ベル・クラネルの兄が怪人なのは間違っているだろうか (ウサギ兄さん)
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地下の兄と地上の弟

 モンスター。人に害なし人を殺し人を喰らい人を殺す人類の天敵。人とは決して解りあえぬ、なれ合えぬ異形の者共。の、筈なのだが───

 

「あっはは!酒が足らんぞ、もっと持ってこい!」

「おう!今日こそ酔潰してやらぁ!」

「やってシまいなサイ、リド!酔潰しテ、私が介抱シまス」

「ア、ズルイワタシモ!」

 

 ここにモンスターと肩を組み酒を飲み、モンスターの雌達に熱い視線を向けられる例外がいる。彼の名はアルク・クラネル。8年ほど前ダンジョン都市オラリオに現れロキ・ファミリアの追い返そうとしてきた門番を半殺し(骨を半分折る)にして実力を認めさせ(監視の意味も含めて)入団を許可された冒険者。27階層の悪夢と呼ばれる事件で一人モンスターの群れに立ちはだかり、その後姿を消して死亡説も浮上している人物である。いや、もはや人ではないのだが………。

 かといって、怪人とも異なる。何せ彼は本来怪人が従うべき声の主を殺して喰ったのだから。正確には、その一部を顕現させ殺して魔石を喰った。以来『彼女』が彼に怯え繋がりを断ったのだ。

 

「しっかしあれだな。ダンジョン、なーんもする事ねぇなぁ。あ、魔石喰う?」

「お前さんが教えてくれたゲームは愉しいけどな。今度は負けねぇぞ!」

 

 そういってトカゲと人間を足して二で割ったような奴、リドは皮袋からチェス版を取り出す。それに対してよしきた!と駒を並べるアルク。周りのモンスター達は賭を行う。どちらが勝つか、だ。殆どがアルクに賭け大穴で数名がトカゲ人間………リザードマンのリドにかける。

 

「オレっちが負けたらミルーツをやる!」

「なら、俺が負けたらラーニェを抱いた時の感想を──」

「するな阿呆!」

「あいた!?」

 

 石が飛んできた。いてて、と頭を撫でるアルクは仕方ないか、とため息を吐く。

 

「なら俺の筆下ろしの相手であるイシュタルの抱き具合について教えてやろう」

「いや、いらねぇ」

「あ、そう?だよな、俺もいらんはあんな口だけの即オチ女の感想なんて。じゃあ仕方ない!俺の!自慢の!弟の!ベルの話をしようじゃねぇか!」

 

 モンスター達は逃げ出した。下手をすれば丸一日弟自慢を聞かせられるからだ。しかし逃げられない。彼が定期的に狩ってくる階層主の魔石を喰い最低でもレベル4に匹敵する彼らが束になっても彼より弱いからだ。当然、早さも足りない。あっという間に出口が陣取られる。

 

「さて聞くがいい。『俺と弟』13歳の時(第13節)『旅立ちの年』254日目(254章)、『出立前日』当時6歳のベル。当時甘え盛りだったベルはその日も俺と共に布団で寝た。側にいてほしい、そんな無意識な願いからか小さな手は俺の服を掴み、すがりついてくる。一ヶ月ほど前から毎日のこととはいえやはり子犬のように可愛らしく俺は頭を撫でてやった。兄さん、そんな小さな呟き、起きている間いくらでも聞けるその言葉も暫く聞けなくなるのだと思うと悲しくもあり、しかし俺に頼りすぎる弟が兄離れをする時が来たのだと────」

「もう何回も聞かされたわ!お前の弟に関する情報なら一言一句間違えずに覚えてるわ!」

「テいうか毎回細かイとこロ間違えタリするのに弟自慢だケ一文字も間違えないッテどういうことデスか!?」

 

 

 

 

「ヘクシッ───あ、す、すません!」

「お気になさらず。しかし───本当だったのですね」

「うむ、奴の妄想ではなかったのか」

「あ、あの………?」

 

 端整な顔立ちのエルフ二人に見つめられ頬を染める初な少年。()から何度も───そう、何度も聞かされた弟のイメージとぴったりだ。彼の普段の行動と弟が余りに違いすぎるからいっそ妄想の類ではないかと思っていたほど彼と違いすぎる性格だったのだが、本当にこんな感じなのか。

 

「あそこがギルドです。行き先が決まらなければ、是非我らアストレア・ファミリアへ」

()の弟だからな。期待しているぞ」

「あ、そ、そうだ!そう言えば、兄さんは?」

「────現在行方不明です」

「まあ、奴のことだ、ひょっこり姿を現しそうではあるがな」

 

 行方不明?と首を傾げる。ダンジョンに潜り行方不明とは、実質死亡宣告と変わらない。しかし彼女たちの顔に悲痛さはない。ベルは兄の記憶を掘り起こす。

 熊が森にでたと聞けば翌日熊に乗り森から出てきて熊を村の護衛にして、モンスターが出たと聞けば包丁もって飛び出し玉子焼をもって帰ってきて、盗賊が山に住み着いたと聞けばお宝を持って帰ってくる。嵐の日、濁流に流されたと思ったら一ヶ月後にアマゾネスってすげぇな、流石の俺も全員相手は骨が折れたと笑う。

 後、嘘か真か隻眼の黒龍の背中に乗って夜空を飛んでいる光景を見たという噂もあったっけ。

 

「あはは──確かに兄さんなら、例えダンジョンで迷子になっても普通に返ってきそうですね」

「全くだ。ああ、それとファミリアだが───ロキ・ファミリアはやめておけ」

「へ?でも、そこは兄さんの──」

「彼らに、余計な傷を与える。奴は、飄々として掴み所がなくファミリアで共有すべきドロップアイテムを倍採ってきたから良いじゃんと勝手に売り払いその金で娼館に赴くし、敵対ファミリアであるフレイヤ・ファミリアの主神と寝るし、月一で女関係で騒ぎを起こすし、私とリューとリヴェリア様のデートがトリプルブッキングしても詫び一つ入れずそのままアウラも誘うどうしようもないゴミクズだが、好かれていた」

「好かれていたんですか」

「好かれていたんだ。私もな───いや、本当何であんな最低なゴミに惚れたんだろう私達」

「まあ、そういうわけで──彼が居なくなってから、彼処は暫く落ち込んでいました。そんな中、彼の弟が現れれば彼を守れなかった、と後悔するでしょうから」

「───全く、奴めどこで何をしているのか……」

 

 

 

 

「───時刻は昼前。木刀による鍛錬を終えたベルは俺と同じ白い髪を汗で濡らし、白い肌を桃色に染め息を荒くして訪ねる。どうだった?と。ああ良かった、強くなってきている。そういうととても嬉しそうに笑うんだ。まるで地上に太陽が現れたかのように………目が潰れるかと思ったね。いや、目が潰れたらベルが見れないから潰れても気合いで直すが。そして切り上げ昼餉だ。その日のメニューは爺ちゃん特性の────」




アルク・クラネル
ドが付くブラコン。が、彼女を作るなど許さんという性格ではなく弟が選んだ相手なら誰とでも、何人とでも付き合わせる。悪人なら矯正するし理由があるなら理由を立つ。
白髪赤目から、おそらく血が繋がっていると思われる。ベルがかわいい系美少年ならアルクは美しい系美青年。ただし中身はだいぶあれである。
祖父に似て女性が大好き。生存能力が異様に高く、濁流に飲まれて海に流されても島にたどり着く強運を持ち、アマゾネスの島に漂流しても搾り取りれる事はない。祖父の正体を知っており恩恵を受けていた。オラリオ到着時点でレベル3。モンスターも動物と変わらぬ存在として見ており、懐くなら殺さないし言葉を発するなら人としてみる。
現在食べちゃいたいほど惚れ込んだ女に会うためにダンジョンに籠もるも繋がりが絶たれたため下にいることしか解らないらしい。


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