ガンダムビルドファイターズ NEXT (よなみん/こなみん)
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始まりの福音


ビルドファイターズトライから数年後の世界。

さて、どのような物語が始まるのか・・・


―優勝は・・・4代目“メイジン・カワグチ”ー!!―

 

そのアナウンスが会場に流れ、あたりは会場は多くの歓声に包まれる。

観客席から皆が見下ろすそこには、1人の青年が負けたのか、項垂れていたが、もう1人、優勝したはずの“メイジン・カワグチ”の姿はなかった。

 

一翔(かずま)くん!どこだ!一翔(かずま)くん!」

 

廊下を走る影、背の高いコートに身を包み、独特のサングラスをかける姿は、メイジン・カワグチ本人だった。

 

「メイジン!?表彰式は終わってないんですよ!メイジン!?」

「ぐっ・・・!っ!?いた!」

 

ちょうどロビーに出たところで、メイジンは1人の少年の姿を見つける。メイジンがその少年の名を告げると、少年は振り向くことなくその足を止める。

 

そのカワグチの後ろから付き人のSPが現れるがその2人の間に入ることなく立っている。カワグチは数歩歩き、その少年の近くまで来る。

 

「・・・ここにいたのか。どうして決勝を辞退した?」

「俺には戦う理由がない。優勝はしたくないし・・・負けたくもない。ただ、それだけ」

「・・・君はガンプラバトルが嫌いか」

 

少年は扉の先へ出ると、メイジンに聞こえない、小さな声で悔しそうに告げた。

 

「嫌いだ。クソくらいにな」

 

それから1年が過ぎ、4代目メイジンが快挙を成し遂げたことがニュースになる。そして彼を知る天才ビルダー、コウサカ・ユウマや、そしてプロの階段を上がり続けるファイター、アドウ・サガからも彼の話が上がる。さらには3代目メイジンがメイジンの座を4代目に渡すことも改めて発表した。

 

レディの方もどうやら新しいのに変わり、ガンプラバトルは新たな歴史を刻んでいた・・・。

 

 

「・・・ねむ。起きるのヤダ」

にゃ〜

「やだ・・・起こそうとするなぁ〜」

 

忌々しき1年が経ち、少年は布団にこもっていた。

彼の名は 結城(ゆうき) 一翔(かずま)、かつて天才とも呼ばれた天才ビルダーであり、プレイヤーでもある。・・・が、それは昔のことだ。

 

今はただのしがない少年。引きこもりである。

 

彼は布団に乗っかってきた猫に反応して体を起こす、時間は昼。「やべっ!」と少年は声を上げると、猫を頭に慌てて身支度を整える。

 

「行ってきます!」

 

勢いよく扉を開けるとその先にいた少女に思いっきり衝突する。

 

「きゃっ!?」

「うわっ!?」

 

猫耳のような髪型をした少女にぶち当たり、一翔とその少女は倒れる、そこにロングヘアの真面目そうな女の子が現れる。

 

「え!?ちょ!?一翔さん!?香澄!?き、救急車!?110!?117!?」

「落ち着けたえ、それは警察となんかしらん番号。そして人を殺さないで」

「いたた・・・一翔は酷いなぁ・・・」

 

彼女たちのことをまずは紹介しようと思う。まず倒れ込んでいる少女からだ。彼女の名は、戸山 香澄(とやま かすみ)これを言うのもなんだが、美少女バンド、“Poppin’Party”のギターボーカルを担当する少女、リーダー・・・だと言いたい。

 

まずPoppin’Partyとはなんだと聞かれるかもしれないが・・・原作ではないので・・・調べて☆(メタ話)

 

そしてその横でアワアワしているのが天然系マイペース女子、知らない人からしたら「何この可愛い子!」と言われるのが、Poppin’Partyのギター担当、おたえちゃんこと花園 たえ(はなぞの たえ)である。

 

一翔とこの子達との関係は友達・・・あるいは彼女たちからしたら友達以上の存在かもしれないが、それは不明である。

 

一翔は香澄の手を引き、身体を起こすと彼女の服を軽く叩いて砂や地味な汚れを落とす、布が荒れた部分は・・・後で治すと決意する。

 

「これで大丈夫か?」

「う、うん・・・///ありがとう・・・」

「朝からイチャイチャしないでください!一翔さんはバイトはいいんですか?」

「あっ・・・(察し)」

 

腕時計を見、時間を確認する。時刻は昼を指していた、一翔の顔が驚愕のものに染る。

 

「ま、マジか!たえごめん!香澄も!またな!」

「え!?ちょっと!あ、あとでさーくる行くから〜!」

「香澄はこっちです!とりあえずみんなと合流しますよ!」

「は〜な〜し〜て〜!!!」

 

遠くで香澄の悲鳴が聞こえたのを最後に、一翔はバイト先まで走っていった。

 

 

 

 

―さーくる―

 

「あっ!一翔くぅぅぅぅん!」

「すいませんー!遅刻ですー!」

「知ってるから早く入る!」

「了解です!軍曹!」

 

ライブハウス、CiRCLE。そこの玄関で待っていたのは月島まりなさん。ここのお母さんみたいな人だ。

 

ちなみに詳しい設定はみんなで調べてくれ☆(てへっ)

 

速攻でお店に入り、普段着から仕事着に着替えると、店内へと改めて姿を表す。

 

そのとき、まりなさん含め、多数の女の子から「おぉ・・・」と歓喜の声が上がるがあまり気にしないでおく。

 

「一翔くんは相変わらずモテるねー、モカちゃん嫉妬しちゃうよー」

「いらっしゃい。確認したけどいつもの部屋は空いてるからどうぞー、はい次ー」

 

レジに入った途端に目の前からマイペースな声が聞こえたがスルー、視線をあとから入って来た4人組に移す。

 

ちなみに今、話しかけてきたのは美少女ロックバンド、“Afterglow”のギター女子、青葉モカちゃんだ。一翔はこの子と付き合うのは嫌いとしている。(人間性)

 

「えー・・・スルーするんだ。モカちゃん悲しい」

「・・・あのー、目の前で縮こまるのやめて貰えません?お会計とか出来ないんで」

「素直に可愛いって言ってくれればいいのにー」

「断る。いらっしゃい」

「・・・いつもの、空いてる?」

「さっきこのポンコツに言った通りです。どうぞー」

「そう。行くよモカ」

「はーい」

 

そう言いながら動く気がないモカを引きずっていったのは美竹蘭(みたけ らん)。バンド“Afterglow”のリーダー?そしてボーカルとギターを担当する反骨の赤メッシュ女の子だ。ちなみに嫌いな食べ物は豆しば。

 

まりなさんいわく、Afterglowというバンドは仲良し5人で結成されたらしく、みんな仲間の事は大体わかるらしい。

 

一翔はモカに手を振ると、改めて店内の掃除と点検をする。床を拭くのをこまめに、壁の補修すべき場所や、改善すべき場所の把握、確認は一翔のお仕事である。

 

そして・・・

 

「ガンプラシステムも異常・・・なし。よし、いつもの確認終わり!」

 

・・・部屋の片隅に置いてある設備、ガンプラバトルシステムの確認をせずに、一翔はまりなの元へと向かった。

 

 

 

 

「まりなさん。異常ありませんでした!」

「ありがとー!休憩する?」

「懐からジュース出すのやめてください」

 

まりなからジュースを受け取り、一気に飲み干す勢いでがぶ飲みする。それと同時に、さーくるの扉が勢い良く開く。

 

「失礼、どこか空いてる部屋はあるかしら?」

「かーずま!来たよー!」

 

扉が開くと、そこには後光を浴びながら華麗に入店するミステリアスな本格派美少女バンド、Roseliaの面々が入店してきた、なんとも美しい。

 

その中で一翔に話しかけてきたのは氷川紗夜(ひかわ さよ)今井リサ(いまい りさ)だった。

彼女たち、その中でも紗夜は妹関連、リサは野暮用の時に仲良くなり、Roseliaの面々とも顔なじみの関係であった。

 

「いらっしゃいませ。空いてる部屋はこちらになります」

 

彼女たち全員が入店したタイミングで、一翔は部屋割りを見せる、彼女たちは少し悩むと、「ありがとう」と言って奥へ消えていってしまう。

 

「・・・なんだろう。寒気がする」

 

いろいろと勘違いしている一翔だが、あまり深くは考えず、今入った部屋のところにマークを打つと、再び業務へと戻る。

 

「・・・?今日はパスパレとハロハピは見ないな」

 

と、ふと思い出したかのように2つのバンドの名前を呟やく。

 

今呟いた2つのバンド、Pastel*Palettesとハロー、ハッピーワールド!はそれぞれ方向性の全く違うバンドである。むしろ2つとも忘れられない印象がある・・・。

 

「あの人形の人と話せてないし、パスパレの面々とはまだそんなに顔合わせ出来てないからな・・・対面で会った時困るな」

 

ハロハピに関しては一翔は何度か会っている。さーくるの新人の時には何度かお世話になったことも、(大半は大きなぬいぐるみが)あるのだ。

パスパレとは逆にあまり会ったことはない。バイトに入っていない時にめちゃくちゃ来るらしい。噂だとガチのアイドルグループだとか。

 

(・・・そうだ、片付けしなきゃ)

 

レジの周りが汚いことに気づき、一翔は急いで片付けを始める。伝票だとかが散らかり、ため息を付きながらもテキパキと片付ける。

 

「ちーっす!一翔さん!バトルシステム空いてます!?」

「ん。空いてるよ」

「よっしゃ!今日は負けねぇからな!」

 

今入ってきたのはここら辺で腕試しをしてる青年、だろうか、3人組ぐらいがバトルシステムの方へ話しながら歩いていく。一翔はその様子を羨ましそうに見つめる。

 

・・・が、姿が見えなくなると、安心したかのようにレジのところに置いてある椅子に座り込む。頭を抱え、顔にはタオルを被せる。

 

「あー・・・今日は疲れる・・・」

「君はガンプラバトルが嫌いかね?」

「ん!?」

 

突然聞こえた謎の声にビビり、一翔は飛び起きるが、声の主は視界には映らない。

 

「ここじゃよ」

 

再度声のする方を向く、そこには機動戦士ガンダム、哀・戦士の中に出てくる戦士、別名、青い巨星の異名を持つ男、ランバ・ラルに似ている男が立っていた。

 

男はアニメのような厳しい顔ではなく、優しさに溢れた優しい顔をしていた。

 

「・・・別に」

 

まるで興味が無いように視線を男から背ける。それも昔の話なのだ、今の一翔には関係なかった。しかし、男は目の前に身に覚えのあるガンプラを置く。

 

「・・・グフ」

「ワシのガンプラと戦ってくれんかね。なに、老人の遊びと思ってくれても構わんよ」

「・・・」

 

一翔は横目で男のことを見る。男は笑顔でにやっとしながら一翔のことを見ていた。数秒置いて、一翔は諦めたかのようにため息を着くと、席を立ち、身代わりの人形を置いて奥のガンプラバトルシステムへと足を運ぶ。

 

「操作はわかるかね」

「ええ。大体は・・・見てましたから」「そうか・・・なら遠慮はいらんな」

 

〈Please set your GP base〉

 

お互いの持っているGPベースをガンプラバトルシステムに読み込ませる。一翔はそれを躊躇い、数秒遅れて読み込ませる。

 

〈Beginning plavsky particle dispersal〉

 

プラフスキー粒子が筐体から上に溢れ出て、仮想上のステージを作り上げる。

 

〈Field 7 ruins〉

 

一気に粒子は形となり、一翔たちの目に廃墟となった無人都市が見える。

 

〈Please set your Gun-Pla〉

 

お互いのガンプラを台の上に置く、ランバ・ラル、通称はラルさんと言うらしい、ラルさんは先程のグフを、一翔は見たことの無いガンプラを台に乗せる。

 

「ほう、少年・・・いい腕をしている」

 

機体自体のベースはガンダムスローネシリーズ、それらの特徴をひとつに集めたような機体、両肩に搭載されている大きな大剣が狂気のように輝く。

 

両機体に命が入ったかのように目が光り、一翔たちの空間には操縦桿が現れる。

 

〈Battle Start!〉

 

「グフR35 カスタム!」「出るぞ!」

「ガンダムスローネアイン ネクスト!」「飛翔する!」

 

両機がカタパルトによって空へ飛び、ステージへと吐き出される。

 

ラルさんのグフはすぐに都市に隠れ、辺りを見渡す。

モノアイを移動させ、隠れながら行く先の確認をこまめにする。格闘機、そして近接型のファイターならでは、いや、普通にやることだが・・・

 

突然ラルさんの耳にアラート音が入る。

 

咄嗟に盾で防ごうとしたその瞬間、赤いビームがグフのシールドを巻き込んで真横と通り過ぎる。

それまでのビルや建物には当然のように貫通の痕、穴が空いており、その先には赤く光るガンダムが居た。

 

「むー・・・や、やはり只者ではないか・・・!」

 

一翔とラルさんが戦う戦場、それは新たな時の流れを始める戦いだった。



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蘇る紅の彗星

どうも皆さんお久しぶりです!進学先が決まった、ヤンデレ系マスター!よなみんです!誠にお久しぶりです。

飽きもせず新章落とします!最近ほんとにぬいぐるみ抱いてる時が至高の時間・・・!あぁ・・・ダメですぅ!

それでは!お読みください!

―――

数年前にガンプラバトルを失踪した少年、結城 一翔。
彼の働く先であるさーくるで、青い巨星とよく似た人物に出会い、成り行きでガンプラバトルを。

―――


「あれ?一翔くんどこ?」

 

一翔たちがガンプラバトルを初めて数分後、さーくるには改めてPoppin’Partyのメンバーが来ていた。

香澄が店内をキョロキョロと見渡すが、たえとその他のメンバーはまりなに一翔の行方を聞いていた。

 

「まりなさん!一翔さんを見てませんか?」

「え?そういえば休憩から見てないわね」

 

が、当然のようにまりなも知らなく、店内を探すが見つからない・・・と、なると

 

「・・・まさか?」

 

まりなが視線をある場所へと向ける、それにつられPoppin’Partyのメンバーたちもそちらに視線を向ける。そこはガンプラバトルシステムがある場所だった。嫌な予感がしたPoppin’Partyとまりなは速足でそちらに向かった。

 

 

 

 

「君はガンプラバトルが嫌いではなかったのかな?」

「うるさいっ!行けっ!ファング!」

 

腰に備え付けられていたGNファングを飛ばし、グフへとビームを放つがグフは華麗にかわし、腕部ガトリングを直撃させ、確実に一機ずつ落としていく。

 

その間にもスローネはGNビームライフルを放ち、グフの逃走を少しでも妨害するが、ラルさんの動きには隙がなく、確実に攻撃をかわす。

 

「くそっ!」

 

右手のスロットを動かし、スローネにGNバスターソードを装備させる。一翔はバーニアを吹かせ、ラルさんのグフへと突撃していく。

 

「だが、甘いな、戦いとはどういうものか・・・教えてやる!」

 

痺れを切らしたのか突撃してくる一翔に対抗し、ラルさんはシールドに内蔵してあるヒートソード・・・ではなく、背中に収納してあった大型アックスの、デッドエンドGの改修型を装備し、バスターソードと正面から打ち合う。

 

打ち合うものの、スローネが少しずつ押される。

 

「・・・っ!?ぱ、パワーで負けてるのか!」

「ふん!純粋な強さならグフの方が上じゃ!」

 

1度突き放し、もう一度打ち合った衝撃で二機の距離が離れる。グフが姿勢を保ったその瞬間、重い一撃がグフを襲う。衝撃でグフはビルに叩きつけられる。

 

「・・・なんだ!」

 

モノアイ越しの視線の先には、赤く染まったスローネがいた、全身が赤く染まり、粒子の放出速度も上がっていた。

 

「そうか・・・トランザムか!」

「奥の手だ・・・っ!悪いがやらせてもらう!」

 

三連装GNビームサーベルをウルヴァリンのように装備し、バツ字を描くかのように突撃していく。

 

グフもスラスターを吹かせ後退しながら腕部ガトリング砲を放っていくが、スローネはかわすか、防ぐして被弾を抑える。

 

「ぐっ!この機体では厳しいか!」

「落ちろっ!そして・・・っ!」

 

スローネの刃がグフに当たる。そのとき、閃光が目の前を切り裂いた。

 

「なに!?」

「なんだ!?」

 

二人は同時に空を見上げる。空では雲が裂き、裂けた部分から光が差し込む。そしてそれと同時にある一機のガンプラが光を浴びながら降りてくる。

 

深紅のフレームに、隙のない設計、そしてシンプルな強さを誇る伝説の機体・・・。

 

「まさか・・・!」

 

ラルさんは驚愕の表情であの機体を見つめる。周りのギャラリーたちも驚いた表情を見せる。

 

そしてそれを操るものは唯一絶対の力を持ち、ガンプラバトルの頂点、全てのプレイヤーが憧れる存在だった。

 

「・・・見てるだけでは物足りん・・・私も混ぜてもらう!」

「アメイジング・・・レッドウォーリア・・・」

 

深紅のガンダム。アメイジングレッドウォーリア、そしてそれを操るプレイヤー、3代目、メイジン・カワグチが二人の前に立ちはだかった。

 

 

 

 

Poppin’Partyの面々も、もちろんメイジン・カワグチの噂は聞いている。ガンプラバトルの覇者、そして全国、世界を股に掛けるファイターだと。

 

もちろんプレイヤーだけの技能ではない、ビルダーとしても優れている。

 

故にガンプラバトルにおいて、彼のことを知らない人間はいない。無論、彼のガンプラも。

 

「うそ・・・メイジン・カワグチがどうしてここに?」

 

真っ先に驚嘆の声を上げたのはPoppin’Partyのドラム担当、山吹紗綾(やまぶき さや)だった。彼女だけではなく、他のメンバーも同じように驚いていた。

 

このさーくるの母でもあるまりなさんに至っては声すら出せない状況だった。メイジンの突然の来訪、それが意味する理由はわからなかったが・・・

 

「多分・・・やりたいだけなんじゃ?」

 

キーボード担当の市ヶ谷有咲(いちがや ありさ)がメンバーにしか聞こえないような声で告げる。

それに対して、みんなは何も答えられない。

 

一つ呼吸を置いて、ベース担当の牛込りみ(うしごめ りみ)が声を出す。

 

「・・・分からないけど・・・でも突然来るなんてきっとなにかあったんじゃ・・・」

 

 

 

 

「・・・メイジン自らがバトルに参加とは・・・なにかあったんですか?」

 

GNビームサーベルを収納しながら、一翔はアメイジングレッドウォーリアを見ながら告げる。その手には新たにGNバスターソードが握られている。

 

それを見たメイジンはレッドウォーリアの手には彼の代名詞とも言える武装、ガンブレイドが握られる。

 

「・・・いや、数年前に失踪した伝説のプレイヤーがここにいるとの噂を聞きつけてな、来た訳だが・・・」

 

メイジンはサングラス越しに鋭い眼光で一翔を見つめ、次にガンプラを見つめる。

 

「君のことだったか。まさかこんな所でガンプラバトルをやっているとはな・・・」

「・・・やってない。これは付き合ってるだけだ」

「先程まで本気でやっていたのでは無いのか?」

「・・・!ファング!」

 

腰に収納していたGNファングを展開し、レッドウォーリアへと飛ばす。射程に入り、ビームを放つが・・・。

 

メイジンはビクともせず、むしろガンブレイドから放たれるビームでファングから放たれたビームを相殺してみせる。

 

「「なっ!?」」

 

一翔とラルさんから驚愕の声が上がる。周りからは「おー!」と感激の声が上がるが・・・。

 

(バカな!?ピンポイントでビームを撃ち落とすなんて・・・!)

 

技術的には誰もができる訳でもない、天才的な技術を目の前であたり前のようにやってみせる。

 

(・・・これが伝説の・・・3代目メイジンの力・・・!)

「つまらんな。そしてありがとう・・・!」

「なに!?」

 

メイジンが言葉を告げると、ガンブレイドを一閃して構えをとる。無駄のない構えからは気迫と情熱を感じる。

 

「これは乱入したことへの謝罪と・・・!感謝の言葉だっ!」

「ぐっ!この野郎!」

 

バーニアを吹かせ突撃してくるレッドウォーリアに対して、一翔はバスターソードを横一閃に振るう、が、レッドウォーリアは逆にバーニアを吹かせ、その一撃をかわす。

 

かわされた直後、レッドウォーリアの一撃がスローネに直撃する。被弾箇所には切り裂かれたかのようなヒビが入っていた。

 

「どうした!君の力はこの程度か!」

「うるさいっ!」

「何故ガンプラバトルを辞めた!それだけの理由が君にはあるのか!」

「・・・っ!」

 

レッドウォーリアに蹴り飛ばされ、スローネは後退する。機体は建物に叩きつけられる。さらに直感でスローネの機体を横にずらすと、ずらしたタイミングでガンブレイドが先程までいた建物に刺さる。

 

「ちっ!本気かよ!」

「私はいつでも全力だ!さぁ!君の本気を見せてくれ!」

 

追撃と言わんばかりにミサイルをメイジンは放つが、一翔はGNビームライフルで直撃弾だけを確実に落としていく。

 

「人の気も知らないで!」

「君は何故ガンプラをやりたいと思ったんだ!思い出せ!」

「・・・!俺の・・・やりたい理由・・・!」

 

レッドウォーリアは再び剣を抜き装備する、スローネはGNバスターソードを手に取り、スラスターを吹かせ前に出る、レッドウォーリアもそれに対抗するかのように剣を突き出し前に出る。

 

二つの剣がぶつかると、粒子の嵐が辺りを巻き込んで風が吹く。

 

「俺は・・・命令を聞いてただけなんだ・・・っ!母さんの!父さんの!」

「なに・・・」

「ただ天才ってだけで子供のやりたいことは全否定されて、俺の運命は狂わされる・・・!もう嫌なんだ!沢山だ!」

「・・・だが、君のその気持ちは嘘なのか」

「・・・え?」

「剣を撃ち、戦って見てわかる・・・君のそのガンプラを愛する気持ちは嘘なのか!」

 

何度も撃ち合い、鍔迫り合いになってメイジンがそう告げる。ジリジリとスローネが押し負け、建物が背中に着く。

 

レッドウォーリアの動きには隙がない、それはメイジンがガンプラを愛しているからだ。

 

「俺は・・・?俺の気持ちは・・・!」

 

〈Over the time limit〉

〈BATTLE END〉

 

一翔が答えとなる言葉を出そうとしたそのとき・・・バトル終了の合図がなる。

 

目の前には沈黙を保っていたラルさん、そして先程まで戦っていたメイジン・カワグチがいた。独特なサングラスとコートに身を包んだ青年は正しく本物のメイジンだった。

 

メイジンは自分のガンプラをケースにしまうと撤退する素振りを見せるが、それより先に一翔に近づき、1枚のチラシを渡す。

 

「・・・これは・・・」

「ガンプラバトル選手権。オープンマッチの案内だ」

「・・・どうして俺に?」

「答えが出たのだろう?ならこの大会で証明して欲しい。もちろん、強制ではない。そして・・・君が勝てたら・・・私と再戦しよう」

「・・・」

 

黙りながら、一翔はその紙をじっと見る。そしてメイジンは仕事を終えたかのようにお店を後にする。シュミレーターの辺りはしばらく静寂に包まれていた・・・。

 

 

 

 

「・・・」

 

一翔は家に帰ったあとも、紙を見てにらめっこを繰り返していた。その顔は悩みに悩み抜かれた表情をしている。

 

同室にある机には、先程のガンプラバトルで傷ついたスローネが置かれていた。あの後、まりなさんたちに関係を追求されたが個人的に会うのは初めてだ。

 

「・・・俺の答えは・・・」

 

一翔は上着を羽織ると、財布を片手に外へと飛び出した。

 

 

 

 

「・・・はぁ〜!」

 

次の日、一翔は既にさーくるの店前で待機していた。

 

「おっ!一翔くんおはよう!」

「おはようございます。まりなさん」

「ちょ・・・、その荷物は・・・?」

 

まりなが指さす先には大量のレジ袋に入ったガンプラがあった。一翔は素っ気ない顔をして照れくさそうに髪を弄る。

 

「いや・・・熱が戻っちゃって・・・//」

「うん!趣味を持つのはいい事だよ!で!?大会出るんだ!?」

「ま、まだ検討中ですよー」

 

そう言いながらも、彼の手の中に昨日渡されたチラシがあるのを、まりなは見逃さなかった・・・。

 



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世界を笑顔に!蘇る天才


どうもお久しぶりです!よなみことよなみんです!どうもどうも!
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―――


ラルさんとメイジン・カワグチの力で、少年はもう一度道を歩くことを決意する。
今日はお店がうるさくなるようで・・・




「〜♪」

 

店のレジ、特にやることが無い朝の時間帯に、一翔はガンプラを制作していた。

昨日傷ついたスローネの補修と、新たな武装の改修のためだった。

 

「・・・まぁ、スローネだからGN系統のパーツしか合わない・・・!個人的には実弾も積めるような機体にしたいけど・・・!」

 

買ってきたガンプラは8種類、エクシア、スローネ3機、GN-X、そしてケルディムやOOガンダム、そしてガンダムハルートだった。

 

それぞれランナーと、パーツを組み立てた感触、そしてノートに書いてある案に相応しいパーツを探す。それに多少の改修を加えて、オリジナルの補修を加える。

 

「シールドはいらない・・・とにかく機動性と火力を両立させないと・・・宇宙はともかく、地上ステージになった時に困るからな・・・」

 

ガンプラバトルシステムが選ぶステージはランダム、つまりは始まるまでは分からないのだ。

一翔はベースとなるスローネ機に、独自の改造を加える。

手に取ったのはスローネドライのバックパック、そこにスローネアインのGNキャノンを他のパーツを使い取り付ける。

 

「はぁ・・・でもまぁ、こういう落ち着いた感じもいいよな」

 

朝の時間、お店には他の店員はおらず、まりなと一翔の二人だけだった。静かな店内、と、そこにひとつの嵐が飛んでくる。

 

「とりゃ〜!」

「ああー!扉がァァ!」

 

突然耳にまりなさんの悲鳴と女の子の声が聞こえる。

声のした方を見ると、扉が思いっきり開けられており、そこには金髪の、外国人のような少女が仁王だちしていた。

 

「久しぶりね!一翔!」

「久しぶりこころ。相変わらず元気だねー」

「それが私よ!人を笑顔にするには私たちが元気にならないとダメだもの!」

「そう・・・さすがだな」

 

入ってきたのは弦巻こころ(つるまき こころ)彼女はバンド、ハロー、ハッピーワールド!のリーダーで、一翔は彼女とは何度もご飯に行ったり、何度もお世話になっている人間である。

 

こころは一翔のいるレジまで足を進める、一翔はそれに見向きもせず、ガンプラの調整を続ける。それに嫉妬したこころは一翔に気づかずに後ろに回り込み、そのまま抱きつく。

 

それに反応しきれなかった一翔は、その行動に驚きパーツを机の上に落としてしまう。

 

「どうよ!一翔!なんか暗い顔してー!」

「・・・いつも明るいよ。早くどいてくれないかい?」

「やだわ!ここは私の席ね!」

「・・・はい」

 

流石に諦め、一翔はそのままの状態でガンプラの調整を続けていると、続々とハロー、ハッピーワールド!のメンバーが入ってくる。

 

そして一翔の目を引いたのが何より・・・!

 

「っ!ぬいぐるみー!」

「!?」

「ちょ!?一翔!」

 

店内にクマのような目を輝かせたぬいぐるみが入ってくるのを見て、一翔は子供のように抱きつく。クマの方は少し動揺したあと、一翔の頭をゆっくり撫でる。

 

一翔は夢心地かのような表情をしていた。こころと、ハロハピのギター担当、漫画の美少年みたいな美少女、瀬田薫(せた かおる)はカメラを動かしパシャパシャ激写していた。

 

「ちょ・・・一翔さん・・・!」

「ふぇっ!?あっ!こころ!黒服さん!助けて!」

「ふふっ・・・一翔の笑顔・・・」

 

端でうっとりとする薫を置き、こころと一翔は激しい追いかけっこをしていた。それをハロハピのベース担当の北沢はぐみ(きたざわ はぐみ)が止めるために2人を追いかける。

 

そして慌てながらもまりなさんに促されて焦って部屋の手続きを済ませるのはハロハピのドラム担当、松原花音(まつばら かのん)だった。彼女は手続きを済ませると、こころを抑えるためにはぐみの援護に行く。

 

「うわーん!一翔のばかぁぁぁ!」

 

はぐみ、花音の協力もあり、こころを捕らえた一翔はこころの私物のスマホから自分の画像だけを確実に消していく。

 

こころは泣きながら足に縋り付くが、一翔は容赦なく鬼の所業をこなす。

 

「あぁ・・・私の秘蔵のコレクションが・・・」

「自業自得だ」

「え、えっと・・・一翔さんはとりあえず何をしてたんですか?」

 

レジの机を見ながら、花音が申し訳なさそうに告げる、一翔は少し照れながら、視線を逸らして話す。

 

「ち、ちょっとガンプラをね。さ、最近熱が戻っちゃって・・・」

「一翔がガンプラなんて珍しい。何かあったのかい?」

「・・・薫は知らなくてもいいよ。俺の問題だからね」

「そう?私は心配なんだよ」

「・・・あっそ。ありがと・・・な」

 

そう言うと一翔はレジに戻りガンプラの調整作業を再開する。こころたちは元気にスタジオに入っていく。

 

「はぁー・・・可愛いの・・・ぬいぐるみ」

 

先程のぬいぐるみの感触を思い出しつつ、ガンプラの調整を行う。外見は昨日のスローネアインだが、ところどころ武装が補強されていた。

バックパックにアタッチメントの追加、肩部にGNキャノンの補強と、バスターソードの換装、さらにはGNビームライフルの強化と、GNアームビームガンの増強・・・。

 

「・・・すごい。設計図なくてもここまで作れるのか・・・怖いな」

 

特にパーツに関しての設計はしておらず、していても最低限のフレームと、外見だけ、武装は完全に思いつきで作っていた。

 

思いつきの割には、自分でも凶悪な武装が出来上がったと心底思っていた。そしてあっという間に時間がすぎて、お昼の時間になる。

 

休日のお昼にもなると、さーくるは少し忙しい、その中で一翔はお昼を食べながら自分のガンプラをチューニングする。

 

この前の戦いで傷が着いたところをしっかりと塗り込んでいく。

 

「ぐぬぬ・・・久しぶりにやるけどめんどくさい・・・」

「あら、珍しいわね」

 

と、休憩しながらガンプラを弄る傍ら、同席していた人物から声をかけられた、同席していたのは1人だけではなく、追加でもう1人来ていた。

 

「話すのは久しぶりね。一翔くん」

「ですねーこのメンツもなかなかですよ。紗夜さん」

「あら、紗夜と一翔は知り合いなのかしら?」

「ただの先輩後輩の関係よ」

「へぇ・・・」

 

と、言うのも学校の話である。一翔ともう一人は何かの手違いで氷川紗夜、そして一翔の幼馴染でもある戸山香澄(とやま かすみ)そしてPoppin’Partyのメンバー全員が通っている花咲川女子学園の高等部に通っているらしく、そのもう一人の被害者には会ったことは無い。

 

学校ではその被害者の関係で紗夜にマークされる時もあったが今では良い関係を築いていた。

 

「ふーん・・・それで、何をしていたのかしら?」

「うん?あぁ、ガンプラの調整をしてたんだよ。ほれ」

 

そういい、調整途中のスローネを友希那と紗夜に誇らしげに見せる。表情こそ変えていないが、一翔のその言い方には強さを感じた。

 

「なるほど・・・美しいわね」

「ん。ありがと」

「ふーん、一翔くんにそんな趣味がね・・・」

「どうかしました?紗夜さん」

「え?えっと。実は私の知り合いもガンプラって言うの?やってるのよ」

「まじすか」

 

そこからの紗夜の話は魅入るものがあった。

まずその人が学校にいるかもしれないということ、先程言ったが、一翔と同じ犠牲者がもう一人いると。つまりその人が紗夜の聞いたファイターなのかもしれない。

 

そして彼はなかなかの腕前だということも紗夜から聞いた。

 

「へぇ・・・その人が・・・学校に」

「風の噂だわ、ほんとかどうか分からないもの」

「・・・よし!出来た!」

 

道具をかなり雑に置き、身を投げ出す勢いで身体を後ろに倒す。机の上には調整を終えたスローネが立っていた。

 

「それで?それをどうするのかしら?」

「ワシがテストしてやろうか」

 

席を立ち、一人で確認しようとした時、いつから居たのか、ラルさんが別の席に座っていた。

 

「いいんですか」

「ワシも丁度暇だからな。こういうのはワシみたいな熟練が相手した方が良いからの」

「ありがとうございます。友希那さん、紗夜さん、失礼します」

「いえ。私も行くわ」

「ふぇっ」

 

予想外の答えに一翔は数秒固まってしまう、だが、我に帰って来ると、「そ、そう」と短く返してさーくるの奥にあるガンプラバトルシステムへと向かう。

 

奥の部屋に入ると電源を落とし、辺りを暗くし、ガンプラバトルシステムを起動させる。

 

〈Please set your GP base〉

 

警告通りにGPベースを置く。置くと粒子が輝き出し、仮想のステージを作り上げていく。

 

〈Beginning plavsky particle dispersal〉

〈Field 5 City〉

 

宇宙世紀にあるようなコロニーが現れる。友希那も、紗夜もそのクオリティに驚嘆の声を漏らしてしまう。

 

〈Please set your Gun-Pla〉

 

一翔は先程のガンプラ、スローネアインを乗せる、ラルさんは先日のグフを読み込ませる。

 

現れた操縦桿を握り、カタパルトに機体が固定される。

 

〈Battle Start!〉

 

「・・・スローネアイン ネクスト行きます!」

 

真紅のGN粒子を吹かせ、スローネは勢いよくコロニーに降り立つ、それと同時に目の前から弾丸が勢いよく飛んでくる。

 

飛んできた先にはラルさんのグフが、5連装腕部ガトリング砲をこちらに向けて、その眼光を光らせていた。

 

スローネは反撃と言わんばかりにGNキャノンをグフがいた位置に向け放つが避けられる。しかし、エネルギー放出量が多いのか、方向を変え、追撃する。

 

グフは建物に身を隠した後、上昇し、ヒートソードを構え突撃してくる。一翔も負けずにGNバスターソードを装備し、真正面から打ち合う。

 

「・・・一翔のガンプラ・・・踊ってるみたい」

 

友希那から賞賛の声が漏れる。だがそんなことなど気にせず、一翔はスローネを操る。

 

「行けよっ!ファング!」

 

腰に収納してあるGNファングを飛ばし、グフに向けビームを放つがラルさんはヒートロッドをムチのように巧みに操作し、ビームを全て弾いて見せる。

 

「楽しい・・・っ!これが・・・これがガンプラバトル・・・っ!」

 

右手のスロットを動かし、表示欄からGNビームサーベルを選択する。

 

「ラルのおっさん!行くぞっ!」

 

2つの閃光がぶつかり合い、粒子の風が辺りを包んだ。

 

 

 

 



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学校、それは嵐の予感


こころたちの思わぬ再会があったものの、一翔はようやく自分のガンプラを完成させる。
次の舞台は学校。そこでは、彼を見つめる怪しい影があった。


「おはよーございますー」

「おはよう・・・一翔くん」

「おはよーです。白金先輩」

 

清々しいほど眠たい朝、久しぶりの学校に一翔は登校していた、登校すると真っ先に会うのはこのバンド、Roseliaのメンバー、キーボード担当のお嬢様、白金燐子(しろかね りんこ)だった。彼女は香澄や一翔の先輩に当たる人物で、生徒会長である。

 

燐子は一翔を見つけるなり最高の笑顔で挨拶を返すが一翔は眠たい顔のまま彼女に挨拶を返す。

 

「えっと・・・大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。寝不足」

「もう・・・しっかり寝てくださいね?」

「善処しまーす」

 

燐子から丁寧な優しい注意を聞いたあと、一翔は紗夜がいるであろう風紀委員の集まりへと顔を出す。

 

「ちわです。紗夜さん」

「あら。今日は早いのね」

「ちょっと聞きたいことが・・・」

 

その時だった、一翔の入ってきた扉が開くと、そこに立っていたのは風紀委員のメンバーだった。紗夜はため息と共に頭を抱える。

 

「紗夜先輩!?どうして私たちの他に人が入ってるんですか!しかも男が!」

「落ち着きなさい」

「落ち着けません!さてはあらぬことをしようとしてましたね!なんて外道!」

 

・・・「酷い言いがかりだ」と、心の中で思いながら一翔は頭を抱える。紗夜がこの部屋で会いたくなかった理由はこれかもしれないと心の中で思い、一翔は言葉を紡ごうとするが、いい言葉が浮かばなかった。

 

もしここで言葉をかけたとしても責められるのは一翔なので、一翔は黙ることしか出来ないでいた。

 

「・・・このままでは埒が明きませんね!」

「なら決着を付けたらいいんじゃ?」

 

と、そこに現れたのは花園たえだった。彼女は香澄を連れ、紗夜に挨拶に来たようで、この現場にかち合ったのは偶然らしい。

 

「・・・決着とは」

「ガンプラバトルじゃよ」

 

と、おまけのように現れたのはラルさんだった、首から見学許可証をぶら下げ、部屋の端で腕を組んでいた。

 

(・・・げ。どっから来たんだ・・・この人は)

「なら決着よ!私が勝ったら先輩には近づかないでくださいね!」

(どうしてこうなった?)

 

自分の運命を呪いつつ、重い足でフィールドのある体育館まで歩いていった。

 

「・・・なるほど?彼がもう一人の・・・」

 

 

 

 

体育館。そこでは今まさにバトルが始まろうとしていた。

 

〈Please set your GP base〉

 

GPベースをセットすると、プラフスキー粒子が放出され、仮想フィールドを構築していく。

 

〈Beginning plavsky particle dispersal〉

〈Field 9 canyon〉

 

激しく光り輝いた後に峡谷が形成される。体育館の隅では、燐子と紗夜、そしてPoppin’Partyのメンバーが集まって見ていた。

 

「始まる・・・」

「ごめんなさいね。私のせいで」

 

燐子と紗夜が悲痛にも聞こえる声を上げる。それを香澄達は「いえいえ!」と言って慰めるように声をかける。

 

「全部、一翔くんが悪いんですよ!気にしないでください!・・・(あのバカ。モテるんだから・・・)」

「俺が悪いの!?有咲!」

 

有咲の心のない一言に(最後は聞こえなかったようだが)一翔は空間から顔を出してしまう。

ラルさんが必死に静止し、一翔は再び空間の中に戻る。

 

〈Please set your Gun-Pla〉

 

「行くわよ!私のガンプラ!」

「・・・」

「ほう・・・ガンダムか」

 

相手側の女の子が出してきたのはガイアガンダム。シリーズ、ガンダムSEED Destinyに出てくる可変型ガンダムで陸上戦闘を目的としたMS、バクゥをベースに作られた機体だが、その変形機構は空間戦闘すらこなす、ザフト所属のセカンドステージガンダムだ。気をつけたいのは変形時の武装だ。

 

背中にある翼のようなもの、武装名〈グリフォン2ビームブレイド〉と言うらしい、アニメ本編でもグフイグナイテッド、ハイネ機を切り裂いたことがある。その切れ味は恐ろしいものがある。

 

(・・・変形時の機動性は速い。しかもスラスターを吹かないから余計にタチの悪い機体だ)

 

動物と同じ移動を可能にするから飛ぶ時もわざわざスラスターを吹かせる必要がある程度ないのがガイアの特徴でもある。

 

一翔は調整の終えたばかりのスローネを台に置く、肩のバスターソードをシールドで覆い、ビームライフルはアームビームガンに新調されていた。

バックパックにはGNキャノンが二丁、新たに配備されていた。

 

「見てなさい!私の実力を見せてあげるわ!」

「・・・下心前回の癖に」

「なっ!?し、下心なんてありませんわよ!?」

(あっ。口調変わったな)

 

操縦桿を握りしめ、カタパルトへと景色が変わる。

 

〈Battle Start!〉

 

「ガイアガンダム!出るわ!」

「スローネ ネクスト。行くぞ!」

 

峡谷に二機が吐き出され、スローネはそのまま飛翔する。空からしっかりと相手のガイアを探し出す。

 

その時、一翔の耳に警告を知らせるアラートが鳴り響く。機体のスラスターを逆に吹かせ、ギリギリで飛んできたビームをかわす。

 

「下から!?真正面から来ないタイプか!」

「やはりな」

「あのー・・・おじさん。一翔くんはどうして上から探したりしたんですか?バレないようにしたらいいのに・・・」

 

予想通りの展開にラルさんは頷く。そこに隣にいたりみから恐る恐る質問が飛んでくる。他のメンバーも不思議には思っているようだ。

 

「ふむ。・・・なら一翔くんの機体から説明しなければならんな。一翔くんの機体はどちらかと言えば地上戦を意識して作られたものではない」

「どうしてそう言いきれるんです?」

「武装を見ればわかるよ。彼はビーム兵装を中心に積んでいる。しかも今回は入り組んだ峡谷のステージ。彼の機体武装と性能を活かすには嫌でも空中戦をするしかないということだ」

「・・・なるほど」

 

ラルさんの指摘はご最もだった。ビーム兵装の利点は射程が長いこと。そして殺傷能力のある事だった。

なら一瞬で至近距離まで持っていかれる地上戦よりは、自分の距離を保ちやすい空中戦を挑む方が一翔には似合っていた。

 

さらにスローネアインと言うガンプラの特性が地上戦を否定していた。アニメ本編でも地上戦を挑む方より、空中から遠距離戦を挑んでいたのがこの機体の戦い方だった。GN粒子のおかげで長時間の空中滞在ができるようになっている。

 

「故に一翔くんの戦い方は王道の空中戦。遠距離戦を行っているのだよ」

「でもじゃあ・・・一翔くんが有利ってことですか?」

 

恐る恐る尋ねてきた紗綾にラルさんは首を振って答える。

 

「いや、そういうことでは無いな、ガイアもガイアでしっかりと利点を理解している。変形時の機体身長の低さを利用して隠れているな」

「・・・視界から外れて気を伺ってるのね」

「その通りだな。どれ、しばらく黙って見てみよう」

 

 

 

 

開幕の狼煙は突然上がった。

 

下からガイアがMS形態でビームライフルを構えていた。

 

「見つけたっ!逃がさないからな!」

 

GNビームキャノンを展開し、エネルギーを収束、短時間で集めたエネルギーを一気にガイアに向け放つ。

しかし、ガイアはそれをかわし、放たれたビームは大地に直撃し大きな爆発となる。

 

(煙幕で隠れたのかっ!?流石、慣れてるな!)

「スキありっ!」

「っ!」

 

ガイアを索敵していたが、突然後ろからビームを撃たれる。案の定、ガイアが峡谷の影に隠れながら接近していたらしい。振り向けば既にその姿はなかった。

 

ガイアは次の射撃地点まで移動する。その間も一翔はガイアを探し続ける。

 

峡谷の上に降りて、索敵を続けるが、上手いこと尻尾を出すことは無い。

 

(・・・戦い方は向こうの方が強い。なら!)

 

スローネは場所を峡谷の高所から、峡谷の谷間へと降りる。そこでGNキャノンをバレルごと展開する。

高出力の粒子が集まり、一翔の目にはエネルギー出力を計算する画面が出ていた。チャージは、あっという間に100%まで溜まっていく。

 

「フルチャージ!GNロングキャノン!フルバーストっ!」

 

その言葉と共に放たれたGNキャノンのビームは峡谷の間を通って遠くまで届いた。そこに大きな爆発が生じる。

その中で一翔が見たのは・・・

 

(・・・なるほど。あれか)

 

一翔は機体のスラスターを吹かせ、その爆煙の中へと入っていった。

 

 

 

 

爆煙の中、ガイアはゆうゆうと移動していた。

スラスターを吹かせることなく、ただゆっくりと歩いていく。

 

「・・・慎重に慎重に。あの男は焦ってるんです・・・!だから背後に行けば・・・」

 

彼女は汗を隠しながら、ゆっくり機体を進めていく。彼女の予想している一翔の動きはこうだった。

 

恐らく粒子を放出しきったスローネはそのまま空中から探すだろう。地上に降りれば、彼女のガイアに搭載していたセンサーに引っかかり、居場所が分かってしまうからだ。手品を見切ってるか知らないが、それでも地上に降りてこないのは彼女としても惜しいところであった。

 

だが、粒子を嫌でも放出させてしまう空中移動は、地上からはよく見える光景だからそれもありだと彼女は考えていた。

 

「だけど!これで終わり!私のいた場所には何も無いからね!」

 

その時だった。変形しようとしたガイアのヘッドすれすれに赤いビームが飛んでくる。何が起こったのか理解できなかったガイアは少し遅れてスラスターを吹かせて飛んできた場所から距離をとる。

 

「何!?何があったの!?」

「見つけた・・・!」

 

しばらくして煙が晴れる。そこには彼女の疑問に答えるかのように一翔のスローネがGNアームビームガンを構えながら立っていた。

 

「なんで!?どうして私の位置がわかったの!?」

「簡単な芸もわからんのか・・・だから初心者は」

 

ガイアがヴァジュラ・ビームサーベルを抜いたのを見て、一翔は肩のGNバスターソードを構える。

ガイアが盾を前に突撃してくるが、スローネはそれを悠々とかわす。そして横に大きく一閃する。

 

「ぐっ!?わ、私はまだ・・・!」

「もういいだろ?やめてくれよ」

 

その後、腰に付いていたGNビームサーベルで容赦なく背中の翼のようなものを切り裂く。ステップ回避で後ろへ後退するも、スローネから放たれたGNビームキャノンがガイアの腕を溶かす。

 

「これで・・・っ!終わりだ!」

「待ってくれよ。結城 一翔くん。こっからは僕が相手しよう」

 

ガイアにGNアームビームガンを向けた時、その背後から新たな影が現れる。

 

「フォビドゥン・・・ガンダム!?」

 

鉄鎌を肩に背負ったその機体は、まるで新たな戦場へ降り立つ死神のようにも感じた。

 

「ゲームを始めよう。僕と君のね」



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戦場に現れる鉄の死神


投稿遅くなりました。少し短いです


―――――


学校に久しぶりに来た一翔。彼を待ち受けていたのは新たな戦いだったが、そこに予期せぬ侵入者が現れる。


「え?あ、あれって・・・」

 

突然現れた一翔と同じ“男の”乱入者に香澄たちは驚いていたが、その隣でラルさんは1人汗を流していた。

フォビドゥンと一翔は発したが、正確には違った。

両肩にあるシールドのようなものと、手に持っている鎌のようなものを見ればフォビドゥンだと分かる。だが、装備は予想してたより増築されていた。

 

背中には同じシリーズのガンダム、カラミティガンダムの2連装高エネルギー長射程ビーム砲“シュラーク”。

足のパーツも、スラスターが増量されていたり、肩のシールドにはレイダーガンダムのクローが搭載されていた。

 

「む・・・や、やはりそうか!」

「何がですか?」

「たえくん。そして皆。彼は・・・今年のガンプラ世界大会出場者、柊羽 華楓(ひいらぎ かえで)くんのガンプラ。フォビドゥンG・デストロイ」

 

フォビドゥンと呼ばれたガンダムはそれに答えるかのようにモノアイを光らせる。華楓と呼ばれた少年は静かに操縦桿を握りしめる。

 

「現役の最強の高校生・・・人呼んで、禁忌の死神」

「禁忌の・・・」

「死神・・・」

 

 

 

 

「なんで?どうして・・・」

「いやいや。このまま負けなんて折角この場に来てくれたギャラリーに申し訳がないだろう?だからだよ」

 

ニーズヘグの先、槍のような部分をスローネに向けて、フォビドゥンは突撃の構えをとる。スローネも、GNアームビームガンを向けながらそれに対する構えをしていた。

 

「・・・いいですよ。俺も・・・あなたとお手合わせしたかったですから」

「ありがとう・・・そして!さよならだ!」

 

その言葉を合図に両肩にあるシールドを正面に展開し、スローネへと突撃してくる。スローネはGNアームビームガンを放つが、そのシールドはビームを無力化する。

 

いや、よく見れば無力化・・・というより、“”曲がった”というのかもしれない。だが、その現象は今の一翔には十分な絶望を与えた。

 

「ビームが・・・曲がった!?」

 

急いで機体を後退させようとするが、途中で伸びてきたレイダーのクローに捕まり、そのまま肩のシールドをあっさりと落とされてしまう。

 

さらにフォビドゥンは機体を旋回させ、ニーズヘグを一閃させる。気づいたのか一翔は機体を後退させたが、少し遅く、コックピット辺りに傷が入ってしまう。

 

「ぐっ!?つ、強い!」

「燃えろ・・・!」

 

さらに槍のような部分で突かれ、機体は峡谷の岩壁に押し付けられる。一翔はそこから機体をズラし、飛んできたフォビドゥンの攻撃をかわす。

 

GNアームビームガンを撃ち続ける。しかし、そのビームは全てかわされるか曲げられ無力化されてしまう。

 

その直後、スローネの腕をギリギリにニーズヘグの鎌の先が当たる。僅かだが、腕に傷がついてしまう。

 

一翔は右手のスロットを素早く動かし、そのまま右手にGNバスターソードを装備する。フォビドゥンは機体の距離を取り、鎌を改めて構える。

 

「燃え上がれっ!ガンプラぁぁっ!」

 

下から振り下ろされた鎌が迫ってくる。一翔は抜き取ったバスターソードを対抗して振り下ろす。しかし片手で振り下ろされたバスターソードは両手で迫ってくる鎌を抑えることは出来ず、大剣は吹き飛ばされ、後ろに大きく飛んでいく。

 

バックパック内蔵のレールガン、エクツァーンをスローネの足下を目掛けて撃ち、煙を発生させる。一翔は急いで機体を後退させるが、フォビドゥンの移動能力は予想より高く、急いで後退させる前には既に煙を通過して姿を表していた。

 

「速いっ!?」

 

そのままの勢いでフォビドゥンは鎌を振り下ろし、スローネの足を切り落とす、片足で踏ん張り、スローネは空中へと機体を運ぶが、フォビドゥンのレールガンがそれを防ぎ、地上へと落とされる。

 

爆発音とともに、機体は地面へと到達、落ちた勢いで大地は割れ、その隙間に埋まるようにスローネは落ちる。

そして煙が発生。一翔は急いで後退しようとするが・・・

 

「・・・チェックメイトだ」

 

気がついた頃には、既に自分の首にはフォビドゥンの鎌が存在し、一翔は崩れ落ちるかのように言葉を失った。

 

 

 

 

「・・・一翔くんが負けた・・・」

 

フィールドが消え、いつもの体育館の光景が見えると共に、少女たちは各々の反応を見せる。1番初めに声を上げたのはたえだった。

悔しさからか、一翔は汗と共に手を握りしめていた。目の前には崩された自分のガンプラと華楓のガンプラが立っていた。

 

「・・・フォビドゥンガンダム・・・か」

「悔しいか?一翔くん」

 

相手の声・・・柊羽 華楓は静かに一翔に近寄ってくる。その表情は先程の戦いとはかわり、穏やかに変わっていた、彼はガンプラを回収すると、一翔に鋭い視線を向ける。

 

「そういえば・・・君は全国に出るのかな?」

「・・・」

「出るのなら敵だな。それまでに・・・本気になってくれよ?僕を楽しませてくれ」

 

華楓は手を振り、体育館を後にする。

一翔はしばらく動かなかった。しばらく・・・全員が誰も喋ることがなく、あっという間に授業を始めるチャイムが鳴り響いた。



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まん丸お山に彩りを

一翔の前に現れた華楓。
彼の力に負けた一翔は教室に戻っても落ち込んでいた。


「・・・負けた」

 

一翔は教室の端、自分の席で半破壊されたガンプラを見つめていた。足、そして肩のシールドが破壊され、かち合った部分のパーツには亀裂が入っていた。

傍から見れば対したことがない。で済むのだろうが実際はそうはいかない。

 

(ガンプラ自体の修理はできるけど・・・基本の性能のどれだけ取り戻せるか・・・チューンしたとはいえ・・・面倒だ)

「何してるの?」

「ああっ!?」

 

放課とはいえ油断していたのかもしれない。この人の存在を忘れていた。油断していた一翔は驚き、大きく後ろに下がってしまう。

その人はアイドルでありながら高校生。しかも一翔より歳上の美少女。普通なら関わることなどないが・・・。

 

「・・・彩さん。驚かさないでください」

「やった!一翔くんのいい顔見れた!」

「・・・はぁ」

 

香澄系列の人は恐ろしい人が多いが、この人は特に一翔は苦手としていた。「まん丸お山に彩りを」それが口癖の周りを明るくするある意味の天才。Pastel*Palettesのボーカル。丸山 彩(まるやま あや)が。

 

「これってガンプラ?」

「ですよ。まぁ、やられちゃいましたけどね・・・」

「そっか・・・華楓くんかぁ」

 

同じ三年生だから名前を言わなくても分かるのか、彼女はその名前を呟く。同じ三年生だから接する部分もあるのだろう。分かって当然か

彩は一翔のガンプラを舐めまわすように見る。その目は好奇心こそあるが、何か足りないと言う目でもあった。

 

「一翔くんのガンプラなんか足りないね、こう輝いてる部分がないって言うの?」

「・・・え?」

「もうちょっと盛ろうよ!ぱーって!」

 

・・・たしかに彩の言うことも一理あるのかもしれない。一翔のガンプラは三機ベースではあるが、特別強いシステムやチート武装がある訳では無い。高性能な機体性能に後期GNシリーズが搭載したTRANS-AMシステム。さらにはドライというパーツが居なくても放てるようにしたGNロングキャノン。さらにはビギニング用の三連サーベルの改造・・・強気には改造したが彩の言う通り、何か足りないと思った。

 

「・・・確かにアリかもしれませんね」

「それとさ!明日ちょっと手伝ってくれない?」

「何をですか?」

「もちろんマネージャー業!いつもの人が倒れたから!」

 

少し嫌な予感がしたので、一翔が詳しく聞くために再び質問を返すと、彩はニコニコとした顔で一翔の机をバァンと叩いて強気に答えを返してくる。

 

「面倒・・・」

「ダメ!事務所には言ってるし!一翔くんなら信用できるって許可貰ってる!」

「織り込み済みかよっ!?自分の意見は!?自由権を!」

「それは無理!助けてね!一翔くん!」

 

一翔はこれまでの自分を呪っていた。と言うよりは後悔をしていたと言うべきか。

前に一翔はパスパレとのメンバーとは面識はなかったと言ったが、実際はさーくるのでの面識が無いだけと言うだけだ。それを除いた学校内、さらには彼女たちの仕事関係での面識はバリバリにあった。

 

ではなぜ面識がないのか。理由は簡単だった。

 

(・・・どうせ絡まれるから嫌なんだよ。この太陽のような人達の笑顔が・・・俺は嫌いなんだ)

 

数年前のこと。それを今でも引き摺っている自分にとって、アイドルという太陽のような位置にいる彼女たちは眩しすぎた。

それでも一翔は彼女たちに付き合うことは嫌ではなかったし、苦でもなかった。

 

彩は「よろしく!」と言うとそのまま嵐のように去ってしまう。それがまるで一難かのように一翔は頭を抱えて項垂れる。

全国大会まではあと1ヶ月もない。下手をしたらさーくるのバイトもあるし、学校もあるしで期間は大幅に減少する。さらにこのガンプラの有様では修理しただけでは前のような性能は取り戻せないだろう。

 

なら簡単だ。直す暇はない。新しいガンプラを作る必要があるのだが・・・。

 

「・・・残ったパーツでならギリギリ・・・いや、スローネ系で残ったパーツはロクなのがないな。バスターソードもキャノンもこっちで使ってるからな・・・」

 

残ったパーツはスローネヅヴァイの本体。ドライの本体。アインの武装。ビームライフルとサーベル。

ドライの肩パーツであるミサイルポッドも健在。バックパックも健在で一通りの機体は作れる。

 

だが、残りの武装では火力が足りないのは確かだった。その時、ちょうど良くスマホが鳴る。

 

「もしもし?」

『一翔!?今日は空いてるかしら!?』

 

電話に出た途端。耳には矢が刺さるような勢いで声が突き刺さった。声の主は弦巻こころだった。

彼女は少しだけ慌てる声でこの後の予定がないかを聞いてくる。おおよそご飯のお誘いか、遊んで欲しいのだろう。

 

だがあいにく明日はマネージャー業のバイトが入っている。アイドル直々の願いを断るわけには行かないし、それにこのままこころの家に行けば明日まで監禁されるのは確実だ。

 

「ごめん。この後はお仕事入ったんだ」

『じゃあ夕飯ね!決定!』

 

少しは話を聞いてくれ。その願いは彼女には届かなかった。静かに頭を抱え、机に疲れたかのように倒れ込む。しかし、こんなことを言っている暇はない。今、望んでいた人物をここで逃すわけには行かないのだ。

 

一翔は再び顔を上げると弱々しい声で電話の向こうでワクワクしているであろう、こころに話しかける。

 

「少しいいか?ちょっと相談が・・・」

『何?今から練習だったからこれだけで終わろうと思ったのに』

「いや。こころにしか頼めない相談で・・・」

『乗ったわ。その話』

 

彼女との話を進め、自分の意見を伝えきると、こころは納得したかのように応え、電話を切る。

伝えることは伝えた。そう思った矢先、授業の始まりを知らせるチャイムが鳴った・・・

 

「あっ・・・ご飯食べてない・・・」

 



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今日は何の日?残念!笑顔の日!


半強制の連行。
彩たちは一体何がしたいのか。


「一翔くん連行してきたよー!」

 

とある楽屋の扉が「バァァァン!」と勢いよく開かれる。メンバーはあるものは驚愕し、あるものはニコニコしている。そして当の本人は

 

「ムゴッ!ン!ムー!」

 

袋詰めにされて最早監禁に近い形で連行されていた。理由はお察しいただければと思う。

部屋の入り口を閉めて、彩が「ご開帳!」と叫ぶとそのまま一翔を覆っている袋を取ってしまう。余程苦しかったのか、袋から出されると一翔は安堵したかのように大きく息を吸い込む。

 

「あー!あー!!死ぬかと思った・・・」

「一翔ちゃんじゃん!どうしたの!?」

「日菜ちゃん聞いてないの?今日来るって彩ちゃん言ってたよ?」

「てへ♪」

 

土下座姿勢で落ち込む一翔を真ん中にぞろぞろとpastel*Palettesのメンバーが取り囲む形で集まっている。どうも逃がすつもりは無いようだ。

 

「ハッ!?ここはどこ!?俺は何を!?」

「えーっと、今日は残りの時間私たちといてもらいます!収録が終わったら帰ってもいいよー?」

「ほんとに・・・?」

「まぁいつ終わるか分からないけど」

「・・・クソっ・・・分かってたよ・・・(イジイジ」

「あー。一翔くんいじけちゃった」

 

とうとう部屋の端でいじけ出す一翔。それに付きまとう少女、氷川 日菜は本人にお構い無しに質問を続けていく。残ったメンバーは真面目にも予定の確認をしていた。

ちなみに学校なんてものはなかったのである。

 

「今日はでも収録だけなんでしょ?一翔くん連れてくる必要あった?」

「なんか落ち込んでたから、元気出してもらおうと思ったんだけど・・・」

「空回りしてるわけですね」

「そうなんです!なのでみんなにも協力をお願いします!」

「「「はーい♪」」」

 

みんなノリノリである。一方、一翔の心はまだ曇っていた。

 

 

―――

 

 

「はい!Pastel*Palettesの皆さんです!」

「「「おー!」」」

 

スタジオで歓声が上がる中、一翔は一人、端っこで作業に没頭していた。

 

スタジオに入る数分前。

 

「一翔さん、これどうぞ」

「ん?仕事表・・・?」

 

楽屋で一翔が立ち直って数分、パスパレのベース、白鷺 千聖(しらさぎ ちさと)が一翔にひとつの紙を手渡す。そこにはびっしりとした文字でメモが書かれていた。

 

「はい。と言うのも今日は簡単な仕事だけなので特に一翔さんには何かしてもらう訳では無いのですが・・・」

「・・・じゃあ暇な時間の間はこっちの仕事してるよ。だからいつも通り・・・でいいんでしょ?」

「それと今日はありがとうございます、彩ちゃんのわがままに付き合ってもらって・・・」

 

申し訳なさそうに千聖が頭を下げようとするが一翔は「いやいやいや!」と彼女の肩を抑えて制止に入る。

 

「元といえばあの人に反論できなかった自分も悪いですよ・・・」

「でも、貴重な時間が・・・」

「大丈夫ですよ、時間なんてのは気分次第で作れますから、ね?」

 

そう言ってやっている仕事がガンプラの制作である。スタジオ収録している際に、向こうに迷惑が行かない程度で一翔は仕事をしていた。

持っているキットは簡単なものだが、組み立てるぐらいならここでもできる。

今回のチョイスしたガンプラはガンダムW Endless waltzのガンダムナタクそしてガンダムサンドロック改(EW)、クロスボーンガンダムX1をメインにサブパーツがいくつかあった。

 

(・・・本当はスローネ系統で組もうとしたけどな。真打は楽しみにするか)

 

そう思いながら、簡単にパーツを組んでいく。

ナタクの腕、肩、サンドロックの足と胴、X1の腕パーツ。ポリキャップを合わせ、丁寧に組み合わせていく。

 

「一翔くん!休憩入るよ!」

「ほーい。んじゃ適当に切り上げるか・・・」

 

 

―――

 

 

「お水どーぞー」

「ありがとー!今日は何だか一段と張り切っちゃった!」

「一翔さんを意識してたんですか?」

「なわけないでしょー!もー!」

 

バンドのドラム、大和 麻弥(やまと まや)が日菜をからかうように声をかける。そんな麻弥をポカポカと日菜は追いかけていく。何とも元気な姉妹みたいな・・・。

 

「羨ましいの?」

「・・・別に?」

 

その様子を眺めていた一翔の横に彩が近づいてくる。照れたように答える一翔を見て彩の顔はニヤニヤしてしまう。

 

「一翔くんってさーくるで働いてるんだよね?音楽やバンドに興味無いの?」

「・・・前、ちょっと前まではあった。ていうのも蘭や薫が原因でさ。しょっちゅう練習に駆り出されてたからな」

「・・・ちょっと前まで?」

「親が原因でさ。お前はこれだけやってりゃいいって言われて一時期音楽から離れたんだ。それ以来、自分からやろうと思うと嫌な事を思い出しそうで・・・」

「・・・ごめんね?なんか・・・」

 

表情が曇った一翔を見て、申し訳無さそうに彩が謝るが、一翔から返事は返ってこなかった。

 

「彩ちゃーん!次のお仕事が・・・って、あれ?」

「ごめんごめん!すぐ行くよ!」

 

落ち込む一翔を残し、彩たちは先に次のスタジオへと向かう。

 

「・・・ごめん」

 

 

―――

 

 

「彩ちゃん一翔くんに何かした?」

「え!?い、いきなりどうしたの!?」

 

移動中の廊下で若宮 イヴ(わかみや イヴ)に話しかけられる。先程の光景のことを言っているのだろう、彩も少し動揺してしまう。

 

「なんか様子変だったから、ほら、なんか落ち込んでたからみたいだし・・・」

「いや!なんでもないよ!多分疲れてただけ・・・」

「だといいけど・・・」

 

Pastel*Palettesのメンバーは先にスタジオに入っていく。その後で、フラフラと一翔がゆっくり入ってくる。

 

「・・・一翔さん。調子悪いんでしょうか?」

「後で日菜が声かけようか?」

「いや。私が何とかします。ここは・・・色々経験してきた私の出番ですから」

 

 

―――

 

 

「・・・羨ましい、か」

「羨ましいんですか?」

 

スタジオの端で黄昏てる一翔のところに、休憩中の千聖がやってくる。「隣いいですか」と聞くものの、一翔の返答を待つ前に隣に居座ってくる。

 

「彩ちゃんと喧嘩でもしたんですか?」

「・・・違いますよ」

「でも顔は暗いですよ?」

 

この人には何もかも見透かされてる感じで嫌だ。どこか嫌いで、どこか嫌いになれない所がある。懐かしい・・・誰かに似てる感じが。

 

「・・・良かったらいつか、近いうちに私たちに話してくれないかしら」

「今とは言わないんですね」

「だって嫌がるでしょ?」

 

・・・嫌といえば嫌だ。この話は自分にとってあまりいい話ではないからだ。あまり自分の過去を掘り下げたくない。

千聖との気まずい空気が続く、他のメンバーはどこかへ行ったらしく。隣同士なだけにだいぶ気まずい。

 

この場に空気が読めない人がいないだけでマシ・・・そう思っていた時、こっちに思いっきり走ってくる人がいる。

 

「ねぇねぇ!一翔くん!今度遊ぼうよ!」

「・・・はぁ」

「だめ?お姉ちゃんもいないし!Pastel*Palettesのみんなとお泊まり会するから!」

「ご予定が空いていたら」

 

「やった!」ぴょんぴょん跳ねる日菜さんを他所に俺と千聖は「やれやれ」と言った感じだ。この人のこの元気の良さはどこから出で来るのだろう。そしてこの天然はどこから来るのだろう。俺は男やぞ。

 

もしかしたら俺女?って考えてしまうが俺の下にあるものをしっかりと確認してほっとする。この人は本当に何なんだ・・・。

 

「少し馬鹿らしくなった?」

「ええ。さっきまで考えてたことが馬鹿馬鹿しくなってきましたよ。そうでしたね、あなた方はそう言う人達でしたね」

「ほら一翔くん!行こ!」

 

日菜さんに腕を取られ俺はみんなの所へ、千聖も少し遅れて俺の後を着いてくる。

 

「一翔さん!日本のこともっと教えて欲しいです!」

「あーまた今度ね。ゆっくりいろいろ回ろうね」

「イヴちゃんはモデルの仕事がひと段落したらね!」

「ガーン・・・」

 

 

 

「一翔さん、一翔さん」

「ん?」

「このガンプラ、予選用っすか?」

 

ガンプラの制作が一通り終わり、片付けをしていた時、麻弥ちゃんがガンプラをまじまじを見ながら質問してくる。机には白い翼を纏った白いガンダムが置いてあった。

 

「あー・・・いや。まだコイツの出番じゃないよ。完成してないし」

「これで完成じゃないっすか」

「・・・うん。まだ、まだやることがある」

 

 

それはきっと・・・

 

「俺が俺を断ち切らないといけない。コイツで・・・こいつらと一緒に」

 



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