人形、斯くあれかし (Rione)
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プロローグ01

モチベーションが本格的にヤバ気になってきたのでここらでリハビリを少し。
まあ、なんてことはない連載作品。


──今、地下研究所は荒れていた。

異常事態を知らせる赤色灯が回り、サイレンが鳴り響き、バタバタという足音と武装した多数の人影が周囲を席巻する。

 

「至急至急! 実働で動ける奴等は迎撃に移れ!! 何を使おうが構うことはねぇ、なんとしても博士とデータだけは死守しろッ!!」

『ザザッ──こ、こちらホド03!! 敵の攻勢が激しい、これ以上の応戦は不可能だ! 早く助けて、ひっ、うわ──ザザザザザザザ!!?』

 

無線機越しに、銃声と断末魔の悲鳴が響く。

誰かが舌打ちと共に言った。

 

「チッ──マルクト、ホド、イェソド、ネツァクに通達! 上層の防衛線は放棄しろ!! ティファレト、ゲブラー、ケセドは中層の中央本部を基点として遅滞戦闘に入れ!!」

『マルクト01、了解です!』

『ほっ、ホド01了解です! 皆さん、逃げますよ──!』

『イェソド01、了解しました』

『ネツァク01了解! だが、逃げる前に置き土産くらいはブチかましとかないと気が済まないな!!』

『隊長さては酔ってますね!? あっ、この野郎戦闘中だってのにビール缶開けてやがる!? しかもそれっ、コーラップス弾頭じゃねぇかオイィ!!?』

『任せとけ鉄血がなんぼのモンじゃコラァ、これで上層施設ごといてもうたるわぁ!!!』

『訛ってる! よく分からない訛りが出てる!! 貴方そういう話し方する時ロクなことしないでしょうちょっと、やめっ、マジでやめろこのアホ!!?』

『ファイアー!!』

『撃ちやがったぁーっ!! 総員退避、退避ィ──ッ!!!』

 

──轟音。

施設が不気味に振動し、パラパラと天井から粉塵が舞い落ちる。

その時、バシュッという音を立ててドアが開き、その中から白衣を纏った不健康そうな青年が姿を現した。

彼はぼんやりとした瞳で天井を見上げながら、

 

「……どうやら、急いだほうがよさそうな訳デスね」

「無事だったか所長!」

「問題ありません。というか勝手に殺さないで欲しい訳デス」

「すまん! ここ一週間自室に引きこもったきり姿を見なかったからついにくたばったのかとばかり!」

「結構、正直なのは美徳デスよ。まあだからといって許すとは一言も言ってない訳デスが」

「熱っつ!?」

 

ぐいっ、と青年は自身へ向けて敬礼をした赤い麗人の口に熱々のコーヒーを流し込む。この男、いろいろと容赦がない。

 

「ゲホッゲホッ、ケセド01の味がする……!」

『ケセド01よりゲブラー01へ、それは俺に対する宣戦布告とみていいな?』

「うるせぇ自分の仕事しろ! どうせそっちは大量の負傷者でてんてこ舞いだろ!」

『それがそうでもないんだ、皆最低限の処置だけ済ませたら武器を持って持ち場に戻っていってしまうからな。やる気があるのはいいことだ』

「四六時中眠たげにしてるお前に言われるとすごい腹立たしいな」

 

目の前で繰り広げられるそんなやりとりを聞きながら、青年は手に持つマグカップの中にわずかに残ったコーヒーを啜った。

彼の名はエイル・アルゴナウタイ──鉄血工造所属のしがない研究員であり、IOPから送り込まれた産業スパイだ。

平時は冴えないヒラ社員としてあちこちの部署を転々として下働きをしながら、しかし裏では持ち前の頭脳を用いて鉄血のハイエンドや自律人形を片っ端から解析していく規格外の天才として活動している。

だが──

 

「……まさか人形が一斉に暴走するとは予想外、デス」

 

そう。

現在、鉄血工造によって製造された自律人形の全てが暴走状態にある。

彼は知り得なかったが、それはとある研究員の手によって作り上げられた最上級AIが原因だった──が、そんな事は今はどうでもいい。

それよりも問題なのは──彼の行ってきた利敵行為の全てが人形たちにバレ、おかげでこうして猛攻撃を受けている点だ。

救援を求めてはいるが、ジャミングか何かがされているようで反応は芳しくない。

 

「……それで、頼みの綱である彼女もソフト面が不十分で起動不可ときた」

 

チラリ、とエイルは自身の研究室の方へ視線をやる。

現在、あそこには試作型の戦術人形が未完成の状態で寝かされている。万一データを喪失してしまった場合に備え、鉄血のハイエンドや自律人形に用いられている技術をこれでもかと詰め込んだ最高傑作だ。万一が起きた場合、彼女の存在そのものが潜入捜査の結果として機能する。

……が、ハードウェアはなんとか完成したものの、肝心のソフトウェアはまっさらな状態だ。これではとても動かす事など出来はしない。

 

『クソッ、ティファレト05より緊急! 敵ハイエンドを多数確認! 最低でも案山子(タイプ・スケアクロウ)が4と破壊者(タイプ・デストロイヤー)が1!! どうやら奴さんらはよっぽど怒り心頭らしいぜ!!』

『こちらネツァク01ィ! どうやら助っ人がいるみたいだな!! ところで都合のいいことに俺の手元にコーラップス弾頭があと3つくらいある訳だが、どうだい一発キメてくか!?』

「ゲブラー01よりネツァク隊に通達! 中層に撤退し装備を整え次第、大至急ティファレト隊の援護に迎え! 空いた穴は我々で補う! それとネツァク01、何があってもその弾頭は絶対に使うなッッッ!!!!」

『チッ、ネツァク01了解!』

「それとネツァク01、テメェこの作戦が終わったら当分禁酒だからな覚えておけよ!!」

『そりゃないぜゲブラー01!!?』

『ティファレト05了解! オラお前らもう少しの辛抱だ!!』

 

そんな切羽詰まった通信を聞きながら、エイルはぼんやりとした瞳のままに呟いた。

 

「……さて、ワタシも準備をすべきですかね」

「……準備?」

「ご存知の通り、ワタシはIOPによって鉄血に送り込まれた斥候デス。であれば、何とかしてデータを向こうへ送り届ける義務と責任がワタシにはありマス」

「あー、だが、現状ジャミングがだな……」

「……別に、懇切丁寧にデータで送信する必要は何処にも無いデショウ? 何のために『彼女』を組み上げたと思っているのデスか」

 

麗人の問いに対して青年はつまらなさそうにそう答えた。

そして、自室のドアを開き、部屋の中央に鎮座する作業台の上に横たえられた一体の人形を示す。

 

「……現状、ソフトウェアを完成させられるだけの時間はどうひいき目に見てもありません。そんな時間を稼げるほどの兵力があれば、とっくの昔に相手を撃滅できてマスからね」

「……だったらどうすんだ?」

「ワタシが『彼女』になる、それだけデス」

「は?」

 

困惑するゲブラー01を他所に、エイルはそう言ってさっさと自室の中へと入っていった。

それを見送った赤の麗人──ゲブラー01は、

 

「……あのマッド野郎の性癖がいまいちわかんねぇが、とりあえず私も自分の事をやんねぇとな」

 

そうつぶやいた。

その時、彼の部下と思しきガスマスクと黒軍服で身を包んだ兵士が彼へ駆け寄り、敬礼した。

 

「隊長! 02以下ゲブラー隊、準備完了しました!」

「……そうか」

 

それを聞いて、彼女もまた覚悟を決めた。

ガスマスクを顔に嵌め、肩に下げていたアサルトライフル──バレットREC7を構える。

 

「──ゲブラー01よりゲブラー隊全員に通達ッ! これより我々は中層にて防衛戦の援護を行う!」

「了解!」

「了解!」

「了解!!」

「いいか、死んでもいいが最低でも20体敵を殺してから死ね!! 少なくとも気にくわねぇビナーの連中にだけは負けんなよ!! ノルマをこなすまではゾンビにしてでも死なせないようホクマー隊に伝えてある!! だから心配するな、存分に死ね!!」

「了解!」

「了解!!」

「了解!!!」

「──総員出撃ッ!!」

 

その声と共に、黒ずくめの兵士たちが一斉に動き出す。

 

──さあ、我々の戦争を始めよう。



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プロローグ02

サトハチ? なにそれおいしいの?


──状況は最悪だ。

こちらは地下での籠城戦で、弾薬も食料も限りがあるし増援も期待できない。それに対して、鉄血はこの研究所の地上部分から侵攻してきているためにそれらの心配は一切ない。

おまけに──

 

「アハハハハハッ!! ほらほらほらほら、もっと楽しませてよ!!」

 

高笑いと共に榴弾を乱射しまくるちびっ子ハイエンドが一人とファンネルを操るニュータイプハイエンドが四人、計五人の極悪セットで侵攻してきたと来たもんだ。それに加えて大小無数の自律人形までもが大勢でかかってくるのだからたまったものではない。

 

「クソがっ、あの爆弾娘どうにかならんのか!?」

「落ち着けティファレト06! ちっこさも話し方もお前のとこの隊長と大して変わってない!」

「……言われてみればそうだな」

「せいっ!」

 

愚痴る同僚を諭した男が、突然やってきた影に飛び蹴りを受けて後方へと吹っ飛んでいく。フェイドアウト間際に「ありがとうございます!」という声が聞こえてきたのは気のせいだと思いたい。

 

「全く、貴方達って私がいないと本当に何もできないのね」

「……君も僕がいないと割とおっちょこちょいだよね」

「うっ、うるさい!」

 

そうして姿を現したのは、金髪の少女と少年。少女の方はMP7を片手にあからさまに不機嫌そうな表情を浮かべており、対照的に少年はPTRS1941を両手で抱えておどおどとしていた。

そして、彼女たちの到着に沸き立ったのが、その指揮下にあるティファレト隊一同だ。

 

「隊長!」

「隊長!」

「隊長と副隊長が来た! この戦い俺達の勝利だ!」

「隊長と副隊長が同時出撃……来るぞネツァク04!」

「来ねぇよティファレト06。あと人のこと拘束すんな、援護が出来ないだろ」

「隙あらばコーラップス弾頭を持ち出そうとする行為は援護とは言わねぇよ! 黙って手に持ってるライフルでも撃ってろ!」

「えー」

「えーじゃねぇコノヤロウ!!」

「働けこの馬鹿ーっ!」

 

少女──ティファレト01が自律人形を銃撃しながら馬鹿どもを怒鳴りつける。その横で、少年──ティファレト02が「まあまあ」とティファレト01を宥めながらハイエンドめがけて14.5mm弾をお見舞いしていた。果たしてあんな華奢な体つきのどこに対戦車ライフルの反動を抑え込めるだけの膂力が秘められているのか、それはだれにも分からない。

だが、その攻撃には確かに効果があった。

 

「これは、しまっ──ッ!!?」

「えっ? わきゃあっ!!?」

 

轟音と共に銃弾がスケアクロウの額に突き刺さり、そのまま木っ端微塵に消し飛ばした。頭を喪った体は頭部を丸々破砕してなおなおありあまる衝撃によって強引に地面へねじ伏せられる彼女の指揮下にあったと思しきビットが制御を喪って落下していくその横で、突然の事態に驚いたデストロイヤーが足を滑らせてすっ転んでいた。

その様子を見ながら、少年はぼそりとこう呟く。

 

「……足を狙ったんですけどね……?」

「オイ誰か副隊長に別の銃渡せ!! このままじゃ今に味方撃っちまうぞあの人!!!?」

「副隊長! ここにマシンガンがありますのでこれ使ってください! 頼むから自分のAIM力に期待しないでください本当マジで!!」

「す、すいません……」

 

大急ぎでティファレト04が手に持っていたMG4を手渡し、代わりにPTRSを受け取った。

そして、彼は受け取った銃を立射の体勢で構え、発砲し──

 

「──ぐほうっ!!?」

 

──反動に耐えきれず、そのまま後ろに吹っ飛んでいった。ただし弾丸はしっかりと自律人形を何体かまとめてスクラップにした。

腰をしたたかに打ち付けて悶絶するティファレト04。

そこへ、福祉部門の所属であることを示す腕章を身に着けた男が駆け寄りながら文句を言う。

 

「隊長格じゃあるまいしそんな真似できるわけねぇだろカスが! 対戦車ライフル舐めてんのかこのカス!」

「いっつつ、カスカスうるせぇんだよクソ野郎……」

「うるせぇテメェなんざカスで十分だこのカス!」

 

そういって、名前も知らない誰かは走り去っていく。

しかし罵倒しながらも自身の本来の仕事である治療だけはしっかりしていくあたり、仕事には真摯な奴らしい──腰に貼られた湿布のひんやりとした感覚を覚えながら、ティファレト04はそう思った。

 

「ったく、まともに撃てねぇんだったらしょうがねぇな」

 

そう言って彼は立ち上がり、再びライフルを構える。

その構え方はおおよそ銃を構えるにおいて相応しい物ではなく、銃というよりも何か別の物を持った時のような構え方だった。いうなれば、それは、そう──

──槍兵の構え、か。

 

「──ふっ!!」

 

だんっ!! という音と共に、ティファレト04は勢いよく敵のド真ん中へと躍り出る。振りかぶった銃身で自律人形の頭をぶん殴り、そのまま叩き割る。

振り下ろした後隙へここぞとばかりに自律人形たちが襲い掛かる。

だが、

 

「──Too Easy!!」

 

ガオンッ!!! という轟音と共に銃口から14.5m弾が放たれた。

それは前方から襲い掛かってきた自律人形の身長を腰から半分にし、さらに莫大な反動によって銃が後方へと吹き飛ぶ。ティファレト06が自爆しないギリギリのラインを見極めて制御した対戦車火器本体による殴打は、後方から彼をこっそり襲おうと画策していた自律人形の顔面を見事に捉えた。

結果、その自律人形の頭部はあっけなく破壊され、たった一度の射撃で実に10体以上の自律人形がスクラップと成り果てる。

 

「……なかなか行けるな」

「おまっ、そういう武器じゃねぇからそれ!?」

 

背後からケセド04の悲鳴が聞こえる。

確かに銃の使用方法としてはあまりに危険かつ不適格ではあるが、しかし効率的なのは間違いない。一人の犠牲で大勢を足止めできるのならば安いものだ。

その時、彼の背後でスクラップに巻き込まれて倒れ込んでいた自律人形がゆっくりと起き上がろうとした。

そして、浮かれ気分で次の獲物を探しえていたティファレト04の背後から銃を構え──

 

「残念ね」

 

──ティファレト01のもつMP7によるフル掃射を受け、一発も撃つことなく今度こそ機能を停止した。

そして、マガジンに収まっていた最後の一発が、跳弾によってティファレト04のすぐ横をかすめていく。

 

「さて、お次はどいつだ──っとぉ!?」

「ごめんなさい、手が滑ったわ」

「いやわざとでしょう隊長!? 背後の敵を倒してくれたのには感謝しますけども!」

「背後の敵? 私のログには何もないわね」

「……ツンデレっすか隊長?」

「どうやら本当に死にたいみたいね」

「嘘ですすいません!」

 

チャキッ、とリロードの済んだ銃口を向けられ、ティファレト04は慌てて謝罪する。それに対して、ティファレト01は「ふんっ」とそっぽを向いてしまった。心なしかその方が赤くなっているのは気のせいだろうか。その様子を見ながら、ティファレト02は微笑みを浮かべている。

その時、ティファレト隊に所属する隊員の意見は一致した。

即ち、

 

(────可愛い)

 

間違いなくそんな場合ではないが、不覚にも空気が和んでしまう。

そこへ、扉が開いて赤軍服の集団が一気に押し寄せてきた。その先陣を切っているゲブラー01がREC7を片手に叫ぶ。

 

「ここがあの女のハウスだな!! ゲブラー隊突撃ィッ!!」

「どの女のハウスを想定してるかは知らないけれどここは中央本部よ! 薬は人に迷惑のかからない所でやって欲しいわゲブラー01!」

「馬鹿、ネタに決まっているだろうティファレト01。……で、敵は何処だ?」

「あっちだよ」

 

キョロキョロと辺りを見回すゲブラー01に対して、ティファレト02がある方向を指さす。

そこは中央本部の真上に位置する情報部門のメインルームにつながるエレベーターがある場所だ。

今なおしぶとく鉄血のハイエンドが攻めてくるエリアだが──その時、チーンとベルの音が鳴った。エレベーターが到着したようだ。

だが、上層にて応戦していた隊員の避難は既に完了しているはず。つまり、あの中に入っているのは……

 

「ハッ、ご丁寧に増援までよこしてきたか」

 

ぞろぞろと大量の自律人形たちが扉の開いたエレベーターの中から姿を現す。その中には、スケアクロウやエクスキューショナーといったハイエンドの姿も散見された。

それを見て、ゲブラー01は唇を笑みの形に歪める。

手に持った銃を突きつけて、

 

「丁度いい、最近は暇ばかりで腕が鈍ってたからな──悪いがウォーミングアップに付き合ってもらおうか! 総員戦闘開始!!!」

 

反応は迅速だった。

今まさに対戦車ライフル片手に敵陣に突っ込もうとしていたティファレト04が大慌てで退避し、空いた穴を埋めるようにゲブラー01ら、ゲブラー隊の中でも近接戦闘に特化した面々が突っ込んでいく。

そして、それを背後から襲わんとする人形を残ったメンバーが遠距離から銃撃していく。

その様子を見ていたネツァク04が、口笛を吹きながら言った。

 

「ヒュウ、流石は懲戒部門のバーサーカーどもだ。見ろよ、あっという間にガラクタの山が出来上がっていくぜ」

「言ってる場合かネツァク04。──来るぞ!」

 

ティファレト06が言うと同時、ゲブラー隊の攻撃目標から外れた人形たちが一斉に攻め込んできた。その数は、ちらほらと散見されるハイエンドを除いても軽く100を越すだろう。ここが研究所でも屈指の広さを持つ中央本部のメインルームでなければ絶対にどこかで詰まっていた。

物量に任せて一気呵成に攻め込んでくるそれらに応戦しながら、ティファレト06はこぼした。

 

「ったく、ホド隊とマルクト隊が無事であることを願うぜ……! あとケセド隊もな!」

 

──戦争は続く。



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プロローグ03

諸事情により人形の銃が変わることになりました。
やはり身体はマシンガンを求める……。


「全く、上は騒がしいデスね」

 

カタカタと猛スピードでキーボードを打鍵しながら、エイルはドカンバコンという轟音共に揺れる部屋の中でそう零した。

ともあれ、この騒音が続いているということはまだ多少なりとも猶予があるという証拠だろう。そうでなければ抵抗するだけの人員も居なくなっているため、こんな戦闘音が響く余地などないはずだ。

 

「……これでようやく三割と言ったところデスか」

 

彼の操作しているPCの画面には、何やらスクリプトのようなものがこれでもかとばかりに書き込まれていた。

これが、作業台の上に横たえられた戦術人形を起動するための最期のピースであり──そして、彼が彼女になるための手段でもある。

 

「……ペルシカリアに出来たんデス、ワタシに出来ない道理はないデショウ」

 

彼の脳裏に浮かんでいるのは、あの憎らしいクソ先輩が創り上げた一体の戦術人形。名前は確か、そう……M4A1と言ったか。

おおよそ人形らしからぬおどおどとした挙動と、言動の随所から垣間見える人間臭さ──あれで人形と言い張るのは無理があるだろう。無知蒙昧の一般研究員ならともかく、彼の目は誤魔化せなかった──彼女が『人間のメンタルを人形へと移植した存在』であることを。

自身の出生に違和感を覚えていない所から見るに、どうやら生前の記憶は削除もしくは凍結されているようだが……あの調子では、何かの拍子に断片的にでも記憶が復活しかねない。

そこが自身が越えるべき点であるとエイルは考えた。

 

「倫理? 道徳? どうせ自分が最初で最後の実験体になるのデス、知った事ではありませんね。彼女の中身がいかなる理由で人形に押し込められたのかは知りませんが──彼女が真実()()()()()()なのであれば、それはワタシにとって立派な『目標』デス」

 

そう洩らしながらも、キーボードを叩く速度は落ちるどころか上昇の一途をたどっている。

この調子で行けば、あと1時間もしないうちにソフトウェアも完成するだろう。そしてそれは、この体との別れの時が迫っているということも示している。

だが、彼は自身の生死に頓着しない。

この自分としての最期の仕事は、このデータをIOPまで送り届ける事。であれば、例えこの身がどうなろうと、それさえ為されれば問題ない。ほら、そっちの方で赤いテレビか手袋のような頭にヘッドホンをつけた少年も「その通りだ」とうなずいてくれて──

 

「──いや誰デス今の!?」

 

一瞬流しかけたが、なんか今とんでもないものが見えたぞ。

すわ鉄血の新型かと思ったが、しかしそこには誰もいなかった。つまるところ、今のはただの幻覚か。

エイルはタイピング速度を緩めることなく、肩を落としてため息をついた。

 

「……はあ……どうやら緊張のあまりおかしくなってきているようデスね……」

 

こんなコントをしている場合ではない。

今は一刻も早く、プログラムを完成させなければ。

 

■ ■ ■

 

「ブッ潰れて死に晒せオラァッ!!」

 

ゲブラー01が怒号と共に放った拳は双剣を持ったアサシンまがいの自律人形の頭を捉え、木っ端微塵に粉砕する。

その他、ゲブラー隊はおおよそ文明的とは言えない戦い方で敵自律人形を次々と鎮圧していた。ナイフ片手に突貫しているのはまだいい方で、中には掴んだ人形を次々と頭から地面に突き刺したり、隊長のようにステゴロ上等で殴りかかったり、挙句の果てには自律人形の足を掴んでジャイアントスイングしている変態までもがいた。

もはやまともに銃を撃っている隊員の方が少数派という惨状を見たティファレト01は頭を抱えて、

 

「野蛮だわ、残酷だわ、残忍だわ……。犬は飼い主に似るって言うけれど、隊員も隊長に似るのね……」

「あぁん!? それは私に対する嫌味かティファレト01! こっちだってやりたくてやってる訳じゃないんだよ!」

 

そう言って彼女が取り出すのは、バレルの前半分がすっぱりと切り落とされたREC7。先程のアサシン人形に切り落とされたのだ。もう少し反応が遅ければ銃だけでなく首も落とされていた。

 

「見ろこの有様を! 銃で受け止めるだなんて考えるんじゃなかったぞ!!」

「だったら避ければいいじゃない!」

「それが出来たら苦労してないんだよファック!」

 

仲間の残骸を乗り越えて襲い掛かってきた自律人形にヤクザキックを叩き込みながら、ゲブラー01が怒鳴る。

そんな銃を持つ敵の前で堂々と姿を見せてどうなのかと問いたくなる戦闘スタイルだが、不思議なことに彼女はこれまで一回も銃撃を受けていない。

というのも、先ほどから鉄血側も攻撃しようとはしているのだが、その度に人外めいた頻度で飛来する弾丸が銃やビット、果ては銃弾までもを叩き落としているのだ。正気の沙汰とは思えない。

 

「さっきからチマチマとウッゼェなぁこの野郎が!!! それでも男かテメェは!!?」

 

エクスキューショナーが憤怒の叫びをあげる。その横で、スナイパーの自律人形が弾丸によって正確に首を刎ねられ残骸となった。一体全体どんな法外な威力の銃弾をどんな法外な速度と精度で撃っているというのか。

──そして。

 

「残念、私は女なのです♪」

 

ささやくような声と共に、エクスキューショナーの額に風穴が開く。

そのまま崩れ落ちていくハイエンドの成れの果てを尻目に、先ほどまで人外じみた精度の狙撃で後方支援を行っていた下手人は無線機に顔を近づけて嬉しそうに言った。

 

「隊長! やりましたぁ隊長! これで5体目です! ハイエンド5体目! 褒賞はこの後ベッドの上でゆっくりいただきますからねぇ!」

『頭沸いてんのか!? 間違ってもお前なんかに私の貞操はやらんからなゲブラー05ゥ!!』

「いいじゃないですかぁどうせもうここで死ぬんですしぃ! 私死ぬ時くらいは欲望に素直になりたいですぅ!」

『お前いつも欲望に正直だろう! 知ってるんだからな自室にネツァク01連れ込もうとしてたの! 節操なしか!? アイツが本気で逃げてるのを見たのはあれが最初で最後だ!!』

「失敬な! あれはたまたま目についたから会合的なものに誘おうと思っただけであってけっしてふしだらなことをしようとはうへへへへ」

『いっそ清々しいほど語るに落ちてる!?』

「おっとつい本音と鼻血が」

『鼻血まで出してやがんのかよ! もうなんなんだお前!』

 

蕩けた表情で鼻から垂れてきた血を拭いながら、女──ゲブラー05は言う。

筋金入りのバイセクシャルである彼女にとっては、この研究所に所属する全ての人員が射程範囲内なのであった。どうひいき目に見ても初老ジジイなホクマー01も、一たび手を出せばペド野郎の誹りは免れないであろうロリショタなティファレト01&02も、果ては自身の雇用主であるところのエイルでさえも。

──彼女の愛情に、例外はない。

余談だが、この時最下層の自室でエイルは例えようのない悪寒を感じていた。

その直後。

 

『チッ、早速次が来やがっ──!!?』

 

無線機越しに聞こえていたゲブラー01の声が突然途切れる。

直後、ゲブラー05は自身の直感に従って、愛銃であるステアー HS.50を抱えて横っ飛びに跳ねた。

それと同時、真正面から恐ろしい速度で飛来した扉が壁に激突し、半ば以上めり込んだ状態で停止する。

 

「!? !? ……!!?」

 

あまりにも予想外の事態に、ゲブラー05の思考が半ば停止する。

そんな彼女の耳に、精神衛生上非常によろしくない情報が飛び込んできた。

 

『っ……おいおい、マジで本気ってことかよ……』

 

隊長の焦った声に、慌てて懐から単眼鏡を取り出し覗き込む。

レンズ越しの視界に入ってきたのは──

 

「わお……大捕り物じゃないですかやだぁ……」

 

長い髪をまとめてつくった二つの団子。

うっかりするとゲブラー05ですら虜にされてしまいそうなイケメンフェイス。

そして、漆黒のメイド服と──そのスカートから飛び出す、大小無数の銃火器の数々。

──そう、その姿は間違いなく。

 

「エージェント……!」

 

暴走状態にある鉄血工造の頂点に立つと目されている存在。

それが、直々に地下研究所へと足を踏み入れてきた。




もう2話くらいでプロローグは終わる……といいな。


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プロローグ04

ヴァルハラコラボが近いですね。
まあこの作品では今まさに勝利かヴァルハラかを選ばさせているわけですが(激うまギャグ)
とりあえずサトハチで爆死した分を取り返すべく委託を頑張りたいと思います。



「──!!」

 

ゴゴン、とひときわ大きく施設が振動する。

パラパラと降り注ぐ粉塵を頭から浴びながら、エイルは頭上を見上げた。

そして、片手でタイピングを続けたままもう片方の手を耳に当て、今まで切っていた無線機のスイッチを入れる。

 

『クソッ、至急至急!! ティファレト06より全体に通達!! エージェントだ、鉄血の元締めが出やがったぞ!!』

『お前それマジで言ってる!? だとしたら戦力足りねぇぞ!!』

『ビナー隊は何処で油売ってやがんだ! 上層でやりあってんのかと思ったらそうでもないっぽいし、中層下層でも見かけてない! まさか所外にいるんじゃないだろうな!?』

『はぁ!? ケテルは書類上にしか存在しない部署だしダアトが博士だけな今、ここの最高戦力はアイツらだぞ!?』

『クソッ、ゲブラー02がやられた!! 福祉部門に手の空いてる奴はいないか!?』

『こちらケセド06、そちらに急行する! 5分持たせてくれ!!』

『ほっ、ホクマー05より報告! ビナー01の自室に侵入したところ、「ちょっと呼ばれたので部下と一緒に出立する」といった旨の置手紙が……』

『隊長格が報連相しっかりしないでどうするんだクソァッッッ!!!!』

『落ち着きなさいゲブラー01! 気持ちは痛いほどよくわかるけど──わきゃぁっ!!? お、屋内で狙撃……!?』

『ティファレト03ダウン! ネツァク05がカバーに入ってる、余裕のある奴は手伝いに来てくれ!!』

『無茶言うなこっちだってギリギリなんだっつーの!! 畜生、コイツらエージェントが出張ってきたと単に動きが良くなりやがったぞ!?』

 

最早前線は阿鼻叫喚だ。鉄血工造の首魁がまさかの参戦、それによる動揺の隙を突かれて防衛線に食い込まれ始めた。

さらに間の悪いことに、どうやらビナー隊は事が起きる前にさっさと出立……出奔? あるいは脱走? していたらしい。……そういえば、少し前に用事がある的なことを言っていたような……。

 

「……まさか、外患誘致に走った訳じゃないデショウね……?」

 

最悪の想像が脳裏をよぎる。

万が一ビナー01、ないしビナー隊全員が鉄血工造によって送り込まれた斥候であった場合、状況がより悪い方向に傾きかねない。

とその時、状況をわきまえない暢気な声が聞こえてきた。

 

『ケセド01より提案、場所と時間は未定だけど後で絶対俺達で囲んでビナー01をフクロにしよう』

『今それどころじゃねぇだろこのタコ!! ゲブラー01賛成だクソァ!!』

『後で返事しますから! 今は集中してください!!』

『いやぁ、俺はちゃんと集中しているとも。今どきコーヒー豆は中々貴重でね、変に工程をしくじる訳にはいかないからね』

『暢気にコーヒー飲んでる場合かはっ倒すぞ!!?』

『ははは、それは困るな──おっと、こんなところにまで鉄血が』

『はぁ!? お前今どこにいるんだよ!!』

『福祉部門のメインルームだが? ハハッ、流石にただのハンドガンじゃ役不足みたいだな。トビーレミントンでも手元にあればよかったんだが』

『大至急エレベーターホール閉鎖しろティファレト01ィ!!!』

『分かってるけど今それどころじゃないのよ!!』

 

と、どうやら福祉部門の方にも鉄血が侵入してきたらしい。それでも特に焦った様子を見せない辺り、ケセド01は流石の胆力と言わざるを得ないが。

とはいえ、傷病者の治療などを一手に請け負っている福祉部門の柱が倒れるのは非常に宜しくない。

エイルは一度キーボードから手を放し、脇に置いてあったコンソールを引き寄せて別のシステムを起動しながら無線に告げた。

 

「ダアト01より全隊へ通達。エレベーターホールは管理者権限で閉鎖および機能停止させマス。こちらの事は考えず迎撃に集中してくだサイ」

『助かった所長! 礼と言っちゃあなんだが後でコーラップス弾頭をプレゼントするぜ!!』

「ネツァク01は一刻も早くその特級指定危険物を廃棄しなサイ。これは厳命デス」

『ンな殺生な!?』

「殺生も何もありまセン。貴方は自爆でこの研究所を吹き飛ばす気デスか? だとすれば禁酒令を出す必要も『よっしゃ廃棄すればいいんだな任せろ! これが終わったら全部解体するぜ!!』……分かればいいんデス」

 

通信切断。

エイルは手早くコンソールを操作し、エレベーターを含めた昇降機能の遮断にかかる。階段だけはどうしようもないが、エレベータを閉鎖するだけでもだいぶ違ってくるはずだ。

さて、次はここを開いてコードを入力して……よし。

 

「これでエレベーターは全て停止しマシタ。さて、続きに取り掛かるとしマスカ」

 

戦術人形にインストールするプログラムは7割がた完成している。

残るは最後の難関、自身の記憶と人格を移植する工程だ。特に記憶だけは何が何でもしくじる訳にはいかない──今までの努力が全て水の泡となってしまう。

 

「スクリプト404から502まで接続……確認。プロトコル『ヒューマニズム』正常動作……訂正、エラー確認。不確定因子は徹底的に排除しマショウ」

 

カタカタカタとキーボードを打鍵し続ける。完成はそう遠くないが、しかし時間もそう残されてはいない。

一刻も早くタスクを片付けなければ──そう思った矢先。

 

「──ッ!!?」

 

先ほどとはケタ違いの強さの轟音と振動がエイルを襲う。

そして、それを近くした次の瞬間には──彼の体は、()()()()()()()()()()()()壁に叩きつけられていた。

 

■ ■ ■

 

「クソッ、至急至急!! ティファレト06より全体に通達!! エージェントだ、鉄血の元締めが出やがったぞ!!」

 

余りにも予想外の事態に、ティファレト06が無線機に怒鳴りつける。それの返答も怒鳴り声で帰ってきた辺り、他部門も本当に余裕がなくなっているのだろう。

 

『お前それマジで言ってる!? だとしたら戦力足りねぇぞ!!』

『ビナー隊は何処で油売ってやがんだ! 上層でやりあってんのかと思ったらそうでもないっぽいし、中層下層でも見かけてない! まさか所外にいるんじゃないだろうな!?』

『はぁ!? ケテルは書類上にしか存在しない部署だしダアトが博士だけな今、ここの最高戦力はアイツらだぞ!?』

「クソッ、どうなってやがる……!」

 

ティファレト06が吐き捨てたその時、

 

「──はっ?」

 

いくつもの重なった銃声が耳朶を打つ。

隊員たちが見ている前で、弾丸の雨を食らったゲブラー02が困惑の声と共に口から深紅を吐き出しながら崩れ落ちた。

 

「なっ──ゲブラー02ィッ!!?」

『クソッ、ゲブラー02がやられた!! 福祉部門に手の空いてる奴はいないか!?』

『こちらケセド06、そちらに急行する! 5分持たせてくれ!!』

 

 

大慌てで他の隊員がカバーに入り、その隙を突いて彼を回収する。

パッと見た限りではかなりの重症──だが幸いなことに福祉部門で動ける人員がいたため、この場さえしのげばどうにかなりそうだ。

──だが、悪い知らせというのは得てして重なっていくものと相場が決まっている。

どうにかなりそうかと思った矢先に、下層エリアで仕事にかかっているはずのホクマー隊から悲鳴が届いた。

 

『ほっ、ホクマー05より報告! ビナー01の自室に強硬侵入したところ、「ちょっと急用が出来たから行ってくる、何かあったら任せた」といった旨の置手紙が……』

「はぁ!!?」

『隊長格が報連相しっかりしないでどうするんだクソァッッッ!!!!』

 

ゲブラー01、魂の咆哮。

元より反りが合わずに実力行使に関する徹底さだけを認めていた相手が、こともあろうにその職務を放棄して出奔したのだ。その怒りは計り知れない。

 

「落ち着きなさいゲブラー01! 気持ちは痛いほどよくわかるけど──!?」

「副隊長危なっ、ぐ──!!?」

「うわっ!!? お、屋内で狙撃……!?」

 

ドンッ! とティファレト06がマシンガンを依託射撃していたティファレト02の体を突き飛ばす。

その直後、鉄血の自律人形たちの頭上を通り越して(うち何体かには頭頂部に直線に被害を与えて)飛来した大口径の弾丸が、ティファレト06の左足を吹き飛ばした。もしも彼が咄嗟に対応していなければ、ティファレト02は()()()()()()()()()()()確実にこの世から退場していただろう。

 

「くそっ、ティファレト02を庇ってティファレト03がダウンしやがった! ネツァク05がカバーに入る、余裕のある奴は手伝いに来いマジで!!」

『無茶言うなこっちだってギリギリなんだっつーの!! クソが、コイツらエージェントが出張ってきた途端に動きが良くなりやがったぞ!?』

「マジでか!?」

『ああ、多分だが──なっ、しまっ──!!?』

「何が──!!?」

 

聞き返した瞬間、無線機越しに爆音が響く。

それと同時、凄まじい衝撃と閃光がティファレト06を含めた中央本部にいる隊員たちを襲った。

そのあまりの強さに、彼の体は容易く吹き飛ばされ──

 

──そこで、意識はぷっつりと途絶えた。







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