ウルトラギャラクシー〜異世界の救世主〜 (ふと郎)
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第一章 旅の始まり
episode0 ウルトラマン…?


「ああ〜、ギンガの劇場スペシャルすっげー面白かったなー。思わず衝動買いしちまったぜ…」

 

トイザ○スの袋を肩に掛けて歩くこの少年の名は一条寺 憐。

 

ちなみに袋の中にはギンガスパーク、ガンパッド、スパークドールズなどが詰まっている。

 

「しっかしザギさんをAmaz○nでポチっといて良かった。まさかギンガとザギが売り切れとは…。ギンガは明日買いに行こう、うん。」

 

この秋で17になるこの少年は、お気づきの通り大のウルトラマン好きである。

 

TV、映画、OVAなどの映像作品は勿論のこと、イベントなどにも欠かさず行こうとするくらいにはウルトラマンが好きなのである。

 

「はぁ〜、俺もウルトラマンと一緒に戦ってみたいなぁ。」

 

この物語はそんな彼、一条寺 憐に起こった___

 

「…バカなこと言ってないで早く帰って勉強でもするか。…んん?あの坊主、まぁーたあんなところで…!っあぶねぇぇ!」

 

___不思議な出来事のお話である。

 

 

 

 

 

 

『ーーー』

 

(なんだ、この声…。俺を、呼んでる?)

 

『…ん。…い…じ…れん。一条寺 憐』

「うおっ!…ここはどこだ?」

 

憐は気がつくと、光の流れの中にいるような、そんな不可思議な空間を漂っていた。

 

(たしか俺はあのとき車に轢かれそうだった坊主をたすけて…。あれ?俺ってもしかして死んじゃったのか…?まだギンガの後半始まってないのに?)

 

『安心しろ、君は死んでいない。私が君を助けたのだ』

 

突然声が聞こえたかと思うと、憐の目の前に光が集まり始め、やがて巨人の形をとった。それは憐のよく知る、ウルトラマンのような姿だった。

 

「ひ、光の巨人⁉︎てか、ウルトラマン⁉︎やっぱ夢かなこれ…」

 

いやでも夢でも嬉しいな、などと呟いている憐に、巨人が声をかける。

 

『すまないが私に残された時間は少ない。今回君を呼んだ理由を説明するから、よく聞いてくれ』

 

憐はウルトラマンに会えた喜びやら驚きやらで興奮状態だったが、その言葉を聞いて幾分か冷静になり、静かに話の続きを待った。

 

『今、ある世界に一つの危険因子(イレギュラー)が入り込んでしまった。私はそれと交戦していたが、あと一歩というところで反撃を受け逃がしてしまった上に、決して少なくないダメージを負ってしまった。そこで、君には私のしったいの尻拭いをさせてしまうようで申し訳ないが、私が回復するまでの間、その世界を守って欲しいのだ。』

 

「俺が、守る?ウルトラマンでも倒せないような敵から?」

 

『奴に関しては心配ない。相当な深手を負っている上、力を使い果たし今は眠りについているだろう。問題は奴がその世界に逃げ込んでしまったことにより、善悪のバランスが崩れたところにある。だから、君がその世界に入ることによりバランスを元の状態に近づけることができる』

 

「俺1人でそんなに変わるのか…?」

 

『ああ、君にはそれくらいの資質がある。もちろん、無理にとは言わない。それに、もし君が帰りたくなったらいつでも帰ってこれるようにしておこう』

 

「資質って、俺にはそんな大層なものないぞ。だって、俺はただの高校生だし…」

 

『私が君を選んだ理由はもう一つある。それは君の勇気だ。先ほどの子供を庇ったことだけではない。君は事の大きさに違いはあれど、いつだって勇気ある行動をとってきたのだろう。その心の強さが、君からは感じられる』

 

「勇気、か…。まあでも 、誰かの助けになるなら躊躇する理由はないしな。それに、他でもないあのウルトラマンの頼みだし。断る道理はないな!」

 

『…ありがとう。君に出逢えてよかった。では、またいづれ会おう』

 

「最後に一つだけ!お願い、してもいいか?」

 

『…なにかな?』

 

「今度会ったら、俺がその世界を救ったら、その時は。…握手してもらってもいい?」

 

『…フッ。ああ、よろしく頼むよ』

 

「よっしゃ!じゃあ、いっちょやりますか!」

 

『幸運を祈る』

 

その言葉と共に、憐の意識は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

『すまない、憐。私の力が戻るまで、なんとか頑張ってくれ。今の私にはこれぐらいしかできないが、頼んだぞ…』

 

そう言って巨人は一筋の光を放つと、深い眠りについた。

 

 




難しいですねー、自分の言葉で書くのって。
なんか無理矢理感がすごい出てる気がするけれども…。
100%自分の好みで書いていくこの小説ですけど、楽しんでもらえるとうれしいです。
感想、評価などよろしくお願いします。
あ、今回ウルトラマンって呼んでますけど別に初代って訳じゃないです。
それでは!


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episode1 ファーストコンタクト

「…で、ここどこだろ」

 

 気がつくと憐は、見渡す限り岩しかない殺風景な場所にいた。人が住んでいる気配は全くと言っていいほど感じられない。

 

「…うん、まぁとりあえず何故だかそばにあった俺愛用のリュックサックの中身を確認してみるか。ほんとなんであるんだろコレ…」

 

 そう言ってリュックサックの中身を取り出していく憐だが、途中であることに気づく。

 

「ええっと、ギンガスパーク、ガンパッド、レットキング、ベムス…いやちょっと待て。これ俺がトイ○らスで買ったやつじゃねぇか!え、水は?食料は⁉︎寝るところは!⁉︎てかここどこぉぉぉ…」

 

 もちろん、これだけ騒いでも誰か来る様子はない。

 

「…はぁ、もういいよ。じゃあ遊ぶからな、俺!まずはガンパッド!ガンモードへの変形がかっこいいんだよなぁ。…ふむ、ボタンを押すとサウンドが鳴るのか。じゃあ、ポチッとな」

 

『カモン!ジャンナイン!』

 

 憐がボタンを押すと同時に辺りに轟音が響き始める。

 

「おお…結構リアリティを追求したのかな…。でもこれちょっと音大きすぎない?ヤバイ、なんか大気震えてるよ⁉︎」

 

 やがて音がおさまると、憐の目の前に一体のロボットが現れた。

 

『…』

 

「え!まさか、これ…本物の⁉︎」

 

『…辺りに他の生命反応は確認できない。僕を呼んだのは君か?』

 

「…す」

 

『?』

 

「すっげー!本物のジャンナインだ!」

 

 憐はしばらく騒いでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

『おさまったか?』

 

「うん…なんかごめん」

 

 1人で騒いでいたのが恥ずかしくなった一条寺 憐くん(高2)は、ジャンナインが自分を見つめているのに気づく。

 

『(あの機械、このタイミング…。なるほど、この少年が例の…)僕の名はジャンナイン。君は一条寺 憐で間違いないな?』

 

「あ、ああ。ところでなんで俺の名前を…?」

 

『それよりまずここを離れよう。いつまでもこの場所に留まるのは得策ではないからな。続きは僕の中で話す』

 

「ジャンナインの中….あ、そういうことか。えーと、これか?」

 

『チェンジ!ジャンスター!』

 

 その音声と共に、ジャンナインが宇宙船「ジャンスター」に変形する。

 

「やべぇ…変形、かっけぇ…」

 

 その光景を見た憐はしばらく感動に浸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 ___ジャンスター内

 

 すげー!TVと同じだ!と騒いでいた憐が大人しくなってから、ジャンナインは話を切り出した。

 

『では、話の続きをしよう。僕は今回、光の巨人に君のサポートを頼まれたジャンナインだ』

 

「なるほど、それで俺の名前を知ってるのか。まぁ、一応自己紹介。俺は一条寺 憐だ。よろしく、相棒!」

 

『相棒?』

 

「これから俺を手伝ってくれるんだろ?じゃあ相棒って言えるじゃん?その方がなんかかっこいいし」

 

『カッコイイというのはそういうものなのか』

 

「そういうもんだ」

 

『なるほど。では改めてよろしく、相棒。次にこの世界の現状だが、最近、マイナスエネルギーの急激な増加が観測されている。それに伴い怪獣の凶暴化や超常現象の多発、怪事件による被害などが出ている。憐はこの状況をなんとかするために来た、ということで間違いないか?』

 

「ああ、それであってる…かな?」

 

『では最後に、これからの行動についてだが…これは君の判断で決めてくれ』

 

「お、俺が⁉︎」

 

『僕の役割はあくまでサポートだ。どう動くかは憐、君次第だ』

 

「…俺次第、か。責任持ってがんばらなくちゃな」

 

 ジャンナインの言葉に自分の使命を思い出した憐は、決意を新たにする。

 

『いい意気込みだ。さて、僕からの話はこれで終わりだ。なにか質問はあるか?』

 

「そうだな…あ、今ってどこ目指して飛んでるんだ?周りは小惑星しかないけど」

 

『この小惑星帯は憐が先ほどまでいた岩の惑星「ロワ」に隕石が落下したことでできたものらしい。今は行き先は決まっていないが、とりあえずここを抜けるまでは飛び続ける予定だ』

 

「分かった、ありがとう!じゃ、俺は探検してくるわ!」

 

 よっぽど見て回りたかったのだろう、そう言うと憐はジャンナインの返事も待たずに部屋を飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「宇宙船すげー。それにしても人生って、なにがあるかわからないもんだなぁ…」

 

 一通りジャンスター内を見終わった憐がコックピットに戻ってくると、ちょうどジャンナインから報告が入った。

 

『小惑星上に謎の宇宙船を2隻発見。…そこに有機生命体の反応をいくつか確認。憐、どうする』

 

「ほ、ほんとか!その小惑星の映像、ズームで見れる⁉︎」

 

 憐はこの世界の住人とのファーストコンタクトに興奮を隠せない様子でジャンナインに尋ねる。

 

『了解』

 

 ジャンナインの言葉とともに空中にディスプレイが表示される。

 

「!おお…お?」

 

 そこに映った映像とは___

 

〈ここ凹んじまってんじゃねぇか!〉

 

〈どう落とし前つけてくれるんじゃコラァ!〉

 

〈ちょっと、離してよ!〉

 

 ___不良達(バルキー星人)女の子(ピット星人)にからんでいる現場だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

そのご、微妙な表情で「ちょっと話聞いててくるわ」と言ってジャンスターから現場に転送されてきた憐は現在、バルキー星人からはガンを飛ばされ、ピット星人からは(たぶん)驚きの表情で見つめられていた。

 

(それにしても、この宇宙服イカしてるなー。ジャンナイン、グッジョブ!…そろそろ現実逃避はやめよう)

 

「おいコラ!てめぇなにもんじゃ!」

 

 いきなり現れた憐にバルキー星人の1人が詰め寄ってくるが、ギンガでのイメージが定着してしまっている憐はさほど怖く感じない。

 

「お前らなにしてんだよ!俺の宇宙人のイメージ壊しやがって!そんなの路地裏でやれよ!」

 

 それどころかイメージをぶっ壊されたことで怒り始めた。

 

「ハァ⁉︎何を言っとるんじゃワレ!」

 

「俺らはこの嬢ちゃんが船をぶつけてきたお礼をしに来ただけじゃ!」

 

「なに言ってんのよ!そっちがぶつかってきたんじゃない!」

 

 各々言いたいことばかりを言っていて訳がわからなくなりそうな憐。宇宙人と普通に会話できていることに疑問を感じないでもないが、一旦状況を整理することにした。

 

(ぶつかった跡から見て、チンピラバルキー星人3人が乗った宇宙船がピット星人の小さい宇宙船にぶつかったけどいちゃもんつけてきた、ってのが今の状況だろうなぁ)

 

 憐がどうしたものかと考えていると、今まで黙っていたバルキー星人のリーダー格と思われる奴があるものを取り出した。

 

「俺たちも時間がないのでね。ここはレイオニクスバトルで決めようじゃないか。この宇宙を1人で旅しているんだ、お前だって当然レイオニクスなんだろう?」

 

(あ、あれはバトルナイザー!すげ、本物じゃん!じゃなくて、てことはここは大怪獣バトルの世界だったのか!)

 

 バルキー星人の言葉でピット星人も懐に手を伸ばすが、途中でやめてしまう。

 その様子を見てバルキー星人は笑みを一層深くし、言葉を続ける。

 

「どうした?まさか戦える怪獣がいないのか?」

 

「くっ…」

 

 悔しそうな表情(たぶん)をするピット星人。

 

「フハハハハ、図星か!ならばこうしよう。お前のバトルナイザーを俺達に渡せば許してやろうじゃないか」

 

「っ!そんなの無理に決まってるじゃない!」

 

「じゃあ俺達の元で働いてもらうしかないなぁ」

 

 自分達が悪い(と思われる)のにそんなことばかり言っているバルキー星人に、憐はキレた。

 

「おい、そこのお前!彼女の代わりに俺が戦ってやるよ!」

 

「なに?見たところレイオニクスでもないお前が俺と戦うって?」

 

 バルキー星人達は笑い始めるが、それを憐の怒声が遮る。

 

「うるせぇ!つべこべ言ってねぇでやるのか、やらないのか!」

 

 本気具合が伝わったのか、バルキー星人は憐に向き直る。

 

「ほう、そこまで言うなら何かあるんだな?いいだろう。ちょうど俺も久々に誰かと戦いたかったからなぁ!その代わり、お前が負けたら俺達の元で働いてもらうぞ!」

 

「望むところだ!でも俺が勝ったらこの子に謝って大人しく引き下がれよ?」

 

「勝てれば、たがな」

 

 そこに、急な展開についていけていなかったピット星人が口をはさむ。

 

「なに勝手に決めてんのよ!それにこの条件、アンタにはなんの得もないじゃない!」

 

「じゃあ放っておけって言うのか?はっ、俺には無理だね、そんなこと!…ジャンナイン、この子を頼む!」

 

『了解』

 

「あ、ちょっ、話はまだ…」

 

 上空から成り行きを見守っていた優秀なジャンナインは即座に転送。ピット星人に最後まで言わせなかった。

 

(さてと…)

 

 憐はジャンスターの登場で若干ビビってるバルキー星人の方を向く。

 それを見て我に返ったバルキー星人も戦闘態勢にはいる。

 

「それがお前の戦う手段か?そんな宇宙船じゃ俺には勝てんぞ!」

 

『バトルナイザー・モンスロード!』

 

 そんな音声と共に派手に砂を巻き上げて召喚されたのはアストロモンス。

 怪獣より強い超獣より強い大怪獣、という肩書きを持っている。

 

「今更泣いて謝っても許さんぞ!」

 

「兄貴のアストロモンスは最強なんだぜ!」

 

「お前なんかじゃ手も足も出ないだろうよ!」

 

 憐が喋らないのを恐怖で固まっているせいだと思ったバルキー星人達は騒ぎ立てる。

 

(えー…アストロモンス?そこはサメクジラじゃないの?)

 

 まぁ当の本人はこんなことを考えていたのだが。

 

(うーん、でもこの状況は割とまずいぞ。武術も習ってない、喧嘩もそこそこしかしたことない、の俺が初の実戦でいけるのか?…1番安全なのはジャンナインだろうけど、移動手段だからあまり傷つけられないしな。となると…)

 

 憐はリュックサックからギンガスパークとスパークドールズを取り出し、リードする。

 

「…コイツだな。いくぜ、俺の初ウルトライブ!」

 

「は?何を言って…」

 

『ウルトライブ・レッドキング!』

 

《さあ、はじめようぜ!》

 

 憐はレッドキングにライブ、アストロモンスと対峙する。が、初めてウルトライブを目にしたバルキー星人達は驚いて腰を抜かしていた。

 

「人形が怪獣になって、それに一体化⁉︎」

 

「な、なんじゃそりゃ!」

 

《ん?来ねえならこっちからいくぞ!オォラァ!》

 

 憐は指示がなくオロオロしているアストロモンスを思いっきり殴りつける。

 すると、モロにくらったアストロモンスは面白い程転がっていく。

 

(おお、すっげぇ…コレが怪獣の力、レッドキングのパワーか!)

 

 テンションが上がってきた憐は、尻尾を使っての往復ビンタや、助走をつけてドロップキックをしたりと慣れない体ながら確実にダメージを与えていく。

 

 しかし、驚きのあまり固まっていたバルキー星人(リーダー)が回復すると状況が変わり、だんだんと憐が劣勢になってくる。

 

「アストロモンス、何をもたついている!そいつを早く倒してしまえ!」

 

 もともとのリーチの違いに加え、バルキー星人の意外にも的確な指示によって鞭と鎌の連撃から抜け出せない憐。

 

「そこで溶解液をぶっかけろ!」

 

《はぁはぁ…うわ、腹溶ける!痛い痛いあちぃ!》

 

 かなりのダメージがたまったところに溶解液をくらい、よろけてしまった憐。その隙に手首を鞭で捕らえられてしまった。

 

(くそっ、このままじゃ引っ張られてあの花に食われるのがオチだ!どうすれば…ん?)

 

 そんな時、ピンチの憐の脳裏にある場面がよぎる。

 

(待てよ?なんかこんな場面メビウスで見たような…そうか!)

 

《こういう時は、これしかないだろ!》

 

 そう言って憐は自分を捕らえた鞭を持つと、レッドキング自慢の怪力で思いっきりアストロモンスを振り回す。

 

《うおォォォァァァ!》

 

「まさか、そんなやり方で…!」

 

 憐の作戦に思わずバルキー星人から驚きの声が漏れる。

 

《ハァッ!…よいしょぉ!》

 

 アストロモンスが耐え切れずに拘束をとくと、憐はアストロモンスを宙に放り投げ、尻尾で思い切りかっ飛ばして近くの小惑星に衝突させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「バ、バカな…俺のアストロモンスが…」

 

 大怪獣といえど流石にあの衝撃には一溜まりもなく、バルキー星人のバトルナイザーに光となって戻ってきた。

 

《さあ、約束は守ってもらうぞ》

 

「…ああ、俺達がどうかしてた。嬢ちゃん、悪かったな。ほら、お前らも!」

 

「「うっす!どうもすいませんでした!」」

 

《こいつらもこう言ってるし、許してやってくれないか?》

 

 バルキー星人の謝罪と憐の言葉に、今まで黙っていたピット星人が口を開く。

 

「まぁ、私も少し不注意だったかもしれないし…。こちらこそごめんなさい」

 

「「あざーす!ピットの姉貴!」」

 

「姉貴言うな!それに私の名前ピットじゃないし!」

 

《ま、一件落着ってところか》

 

 漫才をしている下っ端2人とピット星人は放っておいて、憐はリーダーと話を進める。

 

《お前らはこれからどうするんだ?》

 

「俺たちは当初の予定通りアジトに帰る予定だ」

 

《そっか》

 

 それから少し話をした後、次の目的地を決めるためにリーダーに尋ねる。

 

《ところでさ、最近おかしな事が起こってるって話、聞いたことないか?》

 

「おかしな事…俺がレッドキングと話してることとかか?」

 

《あ、忘れてた》

 

 素で忘れていた憐はライブアウトすると、改めてリーダーに聞いてみる。

 

「で、どうかな」

 

「…レラトニーという惑星で緑が急激に減っている、という噂を聞いたことがある。それらしい話は他にはないな。…なぜそんなことを聞く?」

 

「えっと、使命というかやるべきことというか…まぁそんな感じだな。ともかく情報、ありがとな!」

 

「深くは聞かないが、何をするにしても用心しろ。今この宇宙には強い負の力が溢れているからな。…おい、お前ら!行くぞ!」

 

「「へい!」」

 

「気をつけてなー!もうぶつかるんじゃねぇぞー!」

 

 こうしてバルキー星人達は宇宙船に乗って帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

(話してみるといい人達だったなー)

 

 話を聞いてみるとバルキー星人達がピット星人に突っかかったのは、任務の帰りで疲れている時に船がぶつかったのがなぜだか無性に腹が立った、という理由だった。

 

(あんな気のいい人達が普段からあの時のようなことをするとは思えない。やっぱり、これもマイナスエネルギーの影響なんだろうな…)

 

 ちなみに連絡先は交換済みである。

 

(まぁ、それは置いといて。今1番の問題は、この子だよな…)

 

「ほら、アンタもさっさとどっか行きなさいよ」

 

「いや、でも君の宇宙船壊れてるんだろ?」

 

「ぐっ…」

 

「話ぐらい聞いてくれよ」

 

 このピット星人、「宇宙船に乗っていきなり現れた宇宙人」である憐がかなり怪しいことに気づき、今更ながらとても警戒しているのである。

 

『憐、これだけ言ってもダメなんだ。なぜまだ話をしようとする』

 

「いや、だって宇宙船壊れてるってことは、彼女ここから動けないんだろ?かわいそうじゃん、それじゃ」

 

『かわいそう、か。まだまだわからないものだな、感情というのは』

 

「まあ、そのうちわかるさ。…で、どう?次の惑星まで乗ってかない?俺は無理だけど、その星にいる人達なら直せるかもしんないだろ、宇宙船」

 

「…それはありがたいんだけど、どうしてそこまでしてくれるの?」

 

 ピット星人のもっともな問いに、憐はしばらく考えた後答える。

 

「んー、そんな大層な理由はないんだよな。昔から困ってる人見るとほっとけないんだよ。よくお節介って言われるんだけどな」

 

 苦笑しながら言う憐の言葉を聞いて、諦めたような顔(おそらく)になるピット星人。

 

「はぁ…わかったわよ。なんかアンタ頑固そうだし。それにそうとうなお人好し」

 

「ということは…?」

 

「うん、よろしく。次の星まで乗せてください。でも変なことしたら承知しないからね!」

 

「マジか!よかったー!いや正直、この先ずっとジャンナインと2人きりはキツイと思ってたんだよなー。あ、そういや自己紹介まだだったな。俺は一条寺 憐、ほんとありがとう!」

 

 いやしねぇよ!と内心思いながらも喜ぶ憐。

 

「そんなに喜ばれると少し恥ずかしいわね…。アタシの名前はナナ、よろしく。ところでジャンナインって…?」

 

 ナナに言われてジャンナインの紹介がまだだったことに気づく憐。

 

「あ、そっか。まだ言ってなかったな。この宇宙船が俺の相棒のジャンナイン」

 

『…別に相棒じゃないが、僕がジャンナインだ。よろしく』

 

「あ、俺が悪かったって!別にジャンナインと2人がいやなわけじゃないから!だから拗ねんなよ!」

 

「この宇宙船しゃべるの⁉︎」

 

 謝る憐に驚くナナに拗ねるジャンナイン。

 こうして憐の旅に仲間が2人加わった。




相変わらずな無理矢理感ですね。
次は頑張ります。
それでは!


〜次回予告〜
緑の惑星・レラトニーに降り立った憐達。
自然豊かなその星で起こる怪事件の正体とは!
次回「緑が消える!」お楽しみに!


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episode2 緑が消える!

 翌日。

 あの後、初めての戦闘で思いの外疲労が溜まっていた憐は早々に寝てしまった。

そのため改めて話をしようとナナの部屋に来たのだが、ナナの姿を見て固まっていた。

 

「…え?お前、ナナなのか?」

 

「そうよ?どう、この姿。同じ種族の方が憐も話しやすいってジャンナインが言うから変えて見たんだけど、変じゃないわよね?」

 

 変身怪人ピット星人。一族は皆女性であり、その名の通り変身するのが得意な宇宙人である。

 しかも人間に変身した場合美女・美少女になり、その容姿と高い戦闘能力でウルトラセブンであるモロボシ ダンとウルトラマンマックスであるトウマ カイトからそれぞれウルトラアイとマックススパークを奪えるほどの実力者でもある。

 

 つまり、朝起きたらナナが超絶美少女になっていた。

 

(いやマジか!ぶっちゃけストライクなんだけどいや待て早まるな俺!相手はあのピット星人だぞ?思い出せ、ピット星人の顔を。ほら、胸の高鳴りもおさまってきたよ!大丈夫、これなら直視でき…)

 

「もしかして、変だった…?」

 

「ぐはっ!」

 

 美少女耐性がない憐は内心の動揺を隠しなんとか平静を保とうとしたが、ナナの不安そうな声色と上目遣いに敢え無く撃沈した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 その後やけになった憐が

 

「いやかわいいよ。ズゴクカワイイヨー」

 

 と言ったり、それを聞いたナナに

 

「か、かわっ⁉︎何言ってんのよこの変態!」

 

「ぶべっ⁉︎」

 

 と殴られたりしたが、その話は触れないでおこう。

 

 

 

「あーもう、話を聞いてくれ!俺がここにいるのはお前と話をしたかったからなんだよ!」

 

 気を取り直して本来の目的を伝える憐。

 

「え、話?話ってなんのよ?」

 

「いやだって、いろいろあるだろ?なんで俺が旅してんのかーとか、なんのためにナナは1人で旅してるのかーとかな」

 

「んー、確かに、一緒に行動するんだから互いの目的ぐらいは知っておいてもいいかもね」

 

「だろ?」

 

「てことでまずはアンタからよ」

 

「俺から?まぁ別にいいんだけどよ、俺の目的はこの宇宙を救うことだ!…つっても信じないだろ?」

 

 漠然としすぎて何を言ってるかわからない憐に、ナナは困惑の表情を浮かべる。

 

「んー信じる信じない以前にまず意味わかんないし。そもそも救うってなにからよ。てか本気?」

 

「なにから救うかは俺もよくわからん。ただ本気だ」

 

 そんな調子の憐に、呆れたように言うナナ。

 

「はぁ…まぁ適当に人助けのため、って感じで解釈しとくわ。でもそうするとアンタってお人好しを通り越して「宇宙をまたにかけてボランティア活動をする超暇人」ってことになるわね。アンタなんなの?変態?」

 

「変態じゃねえよ!まぁ理由はほら、いいだろ別に。それより次はナナの番だぞ」

 

「む、話をそらしたわね…。ま、これ以上聞いても無駄だろうからもういいわ」

 

「お、そうか!そうしてもらえると…」

 

「ただし!いつか絶対聞かせてもらうからね!」

 

「お、おう…?(あれ?こいつと一緒にいるのって次の星までじゃなかったか?)」

 

 憐はナナの言葉を若干疑問に思ったが、まぁ深く聞かれないならいいか、と思い直してナナの話を聞く態勢に入る。

 

 

「じゃ、今度こそナナの話、聞かせてくれよ」

 

「いいわよ。アタシの目的はね、お姉ちゃんを探すことなの」

 

「ん?お姉ちゃんを探す?」

 

 ナナの目的に思わず憐は聞き返す。

 

「そう。アタシの一族はね、エレキングっていう怪獣ととても仲がいいの。だから、レイオニクスじゃなくてもエレキングと共に戦うことができる」

 

「じゃあ、別にバトルナイザーは必要なものじゃないのか?」

 

「そうね、絶対必要ってわけじゃないわね。ただ、バトルナイサーは持ち運びが楽だし、なによりレイオニクスはバトルナイザーを通して怪獣と絆を深めることができるの」

 

「ほー、バトルナイザー便利だな」

 

「少し話が逸れたわね。で、お姉ちゃんもレイオニクスでね、ものすごく強いわけ。それで一族の中で相手をできる人がいなくなっちゃって。だからお姉ちゃんは強い人を求めて旅に出ちゃったの」

 

「なるほど…それで寂しくなったナナはお姉ちゃんを連れ戻すために旅に出た、と。つまりシスコンか」

 

「だれがシスコンじゃあ!」

 

「あ、ちょっと⁉︎あなただってさっき僕のこと変態呼ばわりしましたよね!だから暴力はやめ」

 

 失敬な憐に制裁を与えたナナは、床に横たわるモノ()を見下ろしながら話を続ける。

 

「はあ…まあでも連れ戻すためってのはあってるわね」

 

「え、やっぱシs」

 

「な・に・か?」

 

「スイマセン」

 

「もう!違うわよ!私が連れ戻そうと思ったのは少し前から何かにエレキングが怯え始めたから。虫の知らせってやつ?なんか嫌な予感がしたのよ。で、旅に出て、戦って、エレキングの傷を癒してたら昨日ああなって今に至る。はい、アタシの話は終わり!」

 

「あ、おい!ちょっと聞きたいんだけど、そのエレキングが怯え始めたのって…」

 

 まだ聞きたいことがあった憐だったが、それはジャンナインの通信がさえぎられる。

 

『レラトニーが近い。2人とも、準備してくれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 緑の惑星・レラトニー。

 ジャンナインのデータによれば緑溢れる綺麗な星、とのことだったが、近くで見てみると様子が違っていた。

 

「なにこれ…ひどい…」

 

「ああ、どうやらバルキー星人が聞いた噂ってのは本物だったらしいな」

 

 今やレラトニーの半分は土色の大地で覆われ、緑が残っている部分にしても虫食いのような穴があり、見るも無残な姿となってしまっていた。

 

「とにかく、何が起こっているのか調べて見ないとな。ジャンナイン、どこか着陸できそうなところは?」

 

『僕を誰だと思っている。既にリサーチ済みだ』

 

「お、さっすが相棒。仕事早いねー」

 

『だが気をつけろ、憐。リサーチの結果巨大な生命反応が検出された』

 

「おう、注意する」

 

『それと原住民とは諍いのないようにな』

 

「うっせーなー、お前は俺の母ちゃんか!」

 

「ほんと仲良いわね」

 

 こうして2人と1体はレラトニーへ突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「我々の土地に無断で立ち入るとはいい度胸ですね」

 

「あなた方がアレを連れ込んだ張本人なんでしょう?」

 

「いや、だから怪しい者じゃないですって!あー、なんでわかってくれないんだ!」

 

「いや、アタシもアンタの第一印象は超不審人物だったから」

 

 現在、憐とナナ、ジャンスターはこの星の住人であるモネラ星人に囲まれていた。

 というのも、いきなり宇宙船が降りてきて、しかもそこがモネラ星人達の住居に近かったから仕方が無い事なのだが。

 しかしながら、モネラ星人。憐はこのモネラ星人にあまりいい印象をもっていない。

 

(映画で見たモネラ星人まんまじゃん!やべえ、俺若干トラウマなんだよな…。気味悪いし、冷酷で、そのうえ超強い。主にデスフェイサー)

 

 ま、流石にTPCはこの宇宙にないから大丈夫か、と少しでもポジティブに考える憐に、ジャンナインから非情な言葉がかけられる。

 

『僕は前もって忠告していたからな。後は任せたぞ、相棒』

 

「あ、お前どこ行くんだ!ちょっ、俺のサポートはどうしたんだよ!おーい!」

 

 そう言うとジャンナインは憐達をのこして姿をくらましてしまった。

 というか面倒になったから衛星軌道上に逃げた。

 

「ジャンナインひどい!アタシも連れてってよ!」

 

「お前まで裏切るのか⁉︎」

 

 2人でもめていると、モネラ星人の1人が何かに気づく。

 

「あ、あれは!」

 

 その言葉で異変に気づいたモネラ星人達は一目散に逃げていき、何が起こっているのかわからない憐とナナは、最初に異変に気づいたモネラ星人が見ていた方向を見る。

 するとそこには。

 

 異様な存在感を放つ銀色のでかい塊が浮いていた。

 

「「ぎゃああああああ!化け物ぉぉぉ!」」

 

 その物体のあまりの不気味さに憐とナナは思わず悲鳴を上げながら逃げ出す。

 

「な、なんなのよアレ!見たことないわ!てか、触手イヤァァァァ!」

 

「くそっ、ジャンナインの言ってた巨大な生命反応ってのはこのことだったのか⁉︎なんか見覚えあるけど、とりあえず逃げるぞ!」

 

 そう言いながらガンパッドをガンモードに変化させた憐は謎の物体に向かってレーザーを放つ。

 しかし。

 

「ね、ねぇ。なんか大きくなってない?」

 

「こ、こりゃ本格的にやべぇかもな…」

 

 謎の物体はレーザーを受けても怯むどころか、むしろ大きくなっていく。

 その様子を冷や汗を垂らしながら見つめる2人。

 しばらくすると謎の物体は地面に着陸し、さらに大きくなっていく。

 そこで、あることにナナが気づいた。

 

「木が、枯れていってる…?」

 

 その言葉を聞いた憐が注意深く見てみると、ナナの言葉通り謎の物体が大きくなるにつれて木々が、というか自然がなくなっていく。

 

「たぶん、アレがこの星で起こっていることの元凶よね…」

 

 何もできないのが悔しそうなナナに、憐は気の利いたことなど言う余裕は無く。

 

「とにかく、今は撤退だ…!」

 

「…うん」

 

 現状打つ手がない2人は消えていく緑に背を向けて走り出すしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「はぁはぁ…ふぅ。ここまでくれば大丈夫でしょ。え、大丈夫よね?ここの人達もいるし」

 

 現在、逃げ切った憐とナナはモネラ星人達が大勢避難している洞窟のような場所にいた。

 

「我々はどうやら勘違いをしていたようですね。すみませんでした」

 

 憐が普通に追われていたことで疑いが晴れたのだろう、モネラ星人が謝罪してきた。

 

「あ、いや、俺達が突然やってきたのが悪いんで、そんな謝んないでください」

 

「それで、結局アイツはなんなんですか?」

 

 ナナの疑問に、モネラ星人は答える。

 

「…アレはほんの二週間前に突然やって来ました。奴らはものすごいスピードで成長し、この星を食い荒らしていきます。我々も反撃を試みましたが全てのエネルギーは吸収され、そのうえ長時間触れていると生命エネルギーすらも奪われ死に至るため誰も近寄れません。これが我々が現在把握している奴の情報です」

 

 そのモネラ星人の話を聞いて、憐は完全にその正体を思い出した。

 

「あいつは、たぶんバルンガだ」

 

「バルンガ?」

 

 ナナが憐に聞き返し、モネラ星人も興味がありそうにこちらの話を待っている。

 

「風船怪獣バルンガ。どんなものでもエネルギーとして吸収して、風船のように膨らんでいく怪獣だ」

 

「なにそれ…そんなのどうしようもないじゃない!」

 

「いや、手はないわけじゃない。ただ、結構なかけになりそうだけどな。その前に、あんたらに一つ聞きたい。どんな攻撃をしたんだ?」

 

 憐の問いに、モネラ星人は怪訝そうな顔で答える。

 

「我々の持つ生物兵器での攻撃と、レーザー攻撃。この二つです。我々にも奥の手がありますが、この星を壊してしまうため試していません」

 

「その生物兵器とやらはバルンガに噛みついたりは?」

 

「する前に触手からの電撃でやられて吸収されてしまいました」

 

 その言葉を聞いて、憐は不敵に笑う。

 

「試してない、と…。よし、なら俺に考えがある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「ほんとに大丈夫なんでしょうね」

 

「いや、そう言われるとちょっと、な?」

 

「まったく、な?じゃないわよ…こっちは囮をやらされるんだから。そこんとこわかってる?」

 

 あの後、憐の考えは概ね好評だったが、一つだけ問題が生じた。

 モネラ星人によると、バルンガは現在分裂しており、それが各地に散らばっていると言うのだ。

 作戦を実行するにはバルンガをひと塊りに戻さなければならない。そのため、バルンガのエネルギーを好む習性を利用して、ナナのエレキングを使って囮をしてもらおうということになった。

 

「俺やモネラ星人達が遠いところの奴は追い立ててくっからさ。あ、あと危なくなったら逃げろよ!」

 

「え、守ってくれないの…?」

 

 ナナの上目遣いにたじろぐ憐。

 

「ぶっ!おま、それは卑怯だぞ!言われなくても元々そのつもりだったから!」

 

「ほんと…?」

 

「あ、ああ!呼ばれればたとえ宇宙の果てだろうが助けに駆けつけてやるぜ!」

 

「フフッ、なにそれ大げさすぎ!てか、アンタってほんとに上目遣い?ってやつに弱いのね。チョロすぎじゃない?」

 

「ま、まさか演技だったのか…?あー俺は傷ついた。うわーもういい。もう行くわ。ほれ、これで連絡するなりなんなりしろよ。はい、作戦開始!」

 

『カモン!ジャンナイン!』

 

 そう言ってナナに通信機を投げ渡した憐は、ジャンスターに乗って飛び立っていった。

 

 

 

 

 

 

「あっちゃー、弄りすぎたか。でも拗ねたりしちゃって、意外と可愛いところもあるじゃん。…さて、アタシもやりますか!」

 

『バトルナイザー・モンスロード!』

 

 憐を見送ったナナも、行動を開始すべくエレキングを召喚する。

 

「エレキング、頼むわよ!」

 

 ナナの言葉にエレキングは一声鳴いて応じると、用意してあったモネラ星人の円盤に放電を開始、円盤に帯電させ始める。

 すると、どこに隠れていたのか、ワラワラと集まり群がってくるバルンガ。その様子はゴキブリのようである。

 

(うううう、もう嫌ぁ!)

 

 

 

 

 

 

 ナナがSAN値を削りながら待つこと10分。ある程度集まってきたバルンガは、円盤を核として次第に一つになり始める。

 

「ん、そろそろいいわね…エレキング、お疲れ様。戻って!」

 

 既に40メートルぐらいには大きくなったバルンガ。あとは集まったバルンガ自身のエネルギーの大きさに勝手にバルンガが集まってくる、という話だったので、見るからに疲弊しているエレキングを戻すナナ。

 

「それにしてもきもいわね…。特になにあの触手」

 

 さてー、ちょっとアイツに連絡してみるかーと通信機を取り出しながらバルンガに目を向けると。

 ものすごいスピードでこちらに向かってきていた。

 

「え、なんでよ⁉︎こっちくんじゃないわよ!」

 

 もはや大きさは50メートルは超え、かなりの威圧感がある。そしてぐんぐん迫ってくる。

 思わず通信機を落としてしまったが、構わず走り出す。

 

「で、でもどこに行けば大丈夫なんだろ…あっ!」

 

 焦りから足元が不注意になっていたナナは木の根に足を引っ掛けてこけてしまう。

 そこに容赦無く近づき、動きの止まった餌を吸収しようと触手を伸ばしてくるバルンガ。

 あまりの恐怖に動けないナナは、思わず叫んだ。

 

 たすけて、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 時は少々遡る。

 

 ナナと別れた憐は、レラトニーの裏側を目指していた。

 少しでも早くバルンガを一つにするために、遠いものはモネラ星人達と手分けしてナナのところに誘導するためである。

 

「はー、マジなんなのあいつ!人が折角心配してやったってのに!」

 

『まぁそう拗ねるな憐。僕には彼女は喜んでいたように見えたが?』

 

「別に拗ねてねーよ!つか、喜んでたのは俺の反応を見て楽しんでたからだろ!」

 

『確かに、そういう捉え方もあるか。…!バルンガを発見』

 

「お、きたな。じゃあちゃっちゃっとすませるか!」

 

『ジャンキャノン!』

 

 憐は素早くガンモードに変形させトリガーを引き、ジャンキャノンで攻撃。バルンガの誘導を開始する。

 憐の思惑通り、バルンガはエネルギーを与えてくれるジャンスターをかなりのスピードで追ってくる。

 

「こいつら意外と速いな。この分だとすぐ終わりそうだな」

 

『ああ、もう作戦ポイントが見えてくる頃だ』

 

「いよっし、ぼちぼち準備を…」

 

『どうした憐』

 

 突然動きが止まったことを不思議に思ったジャンナインの問いに、憐は焦った様子で答える。

 

「今、ナナの声が聞こえたんだ。俺、行ってくる!」

 

『おい憐!まだバルンガは集まりきれてないぞ!』

 

『ウルトライブ!キングクラブ!』

 

 そのまま憐はジャンナインの制止も聞かず、ナナのところへ光となって飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

《おい、ナナ!大丈夫か⁉︎ケガは⁉︎》

 

 ナナに迫るバルンガを尻尾の一撃で吹き飛ばした憐は、ナナに駆け寄る。当然キングクラブにライブした状態で、だが。

 

「…うん、大丈夫。ありが…気持ち悪!」

 

《き、気持ち悪い⁉︎ってお前、よく見たら顔に涙の跡が…》

 

「う、うるさい!とにかくその顔で近づいてこないで!ほら、さっさとバルンガ倒してきなさい!」

 

 自分のことを心配してくれて嬉しいけど、顔がキングクラブで気持ち悪くて、しかも涙の跡を見られて恥ずかしくて、でもやっぱり顔が気持ち悪くて無理ー!と顔を真っ赤にさせたり真っ青にさせたり忙しいナナ。

 それをずっと見ているのも面白い気もするが、あまり見ていると後で自分の身が危ないことに気づいた憐は、バルンガ殲滅に向けて動きだす。

しかし。

 

《はいはいわかりましたよ。ジャンナイン、バルンガ集まった?》

 

『ああ、君達がグダグダしている間に全て合体した。ついでに言うなら憐、今君の真後ろにいるぞ』

 

《グダグダとは失敬な!って、ん?真後ろ?》

 

 バルンガは今まさに憐に襲いかかる瞬間だった。

 いきなり現れた上質な餌に喜んでいるのか、はたまた食事の邪魔をされたことに怒っているのか。どちらかわからないがとりあえず触手の動きがワサワサと活発になっている。しかもバチバチと帯電している。

 

《ちょまっ》

 

 もちろんバルンガに言葉が通じるわけもなく、無情にも触手から電撃が放たれる。

 

《ぐわぁぁぁ…あ?そんなに痛くない?すげーなキングクラブ!流石甲殻類!》

 

 しかし、電撃はキングクラブの強固な外骨格を破ることはなく、あまり痛くなかった。

 

《よし、今のうちにナナは撤退だ!ジャンナイン、よろしく!》

 

『了解』

 

「いい?ヘマすんじゃないわよ、憐!」

 

《任せろ。…お前はいつまでもしつこいわ!》

 

 ナナを乗せたジャンスターが離れるのを見届けた憐は、いい加減うっとおしくなってきた電撃を払うついでに再び尻尾でバルンガを吹き飛ばす。

 

《さて、作戦の仕上げだ。頼むから成功してくれよ。いくぜ!》

 

 そう言うとキングクラブは眉間から炎を噴き出し始めた。

 当然バルンガは吸収するが、憐も考えなしにやっているわけではない。もちろんただ炎を出してみたかっただけでもない。

 

(よし、やっぱり止まってる!)

 

 憐はモネラ星人の話と自分の経験から、バルンガはエネルギー吸収中は動けないのでは?という仮説を立てていた。

 そしてそれは見事的中。火炎放射中はバルンガは微動だにしない。まぁ体長はどんどん大きくなっているが、憐の作戦にさして影響はない。

 

《さぁ、これで終わりだ!》

 

 そう言って憐は火炎放射を浴びせながらバルンガに接近すると、口の大鋏でバルンガの体表を噛み切った。

 直後、切り口からエネルギーが噴水のように勢いよく噴き出す。

 その光景を見た憐は、ほっとしながら呟いた。

 

《ふぅ。一件落着っと》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 バルンガから噴き出したエネルギーは一旦空に上がりレラトニー全体を覆い尽くした後、一斉に地表に降り注いだ。

 それにより、レラトニーの失われた緑は蘇り、バルンガに吸収されたと思われた生き物も皆無事戻ってきたのだった。

 では、全て吐き出したバルンガはどうなったかというと。

 

 

「まさかバルンガがコケだったなんてね…」

 

「まあ、確かに誰も想像出来なかっただろうな(これもマイナスエネルギーの影響、か…)」

 

 本来の姿であるコケに戻っていた。

 謎の宇宙生物か⁉︎と構えていた憐達にしてみれば正直なところ拍子抜けだったが、これもマイナスエネルギーによる怪現象の一つとすれば納得のいくものだろう。

 ちなみにナナはバルンガから零れ落ちた石ころを記念に拾っていた。

 しばらくコケを眺めていた二人だったが、ナナが思い出したように憐に問いかけた。

 

「そういえばさ。アンタ、あの時なんで助けに来てくれたの?通信も出来なかったのに…」

 

「あー、それはだな。聞こえた気がしたんだよ。お前のたすけて、って声がな」

 

『僕のセンサーには反応がなかったが、憐がいきなり飛び出していったな。あの時は流石に頭がおかしくなったのかと思ったよ』

 

「お前なんてこと言うんだ!えーっとなあ、いいか、俺とナナは心で繋がってるんだ(適当)!それに約束したしな。どこへでも助けにいくって(作戦中は)」

 

『心か…』

 

「ああ、心だ」

 

 そんな二人の会話をきいて顔を真っ赤にしている人物が一人。

 

「ア、アンタ、よくそんな台詞をペラペラと!は、恥ずかしくないの⁉︎」

 

「いや、そんな嬉しそうな顔で怒鳴られても怖くないんだが…」

 

「助けに来てくれてう、嬉しいだなんて思ってるわけないに決まってるじゃない!」

 

「誰もそこまで言ってないんだけどな…」

 

「あぁー!忘れろ!脳細胞ごと消せ!」

 

「おい!やめろ!そんなもので殴…げふっ」

 

『これが青春というものか。勉強になる』

 

 そんな中、突如コケが光だす。

 

「うわっ、コケからなんか出てくるぞ!」

 

『これは…マイナスエネルギー反応!』

 

「えぇ!今倒したじゃない!」

 

 穏やかな雰囲気から一変、緊迫した空気になるが、意外にもコケから出てきたのは小さな黒い結晶だった。

 

『その結晶からはかなり高濃度のマイナスエネルギーが感知されている。憐、十分注意しろ』

 

「じゃあ、今回の事件はこのカタマリが原因ってことなの?」

 

「たぶんそうだろうな。しっかしこんな小さなヤツが…うお⁉︎」

 

 ジャンナインに注意されたにも関わらず不注意にも黒い結晶に触れた憐の脳裏に、突然ある映像が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ___白銀の輝きを放つ光の巨人と、暗黒の波動を身に纏った黒い巨人が激しくぶつかり合う。

 

「これは…?」

 

 両者の力は拮抗しているように見えるが、度重なる激突の末、遂に黒い巨人が吹き飛ばされる。

 その一瞬の隙をつき、光の巨人が光線を放つ。

 

「よし、いけ!」

 

 知らず知らずの内に見入っていた憐は思わずガッツポーズをしていた。

 しかし光線が当たる直前、黒い巨人の瞳が確かに憐を捉えた___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ん!憐!憐ってば!」

 

「ぐっ…ん…?ナナ、か…?」

 

「はあー、もう!心配させてんじゃないわよ!いきなり倒れるからびっくりしたじゃない!」

 

『さっきのナナの慌てぶりは面白かったな。相棒にも見せてやりたかった』

 

「アンタはまた余計なことを…!そもそもね…」

 

 ナナとジャンナインの漫才も、今の憐の耳には入ってこない。それほどまでに、先ほどの映像が衝撃的だったからだ。

 

(今のは、もちろん俺をこの世界に送ったウルトラマンとこの世界の異変の元凶である闇の巨人だろうな。…でも、だとしたら、あの巨人はマジでヤバイ。視線を向けられた時に感じた身体中を這うようなあの悪寒…。ちくしょう、夢に出てきそうだぜ…)

 

 憐はこれまでの人生で体験したことのなかった強大な「殺気」と、体が壊れそうなほどの「恐怖」に体の震えが止まらなかった。

 実際のところ、憐はこの旅を心の底では軽く考えていたのだ。アストロモンスにしても、バルンガにしても、レイオニクスバトルであるということや、対抗策があったことからさほど苦労しなかったこともその考えを大きくする要因であった。

 しかし、ここにきて憐は始めて本物の恐怖、怪獣、いや、「死」への恐怖を体感した。

 

 

「ちょっと憐。ほんとに大丈夫?顔色悪いわよ?」

 

「あ、ああ。心配すんな。俺は大丈夫だから。それよりさ、この結晶どうすっか?」

 

「…うん、そうね。どうしたものかしらね」

 

 憐の態度に不安を感じながらも、まずは目の前の問題を片付けることにしたナナ。しかし、その問題もジャンナインの一言で解決することになる。

 

『…憐、ギンガスパークを見てみろ』

 

「ギンガスパーク?」

 

 憐がその指示に従ってギンガスパークを出してみると、突然ギンガスパークが光り輝き、黒い結晶を取り込んだ。

 

「取り込んじゃってだいじょぶなの⁉︎壊れねぇのか⁉︎」

 

『大丈夫だ。それでギンガスパークはその黒い結晶のマイナスエネルギーを記憶した。次の黒い結晶…そうだな、「イーヴィルクリスタル」とでもしておこうか。これからはギンガスパークが次のイーヴィルクリスタルに導いてくれるだろう』

 

「じゃあ次からはクリスタル壊していいんだな。…よし、もうこの話は終わりだ。モネラ星人にバルンガのこと話しにいこうぜ!」

 

「…憐」

 

『…』

 

 話を逸らした後も何か言いたそうだったナナが口を開く前に話を終わらせた憐。

 そんな憐の後ろ姿に、ナナは話しかけることが出来ない。

 自分を頼ってくれない憐に、ナナは淋しさを覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「よかったな、ナナ。宇宙船直してもらえて」

 

「でも、ほんとによかったの?解決したのは憐じゃない」

 

「お前だって囮やってくれたじゃん。それに俺はお礼なんていらねぇしな」

 

 バルンガ事件を見事解決した憐に、モネラ星人達は是非ともお礼がしたいと言ってきた。

 そのため、憐はナナの宇宙船を直してもらうことにしたのだった。

 

「まあなんにせよ、ここでお別れだな。短い間だったけど楽しかったよ、ナナ。寂しいけど、達者で…」

 

 そこまで言った時、憐は目の前のナナがあり得ないものを見るような目でこちらを見ていることに気づいた。

 

「え?な、なんだよその目は」

 

「あり得ない!サイテー!憐、アンタ女の子を一人で旅させる気?」

 

「いや、だってお前俺と会う前も一人だったじゃん」

 

「ええーい、うるさい!アンタだってアタシがいないのは寂しいんでしょ!」

 

 ナナの鬼気迫る勢いに、タジタジになる憐。

 

「あ、ああ、確かに寂しいk」

 

「だったら!アタシ、憐と一緒に旅を続けてあげてもいいわよ?」

 

「なんだ、ナナも寂しいのか」

 

「さ、寂しいわけないでしょ!アタシはね、憐が一人だと心配なだけよ。アンタ色々自分一人で抱え込むでしょ?さっきだって結局アタシを頼ってくれなかったし」

 

「ぐっ…」

 

「で、どうなの?」

 

『憐。ナナは君から誘ってくるのを待ってるようだ』

 

「ジャ、ジャンナイン⁉︎」

 

「あ、なんだそゆこと。じゃあ、ナナ。これからもよろしく」

 

「え?あ、えっとこちらこそ。くっ、なんか納得いかない…」

 

「これがツンデレか…」

 

「うっさい!調子乗りすぎ!」

 

「だから暴力はやめ」

 

 先ほどまでのシリアスな雰囲気など微塵も感じさせないこの三人組の旅は、まだ始まったばかりである。




感想、評価などお願いします。
あと、怪獣・宇宙人のリクエストも受け付けております。
それでは!



〜次回予告〜
ギンガスパークに導かれ、一行がやってきたのは水の惑星・ワッカ。
バカンス気分の憐達に襲いかかる黒い影。
そして憐に戦いを挑む謎のレイオニクスの正体とは!
次回「汚い奴ら」お楽しみに!


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episode3 汚い奴ら

怪獣の鳴き声は作者の力不足により表現できていませんので、皆様脳内補完よろしくです。


「ちょっとー、まだつかないのー?」

 

「あとちょっとだと思うぞー」

 

「それほんとでしょうねー?もうかれこれ一週間は飛びっぱなしよー?」

 

「そんなに行きたいなら一人で行けばー?お前宇宙船あるんだし」

 

「なんでアンタはこの美少女に向かってそういうことがホイホイ言えるのよ!そもそもアタシ行き先わかんないし!」

 

「はいはいカワイイカワイイ。それがわかってんなら黙って乗ってろ」

 

「アンタねぇ…」

 

「やべっ、調子乗りすぎた⁉︎ナナ様、すいませんで」

 

 最初こそ美少女(ナナ)と一つ屋根の下という状況にドキドキとしていた憐だったが、流石に一週間も一緒にいればナナの扱いも慣れたものである(必ず殴られるが)。

 

『相変わらず仲がいいな、二人は』

 

「ふん、誰がこんなやつと…」

 

「そんなことよりジャンナイン。なんか感覚的に目的地に近い気がするんだ。ギンガスパークの反応も強くなってきたし」

 

「そんなこと⁉︎」

 

『ここから一番近いのは水の惑星・ワッカだな』

 

「おう、流石相棒。言わずともわかってくれたか!」

 

「…じゃあ憐。アタシが何を言わんとしてるかも当然わかってるわよねぇ」

 

「え…?あ、ああ、もちろんさ!でもさ、ほらさっきナナが早くつかないかなーとか言ってたじゃん⁉︎だから一刻も早く目的地をはっきりさせようと…」

 

「だからって、仲がいいかどうかをそんなこと呼ばわりはないんじゃないかしら…?」

 

「え?なんでそこでそんなに怒ってんの⁉︎」

 

『やはり仲がいいな』

 

「だれがこんな暴力女と…はっ!違う!今のは口が勝手に…」

 

「問答無用!」

 

 次からはよく考えてから口を開こう。そう心に決めながら、憐は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 水の惑星・ワッカ。

 星の表面の約八割が水が占めている、青い輝きを放つ惑星である。

 ワッカは海底が見えるほど水が綺麗で自然も豊かなため、リゾートとしても有名だ。

 そのため、様々な宇宙人がこの星に滞在している。

 

『というのがこの星のデータだ』

 

「なるほど、リゾートか。そりゃこんなに水が綺麗なら当然だろうな」

 

「わぁー!ほんとに綺麗ね!ジャンナイン、水着つんでない?アタシ海入りたいんだけど」

 

「お得意の変身能力でナマコにでもなってりゃいいだろ」

 

「ナ、ナマコ⁉︎もっと他にあるでしょうが!イルカとか!」

 

「ナナがイルカ?無理無理。強いて言うならサメだろ。それにな、今回ビーチに来たのは聞き込み調査のためだろうが」

 

「アンタも学ばないわねぇ…」

 

「ぐはぁ!…くっ、ジャンナインからもなんか言ってやってくれ!」

 

『ビキニタイプならあるぞ』

 

「あんのかよ!てかお前が早く言ってれば俺殴られなくてよかったじゃん!」

 

「ほら、憐も早く着替えてきなさい」

 

「…なんかもういいや」

 

 憐は何かを悟ったような表情でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、大人しく水着に着替えた憐のところに、同じく水着に着替えたナナがやってきた。

 

「ゴメン、選ぶのに時間がかかっちゃって。似合ってるかしら」

 

 普段の憐ならここで、ジャンナインなんで選ぶほど女性物の水着をつんでんだ⁉︎みたいなツッコミをいれていただろう。しかし、今の彼にはそんな余裕は全くなかった。

 確かに、一週間という時間は憐が美少女耐性をつけるには十分な時間だったかもしれない。ただ、それはあくまで普段着で、である。彼は美少女(ナナ)のスペックを見くびっていたのだ!

 ナナの水着は、普段の快活なイメージとは違い意外にもシンプルな無地の水色ビキニだった。しかし、この際ビキニであろうとなんであろうと関係ない。

 綺麗なくびれ、脚線美、大きいわけではないが決して小さくもないちょうどいいサイズの胸。まさにPERFECT BODYである。

 つまり、高校二年生という思春期まっさかりな憐には少々刺激の強いものであった。

 しかし、だからと言って目を背けてしまうかと言われればそうでもない。

 むしろガン見である。

 

「ちょっと、どうしたの?おーい、戻って来なさーい」

 

「はっ!お、おう。うん、正直ヤバイわ。めっちゃきr…似合ってる」

 

「うっ、そんなにはっきり言われると照れるわね…。あ、あの、憐もその…か、かっこいいわよ!」

 

 互いに顔を真っ赤にさせてうつむく二人。

 なんだかいい雰囲気だが、頭の中では軽いパニック状態に陥っていた。

 

(うわぁぁぁぁぁぁ!何口走っちゃってんの俺⁉︎気持ち悪!てか気まずいぃぃぃ!)

 

(きゃぁぁぁぁぁぁ!何してんのアタシ!かっこいいとか思っても口に出しちゃダメでしょ!い、いや別にかっこいいって思ってるわけじゃないけど!)

 

 

「と、とりあえず泳ごうぜ!」

 

「そ、そうね!せっかくのビーチだしね!」

 

 しばらく無言で泳ぎ続ける二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 しばらくして普段の調子に戻った二人はしっかり海を堪能した後、聞き込み調査に入ったのだが、これがかなり難航していた。

 

 

 

「あの〜、少しお聞きしたいことがあるんですけど…」

 

「あら坊や、イイ体ね。地球人かしら?ワタシと一緒に遊ばない?」

 

「あ、ちょっ、あんま体触んないでくれます⁉︎」

 

 無駄にスキンシップを求めてくるダダや、

 

 

 

「ここら辺でなにかおかしなことが起こってるって話、聞いたことないかしら」

 

「ウホッウホッ」

 

「え?」

 

「ウホウホ」

 

 何を言ってるかわからないゴローン星人。

 

 

 

「あの、少しお話を…」

 

「俺のリラックスタイムを邪魔するとはいい度胸だな!磔にしてやろうか!」

 

「ええ⁉︎」

 

 なぜかキレてるガッツ星人などなど、まともに話を聞ける人がいないのだ。

 

 

「ねぇ憐。ほんとにこの星であってるの?」

 

「確かにここだと思うんだけど、俺も自信なくなってきたわ…ん?」

 

「どうかした?」

 

「なんかおかしくないか、ここ」

 

「あー、確かに。この辺り、誰もいないわね。さっきのところはあんなに混んでたのに」

 

「それだけじゃねえ。ここの海は異常に濁ってる。それになんだか変な匂いも…」

 

「オッケー、とりあえずここを離れましょう。こういう時、絶対なにかいるわよ」

 

「じゃあ見逃すわけには」

 

「あんた今ガンパッドしかもってないでしょ?アタシもバトルナイザー置いてきたし、この状態じゃなんか出てきても戦えないじゃない」

 

「そうだな、じゃあ一旦ジャンスターに…!」

 

 

 いつの間にか変な場所に迷い込んでいたことに気づいた二人はとりあえずここから出ようとするが、憐が歩き出す前に突然海面が泡立ち、中から激しい水しぶきをあげながら怪獣が現れた。

 

 

「なんでこのタイミングで出てくるのよ!狙ってたの⁉︎」

 

「ゲスラ⁉︎とりあえず走れ、ナナ!」

 

 憐はガンパッドを素早くガンモードに変形すると、怪獣__ゲスラに向かって攻撃を始める。

 お世辞にも高いとは言えない憐の射撃能力だが、的が大きいため前足、顔、背ビレと当たることには当たる。するとあまり防御力が高くないのか、ゲスラはビームを5、6発食らっただけで呻き声を上げると、何かを吐き出してから忽然と姿を消した。

 

 

「消えた…?ってやばい!なんかあの最後に吐き出したやつこっちに向かってくるぞ!」

 

「うわっ、なによあの塊!憐、どうにかしなさい!」

 

「いや無理だろ!範囲広すぎて避けられねぇ!…くそっ!」

 

「きゃっ!ちょっと、れ…ん…?」

 

 

 ゲスラが吐き出したモノは見事砂浜に着弾。

 砂煙が晴れると、そこには突き飛ばされて尻餅をついているナナと、汚水まみれで倒れている憐がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「ぐおぉ…ん?ここは…?」

 

 憐が目を覚ますと、そこは先ほどまでの砂浜ではなく、海を見下ろせる位置にある、涼しげな洞窟のような場所だった。

 

「お目覚めかな?」

 

「誰だ!」

 

 いまいち状況を把握できない憐に突然声がかけられる。

 憐が声のした方向に振り返ると、ラゴンがこちらに向かって歩いてきていた。

 

「まあまあ少し落ち着いて」

 

「(ラゴン?…そういや俺はゲスラの攻撃を受けて、それから…!)あ、あの!俺と一緒に女の子が…」

 

「今向こうで仲間が面倒をみておる」

 

「はー、よかった。じゃなくて!あんたは誰だ?てか、俺はどうなってたんだ⁉︎」

 

「まあまあ落ち着きなさい。ワシはここに昔から住んでいる一族の長、ゴン蔵じゃ。ちなみに、倒れていたお主を連れてきたのもワシじゃ」

 

「あ、俺の名前は一条寺 憐です。って倒れてた?…そうか、ゲスラの攻撃で」

 

「続きは後にしようかの。そろそろお主の連れが…お?」

 

 そうラゴンが言った瞬間、ドタバタと騒がしい音が聞こえ、勢い良くナナが駆け込んできた。

 

「憐!大丈夫⁉︎ケガはない⁉︎」

 

「おう、ナナ!よかった、無事だったか!俺はピンピンしてるぜ。そう言うお前は___げふぉっ!」

 

 ナナが思いっきり飛び込んできたため、無防備だった憐は盛大に咳き込む。

 自分の上に覆いかぶさっているナナに文句を言おうとした憐だったが、ナナの体が震えていることに気づいた。

 

「もしかして泣いてる、のか?」

 

「ッ!だ、だって!ほんとにし、死んじゃったかと思ったんだもん!あの時アタシがなんとかして、って言った、せいで…」

 

「お前…」

 

 ナナが自分を責めていることに、憐はなぜかとても嫌な気持ちになった。

 

 

「あのなぁ、俺は別にナナの言葉を聞いてお前を庇ったわけじゃねえよ。俺は、俺の意思でああしたんだ。つーわけで、俺はお前が無事に笑顔でいてくれるならそれでいい。だから泣くな。俺は笑顔のナナが好きだぞ」

 

「憐…」

 

 憐としては自分の気持ちを素直に言っただけだが、捉え方によっては告白ともとれるセリフである。

 そんな言葉を憐に抱きついたまま聞いていたナナは顔を真っ赤にしながらも嬉しそうな顔をしており、心なしか声も熱っぽい。

 そして周りのラゴン達の視線も生暖かい。

 しかし、当の本人は周囲の視線には気づかない。

 なぜなら。

 

(やべぇー。これはやべえー。俺とナナは水着なわけで。もはや裸同然なわけで?そんな状態で抱き合っててもう肌とか触れ合っててまじおっぱいやばい)

 

 自分の煩悩を抑えるのに必死だったのである。

 元の世界でもこれほどまでに女子と密着したことのなかった一条寺 憐くん(非リア)はこの世界に送られた時よりもテンパっていた。

 

 人間そうそう変われるものではない。

 結局、憐はごく普通の高校二年生なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ここは?」

 

「気がついた?」

 

「おう、ナナか。俺は何してたんだ?お前が飛び込んできてからの記憶がないんだが…」

 

「ああ、それなら大丈夫よ。何もなかったわ。ええ、何も」

 

「なんだ?」

 

 覚えてなくてよかったーと胸を撫で下ろしながら言うナナ。

 実はあの後少し冷静になったナナが、自分が抱きついていることに恥ずかしくなり憐を思いっきりぶっ飛ばして気絶させたのだが、そんなことは憐が知る由もない。

 

「そろそろ話してもいいかの?」

 

「あ、お願いします」

 

「まず、お主が倒れていたのは立ち入り禁止区域だったんじゃ。普段ならワシらも近づかないんじゃが、たまたま近くを通った時にそのお嬢ちゃんの助けを呼ぶ声が聞こえての、行ってみたらお主か汚水まみれで倒れておったんじゃよ」

 

「お、汚水まみれ…」

 

「ほんとに汚かったわよー、あの時の憐」

 

「笑いながら言うな!」

 

「まぁお嬢ちゃんはそんなお主を抱き締めながら助けを」

 

「あああああああ!そんなことしてない!絶対してない!」

 

「そんなに必死に助けを呼んでくれたのか…。ありがとな、ナナ」

 

「ううっ…」

 

 どうやら素直な気持ちに弱いらしい、あうあう言ってるナナを放っておいて、憐は話を進める。

 

 

「助けてもらった経緯はわかった。それで、あの怪獣はなんなんすか?」

 

 憐の問いに、ゴン蔵は遠い目で答える。

 

「…あれはもともと、ただの魚じゃった。いや、ただの、ではないな。この星でもっとも重要な魚じゃった」

 

「重要?」

 

「そうじゃ。彼らは汚い水を取り込み綺麗な水に変える働きをもっておった。このワッカの水がここまで綺麗なのは彼らのおかげじゃった」

 

「そうだったのか…って、ん?彼ら?」

 

「もちろん。一匹だけなわけなかろう」

 

「じゃあまさか…」

 

「全て怪獣化しておる」

 

「なんですって⁉︎あんなのが何匹も⁉︎」

 

「まぁあの海域では、じゃが。それでもいづれはこの星全体に広がるじゃろう」

 

「なんでそんなことになったんだ?」

 

「大体三週間ほど前じゃったかの。あの辺りの海に、黒い塊が落ちてきたんじゃ。そしたらいきなり水が濁り出しての。取り込んでも取り込んでも水が綺麗にならない。やがて処理限界をこえたものから怪獣になってしまったんじゃ…」

 

 そこまで聞いて、ナナが憐に話しかけてきた。

 

「ねぇ、黒い塊ってイーヴィルクリスタルのことよね」

 

「ああ、たぶんな」

 

「じゃあ…」

 

「ま、もしイーヴィルクリスタルじゃなくても助けてもらった恩があるし。お前も彼らを助けたそうだし。なにより俺が放っておけねぇしな」

 

 

 そうナナに言うと憐はゴン蔵に向き直った。

 

「この件、俺たちに任せてくれないか」

 

「お主、話を聞いておったのか⁉︎」

 

「大丈夫だって。話を聞いた感じ、どこに毒素を溜め込んでるかは見当がついたから。ま、元に戻るかは正直わかんねえけど」

 

「しかし、あの量をたった二人でなど…」

 

 その言葉に、憐はガンパッドを取り出しながら答えた。

 

「まさか、なんの策もないなんてことあるわけねーだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 ジャンスターを呼んで装備を取り出した二人は、先ほどの海岸の少し高台になっているところに来た。

 

「さて、やるか!」

 

「オッケー!」

 

『ウルトライブ!ハンザギラン!』

 

『バトルナイザー・モンスロード!』

 

 眩い光がやむと、二体の怪獣が少し広めの砂浜に降り立った。

 その光景を見て、戦いを見に来たラゴン達が驚きの声をあげる。

 

「なんと。二人はレイオニクスじゃったか…」

 

《ま、俺は違うんだけどな。じゃあエレキング、よろしく!》

 

 憐の言葉を聞いて、エレキングは雄叫び(?)を上げる。

 

《おお、頼もしいぜ》

 

「ちょっと、なんでアンタが命令してんのよ!てか、エレキングと会話してる⁉︎」

 

《うん。なんかできた》

 

「なんかできたって…はあ…。エレキング、やっちゃって!」

 

 エレキングはナナの指示に応えるように一声鳴くと、海に向かって電撃を発射する。

 

《おいナナ、今のため息はなんだ》

 

「アンタに呆れたのよ」

 

《俺のどこに呆れる要素が⁉︎》

 

「なんで驚愕してんのよ…っ!くるわ!」

 

 そのナナの言葉通り、エレキングの電撃に怒ったゲスラ達が次々と海面に姿を表す。

 

《おーおーこりゃ大漁だな。若干引くぐらいいるぞ》

 

「おぞましいわね…ん?なにしてんの?早くアンタも行きなさいよ」

 

 その問いに、ハンザギランは困ったような表情(たぶん)をして答えた。

 

《いや、おれサンショウウオだから海水ムリっす》

 

「ハァァァァ⁉︎アンタなに言ってんの⁉︎」

 

《うん。ゴメンね。俺は陸に上がってきたやつを重点的に》

 

「エレキング、コイツにフルバースト」

 

《え、ちょっとそれはマジでシャレに…うがぁぁぁあああ!》

 

 幾千もの雷撃が憐を襲う!効果は抜群だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、そうこうしてるうちにゲスラがもう目の前にきちゃってる!」

 

《ぐふ、すいませんでした。ちゃんとやりますからぁぁぁぁ!このでぇぇぇぇぇぇ!んげき止めてください!》

 

 煙を出しながら涙目で許しを乞うハンザギランを見て、流石にやり過ぎたかと内心思ったナナ。

 

「ふぅ、よろしい。で、どうすんの」

 

《げふ…ああ、たぶん毒素を溜め込んでるのは背ビレだ。俺がビームを打った時、五、六発当たったらいきなり消えたたろ?たぶんあれは消えたんじゃなく、毒素が抜けて小さくなったんだ》

 

「なるほど、あの時飛んできた汚水の塊はゲスラから抜け出た毒素だったのね!」

 

《ああ、だからあそこを引きちぎるか蒸発させるか、とにかくなくせば奴らから毒素が抜ける、と思う》

 

「…うん、信じるわよ?エレキング、背ビレに攻撃!」

 

《さて、俺も始めるか》

 

 エレキングが攻撃を始めたのを見ながら、憐は慣れない四足歩行で海を見渡せる別の高台へと登る。

 

 

 

《いやホントに難しいな四足歩行。もし海入れてもコレじゃ戦えなかったわ。おっと、ここら辺でいいか》

 

 海の方に目を向けると、一面を覆い尽くすほどのおびただしい数のゲスラがいる。エレキングも必死に戦っているが、倒す度押し寄せてくるため苦戦を強いられている。

 

《エレキング!危ねえから下がれ!》

 

 憐の声に頷いたエレキングは近くのゲスラ達の背ビレを紫電を纏った尻尾でなぎ払い後退する。

 

《ナイスだ!…いくぜ!》

 

 そう言うとハンザギランは口から海目掛けて思いっきり溶解液を発射した。

 その溶解液は扇状に広がり、ゲスラ達にまんべんなく降りかかる。結果背ビレは溶かされ、ゲスラは元の魚に戻ったのだった。

 

《うおっしゃぁ!ビンゴだ…うお⁉︎》

 

 喜びも束の間、海から今までとは比べものにならない程の大きさのゲスラが現れ、憐を砂浜に撃ち落とす。

 

「ちょっ、大丈夫⁉︎てかなんなのよこの大きさ…」

 

《いてぇ…いや、でも背ビレが弱点ってのは変わらないはずだ》

 

「そうね。エレキング、ライトニングカッター!」

 

 エレキングの口から三日月状のカッター光線が発射され巨大なゲスラの足に当たるが、ゲスラは怯むだけでその足を止めることはできない。

 ハンザギランも体当たりや火炎放射で戦うが、ゲスラの体長は軽く100mはあるため、態勢を崩して背ビレを攻撃することはできないでいた。

 

《くそっ!デカすぎるだろ!》

 

「どうすれば…」

 

『僕に任せろ』

 

 二人が攻めあぐねていたその時、どこからか聞き慣れた声が聞こえたかと思うと、上空から颯爽と一機の戦闘機が現れる。

 そして、ジャンキャノンからレーザーを発射。巨大ゲスラの背ビレを破壊した。

 

『フッ、どうだ相棒。僕の力は』

 

「そんなにアッサリと…」

 

《お前、じゃあ最初からやれよ…》

 

 自慢気に言うジャンナインに二人は脱力してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、なんでコイツは小さくなんないのよ」

 

 残りのゲスラを元に戻し終わった憐たちは、いつまでたっても戻らない巨大ゲスラの前に集まった。

 すると突然、ゲスラの背ビレだった部分が黒く輝き、中からイーヴィルクリスタルが出現した。

 

『なるほど。この一体が異常に巨大化したのはイーヴィルクリスタルを飲み込んだからだったのか』

 

《ま、なんにせよコレで一件落着だな》

 

 そう言いながら火炎放射でイーヴィルクリスタルを破壊する憐。

 

《いやー、この脱力感やだなー。だから火吹きたくないんだよなー》

 

「あ、やっぱそういうのあるんだ…。ん?どうしたのエレキング」

 

《やべ!》

 

 頭のレーダーで何かを感じ取ったエレキングが忙しなく首を動かす。それと同時にハンザギランの嗅覚で危険を察知した憐がナナを守るために前に出る。

 直後、飛来した爆弾が憐に直撃した。

 

「れ、憐!」

 

 ナナはハンザギランに駆け寄ろうとするが、それをエレキングが遮る。

 

「エレキング、どきなさい!憐が…」

 

「フッフッフッ、もうそいつぁ助からないぜぇ!」

 

「誰!」

 

 自分を庇うように立つエレキングをどかそうとしていたナナだったが、突如現れた二人組の男がさらに邪魔をしてきた。

 

「俺たちゃマグマ星の双子のレイオニクス!」

 

「ヤツにぶちこんだのは毒ガス弾だ!コレを食らえばどんな怪獣だってイチコロだ。こい、サタンビートル!」

 

 その言葉に従って現れたのは、赤い目、胸にはロケット弾の発射口を持つ、カブトムシのような怪獣・サタンビートル。

 

「そんな…憐…」

 

「フハハハハ、心配せずとも次はお前ごと打ち込んでやるぜぇ!」

 

《俺今回攻撃当たりすぎじゃね?ま、それは置いといてだ。そいつをやらせるわけにはいかねえな!》

 

『ウルトライブ!ベムスター!』

 

 サタンビートルが発射体勢に入ろうとした瞬間、今までハンザギランを覆っていた毒ガスが晴れ、中からベムスターにライブした憐が現れた。

 

「な、なにぃー!生きてるだとぉ⁉︎」

 

「しかも怪獣が変わっているだとぉ⁉︎」

 

《ハンザギランに助けられたぜ。それに、やられちまったらまたナナにタックル食らっちまうからな!》

 

「タックルってなによ!アタシは抱きついただけ…って何言わせてんの!…でも、ホントよかった」

 

 ハンザギランの驚異的な生命力の高さにより毒ガスの中でも無事だった憐は、ベムスターにチェンジ。腹部の口で毒ガスを全て吸い込んだのだった。

 

《不意打ちなんて卑怯なことをする汚い奴らに遠慮なんていらねぇな!覚悟しろ、マグマ星人!》

 

 エレキングの勇ましい声と共に、第二ラウンドの幕が今あがる。




中途半端ですが続きは次に持ち越しです。
次回の更新は明日の予定です。
では!



〜次回予告〜
レイオニクス大会(フェスティバル)が開かれるという開拓惑星・ナオ。
降り立った憐達を待ち受ける様々な出来事。
そして、大会に関する奇妙な噂とは?
次回「仕掛けられた罠」お楽しみに!


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episode4 仕掛けられた罠

《いくぜ!》

 

「くっ!ならば兄者、俺も戦うぜぇ!」

 

『バトルナイザー・モンスロード!』

 

 憐の参戦により劣勢になったマグマ星人(弟)が繰り出したのは凶剣怪獣・カネドラス。

 頭の一本角を飛ばす「ドラスカッター」と口から吐く超高温の炎が武器の怪獣である。

 

「いけぇ、カネドラス!あのベムスターを…」

 

「アンタの相手はピット星のレイオニクスであるこのアタシよ!やっちゃって、エレキング!」

 

(あ、やっぱ名乗るんだ)

 

 憐の方に向かおうとしたカネドラスを、横からタックルで吹き飛ばすエレキング。

 

《ナイス、ナナ!さぁて、いこうか!》

 

 その一言で、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 〜ナナvsマグマ星人(弟)〜

 

「おのれ小癪なぁ…カネドラス!焼き払っちまえ!」

 

 その指示で素早く立ち上がったカネドラスの火炎放射を、横に転がって避けるエレキング。

 

「お腹がガラ空きよ!ライトニングカッター!」

 

 転がった勢いのままスムーズに立ち上がったエレキング。そこから放たれる三日月状の光刃は火炎放射後で動きの止まっていたカネドラスの腹部に直撃し、再度吹き飛ばす。

 

「いい調子、このまま決めちゃいましょ!」

 

 エレキングはヨロヨロと立ち上がったカネドラスに長い尻尾を巻きつけると直接電流を流し、そのままトドメをさそうとした。

 

「おい、カネドラス!いつまでぼうっとしてやがる!ヤツにドラスカッターを叩き込めぇ!」

 

 その言葉に電流攻撃で朦朧としていた意識を覚醒させたカネドラス。

 首を大きく振って必殺の「ドラスカッター」を発射する。ドラスカッターはエレキングの右肩を切りつけたあと、ブーメランの要領で大きく旋回して今度は背中を切りつけ再びカネドラスの頭部に戻ってきた。

 そのダメージでたまらず尻尾の拘束をといてしまったところにすかさず超高温の炎が襲いかかり、エレキングは膝をついてしまう。

 

「フッハッハッ!これで終わりだぁ!」

 

「くっ…どうすれば…!」

 

 再度ドラスカッターの発射準備に入ったカネドラス。

 いまだ膝をついているエレキング。

 絶体絶命の状況の中、ナナはドラスカッターを打ち破る秘策を思いついた。

 

「エレキング、尻尾で相手の体勢を崩して!」

 

 ナナの指示に、力を振り絞って応えたエレキングは尻尾を振り回してカネドラスを後退させる。

 

「まだそんな力があったか。しかし、その程度では時間稼ぎにしかならんぞぉ!」

 

「こんだけ稼げれば充分!新技よ、くらいなさい!」

 

 ナナと思考を共有したエレキングに、新しい技のイメージが流れ込んでくる。

 カネドラスは体勢を立て直し、すぐさまドラスカッターを放とうとしたが、エレキングにとってその時間は新技の準備には充分だった。

 エレキングは連続でライトニングカッターを射出するとそれを横一列に並べ一枚の巨大な刃を作る。

 

「俺の勝ちだぁ!ドラスカッター!」

 

「ライトニングスラッシュ!」

 

 それを紫電を纏った尻尾で弾いて打ち出す。

 高速回転しながら迫る黄金の刃は、ドラスカッターを軽く真っ二つにしてそのままカネドラスを直撃し、爆散させた。

 

「そんなぁ…」

 

「我ながらエグい技ね…。うんでも勝ったし。憐も…ちょうど勝ったみたいだしね。いこ、エレキング!」

 

 ナナの視線の先には、ものすごい爆発を起こしている砂浜があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 〜憐vsマグマ星人(兄)〜

 

「サタンビートル!全弾発射ぁ!」

 

《いきなり⁉︎》

 

 開始早々ロケット弾を大量に放ってきたことに驚きながら、角からの光弾で次々撃ち落としていく憐。

 しかしきりがないので残りは空に上がることで回避した。

 

「フッフッフッ、サタンビートルに空中戦を挑むか!愚か者めぇ!」

 

 マグマ星人がそう言うと、サタンビートルは背中から羽を展開させ、猛スピードでこちらに向かってきた。

 憐は光弾を発射するが全て避けられ、距離がどんどん縮まっていく。

 

《うっわ早!でも、そっちがその気ならこっちだってやってやんよ!くらえ、フライングインパクト!》

 

 憐は更にスピードを上げてサタンビートルを振り切り、宙返りで方向転換。サタンビートルと真っ向からぶつかっていった。

 拮抗する両者の角と角。しかし、回転を加えドリルのようにサタンビートルの角を削り始めたことにより、憐が優勢になる。そしてついに、ベムスターが角を打ち破り、サタンビートルは落下していった。

 

《愚か者はお前の方だったな!》

 

「くっおのれぇ…」

 

 サタンビートルが落下したところの近くに着地したベムスター。様子を伺っていると突然サタンビートルがベムスターに飛びかかり、口から毒ガスを吹き付けた。

 

「かかったなぁ!その毒ガスこそサタンビートルの真骨頂、先ほどの比ではない!今度こそ死ねぇ!」

 

 辺り一帯を毒ガスが覆い、マグマ星人が勝利を確信して笑う。

 しかし、すぐにガスが渦を巻き始め、すべてベムスターの腹部に吸収された。

 

《さーて、万策尽きたか?》

 

「ぐぬぅ…いや待て!サタンビートルは体に毒ガスを溜め込んでいるから倒したら大爆発を起こすぞ!それは困るだろぉ⁉︎」

 

 必死に倒さないよう説得するマグマ星人に、無慈悲な言葉がかけられる。

 

《大爆発?大丈夫、吸収すればいいから》

 

 その言葉と共に頭部の角からベムスタービームが放たれ、サタンビートルは大爆発を起こしたが、すぐにベムスターに吸収され、それを見たマグマ星人が膝から崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「で?なんでこんなことしたんだ」

 

「俺たちゃ邪魔者を消そうと思っただけだぁ…」

 

「なんでアタシ達が邪魔だったの?」

 

「いや、あんたらもレイオニクス大会(フェスティバル)にでるんだろぉ?」

 

「「レイオニクス大会(フェスティバル)?」」

 

 捕まえたマグマ星人の話を要約すると、この先の開拓惑星・ナオで開かれるというレイオニクス大会(フェスティバル)。それはレイオニクスなら誰でも出られるものであるが、自分達が優勝しやすくするためにレイオニクスを片っ端から狩っていた(不意打ち毒ガスで)、というものだった。

 

「レイオニクス大会ねぇ…理由はわかったが、ナナ、こいつらどうする?殺されかけたわけだし」

 

 と問いかけた憐だったが、ナナはあることで頭がいっぱいで上の空であった。

 

「レイオニクス大会、か…」

 

「おい、おいナナ!聞いてんのか?」

 

「ほえ?なに?」

 

「ほえ、じゃねぇよ。こいつらどうする?って話だよ」

 

「あ、そ、そうね。うーん、じゃ、ナオまで案内してくれたら許してあげる」

 

「誰が自ら敵を増やすようなことを…」

 

「兄者!折角助かった命だぜぇ!それぐらい安いもんだろぉ!」

 

「ぐっ、確かにそうだなぁ。わかった、案内しよう」

 

「おい、ちょっと待て!なんで行くことになってんの⁉︎」

 

 なんだか行く流れになっているが、ギンガスパークが反応していない以上、憐にはそこに行く必要がない。

 しかし、ナナにはあった。

 

「アタシの目的、覚えてるわよね?」

 

「あ、ああ。お姉ちゃんを…!そうか」

 

「そう。そんな大会があるなら確実にお姉ちゃんはいる。だからアタシ、行きたいの」

 

 ナナの真剣な表情を見て、憐はすぐに思い直した。

 

「なら、さっさと行こうぜ。俺はナナに協力するって言ったしな」

 

「憐…!」

 

『カモン!ジャンナイン!』

 

「つーことだ、相棒。よろしく」

 

『もちろんだ、相棒。早く乗れ』

 

 ナナの嬉しそうな顔に恥ずかしくなった憐はジャンナインとの会話にうつった。

 

「待たれよ!」

 

 憐がジャンスターに乗ろうとすると、砂浜にラゴン達が降りてきた。

 

「おう、よかったな。元に戻って」

 

「本当に、本当に、ありがとう。このご恩は一生忘れん。一族みんな感謝しておる」

 

「ありがとう!」

 

「あんたはこの星の救世主だ!」

 

「よせやい。照れるだろ」

 

「デレデレね」

 

 口々に褒め称えるラゴン達と満更でもないどころかめちゃくちゃ嬉しい憐。

 

「もういくのか?」

 

「ああ、やんなくちゃならねぇことがあるからな」

 

 憐がそう言うと、ラゴン達が食料をたくさん出してきた。

 

「こんなことしかできないが、受け取ってくれ」

 

「ほんとか⁉︎悪りぃな、こんなに」

 

「我々がしてもらったことを考えればまだまだじゃ。今後困ったことがあったら遠慮なく言ってくれ」

 

「ああ、わかった。じゃあ行くわ!」

 

「あ、俺たちの円盤とってきていいですか?」

 

「うん。でも、逃げたりしたら許さないから♪」

 

 そのイイ笑顔を見て、憐は改めてナナを怒らせてはならないと心に刻んだのだった。

 

 ちなみに、この話はこの星で後世まで語り継がれることになるとかならないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「さて、やって参りました惑星ナオ!それにしてもなんもないな」

 

『開拓惑星だからな』

 

「それにいろんな種族がいるわねー」

 

『レイオニクス大会が開かれるからな』

 

 憐達の会話からわかるように、開拓惑星だけあってなにもない。だからこそ異様に目立つあの巨大なドーム(上空から確認したところ直径3kmほど)が会場だろうと当たりをつけて歩いている最中である。

 

「君たちも大会に出るんすか?」

 

「あ、俺は付き添いです」

 

「出るのはアタシ」

 

 やがてドームに近くなってきた時、後ろからケムール人に声をかけられた。

 どうやら彼もレイオニクスらしく、この大会についていろいろと教えてくれた。

 

「この大会は、今回が初めてじゃないんすよ。今大会は第三回。今まで参加した人数は各32人。今回もそんくらいじゃないすかねー」

 

「へーよく知ってんな」

 

「アンタは今まで出たことあんの?」

 

「俺すか?ないっすよ。それと俺の名前はムッチっす」

 

「優勝者はなにが貰えるのかしら?」

 

「お前目的ズレてないか?」

 

 早くも勝つ気まんまんなナナは優勝商品を知りたがる。

 その質問にムッチは声のトーンを低くして語り出した。

 

「優勝者には表向きは一生遊んで暮らせるほどの富が与えられるって話っす」

 

「ん?表向きは?」

 

 ムッチの含みのある言い方に聞き返す憐。

 

「…こんな噂があるんすよ。過去、大会でベスト4に残った者は誰一人として帰ってきていないっていう」

 

「なによそれ。そんなの確かめようと思えばすぐ確かめられるじゃない」

 

「そうなんすよ。この噂の奇妙なところは確かめようと思えば確かめられる、もっと言うと誰かが確かめているはずなのに流れ続けてるってとこなんす」

 

「なるほど、確かに奇妙だな」

 

「それとこの大会、主催者が誰なのかハッキリしてないんす」

 

「ハァ⁉︎なによそれ!そんなことあり得るの⁉︎」

 

「ハイっす。みんな戦いに夢中であんま気にしてないんすけどね。あ、ここが受付っす。じゃまた!」

 

「ねえ、この大会…」

 

「ああ、怪しさMAXだな」

 

 立ち去るケムール人を見送りながら、エントリー場所に足を向ける憐とナナであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 受付を済ませ、明日から始まるという大会に備えて準備することになった二人(ジャンナインはガンパッドを通して会話している)。

 今は一通りこの付近を見て回りたいという憐の希望で別行動をとっていた。

 

「いや、なんかこういうとこ見るとホントに色んな作品が混ざってるってのがよく分かるなー」

 

 モネラ星人など、本来M78星雲がある宇宙には存在しない宇宙人、怪獣が「ギャラクシークライシス」という事件によってごちゃ混ぜになったのが大怪獣バトルの世界。憐は今、それを身をもって体感していた。

 

「俺は今、本当にウルトラマンに会える環境にいるのか…。うわっ、なんか感動で涙出てきた」

 

『感極まっているところ悪いが、そろそろ待ち合わせ時間ではないのか?』

 

「ん?おお、やべっ!ありがとうジャンナイン」

 

 時計を見て慌てて走り出す憐。どうにか時間内に待ち合わせ場所に着くと、道路の反対側にナナらしき人物がいるのを確認した。

 

「あ、おーい!ナナー!もう時間…」

 

「だ〜れだ?」

 

 そこまで言って突然視界を塞がれた憐。犯人は声でわかるのだが、あまりにあり得ない現象に若干声が引き攣る。

 

「ナナ、だよな…?」

 

「そうに決まってるじゃん!なによ面白い声だして」

 

 ナナは笑っているが、憐にはどうにも解せない。

 

「いや、だってお前さっきまであそこにいただろ!」

 

「へ?何言ってんのよ。アタシはあっちの方から来たんだけど」

 

「そんな…」

 

 全く反対方向を指差すナナに、狐につままれたような気持ちになる憐。あれー、見間違い?いやそんなはずは…、とブツブツ言いながらジャンスターに戻る憐に、首をかしげるナナであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

『さあいよいよレイオニクス大会の始まりです!実況はわたくしプレッシャー』

 

『解説は私ヒマラ』

 

『でお送りして行きまーす!では早速参りましょう!Aブロック一回戦!おおっと、これはいきなりの注目カードだ!キュラソ星人キューラvsリフレクト星人カッキー!』

 

『コレは面白くなりそうですねぇ』

 

『ではでは一回戦Aブロック一試合目、両者定位置について…ファイッ!』

 

 

 

「どうだった?お姉ちゃんの名前、あったか?」

 

「ううん、なかった。…でも出るからには優勝狙ってくから応援しててよね!」

 

「おう!変な噂もあるが、がんばれよ!」

 

 

 A〜Dのブロックのうち、ナナはCブロックの二試合目。まだ開始までは時間がある…と言いたいところだが、一気に三試合同時進行なので案外余裕がないかもしれない。

 

「アイツ、流石にピット星人の姿で戦うんだな…。んじゃ、俺は応援席確保しに行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ、一回戦も残り半分を切りました!Cブロック二試合目!ピット星人ナナvsゴドレイ星人ドーラ!』

 

『ピット星人は元々エレキング使いとして有名ですからねぇ。レイオニクスとしての能力も高いでしょう』

 

『なるほど〜!では、両者定位置について…ファイッ!』

 

 

「いけ、エレキング!」

 

「いきたまえ、メタシサス!」

 

『『バトルナイザー・モンスロード!』』

 

 開始の合図とともに怪獣を召喚する両者。

 

「僕はあまりレディを痛めつけるような真似はしたくないのですが、致し方あ…」

 

「なにごちゃごちゃ言ってんの?エレキング、ライトニングカッター!」

 

 なにやら喋っているドーラを無視し、仕掛けるナナ。当然エレキングの攻撃は当たり、メタシサスは吹き飛ぶ。

 

『おおーっと、コレは強烈な一撃だー!』

 

『いやあのエレキング、よく鍛えられてますねぇ。今の攻撃はかなりの高エネルギーでしたよ』

 

 

「ちょっ、卑怯じゃないかねキミ!」

 

「もう試合は始まってんの!尻尾を叩きつけてそのまま放電!」

 

 エレキング(ナナ)の容赦ない攻撃によって既にダウン寸前のメタシサス。

 

『いやーヒマラさん、ナナ選手容赦ないですね』

 

『あの攻撃の繋げ方はいいですねぇ。くらった方は一溜まりもないですが』

 

 

「くっ、なんと嘆かわしいことか!メタシサス、この無礼者に正義の鉄槌を!」

 

 その言葉とともにエレキングの動きが鈍くなる。その隙に空間転移で距離をとったメタシサスが透明化。完全にその姿を消した。

 

『なんと、メタシサスの姿が消えた!』

 

『コレは重力をかけてエレキングの動きを阻害しましたね。そして透明化。うまい手です』

 

 

「ふっふっふ、見えない攻撃に恐れおののくがいい!」

 

 不利な状況にも関わらず、ナナに焦りはない。

 

「エレキング、ライトニングカッター、最大出力!」

 

 エレキングは口に電気エネルギーを限界まで溜めると後ろを振り返り、すぐさま発射。三日月状の刃は今まさに襲いかかろうとしていたメタシサスの口に直撃し、見事撃破した。

 

『そこまで!勝者はピット星のレイオニクス・ナナ選手!中々の熱戦でしたね!』

 

『どちらもよく戦いました』

 

 

「バカな、メタシサスの透明化は完璧だったはず…」

 

 未だになぜ敗れたかわからないドーラに、ナナは告げる。

 

「ああ、知らなかった?エレキングの角はね、電磁レーダーになってるの。だから姿を消そうが地面に潜ろうが、全てお見通しだから。じゃ、お疲れ様」

 

『試合を終えた二人に大きな拍手を!』

 

 大歓声に見送られながら控え室へと戻るナナであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「よっ、お疲れさん」

 

「どうよ、アタシの戦いっぷりは」

 

「めっちゃ強かったな」

 

「でしょでしょ!もっと褒めてもいいのよ?」

 

「えらいえらい」

 

『そんなにすごかったなら僕も見たかったな』

 

 なんか仔犬みたいだな、と思いつつ褒め続ける憐と嬉しそうなナナ。

 明日も試合があるため、早目にジャンスターに戻ってきた二人は、さっきからずっとこの調子だった。

 

「ふぁ〜、明日も早いしアタシもう寝る」

 

「お、そうか。明日もがんばれよ!」

 

「ありがと〜。おやすみ…」

 

「ああ、おやすみ」

 

 ナナが自分の部屋に戻ったのを確認してから、憐とジャンナインは今日の成果を報告しあう。それはナナが余計なことを考えずに試合に集中できるようにという憐の配慮だった。

 

 

「俺は噂について手当たり次第聞いて回ったが、ムッチ以上の情報はなかった」

 

『僕は敵に悟られないようにしたためにあまりデータは得られなかったが、一つ興味深いことがわかった』

 

「…それは?」

 

『あのドームから、巨大なマイナスエネルギーが感知された』

 

「なんだって⁉︎でも、ギンガスパークにはなんの反応も…」

 

『なにもイーヴィルクリスタルだけがマイナスエネルギーではない、ということだろう』

 

「つまり、イーヴィルクリスタルなしの根っからの悪者ってことか」

 

『…憐、くれぐれも気をつけて動けよ?』

 

「ああ。とりあえず、俺も今日は寝るわ」

 

 こりゃ予想以上にヤバそうだ。そう思いながら、憐は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

『さあ二回戦Cブロック第一試合!ナターン星人ランvsピット星人ナナ!勝った方がベスト8ですよ!』

 

『ラン選手は豊富な手数をもつテクニックタイプですからねぇ。ナナ選手のダイナミックな戦い方との激突はとても楽しみです』

 

『では両者共に定位置について…ファイッ!』

 

 

「フン」

 

「お願い、エレキング!」

 

 

『『バトルナイザー・モンスロード!』』

 

 

「先手必勝!」

 

「なに?ガードしろ、ガギ!」

 

 開始早々エレキングがライトニングカッターを連続で発射し始めた。ランが召喚したバリア怪獣ガギはそれを見てガードしようとバリアを張る。しかし、それは悪手だった。

 

「ふふっ、かかったわね。エレキング、ライトニングスラッシュ!」

 

 エレキングが発射した光刃は空中に留まり次々に合体し、巨大な三日月状の刃を形成。ガギが危険と判断し回避行動をとろうとした時にはエレキングの長い尾に黄金の刃が弾き出された後であり、特に何もできないままガギは撃破されてしまった。

 

 

『試合終了ー!コレは大会史上最短か⁉︎』

 

『あの技は隙が大きいぶんかなりの威力をもってますねぇ。回避に専念するのが正解でしょう』

 

 

「おつかれ、エレキング」

 

「…強いな、きみは」

 

 戦いが終わり控室にもどるナナに、ランが声をかけてきた。

 

「まだきみは若いだろう。なぜそんなにも強いのだ?」

 

 そんなランの問いに、ナナは笑顔で答える。

 

「んー、あんまり恥ずかしい姿を見せたくないヤツがいるからかな?なんちゃって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 その後三回戦も危なげなく通過し見事ベスト4入りを果たしたナナは、ジャンスターに戻ってきてすぐ寝てしまった。

 

「ふう、ベスト4入りか…。あの変な噂がなけりゃあ素直に喜べんのにな」

 

『情報が少ないため後手に回るしかないが、何か起こるのは間違いないだろう』

 

「…俺も明日に備えて早く寝るか」

 

 そう言って自分の部屋に向かおうと歩き出した瞬間、突然何もないところから人が現れ、憐に銃を突きつけた。

 

 

「お前…ムッチ!?」

 

「悪いすけど、あんたの相方のバトルナイザーはいただグフゥ!?」

 

『侵入者捕獲完了…なんだ憐、知り合いか?』

 

「え?あ、ああ。大会に関する情報を教えてくれたやつだ」

 

 ジャンナインによって電磁ネットに捕らえられたのは先日噂を教えてくれたケムール人のムッチだった。

 

「くっ、ただの人間かと思って油断したぜ…」

 

「お前、なんで侵入してきたんだ?バトルナイザーがなんとかって言ってたけど…」

 

『素直に言ったほうが身のためだぞ』

 

 身動きの取れないムッチは観念したのか、ため息を一つつくとしゃべり始めた。

 

「わかった、言いますよ。言えばいいんでしょ?でも、その前に一ついいすか?」

 

「ん?なんだ?」

 

「あんた、大会についてどこまで知ってる?」

 

「お前に聞いたところまでだな」

 

「つまりなにも知らないと」

 

『どういう意味だ』

 

 ジャンナインの問いに、ムッチは真剣な表情で答える。

 

「今から話すのは、この大会に隠された真実だ。それを聞けば、あんたらにも危険が…」

 

「はっ、そんなの今さらだろ!」

 

「そうすか…なら心して聞いてくださいね」

 

 次にムッチから告げられたのは、衝撃的な内容だった。

 

「ベスト4に入ったものは皆、大会の主催者によってバトルナイザーを取り上げられ、モルモットとして研究されるんす」

 

「モルモット⁉︎」

 

「その黒幕の名はヤプール。やつらは自分たちのことをそう呼んでました」

 

 

 

 

 

 




~次回予告~

ムッチから明かされる衝撃の事実。
そして現れる黒幕。
絶望的な状況の中、憐が下す決断とは!

次回「異次元の復讐者」、お楽しみに!





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episode5 異次元の復讐者 ー前編ー

「はぁ⁉︎ヤプール⁉︎」

 

 異次元人ヤプール。数多の超獣を送り込み、地球を征服しようとした侵略者だが、ヤプールの特徴といえばやはりその執念深さだろう。

 怨念があるかぎり倒しても何度でも蘇り、その度にウルトラ戦士達を苦しめてきた。あのウルトラマンAに「本当の悪魔」とまで言われた強敵が黒幕という事実に、憐の顔が青ざめる。

 

 

(いやいやいや、無理だろ!だって俺まだ戦い始めて数週間だよ?なんでいきなりラスボス級のヤツが来ちゃってんの⁉︎)

 

『なるほど、あの巨大なマイナスエネルギーの正体はヤプールか。…おい憐、顔色が悪いが大丈夫か?』

 

「うぇ?は、はぁ?いやビビってねぇし」

 

『僕はそんなこと一言もいってないんだが』

 

「お、俺のことはほっとけ!…それよりムッチ!まだお前がここに来た理由、聞いてねえんだけど?」

 

 ヤプールのことは一旦頭の片隅に追いやった憐は、ムッチを問い詰める。

 

「ああ、俺はあんたの相方のバトルナイザーを盗みにきたんすよ。俺のは取り上げられちまってるんでね」

 

「盗む?てか、取り上げられた⁉︎それってお前、今までの話の流れからすると…」

 

「だって普通おかしいと思わないすか?なんでこんなに詳しいのか」

 

 やれやれ、とでも言いたげな口調で言うムッチ。

 

「いやでもこの前は大会にはでてなかったって言ってたろ⁉︎」

 

「あれは嘘っぱちっす。本当の俺は前回大会優勝者。んで、今はヤプールのモルモットっす」

 

「ええ⁉︎そんなにさらっと⁉︎ちょっと待って、展開が急すぎて頭がパンクしそうだ…」

 

「さらに言うと、なぜモルモットの俺が自由に歩いているかはここに入る時にも使った空間転移能力で逃げ出したから。なぜあの娘を狙ったかは、エレキングが強かったからっす」

 

「うわぁぁぁぁ!ゴメン、なんで強いから狙ったのかがわかんない!あまりの情報量についていけない!」

 

 頭を抱える憐をよそに、ジャンナインは話を続ける。

 

『つまり君は、ナナのエレキングを使ってじぶんのバトルナイザーを奪い返そうと?』

 

「いやーちょっと違いますねー。俺はヤプールに復讐したかったんすよ。…俺の怪獣を奪い、超獣とかいうのに改造した奴らに、ね」

 

『まさか、そんなことが…』

 

「おいお前ら!シリアスなとこ悪いけど、俺をいじめんのもいい加減にしろよ!何言ってんのか全然わかんねぇ!もうちょっと噛み砕いて下さいお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、つまり

 前回優勝→ヤプールに捕まる→逃げだす→復讐のため強いレイオニクス探す→相方ただの人間だしエレキング強いからナナから奪おう→あっけなく捕まる←今ココ

 って感じか」

 

『憐、よくがんばったな』

 

「うるせー。…ところでムッチ、お前これからどうすんの?」

 

 憐の問いに、縛られたままのムッチは怪訝そうな表情で答える。

 

「どうするもなにも、バトルナイザーはないし、そもそも今捕まっちまってるんでどうしようもないっすよ」

 

「いや、そういうことじゃなくてだな。…バトルナイザーなしでも復讐する気か?そもそも一人で何ができる?たとえナナのエレキングを使っても返り討ちにあうのがオチだろ?」

 

「そらぁ…。いや、それでも俺は、相棒の命を奪ったヤツらを許せねぇ。たとえ死ぬことになっても、せめて一矢報いたい…!」

 

 ムッチの強い意志を感じ、憐も覚悟を決めた。

 

「うし!その戦い、俺も手伝うぜ!」

 

「は、はぁ⁉︎だって、あんたはただの人間だろ⁉︎それに俺は、あんたの相方のバトルナイザーを盗もうとしたんすよ!第一、あんたにはなんの関係も…」

 

「ええい、うるせえ!盗み?ありゃ未遂だから無効だ!関係ない?もうすでにナナがベスト4だよ!明日ヤプールに捕まっちまうわ!」

 

「いや、でも…」

 

「はぁ、ジャンナイン」

 

『しかし憐』

 

「大丈夫だよ、コイツは」

 

『何を言っても無駄か…』

 

 憐の指示に呆れながらも、ジャンナインはムッチの拘束をとく。

 

「いいんすか?逃げるかもしんないのに」

 

「ああ。なんせ俺達はもう、仲間だからな!一緒にヤプールぶっ飛ばそうぜ、ムッチ」

 

「…あんた、お人好しってよく言われません?」

 

「ハハハ、もう聞き飽きたぜ」

 

 そう言って笑う憐につられて、ムッチも気づけば笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「あれ?あんたムッチじゃない?なんでここにいんの?」

 

 翌朝、なぜかコックピット内にいるムッチを見て、ナナが首をかしげる。

 

「あ、ああ!コイツ、なんかいきなり夜尋ねてきてさ。話し込んでたら遅くなっちまったから、泊まってもらったんだよ!」

 

「そ、そうそう!兄貴にはホントお世話になりました!」

 

「兄貴…?アンタ達、そんなに仲良かったっけ?」

 

 実際、あの後話している内に意気投合し、とても仲良くなったのは本当である。まあその前にあったことをわざわざ言うこともないだろうと判断した二人は、話を逸らす。

 

「ほら、あんまりグズグズしてると遅れるぞ?」

 

「あっ、もうこんな時間⁉︎憐、アタシ朝ごはん食べてる暇ないかも!」

 

「そう言われると思ってサンドイッチ作っといたから、あっちで食え。ったく、たまには美少女の手料理を食べたいもんだぜ」

 

「またそんなこと言って。アンタは楽したいだけでしょ!…ま、でもありがと」

 

 そんな二人のやりとりをニヤニヤしながら(おそらく)眺めるレイオニクスと人工知能。

 

「ラブラブっすね」

 

『やはりそう思うか?』

 

「お、おい⁉︎なに言ってんだお前ら!」

 

「ラ、ラブラブ⁉︎全然違うから!あ、アタシもう行くから!」

 

「あ、俺も応援行きますよ!」

 

『ナナ、気をつけてな』

 

 顔を真っ赤にして逃げるように会場に向かったナナを見送り、今日の打ち合わせに入る三人。

 

 

「で、具体的にどうするんすか?ナナさんには予定通り何も伝えませんでしたけど」

 

「その前に一ついい?アイツああいう冗談通じない人だからね。後で100%殴られるからね、俺」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

『さあ、いよいよ準決勝です!ここからは激戦が予想されるため、中央にある特殊シールドで覆われたフィールドで戦ってもらいます!外からは見えないため、我々は中継映像で観戦しましょう!』

 

 

「あれ?」

 

 実況を聞いて、疑問の声を上げるムッチ。

 

「ん?どうした?」

 

「いや、前回はこんなことなかったんで。ちょと驚いただけっす」

 

「んー。ま、ヤプールが出てくんのは決勝戦後だろ?それまでは気楽にいこうや」

 

 そんなことを言っている憐だが、実際は内心緊張でガチガチだったりする。

 

 

『ではいきましょう!準決勝、ピット…あれ?』

 

 開始の合図が出されようとした瞬間、突然全てのモニターの映像が途切れてしまった。

 

「ん?なんだ、故障か?」

 

『いや、憐。どうやら違うようだ。これは…!あのフィールドの中は異次元世界へと繋がっている⁉︎』

 

 その言葉を聞いた二人はすぐさま応援席から飛び出し、中央フィールドへ走る。

 

「ちっ!まさかこんなに早く仕掛けてくるとはな!」

 

「でもどうすんすか⁉︎あそこまでは距離がぐぶふ⁉︎」

 

「どうしぐほぉ⁉︎」

 

 怪獣同士の戦いを観戦する場所である。当然客席とバトルフィールドの間には防護壁が張ってある。

 しかも。

 

「君達!何を考えてるんだ!いくら中央フィールド以外使わないとはいえ、フィールド内は立ち入り禁止だぞ!」

 

 警備員達が侵入者を捕らえようとこちらに向かって走ってくる。

 

「やべぇっすよ!ここで捕まったら一巻の終わりっすよ!」

 

『この防護壁も、その先の特殊シールドも、並大抵の攻撃では破れそうにない!』

 

「あああああ!ちょっと黙ってろ!今考えてんだよ!」

 

 絶体絶命の状況の中、憐は必死に考える。

 

(考えろ、一条寺 憐!ムッチと一緒に空間転移?ダメだ、あれは一日一回。防護壁は越えられても、異次元シールドは無理だ!ちくしょう、どうすりゃ…ん?)

 

 そして、答えを導き出した。

 

「待てよ、異次元?」

 

「呑気に考えてる場合じゃないっすよ!警備員来てますって!ああもう、こうなりゃ俺の空間転移で…」

 

「いや待てムッチ!手ならある!」

 

 そう言って憐は背負っていたリュックサックからギンガスパークとスパークドールズを取り出し、リードした。

 

『ウルトライブ!バラバ!』

 

 憐がライブしたバラバが現れた瞬間、空に赤い亀裂が走り、ガラスのように砕ける。

 

《行くぞムッチ!しっかりつかまっとけ!》

 

「空割れてんすけどぉ⁉︎」

 

《やろうと思えばなんでもできる!俺は今それを体感して感動している!》

 

 ギャーギャー言ってるムッチを掴み、憐は割れ目に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ★

 〜異次元空間〜

 

『墓場へようこそ、レイオニクスの諸君』

 

「な、なんなのよアンタ…」

 

 準決勝を行うため「特殊シールド」内でスタンバイしていたナナ達四人のレイオニクスは、いつまでも合図がないことを疑問に思い、外部との連絡をしようとするが繋がらない。

 痺れをきらした一人が、怪獣を召喚しようとした瞬間、ソレは現れた。

 

「墓場?何を言っている!」

 

「俺たちを閉じ込めてどうするつもりだ!」

 

『なに、貴様らには実験に付き合ってもらうだけだ』

 

 姿はハッキリと見ることはできないが、ソレから感じる圧倒的なプレッシャーで直感的にわかってしまう。ソレ___ヤプールにはどう足掻いても勝てないと。

 

 

「実験?」

 

『そうだ。貴様らには今からこいつらと戦ってもらう。もちろん、勝てたら解放してやろう』

 

 その言葉とともにどこからともなく現れる3体の超獣。

 

「なら、とっとと帰らせてもらうわよ!いけ、エレキング!」

 

 応戦しようとエレキングを召喚しようとするナナだったが、どういうわけがバトルナイザーが機能しない。

 周りを見渡すと、他のレイオニクス達も同じように首を傾げている。

 

「どうなってるんだ⁉︎」

 

「おい、デマゴーグ!出ろ!」

 

「や、やばい!これ以上こっちにくるな!」

 

 そんな事情などお構いなしに歩を進める超獣達に、焦るレイオニクス。その光景を見て、ヤプールは満足そうに高笑いをする。

 

『フハハハハ!成功だ!レイブラッドよ、これで貴様の天下も終わりだぁ!』

 

「アタシ達に何をしたの!」

 

 ナナの声に、ヤプールは愉快そうに答える。

 

『最初に言っただろう、レイオニクスの小娘。ただの実験だ。レイオニクスを皆殺しにするための、な。フハハハハハ!』

 

「な、なによ、それ…」

 

 何事もないかのような口調で皆殺しと言うヤプールに、ナナは恐怖で体が震え、動くことができない。

 

『さあ、超獣よ!まず手始めに、このレイオニクス共を血祭りにし《そうはさせるかぁぁぁぁ!》…んん?』

 

 超獣達が一斉に攻撃を始めようとした矢先、天空から巨大な剣が飛来し、三匹の超獣を次々と切り裂いて吹き飛ばした。

 それと同時に地面に降り立ったバラバは、ナナ達を守るようにヤプールと対峙する。

 

『貴様、純粋な超獣ではないな?何者だ』

 

《俺か?俺は…》

 

 一旦言葉を切って起き上がってきた超獣達を鉄球から伸ばした鞭で再び吹き飛ばした憐は、左手の鎌を空中のヤプールに向けて自らの名を叫ぶ。

 

《地球の!一条寺!憐だぁぁぁ!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『イチジョウジ、だと?なんだそれは。新たなレイブラッドの手下か?』

 

 なにか重大な勘違いが発生している気がするが、憐にはそれを正す余裕はない。

 

《うおらぁぁぁ!》

 

 なぜなら3対1の大ピンチだからである。

 

(いやなんだよバキシム・ベロクロン・ドラゴリーって!無理ゲーだろ!)

 

 それでもなんとか戦えているのはひとえにバラバのスペックの高さゆえである。

 

『貴様、思ったよりやるな』

 

《お前に褒められても嬉しかねえ!そもそも、お前は何が目的なんだ⁉︎》

 

『目的?フン。…我々はレイブラッドに絶滅寸前まで追いやられた。この恨みを晴らすためバトルナイザーの研究を進めた結果、ついに我々はバトルナイザーの機能を停止させる電磁波の開発に成功したのだ!この電磁波を使いレイオニクス共を皆殺しにし、レイブラッドの後継者を根絶やしにするのだ!』

 

『そして、それは私達の目的と一致しています』

 

《え?誰…ぐっ⁉︎ちょま、があっ!うぐあ!》

 

 突如聞こえた第三者の声。それとともに飛来する無数の弾丸をモロにくらい倒れたところに、更に超獣達から一斉放火を受け、ナナ達の方に吹っ飛ばされながらライブアウトしてしまった憐。

 

 

「憐⁉︎しっかりして!」

 

「兄貴ぃ!」

 

「げほげほ…だ、大丈夫、大丈夫。それよりもなんなんだ一体…?」

 

 その答えはすぐに現れた。

 

「おいおい、まさかありゃあ…キングジョーブラックか?」

 

『私はペダン星のレイオニクスハンター。彼らとはいわば協力体制にあるのです』

 

「最悪じゃねぇか…」

 

「…そんなにヤバイの?」

 

「ああ…。ちくしょう、これ以上は無理か」

 

 ナナの不安そうな顔を見て、憐はムッチに指示を出す。

 

「ムッチ!頼んだぞ!」

 

「了解っす、兄貴!ほら、レイオニクスのみなさーん、集まってくださーい」

 

 そういってレイオニクス達を一箇所に集めるムッチ。

 

「ナナ。いいか、よく聞け。ジャンスターがとまってた所にお前の宇宙船がある。もし、俺が三十分たっても戻ってこなかったら、それでこの星を脱出しろ」

 

「…え?なに言ってるの?」

 

 憐の言葉に、信じられないというような表情を浮かべるナナ。

 

「だってそれじゃあ、憐が帰ってこないかもしれないみたいな…」

 

「あー、ナナ!お前ならきっと、お姉ちゃん見つけられるからさ!諦めんなよ!」

 

「なによ、それ。だって約束したじゃない!一緒に見つけてくれるんじゃなかったの⁉︎」

 

「…わりぃな」

 

「そんないやよ!アタシ、まだ憐になにも…」

 

「ムッチ!」

 

 ナナに続きを言わせないように大声で指示をだした憐にムッチは頷き、真上に泥のような何かを発射する。

 それはレイオニクス達に降り注ぎ、彼らの姿を消した。

 

 

「おい、作戦と違うんじゃねぇか?」

 

「これは俺の戦いでもあるんすよ?逃げ出せるわけないじゃないすか」

 

 予定では憐を残して全員避難するはずだったが、わざわざ脱出のチャンスを棒に振って残ったムッチに憐は苦笑する。

 

「はぁ。死んでもしらねぇぞ?」

 

 そう言ってガンパッドをとりだしながら憐はヤプール達に向き直る。

 

「わざわざ待ってくれてありがとさん。いつ攻撃されるかってヒヤヒヤしたぜ」

 

『フン。貴様一人殺すことなど造作もないことだが、どう足掻くのか興味があるからな』

 

「じゃあもう少し待っててねっと」

 

『カモン!ジャンナイン!』

 

 

『やっと僕の出番か』

 

 一瞬で自分の元に駆けつけてくれた相棒に、憐は自分の覚悟を伝える。

 

「ジャンナイン。俺も頑張るけどよ、相手が相手だからさ。俺が死んだら、あのウルトラマンに謝っといてくれねぇか?」

 

 その言葉を聞いたジャンナインは、いつもと変わらない口調で答える。

 

『憐が死ぬわけないだろう。なにせ、僕がいるんだからな』

 

 その頼もしい返答に思わず泣きそうになりながらも憐は笑う。

 

「ハハ、そうか。ならいこうぜ!ジャンファイト、ツーダッシュ!」

 

『ジャンファイト!』

 

 その音声とともにジャンスターはその姿を変え、本来の姿、ジャンナインへと変形した。

 

「兄貴、これロボットだったんすか!」

 

「お前も今から乗るんだけどな。ジャンナイン、コイツ頼んだ」

 

『ああ。ムッチ、この光の中に入れ』

 

「へ?あ、入りましたけど…」

 

 ジャンナインの目から放たれた光の中に入った瞬間、ムッチはコックピットに転送されていった。

 

 

「じゃ、行くぜ!」

 

『僕は大丈夫だが、憐。死ぬなよ?』

 

「頑張ります」

 

 憐に頷いたジャンナインは猛スピードでキングジョーブラックにタックルを仕掛け、そのまま抱きかかえて飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜ジャンナインvsキングジョーブラック〜

 

 

『キングジョーブラックが反応できない速度を出すとは驚きましたが、所詮はロボット。このキングジョーブラックの敵ではありません』

 

「だ、大丈夫なんすか?こんなに兄貴から離れちゃって。いくらなんでも三体は…」

 

『そんなに心配なら早くコイツを倒して戻らなくてはな』

 

『気に食いませんね。そんなことを言っていられるのも今のうちですよ!』

 

 その言葉とともにキングジョーブラックの右腕に装備されたペダニウムランチャーから光弾が連射される。

 しかしジャンナインはあえて動かずに全て受けた。

 

 

『口程にもありませんでしたね。…なに?』

 

 木っ端微塵に吹き飛んだと思いその場を去ろうとしたペダン星人だったが、レーダーの反応に怪訝そうな顔になる。

 

『僕を傷つけたいならその10倍は持ってこい』

 

 そして煙が晴れたさきに無傷で立っているジャンナインを見て、驚愕の表情に変わった。

 

「あのー、そーゆーことすんならもっと早く言ってもらっていいすか?死ぬかと思いましたよ」

 

『憐が前にこういうのがかっこいいと言っていたんでな。格の違い、というやつらしい』

 

『クソが、舐めやがって!』

 

 丁寧口調を忘れる程に激昂したペダン星人は、先ほどよりもさらに量を増やしてペダニウムランチャーを連射するが、全てジャンキャノンに相殺される。

 

『相棒が待ってる。早く終わらせるとしよう』

 

 ジャンナインはキャノンを連射しながら接近し、ガラ空きの頭部に左ストレートを叩き込む。

 突然放たれたレーザーを回避できず、全弾命中でボロボロなところにパンチをもろにくらったキングジョーブラックは、思い切り吹き飛んで岩山に激突してしまった。

 

『くっ、なんだ貴様は!キングジョーブラックが、ただのロボットに負けるはずが…』

 

『生憎。僕は宇宙最強ロボットという肩書きなんだ。ただのロボットには負けないさ』

 

 そう言ってジャンナインは必殺のジャンバスターを放つが、その紅い光線は再起動したキングジョーブラックにギリギリのところで四機に分離して回避された。

 

『そ、そもそもバトルナイザー無しのレイオニクスとロボットを倒したところで、私にはなんの利益もない!よってこれは戦略的tぐわぁぁぁぁ!』

 

 言い訳をしながら逃げて行くペダン星人に、ジャンナインは胸の三対の発射口から射出した追尾式の光弾「ジャンフラッシャー」を撃つ。四機のUFOは別々の方向に回避行動をとるが、追尾式なため全て撃墜された。

 それによりダメージの限界を超えたキングジョーブラックは、爆散してしまった。

 

「うわー、容赦ないっすね」

 

『…ペダン星人は逃げたようだ』

 

「へ?そうなんすか?」

 

『爆発の瞬間、空間転移の反応があったからな。まあ、今はそれよりも憐の援護に向かうべきだろう。そろそろ三分だ(・・・)

 

「へ?三分がどうしたんすか?」

 

『憐が最初からライブするとは思えないが、どちらにせよ急いだ方が良さそうだ』

 

「まあ、そうっすね!行きましょう!」

 

 




予想以上に長くなってしまったため、急遽前後編に。
続きは今週末にでもあげる予定ですが、問題が一つ。

ウルトラマンの掛け声って、文字にした方がいいのだろうか…?

アドバイスお待ちしております。


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episode6 異次元の復讐者 ー後編ー

 

〜憐vs超獣軍団〜

 

『さあ、イチジョウジよ。貴様はこの状況でどうするのだ?』

 

 ジャンナインがキングジョーブラックを連れて戦場を移した後も、超獣は一向に攻撃してこない。どうやらヤプールは、憐がどう立ち向かうのか興味があるらしい。

 

(くそっ、俺がなにをしようが負けない自信があるってことか)

 

 憐としては舐められているようで気に食わない気持ちもあるが、実際その余裕の態度のおかげで助かっている。万が一ヤプールが最初から本気だったならば、ナナと会話する暇もなく瞬殺されていただろう。

 超獣三体というのは、それほどまでに強力なのだ。

 

「くっ!こいつでどうだ!」

 

 

『ウルトライブ!レッドキング!』

 

 

 レッドキングにライブした憐は、ドラゴリーに殴りかかる。しかし、かなりの怪力を誇るドラゴリーはその拳を受け止め、隙だらけの胴体にパンチを叩き込む。

 それにより憐が怯んだところに、横合いからバキシムのバルカン砲が襲う。

 避けることができずに火花を散らしながら後退するレッドキング。

 そこにいつの間にか背後に回っていたベロクロンの全身から放たれたミサイルが全弾命中し、レッドキングは煙を上げながら倒れてしまった。

 

《はあ、はあ… ぐあっ!これは、ちょっとヤバイぞ…》

 

『フン。なんだその程度か。もういい、トドメをさせ!』

 

《ぐあぁぁぁぁ!》

 

 体に力が入らず立ち上がれないレッドキングを囲むように迫る超獣。

 そして憐は三方向からの火炎放射の前に為す術もなく、ダメージが許容量を超えたためにライブアウトしてしまった。

 

『フハハハハ!なんとも呆気ないなぁ、イチジョウジよ!』

 

 外傷はないが、先ほどのダメージによる疲労や痛みで意識を保つのが精一杯な憐。

 

(やっぱ、無理だったか…)

 

 圧倒的な力の前に、憐の心が折れかける。

 無理だ。勝てない。

 そもそも俺はなんでこんなになるまで戦ってるんだ?俺はただの高校生だろうが。いったい、何のために…

 そんな考えが頭を覆い尽くしそうになった時、憐はふと、ムッチに転移させられる直前のナナの表情を思い出す。

 悲しみ、心配、不安、失望。様々な感情がごちゃ混ぜになったあの表情は、憐が守りたい彼女の笑顔とはかけ離れたものだった。

 

(約束、か…。たしかに、したなぁ…。もし、俺がここで倒れたら、ナナを悲しませることになるのか…?)

 

「…情けねえ」

 

『そう卑下することはないぞ、人間よ。たかが人間にしては貴様は』

 

「やれることをやり切る前から、なに諦めようとしてんだよ!俺は!」

 

 ヤプールの言葉を遮り、立ち上がった憐の瞳に諦めの色はない。

 

「いつまでもビビってるなんて柄じゃねえ!いくぞ、ヤプール!」

 

 痛みを堪えギンガスパークを構えた憐の目の前に、明らかに今までとは形の違う、人型のスパークドールズが現れる。

 輝きを放つそれを憐は迷わず掴み、リードした。

 

『ウルトラーイブ!ウルトラマンティガ!』

 

 瞬間、眩い光が放たれ、周りにいた超獣が吹き飛ぶ。

 

『ぬお⁉︎この光、まさか…!』

 

 やがて光は収束し、巨人の姿となる。

 紫・赤・シルバーの三色を基調とし、胸のプロテクターの中心には青く輝くカラータイマー。額には菱形のクリスタルを持つその巨人の名は、ウルトラマンティガ。

 

『テェア!』

 

 ティガは空中のヤプールを一瞥した後、いち早く起き上がったバキシムに向かってファイティングポーズをとる。

 そのままバキシムに向かっていくティガ。それを阻もうとバキシムはバルカン砲を発射するが、ティガは地面を思い切り踏み切りジャンプで避けると、空中で一回転してから飛び蹴りを放ち、バキシムを押し倒す。

 直後ベロクロンの腕が振り下ろされるが、着地してすぐに前転でその場を離れたティガには当たらない。ハンドスラッシュでベロクロンを怯ませたティガはさらに攻撃を加えようとしたが、横合いからドラゴリーによるタックルで体勢を崩された上に、バキシムの突進をくらって吹き飛んでしまった。

 

『フン、所詮は人間か』

 

(舐めやがって…ティガの力、見てろよ…!)

 

『ハァー…ハッ!』

 

 ティガは両腕を額の前でクロスさせ力を溜めた後、振り払うように手を下ろす。

 すると、ティガの身体が瞬く間に変化していく。

 体色は赤とシルバーになり、体つきも一回り大きいように感じられる。圧倒的な力を持つ、パワータイプである。

 

『フン!』

 

 気合を入れるように拳を握りしめて構えをとると、3体の超獣に向かっていく。

 横一列になって突進してくる超獣達。

 ティガはそれに全く怯まず、まずは真ん中にいるドラゴリーにタックルをくらわせ下がらせる。

 続けざまに襲いかかってきたバキシムの頭突きをティガは両腕をクロスすることで防ぐ。

 その隙だらけの背中を狙ってベロクロンが突進してくるが、すぐさまバキシムを押し返したティガは、後ろを振り返りベロクロンの腹に渾身の蹴りを放つ。

 そのあまりの威力に宙を舞いながらかなりの距離を飛んでいくベロクロン。

 

『バカな…なぜそこまで戦える?なぜ貴様はレイオニクスを守るのだ。奴らはあのレイブラッドの後継者になることが目的の、この宇宙の害虫だぞ!』

 

 飛びかかってきたドラゴリーに肘鉄を決める。腹を抱えるドラゴリーに、頭部に膝蹴りを与えることでのけぞらせることでガラ空きになった胴体に連続パンチを叩き込む。トドメとばかりに放たれた、赤色のエネルギーを纏った右ストレートをくらったドラゴリーは吹っ飛び、立ち上がろうとしていたベロクロンを巻き込みながら地面に落ちる。

 

《お前らがレイブラッドに絶滅寸前まで追いやられたのは事実だし、それに関しては被害者だから復讐したい気持ちは理解できる。ただな、このやり方は間違ってる。レイオニクスは悪いやつばかりじゃないし、レイブラッドの後継者が悪い奴とは限らない。お前らがやろうとしていることは、レイブラッドとなんら変わりはない!》

 

 突っ込んできたバキシムを、その勢いを利用して背負い投げをする。倒れたバキシムの尻尾をつかみ、思い切り振り回してベロクロンとドラゴリーの上に落とす。

 再びマルチタイプに戻ったティガは、もがく三体に向き直り、肘を曲げて両腕を腰のあたりまで引く。そして一気に腕を伸ばして胸の前で交差。それを腕が横一直線になるように広げると、ティガのカラータイマーにエネルギーが集まっていく。

 

《これで終わりだ!》

 

 憐が腕をL字に組もうとした瞬間にヤプールが発した言葉は、その動きを止めるのには充分だった。

 

『いいのか?そいつらは全て、今まで捕らえたレイオニクス共の怪獣を合成したものだぞ?』

 

《なに⁉︎》

 

 憐は動揺して思わず構えを解いてしまう。

 その隙に上に覆い被さっていた二体を押しのけてベロクロンが立ち上がる。ティガはその口から発射されたミサイルをモロにくらい、吹き飛ばされてしまった。すぐさま立ち上がろうとした時、ティガのカラータイマーが赤に変わり、点滅を開始した。

 

(残りは1分…。でも、これからどうすれば…)

 

 超獣達の攻撃を側転やバク転で避ける憐の耳に、よく知る声が聞こえた。

 

『憐、大丈夫か?』

 

「兄貴!いや〜よかった!無事…いや、かなりピンチみたいっすね」

 

《…あいつら、元は怪獣らしいんだ。だとしたら、俺にはあいつらは倒せねえ。かと言っておとなしくやられる気もない。一体、俺はどうすれば…》

 

 仲間達が駆けつけてくれたのは嬉しいが、攻撃できない状況は変わらない。

 すでに残りは40秒もなく焦る憐に、ムッチは穏やかな声で伝える。

 

「いいんすよ。やっちゃってください」

 

《なっ⁉︎何言ってんだ!お前の怪獣も》

 

「だから!…楽にしてやってください。すいませんっす、嫌な役やらせちまって。でも、あいつらも喜ぶと思うんです」

 

 何か他に方法はないかと考えるが、もう時間がない。

 ティガは悔しそうに拳を握りしめた後、もう一度ゼペリオン光線の構えをとる。

 

『ぐうっ!何をしている!奴をとめろ!』

 

『憐の邪魔はさせない』

 

 憐が迷いを振り切ったのを見て焦ったヤプールに指示され、超獣達は一斉に火炎放射で憐を止めにかかるが、それらは全てジャンナインによってティガに届く前にジャンフラッシャーで打ち消される。

 

《ちくしょぉぉぉぉぉぉ!》

『ハァァァァ…チャア!』

 

 残る全ての力で放たれた巨大な光の奔流は超獣達を纏めて飲み込み、跡形もなく消し去る。そしてそのまま、ティガは空中のヤプールに体を向ける。

 

『フハハハハ!気でも狂ったか?実態を持たない今の我らにはきかん!そのままエネルギー切れで…なんだ?』

 

 ヤプールはあざ笑っていたが、異変を感じ後ろを振り返る。すると、空にヒビが入っていた。

 憐の狙いはヤプールではなく、ここを囲う特殊シールドだったのだ。その狙いにいち早く気づいたジャンナインは、既に同じ場所にジャンバスターをぶつけている。

 

『やめろぉ!貴様ぁ、よくも!』

 

《うおらぁぁぁぁぁあ!》

 

「いけぇぇぇぇ!」

 

『ッ!崩壊するぞ!』

 

 やがてそのヒビが全体に広がり、甲高い音を立ててシールドが砕け散る。

 久振りに見る空には既に太陽がなく、茜色に染まっていた。

 

『おっと』

 

「おお、ありがとうジャンナイン。死ぬかと思ったぜ」

 

 シールドを破壊し終わるとともにカラータイマーから光が消え、ティガの体が粒子となって弾ける。時間切れによる強制ライブアウトで空中に放り出された憐を、ジャンナインが手のひらでキャッチした。

 

『ぐおぉぉぉ…。イチジョウジ、レン。我らは復讐をやめん!そして、その邪魔をした貴様も、絶対に許さん!』

 

「ふぅ。望むところだ。俺はその度、お前を止めてやる!」

 

『フン!せいぜい次に会う時を楽しみにしているがいい。フハハハハハハ…』

 

「…できれば会いたくないけど」

 

 耳に残る高笑いと共に、空に溶けるように消えたヤプール。

 

「終わったんすかね?」

 

『マイナスエネルギーの反応は無いが…』

 

「ああ、多分な。また来るって言ってたけど…」

 

 ヤプールに目を付けられるとか終わりじゃね?とげんなりしていた憐に、ムッチが声をかける。

 

「あの、兄貴。いや、憐さん」

 

「ん?なんだムッチ、改まって。俺今クソ疲れてんだけど」

 

「いや、あのほんとうにありがとうございました。俺も復讐を果たせたし、憐さんのおかげで、怪獣達も無事に成仏できたと思います」

 

「だといいんだけどな。なんだかんだ言って怪獣殺しちまったのは今回が初めてだし、結構きてるんだよね、俺」

 

 とりあえずそれは置いといてさ、と疲れたように、しかしどこかほっとした様子で憐はこう続けた。

 

「ま、一件落着、だろ?」

 

 暗くなり始めた空に、一番星が輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「…憐。アンタ、アタシになにか言うことはないかしら…?」

 

 ヤプールにより捕まったレイオニクス達を解放した後、ナナの宇宙船を置いてきた場所へと戻ってきた憐達を出迎えたのは、顔を俯かせて立ちすくんでいるナナだった。

 表情はわからないが、その姿に言いようのない恐怖を感じた憐は直感的に彼女が怒っていることを理解する。

 

「うぇ⁉︎あ、えっと…あー…本当に!すいませんでしたぁぁぁぁ!」

 

 

 憐達がヤプールの企みを見事阻止し、現実世界に戻ってきた時には既に日が暮れていた。大会が始まったのがまだ太陽が真上に来る前だったことと、憐達が戦っていた時間がわずか三十分程だったことを踏まえて考えると、あの四次元空間は時間の流れが遅いということが予測できる。とここで、憐がナナに言ったことを思い出してみよう。

 

『…もし、俺が三十分たっても戻ってこなかったら、ナナは…』

 

 となれば。

 

「…そうよね。アタシが今までどんな気持ちで待ってたか、少しは想像できるわよね?」

 

 ナナは異次元空間から脱出後、憐に言われた通りにジャンスターがあった場所まで行ったが、やはり一人でにげる気には到底なれずにずっと憐の帰りを待っていた。結局、憐が帰ってきたのは六時間後。周りのレイオニクスがどんどん惑星から脱出していく中、一人で待ち続けたナナの心中は計り知れない。

 

「あ、ああ。本当に悪かっtグフッ⁉︎」

 

「…悪かった?そう思ってるなら、なんでもっと早く帰ってこなかったのよ!あの時、憐のことを見捨てて一人で逃げろって言われた時の、アタシの気持ちわかる⁉︎わからないわよね、アンタには!」

 

 殴り倒された憐は、地面に大の字になったまま黙ってナナの言葉を聞いている。

 

「この星に行きたいって言ったのはアタシよ?そのせいでこんなことに巻き込まれたのに、原因を作ったアタシはただ逃げるだけで、本来狙われることのなかった憐がアタシを助けるために死ぬ覚悟で戦ったのよ⁉︎」

 

「でも、俺は今生きてる」

 

「それは結果論でしょ!アンタみたいな度を超えたお人好しは自分を犠牲にしてもみんなが助かればいいとか思ってるんでしょうね。でもそれで助かってもアンタが死んじゃったら、残された人は喜ぶと思う⁉︎」

 

「…!」

 

「…三十分たっても全然憐が帰ってこなくて、ほんとに死んじゃったのかと思った。アタシがあんな大会に出なければこんなことになんなかったのにって。…ハハ、よく考えたらアタシ、憐に迷惑しかかけてないじゃん。そうだよ、これからもこんなことが続くなら、アタシなんていないほうが…」

 

「おい、そこまでにしろよ…!」

 

 ナナは、確かに怒っていた。自分の身を顧みずにナナを助けにきた憐を。しかしそれ以上に、何もできずに憐を危険に晒してしまった自分自身に怒っていた。

 そしてまた、憐も怒っていた。自分を責めるナナに。そしてナナにそんな思いを抱かせてしまった不甲斐ない自分に。

 

「俺はお前のことを迷惑だなんて思ったことは1度もないぞ?ま、暴力はできればやめてほしいけどな」

 

 そう言って静かに立ち上がりながら笑う憐。

 

「なんで、なんで笑ってられるのよ!死にそうな目にあったのよ?体もそんなボロボロにして、アタシのせいで…」

 

「だから、その『アタシのせいで』っつーのをやめろって。確かに死ぬかもしれなかったし、めちゃくちゃ怖かったよ。でもよ、こうして無事帰ってこれたし、ヤプールの企みも阻止できた。そのおかげで助かった人達もたくさんいる。こーゆーのは全部、ナナがこの星に行きたいって言った『おかげ』、だろ?」

 

「でも…」

 

「あー!やめろ!でもとかだってとか言うのもやめろ!…まぁ、なんだ。ずいぶん遅くなっちまったし、散々待たせて悪かったんだけどさ。ほら、俺帰ってきたじゃん?だから…おわっ⁉︎」

 

 その続きはナナには必要なかった。勢いよく抱きつくと、憐に花のような笑顔を見せた。

 

「おかえり!」

 

「…おう!ただいま」

 

 すると、突然ナナが泣きはじめる。

 

「…ふ、う、うわぁぁぁぁん!」

 

「え、ええ⁉︎なんだ!どうした急に⁉︎俺なんかした⁉︎」

 

「うう、怖かったよぉ。ひっく、あのまま、憐が死んじゃったら、どうし、ようってそればっかり、一人だから、余計にか、考えちゃって…無事でよかったよぉぉぉ…」

 

 どうやら相当不安だったらしい。1人だったから余計に心細かったのだろう。抱きついて泣き続けるナナに、どうすればいいのかわからない憐は、とりあえず、という感じでぎこちなく頭を撫でるのが精一杯だった。

 

「あ、ああ。ほんとうに不安にさせることばっか言ってごめんな?もう大丈夫だから、泣き止んでくれよ、な?…ああ、もうどうすれば…てかおい!ムッチ!なに離れたところで見守ってんだ!」

 

 空気をよんだムッチは、話が始まる前にすでにジャンスター内に逃げ…移動していた。

 

「いやー、俺には無理っす!兄貴、ほんと尊敬します!」

 

「な、おい!ちょっ、その暖かい目をやめろ!そしてジャンナイン!なんかいい案ない?」

 

『ただいま(笑)』

 

「ッざけんなコラァ!喧嘩売ってんのかああ⁉︎」

 

「ふぇぇぇぇぇぇん!助けてくれたのに酷いこと言っちゃってごめんなさぁぁぁい!」

 

「いや全っ然!全っ然気にしてないからそんなこと!てかなんか、こいつ幼児退行してね⁉︎」

 

『「ただいま。…プッ」』

 

「お前らァァァァァ!」

 

 夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「はい、憐。アーン」

 

「むぐっ…うん。いや美味しいけどさ。うん、確かに手料理が食べたいって言ったけどさ。これは違くないですかね?」

 

「ダメよ、安静にしておかなきゃ。動けないんでしょ?それにこんな美少女に食べさせてもらってるんだからもっと喜びなさい。あ、でも治ったらもうやんないから」

 

『「ニヤニヤ」』

 

「うわぁぁぁ、なんだこの羞恥プレイ!お前は恥ずかしくな…いてぇ!あ、あぁ…」

 

 なんとか泣き止んだナナと共にジャンスターに戻ろうとした憐だったが、体が動かず倒れてしまった。ナナとムッチにひきずってもらってジャンスター内に入りジャンナインに見てもらった結果、全身筋肉痛という診断をうけた。原因はもちろんティガへのライブである。運動神経はいい方の憐も、流石に生身であの時の動きはできない。しかし、普段なら無理なはずの動きも、ティガの身体能力なら自分が思ったとおりに体を動かすことができてしまうため、何も考えずにフルで使った結果、憐の肉体が慣れない動きに対応しきれなかったのだった。

 動けない憐はベッドに横になっていたが、相当なエネルギーを消費したため当然腹がへる。どうしようか、と考えた末、ナナが食べさせて、それをムッチとジャンナインがニヤニヤしながら見るという今の構図が出来上がった。

 

「ちょっと動かすだけで痛い…!そ、それはそうと、ムッチはどうするつもりなんだ?」

 

「うーん、そうっすね。バトルナイザーは取り戻しましたけど、怪獣がいなしなぁ…」

 

 レイオニクス達を解放したついでに、保管されていたバトルナイザーを取り戻したムッチだが、肝心の怪獣がいないため自衛のための手段を持っていない状態だった。

 

「それなら、俺達の旅についてくるか?」

 

「マジすか⁉︎」

 

「ああ、だけどよく聞いてくれ。これはナナもだ」

 

 真剣な表情の憐に、二人も気を引き締める。

 

「俺の旅は、常に危険がつきまとう。多分、今回よりももっと厳しい戦いがあると思う。…これを聞いた上でもついてくるか?」

 

「なーんだ、そんな話。真剣に聞いて損したわ」

 

 呆れたような顔でそう言うナナに、憐は思わず耳を疑う。

 

「そんなことって、命がかかってるんだぞ⁉︎俺一人じゃ、お前らを守りことさえ」

 

「なーに言ってんのよ。アタシが守られるばっかりなわけないでしょ?もっと頼って、憐」

 

『そうだ。憐は一人じゃない。僕らがついてる』

 

「兄貴は俺の恩人っすよ?その恩を返さねぇなんざ漢がすたるってもんよ!ぜひ、お供させてください!」

 

「アンタ、なんか暑苦しいわね…」

 

「酷くないっすか⁉︎」

 

 そんな仲間達の言葉を受け、憐は零れそうになった涙を手で拭うと、上半身を起こす。

 

「いててて…」

 

「え⁉︎なにしてんのよ!」

 

『まったく、絶対安静だと何度言えば…』

 

「いや、大丈夫だ。俺にはもし倒れても、支えてくれる仲間がいるからな。だろ?」

 

「憐…!」

 

「兄貴、それじゃあ…!」

 

「おう!これからもよろしく頼むぜ、みんな!」

 

 新たな仲間が加わり、彼らの旅はまだまだ続く。その先に何があるかは誰もわからないが、しかし彼らは前へ進み続ける。

 

 

 第一章 完




はい、とゆーことで第一章 完です。次回のお話から第二章が始まります。
まぁ第二章と言っても基本的には今までと変わらないんですけどね。あれですよ。ゼロファイトの第一部第二部的な。全然違いますね。

えー読んでくださってる皆さんからの宇宙人・怪獣のリクエストは随時受け付けておりますので、よろしければ活動報告のリクエスト募集中のところに返信していただくか僕に直接送るかのどちらかでお願いします。
あと、次回の更新は二、三週間後になってしまいそうなので、気長に待っていただければ幸いです。もしかしたら少し早くなるかもしれませんが。

では、これからもこの小説をよろしくお願いします!


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スパークドールズ劇場 その一
登場キャラクター設定(fromスパークドールズ)


ここにある怪獣達の設定はこの小説内のものなので、公式とは違うものがかなりあります。


〜スパークドールズ劇場〜

 

レ「どうもどうも、やっと出番が回ってきたでごわす」

 

ハ「は〜い、今回は、今まで出てきたキャラクターの紹介だよ〜。ナビゲーターはわたし、ハンザギランと〜」

 

レ「列伝に出たこともあるオイラ、レッドキングでごわす。では、さっそくいくでごわす」

 

 

○キャラ紹介

 

● 地球人 一条寺 憐

・身長:1.76m

・体重:0.060t

・プロフィール

ウルトラマン大好き高校生(17)。顔は中の上くらい。正義感が強く、困った人がいると自分の用事をほったらかしてでも助けてしまうため、遅刻魔として有名だった。身体能力は高い方で学力もまあまあだが、頭のキレはかなりいい。また記憶力もよく、ほぼ全ての怪獣を覚えている。

謎の巨人の頼みで大怪獣バトルの宇宙、即ちM78星雲がある宇宙の、危険因子によって崩れたバランスを保つためにやってきた。その際、ギンガスパークとガンパッドを授かる。ちなみに、そのギンガスパークの効力で勇気が上がっている。普通の高校生はヤプール相手にまともに戦えません。

ナナのことは可愛い妹のように思っている、つもり。

・所持アイテム

ギンガスパーク

ガンパッド

宇宙服(ジャンナインver.)

・所持スパークドールズ

レッドキング

ベムスター

キングクラブ

バラバ

ハンザギラン

???

???

ウルトラマンティガ

 

 

 

●変身怪人ピット星人 ナナ

・身長:1.57m

・体重:閲覧禁止

※人間態も同じ

・プロフィール

自他ともに認める美少女。強者との戦いを求めて宇宙に飛び出したレイオニクスの姉を心配して連れ戻すために旅に出た、若干シスコン、もとい姉思いの心優しい活発な女の子。年齢は14歳くらい。憐のアホな行動や、照れ隠しの時によく暴力をふるってしまう(本人は割と気にしている)。あと結構泣き虫。姉が突然いなくなったことで、1人になること、置いていかれることに本人は気づいていないが若干怯えている。

エレキングは生まれた時から一緒にいるパートナー。自身もかなりの実力を持つ怪獣使いで、姉以外には未だ負けなしである。

惑星ナオでの一件により、憐の無茶な行動に目を光らせている。

・所持アイテム

バトルナイザー

小型宇宙船

バルンガコア

・使役怪獣

エレキング

 

 

 

 

●誘拐怪人ケムール人 ムッチ

・身長:1.9m

・体重:0.040t

・プロフィール

ノリが良く、気さくな性格をしている。憐のことを兄貴と呼んで慕う。年は16歳くらい。逃げ足の速さは超一流らしい。空間転移能力を持つ。

実は凄腕のレイオニクスで、レイオニクス大会で優勝するほどの実力を誇るが、ヤプールに捕まり相棒だった怪獣も超獣に改造されてしまった。

憐の人柄に惹かれ、旅についてくることになった。

・所持アイテム

バトルナイザー

・使役怪獣

なし

 

ハ「みんなまだ子供なんだね〜」

 

レ「若いのに大変でごわすね。でも強いから大丈夫でごわすよ」

 

ハ「そうかなぁ〜。まあいっか、次はヒーロー図鑑だよ〜」

 

 

○登場ヒーロー図鑑

 

●ジャンナイン

・身長:50m

※ジャンスター時35m

・体重:3万t

・初登場:ウルトラマンゼロ外伝「キラーザビートスター」

・プロフィール

謎の巨人から憐の補佐を任された、正義の心を持ったロボット。宇宙最強ロボットの称号を持つ。また、憐達の拠点兼移動手段である宇宙船「ジャンスター」にも変形可能。このジャンスターは割と広く、コックピットの他、各自の個室や格納庫に研究室など様々な部屋があるが、憐達がよく使うのはコックピット。

本人はあまり感情というものを理解していないつもりだが、憐達と暮らす内に確実に人間臭くなってきている。

戦闘の際は、最強の名に相応しいハイスペックな戦闘能力で敵を倒す。その優秀な頭脳で敵の弱点を解析し、常に有利に戦いをすすめる他、高い格闘能力はもちろんのこと、腹部のバックル状のパーツから放つ超強力レーザー「ジャンバスター」。胸の六つの発光体から発射する誘導光弾「ジャンフラッシャー」、ジャンスター時でも使用できる二連ビーム砲「ジャンキャノン」などなど、全身武器の塊であるためものすごく強い。今後も新たな技を披露する予定なので乞うご期待。

ちなみに憐の宇宙服はジャンナインがデザインしたもので、カラーリングがジャンナインのものであるのはもちろんのこと、胸の六つの発光体を飾りボタンで表現したり、頭部のデザインをそのままヘルメットにしたりとかなりジャンナインなデザインとなっている。もちろん性能はとてもいい。憐には好評である。

 

 

●どくろ怪獣レッドキング(SD)

・身長:45m

・体重:2万t

・初登場:ウルトラマン第8話「怪獣無法地帯」

・プロフィール

憐が始めてライブした怪獣。凄まじい怪力を誇る。知能が低いのが弱点だが、憐がライブしているため克服されている。憐曰く一番使い勝手がいいらしい。つぶらな瞳がチャームポイント。

 

 

●大蟹超獣キングクラブ(SD)

・身長:88m

・体重:6万3千t

・初登場:ウルトラマンA第15話「黒い蟹の呪い」

・プロフィール

カブトガニと宇宙怪獣を合成した超獣。額から放つ高熱火炎「クラブ光線」が武器だがバルンガには効かないため、憐は主に口の大鋏を使うためにライブした。火炎なのになぜ光線なのかはよく分からない。透明化もできる。

ナナに顔がキモイと言われたため、憐が使う機会はもうないかもしれない不遇な怪獣。

 

 

●液汁超獣ハンザギラン(SD)

・体長:59m

・体重:4万t

・初登場:ウルトラマンA第47話「山椒魚の呪い!」

・プロフィール

口から放つ溶解液が主な武器。大山椒魚が超獣となったもので、異常な生命力を持つ。

ハンザギランにライブした時に憐は四足歩行の難しさを思い知ったためハイハイの練習を始めたが、ナナに恥ずかしいからやめろと止められた。

 

 

●宇宙大怪獣ベムスター(SD)

・身長:46m

・体重:6万1千t

・初登場:帰ってきたウルトラマン第18話「ウルトラセブン参上!」

・プロフィール

腹部の五角形の口から様々な物質を吸収し、自らのエネルギーにする強力怪獣。頭の角から放つ光弾が武器。その他にも宇宙怪獣だけあって空中戦で高い機動力を発揮するが、背中がガラ空き、切断技に弱いなどの弱点もある。憐は主に防御用怪獣として使う予定らしい。

 

 

●殺し屋超獣バラバ(SD)

・身長:75m

・体重:8万5千t

・初登場:ウルトラマンA第13話「死刑!ウルトラ5兄弟」

・プロフィール

アゲハ蝶の幼虫と宇宙生物を合成した超獣。腕の鎌と鞭、頭の巨大な剣、そこからの痺れ光線、超獣の標準装備である火炎放射など様々な攻撃を行う、憐がライブできる怪獣では最強なんじゃないかぐらいのスペックを持つ。やっぱり透明状態になれる。

思いつきでやってみたら空が割れて四次元空間いけちゃった。

 

 

●ウルトラマンティガ(SD)

・身長:ミクロ〜53m

・体重:0〜4万4千t

・初登場:ウルトラマンティガ第1話「光を継ぐもの」

・プロフィール

超古代から蘇った光の巨人。状況に応じてマルチ、パワー、スカイの3タイプにチェンジする。マルチタイプの必殺技は腕をL字に組んで放つ「ゼペリオン光線」。ウルトラマンの身体能力は憐が頭の中でイメージした動きをそのまま再現できるほど高いが、当然憐の肉体はついていけないので、体を鍛えない限りライブアウトした途端に筋肉痛で動けなくなる。ちなみに夢だったウルトラマンになれたことから、憐は事件解決後一週間はテンション上がりっぱなしだった。

 

 

●宇宙怪獣エレキング

・身長:53m

・体重:2万5千t

・初登場:ウルトラセブン第2話「湖の秘密」

・プロフィール

ナナの使役怪獣。ピット星に多く生息している。ナナとはずっと一緒に育ってきたため固い絆で結ばれていて、憐とも仲がいい。

高い格闘能力の他、尻尾を巻きつけての放電攻撃や、口から放つ三日月状の光線「ライトニングカッター」(命名ナナ)、その派生技である「ライトニングスラッシュ」、全力全開の「フルバースト」など多彩な技を持ち、これからも増える予定。頭の角は電磁レーダーになっている。

 

レ「おいらが一番使いやすいなんて嬉しいでごわす」

 

ハ「むー!私も使いやすいって言ってもらいたいなー!…あ、そうだ〜!私が二足歩行の練習をすればいいんだ〜!」

 

レ「それはちょっと違うと思うでごわす…」

 

 

○登場怪獣・宇宙人図鑑

 

 

●宇宙海人バルキー星人

・身長:1.8〜49m

・体重:0.1〜2万2千t

・初登場:ウルトラマンタロウ第53話「さらばタロウよ!ウルトラの母よ!」

・プロフィール

三人組でナナに突っかかっていた宇宙人。しかし実際はマイナスエネルギーの影響で性格が変わってしまっただけでいい人達だった。リーダーはレイオニクス。

 

 

●宇宙大怪獣アストロモンス

・身長:60m

・体重:5万8千t

・初登場:ウルトラマンタロウ第1話「ウルトラの母は太陽のように」

・プロフィール

バルキー星人の使役怪獣。腹の巨大なチグリスフラワーから放つ溶解液、腕の鞭や鎌が主な武器。憐のライブしたレッドキングに小惑星に叩きつけられて敗れる。

 

 

●宇宙植物獣人モネラ星人

・身長:1.11m

・体重:0.044t

・初登場:映画ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ 光の星の戦士たち

・プロフィール

惑星レラトニーに移住していたモネラ星人の一団。かなりの科学力を誇り、自立型宇宙船や生物兵器などを持っているが、バルンガにはどれも通用しなかった。憐は幼い時に見たダイナの映画により若干モネラ星人にトラウマをもっていた。

 

 

●風船怪獣バルンガ

・体長:0.005〜10万m

・体重:不明

・初登場:ウルトラQ第11話「バルンガ」

・プロフィール

エネルギーを吸って無限に成長する怪生物…と思いきや、実はイーヴィルクリスタルによって突然変異を起こした宇宙ゴケだった。どんなものでも体に触れればたちまちエネルギーを吸い尽くす恐ろしい性質を持つが、憐がライブしたキングクラブの大顎で引き裂かれてエネルギーが漏れ出し、元の大きさに戻った。

 

 

●海底原人ラゴン

・身長:2m

・体重:0.1t

・初登場:ウルトラQ第20話「海底原人ラゴン」

・プロフィール

惑星ワッカに昔から住んでいる種族。主な収入源は観光業で、音楽を好む。憐達に食料をくれた。

 

 

●三面怪人ダダ

・身長:1.9〜40m

・体重:0.070〜7千t

・初登場ウルトラマン第28話「人間標本5・6」

・プロフィール

ワッカに旅行で来ていた。聞き込みをしていた憐にセクハラをした。

 

 

●宇宙猿人ゴローン星人

・身長:2〜35m

・体重:0.2〜8千t

・初登場:ウルトラセブン第44話「恐怖の超猿人」

・プロフィール

ワッカに観光には来ていた。ナナの聞き込み調査を受けたが、ナナに興奮してまともに会話できなかった。

 

 

●分身宇宙人ガッツ星人

・身長:2〜40m

・体重:0.2〜1万t

・初登場ウルトラセブン第39話「セブン暗殺計画(前編)」

・プロフィール

ワッカには遊びに来ていた。憐にリラックスタイムを邪魔されてキレた。口癖は「磔にしてやろうか?」

 

 

●海獣ゲスラ

・体長:60m

・体重:1万t

・初登場:ウルトラマン第6話「沿岸警備命令」

・プロフィール

水を浄化する働きを持った魚達がイーヴィルクリスタルの影響で巨大化した姿。口から汚水の塊を吐く。背ビレに強力な毒を持っているが、同時に毒素が溜まっているところなので弱点でもある。

 

 

 

●サーベル暴君マグマ星人

・身長:1.9〜57m

・体重:0.075〜2万2千t

・初登場:ウルトラマンレオ第1話「セブンが死ぬ時!東京は沈没する!」

・プロフィール

惑星ナオで開かれるレイオニクス大会の参加者を少しでも減らして自分達が優勝できるようにするため、様々な星でレイオニクス達を暗殺していたマグマ星人の兄弟。憐達に敗れたあと大会に出たが、二人とも初戦敗退だった。

 

 

●凶剣怪獣カネドラス

・身長:62m

・体重:3万9千t

・初登場ウルトラマンレオ第5話「泣くな!お前は男の子」

・プロフィール

頭のドラスカッター、口からの火炎が武器。マグマ星人弟の使役怪獣。ナナのエレキングに倒された。

 

 

●毒ガス怪獣サタンビートル

・身長:54m

・体重:3万t

・初登場:ウルトラマンレオ第25話「かぶと虫は宇宙の侵略者!」

・プロフィール

腹からのロケット弾、口から毒ガスを放ち、空中戦も得意なマグマ星人兄の使役怪獣。憐のライブしたハンザギランを不意打ちしたが失敗に終わり、最後はベムスターにライブした憐に敗れた。

 

 

●火炎怪人キュラソ星人 キューラ

・身長:2.5〜43m

・体重:0.250〜1万t

・初登場:ウルトラセブン第7話「宇宙囚人303」

・プロフィール

レイオニクス大会のAブロック第一回戦に出場した宇宙人。決勝まで進んだ。

 

 

●光波宇宙人リフレクト星人 カッキー

・身長:0〜50m

・体重:0〜5万5千t

・初登場:ウルトラマンメビウス第34話「故郷のない男」

・プロフィール

レイオニクス大会のAブロック第一回戦に出場した宇宙人。激戦を繰り広げたが惜しくも初戦敗退だった。

 

 

●巨大異星人ゴドレイ星人 ドーラ

・身長:0〜50m

・体重:0〜5万t

・初登場:ウルトラマンマックス第25話「遥かなる友人」

・プロフィール

ナナの初戦の相手。紳士っぽく振舞っている。怪獣より本人の方が強いんじゃないかと噂される。どうやってバトルナイザーを持っているかは、ご想像にお任せします。

 

 

 

●空間転移怪獣メタシサス

・身長:57m

・体重:4万9千t

・初登場:ウルトラマンマックス第10話「少年DASH」

・プロフィール

テレポーテーション能力を持つドーラの使役怪獣。重力を操ることと、口内の触手から放つ電流が武器。自身が出す極短周波でエレキングのレーダーに居場所を特定され、ライトニングスラッシュで倒された。

 

 

●空間移動宇宙人ターラ星人 ラン

・身長:1.8m

・体重:0.092t

・初登場:ウルトラマンマックス第19話「扉より来たる者」

・プロフィール

ナナの二回戦の相手。テクニックタイプらしいが、ナナに大会最短記録で倒されてしまった。持久戦に持ち込めばいい勝負だったかもしれない。

 

 

●バリヤー怪獣ガギ

・身長:64m

・体重:6万6千t

・初登場:ウルトラマンティガ第10話「閉ざされた遊園地」

・プロフィール

ランの使役怪獣。頭のツノと腕のムチで戦う。展開するバリアはかなり強固なものとなっている。

 

 

●異次元人ヤプール

・身長:不定

・体重:0

・初登場:ウルトラマンA第1話輝け!ウルトラ五兄弟」

・プロフィール

数多の超獣を作り出し、ウルトラ選手達を苦しめてきた極悪人。今回憐達の前に現れたものは怨念のみで実体を持たず、巨大ヤプールの上半身のみの姿で宙に浮いていた。自分達を絶滅寸前まで追いやったレイブラッド星人に復讐するため、大会を開いてレイオニクスを捉えバトルナイザーを解析。その機能を停止させる電磁波の開発に成功した。特殊フィールド内の異次元空間内でナナ達を抹殺しようとしたが憐に阻まれ失敗。最期はウルトラマンティガとジャンナインに特殊フィールドを壊され、復讐を誓いながら消えていった。

 

 

●ミサイル超獣ベロクロン

・身長:55m

・体重:4万4千440t

・初登場:ウルトラマンA第1話「輝け!ウルトラ五兄弟」

・プロフィール

捕えられたレイオニクス達の怪獣を合成・改造して生み出された超獣。全身の突起物や爪、口からミサイルを発射する。

 

 

●一角超獣バキシム

・身長:65m

・体重:7万8千t

・初登場:ウルトラマンA第3話「燃えろ!超獣地獄」

・プロフィール

捕えられたレイオニクス達の怪獣を合成・改造して生み出された超獣。手先からの火炎放射とバルカン砲、頭のツノをミサイルとして放つ、などが主な武器。

 

 

●蛾超獣ドラゴリー

・身長:67m

・体重:5万8千t

・初登場:ウルトラマンA第8話「太陽の命 エースの命」

・プロフィール

捕えられたレイオニクス達の怪獣を合成・改造して生み出された超獣。口からの高熱火炎と、憐のライブしたレッドキングを凌ぐ腕力が武器。特に過去のエースとの戦いでは、その腕力でムルチをバラバラに引き裂き、現在のTVでは放送出来ないような惨状を作り出したことで有名。ウルトラマンギンガでも登場するなど割と人気が高い。

 

 

●ペダン星人

・身長:2m

・体重:0.050t

・初登場:ウルトラセブン第15話「ウルトラ警備隊 西へ(後編)」

・プロフィール

下っ端のレイオニクスハンターだったが野心が強く、手柄を上げる機会を常に狙っていた。当初はレイオニクス大会にやって来たレイオニクス達を一網打尽にしようとしていたが、彼の目的を知ったヤプールと接触して協力することになった。キングジョーブラックを内部で操縦していたが、爆発の間際に円盤で脱出し、ペダン星に逃げ帰った。

 

 

●宇宙ロボットキングジョーブラック

・身長:55m

・体重:5万t

・初登場:ウルトラギャラクシー大怪獣バトル第9話「ペンドラゴン浮上せず!」

・プロフィール

ペダン星の超高性能戦闘ロボット。右腕に装備された「ペダニウムランチャー」や、頭部から放つ光線「ハイパー・デストレイ」が主な武装。四機の円盤に分離することも可能で、瞬時に分離して敵の攻撃を避けることもできる。

余談だが、大怪獣バトルを見ていた作者はこのキングジョーブラックが終盤ゴモラに次々と倒されていった時になぜだか悲しい気持ちになった。

 

 

レ「あれ?これで終わりでごわすか?あの謎の巨人とかについては…」

 

ハ「あ〜、それはネタバレになっちゃうからダメなんだって〜」

 

レ「ネタバレ、とはなんでごわすか?」

 

ハ「分からないならいいんだよ」

 

レ「な、なんか怖いでごわす…ん?敵襲でごわすよ!」

 

「そうだな、ここは…久々にハンザギランでいくか!」

 

ハ「やった〜!憐くんわたしと一緒に戦ってくれるんだ〜!よ〜し、がんばるぞ〜!」

 

レ「じゃあ、今回はこの辺で」

 

ハ・レ「「バイバ〜イ(でごわす)」」

 




遅くなってすいません。つっても設定だけなんですがね…。
忙しすぎるので本編の更新はもう少しかかりそうですが、気長にお待ちいただけると幸いです。
では、次回もよろしく!


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第二章 覚悟
episode7 動き出す闇


遅くなってすいません!いやほんと忙しくて…
久しぶりなので今までより更に酷い文章かもしれませんが、読んでいただけたら嬉しいです。

あらすじ
ヤプールの企みをなんとか阻止した憐達は、ギンガスパークの輝きを頼りに次の星を目指していた。


  水の惑星ワッカ。

 一時はイーヴィルクリスタルによって危機的状況に陥ったものの、憐達の活躍でもとの穏やかな状態に戻っている。本来の姿を取り戻した魚達が水の浄化に努めた結果、今では昔以上の透明度を誇るほどになったその海の波打ち際で、一人の老人と二人の青年が話をしていた。

 

「わざわざ来てもらったのに悪いのぅ」

 

「いえいえ、解決したのならいいんです」

 

「じゃあ、俺達はこれで」

 

  そう言うと同時に二人の青年が光に包まれていき、瞬く間にその姿を巨人に変えた。

 

『『シェア!』』

 

  力強く地面を蹴り、二人の巨人は大空へと舞い上がる。ぐんぐん高度を上げていき、大気圏を抜けた辺りで、二人は先ほどラゴン達と話していた時とは違う怪訝な顔をしながら話し始める。

 

『なあディーズ。さっきの話、本当だと思うか?』

 

 その問いに、ディーズと呼ばれた巨人が若干困惑気味に答える。

 

『ああ、私もにわかには信じられない。しかしだドレイク。彼らがウソをついている様子はなかったし、なにより確かにマイナスエネルギーの痕跡があったんだ』

 

『だがよぉ、魚が怪獣になったっつー通報を受けて飛んで行ったら、「レイオニクスの少女」と「怪獣に変身できる少年」が解決してくれましたなんて話、信じられるか?第一、上になんて報告すりゃあいいんだよ…』

 

  わざわざ本部から3日もかけて来たっていうのに…と嘆くもう一人の巨人___ドレイクを見て、ディーズも思わずため息をつく。

  この二人、ディーズとドレイクは、宇宙警備隊員である。カラータイマーこそ与られていないが、光の国にある宇宙警備隊本部に所属しているだけあってかなりの実力を有している。にも拘らず、2ヶ月ほど前から、本部は一部の隊員(ウルトラ兄弟など)を除きパトロールの際は必ず二人一組で行えとの命令を下した。詳しい説明もないまま、ここへきてさらに今回の不可解な事件である。この宇宙で何か大きな異変が起こっているのは明確だ。

 

『怪獣に変身ねぇ…。ま、結局はありのまま話すしかねえか』

 

『そうだな。この宇宙に危機が迫っているにしても、我々に出来る事は…一刻も早く本部に帰還し、指示を待つことのみだ』

 

  早急に帰還せよ、とのウルトラサインを見つけた二人は一先ず話に区切りをつけ、さらに加速して赤い光球となり、宇宙警備隊本部__M78星雲・光の国を目指す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 ヤプールの一件から6日が過ぎた。憐の体調も無事回復し、一行は新たな星を目指して旅を続けていた。

 

「憐ー、まだー?」

 

「あー、もうすぐだなー」

 

『憐ー、まだー?』

 

「お前は近くの星をリサーチするとかやることあるだろーが。てか今の声どうやって出したんだ?」

 

「兄貴ー、まだすかー?」

 

「放り出すぞ」

 

「俺にだけ当たり強くないすか⁉︎」

 

「めんどくさくなったんだよ!なんなんだ!しつこいわお前ら!」

 

『まあ落ち着け憐。あと一時間ほどで最寄りの惑星に着くぞ』

 

「さっすがジャンナイン!どこかの誰かさんと違って頼りになる!」

 

「くっ、ムカつく…!」

 

『ノリ、というやつだ』

 

「アンタほんとにロボットすか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわー、吹雪いてますねー」

 

「アタシ寒いの苦手…」

 

『氷の惑星・コンルだ。知的生命体の生息は確認されていない』

 

「ギンガスパークの反応もここで間違いなしっと…。しかし俺も好きじゃないなぁ、寒いの」

 

 

  ギンガスパークに導かれ、辿り着いたのは極寒の惑星・コンル。恒星の光を氷が反射し白く輝くこの星は、成層圏を抜け、地表がはっきり見えるような高度を飛んでいるにも関わらず、見渡す限り一面銀世界な不毛地帯である。

 

「ねぇ、勘違いとかじゃないの?アタシほんとにイヤなんだけど」

 

「なんだ、そんなに嫌なのか?ならこの宇宙服着ろよ。上は300度、下はー100度まで快適に過ごせる優れものだぞ?重力も3Gまでは何も感じないぞ?」

 

「なんかすごい推してくるわね…。着ないわよ、そんなダサい服」

 

『「ダ、ダサい…」』

 

「ジャンナインにまでダメージが⁉︎」

 

「そ、そんな悲しそうな目で見たって無駄よ!絶対着ないから!」

 

  捨てられた仔犬のような目で見つめる憐の視線になんとか耐えたナナに、ムッチが追い打ちをかける。

 

「本当は兄貴とお揃いの服、着たいんじゃないんすか?」

 

「う、うっさい!そのにやけ顏と胡散臭い敬語が余計ムカつく!あーもう憐!いつまでも拗ねてないでコイツどうにかして!」

 

「うがっ⁉︎」

 

 ナナに蹴られてorzの状態から慌てて立ち上がった憐。あんまりな扱いに文句を言おうとナナに詰め寄ったが、偶然見えた窓の外の光景に思わず驚きの声を上げる。

 

「お前蹴ることねぇだろ!だいたいお前はいつも…なんだあれ⁉︎」

 

『生命反応を確認!すまない、気づけなかった!』

 

  憐とジャンナインの言葉を受け慌ててモニターを見るナナとムッチ。まだ少し距離があるが、遠くからも見えるほど空高く氷が舞い上がり、何かが氷の下から出てこようとしているのがわかる。

 

「まさか、怪獣っすか⁉︎」

 

「ジャンナイン、拡大してくれ!」

 

『了解』

 

  拡大され鮮明になった映像を見ると、煙で細部まではわからないが、大きな顎を持ったシルエットが浮かび上がっていた。

 

「なんだぁ?クワガタっすか?」

 

「あれは…アントラーか?」

 

「名前なんてどうだっていいのよ!で憐、マイナスエネルギーの反応は⁉︎」

 

「え?ああ、そうか」

 

  ナナに言われて取り出したギンガスパークは激しく点滅を繰り返し、あの生物がイーヴィルクリスタルを取り込んでいることを物語っていた。

 

「よっしゃ、ビンゴだ!」

 

「じゃあアレを倒しゃあ今回は終わりっすね!」

 

「おう!じゃ早速…ぬあああっ⁉︎」

 

「ぐほっ!」

 

「きゃああ!」

 

『これは強力な磁力光線…!くっ、機体の制御ができない!』

 

  突如煙の向こうから放たれた虹色の光。それに捉えられたジャンスターは徐々に怪獣の方へ引き寄せられていく。かなりの速度で飛んでいたためいきなり止まった時の衝撃は大きく、スパークドールズの入ったリュックサックをとろうとして屈んでいた憐だけでなく、立っていたナナ達も耐えられず床に倒れ込む。

 

「なんか引っ張られてないすかぁ⁉︎」

 

「磁力だからでしょうが!」

 

『最大出力でも振り切れない!このままではマズイぞ!』

 

  グラグラと上下左右に揺れながら引き寄せられていくジャンスター。やがてなす術なく怪獣と思しきモノのほぼ真上まで来たところでようやく煙が晴れ、その姿が露わになる。昆虫のようなフォルムと大きなアゴが特徴的なその怪獣は、寒冷地に適応しているために体色が青白いことを除けば憐の予想通り、磁力怪獣アントラーだった。

 

「あっそうだ!ジャンキャノンで攻撃すれば!」

 

『こんな不安定な姿勢では当たらないぞ!』

 

「でもこのままじゃ食われちまう!」

 

「…あーもう!いけ、エレキング!」

 

『バトルナイザー・モンスロード!』

 

  絶体絶命かと思われたとき、ナナが腰に携えたバトルナイザーを引き抜き起動させた。召喚されたエレキングはエネルギー体となってバトルナイザーから飛び出しアントラーに直撃、吹き飛ばす。それにより磁力光線から抜け出したジャンスターは全速力で上空へと離脱。獲物をみすみす逃すわけにはいかず、すぐさま起き上がり再び磁力光線を発射しようとしたアントラーの足をもとの姿に戻ったエレキングが尻尾で払い転ばせ、再び阻止した。

 

「な、なんで最初からそうしなかったんすか!」

 

  ムッチの言葉に、ナナは苦々しい顔をする。

 

「エレキングは寒いところが苦手なの!だから極力出したくなかったのに…」

 

「でもナナのおかげで助かった。ありがとな!」

 

「べ、別にアンタのためじゃないんだからね!」

 

「ツンデレっすね」

 

『これがテンプレというものか』

 

「アンタらねぇ…」

 

「ま、まぁまぁ!とりあえず、今はアントラーをどうにかしようぜ!このまま飛び続けるのも危険だし、ジャンナイン!一旦着陸!」

 

『了解だ』

 

 憐の指示で着陸のために高度を下げ始めたジャンスター。地表が見える高度まで降りたとき一同の目に映ったのは、エレキングがアントラーの磁力光線によって引き寄せられている光景だった。

 

「え!ちょっ、なんで⁉︎どうして引き寄せられてるの⁉︎」

 

「理由は知らねえが、あのままじゃヤバイっすよ!」

 

「ムッチ!」

 

 焦るムッチに憐はガンパッドを投げ渡す。

 

「あ、兄貴⁉︎これって…」

 

「ヤバくなったら援護は任せたぜ!」

 

「任せたって、憐はどうする気⁉︎」

 

 ナナの問いに憐はギンガスパークを取り出しながら笑って答える。

 

「どうするかなんて決まってんだろ?ナナもいつも通りの的確な指示、よろしくな!」

 

『ウルトライブ!レッドキング!』

 

  そう言ってレッドキングにライブした憐は、光となってジャンスターから飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

  ジャンスターを逃がしたエレキングは苦戦を強いられていた。苦手な寒冷地での戦いであることに加え、ナナの指示がないため動きにいつものキレがないのだ。

  大顎を開いて突進してくるアントラーに向かってライトニングカッターを放つが、硬い外骨格に阻まれ大したダメージを与えられずに火花を散らして後退させるにとどまる。その攻撃に怒ったアントラーは鳴き声を発しながら磁力光線を発射、避けられなかったエレキングは徐々に引き寄せられていく。苦し紛れにライトニングカッターを撃つが、磁力光線の効力によって霧散してしまい、ダメージを与えることができない。獲物を断ち切ろうと激しく開閉する顎を前に、エレキングは思わず悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《おおぉぉぉぉぉらぁぁぁぁあ!!!》

 

  アントラーの大顎が今まさにエレキングの首を捉えようとした瞬間、雄叫びを上げ、遥か上空から頭を下に向けミサイルのように落下してきたレッドキングがアントラーの頭部に直撃。アントラーは悲鳴をあげる間も無く、その硬い外骨格をレッドキングの石頭に凹ませられつつ下敷きにされて氷の中に埋められてしまった。

  助かったことに安堵したのか、はたまた突然降ってきたレッドキングに驚いているのか、呆然と立ち尽くすエレキングを尻目にレッドキングはヨロヨロとふらつきながらアントラーの上から立ち上がる。

 

《うぐあああああああ!ぐうぉぉ…お、おぇ…。あ、頭がいてぇ…!》

 

  やはりいくら頭が硬いと言っても流石に堪えたようで、憐は頭を押さえて痛がっていた。しかし、それも数秒の間。段々と和らいでいく痛みに、レッドキングの頑丈さに若干引きつつも回復した憐はエレキングに向き直って話しかける。

 

《エレキング、遅くなってすまん!寒いの苦手なのに、悪かった》

 

  憐の言葉に我に返ったエレキングは、大丈夫だ、というような声を発してから今だフラついているレッドキングの体を支える。

 

《お、ありがとな!じゃあ、さっさとイーヴィルクリスタルを…うぉあ⁉︎》

 

  エレキングに支えられながらアントラーのイーヴィルクリスタルを回収しようと近づいたレッドキングの足を、気絶したフリをしていたアントラーの顎が捉える。

 

《くっ、離せこの!痛、あああああ!食い込んでる食い込んでる!ヤベ、あ、足もげる!》

 

 アントラーの顎をはずそうと尻尾を頭に叩きつけるが、最後の力を振り絞っているのかアントラーは頑として離さない。そんな時、ナナからエレキングへ指示が入る。

 

「エレキング、待たせたわね!今までよく頑張ってくれたわ!今からジャンスターとの同時攻撃でアントラーを吹っ飛ばすから、タイミング合わせるわよ!」

 

「はずさねえっすよ…!」

 

『頭部の凹みを狙え!』

 

《こんのおぉぉぉ!暴れんじゃねぇ!》

 

  ナナ達の意図を汲み取った憐はアントラーを動けないように残りの足で踏みつける。

 

「エレキング、ライトニングカッター!」

 

「そこだぁ!」

 

『ジャンキャノン!』

 

 そこへジャンキャノンとライトニングカッターの同時攻撃が炸裂。アントラーは堪らずレッドキングの足を離す。

 

《逃がさねえ、うぉらああ!…よし、いくぞエレキング!》

 

  すかさずアントラーを掴んで空中へ放り投げた憐はエレキングとタイミングを合わせて回転し、落ちてきたアントラーに尻尾を、挟み込むように打ちつける。怒涛の連続攻撃により立つのが精一杯なアントラーに、2体はお互いの長い首を鞭のようにしならせてアントラーの胴へトドメとばかりに叩き込んだ。

 

《ナイス!息ピッタリだったな!》

 

 その言葉に嬉しそうな声を出すエレキング。

 

《いやー、しかし身体中が痛い…。それに寒すぎて、ぶわっくしょんッ!》

 

 大地を揺るがすような盛大なくしゃみをかます憐。もしかしたらどこかで雪崩が起こっているかもしれない。震えるレッドキングを、エレキングがそっと抱きしめる。

 

《ん?温めてくれるのか?あ、なんか暖かくなってきた…》

 

「おいこら!なにエレキングとイチャついてんのよ⁉︎」

 

「なんか怪獣が抱き合ってる画ってシュールっすね…」

 

  そこに近くに着陸したジャンスターから降りてきたナナとムッチがやって来る。

 

 《別にイチャついてないだろ⁉︎…ん?もしかしてエレキングってメス?》

 

「だから言ってんの!」

 

「怪獣に嫉妬はちょっと…」

 

「う、うっさい!嫉妬なんてしてない!エレキング、戻れ!」

 

 残念そうな声をあげて消えるエレキング。

 

《お、おーい、ナナ?「なにかしらぁ?」うっ、あ〜、さて、イーヴィルクリスタルを砕くか〜》

 

  なぜナナがキレているのか気になるところだが、これ以上ナナの怒りの炎を燃え上がらせないために憐は迅速にアントラーの方へ向かう。

 

 

《お、今回のはちょっとデカイな。よっし、オラァ!っと。…あれ?小さくなんねぇ》

 

「確かに、おかしいわね。なんだか震えてるみたいだし…」

 

「小さくなんないとおかしいんすか?」

 

  憐はアントラーから出てきた1mほどの正八面体の黒い結晶を砕く。しかし、体色が茶色になったことを除けば大した変化は見られず、また今まで暴走していた生物は元の姿に戻った後は何事もなかったのに対してアントラーは僅かに震えているだけでかなり衰弱している様子だった。

 

「今までは元の大きさに戻ってたんだけど…!まさか、コレが元の大きさなの⁉︎」

 

『その怪獣の体温はどんどん下がっている…。色が変わったことを踏まえて考えると、今回のイーヴィルクリスタルの影響は異常な適応能力。つまり、この生物は元は寒さに弱いと考えられる』

 

 ガンパットから伝えられたジャンナインの推測をきいて、三人に衝撃が走る。

 

「それってつまり、アントラーはこの星の生物じゃねぇってことすか⁉︎」

 

「じゃあ誰かが連れてきた、とか?」

 

《だとすると、その連れてきた奴ってのはイーヴィルクリスタルの力を制御してアントラーに寒さへの耐性を付けた…のか?でもなんでだ?なんでわざわざこの星に磁力を操るアントラーを?それじゃまるで》

 

『僕達を狙っている、としか考えられないな』

 

「ね、狙う⁉︎ヤプールすか⁉︎」

 

「それはわからないけど、まずはアントラーをなんとかしよう。このままじゃ危ない」

 

 ライブアウトした憐はナナとムッチを連れてアントラーの方へ行こうとした。がそれをジャンナインが止める。

 

『南西から熱反応⁉︎マズイ、戻れ憐!攻撃だ!』

 

  その声と同時に空に無数の赤い点が現れる。

 

「あの数は無理だぞ⁉︎」

 

「くっ、間に合わねぇ!」

 

「え、エレキ、きゃああああ!」

 

『憐!ナナ!ムッチ!おい、大丈夫か⁉︎』

 

 ジャンナインの叫びも虚しく、無数の火球が上空から3人へ降り注いだ。

 

 

『くっ、返事をしろ!』

 

「あれ?大丈夫だ」

 

『…なに?え、ほんとに無事なのか⁉︎』

 

「あ、ああ。大丈夫っすね」

 

  流石にダメか、と思いつつ呼びかけたのに思いがけず何でもないような返事が返ってきたので若干固まるジャンナイン。当の本人達も不思議に思っていると、辺りを覆っていた煙が晴れてきた。

 

「あ、アントラー⁉︎」

 

「まさかアタシ達を庇ってくれたの?」

 

  そこには憐達に守るように覆いかぶさっているアントラーの姿があった。しかし、元より衰弱していたアントラーは今の攻撃で完全に力尽き、崩れるように後ろに倒れた。

 

「馬鹿野郎!おめぇなんてことを!」

 

「ちょっとムッチ⁉︎」

 

「なに守ってんだ!てめぇが死にそうなのに命を捨てるようなことしてんじゃねぇよ!」

 

「お前…」

 

 ムッチの言葉に、しかしアントラーは弱々しく唸るだけだった。

 

「…決めたぜ。俺はお前を絶対に故郷へ届ける。文句なら後でいくらでも聞いてやる。だから、今はその命、俺に預けろぉ!」

 

  ムッチがバトルナイザーを掲げる。それを見て、アントラーはムッチの思いに応えるように最後の力を振り絞って雄叫びをあげる。するとアントラーは光となってムッチのバトルナイザーに収まった。

 

「…ふぅ。あ、ハハハ。なんか恥ずかしいところ見せちゃったっすね」

 

  そう照れながら笑うムッチを、憐とナナは駆け寄って揉みくちゃにする。

 

「お前めちゃくちゃかっこいいじゃん!」

 

「少し見直しちゃったわよ!」

 

「うわっ、ちょっ、勘弁してくれっす!」

 

 

  しばらくじゃれあっていた3人だったが、ジャンナインからの通信で気を引き締める。

 

『憐、そろそろさっき攻撃をしてきたやつが来るぞ』

 

「そうみたいだな。その上ギンガスパークがめちゃくちゃ光ってるからイーヴィルクリスタル付きだ。しかも今までで一番でかい、な」

 

『憐。すまないが、僕は先の磁力の影響で戦闘形態に変形できない』

 

「アタシのエレキングも消耗が激しいから憐一人で戦うことになっちゃうけど…」

 

  不安そうに俯いたナナの肩を、憐は軽く叩く。

 

「心配すんな。ウルトラマンの力があれば大丈夫だ!」

 

「その通りっすね!俺は戦えないけど、応援してます!」

 

「…信じてるから。必ず、帰ってきてね」

 

「おう!」

 

  会話が終わった瞬間、図ったかのようなタイミングで吹雪を割って闇からの刺客が姿を現す。

  宇宙海獣レイキュバス。その甲殻類のような外見の中でも特に目を引くのは右腕の巨大なハサミだが、今回の個体で一番異様なのはまるで埋め込まれたかのように背中から1/4ほどピラミッド形で突き出しているイーヴィルクリスタルだろう。

 

『あのイーヴィルクリスタル…。出ている部分から計算すると全長20mほどあると思われる』

 

 

(イーヴィルクリスタルはあの黒い巨人の力の欠片。これは、奴が目覚めたと考えるのが妥当か…)

 

  あの時ビジョンの中で黒い巨人に見つめられた際に感じた恐怖が体を蝕もうとするが、憐はギンガスパークを強く握りしめ気持ちを奮い立たせる。

 

「やってやる!どんなに強かろうと、俺は負けねえ!」

 

『ウルトラーイブ!ウルトラマンティガ!』

 

  ティガにウルトライブして光の球体となった憐は、そのままの状態でレイキュバスの方へと飛んでいく。

 

「さ、俺たちはジャンスターへ。ここにいたら兄貴の邪魔になっちまう」

 

 そう言って走っていくムッチ。

 

「憐…いや、アタシがこんな気持ちじゃダメよね!」

 

  そう言って首を振ったナナは、ムッチの後を追ってジャンスターへ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

『テェア!」

 

  レイキュバスの前へ降り立ったティガは構えを取りながら相手の動きを観察する。

 

(レイキュバスも俺を観察してる…?この感じ、やっぱりこいつは暴走してるんじゃない。誰かに、いやあの巨人に操られているんだ)

 

  ティガが戦える時間には限りがある。憐は考えるのは後にし、攻撃を仕掛けるためレイキュバスへと走っていく。しかしティガが動いた瞬間レイキュバスの目が赤から青へと変わり、冷凍ガスを吹き出してきた。

 

『ンッ⁉︎フグッ、デェアアアア!』

 

  ソレをもろにくらったティガの体がたちまち凍りつき、動きが鈍くなる。そこを狙って赤い目に変わったレイキュバスが火球を連射。除けられないティガはそれも全て被弾してしまい、火花を散らしながら後ろへ吹き飛ばされてしまった。

 

(くっ、火球なら走りながらでも避けられるから油断してた!ちょっと既にダメージがシャレにならんレベルだし、どうにか…うぐっ⁉︎)

 

  冷凍ガスと火球のダメージはかなりのもので、ティガはしばらく立ち上がれずにいた。しかし敵は憐を殺しにきているのだ。その隙を見逃すわけがない。その見た目からは想像もできないほど素早い動きで倒れているティガのすぐそばまで来たレイキュバスは、その脇腹をハサミで殴りつけ追い打ちをかける。ティガはその攻撃をくらいはしたが、勢いを利用して転がり、レイキュバスから離れることに成功した。

 

『ハッ!』

 

  そのまま起き上がりつつ3発連続でハンドスラッシュを放つ。そしてそれを受けて怯んだ隙にレイキュバスの懐へ滑り込んだ。

 

『フン!テェヤ!』

 

  スライディングの格好から起き上がりつつ顎を蹴り上げて後退させ、飛び出した目を掴んで動きを押さえた後、背中へ回り込んでイーヴィルクリスタルへ連続チョップを叩き込む。弱点なのか、レイキュバスは苦しげな声を上げてすぐにティガを振り払い、再び距離をとって間髪入れずにいくつか火球を放つ。

  しかし着弾したのはティガではなくどれも地面だった。不思議に思う憐だったが、すぐに動きを止めたことを後悔した。

 

(ぐふっ⁉︎がはっごほっ、な、タックル⁉︎まさか、氷を溶かして滑って来たのか⁉︎)

 

  タックルの衝撃を吹き飛ばされつつ空中で宙返りすることによってなんとか流したティガ。しかし、着地して立ち上がった瞬間に合わせてレイキュバスが巨大なハサミを鈍器のように振るっていた。

  左下からの抉り取るようなアッパー。ソレを防ぐ間もなくまともに食らい、しかし痛みを堪え吹き飛ばされる寸前で踏ん張って留まり、ティガはハサミを脇と腕を使ってしっかりと抱き込んだ。

 

『グッ!ハァァァァァ…チャア!』

 

  そのままレイキュバスを持ち上げ、思い切り投げ飛ばす。いくら硬いと言えども落下の衝撃はしっかりと肉体に届いたようで、ダメージによって動けないレイキュバス。

 

『フッ⁉︎ヂュアアアアア!』

 

  そこへ追撃を仕掛けりために駆け寄ろうとしたティガの肩を、突如現れた黒い触手が貫く。肩から血飛沫のように勢い良く吹き出していく光の粒子。そのダメージの深刻さを表すようにカラータイマーが点滅を開始した。

 

(ぐあぁぁぁぁぁ!ぐっ、なん…だ、この、触手⁉︎か、体にいろんな感情をごちゃ混ぜにした、ぐぁっ、胸糞悪ぃモンを流し込まれてるみたいだ…がっ!一体、どこから…!)

 

  痛みに悶えつつも触手の出処を探す憐。見れば、レイキュバスの背中にある巨大なイーヴィルクリスタルから無数の触手が飛び出していた。

 

『ウグッ…デュア!ウゥゥゥン…ハッ!』

 

  それが一斉に襲いかかってくる。ティガは肩に刺さっている触手をチョップで切断すると、スカイタイプにチェンジ。空中へと逃れた。

  複雑な軌道を描きながら迫る触手を素早く躱しながら、憐は打開策を考える。

 

(弱点は間違いなくあの背中のイーヴィルクリスタルだ。アレを叩くために、まずこの触手の動きを止める!)

 

『デュア!』

 

  一気に加速し触手を振り切った瞬間、ティガは振り向いて青色の光線「ティガフリーザー」を横薙ぎに発射し、全ての触手を凍らせた。

 

『ハァァァァァ…ハアッ!チャアアアア!』

 

  触手の動きが止まり、無防備となったレイキュバスの背中へスカイタイプの必殺技「ランバルト光弾」を放つ。そしてティガはすぐさまそれを追うようにキックの体勢をとり急降下していく。

  射線上にある触手を切り裂きながら正確に突き進むランバルト光弾は、イーヴィルクリスタルへ矢のように刺さり、ヒビを入れる。それを更に打ち込むようにティガの急降下キックが決まり、ランバルト光弾がイーヴィルクリスタルを貫通。レイキュバスを地面に縫い付けた。

 

(残り時間も少ない、このままトドメを…⁉︎)

 

  そのままトドメを刺すためにマルチタイプに戻ったティガを、ヒビ割れたイーヴィルクリスタルから突然吹き出した黒い靄が覆う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  暗雲に包まれ、空を走る紫電以外一切の光が存在しない何処かの星。この惑星の黒い大地は、ある一点を除いて地平線の彼方まで延々と平坦なものであった。その例外である一点、巨大なクレーターの中心に、黒い巨人が肩から下を埋めた状態で眠りについている。

  ソレを見た憐は、突然眼前に広がったこの不気味なビジョンに驚くより先に安堵していた。「よかった、まだ目覚めていなかったのか」、と。

  しかし直後、黒い巨人の頭部が動き、光の灯っていない瞳でこちらをしっかりと見据えると、地獄の底から響いてくるような恐ろしい声でこう呟いた。

 

『忌々しいその光…ここで、消す』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(確かにこの攻撃は1番効くぜ…)

 

  気づけば視界はまた黒い靄に覆われており、憐は自分がまだ戦いの最中であることを思い出した。

 

(現に体が戦うこと、というか黒い巨人(お前)と同じ力を感じるこの靄から全力で逃げようとしてる)

 

  纏わり付く靄により、息ができなくなるような錯覚に陥る。

 

《でもな》

 

  しかし、それでもティガの目から光が消えることはなかった。

 

《俺はそう簡単に生きることを諦めたりしない!》

『ンーーーー…!ハアアアアッ!』

 

  全身を巡るエネルギーが一点に集められ、カラータイマーから強烈な光が放たれる。その光は靄を吹き飛ばすだけにはとどまらず、直進しレイキュバスを包み込んだ。するとイーヴィルクリスタルは粉々に砕け散って霧散し、レイキュバスがいた場所には小さなヤドカリがチョコチョコと歩いているのみとなった。それを見届けたからなのか、単に時間切れなのか。ティガの体が光に包まれ、次第に人間の大きさに収束していく。

 

 

「…これはまた、ナナに叱られるパターンだなぁ…」

 

 ライブアウトした憐は立っていられずに雪の中へ倒れこむ。全身の痛みで身動きが取れない憐は苦笑いを浮かべながらそう呟き、近くに着陸したジャンスターから猛ダッシュで駆け寄ってくる2人の仲間へ目を向けた。




今回、始めて1万字超えたけど、ただダラダラ書いていただけな気がしてならない…。この話は少し端折ったところがあるので、時間ができたら加筆します。
もうすぐGWだからそこで次話を更新できたらいいなぁ。
あ、引き続きリクエストは募集中です!
では!

〜次回予告〜
何やら悩みを抱える憐。
そんな中辿り着いた惑星・トルネイで起こる怪事件を、果たして解決することができるのだろうか?
次回「嵐の中で」、お楽しみに!



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episode8 嵐の中で ー前編ー

ひっそりと約一ヶ月強ぶりの更新。遅くなって申し訳ありません!久々なのでいつもよりさらに変な文かも…。

〜前回のあらすじ〜
惑星コンルでレイキュバスに勝利した憐達は次の目的地に向かっていた。


「兄貴ー!起きろ〜!」

 

「ぐおっ!?」

 

 突如感じた腹部への衝撃に、憐の意識は覚醒した。

 

「おま、なにすんだよ奈々ぁ!」

 

「うっさい!いつまで寝てんのよ!」

 

「いや起こしてくれたのは感謝するけど、枕抜いてそれを腹に叩きつけるとかどう考えてもオーバーキルだろ!」

 

「あー聞こえない聞こえない!可愛い妹がわざわざ起こしに来たんだから文句言わない!…それよりいいの?」

 

「あ?なにがだよ」

 

 訝しげな憐の視線を受け流しながら、奈々はニヤリと笑って、憐にとって死刑宣告にも等しい一言を告げる。

 

「もう8時よ?」

 

「それを先に言えよ!」

 

「じゃ、アタシ先に行くから〜」と言いながら部屋から出て行く奈々に恨めしげな視線を送るが、そんなことしてる場合じゃないことに気づいた憐は慌てて制服に着替え、リュックを肩にかけ階段を駆け下りる。

 

 

「か、母さん!俺今日朝飯いらない!」

 

「ダメよ〜、ちゃんと食べなきゃ!遅れそうなのはアンタの責任でしょ?」

 

 リビングに着くなり弁当を持ってそのまま出ていこうとした憐に母親から待ったがかかる。

 

「いやホント急いでるんだって!くそっ、奈々のやつ、知ってて起こさなかったな…!」

 

「あ〜、そう言えば出掛ける間際に『アタシのプリンを食べるからこうなるのよ!』、とか言ってたわね」

 

「それ一週間も前の話じゃねぇか!どんだけ執念深いんだアイツは…」

 

 憐が妹の行動に戦慄している間におにぎりを作り終えた母の菜々子は、溜息をつきながらそれを憐に渡す。

 

「はぁ。アンタはただでさえ遅刻が多いんだからしっかりしなさい?はい、これ学校で食べなさい」

 

「おっしゃ、ありがとう!じゃいってきます!」

 

「本当に行き帰り気をつけなさいよ〜!」

 

「大丈夫だって!」

 

 母親に見送られながら憐は自転車を漕ぎ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いねぇ、わざわざ案内してもらって」

 

「いえ、ちょうど通り道だったんで!それじゃ!」

 

「ありがとうねぇ」

 

 

 登校途中に出会ったお婆さんの道案内を終えた憐は学校へ急ぐ。

 

「うわやっべぇ、遅刻だ!」

 

  駐輪場に自転車を停めた憐は己が出せる限界の速さで下駄箱に到達すると、神速で上履きに履き替え三階にある教室までの階段を駆け上がり、後ろのドアへ滑り込む。

 

「セーフ!」

 

「いやアウトだ」

 

 待ち構えていた担任に学級日誌を投げつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前また遅刻したのな」

 

「いや間に合うはずだったんだが…」

 

「10分も遅れてよく言うぜ!大方いつもの『人助け病』が出たんだろ?」

 

 そう言いながら隣で笑う友人を無視して、憐は机に突っ伏していた。

 

「だぁー、疲れた…」

 

「はぁはぁ、いやー笑った。学級日誌がクリティカルヒットした時のあのお前の間抜け面ったらないぜ!」

 

「そんなに笑うんじゃねぇよ!こっちだって必死になぁ…」

 

「ところで今日の単語テストの勉強したか?」

 

「ええ!今日だっけ!?」

 

 友達と笑ながら憐はふと思う。こんな何気ない日常もいいもんだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐぅっ!…はぁ…はぁ…。夢、か…」

 

  肩に走った鋭い痛みで憐は目を覚ました。部屋の明かりは全て消され、暗闇に包まれている。体の痛みはほぼとれた筈だが、と痛みの元を辿って見れば、肩に青黒い痣が存在していた。そこは、ちょうどティガがレイキュバスの触手に貫かれた場所と同じ、左肩だった。

  惑星コンルから出発して3日が経過している。その3日間、憐は先程のような夢を見ることが多くなっていた。他の夢ならいい、しかしこの夢は、この『日常』の夢だけは、憐には他のどんなものよりも悪夢に感じた。

 

 なぜならそれは。

 

(会いたいよ、みんな…)

 

 憐のみんなに会いたい、という抑えてきた願望を解き放つものであり。

 

(もしこの前みたいな戦いが続いて俺が死んだら、どうなる?)

 

 憐が今までなんとか克服してきた戦いへの恐怖を。彼の逃げたい、という弱い気持ちを。

 

(あの日常に戻れなくなる?…いや、勝てばいいんだ。か、勝って…また、みんなと…)

 

 目を背けられないほど大きくしてしまうものだから。

 

「くそっ…ああ、ダメだ。死にたくないって思いが…ちくしょう、こんなの見せられたらもう、戦えないじゃないか…!」

 

 

  机の上にあるギンガスパークの点滅がはげしくなり、イーヴィルクリスタルが近いことを所有者に伝える。それと同じタイミングで大気圏突入時の激しい揺れが憐を襲った。どうやら次の目的地はこの星らしい、そんなことをぼんやりと考えながらその揺れに身を任せた憐の頬を、一粒の雫が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

  惑星トルネイに着陸したジャンスター。捜索を始める前にまずは朝ご飯を食べよう!という話になった。

 

「…」

 

「…」

 

「…」

 

『…あー…いや、なんでもない…』

 

  しかしいつもは賑やかなこの食卓も、今日に限っては会話がなく重苦しい空気が流れている。憐とナナの掛け合いにムッチがボケ、ジャンナインがつっこむ、というような雰囲気ではない。まぁ見るからに暗いオーラを放出している憐のせいであったりするのだが。そんな中口火を切ったのは、ナナだった。

 

「あー、えーっと…なにか悩みでもある?」

 

  実はナナは、憐が何かに悩んでいるらしいことには気づいていた。というのも憐を安静にしていた方がいいと言って3日間自室に閉じ込めていた間、彼の主な世話はナナがしていて(もちろんアーンイベントなどもあったがここでは割愛させていただく)、その時の表情と、時々うなされていたことを含めて考えれば自然とその答えにたどり着けたのだが。

 

 

「ん?…いや、特には」

 

  しかしたとえそれが図星だったとしても憐にはナナ達に相談する、という選択肢はない。もし元の世界に帰りたいなんて言ってしまえば自分が別の世界の人間だということがバレてしまうし、なによりナナ達に失望されたくなかったという気持ちも多分にあった。

 ただ、そんな心の内など言葉にしなければ伝わりっこない。

 

「フフン、ウソね。ねぇ、笑わないから言ってみなさいよ」

 

 

「悩みなんかねぇよ」

 

「見るからに悩んでますオーラでてるし!ほら、言ってみれば少しは楽に…」

 

「だからなんでもないって言ってんだろ!」

 

「えっ…」

 

「あ…」

 

 ナナの自分を心配してくれている気持ちはよくわかる。出来ることなら相談したい。でもできない、というジレンマに耐えきれずに思わず大声を出してしまった憐。

 

「なによ、こっちは心配して言ってあげてんのに!そんなにアタシのことが信頼できないってわけ!?」

 

「なっ!んなこと言ってねぇだろ!」

 

「じゃあ言いなさいよ!」

 

「それはッ!…いや、言えない」

 

「なんでよ!アタシじゃダメなの!?」

 

「だから違う!そうじゃないけど!」

 

「ちょっ、二人とも一旦落ち着くっす!」

 

「ムッチは黙ってて!…苦しい時は助け合うのが仲間ってやつでしょ!?違うの、憐!」

 

「ああ違わないよ!違わない、けど…!」

 

「…それともなに?アタシは仲間じゃないっての?憐、アンタにとってのアタシってなんなのよぉ!」

 

 伝わらない気持ちにイライラを募らせた憐はついカッとなった。

 

 

「俺にとってお前は仲間だ。仲間だけど」

 

『おい憐、やめろ!落ち着け!』

 

「…他人だ」

 

「ッ!」

 

  その憐の言葉を聞いた瞬間ナナは出口に向かって走り出した。その際目元にみえた涙は気のせいではなかったのだろう。彼女の通った後には幾つかの染みができていた。

 

「…あ、違う!待ってくれ、違うんだナナ!そうじゃなくて、俺、俺は!」

 

  それを見て我に返った憐の言葉も虚しく、ナナはジャンスターから出て行った。

 

 

「兄貴、流石に今のはねぇっすよ…」

 

「あ、あああ…あああああああああ!」

 

 突然叫び出しながら床を殴りつける憐。

 

「わかってんだよぉ!俺が全部悪いってことぐらい…でも、俺があああぁぁぁぁぁ!!」

 

 そう言いながら何度も何度も床を殴りつける。

 

『憐…』

 

「あああああああああ!うあああああああああ!!俺はどれだけ、うおあああぁああぉぉあああ!!」

 

 耐えきれずに拳から血が吹き出すが、それでも構わず殴り続ける。

 

「…いつまでやってんだよぉ!」

 

 しかしその行為もムッチが憐を殴り飛ばしたことで終わりを迎えた。

 

「みっともねぇぞ一条寺 憐!こんなことしてる暇があったら、さっさとナナを追いかけろよ!」

 

  テーブルを巻き込みながら派手に吹き飛んだ憐は、その言葉を聞いて一瞬立ち上がりかけるが、すぐにまた座ってしまう。

 

「ッ!あ…ハハ…ダメだよ」

 

「なんでっすか!何に悩んでるか知らねぇが、アイツなら!」

 

「それじゃダメなんだ!今の俺じゃあ、ナナに合わせる顔がねぇ…!」

 

「それでも兄貴が…!」

 

「ただ!」

 

「!」

 

「今回の事件は、俺一人で解決する」

 

「んな!どうしていきなり…」

 

「その後で、ナナに謝りに行く。許してもらえるとは思ってない。ただの、俺の自己満足だ。…でも、ケジメだ」

 

 そこで憐は今まで下げていた顔を上げ、真っ直ぐにムッチを見つめた。

 

「それまで。ナナを頼むぞ、ムッチ」

 

「…ああ、ああわかったよ!ったく、そんな目で見られちゃかなわねぇな」

 

『ナナの宇宙船を使え。いつでも発進できる』

 

「悪りぃな、ムッチ」

 

「はっ、今更なに言ってんすか!それより、目は覚めたようっすね」

 

「ああ、お陰様でな」

 

「…いい目だ。俺は兄貴のその目に惹かれてついてきたんすよ。信じてますよ、兄貴ならきっと答えを出すって」

 

「ああ、ありがとう。…こんな俺を、ほんとうに…!」

 

「おおっと、男がそう何回も涙を見せるもんじゃねぇっすよ!じゃ任せてくださいっす!」

 

 そう言ってムッチは食堂から出て行った。

 

「…お前も、ありがとな。ジャンナイン。見守ってくれて」

 

『何度か全員まとめて電磁ネットで縛ろうかと思ったがな』

 

「ムッチ巻き添えくらってんじゃねぇか!」

 

 そう言ってしばらく二人は笑いあう。

 

「正直、まだ全然ダメだ。今回の事件も解決できるかわかんねぇ」

 

『だろうな。君の今のバイタルは不安定すぎる』

 

「…聞かねぇんだな、俺が何に悩んでるか」

 

『できる男は察するらしいぞ?』

 

「プッ、なんだよそれ」

 

『僕は憐がいずれ自分から言ってくれるだろうと信じてるからな』

 

「…みんな俺のこと信じ過ぎだろ」

 

『それも君の魅力の一つだ』

 

「ふぅ…じゃあ期待に添えるよう頑張りますか」

 

 そう言ってやっと憐は立ち上がる。まだ全然恐怖を克服できてはいないけど。まずはギンガスパークを取りに行こう。そう決めた憐は、静かに食堂から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

  惑星トルネイには大小様々な国が存在する。今回ジャンスターが着陸したのはその中でも最大の力を持つハルケーという国だ。この国はトルネイの中心と言っても過言ではない程の国力を有し、同時に最も栄えていた。そんな大国の国境付近、とりあえず情報を集めようとある程度大きな街に入った憐だったが。

 

 

「なんだ…これ…」

 

  その街の様子を見て思わず言葉を失う。地球でいう中世ヨーロッパ風の石造りの街並みは至る所で建造物の倒壊が起こり、見るも無残な姿となっていた。

 

 

「これも、イーヴィルクリスタルのせいなのか…?」

 

『この人気のなさ…まだ昼のはずなのだがな』

 

  そして何より、街に入ってからというものいまだ人を見かけていないということが不可解である。いくら国の辺境だとしても、それなりの人口をもつ街を選んだにも関わらず、道にひとっこひとりいないのだ。

  その他に気づいたこともある。まず、この街の建物は全て同じ高さであるということ。もちろん、それは最初からそうであったわけではない。折れているのだ。まるで芝生を刈った後のように高さが揃えられている様は見るものに言いようのない恐怖を感じさせる。また、近寄って見てわかったが、建物の窓には必ず木の板が上から釘で打ちつけられ、外から見えないようになっていた。異常な街の様子に困惑気味の憐だったが、この光景には見覚えがあった。

 

「これは…強風に備えてんのか?」

 

『どうした?』

 

「もしかしたら、この街の人達はみんな家の中にいるのかもしれないんだ」

 

『本当か?なら、とりあえず話を聞いてみるべきだな』

 

「ああ。…すみませーん!誰かいますかー!すみませーん!」

 

 中に入れてもらうために木製のドアを叩く。しかし、いくら呼びかけても人が出てくる気配はない

 

「おかしいな…もしかしてみんな避難してるのか?」

 

『いや、中に生体反応を感知しているから何かしらいるはずだ。まあ、ペットなどを放置して逃げるほど切羽詰まっていたのなら別だが』

 

「そうか…すみませーん!怪しいものではないんです!この街で何が起きているのか教えていただきたいだけなんです!」

 

 直後、ドアが少しひらかれ、老人が顔を出した。

 

「…ふん、どうせこの星はもうおしまいか。いいだろう、中に入れ」

 

「それはどういう…?」

 

「いいから、早く。もういつアレが来てもおかしくないからな」

 

 老人のなんとも言えない迫力に、憐は黙って従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「若いの、見ない顔だが他の国から来たのか?」

 

「あー…いや、他の星から」

 

「まあそうだろうな。この星の者ならわざわざ外を出歩き、あまつさえ何が起こっているのか聞いて回るような輩はいない」

 

 とりあえず座れ、という言葉に従い老人の向いの椅子に座った憐は、疑問に思ったことを聞いてみた。

 

「あの、まさかこの街みたいなことがこの星全体でも起こっているのですか?」

 

「長くなるぞ」

 

「お願いします」

 

「…思えば、アレが前兆だったのかもしれんな。ちょうど二ヶ月ほど前、この星の一番大きな海の上で、一つの台風が発生した。最初はみな気にも止めなかった。なにせ陸まではかなりの距離がある。到達する頃には熱帯低気圧にでも変わっとるだろうと、誰もが思った」

 

 そこで老人は一旦言葉を切り、木の板で塞がれた窓に視線を移した。その向こうに老人が見ているのはあのどんよりとした薄暗い空か。それともまだ晴れていた頃の空なのか。首を振って憐に向き直った彼の目から読み取ることはできない。

 

「ところが台風は実に三週間もの間その場所を動かなかった。まあ一番不気味なのは大きさも変わっとらんことだったが。わしらも流石に異変に気づいたわ。沿岸部の国々は調査隊を組織し派遣したが…結果は調査隊の行方不明という形で終わった」

 

「行方不明…?」

 

「そうだ。その後も各国から戦闘機やらミサイルやら観測機やらを送り込んだがことごとく行方不明で終わった。残骸も何も残さずな。そしてちょうど発生から一ヶ月が過ぎた時、ヤツが動き出した」

 

「ヤツって…まるで生き物みたいな言い方ですね」

 

「その通り。ヤツの姿を見たものは未だおらぬが、衛星が撮影した画像を解析した結果、中心に生物らしき影があったそうだ。ヤツは動かなかったのではなく、力を蓄えていたということだな。ミサイルなどアレの格好の餌だったろう。動き出したヤツは三日でこの星の隅々までまわることができ、今までこの街に9回来た」

 

「9回⁉︎…今までよく無事でしたね」

 

 その憐の言葉を老人は鼻で笑う。

 

「ふん、無事なものか。確かに通過時間はあまり長くないが威力は化け物級、被害は甚大だ。見ただろう、この街の光景を」

 

「あ、そう言えば…この街の建物はみんな同じ高さですね」

 

「もとからあの状態なわけなかろうが。ヤツはワシらの恐怖を煽っておるのだ」

 

「恐怖…」

 

「ヤツは来るたびにある一定の高度で強風を起こし、その範囲にあるもの全てを吹き飛ばした。ワシらを追い詰めるようにその高度は徐々に下がっていき、今この街には高さが15m以上の建造物は残っとらん。情報によればこの星全体の話らしいが、今はその情報源もこの有様だ」

 

 老人はそう言ってラジオらしきものの電源を入れるが、そこから聞こえて来るのは雑音だけだった。

 

「そして、次に来た時にはヤツは直々に降りて来てワシらを食うつもりなんじゃ。ま、次と言うのが今日だがな」

 

 そう言って暗い笑みを浮かべる老人。

 

「そんな…なにか、なにか方法は!助かる方法はないんですか!」

 

「ない。あるはずがない。…これでわかったろう。この星にいてもいいことはない。幸いお前さんは外の者だ。さっさと宇宙船に乗ってここを離れるといい」

 

 憐の言葉に即答した老人は出口に向かい、ドアを開けた。

 

「でも、このままでいいはずなんて!何かあるはずじゃ…」

 

「同情はいらん!」

 

 突然怒鳴られた憐は老人を見る。すると、彼は会ってから一度も見せなかった柔らかな笑みを浮かべていた。

 

「お前さんが優しいのはよーくわかった。今までの会話でな。だからこそ、無駄死にする必要はないんだよ」

 

「…っ!」

 

「お前さんを家にあげる時、正直言って強盗かと思っとった。どうせ死ぬんだ、今殺されても変わらないと思って中に入れたんだが…。でも、今はあげてよかったと思っとる。人と話して暖かい気持ちになれたのは久々だ。お前さんと会えてよかったよ」

 

「…憐」

 

「ん?」

 

「一条寺、憐。俺の名前だ」

 

「そうか、いい名だな。会えてよかったぞ、憐。さあ、もう行きなさい」

 

 老人に押される形で、憐は家の外に出る。

 

「じゃあもう会うこともないと思うが…」

 

「あ、俺は…俺、には…!」

 

「ふっ…お前さんは優しい。呆れる程な。だからその優しさを、こんな死にかけの星ではなく別のところで使うんだ。さあ、行け」

 

 憐の言おうとしたことを察した老人は、言うだけ言ってドアをしめた。

 

 

『どうするんだ、憐』

 

「俺は…言えなかった。俺が守るって。そのための力はあるのに…!まだ怖がって!」

 

『…とりあえず歩こう。気持ちの整理、ができるかもしれない』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 当てもなく街を歩く憐。当然ながら人に出会うわけもない。上空の雲は次第に厚くなっていき、今にも雨が降り出しそうだった。

 

「…ん?」

 

『どうした?』

 

「いや、なにか声が…」

 

 そんな時、憐の耳に微かな声が届いた。

 

「ーーーーよ!ーーーがーー」

 

「間違いない、あっちか…!」

 

  普段の彼なら聞き逃していたかもしれない程か細い声は、しかし今の無気力に近い憐には不思議なほどハッキリと聞こえた。

 その声の方向に当たりをつけ、街の外れ、民家がない所へ駆ける憐。

 

『そちらには川があるはずだが、台風が来るとわかっているのに近づくのか?』

 

「でもたしかに…なっ⁉︎」

 

  開けた場所に出た憐が見た光景は、彼の動きを止めるのに十分な力を持っていた。

 度重なる豪雨によって増水した川。その中洲に取り残されている女の子と川岸で必死に呼びかける母親らしき女性。今すぐ駆け寄るべきはずなのに、憐は動けなかった。

 

「お、おかぁさん…怖いよ…助けて…!」

 

「大丈夫だから!さっき助けを呼んだから、安心して!絶対その木から手を離しちゃダメよ!」

 

  女の子は中洲に生えている木の上の方に掴まってガタガタと震えている。そんな女の子を安心させるために必死に呼びかける母親。しかし、助けなど本当に来るのだろうか?憐は自分に問いかける。老人によればもうすぐこの街、いやこの星の人々は死ぬ運命らしいのに、わざわざ他人を助けるために自ら死期を早めようとする人間が、果たしているのか?

 

 ならば、自分がやるしかない。この星の人間ではない、自分こそが適任だろう。

 

(でも、あんな濁流に飛び込んで無事に済むわけない…いやそうじゃないだろう!女の子が死にそうなんだぞ!そんなこと言ってる場合じゃないだろうが!)

 

 ーでも、死ぬかもしれないんだよ?死んだら、あの日常に戻れないんだよ?ー

 

  どんなに反論しても、どんなに言い訳しても、結局死にたくないという思いばかり募る。憐はそんな考えしか持たない今の自分が死ぬほど恥ずかしかったが、あの日常に戻れないとなるとどうしても足が前に進まなかった。

 そんな時、ふと脳裏にある光景が浮かぶ誰かが流されて行くのを黙って見ている幼い憐。それは彼の幼い頃の記憶だった。

 

(たしか、あの時は奈々があんな感じで取り残されてて、母さんも正にあの配置で、俺もここから一歩も動けなくて)

 

 妹は流された。幸い、近くの男の人が助けてくれたが、しばらく奈々は一人で寝れずに俺の布団で寝てたっけ。

 

(また、繰り返すのか?俺は、また何もしないのか?)

 

 その時だった。急にかさを増した泥水が女の子を木ごと飲み込んだのは。

 

「おか…おかあぶっ」

 

「エリー!あ、あぁ…イヤァァァァ!!」

 

 そこからは言葉はなかった。憐はヘルメットを投げ捨てて思い切り川へ飛び込むと、一直線に女の子へと向かっていく。

 

(ちっ、水泳は得意だがこんな流れじゃまっすぐは進めない!)

 

 しかし激しい川の流れでなかなか思うように進めない。憐がもがいていると、懐のガンパットから溜息が聞こえてきた。

 

『はぁ…全く。君の行動は僕の予測を上回るな』

 

「ジャンナイン…!」

 

『フッ、もちろんいい意味でだ。上着についている六つの黄色いボタンのうち、一番左上を押せ』

 

「あっぷ、こ、これか⁉︎」

 

 憐が藁にもすがる思いで言われた通りにボタンを押すと、足の裏からジェットが発射され、憐は空中に舞い上がった。

 

「え、ええええ⁉︎飾りボタンじゃなかったんだコレ⁉︎」

 

『いいから急げ憐!そのジェットは長くは持たないぞ!』

 

「よ、よし!」

 

 憐は勢いよく水に潜ると女の子の所へ真っ直ぐに進んでいく。

 

『あと3秒だ!』

 

「それだけあれば楽勝…見えた!」

 

 もがく女の子のもとに辿り着いた憐はしっかりと抱きかかえる。

 

「安心しろ、もう大丈夫だ」

 

「はぁ…はぁ…お、兄さん…だれ…?」

 

「今はじっとしてろ。ってしまったジャンナイン!帰れないぞ!」

 

『僕が想定してないとでも?ベルトの右横を押せ』

 

「コレか?」

 

 指示通りに右腰を叩けば、ジャンナインの特徴的な赤い菱形を模したバックルが左右に開き、中から物凄い勢いで縄が飛び出す。それは岸にある大木に巻きつくと、これまた凄い勢いで巻き取り始めた。

 

「あがががががが!腰が取れるぅ!」

 

『我慢しろ』

 

 そして10秒もしないうちに岸へ辿り着いた。

 

「痛だだだだだ!地面と擦れる!っづあー!あー死ぬかと思ったぁ!…あ、女の子は!」

 

「えへへへ…楽しかったぁ」

 

「ま、まあ無事ならいいか」

 

「エリー!そんな、奇跡だわ!」

 

 憐が女の子の安否を確認していると、母親が駆け寄って来た。

 

「よく無事に!あの、ありがとうございます!あなたは命の恩人です!」

 

「いや、俺は…うおっ!」

 

 そこに突然の暴風雨。そして雲を割って現れる巨体。その風貌はクラゲのようだが、大きく光る二つの目が、それの異常性を教えてくれる。

 

「バリケーン、か…」

 

「ああ…なんてこと…。もう終わりなの…!」

 

 二人がその姿に圧倒される中、女の子ーエリーは憐のスーツの裾を掴んで、怯えながら問いかけた。

 

「お兄さん、私達、みんな死んじゃうの?」

 

 その一言に、憐の心に小さく残っていた最後の炎が燃え上がる。

 

「…どうしてそう思うんだ?」

 

「だって、お母さんもお父さんもみんな死んじゃうって言ってたし…」

 

 こうしている間にもバリケーンは近づいて来ている。ここはこの街でも外れのほうにある。まず手始めに自分達から食うつもりなのだろう。もしかしたら、ここに来る前に幾つかの国を滅ぼしてしまったかもしれないが。

 

「大丈夫だ。絶対に」

 

『おい憐。何をするつもりだ』

 

「決まってる。アイツを倒しに」

 

 憐の気迫に驚いた母親の問いに、彼は静かに答える。

 

「あ、あなたは一体…?」

 

「一条寺 憐。ただの、人間だ」

 

 憐は激しく点滅するギンガスパークをポケットの中から取り出すと、頭の上に手を掲げる。

 

「ジャンナイン!」

 

『了解』

 

 ジャンスターから転送されて来たティガのスパークドールズを掴み取ると、ギンガスパークでリード。

 

「行くぞ!」

 

『ウルトラーイブ!ウルトラマンティガ!』

 

 憐の体が光に包まれ、その体を巨人へと変える。登場と同時に近づいていたバリケーンを殴り飛ばすと、ティガは構えをとった。

 

 《ここから先には、行かせない!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 体勢を立て直したバリケーンは揺れながら若干宙を浮いている。

 

『テェア!』

 

 ティガは助走をつけて飛び蹴りをおみまいするが、不思議な動きで避けられ、背後を取られてしまう。その時奇妙な声をあげたバリケーンの頭部の赤い球体がひかる。直後、ティガの周囲の地面が爆ぜた。

 

『グッ、フンッ!』

 

 それに耐えたティガはバク転してバリケーンに接近し、すかさず連続回し蹴りを叩き込む。スピードについてこれなかったバリケーンはもろにくらい、その衝撃に後ずさる。

 畳み掛けるように接近したティガの足を狙ってバリケーンは再び赤い光で攻撃し、その進路を阻む。

 ならば、とハンドスラッシュを放つが、これも赤い光で相殺されてしまった。

 

(マズイな、埒が明かない)

 

 ティガは一気に攻撃を仕掛けようと飛び掛かりながらチョップを打ち込もうとしたが、バリケーンはそれを空に逃れることによって逃げた。攻撃を躱されたティガは受け身をとって前転で着地しすぐさま立ち上がると、後を追って空へ。しかし、上から強い衝撃を受けて地面に叩き落とされてしまった。一見何もないように見えるが、憐は気づいた。

 

(まさか、風か!)

 

 風力、というものはバカにできない。日本にくる台風でも最大級のものは家屋を難なく吹き飛ばすのだ。今回はさらにイーヴィルクリスタルを取り込んだバリケーンが引き起こすもの。凄まじい風圧を自由自在に操る反則的な力だ。

 

『チェアァァ!』

 

 それでも果敢に挑む憐だが、台風を低高度で維持するためか、あまり高くない所にいるバリケーンに辿り着くどころかまともに飛行できず、その上四方八方から雷が襲ってくる。カラータイマーは点滅し、体もボロボロだった。

 

『グッ…デェアアッ!』

 

 立ち上がろうにも、15mより上はもはや壁のような風が吹いている。しゃがんでいるので精一杯だった。

 

(こんなのって、こんなのってありかよ!)

 

 カラータイマーの点滅が激しさを増す中、何もできない自分に苛立つ。しかし、憐はまだ諦めていなかった。

 

 

(いやまだだ。まだ終わりじゃねぇ!)

 

『テェア!ハァァァァァァァァァ』

 

 力強く地面を蹴るティガ。荒れ狂う風が体を叩き、雷が容赦無く打ち付けるが、それでも止まらない。

 

『ハァァァァァァァァァ!!』

 

 そして、あと一歩という所で。カラータイマーから光が消えた。

 落ちていくティガ。しかしバリケーンも奇声をあげてもがき苦しんでいた。見れば、その大きな右目にハンドスラッシュが突き刺さっている。憐が最後の瞬間に放った執念の一撃だった。

 

(一矢報いたけど…守れなかった…な…)

 

 ティガの体が粒子となって消える。憐は生身のまま川へ落下し、水の中へ消えていった。




忙しかったのもありますが、3回くらい書き直したせいでもあります。まだ改善の余地はありありですが…目を瞑り先に進みます。
次は1、2週間後には更新出来るように頑張りたいです!
では!


〜次回予告〜
ティガをもってして敗れてしまった憐の心は完全に折れてしまうのか。
そして、この星を救うことはできるのだろうか?
次回「嵐の中でー中編ー」お楽しみに!


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episode9 嵐の中で ー中編ー

ギンガS放送記念!
…というわけでもないです。遅くてすいません。今回もまたセリフだらけですが…

〜前回のあらすじ〜
バリケーンに敗れた憐は、川へ落下した。


 

「はあ…これからどうしよう…」

 

  ジャンスターから飛び出したナナは、当てもなく歩き続けていた。どうしよう、と言ったものの、彼女が取れる選択肢は大してない。感情に任せるままの行動であったため、持ち物など腰に携帯しているバトルナイザーと少しの食料だけ。その上自身の宇宙船もジャンスター内に置きっ放しで移動手段も徒歩のみ、と言った具合である。更に悪いことに、今ナナが進んでいるのは見渡す限り緑一色の草原だった。これでは人に会うことすら叶わないだろう。

 

(ほんとにどうしようかな)

 

  もしかしたら憐が来てくれるかも、という考えが浮かぶが、ナナはすぐさま首を振る。

 

(まさか…そんなわけない。だって憐にとってアタシは『他人』だもん…)

 

  そう心の中でつぶやくと同時に、先ほどのことを思い出して悲しくなる。正直ナナは気持ちの整理がついていなかった。悲しみ、困惑、怒り…様々な感情が彼女の心の中で激しく混ざり合う。その中でも特に大きいのは、やはり困惑だろうか。

 

(なんでこうなっちゃったのかなぁ…)

 

  どうして、とナナは思う。自分は彼を心配していただけだったはずだ。それがどうして口論になってしまったのか。気づかない振りをすればよかった?でもあんな状態の憐を放っておけなかった。

 

(てかそもそもなんでアタシがあんなこと言われなきゃなんないの⁉︎ こっちはアンタのことを思ってのものだったのに…!)

 

  自分は間違っていなかったはずだ。仲間を気遣って何が悪い?その自分にあんなことを言うなんてどう考えても憐に非がある。では、彼女の心を埋め尽くすのは自分の気持ちを踏み躙った怒りだろうか。

 

(でも憐、ほんとにアタシのことを『他人』だって思ってたのかな…)

 

  ナナと憐が他人であることなんて百も承知である。彼女自身、自分がなぜあの一言でこんなにも取り乱しているのかが理解できていない。しかし、あの『他人』という言葉に拒絶の意味が含まれていたことはナナにも感じられ、それが堪らなく悲しかった。ならば、ナナを苦しめるのは悲しみの感情なのか。

 

  本人にもわからない心の内だが、ただ一つ言えるのは、今の彼女の表情が憐が守りたかった笑顔とは程遠いものであるということだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

「…ん…うん…?…知らない天井だ…」

 

  憐が目覚めたのは簡素なベットの上だった。辺りを見回すと、ベランダに通じていると思われる大きな窓から差し込む光はオレンジ色であることから、今は夕方であることがわかる。ベッドの他にはタンス、イス、机などが置かれ、一人部屋として使うのには丁度いい大きさの部屋だった。

 憐は寝起きでうまく働かない頭を左右に振り覚醒を促すとともに、現在自分が置かれている状況を考える。

 

「ここは…?というかなんで俺は寝てるんだ?」

 

  ベットの上で頭をひねる憐。その時ドアが開き、女性が入ってきた。

 

「あ、起きた!よかった〜!大丈夫ですか?気分はどうですか?」

 

「特に問題ないですけど…。それよりここは病院…じゃないですよね。というかあなたは…?いや、えーっと…あ!思い出した!あの川で溺れてた子の!」

 

「はい!私はあの子の母の、リーナです。あの時は本当にありがとうございました!」

 

  リーナは勢い良く頭を下げる。そんなリーナに憐は恐縮しつつ疑問に思ったことを聞いてみる。

 

「いやそれはいいんですけど、もしかしてここはリーナさんの家なんですか?てか俺はなんでここに?」

 

「なんでって…覚えて、ないんですか?」

 

「え?」

 

「そうですか…。私もよくわかってるわけじゃないんですが、ええっと、川に落ちたのは覚えていますか?」

 

「川に?…っ!」

 

  その言葉で蘇る記憶。そうだ、自分は襲いかかってきたバリケーンと戦って、負けて川に落ちたんだった。…って負けた?

  そこまで思い出して、憐は顔から血の気が引いて行くのを感じた。

 

「ヤバイ!リーナさん、街はどうなったんですか!アイツが街に行ったら大変なことに!」

 

「お、落ち着いてください!そんなに動くと体が!」

 

「今すぐ行かな…うぐあっ⁉︎」

 

  リーナの静止を振り切りベットを飛び出そうとした憐の全身を焼けるような痛みが走り、憐は思わず倒れ込む。

 

「だ、大丈夫ですか⁉︎」

 

「ぐっ、それより、街が…!」

 

「街なら大丈夫ですから!」

 

「…え?」

 

「えい!」

 

  それでももがく憐だったが、リーナの言葉で起き上がろうとしていた動きをとめる。それを好機と見たリーナは憐を再びベットの上に押し倒した。

 

「っつ、あの、街が大丈夫って…」

 

「ふぅ、やっと落ち着きましたか。しっかり話すので、とりあえず安静にしてください。あなたは今怪我人なんですよ?」

 

「うぐ、わかりましたよ…。もう落ち着いたので、あの後何があったのか教えていただけますか?」

 

  憐も幾分冷静になって、自分の状況を理解したらしく、おとなしく彼女の話を聞く気になったようだった。実際憐の体はあちこち包帯がまかれ、動かす度に痛むので、リーナの言うことも理解できていた。

 

「あなたが川に落ちたあと、あの怪物は逃げるように空へ昇っていきました。なので、街は台風の影響をうけることもありませんでした」

 

「逃げた…?」

 

  首を傾げる憐が知る由もない話だが、バリケーンは最後にうけたハンドスラッシュのダメージにより台風を維持できなくなり、現在は気流に乗って移動し傷を癒している最中である。

 

「私、しばらく呆然としちゃってたんですけど、助けなきゃいけないことに気づいて川に駆け寄ったんです。そしたら、台風が消えたからか私が呼んでいた救助隊が来てくれて。無事に陸に引きあげることができた、というわけです」

 

「それじゃあ、今までずっと面倒を見てくれていたんですか?」

 

「面倒、といっても見守るぐらいしかできませんでしたが…あいにく病院も半壊状態なので家で看病するしかなくて。憐さん、丸一日寝ていたんですよ?来てくださったお医者様が意識を失っているだけで命に別状はないって言ったから一応は安心しましたが、それでも気が気じゃ無かったんですよ」

 

「それは…ご迷惑をおかけしました」

 

  申し訳なさそうに頭を垂れる憐に、リーナが慌てたように首を振る。

 

「お礼を言うのはこちらの方ですよ!娘も救っていただきましたし、街も救ってもらったんですから。本当に、ありがとうございました!」

 

「こちらこそ、看病してもらっちゃって。ありがとうございました。…あ、そう言えば俺の持ち物ってどこにありますか?」

 

  憐の今の格好は病気で入院者がきているような服だけだった。

 

「あ、今持ってきますね」

 

  そう言って出て行くニーナを見送る憐は考える。

 

(街を救った、か。アイツは一時的に退却したに過ぎないよな…。丸一日寝てたんだから、早くて後二日でバリケーンはやって来るってことか…)

 

  一人になったとたんに、またあの戦いへの恐怖が湧き上がって来る。

 

(今回死ななかったのが奇跡みたいだ。でも次はない。だって…)

 

「あの…」

 

「え?」

 

  内から溢れる恐怖に呑まれそうになっていた憐に、遠慮がちに声がかけられた。リーナさんかな、と顔を上げると、小さな女の子の姿が目に入った。

 

「あの…昨日は助けてくれてありがとうございました!」

 

「君はたしかあの時溺れてた…」

 

「わ、私の名前はエリー、です!…お兄さん、もう体は大丈夫なんですか?」

 

「…まぁ大丈夫かな。っと、そういやまだ名前言ってなかったな。俺の名前は…」

 

「憐さん、でしょ?」

 

「あ、あれ?いつ言ったっけ?」

 

  昨日助けてもらった時に、と言うエリーに、そう言えばリーナさんも俺の名前を知ってたな、と思う憐。そこへ、憐の所持品を持ったリーナが現れた。

 

「あ、こらエリー!憐さんはまだ怪我してるのよ?こっちに来なさい!」

 

「あ!ご、ごめんなさい!」

 

「いや、大丈夫だよ」

 

  申し訳なさそうな顔で謝るエリーに、憐から思わず笑みがこぼれる。

 

「うちの子がすいません。それで、これが持ち物です」

 

  そう言って差し出された品を見て、憐の動きが固まる。

 

「…えーっと、これで全部ですか?」

 

「はい…もしかして何か足りませんでしたか?服は干してありますけど…」

 

「いや…」

 

  リーナから手渡されたもの…それはガンパッドだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  夜になった。

  リーナからの夜ご飯の誘いを気分が悪いと言って断った憐は自由に使っていいと言われた部屋のベランダへ出て、星を眺めている。空は雲一つなく、正に台風一過と言えるような様子である。

 

「…なあ、聞いてもらってもいいか」

 

  憐は相変わらず夜空を見上げながら呟く。すると、誰もいないはずの空間から声が聞こえてきた。

 

『ああ』

 

  ベランダの端にあるテーブル、その上に置かれたガンパッドから発せられた声だ。それを聞いて憐は静かに語り出す。

 

「この世界に来て一ヶ月、それは俺にとってすげぇ充実した時間だった。ウルトラマンになれるとか夢みたい、いやむしろ夢だったし、お前らとの旅は楽しいしい。俺のやってることが世界を救うことに繋がってるなんて、普通の高校生だったら絶対できることじゃねえ」

 

  憐はそこで一度言葉を切る。そして次に出てきたのは、一転して激しい口調のものだった。

 

 

「…そう、俺は普通の高校生だった!普通に学校に行って、普通に友達と喋って、普通に家に帰って、普通に家族と過ごす!なにもかもが普通だったんだ!

 それがいきなりガラッと変わった…。怪獣?怖えよ!テレビで見るのとは全然違う、なんで俺がこんな恐ろしいものと戦わなきゃなんねえんだって、戦闘中に思ったことも一度やニ度じゃねぇんだ!ぐっ…つうっ…」

 

 

  激しい叫びに、傷ついた体が悲鳴を上げる。憐は壁にもたれかかると、弱々しい声で続ける。

 

「俺は死ぬのが怖い…あの普通の日常に戻れなくなるのがたまらなく怖いんだ…。そんな時、あの光の巨人と初めて会った場面をいつも思い出すんだよ。あの時、彼の言った『いつでも元の世界に戻れるようにしておく』って言葉を。…はは、勝手だよな。自分で引き受けておいて。ナナの姉さんのことも、この宇宙のことも、全部ほったらかしにして帰りたくなっちまうんだ」

 

『…』

 

「なぁ、ジャンナイン。あの巨人が、本当の俺…こんな弱い俺を知ったら、どう思うのかな…」

 

  訪れる沈黙。星は相変わらず憎たらしいほどに光っていた。その輝きに比べ今の自分のなんとちっぽけなことか。嫌気が差して俯いた憐にジャンナインから告げられた言葉は、彼の予想だにしないものだった。

 

『安心、しただろうな』

 

「あん、しん?」

 

  憐は思わずガンパッドの方を見る。

 

『ああ。と言っても、この安心というのは僕の気持ちでもあるんだがな』

 

「なんで…?お前、普通こんな弱音聞いたら失望するものじゃないのかよ…?」

 

『ふむ、僕は人間じゃないからな。もしかしたらおかしいのかもしれないが…少なくとも、君の今までの戦いへの姿勢が僕の聞いていた人間達のものとは異なっていたから気になっていたのは確かだし、今の君の言葉を聴いて安心したのも確かだ』

 

「戦いへの、姿勢…」

 

『ああそうだ。僕の知る彼らは、常に悩み苦しみながら戦っている、というものだ。自分の正義、自分の使命、自分の気持ち…それらは必ずしも一致するとは限らない。そんな中、時には弱音を吐き、時には挫けそうになりながらも、彼らは前に進もうと懸命にもがき戦い続ける』

 

 

  僕の仲間から聞いた話だから信用してくれ、と言って笑うジャンナインに、しかし憐は黙っている。

 

『それに比べ、君は常にまっすぐな眼差しで戦い続けていた。その姿勢は頼もしくもあったが…同時に危うくもあった。どんなに勇敢だったとしても、君はまだ若い。恐怖を抑えこみながら戦っているのならいずれ憐の心が壊れてしまうかもしれない…いや、彼は力を振るうことを愉しんでいるのか?…などと思い始めた矢先に、こうして君がちゃんと自分と向き合っていることがわかった』

 

「いやちがう!俺は…向き合ってなんかない。現に、今だって逃げようと…」

 

『それでも、君は逃げずに立ち向かった!昨日だってエリーを、この街を救ったのは他ならぬ君だ』

 

「でも、普通の人ならあんなに躊躇しないですぐに助けに行くはずなんだ…!」

 

  憐の返答に若干呆れつつ、しかしやはり彼は授けられた力(ギンガスパーク)を扱うに相応しい、「心」を持っていると確信して、ジャンナインは話を続ける。

 

『君は自分が普通だった(・・・)と言ったな?でもそれは違う。君は今でも普通だ。死の恐怖に怯えることは普通なんだ。多かれ少なかれ、みな戦うことに恐怖を感じるもの…だからこそ僕は安心した。君が普通なことにな。そしてそんな普通な、それでいて正しい心を持つ君だからこそ、あの巨人は憐を選んだのだと僕は思う』

 

「俺が、普通?」

 

『君の持つその力はたしかに普通じゃない。使い方を間違えば世界に破壊をもたらすことになるだろう。しかし、憐の持つ正義感と、恐怖を感じながらも戦ってきたその勇気。そして、みんなを守りたいという気持ちがあるからこそ、力を制御できているんだ』

 

「…」

 

『君ならできる。胸を張れ、憐』

 

 

「…そっか。俺は間違っていなかったのか…。これでも、よかったんだ…!」

 

  そう呟いた憐は、思い切り立ち上がった。

 

「…よかったー!マジで安心したわ!ふぅー、いやーここんとこずっと悩みっぱなしでさ、負のスパイラルってやつに陥いってたんだよな!恥ずかしかったけど、ほんとジャンナインに打ち明けて良かった!これでダメだとか言われてたら俺完全に死んでたけど!ありがとう、ジャンナイン!」

 

  嬉しそうに語る憐に、ジャンナインも心なしか照れたような声色でかえす。

 

『フン、誇っていいぞ。僕にここまで言わせたのは君だけだ』

 

「ああ、流石にこんだけ言われりゃもう大丈夫だ!正直帰りたい気持ちはあるけど、それはしょうがないって割り切れるし、なんつーの?全部倒せばいいんだろ?じゃあ俺ならいける!って気持ちになれたよ」

 

『すまないな。君に戦えと言っているようなものだが…』

 

「いいんだって、俺がやりたくてやるんだよ!」

 

『そうか…それならよかった。しかし憐。今の話、なぜあの時ナナに言わなかったんだ?』

 

  それを聞いて憐はバツの悪そうな顏で答える。

 

「いや、それはだな…。お前は俺が別の世界から来たって知ってるから受け入れてくれるかも、と思って話せたけどさ。もしナナが俺が異世界人だと知った時に拒絶されたらって思うと怖くてな…」

 

  情けないよな、と小さく笑う憐を、ジャンナインは若干呆れながら見る。

 

(いや、今更ナナがその程度(住む宇宙)の違いで憐から離れるとは思わないが…。なかなか難しいものだな。なるほど、ムッチの言うとおりこの二人の関係を観察することは心の勉強になる)

 

『まあいいか。今は直近の問題を片付けることにしよう』

 

  その言葉に憐の表情が真剣なものへと変わる。

 

「バリケーンだろ?」

 

『ああ。というかどうするつもりだ?ギンガスパークは川で失くしてしまったんだろう?』

 

  憐はその言葉にうっと声を詰まらせるが、なにを思ったのか即座に明るい顔になる。

 

「んー、でもなんか今の俺ならいける気がするんだよな」

 

  そう言って目の前に手を突き出す憐。

 

『はぁ…いけるとはなんだ。まったく、その自信はどこから…⁉︎』

 

 

  直後、眩い光と共に憐の手の中にギンガスパークが現れた。

 

「な?」

 

『…理解不能だ』

 

「なんせお前の相棒だからな」

 

  やれやれと言った風なジャンナインに笑う憐。その顔は一日前のものとは別人で、彼の身体を蝕んでいた暗い気持ちは最早どこにもない。彼の心は、夜空に光る星々のように輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「お腹すいた…」

 

  一人でそう呟くのはナナ。携帯食料は底を尽き、ジャンスターを飛び出してから2回目の夜を迎えていた。

  実を言うと彼女は通信機を持っているのでジャンスターに連絡を入れれば万事解決なのだが、まだ気持ちの整理がついてないナナは憐と顔を合わせたくはなかった。

 

「アタシはどうしたいんだろう…」

 

 

「おーい!」

 

 と、そんな時。上空から声が聞こえた。上を見上げるナナ。

 

「あれはアタシの宇宙船⁉︎」

 

  見れば、自分の宇宙船が徐々に高度を下げてきていた。

 

(も、もしかして憐⁉︎や、やだ!まってまだ心の準備が!…どうするのアタシ。許す?許さない?いや、アイツはアタシにあんな酷いことをしたのよ!…でも迎えに来てくれたんなら、謝ったなら、許さないわけでもないか、な?いやでも)

 

  ナナが頭を抱えて考えていると、着陸した宇宙船のドアがあく。ま、まあそんなにアタシと旅をしたいっていうなら…と思いながら振り返った先には。

 

「れ…」

 

「ナナちゃーん!迎えに来たっすブボホォッ⁉︎」

 

「お前かァ!」

 

  理不尽っす…と呟きながらナナに蹴り飛ばされたムッチの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷いっすよ…」

 

「あはは…ごめんごめん」

 

  一先ず食事を終えたナナに、ムッチが話しかける。

 

「はぁ…ところで、これからどうすんすか?」

 

「どう…って?」

 

「とぼけないでくれっす。これからも兄貴と旅を続けるのか、このままこの宇宙船で一人で行くのかってことっすよ」

 

  その言葉にナナは苦しそうな表情になる。

 

「アンタは?どうすんの?」

 

「俺はもちろん、兄貴について行くっす」

 

  あれ?もしかして俺と二人で行きたいんすか?と言ってくるアホを床に沈めつつ、ナナは口を開く。

 

「正直、アタシわかんないのよ。なんでこうなっちゃったか。アタシはまだ憐と一緒にいたいわ。でも、憐はアタシのこと嫌いみたいだし…」

 

  辛そうに言うナナを見て、思わずムッチは吹き出していた。

 

「ブフッ」

 

「な!なに笑ってんのよ!人が真剣に悩んでるのに!」

 

「プクッ、いやだって!どんだけ兄貴のこと好きなんすか!ククッ、アハハハハ!」

 

「は、はぁ⁉︎今の話を聞いてどうしたらそうなんのよ!アイツのことをす、好きとか!そんなことあるわけないじゃない!」

 

  恥ずかしそうにプルプル震えながら拳を握るナナに脅威を感じたムッチは急に真面目な顔になって話し始める。

 

「んんっ!あのっすねぇ、俺が自分から二日近く空飛び回ってナナちゃんを探すと思ってるんすか?」

 

「いや、アンタはそんなことせずに放っときゃいいんすよー、とか言ってそうだわ」

 

  そのあんまりな返答にムッチは内心うわ、俺の信頼度低すぎ?と思いつつ話を続ける。

 

「兄貴っすよ。心の整理が着いたら謝りに行くから、それまでナナをよろしく、って言われたんす」

 

「憐が…」

 

  憐的にはまさかナナにばらされるとは露ほども思っていないだろうが、ムッチは下手に隠してても話が進まないだろうと思い喋った。

 

「兄貴はナナちゃんのことを滅茶苦茶心配してたっすよ?嫌いなわけないじゃないっすか」

 

「でも、他人だって…」

 

「あのなぁ、兄貴にだって人に言えないことの一つや二つあるに決まってんでしょ?プライベートってやつっすよ。ま、たしかに今回の兄貴の言い方が悪かったってのはわかるんすけどね」

 

  やれやれ、と言った風にムッチは話を続けてる。

 

「誰でも勢いで余計なことまで、思ってもないことまで言っちまうってのはあるもんだ。…ちょっと喋りすぎたかな。ま、後は兄貴から聞いてくれっす」

 

  ムッチの言葉に、ナナはまだ納得できない顔をしている。

 

「でも、アタシは憐の悩みを知りたいの。少しでも楽にして上げたいのよ!」

 

「だから、それは本人に言えって!そーゆー踏み込んだ話が聴きたいんなら、恋人にでもなっちまえば手っ取り早いんじゃねーんすか?」

 

  瞬間、ナナの顔がノーバのように真っ赤になった。

 

「こ、こここ、恋人ぉ⁉︎」

 

「てか恥ずかしくないんすか?『アタシは憐の全てを知りたいの〜!』なんて言っちゃって」

 

「そ、そんなこと言ってないでしょ⁉︎耳腐ってんじゃないの⁉︎」

 

「同じようなもんすよ」

 

「2度と笑えないようにしてやる!」

 

  限界まで人を馬鹿にしたようなニヤニヤ顏を殴ろうと追い回すナナ。それをよけつつムッチは小声で通信を入れる。

 

「こちらムッチ。ナナちゃんは機嫌を治した模様」

 

『こちらジャンナイン。憐もたった今立ち直った。これなら二人を合わせても大丈夫だろう』

 

「了解」

 

  通信を切ると、ムッチは今だ追い回してくるナナに声をかけようとして、前方におかしな影を見つけた。

 

「あれは…」

 

「くらえ!」

 

  ナナの拳を瞬間移動で避けたムッチは急いで宇宙船を起動させると上昇を開始する。

 

「ナナちゃん、あれ!」

 

「よけんじゃ…え⁉︎」

 

  二人が見たのは巨大なクラゲだった。それはものすごい速さで宇宙船を追い抜くと、そのまま一直線に走り去って行く。

 

「追うわよ!」

 

「あんな速いの追いつけないっすよ⁉︎」

 

「いいから!どっかで止まるかもしれないでしょ!あれ絶対イーヴィルクリスタルだし!」

 

「りょ、了解っす!」

 

  たしか兄貴一人で倒すって言ってたよな。これ怒られるかな…いやノリノリのナナを邪魔すれば痛い目にあうのは確実。立ち直ったんなら兄貴はもう大丈夫だと信じよう。

  ムッチの葛藤を他所に宇宙船は全速力でバリケーンを追跡し始めた。

 

 

 




まさかの戦闘なし回。じ、次回はありますから!ガッツリと!
正直忙しさよりもジャンナインや憐のセリフが思いつかなかったのがアレでした。あまり上手く言いたいことを表現できていませんが、これが今の僕の限界です。
次回はほんとに戦闘ありです!決着つけます!
よろしくお願いします!
それにしてもギンガS、最高だった…!
〜次回予告〜
ついにバリケーンとの決着をつける時!
そしてナナに謝ることはできるのか!
次回「嵐の中でー後編ー」お楽しみに!


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episode10 嵐の中で ー後編ー

ギンガS前半最終回記念…というわけではありません。前回の投稿がギンガS初回の翌日だったからかれこれ8週間ぶり…。遅筆ですいません

〜前回のあらすじ〜
憐は決意をあらたにした。


 

 

 

 

「くあー!いい朝だ!」

 

  翌日。復活した憐は久々に心地よい朝を迎えていた。

 

「ん?なんか腹減ってきたな…」

 

  思い切り伸びをして、上半身を起こす。

 その時憐の部屋のドアがノックされ、お盆を持った少女が入ってきた。

 

「どうぞ」

 

「あ、起きてたんですね!おはようございます!」

 

「ああおはよう、エリー。ってそれもしかしてご飯か?」

 

「はい!お母さんが昨日から何も食べてないだろうからって」

 

  エリーがベッドのそばの机まで運んで来てくれる。たしかに、昨日はぐちぐち悩んでて飯どころじゃなかったし、すぐに寝てしまったことを思い出す。美味しそうな匂いに心踊らせて、憐はその料理を見た。

 

「…んん?えーっと、これは何かな?」

 

「朝ごはんです!」

 

「いやそれはわかる…か…?」

 

「もしかしてまだ食欲が…」

 

  悲しそうな顔になるエリーに、憐は慌てて取り繕う。

 

「ある!あるけども…!」

 

  果たしてこれは何なのか。憐の感想はそれだった。なんだこの緑のペースト状のものは。スープ?スープなのか?じゃあなんで目玉とか浮いてんの?なまじ匂いがいいせいかどんどん腹が減って行く。しかし食欲は湧かないという謎な状況に陥る憐。

 

「あ、もしかしてまだ体が痛むんですね!それなら!」

 

  なかなか動かない憐の状態を勘違いしたエリーは器を手に取る。

 

「え?ちょまっ」

 

「はい、あーん」

 

「なん…だと…」

 

  そしてグチョッと音を立てて掬われ、口元まで運ばれる物体X。しかし、憐はそこには目がいかなかった。

  突然だがエリーは金髪碧眼超絶美少女である。いつまでも愛でていたい、撫で回したい…そんな衝動に駆られるような可愛さをもつ十歳児だ。そう、十歳である。だがその天使のような微笑みを前に憐は脳の神経がショートしたかのような錯覚を覚えた。つまり超可愛い。眩い笑顔で「あーん」をしてくる天使(仮)。なんだこの生き物お持ち帰りしてぇ!と思わず見惚れて動きが止まっていた憐を不思議に思ったのか、エリーは首を傾げてたずねる。

 

「嫌、でした?」

 

  嫌じゃないです。ジャンナイン、俺はもうダメかもしれない。憐が世の紳士達(ロリコン共)の気持ちをわかり始めたその時、彼の第六感が激しい警鐘を鳴らし、背筋にレイキュバスの冷凍ガスを食らった時並の寒さが走った。

 

「ヒッ」

 

  なぜだか憐の脳裏にすごくいい笑顔でこちらを見つめるナナの姿が浮かぶ(ただし目は笑ってない)。

 

「えい!」

 

「むぐっ⁉︎ …⁉︎ もぐもぐ…!うまい…?」

 

  思わず開いてしまった口にエリーがスプーンを突っ込む。得体の知れない食感に最初は顔を青くした憐だったが、予想外の美味しさに目を見開く。

 

「うまい…これ美味しいぞエリー!」

 

「そ、そうですか?えへへ、もっとどうぞ!」

 

「うむ、うまいうまい」

 

  こんな可愛い子にこんなうまいものを食べさせてもらえるとかここが天国か…」

 

「か、可愛い…えへへ♪」

 

「あら。よかったわねぇ、エリー」

 

  憐が至福の時を過ごしていると、リーナがにこやかに笑いながら部屋に入ってきた。

 

「あ、リーナさんおはようございます。てかもしかして俺声にだしてた!?」

 

『ああ。ほとんどな』

 

  ジャンナインから小声で告げられた。

 

「はい、おはようございます。それにしてもよかったわ、元気そうで。昨日は本当に調子が悪そうだったもの」

 

「あー、ご迷惑お掛けしてすいません」

 

「いいのいいの。それより、動けそうだったらちょっと来てくれませんか?主人が会いたがってるの」

 

「え?ええ、わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(断わりゃよかったかな…)

 

『諦めろ』

 

  リーナに連れられリビングに向かった憐を待っていたのは、強面のゴツイおじさんだった。ソファに座ったその姿から滲み出るのは圧倒的な強者のオーラ。

 

「どうぞ」

 

「は、はい…」

 

  超低音ボイスに勧められるまま向かいのソファに座った憐は、これからなにが起こるのかと戦々恐々としていた。

 

「まず」

 

「…っ」

 

  ごくり、と唾を飲む憐。

 

「娘と妻、そしてこの街を救ってくれたこと、誠に感謝申し上げる。本当にありがとう」

 

「ええ!?」

 

  しかし、憐の予想とは裏腹に、彼は突然立ち上がると、綺麗な礼をしながら感謝の言葉を述べてきた。

 

「いやいやいや、頭を上げてください!」

 

「それはできない。この街の長として、なによりこの家の主人として。感謝してもしきれないほどのことをしてもらったのだ」

 

「だからってそんな直角になんなくても…って長?」

 

「はい、主人はこの街の市長なんです」

 

  憐の疑問にお茶を持ってきたリーナが答える。

 

「じゃ、じゃあ余計ダメですって!気持ちは十分伝わりましたから!」

 

「しかし…」

 

「ほらあなた、憐さんが困っていますよ?」

 

「ぬ…たしかに、恩人に気遣わせるのは悪いな」

 

  見かねたリーナの言葉に、やっと顔をあげる男。

 

「改めて。私の名前はガイ、この街の市長をやっている」

 

「あ、俺は一条寺 憐です」

 

  お互い名乗って一旦お茶を飲むと、ガイが再び話を切り出した。

 

「実は、今日君に会いたかったのはお礼を言いたかっただけではないのだ」

 

「と言うと?」

 

「あの怪物についての話だ」

 

「居場所がわかったんですか!?」

 

  バリケーンについての話題に、思わず身を乗り出す憐。

 

「ああ。と言っても、奴自体の進路は以前の台風と変わらん。傷を癒しているためか戦闘機で近寄ってもなんの反応も示さない。ただ風にのって漂っているだけだな。そのままいけば、この街に再び来るのは二日後の昼になる」

 

「二日後…」

 

 拳を握りしめる憐。それを見ながらガイは話を続ける。

 

「妻と娘が、君がウルトラマンになって戦ったと言っていたんだがそれは本当か?」

 

「え、ええ」

 

 突然の質問に驚きつつも答える憐。

 

「ならば君は宇宙警備隊なのか?」

 

「いえ、違いますけど…」

 

「出身は?この星ではないだろう?」

 

「は、はい、今は旅をしてますけど…」

 

 次々と出される質問に、少し面食らいながらも答えていく憐。

 それらをきいてガイは深いため息をつく。

 

「そうか…ならば憐君、君はもうこの星を去った方がいい」

 

「ええ!?な、なんでですか!?」

 

 突然告げられた言葉に、憐は驚きを隠せない。

 

「…我が国の王は、強欲なことで有名なのだ。ただの旅人がウルトラマンの力を扱えると知れば、彼は必ず君を捕らえて洗脳を施し、自らの兵力とするだろう」

 

「洗脳って…いやでも!バリケーンはどうするんですか!」

 

「幸い、奴は今弱っている。総攻撃を仕掛ければ倒せるかもしれない」

 

 そう言うガイだが、勝ち目は薄いのだろう。あまり自信のある表情とは言えなかった。

 

「とにかく、まだ君がウルトラ戦士の力を使えることはバレていない。君は私達の命を救ってくれた恩人だ。これ以上、本来関係のなかった君を危険な目に合わせたくはない。今のうちにこの星を去るんだ」

 

 ガイの言葉を受け、憐は一度目を瞑る。そうして思い浮かべるのは元の世界での自分の姿。昔も今も、スケールが違うだけでやっていることは変わらない。ならば、憐の答えはただ一つ。

 

「…お気持ちはありがたいですが、俺は戦いますよ」

 

「な!なぜだ!?この星に何かあるわけでもないのだろう?」

 

 憐の答えを聞き驚くガイ。その彼の問いに憐は静かに首を振ると、ガイの瞳を真っ直ぐ見つめる。

 

「俺はあいつを倒さなきゃなんない。それが俺の旅の目的なんです。でも使命とか約束とか、そういうのよりも、目の前に困っている人がいる、失いたくない笑顔がある。それだけで、命を懸けるには十分だ!…と思います」

 

 熱くなって思わず立ち上がっていた憐は、恥ずかしくなり椅子に座り直す。

 そんな憐の言葉にガイは深く頷くと、再び頭を下げる。

 

「…そうか、ならば憐君。どうかこの星を、よろしく頼む!」

 

「!もちろんですよ!…あ、バリケーンが来るまで泊めてもらっていいですかね?」

 

 決まりが悪そうな顔で付け加えられた憐のお願いに、ちょうどリビングに降りてきたエリーは喜びの声をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

『マイナスエネルギーの反応を感知。あと2分ほどで真上に来るぞ!』

 

「きたなクラゲ野郎…!」

 

 二日後、街から10kmほど離れた岩山で、憐はバリケーンを待ち構えていた。少しでも早くバリケーンの姿を捉えようとここに来ていた憐だったが、バリケーンはもう力を取り戻したのか空には暗雲が立ち込め、激しい風が吹き始めていた。

 ジャンナインの報告を聞きギンガスパークを取り出す憐。その表情はやる気に満ち溢れている。

 

「リベンジマッチだ!絶対勝つ!」

 

『ウルトライブ!シーゴラス!』

 

 

 スパークドールズをリードし光に包まれた憐は、天を揺るがすような咆哮をあげながら竜巻怪獣シーゴラスへと変身。

 調子を確かめるように2、3度尻尾で岩肌を叩くと、シーゴラスは空を睨みながら頭部の巨大な角を発光させた。

 直後、次々に巻き起こる黒い竜巻。それらは厚い雲に覆われた空に突き刺さると、バリケーンを取り巻く暗雲を蹴散らしていく。

 

 《見えた!》

 

 自分の力が削られていくのを感じているのか、たまらず悲鳴を上げ雲の隙間から顔を覗かせるバリケーン。憐は待ってましたとばかりにバリケーンに向けて竜巻を殺到させる。

 当然自らの能力で竜巻を操ろうとするが、シーゴラスの力を完璧に扱う憐からは主導権を奪うことはできない。結果、四方を竜巻に囲まれたバリケーンは、風の檻にとらわれたように身動きがとれなくなった。

 

 《風を操れるのはお前だけじゃないんだよ!んでもって…くらえ!》

 

 

 もがくバリケーンを尻目に、シーゴラスは新たな竜巻を発生させるとその中に飛び込み、自ら空へと巻き上げられていく。

 回転しながらロケットのように突き進むシーゴラスを見て本能的に恐怖を感じたのか、バリケーンは全力で拘束を解こうと暴れる。そのせいで直撃はしなかったものの、シーゴラスの角は見事バリケーンのかさの一部を抉り取り、飛行能力を奪うことに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「すごい…」

 

 町の外れにある広場に、たくさんの人々が集まっていた。彼らが見つめる先には、落下していく巨大クラゲと、それを上空から見下ろす一体の怪獣の姿がある。

 空にはもはや雲はなく、久方ぶりの青空が広がっていた。

 

「まさかこれほどとは…」

 

「お父さん、お兄さんすごいね!」

 

「あ、ああ。彼ならば本当にヤツを倒せるかもしれないな」

 

 ガイの言葉に満面の笑みを浮かべて頷くエリー。そんな二人の横で、リーナは祈るように手を合わせている。

 とそんな真剣な雰囲気の広場へ、小さな宇宙船が着陸してきた。

 

「こらムッチ!まだ近づけるでしょうが!」

 

「ナ、ナナちゃん?俺、かれこれ二日間も寝ずに運転してたんすけど?」

 

 疲労困憊と言ったような金髪の男の言葉に、活発そうな美少女がため息をつきながら答える。

 

「はぁー、情けない。じゃ、アンタは寝てていいわよ。てかむしろいらないか。今日はアタシが必要ってことを、憐に見せてやるんだから!」

 

「ひどいっす…もう寝よ」

 

 途端にガーガーいびきをたてながら寝始める不良っぽい青年と、「憐、待ってなさい!」と言って走り出す少女。

 

「お、おい!君達は何者だ!?」

 

 突然現れたこの不審な2人組を警戒していたが、憐というワードが聞こえたことで思わず少女を呼び止めるガイ。それに対する彼女の返答は、しごく簡単なものだった。

 

「アタシ達?決まってんじゃない、憐の仲間よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 《これでもう飛べないし、風も使えないな!》

 

 辺りの雲が晴れていくのを見て、憐は満足気に呟く。

 

 《さ、ラストスパートだ!》

 

 そう言って憐が突き出した手の前に現れたのは、ウルトラマンティガのスパークドールズ。憐は確かめるように頷くとティガを掴み取り、ライブした。

 

『ウルトライブ!ウルトラマンティガ!』

 

『テェヤ!』

 

 ティガは空中でパワータイプにチェンジすると、地上で起き上がろうとしているバリケーンに急降下キックを浴びせる。

 それにより更にかさが抉れ、大きなイーヴィルクリスタルが露出した。

 

『チャア!ヘヤッ!』

 

 それを見たティガはクリスタルに向かって連続でパンチを繰り出す。一発一発が重いそれは、クリスタルに次々と突き刺さりヒビを入れていく。

 しかし、いつまでも黙ってやられるバリケーンではない。イーヴィルクリスタルに気を取られ防御が疎かになっていたティガの体に触手を巻きつけると、青白い電流を流し込み始めた。

 

 《がっ!?ぐあああっ!ぐくっ、なんだこれ、づぁ!力が入んねぇ!?》

 

 

 全身を駆け巡る電流により麻痺したティガは、体に力が入らず膝をついてしまう。

 バリケーンはすかさず触手を操りティガを無理矢理立たせると、頭部の赤い結晶体を発光させる。そこから放たれた衝撃波は、ティガを数百メートルも吹き飛ばし、山の岩肌へ激突させた。

 

『グッ…デェアア…』

 

 立ち上がろうとするが、思うように力が入らず前に倒れこむ。カラータイマーも点滅を始め絶体絶命のティガに、バリケーンから放たれた電撃が襲いかかった。

 

 

『バトルナイザー・モンスロード!』

 

 しかし、その電撃はティガの目の前に現れたエレキングに阻まれる。

 エレキングは電撃を手で振り払うと三日月状の光線でバリケーンを吹っ飛ばし、ティガの手をとって起き上がらせた。

 

 《お前、どうして…》

 

「ったく危ないわねー。なにピンチになってんのよ」

 

 憐の問いに、近くの山から返答があった。思わず振り返ると、そこには嬉しそうな笑みを浮かべるナナの姿が。

 

「ほら、サポートしてあげるからちゃっちゃとあのでかクラゲ倒しちゃいなさい。アンタには言いたいことが山ほどあるんだから!」

 

 《だけどコイツは俺が!…いや、そうだな。俺たちの手にかかれば、こんなヤツ一捻りだ!》

 

 思わずナナの言葉を否定しようとした憐だったが、すぐに考え直すと彼女と同じような笑みを浮かべながらバリケーンへと向き直る。

 

『ハッ!ハアァァァァア!!』

 

 両手を広げ、腕を力を掻き集めるかのように大きく回して胸の前にエネルギー球を生成する。

 その灼熱のエネルギーに恐怖したのかバリケーンが電撃を放つが、ティガが怯むことはない。なぜなら、彼には頼もしい仲間がいるのだから。

 

「エレキング!全部ブチ破っちゃって!」

 

 パートナーの指示に応えるように一声鳴くと、ティガに並び立つエレキングの口から再び三日月状の光線が発射され、バリケーンの電撃を全て相殺する。

 その間にエネルギー球を振りかぶったティガは、必殺のそれを全力を込めて解き放つ。

 

『ハァッ!!』

 

 デラシウム光流は寸分違わずイーヴィルクリスタルを撃ち抜いた。

 コアたるクリスタルを失ったバリケーンは素体であるクラゲを残して水となり崩れ落ちる。ティガはすかさずバリアでクラゲを保護すると海へと転送させた。

 

 

 《テェア!》

 

 そして最後に街の人々がいるであろう方角を見て頷くと、力強く地面を蹴って空の彼方へ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃないわよ!なに逃げてんの!」

 

「悪かったって、昔からの憧れでつい、な…」

 

「よくもぬけぬけと…!言いたいことが山ほどあるって言ったでしょーが!」

 

「ま、まあまあ」

 

「「ムッチは黙ってろ(て)」」

 

「なんでそこは息ぴったりなんすか…」

 

 戦いを終え、ジャンスターの中。ワイワイとしたその空気には、つい3日ほど前まであったわだかまりは微塵もない。

 あの後適当な山の中でライブアウトしガンパッドでジャンスターを呼び寄せた憐だったが、すでにその中にはナナ達が待ち構えていた。最初こそ若干の気まずさで会話もぎこちないものだったが、五分もすれば今まで通りのやりとりが繰り広げられていた。

 

「あー、少しいいか」

 

 そんな中、憐は一度会話を切り、真剣な顔でナナへと体を向ける。

 

「…悪かった、ナナ」

 

 そして、謝罪の言葉を口にした。

 

「…それは、もういいわ」

 

「いや、俺はお前に」

 

「いいの。アタシがききたいのは一つだけ」

 

 なおも続けようとする憐の言葉を遮り、ナナは告げる。

 

「憐にとって、アタシはなに?」

 

 声は震えていたが、彼女の瞳はただひたすらに憐だけを捉えている。その様子から、この問いがナナにとってどれほどの価値を持つのかが伺えた。

 その問いの意味も重みも全て正しく理解した憐は、しかしすぐに言葉を返した。

 

「俺にとってのナナは、大切な仲間…いや、掛け替えのない存在だ」

 

「この三日間、俺は思い知らされたよ。今までどれほどナナに助けられていたのかをな。俺にはお前が必要なんだ。これからも、一緒にいてくれないか?」

 

 自分の思いを言いきり、若干余裕ができた憐はナナの異変に気づく。喋っている時は夢中でわからなかったが、よく見なくても顔が真っ赤になっていて、その上金魚のように口をパクパクと開けたり閉じたりしている。

 

「え、う、え、ええ!?そ、これは、ええーとつまり?こ、こくはっ!!〜〜っ!!」

 

「お、おい!大丈夫か!?」

 

 何かを言おうとして舌を噛んだらしく更に涙目もプラスされるナナ。これはうまく伝わってないのか?と思い至った憐は、さっきの言葉を最も簡単にまとめて言い放った。

 

「ま、要するに『妹』みたいな存在だな。俺にとってのナナは」

 

 その瞬間、誰かが椅子から転げ落ちる音と、ピシッという何かが氷つく音が同時に聞こえた。

 

「兄貴マジすか…」

 

『この流れでこう来るとは…やはり人の心は奥が深い…』

 

「あ?何いってんだお前ら…うおっ!?」

 

 わけのわからないことをほざく男二人(?)に対しツッコミを入れようとした瞬間、殺気を感じた憐は前転でその場を離脱する。直後頭の位置を通過する鉄拳。

 

「へー、妹。そっかー、妹ねー」

 

「あ、ああ。俺には妹がいるんだけどな、雰囲気がそっくりなんだよお前と…ってなんで!?」

 

 今度は頬のすぐそばを拳が通過する。

 

「いいわ、期待したアタシがバカだった…でもなんか許せないから一発殴らせろ!」

 

「いや待て落ち着け!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

「本当にありがとう。君には返すことのできないほど大きな借りができてしまったな」

 

「いいんですって。それより、街の復興とかもあるでしょ?そっちを最優先でやってくれた方が俺としても嬉しいですし」

 

「そうか…しかしあの強欲王のことだ。復興金など…いや、私が頑張るしかないな。憐くん、困った時は連絡してくれ。なんでも協力しよう」

 

 

 なぜか殴られた後、憐は別れの挨拶をしに街へ戻ってきていた。太陽はすでに傾いている。ガイの連絡先をガンパッドに記録した憐は、握手を交わす。

 

 

「泊めてもらった三日間は忘れません。ありがとうございました」

 

「こちらは命を救ってもらったんだ。それぐらい大したことはない」

 

「そうですよ。私達も楽しかったわ。本当にありがとうございました。ほら、エリーも挨拶しなさい?」

 

 リーナとも握手をすると、彼女はエリーを憐の前に立たせた。

 

「お兄さん、いっちゃうの…?」

 

 エリーと憐はこの二日間で相当仲良くなった。上目遣いに涙を溜めながら、今にも泣きそうな声で問いかけてくるエリーに思わず「ずっといるよ」と言いかけるが、そこはぐっと堪える。

 

「ああ、俺にはやらなくちゃならないことがあるからな」

 

「また会えますか…?」

 

 憐は微笑むと、しゃがんで目線を合わせ、エリーの頭を撫でる。

 

「当たり前だ。俺はエリーが呼べば、例え違う宇宙にいたって飛んでいくぜ?」

 

「はい…約束、ですよ?」

 

「絶対だ」

 

 

 指切りを済ませた憐は、後ろで待っている仲間たちの元へと行こうとして、空から降りてくるヘリコプター的な乗り物に気づいた。

 

「君かね、ウルトラ戦士や怪獣の力を使えるというのは?」

 

「…そうですが?」

 

 目の前に着陸したそれから降りてきたのは思い切り王様っぽい人と武装した護衛達。バトルナイザーに手をかけたナナとムッチにアイコンタクトで動くなと伝える。

 

「ぜひ君には我が軍に来てもらいたいんだ」

 

「嫌だと言ったら?」

 

 周りを囲う兵隊が武器を構える。それを見て、ガイやわざわざ見送りにきてくれた街の人達も殺気だつ。

 

「さあ、大人しく…」

 

「あー、一つ、いや二ついいですか?」

 

 憐はポケットからギンガスパークを、背中のリュックからスパークドールズを素早く取り出すと、リードする。

 

『ウルトライブ!キングクラブ!』

 

「な、なんだとっ!?」

 

 憐は王に思い切り顔を近づけると、鋏をシャカシャカさせながら忠告した。

 

 《一つ、俺はお前らの軍には入らねぇ。二つ、この国の人達の為の政治をしろ。…俺はこの街の人達と定期的に連絡を取り合うからな。二つ目が守られてないとわかったらーーー》

 

 ーーー真っ二つかもな。

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!!!」

 

 顔面蒼白になった王達は全力で逃げ帰っていく。憐はため息をはくとライブアウトした。

 途端に駆け寄ってくる街の人々。みな口々に礼をのべてくるので悪い気はしないが、二回目(一回目は挨拶に来た直後)なのでさすがに疲れる。とその時、少し離れたところからこちらを見つめる老人の姿を見つけた。

 憐は様々な思いを込めて老人にVサインをする。彼は微笑みながら頷いてくれた。

 

 その後「おい、みんなその辺にしろ」というガイの言葉でやっと解放された憐は、今度こそ仲間たちの元へと辿り着く。

 

 

「すっかり英雄様っすね」

 

「あー、バカ言ってねぇでいくぞ」

 

「お兄さん!!」

 

「ん?エリー?」

 

 ジャンスターに乗り込もうとしたところで、突然呼び止められる。振り返ると、エリーがこちらを真っ直ぐ見つめている。

 

「私、大きくなったらお兄さんのお嫁さんになります!だから、浮気しちゃダメ!ですよ!」

 

「なっ!?」

 

 驚きの発言に目を丸くする憐。エリーの両隣にいるガイとリーナに視線を向けると、なぜだか力強く頷いている。え、あのガイさん?そんなお前なら任せられる的なノリやめません?と一人トリップしている憐の背筋に冷たいものが走る。

 

「はっ!この感覚は!」

 

「れ〜ん〜!アンタってやつは!」

 

「俺!?俺が悪いの!?」

 

「いやー、兄貴も罪作りな人っすね〜」

 

『憐、ガンパッドにガイからあと6年待て、と送られて来ているが』

 

「はぁ!?何を!?あの人なに言って…」

 

「お兄さんは、私と結婚したくないですか?」

 

「結婚しよう」

 

「なに真面目な顔で言ってんのよこのロリコンがァ!」

 

「や、やめろ!てかロリコンじゃねぇ!」

 

「じゃ、じゃあ!アタシと結婚するの!?」

 

「なんだそれ!!」

 

 

 

 …こうしてまた一つ、平和な街の夜が更けていく。




駆け足気味ですがやっとバリケーン倒しましたよ。あれーなんでこんなに手こずったんだろう。予定と違う…

にしてもギンガS!なんですかあれ!最高じゃないか!また毎週ウルトラマンを楽しみにできる日が来るとは!これぞウルトラマン、という感じでしたね。
まあ称賛すべき点はたくさんあるんですが、ふと郎的に嬉しかったのはエレキングやレイキュバス(はパーツでしたが)などこの小説に登場する怪獣がいたことですかね。特にあのエレキング、歴代最強レベルでした。たぶんうちのもあれくらい強いです。

とまあ作品に関係ないことはここまでにして。
いつも遅くてすいません。できれば前のお話を忘れられる前に投稿したいのですが、それには技術も時間も足りず…次も遅くなるかと思いますが、よろしくお願いします。
ではまた次回!

〜次回予告〜
次回はジャンスターでの日常、エリーとの二日間など短い話を集めたものとなります。
次回「束の間の休息」お楽しみに!


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episode11 死神の尖兵 ー前編ー

長らくお待たせしました。
報告などは後書きにて。


 

 

「おっはよ〜!」

 

「…おはよう」

 

「おはようっす。あれ、なんか兄貴疲れてません?」

 

 ムッチが朝食(もっとも、朝も夜もない宇宙では、起きてから食べる最初のご飯をそう呼んでいるにすぎない)をテーブルに並べていると、ナナと憐が一緒にコックピットへ入ってきた。

 

『コックピットでご飯を食べるのはやめ「…ああ。聞いてよムッチくん。この人容赦ないんだよ」

 

「この程度で根を上げてるようじゃ、とてもじゃないけど毎日ウルトラマンに変身できる様にはならないわよ?だいたい、厳しくしろって言ったのはアンタじゃない」

 

 今までの戦いで自分の力不足を痛感した憐は、とりあえずティガに変身しても筋肉痛にならないような身体作りをナナの監督の下はじめたのだが、3日目にして既に満身創痍である。

 

「あのな、どこの宇宙に初日からつるほど筋トレさせる奴がいんだよオイ」

 

『コックピットでご飯を「あ、明日はアタシのサンド…んん、攻撃を受けてもらうから」

 

「ねえ今この人サンドバックって言おうとしたよね?」

 

「御愁傷様っす」

 

『コッ「この人でなし共!あ、元から人間じゃないか…」

 

 若干キャラが崩壊しつつある憐は、痛む身体に鞭を打ち、ノ全身で「俺体痛いです」アピールをしながらノロノロとテーブルに向かう。

 

「「いただきまーす」」

 

「うっそだろお前ら!」

 

 育ち盛りしかいないジャンスター号の食卓。腹を満たすためならば弱者など捨ておかれる非情の世界である。

 

『…』

 

 ちなみに、食事を邪魔する者にも容赦はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食後に4人で談笑していると、憐は内ポケットの中のギンガスパークが微かに震え始めたのを感じた。

 

「おっ!クリスタルの反応ありだ!ジャンナイン」

 

 

『了解。メインエンジン停止、逆噴射…機体の停止を確認。憐、いけるぞ』

 

「よし…こっちだ!」

 

 憐の言葉を聞き、ジャンスターはすぐさま航行を停止し、その場に留まる。その後、憐はギンガスパークの反応が強まる方角を探すのだが、ジャンナインは憐の動きをジャンファイトシステムの応用によりトレースすることで、船体の向きをリアルタイムで調節し、正確な進行方向の特定を可能としていた。

 

「きゃっ!」

 

「どわぁっ!ちょ、兄貴!急に動かすのは勘弁っす!」

 

『それいつも言われてるな』

 

「そして毎回謝ってるな。ごめん二人とも」

 

「まあそんな吐きそうな顔で謝られたら許すしかないんだけどね…」

 

「自分が一番弱いのになんで無茶するんすか…」

 

「…この時だけは無重力の方が良いと思う」

 

『船内に一定方向への重力があってはじめて、君が地に足つけて正しい方向に腕を向けるという動作ができるんだ。諦めろ』

 

 

 イーヴィルクリスタルと距離がある場合、その反応がすぐ消えてしまうのともしばしば。そのため憐はなるべく早く方向を決定しようと素早く腕を振るう。しかし、ジャンナインの完璧すぎるトレースによる機体の急旋回で被害がでる(主に憐)ことも多々あった。

 

「三半規管も鍛えるべきね…トレーニングメニューに追加しとこ」

 

「だからまだ始めたばっかだし…なんだその分厚いノート」

 

「これ?これは…えーと、アタシの日記とか、アンタのトレーニングメニューとか色々書いてある何でもノートよ」

 

「へー、日記なんて書いてるんすか。見たいっす!」

 

「イヤ」

 

「良いじゃん。俺も見たい」

 

「絶対にイヤ」

 

『ナナの心拍数が急上昇中』

 

「ッ!」

 

「あれ?もしかして…なにか恥ずかしいことでも?」

 

「マジかよ気になる。ほら、見せてみすまん調子乗ったその厚さはヤバイから振りかぶふぅ!!」

 

 ナナはその日の日記に、手をあげてしまったことへの後悔を書くはめになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クリスタルの反応を辿って航行を続けていると、一行は衛星軌道上に小惑星帯を持つ惑星に辿り着いた。大小様々な岩の塊の隙間を縫うように進んでいく中、ジャンナインのレーダーに生命反応が現れる。

 

『有機生命体の反応を確認、後方からかなりのスピードで、いやテレポートで接近してくる』

 

「そいつがイーヴィルクリスタルっすかね」

 

「どうだろうな。クリスタルの反応は大きくなってきてるし、この付近にあるとは思うがそこまで急上昇ってわけじゃないし」

 

『距離2000。モニターに映像を出すぞ』

 

 映し出された映像に、三人は目を凝らす。じっと見つめていると、星々の輝きとは違い段々と大きくなる黄色の発光体に気づいた。

 

「あっ、アレっすね」

 

「え?どこどこ?」

 

「ほら、あの黄色いのっす」

 

「あー!確かに!って憐?どうしたの黙っちゃって」

 

 

 その問いには答えず、憐は自分を落ち着かせるように敢えて静かに指示を出す。

 

「ジャンナイン、全速力でこの小惑星帯を抜け、目の前の惑星に着陸。二人は戦闘準備だ」

 

『了解。みんな、衝撃に備えろ。出力最大』

 

「うわっと!」

 

「っつ!ジャンナイン、あの星灰色一色だし無人だよな?」

 

『データではそのようだな。…小惑星帯を抜けた。これより惑星の重力圏に突入』

 

「だからどうしたのよ、憐」

 

「後ろから来てる奴にビビってんだよ」

 

「あの黄色いのっすか?」

 

「ああ、あいつは多分…ゼットンだ」

 

 

 憐の言葉で船内に緊張が走る。

 

「ぜ、ゼットン!?あの1兆度の!?」

 

「毎度のことながらよく一目で分かるわね。にしてもゼットンかぁ」

 

『3、2、1、着陸。…なるほど、ゼットンと戦うには小惑星では小さすぎるというわけか』

 

「そういうわけだ。ほら二人とも、来るぞ」

 

 モニターに上空から降下してくるゼットンの影を認め、憐はティガのスパークドールズを取り出す。それにならってバトルナイザーを構えながら、ナナは憐に尋ねる。

 

「…勝てると思う?」

 

「みんながいるんだ、大丈夫さ。それにあいつからも(・・・)イーヴィルクリスタルの反応が出てる。なら、なんとしても勝たなきゃならない」

 

「作戦はなんかあるんすか?」

 

「おう、今から早口で言うから聞き漏らすなよ」

 

『噛むなよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ウルトラーイブ!ウルトラマンティガ!』

 

『『バトルナイザー・モンスロード!』』

 

 土を巻き上げながら横並びに実体化した3つの巨体は、お互いに頷き合うと空を見上げる。

 

『ハッ!』

 

「いけ!」

 

「くらえっす!」

 

 上空に向かってティガスライサー、三日月状の光刃、磁力光線が一斉に飛んでいくが、それら全てをテレポーテーションで避けたゼットンは、三体の真ん中、ティガの目の前に現れる。

 

『グウゥッ!』

 

 間髪入れずに繰り出されたドロップキックをまともにくらい倒れこむティガ。

 

「させないわ!エレキング!」

 

 ティガに火球を放とうとするゼットンへ、エレキングの尻尾が絡みつく。ティガを吹き飛ばしたということは、ゼットンは丁度アントラーとエレキングに挟まれる形になっているのだ。体を走る高圧電流に、ゼットンはたまらず膝をつく。

 

『ンー…ン、ハッ!』

 

「今っすね!アントラー!」

 

 

 後転して距離をとったティガは、パワータイプに変身。それを合図にムッチの指示で発射された磁力光線がゼットンを捉え、交代するようにエレキングは尻尾の拘束を解く。

 

 《ナナ!》

 

「エレキング、ライトニング…あー、エミッション!」

 

『今考えたなその名前』

 

「ジャンナイン黙ってて」

 

 エレキングの口から電撃が飛び出す。引き付けられそうになる体を踏ん張って堪えているため、身動きが取れずテレポーテーションを封じられたゼットンは、それを胸で吸収し、逆に波状光線に変換してエレキングへ照射する。

 

「エレキング、戻って!」

 

 《今だ!》

『ハァァァー…!ハァ!!』

 

 すぐさまナナはエレキングをバトルナイザーに戻し波状光線を避ける。と同時に、ティガはデラシウム光流を横を向いているゼットンへと叩き込んだ。

 

「やった!」

 

 《いーや…》

 

「うわ、タフっすね…」

 

 ナナが歓喜の声を上げるが、ティガは再び構えをとる。

 無防備な状態に真横から炸裂したデラシウム光流だったが、倒すには至らなかったようだ。

『ゼットン…』という不気味な鳴き声と共に煙の中から現れたゼットンは右腕を失い、ヒビが入った右の発光体からは光を失いつつも、未だ健在だった。

 

『バトルナイザー・モンスロード!』

 

「上等よ!」

 

「プランFっすね!」

 

『チャアッ!』

 

 殴りかかってきたティガを、しかしテレポーテーションで簡単に避けて見せたゼットンは、三体の背後に距離を置いて現れ1兆度の火球を乱射する。

 

「じ、地面に潜れ!」

 

『テヤッ!』

 

「ライトニングカッター乱射!頑張って!」

 

 バリアで身を守っていたティガは、ライトニングカッターと火球が相殺された際の爆発に乗じて空へと飛び上がり、急降下の飛び蹴りをくらわした。左のツノを折られたゼットンは地面へと倒れこみ、地面から突き出してきた巨大なハサミにがっしりと体を挟まれた。

 

 《ナナ、エレキングは大丈夫か?》

 

「なんとかね。それより今は、あいつを倒さないと」

 

 相殺しきれなかった火球をくらい地に伏していたエレキングを助け起こしたティガは、アントラーに投げ飛ばされ地面を転がるゼットンを見やる。カラータイマーは既に点滅を始めていたが、憐に焦りはない。

 

 

 《ああ、一気にいくぞ。あのゼットンのためにも》

 

 片腕でなんとか立ち上がったゼットンは足に走る衝撃でバランスを崩しそうになる。アントラーの顎に捕えられたのだ。痛々しい姿になったゼットンの表情からは何も読み取れないが、足を挟まれたままバリアーを張ったその姿からは、なんらかの覚悟を感じた憐だった。

 

 

 《フッ!ハァァァァァ…!チャアァッ!!》

 

「エレキング、フルバースト!」

 

 幾千もの稲妻が一点に降り注ぎ、そこへ重なるようにして燃える炎のような色のゼペリオン光線が突き刺さる。

 

『……!』

 

「いい加減、倒れなさい!」

 

 ピシッ、と薄氷にヒビが入るような音が響き、一度入った亀裂は急速に全体へと広がっていく。

 

「あと一息っす!」

 

『ゼットンの頭部のエネルギー密度が高まっている。火球を放つつもりだ!』

 

 バリアーが決壊した瞬間、ゼットンから特大の火球が放たれた。しかし、それがティガとエレキングの合体光線と拮抗したのは一瞬であり、直後にゼットンは頭部に光線を浴びて火花を吹き出した。

 

 

『爆発に巻き込まれる!上空へ離脱するぞ!』

 

『テェア!』

 

「エレキング、戻れ!」

 

「アントラーもっす!」

 

 

 

 ティガとジャンスターが安全圏に逃れたところで、ゼットンは後ろに倒れ込みながら大爆発をおこした。それを見つめながら、憐はふと違和感を覚える。

 

 《イーヴィルクリスタルが出てこないな》

 

 普段なら倒せば出てくるはずのイーヴィルクリスタルが、一向に現れないのだ。

 

「嘘…じゃああのゼットンは野生の…?」

 

 《いや、たしかに反応はあったん…!?ぐああっ!》

 

「憐!?」

 

『これは回避出来ない、二人とも、着弾に備えろ!』

 

 並んで滞空していたティガが突然落下し、直後にジャンスターも下から突き上げるような衝撃に見舞われる。

 

「今のは火球!?まさかまだゼットンが…」

 

「違う!アレ見て!」

 

 コックピットのモニターに映し出されたのは、背中から地面に叩きつけられたティガに向かって歩みを進める、紅い怪獣の姿だった。

 

「新しい怪獣!?」

 

 《モンス、アーガー…?なぜ…》

 

 モンスアーガーは起き上がろうとするティガに蹴りを入れると、両手を合わせて追い打ちをかけるように三発の火球を放つ。

 

『グッ…デェアァァァ!!』

 

 爆炎に包まれたティガから苦悶の声が漏れ、カラータイマーの点滅はその間隔を狭めていく。

 

「憐!このっ…!」

 

「こうなったらアントラーを…」

 

『待て!どうやらレイオニクスが足元にいるようだ』

 

 バトルナイザーを構える二人を止め、ジャンナインは映像を拡大させた。モンスアーガーの近くに、バトルナイザーを手にした少年らしき人物がみとめられる。

 

 

 

 

 

『チャッ!』

 

 煙の中から青い光線が飛び出し、様子を伺っていたモンスアーガーに直撃。ティガフリーザーをまともにうけたモンスアーガーはたちまち凍り付いてしまった。

 

(たしか、モンスアーガーの弱点は、頭の天辺!くっ、時間もない。これでトドメだ!)

 

 炎の中でスカイタイプにチェンジしていたティガは、空へ跳ぶ。

 

『ハッ!』

 

 急降下キックを仕掛けるティガ。そこへ静止の声がかかった!

 

「あ、兄貴!レイオニクスは取り押さえたっす!」

 

「そいつ倒すのストーップ!」

 

 《ええ…》

 

 ティガは宙返りをして見事に着地した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいやめろ!はーなーせー!」

 

「ほーら、大人しくしないと溶かしちゃうっすよ〜?」

 

「ゴボゴボさすな!泣いちゃうでしょうが!」

 

「俺にもその位の優しさがあってもいいと思う。つーかこの星空気あったのか…」

 

『それもそうだが、僕は有機生命体が存在していることに驚きを隠せない。データに齟齬が…?』

 

 ムッチの瞬間移動により背後から取り押さえられた少年レイオニクスは、縄でぐるぐる巻きにされながらジタバタと暴れていた。

 ムッチに支えられなんとか立っている憐が言うように意外にも空気のあるこの星だが、辺りは一面岩だらけ、空を見上げても闇にこの星の太陽がポツンと浮かんでいるだけという徹底した死の星っぷりだった。ガンパッドから漏れるジャンナインの声から察するに、首があったら傾げていそうな勢いで人がいることが不思議でならないらしい。

 

「はあ…いてて。んで?君はなんで俺たちを襲って来たんだ?」

 

 憐の問いに、少年は噛みつくように答える。

 

「お、お前達が、ゼットンを連れてきたからだ!この侵略者共め!」

 

「あー、なるほど…」

 

「たしかに見方によっちゃあそう見えるっすけど…」

 

『戦場に選んだという点では間違いではないな』

 

「アタシらちゃんと倒したのに…」

 

「おーい!ライムー!」

 

「ッ!父さん!?」

 

 思わぬ回答に三人がなんとも言えない顔になっていると、何事か叫びながら一人の男性がこちらへ向かってくる。どうやらライムと呼ばれたこの少年の父親のようだ。

 

「何してんだ父さん!隠れてなきゃいてぇっ」

 

「何言ってんだこの馬鹿たれが!す、すいませんお三方!うちのドラ息子がとんだご無礼を!」

 

「いやいや頭を上げて下さい」

 

「そういう訳には…」

 

「話が進まないんで」

 

 憐になだめられ、しぶしぶといった様子で土下座をやめた男性は自らをオランゲと名乗った。

 

「こうなった以上いつまでも外にいるのは危険です。詳しい話は中で」

 

「父さん!」

 

「ナナ、縄を解いてやってくれ。…ライム君、俺たちは侵略しに来た訳じゃないんだ。信じてくれないか」

 

 憐の言葉に、自由になったライムは顔を背け、先ほどオランゲがやってきた方向へ走って行ってしまった。

 

「嫌われちゃったっすねー」

 

「あいつ…あ、すいません。こちらです」

 

 オランゲの案内でしばらく歩くと、人工的な扉の前に辿り着いた。ソレを通り、地下へと伸びる階段を下って行くと、ガヤガヤとした喧騒が次第に大きくなっていく。

 

「人の声が聞こえる…」

 

「ここは避難用のシェルターです。もっとも、このような物が星中にあるので、今ここにいるのはごく少数ですが」

 

 階段を下り終え、開けた場所にでる。かなりの大きさの空間で、数千人はいるように思える。

 憐達が入ってくると、人々の視線が一斉に向けられた。耳をすませば、「あれが宇宙警備隊の人ー?」「まだ子供じゃないか!」というような声も聞こえてくる。

 

「おい!みんな静かにしろ!」

 

「オランゲさん、これは一体?」

 

「まずは今この星が置かれている状況についてお話しせねばなりませんね」

 

 

 オランゲが言うにはこうだ。

 一ヶ月前、突如円盤群が飛来し、この星の一番大きな衛星に巨大な建造物を築き上げた。ほぼ同時期、付近にゼットンが現れたため、オランゲ達の種族ーアーゲル族というらしいーは地上での生活を放棄し、この地下シェルターでの暮らしを余儀なくされている、と。

 

「じゃああのゼットンは尖兵、いや哨戒兵ってところか」

 

「まあだいたいの事情はわかったけど、そもそも地上での生活ってどうしてたの?」

 

「たしかに、上にはなーんもないっすもんね」

 

 ナナのもっともな疑問に、オランゲは笑って答える。

 

「ああ、それは元から侵略者に備え、先人が開発した生命体にも機械にも環境を誤認させる電磁波を流しているためですね。このバッヂをつければ影響を受けません」

 

『僕にも干渉するとは恐ろしい技術力だな』

 

(モンスアーガーって時点でなんとなく予想はしてた)

 

「なにうんうん頷いてんのよ憐」

 

「ライム君が操ってたモンスアーガーはなんなんすか?」

 

「ああ、あれも代々受け継がれてきた生物兵器なんですが、ライムがレイオニクスを発現しまして。収納スペースが空くからあいつに任せたんですが…」

 

「俺達を敵だと思って、弱った所を叩きにきたって訳か」

 

「勝手に抜け出したみたいで。やはり子供に持たせるには過ぎた力でした」

 

「正義感があるっていうのは良いことだと思うわよ、アタシは」

 

「やっぱりナナさんなんか甘くない?」

 

 外敵対策に監視衛星も小惑星風にカモフラージュしているという話を聞いた後、憐は自分達の自己紹介と旅の目的を打ち明けた。

 

「なんと…あなた方は宇宙警備隊ではなかったのですか」

 

「ええ、なんか騙していたみたいですいません」

 

「いえ、謝らないで下さい。しかしそうなるともうなりふり構ってられませんね」

 

 オランゲは静かに会話へ耳を傾けていた人々へ向き直ると、指示を飛ばす。

 

「おい!衛星にコマンドを送れ!…ああそうだ、SOSだ!それと絶対に外に出るなと全シェルターに連絡!急げ!」

 

 一気に慌ただしくなった室内で憐達が唖然としていると、オランゲが振り返る。

 

「ああ、これでも私、副族長のような立場でして。こんな小さい星ですが、2億はいます」

 

「あの、SOSって?」

 

「今までは地上になるべく出ず、電磁波で死の星に見せかけることでヤツらの目を欺いてきましたが、ゼットンが帰ってこないとなると攻め込まれるのも時間の問題でしょう。なので、宇宙警備隊に助けを求めるために」

 

「そっか、アタシ達が倒したせいで…」

 

「遅かれ早かれこうなることは分かっていました。あなた方のせいではありません。それより、この星から脱するなら急がなければ」

 

「いや、どうやらそいつらがイーヴィルクリスタルを持ってるみたいなんで、黙って帰る訳にも」

 

 憐は未だ強い反応を示すギンガスパークを取り出す。

 

「まさか3人で乗り込むつもりですか!?それはいくらなんでも」

 

「無謀?そんなのー」

 

「そんなの、やってみなくちゃわからない、でしょ?」

 

「負ける気はねーっす!」

 

『自己修復は完了している。いつでもいけるぞ』

 

「と、いう訳なんで。大丈夫、少なくともこの星には一歩も入れませんから」

 

 憐はそう言うと、仲間達と共に出口へ向かう。

 

 

「ほ、本気ですか!?」

 

 オランゲの投げかけた言葉は、既に階段を駆け上がり始めた彼らには届かない。

 

「さあ、暴れるわよー!」

 

「な、何体ぐらいいるんすかね?」

 

「ねえ待って!引きずられてる俺のことも考えて!この速さだと一段上がるごとにダメージくらってるよ俺!」

 

 しかし、かわりに聞こえてきた声に、オランゲは少しだけ希望が湧いてくる気がしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





お久しぶりです。生きてました。
私生活が忙しくなってしまい、小説執筆の時間も意欲も失いかけていなのですが、やはり放っておけずに再開することにしました。
これからも更新の間隔は長くなるかもしれませんが、絶対完結させるので、応援よろしくお願いします。

前話で予告していた短編は、その…いずれまた機会があったら。
ではまた次回、お楽しみに!


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episode12 死神の尖兵 ー中編ー

〜前回のあらすじ〜
ゼットンを倒した憐達は、敵の本拠地へ乗り込もうとしていた。


 

「ま、待って!」

 

「ん?」「え?」「お?」

 

 三人がジャンスターの前まで来ると、目の前に一人の少年が飛び出してきた。

 

「君はさっきの」

 

「あの…さっきは本当にごめん!でも俺、みんなを守りたくて、それで…」

 

「あーあーそれについてはまったく謝る必要はないぞー、少年」

 

「なんなのよその喋り方は」

 

 ムッチの肩を借りて立っている憐はナナのツッコミになんとなくだよと答えて続ける。

 

「俺が君の立場なら間違いなく同じことをするし。うん、だから君は俺に謝る必要ない。それにゼットンを倒した相手に立ち向かったんだ、誇っていいぐらいの勇気だぜ?」

 

「そうそう。結果論だけど憐も無事だったし。問題ないわ」

 

「よくもまあ3対1を分かってて挑んだなーって感心したっすよ!」

 

 3人の言葉につい緩む顔を無理矢理引き締めた少年、ライムは、真剣な表情で憐に頼み込む。

 

「お願いだ!俺も一緒に「それは駄目だ」!?」

 

 思いもよらない返答に驚きナナとムッチに視線を向けるが、ムッチは首を振り、ナナはなんとも言えない顔をしていた。

 

「な、なんでだよ!俺、アイツらを追い出したいんだよ!」

 

「あのな、気持ちはわかるけど、君がここを離れたら、誰が君のお父さん達を守るんだ?」

 

「あっ…」

 

ライムはモンスアーガーがみんなに「守護獣」と呼ばれていた事を思い出す。

 

「俺たちは負けるつもりはないけど、物事に絶対はないからな。宇宙警備隊がくるまでこの星のこと、頼むぞ」

 

「…うん、任せろ!」

 

「偉いっすよ、ライム君」

 

「う、うわ!頭を撫でるな!」

 

「さ、話はお終いよ。一旦シェルターに戻りなさい?みんな心配してるわよ、きっと」

 

 ナナの言葉に頷いたライムは、シェルターに向かって走りだす。

 

「み、みんなも!頑張って!」

 

 途中振り返ってこう言ったライムを見送った3人はジャンスターへ乗り込む。

 

「さーて、気合入れろよお前ら!」

 

「肩借りなきゃ立てないような奴に気合とか言われたくないわね」

 

「わー、なんでナナちゃんはそうってなんで兄貴も一人で立とうとしてるんすか!かーっ、めんどくせーこの人達!」

 

『これで精神的に安定してるのだから不思議なものだ』

 

「おい筋肉痛のとこつつくのやめろナナ!ったく、もう出発だ!ジャンナイン!」

 

「ごめんごめん、緊張ほぐすつもりだったのよ」

 

「まあ相手が未知数すからねぇ。緊張しがちっすからナナちゃんも悪いとは言えないか」

 

『まあ緩みすぎるのも良くない。気合入れていこう、みんな』

 

「「了解!」」

 

「それ俺がさっき言ったことなんだけどなー?」

 

 最初は流石に緊張で固まっていた体も、会話が一区切りつく頃にはすっかりほぐれている。

 こうしてジャンスターは敵の本拠地へ向けて飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見えてきたな」

 

 300メートルはあろうかという巨大なタワーは、地球の月の1/4ほどの大きさしかない衛星の上でかなりの存在感を放っていた。

 

「ここまで近づけば流石にもう気付かれてると思うんすけど、こっからどうするんすか?」

 

「とりあえず相手が分からんうちはどうにも出来ないな。よし、まずは突撃」

 

『ジャンキャノン』

 

「いきなりっすか!?」

 

 ジャンキャノンを連射しながら接近を試みるジャンスター。しかし、キャノンから発射されるレーザーはタワーの周囲に展開された半透明のバリアに弾かれ届くことはない。

 

『この障壁は…ゼットンが展開するものと同一のもののようだ』

 

「やっぱり硬いかー…ん?なあ、タワーに向かって走る人達、拡大できるか?」

 

『お安い御用だ』

 

 自分達が攻撃を受けていることに気づき、急いでタワーに逃げ込む人影が、顔の細部までわかるほど拡大される。

 

「あれ…ムッチと同じ?」

 

「いや全然違うっす!顔の向きとか全然!」

 

「じゃあゼットン星人か」

 

『ゼットンを送り込む辺り可能性は高いな』

 

「考えるのはいいけど、ちょっとマズくない?このままじゃぶつかるわ!」

 

「あー、仕方ねぇ!ムッチ、3人一気にタワーの近くまで瞬間移動できるか!」

 

「た、たぶん行けるっす!」

 

「策もなしに突っ込むなんて正気!?」

 

「とにかく、今は俺を信じろ!」

 

 渋るナナだが、だんだんと迫ったバリアはなかなか突破できないのも事実。

 

「…ダメだったら覚えときなさいよ」

 

「ダメだったらたぶん死ぬけどな」

 

「憐!!」

 

「冗談だよ、大丈夫。…ジャンナイン、陽動任せてもいいか?」

 

『宇宙船に乗ったつもりで任せろ』

 

「はっ、なんでそんなことわざ知ってんだよ」

 

 ここで陽動のために暴れれば、ほぼ間違いなくゼットンが迎撃のために出てくるだろう。ジャンナインは強いが、何体いるかもわならないゼットンを相手に無事でいられるかと言われれば、正直不安だった。そんな憐の気持ちを察して軽口を叩いたかはわからないが、ジャンナインの言葉で憐も幾分気が和らいだ。

 

『何度も言うように、僕の役目は憐のサポートだ。必要な時に求められた通りに働く。君の相棒はそれくらいの事は簡単にこなす、超優秀ロボットだ』

 

「…確かにそうだな。うん、そうだ」

 

 憐は画面の中であのウルティメイトフォースゼロを圧倒していた鋼の武人の姿を思い出した。

 

(それだけじゃない。ジャンナインはこの世界でも、俺を何度も助けてくれた。なら、俺もジャンナインを信じるべきだよな)

 

「任せたぜ、相棒」

 

『了解だ』

 

「あのー、お二人さん?」

 

「通じあってんのは良いけど、もうバリアにぶつかっちゃうわよ!」

 

「お、おお。そりゃやべえな。よーし!総員戦闘準備を整えろ!ジャンナイン、一旦上昇だ」

 

 バリアを回避し上空に逃れるジャンスター。まだゼットンは出てこないが、ゼットン星人が全員タワーに入るのを待っているだけのはずだ。

 

「さあ、出撃だ!取り敢えずの目標はタワー内部に反応があるイーヴィルクリスタルだ!ムッチ、よろしく」

 

 先ほど倒したゼットンからもクリスタルの反応が出ていたことから、まずはクリスタルを破壊した方が戦いやすくなるはず、というジャンナインの推測に基づいたものだ。

 

「じゃあ二人とも、一箇所に固まってくれっす」

 

「ねえ、あの液体かけられるのすごくやなんだけど」

 

「大丈夫っす。ベタベタしてないっす」

 

「サラサラな鼻水みたいな感じか」

 

「そんな感じっす」

 

「オーケーやめましょう。冷静になって他の方法を…」

 

「ホッ」

 

 ムッチが3人の真上に透明の液体を吹き出す。

 

『みんな、気をつけろよ』

 

「ジャンナインも。よろしく頼むぞ」

 

「うう…生暖かいぃ…気持ち悪いよぉ…もうお嫁にいけない…」

 

「かなり傷ついたっすよ」

 

 ムッチのつぶやきを残して三人はジャンスターから消える。と同時にジャンナインのセンサーが3人をタワー付近に捉える。

 

『僕の役割はいかにゼットン星人逹に「敵はバリアの中に入れないでいる」と思わせ続けられるかだな』

 

 なんのアクションも起こさずただ旋回しているだけでは怪しまれる。そう考えジャンナインに変形し地上に降り立つと、憐逹がタワーの中へ入っていくのが見えた。

 取り敢えずバリアを殴りつけてみるが、効果はあまり無い。

 

『なるほど。だが、破れないほどでは、ッ!』

 

 地下から何かがせり上がってくるのを感じ、飛び退くジャンナイン。するとさっきまで立っていた地面が左右に割れ、ゼットンが飛び出す。

 間髪入れずにゼットンの目と思しき部位から放たれるゼットン光弾をジャンキャノンで叩き落とし、構えをとるジャンナイン。

 

『1体…様子見のつもりか。ジャンナックル!』

 

 続けて発射された火球を一瞬の均衡ののち打ち破ったジャンナックルはそのままゼットンに迫るが、テレポーテーションで躱される。ジャンナインの背後に一瞬で移動したゼットンはそのまま殴りかかりーーーしかし逆に右半身のブースターを点火し瞬時に半転したジャンナインに殴り飛ばされた。

 

『僕を舐めすぎだ』

 

 そう呟いたジャンナインは戻ってきた腕を嵌め込み、ジャンキャノンに実弾を装填しながら、未だに地面を滑り続けるゼットンに向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事にテレポート出来たみたいだな」

 

「いやー、上手くいって良かったっす!」

 

「ちょっとムッチ?アンタ確証ないのにアタシにあんなものぶっかけたの?」

 

「いや兄貴がヤれってぶへぇ!?」

 

 時間は少し遡る。バリアの内側にテレポートした憐達は、岩陰に隠れてゼットン星人達の様子を伺っていた。

 

「今入っていったので最後っすかね」

 

「そうみたいね。で、どうするの?入り口閉まっちゃうわよ?」

 

「フッ、お前ら、驚くなよ?」

 

 憐はそう言いながらあるスパークドールズを取り出しリードした。

 

『ウルトライブ!イカルス星人!』

 

「宇宙人にも変身できるんすか!」

 

《こんなことで驚いてちゃイカンよ》

 

 憐がライブしたイカルス星人が腕をモニョモニョと動かすと、身体がみるみる細くなり、ゼットン星人へと更に変身した。

 

《フッフッフッ、イカがかな?思った通り身体のイカみいや痛みも感じないしな》

 

「へー、やるじゃない。じゃ、アタシも!」

 

 ナナも得意の変身能力ですぐさまゼットン星人に変身する。

 

《ほー、ゼットン星人になってもイカした美少女じゃなイカ》

 

「び、美少女って…い、言われ慣れちゃってるから全然動揺してないわよ!うん!」

 

 えへへと笑うナナ(ゼットン星人)。その横でうんうん頷く憐(ゼットン星人)。

 

「二人ともマジっすか。やばい、変身苦手なんすよね…」

 

 そして二人を見て頭を抱えるムッチ(人間態)。

 

《ん?お前は元の姿に戻ればいいじゃなイカ》

 

「いやいやいや!何言ってんすか!全然違いますよ!」

 

 ホラ!と言ってケムール人の姿に戻るムッチを見て顔を見合わせた憐とナナは同時に答える。

 

《「同じじゃない(カ)」》

 

「ハァ!?違うっすよ!頭の向きとか!よく見て!」

 

「あ!見て憐!アイツら扉を閉めようとしてるわ!」

 

《イカン、滑り込むぞ!》

 

「話を聞いてくれっす!ちょ、ひどっ、待つっす!」

 

 

 何事か喚くムッチを置き去りにし、タワーの入り口に向かう憐とナナ。二人が無事に内部へ入ったと同時に閉まり始めたシャッターのような扉から、ムッチもギリギリ滑り込む。

 

「置いてくとは…はあ、酷いっす…」

 

《だって足速いじゃなイカ》

 

「間に合ったから良しとしましょ?て言うか憐、そのイカって語尾はなんなのよ」

 

《これにはイカし方ない、いや致し方ない理由が…》

 

「理由?」

 

《イカにも》

 

「それって?」

 

《イカしてるじゃなイカ》

 

「それはイカがなもの…あ」

 

「うつってるっすよ」

 

「おい!そこにいるのは誰だ!」

 

「「《!!!》」」

 

 三人の肩がびくりと震える。声のした方を見ると、二人のゼットン星人が近づいてくるのがわかる。

 

「あわわわわ」

 

「マズイわね」

 

(任せろ、我輩、んん!俺にイカした考えがある)

 

 憐はテレパシーでナナとムッチに作戦を伝えると笑み(ゼットン星人基準)を浮かべながら近づいてきた二人に応じる。

 

《いやー、俺逹新しく配属されたんだけど道に迷っちゃって》

 

「ん?ああ、なんだ新入りか」

 

「初っ端からこんな騒ぎに巻き込まれて大変だったな。外にいたら危なかったぞ?いくらバリアがあるとは言え、ゼットンが10体もいたら保つか分からんしな」

 

「じゅ、10体!?」

 

 思わず問い詰めそうになるナナを抑え、憐は話を切り出す。

 

《そー言えばこのタワーの何処かに黒い結晶があるって話、知ってるか?》

 

「ああ、ゼットンの育成にも使われてるっていう、アレか?」

 

《そうそうそれそれ。それ何処にあるか分かる?》

 

「このタワーの最上階にあって、ゼットンを操るのにも使ってるって言うが…」

 

《うん助かった!じゃ!》

 

 

 話を切り上げ二人の間を通り抜けていこうとする憐逹。しかし、片方の男がムッチを呼び止める。

 

「ああ…?おい、お前なんか頭の向きおかしくないか?」

 

「へあっ!?」

 

「言われてみれば確かに…」

 

(ナナ、プランGだ!)

 

(オッケー!)

 

 挙動不審になるムッチに近づくゼットン星人二人組を、すぐさま抑える憐とナナ。

 

《いやこいつ寝違えちゃって!》

 

「そう!普通よ普通!」

 

「お、おお。そうなのか。わかったからそんなに近づかないでくれ」

 

 あまりの勢いに押されたゼットン星人逹は、多少訝しみながらも持ち場へ戻っていく。

 

「ふぅー、なんとかなったわねー」

 

「生きた心地がしなかったっすよ…」

 

《やっぱり気になるんだな、頭の向き》

 

 さて。と仕切り直した憐は、これからの行動を指示する。

 

《ナナとムッチは最上階に向かってくれ。場所が分かればムッチのテレポートで一気に行けるだろ?あと、出来ればイーヴィルクリスタルの破壊も任せたい》

 

「それは最初からそのつもりだけど。その言い方だと、憐は別行動?」

 

《ああ。俺が入り口で騒ぎを起こすから、ゼットン星人逹が集まってきたらテレポートしてくれ。上の警備も少しは薄くなってるだろ》

 

「と言うのももちろん理由だけど、本当はジャンナインを助けに行くんだ」

 

《は、はぁ!?何言って》

 

「了解っすよ!流石に10体は心配っすもんね!クリスタルは任せてくださいっす!」

 

「その代わり、ジャンナインのこと頼んだわよ!」

 

《くっ》

 

 イイ笑顔でサムズアップをする二人に、憐は降参のポーズを返す。

 

《そうだよそのつもりだよ!任せたぜとか言った手前どのツラ下げてとかあるけど心配になったんだよ!》

 

「まったく、アンタも大概素直じゃ無いわよねー」

 

「ナナちゃんがそれを言うんすか」

 

「うるさい。だいたい、この高さよ?入口で暴れたくらいじゃ上の警備なんか変わらないわよ」

 

「上にくる増援は減りそうっすけどね」

 

 2人にはかなわないと思いながらも言葉にせずに気持ちが伝わったことに若干嬉しかったりする憐は、イカルス星人の姿に戻り改めて指示を出す。

 

《いつでも離脱できる様、2人はお互い近くで戦うようにな。くれぐれも無茶はすんなよ》

 

「了解。でもその言葉、そっくりそのままお返しするわよ?」

 

「アントラーも頑張るって言ってるっす!」

 

《じゃ、頼んだぞ!》

 

「そっちもね!」

 

「チャチャッと畳んでやるっすよ!」

 

 

 2人の気配が消えるのを背後に感じながら、憐は右手からアロー光線を発射し入口の扉を破壊する。

 

《さーて、とっておきを出すときかな》

 

 そう言って笑うイカルス星人の左手には、レッドキングのスパークドールズが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 M78星雲光の国、宇宙警備隊本部隊長室。

この部屋の主であるゾフィーの下へ、緊急の伝令を携えてレッド族のウルトラ戦士が訪れていた。

 

「惑星メラニーからの救難信号か」

 

「はい。複数のゼットンを相手取るとなれば、並の戦士には荷が重いかと」

 

「やはりここから派遣するしかないか…」

 

「しかし最近の生物凶暴化の対処で支部はおろか本部すら人手不足に陥っているので…」

 

「私達に任せてもらえないだろうか」

 

 ゾフィーが振り向くと、80(エイティ)がメビウスを連れて立っていた。

 

「今この宇宙に蔓延っているマイナスエネルギーと、増加の一途を辿る生物の凶暴化。そしてメビウスが持ち帰った例の黒い結晶。私は、これらには何か関連があると思っている」

 

「今回の救難信号の発信源付近でも、強いマイナスエネルギーが検出されています。そこで、兄さんと僕で調査も兼ねて、と」

 

 80(エイティ)とメビウスの言葉に頷くゾフィー。

 

「そうだな、では任せよう。悪いが時間がない、急いでくれ」

 

「「はい!」」

 

 力強く頷いた2人はテレポート(光の国ではプラズマスパークタワーのおかげでエネルギー消費はない)で外へ出ると、空へ向かって飛び立つ。

 

「ああ、君も戻っていい」

 

「はっ!」

 

 ゾフィーが部屋の外へ目をやると、空の彼方へ消えていく2人の姿が見える。

 

「マンは療養中、セブンは行方不明。先日の強大な負のオーラの正体も未だ掴めず、それとともに始まった宇宙規模の怪獣災害…ふむ…ん?」

 

 部下からのウルトラサインを受け取ったゾフィーは思考を切り上げ、勇士司令部へ向かうために部屋から出ていった。

 

 

 




ファイトビクトリーはカッコイイ画が多くて大満足でした。やっぱり光線同時照射はカッコイイなぁ。この小説でもいつかやってみたいです。

〜次回予告〜
多数のゼットンvsジャンナインの戦いに乱入したのはあの強力怪獣!
果たしてゼットン星人の侵攻を阻止する事はできるのか?
次回「死神の尖兵 ー後編ー」お楽しみに!


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episode13 死神の尖兵 ー後編ー

お久しぶりです。書溜めが消し飛んだり色々ありましたがまた再開します。あと今回から怪獣を倒す際の憐の葛藤などは基本カットでいきます。テンポが悪くなるのもそうだし前回まで結構やったってこともあります。今後は書かれてないけど心の中では色々思ってるんだな程度に考えていただければありがたいです。

〜あらすじ〜
ゼットン星人の基地に辿り着いた一行は二手に分かれる。ジャンナインと憐はゼットンを、ナナとムッチはイーヴィルクリスタルを。それぞれの戦いが始まる。


『ジャンバスター!』

 

 紅い破壊光線の直撃を受けたゼットンは踏ん張ることもできず地面を削りながら押され続け、ついにタワーを覆う障壁に追突。

 

『ハァァァアアアアア!!!』

 

 隕石をも一撃で破壊するジャンバスターには流石のゼットンも耐えられずに爆散、その余波で障壁にもヒビが入る。それを見届け構えを解きかけたジャンナインであったが、足元に熱源を探知し、慌ててブースターを起動させて飛び退く。

 

『これで二体……まあ、そう簡単には終わらないか』

 

 見れば、先ほどいた辺りから一体、さらにジャンナインを挟んで対角線上にもう一体のゼットンが地下からせり上がってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 外壁を破壊しながら逃走を続けるイカルス星人を追跡するゼットン星人の部隊。彼らは銃を構えながら呼びかける。

 

「おい貴様!今すぐ破壊行為をやめ大人しく投降しろ!」

 

「隊長、銃撃の許可を!」

 

「うむ、止むを得ん。銃を構え、ッ!?総員、止まれ!」

 

 まるでタイミングを探っていたかのように、撃たれる直前に停止したイカルス星人を見て、慌てて指示を出す隊長格のゼットン星人。取り囲まれたイカルス星人は全く動じずに周りのゼットン星人を見回している。

 

「貴様の目的が『ウルトライブ!レッドキング!』何かは知ら『ウルトライブ!ベムスター!』ないが、生きて帰れる『ウルトライブ!キングクラブ!』とってうるさいな!何をしている貴様!」

 

『ウルトライブ !バラバ!』

 

《まあまあ》

 

「バカにしおって…総員、撃て!」

 

「なっ」

 

「どういうことだ!」

 

 ゼットン星人の放った銃弾は、イカルス星人の周囲を旋回するカラフルな球体に阻まれ届かない。その隙にシーゴラスのスパークドールズを取り出したイカルス星人、つまり憐はチラリと壊れた外壁から外へ視線を向けたあと、ギンガスパークでリードした。

 

『ウルトライブ!シーゴラス!』

 

《どうやらジャンナインも苦しいみたいだし、そろそろ行かせてもらうぜ。離れた方がいいかもな!》

 

 構わず銃撃を続けるゼットン星人たちを尻目に、憐はギンガスパークのトリガーを引いた。

 

『合体!タイラント!』

 

 自らも水色の光球となった憐は他の光球と共に空へと舞い上がり合体、まばゆい光を放ちながら徐々に姿を変えていく。慌てるゼットン星人たちが動けずにいると、ついに光の中からその巨体が姿を現した。

 

「こ、これは……」

 

「退避!総員退避だ!」

 

 雄叫びをあげるタイラントに恐れをなしたゼットン星人たちがタワーの上層めがけかけていく。両腕をたたき合わせ気合いを入れる憐にはもはや関係のない話であるが。

 

《十分時間は稼いだぜ、上手くやれよ2人とも!さぁ、大暴れといきますか!》

 

 頭はシーゴラス、耳はイカルス星人、両腕はバラバ、腹部はベムスター、足はレッドキング、尻尾はキングクラブ。かつてウルトラ兄弟を破った強豪怪獣が亀裂めがけて振り下ろした鎌は、簡単に障壁を粉砕する。障害物のなくなった進路を爆走してくるタイラントに、ジャンナインもゼットンも気がついた。

 

『憐!なぜここへ!』

 

《助けに来たに決まってんだろ!》

 

 ゼットンから放たれた火球を吸収して挟み撃ちにされていたジャンナインに並んだタイラントは、両腕を打ち鳴らして威嚇する。

 

《あいつらよりよっぽどお前の方が心配だっただけだ。ちゃっちゃと倒そうぜ、相棒》

 

『フフ、言ってくれるな。この程度僕1人で十分さ。……まあ、相棒とタッグを組むのも、悪くない』

 

《素直じゃないなー……じゃあ》

 

《『いくぞ!』》

 

 タイラントの鉄球からフック付きのムチが、ジャンナインからジャンキャノンが放たれるが、二体のゼットンはテレポートで交わし、ちょうど両者が向き合うような形になる。

 

『距離2000。どうする、憐』

 

《考えがある。俺に合わせろ、ジャンナイン!》

 

 同時に発射された火球を弾き、走り出す2体。なおも放たれる火球をジャンナインはキャノンで、タイラントはベムスターの口で吸収することで防いでいく。

 

《今だ!》

 

 憐の合図と同時に前方の地面に向かって攻撃を繰り出す。生じた土煙が壁となり視界を塞ぎ、攻撃を中断したゼットン。そこを煙の中から現れたジャンナックルとバラバ鞭が拘束する。

 

《案外上手くいくもんだな……くらえ!ハイブリッドヘルサイクロン!》

 

『ジャンバスター!』

 

 身動きが取れず成す術もないゼットンはバラバ鞭を巻き上げられ至近距離での冷気と獄炎、ナックルを回収しつつの赤色熱線にさらされ爆発した。

 

《おいおい、ヤケになってるんじゃないのか!?》

 

『気を引き締めて……いくぞ』

 

 息をつく暇もなく二体の周りを囲むように6体ものゼットンがテレポートで現れる。火球をチャージし始めたゼットンを確認したジャンナインは、憐に告げる。

 

『僕にいい考えがある。合わせてくれ』

 

《ああ。よし、任せろ》

 

 憐の言葉が終わるや否や放たれた6発の火球を尻目に、ジャンナインは真上へ飛ぶ。

 

『憐、僕に鞭を巻き付けろ!』

 

《了解、んで次は___》

 

『ジャンアタック!』

 

 右膝と左膝裏のブースターに点火することで全身を高速回転させ、6つの発射口から破壊光弾ジャンフラッシャーを連続発射。上からの思わぬ攻撃に周囲のゼットンは軒並み吹き飛ばされる。飛んできていた火球は一緒に回転するタイラントが腹部の口ですべて吸収する。

 

『素晴らしい作戦だったろう?』

 

《ああ、俺のこと全く配慮してない事を除けばな!》

 

『信頼してるぞ、相棒』

 

《釈然としない……》

 

 未だ目を回す憐が隣に降りてきたジャンナインに支えられて体勢を立て直す。再び構えた2体に、起き上がったゼットンが一斉に飛びかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃっ」

 

 下層からの衝撃でバランスを崩しかけたナナを、ムッチが支える。

 

「っとと、しっかりしてくださいよー」

 

「なっ……お礼言う気が失せた、一言多いのよアンタは!」

 

「痛い!殴ることないじゃないっスか!」

 

 こんな調子で登り続けて10分。頂上はもう目の前に迫っていた。

 

「もうすぐね」

 

「いーや、油断大敵っスよ。案外その辺りから誰か……」

 

 ムッチが階段の踊り場を指さした瞬間、ドアが開きゼットン星人が出てきた。

 

「ん?お前達、侵入者の迎撃に向かった奴らじゃないか?」

 

「え?い、いや?ちがうっス、あ、いや、ちがいますよ?」

 

「じゃあ何故こんなところにいる?」

 

「そ、それはー、えーっと……」

 

「面倒くさい!」

 

「ぎゃあああああああ」

 

 ナナのカバンから飛び出したリムエレキングの電撃でゼットン星人は気絶してしまった。

 

「えええええ!?何してんスか!」

 

「アンタがもたもたしてるからよ。ほら、あの扉から中へ入れるわ。走るわよ!」

 

 階段を抜けた2人は廊下を走り抜ける。ナナに至ってはもはや人間の姿に戻っている。途中に出会ったゼットン星人はリムエレキングの電撃を食らわせておくことも忘れず走り続けると、いかにもな扉にたどり着いた。

 

「ダメっスね。ロックがかかってるっス」

 

「リム!」

 

「遠慮ってもんはないんスか!」

 

 ロックを破壊し、扉が開いた先には、武装したゼットン星人が20人ほど待ち構えていた。固まる2人に室内から声が掛けられる。

 

「まあ入りたまえ」

 

 促されるまま広大な空間が広がる室内に足を踏み入れた2人は、あまりの光景に思わず唖然としてしまう。

 

「こ、こりゃあ……」

 

「あんなに大きなモノが……」

 

「ここまで来るとは思いもしなかったよ……まあ、とりあえず褒めておこう」

 

「……アンタがここのトップなの?いや、それよりも……いったい何が目的なの?」

 

 辛うじて絞り出したナナの声に、浮遊する椅子に座ったゼットン星人が答えた。

 

「私はゼットン星人ゼテン、僭越ながらここの司令官をさせてもらっている者だ。そして目的だが……見てわからないかね?ここは宇宙を滅ぼす前線基地なのだよ!」

 

 その言葉と共に両手を広げるゼテンの背後には、20メートルを優に超える巨大なイーヴィルクリスタルとそれを取り囲むようにして聳え立つカプセルに入った20体以上のゼットンが存在していた。どの個体も結晶体に光は灯っていないが、間違いなく生きている。

 

「この結晶体は素晴らしい!この結晶体の波動に晒しながら育成すれば強化されることに加え、コレを介して15体のゼットンの並列制御にも成功している!」

 

「ゼットンからイーヴィルクリスタルの反応があったのはそういうことだったのね」

 

「宇宙を滅ぼすだかなんだか知らないが、イーヴィルクリスタル(そんなもの)に頼ってる時点でお前の力なんざたかが知れてるっつーの!」

 

「フフフフフ!面白いことを言う。メラニーから来た君達の目的は大方我々を止めることだろうが……まあ、無理だ。見たまえ」

 

 ムッチの言葉など意にも介さないゼテンが片腕をあげると、モニターが現れる。そこに映し出されたのは、ゼットンに取り囲まれたジャンナインとタイラントの姿であった。

 

「兄貴!」

 

「残念ながら、彼らは死ぬ。正直ここまでやるとは思ってもみなかったがな。フハハ、顔が険しいな。だが安心しろ、すぐに君達も同じところへ行ける」

 

 2人を取り囲んでいたゼットン星人達が銃を構える。

 

「ナナちゃんだけでも逃げるっス」

 

「冗談言わないで。ちょっと耳貸しなさい」

 

 負けじとバトルナイザーを構えるナナとムッチを見て、ゼテンは愉快そうに笑う。

 

「無駄だ、この数相手に何ができる……やれ!」

 

「リム!」

 

 銃撃と同時にナナのリュックから飛び出たリムエレキングの電撃で銃弾は全て撃ち落とされる。

 

「何をしている、さっさと殺せ!」

 

「遅いっスよ!」

 

『バトルナイザー・モンスロード!』

 

「うわぁ!」

 

「じ、銃が!」

 

 間髪入れずに召喚されたアントラーの磁力で銃は全て取り上げられる。丸腰になったゼットン星人たちはみなリムエレキングの電撃で次々と気絶させられていった。

 

「バカな!こんなことがあるはずない!」

 

「リム、一度戻って!からの!」

 

『バトルナイザー・モンスロード!』

 

「ちょーっと広く作りすぎたかもしれないっスね!」

 

 エレキングとアントラーが並び立ち、ゼテンを威嚇する。ムッチの煽りに、顔面蒼白のゼテンは返す言葉がない。

 

「こうなれば、ゼットンを呼び戻すしか………」

 

「遅いわね。ムッチ、いくわよ。エレキング!」

 

「ガッテンてん、アントラー!」

 

「「レールカノン!!」」

 

 アントラーの磁力光線に乗せて発射されたエレキングの電撃放射が見事イーヴィルクリスタルを貫くと、砕け散った黒い結晶体は跡形もなく消え去った。それと同時に鳴り響く警告音と点滅する赤いランプ。

 

「まさか、こんなことが……私の、使命が……」

 

「ちょっと、これ何!?」

 

「まさか自爆する気じゃ!」

 

 急いでエレキングとアントラーを戻す2人を尻目に、ゼテンは呆然と佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《流石に、きついぜ……!》

 

『まずい、また火球の一斉掃射が始まるぞ!』

 

 取り囲まれたジャンナインとタイラントが身構えた瞬間、タワーの最上階で爆発が起こる。と同時に糸が切れたように動かなくなるゼットン。憐は不思議に思いながらも安堵の溜息をもらす。

 

《見ろ、ゼットンが動かなくなった》

 

『あの爆発はつまり、2人が上手くやったということだ。その証拠にイーヴィルクリスタルの反応がない。だがタワー全体のエネルギー量が上がっている……自爆するつもりだ!』

 

《はぁ!?急ごう、2人はまだ中だ!》

 

 ウルトライブを解除しジャンナインの掌の上に飛び乗った憐は、最上階の亀裂から中へ入り込む。

 

「おい、ナナ!ムッチ!無事か!」

 

「憐!そっちも無事だったのね!」

 

 憐の姿を見つけ飛びついてきたナナを受け止めた憐は、ムッチから大まかな説明を受けた。

 

「なるほどな。おいゼテン!ここが爆発するまであとどれくらいだ!」

 

「……3分だ」

 

「ジャンナイン」

 

『僕の計算でも残りは3分14秒だ』

 

「了解、ムッチ!そこで伸びてる奴らをジャンナインへ移してやってくれ!ナナはゼテンを運んでくれ」

 

「私はもういい……置いて行け」

 

 ゼテンのその言葉に、憐はギンガスパークを取り出しながら答えた。

 

「お前は生きて罰を受けるべきだ。このまま死のうなんて甘ったれるな!」

 

『ウルトラーイブ!ウルトラマンティガ!』

 

 既にカラータイマーが点滅しているものの、等身大のティガに変身した憐は、ムッチに声をかける。

 

《思った通りインターバルが短すぎたか。ムッチ、タワーに取り残された人の救出にいくぞ!》

 

「了解っス!……ん?これは」

 

 その時、ムッチの足元にボールのようなものが転がってきた。それに言いようのない感覚を覚えたムッチは、背負っているリュックにしまう。

 

《早く!》

 

「あ、はい!」

 

 残り2分、最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 なんとか全員をジャンスターに押し込んだ3人は、爆発するタワーを後にし、メラニーを目指す。

 

「まさかジャンナインにこんな機能があるなんて知らなかったっスよ。防犯対策バッチリっスね」

 

『だが燃費のいい代物ではないからな。使わないで済むに越したことはない』

 

 ムッチの視線の先、捕らえたゼットン星人達は、全員コックピットの隅に電磁ネットで一塊になっている。その中の1人、ゼテンが突然口を開く。

 

「私は尖兵に過ぎない」

 

「は?」

 

 憐の反応など気にもとめずにゼテンは話し続ける。

 

「あの黒い結晶体も、ゼットンも、全て支給されたものだ。私の背後にいる方からな。私は上手くやっていた、貴様らが来るまでは……」

 

「なんでそれを俺に伝える?」

 

 訝しむ憐にゼテンは不気味に笑いながら答える。

 

「フフフ……知ったところで貴様らに出来ることなど何もないからだ。あとは……私の細やかな抵抗と言ったところか。闇に怯えて待つがいい、最期の時を!フハハハ……」

 

 それに憐も不敵に笑いながら応じる。

 

「ふん、望むところだ。何が待っていようと、進むだけだしな」

 

「負け犬の遠吠えってやつよ。最後までいけ好かないやつ」

 

 蹴りを入れようとするナナを憐が押さえていると、ヘッドセットを外したムッチが振り向く。

 

「みんな、オランゲさんに通信入れといたっス」

 

『ありがとうムッチ。我々は間も無くメラニーに着陸する。……憐、今のゼテンが嘘を言っている確率はほぼ0だ。今の話、一応頭の片隅には置いておけ』

 

「ああ、うん。わかった」

 

 

 

 

 

 

 再び惑星メラニーに降り立った一行は、シェルターから出てきた人々の歓声と共に迎えられた。

 

「まさか、本当に解決していただけるとは……ッ!感謝してもしきれません!」

 

「そ、それはもう何遍も聞きましたから!とりあえず、あとはコイツらを引き渡すだけなんですけど……」

 

 縄で縛られたゼットン星人達を見て口をつぐむ憐。それの様子にオランゲ達はもちろんナナ達も不思議がる。

 

「なーに憐?どうしちゃったの?」

 

 このとき憐の脳裏にはギンガ本編でのタロウの言葉がよぎっていた。

 

(ギンガスパークは光の国の宝のはず……それを俺が持っているって宇宙警備隊にバレるのはもしかしなくてもヤバイよな……)

 

「兄貴?」

 

「あ、あっそうだぁ!このあと急ぎの予定があるんだったぁ!」

 

「ねぇ、頭でも打った?アタシ達に予定なんかモガモガ」

 

「いえ、しかしお礼などが……」

 

「いらない!そういうの大丈夫!気持ち!気持ちで十分ですから!」

 

「いや、でも食料とかモガモガ」

 

「じゃ、そういうことで!」

 

 暴れるナナとムッチの口を押さえてジャンスターに放り込んだ憐。続いて乗り込もうとした彼をライムが呼び止める。

 

「待って!」

 

「おっとと、なんだ?」

 

 振り向いた憐にライムは大声で言い放った。

 

「ありがとう!」

 

 思ってもみなかったその言葉に、憐は笑顔で答える。

 

「気にすんな!これからもこの星のこと、頼んだぜ!」

 

「あ……うん!」

 

 ライムの返答に満足気に頷いた憐は手を振りながら告げる。

 

「じゃあな、メラニーのみんな!またいつか!」

 

「「ありがとー!」」 「「元気でやれよー!」」

 

 今度こそ乗り込んだ憐達に向かって投げかけられる声援を受けながら、ジャンスターは惑星メラニーをあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 大小様々なイーヴィルクリスタルが巨大な螺旋を描きながらゆっくりと黒い惑星、そのある一箇所に吸い込まれていく。その中心、つまり体の殆どを地面に埋めた黒の巨人が、ゆっくりと顔を上げ、地獄の底から響くような声で呟く。

 

『光……消す』

 

「我らにお任せを」

 

 その言葉に答える者達がいるとは思ってもみなかったのだろう黒の巨人は声のした方へ視線を向ける。そこには暗黒の大地に跪く2体の人型が存在した。

 

「ワタクシはベンゼン星人ナフタ」

 

「そして私はスーパーヒッポリト星人ブロス。我らは貴方様の闇の力に感服し、僕となるために馳せ参じました」

 

 2人を見つめた黒の巨人の瞳が、一瞬赤く光る。思わず身構える2人に、黒の巨人に向かってきていたイーヴィルクリスタルの幾つかが降り注ぎ、取り込まれていく。

 

「こ、これ程の力とは……!」

 

「ワタクシ達を認めて下さったのか!」

 

 もたらされた莫大な闇の力に打ち震える2人に、黒の巨人は再び視線を向け、告げた。

 

『光を……消せ』

 

 

 

第二章 完




長らくお待たせしてすいません。
毎週ウルトラマンが見れる環境が続いたことや、きたぞわれらのでのスカイタイプの戦闘により「もう僕が書く必要なくね?」とか思ってましたが甘ったれたこと言うのはやめて完結に向け頑張ることに決めました。
第二章が終わり、いよいよ物語は僕が本来書きたいモノへ近づいていきます。一章二章は憐に覚悟と力を身につけさせる期間でした。言わばチュートリアルなのでちょっとくどかったり書くのもしんどかったりしたんですが、こっからは筆は止まらない…はず、です。(欲を言えばもう少し情景描写とかできるようになりたい。)
書溜めはありますが、次回の更新は2週間後、というかしばらく月2回更新で様子を見ていくことにしましたのでご了承ください(また長期間休むわけにはいかないので)。
長々書きましたがこれからも楽しんでいただけたら嬉しいです。


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スパークドールズ劇場 そのニ
登場キャラクター設定(fromスパークドールズ)


※ここにある怪獣達の設定はこの小説内のものなので、公式とは違うものがかなりあります。
またスパークドールズ達の口調はウルトラマンギンガの劇場スペシャルをもとにしています。


〜スパークドールズ劇場〜

 

ベムスター「どもども!ここでは第二章のキャラクターを紹介するでー!進行はわて、怪獣界の星!ベムスターと!」

 

シーゴラス「やあ、どうやら僕の出番が来たみたいだね。お待ちかね、シーゴラスだよ」

 

ベ「なんやなんや、えらいカッコつけた奴やなぁ」

 

シ「君の嫉妬する気持ちはわかるよ、なにせ第二章は僕の物語と言っていいほどの活躍だったからね」

 

ベ「いやそれは言いすぎやろ!」

 

シ「それではまずは坊や達から、どうぞ」

 

ベ「ってお前が進めるんかい!」

 

 

 

 

 

○キャラ紹介

 

● 地球人 一条寺 憐

・身長:1.76m

・体重:0.060t

・プロフィール

光の巨人に託された使命を胸に戦う青年。対レイキュバス戦でイーヴィルクリスタルの触手に貫かれた際にマイナスエネルギーの汚染を受け戦いに恐れを感じていたが、惑星トルネイでの様々な出会い、そして仲間の思いを知り恐怖に打ち勝つ。

ウルトラマンとして戦う覚悟を決めた憐。彼は未熟ながらもその戦闘センスには光るものがあり、レイキュバス、バリケーン、ゼットンなどの強敵達との戦いの中で常に成長している。

・所持アイテム

ギンガスパーク

ガンパッド

宇宙服(ジャンナインver.)

・所持スパークドールズ

レッドキング

ベムスター

キングクラブ

バラバ

ハンザギラン

シーゴラス

イカルス星人

ウルトラマンティガ

 

●変身怪人ピット星人 ナナ

・身長:1.57m

・体重:閲覧禁止

※人間態も同じ

・プロフィール

姉を探す旅を続けるレイオニクス。憐に拒絶された際に一度は別離したナナだったが、ムッチの言葉で自分の気持ちに向き合い、バリケーンに苦戦する憐の窮地を救う。以降は再び憐と共に旅を続けている。ちなみにジャンスターでの食事の殆どはナナが作っていたりする。

・所持アイテム

バトルナイザー

小型宇宙船

バルンガコア

・使役怪獣

エレキング

 

 

●誘拐怪人ケムール人 ムッチ

・身長:1.9m

・体重:0.040t

・プロフィール

憐のことを兄貴と慕うレイオニクス。惑星コンルでアントラーをパートナーとして迎え、旅の目的にアントラーの故郷を探すことが加わった。語尾にっスをつける軽そうな話し方とは裏腹に、憐やナナより精神的に安定している。

ゼットン星人の基地で拾ったボールのようなものに言いようのない感覚を覚えて持ち帰ったが、冷静になってみると要らない気がしてきたので近々捨てようかと思っている。

・所持アイテム

バトルナイザー

ボールみたいなもの

・使役怪獣

アントラー

 

 

シ「久しぶりの更新で忘れてしまった人も多いかもしれないね、ハハハ!」

 

ベ「メタいこと言うなぁ」

 

シ「次はヒーロー図鑑だ。僕の活躍、目に焼き付けるといいよ」

 

ベ「わても!わても活躍しとるで!主に腹が!」

 

 

○登場ヒーロー図鑑

 

●ジャンナイン

・身長:50m

※ジャンスター時35m

・体重:3万t

・初登場:ウルトラマンゼロ外伝「キラーザビートスター」

・プロフィール

憐の旅の拠点であり移動手段でありヒーローとしての先輩でもあるスーパーロボット。憐のことを相棒と呼び、彼が迷い悩んだときは今までの経験を元に導いた。驚異的な戦闘能力を有するが、いつ燃料を補給できるかもわからないことや旅の拠点であることから積極的に戦闘に参加するわけにはいかないことを歯痒く思うこともある。

 

 

●磁力怪獣アントラー

・体長 : 40m

・体重 : 2万t

・初登場 : ウルトラマン第7話「バラージの青い石」

・プロフィール

スペシウム光線も効かない頑丈さを持つ。鋭く力強い大アゴと、そこから放つ虹色の磁力光線が主な武器。何者かによって氷の惑星・コンルに連れてこられ、イーヴィルクリスタルの影響で寒冷地に適応した青白い姿(怪獣バスターズ参照)となって憐達に襲いかかった。正気に戻った後に見せた行動がムッチの琴線に触れ、彼の使役怪獣となる。以降はムッチに力を貸しつつ故郷へ戻るために旅をしている。

 

 

●宇宙怪獣エレキング

・身長:53m

・体重:2万5千t

・初登場:ウルトラセブン第2話「湖の秘密」

・プロフィール

ナナの相棒。メスであることが発覚した。新たな技としてアントラーとの協力技「レールカノン」という電磁レーザーを繰り出した。

 

●マケット怪獣リムエレキング

・体長 : 0.4m

・体重 : 0.004t

・初登場 : ウルトラマンメビウス第8話「戦慄の捕食者」

・プロフィール

ナナがエレキングを小型化して召喚した姿。見た目は可愛いがその攻撃力は侮れない。人間大の相手が敵の時は背負ったリュックの中で常に待機している。

 

 

●ウルトラマンティガ(SD)

・身長:ミクロ〜53m

・体重:0〜4万4千t

・初登場:ウルトラマンティガ第1話「光を継ぐもの」

・プロフィール

言わずと知れた光の巨人。憐が体を鍛え始めたためか心なしか動きのキレに磨きがかかっている。

スカイタイプの空中戦を曲がりなりにも描けた作者は割と満足していたが劇場版ウルトラマンXを鑑賞した後自らに対して不甲斐なさを感じるとともに、公式で見ることができたことによりそれを上回る満足感を得た。

 

 

●竜巻怪獣シーゴラス(SD)

・体長 : 62m

・体重 : 5万2千t

・初登場 : 帰ってきたウルトラマン第14話「二大怪獣の恐怖 東京大竜巻」

・プロフィール

頭部の角を発光させることで竜巻を操る怪獣。今作では自ら竜巻に巻き込まれその竜巻をコントロールすることで飛行を可能にした。他の能力は無いので空気の無い宇宙空間ではほぼ無力。対バリケーン戦では逆転の一手となった。

 

 

●異次元宇宙人イカルス星人(SD)

・体長 : 40m

・体重 : 1万8千t

・初登場 : ウルトラセブン第10話「怪しい隣人」

・プロフィール

テレポートや変身、異次元に入る等様々な特殊能力を兼ね備えている。武器は身体から発射する白い針状の光線「アロー光線」。憐が一番最近見たイカルス星人がギンガの劇場スペシャルだったためイカルス星人の語尾にはイカが付くものだと思い込んでいる。

 

 

●暴君怪獣タイラント(SDU)

・体長 : 62m

・体重 : 5万7千t

・初登場:ウルトラマンタロウ第40話「ウルトラ兄弟を超えてゆけ!」

・プロフィール

頭はシーゴラス、耳はイカルス星人、両腕はバラバ、腹部はベムスター、足はレッドキング、尻尾はキングクラブ、その他にも数々の怪獣の怨念の集合体として生まれた。各々の能力を使える上に口からは獄炎を、腹からは冷気を放つことができる。更にウルトラサインを消す能力やスペシウム光線、メタリウム光線を受けても怯まない高い防御力も兼ね備えている。活動限界がないのも憐としては強みである。必殺技は炎と冷気を同時に放つ「ハイブリッドヘルサイクロン」。

 

 

●ディーズ

・体長 : 40m

・体重 : 3万5千t

・初登場 : 今作オリジナル

・プロフィール

宇宙警備隊所属のシルバー族の戦士。ウルトラランスの扱いには自信がある。同僚のドレイクと共に水の惑星ワッカに派遣された。

 

 

●ドレイク

・体長 : 40m

・体重 : 3万5千t

・初登場 : 今作オリジナル

・プロフィール

宇宙警備隊所属のレッド族の戦士。宇宙拳法を主体に戦うパワーファイター。アストラに稽古をつけてもらったことがあることをことあるごとに自慢したがる。

 

 

●ゾフィー

・体長 : 45m

・体重 : 4万5千t

・初登場 : ウルトラマン第39話「さらばウルトラマン」

・プロフィール

宇宙警備隊隊長であり、ウルトラ兄弟の頼れる長兄。最近は宇宙規模の怪獣災害による人手不足に悩んでいる。惑星メラニーからのSOSを受け80とメビウスを派遣した。

 

 

●ウルトラマン80

・体長 : 50m

・体重 : 4万4千t

・初登場 : ウルトラマン80第1話「ウルトラマン先生」

・プロフィール

かつて地球で高校の先生とUGMの隊員という二足の草鞋を履きながら戦ったウルトラ戦士。マイナスエネルギーの研究者でもあり、黒い結晶体=イーヴィルクリスタルに強い関心を抱いている。

 

 

●ウルトラマンメビウス

・体長 : 49m

・体重 : 3万5千t

・初登場 : ウルトラマンメビウス第1話「運命の出会い」

・プロフィール

地球人との絆を育み、ウルトラ族の因縁の宿敵エンペラ星人を見事打ち破った炎の戦士。その経験を活かし後輩の指導にもあったっている。真面目でどんなことにも一生懸命だが、その性格が災いしてか敵を倒すためなら無茶も厭わず割と頻繁にメビュームダイナマイトを使う。

 

 

ベ「タイラントはこれからも活躍しそうやな!なあシーゴラスはん!」

 

シ「い、いや無力じゃないさ。ただ力を活かせないだけで……」

 

ベ「あー、うん。次は怪獣・宇宙人図鑑や!」

 

 

 

○登場怪獣・宇宙人図鑑

 

●宇宙海獣レイキュバス

・体長 : 65m

・体重 : 7万2千t

・初登場 : ウルトラマンダイナ第25話「移動要塞浮上せず!(前編)」

・プロフィール

一度はウルトラマンダイナを戦闘不能にしたほどの強豪怪獣。ダイナをも凍らせる冷凍ガス、大気圏外すら正確に狙撃する火炎弾、ハンマーにもなる巨大なハサミを組み合わせて的確に相手を追い詰める。今作では更にイーヴィルクリスタルから無数の触手を生み出すことができ、スカイタイプとのデッドヒートを繰り広げた。最期はティガのタイマーフラッシュでイーヴィルクリスタルを破壊され、ヤドカリに戻る。

 

 

●台風怪獣バリケーン

・体長 : 40m

・体重 : 1万5千t

・初登場 : 帰ってきたウルトラマン第28話「ウルトラ特攻大作戦」

・プロフィール

その名の通り周囲に台風規模の消えない暴風雨を作り出すことができる強力な怪獣。今回はイーヴィルクリスタルの影響でクラゲが変異して生まれた。頭部の赤い球体から放つ光と強力な風、触れた相手を感電させる電流が主な武器。初戦ではウルトラマンティガ=憐にほぼ何もさせず完勝した。シーゴラスに先制され竜巻で台風を相殺された後、ナナと憐のタッグに手も足も出ずイーヴィルクリスタルをデラシウム光流で撃ち抜かれた。

 

 

●宇宙恐竜ゼットン

・体長 : 60m

・体重 : 3万t

・初登場 : ウルトラマン第39話「さらばウルトラマン」

・プロフィール

一兆度の火球、電磁バリア、テレポーテーション能力、エネルギー吸収・反射など数多の強力な技を持つ最強の呼び声高い強豪怪獣。(対ウルトラマン用に調整された最強の初見殺しであるため別にウルトラマンが絶対勝てないという訳ではないのではと筆者は常々思っているが強いことに変わりはない。)育成者によって大きく個体差が出ることも特徴。弱体化していたとはいえウルティメイトフォースゼロを一気に圧倒できるジャンナインと、ウルトラマンティガ(SD)とジャンナイン(SD)で勝つことができたタイラント(SD)ですら一対一のゴリ押しが限度だったことから今回の個体もなかなかの強さ。成長過程で投与されていたためイーヴィルクリスタルの波動は生命維持に不可欠なものとなっており、その消滅をもって生体活動を休止することとなった。

 

 

●破壊獣モンスアーガー

・体長 : 65m

・体重 : 6万8千t

・初登場 : ウルトラマンダイナ第11話「幻の遊星」

・プロフィール

惑星メラニーの守護獣で、レイオニクスの少年ライムが使役する。両手を合わせて放つ火球と自慢の怪力を用いた格闘戦が得意。頭頂部が弱点。

 

 

●変身怪人ゼットン星人 ゼテン

・体長 : 2m

・体重 : 0.060t

・初登場 : ウルトラマン第39話「さらばウルトラマン」

・プロフィール

惑星メラニーの近くに基地を構えるゼットン星人達の指揮官。研究者でもあり常に見下した態度をとる。イーヴィルクリスタルと数多のゼットンを使って侵略を開始する直前、通りかかった憐達に阻まれ宇宙警備隊に捕まった。

自分達が尖兵であることを明かしたのは、所詮駒でしかなかった自分の立場に対する細やかな抵抗だったのかもしれない。

 

 

●慢性ガス過多症宇宙人ベンゼン星人 ナフタ

・体長 : 63m

・体重 : 7万6千t

・初登場 : 劇場公開作品「ウルトラマンゼアス」

・プロフィール

黒の巨人の暗黒の力に惹かれ忠誠を誓った宇宙人。数多くのイーヴィルクリスタルを与えられ強化されたナフタは黒の巨人の邪魔者である憐を消すために動き出す。

 

 

●地獄星人スーパーヒッポリト星人 ブロス

・体長 : 60m

・体重 : 6万5千t

・初登場 : 劇場公開作品「大決戦!超ウルトラ8兄弟」

・プロフィール

黒の巨人の暗黒の力に惹かれ忠誠を誓った宇宙人。邪悪な祝福を受けたブラスは黒の巨人に仇なす憐を討ち取るために行動を開始する。

 

 

シ「今回はなんだか強敵が多かったね」

 

べ「最後に出てきたのもなんやきな臭い奴らやったし、どうなるんやろなー」

 

シ「まあ、この先どんな敵が現れようと僕らがいる限り問題はないけどね」

 

ベ「せやな!というわけで、今回はおしまいや!ほな」

 

べ・シ「「バイバーイ」」

 

 

 




サンダーブレスターやべえ!なんだアレ!かっけぇ!(あいさつ)
ここ2年でイーヴィルクリスタルの説明がだいぶ楽になりました。今なら「魔王獣の頭についてる結晶体よりもう少し黒っぽいヤツで、宿主の怪獣にダークサンダーエナジー的な効果を付与する」みたいな感じですかね。やっぱりわかりにくいか。
ちなみに前回やっとリクエスト怪獣を一体出せました。今後も隙を見て出していくつもりですので寛容なお心でお待ちください。
ではまた次回!

〜次回予告〜
ジャンナインの燃料補給のために訪れた惑星で、不思議な噂を耳にする憐達。真相に辿り着いた彼らが目にしたのは、巨大な侵略兵器だった!
次回「鉄神の心(アイアン・ハート)」、お楽しみに!


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第三章
episode 14 鉄人の心 ー前編ー


マジ間に合わなくてスミマセンでした!



 緑豊かな大地の上で、巨人と巨獣が真っ向から激突する。巨人の名はウルトラマンダイナ。ネオフロンティアスペースと呼ばれる宇宙を救い、その後数多の宇宙を旅している伝説の英雄だ。ダイナは相対する怪獣、キングシルバゴンの尻尾を受け止めると、逆に持ち上げて振り回し放り投げてしまった。すぐによろめきながらも立ち上がったキングシルバゴンは3つのツノ(・・・・・)から青紫の電撃を発射、しかしそんな単調な攻撃は無駄とばかりに瞬時に放たれたフラッシュサイクラーで相殺される。

 

『今楽にしてやるぜ…デヤッ!』

 

 青い超能力戦士、ミラクルタイプにチェンジしたダイナを見たキングシルバゴンは、脅威を感じ取り再び電撃を放つ。が、これを待っていたダイナはその電撃を掌で受け止め、なんと増幅して撃ち返したのだ。正確なコントロールで突き進むレボリウムウェーブ リバースバージョン(青い電撃)は、キングシルバゴンの額を突き破るように生えるイーヴィルクリスタル(黒い結晶)のみを見事に撃ち抜いた。途端に正気に戻ったかのように辺りを見回すシルバゴンの様子を見て、ダイナは構えを解く。

 

『さあ、仲間が待ってるぜ』

 

 その言葉に頷きを返し、キングシルバゴンはお礼を言うように吠えると森の中へ帰っていく。それを見届けたダイナは腕をクロスさせフラッシュタイプに戻ると、再び宇宙へと旅立つ。

 

『一体どうなってんだ?』

 

 光の巨人は、この宇宙で確かに起こっている異変を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

『燃料が少なくなってきたな』

 

「えー、この前積み込んだばかりじゃない。ちょっと燃費悪いんじゃないの?」

 

 ジャンナインの呟きに家計簿をつけていたナナが耳聡く反応する。憐の旅が始まって早3ヶ月、いつもの光景になりつつあった。

 

『前回の分は質が悪かったんだ。僕のせいじゃない』

 

「そうは言ってもねぇ。お金だって無限じゃないのよ?」

 

「あー、やっぱりシャワー浴びるとスッキリするなー」

 

「ちょ、憐!う、上!上着てから出てきなさいっていつも言ってるじゃない!」

 

「いやいや、これは譲れないね。んで、なんか問題発生か?」

 

 そこへトレーニングを終えた憐がやってきた。鍛えた甲斐あって引き締まってきた身体から目を反らすナナから事情を聞いた憐は、タオルで頭を拭きながらガンパッドを起動させる。

 

「もしもしロテン?今大丈夫か?」

 

『Oh!一条寺の旦那、久しぶりだユー!本日は何の御用かロ?』

 

「ああ、ちょっと燃料が必要になっちまってな。なるべく安く用意してもらいたいんだけど……あ、ジャンナイン、現在地の座標送ってくれ」

 

『ふんふん……ロ!そこから一番近い惑星アダマンに知り合いの商人がいるんだユー!ミーが頼んでおくからお金の心配は無用だユー!』

 

「いやそれは悪いから……って切れちまった」

 

 今しがた憐と通話していたのはカネゴン・ロテン。銀河を股にかける大商人である彼の乗る輸送船が、ディノゾールの群れに巻き込まれていたところを、たまたま通りかかった憐が助けたことで憐を命の恩人と慕い、仕事の斡旋や情報提供などの旅のサポートを買って出てくれている。

 

「つーことで目的地は決まりだな。急ぐ旅ではあるけど、動けなきゃ元も子もないから」

 

『すまない』

 

「気にしないで。アタシもああは言ったけどジャンナインには感謝してるんだから」

 

「まーたツンデレいやいや何でもないからそんな顔で睨むなよ……あ、そういやムッチは?」

 

 憐の言葉にナナは溜息をつきながら答える。

 

「まだ寝てるわ。アレの世話で昨日の夜も遅かったみたい」

 

「またかよ……よくやるなあ。しっかし先週アレが生まれた時は吃驚したぜ」

 

 アレというのは、ムッチが持ち帰ってきた白いボールから生まれたゼットンの幼体のことである。ジャンナインの解析でイーヴィルクリスタルの汚染を免れていたことが分かった芋虫のような生物(サッカーボール大)を、ムッチがバトルナイザーに入れて面倒を見ると言い出したのがちょうど1週間前のことであった。それからと言うもの、ムッチは自室にほぼ篭りっきりで世話をしていた。

 

「ま、その甲斐あってかなり懐いてるみたいだけどね」

 

「あれからもう1週間か。思えば旅を始めたのがずいぶん昔のように感じるなぁ」

 

「ふふ、どうしたの憐?なんだかジジ臭いわよ?」

 

「そんな言い方ないだろ?いや、まあ……アレだよ」

 

 憐は頭をかきながらナナの向かいに座る。が、視線はなぜか斜め上だ。もはや天井を見ていると言っても過言ではない。

 

「ここまで旅を続けてこられたのは、ナナが一緒にいてくれたことも大きいな、とふと思ったんだよ。り、料理とか!色んな意味で、な?うん。だから、あー……これからもよろしく頼む!」

 

 最後は自分でもわからないうちに頭を下げていた憐は、気恥ずかしさも相まってなかなか顔を上げられず、しかしいつまでたってもナナの反応が無いことに気づき恐る恐る顔を上げると。

 

「ぇ……ぃ、ぅあ……」

 

「……ぉお」

 

 顔を真っ赤にさせ口をパクパクさせているナナの顔が間近にあった。ここで少しおさらいしてみよう。割と長く一緒に過ごしているから慣れてはいたが、ナナは美少女も認める美少女である。そんな女の子の恥ずかしがっている顔を至近距離で見た憐の受けるダメージは計り知れない。ナナは思ってもみない言葉に驚くやら嬉しいやらで軽くパニックになり、憐は憐でナナの反応から自分が恥ずかしいことを言ったのだと自覚するは改めてナナの可愛さを思い知らされるはで真っ直ぐ見ることができない。要するに、お互いもじもじしながら俯いているお見合いスタイル、よくある(よくあるとは言っていない)青春の一コマが出来上がっていた。

 

「なーにやってんスか」

 

『ああ、今回ばかりは憐も照れてるという点で珍しいんだが、まあ後で話そう。そんなことよりムッチ、まもなく着陸だ』

 

「あーい了解っス」

 

 

 軽い振動とともに、ジャンスターは比較的茶色の多い惑星の大気圏へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 惑星アダマン最大にして唯一異星人の受け入れを行っているミスリー共和国に降り立った一行は、早速ロテンの知り合いにコンタクトをとった。

 

「話は聞いてるしお代も受け取ってる。そのエメラル鉱石?っつーモンは聞いたことがねェが、似たような鉱物は用意できたんで、ソイツを積み込む。いいな?」

 

「あ、ああ。よろしくお願いします」

 

 一応この星の人々は人間型(ヒューマンタイプ)らしいのだが、どう見ても目の前の2メートルはあるであろうサングラスの男はそんじょそこらの異星人より恐ろしい外見である。ナナやムッチはともかく憐でさえ若干警戒していたがしかし、そこは流石ロテンの紹介だけあってどこからともなく現れた男達を引き連れ非常にスムーズに準備が整っていく。

 

「作業は1日もありゃァ十分だ。それまでこの国でのんびりしてってくれや」

 

『出発準備が出来次第ガンパッドに連絡を入れる。たまには羽を伸ばしてきたらどうだ、みんな』

 

「まあ……そうだな。じゃあそうさせてもらおうかな」

 

 辺りを見渡すが、手伝うどころかかえって邪魔になりそうな雰囲気だ。諸手を挙げて喜びながら走っていくナナとムッチを見て、ちょっと無理させてたのかなあと若干反省しつつ、憐はジャンナインに別れを告げ2人を追って繁華街へと足を踏み入れる。

 

「ねえアレ何かしら?食べられるかな?」

 

「な、なんかビュンビュン飛んでるっスよ!すっげえ!」

 

「あー、でもまずはお金を換金しないと……」

 

「わかった!わかったから落ち着けって!」

 

 惑星アダマンは科学技術の発達した種族の住む星である。市街地と森林地帯、少しの海以外は全て鉱山地帯であり、資源に困ることもなく科学を発展させてきたのだ。そんな情報をガンパッドで調べつつ、この国の通貨を手に入れた3人は、カフェで一息つきつつ今後の予定を立てていた。

 

「ハイ!自分、工場見学したいっス!」

 

「却下。ハイ!俺は資料館でウルトラ戦士との交流について調べたい!」

 

「却下。まずはショッピング、服を買いたいのよねー。どれもだいぶ着古してきちゃったし」

 

「じゃあそのあと工場」

 

「あとお昼は美味しいもの食べたいわね。ね、憐?いいでしょ?」

 

「うんいい、いいからそのあと資料館」

 

「あとは」

 

 2人のウンザリした視線を受けながら、しかしナナは至極真面目に答えた。

 

「お姉ちゃんの情報を探したい、かな」

 

 その言葉に憐とムッチは顔を見合わせ、ため息を吐いた。

 

「そんなん言われるまでもないだろ?忘れてないさ、もちろん協力するに決まってる」

 

「でもそれ最初じゃないんスか普通!」

 

 ナナはさらりと答える。

 

「もちろん一番大事だけど、最初に行ったら他が押し通せないじゃない」

 

((この女……))

 

「んだよそりゃあ!工場見学行ってもいいじゃないっスか!」

 

「じゃあアンタだけ先に行ってなさいよ!アタシは憐と服買いに行くから!」

 

「いやナナさん?俺博物館とかそっち系に」

 

 一瞬冷たい目を向けて憐を黙らせたナナは、1度目を瞑ると、若干頬を上気させての上目遣いでこう言った。

 

「アタシと一緒じゃ、いや?」

 

「っ!?え、あ、いや?そんなことはない、ないかな、うん」

 

「おぉい兄貴!朝のアレで完全に弱点見抜かれてるじゃないっスか!そしてナナちゃんあざといな!」

 

 女ってこういう生き物よ?とは後にナナが語った言葉である。実際朝の一件で若干ナナを意識していた憐には効果てき面であるので男ってチョロい。ただナナが更に頬を染めているのは僅かな羞恥とかなりの喜びからである辺りまだ可愛げがある、はずだ。

 そんな時、突然爆発音が辺りに響き渡る。かなり遠くの方から聞こえてきたことが音からわかるが、しかし地響きを伴って、というのだから何かが起こっているのは間違っていない。すぐさま2人に目配せをしギンガスパークを取り出した憐は、しかし何の反応も無いことに首を傾げる。

 

「にいちゃん達!この国は初めてかい?」

 

「え?あ、ああ」

 

 突然話しかけてきた隣のテーブルの男に驚きつつも返事をする。そうして冷静になってみると、周りの人間は何事もなかったかのように会話を再開していた。

 

「あの音はな、向こうの山が発生源なんだ」

 

「山、っスか」

 

 男の指差す方向を見れば、確かに切り立った岩山がある。

 

「あそこにゃロボット狂いの天才博士が住んでるっつーのはこの国じゃみんな知ってる話さ。ま、天才と変態は紙一重っつーし、俺は変態だと思ってるよ」

 

「そんな諺ないでしょ……」

 

「それにしたってあの音、かなりの爆発だと思うが、国が黙ってないんじゃ?」

 

「ああ、そこは天才博士。仕事はこなすし国の許可なんざとってるさ」

 

「にしてもそんな天才が山の中で何を」

 

 男は心底不思議そうな顔をしながら答えた。

 

「なんでも1万年くらい前のロボットを修理してるらしいんだが、そんなことして何になるんだか。国の調査でも特別なところは何もない、ただの頑丈なガラクタだって結果なのによ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 隣のテーブルの男の一言。「1万年以上前のロボット」。それは男達を山へと駆り立てた。

 

「ロマンだよな」

 

「そう。ロマンっす」

 

「誰か止めてよ……」

 

 ナナの嘆きを聞く者はいない。役所に行って入山許可をもらいに行く2人にしがみついて止めようとした彼女だったが、職員の「入ってもいいけど自分の身は自分で守ってね(意訳)」で俄然やる気を出した男どもを止める手立てはなく、イヤイヤ付いてきているのであった。

 

「すまんナナ。お姉ちゃんは必ず探す。だけど午前中は許してくれ」

 

「古代のテクノロジー、太古の遺産……胸が踊るっス。ナナちゃん、それこそ1人でショッピングでもいいんスよ?」

 

「こんな可愛い娘を1人で行かせるつもり!?それに私は……あーもう!知らないわよ!」

 

 ナナが可愛いのは事実だが強いのもまた事実である。1人で行ったところでそこまで問題があるようには思えないが……ついて来て貰っているのでそこは黙っておく2人。

 

「しかしこの辺りは凄いな。見渡す限り山ばかりかと思えば峡谷もあるし」

 

「あーそうね。たしかに綺麗だわ、認めるのは癪だけど」

 

「ナナちゃん、まー拗ねないで。しっかしどこなどわぁあ!?」

 

 轟音とともに閃光が走る。なんとか倒れなかった3人は、三たびの爆発に備えながらも決してなだらかでない岩肌を爆心地へと走る。と、突然くり抜かれたかのような、洞窟の上半分が吹き飛んだような、そんな広場が目の前に飛び込んできた。そこで3人が目にしたのは。

 

「い、てて。おっかしーなー。どうも接続が……アレ?人かい?3人も?」

 

 ずり落ちた眼鏡を直しながら立ち上がる青年と。

 

「こ、まさか、ありえないだろ……これは」

 

「知ってるの、憐?」

 

「兄貴の顔色が悪い時って大抵碌でもない案件なんスよねぇ」

 

 鎮座するインペライザー(黒い鉄人)の姿だった。




史上最高に話が進まない回。
リクエスト怪獣その2キングシルバゴン。
地味に対ゼットン戦から一月程進んでますがロテン助けた以外はイーヴィルクリスタル3つほど砕いたくらいです。
話は変わりますがギャラクトロン編、ドラマ特撮共に素晴らしい出来ですね。何処となくダイナっぽい感じ(8割がた隊長のおかげ)もたまりません。ギャラクトロンの魔方陣演出も最高です。しかし重大な問題が1つ。
ダークサンダーエナジーね、ふーん(白目)
魔王獣の額についてるの完全にクリスタルだよ(震え声)
みたいな感じで今作の個性(よくある設定といえばそれまでですが)が失われるのを回避してきた作者でしたが、来週のオーブの展開次第でついにネタを先取りされる可能性があるのほんとにヤバい。
僕も絶賛闘病中なので、みなさん季節の変わり目の風邪にはお気をつけて。ではまた次回!

〜次回予告〜
ロボット博士、いくらなんでもインペライザーはないだろ!さては皇帝の差し金か?って、1万年前とか言ってたっけ。そういやレイオニクスバトルが流行ってるし……今って一体いつなんだ?
次回「鉄人の心(アイアン・ハート) 後編」、お楽しみに!


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