オレの名は、ミカルガ・ボティス。ありきたりな転生者だ。
先代アムドゥシアス家当主の長男だが、長女が現当主である為立場的には気楽……とは言えない。
第二夫人である母がボティス家の血筋で、オレはアムドゥシアスの特性である音の魔力を持たずボティスの特性である蛇になる力を持って生まれた為、衰退しているボティス家当主という肩書きがある。
アムドゥシアス家が持つ土地の広さは人間界で言えばカナダの西にあるアメリカよりも少しくらい大きいと言えば何となく判るだろう。ボティス家の土地も合わさっているからとも言える。
ボティス家ではその広大な土地の開発、管理の一部を受け持っている。
アムドゥシアス・ボティス領は冥界の中でも自然豊かである。その自然の活用法として人間界で住めなくなった若しくは他勢力内で居づらくなった幻獣、魔獣、妖精、精霊、妖魔等と契約して住まわせて、対価としてその者らが作った品物を特産品として売っている。
アムドゥシアス家とボティス家は快適な土地の開発、管理、安全を遵守している。
希少生物の保護区みたいになっている為か密猟や使い魔にしようとする阿呆が度々出てくるので、ボッコボコにして
本来なら力のないガキが出来る事ではないがオレには力だけはかなりある。
悪魔勢力を一方的に蹂躙できる程のものだ。
『
それがオレの力。オレの魂と同化した文字通り一心同体の存在。
神話が存在するこの世界でも数える程しかいない神龍の一体──信仰され神気を持つ龍は
ケツァルコアトルはテスカトリポカとの一騎討ちの戦いで負けて死んでしまったようだ。両者の力は拮抗していたが、テスカトリポカは騙し討ちという知恵でケツァルコアトルを上回った。
負けたケツァルコアトルは勝ったテスカトリポカを「知恵を使いよくぞ我を打ち負かした」と讃えている。力が拮抗した戦いは相手よりも巧い戦いをした方が勝者であるべきらしい。
ボティス領にあるオレの館の執務室で書類を捌いている。普段は事務仕事が出来る眷属と雇った悪魔と一緒にやっているのだが今日はオレ以外は有給をとっている。
ボティス家当主になると決めたときから覚悟の上だが延々とサインしているのは辛い。
時計の針が十時を過ぎたのを確認してから休憩していた時、執務室の扉がノックされた。
「ミカルガさま、フェニックス家からお手紙が来ました」
「ああ、入ってくれ」
「失礼します」
部屋に入ってきたのは腰まで届く銀髪を三つ編みにした美女。
彼女はオレの眷属の女王である元
魔方陣で喚び出されたと思ったらいきなり脅されたのが馴れ初めだ。
ティルフィから手紙を受け取り内容を確認する。
「ああ、婚姻パーティーの招待か」
「ライザー・フェニックスさまとリアス・グレモリーさまの、ですね」
「そのようで……。女王であるティルフィはオレの付き添い確定。他の眷属は通常通り仕事だな。ティルフィ、皆にそう伝えておいてくれ」
「了解です」
招待状をヒラヒラさせながら原作が開始していることを再認識した。
ほんの少し前にグレモリーが赤龍帝を眷属にしたという話が出たときに知ってはいたが。
頭が痛い話だ。
兵藤一誠が活躍すると必ずドラゴンが嫌な目に遭う事が確約される。
被害
もし、オレにも不名誉な渾名を付けたりしたら名誉毀損で訴えてやる。もしくは嫌がらせに冥界に太陽を創ったり、アステカ神話等に亡命してやる。
「旦那!助けて!?またタンニーンさんからドラゴンたちの運動不足解消に付き合ってくれって連絡が?!」
「センイツ、ノックして返事が返ってきたら開けなさいって何回言わせるつもりですか?」
「すんっませんでしたぁ姐さん!?」
ティルフィの手に意識の合間をついて握られていたサーベルをいきなり入ってきた少年──我妻閃逸に向け、閃逸はものすごく速い土下座をする。オレでなければ見逃しちゃうな。
我妻閃逸はオレと同じ転生者だ。名前から察することが出来るように『鬼滅の刃』の我妻善逸に憧れ、転生の際に雷の呼吸の型全てを使え壱の型を極められる才能と『鬼滅の刃』以外の世界に転生を特典にしてもらったとのこと。
雷の呼吸の修行中に善逸の様に雷に撃たれ、黒髪から金髪に雷染めして死にかけたところを眷属探しをしていたオレが持っていたフェニックスの涙で治してやり、色々と話をしていたら眷属にして欲しいと頭を下げたので変異した騎士の駒で眷属にした。
「タンニーン殿はお前だけを指定した訳じゃないだろ?他の奴も巻き混んで修行してきなよ」
「ちょっと待って!行くのは確定なの!?
「そう言いながらセンイツは毎回無傷じゃないですか。私よりも優れた聴覚と音を置き去りにするほど速い抜刀術を使いながら何故そこまでビビりなんですか?不思議すぎます。普通はもっと強くなれるぞっと笑う所でしょう?」
「イィーーヤァーーー!戦闘狂と一緒にしないで!?姐さんが嘘言ってないの!分かるからね!」
茶を飲みながらその光景を見ていると首の所から一匹の色鮮やかな蛇が出てきた。
『タンニーンは龍の中でも常識的で弁えている。嫌なら嫌と言えば奴も無理強いはしないだろう。奴の倅の件が有るが故な』
首から出てきた蛇ケツァルコアトルが言うタンニーンの倅の名前はボーヴァ。現在はオレの眷属である戦車の舎弟と言う名の使い魔となっている。
「アアー!何で俺旦那の所の眷属になっちゃったんだろー!?戦闘狂ばっかりの此処にー!」
「上級悪魔になれば結婚できるとか言ってなかったか?」
閃逸を入れた眷属四人以外は上昇志向バリバリな戦闘狂である。よく訓練と称して闘いに巻き込まれる。
「それと旦那は色んな勢力にケンカ売るしさぁー!」
閃逸の言葉を聞いて恐らくケンカ売ったであろう数を数える。北欧、
「ちょっとぉー!指曲げて数えないでよー!……えっ?四?覚えているだけでも四勢力にケンカ売ったの?……マジで?」
「まあ、それはそれは。楽しそうですね。私の剣と張り合える剣士がいると良いのですが……ちょっと剣を磨いてきますね」
「いや、姐さんと張り合える奴って……世界壊れない?」
閃逸の呟きが部屋に染み込んでいった。
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