異世界はスマートフォンとともに。if (咲野 皐月)
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1st season:冒険の始まり、そして新発見。
第1章:転生、そして出会い


【長崎:とある高校】

 

「だからさ、ここはこうやって……」

 

「わかった」

 

 

そう言って放課後の教室に残っているのは、盛谷(もりや) 颯樹(さつき)である。彼は今【珠算・電卓実務検定】の問題集を解いていたのだ。それを学友に教鞭を図りながら、着々と問題を解いて行くのだった。

 

そして日が傾きかけてきた頃……。

 

 

「ここで終わりにしよう。これ以上詰め込んでやるのは、あまり効率が良くないから」

 

「そうだね。ありがと、教えてくれて」

 

「大丈夫。気をつけてな」

 

 

その言葉を最後に、颯樹の学友はそそくさと準備していた鞄を持って下校する。そしてそれを見た颯樹も準備を始め、学校から下校したのは午後6時になろうかと言う時間だった。

 

そして少し進んだ後……。

 

 

「あれ?……雨?」

(可笑しいな、今日は雨は降らないって予報だったのに。走って帰るか)

 

 

そう言って颯樹は走り始めた。その間にも雨は次第に強さを増し、雷まで鳴り出す始末となってしまった。

 

そして家の近くの横断歩道まで走って来たが、そこで不運にも颯樹を待っていたのは!

 

 

ゴロゴロゴロ……ピシャァァァァ!!!

 

「ぐぅぁぁぁぁ……!」

 

 

突如として落とされた雷の直撃を受け、颯樹は自身の意識を手放して行った。……その後の事はと言うと、子の帰宅の遅延を心配した母が様子を見に訪れたが、そこにはもう「手遅れ」としか言い様の無い光景だった。

 

──────────────────────

 

次に颯樹が目を覚ましたのは、今まで見た事も無い場所であった。

 

 

「ん……ここって。何処だ?」

 

「おお、気が付いたか」

 

 

颯樹が目を覚ましたのと同時に、部屋の中央から声が聞こえた。そこに座っていたのは、白髪に白い髭をこれでもかと生やしている老爺と思しき人だった。

 

さらに辺りを見渡すと、古き日本の家庭で良く見る卓袱台を始めとし、箪笥やテレビに畳などの簡素な家具が置かれていた。

 

 

「あの……ここは?」

 

「あー、お前さんには申し訳ない事をした」

 

「どう言う意味です?」

 

「実はな?お前さんが死んだ時に落ちた雷なんじゃが……」

 

 

その老爺と思しき人は、颯樹にありのままを説明し始める。颯樹は死んだ時の記憶があったので、それを頼りに何とか状況を整理できていた。

 

そしてひとつ息を吐くと、老爺と思しき人(次からは神様と表記)に自分の思いを告げる。

 

 

「状況は理解できました。特に気にしてませんよ。寧ろ、ここでワーワー喚いた所で何も変わらないので」

 

「ホゥ……よく人間が出来とるのぉ〜」

 

「ありがとうございます」

(本当は学校の先生や母さんに鍛えられたからだけどね、これって)

 

「突然ですまんが、今からお前さんには生き返ってもらうからの」

 

「良いですよ」

 

 

神様から告げられた言葉に、了解の意思を示した颯樹。普段の生活では聞かない「生き返ってもらう」という言葉に半信半疑の思いを持っていたのだが、それも有り得るよなという思いを持っていた。

 

その顔を見た神様は、驚きを隠せない様な事を颯樹へと伝える。

 

 

「ええ?良いのか?」

 

「はい、死んでしまったのは紛れも無い事実。ですので、次なる人生を確り自分の手で切り拓くだけです」

 

「……ふぅ。死んでしまった原因は儂じゃからな。何か罪滅ぼしをさせてくれんか」

 

「え?」

 

 

神様から持ち掛けられた提案に、颯樹は少し考え込んでしまう。……そして少し考えた後に、颯樹は神様にこう頼んだのだった。

 

その時に颯樹は、学生服のポケットの中に入っていたある物を取り出した。それは颯樹の元いた世界では連絡端末として重宝されている「スマートフォン」であった。

 

 

「これを使える様にしてくれませんか?……もし無理なら『無理』と言ってくれて良いのですが…」

 

「それをか?……出来ん事もないが、一つだけ条件があってな?」

 

「事情は分かってます。元居た世界には干渉できないけど、情報などは見る聞く事が出来るんですよね?」

 

「はぁ……儂から言う事はもう無さそうじゃな。お主もかなり理解しておるようじゃし……」

 

 

神様のため息と共に出た言葉に、颯樹は頷く事で肯定の意を示す。それを見た神様は、颯樹の元へと歩き始め、目の前へと移動したのだ。

 

 

「そのスマホは、お主の魔力で充電できるようにして置くからの。切れる心配もない」

 

「はい。ありがとうございます」

 

「さて……最後に貨幣価値の説明じゃがな?お主の元居た世界のお金は使えん。じゃが、今から行く世界では『金貨』を始めとした丸い貨幣を使うんじゃ」

 

 

そう言い始めた神様の説明を、颯樹は真剣に聴き込む。そして暫く話し続けると、神様は颯樹の額に触れて、何かの動作をし始めた。

 

それを感じた颯樹は目を閉じ、その力を受け入れる体制をとった。

 

 

「さて。転生して早速死んでしまったら堪らんからの、お主の身体能力や基礎能力、その他諸々の全ての能力値を底上げして置こう。これで、余程の事が無い限りは死なんじゃろう」

 

「良いんですか?ここまで大層な事を……」

 

「良いんじゃよ。元々は儂のせいじゃからな……さっきも言ったように、これは『罪滅ぼし』じゃ。有難く頂戴するもんじゃぞ?」

 

「分かりました」

 

 

颯樹が了解を示した頃を見計らい、神様は颯樹を別の世界へと転生させるのだった。その後に何を言われたのかは、颯樹は転生した後に知る事となるのだ。

 

それが分かってるかの様に、神様は颯樹を柔らかな笑顔で見送っていた。

 

──────────────────────

【ベルファスト王国:リフレットの街 郊外】

 

「ん……ここは…。そうか、ここが異世界」

 

 

転生後に気がついた颯樹は、周りの風景を見渡した。そこは元の颯樹の居た世界とは別の景色が広がっており、それはスマートフォンにインストールされている地図を見ても同じだった。

 

スマホを見ていた颯樹に、突然の着信が鳴り響く!その音に多少の驚きはしたものの、慣れた手つきで応じる。

 

 

『やあ、颯樹くん!無事に着いたようじゃな』

 

「はい。……えと、さっきの地図やこれは……」

 

『儂からの餞別じゃ。これで連絡を取り合う事ができるからの。ただし、そっちの世界にはあまり干渉出来んのでな』

 

「ありがとうございます、活用します」

 

『うん。それじゃあな』

 

 

そう言って神様は通話を終わった。そしてディスプレイには「12:00」と表記されており、今の時間帯がお昼時であると理解を示した。

 

颯樹は道なりに進んで、近くの町を目指そうと歩き出した。その隣を高級そうな馬車が通り過ぎた。

 

 

(へぇ〜、馬車か。如何にもって感じだね。……ハローワークの様な、仕事を提供する場とかも有るのかな?)

 

 

そう呟いて通っていた颯樹の数メートル手前で、先程の通り過ぎていた馬車が急停車した。そこから降りて来たのは、小柄だが恰幅の良さそうな人だった。

 

その人は颯樹の服を見るなり、この言葉を使って来たのだった!

 

 

「き、キミ!その服は、一体……何処で手に入れたのかね!」

 

「え?これですか?」

 

「もし良ければ、私に売ってくれぬか!報酬は弾ませてもらうから!」

 

(ま、この世界でのお金が手に入るのなら……良いよね。この世界だとこれは目立ち過ぎるから)

 

 

いきなり「服を売って欲しい」と言われた颯樹は、少し怪訝そうな顔を浮かべるも、その人の誘いに乗るのだった。馬車に揺られて連れて来られたのは、如何にも高級そうな服屋さんだった。

 

颯樹はスマートフォンの地図アプリを使って、このお店の名前を調べる。

 

 

(なるほど……ここは『ファッションキング・ザナック』って言うのか。さっきの人も『ザナック』って言ってたから……この人のお店なんだね)

 

「ささ、入ってくれ!君に合うものを用意させよう。勿論お金も払うのでな!」

 

「分かりました」

 

 

そう言って颯樹はザナックの後に着いていく。……これは後で分かった事なのだが、ザナックは颯樹の身に纏っていた全ての衣服を「売ってくれぬか!」と頼み込んでいた。

 

……その代わりとして目立たない服と、売った服の総代金である金貨8枚を得る事は出来た。この間だが『これで済むなら安いもんだろう』と颯樹はタカをくくっていたそうな。

 

 

「服とお金は手に入ったね。……じゃあ後は宿屋と仕事だけか」

(そう言えばザナックさん、宿屋の情報を教えてくれてたよね。確か……)

 

 

そう思って颯樹は地図アプリを開く。それを見ると、ザナックさんのお店の他に『銀月』と言う宿屋があるのを確認出来た。

 

一先ずはそこに向かう事にして、街中を歩いていたはいいのだが……。

 

 

『ちょっと!それってどういう事よ!』

 

(ん?喧嘩、かな?……取り敢えず行ってみるか)

 

 

聞こえて来た声を頼りに向かうと、そこには2人組の男女2ペアが何やら言い合いをしていた。女の子の方は髪が長めの女の子が、後ろで怯えている女の子を護るようにしていた。

 

男たちの方は筋肉質な2人で、以前の颯樹なら「敵わない」と思っていた。……今回の揉め事としては、左の男が握っている角に原因があるらしい。

 

 

「約束通り、水晶鹿の角を持って来たわよ!さあ、報酬は?」

 

「お姉ちゃん……」

 

「ちっ、仕方ねぇな。ほらよ」

 

 

そう言って男から投げられたのは、銀貨1枚だけであった。颯樹に関しては「1回の依頼で1万円相当貰えるだけでも良いんじゃ?」と思ったのだが、どうやらそれはお気に召さないらしく……。

 

 

「なっ……!銀貨たったの1枚!?報酬は『金貨1枚』のはずよ!」

 

「ほーら姉ちゃん、ここをよーく見てみな」

 

「んん?」

 

 

颯樹もその言葉を受けて、水晶鹿の角を見る事にする。その水晶鹿の角には、小さく傷跡があるのが見える。揉め事の原因は、どうやらそれにあるみたいだ。

 

 

「ここに傷があるだろ?だから『銀貨1枚』なのさ。新品じゃなけりゃ意味ねぇんだよ!」

 

「くぅぅぅ……!」

 

「だからあれ程『ギルドで正式な依頼を受けよう』って言ったのに……」

 

 

男たち2人に強気で言ってのけた女の子は、妹によって宥められる。これ以上は見ていられないと思ったのか、颯樹は4人の下に歩み寄った。

 

 

「あの、ちょっと」

 

「何だおめぇは」

 

「いえ、僕が用があるのは……そこの姉妹です」

 

「あ、あたしたち…?」

 

 

そう言って颯樹は、先程の女の子2人に声を掛ける。その時に言い放った言葉に、ロングヘアの女の子が食いついて来たのだ!

 

 

「その水晶鹿の角、金貨1枚で買うと言ったら……どうする?」

 

「……!売るわ!売らせて頂戴!」

 

「毎度あり!」

 

 

そう言って颯樹は、道端に落ちていた石ころを3発親指で撃ち放った!2つは男たちの額に当たり、最後の1個は水晶鹿の角にクリーンヒットした!直撃を受けた影響か、水晶鹿の角は握られていた部分を残して欠片と化していた。

 

それを見た男たちは、颯樹へと恨みと怒りを込めて突進し出した!

 

 

「なーにしてくれてんだ、てめぇ!」

 

(え?こんなに遅いの、相手は。仕方ない、少し相手には悪いけど大人しくして貰おうか……な!)

 

「ぐはあっ!」

 

 

1人の男が肘打ちに寄って倒れ、もう1人は先程のロングヘアの女の子が捩じ伏せていた(主に拳で)。状況が粗方片付くと、先程の男たちは一目散にその場から逃げ出して行った。

 

そして先程の女の子2人と颯樹は、互いにお互いを労う様な表情を浮かべていた。

 

 

「助けてくれてありがと。助かったわ」

 

「礼には及ばないよ。……はい、これ」

 

「え?……ちょっと、これって!」

 

 

そう言って颯樹が渡そうとしたのは、先程の男たちとのやり取りの中で提示した『金貨1枚』である。それを見た女の子2人は、顔を見合わせた後に慌て始めた。

 

……まあ、いきなり『金貨1枚』を渡されて、慌てふためくのも無理の無い話であるのだが。

 

 

「う、受け取れないわよ!……だって、角はもう…壊れちゃってるわよ…?」

 

(まあ、あんなに簡単に倒せるなら…壊す必要も無かったかな)

「なら、これはとんだ迷惑料という事で。取っておいて」

 

「そう?なら、遠慮なく。有難く受け取るわね」

 

 

そう言って先程の男を殴った女の子が、金貨1枚を颯樹から受け取る。そして専用のポーチに入れた所で、遅れ馳せではあるが、自己紹介を始めたのだった。

 

 

「あ、私はエルゼ・シルエスカって言うの。こっちは妹のリンゼ・シルエスカ。あなたは?この辺じゃ見ない顔だけど……」

 

「えと、僕は盛谷 颯樹。よろしく」

 

「もりや?」

 

「えーと、颯樹が名前で…盛谷が家名ね。家名の方はよく間違えられるから、名前で呼んで欲しい」

 

「珍しい名前ね、イーシェンの出身?」

 

 

ロングヘアの女の子……エルゼの言葉に、颯樹は首を傾げる。…確かに地図アプリを見たら「イーシェン」と記されている地域が存在している。形は何処か自分の故郷である日本を思わせる様だ。

 

 

「まあ、一応そうだね」

 

「ここへは何をしに?」

 

「観光かな。まずは宿屋を確保して、その後に仕事を探そうかと思ってるんだけど……『銀月』って宿屋を知ってるかな?」

 

 

颯樹から放たれた言葉が余程不思議だったのか、エルゼとリンゼは首を傾げてしまう。そして次第に理解して行くと、鳩が豆鉄砲を喰らったかのような顔をした。

 

少しして、颯樹の疑問にショートカットの女の子……リンゼが答えるのだった。

 

 

「『銀月』なら、私たちも泊まってる宿屋、です」

 

「なら、案内をお願いして大丈夫?」

 

「構わないわよ?それじゃあ、行きましょうか」

 

 

そう言って3人は『銀月』への道を歩き始めた。今この瞬間から、颯樹の異世界での長くも険しい冒険が始まるのであった。

【挿絵表示】

 




今回はここまでです!如何でしたか?


最初ですので、思い切って《第1章》の半分まで進めてみました!次は初依頼の所から進めて、出来れば八重と出会う所まで行きたいなぁ〜と思う次第です。

アニメの方は毎日見てますので、第1期辺りは大丈夫ですが……問題は第2期からなので、そこで躓かない様にして行きたいと思います(年内にユミナとの出会いまで行ければ上出来)。


それではまた次回です!


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第2章:魔法、そして初依頼

皆さんこんばんは!今日は第2章をお届けします!


内容としては《第1章》の後半Partをオリジナル仕様にした感じになります。颯樹くんの装備としては、日本刀(ここでは《イーシェンの剣》と表記)と弓を使い分ける形となります。

近距離戦では【日本刀】での剣戟を、遠距離戦では【弓】を使用した射撃をする事になります。原作では刀一本だけでしたが、今回は少し趣向を変えてみました(既に魔法が使用可になってるからね)。


これは後の展開に向けて設定しました。……何処かで必ず意味がある装備編成なので、それが何処かという予想をしながら読んで貰えると嬉しいです(今話では無いです、確実に)。

それでは第2章のスタートです!


先程の路地裏で助けた、双子の女の子である、エルゼとリンゼに連れられて、僕は宿屋『銀月』へと向かっていた。

 

この世界に降り立ってから一時間経つが、もう僕の中ではここは「住み心地の良い場所」だと思えていた。街の人たちもみんな笑顔で生活しており、楽しさが溢れ返っていたからだ。

 

 

「着いたわよ、ここが『銀月』ね」

 

「『Silver Moon』…あれで『銀月』か。他の所に描かれてる文字は読めないけどね」

 

「え?あんた、読めないの?」

 

 

僕が疑問に思った事を言うと、エルゼは確認の為に僕へ質問をして来た。……僕は普段から日本語を使ってるから、ここの世界の言葉はまだ分かんないんだよ〜。

 

その様子を見たリンゼが、恐る恐るではあるが……僕に提案をして来た。

 

 

「読み書きなら……私が教え、ます」

 

「良いわね!それ!」

 

「え?どういう事?」

 

「リンゼはね、すっごく頭がイイのよ!だから読み書きとか魔法とかを教わるなら、良い先生になるわ!」

 

 

リンゼが立候補したのを切っ掛けに、エルゼもリンゼを教師役として推薦して来た。……正直、読む書くも出来ないのは、僕としても非常に恥ずかしかったので、リンゼに教わる事にしました。

 

……ところで、さっきの会話で気になった事が一点あるのですが?

 

 

「ちょい待ち」

 

『ん?』

 

「魔法って、使えるの?」

 

「ええ。けど、あんた……適性は?」

 

「適性……か。どうやって知る事ができるの?」

 

 

僕のその言葉で、宿屋に着いてチェックインを終わらせるや否や、中庭のテーブル席に3人で腰掛け、魔法についての講義が始まった。

 

つらつらと喋っているのは、先程エルゼから高い評価を貰っていたリンゼである。

 

 

「魔法の適性は、生まれながらに持っている物、です。適性が無い人は魔法を使えないんです」

 

「人が持てる最大量はあるの?」

 

「魔法は基本的には1人1、または2属性の魔法と無属性魔法1つのみです。私は火、水、光と3属性持っていますが、これでも珍しい方です」

 

「因みに私はどの属性の適性もないわ。ただし、無属性魔法で『ブースト』って言う魔法が1個だけ使えるの」

 

「無属性魔法は、別名『個人魔法』とも言われ、人の数だけ種類があるんです」

 

 

先程のリンゼやエルゼ達の話から、何となくだが理解を示す事が出来ていた。各属性の適性を調べるには、それぞれの属性に対応した魔石を使うのだとか。

 

無属性は白の魔石であり、何か反応があれば…それが無属性魔法の適性があるという事らしい。

 

 

「まずは私がやって見ますね。水の魔石から……【水よ来たれ】」

 

 

リンゼが【水よ来たれ】と詠唱を終えると、魔石の先端から、蛇口から出るサイズの普通の水が出て、リンゼのコップに注がれて行く。

 

この様に適性がある物は、その属性の魔法を行使できるが、適性の無い者は、その属性の魔法を発動する事ができないという事らしい。

 

 

「では、颯樹さんも……」

 

「了解。……【水よ来たれ】」

 

 

僕は先程のリンゼが詠唱した様に、同じ口上を詠唱する。すると、魔石からはリンゼが発動した時とは大違いの水が溢れ出し、テーブルの上がびしょびしょになっていた。

 

そしてリンゼが言うには、その発動した時の魔法の澄み具合で『自身の持つ魔法の質』が分かるらしい。……僕のはかなり澄み切っていた事から、魔力の質も高いことがわかった。

 

──────────────────────

【そして……数分後】

 

「……全属性、適性ありですか」

 

「全属性持ちなんて聞いた事無いわよ!」

 

「凄いです」

 

 

あの後他にあった魔石も試したが、結局の所は澄み切った炎やら土やら光やら闇、風などがでてきた。更にはと言えば、無属性魔法の適性もあったみたいで(今回は【サーチ】を使用)。

 

正気に戻った僕たちは、依頼を受けるべく、僕の出身世界で言う所の『ハローワーク』へと向かった。

 

 

「ようこそ!何かお探しですか?」

 

「ええ。取り敢えず、冒険者としてギルド登録をしたいのですが」

 

「はい、分かりました!」

 

 

そう言って受付の女性は、冒険者登録の為の書類を何枚か取り出した。僕の方はリンゼが代わりに記入をしてくれた。……あとで何かお礼をしないとね。

 

暫くした後、色が黒いカードが僕たち3人の目の前に差し出された。

 

 

「これがお客様の身分を証明する物となります。紛失されると再発行にかなりの手間をかけます。本人以外の人物が使用すれば、使用制限がかかり、何処の国何処の町のギルドでも使えなくなりますので、ご注意ください」

 

「それじゃあ、早速……」

 

「待った!その前に、貴方…私たちとパーティーを組まない?」

 

 

受付の女性にギルドカードを発行してもらった後、僕はクエストボードへと向かおうとしたが、そこをエルゼに引き留められる。

 

内容は「パーティーへの勧誘」であり、僕の先程の立合いを見て決めていたらしい。

 

 

「仲間は1人でも多い方が良いわ。それに、あんた強いし、頼りになるから」

 

「私も、颯樹さんと……組んで、見たいです!」

 

「じゃあOK。よろしくね、エルゼにリンゼ」

 

 

僕としては願ったり叶ったりの提案だった為、エルゼからの提案に喜んで乗ることにした。そして大事な事に気が付いた為、エルゼとリンゼに依頼選択を任せ、僕は1人武器屋へと向かった。

 

──────────────────────

【リフレット:武器屋前】

 

「……ったく、颯樹は何してんのよ…」カツカツカツ

 

「しょうが無いよ、お姉ちゃん。颯樹さんは手持ちの武器が今無い状態なんだから……」

 

「お、お待たせ!金額がそれなりにしたけど、安心して戦えるよ!」

 

 

僕が武器を買って戻ると、そこには待ち侘びていたであろう双子が揃っていた。その後にエルゼからは説教を食わされ、リンゼからは苦笑いを受けていた……。これは依頼で信頼回復を図るしか無いか。

 

一頻りエルゼからの説教が終わると、エルゼから武器の内容について聞かれた。

 

 

「へぇ〜、弓と剣を使うのね」

 

「まあ一応。これは戦況によって使い分けた方が良いし、いざとなれば【ストレージ】で出し入れすれば良いから」

 

「では行きましょう、お姉ちゃん、颯樹さん」

 

 

そう言って僕たち3人は、依頼の場所である『東の森』へと向かった。今回の依頼内容はと言えば《東の森に生息する魔獣の討伐》らしく、ターゲットは一角狼なんだとか。

 

道中でのリンゼからのアドバイスに拠れば、今回の様な討伐系の依頼は『倒した魔獣の部位を持ち帰る』事でコンプリートらしい。……初陣、勝利で飾りますか!

 

──────────────────────

【東の森:奥地】

 

「見事に居ないわね……」

 

「そりゃあ最初っから出て来たら、面白味ないでしょ。でも念には念を…ってね?【サーチ:一角狼】!」

 

 

依頼場所である『東の森』に着いた僕たちは、何時でも戦える様に体勢を整えていた。戦う為の敵が見当たらないのか、エルゼがボヤいていたのだが…それを僕はスパッと切り捨てる。

 

……さて【サーチ】の魔法に引っ掛かってくれたら良いが…。……!反応あり!

 

 

「どうかしました、か!?」

 

「各自待機!六方を囲まれてる!」

 

「どう言う意味よ!」

 

「……知能は意外と高いみたいだね。獣の癖に、頭は良いのかよ……」

 

 

僕が言い放った言葉に、疑問の声を発した2人。……仕方ない、ここはアレで行くか!

 

 

「【氷よ絡め、氷結の呪縛、アイスバインド】!」

 

 

僕がそう詠唱すると、僕たちを除いた半径10メートルの地面が凍り付き、挟み込もうとしていた一角狼たちは足を動かそうと身体を左右に動かしていた。

 

それを見た2人は『今が好機』と見たのか、各々の出来る事を遂行しに向かった。……僕もやりますか!

 

 

「……はあっ!」

 

「【炎よ来たれ、赤の飛檄、イグニスファイア】!」

 

「【雷よ来たれ、白蓮の雷槍、サンダースピア】!」

 

 

……そしてこの後、僕たちが戦っていた場所からは、目視するのが大変な量の黒煙が上がっていた……。もちろん僕たちは治まるまで退避してたけどね。

 

 

「颯樹の魔法の威力、ちょっと強すぎじゃない?……なんと言うか…角は無事だけど、身体が真っ黒焦げ寸前」

 

「……ここまでとは」

 

「角を採取してから、ギルドに報告しましょう」

 

 

……なんだか本来の目的よりも、一匹多く仕留めてしまったけど、結果オーライだね!依頼も完了したし、大成功だよ!

 

そして僕たちはこの後、受付の女性へと報告を済ませた後、報酬の『銅貨18枚』を3人で山分けにした。この依頼で1万8000円相当貰えるなら、依頼を着実にこなして行けば……充分この世界でも生活できるぞ!?

 

──────────────────────

 

「ん〜!依頼大成功ね!」

 

「颯樹さんの魔法の威力、私以上でしたし……使用するタイミングも、的確でした」

 

「ありがと!2人で挑んでたら、もう少し時間が掛かってたかも」

 

「いやいや、礼には及ばないよ。それに待たせてしまったお詫びも有るし、魔法も教えてくれたからね。これくらいの働きはしないとね」

 

 

そう言いながら僕たちは、宿屋へと向かって歩いて行った。途中でエルゼが『今回は颯樹が加わっての、初めての依頼達成よ!パーッとやりましょ!』と言い出し、それに頷いた僕たちは『パレント』という喫茶店にて祝勝会をする事となった。

 

……もちろん、先程の事を覚えていたエルゼは、僕に頼んだ品物全品の請求をして来ました。…これで済むなら安いもんだろう、と考えながら転生初日を終えたのでした。




今回はここまでです!如何でしたか?


最初を長くしてしまいましたので、今回は少し抑え目になってしまいました……。次はイセスマ3人目のヒロインが登場します!原作を読んでる人なら、直ぐにわかるかもですよ?

個人的にはアニメストーリーを分割して、2話終わる毎に《第○章》の区切りとしようかな〜と予定してます。そうなると、私のイチオシのヒロインが出てくる回が、確実に《第7章》位になるので、年内にそこまで行ければな〜と考えています。


そして……もちろん、恋愛に関係するワードも何処かで出しますので、楽しみにしててくださいね!…どのキャラも可愛いのですが、あの娘に適うキャラは居ないんじゃないかな〜と個人的には思ってたり。

次回は第3章で!次回をお楽しみに!


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第3章:出発、そしてサムライ。

神様の手違いに寄って、この世界に舞い降りた僕は、リフレットの街で出会ったエルゼやリンゼと一緒に、旅を続けていた。

 

途中の荷車の中で、エルゼが眠ってしまったのだが…その寝顔が思わず目を惹く物だった為、本人に気づかれぬ様にスマホに写真として収めた。

 

 

「今回の依頼は《王都への手紙の配達》だったね。まだ着くまでにはもう少しかかりそうだから、今日はここで宿を取ろうか」

 

「ええ。そうしましょ」

 

「賛成、です」

 

「じゃあ宿屋を先ず探そうか。ご飯などの後から決めれる事は、今は後回しにしようか」

 

 

そう言って僕たちは、この街にあるであろう宿屋を探しに出た。少し移動していると、街の道端から何やら言い合う様な声が聞こえてきた。

 

……何だか既視感を覚える光景だぞ?…こう言う時って大体……。

 

 

「よくも俺の仲間を!」

 

「ああ、警備兵に突き出した者たちの仲間であったか。あれはお主たちが悪い、市民に乱暴狼藉を働くからでござる」

 

「うるせぇ!やっちまえ!」

 

 

大雑把に確認できるだけでも、男が10人程度居るのに対して、その中心には着物を着た女の子が1人か。……寄って集って痛め付けよう、って魂胆か。下衆が。

 

そんな事を考えている間に、中心になっていた女の子は背負投を始めとした柔術で男たちを捩じ伏せる。

 

 

「あんなの、見た事ないわ!」

 

「あれは柔術。腰に刀を差しているのに、装備無しと遜色ない動き……かなりの手練だね」

 

「詳しいですね、颯樹さん」

 

「まあ一応。知識として心得ていた感じだ」

 

 

そんな会話を2人と繰り広げている間に、ほぼ半数の敵が地面で伸びていた。……ん?あの娘、お腹を抑え始めた?音から察するに…まさか、空腹!?

 

2人が止めるのも構わずに、僕は魔法を行使する態勢に入る。……ごめん、助太刀するよ!

 

 

「【砂よ来たれ、盲目の砂塵、ブラインドサンド】!」

 

 

魔法の詠唱を済ませた僕の右手に、小さく圧縮された綺麗な砂が握られる。僕はその握られている砂を、先程の女の子に飛び掛っている男に投げ付ける。

 

 

「が、うがァァァ!み、見えねぇー!」

 

「はあっ!」

 

「あーもう!厄介事に、首を突っ込んで!」

 

 

ブラインドサンドを当てた男に、僕は飛び蹴りをお見舞する。そしてもう見て居られなくなったのか、エルゼが他の男たちを殴り飛ばしていた。

 

その喧嘩の音に気付いた警備兵が、僕たちを取り抑えようと動き出した!……ここで捕まるのは、ごめん蒙りたい!

 

 

「さっさと逃げるわよ!」

 

「さ、君も一緒に!」

 

「え、えぇ……///」

 

 

そう言って僕たち3人は、先程の女の子と一緒に近くの裏路地へと身を隠した。その間に警備兵たちは、各地に別れて捜索し始めた。……はぁ、大変だった。

 

 

「此度のご助成、かたじけなく。拙者、九重 八重と申す。あっ、八重が名前で、九重が家名でござる」

 

「僕は盛谷 颯樹。颯樹が名前で、盛谷が家名ね。家名の方は間違われるから、名前で呼んで欲しい」

 

「な、なんと!颯樹殿もイーシェンの生まれでござるか!?」

 

「……と言うと、君の故郷は…イーシェン?」

 

 

僕がそう八重に問い掛けると、案の定と言う答えが帰って来た。更に聴いてみると「オエド」と言う所から来たのだとか。……ここは安土桃山時代か何かなの!?

 

 

「さっきお腹を抑えてたけど、お腹空いてるの?イーシェンからベルファスト迄は、距離が結構あったはずなんだけど」

 

「そ、その……拙者、旅の途中で恥ずかしながら路銀を落としてしまい…///」

 

「颯樹、とりあえず食事処を探しましょう」

 

「そうだね」

 

 

八重から事情を聞いた僕たちは、宿屋を探す前に、八重と共に食事処へと向かった。辿り着いて注文した迄は良いのだが……持って来られた料理の総量が、軽く4〜5人前は在ろうかと言う量だった。

 

……僕もそれなりに食べるほうだけど、八重ってもしかして大食らい?……食費がえらい掛かるかもね…はあ。

 

 

「八重さんはどうしてここへ?」

 

「王都へ剣術修行をしに行く所でこざるよ?武者修行の旅の途中でごさるからな」

 

「私たちも王都へ手紙を届けに行く所です」

 

「ねぇ、八重さえ良ければなんだけど、僕たちと一緒に行かない?道中は一緒だろうし」

 

 

僕は八重の目的と自分たちの目的の一致に気づき、八重を旅の仲間に加える事にした。それにエルゼとリンゼは肯定的であった為、後は八重からの返事を待つだけなのだが……。

 

未だに食事中なのだろう、口の中に物を入れたまま話し始めた。

 

 

「ま、誠でござるか!……もぐもぐ。ご馳走になった上旅の同伴まで…もぐもぐ。忝ないでござる」

 

「良いよこれくらい。でも、食べる時は確り食べなよ?さっきのは行儀悪いからね」

 

「……もぐもぐ。承知したでござる」

 

 

そう言いながら八重は、テーブルに乗っていた料理の4分の2を食べ切った。僕とエルゼとリンゼは、置かれていた分で漸く半分食べ終えた所だった。

 

……八重が仲間に加わるとなると、食費にもうちょっと気をつけたほうがいいかも。

 

──────────────────────

 

旅の仲間に八重を加えた僕たちは、王都へ続く道を進んでいた。途中でリンゼから魔法書(無属性魔法についての事柄が記載)を受け取り、勉強も行なった。

 

……そしてしばらくした頃。

 

ガキィン!

 

 

「何だ、今の音は!」

 

「この先です!」

 

「八重、進んでくれ!」

 

 

そう伝えて僕たちは、先程の音が聞こえた場所へと向かう。その場所に着いてみると、黒塗りの紋章付きの馬車が1台止まっており、その前には護衛と思しき人物が3人と、人型の竜が3頭睨み合っていた。

 

……仕方ない、戦いますか!

 

 

「ここは任せて下さい!」

 

「な、何なんだお前たちは!」

 

「旅の者です!協力させて下さい!」

 

 

僕は護衛の1人と話を付けたあと、1頭の人型の竜(後にリザードマンと知る)と向かい合った。今回の僕が持っている装備は、初依頼の時では使わなかった武器だ。

 

向かう時は慎重に……。そして!

 

 

「【アクセル】!【ブースト】!」

 

「無属性魔法の重ね掛けだと!?」

 

「せいっ!」

 

 

無属性魔法の重ね掛けは、初めてだったけど……何とか上手く行ったみたい。エルゼやリンゼに八重も好調に敵を倒しつつあるみたいだね。……って、八重が危ない!

 

 

「【摩擦よ無くなれ、スリップ】!」

 

 

そう詠唱すると、八重を切り付けようとしていたリザードマンがその場で転倒する。それを見逃さなかった八重が、倒れたリザードマンに剣を突き刺す。……よし、これでOKかな。

 

……ん?魔法の詠唱の口上が聞こえる…まさか、召喚魔法!?あのリザードマンは、召喚魔法に寄って呼び出された傭兵って事か!

 

 

「……!」

 

「颯樹!?どうするのよ!」

 

「こう、するのさ!」

 

 

そう言って僕は剣を上に振り上げ、召喚魔法を行なっていた男の持つ杖を空へと飛ばす。そして身体の腹部を足場にし、男の背後へと飛び移った後に回し蹴りをお見舞する。

 

そして後は喉元に剣を当てれば……終了だね。

 

 

「チェックメイト、アンタの負けだ」

 

「ひ、ひぃぃ…!」

 

 

そう言って先程の召喚士の男は、踵を返して逃げ出そうとする。……甘いな!

 

 

「【摩擦よ無くなれ、スリップ】!」

 

「うわっ!」

 

 

逃げ出そうと思ったのが、運の尽きみたいだね。……さあ、大人しくしてもらうよ?

 

僕は先程の男を縄で縛り上げると、3人の下へと戻る事にした。

 

 

「あっ、颯樹!どうだったの?」

 

「召喚魔法の使い手を捕獲したよ。尋問でも何でもして構わないよ」

 

「す、凄いでござる……」

 

 

そう言って八重とエルゼが、捕えれている男へと歩いて行った。その後に護衛の人からお礼を言われたけど、たまたま通り掛かっただけなんだよな……なんて。

 

 

『誰か、誰かおらぬかー!』

 

「!?」

 

 

突然その様な声が聞こえ、近くに居た僕とリンゼは声の元へと向かう。するとそこには私服姿のお姫様らしき人と、執事と思しき人が居た。

 

女の子の目からは涙が出ており、執事の人に寄り添っているのがわかる。……執事の人に何かあったのは、確実と言って良いね。

 

 

「じい!じい!」

 

「う、ううっ……お、お嬢様…」

 

「リンゼ、回復魔法を掛ける際は…中に入った異物を取り出さないといけないんだよね?」

 

「は、はい。そうです」

 

 

リンゼから重要な情報を聞き出す事が出来た。……それなら、今覚えたてホヤホヤの魔法が使えるかも!近くに落ちていた矢の残部を拾い上げ、元々の矢の形に合うように持ち直す。

 

……成功すれば良いけど。

 

 

「【アポーツ】」

 

 

僕がそう詠唱を終えると、右手に矢の刺さっていた箇所が握られた。……成功だ。その後に僕は光属性の回復魔法である【キュアヒール】を執事の人に掛ける。

 

その魔法が齎す癒しのお陰で、先程まで苦しんでいた執事の人の顔が優しそうな表情へと戻って行った。

 

 

「お、お嬢様……」

 

「じい!」

 

「颯樹さん…凄いです、本当に…凄いです///」

 

「////」

 

 

執事の人が意識を取り戻したのが余程嬉しかったのか、『お嬢様』と呼ばれていた女の子が、その人に抱き着いた。リンゼに至っては涙が出てるし。……これは、嬉し涙だね。……それと、顔を紅くしてるのはどうして?

 

事態が落ち着いた頃に、僕たちは先程の女の子と執事の人や護衛の人たちと向かい合った。

 

 

「感謝するぞ、颯樹とやら!お主はじいだけでは無い、妾の命の恩人じゃ!」

 

「ご挨拶が遅れました。私、オルトリンデ公爵家家令を務めております、レイムと申します。そしてこちらの御方が、公爵家令嬢、スウシィ・エルネア・オルトリンデ様に御座います」

 

「スウシィ・エルネア・オルトリンデじゃ。よろしく頼む!」

 

 

なるほど……この人がご令嬢さん。それならレイムさんや護衛の人が居るのも納得だし、高級そうな馬車に乗っていたのも大納得だね。

 

……んで、僕の横にいる3人はなぜ片膝をついて頭を提げているの?…ん?待て?「公爵家令嬢」って言ってたか、レイムさん!

 

 

「何であんたはそんなに立ってられんのよ……公爵家よ、公爵」

 

「……あっ!」

 

「如何にも。妾の父、アルフレッド・エルネス・オルトリンデは国王陛下の弟である」

 

「それじゃあ、国王陛下の姪っ子って事だ。スゥシィ様って呼んだ方が無難かな?」

 

 

エルゼからの忠言に気付いた僕は、スゥシィ様の事を改めて再確認した。……何処と無く王族っぽいからね。護衛や執事も着いてるし。

 

向こう方に失礼があっては行けないので、僕は呼び方を変えようとしたのだが、それをスパッと切り捨てられたのだった。

 

 

「スゥで良い!公式の場では無いのじゃ、敬語も要らん!先程も言ったように颯樹たちは妾の命の恩人じゃ」

 

「やっぱり王族ともなると、狙われたりするよね」

 

「さっき話を聞いたけど、全然知らなかったわ。依頼主が誰なのかも分からないみたいだから……」

 

 

そう言ってエルゼは拳を握る。……えっ、待て?あの捕獲した召喚士を、殴ったの?そう思って左の森の方を振り返ると、瘤が3個積み重なっている状態だった。…うわぁ、僕もアソコまではして無いのに……。

 

結果としてスゥ達を救えたし、良かった良かった♪僕たちはこの先の王都に用があったので、その時に追加された《王都までの護衛》の依頼を受ける事に。1回で2つも受けるって、なかなか大変かも。……でも、人々が笑って生活出来るなら、これくらいの犠牲は必要だよね♪




今回はここまでです!如何でしたか?


内容としてはアニメ《第2章》の前半Partをお届けしました!次回は《第2章》の後半Partをお届けしようと考えています。その後の《第3章》ですが、最初から地下遺跡のお話を組み込もうかな〜と考えています。

そしてその後に《第3章》で出て来る『ロールケーキ』や『将棋』を広めるという感じにしたいなと考えています(第4章は流石に少しPartを変えるというのは、なかなか大変ですからね)。……まあ、予定としては2話後のお話で、各サイドに分かれた話を描こうかと考えています(書けたらの話)。


それではまた次回です!ちなみにこの小説ですが、完成した日の直ぐ近くの時間にクイックセットをして置きますね。早く出来上がったら、早くサクサクと読めるのでオススメですよ♪

……そろそろ、私も覚悟を決めてた方が良いかもですね。恐らく颯樹くんにとって、最初の恋愛になるやも知れないので。恋愛描写は久々なんですよね〜書けるか心配。


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第4章:治癒と、新加入。

《前回までのあらすじ!》

 

神様の手違いに寄って、異世界へと転生してしまった僕は、リフレットの街で出会ったエルゼ、リンゼと共に冒険者として活動していた。王都へ手紙を届ける依頼を受けている最中、アマネスクの街でチンピラ達に囲まれていた八重を、助っ人として助ける事で救出。

 

その後に聞いた彼女の目的が「王都へ武者修行をしに行く」であった為、偶然にも目的の場所が一致した僕たちは八重を一時的なパーティーメンバーに加入する。王都へ続く道を進んでいると、何者かからの襲撃を受けているスゥ達と遭遇。

 

スゥの執事さんであるレイムさんを【キュアヒール】と【アポーツ】の使用で救出し、言葉のみの御礼を受けると、先程の戦闘の腕を見込まれ、レイムさんから《王都までの護衛》を頼まれるのであった。

 

──────────────────────

 

僕たちはレイムさんからの依頼を受け、スゥ達の乗っている馬車を護衛している。依頼達成の為に王都へ向かっていた僕たちとしては、まさに『渡りに船』の提案であった為、その依頼を引き受けることにしたんだ。

 

……そしてしばらく進んだ後。

 

 

「……彼処が王都」

 

「はい。王都アレフィス、ベルファスト王国の首都で、滝が流れるパレント湖の畔に位置している事から『湖の都』とも呼ばれているんですよ」

 

「着いたんだね。…王都に」

 

 

僕が少し顔の向きを変えて見た街は、リフレットの街よりも広そうな場所だった。それを見たリンゼは、僕に近くにある街の情報を伝えた。……なるほど、彼処が王都なんだね。

 

そんな事を考えている間に、僕たちの乗った馬車とスゥ達の乗った馬車が、王都への城門を潜った。……ここまでは良いのだけどね。この後に訪れた所が、とんでもない所で…。

 

──────────────────────

 

スゥの実家に無事に到着した僕たちは、護衛の依頼を達成する為に一度中まで同行する事になった。スゥの先陣で中に入ったのだが……そこがかなり立派な所で。

 

……母の実家や僕の家も、ここまでは無いぞ!?『お嬢様』って言われたのを思い出して、世間一般の常識とはとんでもなく掛け離れているのだと実感した。

 

 

「おお!帰ったか、スゥ!」

 

「父上!」

 

「無事で良かった!報告を聞いた時は、生きた心地がしなかったよ」

 

 

そう言って奥から降りて来た男の人が、スゥを抱き留める。話を聞く限り、この人はスゥの父親みたいだ。国王陛下の弟だから……公爵殿下って事か。

 

そして抱き締めていた腕を解いて、その人は僕の手を握ってきた。……意外と手が大きいんですね!

 

 

「そして、君たちが娘たちを救ってくれた冒険者か!礼を言う」

 

「あ、頭を上げてください!僕たちは当然の事をしたまでです!」

 

「謙虚なんだな、君は」

 

 

そう言うと公爵殿下は、僕たちの目の前に立ち直した。先程の父親に抱かれていたスゥはと言うと、帰宅に合わせて更衣へと向かったみたいだ。

 

そして僕たち4人を見直した公爵殿下は、自己紹介を始めたのだった。……俺の父親もこういう所を見直して欲しいのだけどね。

 

 

「改めて自己紹介させて貰おう。アルフレッド・エルネス・オルトリンデだ」

 

 

そう言うとアルフレッドさんは高々と笑いだしてしまった。……何か、展開が早すぎて付いて行けないんですけど…。

 

その後僕たち4人は、1つ上のフロアにあるベランダにてアルフレッドさんと話をする事に。話に立ち会っているのは、僕一人だけで…他の3人は此方の様子を伺っていた。

 

 

「そうか……君たちは、手紙を届ける目的で王都に来たのか」

 

「はい」

 

「もし君たちが居なければ、今頃スゥは誘拐されていたか、殺されていたかもしれない。改めて礼を言わせて欲しい」

 

「大丈夫ですよ、そんな。やっぱり王族ともなると、その人が決めた政に反対!と言う人が居たりしますよね。その人から狙われたりは…」

 

「もちろん、それは日常茶飯事。立場上、私の事を良く思っていない連中も居る」

 

 

アルフレッドさんと話をしている中、ベランダに続く窓が開けられた。そこには薄桃色のドレスに身を包み、猫の髪飾りを付けたスゥが立っていた。

 

スゥはアルフレッドさんと僕の間に座り、話を聞く態勢を取った。

 

 

「あれ?そう言えば、スゥのお母様って……先程まで見ませんでしたけど、何かあったんですか?」

 

「すまないね。妻は今目が見えなくてね。せっかく来てくれたと言うのに、こんな形ですまない」

 

「失明…それって、ご病気とかですか?」

 

「ああ」

 

 

そう言ってアルフレッドさんは、家内であるエレン様の病気の経緯と状態を僕に伝えるのだった。……知り合って間も無いですよ、僕。なんて思ったが、公爵殿下のお眼鏡に適っているのだから、心配要らないのだろうなと考えていた。

 

 

「ふぅ……お爺様が生きて居られたら…」

 

「スゥの祖父…私の義父は、数少ない特別な魔法の使い手でな。今回スゥを旅立たせた理由も、その魔法をなんとか解明し、習得できないかと考えていたのだが……」

 

「無属性魔法は『個人魔法』ですから、使い手も限られて来ますよね……似た様な効果を持つ人なんて、早々居るかどうか…」

 

 

僕はアルフレッドさんからの言葉に、少しその場から立ち上がって頭を抱え込んでしまう。その時、今まで黙っていた3人が勢い良く声を上げながら、僕をキラキラとした目で見ていた。

 

……え?ま、まさか…ね?一応、エレン様の所へ行って試して見ますか。

 

──────────────────────

 

アルフレッドさんに連れられて訪れたのは、エレン様の寝室だった。……と言う事は、彼処の布団に腰掛けている女性がスゥのお母様…。僕の母さんも「若い」ってよく言われるけど、マジもんの美人さんじゃないの……。

 

僕は少し隣を失礼して、エレン様の瞼の上に手を翳す。……なるべく成功する様に務めなきゃね。

 

 

「【リカバリー】」

 

 

僕が【リカバリー】の詠唱を済ませると、翳した掌から白い魔法陣が浮かび上がった。アルフレッドさんに聞いた話だが、この【リカバリー】と言う魔法は、やはり無属性魔法であり、身内ではスゥのお爺さんしか使えなかったと言うのだ。

 

そんな事を考えている間にも、僕が掛けた【リカバリー】の魔法がエレン様の目を治していく。…そしてしばらくした頃、僕はそこから手を離した。

 

 

「……ど、どうでしょうか……?」

 

『……』

 

 

僕たちは固唾を飲んで、結末を見届ける。エレン様は何とか目を開けようと頑張っていて、快復へ向けて努力している。少しした後に目は開き、瞳孔が光を映していなかったのだが……。

 

……あっ!成功だ!まさか、僕が失明を治す事になるなんて……人間、生きてりゃ何かするもんだね!

 

 

「見える…見えます……見えますわ」

 

「母上!」

 

「アナタ!スゥシィ!」

 

「エレン!」

 

 

エレン様は目が見える様になった途端、アルフレッド公爵殿下とスゥと抱擁を交わしていた。その後に僕は、エルゼとリンゼから抱き着かれていた……あれ?何でこんなに力が強いんですかね、リンゼさん?

 

隣に立っていた八重も、目から涙を流して居た。その割には顔が笑顔で、余程嬉しかったんだね……と思えてしまった。

 

 

「貴方が、私の目を?」

 

「はい、僕は盛谷 颯樹と言います。颯樹が名前で、盛谷は家名です。アルフレッド様から貴女様の事を聞き、ここに参った次第です」

 

「そうでしたか……ありがとうございます」

 

「颯樹殿には、娘のスゥまで助けて貰ったのだ」

 

「まあ!」

 

 

そう言いながらエレン様は口に両手を当てる。……実際にあんな行動をする人、初めて見たよ…。そんな事を考えていると、アルフレッドさんから応接間へと通された。

 

……聞けばスゥを助けてくれた事に対する礼と、道中の護衛に対する謝礼をしたいのだとか。僕たちはそれに快く応じ、応接間へと向かった。

 

 

「娘だけでは無く、妻まで……君たちにはキチンと礼をしたいのだ。…例の物を!」

 

 

そう言ってアルフレッドさんは、レイムさんにある物を渡す様に指示を出す。どうやら宝箱の中にある物と、何かを詰め込んだ袋がその内容みたいだ。

 

アルフレッドさんは袋を手に取ると、その袋の説明をしだした。

 

 

「先ずはこれを。娘を助けて貰った事と、道中の護衛に対する謝礼だ。受け取ってくれ」

 

「は、はい。……因みに、何が入っているのかは分かります?」

 

「中に白金貨で40枚入っている」

 

 

……聞いた僕がバカだった。…そうじゃん、こんなに良い所に住んでるのに、銀貨や金貨などの価値で収まるはずないじゃん!金貨1枚が銀貨10枚分で、大体10万円相当……その上だから大体100万円相当で、それが40枚となると…。

 

 

「よ、4000万円!?も、貰い過ぎですよ!それもこんなにポンと!」

 

「これから冒険者として活動して行くなら、そのお金は必要になる時が来る。その為の資金だと思ってくれれば良い」

 

「は、はあ……」

 

 

そう言って僕は白金貨40枚の入った袋を、テーブルの隅に移す。確実にこれは貴重な資金だからね、何かに役立てる方向性で使わないとね。

 

そして次に宝箱を開け始めた。その中には家の紋章だろうか、そのマークが刻印されたメダルが4枚入っていた。

 

 

「我が公爵家のメダルだ。これがあれば、検問場は素通り。貴族しか利用できない施設も使える。……何かあったら、公爵家が後ろ盾になるという証だ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

公爵家のメダルを受け取った僕たちは顔を見合わせ、代表で僕がお礼を言う。その後一階の玄関まで送って貰い、オルトリンデ公爵家を後にした。

 

そしてその後に訪れた所で手紙を届け、僕たちの依頼は完了された。

 

 

「手紙も渡せたし、これで依頼完了ね」

 

「大変な旅になっちゃいましたね」

 

「ホントだね。……そうだ。僕たちはリフレットの街へ帰るけど、八重はどうする?」

 

 

僕が近くに居た八重に質問すると、八重は真っ直ぐな目でこちらを見つめてきた。その際に風が吹き付け、髪を掻きあげていたのだが、その双眸は迷う事無く僕を見据えていた。

 

少し間を置いて八重が言葉を話し始めた。

 

 

「拙者、決めたでござる」

 

『ん?』

 

「颯樹殿に、この身を捧げるでござる」

 

 

八重が言い放った言葉に、エルゼとリンゼの顔が少し赤く染まった。……あのね君たち、一体ここから何を想像したのかな?このパターンは『仲間に加えて欲しい』って事でしょうよ。

 

 

「その真意は?」

 

「んんっ!短い道中ながら、その人となり見せてもらった。強大な力を持ちながらも決して驕らず、常に人を助ける道を選ぶ。拙者、その心意気に感服致した。修行の為、颯樹殿と行動を共にしたい」

 

「いいよ。折角出会えたんだ、ここでお別れも寂しいしね。……それはあの2人にとっても同じみたいだし」

 

 

そう言って僕は、エルゼとリンゼに目を向ける。2人も僕と同じ気持ちらしく、八重と行動を共にしたいみたいだ。少し一緒に居ただけなのに、3人の間に確かな友情が結ばれていた。

 

……僕の力で人の役に立てるなんて、今でも信じられないよ…。この世界でなら、僕も上手くやって行けそうな気がするよ。




今回はここまでです!如何でしたか?


今回でアニメ《第2章》の内容は終了!次は《第3章》の内容に入ろうかな〜と考えています。つい先程なんですが、Web版の原作を読んで来ました。……結構話としては長いので、描きごたえがありそうです。

Web版やアニメとの差異を出しながら、主人公やヒロインのキャラを崩壊させない様に務めて参りますので、これからも楽しみにしてて下さいね!


次回のお話は……デザート等の娯楽関係の話は、少し見送らせて頂き、地下遺跡のお話から始めます。アニメを見ていない人は、先にアニメの方を見て貰えると、話が追い付けるかと思います。

アニメやWeb版では、第3章が数ヶ月後の話になってたので、そこは合わせて行きたいと思います。主人公たちのギルドランクも緑色へと昇格した後にします。……一応、ギルドランクの内訳を説明して置くと……。


黒>初心者。
紫>冒険者見習い。
緑>三流冒険者。
青>二流冒険者。
赤>一流冒険者。
銀>超一流冒険者。
金>英雄。


と言った感じです。これは、後のお話で触れる機会がありますので、覚えて置いて貰えると嬉しいです。

私のお気に入りのイセスマ小説(もう一方)では、週一で投稿していらっしゃるので、若干此方よりも進み方は遅いです。……ですが、私が『ハーメルン』でイセスマ小説を作る切っ掛けとなった作品ですので、宜しければ其方も読んでみて下さいね!


それではまた次回です!


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第5章:地下遺跡と、水晶の魔物。

皆さんこんにちは!咲野 皐月です!


今回の内容なんですけど……どうしようか考えたら、地下遺跡の内容が終わったら、ユミナとの出会いがあるじゃん!と思いましてですね?「いっその事、この地下遺跡の話だけを描くか!」と思ったので、このような形になりました。

いやぁ〜。どうしようかすっごい悩みました。次々回はアニメ準拠のストーリーに、オリジナル展開を混ぜ込むつもりなので……そこまで盛った話も出来ないなと思いつつ。


アニメやWeb版では、冬夜くんはユミナとの同室を拒んでましたが、果たしてこっちでは…?……ヤバい、描く方だってのに、今からドキドキしてきました。

このお話も少しだけオリジナル要素が。それがどの部分か、注目しながら見て貰えると嬉しいです!


それでは第5章、始まりますよ!


神様の手違いに寄って、この世界に転生してから一ヶ月が経った頃……。僕たち4人は着実に依頼をこなして、ギルドランクも緑色へと昇格する事が出来た。

 

そして今日の依頼は、少しだけ気分を変えて「王都アレフィス」にあるギルドから受ける事にした。

 

 

「リフレットの街とは、段違いの広さでござるなぁ〜」

 

「そりゃあね。ベルファスト王国の首都なんだし、これくらいの広さは普通でしょ」

 

「じゃあ、それぞれ各自で良さそうな依頼を探しに行きましょ!」

 

 

エルゼの先導によって、僕たちはバラけて依頼を探し出す為に動く。……やっぱり王都だな、とは実感してしまう訳で……クエストボードに貼られている依頼の数が、リフレットとは段違いであった。

 

……その中から気になった依頼を探し当て、エルゼに持って行く。

 

 

「見つけた!」

 

「颯樹!何かあったの?」

 

「これなんだけどさ……」

 

「なになに〜?『旧王都に巣食う魔物の討伐』ね。良いわ、報酬も良いしこれにしましょう」

 

 

そう言ってエルゼは、受付カウンターに依頼の用紙を提出しに行く。……今回の依頼の場所となるのは、およそ1000年前に遷都された旧王都である。辺りにはかつての王都の城を構成していた破片が残っており、遺跡みたいなマップになっているとか。

 

全員揃ったのを確認して、僕たちは依頼の場所へと向かう。……だがこの時、僕たちはそこに更なる敵が居るだなんて、露ほども思わなかったのだ…。

 

─────────────────────

【旧王都】

 

「八重!そっち行ったよ!」

 

「任せるでござる!」

 

 

そう言って八重は、黒い甲冑を着た首無し騎士と剣を交える。鎧の重さも相まって、生半可な気持ちと力で挑んだら数秒で重傷を負いそうな一撃だ。……だからって、臆してはいられないよ!

 

八重が気を引いてくれてる間に、僕は首無し騎士…デュラハンの背後へと移る。正面は対応出来ても、後ろはどうかな!

 

 

「【光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン】!」

 

 

僕の指先から光の槍が幾本も飛び出す。その光の槍はデュラハンの左肩へと命中するのだが、直ぐに再生した。……チッ、今回は少しやりにくいな!

 

その間に一角狼を討伐したエルゼが戻る。どうやら死角はあまり無さそうだ。先程のエルゼの攻撃を見事に捌いて、八重とも互角ぐらいの力で応戦する。

 

 

「【炎よ来たれ、煉獄の火球、ファイアボール】!」

 

 

リンゼが火の魔法で応戦するも、デュラハンの方にはダメージがあまり行ってないみたいだ。八重の不意討ちにも確り対応出来てるから……持久戦になったらキツそうだね。

 

……試して見ますか。あの技を!

 

 

「【マルチプル】!」

 

 

僕がそう詠唱すると、白い魔法陣が4つ僕の真上にひし形を描く様に現れた。これが無属性魔法【マルチプル】であり、僕の使える無属性魔法の1つだ。

 

僕は直ぐ様、別の魔法を発動する為の詠唱に入る。先程の【シャイニングジャベリン】を受けた時、若干ではあるが手応えを感じていた。……なら!

 

 

「【光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン】!」

 

 

4つの【マルチプル】の魔法陣から、無数の光の槍がデュラハン目掛けて発射される。それは何とかデュラハンに命中し、ダメージを与えたのだが……命からがら耐え切っていたようだ。

 

……仕方ない!

 

 

「リンゼ!敵の足止めを!」

 

「分かりました!【氷よ絡め、氷結の呪縛、アイスバインド】!」

 

「【ストレージ:イン/ソード】!【ストレージ:アウト/アロー】!【エンチャント:キュアヒール】!」

 

 

リンゼが拘束魔法で足止めをしている間に、僕は剣をストレージに直し、新たに取り出した弓を装備して、矢の1本に光属性を【エンチャント】する。

 

闇は光を嫌う……なら、これが効くはず!

 

 

「……これで、フィニッシュだ!」

 

 

僕のその掛け声と共に、ギリギリまで引き絞られていた弦が元に戻り、その反動で、光属性を付与された矢がデュラハン目掛けて発射される。

 

これが余程効いたのか、デュラハンは多少の動きを見せるもその姿を崩して行った。

 

 

「これで依頼完了でござるな」

 

「全く、一角狼が20頭出て来た時はヒヤッとしたわ〜」

 

「でもエルゼはキチンと倒して来たんじゃん。お疲れ様でした♪」

 

 

僕が軽くそう労うと、エルゼは顔を紅くしながら頷いた。……あれ?褒めただけなのにな。……そんな事よりもここって1000年前の王都なんだよね?だったら!

 

 

「【サーチ:歴史的遺物】!」

 

 

そう言って僕は【サーチ】の魔法を発動する。暫くすると、エルゼが暇と言うように僕に質問をして来た。……あのですね?今、魔法を発動している真っ最中なのですが!

 

 

「何してんのよ、あんたは」

 

「多分、颯樹さんはここが1000年前の王都であると言う事を思い出し、歴史的な宝物を探しているんじゃ……」

 

「へぇ〜、よくそこまで分かるでござるなぁ〜」

 

「元々のスペックが高いのかもね、あいつは」

 

 

エルゼから発せられた疑問に、直ぐ横にいたリンゼが答えた。それを聞いた八重とエルゼは、本人が聞いてないと思ったのか、思い思いの言葉を口にする。……失礼だな〜。僕だってそれくらい分かるよ。

 

……そう心の中で思いながら、集中を続けていると……【サーチ】が何かに引っ掛かった!

 

 

「反応あり!」

 

『ええ!?』

 

「何処よ!それ」

 

 

僕はエルゼの言葉に答える様に指を指す。そこにはお城を構成していた瓦礫が幾つにも積み重なっており、とても今の状態では入れる状態では無かった。

 

それを見たリンゼは、瓦礫の目の前に立つ。……イヤーな予感がするんだけどこれって。

 

 

「【炎よ爆ぜよ、紅蓮の爆発、エクスプロージョン】!」

 

 

リンゼがそう詠唱すると、赤の魔法陣から出て来た5つの火属性の光の柱が瓦礫を吹き飛ばす。これが火属性魔法の1つである【エクスプロージョン】である。その名前や“爆発”の意味から察せられる様に、対象物の周囲を爆発させて吹き飛ばすのだとか。

 

……だが、彼女が使った場合はと言うと……余りにもその威力が強すぎた為に…。……後は察して欲しいです。

 

 

「や、やり過ぎでは?リンゼ?」

 

「え?あぅぅ///」

 

 

爆発の余波で瓦礫の残骸が、辺りに降り注ぐ。僕がそれを指摘すると、リンゼは「やってしまいました」と言う様に顔を紅くしてしまった。……コントロールが出来てないのかな?仕方ないけどね。

 

僕たちは爆発によって見つけた入り口の扉を開き、遺跡の中を覗き込む。そこは暗く深い闇が拡がっていて、明るい照明が無いと大変な場所だ。

 

 

「【光よ来たれ、小さき照明、ライト】」

 

「ありがと、リンゼ」

 

「さぁ、行きましょ」

 

 

リンゼが灯したライトを頼りに、僕たちは遺跡の中を進んで行く。……その一方で、八重とエルゼは僕にしがみついているけど。…なるほどね。だいたい分かりましたよ?

 

さらに僕たちは奥へと進んで行く。その奥の突き当たりに、迷宮にはお決まりの古代文字が記された壁画が所狭しと並べられていた。

 

 

「リンゼ、これって読める?」

 

「んー……読めません…。古代魔法言語、では無さそうですけど……」

 

「そうか〜。まっ、一応写真には納めとこうかね」

 

 

リンゼの返答を聞いた僕は、コートのポケットからスマホを取り出して、壁画を写真に収める。……おっと、フラッシュ機能は切ってた方が良かったかな?情景反射で八重は刀を抜いて、今にも戦闘態勢って感じだし。

 

僕は先程の撮った写真を2人に見せる。すると、何処か安心したのか刀を鞘に収めてくれた。……ここで切られたらシャレになんないよ?

 

 

「……何かしら、これ」

 

「…土属性の魔石ですね。魔力を流せば、何かが起こるかもしれない、です」

 

 

そう言われて僕は、土属性の魔石に手を触れる。その反応と共に壁に反応が起こり、壁が部屋の形に会う様に崩れ落ちる。

 

それを見た僕たちは、さらに奥へと進んで行く。……砂に埋もれた何か?……んー。僕も魔力を使って見るか。

 

 

「皆は此処で待ってて。ちょっと行って来る」

 

「あまり時間掛けないでよ……?」

 

 

そう言って僕は魔法を発動する。……どんだけ怖いの苦手なの、エルゼは。それが女の子だし、仕方ないよね。……さて、サクッとやってしまいますか!

 

 

「【雷よ来たれ、白蓮の雷槍、サンダースピア】!」

 

 

僕がそう詠唱すると、雷を纏った10本強の槍が周囲に現れた。僕が手を振り下ろすと、雷を纏った槍は物体目掛けて飛んで行った。

 

……するとどうだろうか。槍に纏っていた雷が消え、それに対応するかの様に槍まで消えていた。先を確認して見ると、赤い物体が強く光っているのが窺えた。

 

 

「ん?……待て、これは!」

 

「どうしたんですか、颯樹さん!」

 

「【アポーツ】!」

 

 

そう言って僕は【アポーツ】の魔法を発動させる。……やった!移動させられた!まさか、これ…あの像みたいな物の核、じゃないかな?一応、写真に撮っとくか。もちろん身体もだけど。

 

……動き出す危険性があるから、破壊して置くか。……取り敢えず先ずはっと。

 

 

「【ゲート】」

 

「終わったの……?颯樹」

 

「まだ完全に、とは言えないけどね。ここに長居したら何か嫌な物に巻き込まれそうな気がするから……取り敢えず外に移動しよう」

 

 

エルゼからの疑問に僕はそう答える。それを聞いた3人は、僕の作ったゲートを通って外に出る。全員ゲートで外に出たのを確認した後、僕も遺跡の外へと出る。

 

 

「……じゃあ、この核は壊そうか」

 

「了解よ」

 

「そらっ!」

 

 

そう言って僕は、先程の魔物から取った核を天高く放り上げる。それを見たエルゼは、準備していたガントレットに【ブースト】を掛けて核を壊した。

 

……はあ。何だか疲れてしまったぞ?魔力はすぐ回復するから良いんだけどね。そんな思いを抱きながら、僕たちは旧王都を後にするのだった。

 

──────────────────────

【王都アレフィス:オルトリンデ公爵家】

 

「なるほど……旧王都にそんな遺跡が…」

 

「はい。調べてみましたが、真相解明にはまだまだ時間を要しそうです」

 

「ありがとう。此方からも調査団を派遣し、調査に当らせよう。報告ありがとう」

 

 

依頼達成の報告をギルドに終えた僕たちは、オルトリンデ公爵家へと訪ねていた。その内容は、今回の依頼場所で見つけた古代遺跡の事である。

 

アルフレッド公爵は、この旧王都に調査団を派遣すると言ってくれたので、僕は少しホッとしていた。……魔物の事は言わない方が良いかな…いや、言おう。

 

 

「それと、奥に水晶の魔物が潜んでいました」

 

「何と!どんな姿だったのだね?」

 

「僕の覚えている限りでは、あれは『コオロギ』に似た魔物でした。先にもお話した様に、水晶で身体を覆われていて、身体の頭部の辺りに核が存在してました」

 

「ありがとう。時にその魔物が居た、と言う証拠は持っていたりするかい?」

 

 

そう言ってアルフレッド公爵は、僕に証拠の提示を促す。僕はスマホを取り出し、写真の画面を開いてアルフレッド公爵へと手渡す。

 

その時にアルフレッド公爵がスマホについて聞いて来たけど、それについては『僕にしか扱えない魔導具みたいな物です』と説明して置いたけど。

 

 

「なるほど……中はこのように。……すまないが颯樹くん、この件に関しては手を貸して欲しい。協力してくれるね?」

 

「はい。僕でお役に立てるのでしたら」

 

「ありがとう。……しかし、本当に凄いな君は…こうも綺麗な物を……」

 

「宜しければ、描き写して提出しますよ?」

 

「おお!それは嬉しい!是非とも頼むよ!」

 

 

アルフレッド公爵に報告を済ませた所で、僕たちは宿屋へと向かった。……一日で結構動いた気がするよ…早く戻って休みたい……。

 

──────────────────────

【翌日】

 

アルフレッド公爵に報告を終えた次の日、僕は昨日に撮影した写真を数枚の紙に【ドローイング】と言う無属性魔法で描き写していた。

 

写真の量はそんなに無かった為、紙は2枚ほどで足りる物だった。

 

 

「よし。【ドローイング】は上手く使えるみたい。……じゃあ持って行きますか」

 

 

そう言って僕は【ゲート】を公爵家の前へと開く。できるだけ早く届けた方が良いからね……それに“情報は鮮度が命”とも言うし。

 

公爵家に着いてみると、門を開けたであろう警備兵が欠伸をしていた。

 

 

「……ふぁぁ…。……ええ!?」

 

「どうも」

 

 

やっぱり驚かれるよね。……まあ、薄々そんな感じはしてたけどね。そう思っていた頃、中から公爵家の紋章が入った馬車が出てきた。あら?お出かけかな?

 

そう思っていた僕の傍で、馬車は動きを停めた。中からはアルフレッド公爵が降りて来た。……ちょうど良かった!

 

 

「おお!颯樹くん、たった今さっき君を探しに行く所だったんだ」

 

「ん?何かお困り事ですか?」

 

「兄上が毒を盛られた」

 

「こ、国王陛下が!?」

 

 

事の緊急性を実感した僕は、アルフレッド公爵と共にベルファスト王国の王城へと向かう事にした。……今回はタイミングが良いような悪い様な……ああ!一体どうなってんのさ!




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はいよいよアニメ《第4章》の内容に入ります!颯樹くんにとって最初の恋愛がありますので、乞うご期待です!……先ずは毒を治さないといけないし、そこからは犯人をも見つけないと行けないから…この分で行くなら、やっぱり次々回が私としては頑張らないと行かないところになりますね。

アニメ《第3章》の内容は、ここまで簡潔な内容では無いので……ぜひぜひ見て貰えると嬉しいです♪水晶の魔物に関しても、そこまであっさりでは無いです。


それではまた次回です!


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第6章:国王暗殺、そして婚約。

「兄上に毒を盛ったのは、ミスミド王国との交易を反対する貴族による物だろう」

 

「ミスミド?」

 

 

ベルファスト王国の王城へと向かう車内で、アルフレッド公爵から今回の事のあらましを聞く事になった僕。その話しに出て来た『ミスミド王国』と言う言葉に、疑問を持ったので、僕は公爵殿下に説明を求めた。

 

 

「獣人の王が納める新興国だ。我がベルファストとミスミドは、友好的な関係を結んでいる」

 

「本題を教えて下さい。その交易も非常に重要な事だとは実感しましたが……」

 

「うむ。もし兄上が亡くなれば、政権は一人娘のユミナ王女へと移る。身内をユミナ王女と政略結婚させ、政権を握ろうとしている輩の仕業に違いない。颯樹殿には兄上を救ってもらいたい。エレンに掛けたあの魔法【リカバリー】で」

 

「なるほど……。状況は理解できました。僕でお役に立てるのでしたら、誠心誠意お手伝い致します」

 

「ありがとう。君はまさに神からの遣いかもしれん……。こんなにタイミング良く訪れてくれるなど……」

 

 

そう言いながらアルフレッド公爵は、目許を抑えて顔を下に向けた。……わわっ、泣かないで下さいよ!僕はたまたま公爵殿下の所を訪ねただけなんですから!

 

……しかし、これは参ったなぁ…。僕が政治事に首を突っ込む事になろうとは……。世の中何が起こるか分かんないもんだね。

 

──────────────────────

 

アルフレッド公爵から、今回の事のあらましを聞いたその後、僕たちはベルファスト王国の王城へと足を踏み入れた。……なるほど、公爵殿下の家とは比べ物にならない程の広さだな…。

 

そして中央から伸びる階段の上には、頭の中心部がツルっパゲの如何にも悪どい事を考えて居そうな男が立っていた。

 

 

「フン」

 

「くっ……。バルサ伯爵」

 

「これはこれは、公爵殿下」

 

 

なるほどね、この人は『バルサ伯爵』って言うのか。僕の脳内にはかつての故郷で使われていた調味料「バルサミコ酢」が思い出されていたが、そんな事を考えている暇は無さそうだ。

 

アルフレッド公爵と共に僕は、国王陛下の所へと向かう事にした。それを見たバルサ伯爵は、序と言わんばかりに此方に報告をして来た。

 

 

「ちょうど良かった。陛下を殺そうとした犯人は、先程捕えたばかりですぞ」

 

「何!?」

 

「……犯人はミスミドの大使だったのです。即刻首を撥ね、ミスミドへ送りか……」

 

「ならん!全ては兄上が決める事だ!」

 

 

犯人の首を撥ねて出身地に晒す、ね〜。やり方がえげつないなぁ、バルサ伯爵って。……ワンチャン、この人が犯人って可能性もあるぞ?あんのあくどい笑み、一変顔を歪ませてみたいわ〜。

 

そんな気持ちを他所に、アルフレッド公爵は奥へと進んで行く。バルサ伯爵は入り口の方に向かって進んで行った。……ちょっと弄ってみますか♪

 

 

「【スリップ】」

 

「お、おおう!痛たた……」ツルッ、デーーン!

 

 

しっかり転んでくれた♪はぁ〜、スッキリした♪……今の所はね。もしかしたらまたやるかもしれないし、一応名前だけは覚えて置こうかな?

 

そんな事を考えている間に、僕とアルフレッド公爵は、国王陛下の居る場所へと辿り着いた。アルフレッド公爵の先導によって、僕も中に入る。

 

 

「兄上!」

 

「失礼します」

 

 

呉々も失礼があっては行けないので、一言添えてから中に入る事にした。……なるほど、国王陛下は寝床で安静中って訳ね。まあ、事を悪化させない為には悪くない判断だね。

 

国王陛下に身体を向き直ると、ある一人の少女と目が合った。左眼が翠色で右眼が碧色……なるほど、オッドアイなんだね。公爵と共に入って来た僕を不審に思ったのか、薄紫色のドレスを着た女性に尋ねられた。

 

 

「アルフレッド様、その者は」

 

「話しは後で。颯樹殿、お願いできるか」

 

「はい」

 

 

公爵殿下からのお言葉を受け、僕は国王陛下の眠る布団へと移動する。その際に近くにいた少女や王妃に、軽く会釈をした。……見るからに大変そうだね。

 

僕は右手を掌を下にして出すと、魔法の発動の為に目を閉じた。……行けるか?

 

 

「【リカバリー】」

 

「【リカバリー】?如何なる状態異常をも回復させる、喪われた無属性魔法が…?」

 

 

僕が魔法を掛けている間、僕の少し後ろに居た女性からそんな声が挙がった。……え?喪われた無属性魔法?どう言う事?…突っ込んだら負けな気がするね。

 

そんな事を考えている間にも【リカバリー】の効果は、国王陛下に少しずつ及んで行っている。先程まで苦しそうだった国王陛下も、少ししたら顔から汗が引いて、目を覚ました。

 

 

「ん、何ともない……」

 

「おお〜」

 

「アナタ!」

 

「お父様!」

 

 

王妃様の方は安堵の笑みを浮かべ、王女様に至っては涙を浮かべながら国王陛下に抱き着いていた。……本当にこの世界の家族は暖かいね。僕の心も次第に温まって行くかのようだよ……。

 

 

「先程の苦しみが、嘘のようだ」

 

「はぁ〜、良かった」

 

 

国王陛下がアルフレッド公爵に話し掛ける。それを聞いた公爵は『一安心』と言った様子を浮かべていた。その間に僕は少し後ろに下がり、そして立ち上がる。

 

僕の姿に気づいた国王陛下が、アルフレッド公爵へと質問をするのだった。

 

 

「アルフレッド、その者は?」

 

「エレンの眼を治した、盛谷颯樹殿です。彼なら兄上を救ってくれると思い、此処にお連れしました」

 

「そうか……お主のお陰で助かった、礼を言う」

 

「ど、どうも」

 

 

僕は国王陛下のお言葉を受け、深々と頭を下げる。そして少しした後に頭を挙げる。……まだ顔から赤みが退かないよ…まあ、国のお偉いさんの命を救ったんだから、当然と言えば当然なんだが。

 

その固まっている間に、王女様が僕の姿を見て顔を赤らめている。……何だか僕の名前を復唱している様な気がしないでもないんだけど。

 

 

「よく陛下を救ってくれた、気に入ったぞ!ハッハッハ!」

 

「い、痛いです…」

 

「レオン将軍、その辺で」

 

 

僕の背中を力強く叩いて来た人は、どうやらレオン将軍と言うらしい。後ろに跳ねた茶髪と髪色と同じ髭がトレードマークみたいだ。レオン将軍は近くにいた女性の言葉を受け、静かにその場を退いた。

 

……ゑ?この世界の人たちって、顔面偏差値だけじゃなくて…スタイルも良いとかですか!?反則過ぎだわそんなの!

 

 

「それにしても【リカバリー】を使えるとは……。実に興味深いですわね……///」

 

「え、ええ?///」

 

「私はシャルロッテ、宮廷直属の魔術師です。それで?他に使える属性魔法は何ですか?」

 

 

シャルロッテと名乗った女性は、ジリジリと僕との距離を詰めていった。……女性としてのある一部分が、これでもかと主張されてるのですが…貴女に恥じらいってのは無いんですかね……。

 

シャルロッテさんのその疑問に対しては、また別の機会に答える事で引き下がってもらった。さらに赤みが増したような気が……。

 

 

「あ、あの!お父様を助けて頂き、ありがとうございました!」

 

「い、いえ!当然の事をしたまでです!元気になられて、僕も嬉しいです」

 

「……///」

 

「?」

 

 

さっきっから王女様の目が、こちらを真〜っ直ぐに見つめていらっしゃるのですが?何か気に障るようなことをしましたかね……。

 

 

「え、えと……なにかご用でしょうか?」

 

「……年下は、お嫌いですか?」

 

「は、はい?」

 

 

何を言ってんの、この姫様は?……と思ったその瞬間、アルフレッド公爵と国王陛下の間での話が始まった。内容は先程の話題に挙がっていた「毒殺未遂を犯した犯人について」だ。

 

 

「ミスミドが私を殺して何の得がある。私を邪魔に思う、別の誰かの犯行だ」

 

「私もそう思いますが、証拠があっては……」

 

「証拠だと?」

 

「はい。陛下がワインを飲まれた直後に倒れられたのを、多くの者が見ております」

 

 

国王陛下はミスミドの大使がやった物では無いと言ってたけど、証拠があるみたいで、レオン将軍がその証拠と倒れた時の現場を多くの人が見ている事を明かした。

 

……ワインを飲んだ直後に倒れた?…それって、毒物がワインかグラスに紛れていたって事だよね?……。

 

 

「取り敢えず、大使に会おう。呼んで来てくれ」

 

「はっ」

 

 

そう言ってレオン将軍は、ミスミド王国からの大使を呼びに部屋を後にした。……あれ?そう言えば。

 

 

「すみません、国王陛下」

 

「ん?どうかしたかね、颯樹殿」

 

「少し確認したいのですが、貴方は『ワインを飲んだ』直後に倒れられたのですよね?」

 

「あ、ああ……そうだが」

 

「……了解です。大体の犯人の目星が着きました。後はミスミド王国からの大使と会う事で、確実な物にしましょうか」

 

『え?』

 

 

僕が突然言い放った言葉に、国王陛下の部屋にいた殆どの人から驚きの声が挙がる。……親交国の大使が、態々毒物入りのワインを渡すと思うかな?犯人はこの屋敷の内部に居そうな感じだね。

 

僕は周りの人たちには気付かれぬように、薄い笑みを浮かべた。……分かったよ、この事件の犯人が。

 

──────────────────────

【ベルファスト王城:謁見の間】

 

「オリガ・ストランド、参りましてございます」

 

「あれ?アルマのお姉さん?」

 

「あ、貴方は!」

 

 

国王陛下の前で跪いているのは、数週間前に迷子になったアルマのお姉さんである、オリガさんだった。オリガさんとの関わりを聞いた国王陛下は、興味深そうに僕に問い質す。……街中で偶然関わっただけですけどね。

 

 

「レオン将軍、王様が倒れられた時の現場って、その時のままですか?」

 

「?あ、ああ。誰も触らぬようにしてある」

 

「……では、そこに連れて行って貰えますか?」

 

 

僕はレオン将軍に頼み事をする。するとレオン将軍は、快く僕を大食堂へと連れて行ってくれた。……食堂に来てみると、本当にあの時のままらしく、食卓には色とりどりな食べ物やグラス、飲み物が置かれていた。

 

 

「……」

 

「これが王が飲んだワインだ」

 

「ちょっと失礼しますね?【サーチ:毒物】」

 

 

レオン将軍に一言断りを入れた僕は、【サーチ】の魔法を発動させる。この中で毒を盛られそうな可能性があるのは、ワインの液体か、それが注がれるグラスの何方かだ。

 

……!やっぱりか。

 

 

「だいたいわかりました。将軍」

 

「?」

 

「王様たちを此処に呼んで頂けますか?あ、後……、バルサ伯爵も忘れずにお願い致します」

 

「了解した」

 

 

そう言ってレオン将軍は、王様たちやバルサ伯爵を呼びに行く。……さぁ、懺悔の準備は出来てるかな?バルサ伯爵?

 

 

「連れて来たぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「それで?皆を集めて、何をする気です?」

 

 

何で呼ばれたか分からなさそうなシャルロッテさんが、僕に質問をするのだった。……本来なら、こんな回りくどい事をしなくても良いんだけどね。

 

 

「皆さんは、事件の起こった当時、一人残らず此処に居たんですよね?」

 

「え、ええ」

 

「それは即ち、この騒動の犯人は……貴方方の中に居ると言う事です。国王陛下も含めた、ここに集まった全員がね!」

 

『……!』

 

 

僕が突きつけた衝撃の言葉に、王様たちの表情が一気に緊迫した物となった。……約一名を除いて。……待ってろよ?今からその化けの皮を剥がしてやる!

 

 

「ここは事件が起こった当時のままになっていて、その後は誰も触れていません。この場所をお借りして、軽く検証をしたいと思います」

 

「検証?」

 

「はい。サンプルが無ければ、検証は不成立です。ですので、検証の為にもう一本の別のワインをご用意しました」

 

 

僕は先程、レオン将軍に見せてもらった物と同じワインを取り出した。ラベルに書かれている文字は、僕が書き写させてもらった物だけどね。

 

僕はそのワインを手に取り、グラスに少量注ぐ。まだこの世界の常識はよく分からないから……。

 

 

「僕はまだお酒を飲めないので……ああ、別に他意は有りませんよ?代わりにレオン将軍、お願い致します」

 

「わかった。では、頂こう。……うん、良い味だ」

 

「毒が入っていない事を確認して頂いた所で、国王の別のグラスに注ぎます。国王陛下はまだ体調が優れないようですので……代役は…」

 

 

レオン将軍に毒味をして貰った後、僕は国王陛下の使う別のグラスにワインを注ぐ。……さて、誰にやってもらうのが適任か。別に誰でも良いんだけど、ここはやっぱり……。

 

 

「そうだ。バルサ伯爵にお願いしよう!」

 

「!?……い、嫌……、私は……」

 

「……何で逃げる必要性があるんです?ワインに毒が入っていない事は、確認されたハズですよ?……あーっ、もしかして。何か疚しい事があるんですね?そうじゃないと、こんなに慌てませんよね?」

 

 

僕は並々に注がれたワイングラスを片手に、バルサ伯爵へと詰め寄る。王の代役を務められると言うのに、変な人だなぁ。それを見たレオン将軍が、バルサ伯爵の肩を掴む。どうやら、無理やり飲ませる気らしい。

 

……はぁ、もういい加減にした方がいいかも。僕はワイングラスをテーブルの上に置き、バルサ伯爵に向き直る事にした。

 

 

「……その反応、やっぱり貴方だったんですね?バルサ伯爵」

 

「!?」

 

「ど、どういう事だね」

 

「先程レオン将軍が毒味してましたが、あの時点で毒が入っていたら、レオン将軍が苦しみに悶えていたはずです。……でも苦しまなかった。僕はここから推察を立てました。もしかしたら『毒はグラスの中に塗られていたのではないか』と」

 

「じゃあ…もしかして!」

 

「はい。恐らくは厨房に居た料理人と毒味人が実行犯と言う事になりますね。……だけど、その人たちはあくまでも『実行犯』。その人たちと関わりがあったのは、バルサ伯爵……貴方じゃないんですか?」

 

 

僕がこの事件の真相をつらつらと述べて行く。それに合わせて、バルサ伯爵の顔がどんどん青ざめて行く。……さらにもう一押し、かな?

 

 

「卑劣な!」

 

「毒がグラスに塗られてる事は、毒物を検知する魔法で直ぐに判明してました。その時に毒は全て拭き取らせてもらい、丁寧に洗っています。国王陛下の使うグラス全てに同じ事をしてたのだとしたら、相当計算されていた行動ですね。驚きよりも先に呆れが来ましたよ」

 

「なんと恐ろしい」

 

「バルサ伯爵、貴方の犯した罪は……国王暗殺、国家反逆罪などの言い逃れの聞かぬ罪です。素直に自供したらどうです?」

 

 

王妃様の言葉の後に、僕はバルサ伯爵にトドメの言葉を投げ掛ける。その言葉に衰えていた伯爵だったが、何を思ったのか外へと逃げ出した。

 

……まだ分かんないの、この人は。

 

 

「【スリップ】」

 

「お、ぉぉおおおお……うわっ!」ゴチーーーーン!

 

「ホッ……」

 

 

一連の事件が解決して、僕は胸を撫で下ろす。……それを赤らめた顔で王女様が見ている事にも、僕は全然気づかぬまま。

 

事件の引き金は僕の述べた通り、料理人と毒味人が起こした物だという事が分かった。さらにそこにバルサ伯爵が関与していた事から、今回の事案になったのだと言う。

 

バルサ伯爵の家系は、お取り潰しに爵位の剥奪……そのうえで厳重な罰が与えられるらしい。……自業自得だね全く。

 

──────────────────────

 

その後、僕は公爵殿下と共に来客の間へと通された。……そして何故か僕の隣には、王女様が腰掛けていた。興味深そうに僕を見つめるので、何事かと身構えている僕だった。

 

 

「そなたには本当に感謝している。余の命を救ってくれた恩人に報いたいのだが……」

 

「どうかお気になさらず。僕はたまたま公爵様の所を訪ねただけです」

 

「……///」コクッ

 

 

僕が国王陛下のお話に答えた後、王女様が何かを決めた様に頷いた。……何を頷いたんですかね、王女様は。まあここまで来て、気付かない方が難しいんだけど。そんな思いを抱えながら、僕は紅茶を啜る。……美味しい。

 

意を決した王女様は、その場に立ち上がると国王陛下にある事を言い出した。

 

 

「お父様、お母様、私……決めました!」

 

「……どうした、ユミナ」

 

「こ、こちらの盛谷颯樹様と……け、結婚させて頂きたく思います!」

 

 

ユミナ王女が言い放った言葉は、飲んでいた紅茶を勢い良く飲み込んでしまうほどの衝撃だった!……ケホッケホッ。勢い良く飲み込んだからか、喉がビックリしてしまった……。

 

……え?ゑ?……嘘、ですよね?僕と…一冒険者であるこの僕と『結婚したい』と申しましたか、貴女は!ふと思って横を見ると、この上ない笑顔のユミナ姫が。……あっ、これは諦めなきゃいけないパターンですかね。

 

 

「ユミナ、颯樹殿と結婚したい理由を……聞かせてもらっても良いかな?」

 

「颯樹様は、周りを幸せにしてくれます。そのお人柄も、とても好ましく……///」

 

 

そう言った後にユミナ姫は、両手で顔を覆った。……ああ、恥ずかしいんですよね。恥ずかしいですよね……大丈夫です、僕だって今恥ずかしくて逃げ出したい気分なので!

 

その気持ちには意も介さず、ユミナ姫はさらに言葉を紡ぎ出す。

 

 

「この人と人生を歩んでみたいと、初めて思えたのです///」

 

「そうか……お前が言うなら反対はしない。幸せに、なりなさい」

 

「……はい///」

 

 

国王陛下の言葉に、少し目を覆っていた手をずらしてユミナ姫は答える。……あ、あっさりし過ぎ…。

 

 

「これはめでたい!」

 

「今夜はお祝いね!」

 

「ちょーっと待ってくださいな!」

 

 

アルフレッド公爵や王妃様も、イヤーな展開を匂わせる言葉を発し始めたぞ?本当にあっさりし過ぎでは!?僕は国王陛下に物申す為に、紅茶の入ったカップを置いて立ち上がった。

 

 

「あら?どうかなさった?」

 

「いやいやいや!納得するの早すぎですよ!何処の馬の骨かも分からない奴と、ご自分の愛娘が結婚するんですよ!?文句とかは無いんですか!?」

 

「その辺は間違いない。ユミナが認めたのだから、君は悪人では無い」

 

「何故です!?なぜそう言いきれます!?」

 

 

僕の反論には王妃様が答える(後にユエルと名前を聞く事になる)。ユミナ姫は魔眼の持ち主であり、人の性質をその眼で見抜くのだと言う。それに適った僕は、ユミナ姫から気に入られたのも同然だと言われた。

 

……なるほど〜。……って!

 

 

「理由はわかりました……ですが、ユミナ姫は一体幾つですか?」

 

「12だな」

 

「はい?12?……結婚には早い気もしますが…」

 

 

僕の更なる疑問には国王陛下が答えた。それに寄ると、王家の者は大抵15までには婚約して相手を見つけるとの事だ。さらに聞けば、国王陛下がユエル王妃と婚約した時は14だったのだとか……。

 

ユエル王妃曰く『婚約するには、ちょうど良い時期』だとの事で。

 

 

「はぁ……ん?」クイックイッ

 

「颯樹様は、私の事がお嫌いですか?」

 

「い、いや……嫌いじゃない、です」

 

「でしたら何も問題ありませんね♪」

 

 

僕の苦し紛れの返答に、涙を浮かべながら笑顔を浮かべるユミナ姫。……だが僕も、ここで引き下がる訳には行かない!

 

 

「ですが!僕の国では男は18、女は16にならないと結婚できないんですよ!」

 

「颯樹さんは今お幾つ?」

 

「もうすぐ17になります」

 

「よし。では、1年後までにユミナの事を知って貰えば問題は無い」

 

 

……え?何言ってんですか、国王陛下。

 

 

「1年間ユミナの事を知って、その上で結婚は考えられないと言うのなら潔く諦めよう。どうかな?」

 

「は、はぁ……それで構いませんが」

 

 

あのですね?確かに1年後、僕は18になりますが……ユミナ姫は1年後になっても13、結婚できないのですが……。

 

 

「決まりね!ユミナ、1年で颯樹さんの心を射止めなさい♪それが出来なかった時は、修道院で一生を終える事を覚悟するのですよ?」

 

「はい!お母様!」

 

(う、嘘〜)

 

 

少し見ただけだけど、確かにユミナ姫は好みのタイプだよ?お淑やかだし綺麗だし、誰にでも友好的な性格で、まるで妹みたいに思えて来るよ!?でも、結婚するなら僕以外にも一杯候補はいるでしょう!?

 

そんな事を考えていると、隣にいたユミナ姫から手を握られる。先程カップを持っていない方の手だ。そして目を向けると、そこには花が咲く様な笑顔を浮かべた、ユミナ姫が居た。

 

 

「これから……よろしくお願いします///」

 

「あはは……はぁ」

 

 

そう言って僕は客間を後にする。……そしてその後、ユミナ姫が僕の所に突撃して来た!聞けば、国王陛下に「その人物の事を知るには、常に一緒に居るのが得策だ」と言われたみたいで。……どうしてこんな事になるかなぁ!

 

ドレス姿のまま外に出すのも忍びなかったので、リフレットの街にある『銀月』で一旦ユミナ姫には待機してて貰い、僕はレディース物の服を買いに出かけた。……その時の購入する際にからかわれたのは、また別の話。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はアニメ《第4章》の後半をお届けします!そしてそのお話ではオリジナル要素満載で描こうかと考えています!

前話の前書きで言っていた事を、遂に実現する時が来ましたよ〜!はぁ、それを考えたら自然と胸がドキドキして来た。……内容が固まり次第描いた方が良いかもね。なるべく早めに。


それではまた次回です!9月1回目の3連休中の投稿は、最後になります。明日からはまた仕事なので、何日間か空くかもですが、楽しみに待ってて下さいね!


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第7章:謝罪、そしてお説教。

皆さんこんにちは!咲野 皐月です!


今回はアニメ《第4章》の中盤Partをお届けします!アニメ版では紹介されず、Web版では少ししか述べられて居なかったこのPartを、この小説では少しの隙間を開ける事なく描いて行きたいと思います!

……果たして、R15は一体どの辺が限界ラインなんでしょうね?私が一番最初に読み始めた小説では、R15と言う枠組みを軽々と超えて来てましたが。


まっ、かく言う私もそこから少〜しだけ、レベルを上げて行くのですが。前置きはこの位にして……。このお話にもオリジナル要素は有りです!寧ろ、アニメやWeb版通りがほとんど無いかも。


それでは第7章のスタートです!


【リフレットの街:宿屋『銀月』】

 

「〜♪」

 

『……』

 

 

ベルファスト王城から帰還した僕は、付いて来たユミナ姫の為に目立たない服を買いに出かけていた。取り敢えず皆には会っておこうと言う事で、ドレス姿から私服へと着替えて貰った。

 

そしてそれが終わるや否や、僕の左腕に今でも抱き着いていらっしゃるという訳なんだよね〜。ははは……正面の3人が向ける目が、何だか怖いのですが。

 

 

「颯樹殿が、結婚でござるか」

 

「ビックリですね」

 

「……ったく、何やってんのよあんたは…」

 

「……自分でも何が何だか状況が分かっておらず、周りからの冷たい視線を浴び続けております、はい」

 

 

最初に言葉を発した八重は、頭痛がするのか頭を抑えており、リンゼは一体心の底では何を考えてたのか、眼の光が全くと言って良いほどに仕事をして居なかった。

 

そしてエルゼには呆れられ……僕の心も崩壊寸前ですよ全く。そんな事も露知らずのお姫様は、その場に立ち上がると3人に自己紹介を始めた。

 

 

「ユミナ・エルネア・ベルファストです。今日から此方でお世話になります」

 

「……と言う事は、此処で暮らすでござるか?」

 

「お父様の命なのです。お父様は『その人物の事を知るには、常に一緒に居る事が一番』と言っておりました。ですので、此方でお世話になろうと決めたのです」

 

「お姫様なのに?大丈夫なの…なんですか?」

 

 

ふと思った疑問をエルゼがぶつける。……エルゼ、諦めた方が良い。この娘は僕の事になると、結構凄い行動力を見せるから。

 

 

「どうか敬語はお止め下さい。……世間知らずでは有りますが、皆さんのお役に立てる様に……頑張ります♪先ずはギルドに冒険者登録をして、依頼をこなすのですよね?」

 

『え!?』

 

「ちょっと姫様!?依頼を受けるって、それが示す意味は分かってる!?」

 

 

自らの決意を、胸の前で軽く拳を作ってから伝えるユミナ姫。……個人的にさ、美少女が胸の前で軽く拳を作ってから『頑張ります♪』って言うのは、結構萌えない?いやいや、そんな事よりも!

 

僕が向けた疑問に、ユミナ姫は『何を今更』と言った表情で答えを返して来た。

 

 

「分かっています。あと『姫様』もやめて下さい!……ユミナと呼んでください、旦那様」

 

『だ、旦那様……』

 

 

僕の疑問に答えた後、呼び方に疑問を持ったユミナ。……まさかの出会って直ぐで名前呼びですか!?エルゼやリンゼ、八重の時は『友達』と言う意味で解釈してたけど、貴女は一体何を考えてらっしゃるんですかね!?

 

ほら!ユミナが『旦那様』って言葉を使ったせいで、3人が漏れなくポカーンとしちゃったじゃん!

 

 

「だ、旦那様は……やめてくんない?」

 

「では『ユミナ』と!」

 

「……ゆ、ユミナ……///」

 

「はい///」

 

 

僕はユミナに訂正を要求され、渋々とユミナの名前を呼ぶ。……改めて名前で呼ぶとなると、めちゃくちゃ恥ずかしいなぁおい!

 

 

「この宿屋に泊まるって事だけど、宿泊費はどうするの?」

 

「それならご心配無く!お父様から旅立つ記念として、これ程貰ってますから!」

 

「どれどれ〜……!?」

 

 

僕はユミナに許可を貰い、袋の中を確認する。するとその中には白金貨50枚……総額にして5000万円相当が入っていた。……おいおい、これは後に金銭感覚が狂うぞこんなの…。

 

その後ユミナは宿泊する部屋を取ったのだが、……それがなんと。

 

──────────────────────

 

「えへへ」

 

「こんなんで良かったのか?」

 

 

……僕の現在取ってる部屋である。受付に居たミカさんにはからかわれるし、エルゼたち3人からは『危機感無さすぎ!』と怒られるし……本当に大変だわ。

 

そんな状況を知らずか、未だにユミナは僕に抱きついて居られる。

 

 

「あの〜ユミナ?」

 

「はい?」

 

「冒険者として生活するなら、武器とかその辺も揃えないとだけど、何か使う武器は決めてたりする?」

 

「はい。王城ではシャルロッテさんから魔法の訓練と、弓に寄る射撃術を学んでおりました。そこそこ強いと思いますよ?私」

 

 

ユミナから使用武器がある程度決まっている事を聞いた僕は、少し【ストレージ】を開いて、その中から弓を取り出した。

 

そしてその弓をユミナへと渡す事にした。

 

 

「こ、これは……」

 

「僕の武器の一部さ。近接戦では刀を、遠距離戦ではその弓を使ってるんだけど……ユミナの武器はまだ無いから、一応持っててくれる?明日、ユミナの武器を探しに行こっか」

 

「わかりました。では、有難く頂戴しますね♪」

 

 

そう言ってユミナは、僕から受け取った弓を壁に立て掛ける。もちろん矢筒や矢もその時に渡した。そしてそれが一段落した後、ユミナは僕の隣に再び腰掛けた。

 

身長は僕が高い位置になるので、自然とユミナが上目遣いで此方を見る形になる。……なんかこれ、逆らいにくい空気ですな。

 

 

「颯樹さん」

 

「何、ユミナ」

 

「私との婚約……本当に、受け入れてくれるんですよね?」

 

「……時間は必要だけどね。ユミナと共に歩いてみると言うのも、何だかワクワクするし、実際の事を言えば…僕もユミナが好きなんだと思う」

 

 

僕は今の時点で思っている事を、そのままユミナに伝える。……まだ会ってそんなに日が経ってないけど、僕の中に渦巻く気持ちは、目の前に居るユミナとほぼ変わりない物であって。

 

それを聞いたユミナは、僕にある質問をして来た。それは僕の心を左右させる言葉だった!

 

 

「私は……貴方と共に生き、全てを貴方と背負う覚悟があります。例え貴方が何人もの妾を取ろうと、私は貴方に寄り添い続けます。その気持ちは一生変わりません」

 

「ユミナ……」

 

「……私は貴方の事を全て知りたい。強さも弱さも…何もかも」

 

「……それって…」

 

「正直に答えて下さい。私の事は、恋愛として見れませんか?貴方の国の価値観は後にして、今は貴方の本当の気持ちが知りたいんです」

 

 

僕にそう問い掛けてきたユミナ。彼女からは笑顔が消え、真剣そのものの表情となっていた。それに「看破の魔眼」の影響からか、どうやら言い逃れも出来ない状況になってしまった。

 

ベッドのスプリングが、ユミナの小さな手の重みで軋み始めた。……そうか、迷わなくて良いんだよね。僕はそう思うとユミナを優しく抱き留めた。

 

 

「……」

 

「僕はユミナの事が好きだ。……まだ僕は頼り無いかもしれない。愛想尽かされて捨てられるかもしれない。けどね?僕が君を想う気持ちに、嘘は無い」

 

「……颯樹さん」

 

 

僕はユミナに全ての想いをぶちまける。……うわっ!言っちゃった!軽くキザなセリフ吐いたよね!うわぁ〜これで引かれたら終わりだほんとぉ〜……。

 

その言葉を聞いたユミナは、僕と視線を一直線に合わせた。時間的にはまだ早いというのに、如何にもその先に進んでしまいそうな空気だ。

 

 

「貴方の気持ちは、わかりました。……私を一生賭けて大切にして下さいね」

 

「言ってしまった事は変えられないからね。……これからよろしく頼む、ユミナ」

 

「はい♪」

 

 

そう言って僕はユミナと軽い抱擁を交わした。……そしてタイミングが良いのか悪いのかの状況で、音が鳴り始める!

 

 

『うわぁっ!』

 

「ごめん、ちょっと出るね?」

 

「はい。……もうちょっとだったのに」

 

 

とてもイイ雰囲気を邪魔されたユミナは、腰掛けているベッドで頬を膨らませている。僕は邪魔した元凶から掛かって来た電話に、愚痴をぶつけるかの様に出た。

 

 

「何ですか」

 

『おおー、颯樹くんか。婚約おめでとう。……ありゃ?声を掛けては行けない状況じゃったか?』

 

「その辺は自分で予想されては?世界神なのでしょう?僕の考えは分かりますか?」

 

『……何か、悪い事したかのぅ』

 

 

電話をかけて来たのは、やはりと言うべきか神様であった。タイミングが良いのか悪いのか、よく分かりませんよ僕は。お陰でユミナが拗ねちゃいましたよ、どうしてくれんですか。

 

そんな僕の気持ちを察したのか、神様は僕にある事を提案して来る。

 

 

『気分を悪くしたのなら、申し訳ない事をした。……そうじゃ、お前さんの【ゲート】でこっちまで来られんか?謝罪はその時にしよう』

 

「……分かりました。彼女を連れて今から、そっちに行きます。幸いまだまだ時間はありますので」

 

『おー待っとるよー』

 

 

そう言って神様は電話を切る。……やる事は決まったよ、久々にあそこへ行きますか。そう決心した僕はユミナにある事を伝える。

 

 

「【ゲート】を使うんですか?…一体、どこへ」

 

「……良い所、としか言えない」

 

 

場所の名を伏せて話した僕は、部屋の中央に【ゲート】を開く。ユミナは僕の後に続けて入って来る。……そして辿り着いた所は、僕にとっては懐かしの場所であり、ユミナにとっては初めての場所であった。

 

 

「こ、ここは……」

 

「神界だってさ。僕も少し聞いただけだけど」

 

「おおー来たか、待っとったよ〜」

 

 

神界へと辿り着いた僕たちを待っていたのは、最初に僕が会った時と、何ら変わりない容姿をしている神様であった。その神様はといえば、変わらない笑顔を浮かべながら僕とユミナを見ていた。

 

僕はユミナを連れて、畳に腰かけた。それを見た神様は2人分の湯呑みにお茶を注ぐ。……おもてなし態勢の完成だ。

 

 

「今回の事じゃが、アレは全般的に儂が悪かった。申し訳ない」

 

「……」

 

「それで颯樹くんの隣に居るお嬢さんが、颯樹くんの婚約者の娘かな?」

 

「ベルファスト王国国王、トリストイン・エルネス・ベルファストが娘、ユミナ・エルネア・ベルファストです」

 

「ホゥ〜……綺麗なお嬢さんじゃのぉ〜」

 

 

神様はユミナを見て、そんな事を呟いていた。……あのですね?ユミナは可愛いですよ?それを侮辱するんですか?さすがに僕も怒りますよ?

 

少し僕たちの間に気まずい空気が流れる。……すると、ユミナは突然僕の肩に手を回し、僕の顔を自身に向けたのだった!

 

 

「……ちょ、ユミナ!?」

 

「……」

 

 

え、え、ちょっと待ってユミナ!まだ心の準備が出来てない!そんな僕の想いが、暴走した彼女に通じるはずも無く。

 

ユミナは自身の唇を僕の唇に合わせて来た!……え?ゑ?ちょっと待って!ファーストキスを、神様の見てる前で取られた!?

 

 

「ほぉ〜、青春じゃのぉ〜うんうん」

 

『ぷはぁ……』トローン

 

「ゆ、ユミナ………////」

 

「邪魔をされた仕返しです。どうせなら貴方に見て貰おうと思って////」

 

 

顔を赤らめながらユミナはそう答える。……ま、マジですか、ユミナ!?それを見た神様は、追加する様に僕にある事を伝える。

 

 

「ああ、颯樹くん。先程のキスが情熱的な物じゃったんで忘れそうな所じゃったが……その世界では一夫多妻が普通なんじゃよ。だから、お主が何人お嫁さんを作ろうと大丈夫なんじゃよ」

 

「へぇ〜」

 

「謝罪は済みましたよね?……颯樹さん、早く『銀月』に戻りましょう」

 

「り、了解」

 

 

真面目な表情をしたユミナに諭され、僕は【ゲート】を『銀月』へと開く。……また来る事があったら、必ずや連絡を入れます。

 

そんな事を胸に抱きながら、僕とユミナは神界を後にした。……今日みたいな突然の介入はナシですよ?

 

──────────────────────

 

再び『銀月』の僕の部屋へと戻って来た僕たちは、外を確認する。外はすっかり夕焼けが差しており、日暮なのだという事が分かった。

 

それを確認した僕とユミナは、お互いに笑い出した。……はぁ、今日は国王陛下の命を救い、ユミナとの婚約も有りつつ……内容が濃い日だったなぁ。

 

 

「どうする?エルゼ達には、明日謝って置いた方が良いかもね」

 

「そうですね♪私と颯樹さんの関係を確認する、良い機会にもなりましたので」

 

 

その言葉を交わして僕たちは、宿屋の下に降りて行く。そこでは3人が待ち伏せており、笑顔を浮かべているユミナの傍で、僕はエルゼを始めとした面子から、長々と説教が続いていた。

 

……これは、断じて…わざとじゃなーーい!!!僕の抱えていた想いは、ユミナの心にのみ残る形で、呆気なく霧散して行った。




今回はここまでです!如何でしたか?


……本当なら就寝のシーンまで入れたかったんですが、作者の無能さがここで発揮されてしまいました……。仕方ないですね、だって前話で8000字近く描いてますからね。

次回はアニメ《第4章》の後半をお届けします!とうとう颯樹くんが『召喚魔法』を発動しますよ!そのシーンも入れようと考えてますので、どうぞお楽しみに!


それではまた次回です!(ここまで連日投稿出来てるのが、私はとても嬉しいです♪)


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第8章:大猿討伐、そして召喚獣。

衝撃的な一日のその後、僕はユミナと共に武器を買いに出かけた。ユミナはどうやら『集中性』よりも『速射性』を重視するみたいで、同じ弓でも軽めの《コンポジットボウ》を選択した。

 

その後、女子用の白い胸板とお揃いのブーツを購入し、依頼へと向かう事にしたのだが。

 

 

「いきなり『キングエイプ討伐』って……初心者からしたら、結構ハードなクエストだけど…」

 

「私の実力を知って貰うには、これくらいがちょうど良いかと」

 

「まっ、危なくなったら颯樹が助けてあげれば良いのよ」

 

 

……また勝手な事を…。さっき僕が言ったのは、このクエストのランクの事である。基本は『受注者のランクと該当するランクのクエストのみ』受注できるが、今回の場合は、パーティーメンバーの過半数が上級ランクになっていれば、高ランクのクエストを受けられると言う仕組みだ。

 

今回の『キングエイプ討伐』のクエストは、三流冒険者の意味合いである《緑》ランクの依頼なのだが、ユミナがそれで良いと譲らなかった為、このクエストを受注している。

 

 

「すみません、少し召喚魔法を使っても良いですか?」

 

「え?この大きな森の中で?」

 

「見てて下さい、颯樹さん♪」

 

 

ユミナが僕にその提案をして来たので、僕は他の3人に断りを入れて許可を出す。するとユミナは、持っていたコンポジットボウの発射口を上にして、魔法の詠唱を始めた。

 

召喚魔法って、確か【闇属性魔法】の別名だっけ。そんな事を考えている間にも、ユミナは魔法を使って行く。

 

 

「【闇よ来たれ、我が求むは誇り高き銀狼、シルバーウルフ】」

 

「こ、これは!召喚魔法?」

 

 

リンゼがユミナの発動した魔法に、驚きにも似た声を挙げる。……先程の道すがらで聞いた話なのだが、ユミナは風・土・闇の3属性の魔法を使えるのだと。リンゼと同じ巷では珍しい3属性の使い手だ。

 

少しして闇属性の魔法陣から現れたのは、大きさにして1mくらいの毛並みが銀色と青の獣である、シルバーウルフだ。

 

 

「じゃ、皆お願いね?」

 

『ウォンっ!』スタスタスタ

 

「彼らが見つけてくれると思います」

 

 

森の中へと駆け出して行ったシルバーウルフを見て、ユミナは僕たちにそう教えてくれた。……へぇ、召喚魔法って便利なモンだなぁ〜。…と思っていたら『私が教えましょうか?』と名乗り出た為、クエスト完了後に頼む事にした。

 

その前に少し細工を、ってね♪そう思いながら僕は、適当な位置にある細工を施した。……暫くすると、先程のシルバーウルフの鳴き声が聞こえてきた!

 

 

「良い?戦闘態勢、準備!」

 

 

シルバーウルフの鳴き声を聞いたユミナは直ぐ様反応し、僕の掛けた声で全員が戦闘態勢に入った。……今回は刀で行きますか!まっ、一応の予備として弓も入ってるけど♪

 

そんな事を考えていると、5頭のシルバーウルフが此方に向けて駆けてきた。その後ろにはご丁寧に7体のキングエイプが。……何匹か罹ったね、今だ!

 

 

「まずは小手調べだけど、倒れてくれるなよ〜?【マルチプル】!【炎よ来たれ、紅蓮の炎槍、ファイアスピア】!」

 

 

僕の放った火属性の魔法が、何匹かのキングエイプに突き刺さる。……えっ?こんなにあっさり?と思ったのも束の間、先程の攻撃を見た2匹のキングエイプが、僕へと襲いかかって来た。

 

……なるほど、それなら!

 

 

「エルゼ、任せた!」

 

「分かったわ!【ブースト】!」

 

 

僕はその場にいた1頭をエルゼに任せると、もう1頭へと斬り込む。そこをユミナが放った矢のサポートを受けて、首の頸動脈を切り落とす事が出来た。

 

エルゼの方は【ブースト】を込めた一撃を喰らわせ、その後に2頭の狼(召喚獣)がキングエイプへと喰らいつくのだった。……あと何匹だ?

 

 

「【雷よ来たれ、白蓮の雷槍】……」

「【炎よ来たれ、紅蓮の炎槍】……」

 

 

ふと思って横を見てみると、2頭のキングエイプを相手にリンゼとユミナは、魔法で迎撃をする様だ。……ん?待て。さっき僕は何匹キングエイプを倒した?最初の魔法で2匹、先程の斬り込みで1匹、エルゼが1匹、八重が1匹、……なるほど。アイツらで最後か!

 

 

「【サンダースピア】!」

「【ファイアスピア】!」

 

 

そんな事を考えている間に、ユミナとリンゼの魔法が2頭のキングエイプに命中する。そしてグラりと地面に倒れ込んだのを確認した僕たちは、少し息を整える事にした。

 

 

「何とか片付いたね」

 

「あ、あの〜、どうでしたか?」

 

「うん!実力は問題無さそうね」

 

「魔法も中々の物、です」

 

「後方支援は助かるでござる〜」

 

 

3人から賞賛の言葉を送られるユミナ。……確かに、僕は初依頼の時は魔法で攻撃するだけだったけど、後方支援が有るとここまで安定して来るんだからな〜。

 

僕はそう思いながら、労いの意味を込めてユミナの頭を撫でた。すると気持ちが良かったのか、ユミナは僕の腕に抱き着いて来た。…また始まったよこれが。

 

 

「相変わらず、仲良いわねアンタら」

 

「……」ピキッ!

 

「ちょっと待って!1回落ち着こ?ね!」

 

 

僕がそう静止すると、怒りの籠ったオーラを発していた3人は何とか気を鎮めてくれた。……はぁ、毎度毎度こんな形になってたら、連携どころじゃない気がするな。

 

……と、ここで僕はある事を思い出し、頭を抱えるのだった。

 

 

「はぁ……これで女の子4人に、男が1人か〜。ますます何か言われそう…」

 

「何か問題でも?」

 

「3人とも気が付いてないかもだけど、ギルドとかではかなり目立つんだよ?それに対する僕への視線が突き刺すように痛い……」

 

「何ででござる?」

 

 

無自覚なのがまた怖いよ……。僕は思った事を全て4人にぶちまけるのだった。

 

 

「そりゃあやっかみも受けるよ……エルゼにリンゼ、八重も皆、特に可愛いんだから」

 

『え?』プシュー

 

 

僕がそう言うと、ユミナを除いた3人の顔が紅くなり、顔からは沸騰するかの様に湯気が立ち昇って居た。少しして我に返ったエルゼが、僕の言葉に反論する。

 

 

「な、何言ってんのよ、颯樹!可愛い、とか……その気にしちゃうじゃない////」

 

「さ、さあ……帰りましょう////」

 

「か、帰るでござるよ///」

 

「そ、そうね!そうしましょ////」

 

 

リンゼが苦し紛れに発した言葉を受け、エルゼと八重は先程止めて置いた馬車に向かって歩き出した。……僕は素直な事を言ったつもりだけどな…。

 

そんな事を考えていると、コートの袖を引っ張る人が居た。それは先程の3人では無いが、少し顔を赤らめたユミナだった。

 

 

「私は?私は可愛いですか?」

 

「可愛いよ?当然じゃん」

 

「えへへ///」

 

 

ユミナをそう諭した僕は、馬車へと歩き出そうとしたのだが、ユミナは照れ隠しのつもりだろう……僕の背後に顔を埋めていた。仕舞いには後ろから抱き着かれる始末だ。……あの、女の子としての大事な部分が、服越しだけど当たってるんですが!

 

……このまま狩場に固まられるのもアレだったので、僕はユミナをその場から背負うと、3人の待つ馬車へと向かった。……大分我が儘なお姫様で。

 

──────────────────────

【宿屋『銀月』:裏庭】

 

僕はクエストが終わって直ぐに、ユミナに先程の召喚魔法のやり方を教授してもらっていた。呼び出される個体はランダムであり、本人の持つ魔力の量や質によっても変化するらしい。

 

僕は両手を合わせて、闇属性の魔力を目の前の魔法陣へ集め始める。そして暫くした頃、中から威圧感のある声が聞こえて来た。

 

 

『……我を呼び出したのはお前か』

 

「おっ、呼び出せた」

 

「本番はここからです。召喚獣と契約して、初めて成功です」

 

「よし」

 

『我と契約だと?随分と……舐められたものだな』

 

 

そう言い終えた後に、魔法陣の上にある獣が現れた。それは白き毛並みに黒いシマシマの猫型の動物で、古き伝承にあまり関心の無い僕でさえも、その名前だけは耳にしていた物だった。

 

 

「ま、まさか……《白帝》!?」

 

「え?《白帝》って?」

 

「召喚できる最高クラスの獣……。魔獣では無く、神獣です!」

 

「……はい!?…それで、契約はどうすれば」

 

 

ユミナから目の前の獣が『神獣』の1体である《白帝》と教えてもらった僕は、改めて《白帝》と向かい合う。すると白帝は僕の方を見ると、言葉を発し始めた。

 

 

『ふむ……お前の魔力の質と量を見せてもらう。生半可な力では、使い物にならんからな』

 

「神獣ともなると、扱いも難しい…と言う事か」

 

『話が早くて助かる。……?奇妙だな。精霊の加護か…それとももっと高位な力を感じる……』

 

 

僕の答えに納得した白帝は、僕の身体の匂いを嗅ぎ始めた。……何か問題でもあったかな?

 

一度嗅ぎ終えると、白帝は『これは面白そう』と言った具合に好戦的な顔を浮かべ、契約の仕方を伝える。

 

 

『さぁ……魔力が枯渇するギリギリまで、我に魔力を注ぎ込め。我の額に手を当てれば、我自身に魔力が伝わって行くからな。途中で意識を失って倒れたら、契約は無しだ』

 

「了解。……それじゃ、行くよ」

 

『来い』

 

 

白帝の準備もできた様なので、僕は白帝の額に手を添えて魔力を流し込む。……そう言えば。一日に沢山の魔法を使ってるけど、疲労感とかそう言うのがあまり無かったな…。

 

そう思いながらも、魔力を注ぎ続ける。

 

 

『……!何だ、この力は!』

 

「……凄い」

 

「〜?もうちょっと足してみるか」

 

 

途中でそんな事を思った僕は、注ぎ込む魔力の量を少しずつ増やして行く。すると白帝の身体が硬直し始め、髭がピンと伸び始めていた。

 

次第に白帝の目は瞳を映さなくなってしまい、気絶する手前まで来ていた。

 

 

『ま、待ってく……これ以上は…があっ!』

 

「颯樹さん!」

 

「ふぇ?」

 

 

そう言って僕は、ユミナの方を振り返る。すると僕の傍では、白眼を剥いて口から泡を吹きながら、気絶している白帝が転がっていた。

 

……このまま放っとくのもアレだったので、僕は回復魔法である【キュアヒール】で回復し、白帝を立たせる。その後に白帝は僕に頭を下げると、こう言い始めた。

 

 

『盛谷颯樹殿、主に相応しき方とお見受け致しました。どうか私と主従の契約を』

 

「どうすれば良いの?」

 

『私に名前を……それが契約の証になります』

 

 

白帝に名前を付けるように促された僕は、腕を組んで考え込んでしまう。……えっと、白い虎だから…《白虎》を音読みして、そこから捻るとするなら……。

 

 

「こ、はく……琥珀ってどうかな?」

 

『琥珀?』

 

 

僕の付けた名前に聞き返して来た白帝。ユミナからチョークを借りて、地面に軽く漢字を書いて行く。……これで伝われば良いんだけどな。

 

 

「これが『琥』で虎。これが『珀』で白。横にあるのは王と言う意味なんだ」

 

『王の横に立つ白き虎……まさに私に相応しき名前。有難く『琥珀』の名を頂きます』

 

「……白帝と契約してしまうなんて…」

 

『少女よ……もう私は《白帝》では無い。《琥珀》と呼んでくれぬか』

 

 

顕現した時とは打って変わった優しい声に、多少の驚きを見せながらもユミナは頷いた。……これで契約成立、だね。

 

 

『主よ……私が常にコチラ側に存在する許可を』

 

「え?うーん、僕は全然構わないんだけどね?大きな虎が街中を歩くのは、どうしても……」

 

『ふむ……』

 

 

そう言って琥珀は、大きな姿を変化させた。すると僕の目の前に現れたのは、さっきより威圧感が-100%され、可愛さが+100%された子供の虎であった。

 

……え!?めちゃくちゃ可愛くない!?何この子虎!さっきより可愛さが増してんだけど!

 

 

『この姿なら問題無いかと思いますが!』

 

「……ほぉ〜よく出来てるなぁ〜」

 

「キャーーーーッ、可愛イイーーー!」

 

 

小さくなった琥珀を見たユミナは、持ち上げていた所をひったくって自分の所に引き寄せて、琥珀に頬擦りをしていた。……まあ可愛いからね、仕方ないか。

 

その反面で琥珀は、何処か苦しそうで……ユミナの元から逃げ出そうと試みていた。

 

 

『ちょ、離さんか!何なんだお主は〜!』

 

「あっ、私はユミナと言います。颯樹さんのお嫁さんです♪」

 

『あ、主の奥方ァ!?』

 

 

自己紹介を終えたユミナは、とんでもない爆弾を琥珀へと投下した。それを聞いた琥珀は、冷や汗をかきながらたいそう驚いていた。……まだお嫁さん違うから。

 

その声を聞き付けてやって来たエルゼ達も、先程のユミナ状態になってしまった。……許せ、これくらいは勘弁して欲しい。そして救いを求める様に琥珀が頼み込んで来た。

 

 

『あ、主〜何とかしてください!』

 

「……耐えろ。直に治まる」

 

『そ、そんなぁーーーーーーー!』

 

 

太陽も元気に照り付ける真っ昼間に、琥珀の可愛さにやられた4人と、その4人からの頬擦りを喰らう琥珀、そしてそれを諦めた表情で見つめる僕だった。

 

……ホントにゴメン、琥珀。




今回はここまでです!如何でしたか?


今回でアニメ《第4章『婚約、そして押し掛け。』》の内容は終了です!内容にしてはオリジナル話を含めると、だいたい……4話分の話をお届けしました!第6章で8000字近く(この小説で言えば2話分に相当)描いたので、当然といえば当然ですね。

次回はアニメ《第5章『スライムキャッスル、そして新機能。』》の話に入ろうと思います!導入部分に関しては、アニメとは違う物にしようと思います!どうなるのかは次回を見てもらう事にしましょうか!


アニメ《第5章》の内容が終了した時点で、幕間劇と言う事で……閑話を何話かしようかな〜と考えてます。どんな内容が来るのかは、作者の無能キャパが導き出すまでのお楽しみです!

第6章〜第8章までは、個人的に最高傑作だと思いましたので、ぜひぜひ感想を聞いてみたいです!その範囲まででも構いませんし、今までのお話を含めても構いませんので、感想お待ちしております!


最後に……お気に入りに登録してくれた方、本当にありがとうございます!この事を一層の励みに変えて、これからも頑張って行きますので、応援よろしくお願いします!

P.S.:この話とは関係ありませんが、投稿日の9月19日はAqoursのメンバーである『桜内梨子』ちゃんの誕生日です!お誕生日おめでとうございます!


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第9章:寝坊、そしてスライムキャッスル。

皆さんこんにちわ!咲野 皐月です!


今回はアニメ《第5章》の前半Partをお届けします!今回のお話では、アニメでは後々に登場する要素が出て来ますので、それが何なのか……楽しみにしててくれると嬉しいです♪

長ったらしく話してても暇なので、それでは本編へと参りましょうか!それでは第9章のスタートです!


P.S.:このお話とは関係ありませんが、このお話の投稿日の9月21日は、Aqoursの『黒澤ルビィ』ちゃんの誕生日です!お誕生日おめでとうございます♪


【宿屋『銀月』:颯樹の部屋】

 

「……」

 

 

ユミナの初クエスト成功から2日が経過した頃、僕は琥珀を枕元に寝かせてから就寝していた。……今はまだ起こしてくれるなよ〜?なかなか短期間にハードな事があって、心労が凄いんだから。

 

そんな事も露知らずに、同棲人のある行動により、僕は目を覚ましてしまうのだった!

 

 

「あっ♪気が付かれましたか?おはようございます、颯樹さん♪」

 

「ゆ、ユミ…ナ?」

 

「はい♪」

 

 

重い瞼を開けてみると、この上ない笑顔を浮かべたユミナがそこには居た。……なんでユミナが笑ってんの?…それと後頭部に感じるこの柔らかい感触は……。

 

その寝ぼけ眼な眼を開けて、顔を側方へと動かした。…な、何故に正座じゃぁ!?……それに、なんでエルゼ達が居るよ!?事の次第が解らずに、僕はと言うと混乱してしまう。

 

 

「え?ええ?」

 

「気持ち良さそうでござったなぁ〜」

 

「ええ。幸せそうな顔をしてたわね」

 

……羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです羨ましいです

 

 

八重やエルゼからは、揶揄いの言葉を受け……リンゼは何かをブツブツと呟いていた。……なんか、かなーり身の危険を感じるんだけど!?リンゼさん、貴女ってそんなタイプの女の子でしたっけ!?

 

顔を上に戻すと、ユミナの顔が紅く染まっていた。……!まさか、この状況って……!

 

 

「ユミナ?もしかしてだけど、さっきからずっと感じてるこの柔らかい感触は……」

 

「私の膝です♪お目覚めですか?颯樹さん///」

 

「……ああ。幸せな気持ちと胃が詰まりそうな感覚を、同時に味わった目覚めだよ」

 

 

僕は先程まで膝枕をしていた、ユミナに一言詫びを入れて、勝手に部屋に入って来ていた3人へと向かい合う。色々とツッコミたい所は有るんだけど……先ずは、謝罪かな?

 

 

「おはよう、3人とも。寝坊して申し訳ない」

 

「分かってるなら良いわ。……んで、今日のクエストなんだけど……アンタのせいでハズレくじを引いてしまったわ」

 

「はい?」

 

 

僕はエルゼの言葉に、一瞬だが反応が遅れてしまった。そしてエルゼから見せられた依頼書を見た僕は、この時にやってしまった…最大のミスを実感してしまうのだった!

 

──────────────────────

【ベルファスト王国:道中】

 

『……』

 

「ま、まさか……その依頼が『スライム』に関する物だったなんて…」

 

「私だってスライムは苦手よ。けど、朝行ったらそれ一枚を残して見事に全部受注された後だったのよ」

 

 

僕は馬車の運転をしながら、エルゼの話に耳を傾ける。今回の依頼は『スライム研究家の調査』である。内容としては、街から暫く離れた洋館に住まう、謎のスライム研究家について調査する事らしい。

 

……正直気乗りがしないなぁ…それは他の4人にとっても同じか。僕の表情を察した琥珀は、僕たちに問い掛ける様に言葉を発する。

 

 

『そんなに嫌なのですか?たかがスライム如き』

 

「ハッキリ言えば……」

 

「「「「「嫌!」」」」」

 

『す、すみません……』

 

 

僕と4人は同じ気持ちを、琥珀へと返した。……ありゃりゃ、琥珀が縮こまっちゃったよ。依頼でしっかり活躍して貰おうかね♪

 

そう考えている間に、僕たちは依頼に指定された場所へと辿り着いた。……見た目からは尊厳な雰囲気が感じられ、昔は貴族たちの御屋敷だったのだろうか、と錯覚させられてしまう。

 

 

「ぶ、不気味…でござるなぁ……」

 

「依頼で来たから、それは仕方無い、です」

 

 

先に言葉を発した八重は、エルゼと手を組んで立ち竦んでいた。それをリンゼに真っ向から看破される。……遺跡の時も思ったけど、リンゼさんは何でこんな時はすっごい勇気があるんでしょうかね?

 

……漏れなくユミナでさえも、僕に引っ付くくらいなのに。そんな思いを胸に秘めながら、僕たちは屋敷の中へと入って行く。

 

──────────────────────

【とある屋敷:1F】

 

「……【光よ来たれ、小さき照明、ライト】」

 

 

屋敷の扉を開けると、薄暗そうな大広間へと出た。それを見た僕は光属性の魔法を発動する。皆はライトの光が眩しいみたい……ごめん。でも少しの辛抱だからね…?

 

辺りに気を配って照らすと、上部に金ダライが貼り付いていた。……はい?金ダライ?ここは!

 

 

「琥珀!」

 

『お任せを!よいしょっ!……グルァァァ!』

 

 

僕が琥珀に指示を出すと、琥珀は本来の大きさになって咆哮を1つ放った。するとどうだろうか。金ダライが床にボトっと落ちて来た。その姿を次第に変形させ、本来の姿を現した。

 

……なんだコイツ。これで警備とかしてんの?

 

 

「取り敢えず、光魔法は消しておこうか。次は中の調査だよ」

 

 

僕のその言葉で、近くにあった部屋、その他の物も片っ端から調べ作業を始める。内容としては実験器具が多数と、恐らく喰い破られてるであろう報告書が、所々に存在していた。

 

 

「……革表紙だけしかありません」

 

「中身は全部喰われたか…」

 

「……!これは食べられてませんよ?『スライムの生態について』と描かれています」

 

 

僕とユミナは、リンゼの読み上げたノートに眼を向ける。……確かに、このノートには様々なスライムの生態が事細かに確り記載されていた。これが万人に役立つかどうかは扠置くとして。調査完了の為に、持っときますか。

 

 

「1階の方は粗方調べ終えたし、次は2階に行ってみますか」

 

「そうですね」

 

「八重〜、エルゼ〜、2階に行くぞ〜」

 

『もう、帰りたい』ウルウルウル

 

 

僕は八重とエルゼに、その様な声を掛けてから移動しようとする。……するとその先に居たのは、4人が一番苦手としている物体だった!

 

 

『いやぁぁぁぁ!』

 

「どうした!……ぐ、グリーンスライム!?」

 

「颯樹、何とかしなさいよぉーーー!」ダキッ

 

「く、苦しい!締まるから!……琥珀!さっきのをもう一度頼む!」ギュウウウウウウ

 

 

グリーンスライムを見て、いきなり飛び付いて来たエルゼを宥めながら、僕は琥珀に頼み込む。それに琥珀は快く答えてくれ、先程の咆哮をもう一度放ってくれた。

 

するとグリーンスライムは、ただ吹っ飛ばされただけで壁を這いながら此方へと再接近してきた!厄介だなぁ!

 

 

「【マルチプル】!【氷よ絡め、氷結の呪縛、アイスバインド】!」

 

 

僕は目の前のグリーンスライム目掛け、水属性の拘束魔法である【アイスバインド】を発動させる。その甲斐あって、先程まで動きを見せていたグリーンスライムは、ピタっと止まっていた。

 

 

「颯樹、ナイスよ!」

 

「本番はここから!」

 

「何をする気ですか?」

 

 

僕は再び魔法を行使する態勢に入った。それを見たユミナが不思議そうな顔を浮かべていたが……それほど危険視する様な事はしないけど?

 

全属性の適性があるなら、こういう時に活用しないとダメだよね!

 

 

「【風よ切り裂け、千の風刃、サイクロンエッジ】!」

 

 

そう詠唱を済ませると、僕の周囲から風の刃が渦を巻くように吹き荒れた。……幸いにも僕は前方だけを見てたから良かったけど、後ろを見てたらとんでもない事になりそうだったよ。

 

僕の発した【サイクロンエッジ】に、グリーンスライムは勿論の事、周囲に居たであろうスライム達もその餌食となってしまった。ふぅ……1階は一掃したね。

 

 

「取り敢えず、2階に移動しようか。……ゲスいオトコの欲望が見えてきた気がする」

 

『は、はい……』

 

 

僕が発した提案する言葉に、萎縮する様に答える4人と1匹。……ありゃ?そんなに威圧する様には言ったつもりは無いんだが。…まっ、良いか。

 

近くにあった階段を使って、僕たちは2階へと上がる。そこで僕たちの眼に飛び込んで来たのは、6体の女体の像だった!

 

 

「……!…リンゼ、あの石像……さっきみたいに粉々にしても良いか?」フルフルフルフル

 

「……す、少し…調べて、見ましょう……」

 

「了解」

 

 

……危なかった、危うく魔法を使う所だった。僕はリンゼの提案に従うと、1体1体に隅々まで目を通す。……さっきからこの女体の像は、ある所が剥き出しになってんだけど、どういう事?

 

 

「颯樹〜、何か分かった〜?」

 

「ああ。多分これって、女性の身体を象徴するある部分に関したスライムなんだろう」

 

『……!////』

 

 

僕がそう告げると、4人の顔がこれでもかと真っ赤に染まっていた。その一方で琥珀はと言うと、子虎のサイズに戻ってトコトコと付いて来ていた。

 

僕は琥珀を抱き上げると、他の4人を先導しながら、最奥の部屋を目指した。

 

──────────────────────

【とある屋敷:最奥の部屋】

 

「……ここが最奥部か」

 

「…颯樹さん!何か有りますよ?」

 

 

僕は先に入っていたユミナの声を聞き、その場所へと駆け出して行く。……不用心だなぁ、もう!そして近寄って見ると、そこには白骨化した遺体が、背もたれに寄り掛かりながら存在していた。

 

 

「この城の家主でしょうか……」

 

「だろうね。見る限り、ここでスライムの実験をしていた張本人とも言える…ん?何かノートがある」

 

 

僕は近くの机にあったノートを手に取る。そのノートの中には『完成だ。これで私の……嫌、男の夢が叶った。ああ、天国が見える』と記されていた。

 

……やっぱり、ロクでも無かったね。僕はその場を後にしようと、ドアの方へと歩き出す。

 

 

「調査は終わった。帰るよ」

 

「さ、颯樹さん……あれ!」

 

「はい?今度は何……って、何あれ!」

 

 

リンゼの肩に手を置いて、その場を去ろうとした僕を、リンゼが引き留める。……今度は何なのさ…え!?奥にあった4体のスライムが、次第に姿を変えていく。

 

それは僕や他の皆にとっても、とても耐えれるモノでは無く……!

 

 

「た、退避!ここから今すぐに離れるよ!」

 

「「「「は、はい(でござる)!」」」」

 

『あ、主〜待って下さいーーー!』

 

 

僕は他の皆を連れて、スライムキャッスルから出る事にした。……ハッキリ言おう。嫌な目に遭った。……だけど、これでハッキリした。焼いてやる。

 

 

『【炎よ来たれ、赤の飛檄、イグニスファイア】!』

 

 

リンゼと僕は息を合わせて、魔法を詠唱する。その炎は屋敷の周りを焼き尽くし、轟々と燃え盛っていた。……これでこの穢れた屋敷は浄化できたね。

 

グリーンスライムに寄る、『服を溶かす』と言う最悪の事態だけは免れたから……それは何とか一安心?




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はアニメ《第5章》の後半Partをお届けします!今回のお話では、アニメではその後の話に出て来た要素を入れて見ました♪ユミナに膝枕されるとか……羨まけしからん!(そんな事はどうでも良くって)

現在、アンケートを取ってる真っ最中ですが……エルゼとユミナが一票ずつ入っていて、接戦となってます!どの女の子になるかで、かなり変化の出る幕間劇となりますので、ご理解よろしくお願いします!アンケート自体はまだまだ受け付けますので、ご協力よろしくお願いします♪


それではまた次回!


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第10章:新機能、そして魔法の意味。

スライムキャッスルにて行われた、思い出すのもオゾマシイ出来事から3日経った頃。僕は琥珀を抱き上げて、王都アレフィスの城下町を歩いていた。

 

琥珀は僕と契約している為、お互いの思いを念話にて伝える事が出来る。もし之を知らずして、普通に会話をしてよう物なら、周りの人に白い眼で観られるのが関の山だったな。……怖ぇ。

 

 

〈賑わってますね〜〉

 

〈そりゃあ、ベルファスト王国の首都だからね。人も沢山居るさ〉

 

 

そう言いながら、僕と琥珀は城下町を歩いて行く。実はこの散歩はと言うと、ユミナの初クエスト成功日に召喚され、僕と主従の契約をするや否や、モフモフ地獄を味合わされた琥珀をリフレッシュさせる為という側面を持っている。

 

……しかし実際はと言えば、琥珀を『珍しい』と感じた街の人(主に女性や女の子たち)に、更なるモフモフを受けてしまった。……もう少し考えるべきだったか?そう思いながら歩いて居たその時。

 

 

〈?主。彼処に居るのは八重殿では?〉

 

〈八重?〉

 

 

琥珀から伝えられた言葉に、耳を傾けた僕は、八重の居る方を確認する。そこには確かに、琥珀の言う様に八重が居た。状況を見る限りだと、八重は泣いている女の子の傍に寄り添っているみたいだ。

 

僕は琥珀を頭の上に乗せてから、八重の元へと駆け足で向かう。少しして八重が僕と琥珀に気付く。その顔には一安心と言った顔を浮かべている事から、相当焦っていた事がわかる。

 

 

「あ、颯樹殿。琥珀も一緒でござったか」

 

「こんな所で会えるなんてね、八重。……それでなんだけど、この子は?」

 

「その事なんでござるが、どうやら迷子になってるでござるよ……。ずっと泣いているので、どうしたら良い物かと」

 

 

泣いている女の子の対応をしていた八重に、現在までの大まかな情報を聞いた僕は、頭の上に乗っている琥珀を前に抱き直し、対応しようと試みる。

 

 

「こんにちは。僕はそこに居るお姉ちゃんのお友達なんだけど、何かあったの?」

 

「……」

 

「どうしたの〜」

 

「……」

 

「うーん、ダメだこりゃ」

 

 

八重の代わりに僕が尋ねてみるも、その女の子は口を開く動作を見せなかった。……参ったな、話が聞けないとこの子の親を探せない……と思ったその時、何を思ったのか琥珀が女の子に話し掛けたのだった!

 

 

『少女よ、お前の名前を聞かせてくれぬか?』

 

「……え?」

 

『お主の名を聞きたいのだ。我が主はお前を取って喰う様な野蛮な者ではない、お主を助けたいのだ』

 

「り、リム……」

 

 

魔法を発動させる為、僕は琥珀を『リム』と名乗った少女に一旦預ける事にした。この子の親か〜、普通に【サーチ】で探しても良いんだけど、特徴が分かんないとなぁ……。

 

 

『リムよ、お主の母上の特徴はあったりするか?我が主が探してくれるみたいだ』

 

「えっと……緑の服を着てた」

 

〈それだけ分かれば、あとは何とかなりそうだ。琥珀、ありがと〉

 

〈いえいえ、お易い御用です〉

 

 

……ナイス!琥珀!

 

僕は女の子からの情報を元に、捜索活動を開始する。折角ならスマートフォンも使いたいし……そうだ!スマホの地図アプリを開くと、画面に右手を翳して魔法を詠唱する。

 

 

「【エンチャント:サーチ】!そして、後は……っと。【サーチ:リムのお母さん】」

 

 

これで捜索範囲を拡げて探せる。……スマートフォンの利便性って、こういう所に隠れてたりするんだよね〜実は。……と思いながら、探していると……。

 

 

「!見つけたよ!」

 

「ほ、本当でござるか!」

 

「さあ、リムちゃん。お母さんの所に行こっか」

 

 

そう言って僕は、リムちゃんの左手を握って共に歩き出す。暫く歩いて交番の前に着くと、先程のリムちゃんが言っていた特徴の女性が辺りをキョロキョロしていた。あの人で間違いなさそうだ。

 

その女性はリムちゃんを見つけると、思いっきりリムちゃんを抱き締めていた。……再会できて良かったね、本当に。その後は八重のお兄さんの事を『パレント』で聞きながら、昼食を共に頂くのだった。……相変わらず、よく食べる事。

 

──────────────────────

 

八重と『銀月』に戻ってきたその頃、僕はスマートフォンのアプリを開きながら、ある事を試行錯誤していた。先程の八重との一件では、地図アプリに【サーチ】を【エンチャント】して捜索した。

 

今回はカメラアプリを開いている。ベッドにある枕にカメラの光を浴びせている状態だ。

 

 

「【エンチャント:ロングセンス】」

 

 

そう詠唱をして、僕はスマホの画面を見る。するとそこには、リフレットの街並みが2階からだが、ハッキリと映し出されていた。遠方5mを五感を通して見る事が出来る【ロングセンス】を、スマホのカメラアプリに付与したのだ。

 

……何だろうな。今まで犯罪クサイ無属性魔法しか使ってない気がしないでも無いぞコレ。

 

 

コンコンッ

 

「?はい」

 

『颯樹さん、リンゼ、です。少し、良いですか?』

 

「別に構わないよ?」

 

 

突然ドアのノック音が聞こえ、僕はそれに応じた。そして中に入って来たのは、リンゼだ。手に持っているのは羊の皮表紙の本みたいで、勉強熱心な彼女らしいと言える。

 

そして顔を見てみると、少し難しそうな顔をしている事から、何かあったんだろうか……。

 

 

「あの……颯樹さん。少し、手伝って貰いたい事が、あるんですけど……」

 

「OK。で、僕は何をすれば?」

 

「この本にある文字なんですけど、最初の方は何とか読めたんですけど……その後が、どうしても読めなくて」

 

 

僕はリンゼから本を受け取り、本に書かれている内容に軽く目を通す。……何これ。僕もよくわかんないんですけど。それを見たリンゼは、自分も最初の方しか読めない事を曝露する。

 

……僕の部屋にはグラスが一本。そして、ポーチの中には銀貨がある……これを使ってやって見るか。

 

 

「【モデリング】」

 

「何ですか?これは?」

 

「眼鏡だよ。後はまあ、少し外見と内容にアレンジを加えて……」

 

 

そう言って僕は、リンゼに作ってる内容を伝える。枠と弦には水属性の魔力を流し、少しアレンジを足して…そしてオプションとしては……【エンチャント:リーディング/古代魔法言語】かな?

 

後はこれと色違いの眼鏡をもう一個作れば……これでOKかな。

 

 

「これでその本は軽く読める筈だよ。……先ずは、試しに使ってみるね?」

 

「分かりました」

 

「……なるほどね。古代魔法の名前と詳細が事細かに記されてる…」

 

 

僕はリンゼから本を借り、サラサラっと内容に目を通した。それを見たリンゼは、感嘆の域を漏らしていた。僕の眼鏡は、リンゼと同じ言語翻訳の【エンチャント】は同様なのだが、外見は風属性の魔力を流してアレンジを加えている。……その代償として銀貨3枚を消費したけどね。

 

 

「この魔法は……リンゼが覚えた方が良いかも」

 

「え?なんで、ですか?」

 

「全ての属性魔法を使える、とは言っても……その属性の適応者にはあまり及ばないからね。それに、リンゼがこれを見つけたんなら、リンゼが覚えるのが定石だと思うよ。あっ、一応……魔法習得のサポートはさせてもらうけど」

 

「分かりました!」

 

「その魔法の正式名称は【バブルボム】。水属性の攻撃魔法だよ」

 

「水属性、ですね。了解です」

 

 

僕は彼女に魔法の名称を教えると、習得の為に場所を移動することにした。まずは【ゲート】で東の森に移り、そこで詠唱の口上を伝えると言う工程で覚える形だ。

 

僕とリンゼは【ゲート】で東の森に移り、開けた場所へと出る事が出来た。もちろん、魔法の練習の為……リンゼは手に銀のロッドを持っている。

 

 

「先ずは詠唱の口上だ。【バブルボム】の魔法は【水よ来たれ、衝撃の泡沫、バブルボム】だよ。そこのイメージを確実な物にしないと、この魔法は習得できない。この意味がわかるね?」

 

「はい!」

 

「次に僕が試しにやって見るから、そこで見てて?……あっ、魔法の影響を考えて少しスペースは開けて欲しいかも」

 

 

僕はリンゼにそう言うと、練習の為のスペースを取らせる。……【バブルボム】。直訳は《泡の爆弾》……イメージとしては、最初はシャボン玉台の大きさにして、そこで大きな爆発を生み出す!

 

 

「【水よ来たれ、衝撃の泡沫、バブルボム】!」

 

 

そう詠唱を済ませると、僕の掌に水の球体が現れた。そしてその水の球体に少し力を加え、前へと進ませる。フヨフヨと移動して行った球体は、一本の木へとぶつかると爆発した。その衝撃で、一本の木は薙ぎ倒されてしまったが。

 

……とまあ、こんな感じかな?

 

 

「す、凄い……一度やっただけなのに、ここまで完璧に、できるなんて……颯樹さん、やっぱり凄いです///」

 

「誰でも練習すればできるよ。じゃあリンゼ、やって見て」

 

「分かりました!」

 

 

そう言ってリンゼは、先程まで僕が立っていた場所に立つ。最初に僕がやって見せた魔法を見て、覚えてはいたのだけど……結果としては水滴を散らす結果となってしまった。

 

その後も何度か挑戦を続けるも、魔法の習得には至っては居なかった。その拍子にリンゼの体力が、そろそろ限界に近付いていた。

 

 

「……はぁ、なかなか上手く行きません……」

 

「リンゼ、少し手を貸して?」

 

「え?良いです、けど……ふひゃぁっ///」

 

「直ぐに終わらせる。【トランスファー】」

 

 

僕はリンゼの両手を優しく包み込む。そして目を閉じて【トランスファー】と言う魔法を掛ける。この魔法は無属性魔法の一種であり、自身の魔力を相手に譲渡する事の出来る魔法だ。確か……シャルロッテさんの師匠も、この魔法を使っていたと聞いた事がある。

 

彼女の話によれば……魔法を習得するまで、その魔法を限界まで使わせ、魔力が切れたら【トランスファー】で回復、そしてまた限界まで使わせ、また切れたら回復する……と言う最悪なループを味合わされたらしい。

 

 

「い、今のは……///」

 

「僕の無属性魔法の一つ【トランスファー】。他人に自分の魔力を譲渡する事の出来る魔法だよ。ここで一旦休憩して、その後にもう一度やって見よっか」

 

「は、はい……///」

 

 

そう言って僕とリンゼは、近くにあった丸太に腰を下ろす。……何かきっかけがあれば、魔法を習得できるんだけど…。

 

 

「ねえ、リンゼ」

 

「は、はい」

 

「僕たちの使う魔法ってさ、何かしらの意味が必ずあるんだと思うんだよね」

 

「何かしらの、意味…ですか」

 

 

そう言って僕は、一例となる魔法を例に挙げてリンゼに説明をする事にした。今回はリンゼの使う火属性魔法の一種である【エクスプロージョン】を例に使った。

 

一通りの説明を終えた頃、何を思ったのかリンゼが立ち上がった。そして先程の位置へと移動する。……もしかして、何か掴めたかな?

 

 

「【水よ来たれ、衝撃の泡沫、バブルボム】!」

 

 

リンゼがそう詠唱を済ませると、銀のロッドの先に水を集めた球体が出来る。それを目の前の木へとぶつける。その球体は木へとぶつかる事で爆発し、ぶつけられた木は薙ぎ倒される。

 

その様子を見ていた僕は、魔法の成功に思わず立ち上がり、リンゼに至っては少し茫然としていた。

 

 

「で、出来ました……」

 

「凄いじゃん、リンゼ!これで【バブルボム】は習得できたよ!」

 

「そ、そうですか……?あ、ありがとう、ございます、颯樹さん////」

 

 

僕がリンゼを褒めると、少し恥ずかしかったのか……顔を紅くしながらお礼を述べていた。……これは凄く嬉しいよ!リンゼの努力が、身を結んだんだ!

 

意気揚々と『銀月』へと帰ると、リンゼから明日のお誘いを掛けられた。特に何も予定が無かった僕としては、とても好都合だった為、彼女の誘いに乗る事にした。

 

──────────────────────

【宿屋『銀月』:エルゼ&リンゼの部屋】

 

「〜♪」

 

「すっごく嬉しそうじゃない、リンゼ〜。何か良い事でもあった?」

 

 

颯樹さんの部屋から戻った私は、お姉ちゃんに先程の状況を、質問されていました。……すっごく自然に明日の予定も取り付けられたし、私としては、すっごく満足の行く一日でした♪

 

 

「その顔は……颯樹と何かあったのね?」

 

「ふひゃっ!?な、何を言ってるのかな?お姉ちゃんは〜」

 

「ふふっ、冗談よ♪さっ、夕ご飯を食べに行きましょ!時間も遅くなっちゃうわ」

 

 

そう言ってお姉ちゃんは、1階へと降りて行きました。……初めてあった時からずっとそう…。颯樹さんは、誰彼構わず、優しく接する事が出来る……。私にとって、颯樹さんは……初めて抵抗無く話せた、男の人……。

 

あれ?私、もしかして……。颯樹さんの事……。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はアニメ《第5章》の最終Partをお届けします!今回のお話では、リンゼの魔法習得の所までをお送りしましたが……最後は何やら更なる進展を匂わせる終わり方でしたね?

アンケートの方ですが、状況はと言えば……各キャラに一票は確実に入ってるみたいですね♪今の所ではリンゼとユミナが接戦なので、ここからの変化に期待したい所です♪


それではまた次回!


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第11章:ガントレット、そして勉強。

……どうしようかしら。これって、完全に買い治さないと行けない感じよね……。

 

私が悩んでいるのは、クエストの時に必ず付けているガントレットの事。この前のクエストの時に、石の悪魔と戦ったんだけど……その時に、やってしまったのよ。

 

 

「はぁ……どうしよう」

 

「?エルゼ、どうしたの?」

 

 

そんな私の状況を察したのか、颯樹が心配してくれる。こんな私の為に心配してくれるなんて……あんた、相当なお人好しよ全く。

 

実際はと言えば、私は颯樹に助けられる事も屡々。ユミナとの事では少し呆れもしたけど。それを差し引いたとしても、あなたに私は助けられてるのよ?……話が逸れたわね。私は颯樹に、起こったそのままを伝える事にした。

 

 

「……なるほどね。エルゼはどうしたいの?僕の一存ではとても決められないよ」

 

「そろそろ買い換えようかと思ってるわ。今のガントレットの修復は、とても難しそうだし」

 

「そう。……分かった。何処に買いに行こうか」

 

 

颯樹は私の意見を聞くと、転移魔法である【ゲート】を開いて、出発する態勢を取った。……ここは高いけど、上質なガントレットが欲しいから…。私が颯樹に場所を伝えると、嫌な顔を一つも見せずに、その場所へ連れて行ってくれた。

 

ホント、優しすぎよ……あなたは。

 

──────────────────────

【王都アレフィス:武器屋『ベルクト』】

 

「ガントレットですか?」

 

「はい。横にいる彼女に合う物が有りますか?」

 

 

颯樹の作ってくれた【ゲート】で、王都に来た私たちは真っ先に武器屋へと向かったわ。棚に並んでいる武器を見ても、品質がとても良い物ばかりだったわ。

 

……そんな事を考えている間に、颯樹と店員さんの話が済んだみたい。見つかったのかしら?

 

 

「ん〜。あっ、これなんてエルゼにピッタリだと思うよ?これは『剛力の籠手』って言うんだけど、確か《筋力増加》の魔法付与がされてるって」

 

「何それ!気になる!」

 

「すみません、この籠手ってあります?」

 

「申し訳ございません。その商品でしたら、既に売れてしまっていて……」

 

 

颯樹が店員さんの答えを聞き、落胆に昏れる。……はぁ、なかなかお目当ての物は見つからないわね…。リフレットの武器屋では、同じタイプの物は5日後にしか入らないって言ってたし……。

 

と思ったその時、何を思ったのか店員さんが私たちに質問をして来た。

 

 

「手甲をお探しでいらっしゃいますか?」

 

「はい。戦闘打撃用のガントレットを探しているのですが……」

 

「打撃用のガントレットですか。魔法効果が付与された物が、何点か御座います」

 

 

店員さんのその言葉に、私は颯樹に見てみるように奨める。……だって気になるじゃない!もしかしたら良いのがあるかもだし!

 

颯樹が店員さんに了解の意を示すと、お店の奥のコーナーに連れて行ってくれた。颯樹の今着ているコートも、ここに販売されていたのだとか。

 

 

「此方です。其方の男性が着用されているコートも、ここで販売されていました」

 

「へぇー、すごい品揃え……」

 

 

私がそのコーナーに並んでいた商品に、唖然としていると、店員のお姉さんが私たちに2つのガントレットを見せて来た。一つはメタリックグリーンのカラーリングが施された、流れる様な流線型のフォルムが美しいガントレット。

 

もう一つはと言うと、金と赤のカラーリングが施されている、鋭角的なデザインのガントレットだったわ。店員のお姉さんは、緑のガントレットを手に取って説明を始めた。

 

──────────────────────

【王都アレフィス:街中】〈暫くした頃〉

 

「さっすが王都ね!良いのが揃ってるわー。その分高かったけど」

 

「まさか……エルゼ、金貨1枚を持ち合わせて無かったなんて」

 

 

そう……あの後私と颯樹は、説明を受けたガントレットを2セット購入したの。その合計金額はと言うと、颯樹の見立てでは『310万』という事らしいの。私にその価値を説明されても、よくわかんないわよ……。

 

代金を払う時は、颯樹にも持ってもらった。私の方は金貨を30枚持っていたんだけど……予想よりも1枚多くなってしまい、颯樹が1枚出してくれたという訳。

 

 

「僕の見立てでは、ガントレットに魔法付与がされてるから、もっと高いかと思ってた。大体ねー、金貨60枚くらい?」

 

「は、ハアっ!?掛かり過ぎよそれ!」

 

「怒んないで……。ま、まあ……実際は金貨31枚で済んだ訳だし、良い買い物が出来たと思うよ?」

 

 

颯樹が苦し紛れに言った言葉で、私の頭に昇っていた血もなんとか収まる。やっぱりその手のガントレットを2セット買うとなると、金額もそれなりにするわよね。

 

……あっ♪良いの見つけちゃった♪

 

 

「ガントレット、意外と重いな……。エルゼ、直ぐ近くの路地に入ってリフレットへ……。エルゼ?」

 

 

私は颯樹の直ぐ後ろにある服屋で、ガラス越しにドレスを見ていた。黒のリボンタイに白のスカートフリル、色は全般的に赤が占めており、とても私には似合わなさそうな服だった。……これって、リンゼに似合うかも!

 

……でも、この服は可愛いわね。うん、間違いないわ。と思っていたら、後ろから颯樹が声を掛けて来た。

 

 

「エルゼ〜、どうかした?…って、おおー」

 

「……はぁ///」

 

「……ねっ、これ欲しいの?」

 

「んなっ!ンなわけないでしょ!私にあんな可愛い服、似合う訳……リンゼ、リンゼなら似合うと思うわ!」

 

 

私は颯樹の言葉に真っ先に反論する。私に似合うわけが無いわよ……うん!絶対にそうよ!絶対にそう!……と思ったその時、何を思ったのか、颯樹は私の手を掴んでそのお店へと入って行った。…ちょっ、私の意思は!?

 

そして私の知らない所で、颯樹と店員さんの間で話が交わされてその服を手渡される。……似合うわけが無いのに……。ええい!こうなったら、なるようになれよ!

 

──────────────────────

〈10分後〉【服屋:試着室】

 

「へ、変な所は無いわよね……///」

 

 

私は颯樹に渡された服に手を通した。……自分の姿を改めて見ると、やっぱり似合わないわよね。多少の文句ぐらいは聞いてくれるでしょ、アイツなら。

 

私はそう思って試着室のカーテンを開ける。するとそこには目を大きく見開いた颯樹が居た。改めてマジマジと見られると、物凄く恥ずかしいわね……。

 

 

「……」

 

「ど、どう?やっぱり、似合わない?」

 

「……ハッ!ううん!予想以上だよ!ここまで似合うとは思わなかった!すっごく可愛いよ、エルゼ!」

 

「とても良くお似合いですよ、お客様」

 

 

罵詈雑言を浴びる事を覚悟した私を迎えたのは、満面の笑みを浮かべて私を見る颯樹と、花咲く様な笑顔を浮かべた店員さんだった。……そ、そう…かしら?

 

この服は颯樹からのプレゼントととして、銀貨3枚で奢って貰った。聞けば「何時もお世話になってるし、助けられてるから」という事らしい。……ふふっ、そんな事を言われると、嬉しくなるじゃない!

 

──────────────────────

【宿屋『銀月』:1階 広間】

 

「「「おおー」」」

 

「ど、どうかしら?」

 

 

私は颯樹の買ってくれた服を着て、3人の元へと姿を見せたわ。3人の口から出て来たのは、先程の颯樹とそう対して変わらない言葉だった為、何とか平然を保つ事が出来たわ。

 

……私がこの服を買った経緯を言うや否や、3人は直ぐ様に颯樹へと強請りに掛かっていたわ。……3人には悪いけど、今はちょっと優越感ね♪

 

──────────────────────

 

エルゼの新武器の買い物に付き合った次の日、僕は3人の服を服屋で見繕っていた。……エルゼが羨ましかったのかな?分からんでもないが。因みに、購入したのは昨日と同じ服屋である。

 

その作業を終えた僕は、自室に戻って魔法書の内容を読み進めていた。

 

 

「【リコール】……他人の記憶を自身に譲渡する事の出来る魔法か。因みに渡す人の記憶の中に、ハッキリと覚えている情景が無いと不成立。……これって、なかなか難しいね。他には……」

 

「難しい顔をして、どうしましたか?」

 

「いや、他にも使える魔法が無いか……と思ってね。ユミナこそどうしたのさ」

 

 

僕はついさっき部屋に戻ったユミナに声を掛ける。ユミナの今着ている服は、白い長袖のシャツに青いオフショルダーのワンピースである。清楚な彼女に似合うと思いながら、僕が見繕った洋服だ。

 

ユミナは僕の隣に腰かけ、顔を此方に覗かせて来る。未だに女の子から発せられる、とてつもないイイ匂いに慣れてないのか……自然と僕の顔が紅くなってしまう。

 

 

「勉強熱心なんですね……。終わるまで寝ますので、肩を貸して下さい♪」

 

「……か、構わないよ…?」

 

「ふふっ♪失礼しますね」

 

 

そう言ってユミナは、僕の左肩に体重をかけるように昼寝を始めた。……誰か見てたら、どうするのさ…と思ったけど、本人が幸せそうなら良いかな?

 

何処からか突き刺す様な視線を感じるけど……まっ、それはその時!今は勉強に集中!

 

──────────────────────

 

私は颯樹さんの部屋のドアの前に居ました。……一緒にクエストに行こうと思ったのですが、中から聞こえて来たユミナの声に、思わず聞き耳を立ててしまいました。

 

ユミナは初見で私たちを驚かせ、颯樹さんと同室の事もあり、颯樹さんとの仲を確実に深めて行ってました。……でも、肝心の私はと言うと、まだ何も出来てない…颯樹さんは私の事、どう思ってるんだろう…。

 

 

(……私みたいな、引っ込み思案な女の子なんて……飽きれられるよね。やっぱりユミナみたいな、お淑やかで可愛い女の子の方が良いのかな……)

 

 

私はそんな不安を心の中に秘めながら、颯樹さんの部屋の前から立ち去りました。

 

……何時か、颯樹さんにちゃんと気持ちを伝えたい、と思う私でした。




今回はここまでです!如何でしたか?


今回のお話ではアニメ《第5章『スライムキャッスル、そして新機能。』》の最終Partを前半に置き、後半は颯樹くんとリンゼのPartをお届けしました!

先程のリンゼの独白のシーンは、幕間劇や今後のお話に繋がる布石だったりするので、何処かで必ず回収させて頂こうと思います!


次の予定は《第6章『引っ越し、そしてドラゴン。』》の内容に入ろうと考えてますが、その前に幕間劇を何話か組み込もうかな〜と考えてます。アンケートも愈々刻一刻と締め切りが迫っています!まだ参加されてない人は、ぜひぜひ御協力の程をよろしくお願いします!

それではまた次回に!因みに……ハーメルンとのアンケートは、Twitterのアンケートの締め切りと同時に締め切りとさせて下さい。申し訳ないです!


このお話の投稿日は、私のオススメするイセスマ小説の投稿日ですので、其方も併せて読んでもらえると嬉しいです!「異世界はスマートフォンとともに 改」と言うタイトルで、私がイセスマ小説を描くきっかけになった作品です!

週一投稿とコンスタントに投稿してますので、其方の方もよろしくお願いします♪


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第12章:爵位授与式、そして家令。

皆さんこんにちは!咲野 皐月です!


今回はアニメ《第6章「引っ越し、そしてドラゴン。」》の前半パートをお届けします!このお話にもオリジナル要素が隠されているので、それが何処かは実際に見て貰うとして!

アンケートの結果報告ですが、活動報告に掲載しています。前書きはその位にして……です。


それでは第12章、スタートですよ!


ユミナのパーティー加入から数週間が経ったこの頃、僕たちは目の前の景色に唖然としていた。……今思えば無理もない事で、最初からこっちが目的だったのでは……と思えてしまった。

 

 

「これを……爵位の代わりに貰ったの?」

 

「そうなんだよ。…色々とね」

 

「?どう言う事です?」

 

 

色とりどりの花が咲き誇る庭を歩いていると、リンゼからそんな事を聞かれる。……確認の為にユミナへ聞いて見ると、首肯が見られたので、僕は皆に話す事にした。

 

結構……今でもこれは驚いているんだよね、こんな事になろうなんて。

 

──────────────────────

【ベルファスト王国:王城 来客の間】〈数日前〉

 

「そなたには、この前の事件を解決してくれた礼として、爵位を授与したいと思う」

 

「……爵位、ですか」

 

 

何時もの様に庭先で剣を使った稽古をしていると、一通の手紙が届いたんだ。内容は『これを読んだら、早急に王宮へと来て欲しい』との事だったので、僕は準備を済ませてから向かったんだ。

 

するとそこで待っていたのは、国王陛下と公爵殿下のご兄弟で、矢次早に来客の間へと通されたんだ。

 

 

「そうだ。……受けてくれるかな?」

 

「すみません。僕の様な一冒険者に、貴族と言う大層な身分が務まるとは到底思えません。ご厚意を無下にする様で大変心苦しいのですが、お断りさせてください」

 

「いや。そう言うと思っていたよ。……ただ、国王が命の恩人に対して何も報いないと言うのも、イメージが悪いのでな。一応、『爵位を授与しようとした』と言う形が欲しいのだよ。無論、受けてくれるのであれば、それに越した事は無いのだが」

 

 

国王陛下は僕の顔を見ながら、そう答える。やっぱり……僕にはそう言う大層な身分は似合わないです。ただ国王ともなると、体裁とか体面とか色々しないといけない事があるんだなぁ〜。

 

そして爵位授与式が行なわれる、その当日。僕は先日告げた通りに謁見の間で伝える事にした。

 

 

「余の命の恩人であるそなたに爵位を授けよう」

 

「勿体なきお言葉。しかし、自分には冒険者稼業が似合っております故、辞退させて頂きたく」

 

「そうか。なら無理強いはすまい」

 

 

……僕はキチンと伝えた筈だったんだ。…伝えた筈だったのに……!

 

 

「だが、このまま帰すのは余の命の恩人に対して失礼だと思う。そこで謝礼金と、冒険の拠点となる屋敷を用意した。爵位の代わりに受け取ってくれ」

 

「ええ?」

 

 

僕が口を開いて驚くのを他所に、国王陛下の傍に居たシャルロッテさんが、僕に王金貨20枚(元の世界の貨幣価値を参考にすると……王金貨1枚は1000万円)の入った袋と、屋敷のある土地の管理などを記したであろう目録を手渡した。

 

袋の重さに少し腰を抜かしてしまったが、時すでに遅しと言った感じで、シャルロッテさんは素早く定位置に戻っていた。

 

 

「この度は大儀であった。そなたの益々の活躍を期待している」

 

 

その言葉で爵位授与式は締められた。その後にシャルロッテさんに絡まれて、リンゼに作った翻訳メガネを追加で3つ作る事になったけどね……。

 

──────────────────────

 

……んで、今に至るという訳ね。ここに引っ越しするという旨を、ミカさんを始めとしたリフレットでお世話になった人たちに伝えたら、反対する声は聞こえて来ず、代わりに『何時でも遊びにおいでねー』と言う旨の言葉だった。引っ越しの際は手を貸してくれるとの事で、感涙に咽ぶ思いだ。

 

街の人の暖かな想いを受けつつ、国王陛下から受け取った屋敷へ来た訳。今回は下見の為に訪れている、という訳だ。

 

 

「もしかしたら、爵位よりも……こっちが目的だったのでは、と思ってしまいますね」

 

「ホントだよ……しかも追加で王金貨20枚って。これで家具とかを買い揃えてくれ、って事だろうし」

 

「王様も太っ腹よね〜」

 

 

僕とエルゼにリンゼは、目の前の屋敷を見てそう話をしていた。その傍らではユミナが、この屋敷をなかなか良さそうだと見ていた。……やっぱりこういう所は、お姫様育ちなんだな〜と実感する訳で。

 

屋敷のドアを開けると、中央からは階段が伸びており、両サイドにはキッチンやベランダに通じる廊下、その他諸々が拡がっていた。

 

 

「……え?こんなに広いの、ここ。……ここに5人で住んでも、有り余る広さだぞ?それに掃除をするとなったら、丸一日使わないと出来ないぞ……」

 

『……』

 

「さ、颯樹……」

 

 

僕は入って見た感想を直に言ってのける。するとユミナを除いた女性陣が全員固まり、此方にキョトンとした表情で目を向けている。……あれ?なんか、不味った?

 

 

「拙者たちも、ここに……住んで良いんでござるか?」

 

「何、当たり前の事を……。良いに決まってる」

 

「後で出て行け、とか……言わない、ですか?」

 

 

八重からの問いに、僕は『何を今更』と言った表情で答える。そして矢次早に発せられた、リンゼからの質問に対しては、一つ溜め息を吐いた後に答える。

 

 

「さっき八重にも言ったけど、何当たり前の事を言わせてるの?僕たちは仲間、でしょ?同じパーティーなんだから」

 

「で、でも、この屋敷は王様からの贈り物であって……ユミナと住む為の家じゃないの?」

 

「……好きな人同士が住む為の家なら、私たちがここにいる必要はないはず……」

 

 

僕がリンゼにそう答えると、エルゼとリンゼから更なる意見を突き付けられる。……さっきの言葉で分かんなかったかな〜。僕は声を張って3人に告げる。

 

 

「あのさぁ3人とも?何か勘違いしてるみたいだけど、僕は3人を邪険にする気は無いよ。それどころか、家族みたいな存在だと思ってる。ユミナと同じくらい、3人の事も好きなんだからさ」

 

 

僕は思った事を3人に告げる。するとリンゼを始めとした3人の顔が、湯気が出そうな位に紅くなっていた。やべ、褒め過ぎた。

 

その言葉の後に、エルゼは2階へ、リンゼは屋根裏部屋へ、八重はキッチンへと向かって行った。……思った事を言っただけなんだがな。

 

 

「……なるほど、3人とも同じくらい大好き、ですか。颯樹さん、ここは私に任せてください」

 

「了解」

 

 

その場から走り去った3人をユミナに任せ、僕は琥珀と共に女性陣とは別ルートで探索を開始した。見て見た感想はと言うと、何もかもが今までとは違い過ぎていた為に、驚きの連続だったのはお察しの通りだ。

 

暫く周り終わった僕は、庭園へと出ていた。勿論、その傍には琥珀が寝そべっている。

 

 

『気持ちイイですね〜』

 

「だね。こんな立派な屋敷をくれた、国王陛下に感謝感謝だね」

 

「颯樹さん」

 

 

庭園の芝生に腰掛けていると、ユミナから声を掛けられる。するとそこには、先程走り去って行った3人が一緒に居り、説得は済んだのだと理解できた。

 

僕は先程まで座っていた芝生から立ち上がり、4人の女性陣と向かい合う。

 

 

「あ、あの…颯樹?本当に、私たちも此処に住んで良いの?」

 

「もちろん」

 

「…あとで出て行けとか、絶対に、無いですよ、ね?」

 

「言う訳無い」

 

「ユミナ殿と、その…一緒の扱いをしてくれるのでござるか?」

 

「当然」

 

 

何を今更言わせてるんだろ。この世界に僕の家族こそ居ないけど、僕はみんなを家族同然だと思っている。それは変えようの無い事で、真実なんだから。

 

……確かに、こんな立派で大きな家を貰って、気後れする気持ちはよく分かるんだけど……貰ったのは紛れも無い僕自身だし、遠慮なんて無粋だと思うが。

 

 

「では皆さん、ここに一緒に住むという事で。急ぐ事は無いので、さっきの話は気持ちが固まってから、という事にしましょう」

 

「ええ」

 

「はい」

 

「分かったでござる」

 

 

ユミナが一連の会話を締める。……さっきの話?ユミナを含めた4人の中で、何か別の事柄が進んでいたって事か?……無理に首を突っ込んじゃ、多分だけど負けな気がする。何の勝負をしてんのかって?……察しろ。

 

5人で此処に住むという事が決まり、やらなくちゃ行けない事が出て来たぞ〜。先ずは使用可能状態にまで清掃作業をしなければ。

 

 

「ユミナ……先ずは掃除からだと思ってるんだけど、ここを僕ら5人で隅々まで出来ると思う?」

 

「無理でしょうね」

 

「……だと思った」

 

 

僕がふと告げた言葉に、キッパリと否定の言葉を返すユミナ。……だと思った。そうだよね。普段の僕たちはギルドからの仕事があるし、そうなると庭先の手入れがどうしても疎かになってしまう……。

 

そう思ったその時、ユミナがある言葉を口に出す。僕にとっては蜘蛛の糸の様に頼りになる言葉だった!

 

──────────────────────

 

新居の下見を終えて3日の月日が過ぎた頃、僕たちの目の前には一人の老紳士が立っていた。……え、引っ越しは今朝方に終わったはずだが…?どうやら、隣に立つユミナの表情を見る限りでは、そう言う関係では無さそうだ。

 

目の前の老紳士は僕を見ると、目上の立場の者にする様な礼をしだした。少し感覚を開けて、自分の身分を明かす様に自己紹介を始めた。

 

 

「お初にお目にかかります、旦那様。私、ライムと申します。以後お見知り置きを」

 

「よろしくお願いします、盛谷 颯樹と言います。して、今回はどのような御用件で?」

 

 

ライムと名乗った老紳士の言葉を聞いた後、僕は此処へは何用で来たのかを問い掛ける。するとライムさんは、最初にユミナに目を移してから、僕の方へと目線を戻した。……なるほど、ユミナが。

 

 

「この度、御役を息子に譲りまして。残りの人生、弟の命の恩人に仕えるのも悪くない、と思いまして」

 

「え?……お、弟…って?」

 

「レイムと申します。オルトリンデ公爵家に仕えております」

 

 

ライムさんの言い放った一言に、僕は『納得!』と言った表情を浮べる。……なるほど、ライムさんはレイムさんのお兄さんなんだ!……ん?待て。と言うことは、ライムさんって、国王陛下に仕えていたって事か!

 

 

「じいやはお父様の世話係を、長年勤めてきたんですよ?家令としては申し分ないと思います」

 

「ユミナの薦める人だったら♪……ライムさん、不束者ですがどうぞよろしくお願いします」

 

「此方こそ。早速ですが旦那様、何人か雇用したい人材が居るのですが、連れて来ても構いませんでしょうか」

 

 

へぇ〜、仕事がどんどんと速く済んで行くね……。確かにユミナの言う様に、有能な執事が居てくれると、こうも助かる物なんだね。僕自身、人を雇うのが初めてだから、どういう風に見たら良いかはよくわかんないけど。

 

 

「分かりました。その人たちに会わせて下さい。これからお世話になる人たちですので、顔合わせをして置きたいと思います」

 

「ではこちらにお連れ致します。少しの間で構いません、リビングでお待ちになられて下さい」

 

「はい」

 

 

少しの間待ってて欲しい事を伝えられたので、僕はユミナと共にリビングで待つ事にした。……どんな人たちが来るんだろ、楽しみだ♪



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第13章:雇用、そして直接依頼。

皆さん、こんにちはー!咲野 皐月です!


今回はアニメ《第6章「引っ越し、そしてドラゴン。」》の中盤Partを描きたいと考えています!初めての屋敷を貰った颯樹くんは、ライムさんの連れて来た人材を見て何を思うのか!……そして、話の途中には暫くぶりのあの娘の出番がありますので、楽しみにして貰えると嬉しいです!

私の小説は、基本はアニメ版をベースとして制作し、その他にオリジナル要素を少しずつ加えながら、念入りに作成しています。……ですが、先に謝って置きます。アニメストーリー終了後は、オリジナル展開にて話を進めさせて貰います!それまではアニメ版を見る様な感覚で見て貰えたら大差ないかなと考えてたり。


それでは第13章、スタートですよ!


お話の一番最後には、幕間劇に関するアンケートを実施中です!宜しければご意見を聞かせてください♪


【ベルファスト王国:盛谷家 リビング】

 

「旦那様、連れて参りました。玄関まで起こし願えますでしょうか」

 

「分かりました。ありがとうございます」

 

 

リビングでゆっくりしてから、大体の時間で30分が経過した頃、僕はライムさんからの報告を受けて、玄関へと向かう事にした。もちろん、僕の隣にはユミナも居る訳で。

 

玄関へと向かって見ると、家令のライムさんの他に、6人の男女が揃っていた。……凄っ、ここで働きたいと言う人が居るなんて。

 

 

「この者たちに、旦那様のお世話を任せたいと思うのです。先ずは軽く紹介から。こちらの彼女たちは、メイドギルドより派遣されて来ました」

 

「ラピスと申します」

 

「セシルと申します〜。よろしくお願いします」

 

 

ライムさんの簡単な紹介の後に、2人の女性……ラピスさんとセシルさんが軽く名前を述べる。なんでもメイドギルドと言うのは、メイドによる盗難や犯罪が起こるのを防ぐ為、厳しい身分調査と教育を施した、ギルド公認のメイドと言う事らしい。

 

彼女たちはライムさんの指示の下、家の掃除や管理を担ってくれるみたいだ。……正直助かります。

 

 

「この2人は屋敷の内外の事を、其方の2人は屋敷の警護を担当致します」

 

(……屋敷を貰うとなると、警護も付くんだね…今になって凄い物を貰ったんだと実感するよ)

 

 

続けてライムさんは、僕とユミナの方から見て左側に居る4人の男女の紹介をした。これはその後に聞いた事なのだが、屋敷の内外を担当してくれる2人は、どうやら夫婦であるとの事。……結構な仲のご様子で。

 

夫婦一組に男性2人(フリオさん→クレアさん→トマスさん→ハックさんの順)の紹介を終えた後、ライムさんが僕たちにある事を伝える。

 

 

「トマスとハックは王都に自宅がありますので、通いとはなるのですが……他の4人と私はここに住まわせて頂きたいのです。宜しいでしょうか?」

 

「分かりました。よろしくお願いします。正直に言えば、部屋数がとても多くて、僕たちではとてもじゃないですが、大分有り余る広さです。沢山ありますので、宜しければ使って下さい」

 

 

モチのロンの話だが、部屋の多さを持て余すよりは、有意義に使って行った方が無難である。そのため、僕はライムさんの申し入れを快く承諾した。フリオさんとクレアさんは夫婦なので、一つの部屋で構わないと言われたが、どうせなら!という事で、離れに住んでもらう事にした。離れと言っても、僕の元の世界では立派な一軒家である訳で。夫婦の時間も大切にして欲しい。

 

それぞれに仕度金を渡して、必要な物を買い揃える様に指示をした後、ラピスさんとクレアさんには更に追加でお金を渡した。その他にも、ラピスさんにはさっきリストにした雑貨を、クレアさんには食料や調理器具の買い出しをお願いした。

 

 

「取り敢えず、後は各々のペースで片付けて行くだけだね。さてと他には……」

 

「旦那様。私はここに仕える身……ですので、屋敷の内部などを詳しく知って置きたいのですが」

 

「構いませんよ。僕で宜しければ、ご案内致します。先ずは此方にどうぞ」

 

 

他の6人は買い出しに出掛けたが、ライムさんは屋敷の点検をする為に中へと入っていった。それに合わせて僕も付いて行く事にし、案内役を承けうる事にした。

 

……どんどん決まって行くな…。僕一人じゃあ正直に言ってここまで考えはしなかったろうな〜。屋敷の隅々まで説明を終えると、ライムさんも何処かに掃けて行った。

 

 

「お疲れ様です、颯樹さん」

 

「ありがと、ユミナ。……まさか、王様のお世話係を雇う事になろうなんて……」

 

「それだけ颯樹さんの事を見込んだと言う事です。有能な執事が居てくれると、とても心強いですよ」

 

 

僕に対して労いの言葉をかけて来たユミナに、一言お礼の言葉を述べる。その後に僕とユミナは、先に僕が寛いでいた庭先を訪れ、辺一帯の空気を感じていた。

 

 

「ん、んん〜!風が気持ちイイですね〜」

 

「そうでしょ?僕としても、ここがお気に入りなんだよね。涼しい環境は僕にとって最高だからね♪」

 

「その気持ちは私もよく分かります。まるで、風が私たちを包み込んでくれてる感じがしますね」

 

 

庭先に出たユミナが感想を述べる。風を浴びる際に彼女が伸びをしたのだが、その動作を見た僕は自然とドキドキする様になってしまった。この前の『婚約』と言う話を聞いた辺りから、僕もユミナの事が気になりだしていた。

 

彼女は優しくて可愛くて、誰に対しても社交的で頭も良くて、魔法も上手で……僕がお嫁さんに貰うのは、少々というか、かなり烏滸がましいと思う程だ。……でも、今はその彼女の方から、僕と人生を添い遂げたいと言って来たので、僕は快く迎えている。この出会いに感謝するべきだね。……と思っていると、門の前に黒塗りの紋章付きの馬車が止まった。…んん?

 

 

「おお!颯樹殿!」

 

「アルフレッド公爵、ようこそおいで下さいました。歓迎します」

 

「別に硬くなる事は無い。これからはご近所同士だ、仲良くして行こう」

 

「はい」

 

 

そう言って僕は公爵様の手を握る。その隣には私服姿のスゥも一緒に居た。ユミナとは従姉妹の関係らしく、ユミナの事を『ユミナ姉様』と呼んでいた。……そんな事はどうでも良くってね。

 

僕は2人をベランダに案内すると、クレアさんから渡された紅茶のポットやティーカップのある盆を持ってベランダを訪れた。そこにはもう3人は揃っており、僕はポットの紅茶をカップに注いでから席に着くことにした。

 

 

「ユミナ姉様が颯樹と婚約するとはの。ビックリしたぞ」

 

「まだ正直に言えば、実感があまり湧かないんだけどね」

 

「颯樹殿はスゥの婿にと考えていたのだがな。兄上もユミナも抜け目が無い」

 

 

……まあ、その気持ちは分かります。好きな人を全力でモノにする為には、確実に隙間を無くして行くって感じですからね〜。まあ今はこうやって、パーティーメンバーとしてもお世話になり、同棲人としても一緒に生活して……居るのでね。

 

公爵様が言い放った『婿』と言う言葉に、スゥは目をキラキラさせていた。その様子を見た公爵様は、スゥもユミナと一緒に貰って欲しいと頼んで来たのだが、丁重にお断りさせて頂いた。……あまり悪ノリしないで欲しいな。

 

 

「まあ、今日の所は引き下がろうか。それで今日は君たちに一つ頼みがあって来たんだ」

 

「?……頼みですか?話を聞きましょうか」

 

「うむ。実はこの度、ミスミド王国と同盟を結ぶ事が決定した。付いては国王同士の会談の席を設けたいのだ」

 

 

ミスミド王国……か。確か、ベルファスト王国の南にある、獣人の王が治める新興国だったね。確かに、それは良い話だ。オリガさんとアルマの出身国だ。相当これは良い会談になりそうだ。

 

 

「会談にはどちらかの国王が、どちらかの王都へ出向かねばならぬ。だがそれには常に危険を伴う」

 

「……!まさか!その為に、ですか!?」

 

「そう。話を理解してくれる人が居てくれるだけでも心強い。君にミスミド王国へ行ってもらいたい」

 

 

……確かに僕の使う【ゲート】なら、ベルファストからミスミドまでは、そんなに時間を要さずに移動できる。ただし『一度来訪した所』と言うのが最低条件だけど。ここまで考えてるとは……流石、公爵様。

 

 

「不躾な質問ですが、ミスミド王国までは、どのくらいの時間がかかるとご想定されてます?」

 

「そうだな、馬車で6日もすれば、ベルファスト王国最南端のカナンという街に着く。そこからガウの大河を渡って更に4日と言った所か。これは順調に進めば、の最短日数だ」

 

「分かりました。引き受けますよ、その依頼」

 

 

僕が何の前置きもなく承諾した事で、公爵様とスゥの目が点になる。ユミナだけは何かを分かってたかの様に、優しい微笑みを浮かべていた。

 

 

「この依頼はギルドを通して、君たちに直接依頼をすると言う形になる。無論、報酬の方は此方から出そう。ギルドランクの方も上げられるチャンスだ」

 

「了解です。……して、出発は何時に?」

 

「そうだな……3日後という事にしようか」

 

 

その言葉を聞いた僕は、各自の部屋に居る残りの3人へと今回の依頼の事を伝えに行った。その後に【ゲート】で王宮へと渡り、今回来た旨を国王陛下に報告する。

 

 

「なるほど、その依頼を引き受けたか。……では、ユミナの部屋に置くと良い。彼処であれば、結界の影響を気にせずに【ゲート】で来られるからな」

 

「では、参りましょうか」

 

「分かった、ユミナ。失礼致します、国王陛下」

 

 

国王陛下に簡単な挨拶をした後、僕はユミナの部屋に鏡を設置する。壁に立て掛けるタイプだが、大きさ的にはこれで充分くらいだ。

 

僕はその後にユミナを自宅へと送り、オルトリンデ公爵家を訪れた。そして3日後の依頼に向けて、その日の夕方はずーっと話し込んでいたのだった。

 

──────────────────────

【盛谷家:颯樹&ユミナの部屋】〈夜の刻〉

 

「着々と話が進んで行きましたね♪」

 

「ああ、少し一安心だよ」

 

 

僕とユミナはそんな話をする。部屋の事については、前に『銀月』に泊まった時と同様の措置にした。その為、ユミナは引き続き僕と同室となる。……慣れてしまった物を、今更変えるのも…ね?

 

もちろん、着替えは互いに不干渉である為に、ユミナ専用の更衣スペースを【モデリング】で作成した。円形でカーテンがクルリと覆っているだけの簡素なスペースだが、こうした方が部屋のスペースも取れると考えたからだ。

 

 

「ふぁぁ……」

 

「ふふっ♪時間も遅いですし、今日は寝ましょうか。明日からは依頼に向けての準備もありますし」

 

「そうしようか。琥珀は枕元ね」

 

『分かりました。主』

 

 

そう言って僕はユミナと琥珀と一緒に、就寝の床に就いた。……やっぱり、僕はユミナの事が……好き、なんだよね。それは他の3人も同じ事で……あれ?僕は本当に他の3人の事も、ユミナと同じ様に見れているのかな。

 

そう思っていると、寝返りを打ったのか、ユミナの顔が僕の方を向いていた。……ダメだな、こんな気持ちじゃ。ユミナの若干紅く染った顔を見て、そう感じさせられる夜であった。




今回はここまでです!如何でしたか?


次はアニメ《第6章》の後半Partです!最後にはドラゴンとの戦闘も入れようと思うので、楽しみにしていてくださいね!……ただし、その前に幕間劇を描こうかな〜とか考えてます。あくまでも予定なので、参考程度に覚えて貰えれば、と思います。

9月も残りわずか……来たる10月も、気合い入れて執筆して行きますよーーーーーーーー!それではまた次回でお会いしましょう!


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第14章:大使の護衛、そして贈り物。

皆さん、こんばんわー♪咲野 皐月です!


今回はアニメ《第6章》の後半Partをお届けします!一週間ぶりなので、筆が乗るかどうか心配ですが。

今の私の頭の中には、早くもアニメストーリー後の話の構造が少しずつ建てられてる所です。今は多分……ライジェル侯爵とかいうバカ貴族~ルーを婚約者として迎える所ですね。完成したら投稿するので、完成をお楽しみに!


それでは第14章、スタートですよ!


アルフレッド公爵からの直接依頼から3日後、僕たち5人はベルファスト王国王都の正門前へと来ていた。そこにはオリガさんとアルマの他にも、鎧を着た人たちが何人か揃っていた。

 

 

「ミスミド王国兵士隊長のガルンです」

 

「ベルファスト王国第一騎士団所属の、リオン・ブリッツです」

 

「両国の兵士たちが、私たちを護衛して下さいます」

 

 

オリガさんが手を広げて、僕たちに内容を伝える。聞けば丁度帰国する時期だったらしく、このタイミングで護衛をしてくれるのは嬉しいとの事で。

 

 

「道中、私たちが確りと護衛しますので」

 

「頼りにしてますね、リオン殿♪」

 

「は、はいっ///」

 

 

自らの決意を述べたリオンさんの顔が、オリガさんのお礼を聞いた途端に紅くなった。……ははーん?そうか、そう言う事ですか〜。

 

その間にガルンさんが、ミスミド王国へのルートを確認して来たのだが、僕たちは公爵様から聞いていた情報があったので、再確認をする事ができた。

 

──────────────────────

 

「……うぬぬぬぬ」

 

 

ミスミド王国へ移動する馬車の中で、八重は目の前のカードを見続けながら唸っていた。彼女が今やっているのは、同じカードを当てる『神経衰弱』である。先日雨が降った際に、何かゲーム関係の物ができないかと思い立ち、僕が【モデリング】を使って作った物である。

 

因みにオリガさんが僕と対局している将棋も、その時に作った物である。これがどうやらドランさんやバラルさんもハマったらしくて。仕事をミカさんに丸投げする程ののめり込みを見せていた。

 

 

「……これでござる!」

 

「残念♪正解はこれと、これです」

 

「凄いです!」

 

「また負けたでござる〜」

 

 

八重の表情から察するに、ユミナに手も足も出なかったらしい。アルマの興味津々の顔を見たユミナは、ニッコリと笑顔を浮かべていたが、敗れた本人である八重はと言うと、少し諦めの表情が出ていた。

 

 

「八重、今度はオリガさんと将棋を指してみてよ。そっちは僕が変わるから」

 

「分かったでござる!将棋は『銀月』でドラン殿に仕込まれたでござるからな〜」

 

「じゃあこっちは、また別なのをやろうか」

 

 

そう言って八重と僕はその場を入れ替わる。ふっふっふ……トランプの中でもかなり頭を使う、ババ抜きの次は何を体験して貰おうかな…?

 

……と思っていたのだが、蓋を開けて見れば17連敗を喫してしまう事になった。……それは将棋をしていた八重にも言えた事で。その様な娯楽を堪能しながら、道中を進んでいた。

 

──────────────────────

〈夜の刻〉

 

「こうして、長靴をはいた猫の獣人は貴族となり、幸せに暮らしましたとさ」

 

「面白かったです!颯樹さん!」

 

 

現在はベルファスト王国内の、深い森の中で野営をしている。先程までは物語の語り聞かせをしていた。アルマはそのお話を聞いて、とても気に入ったみたいだ。……小さい頃に絵本とかたくさん読んでてよかった♪

 

その後すぐに兎の獣人の少女である、レインさん(出発前に予め聞きました)が縦に伸びた耳をピクピクと動かし、何かの音を聞き取っていた。

 

 

「何者かが近づいて来てます。此方に気付かれないように、気配を消しているみたいです」

 

「って事は、これは《盗賊》かな?魔獣って線もあるけど、息遣いが人と同じだからね」

 

『主の見立て通り、十中八九盗賊でしょうな。近付いて来る者達からは友好的な雰囲気を感じません』

 

 

レインさんの言葉に僕は反応する。……この場合は護衛している人たちを乗せた馬車にある、金銭や積荷などが目的なんだろうな。外道が。

 

僕はスマホのマップアプリを開き、検索画面で『盗賊』とワードを入れて検索を掛ける。すると、それが存在する事を示すピンが、僕たちの周囲にストトトトトッと落ちて行く。……多すぎない?

 

 

「北に8人、東に5人、南に8人、西に7人……合計で28人です」

 

「分かるんですか!?」

 

「ええ。一つずつターゲットをロックして行くと、少し時間が掛かるなぁ……。だったら!」

 

 

数を一瞬で把握したリオンさんの驚きの言葉に、肯定の意を返した僕は少し考える。……試してみようか!物は試し!やってみないとわかんないってね!

 

 

「【エンチャント:マルチプル】!【プログラム開始/発動条件:画面でターゲットをタッチ/対象捕捉:「マルチプル」にて同じターゲットを全て/プログラム終了】」

 

 

その詠唱の後に僕はターゲットを一つロックする。そうすると、まだロックされてないはずのターゲットにも、同じロックが成されて行く。へぇ、意外と便利だ【プログラム】って。

 

細工は流々仕上げを御覧じろ、ってね!

 

 

「【パラライズ】!」

 

 

そう詠唱すると、辺りの木々の中から声が聞こえて来た。……途中、何かのツボに嵌ったのか、喘ぎ声みたいな物も聞こえて来たぞ…?

 

……ま、まあ取り敢えず、特に何も障害とか無ければ、盗賊は全員抑えられるかな?僕はガルンさんと一緒に、先程の声を発した盗賊たちを捕えに向かった。

 

 

「……っと。これで全員かな?」

 

「え、ええ。これで全員ですが……縛る動きや捕まえる速度もなかなかの物ですね。何か嗜まれて?」

 

「いえ?ただ、昔から動体視力と反射神経は良くて。その影響からか耳も良くなりましてね。あと捕まえるのには【アクセル】を使いました。そっちの方が手早く捕えられるので」

 

 

僕が答えた言葉にガルンさんは驚く。……別にそこまで大した事はしてないつもりだがな。その後にリオンさんが訪れて、ベルファストの王都の方に馬で遣いをやる事にした。

 

一件落着、かな?と思っていると、リオンさんは僕の所に来てある事を耳打ちし始めた。

 

 

「こいつ等の見張りは我々が、外敵の警備はミスミド側にしてもらいます。颯樹殿は姫様を頼みます」

 

「分かりました。任せました」

 

 

僕はそう言ってユミナ達の元に戻る。するとその入れ替わりに、オリガさんがリオンさんの所に来ていた。……あっ、リオンさん照れてる。どうしてもリオンさんとレオン将軍って、雰囲気とか性格とか全然違うから、親子だとは到底思えんのだけど……。

 

 

「青春ねー」

 

「青春でござるなー」

 

「青春、です」

 

「青春ですねー」

 

 

ってか、君たちは何を見てたの。しかも何時の間に。……まあ、あれを見て気付かない方が可笑しいけどね。僕が少し溜め息を着いていると、八重からある事を言われる。

 

 

「オリガ殿はリオン殿の想いに気付いているんでござろうか?」

 

「まっ、気付いてるんだと思うよ。……はぁ、僕も君たちみたいな読心術が欲しいね全く」

 

「そうよね。どっかの誰かさんとは違って、ニブくなさそうだし」

 

 

エルゼに言われて僕は口を詰まらせる。……仕方ないじゃん。恋愛感情なんて知ったの、ついこの間なんだし!君たちの思ってる通りにはならないつもりだけど、まだ様子見が必要なレベルだかんね!?

 

 

「ニブいのもそうですが、颯樹さんは誰彼構わず優しく、しすぎ、です」

 

「あのさ、僕は皆から見てどんな風に映ってる訳?人たらし?「あ、それは私も思いました」」

 

「ごめん、聞いて?お願いだから!」

 

 

リンゼが言い放った言葉に、僕は直ぐ様反論する。それに被さるかの様にユミナは肯定する。君たちに慈悲ってもんはないわけ?聞いてるこっちが悲しいわ!

 

 

「思わせぶりな態度もどうかと思うでござるよ」

 

「ちょっと聞いてんの!?そこに正座!」

 

「え?なんでさ!」

 

「「「「良いから!」」」」

 

 

エルゼの一言で、僕は夜遅くの森の地面に正座をする羽目になった。そこからはよく分かんない言葉のオンパレードが僕の耳を襲った。ホント、君たちみたいな読心術が欲しいね全く……!

 

──────────────────────

 

旅を開始してから6日後、僕たちはベルファスト王国最南端の街である『カナン』に到着した。聞けばここはベルファストとミスミドの境である《ガウの大河》があるらしく、普通の人と亜人の人々が共存しているとの事だ。

 

暫く探索をしていた僕は、ブローチや指輪、ネックレス等のアクセサリーを並べている露天商の所で、腕を組んで考え込んでいるリオンさんを見かける。

 

 

「リオンさん、お土産の購入ですか?」

 

「さ、颯樹殿!そ、そうですね〜……は、母上に何か買って行こうかと!」

 

「……」

 

「だ、黙られると逆に怖いのですが……」

 

 

リオンさんの苦しい言い訳を聞いた僕は、眉を顰める。絶対にそんなんじゃないでしょ。まっ、ここは武士の情けって事で♪

 

 

「アルマ、ベルファストの思い出に、ね♪一つ買ったげる。好きなアクセサリーを選んで良いよ。もちろん、ユミナもね♪これは感謝の印って事で」

 

「良いんですか?……じゃあ、これで」

 

 

そう言ってアルマは、葡萄のブローチを取って胸元に着ける。その一方でユミナはと言うと、僕に選んで欲しいみたいで、星型のブローチを胸元に着けた。……事前に本人に断りは入れたので、何とか付けることが出来た。

 

その一連の作業を終えた所で、ブローチ2つ分のお会計を済ませる。その後にアルマに問いかける事にした。

 

 

「オリガさんもこういうの、好きだったりする?良ければ教えてくれる?」

 

「はい!えーっと、このエリウスの花なんてお姉ちゃんは好きですよ!」

 

「なるほど……」

 

 

アルマの言葉を聞いたリオンさんは、少し考えると行動に移そうと動き出した。それを見た僕たちは、その場から動こうとした。

 

 

「では、僕たちは先に行ってますので」

 

「分かりました」

 

 

そしてその後に後ろを見ると、先程アルマから薦められたブローチを購入している姿が見られた。……やっぱりアレはオリガさんへのプレゼント、かな?

 

 

「颯樹さん、ナイスです」

 

「良し!」

 

「……でも、本当に良かったんですか?」

 

 

僕の先程のやり取りを見たユミナが、僕に賞賛する言葉を掛けてくる。反応が真っ正直過ぎたからね、見抜くのは簡単簡単♪と思ったら、ユミナは胸元に着いているブローチの事について聞いてきた。

 

 

「大丈夫大丈夫♪何時もお世話になってるからね、これくらいはしないと、ね?」

 

「ありがとうございます。まあ、何れは私の左手の薬指に指輪を填めて貰う事になるので♪」

 

「あはは……ホントだーどうしよー」

 

 

僕はユミナの言葉を、棒読みで交わす事にした。……まだ結婚には早いからね〜?些か気が早すぎるんじゃなくて?と思っていると、ユミナは僕の左腕に抱き着いてきた。

 

……ホント、残りの3人には何て説明をするかねぇ……そんな事を考えながら、港までの道を歩いていた。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はいよいよアニメ《第6章》もラストPartに突入します!そこから何話広がるかはまだ未定です。すみません……もしかしたら1話で済むかもです(1話で終わらない危険性大)。

感想をそろそろ聞いて見たい頃ですね〜♪一部でもOKですし全体でも構いませんよ♪お待ちしてます!


幕間劇のアンケートに関しては、明日で締切にします。誰でも構いませんので、ご協力の程をよろしくお願いします!

関係ない話で申し訳ないのですが、この前ガルパのドリフェスガチャを引いたら、私史上初のドリフェス限定千聖先輩が当たりました!私としては初のドリフェス限定だったので、本当に嬉しかったです!夢で千聖先輩を見たし、お出迎えも千聖先輩だったので、運命というヤツだったんでしょうね!


次回もどうぞお楽しみに!次ももしかしたら、金曜日になってまうかも……。まあ、私のお気に入りのイセスマ小説と一緒に投稿できるので、それは純粋に嬉しい所です♪


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第15章:ミスミド領内、そして脅威。

「すみません、颯樹さん……」

 

「別に大丈夫だよ。態勢がキツかったら、遠慮なく言って良いからね」

 

 

アルマとユミナを同伴しての探訪を終えた後、ミスミド領内へと続く船の港に辿り着いた僕たちは、無事に仲間たちと再会を果たす事が出来た。そして案の定な展開だが、ブローチの件について質問が飛んで来た。その件に関しては、こちらで必ず用意するという事で納得して貰えた。

 

そしてガウの大河を渡って2時間後、僕たちはついにベルファスト王国を離れ、オリガさんとアルマの出身国であるミスミド王国へと突入した。実はその時の船内で、本を読んでいたリンゼが船酔いを起こし、更なる悪化を防ぐ為に僕が降船後にリンゼを背負っているという訳だ。

 

 

「想像してたよりも、少し大きな街なんだね」

 

「…ここはまだ、ベルファスト寄りだから、じゃないでしょうか」

 

 

僕がふと漏らした疑問に、背中のリンゼが答える。ラングレーの町を見渡してみると、人間と亜人の姿を見る事が出来たのだが、ベルファスト王国側が人間が大半だったのに対して、ミスミド王国側は亜人が大半である。今こうして露店を開いてるのも、殆どが亜人であった。色々な形があるんだなぁ……。

 

街の中を観察しながら、オリガさんの案内に従って街の中を歩いて行く。少し開けた所に出ると、僕たちがカナンの街まで乗って来た馬車と同じ物が3台用意されていた。

 

 

「どうしますか、颯樹さん。リンゼさんの体調が悪いようなら、今日は休んで明日から出発するという事にしましょうか?」

 

「あ、もう、大丈夫、です。船から降りたら、楽になりました」

 

 

リンゼはオリガさんからの質問に、普段通りの表情で答える。それを聞いた僕は、背負っていたリンゼを地面へと立たせる。……確かに、船から降りたら何ともなくなっているようだ。

 

その後にエルゼがリンゼにススッ…と近付いて、ある事を言い始めた。

 

 

「もっとおんぶしてもらっててもいいのよ、リンゼ〜」

 

「おっ、お姉ちゃんはっ、なっ、何を言っているのかな!?言っているのかな!?」

 

 

顔を真っ赤にしながら反発するリンゼ。……そりゃあ、ずっとおんぶされてたら、誰でも恥ずかしいか。自分じゃ気づいてないかもだけど、耳も赤いよ?

 

 

「では一時間後に出発しましょう。私は獣王陛下に手紙を出して来ますので」

 

「あ、で、では私もついて行きましょう!何があるか分かりませんので!」

 

「はい。ではリオン殿も」

 

 

そう言って二人は連れ立って歩き出す。……なんか、本当にお似合いの二人なんだよな〜。こりゃくっ付くのも時間の問題、という事かな?見ていて微笑ましい限りだね。

 

二人が離れた直後に僕たちも一時間後に待ち合わせという事で動き出し、各々の支度をし始めた。僕はユミナと共にお茶の葉や非常食等の、所謂細々とした物を露店で購入した。……その最中。

 

 

「?」

 

「どうかしましたか?」

 

 

僕の不審な行動に、ユミナが疑問をぶつけて来る。……今、誰かに見られてる様な気がしたんだけどな。そう思いながら、僕は琥珀に先程の視線の真偽を確かめる。

 

 

〈さっきのって、こっちの方を見てたよね。恐らく対象は僕たちか〉

 

〈はい。何者かが主たちの様子を伺っていました。今は完全に気配を消しています。ご注意ください〉

 

〈了解〉

 

 

先程の視線の正体に疑問を持ちつつも、露店での買い物を難なく済ませる。そして見た事の無い果物を10個ほど買って戻ると、他のメンバーが全員揃っていた。どうやら僕らで最後だったみたいだ。

 

 

「これでみんな揃いましたね。では出発致しましょう」

 

 

オリガさんがそう言うと、護衛の兵士たちは一番前方と後方の馬車に乗り込み始めた。僕たちは真ん中の馬車に乗り込む事になっている。エルゼと八重が御者台に座り、残りのみんなが客車に乗り込もうとした時、オリガさんの髪に桜のような花をあしらった髪飾りが光っているのを見つけた。

 

 

「あら、その髪飾り素敵ですね。よくお似合いです」

 

「え?そ、そうですか、ありがとうございます。ユミナ王女もよくお似合いです」

 

「ありがとうございます。颯樹さんから贈って貰った物です」

 

「颯樹殿はとても優しいお方ですね。妹のアルマもお世話になり、ユミナ王女の様な可愛い彼女さんにも手厚くしてくれるのですから」

 

 

オリガさんの髪飾りの話から、どんどんと本筋が離れて行く。……!……何だか、何処からかすごーーーく冷たい寒気がするんですが…?オリガさんとユミナの間には暖かな空気が流れる一方、僕は正体不明の威圧感に苛まれていた。

 

そんな事を知らずか、ユミナは話を続ける。

 

 

「はい。私の自慢の……未来の旦那様です♪何れは私の左手の薬指に指輪を填めて貰うつもりなので///」

 

 

きゃっ、と軽く嬉しい悲鳴をあげてその場を盛り上げていた。……こっちが謎の威圧感に苛まれてる中で、よくそんな事がズケズケと言えるよね……。その一方でオリガさんもクスクスと笑ってるし……はぁ、本当に3人に何か贈り物をした方が良いか?

 

──────────────────────

 

結局3人には大分怒られ、謝罪と感謝の気持ちを込めて3つの装飾品を贈った。2つは色違いだが同じ花をあしらった物を、最後の1つは白百合をあしらった物だ。エルゼには赤い薔薇を、リンゼには青い薔薇を、八重には白百合をって感じだ。

 

八重に送る際には、髪留めにし易い様にゴムも付けたのだ。3人ともそれが大層気に入ったのか、早速身に付けている。

 

 

「これじゃあ、日暮れまでにエルドの村に着くのは無理そうですね」

 

 

オリガさんの言葉に、僕はスマホの時間を確認して見る。……確かに今が17:00を指しており、エルドの村に着いたとしても真夜中になる事を示していた。今夜も野営かな?

 

 

「ミスミドは幾つもの種族が集まって出来た、云わば群体の様な物です。今でも種族毎に村や町を形成していて、互いに友好的な種族も有れば、互いに相手を毛嫌いしている種族も居ます。それを纏め上げているのが、国王陛下を含めた七族長なのです」

 

 

オリガさんから行なわれた説明に寄ると、七族長って言うのは……獣人族、有翼族、有角族、竜人族、樹人族、水棲族、妖精族の主要七種族の長なんだとか。で、現在は獣人族の長、獣王が国を統治しているのだとか。獣人は最も数が多いから、その方が国として機能がしやすいからだろうか。

 

 

「王位って、世襲制だったりします?国王の子供がその国を継ぐって感じの」

 

「一応そうですね。ですが、他の六種族の長も強い権限を持ってます」

 

 

成程ね……有力貴族みたいな物か。まだ出来たばかりの新興国だから、色々と課題も問題も山積状態だな。そう考えている間に、日が暮れて来た。暗くなると危ないから、そろそろ野営の準備を始めよっか。

 

少し開けた所に馬車を停め、野営の準備を始めた。集めて来た薪と石を使って小さな竈を作り、食事の用意を始める。僕もそれに参加し、野菜スープ(ミネストローネ)を作った。

 

どっぷりと陽が暮れて辺りが暗くなると、森の中のざわめきが少しずつ強くなっていく。夜行性の魔獣とかが多いのかな?

 

 

「ちょっと怖いですね……」

 

「大丈夫♪いざとなれば僕も居るし、琥珀も居るからね。通常の獣だったら小さいままでも撚って来ないし、魔獣でも直ぐに分かるからね。……スライムとかは無理だけど」

 

 

僕の作ったスープを飲みながら、ユミナが不安を零す。それに僕は安心する様に答え、琥珀からの念話の内容を伝えた。すると彼女は横にいた琥珀を抱き上げ、ギュッと抱き締めた。

 

 

「ありがとう、琥珀ちゃん」

 

『安心して下さい、奥方。私が居れば大丈夫です』

 

 

他のみんなに聞こえない様に、琥珀がユミナにそう伝える。その言葉に安心したのか、ユミナは微笑んで琥珀の頭を撫でた。

 

食事を摂っている最中にも、数人が交代で見張りを行なっていた。油断した隙をやられたら面倒な為、警戒心ゆるゆるで行くよりも、この方がずっと確実なのだ。しかしベルファスト騎士団の方が、見知らぬ土地の為に少し緊張していた。

 

 

「そろそろ八重とエルゼを迎えて来るよ。琥珀、ユミナとリンゼの事を頼むよ」

 

〈御意〉

 

 

ユミナに抱かれている琥珀にそう言うと、僕は他の人たちに気付かれないように、焚き火を囲む皆から離れて客車の中へと戻り、ベルファストにある自宅へ向かって【ゲート】を開いた。

 

僕が出現したリビングでは、エルゼと八重がすっかり寛いでいる。……全く、依頼の途中だってのに。その横には家のスーパー執事のライムさんが控えている。

 

 

「あ、もう時間?」

 

「忙しないでござるなぁ……まだ髪が乾ききっていないでござるよ」

 

 

そう、2人には先程までお風呂に入って貰っていた。他の人たちに【ゲート】の存在が気付かれないように、30分交代って制約を作って。

 

魔法で水は出せるので……盥に貯めた水に焼いた石に寄るお湯を作り、湯浴みをするという偽装工作を経て、その実、お風呂に入っている。二人一緒な理由はと言えば、片方が見張りという役で交代に湯浴みをするという流れになってるからだ。

 

 

「ほら、怪しまれない内に戻るよ。ライムさん、何か変わった事は有りましたか?」

 

「いえ、これと言って何も。ああ、フリオが庭の隅に家庭菜園を作ってはどうかと申しておりましたが、いかが致しましょうか」

 

 

家庭菜園、か。採れたての新鮮な野菜を食べられるのは、僕としても非常に嬉しいし、皆にとっても大助かりだしね。

 

 

「許可します。好きに使ってください」

 

「では、そのように」

 

「ほら、行くよ?2人とも」

 

「「はーい」」

 

 

そう言って僕は、エルゼと八重を連れて馬車の中に出る。……そう言えばラピスさんとセシルさんの姿が見えて居なかったが、何かあったのだろうか?まっ、他人の事情に首を突っ込んでも良いことは無いしね♪

 

そう思いながら外に出ると、何やら様子がおかしい。森が強くざわめいており、色々な動物たちの鳴き声が聴こえて来る。……え!?ホントに何なのさ!

 

 

「颯樹さん!」

 

「ユミナ!これは一体、どうなってんの?」

 

「分かりません……急に森の動物たちが騒ぎ出して……」

 

 

僕はユミナからの近況報告を聞き、辺りを見渡す。そして僕の横にいた兎の獣人であるレインさんが、何かを感じたように声を上げた。

 

 

「何か大きなものが来ます……空だ!」

 

 

どうやらこの現象を引き起こした元凶は、空に居るみたいだ。その実体を拝んでおこうかと思い立ち、空を見上げては見たのだが……。

 

 

「おいおい……冗談だろ?まさか、竜……かよ」

 

 

ベルファスト騎士団の人たちや、ユミナを始めとした仲間たちは、ボンヤリとしか見えて居なかったが、僕は確実にその姿を捉えていた。更に言うなら、ミスミド側の人たちは更に細かい所まで見えていた。

 

全身を黒い鱗で覆った巨大な体躯からは、見た者全てを平伏す絶対的な貫禄が備わり、手や足の鋭き爪は、触れた物全てを跡形も無く引き裂く力を持っていた。それを見た僕たちは衝撃に囚われていた。

 

 

「何でこんな所に竜が……!」

 

「え?どう言う意味ですか?まるで『普段はここまで来ない』って言い方ですけど……」

 

 

震える声で呟いたオリガさんの言葉に、僕は疑問を持ちつつも、彼女に問い掛けた。突然の竜の襲来に怯えた妹に寄り添いながら、僕の質問に答えて行く。

 

 

「竜…ドラゴンは普通、この国の中央にある聖域で暮らしています。そこは竜のテリトリーとして誰も立ち入る事は無く、また、竜たちも侵入者が居なければ、そこから出て暴れる事は無いのです。そうやって我々は住み分けてきたはずなのに……!」

 

「誰かが聖域に踏み込んだのですか!?」

 

 

オリガさんの答えた言葉に、ミスミド兵士隊長のガルンさんが声を荒らげる。……確かに、誰かが聖域に踏み込んだのだとすれば、それを撃退する為に竜が暴れ出したのだと説明がつく。

 

しかしそうとは一概にも言えず、例外がある事をガルンさんから伝えられた。……おいおいどうすんだよ、この状況は!




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はいよいよ、ドラゴンとの戦闘シーンです!原作主人公とは違った方法で倒そうかと考えてますが、導入に関してはアニメを参考にしますので。そこら辺のご心配は無用です。まあ、弓に剣と持っているなら……応用させないといけないですよね?

関係ない話かもですが……今期最大の台風が、関東地方へと進路を定めて進んでいます!台風の通り道になっている県にお住まいの人たちは、3連休は気を付けて過ごして下さいね!


それではまた次回です!因みに、お話の中で3人に贈られた装飾品にあしらわれた花には、キチンと意味が存在しています。興味がありましたら、ググッてみては?次回の後書きでも紹介はするつもりですが。


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第16章:転移の鏡、そして漆黒の竜。

「オリガさん、確かこの先って……!」

 

「!エルドの村があります!」

 

 

僕はふと気になったことを、オリガさんに質問する。黒竜の飛行速度を考えれば、恐らくだが1時間ほどでエルドの村に辿り着くだろう。

 

次にミスミド兵士隊長のガルンさんに聞く事にした。『兵士隊長』と言うからには、普段から兵の状況や指南役などを買って出ている為に、戦力の割振りや内訳等も熟知しているのではと思ったからだ。

 

 

「ガルンさん、あの飛行状態にある竜を撃退するのに、どのくらいの兵力を使いますか?」

 

「我々の王宮戦士中隊……戦士100人もいれば、何とか倒せます。ま、まさか、颯樹殿……あの竜を撃退するおつもりですか!?」

 

「それ以外に方法は無いでしょう!それに!あの先にはエルドの村もあります!被害者や家畜やその他諸々のことを考えていると、撃退すべきだ!」

 

 

僕はガルンさんの言葉に、捲し立てる様にして答える。しかし、ミスミド側の兵士たちの任務は『オリガさんとアルマの護衛』……それを放り出して行く事は先ず無理だ。仮にドラゴン退治に戦力を半分残し、もう半分を大使の護衛に当てたとしても、対応に一歩出遅れてしまうのが道理だ。

 

……ん?待てよ?僕たちの方で持って来た、アレが使えないかな?これはミスミド王宮まで使わないつもりだったのだが……致し方無しか!

 

 

「颯樹殿?」

 

「一体、何を……?」

 

 

ガルンさんとオリガさんが不思議そうな顔をする中、僕は馬車の客車の中から、人1人がしっかり映る様な大きな姿見を出して、それを車体に立て掛けた。

 

ユミナは先んじて見ているけど、他のメンバーには初めてだったので、軽くこの姿見についての説明をする。

 

 

「驚かないで聞いて下さい。これは《転移の鏡》と言う魔導具で、二枚で一セットの鏡となります。この鏡ともう一方の鏡を使えば、何処へでも転移できます。しかしこれは、先んじて片方の鏡を何処かに置かないと使えない代物です。今回の場合を参照して答えるなら、もう一方の鏡は『ベルファスト王国の王宮』に設置しています」

 

「そんな物を持ち込まれて居たのですか……」

 

「この姿見をミスミド王国国王に届ける事こそ、僕たちが請け負った依頼です。この鏡を使って、オリガさんとアルマには王宮に避難して頂きます。念の為にですが、緊急時の使用許可はベルファスト王国国王陛下より頂いています」

 

 

……凄い嘘をベラベラと語ってるかもね…。ミスミドの人たちには、この《転移の鏡》には様々な制約がある事を伝えておく。同盟も結んでないのに、本当の使い方を説明しても意味は無いからね。

 

僕の説明を聞いたオリガさんが、何かを決心した様に声を発した。

 

 

「分かりました。それを使って私たちは一先ず王宮へと避難しましょう。そして皆さんはエルドの村の人たちをどうか安全に……」

 

「分かりました。颯樹殿、頼みます」

 

 

オリガさんとガルンさんの承諾を頂けた所で、僕は王宮に避難する面子の名前を挙げていく。僕は【ゲート】の使用者だから立ち合わないといけないけど、ガルンさんには向こうの確認の為に付いて来てもらう事にした。余計な誤解を生んで欲しくないからね。

 

ガルンさんが不安そうな声を上げる中、僕は鏡に手を当てて小さな声で魔法を詠唱した。

 

 

「【ゲート】」

 

 

僕の魔法の詠唱が終わると同時に、鏡の数センチ手前に光の門が現れた。この光の門を【エンチャント】で固定しても良かったのだが、それをするのは早計だと考えていた。……まだミスミド王宮に着いていないからね。

 

先にユミナが入り、その後にガルンさん、アルマ、オリガさん、そして僕が光の門を潜り抜ける。僕が通り抜けた後には光の門が消え、背後には先程通ってきた鏡だけが残っていた。

 

 

「成功ですね、颯樹さん」

 

「実験大成功♪」

 

 

僕たち5人が現れたのは、ベルファスト王国の王宮内部に存在しているユミナの部屋だ。ミスミド王国へと出発する以前に、国王陛下から置く様に薦められた場所なのだ。そこに《転移の鏡》を置かせて貰ったという事だ。

 

 

「こ、ここは……」

 

「ベルファスト王国の王宮です。それじゃ、ユミナ、国王陛下に説明頼むよ」

 

「はい。……その前に」

 

 

僕はユミナに対して、国王陛下に説明をする役目を与えた。それを聞いたユミナは、承諾してはくれたのだが、寸での所で僕を引留める。何かと思って振り返ると、ユミナが僕に抱きついて居た。……い、一応……大使や兵士隊長の前ですよ!?

 

ユミナの顔を改めて見てみると、表情からは悲しそうな雰囲気が伝わっており、今にも泣きだしてしまいそうな感じだ。僕はユミナの頭を撫でると、ユミナに対してこう伝えた。

 

 

「必ず、無事に帰って来るよ。前にも言ったと思うけど、大切な人の泣き顔が一番見たくないんだ。……だから、信じて待ってて欲しい。終わったら、必ず呼びに来るから」

 

「分かりました……。……どうか、ご無事で」

 

 

ユミナは僕に背を向けて歩き出すと、オリガさんとアルマを連れて国王陛下の待つ謁見の間へと向かった。

 

 

「これで安心できましたか?ガルンさん、戻りますよ?本番はここからです」

 

「あ、はい。行きましょう!」

 

 

先程通ってきた鏡を潜り直して、元の場所へと戻って来る。そこには既に他の全員が準備をしており、何時でも出発できる態勢になっていた。

 

 

「よし、みんな!これで大使は安全だ!我々は竜から村の人を避難させる為に、エルドへと向かう!」

 

『おおおーーーっ!!!』

 

「僕を始めとしたパーティーは、ミスミド兵士の人たちのサポートをしながら、ドラゴン撃退へと向かう!熾烈な戦いが予想される為、己の力の全てを出し切れ!」

 

「「「了解!」」」

 

 

ガルンさんはミスミド兵士たちに、僕はエルゼを始めとした3人に指示を出す。その後に僕はリオンさんの所へと歩いて行った。

 

 

「僕は自分の意思で戦う事を決心しました。ですが、リオンさんはどうします?今回の場合は、ベルファスト側は関わる必要は無い訳ですが……」

 

「こんな状況で『我関せず』を貫いたら、父上に炎の拳で殴られますよ。私たちも行きます。恐らくですが、陛下であってもそうするでしょうから」

 

「分かりました」

 

 

リオンさんは僕にハッキリとそう言い放った。……待ってましたよ、その言葉を!検索対象を「黒竜」としてマップを見てみると、竜が村へ到着するにはまだ少し余裕が有りそうだ。……しかし、油断は禁物。成る可く早く馬車を飛ばせば、1時間ほどで辿り着くだろう。

 

……ドラゴン退治、やったりますか!

 

──────────────────────

 

僕たちが辿り着いてみると、そこでは轟々と炎が立ち昇っていた。……くっ、一足遅かったか!そして上空では我が物顔で炎弾を放つ黒竜が。竜の赤き双眸からは、この状況を愉しんでいるかの様な思いが取れた。

 

……見てて嫌になる光景だな全く!

 

 

「村人の救出を優先させろ!動けない者を運び出すんだ!」

 

「我々も救出を手伝うぞ!一人残らず助け出すんだ!」

 

 

ガルンさんとリオンさんの声で、両国の兵士たちが各地に散らばって行く。さてさて……少し僕たちは門側に近付こうかな?

 

 

「何を、するんです?」

 

「なーに。ちょっと細工を、ね?」

 

 

僕はリンゼにそう言って【アクセル】を使って、家の屋根上に昇った後に黒竜をその視界に捉える。……改めて見ると、これまたデカいなぁ……考えるより先に動け!ってね!

 

 

「【光よ放て、眩き閃光、フラッシュ】!!!」

 

 

僕は光属性の魔法である【フラッシュ】を発動させる。この魔法の存在意義はと言えば、敵の目眩しと言うのが本分だ。……しかし、夜間の街中に強力な光を放つ物があったら?虫ならば確実に撚って来る。さて、ドラゴンではどうか?と思って使っている。

 

突如僕から放たれた閃光に、黒竜も気付いたみたいだ。首をゆっくりとこちらに向け、炎弾を放つ準備を始めた。それを見た僕は下へと降りて、外に出る為に動き出した。

 

 

「琥珀!」

 

『御意』

 

 

僕の呼び掛けに応じて、琥珀は元の神獣モードへと変化する。そして近くに居たリンゼを共に乗せ、近くの森まで移動を始めた。

 

因みにリンゼを乗せた意味だが、黒竜が飛行状態にある以上は、武闘士のエルゼや剣客の八重の一撃では、全く歯が立たないからだ。急にチョロチョロと動き回る僕たちを目障りに思ったのか、炎弾を連射し始めた。当たらないっての!

 

 

「こっちだ!」

 

「颯樹さん、そんなに煽ったら……!」

 

『寧ろナイスです主!まともな思考をしてない黒竜には、この誘いは喉から手が出る程の衝撃かと!』

 

 

そう言いながら、僕たちは拓けた牧草地帯に出る。森側に僕たちは降り立つと、黒竜は僕たちの正面に位置づいた。そして自身の強さと誇りを象徴するように、辺り全体に聞こえる程の音量で咆哮した!

 

 

『貴様、我が主を侮辱するつもりか!空飛ぶトカゲの分際で!これだから《蒼帝》の眷属は気に食わんのだ!』

 

「へぇ……大方、自分の食事の邪魔をしてくれた罰として、俺たちを八つ裂きにすると言う所か。……全く、単細胞か!」

 

 

黒竜の言った事は直接解読できなかったが、琥珀の説明によって大方の事を知ることが出来た。『侮辱』、『享楽』……なんて事は無い。格上の物が格下を蔑む際に、その様な言動や行動を耳にする。前者は虐げ辱める為、後者は愉悦や快楽の為……という具合だ。

 

……もう、容赦はせん!

 

 

「リンゼ、少し待ってて。あのトカゲの減らず口、少し黙らせて来る」

 

「は、はい……」

 

「【アクセル】!」

 

 

リンゼにそう伝えた後に、僕は【アクセル】を使って竜の背へと飛び移る。幾ら強靭な爪や牙に炎弾を持ってても、背後に移られたんじゃあ……意味が無いからな!

 

 

「抜刀……そして【ブースト】」

 

 

僕は刀の鞘に収まった剣を取り出すと、その剣に【ブースト】で強化を図った。そして竜の首を刈り取る為に、竜の背を頭へと伝って走り始めた。

 

 

「……はあっ!」

 

 

ガキィィィン!!

 

 

「颯樹さん!ブレスが来ます!」

 

「仕方ない……【アクセル】!」

 

 

【ブースト】で強化を図った一撃は、刀の刃先が折れた事で失敗に終わった。竜から飛び退いていた僕に狙いを定め、黒竜の口からブレスが発射されようとしていた。

 

……危な!【アクセル】で回避して無かったら、重傷は確実だぞ!?

 

 

「リンゼ、僕が彼奴を空から叩き落とす。その後に彼奴の翼をぶった切れ!」

 

「了解、です!」

 

「【マルチプル】!」

 

 

僕はリンゼにそう指示した後、連続詠唱省略魔法である【マルチプル】を発動させる。……多分、僕の魔力量だったら、高位魔法も使えるんだろうが、そこで無理をしてはいけないからね。これに留めときますか!

 

詠唱から少しした後に、竜へと発射する発射台の様に百を超える【マルチプル】の魔法陣が浮かび上がった。それを見た僕は、次の魔法を発動させる。

 

 

「【光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン】!」

 

 

魔法陣から放たれた128本の光の槍に、さしもの黒竜でさえも血を流しながら降下して行った。そして体勢を立て直すために飛び上がろうとしたが、それをリンゼが阻止しようと動き出す。……殺れ、リンゼ!

 

 

「【水よ来たれ、清冽なる刀刃、アクアカッター】」

 

 

リンゼの詠唱と共に放たれた水の刃は、黒竜の片翼へと命中する。その攻撃を受けた黒竜は、苦しみに悶え始めた。少し飛び上がろうとしたが、バランスを崩してその場に落下する。……翼が無ければ、ドラゴンと言えども怖くは無いね♪

 

黒竜は憎しみと怒りを込めた赤い眼をギラつかせ、口を開いてブレスを吐く体制を取った。……はあっ?マジかよ!僕は【ブースト】で強化された脚力を使い、リンゼを救出する。そして放たれたブレスは、辺りを紅蓮の世界へと変貌させて行く。……威嚇してるのか…やりにくいったらありゃしない!




今回はここまで!如何でしたか?少し中途半端になってしまいましたね……。次回は黒竜退治の後半と、颯樹くんの新武器の登場回をお届けしますので、どうぞお楽しみに!


ついこの間なんですが……ついにこの小説にも評価が付きましたーーーーーーーー!☆4と言う微妙な感じではありますが、この評価をバネにして頑張りたいと思います!

次回の投稿はまた「異世界はスマートフォンとともに 改」と同じ時間帯になるかもですね〜。別に『投稿したくない』とかそういう意味では無いですよ!?一緒のタイミングで見て貰えるので、此方としては本当に嬉しいですから!


それではまた次回に!幕間劇の内容は、Twitterでも募集してますよ!「咲野 皐月@混沌の根絶者」をハイパーリンクして頂けたら、其方に飛べますので……フォローして貰えたら此方が返しますので、その時に出るDMにご提案下さい!

誰でも良いので、待ってますよ〜♪


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第17章:竜殺し、そして復興支援。

僕とリンゼは、パーティーメンバーのエルゼや八重に先駆けて、目の前に立つ黒竜と対峙していた。後ろに下がろうと動くが、そこには黒竜の火炎のブレスによって燃やされた木々が広がっていた。

 

……どう行動しようか決めあぐねていると、夜の空を飛び翔る一つの影が映った。その影は黒竜の片目を斬撃で潰し、こちらへと降り立った!

 

 

「大丈夫でござるか、颯樹殿、リンゼ殿!」

 

「八重!良い所に!」

 

「拙者だけではござらんよ!」

 

 

駆け付けて来た八重の言葉を聞き、目を少しずらすと、そこには林の中から飛び出したエルゼが、竜の横腹に【ブースト】を付与した一撃を与えていた。

 

……だが、その攻撃も虚しく……。

 

 

「い、痛ったぁー!硬すぎるわよアイツ!」

 

「それは僕も実感したよ。刀がこんなになってしまったし」

 

「それだけの強度だという事でござるな」

 

 

僕がエルゼの愚痴に答えていると、竜の口からブレスが発射される。それを僕たちは寸での所で回避し、左右に散り分けられる。……高位魔法を使うのは初めてだけど、やってみますか!

 

 

「リンゼ、相手の足元を拘束!八重とエルゼは、少し時間を稼いで!」

 

「「「了解(でござる)!」」」

 

「【氷よ絡め、氷結の呪縛、アイスバインド】」

 

「こっちでござるよー!」

 

 

僕の指示に3人が動き出し、リンゼは水属性の拘束魔法である【アイスバインド】で黒竜を拘束し、八重とエルゼは黒竜の注意を惹き付けている。

 

……ありがとう、3人とも!僕は心の中でそう思いながら、魔法発動の為の詠唱を始める。

 

 

「【マルチプル】!」

 

 

僕の言葉で【マルチプル】の魔法陣が、次々と展開されて行く。1…2…4…8…16…32…64…128…256…512!512個の魔法陣が、黒竜の胴体に向けてセットを終えた。

 

……喰らえ!これが、僕の高位魔法だ!

 

 

「【雷よ穿て、百雷の矛、ライトニングジャベリン】!」

 

 

その詠唱と共に雷を纏った512本の槍が、黒竜の胴体へと向けて発射される。それを受けた黒竜は、最初は痛みによる反応を見せたものの、静かにその行動を止めた。

 

その後にリンゼに【アイスバインド】を解除してもらい、硬質で逞しい鱗に触れて見たが、何も反応を感じられず、グラりと横に倒れたのだった。

 

 

「やっ…た……」

 

「やったでござるよ、颯樹殿!」

 

 

八重とエルゼの2人が、はしゃぎながらこちらに駆け寄って来る。琥珀に乗ったリンゼもこちらへやってきた。何故か琥珀からは『スカッとした』と言う声が聞こえたが、そこまであの竜が憎たらしかったのか?分からんでもないが。

 

すると間隔を空けて、地面に黒い影が伸びた。何かと思って空を見上げると、さっきの竜とはまた別の竜が現れた。その竜の身体は紅く金色の目をしていて、白い体毛が鱗の間から見えていた。大きさは先程の黒竜よりも一回り大きいくらいか。

 

 

「戦闘態勢!……クソっ、もう一匹か!」

 

『こちらに戦う意思はない。我が同胞が迷惑を掛けたようだ、謝罪する』

 

「言葉が分かるんですか?」

 

『我は聖域を統べる赤竜。暴走した者を連れ戻しに来たのだが、どうやら一足遅かったみたいだ』

 

 

そう言って赤竜は、僕たちを確りと見回す。その金色の目からはどこか悲しそうな雰囲気が漂っていた。……そっか、連れ戻しに…。もう少し早ければ、こちらも対応のしようはあった筈なのに…。

 

何とも言い難い雰囲気の中、琥珀が赤竜の前に進み出る。

 

 

『赤竜よ、《蒼帝》に言っておけ。自分の眷属ぐらいちゃんと教育しておけとな』

 

『なに……?この気配……まさか…貴方は《白帝》様か!?何故このような所に……!?』

 

 

琥珀の応答に気づいた赤竜が、驚きの余りに目を丸くしてしまう。……そう言えば、琥珀って《白帝》って云われてる神獣なんだっけ。凄い獣を仲間にしたかもね、今更だけど。

 

 

『なるほど…黒竜を倒したのは《白帝》様であられましたか……道理で黒竜如きでは相手にも……』

 

『勘違いするでない。其奴を倒したのは我が主、颯樹殿だ。畏れ多くもこの小僧は我が主を侮辱しおったのでな。当然の報いよ』

 

『なんと…っ!?《白帝》様の主ですと!?人間が、ですか!?』

 

 

再び赤竜が驚愕した声を挙げる。金の双眸が僕を見つめる。……何か、品定めされてるかの様で落ち着かないんですが…。

 

やがて静かに赤竜は地面に降り立つと、身を屈めて頭を下げた。

 

 

『重ね重ねの御無礼、ひらにご容赦を願いたく…。此度の事はこの黒竜一人で行なった事。何卒温情を持って……』

 

「分かった。今回は琥珀や君の顔を立てる事にするよ。誰しも間違いはある。そこから学べば良いんだから。でもね?」

 

 

僕は目を細めて赤竜を見つめる。僕の視線に威圧を感じたのか、赤竜が背筋を強ばらせる。

 

 

「次のチャンスは存在しないよ。無論、他のどの竜がどのような事をしてもそれは同義。二度と同じ事が無いように、確り言い聞かせておいてね」

 

『は。必ず。直ちに聖域に戻り、皆に伝えましょう。それでは失礼致します』

 

 

そう言って赤竜は、自らの住処である聖域へと戻って行った。その後に琥珀が小虎の姿に戻り、3人が地面に座り込んでいた。……多分これも神様効果だったりして…ね?まあ、琥珀と《蒼帝》の事に関しては「竜虎相搏つ」という言葉の通りなのかもね。

 

僕はそんな事を考えながら、3人に回復魔法を掛けて回った。

 

──────────────────────

【翌日】

 

「あー、疲労困憊だよ全く」

 

 

僕は辺り一面に広がる草村に、身を投げ出していた。日の角度から計算するに、もう朝の7時過ぎだろうか…。黒竜を倒した後に街へと戻り、消火作業と怪我人の回復に大きな時間を費やした。リンゼは水魔法で消化を行ない、八重とエルゼは怪我人が居ないか走り回り、僕は連れて来られる怪我人を回復魔法で治療したのだ。

 

幸いにも被害者はそこまで居ないのだが、村全体はと言うと……ほぼ壊滅状態になっていた。被害甚大だなこれは…。

 

 

「颯樹殿、ここに居ましたか」

 

「リオンさん、お疲れ様です」

 

 

寝っ転がっている僕の元へ、リオンさんが歩いて来た。状況を鑑みるにもう大体収束したらしい。何処からか炊き出しのイイ匂いが漂って来ている。

 

 

「しかし、たった四人で竜を仕留めてしまうとは……。驚きを通り越して呆れてしまいます」

 

「そもそもあれはそんなに強くない若い竜らしいです。だからだと思いますよ?」

 

 

赤竜から聞いた事をボヤかしてリオンさんに伝える。と、そこに狼隊長のガルンさんもやって来る。

 

 

「おお、颯樹殿。あの竜の死体なんだが、どうするつもりだ?」

 

「え?竜の死体をどうするか、ですか?」

 

「いや、あれだけの素材だ。売れば物凄い金になるだろう。しかし、どうやって運ぶか……」

 

 

その言葉を聞いた僕は、首を傾げてしまった。それを見たリオンさんに説明を受けると、粗方の事を理解できた。先にパーティーメンバーである3人には話を通してあるらしく、その判断は僕に一任するとの事であったらしい。

 

……これからの冒険の資金にするよりも、先ずは壊れた街の復興や繁栄に役立てる方がとても有意義じゃないかなこれって。……よし、決めた。

 

 

「竜の死体は、全て余り残さずにエルド村に差し上げます。家屋や街の修繕にそれ以後の繁栄を考えると、僕たちが持ってるよりも遥かに最良な選択かと」

 

「竜をか!?全部か!?」

 

「颯樹殿、分かってますか?物凄い価値がある素材なんですよ?金額で言ったら王金貨10枚は下らないんですよ!?」

 

 

王金貨10枚って事は、1億円相当か……。持ってても使い道に困りそうだし、困ってる人が居るなら積極的に支援して行かないと、ね!

 

僕は朗らかな笑みを浮かべて、2人にこう伝えた。それを聞いた2人はたいそう驚いていたが。

 

 

「こんな大金、独り占めは出来ません。先程も言いましたが、全て余り残さずにエルド村に差し上げます。どうか役立てて貰えると嬉しいです」

 

「……ミスミドを代表して感謝する。ありがとう、颯樹殿」

 

「はあー…。父上が言った通り、器の大きい人ですね。頭が下がります」

 

 

エルドの村の人たちから、感謝と尊敬の眼差しが送られる。……ま、後で何やら言われても、取り付く島は与えないけど♪

 

その後インチキ転移鏡を使って、オリガさん、アルマ、ユミナを連れて帰って来ると、先ずはオリガさんに礼を言われた。竜を倒し、村を救ってくれた事に対してらしいが、それは護衛兵士たちの活躍もあったからだと純粋に思う。

 

その彼らも力尽きて、馬車の周りで仮眠を取っている。……マジで眠い。さっさと寝てしまおうかと思ったが、それを遮る様に僕の所に杖を突いた獣人の老人がやって来た。

 

 

「村長のソルムと申します。この度は村を襲った竜を倒して頂き、その上、村の復興に多大な援助まで……ありがとうございます」

 

「いえ、気にする事は無いですよ。僕たちは全員の意思でこの村を援助する事を決めたのですから、これくらい何ともありません」

 

 

僕は正直な気持ちをソルムさんに告げる。その後にソルムさんは村の人たちに、何かを持ってこさせていた。先が尖った何かの角?……もしかして、これって。

 

 

「これはあの竜から取った角の一本です。これだけでもお持ち下さい」

 

「え?これは皆さんに差し上げた筈では……」

 

「なんでも武器を損傷されたとか。この角があれば、新しい武器の素材にする事も、売って新品の武器を買うこともできましょう」

 

 

なるほど。では、お言葉に甘えて貰って置きますか♪受け取った竜の角を持ってみると、思いの外に軽かった。こんな軽い角で大きな竜がよく飛んだな〜と思ったが、硬さは鋼鉄以上だとか。……うわ。何となくわかった気がする。これより硬い物ってなると、ヒヒイロカネやミスリル、オリハルコン位しかないと言う事みたいだ。

 

僕はソルムさんの所から逃げる様に立ち去った。正直に言えば、眠くて眠くて仕方が無かったのである。馬車の中で休もうと思い立ち、覗いて見たら……3人が寝ていた。その馬車のドアを閉めた僕は、先程の場所へと戻っていた。

 

 

「颯樹さん、毛布をどうぞ」

 

「ありがと、ユミナ……」

 

 

そこに一枚の毛布を持って、ユミナがやって来た。タイミング的にもそろそろ寝たいと思っていた所で、この上ないナイスタイミングである。僕はゆっくりと閉じそうな瞼に抵抗する様にユミナにお礼を言うと、毛布を受け取ってそれに包まる。……温か。もう、無理ですわこれは…。

 

そして僕は意識を手放し、微睡みの中へと落ちて行くのであった。

 

──────────────────────

 

暫くして目を覚ますと、空をバックにユミナの顔が見えた。まだぼんやりとした眼で、僕を上から覗き込むユミナの顔を見つめる。

 

 

「ん……んん」

 

「お目覚めになりましたか?」

 

「あ、ああ……何とか、ね」

 

 

ユミナの問い掛けに、僕はそう答える。……ん?待て?これって。膝枕されてた!?今の今まで!?ゴロゴロっと地面を転がって、その状況を脱する。……少しユミナが名残惜しそうにしてたけど、今は状況確認が先!

 

ガバッと身を起こすと、周りの村人や既に起きていた護衛兵士たちがニヤニヤと生暖かい眼を向けていた。うわぁ……!大衆の面前で女の子に膝枕って…!気遣いはとても嬉しいが、恥ずかしさの方が勝るよこれ!

 

 

「あら、お目覚めのようね」

 

「…よく、眠っていましたね」

 

「気持ち良さそうでござったなぁ〜」

 

 

ブルり……と背筋に悪寒を感じて、恐る恐る後ろを振り返ると、そこにはにこやかな笑みを浮かべた3人の女の子が立っていた。……え?何で?ナンデ優しそうに笑ってんのに、目がワラッテナイワケ!?……何か、怒ってますか?

 

 

「あの〜、何かありました?」

 

「「「別に〜」」」

 

 

僕が3人に訪ねても、そっぽを向かれてしまう始末だ。ありゃ……これ、どう見ても怒ってますねはい。それを見兼ねたユミナが、3人を説得しにかかる。

 

 

「はいはい、そこまでにしましょう?じゃんけんは神聖な勝負です。恨みっこ無しのハズですよ?」

 

「わかってるわよ…」

 

「…むう…」

 

「残念至極…」

 

 

そう言ってユミナを含めた女性陣は、客車へと戻って行った。その後に琥珀に何があったか尋ねると、なかなか薄情者の答えが返って来た。……馬車の中で少し考えてみるかな。

 

そう思いながら、僕も客車の中へと戻って行った。その後に少し3人に聞いてみると、先の贈り物の件では無かったみたいなので、少し一安心した僕であった。




今回はここまで!如何でしたか?


次回はできれば……獣王陛下との戦いまで行きたいですね〜。新しい武器の話には行けなかったので、それはまた後の話にしましょうか♪

この前すると言っていた花の解説ですが、し損ねていたのでここでご紹介を。


薔薇(赤)→「愛情」「美」「情熱」など

薔薇(青)→「夢叶う」「奇跡」「神の祝福」

白百合→「汚れのない心」「純潔」


颯樹くんが3人に渡した意図は、花言葉が由来になっています。エルゼだったら「愛情」と「情熱」で、リンゼだったら「奇跡」の別の言い方をして「不可能を可能にする」、八重は『純粋で居て欲しい』と思っているので「純潔」を由来にしてます。

作者もそこまで考えた訳では無いので、どの様に考えたのかは皆さまで想像して見てください。


それではまた次回に!……ちなみにですが、投稿ペースって遅くした方が良いですか?このままで大丈夫ですか?もうちょっと加速させて行った方が良いですか?アンケート取りますんで、答えて貰えると嬉しいです。


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第18章:ミスミド王都、そして獣王戦。

黒竜との騒動があってから2日が経過した頃、僕たちは遂にミスミド王国の王都である《ベルジュ》の街へと足を踏み入れた。ベルファストの王都も広かったが、ミスミドの王都もそれなりにあるのだと実感した。

 

 

「……うへぇ……こう来たか…」

 

 

王都ベルジュに着いてその宮殿を見た時、真っ先に出て来た感想がそれだった。何だろうか……インドにある『タージ・マハル』がその部類に当てはまるのだろうかと言う感覚だった。世界の建造物については詳しく知らないので、ここら辺はどうとも言えないのだけどね。

 

馬車から見る街並みは、ベルファストと較べたらまだまだ発展途上なのだと言わざるを得ないだろう。新興国なのだから、そこら辺は覚悟していたが。だが、街の人から感じる活気は、それに劣る物では無かった。……賑わってるね♪良い事だ。

 

高い建物が並ぶ街並みを通り抜け、宮殿への長い橋を渡る。都に巡らされた水路の上を走ると、宮殿の敷地へと入って行った。

 

 

「着きました、ここがミスミド王国の宮殿です」

 

「で、デカ……」

 

『あ、圧巻ですね…主』

 

 

馬車を降りてオリガさんと僕ら5人、そしてガルンさんにリオンさんの8人が、宮殿の庭を横目に歩道を歩いて行く。美しい庭園では小鳥が遊び、等間隔に植えられた木々の上からは、リスが此方を見つめていた。

 

長い階段を上がって宮殿の中へと入る。明るい日差しが天井の灯り取りから降り注ぎ、それが大理石の白と相まってキラキラと眩しく輝いている。僕らは中庭の中央を貫く、円柱が並んだ回廊を奥へ奥へと進んで行き、装飾が施された荘厳な扉の前へと着いた。

 

 

「この先は国王の謁見の間です。準備は出来ていますか?」

 

「もちろんです」

 

「では、開けますね」

 

 

オリガさんの問に僕はそう答え、その言葉と共にオリガさんが門番の兵士たちに一声を掛け、軽い軋みの音を立てて兵士たちが扉を開ける。中に入ると、そこには赤い絨毯が広がっており、天窓から光の差し込む謁見の間の左右には、様々な亜人たちが立っていた。誰も彼も立派な身なりで、この国の重臣たちだろうか。

 

そして中央に威厳を示す様に置かれた玉座では、この国の国王である、獣王ジャムカ・ブラウ・ミスミド陛下が悠然と腰掛けていた。見た感じは30代後半か40代前半を思わせるが、実際は50半ばだとか。白い体毛や髭を生やしたその顔からは、王としての風格や威圧などを感じられた。

 

僕たちは片膝を突いて跪き、頭を下げる。その後にオリガさんが獣王陛下に報告を始めた。

 

 

「国王陛下…オリガ・ストランド、ベルファスト王国より帰還してございます」

 

「うむ、大儀であった」

 

 

獣王が静かに頷く。続けてオリガさんの後ろに控えるガルンさんやリオンさんにも声が掛けられる。

 

 

「ガルン、そしてベルファストの騎士殿もオリガの護衛を無事果たしてくれた事を嬉しく思う」

 

「「ははっ」」

 

 

そして獣王はやおら此方を眺め、目を細めながら小さな笑みを浮かべる。

 

 

「そなたたちがベルファスト王からの使いの者たちだな?なんでも旅の途中、エルドの村を襲った竜をそなたたちだけで撃退したそうだが、それは事実かな?」

 

「はい。その通りでございます。ここに居る私以外の4名で、村を襲った黒竜を撃退致しました」

 

 

獣王の疑問に答えたのは、ユミナだった。獣王陛下の御前であるにも関わらず毅然とした態度で答えたユミナに対し、獣王陛下は誰何する。

 

 

「……そなたは?」

 

「申し遅れました。ベルファスト王国国王、トリストウィン・エルネス・ベルファストが娘、ユミナ・エルネア・ベルファストでございます」

 

 

謁見の間にどよめきが広がる。……まあ、妥当でしょうなぁ。一国の姫君がいきなり現れたんだからな。事情を知っているオリガさんとリオンさんはまだしも、ガルンさんは目を見開いて驚いている。

 

 

「なんと…ベルファストの姫君が何故我が国に?」

 

「ミスミドとの同盟は我が国にとってそれだけ重要ということでございますわ。これは父上からの書状でございます。どうかご確認を」

 

 

そう言って懐から一通の手紙を取り出す。なるほど。黒竜騒動の際に避難した時、国王陛下から受け取っていたと言う訳ね♪

 

側近の一人が恭しくその書状を受け取り、玉座の王へと手渡す。封を開けてその中にざっと目を通すと、獣王陛下はユミナの方を見て笑みを浮かべる。

 

 

「なるほど……。あいわかった。ここに書かれている内容を前向きに考え、近いうちに答えを出そう。それまでは姫様とそちらの方々もごゆるりと我が宮殿でお過ごしくだされ」

 

 

書状を側近の人に戻し、獣王陛下は僕らに向けてそう言葉をかけた。……あれ?何か、視線が僕の方を見て離さないのですが……嫌な予感。

 

 

「……フッ、血が滾ってくるよの。うむ。黒竜を倒した者がこちらへと出向いてくれたのだ。儂としてはその者の実力を見てみたいと思うておる。側に仕える白虎の事もあるが、儂に気遅れせぬ貴殿の力を見てみたい」

 

「はっ、お望みとあらば。我が手腕、お見せいたしましょう」

 

 

僕は獣王陛下からの提案を承諾する。それを見た重臣たちは揃いも揃って頭を抱えていた。……え?何か、受けたら不味かったですかこれ!

 

──────────────────────

 

連れて来られた闘技場は、正しく『闘技場』と言わんばかりの構造だった。感じとしてはイタリアにある《コロッセオ》みたいな物だろうか……闘技場の周りには水が張っており、それを浮かばせるように観客席やフィールドが存在する感じだ。

 

獣王陛下は右手に剣を持ち、左手には円形の盾を装備している。僕は右手の剣だけだ。……盾は使い慣れてないからね、仕方ない。

 

 

「勝負はどちらかが真剣ならば致命傷になる打撃を受けるか、あるいは自ら負けを認めるまで。魔法使用も可。ただし本体への直接的な攻撃魔法の使用は禁止。双方宜しいか?」

 

「了解した」

 

「OKです」

 

 

試合のルール説明を審判の有角人から受ける。……特段そこまで気負う感じでも無さそうだし、容赦も遠慮も要らないよね♪直前に、キチンと仕込まれてるし。

 

 

「それでは、開始!」

 

「まずはお手並み拝見、と行きましょうか」

 

「良いのか?では【アクセル】!」

 

 

僕はその場に立ちながら、獣王陛下の【アクセル】による加速された攻撃を流して行く。流石、これは獣王陛下と言ったところだろうか。一太刀一太刀を正確に狙っていて、普通の人なら流すので精一杯だろうか。

 

 

「これが儂の無属性魔法【アクセル】よ。手も足も出ないだろう?」

 

「……それで終わりですか?」

 

「ん?」

 

「【アクセル】【ブースト】」

 

 

僕は先程の獣王陛下が使った【アクセル】に、更に【ブースト】を付与しての攻撃を行なう。それを見た獣王陛下は負けじと【アクセル】で加速しながら、僕の剣筋を辿って行く。

 

……こんなもん?

 

 

「貴殿も【アクセル】の使い手だったとは……」

 

「僕の得意な魔法の一つです。その手の専門家には負けますけど…ね!」

 

「やるな!だが……儂も簡単にやられる気は無いわ!」

 

「遅い」

 

 

その言葉と共に僕は、獣王陛下の持っていた剣を横薙ぎで吹っ飛ばし、その後に【ブースト】を付与された剣で盾を切り裂く。……これで終わりだ!

 

 

「な、……」

 

「勝負あり。僕の勝ちです」

 

「……ハッハッハ!参った、儂の負けだ!」

 

 

獣王陛下が発した言葉を受け、僕は獣王陛下の喉元に突き付けていた剣をそっと引かせる。獣王陛下に勝った事でブーイングが起こる物だと思っていたが、実際はと言えば、周りから拍手と歓声が上がっていた。

 

……これで、グラーツさん達との約束は果たせたかな。少しは獣王陛下もシャキッとしてくれると良いが。そう思いながらも僕は闘技場を出ようとした。

 

 

「お疲れ様です」

 

「ユミナ、それにみんなも。少しヒヤリとさせてしまったかな」

 

「……ってよりもあんた、かなり剣筋が良いのね。あの獣王陛下を相手に圧勝とか……」

 

「拙者も一度手合わせを願いたい物でござるなぁ〜。颯樹殿となら、良い剣戟が出来そうでござるよ」

 

 

そう話し込んでいると、獣王陛下が僕の方へと歩み寄って来た。その顔は清々しくもあり、何処かサッパリした感覚が滲み出ていた。

 

 

「気持ちイイくらいに負けてしまったわ!強いな、颯樹とやら。どうだ?儂の国で兵士としてやって見ぬか?」

 

「いえ、結構です。僕よりも適任の人が必ずや現れるはずです。あ、それよりも側近の人たちを大事にしてあげて下さいな。かなーり不満が溜まってるみたいですよ?聞く限りだととんでもない事をしてるみたいですし」

 

「……そうだな。かーっ!しかし、あんなに気持ちイイくらいに負けたのは久々だ!」

 

 

そう言って高笑いをする獣王陛下。その横で僕は国王陛下の前だと言うのに、ため息をついてしまった。……ちょっとはしたないけど、これくらいは許してくれるだろうか…?

 

と思ったその時、獣王陛下が僕にある事を聞いて来た。僕との剣戟に夢中になり、聞くのをすっかり忘れていたのだろうか。

 

 

「ん?先程から気になっていたのだが……そこに居る白虎は、そなたたちの連れの者か?」

 

「ええ、まあ。従者のような者でして」

 

『がう』

 

 

獣王陛下の疑問には、少し言葉をあやふやにして僕は答え、琥珀は肯定の意を込めて短く答える。ミスミド王国では白虎は神聖視されているみたいで、それを『従者』扱い……と言うのは些かどうかなと思えたが、首輪やリードで拘束されている訳では無いので、誰も文句は付けて来なかった。

 

──────────────────────

 

その夜は王宮で軽いパーティーが催された。ミスミドの重臣たちや有力貴族、重要な大商人などを迎えて、オリガさん帰還のお祝いと、ベルファスト王女であるユミナの歓迎会のようだ。

 

本格的な宴では無いため、正装でなくとも構わなかったのだが……「どうせなら」という事で、身なりをその場に合った物に変えていた。

 

 

「お、颯樹殿。よくお似合いですよ」

 

「リオンさんこそ。よくお似合いです。……しかし、これは…何だか若干スペースが空いているからかスースーするのですが……」

 

 

僕が着ている格好は、白のたっぷりとした上下に黒のベスト。幅広の紺の帯に幾重にも身体に巻かれた白く長い布。……これでターバンでも巻いたら、アラジンやシンドバッドだろうな。前世では文化祭の時にスカートを母から借りて、大衆の面前で踊ったのだが(見ていたのが学校生徒と先生、保護者だけだった)、それが気恥ずかしかったのを今でも思い出す。それと似た感覚だ。慣れないと難しいね。

 

対してリオンさんは、黒の燕尾服だ。元々ブリッツ家と言うのは、男爵家の家系であるために、こういう場にも慣れているみたいだ。イケメンと並び立って見られると、僕の方が何だか居た堪れなくなってくる……。

 

 

「それで、その……オリガ殿は何処ですかね?」

 

「。そう言えばまだですね。ユミナたちも着付けに時間がかかってるのかな」

 

 

何気ないフリをしてリオンさんが尋ねてくる。そう言えばもう一人の主賓である彼女の姿も見えていなかった。そわそわと忙しなく動き回る騎士様に、苦笑しながらも周りを見渡す。

 

主賓のユミナを含め、エルゼ、リンゼ、八重もこの場に姿を見せていない。あちらも正装させられている所だろうな。ま、護衛に琥珀を付けたからおかしな格好にはされてない筈だ。……そんなことしてよう物なら、琥珀に念話で伝えて参加は辞退させてもらってたところだが。




今回はここまでです!如何でしたか?


獣王陛下との対決は、長々しく書いてもアレだったので……取り敢えず簡略化してみました。どうでしたか?その他の所は原作とそんなに大差は無い筈なので、しっかり見られるかな〜と思っていたり。

次回は(?)いよいよ6人目のヒロインが現れます!ミスミドに居て、6人目のヒロインと言えば……もうあの娘しか居ませんよね?その女の子と一緒にいるぬいぐるみも出しますよ!……描く前から楽しみだ!


アンケートのご協力、ありがとうございました♪大変これは個人的な事なのですが、投稿ペースは今までよりもガクんと落ちる形になります。申し訳ありません(^^;

投稿ペースは落ちますが、一話一話をより見易く面白く作って行く所存です!年度が切り替わるまでには、ルーとの出会いの所まで行きたいな〜とか考えてます。

ルーとの出会いの所も、ユミナの時と同様に一話一話を長めに描こうかと考えています。私がイセスマのヒロインの中で、ユミナと同率で大好きなヒロインですので!そこは手抜き等せずに(何時もしてないけど)、キチンと描いて行きたいと思います!


それではまた次回です!

次回の投稿日は、来週の月曜日である10月28日(月)の深夜0時です!どうぞお楽しみに!


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第19章:パーティー、そして妖精師匠。

「颯樹さん!」

 

 

そんな声と共に、急に後ろからドスッと腰の辺りに抱き着かれた。何事かと思いつつも振り返ると、下にはピコピコと動く小さな狐の耳。あ、これって。

 

 

「やっほ、アルマか」

 

 

可愛らしいドレスに身を包んだ、狐の女の子の頭を撫でる。と、アルマの後ろに恰幅のいい、白い髭を蓄えたにこやかな紳士が立っていた。その白髪混じりの頭からぴょこんと伸びた耳、太くて長い尻尾。この親にしてこの子あり、かな?かな?

 

 

「初めまして、アルマの父のオルバと申します」

 

「盛谷颯樹と言います。名前が颯樹で、盛谷は家名です。是非とも名前で呼んで貰えると」

 

「ほう。イーシェンの生まれで?」

 

 

またお決まりの言葉が来たよ……惑わされないかんね、絶対に。そう思いつつも、僕はオルバさんの固くて逞しい手を握る。

 

こうして見ると、歳をとったら耳とか尻尾にも白髪が混じってくるんだなぁ……と思ってしまう。その後にかなーり緊張しながらもリオンさんが自己紹介を始めた。

 

 

「べっ、ベルファスト王国第一騎士団所属、リオン・ブリッツでありましゅ!」

 

「おお、貴方が。オリガから話は聞いています。娘たちの護衛をして頂き、本当にありがとうございました」

 

「い、いえっ!それが我々の任務でしゅから!」

 

 

ふふっ、テンパってるテンパってる♪まあ、アルマの父親という事は、オリガさんの父親と言う事だから、テンパるのも何となくわかるけど。

 

それから話を聞くと、オルバさんは交易商人をしているのだと言う。最近は「将棋」を手に入れて、売り始めようとしてるとか。確か馬車の中に1セットあったはずだから、それを渡せば良いかな。その話については、リオンさんがオルバさんの所に後日伺う事で話が纏まった。

 

……何だろ?少し廊下側の所が騒がしくなって来たな。ちょっと行ってみますか♪

 

 

「……」

 

 

会場入口の方から現れたのは、獣王陛下とオリガさん、そしてユミナたちが立っていた。オリガさんはベルファスト王国の煌びやかなパーティードレスに身を包み、逆にユミナたちはインドのサリーのような民族衣装を纏っていた。エルゼは赤、リンゼは青、八重は紫、ユミナはピンクと言った具合だ。それぞれ色が違うが、とてもよく似合っている。傍らには琥珀が付き添っている。

 

 

「おう、颯樹殿。なかなか似合っているじゃないか。ミスミドの貴族と言われてもおかしくないぞ」

 

「そうですかね……」

 

 

ニヤニヤしながら僕を眺める獣王陛下。何だか……こういうのって、結構恥ずかしいのですが…。ふと横を見てみると、そこにはオリガさんのドレス姿に目を奪われるリオンさんが居た。あらら。髪には何時かの髪飾りが光っている。……ふむ、これは脈アリとみた。

 

その様子を後目に、ユミナたち4人が僕の所へとやって来た。

 

 

「似合ってますよ、颯樹さん。素敵です」

 

「うん、バッチリじゃない?」

 

「…何時もと、違う魅力があります」

 

「カッコイイでござるよ、颯樹殿」

 

 

4人も先程の獣王陛下と同じ事を言ってくる。……何だか照れるなぁ。僕も4人に似合っている旨を伝えて、写真を撮ろうと動き出した。その時に聞こえた音にビックリしたのか、何事かと誰何される。

 

僕がその疑問に答えて実物を見せると、次から次に「撮って欲しい」と言った旨の依頼が転がり込んで来た。仕舞いには『あーでもないこーでもない』と言う人も出る始末だ。ポラロイドカメラじゃないんだから……と、思ったその時。

 

 

「え?」

 

 

僕の目の前を通り過ぎたのは、50cm弱の熊のヌイグルミであった。ミスミドには獣人も居るから、その類かと思ったのだが……あれは正真正銘のぬいぐるみである。ひょこひょこと歩いている所を見るに、疲れてるのかな?そもそも、ぬいぐるみに『疲れ』があるのかが気になる所だが。

 

と、歩いていたクマがピタッと立ち止まり、僕の方に向けて目を合わせて来た。ヤバっ、目が合った。

 

 

じーーーーーーっ……。

 

じーーーーーーーーーっ……。

 

じーーーーーーーーーーーーっ……。

 

じーーーーーーーーーーーーーーーっ……。

 

 

……何時だったかな。こういうのって、前にもあった気がするんだよな〜。と、思っていると、くいっ、くいっとクマが手招きをしている。……付いて来い、って事?僕は訳が分からぬままに、クマの後を追う事にする。

 

一応、ユミナたちには『少し席を外す』と伝えて置きたかったので、琥珀を通じて念話を飛ばしておいた。……これで大丈夫かな。

 

──────────────────────

 

ひょこひょこ歩いて行くクマに付いて行くと、会場から少し離れた部屋の前に来た。ドアノブに手が届かないクマが、器用にジャンプしてノブを回し、ドアを開ける。中に入ると、またこちらを手招きして誘った。

 

その誘いに応じて中に入ると、薄暗い部屋で窓から入ってくる月明かりが見えた。そこそこ良い部屋のようで、家具なども確りと揃えられている。

 

 

「……あら?奇妙なお客さんを連れて来たわね、ポーラ」

 

 

不意に聞こえて来た声に、僕はビックリして辺りを見渡す。そこには窓の前にある赤いソファに腰掛けている、一人の少女が居た。歳はユミナやアルマと同じくらいだろうか、ツインテールにした白い髪に黄金色の瞳。フリルが付いた黒いドレスに黒い靴、そして黒のヘッドドレスと……まるで、ゴスロリ衣装だなぁ…。

 

……普通の人ならここで反応が止まるだろうが、僕はさらに深くまで見えていた。彼女の背中に拡がる薄い半透明の羽根。鳥などに着いている翼では無く、蝶の翅が背中から伸びていた。これって、妖精族?

 

 

「それで?貴方は何方かしら?」

 

「僕は盛谷颯樹。名前が颯樹で、盛谷は家名ね」

 

「イーシェンの生まれ?」

 

 

……その下りはもうよろし。いい加減聞き飽きた。でもまあ似たような物かな、としか返せなかったが。

 

僕の名前を聞いた少女は、何かを思い出したかのように言葉を紡ぎ始めた。

 

 

「なるほど。今日のパーティーに来てるっていう、話題の竜殺しね?」

 

「竜殺して。……と言うよりも、君は?」

 

「ああ、ごめんなさい。自己紹介が遅れたわね。私は妖精族の長、リーンよ。こっちはポーラ」

 

 

よ、妖精族の長!?この、ユミナと同じくらいの女の子が……!?驚きで声を出すのも忘れた僕を見て、可笑しそうに笑ったリーンは、少しずつ言葉を紡いで行く。

 

 

「こう見えても私は貴方よりずっと歳上よ?妖精族は長寿の一族だから」

 

「ご、ごめん……失礼だけど、今、幾つ?」

 

 

女性とか女の子に年齢を聞くのは禁句だと思いながらも、僕は彼女に幾つかを問う事にした。リーンはその質問を何でもないかのようにあっさりと答えた。

 

 

「どれくらいかしら…?600は確実に越えていると思うけど」

 

「はあ!?」

 

「面倒だから612歳って事にしといて」

 

 

いや、しといてって……。目の前にいる女の子が600オーバーって、何でもありだよね異世界って。その年齢なら妖精族の長ってのも納得できるね。

 

 

「妖精族は成長が遅いの?」

 

「……違うわよ。妖精族はある一定の年齢になると成長が止まるの。普通は人間で言うところの、見た目が10代後半から20代前半くらいで止まるんだけど、私の場合、止まるのが早かったのよ」

 

「……それは、何とも言えん辛さがあるだろうに……残念、としか言えないね」

 

 

プイッと唇を尖らせてブツブツと不満を呟く。どうやら成長しない身体に大層ご不満の様子らしい。そうした見た目は、ユミナとかと変わらないんだけどね。

 

そんなリーンを慰めるように、熊のヌイグルミであるポーラがヨシヨシと頭を撫でる。……結構器用だね、君。

 

 

「ところでそのポーラなんだけど、……もしかして【プログラム】を使ってたり、する?」

 

「ええ。そうよ。……という事は、貴方も【プログラム】の魔法を使えるの?」

 

「うん、一応はね」

 

 

リーンは訝しげな視線をこちらに向けて来る。そして先程のポーラと同じ様に、こちらをじーーーーーーーーーっと覗き込んで来た。子は親に似るって諺があるけど、この事か〜。

 

やがてふうっと息を吐き、腕を組んだ。

 

 

「いろいろ聞きたい事はあるけど、今はやめておきましょう。……ポーラに気に入った人間が居たら、連れてきてとプログラムしておいたけど、また面白いのを連れて来たわね。シャルロッテ以来の掘り出し物かもしれないわ、貴方」

 

「シャルロッテ?」

 

 

聞き覚えのある名前に思わず反応してしまう。……え?待って?シャルロッテって、あのシャルロッテさん?

 

 

「私の弟子の一人よ。今はベルファストで宮廷魔術師をしてたわね、確か」

 

 

やっぱりあのシャルロッテさんだった。……ん?あ!僕の頭の中で、点と線が繋がった感覚がした。シャルロッテさんから聞いた話を元に考察すると……このリーンがもしかして…。

 

 

「どうしたのよ、急に黙りこくっちゃって」

 

「い、いえ……何でもない」

 

「私は怒らないから、正直に言ってみなさい。多少の悩みなら相談に乗れるかもしれないわ」

 

 

そう言ってリーンは諭してくる。……もう、話すしか無いかな……だって、今から言おうと思ってる事、十中八九この娘の悪口なんだもん!シャルロッテさん、後で恨みますよ……!

 

 

「怒んないで聞いてね?……シャルロッテさんから聞いた話なんだけど、ぶっ倒れるまで魔法を使わせて、魔力を無理矢理回復させて、またぶっ倒れるまで魔法を使わせるって言う、地獄の鬼師匠が居るって……聞いたんだけ、ど……うわっ」

 

 

僕が発し始めた言葉を理解したリーンは、かなりの怒りを示しておられました。……怖っ!なんか、背中辺りに幾多の武器を背負った阿修羅が見えるんですけど!

 

少し間隔を置くと頭が冷えたのか、澄ました顔でこちらを見ながら話し始めた。

 

 

「……まあ、いいわ。シャルロッテは何時か引っぱたくとして、颯樹、貴方は無属性以外だったら、どの属性を使えるの?」

 

「全属性使えます」

 

「……もう驚かないわ」

 

 

しばらく溜め息をついて考え込んでいたリーンだったが、ゆっくりと金色の眼をこちらに向けると、自らの目の前でパンっと両手を打った。

 

そして僕にある提案を持ちかけて来た。

 

 

「───決めたわ。貴方、私の弟子になりなさい」

 

「え?」

 

 

ツインテールのゴスロリ少女は、何を思ったのか突然にもそう言い出した。……一瞬、彼女の瞳が「弄りがいのあるおもちゃを見つけた」と言わんばかりの輝きを見せていたのは、僕の気の所為だろうか…。

 

これに関しては何も言えないが、気の所為であってほしいと切に願う僕だった。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回は国王同士の会談と、新武器の作成のお話を書こうかな〜と思っています。そこから先は水晶の魔物の正体や、八重の故郷であるイーシェンの話などをして行こうかな〜と考えてます♪

さて、前回は週一で投稿します♪と言いましたが、あれはもう忘れて下さい。週二で投稿しようかな〜と考えてたりです。一話はこの前の様に月曜日に、もう一話は今まで通りに金曜日に投稿します。ペースは格段に落ちますが、そうでもしないと年末までにアニメストーリーが終わりそうに無い事が発覚しましたので……。苦肉の策です、はい。


次回はこの前お話してたように、来週の月曜日に投稿します!多少困惑されるかと思いますが、そこら辺はごめんなさい耐えてください!

因みに……幕間劇自体は描くつもりですけど、ヒロインはユミナ一本で描くつもりです。他のヒロインも考えては見たんですが、どうしてもユミナをメインに置きがちなんですよね。それに以前幕間劇を執筆した際に寄せられた感想の中に「ユミナをメインにしたR-18版の話が見てみたい」という旨の感想がありましたので、そっちを描いてみようかな〜と思っています。

なので、他のヒロインメインの幕間劇を待たれている方は本当に申し訳ありません!これは私の力不足です!何卒ご容赦くださいな!


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第20章:転写魔法、そして銃制作。

あの後リーンからの執拗な勧誘が行なわれたが、僕は丁重にお断りさせて頂いた。……誰が好き好んで鬼の師匠にご教授頂きたいと思うのだろうか。仕舞いには「仮弟子でも良いから」と言う始末。無論、それも丁重にお断りさせて頂いた。向こうはずっとブータレてたが。

 

その隣に居たポーラからも「こっちに来いよ!」みたいな手招きをされるし……正直に言えば疲れた。

 

 

「あー、疲れた」

 

 

パーティーも恙無く終了し、僕らは割り当てられた部屋に戻り、柔らかいベッドで眠りに着いた。真面な寝台で寝るのは久方ぶりでなかなか寝付けなかったが、何時しか寝ていた様で、気づけば朝を迎えて居た。

 

さて、今日は少し試してみたい事がある。スマホで幾つかのサイトを巡り、目的に使えそうなのを片っ端から【ドローイング】で転写して行く。

 

 

「うん、これくらい有れば良いかな。あとはこれを【ストレージ】に入れれば、完璧かな」

 

「朝食をお届けしました」

 

「ありがとうございます」

 

 

僕は部屋に届けられた朝食を食べた後、転写した紙の束を持ち、琥珀を連れて宰相のグラーツさんの所へと向かった。

 

 

「ミスミドの王都へと外出したいのですが、大丈夫ですか?」

 

「分かった。外出を許可しよう。城門を通過する際はこのメダルを使ってくれ」

 

「ありがとうございます」

 

 

そう言ってメダルを目の着く所に付けると、グラーツさんから【ドローイング】での転写を頼まれた。……なんだ、グラーツさんも欲しかったんですね?

 

それからリオンさんの所へと行って、将棋セットを手渡して来た。次いでにリフレットの街が、将棋で町興しをしようとしている事を、オルバさんに宣伝して置くよう頼む。

 

 

「あら、お出掛けですか?」

 

「まあ、そんな所。少し城下町まで買い物にね。2人はどうしたの?」

 

「私たちは中庭に朝の散歩へ」

 

「そうなんだ。じゃあ、一緒に行く?」

 

「もちろんです」

 

「…私も」

 

 

城門の所でユミナとリンゼと合流し、城下町へと足を進める。その途中にエルゼと八重も誘おうかと考えたのだが、リンゼの話によると今日は二人ともミスミドの戦士長たちとあの闘技場で合同訓練をするのだとか。……まさか獣王陛下まで参加してたりはしてないだろうか。

 

3人と1匹で連れ立って、城門を潜り抜けて城下町へと向かう。さて、まずは……金属からかな。

 

 

「金属って何処で売ってるの?」

 

「金属、ですか?」

 

「うん、鉄とか銅とか黄銅とかそう言ったモノ。インゴットで売ってると有難いんだけど……」

 

「インゴットが何かよく分かりませんが、鍛冶屋に行けば譲って貰えるのでは?」

 

 

なるほど。スマホのマップアプリで『鍛冶屋』と検索して探すと……対象が何軒か見つかった。取り敢えず、此処から一番近い鍛冶屋に入ろうかな。

 

東の通りを真っ直ぐ進むと、十字路の隅に鍛冶屋を見つける事が出来た。カーン、カーンと槌を打つ音が店の奥から聞こえて来る。入って来る僕たちに気付いたのか、店の前に居た有角人の店員が声を掛けて来た。

 

 

「へい、らっしゃい。研ぎかい?打ち直しかい?」

 

「すみませんが、金属を譲って頂けないかと思いまして……」

 

「おう、良いぜ。何がご希望だ?」

 

 

その有角人の店員さんに交渉すると、快く譲ってくれると言うので……鉄、黄銅、鉛を文庫本二冊ほどの板状で売って貰った。その真向かいにあった道具屋で、小さな木材と靴底に使うゴム板も買っておく。

 

 

「さて、後は火薬だけど……」

 

 

一応念の為に『火薬』で検索して見ると、あっさりヒットした。魔法道具取扱店……。まあ、魔法の道具とも言えなくは無いよねそう言うのって。

 

何はともあれ、そこで火薬を中瓶三つ分買った。一応だけど、これで材料は揃ったかな?

 

 

「…何か作るんですか?」

 

「武器をね、作って見ようかと」

 

「武器?」

 

 

疑問を浮かべたリンゼの問いに、僕はそう答える。首を傾げる二人を連れて、路地裏に入って【ゲート】を使い、ミスミド王都に来る際に通った、近くの森の中に出た。

 

 

「取り敢えず、ここなら人目も無いし大丈夫でしょ。えっと……これを彼処に置くか」

 

「何をするつもりでしょうか……」

 

 

未だにユミナとリンゼは、僕の様子に首を傾げているご様子だ。近くにあった切り株の上に紙の束を置いて、風で飛ばない様にインゴットをその上に置く。

 

 

「よし、じゃあこの竜の角を……。リンゼ」

 

「な、何ですか?」

 

「突然で申し訳ないんだけど、ここからここまでを魔法で斬る事ってできない?」

 

「分かりました!……【水よ来たれ、清冽なる刀刃、アクアカッター】!」

 

 

角の先端からここまでと範囲を示し、リンゼに頼む。リンゼは快く答え、水属性の魔法【アクアカッター】で竜の角を切断する。……ほんと、リンゼが居てくれて助かったよ…。

 

その後に転写した紙の束と睨めっこしながら、パーツ一つ一つを丁寧に記憶して行く。失敗しても後で微調整すれば良いんだけど、折角だし一発で決めたいよね♪……よし、始めますか!

 

 

「【モデリング】!」

 

 

角の形をゆっくりと変形させて行く。バレル、シリンダー、ハンマー、トリガーと言ったパーツを作り出し、同時に木材でグリップを作り、それも含めて組み上げて行く。10分後、僕の手中には黒光りする一丁の回転式拳銃、リボルバーがあった。

 

一応、レミントン・ニューモデルアーミーと言う銃を参考にしてはいるが、若干寸詰まりになってしまった感が否めないな……。まあ、大して変わらないから良いんだけどさ。速射性が欲しかったんで、普通はシングルアクションの所をダブルに変えてみたり、シリンダーの部分とかいじってたりするからね。中身は全く別物だけど、デザインがカッコよかったから参考にしたまでだ。

 

 

「ん〜……握り心地は悪くないね。まあ、少し軽い気がするけどOKOK。さて、次は弾丸かな」

 

 

インゴットと火薬を使って、何種類かの弾丸を50発ずつ作る。取り敢えずはこんな感じで良いかな。回転式の弾倉に6発弾を込める。……おっと、その前に。

 

 

「【エンチャント:アポーツ】」

 

 

銃本体に【アポーツ】の魔法付与をする。更に【プログラム】で弾丸が自動的に装填される様にする。まあ、いちいち装填するのが面倒臭いならオートマチックを作れよという話になるのだが、そこら辺は趣味だ。リボルバーの方が断然格好は良いからね。

 

空いている弾倉に弾を込め、目の前の木に向けて一発試しに撃ってみる。大きな爆発音と共に、弾丸が発射される。……な、なかなか衝撃が来ますなぁ。それに、さっきの音でユミナとリンゼが耳を塞いじゃったし。……弾は外れたか。

 

 

「弾が外れた……何か足りない気がする……って、あっ。あれを作ってないじゃん」

 

 

何か足りない事に気が付いた僕は、その足りない物を作る。ライフリングと呼ばれるそれは、銃身の中にある螺旋状の溝の事で、ジャイロ効果を用いて弾に回転を付与し、真っ直ぐ跳ぶようにさせるという代物だ。

 

ライフリングを【モデリング】で作った所で、残り5発を発射してしまう。全て正確な位置に飛び、撃たれた木の幹には6つの穴が空いていた。……今度は再装填の確認だね。

 

 

「リロード」

 

 

僕の言葉と同時に空薬莢が高速で排出され、近くの地面に落ちて行く。そして切り株の上に置いてあった弾丸6発が消え、シリンダーに再装填される。そして引き金を引いて弾丸を発射する。

 

 

「……よし、完成だ」

 

「何ですか?それは」

 

「これは《銃》って言ってね?遠距離攻撃の武器なんだ。片手で扱えて弓矢よりも強力」

 

「…凄いですね。大砲の小型化ですか……」

 

 

リンゼが僕の手に握られた銃を眺めながら、小さく呟いた。大雑把な大砲はこの世界にもあるらしいが、早い話【エクスプロージョン】を使える魔法使いが一人居れば事足りるみたいで、さほど活用はされてないみたいだ。

 

 

「銃はこれで完成だけど、もう少し試してみたい事があるんだよね」

 

 

僕はそう言ってシリンダーにある弾丸全てを抜き取り、一発だけ手に取った。

 

 

「【エンチャント:エクスプロージョン】、【プログラム開始/発動条件:銃口から発射された弾頭が着弾した時/発動内容:弾丸を中心に「エクスプロージョン」を発動/プログラム終了】」

 

 

魔法が付与された弾丸をシリンダーに装填し、先程の試発で穴だらけになった木へと発射する。着弾したと同時に爆音が響き渡り、撃った木が木っ端微塵に吹き飛んでいる。弾丸に込められた【エクスプロージョン】が発動しているのだ。

 

 

「な……!」

 

「はわわ…」

 

 

先程の光景を見たユミナとリンゼが、揃って腰を抜かしている。よし、これなら攻撃魔法を無詠唱で使えるね。先程は【エクスプロージョン】を弾丸に付与して、標的を爆発させたが、これを【パラライズ】にすると、殺さずに相手を戦闘不能にできる。……ま、毎回毎回弾丸に【エンチャント】しないといけないのは、かなり大変だけどね。

 

例えばの話をするが、火属性の適性がないユミナであっても、この弾丸に【エクスプロージョン】の付与をして置けば、適性に関係なく使う事が出来るのだ。

 

 

「颯樹さん、その銃って私にも頂けないでしょうか?」

 

「…私も、欲しいです」

 

「え?」

 

 

ユミナとリンゼの突然の申し出に、僕はうーんと考え込んでしまう。後衛専門の2人がこれを欲しがる理由は察しが付くけど、危険すぎかな〜と思えてしまう。

 

いや、でもユミナは僕と同じように弓矢等の危険物を扱えるし、リンゼなんてドラゴンの翼を切り落とすこともできるし……今更かもね。取り敢えずは【パラライズ】を付与したゴム弾を渡して置きますか。

 

 

「分かった。じゃあ、取り敢えずこの中から好きなデザインを選んで」

 

 

画像検索で呼び出した色んな銃を【ドローイング】で浮かび上がらせる。二人とも食い入る様に眺めた後、ユミナはコルトM180アーミーを、リンゼはスナブノーズと呼ばれるバレル部分が短いタイプのS&WM36という銃を選んだ。

 

リンゼはそれで良いかもだけど、ユミナのは少し持ち手が大きくは無いかな……と思ったけど、デザインだけだし何とかなるでしょ。

 

 

「【水よ来たれ、清冽なる刀刃、アクアカッター】、そして【モデリング】」

 

『おおー』

 

「……よし、出来た。はい、ユミナがこっちで、リンゼがこれね」

 

 

二人の銃を更に切り出した竜の角で作り、手渡す。一応だけど本人以外がトリガーを引けない様に、念入りに【プログラム】をして置く。何も付与していないゴム弾を100発ほど作って半分ずつ二人に手渡す。

 

 

「これで先ずは試し打ちしてみて。百発あるから、半分の50発ね」

 

「ありがとうございます」

 

「分かりました」

 

 

僕が手渡した弾丸を使って、二人は早速試し打ちを始めた。少しずつ撃つうちに感触を掴み始め、銃の扱いにも慣れて来たみたいだ。竜の角で出来ているからか、普通の銃よりも軽く、女の子でも扱い易いみたいだ。

 

……さて、ここからが本番。銃を作ったのはあくまで僕のメイン武器を生み出す土台に過ぎないんだよな〜。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はキチンとお待たせする事無く、執筆して行こうかな〜と考えてます!今回のお話では銃の制作まで行きましたので、次のお話ではいよいよ颯樹くんのメイン武器が登場しますよ〜!……ネタバレかな、これって。

今日から11月ですね〜。一年も残りわずかとなって来ましたが、皆さんは健康第一で過ごされてますか?私の周りではインフルエンザが流行り出し、被害を受けてる人もチラホラ居るとか……。イベントやお仕事に勉強と目白押しではありますが、体調管理は確り行なって下さいね♪


実は私……今ちょこっと考えてる事が有りまして、そのネタをSayuki9284さんと相談中です。あの人は私がこの小説を書くキッカケになった存在ですので、少し内容は相談を重ねながら作って行こうかと考えてます。まあ、アニメストーリーが終わるまでは、私の方で文章構成とかその他諸々を調節して行くので何ら問題は無いんですけどね。

私の小説を何時も読んでいらっしゃる方は、是非ともこの機会に「異世界はスマートフォンとともに 改」を読んでみては如何でしょうか?此方とは違って変更点が多いですが、読み応えは抜群なので、とても面白いですよ♪宜しければそちらの方にも感想を送ってあげてくださいね、送って貰えたら私もSayukiさんも喜びますので。


長くなりましたが……それではまた次回!なんか、2日に1回ペースでこの小説描いてる気がするな。ま、楽しいから良いんだけど!

最後にですが……少しだけ魔法の詠唱の口上の所で描き方を変えています。これから魔法の詠唱の口上を描く時は、その属性に対応した色を使う様にしたいと思います。


赤→火属性

青→水属性

緑→風属性

茶→土属性

黄色→光属性

紫→闇属性

黒(今までと同じ)→無属性


とまぁ、こんな感じですね。ここに描いたのは、大雑把にしか纏めてはいないので、お話中の中で表して行こうかな〜と考えてます。


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第21章:剣銃、そして白仮面。

「【モデリング】」

 

 

二人に渡す銃を作った後、更に切り分けた竜の角を変形させ、再び銃の形に変形させて行く。ただし、先程との違いは、この銃の形が異型な物であるという事だ。

 

銃口の下部とトリガーガードの前面から伸びる刃。グリップは緩やかにカーブを描き、全体的に直線に近いフォルムを作り出していた。全体的には《銃》と言うよりも《短剣》に近い。

 

銃とナイフの融合体。単純にナイフと言っても、刃渡り30cm近くあってかなり分厚い。そして厚く作ったのにはある理由がある。

 

 

「【プログラム開始/発動条件:所有者の「ブレードモード」「ガンモード」の発言/発動内容:「モデリング」による刀身部分の短剣から長剣、長剣から短剣への高速変形/プログラム終了】」

 

 

一通りの流れを【プログラム】した後、今までのと同じようにリロード機能も【プログラム】して置く。弾をリロードし、武器を構えて引き金を引く。銃声と共に弾丸が木の枝を難無く破壊する。……よし、銃の方は問題無さそうだね。

 

 

「ブレードモード」

 

 

僕の言葉に反応し、一瞬にして刃渡り30cmのナイフから、80cmの剣へと変形する。分厚い刀身が三分の二程に薄くなり、その分だけ伸びたという事だ。

 

長剣状態になった事を確認した僕は、縦→横→斜めと素振りをして見る。

 

 

「……よし、こっちも問題無し。ガンモード」

 

 

僕のその言葉で、再び刀身が分厚い状態へと戻る。よし、変形機能も問題無く作動するようだ。

 

 

「凄いですね、銃にも剣にもなるんですか?」

 

「完全前衛の八重やエルゼ、完全後衛の君たちと違って、僕は前衛後衛どっちもできた方が良いからね。この前の獣王陛下との戦いでそう思ったのさ」

 

 

ユミナからの問いに、前から考えていた事を話す。それに獣王陛下との戦いで、魔法が使えない時の対処ができないといけないと思ったのが、この武器を作る理由である。

 

 

「…それで、この武器の名称は何と?」

 

「取り敢えず……《ブリュンヒルド》とかにしておこうかな」

 

 

リンゼの疑問に苦笑いしながら答える。見た目が黒いのに《ブリュンヒルド》って、少々ネーミングセンスの悪さを疑うが、名前の善し悪しで武器の性能が変わる訳でも無いので、それは気にせずに置いておく。

 

新しく手に入れた武器、ブリュンヒルドを眺めながら、僕は自分が漸く「異世界に来たのだなぁ」と思いつつ、改めて自分の人生の波乱さを感じていた。

 

──────────────────────

 

あの後一通りの試し打ちとその他諸々を終え、僕たち3人は再び城下町へと降りて来ていた。途中のお店で小さめの革鞘を三つと、大きめの革鞘を一つ購入した。そしてそれを【モデリング】で変形させ、銃を収納するホルスターを作った。……剥き出しで持つのは目立つし、何より危ないからね。

 

それと弾丸を収納する為のウエストポーチを三つ購入した。取り敢えず二人には街中だし、魔獣に襲われる心配も無さそうなので【パラライズ】を付与したゴム弾だけを与えている。……しかし、僕の方はそのゴム弾の他にも実弾も入ってる。もしもの話だけど、僕の近くに2人が居たら実弾がリロードされる事もある訳で……。その時になって気づいては遅いので、僕は三つの銃に望む弾丸をリロードできるように【プログラム】を施す。

 

 

「折角城下町へと来たんだから、何か食べて行こうか?話のネタにもなるし」

 

「良いですね、この国の郷土料理を食べてみたいです」

 

「…確か《カラエ》と言う料理が有名、です」

 

 

《カラエ》か。八重とエルゼに話すネタになるかもだし、食べて行こうかな。近くにある屋台で売られているらしく、僕たちはその屋台を訪れた。立看板に「ビーフカラエ」「チキンカラエ」「カツカラエ」と色々な種類のメニューが並んでいる。……あれ?これってもしかして……。

 

ユミナはビーフカラエ、リンゼはチキンカラエ、そして僕はカツカラエを注文する。何故か琥珀には食べるのを拒否されたんだが、そこまで変な物があるのだろうか?そんな事を思いながらも、屋台横のテーブルに着くと、直ぐにその料理は運ばれて来た。

 

 

「へぇ、これが《カラエ》なんだね?」

 

「いい匂いですね〜」

 

「…早速食べましょう」

 

 

リンゼの言葉に僕とユミナは頷き、一口目を食べ始める。ご飯が無いから少し物足りない気がするけど、これってどう見ても《カレー》っぽいんだよね。……そして少しだけ、ほんの少しだけ辛味が来て……って、これ!

 

 

「「「ッッ!?」」」

 

 

なんじゃこりゃ!めちゃくちゃ辛い!食べ慣れてる僕でさえ、かなり辛いと感じる程なんだから、これが他の2人ともなると……。そう思って首を横に振ると、涙目になりながら水挿しからコップに水を注ぎ、一気に飲み干す二人の姿があった。初体験の二人にはかなりの衝撃だろうな。

 

 

「しゅごい味でしゅた……」

 

「みゃだ、舌がぴりぴりしまふ……」

 

 

呂律が回らなくなるほど辛かったですか……。カラエ料理の屋台を後にした僕らは、口直しに別の屋台で売られていた果実ジュースを飲んでいた。

 

 

「慣れるとそれほど辛くは無いんだけどね」

 

「颯樹しゃんは食べた事があったんでしゅか、カラエ?」

 

「うーん、似たような物ならね」

 

 

まだ呂律の怪しいユミナに曖昧に答える。リンゼもジュースに入っていた氷を口に含み、口の中でコロコロさせている。そう言えば、この世界に来て辛い食べ物ってあんまり無かった気がする。ベルファストとかでは、甘い物が中心だったような……?…ん?

 

 

《琥珀、これってラングレーの街で感じたのと同じ視線だよね》

 

《はい》

 

《何処に居るか分かる?少し挨拶して来る》

 

《主から見て右手、一番高い建物の上です》

 

 

その言葉を念話で聞いた僕は、ブリュンヒルドに【パラライズ】の付与されたゴム弾をリロードする。……んー確かに居るね、建物の上から此方を見る何者かが。数は二人か。

 

 

「颯樹さん?」

 

「ごめん、琥珀を連れて先に戻ってて。琥珀、ユミナとリンゼを頼むよ」

 

《御意》

 

 

突然リロードした僕に、ユミナが不思議そうな視線で尋ねてくる。僕は琥珀にユミナとリンゼを護衛する様に伝えると、身体強化の魔法である【ブースト】を使って建物の上へと飛び移る。

 

その後に屋根から屋根へと突き進み、謎の監視者が居る建物の上へと辿り着く。

 

 

「こんにちは」

 

「「!」」

 

 

軽く挨拶を交わした僕の声に、黒いローブを付けた二人は驚いた、ような表情でこちらを見る。二人とも黒いローブを付けていて、顔を覆うように白い仮面を付けているのは同じなのだが、仮面の上部には奇妙な紋様が記されていた。一人は六角形の形で、もう一人は楕円形の形をしていた。

 

 

「先ずは君たちの正体を聞かせて欲しいんだ。此方としては手荒な真似はしたくないんだけ…ど……?」

 

 

僕が聞きたい事を言うや否や、六角形の方が試験官のような物を突如投げ付けてきた。……くそっ、目くらましか!眩しい閃光が僕を襲い、少しの間だけ視界を惑わせた。

 

少しして視界が完全に戻った僕は、先程逃げ出した二人を追い掛ける。スマホで「仮面の不審者」と調べて見ると、北の裏路地を逃げているみたいだ。

 

 

「【アクセルブースト】!」

 

 

僕は加速魔法と身体強化の魔法を詠唱すると、超加速されたスピードで屋根の上を駆け抜ける。物凄いスピードで景色が後ろへ流れ、あっという間に裏路地を逃げて行く二人の姿を捕捉した。

 

それを見た僕は回り込んで、二人の前に立つ。

 

 

「「!?」」

 

「もう逃げられないよ」

 

 

僕はそう言って二人に近寄る。それを見た六角形の方はと言うと、懐から何かを取り出すような動作をし始めた。……なるほど、さっきの奴をやる気か。悪いけど同じ手は2度は食わんってね!

 

そう思った後の行動は、今までで一番早かったと思う。腰にある剣銃ブリュンヒルドを抜いた僕は、試験官のような物を投げつける態勢の人物に、躊躇なく【パラライズ】の付与されたゴム弾を発射した。六角形の方が倒れると、楕円形の方はどうしていいか分からずに、僕と六角形の方を見ながらおろおろとし始めた。……鎮静化、完了だね。路地裏に再び銃声が轟いた。

 

──────────────────────

 

「さてさてさーて?どうしたもんか」

 

 

未だに麻痺している二人を【モデリング】で変形させたワイヤーで縛りあげ、路地裏の壁にもたれかからせている。仮面を取って正体を知っても良いんだが、麻痺しているだけで意識は確りと持っているので、余計な行動を起こしやすいのを気をつけないと行けない。

 

 

「今から麻痺を解きますけど、大人しくしていて下さいね?暴れたりすると危険なので」

 

 

そう言って僕は、魔力を右手に集中させて行く。

 

 

「【リカバリー】」

 

 

柔らかな光が二人を包み込む。これで麻痺の効果は消えたから、少しは真面に話ができそうだね。……さてさてさーて?何か話してくれると有難いんだが。

 

 

「で、君たちは何者?何故僕たちを監視していた?誰に雇われてるの?」

 

「………………」

 

 

むむむ……黙秘権ですか。余計な事は言わないように、キツく口止めされてるのか?と思っていると、縛っているワイヤーが喰い込んで痛いのか、六角形の方が身動ぎをし始めた。いや、これは脱出しようと何かをしようとしてるのかな?

 

そう思った僕は六角形の方の懐に手を入れ、その類の道具を全て取り上げようと動き出した。……すると。

 

 

「ひゃうっ!?」

 

 

六角形の方が可愛らしい声を挙げて、抵抗する様に動き出した。……ま、まさか……僕が今触ってるのって……もしかして……。その感触が何かを理解した途端、僕の顔中から汗が滴り始めた。

 

 

「お、お、女の人でしたか!?」

 

 

六角形の方がこくん、と小さく頷く。……ヤバっ、まだあの柔らかな感触がまだ残ってるんですが……。と言うか先程の声だけど、何処かで聞き覚えが有るんですが。

 

……と思ったその時、さっき懐から手を引いた時に手が当たったのか、六角形の方の白い仮面がカランと音を立ててその場に落ちる。その下から現れた顔は、僕が知っている女性の顔だった。

 

 

「え?ラピスさん……だったんですか?」

 

 

顔を赤らめながら、ベルファストの王都の屋敷に居るはずの家のメイドさんは、また小さくこくん、と頷いた。

……どうなってる訳、これ。そう思いながらも僕は、もう一人の仮面も外して顔を確認し、拘束に使ったワイヤーを解き始めたのだった。




今回はここまでです!如何でしたか?


颯樹くんの新武器が、ついに登場しましたーーーー!イセスマには欠かせない要素ですからね、確りと描かなければ!そしてミスミド王国の郷土料理、カラエと謎の監視者のお話も組み込みました!カラエって何かに似てるよな〜って思った皆さん、間違い無いです。みなまで言わなくてもわかりますって。

次回は謎の監視者の正体と、ミスミド国王とベルファスト国王の会談のお話を描こうかと思います!少し余裕が有れば、その先の話も少しだけ描こうかな……?


次はまた金曜日に!それではまた次回!



【追記】:執筆日現在(2019年10月30日午後6時34分)なんですが、なろう版の方を見てみたら、サンドラ王国よりも先に【ミラージュ】で姿を偽る描写がありました。これ以上はネタバレかな、と思いますので……今回はここまで。因みにそのネタは私の小説の先導者さんと相談中です。


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第22章:仮面の正体、そして会談。

「んで、何でこんな事をしてた訳」

 

「我々は《エスピオン》、ベルファスト国王陛下直属の諜報員で、現在は姫様の身辺警護を任じられています」

 

「諜報員……スパイって訳か」

 

「その様に考えて貰えれば」

 

 

ラピスさんの説明に『なるほどな〜』と納得する。仮にも一国の王女様を預ける訳だから、ここまで考えていたと言う事か。うーむ、さすがは国王陛下と言った所かな?

 

そう言えば「銀月」の屋根裏でガサゴソと音がしたけど、あれはラピスさんたちだったのだなぁ……。そう考えれば辻褄が合いそうだけど。

 

 

「警護はラピスさんとセシルさんだけですか?」

 

「いえ〜、あと数人居ますよ〜。みんな女の子ですけど〜」

 

 

間延びした声でセシルさんが答える。表情を伺うと、にこにこと緊張感の無さそうな笑みを浮かべていた。みんな女の子なのか。まあ、その方が色々と都合が良いのかもね。天井裏に潜んで警護しているなら、着替えとかプライベート等も考慮して、その方が好ましいかもしれないね。

 

……え?僕の方はどうしてたかって?ユミナが着替える時は部屋から退出してましたよ?事前に本人とは打ち合わせていて、その通りにしていただけです。……おいこら、今変な事考えた輩はそこに直りなさい。粛清したげるから。

 

 

「ていう事は、ベルファストからここまで……ずっと付いて来てたと言う事ですか?」

 

「それが任務ですので」

 

「そう言えば一度【ゲート】で屋敷に戻った時、二人とも居なかったっけ。……まさか、ライムさんもグルだったり?」

 

「そうですよ〜」

 

 

うわぁ、思わぬ失敗しないで良かった……。必要無い所に首突っ込んでも得は無いからね。『火のないところに煙は立たない』って言葉の通りだよ。二人がメイドギルドに所属してるのは本当で、潜入捜査には必要なスキルが得られるのだとか。「エスピオン」の女性メンバーは漏れなく全員所属してるとか。……すげ。

 

 

「それで、これからどうするつもりです?僕には一応この事をユミナに伝えて置く権限がある訳ですが」

 

「私達の正体はどうか姫様には内密に……」

 

「姫様に護衛が付いていた事がバレると〜、姫様に国王陛下が怒られちゃうんですよ〜」

 

 

あ、そういう事が有るのね……。だから隠れて行動していた訳か。ユミナの雷が怖いから、本人には絶対に明かさない様にって。これは共感して良いのか?怒って良いのか?よく分かんないけどね。ま、何か被害が実際にあった訳でも無いし、伝えずに置く分にはさして何も問題無いでしょ。

 

 

「分かりました。僕の方でも口裏は合わせておきます。この後も引き続きよろしくお願いします。無論、僕の方でも警戒はして置くつもりですけど」

 

「ありがとうございます」

 

 

そんな会話を一通りした後、ラピスさんとセシルさんとは一先ず別れて、僕はユミナたちの元へと戻る。琥珀には状況を事細かに説明し、ユミナたちにはその時に何があったのか説明を求められたが、そこら辺に関しては「逃がした、ごめん」と濁しておいた。でも実際には一回だけだが逃げられているので、何とも言えない所ではあるのだが。

 

──────────────────────

 

次の日、ベルファストとミスミドの同盟内容を話し合うべく、国王同士が会談をする運びとなった。その際に何方が何方の王都へ出向くかで少し揉めたのだが、ベルファスト国王がミスミドへと出向く事で丸く納まった。

 

そして転移する為の(という事になっている)姿見を会議室にセッティングし、姿見の上で【ゲート】を開き、その中から国王陛下と弟のオルトリンデ公爵が現れる。鏡の中から人が出て来ると言う事に驚きを隠せなかったが、それも一瞬で元に戻り、当然の如く一国の王を恭しく出迎えた。

 

 

「ようこそミスミドへ、ベルファスト王よ」

 

「お招き感謝する、ミスミド王」

 

 

そう言って獣王陛下と国王陛下が手を取り合う。……さてここは国のお偉い方による会談の場。部外者は席を外すとしますか。一応中にはリオンさんを始めとした、僕らと一緒にやって来たベルファストの兵士団や、宰相であるグラーツさんに狼の獣人であるガルンさんを始めとしたミスミド兵士団も居るから大丈夫でしょ。

 

会議室から失礼して、廊下に出る。……後は会談が上手く行けば問題は無いのだが。

 

 

「ベルファスト王が来たみたいね」

 

「うん。今は中で会談中」

 

 

リーンからの問いに、僕は兵士の立つ扉に目を向けて答える。ここからは僕の推測だけど、かなり上手く行っていると思う。と言うのも、同盟を結べば両国の間に不可侵条約が結ばれて、他国から攻撃された時に協力が出来るからだ。更に言えば、そろそろくっ付くかも知れないお二人のサポートにもなるからね♪

 

 

「それで、弟子になる気はなった?」

 

「キミ、ホントにシツコイよね。僕にその気は無いし、受けるつもりも無いっての」

 

 

あれからリーンは、隙あらば僕を勧誘して来ている。この前と同じ様に、良い答えが聞けるまで逃がさないつもりか。……ぬぬぬぬ、かなーり大変だなこりゃあ。

 

そして隣にいるポーラは《こっち来いよ!》というジェスチャーしてるし。ほんと、器用だよねキミは。

 

 

「しかしポーラってぬいぐるみなのに生き生きしてるよね〜。それも【プログラム】してあるの?」

 

「ええ。もう200年近く、色んな反応、状況から自分の行動を起こせる様にしてあるのよ。人間だって叩かれて痛かったら泣くし、バカにされたら怒るでしょ?」

 

「……凄っ」

 

 

200年近くも……。その蓄積された無数の【プログラム】が、この様な自然さを生み出しているのかな?あれ?でもこれってさ【モデリング】で人間そっくりの人形を作って、今のポーラの様に【プログラム】を施せば出来るんじゃ……?……いや、止めておくか。200年近くも掛かってるんなら、妖精族の一部しか生きられない人間には幾世代掛かっても無駄だよね。

 

じーーーーっと見ていたのを不審に思ったのか、ポーラが少し後ずさった。こういう反応も【プログラム】のお陰なんだな〜。

 

 

「ところでさ、ポーラって200年近くも経ってるのに、ちっとも汚れとか劣化とかが見えないんだけど……それも無属性魔法のお陰だったり?」

 

「よく見抜いたわね。そうよ。保護魔法である【プロテクション】を掛けているの。色々な対象から、ある程度保護できるのよ。ポーラには汚れ、劣化、虫食いなどから影響を受けない様に保護しているわ」

 

 

なるほど……保護魔法か。あれ?それってさ、対象者自身に掛けたら、お風呂とか入らなくても良くなるって事?あーでもな、新陳代謝とかで垢とかは出たりするから……取り敢えずは『ずっと大切にしたい物』に掛けてた方が無難って事かな。それこそポーラみたいなぬいぐるみとか。

 

 

「ってかさ、リーンって幾つ無属性魔法を使えるの?僕が知ってる限りだと【プログラム】、【プロテクション】……シャルロッテさんからは【トランスファー】も使えるって聞いたけど…」

 

「妖精族は無属性魔法の適性が高いのよ。逆に無属性魔法を一個も使えない妖精族なんてあまり居ないわ。と言っても、私でさえ四つだけど」

 

 

一つでも使えたら良い方だと言われてる無属性魔法を、リーンは四つも持ってるのか。凄いな。って、無属性魔法を全て使える僕が言えた義理ではないよね。でもそれだったら、妖精族が魔法に特化した種族だと言うのも、物凄く納得できるね。リーンの残り一つの無属性魔法がちょっと気になるな……。

 

 

「颯樹殿、ベルファスト国王陛下がお呼びです。中に来てください」

 

「僕に?分かりました」

 

 

僕は中から出て来た宰相のグラーツさんに呼ばれ、会議室の中へと入る。そこには獣王陛下と国王陛下が居て、少しゆったりしている事から、もう会談は終わったのだと見られた。

 

 

「やあ、颯樹殿。話は滞り無く進んだよ。ありがとう」

 

「いえいえ、お役に立てたのなら良かったです」

 

 

ベルファストの王様の言葉を受け、僕はホッと胸を撫で下ろす。これで僕の仕事は殆ど終わった様なものかな?

 

 

「では我々はベルファストへ戻るよ。後のことを頼む。ミスミド王、これにて失礼」

 

「お任せあれ」

 

 

別れの挨拶(と言っても、明日には僕たちもそっちに帰るけど)を軽く済ませると、僕がこっそり開いた【ゲート】を通って、二人は鏡を通ってベルファストへと帰っていく。

 

二人が居なくなってから、僕は事前に打ち合わせしていた通りに行動を起こす。みんなの目の前で取り出したハンマーを使い、鏡を粉々に砕いた。

 

 

「さ、颯樹殿!?一体何を…!?」

 

「えーっと、ちょっと見ててくださいね?」

 

『???』

 

「【モデリング】」

 

 

慌てふためくグラーツさんに背を向けて、僕は鏡の破片と木枠を前に魔力を集中させて【モデリング】を発動させる。すると、割れた鏡と木枠が変形して行き、幾つかの小さな横長の鏡になる。縦2cm、横15cm程の鏡に木枠が嵌め込まれた物だ。そしてその一つにこっそりと【ゲート】を【エンチャント】して置く。

 

 

「これらの鏡はベルファストへと繋がっています。これから何か重要な連絡事をする時、ここに手紙を差し込んでやり取りした方が良いかもです。その際には、向こうに公的な書類だと分かる物を用意しないと行けませんがね。もちろん送られた側も同じですが」

 

「なるほど、往復20日掛かる連絡が一瞬で出来るのか。確かに便利だな。両国の交友に大いに活用させて貰おう」

 

 

僕から渡された鏡(後に『ゲートミラー』と命名)を受け取った獣王陛下は、僕に対して笑顔を浮かべた。これで僕の仕事は完全に終わったね〜。

 

さて、我が家に帰るかな。折角家を貰ったのに、全然ゆっくり出来なかったからな〜。明日から何日間かは休息にあてますかね♪

 

──────────────────────

 

「リオンさん達は、この後どうしますか?」

 

「私たちはここに残りますよ。この後の手続きとかで、ベルファストの人間が居ないと大変でしょうから」

 

「OKです。分かりました。それではこれを」

 

 

僕はリオンさんからの言葉を聞くと、先程作ったばかりのゲートミラーをセットで、リオンさんに手渡す。ひとつをオリガさんに渡しておけば、遠く離れていても連絡を取り合うことが可能だ。それを知った時のリオンさんの顔と言ったら……。ちょっと引いてしまった…。

 

 

「宜しいのですか!?我々は姫様の護衛を…」

 

「それはなりません」

 

「ひ、姫様!」

 

「貴方方は自分たちの仕事を為さって下さい」

 

 

もちろんリオンさんの決定に、異議を唱え立てる護衛の兵士たちも居たのだが……結局はユミナに丸め込まれる形となってしまった。ユミナ曰く「自分の仕事をしろ」という事で。……ま、妥当だわな。僕たちは【ゲート】を使って王都まで帰るから、ついて来られるとコチラが困る。

 

獣王陛下や宰相のグラーツさん、オリガさんに戦士長のガルンさんにも別れの挨拶を済ませる。リーンとポーラにも挨拶をしたかったのだが、彼女らは今は不在にしているとか。……うーん、残念。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はいよいよアニメ《第7章》の最後になります!その後には、アニメ《第8章『フレイズ、そしてイーシェンへ。』》の内容も少し入れようかなと考えてます!

先のお話のネタは、この前キャラクターのみ決まりました!どんな感じかは次回の後書きにて若しくは活動報告で、ご紹介できたら良いかな〜と考えてます(と言うよりも既に紹介済み)。あくまでも紹介程度にするので、アニメストーリー中に出て来る事はありませんよ?


それではまた次回です!次の投稿日は、11月11日(月)の深夜0時です!今回も感想を是非!


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第23章:帰宅、そして緊急事態。

獣王陛下たちに別れの挨拶を済ませた僕たちは、城を出た後に城下町に降り立ち、屋敷の使用人さん達やスゥへのお土産を買って、荷物を纏めた。来る際には大きな鏡があったから、少しは軽くなったかな…?

 

後は何処かの路地裏に入って【ゲート】を開き、ベルファストにある自宅へと帰るだけなのだが……。

 

 

「どうしたのよ、颯樹」

 

「ごめん、お土産の買い忘れを思い出した」

 

 

みんなに断りを入れて、僕は人混みの中に紛れながら、マップアプリを使って目的の二人を探し出す。……なるほど、この上か。

 

場所が判明したと同時に【ブースト】で一気に飛び上がり、屋根の上を移動して、二人の前に降り立つ。

 

 

「っ!?」

 

「ふわっ!?ああ、旦那様ですか〜。驚かせないでくださいよお〜」

 

 

僕の襲来に驚いて振り向いたのは、仮面を付けたウチのメイドさんである、ラピスさんとセシルさんだ。家のメイドをしてくれてはいるが、実際の雇用主はユミナのお父さんであるベルファスト国王陛下だ。

 

彼女たちの雇用は国王陛下がライムさんに無理矢理頼み込んだらしく、それなら正直、僕がお給料を払う必要は無いのだけど……メイドさんとしての仕事は出来るらしいので、そこら辺は黙認している。

 

……今回の一件は、被害こそ生まなかったが、僕の中での国王陛下へのイメージの悪化を起こしたので、給料は暫く(と言っても10日分ではあるが)天引きする形となった。請求するなら国王陛下へとどうぞ、と言った感じである。

 

 

「僕らはこれから【ゲート】でベルファストへと帰ります。それよりも先ず先に、お二人を先にお返ししようかと思いまして」

 

「ほえ?ベルファストにですか〜?」

 

「確かにこのままだと我々は10日遅れて帰る事になりますね…。流石に姫様に怪しまれるかもしれません」

 

「そう思ったのでここに来た訳です」

 

 

そりゃあ屋敷の住人よりも遅れて着いたら、確実に怪しまれるわな……。心の中で苦笑を浮かべながらも、僕はベルファストの自宅へと向かって【ゲート】を開く。

 

そして二人と一緒に光の門を潜ると、そこはもうベルファストにある屋敷、自宅のリビングだった。その場に居たライムさんが少し驚いた顔をしていたが、直ぐに冷静さを取り戻して言葉を掛けて来た。

 

 

「お帰りなさいませ」

 

「ただいまです、ライムさん」

 

「ただいまです〜」

 

「すみません、旦那様に知られてしまいました…」

 

「当然でしょうな」

 

 

この状況からすれば、当然だろうなと言う事実を述べるラピスさん。それに対してライムさんは苦笑いする他無かった。

 

取り敢えず、二人にはメイド服に着替えてもらう事にして、『ずっとここに居ましたよ』と言う事にしないといけない。二人が着替えに部屋に向かうと、ライムさんは僕に対して頭を下げて来た。

 

 

「申し訳ありません。あの二人に関しては、国王陛下から命じられていたモノですから……」

 

「親が娘を思う気持ちは当然です。僕もそこまで気にはしてませんし、大した被害も出なかったので、あの二人の行動は正しかったと思いますよ?ライムさんだって、ちょっと断りにくかったかもですし」

 

「ご厚意痛み入ります」

 

 

主人を裏切るとは!……なんて事を言うつもりは無いし、そもそも言うだけしてるかと言う話だけど。そこまで徹底してやるつもりは無いよ。そりゃあ大きな被害とか出て、生命までもが危険に晒される様なら、話は別なんだけど。

 

今回の場合はと言うと、特に目鯨を立てるような事でもないしね。父親が娘の事を心配していた、と言う遠回しだけど確りとした確認も出来たしね。この件は僕の心の中だけに留めて置きますかね。

 

 

「ま、ユミナや他の皆には口裏を合わせて置きますので。そこら辺はご心配無くで」

 

「ありがとうございます」

 

「僕は他の皆を呼んできますので、恰も『初めての帰宅』という風に振る舞って下さいな」

 

 

そう言って僕は、エルゼたちの元へと【ゲート】を開いて戻った。その後に案の定と言うべきか、皆からの質問攻めが待っていたのだが、適当に言い繕ってその場を掻い潜った。

 

そして裏路地の方に入って【ゲート】を開き、ベルファストにある自宅のリビングに向かう。そしてゾロゾロ現れた皆に、待ち構えていたライムさんが頭を下げる。

 

 

「お帰りなさいませ」

 

 

ライムさんの二度目の挨拶を僕が聞いていると、リビングのドアが開いた。そこからは、メイド服に身を包んだラピスさんとセシルさんが現れた。

 

二人も僕たちに目を向けると、頭を下げて一言挨拶を述べたのだった。ミスミド国内で買ったお土産を渡したその後、皆は自室へと戻ってシャワーを浴びるとの事だ。無論、僕がそこに干渉する理由は無いため、部屋に戻って魔法書の読み直しをする事にした。

 

──────────────────────

【盛谷家:颯樹&ユミナの部屋】【夜】

 

「……やべ、何時まで寝てた?」

 

 

テーブルの台から顔を上げた僕は、寝惚け眼を擦りながら時間を確認する。そこには22:16と記されており、夜の時間帯である事が分かった。辺りの様子が真っ暗な事から、皆はもう寝たのだろうかと思えた。

 

 

「……身体がベタベタする…。風呂に入って汗を流すか…」

 

 

そう思い立ち、僕は着替えを持って風呂場へと直行した。……多分みんな先に風呂は済ませたんだろうから、思わぬ所で『何覗いてんの!』って展開は無いと思うが……。やべ、漫画や小説の見過ぎだろうか?

 

そう思った僕は、何の気なしに脱衣所に繋がるドアを開けたのだった。……そう、これが僕の運命の分かれ道であるとも知らずに。

 

──────────────────────

 

「確かに脱衣所に鍵を掛け忘れてたのは、私たちが悪かったかもしれないけど!」

 

「もうちょっと注意して欲しかったでござるよ」

 

 

結局あの後、同じくお風呂に入ろうとしていた4人を目撃し、今こうしてお説教を受けている所だ。状況が状況であまり大きな声では言えないけど、その……4人とも可愛らしいモノを身につけていらっしゃる……。

 

そして八重、君は僕の予想を裏切らなかったね……。とても悪い意味でだけど。今度からお風呂に入る時は、4人が入ったのを確認してから入る事にするか。

 

 

「反省、してます?」

 

「……じゃ無きゃ、今こうやって正座をしてませんから」

 

 

リンゼがジト目で僕の事を睨んで来る。……普段大人しいだけに、こう言った時の迫力は凄いよね……つくづく思い知らされるよ全く。

 

 

「私としては、こう言う事はちゃんと手順を踏んでからにして貰いたかったんですけど……」

 

「へぇ?」

 

 

え?手順って何ぞ?ユミナ、顔を赤くしながらそんな事を言わないで下さいますかね?まあ、僕が注意深く行動出来てれば避けれてた事ではあるからね。実際に回避出来てないし、とんでもないモノも見てしまったし……。言い訳できるはずが無いんだが。

 

それから延々と説教をされ続け、やっと解放されたのが深夜を回った頃だった。その夜は全くと言う程に寝れてなかったと思う。……痛た、エルゼに殴られた所がまだヒリヒリする……。まさか【ブースト】を使ってないよねあの娘。

 

──────────────────────

 

翌日、僕たちは依頼達成の報告をしに、王都のギルドへと訪れていた。そこで報酬を受け取ると、ユミナ以外の僕たちは青ランクへと、ユミナは緑ランクへとランクアップが行なわれた。更に王宮から黒竜討伐が伝わってたのか、ユミナ以外の僕たちのギルドカードに『ドラゴンスレイヤー』の称号が付与された。ギルド提携のお店で提示すれば、3割引だとか。嬉しすぎでしょ。

 

僕はその後に南区で散策をする為、4人とは別行動を取っている。

 

 

「また俺たちの縄張りで仕事しやがったな、このクソガキ!」

 

「勝手にやられるとこっちが困るんだよ。覚悟は出来てるだろうな?」

 

「ん?……行ってみますか」

 

 

突如何処かの裏路地から聞こえた声を頼りに、僕はその声が聞こえた場所へと駆け足で向かう。そこでは二人の男が一人の男の子に向かって、足蹴りをしており、一人は手元にナイフも持っている事から、相当緊迫している状況みたいだ。

 

男の手に握られたナイフを見て、追い詰められている男の子の表情が恐怖に染まる。

 

 

「やめて!やめてよ!謝るから!謝るからぁ!」

 

 

男の子が涙を流して懇願するものの、二人の男はせせら笑うように聞き流した。その間にも男の子の腕を掴む手の力を強めている。これは『確実に仕留める』と言った具合だろうか?

 

 

「もうおせぇんだよ。同業者のよしみで指一本で目を瞑ってやる。二度と俺らの縄張りで仕事するんじゃねぇぞ、次は殺すからな」

 

「おい、お前ら」

 

「「ああ!?」」

 

 

……殺すって?はっ、聞いてて嫌になるねその言葉!僕はチンピラ二人に睨まれるが、今はそんな事どうでもよろし。男の子の方は、身を寄せながら震えているみたいだ。

 

 

「大丈夫?」

 

「う、うん……」

 

「なんだテメエは?邪魔すんじゃねぇよ、殺すぞ」

 

「さ、先ずは近くの公園とかに行こっか。そこで君の手当をしよう」

 

 

なんか聞こえるけど、聞こえなーい♪男の子が僕の背後にいる男たちに恐怖しているけど、僕にとってはそんなの、動く目標を弓矢で目隠しをしながら射抜くように、簡単な事なんだよね。

 

 

「「ぶっ殺す!」」

 

「と言うかさ、君ら居たんだ。あまりにもピーチクパーチク煩いからさ、何処かのバンドか学芸団かな〜とか思えたんだけど」

 

「死ねぇ!」

 

 

一人の男から発せられた言葉に、僕の中での迷いが一瞬でカッ消えた。先程までは交渉による友好的な解決を望んでたのだが、ここまでされるとそれすらも面倒くさくなって来る。

 

僕は腰のホルスターに入った、剣銃ブリュンヒルドを抜いて【パラライズ】の付与されたゴム弾を二人に撃ち込む。

 

 

「ゴフッ!!!」

 

「ガハッ!!!」

 

 

【パラライズ】の付与されたゴム弾を受けた二人は、その場に崩れ落ちる。それを確認した僕は、男の子に目を向ける。……先ずは傷の回復だ。

 

 

「【光よ来たれ、安らかなる癒し、キュアヒール】」

 

「ぇ……」

 

「僕の使える属性魔法だよ。手荒な真似はしないから、安心して?」

 

 

男の子は僕の言葉に頷く。瞬時に治った傷に多少は驚いてたものの、少しずつ状況を理解出来ているみたいだ。それを確認すると、サイコロ状の鋼を【モデリング】でワイヤーに変化させ、倒れているチンピラ二人を縛り上げて拘束して置く。

 

ま、二人は【パラライズ】の影響で半日は動けないだろうけど?念の為に後で警備兵に連絡かな。

 

 

「僕はそろそろ行くね、それじゃ」

 

「あ、あの!」

 

「ん?」

 

 

立ち去ろうとした僕を、先程の男の子が呼び止める。何かあっただろうか?

 

 

「助けてくれて、ありがとう…」

 

「別に良いよ、これくらい。さっきの男たちが言ってたんだけど、君とアイツらは同業者らしいね?」

 

「うん……」

 

「他人からお金をくすねるのは良くありません。これを心によく刻んで置いてね?」

 

 

僕から発せられた言葉に、その男の子は確りと頷く。そう思って立ち去ろうとした時、またその男の子が僕のコートの裾を掴んで来た。……何事かと思って振り返ると。

 

 

ぐぅぅぅうううぅぅぅ……。

 

 

何とも言えない音が聞こえて来た。……ま、スリとかしてたんなら、何も食べる物が無かったんだろうね。ここで『我関せず』と逃げたら、後で知られた時の反応が恐ろしすぎる……。……これもやむ無しだね。

 

 

「おいで?何か食べさせてあげる」

 

「ホント!?」

 

 

台詞だけ聞いてたら、確実に誘拐犯の常套文句だよなこれって……。そんな事を気にする僕を他所に、男の子は僕にこの上ない笑みを浮かべる。そしてそこから覗いた笑みの質が、男の子?とは言い難い物を持っていた。

 

僕の視線に気付いた男の子は、自分の正体を明かす様にキャスケット帽を取り外す。……一瞬にして、目の前の「男の子」が「女の子」に様変わりした。え?

 

肩口を超えるくらいまで伸びた亜麻色の髪。先程までは「中性的な男の子」と言うイメージだったのだが、それが一瞬にして「可愛らしい女の子」へと変化した。

 

 

「!?……もしかして、君…女の子!?」

 

「……そうだよ?」

 

 

何を今更、と言った表情でこちらを見詰める翠の双眸。これが後にウチに仕える事になるスリの少女、レネとの出会いだった。

 

……短期間のうちに、美少女に出会う確率が異様に高くない?僕。




今回はここまでです!如何でしたか?


帰宅の話とレネとの出会いを描きましたが、どうでしたか?次回は多少話が前後しましたが、今回の続きから始めて……その後に自転車の話に行けたらな〜と考えてます。

フレイズやイーシェンの話を待たれてる方は、もう少しお待ち下さい……。今頭の中で構成を練っている真っ最中ですので。


それではまた次回!次回の投稿は11月15日(金)の深夜0時です!今回も感想を是非!


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第24章:レネ、そしてペンダント。

皆さん、こんばんは!咲野 皐月です!

今回は前回の話に引き続き、レネにスポットを当てて描いて行きたいと思います!原作とは多少話の順番が違うかもですけど、そこら辺は暖かい目で見てくださいませね♪


これは公式からの発表がありましたが、書籍版「異世界はスマートフォンとともに。⑲」が2019年12月21日土曜日に発売予定です!それと同日に、ドラマCD限定特装版も同時発売されます!イセスマ好きはGETして損は有りませんよ〜♪

そして、冬原パトラさんのもう一つの作品である「VRMMOはウサギマフラーとともに。」も同日に書籍版&コミカライズ化が発売予定!私はなろう版で少ししか読んでませんが、この作品は『ソードアート・オンライン』を読んでる人なら、興味を持てる作品なのかな〜と思ってます!ぜひ、其方も併せてチェックして見てくださいね!


長くなりましたが、それでは本編の内容に移って行きましょうか♪それではスタートです!(後書きにお知らせを載せてるので、宜しければ最後までお付き合い下さい♪)


汚れた顔を近くの水道で濡らしたタオルで拭くと、レネはなかなか可愛い顔立ちをしていた。……待て?スリをしてたって事は、服とか無いよね?

 

 

「なあなあ、兄ちゃん。何食わせてくれるんだ?」

 

「食事の前に、先ずは身なりを整えるよ!……と言ってもその格好だと目立つなぁ…。よし!」

 

 

僕は羽織っていた黒いコートを、レネに羽織らせる。間に合わせの物かもしれないが、少し我慢して欲しい。その足で近くの服屋に入り、レネに見合うサイズの服を何点か購入する。

 

そして購入した一着をレネに着せ、二人で近くの屋台で串焼きを数本買い、近くの公園へと訪れた。

 

 

「……はいこれ。タオルは自由に使って良いからね。それと、簡単だけど食べ物も用意したよ」

 

 

僕はレネに【ストレージ】から取り出したタオルと、包みに入った弁当箱を渡す。実は先程レネに渡した弁当はと言うと、この前の魔法書の読み直しをする際に、お腹が空いては余り出来ないという事で、クレアさんに自ら頼み込んで用意した物だ。

 

そして購入した串焼きを手渡して、僕はレネの様子を見守る。食べっぷりが八重にそっくりで、彼女とは良い勝負だなと思えてしまう。

 

 

「レネはさ、何処に住んでるの?」

 

「決まって無い。公園で寝る事もあるし、路地裏に泊まる時もある。前は父ちゃんと一緒に宿屋に泊まってたんだけど……」

 

「……何も聞かない。余計な詮索はしないから、ゆっくり食べなね」

 

 

僕はレネの言葉を聞くと、そんな言葉を返した。……この子には多分、身近に頼れる人が居ないんだろうね。ある程度は知識が有るから分かるけど、このパターンは『両親の顔を知らない』若しくは『両親は既に他界していて、親戚は居るが会った事は無い』と言うパターンだろうか?

 

そんな気持ちもお構い無しに、レネは目の前の食べ物をガツガツと食べて行く。よっぽどお腹が空いてたんだな……。

 

 

「そう言えばこの南区って、君みたいな子たちが沢山居るの?」

 

「うん。近くに孤児院とかあるから、多分そのせいだって」

 

 

そうなのか……。となれば、孤児院に預けるのが普通なんだけど、この子の場合はもう『スリ』って犯罪を犯しちゃってる訳で。何処かのお店に連れて行って雇ってもらうか……いやいや、そもそもの話、犯罪者を雇う職場なんて有る訳ないし……。

 

……周りの人からは『甘い』だの何だの言われそうだが、此処で見捨てる事が一番申し訳ない!

 

 

「……レネ、うちで働く気はある?」

 

「え?」

 

「住む所も食べ物も心配無用。ただ、キチンと働いて貰うよ。勿論……それに見合った賃金も出すし、君のサポートもしよう。どう?」

 

「えっ?えっ?働かせてくれるの?ホントに?」

 

 

僕の提案を聞いたレネが、キラキラとした眼で僕を見て来る。個人的にはこれだけのやる気を見せられたら、雇わずには居られないんだけどなぁ……!

 

寸でのところで僕は踏み止まり、レネに右の掌を向ける。厳しいかもしれないけど、社会更生の為にはこれが効果的なんで!

 

 

「ただし!二度とスリの技術を使ったり、それに及ぶ行為をしないと言うのが最低雇用条件!守れる?」

 

「う、うん!二度と使わない!約束する!」

 

「よし来た!」

 

 

勢い込んで頷くレネの頭を撫でる。……何か最近、慰めの為にユミナの頭を撫で始めてから、すっかり癖になったかもな〜この行動。ま、ユミナの魔眼で性質を判断はして貰う予定だけど、良い子だと思うよ、レネは。

 

普段なら【ゲート】を使って自宅に帰るのだが、レネに場所を覚えて貰うためにも、今回は歩いて行きますか♪

 

 

「あれ?こっちじゃないの?」

 

「ああ、東区の事を言ってる?……実はこれが違うんだな〜。僕の家は西区だよ」

 

「……!?西区!?」

 

 

東区の方向を指し示していたレネが、僕の言葉に驚いて振り向く。……ああ、何となーく想像が着いたよ。

 

レネを連れて南区を抜け、西区に入る。だんだんと広がる住宅街を通り抜け、高台へ向かう緩い坂を登って行く。ま、これくらいの坂なら楽々かな♪

 

 

「ひょっとして…颯樹兄ちゃん、貴族様なのか?」

 

「うーん、違うかな。貴族では無いよ。まあいっぺん、貴族にされかけた事はあったけど」

 

 

場違いな場所に不安を感じて来たのか、レネがそんな事を尋ねてくる。貴族なら外周区じゃ無くて内周区に住むだろうけど、一概にそうとは言えない。地位が低い貴族や、没落貴族とかが移り住んで来る事もある。ちょっとした金持ちの商人とかも、此処ら辺だしね。

 

高台を登り切ると、赤い屋根の我が家が見えて来た。それを見上げると唖然とした顔で、レネが僕の方を見つめて来る。

 

 

「こっ、ここが颯樹兄ちゃんの家!?」

 

「そうだよ。あ、トマスさんお疲れ様です」

 

「おや、旦那様が門から帰宅とは珍しいですな」

 

 

笑いながら門番のトマスさんがそんな事を言って来る。まあ、何時もは【ゲート】で往復をしてるから、そう言われちゃうとね……。

 

門の横にある通用口から敷地に入る。そのまま庭の歩道を歩き、玄関の扉を開くと、ちょうど玄関ホールをラピスさんとセシルさんが掃除をしていた所だった。

 

 

「あら、旦那様?お帰りなさいませ。玄関から帰って来るなんて珍しいですね?」

 

「お帰りなさいませ〜。あらあ?その子は〜?」

 

「ただいま帰りました。……えっと、今日から此処で働く事になったので、指導よろしくお願いします」

 

「うぁ……レネ、です。よろしく、です……」

 

 

マジマジとレネを見つめるセシルさん。その視線がちょっと怖かったのか、レネは僕の陰に隠れてしまった。

 

……何か、借りて来た猫みたくなったな…。緊張してるのかな。ま、いきなりこんな所に連れて来られたら、誰だってそうなるわな。

 

 

「ライムさんは今何処に?」

 

「リビングにユミナ様へお茶を持って行きましたよ」

 

 

レネを連れてリビングへと入る。彼女を椅子に座らせて、ライムさんに事情を事細かに分かり易く説明をして行く。ユミナは黙ってそれを聞きながら、じーっとレネへ視線を向けている。魔眼で見ているのだろう。やがてユミナが小さく微笑んだ。やっぱりね、根は悪い子では無いんだよ。

 

その事を横目で確認すると、ライムさんが口を開いた。……ここから先はお願いします。

 

 

「なるほど、事情はわかりました。ですが、中途半端な考えで仕事をされては迷惑です。レネと言いましたね?」

 

「う、うん」

 

「本当に此処で働きたいと思いますか?失敗したり、私たち使用人に迷惑をかける事、それ自体は構いません。そこから学び、逃げ出さないと約束できますか?」

 

 

射貫く様な視線でライムさんが問い掛ける。……確かに僕もそれは気になっていた所だ。もし仮に迷惑を掛けてしまって、それを気に病んで逃げ出す様なら、もう一度考えを改めようかと考えてた所だ。

 

少しの逡巡の後に、レネがゆっくりとだけど、自分の思いを伝え始めた。

 

 

「……うん、あたし、此処で働きたい。颯樹兄ちゃんの所に居たい」

 

 

ライムさんの瞳を真っ直ぐ受け止め、レネは確りとそう答えた。それを見たウチの執事は、フッと表情を緩めて微笑みながら立ち上がった。

 

 

「セシル、レネを浴場へ。隅々まで洗ってやりなさい」

 

「は〜い。レネちゃんおいで〜。お風呂入ろうね〜」

 

「えっ?えっ?」

 

 

セシルさんに連れられて、お風呂場へとレネが連行されて行く。それを見届けたライムさんは、次にラピスさんに指示を出した。

 

 

「ラピスはあの子に合う服を何着か買って来なさい。ああ、メイド服も特注で注文して置くように」

 

「あ、私服の事ならご心配無くです。帰って来る際に買って来ました。お店の人にサイズを見て貰ったので、レネに似合う筈です」

 

「……わかりました。では、メイド服を特注で注文して置くように」

 

 

僕の返答を聞いたライムさんは、ラピスさんにそう指示を出す。……何か、仕事を取っちゃってごめんなさい。そして僕は買ってきた服の入った袋をユミナに渡して、レネの居る所へと運んで貰う。

 

……はぁ、疲れたぁ…。ユミナが出た後、僕は疲れを体現する様にソファーへと倒れ込む。やがてライムさんがやって来て、目の前に紅茶の入ったカップを置いた。

 

 

「……勢いでレネを雇ったは良いけど、実際は犯罪者を匿ってる事になるんだよな〜。どうしよ。やっぱり孤児院に預けた方が良かったかな」

 

「それはレネが決める事だと思います。今は旦那様が一人の少女を貧困から救った事実だけを受け止めればよろしいかと」

 

 

……さすが、元王様のお世話係。口が上手いよ。一々気にしてたら、確かにキリが無いもんね。それにレネの人生だから、それは僕たちがとやかく言わなくても、レネ自身が決める事だからね。

 

それでもレネのやった事は、れっきとした犯罪である訳で。ここら辺はキチンと償ってもらわにゃ。そこをちょっと国王陛下に聞いてみよっかね。

 

 

「……ん?何か、音がする」

 

「どうかなさいましたか、旦那様」

 

「いやね?誰かが廊下を勢い良く駆けて行く様な、そんな音が……」

 

 

僕は突如として聞こえて来た音に、耳を傾ける。そしてその予感は見事に的中し、リビングのドアが勢い良く開け放たれた。そこにはバスタオルを身体に巻いたレネと、レネに抱え挙げられている琥珀が居た。

 

 

「さ、颯樹兄ちゃん!虎だ!虎の子が居るぞ!」

 

『主……この童女は何者で?』

 

「!?虎が喋ったぁ─────!?」

 

 

心底ウンザリそうな顔を浮かべる琥珀。……まあ、気持ちはよく分かるよ。……って、レネは服を着なさい。みっともない。レネが加わった事で、益々賑やかになるねココは。……ん?

 

レネの首から何か提げられている。形を見る限り、ペンダント…かな?

 

 

「レネ、そのペンダントは?」

 

「これ?父ちゃんがくれた母ちゃんの形見だよ。これだけはずっと持ってたんだ」

 

「少し見ても良い?」

 

 

レネが僕の手にペンダントを渡してくれた。その後彼女は袖を捲ったセシルさんに、お風呂場へと再連行されて行く。忙しないなぁ……。

 

手にしたペンダントを眺める。これ、金だよね……相当な値打ちモノだと思うけど……。翼を広げた様な意匠で中央に逆三角形の宝石が嵌め込まれている。これは……宝石と言うよりも、魔石?風の魔石だ。裏には紋章が刻まれていた。

 

 

「ライムさん、この紋章って……ベルファストの貴族の物ですか?」

 

「いえ、グリフォンと盾に双剣、月桂樹……見覚えがありませぬ。グリフォンの紋章が多かったのは、帝国では無いかと」

 

「帝国……ベルファスト王国の東に位置する《レグルス帝国》の事ですね。もしかしたら、レネの母親はレグルス帝国の貴族なのかも……」

 

「それは何とも言えませぬな……」

 

 

微妙な顔を浮かべながら、僕は再びレネのペンダントに目を向ける。……レグルス帝国、か。機会があったら少し行ってみようかな?でもベルファストとは仲があまり宜しくない感じだからな〜。

 

ま、色々考えても仕方ないし、余り大っぴらにはしないで置こうかな。何時かレグルス帝国出身の人に会った時に、それとなく聞いてみようかな。




今回はここまでです!如何でしたか?

次回は自転車の話をした後に、国王陛下とのやり取りを入れるつもりです。その後には少〜しだけ、リーンたちとのやり取りが入るかも……?なので、楽しみにしていて下さいね!


さてさてさーて?この「異世界はスマートフォンとともに。if」ですが、あらすじにも描いているように、アニメストーリー終了後は、ラノベやなろう版を準拠にしたストーリーを基本に、所々でオリジナル話を挟もうかと考えてます。募集自体はまだ掛けてませんが、先んじてお知らせして置きます。

オリジナル話の内容は、基本的に話の流れ通りになる様にコチラで作成します。ですので、先ず先に原作を読まれてから、ご提案をよろしくお願いします。主人公を望月冬夜くんから変えてるだけなので、基本的にはそこまで大差は無いです。ですが……それだけだとあんまり面白くないので、今回の運びになりました。どうかご協力をよろしくお願いします!


それではまた次回です!次回の投稿日は、来週の月曜日である……11月18日(月)深夜0時です!

最後に宣伝です。Sayuki9284さんの方で、ついにイセスマ二次創作のR-18小説が登場しました!その名も「異世スマ 改 R-18」です!なかなかそれっぽい話に仕上がってますので、18歳以上の方……是非とも覚悟を決めてから読まれて下さい!(見る人にとってはかなりOUTな内容かも……)それと併せて「異世界はスマートフォンとともに 改」もよろしくお願いします!


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第25章:自転車、そして来訪者。

「鉄とゴムはこのくらい有ればいいか。……では、始めますか♪【モデリング】」

 

 

材料を目の前に置いた僕は、物質変形魔法である【モデリング】を発動させる。先ほど南区で買い物をしていたのは、この為の材料を買い揃える為だ。

 

そして【モデリング】で鉄とゴムが、ある形に徐々に姿を変えていく。ゴムはタイヤに変形して、鉄は物体を支える部分へと姿を変えた。

 

 

「……うん、よし。後はキチンと動くかの確認だけだな」

 

「おお!颯樹殿」

 

「公爵殿下!こんにちは」

 

「元気そうだな。ん?それは一体、何だね?」

 

 

僕の方に声を掛けて来たのは、近所に住んでいるアルフレッド公爵殿下だ。近くに黒塗りの紋章付きの馬車が止まってる事から、また何かあったんだな?と思えてしまう。

 

僕がそう身構えていると、アルフレッド公爵は僕の傍らにある乗り物に目を向けていた。ちょうど良かった、説明をして置こうかね♪

 

 

「えっと、これは『自転車』って言う乗り物です。先ほど完成したばかりです。良ければ乗ってみますか?」

 

「良いのか!?……では、失礼するよ」

 

 

アルフレッド公爵は自転車に興味を示したみたいで、僕は公爵のサポートをする。キチンとサドルに座らせてから、少し僕の方でも手助けをする。……まるで、小さい子が自転車を始める時に、危なっかしくて見てられない親のする事と同じだなぁ…。

 

 

「自転車はバランスを確り取らないと行けません。ここまでは分かりました?」

 

「うむ。大凡の事は理解した」

 

「では、手を離しますので……先ずは10m先まで行ってみましょうか」

 

 

そう言って僕は、公爵の乗る自転車の荷台から手を離す。……あ、フラつき始めた。

 

 

「お、ぉぉおおおおおっ!」

 

「頑張って下さい!公爵なら出来ます!」

 

「お、おわぁぁぁぁ!!」

 

 

ガシャーーーーン!!!

 

 

……ま、まだ最初だし仕方ない…かな?そう思いながらも手を貸して立ち上がらせる。その後にもう一度サドルに跨り、公爵殿下は自転車を漕ぎ始めた。

 

 

「何なの?あれ」

 

「乗り物、でしょうか?」

 

「何と奇妙な……」

 

「叔父様!?」

 

 

テラスに出ていた女性陣は、目の前の光景に訳が分からない表情をしていた。……仕方ない。材料はまだまだ有るし、皆にも乗ってもらおっかな♪そう思い立ち、僕は【ストレージ】から材料を取り出し、その後に【モデリング】で自転車を作って行く。

 

──────────────────────

 

「きゃあ!」ガシャーーーーン!!!

 

 

やはり最初は上手く行かないよね……。他の皆も所々で転びまくってるし。僕はエルゼの所に近寄り、回復魔法を掛けてから、手を貸して立ち上がらせた。

 

 

「……ありがと。上手く行かないわね……」

 

「大丈夫大丈夫。時間が経てば、エルゼだって乗れる様になるよ♪良い?先ずは……」

 

「颯樹さ〜ん!」

 

 

別の所から僕を呼ぶ声がした。その方向に振り向いて見ると、そこには自転車をすっかり乗りこなしているユミナが居た。しかもハンドルの片手を掴まず、手まで振っていると言う上達っぷりだ。

 

ユミナは漕いでいる自転車を、僕とエルゼの所に停めると、下から覗き込む形でこちらを見た。

 

 

「どうですか?完璧に乗れる様になりました♪」

 

「すごいすごい♪よく頑張ったね、ユミナ」

 

「えへへへ♪」

 

 

目を伏せてユミナが笑う。……ああ、撫でて欲しいのね。そう思った僕は左手でユミナの頭を撫でる。

 

 

「んぬぬぬ……。颯樹」

 

「何?」

 

「……私だってこの位…乗れるわ、よ!」

 

 

そう言ってエルゼは、自転車を漕ぎ始めた。多少グラ付きはあるものの、ユミナと比べても遜色無いほどの上達っぷりだ。傍で練習をしていたリンゼも、エルゼとくっ付いて張り合っている。……微笑ましい限りですなぁ♪

 

さて、自分のも作んなきゃ。先ずは【モデリング】で自転車を作って、サドルに跨るっと。

 

 

「それじゃ、皆から離れすぎない様に、少し街中を回って来よっか」

 

「はい♪お供します」

 

 

僕とユミナは自転車を並べて、屋敷の外へと漕ぎ始めた。その間にもエルゼとリンゼの張り合いは続いており……。

 

 

「んぬぬぬ……!あたしだって!」

 

「お姉ちゃんには、負けて、られない…!」

 

「うおおおおぉ!私は負ける訳には行かんのだァ!うおおおおぉ!」

 

 

何故か二人のその横を、鬼気迫る顔で公爵殿下が走り抜いて行く……。傍から見ればとんでもない光景ですよ?一人の大人が双子の姉妹に手加減無しとか……。

 

僕たちは素知らぬ顔をして、王都の街中へと漕ぎ出して行った。坂道での操縦方法を教えながら、市街地に降り立つと、今までゆっくり流れていた景色が少し速くなった気がする。

 

 

「風が気持ちイイですね〜」

 

「本当だよ〜。もっと早くに作っとくべきだったかな、自転車」

 

「こういう時期でも無いと作れないので、これまでに無いベストタイミングだと思いますよ?」

 

 

そう言いながら、街中を駆け回って行く。しばらく漕いで王都の王宮の前へと着いた時、門番の人が僕たち2人に声をかけて来た。

 

それを聞いたユミナは、伝えられた内容を僕へと伝言として伝えるのだった。

 

 

「……分かった。多分ミスミドの事だろうから、話をして行こうか」

 

「そう言うと思っていました♪」

 

 

僕の返答を聞いたユミナは満足したのか、門番の人と話を付けて行く。暫くした後、王宮の門が重々しく開き、僕とユミナは自転車を漕いでその中に入った。……ゴメンなさい、後でちゃんと説明しますんで……!

 

2人分の自転車を【ストレージ】に収納すると、王宮の謁見の間を目指す。そこには国王陛下が座っており、近くにはユエル王妃も一緒に居た。

 

 

「颯樹殿、此度の公爵殿下の依頼をよく達成してくれた。兄として御礼を言わせて欲しい」

 

「途中で黒竜と遭遇するハプニングこそありましたが、キチンと終わらせられたので、私としても今回の事は非常に嬉しいです」

 

「それは何よりだ。……して、門番から聞いたのだが…ここにはある乗り物を使って来たのだな?」

 

 

ミスミドの依頼について御礼を言った国王陛下は、僕が作った自転車の事について聞いて来た。それにはユミナが答えて、僕はその実物を【ストレージ】を使って、国王陛下の前に出した。

 

 

「なるほど……このじてんしゃ?とやらは、誰でも乗れる物なのか?」

 

「ええ、そうですよ。少しコツが要りますけどね。現在公爵殿下も練習されてます。今頃は上手くなってる頃でしょうね」

 

「ふむ……颯樹殿、これを作ってもらう事は出来ぬか?余も乗ってみたいのだ」

 

「分かりました。材料はありますので、今すぐにでもお作りしますよ」

 

 

僕が直ぐに作れる旨を伝えると、国王陛下は目をキラキラさせていた。……やっぱ兄弟だなぁ…。興味を示した事にはかなり真っ直ぐだもん……。

 

 

「国王陛下、少し私の方からお耳に挟んで頂きたい事がありまして……」

 

「おや?颯樹殿からとは珍しい。聞こうか」

 

 

僕はそう前置きを伝えて、国王陛下にレネの事を話して行く。一応犯罪者ではあるわけだし『犯罪者をウチで匿ってましたーすみませーん』と言う感じにするよりは、幾分かマシと言うものだろう。

 

僕の話を聞き終えた国王陛下は、一つ息を吐くと自身の意見を述べ始めた。

 

 

「罪は罪だ。償わなければいけない。しかし、その少女の境遇も考慮するに、情状酌量の余地はあると思われる。颯樹殿が責任を持ってその少女を監視し、更生させると言うのなら、今回の事は高額の罰金と注意のみという事にしよう。しかし、二度目は無い。よく言い聞かせて置くようにな」

 

「わかりました」

 

 

国王陛下の言葉にホッとする。もしかして、なんて思いもあったから、少し警戒はしてたんだけど……話の分かる国王陛下で良かったよ。

 

しかし、何やらその国王陛下は沈黙思考してしまった。……何があった?

 

 

「うむ…やはり解せんな」

 

「……と、言うと?」

 

「そこまで浮浪児が多いと言う事がだよ。王都の孤児院には充分な支援金を出している筈だ。これはひょっとすると……」

 

 

ふっと言い切ると、手を2回ほど叩いた。その直後に天井の裏から黒ずくめの人が降りて来た。……うわっ!『エスピオン』の人達!?相変わらず外見だけ見たら、誰が誰だか見当が付かないなぁ!

 

 

「孤児院への基金管理は誰の担当だった?」

 

「…セベク男爵だったかと。ここ数年、妙に金の羽振りが良いとの事です」

 

「金の流れを徹底的に調査し、横領の事実があったのなら直ぐ様拘束しろ」

 

「は」

 

 

その白い仮面を被った人は、現れた時と同じ様に一瞬で天井裏へと戻って行く。……まるで、忍者か何かだなこれって。

 

 

「すまんな。颯樹殿が保護したその少女も、ひょっとするとこちらの落ち度だったかもしれん。許して欲しい」

 

「いえいえ、謝る事は無いんですよ。それにしてもそう言う動きがあったんですね……だとしたら、スリとかが増える理由も説明が着きます」

 

「そうだな。……全く、困った物だ」

 

 

やっぱり何処にでも居るんだね〜『本来なら決められた所に支援しないと行けないのに、そうやって私腹を肥やしてのさばってる』馬鹿がさ。

 

 

「……ホント、国王陛下も大変ですね…」

 

「全くだ。早く誰かに国王の座を譲って隠居したい物だな」

 

 

ニヤリと僕の方を見ながら、国王陛下はそう言った。……あの、ユミナと結婚するのは一向に構いませんが、ベルファストの国王になるのはゴメンですからね?これは何としても城のコック長さんに、精力の付く料理レシピを手渡して、王様に二人目を頑張って貰わねば。

 

ニンニクとか山芋、スッポンとかあるのかな……この世界に。成る可く早めに手配しないと。

 

──────────────────────

 

国王陛下への報告を済ませ、また【ストレージ】から自転車を取り出して家へと漕ぎ出す。帰り着いてみると、すっかり乗りこなしたのか、庭中を自転車で漕ぎまくっている公爵殿下が居た。……良かったですね…。

 

その公爵殿下は、僕とユミナが帰って来たのを見ると、本来の目的を思い出した様に、依頼のお礼を言い出した。……さっき国王陛下から聞きました。その後、スゥ用に子供用の自転車を作った後、嬉しそうな表情で屋敷へと帰って行った。

 

 

「楽しそうでしたな」

 

「ええ。喜んで貰えて良かったです。後、レネの事は何とかなりました」

 

「それはようございました。……そう言えば旦那様、お客様が見えられてます」

 

「客?」

 

 

何気なくライムさん越しに廊下を見ると、ひょこひょこっと何かがこちらに歩いて来る。体長50cmで、首元に赤い大きなリボンを付けているクマのぬいぐるみ……まさか。

 

 

「ポーラ!君が居るって事は……」

 

「当然、私の付き添いよ」

 

 

名前を呼ばれたポーラは、右手を上げてシュタッと挨拶する。ひょこひょこ歩いて来たポーラを、捕まえて胸の高さまで抱き上げると、傍から聞き慣れた声が聞こえた。

 

そこには白い髪をツインテールにして、黒いゴスロリ衣装に身を包んだリーンが立っていた。……またやる気?

 

 

「リーン!今日はどうしてここに?」

 

「ちょっと調べ物をしにね。あとシャルロッテにお仕置をしに来たって所かしら。もう引っぱたいて来たけど」

 

「……それは、何と言うか…お疲れ様」

 

 

……あ、まだ根に持ってたの…それ。600歳を超えていると言うのに、なんと大人気ない事か……。…あ、ごめん何でもない。

 

呆れた目でリーンを見ていると、僕のコートの袖をクイクイっとユミナに引かれる。目の前の状況に付いて行けて無いみたいだ。

 

 

「颯樹さん?こちらは何方ですか?」

 

「あ、ユミナは初めましてだったよね。こちらはリーン、妖精族の長をしてるんだって。ちなみに、僕よりも歳上だよ」

 

「妖精族…?でも……」

 

 

ユミナは訝しげな顔でリーンを見ていた。……ん?確かに何かが足りない様な…?

 

 

「ねぇ、リーン?背中の羽、どうしたの?」

 

「ああ、羽根は光魔法で見えない様にしているのよ。この国だと目立つから」

 

「それって【インビジブル】?他人の視覚を誤魔化して、見えない様にするって言う……」

 

「貴方って本当に何でも知ってるのね……そうよ、それで間違い無いわ」

 

 

リーンは『完敗』と言う呆れを見せながらも、羽根に掛けていた【インビジブル】を解除する。そうしたら段々と背中に半透明の羽根が見えて来た。窓から差し込む太陽の光にキラキラと輝いている。

 

……何でも知ってるって、簡単に言わないでよ……。魔法書を読み直した時に知っただけなんだからさ。まだ知らない魔法もそれなりにあるからね?

 

 

「でも何でウチに?それに、よくここが分かったね?シャルロッテさんに聞いた?」

 

「ええ。それと貴方に聞きたい事があってね。今から数ヶ月前、貴方が旧王都の地下遺跡で見つけたって言う『水晶の魔物』について」

 

「……!」

 

 

その言葉を聞いた時、僕の中で何かを思い出していた。『旧王都の地下遺跡で見つけた水晶の魔物』と言えば、もしかしなくても、アイツの事だ。戦いはしなかったから何ともだけど、魔法が効かないアイツの事は、今でもよく覚えている。

 

 

「ミスミドにも現れたのよ、その水晶の魔物が」

 

 

……はっ?マジですか?リーンの発した言葉に、僕は驚きを浮かべると共に、背筋から身体全体に悪寒が伝った。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回は水晶の魔物の話をした後、いよいよ……八重の故郷であるイーシェンへと移って行きます!という事で、アニメストーリーも残すは5話ほど!その5話の間で、この小説だと何話感覚になるのかな〜と言った感じですけど。

予定通り行けば、年末年始か一月の上旬にはアニメストーリーを終えられるかと思います。その後からは、いよいよ……ラノベやなろう版を準拠にしたお話のスタートです!今描いてるのは《1st chapter》ですので、次は《2nd chapter》となります!(章タイトルもまだ決まって無い……どないしよ!)


それではまた次回です!次回は11月22日(金)深夜0時の投稿予定となります!11月22日……いい夫婦の日?…一年後のこの時期には、何か幕間劇を挟むか?んー、悩みどころですな〜。


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第26章:フレイズ、そしてリコール。

「貴方たちが帰る前の日にね、ミスミドの西側にある《レレス》と言う街から急使が来たのよ。数日前から奇妙な現象が起こるってね」

 

「奇妙な現象?」

 

 

リビングの椅子に腰掛けたリーンが、紅茶のカップを手に取ってそう口にする。その対面には僕とユミナが、その左右には八重とリンゼが座っていた。ポーラはリーンの横にちょこんと座っている。

 

紅茶を一口含んだリーンは、口を付けたカップを自身の前に戻すと、神妙な面持ちで話し出した。

 

 

「それを発見したのは、その村の小さな子供たちだった。森の中の何も無い空間に、小さな亀裂が宙に浮かんでいるのを発見したのよ。触る事は出来ない、でも確かにそこに存在する小さな亀裂をね」

 

(小さな亀裂……?異空間系の魔法だろうか?少なくとも、この世界に『世界と世界を繋げる』様な魔法は無かったハズ……)

 

「やがて子供たちは、段々と日に日にその亀裂が大きくなって行く事に気付いた。慌てて大人たちに知らせ、村の長老が王都へと使いを出したのよ」

 

 

リーンが紅茶の入ったカップを、静かに受け皿に戻す。その使いが辿り着いたのが、僕らがベルファストに帰る前日だったと言う訳か。

 

そう言えば帰る日に、リーンとポーラが居なかったな。それはこの事があったからだと考えると、話の辻褄が会いそうだ。

 

 

「話を聞いて興味を持った私は、戦士団1小隊と共にその村に向かったわ。……けど、そこで見たのは潰滅に追い込まれた村の様だった。水晶の魔物が村人たちを殺し、蹂躙の限りを尽くしている現場だったのよ」

 

「……それで、被害状況は」

 

「……惨憺たるものだったわ。私と共に居た戦士小隊も戦ったのだけれど、全く歯が立たなかった。剣は通じず、魔法は吸収され、たとえ砕けても再生する……まさに悪夢だったわ。戦士たちは半数が再起不能まで追い込まれ、村は完全に潰滅したわ」

 

 

リーンから発せられた言葉を受け、僕たちは終始呆気に取られていた。……僕はあの『コオロギ型』のヤツと相対した時、直ぐ様【アポーツ】を使って核を取り出し、その後に破壊してたから何とも無かったけど、何もせずにのさばらせてたら、あんな被害が近隣の村や街に及んでたって事!?それを感じた僕は、特に寒い訳でも無いのに、背筋が凍る感覚がした。

 

 

「それで?その魔物は倒せたの?」

 

「何とかね。物理的なダメージを与える魔法なら効くと分かって、そいつの頭に土魔法で重さ数トンの岩をぶつけたのよ。頭が砕け散ったら、二度と再生する事は無かったわ」

 

 

恐らくだけど、頭部にあった赤い球……その魔物の核を破壊したから、完全に活動を停止したのだろうね。やはり僕たちが見つけたのと、同じ系統のヤツって事か。

 

 

「この怪物の事を調べようと思って、シャルロッテの所を訪ねて見たら、ベルファストでも似た様な事があったって言うじゃない。しかも倒したのが貴方だと言うから驚いたわよ」

 

「……」

 

 

リーンは人の悪い笑みを浮かべながら、僕の方へと視線を向けて来る。何だこの、蛇に睨まれた蛙状態は。嫌な汗が出て来るんですけれども……?

 

 

「聞いたわよ?貴方、無属性魔法なら全て使えるらしいわね?道理で【プログラム】も使える訳だわ」

 

「あー、えっと……何と言うか…。あんまバラさないでくれると助かります……」

 

 

シャルロッテさん、喋っちゃったのかー。嫌、喋らされたと言う方が的確か?鬼の師匠に迫られたらなぁ……。僕だったら黙り切れんな。……あれ?僕も案外人の事を言えた立場じゃないかも?

 

 

「生き残った村人の話では、空間に広がって行った亀裂が破壊されて、その中から水晶の魔物が現れたと言う事だったわ」

 

「そっか……。僕たちが見掛けたアイツは、遺跡の地下に眠っていた。リーンが言ってたのが従来の現れ方なのだとしたら、千年前に暴れた一体が眠りについたのが、旧王都だったのかな」

 

「それは何とも言い難いわね。その手の情報が少なすぎるから……」

 

 

僕たち5人とリーンは、何とも言えない雰囲気で固まってしまった。そして重々しい空気の中、リーンが更に話し出す。

 

 

「……そう言えば昔、私がまだ小さかった頃に、一族の長老から聞いたお話があってね。何処からとも無く現れた『フレイズ』と言う名の悪魔が、この世界を滅ぼしかけたとか……」

 

「『フレイズ』…それがあの魔物の正体……」

 

 

リーンから伝えられたのは、ユミナが加わる前のパーティーで見掛けた魔物は『フレイズ』の可能性があると言う事、半透明の身体を持ち、死なない不死身の悪魔だったと言う事。帰る時は現れた時と同じ様に、何処かへ消えるのだとか。

 

伝えてくれたリーン自身、まだ幼い頃に聞いたお話みたいで、その話をリーンに伝えてくれた長老は今は亡くなっているとの事だ。その長老も『御伽噺』みたいな感覚で聞いていた事らしい。

 

 

「ま、二度と会いたくない奴らである事には変わりないけど、今度見掛けたらその悪魔の親玉もだけど、必ず殲滅する。……世界を破壊されてたまりますかってんだ」

 

「……ふふっ。見かけに寄らず、かなり大胆な性格のようね貴方。その心意気、気に入ったわ♪…ところで私、オリガの代わりに今度ミスミド大使としてこの国に滞在する事になったのよ」

 

 

え?そうなの?僕らとしては、全然それは一向に構わないのだけれども……シャルロッテさん、可哀想に……。鬼の師匠に苛められるねこれは……。

 

 

「これからちょくちょく遊びに来るから、宜しくね?そう言えば貴方【ゲート】が使えるわね?」

 

 

ギクッ!態々要らない小芝居まで打って隠してたんだぞそれ!ミスミドに変な警戒心を持たせない様にって、気を付けてたのに……!

 

そんな僕の心を読んだのか、リーンが小さく微笑んで答える。

 

 

「そんな顔をしなくても大丈夫よ。獣王や他の一族の長に言ったりしないから安心なさい。私は身内には優しいのよ?」

 

「身内?……それって、まさか…」

 

「ええ。弟子入り、してくれるんでしょう?」

 

 

ニヤニヤとリーンが此方を見て来る。ぐぬぬ……これを脅迫と言わずしてなんと言うかね。僕が返事を躊躇って居ると、リーンが思わず吹き出した。

 

 

「ふふっ、冗談よ。嫌がっているのを無理矢理と言うのは、さすがに私の趣味じゃないわ」

 

 

……嘘だね、それ。半分くらい本気だったでしょ?僕がリーンを睨んでいると、リビングのドアが開き、紅茶のポットとお菓子を乗せた盆を持って、セシルさんとレネが入って来た。

 

 

「お茶の、お代わりを、お持ちしましたっ」

 

 

ガチガチに緊張したレネが、たどたどしく言葉を紡ぐ。ギクシャクとした動きで、テーブルの中央にお菓子の入った皿を置き、空になったティーカップにお茶を注いで行く。それを横でセシルさんがにこにこと笑顔で見守っている。

 

……試しに一口飲んで見ると、気にならない程ではあるが、何時も飲んでる味よりは少し濃いめだった。更に少しだけ熱かった。ここら辺はラピスさんやセシルさんの様には、なかなか出来ないのかもね。

 

 

「失礼しましゅ」

 

 

……あ、噛んだ。一礼して二人が部屋から退出する。初めてでここまで出来たんなら、文句ナシだろうか?

 

 

「随分と小さな子を雇ってるのね。あまり接客に慣れてない様だったけど、新人さんかしら?」

 

「そうだよ、最近雇ったんだ。何か不手際があっても、許してくれると有難いかな」

 

 

そう言ってもう一度紅茶を口に含む。……ま、何事も経験しながら成長するもんだからね♪ゆっくり確実に覚えて行けばいいさ。

 

 

「ところでさっきの話だけど。【ゲート】は使えるのよね?」

 

「うん。但し《一度行った場所にしか飛べない》と言う条件付きだけどね」

 

「無属性魔法【リコール】って知ってる?」

 

「それは知ってる。何なら概要も覚えてるよ」

 

 

僕のその言葉を聞いたリーンは、心の中で呆れつつも言葉を紡いで行った。……聞いたのはどっちだよって話だけど。

 

 

「その魔法と【ゲート】を使って、貴方に連れて行って貰いたい所があるのよ。その場所にある古代遺跡から、手に入れたい物があって」

 

「場所は?」

 

「遥か東方、東の果て。神国イーシェンへ」

 

「イーシェン?」

 

 

思わず視線を八重の方に向ける。向けられた本人である八重も、その言葉に少なからずビックリしているみたいだ。

 

元世界の日本によく似た国、イーシェン。此方の世界に来てから、ずっと気になっていた国だ。その国に行けるのか。

 

 

「こっちの子はイーシェンの生まれでしょう?この子の心を読み取れば【ゲート】でイーシェンに行けるわ」

 

「ちょ、待つでござる!心を読み取るって、拙者の心をでござるか!?」

 

「心配しないで」

 

「基本的に【リコール】は、渡す方が許可した記憶しか渡されないから、見られたくない記憶まで渡される事は無いよ。安心して大丈夫」

 

 

八重が何とも言えない顔で悩んでいる。……まあ、誰にも知られたくない事なんて、一つや二つ必ずあるはずだからね。大丈夫だと言われても、簡単に聞き入れられないよね……。立場が逆なら、僕もああなってたろうな。

 

 

「無属性魔法【リコール】は、相手に接触して心に触れ、その記憶を回収する魔法よ。接触にはなんてったって口づけが一番ね」

 

「「「「うぇぇっ!!!!!?」」」」

 

「冗談よ」

 

 

ふと漏らされたリーンの言葉に、僕たちは全員その場に脱力してしまう。ニヤニヤすな、このゴスロリドS娘ぇぇぇ!僕らを弄んでるな、コイツ!

 

 

「はいはい、貴方たちはこっちに来て対面に立って。そして両手を握る」

 

 

リーンに言われるがままに、八重と向かい立ち、お互いの両手を握る。……あれ!?確か八重って、何時も刀を扱ってたよね!?結構……柔らかい…。イカン、緊張して来た…。

 

 

「あ……」

 

「はうっ…!」

 

 

僕が何となしに視線を上げてみると、八重と目が合った。真っ赤な顔をして此方を見ている。そんな顔しちゃダメ!こっちも恥ずかしくなってくるでしょ!

 

 

「はい、二人とも目を瞑って。八重の方は頭にイーシェンの風景を思い浮かべる。成る可く鮮明な場所が良いわね。曖昧な所だと、似たような所に【ゲート】が開くかもしれないから。そしたら颯樹は八重とおでこを合わせて【リコール】を発動させて」

 

 

リーンに言われるがままに、僕は八重とおでこを合わせて【リコール】を発動させる。フワッと良い匂いが彼女から漂って来るのだが……そんな事を考えてる余裕は無さそうだね。

 

頭の中に何が見えて来る……。大きな木…楠か?その木の根元に何か……鳥居かな、これ。小さな祠が立っている。その左右には狛犬らしき物もあるな。森の中の小さな祠……これが、八重の記憶の中にあったイーシェンの風景か。

 

 

「よし、見えた」

 

 

目を開いて正面の八重と見つめ合う。何だか、変な気持ちになるな……他人の記憶を共有するってのは。まるで自分も『彼処に何回も訪れた』様な感覚がして来る。

 

 

「……颯樹さん?」

 

「わ、悪い…すぐ離れる」

 

 

ユミナからの周りを冷やす様な威圧に、ハッとして八重の手を離す。手を握ってずっと見つめ合っていた気恥しさからか、思わず僕と八重は顔を背けてしまう。

 

 

「イーシェンが見えたのなら【ゲート】を開いて欲しいのだけれど。良いかしら?」

 

 

くっ、だからそのニヤニヤした顔をやめろ言ってるでしょ!他人事みたいに偉っそうに!

 

先程脳裏に浮かび上がって来た、イーシェンの場所を再び思い浮かべて【ゲート】を開く。浮かび上がった光の門を潜ると、そこは森の中であり、八重から貰った記憶と寸分違い無い場所であった。

 

 

「間違いござらん。ここは拙者の生まれ故郷、イーシェンでござる。実家のあるハシバの外れ、鎮守の森の中でござるよ」

 

 

同じ様に【ゲート】を抜けて来た八重が、周りの風景を見渡して断言する。

 

東の果て、極東の国、神国イーシェン。僕らはそこに足を踏み入れた。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回からはいよいよ、アニメストーリー《第9章》へと突入します!どんな物語が紡がれるのか、とても楽しみですね♪

そしてご報告ですが……この「異世界はスマートフォンとともに。if」、ついにお気に入り登録者数が50件到達まで目前!私自身、ここまで沢山の方に読んでもらえてるんだな〜と涙が出そうになってしまいました……!その御礼の気持ちも兼ねまして、50件突破記念回を何処かで描こうかな〜と今画策中です。宜しければ活動報告かメッセージにでも構いませんので、ご提案をよろしくお願いします!(提案する際には、小説に載せる形にして貰えれば)


次回の更新は11月25日(月)の深夜0時です!……年内までにアニメストーリー終えられるかな、このペースで。少し心配になって来ました…。


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第27章:オエド、そして合戦へ。

一旦【ゲート】でベルファストの屋敷へ戻った後、エルゼの帰宅を待ってから、各自の準備を整えてイーシェンへと訪れる事にした。面子としては僕とユミナ、エルゼにリンゼ、八重とリーンの6人と琥珀とポーラである。

 

【ゲート】を抜けて鬱蒼とした森の中を、八重の先導で抜けて行く。そして麓に降り立つと、急に目の前の視界が開けた。

 

 

「おお〜、これは……」

 

 

眼下に望む景色を見た僕は、思わず口から声が漏れてしまう。小高い丘の上から見えたその景色には、街と水田が広がっていた。街の奥に建っているのは、見まごう事なき城である。ベルファストの様な西洋造りの物では無く、姫路城や大阪城と同じ様な日本式の建物である。若干小さくはあるけど……ね。

 

 

「ここが拙者の故郷、オエドでござる」

 

 

なるほど……ここは『江戸』ならぬ『オエド』なんだね。一目見た時、僕が時代劇とかで見る街の景色とは、だいぶ違う事がよく分かった。第一に彼処は城塞都市であり、街の周りを覆っている堀に被さる様に、白く高い壁が聳え立っている。城壁の上には歩哨が立ち、所々に点在する櫓には弓兵が控えてるんだそうで。

 

周りの水田の辺りには家が建ち並んでいるが、それはチラホラと見えるだけだ。しかし、それはお城に近付くに連れて密集している様にも見える。

 

 

「実際に来てみると、そこまで大きくないね」

 

「ベルファストよりは、そこまで無いでござるな。一応国王は居るのでござるが、実際には自由勝手にしているだけでござるよ」

 

「……?もしかして…」

 

 

僕は思い当たった事を、八重へと質問して見る。すると案の定な答えが返って来た。イーシェンは九人の領主が領地を収めて、その領主が国王としての権限を得ているのだそうだ。九人の領主と言うのは……島津、毛利、長宗我部、羽柴、織田、武田、徳川、上杉、伊達の事らしく……。…ま、マジで?ここって、安土桃山時代後期~江戸時代の辺りか(最初に『ここって、安土桃山時代かなんかなの!?』って予想してたよねキミ)!?

 

 

「ここ数年で目立った大戦は?」

 

「無いでござるな。ここ数十年、そんな戦いがあったとは聞いてないでござる」

 

 

八重の返答を貰いながら、僕たちはオエドの街中へと入る。彼女の実家があるオエドは、イーシェンの東に位置しており、徳川家の治める領地だ。そこそこ豊かであり、領民に優しい領主であるとの事で。

 

 

「それで?リーンが行きたい古代遺跡って、どういう遺跡なの?その場所は何処に?」

 

「場所は分からないわ。ただ《ニルヤの遺跡》としか知らないわね」

 

「《ニルヤの遺跡》…八重、知ってる?」

 

「ニルヤ…?聞いた事があるような、無いような……。父上なら知ってるやもしれませぬ」

 

 

僕たちは目指している古代遺跡の場所を、リーンに確認した。小さいとは言えど立派な国である訳で、当てずっぽう行き当たりばったりで探す訳には行かない。

 

そんな事を話しながら、八重の先導で街へと歩いて行く。大きな堀に渡された木製の橋を渡り、城壁の中へと入って行った。街中に入ると、そこは限り無く和風に近い世界であった。建物は殆どが木製の平屋建てで、屋根には瓦が付けられ、障子の貼られた戸に、店には暖簾が掛かっている(書かれてた文字は日本語では無かったけど)。

 

行き交う人も侍姿に着物姿、町人の様な者も居れば、着流しの素浪人まで居た。但し共通する事としては、皆が髪を後ろで一つに結っている事だろうか。

 

 

「うわあ、何アレ?人が何か担いでるわよ?」

 

「ああ、それは『駕篭屋』って言って、お金を払う事で利用できる乗り物なんだよ。辻馬車の代わりだね」

 

「…なんでわざわざ、人が運ぶんですか?馬車の方が楽だし、速いのに……」

 

「うーんと、ここの地形的に急斜面の道とかが多いんだよ。それもあって、ベルファスト程は道が整備されて無いんだ。だからこの『駕篭屋』を使って目的地まで運んで貰うと言う訳。馬車でこう言う所を通ろうと思ったら、かなり大変だよ?」

 

 

エルゼから放たれた疑問に、僕は知っている限りの情報を開示して答える。後に聞かれたリンゼの質問には、元居た世界の地理を参照する事で、難なく答える事が出来た。その他にも下駄や火の見櫓に半鐘、風鈴などについても聞かれたが、前世の事を確り覚えていたからか、難なく回答することができた。

 

それを見た八重からは、感嘆の溜め息と共に小言を貰う羽目になった……。いや、ただ覚えてただけだよ!?

 

 

「……それにしても、街の人の様子がおかしいね。まるで何かに怯えてるかの様に」

 

「本当ですね…。何かあったのでしょうか?」

 

 

何処か元気の無さそうな住人を片目に、僕たちは八重の行く後を付いて行く。八重の案内で神社の鳥居を横切って、竹林の道を抜けると、開けた場所に塀で囲まれた大きな屋敷が現れた。

 

【九重真鳴流剣術道場 九曜館】と書かれた大きな看板が下がる門を潜り、その家の玄関に着くと、八重は声を張り上げた。

 

 

「誰か居るか!」

 

 

八重が声を張り上げてから暫くした頃、奥からバタバタと、誰かが足音を立てて近付いて来た。その人物は二十代を越えた位で、黒い髪を後ろで一つに結っている女性(女中さん)だ。

 

 

「はいはい、只今……まあ、八重様!」

 

「綾音!久しいな!」

 

「お帰りなさいまし、八重様!七重様、八重様がお戻りになられました!」

 

 

八重の手を握って再会を喜んでいた綾音さんは、八重の帰宅を屋内に報せる様に、奥に向けて声を掛ける。すると再びバタバタと足音が聞こえ、三十代後半だろうか、薄紫の着物を着た優しそうな女性が姿を見せた。……何処か八重に似てるな…。

 

 

「母上!只今帰りました!」

 

「八重…よくぞ無事で……お帰りなさい」

 

 

やっぱり八重のお母さんだったか〜。久しぶりの再会に、母は娘を確りと抱き寄せる。その母の眼には薄らと涙が光っていた。

 

一頻り感慨に耽っていた後、七重さんは僕たちの方を見始めた。……まあ、誰でもそうなるわな。

 

 

「八重、此方の方たちは?」

 

「あ、拙者の仲間たちです。大変お世話になっている人たちでござるよ」

 

「まあまあ、それはそれは……。娘がお世話になりまして、ありがとう存じます」

 

「別に大した事ではありませんよ。此方も彼女にはお世話になりっぱなしです。どうか顔を上げてください」

 

 

床に座って深々と頭を下げる七重さんに、僕らは『気にしなくていい』と言う旨の返事を返す。子を想う母心と言う物だろうか、その姿勢から七重さんの気持ちが伝わって来るようだった。

 

 

「ときに母上、父上は何方でござるか?城の方にでも?」

 

「「……」」

 

 

八重から放たれた質問に、綾音さんと七重さんは顔を気まずそうに俯かせてしまった。そして重々しく口を開き、七重さんは事実を告げる様に言葉を紡ぎ出す。

 

 

「父上は此処には居ません。殿…家泰様と共に合戦場へと向かいました」

 

「合戦ですと!?」

 

 

衝撃の事実を聞いた八重は、驚きのあまりに声を荒らげて母親を凝視する。合戦とはまた物騒な……。一応イーシェンは国王の元で纏まってたんじゃ?

 

 

「横槍失礼します」

 

「貴方は?」

 

「八重の仲間の一人で、盛谷 颯樹と言います。早速ですが、一体何処と合戦を?」

 

 

僕は八重と七重さんの会話に割って入った。それを見た七重さんは僕の事を誰何し、僕は最低限の自己紹介に留めて返答する。

 

僕の放った疑問には七重さんでは無く、綾音さんが答えてくれる形となった。

 

 

「武田です。数日前、北西のカツヌマを奇襲をかけて落とし、今はその先のカワゴエに向かって進軍しつつあるとの事です。それを食い止める為に、旦那様と重太郎様がカワゴエの砦に向かいました」

 

「兄上も戦場へ向かわれたのか……。しかし、分からぬ。武田は何故そんな侵略を始めたのか…。武田領主の真玄殿が、その様な愚を犯すとも思えぬが……」

 

「最近、武田の領主に妙な軍師が就いたとの事です。山本某と言う者だそうで。色黒隻眼で不思議な魔法を使う人物だとか……その者に妙な事を吹き込まれたやもしれませぬ」

 

 

七重さんの言ってのけた言葉に、僕は少し状況を整理していた。……『武田』で『軍師』って言ったら、山本勘助だよな、武田二十四将の一角で。七重さんの話通りなら、何だか怪しい魔法使いになってるけど。……まあ、こっちの人物と一緒にしちゃ行けないよね。共通してる部分もあるかもだが。

 

 

「それで戦況はどうなの?」

 

 

それまで黙っていたリーンが問い掛ける。足元に居るポーラは首を小さく傾げており、ふっと見たら琥珀もポーラと同じポーズを取っていた。可愛い……では無くて!

 

 

「何分にも急な事だったので、充分な戦力を集められず、このままではカワゴエの砦が落とされるのも時間の問題だと言う噂です」

 

「それでは父上や兄上は……!」

 

 

綾音さんの口から漏れた状況に、八重が愕然とする。しかし、直ぐにその眼からは不安や怯えの色が消え、燃える様な決意の色が現れた。八重が大切な家族に迫る危機を、黙って傍観している様な女の子じゃない事は、僕らがよく知っている。

 

直ぐ様立ち直った八重は、真っ先に僕に在る事を告げて来た。それはこの状況では頼りになる一言だった!

 

 

「颯樹殿!カワゴエの砦の近くの峠なら、拙者、行った事があるでござる!どうか……!」

 

「助かった!元からそのつもりだったけど、行った事があるなら話が早い!」

 

「颯樹殿……!」

 

 

僕は八重の手を握り、ハッキリと自分の意見を述べる。皆の方を見てみると、エルゼもリンゼもユミナも、揃って同意見みたいだ。……あとはリーンだけだが…。

 

 

「まさか戦場に行く事になるとはね……。ま、気持ちはわかるから、私も付き合うわ」

 

 

肩を竦めて小さくリーンが笑う。そしてその横のポーラに至っては『何処からでも掛かって来い!』と言わんばかりに、シャドーボクシングを始めていた。皆もやる気十分って、所かな!

 

僕は八重の手を握って、額を合わせて【リコール】を発動させる。……なるほどね。大きな一本杉が立っていて、その奥には砦があるのか。あの砦が『カワゴエの砦』なんだね。

 

 

「OK、ありがとう」

 

「颯樹殿!【ゲート】を!」

 

「ん、了解!【ゲート】」

 

 

八重の手を離した僕は、直ぐ様転移魔法の【ゲート】を玄関前に発動させる。真っ先に八重が飛び込み、エルゼたちも次々と【ゲート】に入って、移動をして行く。

 

その光景を呆然と眺めている九重家の二人に、最後に残った僕が声を掛ける。

 

 

「必ずご主人と八重のお兄さんを、連れて帰って来ます。皆で無事に戻って来ますので」

 

「颯樹殿、貴方は一体……」

 

 

七重さんの問い掛けに何と返していいか分からず、僕はカワゴエへの【ゲート】を通り抜けた。戦場に行くのは初めてだけど、気張りますか!




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はカワゴエの砦での戦闘シーンが中心となります!戦闘シーンはそこまで長くしないつもりなので、読むのには苦労はしないと思いますよ?

その後のお話では【インビジブル】の初披露や、水着回に『庭園』を見つける話……etc.....がありますので、是非とも楽しみにして貰えれば(水着回は特に力を入れて描く所存です)!


それではまた次回!次の投稿日は11月29日(金)深夜0時となります!

─────────【追記】─────────

オリジナル話の内容募集の活動報告を、先日土曜日に出させて頂きました!今は『お気に入り登録者数50件突破記念回』の内容のみを募集してますが、アニメストーリー終了後のシーズンからは、所々でオリジナル話を挿し込むつもりです!

ですので、内容提案のご協力を宜しくお願いします(提案の際には、注意事項をよく読まれて下さいね)♪


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第28章:鬼の傀儡、そして全体回復。

「な、何だありゃ……」

 

「此処が『カワゴエの砦』の近くでござる」

 

 

僕たちが【ゲート】を抜けて降り立ったのは、黒煙を上げて攻められている砦の近くだった。直ぐ様【ロングセンス】を使って、視覚を砦の方へと飛ばした。幸いにも迫り来る敵兵は防げている様だが、至る所から火の手が上がっていて、消化と迫り来る敵の撃退に手を焼いているみたいだ。

 

絶える事無く火矢が周囲を飛び交い、その隙間隙間を使って、砦をよじ登ろうとしている敵兵も幾つか見える。僕はスマホを取り出して、マップアプリで〘八重のお兄さん〙と検索する。……居た。砦の中、城壁の手前で左右に動いている。どうやら無事みたいだね。

 

 

「お兄さんの方は無事を確認したよ。……問題はお父さんの方だね。安否不明だよ」

 

「っ!早く砦に向かわないと……!」

 

「待ちなさい。貴女、あの中に飛び込んで無事で居られると思ってるの?」

 

 

直ぐにでも砦へと駆け出そうとした八重を、リーンが止める。砦の壁の前には沢山の敵兵が居り、近寄るのは容易では無さそうだ。……けど、方法が無い訳では無いんだよ?

 

 

「僕が【ロングセンス】で1km先を確認して、その後に【ゲート】で跳ぶ。これを繰り返せば、砦の中へと入れるよ。皆で行って下手に目立つよりも、まずは僕一人で行って来る。異常がない事を確認してから、改めて【ゲート】を開くよ。それまで待ってて欲しい」

 

「なるほどね。それなら確実だわ」

 

 

リーンが顎に手をやり、うーんと考え込む。あれ?そういえば……と思って、リーンに聞いてみたが、背中の羽根は有翼人とは違って退化してしまって、少し浮くぐらいしか出来ないんだとか。……残念。

 

僕はユミナ達から少し離れた後、魔法を発動させる態勢に入る。

 

 

「琥珀。皆を頼むよ。何かあったら直ぐ報告」

 

『分かりました』

 

「!?この子、喋るの!?」

 

 

リーンが僕に返事をした琥珀に、驚いて目を丸くしていた。……ありゃ?言ってなかったっけか?ミスミドの関係者にバラすのは不味かった?まあ、僕の能力についても黙っててくれるみたいだし、大丈夫じゃないかな〜とは思うんだけどね。

 

【ロングセンス】を展開して、1km先を視認する。……まずはあの辺りなら大丈夫かな。砦の手前にある林の中に【ゲート】を開く。

 

 

「じゃあ行って来る」

 

「お気をつけて」

 

 

ユミナの心配そうな声を背に受け、僕は【ゲート】を抜けて林の中に転移する。戦場特有の雄叫びや怒号が飛び交い、尋常ではない空気が漂っていた。焦げ臭さに混じって血の匂いまで漂って来る。……あんまりグズグズしては居られないね。

 

目の前の砦を見上げ、此処からどう跳ぶかを少し考える。あと2回ほど【ロングセンス】と【ゲート】を使えば城の中に入れるが、出来れば敵兵に見付からずに転移したいわなぁ……。

 

 

「【ロングセンス】」

(……あちゃー、何処も彼処(かしこ)も敵だらけ。ふぅ、仕方ない……こうなったら!比較的敵の少ない所に転移して、その辺りを完全に抑えてから【ゲート】を繋いで砦の中に入るか)

 

 

暫く視点を切り替えながら、比較的敵兵が少ない所を探す。……見つけた。彼処に転移して、目の前に居る弓兵を二人倒せたら、少しは時間を稼げそうだね。

 

 

「【リロード】」

 

 

右腰にあるレミントン・ニューモデルアーミーには【パラライズ】を付与したゴム弾を、腰の後ろにある剣銃ブリュンヒルドには実弾を込める。……まあ、これは相手が魔法に対する護符を持っていた時の対策と言う事で。

 

 

「……よし!【ゲート】!」

 

 

僕は先程【ロングセンス】で視認した場所に【ゲート】を開いて転移する。そのまま銃を構えて狙いを定め、二人の背後を目掛けて麻痺弾を連続で撃ち込む。そしてその二人はゆっくりと倒れ込む。

 

 

(うわぁ……なんか、卑怯臭い気が……ん?)

 

 

倒れ込んだ二人を見ると、麻痺する事無くムクリと立ち上がった!う、嘘でしょう!?しかも鞘から刀を抜いて戦闘態勢だし!……って、何あれ!

 

僕が驚いたのは相手の魔法抵抗の高さでは無く、相手の異様な姿だった。日本風の鎧兜に身を包んで、手には刀を握っている。……とまあ、そこまでは良いのだが……問題はその後だ。鬼の仮面を付けていて、鎧の中が紅く光る様に発光?していたのだ。

 

 

「……だったら……これだ!」ドンッ!

 

 

相手に麻痺弾が効かない事が解った僕は、剣銃を腰から引き抜く。そして相手の弓兵一人の足を目掛けて、ブリュンヒルドの引き金を引く。……出来れば殺したくないんだけどね。

 

と思った僕を他所に、足を撃たれた筈の弓兵は躊躇いも無く手に持った刀を振り被って、僕に襲いかかって来た!危な!

 

 

「仕方ない……【スリップ】!」

 

 

兵士の足下の摩擦係数が0になり、バランスを崩して転倒する。……よし!スリップ有能!その隙に刀を持つ手を左足で勢い良く踏み付け、右足で思い切り顔面を蹴り飛ばす。仮面が砕け散り、それっきりその兵士は襲って来なかった。

 

……マジで?コイツらって全員操られてんの!?ブリュンヒルドを左手に持ち替え、右手にニューモデルアーミーを再び抜き、刀を構えるもう一人の兵士の仮面にゴム弾を撃ち放った。

 

弾丸を叩き付けられた衝撃で仮面にヒビが入り、その後に真っ二つに砕け散る。地面に割れた仮面が落ちたと同時に、そいつは膝から崩れ落ちて倒れた。

 

 

「何なんだコイツらは……って、うわっ!何か血腥(ちなまぐさ)いし!もしかして……既に死んでたとか言う、そんなオチですか?」

 

 

もし『あの仮面が死体を操る為の道具で、それを使って死んだ兵士たちを再び立ち上がらせた』と言うのであれば、この状況も納得が行く。実際に銃弾を撃ち込んだヤツや、今倒れているヤツからも血があまり流れていないのだから。

 

 

「もしかして……死体を操る死霊術師(ネクロマンサー)とか居たり?……有り得そうで怖いんだけど。……取り敢えず、砦の方へと向かおうか」

 

 

思わぬ光景に身震いを覚えた僕は、再び【ロングセンス】で砦の中に視覚を飛ばす。敵だと思って斬り掛かられたら大変だからね。八重のお兄さんを探して、この状況を説明するのが先か。

 

えーっと?……居た居た、この人かな?黒髪に黒目で、右頬に刀の傷跡。黒い鎧を着込んでいて、穏やかそうだが身のこなしは只者では無さそうだ。身体中に返り血を浴びながらも、厳しい檄を飛ばしている。

 

 

「【ゲート】」

 

 

いきなり目の前に現れたら、驚いて斬り掛かられるかもなので……【ゲート】が開いた状態を保ちつつ、少し間を開けよう。向こうでは光の扉が開いた状態になってるから、それからゆっくりと姿を見せようかな。

 

僕は砦の中に開いた【ゲート】を潜り抜け、八重のお兄さんの目の前へと転移する。

 

 

「ッ!何者だ!?武田の手の者か!?」

 

「わわっ!待って下さい!敵じゃないです!……えーっと、貴方が九重八重のお兄さん、九重重太郎さんでお間違い無いですか?」

 

「確かに私は重太郎だが…。なぜ八重を知っている…?」

 

 

僕が現れた途端に刀を構え、八重のお兄さん……重太郎さんが誰何してくる。周りの兵士たちも、重太郎さんと同じ様に一斉に刀を向けて来た。わわっ!いきなりは怖いですって!

 

咄嗟に手を翳して、敵意が無い事を伝えた僕から、八重の名前が出て来た事に、重太郎さんは訝しげな視線を向けて来た。

 

 

「僕はベルファストと言う国で、八重と知り合った彼女の仲間です。お兄さんに危機が迫っている事を聞き、助けに来たと言う次第です」

 

「八重の!?」

 

「はい、彼女も近くに来ています。今から僕が転移魔法で呼びますが、構いませんか?」

 

 

ザワザワと周りの兵士が、重太郎さんに視線を向ける。「八重殿?」「八重殿が此処に?」と言う声が聞こえる事から、道場の門下生たちかな?と察せてしまう。

 

やがて重太郎さんが刀を降ろし、ゆっくりと頷いて肯定の意を見せた。

 

 

「じゃあ、呼びますね。【ゲート】」

 

 

僕が新たに開いた光の扉から、一人の少女が現れる。辺りを見渡して重太郎さんをその目に留めると、一目散に駆け寄りその胸に飛び込んだ。

 

 

「兄上!」

 

「八重……?本当に八重か?」

 

「はい!」

 

 

重太郎さんは八重が現れた事に対して、少し驚いていたものの……八重の身体を抱き寄せていた。兄妹が再会を喜んでいるのを横に、開かれた【ゲート】からは、ぞろぞろとエルゼ達が現れる。

 

そしてそれに気付いた重太郎さんは、八重へある事を質問するのだった。

 

 

「あの者たちは?」

 

「拙者の仲間たちでござるよ。みんな頼りになる者たちでござる」

 

(なんか、そう言われると照れるね……)

 

 

八重からの賛辞の言葉に、僕は少し顔を赤らめて居た。……いざ言われるとなると、嬉しいけど何か恥ずかしいなこれは……。

 

そんな状態の僕を他所に、八重はもう一人の家族の安否を確認し始めた。

 

 

「それよりも兄上、父上は?ご無事なのですか?」

 

「ああ、無事だから安心しなさい。父上は今家泰様の警護をしている。後で会うと良い」

 

 

父親を心配する妹に、優しく話し掛ける兄。……何だろ、戦場に居るってのに感動してくるわコレ……。それに絵になるよ、この人は。

 

……って、今はこの状況をどうにかしないと。怪我人が多数……重傷の兵士も居るだろうね。よし、これでやって見ますか。

 

 

「……〘徳川兵の怪我人〙で検索っと」

 

「?何をしているんだ、彼は」

 

「颯樹殿の十八番(おはこ)でござる。拙者も彼にはかなり助けられているんでござるよ」

 

 

僕はコートのポケットからスマホを取り出して、マップアプリの検索欄に〘徳川兵の怪我人〙と打ち込む。もしこれが〘怪我人〙と打ち込まれたら、敵である武田兵も含む事になるからね。右手の親指と人差し指を広げる様にして、砦全体を対象の範囲に入れる。……結構居るねこれは……。

 

対象の一つをタップすると、それに順応して全てのターゲットがロックされる。横を見ると、怪我をしている兵士の上に【マルチプル】の白い魔法陣が浮かび上がっている。最初のうちに【マルチプル】と【プログラム】はマップアプリに【エンチャント】してあるからね。楽チン楽チン♪……よし、準備OK!

 

 

「【光よ来たれ、安らかなる癒し、キュアヒール】」

 

 

魔法陣から柔らかな光の粒が降りて来る。やがてそれが怪我人を包み込むと、対象となった者たちの負っていた傷をみるみる塞ぎ、回復して行った。

 

暫くすると砦のあちらこちらから、喜ぶ様な歓声が上がり、目の前に居た怪我をしていた兵士も、不思議そうに立ち上がって身体を動かしていた。

 

 

「ちょっと……何したの?回復魔法をかけたのは分かったけど、まさか……」

 

「砦の怪我人全員を治したよ。初めての試みだったけど、成功して一安心だよ」

 

 

僕の言葉にリーンが呆れた様な視線を向けて来た。……ま、何となく言いたい事は分かりますよ。もし僕の立場が逆だったとしても、それは同じだろうからね。

 

何が起こったか分からない重太郎さんに、八重が説明を入れ、僕の方へと目を向けた。それを見た僕は重太郎さんへと伝言をする。

 

 

「あくまで《傷が塞がった》だけなので、あまり無茶をさせないで下さい。それと失った血は戻りませんので、それにも気を付けるようにと」

 

「あ、ああ、分かったよ。ちゃんと通達しておこう」

 

 

重太郎さんがまだ驚きから回復していない感じで、僕に返事を返して来る。取り敢えず……これで怪我人は何とかなったね。

 

……しかし、下がガチャガチャガチャガチャ煩わしいったらありゃしない。よし、こうなったら……一気に纏めて殲滅しよう。少々派手に暴れるかもだけど、そこら辺は勘弁ね!




今回はここまでです!如何でしたか?


次のお話の投稿日は、12月2日(月)深夜0時です!次回は、家泰との邂逅の話になります!しかし、実際の歴史と似た様な感じなので……すんなりとお話を読む事が出来ますね♪やっぱイセスマは最高ですね(//∇//)

〘お気に入り登録者数50件突破記念回〙の内容は、まだまだ募集しています!誰でも全然構いませんよ!活動報告を立ち上げてますので、其方にでも構いませんし……メッセージに送って貰っても結構!皆さんからの沢山のご提案、心よりお待ちしております!


最後に……私、最近〘はるにゃまん〙さんと絡み始めまして、その作者さんにも協力を依頼しています。その方は別サイト【小説家になろう】で活動してますので、是非ともこの機会に見に行って見ては?オススメします!

私的には「俺に友達が出来た途端に幼馴染とクラスの女子に後輩が迫ってきた!」がとてもオススメです!ハーメルンやTwitterでも活動してるので、ぜひ名前を覚えて下さいね!


今回も感想をお待ちしています!お気に入り登録、高評価も大歓迎ですよ♪


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第29章:光の雨、そして邂逅。

「ところで……敵兵の中に混じっている仮面を被った兵士は何者です?」

 

「分からない。あの兵士の顔に付いている仮面を破壊するまでは、槍で突こうが剣で切り裂こうが、何度も立ち上がって来るんだ」

 

 

僕は砦の開けた場所へと出て、眼下の戦場を見渡す。仮面を被った兵士は未だ砦へと侵攻を続けていて、徳川の兵はそれを迎え撃つので精一杯と言った感じだ。

 

 

「ふぅん……。何かの無属性魔法か、で無ければ《アーティファクト》かしらね」

 

「《アーティファクト》……魔法や古代の技術を使って造られた道具の事か」

 

「その通りよ。貴方の持ってるそれも、アーティファクトなんじゃないの?」

 

 

リーンに手に持っていたスマホを指差され、思わず苦笑いを浮かべて誤魔化す。……死体を操るコントローラーがあるとして、あの兵士の顔に付いている仮面は、命令を受け付けて受信する為の装置みたいな物かな。

 

……まあ、仮面を壊すしか対処法が無いし【パラライズ】も効かないみたいだし……ここは一気に殲滅した方が良いみたいだね。

 

 

「……殲滅以外有り得ませんね」

 

「……なんだって?」

 

 

不思議そうに重太郎さんが僕を見る横で、僕はスマホのマップアプリで〘仮面の武田兵〙と検索をかける。すると画面上の砦の周りにストトトトッとピンが落ちまくり、その一つをタップしたら全てのターゲットがロックされた。

 

そして戦場の上空には、照準を合わせた事を示す白い魔法陣【マルチプル】が無数に浮かんでいる。誰か何か言っているけど、こっちとしてはそんなの関係無いので。

 

 

「……!」

 

 

僕は左手を空に翳し、魔力を集中させて……呪文の詠唱と共に一気に解放させた!喰らえ!

 

 

「【光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン】!」

 

 

敵をロックオンした全ての魔法陣から、光の槍がまるで激しい雨を降らせるが如く、ターゲットへと照準を合わせて降り注いで行く。幾度と無く地響きが鳴り響き、土煙と光の粒が火花のように弾け飛ぶ。眩い光彩陸離の光の煌めきが、弾けては消え、弾けては消える。

 

やがて光の雨があがった後には、武田勢のほぼ半数以上が地に倒れ伏して動けなくなっていた。

 

 

「はい。仕上げに【パラライズ】をっと」

 

 

そのまま検索対象を〘武田兵〙と検索し直し、僕は【パラライズ】を発動させる。ほとんどの武田兵は痺れて動けなくなったが、一部は護符を持っていたお陰で助かったみたいだ。その護符で助かった兵士達は、自軍の異様な様を目撃するや否や一目散に逃げ出していた。

 

 

「ふぅ……とりま、これで完了かな」

 

「今のは……君が、やったのか……?」

 

 

しばらく唖然としていた砦の徳川兵だが、状況が把握出来てきた途端、皆一斉に勝鬨の雄叫びを上げた。その横では唖然とした顔で、重太郎さんが掠れる声でこちらに問い掛けて来る。

 

……まあ、無理も無いか。いきなりほとんどの武田兵が戦闘不能になり、それを見た残りが踵を返して逃げ去るって言うのは。普段なら見ない光景だからね〜。

 

 

「まあ、一応。騒がれるのは苦手なので、あまり言いふらさないで貰えると」

 

「わ、分かった……」

 

 

僕がそう答えると、傍に居たエルゼが腰に手を当てて、大きく息を吐いた。……また何か僕はやってしまったみたいで。状況が違ったら多分、僕も同じなんだろうね。

 

僕はやってしまった事の重大さと、微妙な空気を背に受けつつ眼下の状況を眺めているのだった……。

 

──────────────────────

 

「先ずは此度の助太刀、心から御礼申し上げる」

 

 

砦の天守閣(と言っても15畳程の板の間だけど)で、上座に座る恰幅の良さそうな、40代前半のちょび髭の男性が深々と頭を下げた。この人が徳川(とくがわ) 家泰(いえやす)……同じ読み方でも漢字が違うんだね……。

 

 

「いえ、此方に出向いたのは偶々の事です。どうかお気になさらぬ様に」

 

 

僕らの前に座って、家泰と対峙しているのはユミナだ。ベルファストの王女と言う立場を取り、あくまでも僕らは《ユミナの護衛》という事にした。その方が向こうにもわかり易いかと思ったが、毎度毎度の事ながらユミナの社交性には助けられてばかりだ。

 

八重はユミナの護衛の一人という事にした。その繋がりでここへ助太刀に来た、と言う形にしたのである。実際その通りなので、そこは何の不思議も無い。

 

 

「それにしても八重がユミナ姫の護衛とは……。驚いたぞ全く」

 

 

家泰の横に座っている、がっしりとした40代後半の偉丈夫が九重(ここのえ) 重兵衛(じゅうべえ)、八重の父親である。今は徳川家の剣術指南役を請け負っているみたいだ。その昔、王都のソードレック子爵家でも指南役をしていたと言っていた事から、ベルファストの事にも詳しいのだろう。

 

 

「して、其方の……我が砦を救ってくれた彼は……?」

 

「この方は盛谷颯樹さんと申しまして、私の護衛……と言うか未来の旦那様です♪」

 

 

家泰さんから問われた質問に、ユミナは確りと答えを返して行く。……その最後にはキャッ♪と頬を染めて、身を捩らせていたが……。……まあ、実際その通りだから何も言い返せんけどさ……。

 

ほぉ〜、と感心とも驚きとも取れる声を漏らす、領主と指南役。いやいや、その反応はどうな訳?

 

 

「いや、なるほど。ベルファスト王女の許婚(いいなずけ)であれば、あの偉業も納得できますな。実に素晴らしい」

 

「ええ、私もこの方を誇りに思いますわ」

 

 

家泰さんからの賞賛に、まるで自分の事の様に胸を張るユミナ。もうやめてくれんかな……正直居づらいんですが……。嬉しいのは確かだけどね///

 

 

「ところで一つお聞きしたいのですが《ニルヤの遺跡》なる場所をお知りでは無いでしょうか?我々はそこを目指してイーシェンへ来たのですが……」

 

「ニルヤ……?」

 

 

ふと放たれたユミナの問い掛けに、暫し考え込んでいた家泰さんだったが、やがて何かに思い当たったのか、膝をポンと叩いて答えた。

 

 

「ああ、《ニライカナイの遺産》があると言う遺跡の事ですな。私は詳しくは存じませぬが……。重兵衛はどうだ?」

 

「確か……ニルヤの遺跡は島津の領地にあったかと。しかし彼処は海の底ですぞ、入る事すらままならないと思いますが……」

 

 

海の底!?それって、海底遺跡って事!?んー、どうやってそこに行くんだろうか……。潮の満ち干きによって生じる陸路を通って入るとか?

 

まあ、何にしても行かないとわからないよね。とにかくその遺跡の場所は分かったんだから、いざそこに向けて出発─────とは行かないよね……。

 

 

「武田軍ですが、あれでこのまま引き下がると思いますか?」

 

「確かにまた態勢を整えて攻めて来るやもしれぬ。鬼面の兵士たちを更に増やし、大砲を持ち出して来るかも……」

 

 

僕が家泰さんにそう尋ねると、彼は腕を組んで唸り始めた。家泰さんとしては、またあの事態……更に言えば、そこからまた大きな被害が出るのでは?と危惧しているみたい。

 

ま、いくら兵士たちを仮面で仕立てあげても、さっきと同じように殲滅するだけだけど。大砲とかは少し面倒臭いけど、潰す事は出来なくは無いよね。

 

 

「しかし……此度の鬼面兵と言い、突然の侵略と言い、訳が分からぬ。武田の領主である真玄殿は、武田四天王と呼ばれる四人の武将を率いる猛者ではあるが、今回の戦いはどこか真玄殿らしくない様に思える。やはり、あの噂は本当なのだろうか……」

 

「え?何ですか、その噂」

 

 

ふと漏らした家泰さんの呟きに、今度は僕が聞き返してしまう。それに対して返答をしたのは、家泰さんでは無く、その傍に座る重兵衛さんだった。

 

 

「既に真玄殿は亡くなっていると言う噂だ。そしてその死体を操り、武田軍を意のままにしているのが、闇の軍師・山本完助だと」

 

「山本完助……ソイツが今回の元凶って訳か」

 

「あの鬼面兵を見ていると、有り得ない事じゃないわね。死体を操る事に特化した魔法、若しくはアーティファクト使いなのかもしれない」

 

 

重兵衛さんの話を聞いて、リーンが自らの考えを述べる。確かにあれ程の死体を動かせるなら、今の考察が正しいだろう。完助の目的は武田を乗っ取って、イーシェン統一をする事なのか……?

 

……という事はだよ?この事態をどうにかしない事には、僕たちは安心して出発出来ないって事じゃん。

 

 

「その山本完助を捕まえれば、全て一件落着ですかね?」

 

「それはそうかもしれんが……。あくまで真玄殿が亡くなっていると言うのは噂に過ぎないからな。それに完助は武田の本陣、ツツジガサキの館に篭って出て来ないらしい。まさかこっそりと忍び込んで捕らえる訳にも……」

 

 

確かにね〜。結局はそこなんだよな〜。僕はダメ元でリーンにある事を聞いて見たが、彼女曰く「光を迂回させて姿を見えなくしてるだけ」だとの事で、触れられたらバレるとの事で。……ん?姿を消せるなら、これが一番潜入する為に効率が良くないか?

 

まあ、敵にしても味方にしても、これ以上の被害は出したくない所だよね。

 

 

「潜入、する気ですか?」

 

「もちろん。本当に山本完助がこの騒動の黒幕だとしたら、抑えておく他無いからね。いざとなれば転移魔法の【ゲート】もあるし」

 

「それはそうですが……」

 

 

リンゼが此方の考えを読んだように口を開いた。僕を心配してくれてるんだろうけど、たぶん大丈夫……だと思う。いざとなれば【ゲート】で逃げれば問題無し。

 

 

「問題はそのツツジガサキまで、どうやって行くかなんだけど……八重は行った事がある?」

 

「いや、拙者はござらん。父上は?」

 

「ワシも無いが……それがどうかしたのか?」

 

「ツツジガサキに行った事がある者が居れば、颯樹殿の転移魔法で一瞬で移動出来るでござるよ」

 

「なんと……!」

 

 

驚いた様子の重兵衛さんと家泰さんが、再び僕の方に視線を向ける。……あんまり目立つのもどうだかなぁ〜。ま、用事が済めばイーシェンからは出るので、別にいいかなと割り切る事にした。

 

 

「ツツジガサキへの案内、私が務めましょう」

 

 

すると突然何処からとも無く、凛とした女性の声が響く。ここに居る誰のでも無い声だ。僕は咄嗟にニューモデルアーミーを抜き放ち、天守閣を周回する高欄付きの周り廊下に銃口を向けた。

 

 

「「誰だ!」」

 

 

……おっと、重兵衛さんと被ってしまったな……。僕と重兵衛さんが同時に誰何した直後、高欄付きの廻縁の影から一人の人物が姿を見せる。

 

うわぁお、忍者だ。一目見て直ぐに分かる黒装束だけど、真っ昼間からそれは流石に目立つんじゃ……?それで気付かなかった僕らも大概だが、ひょっとして何か認識を阻害させるための魔法を使ってるのだろうか。

 

顔を覆う黒い布を外すと、そこには顔立ちの整った美人さんが現れた。……これがくノ一って奴か?

 

 

「私は武田四天王が一人、高坂(こうさか) 政信(まさのぶ)様配下、椿(つばき)と申します。徳川家泰様宛の密書をお持ち致しました」

 

「何、高坂殿の!?」




今回はここまでです!如何でしたか?


投稿が遅くなって申し訳ないです!先週金曜日に睡眠検査を受けておりまして、退院したのが土曜日で……普段2日の時間を掛けて執筆する私にとって、かなりキツキツなスケジュールだった為に、この様な形となってしまいました!申し訳ないです!

ついに……来たる「異世界はスマートフォンとともに。⑲」の発売まで、1ヶ月を切りましたね!皆さんは特装版を手に入れる用意は出来ましたか!?恐らく発売日はかなりの人数が予想されますので、グロッキーになってしまわない様にお気を付けて!私も手に入れてきます♪お小遣いが買う為の金額に届きそうなので!


次回の投稿日は予定どおりに、12月6日(金)深夜0時です!明日にでも執筆を開始して、間に合うようにしたいと思います!今回は本当に申し訳ないです!


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第30章:密書、そして潜入開始。

「私は武田四天王が一人、高坂政信様配下、椿と申します。徳川家泰様宛の密書をお持ち致しました」

 

「何!?高坂殿の!?」

 

 

床に膝をついて、懐に入れてあった密書をその場に置くと、椿さんはそこから一歩下がった。仮にも先程まで刃を交えていた敵同士、油断してたら命取りになるからね。床に置かれた密書を椿さんから眼を逸らさずに、重兵衛さんが手に取って家泰さんに渡していた。

 

……僕?ああ、何か少しでもおかしな行動を取られた時の為に銃口を向けてますよ?そりゃ戦場ですから。

 

 

「殿。密書には何と?」

 

「どうやら噂は本当だったらしい。今や、武田軍は傀儡の軍と化している様だ」

 

「何ですと……!?」

 

 

厳しい表情の家泰さんの言葉を聞いた重兵衛さんは、驚きの余りに絶句してしまった。噂は本当だったか〜。これはいよいよ完助を何とかしないと、安心して出発できなさそうだ。

 

 

「真玄殿は既に亡くなっており、武田四天王も高坂殿以外、全て地下牢へ投獄されているらしい。何とか完助を止めて武田を救ってくれとある」

 

「高坂様は完助に従うフリをして、武田奪還を考えております」

 

 

椿さんが家泰さんの言葉に一言添える。どうやら完助は真玄が亡くなったのを隠蔽し、自らがその遺体を操る事で武田を手中に納めたらしい。それに気付いた四天王たちは投獄され、完助の考えに追従した(と、思わせた)高坂のみがその配下として行動……と言う訳か。

 

 

「正直に言えば、徳川は武田の為にそこまでする義理は無い。だが、このままでは完助の操る鬼面兵に徳川が殺られてしまうだろう。何とも情けない話だが、徳川を救うのも武田を救うのも……決定権は全てベルファストから来た客人たちにあると言う事だ」

 

「どうします、颯樹さん?」

 

 

家泰さんの神妙な面持ちから発せられた声に、僕は思わず背筋をピンと伸ばしてしまう。そしてそれを聞いたユミナは、何かを待っているかの様に僕に問い掛けて来た。……何言わせてんの。ここで引き下がる程、僕は薄情者ではありませんよってね!

 

 

「OK。ツツジガサキに潜入する。安心して《ニルヤの遺跡》へ出発したいからね」

 

「感謝します」

 

 

僕はユミナに自分の思いを告げる。それを聞いた椿さんが、僕に向けて頭を下げて来た。……ちょっと大袈裟な気がするんですけど……ま、良いか!

 

 

「と、なると……大人数で潜入するのは好ましく無いから、転移魔法が使える僕と、魔法に長けたリーン、そして武田内部の情勢に詳しい椿さんの3人で乗り込むのが最善だね」

 

「了解したわ」

 

「んー、いや。待て。万が一にって事があるし、何時でも入れる様に……ユミナ!」

 

「は、はい!」

 

 

本来ならば先程言った3人で乗り込むのが最善だろうけど……僕にはちょっとした懸念があるんだよね〜。椿さんは良いにしても、問題は……あの妖精娘(リーン)なんだよなぁと思いつつ。

 

 

「本来ならば、護衛する人物を将軍の下に預けて置いて様子を見るのが正解なんだけど……」

 

「はい」

 

「……リーンが何やら起こさんとも限らないから、念の為にユミナに付いてて欲しいんだ。大丈夫?」

 

「任せて下さい」

 

 

僕はユミナに耳打ちでそう伝える。僕が離れた直後、ユミナの顔がほんのりと紅くなっていたのだが……此処は戦場である為に、変な誤解を生まないように素知らぬ顔をして切り抜けた。

 

……あ、ポーラはもちろんお留守番だ。そう言うと何故か『ムキーッ!』って表情をしながら地団駄を踏んでいた。凄いな、この【プログラム】って。

 

 

「……颯樹、今何か私に対してすっごく失礼な事を考えたわね?」

 

「さあ?そこら辺は君の想像に任せるよ」

 

「……まさか、今から忍び込むつもり?夜になるのを待ってからの方が良いんじゃない?」

 

 

リーンとの痴話喧嘩(?)を終えた後、エルゼから仲裁が入った。……それもそうだ。エルゼにお礼を言った後、僕たちは重兵衛さんと重太郎さんの無事を伝えに、一度道場へと戻り、その後にベルファストの自宅へと戻った。今回は向こうで一泊する事を伝える為だ。

 

オエドからお酒や食料、矢や油などの消耗品を【ストレージ】で収納し、砦へと運ぶのを頼まれたりもした。まあ、別に疲れる訳では無いし……家泰さんからその代金も頂いたからね。結構貰ってしまったな……。いっその事、宅配会社でも作ってみるか……?そう思いながら過ごしていると、あっと言う間に夜になった。

 

──────────────────────

 

「それじゃあ椿さん、ツツジガサキの館が見える場所を思い浮かべて下さい。成る可く人の少ない所をお願いします」

 

「分かりました」

 

 

僕は目を瞑っている椿さんの手を握る。椿さんは背が高くて僕と同じ位なので、八重の様に屈む必要は無かった。……なんか、知ってる人と手を握るだけでも恥ずかしいのに、知らない人と手を握るって……この上ない恥ずかしさが込み上げて来るなぁ……。

 

……なんて思ってた矢先、魔力を集中している傍らでウチの女性陣が此方(主に僕の方)を刺すような目つきで睨んでいた……。ちょっとちょっとちょっとちょっとちょっと!物凄く怖いんですけど!特にユミナとリンゼ!貴女方の視線がガチに堪えるんですってば!目のハイライトが仕事して無いから!

 

……さっさと終わらせよう。その方が身のためな気がする。

 

 

「【リコール】」

 

 

魔力を集中させて、互いに額を合わせる。ぼんやりと複数の塀に囲まれた館と、それを取り巻く様に並び立つ城下町が浮かんで来た。……なるほど、ここが武田の本拠地であるツツジガサキか。

 

 

「【ゲート】」

 

「……じゃあ、行って来る。琥珀、何かあったら連絡よろしく」

 

《分かりました》

 

 

【リコール】で記憶を回収した僕は、椿さんから離れてツツジガサキへ向かう【ゲート】を、天守閣の中で開く。琥珀は僕と念話を通じて連絡できるから、何かあっても直ぐに駆け付けられる様にして置く。

 

開いた【ゲート】に先ずリーンが飛び込み、その後に椿さん、ユミナと続いて僕が飛び込んだ。

 

 

「ここが……ツツジガサキ?」

 

「……はい。皆様、前方の少し上をご覧下さい」

 

 

椿さんにそう言われて、僕とユミナにリーンは言われた方に眼を向ける。その方向には僅かに松明が点っており、完全に陽も落ちた暗闇の中で異様な存在感を示していた。恐らくアレが武田の本陣である、ツツジガサキの館なのだろう。

 

 

「あそこに潜入するのか……」

 

 

取り敢えず【ロングセンス】を展開し、視覚を飛ばす事にした。堀に囲まれた中で幾つかの橋があり、当然の事ながら城門は閉鎖されていた。門の前には鎧兜で武装した屈強な男たちが、槍を持って待ち構えている。

 

さらにその門の先へ視覚を飛ばすと、迷路の様に白い塀が続いて、その横手には井戸があった。そこから少し離れた所に隠れるにはうってつけの場所があった。あったは良いのだが……。

 

 

「……これってさ、敵が転移魔法による襲撃を予想しての事なのかな」

 

「どういう事です?」

 

「もしだよ?敵の中に転移魔法使いが居るとして、戦争をする際に『相手の中に転移魔法使いが居る』と言う事を伝え損ねる物かな?」

 

「……有り得なくは無いわね」

 

 

【ロングセンス】で目に映った護符を、リーン達3人に説明する。するとユミナが問い掛けて来たが、僕はある仮説を以て解答する。そう言えば確かオルトリンデ公爵が「【ゲート】は簡単な結界で侵入を防げる」と言っていたな。その影響だと考えれば、この状況にも合点が行くか。

 

 

「恐らく完助の手の者による物でしょう。私だけなら《高坂様の使い》と偽って中に入る事が可能ですから、その護符とやらを破壊して来ます」

 

「やめときなさい。結界を壊せば、それを仕掛けた本人に気付かれる可能性が高いわ。誰が壊したかまでは分からなくても、警戒されるのはあまり得策じゃないわよ」

 

「では、どうするので?」

 

 

屋敷へと歩き出そうとした椿さんを、リーンが引き留めて忠告する。それを聞いた椿さんは、逆にリーンに疑問を問いかけて来た。

 

ここはやはり、あれを使うしか無いかな〜。

 

 

「リーン、確か……君の背に生えてる羽根ってさ【インビジブル】の効果で、他人から認識を阻害させてるんだっけ」

 

「ええ。そうよ」

 

「じゃあさ、その【インビジブル】の魔法を使って、武田兵の眼を掻い潜りながら潜入するってのは?」

 

「なるほど……そうしたら、容易く潜入できるわね。じゃあ私の正面に立ってくれる?」

 

 

僕が投げ掛けた疑問に、最初は驚いた表情をしていたリーンだったが、少しずつ僕の意図を理解して行くにつれて、彼女は納得の表情を浮かべた。

 

そして僕とユミナがリーンの正面に立ち、僕とユミナに手を翳して魔力を練り始めると、僕とユミナにリーンの立っていた足元に魔法陣が現れた。

 

 

「【光よ歪め、屈曲の先導、インビジブル】」

 

 

リーンが魔法の口上を詠唱し終えると、足元の魔法陣が上昇して僕らの身体を通過する。その魔法陣が頭の天辺まで通過すると、静かにそれは消えた。

 

 

「消えた……」

 

「大丈夫ですよ、椿さん。僕はここに居ます」

 

「え?」

 

 

僕は椿さんにそう言って、近くにあった木を揺らす。それと僕の無事な声を聞けたのか、彼女も少し安心した様子だ。

 

……と思ったら、僕の横をチョローっと通り過ぎる音がした。それを察した僕とユミナは、その人物に声を掛けて見た。

 

 

「「リーン(さん)、一体何をするつもり(ですか)?」」

 

「……バ、バレた?」

 

「なるほど。颯樹さんが私を呼んだのは、この事があると予感していたからなんですね?」

 

「んー、まあそんな感じかな。リーンには【リコール】の時の仕返しがまだだったし」

 

 

僕とユミナが発した異様な冷たさと声に、リーンは多少のぎこちなさを見せながら答えた。その頬からは冷や汗が伝っており、予想外という反応を見せた。どうやら彼女は姿が見えないのをイイことに、何やら悪戯をするつもりだったらしい。……ま、僕とユミナが居る限りそんな事は是が非でも防ぐけど。

 

 

「申し訳ないです……後でキツく叱っときますので、大目に見てやって下さい」

 

「わ、分かりました」

 

 

姿を消したまま僕が謝った事で、それを聞いた椿さんの表情が引き攣った物になっていた……。それにしても、初っ端からこんな事をするなんて……、あんのドS妖精娘は……。

 

僕とユミナはここから先の潜入に、一抹どころか物凄い不安を胸中に感じるのだった。




今回はここまでです!如何でしたか?


次のお話では……武田四天王が登場します!そしてその後には戦闘シーンも加える予定ですよ♪原作とは違って今回はユミナが一緒に居ますが、どの様な戦いになるのかとても楽しみですね♪

そして待望の水着回まで、あと5話近くになって来ました!こんな寒い時期にやるのも、何だか季節外れな話かもですが……そこら辺は大目に見てやって下さいm(_ _)m(何時もの事なので、特に気にはしてませんが)


次回の投稿日は12月9日(月)深夜0時です!これからも頑張って参りますので、応援の程を切によろしくお願いします(≧∇≦)/

今回も感想を是非!皆さんからの高評価やお気に入り登録、感想が私の励み(モチベーション)となります!どしどし送って来て下さいね!お待ちしております♪


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第31章:武田四天王、そして黒幕。

「高坂様からの使いだ。通して頂きたい」

 

「確かに。暫しお待ちを」

 

 

椿さんが手にした鑑札を見て、門番の二人が重々しい門をゆっくりと開けた。……あっ、通用口とか無いのねここ。

 

開かれた扉の間から、素早く姿を消した僕とユミナにリーンが入り込む。その後から椿さんが門を通ると、再び重々しい音を立てて扉が閉まった。……一先ず作戦の第一段階は成功と見て良いかな。

 

 

「ところでリーン。この認識阻害の魔法は、結界とかで無効化されたりしないの?」

 

「結界は、基本的にそこに干渉しようとする魔力を弾く効果があるんだけど、【インビジブル】の魔法が干渉してるのは、私たちだから問題無いわ」

 

「じゃあ、結界内から【ゲート】で転移する事も出来るって訳だ」

 

「ご明察」

 

 

なるほど……じゃあ、投獄されている武田四天王の残り三人を【ゲート】で出す事は出来る訳だ。結局の所【ゲート】って、干渉するのは目的地だけだからね。その中には転移する者自身は含まれないって事だ。

 

……もしその三人を味方に付けて、一緒に戦ってくれるなら百人力だからね♪その事を椿さんに提案すると、直ぐに賛同してくれた。

 

 

「地下牢はこっちです」

 

 

椿さんの後を追い掛けて、僕たちは月の無い闇夜を駆け抜けて行く。……今更だけどさ、なんかこう言うのってすっごくワクワクしてくる!

 

館の西、曲輪の端に建つ家屋の中に地下牢は存在していた。流石にこの中には鑑札を持った椿さんと言えど、入る事は許されないので……リーンに【インビジブル】を掛けてもらい、4人とも他人からの視覚による認識を逸らし、その中へと潜入した。

 

 

「……ここが地下牢…。なんか息苦しいな……」

 

「何処の地下牢も同じはずよ。たぶんそのお姫様と婚約すれば、罪人をここに放り込める立場になるわ。よく味わって置きなさい?」

 

 

僕がふと漏らした感想に、リーンが返答する。……えっと、僕ユミナと結婚するつもりでは居るけど、ベルファスト国王になる気は無いからね?

 

中で待機している番人の所を通り抜け、石と木で出来た座敷牢の辺りまで来ると、白髪交じりの長い髭を生やした一人の巨漢な男性が、目を閉じて座禅を組んでいるのが見えた。

 

 

(うわぁ……すごい集中力。僕も精神統一の為に正座をして目を閉じる事はあるけど、あの人はそれ以上に集中してる……何時か真似してみようかな)

 

「誰だ」

 

 

僕が心の中でその男性を褒めていると、僕たちの事を気配で察したかの様に声を発した。……え?嘘。この人は座禅を組んだままで気付いたの!?認識を阻害させる魔法を掛けてるのに!

 

 

「馬場様、椿です。高坂様の命にて助けに参りました。内藤様と山県様は何方に?」

 

「高坂の…?ふん、やはり彼奴が完助の軍門に下ったは偽りであったか。全く食えぬ奴よ。内藤と山県は奥の牢に居る。それよりも好い加減に姿を見せぬか」

 

 

そう言うと口の端を吊り上げて、武田四天王の一人である武将……馬場信晴がニヤリと笑った。あー、これはもうバラした方が良さげな雰囲気で?

 

リーンが【インビジブル】の魔法を解くと、馬場さんは片眉を上げて僕らを眺めた。いきなり見知らぬ人物が視界に入ったのが、少しびっくりしたのかな……。気持ちは分からんでもないが。

 

 

「その三人は誰だ?見た事が無いが」

 

「こちらは徳川殿の客人で、盛谷颯樹殿とリーン殿、ユミナ・エルネア・ベルファスト殿です。ユミナ殿はベルファスト王国王女であり、盛谷殿は徳川に攻め込んだ鬼面兵一万五千を一人で打ち倒した程の実力者です」

 

「何だと!?」

 

 

馬場さんの眼が驚きによって見開かれる。……あの鬼面兵は一万五千も居た訳?そりゃあマップがターゲットを示すピンで一杯になるはずだわ。

 

馬場さんが信じられないと言った感じの目で、僕を見て来るが……取り敢えずこの牢を何とかしないとな。

 

 

「【モデリング】」

 

 

座敷牢の格子になってる木を変形させ、人が一人通れるくらいの穴を【モデリング】で作り出す。その出口の穴は一分程で完成し、易々と馬場さんはその穴から出て来た。

 

……改めて見ると、迫力が凄いなぁ……。八重のご家族(男性)や将軍と会った時もそうだけど、数々の修羅場を潜り抜けて来た猛者って感じがするよ……。

 

 

「随分と不思議な事が出来るんだな、小僧」

 

「……颯樹さんの侮辱は許しませんよ?」

 

 

小僧って……。確かに貴方から見れば、僕はまだ小僧でしょうけどさ〜。その言葉を聞いたユミナがキッツイ眼で馬場さんを睨んでるし、敢えて言わんが……その隣の妖精娘に至っては歳上だからね!?貴方よりもずっとずっとですよ!?

 

口の悪い馬場さんを連れて、更に奥の座敷牢へと進む。穏やかな昼行灯と言った感じの男性が右手の座敷牢に、全身傷だらけで如何にも《歴戦の勇士》と言わんばかりの男性が左手の座敷牢に居た。

 

 

「おお、馬場殿。お元気そうで何より」

 

「なんか面白そうな事になってるみたいだな、馬場殿。暴れるんなら俺も混ぜてくれや」

 

 

にこやかな男性がそう言ったかと思えば、傷だらけの男性は『暴れさせろ』と言う感じを匂わせて、こちらに近寄って馬場さんにそう伝えた。

 

馬場さんは二人の姿を見ると、溜め息を着くなりこう言い放った。

 

 

「内藤、お前はもうちょっと危機感を持てや。何時もニコニコ緩んだ顔をしやがって。逆に山県、お前はもうちょっと考えろ。何でも彼んでも戦えば良いってもんじゃないぞ」

 

 

なるほどね〜。右手の座敷牢に居るにこやかな顔の男性が『内藤 正豊』で、左手の座敷牢に居る歴戦の勇士が『山県 政景』なんだね。確かに二人の姿を見ていたら、僕もさっきの馬場さんと同じ事を言いそうだ。

 

 

「小僧、悪いが此奴らも出してやってくれや」

 

「了解です。……あと、小僧はやめてください。僕には『盛谷 颯樹』と言う名前があるんですから。椿さんも言ってたでしょうに」

 

「一応その子、ベルファストの次期国王候補だから、口の利き方には気を付けた方が良いわよ?」

 

 

ムスッとした顔で訂正を要求した僕は、馬場さんの頼みを熟す事にした。そしてリーンが馬場さんに向けて、口の利き方には注意した方が良い旨を言い放った。この言葉には他の二人も思わず絶句していた。

 

 

「そうなのか?うーむ、しかし今更変えるのもみっともない気もするしな……。ま、小僧で良いだろ」

 

「私は颯樹殿と呼ばせて貰いますよ」

 

「んじゃ、俺は颯樹で」

 

 

馬場さんの発した言葉に、肩を竦めて笑うリーン。その後には内藤さんも山県さんも、各々好き勝手な事を言い出した。……はぁ、何かこう言うのって慣れないなぁ。一度武田領の棟梁に会ってみたかったよ全く。こんな個性的な面子、相当苦労しそう……。

 

僕は【モデリング】を使って、内藤さんと山県さんを座敷牢から出す。それから僕の方で【インビジブル】を全員に掛けて、全員で階段を昇って門番をやり過ごし、地下牢から脱出した。

 

 

「それでこれからどうする気ですか、次期国王陛下」

 

「……取り敢えず、貴方方を外へ逃がした後に、僕ら4人で完助を引っ捕らえるつもりですが?」

 

「おいおい、そりゃねぇぞ。俺も連れてけよ颯樹。あの野郎にゃ、俺たちは貸しがたんまりあるんだからよ」

 

 

ニコニコ……いや、これはニヤニヤだろうね。そんな顔を浮かべながら、内藤さんが僕に話し掛けて来る。一応頭の中で考えていた事を伝えると、山県さんが指の骨をバキバキ鳴らしながら、不敵な笑みを浮かべた。

 

チョイ待ち!傷だらけの顔でそんな物騒な事を言われると、色んな意味で怖いから!

 

 

「完助の周りは鬼面兵で固められ、奴自身も奇妙な魔法を使うぞ。倒せるのか?」

 

「……先刻に鬼面兵一万五千と交戦した時、僕の光魔法が命中していました。その光魔法で生み出した槍に突かれた鬼面兵は、跡形もなく霧散していました。勝算はあると思っていますが、念の為に警戒しておきます」

 

「それが一番効率的ね。いざとなれば、私やお姫様も居るし……今回は強力な助っ人も居る事だしね」

 

 

馬場さんからの問いに、僕は確証を持ってそう答える。それにリーンも賛同し、ユミナも小さく頷く事で肯定の意を示した。……しかしこれって、あくまで五分五分だったりするんだよね〜。

 

 

「椿さん、完助は今何処に?」

 

「恐らく中曲輪の屋敷に居るかと思われますが……」

 

 

僕は【ロングセンス】を使って、椿さんの指示を聴き込みながら、完助を探し出す。広い庭を抜けて屋敷の中に入ろうとした時、中から一人の男が出て来た。

 

黒い着物に黒い袴を身に付け、色黒の肌に左眼には眼帯をしていた。……此奴が山本完助、鬼面兵を操る武田軍の影の軍師な訳か。

 

 

「さて、完助は見つけたから……どれか一つでも良いから護符を破壊する。そしてその瞬間に完助の元へと転移する」

 

「それが一番最善策ね。方法は?」

 

「僕にはこれがある」

 

 

僕は腰から剣銃ブリュンヒルドを引き抜いて、リーンにブリュンヒルドの銃身を見せる。それを見たリーンは、何処か安心した様な笑みを浮かべた。護符の場所を山県さんが知っていると言うので、僕たちはその案内に従って移動した。

 

少し暫く移動していると、壁の隅の小さく取られたスペースに、石で出来た小さなお地蔵さんが建っていた。大きさで例えるなら、ポーラがこの場合は近いだろう。

 

 

「間違い無いわね。この地蔵自体が護符のひとつよ」

 

 

うーん、改めて見てみると……『護符』って言ったら、僕の中では《御札》のイメージがあったからな〜。少し意外かも。リーン曰く『護符』と言うのは《御守り》と言う意味を持ち、決まった形を持たないそうで。

 

僕はブリュンヒルドの銃口を護符に向けると、武田四天王の三人へと声を掛ける。その間にユミナには【ストレージ】から取り出した、武器セットを渡しておく。

 

 

「これを壊したら、直接完助の元へと転移しますが……準備は良いですか?」

 

「いやちょっと待て、小僧。流石に丸腰では儂らでもキツイ。何か武器は無いか?」

 

 

んな事を急に言われても……。こっちの手持ちは剣銃ブリュンヒルドと、銃のレミントン・ニューモデルアーミーだけなんだけど……。この武器を貸してしまうと、僕が丸腰になるしな〜。

 

 

「仕方ない……作りますか」

 

「「「作る??」」」




今回はここまでです!如何でしたか?


次は本当に戦闘シーンを入れます!そしてこの戦いの後には……皆さまお待ちかねのあのお話も用意してますので、お楽しみに!

次回は12月13日(金)の深夜0時です!これからも変わらずのご愛顧、よろしくお願いします!今回も感想を是非聞かせて下さい!


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第32章:武器制作、そして対決。

「仕方ない……作るか」

 

「「「作る??」」」

 

 

僕は『何言ってんだこいつ』と言う四天王の眼を無視して、【ストレージ】から自転車を作る際に余った鋼を取り出した。

 

そして武器の作り間違い等(心配して無いけど)が無い様に、リクエストを聞く事にした。

 

 

「槍が良いですか?それとも、何かリクエストはありますか?」

 

「あ?ああ、儂はそれで良いが、内藤は短剣二つ、山県のヤツは大剣があると有難いが……」

 

「分かりました」

 

 

【モデリング】で鋼を変形させ、リクエスト通りの武器にして行く。先ずは簡単な短剣二つ、その次に大剣……最後に槍を作った。

 

三人は僕から受け取った武器を振り回して、手にした武器の馴染みやすさ等を見ていた。

 

 

「あっという間にこんな物を作ってしまうとは……。凄いですね、颯樹さんは」

 

「柄の部分まで鋼じゃ重いだろうと思ったが……思ったより軽いな、この槍。バランスがちょっとおかしいがな」

 

 

そりゃあ軽くする為に、柄の部分を中空にしてあるからね。持ってて負担が無い様にしてるし、熟練した者なら一回使っただけで手足の様に扱えるからね。まあ、その槍一つだけで一つの鉄の塊だから、耐久性はあると思うけど……斬れ味は保証しないよ?

 

 

「じゃあ……破壊するけど、準備は出来てる?」

 

 

僕の最後の確認に、全員が小さく頷いた。腰からニューモデルアーミーを引き抜いて、ウエストポーチから【エクスプロージョン(小)】の付与された、弾丸を銃にリロードし、目の前にある地蔵に銃口を向ける。……何か罰当たりな気もするけど……そこは勘弁ね!

 

そんな事を考えながら、銃の引き金を引くと……目の前の地蔵は木っ端微塵に吹き飛んだ。そして地蔵の破壊を済ませた僕は、スマホのマップ画面で鬼面兵を検索した。

 

 

「よし……検索できる。じゃあそのまま、ターゲットロックオン!」

 

「お、おい、なんだありゃあ……!?」

 

 

夜空一面に浮かぶ【マルチプル】による白い魔法陣に、山県さん達が目を見張る。それを見たリーンが、その光景を視界に入れたまま僕に尋ねて来る。

 

 

「またアレをやるの?」

 

「当然。邪魔な奴は完全に殲滅する。転移してから囲まれたら嫌だしね」

 

 

空に手を翳して魔力を集中させ、空に浮かんでいる【マルチプル】の魔法陣全てを発動させる。今は夜で辺りも暗いから……これはきっと映えるよ〜♪

 

 

「【光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン】!」

 

 

空に浮かんだ【マルチプル】の魔法陣から、無数の光の雨が館中に降り注ぐ。闇夜に映えて美しく……まるで流星群であるかの様にそれは飛来し続ける。しかし、落ちる現場に居ると、物凄い衝撃音と振動があるんだね〜。それは予想できなかった……。

 

 

「……あの、颯樹さん…?」

 

「何?ユミナ」

 

「あの今撃ち放った【シャイニングジャベリン】ですけど、建物の屋根まで突っ切ってますよ?」

 

「……やべ、そこら辺まで考えて無かった」

 

 

衝撃音に驚いたユミナからの諌言を受け、僕はハッと我に返った。……そうじゃん。ここはツツジガサキの館だから、建物が近くにあったんじゃん!ヤバっ!そこら辺を気にして無かったよ〜((((;゚Д゚))))!

 

やがて光の槍による雨が止むと、今度は敵の襲来を告げる兵士たちの叫び声が聞こえて来た。そこはさっきの要領で《敵対する武田兵》と検索して【パラライズ】をお見舞すると、パッタリと静かになった。

 

 

「よし、じゃあ……行きますか!」

 

「おい……今の全部お前の仕業か?」

 

 

ゆっくりと首を回して、目をシパシパさせながら馬場さんが口を開いた。他の二人も開いた口が塞がらない様だったが、やがて何とか声を絞り出した。

 

 

「こりゃまた……とんでもないですね……」

 

「オイオイ、こりゃ完助もやっちまったんじゃねぇのか?」

 

 

一応《敵対する武田兵》と纏めた検索の中には、標的の完助も入って居るから、その可能性は大いにある。しかし僕は、恐らく無事だろうと見ていた。護符で【パラライズ】が無効化出来る様に、元々の魔力が高い者には【パラライズ】の効果が薄いのだ。

 

 

「完助はたぶん無事でしょうね。さあ、決着を付けに行きましょう」

 

 

中曲輪に居る完助の元へと、僕たちは【ゲート】を使って転移する。大きな屋敷の広い庭の前に、隻眼の肌黒い男が立っていた。その周りには、倒れたまま微動だにしない武田兵が転がっている。

 

辺りは篝火で照らされていて、その揺らめく影の中から眼帯をした隻眼の男は、突然現れた僕たちを真っ直ぐに見据えていた。

 

 

「なるほど、誰の仕業かと思えば四天王の皆さんでしたか。いや、これは驚いた。一体どうやったんです?」

 

「テメェに教える義理はねぇよ。さっさとくたばりな!」

 

 

大剣を大きく構えて、いきなり山県さんが完助向けて突撃し出した!……あんの脳筋は!!見たまんまの猪突猛進バカって事!?

 

山県さんの大剣による一撃は、完助の首を難なく斬り撥ねたかに思えたが……その一撃は横から割って入った鎧武者によって防がれてしまった。

 

 

「……おいおいおいおいおい、嘘だろ」

 

 

赤い鎧に身を包んだその人は、獅嚙の兜から伸びる真白い毛を振り乱し、受け止めた山県さんの大剣を力任せに払い除ける。

 

顔には先程殲滅した鬼面兵達と同じように、赤い鬼の面が付いている。二メートル近い背丈に、はち切れんばかりの隆々な筋肉。……冗談だろ、まさかこの鎧武者の正体って……。

 

 

「御屋形様……」

 

 

馬場さんが発した絞り出す様な声を聞いた僕は、再び視線を鎧武者の方へと向けた。

 

アレが武田真玄……かつての武田領頭領であり、今は山本完助の操り人形か。

 

 

「完助、テメェ!御屋形様を盾にする気か!」

 

「盾などと滅相も無い。御屋形様が私をお護り下されただけの事。しかし……御屋形様の手を煩わせるのは申し訳ありませんね。代わりの者を呼びましょう」

 

 

完助の周りに魔力が集まり、庭の中央に大きな紫の魔法陣が浮かび上がった。闇属性の魔法……召喚魔法か!

 

 

「【闇よ来たれ、我が求むは骸骨の戦士、スケルトンウォーリアー】」

 

 

完助がそう詠唱すると、魔法陣から右手に湾曲した剣を携え、左手に丸いラウンドシールドを装備した骸骨の戦士が現れる。とことんアンデッドに特化したヤツだな!

 

 

「……もう良い。カッ消す!」

 

「?」

 

 

あー!もうイライラして来る!真玄は無理にしても、館中に居るバカ共を一掃する!そう思った僕は魔力を解き放ち、その効果範囲を庭全体まで及ぶようにした。これで一気に雑兵共を……カッ消す!

 

 

「【光よ来たれ、輝きの追放、バニッシュ】!」

 

 

僕がそう詠唱し終えると、館中に居た全てのスケルトン達が霧散して行く。……初めてだけど、上手く出来て良かった〜。

 

 

「くっ、光の浄化魔法ですか……。やりますね、ですが」

 

 

まるで完助を護るかのように、赤い鎧武者が僕たちの前に立ちはだかった。その鎧武者は目の前に居た山県さんに刀を向けて、僕たちに『それ以上来れば斬る』と牽制をしていた。

 

 

「御屋形様!退いてくれ!」

 

「フフフ、無駄ですよ。御屋形様は私を護って下さる。貴方たちが大恩ある御屋形様に、刃を向けられないのは分かってるんですよ。つまり私には」

 

「【光よ来たれ、輝きの連弾、ライトアロー】」

 

「……はっ!」

 

 

完助が最後まで言い終わる前に、バキィン!と仮面が音を立てて崩れ落ちる。するとそこには矢を放った状態のユミナと、左手を完助の方に向けたリーンが居た。……もう色々と面倒だったので、僕たちの方で処理しました。

 

糸が切れたかの様に、赤い鎧武者はその場に倒れる。やっぱりこれも顔の仮面を壊せば、活動が完全に止まるんだね。ユミナは矢を放った後だからか、一息吐いて落ち着けていた。その後に僕がユミナから弓を受け取って、収納魔法である【ストレージ】へと直し込む。

 

 

「い、嫌……アンタら……」

 

「そう?私たちはただやる事をやっただけよ?」

 

 

馬場さんの驚きの言葉に、ドコ吹く風と言った感じでリーンがそう答える。が、一方で完助の方はと言うと……まだ諦めていないらしい。左眼に付いている眼帯を外そうとしていた。

 

 

「フ、フフフ、なかなかやるじゃ無いですか。しかし、私にはまだこれがある!」

 

「……」

 

「この《不死の宝玉》がある限り、私が死ぬ事は無い!例え首を撥ねられたとしても、瞬く間に」

 

「【アポーツ】」

 

 

……もう長ったらしい言葉は聞き飽きたわホント。そう思いながら僕は【アポーツ】で《不死の宝玉》を手元に引き寄せる。それから少しすると、自分の左眼に何かが無い事に気付き、慌てて探し始める完助。バカなんじゃないの?

 

 

「な!?貴様、何時の間に!?」

 

「手癖が悪いのね。それも無属性魔法?」

 

「その通り。これは【アポーツ】って言って、小物を引き寄せる事ができるんだよ。こういう時は便利だよねホント」

 

 

リーンが僕の手元にある宝玉を覗き込んで、ヒョイとつまみ上げるとそれを目を細めて見つめた。……今更だけどさ、それってあのぶよぶよした所に入ってたんでしょ?……気持ち悪。

 

 

「ふん、ダメねこれは。周りの負のエネルギーを取り込んで、持ち主の心を濁らせる呪いが掛かってるわ。何処かで呪いを掛けられたみたいね。ソイツがおかしくなったのもこれが原因でしょうよ。アンデッドを操るには澄んだ心が邪魔だから、合理的と言えば合理的だけど」

 

「さっすが、妖精族の長。凄い観察眼♪」

 

「妖精族の眼を舐めないでよね?」

 

 

ふふん、とリーンは自慢気に薄い胸を張る。さすがは妖精族の長と言った所だね。たまぁに忘れそうになるけどね。

 

 

「アーティファクトは古代文明の魔法具。とても貴重なモノだけど、これは長い間悪意を吸って災いを呼ぶ類のモノに変化しているわ。破壊した方が良いわね」

 

 

そう言うと彼女は、宝玉を握った右手を壁に向けて、そのまま大きく振りかぶった。……確かにね。こんな危険なモノを放っておけば、新たな被害者が出ないとも限らないからね。折角なんで、粉々にぶっ壊しますか♪

 

 

「何をする!?やめろ!?」

 

「嫌よ」

 

 

必死になって声を挙げる完助を横目に、リーンは人の悪い笑みを浮かべながら、完助へと否定の言葉を掛けた。改めて思うけどさ、リーンって本当に人の嫌がる事をするのが好きだよなぁ……。

 

リーンによって力一杯投げられた宝玉が壁にぶつかり、ガシャン!と言う衝撃音と共に、それは粉々に砕け散った。

 

 

「うがぁあぁあああぁああッ!!!」

 

 

血を吐くほどの絶叫を挙げながら、完助がその場に崩れ落ちる。暫く激痛に悶え苦しんで居たが、やがて動かなくなり、倒れたその身体がミイラの様に徐々に乾涸びて行く。

 

最後には掠れた声で御礼を言った後、風に吹かれて塵となって闇夜に消えて行った。

 

 

「こりゃあ……どう言う事だ?」

 

「元々、山本完助と言う人間は死んで居たと言う事ですよ。魔力や気力に体力などを、塵一つ残らずあの宝玉に吸い上げられていたんです。そのせいで彼は理性を失い、仕えるべき主も忘れ、アンデッドとなっていたんですよ」

 

「……やっぱり、弟子に欲しいわねこの子」

 

 

完助が消えて、その場に残された服を見た山県さんの呟きに、僕はそう答える。恐らくだけど、リーンによって宝玉が壊された事によって、宝玉の力で維持していた完助の身体が存在できなくなったんだろうね。

 

そしてまーた、リーンは何か言ってるよ。恐らく「僕を弟子にしたい」と言う事だろうけど、弟子になる気は無いからね?

 

 

「あ、御屋形様が……!」

 

 

椿さんの小さな声に振り返ると、真玄や他の鬼面兵たちの身体も、完助と同じ様に塵へと変化して、風に吹かれて夜空へと消える所だった。これで成仏出来たら良いけど……。

 

四天王と椿さんが、手を合わせて死者に祈りを捧げる。日本人だからか、僕も同じ様に自然と手を合わせていた。……安らかに眠って下さいね。




今回はここまでです!如何でしたか?


戦闘描写の所に関しましては、原作の内容を少し変更しています。原作の内容を確り覚えている人は、何処がどう違うかよく分かると思いますよ?ちょっとだけネタ要素も入れたので、余力がある人は探して見て下さいね?

実は真玄の顔に付いていた仮面を破壊する所は、今回の話に合うようにオリジナル要素を出しました。せっかく今回はユミナも居るし、どうせなら!と思って出しましたので、ちょっとそこら辺の反応が気になる所ではあるのですが。


2nd seasonに入っての最初のオリジナル話の内容が、大まかにですが決定しました!今はSayuki9284さんにご提案を頂いた内容を、こちらで肉付けの作業に入っています。時間を掛けてじっくり考えて下さったので、これは実現させる方が確実だなと思えました♪

提案頂いた内容は、今後の執筆活動の参考にさせて頂きながら……それを鑑みて一番良かった物や、私の中でしっくり来たのをオリジナル話にしようかな〜と考えてますので、ぜひ「『異世界はスマートフォンとともに。if』オリジナル話の内容募集!」の活動報告までよろしくお願いします!


次回はいよいよ……深夜アニメの王道とも言える《水着回》です!今のこの時期にやる内容で無いのは、重々承知致しておりますが、普通に原作通り進んでますので……致し方無しと割り切って下さいな。

次回の投稿は12月16日(月)午前0時です!今の感じだと結構テンポ良く進んでますので、もう少しペースを上げて行こうかな〜と考えてはいますが、あまり無理をしないペースで頑張りたいと思います。


最後にお知らせです。別原作にはなりますが…、最近私がTwitterで絡んでいる、この小説の愛読者である〘ジャズ〙さんの二次創作小説「ソードアート・オンライン 〜二人の黒の剣士〜」がハーメルンにて絶賛連載中です!

物語は「ソードアート・オンライン ホロウ・リアリゼーション」のダークヒーロー《ジェネシス》と、ヒロインの《ティア》がもしSAOの世界に居たら?と言うお話です!現在は《朝露の少女》の内容まで進んでおりまして、原作ファンには堪らない作品となっています!是非一度閲覧頂きますよう、お願い申し上げます!


今回も感想をお待ちしております!もしよろしければで良いので、ジャズさんの方にも感想を送ってあげて下さいね♪向こうの作品も面白いですよ(≧▽≦)


最後に一点だけ。颯樹くんの容姿イメージは《ソードアート・オンライン アリシゼーション編》のキリトです。第一期と第二期のキリトだと、少し背が低めかな〜と思えてしまったので、アリシゼーション編の方でイメージをお願いします。

基本一般的な日本人の容姿は、だいたいキリトがベースかな〜と思えるこの頃です。黒髪に黒眼と言うのは、どの世間一般の日本人でも当てはまる所なので。


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第33章:海、そしてバカンス。

皆さま、こんばんは〜♪咲野 皐月です!今回は前書きから描いて行きますよ〜(≧▽≦)


さてさて、今回の話は……アニメストーリー第10章《海、そしてバカンス。》からお送りします!そして深夜アニメの殆どで必ずやっている、皆さんお楽しみの水着回の降臨であります!

「異世界はスマートフォンとともに。」の原作でも同じ様に水着回が用意されてたので、私もそれに追従して作る事にしました!どんな出来になるか、楽しみにしていて下さいね♪


そのせいか……サブタイが原作そのままになってしまった気が否めませんね。……ま、そんな事はどうでも良いでしょう(^_^;要はオリジナル要素を出せば良いんですから!

ちなみに、次回はお話の大半をオリジナルPartで占めるつもりです。勘の良い皆さんなら、ここで私がメインに誰を持って来るのかは……察しが着いてますよね?


前書きが長くなってしまいましたが、それでは「第33章:海、そしてバカンス。」スタートです(サブタイがこれしか思い付かなかった……それは許して)!


山本完助や鬼面兵達との戦いから、三日が経った今日この頃。僕たちは八重の実家である道場を出立し、島津領にある《ニルヤの遺跡》へと向かう事にした。

 

武田領の新しい頭領は、真玄の息子である武田克頼が務める事になり、四天王達はその補佐をするのだとか。何とか落ち着きを取り戻したは良いけど、数年後に武田滅亡の報せを聞くのは御免蒙りたいわなぁ。

 

 

「では父上母上、それに兄上と綾音も。行って参ります」

 

「ああ、気を付けてな」

 

「颯樹さん、娘をよろしくお願いしますね」

 

 

オエドの八重の実家から遺跡へ旅立つ別れの挨拶の時に、七重さんに深々と頭を下げられてしまった。どう返したら良いか分からずに、僕もそれに連られて頭を下げた。その七重さんの横では、重太郎さんと綾音さんが笑って僕らを見ていた。

 

 

「今度また、ゆっくりと遊びに来ますよ。その時はベルファストの我が家に招待しますね」

 

「楽しみにしているよ」

 

 

そう言って重太郎さんと握手を交わし、目的地である《ニルヤの遺跡》への【ゲート】を開く。遺跡がある島津領へは、馬場さんが小さい頃に訪れた事があるとの事で、出発の前日に【リコール】でその場所の記憶を回収させて貰った。

 

八重の家族に手を振りながら光の門を潜ると、そこには辺り一面真っ青な海と白い砂浜が見えた。マップで確認して見ると、どうやら島津領にある小さな孤島に出た様だ。……孤島と言っても、200mも泳げば陸地に着くのだけどね。

 

 

「凄っ……綺麗……」

 

「わあぁ〜、綺麗ですね〜」

 

 

僕が想像以上の海の美しさに目を奪われる横で、ユミナは白い砂浜を歩いている。……もちろん、彼女も僕と同じく目の前の海に目を奪われている。彼女の足下に居る琥珀は歩きづらそうにしてるのに、ポーラは何故か軽快にその場を駆けていく。……ほんと、どうなってんのポーラって。

 

そのポーラのご主人様はと言えば、何処からか取り出した黒い日傘を差して、優雅に砂浜を歩いている。

 

 

「海なんて久しぶりね〜」

 

「そうだね、お姉ちゃん」

 

 

双子の姉妹も潮風を身に受けながら、砂浜を歩いて行く。八重がその後に続こうとして、途中で草履と足袋を脱いで素足になった。砂が入るので煩わしくなったのだろう。……だがそうした結果はと言うと……。

 

 

「熱っ!あちっ!あちちち!」

 

 

そりゃあ熱いでしょうよ。しかし、これだけ熱いと頭がボンヤリしてきそうだな……。そう言えば、目的地である《ニルヤの遺跡》は確か『海底にある』って話だったな。僕はそれを思い出して、直ぐ様スマホを取り出してマップアプリの検索欄に〘遺跡〙と打ち込んだ。

 

 

「検索結果は……?おっ、出た」

 

「どうかした?」

 

「あ、いやね?遺跡が何処にあるか探してたんだけど、そうしたらこんな結果に……」

 

 

僕が声を発したのを不思議に思ったのか、リーンが問い掛けてくる。僕はスマホの画面をリーンにも見える様にする。そこに表示されていた結果は、悪い意味で僕の予想を裏切らない物だった。

 

 

「見事に海底にあるわね……」

 

「リーン、水の中で活動できる様な魔法って、何か知らない?」

 

「水の上を渡る魔法ならあるけどね。確か無属性魔法で、水の中でも呼吸できると言う魔法を聞いた事があるけど、興味無かったので覚えてないわ」

 

 

いやいや、そこが肝心な所じゃん……。まあ、今回訪れた目的が《古代遺跡探し》という事だから、それ以外にはあまり興味が無いのかな。そう思いながらその横を見ると、先程の4人が波打ち際で水を掛け合って遊んでいた。

 

 

「冷たくて気持ちイイわね〜。あー、これで水着があったら泳ぐんだけどなぁ〜」

 

「……チョイ待ち、あんの?水着」

 

「…?店に行けば売ってる、かと。最近では地方によって、色んなタイプの水着が売られてるとか、聞きます」

 

 

エルゼが発した言葉に、一瞬フリーズしてしまった僕だったが……リンゼの説明のお陰で何とか理解できた。

 

そっか、普通にあるのね…水着って。折角海に来てんだし、楽しまない訳には行かないよなぁ〜。それじゃあ、目一杯楽しんじゃいますか!

 

──────────────────────

 

その他諸々の準備と、何やかんやあって……今し方着替え終えた所だ。途中から『僕だけ働いてるかな?』とか思えたが、今更な気がしたので追求しなかった。

 

前世では部活動もやってたし、今も冒険者として動いてるからカラダつきはそんなに悪くなさそう?僕が着けてる水着は、フリーサイズの黒のトランクスと言った所だ。

 

 

「取り敢えず、水の中で溺れない様に、軽く身体は解しておこうかな」

 

「あ、颯樹も泳ぐの?」

 

「エルゼ。ん〜、ま、そんなトコかな」

 

 

身体を解す為のストレッチをしている僕の後ろから、いきなり声を掛けて来たのは、水着に着替えたエルゼだ。その姉の後ろにはリンゼも居る。

 

二人ともお揃いのビキニではあったのだが、エルゼの方は赤の上下に白のボーダーが入った物、リンゼの方は青の上下に白のボーダーが入った物と対照的な色違いで、下はサイドを紐で留めるローライズである。

 

更に言うなら、リンゼの方は恥ずかしいのか……パステルブルーの長めのパーカーを、水着の上から羽織っていた。これは言うまでもない事だが、二人ともスタイルが非常に良い為に目のやり場に困ってしまう。リンゼの方が大きいのは、普段からよく知ってるけど(何故だ)。

 

 

「じゃ、あたしは先に行ってるわね」

 

「OK」

 

 

エルゼはそう言って、身体をストレッチさせてから海へと走って行った。それを見た八重が「今度は自分も」と言った感じで、エルゼの居る所へ駆け出して行った。と言うか君は何時の間に……?

 

八重の水着はホルターネックとサイドを紐で結んだ、薄紫色のビキニだ。……しかしまぁ、改めて見てみると…なかなか良い物をお持ちのようで……。

 

 

「ん?リンゼは泳がないの?」

 

「あ、わ、私はあまり泳ぎは得意では無いので……日陰で休んでます」

 

 

そう言ってリンゼはサンシェードの中へと入って行った。……リンゼはあまり身体が丈夫って感じでは無さそうだから、熱中症とか起さないか心配だな…。

 

 

「颯樹!」

 

「颯樹兄ちゃん!」

 

 

おや?今度は小さいお嬢様たちの登場だね?

 

スゥは胸にヒラヒラとしたフリルの付いた黄色のワンピースに、レネは赤地に白ドット模様のワンピースで、腰にスカートの様なフリルが付いている。……単純に《可愛い》って路線だね。難無く普通に接することが出来そうだ。スゥは浮き輪を持っていて、レネはビーチボールを持っていた。

 

 

「あんまり沖には行かないように。ここは遠浅だけど、皆から離れないでね?」

 

「分かっておる、大丈夫じゃ。行くぞ、レネ!」

 

「うん、スゥお姉ちゃん!」

 

 

スゥとレネが海へと走って行った。……何だかこれって、危なっかしい娘たちの動向を見守る、父親みたいな役回りしてる気がすんだけど。

 

って言うかあの二人、あんなに仲良くなってたのな〜。レネはまだ小さいから、スゥがお姉さん風を吹かせて大見栄を張ってる気がするんだけど。

 

 

「仲が良いですね〜」

 

「はい、見ててホッとしますよ〜。……って、セシルさん!?何時の間に!?」

 

「えへへ〜、職業病、ってヤツですかね〜」

 

 

全くこの人は……。それが職業病だとしたら、今までもずっと僕たちの監視とかしてた事になるね?まあ、ユミナを守る為だったら、何も文句は無いけどさ。

 

セシルさんの水着は、エメラルドグリーンのビキニに、腰に同じ色のパレオを巻いていた。……あ、実際にあんだパレオって。そしてセシルさんはスゥとレネの所へと駆けていく。……あの人も仕事熱心だよな〜、職業病が出るくらいなんだもん。

 

 

「……で?僕の後ろに立って、何をする気だったんですラピスさん」

 

「セシルを変な目で見てないかのチェックです」

 

「そんなの無い!」

 

「冗談です」

 

 

怖ぇ……。実際にそんな事を口に出した訳じゃないが、今のラピスさんからは背筋が凍る感覚がしたよ……。ラピスさんの水着は、紺のチューブトップにショートパンツと言う動きやすい服装だった。手には銀盆を持ってる事から、何か渡す最中だったのかな?と思えてしまう。

 

 

「ん?手に持ってる銀盆は?」

 

「一応仕事をしませんと。奥様方にお飲み物を」

 

「ハハハ……。暑いので無理はしないで下さいね?倒れられたら困りますんで」

 

「ご忠告痛み入ります。失礼します」

 

 

そう言って微笑みながら、ラピスさんは屋敷へと繋がる【ゲート】を通って行った。頭が上がらんわ〜、全く。何か騒がしいなと思って岩場の方を見てみると、国王陛下が岩場から海へと飛び込もうとしていた。……え!?大丈夫なんですか、あんな所から!…あ、浮かんできた。

 

どうやらあの辺りの水深は、かなりの深さらしい。続けて公爵殿下とレオン将軍も飛び込んで、そのまま皆して競泳に……何やってんだかあの人たちは、はしゃぎ過ぎでしょうよ。

 

 

「颯樹さん」

 

 

王様たちを呆れた目で見ていた僕の目の前に、ユミナが現れた。……先ず一言言わせて欲しい、ユミナが可愛すぎる」

 

「さ、颯樹さん……声に出てます…///」

 

 

おっと。僕のふと漏らした一言で、ユミナが顔をほんのりと紅く染めちゃったよ。……んんっ!ユミナの水着はと言えば、胸と腰にフリルの着いた白のビキニだ。目の保養にもなるし、とてもよく似合っている。

 

 

「どうですか?」

 

「うん、よく似合ってる。可愛いよ」

 

「えへへ、ありがとうございます」

 

 

僕に褒められたユミナは、その場でクルっと一回転して見せる。……破壊力が充分過ぎるのですが。今までこういうのを見た事が無かったからか、後々になってもこの光景は鮮烈に思い出しそう……。

 

そして軽く笑顔を浮かべたユミナを、スマホのカメラで写真に納める。……うん、良い出来だ。彼女の写真撮影ともなれば、こうも上手く行くんだね……びっくり。

 

 

「颯樹さん、一緒にあっちで泳ぎませんか?」

 

 

ユミナが僕の腕にギュッと抱き着いてくる。……えーっと、ユミナ…さん?当たってるん、ですけど?わざとなのか無意識なのか、非常に判断に困る。それなりに…歳相応に、成長してんですね〜……。

 

腕から伝わる柔らかい感触に、思わず顔を真っ赤に染めてしまう。そんな感覚でさえも、ユミナにはお見通しのようで。

 

 

「ふふっ♪颯樹さんにも可愛い所があるなんて、ちょっと意外ですね」

 

「可愛い女の子に抱き着かれて、照れない方がおかしいっての」

 

「私はそんな颯樹さんも好きですよ♪」

 

 

かぁーーーーー!どうしてこの娘は、いっつも何時もこう嬉しくなるような事を言ってくれるのかね!お陰で今の僕の顔は、誰にも見せられん様なふにゃけた顔になってるかもしれん。

 

 

「ね?行きませんか?」

 

「うーん……そうしたいのは山々なんだけど、遺跡のことを調べなきゃね。それが終わったら付き合うよ」

 

「じゃあ、終わったら来て下さいね♪私、待ってますから///」

 

 

離れる際に少し不満気な顔をしていたが、ユミナはそう言って笑顔を残して、スゥ達の居る方へと砂浜を駆けていく。

 

……危なっ!お陰で理性の壁が崩壊する寸前でしたよ!僕の中では結構硬い方だと思ってたのに!まだ心臓の鼓動が鳴り止まないし……あぁーーーー!可愛いなぁユミナは!

 

 

「……随分とお楽しみの様で?ねぇ、颯樹?」

 

「……リーン、何時から居たのさ」

 

「えーっと『ユミナが可愛すぎる』の所からかしらね。ほぼ最初の辺りになるわね」

 

 

え……?って事は、あんのイチャイチャを見られてたって事!?嘘……毎度毎度の事だけど、イチャイチャしてたら誰かに見られてるってのがオチなわけ!?

 

リーンの水着は、アダルティな黒に白のレースをあしらったビキニなのだが、日に焼けるのが嫌なのか…黒い日傘を差していた。その体型で大人っぽい物を……?と思ったけど、敢えて口には出さない。

 

 

「……んで、ポーラも泳ぐわけ?」

 

 

あたぼうよォ!と言わんばかりに、胸を叩いて答えるポーラ。大丈夫なのかこのクマは。と思ったけど、リーンから『【プロテクション】をかけてるから平気よ』との事なので、大丈夫なのだろうと思っていた。後で僕もスマホに【プロテクション】をかけておこうかね。

 

ポーラの方はと言うと、大正時代の様な赤と白のボーダーの水着を着込んでいた。今にも準備体操を終えて入る気満々だ。あ、琥珀はと言えば荷物用のテントの中でお昼寝をしている真っ最中だ。

 

 

「それじゃあ、潜ってみますか……?」

 

 

僕が海へ向かって歩き出すと、ひょこひょことポーラもその後を付いて来る。ホントに……大丈夫?

 

ポーラは海に入ると波打ち際でひっくり返り、砂浜へ転がりながら押し戻されて行った。そしてポーラは立ち上がり、また海へと駆けていく。そしてまた波に押し戻され、転がりながら砂浜へ……無限ループか。

 

……取り敢えずアレはほっといて、僕の方は遺跡の調査に取り掛かろうかね。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はオリジナル要素増し増しでお届けします!その後には新しい仲間(人とは限らないよ?)も増える予定なので、どうぞお楽しみに!

皆さんが今回働かせた想像力は、次回でも活かせるようにしてて下さいね?私的には次のお話が本題だと思ってますので!


次回の投稿は「異世界はスマートフォンとともに。⑲」の発売日前日の12月20日(金)午前0時です!いよいよ発売まで一週間を切りました!GETの用意は皆さん、出来てますか〜?私はもちろんOKですよ!

そして年内の投稿も残り4回!……あと4回でアニメストーリー終わるんかな〜。物凄い心配になって来た。


【追記】


他サイトの話にはなるのですが……はるにゃまんさんの投稿小説である「俺に友達ができた途端に幼馴染とクラスの女子と後輩が迫ってきた!」が、月間ランキングに掲載されましたーーーー!おめでとうございます♬

更に言うなら、ジャズさんの投稿小説である「ソードアート・オンライン 〜二人の黒の剣士〜」がハーメルンの日間ランキング97位に掲載されました!おめでとうございます♬


私も何時か「異世界はスマートフォンとともに。if」でランキングに載ってみたいですね〜……なんて。今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録、どしどしお待ちしてますよ!来た際には作者は泣いて喜びます。


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第34章:遺跡探し、そして遊休。

取り敢えず……波と戯れ始めたポーラを放っぽり出した僕は、沖へ向かって歩いて行く。途中から足が地面に着かなくなると、そのまま平泳ぎで進んで行く。

 

 

(……確か、目的地を示すピンはこの辺りに落ちてたはずだけど……行って見ますか)

 

 

目的の場所付近まで来たら、大きく息を吸って一気に海中へと潜る。透明度の高い海は、その眼下に広がるものを鮮明に僕へ見せてくれた。

 

……これは確かに遺跡だ。様々な巨石群がまるでストーンサークルの様に並んでおり、その中央には神殿のような小さな建物がある。更に潜って見てみると、その建物の入口から伸びている階段が、地下へと通じていた。

 

 

(……って、ヤバっ!息が…続かない!)

 

 

そう思って僕は、急いで地上に顔を出す。足りなくなった地上の空気を取り込んで、もう一度海中へと潜る。今度は一気に石の階段を降っていくが、苦しくなってしまい途中で引き返す羽目になった。

 

 

「プハッ!……息が…続かない!あれじゃあ、僕でも一分が限界だな……一旦戻るか」

 

 

あの階段の先には何があるんだろうか……。出来る事ならもう少し調査したい所だが、さすがに僕でも一分息を続かせるのがやっとだ。あまり成果は無かったが、留まっててもアレなので、一旦砂浜へと戻る事にした。

 

砂浜に戻って見ると、波と対峙して「なかなかやるじゃねぇか……」と口元の血を(無論、そんな物は最初から出てないんだけどね)手で拭う様な動きをするポーラが居た。……まだやってたの。

 

 

「リーン、ごめん。取り敢えず中は見て来たけど、完全に海の底だよ」

 

「そう……。さて、どうしましょうかね……マリオンでも連れて来るしか無いかしら」

 

「マリオン?」

 

「水棲族の長よ。私の友達。あの子なら水中でも活動できるから平気だと思うけど……あの子、人前に出たがらないのよね……」

 

 

うーん、と腕を組んで考え込むリーン。別にさ、水棲族ならその子じゃなくても良いんじゃない?と思ったのだけど、人前に出たがらない……と言うよりも、陸地の者にあまり干渉しない、と言うのが水棲族の方針らしく、他の者でも連れて来るのは難しいという事だった。

 

 

「んー、よくそれでミスミド建国に協力する様になったね?」

 

「そこは私の交渉術でね。悪い子じゃないし、100年友達やってたら、相手の考えも読める様になるわよ」

 

 

【100年】……か〜。物語の中でよく言う《妖精族は長寿の種族》の言葉の通りだね。リーンの話は、見た目の割に歳を重ねてるからか、常人には軽く理解が追いつかないのですが……あ、何でもない。

 

 

「ま、今日はこれぐらいにしときましょう。後は遊んで来たら良いわ。あんまり貴方を独占していると、皆から恨まれそうだしね。特にあのお姫様とか」

 

「そうだね。そうさせてもらうよ」

 

 

一頻り話した後、彼女はそう言ってポーラの方へと向かう。さてと、僕もユミナに誘われてるから……そっちへと向かわないとね。

 

そしてユミナの居る所に着くと、案の定と言った感じで微笑んだ、彼女の姿を見る事が出来た。

 

 

「遺跡の調査は終わったんですか?」

 

「まあ、一応は。遺跡の中に入る為には、水の中でも耐えれる様にしないといけない、という事までかな」

 

「そうですか……。難しい問題ですね」

 

「そうだね。その辺はまた明日考える事になってるよ。今日は目一杯ユミナに付き合うよ」

 

 

僕は今回(今日)の調査の成果を、ユミナに余さず提示する。暫く考え込んでいたユミナだったが、僕の最後の一言を聞いた瞬間に表情が晴れやかになった。

 

 

「はい♪よろしくお願いしますね?あ、でも〜……彼女をこんなにも待たせた罰を、颯樹さんには受けて貰いますよ?」

 

「え?罰って……っ!」

 

 

僕が言葉を紡ぎ終わるより先に、彼女の発射された海水が僕の方に炸裂した!そして改めてユミナの方を見てみると、手を後ろに組んで微笑んでいる姿が。

 

待たせてしまったのは確かに僕だけど、やって良い事と悪い事とあるよユミナーーーーー!やられっぱなしは僕の性にあわないし、やり返しますか!

 

 

「お返し!そらっ!」

 

「きゃあっ!ふふっ、やりましたね〜?これなら……どうですか!」

 

「ぐふっ!……もう一発!」

 

 

僕から掛けられた水に驚いたユミナは、さらに《お返しです》と言わんばかりに水をかけて来た。やられた僕はもう一発お返ししようと思い、彼女の方を再び視界に入れようとしたはいいのだが……。

 

 

「あれ?……何処行った?」

 

 

僕が幾ら何処を見渡しても、ユミナの姿を捉える事が出来ない。おろ?何処行った?んん〜?と思っていたら、近くの浜辺で遊んでいたスゥとレネが、僕に何かサインを出している。

 

恐らく口と手を使って、ジェスチャーで僕に報せようとしてるみたいだ。

 

 

「えーっと……?『颯樹(兄ちゃん)、後ろを見て!今すぐに!』……?後ろ?」

 

「えいっ♪」

 

 

僕が後ろを振り向こうとした時、可愛らしい声と共に僕の眼が塞がれた。そして背中には、女の子特有の部位の感触が伝わって来ている……。分かったよ……?こんな事を仕出かした女の子の正体が……!

 

 

「だ〜れだ?」

 

「ユミナでしょ?好い加減に姿を見せてご覧………えっ?」

 

「んっ……」

 

 

僕が眼を塞いだ犯人を当てた後、その人物は他の人たちも居る前で、堂々と僕の唇を塞いで来た!僕は受け身も取れずに倒れている途中だった為、二人揃って海の中へと飛び込んでしまった。

 

暫くその状態が2分ほど続き、ユミナが口を離した時には、僕たちの間にピアノ線の様な……銀色の糸が引かれていた。無論それは水中だった事もあり、すぐに消えてしまったのだが。

 

 

「えっ……」

 

「///」

 

「ユミナ、さっきのって……///」

 

「言いましたよね?『彼女をこんなにも待たせた罰を、颯樹さんには受けて貰いますよ』って。それがこれです///」

 

 

まだ若干頬を赤く染めたユミナが、僕の目の前でそう告げる。何かさ……向こうから「ユミナが颯樹殿をさらに落としにかかったぞ〜!」とか「仲が良いわね〜」とか「羨ましい、です……」とか聞こえて来るんですけれども……!?

 

 

「さっ、時間はまだまだたっぷりあるんです♪今は思う存分楽しみましょう」

 

「そうだね。せっかくだし、楽しむか!」

 

 

そう言って僕たちは、他の所に混ざり始めた。国王陛下たちの所では、先程の事を根掘り葉掘り聞かれるも、難なく返答をする事が出来た。

 

それからお昼ご飯を食べに、ミカさん達の所へと向かった後……皆で何か腹ごなしに何かしよう、という事になり。

 

 

「海と言えば『ビーチバレー』がお約束でしょ!ビーチバレーでもしませんか?」

 

「颯樹殿、何かね?その『びいちばれえ』と言うのは。ワシらにも分かる様に説明を」

 

 

僕の提案に質問をして来る国王陛下。僕はそれに懇切丁寧に対応し、全員に説明を始める。一通りルールに必要な動作などを仕込んだ後、三対三のミニゲームをする事になった。

 

最初は【僕&ユミナ&リンゼ】対【国王陛下&オルトリンデ公爵&エルゼ】と言う組み合わせになった。審判はリーンが務めるようだ。

 

 

「それじゃあ……一戦目を始めるわよ」

 

「何時でも!」

 

「手加減はしないから、全力で来なさい!」

 

 

僕とエルゼの声を聞いたリーンは、手を叩いて開始の合図をした。いっちょ、やったりますか!ちなみにビーチバレーに必要なコートやネットは、先程【モデリング】で制作したものだ。

 

国王陛下からのアンダーサーブで、ビーチバレーの第一戦が始まる。それをユミナが難無くレシーブで拾い、そのボールが綺麗にリンゼの所へと飛んで行く。

 

 

「颯樹さん、ラスト、頼みます」

 

「よし来た!」

 

 

リンゼからの合図を聞いた僕は、助走を取ってスパイクを撃つ態勢になった。それをさせまいと、オルトリンデ公爵とエルゼがブロックで立ち塞がる。

 

悪いけど……最初の一点目は、貰うよ!リンゼのやまなりのトスを受けた僕は、ストレートは締められる可能性があったので、クロスの方向に撃つ事にした。

 

 

「そらっ!」バシイイイイッ!

 

 

僕の撃った左のクロススパイクは、国王陛下の数cm手前で着地し、近くに力無く転がっていた。それを間近で受けた国王陛下は唖然としていて、それを見た二人に至っては空いた口が塞がらなかった様だ。

 

 

「やりぃっ!」

 

「凄いです、颯樹さん!」

 

「颯樹さんなら決めてくれると思ってました!」

 

「当然♪」

 

 

ユミナとリンゼからの賛辞を、僕はその身に受ける。そしてそれを見た相手の三人はと言うと、終始呆気に取られていた。

 

そしてミニゲームは滞り無く進み、12対10で僕たちのチームが勝利を収めた。その後はワイワイガヤガヤとした状況が続き、気が付けばもう夕暮れに差し掛かっていた。

 

 

「今日は誘ってくれてありがとう、お陰で良い休息を取らせて貰ったよ」

 

「大丈夫ですよ。偶には息抜きも必要ですから」

 

「ではそろそろこれにて」

 

 

そう言って国王陛下達(王族関係)は、ベルファストの王宮へと繋がった【ゲート】を通って帰って行った。そしてミカさん達は《銀月》へと繋げてそこへ送り、ウチのメイドさん達やライムさんは、先に自宅へと【ゲート】で送り届けた。

 

 

「楽しかったわね〜何かあっという間だったわ」

 

「そうだね、お姉ちゃん。私も、楽しかった」

 

「うむ、拙者もでござる」

 

 

エルゼとリンゼに八重がそう言う。確かに僕も、今日は一日の殆どを夢中になって遊んだと思う。こんな風にワイワイ騒いだのって、幾分か久しぶりな気がするな。

 

そう思っていると、横に居たリーンから声が掛かる。それは感傷に浸っていた僕たちを、一気に現実へと引き戻す言葉だった。

 

 

「今日は日暮れまで遊んだけど、明日は確りと遺跡の調査をするわよ。それは分かってるの?」

 

「大丈夫。遊んだお陰でリフレッシュ出来たし、移動する方法も大まかにだけど見つけたよ」

 

「そう。なら、明日は心配要らなさそうね」

 

 

そう言ってリーンは、目の前の夕日を眺めている。そして僕の隣に居たユミナは、ある事を想いながら僕に話し掛けてきた。

 

 

「颯樹さん」

 

「何?」

 

「また……来ましょうね。今回みたいな、ゆっくり出来る日にみんなで」

 

「ああ、必ず来よう。絶対に」

 

 

そう言って僕たちは、水平線の彼方に沈む夕焼けをただ眺めていたのだった……。そして【ゲート】でベルファストの自宅に戻り、夕飯を食べて入浴を済ませた後、入浴の際にユミナが突撃して来て、少し反応に困ってしまったのは、また別の話。




今回はここまでです!如何でしたか?(ユミナメインと言って置きながら、そこまで無いのが何が引っかかるなぁ……。次に予定してる水着回(2nd season以降に実施)はヒロインの数も増えるし、どうしたもんかな〜)


次はいよいよ遺跡のお話に入ります!そして【異世界はスマートフォンとともに。】のお話で、非常に重要なターニングポイントを迎えます!ぜひ楽しみにしていて下さいね!

ちなみになんですけど……今は、だいたい五人目の婚約者を迎えて暫くした所まで、話の内容が頭に浮かんでいます(その内の何話かはオリジナル話で確定)。確り投稿できる様に準備してますので、コチラもどうぞお楽しみに!


次回のお話は『旧天皇誕生日』である12月23日(月)午前0時に投稿します!昨年までと違って今年からは、普通に平日ですので……皆さん、寝坊なんてしないで下さいね(学生で冬休みの人はそれも良きかもだが)?

今回も感想を是非!高評価にお気に入り登録、よろしくお願いします!(内容薄過ぎない……?力入れて書くって言った割にはさ)

──────────────────────

最後に宣伝!ジャズさんの連載小説である「ソードアート・オンライン 〜二人の黒の剣士〜」が遂に、一つの節目を迎えました〜♪まだ読まれてない方は、ぜひ読んでみて下さいね!

ちなみに……私のSAOでの推しは《黒の剣士》でお馴染みのキリト君です(ここで言う事じゃないでしょ)。


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第35章:玄武、そして古代遺跡。

「ん〜、とりまこんな感じか?」

 

 

古代遺跡を調査する日になり、僕たち(僕とユミナとエルゼにリンゼ、リーンにポーラと琥珀)は、海岸を望む崖の近くにいた。事前に一日掛けて調査する事が分かっている為、僕の方でお昼を用意している(それは出発前に【ストレージ】へと収納済み)。

 

そして今は琥珀に聞いた事を試す為、召喚魔法に使う魔法陣を描いていた。勿論、使ってるのは白の魔石のチョークである。

 

 

「召喚魔法は普通、特定の相手を呼び出す事なんて出来ないのよ?」

 

『主の魔力に私の霊力を混ぜます。その状態で呼びかければ、奴らは必ず反応し、呼び出しに応じるでしょう』

 

「ん……?琥珀、さっきから《玄帝》の事を『奴ら』って言ってるけど、琥珀みたいに一匹じゃないの?」

 

 

リーンから発せられたボヤきに、琥珀が態度を変えずにそう答えた。その時に僕は、思った事を琥珀に伝えて見た。それに対する琥珀からの答えとしては『《玄帝》は二体で一匹の神獣である』との事で。

 

気性の荒い奴では無いが、少々変わった性格の持ち主なんだとか。まあそれは呼び出して見ないと、分からないんだよね〜何にしてもさ。

 

 

「にしても《玄帝》を呼び出すって……。その子が《白帝》ってだけでも驚いたけど、更にもう一匹とか有り得ないわよ」

 

「まあまあ、颯樹殿のそう言う所を気にしたら、負けでござるよ」

 

 

まだブツブツ言っているリーンを、八重が宥めて落ち着かせる。それを見たのを確認した僕は、魔法陣の前に立って闇属性の魔力を集中させて行く。

 

魔法陣の中心に黒い霧が漂い始め、やがてその黒い霧が更に色濃くなって行った。そこへ傍らに居た琥珀が、自分の霊力を僕の魔力に混ぜて行く。よし……、じゃあ後は詠唱だけだね。

 

 

冬と水、北方と高山を司る者よ。我が声に応えよ。我の求めに応じ、その姿を現せ!

 

 

充満していた黒い霧から、突如莫大な霊力が生まれる。琥珀と初めて出会った時の様な……、ピリピリとした例えようの無い力を感じる。

 

黒い霧が晴れると、そこには一体の亀が居た。それも四メートルの大きさを誇る巨大な陸亀である。ちゃんと足は四本揃っている。生憎と牙は無かったけどね。そしてその亀に巻き付いている黒い蛇も、なかなかの大きさだった。アナコンダくらいは有るだろうか……。黒真珠の様に輝く鱗と、黄金の瞳が特徴として現れている様だ。

 

目の前の光景に茫然としていると、黒い蛇の黄金の瞳が此方に向けられた。

 

 

『あっらぁ?やっぱり白帝じゃないのよぅ。久しぶりぃ、元気にしてた?』

 

『久しぶりだな、玄帝』

 

『ん、もう、「玄ちゃん」で良いって言ってるのにぃ、い・け・ず』

 

 

うわぁ……、何かすっごく軽い会話〜。話し方から察するに、この蛇はオネエなのか?声質がすっごく野太いんですが。それにかなり砕けた口調だなぁ全く。

 

 

『それで其方のお兄さんはぁ?』

 

『我が主、盛谷颯樹様だ』

 

『主じゃと?』

 

 

ギョロッと亀の方が此方を見た。その向けられた視線は、まるで僕の事を値踏みをするかの様だ……。その容貌から厳つい男性の声を想像してたけど、意外にも聞こえて来たのは、先程の蛇よりも更に女性的な声だった(若干キツめの印象だけどね)。

 

 

『このような人間が主とはな……落ちたものだな、白帝よ』

 

『何とでも言うがいい。じき、お前たちの主にもなられるお方だ』

 

『戯れ言を!』

 

 

琥珀は涼しい顔をして、亀からの挑発を受け流す。それを見た亀は怒りを浮かべ、蛇に至っては好奇の眼で此方を見ている。

 

ん〜、僕の世界には《人は見かけによらない》って言葉があるんだけど……それをどうこう言った所で、通じる相手じゃないっか。

 

 

『良かろう、颯樹とやら。お前が我らと契約するに値するか、試させて貰う』

 

「OK。内容はどの様に?」

 

『我らと戦え。日没までお前が五体満足で立っていられたのなら、力を認め契約しようではないか。しかし、魔法陣から出たり、気を失ったり、我らを攻撃する事が出来なくなれば契約は無しじゃ』

 

 

倒したら僕の勝ち、とは言わないのな。琥珀に聞いた話では『《玄帝》は防御に優れた神獣』と言ってたから、余程の自信があるのか。日没まで立っていられたら良いから、やり用は幾らでも思い付く。

 

しかしだな……『戦え』って言われて、逃げるのも何だかなぁ……後味悪過ぎる。

 

 

『自信が無いなら逃げても良いぞ?日没まで体力が持てば、の話だが』

 

「ヌルすぎるぜ、そんなルール」

 

『ん?』

 

 

あっるぇ〜?何だろうなぁ、今の言葉にすっごくムカついて来たんですけど。馬鹿にした様な嗤いを浮かべて、亀がそう返す。これはもう……手加減とか容赦に情けは、要らないよね?よね?

 

 

「俺がアンタの戦意を丸ごと削いでやるよ。安心しろ、死なせはしない」

 

『貴様っ!我らに勝てると思うたか!たかが人間の分際で!』

 

「ああ、やってやるよ。アンタこそ……人間をバカにするとどうなるか、その身を以て思い知るが良いさ」

 

 

僕の言葉が余計に癪に触ったのか、亀の方が更に怒りだした。それを見た5人と一匹は震え上がっており、僕と琥珀は涼しい顔をしてその場に立っている。

 

 

「さ、颯樹さん、大丈夫なんですか……?」

 

「ああ、心配するな。俺なら大丈夫だ。少しだけ待って居てくれ」

 

 

ユミナが僕の事を心配して、不安そうに声を出して僕を見上げた。僕はユミナを安心させる様に、抱き締めてから金色の頭を撫でた。一頻り抱きしめた後にユミナを解放し、僕は魔法陣の中へと入って行く。

 

 

『意外と落ち着いているのねぇ』

 

『その度胸だけは褒めてやろうかの。では……参るぞ!』

 

 

亀が戦いの開始を告げる様に、大きな咆哮を一つ上げる。戦うんじゃない……勝つんだ!

 

──────────────────────

 

『うおう……うおええう……まわ、回ってるわぁ、世界が回ってるわぁ……』

 

『ゆる、許して下さいぃ……もお転ぶの嫌あぁ……滑りたくないよぉ……』

 

 

あれから暫く経った頃、戦いを仕掛けて来た《玄帝》から降参の意志が聞こえた為、僕はやむ無しと思いながら魔法を解いた。あの二体に掛けていたのは、最初は【スリップ】の魔法で、その後には弾丸に【スリップ】を【エンチャント】して、僕自身の解除命令が無いと延々と転び続ける様にして居た。

 

最初は何かの笑いのツボに入っていた、琥珀とポーラだったが、次第にユミナ達と同じく引き攣った笑みを浮かべていた。これに居た堪れなくなった僕が、二体に掛けた魔法を解いたという訳だ。

 

 

「あー、何かごめんなさい。ちょっとやり過ぎた。謝るから……許してね?」

 

 

背後から突き刺さる皆の視線が、正直に言えば痛すぎて仕方ない。一応負けを認めて契約してくれるとの事だったので、スリップを解いたのだが……その後は宥めるのに一苦労した。

 

だってその時……蛇は目をぐるんぐるんに回していて、亀に至ってはずーっと泣きっぱなしだったんだもん。そりゃあ《やり過ぎた》と思うよ。

 

 

『あぁ、酷い目にあったわぁ……。白帝が主と認めたってのも納得ねぇ……』

 

 

そう呟いてはいるけど、蛇は未だに頭をフラフラと回していた。亀の方は漸く泣き止んで、じっと僕の方に視線を向けた。その亀の頭を撫でて、更に一つ謝る。亀が目を伏せて身を低くする。

 

 

『盛谷颯樹様。我が主に相応しきお方よ。どうか我らと主従の契約を』

 

「了解♪名前をつけるんだったよね?」

 

『そうよぉ。素敵な名前を下さいな、ご主人様』

 

『コヤツらなど「蛇」と「亀」で充分です』

 

「琥珀!そんな事を言わない!」

 

 

折角《玄帝》の方も負けを認めて、僕と主従の契約を結んでくれると言うのに……!そんな言い方は無いでしょ琥珀!僕は琥珀を諌めた後、玄帝へと頭を下げる。

 

そして少し思考に耽ける。確か琥珀の名前を付けた時は、漢字の読み方の他にも《琥珀》と言う宝石があると言うのを知ってたからなんだよね。とするなら。

 

 

「決めた。蛇の方は《黒曜》で、亀の方は《珊瑚》ってどうかな?」

 

『コクヨウ?』

 

『サンゴ?』

 

 

琥珀の名前も宝石にあるし、《黒曜》と《珊瑚》だったら似通ってて良いでしょ♪『玄武』と聞いて黒とか水を想像するしね。

 

 

「どう?」

 

『喜んで「黒曜」の名を頂きますわぁ』

 

『では妾もこれからは「珊瑚」と名乗らせて頂きます。よしなに』

 

 

良かった〜、気に入って貰えて。名前を付けた召喚獣は、魔法陣の外に出る事が出来る。のっそりと珊瑚は魔法陣の結界から出て来た。

 

 

『ちょっと待て、玄帝……いや珊瑚か。我らは主の魔力にて常に顕現する事が出来る。だがその姿では主に迷惑がかかるのだ。姿を変えろ』

 

『……そう、なのか?』

 

『白帝……琥珀ちゃんみたいに、小さくなれば良いのかしらん?それなら直ぐに……ねっ!』

 

 

ポンッ、と黒曜と珊瑚は一瞬にして、姿を小さく変化させていた。体長30cmくらいの黒い甲羅の亀に、普通サイズの黒蛇が巻き付いている。それだけなら普通(?)に見えるのだが、小さくなった珊瑚と黒曜は、フワフワと宙に浮いていた。

 

 

「宙に浮けるの?」

 

『この大きさなら、何とか。速く動けないのが難点ですがね……』

 

 

珊瑚がすいーっ、すいーっと空中を泳ぐ。確かにそんなに遅くなさそうだね。だいたい……歩くスピードと同じくらいか。しかし、陸亀が泳いでる姿もシュールだな。まあ、この大きさなら連れて歩けるし大丈夫か。

 

 

「よろしくね♪黒曜、珊瑚」

 

『この珊瑚、お役に立って見せましょう』

 

『アタシもお役に立つわよぉ〜』

 

 

僕の肩に手を掛けて乗っかる、珊瑚と黒曜の頭を指先で撫でる。そうしたら二人からそんな声が聞こえて来たので、僕は早速二匹に頼んでみる事にした。早速で悪いけど……役に立って貰おうかな♪

 

──────────────────────

 

『海に入っても呼吸が出来る様にすれば良いのですね?』

 

「うん、頼めるかな?」

 

『楽勝よぅ。守りに関してはアタシ達に並ぶ者は居ないんだからぁ』

 

 

とは言うけど、まだ見えない危険が潜んでるやもしれない。取り敢えず僕の方で遺跡の中を確認して、確実に安全である事を確認してから、皆を連れて来る方が得策だろう。

 

エルゼ達の心配を背に受けながら、僕は黒曜と珊瑚を肩に乗せて海の中へと入って行く。これは確かに、完璧に守られているみたいだ。水の中でも正常に息ができてる事から、黒曜&珊瑚のお陰だと言う事が分かる。

 

 

「おっ?見えて来た」

 

 

そして目の前に見えて来た巨石群を通り抜け、ストーンサークルの間を抜けて、遺跡の中央にある階段をから中に入って、光魔法の【ライト】を使って、暗い地下へと下って行く。

 

その暗い階段を抜けると、大きな広間へと出た。そこには魔法陣がドンと真ん中に置いてあり、その対角線上に6つの魔石台が鎮座していた。

 

 

「これは……色々な色の魔石があるね」

 

『ご主人様ぁ、これってそれぞれの魔石に魔力を流せば……何とかなるんじゃあ無いのぉ?』

 

「ちょっとやって見ようか」

 

 

ふと言われた黒曜からの提案に、僕は承諾の意を示して魔法陣の上に乗る。そしてすぐに目に付いた魔石に、自分の魔力を流してみる。そうすると、その魔石は緑色の反応を見せた。これは……風属性の魔力かな?

 

その様な事を思いながらも、他の魔石にも魔力を流して行く。最後に闇属性の魔力を流して、6つの魔石のある台に光が甦った。それを感知したのか、中央にある魔法陣が静かに輝き始めた。

 

 

「……これって、魔法陣と言うよりもさ、転送陣?なのかな」

 

『さぁ、妾にはわかりませぬ……』

 

「取り敢えず、最後の魔力を流して見ようか。魔石の色は白だから、無属性の魔力だね」

 

 

僕は転送陣?の中央にあった魔石に、無属性の魔力を流した。そして少しした後、爆発的な光が僕と黒曜&珊瑚を包み込んで、何処かへと飛ばされた。

 

ホントにこれって……転送陣だった訳!?だとしたら、一体何処に送られんのさーーーー!




今回はここまでです!如何でしたか?


次回は颯樹くんが転送された後から、お届けしようと思います!この後の展開は、原作既読者ならば容易に想像出来ますよね……?

それではまた次回!次回の投稿は12月27日(金)午前0時の予定です!今回も感想を是非!

──────────────────────

今回のお話で、一部のPartで颯樹くんの言い方が変わってますが、これは【幕間劇1】で、颯樹くんが見せた物とほぼ同等です。このパターンは、人を馬鹿にする様な発言をした人に出て来ますので、こんがらがらないように気を付けて下さい。


さて最後に……。私は今回「異世界はスマートフォンとともに。⑲」を買ってから、自室にて読み耽っておりました。気が付けば午後8時17分(読了現在時刻)……人間好きな事には集中出来る生き物だと実感できます。そしてドラマCDの方はまだ聴けておらず、それについてはボチボチと言った形になるかもです。週末や年末年始とかを使って聴きたいですが、私は未だに自身のパソコンとかを立ち上げられて居らず……、そちらの方の感想はまた追追と言った感じですかね〜(^_^;)

ドラマCDの方は、書籍版16巻が最初(第1弾)と言う事で……書籍版19巻(最新巻)が第2弾となっています。アニメでお馴染みの冬夜くんや、ユミナを初めとしたメンツから、今回からは新キャラとして、ルーとヒルダに桜が登場しています!

その三人の新キャラの声を務めている声優さんはと言いますと……ルーが《ソードアート・オンライン》シリーズ(主にゲーム)に出て来る、レインでお馴染みの高木美佑さん!ヒルダは《プリパラ》に出てくる、南みれぃちゃんでお馴染みの芹澤優さん!そして桜が《ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル ALL STARS》など、今後はアニメ化も決まっている……虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のキャラである、朝香果林ちゃんでお馴染みの久保田未夢さんです!凄い豪華ですよね〜♪


とりま、このままだと雑話だけでとても長くなりそうな後書きですので……ここらで一区切りと。

皆様、このお話って……アニメ一期ではどの辺か知ってます?《第10章:海、そしてバカンス。》の後半のお話なんですよ?その後の展開も考えると、とてもじゃないですが……当初予定していた時期からは、大分遅くなってしまいます(ó﹏ò。)申し訳ないです。

原作はもう500話以上もありますので、かなりこのお話は長く続きます。更にオリキャラも組み込むので、ヘタしたら完結までに結構長くかかるかも……。ですが、それだけあるなら描きごたえも、充・分・に!あると見てますので、ぜひ!私の織り成す『イセスマ』ワールドを楽しんで貰えたら嬉しいです!


本当に長くなったよ……。それではここで本・当・に!一区切りと。皆様、何時ものように高評価にお気に入り登録お待ちしております!そして感想も!それが私のモチベーション増加に繋がります!初絡みだと、モチベーションが急上昇するかも!?(作者は豆腐メンタルですので、あんまりド直球で(アンチコメですねこの場合)来られるとガチ凹みします)

そして本当に最後です。ジャズさんの投稿小説である「ソードアート・オンライン 〜二人の黒の剣士〜」が前回より次なるお話《ホロウ・フラグメント編》へと突入しました!《アインクラッド編》の延長線上のお話ですが、とても面白いですよ♪SAOが好きな方は、是非一度ご覧になってみては?以上……、お知らせでした。


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第36章:空中庭園、そしてマスター。

あまりの眩しさに閉じた眼を開くと、そこには色とりどりの花が育てられてる庭園が広がっていた。花々が美しく咲き乱れ、小鳥は飛び回って居て、細い水路からはしっかりと水が流れている。

 

僕の足下には海底遺跡と同じ魔法陣があったが、それを起動させる魔石台は存在して居なかった。どうやら……向こうから此処までは一方通行だと言う事らしい。

 

 

『ご主人様ぁ……此処何処かしらぁ?』

 

「見た限りだと、何処かの庭園っぽいんだけど……まさか海底遺跡の転送陣から、此処に繋がってたなんて」

 

 

取り敢えず魔法陣から降りて、庭園の中へと足を踏み入れる。すると遠くから誰かが、こちらに向かって歩いて来るのが分かった。パッと見……女の子?歳はエルゼ達とそう変わらないくらいか?

 

だんだんとその女の子の姿が顕になるに連れ、僕は眼を思いっきり逸らした!いや、あんなのを直に見せられたら誰だってそうなるわ!

 

翡翠色の短く切り揃えられたサラサラの髪に、白磁のような肌に金色の双眸。何処かミステリアスな雰囲気を醸し出す少女だった。衣服はノースリーブの黒の上着に、薄桃色の大きなリボンが着いていて、白いニーソックスに黒のエナメルの靴を履いていた。

 

さて……僕がここで説明を途切れさせたのには、ある一つの理由があるのをお気づき頂けただろうか?問題はその後だった。

 

 

「初めましテ、私はこの「バビロンの空中庭園」を管理する端末の「フランシェスカ」と申しまス」

 

 

空中庭園!?端末!?色々と聞きたい事が山ほどあるんだけど……それよりも言及しなければ行けない事が目の前にある!

 

僕は覚悟を決めると、先程《フランシェスカ》と名乗った女の子に質問を投げ掛けた。

 

 

「あの……さ、ちょっと……良い?」

 

「はイ。何でしょウ?」

 

「なんで……下、穿いてない訳……?」

 

 

見たらダメだと眼を逸らすも、フッと視界に入ったその子の下半身は、スカートもズボンも穿いてない状態……とどのつまり、小さな布切れ一枚だけだったのである。

 

訳が分からん!どういう事だぁ!?あれ?でもさっき確かこの子、自分の事を『端末』って言ってたよな?って事はそうさせる様に仕向けたヤツが居るって事?

 

 

「なンでって言われましテも……義務?」

 

 

フランシェスカと名乗った彼女は、疑問に思う様に可愛く小首を傾げる。何な訳……?ここではスカートやズボンを穿いちゃいけないって規則でもある訳!?責任者呼んで来い!取り敢えず三時間ほど説教垂れたい。

 

それにこの状況は、精神衛生上非常に大変宜しくない。何とかしなければなぁ……。

 

 

「えっと、フランシェスカ……だったよね?」

 

「はイ。シェスカとお呼び下さイ」

 

「取り敢えず、何か穿いて来てくれる?そのままだと、眼のやり場に困るから……」

 

「ぱんつは穿いてまスが?」

 

 

……うん、それは穿いてるよね。そうじゃないのよ。そうじゃなくって……。あっ、あれは水着だと思えば良いのか。あれは水着、あれは水着、あれは水着、あれは水着……。

 

そう思いながら目を逸らし、目の前の現実から逃げ出そうとする。……そしてふと眼を戻す。そこに飛び込んで来たのは見まごう事なき……。

 

 

「今チラ見しましタね?」

 

「……」

 

 

やべ、バレてる。よく《沈黙は肯定の証》と言うけど、今の僕がまさにそんな状態じゃんか……。それにあれを水着と思うには無理がある。

 

 

「まア、そこまで言うのなら穿きまスが」

 

 

シェスカはそう言うと、何処から取り出したかも分からない、白のフリルが付いた黒のスカートを穿き始めた。と言うよりもさ、持ってるんなら最初から穿いてくんない?

 

 

「……何もしないんでスか?」

 

「しない。何にもしないからさっさと穿いて」

 

「ちょっとダケなら触っても良いでスよ?」

 

「お願いだから、さっさと穿いて!」

 

 

何か……泣きたくなって来た。シェスカがスカートを穿いてくれた事で、漸く落ち着いて話が出来そうだ。ここまで来るのにかなり手間を掛けたけどね。

 

 

「えっと、聞きたい事が沢山あるんだけど……聞いても大丈夫?」

 

「ええ、どウぞ」

 

「先ずここって何処?見た感じ、直ぐにここが《庭園》だって事は分かったんだけど」

 

「そうでス。ここはバビロンの《空中庭園》でス。《ニライカナイ》と言ウ人も居まス」

 

 

空中庭園?もしかしてこの庭園は、空を飛んでましたとか……そういうオチ?それに見た感じだと、最初は庭園を予想してたけど、よく見てみれば植物園の方が近い気がする。

 

この庭園の様子を見る為に、シェスカに此処の案内を頼む。そして歩き始めたシェスカに付いて行くと、庭園の終わりであるガラス張りの壁が現れた。その先には雲海が広がっていた。なるほど……空中庭園ってのは、こういう事か。

 

 

「ここは一体何の為の《庭園》なの?」

 

「ここは博士が趣味で造られた《庭園》でス」

 

「その博士が趣味で此処を作り、そしてそこを管理する為に、君を生み出したって所か……。とまぁ、こんな感じで合ってる?」

 

「その様に考えて貰えれバ」

 

 

シェスカから聞こえて来た肯定に、僕は一つ頷いてから次に移る。その過程で色々な事を聞く事が出来た。先ずシェスカが造られたのは、今から5092年前とかなり前である事。次にシェスカは魔法生命体と機械の融合体であると言う事だ。

 

前者の方は驚きを隠せずに唖然としたが、後者の方は何となく受け入れる事が出来た。まあ、この世界には妖精族とか亜人族とか居るから、今更そんな事を言われてもなぁ……。驚く方が難しいと言う物だ。

 

 

「……子供はできませンが、行為その物はできまスよ?」

 

「ねぇ、ちょっとその口黙ってて貰えないかなこっちとしてはイライラして仕方が無いんだけど。あとスカートを捲らない。君さ、羞恥心とかそういった恥じらいの感情とかは無いの?」

 

「新品デスのに」

 

「聞いてないから」

 

 

不満そうにスカートを下ろすシェスカ。羞恥心をプログラムして無かったり、セクハラ発言を平気でしたり……造った博士は実はバカの類では無いかな、と思えてしまう。

 

黒曜は頭を揺らしながら、シェスカの事を疑問視する。そりゃあね。僕もそう思うよ同意見。

 

 

「それにしても5000年以上もよく稼働してたよね〜……。シェスカもだけど、この空中庭園自体も劣化して壊れたりしなかったの?」

 

「この《庭園》は至るトコロを魔法で強化してますカラ。私も5000年と言われましてモ、メンテナンスの為のスリープモードに入り、非常時以外は待機状態でしタので。《庭園》の管理はオートにしたままでシタ」

 

 

……なぁるほど。そういう訳か。自動で管理されてるのなら、この綺麗な状態の空中庭園を5000年以上も保てるし、管理する端末が仮に待機状態だったとしても、隅から隅まで手が届くと言う事か。

 

……ん?チョイ待ち。今さっきシェスカは何て言った?「非常時以外は待機状態でした」……?って事は。その先を安易に予想できた僕は、シェスカにその事を尋ねる。それには首を縦に降って答えた。

 

 

「非常時と言えば非常時でスね。5070年ぶりのお客様でスかラ。そういえバお名前は?」

 

「あ、颯樹。盛谷颯樹だよ」

 

「颯樹様。あなたは適合者としテ相応しいと認められまシた。これヨり機体ナンバー23、個体名「フランシェスカ」は、あなたに譲渡されまス。末長クよろしくお願い致しまス」

 

「ふぇ?」

 

 

え?《適合者》って何ぞ?それに《譲渡》って、どういう事な訳よ。シェスカは僕が転送されて来た魔法陣の方に指を差して、説明を始めるのだった。

 

曰く『あの魔法陣は普通の人では起動しない』と言う事で。多人数で魔力を受け付けられない為、一人で尚且つ全属性持ちのみが転送陣を起動できるのだとか。ちなみに、これを造った博士も全属性持ちなのだと。……居たんだ、他にも全属性持ちが。自分の造った娘にぱんつ丸出しを強制する大アホだけど。

 

 

「そして博士は亡くなる前に残される私たちを、この転送陣を抜けてキた適合者に譲渡する事を決めましタ。それが5070年前のコトでス」

 

「適合者って言うのは、全属性持ちの事か……」

 

「?違いまスよ?」

 

「えっ?……あ、察した。嫌な方の予感が」

 

 

僕の考えていた事を、シェスカにあっさりと否定される。全属性持ちが《適合者》の条件じゃないとしたら、一体何が……。あ、察した。嫌な方の予感が。

 

その予感が的中したのか、シェスカが衝撃的な言葉を口にした!

 

 

「颯樹様は私のぱんつを見ても、逆に隠すよウに言われまシたかラ、適合者でス」

 

「んな条件あってたまるかぁ!」

 

「大事な事でスよ?モし颯樹様が欲情に任せ、私に襲いかかってキタとしたら地上に放り投げていまシた。また何もせず、ぱんつ姿のまま放置されてイたら、ソレも不適合者として丁重に地上へとお帰り願ったでしょウ」

 

 

……まじで?あのぱんつ丸出しに、そんな意味が込められていた訳?物凄く疑わしいし、イマイチ信じられないんだよなぁ……。

 

ま、考えている事がセクハラしか頭に無さそうな博士ならば、その様な事も考えられなくは無いが。

 

 

「他人を思いやる優しさ、それが無けレば私たちやバビロンを任せられナイと、博士はこのよウな方法を考えられたのでス」

 

「うん、絶対おかしいよねその博士」

 

「否定はしませン」

 

 

しないのかい……。やっぱおかしいよその博士。取り敢えずまあ、最終的な決定権は各々にあると言う事で、シェスカの場合はと言うと『女に慣れた妙に優しすぎるフェミニスト気取りよりも、理想はチラ見しながらも自制し、興味が無い様なフリをするムッツリが無難』だとか。

 

……おい。ムッツリってどう言う事だ。その条件が無難って何か引っかかるなぁ……。

 

 

「そウ言う訳で私はあなたの所有物になりまシタ。これカラよろしくお願いしまス、マスター」

 

「は、はあ……」

 

 

なんか……物凄い厄介事に巻き込まれた様な気がする。まだ会った事のない博士の、してやったりと言わんばかりの顔が、僕の脳裏に浮かんで来そうだ……。

 

取り敢えずみんなを此処へ連れて来るか。シェスカに事情を話して、僕は皆の待って居る地上へと【ゲート】を開いた。




今回はここまでです!如何でしたか?


何時もよりちょっと抑え目です。その理由はと言いますと……?その詳細はまた後で。次回はアニメ一期《第11章:ぱんつ、そして空中庭園。》の中盤Partをお届けしたいと思います!残すアニメ一期ストーリーも、あともう少しになって来ました……!終わるのが何時になるのか、私としては心配で仕方が無い……!取り敢えず、2nd season開始の目処はある程度立ってます。

次回の投稿は、いよいよ年内最後!12月30日(月)の午前0時の予定です!もしかしたら遅れて、大晦日の日に投稿するかもですので……そこら辺の把握をよろしくお願い致します。

──────────────────────

今回の後書きでは、ジャズさんの投稿小説である「ソードアート・オンライン 〜二人の黒の剣士〜」の新しいお話の大まかな内容と、オリキャラをご紹介したいと思います!


《あらすじ》

デスゲームと化した〈ソードアート・オンライン〉をプレイし、七十五層にてヒースクリフ(茅場晶彦)に勝利を収めたジェネシス達。勝利を収めたにも関わらず、ログアウトが成されない状況に、生存しているプレイヤー全員が困惑の表情を浮べる中で、次なる七十六層へと続く道が現れる。その道を進んだ先では、アイテムの文字化けやスキルのロスト化……更には下層へ転移できなくなってしまう!

突如〈ホロウエリア〉へと迷い込んだSAOプレイヤー達は、戸惑いを浮かべつつも、真のゲームクリアを目指して走り出した!過去の仲間との再会に、新しいプレイヤーとの出会いを繰り返しながら、ジェネシス達はデスゲームクリアの為に奔走する!


《オリキャラ》

〘一条 光実〙〈ミツザネ〉
【設定】雫(ティア)のお父さん。SAOで起きた不具合を調査する為にログインするが、実際の目的はと言うと娘に会いたかったからと言う超親バカ。年齢は40歳ほど。

〘盛谷 颯樹〙〈サツキ〉
【設定】五十九層に巣食うオレンジプレイヤー達を駆除し続ける《黒白の兄妹》の片割れ(兄)。リアルで薙刀を嗜んでいた事が幸いし、武器である双頭刃を手足の様に扱う。SAOに巻き込まれる前は、高校入試の準備をしていて、ゲーム好きの妹によって始めた。普段は温厚なのだが……怒らせると本当に怖い(ティアに引けを取らないほど)。その強さは対決した者がよく知っている。デスゲーム開始当初は、アスナと同じ15歳。

〘盛谷 葉月〙〈ハヅキ〉
【設定】五十九層に巣食うオレンジプレイヤー達を駆除し続ける《黒白の兄妹》の片割れ(妹)。リアルで弓道を嗜んでいた事が幸いし、武器である弓の精密な一射が彼女の十八番。兄である颯樹の事を好きであり、彼を見た目の善し悪しだけで寄って来る、悪い虫を撃退して居たりする。颯樹と同じ性格をしており、悪人に対しては慈悲も与えぬ冷徹な一射で仕留める。デスゲーム開始当初は、キリトと同じ14歳。

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こんな感じでしょうかね〜。すみません……、紹介が多少雑になってしまいました……。なにか指摘がありましたら、教えて貰えると嬉しいです。

それでは今回も感想をぜひ!高評価にお気に入り登録、何時ものようにお待ちしております!皆さんの応援が私のモチベーション増加に繋がります!


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第37章:キス、そして告白。

「空中庭園……ね。古代文明パルテノの遺産とも言えるわね」

 

 

辺りの景色を見渡しながら、リーンが一人感慨に浸っていた。やっと目的の場所に辿り着けたのだから、その気持ちはよくわかるのだが。

 

古代文明パルテノ。様々な魔法を生み出し、それによる道具《アーティファクト》を創り出した超文明。バビロンもその文明が生み出した遺産の一つであり、それ自体がアーティファクトとも言える。そうなると、シェスカも同じになるのかな。

 

 

「広いですね〜」

 

「空気も綺麗で、落ち着きます」

 

「ねぇ、シェスカ。この空中庭園って、広さはどれくらいなの?」

 

「パルテノドーム4個分ほどノ広さがありまス」

 

 

……ごめん。僕はパルテノドームその物を先ず知らないから、それで例えられてもわからん。兎に角かなり大きい事は確認できた。見て歩いて鑑賞できる物が庭園である事から、皆が浮かれるのも何となく分かる気がする。庭師のフリオさんに見せたら、間違い無く喜ばれそうだな。

 

その一角にある、池の畔にある休憩所の役目を持つ東屋で、僕とリーンにシェスカは寛いでいた。

 

 

「それで……リーンの手に入れようとしていた物って、ここにあるの?」

 

「さあ。私は古代魔法を幾つか発見できたら良いなと思ってたんだけど、それ以上の物が見つかっちゃったからね」

 

 

なるほど……このバビロン自体が《古代魔法の結晶》とも言える訳ね。とても5000年も持ちそうに無い庭や、萎れる事の無い草花、外敵から不可視となる障壁、どんな古代魔法が使われているか分からない、不思議のオンパレードだからね。

 

此処を造った博士は、間違い無く『天才』と呼ぶに相応しい人だったんだろうね。自分の造った娘にぱんつ丸出しを強制する大アホだけど(前回も言ったよそれ)。

 

 

「シェスカ、ここは庭園としてのスペース以外に何かあったりする?」

 

「いえ、何も。他のと違って、単なる空に漂う個人庭園でございまス。財宝も無ければ、これと言った兵器もございませン。空飛ぶ素敵なお庭でございまス。あぁ、あと《闘技場》もその一つでス」

 

 

いやまあ、このバビロンの存在自体が財宝みたいな物だしなぁ……。とても5000年以上も前に存在していた遺跡がいきなり見つかって、平気な顔をしてる人は居ないと思うが。

 

……ちょっと待て?シェスカは今、何て言った?「他のと違って」……?と僕が思うより早く、リーンがシェスカへと質問をしていた。

 

 

「ねぇ、シェスカ。ちょっと気になったんだけれど。貴女さっき『他のと違って』単なる空に漂う個人庭園、って言ったわよね?それってどういう事?」

 

「バビロンは幾つかのエリアに分散されて、空を漂っていまス。私の管理する《庭園》の他に、《研究所》や《格納庫》、《図書館》等が、私の姉妹によって制御、管理されておりまス。全て合わせて《バビロン》なのでス」

 

 

……なんと。この《庭園》以外にも、そう言った遺跡が幾つかある訳だ。僕個人としては非常に興味を唆られる内容だけど、目の前に不安要素があるんだよなぁ……。

 

『それでも見てみたい』と言う僕の気持ちが強いのは、単なる好奇心なのだろうか……と思えてしまう。僕は寛いでいた東屋に皆を呼び寄せて、話を聞いてもらう事にした。

 

 

「そんな物が浮かんで居たら、騒ぎになりそうな物だけど」

 

「エルゼ、さっきも言ったかもだけど……外部から認識を阻害させる障壁が《バビロン》には張られてるから、今し方僕が通って来た方法でしか入れないの」

 

 

エルゼ……さっきの話、聞いてた?古代文明パルテノの時代に存在していた天才(変態)博士は、ありとあらゆる古代魔法を使って、バビロンに完全なるステルス性を付与して居た。

 

発見するにはたった一つ……。僕の様な全属性持ちが、転送陣と魔石台にある魔石に、全ての魔力を送り込まないと発見出来ないという事。その話に疑問を持った八重が、シェスカにある事を質問する。

 

 

「それで、一体幾つこの様な浮き島があるんでござるか?」

 

「私の《庭園》に《図書館》、《研究所》、《格納庫》、《塔》、《城壁》、《工房》、《錬金棟》、《蔵》、《闘技場》と当時は10個ありましタが、現在幾つ残っているか分かりませン」

 

 

えっ……!?10個もこんな浮き島がある訳!?捜すのに骨が折れそうだ。いや、世界全体で言ったら少ない方なのかな?どうやら大きさでは《庭園》がトップクラスで、それに次いで《闘技場》との事で。

 

本当にその博士って、マジモンの天才だったんだなぁ〜って実感するよ。……変態と言うイメージは、残念ながら消えてないけど。

 

 

「私としては、その《図書館》に惹かれるわね。古代文明の様々な知識が詰まってそうじゃないの」

 

 

隣でリーンが不敵な笑みを浮かべてるが、実際はどうなんだろうか……。あの変態博士の考える事だ。大量のソッチ系の知識が詰まった場所とかでは……?もう一方の《蔵》もなぁ〜。ソッチ系のアイテムとか満載だったら、絶対に嫌!

 

 

「…他の浮き島とは連絡とか、取れないん、ですか?」

 

 

リンゼがシェスカにおずおずと尋ねる。相変わらず人見知りが激しいのな……。いや、僕もあまり人のことを言えた義理ではないのだが(前世での話)。まあ、相手は「人」では無いし。

 

でも確かに。シェスカの様な姉妹が他にも居るのであれば、その娘たちと連絡を取り合うのが手っ取り早い。

 

 

「残念ながラ他の姉妹とは現在リンクが絶たれていまス。障壁のレベルが高く設定されていルので、如何なる通信魔法も受け付けませン。マスターが許可しない限り、下げられるコトは無いでしょウ」

 

「リンク……?それにマスターって何です?」

 

 

ユミナが首を傾げてシェスカに尋ねる。リンクとかって言葉は通用しないのか。「グラス」とか「ナイフ」って言う固有名詞や、ある程度の日用会話での横文字は通じるんだけどな……。専門用語的な物は、あまり世間では広まってないのかな。

 

 

「リンクとは《繋がり、連結》と言う意味でス。マスターとは《愛しの旦那様》と言う意味でス」

 

「嘘教えんな。マスターについての意味で、正しくは《主人》とか《頭領》って意味だろ。常に頭がエロ思考のお花畑だから、そんな歪曲した知識になる」

 

 

コイツ……!『主人』=『愛しの旦那様』って認識で覚えてんのかよ(=_=)どうもシェスカはロボ子(正確には違うんだけどね)のくせに、多少お巫山戯が過ぎる。これも制作した博士の影響かね。

 

……ん?何処からか、周りを凍らせる様な威圧感が感じられるのですが……?

 

 

「…主人ってどう言う事、です?」

 

 

ふっとその原因を見ると、リンゼが眉根を寄せて詰問して来ていた。あー!軽率だった!当たり障り無い様に、後で皆に説明するつもりだったのに(真っ正直に)!

 

 

「颯樹様にぱんつを見られ、身も心も捧げるコトになりまシた。故に、私のご主人様、マスターでス」

 

「おい!色々と違いすぎるぞ!しかも……説明不足だろうが!そんな発言じゃ何れ誤解を……ひっ!」

 

 

ピシィッ!と場の空気が凍る。リーンと召喚獣三匹以外の眼が僕に向けられるが、眼のハイライトが仕事をしておりませんし、ユミナやリンゼに至っては人殺せるよそれで!

 

ゆらりとリンゼが椅子に座る僕の目の前に立ち、腕を組んだポーズで見下ろしながら睨んで来た。……え?誰ですかこの人。大人しくて控えめなリンゼさんは一体何処へ?

 

 

「……颯樹さん」

 

「はいぃ…」

 

「正座」

 

 

リンゼ様が怒ってらっしゃいますよぉ……。リンゼは基本的に怒らないタイプで、大人しくて控えめなイメージがあったんだけど……、今の彼女からは人をも一息で殺せそうな威圧感を感じていた。

 

ここで反抗する意志を見せれば、確実に僕の未来に関わる為、僕は素直に地面に正座をする事にした。

 

 

「…以前私たちのを見たにも関わらず、またですか。そんなにぱんつが好きですか」

 

「いや、前のは事故で……」

 

「……今回のは自分の意思で見た、と?」

 

 

いやいや、自分の意思とかそう言うんじゃなくて……あれは最初から見せてるからね!?僕も一瞬見た時は「あ、僕は疲れてんのか」と思ったくらいだからね!?

 

それでも皆の無表情の威圧は、依然として消える事が無い。……何処かで選択を間違えたか?あれ?これって、僕が全体的に悪い訳?

 

 

「何ですか、昨日の水着姿じゃ満足できませんでしたか?結構見てましたよね、私たちの」

 

「いや、あれは〜、そのですね〜……」

 

「私も頑張ってお姉ちゃんとお揃いのビキニにしたんですが、ダメでした?やっぱり水着と下着は違いますか、そうですか」

 

 

ちょ、怖いんですけど!リンゼさんが在らぬ方向を向いて、何かブツブツ言い始めましたよ!?他の三人もかなり引いてるし!リーンは意地悪そうな笑みを浮かべて、何か言ってくるし……。ごめん、今そういう状況では無い事を理解したうえでの行動かなそれ。

 

 

「何で怒られてるのか分からないって顔ね」

 

「大丈夫、それは分かったから」

 

 

流石にこの状況で察せない程に、僕は人でなしでは無いし……鈍感でも無いぞ!

 

 

「そこら辺にしときなさいな。それ以上責めるなら、貴女もキチンと彼との立場をハッキリしないとダメ。少なくとも、そこのお姫様と同じ場所に立たないとね」

 

「……はい」

 

 

リンゼがリーンの提言に小さく頷き、後ろに引き下がった。……はぁ〜、ガチで寿命が縮むかと思ったよ〜。でもこれで「リンゼは怒らせたら行けない」、ハッキリ理解しました。それは何もリンゼに限った事じゃないけどさ。

 

脱線した話を元に戻す様に、リーンはここまででの話を纏めてシェスカに話す。

 

 

「通信を阻害している障壁のレベルを下げるには、マスターである颯樹の命令が必要。でも颯樹は《空中庭園》のマスターでしかない。向こうが何らかの弾みで下げでもしない限り、他の施設は見つからないって事ね」

 

「仰る通りデ」

 

 

その後に話を聞いて見ると、他の施設との合流は二度ほど観測されたのだとか。一度目は《図書館》と3028年前に、二度目は《蔵》で985年前との事。ここまでの話を聞いての結論は「自力で他の施設を探すしか無い」という事だった。……少々、と言うかかなり大変だなぁ……あと9個もこう言う浮き島を、地道に探さないといけないなんて。

 

ちなみにこの《空中庭園》があった場所を聞かれた時、僕たちは「イーシェンの南、海の中」と答えたが、シェスカは首を傾げて居た。……どうやら5000年前には、イーシェンは存在して無かったらしい。

 

 

「それで颯樹。この娘どうするの?」

 

「どうするって言われてもなぁ……。一応で聞いておくけど、シェスカはどうしたい?要望があればある程度の配慮はするよ?」

 

「私はマスターと一緒に居たいと思いまス。おはよウからおやすみまデ。お風呂からベッドの中まデ」

 

 

物凄い不安が出てきた気がする……。このまま無かった事にして立ち去るのが正解では無かろうか。……って!またリンゼさんが在らぬ方向を向いて、ブツブツ言い始めましたよ!?

 

 

「一緒の部屋には私も居るんです!無視しないで下さい!」

 

「結論から行けば、後半部分は聞かなかった事にする。前半はそれで良いかもだけど……《空中庭園》に何かあったらどうするの?」

 

 

シェスカから放たれた言葉に、ユミナが顔を真っ赤に染めながら抵抗する。その後に聞いた僕の質問には、問題無しとの返答を聞けた。彼女曰く『《空中庭園》に何かあったらすぐに分かるし、私には《空中庭園》への転移能力があるから』と言う事らしい。

 

更には『《庭園》の管理はオートで充分』との追加情報を聞けた。……はぁ、大人しーく諦めるしか無いか。

 

 

「つきまシては《空中庭園》へのマスター登録を済ませテ頂きタク。私は既にマスターの物でスが、《庭園》もキチンとマスターの物とシなければなりませン」

 

「良いけど……具体的にはどうするの?」

 

「ちょっと失礼しまスね?」

 

 

そう言ってシェスカは、椅子に座る僕の前へと座り込む。そして僕の頬に両手を添えて、何でもない事のように唇を合わせて来た。

 

 

「んんッ!?」

 

「「「「ああぁああ────────!!!!」」」」

 

 

僕の目の前に居る4人から、劈く様な悲鳴が聞こえる。が、そんな事はお構い無しに、にゅるんとシェスカの舌が侵入して来た!おいおいおいおいおいおい!どうなってるわけぇ、これ!説明を求めるよ!

 

やがて唇が離れてから、自分はシェスカにキスをされたのだと気づく。

 

 

「……え?」

 

 

それがマスター登録の方法な訳……?本当に製作者を呼んで来いよ!1日がかりで説教垂れてやるから!

 

キス自体はユミナと三度(二度は不意打ち、一度は此方から)経験している。……だが、こんな風に人以外にされたのは初めてだ。そしてキスした本人はと言うと、何か味見をする様に唇を舌で舐め、眼を閉じている。

 

 

「登録完了。マスターの遺伝子を記憶しまシた。これより《空中庭園》の所有者はマスターである盛谷颯樹に移譲されまス」

 

「ちょっと何してるんですかぁ!!!」

 

「俺も提言良いかシェスカぁ!」

 

 

ユミナがシェスカに迫り来る。俺も此奴には色々と言いたい事があるもんでね!小さな腕を振り上げて、ガーッと怒りを全身で表していた。

 

 

「いきなり、きっ、きっ、キスするとか!私は既に経験済みですけど、そこまでされた事は無いんですよ!?そこまでしますか普通!普通しませんよね!?よね!」

 

 

何で二回言いましたか。顔を真っ赤にしながら、怒ってるんだかパニクってるんだか、よく分からん顔で抗議している。その顔が少し可愛いと思えてしまうのは、ユミナの事が好きであるが故かな?それとも、見てて和やかになるだけ……とか?

 

 

「おいこら。マスター登録はそんな方法でするのか?もっとやり方があっただろオイ!」

 

「遺伝子採取に一番効率が良いと思いましたのデ。私に子供は出来ませンが、其方の方法はイロイロと問題が有りそうでシたカラ」

 

「「こっ、こども!?」」

 

 

シェスカが僕たちの抗議に返した言葉で、僕とユミナの顔が更に真っ赤に染まる。ユミナに至っては、顔から湯気が出る程だった。よっぽど人を引っ掻き回すのが好きらしいなそいつはァ!会った時には一回文句言い付けてやる!

 

その視界を遮る様に、僕の目の前に誰かが立ちはだかる。見上げると腰に手を当て、険しい顔で此方を睨むリンゼの姿が。もう、これは好い加減に覚悟を決めるべきだねうん。

 

 

「……颯樹さん」

 

「…っハイッ!」

 

「私は、颯樹さんが好き、です」

 

 

え?

 

唐突な言葉に目を開き、もう一度彼女の方を見上げると、ユミナと同じ様に顔を真っ赤に染め上げたリンゼが立っている。

 

そして何かを決意したかの様に目を瞑り、勢いのままに僕の唇へと自らの唇を押し付けて来た。シェスカの時と違い、不慣れな感じの押し付けるようなキス。

 

 

「っ、むぐっ!?」

 

「「「ああぁあああぁあ──────ッ!!!!」」」

 

 

先程とは足りない三重奏の叫びが、空中庭園の至る所へと木霊した。……どうなってるわけ、これぇぇぇぇぇぇぇ!




今回はここまでです!如何でしたか?


今回のお話でアニメ一期《第11章:ぱんつ、そして空中庭園。》の内容は終了です!次回はアニメ一期最終回となります《第12章:決断、そしてスマートフォンとともに。》の内容へと突入します!このPartはオリジナル要素が多めの話が、全体のお話を通してもかなり多いです!

そして……少しした後からは、いよいよ次なるシーズン【2nd season】へと突入します!このシーズンからは、ラノベやなろう版を準拠にしますので、どうかそこら辺をよろしくお願い致します!この章では颯樹くんだけしかオリキャラが居ませんでしたが、次のシーズンからは何人か登場します!オリジナル要素も織り交ぜつつ進めて行くので、応援をよろしくお願いします!


次回の投稿は、年明けの……1月3日(金)午前0時の予定です!今回も是非感想を聞かせてください!高評価にお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております!皆さんの暖かい応援が、私の執筆のモチベーションへと繋がります!

──────────────────────
【おまけ】《※今回のお話で年内の投稿は最後なので……最後に少しおまけシーンをお届けします。※》


「色々あったなぁ……今年も」

「そうですね〜。作者さんなりには、それなりに楽しかったらしいですよ?この小説が始まった9月12日は、自動車学校の講習の合間を縫って、この話(第1話)を執筆してたらしいですからね」

「ホントだよ。今までは5作品の中で、別世界の僕を主人公に置いて話を進めてたけど……12月9日を境に、この作品に集中する様になったからね」


そりゃあほんとに面目ない……。


「でも、こうなった事で……他作者さんとの関わりも増えて来たし、この機会を作ってくれた作者さんには感謝しか無いね。それに……」

「何です?」

「ユミナと一緒に居られる時間が増えて、僕も嬉しいからさ。何て言うか……これからもよろしく」

「颯樹さん……///はい。こんな私で良ければ。……あっ、颯樹さん、髪の毛にゴミが」

「え?嘘、何処」

「……んっ///」チュッ


……何か、甘ったるい夫婦のいちゃラブシーンを見せられてるのは私だけぇ……?な、何はともあれ!2019年ではお世話になりました!ではまた来年!2020年でお会いしましょう!それでは、良いお年をお迎え下さい!


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第38章:二人目、そして申し込み。

リンゼの告白の後、よく状況が整理できないままに僕らはシェスカを連れて、ベルファストの屋敷へと戻った。頭がパニックになっていた僕は、ライムさんに半ば強引にシェスカを頼んで、我先にと自室へと戻っていた。

 

 

「……はぁ、何か、かなり疲れた」

 

 

ちょっとベッドに横になれば、頭がスッキリするかも。と思って僕はベッドの方へと歩こうとする。すると、先程の空中庭園で感じた威圧感が、僕へとビシバシ伝わって来ていた。

 

思わずその発生元に首を傾けると、そこには普段見せている優しさなんて塵一つ残らない様な厳しさを向けた、ユミナが僕の事を睨み付けていた。

 

 

「颯樹さん」

 

「はい」

 

「正座してください」

 

 

僕はユミナに言われるがままに、素直に床に正座をする。心做しか彼女のオッドアイも、視線が優しい物から厳しい物へと変貌している気がしてならない。

 

そしてじーーーーーーーっと、彼女のオッドアイが僕を見つめる。本当にこれは返答を少しでも間違えたら、とんでもない事になりそうだな。

 

 

「颯樹さん」

 

「はい」

 

「私、怒ってますよ?」

 

 

いや、そんな事を言われましてもぉ……。婚約者のユミナからして見れば、僕が他の女の子に告白されて面白い訳が無いだろうけど。

 

目の前で眉間に皺を寄せて、頬を膨らませている姿はこれはこれで或る意味で可愛いのだが、こんな状況でそんな事を言える程、僕の肝は据わっちゃいない。

 

 

「なんで……」

 

「はい」

 

「なんで私にはあんなに強くしなかったんですかぁ!先程のシェスカさんみたいな!」

 

「え?……もしかして、そっちぃぃぃ!?」

 

 

ええ!?そっちでしたぁぁぁぁ!?……確かに思い返して見れば、今回みたいなヤツは、ユミナからの方が多かった気がする。僕の方はと言うと軽くするくらいだ。まさか……それで怒ってたとは……。反省。

 

 

「え?リンゼの告白の事に怒ってる訳では、無いんだよね?」

 

「リンゼさんが颯樹さんの事を好きなのは、既にわかっていたので。そこに関しては気にしてません」

 

「ほっと一安心……」

 

 

僕の中では【一番最悪なパターン】まで予想出来てたけど、そうならなくて良かった〜。そこに関しては少し一安心した。

 

 

「この際だから言いますけど、私は颯樹さんがお妾さんを十人作ろうが二十人作ろうが、その娘たちを不幸にしない限りは文句はありません。それも男の甲斐性だと思っています」

 

 

そう言えば、神様が『この世界では一夫多妻が普通だ』って言ってたけど、実際その通りなのね。前世じゃ一夫一婦が普通だったから、どうしても狂うんだよなぁ〜。

 

それにしても、ユミナって本当にしっかりしてるよね。普段の立ち振る舞いから一つ一つの行動、そして恋愛の事に関しても。ホントにこの娘12歳な訳?達観しすぎじゃない?……それとも、僕の事はあまり好きでは無いのでは無いだろうか……?

 

 

「……いま失礼な事を考えましたね?」

 

「はい」

 

 

どうして……こうさ!僕の周りの女性は全員例外無く!勘が鋭い人ばっかりなのかなぁ!ユミナは自身が座る3人がけのソファの隣を軽く叩き、僕にそこへ座る様に促す。

 

僕はユミナの指示に従い、ユミナの左隣(入って来た方から見れば)へと腰を下ろす。それを見たユミナが、一つ一つ言葉を紡いで行く。

 

 

「颯樹さん。私は貴方を生涯の夫とし、妻として生きる覚悟ができてます。それは貴方が好きだからです。リンゼさんにも負けないくらい貴方が好きだからです。それだけは疑って欲しくないです」

 

「……ごめんなさい」

 

 

僕の口から素直に謝罪の言葉が出た。それだけは疑ったら、彼女の想いに対して一番失礼にあたるからね。全体的に悪いのは何も決められちゃいない……情けない根性無しの自分なのだから。

 

 

「……本当にすまなかった」

 

「……抱き締めてキスしてくれたら許してあげます。それも熱いモノを」

 

 

……ちょっ!?この状況でそれはハードルが高すぎやしませんかねユミナさん!隣に居た彼女の身体を此方へ抱き寄せ、心配させたお詫びとして抱き締める。

 

そしてユミナは僕の腕の中から身を起こすと、顔を上に向けて静かに目を閉じた。……覚悟を決めろ俺!少しの間を空けて、僕はユミナの小さな唇にキスをする。シェスカにされた時の様に、彼女の口内を舌で蹂躙した。それが彼女の中でスイッチとなったのか、ユミナも《お返し》という事で同じ事をして来た。

 

暫くそんな状態が続き、彼女の息遣いがどんどん色っぽくなって行く。ここらが引き際だと思った僕は、重ね合わせていた唇を放す。僕とユミナの間には、ピアノ線のような銀色の糸が引かれていた。

 

 

「颯樹さん……///」

 

「これで良い?多少荒っぽかったかも」

 

「はい、満足です♪」

 

「良かった〜。……それと、出て来て良いよリンゼ。君が居る事は薄々察してたから」

 

 

僕の言葉を引き金にして、今まで姿を消していたリンゼが姿を現す。彼女が先程から見えなかったのは、リーンに【インビジブル】をかけて貰ったからだろうなと推測できた。

 

 

「リーンさんに頼んで、認識阻害の魔法をかけて貰いました。こうでもしないと、リンゼさんも納得しなかったので」

 

「納得。さっきはごめん、余裕が無くなってた」

 

「あ、あの、あの時はすみませんでした。シェスカのキスを見たら、負けられないって、思ってしまって……気が付いたら、あんな事……」

 

 

彼女はそう言って、僕への謝罪を始めた。確かにその気持ちはあるだろうね。目の前であんなのを見せ付けられちゃあ、自分に歯止めが効かなくなってしまうのも無理は無い気がする。でもこれは、僕が自分でやってしまった事。自分で償わなきゃ意味が無い。

 

 

「ひゃあ///」

 

「僕もリンゼが好きだ。ユミナにも言ったけど、大切な人の泣き顔が一番見たくない。リンゼが僕と共に歩みたいと願うなら、僕はその気持ちを尊重するよ。可哀想だからって想いは無い。ただあるのは」

 

 

そう言ってから僕は、リンゼの眼を見る。今にも彼女の眼からは涙が溢れそうになっていて、この後に続ける言葉がとても重要だ。

 

僕は一泊置いてから続けた。それは、僕の中でも大切にしている、前世で見たあの某有名なチートアニメの名言の要約だ。

 

 

「僕はこの命を大切な人の為に使う。一分一秒一瞬を、僕自身が守り抜くと決めた人の為に使うよ」

 

「颯樹さん……///」

 

 

そう呟いてリンゼが笑顔を見せる。……うん。リンゼにはやっぱり笑顔が似合う。それを奪った今の僕は、双子のお姉さんの方に殴られても、何も文句は言えまい。

 

 

「お互いの気持ちが分かった所で、どうでしょう。リンゼさんもお嫁さんに貰うと言うのは」

 

「え!?」

 

 

ユミナがサラリととんでもない事を言ってくる。お嫁さんって……リンゼをですか?リンゼの方を見てみると、真っ赤な顔を俯かせてモジモジとしている。

 

 

「王族や貴族、大商人とかなら第二、第三夫人とか普通ですし。あとは颯樹さんの甲斐性だけですよ。きちんと私たちを養って行けるのなら、誰も文句は言いません。リンゼさんは問題ありませんよね?」

 

「わっ、私も、颯樹さんのお嫁さんに、なりたい、です……」

 

 

ま、マジですか。……いやね?嬉しいのは事実なのよ?それより先に色々な不安があるのですが……。と思っていたら、リンゼがまた泣き出しそうな顔になった。

 

……もう…!なるようになれだろ!一々細かい所を気にしてたら、もう絶対に先に進まん!

 

 

「第二夫人とか、リンゼはそれでも良いの?」

 

「…私はユミナと仲良くやって行けると、思ってます。同じ人を好きになって、一緒に幸せになれるなら、こんなに嬉しい事はありません」

 

「はぁ〜……。……わかった。ユミナとリンゼがそれで良いって言うなら、君たちの望む様にするよ」

 

 

途端にリンゼから笑顔が溢れ、力強く抱き着いて来た。普段大人しいリンゼにこの様な事をされると、正直反応に困ってしまうな。と思っていたら……ユミナまで立ち上がって、同じ様に飛び付いて来た。

 

これじゃまるで……『両手に花』だ。ちょっと!これはこれで色々と恥ずかしいわ!

 

 

「じゃあこれでリンゼさんも、私と同じ婚約者と言う事で」

 

「はい」

 

「あの〜、現実を突き付ける様で悪いんだけど、もう夜ですよ?」

 

 

ユミナがにこにこと嬉しそうに話していて、リンゼの方はと言うと、まだ顔の赤みは引いてはいなかったけど、嬉しそうにこくこくと頷いていた。

 

もう夜も遅いので、部屋に戻る様に(ユミナは同室の為に寝床を共にするのだが)促したら、おやすみのキスをせがまれた。自分の不甲斐なさで迷惑を掛けたので、それくらいはしても何の問題も無いだろ。二人の唇に軽いキスを落とすと、各々で様々な反応を見せていた。

 

 

「くっはぁ〜……!疲れた!」

 

「お疲れ様でした♪」

 

「まさか、ユミナの他にも婚約者が出来るなんて」

 

「……颯樹さんなら、気づいてましたよね?この家をお父様に貰った日、私たち女性陣の間で何があったのか」

 

 

ふとユミナから、そんな話題を持ちかけられる。そう言えば国王陛下から屋敷を貰った日、ユミナ以外の三人の顔が赤かった時があったな。顔を僕から逸らしていた事から、何かあったのだなぁと気づいては居たのだが。

 

 

「ん、でも今何でそんな事を?」

 

「あの時颯樹さんから眼を逸らしたのは、リンゼさんだけだったと思います?」

 

「……!まさか!あの二人も!?」

 

 

ユミナからの手助けに、僕は再び頭を使って考えて見る事にした。すると、ある一つの可能性に思い至った!それは或る意味で当たって欲しくなかった物だ!

 

 

「ふふっ♪……さて、寝ましょうか」

 

「そうだな〜」

 

 

そう言って僕とユミナは寝床に着く。途中でユミナが寝易い様に、右腕を出して枕代わりにしていたのはまた別の話。

 

……しかし、リンゼだけじゃ無かったか〜。まさかあの二人もとは……。あの二人に至っては、リンゼよりもスパッと早めに来る物だと思っていたのだが、少々意外な所だ。そんな事やこれからの事を考えながら、僕は微睡みの中へと意識を手放して行った。

 

──────────────────────

〘翌日〙

 

日も昇った翌日、隣ですやすやと寝ているユミナの寝顔を目に焼き付けた後、僕は身体を起こす。その時ドバンッ!とドアを叩き破る様な音が鳴り、それにビックリしたユミナは寝惚け眼を摩りながら起床し、僕は思わずその音のした方向を見ていた。

 

ドアの方に眼を向けると、朝日を逆光に浴びてコチラを見ている一つのシルエットがあった。その人物はベッドの所まで来ると、声を発するのだった。

 

 

「朝から煩くしてすまないわね。……颯樹、ちょっと話があるんだけど良い?」

 

 

僕とユミナの寝るベッドの横に居たのは、昨日僕のお嫁さんになると言ってくれた、二人目の女の子と瓜二つの顔を持つお姉さんの方だった。

 

朝日に照らされて、彼女の腰に吊るされたガントレットが、鮮やかに光り輝く。

 

 

「ユミナ、ゴメンなさいね。颯樹を少し借りてくわね。コイツには聞きたい事があるから」

 

「分かりました。お任せします、エルゼさん」

 

「行くわよ。時間はかけないから」

 

 

その言葉で僕は彼女にある所へ連れて行かれる。……え?ひょっとして、朝からピンチでしょうか?

 

そんな想いが彼女に伝わるはずも無く、僕はエルゼの先導を受けて……ある所へと向かって行った。




今回はここまで!如何でしたか?


さてさて……新年、明けましておめでとうございます!ついに2020年(オリンピックイヤー)のスタートです!そして今日はその初日!翌日が休みだからか、10時半には就寝して6時に起きたんですよ。そしたらびっくり!驚くほど筆が乗るんですよ!やっぱ人ってこれくらい寝ないとダメなのね〜と実感させられました。

どうか今年も「異世界はスマートフォンとともに。if」を応援頂けますと、恐悦至極に存じる次第でございます!


次回の投稿は1月6日(月)午前0時の投稿予定です!明日も執筆作業をしますので、早ければ完成日の翌日に投稿出来るかもですよ♪

何時ものように……感想を是非!高評価やお気に入り登録もお待ちしております!


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第39章:何故か決闘、そして相談。

エルゼに連れて来られたのは、王国軍の第三訓練場である。彼女の話によると、ここはエルゼとレオン将軍がよく練習に使ってる場所だとか。部外者である筈のエルゼは顔パスになっており、そのお陰で難無く入る事が出来た。

 

 

「見事に誰も居ないな……」

 

「ええ。こんな朝早くに訓練を受ける人なんて居ないもの。ま、話をするには最適な環境と言えるわね」

 

「そう言う事か」

 

 

エルゼとそう言葉を交わしながら進むと、訓練場のグラウンドの真ん中で座っている人物が目に入った。……黒髪にかなり大きめの赤いリボンが特徴の彼女、八重である。

 

八重は来たるべき時を待つかの様に、静かに正座をして瞑想をしている。

 

 

「八重、待たせたね」

 

「うむ。颯樹殿を待ってござった」

 

 

手前正面に置いた刀を手に取り、やおら目を開くとその場に立ち上がった。……なんか何時もと様子が違うな。この話し合いから二人の真意が聞ければ良し。実力を見せなければならない時になれば、この時用に仕立てた片手剣があるので心配無しだ。

 

ちなみに僕が今左腰に挿しているのが、その片手剣である。右腰にはブリュンヒルドを差し込んでいる。

 

 

「……リンゼをお嫁さんにするんだってね」

 

「うん。昨日そう言う事になった。色々と思う所はあるだろうけど、分かって欲しい。僕の意志もあるけど、一番は彼女自身が望んだ事なんだから」

 

 

僕の返答を聞いたエルゼが、少しだけ溜め息を吐いた。そして頭をガシガシと掻きながら、イライラした様に爪先の地面を蹴り上げる。

 

……こりゃ、準備をしてた方が良いかもね。そう思いながらも、僕は左腰にある片手剣と右腰のブリュンヒルドを抜き構える。何処かの黒い剣士様もやってた、二刀流だ。

 

 

「昔っからあの子、そう言う所あったのよね……。普段はビクビクと怯えてる癖に、ここぞと言う時には大胆でさ。私と全く逆なのよね……」

 

「拙者も似た様な物でござる。何かきっかけが無いと、踏ん切りが付かない性格でござってな……」

 

 

そう言いながら、エルゼは腰に吊るしたガントレットを両手に嵌めて打ち鳴らし、八重は手にした刀を帯に差して位置を確かめていた。

 

僕の方も片手剣とブリュンヒルドの刃を【モデリング】で無くしておく。この二つにはまた改めて、自動的にその状態に出来る様にするつもりだ。

 

 

「颯樹。あんたにはこれから……私たちと戦ってもらうわ」

 

「わかった。リンゼをお嫁さんに貰うなら、君たち二人を捩じ伏せるくらいの実力を見せろって事か」

 

「話が早いわ。でも、あんたが負けたら言う事を一つ聞いて貰うわ」

 

 

……話の大筋は理解出来た。出来ればやりたくなかったが、二人がやる気ならば此方も仕方ない。後から何か聞かれても答える義理は無いし、取り付く島も与えないからな……?

 

 

「能書きは結構。始めるぞ」

 

「へぇ〜、意外と思い切りが良いのね。じゃあ……行くわよ!」

 

 

エルゼがそう言うと、八重は右から僕を切り伏せる行動に出た。エルゼはその反対の方向から、僕の所へと攻め込むみたいだ。

 

僕はエルゼのガントレットの一撃を、ブレードモードのブリュンヒルドと片手剣で弾き返して、右方の八重と切り結ぶ。そして彼女を刀を弾いた時の衝撃で、後ろへと後退させる。

 

 

「つ、強ぇ……!でも、そうでなくちゃ!」

 

 

僕はその場から飛び出して、ガンモードに切り替えたブリュンヒルドで八重へと弾丸を二発撃ち込む。……が、しかしその弾丸は軌道を変えて、在らぬ方向へと飛んで行った。

 

クソっ!エルゼの装着してる緑のガントレット……あれには、魔法以外の飛び道具の軌道を逸らす役割があるんじゃん!……だったら!片手剣を鞘に収めた僕は、数cm先に向けて魔法を詠唱する。

 

 

「【氷よ絡め、氷結の呪縛、アイスバインド】」

 

「何をする気?」

 

「こう、するのさ!」

 

 

そう言って僕は【アイスバインド】の鎖を引き千切り、八重の持つ刀へと投げ込む(正確には投擲する事によって、本来の動きを鈍らせるのが目的なんだけどね)。

 

その鎖は八重の刀に巻き付き、僕はそれを力任せに思いっ切り引っ張る。

 

 

「そんなんで拙者を防げると思って……!」

 

「甘いわ……よっ!」

 

「そらっ!」

 

「「え?」」

 

 

八重は自身に絡み付く氷の鎖を、刀を振り下ろしたり薙ぎを撃ったりして、引き千切らんとしている。その最中に右ストレートを撃つ構えをしたエルゼがやって来た。

 

それを見た僕は鎖を引っ張り上げ、それにビックリした八重がエルゼと激突する。互いの姿勢が崩れたのか、立て直そうとしているみたいだ。

 

 

「【氷よ絡め、氷結の呪縛、アイスバインド】」

 

「「嘘!?」」

 

 

その一瞬に出来た隙を逃さず、僕は水属性魔法の拘束系に分類される【アイスバインド】を使う。そして二人の足元が一瞬で凍り付き、手までも地面に着いていた為に拘束を受けてしまう。

 

そして僕はブリュンヒルドの銃口を、未だに拘束されている二人に向ける。形はちょっと卑怯だけど、これで終わりだ。

 

 

「チェックメイト。俺の勝ちだ」

 

「……撃たないの?」

 

「負けを認めるなら、これで終わりにしたい。正直に言わせて貰えば、仲間を撃つのは気が引ける」

 

 

……実際その通りだ。パーティーと言う集まりの中で、一番必要とされるのは『信頼関係』だ。中にはプライドの高い者同士が集まり、仲間など論外な戦い方をする物もある。

 

パーティーを組む面子の大半は、自分が生き残る為に仲間を容易く犠牲にするが、僕の場合はそれは成る可く避けたい所だ。

 

 

「甘いわね。そんなんでリンゼ達を守れるの?」

 

「……それが僕だから仕方ない」

 

「そうね。そんなあんただから私も八重も好きになったんだし」

 

「気づいてたよ、二人の気持ちは」

 

 

僕がそう宣言すると、エルゼと八重の目が驚きで見開かれた。ここで曝露はしたく無かったのだが、もうなるようになれだろ!

 

 

「い、何時……から?」

 

「そうだね……。国王陛下に屋敷を貰ったその日、二人が顔を真っ赤にして、僕から顔を逸らした時点で何となく察してたよ。そして今回の庭園での一件で、それは確信になった」

 

「あんたには勝てる気がしないわ。完敗ね〜」

 

 

そう言って呆れ顔を見せたエルゼ。後の『外して良いわ』と言う声を受けて、僕は二人にかけていた【アイスバインド】を解いた。その後に二人を連れて、自宅へと戻る事にした。

 

──────────────────────

 

エルゼと八重を連れて戻ると、僕はリビングへと連れて椅子に座らせた。内容は先程の一件についてだ。二人の確信を聞かぬままに、状況を先に進めたらややこしくなる危険性があったからだ。

 

 

「僕の事が好きって言うのは……つまり、新たな婚約者として加わるって認識で良いんだよね?」

 

「ええ。構わないわ」

 

「拙者の方も異論は無いでござるよ」

 

 

先ずは大元の確認だ。これを怠ってしまっては元も子も無い。二人は意志を変える事無く、僕に堂々と自分の気持ちを告げて来た。……正直この短期間に4人も婚約者が増えるって……どんなモテ期到来だよって感じだが。

 

 

「あたしが颯樹を好きな事には変わらないし、同じ人の事が好きで、みんな幸せになれるなら、いい事づくめじゃない」

 

「拙者も颯樹殿と同じくらい、みんなの事も好きでござる。一緒にお嫁さんになれるなら、万々歳でござるよ」

 

 

……昨日、確かリンゼもそんな事を言っていた気がするね。ここは流石双子と言うべきか、考え方が似ている。八重も同じ事を言ってくる。それは、先程のエルゼと何ら変わらない言葉だった。

 

……何かちょっと拍子抜け。普通なら修羅場も待ったナシな所だけどね。軽いヤキモチはあるみたいだけど。そう考えて見たら、リンゼが一番ヤキモチ妬きな気がするな。

 

 

「そ、そ、それで、あんたはどうなのよ……?」

 

「僕の気持ち、か……。二人に言わせて置いて、僕だけ言わないのもなんか可笑しいよね」

 

「ど、どうなのよ」

 

「……正直に言ってしまえば、まだ自信が無いよ。でも君たちがそれを望んでいるのなら、僕はその気持ちに答える義務がある。情けない話で申し訳ないけど、誰かを一生賭けて守り抜きたいって思えたのは、つい最近の事なんだ。だから真剣に向き合いたいと思う」

 

 

そして僕は徐にその場に立ち上がり、二人へと頭を下げた。こんな気持ちしか言えない僕が、ユミナやリンゼにエルゼ、八重も娶るだなんて馬鹿馬鹿しいにも程が有るという物。

 

だからこそ、自分の気持ちに正直になりたいと思った。普通の人じゃ絶対に考えられない、4人分の人生を背負うのだ。僕で無くても戸惑うに違いない。

 

 

「結論は……夕刻に出す。それまでは申し訳ないけど、待っていて欲しい」

 

「……分かったわ」

 

「……分かったでござる」

 

 

二人はそう言うと立ち上がり、ユミナ達の所へと向かって行った。そして僕はこの事案に第三者の視点から意見を聴く為に、軽いお茶菓子を用意して……ある場所へと向かう事にした。

 

──────────────────────

 

「お、おーキミか。待っておったよ〜」

 

「すみません、こんな時に訪ねちゃって」

 

「別に構わんよ?お前さんの人生を見てるのは、ワシとしても楽しいからの」

 

 

僕が訪れたのは、死んだ時に最初に訪れた場所【神界】である。そこでは何時もの様に煎餅を加えている、神様が卓袱台に着いていた。

 

 

「そうですか。あ、これ手土産に茶菓子です」

 

「や、すまんね。お茶でも出そうかの」

 

 

そう言って神様は、こぽこぽと急須でお茶を注いでくれる。そしてやはりと言うべきか、その湯呑みには茶柱が立っていた。……神様パワーの成せる技かな?

 

そして僕は湯呑みに注がれたお茶を一口含んだ。うん、ちょうど良い熱さで美味しい。久しぶりの緑茶だね。

 

 

「それでどうしたのかね?」

 

「あー、ちょっと相談に乗って貰えないかと」

 

「ふむ?まあ、話してみなさい」

 

 

僕は今回の事を神様に話した。自分自身はどうすれば良いのか、そもそも自分はこれから彼女たちとどう接して行けば良いのか。自分の中では『大丈夫』だと思っていても、後からその選択が誤りだったと思い知らされるのが、正直に言えば怖いのだ。

 

神様に聞くのは、そこら辺を詳しくと言う事だ。何かタメになる情報が聞けるやもしれない。

 

 

「ふーむ、そこまで考えなくても良いんじゃないかのう。好きと言ってくれてるんじゃから、素直に喜べば良いと思うが」

 

「いや、嬉しいのは事実です。けど、何て言うか……色々考え込んでしまって」

 

 

神様に悩みを聞いて貰うとか、何か懺悔してる気分になってしまうな。別に罪を犯したわけではないんだが。

 

 

「そうじゃな。そう言った話なら専門家に聞いて見るか」

 

「専門家?恋愛の事に関する、専門家ですか?」

 

「そうじゃよ。因みに先のお姫様との婚約の一件を、ワシと一緒に見て居ったんじゃよ」

 

 

そんな神様が居るの?……はぁ、目の前にのほほんとした神様が居るからか、あまり釈然としないんだけどね。

 

そして暫くすると雲海の中から、一人の女性が浮かんで現れる。歳の頃は20代前半でふわふわの桃色の髪をしていて、これまたふわふわの薄衣を白い衣装の上に纏って、宙に浮かびながらこっちへやって来る。手足や首には黄金の環がジャラジャラと着いていた。……あ、裸足なのね。

 

 

「お待たせなのよ」

 

「えっと……この方は?」

 

「恋愛神じゃよ。君の相談にうってつけの人材じゃろ?」

 

 

恋愛神と呼ばれたその人は、軽く挨拶を交わして卓袱台の前に着く。……何故でしょうかね。恋愛神様の眼が此方をロックオンして離さないのですが……?

 

そう言えばさっき『ユミナとの婚約の一件を、一緒に見ていた』って言ってたな。もしかしてこの人は、僕の繰り広げている恋愛に興味があるのかな?

 

 

「初めましてなのよ。貴方の事は前々から気になって、時々覗いてたのよ」

 

「どうぞよろしくお願いします」

 

「堅くならなくても良いのよ?気軽に身内に話す感じで話して欲しいのよ。近い存在で言ったら……お姉ちゃんみたいな」

 

 

向こう方がそう言ってくれるのであれば、別に気兼ねする必要は無い訳だ。僕は自分が今置かれている状況を、恋愛神に相談する事にした。

 

……まさか恋愛での悩み事を、恋愛神に相談する事になろうとは……。まさに《神のみぞ知る》……。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回は《第12章:決断、そしてスマートフォンとともに。》の後半Partです!そしてその後のお話では、三回の【幕間劇】を挟みまして、その後に謎の少年との邂逅の話を以て……【1st season】は終了としたいと思います!

次なる【2nd season】では、フレイズとの初戦闘や新たな婚約者との邂逅etc..アニメ一期のその先の内容をお届けします!どんな展開が繰り広げられるのか、どうぞお楽しみに!


次回の投稿は1月10日(金)午前0時の予定としています!今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております!


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第40章:恋愛神、そして決意。

皆さん、こんばんは〜!咲野 皐月です!


この「異世界はスマートフォンとともに。if」を描き始めてから、もう直ぐ4ヶ月が経過しようとしているこの頃、私はまだアニメ一期内容すら終われてないと言う事実……。

正直な話を言いますと、リアルで何かが起こったとしても、小説を楽しみに待たれてる方には、この体たらくは『不快』以外の何者でも無かったりするんで、極力ペースは落とさない様に描いてはいるんですけどね。作者の力不足のせいです、申し訳ないです。


今回はアニメ一期《第12章:決断、そしてスマートフォンとともに。》の後半Partをお届けします!内容としては前回(39話)の続きなんですけどね……。

恋愛神からのアドバイスを受け、颯樹くんがどんな結論を降すのか……楽しみにして貰えれば、私としても嬉しいです!


長ったらしい前書きはこの位にして、本編へと入りましょうか!積もり積もる話は後書きにて!宜しければ最後までご覧下さいね♪最後の方には、今後の内容に関してのアンケートを載せてますので!


「恋愛神って、恋愛を司る神様って認識で良いんですよね?」

 

「そうなのよ。でも、別に人の気持ちを操ったりはしないのよ?ちょっと雰囲気を盛り上げたり、恋愛にお決まりのお約束事をしたり、そんな物なのよ」

 

「お約束?……もしかして《食パン咥えて登校してる途中に、曲がり角からイケメンが出て来てごっつんこ〜。そして行く行くは恋愛に発展!?》みたいにですか?」

 

 

僕が先程挙げたシチュエーションは、よく少女漫画とかで頻用される王道パターンだ。その手のアニメとかを前世では偶に見てたからね、そこら辺はよく知っている。

 

 

「そうなのよ。『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ…』とか言う奴は結婚できなくさせるのよ」

 

「貴女のせいですか!」

 

 

それってさ結局は、結婚できないだけじゃなくて……死ぬよね!?恋愛フラグじゃ無くて、思いっきり死亡フラグ建てちゃってるし!

 

……本当に、この人に相談しても良い物か……。この人に相談するのは、些か不安を覚えてしまうが、仕方が無い。取り敢えず(失礼)恋愛神な訳だし、何かアドバイスが貰えるかもしれない。

 

 

「ふーん、なかなか面白い事になってるのよ」

 

 

自分から聞いといて『ふーん』って……。本当にこの人に相談しても良かったのか、今更だけど物凄い不安になって来た……。

 

僕の話を聞いた恋愛神は、にまにまと笑顔を浮かべながら、卓袱台(ちゃぶだい)に乗ったクッキーをバリボリと食べている。……うん、行儀が悪いね恋愛神。

 

 

「でも何が問題か分からないのよ。お互いに好きならそれで良いのよ?」

 

「ですが、4人いっぺんにと言うのは……」

 

「先ず、そこが間違ってるのよ。貴方の元居た世界の常識は捨てるのよ。四人のうち誰か一人だけが好きで、他の三人はついでとか、可哀想だから、とかなら不誠実で酷い話なのよ。でも四人とも好きで、みんなを幸せにしたいと本気で思っているなら、それはそれで本当の愛なのよ」

 

 

『愛』って。なかなかなパワーワードだねそれ。まあ、ユミナとの一件から恋愛とかは意識し始めてたけど、こんなに大所帯になるとは……過去の僕がこの事を聞いたら、確実に一日がかりでお説教が飛びそうだ。

 

そう言えば昔『恋愛には決まった形は無い』って何かで聞いた事がある。例えばだけどユミナの様に《一目惚れをした》とか、他の三人の様に《一緒に居る度に少しずつ》……とか。

 

 

「たぶん貴方は自分に自信が無いだけ。自分がその子たちの気持ちに応えられる存在なのか、それが不安なのよ。さっき聞いた過去を基にすると、貴方はそのタイプが一番強く現れやすいのよ」

 

「そうですか……「でも」?」

 

「それを決めるのは貴方じゃ無くて、その子たちなのよ?変に考え込む必要は無いのよ」

 

 

ううむ。……確かに恋愛神様の言う通りかもしれない。ユミナたちに勝手な理想像を押し付けて、それに及ばない情けない自分に、これまた身勝手なコンプレックスを感じていただけなのか。

 

 

「もっと素直に今の気持ちに従ったら良いのよ。答えを出すも出さないも自由だし、相手の気持ちを考えるのも大切だけど、自分の気持ちも誤魔化したらダメなのよ。それは告白してくれた女の子たちに失礼な事なのよ?」

 

「そっか……。僕も我が儘を言っても大丈夫なんですね……」

 

「当然なのよ。片方だけの幸せなんて、恋愛じゃ無いのよ。貴方も幸せにならないと意味が無いのよ」

 

 

……うん、そうだね。僕にも譲れない所は多少なりともあるし、そこからはお互いに話し合って擦り合わせて行けばいい。一生付き合う事になるかもしれないんだ、それくらいは我慢して貰おう。

 

 

「答えは出たかね?」

 

「ええ、至極簡単な事でした。この事を今後の人生の足掛かりにして行けたらと思ってます」

 

「そうかね。それは何より」

 

 

まるで心を読んだかの様な神様の言葉に、僕は自分の気持ちを素直に伝える。実際に人(?)に話した事で幾分か気持ちも軽くなったし、胸の中にあったつっかえ棒みたいな障害も取り除けたし、今回の一件は自分を見直す良い機会になったからね。

 

 

「私のお約束も無駄にならないで良かったのよ」

 

 

……ん?恋愛神からすこ〜し気になるお言葉が。お約束ってのは、さっき言ってた《恋愛フラグ》や《シチュエーションのプロデュース》の事?

 

 

「『私のお約束』って、どう言う事です?」

 

「前に『たまたまお風呂で着替えを覗いてビックリ!』をプロデュースしたのよ。感謝するのよ」

 

「あれ、貴女のせいですかァァァァァァ!」

 

 

……どうやら、恋愛神はベタ(ポピュラー)な展開がお好みのご様子で。

 

──────────────────────

 

そして夕方になってから、リビングに4人とも集まって貰った。執事のライムさんや、ラピスさん達には席を外してもらい、この場にいるのは告白してくれた4人と、その告白を受ける側の僕だけだ。

 

僕はひとつ深呼吸をすると、4人の女の子全員を見渡した。4人とも僕からの返事を、今か今かと待ち侘びている様だ。そして目を伏せて気持ちを落ち着けてから、言葉を紡いで行く。

 

 

「結論から言えば……先ず、僕は結婚しません」

 

「「「「ええ──────────ッ!?!?」」」」

 

 

目の前の4人が勢い良く立ち上がり、かなりの大きな(下手したら近所迷惑だよ)驚く声がリビング中に響き渡った。

 

 

「ちょ、ちょっとどう言う事!?」

 

「な、何か拙者たち悪い事したでござるか!?」

 

「…お嫁さんに、してくれる、って…」

 

「颯樹さん!?」

 

 

立ち上がった4人が、僕に向かって勢い良く身を乗り出して来る。……やべ!言い方を間違えた!

 

 

「ちょっ、一旦みんな落ち着こう!《今は》って意味!《今は》結婚しないって事!」

 

 

僕の言葉(必死な弁明、で良いの?)を聞いて、ピタリと皆の動きが止まる。良かった……何とか話を聞いてくれそうだ。

 

 

「《今は》?じゃあ何時かは結婚してくれるって事?」

 

「もちろん。嫌で無ければ、の話になるんだけど」

 

 

エルゼの言葉に僕がそう答えると、取り敢えず落ち着いたのか、みんな椅子に腰を下ろして行く。

 

 

「僕は四人とも同じくらい好きだし、お嫁さんに貰うと言う約束も守る。けどそれは《今》じゃない。僕はこのままなし崩し……まあ、所謂(いわゆる)流されたままで、みんなと結婚する訳には行かない」

 

「どう言う事でござる?」

 

「結局の所を言えば、僕もまだまだ《半人前》って事さ。他人の人生背負って歩ける程、大人でも無いし考えも無い。だからもう少し待って欲しい。君たちの全てを余裕で受け止める事が出来る様になるまで。その見込みが無いって思ったのなら、何時でも捨ててくれて結構。君たちにはそうする権利がある」

 

 

ふと漏らした八重の疑問には、僕はそう答える。これから先の未来で起きる、彼女たちの色々な可能性を、僕は自分自身の身勝手な理由で、実際にも奪おうとしているのだ。

 

結局の所は『みんなに相応しい男になるまで、時間を下さい』って意味なんだけど、我ながら身勝手すぎるとも思う。もちろんその我が儘に何時までも、延々と付き合わせる訳にも行かない。捨てられて当然の事をしているのだ。その選択は彼女たちに決めてもらう。

 

 

「…随分と勝手な言葉よね。でも言いたい事はわかったわ」

 

 

呆れた様な表情を浮かべながら、エルゼが溜め息を吐いてそう答える。ま、これでこの事案(婚約)自体が白紙に戻るのであれば、それは完全に僕の責任だ。今まで関わって来た全ての人たちから非難を受けようと、僕は黙ってそれを受けなければならない。それに反論する権利など始めから無いのだ。

 

 

「ずるいわ、そんなの。あたし達があんたを捨てる事なんか出来ないって、分かってて言ってない?」

 

 

ふと漏らされたその発言の後に、僕はエルゼにジト目で睨まれた。いや、そこまで自信過剰では無かったのだがな……?話をして直ぐ様捨てられると言うのは、流石に無いと思いたかったが。

 

 

「先に惚れた方が負け、とはよく言った物でござるなぁ……」

 

 

苦笑しながらエルゼの肩を叩く八重。叩かれたエルゼ本人はと言うと、ぷーっと頬を膨らませて横を向いてしまっている。

 

 

「…お姉ちゃんが、颯樹さんを捨てても、私は何時までも待ちます。颯樹さんが、お嫁さんにしてくれるのを」

 

「ちょ、だから捨てるなんて言ってないでしょ!?」

 

 

慌てる姉を見ながらくすくすと笑うリンゼ。……良かった、冗談か。

 

 

「私もそれで構いません。みんな気持ちを確かめ合ったんですから、あとは高めて行くだけです。私たちの事を、好きで好きで堪らなくなるまで」

 

「僕ももっとみんなに、好きになって貰える様に精一杯頑張るよ」

 

 

ユミナの言葉に思わず微笑んでしまう。……これからは仲間ってだけじゃなくて、家族で恋人で婚約者なんだ。もっと確りしなきゃ!そして一日も早く、自信を持って僕から彼女たちにプロポーズ出来る様にならなければ。

 

 

「じゃあこれで全員が颯樹さんの婚約者と言う事で、一人ずつ順番に旦那様にキスして貰いましょうか?」

 

「「「「えっ(へっ)!?」」」」

 

 

ユミナがポンッと手を叩いて、ナイスアイデア!みたいな顔をしている。ちょっ、いきなり何言い出すのかと思えば!何言ってるのかなユミナさん!?幾らが何でもそれは、突然すぎやしませんかねぇ!

 

エルゼも八重も、顔を真っ赤にしておろおろと慌てている。……そら見てご覧。ユミナがいきなり言い出すもんで、二人も慌て始めてしまったよ。

 

 

「でも、私は昨日して貰いましたよ?」

 

「「ッ!?」」

 

「しかも過去に三回も♪」

 

 

ユミナの呟きに、バッ!と物凄いスピードでエルゼと八重に顔を向けられた。……いや、確かにしたよ?しましたよ?……でもさ、最後のは言う必要がありましたかねぇユミナ!?

 

 

「わ、私もして貰いました…」

 

「「ッ!?」」

 

 

おずおずとリンゼが手を挙げると、再び物凄い(今度は更に速い)スピードでエルゼと八重が顔を向けて来た。いや、確かにしたけれどもなぁ……!

 

 

「じ、じゃ、じゃ、じゃあ、あた、あたしたちにも、し、しなさいよっ!」

 

「その……して欲しい、でござる……」

 

 

先程まで慌てていた様子は何処へやら。顔を真っ赤に染め上げていたのは変わらずだが、じっとまっすぐな視線を此方に向けていた。……もうなるようになれだろ!

 

手を伸ばして、エルゼを引き寄せる。彼女は一瞬だけ身体をビクッと震わせたが、素直に従ってくれた。頬に手を当て、ゆっくりと顔を近づけて……。

 

 

「やっ、やっぱり恥ずかしいっ!」

 

「グフォッ!?」

 

 

そう言って放たれた必殺の正拳突きが、僕の鳩尾(みぞおち)を正確に抉って来た。そしてそのまま彼女の拳により、僕は昏倒してしまった為に……その後はよく覚えていない。何やら誰かに担がれた感はあったが、そこら辺はプッツリ途切れて居たりする。

 

そして夜にはとんでもない出来事もあり、疲労感の残る一日だった。……え?これでは足りないからもっと見せろって?……ごめん、今の僕にそれを説明できる余力があると思う?




今回はここまでです!如何でしたか?

ちなみに最後の方は、その他諸々の事情を鑑みて(一部は教育上あんまり宜しくないので)端折る事になりました。次回がもうアニメ一期ラストPartですので、そこに合わせるなら《もうここで区切った方が良いかな》と思えてしまいました……。申し訳ないです。見たかった方はアニメや【小説家になろう】、書籍版を見て貰えれば嬉しいです(そこではノーカットで登場です)。


次回の投稿は1月13日(月)午前0時の予定です!そしてアニメ一期内容のラスト(予定)になります!

それではまた次回!今回も感想を是非!高評価にお気に入り登録、何時もの様にお待ちしております!


─────────【追記】─────────

現在、各話最後にてアンケートを取っています!次のお話は《今回の話のその後》と言う主題で行くつもりでいます。本編(41話)の方は、他三回の【幕間劇】とは違って、その内容に+‪αの要素が加わります(これで+‪αが分かったらお見事)!

今、自分が最も見たい方に入れて下さいね♪アンケート自体は次投稿時点までで締め切るつもりです。なので、ご協力をよろしくお願いします!


それと……ココ最近なんですけど「異世界はスマートフォンとともに。if」のお気に入り登録者数や、高評価が着実に増えて来ていて、私としてはとても嬉しいです!

これからも応援・ご愛顧の程を切によろしくお願い致します!この他にも……ジャズさんの小説「ソードアート・オンライン 〜二人の黒の剣士〜」や、Sayuki9284さんの小説「異世界はスマートフォンとともに 改」、雪きのこさんの小説「ラブライブ! 〜承認と欲求〜」も面白いので、ぜひ読んでみて下さいね!


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第41章:指輪、そして謎の少年。

ユミナを始めとした4人を、本格的に婚約者として迎えた翌日、僕はユミナと共に王都の南区、商業区へと降りて来ていた。

 

 

「どうしたんです?いきなり『私と出掛けたい』なんて♪」

 

「や、今回は婚約指輪を買いにね。他の三人には事前に予め断りを入れてるし、その場で指輪のプレゼントもしたいからね」

 

「えへへ。そう言われると嬉しいです」

 

 

僕の言葉を聞いたユミナが、顔を少し赤らめながらそう答える。まあ《婚約指輪》は、僕の方で【モデリング】を使えば作れなくも無かったのだが、態々婚約者にあげる物をケチると言うのは……流石にナシ。

 

そう思いながら歩いていると、何処からか揉め合うような声が聞こえて来た。

 

 

「颯樹さん、あれ……」

 

「人を指ささないよー。……ん?」

 

 

その方向を指差したユミナに諌言を入れ、僕もその方向に目を移した。するとそこには、白髪に黒の衣装で首に白のマフラーを巻いた少年と、店主の男性と何やら口論をしている様子が拡がっていた。

 

 

「あのな、兄ちゃんよ。それが何処の金か解らねぇが、それじゃあ支払えねぇの。わかる?」

 

「困ったなぁ。僕、それしか持ってないんだよね……」

 

 

あちゃぁ〜……。あの少年は、この国の共通通貨を持たずに屋台で買い物をしていたと言う訳か。少年の手元には食べかけのクレープが二枚握られていて、商品の支払いをしなければ事が片付かない様子だ。

 

 

「金が無いなら無銭飲食だ。警備兵の所へ突き出してやる」

 

「ええっ、だからこれで払えないの?これもお金だよ?」

 

「だからこの国ではそんな金使えねぇって…!」

 

「すみません……ちょっと横槍失礼しますよ?」

 

 

更なる状況の悪化を危惧した僕たちは、意を決してこの二人の間に割って入ることにした。少年と店主の男性の表情が驚いた物になっており、突然の介入に状況を理解出来てないみたいだ。

 

 

「何だい、あんたは」

 

「通りすがりの冒険者です。その代金、僕が支払いますよ。それで構いませんか?」

 

「そりゃ金さえ貰えりゃ文句はねぇが……。……ん?そこの嬢ちゃんは……」

 

 

続けて店主の男性は、視線を僕から隣に居たユミナに目を向けた。……すると額に大量の脂汗が浮き出し、かなり慌て始めてしまった。

 

そして屋台から飛び出すと、ユミナを見上げる様に地面に膝を着いた。

 

 

「ゆ、ユミナ王女!?どうして貴女様がこのような所へ!?」

 

「か、顔を上げて下さい!私はこの方と共に偶々通り掛かっただけです!」

 

「……ん?その女の子が、どうかしたの?」

 

「馬鹿野郎!此方に居られる方こそ、ベルファスト王国の王女様だ!」

 

「……なるほど、この国のお姫様」

 

 

隣で膝を着いた店主を見て、平然としていたモノトーンの少年は、その後の店主からの諌言にも、短くそう答える。取り敢えず僕としては、少年が買った商品のお支払いをする事が出来たら良かったんだが……。

 

 

「こ、この度は……誠にお見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳なく」

 

「別に気にしてませんよ。お勤めご苦労様です」

 

「はっ!……ところで何ですが、このボウズとの関係は……どのような物で?」

 

「将来を誓い合った夫婦です」

 

 

ユミナが店主の男性に放った一言で、周りの空気が一瞬で凍り付く。……ああ〜!更にややこしい事になりそうな予感……!

 

 

「僕もそこに関しては、気にしてませんから!すみません、銅貨二枚でクレープを四つお願い致します」

 

「お、おう……わかったぜ!」

 

 

未だに驚きが残っている店主に、僕はクレープを四つ注文する。そして先程の少年の買い物の支払いは、銅貨一枚で支払った。……前世でお祭りに行った時、クレープは一つ500円で売られてたから、それを考えてみれば安いもんでしょ。ちょうどピッタリだったし。

 

僕はユミナと一緒に少年を連れ、屋台から離れて行く。その場に状況を把握出来てない人たちを残したまま。

 

 

「ありがとう。助かったよ」

 

「いやいや、困った時はお互い様って事で。それよりも君って……共通通貨を持ってないの?」

 

「前はこれで買い物が出来たんだけどなぁ……」

 

 

モノトーンの少年は、そう言ってポケットから先程の銀貨を取り出す。僕らは何時も丸い硬貨を使っているが、この少年が取り出したのは、今まで見た事の無い八角形の形をしていた。

 

 

「見せて貰っても良いですか?」

 

「良いよ。……と言うよりも、その硬貨あげるよ。さっきのお礼。どうせ此処では使えないみたいだし」

 

「じゃあ、わかった。そういう事なら」

 

 

そう言って僕は、モノトーンの少年から銀貨を受け取ってポーチに入れる。正直に言ってしまえば、喉から手が出るほど欲しかったと言う訳では無いが、そう言ったら言ったで、先程の事を引け目に感じてしまうと思ったからだ。

 

 

「僕は颯樹。盛谷 颯樹。で、こっちがユミナ」

 

「ベルファスト王国国王、トリストウィン・エルネス・ベルファストが娘、ユミナ・エルネア・ベルファストです」

 

「エンデ。よろしく、颯樹。ユミナ」

 

 

《エンデ》と名乗った少年が差し出した手を、僕とユミナは握った。……普段人の手は、多少の温度差こそあれど温かい物だ。試しにエンデの手を握っていない手で、ユミナと握手をして見ると、確かに熱を感じる事が出来た。

 

……しかし、エンデの手はと言うと『まるでかなり寒い所から来たのか、或いは生きていると感じられない程』の冷たさだった。……ほんとにこの子、何者?

 

──────────────────────

 

「うーん。これからどうしようかな。お金が無いと色々と困るよね?」

 

「そうだね……取り敢えず仕事をした方が良いかも。仕事をして稼ぐ、これに限るかもね」

 

「颯樹は何の仕事をしてるの?王女様と一緒なんだし、騎士団で護衛の仕事とか?」

 

 

……騎士団で護衛の仕事って。僕自身『護衛』はあまりした事は無いからなぁ……。以前戦闘能力の高さを見込まれて、ミスミドの兵士として雇われかけた事があったな。今となっては良い思い出だ。

 

 

「違うよ。僕は冒険者をしてるよ。ギルドの仕事をこなしてお金を得てる。魔獣を倒したり、商人の護衛なんかをしたり」

 

「私も同じ事をしています」

 

「ああ、なるほど。それなら僕にも出来るかもしれない。……と言うよりも、お姫様も冒険者だったんだね」

 

 

エンデがユミナを見ながら、そう言って感嘆の息を漏らす。まあ着ている服の豪華さから、ユミナが『普段は冒険者をしています』と言ったとしても、素直に頷ける人など早々居ないだろうな。

 

それにしてもさ……エンデ、結構サラッと簡単に言うね。まあ、初心者の《黒ランク》の依頼なら、気を付ければ何とかなるよね。

 

 

「ギルドに登録するの?……見た所、武器も無いみたいだけど大丈夫?」

 

「一応、採取系の依頼もあったと思いますけど……それでも武器無しは、ちょっと……」

 

「二人は心配症だなぁ。武器なんて要らないよ。ドラゴンを倒す訳じゃないんだし」

 

 

素手でやる気なの?もしかして、エンデはエルゼと同じ様に《武闘士》なのかな。それとも魔法の使い手とか?と言うよりも『武器が有ればドラゴンでも倒せる』みたいな口振り。……凄い自信だなぁ。

 

 

「取り敢えず、ギルドまで案内するよ。僕もそこへ用があったから」

 

「ありがとう」

 

 

食べ終わったクレープの紙屑をゴミ箱に捨てて、僕とユミナにエンデはギルドへと歩き出した。指輪の為のお金を下ろさないと行けないからね。

 

エンデの身長は僕よりも少し高い位で、173cm程はありそうだ。顔立ちも整っていて中性的なイメージがあり、俗に言う『イケメン』ってタイプだ。……ま、そんな話はどうでもよろし。

 

 

「そう言えば、そのマフラーはどうしたの?」

 

「ああ、ある人からの贈り物なんだ」

 

 

なるほどね。……ま、他人のプライベートに首を軽々しく突っ込む程僕はお節介焼きでは無いから、そこら辺に関しては何も聞かないんだけれども。

 

漸くするとギルドの看板が見えて来た。何時もの様に、かなりの賑わいようだ。僕は受付のお姉さんの前に、エンデを引っ張って行って、登録の手続きをお願いした。その間に僕はユミナと隣のカウンターで、ギルドカードを使ってお金を引き下ろす。

 

 

「よし、これで揃ったね」

 

「お、颯樹。用事は終わったのかい?」

 

「ええ、先程無事に終わりましたよ。登録は無事に出来ましたか?」

 

「うん、おかげでね。後は依頼を熟すだけだよ。ギルドって世界中に有るみたいだから助かるよ。僕はあまり一つの所に居ないから」

 

 

あ、そうなんだ。それにしては随分と軽装だなぁと思ったんだよね。……と言うよりも、路銀も無しでよく此処まで来られたよね。何となくだけど世間知らずな感じがするし、何処かの国の王子様じゃ無かろうか?

 

……色々と疑問は残ってしまうけど、あまり僕には関係が無さそうだね。人はそれぞれ何かしらの事情を持ってるもんだ。

 

 

「じゃっ、僕たちは此処で。始めは簡単な依頼にしておいてよ?無理しないでね」

 

「うん、わかった。ありがとう颯樹。また、何処かで会えたら良いな」

 

「ああ、また何処かで」

 

「ごきげんよう」

 

 

そう言って僕とユミナはエンデと別れ、二人連れ立ってギルドを出た。……変な奴だったな。さて。当初の目的である宝石店へと向かいますか。

 

──────────────────────

 

「いらっしゃいませ〜」

 

 

エンデと別れた後、僕とユミナは御目当ての宝石店へと訪れていた。当たり前だが、こんな所に来るのは初めてだ。周りに陳列されてる商品は、どれもこれも高そうな物ばかりで、正直に言ってしまえば、手を付けるのも烏滸がましいと思えてしまうほどだった。

 

 

「何かお探しでしょうか?」

 

「えっと……指輪を買いに来たんですけれども」

 

「まあ、それはおめでとうございます。どのような物がご希望でしょうか?」

 

 

店員のお姉さんにそう聞かれ、僕は最初に考えていた事を確り伝えていく。指輪の相場って詳しくないから知らないけど、確か『婚約指輪は給料の三か月分』とか聴いた事がある。……あ、でもな。あれは確かジュエリー会社が広めたキャッチコピーに過ぎないって聞いた事がある。そもそも、僕の稼ぎは給料制じゃ無いからなぁ。

 

そんなこんなと話を進めて行く中で、暫くしてプラチナリングにダイヤモンドの埋め込まれた、シンプルな指輪が出て来た。

 

 

「これなど如何でしょうか?」

 

「……分かりました。買います」

 

「ありがとうございます」

 

 

そう言ってお勘定を済ませて行く。後々に確認して見た所、先程買った指輪がどうやら『給料の三か月分』とか言われている物なんだとか。……ま、可愛い彼女の為だからね。これくらいは出費を惜しまないよ。

 

そしてその指輪を購入し、近くの路地裏に入る。その後に先程の指輪を取り出し、魔法を詠唱する耐性を整えた。その指輪には【アクセル】、【ストレージ】、【トランスファー】を【エンチャント】と【プログラム】で付与して置く。

 

 

「これで大丈夫かな」

 

「ありがとうございます。けど、さっき付与したのは……?」

 

「先ず最初に【アクセル】。これは戦闘の際に、相手の懐に素早く移動できる様に。次に【トランスファー】。これは予備の魔力タンクとしてね。そして【ストレージ】。これに関しては、個人的な倉庫として使ってよ」

 

「ありがとうございます、颯樹さん」

 

 

そう言ってユミナは、指輪の嵌められている左手を右手で包み込んで、にこやかに微笑む。……ああ〜!もう!こう言う時にその笑顔は反則っ!益々惚れてしまうじゃんか///!

 

その後は【ゲート】で屋敷へと戻ったのだが、戻ったら案の定他の三人には詰め寄られ、色々と問い質されてしまった。こりゃあ明日から三日間、偉く大変な事になるぞ〜。覚悟しとかなきゃ。




今回はここまでです!如何でしたか?


次はどうしようかな〜?取り敢えず、今回のお話までで【1st season】の内容は一区切りなんですよね。ですので、次は三回の【幕間劇】を挟みつつ……次なる【2nd season】へと襷を繋げるか。若しくは【2nd season】をある程度(新たな婚約者を迎える)まで進めてから、溜まりに溜まった【幕間劇】をして行くか。

今回のアンケートの内容に関しては、後書きでのアンケートはしませんので……感想かメッセージにて教えて下さい。


以前Sayuki9284さんの感想を見ていたら『私の更新ペースは遅くありませんよ』と言われたんですけど、実際予定通りに1st seasonを終えられてない時点で、私はかなりのスローペースだろうなと思ってます。まだ始まったばかりでこの体たらくなら、この小説での嫁候補が全員揃うまでどの位の期間を要してしまう事やら……?

それではまた次回です!次は1月17日(金)午前0時の投稿予定です!今回も感想を是非!お気に入り登録や高評価も、何時もの様にお待ちしております♪


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2nd season:新たな仲間、そして門出。
#1. A級称号、そして激辛。


皆さん、こんばんは!咲野 皐月です!今回より新たなるシーズンのスタートですよ〜♪そう思いまして、サブタイトルの表示形式も少し変えて見ました!どうでしょうか?


なんて事は置いておきましてね……。各ヒロイン達の【幕間劇】を用意出来ず、ごめんなさい……(何だか最近かなりのペースで謝ってばかりですね)。原作とはかなり日がズレますが、キチンと話が合う様に作って行きたいと思います!

……私が何で書くのを見送ったのかは、聡明な方でしたら容易に想像できる事ですよ?ま、話の最初にも書くんですけどね。



それでは本編に入りましょうか!後書きには重大報告もありますので、ぜひ最後まで読んでくださいね♪


婚約者全員に指輪を贈った次の日、僕は4人を連れてギルドへと向かった。……いやいや、三日間辛かった。何故って?店員のお姉さんが、こっちの事を覚えてしまったんだもん……。

 

回数が増える事に他の人も『ああ、またか』と言う視線で見て来るもんだから、精神的にキツイわァ……。

 

 

「颯樹、どうしたのよ?」

 

「アハハ……。一体誰のせいでこうなったと思ってんの

 

 

顔が青ざめていた僕を心配したのか、エルゼがそんな事を言って来る。……よく言うよね。いきなり『翌日私に付き合いなさい!拒否権は無いわよ!』って言っておいて。……まあ、それは何もエルゼに限った物では無いんだけど。

 

僕らの傍を付いて来ている琥珀は、漸くお馴染みの光景になったものの、ふわふわと浮かんで付いて来る黒曜と珊瑚は、周りの人の目をかなり引き付けていた。

 

 

《お前たちは目立つのだから、大人しく留守番でもして居れば良いものを》

 

《嫌じゃ。主の行くところ、妾たちも行くのが筋と言う物ぞ》

 

《そうよぉ。それに琥珀だって充分目立ってるわよ》

 

 

3匹とも街中なので念話で話しているが、僕には全部丸聞こえである。と言うよりも、黒曜と珊瑚が目立っているのは浮いてるからであって、恐らく僕が抱えればそんなに目立たないと思う。……が、それは本人たちのプライドにかなり関わって来るらしく。まあ、聞かれた際には『魔法です』と答える事にしよう。

 

ギルドに辿り着くと、ザワザワと賑わうホールの中を見渡したが、エンデの姿はもう無かった。もう別の街へと行ってしまったのだろうか。

 

 

「じゃあ、あたし達は依頼の方を見て来るわね」

 

「OK。何かあったら教えてね」

 

 

そう言ってエルゼ達三人は、ボードの方へ依頼書を見に行った。それを見届けた後に、僕とユミナは三日前にエンデを担当した受付のお姉さんを訪ね、彼の事を聞いてみる事にした。

 

 

「ああ、あのマフラーの方ですか。ええ、昨日一角狼の討伐依頼をこなして、依頼料を受け取って行きましたよ」

 

「僕とエルゼにリンゼのパーティーで、初めて受けた依頼だ」

 

「そうなんですか?」

 

 

話に興味を示したユミナに、僕はその当時の事を事細かに伝える。……一角狼か。確かにあれなら初心者でも、簡単にこなせる依頼だから、さほど心配する事も無いか。

 

……と思っていると、受付のお姉さんからとんでもない情報を聞く事になった。

 

 

「ただ、ちょっと……」

 

「?どうかしました?」

 

「依頼は一角狼の討伐、討伐数は5匹だったのですが、あの方はそれ以上を狩って来ていまして……」

 

 

なぬ?僕が最初に依頼を受けた時は、討伐数より1匹多い6匹を狩って来たけど、エンデはそれ以上……?一体どの位の一角狼を狩って来たわけ?

 

 

「一角狼の討伐部位は《角》でしたよね?何本持って来たんです?」

 

「確か50本以上ありましたね」

 

「「ご、ごっ、……50本以上ですか!?」」

 

 

何その数!狩りすぎじゃない?ねぇ!僕とユミナは揃って大きな声を出してしまった。その後の話に拠ると、討伐依頼数は5匹だった為、定額しか出せなかったが……残りは相場で買い取ったとの事だ。

 

……ま、他人の事を深く詮索する気は無いので、聞き出すのはここまでにして置くか。そう思った僕とユミナはと言うと、依頼ボードに食い気味に張り付いている三人の元へと向かった。

 

 

「何か良いのがあったの?」

 

「あ、颯樹。これなんだけど……」

 

 

エルゼは赤い依頼書が貼られているボードを、僕に分かる様に指差す。……ん?今の僕たちのランクって、確か『二流冒険者』の意味を指す青ランクだったよね?ユミナは緑ランクで。

 

少しその事が気になりつつも、僕はエルゼが指差した依頼書の内容を読み進める。

 

 

「ミスリルゴーレム?……ミスリルで出来たゴーレムなのかな?場所はメリシア山脈の麓で、報酬は白金貨五枚か。……これ、赤ランクの割には安い気が……ん?」

 

「どうかしましたか?」

 

「えーっと、なになに?『なお、A級称号持ちの者であれば、この依頼はランクを問わない』……って、まさか」

 

 

まさかと思い立ち、僕は受付のお姉さんにある事を質問をしに行く。……そしてある事が聞けた後、皆の元に戻って伝えられた事を伝える。

 

 

「どうだったの?」

 

「……結論。僕たちでも受注可能だよ」

 

「どう言う事でござるか?」

 

 

僕は受付のお姉さんから伝えられた事を、一から皆に細かく説明して行く。要約すると『この前の黒竜討伐に拠って手に入れた《ドラゴンスレイヤー》と言う称号が、A級称号の一つに当たる為に、青ランクの僕らでも受注が可能である』と言う事である。

 

その事を話した後に、僕がその依頼書をボードから剥がして、受付へと持って行く。このメンバーの中では、ユミナがその称号を持っていない訳だが、それは関係無いのだろうか?

 

 

「はい、この場合パーティーの過半数が称号持ちですので、問題は有りません。詳しい内容をお聞きになりますか?」

 

「ええ、お願い致します」

 

 

依頼の場所はメリシア山脈の麓で、内容はステア鉱山の採石場にミスリルゴーレムが居着いてしまい、鉱山での発掘作業が全く進まなくなってしまったそうだ。

 

何しろ相手は半端な硬さでは無い上に、ミスリルと言う特性からゴーレムにしては動きが速いらしい。《軽くて硬い》……それがミスリルだからなぁ。既に何人かの鉱山夫たちが犠牲になっているのだとか。

 

奴らは自らのテリトリーに入って来る、外敵……簡単に言うなら《侵入者》を許さない。だからこそ、ゴーレムを財宝の番人などに、利用する魔法使いも居るのだ。

 

 

「依頼内容はそのミスリルゴーレムの討伐。依頼を受けられますか?」

 

 

改めて皆に確認を取り、この依頼を受ける旨を受付のお姉さんに伝える。討伐部位はゴーレムの中枢核であり、これを破壊すれば動きが完全に停止するのだとか。

 

 

「この前颯樹がやったみたいに、【アポーツ】でその核を引き寄せれば簡単なんじゃない?」

 

「いやいや、考えても見なよ。相手はゴーレムって言う位だから、きっと人間よりも図体はかなりデカいはず。それに伴って核も、この位の大きさが予想できるね。だから【アポーツ】は無意味だと思ってくれて良いかも」

 

 

僕はエルゼの意見に否定を返し、自分の意見をエルゼに伝える。それはリンゼも同じ気持ちであり、終始こくこくと頷いていた。フレイズの時は核が透けていたから出来たが、ゴーレムともなるとそうは行くまい。

 

恐らく核の大きさからして、バレーボールくらいのサイズが有るだろう。その大きさの核を【アポーツ】で引き寄せるのは、流石にナシだ。

 

 

「有効的なのは……私の土属性の【ロッククラッシュ】などの圧壊系魔法や、リンゼさんの【エクスプロージョン】や【バブルボム】などの爆発系魔法でしょうね」

 

「エルゼは右手の破壊力増強のガントレットを使えば、多少はダメージが通るかもしれない。……としたら、問題は八重だね」

 

「拙者、今回は囮として動くでござるよ」

 

 

刀による斬撃を得意とする八重は、今回の依頼ではかなり相性が悪いからね。……依頼が完了したら、先ず先に八重の刀をミスリルの塊で、打ってもらわなきゃ。

 

 

「それでメリシア山脈までどうやって行くの?また馬車を借りる?って言うかもう買っちゃう?」

 

 

確かにエルゼの言う様に、馬車はあった方が楽だけれども、今回は別の方法を使わせて貰おう。せっかく手に入れた物を使わない手は……無いわなぁ〜。

 

──────────────────────

 

「では出発致しまス。座席から立たないヨウにお願い致しまス」

 

「座席なんて無いでしょうよ」

 

「……気分の問題でス。そこらヘンは空気を読んで下さイ、マスター」

 

 

何日かかけて、空中庭園をベルファストの王都まで呼び寄せて置いた甲斐があった。これで移動すれば、目的地まで数時間で行く事が出来る。

 

現在高度二百メートル程を飛行中だ。東京タワーには及ばない高さだが、この近辺に高い建物や山などが無いので、この高さで充分と言える。ステルス機能のお陰で、地上には空中庭園の影すら伸びていない。

 

 

「予定では1時間ほどで到着しまス」

 

「ありがとう、シェスカ」

 

 

空中庭園の中央に設置された制御装置の前で、装置を操作しているシェスカはそう言った。この制御装置はパッと見ただけでは、黒い大きな石版にしか見えない。まあ俗に言う《モノリス》と言うヤツだ。そこには僕が解読するのが難しそうな言語と、簡単なマップが表示されている。恐らく移動している光が、僕たちのいる空中庭園なのだろう。

 

シェスカとモノリスから離れて、僕は庭園の片隅でシートを敷いて、お茶会を開いているみんなの所へと戻る。

 

 

「後1時間ほどで着くってさ」

 

「そうですか。……颯樹さん、どうぞ」

 

「ありがと」

 

 

ユミナと八重の間に座ると、ユミナからサンドイッチを渡された。ハムとチーズが挟まった、至ってシンプルなオーソドックスなサンドイッチだ。

 

僕はそれを一口齧ると、首を傾げた。………ん?何時ものと何かが違う?

 

 

「ど、どうかしたのでござるか?」

 

「ん?……何時ものと違うなって。ん〜、でもこれもアリだね。美味しい」

 

「そ、そうでござるか!」

 

 

ホッと胸を撫で下ろす八重。クレアさんの作った物にしては、味が濃いな〜とか塩コショウが効き過ぎな感じがしたけど……あっ、これってもしかして。

 

 

「これって八重が?」

 

「そ、そうでござる。剣だけではなく、颯樹殿の、つ、つ、妻として、料理の一つも出来ねば、と……クレア殿に御教授を……」

 

「うん、美味しいよ。ありがと八重」

 

 

僕がそう言うと、八重は顔を少し赤らめてからこくこくと頷いた。なるほど、そうか。迂闊な言葉を吐かないで良かったと、僕は心の中で安堵する。

 

 

「あたしもこれ作ったのよ。食べてみて」

 

「おっ、エルゼも?じゃあ遠慮なく」

 

「あっ、それは……」

 

 

その後にエルゼから差し出されたのは、至って普通の鶏肉の唐揚げである。リンゼが何かを言いかけていたが、僕はそれを聞くより先に、フォークで刺されたソレを口に運んでいた。

 

 

「エルゼ……」

 

「どう?美味しい?」

 

「辛すぎです。お陰で舌が麻痺しました…」

 

 

エルゼの作った唐揚げは、ハッキリ言ってしまえば……食するのが危険なレベルで辛かった。その傍らではひょいパクひょいパクと、エルゼが何とも無さそうに唐揚げを頬張っていた。……え!?何で何とも無いんだァ!?

 

それを見た横にいたリンゼが、申し訳無さそうに口を開いた。

 

 

「…お姉ちゃん、辛いの異常に強いんです。それと料理すると、何でも辛くしてしまう癖があって、実家では絶対にキッチンに立たせませんでした」

 

「……良し。リンゼからの証言が頂けたので、これから先金輪際、エルゼには料理する事を禁止する。もし本人が迂闊にもその行為に及びそうな場合には、誰かが必ず制止役として入る事。これを心掛けておく事」

 

「……わかったわよぉ…」

 

 

むすーっとした顔で、エルゼが渋々と僕からの忠言を聞き入れた。絶対にこれからは、エルゼはキッチンには立たせない様にしよう。あっ、でもパーティーの余興みたいなサプライズ要素だったら行けるかな……。……嫌、止めておこう。これで文句出たら洒落にならんし。それにこれは命に関わる危険性を含んでるからね。

 

……ヤバっ、まだ舌が痛い……。




今回はここまでです!如何でしたか?


今話より、本格的に【2nd season:新たな仲間、そして門出。】のスタートです!このお話からは、ラノベやなろう版を準拠に話を進めます(殆ど文体はなろう版が準拠)。アニメストーリーの続編を読む様な感じで、読んで貰えたら嬉しいです♪

次回の投稿日は1月20日(月)午前0時の予定です!今度は遅くならない様に頑張りますので、よろしくお願いします!

─────────【追記】─────────

皆さんに……重大報告をしたいと思います!なかなか内容がボリューミーなので、確り目を通して下さいね!


【報告①】:「異世界はスマートフォンとともに。if」イメージソング決定!!!

Twitterで読者さんに『この小説は何の曲で脳内再生されてましたか〜?』と言うアンケートを実施した所、私の中でこれが一番ピンッ!と来た楽曲が何曲か見つかり、その中からイメージソングを決定致しました!そのイメージソングはこれです!


【イメージソング】
OPテーマ:寺島拓篤《Nameless Story》
EDテーマ:PAGE《エスペクト》


OPテーマの方の《Nameless Story》は、知っている人は知ってる曲です。この曲はアニメ『転生したらスライムだった件』のOPテーマで、劇中にて三上悟の声を演じている、寺島拓篤さんの楽曲です!

採用理由としては……『転生して、これから描く未来。まだ名前の無いこれから』をこの曲から感じたからです!是非ともこの曲と共に、颯樹くんがこれから織り成す物語を辿って貰えたら嬉しいです!


EDテーマの《エスペクト》は、PAGEと言うグループが歌っている楽曲です。この曲はアニメ『銀魂'延長戦』の一月度EDテーマとして採用された楽曲です!

採用理由としては……この曲から感じられる、ポップでテンションが上がるテンポが、この小説から感じられる事(ジャズさんからのご意見です)がその理由に当たります!


そして……【幕間劇】では現在、ユミナがメインで話が繰り広げられています。その際に脳内再生して欲しいなと言う一曲が見つかりましたので、お知らせして置きます(これは本編で、颯樹くんとユミナがイチャついている時も同様に)。


【イメージソング(【幕間劇】ユミナPart)】
挿入歌:ユミナ・エルネア・ベルファスト(cv.高野麻里佳)《純情エモーショナル(ユミナver.)》


その理由としては……私がTwitterで最近絡んでいる『如月』(ハーメルンでは『如月1735』)さんが、読んでいてこの曲がピッタリだな〜と思ったからだそうです!

私もこの曲で脳内再生しながら(実際に聞きながら)、颯樹くんとユミナのイチャイチャシーンを読みましたが、不思議と違和感を感じませんでした。……何故でしょうね?


【報告②】:オリジナル話の内容について

現時点で描こうかと思っている、オリジナル話の内容が少しずつ完成に向かいつつあります!最初のオリジナル話は、予定通りに新しい国が建国した後にしますので、どうぞお楽しみに!

ちなみに……原作ではその新しく出来た国は《ブリュンヒルド公国》という名前でしたが、今作は違います!如月1735さんがかなり良い案を下さったので、それで描きたいと考えております!(神話系統に詳しい方なら、私の誕生日が何時で何座なのかを推測して貰えたら、ある程度の察しは付けられるかも?)その国の名前と由来に関しては、その国の名前が判明したお話の後書きにて解説したいと思います。


──────────────────────

長々と語ってしまいました……申し訳無いです。それではまた次回にてお会いしましょう!

今回も感想を是非!そして何時もの様に、高評価やお気に入り登録を心よりお待ちしております!


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#2. A級クエスト、そしてミスリル。

メリシア山脈に着くと山沿いを少し北上し、ステア鉱山の上空に空中庭園を静止させた。眼下に見える採掘場を眺め、地上へと向かって【ゲート】を開いて転移する。何かあった時の為に、シェスカは空中庭園でお留守番だ。

 

地上へと降り立つと、辺りは静まり返って居て、少し不気味な雰囲気すら感じられた。

 

 

「誰も居ないんでしょうか?」

 

「いや。ゴーレムの性質上、侵入者が居ない限りは動いて来ない筈だから、僕たちが入って来た事に気づけば、自ずと此方に向かって来るよ」

 

 

ユミナから漏らされた疑問に僕は答え、スマホのマップアプリで「ミスリルゴーレム」を検索する。……ああ、居るね。坑道の奥でゆっくりと動いている事から、どうやら此方に向かって来ているようだ。

 

 

「崩落の危険性も考慮して、玄帝の時に使った策は出来ないね。マジの真剣勝負に時短策は要らないよね」

 

『アレはキツいわよぉ……』

 

『二度と味わいたくは無いのう……』

 

 

僕の言葉にゲンナリとした顔で、黒曜と珊瑚がボソッと呟いた。……安心して良いよ。アレは余程の事が無い限りは使わんから。

 

……?そう言えば、ユミナの初依頼の時に使った作戦がもう一回使えないかな?そう思った僕は、地面に手を触れて土魔法を発動させようとする。

 

 

「ねぇ……颯樹」

 

「ん?何?エルゼ」

 

「この音、もう一つ聞こえませんか……?」

 

 

エルゼとユミナの不安な声を受けて、僕は周囲の音に耳を傾ける。

 

 

「……!?……まさか、ミスリルゴーレムは二体居るってのか?」

 

「颯樹殿、どうするんでござるか!?」

 

「一応、エルゼ以外の三人には【エクスプロージョン】を付与した弾丸を渡しておくね。それと八重は銃を持ってないから、ニューモデルアーミーも合わせて」

 

 

僕はポーチから弾丸を50発ほど取り出し、爆裂魔法に属する【エクスプロージョン】を付与した弾丸を、エルゼ以外の三人に渡した。八重にはニューモデルアーミーも一緒に渡した。彼女の持つ刀では、今回のクエストには部が悪すぎると踏んだからだ。

 

その後に【ストレージ】を開いて、僕は二振りの剣を背中に挿し込む(正確には留め具みたいなのがあって、そこの凹みに剣を入れただけなんだけど)。

 

 

「何時でも来やがれ!」

 

「来たでござる!」

 

 

坑道の入口から、太陽の光に照らされた銀色のボディを持ったゴーレムが現れた。……あれがミスリルゴーレムか。名前だけは聞いた事があるが、実物を実際に見るのは初めてだ。

 

ゴツゴツとした身体は岩の様だが、全てが金属特有の光沢を放っており、その大きさはざっと6メートルくらいだろうか?足は短くて、腕は大きく長い。顔はのっぺりとしていて、目に当たる部分に黒く窪んだ穴が見える。その中は赤く不気味に輝いていて、まるでこちらを睨んでいるかの様だ。

 

 

「さ、颯樹さん、アレ!!」

 

「くそっ!もう一体も来たのかよ!」

 

 

ユミナが指差す坑道から、先程来たのと同じミスリルゴーレムが姿を現す。道理で地響きが二つ分あると思ったよ!

 

……まずはこれで様子見だ!

 

 

「【岩よ来たれ、巨岩の粉砕】」

 

「【水よ来たれ、衝撃の泡沫】」

 

 

……どうやらリンゼも、考えている事は僕と同じみたいだね!その詠唱の後に僕の方には、土属性の魔法陣がミスリルゴーレムの上に広がり、リンゼの方にはシャボン玉の様な水玉が何個か浮かび上がる。

 

そして一気に……それを解き放つ!

 

 

「【ロッククラッシュ】!」

 

「【バブルボム】!」

 

 

その魔法名と共に放たれた二つの魔法は、ミスリルゴーレムへと直撃した。僕が放った【ロッククラッシュ】の方は実感があったのに対して、リンゼの【バブルボム】に関しては、全くの無傷で終わる形となった。

 

それに追撃する形で、ユミナのM1860アーミーの連射が火を噴く。被弾した肩の部分が【エクスプロージョン】の効果によって爆破するが、ヒビらしき物は入った様子が見えない。

 

 

「入れ替わろう!《スイッチ》だ!」

 

「す、スイッチ……?」

 

「交代するって事だ!リンゼのやった方は、僕がやる!僕のやった方をリンゼ頼む!」

 

「わ、分かりました!」

 

 

リンゼ達の方に向かってそう伝え、僕は先程までリンゼが対峙していた一方へと向かい合う。そして背中に挿している二振りの剣を取り出し、左右の手に構える。

 

 

「行くぞ!【ブースト】!」

 

 

増強魔法の【ブースト】を詠唱すると、僕は勢い良く採石場を駆け出した。先ずはこれからだ!

 

 

「アインクラッド流剣術、二刀流奥義一式、二刀流突進撃(ダブル・サーキュラー)!」

 

 

そう唱えて左右交互に連撃を繰り返す。何れも腕に命中しては居たが、決定的な一打を与えるには至っていなかった。そう思った僕は、力の限り大きな声である人物へと頼み事をする事にした。

 

 

「ユミナ!」

 

「は、はい!何でしょうか!?」

 

「みんなを連れて後退して欲しい!ある作戦を実行に移す!」

 

「……?分かりました!」

 

 

僕は先程ミスリルゴーレムとぶつかった場所まで【アクセルブースト】を使って戻る。そしてみんなと合流して【テレポート】で近くの瓦礫の中へと転移する。

 

その後にマップアプリで「ミスリルゴーレム」を検索し直し、ターゲットをロックする。

 

 

「【ゲート】!」

 

 

そう唱えると、ミスリルゴーレムの反応がスマホから消失し、それに伴ってゴーレム達の姿も消えていた。取り敢えずは一安心かな……。

 

僕は両手に持っていた剣を挿し直し、4人と一緒に身を隠していた。

 

 

「颯樹さん、さっきのは……?」

 

「ああ。アイツらを【ゲート】で転移させた」

 

「何処へ、転移を?」

 

「採石場の上……ステア鉱山上空まで」

 

 

それを聞いた際に、4人の顔が驚愕に満ちたものになっていた。いくらあの図体のでかさでも、落下による衝撃からは逃れられないからね。

 

その直後に物体が急高速で落下して来る音が聞こえた。着地予定地点が少し西にズレたみたいだ。落下を衝撃で確認した後、僕たちはその地点まで【アクセル】を使って移動する。

 

 

「……まだ戦えるのか。だったら」

 

「【水よ来たれ、衝撃の泡沫、バブルボム】」

 

 

擂鉢の中から立ち上がろうとしている、ゴーレム二体を牽制する様に、リンゼの【バブルボム】が炸裂する。ヒビだらけの身体に更に衝撃が加わり、胸のミスリルがガラガラと崩れ落ちる。

 

その胸の中に鈍い銀色に光る球体が見えた。……あれが討伐部位の《中枢核》な訳ね。

 

 

「【アクセルブースト】!」

 

 

エルゼが身体強化と加速の魔法を併用し、放たれた矢の如き速さでゴーレムの胸に飛び込んで行く。振り被った右手の破壊力増強のガントレットが、チャージ完了の赤い光を放っていた。

 

ガキィィィン!!!と重い金属同士をぶつけた音が響き渡り、ゴーレムの中枢核の一部が砕け散る。そのままゴーレムは背中から地面へと倒れ伏し、ピクリとも動かなくなった。

 

 

「喰らうでござるよ!せあっ!」

 

 

その傍らでは、八重が僕のニューモデルアーミーでゴーレムへと攻撃していた。複数の銃声の後に、爆裂魔法の【エクスプロージョン】が発動した事を示す爆発が起こった。先程のゴーレムと同じく、爆発した胸部が破壊されて中枢核が剥き出しになる。

 

 

「【光よ穿て、輝く聖槍】」

 

「【雷よ穿て、百雷の矛】」

 

 

……待ってました!ありがとう、八重!僕は左の掌を向け、ユミナは右の掌をゴーレムに向けて魔法の詠唱をする。そして僕とユミナの周囲には、雷と光を纏った槍が現れていた。

 

それを一気に……瀕死寸前のミスリルゴーレムへと発射させる!

 

 

「【シャイニングジャベリン】!」

 

「【ライトニングジャベリン】!」

 

 

僕とユミナの周囲に漂っていた槍が、ゴーレムの中枢核へと向かって放たれる。パキンッ!!という音と共に、核は四等分になって砕け落ちた。そしてその後には、此方のゴーレムも仰向けに倒れて動かなくなった。

 

二体とも完全に活動を停止し、辺りは土煙と砕けた細かいミスリルで一杯である。

 

 

『お疲れ様でした』

 

「ん。上手く行ってほんとに良かった」

 

 

近寄って来た琥珀の言葉に、僕は短く答える事で琥珀へと返答した。さて……討伐部位の回収をしようかね。

 

一部が砕け散った中枢核をエルゼが、四等分に割れた中枢核の半分を八重が、もう半分をユミナが回収した。バレーボール程のそれは、ボディの銀色よりもくすんだ鈍い銀色をしていた。

 

 

「討伐部位も手に入れたし、これで依頼完了ね」

 

「そうだね。……でも、後片付け」

 

 

エルゼの言葉に頷き返した僕は、二体のミスリルゴーレムの下へと歩みを進める。そしてある魔法を詠唱する。これは僕とエルゼにリンゼ、八重のパーティーが旧王都の遺跡で行なった依頼の際に、僕が使っていた魔法だ。

 

 

「【ストレージ:イン/ミスリル】」

 

 

収納魔法を発動させると、魔法陣が地面に浮かび上がって、目の前のゴーレムがストンッと地面へと沈んで消えて行く。ゴーレムが消えた地面を調べて見たが、ミスリルの破片一つ残っては居なかった。……よし、成功だ。

 

同じ様にもう一体のゴーレムも【ストレージ】で収納する。収納魔法である【ストレージ】の容量は本人の魔力量に依存するので、僕で無いとこれは収納できないからね。

 

 

「よし、じゃあ家へと帰りますか」

 

「何時もの様に【ゲート】を使うん、ですか?」

 

「嫌。……考えても見なよ。ここでアイツを放置しておけばどうなるか」

 

「「「「『あっ……』」」」」

 

 

僕は【ゲート】を開いて、シェスカの待つ空中庭園へと戻り、そこからベルファストの自宅へと帰還した。屋敷の庭に出て見ると、レネがセシルさんと自転車の練習をしていた。

 

レネは何時ものメイド服では無く、シャツとサスペンダーの着いたズボンと言うボーイッシュな服装だ。途中で倒れまくったのか、随分とあちこち汚れては居たが。確か今日はレネの休日だから、セシルさんが仕事の合間に練習に付き合ってあげてるのかな。

 

 

「あ〜、お帰りなさい、旦那様〜」

 

「ただいまです、セシルさん」

 

 

セシルさんの声で僕らに気付いたレネは、自転車を走らせて此方へ向かって来た。目の前で確りとブレーキを掛けて停止する。もう乗れる様になったのか。公爵殿下よりも早いんじゃないのかな?若さ故なのかもね(おいキミも若いでしょう?)。

 

 

「お帰りなさい、颯樹兄ちゃん!」

 

「ただいま、レネ。もう乗れる様になったんだ」

 

「うん!」

 

 

嬉しそうに笑うレネの頭を撫でる。こんなに喜んで貰えるなら、自転車を作って良かったと心から思うよ。取り敢えず風呂に入って、埃や砂を落とさないとね。レネは皆(女性陣)と入る方が良いでしょ。僕はその後でゆっくりと浸からせて貰うけど。

 

……あ〜疲れた。八重の新しい武器に関しては、明日調達する形にしようかな。先ずは休息を取らなきゃ。……先ずは背中に挿している2本の剣を【ストレージ】に収納しなきゃだけどね。




今回はここまでです!如何でしたか?


原作では依頼先から帰還する際は、シェスカの居る空中庭園を使わずに戻ってましたが……今回は、キチンとシェスカの所を経由して戻っています。

そして颯樹くんは遂に剣を2本携える……感じだけ見れば、何処ぞの《黒の剣士》を彷彿とさせますね。


次回のお話は1月24日(金)午前0時の投稿を予定しています!話の流れから行けば、八重の新武器を調達するお話からのスタートです♪

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#3. バビロン捜索、そして制作依頼。

「……で?今日は何の用な訳?」

 

「そうね、残りのバビロンの転送陣なのだけど。今の所これと言った確かな情報は無いわ」

 

 

ミスリルゴーレムの依頼から帰って来た後、僕は屋敷に訪れていたリーンを、自宅のテラスにて応対していた。そして彼女の口から語られたのは、バビロンの転送陣の事についてだった。

 

 

「……そうか。進展無しか」

 

「貴方とは気が合いそうね。そう言った話題に、興味が有るの?」

 

「興味が有るとか無いとかじゃなくて……、残り9つのバビロンは何処にあるんだろって、個人的に気になってるだけだよ」

 

 

実際の所はと言うと、バビロンの古代遺跡を探すのは、此方から願い下げをしたいくらいだ。しかしそうも言ってられない理由がある。……フレイズの事だ。

 

リーンが戦ったヤツの様な魔物が、この時代に既に存在して居るのだとしたら、残りのバビロンを本腰を入れて探さないといけないかもね。……取り敢えず、転送陣の情報が無い事には、僕たちも動きたくても動けないのが現状だ。

 

 

「ま、転送陣の事は詳しい情報が入ってからでも……充分間に合うと思うよ。確実にあると言う情報が分かり次第、僕の方まで教えて欲しい」

 

「わかったわ。転送陣のある情報が判明したら、バビロンの古代遺跡探しに協力して貰うわよ」

 

「それは勿論。皆にも話を通す必要があるけど」

 

 

約束を取り付ける事が出来たリーンは、ポーラと共に屋敷を後にする。……フレイズの事だけど、何時皆に明かそうか……。先んじて僕とユミナは知ってるから、後はエルゼにリンゼと八重なのだが……。

 

その事を頭に浮かべつつ、僕はパーティーメンバーの4人を呼び集め、依頼の報告をしにギルドへと向かう事にした。

 

──────────────────────

 

「ミスリルゴーレムが二体ですか……。申し訳ございません。此方の調査ミスの様ですね」

 

 

そう言って受付のお姉さんが、僕たちに向かって頭を下げる。ゴーレムの討伐と言う内容に関しては、何の間違いも見当たらないのだが……《鉱山の解放》が目的であったのならば、二体討伐と描くべきだったのだろう。

 

 

「この場合、キチンと二体分の討伐部位もございますし、此方の手落ちでもございますので、報酬の二倍……白金貨十枚を支払わせて頂きます。勿論ギルドカードへのポイントも二倍にさせて頂きます」

 

 

おっ、それは助かります。……って言うよりも、これは《当たり前》なのかな?普段は二体分の討伐部位を持っていても、その数(討伐指定数に指定されている数)分だけしか支払われないけれど、今回は調査ミスが響いていた事から、正式に二体分の報酬を受け取れるって事かな。

 

カウンターに白金貨十枚を並べて、僕らのギルドカードに何時もの様に、ポンポンポンと判子を押していく。

 

 

「このポイントで全員ギルドランクが上がりました。おめでとうございます」

 

 

その後に返されたギルドカードが、ユミナは《二流冒険者》を意味する青に、それ以外の僕らは《一流冒険者》を意味する赤に変わっていた。おお〜、これで僕らも一流冒険者の仲間入りか。頑張った甲斐があるね♪

 

……あれ?《ドラゴンスレイヤー》のシンボルの横に、新しいシンボルが追加されてる。ゴーレムの頭の様なシルエットにヒビが入っている、四角い形をしたシンボルだけど……。

 

 

「さらに今回の討伐に因り、ゴーレム討伐の証である《ゴーレムバスター》の称号を、ギルドから贈らせて頂きます」

 

「ありがとうございます」

 

「ちなみにこの称号を持っていると、ギルド提携のお店で買い物をされる時、商品の価格が合計価格より二割引となります」

 

 

それはなかなか美味しい情報なのだけれど……、前に黒竜討伐の際に貰った《ドラゴンスレイヤー》が三割引なので、あんまり意味は無さそうだ。

 

そのままギルドを出て、リンゼとユミナは魔法屋へと向かい、エルゼはレオン将軍と訓練が有るとの事なので、ギルドの入口の所から別行動をする事になった。琥珀をリンゼ達に、黒曜&珊瑚をエルゼに着いて行かせる。

 

……あんまり、召喚獣を携帯電話代わりに使うのもどうなのかな……。まあ、互いが離れていてもさほど問題は無いし、念話にも影響は無いとの事らしいので、そこら辺は心配して居ない。

 

 

「じゃ、僕たちは鍛冶屋の方に行こうか」

 

「どうするのでござるか?」

 

「えっと、さっき手に入れたミスリルを使って、八重の刀を鍛冶屋で打って貰おうと思ってるよ」

 

「新しい武器でござるか!?」

 

 

その言葉を聞いた瞬間に、八重の眼がキラキラと輝き出した。僕はそれを落ち着けた後に少し考え、近くの路地裏へと入って【ゲート】を開いた。

 

……普通の鍛冶屋では、刀など打って貰えないと思うので、イーシェンの鍛冶屋へと向かう事にする。刀を打ってるイメージは、イーシェンの方が強いからね。彼処ならば、八重の新しい刀をミスリルで打ってくれるやもしれない。

 

──────────────────────

 

「さて、オエドに着いたね」

 

「ここからは鍛冶屋を目指すんでござるな?」

 

「そうだね。そこが今回の目的地だからね」

 

 

八重と行き先を確認して、僕らは街の中へと繰り出していく。本来ならば……先ず先に八重のご両親である、重兵衛さんと七重さんの所に行ってから『娘さんを僕に下さい!』と言う挨拶をせねばならんのだが、この間会ったばかりでそれを切り出すのは、流石にちょっと抵抗がある。

 

直ぐに結婚をする……と言う訳でも無いし、もう少し落ち着いてからの方が良いって、八重本人からも言われたからね。そこら辺は考えないと。

 

八重の家とは逆方向、オエドの西の端に腕の良い刀鍛冶が居るとの事だ。そこへ向かおうと街中の通りを二人で歩いていると、時折ではあるが、八重が此方へチラチラと視線を向けていた。

 

 

「?どうしたの?」

 

「ふえっ!?あ、いやっ、その……せ、拙者は颯樹殿の許嫁でござる……よね?」

 

「どうしたの藪から棒に。僕たちは既にそう言う関係になってるんじゃん」

 

 

許嫁(いいなずけ)】とか聞くと、親同士が昔から決めていた婚約者みたいな言い方をするのだが、確かに八重の言う事に間違いは無い。

 

……最も、その事を改めて彼女から言われると、照れるのは事実なのだけれども。

 

 

「で、あるならば、でござるな……、その……手、手、手を、繋いで歩きたいなあ、なんて……」

 

「……わかった。はい」

 

 

僕が差し出した左手に、八重の右手が繋がった。そう言えば以前【リコール】を使う時に、一度八重とは手を握っているのだが、何時も刀を握っているとは思えぬ程の柔らかさだったのを、今でもよく覚えている。

 

八重は僕の方に顔を上げると、えへへと恥ずかしそうに笑って、キュッと僕の手を握って来た。……何この可愛い生き物はァァァァァ?!街中で無かったなら、どうなっていたかはあまり考えたくない!

 

オエドの西の端にある、鍛冶屋までの短いデートを終えると、カーン、カーンと鎚が鳴る店の中を覗く。

 

 

「すみません、何方かいらっしゃいますか〜」

 

「はーい、何でしょうか?」

 

 

そう言って店の奥から現れたのは、エプロンを付けた20代前半の女性だ。黒髪を後ろでひとつに纏め、脚にはサンダルを履いている。……この店の店員さんかな?

 

 

「刀を作って頂きたいんですけれども、お願い出来ますでしょうか?」

 

「刀ですか。はい、承っておりますよ。ちょっとお待ち下さいね。あなた〜、お客さんよ〜?」

 

 

その女性は店の奥の作業場へ声を掛ける。店員さんと思ったら、女将さんだったか〜。その声を受けて、店の奥から作務衣らしき物を着て、頭にバンダナの様にタオルを巻いた30代前後の男性が現れた。

 

その男性は少々髭面ではあるものの、優しい印象を受ける顔立ちをしている。よく工務店や作業現場に居る、全体の指揮を執っている男性……みたいな見た目だ。

 

 

「刀かい?どっちが使うんだ?」

 

「あ、こっちの彼女です。素材はミスリルでお願いしたいのですが……」

 

「ミスリル!?そりゃまた豪勢だねぇ!あんた、何処かの領主の息子かい!?」

 

 

うわぁ〜……、何だか変な空気になってる……。僕たちはミスリルを手に入れた経緯を事細かに伝え、ご夫婦が僕たちに抱いている誤解を解く。

 

その後に感心した様な息を親方が吐く。それから八重の刀と脇差を見せて欲しいと言い、それを手に取って()めつ(すが)めつしながら口を開いた。

 

 

「一週間で仕上げてやるよ。それで良いかね」

 

「ええ、全然構いません。それでお代の方は幾らぐらいするのでしょうか……?」

 

「金は要らん」

 

 

……え?金は要らんって、マジで?その後に親方から話を聞いてみると、イーシェンではたまーにヒヒイロカネは回って来るものの、ミスリルともなると滅多に出回らないのだとか。更に言うならば、西方から取り寄せるとバカみたいな金額がするとの事で。

 

……あ、なるほどね。だから『金は要らん』って言ったのか。それならば分けてあげられる。ミスリルゴーレムを討伐した時、かなり多めに手に入れたからね。

 

 

「構いませんが、相場が分からないので、どれ位差し上げたら良いか検討も付かないのですが……」

 

「そうだな……。じゃあ今日は刀と脇差を作る分だけを置いて行ってくれ。完成したらその出来具合で、料金をミスリルで支払ってくれたら良い」

 

「わかりました。ではそれで」

 

 

……次来る時までに、ミスリルの相場を調べておかなきゃね。僕は収納魔法の【ストレージ】を開き、ソフトボール位の大きさのミスリルの塊を、二つ取り出した。

 

これでどうかと聞いてみると、少し多いくらいなのだとか。そして親方はミスリルを手に取り、重さを確かめる様に上下に揺らした。

 

 

「では一週間後にまた来ます」

 

「ありがとうございました〜」

 

 

女将さんの声に見送られながら、僕と八重は鍛冶屋を後にする。

 

人気の無い所から【ゲート】でベルファストの屋敷に帰ろうとしたら、八重がコートの裾を掴んで、躊躇いながら上目遣いの視線を僕に向けて来た。

 

 

「あ、あの……も、もう少しだけ、二人っきりで……」

 

 

八重はそう躊躇いながら言うと、また顔を紅くして伏せてしまう。ああああああああぁぁぁ!可愛いなぁ!街中で無かったなら、確実に抱き締めてますよ!?

 

再び彼女の手を握って、照れくさそうな笑みを浮かべた八重を連れて、僕はオエドの街を歩き始めた。

 

 

「……ッッ!!?」

 

「?どうかしたのでござるか?」

 

「い、いやっ、何でもない……」

 

「?」

 

 

八重が不思議そうな顔をして、僕へと問いかけて来た。僕はそれに『何でも無い』と返すと、八重は再び首を傾げるも、直ぐに笑顔に戻って歩き出した。

 

……何だったんだ、今の寒気。今はそんなに寒いって訳でも無いし……。屋敷に帰ったらちょっと覚悟しとかなきゃ。ウチのお嬢様(一部のメンツ)の抱く嫉妬は凄いからなぁ……。




今回はここまでです!如何でしたか?


今回のお話は殆ど原作通りなのですが、最後には少しだけオリジナルを含んでおります!そのPartの一番最後で颯樹くんが言った言葉は、この小説と原作を読まれている方なら、容易に察しが着くと思いますよ……?

次回は《扇風機》の話題からしようと思ったのですが、かなりシステムの説明が多いので、その後のお話から始めたいと思います。そして原作を知ってる方は、この後に何が来るのかは……言わずとも分かりますよね?


次回の投稿は、来週の月曜日…1月27日(月)午前0時を予定しています!偶に端折って居る所があるから、原作未読者は読みにくくないかな……心配。

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#4. 散策、そして乱闘。

「〜♪」

 

「はぁ……」

 

 

八重と共にイーシェンから戻った翌日、僕はユミナに強制連行されていた。ここで『強制連行』と言うと、何かとんでもない事をした様な言い方なので、訂正させて頂くのだが……ただの買い物である。

 

……え?それだけじゃため息出ないでしょって?……もっと言うなら、買い物の時間が異様に長いの。明らかに『それだけ時間掛ける?』みたいな時間が。本人はご満悦そうだから言わないけど、僕にとっては大変だったよホント……。

 

 

「ありがとうございます、付き合って貰っちゃって♪お陰で良い買い物が出来ました♪」

 

「あ、いえいえ……大丈夫、大丈夫……」

 

「どうかしましたか?」

 

「な、ナンデモナイデス……」

 

 

ユミナの不思議そうな声に、僕はたどたどしく返事を返した。……実際の所はと言うと、昨日感じた謎の悪寒が今でも頭を過ぎるのだ。昨日の夕食の時は何とか収まっており、事なきを得て居た。

 

 

「……もしかして、昨日の事と何か関係が…?」

 

「……ッッ!!?!?」

 

 

突然ユミナから発せられた言葉に、僕は思いっきり動揺してしまった。……な、何故その事を知ってんの!?軽く怖いんだけど!

 

 

「やっぱりでしたか。夕食の時の八重さんの顔だけでは少し判断できませんでしたが、寝る前に見た颯樹さんの落ち着きの無さそうな動き……全て合点がいきました」

 

「そ、それって……どう…言う?」

 

「私とは手を繋がなかったのに……、八重さんとは繋いだのですよね?」

 

 

……嘘っ、バレてるし。

 

 

「夕食の後に部屋へ戻る時、八重さんが頻りに右手を左手で包んでいました。それは即ち、颯樹さんが八重さんの手を握ったからだと気づいたんです」

 

「……」

 

「《沈黙は肯定の証》…ですよね、颯樹さん?」

 

 

ユミナにあっさり曝され、僕は観念した様に両手を挙げる。……この娘、改めて思うけど凄い観察力。恐らく魔眼で人の性質を見抜くのと同時に、周りで起こってる全ての事に目を向けてる気がする。

 

 

「……何が目的?」

 

「ここまで言わせて置いて、最後も私から言わせるんですか?颯樹さんなら、もう分かりますよね?」

 

「……はい」

 

 

溜め息を吐いた僕は右手を差し出して、ユミナに無言で合図を送る。そしてそれを見たユミナは、自身の左手を僕の右手と繋ぎ合わせる。ここまでは八重でもしてたので、問題は無かった。

 

……のだが。その直後にユミナは、握られた左手を巧みに動かして指が丁度絡まる様にして来た。所謂(いわゆる)《恋人繋ぎ》と言うヤツだ。

 

 

「……え?」

 

「八重さんへの、ささやかな抵抗です。颯樹さんの正妻は私だって事の……証明です」

 

「ユミナ……」

 

「さっ、時間はまだまだ有るんです。デートを楽しみましょう♪」

 

 

上機嫌で歩き出すユミナに先導され、僕たちは王都の町中を歩いて行く。……こりゃあ、結婚したらユミナに隠し事は不可能だなぁ……気を付けよ。

 

そして暫く回った頃、僕とユミナは訓練場へと顔を出す事にした。此処に来た目的はと言うと、エルゼの様子を見に来たのだが……此処には生憎と、彼女は居なかったみたいだ。

 

 

「凄いな……」

 

「どの人たちも確り稽古してますね」

 

「まるでスポーツ観戦をしてるみたいだ」

 

 

訓練をしている人たちの様子を見て、僕とユミナはそんな事を呟く。人が何かに打ち込んでいる様子を見るのは、見てる人にとってはかなり楽しいからね。それは前世でスポーツをしていた僕にも言える事で。今日は騎士が多いなぁ〜。

 

……と呑気にもそう思っていると、何処からか誰かに声を掛けられた。

 

 

「おい貴様、ここで何をしている」

 

「あ、いえ。知り合いが此処に来て居るもので、少しその様子を見れたらな、と」

 

「知り合い……だと?」

 

 

声を掛けられた方に振り向くと、若い騎士たちが10人ほど此方を伺っていた。歳は……僕とそう変わらないくらい?若手の騎士なのかな?

 

僕の返答を聞いた騎士が、周りの仲間と何やらコソコソと話し合っている。僕は聴力も良いので、小さい音量の声でも確実に拾えるのだ。

 

 

「……ユミナ」

 

「何ですか?」

 

「この一件は確実に無事では済まない。今なら逃げられるけど、どうする?」

 

「大丈夫です。騎士と言うからには、私の事は知っている筈ですので」

 

 

さすがユミナだ。この状況を『予想通り』と言わんばかりの顔で過ごしている。そして話が済んだのか、先程の騎士が僕に向かって返答して来る。

 

金髪を短く刈り込んだ若い騎士は、僕の事を心底ウザったそうな眼で見ていた。心の中では『ユミナが目の前に居るから、余計な発言は控えよう』と思っているだろうが。

 

 

「ああ、あの女か。ははあ、お前もうまいこと将軍に取り入ろうってハラか。全く下賎な奴らは節操が無いな」

 

「……」

 

「コイツも軍に入ろうとしてるんだろ、あの女の伝手で」

 

「軍の方は数を揃えないと格好が付かないからな。平民共でも居ないよりはマシなのさ。我々騎士団のように少数精鋭、選ばれし名誉ある者とは違う」

 

 

そう言って何が可笑しいのやら分からんが、その騎士たちはゲラゲラと笑い出した。僕はその間にユミナを騎士団本部へと走らせ、目の前の騎士たちと向かい合う。

 

 

「何がおかしいんだ、ああ?」

 

「どう言う意味だ、クソガキ」

 

「フッ」

 

 

僕はフッと軽く笑みを零してそう言った。それが余程癪に触ったのか、先頭にいた金髪の騎士が軽く眉を吊り上げていた。

 

 

「お前、ひょっとしてあの女の男か?」

 

「だったら何だ」

 

「あの女を探すなら、将軍の所のベッドの中でも探してみるんだな。今頃イイ声を挙げて……ぐほっ!」

 

 

茶髪の騎士が言い終わる前に、僕は拳をソイツの顔面に撃ち込む。歯が折れて、鼻血を撒き散らしながら地面を転がる、ソイツの脇腹目掛けて強烈な蹴りを入れる。

 

 

「おげぇ!な、何のつもりだ!?」

 

「ぶちのめすつもりだよ。それじゃ不満か?」

 

 

足下で腹を抱え、丸まりながら声を出す茶髪を見下ろしながら、僕はそう言う。そしてその後にもう一発蹴りを入れる(今度はかなり強めの蹴り)。

 

自分の事ならまだ許そう?だって事実だし。……でも自分の大切な人を馬鹿にされて黙ってる程、僕は平和主義者では無いからな。それに『やる時は徹底的にやれ、相手が泣いて許しを乞うまで』って祖父に教わってますから。

 

 

「貴様!その者はバロー子爵家の次男だぞ!それを殴ってタダで済むと……」

 

ビービー煩いな……。さっきから聞いてりゃなんだそりゃ。人を散々馬鹿にしといて、家がどうとか関係あるかよ。てめぇら自身が偉い訳でも無いだろう?家柄に縋り付く典型的なただの馬鹿かお前らは

 

「何だと!」

 

 

そう言って僕の周りを、数人の騎士が取り囲む。腰に提げた剣の鞘から剣を抜き放ち、此方へと向けている。どのメンツからも殺気がビンビン伝わって来る。

 

……余計な事はしたく無かったんだがな……。僕は剣銃ブリュンヒルドを抜き放ち、一回それを振って敵に《戦う意思がある事》を認識させる。

 

 

「相手に向かって剣を抜いた以上、殺されても構わない覚悟があるんだろうな?そこら辺はどうなんだ、出来損ないの愚か者ども」

 

「黙れぇ!」

 

 

一人が斬りかかって来るが、欠伸をしながらでも避けられる程の攻撃だった。なまくら剣法の見本みたいだ。そう思った僕は《セーフティモード》に変化させたブリュンヒルドで、なまくら騎士の胴を斬り抜く。

 

そのなまくらが倒れると、騎士たちは勢い良く僕へと襲いかかって来た。……仕方ない。

 

 

「【土よ絡め、大地の呪縛、アースバインド】」

 

 

僕がそう詠唱すると、騎士たちの足下が歪んで足を鎖で縛った。そしてその直後に【パラライズ】を付与した弾丸を撃ち込んで、刃を向けた騎士たち全てを地に伏せさせる。

 

 

「ば、バケモノォ……バケモノだァァァァ!」

 

「逃がさん!」

 

 

仲間たちの酷く惨めな状況に、最初に突っかかって来た金髪は門の外へと逃げ出そうとした。僕はその一瞬を見逃さず、そのアホ(金髪の騎士)へと《ガンモード》にしたブリュンヒルドで、【パラライズ】の弾丸を撃ち込む。

 

……さて、後はエルゼを馬鹿にした茶髪だけか。意外と呆気無かったな。さっき「選ばれし名誉ある者」とか言ってた気がするな……。ま、妄言にしてはよく出来た言葉だと思うがな。

 

 

「ひっ!?」

 

「……」

 

「颯樹殿、そこまでにしてくれないか」

 

 

突然掛けられた声に振り向くと、ユミナと一緒に二人の騎士が立っていた。一人は四十代の銀髪の騎士で、もう一人は僕のよく知っている人だった。

 

 

「リオンさん、お久しぶりです」

 

「やあ、颯樹殿。久しぶり」

 

 

僕はリオンさんと挨拶を交わす。リオンさんはレオン将軍の息子で、一緒にミスミド王国へと旅をした人だ。それを見た茶髪は、もう一人の騎士へ途切れ途切れではあるが、現状を報告しようとしていた。

 

 

「ふ、副団長……!こ、コイツが、コイツがいきなり……!」

 

「…お前たちが普段から市民に乱暴狼藉を働き、迷惑をかけていたのを俺が知らないとでも思っているのか?」

 

「颯樹さん!」

 

 

《副団長》と呼ばれた騎士の傍らから、ユミナが僕の所へと飛び込んで来た。僕はそれを要領よく抱き留めて、サラサラな金髪を優しく撫でる。

 

……僕のせいで、彼女には苦労をかけてしまったんだ。これくらいは許して貰えるだろうか。

 

 

「よしよし……。……っと、そう言えばこの騎士たちは普段からこんななんですね?」

 

「ああ、正直目に余る行為が多くてな。君が此奴らを懲らしめてくれたのか?」

 

「ええ。……《懲らしめた》と言うよりも……、この状況は《沈静化》と言う言葉の方が正しいかも。先に剣を抜いて来たのは、そこで伸びてる騎士たちですからね。正当防衛です」

 

 

僕は周囲に倒れている騎士を見ながら、副団長さんへと返答を返す。……コイツら、普段から悪事を働いていたらしいな。道理で。

 

 

「今までは実家の方が上手くもみ消していた様だが、今回はそうは行かないよ。集団で一人に襲い掛かり、その挙句返り討ち。情けない事に一人は仲間を見捨てて逃げ出す始末だ。とても《騎士》とは言えないね」

 

 

リオンさんも厳しい言葉を投げ掛ける。……確かに此奴らがこの国の騎士なんて、傍から見れば情けない事この上ないからな。

 

 

「お前たちの処分は追って通達する。倒れている奴らにも伝えておけ。言っておくが、間違っても意趣返しなど考えない方が良いぞ?彼に手を出せば、お前たちだけで無く、家が取り潰しになりかねんからな。これは冗談でも何でもないぞ」

 

 

目を丸くする茶髪を他所に、副団長さんは今度は僕の方へと視線を向けて、深々と頭を下げて来た。

 

 

「すまない、迷惑をかけた。騎士団の者が全てこんな奴らで無いと分かって欲しい」

 

「いえいえ、お気になさらず。此方も少しやり過ぎてしまったので」

 

 

落ち着いて考えて見れば、何もぶちのめす事は無かったね。……確かにやり過ぎてしまった……。エルゼの事を悪く言われて、少々頭に血が昇ってしまったかもしれない。また修行のし直しだなこれは……。

 

 

「そう言って貰えると助かる。私は王国騎士団副団長、ニール・スレイマンだ」

 

「盛谷颯樹と言います、よろしくお願いします」

 

「知ってるよ。知る人ぞ知る有名人だからね」

 

 

笑いながら差し出された、ニールさんの手を僕は複雑な思いで握り返した。




今回はここまでです!如何でしたか?


一番最初のPartはかなり苦労しました……。前話を見た方なら分かるかと思いますが、颯樹くんが感じた悪寒の正体はユミナです。理由は本編にて彼女の口から語られてましたが……(^_^;)

次回は夜襲のシーンまで書いて、その後はもう一気に遭難者Partへと入りたいと思います!色々細々と描いてたら、確実に私のキャパが追いつかなくなる……!端し折ってるかもですが、そこはご勘弁ください(´ω`)トホホ…


次回のお話は、今度の金曜である……1月31日(金)午前0時に投稿予定です!どうぞお楽しみに!

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#5. 事情、そして夜襲。

ニール副団長に詫びを入れられた後、リオンさんに騎士団の現状を聞かされた。騎士団は王都の守りを主に司っていて、都の安全や王室警護、要人護衛などを任務としているそうで。

 

騎士団のほとんどが貴族の子息であるが、家督を継ぐべき長子では無く、次男や三男が多いらしい。その立場から責任感が全く無く、家柄を誇るだけの我儘なヤツらも居るとの事。

 

 

「かく言う僕も次男ですけどね。まあ、ウチは他の家と違って、人様に迷惑をかける様な間違った行ないをすれば、火焔の拳による鉄拳制裁が待っていますので……」

 

「あー、何と言うか察せました」

 

 

苦笑しながらリオンさんがそう語る。……あー、あの親父さん(レオン将軍)だしなぁ…。甘やかされる要素が全然無さそうだな……。

 

 

「少数だがやはり家柄にしがみつく者が居てな。伯爵家の新兵が男爵家の隊長に従わなかったり、また逆に隊長の方が新兵に媚びたりな。全く下らない話だ」

 

 

ニールさんが苦々しくそう話す。何処も問題を起こす奴ってのは居るんだなぁ……。まあ、そんな奴らに護衛とかの依頼を頼む方は、溜まったモンじゃないだろうな。

 

 

「まあ、今回は《渡りに船》だったよ。彼奴らは騎士団にとって獅子身中の虫になりかねんからな。今までは実家の手回しで躱して来ただろうが、今回はそうは行かん。何せ姫様のフィアンセに手を出したのだ。首が繋がっているだけ有難く思って欲しいものだ」

 

 

この人……初めから僕とアイツらが揉める所を見ていたな?確信犯か。まあ、乗せられた僕も僕なんだけれどもね。

 

そう思っていると、ニールさんは僕の腰に提げられている《剣銃ブリュンヒルド》を興味深そうに眺めて来た。それを見た僕は、腰のホルスターからブリュンヒルドを取り出して、ニールさんとリオンさんに見せる。

 

 

「これは僕専用の武器で、僕しか使用・製作が出来ない代物です。遠距離と近距離の両方で使用でき、短剣や長剣状態へと変化します。さらに言うなら、相手を麻痺させる事も可能です」

 

「ふむぅ、凄い武器だな。私にも作っては貰えぬだろうか?」

 

「すみませんが、それはちょっと……」

 

 

銃に関しては慎重にならないと……。これは使い方を少しでも間違えれば、人をも容易に殺せる物だからね。他人に譲渡するなら、余程信頼の深い人でないと無理だ。それこそ、ユミナやリンゼみたいな人とか。

 

 

「そうか……残念だ」

 

「あ、でも変形する武器や、麻痺の能力を付与した物を作る事は出来ますよ?使いこなせるかどうかは、本人次第にはなって来ますが」

 

「本当か!?ならお願いしたい!」

 

 

僕はニールさんの返事を聞き入れ、収納魔法の【ストレージ】から鋼のインゴットを取り出す。ミスリルの方が硬度はあるのだが、ミスリルは何方かと言えば……武器には向いていないのだ。何故かと言われれば『軽過ぎるから』だと返させて貰おう。

 

アレで作った武器を活かすのであれば、軽さと硬さを利用したエストックや細剣(レイピア)の様な刺突武器か、『斬る』事に特化した刀が相応しいと思う。

 

 

「ニールさんは、どう言う武器を得意にしてるんですか?」

 

「そうだな、やはり槍だな。無論、剣も使えるが」

 

 

ニールさんからのリクエストを受けて、僕は武器作製に取り掛かる。仕組みは《剣銃ブリュンヒルド》を作った時の構造を活かして、厚みのある短剣の刃を薄くして長剣状態へと変形できる様にする。あとは、昔ゲームで見た槍の形を思い出して、製作をして行くだけだ。

 

そして変形機能の【プログラム】や、麻痺効果のある【パラライズ】を付与する事も忘れない。

 

 

「よし、これで完成かな。一先ず試しに」

 

 

くるりと出来たばかりの槍を、一度試しに回してみる。……うん、イーシェンで作ったのと同じ様に、相も変わらずバランスは悪い。これは慣れないと少し難しいかもしれないな。

 

その後に《スピアモード》に《ブレードモード》や《ダガーモード》と言った変形機能の確認をする。どの機能も問題無く作動するみたいだ。……暫く試して最初の槍の状態へと戻した後、ある事を確認する事にした。

 

 

「《スタンモード》」

 

「え?」

 

 

僕はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、リオンさんの肩を槍で軽く叩く。……すると次の瞬間、リオンさんがその場に崩れ落ちてしまった。

 

 

「はうぅ!?」

 

「麻痺効果も問題無く作動……っと」

 

「おいおい……」

 

 

ニールさんか呆れた様な声を出す。まあ、何でも試して見ないと……ねぇ?

 

《スタンモード》になると、刃が無くなって相手を斬れなくなる。その反面に、槍で突く事は可能なのだが。麻痺効果は弱めにしておいたけど、それでも回復には1時間もかかるので……倒れたリオンさんに【リカバリー】をかけて麻痺を解く。

 

 

「ちょっと勘弁して下さいよ!」

 

「すみません。何事も試して見ないと分からなかったもので」

 

 

不満をぶつけるリオンさんに謝りながら、《スタンモード》から《ブレードモード》に戻した槍を、ニールさんへと手渡す。

 

 

「手製ですから、バランスがかなり悪いので……慣れが必要だとは思いますけど」

 

「ありがとう」

 

 

そう言って受け取ったニールさんは、槍を構えて一連の動作を流れる様に熟す。……流石は《副団長》と言った所かな。一つ一つの流れに無駄が無いし、まるで手足の様に扱っている。

 

短剣状態(ダガーモード)長剣状態(ブレードモード)へと変形させ、同じ様に一つ一つの動きを確認して行く。最後にまた《スピアモード》に変形させると、リオンさんの方に顔を向けた。

 

 

「《スタンモード》」

 

「ちょっと待って下さいよ!?」

 

「冗談だ」

 

 

焦るリオンさんを見て、笑いながらニールさんは短剣状態へと戻す。……やっぱり、手足の様に違和感無く使いこなしてるね。これは問題無しだね。

 

 

「《スタンモード》での麻痺効果は、相手が護符等で防御してると、無効化されるので気を付けて下さい。また、一旦麻痺させると普通なら1時間は効果が切れないので、味方を痺れさせない様に気をつけて」

 

「なるほど、承知した」

 

 

ニールさんはそう言って、僕から受け取った短剣を嬉しそうに眺めていた。そう言って貰えると、僕としても嬉しい限りだ。それを見たリオンさんが、武器作成を依頼して来たので、僕はそれに快く応じる事にした。

 

 

「……あ」

 

「……」ムスーッ

 

「どうかした〜?ユミナ〜」

 

「……別に何でもありません。颯樹さんが頼られるのは何時もの事です。それに一々腹を立ててたら、正気では居られません」プクーッ

 

 

置いてけぼりにされたユミナが、頬を膨らませながらむすーっとした顔で不貞腐れていた。……やべ、すっかり忘れてた……。僕がそのお詫びとして頭を撫でると、彼女の不機嫌さも少しは落ち着いたみたいだ。

 

 

「其方の方も大変ですね……」

 

「あはは……もう慣れました。お陰で楽しいですよ毎日毎日」

 

「そうか。……所で、この様な物を貰ったのだ。何か返さなきゃ悪い気がするな……」

 

 

僕がリオンさんの呟きにそう答えると、ニールさんが手にした短槍を眺めながらそう言った。……まあ、こんな武器を貰って何も返さないのもどうか、って思うのもよくわかるんだけどね。

 

 

「気にしないで下さい。ま、さっきの奴らと何か問題があったら間に立ってくれたら」

 

「わかった、約束しよう」

 

 

そう笑いながらニールさんは請け負ってくれた。まあ、彼奴らもアレを受けた翌日にまた《襲撃じゃああああ!仕返しだァァァァァァァァ!》なんて浅はかな考えをする馬鹿では無いと思うが。

 

──────────────────────

 

「……ねぇ、何これ。予想が当たりすぎると逆に怖いんだけど。ほんまもんのバカ?」

 

 

……まさか、そこまでのバカだったとは。うちの庭には昨日絡んで来た騎士たちに加え、屈強な男たちが雁首揃えてのこのこと現れていた。その数はザッと数えただけでも50人ほど。何これ。最早怒りを通り越して呆れんだけど……。

 

門番のトムさんには、わざと居眠りをしているフリをして貰い、僕はラピスさんから伝えられた情報を聞いて、一人庭先で待っていたと言う訳だ。

 

 

「……お前ら、ニールさんの言ってた事が理解出来なかったのかな。学習しねぇ野郎は足踏みするだけなんだがな……って」

 

「相手はガキ一人!殺れ!」

 

『うぉぉぉぉぉぉ!』

 

 

僕が言葉を紡ぎ終わるより先に、男たちは手にした剣や斧などを振り回して襲いかかって来た。動きが単調すぎるし、真面な思考もしてない。……まあ、上司からの諌言を貰って尚こんな馬鹿げた事をするのだ。それくらいは予想出来るか。

 

そこからはひたすら50発の連射である。……前も思ったけど、コイツらとやっても全然手応えを感じない。これならまだ一角狼の方が良い動きをする。

 

 

「人の話は最後まで聞こうな〜。ま、てめぇらみたいなクズに説教垂れてやるこっちの身にもなって欲しいが」

 

 

倒れた金髪たちに僕は歩み寄り、ブリュンヒルドで肩を叩きながらしゃがみ込む。

 

麻痺して動けなくなろうと、少なからず意識はあるので、キチンと僕の声は聞こえているはずだ。その証拠に怯えた目で此方を見ている。

 

 

「お前ら、これがどう言う事か豆粒みてぇな頭でもわかんだろ?剣だ斧だぶら下げてさ、襲撃だよなコレ。強盗未遂若しくは暴行未遂、殺人未遂だろうな。ま、どうでも良いが」

 

「片付きましたか、颯樹さん」

 

 

テラスに出て来たユミナを見て、倒れている金髪の眼が見開かれる。……はっ、こんな馬鹿でも流石は貴族。ユミナは知ってるのか。それなら話は早いよ。

 

騎士団の訓練所では、ユミナの事なんて《眼中にありません》と言う振る舞いをしてたのに、ねぇ?見上げたもんだよ全く。

 

 

「うん、そうだね。君らのした事は王家への裏切り、謀反、反逆だね。君が余計な事を企てたせいで、家はお取り潰し……君たちは目出度く斬首刑だね。お疲れさん」

 

 

僕の言葉を聞いた瞬間、金髪は白眼を剥いて気絶した。……全く、ちょっと脅しただけなんだがな。こんなんでよく襲撃しようと思ったな。逆に感心するよホントに。

 

その後、トムさんに騎士団まで自転車で走ってもらい、事のあらましを伝えてもらう事にした。

 

 

「この人たち、どうするんです?」

 

「まあ、被害は無いから死刑は無い様に頼むつもりだけど。コイツらの家の方にも罪は及ぶだろうね。爵位剥奪も有り得るかもしれない。……ま、どっちにしても二度と大きな顔は出来なくなるだろうね」

 

 

僕とユミナは、白眼を剥いて倒れている金髪を見ながらそう話した。……でもこれって、或る意味《自業自得》かな。親の方もコイツらの悪行を解った上で、庇い建てしてたんだから。

 

ニールさんの忠告を無視したって事は、この様な事態になる事も想定して……無かったんだろうね。基がバカだしね。

 

 

「夜襲を掛けて、数で押せば何とかなる。後は強盗が入ったとでもデマを吹聴すれば良い……なんて考えてたんだろ」

 

「安っぽいシナリオですね。無駄だと分かってたはずなのに」

 

「全くだ。親の顔が見てみたいよ」

 

 

僕たちが溜め息を零した後、ちょうど良いタイミングで、トムさんが騎士団の人達を呼んで来た。そして倒れている騎士たちは一人残らず、騎士団の人たちに連れて行かれた。

 

そしてその数日後、幾つかの家へと《爵位剥奪》と言う国王陛下のお言葉が降った。騎士団はこれを恥とし、一層の規律遵守を心掛ける事となった。……この一件以降、騎士団内部に於ける家柄に依る格差は、ほとんど無意味と化したのだとか。




今回はここまでです!如何でしたか?


ここでお知らせです。次のお話は、書籍版4巻《第1章 砂漠の出会い》の内容に入る予定でしたが、それの予定を1個だけズラしたいと思います。

なぜこんな事をしたのかと言うと……。実はその期間のうちに、あるお話を制作しようと考えたからです。正確に言えば、そのお話を作る期間は2月1日~2月6日の間なんですけどね。それだけ長い期間を取るので、かなり話の内容には力を入れるんですけれども。


そのお話を楽しみにして貰いつつ、本編の振り返りを少しずつして行きますので、よろしくお願いします(。ᵕᴗᵕ。)

次回の投稿は2月7日(金)午前0時です!今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております!


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#6. 砂漠、そして遭難者。

騎士団とのゴタゴタから暫く経った日の朝早く、僕たちは食堂に集まって朝食を摂っていた。やっぱり一日のエネルギー源だからね、確り摂らなきゃ。

 

……と、思いながら朝食のトーストを咀嚼していると……食堂のドアが勢い良く開け放たれた。

 

 

「見つかったわよ!場所はサンドラ王国の南東、ラビ砂漠!」

 

「……?」

 

 

僕は咀嚼していたトーストの破片を飲み込んで、リーンの話に耳を傾ける事にした。彼女がドアを開け放つ程喜ぶ事と言えば……十中八九《バビロンの古代遺跡》の事だろう。

 

 

「で?もっと詳しく」

 

「昔、砂漠の中にあった古代遺跡に、ニルヤの遺跡と同じ、六つの魔石が埋め込まれた石柱があったそうよ!今は砂漠に呑み込まれて砂の下らしいけど!」

 

「「(海の次は、砂漠(ですか)……)」」

 

 

リーンから話を聞いた僕とユミナは、揃って頭を抱えていた。海の次は砂漠か……。あの博士は、僕たちを引っ掻き回して遊び倒したいらしい。……次に会ったら一つ文句言ってやる。

 

 

「それで?正確な位置は?」

 

「ミスミド王国の南の、大樹海を超えた先にある《灼熱の国》と呼ばれる、サンドラ王国。ラビ砂漠はその南東にあるわ」

 

「砂漠……また面倒な所に」

 

 

あの博士には《未来視の宝玉》があるから、この展開ですらも覗いている可能性がある。僕はそれが気になり、天井を何となしに睨みつけてみた。

 

まあ……5000年も経てば地形など多少は変化すると言う物。流石に、そこまで狙った嫌がらせをするとは、僕は思えないんだけどね。……そう素直に思えないのは、脳裏にあの博士の、ニヤついた笑みが浮かんで来るからだろうな。まるで『絶対に逃がさない』って言われてるみたいで、ちょっとだけ癪だけど。

 

 

「探しに行くのは結構。……問題は」

 

「?なンでしょウか?」

 

「君みたいなのが、もう一人増えるのかと思うとね……素直に受け入れられないんだよ」

 

「酒池肉林、ウハウハだト」

 

「ごめん、少し黙っててくれないかな」

 

 

行く前から頭痛くなって来た……。まあ、結局の所はその古代遺跡を、今から探しに行くんだけどね。本音としては『そこまで集めなくても良いのでは?』と思うんだけれども。

 

然しそうも言ってられない理由もある。博士からのメッセージに残された《フレイズによる古代文明滅亡》……アレが未だに僕の中で疑問に思っていたりする。僕の単なる考え過ぎなら問題無しなんだけど、いざと言う時に力を借りる事も、もしかしたらあるかもしれない。何事も《手遅れになってから》では遅すぎるからね。

 

 

「出発するよ!シェスカ、《庭園》の準備を!」

 

「イエス、マスター」

 

 

僕の返答を聞いたリーンとポーラが喜ぶ中、他の皆はやれやれ……みたいな顔をして席を立つ。支度をする為に部屋に戻る様だ。ユミナは僕と同室だから、自然と一緒の行動になる訳だけど。

 

そう言えば、温泉を『銀月』に作る際にリフレットから転移させた空き家が、何も手を付けられて無かったはずだ。別荘として使えるかな〜と思ったんだけど、ちょっと手入れをする必要性アリだよね。家自体は傷んでいないし、それなりに広いから許容範囲内なんだけど。

 

……ま、今回の移動中に少し手を加えようかな。

 

──────────────────────

 

ベルファストから発進した《庭園》は、一路ミスミド王国の南に位置する、サンドラ王国へと向かう。

 

《庭園》のスピードは、飛行機とそう大して変わらないくらいだろう。シェスカによると、飛行時間は四時間だと言っていたので、それなりに距離があるのかな。……じゃあ、この間に空き家を改装してしまおうか。ここで何もしてないよりは、その方が遥かにマシだからね。

 

 

「……よし。傷んでる所も無いし、使えるよ」

 

「じゃああたしは二階を掃除するわね」

 

「…私はキッチン周りと、食堂を」

 

「拙者は一階のリビングを中心に、片付けて行くでござるよ」

 

「では私は玄関と廊下を。颯樹さんは壊れている箇所の修理と、水周りや明かりなどの改良をお願いします」

 

 

ユミナにそう言われた僕は、他の三人と同じ様に行動を開始する。……確かに水路が流れてないと、ここに咲き誇っている花たちは枯れてしまうからね。それを考えたら当然だよね。

 

僕は《庭園》のモノリスを操作している、シェスカの所へ行って水路の事を聞いてみた。結果としては、博士の作った水を生み出す……アーティファクトがあるのだとか。

 

 

「へぇ〜……。この噴水から出てる水が、そのアーティファクトから流れてるんだね?」

 

「ハイ。この噴水から吹き出タ水ハ、自動的に水路へ流レて……この庭園を循環シていまス」

 

「(それって永久機関なんじゃ……)」

 

 

よく良く考えれば、魔法とかに物理法則なんて求めちゃいけないような気がしてくる。実際に使ってるのが、物理法則すら平気で無視してるからね。そこら辺は無闇に突っ込んだら負けかな。

 

これに限界水量とかあるのかな……なんて思ってたら、シェスカから『水量が減ったら増やして、自動的に元の量に戻る様になっている』との返答を聞けた。

 

 

「……これ、飲める?」

 

「人体に害はありませン」

 

 

と言う事は、ここから水を引いても問題無し……と言う事だね。なら……使わせて貰いますか。

 

温泉を作る際に使ったのと同じ手を使って、短いパイプを噴水の所に設置して置く。一応排水パイプは《庭園》の水路を巡った最終地点にしておこう。ここから浄化されるらしいからね。

 

 

「リンゼ、ちょっと手伝ってくれる?」

 

「?良いです、よ?」

 

 

僕はキッチン周りを掃除していたリンゼに、貯水用の樽を運ぶ協力を要請し、外へ運び出した直後に【モデリング】で流し台を作った。ミスリル製のシンクが、眩いばかりに輝いている。その上には蛇口が取り付けられてあり、ここと噴水を【ゲート】で繋いでいる。もちろんの事ながら、排水口も排水パイプに繋がっている。

 

その後にお風呂や、照明関係などを改良して先程の場所へと戻ると、二人と三匹が皆してモノリスに映る映像をじっと見ていた。

 

 

「?どうかした?」

 

「面倒な物を発見したのよ。多分……遭難者ね。ここはサンドラ王国の手前だけど、既に砂漠地帯。こんな所誰も通らないのに」

 

 

モノリスの画面に地上が映し出された。砂漠の中で荷物を積んだ駱駝を連れ、ボロボロの日除けマントを身に付けた数人が、力無くヨタヨタと歩いていた。数にして十人くらい……?それにしては、荷物が若干少ないかな?

 

 

「遭難者なら、助けた方が良いかも?」

 

「どうやって?この《バビロン》の存在を明かすの?行きずりの遭難者に。もしあれが悪人やお尋ね者だったら?こんな所を進んでいるなんて、絶対に普通じゃないわ。面倒な物って言ったのは、そう言う事よ」

 

 

……まあ、確かに。そりゃあ面倒だわな。全員が悪人であるかどうかは、ユミナの魔眼で判断できはするけど、全員が善人であるかどうかも定かでは無い。

 

……でもな。さっき見た十人の中に、一人だけ悪人が本当に居て、その人だけ砂漠に置き去り……なんて事は傍から見れば可哀想だからな。こんな事言ったらアレだけど。

 

 

「とにかく助けよう。《庭園》には連れて来ないにしても、ベルファストやミスミドへ【ゲート】で送る事も可能だし」

 

 

僕はリーンに思った事を伝える。……しかし、そうなった場合はどうしようか……。突然目の前に現れても、警戒されてしまうのが関の山だ。んん〜、どうするかな。

 

 

「急いだ方がイイかもしれませンよ?」

 

「……と言うと?」

 

 

シェスカの指さす画面に目を移した僕は、そこで起こっている内容に驚きを隠せなかった。

 

遭難者十人の目の前に、巨大な怪物が砂の中から突如として現れたのだ。ん〜……あれは、虫!?いや、ミミズなの?先頭部分が全て口になっていて、鋭い牙が口内に360°びっしりと生えている。

 

 

「サンドクローラーね。砂と一緒に獲物を飲み込む砂漠の魔獣よ」

 

 

リーンが画面を睨みながら、その魔物の正体を呟いた。映像の中では遭難者の三人が、剣や斧を振りかぶって魔物に向かっていたが、どうもかなり分が悪いみたいだ。

 

足下は動きがかなり制限される砂漠、そして目の前の魔物に攻撃が効いた様子も無い。後者の方は《彼らの腕があまり高くない》と説明すれば直ぐだが、魔法使いも居ない状況でこれはキツそうだ。

 

 

「……リーン、他の皆を頼む」

 

「了解したわ」

 

「【ゲート】!」

 

 

僕は地上に向かって【ゲート】を開き、広大な砂漠地帯へと躍り出た。サンドクローラーの上空から出現し、ブリュンヒルドの弾丸の雨を撃ち込む。……あ、もちろん【エクスプロージョン】の付与された弾丸だよ?ただの弾丸では効き目薄そうだったので。

 

弾丸が直撃したサンドクローラーから、不気味な体液が撒き散らされる。うわぁ……僕的にこれはアウトだな。焼き尽くそう。その方が良さそうだ。

 

砂漠の地上に降り立った僕は、右手を翳して詠唱の準備に入った。……ぶっつけ本番だけど、勘弁ね!

 

 

「【炎よ来たれ、燃やせ煉獄、インフェルノ】」

 

 

僕がそう詠唱すると、サンドクローラーの周囲から推定1億度の炎の渦が撒き上がり、その魔物を取り囲んだ。

 

ここで僕が《推定》と言ったのは、撒き上がっている炎の正確な温度が、よく分からないからだ。温度計でも使って調べても良いのだが、温度計に使われている水銀がその熱に耐え切れない危険性がある為、調べようにも調べられないのだ。

 

その魔物を取り囲んだ炎の渦は、次第に囲んだ物を黒く焦がして行く。その姿を一見すれば誰でも、ただの炭に見えるかの様に。

 

 

「【水よ来たれ、清冽なる刀刃、アクアカッター】」

 

 

そして炎の渦が収まった頃合いに、水属性の切断魔法である【アクアカッター】を使う。放たれた水圧で出来た水の刃は、サンドクローラーの身体を一刀両断する。

 

腰のホルスターにブリュンヒルドを仕舞い込み、倒れた黒焦げのサンドクローラーを見ていると、遭難者の一人が此方へと歩いて来た。手には長剣を持ち、日除けマントで顔は分からないが……女性である様だった。

 

 

「……君は?」

 

「盛谷颯樹と言います。たまたま貴女方を見付けたのですが、危険だと判断した為に戦闘に介入させて頂きました」

 

「いや、感謝する。おかげで助かった。私はレベッカ、冒険者だ」

 

 

先程《レベッカ》と名乗った女性は、マントに付いているフードを外した。そこから現れたのは、日焼けした褐色の肌に、肩口辺りで均等に切り揃えられたアッシュカラーの髪だった。

 

 

「あんたすげぇな。あんな魔獣をあっという間にやっちまうなんてよ」

 

 

レベッカさんの後ろに居た、戦斧を持った男性がフードを外しながらやって来た。無精髭を生やした二十代前半で背が高く、がっしりとした男性だった。その横には、恐らく僕よりも歳下だと思われる少年が、剣を持ったまま肩で息をしていた。

 

チラッと見ただけだけど、あの子の体格的にあの武器は合っていない気がする。何方かと言うと小柄な、あの少年にはその武器は大きすぎる。

 

 

「あっ、あの!」

 

「ん?どうかした?」

 

「さっきの魔法は水属性の魔法ですよね!?でっ、でしたら、水を出して貰えないでしょうか!?」

 

 

突然の少年からの申し出に、僕は一瞬だけたじろぐも直ぐに理解できた。……こんなだだっ広い砂漠を水分無しで乗り切ろうだなんて、よく考えたなぁ……。そしてそれに上乗せして今の状況。自殺行為もいいとこだよ本当に。

 

 

「すまない。もし良ければ水を出しては貰えないだろうか。今は金が無いが、必ず恩は返す。だから……」

 

「別に構いませんよ?ただ出そうにも入れ物がなぁ……あ、作りゃ良いのか」

 

「え?」

 

 

レベッカさんの呆けた声に構う事無く、僕は収納魔法である【ストレージ】から、掌サイズの鉄の塊を取り出す。それを【モデリング】で大きな金タライを作った。その後に水属性の魔法で、拳大の大きさの氷を何個か作り、そこから水を呼び出した。

 

 

「おおっ!」

 

「後はそうだなぁ……余ってる物は、何処かで有効活用しないとね。【モデリング】……よし、できた。どうぞ使って下さい」

 

 

水の音を聞き付けて、その他の人たちが一斉に此方へと向かって来た。それを見た僕は、余った鉄の塊を【モデリング】で変形させ、簡単なコップを作って渡した。

 

そのコップを受けとるや否や、我先にと水を掬ってゴクゴクト飲んでいた。……余程喉が渇いてたんだな。

 

 

「(……ん?そう言えば、さっき戦っていた三人以外の人の首に、何か付いてた様な……?)」

 

「水を飲んでいる最中にすみません」

 

「はい?何でしょうか?」

 

「少し首元を見せて貰っても?」

 

 

僕は残り七人の内の一人に話し掛け、首元を少し見せてもらう事にした。僕が話しかけたその人の首には、黒光りする大きな首輪が嵌っていた。……ここで、ある一つの疑問が浮かんだ。

 

遭難者の数は全員で十人。その中で剣を持っていた少年と、戦斧を持った男性以外は全て女性だった。更にレベッカさん以外の七人の女性。さっき見せて貰った人も含めて、全員が同じ首輪をしていた。

 

 

「……え?えぇ?」

 

 

僕は女性七人に付いている首輪を、訝しげな視線で見つめる。それに気づいたレベッカさんは、重々しくゆっくりと口を開いた。

 

 

「そうだ。彼女たちは《奴隷》だ。私たちが奴隷商人から奪って来た」

 

 

……え?リーンの予想が、ここで大当たり?助けた人たちは、もしかして《盗賊》でしたかァァァァ!?




今回はここまでです!如何でしたか?


今回のこのお話からですが、書籍版4巻の内容に入って行きます!まだ3巻の内容が済んではいないのですが、そこら辺はどうかご容赦を……。作者の無能キャパのせいでこうなってます。申し訳ない……。

そしてユミナの幕間劇なんですけど、やる時期を少し延長させて下さい。明確に『この時期にやります!』と言うのがまた分かりましたら、その時に投稿する最新話(本編or幕間劇)の後書きにてご紹介したいと思います。


次回の投稿は2月10日(月)午前0時です!次のお話はいよいよ……颯樹くん達にとって、フレイズとの最初の戦いを描く予定です(1st seasonの第5章でも機会はあったけど、彼処は描いてません)!

それではまた次回!今回も感想をぜひ!高評価にお気に入り登録も、何時もの様によろしくお願いいたします(*´︶`*)♥️

─────────【追記】─────────

遂に!この作品が、他のハーメルン作家さんとコラボします!今のところは「llight(リライト)」さんと「ヤギリ」さんです!

何方の作者さんも、TwitterのDMで入念に話し合った結果……無事承認を頂きました!やる順番としては、ヤギリさん→llightさんかなぁ?と言う感じですかね(llightさんは来週末まで予断を許さない状況なので、遅れる事は仕方無し)。


私の小説ではコラボ回は描かないのですが、先程の御二方の方でコラボ回はお届けされます!是非ともこの機会に読んでみて下さいね!

llightさんの方では、BanG Dream!×艦これ×SAO×イセスマのクロスオーバー作品を……ヤギリさんの方では、バディファイト×ラブライブ!サンシャイン!!×イセスマif(私の小説)の短編作品です!

何方の作品にも、私の小説の主人公が登場しています!そして此方の小説では未登場のキャラが登場しますので……「キャラの性格はこうで、話し方はこんな感じなんだな〜」と言うのを覚えて貰えたら!

読まれたら感想を送ってあげてくださいね!それを見たら、私(その小説の作者さん)は泣いて喜びます(他はどうかわかりませんが。ただ私は確実)。


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#7. 解放、そしてフレイズ。

「……なるほど、大体の経緯は理解できました。つまり貴方方3人が連れている7名は、元居た国では《奴隷》という立場に置かれていたと」

 

「ああ」

 

「そして貴方方は、依頼主が奴隷商人と知らずにその人の護衛をしていたと」

 

「……」

 

「しかし、その商人が襲撃を受けて死亡し、襲って来た盗賊たちを撃退した貴方方は、これ幸いとその国から逃げ出したは良いものの、砂嵐に巻き込まれて遭難してしまった……という事でOKです?」

 

 

僕の纏めた言葉に、レベッカさんがゆっくりと頷いて返した。まさか……生きてる内で《奴隷》と言う言葉を聞く事になろうとはね〜。世界は広いわなぁ……。

 

しっかし……人身売買って。とんでもない事を考える野郎も居るもんだ。聞けばサンドラ王国と言う国は、他国との関わりがあまり無いらしく、独自の文化で成り立っているのだと。

 

まあ、ミスミドから大樹海を越えて、灼熱砂漠を踏破してまで訪れようと思う人など、恐らくそうは居ないはずだ。

 

 

「それにしても《隷属化の首輪》……ねぇ」

 

「その首輪を付けられた者は、人としての意思や威厳すら奪われる。外す事が出来るのは、その首輪を付けた本人のみだ」

 

「無理矢理にでも外そうとすれば?」

 

「装着者に激痛が走り、最悪死に至る」

 

 

なかなか悪趣味だなおい。更に聞けば、その首輪を付けた者は主人となった者を傷付ける事が出来ず、命令にも背く事が出来ないのだとか。そこから隙を突いて逃亡しようとしても、その主人が一言【戻って来い】と念じればそれで終わりだ。逆らえばまた苦痛を味合わされる羽目になる……のだとか。

 

僕は試しに自分の首を軽く掴む。……女性の首周りの大きさは、男である僕よりも少し細いくらいだろう。何とかギリ収まるかな……。

 

 

「どうかしたのか?」

 

「いえ。これなら外せるかも……と思いまして」

 

「なに?」

 

「本当ですかっ!?」

 

 

ふと訊ねて来たローガンさん(男性)の言葉に、僕は一連の行動から導き出た結論を述べる。それにいち早く食い付いて来たのは、この中では一番若そうなウィル(少年)だった。

 

気の所為か……ウィルの眼が、かなり見開かれてる様な気がしてならない。

 

 

「やってみない事には分からんけど、試してみる価値は充分にあると思うよ。ダメならそのままだけどね……」

 

「お願いします!ウェンディを解放してあげて下さい!」

 

 

……ウェンディ…?ウィルは僕の所に、先程自らが名前を挙げていた人物を連れてくる。その人物も首には他の人と同じ《隷属化の首輪》を付けて居たのだが、7人の中ではかなり若い部類に入りそうな人だった。

 

歳は13か14……丁度、エルゼやリンゼと同じくらいだろうか?褐色の肌にくすんだ金髪を三つ編みにし、左右の胸の前に垂らしていた。ウィルの後ろの背に隠れて、ビクビクと此方を伺っている様だった。

 

 

「じゃあ……行くよ?【アポーツ】」

 

 

僕はそうウィルに前置いてから、物体移動魔法の【アポーツ】を発動させる。これで僕の手の中には、既に《隷属化の首輪》が握られている。

 

僕の手に首輪が握られているのを見て、驚きを隠せないままに、ウィルは後ろに隠れているウェンディに振り返った。当然、そこに首輪は無い。

 

 

「取れてる!取れてるよ、ウェンディ!」

 

「え…?」

 

 

ウィルの喜びの声に、少し怯えながらもウェンディがそう答える。そして自分の首を摩り、首輪が着いていない事を確認する。首輪から解放された事が分かると、眼からポロポロと涙が溢れ、口元を手で押えた。

 

そんな涙目になった彼女を、ウィルは確りと抱き締める。あーなるほどなるほど〜。ふーん、そう言う事ね。そりゃあウィルが必死にもなるわなぁ。

 

 

「……おいおい、今一体何をしたんだ?」

 

「無属性魔法【アポーツ】……物体を引き寄せる事のできる魔法ですよ」

 

 

驚きのまま表情が固まっている、ローガンさんを差し置いて、僕は残りの六人に着いている首輪を、同じ要領で外して行く。やがて七つの首輪全てを外し終えると、僕はそれを火属性魔法で焼き尽くした。

 

燃え尽きて行く首輪と僕を見ながら、レベッカさんが呆然と呟いた。

 

 

「……一体君は何者なんだ?」

 

「僕ですか?貴方方3人と同じ、冒険者ですよ。これがその証明です」

 

「赤!?」

 

 

僕が出したカードの色に、冒険者の三人(レベッカさん、ローガンさん、ウィル)が色めき立つ。手渡したカードを全員が覗き込む様に確認し、更に大きな声を挙げた。

 

……ま、一応それなりに冒険者やってますからね(とは言ってもまだ一年も経ってはいないのだが)。ともあれ、僕はカードを返して貰うと、レベッカさんにこれからどうするのかを聞く事にした。

 

 

「奴隷から解放されても、登録が抹消された訳では無いからな。この国に居ては面倒な事になるだろう。やはり他の国へ連れて行こうと思っているが……」

 

「でしたら。ベルファストに来ませんか?良い国ですよ。暫くでしたらウチに住んでも構いませんし」

 

「いや、ちょっと待てよ。此処からベルファストまでどれだけ離れてると……」

 

 

ローガンさんの言葉を遮って、僕は目の前に転移魔法の【ゲート】を開く。そしてそこに現れた光の門に首を突っ込み、ユミナを《空中庭園》から呼び寄せた。

 

いきなり見知らぬ人物が現れた事で、冒険者三人は既に武器を構えて戦闘態勢だ。

 

 

「だっ、誰だ!?」

 

「ベルファスト王国国王、トリストウィン・エルネス・ベルファストが娘、ユミナ・エルネア・ベルファストでございます」

 

「「「え!?」」」

 

 

ユミナの優雅な一礼を伴った自己紹介に、三人とも動きが完全に固まってしまった。……ま、普通はそうなるわな。

 

こう言う時、ユミナが『本当に王女なんだなぁ』と思い知らされる。綺麗なドレスを身に纏ってなくても、その育ちの良さと仕草が本物だと分かるのだ。……事実、既に目の前の4人は、ユミナの存在に飲まれてしまっている。

 

 

「皆さんの事情は全て聞いておりました。我が国は貴方たちを受け入れる事ができますが、如何致しますか?」

 

 

にっこりと笑いながら、ユミナは一人一人に視線を向けて行く。魔眼を使っているのだろう。……もしこの中に邪な考えを持っている人が居るとしたなら、ベルファストに連れて行ったとしても、暫くは監視を付けねばなるまい。

 

ユミナは全ての者へ視線を向けた後、僕の方へもにっこりと微笑んでくれた。どうやら問題は無い様だ。固まっていたレベッカさんがやおら膝を折り、ユミナに対して土下座状態となる。

 

 

「は、ははっ!あ、あの、よ、よろしくお願い致します!」

 

「お、おお……」

 

 

僕は目の前の光景に処理が追い付かず、少々現実離れの様な表情をしてしまった。現実と認識させる為に、隣に居たユミナに頬を抓る様にお願いしたが、彼女は焦りながら否定をして来た。彼女曰く『颯樹さんの顔に傷をつけられません!私にはそんな酷い事できません!』との事で。

 

……仕方なかったので、僕は両手で頬を叩いた。そしてその後に改めて、目の前に居る人達に目を向ける。

 

 

「では皆さんをベルファストへ。颯樹さん、お願いします」

 

「はい来た!【ゲート】」

 

 

一人一人【ゲート】を潜らせるのは面倒なので、僕は皆を立ち上がらせて、その足下に開く事にした。そして出口はベルファストの我が屋敷の庭……地上1cmの所に開きながら【ゲート】を上へと移動させて抜けさせた。

 

海外SFドラマでよくある、転送装置みたいな移動をイメージしていたのだが……失敗した。これは止めた方が良い。気持ち悪くなる。

 

何だろうなぁ……階段を昇っていて昇り切って、もう1段あると思い込んでの、ガクンとなる感覚と似てるのかな。地面が一瞬にして消失すると言うのは、物凄く嫌な感覚になるね。……まあ、そこまで考えたのは僕とユミナくらいで、他のみんなは突如変わった風景にキョトンとしていた。

 

 

「こ、ここは……?」

 

「ベルファスト王国の王都にある、僕の家です。暫くはここに住んで貰えたら。ライムさーん」

 

 

僕が我が家のスーパー執事を呼ぶと、直ぐ様メイド部隊を引き連れ、テラスから僕たちの元へと現れた。相変わらず早いなぁ……。

 

 

「僕らが帰るまで、この人たちのおもてなしをお願いします」

 

「かしこまりました、旦那様」

 

 

深々と頭を下げて、ライムさんがメイド部隊に目配せをすると、ラピスさん達が皆(僕とユミナ以外)を家の中へと先導して行く。辺りをキョロキョロと窺いながら、レベッカさん達はメイドさん達に従って、ぞろぞろと付いて行った。

 

 

「取り敢えず、身の振り方は後で考えて貰おう。僕らの方は《庭園》へと戻ろうか」

 

「そうですね」

 

 

レベッカさん達三人は冒険者だから、ギルドの仕事をこなせば王都の宿に拠点を移す事も出来るだろう。他の人たちは……流石にウチは7人も雇えないからな……。何か仕事を見付けられると良いが。

 

僕がふとそう思っていると、僕の方に誰かから連絡が届いた。

 

 

《主!》

 

「ん?琥珀?」

 

「琥珀ちゃんからの連絡ですか?」

 

 

僕は『まあ、そんな所』と伝えておいてから、聞こえて来た念話に応じる事にした。先程の口調から察するに、かなりの緊急事態の様だ。……何かあったのだろうか?

 

 

《どうかした?琥珀、何があったの?》

 

《砂漠に突然変な魔物が現れたのよぅ。キラキラ光って水晶の様な……》

 

 

僕が琥珀の念話に応答すると、返って来たのは琥珀では無く黒曜の声だった。水晶の魔物……?まさか!?

 

 

《戦闘準備をして待機!みんなにそう伝言!僕たちも直ぐそっちに戻る!》

 

《お待ちしております、主!》

 

 

そう召喚獣たちとの念話を終え、僕とユミナは転移魔法の【ゲート】を使って、無事に《庭園》へと戻った。そしてモノリスの前に行くと、皆がその画面を見上げながら確認しており、僕たちもそうする事にした。

 

……そこに映っていたのは、巨大な水晶の魔物が砂漠に浮かんでいて、共鳴音の様な甲高い音を発していた。

 

僕らが出会ったのは『コオロギ型』、リーンが出会ったのは蛇、そして画面に映る三体目……フレイズの姿は、オニイトマキエイ───マンタの形をしていた。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はいよいよ……、フレイズとの初戦闘の回になります!剣も魔法も通じない魔物に、颯樹くん達はどの様に立ち向かうのか、楽しみにしていて下さいね!

次回の投稿は2月14日(金)午前0時の予定にしています!その日は恋人が居る人にとっては、かなり大切な日になるかと思いますが……私にそんな事を考える暇は無いので、小説執筆に励みたいと思います!仕事も長期離脱(半ば強制的に取らされた)なので、本腰入れて頑張りますよ!

今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております!

─────────【追記】─────────

先ずは……「ソードアート・オンライン 〜二人の黒の剣士〜」でお馴染みの《ジャズ》さんと、私の作品「異世界はスマートフォンとともに。if」とのコラボが決定しました!

内容に関しては、今現在協議中です!完成したら此方でもお知らせしようかと思いますので、ぜひ読んでみてくださいね!


次に……現在連載中の作品である「異世界はスマートフォンとともに。if」のR-18版を執筆する予定が、遂に出来ました!

描く内容としては、よく《フーライコタロー》さんの言う『ゆうべは おたのしみ でしたね▼』のお話のみになりますが、読者を飽きさせる事の無いお話を書こうと思います!

作者自身初めてのR-18小説ですので、何分勝手が分からないと思います。……ですが、そこら辺は少しずつ勉強して行ければと思っていますので……どうかよろしくお願いします(。ᵕᴗᵕ。)


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#8. マンタ、そして乱入者。

……まず、デカい。僕がソイツを初見しての大雑把な感想だ。以前見掛けたコオロギ型は《軽自動車》くらいのサイズがあったが、今回は大型バス四台分の大きさだ。

 

頭……と言うか、身体の先頭部分にアーモンド状の頭部らしきものが二つ並んでおり、その中にはオレンジ色に光る核みたいな物が見える。

 

身体の大きさに合わせたのか、以前のコオロギ型の核のサイズは野球のボール位だったが、今回のはバスケットボールくらいの大きさがある。前回のように【アポーツ】を使うのはとてもじゃ無いけど無理だ。

 

 

「どうする?」

 

「確実に倒すよ。それ以外の選択肢は無い」

 

「……ふぅ。聞くまでも無かったわね」

 

 

リーンからの問い掛けに、僕はさもそれが当然の様に答えた。ここは何も無い砂漠。周囲への配慮を一番しなくて良い所だ。……でもこのまま放っておけば、その先のミスミドやベルファストにも被害が及ぶ危険性がある。

 

僕は腰の剣銃ブリュンヒルドを抜いて、軽く素振りをしていた。……とここで、エルゼが僕に質問して来た。

 

 

「だけど、どうやって?アレがリーンの言っていた魔物なら、魔法は吸収されるし、物凄く硬いはずよ?しかも今回のは空まで飛んでるわ」

 

 

エルゼの言う事にも一理ある。八重の刀はミスリル製に変わってはいるが、それが何処まで相手に通じるかは、やって見ないと全然分からない。

 

しかも相手は常時空を飛んでる……。此方が近接戦闘を仕掛けたら、確実に苦戦する事は免れられない。

 

 

「【ロッククラッシュ】や【アイスロック】が一番有効的かもしれないね。フレイズに効かないのは《魔力を纏った魔法》と言うだけで、直接攻撃する物でない魔法は、確実に相手に効くと思う」

 

「そうするしか無いわね」

 

 

リーンの言葉に、ユミナとリンゼが頷く。何とかその攻撃であのマンタを叩き落として、僕とエルゼに八重で本体に直接攻撃。その方法で行くしか道は無い。

 

 

「よし、行こう!【ゲート】」

 

 

全員が準備出来たのを確認した僕は、地上の砂漠へと【ゲート】を開いて、全員でその地点へ飛び出す。……あ、召喚獣三匹とポーラは《庭園》でお留守番だ。

 

地上へと飛び出してみると、ソイツの大きさを直に実感する事になる。そのマンタフレイズは、僕たちの頭上をゆったりとした動きで飛んでいた。太陽の光を反射させて、マンタフレイズの水晶の身体が光り輝いていた。

 

 

「先ずは……威嚇射撃!」ドンッドンッ!!

 

 

そう思った僕は、ブリュンヒルドの引き金を引いて発砲する。ガキュンガキュンと弾丸が水晶の身体を滑る様に弾かれ、肝心の標的にはかすり傷すら与えられて居なかった。

 

……これは身体が硬い故に出来る事か。それに身体が流線型になっている事もあり、放たれた弾丸の威力を逸らしてしまうのだろう。

 

 

「通常弾は効果無し……」

 

「【氷よ来たれ、大いなる氷塊、アイスロック】」

 

 

リンゼが魔法を発動させると、マンタの上空に巨大な氷塊が現れ、そのまま標的目掛けて落下される。氷塊自体はマンタのボディに激突したが、空中で浮遊する物体に対しては、さほど威力を発揮できず、そのまま砂漠へと落ちて行く。まさに《暖簾に腕押し》と言う言葉がピッタリだ。

 

対処法が他に無いか考えていると、水晶のマンタがゆっくりとこちらを向いた。左右にある核の入った水晶体の間に、少しずつだが光が収束していた。……なんか不味いヤツが来る!

 

 

「リーン、散開して!」

 

「了解よ」

 

「「「「「【アクセル】!」」」」」

 

 

僕はリーンに指示を出した後、他の4人と一緒に【アクセル】を使ってその場から退避する。そして次の瞬間、マンタから光の弾丸が発射され、僕らの居た所に寸分の狂い無くクリーンヒットする。

 

光の弾丸が着弾した所からは、その威力を物語るかの様な砂柱が揚がっていて、それと同時に物凄い爆音も鳴り響いていた。

 

 

「……嘘。冗談もここまで来ると辛いわぁ……」

 

 

僕はその惨状を見ながら、柄にも無く情けない声を出してしまう。撃ち出すのに数秒の溜めが必要みたいで、それだけが唯一の救いと言った所か。あれなら少し対処しようがあるかもしれない。

 

そんな僕の考えを嘲笑うかの様に、今度はマンタの尻尾が伸びて、その先端が腹の下に来るように曲げられた。そしてその先端から何かが機関銃の様に発射され、僕らへと再び襲いかかって来た。

 

 

「嘘っ!?」

 

 

撃ち出された何かを躱し、体勢を整えながら……砂漠に突き刺さった物を確認する。

 

それは透き通った水晶の矢……棒手裏剣とでも言った方が良いかな?そんな物だった。何方にしろ危険極まりない物に違いは無い。

 

みんなの無事を確認する為に、周りをぐるっと見渡してみると、リンゼが足を抑えて倒れていた。

 

 

「リンゼ!大丈夫?!」

 

「大丈夫、です。掠っただけ、ですから……」

 

 

リンゼは傷付いた足を回復魔法で回復しながら、自身の不調を僕に悟らせまいと、何とか気丈に立ち上がる。そんな彼女に、再び尻尾の先端が向けられる。……これ以上は不味い!

 

 

「【アクセル】!」

 

 

僕があげた指輪の能力を使い、エルゼが妹の所へと加速移動する。降り注ぐ棒手裏剣の雨に、エルゼは左手のガントレットを翳す。ガントレットの風の付与効果によって、水晶の弾丸は全て双子姉妹を避けて逸れて行く。

 

 

「颯樹殿!拙者を【ゲート】でヤツの頭上へ!」

 

「……っ!【ゲート】!」

 

 

八重の提案に一瞬躊躇したが、言われた通り彼女の足下に【ゲート】を開いて、マンタの数メートル上空に転移させた。

 

彼女が振り下ろしたミスリル製の刃は、マンタの背に喰い込んでは居たが、決定的なダメージを与えるに至っては居なかった。マンタの背を蹴って八重は離れる。……チョイ待ち!下が砂漠だからって、あんな所からは!

 

 

「颯樹殿!【ゲート】を!」

 

「……その手があったか!【ゲート】!」

 

 

八重の言葉を聞いた僕は、直ぐ様彼女の足下の空中へと【ゲート】を開き、僕の横の地上から1m上に出口を設定する。彼女は空中に開いた【ゲート】に消え、僕の隣に軽やかに着地した。

 

 

「ふぅ……。心臓に悪い事をさせないでくれ…」

 

「すまんでござる」

 

 

しかし……ミスリル製にした八重の刀でさえも、あのマンタ型フレイズには効果薄と来たか……。どうやったら此奴にダメージを与えられるのか……?

 

前回のコオロギ型の様に、核を壊せば何とか収まるのだろうが……【アポーツ】は出来ない上に、核は二つあると来た……。と思っていたら、マンタ型フレイズの尻尾の先が再び此方を向く。……不味い!

 

 

「【風よ渦巻け、嵐の防壁、サイクロンウォール】!」

 

「……ユミナ!助かった!」

 

「これくらい何て事ありません!」

 

 

ユミナの紡いだ呪文が、僕と八重の周りに風の防御壁を生み出す。マンタから放たれた棒手裏剣は、その渦に呑み込まれて上空へ消えて行く。僕はユミナに対してお礼を言うと、彼女から心強い返答を得る事が出来た。

 

しかし砂嵐が収まってみれば……、光の弾を今にも打ち出さんとしているマンタの姿が。もう一発すんのかい!

 

 

「ッ!【アクセル】!」

 

 

隣に居た八重を抱き上げて、僕は加速魔法でその場から離脱する。そして背後からは耳を劈く様な、大きな爆音が聴こえて来る。……危なっ!意外と頭良いぞアイツ!

 

その後にリーンが【ロッククラッシュ】で応戦するも、先程のリンゼと同じ様な結果になってしまった。……不味いな、このままだと……。

 

 

「(どうする……?此方には決め手が無い。下手に戦闘をこのまま続ければ、犠牲者が出かねない……。ここは一旦【ゲート】で離脱して、対策を立てるか……)」

 

「あれ?誰かと思ったら、颯樹かい?」

 

「き、君は!?」

 

 

戦場特有のピリピリした空気とは、明らかに場違いな声が聞こえて来た。その方に目を向けて見ると、こんな砂漠の中では確実に暑そうなマフラーを付けた、モノトーンの少年が立っていた。

 

……僕とユミナが一度会った事のある謎の青年。確か名前は《エンデ》と言っていたな。

 

 

「ちょ、何でここに……!?」

 

「久しぶり。フレイズの気配がしたから来てみたら……まさか颯樹とユミナに出会えるなんて」

 

「エンデ、まさかアイツの事を……!?」

 

 

僕がそう尋ねてみると、案の定な答えが彼から返って来た。彼曰く『僕らが今相手をしているフレイズは《中級種》である』との事。これは『《結界》が壊れかけている影響か』との事らしい。

 

……え?《中級種》…?《結界》……?……え?エンデは一体何を知ってるんだ……?

 

 

「ま、ちょっと待ってて。まず、アレを片付けるから」

 

「はぁ?」

 

 

そう言って笑いながら、エンデはマンタ型フレイズへと歩いて行く。そんな彼めがけて水晶の矢が容赦無く降り注ぐが、次の瞬間……エンデの姿がその場から消え失せた。

 

その光景に一瞬驚いた僕は、辺りを隈無く見渡したが、エンデの姿は何処にも見当たらなかった。

 

 

「(まさか認識を阻害させる魔法を使ってるのか……?でもあれは視覚を誤魔化すだけで、その場所に居る事は絶対に誰かにわかる筈……)」

 

「彼処でござる!」

 

 

僕が思慮に耽っていると、腕の中に居た八重が勢い良くある一点を、指を挿しながらそう言った。……人を指ささないよ〜……と思いながらもその方向を見ると。

 

そこには、マンタ型フレイズの背中に乗っているエンデの姿があった。……え!?一体、どうやってソコに!?

 

 

「よっ、と」

 

 

するとエンデは、何気無い仕草でフレイズの背に蹴りを入れた。右足を上げて、それを下ろしただけの緩慢な蹴りだった。たったそれだけの事で、フレイズの身体にヒビが入り、それが全身にあっという間に走って行く。

 

やがてパキィンッ!とガラスを割った様な大きな破裂音が響くと、ガラガラとフレイズが崩れ出した。……え?何アレ。何やったんだアイツは!?

 

 

「よっ、と。……ふん」ガシャアーーーン!!!

 

「おいおい……何したの一体」

 

「何も?アイツと同じ固有振動を、魔法で叩き付けて破壊しただけだけど」パンパン

 

 

フレイズの核二つを破壊した手を、払い落とす様にパンパンと叩きながら、僕の問いにエンデは何でも無さそうに答える。

 

《固有振動》……?それって《共振現象》みたいな物って事?魔法だから、同じ物とは言えないのかもしれないけど、ね……。

 

 

「エンデさん……。貴方さっき《結界》とか言ってましたけど、それって結局何なのですか?」

 

「この世界にフレイズが入って来れない様にする為の網みたいな物かな。だけど綻びがあるみたいだな。此奴もそこから抜けて来たヤツだろう。まだせいぜいこのレベルのヤツしか、こっちに来れないみたいだけど」

 

 

砂漠に散らばる水晶の欠片を眺めながら、ユミナの問いにエンデはそんな事を呟く。……そして後に彼は自分の目的を「眠れるフレイズの《王》を探す事」だと言った。その目的が、過去に現れたフレイズたちと同じ目的だと言う事も。

 

……な、何だって?フレイズの《王》?そんなのが居ると言うの?この世界に……?

 

 

「おっと、そろそろ行かないと。ちょっと約束があるもんでね。じゃあ颯樹にユミナ、また会えると良いね」

 

「あ、ちょ……!」

 

 

エンデはそうにこやかに微笑むと、引き留めようとする僕を無視して、その場から消え失せた。これは一体何だろ……【テレポート】みたいな転移魔法だろうか……。

 

 

「フレイズの《王》……だって……?」

 

「エンデさん……。会えば会う程益々わからなくなりますね……」

 

「だね……。取り敢えず、先ずは《庭園》に戻ろっか。そうしないと何も進まない」

 

 

僕とユミナはエンデが置き去りにした、謎に頭を抱えながら合流した皆と一緒に【ゲート】で《庭園》へと帰還する事にした。

 

……「フレイズの《王》」、「《結界》」……。まだまだ分からない事だらけだな……。取り敢えず先ずは《バビロン》集めだ。その過程で知る事があれば、聞いてみようかな。




今回はここまでです!如何でしたか?


投稿が遅くなって申し訳ないです……!自動車試験場での学科試験がつい昨日有りまして、何とかギリギリの90点で合格する事が出来ました〜♪一問でも間違えたら落ちる得点だったので、ほっと一安心です。

でもこれから先は、余程の事が無い限りは遅れない様に投稿して行く所存ですので、是非とも楽しみにしていて下さいね♪


次回の投稿は2月17日(月)午前0時を予定しています!話の内容としては、今回のお話の続きとなります!次回のお話は原作と違う所が、ハッキリと出て来ます!それが何処なのか、予想を立てられてみては?

今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしてます(。ᵕᴗᵕ。)感想は初絡みでも大歓迎ですよ♪


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#9. 暴露、そしてふたつめ。

「怪しすぎる」

 

 

リーンは腕を組んで、そう結論を述べた。確かに僕やユミナもそう思うんだけどね……?《庭園》へと戻った直後、僕とユミナは先程のエンデとの会話を、他のみんなに余す所無くバラす。

 

 

「5000年前の通貨を持ち、私たちが全く歯が立たなかった怪物を一撃で倒した。さらにその怪物の事にも詳しく、この馬鹿みたいな暑さの中マフラーをしている。怪しさ大爆発でしょうが」

 

「(最後のは、関係ない気がするけどな……)」

 

 

最後のはあまり関係ないだろうと思ったのだが、怪しい人物である事に依然として変わりは無い。一体エンデは何者なんだろうか……。

 

それはユミナも同じ事を考えてたらしく、この場に居る全員が頭を抱えてしまう結果になってしまった。

 

 

「あの水晶の魔物…フレイズって言ったかしら。結局あれって何なの?」

 

 

根本的な疑問をエルゼが口にする。……確かに、ただの魔物と言う訳では無いだろう。何せ5000年前、世界を滅ぼしかけたヤツらなのだ。その事を知っているのは、僕とユミナとシェスカだけなのだが、皆にそれを伝えるべきか迷っていた。

 

みんなをやたら不安にさせるのもどうかと思い、言わずに黙っていたのだが……こうなってしまうと、逆に言い出しづらいな。

 

 

「うーん……どうした物か…」

 

「その事ナラ」

 

「うぉわぁ!シェスカ!」

 

 

僕がそう思慮に耽っていると、背後からシェスカがニュっと現れ出た。……い、何時の間に!?僕が挙げた大声で、全員の視線が僕とシェスカに集中する。

 

そしてユミナがシェスカへと質問をする。

 

 

「シェスカさん、いきなりどうしたんです?」

 

「博士カラのメッセージ、マスターとユミナ様二はお伝えシたはずでスが?」

 

「「「!?」」」

 

「「……あっ」」

 

 

……やべ。すっかり忘れてた。僕とユミナは詰め寄る皆を抑えながら、博士からのメッセージを全て白状する事にするのだった。

 

 

「何でそんな大事な事を黙ってたのよ!」

 

「いや、そのうち話そうとは思っていたんだよ?…けどね?皆を危険な目に合わせたく無かったってのが、本音かな」

 

「私も颯樹さんと同意見でした……すみません」

 

 

リーンに詰め寄られ、僕とユミナは言い訳がましい言葉を口にする。

 

 

「《幾万ものフレイズの侵攻》……それが古代文明滅亡の原因だったのね。でも、5000年前にはそんな沢山居たと言うのに、今は目撃情報が殆ど無い……。そして今になって現れ始めた。一体どう言う事なのかしら……」

 

「…生き残り、か、封印されたやつが出てきたのでは?」

 

 

僕とユミナの情報を聞いて悩み出したリーンに、リンゼが自分の考えを述べる。実際、僕らが初めて出会ったコオロギタイプは《仮死状態》の様だった。確かにその考えも無いとは言えないが……。

 

それにアイツの言っていた《結界》って言葉も、どこか引っかかるんだよな……。僕の考えすぎならそれで良いんだが。

 

 

「僕が一番気にしてるのは、アイツがマンタフレイズの事を《中級種》と言った事だ」

 

「そうですね……。颯樹さん達やリーンさんが見つけたフレイズは、恐らく《下級種》に当るのだと思います」

 

「僕たちはその《中級種》相手に、全く手も足も出なかった。……もしこのままの状態で、さらに上の《上級種》とかを迎え撃つともなれば……」

 

 

僕はそこまで続けて、そうなった時の光景がどうなるのかを軽く想像してみた。……辺りが紅蓮の焦土と化す中で、誰一人として助からない惨状。助けを呼ぼうにも呼ぶ事の許されぬ、生死の境すら見えぬ地獄。

 

……こりゃあ、かなり本腰を入れて《バビロン》を探さないといけないな(前々から決めてた事ではあるけれども)。

 

 

「シェスカ。5000年前には、フレイズと人類は戦ってはいなかったの?」

 

「いえ、戦ってはいまシた。かなり戦況は悪かったでスが。博士も対フレイズ用の決戦兵器を開発してはいたのでスが、完成した時には既にフレイズは一匹残らず居なくなっていまシた」

 

「?決戦兵器?……それって何なの?」

 

「博士が生み出した、搭乗用人型戦闘兵器でス。名をフレームギアと申しまス」

 

 

搭乗用人型戦闘兵器!?……それって巨大ロボットって事だよね?!そんな物まで造ってたのか、あの博士は!

 

…まあ、シェスカの様なロボ子を造れるのなら、戦闘兵器なんて造っててもおかしくないけどさ……。それを聞いたエルゼからの疑問には、シェスカは『《格納庫》に保管されている』と答えていた。

 

 

「(……と言う事は、今向かっている遺跡で転送された先が《格納庫》なら、そのフレームギアが手に入るって事か。なるほど)」

 

 

普通の男の子なら、そう言う『戦闘兵器』とかの物を聞いたら確実に喜ぶ所だろうが、僕は生憎とそこら辺は見た事が無い。強いて言うなら母が軽く見てたくらいだ。

 

暫くすると、目的地に着いたのか《庭園》は前進を止めた。

 

 

『主、目的地に着いた様ですが』

 

『何も無いみたいだけどねぇ?』

 

『砂の下に埋もれているみたいじゃな』

 

 

モノリスの画面を見ながら、琥珀達がそう告げて来る。座標は確かに間違いは無いのだが、そこには相変わらず砂漠が広がるだけで、全然何も見えない。

 

僕たちは確認の為に降りる事にし、黒曜と珊瑚の二匹を《庭園》に残して【ゲート】で地上へと転移する。

 

 

「……見渡す限り砂漠だな」

 

「何もありませんね……」

 

 

僕とユミナがそんな事を口にする。その後に僕はスマホで[遺跡]とマップアプリで検索をかける。すると、結果はこの下にその遺跡が有ると言う事になった。

 

さて……どうしようか。シャベルで思いっきり掘ってみようかな?いやいや、そんな事をしてたら何時までかかる事やら。……あ。

 

 

「これは使えないかな……」

 

「颯樹?どうかしたの?」

 

「あ、リーン。少し皆を待避させられる?」

 

 

僕は思った事をリーンへと伝える。そして右手を砂漠の一番適当な箇所へと向ける。これで何とかなれば良いけどね。

 

 

「【風よ渦巻け、嵐の旋風、サイクロンストーム】!」

 

 

僕がそう詠唱すると、巻き上がった竜巻に砂がどんどん吸い上げられ、やがて上空へと舞い上がる。僕らの居る方から風下の方へ砂が飛ばされ、どんどんと目の前の砂漠の一部がすり鉢状になって行く。

 

やがて半球状の遺跡が現れ始めた。家一軒ほどのドーム状の『それ』は、石なのかコンクリートなのかよく分からない物質で出来ていた。一部に入口の様な扉がある。観音扉では無く、普通に一枚扉である様だった。

 

 

「……よし。竜巻も収まったし、行ってみるか」

 

 

そう言って僕たちは、竜巻で生み出したすり鉢の中へと降りて行った。扉には取っ手らしき物は無いみたいだ。自動ドアなのかな?試しに扉の前に立つが、ピクリとも反応を示さない。

 

むむむ……。センサー的な物が、この世界にあるとも思えないし……一体どうやって開けるんだこれ?何気無く扉に触れて見ると、触れた手応えが感じられず、向こう側へと突き抜けてしまった。

 

 

「うお!?」

 

「颯樹さん!?」

 

 

そのまま転倒しそうになり、その場から一歩踏み込むと、遺跡の内部へと入り込んでしまった。薄ぼんやりとした明かりの中に、前と同じ様に六つの石柱と、転送陣があった。

 

もう一度扉に触れてみるものの、今度は壁特有の冷たい感覚が返ってきた。試しに【ゲート】を開いて外に出ようとしたが、魔法が発動しなかった。

 

 

「どうなってんの、これは……」

 

『主!?大丈夫ですか!?』

 

『琥珀?僕の方は何とも無いよ。遺跡の中に転送陣があったよ。少し行ってみるから、皆には《心配無い》って伝えておいてくれる?』

 

『わかりました。お気をつけて』

 

 

琥珀からの念話を聞き入れながら、僕は《庭園》を見つける時にもやった事をしていく。……恐らくさっきのは《転送陣が破壊されない様に》と言う用心の為だろう。どっちにしても、あの博士に『逃がさない』って言われてるみたいで、少し気分は下がるけど。

 

六つの魔石全てに魔力を流し、輝く転送陣の中央へと移動する。そこにある無属性の魔石に、無属性の魔力を流し込む。……さて《庭園》の次は何なのやら。

 

──────────────────────

 

めくるめく光彩陸離の渦が収まると、目の前には最初に見付けた《庭園》と、同じ様な風景が広がっていた。一つだけ違う所を挙げるなら、正面に大きな建物が見えるって事だ。真っ白いサイコロの様な、立方体の建築物が建っている。

 

その建物へ向かう道を歩きだそうとすると、突然道を遮られる様に女の子が飛び出して来た。

 

 

「そこで止まるでありまス!」

 

 

右手を勢い良く翳して、僕をその場に留めようとする。……なるほど。どうやらこの娘が、ここの管理端末らしい。その女の子はオレンジの髪を、両サイドでお団子状にして、リボンの付いたシニヨンカバーで纏めていた。白い肌と金色の瞳は、シェスカと同類である事を示している様だ。

 

歳はシェスカよりも下だろうか……。そう思えてしまうのは、身長が低いせいもあるのだろう。

 

 

「ようこそ、バビロンの《工房》へ。小生はここを管理する端末の[ハイロゼッタ]でありまス。ロゼッタとお呼び下さると有難くありまス」

 

 

女の子なのに《小生》って……。その言い方は男の子の呼び方だった様な気がするが。ロゼッタは正真正銘の女の子だよね?スカート履いてるし。

 

ん〜。……いや!あの博士の考える事だ!全然信用できるはずがない!

 

 

「少し確認したいんだけど……ロゼッタ。君は正真正銘、女の子なんだよね?」

 

「?質問の意図がわかりませんが、そうでありまスよ?」

 

 

だよね〜……。そうだよな。僕は余計な事を聞いてしまった事を、ロゼッタに頭を下げて詫びる。それをロゼッタは、少し焦った様な表情で見ていたのだが。

 

しかし《工房》か。リーンの望む《図書館》では無かったと言う事か。……ま、何が見付かっても、僕的にはそこまで気にしないんだけどさ。

 

 

「ここから先は《工房》の中枢でありまス。現在《適合者》以外は、立ち入る事を固く禁じられているのでありまス!」

 

「一応、シェスカからは……《適合者》だと認めて貰ったんだけどね」

 

「シェスカ…[フランシェスカ]でありまスか?なるほど、既に《空中庭園》を手に入れてるのでありまスね。それならば話が早い。小生も《適合者》の資格が有るか否か、試させてもらうでありまスよ」

 

 

恐らく姉妹であるであろう、ウチのロボ子メイドさんの名前を出してみる。そうしたら大当たり。シェスカの名前だけで、何かを察したみたいだ。

 

……シェスカの場合は《ぱんつ丸出しの状態を如何するか》と言う物だったが、ロゼッタは一体何をさせるつもりなのやら。

 

 

「そこから一歩も動かずに、小生のぱんつの色を当てるでありまス!」

 

「アホ来たァァァァァァ!!!」

 

 

やっぱダメだわコイツら!揃いも揃って、考える事がおかしすぎる!《スカート捲り》が試験の内容って……、傍から見れば常軌を逸する行動だわダァホ!

 

しかもコイツら……同じ博士に造られてるから、考えも自然と似てくるわなぁ!

 

 

「答えるのは一回のみ。制限時間は五分。さあ、何色でありまスか!?」

 

 

くっ!……な、なんでノリノリなの…この子?!シェスカもそうだけど、羞恥心って物は無い訳ぇ!?どうするべきか悩んでいる間にも、刻々と制限時間が迫って来ている。

 

……本来はしたくない事だが、確実にするならこれしか無い!もう、どうにでもなれ!

 

 

「【ロングセンス】」

 

 

視覚をスカートの中に飛ばす。そしてその後に、ゆっくりと目を開く。薄暗いがハッキリと見える。見えは……するの、だが……。

 

…………………………………………ブッ。

 

僕はその場に蹲って、鼻から流れ出て来る血を、鼻の穴を塞ぐ事で防いでいた。あんなの、って……アリな訳?

 

 

「さあ、何色でありまスか!?」

 

「……………………無色、透明……………」

 

「正解でありまス!あなたを《適合者》と認め、今現在より機体ナンバー27、個体名[ハイロゼッタ]は、あなたに譲渡されたでありまス!末永くよろしくお願いするでありまス!」

 

 

ロゼッタがそう言って、ビシッと敬礼のポーズを取っていたが、そんな事はどうでも良かった。シースルーとかそんなちゃちな物じゃない、食品用ラップで出来た様なぱんつが……目の前に……。

 

い、今ここで気を緩めたら……絶対に出て来る!確り抑えてなきゃ……。あれ?運が悪けりゃ、失血死なんて有り得るよね。んな間抜けな方法で死にたかないわダァホ!




今回はここまでです!如何でしたか?


いや〜、バビロンナンバーズ(ストーリー前半で加わる姉妹達)が出す試練って、なかなかハードですよね?!こんなのがあと一回……。耐えきれるかな、颯樹くん(三回目はだいぶ抑え切れるかな。だって色々と間に合ってるし)。

今回のお話の中に、原作とは違う要素を入れています!それが何処に当たるのか、よく探してみて下さいね?


次回の投稿は2月21日(金)午前0時を予定しています!次回はいよいよ、颯樹くんの新武器が加わります!これは《ソードアート・オンライン》を知っている人なら、誰でも知ってるお馴染みの武器です!

今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております!……そう言えば今回で50話なんですよねこの小説って(関係無い事を喋ってすみません)。


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#10. 新武器、そして「工房」。

「止まったでありまスか?」

 

「一体誰のせいでこうなったと……」

 

 

僕は鼻を押さえていた手を退け、軽く深呼吸をする事でロゼッタの心配に答える。ちなみにロゼッタには、普通のやつに即座に穿き替えて貰った。

 

さっきの試練が影響して、ロクに彼女の顔を見れていないのが現実なのだが。

 

 

「あ、そう言えばマスターに、渡す物があったでありまス」

 

「《渡す物》?」

 

「持って来るでありまス」

 

 

そう言ってロゼッタは、何処かへと走り去ってしまった。僕は彼女が戻って来る間に、辺りを軽く見渡す事にした。

 

最初に手に入れた《庭園》と、何ら変わりの無い風景なのだが、僕から見て右手には、立方体の建築物(彼処が多分《工房》の中枢なのだろう)が鎮座していた。色は真っ白で、彼処だけが異様な存在感を放っていた。

 

 

「へぇ……こう言う所なんだな」

 

「およ?マスター、どうかしたでありまスか?」

 

「いや、何でもない。辺りを軽く散歩したくなってね。……で、それが渡す物?」

 

「そうでありまス。博士曰く『マスターにしか扱えない物』と言っていたでありまスから」

 

 

僕はロゼッタから、差し出されたそのブツを受け取る。そのブツは二振りの剣で、片方は透き通る様な翡翠色の剣で、もう一方は永久の闇が感じられそうな黒い剣だった。

 

……知ってる。僕は前世でこの2本の剣が出て来る物を知っている。確かかなりハマっていた作品の中で、この武器が出て来ていたはずだ。

 

 

「《ダークリパルサー》、《エリュシデータ》。この世界で出会う事になろうとは……感慨深いな」

 

「気に入って貰えた様でありまスな。博士から渡す様に頼まれていたのでありまス」

 

「ありがとう、ロゼッタ」

 

 

そう言って僕は【ストレージ】から鉄の塊を取り出す。念の為にと多く買い足していた物だ。それで2本の剣を納める鞘と、留め具みたいな物を【モデリング】で作った。後者の方に関しては、付け外しや長さの調節が自由に出来る様に【プログラム】を施しておいたけど。

 

それが済んだのを見た後、ロゼッタが声をかけて来た。……そうだな。やる事はやらないとね。

 

 

「そろそろ案内したいのでありまスが、よろしいでありまスか?」

 

「……ああ、大丈夫だロゼッタ。案内を頼む」

 

「了解でありまス」

 

 

そう言ってロゼッタは、スタスタと歩きだそうとする。……が、直ぐにその足を止めてしまった。何かし忘れた事でもあったのか?

 

クルっと僕の方に向き直ったのを見る限り、その方向だと言うのは何となく察せるのだが……。

 

 

「穿き替えたのも見たいでありまスか?」

 

「どうしてこう……キミやシェスカもそうだが、そう言う事を何の躊躇いも無く言えるのかなぁ!」

 

「良いのでありまスよ?見せても」

 

「見たくて見た訳じゃない!案内せえ!」

 

 

そう言うとロゼッタは諦めたのか、スタスタと歩き出した。そしてまた直ぐに人の性癖を探ろうとした為、一発手刀を下ろして置いた。下ろされた本人はと言うと、その部分を押さえて蹲っていたが。

 

……一頻りそんな事をした後で、僕はロゼッタの案内で《工房》へと足を踏み入れる事になった。

 

 

「ねえロゼッタ」

 

「何でありまスか?」

 

「あれが《工房》だって事は分かるんだけど……入り口は何処にあるの?」

 

 

僕がそう質問をすると、ロゼッタは徐ろに壁に手を着いた。ロゼッタがそうした次の瞬間、目の前の白い壁に幾筋もの線が走り、それが小さな立方体となって瞬く間に組み替えられ、ぽっかり開いた入口へと再構築されて行く。

 

もしかしてこの建物って、小さな立方体の集合体なのかな!?その立方体の集合体は、ロゼッタの命令一つで如何なる形にも姿を変えて行く……とか。だとしたら、とんでもない技術だな。

 

 

「どうぞでありまス」

 

「あ、ありがとう」

 

 

出来たらしい入口へと入ると、上へと昇る階段があり、数段昇って行くと直ぐ様広いスペースへと出た。な、何此処……一体全体どうなってる訳?

 

辿り着いたその場所は、全然何にも無い真っ白な空間だった。一面真っ白なのだ。壁や天井に床であろうと、ただの一つも例外無くだ。そして……広すぎる。

 

 

「ここが《工房》……」

 

「そうでありまス。思い描いた、ありとあらゆる工作道具を生み出し、工作台を作り、製作のサポートを行う《万能工場》でありまスよ」

 

 

そう言いながらロゼッタが手を床に着くと、目の前にたちまち白いテーブルが現れ、色々な工具が着いたアームがそのテーブルから飛び出して来た。

 

……なるほど。この建物自体を構成している小さなブロックを操作して、ありとあらゆる工具や道具にする事が出来るんだね。

 

 

「《工房》を操作する事が出来るのは、小生とマスターだけでありまス。また、元になるオリジナルの製品があれば、複製を作る事も可能でありまス。ただし《素材が揃っていれば》でありまスが」

 

「なるほど。……例えばだけど、このブリュンヒルドをコピーして、ミスリルを使ってこれと同じ物を作れるって事?」

 

「そうでありまスな。お借りしても?」

 

 

そう言ってロゼッタは、僕から剣銃ブリュンヒルドとミスリルを受け取り、白いテーブルの近くへと持って行った。先程素材として渡したミスリルの塊は、僕が質問をする前に【ストレージ】から取り出した物だ。

 

ロゼッタは白いテーブルの上にブリュンヒルドを置き、その手前のテーブル上に手を置いて、言葉を紡ぐ。

 

 

「スキャン」

 

 

ブリュンヒルドの置かれた白いテーブルの下が、緑色に一瞬だけ発光した。それが終わると、今度はブリュンヒルドを退かして、ミスリルの塊をテーブルへと置く。

 

その後に始まった複製作業(コピー)を経て、銀色に鈍く輝くブリュンヒルドが出来上がった。辺りにミスリルの破片が散らばっては居るが、形は紛れも無いブリュンヒルドだ。

 

 

「おぉー。……っと」

 

「どうでありまスか?」

 

「確かにオリジナルと同じだ。モードの切り替えは〜?っと。……《ブレードモード》」

 

 

僕はブリュンヒルドの刀身が変化するかどうか、確認しようとする。……だが結果としては、ブリュンヒルドの刀身はそのまま変わらなかった。なるほどね……【プログラム】まではコピー出来ないって事か。

 

改めてリロード等の【プログラム】をし直し、今までのヤツは【ストレージ】へとしまい込んだ。ミスリル製の方が使い勝手が良いからね。

 

 

「コピーの際に個数も念じておけば、後は自動で生産し続けるでありまス」

 

「なるほど、便利だね」

 

 

今の所取り立てて量産したい物は無いから、焦る必要は無いんだけど……後に必要になって来るかもしれないしね。

 

……あれ?此処のシステムを使えば、自転車を量産できるよね?……稼げるね。……っと、そうだ。忘れないうちに聞いておこうか。

 

 

「ロゼッタ、シェスカが言ってたんだけど、フレイズに対抗する為に造られた物があったんだよね?」

 

「《フレームギア》の事でありまスな。確かにあれは此処で造られた物でありまス。小生も博士の手伝いをしていました」

 

 

……やっぱりか。この《工房》で生産され、完成した後に《格納庫》へと直された訳だね?……そうなると、次に見付かる物が《格納庫》であれば、そのフレームギアが使える様になると。ふむふむ。

 

 

「ん?そう言えば、ロゼッタは《フレームギア》を造れたりするの?」

 

「小生には無理でありまス。今現在造れるのは、せいぜい装備類とかでありまスな。設計図も無いでありまスし。設計図は《蔵》にあるかもしれませんが」

 

 

…うーん。と言う事は《格納庫》を見付けるか、それとも《蔵》を見付けてロゼッタに造って貰うか。この二つしか無い訳か。ま、どっちにしても今直ぐは出来ないって事か。

 

……あ、そう言えば。皆を砂漠に置き去りにしたままだった。……急いで呼ばなきゃ。

 

 

「とりあえず皆を呼ぶか。ロゼッタもシェスカと会いたいだろうし」

 

「楽しみでありまス」

 

 

僕は胸中に一抹の不安を覚えながらも、皆の待つ砂漠へと急いで【ゲート】を開いた。

 

──────────────────────

 

「《工房》かぁ〜……」

 

「……何かイラッとするでありまス」

 

 

心底残念そうな気持ちを、隠そうともせずにつぶやいたリーンを、横目でロゼッタがジトーっと睨む。

 

……まあ、お目当てである《図書館》では無かった訳だし、彼女の気持ちは分からんでも無い。だが、ここは少し言う状況を考えて欲しかったのが、僕の本音だったりする。

 

 

「ただの観賞用である《庭園》よりは、遥かに役に立つでありまス」

 

「おっと。心の安らぎ、癒しの空間、ヒーリングガーデンである我が《庭園》こそ、マスターの心の支え。勘違いも甚だしイ」

 

 

睨むな、睨むなーーーー!僕はロゼッタとシェスカの間に割って入り、二人を勢い良く引き剥がす。

 

確かに今の時点では、ロゼッタの《工房》がかなり役立ってるけどさ!移動する時には専ら《庭園》を使ってるじゃん!どっちもどっちだと思うのだがこれ如何によ!

 

そして二人とも少し落ち着いた頃合で、僕はある事を聞く事にする。

 

 

「それはそうとして。《庭園》と《工房》を合流させるの?」

 

「はい。《工房》ノ所有権がマスターに譲渡された以上、その方が良いカト」

 

「障壁のレベルを下げたので、《庭園》とのリンクが可能になったでありまス。此処からでも《庭園》を操作出来るでありまスよ」

 

 

《工房》の一角にある、《庭園》と同じ様なモノリスを操作しながら、ロゼッタがその横をシェスカに譲る。

 

 

「如何致しまスか、マスター?」

 

「《庭園》はベルファストへと帰還。それに追従して《工房》も同じく帰還。到着を確認次第、相互リンクさせよう」

 

「《そうごりんく》……とは?」

 

 

僕の言葉に疑問を浮かべたユミナに、僕は少しずつわかり易く説明して行く。一頻り説明を終えると、ロゼッタは近くにあったモノリスを操作して行く。

 

その後に黒曜から念話が入り、僕はユミナに説明をした様にわかり易く経緯を伝える。

 

 

「後は《工房》も《庭園》も、自動操縦でベルファストへと向かうでありまスよ」

 

「ありがとう、ロゼッタ。じゃあ僕たちは先に戻ってるね」

 

 

【ゲート】を開いて、先ずは《庭園》を経由して黒曜と珊瑚を回収し、ベルファストにある自宅の庭へと転移した。

 

テラスを通ってリビングに入った途端、僕たちに気付いたレベッカさん、ローガンさん、ウィルの三人が椅子から跳ね上がり、その場に土下座をし始めた。……え!?どう言う事ですかこれ!

 

 

「ちょ、やめて下さい!そんな仰々しい!」

 

「いえ!セシル殿に聞きました!次期国王陛下への御無礼、何卒御容赦頂きたく……!」

 

 

あー、余計な事言ったね?ウチのメイドさんは。僕がその元凶を横目+ジト目で睨むと、壁際に居た当の本人はと言うと、てへぺろっ!みたいな顔をされた。……何でもそれで済むと思ったら、大間違いですからね?

 

 

「とにかく、あまり気にしないで下さい。此方も硬っ苦しいのは苦手なので」

 

「はあ……」

 

 

僕の言った言葉に少々不満気のある三人を、僕は立ち上がらせて椅子へと座らせ、何とか落ち着かせる。

 

エルゼ達はお風呂に入って汗を流すべく、先ずは自分の部屋へと戻るみたいだ。リーンもフレイズの事などを報告しに、ミスミドの王宮へと戻るみたいだ。彼女には《バビロン》の事は絶対に喋るなよ、と口止めをして置く。

 

シェスカはロゼッタを連れて、自分の部屋へと戻って行った。あれ?そう言えば、ロゼッタもシェスカと同じ様に、ウチのメイドさんになるのかな?

 

 

「それで他の人たちは?」

 

「疲れたのだろ…でしょう。泥の様に眠ってる…であります」

 

「無理して敬語は使わなくて結構ですよ。僕は別に貴族とかでは無いので」

 

 

使い慣れてない敬語に苦戦するレベッカさんを、僕は苦笑を浮かべながらも、レネの持って来てくれた水を飲む。暑い所から帰った後の水は美味しいね。

 

 

「そうか?ではそうさせて貰うか」

 

「おいおい、良いのかよ」

 

「本人がそう言うんだ。別に構わんだろう」

 

 

慌てるローガンさんの声を無視して、レベッカさんがニヤリと笑った。ま、砕けた感じの方がレベッカさんには合ってるからね。

 

その後に話を聞くと、レベッカさん達(ローガンさんにウィルを含む)三人は冒険者なので、ギルドで働けば何とかなりはするのだが、残りの女性七名は元々村娘なのだとか。

 

 

「何かこの都で仕事を見付けるまで、置いてやってはくれないだろうか……」

 

「それは、全然此方としても構いませんが……」

 

 

《仕事》……ね〜。さっき手に入れた《工房》で自転車を量産し、彼女たちに売って貰おうかと考えたのだが、あんまり軽々しく《バビロン》の事を話す訳には行かない。それに、それを売るなら初心者の僕よりも、プロに頼んだ方が断然良い。狐の獣人である、オリガさんの父親……ミスミドの交易商である、オルバさんとか。

 

それ以外で仕事となると……。……?待ってよ?この世界に来てから《本屋》はあっても、それをゆっくり読める所が無かった様な気がする。

 

うーん……。取り敢えずは、先ずそっちの方に集中してみようか。となると、やる事は……。




今回はここまでです!如何でしたか?


今回のお話より《ダークリパルサー》と《エリュシデータ》が、颯樹くんの新武器となります!普段は剣銃ブリュンヒルドを使いますが、状況に応じて上記の二本を使う形になりますね!段々とアイツに近付きつつありますよ〜。ま、あっちは剣主体だったけど……こっちは剣だけじゃなくて、銃に魔法もありますからね(表現の際にはかなり気をつけないと行けない)。


次回の投稿は2月24日(月)午前0時を予定しています!また早めに完成したら、早めに投稿しますので……楽しみにして頂ければ。

今回も感想を是非!高評価にお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております!


最後に……llightさんの描く、私の小説とのコラボ作品である「肆点決集」が投稿されています!まだプロローグだけですが、面白いので是非読んでみて下さいね!読まれた際には感想をお願いします。
↓(此方が「肆点決集」のリンクになります)
https://syosetu.org/novel/214862


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#11. 本収集、そして商売開始。

《何をするにも元手が必要》…そう思った僕は、真っ先にバビロンの《工房》へと向かい、ロゼッタに頼んで自転車を50台ほど量産して貰った。

 

そしてそれを持って、今度はミスミドの交易商である、オルバさんの所へ行った。その後に交渉したら、自転車をかなりの高値で買い取ってくれた。

 

 

「……ただの鉄とゴムだけなのに、こんなに貰って良いのかな……」

 

「(ま、向こうも商売人だから、損になる様な交渉はしないはず。恐らくアレでもっと儲けを出すはずだから、遠慮をするのは止そうか)」

 

 

取り敢えず、開業の為の資金は揃ったね。そのままミスミドの本屋へと行き、メジャーな物語の本を何冊も買う(シリーズ物なら全巻)。実はこの世界、僕の出身世界で言う所の《発売予定日》と言うのが無いのだ。それは素直にびっくりした所だ。

 

ミスミドの本屋で500冊ぐらい、イーシェンの本屋では同系統のジャンルの本を300冊ほど買い、その後にユミナとラピスさん、レベッカさんから記憶を渡して貰い、そこの本屋でも同系統の本を、成る可く多く買い占める(渡して貰った記憶は、順にリーフリース皇国皇都ベルン→レグルス帝国帝都ガラリア→サンドラ王国王都キュレイ)。

 

 

「……っと。最後にベルファストの本屋で買った物を……っと」

 

「颯樹さん、こんなにたくさんの本を集めて、一体どうするんですか?」

 

「あ、ユミナ。さっきはありがとね。……実はお店を開こうかと思って」

 

 

疑問符を頭の中で浮かべたユミナに、僕は経緯とその内容を伝えて行く。……で?リンゼは一体そこで何をしてるのかなぁ?興味のある本でもあったのかな?読み耽ってますけど。

 

ま、今リンゼが読んでいる物も含めて……買って来た本全てに【プロテクション】をかけておく。一応商品ですからね。と、そこに扉を開け放つ音が聞こえた。……どうだったかな?

 

 

「言われた通り物件を探して来たわよ。ちょうど良いのが一件あったわ」

 

「ありがとう、エルゼ。場所は?」

 

「南区の中央通りね。通りの隅っこにあるけど、立地条件は悪くないわ」

 

 

《南区の中央通りの端っこ》か……。よし。一度下見をしてから、良さそうならそこにしようか。それを聞いたリンゼが『本屋でも開業するのか』と聞いて来たが、ちょっと惜しいな。確実に《本屋》では無い。

 

 

「本屋じゃなくて……形式的には、喫茶店かな。入店するのに料金がかかる+時間制限付きだけど、その時間の間だったら、喫茶店内のどれでも好きな本を読んで良いんだ」

 

 

例えるなら……向こうで言う所の《漫画喫茶》が近いだろうか。こっちの世界でだと、物語の系統の本はかなり高い。買えなくは無いんだけど、簡単に手出しが出来ない感じの。それなりに稼いでたら読めるかもしれんが。

 

ともあれ、色々な国の本が沢山集まって……それを買う事無く気軽に読む事が出来る。言うなれば《読書喫茶》だろうか。

 

 

「……なるほど。たくさんの本を自由に読めて、食事もできる……私なら、入り浸ってしまいそうです」

 

「本好きな人には良いと思う。ま、それは《興味のある本とかが明確にあれば》の話なんだけどね。特定のジャンルだけしか集めてないから、その他をってなると大変だけど」

 

「で、その喫茶店をあの子達に任せる訳?」

 

 

リンゼの呟きに答えを返した後、僕はエルゼの疑問に返答を返して行く。サンドラの砂漠で助けた彼女たちは、それなりに料理も出来るので、そこら辺の心配は無用と言った所か。

 

《読書喫茶》のメインは[読書]なのであって、そこで食べる[食事]では無いから、不味い物を出さない限りは問題無いと思う。もし売り上げが出たらそこから給料を払えば良いし、彼女たちの生活費は無理無く稼げると思う。

 

 

「取り敢えず、物件の方を見に行こうか。案内をお願いして良い?エルゼ」

 

「分かったわ。付いて来て?」

 

 

僕はリンゼを連れて、エルゼ先導の下にその物件がある場所へと向かう。……ちなみに同伴にリンゼを選んだのは『活字中毒を防ぐ為』だと記しておこう(気になる方はどうぞ調べて下さいな)。

 

──────────────────────

 

物件その物は全然良い所だった。元々この場所は酒場だったみたいで、結構中が広めに造られていた。一階は酒場の様になっていたが、改装して本棚で一杯にして、ここから選んで読める様にしたら良いか。

 

二階と三階とかは個室にして、ゆっくり読みたい人の専用部屋にするのも、かなり面白いかもしれない。その分だけ料金は割高になるけれども。

 

 

「問題無いね。よし、ここに決めよう」

 

 

呼んで来た不動産屋さんにサインをして、この建物の所有権を購入する。決して安い買い物では無かったが、商売をこの場所を使ってするのだ。それ位は妥当と言えよう。

 

さあて、改装するよ〜。しちゃうよ〜♪屋敷からウェンディ達(呼んでないのにウィルまで来た)ウェンディとウィル以外の六人で、上の階の掃除をお願いした。

 

 

「【モデリング】」

 

「何をしてるんですか?」

 

「あ、ここら辺にある家具を変形させてんのよ。喫茶店みたくするんだ。それっぽくしなきゃ」

 

 

作業中に話しかけて来たウィルの言葉に、僕はそう返して作業を続ける。さっき彼には《喫茶店みたくする》と言ったのだが、正確には《読書喫茶》にするのだ。ただの本屋にすると、何処にあるのとも何ら変わらない物が出来てしまうからね。

 

 

「受付カウンターはこっちで、ここは飲み物を置く所にしようか。水とか簡単なお茶なら、料金を取る必要は無いね。入店料はちゃんと頂くわけだし」

 

 

【モデリング】を使用しての、家具の変形作業を終えた僕は、設備の配備などを決めていた。観葉植物に関しては僕は作れないから、後で《庭園》から何本か持って来る事で固まった。……あ、本棚はここにサイズ違いのを一面に、と。

 

リクライニングシートみたいなのも、幾つか作っておくか♪小さいテーブル付きみたいなのにして。うーん、この作業なかなか楽しくなって来たな。

 

 

「じゃあ……ウェンディとウィルは、この本たちを順番に並べて行ってね〜」

 

「分かりました」

 

「……そう言えば旦那様、一つ質問があるんですけど」

 

 

僕が【ストレージ】から出した、本を並べているウェンディが手を動かしながら質問をして来る。……実は今でも[旦那様]と呼ばれる事に少しばかり抵抗があるのだが、何故か彼女はそう呼ぶ事をやめない。

 

彼女の事を『真面目だなぁ〜』と思いながらも、僕はウェンディの疑問に耳を傾ける事にした。

 

 

「お客さんの中には、本をこっそり持ち帰ってしまう人も居るんじゃないですか?」

 

「あ、それは俺も思った。例えば個室で入店して、バッグとかに読んでいた本を入れてさ、後は何食わぬ顔で出て行くヤツとか出そう。そこら辺はどうするんですか?」

 

 

二人が心配してるのは、このお店から万引きが出てくる事だったのか。……ふっふっふ、そこら辺は抜かり無しだよ。僕だってそこら辺は容易に想像が着く。

 

この世界では、本は貴重な物だからね〜。気持ちは分からないでもないんだけど、そんなヤツらを野放しにしておく訳には行かない。

 

 

「じゃあ……例えばなんだけど、ウィルが試しに盗んでみてくれる?服の下に忍ばせておくとかで」

 

「俺がですか?」

 

 

そう言ってウィルは、積まれた本の中から適当に一冊取って、服の下に隠してから建物の外に出ようとした。そうしようとしたのだが。

 

その結果としては、店を出ようとしたウィルに【パラライズ】が掛かり、彼の身体は呆気なく崩れ落ちてしまった。……よし、成功。

 

 

「とまあこの様に、万引きを働く不届き者が居たとしても、さっきのウィルみたくなるって訳。しかもこの建物から10メートル離れても、自動的に本棚へと戻って来る仕組みになってる。……と。ごめんねこんな役を引き受けさせて。【リカバリー】」

 

「あ、ありがとうございます……。確かにこれなら盗む事は出来ませんね」

 

 

そりゃあ勿論。麻痺対策の護符を持った者や魔力抵抗の高い者で無ければ、無傷で僕の監視の目を掻い潜ろうと言う事は、そう軽々と出来まい。

 

盗んだヤツは警備兵へと突き出しにプラスして、二度と立ち入れない様にする。そうされて当然の事をしているのだ。恨みがましい言い訳等聞きたくはない。

 

 

「まあ、一応警戒の為に……レベッカさんやローガンさんにウィル。君と他の冒険者二人には、ここの警備の仕事を任せたいと思う。なるべくなら知り合いに頼みたいからね。どうしても都合が合わないなら、ギルドとかに日雇いで依頼するから」

 

「俺は構いません。週に三日はギルドで別の依頼をこなして、残りの三日はここの警備をしようと思います」

 

「そっか……、わかった。じゃあその様に手配しておくね。残りの一日は……」

 

 

僕はウィルから聞いた事をメモに留め、彼の元へと近寄る事にした。そして彼の耳元まで腰を屈め、恐らく彼にとっては未体験の事をする事にした。

 

 

彼女さんを大切にしなよ?ウィル」ボソッ

 

「……!!!!///」ゾワァッ!!!

 

 

……あの後、ウィルとウェンディは顔を真っ赤に染めながら仕事をこなしていた。そしてチラチラと目が合う度に、顔から湯気が出そうな程に頬を紅潮させていた。良い物ですな〜『恋』と言うのは。

 

その二人を放置して、僕は【モデリング】で椅子を変形させて、リクライニングシートを作成する。そこにエルゼを座らせて、少しずつ快適な形になる様に、調整して仕上げて行く。

 

 

「旦那様は無属性魔法が使えて良いよな〜。俺は何の属性も無いから羨ましい……」

 

「ウィル、君まで……」

 

「ウチの亡くなったじいちゃんは、無属性魔法を使えたんですけどね。魔法の資質ってやっぱり遺伝しないんだなあ」

 

 

僕はウィルの零した言葉に、思わず聞き返してしまう。その後にウィルから聞いた話によると……どうやら、ウィルの亡くなった祖父は【グラビティ】と言う魔法の、適性を持っていたのだとか。

 

聞けば『触った物をちょっとだけ重くしていた』のだと言う。……うーん、それが概要なら少し心許無い気がしないでも……ん?待てよ?

 

 

「ウィル?後でその【グラビティ】って魔法を、教えて貰って良いかな。僕の予想が大当たりなら、使い所はかなり多岐に渡る筈だよ」

 

「?良いですけど……」

 

 

僕の予想が間違って無ければ、その魔法はかなり多岐に渡る可能性を秘めている。その名の通り《重力》に関する魔法ならば……。……ま、その事は後でも考えられるね。

 

僕は目の前のリクライニングシートを完成させ、更にもう一つ作り始めた。それが終わったら軽食のメニュー考案だなぁ……。軽く摘める物が一番好ましいはず。例えばケーキとか甘い物があった方が良いかもね。パフェとかも考えてみようか。




今回はここまでです!如何でしたか?

──────────────────────

ここで今後の予定をザッとお伝えしておきます(これは重要事項ですので、把握をよろしくお願いします)。


【①】来たる3月の何処かで、いよいよ私の描きたかった《帝都動乱》Partを書きます!散々お待たせしまった事を、本当に申し訳無く思います!そのお詫びも兼ねまして、五人目と六人目の婚約者の初登場回は、ユミナの初登場回(1st seasonの第6章)と同じ文字数で描こうと思います!私自身、一番描きたかった内容がここから先は続きますので……今までよりもかなり集中的になります!是非とも楽しみにしていて下さいね!

【②】書籍版4巻にて掲載されている……幕間劇である《襲撃者有りて。》は、本編に加える予定で居たのですが、予定変更をしまして【サイドストーリー、そしておまけ。】の第3話として描こうと思います(この話もユミナメインですので、加えても問題無し)!

【③】《帝都動乱》Partのその後である《新国家樹立》Partをある程度進めた後、本編の内容から抜け落ちる所があります!これは前から言っていた事なので、把握をよろしくお願いします(^_^;)(ちなみに、この先でも何話か話が抜け落ちる所がありますのでよろしく)

──────────────────────

以上の三点です!また詳しい情報はその時が近づいて来たら、活動報告や今回みたいな後書きにてお知らせしますので、是非楽しみにしていて下さいね(今描いている《読書喫茶「月読」》Partの後は、もう《帝都動乱》Partへと突入させます)!


次回の投稿は2月28日(金)午前0時を予定しています!今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております(。ᵕᴗᵕ。)


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#12. 白の国、そして作家遭遇。

《読書喫茶「月読」》が人気を出し始め、ユミナの冒険者ランクも僕らと同じ位置に来て少しした頃。僕は久々に一人である所へと出掛けていた。……その場所と言うのが。

 

 

「……なんだ、こりゃ。ほぼ真っ白」

 

 

リーフリース皇国の首都、皇都ベルン。この街の特徴は何と言っても『白い』に尽きる。兎に角街並みが白で統一されていて、それは建物の壁や石畳に階段を見ても、同様の感想を抱いた。

 

港町の様に海に面した街の中央には、一際白いリーフリース皇国の王宮が見える。海の青と白い街並みがとても美しい都だった。……ちょっと眩し過ぎて、サングラスが欲しい所ではあったのだが。

 

 

「取り敢えず……。今日は観光に来た訳じゃないから、本屋に行くか」

 

 

僕はそう呟きながらも、皇都ベルンの本屋へと向かう。この本屋には《月読》のオープン前に一度来ているので、迷う事無く辿り着く事が出来た。

 

重々しいドアを開けて、目的の本屋の中に入る。古い本から新しい本まで取り揃えていて、なかなかの大きさの書店である。カウンター席には黒髪の女の人が一人だけ座っていた。……よし!考えてたって始まらない!

 

 

「えーっと、今回買う本は……っと」

 

 

僕はそう言って、コートのポケットからスマホを取り出した。そしてその後に、写真アプリを開いて入荷予定表の確認をする。……確か今回はその手の話が多かった様な。

 

──────────────────────

 

【入荷予定表】

①『薔薇の騎士団』全15巻

②『執事の秘密』全5巻

③『堕ちた王子 隷従の誓い』全8巻

④『檻の少年』全6巻

⑤『甘く危険な抱擁』全12巻

⑥『灼熱の夜想曲(ノクターン) 戻れない二人』全5巻

⑦『甘い罠と魔術師』全12巻

⑧『背徳の花婿』全17巻

⑨『薔薇色マジカル』全9巻

⑩『ご主人さまがみてる』全18巻

 

──────────────────────

 

……これは《月読》に本当に並べて良い本かが、かなり不安になる様な商品リストだが、その系統が好きな人が居るのであれば入荷するべきだとも思う(普通だったら難しいんだけどねこれって)。

 

それに、自分で言ってしまうと自慢に聞こえるのだが、人の趣味嗜好には、僕はあまり深く詮索しない事にしている。これは人を深く傷つけない様にする為の心掛け、みたいなもんだけど。

 

 

「すみません。少し良いですか?」

 

「いらっしゃいませー。何の御用でしょうか?」

 

「本を探しているんですが……」

 

「はい、タイトルをお教え下さればお探し致しますが?」

 

 

店員の女性に懐から取り出したメモを手渡した。それを読み上げていた女性の声が、だんだんと読み進めるに連れて小さくなって行く。そしてチラチラと僕の顔を見始めた。

 

……覚えてる、この反応……。この前ユミナと一緒にブラッディクラブ討伐に行く際、入荷予定表に『薔薇の騎士団』の追加をお願いして来た、受付嬢のプリムさんと全く同じ表情だ。《獲物は必ず仕留める》と言った具合の、女豹の様な視線を感じる。

 

 

「えっと、あのですね?それは注文を受けて探している物でして……」

 

「…なるほど。はい、分かっておりますよ」

 

 

……何を持って『分かっている』と言うのかな。勝手な解釈をされると、こっちが本当に困る。これは決して言い訳をしているのでは無くて、本当の事だ。

 

 

「揃えて来ますので少々お待ち下さいね」

 

 

とても優しげな笑顔を浮かべて、店員の女性は店の奥の書庫へと消えて行った。……絶対に分かってないよね、あの人。

 

取り敢えず、ただ何もせずに待っているのもアレだったので、籠を手に取って本を物色し始めた。……多分このままだと、お店の中の本が全部BL(ソッチ)系で固められてしまう。たまには普通の本も置かなきゃ。

 

そうして暫くして戻ると、カウンターには山積みの本が置かれていた。……揃えてくれたのかな?なんて思っていると、何やら一人の女性と揉めているみたいだ。

 

 

「申し訳ございません。此方が最後の在庫でございまして、入荷は未定となっております」

 

「そんなー……」

 

 

今にも崩れ落ちそうな感じで、カウンターに凭れ掛かる女性。……何か、悪い事したかな……。

 

歳の頃は僕よりも1つか3つ上くらいで、明るい栗色の髪を三つ編みで一つに纏め、それを高そうなバレッタで留めている。地味だが高そうなカーディガンとスカートから察するに、貴族だろうか……。店員さんが僕に気付くと、笑顔を向けて来た。

 

 

「あ、お客様、ご注文の品が全て揃いました。其方もお求めですか?」

 

「あ、ええ。一緒にお願いします」

 

「え?《薔薇マジ》買ったのってこの人?」

 

 

僕は籠の中に入った本を、カウンターに重ねる。するとカウンターに(もた)れたままだった女性が、ガバッと起き上がって僕の方を凝視する。……《薔薇マジ》?ああ、入荷予定表の中にあった『薔薇色マジカル』って本か。

 

大方、この人も《薔薇色マジカル》の本を買いに来て、それを紙一重のタイミングで買い逃したって感じか。だが此方としても譲る訳には行かない。最終巻だけ無いって感じにはしたくないからね。

 

 

「すいません、《薔薇マジ》の最終巻、譲ってくれませんかっ!?」

 

「こっちもこれを買いに来たので、それはちょっと……無理ですはい」

 

 

どうやら諦めきれなかった女性は、僕に勢い良く頭を下げて来た。……んな事を言われてもさ〜。……と思ったら、ふとその女性は僕が買った本の山に目を向けた。

 

どうやら彼女の中で、何やら気にかかる事があったみたいだ。それが的中したかの様に、その女性は僕へと質問を投げかけて来る。……気のせいか、その女性の眼も先程の女性と同じ様に、キラキラしている気がしてならない。

 

 

「……《薔薇の騎士団》も買ったんですか?」

 

「え?あ、そうです」

 

「なかなか目の付け所が良いようですね」

 

「……先に弁明しておくと、僕の趣味ではありませんので。これは頼まれて買ってる物でして」

 

 

僕がそう伝えると、その女性は『ふむふむ』と何度か首を縦に振って頷いていた。……待て待て待て。絶対に分かってないでしょ?あとニヨニヨしない。

 

そして暫くその女性は考え込んでいたが、やがてカウンターの隅の方に行き、ちょいちょいと僕を手招きした。

 

 

「何でしょうか?」

 

「取引です。もし《薔薇マジ》の最終巻を譲ってくれるのなら、《薔薇の騎士団》全巻にサインを描きますがどうでしょう?」

 

「え?」

 

 

何だそりゃ。何でそれが取引材料になる訳……?

 

少し考え込んでいた僕は、以前ブラッディクラブ討伐をする前に、ユミナから聞いたある一言を思い出した。まさか……ねぇ?目の前に居るこの女性が、まさか《薔薇の騎士団》の作者である、リル・リフリス……リリエル皇女だとでも言うのか?

 

……でも、そうだとしたら提示された取引の内容にも、確り説明が着く。そう思った僕は、一か八かでカマをかけてみることにした。

 

 

「ん?と言う事は、貴女がリリエル皇女で間違い無いですか?」

 

「え?」

 

 

そんな間抜けな声を出し、自称《薔薇の騎士団》の作家さんがキョトンとした顔になる。……やっぱり。本屋で実際にその作品の作家さんと遭遇(エンカウント)するなんて、どんな確率だと思う。例えるなら……道端にコインが落ちてて、それを運良く見つけたーぐらいの確率だし。

 

……なんて思ってたら。その女性はいきなりぶわっと、顔から汗をダラダラと流して、口をパクパクと金魚の様に開けたり閉じたりし始めた。……え?嘘。ええぇぇえええ!?ホントなの!?

 

 

「どっ、どっ、どどど、どうしてそれをっ……!お父様でさえ知らないハズなのにっ……!」

 

「お、おおお、落ち着いて下さい!取り敢えず、一旦落ち着きましょう!」

 

 

正体を見抜いた僕でさえも、こんな風に慌ててしまうのだから、それを暴かれた方はと言ったら……とんでもない衝撃だろうな。慌ててしまうのも無理は無い。

 

そして良からぬ事を言い出したので、一発手刀を入れて置いた。そんな野心は僕の中にございませんから。これは女性であろうと、一切の加減をしない事にしている。

 

 

「あいたッ!な、なにを!?」

 

「お口チャックしましょっか?!ユミナに話を聞いて無かったら、完全に無視してましたよ貴女の事!貴女がこの国の皇女とは……、この国は大丈夫なんでしょうかねぇ?!」

 

「ユミナ?ユミナってベルファストの!?あなたいったい……?」

 

 

涙目になりながら頭を押さえ、不思議そうな顔で此方を見るリリエル皇女。……一応《歳上には礼儀正しく敬語を》ってしてたけど、そんな事がもう馬鹿らしくなって来た。

 

歳もそんなに離れて無さそうだし、普通にユミナ達に話す様にして良いかな。

 

 

「僕は盛谷颯樹。ベルファスト王国王女、ユミナ姫の婚約者だよ。まだ非公式ではあるけど」

 

「ええッ!?こ、婚約者、婚約者って、あの子結婚するの!?」

 

 

心底驚いた顔で此方を眺めていたが、やがて眼が泳ぎ始め、何かを考える素振りをしだした。……そして良からぬ事をまた考えていた為、もう一発手刀を下ろして置いた(今度はキツめのヤツ)。

 

その後僕はカウンターへ行き、全ての本の会計をする。結構値段が張ったが、ブラッディクラブ討伐の報酬額と素材売却料よりは、かなり安かったので問題無い。

 

その本たちを【ストレージ】に仕舞い込み、リリエル皇女を連れて本屋の外へと出る。そして店の陰で【ゲート】を開き、ユミナと琥珀を連れて来た。

 

 

「お久しぶりです、リリ姉様」

 

「ユミナ!?え?何時リーフリースに!?」

 

 

ユミナと琥珀に軽く事情を説明し、僕は二人が応対している間に《工房》へと移動する。収納魔法である【ストレージ】から《薔薇マジ》の最終巻をコピーすると、それを持って急いでユミナ達の所へ蜻蛉(とんぼ)返りした。

 

いきなり【ゲート】から現れた僕を見て、リリエル皇女は未だに驚きを隠せなかったが、僕の手に持っている《薔薇マジ》の最終巻を受け取ると、交互に本と僕の方を見始めた。

 

 

「え、良いの?欲しかったんじゃ?」

 

「別にいいよ。それは店に入荷する為に、買いに来ただけだからね。僕自身はそれは読まないし」

 

「それはそれでもったいな……」

 

 

何やら不穏な空気になりそうだったので、僕は再び手刀を下ろす体制に入った。それを見たリリエル皇女は途中まで出かけた言葉を飲み込み、一つ息を吐いて『何でもないわ』と口を噤んだ。

 

……もう良い、今直ぐにでも帰ろう。僕はそう思い自宅への【ゲート】を開く。一足先に琥珀が飛び込んで、向こうへと渡り終えた。

 

 

「じゃあリリ姉様、お元気で。また会いましょうね」

 

「ユミナも。結婚式には呼んでね」

 

 

……出来れば、来ないで欲しいんだけれどもね。そんな事は口にも出さずに、僕もユミナの後に続けて自宅への【ゲート】を潜った。

 

 

これはちょっとした余談だが、後日買って来た本を《読書喫茶「月読」》に入荷した途端、瞬く間に来店者が増えた。……しかも女性が殆どで。そのお陰で何冊かコピーをしないといけなくなったのは、創業者としては嬉しい悲鳴なのだろうかね。

 

ちなみにリリエル皇女が《薔薇の騎士団》に続けて出版を開始した小説の内容については、何時か絶対必ずや問い詰めるつもりでいる(明らかに僕を揶揄する様にモチーフにしてる為)。




今回はここまでです!如何でしたか(今回のお話では颯樹くんに本当に申し訳無いとも思う)?


唐突ですが……皆さんは、好きな本のジャンルとかはありますか?私は《ライトノベル》とかもそうなんですけど、普通の小説や《ノベライズ》も読んだりしますね。

何だかこの話をしてると、学生時代……昼休みによく図書室に行っていた事を思い出します。そこで時間になるまで本を読み耽ってましたね(成績がそこから良くなったかどうかは私の知る所では無いんですけど)。


次回の投稿は3月2日(月)午前0時を予定しています(完成が早ければ早めに投稿するかも)!……遂に!次のお話からは【2nd season 第2クール】へと突入します!そしてその一発目は《帝都動乱》Partです!是非とも楽しみにしていて下さいね!

今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしておりますよ♪初感想も待ってますよ!


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#13. 帝国、そして女騎士と皇女。

「どうも最近、帝国の動きがおかしいんだよな」

 

「おかしい……とは?」

 

 

僕は素っ頓狂な声を上げてしまう。僕は先程八重とクエストを達成させた後、たまたま喫茶店でばったり出会ったローガンさんと話し込んでいた。

 

その時に彼の口から飛び出したのは、帝国の事に関してだった。……《帝国》と言うと、ベルファストとは仲が余りよろしくない《レグルス帝国》の事か。確か今度入荷予定の中にあった書籍は、全てその国から出版されてる物だったか。

 

 

「何がどうおかしいと言うんです?」

 

「何となくだが……妙だ。帝国はベルファストと同じく軍と騎士団に分かれている。他国への侵略や防衛の為の軍と、帝都や王宮の護衛の為の騎士団だ。最近、軍での戦力強化が目立つらしいんだが、今のところ帝国は表立って敵対している国は無い」

 

「何処かの国に攻め込もうとしているのでは?」

 

 

僕の隣に座る八重が、ローガンさんに向けて口を開いたが、それに答えたのはローガンさんでは無く、一緒に居たレベッカさんだった。

 

レベッカさんからの話によると、現皇帝は病に臥せていて寝込んでおり、皇太子は二十歳を超えたばかりで、帝国を背負うには荷が重すぎるとの事で。今侵略行動を起こしても、帝国には何の得も無いと言う状況だった。

 

 

「皇帝が崩御した後に、他国から攻め込まれる事を懸念してるのでござろうか……?」

 

「それも考えて良いかもね。こっちにその気が無くとも、20年前まで戦争をしていた国同士。警戒してても何らおかしい事じゃない」

 

 

八重の言葉には僕が答える。……空いた時間を使って調べ物をしてて良かった……。最初に帝国の話をした時には、大分訝しげな眼で見られていたが。

 

それにレグルス帝国自体、何もベルファストだけと仲が余りよろしくない訳じゃない。例えば帝国の東にある《ロードメア連邦》や《ラミッシュ教国》も、帝国とは不仲らしいし。

 

 

「貴重な情報、ありがとうございます」

 

「?何がするのでござるか?」

 

「ああ、入荷依頼にある本を買いに、レグルス帝国へと行くよ。……ま、今の話を聞いてしまうと、買いに行くのは少し気が引けてしまうんだけどね」

 

 

いきなり椅子から立ち上がった僕に、八重がそう質問をして来る。僕は八重に対して、レグルス帝国へと向かう旨を伝える。あの話を聞いた後だと気が引けるが、買いに行かないと言う選択肢は無い。

 

 

「ま、本を買って来るだけだから……チャチャッと済ませてくるよ。八重はどうするの?」

 

「2階にリンゼ殿が居る様なので、誘って家に帰るでござるよ。そろそろおやつ時でござるし」

 

 

……確かに。最近は暇があったら、リンゼは必ずと言って良いほどに《読書喫茶「月読」》に顔を出している。まあ、最近の彼女はと言うと歴史物も読む様にはなったが。

 

取り敢えず僕は……八重にリンゼを任せて、二人にお礼を言って店の陰で【ゲート】を開く。行き先はもちろん、レグルス帝国の帝都ガラリアである。

 

……だがこの時。僕は知る由もなかった。まさか行った先であんな事が起こっていようなんて……。

 

──────────────────────

《レグルス帝国:帝都 ガラリア》

 

「……何だよ、この有り様」

 

 

開口一番でその言葉が出て来る僕は、異常と言われてしまうのだろうか。……いや、目の前の有り様を見れば、何が起こっているかは想像に難くないだろう。

 

僕の目の前に飛び込んで来たのは、燃え盛る家並みと飛び散る火の粉。一瞬『火事』かとも思ったけど、さっき慌てて【ロングセンス】を使って調べたら、どうもそうでは無いっぽい。

 

人の困惑し逃げ惑う音と、辺りから聴こえて来る剣と剣のぶつかり合う音に、人の身体に傷が入った様なそんな音。

 

 

「……マジにヤバい状況な訳これ」

 

 

僕はそう思いながらも、ガラリアの街中を駆け抜ける。するとある所で目が止まった。黒い服を着た兵士に、同じ色合いの鎧を着た騎士が襲われている光景だ。数は黒い服を着た兵士が二人、騎士が一人。

 

取り敢えず、この状況を少し何とかしないと。

 

 

「な、何だ貴様は!」

 

「……!」ドンッドンッ!!

 

 

僕の近づく足音に気づいた、兵士二人が僕の方を向くのに合わせて、背後から麻痺弾を二発撃ち込んだ。黒騎士の方はと言うと、肩口から血を流していて、左手は既に使い物にならない状況だった。

 

麻痺弾を撃ち込まれた兵士は倒れ伏し、それを見た黒騎士はガクッと膝を着いて倒れる。

 

 

「大丈夫ですか!?今助けます!【光よ来たれ、女神の癒し、メガヒール】!」

 

「あ、ああ……すまない……」

 

「何があったか、お聞きしても構いませんか?」

 

「軍部が……皇帝に謀反を……」

 

 

そう言って黒騎士は、事切れたかの様に意識を突然手放した。えーっと『軍部が皇帝に謀反を……』……ってまさか、これってクーデターなのか!?

 

取り敢えず黒騎士を近くの家に運び込み、床へと静かに寝かせた。家の中には人が居なかったので、たぶん戦火に気付いて逃げ出したのだろう。そして更に回復魔法を掛けておく。……これで死ぬ事は無いはずだ。

 

 

「先ずは状況確認。検索。《軍人と騎士を色違いにより帝都全体に表示》」

 

『…検索終了。表示しまス。赤が軍人12654人、青が騎士1165人でス』

 

 

うへぇ……軍人が騎士の凡そ10倍居るのか……。取り敢えず此処に来た以上、黙って見過ごす事は出来ない。それが他国の人間であろうと、それは同じ事。

 

そう思った僕は、家から飛び出すと【グラビティ】をかけて体重を軽くし、身体強化の【ブースト】を使って屋根の上へと飛び上がる。そしてそのまま建物の屋根の上を駆け抜ける。

 

 

「《軍部が皇帝に謀反》……これから察するに、軍人の狙いは《皇帝の首》。取り敢えずは皇帝の部屋に向かうか。皇帝は病気になってるから、転移の際にはベッドごと転移させる他無いな」

 

 

そんな事を思いつつも、僕は屋根の上を駆け抜けて行く。辺りでは騎士と軍人の剣戟が鳴り響いており、この状況が『緊急事態』と言わんばかりに、僕の方へと伝わって来る。

 

城門の警備を難無く突破した(城門が既に破壊されてた為入る事が出来た)僕は、城の二階にあるバルコニーから城内へと入る。

 

 

「さっき城門が破壊されてたから、軍人は既にこの中に居るんだと思う。……立ち塞がる軍人を麻痺弾で鎮静化させつつ、皇帝陛下の部屋へと向かおうか」

 

 

一先ずの状況を整理すると、僕は王宮の中を勢い良く駆け出した。……しっかし。皇帝陛下の部屋って、何処にあるんだろ。僕自身が《皇帝陛下の部屋》って認識できないと【サーチ】で探す事も不可能だ。

 

 

「取り敢えず、片っ端から調べてみるか」

 

 

そう思った僕は、目に入ったドアを手前に引いて開けようとする。すると中から声が聞こえて来た。

 

 

「待っててね!今、助けを呼んでくる……」

 

「「うわっ(キャッ)!」」

 

 

僕は中から出て来た一人の騎士と、運悪くぶつかってしまう。その拍子に騎士の持っていた剣が、数センチ先へと飛ばされてしまった。

 

 

「痛た……」

 

「いったぁ〜い!一体どうなって……!敵!?」

 

 

その女性の騎士は、僕を視界に捉えるや否や臨戦態勢を取り始めた。髪は赤よりももっと鮮やかな紅色のロングヘアで、歳はエルゼやリンゼと同じくらいか。キッと細められた焦げ茶色の眼は、今にも僕を刺し貫かんとしている。

 

 

「ま、待って下さい!敵ではありません!僕は冒険者です!」

 

「そんな事信じられる訳……!」

 

「これが証拠です!」

 

 

今にも飛びかからんとする女性騎士に、僕は懐からギルドカードを取り出す。その女性騎士はと言うと、目の前に差し出されたギルドカードに目を奪われていた。

 

そして少しすると、頭が完全に冷えたのか冷静に対応をして来た。

 

 

「ごめんね。今こんな有り様だから……」

 

「別に気にしないで下さい。其方の考える事は至極当然の事ですし」

 

「そうだね。……そんな事よりも。ね!キミって回復魔法を使える!?」

 

 

敵意が無い事を漸く理解したかと思ったら、今度は何かに縋るかの様な声色で、女性騎士は迫って来た。その話を聞いた僕は部屋の中へと入り、その人物と向かい合う(もちろん部屋に入る前に、剣は拾って返してあります)。

 

 

「キャロちゃん、今この人が助けてくれるからね……。キミ、お願いして良いかな?」

 

「わかりました。……っと。【リカバリー】」

 

 

そう言って僕は、倒れているもう一人の騎士に回復魔法をかける。ちなみにその騎士には、首筋に針みたいなのが刺さっていたのだが、それは【リカバリー】をかける前に抜いてある。

 

柔らかい光が女性騎士を包み込む。暫くすると手を開いて閉じたりする事で感覚を確かめていたが、次の瞬間その場から飛び退いて、腰から二本の剣を引き抜いた。

 

 

「っ!?何者です!」

 

「わわっ!待ってキャロちゃん!此方の人は冒険者で、たまたまこの騒動に居合わせただけなの!」

 

「……そう、なのですか?」

 

「ええ。第一、軍人なら貴女方を真っ先に殺してましたね。問答無用で」

 

 

僕と紅髪の女性騎士がそう弁解すると、もう一人の女性騎士は静かに剣を鞘に収めた。後々に話を聞いてみると、どうやら二人は友人であるらしく、この件に協力して鎮静化に当たっていたみたいだ。

 

 

「自己紹介しますね……。僕は盛谷颯樹、赤ランク冒険者です。よろしくお願いします」

 

「あたしはアヤナ・カーディナリア、あたしの事は気軽に《アヤナ》って呼んで欲しいな」

 

「私はキャロライン・リエット。私の事は《キャロル》と呼んで下さい。アヤナと一緒に、帝国第三騎士団所属の第二階級騎士として働いてます」

 

 

……色々小難しい事が多いな。取り敢えず、アヤナさんとキャロルさんと握手を交わした僕は、アヤナさんの先導によって皇帝陛下の部屋へと三人で向かう。

 

城の階段を駆け上がるアヤナさんに、僕とキャロルさんは付いて行くと、やがて大きなホールへと辿り着いた。

 

 

「皇帝陛下の部屋はまだまだ先だよ!」

 

「颯樹さん、此方です!」

 

「わかりました。……ん?」

 

 

先を急ごうとするアヤナさんを制止させ、僕は周囲の音に耳をすませる。……すると、多数の剣戟が聞こえて来る中で、唯一ハッキリと違う声が聴こえて来た!

 

……聴こえる。この近くに……居る!

 

 

「検索!女の子と、今現在でその子に危害を加える可能性の高い軍人を半径100メートル以内で表示!」

 

『…検索終了。表示しまス』

 

 

……居た!目の前の部屋の奥か!

 

僕はその場から勢い良く駆け出し、分厚い扉を体当たりで突き破った。その先の扉も同じ様に突き破ると、そこには銀髪の女の子に馬乗りになり、その子の首に短剣を今にも突き刺さんとしている、軍服の男が目に入った。

 

 

「誰だ!」

 

「少し……寝てろ!」ドンッドンッ!!

 

「ぐほあっ!?」

 

 

僕の乱入に気付いた軍服の男が、此方へとゆっくりと視線を向けた。そして僕はそれに構わず、その軍服の男に麻痺弾を二発撃ち込む。

 

身体の自由を奪われた男は、そのまま銀髪の女の子の所へと倒れ込む。それを見た女の子は、直ぐ様その男から離れて、自分の身をかき抱きながらガタガタと震えていた。……無理も無い。その男に今殺されかけてたんだからね。

 

 

「大丈夫?怪我は無い?」

 

 

その女の子を落ち着かせる様に、僕は成る可く静かな声で話し掛ける。女の子がそれに気付いて、初めて僕と真っ直ぐ視線を合わせてくれた。

 

歳の頃はユミナと同じくらいか。深い翡翠の様な双眸と白磁の様な肌。乱れては居るがサラサラな銀髪に、白いシルクのドレスを着ていた。……あー、ドレスの至る所が切り裂かれていて、腕にも軽く切り傷ができてるな。

 

……そう思ったら、後の行動は簡単だ。

 

 

「今その傷を治すから、少しジッとしててね」

 

「は、はい……」

 

「【光よ来たれ、安らかなる癒し、キュアヒール】」

 

 

僕の前置いた言葉に頷いた少女は、僕の回復魔法を受け入れる体勢を取った。そして詠唱している際にビクッと怯えては居たが、次第に治っていく切り傷を見て、それは驚きの表情へと変化して行った。

 

 

「あ…貴方は……?」

 

「僕は盛谷颯樹。冒険者だよ。あ、軍のヤツらとは関係なんて無いから」

 

 

一応、念を押しておく。アヤナさんやキャロルさんの時みたいに、いきなり襲いかかられたら堪らないからね。

 

 

「盛谷、颯樹様……」

 

「立てる?」

 

「はい……」

 

 

僕はその女の子の手を取って、ゆっくりと立ち上がらせる。……ん?今更だけど、この子って普通の子じゃないよね。着ている服装からして、かなり上の立場に居るって事はわかるから、ひょっとして……。……あれ?

 

女の子の深い翡翠の双眸と眼が合う。心做しか、顔も紅いし真っ直ぐに此方を見据えてる気がする。

 

 

じ─────っ……。

 

じ────────っ……。

 

じ───────────っ……。

 

じ──────────────っ……。

 

 

……何時だったかな。この状況って、前にもあった様な気がしないでも無いんだな。その女の子は頬を少し紅く染め上げながら、今度は此方をチラチラと見ながら、小さく声を発した。

 

 

「……年下はお嫌いですか…?」

 

 

……うん。何処かで感じた事があるなーって思ったら、まるっきりユミナと初めて会った時と完璧に一致してるじゃん!そう思った時、突き破ったドアから誰かが入って来た。

 

セミロングの金髪に紅色のロングヘア……キャロルさんとアヤナさんか。よかったー(^_^;)

 

 

「姫様!ご無事で何よりです!」

 

「…こやつは?」

 

 

アヤナさんが女の子に声を掛け、キャロルさんは僕の傍で倒れている、軍服の男に訝しげな目を向けた。……やっぱり。帝国のお姫様だった訳ね。

 

 

「私を殺そうとした者です。颯樹様に救って頂きましたわ」

 

「なんてこと…!姫様を殺そうなどと!許せません!殺しましょう!」

 

「キャロちゃんダメーーーーーー!毎度毎度その尻拭いするの、結局はあたしなんだからね!!!!」

 

 

キャロルさんが倒れている男に剣を抜き放つと、それを見たアヤナさんが全力で制止しに係る。……毎度毎度こんな事をしてるんですか……。アヤナさんの苦労が伺えるな全く……。

 

 

「お姫様だったんだね。……道理で雰囲気があるなーって思ったよ」

 

「レグルス帝国第三皇女、ルーシア・レア・レグルスですわ。……颯樹様はあまり驚かないのですね?大抵の方は私が《皇女》だと分かると、直ぐ様態度を変えたりするのですけど」

 

「君の他にも二人……お姫様の知り合いが居るからね。それで慣れてるだけだよ」

 

 

一人は婚約者で、もう一人はヤバい作家だけど。

 

 

「そんなに王家の姫と知り合いとは……あなたは何者なんです?」

 

「そうだよ。颯樹くんって何者?」

 

 

キャロルさんとアヤナさんが、驚いた様な顔で此方を覗き見る様に見て来る。……でも確かに。未だに自分の中での立ち位置が決まっていないよな。ベルファストの関係者かと言うと、そうとも言いきれないし。ユミナと結婚しても国王になる気は無いしね。

 

 

「僕の事は後ほどゆっくりと説明しますよ。取り敢えずどうしましょうか?ルーシア姫だけでも《転移魔法》で先に逃がす事も出来ますが」

 

「そうですね……」

 

「ルーシア姫、颯樹くんの転移魔法でご避難を!ここに居ては戦火に巻き込まれます!」

 

 

そう言ってキャロルさんが考え込み、アヤナさんはルーシア姫を此処から逃がす為に、真っ先に行動に移していた。

 

……だが、その行動に異を唱えた人物が現れた。それは当の逃がす本人であるルーシア姫だった。

 

 

「私は後で構いません。それよりもお父様とお兄様が心配ですわ。一緒に参ります」

 

「「ひ、姫様!?」」

 

 

ルーシア姫が気丈にも、そんな事を言って来た。そしてそれを聞いたキャロルさんと、アヤナさんの顔が驚きの表情を浮かべた。

 

んー、此処から先はかなり危険なんだけどな〜。まあ彼女が居てくれたら、皇帝陛下や皇太子も話を聞いてくれそうではあるんだけどね。取り敢えずウチの方に避難して貰って、その後どうするかを決めた方が良いかな。

 

ルーシア姫の護衛はキャロルさんに任せ、僕とアヤナさんは警戒をしながら、前線を駆け抜けて行った。先程二人と離れたホールまで戻ると、奥の方へと進んで行く。




今回はここまでです!如何でしたか?


少々区切り方がおかしい事になりましたが……、ココの方が何だか収まりも良かったのでね。今回はここまでです(次回はもう少し描きたいと思います)。

そして……今回のお話から、ルーとアヤナが本格的に登場です!登場を今か今かと待ち焦がれていた方は、大変お待たせ致しました〜!アヤナのプロフィールは、この《帝都動乱》Partが終わった後に後書きにて記載しますので、少しお待ちを(。ᵕᴗᵕ。)


次回の投稿は3月6日(金)午前0時を予定しています!今回も感想を是非!高評価にお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしておりますo(^▽^)o

【《帝都動乱》Part:イメージソング】
藍井エイル[IGNITE]


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#14. 悪魔、そして対策。

「皇帝陛下と皇太子。取り敢えず、逃がすのはその二人で良いの?」

 

「取り敢えずは。宰相や大臣も居れば、次いでに逃がしたい所ですが」

 

 

回廊を走りながら、僕の質問にキャロルさんが答える。あれ?ルーシア姫は《第三皇女》と言っていたが、上のお姉さん二人は良いのか?と思っていたら、その疑問にはアヤナさんが答えてくれた。

 

 

「第一皇女は他国の王家へ既に嫁いでいて、第二皇女は遠い国へと留学しているんだよ。何方も帝国とは友好的な国だから、今の所は大丈夫」

 

「そうなんだ。……でも、今後の状況次第では『此方に引き渡せ』と言って来るやもしれないからな……」

 

「そこら辺は心配だよね……。はぁ……」

 

 

アヤナさんの零した溜め息を聞きながら、僕たち4人は回廊を駆け抜ける。そして突き当たりの角を曲がると、大きな扉の前に5・6人程の軍人が、抜き身のサーベルを持って待ち構えていた。

 

 

「ルーシア姫だ!捕らえろ!いや、殺しても構わん!」

 

「くっ!そう来たか!」

 

 

此方に気付いた軍人達が、一斉にサーベルを構えて此方へと走って来た。……これじゃあ皇帝陛下も、無事である確率は極端に低くなるね。

 

僕は左腰にある剣銃ブリュンヒルドを抜き放ち、向かって来た全員に麻痺弾を撃ち込む。そして軍人全員が倒れ伏した事を確認すると、静かに腰のホルスターに仕舞い込んだ。

 

 

「あっという間に6人を殺すなんて……」

 

「その言い方には語弊がありますよ。単に『麻痺状態に陥らせた』ってだけです。意識はちゃんとありますのでご心配無く」

 

「……って事は、さっき颯樹くんが撃った銃から出て来た弾丸が、撃たれたらその状態になる様に【プログラム】されてたんだね?」

 

 

……うぐ、アヤナさん鋭いなぁ。確かに僕が軍人6人に撃ち込んだ弾丸は、事前に【パラライズ】を【エンチャント】して、そうなる様に【プログラム】を施した弾丸なのだが、これをあの一瞬で見抜くとはね……。

 

 

「それよりも。この先が皇帝陛下の部屋で間違い無いの?」

 

「はい……この先の部屋がお父様の寝室ですわ。ご病気になられてからは私は殆ど入った事が無いですけれど」

 

「と言う事は、この帝国への謀反を考案した……その首謀者もこの中に居ると考えて良いな」

 

 

僕がそう呟くと、キャロルさんとアヤナさんがゆっくりと頷く。……としたら、ルーシア姫には辛い物を見せてしまうかもしれないな……。自身の父親の亡骸に加え、この緊迫した状況の中で人の命が無惨にも消えてしまう様を。

 

そして僕の中での逡巡を察した様に、ルーシア姫が僕のコートの袖をギュッと握って来た。その時にルーシア姫の瞳を見ると、決意の眼差しをしていた。

 

 

「覚悟は出来てますわ。それでも……お父様の事を確認しなければ、私はきっと後悔すると思いますの……。ですから……」

 

「……そこまでの覚悟があるんなら、僕から言うのは野暮ってもんだよね」

 

 

ルーシア姫の決意を聞き届けた僕は、意を決して目の前の大きな扉を開け放つ。彼女が確り覚悟を決めたと言うのに、僕だけ迷ってる訳にはいかないからね。

 

かなり広い豪奢な造りの部屋の奥には、キングサイズのベッドがあった。部屋の中には数人の男たちが立っていて、飛び込んで来た此方に注意を向けている。

 

 

「……手遅れか」

 

 

状況を整理してみると、現在入って来た僕たち以外で健在としているのは、軍人兵士が三人に士官クラスが二人、そして将軍らしき人物が一人か。此処を警護していた騎士は……一人も例外を出す事無く全滅していた。それも《一人残らず》だ。

 

その中でベッドの下に転がる老人の姿が見えた。……くそっ!間に合わなかったか!

 

 

「何者だ?騎士団の者では無いな?」

 

「ああ、僕は冒険者ですよ。たまたま通りがかった所で、この騒動に居合わせましてね」

 

 

将軍らしき人物が誰何する。僕はその人物に自分の身分を《冒険者》とだけ、明かして話をする態勢に入る。その男は鷹の様に鋭い双眸と鷲鼻から、猛禽類をイメージさせる様な顔立ちだった。

 

歳は40代前半を思わせる風貌で、気高く強気のある性格なのだと察する事が出来た。

 

 

「バズール将軍!皇帝陛下を手に掛けるなんて、気でも触れたのですか!」

 

「…お父様……!」

 

 

僕の後ろで激昴するキャロルさんと、息を飲むルーシア姫の声が聞こえた。その間アヤナさんはと言うと、腰の黒い鞘から剣を引き抜いて、今にも《戦闘態勢》と言った様子だった。

 

……と言う事は、目の前に居る[バズール将軍]と言う男こそが、このクーデターを目論んだ真犯人って訳か。

 

 

「ム?ルーシア姫とリエット家のバカ娘に、カーディナリア家の元村娘か。妙だな、アイツらには《三人とも見つけ次第殺せ》と命じていたのだが」

 

「能書きはどうでも良いんだよ。僕はあんたと話がしたいだけだ」

 

「ほぅ?冒険者風情が、余計なお世話を焼きおってからに」

 

 

バズール将軍がイヤらしく嗤う。……貴女、まさか将軍にまでそう言われる程の、行ないを過去にしてたんですか……?ちらりとキャロルさんを見遣る。

 

そしてアヤナさんはと言うと、唇を強く噛み締めていた。……その話はまた後にするとして。

 

僕はバズール将軍と向き合った。結局の所を言えば僕は部外者である事に他ならないので、バズール将軍の言った事にも筋は通ってる。……けど、あんたの思う様に動くほど、人って簡単にできてないんだよね。

 

 

「一応聞いておきますけど、何故このような事をしようと思ったんです?」

 

「皇帝陛下は病にかかり、そのお心をも病んでしまわれた。ベルファストやロードメアとの不可侵条約を破棄し、一気に侵略するのは今を持って無いと言うのに、それを躊躇うとは……。嘗ての陛下なら迷い無く決断したものを。老いや病とは恐ろしい物だな」

 

 

バズール将軍から紡がれる、今回の軍部によるクーデターの経緯。それを一字一句聞く度に、僕の中で疑問が確信に変わった。間違い無く『軍人が悪で、騎士団が正義なのだ』と。

 

そして自然と、僕の右手は《ダークリパルサー》の入った鞘へと伸びていた。いざとなったら、剣を交えることすら覚悟して。

 

 

「……それだけの理由で殺したってのかよ。あんたが絶対忠誠を誓うべき皇帝を」

 

「皇帝とは常に強く在らねばならない。その資格を失った者には舞台から降りてもらう。新たな皇帝、新たな帝国を築く為に」

 

 

……なんて事は無い。《簒奪》……国の乗っ取りじゃないか。しかし軍部の中では、皇帝よりもこの将軍の方がカリスマがあるのだろう。そうで無いと、このクーデター自体起こす事など不可能だ。

 

病気で先の見えぬ皇帝と、まだ頼り無い皇太子。それに比べて、強く覇気に溢れた大将軍。何方に希望を持つのかは、もう言うまでも無いか。

 

 

「【ロングセンス】……ターゲットロックオン。【デストラクション:スペルブレイク】」

 

「何をしたかわからんが、そんな事で我を止められると思ったか冒険者風情が!」

 

 

……フッ、今に見てるが良いさ。自らの変化にすら気づかない様な者には、最っ高の末路だと思うからね。

 

 

「【闇よ来たれ、我が求むは悪魔の公爵、デモンズロード】」

 

 

そう言ってバズール将軍は窓の外に右手を向け、魔力を集中させ始めた。……が、何も起こる気配が見えなかった。最初は気付かずにただ詠唱を繰り返していただけだったが、バズール将軍は次第に顔を青ざめ始めた。

 

その間にアヤナさんには老人の元へ走って貰い、無事かどうかを確認してもらった。

 

 

「颯樹くん!皇帝陛下はまだ生きてるよ!」

 

「ありがとうございます、アヤナさん!」

 

 

僕はアヤナさんに向かってお礼を言う。……そのアヤナさんの下には、剣を抜いたであろう軍の兵士たちが一人残らず気絶していた。

 

恐らくこれ以上の被害を出さない様に、峰打ち(剣の平たい面で)で済ませていたのだろう。……凄いな帝国の騎士は。

 

 

「……な、なぜなのだ……何故、魔法が発動しない……いや、何故魔力が集まらない……」

 

「それは僕がさっき使った魔法にあるからですよ」

 

「どういう事?」

 

「僕が使ったのは【ロングセンス】と言う、元からある魔法の他に……始原魔法の一つである【デストラクション】と、式句の【スペルブレイク】だけです」

 

 

この場にいる全員が疑問符を浮かべたので、僕は一から順に説明を始める。先ず【ロングセンス】で一メートル先(バズール将軍の服の中)を視認した僕は、そこにあった腕輪二つに照準(ターゲット)を合わせた。

 

照準を合わせるのは《腕輪二つ》で出来たので、これにはさほど時間も掛からずに終わった。そしてその後には始原魔法である【デストラクション】を、式句である【スペルブレイク】と併用して使用する事で、腕輪の効果を無力化したのだ。

 

 

「ば、馬鹿なぁ……!」

 

「【デストラクション】自体は《自爆魔法》…。単体で使えば、対象者の命すら危険に晒す。でもそうならない方法がある」

 

「それが……式句?」

 

 

首を傾げたアヤナさんの問いには、首を縦に振る事で答えを返した。そして更に続ける。

 

 

「そう。【スペルブレイク】自体は、何の効果も持たないタダの言葉だ。……でも、さっきの【デストラクション】と合わせれば、対象に定めた物の魔法式……まあ、言ってみればその物にかけられてる【プログラム】を破壊できるって訳だ」

 

「……凄いですね……」

 

「でも、どうやってその魔法を?」

 

「必死に魔法書を読み漁りました。それも現在ある物から古来の魔法まで全部」

 

 

僕自身も時間があれば、魔法書の読み直しとかをしてたんだけど、幾分か退屈になる事があり、少し王宮へと顔を出していたのだ。そして王宮内の図書室にある全ての魔法書を読み込み、片っ端から覚えまくったのだ。

 

いやー、キツかった。本を読むだけでここまで苦労したのは、多分初めてでは無かろうか。

 

 

「そ、そんな……」

 

「これで心置き無く、話し合いが出来ますね」

 

 

僕のその言葉にカチンと来たのか、バズール将軍が此方へと向かって来た。……ええ、ホントにやるの?

 

 

「【スリップ】」

 

「うぉあ!」ズドーン!!!

 

「しょ、将軍!」

 

 

目の前ですっ転ぶ将軍を見た兵士たちは、真っ先に武器を引き抜いて向かって来た。……だが恐るるに足らん。

 

僕は【スリップ】を弾丸に込め、効果を3時間程持続する様にして床へと発射した。そして一歩踏み出そうとしたその時、先程のバズール将軍と同じ状態になってしまう。

 

 

「その間に僕たちは避難を」

 

「わかった!」

 

「アヤナさんに皇帝陛下、ルーシア姫とキャロルさんにターゲットロックオン!ベルファストの自宅の庭へと【ゲート】展開!」

 

『了解しましタ。【ゲート】発動しまス』

 

 

軍の兵士たちが転んでるのを他所に、僕たち4人と皇帝陛下はベルファストの自宅へと避難をする事にした。まあ【スリップ】は3時間程で解除される様になってるから、そこまで酷い物にはならないと思うけどね。

 

そんな事を思いつつも、僕はベルファストの自宅へと続く【ゲート】を、レグルス帝国関係者4人の後に続いて潜り抜けた。背後より聞こえる苦言を他所に。




今回はここまでです!如何でしたか?


今回のお話では、オリジナル要素のひとつである《始原魔法》と《式句》を出しました!《始原魔法》の設定としては『代替が効かず、阻害されずに強力な魔法を使えるが、デメリットもそれなりにある』と言う感じで、もうひとつの《式句》の設定としては『単体では意味を為さない魔法』と言う感じです!

本編中で颯樹くんが使っていた様に、もう一つの魔法と併用しないとかなり危険だし、意味もない物になってしまいますので……使い所をかなり考えさせられます。


【オリジナル魔法詳細】
《デストラクション》
[効果&説明]始原魔法の一つ。発動者を中心とした半径3km以内にある、建物や人すら全てを巻き込んで破壊する。発動する際には少し火花が散るが、その後は空間が歪むかの様に、周りを包み込んで爆発する。
[デメリット]発動する際に発動者も巻き込むので、ある意味〈自爆魔法〉と言っても過言では無い。更にこの魔法による破壊は、自身の大切な人にも及ぶ為、下手をすれば両方が命を落としかねない。

《スペルブレイク》
[効果&説明]式句の一つ。意味の〈言語を壊す〉の名の通り「道具に込められている[プログラム]を無効化する」事が可能。単体では意味を為さない魔法。


こんな感じでしょうかね?……次回は、ベルファスト王国の自宅へと戻った後のお話をお届けします!


次回の投稿は3月9日(月)午前0時を予定しています!今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております(。ᵕᴗᵕ。)


【追記】

今週より「llight」さんの方で、この小説の主人公である盛谷颯樹くんが主人公を務める作品がスタートします(ややこしい事になりましたね……申し訳ない)!

この「異世界はスマートフォンとともに。if」とはまた違った颯樹くんが見られますので、ぜひ読んで下さいね!その他にもこの小説とコラボしている「肆点決集」も絶賛連載中ですので、其方もよろしくお願いいたします!

読まれたら感想を聞かせて下さいね!llightさんも私も泣いて喜びます(私は確実)。


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#15. 二人の王、そして二人の姫。

「お父様!お父様!」

 

 

自宅の庭へと続く【ゲート】を抜けると、横たわる皇帝陛下に縋り付くルーシア姫が居た。さっきは微かに動いただけだったが、今はどうなってるか不安だ。

 

僕はルーシア姫の元へ行くと、横たわる皇帝陛下と目を合わせる様に屈んだ。そして皇帝に手を翳す。

 

 

「【光よ来たれ、女神の癒し、メガヒール】」

 

 

僕が詠唱した上級回復魔法の光が、皇帝の身体を優しく包み込む。恐らく刺されていたであろう、脇腹の傷がみるみる塞がって行く。

 

……だが依然として変化は無いみたいだ。これだけでは不十分っぽいな。

 

 

「【リカバリー】」

 

 

後は後遺症とかが出ない様に、状態異常も回復しておく事にした。……後の事がどう転ぶのかは、本人次第になってしまったのだけれどもね。

 

そのまま客室のベッドへ転移させる。ライムさんに王宮のラウル医師を連れて来る様に頼んで、ルーシア姫とキャロルさんにアヤナさんを、皇帝を移動させた部屋へと案内した。

 

 

「……と言う訳で」

 

「……全くもう…何だって颯樹は、こう面倒事に首を突っ込むのかしら……」

 

 

僕から帝国での出来事の説明を聞いたエルゼが、呆れた様に溜め息を吐く。一応先にしょうもない言い訳(弁明)だけはして置くと、別に首を突っ込みたくて突っ込んだ訳では無い。

 

 

「…それにしても帝国がそんな事に……皇太子はどうなったんでしょうか……」

 

「僕が助けた騎士の中に、その人物が居たかどうか分からないし、その人が今も無事で居るかどうかは、明確には分からないかもね」

 

 

僕はリンゼにそう言って説明する。王宮に行く前に助けた騎士や、アヤナさんとキャロルさんくらいなら覚えてるが、その他を助けたか……って言われたら、素直に頷けない所だ。

 

それに僕は皇太子の顔を知らない。一緒に転移できたら良かったのだろうが。こればっかりはどうしようも無いのだ。

 

 

「颯樹殿が無力化出来たのは、せいぜいその将軍の魔法による力のみ……でござるか」

 

「颯樹さんなら、特に力を使わなくても……」

 

「いや、一番面倒なのはそっちだ。生身の人間と戦争をするんだ。双方無傷で終わらせる事なんて、先ず不可能に近い」

 

 

八重とリンゼの言葉に、僕は即座に否定で返す。結局この前イーシェンで武田兵(正確には完助&仮面兵だけどね)と戦った時、直接的にでは無いにしても、何らかの傷は与えてるからね。

 

そして今度は帝国の軍人……生身の人間とやる事になるのだ。かなり状況を考えて戦わないと、後々に取り返しがつかない事にもなりかねない。

 

取り敢えず、まずは国王陛下に状況の説明をしますか。帝国でのクーデターの事は話そうかと思うが、ルーシア姫や皇帝陛下の事に関しては……また機会があればにしようかな。

 

──────────────────────

 

「取り敢えず峠は越えた様ですな。後は安静にして体力の回復を待つばかりです」

 

「ありがとうございます、ラウル医師。此方もその報告が聞けて一安心です」

 

 

ライムさんが呼んで来たラウル医師が、そう言って聴診器をテーブルの上に置く。それを聞いた僕は、ラウル医師にお礼を言った。……ホントに一安心だよ全く。

 

あの後に話を聞いてみると……皇帝陛下が患っていた病気の、発症する兆候すら見られなかったのだとか。え?【リカバリー】って、単なる『状態異常回復魔法』だったはずだよね?そこまで直せるの……?凄い。

 

 

「それにしても……帝国の皇帝陛下を診る事になろうとは……。人生面白いものですな」

 

「お、お手数お掛けしました……」

 

 

苦笑しながらラウル医師がそう言う。……一応、この事は王宮には《秘匿》として扱って貰う事にした。皇帝陛下が目を覚まし次第、僕の方から国王陛下にお話しますよと言う事で。

 

医者の考え方は基本的に『あまり患者に負担を掛けすぎてはならない』と言う事なので、ラウル医師は何とか納得してくれたみたいだ。

 

……さて。《一難去ってまた一難》なこの状況。どうした物かね〜。傍らに居るルーシア姫はと言うと、あれからずっと皇帝陛下の看病を続けている。その隣にはキャロルさんにアヤナさんも付き添っていた。

 

 

「ルーシア姫。そろそろ少し休んだ方が、良いかもしれないよ。君まで倒れたら元も子も無いよ」

 

「はい……あの、私の事は《ルー》とお呼び下さいませんか?」

 

「わかった。じゃあ……ルー。これで良い?」

 

「はい、嬉しいですわ」

 

 

恥ずかしそうにもじもじと、上目遣いでルーはそんな事を頼んで来る。僕がそれに応えると、ルーは微笑む様な 笑顔をしていた。何とかご期待に添えられた様で……。こっちもとても嬉しいよ。

 

その後ふと視線を扉の方に移すと……。……!?ドアの外から見てるのって……ゆ、ユミナ!?何で覗き魔みたいな事をしてるのキミは……。

 

扉を開けて中に入って来たユミナは、ルーの前に立つと優雅に一礼をした。

 

 

「お初にお目にかかります。ベルファスト王国国王、トリストウィン・エルネス・ベルファストが娘、ユミナ・エルネア・ベルファストでございます」

 

 

ユミナが名乗りを上げると、ルーとキャロルさんにアヤナさんの顔が、目を見開いて驚いていた物になっていたが、やがてルーが慌てて立ち上がり、同じ様に優雅に一礼をした。

 

 

「初めまして、ユミナ王女様。レグルス帝国皇帝、ゼフィルス・ロア・レグルスが第三皇女、ルーシア・レア・レグルスですわ」

 

「お、おぉ……」

 

 

ユミナとルーの間で交わされた自己紹介に、間に立っていた僕は終始呆気に取られていた。……お、おぉ……、まさにお姫様同士の挨拶だなこりゃ。何方も《美しい》と言うよりは、とても《可愛らしい》姫ではあるが。

 

 

「この度は大変でしたね。ご無事で何よりです」

 

「はい。颯樹様に助けて頂いて、窮地を脱する事が出来ましたわ」

 

 

ユミナから投げ掛けられた言葉に、花が綻ぶ様な笑顔を見せたルー。そ、そりゃあ……ね。実際にルーを助けた時は、本当に《一瞬でも遅れてたら死も有り得る》って感じだったからね。それで間違っては居ない。

 

 

「それは良かったです。私も颯樹さんのフィアンセとして嬉しく思いますわ」

 

「えっ……そ、そうなのですか……?」

 

 

あれま。先程の咲き誇ってた花々の様な笑顔が、一瞬で萎れた様な表情になっちゃったな。……ま、ユミナの時と同じ反応だったし、ルーが僕の事をどう思ってるのかは大体察しがつく。

 

 

「ルーシア様、少しお話があるのですが、私の部屋へおいで下さりませんか?」

 

「?ええ、構いませんが……」

 

 

頭の中に疑問符を浮かべながらも、ルーはユミナの後に付いて行く。実際に《私の部屋》とは言うが、とどのつまりは《僕の部屋》でもあるのだ。簡単に言えば『同棲状態』になっているのだ。……その部屋のもう一つの使われ様は、残念ながら僕の知る所では無い。

 

部屋の扉が静かに閉められた後に、ラウル医師が僕の元へと来てボソッと呟いた。

 

 

「……修羅場ですかな」

 

「やめてくださいよ……縁起でもない」

 

 

全然笑えない冗談だ。まあ、あのユミナが「この泥棒猫ッ!」なんて言って怒ってる姿は、想像は出来ないのだが。……だが、それはそれでアリだな。可愛すぎるし。

 

 

「それより先生、王宮に帰るならば【ゲート】でお送りしますよ?僕もちょうど、王様に帝国の事を報告しに行きたいので」

 

「なら、一緒に送って貰いますかな」

 

 

後の皇帝陛下の警護は、キャロルさんとアヤナさんのコンビにお任せして、僕はラウル医師を連れて【ゲート】を潜って王宮へと向かった。

 

──────────────────────

 

「帝国がその様な事になってるとはな……」

 

「私もビックリです。未だに信じられません」

 

 

僕は国王陛下に帝国でのクーデターを報告して、帝国の領土と接している、砦の強化をする様に進言した。可能ならば魔法使いを多く送り込んだ方が良いか。此方との連絡を密に出来る様に、幾つか作った《ゲートミラー》を渡して置く。

 

《ゲートミラー》を使えば、王都と砦間での連絡がすぐ取れるからね。活かさない手は無いでしょ。

 

 

「しかし……良い報せと悪い報せを、同時に聞く事になろうとはな……。今日はなんて日だ」

 

「?悪い報せは僕が伝えた事ですが、良い報せと言うのは……?……はっ!まさか!」

 

「颯樹殿は、もう気付いていたのか?」

 

「ただの勘です」

 

 

その後に話を国王陛下から聞くと、見事にその予想が的中する事になった。ユエル王妃が現在身篭っている子供が、ユミナの弟or()妹になると言う事だ。それを伝えた本人は、照れ臭そうに顔を横に向けながらも、口許がかなりニヤニヤしていた。

 

 

「おめでとうございます。跡継ぎだと良いですね」

 

「少々複雑な所ではあるがな。颯樹殿がこの国を継いでくれたら安心なのだが」

 

「あのですね…。もし仮に男の子が生まれたら、その子がベルファスト王国を継ぐのが筋でしょうよ」

 

 

結局の所は、産まれるまでその事は分からないのだが、一応国王陛下には釘を指しておく。その後に屁理屈で返して来たので、それは軽く流しておく事にした。……自分の子供を使って変な言質を取らないでくださいよアホらしい。

 

 

「にしても、帝国の皇帝はその後どうしたのだろうな……」

 

「あ〜……第三皇女と共に《殺された》とも《逃げ出した》とも言われていますね。ハッキリした事は分からないのですが」

 

 

……なんか、ルーを勝手に居ない人扱いにしてる様で、胸が痛くなるな。と言うよりも、実際は自宅で匿ってるんですけどね。20年ほど前まで戦争をしていた国同士、変な所での険悪ムードは何としてでも避けたい所だ。

 

まあ、皇帝陛下の意識が戻り次第、きちんとお話しようとは思っているのだけれども。

 

 

「とりあえず、その反乱を起こした将軍を何とかしようとは、考えてます。その人さえ止めれば、他国への侵略は止まると思うので」

 

「ほう。随分と自信ありげだが、何か策でも?」

 

「ええ。まあ《百聞は一見に如かず》ですから。その時にならないと分かりませんよ」

 

 

僕の漏らした言葉に、国王陛下が頭に疑問符を浮かべたので、僕の方で軽く説明をする。そして自宅へと戻る道すがら、少し考えを巡らせる事にした。

 

多分バズール将軍の魔法を止めれてなかったら、今頃はもっと酷い状況で迎え撃たないと行けなかったと思う。でも今回はそれを防げているから、割く戦力はなるべく最小限の方が望ましいかもしれないな。

 

そんな事を思いながらも、僕は帝国の重鎮(じゅうちん)の人たちを匿っている自宅へと帰還する事にした。




今回はここまでです!如何でしたか?


さて!次回からは戦闘Partに入る予定でいます!【2nd season】になって初めてなので、若干ブランクが有るかもですが……頑張りますので、楽しみにしていて下さいね!

そして今話は前回よりも少なめにしたので、若干読みやすいのでは無いかな〜と思います(最低字数は3000字〜4000字って決めてますから)。まあ、原作準拠の内容は基本的に(推しの初登場orメイン回は除く)4000字〜5000字後半くらいで作るつもりですからね。


次回の投稿は3月13日(金)午前0時を予定しています!今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております(このペースで行けたら3月下旬or4月上旬にはオリジナル回が出来るかな〜なんて見積ってます)!


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#16. 腕輪、そして内密会談。

「ねぇ、ロゼッタ……少し話があるんだけど」

 

「何でありまスか?」

 

 

僕は自宅へと帰還した後、直ぐ様《工房》に居るロゼッタの元を訪ねた。訪れた目的はと言うと、帝国で出会ったバズール将軍が付けていた、あの二つの腕輪に何か心当たりが無いかと思ったからだ。

 

その二つの腕輪の事をロゼッタに話したら、腕を組んでロゼッタは何やら難しい顔をして考え出した。

 

 

「うーん、その腕輪でありまスか……」

 

「何か心当たりが?」

 

「確か《蔵》にその様な能力を持った、アーティファクトがあった様な気がするんでありまスよ」

 

 

……何と?じゃあ何か?《蔵》から流出した腕輪が巡り巡って、将軍の所へ行ったって事か?

 

 

「なにせ5000年も経っているでありまスから、《蔵》が今も無事とは限らないでありまス。何かのトラブルで墜落し、そこからアーティファクトや財宝等が流出したと言う事も……」

 

 

僕はロゼッタから返されたその答えに、少し考えを巡らせる。……バビロンの《蔵》は『古代文明の財宝等を管理・保管する』遺跡なのか。

 

もしあの腕輪二つが《蔵》に元々あった物なら、そこの管理人が何らかの弾みで落としたか、本当にトラブルで墜落した事でその財宝等を紛失し、現代に居る人の手に渡ったかのどっちかになる訳か。……また難しいなぁこれは。

 

……ん?そう言えば。

 

 

「……ね、ねぇロゼッタ」

 

「どうかしたのでありまスか?」

 

「その《蔵》って所には、例えば[不死の宝玉]みたいな物もあったの?持ち主に《不死》の属性を与えて、アンデッドを操る物とか」

 

「ああ、そんな物も確か《蔵》にあった様な気がするでありまスな」

 

 

……やっぱりかい!これで<イーシェンでの武田軍との騒動>も《蔵》絡みだった事がハッキリした訳だ。こうなって来ると、確率としては後者の方が高くなって来るね。……となると、まだまだ沢山のアーティファクトが流出した可能性も捨てきれ無い訳か。

 

 

「《蔵》を管理してる子は、その後どうなったんだろうね……」

 

「我々にはごく短距離の転移能力があるので……墜落する前に脱出する事は可能でありまスが……、《蔵》の管理者はうっかり者なので断言は出来ないでありまス」

 

 

そうなんだね……。散らばってしまったアーティファクトや《蔵》の管理者の事も気になるけど、今は帝国のクーデターを止める事を最優先事項に動かなきゃ。

 

先ずは何日かかけて、戦えるメンツに出来る限りの《アインクラッド流剣術》を教え込まないとね。相手を無力化するだけなら、僕が【パラライズ】を軍人全員にかければ一発なんだけどね……完助の前例があるからなぁ。

 

 

「取り敢えず夕方になったし、そろそろ屋敷に戻ろっかロゼッタ」

 

「はいでありまス」

 

 

僕はロゼッタを連れて、ベルファストにある自宅のリビングへと戻る事にした。そろそろ夕方頃だし、少しゆっくりしないとね。……そう思っていると、アヤナさんが僕に気付いて駆け寄って来た。

 

 

「颯樹くん!」

 

「あ、アヤナさん!?何があったんです?」

 

「皇帝陛下の意識が戻ったんだよ!」

 

 

……なんと。

 

──────────────────────

 

アヤナさんにその話を聞いてみると、体調も安定していて、話をしても大丈夫なまでに回復しているとの事だ。皇帝陛下の回復力、恐るべし。……結構早かったね。まだ治療してから、そんなに時間は経ってないはずなんだがな。

 

アヤナさんに付いて来て貰いながら、僕は皇帝陛下に当てがった部屋へと入る。そこには娘と穏やかに話す皇帝陛下の姿があった。……本当に大丈夫そうだね。

 

 

「颯樹様!お父様がお目覚めに!」

 

「……そなたが盛谷颯樹殿か?」

 

 

嬉しそうに僕の方へ振り向くルーと、静かな表情で僕の方を見つめて来る帝国の皇帝。長く白い髭と痩せた顔から、何となく《仙人》の様な印象を受ける。

 

 

「先ずは礼を言わねばな。余の命とルーシアの命を救ってくれた事、感謝しても、し足りぬ……」

 

「どうかお気になさらないで下さい。僕はあの時偶々買い出しに出ていただけですので」

 

 

……ま、これは事実だわな。何処かでおちおち帝国の方には顔を出すつもりでは居たが、それが少しばかり早くなっただけだ。そこに関しては何の問題も無い。

 

 

「そう言って貰えると助かる。此度の騒動は余の不徳と致す所だ。誠口惜しい……」

 

「ですよね……。あ、それでどうします?」

 

「どう、とは?」

 

「亡命先ですよ。このまま帝国に戻ったとして、貴方はもう既に《死んでいる者》として扱われるだけです。何処かご希望があれば、その国まで【ゲート】でお送りしますが?」

 

 

僕がそう答えを返すと、皇帝陛下は驚いた様に目を丸くして此方をしげしげと眺めて来た。……ま、言いたい事はよく分かる。

 

 

「いや……颯樹殿はベルファストの人間では無いのか?」

 

「《住んでいる》と言う意味では、確かにその通りですね。けど国に仕えている訳ではありませんから。王家とは親しくさせて頂いてますが、国家間の争い事となるとまた別問題ですからね」

 

 

このまま行く宛てがあるのであれば、その国へ亡命した方が断然良くはある。ルーのお姉さん二人が行っている国ならば、ゴタゴタとする事は無いと思うし。

 

皇帝陛下は暫く沈思黙考に耽っていたが、間を置いて自身の考えを述べ始めた。

 

 

「いや……ベルファスト国王に会わせて欲しい。できるのであれば内密に話をしたいのだが、どうだろうか?」

 

「えぇ?……それは全然良いですよ?……でも、其方としては大丈夫なんですか?」

 

「もうこの際だ。今までの事や、これからの事を話し合いたいのでな」

 

 

んー……まだ夜も更けたばかりだし、今の時間帯なら王様も時間があるかな。取り敢えずユミナに付いて来て貰おう。……うん、そうしよう。

 

その後僕は皇帝陛下の居る部屋を退出し、自室に居るであろうユミナを連れて、ベルファスト王宮へと向かう事にした。

 

──────────────────────

 

「……すまん、もう一度言って貰えるか?」

 

「あー……、実はレグルス皇帝陛下と第三皇女をウチで匿ってました。すみません」

 

 

国王陛下は僕の言った言葉に衝撃を受けたのか、その場で頭を抱え始めた。……何と言うか、騙す様な真似をして申し訳無いです……。僕は心の中で国王陛下へと謝罪する事にした。

 

 

「レグルス皇帝が我が王都に居るだと?全く今日は驚きの連続だ……一体どうなっている!?」

 

「め、面目無いです……。と、取り敢えず。皇帝陛下は国王陛下と内密に面談を望まれてますが、如何しましょうか?」

 

「皇帝が?」

 

 

僕の言葉を聞いた王様はふーっと息を吐き、椅子に深く凭れて腹の上で指を組み合わせる。暫く考えていた様だったが、意を決した様に立ち上がった。

 

 

「ここで逃げる訳にも行くまい。その対談、乗ってやろうでは無いか」

 

「じゃあ直接、ウチに転移しますね」

 

 

僕は【ゲート】を開いて、王様とユミナを連れて皇帝陛下の居る部屋へと転移した。

 

ベッドで横になっていた皇帝陛下は、突然開いた【ゲート】に驚きつつも身体を起こし、目の前に現れたベルファスト国王に目を向ける。互いに視線を外さず無言で居たが、やがて皇帝が目を伏せ、頭を軽く下げた。

 

 

「この様な姿で申し訳無い、ベルファスト国王。此度の事、御国にも迷惑をかけてしまった様だ」

 

「いや、あまり自分を責められますな、レグルス皇帝。事情は颯樹殿から聞いておりますので」

 

 

そう言って王様は、ベッドの横にある椅子に腰掛ける。さて……ここからは国のトップ会談だからね。部外者は席を外そうか。部屋の中にベルファスト国王とレグルス皇帝、そして互いの娘であるユミナとルーを残して、僕は部屋の外へと退出する。

 

 

「おっ、皇帝陛下の警備お疲れ様です。キャロルさん、アヤナさん」

 

「これくらい大丈夫だよ。颯樹くんの方こそお疲れ様だったね」

 

「ありがとうございます」

 

 

そう言って僕は頭を下げる。実際はと言えば…、昼間からずっと警護していた二人の方が、僕よりもかなりキツかったとは思うのだが、アヤナさんはそれを乾いた笑いで返した。……本人曰く『何時もの事だから』と言う事らしく。大変だなぁ全く。

 

予めこの二人には、【ゲート】の事を事前に話しているので、扉から僕がいきなり出てきた事に関しては、驚きを見せていなかった。

 

 

「キャロちゃ〜ん……?中でベルファスト国王と皇帝陛下が会談中なんだから、邪魔しちゃメッ!だよ?」

 

「な!?何時の間にそんな事になったのです!?……しかも、私はもう子供ではありません!その様な事をする訳がありません!」

 

 

……相変わらず察しが良いなぁ、アヤナさんは。それに『邪魔しちゃメッ!だよ?』……って。何それ……めちゃくちゃ可愛いんですけど。それを見たキャロルさんの顔がかなり紅くなってるし。

 

アヤナさんは事ある毎に、キャロルさんの制止役に入ってたんだろうね。彼女からの言葉を受けたキャロルさんは、顔を真っ赤にしながらも大人しくなったし。……と言うよりも、あれ?

 

 

「キャロルさん、すみません。その剣に付いている紋章なのですが……」

 

「我がリエット家の紋章ですが……何か?」

 

 

僕はキャロルさんに断りを入れて、その紋章をよく見せて貰う。月桂樹に双剣……前面にはグリフォンの紋章。……間違い無い。以前レネに見せて貰った、風の魔石の嵌め込まれたペンダントにあった物と同じ物だ。

 

 

「この紋章と同じ物が彫られているペンダント、見た事がありますよ?」

 

「ッ!それは風の魔石が嵌め込まれたヤツですか!?何処で!?その人は!?」

 

「落ち着いてー。どうどう……」

 

「私は犬ではありませんよアヤナ!」

 

 

目の色を変えて僕に迫って来るキャロルさんを、アヤナさんが軽く窘めていた。……だがその方法が余計に癪に触ったのか、アヤナさんに飛び火する事となった。……本当に仲良いですねぇお二人は。

 

僕の言葉を聞いて慌てるって事は、余っ程の理由があるらしい。まだ其方の事情が分からないので、レネの事は伏せて話す事にした。

 

 

「そのペンダントの持ち主の方は、残念ながら亡くなられたそうです。病気だったそうですが」

 

「そうですか……」

 

「私、そのペンダントの持ち主……知ってるよ」

 

 

……えぇ!?さっきの国王陛下じゃないけど、今日は驚きの連続だよ本当に!そう思った僕は、アヤナさんからその事について聞く事にした。

 

その持ち主と言うのは、キャロルさんのお姉さんだったらしく、実家に居た厳しい父親に反抗して家を飛び出した、たった一人の姉妹だったのだとか。

 

 

「……そりゃあ心配にもなりますよね……。ん?そう言えば《リエット家》って、帝国では有名な貴族なんですか?」

 

「有名かどうかは分かりませんが、一応《帝国十二剣》の末席に居ります」

 

 

……《帝国十二剣》?




今回はここまでです!如何でしたか?


……何だか区切りが悪くなってしまいましたね。次回はこの話の続きからお届けしたいと思います!キチンと繋がる様にしますので、楽しみにしてて下さいね(あー、戦闘描写に入れるの何時になるんだろ)!


次回の投稿は3月16日(月)午前0時を予定しています!今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様によろしくお願いいたします(。ᵕᴗᵕ。)

最後に。私と「llight」さんのコラボ作品の二作目が公開されています。もう一つの「肆点決集」と交互に投稿されますので、其方もどうかよろしくお願いいたします。
↓[演者と奏者]のリンクはコチラ。
https://syosetu.org/novel/216803


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#17. 帝国十二剣、そして探し人。

「《帝国十二剣》?」

 

僕は先程気になったワードを、キャロルさんに聞いてみる。するとその疑問に答えてくれたのは、アヤナさんだった。

 

 

「ベルファストでは、あまり知られてないかもなんだけど、帝国を建国した初代皇帝、それを支えた忠臣の十二人の事なんだよ」

 

「私の御先祖である「双剣のキール・リエット」が、そのうちの一人です」

 

「ちなみに私の御先祖様も、キャロちゃんのご先祖様と同じだよ!」

 

「アヤナの所の御先祖は鬼の様に強く、全盛期は《漆黒剣のターナ・カーディナリア》と言う二つ名がありました」

 

 

……ス、凄いなぁ……。後々に話を深く聞くと、建国当初はかなり力もあったらしいが、今では殆どが名ばかりの貴族なのだとか。

 

話を聞く限りだと『没落貴族』が近い…のかな。まあ、そこまでは行かないにしても、既に帝国の重要なポストには居ないんだろうね。家の紋章をライムさんも知らないって言ってたし。

 

 

「そうですか…、姉上は亡くなったのですか…。父上も亡くなる直前まで姉上と喧嘩別れした事を悔やんでいて……。向こうで二人とも仲直りしているでしょうか……」

 

「キャロちゃんのお父さんが厳しいのは、帝国内でもかなり有名で、私によく泣きついて来てたよ……ね、キャロちゃん」

 

「アヤナ……恥ずかしい事を思い出させないで下さい」

 

 

そう言ってキャロルさんは、バツが悪そうに顔を紅くして下に俯く。キャロルさんがそんな状態になるって、余っ程の事だよなそれ。……まあ、キチンと治まっていたら良いが。

 

 

「あー……っと。そのお姉さんなんですけどね、実は娘さんが一人居ましてね。その子が今ウチに居るんですが……」

 

「……え?」

 

「え?それって、どう言う事なの颯樹くん」

 

 

キャロルさんが目を丸くして絶句し、疑問に思ったアヤナさんが僕の方へと質問を返して来る。……どう説明したもんかと悩んでいると、グッドかバッドか分からないタイミングで、レネが廊下を駆けて来た。

 

 

「颯樹兄ちゃ……旦那様、お食事の用意が出来ました」

 

「ありがとう、レネ。後で頂こうかな」

 

 

僕とお客さんのキャロルさん、アヤナさんに頭を下げると、レネは来た時と同じ様に廊下を戻って行った。キャロルさんの眼が、レネを只管追い掛ける。

 

やがてレネの姿が見えなくなると、キャロルさんは『もしかして』と言う視線を僕に向けて来た。

 

 

「あの子ですよ。名前はレネって言って、ここに来る前は貧乏街でスリをしていました」

 

「そんな……!」

 

「酷い……!」

 

「と思うでしょうね……。だけど、彼女はそれをしないと生きて行けなかった。父親は冒険者で、魔獣討伐の依頼を受けた先で帰って来なかったそうです。お母さんの形見であるペンダントを、大切に持っていました」

 

 

僕の言葉を聞いたキャロルさんは、この騒動が終わった後に、レネをキャロルさんのお母さんに会わせたいと言ったので、必ず何処かでタイミングを見つけてそうさせます、と約束を取り付けた。

 

キャロルさんの母上って事は、レネからして見れば祖母に当たる訳か。何時かちゃんと会わせてあげられると良いな……。なんて事を考えていると。

 

 

「颯樹さん、お父様と皇帝陛下がお呼びになってます」

 

「?何だろ」

 

 

背後のドアからひょこっと顔を覗かせたユミナに連れられ、僕は部屋の中へと入る。そこにはベッドに腰掛けている皇帝陛下と、椅子に座っている国王陛下が居た。

 

二人とも穏やかな顔をしている事から、話し合いは終わったのかな。

 

 

「颯樹殿、昼間の話なのだが……」

 

「もちろん覚えてますよ。……ええ、バズール将軍を何とかする事ができますよ。もうこの際ですから、軍人全員も無力化してしまいましょうか」

 

「か、可能なのか……そんな事が」

 

「はい。しかし相手としてみれば、昨日今日と連戦になれば辛いでしょう。……そこで、僕の方でも少し策を講じさせて下さい。決行は三日後の朝方と言う事にして」

 

 

驚きのあまり唖然とする三人の横で、ユミナは当然とばかりに小さな胸を張っていた。……まだまだ成長期だからね。

 

 

「ただ、少し聞いておきたかったんですが……、もし鎮圧が完了したとして、今回反乱に関わった軍人たちはどうするつもりですか?」

 

「そうだな。将軍を始めとした、主だった幹部は死刑もやむを得ないが、ただ従っただけの者は軍務を解き、帝都を追放するに留めるつもりだ」

 

 

将軍や主だった幹部は死刑もやむ無し、従っただけの者は軍務を解いて帝都追放か。……まあ、妥当な線なのだろうね。帝都に居るのは全体の一割半程だろうし、痛手には変わらないが立て直せる範囲か。

 

 

「マップ表示。レグルス帝国帝都」

 

『了解。マップ表示しまス』

 

 

僕がそう言った瞬間、機械的な声の持ち主……ウチのロボ子メイドであるシェスカの声と共に、部屋の中央にレグルス帝国の帝都、ガラリアの地図が映し出される。

 

 

「な、なんだ、これは!?」

 

「帝都の地図ですわ……。それもこんなに細かい……」

 

「僕の無属性魔法です。便利でしょう?」

 

 

僕は未だに驚いている、皇帝陛下とルーに『これくらい大した事ないですよ?』と言う感じを含ませて答える。その傍では国王陛下も驚いていたが。

 

……そう言えば。国王陛下にはまだ一度も見せてなかったな。驚くのも無理無いか。

 

 

「検索。騎士団員を青色、軍人を赤で表示」

 

『了解。…検索終了。表示しまス』

 

 

シェスカがそう言うと、ぶわっと帝都に赤い点が広がって行く。昼間に見た時よりも、かなり増えているなぁ。恐らく他の町からも呼び寄せたのかな。

 

そして肝心の騎士団員はと言うと、ある一点に集まっていた。……城の隅の一角?……と言うと…。

 

 

「騎士団員が居るのって、もしかして……地下牢とかですか?」

 

「そうだな。恐らく騎士団の者は捕らえられているのだろう。だが全員では無い……少ないな。他の者は逃げたか、或いは殺されたか……」

 

 

悔しそうに拳を握り締める皇帝陛下。……確かにこの状況を見ていると、少なくとも良い状況では無いのがよくわかる。余計な手が打たれない様に、その行動に出る危険性のある者を捕らえているのか。そう考えると、この状況に説明がつきそうだ。

 

 

「あ、あの……颯樹、様?」

 

「何」

 

「少し……よろしいですか?」

 

 

おずおずと投げ掛けられたルーの言葉に、僕はフッと我に返る。後に話を聞くと『今の僕からは人を威圧で殺せる様な殺気が出ていた』のだとか。……マジですか。

 

ルーに指摘されて我に返った僕は、逸る気持ちを抑えながらルーに話し掛ける。

 

 

「どうしたの?ルー」

 

「あの……、颯樹様。お兄様を探す事はできますか?」

 

「うーん……、出来なくは無いと思うけど……。皇太子様って何か特徴とかある?ひと目で『皇太子様だ』って分かる様な」

 

 

この検索機能は【サーチ】を元にしているので、僕がそれを見てどう判断するかで検索される。軍服を着てるから軍人……と判断できるなら《軍人》で検索できるんだけどね。

 

それ故に『一度も会った事が無い人』は、検索する事が出来ないのだ。例えば、八重のお兄さんの様に<頬に刀傷>とかあるなら、ひと目でその人物だとわかるんだけどね。

 

 

「特徴……ですか?えっと…髪は銀髪で、えっと……あら?特徴…特徴……」

 

 

思い出せる限りの特徴を述べた後、ルーは考え込んでしまった。それを見た皇帝陛下はと言うと、軽く苦笑いを浮かべて居た。

 

……な、なるほどね。その皇太子様って余程普通の顔立ちをしてるんだ?仕方無い、記憶を貰う事にしましょうか。

 

 

「ルー。ちょっと手を出してくれる?」

 

「?はい……?あ……」

 

 

ルーから差し出された小さな手を僕は軽く握る。それを見たルーの顔が忽ち紅くなるが、僕は成る可く平常心を持って語り掛ける。

 

 

「目を瞑って……お兄さんの事を思い浮かべて。なるべく最近の物を」

 

「は、はい」

 

 

目を瞑って集中しているルーのおでこに、僕は自身のおでこを当てる。正直に言ってしまえば、皇太子の記憶を貰うなら皇帝陛下でも良かったのだが、そこら辺はまあ気分だ。……一番の理由はと言うと、リーフリース皇国に居るリリエル皇女……彼女に知られたくないと言うのがある。

 

もしこの事が、何らかの弾みで彼女に伝わって、そこからまたややこしい事になれば、前回の様な主張は絶対に通用しないだろう。……考えるだけでも恐ろしい。

 

 

「ふわわわっ!?」

 

「集中して」

 

「は、はいぃ!」

 

 

狼狽えるルーを短く窘めて、此方も魔力を集中させ始める。記憶譲渡魔法【リコール】だ。これで皇太子の詳細な容姿とかが掴めれば良いのだが……。

 

そんな事を頭の隅で考えながらも、僕は魔法を発動させた。

 

 

「【リコール】」

 

 

そう詠唱すると、ルーの頭の中にある……皇太子に関する記憶が伝わって来た。最初はボヤっとした顔だけだったが、次第に少しずつ像を結ぶ様に、全体の容姿がハッキリとして来た。

 

銀髪でさほど《特徴》と言う物は無いが、優しそうな青年の顔が浮かび上がって来た。……ん?この人って確か……。

 

 

「この人が皇太子なら……僕、会った事がありますよ……?」

 

「「「「え!?」」」」

 

 

驚きの表情をする4人を他所に、僕は少しずつ記憶を手繰って行く。……そうだよ、間違いない。帝都が襲われていた時に、二人の軍人に詰め寄られていた若い黒騎士だよ。

 

……え?あの人が皇太子?!ひょっとして……、逃げる為に変装とかしてたのか……?そう思った瞬間、僕の額からは冷や汗が滴り落ちた。

 

 

「……やべ、置き去りにして来たかもしんない」




今回はここまでです!如何でしたか?


執筆が遅くなって申し訳ありません(^_^;)言い訳ですけど、コラボ作品である<演者と奏者>の方の内容提案にプラスして、仕事や家庭でもやる事が満載……それで執筆の方が全く進んで居なかったんです。

ここから少しずつ……本調子に戻して行きたいと考えていますので、変わらずの応援よろしくお願い致します。


次回の投稿は、執筆に少〜し余裕を持たせて……3月30日(月)午前0時と言う感じにしたいと思います!あくまでもこれは予定なので、今回みたいに変更になる恐れがあります(^_^;)

今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております(。ᵕᴗᵕ。)

【追記】

https://twitter.com/llight_hikari/status/1239794043728449537?s=19
↑「質問ボックス」のリンクです。

現在Twitterにて……<演者と奏者>に関しての、質問を募集しています。例えば『何故この小説を書くに至ったのか』とか『小説作成の手順』……など。色々な質問にllightさんと私でお答えしようと思います。

回答するのは、その小説内の<メタ回>みたいな所でしますね。オリキャラに関する質問でも、何でも構いませんので是非!


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サイドストーリー、そしておまけ。
第1話:お出掛け、そしてキス。


皆さん、こんにちはーーーーーーーー!


ついに本日、この咲野 皐月は誕生日を迎えましたーーーーーーーー!歳は19です!2000年生まれが幸いして、歳がすっごく数えやすいです!んな事はさて置きましてね?

今回は少し箸休め、という事で【幕間劇】を描きたいと思います!話のストーリーに関しては、第14章までの時間軸を採用させて頂き、その間の閑話としてお届けする形になります。


先ず最初のお相手は、先のアンケートで13票と圧倒的な差を付けて1位になったヒロイン、ユミナです!主人公に一番懐いているのも彼女ですし、婚約者として初めて名乗りを上げたのも彼女です!いや〜、これは描かなきゃいけないでしょ!

それでは【幕間劇1】のスタートですよ!


ユミナと結婚する話が固まった翌日、僕は件の彼女と一緒にリフレットの街を歩いていた。街の賑わいは何時も通りであり、少し住み慣れた感覚が出て来ていた。

 

 

「今日はいきなりどうしたんですか?急に『一緒に出掛けたい』なんて♪」

 

「いや、単に息抜き……というのもあるんだけど。何時も僕が味わってる雰囲気を、ユミナにも味わって貰おうと思って」

 

「なるほど……そうですか。……ふふっ、分かりました♪今日一日、ボディーガードを宜しくお願いします♪」

 

 

ぼ、ボディーガード!?……今までそんな事をした事が無いぞ!?そんな思いを抱きながらユミナを見ると、隣でニッコリと笑顔を浮かべていた。

 

今日一日はユミナに楽しんで貰いますか♪そう思いながら、僕たちはリフレットの街中へと歩き出して行った。

 

──────────────────────

 

最初に僕たちが訪れたのは、僕が最初にこの世界に来た時にお世話になった『ファッションキング・ザナック』である。実は彼処では、僕がちょくちょく新しい服のデザインを提供しているため、色々な私服やら何やらを取り揃えていたりする。

 

店に入ると、ドアの開く音に気付いたザナックさんが、僕とユミナの方に歩いて来た。

 

 

「おお、来てくれたかね!キミから貰ったアイデアが非常に良い物で、何着か新品を取り入れているよ」

 

「そうですか。それは喜ばしい事で。今回はちょっと隣の彼女の私服を何着か買いに来たんです」

 

「うんうん……ん?」

 

 

僕の言葉に最初は頷きを見せていたザナックさんだったが、視線を僕からユミナにズラした途端、いきなりその場に土下座し始めた。……なんと、その他の人も全員漏れなく、である。業務滞ってますよ?

 

しばらくして立ち直ったザナックさんが、僕へとある事を聞いてくる。

 

 

「ユミナ姫とは……その、どういうご関係で?」

 

「あーえっと、ユミナとは婚約者って事になりますね。ただ、これはなってからまだ間も無いので、呉々も広める事の無いように切にお願いします」

 

 

僕がザナックさんにそう頼むと、快くその提案を承諾してくれた。そしてお店の中を探し回り、ユミナに合いそうな服を見繕う事にした。……自分で言ってしまった手前、ね。

 

探し回っている時に目に付いた服で、ユミナに似合いそうな服を何着か籠に投入し、試着室の前まで来た。

 

 

「ユミナ、取り敢えず……この服を着てみてくれる?恐らくだけど大丈夫なはず」

 

「分かりました♪……少し、待ってて下さいね?」

 

 

そう言うとユミナは、試着室の中へと入った。服のサイズは出る前にミカさんに正確な値を聞いているので、彼女にはかなり合うと思っているのだが……。

 

 

「いやー、まさかキミが一国の姫君を娶る事になろうとは……一体どういう経緯で?」

 

「ホント、たまたまなんですよね〜。今でも正直に言えば驚いていますよ。一冒険者であるこの僕と、何故結婚したいと思えたのか。本人は大層好印象を僕に抱いていたみたいですけど」

 

「でしたら良いのでは?私も応援しますよ、キミの恋路を!」

 

「あんま悪ノリしないでくださいよ?」

 

 

僕はそう言ってザナックさんの言葉を流す。その後に店員のお姉さんにも絡まれ、ユミナが着替えている間の時間を潰すことができた。……あまり良い意味ではないけどね。

 

そう思っていると、試着室のカーテンを開けて、着替え終わったであろうユミナが出て来た。

 

 

「ど、どう……でしょうか?」

 

「すっごく可愛い……」

 

「それだけじゃ…足りません///」プイッ

 

「何て言うかさ……ユミナの為にある様な服だと思うよ。それくらい似合うし、可愛いよ」

 

 

僕がユミナにそう言うと、ユミナは頬を少し紅らめながら笑顔を見せた。余程さっきの言葉が嬉しかったのか、その場でクルリと一回転して見せた。……これまた絵になる事。

 

ユミナが現在着ているのは、水色の白い襟付のワンピースだ。前着ていた服は何処か高級感があったが、こっちは誰でも着やすい感じがあった。

 

 

「どう?ユミナとしては、これは気に入ったかな?あくまでも僕の個人的な独断と偏見で選んだからね」

 

「はい♪気に入りました♪」

 

「それは良かった。他の服も選んだから、試しに着てみてよ。どれもユミナに似合う筈だし」

 

 

その言葉を聞いたユミナは、再び試着室の中へと入って行った。そしてそこから暫くは、ユミナのプチファッションショーが繰り広げられていて、僕の返す言葉も在り来りな言葉になってしまった。……ごめん、これくらいしか語彙力が無いからさ。

 

結局の所、最後は試着した服全てを買う事になり、そこまで大きくは無いが、安くも済まない買い物をしたのだった。

 

──────────────────────

 

時間は少し過ぎて11:30を経過した頃。僕たちは周りで拡がっている屋台を見て回っていた。

 

 

「颯樹さんは、ここら辺には来た事が?」

 

「ん〜、偶に来るくらいかな。少し時間が空いた時とかは、偶にここに来てるよ」

 

「どれもこれも良い所ばかりですね〜。まあ、私としては颯樹さんと一緒に居られる事が、一番幸せなんですが♪」

 

「ここ、街の中だよ?……あんま、恥ずかしくなる事を言わないで」

 

 

僕は衝撃的な発言をしたユミナの口を塞ぐ。その行動にユミナは最初こそ驚いていたが、後に何かのツボにハマったらしく……頬を少し紅潮させながら目がとろーんとし始めていた。

 

……ま、不味い!こんな所で寝られると、俺がまぁまぁ良くても他のメンツが良い顔をしない!確実に!しかも道の真ん中で!通行人の邪魔んなる!

 

 

「起きて、ユミナ!」

 

「……、はい…。……っ!」

 

「どうかした?」

 

 

良かった……何とか意識はあったみたい。それと入れ替わりに彼女の腹から、何とも可愛らしい音が聞こえて来た。……時間もちょうどいいし、ここらでお昼にしよっかな♪

 

と、その場を動こうとした……その時!

 

 

「よォ、兄ちゃんよォ……懐のモンを恵んじゃあくれねぇか?」

 

(懐のモンを恵めって……ゲスが)

 

「お?持ち合わせがねぇのか?」

 

 

僕たちに絡んで来た男が、この上ない嫌な笑みを顔に貼っ付けながらそう言う。……こんなのと関わり合いにはなりたくないね、全く。

 

そう踵を返して立ち去ろうとした時、先程まで絡んで来た男が動き出した。

 

 

「金の持ち合わせがねぇのなら、そこの女を置いて行きな!」

 

「……はい?」

 

「何。てめぇじゃその女には釣り合わねぇから、このオレに寄越せつってんだよ。頭悪いてめぇでも分かんだろ?この言っている意味がよ」

 

 

まさか……コイツ、最初からユミナが目的で?でもさっきの言動を聞く限りでは、ユミナがベルファスト王国国王の一人娘である事を知らないみたい……。まあ、服装の問題もあるけど。

 

生き恥を晒す前に引き返した方が、良かったかもよ……外道者が。

 

 

「何ですか?」

 

「ああ?よォ、嬢ちゃん。そんなオトコはほっといて、オレと遊ばねぇ?」

 

「貴方に付いて行く言われはありません。それに私はそこの小馬鹿にされた旦那様を支える妻……旦那様を愚弄するなら、私が相手になりますよ?それに私が誰であるかを知ったうえでの狼藉ですか?」

 

「ンだとてめぇ!ナメた口をーーーーーーー!」

 

 

絡んで来た男がユミナに向かって走り出す。……ああ、これはもう生き恥を晒すね。僕の連れは、そんじょそこらのか弱い女の子とは違うので!

 

 

「ベルファスト王国国王トリストウィン・エルネス・ベルファストが娘、ユミナ・エルネア・ベルファストです。その腐敗した頭に叩きつけておきなさい」

 

「フン!偽モンだろうよ、お前は!後でその身ぐるみ全部ひん抜いて、オレ好みのオンナに仕立て上げてやる!」

 

「【氷よ絡め、氷結の呪縛、アイスバインド】!」

 

「ンだァ!?」

 

 

ユミナに拳を振りかざそうとした男の足を、僕は【アイスバインド】で凍らせる。男はと言うと……何とか逃げ出そうとしており、身体を小刻みに動かしている。

 

そしてその後に【パラライズ】を男に掛け、足を凍らせていた【アイスバインド】を解く。そして両手両膝を地面に突かせる。

 

 

「な、何モンだ……てめぇは…!」

 

「僕は盛谷 颯樹、冒険者さ。ベルファスト王国王女のユミナ姫を穢らわしい手に掛けようなんて……外道にも程があんだろ?な?」

 

「ぐ、ううっ……身体が、動かねぇ……」

 

「アンタの身柄は騎士団本部へとちゃーんと送り届けてやるよ。安心しろ、そこでは何を言おうと何をしようと自由だ。だがな、簡単に逃げ出せるとは思うなよ?お前みたいなクズに時間を割いて、取調べ等を行なう騎士団の人たちは酷な話だよなぁ!」

 

 

僕は男に向かってそう言うと、最後に服の胸元を掴んで持ち上げた。……多分、コイツと口を訊くのは最後だろうからな……盛大に赤っ恥をかいてもらいますか♪

 

 

「ユミナをアンタ好みのオンナにするだと……?荒唐無稽な話をべらべらべらべらべらべらべらべら繰っちゃべってんじゃねぇよ!これは天地がひっくり返っても有り得ねぇ事だが、今度そんな事を口に出してみろ……?アンタのお粗末なモン切り取って、二度とその口が叩けないように縫い付けてやるから覚悟しとけ!分かったか!ゲス!」

 

 

男は僕の言葉を聞いた後、事切れたかの様に気絶してしまった。それを見た僕たちは、先ずは【ゲート】で王都の王宮まで移動し、そこから騎士団本部へとその男の身柄を引き渡しに行った。

 

一応、ユミナの事を悪く言われてしまったので……その辺の顛末を伝えようと国王陛下のもとを訪れた。

 

 

「そうか……まだまだ余の事を知らぬ者たちが居たのか…余もまだまだ若輩者という事か」

 

「まあ、僕が今住んでるリフレットの街の殆どは知ってましたよ。無論、さっき突っかかって来た男は……女遊びを現を抜かして、王様の言う事なんて聞く事もしてなかったんでしょうから」

 

「私もその場に居合わせていましたが、全て颯樹さんが終わらせてくれました。私の為にあんな事を言ってくれるなんて……///」

 

 

え!?穏便に済まそうかと思ったのに、何でこのお姫様はそれを易々と言ってしまうんですかね!

 

 

「ほぉ……ユミナの為に啖呵を切ってくれたのか…。実に嬉しいよ」

 

「突っかかって来た男が許せなかっただけです。ユミナの事を道具扱いして、自分好みにすると言うのに腹が立ったので」

 

「颯樹殿がそこまでユミナの事を考えてくれているのであれば、だ!やはり子供をこさえて既成事実を……」

 

 

だーーーーーーーーっ!何でそんな風になるかね!国王陛下も大概だが、この世界の人々はどうしてこう……そこら辺に関しての感覚が薄いのかね!軽く考えては居ないのだろうが、個人的には本当に心配だ!

 

ユミナは国王陛下に向かって苦言を吐いていたが、当の本人は高々と笑い上げていた。……ホント、気苦労が耐えないよ全く。

 

 

「ん?そう言えばユミナ、その服は?」

 

「はい、颯樹さんに見繕って貰いました♪私に似合う筈だし可愛いと言ってもらいました」

 

「なるほど……颯樹殿は服のセンスもあるみたいだ…。大切になさい」

 

「はい♪」

 

 

僕が頭を抱えている間に、ユミナと国王陛下の間で僕が褒められていたのは……正直に言えば、嬉しいのだが…ここで喜んで良いかはまた別問題という事で。

 

──────────────────────

 

先程の騒動の影響で、だいぶ時間を潰された僕たちは、日暮れとなった街中を歩いている。行き先はもちろん宿屋の『銀月』である。

 

 

「今日はありがとうございました♪お陰で素敵な一日が送れました♪」

 

「いやいや、これくらい構わないよ。こっちも喜んで貰えるか不安な所があったし。予定外のトラブルこそあったけどね」

 

「あの……颯樹さん?」

 

 

ユミナが僕にそう問い掛けてきたので、僕はユミナの方を見る。その瞳は初めて会った日の昼に見せた物で、彼女の真意を感じる事が出来た。

 

 

「これから先も私を、護って……くれますよね?何があっても、ずっと」

 

「当然。好きな女の子の泣き顔が、僕は一番見たくないから。死が僕たちを分かつまで、ずっとずっと君を護ってみせる」

 

「……あ、あの…一つだけ、お願いが……///」

 

「ん?」

 

 

僕はユミナの言葉を最後まで聞く。……その後にユミナは何かを決心したかの様に、僕へと言葉を言い放つ。

 

 

「……キス、してくれませんか?…出来るなら、抱き締めて欲しいです」

 

「……分かった」

 

 

僕はユミナの身体を抱き締め、顔を少しずつ少しずつ近づけて行く。ユミナの方に至っては目を閉じた為、僕も同じような態勢に入る。そして僕たちは、燃える様な夕陽をバックに口付けを交した。

 

 

「ん、んん!」

 

「「はっ!」」

 

「何してんの、アンタら」

 

 

口付けを終えて互いに見つめあっていた時、何処からか咳払いをする声が聞こえた。僕はその声が聞こえた方向を、クルリと顔を向ける。

 

するとそこには、呆れ顔のエルゼと目のハイライトが仕事をしていないリンゼが立っていた!……ど、どうしてここに!!!同じ宿舎だから、帰って来るのは必然だけども!

 

 

「おーおー、2人ともオアツイコトデ……ねぇ?颯樹?どういう事かしら?」

 

「ち、違っ!こ、これは……!」

 

「颯樹さん?少し、私たちと……オハナシ、しませんか?時間は取らせません、から」

 

 

リンゼの言い放った言葉に、僕は力なく頷いてしまった。……だってさ、逆らいようがないんですもん!リンゼさんのあの威圧感!「少しでも返答を間違えたら、ただじゃおきませんからね」みたいな雰囲気!めちゃくちゃ怖いわ「何か、言いました、か?」!

 

 

「なんでもございませんすみませんでした!!」

 

 

その後に帰って来た八重は、正座をして双子の姉妹から説教を受けている僕を見て不思議に思っていたが、ユミナの説明を受け、少々こちらを憐れむ様な視線で見ていた。

 

……だから違うってば!全面的に否定する!黙秘権を行使させて下さいなーーーーーーーー!




今回はここまでです!如何でしたか?


話を構成してたら、何時の間にか5000字に到達してました……余程ユミナの話に時間と熱をかけてたんだな〜と実感するこの頃です。やっぱり、ユミナみたいな真面目で優しい女の子は、描いてて飽きないしドキドキしちゃうんですもん!分かりますよね?

最後には双子の姉妹を出しました!次回の幕間劇は、エルゼをメインとしたストーリーを描きますので、よろしくお願いします!


このお話に関しては、ユミナのキャラソンである「Staring only you」を聴きながら読んだ方が、少し風情が出るかと思いますので、オススメしますよ〜!

それではまた次回です!今回も感想を是非!


最後に……。巻波彩灯さんより、お誕生日イラストを頂きました!ありがとうございます(๑////๑)

【挿絵表示】

【異世界はスマートフォンとともに。】のユミナのイラストに、私へのメッセージが添えられています!感謝感激雨あられです!


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第2話:リフレッシュ、そして新作制作。

「昨日は酷い目に遭いましたね……」

 

「全くだよ……。思い出すだけでも頭が痛くなる」

 

 

天気が良い日の真昼間から、溜め息を吐きながら僕とユミナは街中を歩いていた。……どうしてこうなったのかと言えば、原因は昨日の依頼にあった。

 

昨日受けた依頼は『スライム研究家の調査』と言う物で、僕とユミナ、エルゼとリンゼ、八重と琥珀の5人と一匹でその依頼を受けた。

 

だが、そこで待っていたのは……(第9章《寝坊、そしてスライムキャッスル。》を参照)後は察して欲しい。そんな訳で、リフレッシュを兼ねて街中へと繰り出している訳だ。

 

 

「……よし!溜め息吐いたって何も始まんない!だったら、今日は目一杯遊ぶか!」

 

「はい♪」

 

「とは言うけど、この先はどうしたら良い物か……ユミナ、何か考えはある?」

 

「私、ですか?……そうですね…」

 

──────────────────────

 

「ほうほう、そうか!ユミナが遂に颯樹殿を落としたか!これはめでたい!」

 

 

僕たちが訪れたのは、ベルファスト王国の王宮である。何でも「出来る事は出来るうちにやって置きたいんです」と言う事らしく。……ユミナって、結構策士だよなぁ……先々の事を考えて行動に移してんだもん。正直感服するよ。

 

期限の一年にはまだ早い、一週間でこんな事になるなんて……。まあ、ユミナを受け入れるって決めたから、これは有り得た事だろうけどさ……。

 

国王陛下は上機嫌で身を乗り出して笑っていた。ユエル王妃はユミナの手を取り、娘に笑い掛けている。

 

 

「よくやりましたね、ユミナ。これからはさらに一層、颯樹さんに尽くし、妻として支えて行くのですよ?」

 

「はい、お母様!」

 

 

国王陛下が椅子から立ち上がり、僕の肩を叩いて爽やかな笑顔を浮べる。……テンション高すぎません?いや、自分の愛娘が結婚すると知ったら…ねぇ?分からんでもないけどさ……。

 

僕は何とも言えない表情を浮かべながらも、国王陛下からの言葉を聞くのだった。

 

 

「後は孫の顔を一刻も早く見せて欲しいものだな!なあに、ユミナは初ちょ……」

 

「……」ニコニコニコニコ

 

「……颯樹殿、少しその笑顔が儂にとっては恐怖すら覚えて仕方ないのだが……」

 

「え〜?何の事です〜?可笑しいな、これでも平然を保ってるつもりなんだけどな」

 

 

国王陛下が僕の笑顔を見て、引き攣った笑みを浮かべた。……いくらこの国の国王陛下で未来の義父であったとしても、今のセクハラ発言は頂けないかな?かな?かなぁ?

 

隣のユミナに至っては、先程の発言が癪に触ったのか、眉を吊り上げて怒りの表情を見せている。

 

 

「颯樹さん」

 

「合点承知」

 

 

僕とユミナは国王陛下の両腕を掴むと、戸惑う国王陛下を後目に別室へと連行した。謁見の間に残されたユエル王妃は、ただクスクスと笑いながらその場を見守っていた。

 

その後の別室からは、何かをお経のように呟く国王陛下と僕とユミナの叱責が飛んでいたのだとか。例え父娘とは言え、セクハラ発言はダメだよね♪

 

──────────────────────

【一時間後】

 

「……」

 

「少しは反省して下さい」

 

 

僕とユミナが国王陛下を別室に連行してから一時間後、国王陛下はと言うとその場に頭を垂れていた。……セクハラ発言を軽々しくするからですよ。

 

その姿を見たユエル王妃は、困ったように笑い掛けながら僕にある事を伝えてくる。

 

 

「ゴメンなさいね、この人嬉しさの余り暴走してるのよ。……でもどうしましょうね。既に知っている人も結構居るけど、正式に颯樹さんをユミナの婚約者として発表すると、色々大変かもしれないわ」

 

「ああ、なるほど。確かに大変ですね。ユミナとの婚姻を考えていた貴族からは、確実に目の敵にされますね。逆に取り入ろうとして来る輩も居そう……」

 

「後は、颯樹さんが何らかの実績を示さないと……ユミナとの婚約を認めない、と言う頑固者も居るでしょうし」

 

 

……確かに。一国の姫君を娶るのだから、それくらいは想定できた事だよね。やはり簡単には行かない、という事で。

 

しかし実績って言ったってなぁ……。国の為になる、何か大きな利益を挙げろ、とか?

 

 

「まあ、もう暫くは伏せて置きましょう。早めに発表して厄介事を引き込むよりも、後で一気に婚約、結婚と畳み掛けた方が良いかもしれないわ」

 

「そうですね。そこら辺はお任せします」

 

 

そこら辺はもうお任せするしか無いわな。僕はその辺りはあまり上手く調節できないからね。僕とユミナはユエル王妃に一言述べてから、王宮を後にした。

 

……時間的にはお昼を過ぎたくらいかな…。久しぶりに彼処に行ってみよっかな♪

 

 

「……儂は間違っていたのだろうか…」

 

「そんな事はありませんわ、アナタ。颯樹さんやユミナにはキチンと伝わってる筈です。元気を出して下さいな」

 

「ウム、そうだな」

 

──────────────────────

 

王宮を後にした僕とユミナは、王宮の外で【ゲート】を使ってリフレットの街へと戻って来ていた。時間はお昼を過ぎたくらいなので、昼食を取りに戻っていると言う訳だ。

 

因みに行き先はと言うと、何時もの喫茶店の【パレント】である。

 

 

「いらっしゃいませ〜。あ、颯樹さん!こんにちは」

 

「こんにちは、アエルさん」

 

 

僕とユミナを出迎えてくれたのは、以前女性ウケするスイーツを教えて欲しいと依頼をして来た、ウエイトレスをしているアエルさんだ。彼女の話に寄れば、アイスクリームを出したその日から、かなりの人気が出たとの事で。

 

ここもザナックさんのお店同様に、ちょくちょくスイーツのレシピとかを提案して居たりする。八重に至っては新作のお菓子が出たら、購入するのと同時に食べて来たりもしている程だ。

 

 

「今回は彼女さんもお連れですか?」

 

「ええ、そんな所で」

 

「そうでしたか。……あれ?そちらの方、何処かで見覚えが……」

 

 

アエルさんは隣に居たユミナに目を向ける。あ、これって何処かで……デジャヴ?

 

 

「結局こうなっちゃいましたね……」

 

「反応が見た事があるもん。分かるさ」

 

 

結局無事に席に着いたのは、入店してから10分した頃だった。その後に僕たちは注文を行ない、料理が出来るまでの少しの時間を話しながら潰していた。

 

そして料理が運ばれ、僕たちは昼食を取るのだった。少しして食べ終わった頃に、僕たちの所にアエルさんが歩いて来た。

 

 

「あの〜、宜しければ……また手伝って貰っても良いですか?」

 

「メニュー考案ですか?良いですよ、協力します。ユミナも構わないよね?」

 

「はい♪」

 

 

ユミナの了承も得られた事で、僕たちはアエルさんの付き添いの下厨房の中へと入って行った。今回は何を提案しようかな……。

 

 

「ジャンルはこの前と同じで?」

 

「はい!」

 

「……そしたらば…パンケーキ、とかどうですか?粉物のスイーツなんですが」

 

「良いですね!作り方を教えて貰っていいですか?紙に書きますので」

 

 

アエルさんのその言葉を聞き、僕はスマホでパンケーキの作り方を調べて、材料の所から説明を始めた。料理行程の所々を僕とユミナで手伝い、少しした後には3枚のパンケーキが一枚のお皿に積み重なっていた。

 

 

「さてと。あとは仕上げだけだけど……あっ、アエルさん。生クリームってあったりします?」

 

「え、ええ……ありますけど…どうするんですか?」

 

「トッピングを考えようかと思いまして」

 

 

そう言って僕は、手渡された生クリームやフルーツを使って盛り付けて行く。そして少しした後、僕はアエルさんに声を掛けた。

 

 

「どうでしょうか?こんな形で纏まりましたが」

 

「……おおー!凄く綺麗です!」

 

「見ているだけでも美味しそうだし、色とりどりで綺麗ですね〜」

 

「颯樹さん、これは一体何を使ったんです?」

 

 

アエルさんが漏らした疑問に、僕は丁寧に答える。ま、フルーツをパンケーキの上に盛り付けた後、その周りにも何個か置き、そしてフルーツの間に生クリームを落とし込んだ形だけどね。

 

 

「取り敢えず、こんな形で纏まりましたが……大丈夫ですか?」

 

「はい!ありがとうございます!」

 

「凄いです!……しかし、こう言うのをよく知ってましたね」

 

「まあ、僕にはこれがあるからね」

 

 

ふと漏らしたユミナの疑問に、僕は手に持ったスマホを見せて答える。ユミナにはキチンと「僕にしか使えない魔道具みたいな物」と説明はしておいたが。

 

ともあれ、パンケーキはメニューとして出してくれるみたいで、僕とユミナは先程作ったパンケーキを食後に頂いた。……ただし、持ち帰りとかは出来ないという話だったが。当然でしょうなぁ。

 

──────────────────────

 

「美味しかったですね♪」

 

「ホントホント。戻ったら教えないとね」

 

 

あの後僕たちはリフレットの街中を歩いていた。結局パンケーキのお代に関しては、まだ商品化もされてないと言う事で、払わなくても良いと言う形になった。その代わりに何時もの3人に伝えておいて欲しい、とだけ伝言をする事になった。

 

気晴らしに街中を歩いていると、何やら騒ぎが起こっているみたいだ。

 

 

「?何かあったのかな?」

 

「行ってみましょう」

 

 

そう言って僕とユミナは、騒ぎの中心へと向かう。そこで起こっていたのは、屈強な男2人が一人の女の子を路地裏で追い詰めている場面だった。

 

 

「これは……!」

 

「誰か!通報をお願いします!……ユミナ、ちょっとこの状況を片付けるよ」

 

「分かりました」

 

 

僕の声で僕たちの近くにいた女性が、警備兵を呼びに走り出した。そして僕たちは意を決して、男たちの所へと向かう事にした。

 

 

「そこまでです!」

 

「あぁん?何だテメェらは。ガキがこんな所に来てんじゃねぇよ」

 

「何の用だァ!?」

 

「いや、一人に寄って集って男が女に手ぇ出すって、普通有り得ないでしょ」

 

 

僕は男の一人に事実を言ってのける。目の前の女の子は歳はユミナと同じか一つ上位で、背は平均的で整った顔立ちをしていた。今その顔が恐怖に歪んでいる事から、相当怖い目に逢ったのだろうと推測できる。

 

 

「ユミナは女の子の所へ向かって。僕はあの男2人を捻り潰す」

 

「了解です」

 

「捻り潰す、だってよ」

 

「ガキ一人に俺たちが負けるわきゃねぇだろ」

 

 

そう言って2人の男は、僕の所へと歩いて行く。それを見たユミナは、追い詰められていた女の子の方へ駆け寄っていく。……どうやらユミナに気付いてる様子はなさそうだ、よし。

 

 

「覚悟しな、ガキ。俺たちの邪魔したらどうなるか、思い知らせてやる」

 

「あ、そう」

 

「ナメタ真似を!オラァ!」

 

 

足元が……お留守だよ!そう思って僕は、殴り掛かって来た男の足を蹴り飛ばす。男のよろめきを躱した僕は、更にもう一方の男の腕を掴み、そのまま一気に路地裏の入り口まで投げ飛ばす。

 

 

「なぁにしやがる!」

 

「このガキ……痛い目を見ねぇとわからねぇようだなあ!」

 

「死ねぇ!」

 

 

……あ、そういう事。僕は迫って来る2人の男の顔面に拳を入れ、路地裏の外へと放り出した。そしてその後に【パラライズ】を男2人に掛けて、警備兵へと突き出した。

 

その後に追い詰められていた女の子からお礼を言われ、僕たちはそれに応対をしていた。そして少し歩き回っていると、夕方に時間が迫って来ていた。

 

 

「今日は楽しかったですね〜。お父様たちに結婚の挨拶もできましたし」

 

「まあ、婚約の発表は延期して貰えるみたいだから……少しは気にする事無く生活出来るね」

 

「はい♪」

 

 

そう言って僕たちは、宿屋である『銀月』へと向かって行った。その後にエルゼたち3人に、パンケーキと言うスイーツが新商品として出る事と、それを先にユミナと食べて来たと言う事を伝えると、何時ぞやの状況になってしまった……。更に今回は八重も居るので、僕は正直肩身の狭い想いをする羽目になった。

 

……まっ、リフレッシュ出来たし、これくらいしても罰は当たらないよね?……雷は絶対にごめんだけどさ。




今回はここまでです!如何でしたか?


月曜日に予定投稿できなくて、すみませんでした!ですが、今回は幕間劇と言う形で補う様にしました!次回は本編に戻りまして、ミスミド王国Partをお届けします!

それではまた次回!金曜日にしっかり投稿できるように支度しますので、楽しみに待ってて下さいね!


ちなみに、今回の話の中で『アイスクリーム』の話題が出ましたが、第2章と第3章の間で提案をしているという形を取っています。紛らわしくしてすみません……。原作との相違点が今後も何処かで出て来るので、そこら辺はご愛敬として見てくださいな。


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