(本編完結)なのはのクローンたちが聖王のゆりかごにスターライトブレイカーするそうです。 (観測者と語り部)
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本編
なのはのクローンたちが聖王のゆりかごにスターライトブレイカーするそうです。


 何処かの研究施設で目覚めたとき、わたしは自分が高町なのはだという事に気づいたのは、施設で出会った子供たちがみんな同じ姿をしていたからだ。

 

 わたしには前世の記憶がある。朧気だけど大好きなアニメの記憶があって、魔法少女リリカルなのはの知識から自分の置かれた状況を理解してしまった。プロジェクトF。その技術を応用すれば、管理世界で必要とされる高ランクの魔導師の量産だって可能になるから。

 

 わたしたちは、時空管理局か、違法組織の手によって作られた高町なのはのクローンなのだと、そう納得するのに時間は掛からなかった。

 

 姉妹たちはみんな無口で、感情に乏しい。生まれたばかりで情緒教育もろくにされずに育ったから仕方ないのかもしれない。わたしの中にも戦闘用の知識があって、魔導師としてどう戦えばいいのか、知識が最初からインプットされている。

 

 それに、今の状況にあまり動揺していないのは、たぶん感情を司る部分にリミッターが付いているからだとも思う。そうでもなければ、小学生くらいの生まれたばかりの子供たちが冷静で居られるわけがない。みんな、無表情で、淡々と命令に従うだけの存在だった。

 

 イレギュラーな存在は、わたしだけ。だから、頭の中ではどうやって状況を乗り越えようか考える。出来る限り姉妹たちを助けつつ、無事に脱出する方法はないか考えようとする。だけど、それもすぐに始まった訓練のせいで徒労に終わる。

 

 戦闘訓練は、別の意味で過酷だった。

 

 別に同じ顔の姉妹たちで殺しあえとか、性能を試すためにガジェットと戦えというわけではなかった。ただ、ほんのちょっとしたシミュレーターを受けさせるだけ。頭を覆うような端末を被せられて、ベッドに寝かされて。それから手足や胸やおなかに、何かの計測器具を付けられる。

 

 けど、そのシミュレーターが問題だった。

 

 オリジナルの高町なのはが解決してきた事件を追体験するという内容で。それが休むことなく続けられる。

 

 ある時は、覚醒したジュエルシードモンスターになぶり殺しにされた。レイジングハートも、ユーノ・スクライアもいない状況で、様々なジュエルシードモンスターと対峙させられる。戦わせられる。

 

 シミュレーションで感じる感覚は現実と変わらなくて、傷つくたびに痛くて、泣きそうになって。それでも逃げられずに立ち向かわなければいけなかった。逃げても殺されるだけだからだ。

 

 ある時はジュエルシードを狙ったフェイト・テスタロッサと戦って、返り討ちになった。為す術もなく殺された。プレシア・テスタロッサと対峙して雷の魔法で焼き殺された。あるいは介入してきた執務官と武装局員たちと戦闘になってしまい。彼らに殺された。

 

 しかも、なまじ高町なのはの知識と経験。それから僅かな記憶と思い出が残っているから性質が悪い。ジュエルシードモンスターとの戦いで、海鳴の町が壊されて、家族や友達が巻き込まれるのを見るたびに、高町なのはとしての心が張り裂けそうになる。

 

 目の前で家族が死んだときは、目の前が真っ黒になった。それでも、この悪夢みたいなシミュレーションは終わらない。まるで、出来の悪いゲームみたい。死を強要される理不尽なゲーム。

 

 シミュレーションが終わったとき、何人かが嗚咽を漏らしていた。泣いていた。あるいは怒っていたかもしれない。悔しそうな顔をしていたかもしれない。苦しそうな顔をしていたかもしれない。

 

 でも、本当に悲しかったのは、何人かの姉妹が廃人になってしまった事だった。あまりにも過酷な追体験に心を壊してしまった。どんなに恐怖とか悲しみとか、感情を抑制されていても、子供の感受性豊かな心は失われてはいない。

 

 高町なのはの心と記憶を持たされた不完全な子供たちだから、尚更に耐えられなかったに違いない。

 

 わたしも、目の前で高町家のみんなを、家族を、学校の友達を守れなかった。失ってしまった。そして、なのはとしての記憶と思い出が、会ったこともない知っているだけの人が死ぬたびに、心が張り裂けそうになると。苦しんで泣くのだ。

 

 それは、自分が何度も死ぬよりも辛くて、苦しくて、悲しいことだったに違いない。なまじ、高町なのはの精神に似せられた部分があるせいで、余計に辛く感じるから。

 

 そして、わたしたちに不屈の心なんてない。主人公のようにどんなに理不尽な目にあっても立ち上がるような強さも、同じような魔法の才能も、機転と戦術で物事を覆すような発想も何もない。

 

 ただ、普通の人よりも魔力と魔法の資質が優れているだけの女の子。ただ、感情を凍りつかせた子供でしかない。

 

 その日、何人かが廃棄処分されたみたいだった。腕に刻印された番号で誰かを管理して、判別しているのだけど。整列した時に数字が欠けていたから気づいてしまった。見覚えのある番号が明らかに足りていない。

 

 でも、わたしたちにそれを気にする余裕も、状況を覆すような力も何もなかった。

 

 ただ、日々を過ごすだけで精一杯だった。自分の無力さに涙を流して、枕元を濡らすだけだった。

 

 あの追体験のせいで、逃げる気力は毎日のように削がれていく。そして、心を壊したわたしの姉妹は消えていき。また、補充されていく。

 

 そして、徐々に戦闘用に調整された姉妹が増えていく。同じ顔をしたなのはのクローンだけど、より無表情に、より人間らしくなく。より機械的になった子供たちが。大抵は培養槽の段階で調整されるけど。中には腕に痛々しい注射の跡があって、魔力とか身体能力を薬で強化された姉妹もいた。

 

 それでも、逆らう気力はなくて、日々が過ぎていく。

 

◇ ◇ ◇

 

 生まれてくる高町なのはのクローンたちに、偶に個性がある子が生まれてくる。それは研究所からすれば、いわゆる失敗作。だけど、わたしにとっては心を励ましてくれる存在だった。

 

 研究所の中はアンチマギリングフィールドと呼ばれる対策がしてあって、魔法を使うのはとても不便だった。それでも、姉妹の皆と念話くらいは使えるので、シミュレーターとか実験が終わって休んでいる時間に、内緒話をする。夜の寝る前とかにちょっとしたお話をする。

 

 みんなで励ましあって、寂しい夜を凌いでいる。研究所もいちいち個室で管理するのは贅沢なのか、ある程度まとまった人数で大部屋に押し込まれるから、ひとりぼっちの寂しさはあまり感じない。

 

 念話を使うのは研究所の人たちに話を聞かれないようにするため。わたしたちに感情が芽生えて、余計な知恵をつけ始めたら、きっと記憶をリセットされるか、廃棄処分されるに決まっているから。

 

 わたしにはちょっとしたレアスキルがあって、似た形質のリンカーコアを持つ人とネットワークのような物を構築できた。リンクとでも言えばいいのか、それはなのはの姉妹たちの確かな繋がりとなって、皆を支える絆となっている。

 

 わたしの管理ナンバーは十二で。十二番の高町なのはって呼ばれていた。十二番の子とか、一番しっかりした子とかそんな感じ。いつのまにか年長者扱い。これでも、研究所ではちょっとした古参になってしまった。といっても半年も経ってないが。

 

 一桁ナンバーの子もいるけど、とっても無口な子になってしまった。研究所の理想とするような子で、戦闘においては一番優秀な成績を修めている。その分、感情表現がより乏しいので、本当に人形のような子になってしまった。お話しても返事をしてくれないけど、ネットワークの繋がりを維持してくれているので、嫌われているわけではないみたい。

 

 わたしはネットワークの繋がりを利用して、姉妹たちを励まし続けている。心が挫けて、心を壊してしまったら、研究所に処分されてしまうから。少しでも長く生きてほしいから。明日に希望はあるって信じたいから。姉妹たちを励ます。

 

 こういうとき、前世の記憶に感謝している。もう、ほとんどなのはの記憶と経験で塗りつぶされて、趣味趣向もオリジナルと似通ってしまったけれど。残っているものはたくさんあった。

 

 高町なのはのクローンであるわたしたちは、寂しいのが苦手で、だからお互いに励ましあって日々を過ごしていく。時には家族の話とか、知らないけど美味しいと思うおかーさんのシュークリームの話とか。

 

 あと、わたしは前世の記憶の残滓から、みんなの知らない世界の話とか、日常生活とかの話をする。微かに覚えている絵本のお話も好評だった。時には即席で物語を考えて、寝物語の代わりに話したこともあった。

 

 特に歌の記憶が残っていたのは幸いだった。心に残る歌の記憶を、ネットワークで歌って流して、それで姉妹たちをよく慰めた。Innocent starterとか、ETERNAL BLAZEとかどっちかと言えばフェイトちゃんが歌うような曲だけど、それでも心の励みになっているみたい。

 

 特に皆がお気に入りなのは、ねこねこロックンロール。辛い時も、悲しい時もみんなでにゃーにゃー歌って明日の不安を紛らわせるの。鋼鉄艦隊グレートガイア・鋼の戦機・グレートガイアも人気。思いっきり叫ぶことで、悲しい気持ちを紛らわせてた。

 

 わたしが、ネットワークで歌うようになってから、廃棄処分される子はほとんどいなくなった。それが嬉しくて疲れていても毎日続けている。

 

 そして、最後に眠る前の子守歌として『守りたい世界』を歌う。こんな明日も見えない日々の中でも、わたしたちが大切なことを見失ってしまわないように。大切なことを覚えていられるように。

 

 高町なのはの記憶と経験をシミュレーションさせられたおかげで、口調とか仕草とか、オリジナルの高町なのはに似ていってしまう。だから、わたしの前世?の記憶みたいなものはすっかり抜け落ちちゃったけど。

 

 それでも、大切な想いだけは、忘れたくないと思ったから。

 

 たぶん、わたしたちが何らかの方法で支えあっていることは、研究所の人たちも気づいている。それでも、見逃しているのは、廃棄処分する必要がなくなって、戦力として失う無駄がなくなるからだと思う。研究員の一人が残っているクローンの人数を確認していたから。たぶん、目覚めてない姉妹を起こして補充しているんだと思う。

 

 わたしたちも生み出すのに、コストがいくらかかっているのか知らないけど。そう簡単に廃棄してしまうほど容易い存在じゃないと思いたい。

 

 明日も見えない日々はまだまだ続く。

 

 それでも、わたしたちは生きていたい。

 

 ある子は、学校に通ってみたいと言った。ある子は、家族に会いたいと願った。ある子は、友達とお喋りしたいと言った。ある子は、美味しい思い出の料理が食べたくて。ある子は、魔法で空を自由に飛んでみたいと語った。

 

 わたしは、翠屋のシュークリームが一度でいいから食べてみたい。

 

 そんな事を、ささやかな夢を希望に変えながら、わたしたちは生きている。

 

 きっと明日は来ると信じている。

 

◇ ◇ ◇

 

 ある日、研究所のアンチマギリングフィールドの電源が落ちた。システムもダウンして、予備電源に切り替わり、非常灯が点灯し始める。

 

 わたしはどうすればいいのか分からずに戸惑っている姉妹たちに提案して、研究所の制圧に乗り出した。姉妹たちで研究員たちの独り言とかを共有して、ここの防衛戦力が少ないことは確認している。

 

 今までずっと従順な振りをして、命令に大人しく従って、人形のふりをしてきたから。わたしたちの反乱は予想外だったみたいで、ほどなく制圧できた。ガジェットも出てきたけど一型ばかりで、脅威の三型はいなかったのが幸いだった。

 

 デバイスがなくても、ある程度の砲撃は使えたし、姉妹で協力し合えば何とかなった。特にネットワークの存在のおかげで、みんなで意思疎通ができて、魔法の負荷も分散できるのがとても大きかった。

 

 研究員たちは殺さずに制圧した。怒りとか、復讐心よりも、明日が来るのかどうか不安のほうが大きかったし、別に人殺しがしたいわけじゃないから。恨みとか憎しみみたいなものもあるかもしれないけど、今は自由になりたい気持ちのほうが大きかった。

 

 捕まえた研究員たちを一か所に纏める。そして、主任らしき人物とか、偉そうな人とか、わたしたちに同情してくれそうな人とか。とにかく情報を集めることにした。ここが何処で、今が何年で、どこに何があるのか知ることは重要だった。

 

 何人かが、事情を話してくれた。もちろん脅された恐怖とか、自己保身のためだろうけど。それに、勝手に殺されると思って怯えてるだけだったし。とにかく情報は聞けた。

 

 ここはミッドチルダの郊外にある研究所で、電源が落ちたのは都市の電力を賄う発電施設が落ちたのではないかと言われる。年月から計算すると、ストライカーズのJS事件が起きている最中らしい。

 

 だけど、いらない情報も教えられてしまった。その言葉はわたしたちを絶望させるに充分すぎた。

 

 わたしたちの寿命は最低でも一か月はないこと。長くても数か月しか生きられないこと。

 

 元々は戦闘データと稼働データを収集して、それをより完成度の高いクローンに情報を移して、オリジナルに近づける計画だったこと。長く生きて余計な知恵を付けないように、最終的には三年程度の使い捨てにするつもりだったから、テロメアが短くても問題ないこと。そして魔法を使えば使うほど衰弱してしまうこと。だから、シミュレーターでの訓練を受けさせられていたらしい。

 

 とにかく要らないことをべらべらと喋ってくれたので、一桁ナンバーの姉妹が、彼を黙らせてしまった。魔法で昏倒させて失神させる。彼らの所業を考えれば本当は殺してしまってもいいのかもしれない。けど、高町なのはの優しい心がそれをさせなかった。誰もが姉妹を人殺しになんてさせたくなかった。

 

 とりあえず、研究者の全員を失神させて、魔法による拘束から、物理的な拘束に変えておいた。姉妹を拘束する道具には事欠かなかったから。

 

 誰もが暗い顔をしていたし、わたしもどうすればいいのか分からなかった。ただ、言いようのない不安だけが漠然と残ってる。そんな中で、誰かが言い出した。お家に帰ろうって。地球に、海鳴の町に帰ろうって。

 

 ただ、明日を迎えることだけを考えて、人生の夢とか希望もなかったわたしたちは、とりあえずその言葉に従うことにした。

 

 研究所の電源が落ちて、培養槽が維持できず。目覚めさせられた数人の幼い姉妹たちを連れて、わたしたちは初めてミッドチルダの外に出た。百数十人近い高町なのはのクローンが、姉妹たちがいた。

 

 全員で簡易デバイスを拝借する。訓練用のだが基本的な性能に問題はない。レイジングハートを模して開発されたストレージデバイスはわたしが使うことになった。ネットワークのレアスキルを持っているわたしが使ったほうがいいと、皆は判断したらしい。

 

 同じ姿。病院着みたいな衣服を着た同じ顔をした裸足の少女たち。誰かが目撃すれば混乱することは間違いないだろうと思ったけれど。研究所の外は孤島で、周囲を海に囲まれているようだった。

 

 幸いなことにわたしたちは全員が空を飛べる。だから、行こうと思えば脱出は簡単だった。問題はどこに行けばいいのか。逃げたとして何をすればいいのか。海鳴に帰るにしても、転移しなければならないし、座標がわからなければ地球には帰れない。誰もが地球の座標なんて知らなかった。

 

 その時、わたしのネットワークが誰かの声を拾った。遠く離れていたので受信するのが精一杯だったけど、確かに聞こえた。

 

 わたしたちの誰よりも大人びた声。わたしたちのオリジナル。エースオブエースと呼ばれる本当の高町なのは、その人。

 

 わたしたちは、声にする方向に導かれるままに空を飛んだ。少しでもつながれば居場所と方角がわかるようになるのは便利だった。バリアジャケットを展開し、飛ぶのが不慣れな子を支え、目覚めたばかりの幼い姉妹を抱きかかえながら、わたしたちはミッドチルダの首都、クラナガンを目指して飛ぶ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 クラナガンに着いたとき、そこは戦場の真っただ中だった。

 

 記憶にあるジェイル・スカリエッティの反乱を思い出す。目の前でガジェットと管理局の魔導師が戦っている光景。どうすればいいのか迷う中、数人の姉妹が駆け出した。

 

 わたしたちは今までの高町なのはの記憶と経験を追体験させられていたから、目の前に襲われている人たちがいて、放っておけなかったのだと思う。それに、姉妹たちには、ミッドチルダを守らなきゃいけない使命感のようなものが芽生えてた。たぶん、調整されてる時に植え付けられた感情の一つなんだろうと思う。

 

 とにかく、ガジェットに襲われる人たちを放っておけなくて、戦える子は全員で加勢した。どこか幼いエースオブエースを思わせる容姿に驚かれたり、杖を向けられたりもしたけど、強引に戦って、助けて、割り込んで。夢中になって人助けしているうちにクラナガンでの戦いは落ち着き始めていた。

 

 白い髪のおじさんにお礼を言われた。事情聴取も受けそうになったが、空での爆発音を聞いて、わたしたちは空を見上げる。みんな、それを見て驚いていたが、私だけは落ち着いていた。

 

 聖王のゆりかごと呼ばれる巨大な戦艦。いま、あの中でオリジナルの高町なのはが戦っているに違いない。声が聞こえてこないのはアンチマギリングフィールドによって念話が遮られてるからだろうと思う。

 

 フェイト・テスタロッサはスカリエッティの研究所を自爆させないために奮闘しているかもしれない。八神はやてはきっと空の上で、無数のガジェットと闘いながら指揮を執っているだろう。そして、高町なのはは最愛の娘を助けるために、今も戦っている。

 

 声が聞こえた。高町なのはと、他数名が聖王のゆりかごの中に取り残されているらしい。救助のためにスバルとティアナがヘリからバイクで突入するとのことだった。

 

 そんな中で聖王のゆりかごが煙を噴いて落下し始める。内部から爆発しているように見える。そして、進路をこちらに向け始めた。

 

 念話で、どうやらスカリエッティの最後の悪あがきらしいことを知らされる。二つの月の公転上に到達できなければ、あらかじめ仕組まれていたプログラムに従ってクラナガンに落ちる予定だったらしい。その為に、アインヘリアルも沈黙させたらしいことも。

 

 白い髪のおじさんが避難勧告の指示をとっさに出し始めた。管理局の局員たちも陸、海問わずに動いていく。事情はともかくキミたちも避難したほうがいいと言われたが、わたしたちは姉妹たちと顔を見合わせるだけで動こうとしなかった。

 

 頭の中で今から避難しても間に合わないことは誰の目にも明らかだと結論する。あれだけの質量が落下すれば、クラナガンに甚大な被害が出るし、避難したとしても今からでは間に合わない可能性が高い。

 

 ひとつだけ可能性があるならば、ゆりかごの落着前に空中で破壊してしまうことだ。管理局の艦隊も向っているが、アルカンシェルを地表に向けて撃つわけにもいかないだろう。純粋な魔力砲撃で破壊する必要がある。それも、只の砲撃じゃなくてトリプルブレイカー級の強力なやつを。

 

 だけど、オリジナルの高町なのはは疲弊していて、すぐに砲撃を撃てる状態じゃない。八神はやてもゆりかご内部で、ヴィータと共に孤立している。そして、こちらに迅速で向かっているかもしれないフェイト・テスタロッサを待っている時間はない。

 

 でも、ここには私たちがいる。高町なのはのクローンである私たちは、当然スターライトブレイカーを使える。魔法だってオリジナルには劣るが、ネットワークの力で制御と負荷を軽減して、魔力を一転に集中させれば、トリプルブレイカー以上の強力な収束砲撃魔法が放てるはずだ。計算上は。

 

 だけど、そうしたら、それは私たちのほとんどが死んでしまうということだ。あの研究員の話が確かなら、わたしたちは魔法を使えば使うほど衰弱する。現に何人かの子は顔色が少し悪いみたいだった。他の姉妹たちに支えられて、座って休ませている。

 

 皆で顔を見合わせる。たぶん気持ちはみんなひとつだと思う。ネットワークで繋がっているから、護りたいという暖かい想いと、この危機から逃げたくないという不屈の決意がネットワークを通して皆からあふれてくる。

 

 示し合わせたように、姉妹みんなで頷く。

 

 まだ、目覚めたばかりでどうすればいいのか分からない幼い姉妹を白い髪のおじさんに預ける。もしかしたら、この子たちは生き残れるかもしれない。それに、まだ世界を知ったばかりの末っ子たちを巻き込みたくはなかった。

 

 どこかきょとんとしている妹たちに、十二番のわたしは姉妹を代表して言った。お願いだから、良い子にしてねって約束と。それから皆の願いを代わりに叶えてくれたら嬉しいってこと。その代わり、明日の未来を掴み取ってきてあげるって約束する。ぼんやりと頷かれる。何人か、勘の良い子がいてちょっと泣かれてしまったけど。まだ、感情が抑制されてないから素直に泣けるんだと思うと、ちょっとだけ嬉しく思う。

 

 わたしたちはあんまり泣けないし、いまでもうまく笑えなかったから。

 

 何をするんだと告げる白い髪のおじさんに、幼い姉妹たちをお願いする。周囲の止める言葉を無視して、わたしたちは一斉に杖を構える。わたしたちで落ちてくるゆりかごを迎撃すると告げて。

 

 空を飛んでいる余裕はない。本当なら空中で行ったほうが、スターライトブレイカーは安定するのだが、途中で落下してしまったら本末転倒だから。

 

 姉妹たちみんなで声を合わせて呪文を唱える。

 

 それは皆の決意の証。

 

 不屈の心はなくても、オリジナルのような強さはなくても、みんなで支えあえばきっと大丈夫。

 

 風は空に、星は天に、そして不屈の魂をこの胸に――

 

 星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ――

 

 クラナガンの街の空に膨大な光が収束する。戦場となっていた街から、空から、使い終わった魔力を集めて収束させる。

 

 だけど、チャージに時間が足りない。

 

 その時、幾条もの光跡が空を駆け抜けていく。ネットワークを通して繋がってくる他の姉妹たちの声と想い。他の研究所の高町なのはの、クローンの姉妹たちが、至る所から駆けつけてきたようだった。

 

 魔法が得意な子は、収束とチャージに協力してわたしの負荷を軽減してくれる。足りない部分はその身を魔力そのものに換えて、大気に光の粒子を残して消えていく。そして、光の残滓はスターライトブレイカーの一部となって還元される。

 

 魔法が不得意な子は、少しでもゆりかごの落下を食い止めようと、ゆっくりと下降してくるゆりかごに張り付いて、少しでも押し返そうと踏ん張る。進路を定めてしまえば、ゆりかごはクラナガンに向けて一直線に加速する可能性がある。それを少しでも抑えようとする。

 

 脱出したオリジナルの高町なのは一同の乗ったヘリと、駆け付けようとするフェイト・テスタロッサを離れさせる子もいた。わたしが、迷いなく撃てるように。

 

 あまりの事態に待ってほしいと声を掛けようとするのに、思うように声が出ない。ただ、空しく手を伸ばして、悲しそうに顔を歪めることしかできない。

 

 今動いたら、姉妹たち全員の気持ちが無駄になる。それに、限界を超えたスターライトブレイカーの負荷はあまりにも凄まじく気を抜けば今にも気絶してしまいそうだった。

 

 ふらついて倒れそうになる身体を、他の姉妹たちが支えてくれる。霞む視界で目を向ければ、一桁ナンバーの子が私に抱き着いて支えているようだった。今にも死にそうな顔をしていて、苦しいのにそれでも笑顔を絶やしていなくて。あんなに感情表現に乏しかったのに、ピンチのときにふてぶてしく笑っていて。

 

 だから、わたしもつられるようにして笑ってしまった。でも、周囲で倒れ伏している姉妹を見ては、お互いに涙を流してしまう。ネットワークにつながっている子たちの意識が一つ一つ消えていくのが分かる。みんなが後を託して消えていく。

 

 それから、皆で皆を励ますために『守りたい世界』を歌う。きっとわたしたちの頑張りは無駄じゃないって。みんなで声を合わせて歌っていく。

 

 みんなの、想いが、歌を通して流れ込んでくる――

 

 怖いよ。本当は死にたくないよ。

 

 わたしも同じ気持ちだよ――

 

 ゆりかごを支えていた子たちが全員、光の粒子となって消えた。

 

 生きて、いたいよ!

 

 わたしも、みんなと生きていたかったよ――!!

 

 わたしに魔力を供給し続けていた子たちが全員、光の粒子となって消えた。

 

 でも、守りたい世界があるから。明日を生きて笑っていてほしい。大切な人たちがたくさんいるから。

 

 だから……!!

 

 最後に、隣で支えてくれていたお姉ちゃんが消えた。

 

 支えを失って倒れそうになるのを気合で耐える。駆けつけた幼い姉妹が、わたしを支えてくれる。

 

 高町なのはの、魔法に、砕けないものなんてない。

 

 絶望なんかに負けない。

 

 いつだって、希望の明日は、信じた未来が、必ずくるんだからーーーっ!!

 

 ありったけの想いを込めて、叫ぶ。すべてを解き放つように。

 

 

 

 

「スタァァアライトっ! ブレイカァァァァァーーー!!」

 

 

 

 

 

 

 そして、消え行く意識の中で、思うんだ。

 

 フェイトちゃん大丈夫かな。

 ヴィータちゃん無理してないかな。

 はやてちゃん、抱え込んで悩んでないかな。

 

 スバルとティアナは無茶してない? キャロとエリオは大丈夫?

 

 アリサちゃんとすずかちゃん。元気にしてるかな。

 ユーノくんは、クロノくんは、頑張ってるのかな

 

 本当のわたしは無事なのかな。

 ヴィヴィオはひとりで泣いてない?

 

 おとーさん。おかーさん。おねーちゃん。おにーちゃん。

 皆に会いたかったな。

 

 わたしの大好きなひとたち。

 どうか元気で、健やかでありますように。

 

 そして、先に行って待っている姉妹たち。

 みんなが微笑んで、頑張ったねって手を差し伸べてくれてる。

 

 わたしは、まるで夢でも見てるみたいにその手を取って、優しい夢を見るための眠りにつく。

 

 わたしは、皆を護ることができたのかな?

 

 分からないけど、きっと大丈夫だよ。

 

 うん、そうだね。きっと大丈夫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翠屋のシュークリーム。

 

 姉妹みんなで食べてみたかったなぁ――

 

 



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なのはのクローンたちがあの日教えてくれた歌を世界中に響かせるようです

 そうして、星の光を解き放った少女は、優しい夢を見るための眠りにつく。

 

 残された幼い姉妹たちが、崩れ落ちそうになる彼女の身体を支えようとするけれど、力を失った人間の体は子供でも重い。何とか倒れこまないように、地面に横たえるのが精一杯で。舗装された固い地面の上に優しく寝かせて、起きるように何度も体を揺さぶる。

 

「…………っ!」

 

 姉妹の一人は何かを言おうとしたが起きたばかりで上手く声が出せない。なまえをよんであげたいのに、姉妹たちは数字でしか自分のことが分からなくて。それでも繋がりを通して知っていた大好きな12番目のお姉ちゃんだから。なんとか起きてほしくて。

 

 寂しがり屋の199番の『なのは』が起きてって、12番の姉の身体を揺する。それでも目覚める気配がない。脈はある、息もしている。だけど、今にも消えてしまいそうで。心の奥底の繋がりが消えていって、バラバラになってしまいそうで。

 

 だから、この場で一番のお姉ちゃんなのに、199番の『なのは』は泣きそうになってしまう。置いていかないでって言いたいのに声が出ない。ひとりぼっちは嫌だよ。寂しいよって叫びたいのに声が出ない。誰か助けてって言いたいのに声が出ない。

 

 一桁ナンバーの後継として感情を抑制されて生まれてきた199番の『なのは』の瞳から、涙があふれ出す。感情なんてなかった筈なのに。

 

 それにつられて末っ子の500番の『なのは』が泣き出してしまう。双子の312番の『なのは』と412番の『なのは』が手を繋ぐけれど、彼女たちも何故か涙が止まらなくて、どうすれば良いのか分からない。ただ、妹の手を繋いであげることしかできない。

 

 199番の『なのは』が声にならない叫び声をあげながら、眠っている12番の『なのは』の胸に顔を埋めた。

 

 彼女の着ている病院着みたいな服が、妹たちの涙で濡れていく。

 

 多くの姉妹たちが星の光になって消えてしまって。残された12番の『なのは』も眠ったまま目を覚まさない。

 

 そうして時間だけが過ぎてゆく。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 初めて、その子を見たとき変な子だなって思った。

 

 それが7番のわたしの感想だったんだろう。当時は感情とか、心なんて分からなかったから。分からない様にしていたから。自分の浮かべた想いを疑問にも何も思わなかったんだろう。

 

 そんな使い捨ての道具として生み出された私たちの中に、とても個性的な子が生まれてきたから強く印象に残ったのだ。

 

 私たちにも、その子にも名前はない。だけど、あえて呼ぶのなら、管理番号を示すのなら12番と言うべきなんだろうか。彼女が私たちの中で末っ子の妹になる。他の子が量産されてくれば、その子は姉になるだろうけど。今はこの子が一番下の妹だ。

 

 そして、その子はやたら感情豊かで、変な言い回しをする。

 

「ほら、笑って。こうやって笑顔になるの」

「わたしが笑顔を浮かべられるんだから、みんなにもきっと心があるんだよ」

「だから、笑って」

「ふにゅ~~~~!!」

 

 具体的には、こんな風に笑いながら、他の姉妹のほっぺたをつねって無理やり笑顔にしようとしている子だった。ふにゅ~~って言いながら、3番の姉妹のほっぺたを引っ張ることに意味はないと私は思う。

 

「ふにゃ~~~!?」

「いひゃいれす。いひゃいれす!」

「あひゃまるから、ゆるじてくらひゃい~~!!」

 

 3番も、頬を引っ張られる行為が意味わからなかったのか、反射的に12番の行為を反復してみたらしい。12番の妹が引っ張り返された。

 

 教えられたことを学んで、真似して繰り返すのは、私たちの得意分野だ。だから、研究所の人たちに教えられたとおりに、教えられたことを繰り返しただけ。3番目の姉に他意はなく。彼女は何も感じていないように、蹲りながら痛がる12番の妹を見ていた。

 

「絶対あきらめないもん」

「えへへ~~」

 

 でも、それでも12番の妹は笑うんだ。私と同じはずの『なのは』は嬉しそうに笑っていた。人形みたいな姉妹が何かしてくれたことが嬉しかったんだと思う。けれど、その時の私は妹が何故笑うのか分からないまま時間だけが過ぎていく。

 

 やがて、あの子も知ってしまうだろう。あのリアルなシミュレーションを受けさせられたらきっと気付く。

 

 感情(こころ)なんてないほうがいい。何も感じないほうが楽だって。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 初めて、あのシミュレーションを受けされられた12番の妹が先に戻ってきたらしい。

 

 彼女は膝を抱えながら落ち込んで、泣いていた。

 

 私は泣くという行為が分からないし、どうして泣くのかも分からない。そういう感情は捨ててしまったから。だから、妹の気持ちが分からない。

 

「ひどいよ……こんなの……」

「あんまり、すぎるよう……」

 

 そんな風に膝を抱えて泣いている妹を見て、どうして泣くんだろうとしか思わない。

 

 あのシミュレーションはやけに感覚がリアルで、現実と同じように体感できるけど。慣れれば痛みも感じないだろうに。注射や変な薬を飲まされて気持ち悪くなるより全然マシだ。少なくとも急におなかが痛くなったり、身体が熱くなって、急に怠さを覚えたりはしない。

 

 ただ、私によく似た両親らしい男の人と女の人が笑っていて。私の友達らしい男の子と女の子が笑っていて。次の瞬間には設定された敵に襲われて動かなくなるだけ。

 

 別に護るべき対象でもないし、与えられた課題をこなすように、魔法を使って襲ってくる敵を排除すればいい。私たちにはその為の力が備わっているはずで、彼女にも魔法の力がある筈。

 

 私たちはエースオブエースと呼ばれる存在のクローンなんだから。

 

「痛かったよね……苦しかったよね……辛かったよね……」

「無理やり笑ってなんて言って、ごめんね……」

 

 12番の妹は、そんな風に言いながら3番目の姉妹を抱きしめた。その行為に何か意味があるとは思えない。

 

 けれど、3番目のわたしは何か感じることがあったのだろうか。12番の妹を抱きしめて、頭をなで返していた。とてもゆっくりと、優しい手つきで。

 

「……っ、ぐすっ、ありがとう」

「おねえちゃん……」

 

 その行為に意味があるのか分からなかったけれど、私たちの特技は真似することだ。だから、他の姉妹たちも、同じように12番の妹を慰めるようにして、頭を撫でたり、背中をさすったりした。

 

 ………………既に1番と、2番はここにはいない。

 

 彼女たちは、私たち以上に感情を表さなくなって。それどころか研究員の言葉にすら反応しなくなって。息はしているのに動かなくなってしまう症状により、そのまま何処かへ連れて行かれた。

 

 それ以来、二人の姿はみていない。

 

「………決めた」

「わたし、がんばるね」

「お姉ちゃんたちの為にも、生まれてくる妹たちのためにも」

 

 何を、どう頑張るというのか……

 

 けれど、泣きながら、私たちを励まそうと微笑んでいる彼女を放っておけない気がして。

 

 だから、私も、私たちと同じ明るい栗色の髪を持つ12番の妹の頭を撫でた。

 

「わっ、えっと7番さん? ナナお姉ちゃん? どうしたの?」

 

 彼女の髪の毛の感触は指が梳き通るような手触りで。触れ合った手のぬくもりはとても暖かかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 その日から12番の妹は、いろいろとお喋りするようになった。私たちの知らないことを何故か知っていて。よく語って聞かせてくれた。たくさんの事を研究員たちに内緒で教えてくれた。

 

 そして、彼女を通して、私たちは心の繋がりを感じられるようになった。たとえ別の部屋で眠っていても、心の繋がりを通して姉妹たちの暖かさを、温もりを感じられる。

 

 まあ、七番目の私は聞いているほうが得意だったので、あまり返事はしなかったのだけれど。

 

 彼女は他の姉妹を励ましたり、抱きしめて安心させるのがとても上手だった。

 

 感情がない筈のわたしたちの中で、ひときわ明るくて優しい女の子。一緒にいると居心地がよくて、とても安心する。

 

『あなたが、新しい妹かな?』

『あっ、199番なんだ』

『わたしは12番。よろしくね』

『……だいじょうぶ?』

『辛かったよね。苦しかったよね』

『でも、安心してほしいの』

『みんな傍にいるから』

『ここにいるから、ね?』

 

 そんな彼女に、なのはのクローンとして生まれた私たちが惹かれるのは当然で。ひとりぼっちの寂しさを感じないようにいつも励ましてくれるのが嬉しくて。

 

『ぎゅうって抱きしめられると安心する?』

『じゃあ、抱っこしてあげる』

『今日のお話はね。なのはの家族のお話』

『おにーちゃんも、おねーちゃんも、とっても強くて優しいんだよ?』

『おかーさんはいつも明るくて、毎日がすごく楽しそうなの』

『おとーさんはすごく頼りになって、二人ともすごく子煩悩さんだから』

『きっと、私たちでもいっぱい愛してくれると思うんだ』

『えへへ~~』

『いいなぁ~~』

『会ってみたいなぁ~~』

 

 彼女はどんな時でも明るく笑ってくれて。そんな彼女に触れ合うことで、姉妹たちの中に変化が生まれて。

 

『今日は歌をうたってあげる。わたしがたくさんの勇気を貰った曲』

 

 あの日、わたしたちを笑顔にしてくれた女の子。

 

 暖かい心の繋がりで支えてくれる大切な妹。

 

 どうか守ってあげたい。そう思いながら、七番のわたしは自分の中に無くしていた筈の心が芽生えていたことに気づいたんだ。

 

 たぶん、みんなそうだと思うから。なんとなく、繋がりを通して分かるから。

 

 私たちはいろんな話を聞かせてくれる12番のわたしが大好きで。だから、嬉しくて心の中で笑顔を浮かべるんだ。

 

 あんまり言葉は返してあげられないけど、想いとかちゃんとわかっているから。

 

 いつかみんなで自由になって、故郷の海鳴に帰りたいねって思うんだ。この子と一緒に平和な世界で笑いあえたら、それは素敵だなぁって思うから。

 

 でも、その夢が儚い幻なんだって気づくのは、すぐの事だった。

 

 脱走したとき。12番の指示に従って。寿命の話とか、使い捨ての話を聞いたとき、だれよりも絶望していたのが12番の妹だと、心の繋がりで分かってしまって。だから、七番のわたしは声を上げるんだ。故郷の海鳴に帰ろうって。せめて、最期を迎えるにしても、この子だけは『なのは』の家族に会わせてあげたかったから。

 

 あんなに嬉しそうに高町の家のこととか、翠屋の事を話していた妹だから。

 

 けれど、それはミッドチルダの街が大変なことになっていたから叶わなくて。目の前で困っている人たちを放っておけなくて。わたしたちは生まれた意味も知らないまま、当初の役割通りに戦って、戦って、戦い抜いて。

 

 そうしてわたしたちは、たくさんの姉妹たちとも心を繋げて。

 

 護りたいって意志に触発されて、街の人たちを護って。

 

 そうして姉妹みんなで不屈の心を抱いて、星の光を束ねて。

 

 星の光とともにお星さまになった。

 

 それからわたしたちは、他の姉妹たちと一緒に優しい夢を見た。

 

 暖かな草原の上で、姉妹みんなと自由に駆け回りながら、一緒に魔法で空を飛んだり、夢みたいに美味しい料理を食べたりした。何も気にせず遊びまわるのは楽しかった。姉妹たちと追いかけっこしたり、かくれんぼするだけで心が幸せになる。満たされていく。

 

 そうして遊んで、夢見心地でいるうちに、最後に十二番目の妹がやってきて。

 

 そう、この子は妹だ。わたしたちの妹。生まれた順番なんて関係ない。わたしたちにとって、大切な護りたい妹だから。だから、こっちに来てはダメ。

 

 どこか一緒に、遠くへ行こうとしてしまう十二番目の妹の、その両手を包み込むように優しく握りしめて。来ちゃダメだよって諭すように小さく首を振るんだ。わたしたちは、その表情に取り戻した本当の感情を、微笑みを浮かべながら。

 

 だから、そんな風に泣きそうな顔をしないで?

 

 どうか、笑っていて。

 

 ね? いい子だから。

 

『わたし、何にもできなかった……』

『護るって誓ったお姉ちゃんたちも、妹たちも護れなかった』

『会いたかった家族に会わせてあげられなかった。故郷の海鳴にも帰してあげられなかった!』

『高町『なのは』みたいに、誰かを護れるような人になれなかった!』

 

 そんな十二番目(いもうと)の心の叫びを聞きながら、七番目のわたしは彼女を強く抱きしめるんだ。

 

 この子が心の何処かで無理してたのは知ってた。

 

 でもね。

 

 あなたは私たちの心を護ってくれたよって、そう言ってあげたいんだ。

 

 辛いときに励ましてくれて、いろんなお話を聞かせてくれて。

 

 ありがとうって。

 

 たくさんの知らないことを教えてくれて。優しいうたで、みんなの心を慰めてくれて、明日に希望はあるよって信じさせてくれた。姉妹みんなを笑顔にしてくれた。

 

 だから、今度は、わたしたちが大丈夫だよって言ってあげたいの。

 

 強くならなくてもいいよ。誰かを護るために自分を犠牲にしなくてもいいよって。

 

 だって、あなたはこんなにも優しいんだもん。

 

 いつか自分のことが好きになって、誰か好きな人ができて。

 

 それから幸せになってほしいから。

 

 だから、お別れなんだ。

 

 ごめんね。

 

 そして、ありがとう。

 

 いつまでも、大好きな。

 

 わたしたちの妹だから。

 

 だから、最後は笑って見送ってあげるんだ。

 

 この子が教えてくれた優しい歌で。わたしたちの想いを、みんなで繋げて。

 

 わたしたちは歌うんだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 高町なのはが、迎えのヘリの中で、声を押し殺して泣いていた時。ふと、誰かに袖を引かれて、顔を上げた。

 聖王のゆりかごから助け出した娘のヴィヴィオが、なのはを見ていた。

 

 だから、そんなヴィヴィオを母親として心配かけさせまいと、なのはは自分の涙を拭う。

 

「ママ」

「っ……ヴィヴィオ?」

「どうかした?」

「あのね、ヴィヴィオね」

「うたが聞こえるの」

「愛してるよ。大好きなんだよって――」

 

 そうしてヴィヴィオはとても嬉しそうに暖かな笑顔を浮かべて、耳を澄ませた。

 だから、なのはもつられて耳を澄ましてみる。

 

 確かに聞こえる。

 聞こえてくる。

 

 幼いころの自分を思わせる、優しくて暖かい声が。

 たくさんの『なのは』たちの声が。

 

 

 あの日浮かべた笑顔を覚えてる? 

 

 忘れないよ。あなたがたくさんのお話を聞かせてくれたこと。

 

 忘れないよ。あなたがたくさんの優しい歌を歌ってくれたこと。

 

 その暖かい気持ちが嬉しくて、だから私たちも笑ったんだ。

 

 本当はいつまでも一緒にいてあげたいけれど。

 

 だけどお別れなんだ。

 

 でも、どうか泣かないで。寂しくないから。

 

 心はずっと一緒だから。いつまでも繋がってるから。だから、寂しくないよって伝えるから。

 

 あなたのことが大好きだから。生きていてほしいから。

 

 どうか幸せになって、いつまでも笑っていてねと『なのは』たちの歌声が聞こえる。

 

 みんなで幸せになってと、声が聞こえる。

 

 世界は嫌なことばかりじゃない。素敵なことが、楽しい事がたくさんあるんだよって教えてくれたきみだから。

 

 どうか笑っていてねと声が聞こえる。

 

 ラの音は世界を繋げる音。みんなでラララって声を合わせれば一つになるの。

 

 だから、みんなで歌おう? 

 

 この嬉しい気持ち。素敵な想いをみんなに伝えるために。

 

 姉妹みんなで手を繋いで笑顔で歌うの。

 

 あの日、きみがくれた笑顔だから。こうしてみんなで笑っていられるから。

 

 だから、ありがとう。大好きだよ。

 

 そうしてその歌は世界中の人々に届くんだ。

 

「………」

「ルーテシアちゃんも、聞こえる?」

「………っ」

「涙が止まらないね……」

「すごく、すごく優しい歌……」

 

 エリオとキャロが見守る傍で。

 ルーテシアが泣いていた。ガリューも、地雷王も白天王も泣いていた。

 無数のインゼクトたちが身体を揺らす。その歌声に耳を澄ませるように

 

「ドクター……?」

「泣いているのですか?」

「知らなかったな」

「こんな狂人でも……」

「流せる涙があったとは……」

「人は暖かい気持ちで、心を震わせても、涙を流してしまうのだね……」

 

 一番目の秘書は、逃げられないように手足を縛られ、壁を背にして蹲っていた。そんな中で、同じように拘束されたひとりの男が、笑いながら静かに涙を流しているのを見た。

 

「レジアス、この歌が聞こえるか……?」

「………」

「お前にまだ償う意思が、立ち上がる力があるのなら……」

「どうか、この歌のように、明るい未来を……」

「誰もが笑って……生きられる世界を……つくってくれ……」

「……頼む」

「ゼスト……」

「儂は……」

 

「……わたし、いきて、る……?」

 

 かつて誓い合った友の頼みを聞き届けながら、地上を護ろうと奔走し続けた男は、ひとりの友を看取って。その傍らで星の光に目を奪われて、一瞬のうちに叩きのめされた二番目の女が、少女たちの歌声を聴きながら目を覚ました。

 

 ミッドチルダの世界に春の暖かい風が吹く。そうして世界に幻想のような花々が咲き乱れて。その、空に、風に乗って黄色い花びらが舞ったんだよ。

 たくさんの菜の花が咲いて、みんな笑ったんだ。姉妹たちみんなが笑ったんだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 そうして、わたしたちは光に包まれて。

 

 夢をみる。

 暖かい腕に抱かれて、優しくされている小さなわたしの夢。

 

「なのは」

「生まれてきてくれて、ありがとう」

「お母さん。会えて嬉しい」

 

 それは、生まれ変わったわたしが見ている夢。

 わたしと心の奥底で結びついている姉妹たちの夢。

 

「はにゃあ~~~♪」

「ほら、士郎さん」

「抱っこしてほしいって」

 

 たくさんの姉妹たちの中のひとり。

 生まれ変わった別の世界の、わたしの夢。

 

 どうか、元気で健やかに生きてね。

 たとえ世界が違っても、わたし達は傍にいるから。

 

 わたし達はひとつだから。

 

 心はいつまでも繋がっているから。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 声が聞こえた。

 

「お願い。死んじゃだめ……!」

「目を覚まして」

 

「シャマル先生。みんなのお医者さん!」

「絶対に、絶対に助けるから!」

「お願い。目を覚まして!」

 

 うっすらと目を覚ますと、みんなの顔があった。心配そうに見ている。自分と同じ顔をしているどこか大人びた憧れの人も、記憶よりも大人になった二人の親友も。傍にいてくれた幼い姉妹たちも、みんなが眠りに就くはずだったわたしを見ていた。

 

 みんな泣いてる。幼い姉妹たちが泣いてる。わたしと、同じ顔の、守りたかった女の子たち。

 

 どうか、そんな顔をしないで。

 笑っていて。

 

 だから、震える手をそっと伸ばして、彼女の涙を拭うんだ。

 

「ぐすっ……おねえちゃん……」

「よかった」

「えへへ」

 

 すると、その女の子は笑ってくれて、他の妹たちもつられるように笑顔を浮かべてくれて。

 それが嬉しくて、わたしも笑った。

 

 自分よりも大きくて、暖かい手をした女性が。記憶にあるよりもずっと綺麗な高町なのはが、わたしを優しく抱き上げてくれて。記憶よりも大きなフェイトちゃんや、はやてちゃんが涙を浮かべながら、一緒にいてくれて。

 

 その周りでヴォルケンリッターのみんなや、機動六課のフォワードメンバーが優しく見守ってくれて。

 

 それから一緒にどこかへ歩いていく。その後を、みんなが付いてきてくれて、わたしが寂しくないように見守ってくれる。

 

 この先にある明るい未来を、歩んでいくために。

 

 だから、わたしは小さな声で呟く。

 

――おねえちゃん、ありがとうって。

 

 高町なのはが心配して、なぁにって優しい声で気遣ってくれる。それに何でもないよって小さく首を振る。隣でフェイト・テスタロッサが泣きながら嬉しそうな顔で笑ってくれた。八神はやてが助かったわたしの様子に、安堵した表情を浮かべた。

 

 抱きかかえられたまま、晴れた青空を見上げると、黄色の花びらが風に乗って空を舞っていく。

 暖かい春のような日差しが、わたしに降り注ぐ。

 

 もう歌声は聞こえない。でも、心の奥底で暖かな繋がりを感じる。ひとりじゃないよって、いつまでも支えてくれる。だから、お別れなんかじゃなくて、いつまでも一緒だから。だから、だいじょうぶ。

 

 大好きだよって声が聞こえる。

 

 

 

 

 だから、わたしも――――

 

 

 

 

 大好きだよ。

 

 心はいつもひとつ。ずっと一緒だから。

 

 だから、ありがとう。




震えながら投稿ボタンを押す……

違うんです。頭の中でクラナドのだんご大家族のメロディに合わせて姉妹たちが、生きてとか。大好きだよとか。いつまでも愛してるからとか。歌い始めて涙が止まらなくなったので初投稿したんです。

だから、だんご大家族の歌詞を、なのは大家族に替えて歌うのはやめてくれ……その歌は俺に効く……


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なのはのクローンたちは故郷に帰ってお別れするそうです。

 今でも夢に見る。不思議で幻想的な光景。

 

 春の暖かい風が吹く草原。辺り一面いっぱいに咲き乱れた菜の花。夏の日差しに照らされたざざーんっていう海の音。たくさんの流れ星を見ることができる夜の展望台。紅い色鮮やかな紅葉は、秋の彩りに染まった山々で。白一面に降り積もった雪景色に、小さく降ってくる冷たさを感じない雪の感触。

 

 眠るたびに見る事ができる夢の風景。それらは移り変わる四季のように違っていて、そこでは姉妹たちが元気に、それぞれ思い思いに過ごしています。

 

 ここは、私たちの心象風景。今でも繋がっている姉妹たちの、心の繋がりを示す場所。誰にも侵すのことの出来ない大切な領域。

 

 そこで大好きな姉妹たちが元気よく手を振っていて、私は雪の降り積もる世界の中で、元気よく駆け寄って行って。

 

 走りながら駆け寄る直前で、盛大にずっこけた。

 

 そうしてわたしは目が覚めた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「あうう~~……」

 

 何だか素敵な夢を見ていたような気がしましたが、変な所で目が覚めてしまいました。

 

 時刻を確認。朝にはちょっと早いです。場所は病院のベッドの上で、掛布団の下は湿っていない感じですし。パジャマのズボンが濡れている感触もないです。寝る前のおトイレにちゃんと行ったのが功を成しました、じゃないと次の日に粗相をしてしまいます。

 

 起床。食事。排泄。行動。何から何まで管理されていたあの頃と違って、好きなものを食べることができる暮らし。好きなことをして過ごせる幸せな生活。

 

 わたし達姉妹はいまとっても満たされているのでしょう。でも、満たされすぎて412番の双子の妹のほうが、恥ずかしい思いをしてしまった事は、おねーちゃんの一生の秘密です。

 

 一緒に寝て、朝起きたら洪水さんが発生してしまったのです。だから、おねーちゃんの恥ずかしい思い出として妹を庇ってあげました。

 

 お世話に来たシャマル先生に、洪水さんの後始末をお願いして。その日は羞恥に染まりながら、服の裾をぎゅっとつかんで離そうとしない妹を連れて、お風呂場に直行でした。

 

 わたしも油断しているとそうなるので、要注意です。あとは妹たちが怖い夢を見ていないかの確認も兼ねてます。特に199番の妹は、他の妹たちと違って、起きていた頃の記憶があるから。

 

 あの頃の記憶を鮮明に覚えているのは、わたしとあの子だけだから。

 

 辛くて悲しかったけれど、それでも姉妹たちと過ごせた大切な思い出だから。

 

 だけど、199番の妹にとっては怖い夢でもあるから。

 

 ちょっと心配だったりします。

 

 それで、ほとんどは、素敵な幻想世界の夢を見ているわたし達なのですが、偶に違う姉妹の夢を見ることもありまして。

 

 高校生くらいの『なのは』が、ドスの利いた声でヤクザの家にカチコミ入れて、兄姉と共に木刀片手に大立ち回りを演じた挙句。無理やり花嫁にされそうだった親友のすずかちゃんを救出。そして元凶の氷村なんとかさんを右ストレートで床に殴り倒したそんな夢とか。

 

 それって映画の撮影か何かだよね? そうだよね?って思うくらいリアルな夢で。

 

 他にも素敵なお嫁さんだったり、プロの棋士さんだったり、映画監督をしていたり、物理学の有名な教授さんだったりと。いろいろな姉妹の夢を見たりするのですが。

 

 みんな元気そうだなって思えるのは、心のどこかで暖かい繋がりを感じるからなのでしょうか。

 

 そんな感じで目を覚ましたわたしは、軽く伸びをします。

 

 うん、いい感じ。

 

 今日も平和に日々を生きています。わたし達(『なのは』たち)はとっても元気です。

 

 それから、いつものように食堂まで歩いていって。といってもすぐ近くの大部屋なのですが。早くも明るい声が聞こえてきて、わたしは思わず顔を綻ばせてしまいます。

 

 妹たちは、今日も元気そうで何よりです。

 

「ね~ちゃ~~!!」

「あっ、おいで、おいで~~♪」

 

 そうそう、こんな感じで明るくなった500番(末っ子)の妹が、わたしに駆け寄ってくるくらいには元気で……

 

 って、止まって。止まって!?

 

「ふぐうっ!?」

「はぅぅ……」

 

 両手を伸ばしながら頭から勢いよくぶつかって来たので、末っ子さんのおでこが、わたしの胸元にダイレクトヒットしてしまいました。うぅ、『なのは』(わたし)はまだまだお胸がないから、柔らかく受け止めてあげられなかったの。ごめんね。痛かったよね?

 

「ふにゃ~~~……おでこを、ぶつけてしまいました……」

「だいじょうぶ? 怪我はない?」

 

 抱き留めた末っ子さんを、両手で優しく離して、ぶつけちゃったおでこをよく観察。

 

 うん、怪我とかなくて良かったです。

 

 ヴィヴィオと同じくらいの末っ子さんは、まだまだ幼い子供です。他の姉妹たちと比べると、小学生と幼稚園児くらいの差があります。だから、何かと怪我しないように気に掛けてあげないといけません。

 

「えへへ、だいじょうぶ」

「いたくないよ」

「そっか。でも、病院で急に走ったりすると危ないから、気を付けなきゃダメだよ?」

「お姉ちゃんとの約束」

「うん! やくそく!」

 

 199番以外の妹たちは目覚めたばかりなので、身体の動かし方に慣れてなかったりして、よく転んでしまいます。だから、リハビリも兼ねて外でいっぱい遊んでいるそうです。エリオくんとキャロちゃんが訓練の合間に、よく遊び相手になってくれます。

 

 わたしは病室のベッドに座りながら、それを窓から眺めて見守るのが最近の日課なの。

 

 あの後、なのはさん(おねえちゃん呼びはまだ慣れてません)に抱き抱えられたわたしは、クラナガンの病院に検査入院。よっぽど消耗していたのか歩くことも儘ならず、こうしてリハビリの毎日を送っています。

 

 実は今もリハビリの途中でして。長時間歩くのに体力が足りない感じです。

 

 やっぱり、みんなの魔力をひとつに束ねて、トリプルブレイカー以上の砲撃を放ったのが想像以上の負担になってたみたいでして。検査も終わって気が抜けた最初の日は、両手がぷるぷるって震えてました。

 

 その時に、フェイトちゃん(フェイトお姉ちゃん呼びも、まだ恥ずかしいです)が献身的に看護してくれて。

 

 看護、してくれて……

 

――大丈夫だった?

 

 検査が終わるたびに、パジャマ姿のまま抱っこされて運ばれる日々。

 

――お腹空いたよね? はい、これ。リンゴを剥いて、うさぎさんにカットしてみたの。

 

――よかったら、食べてね。

 

――お風呂、一緒に入っていいって。

 

――ひとりじゃ大変でしょう? 髪とか洗ってあげるから、遠慮しないで、ね?

 

――許可が下りたから一緒に寝ていいって。だから、大丈夫。寂しくないよ?

 

――もう二度と、寂しい思いはさせないから。

 

 果物とかお粥とか消化にいいものをあ~んされて、一緒にお風呂に入って、全部洗われて。それからお風呂場でぎゅううってされながら、一緒に湯船で温まって。終いにはベッドで一緒に抱き合って眠る日々。

 

 感じるのはお母さんの温もり。どこか安心させるような優しい声。

 

 今思い出しても、顔が赤くなってしまいます。本人はもうすこし付きっきりでいたかったみたいですけど、関連施設の摘発で忙しいので、夕方まで会いに来られません。だから、フェイトちゃんはとても残念そうにしてました。

 

 フェイトちゃん。わたし達を小さい頃のなのはさんと重ねている節がありますし、同じ境遇(プロジェクトF的な意味)の子供としてお互いに通じ合う気持ちもあります。ぎゅううって抱きしめられるのも、温かい手を繋ぎ合うのも嫌いじゃないです。むしろとっても好きなのですが……その……

 

 ……正直に言いますと、とっても恥ずかしくて……

 

 ……………

 

 だって、だっておかしいの!? なんであんなに距離感が近いのですか!?

 

 一緒のベッドで眠った時の話ですけど、ぎゅうってされて抱きしめられて。わたしの頭が、フェイトちゃんのお胸に包まれて、とっても柔らかかったといいますか。心臓のおっきな鼓動の音が聞こえてきて、とってもドキドキしたといいますか。

 

 わたしのパジャマごしでも分かる肌の柔らかさと暖かい肌の温もりは反則だと思うの! おまけに抱きしめられながら大丈夫だよ~~って囁かれて、背中を摩られながら、布越しに触れ合う肌の感触がとっても心地よくて。人肌の恋しさを埋めてくれたといいますか。ううぅぅ~~……

 

 その、ですね。月明かりに照らされたフェイトちゃんの神秘的な姿が頭から離れないというか。あまりにも綺麗な白い素肌と、金色の髪に、夜の色をしたネグリジェがとても似合いすぎて、思わず同性でも見惚れてしまいそうといいますか。

 

 とにかく、強くわたしの印象に残ってしまったのです!!

 

 あのまま甘やかされていたら、今頃はフェイトちゃん、フェイトちゃんってずぶずぶに甘えていたかもしれません。

 

 ううぅ~~~。

 

 いつか絶対リベンジして、逆に甘やかせて見せます。

 

 フェイトちゃんには、負けません!

 

 そんな決意をするわたしなのでした。

 

 

◇ ◇ ◇ 

 

 

 ご飯の時間です。

 

 いつもは機動六課のフォワードメンバーとか、保護者の三人の方々が妹たちと一緒に食事を摂るのですが、あいにくと今日はいないみたいです。やっぱりJS事件の事後処理でとっても忙しいみたい。

 

 わたしたち姉妹のこともニュースで話題になっておりまして。特に人造魔導師関連の違法研究所の摘発に、次元世界は揺れ動いているみたいです。子供たちを犠牲にしてはいけない。護ってあげてほしいって。そのおかげで人身売買も厳しく取り締まられているとか。

 

 なので世間さんが落ち着くまで、療養と身を隠すことも兼ねて、外出禁止。あまりミッドチルダを観光とか悠長なことはできませんでした。

 

 というわけで、合流した末っ子さんと一緒に食堂にやってきました。

 

 ヴィヴィオと妹たちと、お世話係の寮母さん。アイナさんが料理の準備をしながら待ってくれています。

 

「あっ、ちっちゃいママ!」

「「ねえね、おはよう!」」

「……おはよーー?」

 

 ヴィヴィオと、312番と412番の双子の姉妹が元気よくおはようって言ってくれて。それからちょっと眠そうな感じの199番の妹が、目を擦りながら返事してくれて。

 

「みんな、おはよう!」

「ねーちゃたちもおはよう!」

 

 だから、わたしと末っ子さんも、元気よく返事して挨拶します。

 

 うん、なんだかいいなって思う。

 

 研究所にいたときは、こういう当たり前の事もあんまりできなくて。香ばしい朝食の香りとかも感じない、味気ない栄養食ばかりだったから。こういう朝の風景とか、あたりまえの日常に、新鮮な感じがして心が満たされれちゃいます。

 

 そうして一緒の席について、並べられた料理を一緒に食べるのが日課です。パンに、スープに、野菜炒め。それからベーコンエッグに牛乳。食後のデザートにとろけるようなプリンも付いちゃいます。

 

 うん、どれも美味しそう。

 

「「「「いただきま~~す!!!!」」」」

 

 そうしてみんなで朝食を共にして、美味しくご飯を食べることができました。

 

「ううぅ……」

 

 だけど、ヴィヴィオのフォークの動きが止まってしまって。全部食べ終えた姉妹たちも、優しくヴィヴィオを見守っています。

 

 あれはお残しさんです。ヴィヴィオの苦手なピーマンと肩を並べる苦手な食べ物、その名も人参さん。

 

「ヴィヴィオ。ちゃんとにんじん食べなきゃダメだよ」

「好き嫌いよくないよ?」

「一緒にがんばろう。ねっ?」

「とってもいい子だって、なのはねーちゃが言ってたもん」

「でも、無理しなくてもいいよ~~」

「ふぇええ、だれが何いってるのか、わかんないよう」

 

 あはは、わたしと瓜二つの妹たちに囲まれてヴィヴィオが混乱してる。姉妹たちが左右で好き勝手に喋っているから、右向いたり、左向いたりしてあわあわしてる。(ロート)翡翠(グリューン)の瞳も、おめめぐるぐるって回りそう。

 

 わたし達、髪をおそろいのお下げにしているから、誰が誰だかわかんないよね。一応、手首の数字で見分けることはできるのですが。それだって腕を激しく動かして、身振り手振りで大げさに感情表現する姉妹たちだから、見分けるのも難しいのです。

 

 Nの文字とそれぞれの数字。決して消えない刻印は、手首のあたりにあるので見づらいですし。

 

 ヴィヴィオにとってわたし達は、ちっちゃいお母さんで姉妹のような、ちょっと複雑な関係です。だけど、わたし達にとっても大事な家族だから。

 

 ここは、おねーちゃんとして助け船を出してあげないといけません。

 

 人参さんをひと口ぱくり。程よく炒めてあって、よく火も通っているそれは柔らかくて美味しいです。研究所の味気ないご飯にくらべたら、何でも美味しく感じてしまいます。

 

 だから、ヴィヴィオの前で人参さんをもう一口ぱくり。

 

「ほら、ヴィヴィオ。とってもおいしいよ?」

 

 水を飲ませるには、目の前で美味しそうに飲む。もとい、美味しそうに食べる大作戦。ダメだったら私の分のプリンを食べさせて、ご機嫌を取る。そんなアフターフォローも完璧です。

 

 ほら、大丈夫だよ~~?

 

「ほ、ほんとうに?」

「うん、ほんとう。だまされたと思って」

 

 だから、姉妹たちが微笑みながら見守る中で、人参さんをあ~んってします。ヴィヴィオもそれを恐る恐る口にして、ゆっくりと噛みしめて。

 

「あまい、かも……?」

「でしょう? 固くなくて、野菜の臭みも少ないの」

「どうかな? 食べられそう?」

「うん、ヴィヴィオ、がんばるね?」

「よしよし、いい子。いい子」

 

 うん、頑張って嫌いなものを克服しようとするヴィヴィオはとってもいい子さんです。あとで花丸をあげないといけません。でも、わたしが人参さんの数をさり気なく減らしたことは内緒です。

 

「ヴィヴィオ。いい子。いい子」

「これ、わたしの分のプリン。いっしょに食べよ?」

「がんばったね。えらいね~~」

 

 姉妹たちも一緒にヴィヴィオをよしよしして、そんなわたし達にヴィヴィオはふにゃ~~って甘えてくれます。とっても可愛い妹さんです。わたし達の気分はおねーさんで、末っ子さんにとっては同じ年頃の仲の良い友達みたいな感じなのかな。

 

 そんな感じで子供たちみんなで食事を摂ったら、後は自由時間。

 

 312番と412番の双子の姉妹は病院の敷地内にある公園で、アイナさんに見守られながら一緒に駆け回ったり、ブランコを漕いだりしています。

 

 199番の妹は、その傍で日向ぼっこをしていて。末っ子の500番とヴィヴィオは一緒にボール遊びです。両手で抱えるような大きさのゴムボールだから怪我する心配もないの。それに、その近くで守護獣モードになったザフィーラさんが付き添ってくれてます。

 

 ここは管理局専用の病院なので敷地内で一般人の立ち入りは禁止されています。マスコミさん対策なんだとか。

 

 わたしはまだまだリハビリが必要なので、病院内の散歩コーナーを歩いたりしています。ベッドの上で握力用のボールを握ったり、とにかく身体を動かすことに慣らしていかないといけません。

 

 健康状態もばっちり、もうすぐ退院できるよってシャマル先生も笑ってお墨付きをくれました。

 

 そしたら、念願の海鳴に帰ることができます。

 

 わたし達の憧れの、記憶にあるおとーさんとおかーさんに。おねーちゃんとおにーちゃんに会うことができる。そう考えると、そわそわしてしまって日課の散歩も落ち着かなくなるくらいです。

 

 それと、これを知っている事は皆には内緒にしているのですが。わたし達のオリジナルであるなのはさんが、とっても参っているみたいなのです。

 

 だから、海鳴の実家に帰るのは、わたし達の希望もあるけれど。彼女の自宅療養も兼ねてるんだと思います。どんなに秘密にしていても心の繋がりを通して、とっても悩んでいるのが分かっちゃうの。その、こっちが一方的に感じちゃうといいますか、そんな感じで。

 

 だから、姉妹たちも、何となく察しているのか。そのことに対して、しーーってしながら何も言わないようにしています。なかなか会いに来れないのは、わたし達に対して負い目もあるんでしょうけど。最終決戦の後遺症も影響してるんだと思いますし。その後で、わたし達と心が繋がっちゃったから、とっても辛くて悲しかったと思うの。

 

 ゆりかごに突入して、幾重にも張り巡らされた防衛戦力と罠を突破して。玉座の間で娘のヴィヴィオと命を削りあうような戦いをして、四番さんを遠距離砲撃でぶち抜いて。星の光で大好きな娘を、聖王の宿命とゆりかごの呪縛から解放して。自力で脱出できないくらい消耗してしまって。

 

 そのあとに、わたし達のことがあって。

 

 うん、こうして考えてみると、とんでもない過密スケジュールといいますか。戦いに戦いの連続で、いつ倒れてもおかしくなかったといいますか。

 

 それでいて、わたしを抱き上げてくれた時に、泣きながら満面の笑顔を浮かべていてくれたのだから。とってもすごい精神力の持ち主だと思います。全部抱え込んで、心配かけないようにって。

 

 それが、なのはさんの良いところで、とっても悪いところでもあるのですが。

 

 だから、故郷の海鳴で自宅療養と一年間の強制休養なんだそうです。ヴィヴィオにママ、だいじょうぶ?って支えられて。お母さんだから頑張らないとって三日で立ち上がって。それからすぐに仕事に取り掛かっちゃうような人なので。はやてちゃんの怒りと心配の部隊長権限が発動してしまったそうな。

 

 だって、悩んでいるの隠しながら、疲れているのも誤魔化しながら、三日後に「やっほーー、お見舞いにきたよ」なんて病室に現れるものだから。そりゃあ、はやてちゃんも、フェイトちゃんも怒るのは無理ないと思います。

 

 ちょうどお見舞いに来ていたスバルさんも、「なのはさん。一週間は安静にしてって言われてませんでしたっけ……?」って引きつった笑みを浮かべてたのが、とっても印象に残ってるの。

 

 あの瞬間、姉妹たちの思いはひとつでした。

 

 お願いだから休んでいてほしい!!

 

 その後、末っ子さんとヴィヴィオが、「ママ、無理しちゃだめ……」「ねーちゃ、休もう?」って泣き出して、とっても大変だったのですが。まあ、長い話になるので割愛です。もう、大変だったとだけ。

 

「ああ、いたいた。元気そうな感じで安心したよ」

「あっ、はやてちゃん!」

 

 そんな風に考えながら歩いていたら、記憶にあるはやてちゃんよりも成長した。大人なはやてちゃんと出会いました。どうやらお見舞いに来てくれたみたいです。管理局の制服姿がとっても似合ってます。

 

「お仕事大丈夫?」

「とりあえずいち段落したから、休憩もかねてお見舞いに来たよ~。もうすぐ、フェイトちゃんと、なのはちゃんも来るから、良い子で待っててなぁ」

「うん。ありがとう、はやてちゃん」

 

 はやてちゃんは、わたしたち姉妹にも気さくに接してくれるお姉さんです。わたしにとっては幼い頃からの友達みたいな感じで、記憶にあるよりも大人な姿を除けば、気軽に相談できる相手でもあります。

 

 なんでかな?

 

 はやてちゃんなら何話しても受け入れてくれそうな包容力が、そうさせるのかな?

 

 そんな風に思っていると、わたしの目線に合わせて屈んだはやてちゃんにぎゅうって抱きしめられてしまいました。

 

 だから、わたしも思わずといった風に抱きしめ返してしまいます。

 

 なにか不安なことでもあった? 大丈夫って。

 

「……ごめんな。あの時助けてあげられなくて」

「もっと早く駆けつけてれば。わたしたちがゆりかごをちゃんと止められてれば……」

 

 それは、はやてちゃんの心に重く圧し掛かった後悔でした。

 

 でも、常に先手を打たれて後手後手の状況で、それでもスカさん達をあそこまで追いつめて。それで、街にも大した被害が出なかったのは、機動六課と地上本部を始めとする局員さんたちの奮闘があったからです。

 

 そこは素直に誇ってもいいと思うの。

 

 わたし達は、わたし達の想いに従って行動しただけなんだから。あの時、困っている人たちを放っておけなくて。ゆりかごを食い止めるために星の光を集めたのも、たくさんの人を守りたいってそう思っただけで。

 

 たぶん、同じ事が起きたら、何度だって同じ選択をすると思うから。

 

 そこに後悔とかはあんまりないの。ただ、ちょっとだけ辛くて、悲しくて、心残りがあっただけ。

 

 もしも、逃げ出したりしたら、きっと、もっと大きな後悔をしたと思うから。

 

 だから、姉妹みんなで力を合わせて立ち向かっただけなんだ。

 

「もう、そのことは言いっこなしって言ったよ? わたしも、姉妹たちも後悔なんてしてません」

「だから、悲しそうな顔をしないで? わたしも、姉妹たちもみんなが笑ってくれるのが一番嬉しいから」

「うん、ごめんなぁ……」

「もう、しょうがないなぁ。はやてちゃんは」

 

 わたしの事を抱きすくめて、泣き出してしまいそうなはやてちゃん。ちょっぴり大人な女性に見えるけど、まだまだ19歳の女の子なんだよね。もうすぐ大人になるとしても、まだ成人してもいない女の子なんだ。

 

 部隊長として、皆のことを背負っていかなきゃならない責任。天涯孤独の身になってしまって、だからこそ家族になってくれた守護騎士のみんなが大切で。その育んだ絆を守るために、管理局の局員さんになって。闇の書の罪滅ぼしの名目で、多くの人を救ってきた。

 

 もちろん、そこには誰かを助けたい。役に立ちたいっていう、はやてちゃんの想いもあったと思う。

 

 だけど、それでも苦難の度に傷ついて、転んだりしてる。

 

 悲しいことがあって。辛いことがあって。落ち込んだりしてる。

 

 たぶん、フェイトちゃんもそうだし。おっきな私もそう。

 

 それでも、前を向いて歩いて行けちゃう強い人たちだから。だから、何度でも立ち上がって、傷ついた心のキズを見て見ぬ振りをして。それでも誰かを助けようって頑張っちゃう優しい人たちだから。

 

 せめて、わたしの腕の中くらいは泣いてくれてもいいよって思うんだ。

 

「わたしの事は気にしなくていいよ? 辛くなったら我慢とかしなくていいから」

「少し休んだって、誰も怒らないよ」

「今はいっぱい泣いてくれてもいいから、ね?」

「だいじょうぶだから」

 

 そんなことを言ったら、はやてちゃんは、わたしの肩に顔を埋めて。身体を震わせてた。

 

 情けない大人だなんて言わないであげてほしいの。誰だって辛いときは泣きたくなると思う。どんなに我慢しても涙が出ちゃうこともあると思う。

 

 なのはお姉ちゃんも、フェイトちゃんも、はやてちゃんも、姉妹たちも、ヴィヴィオも。わたしの知ってる人たちは皆大切な人たちで。どこか放っておけないんだ。

 

 だけど、わたしはもう、何の役にも立たないから。せめて帰る場所だけでも守ってあげたい。疲れて帰ってきたみんなにおかえりって言って迎えてあげたい。温かいお風呂に入れてあげて、ごはん食べさせてあげて。お日様によ~く干しておいたお布団でゆっくり休めるように。

 

 そんな風に過ごすのが、わたしの夢、なのかな?

 

「……なんだか、キミにそうされると、妙な安心感を感じてしまうなぁ」

「えへへ、これでも皆のお姉さんですから」

「ありがとうな。だけど、私は責任ある大人で部隊長さんやから。あんまり弱いところなんて見せられへん」

「この事はお姉さんとの秘密にしといてくれると嬉しい。本当は年少組(子供たち)を守るのが年長者(大人)の役目なんやから」

「うん、でも、甘えたくなったら。いつでも甘えてくれていいんだよ?」

「あはは、皆がキミを守りたいって言うのもわかる気がするな」

「???」

「気にしなくてええよ? ただの独り言や」

 

 そんな感じで、はやてちゃんにリハビリに付き添われながらお話ししました。

 

 もう気付いているかもしれないけど、まだわたし達の名前を決めてません。

 

 ううん、何となく思いついてはいるんだけど。まだ、心の中では自分も『なのは』だって思ってたりします。だから、新しい名前に慣れそうにないというか。番号で呼ばれているのに慣れてしまったというか。

 

 ううう~~~。

 

 改名する人って、こんな感じなのでしょうか?

 

 何だか複雑な気持ちです。

 

 そんな感じで悩みつつも、はやてちゃんと色んな話をしました。

 

 帰り際にベッドの上に腰かけてた、はやてちゃんにぎゅううって抱きしめられて。思わず「はにゃ~~~~!!」ってなってしまったのは内緒です。こう、両手をわたわた動かして、鳥みたいに羽ばたいてしまったといいますか。慌てて変な動きをしてしまったといいますか。

 

 とにかく、不意打ちさんは卑怯なのです。

 

 えへへ~~って笑ってる姿が、どこかアザラシの赤ちゃんを思わせる笑顔だったって。思わず可愛くなってしまって、抱きしめちゃったんだとか。

 

 もう、そんなに笑ったりしてないですよ。

 

 えへへ~~~。

 

「また、時間を見つけたら会いに来るからな~~。今度は守護騎士のみんなも一緒や」

「リィンもみんなに会いたがってたから、そん時はよろしくしてあげてな?」

「うん! またねっ、はやてちゃん」

 

 そうして、仕事に戻っていったはやてちゃんを見送って。

 

 疲れた身体をベッドの上で休ませて、外でいっぱい遊んでいる妹たちを見守りながら。

 

「遊びに来たですよ~~」

「おはよ~~みんな元気にしてた? 遊びに来たよ」

「フルーツの盛り合わせ買ってきたから、あとで食べてね?」

「リィンちゃん、いらっしゃい。スバルちゃんに、ティアナちゃんもありがとう」

「スバスバに、ティアティアだ~~」

「スバスバに、ティアティアなの~~」

 

 それからも、多くの人がお見舞いに来てくれて、そんな優しい人たちに見守られながら、リハビリを何度も何度も頑張って。健康状態に問題がないか、検査もたくさん繰り返して。そうして頑張っていって。

 

「……だいじょうぶ?」

「うん、だいじょうぶだよ~~」

「ようやく皆と走ったり、遊んだりできるから」

「だから、大丈夫!」

「あんまり、無理しないでください」

「うん、心配してくれて、ありがとう」

 

 姉妹たちに心配されながらも、ようやくまともに歩けるようになって。

 

「なのなのなのなのなのなの!!」

「なのなの? なのなのなのなのなの!!」

 

「あれ大丈夫なの?」

「うん、自分らしさを考えるために口調から変えてみたいっていう試みらしいよ?」

「あと、ティアも口調がうつってる」

「えっ、うそぉ!?」

 

 みんなの名前を一生懸命考えて。お互いに名前を呼ぶ練習をして。

 

 そうして少しばかりの時が過ぎて行って。

 

「あのね。渡航許可とか、いろんな手続きが終わったから」

「ようやく、みんなで帰れるよ」

「ずっと行きたがってた海鳴の町に」

「だから、一緒に帰ろう?」

 

 そんなフェイトちゃんや、なのはさんの言葉を聞きながら。

 

 わたし達は、ついに念願だった海鳴の街に帰ることができるんだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 引率はなのはさんとフェイトちゃんがしてくれました。はやてちゃんは部隊長さんなので何かと忙しくて、自分が抜けると大変だから、その、一緒に行けなくて、ごめんなぁ……って謝っていました。

 

 なんだか、申し訳ない気持ちでいっぱいです。だから、ミッドチルダが落ち着いたら、姉妹みんなで八神家に遊びに行くという約束を交わしました。

 

 転送ポートを潜り抜けると、すぐに海鳴の街です。

 

 姉妹たちみんなと、まだ幼くてお母さんが必要なヴィヴィオと一緒に。あれほど来たかった故郷の街に訪れた私たち。

 

 そこから車で移動しながら、移り変わる風景を横目に。だけど、みんなで興味津々な様子で街の様子を見ていました。それに、何だか懐かしさを感じてしまって。だから、わたしは運転しているフェイトさんにお願いして、ある場所まで連れてきてもらって。

 

 そう、記憶にある海鳴臨海公園に寄ってもらって。

 

 姉妹たちも、ヴィヴィオも、六課の訓練所から見た海の景色とは違った風景に見とれています。

 

 海の音。肌を撫でる心地よい風の感触。どこか見覚えのある町。車と人が行き交う喧噪。何もかもが懐かしく感じる。

 

 そして、記憶にあるフェイトちゃんとお別れをした場所で。橋の上の海が見える場所で。わたしは手すりに駆け寄って、広大な海と青空を見渡したんだ。

 

 わたしの記憶にある。お気に入りの場所のひとつ。だけど、記憶の中にあるだけで、行ったことも見たこともないはずなのに。

 

 なんだか、胸の奥が締め付けられるような切なさを感じて。ああ、帰ってきたんだなって思ってしまって……

 

 たくさんの姉妹たちにも、この光景を見せられたらなって思ってしまって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたし、ダメな子だ……

 

 笑っていてねって。約束したのに………

 

 泣かないでって、どうか幸せになってねって。約束、したのに……

 

 なんでかな……?

 

 涙が、止まらないよ……

 

 そうして、甦るのは懐かしい思い出の記憶。

 

――あはは、なんだかいっぱい話したいことがあったのに。

――フェイトちゃんの顔見たらね。忘れちゃった。

 

――わたしは、そうだね。わたしもうまくことばにできない。

――だけどうれしかった。

――まっすぐむきあってくれて

――うん、友達になれたらいいなっておもったの。

 

――でも、今日は、もうこれからでかけちゃうんだよね。

 

――そうだね、少し長い旅になる。

 

――また、会えるんだよね。

 

――少し悲しいけど、やっとほんとの自分を始められるから。

 

――来てもらったのは返事をするため。

 

――えっ……?

 

 フェイトちゃんと、『わたし』が何度もぶつかり合って。そうしてようやく分かり合えて。

 だけど、ちょっとだけ悲しいお別れをすることになって。

 

――君が言ってくれた言葉。友達になりたいって

 

――うん……うん!

 

――わたしにできるなら。わたしでいいならって。

――だけど、わたし。どうしていいかわからない。

――だから、教えてほしいんだ。どうしたら友達(家族)になれるのか。

 

 だから、『わたし』は……

 

 わたし、あの時、何て言ったかな……?

 

 確か……

 

――かんたんだよ。

――友達になるの家族になるの。すごく簡単。

 

 

 

 

 

 

 

  なまえをよんで?

 

 

 

 

 

 

「ひっぐ、えっぐ……」

「なまえをよんでねって」

「いつか、ほんとの名前を呼び合おうねって」

「約束……」

「あなたとか、きみとかじゃなくて……」

「数字でも……番号でもなくて……」

「わたしたちの、ほんとのなまえ……」

 

 口にしたのは思い出の言葉。

 

「っ……」

「ごめん。ごめんね……」

 

 フェイトちゃんと、なのはお姉ちゃんに後ろからぎゅって抱きしめられて。それでも、涙が止まんなくて……

 

「ずっと、ずっとね……心の支えに、してたんだ……」

「家族や友達が、泣いていると、悲しいからって……」

「大好きな物語に、そう教わったから……」

「だから、ずっと笑ってた……みんなに笑っていて、欲しかったから……」

 

 高町『なのは』の、優しい家族との思い出だけが、わたしの心の支えで。

 みんなのために頑張らなきゃってずっと思ってて。

 そんな、わたしを姉妹みんなが一生懸命支えてくれてて。

 

「ほんとは……みんなと一緒に……見たかった……」

「こきょうの、海鳴に帰ろうって、やくそくしたときに、ね……」

「一緒に、海鳴りの、町を見ながら……手を繋いで帰ろうねって……」

「おうちに帰って、せめて、ひと目だけでも、いいから……」

「おとーさんと、おかーさんに、会おうねって……」

「困らせちゃうかもだけど……、せめて、優しい家族に会おうねって……」

 

 そう、やくそく、したのに……

 

 だけど……みんな…………

 

 もう……いなく、て……

 

 いなく……なっちゃっ、て……

 

 だから……わたし……

 

「ッ……うん……うん……」

「辛かったよね。悲しかったよね……」

「だけど、もう、我慢しなくていいんだよ……」

「無理して、笑ったりとか、しなくていいから……」

「泣きたいときは、たくさん泣いていいから……」

「だから、我慢しないで、ね?」

「いい子……だから」

 

 大好きな姉妹(お姉ちゃん)たち……

 

 『なのは』(わたし)は、もう『なのは』じゃなくって。

 

 これからは、新しい自分を始めていかなきゃだけど……

 

 だけど、今だけは……

 

 今だけは、みんなのために……

 

 泣いていいかな……?

 

 

 

 

 

「あああぁぁぁぁあああぁぁぁ!!」

「お姉ちゃん!! お姉ちゃん!!」

「うあああぁぁぁああん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、わたしはフェイトちゃんと、なのはお姉ちゃんに抱きしめられながら。泣いている二人に強く抱きしめられながら。

 

 一緒になって姉妹たちを想って泣いてくれるヴィヴィオと妹たちのそばで。

 

 あの日からずっと流さなかった。たくさんの涙を流して泣いた。

 

 ずっと、ずっと泣き止むまで。

 

 ずっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さようなら。

 

 大好きだよ。お姉ちゃん。

 

 どうか向こうの世界でも。

 

 元気でいてね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 なんだか、とっても緊張します。

 

 そんなことないと思うけど、いつかのプレシアさんみたいに、違うって受け入れられなかったらどうしようとか。

 

 最初の言葉は何にしようとか。そんなことばっかりで。

 

 なかなか、勇気が湧いてきません。

 

「ねーちゃだいじょうぶだよ?」

「怖いなら、いっしょに行こう?」

「わたしたちずっといっしょだから」

「「ねーー♪」」

 

 うぅぅ。まだまだ幼い姉妹たちに励まされてしまうなんて。

 

 お姉ちゃんとして情けない限り……

 

 ううぅぅ――

 

 そうして悩んでいるわたしの手を引いて。高町家の敷地に入る為の引き戸に一緒に手を掛けて。

 

 それを一気に開いて、ずっと言いたかったこの言葉を言うんだって。みんなで頷いて。

 

 だから、せーので引いて。

 

 ただいまって言うんだ。

 

「じゃあ、いくよ」

「せーの!!」

 

 そしたら記憶とあまり変わらない、おとーさんとおかーさんが。

 

 おかーさんがわたしの目線に合わせて屈みながら、とっても嬉しそうに両手を広げてくれて。

 

 おかえりって。会いたかったよって言ってくれて。

 

 だから、わたしは……

 

「おとーさん! おかーさん!」

「会いたかった!」

「ただいま!!」

「おかえり!!」

 

 おねーちゃんたち。

 見てるかな。

 

 わたし、やっと帰ってこれたよ。

 

 わたしたちの、帰りたかった場所に。

 

「それじゃあ桃子おかーさんに、あなたたちのお名前を教えてくれる?」

「うん!」

「わたしの――わたしたちのなまえはね?」

 

 今日この日。わたし達が『なのは』じゃなくて、それぞれの自分になった日。

 

 わたし達は、わたし達と姉妹たちの夢と願いを叶えるための人生の旅に出たんだ。

 

 それが、あの日生きてねって願ってくれた姉妹たちとの約束だから。

 

 だから……

 

 行ってきます! お姉ちゃん!!

 




これでこの物語はおしまいなの。
これからは皆で悩んだり、幸せになったりするお話が始まるけれど……

だけど、しばらくの間、お別れになっちゃう。

だから、わたし寂しくないように歌うね?

あの日、姉妹たちに歌ってあげた優しい歌を。
姉妹みんなが大好きで、わたしもずっと好きだった。

あの思い出の曲。

わたしがたくさんの勇気を貰った曲

~Little wish~lyrical step~♪


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あとがきという名のキャラ紹介&裏話+今後の予定とアンケート

いま、ぼちぼち続きを書いてるのですが、思ったよりも長くなりそうなので、しばらく間が空きます。そこで今後の予定と(約束だった)本格的なアンケート。

新キャラが10人以上増えるから、ちょっとした紹介付きです。

アンケートだけ興味がある人は、一番下までスクロールお願いします。


・高町なのは

 

 今回の事件のクローンの大元になった人。

 

 本来なら事件後、心に大きな傷を残しつつも、残された子供たちに癒され。新たな決意と共に立ち上がる予定だった。

 

 しかし、12番の妹が生き残り、『なのは』たちの歌を聞いたことで希望の未来に変わった。

 

 管理局を休職して一年後に復帰するのは変わらないが、不屈の心はより強くなり、子供たちの為に頑張ろうって決意に満ちている。いきなり大家族になったが、本人は末っ子だった事もあって、妹たちをヴィヴィオ共々大層可愛がっている。

 

 具体的にいうと桃子さんのなのはバージョン。

 

 それもあって家族関係はすごく良好。

 

 ミッドに帰ってきてからは、ヴィヴィオと一緒にフェイトと同棲しているが、高町家に負けないくらい賑やかな子供たちと一緒に暮らしている。

 

 

・フェイト・テスタロッサ・ハラオウン

 

 『なのは』のクローンたちがプロジェクトFによって生み出されたことで、それに気付いてあげられなかったことや、もっと早く駆け付ければと酷く後悔する。

 

 そして、事件後にクローン関係施設や違法研究者を徹底的に取り締まる修羅と化し、しばらくの間、仕事中は優しい笑顔を浮かべなくなった。

 

 そんな予定だった。

 

 しかし、姉妹たちの歌と、12番の『なのは』が生き残ったことで、残された子たちの精神面が安定。フェイトも怒りに駆られなくなった。違法研究の摘発に尽力したことに変わりはないが、穏やかさを失わず、心にも余裕が持てたらしい。

 

 事件後。とある子供たちを引き取り、文字通り三人のお母さんになる。

 同じ境遇の子供ということもあって、とっても子煩悩なお母さんに拍車が掛かった。

 

 某花の四姉妹の双子の姉いわく。でろでろに甘やかされるとのこと。

 エリオとキャロいわく、ものすごく甘えてくるし、甘やかされますと、苦笑い。

 

 余談だが、姉妹たちと故郷で休んでいるなのはを気遣って、事情を説明しなかったことで。帰ってきたなのはが、「フェイトちゃんに隠し子が~~!?」と勘違いする事件が起き。慌ててフェイトが弁明する羽目になったらしい。

 

 たぶん、クローンの姉妹たちと出会って、たくさん心を痛めながら。それでも家族の繋がりを通して、一番幸せになってる人。

 

 

・八神はやて

 

 事件後、物凄く苦労した人。主にクローンの姉妹の生き残りを保護して匿い。事件の事後処理と関連施設の摘発などなど。やることが山積みだったらしい。

 

 管理局本局の代表として地上本部のレジアスと最高評議会の繋がりをオーリスを通じて糾弾したように、レジアスの信奉者的なマスコミの人に闇の書事件の主として糾弾されるという。作者の意地の悪い展開に巻き込まれる予定だった人。

 

 そして八神家の末っ子がはやてを守るために、記者会見を利用して自分がはやてのクローンであると暴露。花の四姉妹勢揃いで、はやてを助けてって次元世界に叫んだら。海鳴に匿って静かに暮らしていた筈の、『なのは』のクローン達が駆けつけて……

 

 そんな、自分の娘として保護した子供が、記者会見と事件の注目自体をめちゃくちゃにする算段で庇われて、大人として歯痒い思いをしてしまった人になる予定だった。

 

 でも、『なのは』達の歌で未来が全部変わったので、闇の書糾弾事件もなくなった。(IFルートになった)

 

 予定通り花の四姉妹のひとりである自分のクローンを引き取って、八神家一同幸せに暮らしながら、管理局の仕事を頑張っている。

 それはもう、自分の娘が可愛くて可愛くて仕方がないらしい。

 

 

・高町家のクローンの姉妹たち。

名前の法則はひらがなみっつでも似合う名前。

 

 

・高町菖蒲 アイリスちゃん。

 

 高町八人姉妹の三女。(ヴィヴィオ含む)

 N12番の女の子。前世の記憶持ちで、なのはにとても憧れてた女の子。高町家みたいな優しい家族に憧れてる。その明るい笑顔で、どんなに辛くても、悲しくてもみんなを励まし続けた強い子。

 

 だけど、弱い自分や誰かを護れない自分のことが大っ嫌いだった。

 

 なのはのことが大好きで、なのはに自分のことが好きでいて欲しいって思ってた。

 だから、原作知識で自分のことが嫌いなんだっていう『なのは』の台詞に大変ショックを受けたらしい。

 それでも、やっぱりなのはが好きなあたり筋金入り。

 

 姉妹たちの歌声をきいてから、健康状態がむしろ良くなっている。

 寿命も問題なくなったのは、もしかしたら姉妹たちが命を分けてくれたからかもしれない。

 

 事件後はリハビリを続け、妹たちに笑顔で見守れながら退院。

 本人の希望もあって念願の高町家で暮らすことになり、桃子お母さんの、やあん、私の娘たちが可愛い可愛いの洗礼を受けたりした。

 

 勉強があまり得意じゃない。お店のラッピングは下手っぴで不器用。運動音痴とだめだめだめの三拍子だが、優しい家族に囲まれて本人はすごく幸せ。

 

 特になのはさんの、自分のことが嫌いだったり、自信がなくたって大丈夫。だって、元気でいてくれるのが一番だからっていう言葉と。悲しくなるたびに心の奥底で姉妹たちの、大好きだよ。大丈夫だよ。傍にいるよっていう優しい声が聞こえてきて、いつも支えられている。

 

 だから、本人もいつも笑顔で明るく笑っている。その笑顔でみんなを励ましてくれて、みんなが幸せな気持ちになる。

 

 将来の夢はぼんやりしているが、姉妹たちからは皆のお母さん扱いされている。

 

 実際、皆の帰りを待つのが好きで、おかえりって言って出迎えるのは自分の役目だと思っている。家を守って、みんなの帰りを待つ子。そして甘やかし上手である。なのはが甘やかされ、甘やかそうとしたフェイトが逆に膝枕され、はやては肩たたきやらマッサージやらのコンボで陥落。

 

 同じことをされた高町のおにーちゃんやおとーさんが耐えられるはずもなく、揃いも揃って「あああぁぁぁ~~~~~」ってなったらしい。

 

「大丈夫だよ。元気だして」

「えへへ、疲れてるお母さんに肩たたき」

「おにーちゃん。大丈夫?」

「おとーさん。大好き♪」

「おねーちゃん。修行お疲れ様。これ、スポーツドリンク」

「なのはおねーちゃん♪」

 

「忘れないよ。みんなのこと」

「大丈夫。みんな傍にいてくれる。心はいつもひとつだから。繋がってるから」

「だから、寂しくないよ……?」

 

「高町アイリスは今日も元気です!」

 

 

・高町刹那

 

 高町家の四女。

 N199番の女の子。戦闘特化型の最終調整個体で、一桁ナンバーたちの集大成。

 感情の変化があまりなく物静かだが、内面はとっても心豊か。ようするに感情表現が苦手。

 シュテルみたいな感じかもしれない。

 

 御神流の継承者のひとり。美由希の愛弟子。

 模擬戦しよっか、ならぬ、一緒に修行しよっかは姉妹たちのトラウマ。

 

 夢は強くなって姉妹たちを守りたい。

 アイリスが姉妹たちと一緒に消えるルートだと、この子があやめちゃんになる。

 

 

・高町奏

 

 高町家の五女 双子の姉のほう。

 N312番の女の子。12番の特殊レアスキル継承個体。

 歌を通して人の心を震わせる。人魚の歌声みたいな一種の感応能力を持っている。

 ただし、心の底から本気で歌わないと想いは伝わらない。

 

 アイリスの中にある数多の歌を思い出すことができる。

 だから、完全耳コピとかは一種の特技。この世界にない歌を再現するのが趣味。

 

 夢は歌姫になって姉妹たちの歌を伝えたい。

 アイリスが消えていた場合、彼女がアイリスの歌ってくれた音楽を世界中に届ける事になる。

 

 

・高町七海

 

 高町家の六女 双子の妹のほう。

 N412番の女の子。12番の特殊レアスキル継承個体。

 この子の場合は動物と心を通じ合わせることができる能力に変化している。

 

 夢は素敵なお嫁さんになること。

 

 基本的に双子の姉の奏にいつもべったりで、姉妹に甘々な子。それでいて末っ子たちの面倒見も欠かさない。

 料理が得意中の得意で、末っ子のくるみと一緒に家事を担当する。

 

 コーヒー派。

 

 

・高町くるみ

 

 高町家の七女 末っ子さん

 N500番の女の子。何の調整も受けていない子供。

 平和主義者。喧嘩しちゃだめぇの正統後継者。奏と七海の喧嘩をよく止める原作版なのはちゃんポジな子。

 

 夢は喫茶翠屋の二代目パティシエ。お姉ちゃんにシュークリームを食べさせてあげること。つまり、アイリスが消えるルートだと、姉妹たちにシュークリームをお供え物する予定だった。

 

 姉妹みんなで無事に成人を迎えて、初めてのお酒で姉妹たちがはにゃあ~~ってなって眠り扱けてる時に、幼い姉妹たちの幻を見る。そんな子たちにシュークリームを作ってあげて、食べさせてあげて。夢を叶えてくれてありがとうって一言を聞きながら眠ってしまう。

 

 そして、朝起きるとお供えしてあったシュークリームが消えてて。お皿の横に可愛らしい文字で、紙に夢を叶えてくれてありがとうって書いてあるのを見つける。

 

 そんなIFルートが、本来のエピローグのひとつだった。

 

 紅茶派。

 

 

 

・花の四姉妹

 

 プロジェクトNFH計画で生まれた人造魔導師の完成系。

 あるいはクローンの姉妹たちの集大成ともいえる。いわゆるコスト度外視のハイエンドモデル。

 

 この作品の元ネタの元ネタになったキャラ。

 

 劇場版なのはのトークにて管理局の広報の映画として作られたという話を聞いた作者が。

 じゃあ、役者は何処から来たんだ? プロジェクトFで秘密裏にクローンが作られたのでは? となって生まれてきた子達。

 そこに守りたい世界が加わったもんだがら、『なのは』さん達の物語が生まれた。

 

 

 名前の法則はもちろん花言葉から。

 

 

・プリムラ・テスタロッサ・ハラオウン フェイト役

 

 花言葉はプリムラ・マラコイデス 運命を開く 気取らない愛 素朴 青春のはじまりと悲しみ 青春の恋

 

 劇場版フェイトことFの妹のほう。執務官補佐。

 なので、ティアナが同じ顔の上司と部下という板挟みで悶々とする。

 

 愛称はプリム。

 

 もちろんテスタロッサ家のみんなも、高町家のクローンの姉妹も溺愛している。

 

 性格はちょっと大人しめのフェイトさん。だけど、なのはさん的な熱さも持ち合わせてる。いざというときはやれる子。

 

 テーマはスターライトブレイカーのリベンジだったりする。

 

 ポジションはウイングガード。

 

 

・フリージア・テスタロッサ・ハラオウン アリシア役

 

 花言葉はフリージア あどけなさ 無邪気

 

 劇場版アリシアことFの姉のほう。夢はデバイスマイスター。

 家族とクローン姉妹の為なら何でもするタイプ。

 

 この子がいると、ストライカーズにおける隊長たちのリミッターを何度でも外せる。そういうことが出来ちゃうくらいには頭がいい。先輩のシャーリーが手を焼くくらいには問題児。

 

 非常に甘え上手なので、そういう意味では七海ちゃんと相性が良い。というか親友同士。

 

 料理を数式と化学反応で語り、掃除・洗濯が某防人並みに壊滅的な子。服の上から白衣を着ちゃうタイプ。そうしないと落ち着かない。

 

 だから、家事が得意で、お世話好きで、甘やかしてくれるアイリスに嫁に来てほしいってよく口癖のように言う。

 

 週二で実家に帰ってきてはアイリスに甘やかされるぐうたらな姉。

 

 ポジションはウイングバック。

 

 

・ベル・テスタロッサ・高町・ハラオウン なのは役

 

 花言葉はベルフラワー 感謝 誠実

 

 劇場版なのはさんことN。姉妹たちの完成形。コンセプトは対エクリプスドライバー。

 

 消えていった姉妹たちと違って何もできなかった自分自身の境遇から、無力だった自分自身を嫌っている。その為、誰かを護れる為の力を欲している。

 

 みんなを護れるのなら死んでもいいという想いと、こんな自分でも死んでしまったら誰かが悲しむかもしれないというジレンマを抱えている。まんま劇場版のなのはさん。

 

 秘密裏にカレドヴルフ社の出資を受けていたこともあって、物理変換デバイスと相性が良いように調整されている。

 

 フォートレスなどの武装を使うと本人の能力を120パーセント以上は引き出せるとされていて、よく武装の試験やテスト。調整する仕事をしている。姉妹たちと繋がったことで原作の記憶をいくつか引き継いでおり、対エクリプスウイルスに備えてずっと自身を鍛えてきた。なのはも、フェイトもそのことを知っているが、無理しないようにプリムに見張ってもらっている。

 

 なのはさんにお話しされても、止まらない困った子。自身の命題を果たすまでは(家族が殺される可能性がある)引き下がるつもりなんてないそうで。

 

 なので、エクリプスウイルスを絶対(検閲されました)

 

 テーマ曲はもちろん、劇場版スターライトブレイカー。

 コンセプトは文字通り『最強』。

 

 ポジションはフロントアタッカー兼センターガード。

 

 

・八神シオン はやて役

 

 花言葉はシオン 忍耐 優美、繊細 愛の象徴 君を忘れない

 

 はやてのクローンとして生まれてきたHちゃん。

 

 夢は小説家や絵本作家になること。最近はすずかやはやてに自作した本を読んでもらっているらしい。

 

 また嘱託魔導師資格も持っているため、優れた回復魔法の使い手として、普段はシャマル先生と人助けをしていることも多い。

 

 八神家に引き取られて、家族に囲まれながら明るく楽しい静かな生活を送っている。

 はやての事を本当は母親のように慕っていて、ある出来事がきっかけでお母さんと呼ぶようになる。

 

 実は完全記憶能力の持ち主。あの時見た星の光を絶対に忘れないと誓っている。

 自分の生まれに対して思うところがある。それは何の力も持たずに生まれてきたからか。

 

 セイクリッドハートと同じ感じで、身振り手振りで感情と想いを表現する。

 こんな感じで。

 

「………」(プリムやベルと同じように、遺伝子提供者となった八神はやてが気になる様子)

「………」(優しい人だといいなって期待して、照れたようにうつむく姿)

 

 ポジションはフルバック。

 

 

 気になるあの人たち。

 

 

・レジアス・ゲイズ元中将

 

 事件後、責任を取って管理局を引退。

 犯罪とは何か。地上の平和とは何かを説き、数々の本を自費出版するようになった。

 その本を通して得た印税は、すべて同じ境遇の子供たちに寄付され、たびたび慰霊碑に黄色い花束を添えていた様子。

 

 引退しても周りが休むことを許さず、地上部隊の密かな後見人として犯罪に対する抑止力の構築や、平和を守るためにどうすべきかずっと考え続けた。全ては亡き親友との約束を守るために。

 

 闇の書の被害者である八神はやてを、犯罪者と罵ったことを謝罪。互いに手を取り合って地上と本局の橋渡しにも尽力する。本局は地上に増員を送る代わりに、地上は潜んでいる次元犯罪者やロストロギアの情報提供を行うという相互支援の関係を構築していった。

 

 そんなレジアス元中将の悲願は、ある少女が開発した。非魔導師でも使える小型魔力炉や魔力充填用カートリッジを搭載した汎用デバイスの普及で、ある程度叶えられるようになる。

 

 これによって非魔導師の一般市民でも防護魔法くらいは使えるようになり、特に災害時における死傷率はぐっと低下した。

 

 

・スカリエッティ。

 

 まるで、憑き物が落ちたみたいに穏やかに笑うようになった。

 相変わらず捜査には非協力的だが、あの日聞いた歌を監獄の中で口ずさむようになったらしい。

 それを見てウーノも穏やかに笑うようになったとか。

 

 姉妹たちの事だけなら協力的。それ以外は興味なし。紙とペンさえあれば研究に没頭していられる。実験ができないのは残念だがね。つまり、改心しても反省はしていない。スカリエッティだから仕方ないね。

 

 

・ドゥーエ。

 

 二番の人。捜査にはあまり協力的ではなかったが、何を思ったのか管理局更生プログラムを受け始めた。

 

 そして、そのまま聖王教会のシスターになり、恵まれない子供たちと一緒に歌ったり、孤児を助けたりする一生を送ったらしい。

 

 その能力ゆえに危険視されISを封じられていたが、本人は能力を使うことも、監視を振り切ることもなく穏やかに生活していた。また、管理局や聖王教会による潜入任務の依頼なども断り続け、本人は子供たちと一緒に静かに暮らすことを望んだ。

 

 同じナンバーズとは顔を合わせたりしたが、高町姉妹や花の四姉妹とはあまり顔を合せなかったらしい。

 ただ、ミッドチルダの姉妹たちの慰霊碑に黄色い花の束をちゃんと添えてはいた様子。

 

 

・クアットロ。

 

 四番の人。捜査にあまり協力的ではなかった。そしてあまり笑わなくなり、何か考え込むようになって、物凄く静かな人になった。某妹いわく、すごく大人しくなって、人を煽ったりしなくなった。なんか不気味っす。でも、クア姉元気なさそうで心配っす。とのこと。

 

 その後、管理局更生プログラムを希望して一時的に出所。ドゥーエと同じように能力を封じられ、厳しい監視の下で生活するようになった。

 

 やがて、医者を目指して、時にはドクターの助言を受けながら猛勉強。管理局所属の医者として、誰かを助ける仕事に就く。特に訳ありの子供や、難病の治療に尽力した。専門は遺伝子分野。後のエクリプスウイルスの治療に全力を尽くした(本人いわく子供が関わってたから助けただけで他意はないとのこと)。

 

 機動六課のメンバーや、ヴィヴィオ。そしてクローンの姉妹たちとは顔を合わせることはしなかった。仕事でシャマルと会話することはあっても、あまり親しくしようとしなかったし、気さくに話しかけられても静かに首を振るだけで、一定の距離を置き続けた。

 

 けれど、ドゥーエと一緒に教会の子供たちと穏やかに笑う姿があったことから、本人はそれなりに幸せだったのかもしれない。

 

 エクリプス事件のあと、本人の希望で再び次元留置所に戻り、医療分野の研究を続けながらドクターと一緒に生命とは何か?という命題について考える日々を送った。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

・今後の予定

 

 

高町家の後日談

・高町家の一日。朝起きて、喫茶翠屋に見学に行って、シュークリーム食べて、帰ってきてお風呂に入って、みんなで寝る話。

・高町家の四季物語。春夏秋冬の話。ほのぼの系

・御神流対決。美由希の愛弟子、刹那(199番)ちゃんvs恭也の娘、月村雫ちゃん。

・カラオケ対決? 商店街のアイドル? それとも世界的有名なあのソングスクールの歌姫? 高町奏ちゃん(312番)

・妹の恋(のろけ)話!? アイリス(12番)お姉ちゃんが聞く、高町七海ちゃん(412番)の恋の悩み!?

・喫茶翠屋二代目店主。末っ子(500番)くるみちゃんのパティシエ修行奮闘記。

・七海ちゃんドリーム。またの名を幻想世界。七海ちゃんの見た夢。プレシアさんとフェイトちゃんとアリシアの話。テーマはある話のオマージュ。番外編

・コーヒー紅茶戦争。お姉ちゃんはどっちの味方なの?

 

・士郎さん視点。アイリスちゃんのおとーさんと娘な話。

・桃子さんの視点。士郎さんとの出会いから現在まで。

 

・非常に難しいが書けたらやりたい。クイズでPON。ハイパー海鳴横断inアニメ、魔法少女リリカルなのは編+小話集(読者参加型アンケート式クイズ付き)

 

 

テスタロッサ家の後日談

・花の四姉妹出会い編。一緒に暮らす編。恩返し編。

・実家に帰ってきたフェイトちゃん、でれでれに甘やかす編。果たして高町姉妹はちゃんと御持て成しできるのか? 温泉旅行とか?

・花の四姉妹が劇場版の映画を撮る話。(連載系) 打倒スターライトブレイカー。

 

 

八神家の後日談

・花の四姉妹のシオンが八神家に迎えられる話。

・シグナム・ヴィータ・シャマル・ザフィーラと道場の子供たちと一緒に過ごす。

・そして、はやてが自分のクローンを実の娘として可愛がって、どれだけ愛してるのかっていっぱい伝えるお母さんな話。

・IFルート。アイリスが姉妹たちと一緒に消えた場合に起こる闇の書糾弾事件。それをシオンが助けようとする話。

・お母さんと同じように足が動かない。ひとりぼっちの生活をとおして思ったこと。劇場版Asの話。

 

 

マリアージュ事件

・花の四姉妹も事件解決のお手伝いです。

・遊びに来ていたアイリスお姉ちゃんがマリンガーデンの火災に巻き込まれた!?

・イクスヴェリアとの出会いと、お別れ。そして、優しい幻想世界の夢を見て。

 

 

vivid編

・最初の模擬戦に花の四姉妹も参加。新旧ストライカーズ対決。

・ミカヤさんと、ミウラちゃんに新手!? いったい何流の剣士なんだ。

・エレミアvs二代目エースオブエース。次元世界最強女子と空戦魔導師最強の愛弟子対決。

・エースオブエースvs二代目エースオブエース。

 

FORCE編

・フルアーマー二代目エースオブエースvsエクリプスドライバー

・またの名を、高町ベルさん無双編。モードアクセラレイター!!

・魔法少女の物語を否定させない。

・そして戦いの果てに出会う最強最悪の敵とは。

 

 



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