけではない。

オーマジオウの射出した武器を全て相殺し、尚且つオーマジオウ本人をも狙う。

圧倒的な数。

とにかく、数多くの攻撃を与えるのが主目的の千ノ落涙。

如何にシンフォギアとして人智を超えた攻撃を繰り出せるとして、規格外であるオーマジオウにダメージを与えられるとは限らないし、一撃で事足りるとも限らない。

一撃で足りないならば二撃、二撃で足りないならば三撃。

それでも足りないならば、それを上回る数で押し切る。

 

互いの剣がぶつかり合い、その衝撃によって本来の狙いへと届くことはなく、射出された剣はあらぬ方向へと飛んでいく。

オーマジオウから射出された計十の武器は一つ残らず弾かれ、周囲の地面を割って突き刺さる。

風鳴翼の剣もまた、同数は弾かれることとなったが、残りの数は当初の狙い通りオーマジオウへと突き刺さっていく。

更に、手に持つ刀を大型化させて振るい、巨大な青いエネルギー刃をオーマジオウへと放つ。

 

「緒川さん!」

 

「総員、退避してください!」

 

その言葉を合図に、周囲にいた職員が一斉に退避していく。

如何に黒服達が戦闘訓練を受けたといっても、それはあくまで人間の範疇に収まる範囲内でだ。

このような人智を超えた戦いに参加できるほどの力を備えている者は、この場にはいない。

いくら戦おうという意思があっても、どうにかなるものではない。

 

オーマジオウに次々と剣とエネルギー刃が着弾して煙に包まれる。

しかし、千ノ落涙と蒼ノ一閃を当てたというのに手応えはなく、煙の中から現れるオーマジオウには傷一つ無い。

オーマジオウは攻撃を避けられなかったのではなく、避けなかったのだ。

攻撃を受けたにも関わらず、特に気にしていないかのように、刀を構える風鳴翼に向けて歩み寄る。

思わず後ずさる風鳴翼に、オーマジオウはまるで世間話でもするように語り掛けた。

 

「なるほど、これがお前達の扱う力というやつか」

 

「……どうして」

 

「全くの無意味だった……とは言わないが、この程度の攻撃では私に傷一つ付けることはできない」

 

「チッ」

 

あまりの理不尽に舌打ちがこぼれる。

効かないかもしれない、と思ってはいたが、実際にその光景を目にすると、その規格外さに愚痴の一つでも溢したくなる。

 

「はぁっ!」

 

走り込む勢いのまま跳躍、跳びながら剣に焔を纏い斬りかかる。

必殺の技というほどのものではないが、それでも並のノイズであれば一太刀で消滅されられる程の威力が込められた一撃。

それは目の前のオーマジオウへと届く。

 

「無駄だ」

 

──その身に届く寸前、受け止められた。

オーマジオウが伸ばした手に、刀ががっしりと受け止められてしまった。

背後に浮かぶ武器を手に取って受け止めるのではなく、己の手で攻撃を受け止めてしまう防御力に、風鳴翼は目を見開く。

手の甲に装甲らしきものは付いているが、オーマジオウは攻撃された衝撃を物ともせず、一歩も引くことなく受け切って見せた。

 

「ふん」

 

驚いている暇もなく、風鳴翼は激しい衝撃に意識を持っていかれそうになる。

空いている左手を腹に翳され、そこから発せられた衝撃波を直で受けて吹き飛ばされたのである。

 

「攻撃力はこの程度か」

 

その言葉と共に、特に気にした様子もなく右手首をスナップさせ、再びオーマジオウの背後には幾多の武器が出現し、その数は先程とは比べものにならないほど多い。

炎を纏っているものもあれば、稲妻が迸っているものもある。

人の身に当たれば無事では済まない武器群を、オーマジオウは気にもとめない。

彼には風鳴翼を倒す、圧倒するという意識が無い。

敵を打倒しようという本能からの行動ではないからだ。

この見知らぬ力の詳細が知りたい。

そんな知的好奇心から、やるべき事を最適化した身体が従う。

獲物に群がる肉食獣の様に風鳴翼に襲いかかる幾多の武器。

 

「どの程度なら耐えられる」

 

相殺しようと千ノ落涙を発動する──寸前で、足元からも武器が出現したことによって、その場から飛び退く。

 

「頭上も注意だ、悪く思え」

 

足元からだけでなく、頭上からも武器が出現する始末。

オーマジオウはまるで飛び退く場所を分かっているのか、ピンポイントで武器を射出、或いは出現させてくる。

その驚異的な正確さから遂には避けることが出来なくなり、咄嗟の判断で刀で受け流した瞬間、風鳴翼の手首に鎖が巻きつき、地面に向けて引っ張られた。

腹部に重い衝撃。

いつの間にか距離を詰めたオーマジオウの、鉄鎚による攻撃。

 

「は――――ぁ、ごぉ――――!!」

 

何とか踏ん張るものの、血を吐くと錯覚するほどの痛みが走り、耐えきれず膝をついてしまう。

意識はあるようだが、虚ろな目から読み取るに、ギリギリと言ったところだろう。

その隙を、オーマジオウはあえて見逃す。

 

「歌による能力の増幅、どういった原理でやっているのかは不明だが、歌に同調というのは面白い発想だ。だが、こうやって中断されてしまえばポテンシャルが著しく低下する……考えものだな」

 

「……何が言いたい」

 

「明確な弱点だな、と思っただけだ。喉を狙われる、或いは水の中に引き摺り込まれてしまえば、歌唱を続けることも叶うまい」

 

見下ろしてくるオーマジオウに対し、斬り上げ。

振り上げた勢いで、油断なく開いた片手にもう一本刀を握り、もう一閃。

一閃、二閃、三閃。

時に同時に斬り付け、時にタイミングをずらして放ち、時に右と左で同時攻撃をする。

持ちうる全ての技術を注ぎ込み、オーマジオウへ連撃を叩き込む。

一方のオーマジオウは両腕を巧みに使いながら、その連撃を防いでいく。

特にダメージを負うことなく、攻撃をしっかり捌いていた。

 

「勝機!」

 

「むっ」

 

攻撃をいなされた勢いで上手いこと背後に回り込み、その首筋に剣を当てる。

気付けば、彼女は汗だくになっていた。

脈打つ鼓動は速く、呼吸も荒い。

流れる汗に構わず、風鳴翼は改めてオーマジオウを見据える。

離れて見ていた職員達は歓声を上げ、映像で見ていた本部の職員達も思わずガッツポーズを取る。

オーマジオウは大げさに肩を竦めてみせる。

 

「私の勝ちだ。さあ、同行してもらおうか」

 

「降参だ……とは言わないが、称賛は受け取れ。お前は強い。初対面の時とはまるで別人だが?」

 

「称賛は素直に受け取っておこう。──あのような悲劇、二度と繰り返してたまるかと誓ったのだ」

 

「ふむ。なるほど、大いに賛同する」

 

しかし、そう話す一方で、オーマジオウは何時の間にか逆に後ろへと回り込んでいた。

恐ろしい速度。

目にも留まらぬ超スピード、或いは瞬間移動なのか?

背後を取っていた風鳴翼ですらその瞬間を捉える事ができなかった。

 

次の瞬間、二人が煙幕に包まれる。

 

「翼さん、これ以上は! 帰還しましょう!!」

 

その言葉を聞き、風鳴翼はその場から勢いよく離れ、緒川慎次の乗る車へと飛び移る。

瞬間、その車がブレだし、分身した車がその場から離れていく。

緒川慎次による、『忍法車分身』だ。

それを目にしたオーマジオウは思わず感嘆の声を上げる。

 

「まさか、忍法をこの目で見れるとは……だが、いくら分身しようと全て叩き潰せば関係あるまい」

 

いつの間にかオーマジオウの手にはジカンギレード・ジュウモードが握られており、もう片方の手には仮面ライダーフォーゼの力が封じ込められた『フォーゼ・ライドウォッチ』が握られていた。

電子的な機械音が鳴り響き、ライドウォッチがジュウモードへと装填される。

 

『フィニッシュタイム!』

 

銃口に溢れんばかりのエネルギーが集中する。

そこから何が起こるか。

それに対し何ができるか。

それを彼女達は理解できなかった。

仮に予知などの能力を持っていても、たとえ予め情報が揃っていたとしても。

 

『フォーゼ・スレスレシューティング!』

 

次の瞬間、ボン、という音と共に大量のミサイルが放たれ、分身した車全てに向かっていく。

驚くべき事に、分身の車がものの数秒も掛からず消し去られたにもかかわらず、本体である緒川慎次と風鳴翼の乗る車にはその恐るべきミサイルは一発たりとも当たっていない。

いや、運良く当たらなかった、という訳ではないのだろう。

 

「いいのか、当たるものなら死あるのみだ。止めてみせるなり、迎撃するなり、足掻いてみせるがいい」

 

銃口は、砲撃が放たれる寸前まで、ぴたりと車の方に向けられていた。

躊躇いなく向けられた銃口は、車のスピードによって遠ざかっていくものの、心臓にナイフを突きつけられているかの如く危機感を与える。

そして、ミサイルが放たれる直前、わざとらしく車から銃口が外れた。

分かっていたのだ、最初から。

全て潰せばいい、と口では言いながら、オーマジオウはどれが分身でどれが本体なのか、既に知っていたのだ。

魔王と、そう呼称されるが如く、この振る舞いは弱者を嬲り殺しにして遊ぶ魔王そのものだ。

 

『フィニッシュタイム!』

 

再び電子音が鳴り響く。

このままでは本当にやられる!

窓から身を乗り出し、ミサイルを迎撃すべく千ノ落涙を発動する。

が、当たらない。

ミサイルはまるで生き物のように生きているかの如く、剣と剣の間をすり抜けて向かってくる。

止まる気配はない。

緒川慎次のドライブテクニックでも避けることはできないだろう。

一か八かで車から脱出するか?

そう、思い、

 

「へぶっ!?」

 

焦った表情の風鳴翼の顔に、紙のような物が張り付く。

かしゃ、と、音を立てながらそれを取り除き、何が起こったか理解できず唖然とする。

ミサイルは色鮮やかな花束へと変わり、車を華やかなものへと早変わりさせ、翼の手にもまた花束が握られていた。

先程の紙を見れば、それは手紙であり……

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

風鳴翼様へ。

 

今回の手合わせ、そちらの力の一端を垣間見ることができて、とても楽しかったです。

できれば、また手合わせ願います。

お腹とか結構強めに殴っちゃいましたけど、手合わせですし、翼さんも思いっきり剣とか刺してきたんで、そこら辺は許してください。

あと、今日はCDの発売日でしたね。特典などの為に欲しかったですが、ノイズのせいで買いに行けなかったのが残念です。

売り切れていないといいのですが、翼さん的には売り切れた方が嬉しいですよね……

新曲、楽しみに待ってます。

それでは。

 

最高最善の魔王、オーマジオウより。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「あ、あはは、は」

 

顔に張り付いていた、手紙と思しきものの中身を読んだ風鳴翼は、あまりの出来事に困惑して、乾いた笑いしかできなかった。

少し幼さを感じさせる文章、手書きとは異なりパソコンで打ったかのような字、そして、常軌を逸した内容。

本来なら秘匿されている風鳴翼の正体。

これは、まぁ、いい。

顔や声を隠しているわけではないので、対面すれば分かるようなことだ。

しかし、今回の戦いの内容、何故か今日の発売の己のCDについての言及。

反応に困るものばかりであった。

 

「どうしました、翼さん!?」

 

車が花だらけという明らかな異常事態、そして風鳴翼のなんとも言えない表情に、心配して声を掛ける緒川慎次。

 

「緒川さん。オーマジオウは、私のファンかもしれないです……」

 

「えぇ!?」

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

「行っちゃった」

 

追いかけることはできるけど、これ以上騒ぎにするのもなんだし、この辺りが頃合いだろう。

少なくとも、翼さんの反応的を見た限りでは、立花をアジトに連れ帰って拷問したり解剖したりすることはあるまい。

百パーセント……いや、千パーセントされない、とは言い切れないが、ただでさえ対ノイズの戦力が無い中、わざわざノイズと戦える立花を無下にするのは自殺行為に等しい。

現状、奏さんが戦力としてカウントできない以上、彼らも新たな戦力が欲しいはず。

戦える力が立花にあるからといって、すぐに戦場に立つことができるかと問われれば否だし、立花が戦いを拒否してしまえばそれまでだが。

 

ノイズ自体は人を炭素の塊にする能力と謎のすり抜けさえ何とかできれば、実はそう脅威ではなかったりする。

獣の様に本能で危機察知したりすることもないし、戦士の様に技や小細工をしたりするなんてこともないので、あの鎧の力があるなら多分、立花でもそう苦労せずにノイズを倒すことができるだろう。

その二つの能力が普通はどうにかならないかは政府は困っているのだが、まぁいい。

あの鎧自体がノイズ特攻なのか、或いは既存の兵器よりも高い火力でゴリ押ししてるだけなのかは知らないが、立花は対ノイズの戦力となり得る。

事実、立花は俺が到着する前にノイズを数体倒しているのは間違いない。

間違いないけど。

 

「立花が戦うってのはなー」

 

別に立花は特別運動が得意ということはなかったし、武道を習っているわけでもない。

翼さんはさっき戦ってみた感じ、戦士として普段から鍛錬していて、鎧の力に頼りきりの戦い方をしていないのが分かった。

あの刀捌き、まさか一朝一夕で身に付けた技じゃないだろう。

 

それに比べ、立花にできることと言えば、恐らく力任せのゴリ押しくらいだろう。

そんな彼女には、できれば戦って欲しくないと思うのは、俺のエゴだろうか。

彼女の分まで俺が戦えば済む、と思うけど。

 

「これは器物損壊かな?」

 

辺りには、役人達が設置していったであろう、大量の隠しカメラ類の破片。

堂々と設置してあるカメラも、隠してある小型のカメラやマイクも申し訳ないが全て破壊させて貰った。

原型も残らないほどに壊したので、修復は不可能だし、保存してあった録画データも取り出すことは不可能。

ジャミングしてあるとはいえ、ライブ会場の時みたいに少しでも映像が残っていると、捏造なり何なりされて困るから仕方ないといえば仕方ないのだけど。

逆にこれを理由に罪に問われたらどうしようもないけど。

 

「さて、立花の方を覗き見させてもらうかな」

 

覗き見られるのは嫌だが、自分は覗き見る。

魔王なのだから仕方ない。

 

できれば直接行くのが一番だろうけど、わざわざ乗り込む必要もあるまい。

翼さんは話聞いてくれそうだけど、他の人も同じかと言われれば、恐らくそんな事はないだろうし。

まぁ恐がるのはおかしくはない。

それだけの力が、オーマジオウにあるのだから。

今回はモニター越しに眺めさせてもらおう。

立ってると疲れるから、外だけどお構いなしにに寝っ転がっちゃう。

わざわざこんな場所(クレーターの様な跡地)に人なんか来ないでしょ。

変身は解いてないから身バレも心配なし。

ヨシ!

気分はエボルト!

 

「ん?」

 

異空間にしまってあるはずの端末がブルブルと震えている。

いいところで電話が掛かって来るなんて……と思いきや、掛けてきた主の名前を見れば『小日向未来』。

掛けてきた理由はおおよそ察しはつく。

 

「もしもし?」

 

『もしもし、総悟!? 近くでノイズが出たってニュースがやってて……響は一緒にいるの!?』

 

俺が一緒にCDを買いに行くってことは、立花経由で聞いていたのだろう。

立花が中々帰ってこない&ニュースを見て、立花に電話したが繋がらず、心配して一緒にいるであろう俺に電話を掛けた、って感じか。

状況的に、立花は電話に出れないだろうし、仕方がないのかもしれないが、小日向の心配もごもっともだ。

 

「いや、それがノイズのせいで合流出来なくて。でも、()()()()()()()()()()、無事らしいよ?」

 

嘘は言っていない。

手錠を掛けられてたけど。

 

『良かったぁ……総悟も無事? 怪我とかしてない?』

 

「大丈夫大丈夫。問題ないって。立花も、そろそろ帰るんじゃないかな」

 

『わかった。教えてくれてありがとう』

 

そう言って、通話が切れる。

さて、覗き見の続きをしよう。

 

 

 

 

 




ちょっとした戦闘回、かな

◯シンフォギアのことが知りたいお年頃な魔王
実際、あんな不思議な力を目の前で見せられたらもっと知りたくなるよねって感じ
オーマジオウの方が不思議な気がするけどそれは言っちゃいけないお約束
歴代の武器でバビロンしちゃったけど別にオレンジパイセンも極でやってたしセーフセーフ
なんか如何にも翼さんを殺しそうな攻撃してたけどあれは実際は原作のジオウ対オーマジオウの様に絶妙な力加減によって成り立っていたのだ!
スゴイ!
フォーゼのスレスレシューティングが好きすぎるのだが、共感者おらん?

◯パイセン
「なんや、あの武器群……羨ましい」て内心思ってたりするんじゃなかろうか
千ノ落涙ってバビロンの真似事みたいなことできそうだしなんなら千本桜の様にも見えるし万能な技だと思う
相手が悪かった
弱点とか指摘されたけど、エックシブの一話で響は水の中で問題なく戦ってたし実はそんな弱点じゃないのかなって書いてて不安になった
歌ってなんだよ(哲学)
翼「オーマジオウ、私のファンかもしれない」
二課「いやいや、そんな訳ないやろ……え、手紙? マジで?」
この後絶賛混乱中

◯忍者
他の人を逃がしながらも自分はあえてパイセンの為に残って離脱の手助けをするファインプレー
響は他の人に託した
視聴時、OTONAが只者じゃなかったからこの人もそんな感じかなーて思ってたら忍者という予想の斜め上をいった人
車の分身とか影縫いってこの人も大概おかしい
実は敵なんじゃないかって疑ってた時期がありましたごめんなさい

◯原作主人公
出番なし
悲しい
裏では二課でガングニールの事とか原作通り説明されてた
オーマジオウのことを聞かれただろうけど、実際何も知らないので何も答えられなかった

◯二課の人
戦闘をモニターで見ててワンチャンオーマジオウに勝てるのではないかと期待してた
現実は非情である

◯陽だまり
響が心配なのもわかるけど総悟の心配ももう少ししてあげよう
多分ショボンとしてるから
響>総悟

段々と投稿ペースが落ちているのが悩ましい……
だが、次は早いぞ!
今週中にもう一本は絶対投稿するぞ!
なんなら投稿出来なかったら桜の木の下に埋めてもらっても構わないです
あ、感想はちびちび返していくんで、お許しを
本編が優先なのじゃ……
それでも感想は欲しいマンなので、ドシドシ感想を送りつつ次話をお待ちくださいな




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暗闇にて

先週投稿できなかったので、桜の木の下から初投稿です。



──女の話をしよう。

彼女の両親は音楽家で、彼女自身はそのサラブレッドだった。

彼女の両親の夢は、歌で世界を平和にすることだという。

誰だって夢を見る自由はある。

 

大人だろうと子供だろうと、男だろうと女だろうと夢を見ることはできる。

こいつは決して非難される様なことではないだろう。

一人で見る夢もあれば、友と見る夢もある、家族で見る夢だってある。

途方もない程の大きい夢もあれば、手が届く範囲の小さな夢もある。

 

人の夢に優劣はない。

大きければいいものでもないし、小さければ悪いなんてこともない。

だがまあ、彼らの夢は大きい部類に入るだろう。

 

 

被戦地で難民救済を! なるほどそいつは立派だ。

歌で世界中を平和に! なるほどそいつは素晴らしい。

 

 

だが彼女に待っていたのは両親との死別。

平和とは真逆の結果が答えだった。

現実はいつだって残酷だ。

人の夢と書いて儚いと読む。

残された者には時として夢は悪夢になる。

愛別離苦、九腸寸断、立派な夢だったはずなのに、どうしてこうなった?

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

『俺たちが守りたいのは機密などではない。人の命だ』

 

覗き見しといてなんだが、こんな台詞を言える組織人はそう多くないだろうというのが素直な感想だ。

機密よりも人の命を守る……尊いことだが難しいことだと思う。

怖い組織なら口封じの為に消してしまう、なんて事もあるぐらいだ。

組織を構築しているのが人である以上、各位が見たくないものは見えなくなるし、不祥事などもってのほか。

……誰だって、失敗の責任は取りたくないし。

大きな組織であるが故に、ルールやしがらみに縛られて動けない、対処する力がないというのはよくある話だ。

 

シンフォギアという既存の兵器を大きく上回る力を所有する組織であれば、そのしがらみは相当なものだろう。

誰がそれを運用するのか、市街地での運用の仕方とその後始末、情報の規制、やる事はまぁ素人目でもてんこ盛り、盛り沢山ってやつだ。

そもそも、日本には平和憲法があることによって必要最低限度を超える戦力を持つことはできないとされている。

が、シンフォギアは恐らくそれ一つで必要最低限度を超える。

これが公になれば世論は大きく揺れるだろうし、外国もどう反応することか。

まぁ、いい反応はしないだろう。

政府のどこまで知れ渡っているかは分からないが、もし極一部の者しか知らないとするなら『こんな力を持つのは憲法違反だ、内閣はそれを隠していた……これは国民の意思を無視している! 解散しろ!!』みたいな野党からの内閣への総攻撃が始まるか、マスコミさんからのありがたいコメントが多数報道されるに違いない。

 

そんな難しい立場にいる組織のトップが堂々と人命優先というのだから、少しは信用してもいいのかもしれない。

実際、立花は軽くメディカルチェックをしてシンフォギアについての説明を受けた後、寮に帰されてたし。

あの後は無事立花から連絡があり、なんとか寮に帰ることができたと報告を貰った。

CDショップから逃げた後のことは所々ぼかしていたり、オーマジオウに会ったことや翼さん達に保護されたことは一切話されなかったけど、司令から話してはいけないと言われていたのでこればかりはしょうがない。

 

しかし、いやはやまさか立花や小日向が通う学校の地下に組織の本部があるとは思わなんだ。

いや、まぁ秘密基地は地下と相場が決まっているけれど、学校の地下とは普通思いつかない。

 

とりあえず、今まで不明であった彼女達の使う異端の力……シンフォギアについて多少なりとも知ることができたのは大きな収穫だ。

シンフォギアとは自衛隊特異災害対策機動部二課に所属する櫻井了子により開発された特異災害ノイズに対抗するための唯一無二の「兵器」。

シンフォギア・システムを作り上げた理論は櫻井理論と呼ばれ、なんでも研究界では画期的なもの……らしい。正直難しくてよく分かんなかった。

また、このシンフォギアなるものは聖遺物の欠片を利用しており、その欠片は立花の体内に埋まっている。

そして力を引き出す為には「歌」が必要不可欠とあるが、それは誰の歌でも良いという訳ではないらしく、適合係数と呼ばれる数値が一定以上ないと聖遺物が反応しないんだとか。

シンフォギア・システムの起動及び運用には歌が必要である事を踏まえると、立花達が通う私立リディアン音楽院の地下に特異災害対策機動部二課の本部があるのはそう不思議な事でもないのかもしれない。

そういった諸々の理由を考えれば、学校自体が二課の物……なのかな?

 

ひとまず、シンフォギアという装備には

一つ、歌が必要。

一つ、聖遺物の欠片が必要。

一つ、適合者なる者が必要。

一つ、特異災害ノイズに対する矛であり盾。

これぐらいか。

 

これらの性質上どうしてもすぐに量産するのは難しいだろうし、シンフォギアを全国に配備なんて夢のまた夢だろうが、それでも人の身で太刀打ちできないノイズ相手に対抗できる装備というものはそれだけで貴重だ。

対峙してみた感じ、戦力として申し分ない。

ただ、秘匿したいのは分かるけど戦闘をする度に歌を歌うのであれば秘匿するどころか、自ら居場所をバラしているような気がするけど、情報規制は本当に追いつくのだろうか?

 

ネットでの情報は規制することはできるだろうけど、友人や家族にその口で話されたら正直どうしようもないし、それがあちこちに広まって噂にでもなったら手がつけられなくなりそうだけど、それをカバーする為のオーマジオウは情報規制無しか。

オーマジオウの情報を隠蓑とするとは全く、いやらしい。

 

でも、シンフォギアがノイズへの対抗策なのは分かったが、そのシンフォギアを扱うのが立花なのが問題だ。

その聖遺物の欠片が立花の体内にある以上、誰かに譲るなり託すことは不可能だ。

 

そして、立花は戦う道を選んだ。

この力が誰かの助けになるのなら、と。

困っている人を助けたい。

己の身に宿った欠片でノイズを打ち倒せるのなら、己を犠牲にしても戦う。

尊いことであるけれど、果たしてそれは正しいのだろうか。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

立花がノイズと戦うようになって一カ月。

戦うと決意したのはいいんだが、側から見ていて正直気が気でないぐらい酷かった。

別に周りが何もしてないとかではなく、翼さんは常にアシストしているし、二課とやらのサポート体制も万全と言える。

俺が見えないところで手助けするのは、まぁちょっとだけ。

何が酷いのか。

立花の戦い方だ。

 

一応シンフォギアを纏うことで身体能力が格段に上がっているらしく、ノイズに対しての能力も相まってそれまで戦闘訓練を積んでいない素人の立花でも一応はノイズと戦うことができている。

しかし、シンフォギアを纏ったからといっていきなり戦闘のプロになったわけでもなければ、スタミナが無尽蔵になったわけでもないらしく、その力は本人に由来しているらしいので立花自身の身体能力がモロに戦闘に響いている。

 

現状、翼さんの様に「戦闘を行っている」とはお世辞にも言えず、 「逃げてる間に偶然倒せた」、「がむしゃらに腕を振ったら当たった」という有様で、戦い方に不安やムラがあるとかそれ以前の問題だ。

今まで普通の学生だった立花にそれを求めるのは酷というものだけど、これだったら正直現場に出さずに訓練に明け暮れていた方がマシなんじゃないかと思えるレベルの不安定さだ。

今戦線から離れてしまえば一時的には戦力ダウンかもしれないけど、事件後は元々翼さん一人だった訳だし、大局的に見ればプラスになると思うのだけど、どうなんだろう。

あちら的にはそれは許されざる状況なのだろうか?

 

翼さんに特訓してもらうのが一番の近道なのだろうけど、翼さんは学園生活にアーティスト活動、己の鍛錬にノイズ退治とハッキリ言って自分の時間が存在しているのか怪しいレベルで多忙な身。

かといって、俺がオーマジオウに変身して特訓をしてあげるのは問題がある。

俺が特訓をする事自体は別に構わないけど、まずどうやって特訓まで漕ぎ着けるか分からないし、どうやって鍛えてあげればいいのかが分からない。

プロのスポーツ選手が最高のコーチになれるかは別問題なのだ。

 

「難しいな〜」

 

「なになに、どうしたの総悟くん。溜め息なんかついちゃって」

 

おじさんは夕飯を作りながら、しかし視線はテーブルにうつ伏せている俺に向けていた。

本当は夕飯作るのを手伝おうと思ったけど、おじさんに「いいからいいから!座ってて」って言われてしまったので素直に待つことにした。

と、いっても、さすがに皿だしとかはしたけど。

それにしてもおじさん、手元見ないで料理とか器用だな……。

 

「んー、人に教えるって中々経験ないからさ。どうしたらいいのかなーって」

 

「教える、かー。確かに難しいよね。まず大前提として自分が分かってなくちゃいけないし、尚且つその人にわかりやすく伝えなくちゃいけないからね」

 

いや、まぁ、確かに。

そうだよね。

自分がわからないことを他人に教えるなんて事は不可能だし、なんなら間違った事を教えてしまう危うさまである。

はて、そう思うと俺は戦闘について教えられるほど知っていない。

やっていることといえば衝撃波を出して吹き飛ばしたり、武器を飛ばしたり……飛ばしてばかりだな。

別に殴り合いとかができないわけではない。

が、何しろオーマジオウの力のせいで大半はゴリ押しでなんとかなってしまうし、実際に戦いだすと、謂わゆる無我の境地とも言うべきか体が最適化された動きをするものだから頭で理解しているわけではない。

 

「それに教えてもらう側も一生懸命にならないと成り立たないから大変なんだよね。一方通行になっちゃうし」

 

まぁ立花は一生懸命やるだろう。

けれども。

立花が自ら戦いの場に出てきて、自分の命を賭けて戦うようになってしまった事に、やり切れない思いと不安はある。

できれば、偶然力を持ってしまったとしても、友達には血生臭い場に出て欲しくないし、似合わない。

これは心から思う。

何しろ、戦いとは基本的に負けたら死ぬのが当たり前なのだ。

戦闘不能になった人間をノイズがみすみす見逃すとは考えられないし、当然、炭素の塊にされてしまうだろう。

ゲームと違ってやり直しはきかない、リセットなんかできない。

そんな場所に、そんな行いの中に、何故友に居てほしいなどと思えるだろう。

 

だが、不幸な話ではあるのだが。

彼女は力を、シンフォギアという物を持ってしまっている。

それも、心臓付近に喰い込んでいる事によって現代の医学ではその聖遺物の欠片とやらの除去は不可能、俺の力でも無事に除去できるかは分からない。

ノイズに対抗できるという、珍しいを通り越して誰もが喉から手がでる程の希少さだ。

仮に戦わないという選択肢を選んでも、シンフォギアというものを持っている、というだけで、様々な事に巻き込まれていくに違いない。

人助けが趣味と公言している立花が、その時に我が身可愛さにさっさとしっぽを巻いて逃げてくれるかはわからないのだ。

国の特務機関に関わる以上、ある程度の力量がないとなんの抵抗もできずに死ぬ可能性すらある。

 

「頑張らなくちゃ、な」

 

「? もう解決したの?」

 

「解決はしてないけど、努力することにしたよ」

 

「お、いいね〜。努力はしないより、した方がずっと良いからね」

 

この先も戦い続けて生き残れるか分からない。

なら、戦わなければよかった、関わらなければよかったとでも言うのか?

シンフォギアという力を行使しなかったからと言って、ノイズや敵は見逃してくれるのか?

違う、それは絶対に違う。

結局、遅かれ早かれ立花は巻き込まれる。

なら、戦って、戦って、勝ち抜いて、その先にある「生きる」ということを掴むしかない。

死ぬよりは、ずっといい。

 

と、思ったこの時に。

 

「総悟くん、何処行くの?」

 

「あー、うん。行かなきゃいけないとこがあって」

 

「今から!?」

 

「うん」

 

「あー……、あー。そうなんだ……。夕食までには帰ってきてね」

 

……もう夕飯は完成してそうだったけど、見なかった事にしよう。

ノイズとはまた違った気配。

一体何事なのか。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

夜、公園。

雲のせいで月光も届かない世界、外灯によって照らされたその場所にはシンフォギアを纏った二人の少女と白銀の鎧を纏った少女が向かい合っていた。

彼女達以外いない公園は静寂に包まれてはいるが、それは嵐の前の静けさといった感じ。

アメノハバキリの少女──風鳴翼は、白銀の鎧を纏った少女へと、敵意を隠さずに睨みつけていた。

対する少女はそんな視線を受け流し、挑戦的な笑みを浮かべている。

 

「戦場にノコノコと素人を連れてくるたぁ、お気楽な奴らだな」

 

少女の声からは、挑発、煽りといった風鳴翼を嘲笑うかのような感情がありありとのっている。

敵対する意思をまるで隠す気が無いように。

 

「そういう貴女こそ、私の前にネフシュタンの鎧を持ってくるとは……いい度胸をしている」

 

「そいつはどうも」

 

「皮肉も通じないとは、愚者の類だったか」

 

風鳴翼の視線は更に鋭くなり、そんな様子を見てネフシュタンの鎧を纏った少女は大袈裟に肩を竦める。

 

「怖い怖い。冗談も通じないたぁあんたこそ愚者の類じゃないのか?」

 

一触即発。

そのやり取りを見ていたガングニールの少女──立花響はこの先に起こるであろう未来を予感して、それを止めるべく風鳴翼の腰へとしがみつく。

このままでは確実に二人は衝突する。

それも、ただの喧嘩などではなく命をかけたやり取りを、だ。

 

「待ってください翼さん! 相手は人です、人間なんです! ノイズじゃないんですよ!!」

 

ガングニールの少女、立花響はなお焦る。

ノイズの反応あり、と連絡を受けたことでこの公園へとやって来たはいいものの、肝心のノイズは居らず、どうしたもんかと風鳴翼と悩んでいた。

だが、周囲を探索して異常が無ければ帰還しようと話が纏った時、目の前の少女が現れた。

 

ノイズを倒す為、困っている人を助ける為にガングニールの力を行使しようと決意したのだ。

戦うことへの迷いは勿論あったが、それでも、誰かの命を助けられるならば、と。

そんな思いで協力をする事にしたのだ。

決して、人と争う為に、二課の協力を受け入れた訳ではない。

 

「止めてくれるな立花。二課所属のシンフォギア装者として、何より私の不手際で奪われた物を前にして、足踏みなどできない!」

 

「だったら話してばかりいないで、とっととやり合おうぜ!」

 

じゃらり、と。

少女は鎧と繋がる鞭を振り回し、不規則な攻撃が二人へと繰り出される。

風鳴翼は腰にしがみつく立花響を引き離してそのまま後方へと突き飛ばし、己はその場から飛び退き、攻撃を回避する。

突き飛ばされた立花響を他所に、そのまま二人は己の武器を手に戦い出してしまった。

 

「どうしよう、どうしよう、どうしよう……!?」

 

風鳴翼は、立花響がシンフォギア装者として戦うずっと前から鍛錬し、ノイズと戦ってきた。

この戦いも、何度も実戦を経験してきた風鳴翼なら何とかなるかもしれない。

それだけの実力があることを、期間はまだ短いながらも側で共に戦ってきた立花響は理解しているつもりだ。

彼女が手助けしなくても、風鳴翼なら謎の少女に勝てるかもしれない。

それに、私の不手際、と風鳴翼は言っていた。

立花響の知らない事情が絡んでいる事は容易に想像できる。

それでも。

それでも、同じ人同士が啀み合って戦うのを見たくなかった。

 

金属同士の生み出す甲高い音。

夜の公園に火花が煌めく。

 

ふと、慌てふためく立花響は、背後に何やら違和感を覚えて振り返ってみる。

立花響の感じた違和感の正体は、黄金の王であった。

わざわざ観察するまでもなく、その姿が先日目にしたオーマジオウである事は一目で分かった。

ノイズともシンフォギアとも違う、何処で何の為に生まれたのか由来も成り立ちも未だ不明な魔王。

それでも、前回、オーマジオウは自分を助けにきてくれた。

ならば、今回も……と、一縷の望みを掛けて立花は声をかける。

 

「あの! 助けてくださいオーマジオウさん!」

 

「…………」

 

しかし、オーマジオウからの返事はない。

それどころか、立花響の存在に気付いていないかの如く、視線は白銀の鎧の少女へと固定されており見向きもされない。

オーマジオウは微動だにせず、ただその場で白銀の少女を見つめる。

何度も何度も声をかけるが、シンフォギアを纏った立花響には見向きもしない。

 

「いや、あの、ちょっと! 聞いてます?!」

 

相も変わらず返事のしないオーマジオウに対して焦ったく思ったのか、立花響は腕を引っ張ってみるもまるで固定されているかのように動くことはなく、背中から押しても前に進むことはなかった。

遂には頭をポカポカと叩いてみるも、尚反応は無し。

もしかして置物……それとも寝てる? あまりにも動くことのないその姿から、そんな考えが彼女の頭に思い浮かぶ。

 

そんなふざけたやり取りに白銀の鎧を纏った少女が気づいたのか、腰から何かを取り出す。

反れた形から弓を連想するが、水晶部分から矢の代わりに光が立花響とオーマジオウに向けて打ち出された。

 

「ようやくお出ましか魔王。先ずはコイツらでも相手してな」

 

目の前には大小、形も姿も、色すらも様々なノイズの群れ。

人がノイズを繰り出し、尚且つ出したノイズを操っている。

今までの常識ではあり得ない光景に、立花響は勿論、風鳴翼ですら驚きを隠せなかった。

それは、オーマジオウですらも。

ネフシュタンの鎧を纏っているだけでも厄介だというのに、ノイズを操る聖遺物までも。

 

「立花に手を出すなぁ!」

 

「へっ! のぼせあがるな人気者! いつまでも誰これ構ってくれると思う……っガハッ!?」

 

ノイズが消失する音。

何かが叩きつけられた様な鈍い音と共に響く爆発音。

風鳴翼の目の前にいたはずの少女はオーマジオウに頭を掴まれ、そのまま地面に叩きつけられていた。

叩きつけられた少女を中心にクレーターができており、オーマジオウは尚も手を離していない。

少女の頭を握ったままのオーマジオウはそのまま掌から衝撃波を放ち、更に地面にめり込ませる。

オーマジオウとの距離からして、まさか直接自分に攻撃されると思っていなかったのか、その衝撃をモロに受け、掴まれたまま衝撃波を放たれたことで受け流す事もできず、脳を揺さぶられる。

 

「ッちっくしょう!」

 

後頭部から地面にめり込んだ少女は、力任せにオーマジオウの拘束を引き剥がした。

引き剥がしはしたが、より正確に言うならば、少女が力任せに拘束を振り解こうとした時点で魔王──オーマジオウは手を離していたのだが、それを少女は知るよしも無い。

息を荒げたままの少女は少しでも息を整えようとオーマジオウから距離を取り、離れた位置で膝をつきながら、己の敵を睨みつける。

 

オーマジオウが一撃で倒そうと思えば倒せたという事くらいは少女でも理解できている。

過去に使用した能力などは飼い主である女性からある程度は聞き及んでいる。

今のが倒すための一撃であったのなら、気を失うどころか頭が原型を留めていなかっただろう。

現に彼女が出したノイズ達は全て消されている。

どんな状況であろうと自分を倒せると考えているからか。

明らかに舐められている。

少女の腹の中で沸々と怒りが煮え始める。

 

「やってくれたな……!」

 

「ノイズを出したのはお前か」

 

「あん?」

 

「お前だな──お前が」

 

「ッ!?」

 

何をされても十分に対処できる程度の距離を取ったつもりであったのに、何故かオーマジオウは自身の目の前に立っており、そのまま足を掴まれて恐ろしい速度で木々を薙ぎ倒しながら後方へと投げ飛ばされる少女。

無論、彼女の纏うネフシュタンの鎧のおかげで多少なりとも木にぶつかったダメージは軽減できているが、あくまで軽減されているだけであり、ダメージの蓄積はされている。

ネフシュタンの鎧の特徴はあくまで圧倒的な再生力であり、防御力を圧倒的にするものではない。

 

投げ飛ばされ、オーマジオウの反対側に着地する寸前に、その背を恐ろしい衝撃が襲い、少女は直前にオーマジオウに投げ飛ばされる時の数倍の速度で再び木々を砕きながら吹き飛ばされた。

半ばで折れた木に周囲を囲まれ、舞い上がる土埃の中から少女が見たのは、いつの間にか自分が投げ飛ばされた方向に立ち、前蹴りの姿勢を取っているオーマジオウ。

オーマジオウは自ら投げ飛ばした少女を上回る速度で先回りし、着地点で待ち構えていたのだ。

 

かつ、かつ、と、草が生い茂る地面で足音を鳴らしながら、先程までの速度が嘘であったかの様に魔王がゆっくりと歩み寄る。

思わず後ずさる少女に、オーマジオウは声に明らかな怒りを滲ませながら語り掛けた。

 

「お前の使うそのノイズを生み出して使役する能力……先のライブ会場や今までの数々の事件、引き起こしたのはお前か?」

 

「……ふん、だったらどうするんだよ」

 

精一杯の強がりか、やったとも、やってないとも言わずに質問で返す。

少しでも相手に情報を与えないようにするために。

だが。

それはここでは悪手であった。

 

「知れたこと。私が、今、この場で叩き潰す」

 

地面が抉れるほどの蹴りで跳躍、残像を残しながら少女へと向かっていく。

対する少女は肩部から伸びる鎖状の鞭で迎撃しようとする。

こちらに寄せ付けまいとする鞭の薙ぎ払い。

ただ寄せ付けまいとしているだけでなく、当たった箇所を削ぐ勢いで振り抜く。

鞭という武器の特性上、その軌道は読みづらく、それは熟練の戦士である風鳴翼ですら苦戦させられたほど。

 

鞭による薙ぎ払いが迫り来るオーマジオウに直撃する。

しかし、攻撃を当てた本人である少女には何の手応えもない。

真っ直ぐ向かって来るような残像を残しながら全て回避してみせたのだ。

 

「鞭による攻撃は確かに軌道が読みづらい。が、私にはお前の未来が見える」

 

薙ぎ払われた鞭がオーマジオウによって掴まれて、そのまま引っ張られる。

その強度ゆえに鞭が千切れることはなかったが、それが逆に仇となった。

顔面と腹部に重い衝撃。

引き寄せたオーマジオウによる顔面へとパンチと腹部への蹴り。

 

後方へと派手に吹き飛ぶ少女。

更に追撃として、オーマジオウの背後に浮かんだ武器群が次々に少女へと飛んでいく。

顔面に展開されていたバイザーは砕け、腹部の装甲も完膚なきまでに壊れている。

 

「あぐッ! ……クソ、何て力だ」

 

更に悲鳴を上げる。

傷口から侵入してきたネフシュタンの組織が、少女の身体もろとも取り込んで再生しようとしている。

通常であれば再生不可能と思えるほどの損傷を負っているはずではあるが、その特性故に回復し始めている。

 

「食い破られる前に……」

 

「食い破られる前に、どうする」

 

激しい打撃音。

血飛沫を上げながら吹き飛ぶ少女。

オーマジオウの拳が少女の脇腹に当たった瞬間。

破裂音。

拳から放たれた衝撃波が少女の体を弾き飛ばす。

 

「っ、~~!」

 

圧倒的な実力の差。

少女の蹂躙される光景に立花響は思わず声を失い、恐怖に囚われて動けない。

風鳴翼は恐れ慄き、モニター越しに見ていた二課の職員も恐怖する。

先日の風鳴翼とオーマジオウの戦いもまた、確かに苛烈ではあった。

しかし、これはそれの比ではない。

確かに真剣ではあった。

だが、本気ではなかったのだ。

 

完全聖遺物のポテンシャルを安易に超える力。

弱者の抵抗をあざ笑うが如き、魔王と呼ばれるに相応しい力。

理不尽なまでに圧倒的な力、そして、強固かつどんな攻撃でも減衰・吸収する柔軟さ。

それがオーマジオウ、それが最低最悪の魔王。

 

だが、これはあくまでオーマジオウの力の一端。

 

彼の扱うのは全平成ライダーの力。

すなわち特定のライダーだけでなく、共に歩んだライダー、その道を阻んだライダー、そして彼らの派生、強化フォームを全て網羅しているいう文字通り「全てのライダーの力」である。

 

「お前なんかが……」

 

血反吐を吐きながら、少女が激しい怒りの形相で顔を上げた。

 

「お前みたいなバケモノじみた力を持つ奴がいるから……争いが無くならねぇんだ! お前なんかがいるから……世界はぁぁぁ!」

 

「………」

 

少女が拳を震わせて叫ぶ、その声音と表情は憎悪に染まっていた。

痛みを押し殺し、少女の怒りに呼応するかのように鞭の先端に高エネルギーが収束されていき、やがて球体へと形状を変えて放たれる。

 

「消えちまえよッ!」

 

しかし、オーマジオウはその巨大な黒いエネルギー弾を片手で跳ね除ける。

 

「そうか……、今、楽にしてやる」

 

『終焉の刻!』

 

終わりを告げる音声が鳴り響く。

ドライバーのスイッチを同時に押し込むことで発動されるソレは、オーマジオウ最大の必殺技。

文字通り、「必」ず「殺」す「技」。

 

目に位置するライダーの文字はより赤く、不気味に光り。

背中の大時計「アポカリプス・オブ・キングダム」を展開することによってエネルギーが解放され、その余波で暴風の如き風が吹き渡る。

 

必ず殺す。

敵は殺さなければならない。

力を持っている者として。

目の前の敵を倒し、ノイズによる被害を無くす為に。

過去の被害者達に報いる為に。

 

「これ以上は不味いぞ!」

 

風鳴翼が駆け出す。

このままでは確実にネフシュタンの鎧を纏う少女が殺される。

ネフシュタンの鎧を纏う少女は確かに味方ではないが、殺してもいい、見殺しにしてもいい存在というわけではない。

何故ネフシュタンの鎧を持っているのか、ノイズを操れる物は一体何なのか、他にも協力者はいるのか。

聞かねばならないことが山程ある。

それに、話し合えば、刃を交える相手ではないのかも知れないのだから。

 

しかし、オーマジオウは既に技の体勢へと入っている。

風鳴翼は止めようとするが、もう、間に合わない。

 

『逢魔時王必殺撃!』

 

「っはああああああああああ!」

 

ライダーキック。

それは、仮面ライダーを代表する技。

キックという文字がネフシュタンの鎧の少女を囲み、ドス黒いオーラを纏ったオーマジオウが飛び蹴りを放つ。

キックの文字によって拘束されていることによって、避けることは叶わない。

誰もが少女の終わりを予感した。

 

 

しかし。

 

「ッな!?」

 

だが、当たる瞬間、オーマジオウのその姿が消えた。

突如現れた銀色のオーロラのカーテンの様なものがオーマジオウを包み、消してしまったのだ。

静寂が訪れる。

まるで、初めからいなかったの様に。

オーマジオウの策略なのか、それとも第三者によるものなのか。

それを知る者はここにはいない。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

「いったい、どういうこと?」

 

辺りを見渡すと、一言でいうのなら空も木も無い謎の空間。

確実にさっきまでいた公園ではないし、あの少女の能力とも思えない。

その様な能力を持っているのなら、あのタイミングではなくもっと早い段階で使っていたはず。

勿論、翼さんでも立花でもない。

 

「ここは」

 

どこ、と言おうとしたタイミングで背後に気配を感じ、振り返る。

誰もいない。

 

「随分と派手にやってたな。そんなに敵を殺したかったか?」

 

「一体、誰……」

 

「俺か? 通りすがりの──」

 

かつ、かつ、と足音をたてながらこちらに歩いてくる。

ありえない。

何で、彼が、

 

「──仮面ライダーだ」

 

門矢士がここにいるんだ。

 

 




ようやくクリスちゃん、登場!


◯激おこな我が魔王
ノイズを操る、という光景を見てぷっつんしちゃった子
最大級のトラウマであるライブ会場の事件が連鎖的に思い起こされて魔王っぽい風になっちゃった
そう簡単には乗り越えられないのだ
前を向いているけれど、あの惨劇引き起こした奴は許せないなって感じ
前回が総悟成分多めのギャグ風な感じになってたし、今回は容赦のない魔王風でちょうどいいのでは?
でもオーマジオウって魔王なんだしこれはこれでいい気がする!
本家はレジスタンスをほぼ皆殺しにしてたし!
ドス黒いオーラと真っ赤な目がとってもオシャレ!
謎の少女は敵だからね! 仕方ないね!
このまま謎の少女を殺すと、人を殺した反動でどんどん容赦がなくなって、人の痛みのわからない魔王ルート一直線!
待っててね二期以降の敵さん達! みんなワンパンで殺してくからな!
打ち切りエンドじゃないからそうならないけど、そうしてみたい感はある
魔王ルートも書いてみたいなって

◯ちょっとおこ防人
激おこではない
自分よりも遥かに怒り狂ってるヤツを見るとなん多少冷静になるじゃん? そんな感じ
ネフシュタンの鎧を目の前に持ってくるとはいい度胸してんなぁワレ!?ってキレ気味だけど、奏が死んでないのでまだセーフ
やるべき事はネフシュタンの鎧を確保することであり、相手を殺すことではないと冷静に考えているので最後は止めようとした
冷静なのだよ(重要)
一期といい五期といい、翼さんは冷静さを失うと面倒臭くなるからなぁ
この小説では綺麗で頼れる先輩キャラでいきます

◯初めてのお友達
翼さんはいつもと違ってなんか怖いしでも相手は人間だから戦いたくない
でも結局翼さんと謎の少女は戦い出すしで困ってたら後ろにはなんとオーマジオウが!
オーマジオウえもん、なんとかしてよぉ〜って話しかけたらなんか無視されたし、押しても動かないし引っ張ってもダメ、だから頭をポコポコ叩いちゃう
その後は恐怖で体が動かなかった
今までは普通の高校生だったし、仕方ないね
彼女の戦いはこれからだ!
ちなみに、普段のノイズ退治は翼さんがめっちゃサポートしてくれてた

◯謎の少女
メインヒロインです
メ イ ン ヒ ロ イ ン 
なんかボコボコにされて殺されそうになってたけどメインヒロインです
主人公がメインヒロインと敵対するなんてよくある光景だし、これぐらいヘーキよな……?
フィーネに言われて響を拐いにきた
オーマジオウは倒してくれたら儲けもんだけど、無理やろなぁってフィーネに内心思われてる

◯通りすがり
ようやく初期から何で何でと言われた彼を出せたよ……
詳しくは次回ね


ここからはオリジナル展開とか増えていくだろうし、今回みたいにもしかしたら皆さんのお気に入りのキャラが不遇な扱い受ける可能性大です
人によってはついて来れないような内容になっていくので低評価とか押したくなるだろうけど、まぁ許して許して
許すついでに感想と高評価ください何でもしますから!

次回も、早いのか遅いのかわかりませんが気長にお待ち下さいな



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道標

俺、ようやく投稿!!

ごめんなさい許してください

コロナのせいでめっちゃ仕事忙しかったんです
ようやく落ち着いてきたんで……また、書いていきます


世界の破壊者にして、通りすがりの仮面ライダー。

門矢士。

何故、どうやって、そんな疑問は恐らく考えるだけ無駄だ。

旅と称して様々な世界を渡り歩いてはそこで何かしらの役割を与えられ、世界の破壊者と住人に疎まれながらも気がつけば縁を紡いでいき、今度はこの世界にやってきた、そんなとこだろう。

彼はいつの間にか仮面ライダージオウへカメンライドしてしまった人物なので、彼がこの世界に通りすがれたとしても正直そんな驚きはしない。

 

驚きはしないが、何故今になって現れたのかだけは気になる。

この世界で与えられた役割が何なのかは知らないが、もし通りすがるとしたならばそれは今ではなく、二年前に起きたライブ事件の時の方が適切ではないのか?

適切かどうかはともかく、元凶であるはずの少女を倒すタイミングで現れるのは如何なものか。

 

まともに考えて、まずノイズという特異災害(たぶん災害じゃない)が存在している時点で、この世界はおかしい。

あのライブ事件だって、オーマジオウという規格外な力のおかげで最悪な結末だけは防ぐことができたけれど、少なくない被害が出ている。

オーマの日に起きたとされる全人口が半分になった事件と比べれば地味な事件と感じるかもしれないが、人口が半分になるのが酷すぎるのであって、こちらのライブ事件だって教科書に載ってもおかしくないレベルの規模だ。

 

なのに、そのおかしな存在を操る元凶をようやく見つけて、あと一歩というところまで追い詰めたというのに、こうして彼に邪魔されるのは納得がいかない。

 

「納得いかない、そんな顔をしているな」

 

「当たり前じゃん」

 

「アイツとお前が戦ってるのが見てられなくてな」

 

「え、どゆこと?」

 

ホントにどゆこと?

オーマジオウである俺とノイズを操る黒幕の少女は敵同士なんだから戦うのは当然だし、普通に考えれば、門矢士視点で考えたとしても、別段、俺と彼女が戦っていてもおかしくはないはずだ。

なのに、戦ってるのが見ていられなかった、というのは何かこちらの知り得ない情報でも持っているのか。

かつ、かつ、かつ、と、門矢士が横を通り過ぎていく。

彼は何故か歩みを止める気配は無く、このままではどんどん距離が開いてしまうので、仕方がないのでこちらもついて行く。

 

「気にするな。こっちの話だ」

 

「いや、そっちの話って言ったって……」

 

ちゃんと説明してくれないと困る。

言葉にしてもらわないとこっちはてんで理解できないし、そっちで勝手に自己完結して納得していてはこっちに何の情報も入ってこないし。

というか、いい加減歩みを止めて欲しい。

この何もない世界でどこまで歩いて行くつもりなのか。

 

「一言で表すなら、アイツは黒幕じゃない」

 

「ッ!? もしかして、今までの一連の事件について、何か分かったの?」

 

「ああ、だいたい分かった」

 

「じゃあ説明してよ」

 

「だいたいは、だいたいだ」

 

きっ、と音を鳴らして歩みを止めた。

そのままこちらへ振り返り、わざとらしく指を指してくる。

 

「まぁ、別に敵だと割り切って倒すのはお前の自由だが」

 

「……」

 

そうだ。

俺は敵を倒す。

倒さなければならない。

止まれないんだ、こんなところで。

俺が倒さなきゃ。誰よりも強くなって。

 

「何故だ?」

 

俺が敵を倒さなければならない。

黒幕でなかろうが関係ない。

 

「何故だ? 何故倒さなきゃいけない?」

 

それは、倒さなきゃ、誰も守れないからだ。

今度こそ、誰も傷つけたくない。

倒さなければ、周りのみんなを守れないし。

倒さなければ、ノイズに襲われるのを防げない。

倒さなければ、また最悪の中の最善をしなければならない。

 

ノイズ、ノイズ、ノイズ。

なんでこんなクソみたいな事が平然と起きて、人々が怯えながら暮らしていかなきゃいけないんだ。

人だけを殺す災害なんて、あるはずがないだろう。

魔王と畏怖されるのは辛くなかった。

テレビで報道されようと、守った人から石を投げつけられようが、そんなものは幾らでも耐えられる。

だから、俺が……。

 

「お前の知る王様は、そうやって立ち塞がった奴を全て薙ぎ倒す最低最悪の魔王なのか?」

 

「それは……」

 

それは、違う。

確かにジオウには冷酷な面もあり、時には容赦のなさもあったけど。

でも彼の根底には、「みんなが幸せでいて欲しい、そんな良い世界を作りたい」という純粋な思いがあった。

そうして最高最善の魔王を目指したいったからこそ、いつの間にか惹かれていき、彼の周りには仲間がいた。

ひたすらに覇道を突き進んでいたのなら仲間はできなかっただろうし、その孤独な結末を、俺は知っている。

 

「人々を守るために戦う、その意気はいい」

 

「力を持った責任を果たす、その意気もまたいい」

 

「だがな」

 

「一つ、忠告だ」

 

「復讐の炎だけには囚われるな」

 

「そんなものに囚われた奴には、仮面ライダーの名を名乗る資格はない」

 

見ればわかる。

彼は怒っている。

顔が、声が、雰囲気が。

真っ直ぐこちらを見つめている。

それはそうだろう。この怒りはもっともだ。

何らおかしくはない。

怒って当然、怒られて当然なのだ。

簡単にタガが外れ、思考が殺すことに囚われて。

 

人を殺せば結果が伴う。

 

俺は殺すために戦うのではない。

守るためにたたかうのだ。

人々を助けるための力を手に入れたのだ、決して快楽のためではない。

力の使い方を誤れば再び悲劇が起こり、力を制御できないのならソレは化け物と呼ぶに相応しい。

復讐という悪意が生み出すものは、悲しみだ。

 

俺は何も知らない。

彼女は何者なのか、何故あの様な行為に及んでいるのか。

ノイズを操ってはいたが、そのノイズを未来予知で見たものは立花の拘束のみであり、立花を襲おうとはしていなかった。

オーマジオウを恐れてあの力を使い出しただけなのかもしれない。

最低最悪の魔王?

アホらしい。

偉大なる先人達の、力を、能力を持ちながら、助けるなんて建前の自己満足に浸っているだけのクソ野郎だ。

何処由来とも知れぬ、語らぬ、よくわからない、ただ見境なく戦う危ないやつだ。

結局、誰も救っていない。

 

俺は平成ライダーの力を受け継いでいるというのに、肝心なところで助けられなかった。

肝心な時に間に合わないで、命を救う名目で守りたかった人々を傷つけた。

人を殺すなんてことはやったこともないくせに、復讐という無意味なものに囚われて。

なんともまあ、惨めで、滑稽で、つまらない話だ。

 

「せいぜい、考えることだ」

 

そう言い放ち、彼の能力か、俺の背後にオーロラカーテンが出現する。

 

「まったく俺と違って、平成ライダーは面倒な奴ばかりだな。手間をかけさせる」

 

むっ、と思ったが、今は反論できない。

現に手間をかけさせてしまったし、門矢士が手を出していなければ今頃あの少女を殺してしまっていたに違いない。

ちょい、ちょい、と、門矢士が手招き。

何事かと思い、また嫌味の一つでも言われるのかと覚悟しながら、それでも何か一つぐらいは言い返してやろうと思いながら恐る恐る近づく。

 

「出直してこいっ!」

 

どんっ、と、腹部を蹴られてオーロラカーテンまで吹き飛ばされる。

 

「お前はまだ旅の途中だ。勝手に終点みたいな顔をしてるんじゃない」

 

視界が反転する間際、門矢士の顔が視界に入る。

飄々としながらも、真剣な表情。

 

まったく、これだから通りすがりの仮面ライダーってやつは。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

"お前は王となり、世界を破滅から救う使命がある"

 

"これが五十年後のあなた。最低最悪の魔王"

 

"お前がオーマジオウになって、お前が最低最悪の未来を作ったんだろ"

 

"お前は何にも分かっちゃいない。選ばれなかった者の悲劇を"

 

無数の、種々雑多な言葉が頭に浮かび上がってくる。

何故、どうして俺は仮面ライダーになろうと思ったのだろう。

数々の平成ライダーの力を受け継いだ故か、あるいは常磐ソウゴの姿に憧れたからか。

 

別の可能性である()()()()()()()()()()()()()が目の前に現れる。

しかし、何故か、このウォッチを掴むことが罪悪な様な気がして掴めずにいた。

 

「ほう、手に取らないのか」

 

迷っている。

手に入れるべきなのか、本当に俺が手に入れていいのか、それを手にする権利が俺に果たして在るのか。

そうこうしているうちに、一人の少年が俺の前に立った。

俺は未だ答えを出せずに、彼の背中をぼんやりと眺めていた。

 

「若き日の私よ。お前は、生まれながらの王ではない」

 

俺と青年の前にいる魔王は、今まで口にしてきた"生まれながらの王"を否定する。

 

「しかし、王になろうと望んだのはお前自身だ」

 

そう、その通り。

この魔王の言う通りだ。

彼は生まれながらの王と植え付けられただけであり、ただの替え玉として用意された少年でしかなかった。

用意された筋書き通りに導かれ、欺かれ、そして玉座から叩き落とされたのだ。

お前達の平成は醜い、と。

 

「お前は何のために王になりたかったのだ? 他の者に認められるためか? それとも、自分が特別であるためか?」

 

「──違う」

 

それでも、俺の前に立つ少年はその言葉をキッパリと拒絶した。

そんなに王になりたいのか。

王様なんて、魔王と恐れられて傷つくだけの、ロクでもない夢であるというのに。

が、そうではなかった。

少年は強い言葉で告げる。

 

「──俺が王になりたかったのは、世界を良くしたいからだ」

 

──────ああ。

そうか。

最初から、俺と常磐ソウゴでは何もかもが違っていたのだ。

彼は王様になって世界を良くしようとしたのではない。

世界を良くしたいから、王様になったのだ。

だからこそ、最低最悪の未来を見せられても、立ち止まることなく──。

憧れていた背中は、俺が想像していたものよりも堂々とした立派なものではなく、なんてことはない普通の背中だった。

彼にはどれほどの恐怖があったのだろう。

最低最悪の未来だと、魔王になるのだと。

周りに散々言われて、それでも王を目指した。

あまりにも悲しい伝説の一ページ。

この光景を誰も見ることはない。

彼の、彼らだけの、始まり。

 

少年は消え、魔王はこちらを向いて仮面をつけたまま問いかける。

 

「……さあ。お前はどうする?」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

再びオーロラを模した銀色のカーテンが現れ、ネフシュタンの鎧を纏った少女の後ろにオーマジオウが現れる。

予期しない超常現象にオーマジオウを除く三者は頭の理解が追いつかない。

 

「新手の介入か?」

 

第一号聖遺物──アメノハバキリのシンフォギアを身に纏う風鳴翼は、第三者の介入を疑って辺りを警戒する。

オーマジオウ相手に介入できる相手などそうそういてたまるかと思いつつも、超常現象を見たからにはあらゆる可能性を疑う必要がある。

しかし、付近に第三者の気配はなく静寂に包まれている。

一方、再び現れたオーマジオウは何もないはずの空間に手を伸ばしかけ……何も掴むこともなくだらりと腕を下げる。

先程までの猛烈な怒りは感じられず、まるで親にでも叱られた子供のように俯き、その場から動く気配はない。

今までの姿が嘘のようだ。

 

「ッチックショウ!!」

 

あまりに舐められた態度にネフシュタンの少女はイラつくも、勝ち目は無いと判断してその場から飛び去っていく。

ぐんぐんと高度を上げる少女。

しかし、さほど大きい訳でもない少女の声は、不思議な程にはっきりと風鳴翼の耳に届いた。

 

「どうすりゃあいいんだよ、フィーネ……!」

 

「何?」

 

聞こえたのは、終わりの名を示すもの。

もう、追撃をしようにも少女の高度ではもはや攻撃は届かない。

それがわかって……、しかし、目の前のオーマジオウからも目が離せなかった。

イメージとかけ離れた、その姿に。

判断ミスといえば、判断ミスだ。

予想外の出来事、少女の圧倒的な逃げ足にどうしようもなかった。なんて言うのは建前だ。

奪われたはずの完全聖遺物を前に動かないなど、防人の名が廃る。

それでも、彼女は防人の前に人間なのだ。

 

「……申し訳ございません、司令。対象の捕縛に失敗しました」

 

『仕方あるまい、追跡はこちらでやる。だが、今は……』

 

「分かっています」

 

風鳴弦十郎の発言の意図を汲み取り、翼はオーマジオウへと足を進める。

何が起こったのかは分からない。それでも、オーマジオウの心境が変化する程の出来事が起こったのは確かなのだ。

自分に向けられたわけではないにも関わらず、まるで自分にも向けられているかの如く感じていた殺意を失くし、今では逆に悲しくなるほどに静寂に包まれている。

 

やはり前回の時、逃げるのではなく、無理にでも話し合っておくべきだったと翼は後悔する。

オーマジオウは何の為に戦っているのか、何をゴールにしているのか。

 

「聞こえているか、オーマジオウ」

 

「……そりゃ、もちろん。これだけ近ければ聞こえるよ」

 

いつものような威圧感のある、上からの物言いではない、まるで少年の様な声に口調。

そのことに翼は驚きつつも、ああ、やはり……という感想の方が大きかった。

理屈ではなく直感で、そう感じたのだ。

 

「殺そうとしていたのか、あの少女を」

 

「うん、あの時までは」

 

「あの時?」

 

「ほら、一瞬俺が姿消したでしょ? あの時に先輩に怒られちゃってさ」

 

「そう、か」

 

何処から何処までを話すべきか。

オーマジオウは一瞬頭を悩ませるも、素直に話すべきだと判断した。

もう、道を間違えない為にも。

 

「あの少女を倒せば、殺せば全て解決すると思ったんだ。ノイズを操る元凶なら、彼女を倒せばもうノイズは現れることはない、誰も悲しまないって思ったんだけど……」

 

「違ったのか?」

 

「分からない。俺はまだ、何も知らないみたいだから」

 

「なら、これから知っていけばいいんじゃないか? まだ引き返せない所まで来てるわけではあるまい」

 

「そう、だね」

 

ぽつり、と、オーマジオウが呟く。

同時に、風鳴翼の体が光に包まれ、服装がシンフォギアのそれから、リディアンの制服へと変化する。

風鳴翼の素顔だ。

秘匿するべき正体だというのに、それでも彼女は姿を晒した。

本部からも驚きの声が聴こえてくる。

そんな状況で、オーマジオウには、一つわかる事がある。

 

「私も、新たな道を探していけそうだ」

 

正体を晒した風鳴翼の顔には、うっすらとではあるが、確かに笑顔が浮かんでいた。

そして、翼は立花響へと目を向ける。

その目には、どこか、優しさが溢れていた。

 




ディケイド出しながらも戦わないの巻
ついでにちょびっとだけ出た本物のジオウたち

ビッキーはまじ空気。クリスは不遇。防人はSAKIMORI。いったいどうなってるんだ()
なぁに、あと少しすればみんなパーフェクトシンフォギアになるさ!
空気になんてさせない
しない
しないったらしない

シンフォギアライブも延期になるし、仕事クソ忙しいしで、コロナ絶対許さねぇ! グッズだけでも買えてほんとに良かった……

次回も早いのか遅いのか分からないですけど、そんなんでもよければ気長にお待ち下さいな


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