帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者 (竜の蹄)
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一章 金色の竜
quest0 新たなる戦い 【挿絵付き】


百獣戦隊ガオレンジャーの二次創作です。
ガオレンジャーが好き過ぎて以前から温めていましたが今回、思い切って投稿に至りました。
戦隊ヒーローの二次は初の試みなので稚拙な文面が目立ちますが、暖かく見守って下さい‼︎



【挿絵表示】



 かつて、文明の発達や人類増加による環境汚染、生態系の変化から生命力の弱った地球には……邪悪なる生命体が跋扈する危機に陥った。

 地球生命の減少により生み出された『邪気』が具現化した鬼の一族『オルグ』

 彼等は疲弊した地球にトドメを刺さんとばかりに増大し、人類に牙を剥いた。

 だが、その野望を阻止するべく立ち上がった6人の戦士達が居た

 彼等は地球の生命力が生み出した大地の精霊『パワーアニマル』の力を借り、幾多もの戦いを乗り越え、遂にオルグの王を打ち倒し、全てのオルグを消滅させた。

 彼等の名は……命ある所に正義の雄叫びあり‼︎ 百獣戦隊ガオレンジャー‼︎

 

 

 それから、19年後……。

 地球は再び、新たな危機を迎えようとしていた……。

 

 

 天空に浮かぶパワーアニマル達の聖地『天空島アニマリウム』

 

 

「来たぞ‼︎」

 

 赤い衣と獅子を象ったマスクを着用する戦士……【灼熱の獅子】ガオレッド。

 

「くそッ‼︎ なんて数だ‼︎」

 

 黄色い衣と鷲を象ったマスクを着用する戦士……【孤高の荒鷲】ガオイエロー。

 

「またしても、オルグが現れるなんて‼︎」

 

 青い衣と鮫を象ったマスクを着用する戦士……【怒濤の鮫】ガオブルー。

 

「19年前の比じゃ無いぞ‼︎」

 

 黒い衣と牛を象ったマスクを着用する戦士……【鋼の猛牛】ガオブラック。

 

「センキを倒して、オルグは消滅したんじゃ無いの⁉︎」

 

 白い衣と虎を象ったマスクを着用する戦士……【麗しの白虎】ガオホワイト。

 

「……オルグは不滅……まさか、本当だったとは……!」

 

 銀の衣と狼を象ったマスクを着用する戦士……【閃烈の銀狼】ガオシルバー。

 

 彼等こそ、19年前にオルグの侵攻から地球を守り抜いた歴戦の戦士、ガオレンジャーである。

 戦いを終えた後、彼等は各々の生活へ戻り平和な日々を享受していたが、かつて彼等と共に戦ったガオの巫女テトムより、招集を受けた

 19年前、消滅した筈のオルグが天空島に総攻撃を仕掛けて来た、と

 かつての仲間の危機に、ガオレンジャーは天空島に集結した。だが其処で彼等を出迎えたのは、19年前を優に上回る数のオルグ達だった。

 

「フハハハハハハッ‼︎ 待っていたぞ、ガオレンジャー‼︎ 今こそ、19年前の借りを返してくれようぞ‼︎」

 

 オルグ達を束ねる一際、巨大な一本角のオルグ……通称『ハイネスデューク』

 だが彼等は目の前のハイネスを知らない。少なくとも、19年前には姿を見せなかった奴だ。オルグ特有の長い角と黒い体色、背中から突き出す胴体と遜色無い巨大な掌……。

 

「お前は誰だ‼︎」

 

 ガオレッドは果敢にも、ハイネスに怒鳴る。ハイネスは邪悪に、ほくそ笑む。

 

「余の名を知らぬか……。ならば、教えてやろう‼︎ 余は、新たなるオルグの王テンマ‼︎

 そして、地球の支配者となる者よ‼︎」

 

 ハイネス改め、テンマは傲岸不遜に名乗る。

 今度は、ガオイエローが叫ぶ。

 

「一体、何しに天空島に来た‼︎」

「何しに……? うつけめ‼︎ 決まっておろうが‼︎ 我ら、オルグの目的は1つ‼︎ 地球の支配の邪魔となる不倶戴天の仇敵、ガオの戦士とパワーアニマル共を根絶やしにする為だ‼︎

 

 テンマは高らかに宣言する。ガオブルーが、ガオイエローに続いた。

 

「その為だけに、この数のオルグを⁉︎」

 

 ガオブルーが訝しむのも無理は無い。最下級の鬼オルゲットだけでも千は下らず、二本角のオルグの数は百を凌ぐ。テンマは高らかに嗤った。

 

「その為だけよ‼︎ 貴様等には愚かな先人共が痛い目を見ている故な‼︎ 余は、シュテンやウラ、ラセツとは違う‼︎ 奴等は、強大な力を持つが故に驕り高ぶった‼︎ だから、人間などに敗北したのだ‼︎ 当然の結果よ‼︎」

 

 テンマの口から放たれる、かつてガオレンジャーと戦った、ハイネス達の名。しかし、テンマの口ぶりは、彼等に対する侮蔑が込められていた。

 

「その口ぶりでは、シュテン達の敵討ち、て訳じゃ無さそうだな?」

 

 ガオブラックが尋ねる。再び、テンマは笑う。笑う度に、後ろの手が揺れ動いた。

 

「敵討ち? 笑止な‼︎ 何故に余が奴等の敵討ち等せねばならぬ⁉︎ 所詮、奴等は戦いに敗れた負け犬よ‼︎ そもそも我ら、オルグに仲間意識等、カケラも無いわ‼︎」

「…非道い…‼︎」

 

 ガオホワイトは、拳を握りしめ怒りに震える。確かに、自分達が倒してきたオルグ達も一部の例外を除いて、仲間を思いやる感情は無かった。彼等にあるのは、人間への敵対心と破壊行為……それだけだ。

 

「無駄だ、ホワイト。奴等に人間の感情等、通用しない。そういう奴等だ」

 

 ガオシルバーは淡々と呟いた。彼のみ唯一、1,000年前から、オルグと戦ってきた。連中が、どういう奴等だと言う事は、嫌と言う程、解っているつもりだ。

 

「……テンマ、1つ聞かせろ。俺達を倒して、その後どうする気だ?」

 

 ガオレッドは冷静に尋ねる。その言葉を、テンマは嘲る様に言った。

 

「どうする気だと? 無論、地球を我等、オルグの支配下とするまでよ‼︎ 反対に聞かせろ、ガオレッドとやら。貴様は何の為に戦う?」

「何の為?」

 

 テンマの言葉に、ガオレッドは言葉を詰まらせた。

 

「貴様等、ガオの戦士は地球を守る為、人間を守る為と御題目を掲げ、我等オルグを諸悪として戦いを挑むが、そんな事をしても人間共は感謝などせぬ。寧ろ、貴様等が守ってきた人間共が我等、オルグを生み出しているでは無いか? 考えれば、馬鹿馬鹿しいと思わんか? 愚蒙な人間共の為に戦い、身を裂き血を流し、貴様等に何の利点がある?」

「………」

「人間等、自分達で森を切り開き動物を踏み躙り人間同士で不毛に殺し合っているだけだ‼︎ そんな人間等、守った所、無駄では無いか? 我等、オルグの様に人を痛めつけ、傅かせる方が利口だと思わんか⁉︎」

「……思わない‼︎」

「レッド?」

 

 今迄、黙り込んでいたガオレッドは叫ぶ。ガオイエローは驚いて見た。

 

「ああ、確かにそうさ‼︎ お前の言う通り、人間は自分勝手で救いようの無い奴だっている‼︎ でもな‼︎ 全ての人間が、そうじゃ無い‼︎ 中には動物や他者を思いやる人間だって居るんだ‼︎ そんな人達の幸せを踏み躙る資格なんか俺にもお前にも無いんだよ、テンマ‼︎」

 

 ガオレッドは激しく憤る。確かに人間は手前勝手な人間が多い。これは覆しようの無い事実だ。だが、全てがそうでは無い。動物を思いやり共存を図ろうとする人間だって居る。

 それを知っているからこそ、ガオレッドは戦うのだ。大切な人達の為に……。

 

「それにな、俺は獣医だ‼︎ 医者は助けを求める声に応えない訳には行かない‼︎」

 

 ガオレッドこと獅子 走は獣医だ。動物を愛する気持ちは誰にも負けない。かつて、ガオレンジャーとなった、あの日も同じ言葉で、ガオレッドとなったのだ。その気持ちは今も変わらない。

 

「ふん……青臭い事を吐きおって……。良かろう、ならば貴様等の理想諸共、消し飛ばしてくれるわ‼︎

 

 

 掛かれェェェェいッ!!!」

 

 テンマが号令を掛けると、数多のオルグ達が一斉に飛びかかって来た。

 

「皆、行くぞォォォッ‼︎」

「おおおォォォッ!!!」

 

 ガオレッドの号令を聞き、ガオレンジャー達も応戦に掛かる。自分達の敗北は世界の最後だ。負ける事は許されない。

 

 

 

 戦いを見守る様に高台に立つ白装束の女性、ガオの巫女テトムだ。

 

「お願いします、御先代様……おばあちゃん……。彼等を、御守り下さい……‼︎」

 

 かくして、世界の命運を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた

 

 

 

 地上の、とある町では1人の少年が目を覚ます。夢を見ていた。夢と片付けるには生々しい夢だ。

 少年は額の寝汗を拭いながら、まだ夜闇が支配する町を見る。町は至って平和な夜だ。

 

 

 少年は知らなかった。既に運命の歯車は動き出している事を……。



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quest1 伝説、目醒める‼︎【挿絵付き】

今回から本編突入です。
しばらく目立った戦闘シーンはありませんが、日常編から楽しんで下さい‼︎

では、どうぞ‼︎


 東京都の郊外に位置する小さな町、竜胆町。都会の喧騒から離れている為、静かな町だ。

 その町の外れにある小さなアパート……。アパートのドアには「竜崎」と言う表札が掛けられ、室内は暖かな朝日に照らされている 。

 部屋の一室では1人の少年が寝ている……。だが、何時までも寝てられないだろう……。少年が、ゴロリと寝返りを打つと……。

 

「兄さん、 起きて‼︎ 朝御飯だよ‼︎」

 

 ほらね……少年は、まだ夢現の状態で思う。次に来るのは……。

 

「もう‼︎ 早く起きないと、お味噌汁覚めちゃうよ⁉︎」

 

 何時ものパターンだ……。朝御飯、味噌汁、さあ次は……。

 

 

「お・き・ろ〜〜‼︎」

 

 

 少年の耳元で大声で叫ぶ。とうとう観念した少年は、もそもそと起きた。

 

「……煩いな、聴こえてるよ……」

 

 少年は寝ぼけ眼を擦りながら、仁王立ちで睨む少女を見た。良かった、何時ものパターンだ……。

 

「もう……やっと起きた‼︎ 早くしないと遅刻するじゃ無い‼︎」

 

 少女は、ブツブツ言いながら部屋を出て行く。少年はベッドから降りながら、昨晩の夢を思い返してみる。実に奇妙な夢だった。テレビの中に出てくる様な戦士が化け物と戦っている……高校生にもなって、こんな幼稚な夢を見るなんて……。友達に話せば馬鹿笑いは必至だろうな……等と考えていると。

 

「兄さん、まだ〜〜⁉︎」

 

 さて……これ以上、待たせたら益々、彼女の機嫌を損ねてしまう……。少年はパジャマを脱いで制服に着替えた。

 

 

 少年の名は竜崎 陽。竜胆高校に通う、ごく平凡な高校生だ。家族は中学2年生の妹が1人。妹の名は……

 

「兄さん、ご飯とパンどっちが良い?」

「どっちって味噌汁なら、ご飯しか無いだろ、祈」

「兄さん、遅れてるよ? パンは味噌汁にも合うのよ」

 

 初耳だ、そんな事……陽は苦笑する。彼女が竜崎 祈。3歳下の妹で中学生……。毎日、陽の世話を焼いてくれる。友達は「羨ましい」なんて言われるが、陽からすれば単なる、お節介でしか無い。以前「朝御飯くらい通学中にコンビニに買って食べるから」と言った時も、目を吊り上げながら「駄目‼︎ ちゃんと、バランス良く食べ無いと、すぐ身体が駄目になっちゃうんだから‼︎」等と、保険の先生みたいな事を言い出す始末である。

 

「……え、ねえ、兄さんったら‼︎」

 

 身体を揺さぶられて陽は我に帰る。祈が不満気に見ていた。

 

「私の話、聴いてた⁉︎」

 

 どうやら、何か喋ってたらしい。陽は苦笑いで祈を見る。

 

「ごめん、聴いてなかった」

 

 祈は、呆れた様にため息を吐く。

 

「お味噌汁は薄いか濃いかって聴いたの‼︎」

 

 お前は新婚ホヤホヤの新妻か……陽は心中でツッコミを入れる。

 

「どっちでも良いよ、そんなの……」

 

 と言うと、祈は怒り出す。

 

「どっちでも良いって何⁉︎ 私が折角、作ったお味噌汁が、どっちでも良いって……もう知らない‼︎」

 

 祈は陽の向かいに座り、不機嫌に朝食に有り付く。こうなったら、機嫌を取っとかないと後々、面倒である。陽は、作戦をシフトした。

 

「祈の作ってくれた料理が不味い訳ないだろ? だから、どっちでも良い」

 

 と囁いた。すると祈は……。

 

「……ほ、ほんと?」

 

 ほら食い付いた、我が妹ながら単純な奴だ…と、陽は笑う。だが耳まで真っ赤に染めている辺り、効果はあったらしい。

 

「ほんと。ほら、早く食べないと遅刻するぞ?」

 

「……うん……」

 

 これが竜崎家の朝だ。数年前、両親を相次いで亡くしてからは、2人で暮らしてきた。遠方に住んでおり毎月、仕送りしてくれる叔父が一緒に暮らさないか、と誘ってくれているが……。

 

 

「それでね、舞花が……」

 

 通学中も祈は学校での出来事を話してきた。今でこそ元気だが、2人の両親は死んだ時は見てられない位、消沈していた。一時期、祈は病気がちになった事さえあった。

 医者は「精神的なもの」と言っていたが、ここ最近で漸く、笑顔を見せる様になったのだ。

 

【挿絵表示】

 

「ねえ、兄さん? どうしたの、ボーッとしちゃって?」

 

 祈が覗き込む様に陽を見ている。心配そうな顔だ。ふと昨夜、見た夢を思い出した陽。

 

「……昨日、夢を見たんだ……」

「夢?」

 

 祈は首を傾げる。構わず、陽は続けた。

 

「夢の中で赤や黄色の服を着た戦士が化け物と戦う夢」

 

 自分で話しておいて何だが、陳腐な夢だ。自嘲気味に陽は笑うと、祈は心底、心配そうに見ていた。

 

「……兄さん、疲れてるのよ。バイトのシフト、減らしたら?」

 

 どうやら自分が過労により幻覚を見た、と思っているらしい。陽は小さくため息を吐いた。

 

「……そうかもな。疲れてるかもな……」

 

 祈が不安に思うのも無理は無い。高校に入ってから、バイト漬けの毎日だった。学校が終わったら、ファミレスのバイト……土日、祝日も出勤だ。そんなんだから、変な夢を見てしまうのかも……。

 

「オッス‼︎ お2人さん、おはよう‼︎」

 

 ふと後ろから元気な声がして来た。振り返ると、幼馴染の2人組が笑っていた。1人は乾 猛。陽の小学校の頃からの付き合いで悪友だ。どうやら祈に気があるらしい。もう1人は申利 昇。中学に入ってから仲良くなり、高校進学後も付き合いは続いている。

 

「祈ちゃん、今日も可愛いね! 今度、遊びに行かない?」

「あはは……機会がありましたら……」

 

 猛のアタックに祈は、やんわりと断る。昇は呆れていた。

 

「お前も懲りないな、毎朝毎朝……。祈ちゃんが、お前なんかに興味持つ訳ないだろ?」

 

 クールに皮肉を言う昇に、猛は突っ掛かる。。

 

「ウルセェ‼︎ あ〜あ〜、陽は良いよな〜。こんな可愛い妹と毎日、一緒だろ? 羨まし過ぎるぜ、この野郎!」

「猛だって舞花ちゃんが居るだろ?」

 

 陽は笑いながら返す。猛は、ケッと不貞腐れた。

 

「舞花? 冗談じゃねェや、あんなの‼︎ 祈ちゃんと比べりゃ月とスッポンだぜ‼︎ クソ真面目だし口より先に手は出るし貧乳だし……」

「そこ関係あるのか?」

 

 昇のツッコミに対し、猛は信じられない、と言った具合に昇を見る。

 

「たりめーだ‼︎ その点、祈ちゃんは可愛いし気は付くし飯は美味いし‼︎ あ〜、次に生まれてくる時は陽に生まれてェ……」

 

 なんだ、その願望は……陽は呆れていると……。

 

「ふ〜〜〜〜ん。じゃあ今すぐ、来世に送って上げようか、バカ兄貴?」

 

 ふと低い声がする。猛が顔を青くして振り返ると、激おこプンプン丸状態の女の子が立っていた。

 

「あ……いらっしゃったんですか、舞花さ……」

「くたばれ‼︎」

 

 問答無用で、猛の顔面に強烈な蹴りを放つ。猛は見事にひっくり返ってしまう。

 

「相変わらず見事な上段蹴りだね……」

「空手部だからな」

 

 冷静に陽と昇は分析する。彼女が猛の妹で乾 舞花

 可憐な名前とは裏腹に、とてもワイルドな女の子である。祈とは親友であり、ついでに空手部だ。

 

「ごめんね、祈‼︎ ウチのバカ兄貴が……‼︎」

「良いよ私は……。でも猛さん、大丈夫?」

 

 祈は猛を気遣うが、舞花はフンッとそっぽを向く。

 

「平気よ‼︎ 普段は殺したって死なない、ゴキブリ並みの生命力だから‼︎」

 

 実兄に対し、あまりと言えばあんまりな言い草である。其処へ昇がフォローに入る。

 

「こんな馬鹿でも兄さんだから、暴力は良くない。あと、女の子がみだりに足を晒すのは、はしたないぞ?」

 

 昇の注意に、舞花は顔を赤らめる。

 

「あ、あわわ……ごめんなさい、昇さん。お見苦しい所を……」

「謝んのは、そっちじゃねェだろ‼︎」

 

 復活した猛は立ち上がり、舞花に突っかかる。舞花はシレッとした顔で見る。

 

「兄貴の顔を、こんなにして言う事はねェか⁉︎」

「何よ? その酷い顔に生まれたのは私の所為じゃないわ」

「俺と親父とお袋に謝れ‼︎」

 

 毎日のパターンだ。陽は小さく肩を竦めてみせる。性格の似たり寄ったりの2人は毎朝、喧嘩となる。さて、何時までも喧嘩させてる場合じゃ無いとして。

 

「取り込み中、悪いけど……そろそろ行かないと遅刻するぞ?」

 

 陽が言うと、2人は喧嘩する手を止める。こうして、祈達と別れた後、陽達は高校へと向かった。

 

 

 

 学校に着いた陽は、何時も通り授業を受ける。窓際にある席から、外を眺めると清々しい迄に快晴だ。教壇では歴史教師が「かの関ヶ原では〜」とか「つまり徳川 家康は〜」等と念仏みたいに繰り返しているが、真面目に聴いている生徒は少ない。

 目の前に座る猛に至っては、頬杖を付いて寝息を立てている。先生は気付いていない。陽は彼の背中をシャーペンで突いてやった。目が醒めない。その時……。

 

『目醒めろ……』

 

 突然、陽の耳に響く妙に靄がかかった様な声……。周りを見回すが、周りの生徒じゃ無いらしい。空耳だったんだろうか?

 

『早く目醒めろ……。残された時間は少ない……』

 

 まただ……。誰だろう、陽の耳に語りかけてくるのは……。だが、別の声が現実に引き戻す。

 

「乾‼︎ 俺の授業中に寝るとは良い度胸だな?」

 

 歴史教師が猛に向かって怒鳴る。おずおずと猛は顔を上げる。

 

「すいませーん……昨日、徹夜で勉強してて……」

「ほう? ならば、この問題を完璧に解けるという訳か。乾、解いて見ろ」

 

 教師の言葉に猛は立ち上がるが、トンチンカンな解答ばかり繰り返す。挙句には、江戸幕府の二代目将軍は織田信長だとか、言い出した。

 

「……もう良い、乾。座って宜しい。申利、代わりに解いてくれ」

 

 疲弊した様に教師は、猛を座らせる。猛は「あれ?」と頓狂な顔をするが、教室中は大爆笑の嵐だ。

 

「……お前、小学校から、やり直した方が良いぞ……」

 

 陽は小声で嫌味を言ってやった。猛は何が何だか解らない、と言った具合だったが……。

 

 

 ー時は満ちた……ー

 

 そこは、全ての景観が捻れた様な異様な空間だった

 人の気配は感じられ無い。あるのは巨大な3つの影……。

 

 ー再び、オルグが動き出す……地球に危機が訪れた……

 

 一際、巨大な影が唸る。

 

 ー戦士は倒され、精霊達は全滅した……。どうやら、我々の出番の様だ……ー

 

 隣に佇む影が言った。

 

 ー地球の危機は我等の危機……いざ、参ろう……ー

 

 3つの中で小柄な影が言った。其れだけ言うと、影は消え去った……。

 

 

「…祈? …ああ、今からバイト。…大丈夫だよ、8時には帰るから。遅くなる様なら、先に食べて寝てろよ。…うん、じゃあな」

 

 放課後、陽は商店街を歩きながら祈への電話を切った。これから、バイトだ。正直、叔父からの仕送りだけで学費と生活費を充分、賄えるのだが、いずれは自分は大学、祈は高校に進学すれば金は必要になる。

 貯蓄しておくに越した事は無い……。

 夕闇に染まる空を見上げなら、ふと考える。両親が死んで、祈と2人で生きてきた日々。端から見れば不幸な境遇に置かれた兄妹なのだろうが、陽自身は不幸であると感じた事は無い。確かに祈は、思春期の多感な時期に親が居なくなったのは辛かった筈だが……。

 ややドライ過ぎると言う自覚はあったが、あの時は自分が祈を守らなきゃならない、という重責が悲しむ余裕すら与えてくれなかった。気が付けば、兄1人妹1人の2人暮らしも返って気兼ねがしない心地よい空間にさえ思えた。きっと、これからも、この暮らしは変わらないだろう……。いつか、祈が大人になり恋人を連れて来たら……等と陽は考えながら、足を進めると…。

 

「……もし、其処の方……」

「はい?」

 

 自分に声を掛けられた気がして、振り返ってみる。其処には、如何にも怪しい格好をした黒ずくめの女が居た。

 

「…あの、僕に何か…?」

「…ええ。貴方ですよ。私は貴方を探して居ましたのよ」

 

 変な事を言う……少なくとも、マトモな人間じゃ無いのは一目瞭然である。変なのに絡まれた、と陽は返事を返したのを後悔する。

 

「…失礼ですが、僕は貴方を知りませんが…」

 

 事実だ。こんな場末の占い師みたいな、おばさんにはあった事が無い。しかし、女はニッコリ笑った。

 

「いえ……私は貴方を知っていますわ……」

「すいませんが急いでるんで……では」

 

 陽は、サッサと踵を返す。こういう輩には近付かない事が無難だ。君子危うきに近寄らず……そう結論付け、彼女から離れて行った。

 

「そうは参りませんわ。貴方には……死んで貰うわよ‼︎」

 

 急に語気を荒げた女に異変を感じ陽は振り返ると、女は杖を振り下ろしてきた。寸での所で、陽は身を躱した。

 

「‼︎ いきなり何をする⁉︎」

 

「あらあら、大した動体視力ね? でも次は外さなくてよ?」

 

 女は、尋常では無い空気を醸し出してくる。陽は瞬時に理解した。この女は、マトモじゃ無い所では無い。危険だ、と。

 

「ヤバイバ‼︎」

 

 女が叫ぶと突然、身体を誰かが抑え付ける。陽は、もがいて振り払おうとするが、物凄い力だ

 

「ヘッヘッヘッ、無駄無駄ァ! 唯の人間に、オルグの怪力を振り解けるかよ‼︎」

 

 顔を見た途端、陽は絶句した。白い肌の奇怪な男が身体を抑えつけていたからだ。何より驚いたのは、男の頭から伸びる長い角だ。

 

「ツエツエ、今だ‼︎ やっちまえ‼︎」

「は、離せ‼︎」

 

 陽は必死になり抗うが、ヤバイバと呼ばれたそいつは緩めようとしない。ツエツエと呼ばれた女が近づいて来た。

 

「ホホホ、悪く思わないでね。貴方が、ガオレンジャーになる前に始末しときたいの。恨むなら、自分の不運を恨みなさい‼︎」

 

 ツエツエは高々に杖を振り上げ、陽の脳天めがけて振り下ろしてきた。マズイ、このままじゃ……。

 だが、むざむざ殺される気は無い、と振り下ろされんとした杖を反対に蹴り上げた。杖は弾き飛ばされ、ツエツエはアタフタとしていた。

 

「……チャンス‼︎」

 

 今度は、ヤバイバの脛を蹴り飛ばしてやった。ヤバイバは痛そうに転げ回る

 

「いでいでいで〜〜‼︎」

「よくも、やったわね‼︎」

 

 ツエツエは憎々しげに睨むが、最後まで聴いてやる必要は無い。背を向けるや否や、陽は一目散に逃げる。

 

「ヤバイバ、痛がってる場合じゃ無いわよ‼︎ 早く、あいつを殺さないと私達が酷い目に遭わされるわ‼︎」

「ああ…‼︎ 相変わらず、扱き使われるんだな、俺達……」

 

 何か言ってるが知った事じゃ無い。コスプレ好きの通り魔か? 最早、訳が解らないが、今は考えている暇は無さそうだ。兎に角、逃げるが勝ちだ。

 だが、走りながら陽は気付いた。商店街の異変に……。まだ夕方にも関わらず、人気が無さすぎる。まるで住人が消えてしまった様だ……。しかし、気付くのに遅過ぎた。

 

「ゲットゲット‼︎ オルゲット‼︎

 

 突然、商店街の店や果てはマンホールの中から、見た事の無い異形の集団が飛び出して来た。頭には小さなコブみたいな突起があり、手には棍棒を携えている。

 

「こ、こいつ等は⁉︎」

「ホホホ、もう逃げられ無いわよ‼︎」

 

 気付くと、ツエツエとヤバイバも追い付いてきた。前は異形の集団、後ろはツエツエ達……袋のネズミとはこの事だ……。

 

「さあ観念しなァ‼︎ 大人しくしてりゃ苦しまずに死なせてやるぜ‼︎」

 

 ジリジリと詰め寄ってくる。退路を絶たれ、壁際まで追い込まれてしまう。

 

 

 ー切羽詰まっている様だなー

 

 

 陽の頭の中に声が響き渡る。

 

「? なんだ、この声は?」

 

 辺りを見回すが姿は無い。代わりに左手首に、竜の形をした携帯電話みたいな物が装着されていた。

 

「こ、これは⁉︎」

 

 陽は困惑した。だが、声の主は

 

 ーそれを使え。我々の力を貸してやるー

 

「使えって言われても……」

 

 ーさっさとしろ。使い方は知っている筈だー

 

 そんな無茶な……。そうしてる間に、ツエツエ達が騒ぎ始めた。

 

「こいつは、やばいバ‼︎ あれは、ガオの戦士の⁉︎」

「チィ‼︎ オルゲット、あれを奪え‼︎」

「ゲットゲット‼︎」

 

 どうやら向こうは待ってくれ無いらしい。もう考えて暇は無さそうだ。不思議に、どう使えば良いかの情報は頭の中に流れ込んできた。携帯を手に取り、コードを入力する。

 

 

『ガオアクセス‼︎ ハァ‼︎」

 

 

 すると身体を光の粒子が包み込んでいく。更に続けて叫んだ

 

『サモン・スピリット・オブ・ジ・アース‼︎』

 

 粒子が身体に集結し固形化していく。金色の戦闘着と変わり、頭部に竜を模したマスクが装着されて、変身が終了した。

 

「しまったァァ⁉︎」

 

 ヤバイバは叫ぶ。全く状況が飲み込め無いが、身体が勝手に動き出した。

 

 

「天照の竜‼︎

 

 ガオゴールド‼︎」

 

 

 〜今此処に、新たなガオの戦士の伝説が目を醒ましたのです〜



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quest2 竜、戦う‼︎

今回は戦闘メインです。そして、原作からの登場人物も出ます‼︎

それでは、本編どうぞ‼︎


 ガオゴールドは、迫り来るオルゲット達の攻撃をヒラリヒラリと躱す。不思議な事に、生身の頃とは比べ物にならない位、俊敏に動作が取れる。

 

「ハァァッ‼︎」

 

 試しに殴り付けると、オルゲットは吹き飛ばされて行く。凄い力だ。

 

「クソッ‼︎ やっぱり強過ぎるぜ、ガオレンジャー‼︎」

「何やってるの‼︎ たった1人に手こずってるんじゃ無いわよ‼︎ 」

 

 ヤバイバとツエツエは各々に叫ぶ。オルゲット達は物量の差で攻めて来るが、ガオゴールドは手袋に装着された爪を用いてオルゲットを切りつける。身体を切り裂かれたオルゲットは水を吐き出しながら消滅していく

 

「(妙だな……初めてなのに、次にどう動けば良いか解るぞ!)」

 

 ガオゴールドは戦いながらも、まるで身体が何かに操られている様な感覚に違和感を覚えた。次は、どう動けば良いか、どっちに躱せば良いか頭の中に語り掛けて来る様だった。オルゲット達は数を減らされていき、ツエツエは焦りを隠せない

 

「もう良いわ、退きなさい‼︎ ヤバイバ、行くわよ‼︎」

「よ、よーし‼︎」

 

 オルゲット達を退かせると、今度はツエツエ、ヤバイバが出てきた。腐っても、オルゲットよりは上の実力者である。2人掛かりで、挑みかかってきた

 

「覚悟しなさいよ、鬼地獄帰りの力、見せてあげるわ‼︎」

「八つ裂きにしてやるぜェッ!!!」

 

 ガオゴールドは同時に威嚇してくる。ふと、ガオゴールドの頭の中に声が聞こえて来た

 

 

 −''破邪の爪''を使え−

 

 

 ガオゴールドは声に驚きながらも確かに聴いた。破邪の爪? 何の事だ? だが考える暇も無く、ガオゴールドの両手に光が走る

 

「こ、これは?」

 

 光が収まると同時に両手には、蝙蝠の翼に似た金色の二振りの剣が握られていた。これが破邪の爪?

 

 

 −ドラグーンウィング−

 

 

 また声が聴こえてきた。この剣の名前だろうか? 一体全体、分からなかったが……もう考えている場合では無い。ヤケになったガオゴールドは剣を手に、先ずはヤバイバに斬りかかった

 

「グエッ‼︎」

 

 斬撃を受けたヤバイバは大きく仰け反る。だが、致命傷には至ってない。続いてはツエツエだ

 

「チィッ‼︎」

 

 間一髪、杖で受け止めたツエツエだが、力で押し切られバランスを崩す

 

「凄い力だ‼︎ どうなってる⁉︎」

「予定より早いけど仕方が無いわ‼︎ チェーンソーオルグ‼︎ 出番よ‼︎」

 

 ツエツエが叫ぶと、2人の後ろから奇怪な面相に右腕にチェーンソーが融合した怪人が現れた。頭にはツエツエやヤバイバ同様、角が二本、生えている

 

「チェーンソーオルグ‼︎ 奴を切り刻むのよ‼︎」

「ウガァァァッ‼︎」

 

 ツエツエの命令に、チェーンソーオルグは咆哮を上げる。すると右腕のチェーンソーが唸り始め、ガオゴールドに切り掛かってきた

 

「くッ‼︎」

 

 ガオゴールドは、ドラグーンウィングで受け止めるが、激しく動作するチェーンソーの刃を受け止め切れずに弾かれてしまう。一瞬の隙を見せた際に、チェーンソーの刃が、ガオゴールドの胸から腹部に食い込んだ

 

「ぐああッ!!!」

 

 激しい痛みが襲う。チェーンソーに身体を切り裂かれたのだから、当然と言えば当然である。だが、致命傷では無い。何とか体勢を整え直すが、ダメージの余波が残りフラつく

 

「ヒャハハハ、良いぞ良いぞ‼︎ もっともっと痛めつけろ‼︎」

 

 ヤバイバが囃し立ててきた。状況は極めて悪い。ガオゴールドは考える。あの、チェーンソーを何とかしない限りは奴の間合いに踏み込む事も難しい。どうすれば……ふと、ガオゴールドは思い付く

 

「(だったら敵から来させてやれば……‼︎)」

 

 見た所、チェーンソーオルグは力で押すだけの脳筋だ。ならば……

 

「大層な武器を持って振り回すだけか⁉︎ 力は強くても頭は弱いんだな、脳筋野郎‼︎」

 

 ガオゴールドは挑発する。案の定、チェーンソーオルグは怒り狂った。ガオゴールドの脳裏に幼少の頃の記憶がフラッシュバックする

 

 

 幼少時、身体が弱い為、鹿児島に住む武術の達人である叔父と従姉に武芸を学んでいた。その際に叔父から学んだ言葉がある

 

 ー己より強い敵には挑みかかるな‼︎ 相手から来させて隙を突くのだ‼︎ 肉を切らせて骨を断つ、これを忘れるな‼︎ー

 

 

「……肉を切らせて……骨を断つ‼︎」

 

 ガオゴールドは見極める。敢えて敵に攻めさせ、勝機の無い戦いに勝機を作る。チェーンソーオルグは怒りに任せ突撃し、チェーンソーを思い切り振り上げた

 

「(来た‼︎ 大振り‼︎)」

 

 ガオゴールドは確信する。奴は攻撃する際、必ず腕を振りかぶる。そしてチェーンソーを振り下ろして来た所を、ガオゴールドは後退した

 

「ウガ?」

 

 チェーンソーオルグは振り下ろしたチェーンソーが、アスファルトに食い込んでしまい、深々と突き刺さってしまった。引き抜こうとするが、チェーンソーは抜けない

 

「何やってるの、この間抜け‼︎」

 

 ツエツエが不甲斐ないチェーンソーオルグを叱責するが、もう遅い。ガオゴールドは隙だらけの上体にドラグーンウィングを十字に斬った

 

「ウガァァァッ⁉︎」

 

 斬られた事で、チェーンソーオルグは慟哭するが、もう遅い。ガオゴールドは飛び上がり両腕に力を溜めた。ドラグーンウィングに光が纏われていく

 

「竜翼……日輪斬り!!!」

 

 またしても勝手に身体と口が動いて剣を振るうと刃から光が放出され、日輪を模した円形斬撃が放たれた。斬撃はチェーンソーオルグに直撃し無残にも爆散した

 

「ああ、チェーンソーオルグが⁉︎」

 

 ヤバイバは叫ぶも、チェーンソーオルグはバラバラになって崩れ落ちる。勝った、ガオゴールドは勝利を確信したが、ツエツエはニヤリと笑う

 

「まだよ‼︎ こっちには切り札があるわ‼︎」

 

 ツエツエは杖から種の様な物を取り出し、チェーンソーオルグの残骸に投げつける。そして杖を振るいながら唱え始める

 

「オルグシードよ‼︎ 消え行かんとする邪悪に再び巨大な力を‼︎ 鬼は内‼︎ 福は外‼︎」

 

 ツエツエの呪文を言い終わると同時に、チェーンソーオルグの四肢は再生し巨大化して行く。見る見る間に、ビルをも上回る巨大な怪物と化して、チェーンソーオルグは立ち上がった

 

「な⁉︎ 馬鹿な⁉︎」

 

 ガオゴールドは驚愕する。倒した筈のチェーンソーオルグが蘇り巨大な姿で動き出したのだから無理も無い

 

「さァ、チェーンソーオルグ‼︎ 踏み潰しておやり‼︎」

 

『ウガァァァッッ!!!!』

 

 チェーンソーオルグは、ガオゴールド目掛けて歩み始める。ガオゴールドは剣で足を斬りつけるが、チェーンソーオルグは、ビクともし無い具合に動きを止め無い

 

「どうしたら……⁉︎」

 

 今度こそ絶体絶命だ。ガオゴールドは迫り来る巨足のに飲み込まれる。脳裏には祈や友達の姿がよぎる

 

「(ゴメン、祈……ゴメン、皆……‼︎)」

 

 もう、どうにも成らない。ガオゴールドは目を閉じる……が、突然、頭上で爆発音がした

 

『ウガガガァァッ!⁉︎』

 

 見上げてみると、チェーンソーオルグが苦しんでいる。すると、再び後方から火球が2発、飛んできてチェーンソーオルグに激突した

 

「今度は何だ⁉︎」

 

 後ろを振り返ると、空上から舞い降りてくる巨大な影……。それは、ガオゴールドの真後ろに降り立った

 

『グオオォォォッ!‼︎』

 

 それは巨大な赤色の竜だった。映画や漫画に出てくる西洋のドラゴンが、チェーンソーオルグと対峙していた。だが、身体は生物より鉄の塊の様な無機質な身体だ

 

「……ドラゴン……⁉︎」

 

 最早、思考が完全に追い付かない。変身した自分、異形の怪物、終いにはドラゴンと来た。夢、と片付けるには生々しすぎる

 

「あれは⁉︎ パワーアニマル⁉︎」

「あんな奴、知らねェぞ⁉︎」

 

 ツエツエとヤバイバも騒ぎ立てていた。パワーアニマルと言うらしいが、どうやら奴らも知らないらしい。ドラゴンは尻尾を振って、チェーンソーオルグに叩き付けた

 

『ウガァァッ!⁉︎』

 

 チェーンソーオルグは民家の無い空き地部分に吹っ飛ばされた。怒り狂うチェーンソーオルグだが、ドラゴンはジリジリと近付く。その時、チェーンソーオルグの背面に2つの影が突進した

 

『ウガガ⁉︎』

 

 其れ等はドラゴンの横に並ぶ。右は青色のユニコーンと黄色のグリフォンだ

 

「……ユニコーンと……グリフォン⁉︎」

 

 ドラゴン、ユニコーン、そしてグリフォン。何れも神話に出てくる伝説の獣……。其れ等が、チェーンソーオルグに威嚇しながら対峙して居る

 

「味方……なのか?」

 

 ガオゴールドは突然、現れた3体の巨獣を疑問を抱く。自分を助けたのかどうかは分からないが、少なくとも、チェーンソーオルグに対して敵意を抱いているのは確かだ

 

『グォォン‼︎』

 

 ドラゴンが咆哮を上げると、ドラゴンの身体がせり上がって行き背中の翼が下がり、更に巨大な体躯になる。次にユニコーンとグリフォンの身体が前倒しに変形し足が体内に収納された。その状態で、ユニコーンがドラゴンの右側に、グリフォンが左側に合体した。すると、ドラゴンの顔が胸元に倒れ込み、別の新しい顔が出現した

 更には、ドラゴンの尻尾が分離してユニコーンの角に装着され、グリフォンの翼が背中に密着する様に閉じられた。あっという間に、3体の巨獣は巨大な剣と盾を携えた騎士へと早変わりした

 

『ウォォォッ!‼︎』

 

 騎士となった巨人は、チェーンソーオルグに斬り掛かった。右腕の剣が、まるでドリルの様に回転してチェーンソーオルグを傷付ける。

 

『ガァァッ……‼︎』

 

 チェーンソーオルグは怯み反撃を出来ずに居る。更に巨人は畳み掛ける様に、剣でチェーンソーオルグを攻撃した

 

『ウォォッ……‼︎』

 

 突然、ドラゴンの口が開かれた。口内が眩い光を発したかと思えば、3体の口から金色に輝く光線が放たれた。其れを受けた、チェーンソーオルグは後ろへと吹っ飛ばされる

 

『ウ…ガ…‼︎!』

 

 断末魔を上げながら、チェーンソーオルグは大爆発し炎上する。巨人は勝鬨の咆哮を上げた

 

「勝った‼︎」

 

 ガオゴールドは勝利に喜ぶ。何にせよ勝ったのだ。ツエツエ達は悔しそうに顔を歪めた

 

「ああ、畜生‼︎ 負けちまった‼︎」

「く‼︎ 一旦、引くわよ‼︎」

 

 ツエツエとヤバイバは姿を消す。残されたガオゴールドは巨人を見上げた。巨人はガオゴールドに近付き、剣の右腕を翳した

 

「ああ……⁉︎」

 

 途端に、ガオゴールドの身体は浮き上がり巨人の中へ消えていった。そして巨人もまた消失した

 

 

 戦いが終わった後、その様子を遠方より2人の影が見ていた

 

「…信じられない…! まだ、パワーアニマルが生き残っていたなんて…‼︎」

「…何にしても彼等が最後の希望ね…」

 

 そう言って2人は、その場を後にした

 

 

 陽はハッと目を覚ます。上体を起こして見回してみると、其処は何時もと変わらない我が家だ。カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる

 

「……夢オチ?」

 

 さっきまでの事は全部、夢だった? だとしたら、何て壮大かつ生々しい夢だったんだろう……。陽は、ホッとした様に、ベッドに横たわった

 

「……何て夢を見てんだ、僕は……」

 

 自分に呆れながらも、陽は夢を思い出してみる。訳の分からない怪物が現れて自分を殺そうとするわ、変身して戦う羽目になるわ、挙句にはドラゴンやら巨大な生き物が出てくると来た

 

「は〜〜、夢で良かった……」

 

 考えてみれば、あんな事が現実にあって良い筈がない。怪物、戦士、巨人……全て空想の産物だ。だが、そんな夢を見るって事は自分自身、そう言った空想に憧れているんだろうか……何て馬鹿な事を考えてる暇は無い。もう直ぐ祈が起こしに来る筈だからだ

 と、その時……

 

「…兄さん…」

 

 ドアが開くと祈が不安そうに見ている。陽は笑顔で妹を見た

 

「祈、おはよう……て、どうかした?」

 

 起こしに来た筈の祈だが、どうも様子が変だ。肩を震わせている。よく見ると目元には涙の後が……

 

「……兄さんのバカ‼︎」

 

 いきなり、祈は陽に近寄り抱きついて来た。陽は全く見当が付かずに、アタフタするばかりだ

 

「…い、祈?」

「バカ! バカァ‼︎ だから無理するなって言ったんじゃ無い‼︎ いつか、こうなるって気はしてたから‼︎」

「ま、待てよ! 落ち着け!」

 

 祈を引き離して落ち着かせようとするが、祈はキッと睨んで来る

 

「落ち着けですって⁉︎ 落ち着ける訳無いじゃ無い‼︎ 兄さんが玄関先で倒れてたのを見た時は私、心臓が止まるかと思ったんだから‼︎」

「げ、玄関先で?」

 

 陽はポカンとする。何だって玄関先で倒れてたんだ?

 祈もまた、陽の様子にポカンとしていた

 

「覚えて無いの? 昨日、私が帰ってきたら兄さん、玄関先でうつ伏せに倒れてたのよ?」

 

 玄関先でうつ伏せ? 益々、分からない。確か、昨日は学校が終わって、バイト先に……

 

「とにかく‼︎ 今日は兄さん、学校を休んで大人しく寝てて‼︎ バイトも暫く禁止だからね‼︎」

「……いや、別に身体は……」

 

 大丈夫、と言い掛けた瞬間、祈の顔が般若の如く険しくなった

 

「駄目です‼︎ もう学校にも、バイト先にも電話したから‼︎ 今日は絶対に安静にしてて‼︎ 私が学校から帰って、もし休んでなかったから一生、口利かないから‼︎」

 

 祈は無理やり陽を寝かせると、部屋から出ようとする。すると思い出した様に振り返る。

 

「それと! お粥、作ってあるから、お腹空いたら食べて‼︎ 約束よ‼︎」

 

 そう言って、祈は慌しく出て行った。陽は横になりながら考える。確か昨日は、バイト先に行く途中、あの怪物が……いや、あれは夢の筈だ。でも、祈は玄関先で倒れてた自分を見たと言うし……祈が嘘をつくとは思えないし……どうなってるんだ?

 陽は寝返りを打つと、左腕に違和感を感じた。まさか、と陽は左腕を掲げると……

 

「……これは……‼︎」

 

 其処には確かにあった。夢の中で見た、あの道具だ。竜の形をした携帯電話状の道具が、自分の左手首に巻き付いている

 

「夢じゃ無かったんだ…‼︎」

 

 陽は確かに昨日、変身した。そして、あの怪物とドラゴン達を目撃した。祈は気付かなかったんだろうか?

 すると携帯電話が突然、鳴り出す。陽はビクッとするが、恐る恐る携帯電話を取り、耳に近付けた

 

「…もしもし…」

 

『目を覚ましたか、竜崎 陽……いや、ガオゴールド……』

 

 聞いた事の無い声だ。何だか妙に低く響く様な声である

 

「誰ですか? 貴方は?」

 

『話している暇は無い……。今直ぐ、家の外に出ろ……」

 

「家の外……? 」

 

 何を言ってるんだろう? しかし、声は急き立てる様に続けた

 

『カーテンの隙間から下を見てみろ」

 

 陽は促され、カーテンを少し開けて見てみる。其処には……薄いグレーに狼の刺繍をした服を着た背の高い青年が見上げていた。関係無いが、中々の美青年である。彼はジッと、この部屋を見続けている

 

『早くしろ。お前は狙われている』

 

「……誰に?」

 

『降りてきたら分かる。早くしろ」

 

 陽は慌てて服を着替えた。祈に大人しく寝ていろ、と言われたが……今は、それ所じゃ無い

 そうして、階段を駆け降りて一階に着くと、あの青年がホームに立っていた

 

「貴方は誰なんですか? 僕が誰に狙われてるって?」

「口で説明するより見せた方が速いな……これを見ろ」

 

 青年は手に持つ携帯電話を見せる。陽の腕に着く物とは些か形が異なるが 間違いなく同一の物だ

 

「お前の昨日の戦いは見せて貰った。オルグ達と戦い、パワーアニマルを呼び寄せた。お前は、ネオ・シャーマンに選ばれたんだ」

「ね……ネオ・シャーマン⁇」

 

 シャーマン? 祈祷師の事か?

 

「そうだ。お前は百獣戦隊ガオレンジャーの一員となって貰う。俺は、ガオレンジャーの1人、大神 月麿だ」

 

 

 〜遂に邂逅した銀の狼と金の竜……この2人の出会いが、新伝説の始まりとなり、ネオ・シャーマンとオルグの戦いの幕開けとなったのです〜




ーオルグ魔人

−チェーンソーオルグ
【モチーフ】チェーンソー

そんざいに扱われ捨てられたチェーンソーに邪気が宿り誕生したオルグ魔人

右腕にチェーンソーが融合しており、武器として用いる。力は強いが、知能は余り高くない。


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quest3 銀狼と金竜 前編

 東京より遠く離れた名も無き孤島……本土の人間からも海鳥も降り立たず、海亀が産卵にさえ訪れない為、無人島に断定されている島がある

 だが、この島には謂れがある

 曰く《島を遠方から見た漁師が鬼を見た》とか《年中、島周りには仄暗い霧が掛かっている》とか、遂には《島に入った者は生きて帰れない》と言われ、ネット内でも心霊スポットとして有名である

 そう言った具合から昨今では、件の「鬼を見た」と言う噂から昔話で有名な【桃太郎】に出てくる島に因んで『鬼ヶ島』等と呼ばれている、何かと話題に事を欠かない島だ

 昔は物好きなオカルトマニアや、本土からやって来たダイバー等が興味本位で上陸していたが噂にある様に、この島に入った者は皆、行方不明となる……。仮に戻って来たとしても、見るも無惨な死体となって本土に流れ着くか、生きて帰っても島で起きた事を口外せずに、2、3日後に自ら命を絶ってしまう……

 故に今や鬼ヶ島に近付こうとする人間は居ない。島を間近に見た漁師の年寄り達は皆、眉を潜めて、こう呟く

 

 ーあの島は、この世とあの世の境目、だとー

 

 そんな物騒な噂の絶えない鬼ヶ島だが、鬼を見た、と言う噂は当たらずとも遠からず、だった

 確かに鬼ヶ島には''鬼''が居た。最も伝承に伝え聞く鬼とは違う。この島に巣食う鬼の正体は……

 

「ゲットゲット‼︎ オルゲット‼︎」

 

 岬から砂浜をうろつき回る、それは鬼……地球に蔓延る邪気から生まれ、人間を苦しめる事を至福とする最も邪悪な鬼の種族、オルグ……そのオルグの下位に属する尖兵オルゲットである

 

 そう…この島は今や、オルグ達の蠢めく魔窟と化していた。何時の頃からか、奴らは島に住み着き島中を邪気で覆い尽くしていたのだ。島に上陸した哀れな人間は全て例外は無く、血に飢えた彼等の餌食となった

 そもそも、オルグ達が鬼ヶ島にやって来たのは19年前……ガオレンジャーとオルグ達による戦いが終結した事に起因する。オルグ達を束ねる、ハイネスデュークは悉く、ガオレンジャーに倒され、オルグ達の王と称されたオルグマスターでさえも、ガオレンジャーとパワーアニマル達の結束に敗れ消滅してしまった

 オルグ達の本拠地であった鬼洞窟は、オルグマスターの敗北と同時に崩落し、ガオレンジャーに倒される事のなかった、オルグ達はパワーアニマル達の加護により護られた日本から逃げる様に、この島にやって来たのだ。詰まる所、この鬼ヶ島は、オルグ達の最後の隠れ家、砦だった

 

 島に隠れ住む僅かなオルグ達は偶にやって来る人間達以外の娯楽を与えられず、ストレスが限界に達した彼等は仲間同士で殺し合う事も多々ある

 そんな、オルグ達に転機が訪れる。戦いから19年経った日……この島に3人のオルグ達がやって来た。唯の有象無象では無い。オルグの中でも最高位に立つ存在ハイネスデュークと、その次に発言力を持つデュークオルグだった。彼等は纏まりが無く荒れ狂うだけの彼等を力で捩じ伏せ、こう宣言した

 

『余に従え、全てのオルグ達よ‼︎ 今宵より、貴様等の王は余ぞ‼︎ 余に従うなら……貴様等に狩場を与えてやろう‼︎』

 

 たちまち一枚岩では無いオルグ達が、彼等を従える存在の登場によって、より統率の取れた組織へと変貌した。元々、オルグは各地方の邪気が物体に宿り動き出した存在を、ハイネスやデュークオルグにスカウトされる形を取っていた。全盛期の頃に比べ、オルグの自然発生は昔に比べ少なくなったが其れでも、かつての様な被害は薄れつつある。にも関わらず邪気は消えた訳じゃ無い。しかし力が萎えたオルグ達は鬼ヶ島に隠れ住み、それを統率する指導者により、一度は牙を抜かれた鬼達は、再び人類に刃を向けた

 暗黒の時代が幕を開けた……

 

 

 島の内部の鍾乳洞内……岩で固められた天然の城塞に築かれた玉座の間……岩で拵えた玉座に腰を下ろすのは新たなオルグの王となった、ハイネスデューク、テンマ。彼は傲岸不遜な態度で踏ん反り返る様は、正しく王者そのものである。その前には、ツエツエとヤバイバが頭を下げ跪いていた

 

「それで? 」

 

 テンマは言葉を発する。ツエツエは、ビクッと肩を震わした

 

「やはり、ガオの戦士は現れたのだな?」

「は、はい!」

 

 ツエツエは、ビクビクしながら応える。余程、テンマが怖いと見える。ヤバイバなぞ、異常な量の冷や汗を流していた

 

「……そして、むざむざと逃げ帰って来た、と言う訳か……ツエツエよ、何一つ良い所は無いな?」

「も、申し訳ございません!」

 

 ツエツエは、ひたすら謝る事しか出来ない。今迄のハイネスとは、テンマは勝手が違う。圧倒的な威圧感と恐怖で、部下を支配する傾向がある様だ。それでこそ、荒くれ者揃いのオルグ残党を纏め上げた手腕は確からしい

 

「ツエツエ……余は貴様達を酔狂で鬼地獄より引っ張り出した訳では無いぞ? 貴様は、オルグの巫女として有用性があり、かつ、配下のオルグ達を纏める才を持つからこそ、貴様達に指揮を取らせていたのだ……貴様達は、オルグの王たる余の顔に泥を塗るつもりか?」

「……いえ! 滅相もございません‼︎」

「なれば、次の失敗は許さん。ガオレンジャーは全員、倒した。後から現れる者も例外では無い。我等、オルグが支配する時代は、もう其処まで迫っている!

 

 ガオレンジャーを殄戮せい‼︎」

 

 ー殄戮ー それは敵を悉く皆殺しにしろ、と言う意味である。つまり、命令を遂行出来なければ、自分達の命も危ない。ツエツエ、ヤバイバは深々と頭を下げた

 

「それと……」

 

 思い出した様に、テンマは言葉を区切る。ツエツエは再び、テンマを見た

 

「恐らく、逃げた巫女と銀の戦士が接触せんとしている筈……。奴等も見つけ次第、始末しろ。未熟な戦士より、奴等の方が厄介だからな」

「御意‼︎」

 

 

 

 陽は、目の前に立つ青年ー大神 月麿と対峙していた。一見、クールな面持ちな美丈夫……だが、その鋭い眼光は歴戦の戦士の彷彿させる

 

「………」

 

 大神は無言のまま、陽を値踏みするかの如く、ジロジロと見てくる

 

「な……何か?」

 

 あまり気分の良い気がせず、陽は尋ねる

 

「……一体、どんな奴が、ガオの戦士に選ばれたと思えば、まだ子供だな」

 

 出会い頭の男に子供呼ばわりされた陽は、ムッとした表情で言い返す

 

「……僕だって好きで選ばれた訳じゃありません。あと、貴方に子供扱いされる筋合いは無いです」

「気に障ったなら済まない。だが……さっきも言った通り、お前は選ばれたんだ。これから、お前は戦わなくてはならない。否応も無くな」

 

 勝手に話を進める大神に陽は段々、腹が立って来た

 戦う? 否応も無く? 自分の意思は完全に無視か?

 

「勝手に話を進めないで下さい! 僕は何も知らないし、何も了解だってしてないんだ‼︎ ガオレンジャーだか何だか知らないけど、僕には僕の……‼︎」

 

 

「貴方が逃げても彼等は、貴方を逃さないわ。貴方が生き続ける限りはね」

 

 

 話の腰を折る様に別の声がした。大神が振り返ると白が基調の、何処かの民族衣装に似た服を着た女性が立っていた。

 

「テトム……」

 

 大神が声を掛けた。どうやら、彼女の名前らしい

 

「驚かして、ゴメンなさい。私は、テトム。ガオの巫女です」

「ガオの……巫女?」

 

 陽は思わずたじろぐ。まだ年若い女性に見えるが、不思議と自分より遥かな長い年月を生きた人物に見えたからだ

 

「昨日、貴方に奇襲を仕掛けた者達……彼等は『オルグ』と呼ばれる鬼の種族です。彼等は地球に蔓延る邪気から生まれ、人間達を蹂躙し苦しめる事を好みます。そして地球を自分達に住み良い環境として邪気で覆い尽くそうとするのです」

「このまま奴等を放って置けば、地球の生命力は尽きてしまい、やがて地球は腐ってしまうだろう」

「はァ……」

 

 テトムと大神の話を陽は生返事で返した。テトムは少し怒った顔になり頬を膨らませる

 

「信じて無いでしょ?」

「いきなり現れた2人組に荒唐無稽な話をされて信じる程、僕は単純じゃ無いです」

 

 陽は至って冷めた口調だ。テトムは困った様に腕を組む

 

「……最近の子は疑り深いのね〜」

「……と言いたい所ですが……」

 

 テトムの言葉を遮り、陽は左腕に装着された竜の道具を見せた

 

「こんな物が腕に無かったら昨日の事は夢だった、と片付けますけど……そうじゃ無いんですよね?」

 

 確かに、昨日の戦いが夢じゃ無いとするなら、自分は荒唐無稽な体験を実感してしまっている……。今更、信じ無いと言っても無駄なんだろう

 

「……話が分かる子で良かったわ」

「……順応性があるだけです。それで、貴方達は僕にどうしろと?」

 

 テトムは大神と頷き合う

 

「……では話します。その前に、貴方には少し、ガオレンジャーの歴史を話しておかなくちゃいけません。付いてきて」

 

 そう言って、テトムは手を翳す。すると陽と大神は何かに引っ張られる様に、その場から姿を消した

 

 

 

「祈? 祈ってば‼︎」

 

 通学路を歩きながら、ぼんやりとする祈に舞花は大声を上げた。祈は、ハッと舞花を見る

 

「ま、舞花? ゴメン、何?」

「何? じゃないよ! さっきから上の空で歩いてて危ないよ? どうかした?」

「……うん……」

 

 祈は浮かない様子出た項垂れる

 

「陽さんと何かあった?」

 

 舞花は察した様に尋ねる。祈は益々、顔を曇らせた

 

「……図星?」

「……兄さんが、ちょっと……」

「…もう話しなさいよ! あたし達の間に隠し事は無しだよ⁉︎」

 

 舞花は、心底から祈を心配していた。小学校の頃に知り合って以来、2人は無二の親友として過ごしていた。祈も親友に心配を掛けまいとしていたが、遂に根負けした

 

「…兄さんがね…玄関で倒れてたの…」

「陽さんが?」

「うん…。兄さん最近、バイトのシフトを増やして休みの日も朝から入って……無茶ばかりしてるみたい……」

「凄いじゃない‼︎ ウチのバカ兄貴なんか、休みの日なんか朝からダラダラしてて……。少しは見習って貰いたいよ‼︎」

 

 軽い感じに応える舞花に反し、祈は俯いた

 

「兄さん、最近ずっとそうなの……。母さんと父さんが亡くなってから、自分の為の時間を犠牲にして、学校とバイトに費やしてるの……私、兄さんの足枷になってるかも……」

「足枷?」

「……兄さんが私の為に頑張ってくれるのは嬉しいけど、私は辛いよ……」

 

 祈は今にも泣きそうな顔になる。舞花は祈の肩を掴んで揺さぶった

 

「……それ、陽さんが言ったの? 祈の事を足枷って?」

「……兄さんは言わないよ……」

「しっかりしなよ‼︎ 陽さんが頑張ってるのは、祈の事が大切だからじゃん‼︎ 」

「わ、私が……」

 

 祈は舞花の言葉を聞いて、陽の笑顔が過る。両親の死後、自分を守り続けてくれた大好きな兄の顔が……

 

「そうだよ‼︎ だから、自分の事を足枷なんて言わないで‼︎」

「お取込み中、悪いがねェ……」

 

 2人の背後から声がしたので振り返ると、如何にもガラの悪そうな男が立っていた。顔はヘルメットで隠している

 

「? 何よ、アンタ?」

「竜崎 祈ってのは嬢ちゃんかい?」

「わ、私ですけど?」

 

 ヘルメット男に尋ねられ、祈は不審に思いながらも応える。舞花は祈を庇う様に遮る。

 

「祈に何の用よ‼︎」

「へへへ……お前に用はねェ…。用があんのは……そいつだよッ‼︎」

 

 ヘルメット男は急に姿形が変わり始める。途端にヘルメットから角が3本生え、下半身がバイクと一体化した異形の姿となっていた

 

「‼︎」

「へへ、一緒に来て貰おうか?」

「ば、化け物……」

 

 祈は姿を現した異形の鬼−オルグに恐怖を感じ、後ずさる、が、既に後ろに複数のオルゲット達で囲まれていた

 

「キャアァァッ‼︎」

 

 祈達は壁際まで下がるが、オルゲット達がジリジリと近付いて来る

 

「ゲットゲット、オルゲット‼︎」

「ジタバタすんなよ? かえって痛い目に合うぜェ?」

 

 オルグは下劣な声で嗤う。右手に持った銃を突き付けながら、バイクがエンジンを蒸す音が響いた

 

「祈‼︎ こっち‼︎」

 

 舞花が祈を手招きする。その瞬間、舞花の手から白い煙が噴出した

 

「グッ……この……‼︎」

 

 オルグは視界を遮られる。隙に、祈は舞花の居る場所へ走った

 

「こっちに抜け道があるから‼︎」

 

 舞花は、そう言いながら、手に持つ消化器を投げ捨てると祈の手を引いて裏通りへと消えて行った

 

「チックショウ‼︎ あのアマ、逃げやがったな‼︎」

 

 煙が晴れ、オルグは苛々しながら捲し立てた。

 

「この、オートバイオルグから逃げられると思ったら、大間違いだぜェ‼︎」

 

 そう叫ぶと、オートバイオルグは2人を追跡する為、バイクを走らせた

 

 

 

「じゃあ、ガオレンジャーは19年前にも現れたんですか?」

 

 一方、テトム達に導かれた陽は、巨大な亀の形をした岩、ガオズロックの中に居た。テトムは頷く

 

「えェ……その時も、パワーアニマルに選ばれた若者達が、ガオレンジャーとして戦ってくれて、オルグは全滅した筈でした……」

「じゃあ、どうして19年経ってから、また…?」

 

「奴等は人間の邪気から生まれる存在だ。例え倒されても、時を経て復活する。厳密に奴等を全滅させる事は難しい」

 

 大神が応えた

 

「かと言って、彼等を放っておけば地球は邪気に覆われ、地球生命は死滅してしまいます。だから、現れたオルグ達を全て倒すしか方法はありません」

「まるで病気ですね……」

 

 陽は感想を述べる。大神も険しい顔で

 

「そうだな……奴等は地球に巣食う病原体だ。しかも、今回は余りに数が増えていた」

「19年前に戦ったって、じゃあ大神さんも、その時に?」

「ああ。かつて6人の仲間達とオルグに立ち向かい倒した。だが……」

 

 大神は顔を曇らせる。テトムは大神に代わり話し始めた

 

「今回のオルグ復活を察知した私は、かつてガオレンジャーと戦ってくれた6人に助けを求めました。シロガネを始め……」

「シロガネ?」

 

 陽は疑問に思い呟く。確か、さっきは大神 月麿と名乗っていた筈だ

 

「俺の本名だ。大神 月麿は偽名だ。現代で生きて行く為のな」

 

 よく分からないが、大神も19年前に戦っていた事は間違いないらしい

 

「話を戻します。シロガネを始めとする6人のガオレンジャー達を召集し、パワーアニマルの聖地である天空島に攻め寄せたオルグ達を迎え撃ったのです……。ですが……余りに数が多いオルグ達に、ガオレンジャーやパワーアニマルは押されてしまい……」

「やられたんですか⁉︎」

 

 陽の言葉に、テトムは力無く頷いた

 

「敗北したガオレンジャー達とパワーアニマルを、異空間に天空島ごと封印されてしまったのです。私とシロガネは間一髪、このガオズロックに乗って助かりましたが……」

 

 余りに壮大な話に陽は言葉を失う。つまり、あのオルグ達にガオレンジャーは全滅したばかりか全員、封印されて身動きが取れないという有り様……

 

「だからこそ……ガオゴールド‼︎ 貴方の力が必要なんです‼︎ 私達に力を貸して下さい‼︎」

「……無理ですよ……」

「えッ?」

 

 テトムは首を傾げる。陽は顔を上げた

 

「ガオレンジャーとして戦うなんて無理です‼︎ 昨日だって辛うじて勝てた様なものです‼︎」

「いいえ‼︎ あの瞬間、私達も知らないパワーアニマル達が戦っていました‼︎ 間違い無く、貴方は……」

「いい加減にして下さい‼︎」

 

 遂に陽は我慢がならなくなり立ち上がる

 

「先代のガオレンジャーでさえ勝てない様な奴等に僕が、どうして勝てるんですか⁉︎ 僕は普通の高校生ですよ⁉︎ 戦うなんて無理です‼︎ 大体、僕には妹が居るんだ‼︎ 僕に万が一の事があったら……」

「そうだな……お前には無理だ」

「シロガネ?」

 

 突如、沈黙を破る大神をテトムは見た。非常に厳しい顔だ

「……ガオレンジャーになると言う事は全てを捨てる、という意味だ。今迄の過去も竜崎 陽の名もな

 当然、妹もだ。全てを捨てる覚悟が無い奴が、ガオレンジャーになっても足手まとい以外、何者でもない」

「……シロガネッ……‼︎」

 

 無言で睨み合う陽と大神、その間でテトムは苦しげに挟まれている

 

「……少なくとも、先代のガオレンジャー達は、そうやって戦い抜いた」

「……僕には無理です。ガオレンジャーは他に当たって……」

 

 突如、中央にある泉がボコボコと泡立ち始めた。大神とテトムは頷きあった

 

「……オルグが‼︎」

「……俺が行く。ガオレンジャーに臆病な奴は要らん」

 

 敢えて突き放す様に、大神は出て行った。残された陽にテトムは、懸命に訴えた

 

「……パワーアニマルが貴方を選んだのは何か意味があると思うの。お願い‼︎ このままじゃ地球が死んでしまう‼︎ 貴方は希望なの‼︎」

 

 テトムの声を聞きつつ、陽は左腕に嵌められた腕輪『G−ブレスフォン』を見つめた……

 

 

 〜戦いを拒む陽は果たして、ガオレンジャーを断念してしまうのか? 陽の取った答えが、世界の命運を決めるのです〜



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quest4 銀狼と金竜 後編

「ハァ…ハァ…‼︎」

 

 裏道を息を切らしながら、祈と舞花が走っていた。

 

「もう‼︎ 何なのよ、あの漫画みたいな奴ら⁉︎ 何で通学前に、あんなのに追い回されなきゃならない訳⁉︎」

 

 舞花は戦闘を走りながら毒吐く。後ろを走る祈も見た事の無い連中に困惑していたが正直、思考が追い付かないでいた。

 

「祈、大丈夫⁉︎」

「だ……大丈夫……。ねェ、さっきの人達、私を追ってたのよね?」

 

 祈は舞花に語り掛けた。舞花は振り返りながら眉を顰めた。

 

「多分……。ねェ、あいつ等、アンタの友達……じゃないよね?」

「そんな訳無いじゃない……!」

「だよね……。あー、もう! なんで、こんな時に限って携帯、忘れちゃうかな⁉︎」

 

 舞花はカバンの中を漁りながら叫ぶ。携帯で助けを呼ぼうとしたが忘れてしまったらしく、ヒステリック気味に怒鳴った。

 

「祈、携帯は⁉︎」

「ゴメン、今、修理に出してる……」

「アンタも? でも大丈夫‼︎ ここを抜ければ、交番があるから、そこまで……‼︎」

 

 舞花は路地の出口を指差す。さっきの奴等が何なのか分からないが、警察なら何とか助けてくれる筈。それだけが唯一の希望だ。

 

 

「オルゲット‼︎」

 

 

 前方のマンホールが突然、吹き飛び、中からオルゲット達が飛び出して来た。

 

「う……嘘……‼︎」

「舞花……‼︎」

 

 先回りされていた。来た道を引き返そうとするが、後ろからは、オートバイオルグが砂煙を上げながら迫って来た。

 

「見つけたぜェ、子猫ちゃ〜ん?」

 

 退路まで塞がれてしまった。前門に虎、後方に狼だ。

 

「さァ、観念しな。もう逃げられんぜ」

 

 オートバイオルグはイヤらしい口調で2人の前に立ち塞がる。出口を塞ぐ様に、オルゲット達が立っている為、逃げる事も出来ない。

 

「大人しく捕まりな。暴れると、チィと痛い目を見るぜ? 五体満足で捕まえろ、とは命令は受けて無いんでな!」

 

 荒い息を吐きながら、迫って来るオートバイオルグ。舞花は気丈にも祈の前に立ちはだかった。

 

「や…やるんなら、あたしからヤんなさいよ! 祈には指一本、触れさせないから‼︎」

 

 そう言いつつも、舞花の肩は小さく震えている。内心は怖い筈だ。意を決し祈は、舞花を押し退けて、果敢にもオートバイオルグに叫んだ。

 

「狙いは私でしょう⁉︎ 私、行きます‼︎ だから、舞花は見逃して‼︎」

「祈⁉︎」

 

 何で自分を狙っているかは知らない。だが、自分1人が捕まれば済む話だ。舞花を巻き込む訳にはいかない。そう考えた祈は、親友の命の嘆願を試みた。

 

「う〜〜、美しい友情って奴か? 泣かせるねェ……涙がちょちょぎれらァ! じゃあ、望み通りにしてやるぜ! 夜露死苦‼︎」

 

 2人の友情に嘲りに満ちた笑みを浮かべつつ、オートバイオルグはバイクの下半身をウィリーさせた。

 実際の所、オートバイオルグは、どちらも見逃す気は無かった。彼等、オルグの辞書に''慈悲''等と言う言葉は無い。許しを乞う人間を甚振り苦しめ、最後はボロ雑巾の如く殺す……それが、彼等の心情だ。

 そうとは知らず、祈は自分が捕まり舞花だけでも逃げて欲しい……そう考えていた。

 

 

 

「其処までにしろ」

 

 

 

 突然、2人の後ろから声がした。

 

「アァ?」

 

 オートバイオルグは声の方を見ると、オルゲット達が全員、倒れ伏していた。その後ろには、灰色の服を着た青年、大神 月麿が立っていた。

 

「……ンだ、テメェは……‼︎」

「名乗る名は無い。貴様を倒す者だ」

 

 大神は、そう言いながら、オートバイオルグに前に立つ。オルグは、大神の左手首に装着されたG−ブレスフォンに目をやると、ニヤリと笑う。

 

「成る程……ガオレンジャー達から逃げ果せた奴が居ると聞いていたが、テメェか……‼︎」

「貴様等を倒す為に、俺は残る道を取った。ただ、それだけだ」

「ハンッ! 物は言い様だな‼︎ 臆病風に吹かれて逃げ出した腰抜けがよ‼︎ まあ良い、テメェの首も一緒にテンマ様に差し出したとありゃ、俺様に箱が付くってもんよ‼︎」

「それを言うなら、箱じゃ無くて''箔''だ。見た目通りの馬鹿らしいな……」

「……‼︎ テメェ……‼︎」

 

 大神の挑発に青筋を浮かべるオートバイオルグ。ふと、大神は祈達が魂が抜けた様に立っているのを見て振り返らずに促す。

 

「何時まで惚けてる。さっさと逃げろ」

 

 そう言われて祈は、大神の背に語り掛けた。

 

「……でも……‼︎」

「さっさと行け! 邪魔だ!」

 

 少し語調を荒げた大神に、祈はビクッと肩を強張らせた。舞花は祈の手を掴み叫んだ。

 

「ほら行くよ、祈! 今なら逃げられる‼︎」

「だけど‼︎」

「分かんないの⁉︎ あたし達が居ても足手纏いにしか成らないの! 早く‼︎」

 

 そう言って舞花は嫌がる祈の手を引いて走って行った。

 

「チッ……‼︎ 邪魔をしやがって……まあ良い。テメェをブチ殺してから追い詰めてやらァ‼︎」

「やって見ろ……‼︎」

 

 相対する大神とオルグ。大神は腕のG−ブレスフォンを翳して叫んだ。

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 瞬間、大神の身体は光に包まれ、光が収まるや否や、銀色のスーツと狼を模したヘルメットを装着した戦士が立っていた。

 

 

「閃烈の銀狼‼︎ ガオシルバー‼︎」

 

 

 遥か千年の時を越えて現代に甦った戦士、ガオシルバーが今、反撃の狼煙を上げた。

 

 

 

 ガオズロック内では、聖なる泉にガオシルバーとオルグの対峙する姿が映し出され、陽とテトムが見守っていた。

 

「無茶だ……‼︎ たった1人で立ち向かうなんて……‼︎」

「そうね、確かに無茶よ……だけど、そんな無茶な事を戦い続けたのよ……シロガネや、ガオレンジャー達はね……」

 

 テトムは優しく見つめていた。19年前、オルグ達が千年の悠久を経て復活し、人々の平穏を脅かし始めた。

 だが、ガオレンジャーに選ばれた6人の若者達は数々の苦難を乗り越えながら、遂にオルグを全て打ち滅ぼしたのだ。

 当然ながら、彼等にも自分達の暮らしがあり家族が居た。それ等を犠牲にし、ガオレンジャーとしての戦いを、やり遂げた。

 だが陽は、彼等の様な生き方は出来ない。最も、平和な日々を享受して生きてきた少年に「ガオレンジャーとなって戦え」等とは、余りに酷な選択だ。即ち、世界の為に死ね、と言われた様な物だ。

 ふと陽は気付いてしまう。泉の中にガオシルバーとオルグ以外に映る人影を……。

 

 

「祈⁉︎」

 

 

 ガオシルバーに庇われる様に逃げる少女は陽が、よく知る少女だ。誰より大切で自分の命に替えても護りたい大切な存在……。

 

「貴方の知り合い?」

 

 タダならない陽の様子に、テトムは尋ねた。

 

「僕の……妹です……」

 

 よりによって、祈が巻き込まれてしまうなんて! 陽は頭を抱える。

 

「オルグが際限なく暴れれば、貴方の妹さんにも危害が及ぶわ。妹さんだけじゃない、貴方に関わる全ての人達も……。彼等を助けられるのは、貴方しか居ないのよ。ガオレンジャーとして戦える貴方しか……‼︎」

 

 テトムの説得に、陽の心は揺さぶられる。自分しか居ない……ガオシルバー以外でなら、自分しか。

 陽は、G−ブレスフォンに握り締めた。祈だけは必ず護ると誓った。両親が死去した、あの日から……‼︎

 

「僕を……彼処に送って下さい‼︎」

 

 陽は、テトムを見る。その瞳には強い決意に満ち溢れた炎が燃え上がっていた。テトムは笑顔で頷いた。

 

 

 

 祈達は路地裏を抜け交番を目指して走った。さっきの人を助けて貰わなければ……‼︎

 ふと舞花が立ち止まる。

 

「舞花?」

 

 祈が振り返ると舞花が縋り付いてきた。

 

「……怖かったよォ……‼︎」

 

 祈に抱かれながら舞花は、さめざめと泣き崩れた。やはり、無理をしていたんだろう。祈も今更になって恐怖が湧き上がって来た。だが、何時迄も泣いてる場合じゃ無い。祈は舞花を奮い立たせ様とするが……。

 

 

「そこの娘」

 

 

 祈は声の方を振り返る。其処には頭の先から足の先まで紅い体色の異形が立っていた。頭には、さっきのオルグ同様、角が一本、生えている。

 

「ま、また出た‼︎」

 

 舞花は祈を強く抱き締めた。漸く逃げ切ったと思ったら……。

 

「我と共に来て貰おうか?」

 

 男は、そう言いながら歩み寄ってくる。もう逃げ出す気力も尽き果てた。祈と舞花は互いをしっかり抱き合ったまま、ガタガタと震えた。

 

「(に…兄さん、助けて‼︎)」

 

 祈は心中で兄の姿が思い浮かんだ。もう駄目だ。

 

 

 

「待てッ‼︎」

 

 

 

 刹那、祈達の前に誰かが立ち塞がる。全身が金色に輝くヘルメットを装着した男の人……。

 

「何者だ?」

 

 オルグは姿を現わした戦士に身構える。

 

「天照の竜‼︎ ガオゴールド‼︎」

 

 ガオゴールドは、ドラグーンウィングを構えながら、オルグと対峙する。祈は薄れゆく意識の中で、ガオゴールドの背中を見る。不思議な事に戦士の背中が兄に重なって見えた。

 

「(にい…さん…?)」

 

 兄の姿を見ながら、祈は極度の緊張と恐怖により気を失った。

 

「祈? 祈!」

 

 舞花は祈を揺さぶるが、完全に意識を手放した祈はピクリとも動かない。

 

「早く逃げろ‼︎」

 

 ガオゴールドは舞花に促す。何が何だか分からない、と言った様子だが、舞花は祈を支えながら這々の態で逃げ出した。

 

「……そうか……お前が金のガオレンジャーか……」

「あの子達には指一本、触れさせないぞ‼︎」

 

 ガオゴールドは、ここから先は通さない、と言う具合で、オルグの行く手を阻む。

 

「娘は用は無い。我が用があるのは貴様だ、ガオゴールドとやら」

「何で僕に⁉︎」

「貴様の腕を推し量りたい。我が名は、焔のメラン」

 

 焔のメランと名乗ったオルグは右手を翳すと掌に炎が立ち上がる。炎は形を作り、やがて一振りの大剣に姿を変えた。

 

「ガオレンジャーの力、見せて貰うぞ……来い‼︎」

 

 メランも剣を構える。ガオゴールドはドラグーンウィングを分解し二刀流にすると、メランの懐へと斬り込んだ。

 幾多にも及ぶ剣戟を繰り出すが、メランは涼しげな様子で攻撃をいなす。

 

「どうした? 貴様の力は、その程度か?」

 

 メランは嘲る様に笑う。ガオゴールドも驚く。

 強い。攻防共に全く隙が無い。

 

「……話にならんな。この程度の力で、ガオレンジャーを名乗るとは片腹痛い! 貴様の先人達は、もっと強かったぞ」

 

 メランは剣に力を込める。すると刃から炎が燃え上がる。

 

「もっと攻め込んで来い‼︎ 貴様も地球を守る、ガオレンジャーなる戦士の矜持があるなら、本気を出せ‼︎ 我を壊してみろ‼︎」

 

 まるで、敢えてガオゴールドを本気にさせようとする様な口ぶりだ。メランは何時でも攻め込んで来れる態勢を崩さず飽くまで、様子を伺いながら対峙して来る。ガオゴールドは師匠の言葉を思い出す。

 

 

『剣術に於いて、あらゆる局面にて対応出来る型がある。中段、上段、下段、八相、脇……この5つを纏め「五行の構え」と言う。中でも剣術の基本中の基本とされる中段「水の構え」……あらゆる状況に即座に反応でき、攻撃にも防御にも転じる』

 

 

「中段……水の構え……」

 

 その言葉に従い、ガオゴールドはドラグーンウィングの刃先を、メランの目線に向けて構える。

 

「ほう……水の構えか……。基本を知っている様だが、果たして我に通用するかな?」

 

 メランもまた、剣術のイロハを心得ている様だ。炎に燃える剣を振り上げ、ガオゴールド目掛け斬り掛かって来る。が、ガオゴールドは、その振り下ろされた剣を左手の剣で防ぎ、右手の剣にてメランの顔を斬りつけた。

 

「グッ⁉︎」

 

 不意に斬られたメランは左手で顔を覆う。だが、ガオゴールドは、その隙を逃さない。後方に下がり、ドラグーンウィングに力を込めた。

 

「竜翼…日輪斬り‼︎」

 

 剣から放たれる光が円形の斬撃に変わり、メランの身体に直撃、爆発に包み込まれる。以前の戦いにて実戦を学んだガオゴールドは、動きに飲まれる事なく動作した。

 

「く……中々、やるな……」

 

 爆煙の中から、ゆらりと立ち上がる影。メランも死んでいなかった。だが無傷では無いらしく、メランの身体は炎に包まれていき燃え始める。炎が収まると、身体が無傷の状態に戻ったメランが立っていた。

 

「⁉︎ 治った⁉︎」

「だが、まだ力を活かし切れていない。刃に惑いが見えている……半端者と戦っても仕方無い。この勝負は預けておく」

 

 それだけ言い残すと、メランは姿を消した。

 

 

「次の戦いを楽しみにしておくぞ……」

 

 

 ガオゴールドは辺りを見回すが、既にメランは去っていた。一先ずは勝った様だが……。そう安堵した瞬間、後ろから轟音が響き渡った。

 振り返ると、また別のオルグが弾き飛ばされて来た。それを追う様に姿を現わす銀色の戦士ガオシルバー。

 

「戦わないんじゃ無かったのか?」

 

 ガオシルバーが近付きながら、声を掛けてきた。その声に、ガオゴールドは察した。

 

「貴方は、大神さん⁉︎」

 

「……ガオシルバーと呼べ」

 

 そう言われ、ガオゴールドは先程のやり取りを思い出した。ガオレンジャーとなるならば、過去も経歴も全て捨てろ、と。ガオゴールドは小さく俯向く。

 

「……やはり戦うのは嫌です。過去も経歴も全て捨てる事は出来無い……」

「そうか……」

 

 半ば期待していたが残念だ、と言った具合に、ガオシルバーは呟く。

 

「……けど‼︎」

 

 ガオゴールドは顔を上げる。

 

「大切な人を失うのは、もっと嫌だ‼︎ 僕が戦わないで大切な人が傷付くなら……僕が傷付いてでも護ってみせる‼︎」

 

 その言葉には、ガオゴールド/竜崎 陽の強い意志が示されていた。言葉や動機は異なるが、彼と同じ強い意志を持つ男を、ガオシルバーは知っている。

 

「……かつて、俺達を率いて戦った男も同じ様に強い意志を持っていた……確かに、お前も強い意志を秘めている様だな」

 

 ガオシルバーは思い出す。ガオレンジャーのリーダーとして仲間達を率い、地球を護る為に命を賭した戦士ガオレッドの姿を、言葉を……。

 

「オイコラァァァ‼︎ 俺様を無視して何をコソコソしてやがる‼︎」

 

 オートバイオルグは身体を起こし、相対して来た。ガオシルバーは破邪の牙ガオハスラーロッドを構えた。

 

「だが……戦うとなれば、甘えは許されない。自分の命を秤に掛ける覚悟はあるか?」

 

 同時に、ガオシルバーは若き戦士に問い掛ける。戦いに身を置く事の覚悟を…。時には己れの死さえも覚悟しなければならない……過酷な運命に身を投じる事となるだろう。

 

「覚悟は……出来てます‼︎」

 

 ガオゴールドは決めた。戦いに身を置く事を……。地球をでは無い。大切な人の為に命を賭ける覚悟を!

 

「良い答えだ。なら、見せてみろ‼︎ お前の覚悟を‼︎」

「はい‼︎

 

 今此処に、世代を超えた金と銀の戦士が誕生した。

 

 

「轢き殺したらァァァ‼︎」

 

 オートバイオルグは、ウィリー走行で迫って来た。2人は即座に躱し、ガオシルバーはガオハスラーロッドを変形させた。

 

「スナイパーモード‼︎」

 

 銃の姿となったガオハスラーロッドから、秒速で10発以上の光弾が発射された。光弾を受けたオートバイオルグは堪らず、転倒してしまう。

 

「クッ……汚ねェぞ! 飛び道具なんざ⁉︎」

 

「戦いに汚いも汚く無いもあるか。それに無力な民間人に襲い掛かる貴様の方が、よっぽど汚いだろう?」

 

 ガオシルバーに至極当然な正論を返され、オートバイオルグは憤慨した。

 

「あったま来たぜ‼︎ だったらこうだ‼︎」

 

 オートバイオルグは懐から、オルグシードを取り出し口に放り込む。

 

「カァァァ、効くぜェェ‼︎」

 

 見る見る間に、オートバイオルグの身体は巨大化していった。

 

『オラオラオラァァァ‼︎ 2人仲良く、ぺちゃんこにしてやるぜ! 夜露死苦‼︎』

 

 オートバイオルグは勢い付いて、アクセル音を吹かす。ガオシルバーは再び、ガオハスラーロッドを変形させた。

 

「ブレイクモード‼︎」

 

 その状態から3つの宝珠を投げた。

 

「百獣召喚‼︎」

 

 さながら、ビリヤードの如く打ち出された宝珠は天へ舞い上がり光り輝く。

 

『オォォォン‼︎』

 

 空を裂く様に姿を現わす巨大な銀色の狼とワニ、そしてシュモクザメだ。

 

「あれは⁉︎」

 

「俺の相棒のパワーアニマル、ガオウルフ、ガオリゲーター、ガオハンマーヘッドだ。彼等だけは何とか連れ出す事が出来た。ガオウルフ、百獣合体‼︎」

 

 ガオシルバーの号令に合わせ、三体のパワーアニマル達が姿を変えていく。ガオリゲーターが立ち上がり胴体となり、右腕と左腕がガオウルフ、ガオハンマーヘッドが構成する。そして三体の尻尾が分解し三日月型の尾が胸部に、リゲーターとハンマーヘッドの尻尾が合体して巨大な剣「リゲーターブレード」となる。

 最後には別の頭部が現れた。その巨人の中にガオシルバーは吸収されて…。

 

 

 〜3つの宝珠が紋章を描く時、百獣達は一つに重なり、正義の狩人が誕生するのです〜

 

 

「誕生‼︎ ガオハンター‼︎」

 

 オートバイオルグに対峙する正義の狩人ガオハンター。

 

「ヒャハ! しゃらくせェ‼︎ ガオハンターなんざ、このバイクで引き摺り回してやるぜ‼︎」

 

 オートバイオルグはバイクにて突進を仕掛けるが、ガオハンターには見切られ、リゲーターブレードにて斬りつけられた。

 

「ぐ…‼︎ イテェ‼︎」

 

 苦しむオートバイオルグに追い打ちをかける様に、空中から火球が降り注ぐ。ガオゴールドは見上げると、昨日、姿を現した竜の巨人が姿を現した。

 

「あの巨人だ‼︎」

 

 ガオゴールドは味方が来た、と意気込むが、竜の巨人はガオハンターを邪魔するかの様に割り込み、勝手にオートバイオルグに攻撃を始める。

 

「な? どうして邪魔をするんだ⁉︎」

 

 ガオシルバーも叫ぶが、ガオハンターは加勢に加わる。だが、竜の巨人は邪魔をするな、と言わんばかりに、右腕のランスをちらつかせる。

 

『ハッハ‼︎ なんか知らんが仲間割れかァ⁉︎ 今がチャンス‼︎』

 

 二体の巨人が連携を乱すのを見て、オートバイオルグは突っ込んで来た。竜の巨人はすかさず避けるが、ガオハンターは諸にぶつかってしまう。

 

「ウワァァ⁉︎」

 

 中でガオシルバーは衝撃に耐えるが、ガオハンターはオートバイオルグを抑え付けるのに手一杯で、リゲーターブレードを振るえない。しかし、そんな事は御構い無しに、竜巨人はオートバイオルグにランスで攻撃する。

 

「おい⁉︎ どうして仲間を攻撃するんだ⁉︎」

 

 中でガオゴールドは叫ぶが竜巨人は一切、聴かない。それ所か、胸部の竜の口が開き、ガオハンター諸共、オルグを葬り去ろうとしている。

 

「‼︎ ガオハンター、逃げて‼︎」

 

 危機を感じたガオゴールドは叫ぶ。それを察したガオハンターは、オートバイオルグを持ち上げ投げた後、すかさずに飛び上がる。

 

「クッ……悪鬼突貫・リボルバーファントム‼︎」

 

 手が自由になったガオハンターはリゲーターブレードに力を込め、オートバイオルグに突撃した。

 

「ヌグァァァァ⁉︎ チクショウめ〜〜‼︎」

 

 オートバイオルグは断末魔の叫びを上げながら爆散した。トラブルはあったが、何とか勝つ事が出来た。

 しかし、勝った瞬間に、ガオゴールドは外に弾き出されてしまった。

 

「‼︎ 待て、何で……⁉︎」

 

 ガオゴールドは竜巨人に怒鳴るが、反対に竜巨人は恐ろしい目で、ガオゴールドを一瞥した。そして、そのまま何処かへ飛び去ってしまった。

 

「彼等は一体……⁉︎」

 

 敵か味方か分からない謎の竜巨人……残されたガオゴールドと、ガオハンターは只々、立ち竦むだけだった……。

 

 

 〜遂に共闘した金と銀のガオレンジャー……しかし、謎の動きを見せる竜巨人の真意は? 果たして地球の運命は、どうなるのでしょう?〜




ーオルグ魔人

−オートバイオルグ
暴走族に乗り捨てられたバイクに邪気が宿り誕生したオルグ魔人。

頭部がヘルメット、下半身がバイクと融合している。
暴走族の影響か、かなり口が悪く粗暴。
モデルは「星獣戦隊ギンガマン」の、サンバッシュ。

−焔のメラン
デュークオルグ。炎を操る。
武人気質で強者との戦いを好む高潔な性格。


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quest5 怒れる幻獣

 戦いを終えた後、陽は大神と共にガオズロックへ帰還した。戦う事を了承したとは言え、陽はまだ何も知らない……ガオレンジャーの事を、パワーアニマルの事を、オルグの事を……。

 

「お疲れ様、上々の戦いぶりだったわよ」

 

 戻った際に、テトムから賞賛を受けた。だが、褒められても素直に喜べない陽だった。

 

「……正直、勝てたと言うか……」

「言いたい事は分かるわ。でも、貴方の活躍でオルグを退けたのは事実よ」

「……かなり、ギリギリだったがな……」

 

 テトムに反し、大神は相変わらず素っ気無い口調だ。だが、陽の事は以前に比べ認めた感じはあった。

 

「…闘ってくれる決意をしてくれたのね…」

 

 テトムは嬉しそうに微笑む。しかし、陽には腑に落ちない点がある……。

 

「……あのパワーアニマルは……味方じゃ無いんですか……?」

 

 陽の質問は、自分達の前に現れながら、オルグごと、ガオシルバーを倒そうとしたパワーアニマル達の事だった。彼等は味方の筈の、ガオシルバーさえに敵意を見せ、あまつさえ、最後には自分にも明確な怒りを見せた。彼等の意図が読めない。テトムは顔を俯かせる。

 

「…ごめんなさい…私も彼等の事はよく知らないの…。全てのパワーアニマルは、封印されて生き残りは居ない、と考えていたから…」

「…そう…ですか…」

 

 テトムさえも知り得ない情報…なら、知る事は不可能だろう。そう陽が諦めた時、大神が口を開く。

 

「……奴等は、俺がオルグに攻撃しようとした時、明確に敵意を向けてきた…。『手を出すな、余計な真似をするな』…と言った具合にな…」

 

 大神の言葉を察するに、彼等が自分達の味方とは言い難い。だが、陽は左腕のG−ブレスフォンを見せた。

 

「……僕が初めて、ガオゴールドに変身した時……巨大化したオルグから僕を守ってくれたのは、彼等だった。恐らく、これも彼等が僕にくれたんだと思う……」

 

 陽の言葉に、テトムは何かを思い出そうとしている様子だ。大神は、様子がおかしいテトムを見る。

 

「……どうしたんだ、テトム?」

「ちょっと待って。何か思い出しそうなの……竜の姿をしたパワーアニマル……ずっと昔に、聞いた覚えが……」

 

 テトムは必死に考えるが中々、出てこない様子だった。無理もない。テトムは普通の人間を遥かに上回る年月を生きている為、彼女の言う昔に聞いた話は遥か大昔の話なのだ。

 

「ごめんなさい、今日の所は帰って。何かあったら、こっちから連絡するわ。シロガネのG−ブレスフォンと貴方のなら、すぐに繋がるから」

 

 それを聞くと陽は、ドッと疲れが押し寄せて来た。昨日の今日だけで、疲労は積もりに積もっていた。こんな事じゃ、またしても祈に心配を掛けてしまう……その時、陽の頭の中で祈の顔が浮かぶ……。

 

 

「大変だ‼︎ 祈の事、すっかり忘れてた‼︎」

 

 

 オルグとの戦いで大切な事を忘れてしまってた。祈に家で寝ている様に言われていたのだ。もし、祈が帰って姿の居ない自分に気付いたら……。陽は、スクッと立ち上がる。

 

「すいません! 僕、帰ります!」

「ちょっと待ちなさい!」

 

 走り去ろうとする陽に、テトムが厳しい面持ちで立っていた。

 

「……分かっていると思うけど、貴方がガオレンジャーである事は秘密よ! 貴方の妹にもよ‼︎」

 

「人間には、オルグやガオレンジャーの秘密を嗅ぎ付けられて、面倒な事になる事もある。妹を、そういった事に巻き込みたくないなら、秘密にしておけ」

 

 陽は2人の言葉を受け万が一、自分の正体が周囲に知れれば、祈だけで無く、大切な人間全てを巻き込む事態になり兼ねない。陽は理解し、深く頷いた。

 

「……分かっています……」

 

 陽は否応も無く理解するしか無い。もう自分は今迄の様な日常は送れない。戦いに生きる、まかり間違えば死ぬ。そんな非日常の世界に足を踏み入れてしまったのだ……。

 

 

 

「ハァァ〜〜〜……」

 

 街外れの廃工場内……ヤバイバは大きな溜息を吐いた。

 

「ヤバイバ、何を溜息なんか……」

 

 隣に座るツエツエも、そう言いながら浮かない顔だ。

 

「ツエツエ……俺たちゃ、このままじゃ、鬼ヶ島に帰れんぜ……」

「そんな事、言われなくとも分かってるわよ…」

 

 ツエツエだって、かなり自分達がマズイ状況に陥っている事は分かっている。2度目は無い、とテンマに釘を刺されたのも束の間、いきなり2度目の敗北を喫してしまったのだ。はっきり言って最悪だ。

 

「テンマ様は、おかっねェからな……。このまま、ノコノコ帰って行ったら、俺達は……また怒鳴られるな」

「怒鳴られるなら、まだマシよ。あの方は、シュテン様やウラ様、ラセツ様の様に甘く無いわ。何とか結果を出さないと……」

 

 

『ハァァァァ……』

 

 

 今度は2人揃って溜息を吐く。その姿は、さながら哀愁漂う中間管理職、と言った感じだ。

 

 

「……クスクス、大のオルグが溜息なんて付いちゃってまァ……」

 

 闇から響く声に、ツエツエ達は振り返る。闇からツカツカと歩いて来たのは、ゴスロリ調のメイド服を着た少女だった。頭にオルグの証たる角が生えている為、彼女も、オルグの様だ。

 

「ニーコ……」

 

 ツエツエは心底から嫌そうに、彼女を見た。ニーコは、小馬鹿にした様な顔で笑う。

 

「あ〜〜んまり、嫌そうな顔しないでよ。私達は仲間なんだから。い・ち・お・う♡」

 

「そのネチっこい喋り方を止めろって言ってんのよ‼︎」

 

 ツエツエが熱り立ちながら、ニーコを睨み付ける。だが、ニーコはクスクスと笑うだけだ。

 

「やだ怖〜い。やーね、ツエツエちゃん、怒ってばかり居ると顔が小ジワだらけになるわよ?」

 

「……んですって〜〜‼︎」

 

 完全に、おちょくりまくった態度に、ツエツエは我慢ならなくなり、ニーコに掴みかかろうとするが、ヤバイバが羽交締めにして止めた。

 

「離して、ヤバイバ‼︎ あの小娘を八つ裂きにしなきゃ気が済まない‼︎」

 

「落ち着け、ツエツエ‼︎ ニーコ、お前、俺達にそんな事言う為に来たのか⁉︎」

 

「まっさか〜。私、そんなに暇じゃ無いもん。テンマ様からの言伝を預かって来たのよ?」

 

 ヤバイバの言葉に、幾分か落ち着きを取り戻したツエツエはキッと、ニーコを睨み付けつつも話を聞く態勢に入った。

 

「テンマ様から言伝です。ガオゴールド、ガオシルバーの首を取るまで鬼ヶ島に帰って来る事を禁ずる、ですって♩」

 

「な、なによそれ……」

 

「あと追伸。『貴様等、無能共の顔なんか当分、見たく無いから鬼ヶ島に帰って来るな、バ〜〜カ』ですって♡」

 

 ダメ出しで締めくくられ、またしても、ツエツエは怒り出すが、既にニーコは姿を消していた。

 

「……ヤバイバ、さっさとガオレンジャー倒すわよ」

 

「つ、ツエツエさん?」

 

 様子のおかしいツエツエに違和感を感じるヤバイバ。すると其処には、ハイネスも裸足で逃げ出す位に激怒したツエツエが居た。

 

「このまま、バカにされたままで良い訳無いでしょ‼︎ ガオレンジャーの首を持って帰って、あの小娘を見返してくれるわァァァ‼︎」

 

「お……おう……」

 

 付き合いの長い相棒に火が付いた事に、ヤバイバは黙って付き従う事にした。こうなったら手が付けられない事は知っているからだ。ヤバイバは1人、気苦労を背負い込む事となった。

 

 

 陽は家に慌てて帰ると、いつの間にか夕方になっていた。携帯を持って出るのを忘れた為、連絡が出来ない。まだ祈が帰っていない事を願いながら、陽は玄関のドアを開けた。

 

 

「お帰りなさい……兄さん……」

 

 

 玄関先では、顔を恐ろしい迄に笑顔にした祈が立っていた。周りにはユラユラと黒いオーラが立ち昇っている。

 

「あ……ただいま……」

 

 陽は、頭の中でマズイと警報が鳴っているのを感じた。だが既に遅かった。

 

 

「大人しく寝ててって言ったのに……何処へ行ってたの‼︎」

 

 

 その後は祈の特大級の雷が落ちた。家に帰ってみれば、ベッドは空っぽだし、携帯は置きっ放しで連絡は付かないし、知り合いに電話を掛けても来てないと言われ、近所迷惑も顧みずに怒鳴られる有様となった。

 それから数時間、祈の機嫌を直す事に陽は苦心するが、祈は一切、弁解を聞いてくれない。かと言って、さっき、祈達を助けに入った、等と言える訳も無く、陽は思いつくままの言い訳を使うが、すっかり、へそを曲げた祈は、プイッとそっぽを向いたまま、一言も口を利いてくれない。夕食を終えた後、無言のまま食器を洗う祈に陽は居た堪れなくなって、食器を下げつつ話し掛けた。

 

「い、祈?」

 

 恐る恐る、祈に話し掛けた陽に対し祈は仏頂面で「何?」と返して来た。

 

「えっと……ゴメン……」

 

「何に対して?」

 

 まだ怒っている様子の祈は、冷ややかに言った。長い付き合いだが、こう言う時の祈は取り付く島はない。

 

「……心配掛けて……ゴメン……」

 

 悪戯をした子供が母親に謝る様に、ボソボソと喋る。そうして、やっと祈はキッと、こちらを見た。

 

「当たり前でしょ⁉︎ どれだけ心配したと思ったの⁉︎」

 

 食器を洗う手を止め、祈は詰め寄ってきた。

 

「兄さんに、もしもの事があったらどうしようって私、怖くて……辛くて……そんな私の事、考えたの?」

 

 気が付けば祈の瞳から、ポロポロと涙が溢れていた。たった1人、残った肉親にして大切な人……祈からすれば、兄が自分の目の前から去られるのは身を裂かれるより辛い事だ。

 

「お願いだから……私を一人ぼっちにしないでよ……」

 

 祈は陽の胸に飛び込み、咽び泣いた。陽は子供の様に泣きじゃくる妹の頭を優しく撫でた。

 何時からだろう? 祈が大人の真似をし始めたのは……。両親を揃って亡くし悲観に暮れていた、あの葬儀の日……まだ小学生だった祈は小さく弱々しかった。親戚達が揃って自分達が2人を引き取ろう、と言い合う姿……。中学生だった陽は、そんな大人達を心底から嫌悪した。皆、自分達の事など欠片も心配してない。両親が遺した莫大な遺産が目当てなんだ……子供ながらに、そう感じた。醜い争いを続ける大人達を尻目に陽は誓った。

 

 

「僕が、祈を護る」

 

 

 大人達の決めた事に従って、祈を悲しませるなんてゴメンだ。昔見た映画にも幼い兄妹が身を寄せ合いながら、逞しく生きようとしていた。あの映画の結末で、幼い兄妹は悲劇的な最期を迎えたが、自分はそうならない。そうなって堪るか‼︎

 陽は祈を抱き寄せ、親戚達に啖呵を切ったのを覚えてる。

 

「僕が祈を護ります‼︎ 貴方達の世話にはなりません‼︎」

 

 あの後も親戚達は懲りずに、自分達の世話を焼いてこようとする。貴方達は、まだ子供なんだから……大人を頼りなさい、なんて取って付けた様な常套句を立て並べて……。

 

 そんな自分の姿を見ていたからか、祈は少し背伸びを始めた。気が付けば、祈が料理を作り始めた。友達と遊びたい時間を惜しみもせずに、家事に費やしてくれた。だから、陽は高校進学と同時にバイトを始めた。少しでも祈の負担を無くしたかったから……。

 

「祈……僕は何処にも行かないよ」

 

「……本当?」

 

 胸に埋めて泣いていた祈は顔を上げる。綺麗な顔は涙で、ぐしゃぐしゃだ。陽は祈を強く抱き締めた。

 

「……僕が祈に嘘なんか吐いた事あるか?」

 

「……今日、嘘吐いた……」

 

 少し不貞腐れた様に、祈は言う。ああ、そうだ。嘘を吐いた。そして、これからも嘘を吐かなくちゃならない。

 

「約束する……。例え、どんな事があっても祈を護るから……」

 

 それだけ言うと、陽は祈に背を向け部屋に向かった。祈は兄の背に向かい声を掛ける。

 

「兄さん……」

 

「どうした?」

 

 陽は振り返る。祈は兄の顔を見ながらも悩んだ。朝にあった事を話そうかと……。自分を助けた金色の戦士が兄なんじゃ無いか、と……。

 

「……ううん。何でも無い……おやすみなさい」

 

「? 何だよ、変な奴だな。おやすみ」

 

 結果、祈は黙っておく事にした。もし聞いてしまったら、陽は永遠に居なくなってしまう様な気がした。

 部屋の中に消えていく兄の姿を見つめながら、あの出来事は自分の胸の中に仕舞っておこうと決めた。それで、兄と自分のいつも通りの日常があるなら、それで良いじゃないか、と言い聞かせて……。

 

 

 部屋の中で陽は長い事、途方に暮れていた。妹を騙さなくてはならないと言う罪悪感と自己嫌悪……本当の事を祈に打ち明けてしまいたい……だが、真実を知れば祈は自分を拒絶するんじゃ無いか? そんな恐怖が、陽の口を閉ざしてしまう。でも……これから、祈に隠れて戦い続けなければならないのか? オルグが居なくなるまで? 左腕に嵌められたG−ブレスフォンが、手枷の様に思えて来る。ガオレンジャーと言う囚人に隷従される自分……乾いた笑いが込み上げて来るのを感じた。

 

「祈を……護る為……か」

 

 ガオレンジャーとして戦う決意をしたのは、偏に祈を護る為だった。今更、後悔したって仕方が無い。

 その際、左腕のG−ブレスフォンが唸り始めた。

 

「はい…」

 

『ゴールド‼︎ オルグが現れたわ‼︎ 直ぐに現場に急行して‼︎』

 

 G−ブレスフォンから聞こえて来るテトムの声……もう、悩んでいる暇は無い。意を決した陽は窓を開けて飛び出した。

 

 

 

「さァ、壊すのよ‼︎ 壊しまくるのよ、オルゲット達‼︎」

 

「ゲットゲット‼︎ オルゲットゲット‼︎」

 

 夜の中で、ツエツエの命令に従い暴れ回るオルゲット。目に映る車や器物を次々に破壊して行く。

 彼等の目的は、ガオレンジャーを誘き寄せる事……。これだけ派手にやれば、間違い無く現れる。ツエツエには確信があった。

 

「コラ、貴様等‼︎ 何をしている⁉︎」

 

 騒ぎを聞きつけて、やって来たのは警官だった。銃を構えながら、ツエツエ達を威嚇する。

 

「今すぐ凶器を捨てろ‼︎ 捨てたら大人しく……」

 

「お呼びじゃねェんだよ‼︎」

 

 警官の背後から、ヤバイバが忍び寄り殴り付ける。彼等は、ガオレンジャーを倒す事。唯の人間なぞ、この際、どうでも良い。

 

 

「其処までだ‼︎」

 

 

 暴れ回るオルグ達の前に、陽と大神が駆け付けた。ツエツエはニヤリと笑う。

 

「待ってたわよ、ガオレンジャー‼︎ 出番よ、ジッポオルグ‼︎」

 

 ツエツエが号令を掛けると、後ろから現れるオルグ魔人。身体が、ジッポライターを模した鬼。キャップが開くと、炎に覆われた顔と角が露わになる。

 

「さァ、ジッポオルグ‼︎ ガオレンジャー達を火達磨にしてお仕舞い‼︎」

 

「カッカッカッカ〜‼︎」

 

 ジッポオルグが口をカッカッと開くと火が上がる。陽、大神はG−ブレスフォンに手を当てた。

 

 

『ガオアクセス‼︎』

 

 

 光が収まり変身するガオゴールドとガオシルバー。ジッポオルグとオルゲット達は、同時に襲い掛かって来た。

 オルゲット達をドラグーンウィングで蹴散らして行き、ジッポオルグへと刃を振り掛かる。だが、ジッポオルグが口を開くと火炎放射器の様に、炎が吐き出された。間一髪で、ガオゴールドは躱す。

 

「カッカッカ〜‼︎ オレの炎に死角は無ェ‼︎」

 

 そう言って、ジッポオルグの前に巨大な炎の壁が出現した。炎が邪魔になり、攻撃が届かない。

 

「カッカ〜‼︎ 焼き具合はレアか、ミディアムか、ウェルダンか〜? 加減によっちゃ、命拾い出来るぜ〜‼︎」

 

 そう言いつつ、炎をガオゴールド達に嗾けて来た。ジッポオルグが前に進み出る度、炎の壁も接近して来る。ガオゴールドは、ドラグーンウィングを連結させると、回転し始めた。

 

「カッカッカ〜‼︎ 今更、何をする気だ〜‼︎ 諦めて消し炭になれ〜‼︎」

 

 ジッポオルグがジリジリと近付きながら、炎を押し当てようとする。だが、回転によるドラグーンウィングから強風が発生し、反対に炎が吹き飛ばされてしまった。

 

「アチアチ‼︎ このままじゃ、俺達が丸焼きだ、ヤバイバ〜‼︎」

 

「くッ……ジッポオルグ‼︎ 炎を緩めるのよ‼︎」

 

 反対に危機に陥ったツエツエ達が逃げ惑うが、ジッポオルグにも止めようが無い位、火は燃え盛っていた。だが、周囲に飛び火した影響で、ジッポオルグが丸裸となってしまう。ガオゴールドは、そのチャンスを逃さなかった。

 

「シルバー、今だ‼︎」

 

 ガオゴールドに作られた隙を、ガオシルバーは頷き、ガオハスラーロッドを構えた。天に投げた3つの宝珠を次々に打ち出し、ビリヤードのプールを作り出す。

 

 

「破邪聖獣球‼︎ 邪気玉砕‼︎」

 

 

 打ち出された宝珠が全て、ジッポオルグに直撃した。それと同時に、ジッポオルグは大爆発を起こした。

 

「カッカッカ〜〜‼︎ 火の用心、ジッポ一個、火事の元ォ〜〜……‼︎」

 

 ジッポオルグは断末魔を上げながら、木っ端微塵に吹き飛んだ。すかさず、ツエツエはオルグシードを投げ入れ呪文を唱え始める。

 

 

「オルグシードよ‼︎ 消え行かんとする邪悪に再び巨大な力を‼︎ 鬼は内‼︎ 福は外‼︎」

 

 

 やがて、オルグシードを核にジッポオルグが再生して行く。みるみる巨大な姿となって、辺りに炎を吐き散らす。このままでは大惨事は必至だ。

 ふと、ガオゴールドは気付いてしまう。ジッポオルグの足元に2匹の猫と子猫が居た事を……。我を忘れたガオゴールドは走り、2匹の猫に覆い被さる様に庇った。

 

「ゴールド⁉︎」

 

 ガオシルバーは驚いて助けに走る。だが間に合わない。ジッポオルグの巨足が迫っていた。

 

「カッカッカ〜‼︎ その甘さが命取りよ〜‼︎」

 

 ジッポオルグが、ガオゴールド諸共、踏み潰さんとした。だが、それを邪魔するかの様に、横から攻撃を仕掛けてくる者が居た。

 

「カ〜〜〜ッ‼︎⁉︎」

 

 倒れたジッポオルグの前に立つのは、竜の巨人だ。目にはギラギラと怒りを滾らせ、ジッポオルグに追い打ちする。

 

「カカカ⁉︎」

 

 圧倒的な攻撃力を前に、ジッポオルグは成す術なく追い詰められる。しかし竜巨人は手を緩めず、徹底的に痛めつけんとばかりに攻撃する。反撃として、ジッポオルグはゼロ距離から火炎放射を放つが、竜巨人は微動だにしない。右腕の剣でジッポオルグの腹部を刺し貫き持ち上げると、そのまま剣を螺旋状に回転させ投げ飛ばす。そして落ちて来たジッポオルグに目掛け、剣を構えた状態で全身を錐揉み回転しながら、ジッポオルグを貫徹した。腹部から抉り切られ、ジッポオルグは空中で大爆発してしまった。

 

 

「た〜〜ま〜〜や〜〜……‼︎」

 

 

 断末魔を上げつつ灰燼に帰すジッポオルグ。ツエツエ達は悔しそうに地団駄を踏む。

 

「きィ〜〜、またしても……‼︎」

 

「ツエツエ、今日の所は引き上げるぜ‼︎」

 

 切り札を倒され、2人は一目散に逃げていった。一先ず、オルグは倒したが目の前にいる竜巨人は、ガオゴールドの前に歩み寄る。

 

「貴方達は一体……‼︎」

 

 ガオゴールドが問いかけるより先に、テトムが現れた。

 

「貴方達は、レジェンド・パワーアニマルですね?」

 

「何だ、それは?」

 

 ガオシルバーが尋ねると、テトムは教えた。

 

「レジェンド・パワーアニマルは、ガオ神話に登場する伝説のパワーアニマルよ。昔、おばあちゃんが話してくれた昔話を思い出したの。世界の危機に姿を現し悪を滅する三体の幻獣……そして彼は、精霊の騎士王ガオパラディン……」

 

 

 〜成る程……我等を知っているとは、流石はガオの巫女だな……〜

 

 

  「喋った⁉︎」

 

「違う……恐らく、俺達の頭の中に話し掛けているんだ。テレパシーの様な物でな……」

 

 ガオシルバーの言葉に納得する。ならば、こちらの話も分かる筈だ。ガオゴールドはガオパラディンに話し掛けた。

 

「僕にガオレンジャーの力をくれた貴方達ですね?」

 

 

 〜如何にも〜

 

 

 ガオゴールドの質問に、ガオパラディンは応えた。

 

「だったら何故、僕達に協力してくれないんですか⁉︎ 何故、ガオハンターを攻撃したんですか⁉︎」

 

 ガオゴールドが捲し立てる様に問い詰めると、ガオパラディンは冷徹に言った。

 

 

 〜我等にとって、人間は守る対象では無いからだ〜

 

 

「なッ⁉︎」

 

 ガオパラディンの言葉に、3人は絶句した。地球の化身であるパワーアニマルが、人間を守る対象じゃ無いと言い切ったのだから……。

 

 

 〜我等が守るのは地球だ。地球に仇なすオルグは敵だが……その、オルグを生み出す人間も我等にとって害悪でしか無い〜

 

「……そ、そんな……」

 

 余りに非情な言葉に、テトムはショックを受けた。だが、ガオゴールドは尋ねる。

 

「人間を害悪だと言うなら‼︎ 何故、僕にG−ブレスフォンを⁉︎」

 

 

 〜お前達が戦えば、オルグが現れる。それを我等が倒す。何より……貴様の存在が我等、パワーアニマルの潜在能力を限界まで引き出す事が可能だからな〜

 

 

「そんな理由で⁉︎ 身勝手だ‼︎」

 

 ガオゴールドは怒るが、ガオパラディンは気にしていない態だ。

 

 

 〜自然を壊し、人間同士で殺し合い、オルグを生み出す格好の状況を作り出す貴様等、人間の方が余程、身勝手では無いか?〜

 

 

「クッ……」

 

 悔しいが言い返せない。確かに人間は、文明の発達と共に山や海、果てには宇宙へ進出し、森を切り開き海を汚し、人間同士で血を流し合う始末……正に、人間がオルグを生み出していると言っても、過言では無いからだ。

 

 

 〜我等には我等のやり方でやる。貴様等の指図など受けぬわ〜

 

 

 そう吐き棄てると、ガオパラディンは姿を消した。彼等が去った後も、ガオゴールド達は立ち尽くすしか無かった……。漸く、手を取り合えると思った刹那……ガオパラディン達、レジェンド・パワーアニマルの目的と思想……彼等と分かり合う道は無いのか? ガオゴールドは1人、思案に暮れた。

 

 

 〜漸く名を明かた、レジェンド・パワーアニマルと精霊の騎士王ガオパラディン。しかし、人間を害悪だと蔑む彼等と、ガオレンジャーが共に戦える日は来るのでしょうか?〜



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quest6 幻獣と対話 前編

 場面は変わる。森林や山脈が立ち並ぶが、所々の大地が抉られ、樹は薙ぎ倒され焼け野原に等しい有様となった場所であった。

 此処は天空島アニマリウム……。かつて、パワーアニマル達の加護により護られた聖地だが、今や見る影も無い。

 島の中心地にて進撃を続けるのは有象無象のオルグ魔人の大群。彼等は樹を焼き払い、花を踏み躙り前へ前へと進軍する。

 

「フハハハハハハ‼︎ 思い知ったか、ガオレンジャー‼︎ これが、オルグの力よ‼︎」

 

 オルグを率いるハイネスデューク、テンマは高笑いを上げながら、オルグ魔人達の中心にて大股で歩んでいた。

 

「無駄な抵抗は止めよ‼︎ この数、この戦力差、貴様等には万に一つも勝機は無い‼︎ 今の貴様等には、パワーアニマルも居ない‼︎ 我等の勝ちだ‼︎」

 

 テンマは、ほくそ笑みながら島を見渡す。周りには、パワーアニマル達が虫の息となって倒れ伏していた。

 さしもの精霊達も、物量作戦を展開したオルグ達の多勢の前には及ばなかった。

 

「くっくっく、隠れても無駄よ! ゆっくり、炙り出して料理してくれるわ‼︎」

 

 そう言いながら、テンマは背中の掌を広げる。すると、10本の指先から光線が発射され、天空島を攻撃し始めた。

 

 

 

 その様子を、ガオレンジャー達が岩陰から見ていた。全員、ガオマスクも砕け、スーツもズタボロだ。如何に凄まじい激戦であった事を物語っていた。

 

「くそッ……このままじゃ嬲り殺しだ……」

 

 物陰に隠れながら、ガオイエロー/鷲尾 岳が様子を伺う。

 

「……最早、此れ迄か……」

 

 ガオブルー/鮫津 海は口惜しそうに地面を殴る。

 

「パワーアニマル達も皆、やられてしまった……。ガオスーツにも変身出来なくなるのも時間の問題か……」

 

 ガオブラック/牛込 草太郎も落胆した様に天を仰ぐ。

 

「……悔しい……。私達の力でも及ばないなんて……」

 

 ガオホワイト/大河 冴も嘆いている。

 

「………」

 

 ガオシルバー/大神 月麿が無言のまま立ち上がる。

 

「シルバー?」

 

 ガオシルバーの様子に異変を感じたガオホワイトは声を掛けた。

 

「……俺が囮になる。その隙に皆は、ガオズロックで脱出しろ」

 

「なに馬鹿な事を言ってんだ‼︎」

 

 ガオシルバーの発言に、ガオイエローは怒声を上げる。囮役を買って出る……九分九厘、助かる見込みは無い。死にに行く様なものだ。

 

「無茶よ、シルバー‼︎ 貴方、死ぬつもりなの⁉︎」

 

 テトムも必死に止めた。だが、ガオシルバーは止まらない。

 

「俺は1000年前の人間だ。今更、死ぬ事に恐怖は無い。それに……俺が死んでも誰も……」

 

「『誰も悲しむ奴は居ない』なんて言ったら殴るぞ、シルバー」

 

 それ迄、沈黙を通してきたガオレッド/獅子 走が口を開いた。口調こそ静かだが、怒りが滲み出ているのが分かる。

 

「お前、また1000年前と同じ真似をする気か? 俺達に先代の戦士達と同じ思いをさせるのか?」

 

 ガオシルバーは1000年前も当時の仲間たちを救う為、自らを犠牲にしたのだ。その身をオルグに変えて……。

 

「俺達は仲間だろう? お前が死んだら俺達が悲しいさ。それに医者として、ガオレンジャーのリーダーとして命を粗末にする奴を見過ごせるか」

 

「レッド……」

 

 ガオレッドとガオシルバーは相対する。ガオレッドは意を決した様に、テトムを見た。

 

「テトム……一つ考えていた事がある。ガオレンジャーは、ここに居る6人以外に今後、現れないのか?」

 

「……パワーアニマルに選ばれれば可能性は……でも、パワーアニマルは全て……」

 

 ガオレッドの質問に、テトムは力無く返す。だが構わず、ガオレッドは続けた。

 

「俺は思うんだ。まだ、パワーアニマルは全員、揃っては居ないって。ガオレンジャーとなる宿命を待っている奴は居るんじゃ無いかって」

 

 そう言いつつ、ガオレッドの言葉は確信を突いている様だった。

 

「だから……俺達がやられてしまっても、ガオレンジャーとなる人間は必ず現れる‼︎ 俺達が未来に繋ぐんだ‼︎」

 

 ガオレッドは獣皇剣を携え、立ち上がる。

 

「囮役は俺達全員だ。俺達でオルグの注意を引いている間に、テトムは地上に脱出してくれ」

 

「レッド……‼︎」

 

「大丈夫。俺達は死なない。時間を稼ぐだけだ。皆、それで良いか?」

 

 ガオレッドは仲間達を振り返る。ガオイエローは

 

「俺達の意見が必要か? お前がやりたい様にやれば良いさ、リーダー」

 

 やや悪態を吐きながらも、全幅の信頼の意を表すイエロー。ガオブルーは

 

「あんな奴等に負けねェよ、何時だってネバギバだ‼︎」

 

 追い詰めながらも、ポジティブに応えるブルー。ガオブラックは

 

「どんな時だって全力で突っ張るのみだ‼︎」

 

 力強く、そして頼もしく意気込むブラック。ガオホワイトは

 

「苦楽も共に分かち合って来たんだから。最後まで付き合うわ‼︎」

 

 決して折れぬ事の無い、不屈の闘志を見せるホワイト。

 

「皆……ありがとう……テトム、行ってくれ‼︎」

 

 ガオレッドが促す。テトムは迷っていたが、仲間達の覚悟を汲み取り、強く頷く。

 

「分かったわ……。だけど約束して。誰一人、死なないで‼︎ 」

 

 

『応‼︎』

 

 

  ガオレンジャー達は全員、立ち上がる。何時だって、彼等は絶望を糧に立ち上がって来た。今回も、そうだ。覚悟を決めた戦士達が、其処に居た。

 

「皆、俺も戦わせてくれ‼︎ ガオレンジャーとして戦いたい‼︎」

 

 ガオシルバーも、また自らの意思を表明した。だが……。

 

「シルバー、お前は、テトムと一緒に逃げてくれ。オルグの追求から、彼女を守る役割も必要だ」

 

「何を言ってる⁉︎ 俺だって、ガオレンジャーだぞ‼︎」

 

 今度は、ガオシルバーがガオレッドに食って掛かるが……。

 

「シルバー‼︎ テトムに万が一の事があったら、どうする⁉︎ それこそ、俺達の完敗だ‼︎」

 

「く……しかし……‼︎」

 

 ガオレッドの説得に、ガオシルバーは押し黙る。彼の言わんとする事は分かる。だが、死地に赴く仲間達に背を向けて逃げる事は彼のプライドが許さない。

 

「お前は、いざという時の為に必要なんだ。分かってくれ……‼︎」

 

「……レッド……‼︎」

 

 

「見つけたぞ‼︎ 」

 

 

 野太い怒声が響き渡る。オルグ魔人達に見つかってしまった。もう一刻の猶予は無い。

 

「シルバー、早く行け‼︎」

 

 ガオレッドは背を向けながら仲間を急かす。遂に、ガオシルバーは渋々ながら頷いた。

 

「……分かった……必ず、生きて会おう‼︎」

 

 ガオシルバーはテトムの手を引いて走る。後ろでは、ガオレンジャー達とオルグ達の戦いが始まった。

 テトムは、走りながらも仲間達に叫ぶ。

 

「皆‼︎ きっと助けに来るから‼︎ 待ってて‼︎」

 

 彼女の言葉に、ガオシルバーの胸は締め付けられそうになる。仲間を見捨てて逃げる……だが、ガオシルバーは誓った。必ず、助けに来ると……。

 

 

 深夜の中、大神は目を覚ました。全身、寝汗でびっしょり濡れている。

 

「また、うなされてのね、シロガネ……」

 

 テトムは心配そうに、大神を見下ろす。

 

「皆の事を考えていたのね」

 

「…ああ…」

 

 大神は沈痛な面持ちで俯いている。彼等は無事なのか? 今頃、どうしてるのか? ただ、身を案じるばかりだ。

 

「大丈夫。きっと皆、無事よ。彼等を助け出す方法は必ずあるわ。私達は今、出来る事をやりましょう。それに、ガオゴールドが力になってくれるわ」

 

 焦燥に駆られる大神を、テトムは宥める。だが、大神は眉間に皺を寄せながら、溜息を吐く。

 

「あいつは……優し過ぎる。戦士には不向きだ」

 

 大神は先の戦いを思い出す。オルグの襲撃から猫を守る為、身を挺したガオゴールドの姿を。いつか、あの優しさが彼自身の首を絞める結果になり兼ねないか、彼は心配していた。

 

「あら? だったら、仲間達を守る為に一番に囮役を買って出た貴方は優しく無いのかしら?」

 

 テトムは茶化す様に大神を諌めた。話の腰を折られた大神は「風に当たってくる」と言って、外へ行ってしまった。そんな彼の背を、テトムは優しく微笑んでいた。

 

「貴方達は、よく似てるわ。不器用だけど、優しい所がね」

 

 

 

 翌日、陽は学校へ通学していた。何時も通り制服に着替え、祈と一緒にだ。

 本来、ガオレンジャーとなる際は、オルグの奇襲や彼等が出現する地域に直行する為、ガオズロックで生活するのだが、今回のオルグ達は、この竜胆町を標的にしているらしい。テトム曰く、自分がガオレンジャーである事を含め『鬼門』と呼ばれる出入り口が、この町からオルグ達の本拠地を繋いでいるらしい。その鬼門を見つけ出し塞がない限り、オルグは際限なく町に現れる。あわよくば、オルグ達の本拠地を炙り出す手掛かりにもなる。テトム達も、オルグ達の動向を探る為、竜胆町に滞在している。

 陽は用心深く日常生活を送る必要があった。テトムの話では、オルグは器物に邪気が宿り自然発生する例や力のあるオルグ達に直接、生み出される例がある。また、人間に擬態して人間社会に溶け込んでいる個体も居るらしい。つまり、自分達の隣にオルグが潜伏している可能性は無きにしも非ず、だ。

 まず、ガオレンジャーである自分達の任務はオルグ襲撃の際の撃退と、オルグ達が浸入して来る鬼門の捜索だ。鬼門は民間人には目視も接触も出来ない為、ガオレンジャーが捜索、破壊するしか無い。

 

「……兄さん、兄さんったら⁉︎」

 

 隣に歩く祈が、陽に話し掛けて来る。彼女の声で陽は我に返る。

 

「大丈夫? ボーッとしてるけど……」

 

「あ、ああ、ごめん。ちょっと考え事をね……」

 

 陽は誤魔化すが、祈の顔は曇ったままだ。

 

「兄さん……やっぱり学校、休んだ方が良かったんじゃ無い? 朝から、ずっと上の空だし……」

 

 祈が訝しむのも無理はない。陽は、この2日間、まともに夜も寝れてないのだ。オルグとの戦い、ひいてはオルグを斬り捨てた際に手に感じる生々しい感触が、消えてくれないのだ。相手は人間じゃない、オルグだ。だが、曲がりなりにも生き物を斬ったと言う事実と断末魔を上げながら倒れ行く敵の姿が脳裏にこびりつき、陽を罪悪感に苛める。

 だが、それは正常な思考である。戦前の学徒動員ならともかく、最も平和な日常を生きて来た世代の高校生には、この2日間の経験は強烈過ぎた。

 これからも戦いを続けていなければならないのに、このままでは陽の精神が参ってしまうだろう。

それ以上に陽を悩ませているのは、レジェンド・パワーアニマル達の存在だ。彼等は、オルグを倒すと言う想いこそ一緒だが、人間を侮蔑し力を貸してくれているとは言えない。今のままじゃ駄目だ……。何とか、彼等と対話する切っ掛けを作らなくては……。

 

「おーーい、陽‼︎」

 

 後ろから猛、昇、舞花が歩いてくるのが見えた。3人共、いつもと変わらない様子で接してくる。

 

「昨日、休みやがって‼︎ 逢いたかったぜ‼︎」

 

 猛は、バンバンと背中を叩いて来る。陽は煩わしそうに手を払い除ける。

 

「つー訳で、ノートを写させて‼︎」

 

 そう言いつつ、馴れ馴れしく擦り寄る猛を引き離しながら陽は苦笑する。

 

「またか……。昇に写させて貰えよ」

 

 陽の言葉に、猛は眉を吊り上げる。

 

「ケッ‼︎ こいつに頭下げるなんて死んでも願い下げだ‼︎」

 

 そう言って、猛は昇を睨み付けるが、昇はウンザリした風に溜息を吐く。

 

「どうしたんですか? 喧嘩?」

 

「違うわよ、バカ兄貴の何時ものアレ」

 

 心配そうに気遣う祈を舞花が目配せした。陽も、呆れながら猛を見る。

 

「……またか、猛?」

 

「ああ、まただ‼︎」

 

 猛は酷く憤慨している様子だが、昇は素知らぬ振りだ。

 

「また、知り合った女の子が昇さんに惚れちゃったの。まともな女の子なら当たり前な事なのに、バカ兄貴は気に入らないんだって」

 

「ルセェ‼︎ コレが一度や二度なら良いが、毎回だぞ‼︎ どうして、コンパで俺がアタックしようとした子は、こいつに惚れるんだ‼︎」

 

 ブツブツと恨み言を漏らす猛を、陽は同情に満ちた目で見る。昇はクールな面持ちで異性から人気がある。加えて猛も黙っていれば、イケメンの部類に入るのだが所謂ムードメーカーかつ、お調子者な性格故に、どうしても損な三枚目の地位を甘んじていた。

 

「……ま、大丈夫さ。その内、良い事あるって」

 

「ありがとう、陽‼︎ お前だけが、俺の味方だ‼︎ という訳で、ノートを見せてくれ‼︎」

 

「分かったよ……後でな」

 

 どうせ断っても、しつこく付き纏ってくるんだろう。陽は仕方無いな、と言わんばかりに言った。猛は抱きついてくる。

 

「陽、サンキュー‼︎ 愛してるぜ‼︎」

 

「気持ち悪い事、言うな」

 

 猛の頭を掴んで押し返す陽。そんなチープなコントさながらの風景を呆れながら見る3人。

 

「相変わらず優しいね、陽さん。私なら、放っとくのに。ねェ、祈」

 

 舞花は小さく溜息を吐きながら祈に話を振る。

 

「……そうだね……」

 

 祈は、塞ぎ込んでいた。その様子に舞花は察した様に耳打つ。

 

「(昨日の事、陽さんに言ってないの?)」

 

「(言える訳無いよ……大体、何て説明するの?)」

 

「(ま、そりゃそうね……当事者の私だって信じられ無いのに……)」

 

 昨日、怪物に襲われた、なんて人に言ったって信じて貰える訳が無い……そもそも、その怪物から救ってくれたのが陽その人である事を、2人は知る由も無いが……。

 

「2人共、何をヒソヒソ話してる? 」

 

 昇が舞花達の様子を訝しみ、顔を挟んできた。

 

「い、いや⁉︎ 何でもない、何でもないよ! ねェ、祈⁉︎」

 

「う、うん……!」

 

「そうか?」

 

 どう見ても何でもない訳が無いが、敢えて昇は口を挟まなかった。

 

「ほら、猛。いい加減に離れ……!」

 

 そう言いかけた時、左腕のG−ブレスフォンが、けたたましく音を鳴らした。

 

「ん? 何の音だ?」

 

 猛が音を聞き付けて眉を顰めるが、陽は駆け出した。

 

「おい、どこ行くんだよ、陽! 学校は、コッチだろ⁉︎」

 

「ご、ごめん! 忘れ物した! 先に行って!」

 

 猛の言葉を振り切り、陽は走り去る。その背に猛は叫ぶ。

 

「あ、陽! ノート、どうなるんだよォ⁉︎」

 

 そんな悲痛な言葉を無視し、昇と舞花は怪訝な顔だった。

 

「どうしたんだ、あいつ?」

 

「さァ?」

 

 全く状況が飲み込め無い2人は、ポカンとするばかりだ。しかし、祈は疑惑の目で走って行く兄の背を見続けていた。

 

 

「何ですか⁉︎ 今から学校ですよ⁉︎」

 

 少し離れた場所で、陽はG−ブレスフォンに怒鳴る。

 

『そんな場合じゃ無いわ‼︎ オルグが暴れているの‼︎ 急いで‼︎』

 

 電話先のテトムも、陽に負けず劣らずの声で怒鳴り返し声は途切れた。陽は頭が痛くなる。

 

「全く、コッチの都合を考えてくれよ……‼︎」

 

 陽は天を仰ぎながら、ボヤく。度々、こんな事じゃ、オチオチ学校にも通えない。

 

「これで停学になったら、オルグの奴等の所為だ……‼︎」

 

 そう言いつつ、テトムから告げられた場所へ陽は急いだ。

 

 

 

 現場は、とある廃ビルの屋上。其処には30人を上回る人だかりが整列していた。

 誰もが、ぼーッとした虚ろな表情で、まるで白昼夢を見ている様な感じだ。

 その様子を、さも愉快な調子で眺めているのは、ツエツエとヤバイバだ。

 

「ホホホ! 今度こそ、ガオレンジャーを倒してやるわ‼︎」

 

 ツエツエは自信に満ち溢れた笑みを浮かべている。隣には、ヤバイバが不安そうに、ツエツエが見る。

 

「しかし大丈夫か? 次は無い、って言われた手前、失敗続きの俺達だぜ? 今度、しくじったら……」

 

 そう言いつつ、ヤバイバは、ブルッと肩を震わせる。ツエツエは、ニヤリと笑う。

 

「心配無いわよ‼︎ こっちには、30人の人質が居るのよ‼︎ 如何に、ガオレンジャーと言えど手も足も出ない事、間違い無しよ‼︎ ふふふ、あの小生意気な小娘の、ぐうの音も出無い顔が目に浮かぶわ‼︎

 さあ、パイプオルガンオルグ‼︎ 死のコンサート開幕よ‼︎」

 

 ツエツエが叫ぶと、ビルの天辺に居たパイプオルガンの姿をした巨軀のオルグ魔人、パイプオルガンオルグが演奏を始める。

 

「では始めますわよ‼︎ 絶望と叫喚が織り成す甘美なる死のコンサートを‼︎ オルグ交響曲第一番『死出の行進曲』‼︎」

 

 そう言うと、パイプオルガンオルグの身体に備わる鍵盤が動き出す。すると背部にある多数のパイプから陰気臭い曲が演奏され始めた。その曲を聴いた人達は、何かに取り憑かれた様に虚ろな表情のまま歩き始めた。

 

「ホホホ‼︎ そーよ、進みなさい‼︎ 貴方達の進む先にあるのは死‼︎ あらゆる苦痛も悩みも開放し、穏やかに死になさい‼︎」

 

 パイプオルガンオルグは甲高い女口調で叫ぶ。その言葉に従い人々は只々、前へ前へ足を動かす。このままでは、ビルを飛び降りてしまう。

 

 

「止めるんだ‼︎」

 

 

 演奏を引き裂く様に、ガオゴールドが乱入して来た。ツエツエは、待っていたと言わんばかりに、パイプオルガンオルグに命令する。

 

「来たわね、ガオレンジャー‼︎ 構う事無いわ、そいつらを地べたに叩き付けてやるのよ‼︎」

 

 其れに従い、パイプオルガンオルグの奏でる音楽が更に強まると、今まさに人々はフェンスを乗り越え、ビルの縁から飛び降りてしまった。

 

 

「ダメだァァァ!!!」

 

 

 ガオゴールドが絶叫するが、もう遅い。全員の姿がビルの陰に消えた。

 

「ヒャハハハ‼︎ 全員、プチュッと潰れたトマトになってるぜ‼︎」

 

 ヤバイバは狂喜しながら騒ぐ。だが下に落ちた音がしない。様子が変だと、ガオゴールドは恐る恐る覗き込む。すると下から、落ちた筈の人達がせり上がってき来た。

 

「な、なんだ⁉︎」

 

 ヤバイバが事態を飲み込めずに焦る。人々、ガオズロックの背中に乗って全員、無事だった。

 

「ガオズロック! テトムか‼︎」

 

 ガオゴールドは安堵した。すると中から、ガオシルバーが飛び降りて来た。

 

「オルグ‼︎ これ以上の悪事は許さん‼︎」

 

 ガオシルバーは果敢に言い放つ。ガオゴールドも左に立ち、身構えた。

 

「キィィィ‼︎ アタクシの演奏を邪魔するとは無礼千万‼︎ この罪は重くてよ‼︎」

 

 パイプオルガンオルグも飛び降り、パイプと融合した右手で殴り掛かる。ガオレンジャーは連携を乱され、その瞬間に再び演奏を開始した。

 

「オルグ交響曲第二番‼︎『破壊と暴力のパジェント』‼︎」

 

 先程とは打って変わり重々しく力強い曲を奏でる。すると姿を現したオルゲット達が攻撃を仕掛けて来た。

 だが、このオルゲットは、いつも以上に連携を取っており何より強い。

 

「ゲットゲット‼︎」

 

「何だ強いぞ⁉︎ 」

 

「ご覧あそばせ‼︎ アタクシの曲の真髄は肉体と魂の支配‼︎ さっきの様に操るだけじゃ無く、力を限界まで引き出せますのよ‼︎ こんな風に‼︎」

 

 パイプオルガンオルグの曲に合わせ、オルゲット達は益々、強くなる。このままじゃ数で押し切られてしまう。ガオゴールドは、オルゲット達を防ぐに手一杯で反撃に手が回らない。ガオシルバーも同様だ。

 

「ホーホホ‼︎ コンサートには合唱が必要よ‼︎ 貴方達の苦悶に満ちた叫喚の合唱を聴かせてちょうだい‼︎」

 

 パイプオルガンオルグの曲調は段々と強くなって行く。それに呼応し、オルゲット達の攻撃は激しくなる一方だ。その時、ガオゴールドは気付いた。1人だけビルの縁に残された女性を。彼女はフラフラしながら立っており、今にも落ちそうだ。

 

「危ない‼︎」

 

 ガオゴールドが叫ぶも遅く、オルゲットの放つ砲撃の余波で足を踏み外し落ちてしまう。ガオゴールドはフェンスを乗り越え彼女の身体を支えた。右腕で彼女を支え、左手でビルの縁を掴み辛うじて、ブラ下がる。

 

「クッ…!」

 

 何とか腕を上げようとするが女性の体重が右半身に掛かり、力が入らない。其処へ、ツエツエとヤバイバがやって来た。

 

「ヒャハハハ‼︎ 言い様だな、ガオゴールド‼︎ おら、おっ死んじまえ‼︎」

 

 ヤバイバはガオゴールドの左手の指を踏み付ける。掴んでいるのが手一杯のガオゴールドには、反撃さえ出来ない。

 

「オホホホ、良いわね良いわね‼︎ 格好の的とは、この事ね‼︎」

 

 ツエツエも杖で、ガオゴールドの手を叩き付ける。どんどん指先の感覚が無くなって行く。遂に限界を迎え、ガオゴールドは手を離してしまった。

 

「ゴールド‼︎」

 

 ガオシルバーは、オルゲットの攻撃をいなしつつ、落ち行くガオゴールドに向かい叫んだ。だが、ガオゴールドと女性は大地へ落ちて行く。この高さでは、ガオレンジャーと言え一溜まりも無い。

 

「最早、これまでか……!」

 

 落ち行く景色を見ながら、ガオゴールドは覚悟した。が、何かに受け止められた感覚がして、ガオゴールド下を見ると、グリフィンのパワーアニマルがガオゴールドを受け止めていた。

 

「き、君は⁉︎」

 

 ガオゴールドは目を疑う。昨日、自分達に従わないと言ったパワーアニマルの片割れが助けた。グリフィンは空中を旋回した後、ガオゴールドを背に乗せたまま、翼を振るう。すると、オルゲット達は次々と吹き飛ばされてしまった。

 

「キィィィ‼︎ また邪魔を‼︎ オルグ交響曲第三……‼︎」

 

 最後まで言い切る事なく、ガオシルバーによる反撃を喰らい、パイプオルガンオルグの鍵盤を撃ち抜かれてしまった。

 

「イヤァァ‼︎ 何て事してくれるの⁉︎」

 

 パイプオルガンオルグは叫ぶも、グリフィンに屋上に届けられたガオゴールドは、ほんのお返しにと言わんばかりに、パイプオルガンオルグの右腕を斬り落とした。

 

「イタァァァイ‼︎ アタクシの右腕がァァァ⁉︎」

 

 痛みに転げ回るパイプオルガンオルグを尻目に、ガオゴールドは剣を構えた。

 

「ゴールド、大丈夫か⁉︎」

 

「あぁ、何とかね‼︎」

 

 すんでの所で助かったガオゴールドは、ドラグーンウィングを構える。ツエツエ、ヤバイバは悔しそうに地団駄を踏んだ。

 

「チキショウめ‼︎ もう少しだったのに‼︎」

 

「パイプオルガンオルグ‼︎ アンタの力はまだ残っているでしょう‼︎ 私達は引き上げるから、あとは頑張るのよ‼︎」

 

 そう言って、2人は姿を消した。残されたパイプオルガンオルグは、たった1人で対峙するしか無かった……。

 

 

 〜まさかの、ガオレンジャーを味方と考えないレジェンド・パワーアニマルの一対が、ガオレンジャーを助けた‼︎ これが意味を成すのは一体、何なのでしょうか?〜

 



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quest7 幻獣と対話 後編

 戦いより少し前に遡る。テトムは1人、崩れ掛けた遺跡の祭壇に居た。此処は古代、ガオの戦士とオルグの古戦場となった場所だ。今では忘れ去られ、人々の記憶からも消えつつあるが、ガオの戦士と縁ある者にとっては特別な場所である。

 テトムは祭壇に佇み、石碑に刻み込まれた文字の解読を試みていた。

 

「……駄目だわ。殆ど風化しちゃって、読めない……」

 

 テトムは眉を顰める。文字は、古代のガオの文字で書かれている為、テトムにも読めない事は無いが……所々が崩れてしまい、読む事が困難だ。

 だが文字の上に描かれた3つの絵に、テトムは目を見張る。

 

「……これは……!」

 

 石碑半分を占領する様に3匹の獣が……鷲の頭に、獅子の身体の獣……角を携えた馬に似た獣……真紅の身体と翼を持つ巨大な竜……彼等が、オルゲットと思しき者達を追い回している様が描かれていた。

 

「レジェンド・パワーアニマル……‼︎」

 

 テトムが壁画の一部に触れると、岩苔に覆われていた部位が崩れ落ちる。其処には、比較的に風化して居ない古代文字と、3つの宝珠が置かれていた。

 テトムは文字を読み上げる。

 

 

「……我、古より生くる牙吠ノ戦士ナリ。星ニ災イヲ齎ス鬼、戦士ノ牙ヲ封ジシ時、星ヲ守ル最後ノ希望トシテ、遺スナリ……」

 

 

 読み終えた後、テトムは3つの宝珠を手に取る。その刹那、宝珠は浮かび上がり、テトムの横を掠め飛び出して行った。

 

 

 

 とある山中の中に潜んでいたのは二体のレジェンド・パワーアニマル達だ。

 

 

 〜ガオグリフィンが行った様だな……〜

 

 竜の姿をしたレジェンド・パワーアニマル、ガオドラゴンが首を上げる。

 

 

 〜あの人間を助けに行った様ですね〜

 

 

 続いて、一角獣の姿をしたレジェンド・パワーアニマル、ガオユニコーンも応えた。

 

 

 〜何故、人間を庇うのか? 人間等、取るに足らぬ存在なのに……〜

 

 

 ガオドラゴンは人間に対する侮蔑を隠さなかった。人智を超えた存在である、パワーアニマル。彼等からすれば、たかだか数十年足らずしか生きられ無い人間は、羽虫のそれと変わらないのだ。

 

 

 〜人間が、大地を汚し海を汚し空を汚し、地球の命さえも汚すが為、オルグが生まれる……。人間を守った所、また新しいオルグを人間が生み出し、人間をオルグが襲う……。それの繰り返しだ……〜

 

 

 ガオドラゴンの言葉には人間への諦念が強く込められていた。長く人類の発展、衰退、其処から何一つ変わらないまま、同じ事を繰り返すだけの人間に対し、既に愛想が尽きていたのだ。

 仮に自分達が人類の為に戦っても結局、人間は私利私欲の為に生き、地球を破壊しオルグを際限なく生み出し続けるだろう……。ならば、人間の為では無く地球を守る為に力を使えば良い、と言う結論に至ったのだ。

 

 

 〜……確かに人間は過ちから何も学ばない。そう言った人間が地球に蔓延っているのも事実……。だが、そうでは無い人間も僅かに居るのでは?〜

 

 

 頑なに人間を拒絶するガオドラゴンに反し、ガオユニコーンは人間には、まだ可能性がある、と信じている口振りだった。ガオドラゴンは沈黙したまま、傾聴する。

 

 

 〜私も貴方と同じで、人間を信じていない……けれど、人間もまだ捨てたものではない。そう信じているからこそ、天空島のパワーアニマル達は、人間に力を貸した……少なくとも、私はそう思います……〜

 

 

 〜……くだらぬ……。人間はエゴの塊だ。信ずるだけ、無駄だ……〜

 

 

 ガオドラゴンは飽くまで、人間そのものを醜い種族だと断じ取り付く島が無い。ガオユニコーンも、硬骨な姿勢を崩さない彼に、とうとう閉口した。

 その刹那、ガオドラゴンは首を持ち上げる。

 

 

 〜如何やら、オルグがまた暴れているらしい……。人間等、知った所では無いが、地球を奴等の好き勝手にさせる訳には行かぬ。行くぞ〜

 

 

 そう呟くと、ガオドラゴンは翼を広げ飛び上がる。彼等は地球を守る為、戦う使命がある。ガオユニコーンも、それに続いた。

 

 

 だが……頑なに心を閉ざすガオドラゴンに僅かな疑念が生じていた事を、ガオユニコーンは気付いていた。

 あの人間……ガオゴールドは他者の為に力を使い、人間に対して怒りを抱く自分達に、真っ向から否定して来た。先の戦いでも、自分の身を顧みずに小さな命を守ろうとした彼の姿に、ガオユニコーンは希望を抱いていた。ガオドラゴンは完全に、人間を見限っていない。だからこそ、ガオドラゴンが人間に力を与えたのでは無いか……? 人間こそ悪か、守るべき対象か……レジェンド・パワーアニマル達は今一度、ガオゴールドと対話を果たすべきじゃ無いか……高度な自我を持つ幻獣達は、そう考えつつあった……。

 

 

 

 一方、ガオレンジャーとパイプオルガンオルグの戦いは、熾烈を極めていた。今迄、戦ってきたオルグと異なり力尽くに攻めて来ず、オルゲットを嗾けてくる所謂、統率タイプのオルグだ。

 それ故、パイプオルガンオルグに決定打を与える事が出来ない。ガオゴールド、ガオシルバーは攻めあぐねる事となった。

 

「オホホホ‼︎ このアタクシの右腕を斬り落とした罪は重くてよ‼︎ 骨も残さず、すり潰してあげるわ‼︎

 オルグ交響曲第三番『進撃の鬼神』‼︎』

 

 パイプオルガンオルグが破壊された鍵盤を邪気によって再生し演奏を始める。重々しい旋律が空間を支配する。すると、体色が赤く角が整ったオルゲットが召喚された。

 

「このオルゲットは、さっき迄の雑兵とは違うわ‼︎ 豊潤な邪気に浸透された強力な個体‼︎ そこへ、アタクシの演奏による強化が加われば……」

 

 オルゲット達は陣を組んで襲いかかって来る。ガオゴールド、ガオシルバーは攻撃を受け流すが、確かにさっき迄の攻撃と違い一撃 、一撃が重い。

 

「くッ‼︎ 手強い‼︎」

 

 ガオゴールドは力の付けたオルゲットに舌を捲く。数の暴力により、着実に追い詰められていく。

 その時、ガオグリフィンが鋭い爪をかざしながら、急降下して来た。

 オルゲット達を掴み上げ投げ飛ばし、翼から光弾を放ち一斉に、オルゲット達を撃ち抜き全員、泡となって消えて行った。

 

「まただ⁈ どうして⁈」

 

 ガオゴールドは、ガオグリフィンに驚愕の目を向ける。レジェンド・パワーアニマル達は自分達との共闘を拒んだ。それなのに……。

 

 

「ふん……梃子摺っているのか?」

 

 

 突如、パイプオルガンオルグを遮る様に炎が立ち昇る。炎の中から、別のオルグが姿を現した。

 

「お前は⁉︎」

 

 ガオゴールドは、このオルグを知っている。2度目の戦いの際、ゴールドの前に現れ圧倒的な強さを見せたデュークオルグ、メランだ。

 

「久しぶりだな、ガオゴールド。少しは目鼻が付く様になったかと思ったら……まだ、この程度とはな」

 

 メランは呆れた様に笑う。以前、戦った時は辛うじて痛み分けに持ち込んだが、あの時は、かなり際どい勝負だった……。

 

「そんな事を言う為に来たのか⁉︎」

 

「まさか。我が望むは貴様との拮抗した勝負だ。半端者の貴様に五分五分で引き分けたままでは、我の沽券に関わる。付け損なった決着を付け様では無いか」

 

 メランはそう言いながら、右手から炎の剣を創り出す。パイプオルガンオルグは不満気に喚いた。

 

「ちょっと‼︎ こいつ等は、アタクシの敵よ⁉︎ 邪魔しないで頂戴‼︎」

 

 

「黙れ」

 

 

 パイプオルガンオルグの不平に、メランは殺気を露わにする。

 

「卑劣な手段で勝利を掴み取らんとする貴様に加勢する気は無い。ガオゴールドは我の獲物だ。邪魔立てするならば……斬り捨てるぞ?」

 

 メランの放つ殺気に、パイプオルガンオルグは後ずさる。手に握られた剣から火の粉が散る。

 

「場所を移すぞ、フゥン‼︎」

 

 メランが剣を振るうと、ガオゴールドと共に炎に包まれる。2人の周囲を覆う其れは、さながら炎のリングだ。

 

「さァ、これで邪魔は入らん。始めるぞ‼︎」

 

 飽くまで、ガオゴールドとの一騎打ちに拘るメランは態々、戦力を分断して迄、戦いに挑む。オルグとは言え生粋の武人たる思想を持つメランにとって、共闘や謀略を好む者を蔑む兆候がある。彼に言わせれば勝利とな即ち、一対一の拮抗した戦いを制した者こそが真の勝者と考えているのだ。

 

「貴様……一対一に持ち込まれ、自分が勝てる等と甘い期待を寄せているな? ならば、其れは大きな間違いだ。あの時、我は力の半分も出し切っては居ない。だが……今回は違う‼︎」

 

 メランが剣を構えると以前とは比べ物にならない強力な闘気が立ち昇る。ガオゴールドは直感で感じた。

 間違いなく前回以上に強い、と。

 

「お前が強かろうと……どんなに圧倒的な力を振りかざそうと……僕は戦う‼︎ 僕が負ければ涙を流す人が後ろに居るんだ‼︎ 負ける訳には行かないんだ‼︎」

 

 ガオゴールドは戦いを経て、守る為に戦う戦士としての矜持を身に付けるに至った。脳裏には祈、友達の笑顔が浮かぶ。皆を守る為にも……攻める為に戦う戦士であるメランに負ける訳には行かないのだ。

 

「ククク……守護の戦士か……。平和に惚けた若造が中々どうして、戦士の器に自覚しつつあるらしいな。しかし、その覚悟とやらは貴様の実力が伴わなければ、ただの詭弁に過ぎんぞ?

 貴様が負ければな‼︎」

 

 メランは素早い動作で剣を振り下ろして来る。ガオゴールドも、負けじとドラグーンウィングで防ぐ。

 

「見せてみろ! 貴様の覚悟の力を‼︎ 其れが我の力を上回ると言うならば、我を倒して見よ! 我を超えて見せよ‼︎」

 

 メランはまるで、自分以上の力を示せと言わんばかりに、しきりに挑発してくる。ガオゴールドも剣を分割し、二刀流で攻めに入った。だが、刃は悉く切り返されてしまい、メランの間合いには届かない。

 

「クハハハ‼︎ どうした、其れが限界か⁉︎ 貴様の覚悟とやらは、我の首を掻き切るには脆すぎる様だな‼︎

 見せてやろう、上には上があると言う世の真理をな‼︎」

 

 そう叫ぶと、メランは剣を天に翳す。刃から炎が天を衝く様に燃え上がる。炎はやがて一振りの大太刀へと姿を変えた。

 

「力を超えた力は小手先の技をも凌駕する‼︎ 貴様の付け焼き刃で、どうこう出来るものではない‼︎」

 

 メランの放つ剣がガオゴールドの眼前に迫る。防ぎきれる規模では無い。このオルグの強さは、今のガオゴールドを遥かに上回っていた。容赦なき斬撃は、ガオゴールドのマスクを叩き斬る。

 

 

「うわぁァァァッ!!⁉︎」

 

 

 ガオゴールドは剣戟に押され弾き飛ばされる。叩き割られたマスクから素顔が覗き、流血が流れ落ちていく。

 

「これが強さだ! 人が限りある生の中で絶え間無く己を鍛え、初めて手にするであろう力! しかし悲しいかな、人の脆弱な身体では、この境地に達する迄、保たぬ! 生に限界が無い我等、オルグだからこそ初めて知る事が出来る‼︎ 限界を突破した力に‼︎」

 

 ガオゴールドは這々の態で立ち上がる。ドラグーンウィングを杖代わりにして、やっと立てる体たらくだ。

 

「見ろ! 其れが貴様の限界だ! 貴様如きでは我等、オルグを倒せぬ! 諦めろ!」

 

 

「い……嫌だ……!」

 

 

 ガオゴールドは苦し気に吐き出す様に呟く。

 

「僕は……諦めない……! 祈の笑顔は……僕が守る‼︎」

 

 今、既に限界を迎えた少年の身体が雄叫びを上げた。指先から身体の芯まで雄叫びは行き届き、力を与え始める。

 メランは、その様子を肌で感じる。そして、それを自分が期待している事を……。

 

「(此奴、化けようとしている……)」

 

 最初は平和な日常から無理やり引っ張り出された素人同然だった。だが今、目の前に立つ若き戦士は、極限に置かれた状況より新たなステップへと進み始めている。メランは、ゾクゾクと沸き起こる愉悦に身を震わせる。自分を倒し得る存在を、自分の目で見定める……だから、オルグは止められない。

 

「覚悟なら決めた。死なない覚悟だ‼︎ お前にも誰にも負けない、生き抜いて全てを守りきる‼︎」

 

 ガオゴールドは両手のドラグーンウィングの刃を肩から後ろ向きに寝かせる様に構えた。

 

「(何だ、あの構えは……?)」

 

 攻めとも守りとも似つかぬ独特な構えを見せたガオゴールドに訝しみながらも、メランは剣をかざした。炎が立ち昇り、先程の態勢に入る。

 だが、これこそガオゴールドが即興で編み出した我流剣術だ。九州の鹿児島に住む叔父から直伝され身に付けた、鹿児島が薩摩藩と呼ばれていた時代より受け継がれる必殺剣。叔父は幼い陽に教えた。

 

 

『数ある剣術の中でも敵を一刀の下に臥す剣術とは……戦乱の世にて薩摩で編み出され、初太刀にて全霊を込め敵を斬る。「一の太刀疑わず、二の太刀要らず」の極意を忘れるな』

 

『一の太刀疑わず……?』

 

 叔父の熱弁に幼い陽は首を傾げる。

 

『そうだ。幕末の世に於いて、かの新撰組局長をして「薩摩の初太刀は受けるな」と隊士に教える程、この技を幕末最強の剣術と謳う武人も要る程だ。

 しかし忘れるなよ、陽。初太刀を受けるな、と言うのは刀を叩き折る事だけでは『上』止まり。使い手に刀を抜かせる前に相手を屈服させ融和を果たす事が『極上』だ。「鞘の内で勝つ」気構え……そして、この剣術の名を覚えておけ。剣術の名は『示現流』‼︎』

 

『じげん……りゅう……』

 

 

 まだ幼かったあの頃は理解出来なかった。だが今なら分かる。生憎、今のガオゴールドは師匠の言う『極上』の域には達していない。何より、鞘の内で勝つ事が不可能な敵も居る事を熟知している。ならば『上』の剣で、立ちはだかる敵を倒すのみ!

 ガオゴールドは駆け出し飛び上がる。

 

「竜牙……墜衝!‼︎」

 

 高度から直滑降に舞い降りながら、ドラグーンウィングを振り下ろした。メランも剣で受け太刀するが、落下時の重力が剣に掛かり、常人では腕が粉砕し兼ねない威力となっていた。

 

「ぐ……ぬ……‼︎」

 

 メランは剣で押し返そうとするが、重力に逆らえない。このままでは逆に弾き返されてしまう。遂に、メランは剣を炎に戻し後退した。

 

「……く‼︎ 我が逃げを選ばざるを得んとは……‼︎」

 

 メランは忌々しげに唸る。落下したガオゴールドの周りには中規模のクレーターが出来る程だった。あのまま踏ん張っていたら、間違い無く斬られただろう……。

 

「ふん……貴様は不思議な奴だ。会えば会う程に、強くなって行く。なれば、次に会う時は、どれ程に強くなっているのだろうな?」

 

 不覚にも力比べでは押し負けられた。だが、其れでも自分の領域で渡り合えた訳では無い。メランはパチンと指を鳴らし姿を消す。同時に周りの炎も消えた。

 

 

「もっと強くなれ……我を楽しませれる程にな。ハッハッハッハ………」

 

 

 虚空に木霊するメランの声と高笑い……。今回も引き分けに終わった。だが次に会う時は……必ず! ガオゴールドは密かに胸に誓う。

 

 

「あらあら〜、出て来たの〜? メランに殺られたと思ったけど案外、しぶといわねェ?」

 

 

 ガオゴールドは振り返る。パイプオルガンオルグがイヤらしい笑みを浮かべながら、ズタボロとなったガオシルバーを足蹴にしていた。

 

「シルバー‼︎」

 

「く……スマない…‼︎ 」

 

 ガオシルバーは口惜しそうに呻く。だが、周囲に倒れ伏すオルゲット達を見れば、激しい戦いであった事は一目瞭然。メランに梃子摺っている間に、たった1人で苦戦を強いられていたに違いない。

 

「ホホホ‼︎ 後は、金のガオレンジャーだけねェ? アタクシを舐めた報いを受けなさい‼︎ さあ、武器を捨てるのよ! さもないと……」

 

 パイプオルガンオルグは悪辣に笑いながら、ガオシルバーの腹を踏み付ける。

 

「グオォッ⁉︎」

 

 苦しげに叫ぶ、ガオシルバー。パイプオルガンオルグは更に追い討ちを掛ける様に、シルバーの腹を蹴り続ける。

 

「……ゴールド……俺に…構うな……オルグ……を……ガハァッ⁉︎」

 

「オホホホ‼︎ さあ、どうする⁉︎ 仲間を見殺しにして、アタクシと戦う⁉︎」

 

 ガオゴールドは苦悩する。ガオシルバーを顧みずに戦うのは簡単だ。だが、今はシルバーを人質に取られている。悩んだ末、ガオゴールドは、ドラグーンウィングを手放す。

 

「……ゴールド⁉︎」

 

「許して下さい、シルバー! 僕には仲間を見捨てる事は……」

 

「オホホホ‼︎ 美しい仲間愛だこと! さぁ、何時まで寝ているの‼︎ やっておしまい‼︎」

 

 パイプオルガンオルグは演奏を始めた。すると倒れ伏していたオルゲット達が立ち上がり、ガオゴールドに迫る。

 

「楽に死なさないわよ? じっくり痛め付けて嬲り尽くして、苦しんだ末に殺してあげるわ‼︎ 絶叫と苦悶の奏でるハーモニーを聴かせてちょうだい‼︎」

 

 オルゲット達が、ジリジリと近付いてくる。ガオゴールドは追い詰められた。武器を捨て、メランとの戦いで傷付いて抵抗も出来ない。どうすれば……‼︎

 

 

 〜呆れた奴だ。仲間を庇い己を追い詰めるとはな……〜

 

 

「? 何なの、この声は⁈」

 

 突如、響き渡る低い声にパイプオルガンオルグは混乱する。だが、ガオゴールドは、この声を知っている。

 その時、天から3つの宝珠が舞い降り、ガオゴールドの前に集結した。

 

「これは⁉︎」

 

 

 〜ガオゴールド……貴様は甘い。一を重んじるあまり全を見ない……そんな奴が、戦士を名乗る等、片腹痛い〜

 

 

 紅い宝珠が厳しく叱る。続いて青い宝珠が語り掛けて来た。

 

 

 〜だが、貴方は我々が見てきた人間達とは違う……他者を思いやり、命を尊ぶ。でなければ、ガオグリフィンは助けには行かなかったでしょう〜

 

 

 更に、黄色の宝珠も語り掛ける。

 

 

 〜我々の力……お前に預けたい。もう一度、人間を信じさせて欲しい……〜

 

 

 〜お前が、ガオの戦士を名乗るならば、我等の力を使いこなして見よ‼︎〜

 

 

「ちょっとちょっと‼︎ 何なのよ、邪魔するんじゃ無いわよ‼︎ 構う事は無いわ、殺りなさい‼︎」

 

「オルゲットォォ‼︎」

 

 オルゲット達が一斉に飛び掛かって来る。その時、宝珠は光を放ちながら、ガオゴールドの右手に収まった。オルゲット達は光に跳ね返されてしまう。

 

「こ、これって……‼︎」

 

 ガオゴールドは驚愕する。右手にはドラゴンの横顔、ユニコーンの角、グリフィンの翼を模した大型のリボルバー銃が握られていた。

 

 

 〜我々の力を集結し生み出した破邪の爪……ガオサモナーバレットだ‼︎〜

 

 

「ガオサモナー……バレット……」

 

 

 〜3体のレジェンド・パワーアニマルの力が合わさりし時、邪悪なる者を狙い撃つ獣の銃が生まれます

 

 

 ガオゴールドはオルゲット達を狙撃した。竜の口に似た銃口から放たれる金色の光弾が、オルゲット達に直撃し一瞬で消滅する。

 

「す…凄い…‼︎」

 

 ガオゴールドは驚愕する。これは凄い威力だ。パイプオルガンオルグも引き腰になる。

 

「な、何よ! 銃だなんてズルいわよ‼︎」

 

「お前にだけは……言われたく無いな……‼︎」

 

 油断したパイプオルガンオルグの隙を見たガオシルバーは脱出を果たす。慌てて、体勢を戻すも既に手遅れだ。

 

「これで……終わりだ‼︎」

 

 ガオシルバーの安全を確認したガオゴールドは、パイプオルガンオルグに標準を合わせる。竜の目が発光し、ゴールドはトリガーに指を掛けた。

 

 

「邪気…焼滅! 破邪聖火弾‼︎」

 

 

 銃口から巨大な竜を模した炎の弾が放たれた。竜は大口を開けながら、パイプオルガンオルグの身体を飲み込んだ。

 

 

「イヤァァァァッ!!!!」

 

 

 パイプオルガンオルグは悲鳴を上げながら大爆発した。あまりの火力ゆえに肉片残さず焼き尽くしてしまった。

 

「や、やった……‼︎」

 

 ガオゴールドはフラフラと立ち上がるガオシルバーに駆け寄る。

 

「大丈夫ですか⁉︎」

 

「ああ、心配するな……。それより……何故、攻撃を躊躇った? 一歩間違えば、お前までやられていたぞ……」

 

 ガオシルバーは怒った様に、ガオゴールドを問い詰める。ゴールドはバツが悪そうに肩を落とした。

 

「けど……貴方を見殺しになんて…」

 

「全く、底抜けにお人好しだな、お前は……。でも、助かった。ありがとう……」

 

 ガオシルバーは素直に礼を言った。ガオゴールドも、また照れ臭そうに笑う。

 

 

 しかし、その様子を遠方からツエツエ、ヤバイバが見ていた。

 

「このままじゃ終わらないわよ‼︎ 鬼は〜内、福は〜外‼︎」

 

 ツエツエがオルグシードを燃えカスとなったパイプオルガンオルグに投げ付け、呪文を唱えた。

 すると、見る見る間にパイプオルガンオルグは巨大化し、復活した。

 

「し、しまった……‼︎」

 

「心配……するな‼︎ 俺がガオハンターで……クッ‼︎」

 

 ガオハスラーロッドを構えようとするが、ガオシルバーはさっきの暴行で酷く傷付き、立っているのがやっとだ。

 

「無茶ですよ、そんな身体で⁉︎」

 

 ガオゴールドはガオシルバーを支える。だが、グズグズしていたら、パイプオルガンオルグによって被害が甚大化してしまう……。その時……。

 

 

 〜我々の出番だ。ガオサモナーバレットを天に掲げて3回、撃ち『幻獣召喚‼︎』と叫べ‼︎〜

 

 

 ガオドラゴンの声だ。ガオゴールドはガオサモナーバレットの弾倉を確認する。それぞれ、3つの宝珠が装填されていた。ガオゴールドは意を決して、ガオサモナーバレットを天に掲げる。

 

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 

 銃口から3発、宝珠が射出される。宝珠は雲を貫き、天を割り3体の獣に姿を変え地上に召喚された。

 

 

「グオォォッ!!!」

 

 

 ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンと3体の幻獣達は、ガオゴールドの想いに応じ、変形を始める。精霊の騎士王ガオパラディンが降臨した。

 ガオゴールドも、ガオパラディンの体内に吸収され、コクピット状に空間に降り立つ。

 その瞬間、ガオパラディンの頭部を覆う竜の形を模した鉄仮面がせり上がり、精霊王の顔面が露わになった。

 

 

「誕生‼︎ ガオパラディン‼︎」

 

 

 〜幻獣のパワーアニマルとガオの戦士が心を通わし力を一つにした時、真の精霊の騎士が誕生するのです〜

 

 

『小癪な‼︎ アタクシの旋律の前に、パワーアニマル等、無力なのよ‼︎』

 

 

 パイプオルガンオルグは、演奏を始める。旋律が超音波と化し、ガオパラディンに襲い掛かる。

 

「グリフシールド‼︎」

 

 ガオゴールドの指示に応え、左腕となったガオグリフィンの翼を掲げる。超音波は全て防がれてしまう。

 

「ユニコーンランス‼︎」

 

 ガオパラディンは右腕となったガオユニコーンの角を突き出す。ユニコーンランスが高速回転し、パイプオルガンオルグの身体を抉り斬った。

 ガオゴールドと一心同体をある為、今まで以上の出力を発揮している為、近接攻撃を持たないパイプオルガンオルグは反対に追い詰められていく。

 ヤケになったパイプオルガンオルグは狂った様に鍵盤を叩く。すると、耳のつん裂く様な不協和音が流れ始めた。

 

「オホホホ‼︎ アタクシの曲を聴けェェ‼︎」

 

 既に追い詰められていたパイプオルガンオルグは四方八方に不協和音を撒き散らす。ガオパラディンも迂闊に踏み込めない。

 その時、パイプオルガンオルグの背後から衝撃が走る。

 

「ガオハンター‼︎ シルバーか⁉︎」

 

 何時の間にか、ガオハンターが背後に回り、パイプオルガンオルグの背中を斬りつけたのだ。その為、不協和音を鳴り止む。胸部のガオドラゴンが雄叫びを上げた。

 

「よし、行くぞ‼︎」

 

 ガオドラゴンの合図に合わせ、ガオゴールドは構えに入る。

 

 

「聖火波動・ホーリーハート‼︎」

 

 

 ガオドラゴンの口から金色の光線が放たれる。聖なる光線はパイプオルガンオルグの強靭な身体を吹き飛ばし、遂に大爆発を起こした。

 

「やったァァ‼︎ 大勝利だ‼︎」

 

 ガオゴールドは喜ぶ。それに応える様に、ガオパラディンはユニコーンランスで、ガオハンターはリゲーターブレードでハイタッチした。

 

 

 〜遂に和解を果たしたレジェンド・パワーアニマル達と、絶大な力を見せつけたガオパラディン。

 これより、ガオゴールドの真の戦いが幕を開けたのです〜




ーオリジナルオルグー


 −パイプオルガンオルグ
 古くなったパイプオルガンに邪気が宿り、オルグと化した魔人。

 オネエ口調で話し、勝つ為なら卑劣な手段を使う事を辞さない。
 胸部の鍵盤を弾いて、対象を操ったり潜在能力を引き出させる曲を奏でる。


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quest8 迫る脅威

 戦いを終えた後、ガオゴールドは前に立つガオパラディンと話しかけていた。鉄仮面は外し、素顔を露わにしたガオパラディンは、以前に比べ幾分か優しく見えた。

 

「ありがとう、力を貸してくれて‼︎」

 

 ガオゴールドは、率直に礼を言った。

 

 

 〜お前の為じゃない。地球を、オルグ共の好き勝手にさせる訳に行かないからだ。勘違いするな〜

 

 

 相変わらず、ぶっきらぼうに返すガオパラディン。だが、口調は聖騎士に相応しい穏やかな感じだ。

 

「……人間を信じてくれる気になったのか?」

 

 ガオシルバーは尋ねる。すると、ガオパラディンは低く唸る。

 

 

 〜何度も言わせるな。我等は人間を信じる事は出来ない……だが、ガオゴールドは別だ。その男は今迄の人間とは違う……だからこそ、それを見極める為だ〜

 

 

 そう言ってガオパラディンは、ガオゴールドを見据える。

 

 

 〜お前が我等の力を使い、どの様な戦士となるか監視させて貰う。忘れるな、もし、お前が戦士がしての本分を忘れ私欲のままに力を使えば、我等は今度こそ人間を見捨てるぞ〜

 

 

 ガオパラディンから発せられる厳しい言葉……即ち、人間を単純に守る訳じゃ無く、今後のガオゴールドの進路次第では、敵にも味方にもなり得る、と言う意味だ。

 

「ああ、分かってるよ」

 

 ガオゴールドは決意した。彼等の力を正しく使いこなして見せると。それは自分の為じゃ無い……大切な人を守る為だ。

 

 

 〜その言葉を違えるな〜

 

 

 そう言うと、ガオパラディンは姿を消した。その後、ガオズロックが飛来して来て、テトムが降り立つ。

 

「お疲れ様。人質の人達は皆、無事よ。オルグに操られていた記憶は無くしているわ」

 

「そうか、良かった……」

 

 ガオシルバーは変身を解きながら安堵する。ガオゴールドも変身を解除し、手の中に収まる3つの宝珠に目をやる。

 

「凄いわ、陽。レジェンド・パワーアニマル達を認めさせるなんて! やっぱり、貴方は素質があるわね‼︎」

 

「素質なんて……あ、大変だ‼︎」

 

 陽は携帯を取り出し、時間を見て驚いた。

 

「学校を忘れてた‼︎ もう行かないと‼︎」

 

 そう言って、陽は駆け出す。テトムは微笑みながら、彼の背を見送る。

 

「やっぱり彼を選んで間違い無かったわ」

 

「……やはり、あいつは甘過ぎる。いつか、足元を掬われなければ良いが……」

 

 大神は、自分を助ける為に武器を捨てた陽の優しさ、ひいては非情に徹し切る割り切れなさを危惧していた。かつて、自分も今の彼と同じく、仲間を思いやるが故に過ちを犯した様に……。

 

「彼の優しさこそ、強さの裏返しなんだと思うわ」

 

「どう言う事だ?」

 

 テトムの言葉に、大神は首を傾げる。

 

「彼は……走の様な突出した力は持たないけど、誰かを救う為に力を引き出せる事が、彼の強さなんだと思うわ。それを見抜いたからこそ、レジェンド・パワーアニマル達は心を開いてくれたんだと、私は信じてる」

 

「(……誰かの為に力を引き出す……か)」

 

 大神は走り去る陽の背を見送りつつ、若く実力を持つ反面、危うさを併せ持つ若き戦士に期待を抱き始めていた。

 

 

 一方、鬼ヶ島では、ツエツエとヤバイバがガタガタ震えながら、跪いていた。眼前には静かな怒りを滾らせるテンマが居た。

 

「よく余の前に、ぬけぬけと顔が出せたものだな……」

 

 地の底から響く様な声が、恐怖を掻き立てる。ツエツエは冷や汗が背中を流れ落ちるのを感じる。

 

「余はニーコを介し命じた筈……ガオレンジャーの首を取るまで、鬼ヶ島の帰還は許さんと」

 

 テンマの発言は強い怒りに満ちていた。度重なる失敗、戦力の要であるオルグ魔人も既に4体も倒されている。最も四度の敗北くらいなら、テンマは此処まで怒り心頭とならない。

 何よりも許し難いのは、レジェンド・パワーアニマルと言う戦力が、ガオレンジャーの味方となった事だ。

 ガオシルバーの有するパワーアニマル除いて、他のパワーアニマルを全て封印し、勝利に王手を掛けたにも関わらず、これでは戦況が反転し兼ねない。

 

「しかも……パワーアニマルが、ガオレンジャー達の戦力として加わった等と……貴様等は、余を何度と失望させれば気が済むのだ?」

 

 ツエツエは恐怖に気を失いそうになりながらも、果敢にテンマへ釈明を試みた。

 

「お、お言葉でございますが、テンマ様! レジェンド・パワーアニマルの存在は我々も知らなかった訳で……」

 

 

「たわけが‼︎」

 

 

 テンマの凄まじい怒号が響き渡る。ツエツエ、ヤバイバは益々、萎縮した。

 

「戦に於いて、想定外の事態が起こる事は周知の筈!貴様等は、その様な事態に対して、的確な対応が取れぬ程の無能か⁉︎」

 

「い、いえ! 滅相もございません‼︎」

 

 ツエツエは頭を床に擦り付け、ひたすらに謝罪する。そんな様子に、テンマは、フゥ〜ッと荒い息を吐いた。

 

「もう良い……貴様等を当てにした余が愚かであったわ。貴様等には今後、期待はせぬ……」

 

「え⁉︎ それって……⁉︎」

 

 テンマの落胆しきった声に、ツエツエは顔を青くした。その時、ニーコがひょっこりと姿を現した。

 

「テンマ様〜! 皆さん、到着しましたよ〜‼︎」

 

「うむ……来たか……」

 

 ニーコの報告に対し、テンマは待ち侘びたと言わんばかりだ。ツエツエは意味が分からない、と言った具合に、テンマを見つめた。

 

「あ、あの……来たって誰が……」

 

「貴方達が役立たずのゴミ屑さんだから〜、頼りになる助っ人が来たって事ですよ〜?」

 

 相変わらず神経を逆撫でする言動に、ツエツエは歯軋りする。しかし、ニーコは気にせず、パンッと手を叩いた。

 

「それでは張り切ってどうぞ〜!」

 

 ニーコの言葉に従い、室内の空気が変わる。突如、突風が吹いたかと思うと、フードを被った深緑の鬼が立っていた。

 

 

「風のゴーゴ……ここに」

 

 

 続いて、水流が天井より降り注ぎ、紺色の髪をした妙齢な女……の姿をした鬼が立っていた。

 

 

「水のヒヤータ……ここに」

 

 

 続いて、忍び寄ってきた影がせり上がり、頭部に苦無の意匠を持つ鬼が立っていた。

 

 

「影のヤミヤミ……ここに」

 

 

 最後に鬼火を思わせる炎が集結し、人の形を成したかと思うと、ガオゴールドと幾多と戦った鬼……メランが立っていた。

 

 

「焔のメラン……ここに」

 

 

 揃った人数に対し、テンマは満足気にほくそ笑む。

 

「待ちわびたぞ、四鬼士達よ……」

 

 四鬼士と言われた彼等の名を聞いて、ヤバイバは震え上がった。

 

「四鬼士⁉︎ かつて、シュテン様やウラ様、ラセツ様の呼びかけに応じなかった極め付けのデュークオルグが⁉︎ 」

 

 ヤバイバが驚くのも無理はない。彼等は先の戦いの際、当時に名を馳せたハイネス達に実力を買われ幾度と勧誘されたに関わらず、その勧誘を蹴り戦いに不参加を決め込んだのだ。それだけ、彼等が規格外であるという事を物語っている。

 

「ヤミヤミ! お前の弟は、かつて、ラセツ様の配下に加わったんだぞ⁉︎ なのに何で今更⁈」

 

「……しかし、あの愚弟は敗けた。ガオレンジャー如きにな……ラセツは拙者を手下にしたがったが、奴には拙者を下に就かせるだけの器が無かった……それだけだ。あんな半端者しか従わせられなかった、ラセツは気の毒だったな……」

 

 ヤミヤミは吐き棄てる様に言った。かつてのハイネスデューク、ラセツの腹心として活躍したデュークオルグ、ドロドロは彼の弟であり、一度はガオレンジャーを鬼霊界に閉じ込める事に成功したが、最後は敗退してしまった。弟を半端者、と蔑みに満ちた言い様から察する様に、彼には兄弟愛は無い。飽くまで己が見込んだ男にしか仕えない。

 

「シュテンにウラにラセツか〜、懐かしいな‼︎ あいつらは確かに強かったが、統率力に欠けていた! 奴等には悪りィが、王としては落第だったぜ‼︎」

 

 ゴーゴは嘲る様に笑う。

 

「……その点、テンマ様は違う……彼には、私達を従わせられるだけのカリスマを備えている。最も、ウラ様に勧誘を受けた際は少し悩んだけれど」

 

 ヒヤータが扇子を仰ぎながら、悠々と答える。

 

「……我は他者に従う事に興味は無い。力を持たぬ弱者に就いた所、時間の無駄だ」

 

 メランは厳かに言い放つ。力を求道する生粋の武人である彼にとって、組織は無意味なのだ。

 

「だったら……なんで、今になって……」

 

「蛇の道は蛇……我が敵とする男に近しい者に仕えるのは当然だ」

 

 メランの狙いは、ガオゴールドとの決着。己が信念を曲げてまで、テンマに仕えるのは、ガオゴールドと戦うのに効率が良いと判断したからだ。

 

「……メラン……貴様は、ガオゴールドと戦ったそうだな? 奴は強いか?」

 

「……奴は、まだまだ発展途上。実力は未知数だが、叩けば叩く程に強くなろう……」

 

 テンマの問い掛けに対し、メランは答える。その言葉には何処か、ガオゴールドの成長に期待している節があった。

 

「おいおい、メラン……ガオレンジャーは俺達、オルグの敵だぜ? 敵を讃えて、どうするよ?」

 

 ゴーゴは、メランを諭すが、当人はニヤリと笑う。

 

「笑止な……。奴は何れにしても我が、この手で始末する。だが、弱いままの奴を倒しても意味が無い」

 

「ハッ! 火付きの悪い奴だな、焔の異名が泣くぜ? そうなる前に、このゴーゴ様が倒しちまうかもなァ?」

 

「……それならば、その程度の男だっただけだ。最も、貴様如きに倒せるとは思えんがな」

 

「アァ? 随分と突っ掛かって来るじゃねェか? 火が付く前に、吹き飛ばしてやろうか⁈」

 

 挑発的に答えるメランの態度を不服としたゴーゴは、喧嘩腰に構える。

 

「ちょっとちょっと〜⁉︎ テンマ様の御前で揉め事は御法度ですよ〜⁈」

 

 慌てて、ニーコは仲裁に入る。だが、テンマは、それを制した。

 

「構わぬ。貴様等を招集したのは、ガオレンジャーの殲滅。馴れ合う為では無い。それを胸に留めておけ」

 

 テンマは静かに言うが、逆に威圧感を与える。ゴーゴは、チッと舌打ちした。

 

「……休戦だ」

 

「ああ。テメェは気に喰わねェが、今は退いといてやる」

 

 余りに個性の強い4人であり、お世辞にも、テンマに対し忠誠を誓っているとは思えず一枚岩とは言い難いが、ガオレンジャーを倒すと言う共通の目的を見出している。それだけでも充分、テンマにすれば心強い。

 

「聞けィ、四鬼士よ‼︎ 貴様等を招集したのは他でも無い‼︎ 我等にとって不倶戴天の敵、ガオレンジャーを倒す為だ‼︎ 奴等を倒さなければ我々、オルグの天下には成り得ぬ‼︎ ガオレンジャーを倒した者には、高い栄誉を与えよう‼︎ 」

 

 テンマの高らかな言葉に、ゴーゴは騒めき立つ。

 

「任せておけ、テンマ様よ! ガオレンジャーなぞ、この風のゴーゴが一吹きで蹴散らしてやるぜ‼︎ 」

 

「お待ちなさいな、ゴーゴ」

 

 此処まで沈黙を通して来たヒヤータが口を挟む。

 

「誰が、ガオレンジャーに一番槍を果たすかは公平に決めるべきよ。遮二無二に挑めば、逆に足元を掬われるわ」

 

「何だァ、ヒヤータ⁉︎ また、お前の得意とする策謀か⁉︎ 俺ァ、考えるより先に動く方が良いと思うがな‼︎」

 

 冷静に判断するヒヤータに対し、力尽くに事を運ぼうとするゴーゴ。其処へ、メランも参入した。

 

「他のガオレンジャーはどうでも良い……だが、ガオゴールドだけは我の手で倒す。それを忘れるな」

 

「ハァ……ヤミヤミ、貴方の意見は?」

 

 各々の我を通す他の四鬼士に呆れたヒヤータは、ヤミヤミの意見を尋ねる。

 

「拙者は、栄誉など要らぬ。ガオレンジャーが我等の倒すべき敵ならば、倒すのみ……。ならば、ヒヤータの言う通り、一番槍を決めて動くのも一理ある……」

 

「……テンマ様、如何致しましょう?」

 

 完全に意見が二分二分に別れた為、テンマに決定を委ねた。

 

「……好きに致せ。だが、ガオレンジャーを確実に倒せ、それが条件だ」

 

「……では、公平に順番を決めましょう。誰が一番に行くかを公平に、ね」

 

「どうやって決めんだ⁉︎ 俺達、4人で戦い合って決めんのかァ⁉︎」

 

 飽くまで力による押しに拘るゴーゴ。だが、ヒヤータは懐より、カードを4枚、取り出した。

 

「ルールは簡単よ。此処にある1から4のカードを引いて数の少ない者から、ガオレンジャーに挑む順番を決める。そして、順番の回らなかった者は一切、手出し無用…どうかしら?」

 

「フン……運任せか? 良かろう、偶には一興だ……」

 

「……拙者も同意しよう……」

 

「チッ……わぁったよ、それで良い。だが、カードを切るのは誰だ? ヒヤータには切らせねェぜ、妙な真似をしそうだ」

 

 一先ず、話は纏まった。ヒヤータは怪しく笑いながら、ツエツエを手招きする。

 

「貴女が、カードを切って」

 

「わ、私が⁉︎」

 

「そうよ。良く切ってね?」

 

 ツエツエは戸惑う。他のオルグと違い、このヒヤータは腹の内が読めない。しかし、テンマの怒りを買う訳には行かない為、ツエツエは受け取ったカードをシャッフルした。

 

「次に……カードを取り、額に乗せる。自分は見ないで彼女に見せるの」

 

 言われるままに4人は、カードを額の位置に持っていく。

 

「さァ、答えて頂戴……この中で一番のカードを引いたのは誰?」

 

「え……えっと……」

 

 ツエツエは4人のカードを順番に見て行く。

 言い出しっぺのヒヤータは2…ヤミヤミは3…メランは4……そして……。

 

「1番のカードは……貴方よ……」

 

 ツエツエは、1のカードを額に乗せるゴーゴを指差した。ゴーゴは額のカードを見て、有頂天になった。

 

「はは、やったぜ‼︎ 俺様が一番槍だ‼︎ 文句無いな、公平に決まったんだからよ‼︎」

 

 得意げにはしゃぐゴーゴに対し、ツマラなそうにメランは腕を組む。

 

「我は最後か……まあ良い。我の順番になる迄に、ガオゴールドが熟成しているだろう……」

 

「拙者は構わぬ……誰が一番だろうとな……」

 

 ヤミヤミも答えるが、ゴーゴは嫌らしい笑みを浮かべながら、2人を見た。

 

「残念だったな! お前等の活躍は全く無いぜ! この、ゴーゴ様が、ガオレンジャーの首を手土産にしてやるぜ‼︎」

 

 してやったりと意気込むゴーゴ。テンマは口を開いた。

 

「大した自信だな……ならば、風のゴーゴよ! 必ず、ガオレンジャーを打ち倒して参れ、行け‼︎」

 

「ハッ‼︎」

 

 テンマの命令を受けたゴーゴは、身体を風に変えて部屋を後にした。その後、ツエツエとヤバイバに命じた。

 

「ツエツエ、ヤバイバ! 貴様等は、ゴーゴの補佐に回れ! 言っておくが……これ以上、余を苛立たせるなよ? 次に下らぬ真似をすれば……貴様等はこうなる」

 

 そう言って、テンマは右手を翳す。すると手から放たれた怪光線が、出入り口に立っていたオルゲットに直撃し一瞬の内に、塵芥と化した。

 

「は、はいィ‼︎ 分かりましたァ‼︎」

 

「ご慈悲を感謝致します‼︎」

 

 そう叫ぶと、2人は逃げる様に部屋から出て行った。

 

「ハイハ〜イ、其れでは他の皆様を特別室に御案内致しま〜す」

 

 残された3人は、ニーコに連れられ部屋を後にする。その際、ニーコは、ソッとヒヤータに耳打ちする、

 

「……テンマ様、多分、気付いてますよ?」

 

「?」

 

「カードですよ〜。私、遠目に見てましたから。唯の白紙のカードに数字が浮かび上がる瞬間。なんで、ゴーゴ様が一番になる様にしたんですか〜?」

 

 その問いに対し、ヒヤータは貼り付けた様な笑みで、ニーコを見る。

 

「……さァ、何の事かしら?」

 

 素知らぬ顔でとぼけるヒヤータ。だが、扇子の下にある口元は邪悪な微笑を浮かべていた。

 

 

 

 ガオズロック内にて……テトムは瞑想に耽っていた。彼女の気掛かりは、ガオレッド達の安否だ。あの日、天空島と共に行方が知れなくなった仲間達……彼等を助け出す為、テトムは天空島に残されたパワーアニマル達の声を聴こうと懸命になっていた。

 だが、その甲斐も空しく、パワーアニマル達はおろか仲間達の声すら聴こえない、

 まさか既にもう……テトムの心中に嫌な予感が過る。

 いや、そんな筈は無い! 彼等は何度も絶望を希望に変えて立ち上がって来た‼︎ きっと無事な筈だ。テトムは信じていた、否、信じる事しか出来ない。

 その際、聖なる泉が凄まじい勢いで奔流を上げて噴き出してきた。

 

「キャァァッ!⁉︎」

 

 思わず吹き飛ばされるテトム。聖なる泉が荒れるのは邪悪なる存在、オルグの邪気を感じ取った証拠だ。

 だが、この荒れ方は異常だ。それだけ強い邪気を察知した、という事なのだろうか?

 

「一体、何が起きようとしているの?」

 

 テトムは荒れ狂う泉を凝視しながら、これから起きようとする波乱に不安を覚えた。

 

 

 

「クックック……慌てているな、ガオの巫女……」

 

 場面が変わり、薄暗い霧が立ち込める地下室へ移る。巨大な鏡に映し出されるテトムの姿を見る1人の影……。

 

「だが、もう遅い……。テンマめ、想像以上の働きをしてくれたわ……パワーアニマルを異次元に閉じ込め、ガオレンジャー共も、このザマよ……」

 

 謎の人物が振り返ると、其処には水晶の中に封じ込められたガオレッド達が変身の解除された姿で眠っていた。謎の人物は手を置く机には、G−フォンが並べられていた。

 

「これで計画は首尾よく進んでいる訳だ……」

 

 

『半分……はな……』

 

 突然、鏡の場面が切り替わりテレビの砂嵐状になったかと思えば、禍々しい声が聞こえてきた。

 

 

『新たなガオレンジャーの登場、レジェンド・パワーアニマルの復活は計算外だ……我々の計画の支障となり得るのでは?』

 

 

 鏡越しに響く声が警戒している様だった。だが、謎の人物は気にする素振りを見せない。

 

「構わないさ、さしたる問題には成らない……肝心なのは、地球の支配者がオルグである事だろう?」

 

 

『……ぬゥ……』

 

 

 声は唸るが、反論はしない。その際、謎の人物には一筋の光が差す。映し出された姿は、紫色のヘルメットを着用したガオレンジャーそのものだった。

 

「何れにしても……俺が纏めて始末してやるさ。これは世界に対する……叛逆だ」

 

 漆黒のマスクが水晶の中のガオレッドを睨みながら呟いた。

 

 

 〜新たな敵、四鬼士と謎のガオの戦士……水面下で暗躍する敵勢力に、ガオレンジャーは如何に立ち向かうのでしょうか〜



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quest9 謎の戦士と鬼門

 ガオドラゴン達と和解を果たしてから一週間経った日……陽は日々、変わらない日常を送っていた。

 あの日から、あれだけ息もつく間も無い迄に襲撃して来たオルグ達は、ピタリと無くなった。

 テトム曰く「オルグ達も様子を伺っているかも知れない」と警戒を崩さず、大神も鬼門を探し竜胆市内に潜伏していると言う。

 陽は、あの後、学校を遅刻した理由を「急に体調が悪くなったから」と誤魔化したが正直これ以上、ガオレンジャーである事を隠し通すのは難しく思えてならなかった。かと言って、自分の正体を明かせば祈を始め周囲の親しい者達に危害が及ぶ恐れがあった。

 等と考えながら学校の休み時間……他の友達と話していた猛は、陽に話し掛けて来る。

 

「なァ、陽! これ凄ェよな!」

 

 興奮しながら猛は、スマホの画面を見せてきた。

 陽は何事か、と見てみると、パイプオルガンオルグとガオゴールドが戦っている動画が映し出された。

 

「最近よ、こんな化け物染みた連中と戦う戦士が現れるって噂になってんだ。此処一月だけで、4回以上現れてるらしいぜ!」

 

 猛は興奮気味に語り始める。こう言った話には人一倍、興味津々な性格だから、仕方無いと言えば仕方無いが……。

 

「偶にテレビでやってる、子供向けの特撮番組の撮影じゃ無いのか?」

 

 昇は冷めた口調で話す。確かに、見た感じは特撮映画のそれに近い。猛は驚いた様子だ。

 

「バッカ、これがテレビの撮影かよ⁉︎ 見てみ、凄ェリアルじゃねェか‼︎」

 

 猛が動画を動かすと、今まさにガオゴールドが放った攻撃が、オルグを撃退した瞬間が映されていた。

 

「ネットで拾った動画だろ? これ位の演出なら、最近のコンピュータ技術で、どうとでもなるだろ?」

 

「う……」

 

 昇の痛い所を突いた発言に、猛は言葉を詰まらせる。

 確かに、この戦いは端から見れば現実味に欠けている。テレビの撮影だと言ってしまえば、それでお終いだ。だが……。

 

「なァ、陽! お前はどう思うよ⁉︎」

 

 猛が陽に話を振って来た。陽は苦い顔をする。

 言う迄も無く、この動画に映るガオゴールドの正体は陽本人である。かと言って、其れを自ら明かす訳にも行かない。

 

「……多分、動画に上げようとした人の造ったCGじゃ無いかな。前に無料動画サイトで似た様なのを見た事あるし……」

 

 なんと無くだが、誤魔化しておいた。変に詮索されたら面倒な事になりそうだからだ。

 

「……んだよ〜、もし実際に居るなら会って見てェけどな」

 

「……会って、どうするんだ?」

 

「………サインを貰う?」

 

「……小学生か、お前は……」

 

 呆れ果てた様に、昇は溜息を吐く。

 一方、陽は内心、穏やかでは無かった。戦いをこなす日々で忘れていたが、オルグが現れガオレンジャーとして戦えば当然、世間に認知される。よくよく考えれば今迄、バレなかったのが不思議なくらいだ。

 このままでは、自分の正体がバレるのも時間の問題だ。何とかしなくては……。

 

「(テトムに相談してみるか……)」

 

 陽は一先ず、テトムに今後の対処について話す事を決断した。

 

 

 

 大神 月麿は1人、バイクを走らせ山道を進んでいた。この町の何処かに、オルグが現れる''鬼門''が存在するらしい。

 前回と違い、オルグ達はどうやら、本拠地とする場所から召喚され、この町に現れている。

 そうなれば、その鬼門を見つけ破壊すれば、オルグ達の侵攻を食い止められる。あわよくば、オルグの本拠地を直接、叩く事も出来るかも知れない。

 大神は元々、一匹狼気質で物事を1人で抱え込んでしまう為、ガオレンジャーが敗北したあの日、己だけ逃げてしまった事を、ずっと後悔し続けていた。

 仲間達は今、どうしているだろう……ただ、それだけが気掛かりで仕方ない。自分は肝心な時に、仲間達を救えない。1000年前もそうだ……当時で最強だったオルグ、百鬼丸の侵攻を食い止める為、自身がオルグとなって百鬼丸を倒した……が、自分の力が至らないが為に、千年の友ガオゴッドは倒され、新たなオルグ『狼鬼』として仲間達に、仲間を封印させると言う苦痛を与えてしまった。

 そればかりか、今度は自分を狼鬼の呪縛から解き放ってくれた仲間達を見捨ててしまい、陽を戦いに巻き込む結果となった。

 

「……俺は……何一つ変わっていない……」

 

 只々、自責の念ばかりが大神の良心を苛める。自分に力があれば……もっと力が……。

 だが何時までも、猛省ばかりしてられない。今は自分が為すべき事をしなければ……。

 

 

 

 山道を抜けた大神は、古びた廃寺へ辿り着く。かなり昔に人手から離れ、荒れ放題と化している。

 かつては高名な寺だったらしいが、人が寄り付かなければ神聖な寺社仏閣も形無し、今では鼠やイタチの温床である。

 大神は廃寺の門を潜り、建物の中に足を踏み入れた。昔は参拝者で溢れていたであろうに、現在は剥がれ落ちた瓦やカビや苔に侵食された柱が、時の流れを物語っている。こんな辺鄙な場所に用も無く足を運ぶのは、余程の物好きか人目を避けたい何かを隠したい者しか居ない。そして、今回は後者である。

 常人には到底、感じ取る事は出来ないだろうが、この廃寺全体から、オルグ特有の邪気が滲み出ている。

 的中、大神は内心で感じた。間違い無く、此処に鬼門が存在する筈だ。

 鬼門は一般人には目視する事は出来ず、オルグが現れた際も空間が歪んだ様になるだけだ。

 しかし、大神は不審に感じる。何故、敵は鬼門等と言う非効率な方法を使うのか?

 まだ人が今より少なかった1000年前なら兎も角、文明が進み人の手が未開の地にも及ぶ様になった現代で、例え一般人に見る事は出来ずとも、視覚的に目立つオルグ達の侵入口として使うには、鬼門はハイリスクだ。

 にも関わらず鬼門を使い、オルグを次から次に送り込んで来る理由は……? 大神は思案しながら、廃寺内を散策して回る。敷地内に充満する邪気の質は、かなり薄い。だが薄い邪気も積もれば、より高密度な邪気となって周囲に影響を及ぼす。そうなれば、オルグを自然発生させる結果に繋がり兼ねない。大神が鬼門探しに熱を入れるのは、そう言った理由があった。

 

 

「何か、お探しかな?」

 

 

 突如、静寂を裂く声に大神は振り返ると、廃寺の屋根に立つ謎の人影が見えた。

 

「誰だ⁉︎」

 

 大神が警戒心を露わにしながら叫ぶ。人影は飛び降りて、大神の眼前に着地した。

 

「なッ⁉︎ お前は⁉︎」

 

 大神は思わず絶句する。眼前に立っていたのは、オルグでは無く紫色のガオスーツにヘルメットを着用したガオの戦士だった。

 

「ガオ……レンジャーなのか?」

 

 大神が驚くのも無理はない。現在、ガオレンジャーはガオシルバーとなる自分とガオゴールドとなる陽、行方不明となるガオレッド達以外に存在する筈は無いのだ。だが、目の前に立つ男は紛う事無き、ガオの戦士の特徴を持つ。

 

「ク……俺は、ガオの戦士じゃない。今はな……」

 

 謎のガオの戦士は、挑発する様に笑う。

 今は? と言う意味深な言葉に大神は気になった。彼が、ガオの戦士じゃないなら……何故、ガオスーツを身に付けているのだ? だが、目の前のガオの戦士から放たれる気は非常に凶々しく、とても、ガオレンジャーの気とは言い難い。

 

「ならば、何者だ⁉︎」

 

「フン……知りたければ力尽くで聞き出してみる事だな」

 

 そう言って、謎の戦士は身構える。止む無く、大神も臨戦態勢に入った。

 

「……! ガオアクセス‼︎」

 

 閃烈の銀狼ガオシルバーに変身し、ガオハスラーロッドを振りかざしながら突進を仕掛ける。

 だが、謎の戦士は斬撃を躱し逆に攻撃を仕掛けてきた。だが、戦士の手に握られている武器を見て、ガオシルバーは目を疑う。

 

「そ、それは⁉︎」

 

 謎の戦士の右腕に握られる武器……それは、仲間である、ガオイエローが所有する長剣型の破邪の爪イーグルソードだ。

 

「イーグルソード⁉︎ 何故、お前が其れを持っている⁉︎」

 

「クク……さァ、何故かな?」

 

 余裕の態度を崩さず、イーグルソードで斬り返して来る。その太刀筋は、ガオイエローが用いる技とは異なるが、殺傷力が高く洗練されている。

 

「どうした? 仲間の武器を見て動揺したか?」

 

「チィ……!」

 

 ガオシルバーは舌打ちしながら、目の前の戦士を睨む。

 

「応えろ‼︎ お前は、イエローなのか⁉︎」

 

 信じたくは無い。目の前に立ちはだかる相手が、戦友である事に……。

 

「もしそうなら、どうする?」

 

 謎の戦士はジリジリと近付きながら、ガオシルバーの首筋目掛け刃を振り下ろす。すんでの所で、ガオハスラーロッドで受け太刀するが、容赦無く斬撃の猛襲を浴びせた。

 繰り出される斬撃は辛うじて全て受け切るが、一撃一撃が非常に重く、しかも疾い。

 

「ククク……その程度か? 狼鬼の時の方が強かったな」

 

「! 何故、それを知ってる⁉︎ やはり、お前は⁉︎」

 

「『ノーブルスラッシュ‼︎』」

 

  突然、イーグルソードにエネルギーを纏い、X字状に袈裟斬りを繰り出す。ガオシルバーは吹き飛ばされ、大きく後退した。

 

「その技はイエローの技……‼︎」

 

「まだまだ小手調べだ。これは……どうかな⁉︎」

 

 そう言って謎の戦士は再び突撃して来る。大振りが来る前に、スナイパーモードで狙撃しようとするが刹那……。

 

「『サージングチョッパー‼︎』」

 

 ガオハスラーロッドに左右から衝撃が走り弾き飛ばされる。謎の戦士の手に握られるのは、イーグルソードでは無い。

 

「どうだ? 見覚えのある武器だろう?」

 

「それは……シャークカッター⁉︎ ブルーの破邪の爪を何故⁉︎」

 

 イーグルソードに続いて、ガオブルーの所有する2対1組のナイフ型の破邪の爪シャークカッターを装備していた。

 

「どうしてだ⁉︎ 何故、2人の武器を使える⁉︎ 2人の技までも⁉︎」

 

 いよいよ只者では無い。ガオイエロー、ガオブルーの武器を自在に使いこなし、かつ、彼等の必殺技さえも使用するとは……。

 謎の戦士は高笑いしながら、名乗った。

 

「俺はガオネメシス! 人間共に復讐する為、地獄から這い上がって来たのだ‼︎」

 

「ガオネメシス……⁉︎」

 

 聞いた事が無い名だ。ガオネメシスは、クククと含み笑いをしながら、シャークカッターを構えた。

 

 

 

 一方、学校では……。陽は休憩時間の所を、テトムから連絡を貰い、緊急だから出て来て欲しいと言われ慌てて屋上へ向かっていた。暫く、オルグ達も大人しくしていた、と思っていたらコレである。

 

「もう、せめて学校が休みの時にしてくれよ……‼︎」

 

 陽は不満を募らせるが、オルグ達からすれば時間も予定も関係無いのだから届かぬ願いである。

 

「竜崎?」

 

 陽は突如、声を掛けられた為、振り返ると黒髪の肩までのセミロングの女子生徒が立っていた。やや気怠げな感じだが、中々の美人である。

 

「えっと……どなたですか?」

 

 非常時とは言え、惚けた言動を取る陽に対し黒髪の女子は、ハァッと溜め息を吐く。

 

「どなたですか?って、同じクラスの鷲尾 美羽だけど?」

 

 鷲尾 美羽……陽は記憶を辿ってみるが、あまり話した記憶は無い。クラスで仲の良い女子達と連んでいるが少なくとも、それ以上の接点は無かった筈だ。

 

「てか、何処に行くの? 予鈴鳴ったよ?」

 

 陽は口籠る。まさか、ガオレンジャーの事を話す訳に行かないし、言った所で信じて貰える訳が無い。

 ふと咄嗟に浮かんだ言い訳を話す。

 

「ほ、保健室‼︎ ちょっと具合悪くてさ……」

 

「今、走ってたじゃん……」

 

 美羽は呆れ顔になる。流石にキツかったか……。だが、美羽は小さく溜め息を吐きながら…。

 

「竜崎って真面目な奴と思ってたけど、サボりとかするんだね。ちょっと意外」

 

「べ、別に、サボりとかじゃ…‼︎」

 

「ハイハイ、先生には適当に口裏合わしとくから。バレたら知らないけど」

 

 そっけない口調で踵を返しながら去っていく。一先ず、躱せたか? だが、陽は本来の目的を思い出し再び走り出す。

 だが、その後ろ姿を美羽は怪訝な目で見ている事に陽は気が付かなかった。

 

 

 

 屋上に付いた陽は、上空に停止するガオズロックに気が付いた。ガオズロックは、陽の姿を確認すると着陸して来た。

 

「さァ、早く乗って‼︎ シロガネから連絡が入ったの! オルグを、この町に誘い出す鬼門を見つけたって! 」

 

「鬼門? それなら大神さん1人でも……」

 

「詳しく説明している暇は無いの‼︎ さ、急いで‼︎」

 

 全く、この人は……。切羽詰まってる時は、こっちの言葉をまるで聞いてくれない。急かされるままに、陽はガオズロックに乗り込む。ガオズロックは再び浮上を始め、大神の居る場所へと向かって行った。

 その様子を、屋上から小柄の少女が見守っていた。飛び立って行くガオズロックを眺めながら、少女は呟く。

 

「…あの人に私の力を貸すべきかな、ママ…」

 

 そう呟いて、少女は背を向けて姿を消した……。

 

 

 

「クク……此処までだな」

 

 ガオネメシスは圧倒的な強さで、ガオシルバーを追い詰める。あの後、更にガオブラックのバイソンアックス、ガオホワイトのタイガーバトン等と、ガオの戦士達の技を繰り出されて来た。この勢いならば、ガオレッドの破邪の爪をも出し兼ねない。

 

「……聞かせろ……何故、ガオの戦士が、オルグの味方を?」

 

 ガオシルバーは負けるにしても、せめて情報を引き出してやろうと試みた。ガオネメシスは、タイガーバトンで肩を叩きながら笑う。

 

「ガオの戦士が総じて地球の為に戦う訳じゃ無い、と言う事だ。貴様の哀れな仲間達も然りだ」

 

「……あいつ等に……何をした⁉︎」

 

 ガオシルバーは痛みを堪えつつ立ち上がる。そもそも、ガオレンジャー達が使う破邪の爪を、この男が持っているという事は……この男は、仲間達の安否を知っている筈だ。

 

「そんな事を聞いて、どうする? これから死ぬ貴様が。心配しなくて良い、すぐに他の仲間も送ってやるさ。あの世で仲間同士で抱き合って泣くが良い‼︎」

 

 勝ち誇った口調で、ガオネメシスはタイガーバトンを振り下ろした。だが、それを防ぐ様に、バトンは光弾に弾き飛ばされた。

 

「…チィッ‼︎ 来たか⁉︎」

 

 ガオネメシスは忌々しそうに毒吐く。空より飛来したガオズロックから、ガオゴールドが飛び降りつつ、ガオサモナーブレットを向ける。

 

「シルバー、ごめん‼︎ 遅くなった‼︎」

 

「……いや、謝るのはコッチだ。鬼門はそこにあると言うのに……」

 

「フン……鴨がネギを背負って来たか。態々、探しに行く手間が省けたわ」

 

 ガオネメシスは相変わらず、余裕を崩さない態度で臨む。ガオゴールドは怒りを露わにしながら、ネメシスを睨む。

 

「お前は何者だ‼︎ ガオレンジャーじゃ無いのか⁉︎」

 

「ククク……俺は……復讐者さ。貴様等、蛆にも劣る人間共に対しな……」

 

「復讐者……⁈」

 

 意味が分からない。テトムが、ガオズロックより呼び掛ける。

 

「ガオネメシス‼︎ 一体、貴方の目的は何なの⁈ 人間に対し復讐? ならば、貴方に力を与えたのは?」

 

「クク…クハハハッ‼︎ 貴様等に、これ以上、話す必要は無いさ! 此処で貴様等は死ぬのだからな‼︎

 

 そう言って、ガオネメシスは指をパチンと鳴らす。すると、彼の背後に禍々しく空間が、うねり始めた。

 

「それが鬼門か⁈」

 

 ガオシルバーは叫ぶ。すると、ガオネメシスが手をかざす。その時、鬼門からオルグが2匹、飛び出して来た。右の白いオルグが馬に似た鬼、左の黒い鬼が牛に似た鬼だ。

 

「こいつ等は⁉︎」

 

「鬼地獄より召喚したヘル・デュークオルグ、ゴズとメズだ。今迄、戦ったオルグ達とは比べ物にならない迄に強いぞ。心して掛かるんだな‼︎ そら、オマケだ‼︎」

 

 続いて、多数のオルゲット達も召喚されて行く。ガオネメシスは、その様子を尻目に、鬼門の中へ入って行く。

 

「ま、待て‼︎ レッド達をどうした⁉︎」

 

「フン…そいつ等より強ければ教えてやっても良い……生きてたらな! ハッハッハッハ……‼︎」

 

 ガオネメシスは高笑いを上げながら、鬼門の中へ消えて行った。ガオシルバーは後を追いかけようとするが、ゴズが金棒を振り下ろして行く手を阻む。

 

「グフォッ、グフォッ‼︎ 此処から先は通さんぜ‼︎」

 

「バヒィッ、バヒィッ‼︎ 通りたければ、俺達を倒してからにしな‼︎」

 

「シルバー‼︎ こいつ等を倒すのが先決だ‼︎」

 

 ガオゴールドは攻撃を仕掛けて来るオルゲット達を蹴散らしながら、ガオシルバーに呼び掛けた。

 

「俺達を倒す? 舐められたもんだな、ゴズの兄弟⁉︎」

 

「おうよ、メズの兄弟! ヘル・デュークオルグの力をみせてやろうや‼︎」

 

 そう言ってゴズは棘が突き出した金棒を持ち上げ、メズは同じく棘付きのフレイルを回転させる。

 

「どっせい‼︎」

 

 メズが振り下ろしたフレイルが、ガオゴールドに目掛け迫って来た。間一髪で避けるが、背後にあった風化し掛かけの石灯篭が粉々に粉砕された。しかし、続け様にゴズが金棒を右往左往に振り回しながら突進して来る。

 

「ふんぬゥ‼︎」

 

 勢いよく突っ込んだゴズの巨体により、寺の門が押し潰された。ガオシルバーは辛うじて躱すが、あの巨体による突進や鈍器で叩きつけられ様ものなら、無事には済まされない。

 2匹だけでも厄介なのに、多数のオルゲットがノミのように集って来る為、集中出来ない。

 

「グフォフォ‼︎ どうした、ガオレンジャー‼︎ まるで歯応えが無いじゃァねえか‼︎」

 

 ゴズは金棒を叩きつけながら挑発した。

 

「バヒィヒィ‼︎ 只々、逃げ回るだけじゃ勝てんぜ‼︎」

 

 メズもフレイルで肩をトントンと叩きながら囃し立てる。確かに今のままでは、一方的にやられてしまう。

 ガオゴールドは何とか打開策を考える。

 

「…オルグ2匹はパワー型、正面からは対峙出来ない。オルゲット達は多勢に攻撃して来て、集中力を欠く…先に雑魚を片付けたい…‼︎」

 

「何をチンタラしてやがる⁉︎ 来ないなら、こっちから行くぞォォォ‼︎」

 

 業を煮やしたゴズが金棒を振りかぶりながら、突進して来る。ガオゴールドはガオサモナーブレットを右手に、ドラグーンウィングを左手に構え飛び上がる。

 

「図体が大きければ、それだけ的になりやすい‼︎」

 

 そう言って、ガオサモナーブレットでゴズの目を狙った。

 

「イデェ‼︎」

 

 目をやられたゴズは視界を奪われ、メズに金棒を振り下ろした。

 

「ゴズ‼︎ どこを狙ってやがる⁉︎」

 

 メズは怒鳴るが、今の奇襲で連携を壊してしまった。

 

「ガオシルバー、今の内だ‼︎ オルゲット達を‼︎」

 

「分かった! スナイパーモード‼︎」

 

 ガオゴールドの不意打ちで敵の注意を引いている間に、ガオシルバーはガオハスラーロッドを銃形態にして、オルゲットを狙撃していく。

 

「オルゲットォォォ⁉︎」

 

 成す術なく、オルゲット達は泡となって倒されて行く。ガオゴールドも援護射撃にて、的確に倒して行った。

 

「ウガァァァ、テメェ等、よくも‼︎」

 

 ゴズは視力を回復させ、態勢を整える。メズも同様だ。

 

「メズ、やるぞ‼︎」

 

「おうともよ‼︎」

 

 ゴズはメズの脚を掴んで、力一杯にジャイアントスイングし始めた。メズはフレイルを直立に持つ。

 

 

『オルグ殺法! 地獄竜巻‼︎』

 

 

 遠心力を利用して、回転し始める2人を中心に竜巻が発生する。竜巻は辺りを見境無く破壊し始めた。

 

「く! これじゃ、攻撃が当たらない‼︎」

 

 ガオゴールドは、ガオサモナーブレットを撃つが竜巻により弾き返されてしまった。このままでは、自分達も竜巻にやられてしまう。

 

「ゴールド、ドラグーンウィングを横にして構えろ‼︎」

 

 ガオシルバーが指示を出す。言われるままに、ドラグーンウィングを横にして構えた。その上に、シルバーが飛び乗った。

 

「そのまま、持ち上げろ‼︎」

 

 空中に回転しながら飛び上がるガオシルバー。竜巻の中心地には、勢いよく回転するゴズはメズが確認出来た。

 

「上は隙だらけだ‼︎」

 

 そう言って、ガオハスラーロッドでオルグ2匹を狙撃した。集中力を乱されたゴズは回転を止め、メズを離してしまう。

 

「ち、畜生め! 」

 

「ゴズ、早く立て直しを‼︎」

 

 メズが急き立てるが、時既に遅い。ガオゴールドとガオシルバーは各々の武器を構え、砲撃した。

 

 

「破邪聖火弾‼︎ 邪気…焼滅‼︎

 

  破邪聖獣球‼︎ 邪気…玉砕‼︎」

 

 

 ガオサモナーブレットから炎の竜を模した弾がゴズに、ガオハスラーロッドから撃ち出された3つの宝珠がメズに直撃した。

 

 

「ブルゥァァァッ!‼︎」

 

 

 2匹のオルグ達は互いの爆発に巻き込まれ大爆発を起こした。

 

「やったな、シルバー‼︎」

 

「ああ、また助けられたな……」

 

 ガオシルバーは申し訳無さそうに言うが、ガオゴールドは手をパーにして開いた。

 

「仲間だろ? 当たり前さ!」

 

「……まあな」

 

 平和に慣れた少年だと思えば、何時しか自分を仲間として激励する頼りのある相棒となっていた……ガオシルバーは、その手にパンッとハイタッチした。

 

 

「2人共、油断しないで‼︎ まだよ‼︎」

 

 

 テトムの声がヘルメット内に木霊した。2人は振り返ると、濛々と立ち昇る爆煙の中で巨大化していく2つの影……。

 

 

「グオオッ、ブチ切れたぞォォ‼︎!」

 

 

「捻り潰してやる‼︎」

 

 

 ゴズとメズは巨大な姿となって2人の前に立ちはだかる。ガオゴールド、シルバーは無言で頷き合い、破邪の爪を天に向けた。

 

 

「幻獣

  百獣召喚‼︎」

 

 

 ガオサモナーブレットから3つの宝珠が天に向けて撃ち込まれ、ガオハスラーロッドで3つの宝珠を天に向け弾く。

 宝珠が光り輝いたかと思えば、6体のパワーアニマル達が駆け付けた。

 

 

「幻獣

  百獣合体‼︎」

 

 

 2人の掛け声に合わせ、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンが、そしてガオウルフ、ガオリゲーター、ガオハンマーヘッドが同時に合体し精霊王と姿を変える。ガオゴールド、ガオシルバーは体内に吸収されて行く。

 

 

「誕生!‼︎ ガオパラディン

  &ガオハンター‼︎」

 

 

 2体の精霊王とオルグ……両者は睨み合いながら、先に仕掛けるのはガオハンターだ。

 

「ハンマーショット‼︎ ウルフアタック‼︎」

 

 ガオハンターの連打攻撃を受けるが、ゴズはビクともしない。

 

「グフォフォ‼︎ そんなヘナチョコパンチ、痛くも痒くも無いぜェェ‼︎ ウルァァ‼︎」

 

 嗤いながら、ゴズはガオハンターの腹部にパンチを入れる。それに合わせ、メズがフレイルでガオハンターの脚を叩き付けた。

 

「うわァァァ!⁉︎」

 

 猛打を受け、ガオハンターの内部では衝撃と火花が走る。先程の戦闘で受けた傷の為、ガオソウルが不足しているガオシルバーでは、ガオハンターの力を出し切れないのだ。

 

「ああ! ガオハンター‼︎」

 

 ガオゴールドは叫ぶが、瞬く間にガオハンターは大地に倒れ伏した。ゴズとメズは、次にガオパラディンに狙いを定める。

 

「よォし、メズ‼︎ 次はこいつを料理するぞ‼︎」

 

「よし来た、ゴズ‼︎」

 

 2対1に持ち込まれてしまう。2人共、パワー型のオルグである為、攻防バランスの良いガオパラディンでは的確なダメージを与えられない。

 その時、ガオシルバーの声が、ガオゴールドに聞こえて来た。

 

「ゴールド‼︎ ガオウルフとガオハンマーヘッドの力を使え‼︎」

 

 そう言うと、ガオハンターの両腕が分離し宝珠の姿てなって、ガオパラディンの元に飛んで来た。吸収された宝珠を手に取り、ガオゴールドは頷く。

 

「分かった‼︎ ガオパラディン、頼む‼︎」

 

 

 〜任せろ‼︎ 〜

 

 

 ガオゴールドが宝珠を台座にセットすると、ガオパラディンの両腕が分離して右腕にガオハンマーヘッドが、左腕にガオウルフが武装された。

 

 

 〜俊速の力を持つガオハンターを支える2体のパワーアニマルが、ガオパラディンに百獣武装される事により、新たな精霊の騎士王が誕生します〜

 

 

「百獣武装‼︎ ガオパラディン・アナザーアーム‼︎」

 

 

「小癪な‼︎ 腕を挿げ替えた所、結果は同じよ‼︎ 行くぜ、兄弟‼︎」

 

「おうよ‼︎ 『オルグ殺法! 地獄大竜巻‼︎』」

 

 

 ゴズは再びメズをジャイアントスイングして、より巨大な竜巻を引き起こす。竜巻による余波で、周囲が次々と破壊されて行く。

 

「ウォォォ、挽き肉にしてやるぜ‼︎」

 

「ガオパラディン、飛べ‼︎」

 

 迫り来る竜巻を、ガオパラディンは軽々と飛び越える。いつも以上に身が軽い。

 

「なんて素早い身のこなしだ‼︎ 凄いぞ‼︎」

 

 ガオゴールドは感嘆した。竜巻は再度、ガオパラディンに迫るが、ヒラリヒラリと躱す。

 

 

「ウォォォ……くそ、躱してばかりで……畜生、疲れた……!」

 

「オイ、ゴズ‼︎ 止まるな‼︎ 」

 

 メズが叫ぶが、流石のゴズも疲労困憊で動けなくなってしまう。胸部のガオドラゴンが唸る。

 

「よし、行くぞ‼︎ 来い、リゲーターブレード‼︎」

 

 ガオパラディンが手を伸ばすと、ガオハンターの側に転がっていたリゲーターブレードが飛んで来て、ガオハンマーヘッドの口に収まった。そして、その状態で、ガオパラディンは高々とジャンプした。

 

 

「悪鬼突貫! ホーリースパイラル‼︎」

 

 

 高所からリゲーターブレードを投擲する。ブレードは高速で回転しながら、ゴズの胸に突き刺さり、大爆発を引き起こした。

 

 

「グアァァッ! これで勝ったと思うなよォォ……‼︎」

 

「俺達、ヘル・デュークオルグは不死身なのだ! 覚えてろォォォ……‼︎」

 

 爆炎に巻き込まれながら、2体のオルグの断末魔が響き渡った。爆炎が収まると同時に、ゴズとメズは姿を消し鬼門も消滅した。

 

「やったぞォォ‼︎」

 

 ガオゴールドは勝利を確信し喜んだ。

 

「やりィ‼︎」

 

 テトムも、ガオズロック内でガッツポーズを取る。側では介抱された大神も無言で笑顔を見せた。

 

 

 ガオパラディンも、勝鬨を上げながらリゲーターブレードを掲げた。デビュー戦以来、最高の完全勝利だった。

 

 

 〜最高の連携と逆転劇で、ヘル・デュークオルグ達を見事に蹴散らしたガオパラディン。しかし、謎の戦士ガオネメシスの狙いは一体、何なのでしょうか?〜




ーオリジナルオルグ
−ゴズ&メズ
ガオネメシスに、鬼地獄より召喚されたヘル・デュークオルグ。
ゴズは牛の姿を、メズは馬の姿をしている。
力に物を言わせた戦い方を好む典型的なオルグだが、単純な力だけならハイネスデューク、シュテンを上回る。鬼地獄のオルグ故、不死身。
必殺技はゴズが、メズの脚を掴んでジャイアントスイングしながら起こす「オルグ殺法 地獄竜巻」
自力での巨大化が可能(その際、必殺技が地獄大竜巻となる)。


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quest10 町を沈める‼︎ 前編

「フン……負けたか。使えぬ連中だ」

 

 地下室で、ガオパラディンとゴズ達の戦いを一部始終見ていたガオネメシスは、辛辣に満ちた言葉で吐き捨てる。

 

「しかし、ゴズとメズに勝利するとは其れなりに賞賛に値すると言う事だな…」

 

 

『感心している場合か』

 

 

 鏡がユラユラと波打つと、禍々しい声と共に人間の頭骨に似た顔が浮かび上がる。

 

『儂に断りなく、ゴズとメズを使いおって……。しかも、テンマの人間界侵略が遅々として進んで居らぬでは無いか? ガオネメシス! 一体、どう釈明する気だ⁈』

 

 謎の声は怒りに満ちている。だが、ガオネメシスは悪びれない様子だ。

 

「御言葉だが、何一つ心配は無い。所詮、奴等はまだまだ発展途上。何より……ガオシルバーをこちらに引き入れてみるのも面白かろう」

 

『ほう? どうやって?』

 

 ガオネメシスから発せられた台詞に、謎の声は興味深げに傾聴する。

 

「心に迷いのある奴、後悔を背負っている奴は取り入りやすい。それに、奴は未だに己の過去の鎖を断ち切っていない。そこを突けば、赤子の手をひねるより容易い事だ。俺に任せておけ…」

 

 ガオネメシスは邪悪に嗤う。ふと彼が手を伸ばした先にある物を持ち上げた。

 

「クク…鬼面が1つだけとは限らぬ。これさえあれば、ガオシルバーは俺から逃げられんさ。クク…」

 

 ガオネメシスが手の中には、狼を象った漆黒の仮面が握られていた。

 

 

 

 一方その頃……竜胆市の街はずれにある河のダム付近で、ツエツエとヤバイバはヒィヒィと喘ぎながら、頭に工事用のヘルメットを被り、ツルハシを手にダムを砕いていた。

 

「クソッ、何だってこんな事をしなきゃならねェんだよ⁈」

 

 ヤバイバは腹ただしげに怒鳴る。

 

「仕方ないわよ、テンマ様の命令なんだから……」

 

 ツエツエも汗だくになりながらも砕いた瓦礫を河に投げ捨てる。

 

「大体よ、こんな事は、オルゲットにやらせりゃ良いんだ‼︎ ぜってー、デュークオルグがやる様な仕事じゃねェだろ‼︎」

 

 ヤバイバは八つ当たりにツルハシを乱暴に叩き付けた。これ以上に無い位、苛立っている様子だ。

 ツエツエとて納得して、こんな土工人夫みたいな真似を勤しんでいる訳じゃない。それもこれも、ガオレンジャーに敗退し続けた事への埋め合わせだ。

 数々の作戦失敗から、2人はテンマから完全に愛想を尽かされてしまった。テンマの性格から言って、本来なら極刑も可笑しくない事態だが、ツエツエにはオルグの巫女として、其れなりの有用性がある。

 つまり、首皮一枚で繋がっている状態だ。それを理解しているからこそ、テンマも2人を簡単に始末出来るに関わらずに生かしておく決断を取った。

 だが、それ以外は役に立つ目処が無い為、こう言った雑用に回しておく、事実上のお役御免だ。

 

 現在、2人が回されているのは、ガオレンジャー討伐任務を任されているゴーゴの補佐である。

 補佐、と言えば聞こえは良いが、当のゴーゴから言い渡された命令は1つ…

 

「川の上流付近のダムを壊せ」

 

 こんな端から見れば無意味な真似を、一週間もやらされている。オルゲット達と一緒にツルハシを振り下ろしてダムに亀裂を入れる……最早、雑用にすらなって居ない。こんな事をして、どうやって、ガオレンジャーを倒せるのか? 不満と疑心は高まる一方だが、これ以上、テンマの機嫌を損ねれば、たちまち縊り殺されてしまう。だから、2人は黙々と任務をこなす他、無かった。

 何より不満なのは、この計画の顛末を、ゴーゴから聞かされていない事だ。只々、ダムを不眠不休で壊し続ける……これでは、奴隷である。中間管理職とは言え、誇り高いオルグのする事とは思えない。

 

「おお! 段々、形になって来たじゃねェか!」

 

 突然、風が吹き抜けたと思えば、ゴーゴが立っていた。

 

「おい、ゴーゴ! 一体、いつまで、こんな水遊びをさせる気だ! いい加減にしろよ‼︎」

 

「おやァ? 口の利き方が悪いな、ヤバイバ君。今回は許すが、これからは敬語で話せ。あと、呼び捨ても許さん。ゴーゴ''様''だ!」

 

「くッ……‼︎」

 

 完全に見下された態度に、ヤバイバは腹を立てた。

 先の失敗により、ツエツエ達のオルグ内に於ける地位は下落してしまった。

 立場だけなら、お互いにデュークオルグである為、同格なのだが今現在は、ガオレンジャー討伐任務を請け負っているのは四鬼士達だ。詰まる所、今のツエツエ達は、四鬼士達から見ればオルグ魔人以下、雑兵のオルゲット以上と言う屈辱的な地位に甘んじているのである。

 

「いつまでも、幹部待遇で居られると思うな! 寧ろ雑用として、お前等を使ってやってる俺様の懐の深さに感謝しろ! でなけりゃ、オルゲット以下の立場で扱われたいか、んん?」

 

「こ、この野郎…言わせておけば…‼︎」

 

 遂に我慢の限界に達したヤバイバが手に持つツルハシを振り上げようとするが、必死にツエツエが宥める。

 

「ええ、ええ! ゴーゴ様の優しさに痛み入る次第で御座います‼︎ 」

 

「ふん、分かりゃ良いんだ」

 

 ツエツエの言葉に機嫌を良くするゴーゴだが、ヤバイバは納得が行かない様子だ。

 

「時に、ゴーゴ様? そろそろ、計画について聞かせて頂きたいんですけど…」

 

 ツエツエは最大限に愛想を振りまいて、ゴーゴに尋ねる。ゴーゴは、ニヤリと笑う。

 

「よーし、良いだろう。俺様の計画に付いて話してやるから、耳の穴かっぽじって良く聞け。

 俺様の計画はな、ガオレンジャーを一網打尽にしてやる為だ」

 

 自信満々に答えるゴーゴに反し、ツエツエとヤバイバは頭に「?」が浮かんだ。

 

「あ、あの…それと、ダムを壊すのと何の関係が?」

 

「分からねェか? 文字通り、一網打尽してやるんだよ。町ごとな! 」

 

「ま、町ごと?」

 

 全く意図の読めない発言に、ツエツエもヤバイバも開いた口が塞がらないでいた。しかし、ゴーゴは続けた。

 

「そうだ! ガオレンジャーは、この町の何処かに居る‼︎ だったら、ダムをぶっ壊して河を氾濫させてやる‼︎ そうすりゃ、ガオレンジャーは町諸共、お陀仏って作戦だ‼︎ 」

 

 実に単純極まりない作戦だ。自分達は、そんな事の為だけに一週間もダムを壊す作業を従事させられていたのか……。呆れた様な顔で佇む2人に、ゴーゴは不審に思う。

 

「おい、どうなんだ⁉︎ 何とか言ったら、どうだ‼︎

 

 ゴーゴの怒鳴り声に、ツエツエは我に帰る。

 

「あ、いえ……計画が壮大な事は分かりましたが……幾ら、ダムを壊しただけで、河が氾濫しますか?

 それに万が一、ガオレンジャーが町に居なかったら、どうするんです?」

 

「ふん……余計な心配無用だ。既に計画は最終段階だ‼︎ そして、最後の締めに移りつつある‼︎」

 

 堂々と力説するゴーゴは、余程の自信があるらしい。とは言え……計画にしても穴だらけだ。最も、自分達は異形の存在オルグである。人間が何百人と死のうが知った事では無い。寧ろ人間社会を破壊して回るなら、今回のガオレンジャーを一網打尽にする為の無差別攻撃も納得が行く。

 だが、ガオレンジャーを一網打尽にするならば、こんな明らさまで大規模な計画より、それこそ水面下で計画を推し進めるのが効率が良い筈だ。

 

「……ですが、ガオレンジャーとて馬鹿ではありません。町そのものを水没させるとなれば、奴等が気付かない訳が……」

 

「…ツエツエ…お前も、しつこい女だな。俺様は意味のある事しかやらねェ。俺は、メランの様な武力一辺倒じゃ無いんだ。これ以上、余計な詮索をして俺を苛立たせ無い方が、身の為だぞ‼︎」

 

「…は、はい…」

 

 これ以上、詮索して、ゴーゴの機嫌を損ねれば、いよいよ自分達の首を繋ぐ薄皮は引き千切られてしまう。

 ツエツエは仕方無く、今は黙って付き従う事にした。

 

「おらッ! 分かったら、ダムをもっと派手に怖さねェか‼︎ 」

 

 ゴーゴに急かされ、2人は再び、ツルハシを降り始める。何しろ人使い、ひいては鬼使いの荒いゴーゴなのだ。これ以上、無理難題を押し付けられたら堪らない。不満を抱えながらも、黙々とダムを砕き始めた。

 

「(へへヘ、これで、ガオレンジャーを倒せば、俺様の地位も跳ね上がるってもんだ…! しかし、あいつも上手い事を考えたもんだぜ……!)」

 

 そう考えながら、ゴーゴは鬼ヶ島を出る際の出来事を思い出していた。

 

 

『ガオレンジャーを町ごと潰すだァ?』

 

 鬼ヶ島にて、ゴーゴが話をする相手。それは四鬼士の1人、ヒヤータだ。将棋に似た基盤遊戯を指しながら、彼女はやんわりと笑った。

 

『ええ、私の配下のオルグ魔人を貸し出しましょう。それを上手く使って、やりなさいな』

 

 取って付けた様な笑みを浮かべながら、ヒヤータは提案してくる。ゴーゴは怪しみながら、彼女を見る。

 このヒヤータと言う女、腹の内が読めないかなりの曲者だ。全てに於いて計算尽く、一手もニ手も先を読んだ戦い方を好み、相手の裏を掻く。よく言えば計画的、悪く言えば陰険だ。

 

『何だって、俺様にそんな事をする? 罠がありそうだ』

 

 ゴーゴは疑り深げに、ヒヤータを見る。

 他のオルグなら兎も角、この女が何の打算も無く協力を申し出るなんて有り得ない。

 何か企んでいるに違いない。同族とは言え、所詮はオルグ。信用する義理は無い。

 されど、ヒヤータは笑みを浮かべるだけだ。将棋の駒を動かしながら、優雅に扇子を開く。

 

『罠なんて無いわ。ガオレンジャーを倒すのは、オルグ達の悲願。貴方が、ガオレンジャーを倒すならば、それに力を貸すのは必然では無くて?』

 

 ゴーゴは考える。この女は信用ならないが、ガオレンジャーを倒しさえすれば、後はどうとでもなる。

 ならば利用するだけ利用してやり、ガオレンジャーを倒した後は用無しだ。ゴーゴはニヤリと笑いながら返答する。

 

『……良いだろう。お前の策に一つ乗ってやるよ。どうすれば良い?』

 

 一旦、ヒヤータの提案を受け入れる事にした。ヒヤータは、ニッコリと微笑む。

 

『良いでしょう……先ずは……』

 

 

 回想を終えたゴーゴは、ニヤニヤとほくそ笑んでいた。

 

「へへへ、ガオレンジャーを倒して、テンマ様に認められりゃ、俺様の地位も確立されるだろうし……そうなれば次は、ハイネスの座でも狙ってみるかね?

 ククク、ハイネスデューク・風のゴーゴか……中々、良い響きだぜ。ククク……アーッハハハハハ!!!」

 

 1人で妄想しながら、高笑いするゴーゴ。もう既に、ガオレンジャーを倒した様な気持ちであるらしい。

 取らぬ狸の皮算用、とは良く言った物である。

 そんな様子を影から見ていたのは、ニーコである。

 

「やれやれ、幸せな方ですね〜」

 

 呆れた様に一部始終、見守っていたニーコは、フッと姿を消した。

 

 

 

 一方、鬼ヶ島では……。

 

 

「フン……大方、そんな所だろうと思ったわ」

 

 玉座の間に座り、将棋を指すテンマ。その向かいに座るのは……。

 

「やはり、気付いておいででしたのね。其れとも、ニーコから聞きまして?」

 

 四鬼士の紅一点、水のヒヤータが扇子で口元を隠しながら駒を動かす。テンマは、フフンと鼻で笑う。

 

「余を見くびるで無いわ。貴様が小細工を仕掛けていた事など、とうに見通していた。其れにしても……何故に、ゴーゴが一番手になる様に仕組んだ?」

 

 テンマは、ヒヤータの企みを早々から看破していた。

 ならば隠し通す意味は無い、と考えたヒヤータは、素直に応える。

 

「ゴーゴは実に、オルグらしい男です。あれ程、オルグらしい思考の者は、そうはいません。

 独り善がりで短絡的、己の身の丈など爪の垢程も理解していない、にも関わらず将を気取っている。

 だからこそ、これ以上無い迄に適任なのです。一番手としては……」

 

 ヒヤータは淡々と語りながら駒を進める。テンマは、ウームと唸った。

 

「ゴーゴでは、ガオレンジャーには逆立ちしても勝てませんわ。ならば、彼にはガオレンジャーの戦力データを取る為の、トカゲの尻尾として役に立って貰います」

 

 彼女の合理的かつ非情な性格に、流石のテンマも眉を潜める。曲がりなりにも自分と対等、ひいては純粋な戦闘力ならゴーゴに分があるに関わらず、彼を計画の噛ませ犬に使い捨てようとするのだから…。

 

「ヒヤータ……貴様、相当に陰険な女だな」

 

 テンマは皮肉混じりで、正直な感想を述べた。しかし、当人のヒヤータはクスッと笑いながら

 

「褒め言葉として受け取っておきますわ」

 

 と、釈明しなかった。ある意味、かなりの大物である。

 

「ヒヤータお姉様〜!」

 

 急に、ニーコがパタパタと入ってきた。

 

「ゴーゴ様の作戦、順調みたいですよ? お姉様の描いた絵通りに」

 

「そう、ご苦労様」

 

 子犬みたい擦り寄ってくるニーコの報告を穏やかに聞くヒヤータ。何時の間にか、ヒヤータを「お姉様」と呼ぶ間柄になっているらしい。

 

「テンマ様、王手ですわ」

 

 そうしてる間に、ヒヤータはテンマの玉将に王手を掛け勝利を収めた。

 

「ぬゥ、またか。貴様は主に花を持たせる、と言う言葉を知らぬのか。貴様と鬼棋を指して、一度も余は勝ててないでは無いか」

 

 負けた事に、テンマは納得が行かんばかりに不平を漏らす。しかし、ヒヤータはクスクスと笑う。

 

「戯れとは言え、鬼棋も戦と同じ。手加減なく攻めよ、と言ったのは貴方ですわ、テンマ様」

 

「ぬゥ……前言撤回だ。貴様は陰険のみならず、肝の座った女だ」

 

 テンマの皮肉とも取れる言葉に、ヒヤータは笑うだけだ。彼女は決して本心は見せない。其れは彼女が、虎視眈々と策謀を練った上で、それを悟らせない為の処世術だった。

 

 

 

「謎のガオの戦士?」

 

 ガオズロックに帰還した陽は、事の顛末を報告する。

 ガオの戦士なのに敵、ガオレッド達の仲間の武器を持ち、オルグを使役する事も出来る。

 未だ嘗て無かったイレギュラーの登場に、テトムは眉を潜めるしか無い。

 

「そいつは、ガオネメシスと名乗った。人間に対し敵意を抱き、復讐の為に地獄から這い上がって来たとも」

 

「ガオネメシス……ごめんなさい、聞いた事が無いわ。少なくとも、私が知り得る限りでは……」

 

 大神の言葉に、テトムはかぶりを振る。

 陽は理解が追いつかない。敵はオルグだけじゃ無かった。ガオネメシスと言う第三勢力の存在……だが、オルグを使役しているならば、奴はオルグとグルである可能性も高い。オルグを追えば、ガオネメシスにぶつかるだろう。何れにしても戦いは避けられ無い。

 

「それに、ガオネメシスはガオイエロー達の武器を使った。間違いなく、奴は仲間達の安否を知っている筈だ…! 」

 

 大神は確信が言った様に呟く。だが、オルグとガオネメシスが繋がっている仮説を真実とするなら、それは仲間達の身がオルグ達の手中にあると認めざるを得ない。

 

「一先ず、鬼門の一つは潰したわ。ガオネメシスについては調べて行くしか無いわね」

 

「ああ。また一つ、面倒事が増えたな」

 

 テトムと大神は一先ず、話を纏めた。だが、陽は腑に落ちない。同時に、陽は今朝からの悩みをテトムに尋ねた。

 

「テトム……僕も一つ、相談があるんだけど……」

 

「何?」

 

 陽の問いかけに、テトムは首を傾げる。陽は悩みながらも、話した。

 

「ガオレンジャーの存在が、人間達に認知されて来てるんだ。このままじゃ、ガオレンジャーやオルグの存在が知れ渡って……」

 

「貴方の正体が周りにバレる恐れがある、と?」

 

「ハイ……」

 

 これはこれで問題だ。テトムも、うーんと唸る。

 

「そうね……前の戦いと違って、今回は竜胆市に被害が集中してるから……。既に私達の戦いを見過ごせない事態になっているのかも」

 

「いっその事、正体を明かしておくのはどうだ? 戦いが長期化すれば、否応も無く露見するぞ?」

 

 大神の意見は一応、理に適っている。だが……。

 

「そうすれば、余計にオルグ達の付け入られる隙を与えてしまうわ。今は時代が違うのよ」

 

 言語道断、と言わんばかりに一蹴するテトム。

 

「その事は私に考えがあるの。上手くいくかどうか分からないけど……」

 

「その考え、とは?」

 

「それは未だ言えないの。でも、もう少しで完成するわ」

 

 テトムは多くを語らないが、何か策があるらしい。ふと思う所があり、陽は尋ねてみた。

 

「オルグが、この町の外に出たら元も子もないんじゃ……」

 

「それについては大丈夫。どうやら、オルグ達がこの町に作った鬼門は、オルグ達にとって一種の隔離空間でもあるの。つまり、鬼門が無い外にオルグ達は出て行けないし行く理由も無い。私達が、この町に居る限り、オルグ達の存在が外に知れ渡る事も無い」

 

 なるほど……陽は頷けた。だが問題は、オルグ達の被害がこの町に集中する、と言う事になる。

 そうならない為には自分達が、早期でオルグを倒すしか手は無い。

 

「今、結界を張る準備をしているから、もう少しで陽の心配は解決するわ。貴方は、それまで周りに正体がバレないようにしていて」

 

 全く無茶を言ってくれる……陽は頭を抱えた。そうしてる間に、竜胆高校が見えて来た為、取り敢えず作戦会議は終了となった。

 

 

 

 陽は怪しまれない様に、屋上で降ろして貰った。空は茜色に染まり、すっかり夕方だ。まるまる、サボってしまった。皆に、なんて言い訳しよう……。

 

 

「竜崎 陽」

 

 

 ふと声がした為、振り返る。其処に立っていたのは……。

 

「君は?」

 

 それは、12.3歳位の女の子だった。祈と変わらないか少し下か……だが、何処か大人びた感じの少女は、かなり年上に見える。

 服装も妙と言えば妙であり、眼の様なマークが入った黒いニット帽を被り下から白い髪が三つ編みにされ覗いている。更には奇妙な刺繍が入った水色のワンピースを着ており、浮世離れした雰囲気を醸し出していた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「貴方を待っていた」

 

「僕を……? て言うか君、私服だけど何年? 何で、此処に居るの?」

 

 陽の質問に少女は何も応えない。その代わり、陽の横を歩いて行く。

 

「貴方は、このままじゃ敗ける」

 

「は?」

 

 何を言ってるんだ、この子は……陽は首を傾げる。

 

「オルグ達は強い。今のままじゃ勝てない」

 

「‼︎」

 

 今、オルグと言った。そんな事を知っているなんて、理由は一つしか無い。

 

「オルグか⁉︎」

 

 陽は身構える。だが少女は何もしない。

 

「違うよ、私はオルグじゃ無い。貴方達の味方……」

 

  少女の言葉に陽は警戒を解いた。確かに彼女からは敵意を感じない。底知れ無い何かを感じるが……。

 

「君、名前は?」

 

 陽は少女の名前を尋ねる。

 

「私? 私は……」

 

 慌てて少女は考える。陽は不審に思うが……。

 

「……こころ。私はこころ」

 

「……今、考えて無かった?」

 

 

「竜崎?」

 

 別の声がした為、振り返る。其処には鷲尾 美羽が怪訝な顔で立っていた。

 

「鷲尾さん?」

 

「誰と喋ってたの?」

 

「誰って……」

 

 陽は再度、振り返ると既に、こころは忽然と消えていた。

 

「あれ? さっき迄……」

 

「竜崎……あんた、本当に大丈夫?」

 

 美羽は呆れた眼で、陽を見る。確かに端から見れば、かなり挙動不審に見える。

 

「それより……あんた、午後の授業まるまるサボったでしょ? 先生を誤魔化すの苦労したんだからね」

 

 不機嫌な様子で話す美羽。そう言えば出掛ける時、彼女に見つかったんだった……。

 

「先生には早退した、って伝えといたから明日、謝っときなさいよ……ッとに、学級委員の仕事、増やさないでよね……」

 

「ご…ごめん…」

 

 取り敢えず、謝っておく陽。美羽は、はァッと溜息を吐く。

 

「ま、困った事あるんなら、相談してくれて良いよ。あんま妹に心配掛けない様にね」

 

「祈?」

 

「ん……。あんたの妹から頼まれたの。『最近、兄が無理してるっぽいから、気に掛けてあげて貰えませんか?』ッて」

 

「何で祈が、鷲尾さんに?」

 

「何でって、ウチら小学校からの付き合いじゃん。私と竜崎兄妹と乾と……高校に入ってからは疎遠だったけど…」

 

 そんな事も忘れたのか、と言わんばかりに美羽は気怠そうに言った。言われて見れば、そうだった気がする……。

 

「ほら、教室閉めちゃいたいし、校門も閉まるよ。早く帰れば?」

 

「え……うん……」

 

 美羽に早くしてくれ、と急かされて陽は鞄を取りに、教室に向かう。後ろから付いてくる美羽は、陽の背に話し掛けて来た。

 

「ねェ、竜崎……ちょっと聞きたいんだけど……」

 

「何?」

 

 陽は振り返る。美羽は困った様な顔をしていた。

 

「竜崎ってさ……ヒーローって居ると思う?」

 

「えッ?」

 

 突然の言葉に陽は戸惑う。その様子を見た美羽は、慌てて訂正して来た。

 

「ち、違うよ⁉︎ ただ、もし居たら……ッて聞いただけだから! じゃ、早く帰ってね‼︎」

 

 美羽は、陽を追い越して階段を下って行った。陽は、そんな彼女の様子に面食らっていた。

 ガオレンジャーの正体が、バレるのも時間の問題かも……陽の中で嫌な予感が過った。

 

 

 

「ククク……機は熟したな……」

 

 風のゴーゴは今にも氾濫しそうな川を見下ろしながら、さも愉快げに笑う。

 

「さァ、楽しいガオレンジャー狩りの始まりだァ! 景気良く決めてくれよ、放水オルグ‼︎」

 

 

「ポポポーーーン!‼︎」

 

 

 ゴーゴの言葉に連れ、河原に大量の水を流し込むのは……防水ポンプの様な姿をしたオルグ魔人だった。

 

 

 

 〜これは大変です。風のゴーゴの企む計略により、竜胆市が洗い流されようとしています!

 急ぐんだ、ガオレンジャー‼︎ 危機は迫っているぞ‼︎〜



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quest11 町を沈める‼︎ 後編

 ガオズロック内にて瞑想を続けるテトム。彼女は何かと語り合っていた。

 

 

 〜許せ、テトム……我々の力が及ばぬばかりに、お前達に苦労を掛けてしまう……〜

 

 

 声は厳かに言葉を発する。だが声はすれど、姿は見えない。テトムを首を振る。

 

「謝らないで下さい……オルグの水面下の動きを察知出来なかったのは、ガオの巫女である私の不手際です……。其処で、オルグ達の事ですが……」

 

 

 〜うむ……奴等、この町の至る所に鬼門を仕掛けている……。だが裏を返せば、奴等の出現する範囲を自分達で縮小しているとも言える……〜

 

 

「……はい……」

 

 

 〜案ずるな……オルグ達の好きにはさせぬ……ガオレンジャー達の事だが……私にも分からぬのだ。あの戦いの後、気が付けば彼等は姿を消していた……〜

 

 そう言いながら、泉に声の主が浮かび上がる。

 彼こそ、パワーアニマルの神とも呼べる存在にして、1000年前のガオの戦士達と共に戦った精霊王ガオゴッドである。

 彼もまた、復活したオルグ達の侵攻を防ぐ為に果敢に戦ったが、多勢による物量差には及ばず敢え無く敗退、他のパワーアニマル同様、異空間に封印されてしまったのだ。

 敗けたとは言え、痩せても枯れても神……精神だけを切り離して、巫女であるテトムと交信する事に成功したのである。

 

「……荒神様……」

 

 

 〜しかし、彼等が死んだとは思えぬ。仮に死んだのならば、ガオネメシスなる戦士が彼等の破邪の爪を用いる事は出来ぬ…。ガオレッド達は生きている……〜

 

 

「ええ……」

 

 今のテトムは、ガオゴッドの言葉を信じるしか無い。ガオゴッドは続けた。

 

 

 〜シロガネにも気を付ける様に伝えて欲しい……私には、何か嫌な予感がするのだ……〜

 

 

「シロガネに?」

 

 

 〜あの戦いの時……お前達が脱出に成功した際、残されたガオレンジャー達とオルグの戦いに、ガオネメシスなる戦士が乱入して……む⁈〜

 

 

「荒神様⁉︎ どうしたんです⁉︎」

 

 テトムは、ガオゴッドに話し掛けるが、映像は激しく乱れて行く。

 

 

 〜急げ……テトム……オルグ達が……うご……きだ……〜

 

 

 その言葉を最後に、ガオゴッドの言葉は途切れ映像も遮断された。荒れ狂う泉の様子に、テトムは危機を察した。

 

「オルグ達ね……《シロガネ、陽……オルグ達が現れたわ……!》」

 

 テトムは念話を送り、ガオレンジャー達にスクランブルを要請した。

 

 

 

 大神はバイクを走らせながら、テトムの声を察知した。どうやら、またしてもオルグ達が動き出したらしい。

 

「……了解、場所は?」

 

 左腕のG−ブレスフォンと会話する大神。ブレスフォンからは、テトムの声が聴こえて来た。

 

 

『場所は川を沿った先にあるダムよ! どうやら、ツエツエやヤバイバも居るわ!』

 

 

「また、ずっこけコンビか……懲りない奴らだ……!」

 

 それを聞いただけで、大神には充分だ。走行しながら、宝珠を取り出し天へと投げた。

 

 

「ウルフローダー‼︎」

 

 

 見る間に、バイクが姿を変えて行き、ガオウルフを模した形態に早変わりする。

 ガオウルフの魂をバイクと融合させたマシン、ウルフローダーの完成である。

 

「ガオウルフ‼︎ 匂いで、オルグ達を辿れ‼︎ 川の流れに乗って来た奴らの匂いを察知すれば、追い付く‼︎」

 

 大神の言葉を受けたウルフローダーの赤い目が、キラッと光った。ガオウルフの魂と融合しているウルフローダーは、意思を持っている。即ち、大神が運転しなくても自力にて走行が可能となるのだ。

 

「ガオアクセス!」

 

 と同時に、大神もガオシルバーへと変身する。そして、オルグ達の匂いを追跡しながら、現地へと向かった。

 

 

 

 一方、竜崎宅では……。

 

「オルグが現れた⁉︎」

 

 陽が夕食を済ませた後、自室にて休んでいた際に、テトムからの通信を受け対応していた?

 

「そうなの、シルバーが既に現場へ直行しているわ!申し訳無いんだけど、ゴールドも直ぐに向かって!」

 

 G−ブレスフォンから聴こえるテトムの声は、かなり慌てている様子だった。昼間に、オルグの侵攻を食い止めたばかりなのに、また、オルグが現れたのだから。しかも、彼女の様子からすれば、以前に何度か戦った、ツエツエとヤバイバが現れたらしい。

 陽も強く返事する。

 

「分かりました! 直ぐに向かいます!」

 

 陽はジャケットを羽織りながら、外出の用意を始める。自室のドアを開けると……。

 

「……⁉︎ 祈⁉︎」

 

「‼︎…」

 

 自室のドアに張り付く様に、祈が佇んでいた。顔は焦燥に満ちた様に青ざめている。

 

「……また、出かけるの?」

 

「…………」

 

 応える事が出来ない陽。出来る事なら、自分がガオレンジャーである事を打ち明けてやりたい。

 けど……仮に打ち明けたとしても、自分の為に陽が命懸けの戦いをしている事を知れば、祈は深く傷付くだろう。他人の苦しみを自分の苦しみの様に、心を傷める様な繊細な人間……祈は、そういう娘である。

 

「……兄さん、今日も学校を途中で抜け出したんでしょう?」

 

「……鷲尾さんに聞いたのか?」

 

「うん……」

 

 陽は苦々し気に顔を顰める。自分が学校であった出来事を、美羽に報告する様に祈が頼んだに違いない。

 それだけ、ここ数日に於いての陽の行動に対し、祈が不安に感じていた。

 何とも気不味い空気が漂う。

 

「……兄さん、今、何やってるの? 私にも言えない様な事なの?」

 

「い…いや…」

 

「ハッキリ言ってよ! 兄さんが夜に勝手に抜け出したり、学校に遅刻したり、そう言った事を私が気付いてないと思ってた?」

 

 語調を荒げながら、祈は問い質す。そうまでして陽から真実を知りたかった。知れば、少しくらいは気が楽になるかも知れない。もう、兄が何をしてるかを1人で思い詰めながら過ごすのは沢山だ。

 だが、陽も真実を告げる事は出来ない。告げて、祈を非情な戦いに巻き込みたく無い。それは、ガオレンジャーの掟云々では無く、単純な陽の意思だ。

 

「……ゴメン……言えない……」

 

「……そう……」

 

 それだけ言って祈は背を見せ、自室に戻ってしまった。祈は聞かれたく無い事を、しつこく詮索はして来ない。だが、それ以上に真実を告げない陽への失望と悲しみに取り憑かれてしまった。

 祈の部屋に耳を澄ませると、啜り泣く声が聴こえて来た。泣いている……また泣かせてしまった。

 陽は自分の不甲斐なさを呪った。だが、何時までも立ち惚けている場合じゃ無い。

 

「……ゴメンな……」

 

 部屋で、さめざめ泣き続けているであろう妹に謝罪しつつ、陽はドアを開けて飛び出した。

 

 祈はベッドに顔を埋め、泣きじゃくっていた。兄が1人で何かを抱え込んでいる……。何も知らないのは自分だけだ。いつも守られてばかりで、自分には何も出来ない。

 

「……兄さん……」

 

 両親の死後、親代わりになって自分を育ててくれた陽……兄に対する想いは、強かった。しかし、それだけだ。陽の事だ。きっと、辛い事も苦しい事も自分の胸中にしまい込んでしまうのだろう……。

 祈が此処まで過敏になるのは、陽が今、巷を騒がしている怪物と戦う戦士では無いか、と疑っていたからだ。いつか、自分を襲い掛かった怪物から守ってくれた金色の仮面戦士……それが、陽かも知れない。

 確証がある訳では無いが、妹としての勘が働くのだ……。

 ふと、玄関のドアが開き外に出て行く音がする。陽が出掛けて行ったに違いない。居ても立っても居られなくなった祈は涙を拭い、自室から飛び出す。

 自分が行った所で、どうにかなる訳じゃ無い。そんな事は分かっているが……もし、陽が苦しんでいるなら力になりたい……それだけが、祈を突き動かした。

 

 

 

 外に飛び出した祈は辺りを見回してみる。既に陽の姿は無い。もう言ってしまったのか……。

 その際、上を見上げると月光に照らされながら飛来する巨大な岩が見えた。それを見て、祈は確信した。

 やはり、陽が謎の戦士だったのだ、と……。

 

「……兄さん……何処に?」

 

 祈は後を追いたいが、何処へ向かって行くのか見当が付かない。その様子に、祈は嫌な感じがした。陽が自分の手の届かない遠い場所に行ってしまう様な嫌な感じが……。

 

 

「……追いたいの?」

 

 

 後ろから声がした為、振り返ると、見慣れない少女が立っていた。

 

「だ、誰? 貴方……」

 

「私は、こころ……陽を追いたいんでしょ?」

 

 こころは無表情のまま、淡々と応える。兄を知る少女に対し、祈は目を丸くする。

 

「兄さんを知ってる?」

 

「彼を追いたいのなら、好きにすれば良い……けど、知らなくて良い事を知る事になる。そして、知ってしまえば最後、2度と日常には帰れない……オルグが居なくなる時まで……」

 

「オルグ?」

 

 こころは、次々に聞いた事の無い言葉を投げ掛けて来る。だが彼女は、陽の居場所を知っているのは間違いない。

 

「何の事か分からないけど……兄さんの所へ連れて行って! 」

 

 祈は、こころの肩を掴み揺さぶる。これを逃せば、陽と会えなくなるかも知れないからだ。こころは目を閉じて、両手を広げる。

 

 

『分かった……私に捕まって。連れて行ってあげる……』

 

 

 そう言うと、こころの身体は発光を始め宙に浮き上がる。彼女の身体にしがみ付く祈も同様だ。

 こころは凄い速さで、飛行しながらガオズロックを追跡した。飛行して行く間に、こころは見る間に人の姿では無く機械的な身体の鳥の様な姿をした人ならざる姿へと変わって行った。祈は現実離れした事象を不思議と受け入れる事が出来た。理由は分からない……ただ、そう感じたからだ。

 

 

 

「よーーし‼︎ ダムに充分な亀裂を入れたな‼︎」

 

 ゴーゴは所々が破損したダムの様子に満足そうに、ほくそ笑む。そんなダムに畳み掛ける様に、川は鉄砲水となって荒れ狂うばかりだ。放水オルグが川の水嵩を増やした事で益々、勢いは増していく。

 

「ククク‼︎ 良いぞ良いぞ‼︎ 風は良好‼︎ 全ては計画通りだ‼︎」

 

 ゴーゴが高々と叫ぶ。側では、ツエツエとヤバイバが息を切らしながら、へたばっていた。

 

「ヒィ……ヒィ……もう動けねェ……」

 

「こ、腰が……」

 

 漸く重労働から解放されたが、流石のオルグもダムを物理的に破壊すると言う仕事には、かなり堪えたらしい。

 

「オイオイ、しっかりしろや‼︎ お前等には、まだやって貰いたい事があるんだぜ?」

 

「ま、まだ何か……⁈」

 

 これ以上、何をさせる気なのか、とツエツエは苦悶の表情を浮かべる。ゴーゴは、ニヤリと笑う。

 

「決まってんだろ? ガオレンジャーの足止めだ! 今から町に行って、奴等が町から離れない様に注意を引いてくるんだよ‼︎」

 

「そ、そしたら……俺達は、どうなるんだよ……⁈」

 

 ヤバイバは青ざめながら尋ねる。町が飲み込まれ兼ね無い水害となれば、町中にいた自分達も無事には済まされないからだ。しかし、ゴーゴは…

 

「大丈夫だ! お前等、オルグなんだから溺れやしねェよ!」

 

『(あ…悪魔…)』

 

 2人の哀れなデュークオルグは非情な命令に人知れず、いや鬼知れず涙を流した。

 

 

 

「其処までだ‼︎」

 

 

 

 高らかな声に、ゴーゴは声の主を探す。すると、ウルフローダーに跨るガオシルバーが砂嵐を上げながら現れた。

 

「来やがったな、ガオレンジャー‼︎ そっちから来てくれるとは、飛んで火に入る夏の虫とはこの事よ‼︎」

 

 上機嫌な様子で笑うゴーゴ。一方、ツエツエとヤバイバは自分達が命を賭して、ガオレンジャーの足止めに向かわず済んだ事に、心底から胸を撫で下ろした。

 

「しかし! 今更、来ても手遅れだ‼︎ この氾濫寸前の川を見るが良い‼︎」

 

 ゴーゴが指差す方向……それは、今にも溢れ出さんばかりに流動する川だった。

 

「既に川の水嵩は溢れに溢れ、亀裂の走ったダムでは抑えきれん‼︎ すると、この先にある町はどうなるかなァ?」

 

「き…貴様…‼︎」

 

 ガオシルバーは歯を食い縛り、怒りに耐える。

 ゴーゴの言う通り、川は今や氾濫する手前まで来ている。しかも、ダムは決壊寸前と来た。

 このままでは大多数の被害者が出てしまう。

 

「ガオシルバー‼︎」

 

 それから、遅ればせでガオゴールドが到着した。しかし、タダならない川の様子を見て、事態は最悪である事を悟らざるを得なかった。

 

「このままじゃ、竜胆市が……‼︎」

 

「ああ、大水害によって民間人の被害は計り知れん……!」

 

 悔しいが、完全に敵の作戦勝ちだ。間が悪い事に今は夜、台風も雨も無い為、町の住人は被害が出る事さえ知らないだろう。このままでは、町に居る祈や友達が巻き込まれてしまう。

 ゴーゴが飽くまで、時間を掛けて計画を秘密裏に推し進めたのは、ガオレンジャーに悟らせない為の布石だった。

 

「ククク‼︎ これで後は、ガオレンジャーを倒せば俺様の勝ちだ‼︎ オルゲット共、出番だ‼︎」

 

「ゲット、ゲット‼︎」

 

 ゴーゴの指示に従い、オルゲット達が出現する。

 

「ツエツエ、ヤバイバ! 作戦変更だ! ガオレンジャーが放水オルグに手を出せん様に邪魔をしろ‼︎」

 

「ハッ‼︎ 」

 

「チックショウ、次から次と…‼︎ 今回の俺は苛々してるんだ! 容赦しないぜ、ヤバイバ〜‼︎」

 

「さーて、俺はダムが壊れ易い様に……」

 

 そう言うと、ゴーゴの右掌に小さな渦巻き状の玉が発生する。

 

「喰らえ! ''豪風玉''」

 

 ゴーゴが風の塊をダムへと投擲する。すると、ヒビ割れたダムの亀裂が余計に広がって行く。

 

「はーはっは‼︎ あと何発で壊れるかなァ? 放水オルグ、水勢を強めろ‼︎」

 

「ポンポーーン‼︎ 出します! 出します!」

 

 放水オルグは口から出す水量を増やし、勢いは増して行く。このままでは、ダムが壊れるのは時間の問題だ。

 

「くそ‼︎ こんなに数が多くては…‼︎」

 

 ガオゴールドは、オルゲット達をドラグーンウィングで斬り伏せて行くが如何せん、手数が多くキリが無い。

 

「ガオゴールド! ガオサモナーブレットだ‼︎ あれなら遠距離から狙える‼︎」

 

 ガオシルバーが叫ぶ。成る程、確かにガオサモナーブレットの飛距離なら、放水オルグを確実に狙える。

 だが……。

 

「キィィィ‼︎ アンタ達の所為で私達はァァァ‼︎」

 

「今迄の雪辱を返させて貰うぜェェェ‼︎」

 

 いつも以上に、気合いが入っているツエツエとヤバイバ。元を正せば、ガオレンジャーが度々、自分達の計画を邪魔してくれたから、こんな目に遭うのだ。

 完全な逆恨みではあるが……。

 

「オラオラァァァ、死ね死ねェェ! クソがァァァ‼︎」

 

 今迄に無い位に殺気全開の攻撃をガオシルバーに繰り出すヤバイバ。相当にストレスが溜まっていたらしい。それは、ツエツエも同義だ。

 

「アンタの所為で、アンタの所為でェェェェ‼︎!」

 

「アンタの所為って全部、お前等が悪いんだろ‼︎ 」

 

「お黙りィィィ‼︎」

 

 ツエツエが杖を振るえば、岩が浮いてガオゴールドに降り注ぐ。ドラグーンウィングで石を払い避けながら、ツエツエを躱そうとしても、オルゲットが立ちはだかり、ガオサモナーブレットで狙えない。

 

「オホホホ‼︎ 落ちぶれても、オルグの巫女‼︎ さァ、行くのよ! この世に未練を残す者達よ‼︎」

 

 再び、杖を振り翳すツエツエ。すると地面から4体のオルグ魔人が現れる。

 

「こいつ等は⁈」

 

 其れは、チェーンソーオルグ、オートバイオルグ、ジッポオルグ、パイプオルガンオルグと言った今迄、ガオゴールドが倒したオルグ魔人達だ。

 

「これぞ、オルグ巫女ツエツエの力、死霊傀儡の術よ! 死したオルグ達よ、お前達を殺したガオゴールドに恨みを晴らせ‼︎」

 

『ウォォォ!‼︎』

 

 死霊オルグ達は一斉に、ガオゴールドに攻撃を仕掛ける。だが知性は感じられず、ただ遮二無二に襲い掛かるだけだ。

 

「ゴールド‼︎ そいつ等に攻撃は当たらない‼︎ ツエツエに召喚された幻だ‼︎」

 

 ガオシルバーは、ヤバイバの攻撃を防ぎながら叫ぶ。以前、似た様な術を使うオルグと戦った事があるからだ。確か、奴も死んだオルグを使役し操っていた。

 

「其れじゃ、戦い様がないじゃないか⁉︎」

 

「ツエツエを狙うんだ! そうすれば奴等も消える‼︎」

 

 ツエツエを狙え、と言われても死霊オルグ軍団に多数のオルゲット達が邪魔をして攻撃が出来ない。

 

「はーはっは‼︎ これでェ……終わりだァァァ‼︎」

 

 そうしてる間に、ゴーゴが狙った豪風玉がダムに直撃する。すると、ダムがビシビシッと音を立てて行く。

 

 

 次の瞬間、ダムは崩れ落ち堰き止めていた水は瞬く間に流れ出て行く。

 

「しまった‼︎」

 

「よっしゃァ、これで町はお終いだ‼︎ ガオレンジャー、勝負あったな‼︎」

 

 ゴーゴは勝ち誇りながら叫ぶ。このままじゃ町が……祈が……‼︎

 だが、勢い良く流れ出て行く水は流れ再び止まってしまった。

 

「あ……ン⁉︎ どうなってんだ⁉︎」

 

 ゴーゴは理解出来ない、として浮き上がりながら確かめる。すると破壊されたダムの下から巨大な口が現れた。

 

 

「あれは⁉︎」

 

 

「ガオリゲーター⁉︎」

 

 

 何と、ガオリゲーターが川の水を飲み込み堰き止めてくれたのだ。

 

「何だそりゃ⁉︎ そんなの有りか⁉︎」

 

 ゴーゴは口惜しそうに喚く。ワニの姿をしたガオリゲーターは水の中でも難なく活動出来る。しかも、其れだけでは無い。

 川の水を掻き分け、もう一体のパワーアニマルが出現する。

 

「ガオハンマーヘッド! お前もか‼︎」

 

 ガオシルバーが叫ぶ。鮫の姿をしたガオハンマーヘッドも水を多量に口に含み、死霊オルグ軍団に目掛けて吐き出した。

 

「イヤァァァァァ‼︎ 私達までェェェェ⁉︎」

 

「チクショ〜! 覚えてろよ、ガオレンジャーァァ………‼︎」

 

 水と共に川の流れに飲み込まれたツエツエ、ヤバイバ、死霊オルグ軍団は呆気なく流されていってしまった。残されたのは、風のゴーゴと放水オルグだけだ。

 

「くそ⁉︎ もう少しだったのにィィ! こうなりゃ、こいつで……‼︎」

 

 ゴーゴは、とびきり特大の豪風玉を作り出す。其れをぶつけて、ガオリゲーターを吹き飛ばそうと言う寸法だ。だが、そうは問屋が卸さない。ガオズロックが低空飛行で、ゴーゴに体当たりを仕掛けたからだ。

 

「ゲフッ⁉︎」

 

 ゴーゴは間の抜けた言葉と共に吹き飛ばされた。これで放水オルグを狙える。

 

「ガオゴールド、今よ! やっつけて‼︎」

 

 テトムの声がした。ガオゴールドは頷き、腰のホルスターから、ガオサモナーブレットを取り出す。

 

 

「破邪…聖火弾! 邪気……焼滅‼︎」

 

 

 ガオサモナーブレットから金色の弾丸が射出をれた。放水オルグを捉え、爆発を引き起こしながらオルグ魔人は川底に沈んで行った……。

 川の速度も、ガオリゲーター達のお陰で緩やかになり大事は防げた、かに見えた。

 

「くそッ‼︎ よくも一週間の計画を水の泡にしてくれたな‼︎」

 

 川の中から、ゴーゴは飛び上がって来る。顔は憤怒の形相で、正しく悪鬼さながらである。

 

「だが! まだ、こっちには切り札があるんだ‼︎

 出て来いや‼︎」

 

 ゴーゴが号令を掛ける。すると山林を掻き分け押し倒しながら、巨大な影が現れた。

 

「あれは⁉︎」

 

「まさか⁈」

 

 それは、ガオシルバーが良く知る存在だ。胸部のライオンの顔、腰部の鷲の顔、右腕は鮫、左腕は虎、下半身は牛の姿をした巨人……。

 

「あれは……精霊王なのか⁉︎」

 

「……ガオキング……‼︎」

 

 ガオシルバーは呟く。あの精霊王は知っている……それ所か先の戦いで、ガオレンジャー達を支え幾多との戦いに於いて勝利に導いてくれた精霊の王……ガオキングだ。だが体色はガオキングと違い、全身をペンキで黒く塗り潰した様に漆黒だ。

 

 

 〜ウォォォッ!‼︎!〜

 

 

 ガオキングの顔が咆哮を上げる。ガオシャークの尻尾が分離し「フィンブレード」となって握られた。

 

「よし良いぞ‼︎ ガオキング・ダークネス、ガオレンジャー共を蹴散らせ‼︎」

 

 ゴーゴがガオキング・ダークネスに命令する。すると、漆黒の精霊王はガオレンジャー達の前に立ち塞がった。

 

「く……! ガオキングまで、オルグの手に落ちたのか⁉︎」

 

 ガオシルバーは悔しそうに唸る。その刹那、ガオズロックが、ガオキングの眼前に飛来し、ガオズロックの天辺に立つテトムが叫んだ。

 

「ガオキング、止めて‼︎ 貴方の使命を忘れたの⁉︎」

 

 ガオの巫女として、精霊王に説得を試みる。だが、ガオキングは構わず、フィンソードでガオズロックを攻撃した。

 

 

「キャァァァッ!⁉︎」

 

 

 バランスを崩したテトムは、ガオズロックから転落する。落ちる寸前、ガオシルバーが抱きかかえて救出した。

 

「無茶をするな、テトム‼︎ 戦うしか無い‼︎」

 

 ガオシルバーは、テトムを下ろしながら迫り来るガオキングを睨んだ。ガオゴールドも、ガオサモナーブレットを天に構えた。

 

 

 

 〜大変な事になりました‼︎ 新たに現れた敵は、味方である筈のガオキング⁉︎ 漆黒の身体となっている事が、何を意味しているのでしょうか⁈ 果たして、ガオゴールド達は如何にして戦うのか⁉︎ !




ーオリジナルオルグ

−放水オルグ
放水ポンプに邪気が宿り、オルグ化したオルグ魔人。計画の為、ヒヤータがゴーゴの貸し与えた。
自分の身体を優に超えた量の水を体内に吸水、放水が可能だが、戦闘能力は皆無。


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quest12 竜騎士、敗れる⁉︎

「ククク……遂に出しおったか、闇の精霊王を……」

 

 遠方の崖から、ガオレンジャー達の戦いを見守っていたのは、紫色の戦士ガオネメシスだ。

 

「ゴーゴめ……兼ねてよりの計略通りだ。九分九厘、計画の遂行に王手を掛けながら、土壇場にてガオレンジャー共が邪魔に入り、ヒヤータを介し渡して置いた闇の精霊王を使う……クク……完璧な迄に計略通りよ」

 

「私が仕掛けた計略だから、当然ですわ」

 

 ガオネメシスの下に腰を下ろすのは、四鬼士の一角、水のヒヤータ。ゴーゴを敢えての一番槍に仕向けたのも、放水オルグをゴーゴに貸し与えたのも、全てが彼女の描いた絵図だった。

 

「まさか、この私を顎で使う為だったとは……代償は高くつきましてよ…?」

 

 ヒヤータは不満そうに扇子を閉じる。

 

「ふ……そう腐るな、ヒヤータ。そもそも貴様達を、テンマに引き合わせたのは俺だ。それを忘れるな?」

 

 ガオネメシスが不敵に言い放つ。ネメシスと四鬼士は裏で繋がっていたのだ。其れを裏付ける様に、焔のメランと影のヤミヤミも姿を表す。

 

「……よもや、こんな茶番の為に、四鬼士の順列を決める為などと猿芝居を演じさせるとはな……」

 

 メランも気に入らない、と言わんばかりに唸る。ヤミヤミだけが沈黙を貫く。

 

「あら……ガオゴールドに誰よりも攻撃を仕掛けた貴方が、憤る資格なんかあるのかしら?」

 

「フン……」

 

「内輪揉めは止めろ……そもそも、俺が貴様等を招集した理由はただ一つだ……人間共の殲滅だ」

 

 メランとヒヤータを窘めるガオネメシス。其処へ、ヤミヤミは漸く口を開いた。

 

「テンマ様の命令に背いて迄、か?」

 

「そもそも、テンマを焚き付け先代のガオレンジャー共を駆逐させ、一度は敗退したオルグ達をテンマと言う旗頭を下に再編成させたのは、全て此の為だ。

 一つ、予定外の事態が出たとすれば、ガオゴールドの登場……しかし、奴は其れ程に脅威にはなるまい……俺が危惧しているのは、今は力を奪われているパワーアニマル共を解き放たんとする、ガオの巫女とガオゴッド位だ…」

 

「千年前に百鬼丸に敗れ、先の戦いではセンキにさえ敗れた''眠れる神''が脅威? 片腹痛いわ」

 

 メランは嘲笑う。彼に言わせれば、ガオゴールドを我が手で倒す事が最優先……ガオゴッドの存在等、眼中にすら見い出して居ない。

 

「侮りは禁物よ、メラン。腐っても神…ガオゴッドを敵に回せば、何かと面倒ですわ」

 

「一理ある…」

 

 ガオゴッドを軽く見下すメランに反し、ヒヤータとヤミヤミはある程度の評価を下していた。

 

「ゴーゴ如きでは、ガオレンジャーには勝てまい…だが、奴はガオレンジャーにある種の変化を齎す。

 貴様等は、テンマの下にて指示を待て……特にメラン、貴様はガオゴールドに執着している……余計な真似は慎め?」

 

「我に命令するな……我は我の思う様にやる」

 

「元々、私達、四鬼士に結束など皆無……隙あらば、互いに寝首を掻こうと伺っていた…」

 

「…拙者達は闇に生きる外道者…テンマ様に価値が無くなれば去るのみ…」

 

 そう各々に吐き棄てると、四鬼士は同時に姿を消した。ガオネメシスは、フンと鼻で笑う。

 

「所詮はオルグ……か。我ばかり強く、どうにもならん……だが、利用価値はある…」

 

 そう言って、ガオネメシスも姿を消した。ガオの戦士でありながら、オルグとパイプを持ち暗躍する……その真意は計り知れなかった。

 

 

 

 それと同時に、祈はダム付近に降り立っていた。こころは人の姿に戻り、祈の隣を歩く、

 

「兄さんは何処に?」

 

 祈は闇が支配する森の中で兄を探した。すると、こころが指をさす。

 

「あそこよ…」

 

 こころは妙に詳しい様子だ。だが彼女が人ならざる存在だと知った今、驚く理由は祈には無い。あるのは陽の安否だけだ。

 

「ねェ……」

 

 不意に、こころが尋ねてくる。祈は彼女を見た。

 

「貴方は、まだ''目を醒まさ無い''の?」

 

「え?」

 

 藪から棒に何を言い出すんだ? 祈は怪訝な顔になる。

 

「貴方の中に眠る''力''は何時になったら目を醒ますの、って聞いたの」

 

「な、何を言ってるか分からないんだけど……」

 

 その言葉に、こころは興が削がれた、とでも言いたげに眼を逸らす。

 

「気づいていないなら良い。でも、もう運命は動き出している……」

 

「??」

 

 何やら意味深に呟くこころ……。祈には理解が出来ない。だが、祈は不思議な感覚だ。これ以上に無い迄、現実から逸脱した事態の真っ只中に置かれていると言うのに、奇妙な事に落ち着いている自分に驚いている。そんな彼女の様子を横目で見つめるこころ……彼女は何かを知っている様子だが、敢えて閉口した。

 

 

 

 ガオゴールドは新たに現れた敵に驚愕する。姿こそ、精霊王だが全身が漆黒、身体を構成するパワーアニマル達の目は、ギラギラと紅く光っていた。

 

「あ、あれは⁈」

 

「ガオキング……百獣の精霊王にして、かつて俺達と共に戦ってくれた戦友だ……」

 

 ガオシルバーは口惜し気に項垂れた。テトムも同様だ。

 

「何て事に……パワーアニマル達が、オルグの軍門に下るなんて……!」

 

 テトムもショックを隠し切れない様子だった。味方である筈のガオキングの敵対……ガオゴールドは、ガオキングを知らないが、オルグに味方をしている以上、敵だ。

 

「……やるしか無い‼︎」

 

 ガオゴールドは、ガオサモナーブレットを天に掲げトリガーを引いた。

 

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 

 銃口から撃ち出される3発の宝珠……ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンが召喚された。

 3体の幻獣達は、ガオキング・ダークネスに威嚇する。ガオキング・ダークネスは顔を獣の様に咆哮させ臨戦態勢に入る。

 

 

「幻獣合体‼︎」

 

 

 ガオゴールドの号令に合わせ、3体のレジェンド・パワーアニマルが変形、合体していき精霊王の姿へと変わって行く…そして…。

 

 

「誕生‼︎ ガオパラディン‼︎」

 

 

 誕生するは地球を守る為に戦う精霊の騎士王。

 対峙するのは、オルグに与する闇の精霊王。

 二柱の精霊の王による戦いが幕を開けた。

 

 

 

「ガオパラディン! ユニコーンランスだ‼︎」

 

 ガオパラディンの右腕をユニコーンランスが激しく唸りながら、ガオキング・ダークネスに刺突する。

 だか、左腕のガオタイガーによって受け止められてしまった。これでは身動きが取れない。

 

「何⁈」

 

「ハッハハハハ‼︎ そんな温い攻撃なんざ、効かねェよ‼︎ ガオキング、お返しだ‼︎」

 

 ゴーゴの命令に従い、フィンブレードにて斬り掛かるガオキング。斬撃が直撃し、ガオパラディン内に設けられたコクピット状の空間に火花が走る。

 

「くッ……‼︎」

 

「如何した、ガオゴールド⁉︎ そんなモンかよ⁈」

 

 ゴーゴが嘲笑う。ガオパラディンが態勢を持ち直そうとするが、ガオキング・ダークネスは、其れさえも許さない。フィンブレードで連続斬りを繰り出し、ガオパラディンは立っているのもやっとだ。

 

「ウゥ……グリフシールド‼︎」

 

 ガオゴールドが、左腕のガオグリフィンの変形した「グリフシールド」を展開させ、フィンソードを受け止めた。そして、ユニコーンランスを回転させて、ガオタイガーの拘束を振り払った。

 

「何やってんだ⁈ さっさとガオレンジャーを倒せよ‼︎」

 

 ゴーゴが苛立ちながら叫ぶ。ガオキング・ダークネスは、それに反応してガオバイソンで構成された下半身が飛び上がり、ドロップキックを放つ。

 突然の蹴り技に不意を突かれたガオパラディンは、後ろへ倒れ込んでしまう。

 其処へ、ガオキング・ダークネスが乗り上げる様にガオパラディンに跨る様にマウントポジションを取り、ガオシャークとガオタイガーで交互に殴り付ける。

 その幾多に及ぶ激しい殴打を浴びせる姿は、とても精霊王の其れとは程遠い。ガオキング・ダークネスは、動けないガオパラディンを嬲り殺さんとして、何度も何度も殴り付けた。

 ガオパラディン内のガオゴールドも、その打撃による反動で立ち上がる事もままならない。ガオキング・ダークネスから放たれるパンチが激突する度、コクピット内は火花が弾けた。

 ガオゴールドは迷っていた。目の前に居る漆黒の精霊王が、もしオルグに操られているならば? 直接の関わりは無いが、仲間である精霊王を相手に手を掛ける事は出来ない。その迷いが、ガオゴールドの判断を鈍らせ、その隙を突かれてしまったのだ。

 

「良いぞ良いぞ‼︎ もっと痛めつけろ‼︎」

 

 ゴーゴは狂喜して煽る。これで、ガオレンジャーを倒せば確実に自分の勝利だ。ゴーゴは、そう確信していた。

 

 

 

「ガオゴールド‼︎」

 

 ガオシルバー、テトムは一方的に痛めつけられるガオパラディンの様を見ているしか出来ない。

 

「嗚呼……このままじゃ、ガオパラディンが負けてしまうわ……‼︎」

 

 テトムは悲痛な迄に顔を歪ませる。ガオシルバーは意を決し、ガオハスラーロッドを構えた。

 

「……こうなったら、俺がガオハンターで……‼︎」

 

「無謀よ、シロガネ⁉︎ ガオウルフ達は昼間の戦いで傷付いているわ! 今、出て行っても見す見す殺されに行くだけじゃない‼︎」

 

 テトムが、ガオシルバーを引き止める。昼間、ゴズとメズ戦いにて、かなり痛めつけられた体で、ガオパラディンの百獣武装した為、ガオウルフを始め酷く傷付き疲弊している。ガオリゲーターやガオハンマーヘッドも無理を押して出て来たのだ。

 

「しかし……このまま、ガオパラディンがやられるのを見ているだけには行かないだろう⁉︎」

 

 止めようとするテトムに、ガオシルバーは食って掛かる。短期間の付き合いながら、シルバーなりにガオゴールドとの絆は深まりつつあった。

 何より……仲間を見捨てて逃げた、と己を責めるガオシルバーにとって、ピンチに陥るガオゴールドが倒されるのを傍観し続けているのは、余りに酷な話だ。

 だが、本調子では無い自分が救援に入っても戦況は悪化するだけだ……ましてや、ガオゴールドに万一の事があり、かつ、ガオシルバーまで倒れてしまえば、オルグに対抗出来る戦士は居なくなってしまう。そうなれば、本末転倒だ。

 しかし、2人が言い争っている間に、2体の精霊王の戦いは益々、激化して行った。

 

 

 

 ガオキング・ダークネスから繰り出される殴打の嵐は、着実にガオパラディンを消耗させて行った。

 ガオゴールドは何とか、状況を打破せんと試みたが如何せん、ダメージが大き過ぎる。

 ガオゴールドは既にマスクは半壊し、ガオスーツもボロボロだ。辛うじて台座にしがみ付き状態を保っているが、このままでは敗けてしまう。

 

 

 ー貴方は、このままじゃ敗ける……ー

 

 

 夕方の屋上で、こころの発した言葉が、ガオゴールドの脳裏にリフレインする。

 敗ける……自分には無縁だと思っていた。ガオドラゴン達と和解を果たした自分なら、速攻にオルグを全滅させて元の日常に帰れると信じていた。

 だが……現実はこの有様だ。

 

 

 〜やはりこの程度か、ガオゴールド……〜

 

 

 ガオゴールドのヘルメット内に、ガオドラゴンの言葉が聞こえて来た。決して幻聴などでは無い。

 

「が……ガオ……ドラゴン……?」

 

 

 〜お前が戦士の本分を見失えば、我等は人間を見捨てる……そう言った筈だ……〜

 

 

 ガオドラゴンの諦めた様な言葉が、ガオゴールドの胸に突き刺さる……そうだ……こんな所で敗ける訳には行かないんだ……自分を待ってくれている人が居る……守らなきゃいけない人が居る……今や、自分の命は自分だけのものじゃ無いんだ……‼︎

 その強い想いが、ガオパラディンに伝わり再び、力を発揮して行く。ガオキング・ダークネスの振り下ろしたタイガーアタックをグリフシールドで弾き返し、怯んだ一瞬の隙に、逆に押し返した。

 今なら、ガオキング・ダークネスも対処は出来ない……やるなら今だ……‼︎

 

 

「聖火波動‼︎ ホーリーハート‼︎」

 

 

 ガオパラディンの号令に従い、ガオドラゴンの口から金色の光線が放たれた。最後の一撃にして最高の決め技……これを外せば、敗北しか無い……‼︎

 

 

 

「…暗黒轟鳴…ダークネス・ハート…!」

 

 

 

 突如、ガオキング・ダークネスから禍々しい漆黒のエナジーが溢れ出す。5つのパワーアニマルの口から放たれた其れは、かつて、ガオキングが用いた必殺技『天地轟鳴・アニマルハート』と似て非なる技だった。衝突する金と黒の光線が互いの技を喰らい合い、拮抗し始めた。だが、衝突が長引けば長引く程、疲弊しているガオパラディンの方が不利だ。

 勝敗を決するのは、先に力尽きた方……光線の余波により、周囲を破壊して行く……其れ迄に、2体の攻防は影響があった。やがて、ガオパラディンの方が少しずつ後退して行き……。

 

 

 ーグオォォォン‼︎‼︎‼︎ー

 

 

 ガオキング・ダークネスの顔が憤怒の形相で咆哮し、最大出力の光線が、ガオパラディンに直撃した。

 ガオパラディンは漆黒のエナジーに飲み込まれ、凄まじい衝撃と轟音と共に消失した。

 

 

「ゴールドォォォォォォッ‼︎‼︎‼︎」

 

 

 ガオシルバーが絶叫した。恐れていた事態が起きてしまった。ガオパラディンの敗北、即ちガオゴールドが死んでしまったかも知れないのだから……。

 

「…そんな…‼︎」

 

 テトムは力無く膝をついた。目は虚ろで、膝をついた際に溢れ出た泥水がスカートを汚したが、彼女は気にする暇さえ無い。

 

「やったやった‼︎ ガオパラディン、倒してやったぜ‼︎」

 

 ゴーゴは高笑いを始めた。ガオキング・ダークネスも、勝利の雄叫びを上げる。

 

 

「う、ウオォォォォォッ‼︎‼︎」

 

 

 怒りに我を忘れたガオシルバーは、ガオハスラーロッドで宝珠を打ち上げ、パワーアニマル達を召喚した。

 ガオハンターに姿を変え、ガオシルバーを吸収すると、ガオキング・ダークネスに挑み掛かる。

 リゲーターブレードで、ガオキング・ダークネスに斬り捨てようとするが、ガオハンターらしく無い単調な攻撃の為、悉く躱されてしまう。

 2体の精霊王の戦い、第2Rが幕を開けた。

 

 

 

「あ…あ…」

 

 事の顛末を見ていた祈も言葉にならない声を漏らした。ガオパラディンが爆発に飲み込まれ行く姿を見た際、あの中に陽が居る様な気がしたのだ。

 

「………‼︎」

 

 こころは苦虫を噛み潰した様に、顔を歪める。やはり、自分の言った通りになってしまった。

 その際、隣に祈に居た祈は脳裏に声が聞こえて来るのを感じた。

 

「え…何…『私を呼べ?』」

 

 突然の事態に、祈は激しく動揺する。そんな彼女の様子を見て、こころは何か察した様だ。

 

「……呼んで」

 

「え……⁈」

 

「早く‼︎」

 

 こころは戸惑いを見せる祈に怒鳴る。何が何だか分からない……そもそも、呼べって誰を……?

 そうしてる間に、祈は両手を握り締め念じた。そうしようと思ったつもりは無い。ただ……そうしなければ成らない……そんな気がしたからだ。

 その後、祈は何かに取り憑かれた様に舞い始める。まるで、何かに身体の主導権を取って代わられた様に……。

 

 

 〜さァ、参られん参られん……精霊達の頂に座す神よ……今こそ、現世に参られ給え〜

 

 

 祈は頭に浮かんで来た言葉を話すが、自分の声では無い。何か、自分の中に居る……自分とは違う何かが祈の口を借りて、喋っている様だった……。

 

 

 

 ガオハンターは孤軍奮闘を強いられ、ガオキング・ダークネスに挑み掛かる。だが、ゴズとメズから受けたダメージが響き、ガオハンターは思う様に動けない。

 

「ははは‼︎ 精霊王が、もう1人居たとはな‼︎ ガオキング、そいつも叩き潰せ‼︎」

 

 ゴーゴが命令を出すと、ガオキング・ダークネスはフィンブレードでガオハンターを斬り付けた。

 

「ク……‼︎」

 

 ガオシルバーも大きく仰け反りながら、台座に念を込める。ガオハンターは、リゲーターブレードを突き出すが、ガオキング・ダークネスには届かない。

 

「勝負あったな‼︎ ガオキング、やれ‼︎」

 

 勝機を確信し、ガオキング・ダークネスから再び、漆黒のエナジーが溢れ出して来た。ガオシルバーも構えたが、既に手遅れの様だ。

 しかし、ガオキング・ダークネスに空中から降り注いで来た光弾が激突した。

 

「な、何だ⁈」

 

 ゴーゴは突然の奇襲に驚く。すると、天の空間が歪み始める。どうやら、あの歪みから光弾は放たれた様だ。すると、歪みの中から厳かな声が聞こえて来た。

 

 

 〜地上を荒らすオルグ共よ…私の目の黒い内は、お前達の好きにはさせぬ〜

 

 

 

「な…何だと⁈ 誰だ⁉︎」

 

 ゴーゴは九分九厘、勝ちかけていたのに邪魔され、立腹した様に怒鳴る。すると歪みの中から巨大な人影が現れた。

 

 

 〜我が名は、ガオゴッド……百獣の神なり〜

 

 

「ガオゴッドだとォ⁉︎」

 

「千年の友⁉︎」

 

「荒神様‼︎」

 

 ガオシルバー、テトムは、ガオゴッドの姿を見て驚愕する。先の戦いにて敗れ、他のパワーアニマル同様、異空間に封印された筈のガオゴッドが姿を現したのだ。

 

「ハッ‼︎ 我々、オルグに敗けた古い時代の化石が、しゃしゃり出て来やがって‼︎ ガオキング・ダークネス、先にガオゴッドから黙らせちまえ‼︎」

 

 ゴーゴは攻撃の矛先を、ガオゴッドに向けた。だが、ガオキング・ダークネスは、ガオゴッドを前に萎縮してしまい動く事が出来ない。

 

「何をグズグズしてやがる⁉︎ さっさと、やらねェか⁈」

 

 行動しないガオキング・ダークネスに痺れを切らし、ゴーゴは怒鳴る。だが動かない、ガオキング・ダークネスに代わり、ガオゴッドが行動した。

 

 

 〜地球を汚す者は赦さん‼︎〜

 

 

 怒りを見せたガオゴッドが、右腕を掲げると万雷が降り注ぎ始めた。

 

「クッ……‼︎」

 

 ゴーゴは雷の嵐を何とか躱すが、攻撃する事が出来ない。すると、ガオゴッドの額にある宝玉から一筋の光線が放たれた。すると、ゴーゴによって破壊されたダムは、たちまち再生し壊される前の状態に戻った。

 荒れていた川も緩やかとなり、辺りは平穏な様子を見せ始めた。

 

「アァッ⁉︎ テメェ、折角、壊したダムを⁉︎」

 

 ガオゴッドの力で自分の一週間分の計画が水泡に帰してしまったのだから、ゴーゴが怒り狂うのも無理はない。だが次の瞬間、ガオゴッドが右腕を振りかざすと、ガオハンター、ガオズロック、テトムは姿を消していた。後に残ったのは、ゴーゴとガオキング・ダークネスだけだ。

 

「畜生‼︎ 俺様の計画が全て台無しだ‼︎ だが、ガオパラディンは倒した‼︎ ガオハンターと、ガオゴッドとやらだけは必ず殺してやる‼︎ 必ずだ‼︎」

 

 ゴーゴは夜の帳に向けて、怒りの雄叫びを上げた。側に佇む、ガオキング・ダークネスは只々、沈黙を続けるだけだった。

 

 

 

「フン……ガオゴッドめ。しぶとい奴だ」

 

一本の巨木の上に立つ様に、ガオネメシスが事の顛末を見ていた。元の様に再生されたダムの様子を見て、忌々しそうに舌打ちした。

 

「……だが今更、貴様が出て来た所で、どうにもならん。あの天空島を封じたドサクサの中、姿を消した貴様を見た際に、凡そ見当は付いていた。いずれにしても、貴様が介入したとて我々の計画に一切、支障はきたさない。精々、無駄に足掻くが良い……それにしても……」

 

ガオネメシスは、森の隙間から覗く祈を見据えた。

 

「……まさか、生まれ変わって居たとはな……''原初の巫女''が……」

 

意味深な言葉を残し、ガオネメシスは姿を消して行った。

 

 

 

 〜絶体絶命のピンチを救ったのは、百獣の神ガオゴッド。彼が介入した事で事態は変わるのでしょうか⁈

 そして、爆発の中に消えたガオゴールドとガオパラディンの運命は⁉︎ ガオネメシスの言う原初の巫女とは⁉︎



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quest13 明かされる真実

 ー僕が、10歳の頃……父が再婚した。物心が付く前に、生みの母親を病気で亡くして以降、父に育てられて来た。そんな中、母親の居ない日常が当たり前だと思い始めた頃……急に父が女の人を連れて来た。

 その人は、父の会社の同僚で母の親友だった。母が死んだ後も父や息子である僕を気に掛けてくれた。

 その女の人も結婚し子供も居たが、彼女も旦那を早くに亡くしてしまったらしい……。

 そんな似た様な間柄に関係である為、父とは交流が続き互いに励まし合う内に……父と両思いになるのは必然だった。

 父が彼女と小さな女の子を家に連れて来た時、初めて彼女と出会った。

 その娘は父親以外の男性に対し、恥ずかしそうにしていた。僕は妹となる、その娘に優しく声を掛けた。

 

 

「初めまして、祈ちゃん」

 

 

 その一言で僕に新しい母と妹が出来た。最初は何処か気まずそうな彼女も、時を経るに連れ笑顔を見せてくれた。祈は僕を兄と慕い、僕も妹を大切に思った。

 いつまでも、仲の良い兄妹として生きていたかった……なのに……どうして……?

 僕は暗闇の中に堕ちて行く。祈の笑顔も友達も皆、黒く塗り潰されて行った……そうして、僕の感覚は途切れてしまったー

 

 

 

 ー起きて……さァ起きて……ー

 

 

 誰かが、陽に語り掛けて来る。だが、指一本動かす事が出来ない。

 

 

 ー早く起きて……!ー

 

 

 再度、声を掛けられた為、陽は少しだけ目を開けてみる。朧げだが、小さな人影が見えた。

 

「やっと起きたね……もう駄目かと思ったよ」

 

 陽を覗き込んでいたのは、1人の少年だ。だが不思議な事に、幼い容姿とは裏腹に大人びた達観した雰囲気が醸し出される。

 

「き、君は……?」

 

 陽は痛む身体に耐えながら、上体を起こした。少年は優しく微笑む。

 

「僕は風太郎。またの名を、ガオゴッドさ」

 

「ガオ……ゴッド……?」

 

 陽は風太郎なる少年を見た。外見は自分より、かなり歳下だが、この少年は今、自分をガオゴッドと名乗った。

 

「ゴッド……って言う事は、君は神様?」

 

 少年から放たれる浮世離れした気に、彼が只者では無い事を肌で感じさせる。

 

「君達から見れば、そうなるのかな……最も、この姿は仮の姿。僕の本来の姿は……」

 

 そう言うと風太郎は姿を消す。すると、陽の頭上に巨大な精霊王が現れる。

 

 

 ーこの姿では、お前達とコンタクトを取るのが難しい。故に直接に対話をするならば、私本来の姿より風太郎としての姿を取る方が良いのだー

 

 

 陽は威厳を放ちながら話すガオゴッドに驚愕する。精霊王は人間に姿を変える事も出来るのか……改めて、パワーアニマルと言う人知を超えた存在に、脱帽した。

 

「それで……僕は一体、どうなってしまったんですか?」

 

 陽は、ガオゴッドに問いかける。そもそも、自分はこんな所で油を売っている場合じゃ無いのだ。グズグズしていたら、オルグ達に町をメチャクチャにされてしまう。そう焦っていたら、ガオゴッドは再び、風太郎少年の姿に戻った。

 

「落ち着いて、陽……いや、ガオゴールド。君には順を追って話さないと行けないんだ。その為に、君を此処に呼んだんだ」

 

 風太郎は宥める様に陽を諌めた。神様とは言え、自分より歳下の少年に子供扱いされるのは妙な感覚だが、今はそんな事を言っている場合じゃ無い。

 

「それより、此処は一体……」

 

「周りをよく見て」

 

 風太郎に促され、陽は周りを見る。其処には夥しい数の石柱や建造物が、砕けたりバラバラになったりして散乱していた。

 

「此処はね……君達、人間の住む現実世界とは少し外れた場所にあるんだ。僕は今、この場所からでしか現実世界に干渉出来ない。他のパワーアニマルも同様にね」

 

「どうして?」

 

「……僕達が復活したオルグ達に敗けた事は、テトムから聞いただろう? 今回の僕達の敗因は、有象無象のオルグ達が結集して来た事……もう一つは、オルグ達に味方する男の存在を見過ごしていた事だ」

 

「男……もしかして⁉︎」

 

 陽は勘付いた。自分達の前に現れ、ガオシルバーを圧倒的な強さで捩じ伏せた謎の戦士の存在を……。

 

「そう……奴は、ガオの戦士でありながら悪の道に堕ち、人間達の滅亡を企んでいるんだ。奴が、オルグ達を手引きし、団結した彼等を天空島に襲撃させた…」

 

「あいつは……ガオネメシスと名乗ってたけど……一体……」

 

 陽の質問に対し、風太郎は力無く首を振る。

 

「奴が何者なのか……何故、ガオの戦士でありながら、オルグに加担するかは分からない。ただ一つ言えるのは……奴は、人間に対し並々ならない憎しみを抱いていると言う事だけ……」

 

 神であるガオゴッドさえ分からない謎の存在……その際、急に風太郎は陽の手を持つ。

 

「な、何を……」

 

「君に見せてあげれる……あの日、ガオレンジャーが総力を発揮しても勝てなかった真相を……オルグ達との本当の戦いは……シロガネとテトムが脱出してから始まったんだ……」

 

 そう言うと、陽の身体は急に浮き上がる。いや、正確には浮遊する陽の下に自分の身体があるのだ。

 陽は、どんどん浮上して行く……意識を超え、時を超え……。

 

 

 

 次に陽が気が付けば、そこは戦場だった。辺りは木々は薙ぎ倒され大地は抉られ、さながら地獄絵図だ。

 

「此処が、天空島アニマリウム……パワーアニマル達の最後の理想郷で人類にとって平和の砦……だった」

 

 だった……と風太郎は呟くが、見回して見ても其処は理想郷とは程遠い光景だ。

 ふと、陽の眼前にて巨大な爆煙が巻き起こった。

 其処では、5人のガオレンジャーとオルグ達による戦いが行われていた。

 

「ははは‼︎ 不用意に抗えば、余計に苦しむ事になるぞ? 大人しく降参するんだな」

 

 オルグ達を率いるのは、背中に巨大な掌が2つ生えた不遜な態度のオルグ。

 

「奴が、今のオルグ達を率いるハイネスデューク、テンマ。奴が、有象無象のオルグ達を一枚岩に統率し、天空島に奇襲を仕掛けて来たんだ」

 

 風太郎は悔しげな表情を浮かべる。そうしてる間に、テンマから放たれた光線が、ガオブルーを攻撃した。

 

 

「ウワァァァァッ‼︎‼︎」

 

 ガオブルーは吹き飛ばされた。陽は我慢出来ずに駆け出すが……。

 

「無駄だよ、此処は君の精神だけに見せている過去の映像だ。オルグ達と戦う事はおろか、彼等と間接的に触れる事すら出来ない」

 

「でも……‼︎」

 

 みすみす目の前で仲間であるガオレンジャー達がやられている所を見ているしか出来ないなんて、余りに歯がゆ過ぎる。

 そうしてる間に、テンマの繰り出す攻撃に1人、また1人と倒されて行く。

 遂に、果敢に立ち向かったガオホワイトも倒されてしまった。砕け散ったマスクから覗く顔を見て、陽は驚愕した。

 

「さ、冴姉さん⁉︎」

 

 ガオホワイトの正体は、自分に所縁ある人物だった。幼い自分に武術の手解きを教えてくれた鹿児島にいる従姉……それが、大河 冴だった。

 

「……まさか、姉さんもガオレンジャーだったなんて……‼︎」

 

 そう言えば昔、詳しくは教えてくれなかったが、大変な戦いをしていた時期がある……と教えてくれた事がある。其れこそが、ガオレンジャーだったんだ……。

 

「さァ、後は貴様だけだ! 」

 

 1人、残されたガオレッドがテンマと対峙する。手に握られるのは破邪の爪、ライオンファング。

 テンマの手には禍々しい形の剣が握られ、ガオレッドに迫る。

 

「貴様も愚かな奴よ……自ら、墓穴を掘りに来るとはな」

 

「だ、黙……れ……‼︎」

 

 ガオレッドは、ライオンファングを握り締めテンマに殴り掛かる。重い一撃を腹部に喰らい、テンマは大きく仰け反る。

 

「ぬぅ……‼︎」

 

「メタモルフォーゼ‼︎ ガオメインバスター‼︎」

 

 ライオンファングが姿を変え、ハンドカノン状の武器に変わる。

 

「俺は諦めない‼︎ 俺を信じてくれる仲間が居る限り!

 俺の為に戦ってくれる友が居る限り‼︎ 俺は絶対に……諦めるかァァ‼︎‼︎」

 

 ガオレッドの魂の叫びに反応し、ガオメインバスターが赤色の光を放つ。

 

「小賢しい奴め……この修羅怨鬼剣に込められし、オルグ達の怒りを見よ‼︎」

 

 対して、テンマが構える修羅怨鬼剣から黒いオーラが立ち昇る。

 

 

「邪気……!

  正気……! 退散‼︎‼︎‼︎」

 

 

 ガオメインバスター、修羅怨鬼剣から同時に放たれた一撃が、ぶつかり合った。その凄まじい余波で木々は吹き飛ばされ、空間さえも歪みかね無い勢いだ。

 

 

「うおおおおおッ‼︎‼︎」

 

「ハァァァァァッ‼︎‼︎」

 

 

 木霊する赤き獅子と黒き鬼の雄叫びが、天空島中に響き渡る。どちらも一歩を退かない。しかし悲しいかな、人間とオルグとでは力の根底が違う。ましてや、疲労困憊となるまで戦い抜いたガオレッドも今や、風前の灯火までキテいる。一瞬でも力を抜こうものなら、弾き飛ばされてしまうだろう。

 だが、ガオレッドは敗ける訳には行かない。此処で、自分が倒れてしまえば、後ろに居る仲間達を巻き込んでしまうからだ。

 

 

『レッド‼︎‼︎』

 

 

 倒れた仲間達は、口々にガオレッドの名を呼ぶ。このままでは、彼の身体が保たない。

 その際、ガオレッドは身体に掛かる負担が少し軽くなったのを感じた。

 

「み、皆……‼︎」

 

 ガオレッドは背中越しに見た。仲間達が、レッドの負担を少しでも減らそうと、自分達に残された僅かなガオソウルを分け与えて来たの。

 

「気休めにしかならないが……俺達の力を……」

 ガオイエローは、そう呟いて気を失った。

 

「レッド……勝ってくれ……‼︎」

 ガオブルーは砕けたマスクから覗く素顔を精一杯に、笑顔にして見せ、目を閉じる。

 

「……頼む……‼︎」

 ガオブラックは一言、レッドに全てを託して倒れた。

 

「……お願い、レッド……皆を守って……」

 ガオホワイトも、嘆願する様に意識を手放した。

 

 

 

 〜グオォォ……‼︎‼︎〜

 

 

 

 更には、ガオライオンが傷付いた身体を押して、レッドの救援に現れた。ガオライオンも自身のガオソウルを、レッドに注ぎ始める。

 

「ガオライオン……お前まで……‼︎」

 

 ガオライオンとレッドの絆は強く堅牢な物だ。互いが互いを理解し合い、信頼し合っている。だからこそ、ガオレッドとして戦い抜く事が出来た。何時だって、ガオライオンが共に居てくれたから……。

 

「見せてやる……これが……俺達の信じる力だァァァッ‼︎‼︎」

 

 ガオレッドの渾身の叫びに、ガオメインバスターが反応する。砲口から赤色の光線が肥大化して放たれ、テンマやオルグ魔人に迫る。

 

「ぬおッ……⁇!」

 

 絶大なエネルギーは奔流の様に、テンマ達を包み込んで行く。天空島そのものを吹き飛ばし兼ねない光線は、オルグ達に苦痛を与える間も無く消し飛ばしてしまった。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 ガオレッドは、バスターを杖代わりにして辛うじて立っていた。目の前には爆煙が立ち昇っているが、オルグ達の気配は感じない。

 

「は……はははは! 勝った、勝ったぞ……‼︎」

 

 勝利を確信し、ガオレッドは笑った。膝は崩れそうになりつつも、オルグ達の進撃を食い止める事が出来たのだ。

 

 

「……ククク、戯けが。その程度で、余を倒せたと思うてか」

 

 

 晴れ行く爆煙の中から、無傷のテンマが姿を現わす。

 

「そ、そんな……‼︎」

 

「クハハハァ‼︎ 貴様等、ガオレンジャーの時代は終わりだ! これからは我等、オルグの時代だ‼︎!」

 

 そう言って、テンマが背中の掌を広げる。すると、ガオレッドを始め、ガオレンジャー達が浮かび上がる。

 

「なッ⁈」

 

「貴様等、ガオレンジャーは只では殺さぬ。死より辛い無限地獄へと突き堕としてくれるわ!」

 

 そう言い放つと、ガオレンジャーの身体が水晶に包まれ閉じ込められていく。

 

「クハハ‼︎ ガオレンジャー、その水晶の牢獄の中で自分達の浅はかさを悔やみ続けるが良いわ‼︎」

 

 テンマは高笑いする。ガオレンジャーの敗北……この瞬間から、オルグの時代が幕を上げたのだ。

 

「クハハハハハハァァァ‼︎! 見た事か、シュテン! ウラ! ラセツ! 貴様等が成し得なかったオルグの天下を、このテンマが成し遂げた‼︎ このテンマこそ、真のオルグマスターと相応しい‼︎」

 

 狂喜するテンマ。ガオライオンは仲間を水晶に閉じ込めたテンマに対し、怒りを見せ襲い掛かるが突如、ガオライオンの身体に爆発が起こる。

 

 

「フン……大人しくしろ」

 

 

 倒れ伏すガオライオンを見下ろす様に降り立つのは、ガオネメシスだ。

 

「何だ今頃、来たのか? もう終わってしまったぞ」

 

 テンマは、ガオネメシスに対し親しげに話す。当人のガオネメシスは、マスク越しに邪悪な嗤いを上げる。

 

「何……まだ、終わっていない。パワーアニマルを、この天空島ごと封じてしまうのだ……」

 

 ガオネメシスが右手を翳すと天空島が、パワーアニマル達が融ける様に消えていく。

 

「これで、パワーアニマルは一網打尽……ガオレンジャーもおしまいだ……」

 

「クハハハハハハァァ‼︎‼︎ これで、我等の勝利だ‼︎」

 

 融けていく天空島を背に、テンマは勝ち誇った様に高らかと笑い続けた。それと同時に、陽の身体も見えない力に引っ張られ始めた。

 

 

「陽……そろそろ戻るよ……」

 

 

 風太郎の声だ。その直後、陽の意識は途絶えた。

 

 

 

「分かった? これが真実だよ」

 

 元の空間に舞い戻った。一言も発する事が出来ない。自分は、何も分かって居なかった。ガオレンジャーの事も……オルグの事も……何一つ……。

 

「……僕は、ガオレンジャーとして戦う事を自分にとって枷の様に感じていた……でも違った。ガオレンジャーとして戦う事は……自分の命を賭ける位に大切な事だったんだ。命を賭ける覚悟の無いまま、戦い続けたから敗ける……あの女の子の言った意味は、この事だったんだ……!」

 

 こころの言った言葉の意味が痛い程に身に沁みた。

 彼女は陽が半端な覚悟で戦い続ければ、遅かれ早かれ足が竦んで敗けてしまう事を見抜いていたのだ。

 陽は、今迄の自分がオルグに勝てていたとは所謂、ビギナーズラックに過ぎなかった事を思い知った。

 ガオドラゴン達と和解し有頂天になっていた、自分の馬鹿さ加減に腹が立って来る。これ迄の勝利は、ガオパラディンやガオシルバー等と言う歴戦の勇者達の力添えが有ったからこその勝利だったのだ。

 

「僕は……何にも分かっちゃ居なかった……‼︎ ガオレンジャーと言う戦士に選ばれた意味が……彼等の姿を見て、やっと気付いたよ……」

 

 偉大なる先人のガオレンジャー達……何より、自分に武術を教えてくれた大河 冴達が命を賭けて、未来に繋いだのは自分と言う新世代の戦士に希望を見出していたからだった……そんな事に、今更になって気付くなんて……。

 

「気付いてくれて有難う、陽……。もし、君が敗北の理由に気付かなければ、ガオレンジャーの力を取り上げなくちゃいけなかった……でも杞憂に終わったよ。君は、ガオレンジャーとして大切な事を今日、学んだ」

 

 風太郎は穏やかに笑う。風太郎ことガオゴッドは、陽がガオレンジャーの名を継ぐに相応しいか否かを試したのだ。

 それと同時に、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンが姿を見せる。

 

「ガオドラゴン‼︎ 無事だったんだね⁉︎」

 

 仲間達の無事に歓喜する陽。ガオドラゴンは冷ややかな態度だ。

 

 

 〜我等を脆弱な人間と一緒にするな……しかし、その様子では迷いを断ち切った様だな……〜

 

 

 ガオドラゴンは確かめる様に、陽に尋ねる。

 

「ああ……僕は、ガオレッド達みたいなガオの戦士になれない……でも、誰かの為に…地球を守る為に戦いたい…! もう一度、戦わせて貰えないか?

 竜崎 陽としてじゃなく、ガオゴールドとして……‼︎」

 

 それは、ガオレンジャーとして戦い抜く、と決意した強い意志が込められていた。

 ガオドラゴンは口を閉ざしたままだ。代わりに、ガオユニコーンが口を開く。

 

 

 〜ガオゴールド……かつて、私達も貴方以前に人間と共に戦っていた時期がありました。ですが……彼は、ガオレンジャーとしての矜持を捨て、我等の前から永遠に去ってしまった……〜

 

 

 ガオユニコーンに続いて、ガオグリフィンが紡ぐ。

 

 

 〜お前も同じ道を辿るのでは、と言う懸念があった……。だが、お前はそうはならないと信じたい。

 我等に、もう一度、人間を信じさせて欲しい…〜

 

 

 最後に、ガオドラゴンが口を開く。

 

 

 〜お前が今回の敗北から何も学ばない様なら、我々は今度こそ人間を見捨てるつもりだった……良いだろう……今一度、お前を信じてみよう……。ただし、今回だけだ……〜

 

 

 偉大なるレジェンド・パワーアニマル達は宝珠の姿に変じ再び、陽の手に収まる。

 改めて認められた事に、風太郎は姿をガオゴッドへ変じる。

 

 

 〜ガオゴールド。お前になら、地球の未来を任せられる……私は今、オルグ達を竜胆市から出さぬ事に手一杯故、力を貸してやれぬが……〜

 

 

「竜胆市から出さない?」

 

 ガオゴッドの発言に対し、陽は尋ねる。

 

 

 〜酷な事に、オルグ達は竜胆市全体に鬼門を張り巡らし奴等の本拠地と直通の道を繋いでしまった……お前達が鬼門を破壊しようとも、オルグ達は新しい鬼門を繋ぐだろう。オルグ達を滅ぼさぬ限り……〜

 

 

「それじゃ……オルグ達の侵攻を防ぐのは……」

 

 陽は落胆した様に呟く。今迄の様に、オルグを倒した所で、オルグ達は無限大に現れる。見方を変えれば自分達は、オルグ達に完全に包囲されてしまっているのだ。

 

 

 〜案ずるな……逆に言えば、オルグ達は竜胆市より外に出る事は叶わぬ。奴等が町全体に仕掛けた鬼門ごと、私を始め全てのパワーアニマルの力で強力な結界で閉じ込める事に成功した。これなら、オルグ達を竜胆市内にのみに限定させれる……〜

 

 

 ガオゴッドは自分達に知らない所で、オルグ達に対し手を打っていたのだ。改めて、ガオゴッドの偉大さに陽は脱帽した。

 

 

 〜それと……この町で起こる、オルグ達による被害と、ガオレンジャーの名が知れ渡り無関係な者達を巻き込むまいとする、お前の気持ちもテトムを介し知っている……。それについては大丈夫だ。町の人間の記憶から、オルグ達やガオレンジャーの存在について定期的に改変しよう……〜

 

 

「でも……万が一、オルグ達の手に掛かってしまった人達は?」

 

 陽は、オルグ達がガオレンジャーを倒す為に無関係な人間を犠牲にしようとする場面を見ている。

 例え、記憶を改竄しようが、オルグ達によって町の人間達が命を落とせば結果は同じなんじゃ無いか?

 

 

 〜案ずるな、この町に張った結界内では、オルグ達が騒ぎを起こせば私が気付く。奴等の動きを察すれば私が、テトムに知らせよう……。神と言えど万能では無い……何より、人間達の問題に神が逐一、出しゃ張る真似は出来ないのだ……許してくれ〜

 

 

 ガオゴッドは済まなそうに詫びる。だが、陽は首を振った。

 

「謝らないで下さい。確かに、これは僕達、人間の問題です。オルグと言う存在を生み出したのも僕達、人間によるもの……詰まる所、ガオレンジャーの戦いは人類の地球に対する贖罪の為の戦いでもある……少なくとも、僕はそう考えます」

 

 陽は強い意志を持って応えた。いつか、ガオパラディンにオルグを生み出すのは人間の起こした災害や紛争による二次災害、と指摘された。

 かと言って、罪の無い人間を見捨てる訳には行かない。彼等を守る為の受け皿としつ自分が戦う事こそ、ガオレンジャーの使命なのだ。

 

 

 〜見事だ……よく、其処にまで至れた。ガオドラゴン達が、お前を選んだのは間違いでは無かった……そう信じさせてくれる……奴等の本拠地は、必ず私が見つけ出そう……この戦いを早期に集結させる為に……〜

 

 

 そう言い残すと、ガオゴッドは姿を消す。すると、陽自身の身体も透け始めた。

 

 

 〜頼む……ガオゴールドよ、地球の未来を託す……〜

 

 

 ガオゴッドの声が、リフレインする。若き戦士は戻っていく……新たなる信念を秘めて……。



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quest14 魂の鳥、飛翔する!

今回、新たなパワーアニマルを出しますが、前振り無しの登場です。
経緯は次回作で発表する為、御了承下さい。


「消えただと⁉︎」

 

 鬼ヶ島では、テンマの怒鳴り声が響く。相対するのは、ガオネメシスだ。

 

「ああ……ガオゴッドが現れて、倒したガオパラディン諸共、消えていったよ……。まさか、ガオゴッドが復活していたのは驚きだがな……」

 

 ガオネメシスは気にしない風な感じで話す。だが、一方のテンマは苛立ちを隠さない様子だ。

 

「悠長な事を言ってる場合か? 貴様が、パワーアニマルを全て、封印したと言ったのでは無いか⁉︎」

 

「フン……例外もある……」

 

 憤るテンマを余所に、ガオネメシスは余裕のある姿勢だ。

 

「ガオゴッドは元々、1000年前の精霊王だ。それが現代に甦ったのだから、これ以上の事が起きても不思議じゃあるまい?」

 

「……問題無い、とでも言うつもりか?」

 

 テンマは低く唸る。

 

「貴様……ガオの戦士でありながら、余に味方をするのは何故だ?」

 

 ガオネメシスは真意を見せない。何の目的があって、オルグに味方するのか……そうする事で、自分にどういったメリットがあるのか……流石のテンマも、この男の内を読めない。

 

「くく……勘違いするな。俺には俺の目的がある。言うなれば、これは''主従''では無い。俺と貴様の間による目的を共にした''同盟''だ」

 

 同盟……仲間や主従とは違い、共通の敵を倒す為に築かれた関係……だが、同盟には裏切りが付き物である。この男の強さは認めるが、裏を返せばいつ手を噛まれても可笑しくない状況にあるのだ。

 それは、テンマもまた然り……自分の必要時には、ネメシスを蜥蜴の尾切りにする腹でいる。

 互いに一本線で隔てた関係に、あるのだ。

 

「ガオレンジャー共を根絶やしとする迄は、この関係は必要だ。仲良くしようでは無いか」

 

「…フン…」

 

 ガオネメシス、テンマの関係は良好とは言えぬが、取り敢えずの同盟を結ぶに至っていた。

 

「ゴーゴには、闇の精霊王を貸し出してある。あれが居る限り、ガオパラディンは勝てぬ……今のままでは…な…」

 

 今のまま……何やら意味深めいた言葉だが、ガオレンジャーの存在を厄介視するテンマと異なり、ネメシスは余裕のある態度を崩さない。まるで、ガオレンジャーを何時でも倒せると言わんばかりだ。

 

「……テンマ、お前は引き続き、オルグ共を統率しガオレンジャーを倒せ。俺は別方面から、奴らを追い詰める。

 全てが終われば、この地上の支配権はまるまる、お前にくれてやる」

 

 そう言い残すと、ガオネメシスは姿を消した。テンマは、何かを考える様に唸る。

 

「……おい、ニーコ‼︎」

 

 

「はいはーい! お呼びですか〜?」

 

 

 テンマの呼び声に応じ、ニーコが姿を現した。

 

「“あれ“の用意は出来ているか?」

 

「”あれ“ですかァ? 使える準備は出来てますけどォ、もう使っちゃいますゥ?」

 

 ニーコは甘ったるい口調で尋ねるが、テンマは威厳を醸し出しながら応える。

 

「構わん。ガオネメシスは信用がならん。使えるなら、手駒は揃えて置く必要がある」

 

「欲張りですねェ? 四鬼士の皆さんを挙って、手駒にしたのに」

 

 軽口を叩く様に宣うニーコを、テンマの恐ろしい形相で凄む。

 

「黙れ。余の命令に従えぬぬか? 余計な詮索は許さん」

 

「あ〜、いえいえ! 命令には喜んで従いますです、はい」

 

 テンマを怒らせれば後々、面倒な事になる事を理解しているニーコは機嫌を取りながら、いそいそと出て行く。

 ニーコが部屋を出た後、テンマは1人、ほくそ笑む。

 

「ガオレンジャー共め……余に逆らえば、どうなるか分らせてやる……」

 

 

 

「まさか千年の友が復活していたとは……」

 

 ガオシルバーは、ダムより少し離れた場所にて佇んでいた。

 ガオゴッドをより窮地を救われ、テトムと離れた場所に転送された彼は、ガオゴールドの所在を探っていた。

 先程の攻撃にて五体満足で居るとは思えないが……せめて生きている事を望むばかりだ。

 

 

「キャァァァッ‼︎‼︎」

 

 

 突如、絹を裂く様な悲鳴が森中に木霊した。テトムの悲鳴では無い。ガオシルバーはただ事では無い、と悟り駆け出した。

 

 

「ハァ……ハァ……‼︎」

 

 森の中を、祈が走っていた。こころとは逸れてしまったばかりか後ろから、三体のオルゲット達が迫って来る。

 

「ゲットゲット‼︎ オルゲット‼︎」

 

 オルゲット達は武器を片手に、祈を捕まえようとして来る。

 祈も捕まってたまるか、と必死になって逃げるが所詮は人間、腐ってもオルグの端くれであるオルゲットから逃げ切れる筈も無く、徐々に距離を詰められて行く。

 とうとう、疲労が足に来た祈は地面から突き出ていた木の根に足を取られ、転倒してしまった。

 

「痛ッ…‼︎」

 

 転んだ際の激しい痛みに祈は顔を歪ませる。そうしてる間に、オルゲット達は祈を取り囲んだ。

 

「あ……あ……」

 

 恐怖に気を失いそうになりながら、祈は後ずさる。オルゲット達は、ジリジリと近づいて来た。

 ふと、祈の頭に声が響く。

 

 

 ー巫女の魂を感じるぞー

 

 ー巫女の匂いがするー

 

 ー憎らしいー

 

 

 巫女の魂? 匂い? 何の事か分からないが、オルゲット達が明確な敵意を抱いているのを感じた。

 

 

 ー巫女を殺せー

 

 ーはらわたを引き摺り出せー

 

 ー骨まで焼き尽くせー

 

 

 物騒な言葉が聞こえた。一体のオルゲットが金棒を構えながら、祈に近付く。

 

「…い、嫌…来ないで…」

 

 震える声で祈は嘆願するが、無情にもオルゲット達には届かなかった。オルゲットは金棒を振り上げ、祈の頭に目掛けて振り下ろした。

 

「嫌ァァァッ‼︎‼︎」

 

 祈は目を閉じる。その際、頭上で弾ける様な音がした。

 恐る恐る、目を開けて見ると金棒を剣が受け止めていた。剣の持ち主を見ると、いつか会った銀色の戦士が居た。

 

「走れ‼︎」

 

 銀色の戦士−ガオシルバーが怒鳴る。祈は気が遠のきそうになる自分に喝を入れ、ヨロヨロと立ち上がり走り去っていた。

 獲物を狩るのを邪魔されたオルゲット達は、怒り心頭でガオシルバーに迫る。だが、ガオシルバーは一切、譲る気は無い。金棒を振り上げながら襲い掛かってきたオルゲット達を、ガオハスラーロッドでいなして行く。

 

 

「銀狼満月斬り‼︎」

 

 

 ガオシルバーは円を切る様に、ガオハスラーロッドを振り斬撃を放つ。オルゲット達はなす術無く倒され、泡となって消えて行った。敵を倒した事を確認したシルバーは、ロッドに付着したオルゲットの返り血を払う。辺りに静寂が訪れた

 

 

「フン……雑兵程度では、このザマか……」

 

 

 突然、静寂を破る様に低い声がした。ガオシルバーは辺りを見回すと、夜の帳の中から人影が姿を現した。

 

「貴様は……‼︎」

 

 それは、紫色のマスクを不気味に輝かせた戦士ガオネメシスだ。手には赤色の手甲を装着している。

 

「それは、ライオンファング……‼︎ ガオレッドの破邪の爪まで……‼︎」

 

 ガオネメシスは持っているのは、ガオレンジャーのリーダーであるガオレッドが所有する筈のライオンファング。パワーアニマル、ガオライオンを模した彼の愛用する武器だ。

 

「……クク……嬉しかろう? 仲間の武器だ」

 

 ガオネメシスは挑発する様に、ライオンファングをチラつかせた。

 

「ガオネメシス……貴様は一体、何者なんだ……⁈」

 

 ガオシルバーは驚愕する。この、ガオネメシスと言う戦士の素性が掴めない。ガオレンジャーの姿、仲間達の破邪の爪を使い熟す、加えては仲間達の消息を知っているかの様な元と……だが、ガオネメシスは真意を語ろうとせず、ライオンファングを構えた。

 

「何度も言わせるな。俺は『復讐者』だ。貴様等、人間に対してな」

 

 そう吐き棄てるとガオネメシスは突進しながら、ライオンファングを装着した拳を突き出し来た。あわやの所をガオハスラーロッドで防ぐが、拳の嵐が襲いかかって来る。

 

「ハハハ…受けてばかりでは無く攻めて来い‼︎」

 

 ガオネメシスは嘲りながら攻撃の勢いを増した。ガオシルバーも反撃の機を窺うが、隙が見つからない。

 一か八か、ガオハスラーロッドでネメシスのマスクを狙うが、首をずらして交わされてしまう。

 

「クク…そんな温い攻撃、虫をも殺せるか‼︎ 次はこっちの番だな‼︎」

 

 そう言って、ガオネメシスはライオンファングを変形、バズーカ形態の『ガオメインバスター』を装備した。そして、トリガーを引く。

 

 

「ブレイジングファイヤー‼︎‼︎」

 

 

 ゼロ距離から放たれた炎の弾が炸裂した。炎はガオシルバーを包み込み、大爆発を起こす。

 

 

「うわァァァッ‼︎⁇」

 

 

 ガオシルバーの絶叫が響き渡った。もうもうと爆炎が立ち昇り、煙の中からボロボロの姿となったガオシルバーがフラフラと立っていた。マスクは砕け、大神の顔が覗いている。

 

「……く……テトム……陽……」

 

 意識が朦朧としながらも、辛うじて仲間達の名を呼ぶ大神。徐々に、眼前に迫るガオネメシスがぼやけ始めた。

 

「さらばだ、大神月麿。貴様が次に目を覚ました時は……」

 

 ガオネメシスが何か言っている気がするが、大神の耳には届かない。そのまま、意識を手放し地べたに倒れ伏した。

 

「……連れて行け!」

 

 倒れた大神を、二体のオルゲットが腕を持ち上げ立たせ、ガオネメシスが展開した鬼門の中へと引き摺り込んでしまった。

 

 

 

 一方、テトムはガオズロック内にて大神と陽を探索していた。泉を介し、2人の気配を探すが泉は何も反応しない。

 

「お願い……シロガネ、陽。無事で居て……‼︎」

 

 テトムの藁にも縋る様に祈る。ガオレンジャー達が消息不明、この上、シロガネ達にまで万が一に事があれば、いよいよガオの戦士は壊滅だ。オルグ達に対抗できる人物は居なくなってしまう。何より……テトムは、これ以上、大切な者達が居なくなる事には耐えられない。人より長命であるガオの巫女の宿命とは言え、大切な者達との温もりを知った以上、それが消失する苦痛は、あまりにも酷である。

 そんな折、泉にとある光景が映る。テトムは覗き込んで見ると女の子が、息を切らしながら走っている姿が見えた。

 あの子は見覚えがある。陽の妹で、名前は祈だった筈だ。

 テトムは、ガオズロックを動かした。オルグ達に見つからない様に着陸し、外見をただの岩にしか見えない様に結界を張っていたが、ガオズロックは動き出すと同時に本来の姿となった。テトムの思念に従い、ガオズロックは祈の走る真上を通過し彼女の眼前に着地した。

 

「乗りなさい‼︎」

 

 テトムは、ガオズロックの入り口に立ち祈に叫ぶ。祈は最初は戸惑い、乗ろうとしない。

 

「怖がらなくて良いわ! 早く!」

 

 テトムの必死の呼び掛けに対し、祈は決意した。彼女に急かされるまま、ガオズロックは中に駆け込んだ。

 彼女が中に入るのを確認し再び、ガオズロックは何の変哲も無い岩の姿へと擬態した。

 だが間が悪い事に、その様子を目撃した者が居た。遥か遠方より、風のゴーゴがガオズロックが飛び立ち着地する瞬間を見てしまったのだ。

 

「ヘッ‼︎ 見つけたぜ…‼︎ 其処に居るんだな…‼︎」

 

 ゴーゴは、ほくそ笑む。町を浸水する計画は破綻したが、ガオレンジャーを倒しさえすれば計画に支障は無くなる。

 先程、精霊王ごとガオゴールドを倒したが、ガオゴッドに介入によりガオシルバーとガオの巫女は逃してしまった。

 テンマから仰せつかった命令は、ガオレンジャーの殲滅。ならば、ガオの巫女やガオシルバーを殺して置かなかれば成らない。だが、あの亀岩の中にガオの巫女が居る。ならば、ガオシルバーも一緒だ。人間が一緒に居る様だが問題ない。

 一緒に始末してしまおう。そうすれば、ガオレンジャーは事実上の全滅、手柄は自分一人の総取りだ。

 良いぞ、ツキの風は自分に吹いている……! ゴーゴは確信し、ガオキング・ダークネスに命令した。

 

「行け‼︎ ガオの巫女やガオシルバーを、あの岩ごと一網打尽にしてしまえ‼︎」

 

 ゴーゴの命令に従い、ガオキング・ダークネスは動き出した。

 

 

 

「危なかったわね……でも、もう大丈夫よ」

 

 テトムは優しく語り掛ける。だが、祈は今更になって震え始めた。無理もない……戦う力を持たない少女が、あんな恐ろしい目にあったのだから……。

 

「心配ないわ……此処に居たら安全だから……」

 

 今尚、震え続ける祈を労る様に、テトムは肩に手を乗せるが祈は、その手を叩いた。

 

「……貴方が兄を……戦いに巻き込んだんですか?」

 

 顔を上げた祈の顔を見て、テトムは理解した。彼女は恐怖に震えていたのでは無い。怒りに震えていたのだ。

 

「どうして、兄さんを巻き込んだの⁈」

 

 遂に祈はすっくと立ち上がり、テトムを睨みつける。その瞳には、テトムに対して明確な憎悪が込められて居た。

 

「貴方が……兄さんを巻き込まなければ……兄さんは、あんな恐ろしい怪物と戦わずに済んだのに……その上……兄さんは……‼︎」

 

 激昂しながら、祈の眼から大粒の涙が止めどなく流れ落ちた。テトムは、何とか彼女を落ち着かせようとした。

 

「落ち着いて……貴方の、お兄さんは……」

 

「近付かないで‼︎」

 

 祈は、近寄ろうとするテトムを拒絶する。

 

「兄さんは……優しくて、いつも私を守ってくれた。私と兄さんは慎ましく平和に暮らしていた……どうして、私達の平和を壊したの? 兄さんが戦わなければならないの⁉︎

 

 祈は溜め込んでいた鬱憤を晴らすかの様に、テトムに心の丈をぶつけた。彼女が陽と出会わなければ、彼女が陽に戦う力を与えなければ、彼女が最初から居なければ……駄々を捏ねる子供みたいな理屈だと言う事は理解していた。一方的な八つ当たりである事も……。

 それでも、テトムは黙したまま祈からの罵倒を受けた。

 どう説明しても、自分が陽にガオレンジャーとしての戦いを望んだのは事実……彼を戦士に選んだのは、ガオドラゴン達だが……戦う事を教え導いたのは自分だ。祈のテトムに対する怒りは、至極当然な事だ。

 そんな中、テトムは祈に僅かな違和感を感じた。自分と同じ様に、ガオの巫女としての力を感じる。かなり小さな力だが……彼女の中に、そう言った力があるのは間違いない。

 

 その際、ガオズロックに大きな揺れが走った。

 

「キャアァァァッ‼︎⁉︎」

 

 突然の振動に対し、2人は地べたに倒れ伏す。テトムの泉から外の様子を見ると、ガオキング・ダークネスがガオズロックを壊そうとしていた。

 フィンブレードを岩の頂に突き刺して無理矢理、破壊せんとする。

 

「ガオレンジャー、ガオの巫女‼︎ お前等は、完全に包囲されている‼︎ 無駄な抵抗は止めて出て来い‼︎」

 

 ガオキング・ダークネスの隣で、ゴーゴが高らかに叫んだ。と、同時に風の弾丸をガオズロック目掛け投擲して来る。

 弾丸が直撃すると、ガオズロックの揺れは大きくなる。この亀岩は、並大抵の力では傷一つ付かない。だが、相手はデュークオルグと精霊王だ。逃げ出そうにも外に出ればオルグ達が、空へ逃げれば撃墜されてしまう。正に八方塞がりだ。

 

「よーし、あと3つ数えて来る迄に出て来なければ、その亀岩ごと吹っ飛ばすぜ‼︎ ひとーつ……‼︎」

 

 ゴーゴが秒読みを数えた。テトムは決意する。

 

「これまでの様ね……今から、私が外に出て囮になる。貴方は全速力で森の中へ逃げなさい」

 

 テトムの提案に、祈は凝視した。囮になる……それは即ち、みずから死にに行く様なものだからだ。

 

「どうして、私の為に⁈ 」

 

 つい今し方、あんなに酷い言葉で罵った私の為に、命を賭けれるのか? 祈は分からなかった。

 

「ふたーつ‼︎」

 

 ゴーゴの声が聞こえる。もう猶予は無い。テトムは小さく笑った。

 

「貴方のお兄さんなら、そうすると思うわ」

 

 その言葉に、祈はハッとした。そうだ……陽は、いつもそうだ。私の為に必死に戦ってくれていた……それなのに、私は1人で泣き喚いて……何て幼稚だったんだろう……。

 

「へへ…みーっ……」

 

 みっつと叫び掛けたゴーゴは不自然に言葉を切る。何事かと、テトムは泉から外の様子を見ると、ガオズロックを庇う様に、ガオキング・ダークネスへ光弾が当たり大きく仰反る。

 

「くそッ! 誰だ、邪魔をしやがるのは⁉︎」

 

 ゴーゴが光弾の先を見ると、其処に立っていたのは……。

 

 

「ガオパラディン‼︎」

 

 

 テトムの歓喜した。先程、倒された精霊王が再び、立ち上がった。ガオゴールドは生きていたのだ。

 

 

『テトム‼︎ ごめん、遅くなった‼︎」

 

 

 ガオゴールドの言葉がテレパシーとなって聴こえて来る。テトムは堪らず、泣き出した。

 

「ゴールド……良かったァ……」

 

 仲間の無事を確認したテトムは、さめざめと泣き出す。ガオパラディンは、テトム達を守るべく、ガオキング・ダークネスの前に立ち塞がった。

 

 

 

「ハハハハ‼︎ また、やられに来たのかよ⁉︎ お前も懲りない奴だな⁉︎

 良いだろう……ガオキング・ダークネス‼︎ 血祭りに上げちまえ‼︎」

 

 完全に見縊った様に、ゴーゴが嘲笑う。だが、今の自分とガオパラディンなら負ける気はしない。そんな気がした。

 その時……。

 

 

「私の力を使って」

 

 

 ガオパラディンとガオキング・ダークネスの間に、光に包まれたこころが現れた。

 

「君は⁉︎」

 

「ああ⁉︎ 何だ、今度は⁉︎」

 

 2人の言葉とは別に、こころはみるみる間に姿を変えていく。其処には、やや機械的な印象を持つ鳥の様な生物が居た。

 

「あれは、ソウルバード⁈」

 

 テトムは彼女を知っている。精霊王の心臓として融合し、精霊王に更なる力を引出させる特殊なパワーアニマル、ソウルバード。

 ソウルバードはガオパラディンの胸部から体内に収納し、コクピット部位に収まった。

 

 

 〜ソウルバードが精霊王と融合する事により、ガオの心臓は鼓動を上げ、ガオパラディンの潜在能力は極限まで引き出されるのです〜

 

 

「こころ⁈ 君も、パワーアニマルだったなんて……⁉︎」

 

 

 ー説明している暇は無い……此れで、ガオパラディンの力を更に引き出させる……見ていて‼︎ー

 

 

 ソウルバードの言葉に従い、ガオパラディンの身体は光に包まれていく……。胸部のガオドラゴンが吠えた。

 

 

 ー凄い力だ……さっき迄とは比べ物にならん……‼︎ー

 

 

 ガオドラゴンの言葉通り、ガオパラディンは強化された状態ど、ガオキング・ダークネスに向かっていく。ガオキング・ダークネスもフィンブレードで迎え撃つが……。

 

「ユニコーンランス‼︎」

 

 ガオゴールドの命令に従い、ユニコーンランスを繰り出すガオパラディン。だが、今迄の物とは違い高速に攻撃にてフィンソードを弾き飛ばした。その状態で、ガオキング・ダークネスの胸部を一閃した。

 攻撃を受けたガオキング・ダークネスは後退し、森林内に倒れた。

 

「アアアア、くそ‼︎ 見てられねぇや‼︎ 俺も行くぞ‼︎」

 

 業を煮やしたゴーゴは自身の身体を巨大化していき、ガオパラディンの前にも立ち塞がった。フード状態の半身ははだけ、風神を思わせる袋の様な羽衣を纏っている。両手には小型のナイフが装着した手甲を装備していた。

 

「へへ……伊達にもデュークオルグを名乗ってる訳じゃねェんだ‼︎ 行くぜ‼︎」

 

 ゴーゴはナイフ付きの手甲でパンチを繰り出す。すると、拳に込められた風の力が炸裂する。

 

「ハハハハ‼︎ どうよ‼︎ これが、風のゴーゴ様の力だ‼︎」

 

 ゴーゴは高らかに笑う。すると、ガオキング・ダークネスも戦線に復帰し2体1で、ガオパラディンを追い詰める。

 

「くそ……これじゃ、不利だ‼︎ せめて、ガオハンターが居てくれたら……‼︎」

 

 ガオゴールドは、ガオシルバーの居ない事を嘆く。だが、ソウルバードが語り掛けてきた。

 

 

 ー心配無いよ……彼が来てくれたからー

 

 

「彼?」

 

 ソウルバードの言葉に疑問を抱くガオゴールドだが突如、ゴーゴが身体を退け反らせた。

 

「チィ……何だ⁈」

 

 ゴーゴが目を凝らすと、ガオパラディンの前に別のパワーアニマルが姿を現した。それは、ガオドラゴン同様に竜の姿をしており、こちらはエメラルドグリーンの体色である。

 

「あれは⁉︎」

 

 

 ー「ガオワイバーン……風を司るレジェンド・パワーアニマルよ」ー

 

 

 ソウルバードの説明と同時に、ガオワイバーンは吠える。すると自らの意思でエメラルドグリーンの宝珠となり、ガオゴールドの手に渡った。

 

 

 ー台座に宝珠をセットして、ゴールド‼︎ー

 

 

 ソウルバードが指示する。それに従い、ガオゴールドは宝珠をソウルバードに設置されたプレートにセットした。

 すると左腕のガオグリフィンが分離し、翼を広げ足を折りたたむ様に直立となった姿に変形したガオワイバーンが武装された。

 

 

 〜風を司るガオワイバーンを幻獣武装する事により、悪鬼を射抜く弩を装備した精霊の王となります〜

 

 

「幻獣武装! ガオパラディン・アーチャー‼︎」

 

 

 ガオワイバーンは巨大なボーガンの形態と化し、ガオパラディンの左腕に収まった。

 

「何が、アーチャーだ‼︎ この風のゴーゴ様に、風で勝負を仕掛けるとは良い度胸じゃねェか‼︎

 喰らえ‼︎ 『豪風拳嵐』‼︎‼︎」

 

 ゴーゴは風の纏った拳を、ガオパラディンに打ち込んでくる。風の防御を得た拳は万力の一撃となって躱したガオパラディンの足下を螺旋状に抉る。

 それに合わせる様に、ガオキング・ダークネスが「ダークネス・ハート」を発射する準備に入った。

 

 

 ー「ガオゴールド、今だよ‼︎」

 

 

「ああ、分かった‼︎ 『一撃必殺! サイクロンシュート‼︎』」

 

 

 ガオパラディンが左腕を構える。すると、ガオワイバーンの頭部が輝き出し、巨大な弓が生成された。

 と、同時にガオキング・ダークネスの「ダークネスハート」が発射される。ガオパラディンも、サイクロンシュートも発射した。

 サイクロンシュートは、直撃したダークネスハートの力に押される事なく、スピードを保ったまま直進し、ガオキング・ダークネスの胸部に突き刺さった。

 風の矢を受け、ガオキング・ダークネスは倒れ爆散してしまう。

 

「うおッ、やりやがったな‼︎ こうなりゃ……‼︎」

 

 切り札を倒された事で、ゴーゴは何を思ったのか自分の腕に付いた手甲を外した。

 

「遠距離から弓で狙い撃ちされたら、豪風拳嵐を放つ前にやられちまう……だったら、その分の風を一つに纏めてぶっ放すまでよ‼︎‼︎」

 

 そう言って、掌に風を集約していき巨大な風圧の玉を作り出した。風の爆弾を投げようとしているのだ。

 

「お前の風の矢か、俺の風の爆弾か⁉︎ 勝つのは、どっちか勝負しようや‼︎ 」

 

「く……正気か⁉︎ そんな物を至近距離で使えば……」

 

 ガオゴールドは目を疑う。あんな風圧の塊を解放すれば、自分やテトムは愚か、中心地に立つゴーゴも無事にはすまされない。

 

「ハッ! お前等、人間にオルグの美学なんざ理解出来んだろうぜ! 俺達、オルグはな……敗ける事は”死”なんだよ! 敗ける位なら、全力の攻撃で勝ってやる‼︎ 」

 

 そう言って、巨大な豪風玉を投げ付けてきた。だが、ガオパラディンも腕を下ろす。

 

「ハッ⁉︎ 敵わないと諦めたか⁉︎」

 

「違う……巨大な風なら、竜の咆哮で掻き消す。

『聖霊波動! スーパーホーリーハート‼︎』

 

 ガオドラゴンの口から、ソウルバードによって増幅され強化されたガオソウルの威力で倍増したホーリーハートが放たれた。スーパーホーリーハートは迫る豪風玉を難なく破壊し、ゴーゴに迫った。

 

「そ…んな…この風のゴーゴが……力で敗けるなんて……そんな馬鹿な……‼︎‼︎」

 

 自分の敗北を受け入れられず、風のゴーゴは聖なる光線に飲み込まれて行き……影も残らぬ程に消失してしまった。

 

「やったァ‼︎‼︎」

 

 ガオゴールドは勝利した。彼の喜びに反応して、ガオパラディンは勝利の咆哮を上げた。

 

 

 

 戦いを終え、テトムの所へ戻ると、ガオズロックの中からテトムと祈が出て来た。

 

「い、祈⁉︎」

 

 陽は驚く。祈は申し訳なさそうに俯く。テトムは小さく謝った。

 

「ごめんなさい……来ちゃった……」

 

 祈の言葉に、陽は全てを察する。彼女は知ったのだ。自分の正体を……。

 

「……兄さん、私……」

 

 気まずそうにする祈を見て、陽は笑顔で彼女を抱き締めた。

 

「謝らなくて良いよ……悪いのは僕だ……」

 

 その後、暫くの間、陽は祈を抱き締めた。祈も抱き締められながら泣いていた。その様子に、テトムは無言のまま、涙を流した。

 

 

 

 とある山中……闇の中を歩く一人の影が居た……。

 

「さて……どうすれば下りられるんかのう……」

 

 影は、そう言いながら闇の中へと消えて行った……。

 

 

 〜戦士として成長し、四鬼士の一角”風のゴーゴ”を打ち倒したガオゴールド。しかし、暗躍するガオネメシスに拐われたガオシルバーの運命は、どうなるのでしょうか⁉︎〜




ーオリジナルオルグ
 ・風のゴーゴ
 四鬼士の一角を成すデュークオルグ。性格は、典型的なオルグらしく力尽くで事を進めるタイプ。
 戦闘時は風を操り、肩に羽衣と両手にナイフが装着した手甲の装備し戦う。
 必殺技は風圧を凝縮して投擲する『豪風玉』と風を拳に纏い風圧を直接、叩き込む『豪風拳嵐』。


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quest15 狼が消えて…【挿絵付き】

3/13 挿絵追加しています。


「ち……チクショ……」

 

 戦場から少し離れた河原……全身がズダボロとなったゴーゴが、やっとの思いで這いあがって来た。

 ガオパラディンから受けた傷は深いが、辛うじて命は助かった。だが、起き上がる事も出来ない。

 

「ガオゴールドめェ……! この借りは絶対に返してやるぜ……必ずな……‼︎」

 

 怒りと屈辱に顔を歪ませ、呪詛の言葉を吐くゴーゴ。

 九分九厘、勝っていた。だが、ガオパラディンの思っても見ない反撃に逆転を許してしまい、自分の計画は一瞬で水の泡と化してしまった。

 このままでは終われない。終わらせる訳が無い‼︎

 自分に煮え湯を飲ませたガオゴールドに報復し、奴の五体をズタズタにしてやらなければ、気が済まない。

 復讐を誓い、ゴーゴは何とか鬼ヶ島に帰ろうと試みるが如何せん、受けた傷が深い為に思う様に身体が動いてくれない。

 

「くそ……! こんな所で、くたばる訳には……‼︎」

 

 それでも、痛む身体に鞭を打ち動かそうとするゴーゴ。

 腐ってもオルグ……それも、ハイネスに次ぐ地位を持つデュークオルグの自分が……。その時、ゴーゴの前に歩み寄る気配がした。

 

「手酷く、やられたわね、ゴーゴ?」

 

 それは、ヒヤータだ。相変わらず優雅な笑みを浮かべながら微笑んでいる。

 

「ヒヤータ……⁉︎」

 

 意外すぎる人物の登場に、ゴーゴは驚く。だが、今となっては都合の良い。

 

「へへ……丁度良いぜ……‼︎ 手を貸してくれねぇか? この通り……ズダボロなんだ……鬼ヶ島に連れて帰ってくれよ……そうすりゃ、ガオゴールドに目に物を見せて……‼︎」

 

 辛うじて動く手を出して、ヒヤータに助けを乞うゴーゴ。

 だが、ヒヤータは微笑んだまま動こうとはしない。この時、ゴーゴは気付かなかった。ヒヤータは微笑こそ浮かべているが、目は冷たく自分を見据えていた事を……。

 

「おい……ヒヤータ……早く……‼︎」

 

 様子がおかしいヒヤータに違和感を覚えたゴーゴは再度、訴える。が、気付いた時は、もう手遅れだ。

 

 

「ご苦労様、ゴーゴ。これで、貴方は御用済みよ」

 

 

 ヒヤータはそう吐き捨てると、扇子を振るう。すると、河の水が蛇の様に、ゴーゴの身体に絡め付いて来た。

 

「お、おい⁉︎ 何の真似……だ⁉︎」

 

「テンマ様から言伝よ。貴方は、もう要らないから消えろ……だそうよ」

 

「な⁉︎」

 

 この瞬間、ゴーゴは漸く、ヒヤータの真意に気付いた。

 嵌められた……が、既に遅い。

 

「貴方は私の描いた絵通り……それ以上の働きを見せてくれたわ。ガオゴールドに九分九厘、勝利しかけながらも最後は、自分の爪の甘さから自滅した。お陰で、ガオゴールドとの貴重な戦闘データが取れたわ」

 

「な……なんだと……⁉︎ 」

 

「鬼地獄への手土産に良い事を教えてあげるわ。貴方を一番手に仕向けたのは、この私よ」

 

 更なる驚愕な真実に、ゴーゴは目を剥く。その際、ゴーゴの懐から、カードが落ちる。あの順番を決める為に用いたカードだ。カードは……白紙だ。

 

「……は、白紙だ…と……⁉︎」

 

「クス……まだ分からない?」

 

 ヒヤータは指をパチンと鳴らす。すると、白紙のカードに数字が、炙り出しの様に浮かび上がって来た。

 

「……⁉︎」

 

「これで分かったでしょう? 貴方は最初から最後まで、私の掌の上で踊っていたのよ」

 

「……ク……クソ、ヒヤータ……テメェ……‼︎」

 

 自分は、ヒヤータの策に利用されただけだった。だが最早、後の祭りである。水はゴーゴの全身を覆うと、川の中に引き摺り込んでいく。

 

「さようなら、ゴーゴ。安らかに、お眠りなさい」

 

 

「……や、やっぱり謀りやがったなァァァ……‼︎‼︎」

 

 

 アリ地獄の如く渦巻く水の中に飲み込まれながら、ゴーゴは断末魔の呪詛を上げた。最後に腕だけ川から突き出ていたが、それさえも渦巻いて行く水のうねりと共に掻き消され、遂に河原は何事も無かった様な、落ち着きを取り戻した。

 

「オルグにとって、敗北は”死’’。貴方が言った言葉よ」

 

「あらら、殺しちゃったんですかァ?」

 

 突如、ニーコがヒョコッと姿を現す。

 

「殺さなくても良かったんじゃ無いですかァ? テンマ様から、そんな命令出してませんでしたよォ?」

 

「……でも、テンマ様の性格からしても、任務を遂行出来なかったゴーゴは罰を受けなくてはならない。

 同じ死を賜るくらいなら今、私の手で殺してあげるのが私なりの慈悲よ。これでも、私は仲間に寛容なのよ?」

 

 ケロリとした顔で言って除けるヒヤータ。ニーコは、クスクスと笑う。

 

「ゴーゴ様も、ちょっぴり可哀想ですねェ。利用された挙句、殺されちゃうなんて……」

 

 そんな事、爪の垢程も思ってない癖に、ニーコは言った。ヒヤータは冷笑を浮かべながら……

 

「でも、お陰でガオゴールドに対してのデータは取れたし“思わぬ収穫“もあった……ゴーゴは、こうなる運命だったのよ」

 

 自分の手で殺めておきながら、あっさりとヒヤータは言い切る。彼女からしてみれば、ゴーゴ等、最初から切り捨てるつもりだった。もとい、四鬼士と銘打たれているが自分達に仲間を思いやる等と言う概念は無い。そもそも、邪気の集合体であるオルグは、仲間が倒れれば手を差し伸べず踏み越えて行くのが普通だ。

 妙な情にて繋がっているツエツエとヤバイバが異常なのだ。

 

「……所で、そろそろ出てらっしゃいな?」

 

 ヒヤータは森の影に向けて語り掛ける。すると、ソソソとバツが悪そうに顔を出す二人組……。

 

「生きてたんですかァ? 相変わらず、ゴキブリ並の生命力ですねぇ?」

 

 ニーコが、小馬鹿にした様に嘲笑う。

 あの後、氾濫する川に流されたツエツエとヤバイバは、何とかダムに捕まり流されまいと耐えていた。

 ひょんな事から、ダムがガオゴッドに修復された事で助かり、2人は川から這い上がって来たのだ。

 その為、2人共、全身がずぶ濡れである。

 

「今度と言う今度は、テンマ様も堪忍袋の緒がブチ切れちゃいますねェ? 2人共、時世の句の用意しといた方が良いですよォ?」

 

 クスクスと笑いつつ、他人事みたいにニーコは言った。ツエツエもヤバイバも一言も発せず、絶望的に顔を歪ませる。

 

「良しなさい、ニーコ。そんな意地悪を言ったら可哀想よ?

 それに今回は、ゴーゴの不始末で彼女達は、それに従っただけ……ツエツエ、ヤバイバ。貴方達は今後、私の指揮下に入って貰います。異存はないわね?」

 

 ヒヤータが穏やかに尋ねた。ツエツエは黙ったまま、コクリと頷く。

 

「安心なさい、私はテンマ様やゴーゴみたいに貴方達を無碍に扱う気は無いわ。貴方達の事は、私なりに評価しているのよ?」

 

「え?」

 

 ツエツエも顔を上げる。ヒヤータは、何処までも穏やかだ。

 

「私の指示に従えば悪い様にはしない、約束しましょう」

 

「ほ、本当に?」

 

「ただし……」

 

 不自然に言葉を切り、ヒヤータは扇子を動かす。すると、川の水が触手の様に動き出し、地面に転がる石を持ち上げる。

 

「私の役に立たないと、私が貴方達を判断すれば……」

 

 そう言って、ヒヤータは扇子を軽く振る。途端に水の触手は岩を強く締め付ける。ギシギシ…と岩が軋み始め、途端に岩は粉々に砕け散った。

 

「……こうなるわよ?」

 

 一瞬だが、ヒヤータの顔からスッと笑みが消え能面の様な無表情となる。ツエツエとヤバイバは抱き締め合い、ガタガタと震えた。

 

「ぜ、ぜ、全力で働かせて貰いますゥゥゥ‼︎‼︎」

 

 鬼の目にも涙、とはよく言ったものだと言わんばかりに、2人は恐怖に涙を流しながら応える。最も、諺の意味は違うが……。

 また、隣に居たニーコも余りの恐怖にドン引きしていた。それくらい、今のヒヤータは凄い迫力があった。

 

「では頼むわね。期待してますわよ?」

 

 再び、ヒヤータは笑顔を見せるが今となっては、その笑顔も恐ろしい。鬼門を作り出したニーコが

 

「ささ、お姉様! どうぞ‼︎」

 

 と若干、引き攣った顔で促した。悠々と鬼門を潜るヒヤータを見届けた後、ニーコも後に続く。

 ツエツエも、それに続いた。

 

「おい、ツエツエ……俺達は……」

 

「行きましょう、ヤバイバ……今は堪えるの……!」

 

 ヤバイバの言わんとする言葉を制し、ツエツエは言った。その目は獲物を虎視眈眈と狙う蛇の如く、ギラつかせていた。

 

 

 

 あれから3日……陽は穏やかな日常を送っていた。

 ガオレンジャーとなってから、毎日が波乱万丈……決して慣れる事は無いが、ガオレンジャーとしての使命感に自覚し始めた事を陽自身が、納得せざるを得ない。

 それ以外で変わった事が有るとすれば……。

 

「兄さん……‼︎」

 

 ふと隣を歩く祈が心配そうに声を掛けて来る。

 休日の朝……珍しく、陽から祈を誘ったのだ。「散歩でもしないか?」と……。祈も、それに応じ休みの朝を2人で歩いていた。

 ふと陽は優しく笑みを浮かべ、祈の頭を撫でた。

 

「……やめてよ、恥ずかしいから……」

 

 小さな子供をあやす様な対応に、祈は不満を漏らす。だが、陽はやめなかった。

 

「……背が伸びたな、祈……あんなに小さかったのに……」

 

 陽は感慨深く言った。初めて会った時は、お互いに子供だった。でも、今は自分と背丈一つ分しか変わらない……。

 

「真面目に聞いてよ……兄さん、また戦わなくちゃならないの?」

 

 祈は憂いを帯びた目で見た。陽は戸惑う……。

 あの戦いの後、陽は祈には全てを打ち明けた。自分の今している事を……そして、これからして行く事を……。

 

 

 

 回想に入り……ガオズロック内にて……陽は語り始める。

 自分が、ガオレンジャーとなった経緯……その過程……世界に起こる真実……要所要所を掻い摘みながらも、陽は余す事なく話した。

 テトムも最初は、ガオレンジャーの正体を明かす事に難色を示すが、祈にだけは打ち明ける事を許してくれた。此処まで、巻き込んでしまった以上、祈に隠し通す事は出来ない……そう判断したからだ。

 祈は黙したまま、兄の言葉に耳を傾けた。普通なら現実から大きく逸した内容、と一蹴するだろうが……今日に見た出来事を知った以上、信じるしか無い。

 

「……僕は、ガオレンジャーとして戦わなくちゃならない。

 そりゃ、僕自身が受け入れられないさ。つい最近まで平和に生きて来て、急に地球を守る戦士になるなんてさ……。

 そんな事、漫画や小説だけの話だと思ってたし、仮に現実にあったとしても……そんな大役が自分に回って来るなんて考え付きさえしなかった……」

 

「兄さん……」

 

 祈は陽の顔を見て、今迄ひた隠してきた兄の苦悩を知った。

 誰にも相談出来ず……済し崩し的に戦いを強要されて来たのだ。きっと自分以上に陽が苦しんでいたのだろう。

 なのに、自分は秘密を打ち明けない陽に一方的に心の丈をぶつけてしまったのだ。改めて祈は、自分の浅はかなさを後悔した。

 

「……でも、僕は知ったんだ。ガオレッド……先代のガオレンジャー達が命を賭して護ろうとした地球の命の重みを……ガオゴッドが教えてくれた……」

 

「荒神様が……‼︎」

 

 テトムは言葉を挟む。自分のいざ知らない所で、陽を救ってくれていたなんて……。

 

「何より……冴姉さんが話してくれた地球を守る戦士の話……単なる作り話じゃ無いと分かった……」

 

「どうして冴姉さんが?」

 

 祈は首を傾げる。大河冴……自分の亡くなった母方の親戚筋に当たる従姉だからだ。

 

「驚くかも知れないが……ガオホワイトは冴姉さんだった。それも、ガオゴッドが教えてくれたよ……」

 

「本当に⁉︎」

 

「まあ……こんな偶然ってあるのかしら……⁉︎」

 

 祈は勿論、テトム本人が驚いていた。かつて、ガオホワイトとして戦ってくれた少女の血縁だったとは……。

 

「テトム……偶然なんかじゃ無いよ。これは運命なんだ……僕が、ガオレンジャーとして戦う事も……最初から決まっていた事だった……そう信じざるを得ないよ……」

 

 今の陽は、かなり達観し悟りに入った聖者に見えた。数々の戦い、そして培って来た経験が陽を人間的に成長させたらしい。

 

「だから……これが運命なら受け入れるしか無い。僕は、ガオゴールドとして必ず、オルグを打ち滅ぼしてやる‼︎」

 

 強い決意に満ちた目に、祈は何も応えられない。

 自分の気付かない所で陽は、すっかり戦士としての矜持を備えていた。

 

 

 

 回想が終わりを迎え、陽は祈の顔を見て諭る。

 祈は未だに、自分がガオレンジャーとして戦う事を良く思っては居ないのだ……現に祈は、この3日間、ガオレンジャーの話題を避けていた様だった。だから、陽も祈に話題を触れずにいた。

 唐突に、祈は陽に尋ねてきた。

 

「……私ね……兄さんの決意も理解した……決して生半可な覚悟じゃ無い事も……でも、やっぱり無理。兄さんが戦いの中で死んじゃうかも知れないと、考えただけで息が詰まりそうになっちゃう……」

 

「祈……」

 

 祈は淡々と話しながらも、震えている様だった。

 

「昨日、兄さんが、オルグって言う化け物と戦って敗けた時、死んじゃったんじゃ無いかって、目の前が真っ暗になった。兄さんが、私の目の前から永久に居なくなってしまう……ッて……凄く怖かった……あんな思いは……もう……したく……無いよ……」

 

 そう言いながらも、祈は肩を震わせ泣いている様だった。

 陽は、やり切れない気持ちに支配された。

 

「…………でも、兄さんは戦うんでしょ? オルグが居なくなる迄……」

 

「……そうだな……」

 

 呟く様に言った陽に対し、祈は怒った様に立ち止まる。

 

「でも…⁉︎ 今のオルグを倒しても第二、第三のオルグが出て来たら、また兄さんが戦うの⁉︎ もし、そうなら兄さんの人生はどうなるの⁉︎ いつ死ぬか分からない戦いの人生なんて……

 あんまりじゃない、惨めじゃない‼︎」

 

 祈の言う通り、誰かを守る戦いに身を投じるなんて自己犠牲的で聞こえは良い……美しい犠牲だ。

 だからと言って、自分が死ねば祈は独りぼっちになってしまう。自分の為に兄は死んだ、と言う割り切れない後悔を背負い、生きていく事になるだろう……。

 

「……例え、そうだとしても……僕は死なない……」

 

「何で、そう言い切れるの? 兄さんは神様じゃ無いでしょう⁉︎」

 

「祈が……待ってくれているからだ……」

 

 陽は真っ直ぐと見据えながら、言い切った。

 今迄、自分は挫けずにやって来られたのは、祈が後ろに居たからだ。祈を、どんな事があっても守って見せる……そう胸に抱いて来たからこそ、やって来られた。

 だから今回も……祈が笑って暮らせる世界となる為、自分が戦う。それが、ガオゴールドとして生きる事を決めた陽の覚悟だった。

 

「兄さん……本当に死なないって約束出来る?」

 

「ああ……今更言ったって無理かも知れないけど……僕を信じてくれ」

 

 陽は祈から目を離さずに誓う。祈を残して死なない……死なない覚悟を誓った。側から見れば甘ちゃんの戯言以外、何物でも無い。だが、甘ちゃんでも良い。

 ’’不可能な覚悟’’さえ貫き通しさえすれば、それは’’可能な覚悟’’となる。理想論だろうが何だろうが、陽は貫き通す決意を決めた。

 

「でも……大神さんだって行方不明になったんでしょう?

 兄さん一人で戦うなんて無謀よ……」

 

 祈の言葉に陽は口籠る。あの戦いの後、大神が姿を消した。

 テトムは、大神が姿を眩ますのは今に始まった事じゃ無い、と言っていたが、彼女本人が心配しているのは明白。

 心配なのは陽も同様である。大神は、陽にとって大切な仲間である以上に、頼りになる存在だ。

 彼の身に何かあったのか……陽の胸に不安が過ぎる。

 その際、陽の左手首のG -ブレスフォンが唸り出した。陽は、すかさずブレスフォンを取る。

 

 《陽、大変よ‼︎ オルグ達が現れたわ‼︎ 場所は……》

 

 テトムの言葉に、陽は頷く。

 

「分かった‼︎ 直ぐに向かう‼︎」

 

 そう返すて、陽は祈に向き直り「先に帰ってて」と告げるや否や、走り出す。走り去る兄の背に祈は……

 

「兄さん、気を付けて‼︎」

 

 そう叫ぶのが精一杯だった。陽は無言のまま、背中越しに親指を立てる。残された祈は1人、涙を流す。

 

「待っているだけなんて……辛いよ……」

 

 誰に言う訳でもなく、祈は無力な自分を呪った。自分にも’’力’’が欲しい。陽を助けれるだけの力が……。

 

 

 

「さァ、オルゲット達‼︎ 暴れるのよ‼︎」

 

 ツエツエの指揮に従い、オルゲット達は暴れ回った。

 場所は幼稚園……子供達は、突然の襲来に逃げ回るばかりだ。保育士の若い女性は人質となった子供達がパニックとならない様に努めながら、ツエツエを説得する。

 

「お願いです! 子供達は解放して下さい‼︎」

 

 しかし、ツエツエはそんな彼女の訴えに耳を貸さない。

 

「そうは行かないわ‼︎ あんた達は、あいつをおびき寄せる餌よ‼︎ 死にたくなかったら、大人しくする事ね‼︎」

 

 ツエツエが、杖を保育士の首筋に突き付けながら一喝する。

 

「よォ、ツエツエ……なんか俺達、いよいよ下っ端扱いだよな……」

 

 ヤバイバは、今の自分達の状況をボヤく。

 

「皆まで言わないで、ヤバイバ……‼︎ 今だけよ、今だけ……何時迄も、このままで終わるもんですか‼︎」

 

 ツエツエは若干、狂気を孕んだ目で凄む。その際、表が妙に騒がしくなった。

 

「あ、何だアレ⁉︎」

 

「スッゲー、カッケー‼︎」

 

 園児達が騒ぎ始める。ツエツエは窓から外を見ると、オルゲット相手に善戦する金色のマスク……。

 

「来たわね……‼︎」

 

「おう……‼︎」

 

 ガオゴールドの存在を認知した2人は、運動場へと飛び出す。

 

「オホホホ‼︎ 待ってたわよ、ガオゴールド‼︎ 」

 

「ヒャハハハ‼︎ よくも今まで、コケにしてくれたな‼︎」

 

「……また、お前等か……懲りないな……」

 

 ガオゴールドは呆れた様に呟く。彼等は決して弱くないが、この短期間で四鬼士やガオキング等との戦いを経たゴールドからすれば最早、しつこい雑魚にしか見えない。

 

「あー! その態度‼︎ さては俺達を馬鹿にしてるな⁉︎」

 

「馬鹿にはしてない……してないけど……人の迷惑になる様な真似はするな‼︎ 狙うなら、僕を狙えば良いだろう?」

 

「クゥ〜〜‼︎ やっぱり馬鹿にしてるな‼︎ 俺達は、お前の所為で今じゃ、オルグ内で窓際に追いやられてしまったんだ‼︎

  どうしてくれる⁉︎」

 

 いつに無くヒガミっぽく怒鳴るヤバイバ。ハッキリ言って逆恨みでしか無いが……。

 

「ふふふ……そんな余裕で居られるのも今の内よ、ガオゴールド‼︎ 今日こそ、アンタを倒して返り咲いてやるわ‼︎

 行くわよ、ヤバイバ‼︎」

 

「ガッテン‼︎」

 

 ツエツエが叫ぶと、ヤバイバもナイフを構え襲い掛かって来た。それに、オルゲット達も続く。

 

 

「ドラグーンウィング‼︎」

 

 

 ガオゴールドも破邪の牙、ドラグーンウィングを展開させて迎え撃つ。だが、力を付けたゴールドに、オルゲット達等、敵では無い。次々に打破されていく。

 

「今日は、其れだけじゃ無いわ‼︎ サァ、行くのよ! 強化オルゲット達よ‼︎」

 

 ツエツエが杖を振るうと今度は、コブが僅かに肥大化したオルゲットが襲来した。

 

「そいつ等は、ただのオルゲットじゃ無いわ‼︎ 純度の高い邪気を吸収し、パワーアップした個体達よ‼︎」

 

 迎え撃ちながら、ガオゴールドは納得する。

 なる程……確かに強さが違う。しかし、ゴールドは、強化オルゲット達の攻撃を掻い潜り、ガオサモナーショットを構えた。

 

 

「ガオサモナーブレット‼︎ 全弾解放‼︎」

 

 

 すると込められたエネルギーが一気に放出され、強化オルゲット達を吹き飛ばして行く。

 あっという間に、強化オルゲットも普通のオルゲットも倒されてしまった。

 

「…え、もう終わり?」

 

「…新記録だな…こりゃ、ヤバイば…」

 

 幾らなんでも、もう少し善戦すると思っていたが……こう

 も呆気なく倒されると、かえって清々しい……。

 

「…さて、後はお前達だな…?」

 

 最早、手慣れた様に一掃してしまうガオゴールド。ツエツエは悔しげに地団駄を踏む。

 

「キィ〜〜‼︎ どうして、何時も何時も敗けるのよ‼︎」

 

 

 〜やれやれ、何をしているの……貴方達は……〜

 

 

 突然、鬼門が現れたかと思えば、中から見慣れない女性が姿を現した。見た目は人間の女性だが、頭にはオルグを象徴する角がある。

 

「お初にお目に掛かりますわ……私、水のヒヤータと申します……以後、お見知り置きを……」

 

 ヒヤータは穏やかに微笑みながら挨拶する。だが、その柔和な態度とは裏腹に、何やら底知れぬ禍々しさを感じた。

 

「お前も、オルグなのか⁉︎」

 

 ガオゴールドは、ドラグーンウィングを向けながら威嚇した。

 

「クス…そんな身構えなくとも……今は貴方に危害を加えるつもりはありませんわ」

 

「信用出来ないな」

 

 ヒヤータの態度に反し、ガオゴールドは至って警戒心を露わにしたままだ。

 

「ふふ…中々の胆力…。でも、まだ青さが抜け切れない…何れにしても、若い芽は早めに積んでおくのが吉かしらね?」

 

「何?」

 

「今日、貴方の前に来たのは飽くまで挨拶代わり……そして、貴方に合わせたい者を連れて来ましたのよ」

 

 それだけ呟くと、ヒヤータは指をパチンと鳴らす。すると鬼門の中から、別のオルグが現れた。

 その姿に、ガオゴールドは戦慄する。狼を思わせる漆黒の顔、上から下まで黒尽くめな全身、極め付けは黒い三日月ににた武器を携えた不気味な出で立ちの男だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「紹介しましょう。私の配下、”狼鬼’’ですわ」

 

 

 ヒヤータの紹介に、狼鬼の目は妖しく紅い輝きを放った。

 

 

 〜何という事でしょう⁉︎ 新たな四鬼士ヒヤータに伴われて姿を現したのは、先の戦いでガオレンジャーを大いに苦しめたデュークオルグ、狼鬼‼︎ 果たして、ガオゴールドは如何にして立ち向かうのでしょうか⁉︎〜



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quest16 新たなる戦士!

あけましておめでとうございます‼︎

今年も『帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー』シリーズを、宜しくお願い致します‼︎


「ああ……なんて事……」

 

 ガオズロック内にて、テトムが泉を前で慟哭していた。

 ガオシルバーが姿を消したと同時に、狼鬼が姿を現した。

 これが意味をするのは、一つしか思い浮かばない。ガオシルバーが再び、狼鬼と化してしまったのだ。

 かつて、ガオレンジャーの前に姿を現したデュークオルグ、狼鬼。その圧倒的な力の前に、ガオレンジャー達は幾多と苦戦を強いられた。その狼鬼が今度は、ガオゴールドの前に立ちはだかるなんて……。

 

「あれは、ガオシルバーだよ……!」

 

 テトムの隣に立つこころが呟いた。彼女も厳しい表情を浮かべている。

 

「分かるの?」

 

「うん…オルグの邪気に混じって人間の気を感じる……でも、既に身体の大半が邪気に浸食されている…」

 

 こころは、狼鬼を見据えながら言う。あの狼鬼から普通では尋常では無い程の邪気が滲み出ている。

 恐らく、かなりの高濃度の邪気を注ぎ込まれたのだろう……。

 

「このままじゃ、ガオゴールドは……‼︎」

 

「……まって……⁉︎」

 

 こころは何かを察し、目を閉じる。

 

「別の気配を感じる……」

 

 ソウルバードの化身であるこころは、人並み以上にオルグの邪気を感じ取る事が出来る。その力は、かつてのソウルバードを軽く凌ぐ。

 

「流石ね……お母さんを超えているわ……」

 

 テトムは驚いた様に彼女を見た。この前の戦いの後、こころ自身が話してくれた。自分は、かつてガオレンジャーと戦った……ガオレッドが「ピヨちゃん」と呼んで可愛がっていたソウルバードが、ガオレンジャーのピンチを救う為、力の一部を地上に残し、オルグの目を欺く為に人間に姿を擬態していた事を……。

 

「……誰なの? 誰が来るの?」

 

「……分からない……でも凄く強い力……」

 

 テトムの問いに対し、こころは遠い目で見ていた……。

 

 

「クックック……全ては計画通りだ……」

 

 鬼ヶ島の地下室にて、ガオネメシスは鏡に映る狼鬼を見て含み笑いを上げる。

 

「ヒヤータめ……ゴーゴを殺した時は流石に肝が冷えたが……狼鬼を手勢に加えていたとはな……」

 

 

 〜本当に、上手く行くのだろうな…?〜

 

 

 突如、鏡に髑髏が浮かび上がり、ガオネメシスに語り掛けた。

 

 

 〜ガオゴッドが小賢しい事に我等、オルグ達の動きを制限してしまいおった……あまつさえ、ガオゴールドが想像以上に力を付け始めておる……我等、オルグにトドメを刺し得る存在となるのでは?〜

 

 

「心配するな、ガオゴールドに狼鬼は討てぬ……奴は甘過ぎる……」

 

 ガオネメシスは確信がある様に言った。

 

「ガオゴールド……奴の強さの根源は他者を助けようとする’’自己犠牲'‘によるものだ。それが奴の強さであり……弱点でもある……相手が敵であろうと、それが気を許した存在なら非情に徹する事が出来ない……奴は戦士としては失格だ」

 

 ガオゴールドの人柄を淡々と、酷評するガオネメシス。

 時として戦士は勝利の為なら必要以上に残酷かつ狡猾な戦法を取らなければならない時もある。

 だが悲しいかな、ガオゴールドは飽くまで人としての当たり前な他者を思いやる’’慈しみ’’を要点に置く余り、敵であろうと情けをかけてしまうだろう。それが、仲間であるなら尚更である。

 

 

 〜万が一、狼鬼を倒してしまった場合は、どうする?〜

 

 

 

 しかし、謎の声の主は未だに懸念を抱いている様子だ。すると、ガオネメシスは振り返る。

 

「その時は、俺が自ら始末する迄だ。その為に、俺が居るのだからな……」

 

 鏡に映るガオネメシスのヘルメット、肩当てには今迄には見られ無かった装着があった。其れは、まるで禍々しい形をした犬の顔を模している。

 

「ガオレンジャーは総じて、俺が滅ぼしてやるさ……この’’叛逆の狂犬’’ガオネメシスがな……」

 

 ガオネメシスは高らかに宣言した。彼の背後には水晶の中で眠るガオレンジャー達……物言わぬ彼等を尻目に、叛逆の狂犬はひたすらに笑い続けた。

 

 

 

 ガオゴールドと狼鬼は相対する。目の前に現れた漆黒の狼に似たオルグ……彼から放たれる邪気に、そのガオゴールドは戦慄する。

 

「(……何て凄い邪気だ……こいつは今迄のオルグとは違う……‼︎)」

 

 思わず息苦しさを催す程に、高濃度の邪気……それだけでは無い。このオルグからは’’意思’’を感じられない。まるで機械と相対している様だ。

 

「オホホホ‼︎ コイツは、アンタが倒してきたオルグとは違うわよ‼︎ さあ、どうするかしらねェ⁉︎」

 

 ツエツエは挑発気味に嗤った。確かに、その通りだ。狼鬼を相手にして言える事は一つ……得体の知れない不気味さ……それしか無い。

 だが、退く訳には行かない。例え相手が誰であろうと……。

 

「狼鬼……貴方の力を見せてあげなさい」

 

「承知しました、ヒヤータ様……」

 

 狼鬼はヒヤータに従う様に淡々と応え、武器を構える。それに呼応して、ガオゴールドもドラグーンウィングを構えた。

 

「(……なんだ、この胸騒ぎは……⁉︎)」

 

 ガオゴールドは狼鬼に妙な感覚を覚え、困惑した。だが、そうしてる間に狼鬼は飛び掛かり、自分の眼前に迫る。

 

「……クッ⁉︎」

 

 先手を取られた。ガオゴールドは、ドラグーンウィングで防ぐが三日月剣の余りの重さに驚愕する。

 

「…なんて重い斬撃だ…‼︎」

 

 辛うじて防いだものも、狼鬼は続け様に三日月剣による連戟を繰り出して来る。その速さは目にも止まらない。

 

「…しかも…速い‼︎」

 

 何とか斬撃を受け切るが、反撃の余裕さえ見つからない。この狼鬼、かなりの強敵だ。

 

「く……手強い‼︎」

 

 今迄に無い強敵の出現に、ガオゴールドは苦戦を強いられて

 しまう。だが、狼鬼は焦るガオゴールドに関係無く、攻撃を繰り出して来る。

 

「チィ……ガオサモナーショット・連弾発射‼︎」

 

 そう言って、ガオサモナーショットを構え、連発で光弾を発射するガオゴールド。が、尽く躱されてしまう。

 

「クス……手こずっているわね……狼鬼には、貴方は倒せなくてよ……」

 

 ヒヤータは優雅な様子で、ガオゴールドを挑発する。このままでは勝てない。そんな際、狼鬼はヒヤータに言われるがままに動いている事に気付く。

 

「(まさか、狼鬼はあの女に操られているのか⁉︎ ならば‼︎)」

 

 意を決して、ガオゴールドは銃口をヒヤータに向け発射した。すると狼鬼は、ヒヤータを庇う様に動く。

 

「(やっぱり‼︎)」

 

 思った通り、狼鬼はヒヤータが直接、コントロールしている様だ。

 

「ふふふ、どうやら気付いたようね……今や、狼鬼は私の支配下にありますのよ……だから、私の忠実に僕として働き、私の危機には盾となる様に動く……何故かしらね?」

 

 ヒヤータは笑いながら言い放つ。ガオゴールドは、狼鬼を見据える。やはり、狼鬼からは妙な感覚が醸し出されてならない。

 

「教えてあげましょうか? 狼鬼の正体が誰なのか? 貴方にとって、親しい間柄ですわ……そう、狼鬼の正体はガオシルバー……貴方が、大神月麿と呼んでいた男よ……」

 

「な……」

 

 ガオゴールドは絶句する。目の前で敵として立ち塞がるオルグが、ガオシルバーだって……?

 

「馬鹿な……有り得ない‼︎」

 

「クスクス……有り得ないかしらね? 残念ながら、これは現実よ。ガオシルバーを捕らえ、洗脳した結果なのよ。我等、オルグに忠実にして最強の戦闘兵器、狼鬼に生まれ変わったのよ……。貴方を倒す為にね」

 

「そ、そんな……! 嘘だ……嘘だァァァ⁉︎」

 

 思わず、ガオゴールドは武器を落とし掛ける。ガオシルバーが、オルグの尖兵にされてしまうなんて……。悪夢なら覚めて欲しい……ガオゴールドは深い絶望感に囚われた。

 

「(クス……戦意を喪失した様ね……私の計略、此処に達成したり……)」

 

 ヒヤータは密かに、ほくそ笑む。これこそ、ヒヤータが仕掛けた狡猾な作戦……狼鬼の正体が大神と知れば、もうガオゴールドは彼と戦う事は出来ない。かつて、ガオゴールドはガオシルバーを庇い武器を捨てた事を彼女は知っている。

 仲間に武器を向ける事は彼には出来ない……そう言った割り切れなさを抱いている事を読んだ上での作戦だ。

 彼の抱く優しさを逆手に取った……知略を武器とするヒヤータならではの作戦である。皮肉にも、かつてガオシルバーが危惧していた「ゴールドの優しさによる危険性」が現実の物となってしまった。

 

「大神さん! 目を覚まして下さい‼︎ 貴方は、ガオシルバーでしょう⁉︎」

 

 ガオゴールドは懸命に呼び掛けるが、狼鬼は一言も発さない。それ所か、狼鬼の攻撃は激しくなる一方だ。

 

「無駄よ、もう彼は自分が人間であった事すら覚えていない。前回の様に記憶とのズレに苦しむ事も無い…ただ、私達オルグの為に戦う操り人形となったのよ…諦めなさい…」

 

 ヒヤータは冷たく吐き棄てる。もう自分の知る大神は居ない……オルグに付き従うだけの戦闘兵器と化してしまったのか……そんなの……理不尽過ぎる。

 

「アンタ、テンマ様に勝る程のサドだな……」

 

 ヤバイバは、ヒヤータに対しての率直な感想を述べた。元々、腹に一物抱えている様なタイプには見えたが、これ程とは思わなかった。

 

「クス……褒め言葉として受け取っておきますわ……」

 

 ヒヤータは、さらりと流す。元々、彼女はオルグ……地位もハイネスに次ぐデュークオルグである。その立場まで昇り詰めたのも単に、その切れる頭脳と必要とあらば、仲間でさえ簡単に切り捨てる合理的な思考があってこそだった。

 

「さて……ガオゴールド。貴方に一つ取り引きを持ち掛けましょう……私達、オルグに付き従うと言うなら、これ迄の無礼を水に流してあげましょう……」

 

「な…なんだと?」

 

「私達の配下として生きろ、と言ったのよ…安心なさい、私もテンマ様も広い心を持っています。悪い様にはしないわ」

 

 それは王手寸前に迄、采配を進めた彼女なりの余裕だった。つまり、その気になれば、この場でガオゴールドを始末する事は容易である……されど彼女は、ガオゴールドの精神に揺さぶりを掛けた。

 だが、ガオゴールドは屈さない。かつての自分なら、甘言に惑わされてしまったかも知れない。だが、今の自分は違う。

 

 

「断る‼︎ お前達の軍門になんか降らない‼︎」

 

「そう…残念……ツエツエ、ヤバイバ‼︎」

 

 

 ヒヤータが命令を下すと、ツエツエが保育士を、ヤバイバが園児一人を捕まえて出て来る。

 

「なんの真似だ‼︎」

 

「クスクス……私は獲物を仕留める際は、周到に罠を仕掛けておくの…さァ、ガオゴールド? この2人の命と貴方の命、どちらを差し出しまして?」

 

 卑劣……ガオゴールドは悔しそうに歯軋りする。だが、無関係な人達を見殺しには出来ない。ガオゴールドは手を上げた。

 

「銃を捨てなァ‼︎ さもなきゃ、このガキの首を掻っ切るぜ⁉︎」

 

「うわァァァん、怖いよォォ‼︎」

 

 人質にされた園児が泣き叫ぶ。ガオゴールドはガオサモナーバレットから手を離した。銃は下に落ちて……大地に当たる瞬間、ガオゴールドは銃を蹴り上げ再び握り直す。

 そして、ツエツエとヤバイバを狙撃した。

 

「グアッ⁉︎」

 

「アアッ⁉︎」

 

 突然の奇襲に2人は悲鳴を上げる。此れには流石のヒヤータも驚いた様に目を見開く。

 

「アラアラ…」

 

 ガオサモナーバレットの銃撃により、解放された2人。ガオゴールドは叫ぶ。

 

「今の内です、早く逃げて‼︎」

 

 ガオゴールドに急かされて保育士は園児を抱えて逃げ出す。

 だが、ヒヤータは狼鬼に命令を出した。

 

「……狼鬼、ガオゴールドを殺しなさい……」

 

「…御意…」

 

 狼鬼はヒヤータの命令に従い、三日月剣を持って飛びかかって来た。ツエツエとヤバイバに気をやっていた為、狼鬼に気付かなかったガオゴールドは出遅れてしまう。

 

「…死ね、ガオゴールド…‼︎」

 

「…クッ…‼︎」

 

 三日月剣がガオゴールドの首筋を捉え、今まさに斬り落とそうとしたその刹那……。

 

 

 ガキィン…と何かが三日月剣とぶつかり合い、弾かれてしまった。足下には紫色の布で柄を覆った小刀が突き刺さっている。

 

「な…誰だ⁉︎」

 

 

「そこまでじゃァ‼︎ 」

 

 

 やたらと大きな声が響き渡る。声の主を探すと、保育園の屋根の上から一際巨体な男が見下ろしていた。

 

「性懲りも無く、悪さばかりしとるんかァ‼︎ 悪い鬼は、ワシが成敗してくれるわ‼︎」

 

 そう言って男は飛び降りて来る。すると、足下に転がっていた小刀を懐にしまった。

 男の服装もまた異様に古めかしく、さながら山伏みたいな格好だ。

 

「あ、貴方は…⁉︎」

 

「ワシか⁉︎ ワシの事なんかより、あの鬼共を蹴散らすんが先決じゃ‼︎ さァ、行くぞ‼︎」

 

 ガオゴールドが止める間も無く、謎の男は駆け出して行く。

 

「何なの、あれ…?」

 

「さァ…ただの馬鹿だろ? それしか思い浮かばん…」

 

 大した武装も無く、オルグ相手に突っ込んで来る……側から見れば愚者以外、何者でも無い。

 

「……来る者は拒まず……オルゲット‼︎」

 

「ゲットゲット‼︎」

 

 ヒヤータは多数のオルゲット達を嗾けて来た。オルゲット達は武器で男を殴り付けるが、男は効いてない様子だ。

 

「なんのこれしき‼︎ フンヌゥゥ‼︎‼︎」

 

 男はオルゲット達を纏めて抱きかかえると、渾身の力で締め上げた。

 

「げ…ゲットォォォォ……‼︎‼︎」

 

 オルゲット達は全員、謎の男によって倒され泡になっていった。

 

「ば、馬鹿な……‼︎ ただの人間に……‼︎」

 

 ツエツエは慌てふためくが、ヒヤータは冷静だ。

 

「どうやら、唯の人間じゃ無いですわね。何者?」

 

 ヒヤータの問いかけに対し、謎の男はニヤリと笑う。

 

「問われて名乗るも痴がましいが…問いには応えて返さにゃならん……‼︎ ならば、一つ名乗ってくれる‼︎」

 

 そう言うと男は左腕を掲げた。その腕には、熊を模したのG−ブレスフォンが装着されていた。

 

 

「ガオアクセス‼︎ サモン・スピリット・ジ・アース‼︎

 

 はァァァ‼︎‼︎」

 

 

 突如、男は発光しだす。すると、光が収まってくれば中心に立っていたのは、灰色の熊に似たガオマスクを装着したガオレンジャーが居た。

 

 

「豪放の大熊‼︎ ガオグレー‼︎」

 

 

 謎の男は自らを、ガオグレーと名乗った。

 

「まさか⁉︎ 新しいガオレンジャーが居たなんて…⁉︎」

 

 誰よりガオゴールドが驚いた。まさか、ガオレンジャーがまだ居たとは知らなかったからだ。

 

 

 

「テトム、あの人が’’力を持った’’者だよ…」

 

 こころは泉に映るガオグレーを指して言った。一方、テトムはガオグレーから目が離せないでいた。

 

「さっき、あの人が投げた小刀は、ムラサキおばあちゃんの守り刀……何で、あの人が持っているの?」

 

 ガオグレー……今の所、彼が何者かは分からないが、少なくとも敵では無い事は分かった。

 今となっては、ガオゴールドとガオグレーに賭けるしか無い。

 

「(頼んだわよ……‼︎)」

 

 テトムは強く祈った。

 

 

 

「さァ、来い‼︎ ワシが相手じゃァァ‼︎」

 

 ガオグレーは拳を握りしめ威嚇する。

 

「ふむ……」

 

 ヒヤータが扇子を振るうと、オルゲットが多数と召喚された。オルゲット達は一斉に向かって来る。

 

 

「グリズリーハンマー‼︎」

 

 

 ガオグレーが手をかざすと、熊の顔を模した巨大な大槌が握られていた。

 

「どりゃァ‼︎‼︎」

 

 ガオグレーは、軽々とグリズリーハンマーを振り回してオルゲット達を蹴散らして行く。

 

「す、凄い……‼︎」

 

 ガオゴールドは素直に感心するしか無い。力もさる事ながら、戦闘力はガオシルバーや自分を上回っている。

 

「ガオゴールド、死ねェ‼︎」

 

 油断した時、狼鬼が再び迫って来た。

 ガオゴールドも迷って居られない。狼鬼にドラグーンウィングで応戦して行く。

 

 

 

「これは……夢……?」

 

 保育士の女性は目の前で起こる現実離れした事象に付いていけなかった。

 

「スッゲ〜、やっちまえ〜‼︎」

 

「頑張れ〜‼︎」

 

 子供達は恐怖を忘れ、口々に応援を始める。

 

 

 

「せいやァ‼︎」

 

 ガオグレーはまるで玉でも転がす様に、オルゲット達を薙ぎ倒して行く。だが、オルゲットの数は一向に減らない。

 

「えぇい、面倒じゃ‼︎ 纏めて倒しちゃる‼︎」

 

 そう言うと、ガオグレーはグリズリーハンマーに宝珠をセットする。そして、ハンマーを回転していき……。

 

 

「邪気…爆砕‼︎ 破邪…剛力衝‼︎!」

 

 

 勢いよくハンマーを振り下ろした。だが、ハンマーを中心から衝撃波が起こり、オルゲット達は全員、吹き飛ばされてしまった。

 

「ぬぅ……まだまだ、使いこなすのが難しいわい……力を入れ過ぎて、建物を壊せんからのゥ……」

 

 ガオグレーは不満そうに、グリズリーハンマーを下ろした。

 ガオゴールドも危うく吹き飛ばされそうになるが、お陰で狼鬼と距離を取る事が出来た。

 

「…なんて、無茶苦茶な戦い方なんだ……‼︎」

 

 力を重視したガオグレーの戦い方に、ガオゴールドも流石に開いた口が塞がらない。

 一方、ヒヤータは水のバリアーを張り衝撃波を防いでいた。

 

「……危ない所だったわね、保険を掛けといて正解だったわ……良いでしょう、今回は引いておくわ。狼鬼、行くわよ…」

 

 そう言うと、ヒヤータは狼鬼を伴い、鬼門の中に消えて行った……ツエツエ、ヤバイバも慌てて追い掛ける。

 

「あんた達‼︎ 次にあった時が最後よ‼︎」

 

「首を洗って待ってやがれ‼︎」

 

 そう言って、オルグ達は消えて行った…。何とか被害は最小限に抑える事が出来たが……。

 

 

「ぬぅ…逃げ足の早い奴らじゃァ……」

 

 

 ガオグレーは倒し切れなかった事に不満そうに唸る。ガオゴールドは、彼に駆け寄る。

 

「あの……危ない所を助けて頂いて、ありがとうございます……」

 

「ん…? はっはっは! 気にするな、成り行きじゃ‼︎ しかし、お前さんも中々じゃのう‼︎」

 

 ガオグレーは豪快に笑いながら返して来る。その際、保育士達が駆け寄って来た。

 

「あの…さっきのは一体…⁉︎」

 

「ねェねェ、さっきやったアレ、どうやんの⁉︎」

 

「テレビだよ、テレビの撮影だよね‼︎」

 

 保育士や子供達は口々に話し掛けて来るが、ガオゴールドは回答に困ってしまう。

 

「え…えっと…」

 

「むぅ…何か騒がしくなったのぉ….」

 

 ガオグレーも急な騒ぎに戸惑っている様だ。その時に、ガオゴールドのヘルメット内に、テトムの声が響いた。

 

 《ガオゴールド‼︎ 今は、その場から離れて‼︎ 彼も連れて来てね‼︎》

 

 テトムは慌てている様子だ。確かに、こんなに人の目を引いている訳には行かない。

 

「ガオグレー…さん‼︎ 悪いけど、僕に付いてきて下さい‼︎」

 

「ぬ? 何処に連れて行くんじゃ?」

 

「良いから‼︎」

 

 ガオゴールドは訝しがるガオグレーを促しながら走り去って行った。残された園児達、保育士は不思議そうに首を傾げる。

 

「……結局、何だったのかしら?」

 

 

 

 一方、ガオネメシスは鏡に映るガオグレーの姿に興味を示していた。

 

「あの男は……まさか生きていたとはな……」

 

 ガオネメシスは鏡の横にある3つの宝珠を手にした。

 

「クク…久方ぶりにお前達を使う事になるかもな…」

 

 そう言って、ガオネメシスはセピア色に輝く3つの宝珠を天にかざした。宝珠のセピアは鈍く輝き、不気味な光沢を放っていた……。

 

 

 〜狼鬼に苦戦する、ガオゴールドの前に現れた新たなガオの戦士ガオグレー‼︎ ガオネメシスの持つセピア色の宝珠が意味をするのは、何なのでしょうか⁉︎〜



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quest17 響きの調べ 前編

 陽はガオズロックに拾って貰い、テトムに事の顛末を話した。新たなデュークオルグ、ヒヤータ…そして狼鬼…。

 

「…シロガネが…」

 

 テトムもショックを隠せない様子だ。陽は悔しそうに俯く。

 

「…まさか大神さんが…オルグに操られてしまうなんて…」

 

 未だに信じられない。あの大神が、オルグの術中に囚われたなんて……テトムは力無く、首を振った。

 

「……シロガネが狼鬼となるのは、此れが二度目……一度は1000年前に、オルグを倒す為に自ら鬼面を被り、狼鬼と化してしまった。だから、シロガネは……」

 

 陽は知った。何故、1000年前の人間である大神が現代に生きているのかを……彼は1000年前、当時、最強と謳われたハイネスデューク・百鬼丸を倒す為に自ら、オルグに身を堕とした。その結果、人としての自我を無くした彼は、かつての仲間達により封印を望み、1000年間も眠り続けていたのだ。

 

「おい、ちょっと待て! 今、シロガネって言ったか⁉︎」

 

 黙り込んでいた男は驚いた様に尋ねる。さっきの戦いの後、彼もまた、ガオズロックに連れて来たのだ。

 

「何という事じゃ……まさか、シロガネが……!」

 

「……貴方、紫色の布を巻いた小刀を持っていたわね…それを見せて下さい」

 

 テトムは男に言った。すると男は懐より、小さな刀を取り出し、テトムに手渡した。

 

「これは…やっぱり、おばあちゃんの……‼︎」

 

「おばあちゃん? それは、ワシが昔、ムラサキから貰ったもんじゃ」

 

「……ムラサキ……私は先代ガオの巫女ムラサキの孫よ……」

 

 テトムの言葉に男は驚いた様に見て来た。

 

「孫ォ⁉︎ お前さん、ムラサキの孫なんか⁉︎ ……言われて見れば、ムラサキに生き写しじゃァ⁉︎

 ムラサキ、何時の間に子を成した⁉︎ いや、それ以前に、こんな大きな孫が居たとは⁉︎」

 

 男は興奮の余り、テトムの肩を掴み揺さぶる。テトムは痛そうに顔をしかめた。

 

「そ…そうですから、落ち着いて……‼︎ ひょっとして、貴方も1000年前のガオの戦士なんですか⁉︎」

 

 今度は、テトムが聞き返す。

 

「1000年前? ……そうか、もう1000年も経っていたんか……通りで周りの景色が変わっとる筈じゃ。

 時に、ムラサキの孫よ……ムラサキは元気か? お前さんが、こんなに育っとると言う事は、もう相当な婆さんに成っとる筈じゃが……」

 

 男の言葉に、テトムは俯いた。

 

「………おばあちゃんは死んでしまったわ……もう200年になるかしら……」

 

「し…死んだ…? ムラサキが…?」

 

 男はフラフラと、よろめいた。

 

「なら……他の皆は?」

 

 男の問いかけに対し、テトムは首を振りばかりだ。それを見れば、男は彼女が何を言いたいか否応無く理解した。

 

「……そうか……皆、居らん様になってしもうたか……。

 1000年……人が変わるには充分過ぎる時間じゃァ……」

 

「あ…あの…」

 

 話の輪に入り込めなかった陽は、思い切って会話に参加を試みた。

 

「貴方が、1000年前の人間なら……貴方は一体……」

 

 そもそも、この男の素性が知れない。

 突然、現れてガオレンジャーとなって圧倒的な力を見せつけた戦士ガオグレー。そして話を聞いて見れば彼も、1000年前に戦っていたガオの戦士だと言う。

 男は、陽を見ながら応える。

 

「ワシか? そうじゃったな……まだ名乗っとらんかったな。

 ワシは……ウーム、これはイカンのォ……何しろ、1000年前の事じゃからな。思い出せん……まァ、良いじゃろう。

 名無しと言う訳にイカンから、取り敢えず周りの人間に合わせて『佐熊力丸』と名乗って置こう」

 

 謎の男改め、佐熊力丸は名乗った。

 

「佐熊……力丸? どうして、その名を?」

 

 陽の問いに対し、佐熊は肩を竦ませる。

 

「サァての……ふと頭を浮かんだ名前じゃ……ま、何にせよ宜しくな……えっと、陽じゃったか? お前さん以外の、ガオの戦士は皆、やられたのか?」

 

「え、ええ…オルグ達の奇襲を受けて……」

 

 実際の所、陽がガオレンジャーに加わったのは、ガオレンジャーが敗北した後なので、陽は厳密に他のガオレンジャーと関わりがある訳では無い。

 

「…でも、仲間が居てくれたのは心強いです‼︎ これで大神さんさえ居てくれたら……」

 

 陽は気落ちした様に俯く。その沈んだ様子に見兼ね、佐熊は慰めて来た。

 

「辛気臭い顔をするな! シロガネは、オルグなんぞに操られたままで居る様な弱輩じゃ無い! 奴を正気に戻す方法は、きっとある筈じゃ‼︎」

 

 そう佐熊は陽気に励まして来た。大神は寡黙でロンリーウルフのイメージが強いが、佐熊は豪快な兄貴分といった具合だ。どちらも陽には非常に頼りになる存在だ。

 

「ねェ、一つ聞きたいんだけど……」

 

 テトムは佐熊に話し掛けた。

 

「貴方が1000年前の人間なら……貴方は1000年間の間、一体何を? 」

 

 テトムの疑問も至極最もである。前回のガオレンジャーとオルグの戦いの際、ガオグレーは居なかった。

 それが何故、今になって現れたのか?

 佐熊は急にシリアスな面持ちとなった。

 

「お前さんの言いたい事は分かる……ワシが何故、今になって現れたか…それには事情があった…ワシは1000年間、地上には居なかったからな」

 

「地上に居なかった?」

 

 突然の言葉に、陽もテトムも理解が出来なかった。佐熊に岩で出来た椅子に腰を下ろす。

 

「1000年前……ワシはシロガネや他の仲間達と、オルグ相手に戦っていた。しかし……突如、オルグの王を名乗る奴が現れてから戦況は一変した」

 

「百鬼丸ね…?」

 

 テトムの言葉に、佐熊はコクリと頷く。

 

「そうじゃ。ワシ等は、百鬼丸を倒す為に策を練らねばならなんだが……それと同時に、もう1人現れたのよ…オルグの王がな」

 

「オルグの王が……もう1人⁉︎」

 

 思わず、テトムは絶句する。陽は百鬼丸を知らないが、テトムや佐熊の様子を見れば如何に強大なオルグだったか分かる。

 

「そいつは……オルグが死んだ後に辿り着くとされる場所……ワシ等は『鬼地獄』と呼んどるが……百鬼丸が地上で暴れ回るのに呼応し地上に姿を現した。名を『ヤマラージャ』…又の名を『閻魔オルグ』と呼ばれる厄介な奴じゃ……」

 

「閻魔……オルグ……‼︎」

 

 テトムは戦慄しながら呟く。陽も、その大層な異名に不安を隠し切れない。

 

「閻魔オルグなら知ってる……鬼地獄、鬼霊界を統括する最強のヘル・ハイネスデュークだよ」

 

 それ迄、沈黙を貫いていたこころが口を開く。佐熊も厳しい表情で話を続けた。

 

「奴は鬼地獄の支配だけじゃ飽き足らず、地上の支配にまで手を伸ばした……奴等、ヘル・オルグは死ぬ事が無い。故に悠久の時を有している。奴からすれば、地上の支配は暇潰しの延長、ただの遊戯でしか無い訳じゃ…!」

 

「暇潰しの為だけに地上の侵略? 馬鹿げてる‼︎」

 

 陽は声を荒げながら叫んだ。オルグ達からすれば、人間の蹂躙など取るに足らない事なのかも知れない……しかし、人間からすれば傍迷惑この上無い話だ。

 

「お前さんの気持ちは分かる……当時はワシ等も、そう思った。しかしの……所詮、オルグにとって人間なぞ、その程度の存在でしか無い……兎にも角にも、ワシ等は地上で暴れ回る百鬼丸、地下から迫る閻魔オルグを二重に相手にせねばならなくなった。百鬼丸と閻魔オルグの間では互いに’’不可侵’’が決められて居た。先手が地上の支配を達成した場合は後手は其れに従う……ムラサキは多いに悩んだ。百鬼丸と対峙すれば、閻魔オルグが攻めてくる。閻魔オルグを対峙すれば、百鬼丸が地上を征服する……八方塞がりじゃ」

 

 佐熊の顔から苦悩が滲み出ていた。余程の辛酸を飲まされる事態だったと容易に理解出来る。

 

「悩み抜いた末に、閻魔オルグを封じる作戦に打って出た。さっきも言ったが、鬼地獄のオルグは殺す事が出来ん。

 だが、奴の力さえ封じてしまえば閻魔オルグは、鬼地獄より身動きが取れなくなる。しかし、それには誰かが鬼地獄に残る必要がある……そこで、ワシはその役を買って出た」

 

「それって……貴方が’’人柱’’になったと言う事⁉︎」

 

 テトムは驚いた。閻魔オルグが動き出さない様に自身も鬼地獄に残り封じられる……その最も損な役回りを彼は自ら志願したと言うのだ。

 

「勿論、仲間には猛反対された。ムラサキやシロガネからもな……しかし、他に方法が無い。何より……百鬼丸が地上に残る以上、それを撃退する人間も必要じゃ。

 計画は上手く行った。ワシは生きたまま鬼地獄に堕ち自身の魂を使って、ムラサキが強力な結界を張る事で閻魔オルグを鎮める事に成功した。

 だが……同時に、ワシも鬼地獄より出る事も身動きも取れん様になった。しかし幸か不幸か、ワシの意識は辛うじて保つ事が出来た。それに、鬼地獄には時間と言う概念が存在せん。だから、ワシは老いる事も朽ちる事も無く、閻魔オルグを監視し続けた。じゃが……」

 

 此処に来て、佐熊の顔は曇る。

 

「力を封じられ、身動きが取れん筈の閻魔オルグが抵抗し始めたのじゃ。1000年も経った影響で、ムラサキの結界が綻びを生じた……だが、この結界は閻魔オルグ専用、奴も完全には封印を解除するに至れん。しかし……ワシも不覚を取った。閻魔オルグの奴、ワシが長きに渡る封印により疲弊していた所を突き……ワシを鬼地獄と人間界の狭間にある’’三途の川'‘と呼ばれる場所へと捨ててしまいおった。

 既にワシは、閻魔オルグの封印に力の大半を使い果たしてしまって川から抜け出す力も無かった……そんな時、ワシを川から救い上げてくれた奴が居った……今思えば、あれはムラサキじゃった気がするの……」

 

「おばあちゃんが⁉︎」

 

 ムラサキの名が出て、テトムは顔色を変えた。

 

「……ああ。ムラサキが、ワシに言ったんじゃ。『皆を助けて』……とな。ワシは声に導かれ……気が付いたら、何処かの山中に居た。其処でワシは、こいつを貰ったんだじゃ」

 

 そう言いつつ、佐熊は左腕のG -プレスフォンを見せた。

 

「ワシが気が付くと左腕にこいつが嵌められていた。後は、こいつに導かれて、お前さんの所へやって来たと言う訳じゃ」

 

「…そうだったんだ…」

 

 佐熊の長い話に、陽達は開いた口が塞がらない。閻魔オルグ、鬼地獄….…。

 

「ひょっとしたら、オルグの復活やガオネメシスも閻魔オルグを一枚噛んでいる可能性が高いわね……」

 

「ガオネメシス? 何じゃ、そいつは?」

 

 今度は、佐熊が尋ねる番だった。

 

「オルグに味方する謎の戦士だ……僕と大神さんが二人掛かりで挑んでも勝てないくらいに……」

 

「むゥ……1000年も経つ間に、地上もエライ騒ぎになっとるのォ……」

 

 佐熊は深い溜息を吐いた。目醒めたばかりだと言うのに、現状に驚愕する間も無い。

 

「……とにかく! 私達は、新たに現れたヒヤータを倒す事に専念しましょう。大神の事は、その後ね……」

 

 テトムは言った。大神の事は現状、なす術が無い。陽は大神を思い天を仰ぐ。

 その際、泉が荒れ始めた。

 

「オルグだわ‼︎」

 

 テトムが叫ぶ。だが、陽は茫然としたままで慌てる素振りを見せない。その様子に、佐熊は語り掛けた。

 

「陽よ…此処で悩んでいても始まらん。オルグを追えば、シロガネに繋がる。行くぞ‼︎」

 

 佐熊に促され漸く、陽は走り出した。その際も、陽の脳裏には思案で埋め尽くされた。

 

「(大神さん……貴方と戦わなけれならないのか?)」

 

 陽は不安になる。昨日までの仲間が今日は敵……下手をすれば、自分の手で大神を殺さなければならない……そんな言い様の無い不安が、陽を苛め続けた。

 

 

 

 場所は人気の無い廃墟……辺りには明治時代頃の建物が墓標の様に立ち並んでいた。

 其処に一人で佇むのは狼鬼だ。全く動作なく立ち続けている。すると、後ろからツエツエとヤバイバが現れた。

 

「なァ……こいつ、ほんと大丈夫なのか? 前みたいに急に元に戻るなんて……」

 

 ヤバイバは不安そうに呟く。だが、ツエツエは自信満々だ。

 

「心配無いわ! 強力な邪気を注ぎ込まれ、今や私達の忠実な僕と化したのよ‼︎ それより、ヤバイバ! 言われた物は、バッチリ仕掛けて来た?」

 

「お、おう……コッチは完璧だぜ……だがよ、ツエツエ……お前、なんか大丈夫か?」

 

「大丈夫? 私は別にどうもしてないわ」

 

 ヤバイバは、ツエツエがいつに無く自信に満ち溢れている姿に違和感を感じた。

 

「あのヒヤータって女、何かきな臭く無いか? 今回の作戦だって……」

 

「ふふ……心配無いわ、ヤバイバ。私達が下働きで使われるのも、もう少しの辛抱よ」

 

 そう言いながら、ツエツエは妖しく笑う。だが、ヤバイバからすれば彼女の様子の違いに不安を拭いされずに居られない。

 

「……それに、狼鬼がこっちに居る限り、ガオゴールドは手も足も出ないわ」

 

「お…おう」

 

 等と話をしていると……。

 

 

「オルグ‼︎ 其処までだ‼︎」

 

 

 突如、陽と佐熊が駆け付けて来た。その様子に、ツエツエはニヤリと笑う。

 

「オホホホ‼︎ 鴨がネギ背負ってやって来たわね‼︎

 覚悟なさい、ガオレンジャー‼︎ 此処が、あんた達の墓場となるのよ‼︎」

 

「オルゲット共、出番だ‼︎」

 

 ヤバイバは、そう言うと多数のオルゲット達が出現する。

 と同時に、狼鬼も動き出した。

 

「…ガオレンジャー…殺す‼︎」

 

 敵は迎え撃つ気で満々らしい。ならば、陽達も容赦はしない。

 

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 

 2人は同時に光に包まれ変身した。

 

 

「天照の竜‼︎ ガオゴールド‼︎」

 

「豪放の大熊‼︎ ガオグレー‼︎」

 

 

 2人の戦士が各々に名乗る。すると、オルゲット達が襲いかかって来た。

 

「ガオグレー‼︎ 迎え撃つぞ‼︎」

 

「よっしゃ‼︎」

 

「オホホホ‼︎ それ以上、前に進まない方が身の為よ‼︎」

 

 ツエツエは、そう言うと悪辣に笑う。

 

「あんた達の周りには既に地雷が仕掛けてあるのよ‼︎ ガオレンジャーに反応して爆発する地雷がねェ‼︎」

 

「じ、地雷⁉︎」

 

 ガオゴールドは周りを見た。地面には何も変化は無い。

 

「ハハハハ‼︎ これを見ろ‼︎」

 

 ヤバイバが手に持つ石を握ると突如、左の地面が爆発した。

 

「一歩でも足を踏み込めば……あんた達はドカーーンよ‼︎

 更に……」

 

 そう言って、ツエツエは小さな女の子を連れて来た。

 

「さァ、この娘の命が惜しければ……」

 

 

「ガオサモナーブレット‼︎」

 

 

 そう言って、ガオゴールドは遠距離からツエツエを狙撃した。すると少女は弾き飛ばされてしまう。

 

「い、いきなり撃つんじゃ無いわよ‼︎ それより、子供が……」

 

「悪いけど、二度も同じ手に引っかかる程、馬鹿じゃないんでね」

 

 ガオゴールドは冷たく吐き捨てる。すると、地面に転がる少女はオルゲットに姿を変えた。

 

「な……バレた⁉︎」

 

「地雷じゃと? だったら、ワシらは一歩も動かんで良い……ハァ‼︎」

 

 ガオグレーは、そう言うとグリズリーハンマーを振り下ろした。すると衝撃の振動で大地は揺れ、辺りが爆発した。

 

「な…嘘…」

 

「もう、バレバレなんだよ……お前達の行動なんか」

 

「く…く…」

 

 こう何回も戦えば手の内も見えて来る……ハッキリ言って、ツエツエとヤバイバは、ガオゴールド達には脅威では無い。

 

「ふ、ふん‼︎ 余裕ぶってられるのも今の内よ‼︎ 狼鬼、行くのよ‼︎」

 

 ツエツエは命令を出す。すると、狼鬼は三日月剣を構えて斬り込んで来た。其れをガオゴールドは、ドラグーンウィングで受け止める。

 

「ガオゴールド‼︎ 雑魚共は、ワシに任せい‼︎」

 

 そう言って、ガオグレーはオルゲット達を次々に叩き潰して行く。ガオゴールドは狼鬼に集中した。

 

「く…大神さん‼︎ 目を醒まして……‼︎」

 

 諦めずに狼鬼に語り掛けるも、狼鬼には届いていない。

 すると、その時、辺りに歌が響き渡る。

 其れは澄んだ川のせせらぎの様な優しい歌だ。

 

「な⁉︎ この歌は⁉︎」

 

 ガオゴールドは思わず耳を傾ける。ガオグレーも戦いながら、歌を聴いていた。

 

「これは響きの調べか⁉︎ 懐かしい……‼︎」

 

 思わず心が洗われる様な穏やかな気持ちになる…そんな歌だ。

 

「これは、ガオの巫女が歌ってるのね⁉︎」

 

「おい‼︎ 狼鬼を見ろ‼︎」

 

 ヤバイバは狼鬼を指差す。すると狼鬼は苦しげにのたうち回っていた。

 

 

「うおォォ……俺は…俺はァァァ……‼︎」

 

 

 戦いの最中に関わらず、狼鬼は頭を抱えて苦しんでいる。

 

「どうして狼鬼は⁉︎」

 

「きっと、ムラサキの孫が歌ってるんじゃ‼︎ あの歌には魂を癒す力があると、ムラサキから聞いた事がある‼︎」

 

 ガオグレーは推測した。その間も歌は流れ続けた。

 

 

 テトムの歌は狼鬼の心を揺さぶり掛ける。益々、狼鬼は鬼面を掴んでのたうち回った。

 

「うおォォォォ‼︎‼︎ 止めろ、その歌を止めろォォォォ‼︎‼︎」

 

 これでは闘いにならない。ツエツエは舌を打つ。

 

「仕方ない……計画より速いけど……」

 

 そう言って、ツエツエは杖を振りながら呪文を唱えた。

 

 

 〜鬼面が宿し、鬼の魂……今こそ、その力を解き放て‼︎〜

 

 

 すると、狼鬼の目は紅く染まる。途端に狼鬼は見境なく暴れ始めた。

 

「な、どうしたんだ‼︎」

 

「オホホホ‼︎ その鬼面にはね…邪気を増幅させる術が仕掛けにあったのよ‼︎ 力は増幅されるけど自我は喪失する…ただ目の前にいる敵を倒し尽くすまでね‼︎」

 

 ツエツエの言葉通り、狼鬼は敵味方関係無く攻撃を始めた。

 

「さァ、ヤバイバ…後は狼鬼に任せて、私達は一時退散よ‼︎」

 

「ああ…つまり逃げるんだな?」

 

 そう言い残しながら、ツエツエとヤバイバは鬼門の中に消えて行った。残された狼鬼は、ただただ暴れ回るだけだ。

 

「グアアァァァッ‼︎」

 

 完全に狂戦士と化した狼鬼は激情に任せて攻撃を繰り返す。

 

「ワシに任せい‼︎」

 

「‼︎ ガオグレー、危ない‼︎」

 

 ガオゴールドが止める間も無く、ガオグレーは狼鬼に掴みかかる。

 

「いい加減にせい‼︎ シロガネ、目を覚さんかァァァ‼︎」

 

 そう叫ぶと、ガオグレーは狼鬼の顔を殴り付けた。その際に鬼面の一部が砕けたが、さしてダメージは与えられずに狼鬼が返し様に斬り付けてきた。

 

「ガァァァァ!」

 

 獣の如き咆哮を上げる姿は、さながら狼だ。ガオグレーは斬撃に下がりながらも、なおも狼鬼に叫ぶ。

 

「チィ…まだ目が覚めんか…ムラサキの孫‼︎ 歌を‼︎」

 

 ガオグレーは、空に怒鳴った。すると、再び響きの調べが聴こえてきた。

 

 

 

 響きの調べは狼鬼の動きを緩めた。ガオグレーは狼鬼を羽交い締めにした。

 

「ガオゴールド‼︎ 鬼面を叩き壊せ‼︎ 早く!」

 

 必死に抜け出そうともがく狼鬼を抑えつけるガオグレー。

 意を決して、ガオゴールドはドラグーンウィングを握る手に力を込める。

 

「竜翼…日輪斬りィィィ‼︎‼︎」

 

 ドラグーンウィングから放たれる金色の斬撃が円形を描きつつ、狼鬼の仮面に直撃した。

 すると、鬼面は粉々に砕け散った。

 

「やったァ‼︎」

 

 鬼面は砕け地面に落ちて行く……だが、狼鬼の顔は……。

 

「なに⁉︎ 鬼面が⁉︎」

 

 狼鬼の顔を見て、ガオゴールドとガオグレーは驚愕する。

 砕いた筈の鬼面の下に更に鬼面があったのだ。

 その隙を突き、狼鬼はガオグレーを突き飛ばし拘束から抜け出した。

 

「ぬぅ…シロガネェ…‼︎」

 

 悔しげに、ガオグレーは唸る。其れを嘲笑うかの様に、狼鬼は怒りの唸りを上げた。

 

 

 

 〜新たな戦士、ガオグレーの力を加えても狼鬼の呪縛を解く事は叶わない。果たして、ガオゴールド達は狼鬼の仮面の洗脳から、ガオシルバーを救い出す事は出来るのでしょうか⁉︎〜



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quest18 響きの調べ 後編

「クッ…ガオの巫女め…‼︎」

 

 ガオネメシスは苦しげに呻いていた。普段の余裕がある態度をかなぐり捨て、酷く焦燥した様子だ。

 

「あの忌々しい歌を……‼︎」

 

 苛立ちながら、ガオネメシスはテーブルに拳を叩きつける。

 

 

 〜酷く取り乱しておるな、ガオネメシスよ…〜

 

 

 鏡から低い声が聞こえて来る。ガオネメシスは鏡に向けて威嚇した。

 

「黙れ…‼︎ くそッ…響きの調べ等で、この俺が取り乱すとは……忌わしいッッ‼︎!!」

 

 喚く様に、ガオネメシスはテーブルを蹴り倒した。

 

 

 〜我々からすれば響きの調べ等、耳障りな雑音でしか無い。

 それに苦痛を覚えると言うならば、貴様の’’呪い’’も極まれり、と言った具合か〜

 

 

「黙れと言ってるんだ‼︎」

 

 

 今度は鏡に拳を叩きつけた。鏡は割れ、地べたに音を立てて転がる。だが、鏡からは変わらず声が聞こえ続けた。

 

 

 〜貴様の中にまだ残っている、と言う事だろう……’’心’’がな。それを捨て去らぬ限り、’’呪い’’は貴様を苦しめるだろう……。苦しむが良い、ガオネメシスよ……貴様の言う’’世界への叛逆’’を成し遂げるその時まで、苦しみ足掻き続けるが良い……〜

 

「チィッ‼︎‼︎」

 

 ガオネメシスは怒りに任せ、鏡の欠片を踏み砕いた。

 何度も何度もグリグリ踏み躙り、鏡が粉となるまで……。

 

「俺は…ガオネメシス…世界に叛逆する者…世界を復讐の牙で噛み砕く……狂犬だァァァ‼︎‼︎!」

 

 そう吠える様にガオネメシスは慟哭した。右手から鏡を砕いた際に手を切ったらしく、血が滴り落ちて来る。その血は……生物の証である’’赤"では無く、毒々しい’’緑’’だった……。

 

 

 

「(お願い、シロガネ……目を醒まして……)」

 

 ガオズロック内にて、テトムは響きの調べを歌い続けた。

 彼女は信じていた。狼鬼の中にまだ大神の’’心’’が残っている事を….1000年以上、オルグとして生きて来た彼は人としての’’心’’を失っていなかった。だから、今もまだ大神月麿としての意思は失われていない筈だ。

 彼が響きの調べに反応し苦しむのが確たる証拠だ。

 かつて、祖母のムラサキが教えてくれた。真のガオの巫女が歌う響きの調べは、邪気を浄化する力があると言う……。

 

『テトム…』

 

 突如、声が聞こえた為、テトムは歌を止め振り返る。すると、其処には懐かしい姿……風太郎少年が居た。

 

「荒神様……!」

 

 テトムは目を見張る。風太郎少年は、ガオゴッドの化身だからだ。風太郎は悲しそうに言った。

 

『ゴメン…僕は今、動く事が出来ないから、風太郎として意思を送り込んだんだ…。シロガネは前回以上に邪気に取り込まれてしまってるみたいだ。僕の声も届かない程に……』

 

「そんな……‼︎」

 

 ガオゴッドの力を持ってしても、大神を元に戻す事は叶わない。なら、どうすれば良いのか?

 

「私達では、シロガネを救えないのですか⁉︎ どうすれば…⁉︎」

 

『君達だけじゃ無理だ。“原初の巫女’’の力を使えば或いは……』

 

「原初の……巫女?」

 

 風太郎の口から吐き出された用語に、テトムは訝しがる。

 

『テトムやムラサキの前……先々代の、ガオの巫女の事だよ。歴代の巫女の中で最も力があり、現在のガオの戦士達の基盤を作ったとされている……彼女は、古代のオルグの邪気を祓い、手を下す事なくオルグを滅ぼせたと言われてる……』

 

「そう言えば昔……ムラサキおばあちゃんから聞いた事があります……私の遠い御先祖様に、強い力を持った巫女が居た、と……」

 

 まだ、テトムが幼い頃……先代の巫女にして祖母ムラサキから聞かされた話……まだ、人間の文明の成り立ち始めた頃に地上を跋扈し始めたオルグ達を一掃し、人間達に安息をもたらした巫女が居た、と言う昔話……。

 

「ですが….大昔に存在した巫女が、今も生きている筈が……」

 

 テトムは絶望した。テトムを始め、ガオの巫女は長命である。しかし、少なくとも2000年以上の昔に生きていた巫女が現代まで生きているとは到底、思えない。

 狼鬼として封印されていた大神や、鬼地獄に幽閉されていた佐熊の様な例外を除けば、古来の人間に悠久の時を生きている筈が無いのだ……。

 

『彼女は……生まれ変わっている……』

 

「え?」

 

 風太郎の発した言葉に、テトムは耳を疑った。

 

『既に原初の巫女の魂は転生し、現代に甦っている。そして、その力も少しずつ目覚め様としている……』

 

「その人は今⁉︎」

 

 テトムは期待を寄せて尋ねた。もし、その巫女が現代に甦っているなら……大神を救う事も可能の筈だ。

 

『……誰か迄は分からない……でも、テトムがよく知る少女だよ……』

 

 風太郎の言葉に、テトムは勘付いた様にハッとした。そして、彼女の脳裏に1人の少女の顔が浮かんだ……。

 

「(まさか…あの娘が⁉︎)」

 

 陽の妹、祈……。こころの話では、ガオゴールドの危機にガオゴッドを呼び寄せたと言う。現役の巫女であるテトムでさえ、ガオゴッド級のパワーアニマルを呼び寄せる芸当は出来ない。テトムは確信が言った様に肯いた。

 

 

 

 ガオゴールド、ガオグレーは驚愕する。眼前にて闘う狼鬼の身体から邪気が目に見える迄に溢れ出ていた。

 明らかに先程とは様子がおかしい。

 

「グォォォッ‼︎‼︎」

 

 狼鬼は見境なく攻撃を繰り出して来た。だが、力は先程の比ではなく正に狂戦士と化している。

 

「く…大神さん‼︎ 正気に戻って‼︎」

 

 諦めずに呼び掛けるが、狼鬼は構う事なく暴れ回る。

 

「いかん‼︎ 狼鬼の身体が……‼︎」

 

 ガオグレーが指差すと、狼鬼の身体はみるみる間に変化して行く。角と髪は長く伸び、全身の鋭いトゲがよりシャープとなった。目を赤くギラつかせたその姿は鬼と遜色無い姿だ。

 

「奴等の言う通り最早、今の狼鬼には自我が無いのかも知れんのゥ……」

 

 

「ククク…そう言う事だ」

 

 

 声と共に鬼門が出現し、中からガオネメシスが現れた。

 

「ガオネメシス‼︎」

 

「貴様が、ガオグレーか……シロガネとは同郷らしいが嬉しかろう? かつての仲間と再会出来てな」

 

「き…貴様ァ…‼︎」

 

 下衆染みた挑発に、ガオグレーは怒る。ガオゴールドは直感した。大神が狼鬼となったのは、こいつの仕業に違い無い……。

 

「何故だ‼︎ 何故、大神さんをこんな姿に…⁉︎」

 

「俺は何もしていないさ……狼鬼の姿となったのは、シロガネの内に抱える’’本質’’だ」

 

「本質……だと?」

 

 ガオゴールドは耳を疑った。あの姿が大神の本質だって?

 

「何も、シロガネに限った事じゃ無い。人間なんてものは皆、内に持っている。本能に従い唯々、暴れ回るだけの獣性……まだ、高度な知能を持つパワーアニマル共の方が知性があるじゃ無いか。人間は誰もが、一皮剥けば悍しい本性を露わにする。狼鬼は、その最たる姿と言う訳だ」

 

「……違う‼︎ 大神さんは、そんな人じゃ無い‼︎ 他の人だってそうだ‼︎ 確かに、人間は間違いを犯す‼︎ 仕方ない、人間は神じゃないんだから……でも! 間違いを間違いのままにせずに、良い方向に持って行こうとする人間だって居る! 僕は、そう信じてる‼︎」

 

 ガオネメシスの言葉を、ガオゴールドは否定する。しかし、ネメシスは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに笑った。

 

「ハハハハ……綺麗事を抜かすな、小僧が。お前は人間の本性を知らないだけだ。例えばの話だが……殺されるだけに存在する人間を知っているか? そんな奴等は目の前で他人が殺されても恐れない、眉も潜めない、逃げようともしない。

 逆に、殺す奴等はまるで果物でも捥ぐかの様に、そんな人間の手足を切り落とし、頭を潰す。そして返り血に塗れた姿で笑うのさ……ハハハ、正に人間らしい姿だ‼︎

 お前も、そうだ‼︎ もし、目の前で妹が同じ目に遭わされていれば、そいつを同じ目に遭わせてやりたいと願うだろう……そして、見るに耐えない残虐な行為に及ぶさ!」

 

「う…嘘だ‼︎」

 

「ゴールド、耳を貸すな‼︎ 奴は、お前を動揺させようとしているに過ぎん‼︎」

 

 ガオグレーは、ガオゴールドに語り掛ける。だが、ゴールドは動揺していた。祈が、非道な目に? もし、そうなったら自分は平常で居られるか?

 

「フン…言葉に惑いが満ちているぞ…どうやら自覚していた様だな。この狼鬼の姿を見ろ‼︎ 自我も自制も無い、ただ本能赴くままに暴れ回るだけ…これこそが人間本来の姿だ‼︎

 人間もほんの何万年前までは獣そのものだった‼︎ しかし、彼等には悪意が存在しない、陽が登れば起きて月が登れば寝る獣と同一….だが、文明の発達と共に人間は要らぬ知恵を付け始めていったのさ! 人間は、それを進歩等とほざくが笑わせるな‼︎ 俺から言わせれば、それは’’堕落’’だ‼︎ 人間は自分で自分の姿を汚していった‼︎ 地球に蔓延る雑菌としてな‼︎

 お前は雑菌を守る為に戦うと言うのか? だとすれば、それは愚行だ! 」

 

 

「黙れッッ‼︎!」

 

 

 ガオネメシスの人間に対する侮蔑に満ちた酷評に、堪らなくなったガオゴールドは叫んだ。

 

「人間は、そんな生き物じゃ無い‼︎ 確かに文明の発達故に失った物はある…でも、変わらずに持ち続けている物はあるんだ‼︎ それは他者を慈しむ心……獣も人も誰かを慈しむ思いを変わらず持っている! 親は子を守る為、子は親を愛する為に戦うんだ‼︎ それを壊す資格なんか、この僕にも、お前にも無いんだ‼︎」

 

 ガオゴールドの言葉には強い思いが込められていた。人間も動物も血を分けた子供を、親を、仲間を命懸けで守ろうとする。

 それは何時の時代も変わらない。だからこそ、ガオドラゴン達は力を貸してくれた……ガオゴールドは、そう信じていた。

 

「……やれやれ、口で言っても分からぬか……ならば力で分らせてやろう……狼鬼‼︎」

 

 ガオネメシスは命令を下す。すると、狼鬼は大人しくなり笛を吹き出す。すると、何処からともなくガオウルフ、ガオハンマーヘッド、ガオリゲーターが姿を現した。

 

「ガオウルフ……‼︎」

 

 ガオゴールドは絶句した。地球を守る為に戦うパワーアニマル達が、オルグの手先となってしまったなんて……。

 

「お前が人間達の為に戦うなら、地球を守る為に生まれたこいつらを倒さなければ成らない! 魔獣合体‼︎」

 

 ガオネメシスの言葉に従い、ガオウルフ達は変形し合体する。だが、精霊王の顔は狼の口が閉じ頭からは鬼の如し角が生えていた。

 

 

 〜正義の狩人は主人が闇に呑まれた事に影響し、邪悪なる精霊の王へと変貌するのです〜

 

 

「誕生‼︎ ガオハンター・イビル‼︎」

 

 

 狼鬼はガオハンター・イビルに吸収されて行き、邪の精霊王は動き出す。

 

「ク……幻獣召喚‼︎」

 

 ガオゴールドも、ガオドラゴン達を召喚した。三体のレジェンド・パワーアニマル達は合体し、精霊の騎士王ガオパラディンとして相対した。

 それと同時に、ソウルバードがガオパラディンに融合しコクピットとしてガオゴールドを搭乗させた。

 

「これが、レジェンド・パワーアニマルか……1000年前は見た事が無いのう……」

 

 ガオグレーは、ガオパラディンの姿を見て盛んに感心していた。

 その為、ガオネメシスが姿を消していた事に気が付かなかった。

 

 

 

 ガオパラディンは、ユニコーンランスを勢いよく突き出すが、ガオハンター・イビルのリゲーターブレードで防がれてしまう。しかし、其れでもソウルバードの力で強化されているガオパラディンなら、ガオハンター相手でも苦戦を強いられこそすれど負けはしない。続け様に、ガオハンター・イビルがガオウルフが変形した左腕でパンチを繰り出すが、すかさずにグリフシールドで防御した。

 戦いは一進一退ながらも、比較的にガオパラディンが有利だ。ガオゴールドは決意した。相手が誰であろうと、敵として立ち塞がる以上は立ち向かわなければならない。

 その時、ガオパラディンのガオハンターの戦いに割り込む様に飛び込んで来る巨大な影……。

 

「こいつは⁉︎」

 

 ガオゴールドは驚愕する。それは、先の戦いで倒した筈のガオキング・ダークネスだ。確かに倒した筈だが、再び姿を現しガオパラディンの前に立ちはだかった。

 

「ハハハハ‼︎ ガオゴールド、今日が貴様の命日だ‼︎ 覚悟しろ‼︎」

 

 ガオキング・ダークネス内から、ガオネメシスの声がした。どうやら、ガオネメシスが搭乗しているらしい。

 

「行け、ガオキング・ダークネス‼︎ フィンブレードだ‼︎」

 

 ネメシスの命に従い、フィンブレードを振り下ろすガオキング・ダークネス。ガオパラディンはグリフシールドで防ぐが、ガオハンター・イビルもリゲーターブレードで斬り付けて来る。

 

「うわァァァ!⁉︎」

 

 前回の時以上に、ガオキング・ダークネスはパワーアップしている様子だ。今回は、ガオネメシスが搭乗している分、より的確な戦闘判断を取れるらしい。

 

「ハハハ、どうだ⁉︎ 闇の精霊王の前に貴様等、敵では無いわ‼︎」

 

 ガオネメシスの勝ち誇った様な笑い声が響き渡る。ガオキング・ダークネス、ガオハンター・イビルは両サイドからジリジリと近づいて来る。

 

 

「ああ⁉︎ ガオパラディンが⁉︎」

 

 テトムは見てられない、と言わんばかりに目を覆う。こんな時に限り、かつての頼れる大戦力であった精霊王達が敵に回ってしまうとは……。

 

「ムラサキの孫、心配いらん‼︎ パワーアニマルは、まだ全ては封じられとらん‼︎」

 

 ガオグレーは、そう言いながら4つの宝珠を取り出した。

 

「その宝珠は⁉︎」

 

 テトムは凝視した。レジェンド・パワーアニマルやガオシルバーのパワーアニマル以外で、生き残っていたアニマルが居たのか?

 

「ワシが現世に戻った際、ガオレンジャーとしての力を授けてくれたアニマル達じゃ‼︎ 百獣召喚‼︎」

 

  ガオグレーは、グリズリーハンマーの柄に宝珠をセットし大地に打ち付ける。

 すると、宝珠から光が放たれ……。

 

 

 ーグオオオォォォォッ!‼︎!ー

 

 

 天を裂かんばかりの唸り声と共に駆けつけて来る四体の巨躯……内、一体がガオハンター・イビルに突進を仕掛けて転倒させた。

 

 ーグォォォン‼︎ー

 

 それは巨大な灰色の熊だった。太い前足は、巨木さえも薙ぎ倒し岸壁の如し巨躯で悪鬼を捻り潰す……

 

 羆型のパワーアニマル、ガオグリズリー。

 

 続けての一体が、ガオキング・ダークネスに長い足で蹴りを入れた。

 

 ーゲロォォン‼︎ー

 

 それは巨大な深緑の蛙だった。長い脚を用い、山や谷を飛び越える跳躍力で悪鬼を蹴り倒す……

 

 ヒキガエル型のパワーアニマル、ガオトード。

 

 別の一体が複数の光弾を発射し、ガオキング・ダークネスに威嚇する。

 

 ーブォォォン‼︎ー

 

 それは巨大な茶色の猪だった。猛進し岩さえも破砕しながら、悪鬼を押し潰す……

 

 猪型のパワーアニマル、ガオボアー。

 

 また別の一体が、ガオパラディンを庇う様に前に立ち、鋭い牙をチラつかせながら威嚇した。

 

 ーシャォォン‼︎ー

 

 それは巨大な白い山猫だった。鋭い牙と爪を操り、悪鬼を切り裂き倒す……

 

 山猫型のパワーアニマル、ガオリンクス。

 

 集った計4体のパワーアニマル達は、悪の精霊王達に物怖じする事なく、果敢に勇んだ。

 ガオグレーは、リーダー格と思われるガオグリズリーに語り掛けた。

 

「済まんのゥ、ガオグリズリー‼︎ こんな急に呼び出して‼︎」

 

 それに対して、ガオグリズリーは気にするな、と言わんばかりに唸る。

 

 

「さァ、行くぞ! 百獣合体じゃ‼︎」

 

 

 ガオグレーの号令に合わせ、パワーアニマル達は合体を始める。ガオグリズリーの身体が変形し胸部を成し、ガオトードが脚を直立させて下半身を成す。

 更に右腕にガオボアーが、左腕をガオリンクスが構成すると、ガオグリズリーに頭部が出現し一体の精霊王となった。

 

 

 〜4体の山を守護するパワーアニマル達が合体する事で、力強い精霊の王が誕生します〜

 

 

「誕生‼︎ ガオビルダー‼︎」

 

 

 ガオパラディンやガオハンターとは一線を画す力強い逞しさを醸し出す精霊の闘士が立ち上がった。

 

 

 

「す…凄い‼︎」

 

 ガオゴールドは目を見張った。先程の戦闘振りもそうだが、精霊王に搭乗して闘う姿は正しく、歴戦の勇士そのものだ。

 

「チィ‼︎ 小賢しい奴め! ガオハンター、叩き潰せ‼︎」

 

 ガオネメシスの言葉に従い、ガオハンターは動き出す。リゲーターブレードをガオビルダーに突き出すが、ガオビルダーはすかさず躱す。

 

「トードキック‼︎」

 

 ガオビルダーは飛び上がり、長い脚でハイキックを繰り出した。ガオハンターは大きく仰け反り、後退する。

 それに合わせ、ガオパラディンもユニコーンランスを回転させガオキング・ダークネスを貫いた。

 

「小癪な……‼︎ フィントライデント‼︎」

 

 ガオキング・ダークネスの持つフィンブレードが変形し槍へと変化する。それに闇のエナジーを纏わせた。

 

『暗黒貫徹・ディアボロススティンガー‼︎』

 

 フィンブレードから突き出した闇のエナジーが放出され、ガオパラディンに襲い掛かる。

 

『百獣武装! ガオパラディン・アーチャー‼︎

 一撃必殺‼︎ サイクロンシュート!!!』

 

 すかさず、ガオワイバーンを百獣武装し、光の矢を穿つ。

 光の矢は闇のエナジーを蹴散らして行き、ガオキング・ダークネスに迫る。

 

「ク……‼︎」

 

 ガオキング・ダークネスらフィントライデントで光の矢を受け止めるが、既に手遅れだった。

 収束された光の矢はフィントライデントを弾き飛ばし、ガオキング・ダークネスを射抜いた。

 大きくよろめいた、その瞬間にガオパラディンの胸部のガオドラゴンの口から光が漏れる。

 

 

「聖霊波動‼︎ スーパーホーリーハート‼︎」

 

 

 放たれし金色の光線が、ガオキング・ダークネスに直撃した。最早、防ぎようが無い迄に決まった。

 

 

 ーグオオォォォォッ‼︎‼︎ー

 

 

 ガオキング・ダークネスは断末魔を上げ、轟音と共に炎上した。残されたガオハンター・イビルは再度、リゲーターブレードを振り回しつつ、ガオパラディンに迫る。

 

 

『魔性十六夜斬り‼︎』

 

 

 リゲーターブレードから繰り出される魔性の斬撃が、ガオパラディンを捉えた。だが斬撃が届く前に、動きが止まった。

 

 

『ボアーキャプチャー‼︎』

 

 

 ガオビルダーの鼻から放出されるエナジーによる拘束ロープが、ガオハンター・イビルを雁字搦めにしていた。

 動きを封じられ、ロープを引き千切ろうとガオハンター・イビルはもがくが、硬く縛られたロープはびくともしない。

 

「うおォォォォッ!‼︎」

 

 ガオグレーが叫ぶと、ガオビルダーは左手でロープを引っ張る。すると、ガオハンター・イビルは持ち上がり天へと投げ飛ばされた。ロープは外れ、ある高さまで飛んだガオハンター・イビルは落下して来た。

 

『殴打粉砕‼︎ ストロングブレイク‼︎』

 

 落ちて来た瞬間に、ガオビルダーは左腕で渾身のパンチを叩き込んだ。拳から放たれた一撃は、ガオハンター・イビルを再度、吹き飛ばす。が、爆発する瞬間にガオハンターは忽然と姿を消してしまった。

 

「ガオハンターが消えた⁉︎」

 

 ガオゴールドが驚愕しながら辺りを見回す。あるのは倒れ伏すガオキング・ダークネスだけだ。その時、ガオネメシスの声が響き渡った。

 

 

 〜フン…少しは腕を上げた様だな、ガオゴールド…そして、ガオグレーよ…‼︎ だが、それが貴様等の全力ならば到底、俺の敵では無いな…〜

 

 

「どう言う意味じゃ‼︎」

 

 ガオグレーが怒鳴り返す。ガオネメシスは不遜な態度で続けた。

 

 

 〜このガオキング・ダークネスは、本物のガオキングのデータを基に生み出したレプリカに過ぎぬ。そして、俺は今の戦いで力を半分も使っていない…〜

 

 

「半分……だって⁉︎」

 

 ガオビルダーの助力あってとは言え、ガオキング・ダークネスを操るガオネメシスは手強かった。それでさえ、ガオネメシスは殆ど、力を出し切っていなかったと言うのだ。

 ならば、真の力を発揮したガオネメシスは如何程に強いのだろう? 改めて、ガオゴールドは戦慄した。

 

 

 〜精々、足掻くが良い……狼鬼も、ガオハンターも我々の手中にある。我々の有利には変わらないのだ……。

 それにしても……紛い物とは言え、一度ならず二度も無様な敗北を喫するとは、精霊王の名に相応しく無い欠陥品め……貴様等、もう用は無い‼︎〜

 

 

 その刹那、燃え盛るガオキング・ダークネスに一筋の雷撃が落ちた。すると、ガオキング・ダークネスの身体は風化した彫像の如くヒビ割れ、ガラガラと音を立てながら崩れ落ちてしまった。

 

 

 〜次に貴様等と対峙する時は、そんな紛い物とは比べ物にならない、俺本来の”力’’で遊んでやろう……楽しみにしていろ……ハッハッハッハッ……!‼︎〜

 

 

 捨て台詞の如く、ガオネメシスは吐き棄てて声は聴こえなくなった。残された、ガオパラディンとガオビルダーは佇むばかりだ。

 

 

 

「…結局、大神さんを助けられ無かった……」

 

 夕暮れを見つめながら佇む陽と佐熊。己の不甲斐なさを呪うかの様に、自嘲するかの様に陽は呟く。

 

「心配要らん、陽‼︎ あのガオネメシスを倒しさえすれば、シロガネは元に戻る‼︎」

 

「……そうでしょうか?」

 

 そう言われても、陽には不安が拭い去れない。

 何より…あのガオネメシスの強さは未知数だ。未だに計り知れぬ力を持つ彼と、想像の範疇を遥かに超えているオルグ達……果たして、自分達だけで勝てるのか?

 

「元気を出して、陽‼︎ シロガネは必ず助けられるわ‼︎ 貴方達が最後の希望よ! 」

 

 後ろから、テトムも励まして来た。そうして、漸く陽は笑顔を見せた。

 

「ああ……そうだな‼︎ 僕達が諦めちゃ、大神さんもガオレッド達も助けられ無い! 闘うしか無いんだ‼︎」

 

「ハハハハ‼︎ よく言ったぞ、それでこそガオの戦士じゃ‼︎」

 

 陽の様子に佐熊も笑う。そうして、陽は佐熊を見た。

 

「大神さんを助ける為に…世界を守る為に…これからも宜しく、ガオグレー‼︎」

 

「ああ! 任せておけ、ガオゴールド‼︎」

 

 そう言うと2人の戦士は腕を交差し誓った。仲間達を助け、オルグ達を倒す……その思いを誓いにして……。

 

 

 〜圧倒的な力を見せ、ガオゴールドの見事に援護した新戦士ガオグレーと剛力の闘士ガオビルダー

 果たして、ガオネメシスの隠された’’力’’とは? そして敵の手中に堕ちた大神を救う事は出来るのでしょうか〜



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quest19 鬼が歌う‼︎

 鬼ヶ島の一室……ヒヤータは一人、鬼棋を指していた。

 口元を扇子で隠し、駒を進める。

 

「思いの外、やるわね……でも、此処までは全て計算済み……」

 

 ヒヤータはクスクスと、ほくそ笑む。

 

「問題なのは、ガオネメシスね……あの男は得体が知れないわ……」

 

 そう言って、鬼棋の駒の一つを持ち上げる。

 

「けど問題無いわ。ガオレンジャーもガオネメシスも……テンマ様でさえも、私の棋盤の上の駒同然……駒を活かすも殺すも私の采配次第……」

 

 ヒヤータは妖しく微笑む。そして、駒を置くと……。

 

「……狼鬼は此方側にあり、後はガオゴールドだけ……彼を如何するか……」

 

 彼女の言葉に反応して突如、思い付いた様にクスクスと笑った。

 

「ならば……’’地獄の歌姫’’に任せましょうか…」

 

 そう呟き、ヒヤータは後ろに控える狼鬼を語り掛ける。

 

「狼鬼、仕事よ。地獄の歌姫に同行し、彼女を補佐しなさい。ガオレンジャーが現れれば、闘うのよ。勿論、本気でね?」

 

「…御意…」

 

 狼鬼は感情の無い声で了承し、鬼門の中へと消えて行った。

 残されたヒヤータは立ち上がる。

 

「…さて…私も、そろそろ行動に移しましょう……」

 

 

 場所は変わり、とある一室では……。

 

「さァ、時間だ」

 

 スーツを纏った眼鏡の青年が、鏡の前に腰を下ろす少女に言った。だが、少女は浮かない顔で首を振る。

 

「私、もう嫌だよ……こんな事……」

 

「今更、何を言ってるんだ。君が此処まで売れっ子になったのは誰のお陰だ?」

 

 青年は厳しい口調で叱責する。少女は拳をギュッと握る。

 

「それとも昔の様な暮らしに戻りたいか? 周りの人間から罵声を浴びされ石を投げつけられる惨めな暮らしに……」

 

「………」

 

 少女は黙ったまま、涙を流す。

 

「君の歌を待ってくれている人が居る……それを裏切る訳には行かないんじゃ無いか?」

 

「分かってるよ……でも……」

 

「今や君の人気は右肩上がり……このまま流れに乗って、ファンを増やしていくんだ。君の歌に心奪われて、それこそ’’何でも従う’’忠実なファンをね……」

 

 眼鏡の青年は邪悪に笑う。少女は息が詰まりそうになるのを、必死に耐えている様子だ。だが、遂に少女は立ち上がる。

 

「分かったよ……行こう……」

 

「よし、それでこそ’’アイドル’’だ。さァ、ライブが始まる。今宵も君の歌で人々を酔わせてやるんだ」

 

 青年に急かされ、少女は部屋から出ていく。ドアに貼られたポスターには豪奢な衣装、煌めくばかりに満面の笑顔で歌う少女の姿が写し出されていた。

 

 

 

「ほら早く早く‼︎」

 

 竜胆市にあるライブ会場……其処で急かす様に、舞花は叫ぶ。

 

「……もう、舞花……はしゃぎ過ぎだよ‼︎」

 

 祈は息を切らしながら走って来る。

 

「だって待ち切れないよ‼︎ 今、大人気の少女シンガーアイドル『真魅』の単独ライブ! 倍率高過ぎて中々、チケット手に入らないんだから‼︎」

 

 舞花は興奮した様にチケットを見せる。

 

「でも、よく手に入ったね……それ、ネットオークションで買おうと思うなら目玉が飛び出るくらい、高額なんでしょう?」

 

「ふふ…昇さんがくれたんだ! 」

 

 舞花はぴょんぴょんと跳ねる様に話した。

 

「でも良いかな? 昇さんや猛さんも一緒に来る筈だったんでしょう? 今日のライブだって、猛さんが楽しみにしてたんじゃない」

 

「良いの良いの! 昇さんはバイトだし、バカ兄貴はテストで赤点だったから追試受けなきゃだし……折角、3枚あるチケットを無駄にしちゃったら勿体ないでしょ!」

 

「それで僕達を誘ったのかい?」

 

 祈の後ろから、陽がやって来た。

 

「そ、だって私も祈も中学生だもん。保護者同伴じゃ無いと、入れて貰えないのよ」

 

「成る程ね……でも、猛は気の毒だな。アイツが追っかけしてた子だし……」

 

 そう言いながら、猛の顔を思い出す陽。今日も、しきりにライブに行きたがったが昇に

 

「追試をサボったら、留年になるぞ」

 

 と一蹴され、泣く泣く諦めたのだ。

 

「ふふふ! だから、今日は目一杯楽しんでやるの! 兄貴には、後でライブの動画を見せてやれば良いし」

 

「もう、舞花ったら……」

 

「舞花ちゃんらしいね……」

 

 きっと今頃、悔し涙を流しながら追試を受けているであろう猛を若干、気の毒に思いながら陽は苦笑する。 

 陽本人も元々、アイドル等には興味が無かったが、祈と舞花に「偶には息抜きしなきゃ」と誘われ、参加したのだ。

 思えば、ここ最近はガオレンジャーとして戦い続けていた為、骨休みには丁度良いかも知れない。

 陽としては、オルグや大神の事が気掛かりだったが、テトムからも「楽しんで来れば良い」と言われた。

 パンフレットに写し出された少女の写真と挿入された見出しを、陽は何気無く眺めた。

 

 

 ー天才少女シンガー、始まりは動画投稿からだった 

 人生の苦境から立ち上がった奇跡のアイドル、真魅‼︎ー

 

 

 随分とデカデカ持ち上げた見出しだ。写真には満面の笑顔が眩しく楽しそうに歌う少女……年齢は自分と同年代か少し下か……。

 だが、陽に写真の少女から妙な違和感を感じずに居られなかった。理由は不明瞭だが……。

 

「ほら、もうライブ始まっちゃう‼︎」

 

 舞花に促された為、祈も陽の手を取って

 

「兄さん、今日は楽しもう?」

 

 と、声掛けた。久しく見る彼女の笑顔に陽も、今日くらいは戦いを忘れる事にした。

 

 

 

 3人が会場に入ると既に人が足の踏み場なしと言わんばかりに、ひしめき合っていた。

 暗いライブ会場内に、ライブが早く始まらないかと言う小声がヒソヒソと聞こえて来る。

 

「祈、大丈夫か?」

 

 足場が悪い為、祈が転ばないように気に掛ける陽。

 

「平気よ…兄さんこそ大丈夫なの?」

 

「うん……まぁね……」

 

 もう祈には、ガオレンジャーの事を隠す必要が無い為、包み隠さず話す様にしていた。

 陽が大神の事を気掛かりとしている事は祈も周知だった。

 だが、それ以上に陽の事を祈は心配していた。

 なるべく心配掛けない様に陽は気丈に振る舞うが、無理をしているのは祈にも察している。

 今日のライブに陽を誘う様に舞花に頼んだのも、祈が陽の気晴らしになれば、と考えた末だ。

 

「それでは、お待たせしました! ティーンズ世代から絶大な指示を受けるシンガーアイドル、真魅の登場です‼︎

 盛大な拍手で、迎えてあげて下さい‼︎」

 

 アナウンサーの言葉が響き渡る。すると薄暗い室内にてライトが舞台を照らす。幕が上がり、舞台の上に佇む小柄で可憐な少女が現れた。

 

「みんな〜‼︎ 今日は真魅のコンサートに来てくれてありがとう〜‼︎ 今日は最後まで帰らないでね〜‼︎」

 

 

「真魅ちゃーん‼︎」

 

「素敵〜‼︎」

 

「可愛い〜‼︎」

 

「こっち見て〜‼︎」

 

 

 観客スタンドから黄色い声援が轟いた。

 アナウンサーの言葉通り、観客は10代の男女、ちらほらと20代と思しき姿もある。幅広い、と迄は行かなくとも多くのファンから親しまれていると見える。

 現に舞花も真魅の姿に狂喜していた。

 

「真魅ちゃん、素敵〜‼︎ 」

 

 その姿は普段のボーイッシュな彼女とは思えない。陽は、驚いた様に舞花を見た。

 

「舞花ちゃんって、あのアイドルの事がそんなに好きだったんだ……」

 

 陽のポツリと漏らした言葉に、隣にいた祈も困惑していた。

 

「……私も初耳。舞花って、アイドルとか全く興味ない娘なのに……」

 

「どう言う事?」

 

 祈の不可解な言葉に陽は眉を潜めた。

 

「元々、真魅ってアイドルのファンだったのは猛さんだったの。舞花は最初は歯牙にも掛けない態度だったのに突然「真魅のライブに行きたい!」って言い出したのよ」

 

「突然?」

 

「そう。昇さんも、舞花が今日のライブに行きたいって言い出した時は驚いたって……」

 

 陽は周囲を見て回した。確かに言われてみれば、このライブ会場全体が妙な違和感を感じる。

 ファンに統一性が無い。あたかも、手当たり次第に真魅を好きになった様な……言い方を変えれば、にわかの集まりに見える。だが、誰も彼も彼女に対し熱狂的な声援を送る。まるで、何かに取り憑かれた様に……。

 陽は何か嫌な予感がした。そんな彼を尻目に。ライブは始まる。

 

「じゃあ、行くよ〜‼︎ 真魅のファーストデビューシングル『おにLOVEセンセーション』‼︎」

 

 真魅は歌い始める。そんな彼女に合わせ、ファンの皆は一糸乱れぬ応援を始めた。真魅は気持ち良さそうに歌い続け、ファンもそれに応えて合いの手を入れたり、声を裂ける程に金切り声を上げたりと、会場は騒音の渦だ。

 だが不思議な事に、陽は彼女の歌がまるで心に響かない。例えるなら、雑音を聴かされている様な不快感を感じる位だ。

 そして、祈も同様に歌を聴く度に、今にも吐きそうになる迄に青ざめていた。

 

「祈、大丈夫⁉︎」

 

 ただならない妹の様子に陽は語り掛けた。祈は気持ち悪そうに見た。

 

「兄さん……私、なんか気持ち悪い……」

 

 陽は祈の肩を抱いてやると、一先ず会場から出る事にした。

 舞花には「祈を医務室に連れて行く」と告げたが、熱中している彼女は上の空だ。

 一体感になりつつあるファンの間を潜り抜け、祈を連れて外に出た。

 

「どうしたんだ?」

 

 そう陽は、祈をベンチに座らせた。

 

「……分からない……ただ、会場に入る前から少し気持ち悪くなったの……歌を聴いていたら益々、酷くなって……」

 

 祈は不調の原因を訴えた。冷や汗をかきながら肩で息をする様子は急病なんかじゃ無い。

 何か別の……。とにかく、こんな所から一刻も早く出なくては! 陽がそう考えた直後……。

 

 

「お客様、困りますね。まだライブは始まったばかりですよ?」

 

 

 突然、声を掛けて来る眼鏡の青年。穏やかな様子だが、彼からも違和感を感じる。

 

「すいません、妹が体調を崩して…‼︎ 一先ず、此処から出してくれませんか⁉︎」

 

「それは困ります。ライブが終わる迄は誰一人と出す訳には参りません」

 

 キッパリと断言する青年に、陽はムッとした様に叫んだ。

 

「料金は要りません! それより其処を退いて下さい‼︎」

 

「やれやれ……分からない人ですね、貴方は……」

 

 青年は顔を両手で覆いながら言った。

 

「しかし……彼女の歌を聴いて不快感を感じると言う事は……どうやら、貴方達に歌の”支配”は効かない様ですね……」

 

「歌の……支配?」

 

 言ってる意味が分からない。だが、青年はニタァッと笑う。

 

「ククク……直接、聴いて頂きましょうかネェ‼︎‼︎」

 

 そう叫ぶと、青年の顔は歪みだし眼鏡がズレ落ちた。祈は悲鳴を上げて後ずさる。

 するとスーツが破れて身体が大柄になって行き、肩がせり上がって肥大化した。やがて人間の顔が鬼の様な形相となり、頭から二本の角が生えてきた。

 せり上がった肩は、スピーカーの様な形となった。

 

「オルグだったのか⁉︎」

 

「ヒヒヒ、その通り! ヒヤータ様の仰った通りだナ、ガオゴールド‼︎ このライブ会場そのものは別の意図があっての事だったんだが、本当に貴様も罠に掛かったネズミの如く引っ掛かって来るとは‼︎」

 

「クッ‼︎」

 

 このライブから発せられる違和感の正体は邪気だった。だから、陽は憂鬱な気持ちになったし祈も体調が悪くなったのか……!

 

「私は、スピーカーオルグ‼︎ ヒヤータ様の命令で街に潜伏し機会を伺っていたのサ‼︎ 街中で騒ぎを起こせば、目障りなガオゴッドに嗅ぎ付けられてしまうのでね‼︎」

 

「潜伏していた? 何の為に⁉︎」

 

「ヒヒヒヒ‼︎ 自分の目で確認してみな‼︎」

 

 スピーカーオルグが嘲笑う様に言った。陽はドアを開けて会場に入ると……。

 

 

 

「な……これは⁉︎」

 

 会場内は異様な空間と化していた。観客達は全員、倒れ伏し舞台上では真魅が一人、歌い続けている。

 

「皆……倒れてる⁉︎」

 

「舞花⁉︎」

 

 祈が舞花の下へと駆け寄る。舞花は倒れ、惚けた様な虚ろな目をしていた。

 

「舞花! 舞花‼︎ しっかりして‼︎」

 

「ヒィヒヒヒ‼︎ 無駄無駄ァ‼︎ 皆、歌の”毒”が回っている‼︎ オルグの歌がなァ‼︎」

 

「観客に何をした‼︎」

 

 陽は、スピーカーオルグを睨み付ける。スピーカーオルグは高笑いだ。

 

「だから言ったろう‼︎ 毒が回っている、ってナ‼︎ 彼女の歌う歌に乗って邪気が流される。並の人間には邪気を感じる事なく、見る見る邪気に身体を侵食されて行き、気付いた頃にはすっかり邪気に毒されてしまう‼︎ しかし、お前達は邪気を感じ取る事が出来た為、助かった様だナ‼︎」

 

「よくも……‼︎」

 

 あまりに姑息だが非道なやり口に、陽は憤りを見せる。

 陽は怒りに任せ、G -ブレスフォンに手を掛けた。だが……。

 

「無駄だァ‼︎ 此処は我々の張った邪気による結界で、お前達は無力なのだ‼︎ お前達は、自ら餌となる為に皿に乗った鳥だ‼︎」

 

 スピーカーオルグは狂った様に笑う。ガオゴールドに変身出来ないなんて……。これじゃ戦う事も出きない。

 

「フフフ‼︎ こう言う嗜好はどうかな⁉︎」

 

 突如、スピーカーオルグは自身の肩にあるスピーカー状の器官から、大音量で曲が流された。

 すると倒れていた観客達が動き出す。

 祈の手の中に居た舞花もだ。

 

「ま、舞花?」

 

 立ち上がった舞花は虚ろな表情のまま、立ち上がった。

 他の観客達も同様だ。

 

「ハハハハ‼︎ 邪気の毒が念入りに効いた様だナァ‼︎ 今や、こいつらは忠実な兵隊だ‼︎ さァァァ、ガオゴールドを殺せェェ‼︎」

 

 観客達は一斉に陽に襲い掛かる。皆、自我は無く操られるがままとなって、陽に暴行を加える。

 

「止めてェェェェ‼︎‼︎」

 

 祈は狂うばかりに叫ぶ。だが、その声は虚しく響くだけだ。

 歌によって心を狂わされた観客達には、彼女の悲痛な叫びは届かない。

 

「ハハハハ! 殺せ殺せェェ‼︎ ガオレンジャーを嬲り殺せェェェェ‼︎」

 

 スピーカーオルグは益々、音楽を拡大させた。

 陽に暴行を加える観客の中には舞花の姿もあった。

 

「クッ……‼︎」

 

 暴行されながらも、陽は抵抗する事が出来ない。ガオゴールドにさえ変身出来れば、スピーカーオルグを攻撃出来るが、今の陽はただの人間。ましてや、オルグでさえ無い民間人に攻撃する事は彼に出来ない。

 だが、このままでは陽は嬲り殺されてしまう。

 

「止めて……お願い……」

 

 祈は座り込んだまま呟く。目の前で兄が殴る蹴ると言った仕打ちを受け、其れを見ている事しか出来ないなんて……!

 自分は、余りに無力だ。操られた親友も人々も、望まれぬままに凶行を課せられているだけだ……。

 力が有れば……自分に彼等を救える力が有れば……‼︎

 

 

「もう止めてェェェェ‼︎!」

 

 

 祈は声高く叫ぶ。すると祈の頭の中が、カチッとスイッチが入った様に変わった。

 まるで自分の意思とは関係無い者が入ってきたみたいに……。

 その刹那、祈は立ち上がり手をかざす。すると彼女の手から光の波動が放出され、陽に殴り掛かる者達を吹き飛ばした。

 

「な、何だ⁉︎」

 

 スピーカーオルグは突然の事態に慌てふためく。

 操られていた観客達は、糸が切れた人形の様にドサドサと倒れた。

 

「い、祈…?」

 

 様子が違う彼女に、陽も我が目を疑った。

 今の祈は、何処となく神聖なオーラが身体を包み立っている様だ。

 

『下がりなさい、オルグよ。これ以上の狼藉は、私が赦しません‼︎』

 

 祈が発した声は祈の声では無い。まるで第三者が、祈の身体を借りて話しているみたいだ。

 

「な、何者だ!」

 

「私は……‼︎」

 

 と名乗ろうとした瞬間、フッと祈は意識を手放し倒れた。

 

「祈‼︎」

 

 陽は痛みを忘れ立ち上がる。祈に駆け寄るが、彼女は気を失っている様だ。

 その時、スピーカーオルグの怒りに震える声が聞こえた。

 

「何だか分からんが、奇跡は終わりだ‼︎

 真魅、歌え‼︎ もう一度、歌うんだ‼︎」

 

 舞台上に居る真魅に命令するスピーカーオルグ。だが、真魅は座り込んでいた。

 

「何をしている‼︎ 歌え、歌うんダ‼︎」

 

 座したまま動かない彼女に、苛立ちながらスピーカーオルグは怒鳴った。だが、彼女は力無く首を振った。

 

「もうヤダ……歌いたく……無い……‼︎」

 

「チッ……何時迄、駄々を捏ねる気だ! さっさとやれ、この”混血鬼”が‼︎」

 

 混血鬼……スピーカーオルグの発した言葉に、陽は訝しがるが、そう言ってられない。

 バックバンドや警備員に扮していたオルゲット達が一斉に姿を現した。更には……!

 

「狼鬼‼︎」

 

 陽は絶句する。狼鬼が、この状況で姿を見せたからだ。

 スピーカーオルグは、ニヤリとほくそ笑む。

 

「こうなりゃ計画変更だ‼︎ 狼鬼、ガオゴールドを殺せ‼︎」

 

「……御意」

 

 狼鬼は三日月刀を構え、陽に近付く。

 

「…大神さん…‼︎」

 

 陽は切に願う。狼鬼の中に眠る大神の意思に届く様に、と……。だが、狼鬼は無言のまま、三日月刀を振り上げる。

 

 

 ー止めなさい! 貴方は仲間に刃を下ろすつもり?ー

 

 

 突然に響いた声に狼鬼は三日月刀を止めた。

 まただ。また、あの声だ。途端に狼鬼は苦しげに呻く。

 

「俺は……俺は……‼︎」

 

 絞り出す様な声で狼鬼は唸った。大神の意思が蘇ろうとしているのだ。

 

「何をしている⁉︎ さっさとやらないか、狼鬼‼︎」

 

 スピーカーオルグは喚き立てるが、狼鬼は動かない。

 業を煮やし、スピーカーオルグ自らが動き出した。

 

「ええい、もう良い‼︎ オルゲット共、やれ‼︎」

 

「ゲット、ゲット‼︎」

 

 スピーカーオルグの命令に従い、オルゲット達が動き出す。

 その時……。

 

 

「ゴールド、無事かぁァァァ‼︎!」

 

 突然、閉じられていた扉が開かれた。すると、ガオグレーが室内に飛び込んできた。

 

「ガオグレー⁉︎」

 

「おお、生きとったか! テトムから邪気が密集しとる場所があると聞いて、飛んで来たんじゃ‼︎」

 

 ガオグレーの姿を見て助かった、と陽は安堵した。

 

「馬鹿なァ⁉︎ 何故、中に入れる⁉︎ 」

 

 スピーカーオルグは、ガオグレーの姿に驚愕した。

 

「貴様、よくもワシの仲間を……‼︎

 グリズリーハンマーァァァ‼︎」

 

 怒りに任せ、ガオグレーはグリズリーハンマーを振り下ろす。すると、会場は揺れて亀裂が生じ……崩れ落ちた。

 

「さァ、ガオゴールド‼︎ これで変身出来るぞ‼︎」

 

「ああ! ガオアクセス‼︎」

 

 ガオグレーに促され、陽はG -ブレスフォンをかざした。

 変身が完了し、ガオゴールドに姿を変える。

 

「く、クソォ! このままじゃ、ヒヤータ様に合わす顔が無い‼︎ やれ、やるんだ‼︎」

 

 スピーカーオルグは、オルゲット達をけしかけてきた。

 だが、ガオレンジャーに変身したならば、思う存分に戦える。向かってくるオルゲット達を敵では無い、とばかりに攻撃した。ガオグレーも、グリズリーハンマーで叩き伏せて行く。

 

「むゥ、マズイ! このままでは……!」

 

 形成を逆転され、慌てふためくスピーカーオルグ。これと言った攻撃手段を持たない為、戦闘はオルゲット達に任せる事しか出来ないのだ。

 

「オルゲット、あの娘を人質に取るんだ‼︎」

 

 ガオゴールドの妹を人質に取り、彼の弱体化を図る。それを了承したオルゲットは、気を失っている祈に飛び掛かる。

 

「祈‼︎」

 

 ガオゴールドは別のオルゲットを対処しながら、祈を助けに入ろうとするが間に合わない。ガオグレーも同様だ。

 その瞬間、今迄、不動を貫いていた狼鬼が動き祈に迫るオルゲットを斬り捨てた。

 

「ゲットォォォォ⁉︎!」

 

 オルゲットは吹き飛ばされてしまい、壁に衝突すると同時に泡となって消滅した。

 

「狼鬼⁉︎ 何の真似だ、裏切る気か⁉︎」

 

「………」

 

 狼鬼は黙したままだ。だが、その隙が、ガオゴールドに逆転のチャンスを与えた。

 

 

「竜翼……日輪斬りィィィ‼︎」

 

 ガオゴールドが放った斬撃が、スピーカーオルグに直撃した。致命傷には至らなかったものも、両肩のスピーカーを破壊する事には成功した。

 

「グアァァ⁉︎ クソ、何という事を……‼︎」

 

 スピーカーオルグは忌々しげに言った。だが、もうオルゲットも倒され尽くし、逃げる事は叶わない。

 

「ええい、かくなる上は……‼︎」

 

 追い詰められたスピーカーオルグは掌に黒い液体の入った容器を持った。

 

「く……此れが何か分かるか? オルグシードの成分を抽出した薬だ。コレを服用すれば……‼︎」

 

 そう言いながら、スピーカーオルグは飲み干す。

 

「グググ……グォォォ……‼︎」

 

 オルグシードを用いた時と同じ様に、スピーカーオルグの身体が巨体化して行った。

 

『グハハァ‼︎ こうなればヤケだ‼︎ 街をメチャメチャにしてやるぜェェ‼︎』

 

「ガオグレー、パワーアニマルを‼︎」

 

「よし来た‼︎」

 

 ガオゴールド、ガオグレーは各々、破邪の爪を構えた。

 

 

「幻獣

 百獣召喚‼︎」

 

 

 天に打ち上げられた宝珠が光り輝き、パワーアニマル達が召喚された。

 

 

「幻獣

 百獣合体‼︎」

 

 

 ガオドラゴンを始めとするレジェンド・パワーアニマル、ガオグリズリーを始めとするパワーアニマルが合体し、ガオパラディンとガオビルダーが誕生した。

 

 

「誕生! ガオパラディン‼︎

 ガオビルダー‼︎」

 

 

 二体の精霊王に、スピーカーオルグは再生された両肩のスピーカーから不協和音を流して攻撃するが、さしたるダメージは与えられない。

 

『ウウ…!何故だ、強化されている筈なのに…‼︎』

 

 スピーカーオルグは自身の強さがまるで強化されていない事に慌てた。しかし、すかさずガオビルダーによる強力な一撃がスピーカーオルグに見舞われた。

 

『グオッ……⁉︎』

 

 最早、勝負にすらなっていない。戦闘に適していないスピーカーオルグでは、巨体化した所で動きが怠慢になり、巨体故に攻撃の格好の的となりやすい。

 むしろ状況を悪くする結果に陥ってしまった。

 

「終わりだ‼︎ 聖霊波動! スーパーホーリーハート‼︎」

 

 ガオパラディンの胸部から放たれた金色の光線が、スピーカーオルグの身体を包み込んだ。

 

「ギィヤァァァ‼︎ ヒヤータ様ァァァ………‼︎」

 

 断末魔も虚しく、スピーカーオルグはチリも残らずに消滅してしまった。

 

 

 

 序盤とは打って変わり、余りに呆気ない最後に、陽は肩を空かした。

 

「手強い相手かと思えば……戦闘は大した事無かったな……」

 

 今回のオルグの強さは、個人の戦闘力より人間を支配すると言った厄介さにあったのかも知れない。

 

「油断は禁物じゃ。どうやら、これから戦うオルグは悪知恵の働く連中が多いかも知れん。ワシらも精進せねばな」

 

「そうですね……」

 

 佐熊の謹言に、陽も頷く。確かに今回は少数の人間だけで済んだが、次は大多数の人間が操られてしまうかも、と言う不安が陽を襲った。

 その際、祈達が目を覚ました様子だ。

 

「祈、大丈夫か?」

 

「私は大丈夫……オルグ達は?」

 

 祈は辺りを見回しながら、更地になっている……と言うより最初から何も無かった空き地を指して言った。

 

「ライブ会場も戦いが終わったら消えていたよ。どうやら、オルグ達の生み出した幻だったんだ。それより、祈……さっきのは一体……?」

 

「え? 何の事?」

 

 何が何だか分からない、と言う具合に祈は首を傾げた。陽は目を丸くする。

 

「何も…覚えてないのか?」

 

 さっきのは祈の意思じゃ無かった。なら、あの力は一体……。

 

「ムラサキの孫に聞いてみればどうじゃ? 何か知っとるかも知れん」

 

「ええ…そうです…ね」

 

「?」

 

 陽と佐熊の言葉に祈は益々、首を傾げたが、そうも言ってられない。気を失っていた観客達が目を覚ましたのだ。

 やはり彼等は何で、こんな空き地で気を失っていたのか分からない様子だ。

 取り敢えず、陽達は観客達の無事に胸を撫で下ろした。

 

 

 

 一方、鬼ヶ島では、ヒヤータは深い溜息を吐いた。

 

「やっぱり駄目ね。ま、最初から期待はしてなかったけど……」

 

 ヒヤータは扇子を仰ぎながら、狼鬼と真魅を見る。

 

「荷が重かったかしらね…。半端者の混血鬼では…」

 

「……私は……混血鬼じゃ……無い……」

 

 蚊の無く様な声で呟く真魅を、ヒヤータは扇子で頬を叩いた。

 

「私に口答えする気? 出来損ないの分際で…まぁ、良いわ。ガオゴールド達の気を引いていて貰う事が、今回の作戦の要だったし…一応は、成功した事にしておきましょう」

 

 と、彼女は虚ろな表情のまま立ち竦む真魅を放置して、狼鬼を見た。

 

「洗脳が切れかけているわね……やっぱり、野放しにしておくのは危険だわ…。あの可愛い顔の娘、何らかの手を打っておきましょう……」

 

 そう言って、ヒヤータは部屋を後にした。狼鬼も無言のまま、後に付いていく。

 

「私は…混血鬼じゃ…無い…」

 

 誰も居なくなった室内で、真魅はブツブツと念仏の様に繰り返した。

 

 

 〜ガオレンジャーに悟られない水面下での作戦を推し進めるヒヤータ。そして、祈の中に覚醒しつつある”力”とは?

 また、混血鬼とは何を意味するのでしょうか?〜



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quest20 刃がギラめく‼︎ 前編

「そう…そんな事が…」

 

 事の顛末を陽から聞いたテトムは眉根にシワを寄せる。

 

「あの時、祈に何かが乗り移った様に様子が変わって、ひかりの様な物が発せられたんです。そしたら、操られていた人達が気を失って……」

 

「……うーむ。ひょっとしたら、それは”神下ろし”かもしれんの……」

 

「神下ろし?」

 

 唐突に、佐熊が応えた。

 

「昔、ムラサキもやっていたのを覚えとる。パワーアニマルの魂を身体に乗り移らせて、巫女の口を借りて会話が可能としていたんじゃ。更に研磨すれば、パワーアニマルの有する力を行使出来る様になると言うが…」

 

「でも、それは高度な術よ。私だって、出来ないのに……」

 

「なら…どうして、祈が…?」

 

 陽は驚いた。テトムさえ行使出来ない高等な術…それが、神下ろし…。古来の日本では、巫師や祈祷師の身体に神を乗り移らせて予言を下す秘術があったとされる。

 有名どころが、邪馬台国の女王とされた卑弥呼だ。彼女も神の声を聞き、国を導いたと言われている。

 そんな力を何故、祈が行使出来たのか? そこが、陽には不可解だった。

 

「陽…貴方に話すべきか、悩んでいたのだけれど….」

 

 迷った様に、テトムは言葉を濁したが、この際だから言っておく事にした。

 

「初めて祈ちゃんと出会った時……彼女から、巫女の力の片鱗を感じたの。最初は気のせいだと思ったんだけど……でも、今の話を聞いて確信したわ…」

 

 テトムの言葉に、陽は困惑した。少なくとも、祈と共に過ごした此れ迄の日々から言っても彼女から、変わった様子は見受けられなかった。

 

「祈は一体……」

 

「生まれ変わり……」

 

 テトムは、ポツリと呟く。

 

「彼女は、ガオの巫女の生まれ変わりかも知れないわ……」

 

「生まれ変わりって、ムラサキのか?」

 

 佐熊は尋ねるが、テトムは首を振る。

 

「いえ…もっと前の巫女よ。おばあちゃんを先代とするなら先々代のガオの巫女、と言う方が正しいかしらね……」

 

「先々代、って何時代の巫女ですか?」

 

 陽は、先々代の巫女と言われてもピンと来ない。何しろ、佐熊や大神が1000年前のガオの戦士だと言われても実感が湧かないのだから、無理もない話だが…。

 

「遥か2000年前……人間の文明が成り立ち始めた頃……」

 

「2000年前か……ワシだって、まだ生まれとらんのォ…」

 

 サラッと凄い事を言い出したテトムに、佐熊は何気に返す。

 最早、どんな非常識な事態が起きても驚くまいとしていた陽だが、まだガオレンジャーには驚かされそうだ。

 

「私も、おばあちゃんに聞いた話でしか知らないけど、今以上にオルグ……当時は単純に鬼と呼ばれていたのだけど、彼等が跋扈する暗黒の時代があったの。

 オルグ達は欲望赴くままに、人間達を蹂躙し殺戮し、災いをもたらしていた……そんな時代に、ある日、突然に姿を現し世の全てのオルグを祓った巫女が居た……その巫女は、歴史上で初めてパワーアニマルと交感し、彼等と共に当時のオルグ全てを倒したとされるわ」

 

「オルグ全てを⁉︎ たった1人の巫女が⁉︎」

 

 陽は俄かに信じられない。まだ、ガオレンジャーさえ居なかった時代にて、たった1人でパワーアニマルを纏め上げ、その時代に居たオルグ達を全滅させたなんて……。

 

「その巫女、どんな人だったんですか?」

 

「それが分からないの…。その巫女の素性に付いては、全くと言って良い程、残されて居ないわ。

 ただ、彼女が存在したと言う事実だけが、歴代の巫女達に語り継がれているの…。

 おばあちゃんは言っていたわ…彼女の名前は『原初の巫女』と…」

 

 益々、分からなくなった。その正体不明の巫女は一体、何者なのか?

 

「それで? その巫女と陽の妹に何の関係が?」

 

 佐熊が話に入って来る。テトムは続けた。

 

「彼女が巫女の魂を受け継いでいる可能性があるの……正確に言えば、巫女の力をね」

 

「祈が、ガオの巫女の生まれ変わりだって?」

 

 陽は目を丸くした。自分の妹が、ガオの巫女の生まれ変わり?

 

「そんな馬鹿な! 祈は普通の…少し傷付きやすい女の子ですよ⁉︎ あの子が、ガオの巫女の生まれ変わりだなんて……」

 

 陽は現実を受け入れられない。可能な限り、祈をガオレンジャーとオルグの非常な戦いに巻き込みたくなかった。

 それなのに、祈がガオの巫女だなんて……。

 

「信じられないかも知れないけど……仮に彼女が、ガオの巫女の力を受け継いでいるなら今後、オルグ達は彼女を的に射かけて来る可能性が高いわ」

 

「そんな⁉︎」

 

「陽の話を聞く限り、まだ祈ちゃんは巫女の力を完全に覚醒していないわ。完全に力を使い熟せば、並のオルグは祈ちゃんに触れる事さえ出来なくなる。でも……まだ未成熟な状態である事をオルグに悟られたら、奴等は祈ちゃんの命を確実に奪いに来る。気付かれない様に注意しなさい」

 

 テトムの言葉に、陽は頭を抱える。今度は自分や友人の命だけでは無い。祈が、オルグ達に命を狙われる危険があるのだ。もし、自分のいざ知らない所で祈がオルグ達に出くわしたら? 駆け付けた時には、祈は物言わぬ屍になってるかも知れない。考えただけでも、ゾッとする。

 

「大丈夫だ。オルグ達が妙な真似を出来ん様に、ワシも目を光らせておく。お前さんの妹は、オルグ共に指一本触れさせん」

 

 佐熊は励ますが、陽は力無く頷いた。その様子を奇妙な目が、物陰から伺っていたのを3人共、気付かなかった。

 

 

 

「ふ〜〜ん。そう言う事……」

 

 ヒヤータは安楽椅子に腰掛けながら、ほくそ笑んでいた。

 ガオレンジャーの行動を逐一、知る為、ヒヤータは先程の戦いに乗じて”オルグ蟲”を付かせておいたのだ。

 蟲を通じて、ガオレンジャー達の会話も行動も筒抜けだった。

 

「貴方の言った通りね、ガオネメシス?」

 

 ヒヤータは後ろを振り返ると、ガオネメシスが立っていた。

 

「クク……ガオレンジャーも自分達の行動が、こちらに流れているとは夢にも思うまい」

 

「…それで? 私に、この情報を流してどうする気?」

 

 警戒心を解かずに、ヒヤータは尋ねる。

 策謀を得意とする彼女は、同時に用心深い。元々、全てがキナ臭いガオネメシスの存在を、ヒヤータは信用していない。

 そもそも、オルグですら無い彼を信用する等、無理な話である。

 

「どうもこうも……この原初の巫女の存在が我等、オルグの勝敗を決する。今、ガオレンジャーを応対しているのは、お前だ。この巫女を利用しない手はあるまい……」

 

「……」

 

 やはり、この男は一癖も二癖もある。自分も相当、狡猾であると自負はあるが、このガオネメシスはそれ以上だ。

 何を企んでいるのか……信用は出来ないが、確かに利用しない手は無い。この原初の巫女も…そして、ガオネメシスも…。

 

「ありがとう…中々、興味深い話だったわ…」

 

 艶やかに言ったヒヤータに、ガオネメシスは背を向ける。

 

「後は、お前の好きにするが良い…」

 

 そう言い残し、ガオネメシスは暗闇の中に姿を消した。残されたヒヤータは1人、思案に暮れる。

 

「……ニーコ!」

 

「はいはーい! お呼びですか、お姉様?」

 

 ヒヤータに呼ばれて、ニーコがヒョコッと姿を見せた。

 

「魏羅鮫をこれに」

 

「え……あの人、呼んじゃうんですかァ?」

 

 ニーコは気が乗らない様子だが、ヒヤータは無表情のまま…。

 

「気が進まないのは私も同様よ。でも、彼なら万が一の事があっても、私のお腹は痛まないわ」

 

「また捨て駒にしちゃうんですかァ? 」

 

「勝利には捨て駒が必要なのよ…それに…」

 

 無表情のまま、ヒヤータは駒を手に取る。

 

「不安要素となる芽は根を張る前に摘んでおくべきだと思わない?」

 

 そう言うと、ヒヤータが手に持つ駒は粉々に砕け散った。

 表情は変わらないが、眼は刃の様に鋭く冷たかった。

 

 

 

 次の日、リビングで陽は制服を着ながら祈の事を考えていた。

 今朝の祈は、何時もと変わらない様子だった。だが……彼女の秘密をテトムから聞かされた陽は、落ち着かない様子だ。

 祈が、ガオの巫女の生まれ変わりだったら……もし、そうなら今後、オルグ達の攻撃は祈に向いて来る恐れがある。

 果たして、自分に守り切れるか? 祈を助ける為に、他の人間に危害が及ぶ事となれば、自分は祈を見捨てなければならないのか?

 もう迷わない、と覚悟を決めた筈なのに……。

 

「兄さん…!」

 

 ふと、祈が隣に立っていた。憂いに満ちた浮かべながら見ている。

 

「あ…ごめん、祈……」

 

「兄さん、何かあったの?」

 

「いや、何も…」

 

「嘘! 」

 

 祈に心配かけまいと陽は咄嗟に嘘を吐いたが、嘘と見抜いた祈は若干、声を高くして叫んだ。

 

「昨日、兄さんが青い顔で帰って来たの知ってるのよ! 」

 

 見られてたのか……陽は苦み走った顔で唸る。

 途端に、祈は泣きそうな顔になった。

 

「……もしかして、私の事? 私が兄さんの戦いで足枷になっているの?」

 

「‼︎」

 

 痛い所を突かれた陽は目を丸くする。祈は、こんな時は嫌に鋭い。やっぱり、と言わんばかりに祈は涙を流す。

 

「兄さん……もう、ガオレンジャーとして戦うの止めて」

 

 突然に吐き出された言葉に、陽は呆然とした。

 

「……出来る訳ないだろ……」

 

 力無く陽は言い切った。今、自分がガオレンジャーを止めてどうなる? オルグの侵攻が進み、沢山の命が失われる結果になるだけだ。

 大体、ガオレンジャーとして深い場所に迄、足を踏み入れた陽は、もう中途半端に逃げ出す事は出来ない。

 それを聞いた祈は大粒の涙を流しながら叫んだ。

 

「兄さんが辛そうにしている姿を見せられる私の身にもなってよ‼︎ 私が兄さんの足枷になってるんじゃないかって思う方が、よっぽど辛いんだから‼︎」

 

 心の丈をぶつけて来る様に、祈は叫ぶ。陽は驚きの余り、目を丸くした。足枷? 何の話だ?

 

「僕は祈の事を足枷になんて思ってない。何を勘違いしているんだ?」

 

「……‼︎ そうじゃない……! 私はただ……兄さんの事が……もういい!」

 

 言葉を詰まらせながら、祈は走り去っていく。乱暴に鞄を引っ掴み、ドアを閉めて祈は出て行く。彼女の去った後、陽は眉間にシワを寄せながら、祈の言葉を思い起こす。

 

 

 〜兄さんが辛そうにしている姿を見せられる私の身にもなってよ‼︎ 私が兄さんの足枷になってるんじゃないかって思う方が、よっぽど辛いんだから‼︎〜

 

 

 自分の行動が祈を傷付けていたのか? それとも……? 陽は1人、自問自答を繰り返しながら暫く動く事が出来なかった。

 

 

 

 学校への路を涙を流しながら、祈は走った。

 まただ。また、陽に辛く当たってしまった。陽の事を気遣う筈が、自分の中に溜まりに溜まった鬱憤をぶつける結果になるなんて……。

 どうして、こんな事になってしまったんだろう? 自分と兄は穏やかに過ごしてきただけなのに……。

 つい最近まで、兄と幸せな日常を送っていた日々が懐かしい。もう、あの頃の日常には戻れないのか?

 

「おっはよ、祈!」

 

 向かい側の道から、舞花がやって来た。昨日、オルグ達に操られたとは思えない程、元気そうだった。

 彼女の姿に、祈は心配を掛けまいと涙を拭う。

 

「…おはよう、舞花…」

 

「どうかした? 涙なんか流して…」

 

 舞花が心配しながら、祈の顔を覗き込む。

 

「…ううん、何でも無いの…」

 

「何でも無い訳無いじゃん! 祈の悪い癖だよ? 何でも自分で抱え込んで、人へ掛かる負担の事を心配するの」

 

 舞花は、ビシッと指を指して来た。確かにそうだ…と祈は、しみじみ思う。陽に心配を掛けたく無いとして、辛い事や苦しい事を何でも無い、と誤魔化してしまう。

 

「…もしかして、陽さん…?」

 

「…うん…」

 

 こう言った時、舞花は確信を突いて来る。祈も深く頷くしか無い。

 

「喧嘩したの?」

 

「喧嘩したって言うか…私が一方的に怒っただけ…」

 

「そうなんだ……陽さんって優しくて理想的なお兄ちゃんな感じだからね……」

 

「うん……だから、私と同じで自分の弱みを見せてくれないから……時折、不満になっちゃう……」

 

 そう言った際に、祈はハッとした。私と同じ……そうだ、私だって舞花に気を遣って弱みを見せ無かった……。

 自分がされた事ばかりに気を取られ、兄にした事を棚に上げていた。

 

「…きっと、陽さんは祈の事が大切なんだよ。だから、余計に過敏になっちゃうんじゃ無いかな?」

 

 舞花の言葉に祈は黙したまま頷く。本当は分かっているつもりだ。陽の気持ちも、自分の幼さも……。

 陽は今頃、苦悩しているに違いない。帰ったら謝らなくては……。

 

「ほら、早く行かないと! 今日は朝練なんでしょ!」

 

 舞花の言葉に、祈は思い出した様に顔を上げた。

 

「あ、そうだった! 急がなきゃ‼︎」

 

 祈は慌てて走り出した。舞花も後に続く。そんな様子を憎々しげに見つめる少女が居たが、祈達は気付かなかった。

 

 

 

 学校に着いた祈は部活の道場に向かう。

 祈は剣道部に所属している。家庭の事情から不参加が多かったが、最近は再び通える様になったのだ。

 道着を身に纏い、道場に入って行く祈。既に部員は揃っていた。

 

「竜崎さん、久しぶりね」

 

 顧問の先生が親しげに話しかけて来た。祈は少し申し訳なさそうに……。

 

「長い間、不参加で申し訳ありませんでした、小手川先生」

 

「いいのよ。家庭の事情もあるしね。さて、これで全員かしらね?」

 

 小手川先生は部員を見通す。すると部員の1人が手を上げた。

 

「先生、峯岸さんがまだ来てません」

 

 それを聞いた小手川先生は、眉を潜めた。

 

「あら、本当……だれか聞いてない?」

 

 先生の質問に対して、祈を始めとした部員達は首を横に振る。すると剣道部部長の女子が言った。

 

「小手川先生。あの子、最近、増長し過ぎなんですよ。お灸を据えてやったらどうですか?」

 

 他の部員も、それに同意した。小手川先生も顔を顰める。

 

「確かにね……実力はあるんだけどね……」

 

 

「すいません、遅れました」

 

 

 道場に声が響き渡り、声の方角を見ると黒髪のボブにした道着の少女−峯岸千鶴が入って来た。

 

「ちょっと、遅刻よ! 朝練の時間くらい守りなさいよ‼︎」

 

 部長が怒りながら、千鶴を責め立てる。しかし、千鶴は悪びれる所か……。

 

「だから、謝ったじゃないですか」

 

 と、反抗的に応える。それに対して、部長は更に激昂した。

 

「なに、その態度⁉︎ あんた、本当に悪いと思ってる訳⁉︎」

 

「ちょっと垂水さん、落ち着きなさい!」

 

 険悪な空気となる2人の間に小手川先生が仲裁に入る。

 

「峯岸さんも、遅刻して来たんだから誠意を見せなさい! 」

 

 流石に顧問に叱責された事で、千鶴は不貞腐れながらも「ごめんなさい」と返した。

 そんな彼女の様子に、他の部員も苛立っていた。

 

「あの娘、何様のつもりなのかしら…?」

 

「剣術家の娘だか何だか知らないけど、鼻に掛けて…」

 

「自分が私達より優れてるって、天狗になってるのよ…」

 

 全員、千鶴に対しての不満な態度を隠さず、不平を言った。

 峯岸千鶴は、著名な剣術家を父に持ち、幼い頃から剣道に

 打ち込んできた。故に、中学生の部活動レベルである剣道部に対し、かなり斜めに構えた態度を取っていた。

 しかし、その態度に半し彼女の剣道に対する実力は本物である。それあって先輩達も彼女に対して強く出る事が出来ず、半ば泣き寝入りの状態だった。先輩達が、そんな様子である為、ますます千鶴は付け上がり、鼻持ちならない調子だった。

 ふと、千鶴は祈の姿を見つけた。

 

「あれ、竜崎先輩? 来てたんですか、とっくに辞めたと思ってたけど……」

 

 千鶴は小馬鹿にした様に、祈をせせら笑った。その様子に、祈はムッとした表情で言い返した。

 

「どうして、私が辞めなきゃならないの?」

 

「だって先輩、殆ど部活に来てないし…ぶっちゃけ、腕も落ちちゃってるんじゃないですか?」

 

 挑発する様に、千鶴はズケズケと吐き捨てる。祈は感情的にはならない迄も、無礼な態度を取る後輩に不快感を露わにした。

 

「ちょっと! 竜崎さんは、家庭の事情があって部活には参加出来なかったの! 知ってるでしょう⁉︎」

 

 祈に代わり部長の垂水が食ってかかった。だが、千鶴は高飛車な態度を止めない。

 

「私、前から納得行かなかったんです。ウチの剣道部って、実力重視で大会にも御用達でしょ? なのに、部活にも殆ど参加しない人が大会のレギュラーなんて、不公平だと思いません?」

 

「何が言いたいの?」

 

 祈は静かだが、怒りを滲ませながら尋ねる。千鶴は不敵な笑みを浮かべた。

 

「はっきり言いましょうか? 次の大会のレギュラー、私に代わって下さい。私が出た方が確実に勝てますから」

 

 あまりと言えば、失礼極まり無い物言いに、周りはカンカンだ。

 

「あんた、一年の分際で態度が大きいわよ! 竜崎さんは、あんたより前から剣道やってるじゃない! 図に乗らないでよね!」

 

「そうよそうよ‼︎」

 

 遂に部員全員が、抗議を始めた。だが、千鶴は全く態度を改めないで反対に…

 

「その一年に、一本も取れないで全敗している人は誰でしたっけ?」

 

「ク…‼︎」

 

 痛い所を突かれ、部員達は一言も反論出来ない。小手川先生も、遂に黙りかねて口を挟む。

 

「いい加減にしなさい! 剣道は力を競い合う為の物じゃ無いの‼︎ 礼儀を学び、相手を尊ぶ為の物! 貴方が言ってるのは、昔の辻斬りの理屈よ! 剣術家の娘の貴方なら、ちゃんと理解していると思っていたわ‼︎」

 

「先生、そう言うのは実力の伴う人間が言う事ですよ? それに、私はライバルとは常に対等で居たいんです。自分より劣る人と一緒に居たって、つまらないじゃないですか?」

 

 完全に舐めきった台詞だ。余程、自分の実力に自信が有るのか、相手を敬う気持ちが微塵も感じられない。

 それまで黙っていた祈は、遂に立ち上がる。

 

「峯岸さん……自分の実力を過信していると、今に痛い目を見るよ?」

 

 祈の言葉に、千鶴は初めて顔色を変えた。

 

「実力を過信? どう言う意味ですか? 私、竜崎先輩より強いって自負してますけど?」

 

「確かに、貴方は強いし実力も備わってる。でも、それだけじゃ無いよ。貴方より強い人はいっぱい居るし、私だって中途半端な考えで剣道やって来た訳じゃ無いから」

 

 淡々と的を射た発言に、千鶴は気分を害した様子だ。

 

「じゃあ、勝負しましょうよ‼︎ 私が先輩より実力が上だって事を証明しますから‼︎」

 

 プライドの高さ故に千鶴は祈の態度に腹を立て、その鼻っ柱を叩き折ってやりたくなったのだ。

 

「あんた、何言ってんの⁉︎ これは喧嘩じゃ無いのよ⁉︎」

 

「分かってます‼︎ 私だって、剣道をやって来た人間としての意地とメンツがあります‼︎ 此処まで言われたら、後には退けません! 先生、良いですよね⁉︎」

 

 千鶴は前言を撤回する気は、さらさら無いらしい。祈は困った様に…。

 

「私、そんなつもりで言ったんじゃ……」

 

「あれ? やっぱり私に負けて恥かかされるのが怖いんですか? だったら、レギュラーの座は私が貰いますし、先輩は私に無礼な態度を取った事を謝って下さいね?」

 

 消極的な態度の祈に対し、千鶴は嘲りを込めて言い放つ。

 

「……其処まで言うなら、一本勝負するよ。その代わり、私が勝ったら、先輩達に謝って」

 

「フフン、良いですよ?」

 

 とうとう、祈と千鶴は剣道の勝負をする事になってしまった。だが、その様子を外から伺う2人組……ツエツエとヤバイバである。

 

「おい、ヒヤータが言ってたのって……」

 

「ええ、あの子ね」

 

 そう言いながら、ツエツエは右手に持つ禍々しい気を放つ刀をチラつかせた。

 

 

 

 〜祈に傲慢な態度で勝負を挑もうとする少女、峯岸千鶴。

 そして、その様子をこっそり伺うツエツエのヤバイバの真意とは⁉︎ 彼女達が持つ刀は、何を意味するのでしょうか⁉︎〜



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quest21 刃がギラめく‼︎ 中編

 〜斬りたい…斬りたい…〜

 

 

 その昔、一振りの刀があった。それは水底を思わせる暗い青の鞘、鮫の牙を思わせる鋭利な鍔、魚の鱗の様なザラザラの柄をしていた。

 かつては名のある銘刀として名を馳せたが、数多の人の血を吸い、いつしか人斬り刀と恐れられた。

 それからも高名な剣客が腰に差し自身の得物としたが、剣客達は尽く不慮の死を遂げたり無念の最後に終わったりと、刀の持ち主達に災いをもたらした。

 刀は斬り捨てた人間達の怨念を吸収し何時しか妖刀と化して居たのだ。更には、持ち主となった剣客達の怨念をも吸収し妖刀の呪いは膨れ上がるばかりだ。

 それに比例し、妖刀の斬れ味は益々、高まっていった。

 妖刀に宿るのは斬られ命を落とした者達の無念、苦痛、そして最初に妖刀を腰に差した者の、狂おしいばかりの執念だった。その男は、人を斬る事に快感を覚えて刀が血を吸えば吸う程、己の力が高まっていくと信じて疑わなかった。

 何世代もの間に人から人の手に渡り、星の数程の人間の命を食い潰した妖刀は遂に封印され、人の目が届かぬ場所へと密閉された。

 だが、既に妖刀の中に巣食う怨念は自我を持ち始めた。

 かつての主人の狂気に沿ったかの様な自我は、人斬りの妖刀を何時しか、文字通りに’’人を斬る鬼”と化したのだ。

 特に妖刀は、穢れを知らぬ純情な生娘の生き血を好むと言う……。その呪われし妖刀の銘は……鬼羅刹の如し鮫の意味を込められ『魏羅鮫』と言う……。

 

 

「ふん……人の血を吸って鬼となった妖刀……か」

 

 竜胆市から外れた場所にある小さな祠……辺りには濃密な邪気が満ちており、明らかに尋常じゃ無い程の禍々しさが漂っていた。

 その祠の前に立つ異形の鬼…デュークオルグ『焔のメラン』だ。祠の横に立てかけてある看板には

 

 〜桐雨武獰斎(きりさめぶどうさい)、此処に眠る也〜

 

 と、記されていた。

 

「人を斬る欲求を抑え切れずに、目に映る者全てを斬り捨てられ挙げ句には、捕らえられ末に腹を切らされ斬首された。

 クク……人の身ながら、内に鬼が棲んでいた男……か。この男が生きている時に、是非とも手合わせてみたかったものだな……」

 

 メランは、ニヤリとほくそ笑んだ。

 彼は、オルグの本能とも言える凶暴さに加え、生粋の武人としての高潔さの二面性を併せ持つ。

 強者と闘いたいと言う欲求、己を高めんとする欲求が彼の本質であり、弱者を甚振る行為や策を弄する行為には一切、興味を持たない。ひいては支配欲も無い。

 目下、メランの狙いはガオゴールドとの決着。だが、発展途上のゴールドと闘っても詰まらない。今以上に強さを身に付けた彼と闘いたいのだ。 

 修羅の道を行く彼は、敵であるガオゴールドの成長を密かに楽しみにしていた。ふと、メランは祠の中を覗き見た。

 祠の扉は封印を破られ、中は乱雑に荒らされた跡があった。

 中には刀置きが置かれていたが、肝心の刀が無い。どうやら、何者かが刀を盗み出していった様だ。

 

「フン……誰の仕業かは、概ね見当が付くが……相変わらず手の掛かる茶番を好む女よ……」

 

 メランは、刀を盗み出した者は大方、オルグ達の仕業だと察した。しかも、こんな曰く付きの刀を利用する様な者など、世界広しと言えど、1人しか居ない。

 

「……ヒヤータめ……今度は何を企む気だ? だが、あの女に手柄を奪われるのもシャクな話だ……」

 

 そう言い残すと、メランは炎に包まれていき姿を消した。 

 

 

 

 竜胆中学の体育館では、防具に身を包んだ祈と千鶴が構えあっていた。祈に対し、反抗的な態度を取った千鶴が彼女に次大会に於けるレギュラーの座を掛けて、模擬試合を行う事になったのだ。

 

「いい? 先に一本取った方が勝ち! では始め!」

 

 小手川先生が立会人を務める。千鶴は先程の舐め切った態度はなりを潜め、真剣そのものな目付きで挑んでいた。

 

「(フン……剣道は遊び感覚でやる様な物じゃないのよ! 私が本気の剣道の技を教えてあげるわ…‼︎)」

 

 千鶴は見下した様に、祈を見据える。幼い頃から父親に剣道の手解きを受けていた千鶴は同年代は愚か、年上の門下生にさえも勝てる程の実力を有していた。当然、恵まれた環境下に置いての優れた指導も理由であったが、彼女には生まれついてからの剣道に対する天賦の才も持ち合わせていた。

 その為か、周囲から持ち上げられ特別視されて育った千鶴は、自身の実力に対し絶対の自信を持ち、やや高飛車で傲慢な性格となって行った。

 中学生の剣道部だって、自分にはレベルが低い。お遊び感覚でしか無く、遥かに実力が劣る部員達を千鶴は見下し蔑んでいた。

 にも関わらず、一年時に少ししか参加していない幽霊部員に等しい祈が、県大会のレギュラー陣に選ばれ、自分が外されたなんて侮辱でしか無い。

 だから、教えてやるんだ。真に相応しいのは自分1人だけだと言う事を。圧倒的な実力で叩き伏せてやれば、否応も無く理解するだろう……千鶴は、竹刀を握る手が強まった。

 対する祈は落ち着き払い、内心穏やかでは無い千鶴の前に対峙していた。その様子を見た千鶴は冷たく嘲笑う。

 

「(内心は私を前にビクビクしてる癖に……その生意気な態度、二度と取れない様にしてやる‼︎)」

 

 入学して剣道部の門を叩いた日から今日に至る迄、千鶴は祈に対し一方的な敵意を抱いていた。

 自分が入部する前から所属していた祈は大会に出場経験こそ無いが、部員から絶大な信頼を得ていた。

 聞けば彼女は休部する迄、一日たりとも練習を欠かさず先輩、後輩部員に対する気配りも完璧だった。

 顧問の小手川先生も祈の事を悪く言わず、寧ろ「あんな出来た生徒は居ない」と誇らしげに言っていた。

 ー馬鹿にしてる!ー 千鶴は、それを聞いた刹那、1人で噴気した。確かに認めるのはシャクだが、竜崎祈は誰に対しても優しいし優等生だ。先生や先輩が贔屓するのは分かる。

 だが、それだけじゃ無いか。剣道の実力なら、自分が優っている。にも関わらず、自分は周りから敬遠され、部活動も練習も疎かにしている祈が周りからチヤホヤされるなんて…。

 今日こそ、自分が彼女より上であると認めさせてやる! 千鶴は、そう決意していた。

 

「始めッ‼︎」

 

 小手川先生が声を張り上げた。千鶴は先手必勝、と言わんばかりに祈に攻めていく。祈は竹刀を動かさずに不動のままだ。千鶴は隙だらけである祈の面を狙い、竹刀を振り下ろす。だが、祈は彼女の竹刀を見切り弾いた。

 

「なッ⁉︎」

 

 千鶴は何が起きたか全く理解出来ない。今迄、大抵の相手はこれで決着が付いた。相手が動き出す前に行動し、面に一本入れる。それが千鶴の得意技だ。

 しかし、祈には自身の必殺の奇襲を防がれてしまった。

 

「ク‼︎」

 

 だが、千鶴にはまだ勝算がある。ならば、祈にとことん攻めいる迄だ。千鶴は、竹刀で祈に休む間も与えぬ位の攻撃を繰り出す。しかし、祈は千鶴の攻めに対し反撃せずに受け流すだけだ。体育館内を竹刀の乾いた音が反響した。

 

「やっぱ強いわ、あの子……!」

 

 遠巻きから2人の模擬試合を見ていた他部員は素直に、千鶴の実力を称賛した。

 

「でも、祈も凄いよ。峯岸の攻撃を全部、受け切ってるし……」

 

 部員の言葉に、祈が千鶴に反撃こそ出来ずとも攻撃を全て受け切っている事実を指摘する。

 実際、祈は千鶴に反撃出来ないのでは無い。敢えて反撃しなかった。下手に動いて互いに疲弊するのでは無く、千鶴のみに疲弊させる策に打って出たのだ。

 それには気付かず、千鶴は攻めに攻めて祈を追い詰めに掛かるが、当の祈は静かな動きで千鶴をいなすだけだ。

 いい加減に焦れてきた千鶴は一気にケリを付けに掛かった。小手も胴も面も隙は無い祈。ならば、自ら隙を作らせる!

 そう意を決した千鶴は祈の竹刀を逆に弾いて、その刹那に面を打つ作戦に移行した。幸いにも、祈は竹刀を下ろしたまま大して動作は無い。千鶴は祈の竹刀を横に弾いて、隙のできた面に目掛け、竹刀を振り下ろした。

 しかし、ここへ来て祈は初めて行動に移した。高々に竹刀を振り上げた千鶴の胴が露わになる。その隙を祈は見逃さなかった。

 

「胴ッ‼︎」

 

 千鶴が反応するより早く、祈の竹刀は彼女の胴に入った。祈の声と竹刀が防具を打つ音が反響する。

 

「胴ありッ‼︎」

 

 小手川先生が勝負あり、と告げた。他部員、千鶴は何が起こったか全く理解が追い付かない。一つだけ言える事は祈が勝った、と言う事実だけだ。

 祈は試合後の一礼を交わし竹刀を納めるが、千鶴は呆然としたままだ。

 

 

 

 試合後、小手川先生が面を取った祈に微笑み掛ける。

 

「素晴らしい返しだったわ、竜崎さん。とても、ブランクがあったとは思えない」

 

「うん、凄かった‼︎ やっぱり次の大会には竜崎さんが必要よ‼︎ ね、皆‼︎」

 

 垂水部長の言葉に他の部員も同意した。だが、そこへ面を外した千鶴がズンズンと迫ってきた。

 

「あんなの認めない‼︎ ただ相手の油断を誘った卑怯な騙し討ちじゃない! 正々堂々と戦っていたら、私が勝っていたわ‼︎」

 

 試合前の余裕に満ちた態度から一変、自分の敗北を受け入れ事が出来ない千鶴は取り乱しながら、抗議した。

 その様子に垂水部長は冷ややかに言った。

 

「見苦しいわよ、峯岸さん。誰が見ても竜崎さんの勝ちよ。貴方は敗けたの」

 

 その一言に千鶴は感情が大爆発した。祈に掴みかかり、激しく捲し立てた。

 

「あんな汚い勝ち方、私は認めないわ‼︎ 卑怯者‼︎ アンタ、恥ずかしくない訳? 私に正面から勝てないからって、小細工で勝つなんて剣道を志している人間に在るまじきよ!」

 

「止めなさい、峯岸さん‼︎ 竜崎さんに当たらないで‼︎」

 

 驚いた垂水部長や他部員は千鶴を取り押さえる。しかし、千鶴は顔を赤くしながら喚いた。祈は黙したままだが、千鶴にハッキリと言った。

 

「小細工なんて、してない。貴方の攻撃を受け切って、隙が出来たから胴を打った。それだけじゃ無い」

 

「それを小細工だって言ってるの‼︎ 私は、こんな低俗な試合なんかする為に剣道して来た訳じゃ無い‼︎

 先生、試合のやり直しを要求します‼︎ 正々堂々と戦って、今度こそ……‼︎」

 

 

「いい加減になさい‼︎」

 

 決着が付いて尚も敗けを認めない千鶴に対し、小手川先生は叱責した。

 

「何で貴方が大会のレギュラーに選ばれなかったか…何で貴方が竜崎さんに勝てなかったか…それが分からないの?

 確かに技量だけなら、貴方は竜崎さんや他の部員を優っている。でも、それだけに貴方は基礎とする鍛錬を日頃から疎かにしていた。竜崎さんは部活を休みながらも鍛錬は怠らなかった。それが、貴方の敗因よ‼︎」

 

 小手川先生の厳しくも的確な言葉に千鶴は、プライドをズタズタに傷付けられた。今迄、負けた事など無かった。師範であり師匠でもある父以外なら、千鶴は剣道に於いて黒星を付けられた事は一度も無い。

 だが今日、自分は敗北を喫してしまった。今日に至る迄に培ってきた自身の全てが否定されてしまったのだ。

 千鶴は口惜しさに身を震わせる。それを気遣う様に、祈は千鶴に手を差し出す。

 

「峯岸さん、貴方の実力は高いし私も正直に凄いと思う……でも、剣道は力を求める為じゃ無く心を鍛える為の物だと、私は考えている。だから……」

 

 そう言いかけた祈の手を、千鶴は乱暴に払い除けた。

 

「偉そうに説教しないで‼︎ アンタなんかに私の気持ちが分かる訳ないじゃ無い‼︎ 力を求めて何が悪いの? 私は弱かったら意味なんか無いのよ! 剣道を心を鍛える為とか言ってる甘ちゃんに、慰められたくなんか無い‼︎」

 

 そう叫んだ千鶴の目には涙が浮かんでいた。それを片手で拭うと、千鶴は手に持つ竹刀を叩きつけて逃げる様に体育館から飛び出していった。

 

「ちょっと峯岸さん、待ちなさい‼︎」

 

 垂水部長が、剣道を志す者としては命の次に大切な竹刀を無碍に扱った事に腹を立てるが、後を追おうとはしない。

 突然の事に硬直していた祈は我に帰り、飛び出して行った千鶴を心配して後を追いかけようとしたが、それを小手川先生が止めた。

 

「放っておきなさい。今、頭に血が上っている彼女に何を言っても火に油を注ぐだけよ。後で落ち着いたら私から、彼女に話すから……」

 

 そう言って、小手川先生は他部員に向かって朝練は中止、と言って解散を命じた。その後、片付けをしながら、他の部員は祈に嬉々として話し掛けて来た。

 

「ありがとう、祈! 私、胸がすうっとしちゃった! さっきの、あの子の顔ったら‼︎」

 

「峯岸さんって高飛車だし協調性は無いし、皆も嫌ってたの! 」

 

 千鶴の敗けを見て彼女達は晴れ晴れとしていた。しかし、祈だけは浮かない顔だ。

 

「私…峯岸さんの事、傷付けちゃったかもしれない……さっき泣いてたわ……」

 

 体育館から飛び出して行く千鶴の目には涙が浮かんでいた。

 それに対して、垂水部長は助け船を出す。

 

「竜崎さんが悪い訳じゃ無いわ。たまに居るのよ、自分を天才だと信じていたのに自分より上の人間に敗けて、それを認める事が出来ない人……あの子、道場の娘だからプライドが高くって、貴方に負かされたのが余程、応えたのね。

 でも、峯岸さんには良い薬だわ」

 

 そう締め括ったものの、祈には彼女の事が気掛かりで仕方無かった。ふと、彼女の投げ捨てた竹刀が転がったままになっているのに気付いた千鶴は彼女の竹刀の柄を見た。

 柄は手汗で滲み擦り切れていたが、それ以上に血がこびりついたのが分かった。

 

 

 

「すっごいじゃ無い、祈‼︎ 私も見たかったな、祈が生意気な一年の鼻柱をへし折る瞬間‼︎」

 

 昼休みに、事の顛末を聞いた舞花は興奮した様にはしゃいだ。今、学校ではちょっとした話題となっていた。

 剣道部の生意気な一年生が二年生に敗けて、体育館から逃げ出した……その二年生が祈の事だと分かると、舞花は興奮したのだ。

 しかし、祈は首を振る。

 

「あの子、ただ生意気な子じゃなかった。あの子の竹刀に血が滲み込んでいたもの……。きっと人知れずに努力していたんだわ……」

 

「でも竹刀を投げ捨てるなんて、最低じゃない! きっと、皆の前で恥をかかされたのが悔しかったんじゃない? 祈は悪くないよ!」

 

 そう言いながら、舞花は祈をフォローする。だが、祈には彼女の気持ちが痛い程、よく分かった。

 自分も同じ……陽の力になりたいのに、何も出来ない自分の弱さを怨んだ。そのやり場の無い怒りを、陽にぶつけてしまった。似て非なるが、祈と千鶴を状況は同じだ。

 

「で? やっぱり、あの子に謝るの? そう言うタイプの子からしたら、自分を負かした相手に謝られるの凄い屈辱的だと思うけど?」

 

「……だからこそ、謝らなくちゃ。峯岸さんには峯岸さんなりの努力があったんだから」

 

「ハァ……アンタって、そう言う所、律儀よね……」

 

 若干、呆れながらも舞花は親友に付き合う事にした。

 一年生に校舎にやって来た2人は歩いて来た一年生に話し掛けた。

 

「あの…峯岸千鶴さんのクラスって何組? 彼女に話したい事が……」

 

「峯岸さんは、ウチのクラスですけど……」

 

 一年生の女学生が、二年生である祈に応えた。だが、少しオズオズと答えた。

 

「でも……峯岸さん、今日、早退したんです。教室に来るなりカバンを持って、そのまま……先生も家に電話したら、まだ帰って来てないって言われたらしく、訝しんでいました……」

 

 それ聞かされた2人は、キョトンと顔を見合わせた。

 

 

 

 数時間前……千鶴は、トボトボと歩いていた。手にはカバンを持ち制服に着替えて……だが、家に帰る気は無い。

 こんな時間に家に帰れば、理由を両親に話さなくちゃならない。だが、それ以上に……彼女の胸中は、メラメラと黒い炎が立ち昇っていた。

 理由は、竜崎祈に対する怒りだ。自分を負かして、屈辱を味合わせた。これ迄、向かう所敵無しと順風満帆だった自分の経歴に傷が付けられた。

 

 ー悔しい……ー

 

 千鶴は溢れ出る涙を止める事が出来なかった。

 そもそも彼女が、此処まで強さに拘るのは理由がある。

 小学5年の時……父親と初めて真剣に勝負をした。剣道の師である父親には、一度も勝負を受けて貰えなかった。

 だからこそ、父親に勝負を受けて貰えた事は自分を認められた、と子供心ながらに千鶴は嬉しかった。例え、その時に負けたなら千鶴は、己を鍛え直す事に専念しただろう。

 だが、勝負は千鶴が勝った。父親に一本を取る事に成功したのだ。その時は単純に父親を超えた事を嬉しかったし、父親にも褒めて貰えた。

 だが、その後……千鶴は聞いてしまったのだ。他の門下生達が話していた言葉を……。

 

 ーさっきの試合、明らかにワザと負けたよな、先生ー

 

 ーやっぱり、自分の娘は可愛いって事だろ?ー

 

 ーどんなに腕が立っても、所詮は’’女’’だしなー

 

 門下生達の心無い言葉に千鶴は心底、傷付いた。手を抜かれた? 自分が、父に?

 何かの間違いだと、千鶴は父親に問い詰めた。すると、父は……。

 

 ー手を抜いた訳じゃ無い。ただ、お前はやはり’’女”だからな……本気を出す訳には行かなかったー

 

 その言葉に、千鶴は自分がとんだ道化だったと否応無く思い知らされた。強いと思っていたのは、自分だけだった。

 周りは、自分の強さに陶酔している自分を見て嘲笑っていたんだ……その時から、千鶴は強さに執着する様になった。

 男も女も関係ない! 自分が強い、と言う事を周りに理解させてやる‼︎

 そう決意した千鶴は、今迄以上に練習に精を出した。大会にも出場して好成績を収めた。強くなる自分を感じていた。

 でも……足りない‼︎ 私は、まだまだ強くなるんだ‼︎

 弱いから、祈なんかに負けた。だったら更に高みを目指してやる‼︎

 

 

「随分、荒れてるわね……」

 

 

 千鶴は、我に帰り声の方を見た。黒い服を着た如何にも怪しい女ーツエツエが愛想笑いを浮かべながら立っている。

 

「誰よ、貴方……」

 

「私、貴方のためになる御守りを……」

 

「押し売りなら、他所でやって」

 

 ツエツエに背を向ける様に、千鶴はスタスタと歩き去ろうとする。

 

「貴方……強さを身につけたいと思いません?」

 

 ツエツエの発した言葉に、千鶴は振り向く。

 

「強さを……身に付ける……?」

 

「ええ……こちらの刀を使えば……」

 

 ツエツエが差し出して来たのは、青い色の鞘にギザギザの鍔、ザラザラとした柄の日本刀だった。

 

「こちら『魏羅鮫』と申しまして、手にした者に絶大な力を与える素晴らしい刀です」

 

「……馬鹿馬鹿しい….…」

 

 何を言い出すかと思えば……刀を持って強くなれば世話無い。だが、ツエツエはニタァと笑いながら刀を差し出して来る。

 

「信じるか信じないかは貴方次第……では、これを貴方に差し上げます……」

 

「要らないわよ……こんな胡散臭い……」

 

 刀を突き返そうとするが、何時の間にか刀は千鶴の左手に握られていた。気が付くと、ツエツエは姿を消している。

 

「な、何よ……これ……‼︎ 気持ち悪い……」

 

 千鶴は刀を持っているだけで、陰鬱な気持ちに襲われた。

 不気味に感じて、刀を投げ捨てようとするが手から離れてくれない。

 

 

 〜……斬りたい……まだ、斬り足りぬ……〜

 

 

 千鶴の脳裏に不気味な言葉が響き渡る。すると、刀から禍々しいオーラが立ち昇り、千鶴の身体を包んでいく。

 

「……斬り……たい……」

 

 千鶴はうわごとの様に呟いた。だが、眼は虚ろになり彼女の意思は、感じられ無い。すると、千鶴の表情は邪悪な迄に歪んだ。

 

 

 

 放課後、祈は帰路に付いていた。今日は部活をする気分じゃ無かったからだ。その際も、千鶴の事ばかりを考えていた。

 途中で帰ってしまい、千鶴とちゃんと話す事が出来なかった。だから、彼女の家に寄るつもりだった。

 そう考えていた刹那、隣にある空き地に千鶴の後ろ姿が見えた。祈は、ホッと息を吐き、彼女に話し掛けた。

 

「峯岸さん‼︎」

 

 祈は声を掛ける。すると振り返った千鶴の目は真っ当な目では無く、ギラギラとまるで異常犯罪者の様な目付きだ。

 

「……き、斬りたい……」

 

 そう言って、千鶴は左手に持つ刀に手を伸ばす。祈は後ずさるが、既に手遅れだった……。

 

 

 〜これは一大事です‼︎ 妖刀に操られってしまった千鶴の凶刃がら、祈に迫る‼︎

 急げ、ガオゴールド‼︎ 祈は救えるのでしょうか⁉︎



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quest22 刃がギラめく‼︎ 後編

 放課後……陽は、久しぶりにバイト先へ電話を掛けた。

 ガオレンジャーとしての活動を始めてから殆ど、バイトに通えなくなっていた。恐らく今のままでは、まともにバイトを続ける事もままなら無い。バイト先の店長には「勉強が忙しくなった為、暫く休みを貰いたい」と話した。

 幸い、店長は話の解る人だった為、深くは追求して来なかった。そもそも「ガオレンジャーとして闘わなければならないから、バイトを休みたい」なんて話した所で、理解して貰えないだろう。

 携帯を切った後、陽は夕焼けに染まる小道を見つめる。

 朝、祈からぶつけられた言葉が、陽の耳から離れてくれないのだ。

 

 ーもう、ガオレンジャーとして戦うのを止めてー

 

 祈からしてみれば、辛い戦いに身を投じる兄を気遣って言ったのだろう。何より……兄を失いたく無い、と言う想いが強くなり過ぎて、あんな形でぶつけてしまったのだと思う。

 例え、そうだとしても自分は今更、戦いから手を引く訳には行かない。ガオレンジャーとして戦い抜く……そう決意した。自分が戦いから手を引けば、祈達にオルグ達の魔手が及ぶ事になる。そうならない為には、ガオゴールドとして戦わねばならない。だが……。

 

 同時に陽は不安となって来る。風のゴーゴとの戦いにて、初の敗北を味わって思い知った。自分も戦いの中で死ぬ事がある、と……。戦い抜く覚悟は決まっても、死ぬ事への恐怖は払拭出来ない。死は怖い。自分、他人に関わらず……。

 あの時、ガオネメシスの発した台詞が脳裏にこびり付いて離れない。

 

 ーもし、目の前で妹が同じ目に遭わされていれば、そいつを同じ目に遭わせてやりたいと願うだろう……ー

 

 万が一、祈が自分の目の前でオルグに殺されたら……自分は正常を保つ事は出来るだろうか…?

 そんな風に考えて居ると……陽は後ろから気配を感じた。

 

「‼︎」

 

 陽は気配と同時に身体を逸らす。すると、拳が自身の横を通り抜けた。続け様に蹴りが来るが、再び躱す。

 奇襲してきた者の正体を見極めんと、陽は目を凝らす。

 

「! お前は……‼︎」

 

 奇襲して来たのは、メランだった。陽の前に立ち、挑発気味に笑っている。

 

「久しぶりだな、ガオゴールド」

 

「何時の間に…全く、邪気を感じなかった⁉︎」

 

「我は、邪気を消す事が出来るのでな」

 

 メランは、ニヤリとほくそ笑む。陽は、G -ブレスフォンに手を伸ばした。

 このメランとは自分が最初期に戦い、二度に渡り決着が付かなかった謂わば、ライバルの様な関係にあった。

 

「戦いに来たのか⁉︎」

 

「馬鹿な。今、貴様に手を出せば、我はゲームから失格になる」

 

 身構える陽を尻目に、メランは肩を竦めて見せた。

 

「ゲーム?」

 

「オルグ同士で決まった事だ。誰が最初に貴様を倒すか……今、貴様の相手をしているのはヒヤータだ。だから、俺は手は出さん。そう言うゲームだ」

 

「人の命をゲームだと……! ふざけるな!」

 

 メランの命を軽視した発言に、陽は憤りを見せる。

 オルグに人間の価値観等、紙屑同然……相容れぬ対極にあるのだ。自分1人に的とするなら、まだしも……コイツ等は、無関係な人間の命さえも、ゴミ屑の様に扱う。そんな非道な行為を許す事は出来ない。

 

「ふ……怒るな。我も、弱い人間を狩る事に興味は無い。飽くまで、強者との闘い……それが、我の目的だ……」

 

「信じられるか……‼︎」

 

 陽は警戒心を解く事はしない。所詮、相手はオルグ……敵なのだ。信用出来た試しは無い。

 

「それならば、それでも良い。貴様が強くさえなってくれればな……」

 

「僕が強くなる事が、お前に何のメリットがある…⁉︎」

 

「大いにある。我は卵の殻を被った雛鳥の首を締める様な勿体ない真似はせぬ。貴様が充分に成長し、成熟した頃に喰らう……だが、今はまだ、その時期では無い」

 

「じゃあ、何をしに来た⁉︎」

 

 メランは、ガオゴールドである陽が強くなる事を望み、強くなった彼と闘う事を目的だと語る。

 だが、陽からすれば彼の行動は不可解だ。態々、敵に塩を送る様な真似をする彼の行動が……?

 

「分からんか? 貴様の首をヒヤータに易々と取られては、貴様と引き分けた我の面子に関わる。貴様に一つ、稽古を付けてやろうと言うのだ」

 

「稽古? 余計なお世話だ‼︎ 敵の助け等、受けるか!」

 

 稽古を付ける? どの口が言うんだ、と陽はメランに背を向ける。背後で、メランはクックッと含み笑う。

 

「それならば、それも良い。だが、これだけは言っておく。ヒヤータの策に踊らされている様では、オルグは倒せんぞ?

 我は愚か、ガオネメシスさえもな……‼︎」

 

 そう言うと、メランはパチンと指を鳴らす。すると、陽の行く道を炎が塞がれた。

 

「何の真似だ?」

 

「さっき敵の助け、と言ったが……勘違いするなよ? 貴様の言う通り、我は敵だ。貴様を助ける気など、さらさら無い。

 だがな……我は己と対峙する相手には同等であって貰いたい。今の貴様では、テンマと闘う前に死ぬのが関の山だ。

 貴様の意思など関係無い。我の狙い通りの敵と仕立ててやる……」

 

 そう言うと、メランは炎を剣に換えて陽に迫る。慌てて、陽は変身した。

 

「く……ガオアクセス‼︎」

 

 ガオゴールドへ変身し、メランの剣をドラグーンウィングで受け止めた。

 

「ほう……反応が鋭くなったな。だが……まだまだ温い‼︎」

 

 メランは満足そうに言った。しかし、メランは休む間も与えずに、ガオゴールドを斬り付けて来た。辛うじて、ガオゴールドは後退して躱す。

 

「技を受け止めただけで、安心するな。実戦では、剣道と違い敵は待ってくれん。

 それより、防御した敵の技を何倍にして隙のある敵を斬り付ける。それが’’返し技’’だ」

 

「か…返し技…」

 

 ガオゴールドは、メランを見ながら呟く。一方、メランは楽しそうに笑っていた。まるで、最高の玩具を手にした子供の様に……。

 

 

 

「み、峯岸さ…ん?」

 

 祈は、豹変した千鶴に壁際まで追い詰められていた。千鶴は手に持った魏羅鮫を、祈に突き付けて来た。

 

「斬りたい…もっと斬りたい…‼︎」

 

 千鶴の顔は明らかに異常だ。無表情だが、明確な殺意を感じる。ゆらりゆらり、と糸に操られた人形の様に魏羅鮫を振り上げる。

 

「斬り…たいィ‼︎」

 

 そう叫ぶと、千鶴は魏羅鮫を振り下ろした。間一髪、千鶴は横へ躱し、魏羅鮫は木で出来た柵に深々と突き刺さる。

 

「チッ……‼︎」

 

 千鶴は魏羅鮫を引き抜こうと万力を込め、引っ張る。祈は今の内に、と逃げだす。だが、刀を抜き終わった千鶴は魏羅鮫を振り回しながら追い掛けて来た。

 

「た、助けて……兄さん……‼︎」

 

 祈は携帯を取り出し、陽に助けを求めようとする。だが、走りながらであった為、携帯を取り落としてしまった。

 慌てて、携帯を拾おうとする祈だが、その携帯を刀を串刺しにして破壊してしまった。

 

「‼︎」

 

 祈は慌てて尻餅をつく。千鶴が魏羅鮫の先端に突き刺さった携帯を払い飛ばして立ちはだかる。

 

「や、止めて…峯岸さん…」

 

 ジリジリと迫る千鶴に対し、祈は嘆願した。だが、途端に千鶴の顔は醜悪に歪む。

 

「アンタなんかに……アンタなんかに私の気持ちが……分かる訳無い……‼︎」

 

 千鶴は苦しげに、言葉を吐き出す。同時に両眼からは涙が流れ落ちた。

 

「私はただ……認めてもらいたかった……‼︎ 道場の娘としてじゃなくて……峯岸千鶴として……‼︎」

 

 初めて、心の中にあった苦悩を千鶴は暴露した。

 自分の周りに集まる人間、自分を嫉妬する人間は何も峯岸千鶴個人を評価していた訳じゃ無い。

 道場の娘だから……女だから……そうやって特別視され、千鶴としての人柄や意志を尊重して貰えなかった。

 そんな不満や悩みが、千鶴の心に強く圧し掛かった。そして何時しか、周囲に認めて貰いたいと言う純粋な思いは、力をひたすらに欲求する悪い方向へと向かってしまった。

 祈は理解した。千鶴が日頃から取っていた傲慢な態度は、強さを求める彼女の精一杯の虚勢だった事を……祈は、涙を流しながら呟く。

 

「ごめんなさい、峯岸さん……私、貴方の苦しみを理解して無かった……今更、手遅れかも知れないけど……私は貴方と一緒に剣道を続けて行きたい……」

 

「ウウウ……‼︎」

 

 千鶴は激しく慟哭した。魏羅鮫に込められた邪気が、千鶴の精神を支配していく。すると、魏羅鮫の刃にまるで生物の様に血管が浮かび上がり、ビクンビクンと脈打つ。

 

「斬りたい…斬りたいィィィ!!!!」

 

 千鶴が叫びながら、魏羅鮫を振り下ろした。刀は祈の頭部を捉えた。祈は目を瞑るが……。

 

 その刹那、祈の腕を強い力で引っ張られた。魏羅鮫の刃は、コンクリートに深々と突き刺さった。

 

「祈……大丈夫⁉︎」

 

「鷲尾…さん…?」

 

 間一髪で、祈を救ったのは陽の同級生である鷲尾美羽だった。美羽は肩で息をしており、走って来たのが伺えた。

 

「どうして……?」

 

「貴方が、刀を振り回した女の子に追い回されてたから、慌てて来たのよ! 怪我は無い⁉︎」

 

 そう言いながら、美羽は祈に怪我がない事を確認すると強引に立たせた。

 

「走るわよ‼︎」

 

「え……でも……‼︎」

 

「良いから! 貴方を死なせる訳に行かないの!」

 

 美羽は戸惑う祈に喝を入れて走らせた。だが、刀を引き抜いた千鶴が追い掛けて来る。

 

「そこまでじゃ‼︎」

 

 千鶴の前に山伏の格好をした大男、佐熊力丸が立ちはだかった。手には六角棒を握り締め、千鶴の行手を阻む。

 

「これ以上、騒ぎを起こさせん! 暴れ足りんなら、ワシが相手じゃ!」

 

 そう言いながら、六角棒を千鶴に向ける。だが、千鶴は殺気を露わにしながら……

 

「邪魔をするなァァァ‼︎ アイツを斬らせろォォ‼︎」

 

 そう叫びながら、魏羅鮫で斬り付けて来た。佐熊は六角棒の受け止める。

 

「ぬぅ……何と言う力じゃ……女の力とは思えん……! この刀のせいか⁉︎」

 

 佐熊は、テトムから僅かな邪気を感じるとして駆け付けたが、敵はオルグでは無く人間。だが、彼女の持つ刀は禍々しい邪気を放っている。ただの刀では無い事は明白だ。

 

「人間であっては、ガオレンジャーとして戦う事も出来ん……! どうすれば……⁉︎」

 

 佐熊は迷いながらも、六角棒で斬り付けて来る魏羅鮫を受け流す。だが、遂に六角棒は真っ二つに切断された。

 

「ク……鉄の六角棒を……⁉︎ 斬れ味が異常じゃ‼︎」

 

「アアアアァァァ!‼︎!」

 

 そう迷っている間に、千鶴は佐熊の腹部を魏羅鮫で刺し貫いた。

 

「ぐふッ⁉︎」

 

「ハハハァァァ‼︎ やっぱり血の味は……堪らんなァァァ‼︎」

 

 千鶴から発せられた言葉は少女の声では無く、野太く荒々しい声だった。腹を刺された佐熊は、壁にもたれ掛かり座り込んでしまう。

 そうして、千鶴は佐熊を捨て置いて祈の追い掛けて行った。

 

「むゥ……ガオレンジャーとなっていれば……こんな怪我なんぞ……‼︎」

 

 そう悔しげに呻きながら、佐熊はヨロヨロと立ち上がり千鶴を追い掛けようとする……だが……。

 

「い…イカン…血を流し……過ぎたか……」

 

 佐熊は、そのまま足元に出来た血溜まりに倒れ伏した。

 

 

 

「ハァ…ハァ…‼︎」

 

 祈は美羽に手を引かれ、必死になって走った。千鶴は追い掛けて来ないのを見て、漸く美雨は手を離す。

 

「もう大丈夫ね……ごめんなさい、私のミスだね……もっと注意深く見張っておくべきだった……」

 

「わ…鷲尾さん…?」

 

 隣に立って謝罪する美羽を凝視しながら、祈は目を丸くした。

 

「貴方の’’力’’が目覚め切る迄は、私が守る……其れが、私の使命よ……‼︎」

 

「力……? 使命……? 何を言ってるの……?」

 

「貴方の中には’’ガオの巫女’’の力が眠っているの……其れを死守するのが私の務め……‼︎」

 

 美羽は、そう言いながら美羽の前に跪く。

 

「ちょ…鷲尾さん⁉︎」

 

「オルグに気付かれない為とは言え今迄、助ける事が出来ずに申し訳ありませんでした。貴方の兄、竜崎陽の力に甘えてしまっていた……‼︎」

 

 祈は耳を疑った。何故、美羽はガオレンジャーに関する情報を知っているのか? それを尋ねようとした時……。

 

 

「あらあらあら、逃げられちゃ困るのよ‼︎」

 

 

 その際、祈達の行手を阻む様に、ツエツエとヤバイバ、そして多数のオルゲット達が姿を現した。

 

「オルグ…⁉︎」

 

「待ち伏せしてたか…‼︎」

 

 美羽は、祈を庇いながらツエツエを睨む。

 

「オホホホ! ただの人間に何が出来るのかしら‼︎ 命が惜しければ、その娘を置いて逃げなさい‼︎ 逃げられれば、の話だけど⁉︎」

 

「ギャハハハ‼︎ このオルゲットの数、突破出来ねえだろ‼︎」

 

「ゲットゲット‼︎」

 

 確かに、祈を守りながらでは大軍であるオルグを躱すのは困難を極める。その際、千鶴が魏羅鮫を振り回しながら現れた。

 

「見つけタァァ‼︎ 」

 

 千鶴は、そう叫びながら、祈に迫る。前には、オルゲット達……後ろは、千鶴だ。正に『前門に虎、後門に狼』だ。

 美羽は庇う祈に耳打ちする。

 

「私の側から離れないで……命に換えても貴方を護るから……‼︎」

 

 そう言って、美羽は祈を護る為にオルグ達を果敢に睨む。

 祈は突然の事に混乱していたが、この瞬間、彼女の中にて’’とある力’’が目覚めようとしていた。

 

 

 

 ガオゴールドは、メランの繰り出す攻撃を防ぎつつも隙を見つけ出そうと躍起になっていた。

 だが、メランは一切の隙を見せず、ガオゴールドの攻撃を簡単に防いでは、反撃してくる。

 

「隙の無い敵に隙を探そうとしても無駄だ。敵に隙を作らせるんだ。この様に!」

 

 そう言いながら、メランは防御に徹していたガオゴールドの剣に重い一撃を与える。手が痺れ、危うくドラグーンウィングを取り落としそうになるが、辛うじてキャッチした。

 だが、その一瞬の隙を見せたガオゴールドに、メランは首筋目掛けて突きを浴びせる。

 何とか、身体を反り返して躱すガオゴールドだが、防御を崩されてしまった為、剣で連戟を繰り出して来る。

 

「どうだ! 防御に徹していた為、一度、崩されれば瞬く間に、攻撃を受けてしまう! 返し技を極めれば一見、勝機の無い戦いに於いても、負ける事は無い!

 一つ、コツを教えてやろう。敵の隙を作り出すには’’呼吸’’を知る事だ」

 

 メランは、あたかもガオゴールドに教えを授ける様に言い放つ。呼吸……これ迄、ガオゴールドとして戦う際、陽は付け焼き刃の我流にて戦って来た。人知を超えるガオレンジャーの力さえ使い熟せれば、オルグとも渡り合える…そう信じて来た。

 だが、実際にはメランやガオネメシス等の格上の戦士、ヒヤータの様な策謀に長けた知将、と言った者達を相手にすれば、ガオレンジャーの力さえも通用しない事が思い知らされた。

 ガオゴールドは、メランの言葉から敵の隙を見出す法を学んだ。確かに、メランは隙を見せない。ならば……。

 ガオゴールドは、ドラグーンウィングを下ろし防御を解いた。

 

「どうした⁉︎ 来ないならば、こちらから行くぞ‼︎」

 

 メランは防御を解き、無防備となったガオゴールドにトドメを刺さんとばかりに、剣を振りかぶり突進して来た。

 

「(隙が無いなら…隙を作り出す!)」

 

 ガオゴールドは、振り下ろされたメランの剣を二刀流とした右手のドラグーンウィングで受け流す。

 そして、左手のドラグーンウィングで、メランの首筋に突き付けた。

 ほう…と、メランは感心した様に、ガオゴールドを見た。

 

「どうやら、コツは掴んだ様だな。それが呼吸だ。敵の呼吸を知り、次にどう仕掛けるか先に読む。

 熟練すれば、腹に一物を抱える者を相手にしても、まず負ける事は無いだろう。後は、お前の鍛錬次第だ」

 

 そう言って、メランは剣を炎に戻す。ガオゴールドは、メランに尋ねた。

 

「何故だ、メラン? お前は、僕達の敵なのに……」

 

「勘違いするな、ガオゴールド……。貴様を倒すのは我だ。

 さっきも言ったが、貴様をヒヤータに倒されてしまっては、貴様と引き分けた我の誇りが傷付く。それだけは、何としても避けたい……それだけの事だ」

 

 メランは吐き捨てるに言った。彼にとって、ガオゴールドとの決着は、非常に重要な事なのだ。そもそも馴れ合いを好まず他者の下に付く事も嫌う彼が、テンマの傘下に入ったのは、ガオゴールドとの決着の為だ。

 ガオゴールドは、やはりメランとは分かり合う事は到底、有り得ないと理解した。

 

「だったら……次は敵として、お前と戦うさ」

 

「ふふ……そうで無くては困る。それよりも……お前の大切な者が危機に立たされているぞ……早く行ってやったらどうだ?」

 

「大切な者……?」

 

「……では、また逢おう……‼︎」

 

 それだけ言い残すと、メランは炎の中に消えていった。残された、ガオゴールドは再び路地に立っていた。その際、ヘルメットの中に、テトムの声が響く。

 

『ガオゴールド‼︎ 街中に、オルグが現れたわ‼︎ 急いで‼︎』

 

 その言葉を聞いたガオゴールドを察した。大切な者が危機に……祈の顔が浮かび上がる。

 ガオゴールドは一目散に走り出す。祈が危ない!

 それを遠方の屋根の上に立ち、一部始終を観察していたのはメランだ。

 

「強くなれ、ガオゴールド……。今より更に高みへ、我と対峙する場所まで昇って来い……」

 

 それは敵に対する挑戦とも……ライバルに対する激励にも似ていた。そうして、メランは炎に包まれ姿を消した。

 

 

 

「ハァ…ハァ…」

 

 美羽は息も絶え絶えとなりながら、襲い掛かる敵を必死に退けていた。魏羅鮫を構えた千鶴、オルゲット大多数、ツエツエとヤバイバ……戦闘力を持たない美羽や祈には強大な相手だ。

 ツエツエは不敵に笑いながら、美羽に迫る。   

 

「ほらほらァ! さっさと観念しなさいよ‼︎」

 

 杖を美羽に突き付けながら、ツエツエは言った。しかし、美羽は祈を庇い、決して動こうとしない。

 

「鷲尾さん‼︎ 私を置いて逃げて‼︎」

 

 祈は懇願した。自分を庇い続けた為、彼女は傷だらけだ。

 

「貴方を…死なせる訳に行かないの…‼︎」

 

 強い意志を持って、美羽は叫ぶ。そんな様子を、ヤバイバは嘲る。

 

「美しい友情かよ? 泣かせるじゃねェか。だが、ガオレンジャーですら無い、お前に何が出来る?」

 

「だ、黙れ……」

 

 美羽は、ヤバイバを睨み付ける。

 

「わ、私は……彼女を護る使命がある……‼︎ 彼女に指一本だって触れさせるものか……‼︎」

 

「‼︎」

 

 美羽の発した気に、ヤバイバは思わず仰反る。この気を、ヤバイバは覚えがある。かつて戦ったガオレンジャー達…その黄色の戦士に似ていた。

 幾度となく彼と戦ったヤバイバからすれば、オルグから見て”ただの人間’’である筈の彼女に、ガオの戦士が重なるのは異様でしか無い。

 

「ちょっと何を押されてるの、ヤバイバ‼︎ たかが人間でしょ⁉︎」

 

「わ、分かってるけどよ……こいつ……‼︎」

 

 人間相手に狼狽るヤバイバを、ツエツエは叱責する。

 だが、ツエツエも目の前にいる少女には違和感を感じていた。ガオの戦士ですら無い筈の人間……にも関わらず、オルグを前に恐怖する所か気丈な態度を崩さず、祈を守りながら自分達に迎え撃って来る。

 その際、業を煮やした千鶴が魏羅鮫を振り上げて美羽に斬り掛かった。

 

「うッ‼︎」

 

「鷲尾さん⁉︎」

 

 幸い反射良く躱した為、傷は浅いが祈を守っていた美羽は態勢を崩してしまった。

 それを見逃さず、千鶴は魏羅鮫を構え直し祈に刃を突き立てた。

 

「! しまった……‼︎」

 

 美羽は一瞬の油断から招いた不覚に、顔を歪めた。反対に、ツエツエは勝利を確信し、したり顔となる。  

 

「オホホホ‼︎ やったわ、これで初黒星よ‼︎」

 

 狂喜しながら、ツエツエは笑った。これ迄の失敗続きから、漸く脱出出来る。一方、千鶴は魏羅鮫のゆっくりと抜こうとする。

 が、刃は祈の身体から抜けずに微動だにしない。それどころか、祈は魏羅鮫を突き立てられたまま立ち上がり、千鶴の手に触れた。

 

『もう、止めなさい。貴方自身、苦しいでしょう?』

 

 祈は口を開く。だが、その言葉は神秘的で、何処か厳かささえ漂わせる。

 

「さ、触るな‼︎ 離せ‼︎」

 

 千鶴は祈の手を退かせようとするが……祈は手を離そうとはしない。

 

『貴方は刀に蓄積された邪気に操られているだけ……さァ、自分を強く持って……』

 

 祈は、理解出来ない言葉を呪文を発する。その途端、千鶴は魏羅鮫から手を放し、吹き飛ばされた。

 

「ああ…⁉︎」

 

 ツエツエは驚愕した。魏羅鮫を手放した千鶴は気を失ったが、先程迄の常軌を逸した姿では無くなっていた。

 祈は安心した様に、魏羅鮫を身体から抜き取る。彼女の身体には出血は愚か、傷一つ付いていない。その状態で魏羅鮫を再度、封印しようとするが……。

 

 

 〜封印など…されて溜まるか……〜

 

 

 邪悪に満ちた声が木霊する。刹那、祈の手にある魏羅鮫が勢い良く舞い上がる。

 

 

 〜この娘の抱く’’怒り’’は目一杯、吸わせて貰った……お陰で、漸く……この窮屈な刀から出る事が出来る……!〜

 

 

 そうすると、魏羅鮫はグニャグニャとあり得ない方向へ曲がり始める。そして、地上に降り立った魏羅鮫に重なる様に’’何か’’が浮かび上がり……。

 

 ’’それ’’は遂に姿を見せた。落ち武者に似たボロボロの甲冑姿、顔は般若の面の如し険しい表情、両腕は刀の刃と融合していた。

 

「我が名は魏羅鮫‼︎ 斬る為に生まれ、斬る為に存在する者よ‼︎ この刃が血に染まり切る迄、目に映る者全てを斬り捨ててくれよう‼︎」

 

 魏羅鮫に蓄積された邪気は千鶴の怒りを糧にして力を蓄え、オルグ魔人として復活した。

 かつての主、武獰斎の無念を晴らす為に……。

 

 

 ーガオの巫女の力を発現させ、千鶴を解放する事に成功した祈。だが、魏羅鮫は溜まりに溜まった邪気を暴走させて最凶のオルグ魔人となってしまった!

 ガオゴールドは、間に合うのでしょうか⁉︎



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quest23 登竜門を征く!

 オルグ魔人と化した魏羅鮫……右腕の刀を妖しく輝かせ、佇んでいる。その様子を遠方より眺めているのは、ヒヤータだ。

 

「あ〜あ、遂になっちゃいましたねェ。ツエツエちゃん達、死んじゃうかも知れませんよォ?」

 

 ヒヤータの横で、ニーコがクスクスと笑う。ヒヤータは、薄く微笑を浮かべる。

 

「あの2人も、腐ってもオルグだから自分の身くらい守れるわ。それに、言ったでしょう? 『私の、お腹は痛まない』って」

 

 他人事、と言った具合に、ヒヤータは言い放つ。

 

「あの娘が巫女の生まれ変わりを殺しても良し、オルグと化した魏羅鮫が殺しても尚良し…計画は、不確定要素に合わせて二重に采配しておくものよ……」

 

 そう言い残すと、ヒヤータは鬼門の中に消えて行った。ニーコも後に続く。

 

 

 

 魏羅鮫は刀を構え、ゆらりと歩み寄る。その様は落ち武者に霊の如く物々しく、険しい表情に青白い顔が不気味さを引き立てていた。

 

「嗚呼、嬉しや……もう2度と、人を斬る楽しみを味わえぬと思っていた。あの皮を裂き、肉を刻み、骨を断つ至高の感覚……それを再び、我が手で味わう事が出来ようとは……今日は、なんと良きよ……!」

 

 物騒極まりない発言を垂れ流しながら、魏羅鮫はゆらりゆらりと近づいて来た。美羽はただならない様子に戦慄した。

 肩には、グッタリとした祈を抱き寄せている。トランス状態から脱した彼女は、意識を手放していた。

 魏羅鮫は右腕の刀を振り上げ、斬り掛かってくる。美羽は辛うじて躱すが、先程に受けた傷と祈を庇うと言うハンデ故に、苦戦を強いられてしまう。

 

「オホホホ‼︎ 良いわよ良いわよ‼︎ 早く、その娘達を斬り捨てちゃいなさい‼︎」

 

 ツエツエは調子付いて、魏羅鮫に命令する。だが、魏羅鮫は恐ろしい形相で、ツエツエ達を睨み付けた。

 

「黙れ。拙者は誰の命令も受けぬ。己の斬りたい様に、斬るだけだ」

 

「え…⁉︎」

 

「おいおい、ツエツエ⁉︎ 話が違うぞ⁉︎」

 

 ツエツエとヤバイバは焦り始めた。ヒヤータの弁では、自分達に忠実に従う筈なのに……。途端に、魏羅鮫はオルゲット達を手当たり次第に斬り捨て始めた。

 

「ゲットォォォォ⁉︎⁉︎」

 

 オルゲット達は斬られ、泡となり消えていく。ツエツエは杖を構えて呪術を唱えた。

 

『現世に迷いし邪なる鬼の魂……今、荒ぶる魂を……』

 

「ふぅん‼︎」

 

 ツエツエの呪術を遮る様に、魏羅鮫は刃で杖を弾き飛ばした。

 

「邪魔をするな! 拙者は、ただ斬る‼︎』

 

「ヒィ……‼︎」

 

 ツエツエは恐怖に慄く。ヤバイバも同様である。

 

「クソ……反逆してくるなんて、知らなかったぞ‼︎ ヒヤータの奴、俺達まで騙しやがったな‼︎」

 

 漸く、ヤバイバはヒヤータに一杯、食わされた事に気が付いた。魏羅鮫は構う事なく、目に映る者全てを斬り始めた。

 

「……ヤバイバ、逃げるわよ‼︎」

 

「……おう‼︎」

 

 2人は後は知らない、と言った具合に逃走した。残された魏羅鮫は、美羽に狙いを定める。

 美羽は祈を庇いながら、魏羅鮫と対峙しなければならなかった。武器らしい武器は無い。極め付けには、意識の無い祈と千鶴を連れていると言うハンデ付きだ。

 追い詰められた美羽は歯軋りする。

 

「(今、力を解放すれば……でも……‼︎)」

 

 そう考えながら、美羽は意味深に左腕を撫でた。

 

 

 

 ガオゴールドは必死になって走った。さっき迄、感じなかった邪気が、ひしひしと伝わって来る。

 きっと強力なオルグが姿を現したのだ。メラン曰く、祈が危ないとの事だ。

 その際、アスファルトに付着している赤い液体に目が止まった。

 

「これは……血痕⁉︎」

 

 嫌な予感が胸を過ぎる。祈の物でなければ良いが……心臓が早鐘に様に鳴るのを抑えつつ、ガオゴールドは血痕を辿る。

 血痕は辿れば、辿る程に量と濃さが多くなっていた。かなりの深傷を負っているに違いない。

 ふと、血痕は右角を曲がって落ちているのに気付き、ガオゴールドは右折した。すると、壁にもたれ掛かる人物が居た。

 

「佐熊さん⁉︎」

 

 血痕の主は、佐熊力丸だった。服の上から分かるくらいに血が滲んでいるのが見える。壁を見ると、もたれ掛かった際に付着した多量の血痕が、彼の重篤さを物語っていた。

 

「佐熊さん! しっかりして下さい‼︎」

 

 彼の体を揺すって呼び掛けるが気を失っているらしく、佐熊は微動だにしない。血を流しすぎたらしく、肌は石の様に冷たい。

 ガオゴールドは、仲間の危機に気付かずに居た己の浅はかさを呪った。

 と、その際に佐熊は激しく咳き込みながら目を覚ました。

 

「さ、佐熊さん! 気が付いたんですね‼︎」

 

 安堵した様に、ガオゴールドは言った。佐熊は苦しげに顔を歪ませつつも、ゴールドを見た。

 

「ご…ゴールド…。スマン…油断した…」

 

「オルグにやられたんですか?」

 

 ゴールドの問いかけに、佐熊は首を振った。

 

「違う…人間の娘に……」

 

「に、人間……?」

 

 何を言ってるのか? ガオゴールドは首を傾げる。すると、彼の側に生徒手帳が落ちているのに気付いた。

 拾い上げ読むと……。

 

「峯岸……千鶴?」

 

 自分は知らない生徒だ。だが、中学校と制服は祈と同じ学校の物だ。

 

「ぐゥ……‼︎」

 

 佐熊は呻く。良く見れば血は未だに流れ続けており、足元には真新しく血溜まりが出来上がっていた。

 このまま放っておけば、佐熊は失血死してしまうかもしれない。

 

「‼︎ とにかく、佐熊さんを病院に……‼︎」

 

 ガオゴールドは先に、佐熊の傷を手当てする方が先決だとし、佐熊の傷口の止血に掛かる。だが、佐熊は……

 

「わ、ワシの事は心配するな……それよりも、オルグの方を….」

 

 寄り掛かろうとするガオゴールドの手を、佐熊は振り払う。

 

「何言ってるんですか⁉︎ 仲間を見捨てる訳に行かないよ‼︎」

 

 尚も食い下がろうとするガオゴールドだが、佐熊はゴールドの胸倉を掴んで怒鳴る。

 

「何時迄、甘い事を言っとる⁉︎ これは遊びじゃ無い‼︎ 命を賭けた戦いじゃ‼︎ 戦いの中で命を落とす事など当然……そんな覚悟も無く、ガオの戦士になったんか⁉︎」

 

「さ、佐熊さん……‼︎」

 

 ガオゴールドを睨む佐熊の目は、長きに渡る戦いを切り抜けてきた歴戦の戦士、加えては経験豊富な先輩としての厳しさに満ちていた。

 

「オルグをのさばらせておけば、罪の無い人間達の血が流れる……それを未然に防ぐのが、ワシらの務めじゃ…!

 ガオゴールド、行け……‼︎ 例え、ワシが死んでも……ワシの屍を越えて行けェェ……‼︎」

 

 強く、そして激励する様に佐熊は言った。

 ガオゴールドは、突然に起こった大神の脱退から仲間を失う事に恐怖を覚えていた。

 それ迄は自分を含め、他者の死を受け入れるには精神的に未成熟だった陽。だが、ガオゴールドとしての戦い、ガオレンジャーの使命、そして佐熊の叱責が、未だに一般人と戦士の狭間にて揺れ動いていた不安定な陽の足場を、固めつつあった。

 

「分かりました‼︎ 佐熊さん……どうか死なないで……!」

 

「大丈夫……伊達に1000年、生きとる訳じゃ無い……これ位でくたばらんわ……」

 

 佐熊は、ガオゴールドを追い払う様に急かした。

 知っている仲間は皆、死に絶えて孤独となった佐熊力丸……だから、それ以上に彼の内には戦士としての信念、矜恃が残されている。今尚、未練に足をすくわれているガオゴールドを奮い立たせるに至った。

 意を決したガオゴールドは、佐熊に背を向けて走り去っていく。覚悟を決めたであろう若き戦士の背に、佐熊は心の中で語りかける。

 

「(ゴールド……繰り返すぞ? ワシの屍と共に、己の甘さを乗り越えて行け……。これから先の戦いは流れ落ちる滝を登りきれん’’鯉’’では、耐えられん。

 滝を登り切れ….‼︎ 滝を登り切って……竜門に入り……本物の’’竜’’となれ……‼︎)」

 

 そう言い残すと、佐熊は静かに目を閉じて意識を手放した。

 

 

 

 魏羅鮫は刃に血を滴らせながら、壁を背にしてもたれ掛かる美羽を見下ろしていた。

 祈を庇いながら逃げ切っていたが、その間に複数回、斬られてしまった。最早、立っている事も精一杯だ。

 

「ふふふ、良いな……人を斬り付ける感触は、何とも甘美な物よ……事に女子供の柔肌が、刃に斬り刻まれていく感触……これ以上の快楽等、考え付かぬ……」

 

 下衆な感想を漏らしつつ、魏羅鮫は呟く。

 本来の持ち主の邪悪な一面に当てられた影響か、はたまた長きに渡り蓄積された怨念が、そうさせたのか……。

 兎にも角にも、魏羅鮫から滲み出る邪気は尋常じゃ無い迄の殺意、そして狂気を醸し出していた。

 

「脆弱な人間は、ただ黙ったまま斬られて居れば良いのだ……」

 

 その言葉に対し、美羽はキッと魏羅鮫を見据えた。

 

「邪気に操られるだけの操り人形が……人間を舐めるな……」

 

 虫の息になりながらも、オルグに対する敵意を絶やさない美羽に対し魏羅鮫の顔は憤怒に満ちた。

 

「虫ケラが……この魏羅鮫を侮辱するか……。

 じわじわ、殺してやろうとするのが望まぬなら、それも良かろう。ならば、人思いに一刀の下、地獄に堕としてくれる」

 

 そう言い放つと、魏羅鮫は右腕の刃を振り上げる。美羽は悔しそうに顔を歪ませた。

 せめて、ガオレンジャー達が来るまでの間、時を稼ぎたかった。祈を確実に守れるだけの時間を……。

 

「そうだ……その顔……! 絶望と苦悶に歪ませ、苦しみ足掻く末に見せる顔……その顔に刃を突き付ければ……これ以上に至福はあるまい……‼︎」

 

 そうして、魏羅鮫は刃を美羽の顔に目掛け勢い良く振り下ろす。美羽は最早、これまでか……と目を閉じた。

 だが、その腕に必死にしがみ付く影があった。

 

「斬らせない……絶対に斬らせないから‼︎」

 

 祈だ。丸腰のまま、魏羅鮫の腕に縋り付き動きを止めたのだ。

 

「い、祈⁉︎ 無茶よ、離れて‼︎」

 

 美羽は傷の痛みを忘れ、叫ぶ。だが、祈は魏羅鮫から離れない。

 

「……もう嫌なの! 私を守る為に、誰かが傷付くなんて……‼︎ それを指をくわえたまま見ている事しか出来ないなんて……もう沢山なの‼︎」

 

 祈は決死の思いで叫ぶ。何時も、自分は守られてばかりだ。

 その為に、陽や自分以外の人間が傷を負い苦しむ羽目となる。そんな事は、祈には耐えられない。

 彼女の悲痛な考えが、無駄だと分かりつつも行動させた。

 

「く……‼︎ 離さぬか、この小娘が‼︎」

 

 魏羅鮫は刀を腕ごと押さえつけられ、振り下ろす事が出来ない。だが、残った片腕で強引に祈の首を掴み引き離した。

 

「がァ…ァ……‼︎」

 

 オルグの握力で首を絞められ、祈は抵抗も出来ずに締め上げられてしまう。魏羅鮫は自由となった刀のある右腕を、祈に向けた。

 

「くくく……自分から死にに来るとはな……‼︎ そんなに死にたければ、貴様から殺してやる‼︎」

 

「や、止めろ……‼︎」

 

 美羽は傷の為、動く事が出来ない。だが、か細い声で魏羅鮫に制止を呼び掛けた。

 

「其処で見ていろ‼︎ この娘の次は貴様だ…‼︎」

 

 魏羅鮫は残酷な笑みを浮かべ、祈を見上げる。右腕の刃は逆光を受け妖しげに輝く。刃先に付着した美羽の返り血が、獲物を狙う猛獣の涎の如く、たらりと流れ落ちた。

 

「心の臓を、肋骨や脊椎と共に刺し貫いてやろう。

 痛みは一瞬だ。直ぐに何も感じなくなる……」

 

「う……ぐゥ……‼︎」

 

 祈は激しくもがくが、首を絞められている為、指先に力が入らない。意識を手放してしまいそうだ。

 

「(に……兄……さん……助け……て……‼︎)」

 

 意識が途切れそうになりながらも、祈は兄の顔が浮かぶ。

 何時も、そうだった。自分が辛い時や苦しい時は、側に居てくれた。陽が、自分に吹き付ける向かい風を払っていてくれた。だが、現実は正直かつ無情だ。今まさに、自分の命が尽きようとする現実しか無い。

 

「さァ……死ぬる最後の一瞬に見せる血の花を……撒き散らせ‼︎」

 

 遂に、魏羅鮫を凶刃が祈の胸を捉えた。

 

 

「止めろォォォォ!!!!!!」

 

 

 美羽は力のあらん限りに叫んだ。だが……その刃は祈の華奢な身体を柔肌の上から刺し貫いた……。

 

 

「ぐあァァァッ!!?」

 

 

 木霊する悲鳴。だが、それは祈のものでは無い。他ならぬ、魏羅鮫のものだ。魏羅鮫は祈を掴んでいた左手を離した。

 

「ゲホッ…ゲホッ‼︎」

 

 漸く自由にされた祈は首を抑えながら、咳き込む。当の魏羅鮫は左手を振り回していた。

 

「左手が……左手がァァァ……⁉︎」

 

 魏羅鮫の左手は、まるで茹で滾った熱湯の中に浸けたかの様に焼け爛れていた。じゅうじゅう…と肉が焼ける様な擬音が響き、溢れ出す緑色の体液が地面を汚した。

 

「な、何で…?」

 

 祈は薄目を開けながら、苦しみもがく魏羅鮫を凝視した。

 何故、魏羅鮫の手が焼け爛れたのか? 何が、彼に傷を負わせたのか? 祈は理解出来なかった。

 

「小娘がァァ……何をしたァァァ!⁉︎」

 

 悪鬼の如し形相で、魏羅鮫は憎悪に吠える。痛みに耐えながら、尚も刃を振り下ろそうと迫るが……。

 

 

 

 

 …ゴキィッ!!

 

 

 

 

 骨を砕く様な鈍い音が響き渡る。それと同時に、魏羅鮫は弾かれた様に2m程も、吹き飛ばされた。その先にあるコンクリートの石壁に衝突し、小規模なクレーターが出来る程だ。

 倒れ伏す魏羅鮫を見下ろす様に立つのは、金色に輝くスーツと竜を模したマスクを着用した戦士……ガオゴールドだ。

 

 

「に、兄…さん…」

 

 直ぐに、其れが兄だと祈には理解った。涙で視界がぼやけるが、間違いない。紛れも無い陽だ。

 

「祈‼︎」

 

 ガオゴールドは振り返り、倒れている祈を抱き寄せた。

 

「来て…くれた…」

 

「ッ…‼︎ 当たり前だ…‼︎」

 

 ガオゴールドはマスクの下で、激しく後悔した。

 奴等の狙いは自分じゃ無い、祈だった……。思えば、自分と祈の接点を見出したオルグ達は、祈に狙いを定める事くらい容易に想像出来た筈……それなのに……。

 

「ごめん…ごめんな、祈……僕がしっかりしていれば、こんな事には……‼︎」

 

 つくづく自分の愚かさに腹が立ってくる。祈を守る筈が、その守るべき彼女を危険に晒してしまった。

 何が、地球を守るだ。何が、ガオレンジャーだ。妹一人、守れなくて何が……。陽は、マスクの下で涙を流す。

 

「泣かな…いで……兄さんの…せいじゃ無いよ……」

 

「もう良い…喋るな…」

 

 兄を気遣う様に、祈は気丈に振る舞う。だが、その健気ささえ、陽には苦しかった。

 

「信じ…てたから…兄さんが…きっと助けに…来てくれるって…」

 

「もう良いって…言ってるだろ…‼︎」

 

「兄さん…」

 

 マスクの下で泣き続ける陽。そのマスクの口元にあたる部分に、祈はキスをした。まるで泣きじゃくる子供を母が慰める様に…。

 

「兄さん…大好き…」

 

 祈は陽への自身の想いを打ち明けた。兄として…そして一人の男性として…陽に抱き続けた想いを込めて…そうして、祈は気を失った。

 

「…祈…‼︎」

 

 陽/ガオゴールドは、祈を優しく寝かせた。其処へ這う這うの体で美羽が近付く。

 

「…ガオゴールド…祈は私が…」

 

 どうして、この場に美羽が居るのか? ガオゴールドは、そんな些細な疑問を、かなぐり捨てた。

 

「ああ…頼むよ…」

 

 それより、今のガオゴールドの中には…大切な人を傷付けたオルグに対する明確な怒り…ただ、それしか湧いて来なかった。

 

 

 

「ぐッ….貴様ァ…‼︎」

 

 ガオゴールドに盛大に殴り倒された魏羅鮫は立ち上がる。

 目はギラギラと血走り、爛れて使い物にならなくなった左腕を右腕の刀で斬り落とした。すると、腕の中から生える様に刀が出現した。

 ガオゴールドは、スクッと立ち上がる。

 胸中は、目の前に居るオルグへの憎しみの炎がメラメラと燃え上がる。コイツは、何処から湧いて来たんだ?

 何で、こんな奴に祈を傷付ける権利がある?

 様々な自問自答が繰り返される。だが、それも束の間….ガオゴールドの中で、何かが切れる音がした。

 そう…理性の切れる音が…。

 

 

「ガアァァァァァッ!!!!!」

 

 

 ガオゴールドは獣に似た雄叫びを上げ、魏羅鮫に向かっていく。ドラグーンウィングもガオサモナーバレットも要らない。拳のみで……それで充分だ。

 

 魏羅鮫は迎え撃つ敵の放つ凄まじい闘気、ひいては殺気に気圧された。両腕の刀で斬り掛かろうと振り下ろすが、ガオゴールドは腕を斬られた事も介せず、魏羅鮫の首を押さえつけると地べたに押し倒し、馬乗りになった。

 

「ガアァッ! ガアアァッ‼︎ ガアアアァッ!!!」

 

 怒りに我を忘れ痛覚さえも遮断してしまう。右拳を振り上げ、魏羅鮫の顔面に叩き込む。次は左拳、続いては右拳を……。

 狂った様に吠えながら、ガオゴールドは魏羅鮫の顔面を幾多と殴打した。バキッ…ビキッ…と、嫌な音が砕ける音と、ゴールドの咆哮だけが響いた。

 

「殺してやる‼︎ お前を殺してやる!!!」

 

 明確な殺意を剥き出しにし、呪詛の言葉を吐き散らしながら、ガオゴールドは魏羅鮫に拳を叩き続けた。

 ガオスーツの恩恵が有るとは言え、強固なオルグの皮膚を叩き続ける内に、手袋が裂け血が吹き出した。赤と緑の血が混ざり合い、アスファルトに散り飛ぶ。

 それでも尚、ガオゴールドは我武者羅に殴り続けた。

 これ迄の、オルグに対する怒り、大神を奪ったガオネメシスへの怒りをぶつける様に……やり場の無い怒りを、拳に乗せてぶつけた。

 やがて、魏羅鮫は動かなくなる。だが、辛うじて生きている様だ。顔は、度重なる暴行を受けて見る影も無い位、潰れていた。

 しかし、ガオゴールドは許さなかった。立ち上がり、ドラグーンウィングを取り出した。足は、魏羅鮫の腕を刀の有る腕を踏み付け、ドラグーンウィングでもう片方の腕を縫い付けた。

 

「まだ生きているのか……ゴキブリ並、いや…それ以上の…しぶとさ…醜さだな‼︎」

 

 吐き棄てる様に言い放つガオゴールド。右手には、ガオサモナーバレットを握り、銃口を向けた。

 

「貴様みたいな奴は…消えて無くなれ….‼︎」

 

 常軌を逸した様子で、ガオゴールドは引き金に指を掛ける。

 たが、魏羅鮫はニィィ、と口角を吊り上げた。

 

「何が、おかしい⁉︎」

 

「拙者を殺すか……殺せ。憎しみに支配され拙者を殺せば良い……そして、負の連鎖は繰り返されるのだ……」

 

「この期に及んで……‼︎ 望み通り、殺してやるッ‼︎」

 

 感情に任せ、引き金を引こうとした刹那……。

 

 突然、ガオサモナーバレットに小さな火球が衝突し爆発した。手先に痺れが走り、油断したと同時にバレットを手落としてしまった。

 それを見計らった魏羅鮫は、ガオゴールドを足で蹴り飛ばし後退させた。縫い付けてあった腕を強引に外し、ドラグーンウィングを外し叩き付けた。

 

「…ハァ…ハァ…」

 

 ガオゴールドは再び、魏羅鮫と睨み合いながらも今、自分は怒りに囚われ、魏羅鮫に隙を与えていた。

 ガオゴールドの本質は優しさ…だが、それは裏を返せば、大切なものを守る為なら、自ら進んで修羅と化す危うさもある。其れでは、ガオレンジャーとは言えない。オルグと寸分違わなくなる。魏羅鮫は、ニヤリと笑う。

 

「憎しみに囚われていたな? その憎しみで、拙者を殺せば良かったものを……良い事を教えてやる。ほんとうに憎い敵を仕留める術は……そいつを心の底から憎む言葉だ」

 

 挑発する様に、魏羅鮫は言った。その言葉に、ガオゴールドは腹わたが煮え繰り返る様な、身体の芯からザワザワとして来るのを感じた。

 魏羅鮫は自分を怒らせようとしている。乗せられちゃ駄目だ。

 ガオゴールドは隙を探った。魏羅鮫には右も左も、上も下も隙は見当たらない。呼吸だ…オルグの呼吸、己の呼吸…其れを知り、魏羅鮫の動きを探ろうと試みる。

 両腕の刀…例え、剣にて一撃を加えようとも防がれてしまうだろう。ならば……。

 ガオゴールドは連結させたドラグーンウィングを構え、魏羅鮫の懐へと突っ込んで行く。

 

「はははァ‼︎ 自ら死を選ぶかァ⁉︎ 」

 

 魏羅鮫は高笑いしながら、刃を振り上げて来る。

 ガオゴールドが、魏羅鮫の足元に立ち止まった刹那、両腕の刃が斜め十字状に降りて来た。その瞬間、ガオゴールドは大地を蹴って迫り来る刃の間を擦り抜け、飛び上がった。

 

「ヌゥ⁉︎」

 

 魏羅鮫は、ガオゴールドを追って見上げるが遅かった。ドラグーンウィングを両手で握りしめ、重力と共に落下した。

 

 

「竜天……地裂‼︎」

 

 

 ドラグーンウィングの刃が、魏羅鮫の脳天から下半身に迄、達し唐竹割りを行った。

 

「ぐ…が…あァ……‼︎」

 

 魏羅鮫は断末魔を上げながら、身体前半分がパックリと断裂し緑色の血を吹き出しながら、うつ伏せに倒れ伏した。

 アスファルトに緑色の血が流れて、血溜まりとなって行く。

 ガオゴールドは立ち上がり、ドラグーンウィングに付着した血糊を払う。

 一時、感情に呑まれてしまいそうになったが、結果的には思い留まる事が出来た。ガオゴールドは安堵する。

 

【ゴールド⁉︎ 聴こえる⁉︎】

 

 ヘルメット内に、テトムの声が響く。

 

「ああ、何とか倒したよ……」

 

【そう…良かった…。こっちも、力丸と祈ちゃんを保護したわ! 祈ちゃんは気絶しているだけだし、力丸は出血が酷かったけど一命は取り留めたわ!】

 

 その言葉を聴いて、改めてガオゴールドは胸を撫で下ろした。

 祈も佐熊も無事だった……ガオゴールドも、仲間達と合流しようと歩き出すが……。

 

 

 ー……まだ……斬り足りぬ……ー

 

 

 突如、響き渡る禍々しい声に、ガオゴールドは振り返る。

 倒した筈の魏羅鮫が立ち上がっていた。顔は真っ二つに両断され夥しい量の血が流れるが、魏羅鮫は立っていた。

 

「……生きていたのか⁉︎」

 

 ガオゴールドの叫びに応えるかの如く、魏羅鮫は片腕の刀で自身の腹を裂いた。

 

「ぐげッ‼︎」

 

 呻き声と同時に裂かれた腹から、血の代わりに目に見える程の濃密な邪気が溢れ出した。邪気はもうもうと舞い上がり、魏羅鮫の身体を覆い尽くして行く。やがて、量の増えた邪気は更に肥大化して行き、遂には人の形を成していった。

 

 

「ハアァァ……‼︎」

 

 

 やがて、邪気が晴れると巨大なオルグ魔人と化した魏羅鮫が出現した。魏羅鮫は両腕の刀をギラつかせ、笑う。

 

「全てを斬る‼︎ 斬って捨てる‼︎」

 

 最凶にして最悪の剣豪は高らかに宣言する。ガオゴールドも、拾い上げたガオサモナーバレットを構える。

 

「魏羅鮫‼︎ お前の好きにはさせない‼︎ 今度こそ、決着を付けてやる‼︎

 幻獣召喚‼︎」

 

 そう叫ぶと、銃口から放たれる3つの宝珠。召喚されたガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンが舞い上がり、合体していく。そこへ、ソウルバードに搭乗したガオゴールドが吸収されれば…。

 

「誕生‼︎ ガオパラディン‼︎」

 

 ユニコーンランス、グリフシールドを装備した聖騎士ガオパラディンが、魏羅鮫の前に対峙する。

 魏羅鮫の刀による斬撃をグリフシールドで受け止め、ユニコーンランスを突き出す。

 だが、邪気が堅牢な鎧と化している為、ダメージを与えられない。反対に、もう片方の刀でガオパラディンを斬り付けて来た。

 

「ぐッ⁉︎」

 

 非常に重く鋭い斬撃を受け、コクピット内のガオゴールドは仰反る。悔しいが、一発一発の攻撃による威力は魏羅鮫の方が上だ。しかも、邪気に守られている以上、必殺のホーリーハートも通用しないだろう。

 邪気による守りの上から、強力な一撃を叩き込めれば……。

 

 

【ゴールド‼︎ 聴こえるか⁉︎】

 

 

 コクピット内に、佐熊の声が響いた。

 

【ワシは怪我のせいで戦闘に加われんが、コイツ等の力を使え‼︎】

 

【ゴールド、送るわよ‼︎】

 

 テトムの声と共に、台座の上に宝珠が2つ、転送された。

 

「分かりました‼︎ 百獣武装‼︎」

 

 すぐ様、ガオゴールドは台座に宝珠をセットした。すると、ガオユニコーン、ガオグリフィンが分離し右腕にガオボアー、左腕にガオリンクスが合体した。

 

 

「誕生‼︎ ガオパラディン・ストロングアーム」

 

 

 〜剛の力を持つパワーアニマルを武装する事で、パワーに特化した聖騎士が誕生します〜

 

 

「今更、無駄だァ‼︎ この刃の錆としてくれる‼︎」

 

 魏羅鮫は刀を振りかざし、ガオゴールド・ストロングアームに斬りかかる。だが、ガオボアーの右腕で繰り出したパンチが刃を打ち、叩き折ってしまった。

 

「な、なんだ…と…⁉︎」

 

「凄いパワーだ‼︎」

 

 ガオゴールドは驚愕する。続け様に、ガオリンクスの左腕でボディーブローを繰り出し、魏羅鮫にダメージを与えた。

 

「ぬぐ…ァァ⁉︎」

 

 思い寄らない奇襲に、魏羅鮫は怯む。残った刃で、ガオパラディンに斬りかかるも、ガオリンクスで受け止め、魏羅鮫の腕を捻じ上げた。

 そのまま、ガオリンクスの顔が回転し刀を捻り切り、両方の刀を破壊するに至った。

 

「よし、今だ‼︎」

 

 攻撃する手段を奪い、弱体化した魏羅鮫は悪足掻きとして体当たりを仕掛けるが最早、抵抗する術は無い。

 ガオパラディンは右腕のガオボアーを前に突き出し、左腕のガオリンクスをボアーの横顔に添える様にして構える。

 

「ボアーガトリング‼︎」

 

 ガオゴールドの掛け声に合わせて、ガオボアーの鼻から小型のエネルギー弾が、マシンガンの様に連射した。

 高速で、エネルギー弾は魏羅鮫の身体に直撃し連発して当たる為、逃げる事が出来ない。

 身体がズダボロになり、立っている事がやっとの状態になる魏羅鮫。チャンスとばかりに、ガオボアーの鼻から出るエネルギー弾が止まり、エネルギー弾は集中し始める。

 

 

「轟々獣撃! ストロングショット‼︎」

 

 

 掛け声と共に、エネルギー弾が球状に凝縮、形成され魏羅鮫に撃ち込まれた。

 凝縮されていたエネルギー弾は一気に膨張、爆発した。

 

 

「ぐゥおォォォォッ‼︎ まだ…まだ…斬り足りない…のにィ……‼︎」

 

 

 断末魔を上げながら、今度こそ魏羅鮫は大爆発し炎上、火柱となって灰塵へと消えて行く。

 

 ガオパラディンは灰となって散りゆく魏羅鮫を見ながら、勝利の咆哮を上げた。

 

 

 

 戦いの後、ガオゴールドは爆心地の後に立つ。幸い、戦いの中で民家より離れた場所で爆発した為、周囲の民家は無事だった。ゴールドは、足元に転がっていた魏羅鮫を拾い上げる。既に刃毀れし、刀として死んでいた魏羅鮫は、手に取ると同時に、ボロボロと崩壊した。まるで、刀に積もり積もった怨念から解放された様に……。

 

「兄さん‼︎」

 

 振り返ると、祈が駆けて来る。後ろには、テトムの肩に捕まる佐熊も居た。

 

「兄さん…ごめんなさい‼︎ 私……」

 

「…もう良いんだ、無事で良かった…」

 

 陽は、祈を抱いてやり落ち着かせる。そして、佐熊に宝珠を返した。

 

「佐熊さんも……無事だったんですね…‼︎」

 

「言ったろう? あれくらいでは死なんと……。滝を登り切り、竜に化けた様じゃな」

 

 佐熊は、ニヤリと笑って見せる。すると、テトムは振り返った。

 

「あの娘も無事よ……ほら」

 

 其処には、まだフラフラしている千鶴が居た。慌てて変身を解いた陽は、千鶴を見て悟る。

 彼女も、オルグに利用されたのだと。

 

「峯岸さん、大丈夫?」

 

 祈は千鶴に近付きながら、尋ねる。途端に千鶴は、顔をクシャクシャにしながら泣き出し、祈に頭を下げる。

 

「ごめんなさい、竜崎先輩‼︎ 私……とんでもない事を……‼︎」

 

 千鶴は泣きじゃくりながら、祈に謝罪した。朧げながらも、自分がしでかした事の重大さを分かっている様だ。

 

「…もう良いよ…貴方は悪い夢を見ていただけだから…」

 

「…‼︎ 先輩…‼︎」

 

 優しく語り掛ける祈に、千鶴は抱き付く。その様子を、陽は見ながら改めて、オルグの恐ろしさを再認識する。

 

「…まさか、人の心の闇に付け入るオルグが居たなんて…恐ろしい奴だ。二度と、目に掛かりたく無いな…」

 

 そう言って、陽は崩れ掛けた魏羅鮫の残骸が完全に風化し、風に撒き散らされて消えて行くのを見届けた。

 

 その様子を遠方より、メランは見守っている。陽の姿を見ながら……。

 

「…そうだ。そうやって、強くなれ。我と肩を並べる強さを持って、我の前まで来るが良い…」

 

 そう言い残し、メランは夕焼け空の下、炎に包まれ姿をくらました……。

 

 

 

 〜人の心の闇を喰らい、人を斬る事を望み暴れ回った魏羅鮫オルグ。

 彼は、人間の誰しもが心中に抱く’’狂気”そのものだったかも知れません…〜



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quest24 卑劣なる罠

 ヒヤータは珍しく、苛立った様子だった。鬼棋の駒を動かす手は心無しか乱暴で、冷静な彼女に似つかわしく無い張り詰めた面持ちだ。

 

「あのォ…お姉様?」

 

 ニーコは、コソコソとヒヤータの顔を覗き込む。すると、ヒヤータは笑顔を見せた。

 

「あら? どうかしまして、ニーコ?」

 

 穏やかな口調、貼り付けた様な笑み、だが醸し出されるオーラだけは彼女の苛立ちを募らせていた。

 

「あ…あの…ツエツエちゃん達が、魏羅鮫がやられたって報告してきたんですけどォ…?」

「それで?」

 

 ヒヤータは話の続きを聞かせろ、と言わんばかりに求めた。

 その彼女の顔を見た瞬間、ヒヤータは「ヒッ」と小さく悲鳴を上げる。笑みも穏やかな口調も消え去り、無表情で冷徹な顔となっていたからだ。

 

「…え…ですからァ、次はどうするべきかって…」

「ハァ……策士も楽じゃ無いわね……特に無能な部下を持つと苦労しか無いわ……ウラ様は、よく我慢出来た物ですわね……」

 

 そう言いながら、ヒヤータはわなわなと腕が震えた。

 

「あッ? これは拙いかしらァ?」

 

 身の危険を察知したニーコは、自分の身体を消失させた。

 残されたヒヤータは、何時もの冷静さが何処にやら、髪を逆立てオルグの証たる角を露わにした。

 表情も、昔話に登場する山姥や鬼婆と言った具合の形相となっていた。

 ヒヤータは瞬く間に、鋭く鋭利な爪で鬼棋の台座毎を切り刻んだ。しかし、それでも物足りないとしてテーブルに拳を打ち付け、叩き壊してしまう。更には、部屋に飾ってあったタペストリー等をビリビリに破り、まさに鬼の様に暴れ回った。

 

 漸く静かになり、ニーコは姿を現すと室内は台風でも追加した様な荒れ果てた姿となっていた。

 

「…ハァ…ハァ…」

 

 ヒヤータは肩で息をしていた。ニーコは恐る恐る、ヒヤータの顔を覗き見る。すると、ヒヤータはニコッと笑った。

 

「大丈夫よ、もう落ち着いたわ…」

 

 此れが、ヒヤータの本質だ。冷静で合理的な、オルグには珍しい知能犯タイプの彼女だが、やはり内面はオルグ。凶暴かつ激情的な本性を持っている。

 普段は抑え込んでいるが、自身の算段やプランを乱されると激昂し、この様に周囲に当たり散らす悪癖を持っていた。

 漸く苛立ちを発散され、落ち着きを取り戻す。ヒヤータは椅子に座り、散らかした部屋を片付けるニーコに言った。

 

「ねェ、ニーコ?」

「はい?」

 

 ニーコは振り返ると、ヒヤータの目は悪巧みを思案する妖しい輝きを見せていた。

 

「……ガオゴールドは度重なる精神的な攻めを受けて、かなり疲弊しているわ。落とすなら、今ね」

「お姉様? 今度は何を企むつもりですかァ?」

 

 また、陰湿な罠を仕掛けるつもりだろう。自分も相当だが、ヒヤータもかなり他者を甚振る事を好む下卑た性質を持っている。そう言った意味では、ニーコとヒヤータは上司、部下としての関係は良好だった。

 

「狼鬼と鏡オルグを遣わせなさい。ニーコ、貴方も同行してね?」

「へ? 私もですかァ?」

 

 何故、自分が現場に? と、言わんばかりにニーコを首を傾げる。すると、ヒヤータは紅い石の様な物を彼女に渡した。

 

「これは?」

 

 ニーコの質問に、ヒヤータはクスリと笑う。

 

「鬼の結晶よ。それと同じ物を狼鬼の中に埋め込んであるわ。其れが在る限り、狼鬼は私に逆らう事は出来ない……つまり、そう言う事よ…。それと……」

 

 ヒヤータは冷たい笑みを浮かべ、こっそりと耳打ちした。ニーコは成る程、と納得した様だ。

 

「はいは〜い! 了解致しましたァ‼︎」

 

 ニーコは再び姿を消した。残されたヒヤータは、破壊された盤上の上に散らばる鬼棋の駒を持ち上げる。駒には、オルグ文字でガオゴールドと記されている。

 

「ガオゴールドを落としさえすれば…後は、どうとでもなるわ。この私の邪魔をする者は、何人たりとも容赦しない….そして、原初の巫女も……。ふふ、私の計画は絶対に狂わない…」

 

 そう言うと、ヒヤータは駒を握りしめる。暫くしてから掌を開けると、粉々になって居た。

 

 

 

 魏羅鮫の騒ぎから三日経ち……陽は、再び訪れた間隙の平和を過ごしていた。だが、平和を享受する様な暇は無い。

 魏羅鮫の前列もあり、オルグ達はいつ何処から仕掛けて来るか分からない。常に神経を昂らせて居なければならない。

 祈には注意を促す様に、言っておいた。家から学校へ行く迄は自分と一緒だったし、一人で行動しない様に言いつけておいた。それでも、陽は気が昂りピリピリとしてしまう。

 

「…い、陽‼︎ 陽ってばよ‼︎」

 

 ふと声がした為、陽は顔を上げた。目の前で猛は不機嫌な様子で睨んでいた。

 

「さっきから呼んでんの聴いてねェのかよ⁉︎ 返事くらいしろよな‼︎」

 

 猛は苛々しながら言った。昇は横に立ち、腕を組みながら黙っているが陽を心配しながら見ていた。

 

「陽…最近、疲れてるみたいだな。大丈夫か?」

「あ…うん…。ちょっとな……」

「ヘェ、そんなに疲れるくらい楽しんでんのかよ?」

 

 嫌に噛み付いてくる猛に、陽はムッとした様に言い返す。

 

「何が良いたいんだよ?」

「お前、最近、付き合い悪いぜ? 俺達に隠れて、女の子と遊んでんじゃねェのか?」

 

 急に検討外れな事を言い出す猛に、陽は呆気に取られた顔となる。

 

「別に猛達に隠れて付き合ってないし、僕には彼女なんか居ない。知ってるだろ?」

「ヘェ? じゃあ、何で祈ちゃんが泣いてんだよ? この前だって、そうだ! 泣きながら学校に来てて、理由は何だって聞けば、お前と喧嘩したからだって舞花から聞いたぜ?」

 

 猛は感情を抑える様に、静かに言った。

 

「お前が誰と付き合おうが、お前の勝手だけどよ! もう少し、祈ちゃんの気持ちを考えてやれよな‼︎」

「…おい、落ち着けよ……」

 

 険悪な空気となる2人に対し、昇はストッパーに入った。

 猛は、昇をキッと睨む。

 

「お前は黙ってろ! 祈ちゃんはな…お前の事ばかり考えてるんだ‼︎ それなのに、当のお前は他の女とイチャイチャしやがって……」

「イチャイチャなんかしてないって、言ってるだろ‼︎」

 

 とうとう我慢が限界に達した陽は、声を荒ながら立ち上がる。何事か、とクラスメイトは遠巻きに見守っていた。

 

「何に苛々してるのか知らないけど、僕に当たるな‼︎」

 

 その言葉に、猛は頭に血が上ったらしく、頬を赤く染めながら立ち上がって陽の胸倉を掴んだ。

 

「テメェ…マジで分からねェのか⁉︎ 一体、誰の為に苛々してるのか……‼︎」

「猛、止めろ‼︎」

 

 昇は驚いて、猛の背後に回り陽と引き離そうとした。だが、2人の喧嘩は益々、ヒートアップして行く。

 

「隠れて付き合って無いなら、理由を言えよ‼︎ お前、何か俺等に隠してんの、見え見えなんだよ‼︎」

 

 猛は激しく激昂し、陽を捲し立てた。

 陽は言葉を濁してしまう。ガオレンジャーの事を猛達に話した所で理解を得られる筈が無いし、ガオレンジャーの非情な戦いに彼等を巻き込む訳には行かない。

 そうしていると、猛は益々、怒鳴り散らした。

 

「なんとか言えよ‼︎ 何もやましい事がねェなら、話せるだろ⁉︎ 俺達は、お前にとって友達じゃねェのかよ⁉︎」

 

 猛は口調こそ荒々しかったが、最近の態度がおかしい陽を心配しているのだ。だからこそ、陽の口から真実を知りたかった。でも、陽も陽で抱え込んでいる事の大きさが違う。

 自分はガオレンジャーです、と打ち明けられる訳には行かないのだ。

 

「……話すことなんか……無い……」

 

 冷たい様だが、ハッキリと言い放つ。その瞬間、猛の中で抑えていた感情が弾け飛んだ。感情に任せ、陽の頬を殴り飛ばした。周囲で傍観していた女子が「キャアッ!」と、悲鳴を上げる。不意に殴られて尻餅付いた陽を、猛は強引に立たせた。

 

「…話す事は無いだと⁉︎ ざけんな‼︎ テメェ……1人で何でもかんでも抱え込みやがって‼︎ そんなに、俺達が信用出来ねェのかよ‼︎」

「もう止めろ‼︎」

 

 とうとう見ていられなくなった、昇は暴れる猛を羽交い締めにして止めた。手を離され、よろめいた陽を駆け付けた美羽が支えた。

 

「竜崎、大丈夫⁉︎ 乾も頭冷やしなよ‼︎ これ以上、やったら許さないから‼︎」

 

 美羽は、陽を支えながら猛を一喝した。猛は、昇の手を払い除け大股で教室を飛び出した。出て行き際に、恨めしげに陽を一瞥した。

 残された昇は、陽に近付いた。

 

「…すまん、陽。立てるか?」

 

 まだ、フラフラしている陽に昇は尋ねる。陽は、バツが悪そうに……。

 

「平気だよ……僕が悪いんだ……」

 

 陽は先程の発言を悔やんだ。いくら、ピリピリしていたからとは言え、あの発言は無遠慮だったのかも知れない。 

 昇は何か言いたげだが、飛び出して行った猛も気掛かりの為、後を追った。

 残された陽を、クラスメイト達は遠巻きに見ていたが、美羽が保健室に行こう、と言い出した。

 さしたる怪我では無いが、美羽が「学級委員だし、保健委員の子が休みだから」と、ぶっきらぼうに言って聞かない為、渋々、同行して貰う事にした。

 2人は無言のまま、廊下を歩く。猛に殴られた頬が、じんじんと痛んで来る。喧嘩をするつもりは無かった……思えば、自分がガオレンジャーとなってから、周囲との関係が悪くなった気がする。祈とは曲折経て、秘密を打ち明け和解はしたが、今でも自分がガオレンジャーとして戦い続ける事には抵抗を感じているらしく、先日もぶつかったばかりだ。

 今度は猛とである。このまま、戦い続ければ自分は孤独となってしまうのでは? たった1人となり、自分が倒れそうになった時、誰も支えてくれる人間が居なくなるのでは?

 そう言った漠然とした不安に囚われていると、不意に後ろを歩いていた美羽が声を掛けて来た。

 

「竜崎……この前、聞いたよね? ヒーローって居ると思うって」

「えッ?」

 

 振り返ると、美羽が深刻な顔で見ている。

 

「私はね……居ると思うんだ。ヒーロー……でも、実際にヒーローが居たら、漫画やテレビみたいな綺麗事だけじゃ回らないよね? 辛い事ばかりが自分にのし掛かって来て、他の皆が青春したり恋したりと、人生を謳歌してる間に自分は戦わなくちゃならない。誰かに褒めて貰える訳じゃ無いし、給料を貰える訳じゃ無い……それでも戦わなきゃ、ならない……」

「鷲尾さん……何言って……?」

 

 一体、何の話をしているんだ? 陽には理解出来なかった。

 

「竜崎はさ、耐えれる? 例え、戦いの為に全てを失ったとしても……皆の理想のヒーローとして居続けれる……?

 耐えれないなら、今の内に止めた方が良い。それでも、針のムシロに座り続ける覚悟があるなら話は別だけど……」

「???」

 

 一体全体、何を言ってるんだろう? そう言えば、この前、祈と一緒に彼女は居た。あの時は、オルグに対しての憎しみに我を忘れ、気に掛ける余裕が無かった。

 更に、祈から美羽に助けられたばかりか、ガオレンジャーの事を知っている様な素振りさえ見せたと言う……。

 ひょっとして、彼女はガオレンジャーに付いて何か知っているんじゃ無いか……陽の中で、疑惑が核心に変わった。

 

「鷲尾さん……君は、まさか……⁉︎」

 

 真意を知ろうと美羽に尋ねるが、美羽は踵を返して歩いて行った。

 

「保健室、付いてるよ。早く行って来たら?」

 

 背中越しに、素っ気なく返す美羽。これ以上の質問は無理だ、と陽は悟り、そのまま保健室の扉を開いた。

 陽の姿が消えた事を見届けた美羽は、制服の袖を捲る。

 其処には、デザインこそやや異なるが、陽の持つG -ブレスフォンが装着されていた。

 

「……分かってる……まだ、私が戦うのは時期が早い……だって、貴方が目を醒ましてないから……」

 

 誰に語り掛けるかの様に美羽は一人、呟いた。

 

「……でも….貴方が目を醒ましたら……復活したら、私もガオの戦士『ガオプラチナ』として戦うから……そして、走さんや岳叔父さん達を助けるから……」

 

 一人、決心した様に美羽はツカツカと廊下を歩いて行った……。

 

 

 

 中学校の昼休み……祈は、中庭にて誰かを待っていた。

 そこへ、やって来たのは千鶴だ。何時もの気の強い一面は何処へやら、頬を染めもじもじとする様は年相応な幼さが見えた。

 

「祈先輩…」

「あ、千鶴」

 

 数日前迄、敵視し合っていた、もとい千鶴が一方的に敵視していた関係だったのだが、今に至っては互いに名前で呼び合う仲となっていた。千鶴は祈の隣に座る。

 

「……えっと……」

「どうしたの、千鶴? 話があるって……」

 

 中々、本題に入らない千鶴に、祈は話掛けた。

 

「……あの……ごめんなさい! 私、先輩に失礼な事ばかり……!」

 

 突然、千鶴は頭を下げた。祈は、キョトンとした顔になる。

 

「……そんな事、もう良いッて……」

 

「だって……私、先輩を傷つけそうになって……!」

 

 途端に、千鶴はポロポロと涙を流し始める。

 

「……あの日、先輩に負けた後、悔しくて腹が立って……先輩に対して憎しみしか湧いて来なかったんです……。それで、刀を手にしてから急に記憶が無くなって……でも、先輩に怪我をさせようとした事だけは鮮明に覚えてて……私、何であんな恐ろしい事をしたのか、自分でも分からないんです……!」

 

 千鶴はブルブル震えながら、さめざめと泣き続ける。

 

「……先輩が私を止めようとする声は聴こえていました。目を覚ました時、先輩の姿を見て私……大変な事をしたって後悔と自己嫌悪でグシャグシャになって……‼︎」

 

 千鶴は祈にしてしまった行動に対する懺悔を続ける。

 幸か不幸か、千鶴はオルグの現れた瞬間に気を失った為、ガオレンジャーやオルグの存在を知る事は無かった。

 だが、祈に対し斬り掛かろうとした事は、漠然としながらも覚えている。更に、その直前に千鶴は祈に剣道で負かされ恥をかいた、と言う動機がある。其れ等の事が、彼女にこんな凶行を働いた、と言う記憶として千鶴に残ってしまったのだ。プライドの高い彼女の心をズタズタに苛めてしまう程に……。

 祈は、千鶴の懺悔を黙したまま耳を傾けた。大粒の涙を流しながら謝る千鶴に、祈は優しく微笑み肩に手を置く。

 

「もう良いの……それなら、私だって、謝らなきゃ行けないわ……」

 

 ふと彼女の零した言葉に、千鶴は涙で汚れた顔を上げた。

 

「……あの後、貴方のお父さんから謝罪の電話が来たの。その時に聞いたわ。貴方が強くなる事に固執する理由を……」

 

 祈は淡々としつつ、労わる様に続けた。

 

「貴方は、お父さんに認めて貰いたかった……でも、お父さんの不用意な優しさのせいで、結果的に貴方を追い詰めてしまった……お父さんは深く後悔していたわ。

 その時、お父さんに言われたの。『娘のした事は許せないかも知れない……でも、それ以上に娘を苦しめた自分を責めて欲しい…』って。

 だから、千鶴。もう自分を卑下にしないで。貴方に剣道の実力があるのは事実だし、私が貴方に勝ったのは本当にまぐれだった……これからは一人、強さを求めるんじゃなくて皆で力を琢磨して行く関係で居たいな……」

 

 祈の深い労りに満ちた言葉は、千鶴のささくれだった心を癒すには十分だった。涙を流しながら、千鶴は祈に手を握る。

 

「せ、先輩……」

 

 千鶴は幾ら剣の腕が長けてようが、強くなろうが……自分は、この人には敵わないと悟った。

 

 

「あーあー、胸糞悪いですねぇ?」

 

 

 突然、声が聞こえてくる。2人は辺りを見回すと、学校な屋上から見慣れない少女が降り立つ。

 

「あ、貴方…誰⁉︎」

 

 祈は恐る恐る尋ねた。

 

「お初目にお目にかかりまァす。私、ニーコと申します。以後、お見知り置きを」

 

 ゴスロリ調のメイド服、ツインテールにした少女の顔立ち、見た目こそ人間に近いが、祈は彼女の頭から突き出た長い一本角を見て確信した。

 

「貴方…オルグね?」

「ええ、ええ。そうですよォ、話が早くて助かりますねェ。と言う訳で…一緒に来て貰いますよォ‼︎」

 

 ニーコが指をパチンとならすと、何処からともなく鏡台に似た姿を持つオルグ魔人が現れ、祈の身体を吸い込んだ。

 

「先輩⁉︎」

 

 千鶴は叫ぶも遅く、祈は鏡に中に囚われてしまった。その際、何かを投げて寄越したが、千鶴は何が起きたのか分からずに、戸惑っている。

 

「アハッ! 原初の巫女、召し取ったり‼︎ サァ、引き上げるわよ‼︎」

 

 ニーコの指示に、鏡オルグと共に姿を消す。祈は消える最中に、千鶴に

 

「兄さんを呼んで‼︎」

 

 と、叫んだ。目の前で起きた事に暫く、呆然としていた千鶴だが漸く我に返り、足元に落ちていた彼女の生徒帳を見つけ開いた。生徒帳の電話番号欄の一番上には「兄さん」と書かれ、電話番号が記してある。

 千鶴は、すかさず自分の携帯を取り出して電話をかけ始めた。

 

 

 

 一方、陽は屋上で1人、物思いに耽っていた。考えているのは、先の猛との喧嘩に加え、美羽の発した台詞についてだ。

 間違い無く、彼女はガオレンジャーに付いて何か知っている。だが、其れを知ろうにも彼女は話してくれる雰囲気では無かった。当の猛も、陽の事を避けている様子で先程も担任に喧嘩の原因を聞かれた際に呼び出されても、陽と一言も口を聞かなかった。バツが悪いのか、未だに怒っているのかは不明だが、担任から厳重注意を受け解放された後も、陽とは別方面から帰って行った。陽も敢えて呼び止めなかったが、やはり気に病んでしまう。

 このまま、ガオレンジャーの事を話すまいと考えて来た。

 テトムから会したガオゴッドによる巧みな記憶操作で、多くの町の住人はガオレンジャーやオルグについてを知る事は無い。だが、ガオレンジャーの関係者や事件に深く関わると効果が無くなり、認知されてしまうと……。

 遅かれ早かれ、自分がガオレンジャーであると知れ渡るのは時間の問題である。今や、陽の精神は疲弊し切っていた。

 その際、陽の携帯が鳴る。携帯を開くと、知らない番号からだったが、それを取った。

 

「もしもし…?」

『あの…私、竜崎祈さんの後輩で峯岸と言います…‼︎ 祈さんのお兄さんですか⁉︎』

 

 陽は声と名前を聞いて思い出した。つい先日、オルグ事件に巻き込まれた子だ。

 

「そうだけど……どうして、僕の番号が?」

 

 陽は彼女とは直接、話してないし関わり合いにもならなかった。なのに何故、自分の番号を知っているのか? 陽は怪訝に感じた。

 

『えっと……どう説明して良いのか……先輩が、変な人達に拐われたんです‼︎ 上手く言えないけど……とにかく、祈先輩が、お兄さんを呼べって私に……‼︎」

 

 切羽詰ってるのか、支離滅裂な説明を繰り返す千鶴。

 だが、陽には彼女が何を言いたいのか……祈に何が起こったのか手に取る様に分かった。

 オルグが現れたのだ。

 

「分かった…ありがとう…! 祈は僕に任せて…! 君は、そのまま授業に戻って…!」

『で、でも……!』

「良いから‼︎」

 

 彼女に、オルグ関連の事件に巻き込ませる訳には行かない。納得行かない様子の千鶴を強引に納得させて、陽は携帯を切った。そして、G−ブレスフォンで、テトムに連絡を取った。

 

「テトム、オルグが現れた!」

『え⁉︎ 此方は、何にも反応していないのに⁉︎』

「説明している暇は無いんだ‼︎ 僕は後を追うから‼︎ 佐熊さんは怪我もあるから……」

『要らぬ心配はするな、陽‼︎ 傷なんぞ、とうに癒えとる‼︎ ワシも直ぐに向かう‼︎』

 

 テトムを遮り、佐熊の声がした。陽は小さく溜め息を吐くが…落ち着いてる場合では無い。すかさずに、G−ブレスフォンを構えた。

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 こうして、ガオゴールドに変身し学校の屋上から飛び降りようとする。その時、ガオドラゴンの宝珠が舞い上がる。

 

 〜オルグの匂いがする……我が力を使え…‼︎〜

 

 すると、宝珠は姿を変えて竜の形をしたバイクに変化した。

 

 〜さあ、乗れ‼︎ ドラゴスピーダーに‼︎〜

 

 無言で、ガオゴールドは頷きドラゴスピーダーに乗り込む。すると、バイクは一人でに動き出し空を滑走した。ゴールドは、ハンドルを握り締めた。

 

『待って、ガオゴールド‼︎』

 

 ヘルメット内に、テトムの声が響く。

 

『一人で行くのは危険よ! 私達が迎えに行くまで、待ちなさい!』

「そんな余裕は無い! 祈が、オルグに拐われたんだ! 」

 

 ガオゴールドは叫び、一方的に通信を切るとドラゴスピーダーは飛び上がった。その様子を陰から、美羽はジッと見守っていた……。

 

 

 

 一方、竜胆市より少し外れた場所にある森の中…。。

 

「うふふ……ガオゴールド、こっちに来てるわね……」

 

 ニーコは、ニマニマと笑いながら立っている。側に控えるは、狼鬼と鏡オルグ……体の半分を占める鏡の中には、祈が眠る様に閉じ込められている。後ろには、ツエツエとヒヤータが気に入らないとばかりに立っている。

 

「ツエツエちゃ〜ん、そんな怖い顔しないでェ? 寧ろ、感謝してよねェ? 貴方達の代わりに、巫女を捕まえてあげたんだから。これで、テンマ様に面目も立つでしょ?」

「クッ…!」

 

 悔しいが、一言も言い返せない。確かに今回は、ニーコの手柄だし自分達は、その指示に従っただけだ。

 一方、ツエツエとヤバイバは前回、ヒヤータに嵌められて魏羅鮫オルグに殺されかけた事から、ヒヤータに対する信頼を無くしていた。そもそも、最初から彼女の事を信頼等、してなかったが……。

 ツエツエは、長きに渡りヒヤータに仕えたのは自分の仕掛けた”布石’’が実を結ぶ瞬間まで、敢えて自ら牙を抜き爪を剥ぐ事にしたのだ。しかし、ヤバイバは苛々した様子だ。

 

「(ヤバイバ、もう少しの辛抱よ……!)」

「(…分かってるけどよ…‼︎)」

 

 ヒソヒソと、ヤバイバに促すツエツエ。ニーコは上機嫌で気付かない様子だ。

 

「オルゲット、オルゲット‼︎」

 

 不意に、一体のオルゲットが現れた。彼の言葉により、ニーコは、ニタリと邪悪な笑みを浮かべた。

 

「来ましたねェ、ガオゴールド。オルゲット! ガオゴールドを迎えて差し上げてェ!」

 

 ニーコの命令を受けたオルゲット達は一斉に、ガオゴールドの元へと向かって行った。

 

 

 森の入り口付近では、ドラゴスピーダーから降り立ったガオゴールドが立っていた。ガオドラゴンの言葉では、この森全体に結界が張られ邪気を隠していると言う。

 ガオドラゴン達は、僅かな邪気の匂いを感知し此処を探り当てたのだ。ガオゴールドは右手にドラグーンウィング、左手にガオサモナーバレットを構え、森の中に突撃した。

 案の定、多数のオルゲット達が迎え撃って来た。しかし、怒りに身を震わせるガオゴールドからすれば、関係ない話だ。

 左右から迫るオルゲット達を、ドラグーンウィングとガオサモナーバレットで次々に撃破して行く。

 

「ウオォォォォ!!!」

 

 怒りの咆哮を上げながら、オルゲット達の死屍累々を築きつつ突き進んで行く。その姿は、さながらオルグと敵対するガオレンジャーとしては皮肉にも、鬼人のそれに近い。

 しかし後から後から、虫の様にオルゲット達は湧き出して来る。だが、そんな事は知った事では無い。オルグへの怒りに燃えるガオゴールドを、止められる者は居ない。

 

「竜翼…日輪斬りィィ‼︎」

 

 オルゲット達は紙の様に斬り裂かれ、地に倒れ伏す。更に立ち塞がったオルゲット達には、ガオサモナーバレットをお見舞いした。

 

 しかし、ガオゴールドは知らなかった。これら全てが、ヒヤータの仕掛けた卑劣なる罠である事を……。

 

 

 

 やがて、森の最深部に辿り着いたガオゴールドは、ニーコ達と対峙する。中央には、鏡オルグに閉じ込められた祈と其れを守る様に狼鬼が立っている。

 

「祈ッ‼︎」

 

 悲痛な叫びを上げるガオゴールド。其れを嘲笑うかの如く、ニーコは笑った。

 

「お初めに、お目に掛かりますゥ。私、デュークオルグのニーコと申しますゥ。以後、宜しく……」

 

「知るかァァ‼︎」

 

 ガオゴールドは、そんな事は興味無いと言わんばかりにガオサモナーバレットを向けた。

 

「あらァ、怖ァい♡ で・も…貴方が悪いんですよォ? 散々、私達の邪魔をしてくれたからァ…。それに……そんな姿で、どう戦うんですかァ?」

「何⁉︎」

 

 ニーコに指摘されて、ガオゴールドは自分の身体を見る。ガオスーツが少しずつ色が薄くなり…しまいには、粒子となって消えていき、竜崎陽の姿に戻ってしまったのだ。

 

「な⁉︎ これは⁉︎」

「ヒヤータお姉様の、仰った通りですねェ。貴方は、怒りに任せて力を使い過ぎちゃったんですよォ? それこそ、ガオソウルの供給が追い付かない速さでね? 特に、怒りに燃えた貴方は、ガオソウルが底を尽く迄、過剰に力を使った。だから、変身が解けちゃったんですよ?」

「そ、そんな……‼︎」

 

 は、嵌められた……! 気が付いた時は手遅れである。最初から、これが狙いだったんだ。自分に力を使わせて、自滅に導く為の……!

 

「あ、それでは……ヒヤータお姉様からの言伝を言いますね。『貴方は邪魔者でしか無いから、ここで死になさい』…ですって♡」

 

 そう言うと、ニーコは手に持っていた拳程のあるオルグシードを投げた。すると、シードは心臓の様に脈打ち始める。

 

「それは……お姉様からのプレゼントです。それでは……チャオ♡」

 

 そう言い残すと、ニーコ達は鬼門に吸い込まれて行った。

 

「ま、待て…‼︎」

 

 陽は駆け出すが、その刹那にオルグシードは膨張を始め……。

 

 

 シードを爆心に、樹々を押し倒していく凄まじい爆風と立ち昇る爆炎……やがて、森全体に響き渡る程の轟音が包み渡った……。

 

 

 〜何と言う事でしょう! 祈は、オルグ達に囚われてしまい、ヒヤータの卑劣な罠の毒牙に掛かり、陽は爆炎に包み込まれてしまいました! 果たして、陽の安否は⁉︎



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quest25 帰還する銀狼

 空を滑空する様に飛ぶのは、ソウルバードの人間体こころ。

 陽が単身で、オルグ達の迎撃に向かったと聞いて全速力で現場に向かっていた。

 僅かに残されたガオゴールドの気を探り追跡する。先程、テトムの発した不吉な言葉が、こころの胸に突き刺さったのだ。

 

 

『ガオゴールドに心境の変化?』

 

 ガオズロック内で、テトムと佐熊が会話していた。その意味を尋ねる佐熊に、テトムは応える。

 

『ここ最近の、ガオゴールドの戦い方は変わったわ。ガオレンジャーとしての使命に目覚めると同時に妹を守らなくては、と言う使命感が強くなっているわ。

 ましてや、妹が巫女の生まれ変わりであり、オルグに狙われる恐れが強いとなれば尚更ね』

 

 テトムは心配げに顔を曇らせた。

 

『でも、それは裏を返せば、大切な存在を失う事を極端に恐れる気持ちの現れでもあるわ。

 恐れる気持ちは時に、それを守る為の執念を生み、更には大切なものを奪う者達に対する怒りに変わる。

 怒りは強大な力を与えるけど、過ぎたる怒りは、その者の身を滅ぼす諸刃の剣でもある……。

 陽は、ガオレンジャーとして経験を積んだけど、戦士としては未熟だわ……』

『それは一理あるのゥ……』

 

 テトムの不安は、戦士として未だに発展途上……若さ故の向こう見ずさと弱さと兼ね備える陽が気掛かりだったのだ。

 

『もし、そう言った弱点を自覚しないままにガオゴールドが猛進してしまえば……オルグ達に付け入られる隙を与えてしまう……力丸。そうならない様に、陽を注意深く見ていて欲しいの……』

『任せィ!』

 

 佐熊は力強く頷く。2人の会話を耳に挟んだこころは単身、ガオズロックから飛び出した……。

 

 

 こころは飛翔しながら、飛び続ける。嫌な予感がするのだ……確かに最近の陽は、戦い方が以前と違って来ている。

 それは、ガオレンジャーとしての責務もあり、祈を守る為でもあり……何れにしても、後先を考えない戦い方が目立って来ている。このままでは、取り返しの付かない事態となってしまうのでは? そんな予感が胸を過ぎる。

 ふと、こころは前方から凄まじい轟音が響くのを聞いた。音の方角を見ると、濛々と黒煙が立ち昇るのが見える。辺りは森らしいが、内一部から煙が出ているのを確認した。

 

「陽……‼︎」

 

 こころの嫌な予感が的中してしまった。慌てて煙の中に降り立つこころ。森周辺は半径6mに渡り爆炎にて焼き払われ、煙が晴れて来ると樹々が倒壊しているのが見えてきた。

 余程に凄まじいエネルギーの爆発により、こうならない。その際、頭上からガオズロックが降り立って来た。

 ガオズロックの中より、テトムと佐熊が現れた。

 

「こころ! これは一体⁉︎」

 

 テトムは、目の前の惨状に驚愕した。木は倒れ伏し、草花は焼け焦げ、地面は抉られている。まるで、戦火に晒された跡地だ。一体、何があったんだろう?

 

「おい! これを見てみろ‼︎」

 

 佐熊は叫ぶ。その先には、半径3m弱のクレーターが出来ていた。どうやら、此処で爆発が起こったらしい。

 その時、クレーターの中央から手が突き出しているのが見えた。

 

「な、イカン‼︎ 」

 

 佐熊は慌てて、クレーターに飛び込んで土を掘り始めた。すると土に埋もれる様に、陽の上体が露わになった。

 

「あ、陽⁉︎」

 

 テトムは青褪める。陽は爆風に晒されたのか、学校の制服はズダボロに擦り切れ、土に汚れ、破れた服から覗く素肌から生傷が見える痛々しい姿だった。

 

「陽! しっかりして!」

 

 佐熊により、クレーターから運び出された陽をテトムは声を掛ける。目は固く閉ざされ、指先をピクリと動かさない。

 

 

「陽! 目を覚まさんかァ、陽ァ‼︎」

 

 佐熊も揺さぶりながら呼び掛けた。だが、陽は目を覚さない。

 

 

「陽ァァァ!!!!」

 

 

 

 一方、鬼ヶ島では、ヒヤータは上機嫌な様子で佇んで居た。

 自身の策謀を持って見事、ガオゴールドを倒す事に成功した。正に自分の描いた通りの絵に仕上がったのだ。

 

「でかした、ヒヤータ! ガオゴールドを倒したのだな…!」

 

 鬼棋の対面相手である主君のテンマも、部下の手柄を讃えた。ヒヤータは涼しい顔だ。

 

「これ位、お安い御用ですわ」

 

 自身の知謀、狡猾、忍耐さが有れば、時間さえ掛ければガオゴールドを倒せる自負があった。

 しかし、テンマは厳しい口調のままだ。

 

「だが、ガオグレーとガオの巫女、ひいてはレジェンド・パワーアニマルは生きているだろう? 其奴ら、如何にして始末するのだ?」

 

 テンマの質問に対し、ヒヤータはニコリと微笑む。

 

「ご心配無く。既に計画は立てていますわ。ガオレンジャー、パワーアニマルを含め全てを倒し我等、オルグの天下として御覧に入れましょう」

「…ほう、大した自信だな……ならば、やって見せよ。全てを成し遂げ、オルグによる世界掌握が成された時は、貴様にも最高の栄誉をくれてやろう……」

「……御意」

 

 扇子を広げ、ヒヤータは応える。隠した口元は邪悪な程に口角を吊り上げ、ほくそ笑んで居た。

 

 

 

 一方、ガオズロックにて……陽は丁寧に手当てをされ、寝かされていた。だが、依然と死んだ様に眠っている。

 

「全く…無茶な真似をしおって……‼︎」

 

 佐熊は険しい表情で、陽を見た。自分が付いていれば、こんな事には……そんな後悔が、佐熊を苛める。

 

「力丸……自分を責めては駄目よ。オルグの策謀を見抜けなかった私にも責任があるわ……」

 

 佐熊1人に責任を負わせまい、と励ますテトム。そんな彼女に、彼は苦笑した。

 

「やっぱり、孫なんじゃな……励まし方まで、ムラサキに瓜二つじゃ……」

 

 2人が話す傍ら、こころは無言で陽を看病している。

 

「…祈…祈…!」

 

 時折、陽はうわ言の様に呟く。目の前で妹を拐われたばかりか、罠に嵌められてしまったのだ。無理もない……。

 その際、泉がボコボコッと激しく泡立ち始める。テトムは目を見開いた。

 

「何なの、この反応! ただ事では無いわ‼︎」

 

 テトムの言葉に佐熊は立ち上がる。

 

「ワシが行く‼︎」

「力丸! 貴方だって怪我はまだ……!」

 

 行こうとする佐熊に、テトムは呼び止める。

 

「他に行く奴が居らんじゃろうが‼︎ 陽の怪我に比べれば、擦り傷じゃ‼︎」

 

 そう言って、佐熊は飛び出して行った。こころも後に続く。

 

「テトムは此処に居てあげて」

 

 佐熊と、こころが出て行って1人残されたテトムは、陽の前に膝を突いて祈り始める。

 

「おばあちゃん…荒神様…どうか、陽をお守り下さい…‼︎」

 

 ガオの巫女と言えど、自分にはどうする事もできない。頼みの綱である陽は負傷し、大神を救える可能性を持つとされる祈も、オルグの手に落ちてしまった。四面楚歌である。

 テトムの流した涙が、陽の手に当たる。その際、彼の手が僅かにピクリと動く。

 この時、陽の身体で新たな力が芽吹こうとしている……それに呼応するかの様に、G−ブレスフォンの竜の目が輝き始めた。

 

 

 街中では、パニックが起こっていた。人々は逃げ惑いながら、叫び声を上げる。虚ろな目となった人間同士が、互いに互いを傷付け合っているのだ。男が女を殴り、親が子供を蹴飛ばし……さながら地獄絵図の有り様だ。

 高いビルの上では、摩魅が歌っていた。自身の歌に合わせ、町中に呪われた曲が染み渡っていく。

 曲に侵された人間達は、操られた様に自我を奪われて行く。辛うじて逃げ延びた人間達も、オルゲット達に叩き伏せられていく……!

 

「アハッ! 人間達が互いを痛めつけるなんて……見ていて良い眺めですねェ!」

 

 摩魅の隣にて世界一、愉快な光景を見るかの様にニーコは下卑た笑みを浮かべた。

 摩魅は歌いながら、涙を流す。それを見たニーコは益々、愉快そうに嗤った。

 

「泣いてるんですかァ? アハッ、おっかしいですねェ? 涙なんか流れないのにィ⁉︎」

 

 摩魅を揶揄う様な言葉を吐き掛けるニーコ。それに対して摩魅は言い返す事もしない。いや、出来ない。

 ニーコは、人でありオルグである。相対する2つの種族の血は、摩魅の心を擦り減らして行き罪悪感に苛めて行く。

 これだって彼女は本心からやっている訳じゃ無い。命令されたから……彼女も不本意でやるしか無い。

 頭で分かって居ても、割り切る事が出来ない。そのジレンマが、涙を流させた。彼女の中に流れる人の血が……。

 

「……貴方も意外に頑固ね。そうまでして、人間に拘って……」

 

 突然、後ろからヒヤータが姿を現す。側には狼鬼と鏡オルグを従えている。

 

「あ、お姉様!」

「首尾は上々ね、ニーコ。さて……ガオレンジャーは何時、現れるかしら?」

 

 自分の仕掛けに満悦したヒヤータは、憐みに満ちた目で摩魅を睨む。

 

「涙を流すなんて…狼鬼共々、感情を消し去った筈なのに……未だに、人としての未練を断ち切れないのかしら?」

 

 ヒヤータは冷たく吐き捨てた。先の作戦以降、狼鬼と共に特殊なオルグ蟲を埋め込み感情そのものを消した筈の摩魅が、未だに人の証たる涙を流す事に、ヒヤータは気に入らないのだ。

 

「でも無駄よ。もう貴方は人間らしく、なんて陳腐な感情は残って居ないのよ。私に従えば悪い様にしないわ…諦めなさい」

 

 冷酷なヒヤータの宣告に、摩魅は歌いながらコクリと頷き……涙を流し続けた。

 

 

「そこまでじゃァ!!!」

 

 

 空を裂く鋭い叫び声がこだました。佐熊が降り立ち、険しい表情を浮かべながらオルグ達を睨んでいる。

 ヒヤータはニヤリと、ほくそ笑む。

 

「待って居たわ、ガオレンジャー……歓迎しましてよ」

「何が歓迎じゃ! こんな非道な真似、今すぐ止めろ‼︎」

「ふふ……非道な真似? 私の主催した宴が、お気に召さないかしら?」

 

 激しい口調で激昂する佐熊を嘲笑う様に、ヒヤータは言った。

 

「人間なんて知性を取り外してしまえば、土中を蠢くミミズと変わらない低俗な生物……それを分かり易い形で、再現して差し上げたのよ?」

 

 ヒヤータの言葉に、ニーコは甲高い声で嗤う。佐熊は拳を握り締め、今にも殴り掛かりたい衝動を抑えるのに精一杯だ。

 突然、ヒヤータは手を振ると狼鬼が前に立った。

 

「シロガネ……‼︎」

 

 変わり果てた友の姿に、佐熊は悲しい表情を浮かべた。それに対して、ヒヤータはクスリと笑う。

 

「もう、貴方の知るシロガネは死んだわ。私は改良した、オルグ蟲を寄生させた上で、より濃厚な邪気を注ぎ込んだよ。

 最早、自分が何者であるかさえ定かでは無いわ…命令を淡々とこなすだけの、戦闘兵器と化しているのよ」

「き、貴様ァ…‼︎」

 

 外道の極みと言ったヒヤータに対し、佐熊は歯をカチカチと鳴らしながら怒る。1000年前、苦楽を共にした親友を道具の様に扱うヒヤータの所業を、許せないのだ。

 

「貴様等は、ワシの友を傷付け踏み躙った…‼︎ 生かしてはおかん‼︎ ガオアクセス‼︎」

 

 佐熊は、G −ブレスフォンを作動させ、ガオスーツを装着する。ガオグレーは、オルグ達と対峙した。

 

「…狼鬼…ガオグレーを殺しなさい」

 

 ヒヤータが、狼鬼を顎で促した。狼鬼は無言のまま、ガオグレーの前に立ち、三日月刀を構える。

 ガオグレーは悲しそうに項垂れ、頭を振った。

 

「……そうか……もう全てを失ってしまったか……来い、狼鬼‼︎ 貴様が、ガオの戦士の矜恃を捨てて地球に仇成すならば、この豪放の大熊ガオグレーが貴様を倒す‼︎」

 

 ガオグレーは覚悟を決めた。友と戦う覚悟を……友を手に掛ける覚悟を……このまま、非道の限りを尽くさせるのは友として忍びない。ならば、自分の手で友に引導を渡してやる……それが、かつての戦友シロガネに対する礼儀であり友情、だと割り切った。

 

 

「うおォォォォッ!!!!」

 

 

 ガオグレーは悲しみを耐えつつ雄叫びを上げ、グリズリーハンマーを振り下ろす。対して狼鬼も、三日月刀を振り上げながら走る。

 遥か1000年の時を経て、現代の地を踏んだ熊と狼による悲壮なる戦いが今、幕を開けた。

 

 

 

 陽は闇の中にて漂っていた。目を覚ますと、右も左も暗闇で自分が何処に居るかも分からない。

 思い出してみた……そうだ、自分はオルグの罠に嵌められて負けたんだ……詰まる所、死んだんだ……ならば、自分は闇に呑まれていくだけだ……そう悟った陽は再び、目を閉ざすが……。

 

 〜諦めては行けません……貴方は未だ、成すべき事があるでしょう?〜

 

 突然、頭に響いた声に陽は再び目を開ける。目の前には、光に包まれた女性が立っている。服装は以前、歴史の授業で習った弥生時代の女性が着る様な衣装を身に纏い、頭には日輪を模した冠を付けている。そして、その顔立ちは……。

 

「い…祈?」

 

 背丈や雰囲気は異なるが、顔立ちは妹の祈に酷似…ひいては瓜二つだ。恐らく彼女が成長すれば、こうなるであろうと感じた。

 

 〜私は、祈ではありません……私の名はアマテラス……。かつて、ガオの巫女としてパワーアニマルと人の架け橋となった者です……〜

 

 アマテラスと名乗った女性に対し、陽は目を丸くする。彼女の名前には、陽は聞き覚えがある……。

 アマテラス…又の名を、天照大御神…。神話では、古代日本の神として名を連ねる存在だ。ギリシャ神話のゼウス、聖書のキリスト、仏教の仏陀同様に主神として崇められ、現代において語り継がれる……彼女が、そうだと言うのか?

 

「あ、貴方が神話に出て来る神様だと?」

 

 陽の質問に対して、アマテラスは微笑む。

 

 〜それは一つの例えです。パワーアニマルと対話し、オルグを封じた過去の私を見た人々が遺した言葉に尾鰭が付き、何時しか神として、神格化されていった……ただ、それだけの事です…〜

 

 アマテラスの言葉に、陽は妙に納得した。確かに大昔の偉人は存在自体が曖昧であり、キリストや仏陀等も実在を疑われているのが常だ。恐らく彼女も、当時の人々からすれば普通であった超常的な力を神と同一視して、一種の御伽噺として伝えられて来た結果なのだろう…。

 

 〜私は、その様な話をする為に来た訳ではありません……今代のガオの戦士よ……貴方の昨今の戦い方は、自身の命を縮める結果となっています…〜

 

 急に厳しい口調となった彼女に、陽はたじろいだ。

 

「僕の命を…?」

 

 〜貴方は、オルグの非道なやり口にばかり目をやり、彼等を倒す事に力を使っています……〜

 

 アマテラスの非難する様な言い草に、陽は反論する。

 

「それの何が悪いんですか⁉︎ 地球を守る為に、オルグと戦うのが、ガオの戦士でしょう⁉︎ だったら……⁉︎」

 

 〜貴方は、目的と手段が入れ替わってしまっているのです〜

 

 陽の言葉を遮る様に、ピシャリと言い放った。

 

 〜しかし、それは仕方ありません……孤高に戦いの道を強いられた以上、オルグを倒す事に執着してしまうのは至極当然……ですが、その戦い方は何れに我が身を滅ぼしてしまうでしょう……何時、終わるやも分からぬ戦いに身を置き続け、自身が傷付く事を顧みずに刃を振り続ければ間違いなく、貴方は壊れてしまう……私は、その様な末路を迎えた者達を見て来ました……〜

 

 アマテラスの謹言に、陽は戸惑う。確かに的を射ているからだ。ガオゴールドとして戦い続ける内に、陽は友人との間に確執が出来た…今回だって、やり場の無い怒りをオルグにぶつけた結果、敵の術中に嵌ってしまった…。

 

「ならば……僕は、どうすれば……?」

 

 〜貴方は一人で戦っている訳では無い…それを胸に秘めて置く事です。人一人の力では、どうする事も出来ません……かつて、私もパワーアニマル達や弟達の力を借りて、オルグ達を退けました……貴方にも、苦しい時に支えて来れる者達が居る筈です……それを忘れずに居れば、きっと乗り越えられる筈です……〜

 

 一人で戦っている訳では無い……そうか……陽は、戦いと言う苦難の中で、何時しか頼る事をしなかった。いや、元々の彼の性分故に全てを自身一人で受け入れ様とした結果、溢れ出してしまったのだ……。

 

 〜私の力は今、貴方の妹の中にあります……間も無く、その力は開花し、貴方の大きな助けとなる筈です……。

 さあ、受け取りなさい……若き戦士よ……そして目を覚ますのです……! 貴方を愛する者達を守る為に……!〜

 

 アマテラスが祈る様に手を組むと、光のオーブがG -ブレスフォンに吸収されていった。すると、G -ブレスフォンの形状が金色と赤を模した色合いに変化した。

 

「こ、これは…⁉︎」

 

 〜貴方に更なる力を与えました……ですが、良いですか? 過ぎたる力を与えられた者は、その力に耐え切れずに身を滅ぼしてしまう……ですが、貴方なら大丈夫……貴方には”あの者”が失った心を持っている……。

 天照の竜よ……オルグと言う闇を照らす日輪となりなさい……!〜

 

 そう言い残すと、アマテラスは再び姿を消した。残された陽も意識を失い……そして、浮上して行った……。

 

 

 

「ク……‼︎」

 

 ガオグレーと狼鬼の戦いは、熾烈を極めていた。最早、互いに互いを幾多にぶつけ合っていたが、ガオグレーは蓄積されたダメージと疲労に倒れそうになっていた。

 反対に、狼鬼は全く疲れを感じさせ無い。三日月刀を構え、ガオグレーに向かって来る。

 

「うふふ……もう立っているのも、やっとの様ね……」

 

 ヒヤータは、ニヤリと笑う。ガオゴールドと引き離した今、ガオグレーさえ叩いて仕舞えば、ガオレンジャーは事実上の壊滅……王手は間近だ。

 此処まで外堀を埋める作業に時間を費やしたが、それも漸く報われる瞬間が来る。ヒヤータは勝利を確信していた。

 

 ーパリィィン…ー 何かが割れる様な音がした。

 

「あが……⁉︎」

 

 突然、横にいた鏡オルグが苦しみだす。見れば、彼の腹部にある鏡に亀裂が走っているからだ。

 

「な、何が…⁉︎」

 

 此処に来て、想定外の事態が起きてヒヤータは焦りを見せた。だが、鏡オルグの表面を走る亀裂は広がり、遂に音を立てて割れてしまった。

 すると、鏡オルグの中に閉じ込められていた祈が姿を現したのだ。

 

「な、何故⁉︎ 何が起こったの⁉︎」

 

 ヒヤータは完全にペースを崩されてしまった。祈の解放は計算外だ。自分の立てたプランには無い。

 だが聡明な彼女は直ぐに原因を知り、歌い続ける摩魅を見た。下を見れば、さっきまで操られていた人間達は気を失っている。

 

「……そう……そう言う事……」

 

 凄まじい怒りが、ヒヤータから滲み出る。すると、扇子に水を纏わせて鞭の様に振るった。

 ーバシィッ…と、素早く叩き付ける音が響音した。

 

「…舐めた真似して来れるじゃない…出来損ないの、糞虫が…‼︎」

 

 丁寧な口調をかなぐり捨てて、ヒヤータは無言のまま、倒れたヒヤータを水の鞭で強かに打ち据えた。

 

「鬼にも人にもなれない半端な存在の癖に…この私に歯向かうなんて、どう言う了見なのかしら……ねェェ!⁉︎」

 

 鞭を振り下ろすヒヤータの顔は憎悪に歪み、荒々しい姿だ。抵抗も泣き叫ぶ事もしない摩魅を、ただひたすらに鞭で叩く。側にて見ていたニーコも恐る恐る傍観していた。それだけに、今のヒヤータからは鬼気迫るものを感じた。

 更に彼女は、鞭で叩きつけ様とするが……。

 

「やめなさい‼︎」

 

 ヒヤータの前に、目を覚ました祈が立ちはだかる。最初は面食らったヒヤータは、嘲る様に嗤う。

 

「あらァ……そんな、役立たずのゴミの為に私の前に立ちはだかる気? ……気に入らないわ、人間なんて私達に狩られるだけの餌でしょう⁉︎ 私達に上質な邪気を吐き出させる為だけの⁉︎ その餌が、私に歯向かうなんて……気に食わないのよッ!!!」

 

 ヒステリックに激昂しながら、ヒヤータは喚き散らす。

 

「人間を舐めない事ね……オルグ…」

 

 祈は、ヒヤータに対して臆する事なく毅然として望む。その態度に益々、ヒヤータは激励する。

 

「そォう? そんなに痛い目を見たいの? だったら……望み通りに……ゴミ屑の様に痛めつけて殺してあげるわ‼︎」

 

 そう叫ぶと、ヒヤータは水の鞭で祈を縛り上げ様とする。だが、祈の身体に巻き付こうとした鞭は見えない力で弾け飛び、滴となって霧散した。

 

「な、何を……⁉︎」

 

 祈のただならない力に、流石のヒヤータも驚きを隠せない。これが、原初の巫女の力なのか? 奇しくも祈の中に流れるガオの巫女の力が、この様な形で覚醒したのか?

 その刹那、ヒヤータの背面を鋭い衝撃が走る。

 

 

「祈‼︎」

 

 

 声と共に降り立ったのは、ガオゴールドだ。頭上を見れば、ガオズロックが旋回している。

 

「おお、ガオゴールド! 来たか⁉︎」

 

 狼鬼と鍔迫り合うガオグレーは嬉しそうに叫ぶ。ニーコは驚いていた。

 

「あれェ⁉︎ 生きてたんですかァ⁉︎」

 

 ニーコの言葉に、ガオゴールドは挑戦的に言い放つ。

 

「死なないさ! お前達、オルグが人々に仇成す限りはな……ハァァ‼︎」

 

 ガオゴールドは祈を抱きかかえると、ガオグレーの後方にジャンプした。祈の安全を確保すると、彼女に……。

 

「さァ、祈……ガオズロックに……」

 

 祈を安全圏に送ろうとするが、祈は微笑む。

 

「兄さん……私だって自分の身は守るわ……私の力って、そう言う物なんでしょう?」

「祈…‼︎」

「大丈夫…! 兄さんの邪魔はしないから…! 兄さんは、兄さんの戦いを…‼︎」

 

 祈は、戦いに身を置くと覚悟を決めた兄に精一杯の激励を送る。ヘルメット内で、陽はニッコリと笑った。

 

「……ああ、分かった……‼︎ 僕の前に出るなよ…‼︎」

 

 それだけ言い残し、ガオゴールドはドラグーンウィングを構えながら狼鬼に向かい合う。

 それを見ていたヒヤータは、ニーコの持つ鬼の結晶を奪い取った。

 

「お、お姉様⁉︎」

「私に勝ったつもり…? 甘いのよォォ‼︎」

 

 そう叫ぶと、結晶を万力込めて握り潰した。すると、狼鬼の目は紅く光り、暴走を始めた。

 

「さァ、狼鬼‼︎ ガオレンジャーの皆殺しにしておしまい‼︎」

 

 そう言うと、ヒヤータとニーコは鬼門の中に消えて行った。残された狼鬼は笛を吹き始める。すると、魔獣と化したガオウルフ、ガオハンマーヘッド、ガオリゲーターが召喚された。

 

「ガオグレー、僕達も‼︎」

「応‼︎」

 

 ガオゴールド、ガオグレーも同時に宝珠を取り出す。

 

 

「幻獣

 百獣召喚‼︎」

 

 打ち上げられた宝珠に合わせ召喚されるレジェンド・パワーアニマルとパワーアニマル達。

 向かい合った計十体のパワーアニマル達は、同時に変形を始めた。

 

「幻獣

 百獣

 魔獣合体‼︎」

 

 掛け声と共に変形、合体を終えるパワーアニマル達。

 君臨するは、聖なる騎士ガオパラディンと剛力の闘士ガオビルダー、そして邪の王ガオハンター・イビル。

 三体の精霊王は、各々の武器を持って戦闘に入った。ガオパラディンのユニコーンランスで、ガオハンター・イビルの突きを入れ、ガオビルダーのリンクスパンチでリゲーターブレードを防ぐ。見事に連携を取れた戦いに、ガオハンター・イビルは押されていくが…。

 

「グォォォッ!!!」

 

 ガオハンター・イビルは突如、咆哮を上げる。すると、ガオハンターの身体は全身が漆黒に染まり、より邪悪な姿へと変貌した。

 

『大変‼︎ 狼鬼から滲み出る邪気が、ガオハンターにも影響を及ぼしているわ‼︎』

 

 テトムの声が響いた。それに合わせた様に、ガオハンター・イビルはリゲーターブレードを振り回し、ガオパラディンに奇襲を仕掛けた。

 

「クッ…凄いパワーだ…‼︎」

 

 後退させられたガオパラディンは、防御を解いてしまう。それ見定めたガオハンター・イビルは、ガオリゲーターの顔を展開して、邪気のエネルギーを溜め始めた。

 

「ガオゴールド‼︎ 危険じゃ、逃げろォォ‼︎」

 

 ガオグレーは、ただ事では無いと悟りガオゴールドに叫ぶ。だが、ガオゴールドは逃げない。いや、逃げる訳には行かない。

 

「大神さん……許して下さい……ガオパラディン、今こそ力を‼︎」

 

 ガオパラディンは、台座に手をかざす。すると、G -ブレスフォンと同調したガオパラディンの身体は光に包まれていく。すると、光が晴れた中に居たガオパラディンは全身がボディが金色の新たな形態となっていた。

 

「誕生‼︎ ガオパラディン・ゴールデンソル‼︎」

 

 

 〜原初の巫女より与えられし、強大なるガオソウルは精霊王の姿を更に進化させ、金色の太陽の名を冠した精霊の騎士へと姿を変えたのです〜

 

 

 新たな姿となったガオパラディン・ゴールデンソルは、同じくガオドラゴンの口に、エネルギーを溜め始める。

 

 

「聖火波動……スーパーホーリーハート‼︎

 天地崩壊……ビーストハリケーン‼︎」

 

 

 同時に放たれたエネルギーの光線は均衡し合う。エネルギーの打ち合いによる余波は周囲に影響を及ぼす程だ。

 その際、ガオビルダーが、ガオパラディンの横に立ちエネルギーを注ぎ始めた。

 

「ガオビルダーの力も足してやってくれ‼︎ 」

 

 エネルギーが更に補填され、スーパーホーリーハートの威力が増した。と、同時に背後から力が加わる。

 

「私達の力も使って‼︎」

「兄さん、負けないで‼︎」

 

 テトムと祈、二人のガオの巫女の力も合わさり、スーパーホーリーハートは、より強化された。

 

 

『行けェェェェ‼︎』

 

 

 遂に、ガオハンター・イビルの邪気のエネルギーを上回る程に巨大な姿となったエネルギーは、金色の竜の姿に変わり、邪の王を包み込んで行く。

 

 

「グアァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 スーパーホーリーハートをもろに受けたガオハンター・イビルの内部で狼鬼は断末魔を上げる。溢れ出る力が、コクピット内に迄、達して行く……。

 その刹那、狼鬼の仮面、そして身体に亀裂が入って行き……。

 

 直撃したエネルギーは光の柱を上げ、ガオハンター・イビルを遂に撃破した……‼︎

 

 

 

 戦いの後、ガオゴールドは大地に降り立ち、戦場を探し回る。消滅したガオハンターの中に居る筈の狼鬼を探していたのだ。

 果たして、そこに横たわっていたのは…!

 

「大神さん‼︎」

 

 ガオゴールドは倒れていた大神を見つけた。彼の周りには、狼鬼の面がバラバラになって砕け散っている。

 ガオゴールドが、大神を抱き寄せて呼び掛ける。

 

「大神さん…大神さん‼︎」

 

 何度も揺さぶりながら、呼び掛けた。すると、大神は苦しげに眉を動かし……瞼を開けた。

 

「あ……陽……」

「大神さん‼︎」

 

 目を覚ました大神に、ガオゴールドは感極まり泣きながら抱き締めた。まだ、ダメージの残る大神は苦笑しながら…。

 

「…おい、止めてくれ…まだ痛むんだ…」

 

 そう返した。自分の知る大神が戻って来た。間も無く、ガオグレー、テトム、祈もやって来て…見事に大団円となった。

 

 

 〜遂に、やりました‼︎ 敵の作戦を見事に退けて…大神月麿の奪還に成功した、ガオレンジャー‼︎ しかし、狡猾なヒヤータはこのまま、終わらせるつもりは無いでしょう…‼︎



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quest26 ヒヤータの逆襲‼︎【挿絵付き】

 鬼ヶ島に戻った後、玉座の間にてテンマは冷徹な目で、ヒヤータを見据えていた。ヒヤータは頭を下げて、いつもの様な尊大さが見られない。

 

「……作戦は失敗…しかも、狼鬼をガオレンジャーに奪還されてしまった…だと?」

 

 デュークオルグとは言え、失敗は失敗……しかも、石橋を叩いた上から更に叩くタイプのヒヤータの失敗だ。

 これには、比較的にヒヤータを四鬼士の中で優遇していたテンマからすれば許し難い不始末である。

 

「……ヒヤータ……貴様らしく無い失敗だな……あれ程に、策に策を上塗りした末に寝首を掻かれるとは、正に策士、策に溺れたな……」

「……お返しする御言葉が、見つかりません……」

 

 今回の一件、ヒヤータの計略ではガオグレーを狼鬼を倒していれば、それで全ては成功していた筈だった。

 だが、最後の最後に摩魅の思わぬ抵抗とガオゴールドの帰還と言うイレギュラーな事態が立て続けに起きた結果、形勢は逆転された挙句、狼鬼を操る鬼の結晶を意図的に破壊して暴走させた末、精霊王に倒されてしまった……。

 言うなれば、逆上したヒヤータの一時の怒りから起きた油断によって敗北を喫した、と言っても過言では無い。

 思う所がある故、ヒヤータも言葉を返せずに居た…。

 

「このままでは終わりませんわ……次で、ガオレンジャー達を血祭りに上げてご覧入れましょう」

「ほゥ……大した自信だな?」

 

 ヒヤータの言葉を聞いたテンマは、警告を入れる様に凄む。

 

「ヒヤータ、分かっていようが……余の配下に役立たずは要らぬぞ? 失敗は許さん、必ずやガオレンジャー達の首を携えて余の前に献上せよ」

「……御意」

 

 そう言い残すと、ヒヤータは鬼門に姿を消した。その際、テンマの背後に、ガオネメシスが姿を現した。

 

「さて…ガオネメシスよ。ヒヤータは、ガオレンジャーに勝てると思うか?」

 

 テンマの質問に対し、ガオネメシスはクックッと小さく笑う。

 

「……あの女は頭が切れる。だが、それだけだ。正面から、ガオレンジャーにぶつかっても、先ず勝てんさ」

「……ならば、何故にヒヤータを行かせた? 貴様の指示に従っても、勝てる見込みが無い戦となるのでは、無駄ではないか?」

 

 そもそも、テンマは四鬼士を部下として招集する事にには反対だった。各々に我が強く、一癖も二癖もある輩ばかりだ。

 ツエツエやヤバイバは役立たずだが、自分やガオネメシスが動けば、ガオレンジャーを一網打尽にする事は容易い。

 にも関わらず、ガオネメシスの鶴の一声で四鬼士への招集を掛けた。テンマからすれば、それが理解出来ない。

 

「役に立たぬなら、それ相応の使い方がある……と言う事だ。どの道にしろ、ヒヤータは狡猾過ぎる故に野心が強い。

 生かしておいても、メリットには成るまい……それより、例の’’計画”に利用すれば良い……」

「計画……”鬼還りの儀”か……」

 

 ガオネメシス、テンマの口から発せられた謎の言葉に、ガオネメシスはクックッと笑った。

 

「……そうだ……この計画が実現すれば、この地上は再び、オルグの楽園となる。かつて、オルグの天下だったかの時代が現代に蘇るのだ……ハッハッハッハ……!」

 

 そう言って、ガオネメシスは高笑いを上げた。それを扉に張り付く様に、ツエツエは立ち聞きしていた。

 

「例の計画? 鬼還りの儀? 一体、何の話なの⁉︎ そもそも、ガオネメシスは何者だって言うの?

 ……どうやら、愚図愚図してる場合じゃ無いわね……‼︎」

 

 ツエツエは意を決した様に、踵を返して鬼門の中に姿を消した。様々な野望、思惑が入り乱れる中、邪気の霧に覆われる鬼ヶ島は不気味に映っていた……。

 

 

 

 一方、ガオズロック内では……無事に救出した大神を休ませていた。狼鬼の呪縛から解放されたものも、精神的にも体力的にも大神は疲弊し切っていた。身体を休ませなくてはならない……テトムが泉の水を水飲みに掬って飲ませて、漸く大神は落ち着いた。

 

「シロガネ……お帰りなさい……」

 

 改めて、テトムは最愛の仲間の帰還を労った。大神は頭を振る。

 

「よしてくれ、テトム……俺は、お前達をまた裏切ってしまった……労われる資格も無い……」

 

 狼鬼として操られながらも、大神は朧げながらに意識を有していた。逆らおうとして狼鬼の意志に反して助けようとしても、オルグの策謀によりその意志さえも封じ込まれ、望まぬに関わらず仲間達と戦う事を強要されてしまった。

 その自己嫌悪と罪悪感が、大神の心を責め立て苛めていく……そんな彼に、陽は慰めた。

 

「……大神さん、自分を責めないで下さい……全ては、オルグのせいです。狼鬼として操られながらも、大神さんの意思は残っている事を感じていました……」

 

 陽の言葉に、大神は弱々しく笑う。

 

「……驚いたな、陽……暫く会わない内に、戦士として成長した……正直、見違えたよ……」

 

 改めて、陽の姿を見た大神は素直に称賛した。

 平和な日々を過ごして来た甘さの捨てきれない少年は、数々の修羅場を潜り抜けた結果、戦士の矜恃を持つに至っていた。

 

「僕は……佐熊さんやテトム、祈が居なければ何回、死んでたか……」

 

 今日まで、ガオゴールドとして戦って来たが決して楽観出来た勝利とは言えない。辛うじて、仲間達のサポートがあっての紙一重による勝利と言えた。

 それでも勝つ事が出来たのは、自分一人による手柄とは陽は思えない。 

 

「いや……そう考えれる様になれたのなら上出来だ。千年の友が…ガオゴッドが、お前を認めた理由が今から良く分かる……。間違い無く、今のお前は立派なガオの戦士だ……」

 

 大神は自分無しで、ガオレンジャーの重圧に陽が耐えれるか、 と気掛かりであったが、それは取り越し苦労に終わったらしい……正直、安心した。

 その際、テトムと佐熊が入って来た。

 

「テトム、祈は?」

「大丈夫……無事に学校に送り返したわ……荒神様が、学校や操られた人々の記憶を改変していてくれたから、騒ぎにはなって無いわ….」

「あれだけの騒ぎに巻き込まれながらも、毅然としていたわい……まだまだ、小娘と思ったが大した度胸の座った娘じゃ!」

 

 そう言いながら、佐熊はカラカラと笑う。佐熊の姿を見て、大神は驚いた顔になる。

 

「お前は……まさか、カイ……か⁉︎」

 

 大神の声は震えている様だ。だが、佐熊はキョトンとした様子で彼を見る。

 

「カイ……? はて……ワシの事を言っておるのか、シロガネ?」

「ああ……でも、何故⁉︎ お前は……ク……‼︎」

 

 興奮のあまり、立ち上がろうとするが大神は身体に残るダメージ故に痛みを覚え、顔をしかめる。

 

「シロガネ……無茶をしては駄目よ……‼︎ 」

 

 テトムは、大神の身体を支えた。

 

「……スマン……だが、どうしてだ? お前は、あの日、鬼地獄に堕ちて行った筈だ……」

「説明すると長くなるがのゥ……どうやら、ワシも鬼地獄に封印されとる内に千年以上、経ってしまった口じゃ……。

 詳しい話は、テトムに聞いた。百鬼丸を倒す為、狼鬼となった事もな……しかし、互いに再会出来て良かったわい」

 

 細かい事は特に考えず、佐熊はあっけらかんと答えた。同時に、陽が口を挟む。

 

「失礼ですが……貴方の名前は、カイと言うんですか?」

 

 陽の質問に、佐熊はウームと唸った。

 

「どうも、そうらしいのォ……しかし、昔の名前じゃ。もう、ワシにはどうだって良い事だし今迄通り、佐熊力丸と呼んでくれた方が良い。それで良いか、シロガネ……いや、大神月麿?」

 

 改めて、自己紹介した佐熊に対し月麿は笑う。

 

「……ああ、どうやら俺の知っているカイらしいな……。

 ならば俺も、この時代に合わせて大神月麿と呼んでくれ……」

 

 曲折経てだが、千年前のガオの戦士は和解しあった。互いに悠久の時を乗り越えて、現代に生きなくてはならない身だったが、かつて闘いを共にした同士が今、再び共闘するに至れたのだ。

 

「さァ、これでガオレンジャーは全員揃ったわ……しかし、いつの間にか3人も揃ってしまったわね……」

 

 テトムは陽、大神、佐熊と順に見ていく。何れとも、個人の実力はガオレンジャー5人分と言っても過言では無い。

 特に最近の、ガオゴールドの成長は目覚ましい。このまま行けば、オルグ達を全滅させる日も遠くは無いかも知れない。

 

「今は、ゆっくり休んで下さい……オルグ達は、僕達を休ませる気は無いだろうし……」

「ああ……すまない……」

「……それにしても、あのヒヤータと言う女、かなりの曲者じゃ。このまま、大人しくしているとは思えんのゥ……」

 

 3人の戦士は、深刻な表情で互いを見た。

 現在、オルグ側に味方するデュークオルグ”四鬼士“……その中でも極め付けに狡猾で残忍な策士、ヒヤータ……次は、どんな悪事を企むのか……想像も付かなかった……。

 

 

 

 一方、とある洞穴内……鍾乳石や石筍が立ち並び、ゾクリと背筋を突き刺す冷気が立ち込める闇の中……カツン…カツン…と岩を叩く音が聞こえて来る。

 

「おい、ツエツエ……本当に此処で間違いないのか?」

 

 暗闇の中で、ヤバイバの声がする。手にはツルハシを持って、岩を切り崩している。

 

「ええ……間違いないわ…! 書物によれば、此処にある筈!」

「しかし……何だって、俺達ばかりがこんな事…!」

 

 ツエツエの言葉とは別に、ヤバイバはブツクサと文句を言う。

 

「もう少しの我慢よ! これを発掘さえすれば……!」

 

 ヤバイバを励ましながら、ツエツエもツルハシを振り下ろす。額に汗を滲ませながら、2人の鬼は闇雲に岩を掘り崩す。

 

「…テンマ様が私達を見限り、四鬼士も負け続き……このままじゃ、私達が粛正されるのも時間の問題……‼︎

 私達が助かるには、これに賭けるしか無いの……‼︎」

 

 そう言いながら、ツエツエはツルハシを打ち付けた。その時、ガッ…と特に硬い物体にぶつかった音がした。

 

「手応えがあったわ……‼︎」

 

 してやったり、と明るい声でツエツエは言った。ツルハシで僅かに残った岩屑を払い落としていくと……。

 

「ヤバイバ…やったわよ、私達……‼︎」

「おおォ…‼︎」

 

 2人は、頭に付けたヘッドライトを岸壁全体を照らしつつ後退する。岸壁の中にはには壁に埋め込まれた氷壁に閉じ込められた三体の異形……内一体の姿は、竜に似た頭部をしている。

 

「ガオネメシスの言ってた通りだわ…! 本当にあったのよ…‼︎」

「これが…伝説の…⁉︎」

 

 ツエツエは目を輝かせ、ヤバイバは息を飲む。

 

「…そうよ…オルグの中でも最古の存在とされ、その強過ぎる力から封印された最強…もしくは最凶のオルグ魔人……!

 ふふふ…遂に、見つけたわよ……!」

 

 ツエツエの目は欲望で、ギラギラと輝いていた。

 

「此れを復活させれざ、私達はテンマ様にビクビクする事は無いわ…! 四鬼士達に扱き使われる事も無い…!」

「…ああ…苦労が報われるな…!」

「…思えば、ガオネメシスの尾行して…この情報を漏らすのを盗み聞きしたのが始まりだった…それから、詳しい場所を探り当てる迄……長かったわ……‼︎』

 

 ツエツエは思い返す。テンマによる恐怖政治にてオルグは一枚岩に纏まったものも、数々の失敗や四鬼士の登場により、オルグ内に於ける自分達の地位は下落し窓際に迄、追いやられてしまった。

 しかし、このままで諦めるツエツエでは無い。必ずや、手柄を立てて返り咲いて見せる……ゴーゴやヒヤータに扱き使われながらも、ニーコに嘲笑われながらも、ツエツエは堪えた。それもこれも、全ては”この瞬間“の為……!

 

「この3人のオルグ魔人達が、私達の”切り札”よ!」

「し、しかしよ……こいつら、本当に俺達に従うのか? かの百鬼丸さえ、持て余した奴等なんだろ?」

 

 ヤバイバは不安そうに、ツエツエを見た。

 

「大丈夫……私は、オルグの巫女よ。この私が本気を出せば、全てのオルグ達を使役する事は容易いわ……‼︎」

 

 そう言うと、ツエツエは自前の杖を構えて呪文を唱え始めた。

 

 〜永久に鎖されし氷壁に魂と共に封じられ、永劫の眠りに就く三体の鬼よ……今こそ、その封印を解き放たん……我、銘じる……目醒めよ! そして、我に従属し給え……!

 鬼は内! 福は外!〜

 

 ツエツエの呪文と共に巫女舞を披露した。すると杖から放たれた邪気が氷壁を覆い尽くして行き、堅牢な氷の表面に亀裂が生じる。やがて亀裂は広がって行き、中に眠るオルグ魔人達の目が紅く発光、氷は砕け散った……。

 

 

 

 翌日、陽は祈を伴い通学中だった。昨日、学校を途中で抜け出した為、不安だったが、幸いな事に美羽が先生に口裏を合わせてくれたらしい。

 だが、猛とは未だ話が付いていない。其れが気掛かりだ。

 

「ねェ、兄さん……猛さんと喧嘩したって本当?」

 

 不意に祈が話し掛けて来た。陽は重々しく頷く。

 

「ひょっとして……ガオレンジャーの事で?」

「……僕が最近、ガオレンジャーとして抜け出す事がバレたんだ……ガオゴールドである事は、バレてないけどな…」

 

 祈には打ち明けた。ガオレンジャーに関しての秘密はしない……少なくとも、現時点では祈も当事者であるからだ。

 祈は悲しそうに俯いた。

 

「…兄さんが、ガオレンジャーとして戦っている事……せめて、猛さん達に話さない?」

 

 

 陽は、やっぱりそう来たか…と言わんばかりに、祈を見た。

 

「話して、どうなる? アイツらが納得してくれるのか?」

「でも…このままじゃ、兄さんが……!」

 

 分かってる…祈の言いたい事は…。今回、自分はガオレンジャーとしての重圧、使命に囚われる余り、大切な人間達と距離を置く自分に気付いた。

 それは、危険な目に合わせたく無いと言う配慮もあるが……同時に、ガオレンジャーと言う異質な存在となった自分の姿を知られたく無かったからだ。

 祈とは特殊な形で秘密を共有、和解に至れたが、彼等の場合は違う。ガオレンジャーでも無ければ、関係者でも無い。

 言い換えれば部外者だ。そんな彼等に、どう説明すれば分かって貰える? 陽は眉根を寄せた。

 

「に…兄さん…」

 

 急に祈が震える様な声がした。

 

「どうした、祈?」

「…あれを見て…」

 

 祈が指を差すと、猛と昇が歩いている。だが、様子が変だ。足取りがフラフラとして、どうも真っ当な精神状態とは言い難い。

 

「おい、猛! 昇!」

 

 陽は2人に声を掛けた。だが、2人は陽と祈に目もくれずに無言で歩いて行った。更に2人の目を見れば、虚ろな目となっているのが分かった。

 

「…まさか…」

 

 嫌な予感がして、陽は駆け出す。祈も後に続くが……。

 

「祈! お前は…‼︎」

「危ない目に遭わせたく無い…って言いたいんでしょう?

 でも、今の状況なら兄さんと別れた方が危ないじゃない!」

 

 緊迫した状況ながら、陽は苦笑した。

 確かに……今、祈と別行動を取れば、祈の身柄を奪われるかも知れない。オルグ達の狙いは、自分だけじゃなく祈も然りだからだ。

 

「….…分かったよ……僕から離れるなよ‼︎」

「…うん…‼︎」

 

 陽は根負けして、祈を同行させる事にした。祈も強い顔で付いてくる。陽のG−ブレスフォンが強く輝きを放った。

 

 

 

 猛達を尾行して付いていくと、其処は昭和時代頃に建てられ現在は廃校となった中学校に辿り着いた。校門を潜ると、グラウンドには猛や昇を始め多くの人間が倒れている。

 

「こ、これは……⁉︎」

 

 嫌な予感は的中した……‼︎ やはり、オルグ達の罠だった。自分達を誘い出す為に…‼︎

 

 

「ご機嫌麗しゥ……ガオゴールドさん?」

 

 

 神経を逆撫でする様な下卑た声が、響いた。声の方角を見れば、ニーコは宙に座り微笑んでいる。

 

「お前は…‼︎」

「ようこそ…私達、オルグの主催する死のパーティーへ…そして、お久しぶりですわねェ…竜崎祈さん?」

 

 ニーコは余裕ある態度を崩さずに、祈に微笑む。祈は、キッと睨み付けた。

 

「貴方…あの時の…!」

 

 祈は覚えていた。つい昨日、祈を捕らえたゴスロリ衣装のオルグ……其れが彼女だからだ。

 

「はァい♩ まさか、貴方まで来て下さるなんてェ…光栄ですわァ…そ・れ・で・は……ヒヤータお姉様、どうぞ!」

 

 ニーコは手を上げる。すると鬼門が開き、中から凄まじい形相のヒヤータが現れた。

 

「……待ってましたわ、ガオゴールド…‼︎ 貴方達のせいで、私の練りに練ったプランは御破産……オルグ内での地位も危うくなりましてよ……さァ、どうしてくれまして?」

 

 普段の知的な顔は無く、ガオレンジャーに対しての憎しみと計画の破綻からか激情を露わにしていた。

 

「自業自得だろう⁉︎ それより、これは何の真似だ! 僕の友達や関係ない人達を連れ込んで⁉︎」

 

 陽も負けじと叫ぶ。すると、ヒヤータは冷たい声で高笑いした。

 

「これは見せしめですわ…‼︎ 彼等の魂は皆、生きたまま引き剥がしてあげたのよ‼︎ そして……それは此処に!」

 

 そう言うと、ヒヤータは水色の掌に収まる程度の水晶玉をチラつかせた。そして、其れを口に入れる。

 

「な、何を⁉︎」

 

 陽は止めようとするが、ヒヤータはゴクリと飲み込んでしまった。

 

「さァ…これで彼等を助けるには、私を倒すしか無くなりましてよ……これが、貴方への見せしめですわ……!」

「き、貴様……‼︎」

 

 陽は、怒りでワナワナと震えた。祈は被害者の中に舞花や千鶴が居るのも気付いた。

 

「ご丁寧に貴方達の友人にターゲットを絞って差し上げましたのよ? 倒れている者達を見て御覧なさいな? 知った顔ばかりでしょう?」

 

 ヒヤータに言われた通りに見回せば、全て陽や祈に関係する者達だ。

 

「……僕の大切な人達を、よくも……‼︎ 許さない‼︎」

「ホホホホ‼︎ 許さない、は良かったですわ‼︎ でも……許さないのは、こっちの台詞なんだよ‼︎ この糞餓鬼が‼︎」

 

 遂にヒヤータは言葉遣いを乱暴な口調に変えて、口汚く陽を罵った。と、同時に人間を模した顔にヒビが走る。

 

「お前達、人間は私達、オルグに狩られるだけの餌でしか無い……大人しくしてりゃ生かさず殺さず、飼い殺してやったものを……私に逆らったばかりに、惨めな死を受ける羽目になるんだ……ハッ! つくづく、人間は馬鹿だなァ! そもそも、私達オルグを生み出しているのは、お前等じゃねェかよ‼︎」

「……皆を解放しろ、ヒヤータ……‼︎」

 

 怒り狂うヒヤータに恐れる事なく、陽は言葉を発した。其れが気に食わなかった為、ヒヤータは更に激昂、顔のヒビが益々、広がった。

 

 

「私に命令するんじゃ無いよォ‼︎ ゴミ屑以下のカス人間がァァァ‼︎ 良いわ…そんなに死にたいなら…殺してやる‼︎ だが、楽に死ねると期待するなよォ? 甚ぶって引き裂いて……絶望に堕とした末に殺してやるよォォ…!‼︎」

 

 

 そう叫ぶと、ヒヤータの顔は完全に崩れ落ち、醜いオルグの素顔が現れた。逆立った髪、伸びた角、両手の爪は鋭く伸びきって居る。

 

「あれが、ヒヤータの本性か…‼︎ 」

「…浅ましいね…‼︎」

 

 陽も祈も、醜悪な本性を露わにしたヒヤータに嫌悪感を隠さない。その際、佐熊と大神が駆け付けた。

 空を仰げば、ガオズロックが低空で飛行している。

 

「泉がボコボコ泡立って居るから来てみたら…大変な事になっとるのォ…‼︎」

 

 佐熊は倒れ伏す人間達や、変貌したヒヤータに驚く。陽は、大神の姿に目を丸くした。

 

「大神さん⁉︎ まだ、動いては…⁉︎」

「大丈夫だ…‼︎ ガオレンジャーの一員である俺が何時迄も寝てられるか…‼︎」

「だけど…‼︎」

「それに…ヒヤータには借りがあるからな…‼︎ 借りはキッチリ払って貰う‼︎」

 

 食い下がろうとしない大神に、陽は仕方ないと頷き…祈に声を掛けた。

 

「祈! ガオズロックに避難していろ‼︎」

「分かった‼︎」

 

 祈を下がらせて、陽達はG−ブレスフォンを構えた。

 

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 

 3人の戦士は光に包まれ、ガオスーツを身に纏った。

 

「天照の竜! ガオゴールド‼︎」

 中央に立った金色の竜が強く吠える。

 

「豪放の大熊! ガオグレー‼︎」

 右に立った灰色の熊が雄々しく吠える。

 

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

 左に立った銀色の狼が気高く吠える。

 

「命ある所、正義の雄叫びあり…!

  百獣戦隊……ガオレンジャー‼︎」

 

 ガオゴールドを筆頭とした新生ガオレンジャーが今、爆誕した。

 

 

「す、凄い…!」

 

 改めて間近で、ガオレンジャーの姿を見た祈は驚愕する。そして、テトムも3人の勇姿に涙を流す。

 

「テトムさん?」

「ごめんなさい……昔のガオレンジャー達を思い出しちゃって……さァ行って! 新生ガオレンジャー‼︎」

 

 テトムは確信した。この3人が集った今なら、かつてのガオレンジャーにも負けない、と……‼︎

 

 

 

「蛆虫共がァァ…‼︎ この水のヒヤータを舐め晒しやがってェェ……‼︎ オルゲットォォ!!!」

 

 怒りに燃えるヒヤータは、多数のオルゲットを召喚した。

 

「さァ、貴方達‼︎ やっておしまい‼︎」

『オルゲットォォォォ!!!』

 

 ニーコの命令に、オルゲット達は動き出す。対して、ガオゴールド達も破邪の爪を召喚して迎え討った。

 

「グリズリーハンマー‼︎」

 

 ガオグレーは剛の大槌、グリズリーハンマーを振り上げてオルゲット達を吹き飛ばした。

 

「ガオハスラーロッド、サーベルモード‼︎」

 

 ガオシルバーは剣の状態にしたガオハスラーロッドで、襲い掛かるオルゲット達を斬り伏せて行く。

 

「ドラグーンウィング‼︎」

 

 ガオゴールドは二刀流にしたドラグーンウィングで、オルゲット達を両断にして行く。

 今迄に無い連携、心強さにガオゴールドは内心、気が昂っていた。

 

「(凄い…こんな事、今迄に無い位の力が湧いて来るみたいだ‼︎ 今の僕達なら…かつてのガオレンジャーにも負けないチームになれる…‼︎」

 

 そう考えながらも、眼前に迫ったオルゲットを斬り倒した。

 余りに不甲斐ないザマに、ヒヤータは苛立っていた。

 

「たった3人ばかりに何をグズグズと……退くんだよ‼︎」

 

 遂に、オルゲット達を下がらせてヒヤータが前線に立った。地面から突き出した水の触手を鞭の様にしならせ、ガオゴールドを狙う。

 だが、その水の触手をドラグーンウィングで斬り払って躱し至近距離に迄、迫った瞬間にヒヤータの眉間を斬った。

 

「ぐあァァァ……!?!」

 

 眉間から緑色の血を吹き出させながら、ヒヤータは呻いた。

 その刹那、ガオシルバーがガオハスラーロッドをスナイパーモードに変形させ、隙ができたヒヤータの腹部を撃ち抜いた。

 

「う…ぐゥゥ……‼︎」

 

 不意打ちを受け、ヒヤータは苦しむ。だが続け様に、ガオグレーがグリズリーハンマーで、ヒヤータの背部から叩き付けた。

 

「がはァァ……⁉︎」

 

 立て続けに攻撃を受け、ヒヤータは怯む。三方向から、彼女を挟み込み包囲したガオゴールド達は、それぞれガオサモナーバレット、ガオハスラーロッド、グリズリーハンマーを構える。

 

「破邪……聖火弾‼︎ 邪気……焼滅‼︎

     聖獣球‼︎     玉砕‼︎

     剛力衝‼︎     爆砕‼︎」

 

 各々の放った必殺技が、ヒヤータに次々と着弾し大爆発を引き起こした。天まで立ち昇る火柱に呑まれ、ヒヤータは遂に倒れ伏した。

 

「やったぞ‼︎」

 

 ガオゴールドは勝鬨を上げた。だが火柱が収まると共に爆煙を掻き分けて、ヒヤータが立ち上がった。

 

「まだ生きとるんか⁉︎ しぶとい奴め‼︎」

 

 ガオグレーは、予想以上のしつこさに舌を巻いた。

 だが如何せん、受けたダメージは大き過ぎた。ボロボロの状態で辛うじて生きている様だ。ヒヤータは悪鬼の如く、顔を歪ませながら吠えた。

 

「許さ…なァァ……い‼︎ まだ、私は終わってないわ……‼︎

 ニーコ‼︎ 何をボサッとしてるんだい⁉︎ 私を援護するんだよ‼︎」

 

 ヒヤータは最後の手段として、ニーコに助け船を求めた。だが、ニーコは微笑んだまま何もしない。

 

「? 何を……黙ってる⁉︎ さっさと…‼︎」

「もう、お仕舞いですわァ。お姉様♡」

 

 ヒヤータの言葉を黙らせて、ニーコは言った。次の瞬間、ヒヤータにボーガンを向けて穿つ。

 

「う…あ…⁉︎⁉︎」

 

 ヒヤータは蹌踉めきながら、腹部を見る。突き刺さっていたのは注射器に似た弾丸だ。

 

「これ…は…⁈」

「ハァイ♡ お姉様の開発した、オルグシードの抽出薬ですゥ♡ だってェ、お姉様はもう負けちゃう寸前じゃないですかァ。自慢の智略も役立たず、最後の足掻きとしてガオレンジャーに挑んでも、この体たらく……後は、こうするしか無いですねェ?」

「き……きさ……まァァァ……!‼︎」

 

 土壇場で裏切られたヒヤータは苦しみながら、ニーコを睨む。だが、ニーコはペロリと舌を出した。

 

「本望でしょう? 最後はオルグらしく死ねる様に御膳立てしてあげたんですからァ? じゃ…チャオ♡」

 

 そう言い残し、ヒヤータは鬼門の中に消えていった。残されたヒヤータは、ボコボコと音を立てながら巨大化して行く……。だが知性は無くなり、ただ本能のままに暴れ回った。

 

「グゥ……ウアァァァッッ!!!」

 

 最早、策士としての一面は無くなり、オルグの本能赴くままに暴れ回るヒヤータ。爪で廃校舎を切り刻み、水の鞭で大地を抉る。

 

「ガオゴールド‼︎ パワーアニマルを‼︎」

 

 ガオシルバーに促され、ガオゴールドは我に返りガオサモナーバレットを天に掲げた。

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 天に打ち上げられた3つの宝珠が輝きガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンが召喚された。

 

「幻獣合体‼︎」

 

 その掛け声と共に合体、誕生する聖騎士ガオパラディン。胸部にソウルバードに搭乗したガオゴールドが吸収され、ガオパラディンはヒヤータと向かい合う。

 

「ユニコーンランス‼︎」

 

 ヒヤータに、ユニコーンランスを突き付けるがランスは水の鞭に阻まれてしまう。

 

「ギイィィィッ!!!」

 

 途端に鋭い爪で、ガオパラディンは切り裂かれてしまう。

 致命傷には至ってないが、腐ってもデュークオルグ。オルグシード抽出薬で強化された分も相まって、ガオパラディンを後退させた。

 

「うわァァァッ⁉︎」

 

 コクピット内に火花が走る。しかし戸惑っていれば、辺りへの被害は甚大になる。短期決戦に臨まねば…‼︎

 

「ゴールド! くそゥ…ガオビルダーが出せれば…‼︎」

 

 ガオグレーは悔しそうに歯噛みした。先の戦いで多数のガオソウルを消費してしまい、ガオグリズリー達は疲労…ガオビルダーとして手助け出来ないのだ。それは、ガオシルバーも同様だ。

 

「グレー‼︎ 俺達の力を、パワーアニマルに込めれば……‼︎」

「…うむ…‼︎ それしか無いのゥ‼︎」

 

 そう言って、2人は宝珠にありったけのガオソウルを込めた。そして、ガオパラディンに投擲する。

 

「ガオゴールド‼︎ 俺達の力を……‼︎

「使ってくれィ‼︎」

 

 全てのガオソウルを注ぎ込んだ2人のガオスーツは粒子となって消滅した。だが、2人の戦士が託した力は、コクピット内に立つガオゴールドの手に渡った。宝珠を台座にセットし、ガオゴールドは叫ぶ。

 

「百獣武装‼︎」

 

 その刹那、ガオユニコーン、ガオグリフィンは分離して、代わりに右腕にガオハンマーヘッド、左腕にガオリンクスは武装された。

 

「誕生‼︎ ガオパラディン・アナザーアームⅡ ‼︎」

 

 〜2人のガオの戦士の力を受け取り百獣武装した時、心技体を兼ね備えた精霊の王となるのです〜

 

 右腕のガオハンマーヘッドはリゲーターブレードを構え、左腕のガオリンクスは吠える。

 ガオパラディン・アナザーアームⅡは素早く飛び上がり、ヒヤータの背部に回り込む。水の触手で捉えようとするも、ガオリンクスの繰り出すリンクスパンチで殴りつけられてしまい不発に終わった。

 

「が……アアァ……‼︎」

 

 怒りに狂うヒヤータは向きを変え、爪で切り付けようとしたがリゲーターブレードで爪を斬り取られた。

 

「ひぎィィィ……‼︎」

 

 激痛に喘ぎながらも、ヒヤータは水の触手を総動員してガオパラディン・アナザーアームⅡを捕まえた。だが、ガオパラディンは万力を込めて触手を引き千切った。

 拘束を抜けたガオパラディンは左右に加速を始める。まるで分身したかの様に、5体に増えたガオパラディンをヒヤータは闇雲に切りつけた。だが、5体共、霞と共に消えた。

 

「コッチだ‼︎」

 

 ガオゴールドの声に、ヒヤータは振り返る。其処にはガオパラディン・アナザーアームⅡが、リゲーターブレードを構えている。

 

「避けてみな! 悪鬼突貫! ホーリースパイラル‼︎」

 

 突き出したリゲーターブレードが、ヒヤータの腹部を貫いた。ヒヤータは苦しみながら爆発していく。

 

「……あがァァァ……‼︎ 私が……こんな所で……ウラ…さまァァァ!!!!」

 

 今際の際に知性が蘇ったヒヤータは苦悶の断末魔を上げながら、再び爆炎に飲み込まれた。燃えゆくヒヤータを背に、ガオパラディンはリゲーターブレードを肩に乗せる。

 

「やったァァァ‼︎」

 

 ガオズロック内にて、テトムと祈が抱き合って喜ぶ。地上でも、大神と佐熊が肩を抱き合いながら喜んでいた。

 勝利の雄叫びを上げつつ、ガオパラディン・アナザーアームⅡはリゲーターブレードを掲げた。

 

 

 

 洗脳の解けた人々は、何があったか分からない様に歩いていく。中には猛と昇も居た。

 

「何だって俺達、こんな所に?」

「さァな…」

 

 記憶の無い2人は首を傾げる。その際、陽が駆け寄った。

 

「猛、昇…‼︎」

 

 親友の無事に、陽は安堵した。その声を聞いた猛は、陽を見ながらバツが悪そうに笑った。

 

「陽……昨日は悪かったな……俺、どうかしてたわ……」

 

 その言葉に、陽も笑う。

 

「もう良いんだ……僕も、コソコソしてゴメン…」

 

 今は未だ秘密を打ち明ける時期では無い。だから、必ず笑って話せる日が来る迄、戦い続けよう…! ガオレンジャーとして‼︎ 陽は、そう胸に誓った。

 

「ほら…早くしないと、遅刻だぜ?」

 

 昇に急かされ、2人は慌てて走り出す。その様子を、祈は見ていた。

 

「祈ー? 早くしないと、置いてくよ〜?」

 

 舞花と千鶴に呼ばれて、祈も急いで学校へと向かった。テトム、大神、佐熊は2人の姿を見ながら、微笑ましく笑った。

 

 

 〜遂に四鬼士の2人目、水のヒヤータを撃破したガオレンジャー‼︎ だが、知性を活かして暗躍した彼女は手強かった。

 全てのオルグを倒す時まで、ガオレンジャー達の戦いは終わらないのです〜

 

 ーオリジナルオルグ

 −水のヒヤータ

 四鬼士の紅一点。智略を得意とし、狡猾な罠を張り巡らし敵を追い詰める策士。

 普段は穏やかで冷静だが、自身の策が破られたり想定外の事態が起きると、荒々しく粗野な口調となる。

 ハイネスデューク、ウラを信奉していた。

 

 −邪装ヒヤータ

 人間の姿を解き、オルグとしての本性を見せた姿。

 口調は乱暴で汚くなり、策を用いず力に頼った戦い方に傾倒する。こちらが、彼女の本質らしい。




おまけ


【挿絵表示】


ニーコのイラストを載せておきます。


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quest27 鬼の忍び達!

 鬼ヶ島、玉座の間……。

 

「…ふん…ヒヤータめ。大層な口を叩いておきながら、負けるとはな……」

 

 テンマは吐き棄てる様に毒吐く。ガオネメシスは嘲笑う。

 

「知将を気取って居ながらも、所詮はデュークオルグ……一皮剥けば、暴れ回る程度しか能のない……」

 

 ガオネメシスの言葉に、テンマも忌々しげに唸った。

 

「…そう怒るな、テンマ……ヒヤータやゴーゴは其れなりに役に立ってくれた……それにしても、ガオゴールドだな……奴のここ最近の成長は著しい……たかが若造と侮って居たが、中々どうして捨てた者では無い訳だ……」

「悠長な事を言っておる場合か‼︎ ガオレンジャーの戦力を削ぐ為に、余の断りも無く鬼面を使い狼鬼まで引っ張り出したのに、この有り様とは……ガオネメシス! 貴様、どう釈明する気だ‼︎」

 

 テンマは苛々と怒鳴る。ガオネメシスは、クックッと含み笑いした。

 

「……焦る事は無い……既に計画は動き出している…。

 …それに……お前こそ、誰に向かって口を聞いている?」

 

 ガオネメシスは、ふとマスク越しからテンマを睨み付ける。

 

「俺は、何時から貴様の部下になった? 俺のやり方が気に喰わないなら……俺は何時だって協定を破棄してやって良いんだぞ?」

 

 何時に無く殺気に満ちた空気が、ガオネメシスから溢れ出る。テンマは、むゥ…と低く唸る。

 

「……良いだろう。この件は一旦、飲み込んでやる……だが、忘れるな。貴様が、もし余を出し抜くつもりなら、余もそれ相応のやり方を取る。其処を忘れるな」

 

 テンマは傲岸不遜に言い放つ。ガオネメシスは肩を竦めると、玉座の間を後にする。残されたテンマは、玉座に腰を下ろす。

 

「…ヤミヤミ‼︎ 」

「…ハッ‼︎」

 

 テンマが呼び掛けると、暗闇の中から一つの影が飛び出して来た。それは四鬼士の一角を成すオルグ忍者“影のヤミヤミ”である。

 

「聞いた通りだ……ヒヤータは倒れた。これより、ガオレンジャー討伐の任を貴様に任せる。異論は無いな?」

「……御意に……しかし、拙者は文字通り“影”。闇に生き、闇に死す外道者……ならば、我々の得意とするやり方を取らせて頂くが……」

「ああ、構わん……鬼ヶ島に居るオルグ魔人共も、徒に嗾けてもガオレンジャーに倒されるのみだ…ちと、やり口を変えようと思っていた…」

 

 テンマの言葉に、ヤミヤミは顔を上げる。

 

「…では…宜しいのですね?」

「ああ……構わぬ。貴様の子飼とする忍者達、使え……」

「……あい分かりました……聞こえたな?」

 

 ヤミヤミは後方に広がる闇に向かい尋ねる。闇の中に、複数の影が立っていた。

 

「……これより、ガオレンジャー討伐は我等「オルグ忍者隊」が引き継ぐ。貴様達は、これより竜胆市に潜伏し拙者の指示を待て……‼︎」

「…ハッ!!!!」

 

 頭目であるヤミヤミの命に従い、複数の影は全員、走り去った。

 

「それと…ヤミヤミ。貴様には別件で、任務を任せる…」

「任務……とは?」

「ガオネメシスを見張れ。奴は余の意思に反している可能性がある……万が一、奴が怪しい行動を取った場合は……」

「……殺せ……ですな?」

 

 疑わしきは罰せよ……既に、テンマの中でガオネメシスは危険な存在と成り果てていた。それに対して、ヤミヤミは淡々と応えた。

 

「……分かっていると思うが、ヤミヤミ……これ以上、失態を重ねて余を苛立たせるなよ?」

 

 釘を刺す様に、テンマはヤミヤミに凄みを聞かせて言った。しかし、ヤミヤミは臆する事なく小さく頷いて姿を消した。

 テンマは、やり場の無い苛立ちから玉座を握り潰した。

 間も無く、自身を筆頭にしたオルグの天下は目前……にも関わらず、ガオレンジャーは尽く自身に邪魔をして来る……ガオネメシスは、ガオネメシスで自分には無断の行動を取る様になる……プライドの高い彼からすれば、不愉快である事この上無い話だ。

 だが、テンマは怒りを鎮める事にした。ガオネメシスが何を企んでいようが、ガオレンジャーが歯向かって来ようが、自分は現在に於いて、オルグ族の頂点に立った存在。その証拠に、オルグ族の全権力を自分が掌握している。ネメシスやガオレンジャー等、足下を這い回る虫ケラに等しいのだ。

 邪魔者であるガオレンジャーを根絶やしにした後、ネメシスはゆっくり料理してやれば良い。そうすれば、この世界はテンマが頂点に立つオルグ帝国が完成する。そう己を言い聞かせ、テンマは沈黙した……。

 しかし……テンマは知らなかった。この段階に於いて、盤石とされた自身の治世に亀裂が生じていた事を……。

 

 

「……ふん、テンマの時代も長く無いな……」

 

 玉座の間の外に立って聞いていたのは、四鬼士の一角“焔のメラン”だ。彼は、ガオネメシスとの話を一部始終、聞いていたのだ。

 

「……所詮は奴は王の器に非ず、と言った具合か……まァ良い……ヒヤータも死に、四鬼士も我とヤミヤミのみ……我は勝手にさせて貰うとしよう……ガオゴールドを我が手で倒すと言う我の目的のみを果たす為にな……」

 

 現時点で、メランはテンマを見限っていた。実際、メランは誰かの下に付く様なタイプでは無い。

 ガオネメシスの仲介……加えて、ガオゴールドと言う敵を倒すと言う利害が一致したからこそ、テンマの配下に降ったに過ぎない。だが、別にテンマに対し忠誠を誓った訳では無いし、ガオゴールドと戦うに一番、適した選択を取っただけだ。

 

「……最も、テンマの裏に控える“者”が出て来れば、今のガオゴールドでは歯が立たんだろうがな……」

 

 意味深に言い残し、メランは鬼門の中に消えていった……。

 

 

 

 一方、竜胆市の方は……。

 

「く……ああァァァ……!!!」

 

 猛が盛大な、大欠伸をしていた。場所は町の図書館……目の前には、教科書やノートが並べてある。

 

「……真面目にやれ、猛。誰の為の勉強会だ……」

「真面目だよ、俺は……」

 

 見るからに不真面目な態度を取る猛を、隣に座る昇が諫めた。前に居る陽も同様だ。

 

「猛……本当に、このままじゃ留年になるぞ?」

「あーもう! わァってるよ、皆まで言うな‼︎」

 

 陽の言葉に、猛は大声を出す。其れを見咎めた司書の中年男性が、ジロリと無言で睨んで来た。

 慌てて、猛は口を噤む。

 

「……あーあ、折角の日曜日だってのに、何が悲しくて野郎3人で図書館で、テスト勉強しなくちゃならねェんだよ……どうせなら、色っぽい大学生のお姉さんに教えて貰えたら、勉強も捗るのによ……」

「無理だな」

「確かに……」

 

 猛のポツリと漏らした言葉を、昇と陽はバッサリと切り捨てた。

 

「何で分かるんだよ? 俺は、やれば出来る奴だぜ?」

「それ自分で言う台詞じゃ無いから。大体『次のテストで赤点取ったら、マジ留年になる』って、僕達に泣き付いて来たのは誰だよ?」

「…うッ…」

 

 痛い所を突かれた猛は、バツの悪そうな顔で黙った。

 日曜日の朝に突然、猛からLINEが入り『留年になったら、舞花に殺される』と言う文面を受け取った陽は、オルグが大人しくしてる日くらいの息抜きついでに、参加する事に決めた。

 猛は「ファミレスか、カラオケでしようぜ」等と、ふざけ倒した事を提案したが昇に「お前が行きたいだけだろ」と一蹴されて、図書館に決まった。

 

「だが、陽が来てくれたのは正直、意外だった……」

 

 昇が急に発した言葉に、陽は顔を上げた。

 

「そうかな? 学校では良く参加してただろ?」

「学校では、な。態々、休みの日にコイツの為に時間を割いて来れるなんて、あんまり無かっただろう?」

 

 確かに…言われてみれば、高校に進学してからはバイトに掛かり切りだったし、ガオレンジャーとして活躍する様になってからは、いよいよプライベートに時間を割く暇も無くなった。

 

「そう言えば……そうかもな……」

「ま……陽も何か悩みがあったら、言ってくれたら良い……相談くらいは乗るから」

 

 昇はポツリと言った。昇にしたって、あまり喋る様なタイプじゃ無い……そんな彼が、そう言うとは余程、自分の行動は彼等に心配を掛けていたに違いない。陽は若干、申し訳ない気持ちになる。

 

「……の〜ぼ〜る〜。此処、まるで分かんねェよ〜!」

 

 猛は、ノートを見せながら昇に泣き縋った。彼は、ハァ…と溜め息を吐きながらも猛への対応に回った。

 そんな様子を見ながら、陽は祈の事を思い出していた。今、彼女は土、日、月の連休を利用して剣道部の合宿に参加している。大会が近いから、その練習も兼ねているらしい……。

 帰って来るのは明日の夕方か….等と考えながら、陽は外の景色を見た……。

 

 

 

 その頃、祈は竜胆市の郊外に広がる天狐山の麓に立つ寺に居た。剣道部は毎年、大会が近付くと年に何回か合宿を催す。

 祈も、入部した際から数えて片手で数えられるしか参加していないが、今回は大会のレギュラーにも選抜されていると言う事もあり、久しぶりに合宿に参加するに至った。

 まだ肌寒い今日この頃、山に近いと言う事から冷たい山風が吹きつけて来る。

 祈は稽古を終えて、道場代わりの本堂から出て来た。若干、汗をかいた事もあり冷たい空気が、肌に突き刺さる。

 

「祈せんぱーい!」

 

 声の方を見ると、千鶴がタオルを持って走って来た。

 

「お疲れ様です、先輩! はい、タオルです!」

「ありがとう、千鶴。でも、どうして千鶴も?」

 

 選抜メンバーに加わらなかった千鶴だが、先輩達を補佐したいとして合宿に同行して来たのだ。また、彼女の場合は合宿の参加は祈より多い為、参加し慣れてない祈を心配しての事だろうが……。

 

「私、先輩が大会で活躍して貰いたくて、お手伝いしたいんです! 頑張って下さいね‼︎」

 

 千鶴は年相応な無邪気な笑みで言った。

 魏羅鮫の一件以降、千鶴は大きく変わった。祈に対する敵対意識も無くなり、今では仔犬の様に懐いて来る。

 対応が変わったのは、祈にだけでは無い。今迄、見下していた他部員や先輩、顧問の小手川先生にも素直になり、今日まで取っていた傲慢な態度を謝罪したのだ。

 更に祈が、千鶴が取り続けて来た態度の真意を皆に話してくれた事で、彼女を毛嫌いして来た他部員達にも許され、正式に千鶴は剣道部に打ち解けるに至った。

 それからの千鶴は剣道部の練習にも真面目に取り組み、先輩を立てると言った生来の剣道に対する情熱と真面目さはそのままに、穏やかで親しみやすい人柄となった。

 祈も千鶴が皆と打ち解け、積極的に部活動に精を出してくれる事を嬉しく思っていた。ただ…今は別の意味で困る様に…。

 

「あの〜、先輩? 今日で合宿は最後ですよね? だから……私、先輩と一緒の布団で寝て良いですか?」

「…はい?」

 

 突然、千鶴から発せられた言葉に祈は、困った顔で彼女を見る。千鶴は頬を赤らめて、もじもじとしている。

 

「ち、千鶴。私達、もう中学生だし同じ布団で寝る訳には……」

「そんな〜! 合宿が終わったら、先輩と一緒に夜を過ごす機会なんか無くなっちゃいますよ〜⁉︎」

「あ…あのね…」

 

 これが、今の千鶴に対し祈の困っている理由だ。どういう訳か、千鶴は祈に対し好意的になった……それを通り越して、側からみれば所謂、百合系(そっち)女子に変貌してしまったのだ。

 

「私……先輩の事が好きになっちゃいました! もう、先輩無しの人生なんて考えられない位に……」

「わ、悪いけど……私、そう言う趣味は無いし……千鶴の事は後輩として好きなんだけど……」

「そんな事言わないで下さい‼︎ 先輩後輩だとか、女の子同士だとか関係ありません‼︎ 私は、祈先輩の事が好きなんです‼︎」

「だ…だから…」

 

 祈は、どう説明すれば分かってくれるのか…と、千鶴を見た。だが、千鶴は本気である事は間違いない。

 元々、負けず嫌いで男子に侮られたくない、と対抗意識を抱きやすい子だったが今回の一件で、それが歪んだ方向に行ってしまったらしい。

 

「と…とにかく‼︎ 合宿中は、皆も見てるから同じ布団で寝るのは無理だから‼︎」

「え〜、そんなァ〜……」

 

 祈の言葉に千鶴は心底、ガッカリした様に項垂れた。その際……。

 

「祈〜? 小手川先生が呼んでるよ〜⁉︎」

 

 部員の一人の言葉に、祈はしめた、と踵を返す。

 

「じゃ、そう言う事だから…ね?」

「あ〜、せんぱ〜い⁉︎」

 

 そそくさと逃げ去って行く祈を呼び止め様とする千鶴。

 だが、そんな様子を遠方から見ている5人の影があった……。

 

「……あれが、親方様が言っていた巫女の生まれ変わり……」

 

 紅の頭巾で顔を隠した一人が言った。

 

「場所が分かっとるんやから此処で、あの娘を殺しちゃえば早い話やん⁉︎」

 

 黄色の頭巾で顔を隠した関西弁に似た喋り方の一人が言った。

 

「それは命令違反でございます……私達の今回の任務は、あの娘の監視と裏切り者の始末でございます」

 

 青色の頭巾で顔を隠した妙な喋り方の一人が言った。

 

「………」

 

 その隣に居る紫の頭巾で顔を隠した一人は無言を貫いた。

 

「ま、何にせよ……この山に居るんだろ? ヒヤータがやられたドサクサに乗じて、逃げ出した裏切り者がよ?」

 

 緑色の頭巾で顔を隠した一人が、乱暴な口調で言った。

 

「ええ……私達は、その裏切り者を始末する。余計な事を、人間達にバラされる前に……」

「は〜、面倒臭いな〜……。大体、親方様も心配性やねん。逃げた奴なんか、放っといたらええやん……」

「親方様には、何かお考えがあっての事でございます。疑ってはいけないのでございます……」

 

 黄色頭巾は面倒臭そうに言ったが、青頭巾が嗜めた。

 

「さ、手分けして探すわよ。何かあったら、直ぐに知らせる事……散‼︎」

 

 そう言って、五人の影は別方向に散って行った。

 

 

 

 寺から少し離れた場所……山道を歩く一人の少女が居た。

 それは、オルグ一味の一人にして混血鬼の少女、摩魅だった。

 

「うぅ……」

 

 衣服はボロボロ、あちこちに傷を負っていた。彼女は逃げて来たのだ。オルグ達の下から….…。

 ヒヤータが死んだ事で、彼女の中の呪縛は消え正気を取り戻した。だが、同時に罪悪感と自己嫌悪でいっぱいになり、気が付いたら逃げ出していた。

 逃げた所で、何処かへ行く宛がある訳じゃ無い。ただ……あの場所に戻りたく無かった。もう何日、山を彷徨い歩いたか分からない。疲れ果てて、空腹だ。オルグとは言え人間でもある彼女は、人間同様に疲労を感じ空腹も感じる……。

 とうとう、歩けなくなった摩魅は泥濘に倒れた。もう一歩も動けない。だが摩魅は、このまま眠ってしまおうと瞼を閉じる。思い返してみれば今迄、生きてきた人生で自分が幸せ、だと思えた日は無かった。

 人里に下りれば「鬼の子」「悪魔」と石を投げられ、唾を吐きつけられた。かと言って、オルグの中に入れば「混血鬼」「鬼もどき」と侮蔑され、軽んじられて来た。

 人間にも成れず、オルグにも成れない……この世に自分の生きる場所など無いんだ……。

 もう涙を流すのも疲れた……摩魅は思考を停止し、そのまま深い眠りに付く……。

 その時、摩魅の前に人の気配を感じた。だが、もう逃げる事も抗う事も止めた。煮るなり焼くなり好きにすれば良い……そんな、投げやりな考えが彼女の思考を閉ざす……。

 

 

「もう……千鶴ったら……」

 

 祈は寺から少し離れた場所にやって来た。小手川先生の用事を聞いた後、ちょっと山の空気を吸いたくなったからだ。

 合宿中、千鶴の度を越したアプローチに心底、疲れてしまった。千鶴と仲良くなれたのは良い事だが、ここ最近は引っ切り無しに付き纏ってくる気がする……別に自分は、同性を恋愛対象に見るタイプじゃ無いし、何より祈には既に心に決めた人が居る……。

 祈の脳裏には兄の陽の顔が浮かんだ。何時からだろう……陽を兄としてでは無く、異性として意識し始めたのは……。

 母の再婚で陽とは兄妹になったが、2人に血の繋がりは無い……陽は兄として優しく、祈を愛してくれたし側に居てくれる……それは、これからも変わらない筈だと思っていた。

 だが……一度、陽を“男性"と意識して仕舞えば、もう祈にはどうする事も出来ない。

 あの魏羅鮫に襲われた日……自分を助けに駆け付けてくれた際に、祈は陽に想いを打ち明けた。だが、あれは陽からすれば兄妹として、で終わりだろう……。

 これは、自分の片思いでしか無い……陽が、自分を異性として見てくれる事はないだろう……これからも、ずっと……そんな苦しい想いが胸を抑え付ける。

 

 〜そんな事言わないで下さい‼︎ 先輩後輩だとか、女の子同士だとか関係ありません‼︎ 私は、祈先輩の事が好きなんです‼︎〜

 

 先程の千鶴の発した言葉が、祈の脳裏にリフレインする。

 そうだ……兄や妹なんて関係ない……自分だって、陽が好きなんだ……皮肉にも千鶴の言葉によって、祈の抑え込んできた理性の防壁が弾け飛んだ。

 だが、例え陽に想いを打ち明けた所、陽が応えてくれるとは到底、思えない。自分達は兄妹なのだから……。

 等と考えていると、祈はガサリと何かが倒れる音を聞いた。音の方を見ると、泥濘に人が倒れているのが見える。

 

「た、大変!」

 

 祈は慌てて、倒れている場所にやって来た。

 倒れているのは女の子……自分と、さして変わらないだろう。祈はうつ伏せに倒れる女の子を仰向けに直し、泥に塗れた顔を、持っていたタオルで拭いてあげた。

 

「‼︎ この娘……‼︎」

 

 祈は、女の子を覚えている。確か数日前……兄と共に、参加したライブ会場で歌っていた女の子だ。確か、名前は摩魅だった筈……。

 だが、摩魅はオルグ達の仲間だった。世間では、あの一件の後、彼女は行方不明になっているらしい……ニュースでも、連日の如く『話題の天才少女シンガー、謎の失踪‼︎』と報道されていたのも、記憶に新しい。

 何故、その少女が、こんな所に居るんだろう……祈は理解が追い付かなかった。だが、そんな事を別にしても彼女は酷く疲弊し切っており、衰弱している様に見えた。

 オルグの関係者とは言え、放って置く訳には行かない。祈は早く手当てをさせなければ、と摩魅の腕を肩に抱えて、合宿先の寺まで連れて行こうと試みた。

 

 

「その娘を置いて行きなさい」

 

 

 突然、発せられた言葉に祈は辺りを見回す。すると、祈の前に紅色の頭巾で顔を隠した……時代劇等に出て来る忍者に似た衣装を身に包んだ女性が降り立った。

 

「だ、誰⁉︎」

 

  祈は思わず尋ねる。だが、目の前の女性は冷徹に返す。

 

「貴方には関係無い。その娘を置いて行きなさい、と言ったのよ……」

 

 

 祈は彼女から放たれる殺気に、萎縮してしまう。只者では無い……そして、オルグの関係者であるこの娘を知り、かつ、置いて行く様に命令すると言う事は……答えは一つだ。

 

「貴方も……オルグ?」

 

 見た目こそ、人間のそれに違いが、中身は異形の存在であると直感で理解した。だが、目の前の女性はそれに対して応えず、懐から短刀を取り出す。

 

「どうやら口で言っても無駄みたいね……貴方を殺せ、と言う命令は受けてないけど……私達の邪魔をするなら、それ相応の目には遭って貰うわ……」

 

 女性は、短刀を逆手に構えジリジリと近づいて来る。祈は恐怖に倒れそうだが、毅然とした態度を崩さずに強く思った。

 

「(兄さん……助けて……‼︎)」

 

 

 

 その頃、陽は図書館で相変わらず猛の勉強を見ていた。猛はまるで勉強に身が入らない様だが、昇の指導の甲斐もあって、大分は理解していた様だ。

 その際、陽の脳裏に声がする。

 

 

 〜(……兄さん……助けて……‼︎)〜

 

 

 祈の声だ。陽は辺りから見回してみるが、祈が居る訳が無い。昇が怪訝そうに尋ねて来た。

 

「どうかしたか?」

「い…いや、何でも……」

「? どした? 何かあった?」

 

 2人の様子に猛も口を挟む。だが、昇がノートを丸めて猛の頭を小突く。

 

「お前は勉強に集中しろ」

「…ッて〜、わァったよ……」

 

 頭を摩りながら、猛はブツクサ言った。陽も空耳だと考えたが、どうも胸騒ぎがする。

 

 

 〜兄さん……‼︎〜

 

 

 やはり、祈の声だ。これはただ事では無い。祈に何かあったのかも知れない。そう思うと、もう居ても立っても居られない。陽は立ち上がる。

 

「な、なんだ? 急に……?」

「わ、悪い! ちょっと用事を思い出した! 悪いけど、先に帰るな!」

「お、おい⁉︎ そりゃねェよ! 陽〜‼︎」

 

 陽は荷物を纏めて、図書館を後にする。恨みがましそうに大声で陽が呼び止めるが、司書のおじさんが不機嫌そうに咳払いをした為、閉口した。

 

 

 図書館から出た陽は、G−ブレスフォンに連絡を掛ける。

 

「テトム! 泉に何か変わった事は無いか⁉︎」

 

 陽の呼ぶ声に対し、テトムの声がして来た。

 

 〜変わった様子は無いけど……どうかした?〜

 

「祈の助けを求める声がしたんだ‼︎ 最初は空耳だと思ったけど、祈の身に何かあったかも知れない‼︎」

 

 陽は泉に異変が有れば、テトムを介して伝わる筈だと知っていた。だが、今回は其れが無い。先日、メランと対峙した時、邪気を消す事が出来るオルグの存在を知った。今回も、自分達に悟られない様に邪気を消して行動しているかも知れない。

 

「とにかく、僕は先に祈を探しに向かう‼︎ 大神さんと佐熊さんにも伝えて下さい‼︎」

 

 〜待ちなさい‼︎ だったら尚の事、危険よ‼︎ オルグ達の罠かも知れないわ‼︎ 少なくとも、シロガネ達と合流する迄は待って‼︎〜

 

「……オルグ達に狙われてるのは僕だけじゃ無い‼︎ 祈だってそうだ‼︎ だったら直ぐに行かないと‼︎」

 

 陽は一刻も猶予が無い為、焦っていた。G−ブレスフォンの先で、テトムも困っている様だ。

 

 〜大体、邪気を探る事も出来ないのに、何処に祈ちゃんが居るか探すつもりなの⁉︎〜

 

「……祈達が、合宿で天狐山に出掛けてるんです‼︎ まずは、其処を当たって見ます‼︎」

 

 〜あ、ちょっと待ちなさ……〜

 

 最後まで、テトムの言葉を聞き終わる前に陽は宝珠を取り出す。幸い、周りに人は居ない。

 

 

「ドラゴスピーダー‼︎」

 

 

 宝珠を天に投げると、宝珠は光り輝きバイクの形を成していく。ガオドラゴンが変形した乗り物、ドラゴスピーダーが陽の前に降り立つ。

 

「ガオドラゴン‼︎ 天狐山の場所まで行ってくれ‼︎ 分かるか‼︎」

 

 〜任せろ‼︎ この辺りは我等の庭の様な物だ‼︎〜

 

 ガオドラゴンは、飛び上がる。スピーダーの左右に翼が開き何時でも飛べる用意となった。

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 陽は、スピーダーが動き出すと同時にガオスーツを着用、ガオゴールドに変身して、出発した。

 

 

 

 祈達の方でも、騒ぎが起きていた。謎のくノ一は、摩魅を執拗に殺そうと攻撃して来た。祈は摩魅を庇う様に、その前に立ちはだかる。

 

「何故、そんな生まれ損ないの“混血鬼”を庇う?」

 

 くノ一は嘲る様に言った。祈は後ろに倒れる摩魅を見る。

 

「こ、混血鬼?」

「人の姿にオルグの血が流れる者達の総称……人にも成れぬオルグにも成れぬ半端な存在……その娘もそれだ」

 

 くノ一の様子から、彼女がオルグ達にとって侮蔑される対象であると言う事は理解した。

 

 

「おーい、見つけたんか⁉︎」

 

 

 その際、似た様な衣装を纏ったくノ一達が降り立って来た。

 

「お、なんや? 巫女の生まれ変わりもおるやん⁉︎」

 

 黄色頭巾のくノ一は関西弁に似た喋り方で言った。

 

「はッ‼︎ じゃ、丁度良いぜ‼︎ さっさと始末しちまうぜ‼︎’

 

 緑色頭巾のくノ一は男勝りな喋り方だ。

 

「彼女を殺すのは後で、ございます。親方様から受けた使命を果たすのが先でございます」

 

 青黄巾のくノ一は丁寧な口調で言う。

 

「………」

 

 紫頭巾のくノ一は無言だ。

 

「無駄口は後に回すわよ。早く、混血鬼を始末するのよ‼︎」

 

『了解‼︎」

 

 紅頭巾の号令で、他の4人も武器を構える。祈には身を守る為の武装は無いし、竹刀も持っていない。五対一……圧倒的に不利である。

 

 

「止めろォォッ!!!」

 

 

 突如、祈の前に降り立つのは、ガオゴールドだ。ドラグーンウィングを構え、彼女を守る様に立ち塞がる。

 

「兄さん‼︎」

 

 祈は、兄が駆け付けてくれた事に歓喜する。

 

「祈! 離れてろ‼︎」

 

 ガオゴールドは、祈の安全を確保する為、叫ぶ。

 くノ一達は、ガオゴールドの登場にさして慌てた様子も無い。

 

「現れたな、ガオゴールド……‼︎ 我等、オルグに仇を為す者……生かしてはおけぬ……‼︎」

「お前達、何者だ…⁉︎」

 

 ガオゴールドは、一見は人間に見えるが彼女達もオルグであると知り、敵意を向ける。それに合わせて、くノ一達は各々に名乗り始める。

 

「紅の忍……ホムラ‼︎」

 紅頭巾のくノ一、ホムラが赤鬼を模し鬼面を身に付ける。

 

「蒼の忍……ミナモ…で、ございます‼︎」

 青頭巾のくノ一、ミナモが青鬼を模した鬼面を身に付ける。

 

「黄の忍……ライや‼︎」

 黄色頭巾のくノ一、ライが黄鬼を模した鬼面を身に付ける。

 

「緑の忍……コノハだぜ‼︎」

 緑頭巾のくノ一、コノハが緑鬼を模した鬼面を身に付ける。

 

「紫の忍……リク……」

 紫頭巾のくノ一、リクが紫鬼を模した鬼面を身に付ける。

 

 

「闇に紛れて、人を斬る‼︎

     オルグ忍軍、鬼灯隊 見参‼︎」

 

 

 オルグ忍者の5人娘は、名乗り口上を上げる。新たな敵を前に、ガオゴールドは身構えた。

 

 

 

 天狐山の最深部にて……巨大な空洞となっている中で動く一体の影があった。その影は、地べたに顔を付けて寝そべっていたが、何かしらの気配を感じたらしく、擡げていた顔を上げる。

 

 〜静かに寝ているのに、騒がしくしおって……少し、灸を据えてやるかの……‼︎〜

 

 そう言うと影は立ち上がり、背面には長い九本の尾が空洞内に狭しと蠢き回った……。

 

 

 〜新たに動き出した四鬼士“影のヤミヤミ”率いる、オルグ忍軍と配下の鬼灯隊……それに呼応するかの如く、目を覚ました謎の影の正体は、何なのでしょうか⁉︎〜



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quest28 岸壁の巨兵

 竜胆市の街中では……一件のファーストフード店があった。

 店内は若いカップルや親子連れにて賑わっているが、現在に一際、賑わせているテーブルがあった。

 

「……ッん! ……ッむ‼︎ ……ッぐ!!!」

「………」

 

 テーブルには二人組の男が居た。別に、それだけなら普通の客なのだが、店内を唖然とさせる別の理由があった。

 二人組の男の片割れは、注文したハンバーガーを次から次に喰らいつき、綺麗に平らげていくのだ。

 今、食べている分だけで10個目……しかし、男の食べるペースは落ちずに、まるで丸のまま飲み込む様にハンバーガーを口に押し込んで行く。

 もう片割れの男は、そんな様子を半ば呆れる様に注文したコーヒーを飲みながら眺めている。

 バイトの女性も、見事な食べっぷりに目を見開きポカンしていた。長い事、見て来たがハンバーガーを10個、軽々と平らげていく客は初めての経験らしい。

 中には、その様子を携帯で撮影する客も居る位だ。それだけに珍しい光景だ。

 

「………ぶはァっ!!!」

 

 やっと最後の一つを食べ切り、男は満足そうに笑う。

 

「ガハハハ‼︎ この“はんばぁがぁ”って言う食い物は旨いのゥ! ワシ等の時は、こんなもんは無かったわい‼︎」

「……それにしても、食べ過ぎだ……」

 

 二人組の男は言わずもがな、大神と佐熊だった。オルグが街に現れてやしないか、とパトロールをしている最中、佐熊がファーストフード店を見つけ「腹が減っては戦は出来ん」と大神を強引に連れ込んで、ハンバーガーの匂いに食欲を唆られたのだ。

 案の定、ハンバーガーを初めて口にした佐熊は今迄に食べた事の無い味に感動を覚えながら、ガツガツと食べ続けたのだ。ガオズロック内での食事と言えば、テトムの作る手料理位だ。彼女の料理も悪く無いが、佐熊に言わせればもっと野性的な食事を好む。所謂「質より量」のタイプだ。

 とは言え、ファーストフード店でハンバーガーを10個も注文し、あまつさえ全て平らげてしまったのだから、相方の大神も最早、呆れ顔だ。

 

「大神‼︎ お前も食って見ろ‼︎ この“はんばぁがぁ”は実に旨いぞ‼︎」

「俺は良い……」

 

 大神は、コーヒーを飲みながら断る。

 

「何じゃ、大神‼︎ その堅い性格は変わらんのゥ……其れではおなごにモテんぞ⁉︎」

「別に必要無い……それに俺は、この時代の人間じゃ無い……お前みたいに馴染む事は出来ん……」

 

 大神は自嘲気味に呟く。所詮、自分も佐熊も生まれた時代は千年以上も大昔……当時、互いに独り身だった故に現代に生きている子孫も居ない。その為でもあり、現代のカルチャーショックも手伝い馴染む事も出来ない。

 かつての仲間達……獅子走達以外とは、気を許した人間も作らずに大神は孤高の中、生きてきた。これからも、そうだろう……と言う諦めが、大神の人格を形成していた。

 

「…むゥ…相変わらず、難しく考える奴じゃのゥ……今と昔の違いなぞ、小さき事じゃ。ワシ等は、今をこうして生きとる。其れで良いじゃ無いか‼︎」

 

 佐熊は、カラカラと笑って見せる。そう言えば、彼は昔からこうだった。豪放磊落で細かい事を気にしない……確かに時代は違えど自分達は一切、変わっていない……。

 

「……覚えとるか? ワシとお前が、ムラサキと出会う前じゃ……」

 

 ふと佐熊の切り出した言葉に、大神は顔を上げた。

 

「ああ……俺もお前も、世を恨んで盗賊に身を窶していたな……最初は敵同士で幾多と殺し合ったが……ムラサキに諭され、ガオの戦士になって……思えば奇妙な縁だな……」

「ガハハハ‼︎ だから、人生は面白い‼︎ 何が起きるか分からんからな‼︎」

 

 自分達の過去を皮肉る大神と、良い思い出話と笑い飛ばす佐熊……一見、性質は全く正反対の二人だが……この千年の時を超えた戦友達は、目には見えない堅い絆が感じられた。

 

 

「あの……」

 

 

 その際、二人の会話に割り込む様に、入ってきた一人の少女……それは、陽の同級生でファーストフード店の制服に身を包んだ鷲尾美羽だった。彼女は、この店でバイトしているのだ。

 

「ん⁉︎ おお、此処の店娘か! この“はんばぁがぁ”は実に旨かったぞ‼︎」

「あ、ありがとうございます……じゃなくて! ……貴方、大神月麿さんですよね……」

 

 美羽は意を決した様に、大神に話し掛けた。

 

「何じゃ、大神? この娘と知り合いか?」

「……いや……初めて見る顔だが……?」

 

 大神は首を傾げる。金髪寄りの少し派手めなメイクをした少女……自分とは余り、縁の無い様に見えるが……。

 

「鷲尾岳……知っていますよね……?」

 

 その名前を聞いた大神は、初めて表情を変えた。

 

「鷲尾……君は、あいつを知っているのか?」

「はい……。あの人は私の叔父です……だから、貴方の写ってる写真を見せて貰ったから知ってます……貴方と叔父が“何をしていた”か……」

「‼︎」

 

 大神は眉根を寄せて、彼女を見た。

 鷲尾岳/ガオイエローは自分の仲間の一人で、現代にて出来た戦友だ。目の前の少女が鷲尾岳の姪であり、かつ自分達の正体を知っている……大神は立ち上がる。

 

「君は……あいつの……」

 

 言われてみれば、鷲尾と顔立ちや雰囲気が似ている気がする。佐熊は蚊帳の外に立たされて、様子を伺うしか出来ない。

 

「何故、そんな事を……?」

「……叔父がどうなったか知りたいです……あと、此れを見せれば……」

 

 そう言って彼女は腕を巻くって見せた。其処には、ガオの戦士の証たるG -ブレスフォンが着用されていた。

 これに関しては、佐熊も驚きを隠せない。

 

「お前さんも……ガオの戦士か……?」

 

 佐熊の言葉に対し、美羽はコクンと頷く。

 

「……今は訳あって戦う事が出来ません……でも、その時が来たら……私も戦わなくてはならない……」

「訳? その訳とは……」

「……祈を……いえ、巫女様をお守りする為です……」

 

 随分と意味深な言葉を告げる美羽に対し、二人は顔を見合わせた。一体、彼女の戦えない理由とは? そして、祈を守る為とは?

 

「鷲尾さ〜ん! 悪いけど、レジ入って〜‼︎」

「はーい! ……では、これで……。あ、私の事は竜崎には秘密で……」

 

 それだけ言い残すと、美羽はレジ内に消えて行った。

 残された二人は、美羽の事に思いを馳せた。

 

「……どう思う?」

「……どうもこうも……まさか、ガオの戦士がまだ居たなんて……テトムが聞いたら腰を抜かすな……」

「まっこと、その通りじゃ。しかし『巫女様をお守りする』なんぞ言っとったが……巫女様とは、あの娘の事じゃろう?」

 

 佐熊の言葉に対し、大神は頷く。ガオの巫女と言えば、テトムの事か陽の妹、祈だけしか指さない。しかし、テトムでないとすれば、以前にテトムから聞かされた『原初の巫女』の生まれ変わりである祈しか考えられない。

 その際、二人のG -ブレスフォンが震える。同時に反応し、先ずは大神はそれを取った。

 

 ーシロガネ! どうやら、オルグが出たらしいの‼︎ー

 

 テトムの言葉に、大神は首を傾げる。出たらしい……と言う随分と曖昧だったからだ。

 

「どう言う事だ? 出たらしい、とは?」

 

 ー陽から、祈ちゃんが危ないって一人で向かったの‼︎ それで、彼の足取りを調べたら天狐山に向かった様だわ!

 だから貴方達も向かって欲しいの‼︎ー

 

 テトムの嘆願する様な言葉に、大神は強く頷き……。

 

「分かった! 直ぐに向かう‼︎ 佐熊、行くぞ‼︎」

「お、おう‼︎ 何が何だかよく分からんが、とにかく陽の所へ行くんじゃな‼︎」

 

 大神に言われるがままに、二人はファーストフード店から飛び出して行った。その様子を、美羽は黙って見続けていた……。

 

 

 

「鬼灯隊?」

 

 ガオゴールドは聞き返す。目の前の鬼面を身に付けた女のオルグ達はそう名乗った。

 

「そう……私達は、オルグによって構成された忍者集団“オルグ忍軍”に所属する者達……オルグに仇為す者達を闇から葬り….」

 と、ホムラ。

 

「光を闇に、生を死に誘い….」

 と、ミナモ。

 

「絶望に満ちた死屍累々の世界を作りし者……」

 と、ライ。

 

「それが我等、外法の道に逸れし者達が望みし世界……」

 と、コノハ。

 

「そう…我々は、鬼の忍び達……」

 と、リク。

 

 

「鬼灯隊‼︎」

 

 

 それぞれ、ポーズを決める五人。ガオゴールドは、唖然としている様だ。

 

「……見てみ……アイツ、ウチらの決めポーズに見惚れて声も出えへんみたいやで?」

 

 ライは得意気に言う。

 

「……そうじゃ無いみたい……」

 

 リクは、ガオゴールドを見ながら言う。

 

「コノハ……体の向きを間違えてる、でございます……」

 

 ミナモが、コノハを見ながら言った。他の四人は左半身を向いて構えているのに反し、コノハは右半身を向けていた。

 

「な、何だと⁉︎ コノハ‼︎ 決めポーズを間違えるな、と何度も言っただろう! オルグ忍者隊の掟、其の一! 様式美を大切に、だ‼︎」

 

 ホムラが、だんだんと地べたを踏みながら怒る。

 

「あーもう、ウゼェな‼︎ こんなモン、ノリで良いだろうが‼︎」

「良くない‼︎ 忍びたるもの、的確かつ完璧に‼︎ オルグ忍者隊であるなら、しっかり守れ‼︎」

 

 コノハは不満をぶつけるが、それに対してホムラは怒りながら諫める。

 

「…….」

 

 ガオゴールドは自分を差し置いて、喧嘩を始めたオルグ忍者達にポカンとする。

 

「あの……喧嘩なら後にした方が、でございます……」

 

 戦いの無視して喧嘩を白熱させる二人を、ミナモは止めに入る。それを聞いたホムラは、コホンと咳払いした。

 

「おっと、そうだ………ガオゴールド‼︎ 邪魔者である貴様を倒させて貰う‼︎ さァ、行くぞ‼︎」

 

 ホムラは、そう言うと一斉に刀を抜いて襲い掛かって来た。ガオゴールドも、ドラグーンウィングで攻撃を躱すが、五対一では圧倒的に不利だ。

 さっき迄のふざけた態度は何処へやら、彼女達の実力は本物である。

 

「くッ…‼︎」

「まだまだ‼︎ オルグ忍法“蛍火球の術”」

 

 ホムラが印を結ぶと、口から蛍に似た小さな火球を吐き出す。すると、小さな火球が一斉に爆発して行く。辛うじて後退するが、背後に回り込んだミナモが……。

 

「此処まで、でございます‼︎ オルグ忍法“水縄縛りの術”‼︎」

 

 ミナモが印を結ぶと、足元の泥水が縄の様にしなり、ガオゴールドの身体を縛り付けた。

 

「……オルグ忍法“土蝦蟇口の術”……」

 

 リクが印を結ぶと、土が巨大なガマガエルの様な顔になり、バランスを崩したガオゴールドを飲み込もうと、大口を開ける。何とか抜け出そうとするが、泥の縄がガッチリと固まって抜け出せない。

 蝦蟇口は、大口でガオゴールドを飲み込もうとした……だが、何とか右腕を自由にしてガオサモナーバレットを取り出し、蝦蟇口の中を狙い撃った。

 すると蝦蟇口は中で爆発して消滅した。そして泥縄も外れて、ガオサモナーバレットを構え直して、ホムラとミナモを狙撃した。

 

「ぐッ⁉︎」

「キャッ⁉︎」

 

 何とか体勢を立て直すガオゴールドだが、コノハとライが左右から包囲した。

 

「行くぜ、ライ‼︎」

「よっしゃ、コノハ‼︎」

 

 左右から、二人は印を結ぶ。

 

『オルグ合体忍法“旋風豪雷の術”‼︎』

 

 コノハの口から旋風が、ライの口から放電が放たれガオゴールドに狙いを定めた。

 

「兄さん、危ない‼︎」

 

 祈は離れた場所で、摩魅を介抱しながら叫ぶ。

 だが、突然の奇襲に対応が出来ずにガオゴールドは動けない。と、その刹那……。

 

 不意に放たれたエネルギー弾が、合体忍法を弾き相殺した。

 

「な、なんや⁉︎」

 

 自分達の技が相殺された事に、ライは驚く。

 上を見ると、降り立ってくる二人の影……。

 

「ガオシルバー! ガオグレー!」

 

 ガオゴールドは助かった、と安堵する。

 テトムからの指示を聞いて駆け付けた二人は、ガオズロックに乗って此処までやって来たのだ。

 

 

「ガオゴールド! すまない、遅くなった‼︎」

「まさか、こんな辺鄙な場所に現れるとはのゥ……‼︎」

 

 ガオシルバー、ガオグレーはガオゴールドの左右に立って、戦闘体勢に入った。思わぬ伏兵の登場に、ホムラは焦りを見せた。

 

「な、何故だ‼︎ 何故、この場所を特定出来た⁉︎」

「これだけ、邪気をプンプン漂わせていりゃ嫌でも気付くわい‼︎ オルグの牝狗共が‼︎」

 

 ガオグレーは、鬼灯隊達に罵声を浴びせる。それに対して、コノハが激怒した。

 

「ハァ⁉︎ 言うに事欠いて、牝狗だと⁉︎ アタイら、鬼灯隊を犬畜生呼ばわりする気か⁉︎ この……アホンダラが‼︎」

「良しなさいな、コノハ……下品ですよ、でございます……」

 

 口汚く罵って来たコノハを、ミナモが諫めた。

 

「ほんま、単純な奴やな……」

「……ただの馬鹿……」

 

 ライやリクも、呆れ顔だ。

 

「な、何か今迄に無いタイプのオルグだな……」

 と、陽。

 

「ほんに、昨今のオルグは個性豊かじゃのゥ……」

 と、佐熊。

 

「俺は帰っても良いか?」

 と、大神。

 

 

「何を遊んでいるのだ、貴様達は……」

 

 

 突然、野太い声が聞こえて来た。すると、鬼門が開き見た事のないオルグが姿を現す。

 

 

『親方様‼︎』

 

 

 鬼灯隊は揃えて声を上げる。頭部が苦難の形をした角をした特異なオルグだ。見た目なら、彼女達と同様に忍者に似ている。

 

「成る程……貴様等が、ガオレンジャーか……ヒヤータやゴーゴに辛酸を舐めさせたらしいな……」

「何者だ⁉︎」

 

 ガオゴールドは警戒する。彼女達から親方様、と呼ばれたと察するに、彼女達の頭目らしい。

 

「拙者、ヤミヤミ。四鬼士の一人にして、オルグ忍軍の頭領だ」

「オルグ忍軍? 以前、お前と似たオルグと戦った…‼︎」

 

 ガオシルバーは、ヤミヤミが昔、戦ったオルグと酷似している事に気付く。すると、ヤミヤミは苦々し気に言った。

 

「貴様が言ってるのは、ドロドロの事であろう? 奴は拙者の弟だ……最も、あれがガオレンジャーに敗れた瞬間より、弟とは思っておらぬがな……」

 

 ガオゴールドやガオグレーは知らないが……先の戦いで、当時のハイネスデューク、ラセツに従属し、一度はガオレンジャーを鬼霊界に幽閉し壊滅寸前にまで追い詰めたデュークオルグが居た。それこそ、デュークオルグにして、オルグ忍者ドロドロだ。

 

「ふん……不甲斐なき奴よ。奴は修行を怠った挙句、勝利寸前にて己の慢心ゆえに敗北した……オルグ忍者の面汚しだ。

 寧ろ、我等と同じくオルグ忍者と名乗っていた事を、奴は恥じるべきだ……」

 

 オルグとは言え、自分の縁者に対し散々な言い草だ。

 そして、ガオシルバーは戦慄する。ドロドロは決して弱いオルグでは無かった。そのドロドロを「不甲斐ない」と罵倒するなら、このヤミヤミの強さは計り知れないものだ。

 

「親方様‼︎ ガオレンジャー討伐は私達、鬼灯隊にお任せ下さい‼︎ 必ずや、奴等の首を……‼︎」

 

 ホムラが意気揚々と告げたが、ヤミヤミは其れを片手で遮る。

 

「奴等の首を取るのは今では無い。テンマ様は、ガオレンジャー討伐の任を我々、オルグ忍軍に一任した。

 今日、貴様達を此処へ寄越したのは、裏切り者の始末のみ……それ以上の事はしなくて良い……」

「し、しかし……‼︎」

 

 尚も食い下がろうとするホムラだが、ヤミヤミは鋭い眼光で睨み付けた。

 

「頭領である拙者のやり方に不服か、ホムラ?」

 

 口調こそ静かだが厳かさと冷徹さに満ちており、ホムラ始め閉口する。

 

「い、いえ……御意に……」

 

 鬼灯隊の面々は全員、後退する。ヤミヤミは、ガオレンジャー達を見据えながら印を結び始める。

 

 

「臨・兵・等・者・戒・陣・列・在・前‼︎ 土中に眠りし、よろず邪気よ‼︎ 今こそ集結し、その力を示せ‼︎

 オルグ忍法・奥義其の壱! 邪気寄せの術‼︎」

 

 

 ヤミヤミはそう唱え、手を大地に下ろす。すると、辺りの地表が地震の如く揺れ始め、土が盛り上がる。

 そして盛り上がった土が一塊に纏まり始め、やがて巨大なオルグ魔人に生まれ変わった。

 

「こ、これは⁉︎」

 

 その巨体もさる事ながら、土塊で構成されたオルグを召喚した事に対し、ガオゴールドは驚愕する。

 

「土の中に込められた人間共の怨念、無念を邪気として集結させ生み出した土塊のオルグ魔人、名付けて“ゴーレムオルグ”だ。中身は土塊だが、数多の邪気により構成されている故に…強いぞ?」

 

 ヤミヤミはそう言い残すと鬼灯隊を引き連れ、鬼門の中に消えていった。

 

「あ、待て‼︎」

 

 ガオゴールドは後を追おうとするが、ゴーレムオルグが立ち塞がる。

 

「ゴールド‼︎ まずはコイツを倒してからだ‼︎」

 

 ガオシルバーに促され、ガオゴールドはゴーレムオルグを見据える。土塊の魔人は両腕を持ち上げ、ガオの戦士達に襲いかかって来た。

 

 

 

 祈は遠く離れた場所から、戦いを見守っていた。この時、深く祈は意識していなかったが、彼女の中にある巫女の力を発現させて不可視の結界を張り、オルグ達から身を守っていた。その際、摩魅は小さく目を開けていた。

 

「あ、気が付いた⁉︎」

 

 祈は摩魅の様子を見ながら、意識を取り戻した事に喜ぶ。

 だが、当の摩魅は悲しそうに顔を背けた。

 

「どうして、私を助けたの? 放っておいて……もう、私は……死にたいの……」

 

 摩魅は蚊の泣く様な声で呟いた。祈は困惑する様に尋ねる。

 

「どうして?」

「私は……人間にも、オルグにもなれない……ヒヤータにも言われたわ。『生まれ損ないの混血鬼』って……」

 

 そう言いながら、堰を切った様に摩魅は泣き始めた。仲間を求めても、人の輪から弾き出され、オルグの輪からも弾き出された日々。誰も自分を必要としないし、仲間とも呼んで貰えない。生まれて来た意味など無い空虚な人生……だったら、もう終わっても良い……少なくとも、彼女はそう考えていた。

 しかし、祈は摩魅の手を握る。

 

「貴方の手は温かいね」

 

 摩魅は涙でグチャグチャになった顔を向けながら、祈を見る。何処までも穏やかで、まるで菩薩様の様だ。

 

「貴方が本当にオルグなら、こんな温かい手にはならないよ……私もね、兄さんとは血が繋がってないんだ。それでも、兄さんは私を受け入れて来れたし、私も兄さんが好き。

 自分の生まれとか血縁なんかに支配されないで。貴方の本当の言葉を聞かせて欲しい……」

 

 祈の労りに満ちた言葉は、摩魅の中に染み渡る。

 願ってはいけない、自分には“それ”を願うべき者では無いと諦めていた。でも……一度だけ願って良いなら……本当に良いのなら……。

 

「私……生きたい……オルグとしてじゃ無く……一人の人間として……」

 

 摩魅は泣き続けながら、自分の精一杯の望みを願った。祈は優しく微笑みながら、摩魅を抱き寄せた。さながら、母が我が子を慈しむ様に……。

 

 

 

 ガオレンジャー達は、ゴーレムオルグの猛攻に挑んでいた。

 土塊によって構成されたゴーレムオルグには意思は感じられ無い。ただ邪気に突き動かされる様に暴れ続けるのみだ。

 

「竜翼……日輪斬りィィッ!!!」

 

 ガオゴールドはドラグーンウィングで斬撃を飛ばし、ゴーレムオルグの右腕に直撃、腕は吹き飛ばされた。

 痛覚も無く血も流れない。斬り落とされた腕からは土塊の断面が見えていた。それ故にオルグは怯む事も無い。

 しかも、斬られた腕を地面に押し付けると土が寄せ集まり、再び新しい腕に再生した。

 

「く……攻撃が効かない⁉︎」

 

 ガオゴールドは、想像以上の強さを誇るゴーレムオルグに舌を巻いた。しかも攻撃が無効化とあっては、戦い様が無い。

 

「お、おい⁉︎ あれを見ろ‼︎」

 

 ガオグレーは斬り落とされた腕を見た。すると土塊に戻った腕は周囲の土を吸収して人型となり、ゴーレムオルグが二体に増えてしまった。

 

「分裂した⁉︎ なんて奴だ…‼︎」

 

 斬撃も打撃も効かない、あまつさえ斬り落とされた部位が新しいゴーレムオルグとなってしまう。これでは、おちおち攻撃も出来ない。

 

「ガオシルバー…このままじゃ、此方が不利になる一方じゃ…‼︎」

「く……‼︎」

 

 ガオグレーの言葉に対し、ガオシルバーは言葉を返せない。

 その際、ガオゴールドは名案を思い付いた。

 

「ならば……再生が追い付かないレベルで粉砕すれば……‼︎」

「成る程な…だが、どうやって…⁉︎」

 

 ガオゴールドの案に対し、ガオシルバーは首を傾げた。再生する前に破壊するには相当、強大な力をぶつけるしか無い。

 ヒヤータにした様に、八方から必殺技を発射するのは力が分散してしまい、却って逆効果だ。

 

 

 〜みんな‼︎ 破邪の爪を合体させるの‼︎〜 

 

 

 ヘルメット内に、テトムの声が響く。

 その手があった、とガオシルバーは閃いた。

 

「よし‼︎ ゴールド、グレー‼︎ 我々の破邪の爪を一つにし、ガオソウルを一気に凝縮して放つんだ‼︎」

「⁉︎ そんな事が出来るのか⁉︎」

 

 ガオシルバーは、かつて先代のガオレンジャー達がやっていた様に、破邪の爪を一つにした武器『破邪百獣剣』の存在を思い出していた。力を発現させれば、オルグを粉砕させる事も可能だ。

 

「よし…‼︎ 一か八か、やってみよう‼︎」

 

 ガオゴールドはガオサモナーバレットを、ガオシルバーはガオハスラーロッドを、ガオグレーはグリズリーハンマーを重ね合わせた。

 すると三つの武器は光に包まれていき、やがて光が晴れるとガオサモナーバレットとガオハスラーロッドの銃装が合体した二連式の銃口、グリズリーハンマーが変形し銃床となり、その下から突き出たハンマーの柄をガオグレーが持ち、左から突き出たグリップをガオシルバーが、右から突き出たグリップをガオゴールドが握った状態となり、巨大なライフル銃に姿を変えていた。

 

 〜三人のガオの戦士の破邪の爪が力を合わせて、悪鬼を撃ち砕く聖なる銃へと進化しました〜

 

 

『破邪三獣砲‼︎

  邪気……滅却‼︎』

 

 

 三人が同時にトリガーを引き、銃口から放たれる強大な金色、銀色、灰色の混ざった光線が、二体のゴーレムオルグに直撃、包み込んだ。

 その際、声にならない奇声を上げながらゴーレムオルグは爆発、足下には粉微塵に砕け散ったゴーレムオルグの残骸が散乱していた。

 

「やったァァァ!!!」

 

 ガオゴールドは初めて披露した三戦士の合体必殺技が成功した事に歓喜する。此処まで粉々となれば、流石に復活は出来ないだろう。三人共、安堵した。

 だが、その時……。

 

「あ、あれは⁉︎」

 

 ガオシルバーは、地面に散乱する粉々の土塊を指す。

 すると、土塊はまるで磁石に引き寄せられる砂の様に集結していく。と、同時に辺りの土や岩なども取込み球体状の岩となって見る見る肥大化していった。

 

「ま、まさか…⁉︎」

 

 ガオゴールドは息を飲む。あんな状態になっても、倒せていないなんて……! そうしてる間に、丸岩から手足が突き出て立ち上がる。やがて頭頂部に二つの頭が形成され、巨大な体躯に双頭のゴーレムオルグとして生まれ変わった。

 

 

「ぐおおォォォォッッ!!!!!」

 

 

 ゴーレムオルグは天高く吠えた。2つの口、4つの目、更に肥大化した両腕を振り上げて、ガオレンジャーに襲い掛かる。

 

「巨大化か…なら、こっちも……‼︎」

 

 ガオゴールドはガオサモナーバレットを天に構える。

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 天に射出した3つの宝珠は光り輝き、ガオドラゴンらを召喚した。そして聖騎士ガオパラディンが姿を現し、ゴーレムオルグを迎え撃った。だが、体躯はガオパラディンの二倍はあらんとする巨体さだ。

 手始めに、ゴーレムオルグにユニコーンランスを刺突するが、堅牢な身体を持つゴーレムオルグを傷付ける事は叶わない。反対に、ゴーレムオルグは持ち前の馬鹿力で、ガオパラディンに突進して来た。堪らず、ガオパラディンは吹き飛ばされてしまう。尚も追撃しようと迫るが……。

 刹那、ゴーレムオルグの後方から衝撃が走る。ガオシルバーが搭乗する正義の狩人ガオハンターが、リゲーターブレードで腕を斬り落とした。だが、斬り落とされた腕は案の定、再生して、もう一体のゴーレムオルグが現れた。

 だが、それを阻む様に精霊の闘士ガオビルダーが殴り掛かった。三対二と言う比較的に、ガオレンジャー側に有利な状況ながらも、怪力と再生能力が自慢とするゴーレムオルグ達を蹴散らすのは容易では無い。

 下手に攻撃すれば、ゴーレムオルグは増えていくだけだ。従って、三体の精霊王が寄っても、オルグ魔人を足止めするしか出来ない。

 

「ぐおおォォォォッ!!!!」

 

 守りに徹するガオハンターに対し、ゴーレムオルグ達は前後の両サイドに立ち、ガオハンターを挟み打つ様にタックルを仕掛けた。重量級のオルグの攻撃には堪らず、ガオハンターは大ダメージを受けてしまう。

 二対二に持ち込まれ、ガオパラディンとガオビルダーは対峙するが……。

 

 その際、森を切り分けながら複数のエネルギーが現れ、ゴーレムオルグに直撃した。ゴーレムオルグの一体はバランスを崩し、仰向けに転倒した。

 

「な、何だ⁉︎」

 

 ガオゴールドは振り返る。すると、木々を掻い潜る様に巨大な獣が現れた。体躯はガオウルフとよく似た体型だが、相違点は流れる様にしなる九本の尾が目立った。

 

 

「おおおォォォォッッ!!!!!」

 

 

 其れは純白の狐だ。だが外見は通常の狐と違い大きく、流れる九尾が立ち昇る様だ。

 伝承や神話に出てくる高い妖力と知能を持った妖獣“九尾の妖狐”さながらの雄大さと、神々しさを放っていた。

 九尾の狐は尻尾を立てて天に吠えると、ゴーレムオルグの上に暗雲が広がる。途端に暗雲から雷が雨の様に降り注ぎ、転倒して動けないゴーレムオルグを攻撃した。

 すると、ゴーレムオルグの身体は雷の連射によって砕け、それでも足りない位に粉々になった。

 そして、片割れのゴーレムオルグは九尾の狐に捕まえようとするが、すかさず狐は躱して飛び上がった。そして、九本の尾を鞭の様に幾多により鞭打し、ゴーレムオルグは破壊されていた。辛うじて、上半身だけ残るが再び暗雲から雷が降り注ぎ、上半身をも消し去ってしまった。

 ゴーレムオルグが完全に消え去った後、九尾の狐は静かになった事を見届けて、踵を返す。

 

「あ、待って…‼︎」

 

 ガオゴールドは、コクピット内より九尾の狐に呼び掛ける。

 だが、振り返り様に狐は恐ろしい形相でガオパラディンを睨み、山の中へと消えていった。

 

「あ、あの狐は……一体……⁉︎」

 

 残されたガオゴールド達は自分達を助けた九尾の狐の真意を図りかねながら、その場に立ち竦むだけだった……。

 

 

 〜その圧倒的な力で、強敵ゴーレムオルグを消し去った謎の九尾の狐……果たして、彼はパワーアニマルなのでしょうか⁉︎ 〜




ーオリジナルオルグー
−ゴーレムオルグ
オルグ忍者ヤミヤミの忍法により、集結した邪気を取り込んだ土が変化したオルグ魔人。意思は存在しないが、土塊の身体故に攻撃してもダメージは与えられず、身体を切り離せば別のゴーレムオルグとして増殖してしまう。


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quest29 狐と語らう!

「親方様‼︎ あれは⁉︎」

 

 一部始終を離れた場所にて、ガオレンジャー達の闘いを見ていたヤミヤミと鬼灯隊は、ゴーレムオルグの手を捻るかの様に倒した九尾の狐に目を丸くした。

 

「恐らく……パワーアニマルの一種に違いないな……。だが、あの姿は……」

「ご存知なのですか?」

 

 ヤミヤミは鋭い眼光でゴーレムオルグの残骸を見ていた。

 

「古来より……狐は人間共から神格化されて語り継がれていた。曰く、神々の使いだとか……曰く、妖の親玉だとか……海の向こうに栄えた大陸では、美女に化けて一国を崩壊させた、等と言う逸話も残る……」

「ほな……あれも、そんな狐なんでしょうか?」

 

 ライは、ヤミヤミに尋ねる。だが、ヤミヤミは首を振るだけだ。

 

「さてな……だが、我々の任務はガオレンジャーの壊滅……それを遮るならば、消すまでよ……」

「あの裏切り者の混血鬼は、宜しいのですか?」

 

 ホムラは聞いた。あのドサクサに紛れ、摩魅はガオレンジャーに保護されてしまった。しかし、ヤミヤミはさして慌てた様子も無い。

 

「所詮、人にも鬼にも成れぬ半端者……捨て置けば良かろう……我等は、ガオレンジャーと付かず離れずに監視しつつ探る事に徹する」

「何でだよ⁉︎ さっさと殺っちまえば良いじゃねェかよ⁉︎」

 

 コノハは不満そうに垂れたが、ホムラが其れを嗜める。

 

「黙っていろ、コノハ‼︎ 親方様には何か、お考えがあっての事だ‼︎ 我々は、それに従えば良い‼︎」

「ケッ‼︎」

 

 気に入らない、と言わんばかりにコノハは不貞腐れた。

 

「焦る事はない……我々は我々のやり方でガオレンジャーを攻める……行け、鬼灯隊‼︎ 竜胆市に潜入し、引き続き拙者の指示を待て‼︎」

 

『御意‼︎』

 

 ヤミヤミの命令を聞き、五人のくノ一達は一斉に消え去った。残ったヤミヤミは無言のまま……。

 

「いい加減に出て来ればどうだ?」

 

 と、後ろの暗がりの中に向けて言い放つ。すると突如、現れた鬼門の中から、ニーコが出てきた。

 

「流石、オルグ忍者の元締めですねェ♩ 気配を消していた筈なのにィ……」

「うぬの気配など隠し切れるものか。それより、拙者の後ろに立つで無い……命が惜しければな……」

 

 ヤミヤミは僅かに殺気を滲ませながら、ニーコを睨む。「んふッ」と、ニーコは妖しく笑う。

 

「何の様だ? テンマ様の言伝でも持って来たのか?」

「そんなんじゃ無いですよォ。ヒヤータお姉様も死んじゃったし、ヤミヤミさんに仕えようと思ってェ」

「要らん。目障りだ、消えよ」

 

 バッサリと切り捨てるヤミヤミ。そもそも、ヤミヤミはこのニーコと言う女を信用していない。

 テンマに仕えていると思えば、ヒヤータに擦り寄ったり彼女の形勢が悪くなると、アッサリ見捨てる様な女だ。

 信用出来た試しは無い。

 

「むゥ……連れない方ですねェ。女に冷たい殿方は、モテませんよォ?」

「興味ない。そんな事より、さっさと要件を言え」

 

 ぶっきらぼうにヤミヤミは吐き棄てた。ニーコは、クスリと微笑む。

 

「折角、ガオゴールドの弱点を教えてあげようと思ったのにィ……」

 

 勿体ぶる様な口ぶりに、ヤミヤミは振り返る。

 

「どう言う事だ?」

「……ふふ……ガオゴールドは優しい方ですわァ。敵であれば容赦はしないけど、心を許した者には何処までも優しく……そして愚かになりますわァ」

 

 ニーコの言葉を聞いたヤミヤミは、思う所があったのか黙りこくる。そして、口を開くと……。

 

「ふん……胸に留めて置こう……」

「それと、もう一つ……」

 

 そう言って、ニーコはヤミヤミにそっと耳打ちした。ヤミヤミは何か思案する様に肩を竦め、そのまま姿を消した。一人残ったニーコは、ニィ……と口角を吊り上げて笑う。

 

「んふふ……こっちもこっちでやらせて貰いますよォ……さァ、貴方達……出番ですよォ?」

 

 ニーコが、パンパンと手を叩く。すると、鬼門が開き姿を現す大柄の影……。

 

「ガオレンジャーには狙い通り“鼠”を忍ばせておきました……これから、ガオレンジャーを集中に攻撃して貰いますよォ……あ、先に言っときますけど……次は無いですよォ?」

 

 小馬鹿にしたニーコのケラケラ笑いに、二人の影はムスッとした様子だ。だが、ニーコに背を向けてドシドシと歩いていった。

 

 

 

 ガオズロック内では……帰還したガオレンジャー達の報告をテトムは聞いていた。

 

「狐の姿をしたパワーアニマル?」

 

 陽の報告を聞いたテトムは眉根を寄せながら尋ねる。

 

「うん……オルグの急襲から僕達を助けて……そのまま、消えていったんだ……」

「しかし……あれは助けた、と言うより現れた敵を倒した様な感じじゃのゥ……動物も、縄張りを荒らした他の動物に、攻撃を仕掛ける様にな……」

 

 陽に続いて、佐熊も議題に参加した。確かに、あの九尾の狐は、自分達に友好的と言った態度では無い。自分のテリトリーを荒らされ、それに激昂して攻撃して来た具合だ。

 だが、それ以前に九尾の狐はパワーアニマルの一種ならば、どう言った存在なのだろう?

 無言を貫いていた大神は、口を開く。

 

「陽の持つガオドラゴン達の様な、レジェンド・パワーアニマルの類かも知れないな……」

「レジェンド・パワーアニマル? 確かに九尾の狐は、伝説の動物だけど……」

 

 大神の考察に、陽も考える。

 九尾の狐……陽の知り得る限りでは、ファンタジー小説の中ではドラゴンと同じ位にメジャーなビッグネームだ。

 だが、殆どの作品に於いて九尾の狐と言えば、人類に仇を為す敵として描かれている。

 有名所が、平安時代に日本に現れ、美しい美女に化けて災いをもたらしたとされる妖狐『玉藻の前』や、中国の物語『封神演義』等に登場する傾国の美女とされた『妲己』も妖狐の化けた物だと描かれていた。

 

「ガオドラゴン達に聞いてみたらどうじゃ?」

 

 佐熊の提案に対し、陽はガオドラゴンの宝珠をかざしてみる。

 

「ガオドラゴン……あの狐は何なのか知っているか?」

 

 〜うむ、少しな……。レジェンド・パワーアニマルは然程、数は居ないゆ故な……〜

 

 ガオドラゴンの宝珠は輝きながら、言葉をテレパシーで伝えた。どうやら、ガオドラゴン達も、あの狐を知っているらしい。

 

「ねェ……この娘、熱があるみたいなんだけど……」

 

 話に熱中する四人を尻目に、祈は摩魅を介抱していた。あの騒ぎの後、急に意識を失った摩魅は高い熱を発し始めたのだ。

 

「おい、その娘を連れて来て良いのか? オルグと関係のある娘なんじゃろう?」

 

 佐熊は警戒心を解かずに、摩魅を睨む。過去に対峙した際、オルグ側に付いていた摩魅は言うなれば、自分達の敵に値する。それを助けるのは、機嫌では無かろうか?

 

「今すぐ、放逐した方が良い」

 

 大神も摩魅に対し懐疑心を抱いている。彼からすれば、オルグに操られ利用されたのだから、至極当然ではあるが……。

 

「そんな⁉︎ こんな熱を出している子を放っておく訳に行かないよ⁉︎」

 

 摩魅に対し敵意を向ける二人に対し、祈は非難した。しかし、テトムも不安げな顔を向けた。

 

「祈ちゃん……さっき、その娘を“混血鬼”だって、言ったわよね……?

 

 こんこんと眠り続ける摩魅を見ながら、テトムは続ける。

 

「もし、それが本当なら……この娘は人間とオルグの血を両方、引く存在と言う事になるわ……」

「人間とオルグの血を……って、そもそも、オルグが子を為せるのか?」

 

 テトムの言葉に、佐熊が突っ込む。言う迄も無く、オルグは邪気の集合体であり、厳密に言えば生物とは違う。

 

「……人とオルグの混血……前例は少ないけど、人として人間社会に溶け込んでいるオルグも居たわ。

 ともすれば、オルグと結ばれて子を残していたとしても、全く不思議では無いわ……」

 

 テトムはそう言いつつ思い出す。かつて、オルグでありながら、人の温かい心に触れて改心したオルグがいた事を……。

 彼の名は炭火焼オルグ……。彼も最初こそ、他のオルグ同様に破壊本能に従い、数多の人間を傷付けていた。だが、自分の焼いた焼き芋を美味しそうに食べる兄妹の優しさに触れ、人を襲う事を止めて自分の焼いた焼き鳥を振る舞い続ける事に幸せを感じる様になった。

 だが、不幸にもオルグとして生まれ堕ちた運命には逆えず、先代のガオレンジャー達と対立、戦いを経て一度は和解しかけたものも、オルグ達の仕掛けた卑劣な罠により知性を消されてしまい、最後はガオレンジャー達に引導を渡されてしまった。

 オルグは総じて悪、と言うそれまでの考えを否定し、穏やかなオルグも居る事を知る事が出来たが、矢張り人間とオルグは相入れる事は出来ない、とガオレンジャー達の報せにテトムは諦めていた……。

 だが、目の前にかつてとは境遇は違うが、オルグと人、両方の魂を持つ者……皮肉にも、オルグを倒す事を宿命とするガオレンジャーは二世代に渡って、また出会ってしまう事になった。

 

「もし彼女もそうなんだとすれば……彼女は人を襲う可能性も充分にあると言う事になる……だとすれば、彼女を置いておくのは余りに危険な選択ね……」

「……そうだな……」

 

 テトムの言葉に大神も同調する。万が一、彼女の中に流れるオルグの血が暴走すれば、自分達だけでは無く彼女を助けた祈も危険に晒される可能性が高い。極めてリスクの高い選択である事は事実だ。

 

「…でも…⁉︎ 兄さんは……⁈」

 

 祈は陽に助け船を求めた。他の仲間が彼女を助ける事に難色を示している以上、事実上、現ガオレンジャーのリーダーに当たる陽もまた、摩魅を擁護する立場に立てないだろう。

 陽は暫く悩んだ様子で考えていたが、意を決した様子で摩魅を見た。

 

「彼女を……助けよう……」

「兄さん‼︎」

 

 兄の言葉を受け、祈は喜ぶ。だが案の定、他の仲間は良い顔をしない。

 

「良いのか、陽……我々の首を絞める結果に成り兼ねないんだぞ?」

 

 大神は戦士として長いキャリアを積み重ねて来た人間としては、仲間の安全を優先したい。まして、オルグに利用され二度も狼鬼とされてしまった彼からすれば、尚更である。

 

「だからと言って……オルグを血を引いているからと言って……彼女を見殺しにする様な真似は出来ないよ……」

「………」

 

 陽と大神は戦士としての気構えが異なる節があった。

 人々の為に戦う、と言う面では共通しているが、陽は仲間、他人に関わらずに助けようとする、大神は仲間を守る為に少数の犠牲は止む無し…無論、その犠牲は自分も含まれているが……。その互いに譲る事が出来ない矜恃が、対立を招いてしまった。

 

「……陽……お前は優しい奴だ。それは悪い事では無いだろう……だが、敵に対する行き過ぎた優しさは何れ、己の身を滅ぼす事になる場合だってあるぞ?」

「彼女が敵だって証拠は無いでしょう⁈」

「敵では無い、と言い切れる確証も無い‼︎」

 

「二人共、止めなさい‼︎」

 

 遂に互いの感情が爆発し一色触発寸前にまで、ヒートアップしてしまうが、耐え切れずにテトムが一喝した。

 

「貴方達が揉めてどうするの⁈ 頭を冷やしなさい‼︎」

 

 テトムの鶴の一声で、二人は押し黙る。だが、まだ互いを睨みつけたままだ。祈はオロオロとした様子で二人を見た。

 遂に佐熊も口を挟む。

 

「月麿……お前の気持ちも分かるぞ……じゃが、今のワシ等は仲間内で争っている場合じゃ無い筈じゃ……違うか?」

 

 佐熊は大神を宥める様に言う。その際、居た堪れなくなった陽は口を開く。

 

「命は皆、尊い……例え、オルグの血を引こうとも、命は命だ…」

「!」

 

 大神は、陽を見る。悲しそうにも穏やかな表情だった。その姿に大神は不思議と懐かしさを感じ、目を見開いた。

 一瞬だが、陽の顔にガオホワイト/大河冴の面影がダブって見えた。

 彼女もまた、万物の命を尊ぶ優しい気性を持つ少女だった。

 そう言えば、竜崎兄妹は彼女の甥であると、テトムが言っていたが……どうやら、陽の優しさは彼女からの流れを系譜としているかも知れない……。

 

「……分かったよ……好きにしろ……」

 

 素っ気無いながらも、大神は一旦、話を切り上げる事にした。佐熊の言う通り、今は仲間内で争っている場合では無い。今すべきなのは……件の九尾の狐のパワーアニマルをどうするかについてだ。

 

「テトム……あの狐のパワーアニマルは、俺達の仲間になってくれるのか?」

 

 大神の質問に対し、テトムは首を横に振る。

 

「分からないの……レジェンド・パワーアニマルはガオドラゴン達以外は殆ど知らないから……」

 

 ガオの巫女であるテトムでさえ、未だに謎の多いレジェンド・パワーアニマルについては知識が少ない。

 ましてや、九尾の狐型のパワーアニマル等、過去に現れたと言う話も無い。話は振り出しに戻ってしまうが……。

 

 

「ガオワイバーンが、案内してくれるよ」

 

 

 ふと、こころが現れて言った。

 

「ガオワイバーンが? 何で?」

「本人が、そう言ってる」

 

 こころが、陽のポケットを指差す。陽はポケットから、ガオワイバーンの宝珠を取り出すと、鈍く光っている。

 

「ガオワイバーンが、何て言ってるか分かるの?」

 

 テトムは尋ねた。ガオワイバーンは、こころが加入すると同時にガオレンジャー陣営に加わったパワーアニマルだ。

 それも相重なり、謎も多い。ましてや、テレパシーで意思を伝えるガオドラゴン達と違い、ガオワイバーンはそうしない。だから、彼の心中を察する事は出来ないのだ。

 

「ガオワイバーンは、まだ子供だから、ガオドラゴン達みたいにテレパシーが使えない……でも、私はソウルバードだし、ガオドラゴン達は疎通が出来るの」

「そうだったのか……」

 

 今まで知らなかった新事実に、陽は納得した。

 ならば、ガオワイバーンを連れて行けば九尾の狐と和解までは行かなくとも、対話は出来るかも知れない……。

 

「とにかく……今は、もう一度、天狐山に向かう事じゃ。山歩きなら、ワシに任せとけ。歩き慣れとるからのゥ」

 

 佐熊はカラカラと笑う。だが、大神と陽は互いにバツが悪いのか、顔を見合わせようとしなかった。

 祈は二人が険悪となってしまった事に心を痛め、顔を曇らせる。そんな彼女を陽は肩に手を乗せ、優しく微笑む。

 

「祈……後は僕達に任せて、合宿先に戻るんだ」

「でも……」

 

 祈は未だに高熱に苦しみ意識が戻らない摩魅を見下ろす。彼女が気掛かりなのだろう。

 

「大丈夫……この娘は必ず守るから……祈は心配しなくて良い……」

「大丈夫よ、摩魅ちゃん。後で、天空島で採れる薬草を使ってお粥を作ってあげるわ。直ぐに良くなるわよ……」

 

 テトムも、祈を元気付ける様に言った。そんな三人の様子を、大神は何とも言えない面持ちで見ていた……。

 

 

 

 天狐山から離れた場所……辺りには家屋は無い辺鄙な場所だ。そこに一人で佇むは、メランだ。

 彼は炎の剣を右手に持ち、左手には小石を握っていた。

 ふと、石を天に投げる。ある高さまで昇った小石は、重力に従い落下して来た。それが、メランの眼前に落ちて来た瞬間、メランは剣を持ち上げ….…数回に渡り、空を切った。

 すると小石は剣風にて再び舞い上がり、少し離れた場所に転げ落ちた。そして、小石は地面に止まった瞬間、砕け散り砂状になった。砂は風に撒き散らされて、跡形も無くなってしまった。

 その際、彼の背後に気配を感じる。メランは振り返ると、ヤミヤミが立っていた。

 

「お前か……」

 

 メランは、フッと不敵に笑う。だが、ヤミヤミは無表情のままだ。

 

「テンマ様の陣営から離れるのか?」

「ニーコから聴いたのか? あの小娘、要らぬ事を……」

 

 メランはチッと舌打ちをする。

 

「“あの方”は許さぬだろう……裏切り者は特にだ……」

「だったらどうした? 来るなら迎え討つのみ……それに、我は奴の軍門に降った覚えは無い……」

 

 淡々と告げるメランに対し、ヤミヤミは呆れた様にため息を吐いた。

 

「お主が執心する少年……ガオゴールドに会って来た……貴奴は……確かに強くなっている……」

「そうか……それは何より……」

「しかし、分からぬ……お主の行動が、だ。何故に、敵に塩を送る様な真似をして迄、奴に拘る?」

 

 ヤミヤミからすれば、本来であれば倒すべき存在であるガオゴールドを導き、時には助ける様な真似をする彼の真意が読めないのだ。メランは、ニィッと笑う。

 

「理由など、聞くだけ無駄よ……我は宿敵とは対等でありたいのだ。弱い敵を倒した所で、それは何のメリットも無い。

 己より強い者、或いは互角の者を倒した時、初めて最高の悦に浸れるのだ。貴様には分かるまいな……」

「……分からんし、分かろうとも思わぬ……。お主とは一度も話があった試しが無い……何の気紛れで、お主の様な男を友としたか……未だに理解に苦しむ……」

「それは簡単だ。貴様は、この我と唯一、引き分けた男だからよ……過去に於いて、我と戦い立っていた男は最早、貴様だけだ……」

 

 メランは心底より楽しげに言った。だが、ヤミヤミは不愉快極まりない、と言った具合に唸る。

 

「お主の場合は“引き分けた”、では無く“見逃してやった”では無いか? 気に入った相手が後々、成熟してから食らい甲斐のある様に……」

「ガオゴールドの場合は、そうだ……だが、貴様は別だ。

 後にも先にも、我が死力を尽くし引き分けた男は、貴様が最初だ。言ったろう? “唯一”、とな……」

「ふん……物はいい様だな……何れにせよ、貴様を捨て置く訳には行かぬ……」

 

 そう言って、ヤミヤミは腰に差す忍刀を抜いた。

 

「それは裏切り者の制裁か? それとも我との決着か?」

「両方だ。そして、貴様との友情もこれ迄と知れ……さらばだ、焔のメラン……」

 

 ヤミヤミは刀を振り上げ、メランに迫って来た。

 

「我は死なん……叶えるべき夢を叶える、その時まではな……友の最後のよしみで……此処で死んで貰う……影のヤミヤミ‼︎」

 

 そして、メランも炎の剣を構え、ヤミヤミの斬撃を防ぐ。その瞬間、張り詰めていた空気が弾け、大気が激突した2振りの刃の音を伝えた。

 

 

 

 一方、天狐山では……陽を先頭に山中を歩いていた。横にはこころが一緒だ。その後ろを大神と佐熊が付いてくる。此処まで深く登ると、登山者にも擦れ違わない。獣道、と呼ぶに相応しいハイキングコースから外れた山道は、人も歩くのを避けるだろう。

 しかし、彼等はガオレンジャーである。体力は並の人間を凌駕している。ソウルバードのこころも、パワーアニマルの端くれである為、体力には自信がある。

 とは言え……こんな場所に祈を連れて来なくて正解だった、と陽は心中でごちた。

 その後ろを歩く大神は相変わらず、厳しい表情を浮かべながら歩いている。その横を歩く佐熊は話し掛ける。

 

「まだ、気にしとるんか? 」

 

 佐熊の声に大神は顔を向ける。

 

「お前らしくも無いのォ……あんな感情を露わにする奴じゃ無かったろうに……そんなに心配か? 陽の事が……」

 

 大神は確信を突かれ、眉の皺を深めた。

 

「アイツは優し過ぎる……だが、テトムは言った。その優しさが、陽の強さなんだと……確かに、その通りだ。アイツは、狼鬼となった俺を見捨てずに最後まで助けようとし、そして救ってくれた……だが、それ故に敵に不意を突かれ易い危うさもある……それだけが不安だ……」

「優し過ぎる……か……テトムも良い所を見とるわい……しかし、お前さんも相当、“優し過ぎる”んじゃ無いかのゥ?」

 

 茶化す様に、佐熊は呟く。したり顔で笑う佐熊に対し大神は頬を赤らめて「黙って歩け」と、そっぽを向いた。

 

 

 陽は、ポケットの中からガオワイバーンの宝珠を取り出し尋ねてみた。

 

「ガオワイバーン、本当にこっちで良いのか?」

 

 陽が不安に感じるのも無理はない。ガオワイバーンに従い歩き続ければ続ける程、山の奥の奥まで踏み込んで行くからだ。宝珠が光ると同時に、隣に歩くこころも頷く。

 

「こっちで良いって」

「そっか……でも、何でガオワイバーンが知ってるんだ? 」

「彼は、ずっとこの山で暮らしていたから……“彼女”と一緒に……」

「彼女?」

 

 其れを言えば何故、こころも詳しいのか? それらは、九尾の狐に会えば分かるかも知れない……そう考えた矢先……。

 

「……何だか、雲行きが怪しいのゥ……」

 

 後ろから、佐熊が言った。空を見上げれば成る程、黒い雲が広がり、やがてポツリ、ポツリと雨が降って来た。

 

「くそッ‼︎ やっぱり、泣き出しよったわ‼︎」

 

 雨が降れば、山道を歩くのは難儀になってしまう。陽は、これ以上に登山するのは無理かと思った。

 

「ガオズロックで直接、向かうべきだったかな……」

「無理…。空からじゃ、結界の所為で入り口が見つからない。歩いて行かないと…」

 

 と、こころが言った矢先……。

 

 

 〜妾の縄張りを犯すのは、誰かえ……〜

 

 

 突然、山に響く声に陽達は警戒する。すると、足元が急に揺れだしたかと思えば崩れていき、斜面の様になっていた。

 

「な、これは⁉︎」

 

 慌てて体勢を立て直そうとするが、もう遅い。四人は斜面を滑り落ちる様に、落下して行った。

 

 

 

「ううん……」

 

 気が付いた陽は周囲を見渡す。其処は巨大な空洞の中だった。周りを見れば、大神や佐熊、こころも居た。

 

「皆……無事か⁉︎」

 

 陽が呼び掛けると全員、目を覚ました。どうやら、怪我は無いらしい。

 

「やれやれ……とんだ災難じゃ……果て? 此処は?」

 

 佐熊は身体を起こしつつ、見慣れない風景に警戒する。

 

「おい……あれを見ろ……‼︎」.

 

 大神が指を指すと、地面の中心の一部が盛り上がり巨大な台座となっている場所がある。その上から見下ろして居るのは……。

 

 

 〜その方達は、何者じゃ〜

 

 

 それは先程の戦いに乱入して来た白い九尾の狐だ。その容姿、神々しい姿を見た陽は一言…「美しい」としか思えなかった。

 

「久しぶりね、ガオナインテール」

 

 こころが、旧友に呼び掛ける様に声を掛けた。

 

 〜そなたは……ソウルバードの雛か……。ふん……随分と醜い姿に擬態したものよ〜

 

 嘲る様な口ぶりの九尾の狐改め、ガオナインテール。こころは膨れっ面をした。

 

「この姿は、それなりに気に入ってるわ」

 

 〜それより……何のつもりで、妾の縄張りに人を入れた?〜

 

 ガオナインテールは若干、怒りを見せる。だが、こころはすました様子だ。

 

「彼等は、今代のガオレンジャー。貴方に会いたがっていたから連れて来たわ」

「初めまして……僕はガオゴールド、ガオの戦士です……」

 

 〜興味ないわ……妾の縄張りを荒らし、ズカズカと寝床にまで踏み込んで来るとは……〜

 

 ガオナインテールは不機嫌極まりない、と言った具合に唸る。どうやら、ガオナインテールは人間に対し不信感を抱いてるらしい。

 

「今、オルグ達が人間世界に蹂躙し人々は危険に晒されています。ですから、どうか……僕達に力を……!」

 

 〜クッ…笑止な。何ゆえに、妾がそなた等に力を貸さねばならぬ……〜

 

 陽の言葉を途中で切り、ガオナインテールは言った。

 

 〜あのオルグとやらは、そなた等、人間共が生み出した物であらうが。なれば、それを如何にかするのは、そなた等がやれば良かろうに……。妾は、この山に篭って千年近く経つ……今更、此岸に姿を見せるつもりは無い……大体、人間を助けてやる道理も無いしの……〜

 

 つまらなそうに、ガオナインテールは首をもたげる。

 

「貴方も……人間を毛嫌いしているのですか?」

 

 〜痴れ者が……己達が我々に好かれているとでも思うたか? 思い上がりも甚だしい……妾は、この山に住み着く遥か昔より人間共の歴史を見て来た……血と欲に塗れた歴史をな……。人間共は何千年もの間、破壊、殺戮、戦争……同じ事を繰り返しているだけでは無いか……妾も欲に支配された人間共に警告する名目で、過去に何度か人の姿を取り干渉して来た……だが、無駄だったよ。人間は時を経て、己の過ちを忘れ去り、妾を極悪非道な妖狐等と呼んで、起きた災厄全てを妾の所為にした……最早、人間には愛想も尽き果てた……人間が滅びるなり、オルグが滅びるなり好きにすれば良い……〜

 

 ガオナインテールは、そう言って丸まってしまった。

 

「貴方の言う通り、人間は何度も間違いを冒しました。そして、これからも冒すでしょう……でも、全ての人間が、そうである訳では無い……」

 

 〜詭弁を言うな、我々を戦の道具にしているだけの小物が、小賢しい事を言うで無いわ! 片腹痛い……!〜

 

 ガオナインテールに言葉を切られ、陽は口を噤む。その際、陽のポケットから宝珠が飛び出し、ガオワイバーンが姿を現した。

 

 〜お前か……雛と共に居なくなったかと思えば、人間共に飼い慣らされていたか……〜

 

 ガオナインテールは、ガオワイバーンを見て呟く。すると、ワイバーンは小さく吠えた。

 

 〜何だと? 陽は違う、優しい奴だ…だと? 馬鹿馬鹿しい……人間など、総じて地球を汚す無用の長物だ〜

 

「随分と嫌われたもんじゃな……」

「とは言え、事実は事実だ。耳に痛い話だ……」.

 

 必死に語り掛けるガオワイバーンの言葉にも、ガオナインテールは取り付く島も無い。そこへ、更に三つの宝珠が浮かび上がる。

 

 〜山に篭りすぎて、周りが見えなくなったか? 狐の君よ……〜

 

 その言葉と共に、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンが姿を現す。

 

 〜これはこれは……よもや、そなた等の顔を見る事になろうとは……ほんに、今日は縄張りを荒らされるわ、見たくもない顔を見る羽目になるわ……厄日かの……?〜

 

 ガオナインテールの皮肉全開の言葉に対し、ガオドラゴンは牙を出して唸る。

 

 〜我々とて、貴様の顔など見たくも無いわ……だが、今は我々も、ガオゴールドに力を貸している身だ……〜

 

 〜そなた等が力を貸す、とな? 何と、珍妙な……妾以上に人間を見下していたのは、そなた等では無かったか? 人間の家畜に成り下がるとは……〜

 

 ガオナインテールは、さも愉快な物を見た様に笑う。しかし、ガオユニコーンが遮る。

 

 〜私達は自ら、ガオゴールドに力を貸すと決めたのです。彼は、其れだけの意志を私達に示してくれました……〜

 

 〜人間の家畜? それは、我々への侮辱だ‼︎ 取り消せ‼︎〜

 

 冷静に諭すガオユニコーンと、怒りを滲ませるガオグリフィン。だが、ガオナインテールはそっぽを向く。

 

 〜揃いも揃って人間を信じろ、とは……失せよ、気紛れに結界を緩めて招いてみれば興醒めよ……とんだ茶番に付き合わされたわ……〜

 

「待って下さい‼︎ このままでは地球が死んでしまう‼︎ そうなれば、貴方だって……」

 

 〜黙れ、人間が‼︎ 地球が滅びるなら、それも仕方ない……人間の身から出たサビだ……既に妾は、永き時を生きて来た。見たくも無い物を見続けて来た……もう充分だ、自然の摂理に従い……地球が滅びると同時に、我等も消えるのだ……。

 さっさと去れ! もう話す事は何も無い……〜

 

 そう言い残し、ガオナインテールは眠り出した。ガオドラゴンは呟く。

 

 〜狐の君よ……私も、人間を完全には信じていない……だが、陽は全ての人間が悪では無いと思わせてくれた……もし、我等の言葉に耳を傾ける気があるなら……共に戦って欲しい……〜

 

 独り言の様にガオドラゴンは言ったが、ガオナインテールは知らぬ存ぜぬを決め込んでいた。

 

「……ごめん、やっぱり駄目だ……力になってくれそうに無い……」

 

 こころは謝る。が、陽は微笑む。

 

「しょうがない……行こう……」

 

 そう言って立ち去ろうとした時……三人のG -ブレスフォンが鳴り響く。

 

『皆、大変よ‼︎ オルグが山に火を……‼︎』

 

 テトムの声が響く。陽達は目を合わせ頷く。ガオドラゴン達を宝珠に戻し、四人は空洞を後にした。

 こころは振り返りざまに、ガオナインテールを見たが、無言のままに走り去る。

 残されたガオナインテールは小さく一言……

 

 〜あの若僧が、そなたの待ち望んだ者なのかや?

 のう……アマテラスよ……〜

 

 それだけ言って、再び眠り始めるガオナインテールだった……。

 

〜人間に対して、素っ気なく接するガオナインテール……彼女は陽達と力を合わせる事は無いのでしょうか⁉︎

そして、ガオナインテールとアマテラスの関係は⁉︎〜



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quest30 狐が動く‼︎

 メランとヤミヤミの決闘は、熾烈を極めていた。幾度と無く斬り結び、放たれる斬撃の余波で大地が抉れ、岩が砕ける。

 廃墟も二人の闘いで、見るも無残に崩れ落ちていた。

 しかし、二人の鬼達は闘いの手を緩める気配は無い。

 

「クク……強さを増したな……ヤミヤミ……。

 我と貴様の二人が居れば、四鬼士など必要無かったからな……」

「……それは御主もだろう….…メラン…‼︎ 強さのみならず、邪気も増しておる……御主が、その気になれば、ハイネスの座に就く事も容易であろうに……」

「……興味も無いな……我は弱者の支配など望まぬ。力を求道し、ただひたすらに強者と闘いに明け暮れる……それが、オルグの真骨頂だ……時代の移り変わりで何時しか、オルグの価値観も変わってしまった……それが残念で仕方が無い……」

 

 オルグは邪気から生まれて人間に害を成す存在….それは遥か昔から変わらない……だが、同時に飢え渇く闘争心を満たす為、闘いに身を投じる……それが、オルグのかつての姿だった。しかし、時代が変わり人間の文明が発展すると同時に、オルグは力を求めて闘うのでは無く人間の支配を求めて闘う様になっていった。

 

「ヤミヤミ……貴様だって、そうであろう……本来なら頂点を目指せる程の力を持ち合わせながら、ハイネスの影であり続ける道を行く……我から見れば、貴様の生き方は息苦しそうだ……」

「それこそ、価値観の違いだ……オルグは邪気より生まれた忌むべき存在……闇より生まれ闇に死すべきだ……名誉も地位も求めずに、ただ修羅の道を行くのみ……」

 

 それだけ言って、ヤミヤミは忍刀をメランに振り下ろす。しかし、メランは剣を振るい炎の弾丸を弾き飛ばす。

 

「ふッ……偏屈な奴め……ならば、闇の中で死ね……‼︎」

 

 メランは炎を刃に纏わせ、ヤミヤミの胴を断ち斬った。真っ二つに分離したヤミヤミは、急に黒い塊になった。

 

「チ……変わり身か……」

「オルグ忍法・影法師の術……」

 

 地面に落ちた黒い塊は再び人型となり、やがてヤミヤミの姿に戻った。

 

「この勝負は預けて置く……だが、忘れるなよ……裏切り者は必ず死の制裁を下す……ガオレンジャーを血祭りに上げた後でな……」

 

 それだけ言い残すと、ヤミヤミは鬼門の中に消えていった。

 メランは剣を炎に戻し、佇む。

 

「ガオレンジャーを血祭りに上げるのは、貴様では無い……ガオゴールドは我が倒す……我が魂を賭して、な……」

 

 それだけ言い残し、メランは炎の中に消えていく。更なる闘いを求めて……。

 

 

 

「ハハハハァ‼︎ 燃えろ、燃えろ‼︎ 鬼地獄の焦熱の如く‼︎」

 

 天狐山の木々に燃え移っていく黒い炎……木は焼け爛れ、崩れ落ちて行く。周りには、オルゲット達が黒い炎を点した松明を投げつける。それを指揮するのは、二体の巨体なオルグだ

 

「さァ、メズの兄弟‼︎ ガオレンジャーを、炎で炙り出してやろうや‼︎」

「ああ、ゴズの兄弟‼︎」

 

 それは、かつてガオレンジャーと闘い敗れた、ヘル・デュークオルグ、ゴズとメズだ。

 彼等は、鬼地獄に住むデュークオルグ故に不死の肉体を持ち、傷を癒した後に再び姿を現したのだ。

 彼等の目的は、自分達に煮え湯を飲ませたガオレンジャーへのリベンジのみ。その為、彼等を誘き寄せる事を口実に、この大胆な山火事を引き起こしたのだ。

 ガオナインテールが呼び寄せた雨も物ともせず、黒い炎はグングン燃え広がって行く。このままでは、被害は甚大となる。

 

 

「止めろォォ‼︎」

 

 

 騒ぎを聞き付けた陽達が駆け付ける。それを見たゴズは、ニヤリとほくそ笑んだ。

 

「グハハ‼︎ 来やがったな、ガオレンジャー‼︎」

「まんまと現れたな‼︎」

 

 陽達の姿を見た二人は、ゴズが巨大な戦斧を、メズが大鉈を構えた。

 

「お前達は……‼︎ 生きていたのか⁉︎」

 

 陽は、ゴズとメズの姿を見て驚愕する。奴等は倒した筈なのに……。

 

「俺達は不死身だと言ったろう‼︎ 貴様達に復讐を果たす為、再び鬼地獄から這い上がってきたぜ‼︎」

「んん〜〜⁉︎ 何やら見慣れぬ奴が居るぞ、メズの兄弟!」

 

 ゴズは佐熊の姿を見て首を傾げる。以前の戦いには居なかった筈だ。

 

「ワシは佐熊力丸‼︎ 貴様等の事は知っているぞ、鬼地獄に巣食う低級鬼だな‼︎」

 

 佐熊は小馬鹿にした様に言った。ゴズは憤慨する。

 

「貴様ァ‼︎ 俺達を低級鬼呼ばわりするとは……‼︎ まァ良いわ……低級だか否かは、我等の新たなる姿を見てから言うが良いわ‼︎ 行くぞ、メズ‼︎」

「応よ、ゴズ‼︎」

 

 そう言うと、ゴズは自身の右角を、メズは自身の左手を握り潰す。

 すると、ゴズとメズはスライム状に迄、不定形となって一つに融合を始めた。やがて、そのスライムは人の形を取り始めてムクムクと肥大して行く。突き出した四つの部位は四本の腕となり、両手に戦斧と大鉈を構えている。顔はゴズに、胸部にはメズの顔が浮かび上がる異形の姿となる。

 

『我こそは、鬼地獄最強の獄卒オルグ‼︎ 混獣王ゴメズ‼︎』

 

 ゴズとメズの顔が同時に喋る。二体のオルグが融合した事で、より巨体となっている。

 

「が、合体した⁉︎」

『グハハハ‼︎ 貴様等もパワーアニマルを合体させる様に、我々も合体してやったのよォ‼︎

 さァ、ガオレンジャー‼︎ 全員、縊り殺してやるゼェ‼︎」

 

 そう言うと、ゴメズは右手に握る戦斧を振り下ろす。すると、戦斧から発生した斬撃が木々を切り倒して行く。

 

『どうよォ‼︎ パワーも二倍となり、死角も無ェ‼︎ 」

 

 ゴメズは勝ち誇った様に高笑いする。確かにパワーは増しており、前回と違って隙を見せない。

 だが、陽は負ける気がしない。今回は、大神だけでは無く佐熊も居る。

 

「その程度で勝った気でいるなんて、お笑いだな‼︎

 行こう‼︎ 変身だ‼︎」

「「ああ‼︎」」

 

 陽の号令に合わせて、二人もG−ブレスフォンを取り出す。

 

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 

 三人はガオソウルを纏い、ヘルメットとスーツを纏い始める。やがて、変身を終えると三人の戦士が立っていた。

 

「天照の竜! ガオゴールド‼︎」

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

「豪放の大熊! ガオグレー‼︎」

 

「百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎」

 

 金色の竜、銀色の狼、灰色の熊を司る戦士が、地獄より這い上がりし獣の鬼達と二度に渡る闘いを挑んだ。

 

 

 

 〜忌み子じゃ〜

 

 〜鬼の子じゃ〜

 

 〜悍しい〜

 

 この世に生を受けた時、周囲から浴びせられたのは、畏怖と嫌悪、そして差別だった。

 住んでいた村の住人、子供……遂には腹を痛めて産み落とした母にまで拒絶された。「生まれてくるべきじゃ無かった」と……。

 長い間、彷徨って漸く、自分と同じ匂いを持つ者達の場所に足を運んだ。だが、其処で自分に浴びせられたのは歓迎でも、優しい言葉でも無い。侮蔑と嘲笑の数々だった。

 

 〜混血鬼か〜

 

 〜人臭い奴め〜

 

 〜汚らわしい〜

 

 結局、此処でも自分は爪弾きにされた。自分は誰にも必要とされない……誰にも愛されない……そう涙した自分を見た彼等は益々、不快な目で睨む。

 

 〜オルグは泣かない〜

 

 〜その涙は、人の証だ〜

 

 そう言って、自分を殴り飛ばした。

 人にもなれない、オルグにもなれない……だったら、私は何処に行けば受け入れて貰える?

 

 

「皆……頑張って‼︎」

 

 テトムはガオズロック内より、両者の闘いを見守っていた。一度は倒した筈のゴズ、メズが再び、姿を現した。かつて以上に強力な個体のオルグが姿を現してくる……やはり、オルグの力が強まっているのは原因なのだろうか?

 その際、摩魅が目を覚まして、テトムに近付いて来た。

 

「あ、目を覚ましたの?」

 

 テトムは声を掛ける。摩魅は浮かない顔だ。

 

「わ…私…やっぱり、此処に居たら迷惑に……」

 

 熱にうなされながらも、先程の会話を聴いていた摩魅。オルグの関係者と思われ、此処に居れば、また自分の為に諍いが起きてしまうのでは無いか? そんな言い様の無い不安が、摩魅を覆い尽くす。

 しかし、テトムは笑顔で摩魅を見る。

 

「迷惑だとが、迷惑じゃ無いとか考えなくて良いわ……貴方を助けるって、ガオゴールドを決めたのだから、貴方を助けるわ」

「でも……」

「それに“彼等”も、きっとそうしたと思うわ……」

 

 そう言いながら、テトムはガオズロックの一室に飾られた写真を見る。摩魅は、その写真を見る。

 

「この人達は?」

「先代のガオレンジャー達……私の仲間達よ……」

 

 テトムは古き友を懐かしむ様に遠い目をした。

 写真に映るのは、テトムを中心にして六人の若い男女が笑顔で微笑んでいた。

 摩魅は、そんな姿を見て心から羨ましいと思えた。自分にも、こんな仲間達が居れば……そんな感情が、摩魅の中に芽生えて来た。

 

 

 

『さァ、行くぞォォ!!!』

 

 ゴメズは、ニ本の腕の武器を振り回しながら突進して来た。すかさず、ガオゴールドとガオシルバーは躱すが、ガオグレーは正面からぶつかり合った。

 空いている手で、ガオグレーの手と掴み合い、力比べを展開する。しかし、オルグの底力には力自慢とされるガオグレーも押されてしまう。

 

「……力比べで、ワシに勝負を挑むとは……良い度胸じゃな……ぬゥおおォォォォッ………!!!!」

 

 しかし、ガオグレーも負けじと腕に力を込める。その際、ゴメズはズズズ……と、後ろに退がり始める。

 

『ぬぐぐ……この俺様が……人間如きにィィ……!!⁉︎』

 

 力で押し負け始めたゴメズは驚愕する。そうしてる間に、見る見る後ろに押されていくが、ゴメズは戦斧と大鉈を持った両腕を一斉に、ガオグレーに振り下ろそうとする。

 が、突如に両腕に衝撃が走り武器が弾き飛ばされた。

 ガオグレーの後ろで、ガオゴールド、ガオシルバーが各々の武器で、ゴメズの武器を狙撃したのだ。

 不意打ちを受け、大きく動揺するゴメズ。その隙を見たガオグレーは万力を込めて、自分より倍以上の体躯を持つオルグ魔人を持ち上げた。

 

「どっせェェェェッイ!!!」

 

 掛け声と共に、ゴメズを投げ飛ばすガオグレー。巨体が木々を薙ぎ倒しながら、燃え盛る黒い炎の中に突っ込んで行き、倒れて来た巨木の下敷きとなった。ガオグレーも流石に力を出し過ぎたのか、肩をボキボキと鳴らす。

 

「やったか⁉︎」

 

 ガオゴールドは炎の中に倒れるゴメズを睨む。しかし、身体がピクリと動くのを確認した。

 

「まだだ‼︎」

 

 ガオシルバーは叫ぶ。ゴメズは立ち上がり、巨木を持ち上げる。

 

『グハハハァ‼︎ こんなもの……鬼地獄の炎に比べりゃ、温過ぎるわ‼︎』

 

 そう言いつつ、ゴメズは炎を掻き分けながら出て来た。だが、身体の各所は黒い炎に焼かれて爛れ落ち、顔は二目と見れない程に醜く崩れていた。

 

『丁度良い……これならどうだァァァ!!!』

 

 ゴメズは息を吸い込み、燃え盛る炎に息を吹き掛けた。すると、炎が火炎放射の様にガオレンジャー達に襲い掛かる。

 

『鬼地獄にて鍛えた力を甘く見るなよ、ガオレンジャー‼︎ 更にィ……‼︎』

 

 二ィィッとほくそ笑みながら、ゴメズは戦斧と大鉈を持ち直す。すると刃全体に炎が点いた。

 

『グハハハハァ‼︎ さァ、これで……貴様等の首を焼き斬ってやるァァ!!!』

 

 そう叫ぶと、ゴメズは武器をブンブン振り回しながら突っ込んで来る。短絡的な行動ながら、ゴメズ自体の攻撃力が高い為、侮れない。これでは、迂闊に近付く事も出来ない。

 

「ガオグレー‼︎ 俺をハンマーで持ち上げてくれ‼︎」

 

 ガオシルバーが指示を出す。ガオグレーは、言われるがままにグリズリーハンマーを突き出し、ガオシルバーはその上に乗った。力の限り、ハンマーを振るうとガオシルバーは天に飛び上がる。

 

「邪気玉砕‼︎ 破邪聖獣球‼︎」

 

 空中から、ガオハスラーロッドをブレイクモードにし宝珠を撃ち出した。だが、ゴメズは宝珠が衝突する刹那、戦斧で弾き返した。

 

「⁉︎」

『バァカめが‼︎ 同じ手が二度も効くかよ‼︎ 死ねェェェェ‼︎」.

 

 以前、同じ手で敗北したゴメズは、その弱点を克服したらしい。勝ち誇った様に高笑いしながら、ゴメズは戦斧を落下してくるガオシルバーに目掛けて、横に払ってくる。

 

「クッ……‼︎」

 

 空中では、身動きも躱す事も出来ない。万事休す、とガオシルバーが諦めた瞬間……。

 

 

「竜翼……日輪斬りィィ‼︎」

 

 

 その時、ガオゴールドの放ったドラグーンウィングの斬撃が、ゴメズの右腕に激突した。斬撃は、右腕を肘の部位から切断して吹き飛び、回転した戦斧は大地に深々と突き刺さった。

 

『グアァァッ!!? 痛えェ‼︎ 痛えェェよッ!!!』

 

 斬り落とされた腕を庇いながら、ゴメズはのたうち回る。

 落下したガオシルバーは、傷一つ無く立ち上がった。

 

「スマン…ガオゴールド…助かったよ…」

 

 ガオシルバーは、素直にガオゴールドに礼を言う。彼の機転が無ければ、大怪我は免れなかっただろう。

 だが、ゴールドは気にするな、と言わんばかりに頷く。

 その時、ゴメズは怒りに満ちた形相で、ガオゴールドを睨み付けた。

 

『よくも……! よくも、やってくれたな‼︎ 俺様の腕を……‼︎』

 

 今尚も、切断した箇所からドクドクと血が流しながら、ゴメズは唸る。だが、ガオゴールドは……。

 

「さっき、自分で自分の腕を握り潰した奴が、腕を斬られたぐらいで、ビービー喚くなよ」

 

 と、吐き棄てる様に言い放った。その言葉に、ゴメズは完全にキレたらしく、猛り狂う。

 

『人間風情が、生意気な口を……良いだろう……‼︎ だったら見せてやる‼︎ 貴様等を倒す為に編み出した新技を……‼︎

 オルグ殺法! 焦熱波動砲‼︎』

 

 ゴズとメズの両方の口が開き、黒い炎の塊が創り出されていく。みるみる間に炎が、ゴメズを上回る大きさとなった。

 

『グハハハァ‼︎ 一発で山をも消し去る灼熱の弾丸だ‼︎ 躱した所で、爆炎が貴様等の骨まで焼き尽くすのみ‼︎ さァ、どうする!⁉︎』

「クッ……‼︎」

 

 ガオゴールド達は、ゴメズの仕掛けた攻撃を前に窮地に立たされてしまった……あの弾丸の距離と大きさでは避け切れないし避けた所で、この山全体が火の海になってしまう……まさしく、八方塞がりの状況だった……。

 

 

 

 〜ガオナインテール……目を醒まして……〜

 

 山の空洞内にて眠るガオナインテールは、自分を呼ぶ声に目を開ける。

 目の前には、一人の巫女装束を纏った髪の長い女性が立っていた。ガオナインテールは懐かしげに頷く。

 

 〜そなた……アマテラスか……? 随分と久しいのォ……〜

 

 ガオナインテールは旧知の友に会った様な口調で語り出す。

 

 〜最後にあったは……確か、五百年前だったか? 今は人間として転生を果たした、と聞いたが……〜

 

 〜今は再会を懐かしんでいる場合ではありません……ガオナインテール……今こそ、貴方が覚醒する時が来ました……〜

 

 アマテラスの言葉に、ガオナインテールは溜め息を吐く様に低く唸る。

 

 〜あの若僧の事か……あれが、そなたの言っていた者だと?〜

 

 〜そうです……彼こそ……竜崎陽こそ、私達が待ち望んだ存在……全てのパワーアニマルから誕生を祝福された者なのです……〜

 

 アマテラスの発言に、ガオナインテールはかぶりを振る。

 

 〜あれが、そうであると言うなら……そなたの見当も外れたな……妾が見るに、まだまだ殻を破ったばかりの雛鳥よ。

 あれが伝説に聞く全てのパワーアニマル達を率いる王となるとは思ぬし、その様な者が再び現れるとは……〜

 

 〜そうです。彼こそが……いえ、彼が愛する者こそが、王と成りし者なのです〜

 

 アマテラスは、キッパリと言い切った。

 

 〜しかし彼女は、未だに力は未覚醒のまま……彼女が目覚めぬ限りは、彼は真の戦士とは成りません……ですが、彼女が目覚めし時が、彼も“闇を照らす太陽”となるのです〜

 

 彼女の言葉を聞いたガオナインテールは、黙々としたまま話を聞く。通常のパワーアニマルより永き時を生きて来たレジェンド・パワーアニマルである彼女もまた、パワーアニマルに古きより伝わる言い伝えを待ち望んでいた。

 その待ち望んだ伝説の戦士が、かの少年だとでも言うのか……。俄かには、信じられない。

 

 〜百歩譲って、あの少年がそうであるとして……妾がアレに力を貸した所、無駄に終わるだけでは無いか……? これ迄に、そうであった様にな……〜

 

 〜ガオナインテール……彼の人となりを一度、その目で知り見てみる事です……。彼は戦士としては発展途上でも、それを補うばかりの“慈しむ心”を持っています…!

 それを察したからこそ、ガオドラゴン達を始め、レジェンド・パワーアニマル達が力を貸すに至ったのです……〜

 

 アマテラスは懸命に、ガオナインテールに説得を促す。だが、心を閉ざした九尾の狐に取り付く島も無い。

 とは言え……ガオナインテールにも思う所があるのか、先程の少年の顔を思い起こして見る。

 理想を信じる顔をしていた……だが、それ故に危うさを持ち合わせている。

 

 〜そなたは……妾に、あの時と同じ過ちを冒せ、と?〜

 

 ガオナインテールは、自身の前に立つアマテラスを見下ろす。

 

 〜妾は“あの日”……大切な者を失った……この傷だけは、どんなに時を重ねても癒えはしないだろう……妾に更にもう一つ、癒えぬ傷を刻めと言うのか……?〜

 

 〜……〜

 

 ガオナインテールの言葉に、アマテラスは押し黙る。その際、山全体が揺れる様な震動に、ガオナインテールは顔を上げる。

 

 〜やれやれ……また暴れておるのか……〜

 

 気怠げに、ガオナインテールは立ち上がる。歩み去って行く彼女の背に向かい、アマテラスは語り掛けた。

 

 〜お願いです……貴方の想いは分かっています……。ですが……どうか、“あの子”の罪を赦して欲しいのです……〜

 

 彼女の決死な言葉は、ガオナインテールの頑なに凍りついていた心を融解し始めていた。果たして、あの少年が待ち望んだ伝説の戦士であるか……“あの者”と同じ過ちを冒すのか……ガオナインテールは長い時を生き過ぎた。その中で至った自身の答えを、あの少年が否定してくれるのか?

 

 

 

「ク……どうする……⁉︎」

 

 ガオゴールドは、ゴメズの仕掛けようとする焦熱波動砲を前に困惑していた。真正面から受け切れば大ダメージは必至だし、躱そうにも天狐山そのものが火の海になれば、結果は変わらない。

 

 〜ガオゴールド……破邪三獣砲に全ての力を込めて放出しろ……〜

 

「ガオドラゴン⁉︎」

 

 ヘルメット内に、ガオドラゴンの声が響く。

 

 〜お前は、我々を信じてくれた……ならば我々は、お前達に降り掛かる火の粉を払う盾となろう……〜

 

 ガオドラゴン達の言葉に、ガオゴールドは勇気を得た。

 何時だったか、アマテラスから聞かされた「貴方は一人では無い」と言う言葉が、脳裏にリフレインする。

 そうか……自分は一人では無い……祈、ガオシルバー、ガオグレー、パワーアニマル達、テトム……戦いの中で得た掛け替えの無い仲間達が居る…‼︎

 ガオゴールドは……竜崎陽は振り返る。無言で、ガオシルバーとガオグレーは頷く。

 陽は実感した。こんな自分を認めてくれている……ガオの戦士として……ガオゴールドとして……‼︎

 

「皆‼︎ 行くぞ‼︎」

 

 ガオゴールドは意を決し、ガオサモナーバレットを構える。ガオシルバーはガオハスラーロッドを、ガオグレーはグリズリーハンマーを重ねる様に構えた。

 

 

『破邪三獣砲‼︎』

 

 

 三人の信ずる想いが、巨悪を焼き払う砲門を召喚させた。ガオゴールドは、その邪気を祓う砲口をゴメズに向けて、引き金に指を置く。

 

 

「邪気……滅却!!!」

 

 

 引き金を引くと同時に三色の光線が放たれる。ゴメズが同時に、焦熱波動砲を放擲した。

 三色の光線と漆黒の火球がぶつかり合う。威力は、ほぼ拮抗……だが、ゴメズの方に分があった。このままでは、ガオレンジャー達を巻き込んで、光線を弾き返されてしまう。

 

『グゥハハハハァ!!! 無駄だ‼︎ 貴様等が力を合わせた所で、鬼地獄を焼き尽くす地獄の焦熱を防ぎ切れるものかァ!!!』

 

 ゴメズは勝ち誇った様に、叫ぶ。確かに自分達だけでは足りないだろう……‼︎ だが、自分達にはパワーアニマル達が力を貸してくれる。その想いが、破邪三獣砲の竜の目がキラリと輝く。と、同時に光線の威力が増し、火球を押し返し始めた。

 

『ぬァッ!⁉︎』

 

 突然の抵抗に対し、ゴメズは驚愕する。だが、火球の勢いを飲み込み光線はゴメズの眼前に迄、迫って来た。

 

『そ、そんな⁉︎ この俺様が、押し負けているだと⁉︎』

「これが、僕達の力だァァ‼︎」

 

 ガオゴールドが叫び、ありったけの光線をぶつける。ゴメズの身体は光線に焼かれ、漸く光が収まったかと思えば、ズダボロになったゴメズが倒れ伏した。

 

「やった……‼︎」

 

 肩で息を吐きながら、ガオゴールドは勝利を確信した。ガオシルバー、ガオグレーも拳を握る。

 しかし、そんな状態になりながらもゴメズは立ち上がる。全身が絶え間無く焼け爛れ、高熱で剥けた口角を吊り上げた際にドス黒く焼けた筋肉を覗かせながら、ニイィィッと笑う。

 

『……やるじゃ……ねェか……‼︎ だがよ……まだだ……‼︎

 コイツを見なァ‼︎』

 

 ゴメズはそう言いながら、身体を巨大化させて行った。次第に周囲の山々を見下ろす程、前回に戦った時より巨体と化していた。

 

『グァハハハハッ!!! 前の様には行かねェぞ‼︎ 』

 

 断ち切られた腕も再生し、筋骨隆々な体躯となったゴメズは高らかに吠える。ガオゴールド達は、破邪の爪を構えた。

 

『幻獣 

 百獣召喚!!!』

 

 天に打ち上げられる10個の宝珠が輝き、姿を現すパワーアニマル達。各々に合体を始め……。

 

「誕生‼︎ ガオパラディン‼︎

       ガオハンター‼︎

          ガオビルダー‼︎」

 

 三体の精霊王達は、ゴメズに立ち向かう。ガオパラディンとガオハンターは同時に、ユニコーンランスとリゲーターブレードを突き出す。だが四本ある腕を巧みに使い、攻撃を受け止めるゴメズ。その隙に、ガオビルダーが下半身を構成するトードキックで、ゴメズの背面からキックする。

 しかし、強靭な身体を誇るゴメズにはびくともせず、左手に掴むガオハンターを持ち上げ、ガオビルダーに投げ付ける。

 ガオハンターとガオビルダーを戦闘から切り離す事に成功したゴメズは、ガオパラディンとの一騎討ちに持ち込む。

 ホーリーハートを撃ち込もうにも、先程の戦いでガオドラゴン達のガオソウルを使い果たしてしまい、使用するには時間が掛かってしまう。

 

「ガオパラディン‼︎ グリフカッター‼︎」

 

 ガオゴールドの指示で左手のガオグリフィンの翼を展開させて、翼状の光弾を放つ。

 だが、遠距離用の光弾ではゴメズの強化された肉体には傷を付けられ無い。やはり、ホーリーハートやホーリースパイラルの様な大技で無ければ……しかし、ガオハンター、ガオビルダー共に、ガオソウルの不足で力を出し切れない。今、彼等のパワーアニマル達と百獣武装しても本来の力を出せず、敗北してしまうのは必然だ。

 ならば、残されている万全のパワーアニマルはガオワイバーンだけだが……果たして、彼の力だけで乗り越えられるか……。

 と、その際にゴメズの身体を覆い尽くす様に火の輪が現れる。火の輪は、ゴメズの身体を拘束する様に渦を巻き縛り付けた。

 

『グアァァッ!!? 熱ちィィ‼︎ それに身体が動かねェェッ⁉︎ 何だこりゃァァァッ⁉︎』

 

 ゴメズは苦しげにのたうち回る。ガオパラディンの攻撃では無い。と、その際にガオパラディンの前に一体の影が降り立つ。

 

「ガオナインテール⁉︎」

 

 それは、一度は共闘を拒んだレジェンド・パワーアニマル、ガオナインテールだった。ガオナインテールは、ガオパラディンを振り返り、高慢に笑う。

 

 〜情けなや……妾が眠りについている間に、パワーアニマルも此処まで弱くなっていたとはな……。こんな者達、危なっかしくて任せてられんわ……〜

 

 ガオナインテールの言葉に対し、ガオパラディンは激しく憤りを見せた。

 

 〜貴様……‼︎ 態々、そんな事を言う為に来たのか?〜

 

 〜たわけが。そんな筈無かろう……これ以上、妾の縄張りを荒らされたく無いだけじゃ……。ガオゴールドとやら……人間に力を貸すのは癪だが、今回は場合が場合だ。妾の力を使いこなして見せよ……‼︎〜

 

 そう言い残し、ガオナインテールは光に包まれ乳白色の宝珠へと姿を変えた。宝珠は、ガオパラディン内部のコクピットに現れ、ガオゴールドの右手中に収まる。

 ガオゴールドは左手中に、ガオワイバーンの宝珠を持ち、台座へと装填した。

 

「百獣武装‼︎」

 

 掛け声と共に、ガオユニコーンとガオグリフィンが分離する。代わりに左腕にガオワイバーンが、右腕に九尾が分離し足を体内に収納して腕の形となり、直線状に纏まった尻尾を口に加える。

 

 

「誕生‼︎ ガオパラディン・アロー&ウィップ‼︎」

 

 

 右手に近付く敵を撃ち砕くしなやかな鞭、左手に遠距離の敵を射抜く豪速の弓を携えた近、遠距離と共に隙の無い、ガオパラディンの新たな形態が誕生した。

 だが、ゴメズは同時に炎の渦を吹き飛ばした。

 

『馬鹿がァ‼︎ そんな付け焼き刃で、倒せるかァ‼︎

 オルグ殺法‼︎ 業火球砲‼︎』

 

 そう叫び、ゴメズの口から複数の小型火球がマシンガンの如く撃ち込まれた。

 

「テールウィップ‼︎」

 

 ガオパラディンは右手のナインテールウィップを展開する。すると延長した九尾が、火球全てを叩き落としてしまう。

 

『な、何ィィ⁉︎ ならば、オルグ殺法! 焦熱……‼︎』

「ワイバーンアロー‼︎」

 

 ゴメズが体制を立て直す前に、ワイバーンアローから放たれた四本の光の矢が、ゴメズの四肢を射抜く。

 

『ガアァ……ッ!!!』

 

 両腕、両脚を射抜かれたゴメズは力が入らずに崩れ落ちる。

 

「今だ‼︎」

 

 完全に隙だらけとなったゴメズに好機を見出したガオゴールドは、一気に畳み掛けた。

 

 

「風雷一矢! テールスティンガー‼︎」

 

 

 ガオワイバーンの左腕のワイバーンアローの翼から光の弦が現れ、ガオナインテールのテールウィップを矢の様に番え、構えた。そして、ゴメズの心臓目掛けて放つ。

 奇しくも其処はかつて、ホーリースパイラルによって一度、深手を負わされていた。

 テールスティンガーは、ゴメズの胸に深々と突き刺さり、ゴメズは大爆発に包まれた。

 

『グオォォッ!!! ま、またしても……‼︎

 し、しかしィ…! 俺様は不死身のヘル・デュークオルグだァァ……必ずや甦り、貴様を地獄に引き摺り込んでやるぜェェ……覚えてろよォォ……‼︎』

 

 呪詛の断末魔と絞り出しながら、ゴメズは爆炎に包まれて消えて行った。

 ガオパラディンは右腕を突き上げ、勝利の雄叫びを上げた。

 

 

 

「やったな、陽‼︎」

 

 ガオパラディンから降り立った陽に、大神と佐熊が近付く。

 

「2人共、無事だったんですね‼︎」

「ガハハハ! あの程度で、くたばる様なワシ等じゃ無いわい‼︎とは言え……今回は、良い所無しじゃな……」

 

 初っ端から、ゴメズに投げ飛ばされ戦線から離脱させられた事に対し、佐熊は自嘲気味に言った。

 

「そんな事はありません‼︎ 二人が居なければ、ゴメズに勝てませんでした‼︎ それに……僕は気付いたんです。貴方達が居てくれるから、戦える! どんな敵が来ても、この三人なら乗り越えられるって事に気付きました‼︎」

 

 急に言い出した言葉に、大神と佐熊は呆気に取られた様にポカンとするが……やがて、佐熊は笑い出す。

 

「ガハハハ‼︎ そうか、そうか‼︎ それは一つ、勉強になったのゥ! なあ、大神‼︎」

「ふ……そうだな……」

 

 大神も釣られて、笑った。陽は先程の一件を思い出し、大神に謝罪した。

 

「大神さん……さっきはごめんなさい……感情的になって……」

「いや……俺も意固地になり過ぎたよ……。それに、お前は俺を、また助けてくれた……それで、お互い様だ」

「大神さん……」

「ガハハハ‼︎ 雨降って地固まる、じゃな!」

 

 そう言いながら、佐熊は二人の肩を強く叩いた。三人は揃って笑い始めた。

 

 

 〜さて……話の腰を折って悪いがの……〜

 

 

 突然、宝珠が光り出し、ガオナインテールの幻影が姿を現した。

 

 〜ガオゴールドよ……お前達の絆……そして人間の心とやらを見せて貰った……。妾の止まっていた時間を、お前達は動かした……。お前の勝ちじゃ……そなた達の戦い……オルグ達から地球を守る戦いに、妾を加勢してやろう……〜

 

「ガオナインテール…ありがとう……‼︎」

 

 〜勘違いするな……別に人間と言う存在を守る為では無いし、人間を認める訳でも無い……そなた達の理想を見届けるだけじゃ……〜

 

 ガオナインテールは、そっぽを向きながら言った。だが、陽は強く頷く。

 

「分かってる……必ず、オルグ達から地球を守り抜いて見せる‼︎ 僕達、三人でね‼︎」

 

 〜フン……精々、頑張ることじゃな……〜

 

 そして、ガオナインテールは姿を消した。陽は宝珠をポケットに戻した。

 

 

 〜ありがとう……ガオナインテール……ありがとう、ガオゴールド……〜

 

 

「?」

 

 何処かで聴いた声に、陽は辺りを見回す。大神は、不思議そうに陽を見た。

 

「どうかしたか、陽?」

「いえ……何でもありません……行こう……‼︎」

 

 そう言いながら、陽の顔は笑顔だった。そして、降り立って来たガオズロックへ進む。

 

 三人が去った後、アマテラスが姿を見せ、飛び立って行くガオズロックを見ながら、優しく微笑んでいた。

 

 

 〜心を閉ざしていたガオナインテールと和解を果たし、新たな仲間と絆を得たガオレンジャー達。

 彼等の戦いは苦しく遠い道のりながらも、必ずや乗り越えて行ける事でしょう……〜




ーオリジナルオルグ
−ゴズ&メズ(二回目)
一度、ガオゴールド達に負けたヘル・デュークオルグの二人組。更なる研磨と、新たに二体が融合して誕生する『混獣王ゴメズ』へ変貌する。

−混獣王ゴメズ
ゴズが右角を、メズが左腕を握り潰す作業を経て融合するオルグ魔人。胸部にメズの顔が浮かび上がり、腕が四本となり二人同時に喋る。


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quest31 鬼(オルグ)、分裂‼︎

「オホホホ………‼︎」

 

 とある廃墟にて……ツエツエは狂笑していた。

 

「遂に……遂に、この時が来たわよ‼︎ このツエツエを女王とした新生オルグ軍団が旗揚げする時が……‼︎」

 

 ツエツエは杖を振りかざしながら叫ぶ。四鬼士では、ゴーゴとヒヤータが敗死、メランが離反した影響で、鬼ヶ島に集結するオルグ達の戦力は、ヤミヤミ率いるオルグ忍軍とテンマ、未だに座したまま動かないガオネメシスだけとなった。

 此処まで戦力が低迷したとあれば最早、テンマに見切りを付けるなら今しかない。何より……今の自分には、四鬼士など目では無い戦力を手に入れた。

 ツエツエは目の前に居並ぶ巨躯の影を見る。何れともに、デュークオルグ、ハイネス級の力を誇る怪物達だ。

 その彼等を自分の配下として付かせる事に成功した。彼等を自分が率いる限り、テンマやガオネメシス等、恐るるに足らずだ。これ迄、彼等に散々、罵倒され見下されても耐えて来た苦労が報われる時が来た。

 

「ツエツエ……いよいよだな……‼︎ もう、テンマ様やニーコにペコペコしなくて良いんだな…‼︎」

「そうよ、ヤバイバ……‼︎ ハァ……思えば辛い日々だったわ……冷や飯食いの立場に甘んじるのも、これで終わり……これからは、私達がオルグの支配者となるのよ‼︎

 さァ、目覚めるのよ! 古の凶戦士達よ‼︎」

 

 ツエツエが叫ぶと、さっきまで沈黙を通して来たオルグ達が動き出す。

 一体は大きく裂けた口の中にズラリと並ぶ剣山の如し牙、ズッシリとした二の腕と両足、手と足の先に鋭く尖った爪……。

 

「ティラノオルグ‼︎」

「グオォォォォッ!!!!!!」

 

 一角は肉食恐竜の代名詞にして、史上に於いて最大で最強の捕食者と名高く、文字通り『暴君』の名を持つ恐竜ティラノサウルスに似たオルグ魔人だった。

 

「トリケラオルグ‼︎」

「ブオォォォォッ!!!!!」

 

 一角は盾や城塞を思わせる顔付き、眉間から突き出した二本の角、重戦車の如し寸胴な肉体を持つ恐竜トリケラトプスに似たオルグ魔人だった。

 

「プテラオルグ‼︎」

「ギャオォォォォッ!!!!!」

 

 一角はグライダーを思わせる翼、ツンと尖ったクチバシ状の口、戦闘機によく似たスタイリッシュな体躯を持つ恐竜プテラノドンに似たオルグ魔人だった。

 

「さァ、お前達! 永久に鎖されし氷の檻に閉じ込められた古き時代の鬼達よ! お前達を遮る封印は、もう無い‼︎ オルグの本能に従い、人間達を喰らい襲い来る者達は全て薙ぎ倒すのだ‼︎」

 

『ウオオォォォォッ!!!!!!』

 

 現代に甦らされた三体の怪物達は咆哮を上げた。彼等は、強さだけならハイネスさえも凌ぐだろう。だが、それ故に知能は著しく欠けており、本来なら決して封印を解くべき存在では無い。それを知っていたからこそ、先のハイネス達もテンマも彼等を封印からは解かなかった。

 しかし、ツエツエはオルグの巫女である。先の戦いでオルグが敗れた後も、その力を高める修行を行い続けていた。全ては憎きガオレンジャーに対する報復、ひいては自身を頂点にしたオルグによる治世を実現する為だ。

 その長年の修行が功を成し、ツエツエのオルグの巫女としての力は成熟した。それでこそ、オルグを自在に操るばかりかオルグの持つ潜在能力を限界まで引き出す、と言った高度な術まで我が物とした。

 しかし、其処まで至るには並大抵の苦労では無かった。数々の失敗、敗北からテンマには見限られ、ニーコには馬鹿にされ、四鬼士には奴隷同然の扱いを受ける日々……。

 しかし、そんな屈辱に耐えたのも全て、この力を完全とする為……。更に吉報の様に、テンマとガオネメシスの会話を盗み聞きしたツエツエは、この三体の恐竜オルグ魔人の存在を知った。彼等の力を完全に制御したらば最早、自分に敵は居ない。ガオレンジャーを血祭りに上げた後は、自分達を散々、愚弄したテンマやニーコ、残る四鬼士二人を始末する。そうすれば、オルグの支配者は、このツエツエと言う事になる。ツエツエの中に燻っていた野望の火種が再び燃え上がって来た訳だ。

 

「この恐竜オルグ達を使い、私達を長年に渡り苦しめていたガオレンジャー達を一網打尽にしてやるわ‼︎ そして、私達の下克上が果たされるのよ‼︎」

 

 ツエツエは狂喜した。全ての手駒は自分にある。今此処に、ツエツエ率いる「新生オルグ軍団」が誕生した。

 しかし、そのツエツエ達の様子を密かに見ている者が居た。

 

「ンフフ……最近、大人しくしてると思ったらァ……こ〜んな面白そうな事を企んでたなんてェ♡」

 

 それは、ニーコだった。ツエツエが、ヒヤータ失脚前後で不穏な動きを見せている事を察して、密かに見張っていたのだ。

 

「ンフフ♡ 良い事、考えちゃったァ♡」

 

 含み笑いを浮かべながら、ニーコは鬼門の中に消えていった……。

 

 

 

「何ィ? ツエツエが謀反を企んでいる、だと?」

 

 鬼ヶ島の玉座で、テンマは座しながらニーコの報告を聴いた。

 

「はい。恐竜オルグ魔人を復活させて、自分がオルグ達の支配者となる、と……」

「フン……ツエツエめ。この余を出し抜こうとするとはな……油断成らぬ女狐が……」

 

 テンマは、そう言いつつも右拳を握り締め、玉座に叩き付けた。石で出来た肘置きは粉々に砕け散る。

 

「どうしますゥ? ヤミヤミ様達に言って、裏切り者として始末させちゃいますかァ?」

「その必要は無い。奴等が、ガオレンジャーを敵として定めているなら、思惑こそ異なれど目的は同じ……捨て置けば良い。今はな」

 

 今は……即ち、それはガオレンジャーを倒した後に、ツエツエ達を料理すれば良い……そう、テンマは結論付けた。

 

「それにしても恐竜オルグ……か。如何にも、彼奴等らしい。あんな苔むした化石を掘り起こすとはな。ガオレンジャー共に比べれば、さしたる脅威とは成るまい」

「あ、そう言えばァ……メラン様も、此処から居なくなっちゃいましたよォ? 其方も、放っておいて良いんですかァ?」

 

 ツエツエの離反と同時に元々、組織に対し協調性が無かったメランも離反した。つまり、オルグ軍団は三派閥に分裂した事になる。

 

「メランか……彼奴は強さだけなら余にも届き得る……しかし、治世に関しては素人以下だ。ハイネスの器には程遠いわ……構わぬ」

 

 メランの目的は、ガオレンジャーの殲滅や地球支配などは二の次であり、飽くまでガオゴールドを一対一で倒す事である。反逆の真意も野望では無く、ただの手段……放置しても、問題にはならないとテンマは判断した。

 

「それよりも、我々はガオレンジャーを倒した後に、いよいよ“鬼還りの儀”を取り行う。それが為せれた時、我等、オルグの支配する時代となる。ヤミヤミ率いるオルグ忍軍達にも、そう伝えておけィ!!!」

「はァ〜い♡」

 

 テンマは、ニーコに厳命しながらも、既に更なる目的を見出していた。オルグによる支配する時代の頂に立つのは、このテンマを中心とする「正統オルグ軍団」である、と言わんばかりに……。

 

 

「ほう……ツエツエめ……仕掛けて来たか……」

 

 某所では、メランが剣を構えたまま立ち尽くしていた。周りには恐らく、ヤミヤミが嗾けたと思われる多数のオルグ魔人やオルゲットの骸が、散乱していた。

 テンマ陣営を抜けたメランは最早、オルグ軍団からもガオレンジャー側からも敵となった身……両者から追撃を躱しつつ、テンマ側の情報を放っておいたオルグ蟲から得たメランは、ニヤリとほくそ笑む。

 

「クックック……恐竜オルグ魔人か……我も知らぬ古の怪物達を持ち出してくるとはな……‼︎ どうやら、此度の戦いは更に可燃するらしい……だが、我の目的は、ガオゴールドのみだ‼︎ 奴は必ず、我が倒す‼︎ この身を賭してもな‼︎

 ふ……ははははは……‼︎」

 

 メランは夜の帳に向けて一人、笑い続けた。己の本懐を遂げる為に……。

 

 

 こうして、テンマ率いる「正統オルグ軍」、ツエツエ率いる「新生オルグ軍」、メランが単身の「はぐれオルグ軍」とオルグは幾つかに分散した。だが目的は、ガオレンジャーの討伐と言う意思を同じとしている。三派閥はやり口の詳細は異なれど、敵はガオレンジャーと狙いを定め、各々に暗躍していく事となる……。

 

 

 

 さて舞台は代わり、竜胆高校にて……。

 放課後、第二体育館からは勢いある掛け声と竹を叩き付ける様な響音が響き渡る。体育館内では、剣道部員による稽古が行われていた。全員が防具を身に纏い、二人一組でペアとなって模擬試合を行う。中でも二人のペアは特に力が入っており、他部員も感心した様に見ていた。

 一人は白い道着と袴の上から防具を着用していた。暫しの間、両者は互いに打ち込むタイミングを見計らっていたが、相手が一歩、踏み出して来た際に前に進み出て、面に一本を入れる。

 

「凄いじゃ無いか、竜崎‼︎ 絶好調だな‼︎」

 

 一人、前に進み出て顧問の先生が褒めた。それに対して、白道着の部員は謙遜した。

 

「いえ……竹刀を持ったのなんて、久しぶりですよ……」

 

 白道着の部員は陽だった。急に学校の剣道部の部室に赴き「一日だけ、部活動に参加させて下さい」と頼んで来たのだ。これには、ちょっとした訳がある。

 

「本当に悪いな……アイツの尻拭いばかりさせて……」

 

 陽の相方を務めていたのは、友人の昇だ。彼もまた、剣道部に所属しており、同部員である猛が度重なる赤点の為に補習を受けさせられる羽目となった故、人数の足りない事に悩んだ部長に対し、昇が「経験者を連れて来ます」と言った事で、陽に白羽の矢を立てたのだ。

 元々は陽も剣道を嗜んでおり、幼少期に従姉の大河冴に手解きを受けた事から同年代では敵わない程、熟練だった。 

 かつては祈と共に剣道の道場に通っていたが中学に進学後、両親の相次いだ事故死によって、陽は中学で入部した剣道部も辞めなくては成らなかった。辛うじて、祈には両親の遺してくれた遺産があった為、引き続き道場に通わせ、中学の剣道部にも入部させてやれた。だが、陽は高校進学後は直ぐにバイトを始めた為、剣道をするなんて優に三年以上のブランクがある。最も、ガオレンジャーとして活動を始めたお陰で実戦経験には事欠かなかった為、久しぶりの剣道の割には身体が思う様に動いた。対戦相手の昇も舌を巻く訳だ。

 

「気にするなよ、昇……役に立てて良かった……」

「ああ……大会が近いんだ。部員が少ないと練習が出来なくてな……」

「よし‼︎ 試合稽古は此処まで‼︎ 全員、防具を外す様に‼︎」

 

 顧問の先生の言葉に、陽達も慌てて整列を始めた。

 

 

 練習が終わり暫しの休憩となった陽は、面を外す。道着は中学まで使っていた物を自宅から持って来たが、防具はサイズが合わなかった為、剣道部の物を竹刀と共に借りた。

 他の部員達は、陽の周りに集まり先程の見事な技の冴えぶりに次々と質問して来る。

 

「竜崎、凄いな‼︎ 噂には聞いてたけど……」

「ウチで、申利と肩を並べれる奴って乾だけだったからな……!」

「なァ、このまま入部したら? 次の大会でも、大活躍出来るぜ⁉︎」

 

 部員達は興奮気味に話しかけて来る。だが、陽は体良く断る。

 

「ごめん。色々、都合があるから……」

「何だよ、都合って?」

 

 陽は返答に困ってしまう。関係のない人間に、ガオレンジャーの事を話す事は出来ないからだ。そんな時、昇が助け船を出してくれた。

 

「陽は妹と二人暮らしだから、家計の為にも部活が出来ない身なんだ」

 

 昇の言葉で部員達は納得した様に頷く。

 

「そっか、そりゃ残念だなァ……」

「そう言や、乾が言ってたな。可愛くて優しくて料理上手な妹が居るって」

「マジかよ⁉︎ 良いなァ……」

 

 陽は昇に無言で礼を言った。気にするな、と言わんばかりに昇はウィンクした。

 

 

「すんませ〜ん‼︎ 乾猛、今、到着っス‼︎」

 

 

 慌しい様子で、道着と袴に着替えた猛が体育館に入ってきた。どうやら補習は終わったらしい。

 

「悪いな、陽‼︎ 部活の代役、頼んじまって‼︎」

「補習、もう良いのか⁉︎」

「おう‼︎ バッチリだぜ‼︎

 

 陽の質問に、猛はサムズアップで応える。しかし、その後ろから底冷えする様な声がした。

 

「あ〜に〜き〜。補習って、どう言う意味?」

 

 その聞き覚えのある声に、猛はダラダラと冷や汗を流しながら振り返る。其処には、オルグも顔負けな憤怒の表情を浮かべる舞花が立っていた。

 

「ま、舞花⁉︎ 何で此処に⁉︎」

「ウチの学校、剣道部と空手部の見学で来てるの。今朝、言ったでしょ? それより補習って、何の事?」

 

 舞花はズイズイと猛に迫った。猛は、慌てた様に取り繕いながら陽達に縋る目で助けを求める。

 

「自業自得だ」

 

 昇は冷めた調子で言った。

 

「ちょっと待って……今、剣道部って….」

 

「兄さん‼︎」

 

 舞花の後ろから、制服に身を包んだ祈が飛び出して来た。

 

「祈、お前も来てたのか?」

「うん。びっくりした?」

 

 陽の驚いた顔に祈は笑う。他の男子部員も祈を見て、我先に我先にと群がって来た。

 

「おォォ! この娘が竜崎の妹か‼︎」

「乾の言った通り、可愛いな‼︎」

「な、高校はウチにしなよ‼︎ 可愛がってやるから‼︎」

 

 竜胆高校の剣道部は他校に比べ、女子の部員が少ない。従って、非常に男臭い雰囲気だった。それもあってか、祈の存在は年頃の男子部員からすれば非常に魅力的だった。

 

「祈先輩に近付かないで‼︎」

 

 突如、陽達の間を掻き分けて小柄な女生徒が姿を現した。

 

「祈先輩は私のなんです‼︎」

 

 オヤツを横取りされそうになった子猫みたいに、剣道部員に威嚇する少女。確か、祈の後輩の峯岸千鶴だと陽は思い出した。

 

「ち、ちょっと….千鶴……」

「もう私は祈先輩に身も心も捧げた身なんです‼︎」

 

 その発言に部員を始め、陽や昇も唖然とする。

 

「……陽……祈ちゃん、そう言う趣味があったのか?」

「….いやァ、初耳だけど……」

 

 昇は陽にコッソリ尋ねるが、兄である陽も妹の趣味について迄は知らなかった様だ。其処へ、猛にチョークスリーパーを極めていた舞花が答える。

 

「ん〜、何かさ……最初は祈の事、嫌ってたらしいんだけどね、急に仲良くなっちゃって……で、更に拗らせてああなったんだって」

「へ〜……あの時の、あれか……」

 

 そう言われ、陽は思い出す。数日前、魏羅鮫オルグの事件にて、祈と共に事件に巻き込まれた娘だ。

 まさか、そんな関係になってたとは……。

 

「それはそうと、そろそろ猛を離してやりなよ。顔ヤバイよ?」

 

 陽は舞花に首を締め上げられている猛を指す。確かに顔から血の気が引き、完璧に極まっている様子だ。

 

「あ、本当だ。ほら、兄貴! しっかりしなよ!」

「ハァ……ハァ……! お……俺を……殺す気……か……お前は……‼︎」

 

 漸く解放され、猛は苦しそうに呻く。その際、千鶴は陽の前にやって来た。

 

「初めまして、祈先輩のお兄様ですね! だったら、私にとっても兄になりますから、宜しくお願いします! お兄様‼︎」

「お、お兄様って……」

「兄さん、本気にしないでよ‼︎」

 

 祈は赤面しながら、否定する。しかし、千鶴は祈に抱き付き「祈先輩、祈先輩♡」と仔犬が尻尾を振る様に懐いていた。

 普段、戦い続きの日々だった陽には久しぶりの日常だったが、そんな乱痴気騒ぎは中学生を引率しに行った顧問が、中学生剣道部員を引き連れて帰って来る迄、続いた……。

 

 

 quest番外編 千年の契り

 

『閃烈の銀狼』ガオシルバーこと大神月麿……。

 

『豪放の大熊』ガオグレーこと佐熊力丸……。

 

 彼等は、他のガオレンジャーとは違う接点があった。

 それは互いに、遥か千年と言う悠久の時を経て現代にやって来た過去の人物であると言う事……。

 しかし、それ以外に彼等には不明確な部分がある。それは、ガオの戦士となる前、彼等は何をしていたのか? そして、如何にして彼等は、ガオの戦士となったのか?

 其れを明らかにする為には、時間を少し過去へと巻き戻さなくてはならない……。

 それは千年以上前の日本……世が、京都に築かれた都『平安京』を中心とし、天皇家や公家が政治を摂っていた時代……古き雅ある時代を、後世に於いて平安時代と呼ばれる事となる……。しかし、一見すれば平和な世と見えるが、平安京を中心とした朝廷内では陰謀、裏切り、骨肉の争いの絶えない腐敗した物となっていた。

 公家同士が互いに互いを足を引っ張り合い、血生臭く醜悪な戦が多発していた。そんな世であるが故、民草の不満は募り盗賊や山賊に身をやつす者が後を絶たなかった。

 だが、それ以上に人々を脅かす存在があった。彼等は、政治の中心地である平安京の周囲から世に放たれ、人々に災いをもたらしていた。其れが今の時代に於けるオルグ……当時は、ただ『鬼』と呼ばれていた。

 しかし、天皇家や公家は自分達の汚れた心に惹きつけられ、彼等の放つ邪気が鬼を生み出す事実を知らなかった。

 故に、正体不明の鬼達を如何すべきか、と対処に困っていた。そんな矢先……人々に嘘か誠か、俄かには信じられない噂が耳に入った。その鬼達を退治する事を生業とする戦士達が居る事を……。

 

 

 さて、京都より遥か東に離れた山間に囲まれた小さな村……人々は山から採れる山の幸や、田畑を耕して得た作物を基に細々と暮らしていた。そんな一見、平和な村に……。

 

 

「山賊じゃァ! 山賊が出たぞォォ‼︎」

 

 

 村中に響き渡る悲鳴……村人達が見れば、村を目指して馬に乗った大勢の者達が押し寄せて来るのが見えた。

 先頭を走るのは、灰色の髪をざんばらにして褐色肌の大男だった。この時代に於いては珍しい髪、肌の色、そして体格……その男の跨がる馬も決して小さくは無いが、大男が背に跨がれば殊更、小さく見えてしまう。それ位に大柄な体躯だった。

 

「お、鬼じゃ……」

 

 村人の一人が呟く。成る程、天を衝かんばかりの背丈、異様なる肌、荒々しい顔つき、そして衣服を纏わぬ上半身に刻まれた無数の傷跡は、まさしく鬼と呼ばれるに相応しい姿だった。

 男は村の入り口で馬を止め、村全体を一望した。そして溜め息を吐く。

 

「やっぱり、小さな村じゃのゥ……金目のもんは愚か、食い物もあるかどうか……」

 

 男は見定めをしていた。これから襲おうとする村に如何程に金品があるかを……。

 だが小汚い百姓、痩せて小さな童、右を見ても左を見ても年寄り、女子供が大半を占めていた村民……。

 ハズレか……男は天を仰ぎながら内心、ボヤく。少し前までは京の都周辺を夜な夜な襲っていた……だが、いかんせん名を売りすぎた……今や京では、自分を知らない者は居ないだろう……検非違使達も、血眼になって自分の打ち首にせんと探し回っている筈。京の近辺の村と言う村には自身の立て札が置かれて、盗賊稼業がやり難くなった。止む無く、京から離れた辺境の山村に標的を変えたが、これが中々どうして上手くいかない。豪華絢爛な都には、外を歩けば「私は金を持っています」と豪奢な服、多数の従者、高級な牛車に乗った公家が蔓延っていた。

 所がどうだ、流石の公家連中もこんな辺鄙な場所にまでは足を運ばない。ごく稀に物好きな公家、長者、巡礼中の坊主などが網に掛かる事もあったが、ここ最近はすこぶる不作、不漁……。

 事に、こんな村じゃ自分達の食い扶持くらいしか作物を作らない、否、作れない。作った作物は尽く、長者達に召し上げられてしまうからだ。金銀財宝など、置いている筈が無い。

 

「お頭! どうしやす⁉︎」

 

 後ろから手下達が囃し立てる。彼等もここ最近の不作に対し、苛立ちが募っている。だが、盗賊に身を堕とす様な輩など専ら、暴れたい奴等ばかりだ。三度の飯より、人を殺めて蹂躙する事を好む下衆な連中揃い……今更、村を襲うのを止めよう、等と告げるものなら苛立ちが爆発して、それこそ手に負えなくなるなは必至……。

 それに対して、頭目の大男は気怠げに右手を上げ……。

 

「奪え」

 

 と、告げた。待ってました、と言わんばかりに手下達は村へと押し入った。家屋へ戸を蹴破りながら押し入り、米俵や着物などを奪う。

 

「ちッ…ロクなもん、食ってねェな……」

 

 山賊の一人は、握り飯を喰らうが顔を顰めながら吐き出す。

 粟や稗で作った飯は、とても食えた物では無い、と言わんばかりだ。別の山賊は棚を蹴り倒し中身を物色するが、出て来るのは僅かな銅銭だった。

 

「ハッ…‼︎ こんなモン、まだ持ってたのか……今の時代じゃ、カスの役にも立たねェのによ‼︎」

 

 嘲笑いながら、山賊は銅銭を投げ捨てた。米や稲で税を納めるのが主流だった、この時代では貧しい農民が金を持っていても、文字通り宝の持ち腐れである。そんな物を後生、大切に持っていた事に対し、山賊は馬鹿にした。

 

「着物も安っぽい生地ばっか……やっぱり辺境の村じゃ、こんなモンかね……」

 

 衣服を漁っていた山賊も、女物の着物を投げ捨て唾を吐いた。家屋の隅では老夫婦が身を寄せ合い、念仏を唱えながら赦しを乞っていた。

 

「心配すんな、お前等みてェな年寄り、殺しやしねェよ……最も、もうボチボチ、お迎えが来そうじゃねェか‼︎」

 

 山賊の一人が下卑た笑みで言った。老夫婦はガタガタと更に震え上がる。と、その時、村の中央で悲鳴が聴こえる。

 

「あァァァん! 爺様! 爺様ァァ‼︎」

 

 小さな子供が、倒れ伏す老人に縋り付きながら泣き叫ぶ。側には刀から血を滴らせながら、山賊の一人が笑う。

 

「ヘッ‼︎ これっぽっちの種籾如きに必死になって縋り付きやがって……!」

 

 そう言いながら、山賊は袋にひと摘み程度しか入ってない種籾を揺らす。

 

「……おい……‼︎ そりゃァ、何の真似じゃ……‼︎」

 

 突然、野太い怒りに満ちた声が後ろから響く。山賊は、ヒッと青ざめながら振り返る。

 

「……あ、あの……お頭‼︎ 違うんです、この爺いが『種籾だけは堪忍してくれ‼︎』って掴みかかって来たから……つい……‼︎」

 

 必死に弁明しようとする山賊だが、有無を言わさずに頭目の鉄拳が山賊の顔面を刺し貫いた。

 その凄まじい勢いで、山賊は家屋に頭から突っ込む。更に頭目は山賊の胸ぐらを掴み、無理矢理に立たせる。

 

「足が付くから殺しはするなって、前にも言うた筈じゃ…‼︎」

「ず…ずびばぜん…‼︎」

 

 顔を殴り潰された山賊は苦しそうに謝罪する。頭目は忌々しげに山賊を投げ捨てる。他の仲間が、その山賊を介抱した。

 

「お頭! どうやら、この村じゃ、大した実りは無さそうです‼︎」

「ふん……その様じゃな……」

 

 そう言いながら、頭目は足元に転がる種籾の袋を摘み上げ、泣きじゃくっていた子供に投げて寄越した。

 

「悔しいか、小僧? 悔しければな……その種籾を食って、デカくなれ‼︎ それでも足りなけりゃ、魚でも犬でも熊でも食って食って、食いまくれ‼︎ そして、デカくなりゃ、他の連中に虐められなくて済む……」

 

 それだけ言い残し、頭目は村を後にした。残された少年は種籾袋を握り締め祖父の亡骸を見つめながら、立ち上がる。そして、山賊達に荒らされて滅茶苦茶になった村から出て行く。

 

「シロガネ! どこに行くんじゃァ! 戻ってこォい‼︎」

 

 後ろから村人の呼び止める声が聴こえたが、少年は振り返らない。だが、走りながら少年は袋から種籾を取り出して口に放り込むと、噛み砕き飲み込んだ。その際、シロガネと呼ばれた少年の目はギラギラとした餓狼の様な目をしていた。

 

 

 

 それから更に数年の月日が経ち……山賊達は飽きもせずに相変わらず掠奪に精を出していた。

 今回のカモは久しぶりの上物だ。とある農村を治める長者が馬に乗り、多数の米俵を載せた荷車を村人に引かせていた。

 年貢米を自身の屋敷にある倉に運ばせようと言うのだ。

 ガリガリに痩せ細った村人に反して、馬から転げ落ちんばかりに丸々と太った長者は

 

「早く運べ! 米一粒でも無駄にしようもんなら、磔にしてやるからな‼︎」

 

 と、馬上から村人に怒鳴る。それに対して村人は返事しながらも、誰もが苦しげに呻いていた。

 

 その様子を峰の上から、見下ろす数十人の山賊達……彼等は、長者が年貢米を運ばせる際は、この道を使う事を知っていた。だから、この峰にて首を長くして待ち構えていたのだ。

 

「世も末じゃァ……人間が、人間を牛馬の如く扱き使うとはな……そう思わんか?」

 

 山賊の頭目は長者が村人を扱き使う様を見て、皮肉を言った。彼の隣に居たのは……髪を長髪にして鋭い眼をした青年だ。かつて山賊に祖父を殺され、村を壊された少年……あの、村人からシロガネと呼ばれていた少年の成長した姿だ。

 

「ふん……返事もせんか。相変わらず、可愛げの無い餓鬼じゃ。丸腰で村を飛び出して、行く宛の無いお前を拾ってやったのは誰じゃ⁉︎ 山賊の技を仕込んでやったのは誰じゃ⁉︎」

 

 頭目の言葉に、シロガネは睨む。

 

「俺が貴様に付いてきたのは、お前の手下に成りたかったからじゃ無い……八つ裂きにしても足りない程に憎い貴様を殺す為だ‼︎」

 

 シロガネはギラギラと憎しみに満ちた目で頭目を見据える。あの日……少年は唯一の家族を、この男に奪われた。貧しい農村に生まれ、父も母も相次ぐ飢饉で失った自分に精一杯の愛情を注いでくれた祖父を……。

 頭目は声を出して笑う。

 

「ガッハッハ……‼︎ ワシを殺す為だと? 面白い奴じゃ‼︎ その八つ裂きにしても足りん程、憎い山賊であるワシの手下にしてくれ、と言って来たのはお前じゃ無いか!

 まァ、良い……殺したいなら好きにせェ。ワシを殺したら、シロガネ。お前を次期、山賊の頭にしてやっても良いぞ?」

「そんな物、要るか。俺の望みは貴様の首だ」

「ワシの首? 取れるか、お前に? まァ精々、頑張れ‼︎ だが、ワシの首を取る前に、あの米俵を取るのが先じゃ!」

 

 頭目が言うと、部下の一人が囃し立てた。

 

「カイのお頭‼︎ 早いとこ、行きましょうや‼︎」

「まァ、待て。アイツ等が、この道の真下に来るまで待つんじゃ」

 

 カイと呼ばれた男は部下を嗜めた。そうこうしている間に、峰の下を荷車が通り抜けようとした。其れを見たカイは、ニヤリと笑い……

 

「よーし、野郎共‼︎ 出陣じゃァァ‼︎」

 

 カイの号令に従い、山賊達は馬に鞭を入れ峰を駆け下りて行く。

 

「な、何だ⁉︎」

 

 長者は地の揺れる様な音と砂埃に辺りを見回す。だが、その姿を確認した時は、山賊達に荷車は包囲されていた。

 

「さ、山賊じゃァァ‼︎」

「い、命ばかりはァァ‼︎」

「お助けェェ‼︎」

 

 村人達は恐怖から、米俵も長者も捨て置き一目散に逃げ去った。

 

「こ、コレ‼︎ 逃げるな‼︎ ワシを…ワシを守らんか‼︎」

 

 自分を見捨てて逃げた村人に向かって怒鳴りながらも、もう村人達は遥か彼方だ。カイは刀を抜くと、長者の乗っていた馬に斬り付ける。

 

「バヒヒヒィィン‼︎」

 

 顔の一部を斬り付けられた馬は暴れ回り、長者を振り落とすと何処かへ去って行った。

 馬を失い、逃げる手段をも失った長者は尻もちつきながら後ずさる。

 

「さァ、命が惜しければ米俵を置いてさっさと逃げるんじゃのう‼︎」

 

 刀を長者の首元に突き付けながら、カイは脅す。長者は先程までの高圧さは何処へやら、すっかり怯えてしまう。

 

「ひ…ひ…米俵は渡します…‼︎ 言う通りにするから……助けて……‼︎」

 

 長者は涙の鼻水で顔をグシャグシャにし、股間を生暖かい物で濡らしながら命乞いをした。

 

「だったら、さっさと立ち去れィ‼︎」

 

 カイが怒鳴る。長者は産まれたての小鹿よろしく、ヨロヨロと逃げ去って行った。山賊達は、荷車を蹴り倒し米俵が地面に転がる。袋が裂け、中から純白の米が溢れ出てきた。

 

「ヒャハハハ‼︎ 米だ、米だァァ‼︎」

 

 山賊の一人は一目散に米を掴み上げ、口に放り込む。

 

「ハハハ、美味ェ‼︎ 粟でも稗でも無ェぞ‼︎ 正真正銘の米だ‼︎」

 

 山賊は馬鹿笑いを上げながら叫ぶ。続いて他の山賊達も米を掴み、腰に下げた袋に流し込んで行く。

 カイは、その様子を見つつも自身も米を取ろうとした。その時、後ろから殺気と声がした為、振り返る。

 其処には小刀を構えたシロガネが迫り、カイの腹部深くに刃を突き立てた。

 

「何の真似じゃァ? シロガネェ?」

 

 小刀を引き抜きながら、カイは言った。シロガネで目はギラギラと光る。

 

「お前を殺してやる……!」

「ガッハッハ……何ちゅう目じゃ!」

 

 今まさに命を狙われているに関わらず、カイは極めて余裕がある態度だった。

 シロガネは、この瞬間を待ち侘びた。カイが油断をする瞬間を……。

 

「お……お頭……‼︎」

 

 山賊達が震えながら呟く。それに対して、カイは振り返り応えた。

 

「し…心配要らん…‼︎ こんなモン、かすり傷……じゃ……」

 

 振り返った先を見たカイは絶句する。其処には見た事もない異形の者達が現れ、山賊達を取り囲んでいた。

 

「な、何じゃ⁉︎ こいつ等は⁉︎」

 

 流石に様々な修羅場を超えてきたカイも、此れには言葉を失う。長く伸びた額のツノ、赤い体色、そして手に持つ棍棒……間違いない。都で噂になっている人を襲い、食う鬼だ。山賊達は狂乱し、米俵を捨てて逃げ出そうとするが……。

 

「オルゲット‼︎」

 

 鬼達は奇声を上げながら、山賊達を次々と惨殺して行く。だが、山賊達も黙って殺される気はない。手に持つ刀で斬りかかるが、鬼の強靭な皮膚には擦り傷一つ負わせられない。

 たちまち一人残らず、山賊は殺されてしまった。

 残されたのは、カイとシロガネだけだ。

 

「は……ハハハ……流石に、マズイのゥ……」

 

 腹に負傷を負ったカイには逃げる事も出来ない。其処へ、ジリジリと鬼達は近付いてくる。

 

「シロガネ……お前だけでも逃げろ……」

「ふざけるな……‼︎ 俺は、お前を殺す為に山賊になったんだ……今更、情けなんか無用だ……」

「……良いから、早く逃げろ……‼︎ ワシは散々、悪事を重ねてきた……その報いじゃ……だが、お前はまだ若い……今からでも、やり直せる……」

 

 この期に及んで、自分に情けを掛けようとするカイに対し、シロガネは彼を見た。

 

「な……何でだ? 山賊の、お前が……?」

「あの日……村を襲った日……ワシは、お前だけは死なせたくなかった……こんな、くその様な世の中でも済んだ目をした、お前をな……だから、ワシを追ってきた時、お前を山賊の仲間とした……その時が来たら……お前だけでも生きながらえさせてやろうと……な……」

 

 カイから紡ぎ出される優しい言葉……それは復讐心だけを糧にして来た自分の心を洗い流す様だった……。

 

「……早く……行け……‼︎ こいつ等は、ワシが引きつけてやる……‼︎」

 

 そう言って、カイは刀を抜くと鬼達に立ち向かおうとする。シロガネは堪らずに叫んだ。

 

「……俺一人で……どうやって生きていけって言うんだ‼︎ それに……俺は……今更、何の為に生きれば……」

 

 

「では……人々を守る戦士と、おなりなさい……」

 

 

 その声に、カイとシロガネは振り返った。其処には長い白い髪に巫女の着る様な装束を纏った女性が立っていた。

 すると、突然に鬼達は何者かに斬り裂かれ、倒れ伏した。鬼達は足下で、泡状になって消えて行った……。

 鬼達を倒したのは見慣れない刀を構えた五人の若者達……。

 巫女は、カイとシロガネの前に立ち、語り始める。

 

「貴方達は選ばれたのです……精霊達に……。私達と共に行きましょう……己の過去も、名前も忘れて……」

 

 それが、先代ガオの巫女ムラサキと五人の従者達……そして、後にガオシルバーとガオグレーとなる二人の戦士達の邂逅の瞬間だった……。 



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外伝 異世界編
quest SP1 異世界に立つ戦士達


今回からは本編から少し離れて番外編に入ります!






 竜……万仏の霊長にして、あらゆる伝説や神話、果ては物語にその名を轟かせている獣である。

 中国・日本では龍、西洋ではドラゴン等と呼ばれ姿、形も大きく異なる。一部の神話や聖書では、悪魔の化身や諸悪の権化と脚色される事もあるが、一般的には高い知性と人知を超えた生命力を持つ、とあらゆる生物達の頂点に立つと言われる。

 また、中国の黄河を泳ぐ鯉は滝を登り切り龍門に入ると、龍に転じると言う逸話がある。この逸話に準えて、困難を乗り越えて立身出世する事を「登龍門」と呼ばれる等、竜は人間とは切って切れない関係性にあると言って過言では無い。

 更に中国では龍にまつわる伝説多く有る。曰く、東西南北の東を守る神は青龍、その神達の頂点に立つのが黄龍、その他にも龍は神格化され万人から崇められているのだ。

 そして、地球の生命力の化身であるパワーアニマルも例外では無い。ガオゴールドのパートナー、ガオドラゴンも竜の姿をしている。そして、龍の姿をしたパワーアニマルもまた……。

 

 

「テトム……本当にこっちか?」

 

 ある日のガオズロック内にて……突然、テトムの召集を受けたガオレンジャーのメンバーは、ガオズロックに集まった。

 テトムが言うに「ガオの泉が、尋常じゃない程に邪気の反応を感じた」との事で、陽達はガオズロックで竜胆市から大きく離れた場所にある森林上空を飛行していた。

 祈は「剣道部の下級生の指導がある」と言って朝から出掛けていたが、かえって好都合だ。

 だが、探せど探せど怪しい所は見られない。佐熊は、テトムをジロリと睨む。

 

「テトム……ガセ情報では無かろうな……」

 

 佐熊の疑り深げな視線と発言に対し、テトムは憤慨した。

 

「ちょっと‼︎ ガオの巫女の予感を疑う気⁉︎」

 

 腐っても、ガオの巫女であるテトム。ガオの泉が溢れ出す程の邪気を感じた、とあらば只事では無い。だからこそ、ガオレンジャー達を総動員にて呼び掛けたのだ。

 その自分の直感を疑われたとあれば、テトムは黙って居られない。

 

「待て待て! 疑う気は無い……しかしのゥ……さっきから、同じ所をグルグル回っとるのに、何も見つからんじゃ無いか……」

「一度、下に降りた方が良いんじゃ無いかな?」

 

 陽も上空から探すより地上から探した方が良いと考え、提案した。しかし、テトムは頑なに拒否した。

 

「駄目です! 地上に降りたら、何が起こるか分からないの‼︎ ガオの巫女の巫力に任せなさい‼︎」

 

 何時に無く、押して来るテトムに陽は若干、引いた。

 

「(テトム、馬鹿に気が立ってないですか?)」

「(最近、出番がすこぶる少ないから、ここぞと活躍したいんじゃろうのゥ……)」

「(ただの八つ当たりですか……)」

 

 やや、メタ発言をかます佐熊と至極最もに返す陽。その際、テトムはキッと二人に振り返り……

 

「何か言った⁉︎」

 

 と、凄い顔で怒った。

 

『いや……何にも……』

 

 その迫力に気圧された二人は、すごすごと縮こまる。

 

「喧嘩している場合じゃ無いぞ……」

 

 乱痴気騒ぎを繰り広げる三人を尻目に、大神は嗜める。

 

「何か近づいて来る……」

 

 一人、気配を張り巡らしていた大神は何かを感じ取った様だ。同時に、こころも反応を示す。

 

「来るよ……凄く大きな力が……」

 

 こころは、ガオズロックの窓に当たる部分から前方を見据えた。目の前には何処までも青空が広がっているが……。

 

「‼︎ 本当だ‼︎」

「何じゃ⁉︎ この気は⁉︎」

「な、何なの⁉︎」

 

 今や、陽達も感じ取れる程に凄まじい気配を感じる。だが、邪気のそれと違い禍々しい気配では無い。しかし、言葉には表せない程に強大かつ、異様な気配だ。

 

「おい、あれを⁉︎」

 

 大神は前方を指す。すると、パックリと割れた雲の隙間から巨大な影が降りて来るのが見えた。

 

「あれは……龍⁉︎」

 

 陽は、その姿に驚愕する。それは、巨大な深緑の龍だった。

 龍が降りて来たのも驚きだが、その体躯も角から尻尾の先までの全長を含めれば、ガオズロックを優に上回る大きさだ。

 

「ガオドラゴン……じゃ、ないよな……」

 

 陽は自身のパートナーであるパワーアニマル、ガオドラゴンを思い起こす。だが西洋のドラゴンの姿をしたガオドラゴンに反して、こちらは東洋の龍を模した姿だ。 

 

「ま、まさか、パワーアニマルなのか……⁉︎」

「いや……分からんが……あの龍、こっちに向かって来とらんか⁉︎」

 

 佐熊が指をさすと、確かに龍はこちらに向かって迫って来る。テトムは驚いて……。

 

「大変! ガオズロックを旋回させなきゃ‼︎」

 

 と、龍の経路からガオズロックを離そうとするが、もう遅い。龍は、ガオズロックの眼前まで迫っていた。

 

「駄目! ぶつかっちゃう‼︎」

 

 テトムは叫んだ。が、そうしている間に龍は、ガオズロックにぶつかった。

 

『うわあァァァッ!!?』

「きゃあァァァッ!!?」

 

 衝撃が、ガオズロック内に走る。陽達は投げ出されない様に踏ん張るが、揺れは収まる事なく強くなる一方だ。

 その際、龍は光に包まれて行く。

 そして、光が収まったと同時にガオズロックが浮上していた場所には、影も形も無くなっていた……。

 

 

 

 やがて陽は目を覚ます。かなりの衝撃を身体に受けた余波で、節々が痛む。目が慣れて来ると目に入るのは木で出来た柱と藁……田舎に行ったらある風景である。

 痛みに耐えながらも、陽はゆっくり上体を起こす。すると胸元から、粗末な布切れがハラリと落ちた。

 自分が寝ていた床には、これまた継当てだらけの布団が敷かれていた。誰かが自分を介抱してくれたらしい。

 

「大神さん? 佐熊さん? テトム? それとも、こころ?」

 

 自分の見知った人物の名を上げるが返事は返ってこない。代わりに、木で出来た戸板がガタガタと鳴り、誰かが入ってきた。

 

「あ、気が付いたんですね……良かったァ……」

 

 入って来たのは女の子だった。年の頃なら自分の少し下、祈の少し上くらいか……。

 だが彼女の着ている服装も実に珍妙だった。薄茶色い和服に似た上着、袴と似ているが少し違うロングスカート状の着物、黒髪を後頭部でお団子状に結っている。前に観た香港映画に出てきそうな出で立ちである。だが、それ以上に気になったのは彼女の左右の側頭部から突き出した二つの物……。

 

「耳?」

 

 それは紛う事なき動物の耳だ。それも人間のものでは無い。猫の其れに似た耳だ。少女は、キョトンとした顔で耳を揺らす。

 

「? 耳がどうかしましたか?」

「……それ……まさか、付け耳?」

 

 陽は恐る恐る尋ねて見た。幾ら世界広しと言えど、動物の耳が生えている人間なんて聞いた事がない。

 少女は自分の耳を触りながら……

 

「いえ……これは本物ですけど、何か?」

 

 と、猫耳を生えていて当たり前かの様に振舞う。陽は頭が痛くなって来た。ガオレンジャーとして戦う様になってから、非常識な事態には慣れていた筈だが、これは流石に前例が無い。

 

「……じゃあ質問を変えるけど……何で動物の耳が生えているの?」

 

 百歩譲って、動物の耳が生えている人間も居るとして話を進める事にした陽。少女はクスリと笑う。

 

「何でって、貴方にだって……」

 

 そう言いながら、少女は陽の両身辺りの髪を掻き上げてみる。だが、そこにあったのは(陽にとっては、だが)至って普通の耳だけだ。少女は「あれ?」と訝しげに見てきた。

 

「変わった耳ですね……こんなに小さくて……」

 

 どうやら、彼女にとっては動物の耳が生えているのは至って当たり前らしい。陽の考え方は通用しない事が分かった。

 

「……もう良いや……それより、此処は何処なんだ? 何で、僕は此処で寝てたんだ?」

 

 考えるだけ無駄だと悟った陽は、別の質問にした。

 

「は? 此処は瓏国(ろうこく)の外れにある私の家ですけど……貴方は、私の家の前で行き倒れていたのを見つけたんで、家の中に運んで介抱したんです」

「ろ、瓏国⁉︎」

 

 陽は首を傾げる。瓏国なんて国、聞いた事もない。

 

「に、日本って国は⁉︎ 東京は⁉︎」

「にっぽん? とうきょう? 何処ですか、そこ?」

 

 今度は少女が、首を傾げた。どうやら彼女は嘘を吐いてる訳でも、ふざけている訳でも無く本当に知らないらしい。

 ともすれば……考えられる事は一つだ。自分は、現代の日本とは別の国…更に言えば別の時代にタイムスリップしてしまった事になる。

 

「あの……本当に大丈夫ですか?」

 

 少女は心配そうに見て来る。側から見れば、陽は意味不明な言動を繰り返す変人以外、何者でも無いだろう。

 とは言え……陽が、過去の時代に飛ばされたと仮説が事実であるならば、まずすべき事は情報を集める事だ。

 

「ご、ごめん……何か錯乱しちゃって……。そう言えば、君は僕の言葉が分かるんだね?」

 

 陽は、ふと気付いた。此処が日本でないとするなら、彼女と陽の会話が成立しているのは何故だろう?

 少女は不思議そうに……

 

「分かりますよ、当たり前じゃ無いですか……。‼︎ もしかして貴方、外国から来た方なんですか⁉︎ そう言われたら服も、喋り方も変わっているし……」

 

 急に興奮した口調となる彼女に、陽は驚く。確かに自分は日本人だから、外国人と言うニュアンスも、あながち間違いでは無い……。

 

「う、うん……そうなるのかな? あ、自己紹介がまだだったね。僕は、竜崎陽って言うんだ」

「竜崎陽……分かりました。私は娘々(にゃんにゃん)と申します。以後、お見知り置きを……」

 

 自身の名前を名乗る少女、もとい娘々。やはり中国人の名前が良く似ている事から、自分の居るこの場所は遥か昔の中国である可能性が高い、と知った。

 

「娘々は……此処で一人で暮らしているの?」

「はい……両親は亡くなりまして……以前は王宮の方で働いていたのですが……今は、此処で細々と暮らしています……」

 

 急に暗い顔になる娘々。陽は、同時に他の仲間達の安否が気に掛かった。

 

「そう言えば……僕以外に人間は居なかった? 男の人が二人と、女の人が二人なんだけど……」

「いえ……貴方だけですが……」

「そうか……」

 

 陽は天井を仰ぎながら、歯噛みする。大神、佐熊、テトム、こころ……皆、この国に来てるんだろうか? 少なくとも、大神と佐熊なら自分の身くらい自分で守れるが……テトムとこころが心配だ。

 ふと、窓から外の景色が見えたが、其処から見えた異様な光景に陽は絶句した。

 

「あ、あれは⁉︎」

 

 陽は窓まで歩き、外を見る。其処には天まで突き上げんばかりに佇む巨大な樹があった。しかし、樹と呼ぶにはあまりに異質な……四方八方に伸びた枝には葉っぱ一枚、茂っていない。この距離から見て、大きく見えるのだから側で見れば一体、どれ程に巨大なんだろうか?

 

「あの木ですか? 三年前に突然、生えてきて今は、あんなに大きくなったんです……不気味ですよね? 私も、あの木が怖いんです…」

 

 恐ろしい様子で木を見つめる娘々。言われて見れば見る程、禍々しい雰囲気を醸し出す巨樹である。陽の背中に冷たい汗が流れた。

 

 

 

「どうなっとる?」

 

 街の中を歩く男女の二人組……佐熊とこころである。龍の激突で光に包まれ、気が付けば見慣れない場所に居た。周りには陽も大神もテトムも居ない。だが、こころが歩いて来るのが見えた為、佐熊も安堵する。

 こうして、二人で街のある場所を散策して回るが……歩けど歩けど、見た事が無い造りの建築物や衣装を纏った人間ばかり……千年以上を生きてきた佐熊も、首を傾げるしか無い。

 

「……こころよ……ここは……一体、なんじゃ?」

 

 佐熊は自分の腰までしか背の高さが無い少女に尋ねる。だが、こころは首を横に振った。

 

「……分からない……でも、何か嫌な気配がする……」

「ほう……お前さんも気づいたか……」

 

 こころは、しきりに警戒する様に見ていた。対する佐熊も、何やら奇妙な気配を肌で感じ、眉を潜めている。

 

「……なんかこう……街全体から、嫌な気配を感じる……この気配は……邪気じゃ……」

 

 佐熊の発言に、こころも頷く。ソウルバードの化身であるこころは、邪気を敏感に感じとれてしまう。それは、佐熊も然りだ。何より気に掛かったのは……真昼間だと言うのに、街の外には猫の子一匹とて走っていない。

 だが、佐熊は気付いた。深く閉ざされた扉……木の格子で隔てられた窓の向こうから、外の様子を見張っている人の気配を……どうやら、彼等は何かを恐れている様子だ。

 

「このどんよりとのし掛かった様な空気……どうも只事じゃ無いのォ……」

「あれの所為?」

 

 こころは指をさす方角……立派な装飾が施された王宮の様な建物……其れを優に上回る大きさの巨樹がそびえ立って居た。葉っぱも生えておらず、根の部分が地上に露出した様に枝が持ち上がった様は、さながら化け物が両手を上げて襲い掛かって来る様だ。

 

「何じゃァ……あの樹は……?」

「大地が……植物が……呻き声を上げているみたい……」

 

 こころが風に耳を澄ませていた。彼女はパワーアニマル同様、自然と心を通わせる事が出来るのだ。

 と、その時……。

 

 

「助けて〜〜‼︎」

 

 

 絹を裂く様な悲鳴が街中を木霊した。二人は見ると、街角から小さな子供が走って来るのが見えた。その後ろから迫って来るのは……。

 

「ゲットゲット‼︎ オルゲット‼︎」

 

 何と、最下級のオルグであるオルゲットが金棒を振り回しながら子供を追い回していた。

 

「ぬゥ……オルグも居るんか……‼︎」

 

 佐熊は、オルゲットの姿に憤る。先程の考察を経て、ここは自分達の住む場所とは大きく異なる事を知ったが、この世界にもオルグは居るらしい……。どうやら、自分達は尽く戦いから離れる事は出来ない様だ、と佐熊は自嘲気味だ。

 

「……なんて、呑気に言っとる場合じゃ無いのゥ……ガオアクセス‼︎」

 

 佐熊はG−ブレスフォンを起動、ガオグレーへと変身を試みる。だが、不思議な事にガオスーツには何時まで経っても着用されない。佐熊は焦りを見せた。

 

「ん? ど、どうなっとるんじゃ⁉︎ 変身出来ん⁉︎」

 

 ガオレンジャーに変身出来なければ、オルグと戦う事は出来ない。佐熊は狼狽した。

 

「く……このまま、戦うしか無いか……‼︎」

 

 幸い、佐熊は基礎戦闘力は高い。まして、相手は最下級のオルゲット。佐熊の腕っ節だけで戦えない事は無い。

 意を決して、佐熊はオルゲット達の前に立ち、子供を庇う。

 

「小僧‼︎ ワシの後ろに退がれ‼︎ コイツらは、ワシが引き受けた‼︎」

「え……⁉︎ おじさん、誰?」

 

 突然、現れた佐熊に驚く子供。見た目は十にも満たさぬ少年の様だが、佐熊は少年の頭を凝視した。

 

「い、犬の耳⁉︎」

 

 少年の頭の髪の隙間から覗くそれは、犬の耳だ。しかも、ピョコピョコと動く様子から察するに、紛い物では無いらしい。人間に犬耳が生えていると言う奇天烈な有り様だ。

 

「おじさん、前! 前‼︎」

 

 少年が叫ぶ。佐熊は振り返ると、自身の眼前に金棒を振り下ろすオルゲットが居た。

 ゴキッ…と、鈍い音が響く。オルゲットの金棒が佐熊の頭に直撃したのだ。

 

「お、おじさ…ん…‼︎」

 

 少年はガタガタと震えながら呟く。何処の誰かは知らないが、自分を身を挺して守ってくれた。その人が……。

 

「た、たわけが……ワシは、おじさんじゃ無いわい……お兄さんと呼べ……」

 

 佐熊は金棒の下でニタリと笑いながら、オルゲットの腕を掴み強引に金棒を退かせた。

 

「げ、ゲットォ⁉︎」

 

 金棒には佐熊の血がベッタリとこびり付き、直撃で裂けた頭部から鮮血が顔を伝わって、大地にポタリと落ちる。

 

「……ふん……こんなもん、屁でも無いわい……‼︎」

 

 そう言って佐熊は、オルゲットを腕を掴んだまま持ち上げ投げ飛ばした。もう片方のオルゲットは突然の事に対応出来ず後ずさるが、佐熊は態勢を変えて、オルゲットの顔面に拳を叩き付けた。

 吹き飛ばされたオルゲットは石垣に頭から突っ込み、そのまま泡となって消えた。

 

「ガッハハハ‼︎ どんなモンじゃ‼︎」

 

 胸を張って笑い飛ばす佐熊だが、頭からは相変わらず血が噴き出たままだ。

 

「……佐熊、血が出てる」

 

 こころは少年を庇いながら、佐熊に言った。だが、佐熊は

 

「平気じゃ、こんな傷。舐めてりゃ治るわい」

 

 と、笑いながら言った。しかし、血は冗談では効かない量まで出て来た為、少年は……。

 

「あ、あの…‼︎ 僕の家に来て下さい‼︎ 傷の手当てをしたいんで……」

「じゃが……ワシ等が押し掛けたら、お前さんの家族に迷惑を……」

「お願いします‼︎ 助けて頂いた、せめてもの御礼がしたいんです‼︎」

 

 余りに少年が、グイグイと食い下がるものだから、とうとう佐熊も根負けした。

 

「分かった分かった……其処まで言うなら、御言葉に甘えようかのゥ……こころはどうじゃ?」

「……私は構わないよ」

 

 こころも了承したらしく、少年はニッコリ笑った。

 

「ありがとうございます‼︎ 僕、万狗(わんこう)って言います‼︎ さ、こっちです‼︎」

 

 万狗と名乗った少年に手を引かれるまま、佐熊とこころは付いて行った。

 

 

 

 一方、町から少し離れた場所では……。

 

「……フンッ‼︎」

「オルゲットォォッ!!?」

 

 別に現れていたオルゲット達が全員、倒されていた。其処にいたのは大神とテトムだ。

 

「まさか、オルゲット達が現れるとはな……テトム、ガオズロックはどうだ?」

 

 襲い掛かってきたオルゲット達を蹴散らしながら、大神は尋ねる。ガオズロックから出て来たテトムは悲しげに首を振る。

 

「駄目だわ。さっきの衝撃で暫く、飛べそうにない……」

「そうか……気が付けば見慣れない場所に居て、陽や力丸は行方不明……極め付けには……あれだ」

 

 大神は眼前に映る不気味な巨樹を睨む。その不気味な外見は勿論、何やら辺り全体に漂う邪気に対して、これは只ならない事態だと確信を持たざるを得ない。

 

「ここは……竜胆市じゃ無いのか?」

「恐らく……だって、パワーアニマル達の声がしないもの……」

「俺も、ガオシルバーに変身出来なかった……ひょっとしたら、陽達も同じ事態に陥っているかも知れない……」

 

 大神は先程の戦いで、ガオシルバーに変身しようとしたが、G−ブレスフォンが反応しない事に気付いた。そればかりか、姿を見せない二人に対して連絡も取れない。

 

「もしかして……此処は異世界かも知れないわ……。シロガネ、覚えてる? 前の戦いでも私達、異世界に飛ばされた事があったでしょう?」

「ああ……あの時は、テトムはベロベロに酔っ払って大変だったのを覚えてるよ……」

 

 先の戦い、大神やテトムは他のガオレンジャーと共にオルグの支配する異世界に飛ばされて、オルグ達と戦った事がある。その際、テトムは自分を連れ去った敵のオルグの飲み比べをしたのだ。あの時、テトムは終始、酔っ払っていて、帰った後は暫く二日酔いで使い物にならなかった。

 

「もう‼︎ そう言う事は忘れて‼︎ 大体、私がお酒に強いのはおばあちゃん譲りですからね‼︎」

「……ムラサキは、あんなヘベレケになるまで飲まなかった」

「また、おばあちゃんを引き合いに出す……もう良いです‼︎」

 

 すっかり、ヘソを曲げたテトムは拗ねてしまう。大神は、溜息を吐きながら、テトムを見た。

 

「冗談だ……それより、陽達の居場所をガオの泉で割り出せないか?」

「……それも無理ね……ガオズロックが衝撃を受けて動けないと、ガオの泉も力を発揮しないから……」

「……地道に探すしか無いか……」

 

 ガオの泉も使えない、ガオズロックも飛べない……と、なれば後は、地上を歩いて探す他、方法が無い。

 とは言え……何処の土地か皆目、検討の付かない土地を歩き回るのは、はっきり言って無謀だ。しかも、ガオレンジャーに変身出来ず、オルゲット達が跋扈する様な土地だ。

 大神は、ガオレンジャーとしての戦いとは別に実戦、主に徒手空拳の戦いには慣れている。テトムも、女性では有るがオルゲット程度なら返り討ちに出来る。

 しかし、地理が分からない以上はどっちへ行けば良いのかさえ分からない。

 

「ひとまず……あの不気味な巨樹の下に広がる街へ出てみよう。話はそれからだ……」

「……そうね。ガオズロックは、此処に置いておけば岩に擬態出来るし……」

 

 そう話を纏め、大神達は歩き出そうとした。その時……。

 

「近づかないで……‼︎」

 

 急に凛とした声が聞こえて来た。大神とテトムは声の方へ行き、木陰から様子を伺う。

 

「ホッホッ……貴方様も話の分からない方ですな……」

 

 気の向こうでは、厭らしい目をした小太りの文官が、美しい容姿の女性に迫っていた。だが、大神はその女性のある部分に目をやる……。

 

「兎の耳…⁉︎」

 

 女性の頭部から兎の耳に似た長い耳が揺れていた。しかも、紛い物では無く本物らしい。

 

「今更、貴方が何をしても無駄ですよ。かのオルグドラシルは今や、この国にしっかりと根を張り、隣国からの侵攻を妨げてくれているのですから……。今や、わが瓏国はオルグドラシルの恩恵無くしては生きられないのです……」

 

 文官の口から、オルグと言う言葉が出て来た。だが、オルグドラシルとは……?

 

「さァ、何時迄も片意地を張らずに王宮にお戻り下さい。陛下も、心配して居ります……」

「いいえ‼︎ 私は戻りません‼︎ あの忌まわしい樹の為、街には異形の者達が歩き回り、若い娘を王宮に召し取られ城下の者達は苦しい生活を強いられている……この国の公主として、これ以上、民草が苦しむ顔を見ていられますか⁉︎」

「やれやれ……困った方だ……とにかく‼︎ 陛下の厳命です‼︎ こうなったら多少の手段は問いませぬ……姫様には、どうあっても王宮に帰って来て頂きます‼︎ お覚悟を‼︎」

 

 そう言って、文官が指を弾くとオルゲットが二匹、姿を現した。

 

「さァ、姫様をお連れしろ‼︎ だが、間違っても殺すなよ? 生きて王宮に帰還して頂くのだ‼︎」

 

 何やら穏やかでは無い様子だ。この国の揉め事であるなら、非介入するべきだと考えた大神だが、オルグが関わっているなら話は別だ。

 

「止めろ‼︎」

 

 大神は、兎耳の女性を庇う様に前に立つ。彼の姿に、文官は慄いた。

 

「な、何だ、貴様は⁉︎ 」

「誰でも良い……彼女に手を出させんし、そのオルグドラシルとやらについて、洗いざらい吐いて貰おうか?」

 

 大神の殺気の篭った視線に、文官は思わず後ずさる。しかし、彼が丸腰である事を知ると下卑た笑みを浮かべた。

 

「…ふ、ふん‼︎ そうだ、その通りだ‼︎ これから死ぬ貴様の名など、どうでも良いな‼︎ お前達、先ずはこいつから始末してしまえ‼︎」

 

 文官が命じると、オルゲット達が一斉に襲い掛かって来た。だが、幾多と死戦を超えて来た大神からすれば、オルゲット等、恐るるに足らない存在だ。蹴りで、オルゲットの一体を吹き飛ばし、もう片方のオルゲットも、奪い取った金棒で叩き伏せてしまう。

 

「な、な、な……‼︎」

 

 その強さに驚愕した文官は震え上がってしまう。しかし、オルゲット達も簡単には倒されず、起き上がって来るが……。

 

「オウキュウニ、モドレ‼︎ オウキュウニ、モドレ‼︎」

 

 一羽の鸚鵡(オウム)が、文官の上で騒ぎ立てた。文官は、チッと舌打ちをすると、オルゲット達を引っ込めた。

 

「えぇい‼︎ 今日は、この辺にして置いてやる‼︎ 姫様、必ずや貴方様を連れ戻させて頂きますからな‼︎」

 

 そう捨て台詞を残して、文官は逃げる様に去って行った。

 

「もう大丈夫だ。怪我は無いか?」

 

 大神は振り返り、兎耳の女性に声を掛けた。彼女は大神を見るなり、頬を染めた。

 

「あ、危ない所を、ありがとうございました……あ、貴方様は……?」

「俺は大神月麿。貴方の名は……?」

 

 その言葉に、兎耳の女性は益々、赤くなり耳をピンと立てた。

 

「わ、私は兎月(どぅーゆえ)と申します。本来ならば、然るべき御礼を差し上げなければならないのですが……」

 

「オホン‼︎」

 

 二人で話を進める中、仁王立ちで睨むテトムが咳払いした。

 

「私の事を忘れてない⁉︎」

「? 何を怒ってる?」

「別に‼︎」

 

 そっぽを向いて怒るテトムを不思議そうに首を傾げる大神。兎月は、テトムを見て笑い掛けた。

 

「あ、お連れの方ですね‼︎ この度は本当にありがとうございます‼︎ 付きましては、ささやかですけど御礼をさせて下さい‼︎」

「え、でも……」

「ご安心下さい‼︎ この先の家で妹と二人暮らししている為、どうか気兼ねなく……」

 

 テトムは困った様な顔となるが、大神は小声で言った。

 

「…さっき、オルグに付いてを何か知っている風だった……彼女に付いていけば、何か分かるかも知れない…」

「…そうね…」

 

 取り敢えず納得した二人は、兎月に付いて行く事にした。この世界についてを知る為にも……。

 

 

 しかし遠方より、その様子を見つめている男が居た。緑色の文官の服を着て青白い肌色、だが容姿は、この世の者とは思えない程の妖しい蠱惑さを持つ妖艶な男だ。

 

「クク……まさか、こんな所で会うとはな……ガオシルバー、いや、シロガネ……」

 

 ガオレンジャーの仲間内でしか知らぬ筈のガオシルバーの本名を呟き、男はニタリと笑う。

 

「……どうやら、“宴”の用意をして待っていなければ成らないでおじゃるなァ……」

 

 と、意味深な言葉と奇妙な語尾を残し、男は鬼門の中へと消えて行った……。

 

 

 〜謎の龍に導かれるまま、異世界『瓏国』へとやって来たガオレンジャー達。しかし、其処はオルグ達の跋扈する世界だった‼︎ そして、ガオシルバーの正体を知る男の目的は何なのでしょうか⁉︎〜



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quest SP2 神龍伝説

 娘々(ニャンニャン)
 兎月(ドゥーユエ)
 万狗(ワンコウ)
 虎牙(フーヤ)
 緑鬼(リュグェイ)


「はい、どうぞ」

 

 娘々は薬を擦り潰して混ぜた煎茶を煎れて、陽に差し出した。陽は、湯気が立つ煎茶の入った湯飲みを持つ。

 

「……ありがとう……」

「苦いですよ」

 

 娘々は悪戯っぽく笑う。陽は煎茶を口に付け一口、飲む。

 言われた通り、苦み走った深い味が口内に広がる。

 

「く……」

 

 思わず戻しそうになりながらも、陽はぐゥッと飲み込む。残った煎茶も、グイッと一気に飲み干した。

 

「……ふぅ……何とも言えない味だね……」

「打身には、これが良く効くんですよ」

 

 クスリと笑いながら、娘々は言った。打ち所が悪く身体を痛めてしまった陽は、娘々が採取した薬草を調合した薬を煎茶に溶かして提供してくれたのだ。

 

「悪いね、何から何まで……」

「いえ……お構い無く……」

 

 押し掛け同然に上がり込んで手当て迄して貰った事を、申し訳無さそうに謝る陽。だが、娘々は優しく微笑んで許してくれた。

 こうしていると、祈の事を思い出さずには居られない。自分が帰って来なければ、彼女は心配するだろう……。

 此処が何処であるか……加えては、元の世界に帰る方法を考えなければならない……だが、現状では大神達が何処に居るかすら分からないのだ。はっきり言って、状況は深刻である。

 

「……そう言えば……君は、此処に一人暮らしなの?」

 

 陽は家中を見回して、女の子が一人で暮らすに質素過ぎる気がした。娘々は首を振った。

 

「いえ……一応、姉と二人で暮らしていますが……」

「姉……」

 

 陽は、娘々をまじまじと見た。益々、祈が重ね合わせてしまう……。そんな彼の視線に、娘々はキョトンとしながら

 

「あの……私の顔に何か?」

 

 と、陽に尋ねる。

 

「あ、ごめん……何か、妹の事を思い出しちゃってさ……」

 

 陽の釈明に、娘々は納得した。

 

「陽さんも……兄妹でお暮らしなんですか?」

「まあね……両親を早くに亡くしたから……君も、そんか感じ?」

「私は……」

 

 陽の質問に対して、娘々は言葉を濁した。何か言い辛い事を聞いてしまったのだろうか?

 と、そんな時……。

 

 

「あ、此処です!」

 

 

 外から、人な話す声が聞こえて来た。聞き慣れない女性の声だ。

 

「あ、姉が帰って来ました……でも、何か他にも二人いらっしゃるみたい……」

 

 娘々は、猫耳はピコピコさせながら言った。どうやら、あの耳は、ちゃんと機能しているらしい。

 

 

「ああ……済まないな……」

 

 

 今度の声は、陽も良く知る声だった。陽は木戸を見つめると……。

 

「ただいま、娘々……あら、どちら様?」

 

 入って来たのは、兎耳の女性だった。穏やかそうな風貌だが、何処か高貴な雰囲気を醸し出している。

 

「娘々〜、私が留守の間に男を連れ込むなんて〜……貴方も、お年頃なのね」

「お、お姉様⁉︎ 勝手に推測しないで‼︎ この人が行き倒れていた所を介抱しただけよ⁉︎」

「良いのよ、良いの……お姉様も嬉しいわ……貴方にも男っ気が出来て……」

「お姉様‼︎」

 

 娘々は顔を赤くして、必死に否定する。陽は陽で、その様子をポカンとするしか無い。

 

「あ、それはそうとね……私も、お客様を連れて来たのよ? さ、入って!」

 

 兎耳の女性が手招きすると、外に居た二人組が入って来る。

 

「あ、ああ……」

 

 女性に招かれて入って来る人物……それは……

 

 

「大神さん! テトム!」

 

 

 陽は思わず声を上げた。予感通り、入って来たのは大神とテトムだった。驚いたのは、大神達も同様だ。

 

「陽……‼︎ 無事だったか‼︎」

 

 期せず、ガオレンジャーの二人と巫女は無事に再会を果たした。だが、娘々と兎耳の女性は意味が分からない、と言わんばかりに三人を眺めているだけだった……。

 

 

 その頃、街の方では……。

 

「はい、出来ましたよ」

 

 小さな一軒家で、割腹の良い女性が佐熊の頭に包帯を巻いて傷の手当てをしていた。

 

「いやァ…スマンのォ…手当てをして貰ったばかりか、食い物まで……」

 

 そう言いながら、佐熊は握り飯に齧り付く。こっちに来てがら、漸く有り付けた食事である。はっきり言って、握り飯はごわごわして余り美味くないが、空腹である時は何でも良いから胃袋に納めたいのだ。

 

「……御礼なんて……ウチの息子を、化け物から助けて頂いて……こっちが、御礼を言うべきなんですから……」

 

 そう言う女性の頭を見てみる。すると、やはり彼女にも犬の耳が髪の隙間から飛び出している。この国の住人は皆、そうなのか…?

 

「時に、おかみさんよ……何だって、この国の人間からは動物の耳が生えとるんじゃ?」

「え? ああ……これかい? ひょっとして、貴方達は他所から来た人間かねェ?」

「う〜〜む、そんな所じゃのゥ……」

 

 まさか、異世界より渡ってきました、なんて言って信じてもらえる訳も無く、言葉を濁しながなも佐熊は応えた。

 

「この国の住人はね……神龍様の血を引いているのさ」

「神龍様の血?」

 

 そう言って、女性は壁に掛けられた垂れ幕を見た。垂れ幕には、群青色の龍が描かれている。

 

「神龍様はね……遥か昔に、不毛の地だったこの国に降り立ち、動物達に御加護をお与えになったんだよ。そして知恵を持った動物達は、街を創り国を創って発展して来た。

 だから、この国は神龍様に敬意を忘れない様にと国の名を『瓏』と名付けたのさ……」

「母ちゃん、止めてよ‼︎ そんな御伽噺‼︎」

 

 母親を止める様に万狗は怒鳴る。

 

「そんなの迷信だよ‼︎ 本当に神龍が居るなら、何で僕達を助けてくれないんだ‼︎ 皆、言ってる‼︎ 神龍が国を作った事も、僕達が神龍の末裔だって話も、そうであったら良いなって、でっち上げた作り話なんだって‼︎」

「万狗! そんな事、言うもんじゃ無いよ‼︎」

 

 万狗が喚き散らすが、母親が叱り付けた。

 

「私達が暮らしていられるのは神龍様の恩恵があるお陰なんだよ⁉︎ そんな事を言ったら、バチが当たるよ‼︎」

「じゃあ……あの樹も神龍の恩恵だって⁉︎」

 

 万狗は窓から見える巨樹を指した。

 

「あの樹が生えてから、この辺りじゃ水は汚れるし、植物は育たないし……挙げ句の果てに、あんな化け物がうろついて回るし……神龍だったら、何で助けてくれないのさ⁉︎」

 

 我が子の涙を流しながらの悲痛な叫び声に、母親も押し黙る。

 

「しかも……しかも……父ちゃんだって、アイツらに……‼︎」

「親父さんが、どうしたんじゃ?」

 

 ふと溢した万狗の一言に、佐熊は尋ねた。泣き出す息子に代わり、母親が答える。

 

「私の旦那はね……あの化け物の被害を王宮に訴えに行く途中、化け物共に襲われて……死んだんだよ…!」

「何と……そりゃ理不尽な……」

 

 佐熊は、この国で起こっている悲劇に同情せざるを得なかった。

 

「国の偉いさんは何をしとる⁉︎」

 

 その言葉に対し、母親は力無く首を振った。

 

「何も……してくれないよ……あの化け物達が、街をうろついているから家から出るな…って、それだけさ……王宮って言う安全圏から見て、客観的にしか言わない……だから、業を煮やした旦那も王宮に直接、談判しに行ったんだが……化け物に見つかっちまって……」

「家から出ちゃ駄目なら、何で貴方は外に居たの?」

 

 こころの発言に万狗は懐から瓢箪を出した。

 

「あの樹が生えてから水も汚くなって飲めないけど……街を出て、暫く歩いた所に汚されてない泉があるんだ……。

 そうじゃないと、薫々(くんくん)が……」

 

 万狗は、部屋の隅を見る。そこには小さな女の子が、苦しげに咳をしながら横たわっていた。

 

「肺病か…?」

「妹なんだ……あの樹の所為で、肺をやられちゃって……妹だけじゃ無い……この町に住む小さな子供は、皆……」

「邪気に当てられたな……」

 

 佐熊は推測する。あの巨樹から垂れ流される邪気は、子供の身体に悪影響を与えているらしい。見た感じ、乳児期を超えたばかりの子供だから、邪気の悪影響を受けやすいらしい。

 

「……ワシの育った時代に、よく似とるのォ……」

 

 ポツリと佐熊が呟く。彼が育った平安時代も、貴族と平民と言う格差社会が敷かれ、富める者は豊かな暮らしを送れたが、貧しい者達は犬畜生以下の暮らしを強いられていた。

 

「皆……アイツが悪いんだ……‼︎ 皇帝が……‼︎」

 

 万狗が唸った。

 

「あの樹が生え始めたとき、皇帝は『樹に手を出しては駄目だ』と言っただけだ‼︎ アイツが早く行動してれば、こんな事にならなかったのに……‼︎」

 

 今度は母親も否定はしなかった。自分も夫を喪い、娘も病気で臥せる結果となったのだ。その皇帝の対応が遅れた事が、事態を悪化させたと言って間違い無い。

 

「….アイツ等、大丈夫かのゥ……」

 

 佐熊は窓から外の景色を見てみる。一見すれば、普通の街並みに見えるが、その上に立ちはだかる巨樹により、町全体が不気味に映った……。

 

 

 

 その頃……王宮内の玉座の間では……

 

「何をしているのだ……そなたは……」

 

 空席の玉座の前では、両袖の中に腕を隠して組んだ緑色の文官が傲岸不遜な態度で立っていた。

 

「は……緑鬼(リュグェイ)殿……‼︎」

 

 先程、兎月を捕まえ損ねた文官は深々と頭を下げる。緑鬼と呼ばれた文官は、フンと鼻で笑う。

 

「皇帝陛下直々の側近のそなたに任せれば、公主様も考えを軟化されるであろうと期待を寄せて見れば、この体たらくとは……な。病に臥せられている陛下の御耳に入れば、さぞかし肩を落とされる事であろうな……」

「く…‼︎」

 

 文官の男は的を射た言葉に、返す言葉も見つからない。

 急に皇帝が病に臥せって政治が滞る様になった時、突然、王宮に姿を現した男……。

 病床の皇帝から聞いた旨を宮中の者達に伝えて、巨樹の出現によるオルゲットの被害など、混乱の渦中にあった宮廷を見事に立て直した。今では、宮廷内に於いて彼を称賛しない者は居ない。そう……ただ一人を除いて……。

 

「……」

 

 平伏する文官の横に立つ彼は武官……兵士達を束ねる人物だ。名前は虎牙(フーヤ)。先代皇帝の時代から瓏国に仕える軍人であり、虎の牙の名に違わぬ頭部から虎の耳が覗く。

 忠義に溢れ、瓏国を思う彼は皇帝の代が移ってからも変わらずに仕えたが、あの巨樹が姿を現してからは国はおかしくなってしまった。皇帝が病床に臥せ、町中には異形の鬼達が姿を現す始末……しかも、噂によれば、あの鬼達は一部の文官達が手足の如く使役していると言う。

 また、緑鬼が宮廷入りして以降、町中の鬼達による被害は増えた。これは偶然とは思えない。

 そもそも、皇帝が倒れたのを見計らう様に姿を見せた緑鬼、それに呼応し始めた鬼達……武官であるが故、洞察力に長ける彼は、密かに行動していた。 

 皇帝に代わり政治を執り行う緑鬼を注意深く監視したが、彼は用心深く中々、尻尾を見せない。

 と、虎牙が考察していると……。

 

「もう良い、退がれ……。虎牙殿?」

 

 緑鬼は肩を落とす文官を退がらせ、虎牙を指名して来た。

 

「兎月公主様は、そなたの事を信頼していたな? ならば、そなたになら心を開かれる筈。迎えに行ってくれぬか?」

「……御意……」

 

 虎牙は、緑鬼の言葉に違和感を感じる。まさか、この男、勘付いているのか? いや、少なくとも表立って話した事は無い……もし、自分の秘密が気取られているなら、兎月公主の下に遣わせたりはしない筈だ……。

 そう考えながら、虎牙は玉座の間から出て行った。彼の姿が見えなくなった時、緑鬼の顔はベキベキと音を立て始めた。

 

「ホッホッホ……そなたの企みは、とうに見抜いておるわ……。しかし、オルグドラシルが真の成長を遂げるには兎月公主の持つ“龍珠”が邪魔……利用させて貰う…‼︎

 ハンニャ‼︎ 」

 

 緑鬼が呼び掛けると、鬼面で顔を隠した女性が姿を現した。

 

「二度の失敗は許さん……必ずや、兎月公主を生きて王宮に連れて来るでおじゃる……‼︎」

「は…! 緑鬼……いや、ウラ様‼︎」

 

 そう言って、ハンニャは再び頭を下げた。途端に緑鬼の影は禍々しい異形の姿へと、成り果てていた……。

 

 

 

「……そうか……そんな事が……」

 

 兎月の家では、陽は娘々に保護されて傷を癒し、かつ地球とは違う瓏国なる国にやって来た事を話した。一方、大神達も兎月が、オルゲットを引き連れた男に拐かされそうになっていた所を助け、家に招かれた事を話した。

 

「ガオズロックが飛べなくなったって本当?」

 

 家の外で陽は大神に尋ねた。ガオズロックは自分達の移動手段にして、元の世界に帰る為には必要不可欠だ。

 

「ああ……テトム曰く、少し休ませれば飛べる様になるとの事だが……それより重大なのは、ガオレンジャーに変身出来なくなった事だ……」

「……確かに……」

 

 陽は、G−ブレスフォンを見てみる。確かに、大神達に連絡しようとしたが何故か、ブレスフォンは反応しない。

 更に言うなら、この世界にもオルゲットが姿を現すらしい。

 オルゲット程度なら、辛うじて対応は出来るが、オルグ魔人クラスの敵が出て来たら、どうする事も出来ない。

 しかも間が悪い事に、パワーアニマル達も召喚する事が出来ない。つまり、非常に危険な状況にある。

 

「佐熊さん、無事だと良いけど……」

 

 陽は、未だに再会出来ていない佐熊の身を案じた。大神は、それに対して……

 

「心配するな……俺達の中では一番、頑丈な男だ。そう簡単に、やられたりはしない……」

「だと、良いんですが……」

 

 自分達も危険だが、佐熊やこころの事も気掛かりで仕方の無い陽。その時、家の中から、テトムの声がした。

 

「二人共! ご飯にしましょうよ‼︎ お腹空いたでしょう?」

 

 テトムの緊張感に欠ける発言に、二人は苦笑した。

 

「こんな時に、飯が喉に通るとは……」

「まァまァ……腹が減っては何とやらってね……」

 

 難しい顔のままの大神を宥めながら、陽は家の中に入って行く。止む無く、大神も続いた。

 

 

「お口に合いますか、どうか……」

 

 料理の用意をした娘々は頭を下げる。膳には、ご飯と山菜を煮た汁、あとは小魚を焼いた物があるだけだ。

 質素、と言えばそれまでだが、疲労と空腹に苛まれる陽達からすれば充分な馳走に見える。

 

「ありがとう……じゃ、頂きます!」

 

 そう言って、陽は箸を持ってご飯を口に運ぶ。少し固いが、味はイケる。

 

「テトムさん、手伝って頂いてありがとうございます……料理、上手なんですね……」

「卵が、あれば卵焼きも作ってあげれたんだけどね……今、切らしてて……」

 

 陽は、テトムが料理が上手い、と言う話を聞いていたが、俄かには信じていなかった。だが、味付けはしっかり出来ている為、嘘では無かったらしい。

 

「娘々は、ご飯を炊くぐらいしか出来ないからねェ?」

「お、お姉様だって⁉︎」

 

 揶揄う様に笑う月兎に、娘々は顔を赤くして怒る。その際、大神は、ふと気付いた事を尋ねた。

 

「あんた達は……本当に姉妹か?」

 

 その言葉に、二人は凍り付いた様な顔になる。

 

「どうかしましたか、大神さん?」

「いや……さっき、彼女に迫っていた男は公主様….って言ってたからな……」

 

 大神は月兎と出会った時の状況を思い出して話した。確かに、あの文官は彼女を公主様、と呼んでいた。

 その言葉に、娘々は月兎を引き寄せた。

 

「お姉様、また、狙われたの⁉︎ どうして黙っていたのよ!」

「だって、貴方に心配かけちゃうし……」

 

 明らかに様子の可笑しい二人に、陽達は怪訝な顔となった。

 

「あの……何か?」

「あ、いえいえ‼︎ 恐らく、それは人攫いの類ですわ‼︎ この辺では多くて……」

「……人攫い⁉︎」

 

 余りに無理のある説明に、大神は訝しんだ。ただの人攫いが、オルゲットを使役するなんて、それはそれで不自然である。

 

「……もしかして……あの巨樹と、何か関係があるのかしら?」

 

 ふと、テトムの発した言葉に月兎は顔を曇らせる。その際、陽は彼女の首から下がるライトグリーンの宝珠に目をやった。

 

「ねェ……その宝珠は……」

 

 陽の見間違いで無ければ、パワーアニマル達を呼び出す為の宝珠と同一の物だ。

 月兎は慌てて隠すが、陽はポケットからガオドラゴンの宝珠を見せた。

 

「そ、それは⁉︎」

「僕も持っているんだ。大神さんもね……」

 

 陽は大神に目をやる。すると、大神もガオウルフの宝珠を見せた。

 

「な、何故……?」

「……娘々、やったわよ‼︎ やっぱり、予言は当たったのだわ‼︎」

 

 驚きを隠せない娘々を他所に、月兎は満面の笑みとなった。

 

「予言?」

 

 テトムが聞いた。すると、月兎は宝珠を取り出した。

 

「……もう隠していても仕方ないですね……。貴方がたには、全てをお話しします……。この国に起こった全てを……そして、私達の素性を……」

 

 急に月兎は神妙な顔付きとなり、陽達を見る。

 

「私達は姉妹と名乗りましたが……それは嘘です……。実は私は、この瓏国の公主であり娘々は私に仕えていた侍女の一人なのです……」

「どうして偽の姉妹を名乗って迄、こんな場所に?」

 

 陽が尋ねた。今度は娘々が答える。

 

「一国の公主である兎月様は市中の者達は顔を知らなかったからです……ましてや、公主様である事が市中に知り渡れば、周りから騒がれてしまうのは明白……何より、こんな状況だと……」

「こんな状況?」

 

 陽は納得しながらも尋ねる。確かに現代なら、テレビや新聞などで皇族も顔が売れているだろう。だが見た所、瓏国は中世の中国王朝に似ている。高貴な人物の顔が平民に知られていないのは、見方を変えれば良い隠蓑であるかも知れない。

 だが、それ以上に正体を明かせない理由が彼女達にあるのか、と勘繰る。

 

「あの樹のもたらす害悪は、市中の者達に広がっています……既に地中深くに迄、根付いた巨樹は市中の水源や植物に悪影響を与え、幼児や年寄りも起き上がれない程、重篤な状態となっている者達も居る始末……そう言う結果を招いたのは、あの巨樹が成長するのを指を咥えて傍観し続けた私達に責任がある……私の父、瓏国の皇帝も最初の頃は、巨樹のどうにかしようと行動していましたが、突然、病に倒れ、今では城内にある自身の寝所から一歩も出られません……。

 混乱する城内にて、彼が現れた….」

 

 兎月はギュッと拳を握る。

 

緑鬼(リュグェイ)」と名乗った、その男は混乱を重ねる官吏達を纏め上げ、父の名代として政治を執り行いました。

 ですが、彼は巨樹に手を出せば、更なる被害を招く…と官吏達を説き伏せ、一切の手出しを中止させました……既に彼の事を信じ切っていた官吏達に、緑鬼を止める術はありません……」

「緑鬼……」

 

 大神は、彼の名を聴いた時、厳しく眉根を上げていた。兎月の話は続く。

 

「私は、最初にあの男を見た時から、何かキナ臭い物を感じていました。明らかに、彼が政治に手を出す様になってから事態は悪化の一途を辿り……父の手腕のみで国を動かしていた我が国は、彼の行動の怪しさを看破出来なかった……。

 だからこそ、私は城を密かに出て、外部から巨樹と緑鬼の行動を探っていたのです……娘々と姉妹である、と偽って……」

「そう言う事だったのか……‼︎」

 

 陽は絶句した。まさか、この世界にもオルグの支配が広がっていたなんて……。こんな時に限って、ガオレンジャーに変身出来ない自分が歯痒い……。

 

「さっき、貴方達が言った予言とは?」

 

 今度は、テトムが尋ねた。兎月は宝珠を見せた。

 

「この国には古くからの言い伝えがあるのです……。

 “龍により生まれし国、暗雲に覆われし時、異界の地より龍の力を携えし、八人の戦士が舞い降りん……その者達、眠りに就く龍を目覚めさせ、国を救わん…”。我が瓏国に語り継がれる神話なのです」

「龍により生まれし国?」

「そうです……この瓏国は遥か昔、不毛の地でした。其処へ神龍様は雨を降らせ河川を生み出し植物を育て、餌に困る動物達に人の姿を与えて、住まわせたのです……。

 私達の先祖は神龍様へ深く感謝し、やがて国を築き感謝の念を忘れぬ様にと『瓏国』と名付けた、と伝わっています……」

 

 とんでもなく壮大な話である。龍により創られた国……そして人間達の先祖が動物……まさに御伽噺である。

 

「それで…? その八人の戦士、と言うのが俺達だと?」

「恐らく……ですが、貴方達は三人しか……」

 

 娘々の落胆した言葉に、陽は付け加えた。

 

「今、此処には居ないけど、もう一人居るんです……恐らく、彼も国の何処かに来ている筈だけど……」

 

 だが、佐熊を加えたとしても、三人しか居ない。何処から、あと五人現れるのか? しかも、今の自分達はガオレンジャーに変身出来ない身である。

 しかし、その神龍を目覚めさせれば、或いは……。

 

「大神さん、テトム……。ひょっとして……‼︎」

「ああ、俺も今、同じ事を考えていたよ……」

「私も……」

 

 陽達は、思い出す。そもそも自分達が、この場所に来る切っ掛けとなったのは、巨大な龍にぶつかったからだ。

 だとすれば……彼女達の話す神龍は実在し、自分達は神龍によって、この瓏国に導かれた事になる……。

 その時、木戸がトントンと叩かれた。五人は警戒した様に身構えるが….。

 

「兎月様……私です‼︎ 虎牙です‼︎」

 

 囁く様な声がした。兎月と娘々は互いに顔を合わせ、木戸に話し掛ける。

 

「合言葉は?」

「瓏国に平安あれ‼︎」

 

 二人は安堵して、木戸の関を外して開けた。外には虎の耳を生やした大柄な男性が立っていた。

 

「虎牙……待っていたわ……。喜んで‼︎ 瓏国を救う方々が現れたわ‼︎」

「本当ですか、兎月様⁉︎ ……いえ、それより……宮廷内に於いて、私に疑いが掛かっています……恐らく、貴方様を手引きした事は緑鬼にバレているかと……」

「本当なの⁉︎ ならば、此処はもう危険ね……」

 

 兎月が難しい顔となる。陽は娘々に耳打ちした。

 

「あの人は?」

「彼は虎牙……瓏国の将軍にして、兎月様が幼い頃から側に付いて、彼女をお守りして来た方です……。

 今、この国で私達を味方してくれる唯一の軍人……」

 

 と、娘々が言い掛けた時……

 

「…グゥゥ……!!??」

 

 急に虎牙は苦しげに唸ると、その場に崩れ落ちる。彼の背中には短刀が二本、突き刺さっている。

 

「虎牙⁉︎」

 

 兎月が駆け寄ろうとすると、彼女の足下に短刀が三本、突き刺さった。

 

「月兎様⁉︎」

 

 娘々は彼女に叫ぶ。兎月は木戸の影に潜み、外の様子を伺う。すると木の上から、人影が降りて来た。

 

「出て来い、兎月公主‼︎ 既に、この家は包囲した‼︎」

 

 般若の鬼面で顔を隠した女性が叫ぶ。体格からして女性だが、彼女もオルグであるらしく、鬼面の下からツノが見えていた。

 

「く……一足、遅かったわ……‼︎」

 

 兎月は口惜しげに歯噛みする。この場所を特定されない様に常に気を付けていた。その為に虎牙に内部の情報を流して貰っていたのに、それが仇となるとは……。

 

「……これまでね……娘々。貴方は彼等と一緒に逃げて!」

「兎月様⁉︎」

 

 娘々は驚いて彼女を止めようとするが、兎月は微笑む。

 

「……私は大丈夫。彼等の狙いは宝珠だから、私を無下には扱えない筈よ……」

「だったら尚、危険です‼︎ 奴等は僕達が……‼︎」

「落ち着け、陽! 今、俺達は戦う事が出来ない身だ! あの数は、俺達だけでは対応出来ない!」

 

 大神は外の様子を伺う。女オルグに率いられ、無数のオルゲット達が家を完全に包囲している。

 1、2体なら何とかなるが、あの手数では変身出来ない陽、大神には苦戦を強いられるのは必至である。娘々、月兎を庇いながらとなると尚更だ。

 そして兎月は、外に出て行く。手には拾い上げた短刀を持ち、自身の首元に突き付けた。

 

「捕まえるのは私だけよ……他の皆には手を出さないと約束しなさい……! さもないと……!」

 

 そう言いながら、兎月は短刀を握る手を強めた。

 

「……貴様を捕まえる様に命令を受けた……他の物を殺す様には命令は受けていない……」

 

 淡々と告げる女オルグ。兎月は短刀を持つ手を下ろし、オルグ達に投降して行った。去り際に兎月は振り返り、娘々に小さく頷いた。その後、鬼門の中に彼女達は消えて行った……。

 

 

 

「……申し訳ありません……まさか、尾行されていたとは……」

 

 意識を取り戻した虎牙の手当てをする娘々。幸い傷は浅かったが、暫くはまともに歩けそうに無い。

 

「……謝るのは僕達の方です……近くに居ながら、何も出来なかった……!」

 

 謝罪する虎牙に対し、陽は戦わずに見ているしか出来なかった己の不甲斐なさを嘆く。娘々は首を振る。

 

「……貴方達に責はありません……。敵の作戦を見抜けなかった私達の責です……。それに、兎月が身代わりになってくれた事が無意味となります……」

「娘々様……」

 

 その言葉に陽達は首を傾げる。娘々は、顔を上げる。

 

「重ね重ね、騙してしまい申し訳ございません……。この瓏国の真の公主は、この娘々です……。兎月は私の影武者……念には念を押して、入れ替わっていたのです……」

 

 まさか、影武者を仕立てていたとは……陽達は驚く。と、同時に娘々が懐から取り出した巾着を開けると、宝珠が出て来た。

 

「本物の宝珠はこれに……。彼女が持っていたのは、硝子で造った紛い物です……」

「……で、でも、緑鬼達には貴方が本物の公主である事を……」

「心配要りません……兎月が表向きに公主である事は、父や城中の一部のもの以外には知られて居ません……つまり、私が捕まらない限り、まだ希望は潰えていません……」

 

 そう言うと、娘々は立ち上がる。

 

「……しかし、兎月の持つ宝珠が偽物と分かれば、再び私に追撃が掛かるでしょう……。もう、一刻も猶予はありません。直ちに向かいましょう」

「え…? 何処に?」

 

 陽が尋ねると、娘々は振り返る。その瞳には強い意志を持つ輝きを放っていた。

 

「かの言い伝えによれば、神龍を目覚めさせるには私の宝珠と、あと三つの宝珠が必要なのです。

 神龍が全てを終えて眠りに就いたとされる地……『龍陵洞』に、私達の未来があります」



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quest SP3 龍陵洞へ……

狼尾(ランウェイ)


 その頃、町の方でも騒ぎが起きていた。

 若い男達が人目を気にしながら、町の外へ走って行くのだ。その様子を窓から伺っていた佐熊は……。

 

「何だか慌しいのォ……」

「何かあったのかな……」

 

 佐熊の横から、こころも口を挟む。

 

「きっと、町の若い者達が反乱を起こす企てをしに行ったのさ……馬鹿な子達だよ……暴力で解決したって無駄なのに……」

 

 万狗の母親が嘆く。詳しく聞いて見たら、あの巨樹の為に被害を被っている若者達も我慢がピークに迎え、王宮に対し反乱を起こそうと、兼ねてより計画していたらしい。

 

「……それにしても、万狗は遅いのォ……また、オルゲットに追い回されて無きゃ良いがな……」

 

 そう言いながら、佐熊はつい先程に向かいの家から野菜を借りに行く、と出て行った万狗の事が気になった。

 幾ら、オルゲット達に見つからない様に隠れて行くと言っても遅すぎる。

 

「まさか……あの子、早まった事してなきゃ良いんだけど……」

「早まった事?」

 

 母親の言葉に佐熊は訝しげに尋ねた。

 

「あの子はね……父親の死も妹の病気も全部、皇帝のせいだって考えていてね……特に、あの化け物達には、友達も殺されてるんだよ……。だから……その怒りが間違った方に向きゃしないかって、心配なんだよ……」

 

 母親の不安そうにする態度に佐熊は考える……。確かに、さっきの万狗の顔つきは、かなり思い詰めた様子だった。

 父親と友人を殺され、妹は重篤の身、自分達は劣悪な環境の中に生かされている……確かに不満を抱えるな、と言う方が無理な話である。

 かつて自分もそうだったから、佐熊には彼の考えも苦しみも良く分かる……。貧しい家に生まれ育ち父親は生来、飲んだくれて働こうともしない……母親は、そんな父親に愛想を尽かして出て行った……。よく佐熊は貴族達が、煌びやかな服を着て美味い飯を食って、牛車に乗っている姿を見て思った。

 

 〜真面目に生きても報われない世界で、真っ当に生きても馬鹿を見るだけだ…と〜

 

 

 こうして、佐熊は飲んだくれの父親を捨てて何時しか、盗賊に身を堕とした。

 盗賊となってからは金や食料を奪う事はしたが、自分より弱い人間を殺す事はしなかった。

 別に死を恐れていた訳でも、善人を気取りたかった訳でも無い。ただ……殺せば、都で暮らす“彼等”と同じ生きたまま腐った匂いを放つ人間になってしまう気がしたから……殺す事が出来なかった……。

 ふと思い出してみる。あの少年の目……どこと無く、危うさを孕んでいた気がする……放って置いたら後々、目覚めの悪い結果となりそうだ……。

 

「やれやれ……」

 

 佐熊は立ち上がり、家を出ようとする。

 

「……あんた、何処に?」

「……なァに、ちょっと夕涼みにのォ……」

 

 そう言い残し、佐熊は外に出る。こころも後に続いた。

 

 

「いよいよ決行の刻だ‼︎」

 

 町から離れた広場にて、複数人の若者達が集結し話し合っていた。その中には万狗も混ざっている。

 

「俺達は、ずっと耐えて来た‼︎ 化け物による被害も、あの巨樹から垂れ流される死の粉も、俺達は何時の日か解放される日は来ると耐えて耐えて、耐え続けて来た‼︎

 だが‼︎ そんな俺達に対し、国は何もしてくれない‼︎」

 

 演説をする狼の耳を生やした青年が捲し立てた。

 

「奴等が何もしてくれず、あの巨樹を放置し続けると言うなら、これからも奴等が我々を助けてくれる希みは無い‼︎ ならば‼︎ 運命は、俺達の手で切り開くしかのみだ‼︎

 今宵、俺達は瓏国の歴史に終止符を打つ‼︎ 異存は⁉︎」

 

「無い‼︎」

「あの巨樹には、ウンザリしてんだ‼︎」

「どの道、このままじゃ生き地獄だ‼︎」

 

 男達は殺気立った様子で、どよめく。

 

「よし‼︎ やるぞォォ‼︎」

 

 周りに合わせ、万狗も叫ぶ。だが、リーダー格の青年は見咎める。

 

「万狗……‼︎ お前は来るなって言っただろう……」

狼尾(ランウェイ)‼︎ 僕だって、戦いたいんだ‼︎」

 

 大人達に負けず劣らずの殺気を醸しながら、万狗は叫ぶ。

 狼尾と呼ばれた青年は厳しい目を向けた。

 

「分からないのか⁉︎ この反乱が成功するなり、失敗するなり俺達には明るい未来は約束されないんだぞ⁉︎

 ましてや、お前には母親と妹が居る‼︎ 二人を残す事になっても良いのか⁉︎」

「うッ……」

 

 万狗はたじろぐ。まだ幼く母親と妹が待っている彼に、国を潰したと言う汚名を負わせたくは無い。

 不満ある国に反乱を、と言えば聞こえは良いが、実際にやっている事は国を荒らす好意であり万が一にしくじれば、戦犯として裁かれかねない。

 ましてや、今回の反乱に参戦したのは、血気盛んな若者だけであり、国民全員の意思では無い。多くの国民は、オルグの存在を恐れて、泣き寝入りを決め込んでいる始末。戦況は9/1で、こちらが不利なのだ。

 

「……でも……‼︎ 狼尾達だって死んじゃうかも知れないじゃ無いか‼︎」

「俺は、もう家族は居ない天涯孤独の身だ……死んだって悔いはないさ……ならば、自分の命を燃やして、国を救いたいってもんだ……。此処に居る全員、同じだ」

 

 狼尾は己を皮肉る様に笑う。狼尾を始め、此処に集結した若者達は孤児が大半だ。最初から失う物など無い彼等には、死など恐れにはならない。

 

 

「死んだって悔いはない……じゃと? 気高い精神じゃのォ……」

 

 

 急に聞こえた声に、若者達は振り返ると、佐熊が歩いて来るのが見えた。

 

「お…おじさん⁉︎」

「お兄さんじゃ……全く、黙って聞いとれば、揃いも揃って馬鹿ばっかりじゃのゥ……」

 

 嘲りに満ちた様子で、佐熊は言い放つ。狼尾は、鋭い目付きで佐熊を睨む。

 

「……何処の誰だか知らないが、俺達の信念に水を刺す気なら許さないぞ‼︎」

「信念? 笑わせるな、若造が。お前等のやろうとしている事なぞ死にたがりの言い訳に過ぎん。生きているのが辛いから、死んで楽になろう……大方、そんな所じゃろう?」

「何だと⁉︎」

 

 佐熊の無遠慮な発言に対し、彼の胸倉を狼尾は掴み掛かった。

 

「……違う‼︎ 断じて違うぞ‼︎ 俺達は、この国で生まれた‼︎ 辛い事の方が多いが、それでも、この瓏国で生まれ育ったと言う自負はある‼︎ 我々の同族が、悲鳴を上げているのを黙って見ていろ、とでも言うのか⁉︎」

 

「いい加減にせいィッ!!!」

 

 激しく詰め寄る狼尾に向かい、佐熊は怒鳴り付けた。その勢いたるや凄まじく、思わず狼尾は後退した。

 

「同族の悲鳴を聞いてられない? 本当に、そう思うなら……命を粗末にするな‼︎」

「⁉︎」

「仮に、お前達が命を捨てて戦ったとしても、誰も感謝はせん‼︎ 自分達に関係の無い人間達が死んだ程度で言われ三度、日が昇って鎮めば忘れられる……その程度じゃ、お前達なぞ‼︎」

 

 今度は反対に、佐熊が狼尾の胸倉を掴み持ち上げた。さっき迄、熱気を滾らせていた若者達は慄き始める。

 

「良いか! 死んで花実が咲く訳じゃ無し……死んだら、それで仕舞いじゃァ‼︎ 本当に国を思うなら、どんなに不格好だろうが無様だろうが、泥水啜ってでも生き抜くぐらいの気概を見せィ‼︎ 人生の半分も生きとらん若造が命を惜しまず、なんて知った風な口を叩くなァ‼︎」

 

 狼尾を怒鳴り付ける佐熊。彼は、ガオレンジャーとして生きる数年前、その後の現代までの千年間、凡そ平穏とは呼び難い人生を送ってきた。

 若い頃は盗賊として生き、ガオレンジャーになった後は自らを人身御供として千年以上も我が身を封じ込まれて来た。

 だからこそ、命を軽んじる行為を犯す者を許せないのだ。

 

「じゃあ……どうしたら良いんだよォ⁉︎」

 

 佐熊と狼尾との剣幕を裂く様に、万狗が叫んだ。

 

「生きていたって辛いだけ……死ぬ事すら出来ない……それじゃ、僕達はどうしたら良いんだよ⁉︎」

 

 涙を流しながら、万狗は膝をつく。その際、こころが万狗に近付く。

 

「……妹との穏やかな生活を送るより、妹を守る為に戦いに身を投じる事しか選択肢の無かった人だって居るんだよ……。貴方は、戦いを選んじゃ行けない……お母さんや妹を護りたいなら、剣を持つ以外の戦い方もある……」

 

 こころの淡々とした言葉に、万狗は無言のまま泣き続けた。

 自分だって死にたくは無い。だからと言って、このまま苦痛の中に身を置いても地獄には変わらない。佐熊は、何かに気付いた様な顔で、狼尾の胸倉から手を離す。

 

「……後は、ワシ等に任せィ。お前等は早まった真似をするな……」

「任せろって……あんた等、一体……」

 

 佐熊は、彼等に背を向けて歩き去って行く。狼尾は自分達と関係無いにも関わらず、命を散らそうとした自分達を叱責、引き留めた佐熊に尋ねた。佐熊は背を向けながら、ニヤリと笑う。

 

「正義の味方じゃ」

 

 と、一言だけ呟いた。万狗は、そんな彼の後ろ姿を涙でぼやけた目で見続けていた……。

 

 

 

「ホホホ……漸く捕まえたか……」

 

 王宮では、緑鬼がほくそ笑んで居た。目の前には、オルゲットに拘束された兎月が、鋭い目で睨んでいる。

 

「散々、手間取らせてくれたが……だが、これで終わりよ……さァ、宝珠を渡して貰おうか?」

「………」

 

 兎月は死人の様に青白い肌をした緑鬼に覗き込まれたが、プイッと顔を逸らす。

 

「やれやれ……強情な公主様だ……渡す物を渡したなら、良い扱いをさせてやるものを……」

「皇族を見縊らないで……。脅しには屈しないわ….…お父様に会わせなさい‼︎」

 

 強い口調で、兎月は言った。だが、緑鬼はフンと鼻で笑う。

 

「皇族を……だと? 替え玉の分際で、図に乗るで無いわ」

「えッ⁉︎」

 

 その言葉に兎月は耳を疑う。緑鬼は、ニィィッと口を口角まで吊り上げた。

 

「麿の目が節穴とでも思うてか? その方達の小賢しい企みなぞ、最初からお見通しでおじゃるよ」

 

 そう言い放つと、緑鬼の顔はボコボコと歪んでいく。やがて衣服は弾け飛び、緑色の体色をした異形の姿が露わとなる。

 上半身は首と胴体が繋がり、形は丸みを帯びている。

 正面には二つの目が見えるが、その眉を含めた部位は人間の鼻に見える。頭から長い一本の角が伸び、右手には扇子を持つ等、優雅な佇まいだ。

 

「な……化け物⁉︎ なんて、悍しいの…‼︎」

「悍しい、とは御挨拶で、おじゃる……。この美しさを理解出来んとは、所詮は人間でおじゃるな……」

 

 ウラは扇子を仰ぎながら笑う。兎月の顔を掴み、持ち上げた。

 

「麿には最初から、その方達の企みを虎牙より筒抜けにあったでおじゃる。しかし、敢えて泳がせる事にしたのよ……何故だか、分かるか?」

「……‼︎」

「正解は……皇族しか知り得ない神龍が眠るとされる龍陵洞の場所を探り当てる為におじゃる……。神龍が実際に蘇り、あそこまで育ったオルグドラシルが駄目になっては、不愉快におじゃるからなァ……」

 

 ウラは、神龍を復活させない為に、娘々達を何時でも捕まえられる状況にいながら、手出しをしなかった。

 彼女達を泳がせておけば、必ず神龍に行き着く筈……それまで、彼女達の素性に気付かない振りをしていたのだ。

 その際、ウラは彼女の胸元で輝いていた宝珠を力任せに奪い取り、掌の上で転がした。

 

「よく出来た紛い物におじゃるなァ……硝子で作った紛い物にしては上出来でおじゃる」

 

 嘲りながら、ウラは掌を握り締めた。次に開いた時は、彼の掌中では粉塵となった硝子があった。

 

「……しかし……もう無意味におじゃる。本物の宝珠は娘々が持っているのは明白……それを麿が手に入れて龍陵洞を潰してしまえば、神龍は復活する事はない……娘々は反逆者として処刑する迄よ。国を捨てて国外に逃げようとした、と言う口実でな……」

「そんな事、させるものですか‼︎」

 

 ウラに臆する事なく、兎月は凄む。だが、ウラは彼女の右頬を張り飛ばした。腕を縛られていた兎月は、バランスを崩して倒れてしまった。

 

「ホホホ……往生際の悪いでおじゃる……無駄よ、既にハンニャ達を尾行させてある……恨みぞ深き、ガオレンジャー共々、葬り去ってくれよう……」

「が…ガオレンジャー……?」

 

 邪悪な笑みを浮かべるウラを尻目、に兎月は呟くが突然、ウラの伸ばした右掌が眼前に迫る。

 

「そちには、まだ役立って貰うでおじゃるよ。それ迄は、眠っているでおじゃる」

 

 それだけ言い残すと、ウラの手から滲み出る邪気が兎月の意識は消し去られてしまった。気を失った兎月を見届けると、ウラは窓から映し出される巨樹を見た。

 

「ホホホ……この樹は、麿がオルグの頂点に君臨する為の布石におじゃる……まっこと、美しい樹よ……ホホホホ……‼︎」

 

 巨樹を見上げながら、ウラは高らかに笑い続けた。

 

 

 

「こっちです……」

 

 娘々に案内されながら、陽と大神は歩いていた。テトムは怪我を負った虎牙を看病する為に、残る事にした。

 彼女に付いて歩く場所は城下より離れた荒れ果てた廃屋の立ち並ぶ場所……。

 

「凄い荒れた場所だね……」

「はい……此処は貧民街……城下に住む事も出来ない者達が身を寄せ合って暮らしています……。

 最低限の配給はあったのですが、あの巨樹の影響で、それも滞る様になり、今は病と飢餓の温床と化しているんです……」

「成る程……酷い暮らしだ……」

 

 民主主義が資本である現代の暮らしを知る陽からすれば、こんな底辺の暮らしを強いられる人間の居る事は納得が行かない……。

 少なくとも、陽が歴史の授業で習った海外のスラム街の方が、まだ幾分かマシであると言わざるを得ない酷さだった。

 

「大神さんは……何とも無いの?」

「……俺の生まれた平安時代も、華やかな都から少し奥に入った場所や辺境な山里は、こんな暮らしだったよ……。

 寧ろ、それが当たり前だった……」

 

 重苦しい空気が支配する。娘々は顔を曇らせた。

 

「……私も城から外に出て、この眼で見るまでは信じられませんでした……。こんな劣悪な環境下で生きている人達が居る事を……」

「……そうだろうな……。貴族や皇族等は屋敷の外壁で守られている場所を、自分達の世界全てと信じていた……。

 実際、外に出た所、そう言った部分を見て見ぬ振りをする……」

「大神さん…‼︎ そんな言い方…‼︎」

 

 やや辛辣な物言いをする大神を、陽は嗜める。だが、娘々は力無く頷く。

 

「……不本意ではあるのです……。父とて万能では有りませんし、手の届かない場所もあります……。国を治める事は容易では……」

「……済まない、責めるつもりじゃ無かったんだ……」

 

 娘々の辛そうに話す態度に、大神は謝る。彼女も、この事態を目の当たりにして良心の呵責に苛まれているのだ。

 それに、今の彼女には彼等を救う手立ては無い。とは言え……陽は貧民街の隅々まで見た。街の一角には何やら、積み上げられた物がある。

 

「‼︎」

「……見ない方が良い……」

 

 大神は陽に促す。其れは骸だった。病死、餓死、衰弱死した者達を掘り上げた穴に詰め、まとめて荼毘に付すつもりだろうが、この様子では焼いてくれる人間も居ない為、街全体から腐臭が漂う一因となっているのだ。

 

「……娘々、本当にこんな所に…?」

「ええ…‼︎ こんな所だからこそ、あるんです。龍陵洞は王宮の建つ場所の地底深くにあり、その入り口のある場所に建ったのが貧民街なんです……」

 

 陽は理解した。確かに流石のオルグ達も、貧民街の中にあるとは夢にも思うまい。

 どれくらいか歩くと、崩れ掛けた石造りの小屋の前に着いた。娘々が中に入った後、陽と大神も続く。

 小屋の中は殺風景で、何も無い空間だった。

 

「……何も無い様だが?」

 

 大神が尋ねると、娘々はボロボロの紙切れを取り出し、その内容をブツブツと呟き始める。すると足元から小さな台座が迫り上がってきた。

 驚く二人を尻目に、娘々は台座の引き出しから丸石を七つ、取り出した。台座の上には一四個、穴が空いている。

 迷う事なく、娘々は古文書に従い、左下の穴に石を入れ、其処から上と隣の穴に二つ、そのまま下の穴に一つ、そのまま右の穴に少しずつ上げて行く様に石を入れていった。

 すると丸石は発光し、眼前に浮かび上がる。其れは北斗七星を模している。娘々は、宝珠を使って光を反射させると、何も無かった場所の壁が降下して、入り口となった。

 

「凄い仕掛けだ……」

「….この情報を偶然、知る事が出来たから私達は王宮から出たんです。さァ…行きましょう…」

 

 娘々は二人を促す。入り口の向こうは階段となっていたが、薄暗く足元も悪い。すると娘々が手を翳すと、彼女の手は光り輝いた。

 

「な、何⁉︎ その力……⁉︎」

 

 急に娘々がやってのけた力に陽は目を疑った。

 

「“気力”と呼ばれる力です。自身の中にある気を利用し、火を起こしたり水を操ったり出来ます」

「それ、この国の人間、全員が⁉︎」

 

 陽は未知の力、気力に驚いた。こんな力が使えるなら、オルグ達とも渡り合えるのでは無いか?

 だが、娘々は力無く首を横に振る。

 

「もう出来ません……昔は皆、気力を使って国を発展させたらしいですが……国が大きくなってからは少しずつ廃れてしまって……今では、気力の存在が過去の物となりつつあります……」

 

 そう言って、娘々は地下へと歩み始める。陽と大神も続くが、壁を突き抜けて伸びる木の根を見た。

 

「……この木の根は……」

「やはり、此処まで侵食してきてますね……。あの巨樹の根は既に瓏国全体に張り巡らされています。根が地脈より大地を枯れさせ、巨樹から垂れ流される邪悪な気が、人々を脅かしているのです…‼︎」

「……もしかして……‼︎ 僕達が、ガオレンジャーに変身出来ないのも……‼︎」

「ああ……恐らく、あの巨樹から放たれる邪気の影響だろうな……」

 

 つまり、あの巨樹を何とかしない限りは、ガオレンジャーに変身する事も出来ない……事の顛末に、陽は頷く。

 

「そして……あの巨樹を破壊するには……伝説の神龍様を蘇らせる必要があります……お父様より、この宝珠を授かったのは、その為……」

 

 娘々は強い顔と口調で言った。彼女には、この国の公主としての信念があるのだろう……。ならば、それが上手く行き、ガオレンジャーに変身出来た暁には、自分達も戦わなければ……。と、考えていた際、階段は終わり広い部屋へと出た。

 

 

「此処が龍陵洞……」

 

 陽は広間全体を見渡す。先程までの、仄暗く濁った空気とは違い、此処は澄んでいる様だ。巨樹の根も、此処には張り巡らされていない。

 

「……私も中に入るのは初めてですが、どうやら巨樹の根は、まだ侵食していない様ですね……」

「……恐らく、神龍の力が働いている様だ……」

 

 大神が推測した。神龍と言う存在が何者かは分からないが、少なくとも超常的な何かである事は間違いない。

 すると、自分達の目の前に朽ち果てた龍の彫像があるのを見つけた。

 

「古き言い伝えによれば……『石で作りし、龍の口内に宝珠を納めよ。さすれば、悠久の眠りより神龍は目覚めん』とあります……」

 

 そう言いながら、娘々は龍の彫像の口に宝珠を嵌め込んだ。

 しかし……何も起こらなかった。

 

「……何も起こらないね……」

「……その様ですね……」

「いや、案内人の君がアッサリされてたら困るんだけど……」

「私はただ……古文書に従って来ただけですし……」

 

 完全に行き詰まったと思った際、龍の彫像の台座が少し迫り上がって来た。すると台座から、木で出来た取手が左右から飛び出して来た。

 

「……これは一体?」

 

 娘々にも分からない様子だ。すると大神は娘々の持つ古文書を見ながら……

 

「その古文書を貸してくれないか?」

 

 と、言った。娘々は古文書を大神に渡す。

 

「さっき見せた気力の光を古文書に当ててくれ」

 

 娘々は訝しながらも、気力の光を古文書に照らした。すると古文書の表面の字が消えて、龍の彫像の絵に変わった。

 

「……成る程……古文書は二重構造になっていたんだ。恐らく気力の光に反応して、絵が浮かび上がる仕組みなんだと思う……」

「全然、気付かなかった……。大神さん、何故、分かったんですか?」

「さっき、君が古文書を見ながら階段を降りていた時、気力の光を出しただろう? その際、古文書の表面に龍の絵がチラチラと浮かび上がるのを見たんだ……」

 

 流石、歴戦の戦士である大神である。僅かな違和感から、古文書に隠された秘密を暴き出したのだ。

 陽は古文書の絵を見てみると……。

 

「絵の下の方に小さく『龍と玄武を向き合わせよ』とあります……」

「龍と玄武……? どう言う意味だ?」

「恐らく玄武とは方角の事だと思います。そして、玄武を示す方角は、北……」

 

 娘々の推理は当たっていた。陽は広間全体を見渡すと四方の壁には、崩れ掛けては居るが緑色の龍、赤い鳥、白い虎、黒い亀の絵が彫られている。

 

「……そうか‼︎ 四神だ‼︎ 青龍は東、朱雀は南、白虎は西、玄武は北を守護していると言う伝説が、僕達の世界にもある…‼︎ この瓏国にもあったんだ‼︎」

「いや……恐らく、こっちが本家だろう……俺達が地球から、この国に流れ着いた様に、瓏国の情報が何らかの形で地球に漏れて、東西南北を守護する神獣として語り継がれたのかもな……」

 

「成る程のゥ……よく出来たもんじゃな……」

 

 と、その時、広間に野太い声がした。すると、佐熊とこころが入って来るのが見えた。

 

「佐熊さん! こころ! 無事だったんだね‼︎」

「おう‼︎ この通り、ピンピンしとるぞ‼︎」

 

 そう言って、佐熊は豪快に笑う。

 

「力丸……その頭の包帯は?」

「ん…ちょっと、オルゲットに不覚をとっての……だが、心配は要らん! かすり傷じゃ‼︎」

 

 大神は心配そうに言ったが、佐熊の態度を見るに重篤な怪我では無さそうだ。と、その際、娘々に気が付く。

 

「その娘さんは?」

「彼女は娘々。この瓏国の公主様なんだ」

「初めまして……。貴方のお仲間には助けて頂きました……」

「うん? ああ、気にするな‼︎ それにしても、ガオレンジャーに変身出来ず、よく此処まで来れたのォ!」

 

 佐熊は辺りを見ながら言った。同時に大神は、どうして佐熊が此処に居るのかと感じた。

 

「お前こそ……何故、此処に?」

「何故って……お前達が、ゾロゾロと歩いて行くのが遠目に見えたから、後はこころに気配を辿って貰って付いて来たんじゃ!」

「そうだったんですか……」

「それより、その龍の彫像は何じゃ?」

 

 階段を降りていけば、巨大な広間の中にある龍の彫像……其処に陽達が居た事に、佐熊は尋ねた。

 

「これに神龍を復活させる秘密があるらしいんだ……」

「神龍じゃと? それは実在しとるんか?」

「? 知っているのか?」

「ワシが助けた子供の親から聞いた……この国の人間は神龍から生まれたとな……」

 

 それで……と、陽達は納得する。その際、娘々は古文書を読み返していた。

 

「古文書によると……この彫像は『朝日が昇って落ち、月が昇って落ちる方角に動く』とあります……」

「何じゃい…まるで謎掛けじゃなァ…」

 

 複雑な仕掛け内容に佐熊は呻く。だが、こころはピンと来た様だ。

 

「……朝日が昇り、月が昇る……つまり、時計回りに動かせって言う意味じゃない?」

 

 その言葉に一同は理解した。この彫像を時計回りに動かして、玄武の絵のある壁に向ければ、何かが起こる、と言う事だ。

 

「う〜〜む……要するに、この彫像をあの亀の絵に向けりゃ良いんじゃな……。よっしゃ、ワシに任せい‼︎」

 

 そう言いながら、佐熊は取手を握り台座を動かす。だが、力自慢の彼が押しても台座は、ほんの僅かしか動かない。

 

「ぬぐぐぐぐ……予想より頑丈じゃ…‼︎ どれ、もう少し力を入れて……!」

 

「其処までだ‼︎」

 

 突如、鋭い声が響音した。すると広間の入り口を塞ぐ様に、ハンニャとオルゲット達が立っていた。

 

「オルグ達‼︎」

「ハハハハ‼︎ 緑鬼様の仰せの通りだ‼︎ お前達を見張っていれば、龍陵洞に必ず向かう‼︎ 」

「クソッ‼︎ つけられていたのか‼︎」

 

 陽は、オルグ達の方が一枚、上手だったと悔しがる。更に追い討ちを掛ける様に、ハンニャは言った。

 

「フン…娘々公主! 態々、替え玉まで仕込んで御苦労だったな‼︎ 緑鬼様は貴様の正体を、とうに見破っておられたのだ‼︎」

「な⁉︎ では、兎月は⁉︎」

「さァな……今頃、オルグドラシルの肥やしにでもされてるかも知れんぞ?」

「そ…そんな……」

 

 ハンニャの非情な言葉は、娘々を絶望に叩き落とした。最初から緑鬼にはお見通しだった……ならば、兎月も既に殺されているかも知れない……。

 

「何だ、そのオルグドラシルとは…⁉︎ そもそも、緑鬼とは何なんだ⁉︎」

「ふん…! これから死ぬ貴様等に、話す必要など無い! 丁度良い……此処は龍の魂の眠る墓場だ! 此処で龍と共々、眠るが良い! オルゲット共、掛かれ‼︎」

 

 陽の言葉を遮り、ハンニャはオルゲット達を嗾けて来た。数は多い上、ガオレンジャーに変身出来ない……状況は、かなり不利だ。

 

「佐熊さん‼︎ 早く台座を‼︎ 僕達が、奴等を食い止めます‼︎」

「よ…よし来た‼︎」

「大神さん、行きましょう‼︎」

「ああ…‼︎」

 

 対峙を決意する陽と大神だが、いかんせん二人は武器を持っていない。

 

「陽さん、此れを‼︎ 瓏国に伝わる守り刀です‼︎」

 

 娘々は懐から、煌びやかな装飾と小刀を渡した。心もとは無いが、全くの武器無しで戦うよりはマシだ。

 

「月麿‼︎ コイツを使え‼︎」

 

 そう言いながら、佐熊が大神に投げて寄越したのは紫の布が巻かれた小刀だ。

 

「ムラサキの守り刀…か! 今は此れに賭けるしか無いな……ムラサキ、力を貸してくれ‼︎」

 

 そう言って、大神は守り刀を構えた。

 

 

「オルゲットォォ!!!!」

 

 

 こうして、ガオレンジャーに変身出来ぬまま、オルゲットの団体との戦いが幕を開けた。

 

 

 〜遂に辿り着いた龍陵洞にて、奇襲を仕掛けるハンニャとオルゲット達‼︎ 果たして、陽達は絶体絶命のピンチを切り抜けられるのでしょうか⁉︎〜



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quest SP4 鬼樹(オルグドラシル)の真実

謝罪
quest28とquest29のタイトル番号を重なって掲載していた為、quest 31まで話数がずれていた事に昨日、気が付きました。
訂正しておきましたので、申し訳ございませんでした。



 ー昔々の物語……この国が岩と砂のみが広がる不毛の大地だった頃……突如、天を切り裂き降臨する一柱の神があり……。

 

 その神は龍の姿をしていた。神々しい姿、大いなる力、高い叡智……正しく、万物の霊長たるに相応しい存在だった。

 

 龍が尾を一撫ですれば、岩は砕けで更地となり…

 龍が息吹を一吹きすれば、砂の隙間を突き抜け緑の草原が生い茂り…

 龍が一吠えすれば、天から雨が降り注ぎ、木を花を芽吹かせた…。

 

 最後に龍に呼び寄せられた動物達に、その叡智の一部を与えたもうて、生きる為の知恵と姿を身に付けた…。

 

 全てを終えた龍は、その姿を消した。だが一つ……龍が去った後に、宝珠と龍を模した彫像のみが残された。

 その彫像には『この地、日と月が四千と二十度、交差を果たした時、地を毒し壊す災厄が現れん……その時、地に生きる者達は、我が分身に宝珠を納め、玄武と出会わせよ……。

 我は悠久の時を経て目覚め、異国の地より召喚せし八人の戦士と共に災厄を鎮めん』と、遺されていた。

 人々は龍への感謝を忘れない為、建国した国の名を『瓏国』と名付け、龍を『神龍』として国の守護神と崇める様になった。それから4020年もの間、国内に於いて大きな反乱も起きず、周囲には戦を仕掛けて来る国も無かった為、平和な国として栄えて来るに至った……ー

 

 〜瓏国神話 神龍創生記〜

 

「此れが、瓏国の歴史なのね……」

 

 テトムは家に置かれていた書物を読んで、瓏国の出で立ちを理解した。神龍により荒野は緑溢れる草原に、泥水の溜まりは清水揺蕩う湖と支川となり、やがて平凡ながらも平和な国として栄えて来た。所が……数年前に、巨樹が姿を現してから、この国は少しずつ壊れて行った。

 巨樹を中心に緑は枯れて、地下水脈と地脈も汚された事で湖も川も汚染され、街中にはオルゲット達が徘徊する死の街と化した。

 

「……全て、私の責任です……緑鬼が王宮に現れた時、奴には得体の知れない不気味な雰囲気を感じていました……。

 思えば、奴が現れる直前に陛下が病に倒れてしまわられた……余りに都合が良すぎる……奴の計略は、進んでいた……だが、それに気付いた時は全てが遅過ぎた……娘々様の予感通り、国は大きく荒れた……。危険を感じた娘々様は、侍女にして影武者の兎月を連れて王宮を出ました。

 しかし……それさえも、奴の計画の内だった……‼︎」

 

 虎牙は自身の不甲斐なさを呪った。誰よりも、皇帝の側に付いていながら緑鬼の暗躍を見抜け無かった。

 それ所か、娘々を危険に合わせ、四千年の平和を保ち続けた瓏国に亀裂を入れる結果となった……責任感の強い彼からすれば、死を持って償いたいが、それさえも許されない。

 今、自分が死ねば娘々を守る者が居なくなってしまう。そうならない為にも、生き抜かなければならないのだ…。

 

「……虎牙さん……今は、後悔しても始まらないわ。大切な事は、此れからよ……」

「ええ……既に官吏達も兵士達も緑鬼の支配下に置かれ、皇帝陛下も病を名目に、皇室に軟禁されている身……実質、娘々様をお守り出来る者は誰一人と居ない……私が、彼女を護らなければ……」

「虎牙さん、大丈夫……陽達が居るわ……」

 

 明らかに焦りを見せる虎牙を宥める様に、テトムは言った。

 だが、彼の表情は曇ったままだ。

 

「……瓏国に伝わる神話、神龍様の復活と八人の戦士……ですか? 確かに言い伝え通りとなれば良いでしょうが……あれは唯の伝説です……。娘々様も藁に縋る思いでしょうが、私には神龍様の存在も八戦士も、長きに続いた歴史の中で紡ぎ出された偶像でしか無い、と言わざるを得ません……」

「……真実は小説より奇なり、と言うわよ? 」

 

 彼もまた、神龍の伝説を否定する者の一人だった。だが、テトムのガオの巫女……彼の目の前に、伝説中の伝説が存在しているのだ。 

 

「……何故、その様な事が?」

「これでも私は巫女よ。巫女の予言を侮って貰っちゃ困るわ」

 

 

「ホホホ……対した口調だな」

 

 

 突如、謎の声がする。と、同時に木戸は破壊された…その向こうに居たのは……。

 

「ホホホ……漸く見つけたぞ……」

 

 其処に居たのは青白い顔の背の高い男、緑鬼だ。後ろには多数のオルゲットを率いている。

 

「く…‼︎ 緑鬼…‼︎」

「虎牙殿……瓏国に後ろ足で砂をかけて、事もあろうに反逆者達と肩を組むとは、罪は重いぞ……」

 

 緑鬼は冷たい目で、虎牙を見た。反対に虎牙も、緑鬼を睨み付ける。

 

「…侵略者の貴様に、反逆者等と呼ばれる筋合いは無い…‼︎」

「ホホホ、裏切り者の分際で何を言うか……まあ良いわ。どの道、娘々も国家に反旗を翻した者として捕らえた後、処刑とするのみよ……。そうすれば民に対する見せしめになる」

「な…なんだと…⁉︎」

「そなた等は、此処で死ね‼︎」

 

 緑鬼が指を鳴らすと、オルゲット達が襲い掛かって来た。だが虎牙は、剣を抜いてオルゲット一人を斬り捨てた。

 

「…瓏国の将、虎牙を舐めるなよ……貴様等如きに遅れを取る程、弱卒では無い……」

「フン…死に体の割には、やる様だな……だが、この数を果たして捌き切れるかの?」

 

 緑鬼は嘲笑う。その際、彼等の後ろから巨大な影が迫って居た。

 

「来た‼︎ ガオズロックだわ‼︎」

「な、何だ⁉︎ 此れは⁉︎」

 

 虎牙は突然、姿を現したガオズロックに面食らう。だが、テトムはオルゲット達を拾った棍棒で蹴散らして行く。

 

「説明は後よ‼︎ 早く乗って‼︎」

 

 テトムは呆然とする虎牙を呼び掛けた。彼も今は考えている暇は無い、としてガオズロックに飛び乗った。

 

「えぇい‼︎ 奴等を逃すな‼︎ 追え‼︎ 追えェ!!!」

 

 緑鬼はオルゲット達に命じるものも、ガオズロックは舞い上がり、森の中へと消えて行った。

 

「く……だが、無駄でおじゃるよ……既に、そなた等は籠の中の鳥……国全体を囲め‼︎ アリ一匹、逃してはならんぞ‼︎」

「ゲット、ゲット‼︎」

 

 緑鬼は、ウラとしての本性を見せながら、オルゲット達に命じた。

 

 

 

 龍陵洞でも、熾烈な戦いが繰り広げられていた。襲い掛かるオルゲット達を、陽と大神はそれぞれ、王家の短刀とムラサキの守り刀で対峙していた。

 何れとも、破邪の爪の様なパワーアニマルの加護を得ていない汎用な武器である。しかも、今はガオスーツも着用していない為、防御力も運動能力も民間人に毛が生えた程度しか発揮出来ない。相手が最下級のオルゲットとは言え、油断すれば命取りだ。

 

「チィィィ‼︎」

 

 大神は、ムラサキの守り刀で、オルゲットを斬りつけ倒す。だが、オルゲットの数は100や200では無い。

 ガオレンジャーとして経験を積んだ二人は、辛うじて只の剣で渡り合っていたが、それでも苦しい戦いを強いられてしまう。陽も陽で、生身の状態で戦う事が、これ程に苦しいとは思わなかった。

 

「佐熊さん、まだですかァ!!?」

 

 陽は、オルゲットの攻撃を短剣で弾きながら叫ぶ。佐熊は、台座を北の方角に向かせようと力んでいた。

 

「待てィ‼︎ 台座が錆びついとる……もう少しじゃァァ‼︎」

 

 力自慢の佐熊と言えど、長い年月の中で老朽化が進み錆びついた台座を動かすのは至難だった。だが、全く動かないと言う訳では無い様で、僅かながら動いては居た。

 と、その時、陽の眼前にオルゲットが棍棒を振り下ろして来た。

 

「陽⁉︎ 気を付けろォォ⁉︎」

 

 佐熊は、陽の危機に吠える。だが、その言葉に気付き振り返った時は、頭部の寸前までに迫って居た。

 しかし、その刹那、オルゲットの一体が両断された。

 

「なッ⁉︎」

 

 間一髪で救われたが、陽はオルゲットを斬り捨てた者を見て息を呑んだ。

 少なくとも、その男は此処に居ない筈、ひいては陽達とは敵対している筈の男だ。

 

「……何を遊んでいる? こんな低級な奴等に……」

「メラン⁉︎」

 

 その男は陽達、ガオレンジャーとは敵対関係にあるデュークオルグ集団『四鬼士』の一角、焔のメランだった。

 

「ど、どうして、お前が⁉︎」

「……ふん……。我が、この地で修行を重ねていたら、貴様等が現れただけだ……」

「……じゃ無くて‼︎ どうして、敵のお前が僕達を助けたんだ⁉︎」

 

 メランとは過去に幾度か刃を交えた。その度に決着は付かず、今では両者は因縁の敵となっているのだ。つまり敵視こそすれど、迎合する事は有り得ない筈。

 当のメランは、つまらない冗談を聞いた、と言わんばかりに鼻で笑った。

 

「……我が貴様を? 何を勘違いしている? 別に貴様を助けに来たつもりは無い……」

「…だったら‼︎」

「…前にも言った筈だ。貴様を倒すのは、このメランだと!

 他の連中に獲物を横取りされる訳には行かんからな…!」

 

 そう言うと、メランはオルゲット達を斬り伏せていく。その圧倒さは、並大抵のオルグでは歯が立たないレベルだ。

 

「……く‼︎ 貴様、オルグでありながら人間に味方する気か⁉︎」

「…クク…笑わせるな…‼︎ 飽くまで、ガオゴールドを我が手で倒す為よ…‼︎ 他のオルグに奴を倒されたく無いだけだ…‼︎」

 

 ハンニャの怒りに満ちた罵声に対し、メランは嘲る様に言った。すると、ハンニャは頭に載せていた般若の面に似た鬼面で顔を覆う。すると比較的、人に近かった姿が完全にオルグへと変わり、身の丈程もある出刃包丁に似た大太刀を取り出す。

 

「くゥ…ならば、私が貴様を斬り刻んでくれる‼︎」

 

 ハンニャは大太刀を振り下ろしつつ、メランを斬り付けるが、メランは身体を炎に変えて躱してしまう。

 

「ほう…ただの雑魚では無さそうだ‼︎ 雑魚で有れば、ある程度に加減をしてやれるが……強者で有るならば、そうも行かぬ……摘み食いでは済ませれぬ…‼︎」

 

 メランは余裕の笑みを浮かべながらも楽しげに笑っていた。

 戦いを愛し、力を求道する彼からすれば強者との出会いは、最高の褒美に等しい。

 

「よもや、異世界にこんな強者が居たとは…これだから、オルグはやめられぬ‼︎」

 

 メランは高らかに笑いながら炎の刃を振り下ろす。ハンニャも負けじと大太刀で受けるが、刃の一部が刃毀れてしまった。

 

「つ、強い……‼︎」

 

 ハンニャは、メランの強さを素直に認めざるを得なかった。

 実力なら、他のデュークオルグ達の中でも、五本の指に入る達人である二人が激突すれば、それは最早、別次元である。

 

 陽は、二人のオルグの戦いに言葉を失うしか無い。これ迄、あらゆる強敵との戦い、そして勝利と敗北を重ねた事で強さを身に付けて来た筈だった。

 しかし、メランは別格だ。未だに陽との決着が付いておらず、過去に彼と刃を交えた際も、メランは本気を出していない。先程の彼の言葉を借りるなら、自分は手を抜かれていた事になる。先の戦いで、メランが本気を出していたら、間違い無く自分は死んでいた……そう確信を持たざるを得ない強さを、目の前で戦う鬼は発揮させていた。

 

「陽….よく見ておけ……‼︎ あれが、何れは俺達が戦わなくてはならない……オルグを倒す為には避け得ない壁だ……‼︎」

 

 大神の言葉に陽は戦慄を覚える。確かに、メランとは後々に否応無しに決着を付けなければならない。

 だが今、目の前でハンニャと激戦を繰り広げるオルグは、今の自分とは全く別次元にある存在だ。例えるなら、龍になろうと滝を登っている鯉を自分とするなら滝の上から、その様子を上空より見下ろす龍、それがメランである。

 

「…だが…必ず…‼︎」

 

 陽は、メランに対する敵意は、何時しか自身が超えなければ成らない試練へと変わっていた事を痛感させられた。

 これ迄の彼に対する印象は、他のオルグ同様に敵でしか無かった。しかし、今は違う。

 それは、ガオレンジャーとしての共通の敵では無く、ガオゴールドとして打ち破らなければならない個人的な敵、即ちライバルである。

 

「おォォい‼︎ 台座を動かしたぞォォ‼︎」

 

 佐熊の声がした。振り返れば龍の彫像は、玄武の方角を向いていた。時間は稼げた。

 途端に龍像の両眼は金色に輝き始める。其れを確認した娘々は龍像の前に立ち、祈り始める

 

『神龍様……瓏の國を築きし、万物の長たる神よ……今こそ、四千と二十度の月が交錯を果たし、瓏の國に危機が訪れました。どうぞ、悠久の眠りより久しく目を覚まされ我等を、お救い下さい……神龍様……』

 

 娘々は決死の思いで祈りを捧げる。だが、龍像は目が光り輝くのみで、それ以外に変わりは見られ無い。

 

「おい、何じゃ‼︎ 何も起こらんじゃ無いか‼︎」

「そ、そんな筈じゃ……‼︎」

 

 佐熊は八つ当たりする様に、娘々を怒鳴る。娘々は狼狽した。

 

 

「皆ァ‼︎ こっちよ‼︎」

 

 

 混乱する陽達の頭上から、テトムの声がする。見上げると、ガオズロックが天井の僅かな隙間から、飛来して来た。

 

「テトム‼︎ 神龍が復活しないんだ‼︎」

「まだよ‼︎ 復活させるには、もう一つの儀式を行う必要があるの‼︎」

「え⁉︎ もう一つの儀式って…⁉︎」

「説明は後‼︎ 早く、ガオズロックに乗って‼︎」

 

 そう言うと、ガオズロックは地上すれすれに迄、滑空して来た。陽達は、その隙を見計らって飛び乗った。

 

「あ、待て‼︎ 奴等を逃すな‼︎」

 

 ハンニャは、オルゲット達にガオズロックへ向かわせようとするが、メランが行手を阻む。

 

「此処から先は通さんぞ!」

 

 そう言うと、オルゲット達を斬り捨てて行く。ハンニャは怒り狂うが、ガオズロックは飛び立って行った。

 

「さて……続きと行こうか?」

「ク……貴様と遊んでいる暇など無い‼︎」

 

 そう吐き棄てると、ハンニャは鬼門の中へ消えて行った。メランは炎の剣を納めると、飛び立って行くガオズロックを無言のまま、見上げていた……。

 

 

「……テトム、助かったよ……」

 

 陽は息を切らせながら、テトムに礼を言った。間一髪、テトムが来てくれなければ正直、危なかった。

 

「……間に合って良かった……」

 

 テトムも安堵する。しかし、大神は不思議そうに首を傾げた。

 

「だが、どうやって此処が分かったんだ?」

「荒神様のお陰よ」

 

 テトムは振り返る。すると、見慣れない少年の幻影が現れた。

 

 〜無事で良かった……皆、大丈夫?〜

 

「ガオゴッド⁉︎」

「千年の友…!」

 

 陽と大神は、共に覚えのあるパワーアニマルの神、ガオゴッドの化身である風太郎を見て喜んだ。

 だが、ガオゴッドを知らない佐熊や娘々、虎牙は首を傾げるばかりだ。

 

「な、何じゃ? ガオゴッド、千年の友? 陽、大神、こいつを知っとるんか?」

「力丸! なんて事を言うの! 口を謹みなさい! この方は、全てのパワーアニマル達の頂点に立たれる神様なのよ⁉︎」

「な、何と、これはしたり⁉︎ まさか、こんな小さな神だったとは⁉︎」

 

 直接の面識は無いとは言え、神に対して無礼極まりない態度と言動を取った佐熊は驚いた。だが、風太郎は笑った。

 

 〜良いんだ……寧ろ、この姿の時は、風太郎として接してくれた方が良い……。でも、再会を喜んでいる場合じゃ無い。事態は深刻なんだ〜

 

 風太郎は、険しい表情を浮かべながら呟く。テトム、大神も同様だ。

 

 〜娘々。君が、この国の公主だったね……先ずは謝らせて欲しい……。僕が注意深く見守る事を怠ったばかりに、君達の世界に大変な迷惑を掛けてしまった……〜

 

「め、迷惑だなんて……そんな……」

 

 娘々は目の前に居る自分の背丈を下回る少年が、神様だなんて俄かには信じられ無かった。

 だが、少年から醸し出される雰囲気は何処か厳かささえある。

 

「千年の友…教えて来れ。一体、この国に何が起こって居る?」

 

 〜シロガネ……君は見た筈だよ……今、この国はオルグに支配されて居る……。あの呪われた巨樹『オルグドラシル』によって…〜

 

「オルグドラシル……さっきの、オルグも言っていた……! 何なんだ、オルグドラシルって言うのは⁉︎」

 

 陽は聞いた。ハンニャの口から飛び出した意味不明の言葉……どうやら、オルグドラシルと言うのが、あの巨樹の名前らしい。

 

 〜平たく言えば……オルグドラシル自体が邪気の塊と言うかな……〜

 

「邪気の塊? どう言う意味でしょうか、荒神様?」

 

 ガオの巫女であるテトムさえも、オルグドラシルなんて言葉は知らない。風太郎は話を続けた。

 

 〜オルグドラシルは、地上には本来なら群生しない。死んだオルグ達の流れ着く鬼地獄にのみに根付く……鬼地獄のオルグドラシルは邪気を吸収して成長するが……地上に根を張った樹は、地脈から生命力を吸い上げてしまう……。成長すると、吸い上げられた生命力を邪気にして吐き出し、其処からオルグ達が発生する……。だから、地上にはオルグドラシルなんて、あってはならない物なんだ……〜

 

「じゃあ、一体、誰が……⁉︎ 」

 

 鬼地獄にのみにしか群生しない植物が何故、瓏国の地に根を張っているのか? 誰かが持ち込んだのだろうか?

 

 〜君達が出会った男……今は緑鬼と名乗っているアイツだ……。そして、奴の正体もまた、人間では無い。オルグだ〜

 

「緑鬼の正体もオルグ⁉︎ 何者なんですか⁉︎」

 

 〜テトムやシロガネも良く知るオルグだよ……緑鬼の正体は……ハイネス・デューク、ウラだ……‼︎」

 

 

『う、ウラ⁉︎』

 

 

 大神とテトムは同時に叫ぶ。二人は、その名を良く知っている……。前回の戦いで、ガオレンジャーを幾度と無く追い詰め、一度はガオレッドやガオシルバー以外のガオレンジャーを殺害に追い込んだ冷酷非情なハイネスだ。

 

「誰なんですか、そいつ⁉︎」

「かつて、俺達が戦って、苦心の末に打ち倒したハイネスデュークだ。だが、奴は死んだ筈……」

 

 そう……ウラは死んだのだ。一度、ツエツエの力で鬼地獄から他のハイネスと共に復活させられ、最強のオルグマスター、センキとして、ガオレンジャー達を敗北寸前に迄、追い詰めたが……地球に住まう全パワーアニマルの力を集結させて、やっとセンキを討ち滅ぼすに至った。

 その際、ウラや他のハイネスと共に、鬼地獄に送り返され、二度と復活はしなくなった筈だった。

 そのウラが、蘇っていたばかりか、この瓏国にて支配の根を張っていたなんて……。

 

 〜そう……ウラは死んだ……。その邪悪な魂は、鬼地獄の深淵へと葬られた……。だが、ウラは蘇った‼︎

 事もあろうに、オルグドラシルの苗を、この瓏国に根付かせて……この世界を、オルグの支配する世界に変えたのは、ウラの仕業なんだ……〜

 

 陽達は絶句する。オルグドラシル……そんな恐ろしい樹があったなんて……。だが、何より恐ろしいのは……倒された筈のハイネス・デュークが蘇り、別世界で人間に成り済まして暗躍していたと言う事実だ。

 

「それでは……お父様は、もう……」

 

 娘々は、余りに衝撃的な真実に言葉を失う。街の人間には父がオルグドラシルの成長や、オルグの跋扈を好き放題にさせた、と考えている者達が大多数だ。

 しかし、既に王宮がウラの手に落ちたとなれば最早、父は生きていないかも知れない……。

 

 〜それは、分からない……奴等の狙いは支配だから、殺してしまえば元も子もないからね……少なくとも、ウラの監視下に置かれているのは間違いないだろうけど……〜

 

「アイツは、狡猾なオルグだ……利用出来る者は何だって利用するだろう……」

 

 大神は忌々しげに唸る。ウラの性格は、良く理解している……。現に自分が狼鬼として操られていた際も、それを逆手に取って利用し手駒とした様な奴だ。

 更に言うなら、奴は自分にとって不都合な者は小石を踏み砕くかの様に、あっさりと始末してしまう冷徹な本性を持つ……。ウラの前のハイネスだったシュテンも、ガオレンジャーに敗れるが否や、自らの手で始末したのだから……。

 

「神龍を蘇らせる儀式と言うのは……一体、どうすれば……」

 

 〜現在、神龍は瓏国の地底……龍脈と呼ばれる場所で眠りに付いている……でも、オルグドラシルの根が邪魔をして、神龍は身動き取れないんだ……〜

 

「そんな……じゃァ、どうする事も……」

 

 〜待って。その為には、彼に力を注ぎ込めば良い……〜

 

 そう言って、風太郎は手を翳す。すると、陽の手に持つ王家の短剣が浮かび上がり、形を変える。其処には刃から柄まで、エメラルド色に輝いた短剣があった。

 

「これは……⁉︎」

「獣皇剣⁉︎」

 

 陽は初めて見る物だが、テトムや大神は馴染みある品だ。

 ガオレンジャー達の共通装備にして、パワーアニマル達を呼び寄せる為の触媒でもある神器、パワーアニマルの力の化身とも言える武器『獣皇剣』。

 色は異なるが、形状のそれは獣皇剣に相違ない物だった。

 

 〜それを、オルグドラシルの根本に差し込み龍脈に絡み付く木の根を通じて、ガオソウルを流し込むんだ‼︎

 ガオソウルに呼応した時、神龍は目を醒まして、オルグドラシルを焼き払う筈……そうすれば、君達も満足に戦えれる筈だよ……〜

 

「……理屈は分かります……けど、今の僕達にはガオレンジャーに変身さえ……」

 

 風太郎曰く、オルグドラシルの根を通じて龍脈を刺激する事こそが、神龍を呼び醒ます手段だと言う……。

 だが、今の陽達は変身さえ満足に出来ない。オルグドラシルから垂れ流される邪気、ひいては異世界であると言う事もあって、ガオドラゴン達を呼び寄せる事も出来ない……。

 

 〜大丈夫……その時にこそ、予言にある八人の戦士達が揃う時だ……先ずは、君達は王宮に忍び込む事から始めて欲しい……〜

 

 風太郎の提案は、かなり危険極まり無いが……だが、今はそれしか方法は無い。陽、大神、佐熊は互いに頷き合った。

 

 

 

 ウラは王宮の門の前に立ち、待ち構えていた。側には、ハンニャと大多数のオルゲット達が控えている。

 

「ホホホ……ガオレンジャー達め……恐らく、奴等は神龍を復活させる為に、王宮へ潜入せざるを得ない……これだけ、盤石に固めていれば、奴等は手も足も出んでおじゃるよ」

 

 狡猾なウラは、ガオレンジャー達の目論みを見抜いていた。そして、彼等がやってくるのを今か今か、と待ち構えているのだ。側に控えるハンニャが尋ねる。

 

「予言にあるとされる八人の戦士……彼奴等の事でしょうか?」

「ホホホ……予言なんて眉唾臭い物、当てには成らぬ……どちらにせよ、変身出来ぬガオレンジャー等、足を捥いだ虫ケラにおじゃる……」

 

 ウラは嘲笑した。所詮、予言は予言……当たるも八卦、当たらぬも八卦とは良く言った物……。

 そう考えていると、城下の上を飛来する影が見えた。ガオズロックだ。

 

「来たでおじゃるな……オルゲット共‼︎ あの岩を撃ち落とすでおじゃる‼︎」

 

 ウラの命令に、オルゲットは棍棒を構えた。棍棒からは火球が撃ち込まれ、ガオズロックに直撃する。

 だが、ガオズロックは数発耐えると、そのまま旋回する。

 

「? どうしたんでしょう?」

 

 ハンニャが呟いた刹那、ガオズロックから陽、大神、佐熊が飛び出して来た。

 

「誰か一人でも、オルグドラシルまで辿り着くんだ‼︎」

「よし‼︎」

「任せィ‼︎」

 

 陽は獣皇剣を、大神はムラサキの守り刀を、佐熊は錫杖を持ってオルグ達へ向かって行った。

 

「ホホホ‼︎ 正面から来るとは勇ましい奴等よ‼︎ 構わぬ、返り討ちにしてくれる‼︎ 掛かれェェ‼︎」

 

『オルゲットォォ‼︎』

 

 正面から攻めて来た陽達の度胸を讃えながら、ウラはオルゲット達を嗾ける。

 オルゲットの棍棒を獣皇剣で防ぎながら、斬り返す陽。だが、明らかにオルゲットの数が多い。三人の戦力に対し、オルゲット達は、ほぼ無尽蔵に近い数を誇る。

 と、その時……。

 

 

「俺達も加勢するぞォォ‼︎」

 

 

 砂煙を上げながら大多数の人影が走ってくる。狼尾を筆頭にした反乱軍の若者達だ。

 

「あ、アイツら…‼︎」

 

 佐熊は苦々しげに唸る。命を粗末にするな、と辞めさせた筈なのに……。

 

「この国は、俺達の国なんだ‼︎ あんな化け物に好き勝手されてたまるか‼︎」

「未来は、俺達の手で掴み取るんだ‼︎」

 

 よく見ると、若者達の中には貧民街の者達も混じっていた。各々の抱えていた不満がピークに達したのだろう。

 男達は、オルゲット達に掴み掛かる。

 

「お前等‼︎ 闘ってはいかんと…‼︎」

「佐熊さん‼︎ 俺達が、この化け物ども食い止めます‼︎ 貴方達は王宮へ‼︎」

 

 叱り付ける佐熊に対し、狼尾は言った。

 

「ぬゥ……格好付けよってからに……‼︎ 陽、大神‼︎ 行くか‼︎」

 

 佐熊は男達の覚悟を目の当たりにし、ならば、自分達の取るべき道を、と走り出す。陽、大神も彼等の勇気に感化され、王宮へ突き進む。

 

「ハンニャ、奴等を殺すでおじゃる」

「は‼︎」

 

 ウラの命令を受け、ハンニャは大剣を構えながら立ち塞がる。

 

「格下共‼︎ 此処から先は一歩も通さんぞ‼︎」

 

「ほう? ならば、我と闘って貰おうか?」

 

 そう言いながら、ハンニャの前に立ったのは、メランだった。ハンニャは怒り心頭となる。

 

「また、貴様か⁉︎ 目障りな奴め‼︎」

「我は退屈しているのだ……失望させないでくれ」

 

 メランは、そう言うとハンニャに斬り掛かる。陽は、今の内にとウラの横を擦り抜け、王門を潜った。

 

「す、すみません‼︎ ただちに奴等を……‼︎」

 

 ハンニャは、メランを対峙しながらも、直ぐに陽達を追いかけようとした。だが、ウラはハンニャを手で制した。

 

「心配要らぬ……奴等が、オルグドラシルに迄、辿り着く事は絶対に有り得ぬ……」

 

 そう言い放つウラの顔は邪悪な笑みを浮かべていた……。

 

 

 〜遂に、瓏国の王宮へと潜入した陽達‼︎ 果たして、陽達はオルグドラシルに迄、辿り着く事は出来るのでしょうか〜



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quest SP5 予言の八戦士

 陽達は王宮の中を走っていた。一先ず、潜入は上手くいった。正面から、ガオズロックで突破すると見せかけて敵の目を撹乱、後は隙を突いて王宮へ入り込む作戦だった。

 自分達の飛び降りた後、ガオズロックにはこころが残り、退散する様に飛び去って行った。民衆やメランの救援と言う想定外の出来事も重なり、兎にも角にも結果は良好だった。

 

「さァ、王宮へ入ったぞ! 後は、どうする?」

 

 佐熊は尋ねる。仮に王宮に全員で入れたとしても、内部構造に詳しく無い自分達では巨樹のある場所まで辿り着けないからだ。

 

「恐らく、そろそろ……」

 

 

「陽! こっちよ!」

 

 

 振り返ると、テトム、娘々、虎牙が走って来た。陽は頷く。

 

「三人共、無事に侵入出来たんだね!」

「ええ! 娘々のお陰でね……」

 

 テトムは笑いながら言った。娘々は安堵していた。

 

「私達が王宮を脱出した時に利用した秘密の抜け道を使いました……。貧民街にある誰も知らない抜け道でしたが、まだウラにはバレて無かった様です……」

「ええ……。警備も無かった為、比較的に安全でした……」

 

 比較的に……しかし、虎牙の手には剣が握られていた。どうやら、それでもオルゲット達との戦いは避けられなかったらしい……。

 

「本当にバレていなかったのだろうか?」

 

 大神は不安な表情を浮かべる。ウラと言うオルグの本質を、彼は誰よりも良く知っているからだ。

 奴は狡猾で智略に長けたハイネスだ……奴には幾多と煮湯を飲まされた経験がある……このまま、仕掛けて来ないとは言い難い……。

 

 

「ホッホッホ……よくぞ、戻られました……娘々公主様?」

 

 

 ふと聞こえた声に振り返ると、例の文官がいやらしい笑みを浮かべながら立っていた。

 

「き、貴様は……‼︎」

「ホッホッホ……まさか、貴方様が公主様だったとは……。だが、それ以上に瓏国の公主が、国を荒らす賊徒を手引きするとは嘆かわしい……」

「誰が賊徒じゃ、誰が⁉︎ 賊徒は、ワシ等じゃ無い‼︎ 貴様等が、緑鬼と慕っていた男じゃ‼︎ 奴は、この国を乗っ取る気なんじゃぞ‼︎」

 

 文官の言葉に佐熊が怒鳴る。だが、文官はクックッと低く笑う。

 

「緑鬼様……いや、ウラ様が? それが何か問題でも?」

「う、ウラ様……?」

「貴様! 何故、奴の正体を知っている⁉︎」

「ホッホッホ……知っているも何も……私は最初から、ウラ様の正体を知った上で仕えていたのだよ……」

 

 文官の口から放たれた言葉に、虎牙と娘々は絶句する。

 

「馬鹿な……貴様は正気か⁉︎ 奴は人間では無い! 異形の鬼だぞ⁉︎」

「ハハハハ‼︎ それがどうした⁉︎ 皇帝の座に私が座る代わりに、オルグの支配する国となるくらい……安い代償だ‼︎」

 

 文官の言葉を聞いた陽達は驚愕した。

 

「まさか……人間が、オルグに首を垂れるなんて…‼︎」

 と、陽。

 

「屑の極みだな……‼︎」

 と、大神。

 

「まっこと、腐り果てた奴じゃ…‼︎」

 と、佐熊。

 

 これ迄、様々なオルグを見て来て共通していたのは、人間はオルグに対し恐怖を抱く、それだけだった。

 しかし、目の前にいる男は保身の為でも命惜しさでも無く、己の私利私欲の為に、オルグに魂を売ったのだ。

 

「ハハハハ! 何とでも言え‼︎ 王家の系譜にも貴族の身分にも生まれなかった身分の低い平民に生まれた私に、千載一遇の好機が巡って来たのだ‼︎ 神龍などと言う空想の産物に平伏し、しがない文官として生きる位なら、オルグに首を垂れる道を取る‼︎ さァ、公主様を捕まえろ‼︎」

 

 文官が叫ぶと、娘々が後ろから何者かに羽交い締めにされる。

 

「兎月⁉︎」

 

 それは、娘々の身代わりで捕まった兎月だ。目は虚ろになり、焦点が合ってない。

 

「ハハハハ! 兎月は、ウラ様により感情を消されて忠実な傀儡と化したのよ‼︎ 今や、自分が何者かさえ分かって居らぬわ‼︎」

「クッ…‼︎ 卑怯な…‼︎」

「戦とは、(ここ)を使うのだ! 頭をな…‼︎」

 

 文官は狂った様に高笑いを上げる。兎月を人質に取られたばかりか、術中に操られてしまった。これでは、無闇に手を出せない。大神の嫌な予感が当たってしまった。

 だが、その際に虎牙が兎月の頭を打ち据えて、昏倒させた。

 

「虎牙⁉︎」

「此処は私にお任せを‼︎ 娘々様は、早くオルグドラシルへ向かって下さい‼︎」

 

 虎牙は言ったが、彼もまた負傷している身である。満足に戦える様な状況では無いのだ。そんな中、彼は敵の注意を引き付けると言う最も、損な役回りを買って出たのだ。

 

「でも、貴方だって……」

「私は、この国の軍人です! 貴方様を守れずに、何が軍人ですか⁉︎」

 

 心配そうに声を掛ける娘々に対し、虎牙は猛々しく叫ぶと文官の前に立ちはだかり、剣を構えた。

 

「き、貴様……瓏国の未来の皇帝に剣を向ける気か⁉︎ これは立派な反逆だぞ⁉︎」

「黙れ‼︎ 反逆者は貴様達だ‼︎ 私が仕えるのは、後にも先にも皇帝陛下と娘々様だけだ‼︎」

 

 虎牙の目には瓏国に長きに渡り仕えてきた軍人としての、強い矜恃と信念が輝いていた。文官は、ニヤリと悪辣な笑みを浮かべる。

 

「そうか……ならば、貴様もまた極刑だ‼︎ オルゲット共‼︎」

 

 文官が命令を出す。すると、オルゲット達が湧き出てくる。

 

「瓏国を仇成す者達を、纏めて殺してしまえ‼︎」

「ゲットゲット‼︎」

 

 オルゲット達は棍棒を振り上げながら、襲い掛かってくる。

 

「さァ、来い‼︎ 俺が相手だ‼︎」

 

 虎牙は、オルゲット達に斬り掛かる。流石、武官である虎牙……低級のオルグであるオルゲット程度なら、軽くいなしてしまう。だが、いかんせん虎牙は手負いである。長時間は保たないだろう。

 

「娘々様、早く‼︎ お前達! 娘々様に万が一の事が有れば、末代まで祟るぞ‼︎」

 

 しかし、傷の痛みを押し殺し虎牙は果敢に向かって行く。彼の犠牲を無駄には出来ない。娘々は……

 

「皆さん! 此方です!」

 

 と、陽達を呼び寄せる。

 

「……陽、力丸、行くぞ!」

 

 大神は二人に呼び掛ける。だが、陽は孤軍奮闘する彼を置いては行けない。

 

「……でも‼︎」

「陽‼︎ あの男の勇気ある行動を無駄にする気か⁉︎ ワシ等まで捕まれば、この国に未来は無い‼︎ 早くせい‼︎」

 

 戸惑いを隠せない陽に対し、佐熊は叱咤する。

 陽は決意した。今、自分が立ち止まれば、多くの人々が涙を流す事となる。祈や大切な者を守る為、ガオレンジャーとなった……。だが、それだけでは無い。この力を、自分と関わりの無い人々をも守る為に使う……そう決意した筈だ。

 

「虎牙さん……どうか、死なないで‼︎」

 

 陽は走り去りながら、囮役となった虎牙に叫ぶ。彼は背中越しに頷き、オルゲット達に向かって行った。

 

 

 

「ハァ……ハァ……‼︎」

 

 王宮の門前では、メラン・民衆とハンニャ・オルゲット達による戦いが繰り広げられていた。オルゲットを相手にしていた狼尾達も勇敢に戦ったが、実戦経験に乏しく無い彼等では、オルゲットと言えど歯が立たずに居た。

 メランは、ハンニャを相手にしながらも、オルゲット達を斬り捨てていくが、民衆の者達には目もくれなかった。飽くまで、目の前の敵を相手にするだけだ。

 

「ホホホ…! 強い、強いでおじゃるなァ…! 」

 

 ウラは、メランの強さに感心していた。彼は残忍なオルグではあるが、自身が認めた者には、それなりの敬意を払う度量の深さもある。

 

「……その方、メランと言ったな? それだけの力を持っているなら、麿の配下と成らぬか? 今、配下に降るなら、その強さと胆力に惚れて、丁重に扱ってやるが…」

「興味ない……我は元々、誰かの下に付くのを好かぬ。我の目的は……あのガオゴールドとサシで戦い、勝利を掴む事!

 貴様の配下に降る気など更々、無いわ」

 

 メランは、ウラ直々の勧誘を一蹴した。彼にとって、強大な力を持ったハイネスも、世界を支配し得るであろう権力も、紙屑同然。しかし、そんな様子にウラは高らかに笑う。

 

「ホッホッホッ‼︎ 鼻息の荒い……益々、配下に欲しくなったでおじゃる‼︎ ハンニャ……メランを生かしたまま、捕らえよ‼︎」

「御意に! ウラ様!」

 

 ハンニャは、ウラから受けた命令を全うする為、急襲して来た。だが、メランは詰まらなそうに受けた。

 

「……それが、貴様の全力か? 先程の修羅の如し、強さはどうした⁉︎ 我を退屈させるな‼︎」

「……黙れッ! ウラ様の忠愛は貴様には渡さん‼︎ 」

「ふん……女の嫉妬か……般若とは、情念を拗らせた女の姿とか……くだらん」

 

 ハンニャの、ウラに対する忠誠心に対し、メランは面罵した。

 

「嫉妬……そうだ‼︎ 愛深すぎる故の嫉妬だ‼︎ 私は、ウラ様の愛の為に生き、ウラ様の愛の為に戦うオルグ! それが私、ハンニャだ‼︎」

「愛の為に戦う‼︎ この上無く、くだらん‼︎ オルグが愛だ、忠義だと戯言を抜かすな‼︎」

 

 メランは、不愉快極まりない、と言わんばかりに一喝した。

 己の戦いの為に刃を奮うメランと、ウラへの忠愛の為に刃を奮うハンニャとでは、思想も生き方も対極にある。従って、似て非なる存在である互いを、妥協する事が出来ないのだ。

 そうして、ハンニャは大剣でメランを両断にせんとするが、メランは黒い炎を剣に纏わせる。

 

「我が太刀、冥府の焔を刃に纏いて、森羅万象を焼き尽くす煉獄と為さん‼︎ 焦熱…一閃‼︎」

 

 そう叫ぶと、メランは炎の剣で横に一した。その途端、放たれた炎は斬撃と化し、振り下ろされたハンニャの大剣ごと、彼女の胴体を真っ二つにした。

 

「ぐ…ああァァ…」

 

 ウラの近くまでに吹き飛ばされたハンニャは苦しげに呻く。斬り捨てられた下半身は、地べたに転がるが、直後に燃え上がり灰となってしまった。

 

「う……ウラ……様……‼︎」

 

 上半身だけになりながらも、ハンニャはまだ生きていた。

 しかし、虫の息である事には変わらず、息も絶え絶えになりながら、ウラに助けを求める。

 

「……う、ウラ様……お助け…を……」

 

 ウラならば助けてくれると願い、ハンニャは手を伸ばす。しかし、ウラは冷たい視線を向けたまま、扇子を構える。

 

「……見苦しいでおじゃるな……麿は醜い者は嫌いでおじゃる……」

「う…ウラ様…⁉︎」

 

 ハンニャは我が目を疑う。忠誠を誓い仕えて来た筈の主の口から吐かれた辛辣な言葉に、ハンニャは耳を疑う。その瞬間、扇子に仕込まれた刃が首に突き刺さり、首を弾き飛ばした。首は、ウラの足の下に転がって来た。

 

「……役に立たぬなら、目障りにおじゃる……」

 

 冷たく嘲笑いながら、ウラは右足を持ち上げて、ハンニャの首を踏み潰した。

 

「……消えよ、ゴミが……」

 

 そう吐き棄てつつ、ウラは首をグリグリと踏み躙る。その様子に、メランは見るに耐えない様子で睨む。

 

「……敗者を愚弄するとはな……反吐の出る奴だ……」

「ホホホ……そなた、オルグでありながら、他者を思いやる気持ちがあるのか? 実に滑稽でおじゃる」

 

 ウラは小馬鹿にした様子で、メランに言った。だが、メランはその嫌味に対し、肩を竦める。

 

「思いやる気持ち? 何度も言わせるな、我の望みは強者との戦いよ……オルグである己が、どこまで強くなるか……どこまで高みを目指せるか……其れを推し量りたいだけだ」

 

 メランは不敵に笑う。彼は高潔であると同時に、ひたすら強さを求道し戦いに身を委ねる事を好む根っからの戦士気質なのだ。ウラの様な弱者を踏み躙り、甚振る事を至高とする者には露骨な嫌悪を隠さない。

 

「ホホホ、勇ましい事よ……麿の下に付けば、そなたの望み通りとしてやるものを……。まァ良いわ、麿に仕えるも自由、拒むも自由……だが、忘れるな。やがて、この世界を支配し尽くすであろう麿こそが、最強のハイネスであると言う事を‼︎ そなたは後じゃ……先ずは王宮に忍び込んだネズミ共を始末してから、そなたを料理してやろう!」

 

 傲岸不遜に吐き棄てつつつ、ウラは鬼門の中に消えていった。残されたメランは、クックッと笑う。

 

「……貴様が、最強のハイネスだと? たわごとを……貴様は、ガオゴールドを何も分かっていない……。さて……お膳立てはしてやった、後は貴様がやるんだな……我が終生の好敵手ガオゴールドよ……」

 

 メランの口から出された言葉は、敵である筈のガオゴールドへの挑発にも激励にも似た不思議な言葉だった。

 戦いに疲れ、気を失った民衆達を尻目にメランは鬼門の中に消えて行った……。

 

 

 王宮内では、虎牙が奮戦していた。手に持った剣一つで、オルゲット達を迎え撃っていたが、やはり手負いの状態で戦いに挑むのは、無理があった。

 更に間の悪い事に、既にオルゲット達を斬り捨てた影響で剣は刃毀れで壊れる寸前だった。

 

「ハハハハ‼︎ 虎牙、もう観念せい‼︎ 貴様は、もう虫の息だ‼︎」

 

 文官は勝ち誇った様に笑った。虎牙は悔しげに唸る。

 今や、虎牙は完全に追い詰められていた。オルゲット達の半数は減らしたが、それでもまだ数は多い。

 

「ハァ…ハァ……黙れ……‼︎ 私は瓏国の軍人だ……国を仇為す者達から国を守る使命がある……‼︎」

 

 誇り高い軍人である虎牙は、例え死の淵に追い詰められ様とも敵に首を垂れる真似はしない……そう言う強い意志を持ち合わせていた。

 

「そうか……貴様の部下も同じ様な、頑固な連中だったよ……忠義だ、正義だと宣った末に、ウラ様へ仕える事を頑なに拒否しよった……つくづく、莫迦な連中だったよ……」

「⁉︎ 貴様、私の部下達に何を……⁉︎」

 

「ホホホ……それは、そなたが知る所では無い……」

 

 突如、背後から響く声……虎牙は振り返ると、ウラが邪悪な笑みを浮かべていた。

 

「そなたは、此処で死ぬのだからな……」

 

 そう言って、ウラは扇子で虎牙を複数回に渡り斬り付けた。

 

「ぐ…ああァァ……!?!」

 

 斬り傷から血が噴き出し、血だるまとなる虎牙。彼は足元に出来た血溜まりに沈んで行った。

 

「オオ、ウラ様⁉︎ ありがとうございます、助かりました‼︎」

 

 文官は、ウラに露骨な迄に愛想良く笑う。しかし、ウラの目は冷徹だ。

 

「ガオレンジャー達は、どうした?」

「は⁉︎ あ、奴等は王宮内に……」

 

 ウラの静かな怒りを感じ取った文官は、思わず後退った。

 

「あ、あの……! 必ず、奴等は捕まえますので今暫し、お待ちを……」

「その必要は無いでおじゃる」

 

 と、ウラは右手を上げた。すると後ろから伸びて来た腕に文官は捕まった。

 

「むぐッ⁉︎」

 

 それは赤い腕をしたオルグだった。文官は見上げると巨大な目がギョロリと睨んで来た。

 

「な……ウラ様、約束が違うじゃ無いですか……! 私と貴方様で、この国を共に支配しようと……!」

「ホホホホホホ‼︎ そなたは最初から麿の手の内で踊っていたのでおじゃるよ! それとも……他人から借り受けた力で王になれるとでも思っていたのかえ? 小賢しい虫ケラが……そなたは、オルグドラシルが程よく成長する時までの繋ぎでしか無かったのでおじゃる!」

 

 ウラの無情な言葉を聞いて、漸く自分が騙されていた事に気付いた。やがて、自身を締め付ける腕に力が籠る。

 

「は…ハハ……何と短い野心(ゆめ)だった事か……」

 

 最初から最後まで、自分は王にはなれなかった。いや、元より自分は王となる器では無かった。過ぎたる野心と虚栄心が、真実を見据える心眼を曇らせ、己の命を縮める結果となったのだ。文官は、自嘲気味に乾いた笑い声を上げた。

 

「殺れ」

 

 ウラは気怠げに言った。その刹那、廊下にボキッと嫌な音が響き渡り文官の首は360度、回転する。それが、鬼に魂を売った男の惨めな末路だった……。

 

 

 

 陽達は娘々に案内され、王宮の中を走る。王宮内は非常に広く、同じ様な廊下や扉が多い為、迷いそうになった。

 だが、娘々は王宮内を把握している為、迷う事なく案内してくれた。やがて、中庭へと通ずる扉を見つけた娘々は指をさす。

 

「あの扉です‼︎ 急いで‼︎」

 

 娘々に急かされ、陽達は扉を開いた。其処は見事な迄に広い庭園となっていた。

 

「こんな広い庭園が……」

 

 王宮と、ほぼ同等か其れ以上の広さの庭園に陽は驚く。

 

「本来なら、此処は皇族の園遊会が行われる場所でした……あれが出来る迄は……」

 

 娘々が険しい表情で見つめる先には、巨樹オルグドラシルが間近にてそびえ立っていた。

 高層ビルディングを優に上回るオルグドラシルを中心に、庭園に生えている草木は枯れ果て、地面もヒビ割れている。本来なら水が揺蕩っているであろう池の水も、今は仄暗く濁っている。恐らく、この巨樹を中心に瓏国の生命力を吸い尽くされているのだろう……。

 

「あの樹の根本に、この獣皇剣を刺せば……‼︎」

 

 陽は獣皇剣を携え、駆け出す。だが、それを阻むかの様に樹の根が地から突き出て来た。

 

「な、樹の根が⁉︎」

 

 陽は驚く。このオルグドラシルが、まるで自分を焼かせまいと拒んでいるみたいだった。

 

 

「ホホホ……そのオルグドラシルは、邪気の塊……即ち、樹そのものがオルグであるのじゃ!」

 

 

 突如、声の方を振り返ると、ウラがオルゲット達を率いて迫って来た。

 

「ウラ‼︎」

「久しいのォ、シロガネ……いや、狼鬼と呼ぶべきかのォ?」

 

 ウラの姿を見た大神は、かつての仇敵を睨むが、ウラは反対に揶揄う様な口調だ。

 

「俺を、その名で呼ぶな!」

 

 大神にとって、かつての己が変じた姿、狼鬼の名で呼ばれるのは屈辱でしか無い。まして、ウラには自身を手駒として使役された恨みがあるのだ。

 しかし、ウラは優雅に笑うのみだ。

 

「相も変わらず、人のフリをして人の為に戦っておるのか? そなたにとって、守る様な者など何一つ、居なかろうに……」

「俺は、ガオの戦士だ! 俺が戦うのは、地球の為! そして生きとし生きる者達、全ての為だ!」

「何故、貴方が此処に⁉︎ 生きていたの⁉︎」

 

 テトムは尋ねた。確かに、ウラはガオレンジャーとの戦いに一度、敗れて死亡したが、ツエツエの陰謀で他のハイネス共に復活、そして強大なハイネス、センキとしてガオレンジャーを窮地に追い詰めた。だが、ガオレンジャーの信じる力、全てのパワーアニマル達の力で、センキの肉体は滅び、ウラの魂も鬼地獄に送還された筈だ。

 

「麿が何故、生きているか? それはの、ガオの巫女……麿は、あの戦いの後、再び鬼地獄に閉じ込められた。

 肉体を失い、魂のみで彷徨うばかり……しかし、麿の魂は消滅はしなかった……憎き、ガオレンジャーに復讐を果たす迄は麿は末代まで存在してやる……その執念のみが、麿を繋ぎ止めた……そんな中、麿の前にある男が姿を現した……奴は、麿を蘇らせ肉体を与えてやる代わりに、地球とは異なる世界をオルグで覆い尽くせ、と言ってきた……」

 

 ウラは扇子を仰ぎながら語り始めた。やはり、ウラは死んだのだ。だが、そんな彼を蘇らせた者が居たのだ。

 

「麿には断る理由が無かったでおじゃる……すかさず麿は蘇り、この瓏国に降り立った……。しかし、最初から行動を移した訳では無い……先ず手始めに、かの鬼地獄より持ち込んだオルグドラシルを地に植え、大地を侵食させた。次に皇帝に呪いを掛け、病とした……人間共の混乱する様は、見ていて愉快だった。そなた達にも見せてやりたかったでおじゃる」

 

 陽は、獣皇剣が掌に食い込む程に強く握り締めた。そうしなければ、湧き出てくる怒りを押さえられ無かったからだ。

 

「しかし……随分と骨を折ったでおじゃる……オルグドラシルが充分に成長する前に焼かれでもしたら、計画は破綻してしまう……。其処で、麿は緑鬼と言う名で人間に擬態し、王宮に忍び込んだ。

 案の定、皇帝の病とオルグドラシルの被害にて王宮の官吏共は正常な判断を下せなんだ……。麿は皇帝や無能な官吏共に代わり、王政を取って見せた。病に苦しむ皇帝の名代としてな……愚かな民衆共は、麿を信用した。

 後学の為、そなた達に良い事を教えてやろう……人間を支配するのに力は必要無い……隙を突けば良いのだ。

 麿は慌てふためく人間共の隙に入り込んだ……不安、ほんの僅かな恐怖……そこを突けば、後は簡単におじゃる……瞬く間に人間共は、麿を信用した……一年経った頃には、もう誰も麿のやり方を否定しなくなった……お陰で、オルグドラシルは見る見る間に成長、巨大化した……。

 全てが上手く事を運んでいたと言う時、そなた達が現れた……だが、麿の知るガオレッド達では無く、ガオシルバー達だけと言う事には些か驚いたが……」

 

 一旦、言葉を切るウラ。だが、直ぐに邪悪に笑った。

 

「しかし……麿にとっては好都合におじゃる……そなた達を始末してしまえば、麿には敵など居ない……この世界は丸々、オルグの楽園となるのじゃ」

「本当にそうなると思うのか?」

 

 陽は内から湧き立つ激情を抑える為、冷静を装いながら話す。

 

「お前は、ガオレンジャーに負けたから……ガオレンジャーを恐れているから、彼等の居ない世界に隠れているだけだ!

 ただ、逃げ隠れしているだけの小物が、いい気になるな! 汚らわしい‼︎」

 

 陽の挑発めいた言葉に、ウラの余裕は崩れた。

 

「麿が逃げ隠れしている小物、じゃと…⁉︎ 小童が聞いた風な口を叩きおって……‼︎ 良かろう、ならば、その小物の力を見せてやる…‼︎」

 

 と、ウラは指を鳴らす。すると後ろに現れた鬼門から出てくる二つの影……。

 

「な、あれは⁉︎」

 

 大神、テトムは驚愕する。それは、ウラ同様に、かつてガオレンジャーが対峙した者達だからだ。

 

「シュテン⁉︎ ラセツ⁉︎」

 

 一人は、ウラと同格のハイネス・デュークである赤い体色に巨大な単眼と目に似た紋様を持つ鬼、シュテン。

 もう一人は、最後にガオレンジャーと対峙した青い体色に目を持たず顔と胸部に巨大な唇を持つ鬼、ラセツ。

 何れとも、ガオレンジャーと戦い、圧倒的な力を見せたが、最後は倒された曲者達だ。

 だが、どうも様子が変だ。シュテンとラセツからは、ウラの様に感情が感じられない。それ所か、頭部にある筈のオルグの誇りたる角が無い。

 

「ホホホ、此奴等は本物では無いでおじゃる。麿が造った泥人形に邪気を込めた紛い物、故に角も無ければ感情も無い……。しかし……強さは本物と遜色無いでおじゃるよ?」

 

 ウラの言葉に戦慄する大神。ウラ個人だけでも手強いのに、シュテンとラセツまで揃われてしまえば分が悪過ぎる。

 

「ガッハハハ‼︎ コイツは大変な事になったのゥ‼︎」

「力丸! 笑っている場合じゃ無いぞ‼︎ 奴等は強い‼︎」

 

 佐熊は、カラカラと笑うが、2人の強さを知る大神は注意を促した。

 

「だったら……陽‼︎ 早く、獣皇剣を突き刺せ‼︎ 奴等は、ワシ等に任せておけィ‼︎」

 

 そう言って、佐熊は錫杖を構える。この場合、陽に獣皇剣を突き刺させる迄、自分達が時間を稼ぐ事が得策と考えたのだ。

 

「……ああ、そうだな……陽、急げ‼︎」

 

 大神もムラサキの守り刀を構えた。だが、相手はハイネスだ。長時間は保たないだろう。

 陽は意を決して、走り出す。グズグズしている暇は無い。だが、オルグドラシルの根が陽を狙い攻撃してきた。

 だが、遠方より飛んできた火球が木の根を焼き払った。

 

「え⁉︎」

 

 陽は違和感を感じたが、今はそれ所では無い。木の根を潜り抜け、オルグドラシルの真下にやって来た。後ろからは木の根が迫る。陽は獣皇剣の刃を木の根本へと突き刺した。

 

「や…やった‼︎」

 

 獣皇剣に嵌められた宝珠が光り輝き、オルグドラシルは苦しそうにグネグネと根が動く。

 と、その際、オルグドラシルの根本から光が漏れ出す。思わず、陽は下がると、その光が辺りを覆い尽くす邪気を祓い始める。

 よく見れば、G -ブレスフォンに光が戻る。全身にガオソウルが行き渡っているのを理解した。

 

「皆‼︎ 今なら、変身出来る‼︎」

 

 陽は叫ぶ。シュテン、ラセツの攻撃を受けていた二人も頷き後退した。

 

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 

 三人は、G -ブレスフォンを起動させた。そうしてる間に、三人の身体はガオスーツを着用し、ガオの戦士が復活した。

 

「天照の竜! ガオゴールド‼︎」

 

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

 

「豪放の大熊! ガオグレー‼︎」

 

 三人は口上を叫ぶ。ガオレンジャーに変身さえすれば、存分に戦える。と、思った際、オルグドラシルの根を解き分けて地上へと飛び出す光。それは天へと上昇し形を作り始めた。

 それは龍だ。光り輝く龍がオルグドラシルの頭上にて回り始めた。

 

「あ、あれが神龍⁉︎」

 

 ガオゴールドは驚愕した。だが、それ以上に驚いたのは、龍が分裂して五つとなった事だ。

 それは、ガオレンジャーとオルグ達の間隙を縫う様に降り立つ。光はやがて収まっていくと……。

 

「あ、あれは⁉︎」

 

 晴れた光の中に五人の人影が立っていた。それは、光の中から飛び出して来る……。

 

 

「灼熱の獅子! ガオレッド‼︎」

 ライオンを模した赤色の戦士が降り立ち…

 

「孤高の荒鷲! ガオイエロー‼︎」

 鷲を模した黄色の戦士が降り立ち…

 

「怒涛の鮫! ガオブルー‼︎」

 鮫を模した青色の戦士が降り立ち…

 

「鋼の猛牛! ガオブラック‼︎」

 牛を模した黒色の戦士が降り立ち…

 

「麗しの白虎! ガオホワイト‼︎」

 虎を模した白色の戦士が降り立った。

 

 

「命ある所、正義の雄叫びあり‼︎

 百獣戦隊ガオレンジャー‼︎」

 

 

 ガオレッドを中心として、戦士達は力強く名乗った。陽達3人に加え、登場した5人を合わせて8人となる。

 

 

『この地、日と月が四千と二十度、交差を果たした時、地を毒し壊す災厄が現れん……その時、地に生きる者達は、我が分身に宝珠を納め、玄武と出会わせよ……。

 我は悠久の時を経て目覚め、異国の地より召喚せし八人の戦士と共に災厄を鎮めん』

 

 

 予言に記された八人の戦士が今、降臨した。

 

 

 〜遂に集結した八戦士……それは、先代ガオレンジャー達だったのです‼︎ ウラ率いる、オルグ軍団との瓏国の存亡を賭けた戦いが今、幕を開けたのです‼︎〜



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quest SP6 神龍、吠える!

今回は二話、同時に掲載にてお送り願います。



 “彼”は眠っていた。暗闇の中で……悠久の眠りに就いていた…。かつて、彼は不毛な地に降臨し、大地に草木を芽吹かせ、動物達に叡知を与えた。

 やがて、彼等は小さな集落を作り、命を育んで数を増やしていった。やがて、集落は町となり、時を経て国となった。

 彼は、壮大となった国を見届けると自身の分身を宝珠に封じ込めて大地の底で眠りに就いた。万が一、国に仇為す者が現れた時は、降臨し力を貸す為に……彼は眠りに就いた。

 だが百年、二百年経っても平和の日々が続く。彼は眠りながらも熟考した。最早、自分を必要とはしていない…と…。

 ならば、世界が終焉を迎える日まで、眠り続けるのも一興…彼は、そう言う結論に至り、深く眠り続けた。

 あれから、何年…いや、何十、何百と経っただろうか? ふと、彼は自身を呼ぶ声に耳を傾けた。

 聞き違い等では無い。確かに、自分を呼んだ。地上で何が起きているのか、彼には知る由もない。現に、彼が眠りに就いた日から自分を呼び覚まそうとした者は居ない。

 しかし…誰かが自分を必要としている……だが、身体を動かそうにもピクリとも動かない。

 彼は自分の身体を見て驚く。幾多にも及ぶ木の根が、身体に巻きついている。鬱陶しい為、引き千切ろうと試みたが、根は強固に巻きついており、離れてくれない。

 更には、自身の眠る辺り一帯が枯れた様に固まり殊更、動きを鈍らせている。

 これには、流石に違和感を感じずには居られなかった。自分が眠っている間、想像を絶する事態が起きたのかも知れない。それを確かめ様にも、身体に巻き付く根が邪魔をする。

 どうするべきか考えあぐねていると、その根を伝わって力が流れ込んで来る。

 それが何かは分からない。だが、その力は奔流の様に彼の身体に流れ込み、力が見る見る内に満たされて行くのが分かる。彼は身体を動かして見た。すると、根は紙を裂くかの様に簡単に千切れた。今度は頭を動かす。首を締め付けるかの様に巻きついていた根は切れた。

 どうやら、自分を邪魔する物は無くなったらしい……彼は、上昇を始めた。何が起きているかは分からない。だが……必要とされた以上は、答えねばならない……その為に、己が力の一部を地上に置いて来たのだ……彼は上昇を続ける。自分を呼ぶ声に応える為に……。

 

 

 城下でも人々は騒ぎ立てていた。王宮に賊が侵入、若者達が化け物相手に戦いを挑んだと、天地がひっくり返った様な騒ぎとなっていた。

 万狗は、火の手が上がる王宮を見て、目を丸くする。

 

「母ちゃん‼︎ 大変だよ、王宮が‼︎」

 

 母親を呼び出して、王宮を指差す。母親も、息子の見る方角を見て、事の顛末を理解した。

 

「あの子達……遂にやっちまったんだね……! 何て、馬鹿な真似を…‼︎」

 

 母親は、狼尾達が遂に反乱を起こしたのだろうと勘違いした様だ。万狗は、ウズウズし出す。

 

「母ちゃん……僕……‼︎」

「駄目だよ、万狗‼︎ 子供の行く所じゃ無い……アンタはここに居な‼︎」

 

 と、母親に叱責された。先程、佐熊に反乱に加わるのを止められ、彼は家に帰った。

 まだ幼いながらも、自分が居なくなれば母親と妹が悲しむ事を佐熊に教えられたからだ。

 だが、狼尾達は反乱を起こしてしまった。万狗は弱い自分を呪った。その際、母親が表に出て行く。

 

「か、母ちゃん⁉︎」

 

 母親の後を追い、万狗は外に飛び出す。すると目の前に、地べたに跪き祈りを捧げる母親の姿があった。

 

「母ちゃん、何やってるの?」

「神龍様に祈りを捧げているんだよ!」

 

 母親は一心不乱に祈っていた。万狗は母親に食って掛かる。

 

「……母ちゃん! こんな時に…‼︎」

「こんな時だからだよ‼︎ もう、私達に出来る事なんか何も無い……神龍様に縋るしか無いじゃないか!」

 

 母親の言葉に万狗は悟る。もう神に縋らなくちゃ、どうにもならない瀬戸際まで立たされているのだ。

 周りを見れば、家から出て神龍様に祈る者達が多々、居た。

 万狗は神龍と言う存在を信じていなかった。所詮、この世に神様なんて居ない……あるのは、抗いようの無い不条理……それだけだと思っていた。

 奇跡なんて願うだけ無駄だ……皆、自分を守るだけで手一杯だった。それは、万狗も例外じゃ無かった…。

 だが……もし本当に居るなら……神龍が本当に居て助けてくれるなら……。

 気が付けば、万狗も母親の横に跪いていて、祈り始めた。

 

「(お願いします……本当に居るなら……もし本当なら……母ちゃんを…薫々を…この国の皆を助けて下さい、神龍様‼︎)」

 

 信じていなかった……実を言えば、今でも信じていない。

 しかし……もし、本当に神龍が存在しているなら、今の状況から自分達を救ってくれるなら……少年は強く誓った。この国の為に尽くす人間になると……少年は強く願った。だから……奇跡を起こして欲しいと……‼︎

 その際、大地が凄まじく揺れ始める。万狗は突然の地震に驚くが、彼の目の前に目を疑う物が映った。

 王宮を覆い尽くさんとするオルグドラシルの前から立ち昇る光り輝く龍……龍は、巨樹の真上にまで上昇すると、五つに分身して降りて行った。

 

「…し、神龍…?」

 

 万狗は存在しないと諦めていた神龍の存在を目撃した。

 

 

 

 その頃、王宮では……。

 ガオゴールド達は自分達の目の前に立つ五人の戦士……それは、かつて地球をオルグ達から守り抜いた歴戦の勇者、ガオレッドを筆頭とするガオレンジャー達だった。

 

「な…なんと⁉︎ これが、予言の八戦士だと⁉︎」

 

 流石のウラも、これには凝視するしか無い。此処には存在しない筈のガオレンジャー達が全員、集結を果たすとは……。

 

「ああ…言い伝えは本当だった…! 八戦士が来て下さった…!」

 

 娘々は感嘆の涙を流す。しかし、ガオシルバーは目の前に現れた彼等が今、戦える状況に無い事をしている。

 ガオゴールドもそうだ。かつて、ガオゴッドから彼等が敗北した後、行方不明になってしまった事を知らされた。

 だが……今は、そんな事はどうだって良い。共に戦ってくれる戦士が駆け付けてくれたのは心強い。これなら、ウラ率いるハイネス三人衆に対抗出来るかも知れない。

 ガオゴールドはドラグーンウィングを構え、号令を掛けた。

 

「皆、行くぞ‼︎」

 

 ガオゴールドの言葉に、ガオの戦士達は臨戦態勢に入る。だが、ウラも負けてはいない。

 

「えェい‼︎ 当初と予定は違うが……ガオレンジャー達を血祭りに上げよ‼︎ 行けェ、オルゲット達よ‼︎」

 

 ウラはオルゲット達に命令を下した。オルゲット達は一斉に武器を構えて攻撃を仕掛けて来た。それに合わせて、ガオレンジャー達も仕掛ける。

 

「ブレイジングファイヤー‼︎」

 

 ガオレッドが、ライオンの顔を模した鉄甲ライオンファングを両手に装着し、ガオソウルを纏わせながら袈裟懸けに奮い、オルゲット達を叩き伏せて行く。

 

「ノーブルスラッシュ‼︎」

 

 ガオイエローが、鷲の横顔を模した長剣イーグルソードを装備し、ガオソウルを纏わせた斬撃をX状に放ち、オルゲット三体を斬り捨てていく。

 

「サージングチョッパー‼︎」

 

 ガオブルーが、鮫の背鰭を模した二振りの短剣シャークカッターを用いて、ガオソウルを纏わせた斬撃を左右から奮い、オルゲット二体を一閃する。

 

「アイアンブロークン‼︎」

 

 ガオブラックが、牛の顔を模した手斧バイソンアックスにガオソウルを纏わせ、力強く振り下ろし、オルゲットを斬り裂いて行く。

 

「ベルクライシス‼︎」

 

 ガオホワイトが、両端が虎の顔を模した根タイガーバトンにガオソウルを纏わせ、オルゲットの腹部、顔面を打ち据える。

 

 五人の戦士達は各々に、オルゲット達を近付かせまいとした。ガオゴールドは、彼等の勇姿に目を張る。

 

「凄い……‼︎ これが、ガオレンジャーなのか…‼︎」

 

 まだ、自分が産まれる前に戦った伝説の戦士達……話に聞いていたが、これ程とは……。

 

「ゴールド‼︎ ボーっとしとる場合か‼︎ ワシ等も負けてられんぞ‼︎」

 

 ガオグレーが、オルゲットを投げ飛ばしながら、ガオゴールドに叫ぶ。その声で漸く、ゴールドは我に返った。

 

「銀狼満月斬り‼︎」

 

 一足早く、ガオシルバーは駆け出し、ガオハスラーロッドをサーベルモードにして、オルゲット達を次々、斬り倒して行った。

 

「ガハハハ! 大神の奴、張り切っとるのォ‼︎ どれ、ワシも! 大熊豪打‼︎」

 

 ガオグレーも、グリズリーハンマーをバットの様に振り回してオルゲット達を吹き飛ばしていく。

 

「竜翼日輪斬りィ‼︎」

 

 ガオゴールドも、ドラグーンウィングを構えて、オルゲット達を斬り倒して行く。瞬く間に、オルゲット達の数は減って行った。

 

「……」

 

 だが、ウラはそんな状況ながらも顔色を変えず、黙したまま傍観していた。だが、その顔は悪巧みを考える様な邪悪な顔だった。

 

 

「す…凄い…」

 

 テトムと共に後方に退がっていた娘々は、ガオレンジャー達の強さ見て、素直に驚いていた。

 あの化け物を相手に正面から渡り合う戦士……正しく、自分達が待ち望んだ者達だった。

 

「一体、あの方達は?」

「……ガオレンジャー……」

 

 テトムが、ポツリと呟く。娘々は彼女の顔を見る。

 

「テトムさん?」

「…ガオレンジャーが…帰って来たわ…」

 

 何時しか、テトムの瞳から一筋の涙が浮かんでいた。

 彼女は思い出していたのだ。かつて、共に戦っていた戦士達が陽達と共闘している姿を見て、十九年前の戦いを……。

 

「……彼等なら、やってくれるわ……十九年前の、あの時の様に……」

 

 そう……十九年前もそうだった。危機的な状況に関わらず、彼等は立ち向かった。正に今と同じだった……全てのハイネスを倒し、最後のオルグを倒したのも束の間……倒した筈のハイネスが復活し、更には最強のオルグ、センキの登場で希望から絶望に叩き落とされた……その上、全てのパワーアニマルが消滅してしまうと言う窮地に立たされたが、彼等は最後まで挫けなかった。そして、復活したパワーアニマル達の力を借りて、遂にセンキを討ち滅ぼした。

 あの時と同じく、ガオレンジャー達が集まったなら、きっと勝てる。そう信じさせてくれる。

 

「大丈夫よ……皆を信じて……‼︎」

 

 テトムの言葉を受けた娘々は、強く希望を抱いた。

 

 

 

「さァ……後は、お前達だけだ‼︎」

 

 オルゲット達を全員、倒したガオゴールド達は、ウラの前に立つ。

 

「ホホホ……‼︎」

 

 しかし、ウラは気に止める様子もなく北叟笑むだけだった。

 

「何が可笑しい⁉︎」

 

 ウラの様子に、ガオゴールドは怒鳴る。

 

「そなた達は分かって居らぬ……この、オルグドラシルが此処に立つ意味を……オルグドラシルよ‼︎ 大地を吸い尽くせ‼︎」

 

 ウラが命を下すと、オルグドラシルは共鳴するかの様に蠢いた。すると、木の根が水を得た魚な様に地中で這い回った。

 

「な、何を⁉︎」

「何の事は無い……オルグドラシルの張り巡らせた木の根は、今や国中に広がっている。つまり……この国に立つ物全てが、オルグドラシルは養分となるのでおじゃる」

「それは、つまり……」

「そう……今、オルグドラシルが国中の人間達の命を地脈から吸っているのでおじゃる」

 

 ウラの言葉に、ガオゴールドは驚愕した。

 

「ホホホ……嘘だと思うなら……耳を済ませて聴いてみよ……。国中の者達の悲鳴が聞こえて来るぞよ」

 

 

 ガオゴールドは、その言葉に従って自身の聴力を集中させた。すると……。

 

 〜ああ……苦しい……‼︎〜

 

 〜た、助け…て…‼︎〜

 

 〜だ…誰か…‼︎〜

 

 人々の苦しみに喘ぐ姿が耳に入った。ウラは、さも愉快そうに嗤う。

 

「ホーッホホホ‼︎ 人間共の苦しみ呻き嘆く声は聴いていて実に爽快におじゃるよ‼︎ ホーッホホホ‼︎」

「や、止めろ‼︎ こんな事、今すぐ止めさせろ‼︎ お前の敵は僕達だ‼︎ 街の人達は関係無い筈だ‼︎」

 

 余りにも下衆なやり口に、ガオゴールドは激昂した。だが、ウラは嗤うだけだ。

 

「何を言う……これは見せしめにおじゃる……麿に逆らえば、どうなるか……最も分かり易い形で表しているのじゃ。

 それに、もう遅い。オルグドラシルは一度、養分を吸い出せば、その場所が枯渇する迄、止まる事は無い。これ迄は、地脈より少しずつ吸っておったが……今や、その吸い上げる速さは、この国を半日で砂漠に帰るじゃろう…」

「は、半日…⁉︎」

 

 その言葉に、ガオゴールドは絶句した。このままでは、瓏国は半日の間に、死の世界と化してしまうからだ……。

 

「ガオゴールド‼︎ あの樹を焼いてしまえば…‼︎」

 

 ガオシルバーが提案した。確かに、所詮は樹だ。焼けば崩れ落ちてしまう筈だろう……!しかし、ウラは大笑いした。

 

「ホーッホホホ‼︎ そなたはうつけか、シロガネ? あんな巨大な樹を焼き払う等……ましてや、あれは国中から得た命を養分としている……お前達が火を点ける間に、ぐんぐん成長するじゃろうな。諦めよ……最初から、そなた達に勝ち目は無かったのでおじゃるよ」

「クッ…‼︎」

 

 これもダメ……だが、何か方法はある筈だ。しかし、考えている暇は無い。このままじゃ、国中の人間がオルグドラシルの餌として吸い尽くされてしまう……。時間が全然、足りない……!

 

「ホホホ……‼︎ お主達に良い事を教えてやろうぞ…! あの樹はな……まだまだ若木なのじゃ。本来は鬼地獄に充満する濃厚な邪気を吸って、天を衝かんばかりに巨樹に成長するのじゃ……この国の人間達を吸い尽くしたら、果たして、どれ程に成長するか……見物におじゃる」

 

 ウラは下卑た顔で言った。あれだけ巨大なオルグドラシルでさえ、まだ成長する余地を残している……つまり、成長すればする程に、街の人達は死んでしまう……。

 だが、自分達には手も足も出ない。完全な四面楚歌である。

 と、その時……ガオゴールドの脳裏に言葉が響く。

 

 〜天に宝珠を撃ち込め〜

 

 それは、ガオゴッドの声だ。彼が、テレパシーで伝えたのだ。ガオゴールドは迷う事なく、ガオサモナーバレットを天に向けて、宝珠を撃った。

 撃ち上がった宝珠は天まで届き……空間が歪んだ。

 すると、歪んだ中から声が響いた。

 

 〜漸く繋がったな……〜

 

 其処には巨大な精霊王……百獣の神、ガオゴッドの姿があった。

 

「千年の友⁉︎」

「荒神様⁉︎」

 

 ガオシルバーとテトムは叫ぶ。竜胆市より動けぬ筈の、ガオゴッドが姿を見せた。だが、ガオゴッドは応えず、手を振るう。すると、彼の横をすり抜ける光……それは、形を作り……。

 

「ガオドラゴン‼︎」

 

 ガオゴールドの相棒である、ガオドラゴンが姿を現した。更には、ガオワイバーンとガオナインテールを引き連れていた。

 

 〜ガオゴールド、遅くなって済まない…〜

 

 ガオドラゴンは、ゴールドを見下ろしながら詫びた。しかし、他のパワーアニマルが居ない事を訝しがる。

 

「ガオユニコーンとガオグリフィンは⁉︎」

 

 〜奴等は空間に広げた穴が閉じぬ為、向こうで耐えている……他のパワーアニマル達も協力してくれた……〜

 

 〜何じゃ……妾達では不足かや?〜

 

 ガオナインテールが不満げに言った。不足なんかでは無い……今、この状況だからこそ、非常に心強い。

 

 〜彼等も、行方が知れなくなったお前達を救う為、方々を探し回っていた……漸く、この世界との道が繋がり、此方へ連れて来る事が出来たのだ……〜

 

 ガオゴッドが説明した。彼が、ガオドラゴン達を連れて来てくれたのだ。

 

「ウヌゥ……ガオゴッド! 余計な真似を‼︎」

 

 ウラは思わぬ邪魔に恨みがましげに唸る。この状況で、パワーアニマル達の介入は分が悪いからだ。

 

「ガオドラゴン‼︎ オルグドラシルが人々の命を吸っているんだ‼︎ このままじゃ……‼︎」

 

 〜皆まで言うな……全ては、ガオゴッドより聞かされている……ガオワイバーン、ガオナインテール……行くぞ‼︎〜

 

 ガオドラゴンが命令を下す。だが、ガオナインテールは……。

 

 〜フン……トカゲが、妾に命令するな……準備など、当に出来ておるわ‼︎〜

 

 と言って九本の尾を展開した。ガオワイバーンも、二体の後方に下がる。

 その刹那、ガオドラゴンの口、ガオナインテールの尾から炎が放たれた。ガオワイバーンは後方より援助する様に、翼を羽ばたかせて突風を仰ぐ。

 すると、合体した巨大な炎がオルグドラシル全体に広がる。

 たちまちに、オルグドラシルは炎に包まれて行き、やがて灰となって朽ちて行った。

 

「あああァァァ!!? 何と言う事を⁉︎」

 

 ウラは余裕のある態度が崩れ、狼狽した。苦心の末、漸く育てた樹が一瞬の内に燃え崩れてしまったからだ。

 

「凄いぞ、ガオドラゴン‼︎」

 

 ガオゴールドは、パワーアニマル達の活躍で、災いの根源であるオルグドラシルは死んだ。これで、人々は救われた筈だ。

 

「おのれ……許さん、許さんぞ‼︎ よくも、麿の計略を台無しにしてくれたな……‼︎」

 

 だが、ウラ達は未だ生きている。奴等を倒さなくては、戦いは終わらない。

 

「……しかし‼︎ 甘いぞ、オルグドラシルを焼いても、邪気までは消せぬ‼︎ オルグドラシルに蓄えられた濃厚な邪気はな……‼︎

 さァ……全ての邪気よ‼︎ 麿の身体に集まるでおじゃる‼︎」

 

 ウラは扇子を天に翳す。すると、オルグドラシルの灰は浮かび上がり邪気と化す。その邪気は導かれるままに、ウラの身体に吸い込まれて行った。

 

「ホホホホホホ‼︎ 見るが良い‼︎ オルグドラシルの邪気を吸収し、更にはシュテンとラセツの骸も取り込む事により‼︎ 麿は更なる究極の存在へと昇華するのでおじゃるゥゥゥ‼︎」

 

 ウラの身体は、シュテンとラセツの身体を取り込む事により、見る見る巨大化して行った。やがて、邪気が晴れると……。

 

「グハハハ‼︎ 我こそは最強にして最凶のオルグ! 邪神アシュラだ‼︎」

 

 現れたウラは、より禍々しい外見と化し、顔は正面がウラ、右面がシュテン、左面がラセツ、更には腕が三体のハイネスを合わせた六本と、三面六臂の鬼神として生まれ変わったのだ。手には三人の武器がそれぞれ融合した『修羅百鬼剣』として握られている。

 体型もずんぐりしていた物から、人型に近いシャープかつマッシブな物に変化している。

 

「こうなれば最早、手加減はせんぞ‼︎ 見るが良い‼︎」

 

 アシュラが修羅百鬼剣を振ると、邪気を纏わせた斬撃が王宮の城壁を抉る。更に、アシュラが歩いた後は草木が枯れていく。

 

「な、何て禍々しい‼︎ ウラを始めとしたハイネス達の怨念が、此処まで醜悪な姿にしたとでも言うの⁉︎」

 

 ガオシルバーは、アシュラの力を見て戦慄する。

 

「グハハハァ!!! 素晴らしい、邪気が見る見る湧いて来る‼︎

 このまま瓏国の上空より、濃密な邪気を撒き散らしてやる‼︎ この国を、全滅させてくれるわ‼︎」

 

 そう言うと、アシュラの背中から六つの突起が出現し、アシュラは舞い上がる。その際、アシュラの口から煙が吐き出されたかと思えば、巨大化したハンニャが現れた。

 だが、其処に意思は無く、ただ本能に任せて暴れ回るだけの怪物と化している。

 

「さァ、ハンニャよ‼︎ ガオレンジャー共を足止めしておけい‼︎」

 

 そう言って、アシュラは舞い上がって行った。このままでは、瓏国は滅茶苦茶にされてしまう。

 

「く……‼︎ どうすれば……‼︎」

 

 アシュラを追いかけたいが、ガオパラディンには飛行能力を持たない。よしんば追いかけたとしても、ハンニャを放置しては行けない。

 その際、ガオレッド達が突然、光に包まれた。やがて、光は一体化していき、その光が晴れた中には巨大な深緑の龍が咆哮を上げる。ガオドラゴンと同等、或いは僅かに上回る程の巨体を持つ龍は、外見はパワーアニマルのそれと同じだ。

 

 〜我が名は、ガオシェンロン! 遥か昔、この地に国を創りし、レジェンド・パワーアニマルだ!異界より赴きし勇者よ! そなたの目醒めを私は待ち望んでいた……さァ、今こそ、我が力を使うが良い‼︎〜

 

 神龍改め、ガオシェンロンは名乗る。神龍の正体は、レジェンド・パワーアニマルだったのだ。ガオシェンロンの額から光が放たれ、鮮やかに輝くエメラルドグリーンの宝珠がガオゴールドの手に握られていた。

 ガオゴールドは強く頷き、宝珠をガオサモナーバレットに装填、再び撃ち上げた。

 

「幻獣合体‼︎」

 

 ガオゴールドの掛け声で、ガオシェンロンの身体は変形して行く。ガオシェンロンの頭部は分離、胴体と尻尾が三角状に倒れた。胸部に分離した頭部が装着されて、右腕をガオナインテールが、左腕をガオワイバーンが構成する。

 そして背中より、小さな龍の頭が現れ口が開くと、中からヒューマンフェイスが出現した。後方から飛来したソウルバードにガオゴールドが搭乗、精霊王の中に収納された。

 

「誕生‼︎ ガオインドラ‼︎」

 

 〜神龍と謳われたレジェンド・パワーアニマルに、炎と風を司る二体のパワーアニマルが合体する事で、雷を司る精霊の王に生まれ変わるのです〜

 

 ガオシェンロンを中心に合体し、誕生した新たなる精霊王……その名は、雷の龍王ガオインドラ。

 ガオドラゴンと同じく竜をモチーフにしたパワーアニマル、ガオシェンロンだが、その姿は騎士の姿となるガオパラディンとは大きく異なる。

 例えるなら、古代中国の武人と思しき出で立ちである。

 その際、ガオインドラの胸部の龍の口から、光が放たれた。それを受けたガオドラゴンが見る見る間に巨大化して行き、やがてガオインドラより一回り巨体な竜となった。

 ガオインドラは、そのガオドラゴンの背にサーフィンをする様に搭乗した。

 

「百獣武装! ガオインドラ・スカイライド‼︎」

 

 ガオシェンロンの力が、ガオドラゴンに新たな力を与えた。ガオインドラは飛翔し、空へと飛び上がる。それを阻む様に、ハンニャは斬り掛かろうとするが……。

 

 〜邪魔はさせん‼︎〜

 

 ハンニャの前に雷が降り注ぐ。すると、其処にはガオゴッドの姿があった。

 

 〜ガオシルバー、ガオグレー‼︎ お前達の力を貸してくれ‼︎〜

 

 ガオゴッドが語り掛けて来る。ガオシルバーは強く頷いた。

 

「お安い御用だ、千年の友‼︎ 行くぞ、ガオグレー‼︎」

「おお‼︎」

 

 ガオシルバーとガオグレーは応じ、ガオゴッドの体内に吸収された。

 ガオゴッドの中には通常のコクピットとは違う、まるで浄土の様な空間が広がっている。其処に、ガオシルバーとガオグレーは座禅を組んだ状態で搭乗していた。

 

「行くぞ、ガオゴッド‼︎」

 

 ガオシルバーが指示を出すと、ガオゴッドは頭部の角飾りを左腕のガオジャガーが咥える様に装備し、剛弓パワーアローに変形した。

 

「天誅パワーボウ‼︎」

 

 パワーアローが放たれる光の矢が、ハンニャの身体を射抜いて行く。ハンニャは苦しげに後退した。

 

「ゴッドハート‼︎」

 

 立て続けに、胸部のガオレオンの口から放たれる光線が、ハンニャに襲来した。ハンニャは大太刀で光線を受けるが、徐々に押し返されて行く。やがて、限界を迎えた太刀は吹き飛ばされてしまう。

 その一瞬を、ガオゴッドは見逃さなかった。

 

「神獣荒神剣‼︎」

 

 ガオゴッドの右手のガオソーシャークの鼻の鋸にガオソウルを纏わせる。そして、ハンニャの頭から下まで振り下ろした。

 

「が……あァァ……!!!」

 

 真っ二つに両断されたハンニャはズルリと擦れ落ちる。そして、ハンニャに背を向けたガオゴッドは一言……。

 

 〜成敗!〜

 

 と呟くと、ハンニャは倒れ、爆発した。

 

 

 

 空中では、飛翔するアシュラをガオインドラ・スカイライドにて追跡していた。ガオインドラは飛行しながら左腕のワイバーンアローを射掛けるが、アシュラは修羅百鬼剣を奮い弾く。

 

「しぶといやつめ‼︎ ならば、これならどうだ‼︎」

 

 アシュラは修羅百鬼剣の刃から邪気の弾幕を発生させ、ガオインドラに嗾けた。

 

「テールシールド‼︎」

 

 ガオインドラの右腕に持つテールウィップを展開させ、素早く回転する。弾幕は全て弾かれた。

 だが、確実に仕留めるには、アシュラの動きを止めるしか無いが、飛行速度はアシュラの方が一枚上手で、その動きを封じるのは至難である。

 

「グハハハ! 勝負あったな! この一撃で、瓏国と共に滅びるが良い! 正気……退散‼︎」

 

 修羅百鬼剣から放たれる邪気の斬撃がガオインドラを襲った。決めるなら今しかない。

 

「風雷一矢・テールスティンガー‼︎」

 

 ガオインドラは右手のテールウィップをワイバーンアローに番える。テールウィップにガオソウルを纏わせていき、光り輝く矢となった。そして、光の弦を引き絞り穿つ。

 光速の矢は、軌跡を描きながら斬撃と衝突した。ぶつかり合う正気の矢と邪気の斬撃は互いに互いを喰らい合い拮抗する。その余波が、瓏国の街にまで及び始める。

 

「クッ…‼︎ やっぱり、タイミングが早過ぎた…! このままじゃ、瓏国そのものが……‼︎」

 

 ガオゴールドは唸る。短期決戦に挑む筈が、アシュラ自体にとどめを刺すに至れる程、ダメージを与えていなかった。

 このまま拮抗し続ければ、瓏国を崩壊させてしまい兼ねない。重苦しい空気が漂う中……。

 突如、アシュラに目掛けて飛んで行く影があった。

 

「ヌゥゥ⁉︎ だ、誰だ⁉︎」

 

 アシュラは修羅百鬼剣を弾かれて後退し、テールウィップは回転しながら、ガオナインテールの口に戻る。そして、二体の前に舞い降りたそれは、翼を広げて前面を見せた……。

 

「な⁉︎ 精霊王⁉︎」

 

 それは、ガオパラディンともガオハンターとも、ガオビルダーとも違う精霊王だった。真紅のボディと巨大な翼、鳥の胸部、右腕は槍を模したオレンジ色のキリン、左腕はハサミを模した角を模した緑色の鹿、下半身はライトブルーのサイ……。

 

『ガオイカロス‼︎』

 

 ヘルメット内に、テトムの声がする。

 そう……先の戦いで、ガオレンジャーと共に戦い抜き、その強大な力で数多のオルグを滅ぼした天空の精霊王ガオイカロスである。

 

「ガオシェンロンが呼び寄せたんだ…‼︎」

 

 ガオゴールドは理解した。さっきの、ガオレンジャー達も、ガオシェンロンの力により現れた物だった……ならば、あのガオイカロスも、ガオシェンロンが……。

 

「おのれ、小癪な‼︎ 邪魔をするなら貴様から……‼︎」

 

 激怒したアシュラは、修羅百鬼剣を振り下ろし、ガオイカロスを攻撃する。だが、空を泳ぐかの様に、ガオイカロスは飛び回って躱す。更に躱し様に、アシュラの腹部に蹴りを入れた。

 

「グオォッ!!?」

 

 アシュラは不意打ちを喰らって、バランスを崩す。距離を取ったガオイカロスは身体を宙返りさせ、右足に収納されていたアルマジロ型のパワーアニマル、ガオマジロが飛び出す。

 それを、左足で狙いを定め蹴り飛ばした。これこそ、ガオイカロスの必殺技『究極天技・イカロスダイナマイト』である。

 ガオマジロは炎を吹き出しながら回転し、アシュラの修羅百鬼剣に激突、見事に破壊した。

 と、同時にガオイカロスの胸部であるガオファルコンがいななく。まるで「今だ!」と言わんばかりに……。

 

「よし……分かった‼︎ 行くぞ、ガオインドラ‼︎」

 

 ガオゴールドが声を掛け、ガオインドラは再びテールウィップを番える。

 

「……ぬゥゥ……一先ず、退散を……‼︎」

 

 形成が逆転されたアシュラは退散しようとするが、その際、ガオイカロスの翼にある二つの目玉に似た紋様から射出された光線に捕らえられ、身動きを封じられてしまう。

 

「クッ……動けん‼︎」

 

 ガオイカロスの拘束技『イカロスバインド』。これに捕まったオルグは何人たりとも、引き外す事は叶わない。

 奇しくも、かつてウラ単体時も、この技によって引導を渡されたのだ。

 

「これで、終わりだ‼︎ 究極雷矢・神龍の怒り‼︎」

 

 テールウィップにガオソウルと共に激しい電光が迸る。そして射抜かれた雷速を伴う一矢は大気を切り裂きつつ、アシュラの胸に突き刺さる。

 

「ぬ…ぐ…ァァァ……! 私が……負けるとはァァァ……!!!」

 

 苦しげに唸りながら、ハンニャの胸から雷光が広がり、遂に大爆発を起こした。

 

「やったァァァッ!!!」

 

 ガオゴールドは勝利を確信した。ガオインドラも高らかに勝鬨を上げ、勝利を見届けたガオイカロスは光の粒子となって消滅して行った…。

 

 

〜遂に最凶のハイネス、アシュラを倒したガオインドラ‼︎

これで漸く、瓏国を覆う災厄は晴れました‼︎ 次回、いよいよ感動の終幕を迎えます‼︎〜



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quest SP final さらば、瓏国!

 地上にて戦いを見届けていたテトム、娘々もガオインドラの勝利に歓喜の声を上げる。

 

「やったわ、やったわ‼︎ ガオレンジャーの大勝利‼︎」

 

 テトムは、ぴょんぴょん飛び跳ねながら喜ぶ。娘々も涙を流した。

 

「この国は……救われた……‼︎」

 

 漸く訪れた平穏……娘々は降り立って来たガオインドラを見つめながら呟く。ガオインドラからは、ガオゴールドが姿を見せる。

 

「お疲れ様、ガオゴールド‼︎ 」

「ああ……何とか勝てたよ……‼︎ 大神さん達は…⁉︎」

 

 ガオゴールドから陽に戻り、陽は周りを見回す。

 

 

「おーーい‼︎」

 

 

 廃墟となった王宮から、大神と佐熊が駆けてくる。兎月や虎牙も一緒だ。

 

「兎月! 虎牙!」

「娘々様! よくぞ、ご無事で……!」

 

 娘々の姿を見つけ兎月は号泣しながら抱き締める。虎牙も同様だ。

 

「……お前達の……いや、貴方がたのお陰で、この国は救われました……何と礼を尽くせば……」

 

 虎牙は兜を脱いで跪く。陽は首を振る。

 

「お礼は僕達にでは無く、ガオシェンロンに……神龍様に言って下さい……」

 

 そうやって振り返ると、ガオインドラは消滅し神龍の姿となった。

 

 〜ありがとう……異世界の勇者達よ……。これで、この国を脅かす脅威は去った……。気付いているとは思うが……お前達を、瓏国に招いたのは私だ……。異世界から来訪した、お前達の力をどうしても借りたかったのだ……〜

 

「伝説の八戦士とは……貴方の事だったんですね……」

 

 陽は、言い伝えの謎が解けた。神龍は続ける。

 

 〜それは違う……お前達の力を使わねば、私は復活する事すら叶わなかった……国の大事に備え、眠る私の魂の一部を宝珠に残していたが……その魂が、お前達を呼び寄せたのだ……。重ね重ね、済まなかった……〜

 

 神龍は謝罪した。自分達とは関係の無い世界に招き、戦いへ巻き込んでしまった事を……。

 しかし、ガオの戦士達は巻き込まれたとはつゆほども考えてはいない……自分達は、来るべくして、この国にやって来たのだと、考えていた。それが、ガオレンジャーたる自分達の使命なのだから……。

 

「いいえ……。僕達も、この戦いを通じて大切な事を学びました……。大いなる力を持つ者の使命を……そして、僕達が何をすべきかを……!」

 

 陽は、ウラやオルグドラシルとの戦いを経て、戦士として更に成長を果たした。

 助けを求める者が居たなら、自分達に拒む理由は無い……例え、世界が異なろうとも……人種や思想が違えども……その力を誰かを守る為に使えば良い……改めて、ガオレンジャーの真理の理解した陽に対し、神龍は穏やかに言った。

 

 〜よくぞ言った、竜崎陽……ガオゴールドよ! ならば、その力を、これからも誰かの為に使うが良い! お前達の世界に戻る為の道は開いておいた……元の場所へと戻り、己の戦いに専念すると良い……。

 そして……私の力もこれ迄の様だ……再び、私は眠りにつかなくてはならない……いつか、また瓏国に危機が訪れた時に備えて……! 瓏国の公主、娘々よ……これからは、お前達が明日への掛け橋を建てるのだ……これは、私からの最後の手向けだ……〜

 

 神龍は首を上げる。すると、彼の身体は光となり四散した。その光の粒子は優しく、国中に降り注ぐ。

 

 〜これで、オルグドラシルの毒に苦しむ者達は癒されるだろう……。この国全てを作り直す事は……其処まで、私は干渉する事は出来ない……。いざとなれば、私が何とかしてくれると考える様になれば、この国に住まう者達は堕落してしまうからな……。案ずる事は無い……お前達ならば、きっと国を再建出来る……私は……これからも……お前達を……見守っている……〜

 

 そう言い残し、神龍の声さえも消えて行った……。残されたのは宝珠だけだった。娘々は宝珠を手に取り……

 

「ありがとうございます、神龍様……。これからもずっと……私達を、見守っていて下さいね……」

 

 と、跪きながら礼を捧げた。そして立ち上がり、陽達を見た。

 

「ガオレンジャーの皆様、本当にありがとうございました……。皆様には感謝の言葉が表しようの無い大きな借りが出来てしまいました……。本当ならば、国を総出で貴方がたを祝したい所ですが……今の状態では……」

 

 娘々は崩れ落ちた王宮を見た。ガオインドラとアシュラの戦いにて崩落、国民も酷く傷付いてしまっている。とても、そんな事を出来る余裕は無いのだ。

 

「要らないですよ、そんなの……僕達は、自分の気が済む様に戦っただけですから……。それより、これから瓏国を立て直すのに、大変でしょうが頑張って下さい……」

 

 陽の言葉に、娘々は申し訳無さそうに頭を下げる。

 

「あ、公主様‼︎ あれを…‼︎」

 

 兎月が指をさす。すると、王宮の中から沢山の者達が出てきた。皆、ウラにより閉じ込められていた王宮の関係者達だ。

 

「オオ、娘々‼︎ 無事だったか‼︎」

 

 武官や侍女達を潜り抜け現れたのは、立派な衣装を見に纏った壮年の男性の姿だった。

 恐らく彼こそが、瓏国の皇帝にして娘々の父親なのだろう。

 

「お父様! もう、御身体は宜しいのですか⁉︎」

 

 娘々は駆け寄りながら、皇帝を労る。皇帝は優しく笑った。

 

「ああ……まるで嘘の様に良くなった……。事の顛末は全て聞いた……難儀を掛けた様だな……」

 

 父の娘を気遣う言葉に、娘々は涙を流しながら笑う。

 

「いえ……全ては彼等の活躍があってこそです。彼等が居なければ、この瓏国はオルグの物となっていました……」

 

 娘々は陽達を指す。皇帝は陽達の前に迄、歩いて来た。

 

「そうだったのか……。ならば、予言は真実であったか……異国の英雄達よ、其方達には返しようの無い恩と借りが出来た……我々は、この大恩を決して絶やす事なく語り継ぎ、讃え続けようと思う……ありがとう!」

 

 そう言いつつ、皇帝は深々と頭を下げた。慌てて、虎牙が止めに入る。

 

「お、おやめ下さい、陛下! 皇帝ともあろう方が、頭を下げる等……‼︎」

「黙れ、虎牙‼︎ 朕は皇帝としてでは無く、一人の人間として頭を下げているのだ‼︎」

「だ、だとしても……‼︎」

 

 幾ら国の救世主と言えど、人の上に立つ存在である皇帝が、他者に頭を下げる等とは本来なら、あってはならない事である。しかし、皇帝ならそう言った事は関係無い、と言わぬばかりに陽達に頭を下げる。

 

「それに……もう“皇帝”では無い者が頭を下げるならば、別に問題はあるまい?」

「は? お父様、それは?」

 

 娘々は訳が分からない、と言った具合に尋ねた。皇帝は頭を上げ、娘々を見据える。

 

「……理由はどうであれ、これだけの被害が瓏国に及ぶまで、朕は皇帝として何も出来なかった。ならば、責任を取らねばな……。朕は今日、この場を持って皇帝を退位する!」

 

 突然の宣言に対し、娘々や虎牙は勿論、その場に居た全員が驚愕した。

 

「なりません‼︎ 貴方程の聡明な方が退位されれば……それでこそ、茨の道に我が身を投じる様な事です‼︎」

 

 虎牙の言わんとする意味はこうだ。責任を取る為に退位する……それは、この事態を引き起こした原因は己にある、と認めたも同然である。つまり今、皇帝が帝位を退けば……民衆の溜まりに溜まった不満は皇帝に向く事となり、周囲から誹謗中傷を浴び兼ねなくなる。

 

「……買い被ってくれるな、虎牙よ……この国を常に最前線にて守って来た其方なら、分かっていよう……。この国にて悲鳴を上げる者達を……その程度なのだ、朕は……。

 皇帝として権力の上に胡座をかき、国の大事には何も出来ぬ……。そんな者が皇帝を名乗る等、痴がましいとは思わんか?」

 

 それは皇帝の精一杯の謝罪だった。彼とて、国を憂い人民の為に采配を執り続けて来た。

 しかし悲しいかな、聡明な名君と謳われど人は神には成り得ない。神龍の様な人知を凌駕した力を発揮出来ないのだ。

 皇帝は己の限界を認識したからこそ、自身が退位して事態の全責任を自身で負う…と言う形で、ケジメを取ろうとしているのだ。

 

「虎牙…娘々…、この事は肝に銘じておけ。皇帝等と言うのは、この国の頂点に立ち君臨する者と言う意味では無い。

 皇帝とは……神龍様がお創り賜うた国を、神龍様の代わりに治めさせて頂くと言う称号に過ぎぬのだ……!」

 

 皇帝は自分の不甲斐無さを戒めるかの様に言った。所詮、自分達は神龍と同列になる所か、彼の足下に立つ事すら憚られるのだ。

 

「し、しかし、陛下……退位された後、次代の皇帝は誰が……?」

「……朕には男子に恵まれなかった……だから、娘々の夫となる者に帝位を託すつもりでいたが……その者は探す迄もあるまい」

 

 意味深に言いながら、皇帝は虎牙を見る。

 

「のう? 虎牙」

「な⁉︎ 御冗談を⁉︎ 私の様な者が娘々様の夫になど、恐れ多い⁉︎」

「そうよ、お父様‼︎ 私に結婚など⁉︎」

 

 慌てた様子の虎牙と娘々を見ながら、皇帝はクックッと笑う。

 

「隠さずとも良いわ……娘々の幼き頃より、常に側に居たのだ。どこぞの知らぬ男に嫁すよりも、其方になら安心して任せられる。そもそも、其方自身が娘々に特別な想いを抱いている事に、朕が気付いていないとでも思うてか? 娘々も、また然りよ」

 

 今や二人揃って、顔を真っ赤にしている。どうやら、二人は相思相愛の仲……事にオルグによる国盗りが、二人の仲を一層に縮めた様だ。

 

「先程も言ったが……皇帝になる事は、神龍様の名代を務める事に過ぎぬ……。国を作るのは皇帝では無い……神龍様の意思を継ぎし者達、全員なのだ……。

 虎牙よ……神龍様の意思を汲む者達を育み、守り抜く王となれ……。今より其方が……瓏国の皇帝だ!」.

 

 皇帝の勅命は、虎牙や娘々に届き染み渡った。虎牙は両眼を閉じて、皇帝の前に跪き……

 

「御意‼︎」

 

 今此処に、神龍から系譜を受け継ぎし皇帝が誕生した……。

 

「ははは‼︎ なんかよく分からんが……話は纏まった様じゃのォ‼︎」

 

 佐熊は、カラカラと笑いながら言った。陽、大神、テトムも釣られて笑い出す。

 

「じゃあ……私達も帰りましょう? 後は、この国の問題だし……」

 

 テトムがそう言うと、空からガオズロックが舞い降りて来た。

 

「おお……これが、異世界の乗り物か⁉︎」

 

 皇帝は、見た事の無い外見のガオズロックに驚く。そうしてる間に、陽達は乗り込んで行った。

 

「じゃあ、娘々公主。僕達は帰ります。重ねて言いますけど、再建は大変かも知れませんが……頑張って下さい」

「……もう……お会いする事は無いのでしょうか?」

 

 娘々は名残惜しそうに尋ねた。国を救ってくれた英雄に何の誠意を見せずに、見送る事しか出来ないとは余りに心苦しい。

 

「……僕達が、この世界に来る時は、それはオルグが現れた時……。出来れば、そうはならない事を願いたいですが……」

「勿論……‼︎ 今度こそ、オルグに付け込まれない様に、私達が今迄以上に頑張って行きます!

 ですが……今度は、戦いの為では無く観光の為に来て下さい……その時は、国総出でお持てなしします‼︎」

「うん! 今度、来る時は妹も連れて来るよ!」

 

 陽の言葉に娘々はニッコリと笑う。彼等が命を賭して救ってくれた国を、自分達が守っていくのだ……そう強く誓う。

 その際、唐突に佐熊が顔を出して来た

 

「一つ、言伝を頼みたい。万狗と言う子供に会ったら、母親と妹を大切に、と伝えてくれんか?」

 

 出逢って間も無いが、絆を交わした少年……神龍や皇帝に対し不信感を抱いていたが、純朴な少年だ。

 

「分かりました! 必ず、伝えて置きます‼︎」

 

 娘々の返答に、佐熊は笑う。これで悔いは断ち切った。後は帰るだけだ。自分達を待っているであろう戦いの日々へ……。

 

 

 

 

 仲間達を全員、登場させだガオズロックは再び浮上する。すると、眼前に風太郎少年が姿を現す。

 

 〜皆、お疲れ様‼︎ これで、瓏国は救われた‼︎ ガオシェンロンも安心して眠れる‼︎ 本当にありがとう……‼︎〜

 

「礼なんてよしてくれ、千年の友……。元を正せば、俺達の不始末だ。まさか、ウラが異世界に暗躍していたなんてな……」

 

 大神が沈痛に口を開く。ウラは倒した筈だった、にも関わらず生きていた……。これも、テンマ率いるオルグの暗躍の所為なのだろうか?

 

 〜それは分からない……。でも、これからはこう言った事が立て続けに起きても不思議じゃ無い……。

 テンマだけじゃ無く、一癖も二癖もある奴等はまだまだ居るからね……〜

 

 風太郎の言葉に、陽は表情を曇らせた。そうだ……ウラは倒したが、自分達の戦いはまだ終わっていない……。本当に倒さなくてはならない巨悪が、未だ残っているのだ……。

 何より……行方不明のガオレンジャー達を早く助け出さなくてはならない……その為に、決着を付けねばならない敵が居た。テンマ、ガオネメシス、そしてメラン……。

 彼等を倒さなければ、戦いは終わらない……今回以上の戦いを予期しながらも、陽はガオズロックに遮られ見えなかった青空を見据える。其処には覚悟を決めた顔があった。

 

「帰ろう、皆……竜胆市に……! 」

 

 陽が言うと、ガオズロックは光に包まれて行き、やがて消失した。

 

 

 その様子を遠方より見つめる一人の影……それは、メランだった。消え去っていくガオズロックを見る様は、オルグのそれとは思えぬ何処か穏やかささえ見せていた。

 

「ふん……少しは強くなったか、ガオゴールド……。我を楽しませれる程にな……」

 

 宿命のライバルの成長を讃えるかの様な口振りで話すメラン。あの時と同じだ。魏羅鮫の時も、何時迄も成長を見せない彼に痺れを切らし、非常に不本意ではあったが助けた事もあった……。ガオゴールドは敵であり、自分にとっては邪魔な存在でしか無い筈だった。

 しかし、何時しか彼を援助している自分が居る……。何れ、己を脅かす男を己の手で育てようと言うのだ。これ以上、滑稽な話は無い。

 しかし不思議と……悪い気はしない。

 

 

「随分と優しくなったものだな、四鬼士一の狂戦士が……」

 

 

 挑発する様な声に、メランは振り返る。其処には、オルグに与するガオの戦士ガオネメシスが立っていた。

 

「ガオネメシス……!」

「ガオゴールドを何故、殺さなかった? 殺すチャンス等、幾らでもあったろう? そうすれば、貴様の願いは叶ったろうに……」

 

 何気ない一言に、メランは激昂する。明らかに、メランの周囲から殺意が立ち昇った。

 

「貴様……我を侮辱するつもりか? 暗殺や奇襲、騙し討ち等は弱者の取る行為だ! その様な形で決着を付ける事に意味は無い! ガオゴールドとは、飽くまで正々堂々と正面より決着を付ける‼︎ そもそも、我がこんな異界くんだりまで来たのは、万が一、ウラが謀反を企んだ時の保険の為では無いか⁉︎」

「フン……くだらん……」

 

 メランの言葉に、ガオネメシスは呆れにも似た仕草を取る。

 

「敵を殺すのに、面子など小さな事だ。重要なのは結果だ」

「何とでも言え。我にとって、オルグの天下などどうでも良い……この我と引き分けた、いや引き分けさせたガオゴールドとの決着こそが全てだ…‼︎

 断っておくが、奴には手を出すなよ? ガオゴールドは……我が狩る‼︎」

 

 そう言うと、メランは大剣をガオネメシスの首元に突き付ける。余計な真似をすれば、殺す……と無言の圧を掛けた。

 

「勝手にしろ……気の済むまで、決着が付くまでやっていれば良いさ。何れにせよ、あれが完成すればガオレンジャーは一網打尽だ」

「鬼還りの儀、か?」

 

 メランは以前、ガオネメシスとテンマが話していたのを聞いた事がある。

 鬼還りの儀を行えば、地上にはオルグで溢れ返ると言う。最も、興味が無かった為、メランは気にすら留めていなかったが…。

 

「そうだ……既に計略は整いつつある! 後は時を待つばかりだ……! 何の為に、オルグドラシルを人間の目に付かぬ場所に態々、植えたか分かるか?

 全てはこいつの為だ‼︎」

 

 ガオネメシスは右手に握る拳大のオルグシードに似た果実を見せた。

 

「何だ、その実は?」

「これか? こいつは、オルグベリー。鬼地獄に茂るオルグドラシルは、邪気に混じって汚れなき大地のエネルギーを吸うと、こいつを実らせる。

 この実を大量に生産するのが、この世界にオルグドラシルを根付かせた目的なのだ‼︎」

「その為に、ウラを態々、鬼地獄から引っ張り出して来たのか?」

 

 メランは、疑問をぶつけた。今日、出逢う迄に、先の戦いにて名を馳せたハイネス達には顔を合わせた事が無い。

 だが、当時から既に四鬼士として高名を轟かせていた自分達に、ウラを始め他のハイネスから勧誘を受けた際、スカウトに来たツエツエ達から、その名を聞いた為、ある程度の認識はしていた。最も、当時のメランは、その勧誘に対し「くだらん」と一蹴し、追い返したのだが……。

 

「……そうだ……。それにしても、ウラめ。俺が態々、鬼地獄の呪縛から解き放ってやったのに、くだらん野心に足下を掬われおって……所詮は、ガオレンジャーに勝てなかった敗北者か……」

 

 ガオネメシスの口調は、ウラへの侮蔑が込められていた。

 

「しかし……奴のお陰で、オルグベリーは俺の手の中だ……。鬼還りの儀は近い……鬼地獄の主、ヤマラージャよ……地上を、オルグの跋扈する混沌の世へと誘え……!

 ククク……ハーッハハハハ!!!!」

 

 ガオネメシスは天を仰ぎながら、高笑いを上げる。その様子を見ていたメランは瓦礫と化した王宮を見下ろしながら、北叟笑む。

 

「支配は興味無いが……本物の強者しか生き残れないオルグの、オルグによる、オルグの為の世界は直ぐ其処まで迫って来ている! ガオゴールド、貴様と全力で刃を交える日は、そう遠くないかもな……」

 

 メランは、宿敵であるガオゴールドとの決着を付ける日を夢見ながら、来たるその日を見据えていた……。

 

 

 

 〜ウラの目論見を見事に阻止したガオレンジャー。だが、それはガオネメシスの押し進める『鬼還りの儀』を行う為の布石に過ぎなかったのです……。

 果たして、鬼還りの儀とは一体……⁉︎〜

 

 

 

 ー予告ー

 

 

 

 鬼……古来より人間にとって忌むべき存在として恐れられていた。

 得体の知れない、まだ科学の発達が無かった時代では、天変地異や疫病の類を全て、鬼の仕業であると結論付けて人間達は、鬼の存在を信じていた。

 しかし……時代は移り変わり、科学の発達した現代では、鬼を想像上の偶像として、次第に忘れ去られて行った。

 だが、もし……その時代の流れに流され、忘れ去られて行った鬼達が復活したら? かつて、地上を我が者顔にてのし歩いていた彼等の時代が再び始まったら?

 

 

「時は満ちた‼︎ 鬼還りの儀をとり行う‼︎」

 

 遂に発起するテンマ……。

 

「私はツエツエ改め、オルグ・クイーン‼︎ 私の時代が始まるのよ‼︎」

 

 世界に反逆するツエツエ……。

 

「貴様と、戦う日を我は指折り数えていたぞ……‼︎」

「ああ…‼︎ 決着を付けよう‼︎」

 

 相対する宿敵達……。

 

「行けェ‼︎ 恐竜オルグ達‼︎ お前達の力を見せてやるんだ‼︎」

 

 新たに牙を剥く異形の鬼達……。

 

「アハッ♡ 私、こう見えて結構、強いんですよォ?」

 

 戦いに参戦する者達……。

 

「見せてやろう! この俺、ガオネメシスの力をな‼︎」

 

 

「私、兄さんの事が……好きなの……!」

 

「竜崎が苦しんでる姿、見ていられないよ……」

 

「鬼の血を引く私ですが……受け入れてくれますか?」

 

 

 陽に想いを寄せる少女達が、各々に動き出す……‼︎

 

 ヴェールを明かされる謎の戦士ガオネメシスの力‼︎ と、同時に、彼の正体について……。

 

「分かったわ! ガオネメシスの正体は……‼︎」

 

 次々に明かされて行く真実……‼︎ そして、オルグ達の牙は陽の大切な者に及ぶ!

 

「祈ィィ‼︎」

 

「兄さん、助けて‼︎」

 

「妹を助けたければ……来るが良い……! 鬼地獄に貴様等の棺桶を用意しておこう‼︎」

 

 妹を拐われ、絶望のどん底に突き落とされた陽に、オルグ達の猛攻は止まらない‼︎ そんな時、新たな味方が⁉︎

 

「私は煌めきの鳳凰、ガオプラチナよ」

「ガオ……プラチナ?」

 

 そして、原初の巫女アマテラスが遂に降臨を果たす!

 

『ガオネメシスを打ち倒すには……ガオフェニックスの力が必要です……。お行きなさい! ガオの戦士の始まりの地、邪馬台国へ!』

 

 全ての布石を整え、テンマ達との戦いに臨むガオゴールド達! そして、遂に実行に移されたガオネメシスの企て……。

 絶体絶命の時、彼等が蘇る……!

 

「命ある所、正義の雄叫びあり‼︎ ド派手に暴れてやろうぜ、ガオライオン‼︎」

 

『グオォォ!!!』

 

 金色の竜と紅の獅子が出逢う時……戦いは終焉へと動き始める‼︎

 

 

 帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 19YEARS AFTER 伝説を継ぎし者 鬼地獄編‼︎ 6月7日 掲載‼︎




ーオリジナルオルグ

−アシュラ
ウラがオルグドラシルに蓄えられていた邪気と、シュテン、ラセツと共に融合、巨大化したオルグ魔人。
体格はセンキと同じ人型だが、正面の顔はウラ、右面はシュテン、左面はラセツ、三人の腕を六本、生やした三面六臂の鬼神と化している。
武器はセンキと同じ、修羅百鬼剣。

−ハンニャ
ウラに忠誠を誓う女のデュークオルグ。ウラが鬼地獄から復活する際に連れて来た。
般若を模した鬼面が示す通り、性格は嫉妬深く、ウラに仇を成す者に殺意を抱く。


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二章 鬼地獄編
quest32 混血鬼(オルグ)の涙


久しぶりに本編に突入です‼︎
今回から、最初の本編を『一章 金色の竜』、次の本編を『二章 鬼地獄編』と改めてました‼︎


 〜お前は生まれた事自体が罪だ‼︎〜

 

 〜何で、お前は生まれて来た‼︎〜

 

 〜何て醜い子なんだろう…‼︎〜

 

 外を歩けば、大人達から吐き掛けられる罵声と蔑み。歳の近い子供達からは

 

 〜見ろよ‼︎ 鬼が来たぞ‼︎〜

 

 〜やーい、鬼子! 鬼子!〜

 

 と、馬鹿にされ仲間にも入れて貰えない。両親に連れられ、夕闇を歩く子供達が羨ましかった。だが、自分には父も母も居ない。母は自分を産み落とし、絶叫したと言う。頭から生えようとしている小さな角を見て……。

 

 〜呪われた子が生まれた……鬼の血を引く子が……‼︎〜

 

 母はまだ生娘だった頃、野草を採取していた際に見ず知らずの男に襲われて乱暴された挙句、放置されたと言う。

 だが何より苦痛だったのは、泣き崩れる母が最後に見た時、自身を犯した男の影が見る見る異形に“鬼”に姿を変えた事だった。

 更に酷な事に、その一件で母は子供を身篭ってしまった。誰にも打ち明けず、母は臨月となって子を産んだ。

 だが、鬼に付けられた傷跡は赤子にまで及んでいた。頭から小さく生えた角……それこそ鬼の証にして、自身の忘れたくも忘れられない過去の恐怖そのものだった。

 やがて、自分が物心を付く頃には角は長く伸びて隠し切れなくなった。母はまだ小さな自分を怯えた目で……。

 

 〜どうして産まれてきたの⁉︎ お前の様な鬼が⁉︎〜

 

 と、泣き叫んだ後に家を飛び出し、裏の崖から身を投げて果てた。

 母の死は自分が生まれたせいだ……村人に怒られるのは自分のせいだ……そう後ろ向きに考える内に、少女は人の目から逃れる為に村から出た。だが、何処に行っても自分は嫌われる。そんな境遇でも、仲間が欲しかった。自分と同じ様な姿をした仲間を……。

 やがて、鬼達が根城としている場所を見つけ苦労しながらも辿り着いた。其処から、自分を受け入れてくれるだろうと信じて……。

 だが、それは叶わなかった。彼等は、自分と同じく角を有していたが、見るに耐えない異形の姿をしており人には程遠かった。だが、自分は角を有しているが見た目は人である。

 そんな自分を見た彼等は「人間のガキ」と襲い掛かったが、やがて鬼の血が流れている事を知ると……

 

 〜人の血が混じっているだと⁉︎〜

 

 〜ならば、こいつは混血だ! 混血の鬼だ‼︎〜

 

 〜薄汚い……半端者め‼︎〜

 

 人には鬼子と蔑まれ、鬼には混血の鬼と蔑まれる……その時に自分は悟った。私は、この世の何処にも安住の場所は無いのだ、と……。

 

 

 

「ねェ……兄さん……? 何してるの?」

 

 ある日の休日……祈は夕飯の買い出しを終えて、リビングに入ると、陽の何時もと異なる光景に驚愕していた。

 陽が女の子を連れて来ていたからだ。相手は祈も良く知る少女だ。以前、合宿中に知り合った女の子……その娘を家に連れて来たのだ。確か、摩魅とか……。

 これ迄、陽が女の子を家に上げた事は無い。強いて言えば、舞花ぐらいだ。その兄が、顔見知りとは言え女の子を家に、しかも自分の留守中に上げていたのだ……。

 ただそれだけなら良いが、彼女は生まれたままの姿、正確には裸体にバスタオルを一枚、巻いただけの状態で、リビングにて陽と二人っきりで居た。

 珍しく、祈は自分の中に黒い感情が渦巻いているのを感じた。それは、ズズズ…と徐々に広がって行くのを感じる。

 祈の異変を感じ取った陽は、すかさず弁解に入る。

 

「……一応、勘違いしない様に言っておくが、何も無いからな?」

 

 しかし、その言葉が拙かった。ただでさえ、爆発寸前だった祈の理性は完全に弾け飛んだ

 風もないのに、ユラユラと髪を揺らしながら、祈はズンズンと陽に迫った。

 

「何も? 何も無い? 何も、って何? それはつまり、この後、何か始まる予定だったの? 私が帰って来る迄に……」

 

 ブツブツと念仏の様に繰り返す祈に対して、陽は「ヤバい」と感じた。だが、時既に遅く……。

 

「私が帰って来る迄に一体、何をしようとしてたのか白状しなさい! この変態! 淫乱! スケベ!」

 

 何時もの冷静な祈は何処へやら、感情のままに罵詈雑言を捲し立てて来た。陽は暴走する妹に押されながらも、何とか宥めようとする。

 

「お、落ち着けよ、祈……」

「これが落ち着いていられますか! 自分の兄が他所の女の子に不純な行為を働こうとした場面に鉢合わせた妹に向かって『落ち着け』って兄さん、どう言う精神状態で言ってるの⁉︎」

「だ、だからな……」

 

 完全に取り乱している祈に、陽は取り付く島も無い。余りの剣幕を見兼ねた摩魅は二人の間に入り込み……。

 

「あの、祈…さん……? 私とお兄様の間には、まだその様な事は……」

「貴方は黙ってて‼︎」

 

 フォローに入ろうとした摩魅を押し黙らせる様に怒鳴る祈。

 その後、祈の怒りを収める為に陽は苦労する羽目になった……。

 

 

 

 それから数十分後、リビングにて漸く落ち着きを取り戻した祈を隣に座らせた陽は、目の前に座る摩魅を見た。

 因みに、何時迄も裸では可哀想なので、祈のパジャマを着せている。

 

「それで? 彼女が、我が家に居る理由は?」

 

 不機嫌な様子で、祈は尋ねる。陽は頭を掻きながら事情を説明した。

 

「あの戦いの後、彼女をガオズロックにて匿っていたけど、ガオズロックはオルグと闘いの際は必要となるから、彼女を長居させられない。

 あと、お風呂に入れたり替えの服を用意したりする必要もあったから……」

「……お手数、お掛けします……」

 

 申し訳無さそうに頭を下げる摩魅。そうして、漸く事情を察した祈は以前から疑問に思っていた事を尋ねた。

 

「他のオルグ達は混血鬼って呼んでいたけど……貴方みたいなオルグと人の混血って、他にも居るの?」

 

 祈の質問に対して、摩魅はフルフルと頭を横に振った。

 

「分かりません……少なくとも、鬼ヶ島に居た混血鬼は私だけです……。ひょっとしたら、私の様にオルグが人間の娘に強引に孕ませたり、女のオルグが人間の男を誑かして子を成したりして産まれた者は居たかも知れませんが……」

「は、孕ませ……」

 

 摩魅の説明に、祈は顔を赤らめる。まだ思春期を迎えて間も無い彼女に姓の話は慣れていないらしい。事情を察した陽も、コホンと咳払いした。

 

「……す、すみません……。兎にも角にも、私が鬼ヶ島に来たのは、かなり昔なんです……。

 当時、鬼ヶ島は有象無象のオルグ達が隠れ住んで居て、ガオレンジャーとの戦いに負けたオルグの残党達が住み着いてからは、更に数が増えたんです……」

「君は、そんな奴等に混ざって、上手く暮らせていたの?」

 

 陽は尋ねた。少なくとも、これ迄の他のオルグ達からの彼女への扱いを見るに、真っ当な扱いを受けていたとは言え無かった。まるで汚物でも見る様な……心底、軽蔑に満ちた様な冷たい目で見られていた。

 その言葉に摩魅は腕を捲った。先程は見えなかったが、よく見れば夥しい古傷が刻まれていた。

 

「これは、私が他のオルグから受けて来た洗礼です。人間の血を引く私は、オルグからしても虫ケラ以下なんです……。そんな私を、オルグ達は暇潰しの様に殴り痛めつけました……。幸か不幸か、私の中に流れるオルグの血が影響で打たれ強い方だったので……」

「酷い……」

 

 祈は凄惨な彼女の境遇に同情した。オルグの血が流れているとは言え、人間の血も混じっている摩魅は仲間として扱われなかったのだ。寧ろ、彼等の苛立ちや鬱憤を晴らす為の玩具として、扱われたらしい。

 摩魅は寂しそうに笑った。

 

「仕方ありません……。私には、其処しか居場所が無かったから……。人間の姿で紛れても、角がある事が分かれば石をぶつけられ追い出されるだけ……もっと悪ければ、殺されるかも知れない……。でも、鬼ヶ島でなら殴られたりするのを耐えて雑用をしていれば、置いて貰えた……だから……!」

 

 やがて、彼女の瞳からはポロポロと涙が溢れ出た。

 

「以前、ヒヤータに言われました……私は生まれた事自体が罪なんだって……だから、この仕打ちは償いだって……」

「生まれた事が罪なんて事は絶対無い……!」

 

 彼女の話を黙って聞いていた陽は、激情を抑えながら言った。

 

「例え、オルグの血が混じって居ようとも君は人間だ! 君は涙を流せる……涙は人間の証なんだ……!」

「……でも、私は人間にもオルグにもなれないし、どちらからも認めて貰えない……」

 

 陽の慰めに対し、摩魅は後ろ向きに応える。恐らく長年、受けて来た苦痛や侮蔑が、彼女に諦感させてしまったに違いない。そうしなければ、耐えられない程に辛く惨めな日々だったと理解するには容易だった。

 突然、祈は摩魅を真剣な眼差しで見つめた。何時しか、絶望に囚われていた彼女に、そうした様に……。

 

「あの日も言ったけどね……私と兄さんは血が繋がって無いの。それでも、私は兄さんの事を家族だって思っているし、兄さんも私を妹だと言ってくれるよ……。

 貴方だって、そうだよ。生まれが違っても、血が混じって居ても仲良くなれる……だって今、こんなに話し合えたじゃない……」

 

 祈の労りに満ちた言葉は、摩魅の傷ついた心を優しく見たして行った……。そんな優しい言葉を掛けて貰えたのは生まれてこの方、初めてだったからだ。 

 

「……ねェ、兄さん。明日、摩魅ちゃんの服を買いに行こうよ。きっと似合う服があるわ……」

「じゃ、彼女を此処に置いてあげて良いんだな?」

 

 祈の言葉を聞いた陽は、安堵した様に聞いた。祈はニッコリと笑う。

 

「勿論じゃ無い! 皆には、遠い親戚と言ったら大丈夫! 摩魅ちゃんも、よろしくね!」

 

 改めて家族として迎えられた摩魅は顔をグシャグシャにしながら、言葉にならない声で

 

「……ありがとう……ございます……」

 

 と、礼を言い続けた。

 

 しかし、陽達は気付かなかった。三人の様子を外から伺っていた二人組の存在に……。

 

「どうやら、親方様の思惑通りに進んだ様で、ございます……」

 

 それは、オルグ忍者隊に属するくノ一、鬼灯隊の一人であるミナモだ。

 

「……殺さないの?」

 

 もう一人も鬼灯隊の一人、リクである。手には苦難をちらつかせていた。

 

「駄目よ、まだ殺しては駄目、でございます。私達の任務は飽くまで見張る事……」

「むゥ……残念……。じっくり、嬲ってやりたかったのに……」

 

 リクは鉄面皮な表情から一変し、交戦的な笑みを浮かべた。

 その様子を見たミナモは、嗜めた。

 

「リク……良い加減に直しなさいな、獲物を殺さない様に遊ぶ悪い癖……。忍びなら、スマートかつクールに殺す事が真骨頂、でございます……」

「……努力はする……」

 

 ミナモに嗜められたリクは、小さく呟く。

 

「さて……私達は一旦、親方様に報告へ戻りましょう、でございます」

「…うん…」

 

 そう言い残すと、二人は夜の帳の中に消えて行った……。

 

 

 一方、ガオズロック内では、テトムが祈りを捧げて居た。ガオゴッドと更新をはかる為だ。

 

「荒神様……どうか、お応え下さい……」

 

 と、彼女の必死な祈りに応え、風太郎の姿で現れるガオゴッド。

 

 〜テトム……〜

 

 漸く、姿を見せた彼にテトムは尋ねた。

 

「荒神様、オルグ達は既に戦力を削がれた様子……しかし、不安な要素が拭えません……。最近、その姿を見せない、あの男が……」

 

 〜ガオネメシス、だね?〜

 

 どうやら、風太郎にはテトムの考えは理解している様子だった。最初の頃は、ガオレンジャー達の前に頻繁に現れて底知れない強さを見せつけた謎の戦士ガオネメシス……。

 しかし、未だに彼の実力は未知数である。特に、風のゴーゴや水のヒヤータ等と、幹部級のオルグ達が前に出る際は、その底知れぬ強さをチラつかせながら、決して本気を出そうとしなかった。つまり、彼が本気を出した際には、どれ程の脅威となるか、テトムにさえ計り知れない。

 

 〜テトムの気持ちは分かるよ……ガオネメシスの正体について……その真の強さについてだね。

 奴の素性については不明な点が多いけど、僕も調べてみたんだ……。そしたら、ヒヤリとする様な事が分かったよ……〜

 

「何ですか?」

 

 テトムは、ガオゴッドをして其処まで言わしめるガオネメシスの正体に興味を持った。

 

 〜今から二千年以上前に存在した、とある戦士の話なんだけど……〜

 

 そうして、ガオゴッドは語り始めた。テトムは黙したまま、耳を傾けた。

 

 

 

 翌日、陽達はデパートに来ていた。摩魅の服を見繕う為だ。

 祈は女の子向けの服売り場で、摩魅の服を色々とコーディネートして見る。

 

「これなんか、どうかしら?」

 

 祈はヒラヒラした飾りが付いたワンピースを祈に見せた。摩魅は、首を傾げた。

 

「私、人間の流行りは分からなくて……」

「これ、今期の新作なんだよ!」

 

 祈の方が気合いが入っている様子だ。まるで妹が出来た様で嬉しかったのだ。その後も、あれやこれやと色々と試して見た。

 陽は離れた場所に腰を下ろして、二人の様子を見ていた。女の子の買い物は、陽には理解が出来ないから祈に任せていた。そんな姿を見ていると祈が小さい頃、冴に連れられて服を買いに行った時を思い出す。

 あの頃は、冴に対して陽は仄かな想いを抱いていた。でも、今は違う……。冴を好きだったのは、異性としてでは無く姉として好きだったのだ。

 等と考えていると……。

 

「竜崎?」

 

 ふと声がした為、振り返ると其処にいたのは同級生の鷲尾美羽だった。学校の制服とは異なり私服を着ており、セミロングの濃い金髪をシュシュで纏めていた。

 

「鷲尾さん? どうして、此処に?」

「暇潰し。竜崎こそ、何してんの?」

 

 やや素っ気無い口調で、美羽は応えた。そして、祈と摩魅の姿を見て頷く。

 

「祈の付き合いか……あっちの娘は?」

「えっと……親戚の娘……かな?」

「何で疑問形?」

 

 言葉を濁す様な口調で答えた陽に、美羽は訝しげに返した。

 

「ま、いいけど……。隣、良い?」

「え……どうぞ……」

 

 そう言うと、美羽は陽の隣に腰掛けた。

 

「竜崎さ……疲れてるでしょ……」

「いや……買い物は祈に付き合って来ただけだし……」

「そう言う事じゃ無くて……」

 

 急に美羽は、陽を見つめる。

 

 

「いつ終わるか分からない戦いの日々、ガオレンジャーとして戦う事に……て言う意味……」

「‼︎」

 

 

 今度は陽が、美羽を見た。今、確かに彼女の口から『ガオレンジャー』と発せられた。

 

「どうして君が、ガオレンジャーを……」

「知ってた。竜崎が、ガオレンジャーとして戦ってる事も、パワーアニマルの事も、オルグの事も……全部ね」

 

 美羽は淡々とした様子で話を続ける。陽は鳩が豆鉄砲を食らった様に唖然としていた。

 だが、気にする様子なく彼女は続けた。

 

「竜崎……もし戦いが辛いなら、これ以上は……」

 

「兄さん⁉︎」

 

 突如、祈の呼ぶ声に気付く。振り返ると、祈が居た堪れない様な面持ちで立っていた。

 

「あ、祈。もう良いのか?」

「うん……。えっと、鷲尾さん……ですよね?」

「……私、もう行くね……」

 

 と言い残し、美羽は踵を返すとエスカレーターの方角まで歩き去って行った。

 

「……鷲尾さんと何の話してたの?」

「…ん…学校の事。最近、学校の行事とかサボりがちだったからさ」

「……そう……」

 

 それ以上、祈は聞いてこなかった。陽はベンチから立ち上がると……。

 

「……ファミレスでも行こうか?」

 

 と、祈に尋ねて来る。祈はスカートの裾をギュッと摘みながら、小さく頷いた。

 やがて、やって来た摩魅を連れて衣服フロアから去っていく三人。その様子を遠方から、美羽は無表情ながらも厳しい表情で見ていた……。

 

 

 

 ファミレスに向かう途中、三人は驚く程に無口だった。祈はチラチラと陽の様子を伺って見て来る。陽は、挙動不審な妹視線に気づき……

 

「どうしたんだ?」

 

 と、尋ねる。祈は顔を赤く染めて……

 

「……別に……」

 

 と、そっぽを向いた。

 

「? 変な奴だな……」

 

 祈の様子を怪訝に感じながら、陽は首を傾げる。摩魅は二人の後ろに隠れる様に歩いていたが、祈が振り返り……

 

「どう、摩魅ちゃん? 気に入った?」

 

 と、聞いてみる。摩魅は、フリフリしたレースのワンピースを着ており、角を見えない様に帽子をかぶっていた。

 側から見れば可愛らしい美少女だが、本人は慣れていないのか、様子がもどかしかった。

 

「スカートが……ヒラヒラしてて……落ち着かない……」

「すぐ慣れるよ。それに、凄く似合ってるよ」

 

 祈は摩魅に笑い掛けたが、彼女は照れ臭そうに俯くだけだ。陽は隣を歩きながら、微笑ましい様子で見ていたが……。突然、G -ブレスフォンがけたたましく唸り始めた。

 陽はハッとして、ブレスフォンを通信出来る様にした。

 

 〜陽! オルグ達よ! 恐らく、貴方の居る場所から近いわ! 大神と佐熊も向かってる‼︎〜

 

「分かった! 直ぐに向かう‼︎」

 

 どうやら、オルグ達が現れたらしい。陽は意を決して、祈達に振り返った。

 

「オルグ?」

「ああ! 祈は摩魅ちゃんと一緒に離れて……って言っても無理か……」

 

 陽は苦笑しながら尋ねる。祈は笑いながら

 

「勿論、私も行くわ! 兄さんの足手まといにはならないから!」

 

 強い口調で言い放つ祈。陽は溜め息を吐きながら……。

 

「分かった……僕から離れるなよ…!」

「うん! 摩魅ちゃんも離れないでね!」

「は…はい…」

 

 そう言って、陽達は駆け出した。

 

 

 

 現場は大変な事態となっていた。時計や信号機等と言った電力機器が、パチパチと火花を散らしながら過剰に点滅したり車が暴走したりと、パニックとなっていた。

 

「ははは‼︎ ええで、ええで‼︎ もっと暴れまくりや‼︎」

 

 鬼灯隊の一人であるくノ一オルグ、ライが信号機の上に立って、凄惨な眺めを見下ろしていた。

 

 

「止めろ‼︎」

 

 

 騒ぎを聞き付けた大神と佐熊が現れた。ライはニヤリと笑う。

 

「来たな、ガオレンジャー‼︎ 待っとったで‼︎」

 

 そう言いながら、ライは二人の前に降り立った。

 

「こりゃ一体、何の真似じゃ‼︎」

 

 下手をすれば大惨事を引き起こし兼ねないやり口に、佐熊も憤る。ライはニヤリと笑いながら…

 

「派手に行動を起こせば、お前等は必ず現れると踏んだからな‼︎ ウチ等、オルグ忍軍は他の四鬼士の様な周りくどい真似はせえへん……あんた等に的を絞ったったんや! 感謝しぃや!」

「何が感謝だ‼︎ 」

 

 その言い草に、大神は激昂した。例え、自分達を的に絞った所、周りに及ぶ被害の方は甚大なのだから、とても許せるものじゃない。

 

「お前達の行動で何人の人間が命を落とすか……考えた事があるのか⁉︎」

「はァ? 何、眠たい事を言ってんねん? ウチ等は、オルグや。人間が何百人、死んだか一々、数えるかいな。寝言は寝てから言いや」

「き、貴様……!」

 

 人の命を蔑ろにしたライの発言は、大神や佐熊に義憤を抱かせるには適し過ぎていた。

 分かっていた事だ、オルグと人間は決して混ざり合う事の無い水と油である事を……。

 それは、目の前に居るライとて例外では無い。人間を狩るべき獲物としか見ていない。

 

「大神さん! 佐熊さん!」

 

 その時、陽が到着した。暴走する車や逃げ惑う人々の姿を見た陽は怒りを滲ませながら、ライを睨む。

 

「何の為に、こんな事を?」

「俺達を始末する為だそうだ」

 

 大神に真意を聞いた陽は益々、怒りを発した。しかし、ライは陽の様子に意を介さず、彼の後ろに居た祈と摩魅を見て北叟笑む。

 

「これは良いわ! 巫女の生まれ変わりに、裏切り者の摩魅も一緒とは! 丁度良いわ、あんた等の首はウチが貰うで‼︎

 鎖鎌オルグ‼︎」

「ハッ‼︎」

 

 ライの呼ぶ声に応え、姿を見せるオルグ魔人。それは鎖鎌が右腕に融合し、頭部は巨大な鎌となったオルグだった。

 

「アンタを連れて来て正解やわ! ウチを援護しィ!」

「御意…!」

 

 鎖鎌オルグは右腕の鎖鎌を取り外し、左手に持つとグルグル振り回した。

 

「皆、行こう! 変身だ‼︎」

「ああ‼︎」

「がってん‼︎」

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 三人はG -ブレスフォンを起動させて変身、ガオゴールド、ガオシルバー、ガオグレーへと姿を変えた。

 

「百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎ 行くぞ、オルグ共‼︎」

 

 ガオゴールドはドラグーンウィングを構えながら号令を出す。その際、ライは指を鳴らすと……

 

「下忍オルゲット‼︎」

「ゲットゲット‼︎」

 

 二人のオルグ魔人の前に姿を現すオルゲット達。だが、その姿は何時ものオルゲットとは違った。

 全員が漆黒の忍び装束を着ており、手には棍棒の代わりに忍者刀を装備している。

 

「そいつ等は、オルグ忍軍直下のオルゲットや! 並のオルゲットより、ずっと強いで‼︎」

 

 ライは得意げに言った。成る程、確かにオルゲットにしては、強さと素早さが桁違いだ。

 しかし、様々な修羅場を潜り抜けて来たガオレンジャー達には敵では無い。

 

「銀狼満月斬り‼︎」

 

 ガオシルバーの、ガオハスラーロッドによる斬撃が下忍オルゲット達を斬り捨てていった。

 

「大熊豪打‼︎」

 

 ガオグレーの、グリズリーハンマーによる打撃が下忍オルゲット達を吹き飛ばした。

 ガオゴールドは、ライと鍔迫り合った。互いに引かずに拮抗となる。

 その際、鎖鎌オルグの邪魔が入り、距離を詰めた。

 

「カマカマァ‼︎ 先ずは、あの娘から……‼︎」

 

 鎖鎌オルグは、そう言って鎖鎌を祈に目掛けて投擲した。ガオゴールドは止めに入ろうとするが……

 

「アンタの相手はウチや‼︎」

 

 ライが邪魔をして行手を阻む。そうしてる間に、鎖鎌は祈に届こうとするが……。

 急に祈の前に現れた見えない壁に当たり、鎖鎌は弾き返されてしまった。

 

「な、何ィィ⁉︎」

 

 鎖鎌オルグは自身の鎌を破壊された事に驚愕した。しかし、祈は澄ました顔で……

 

「私が兄さんの弱点になると思った? お生憎様、自分の身くらい自分で守れるわ‼︎」

 

 以前の弱い一面は無くなり、強気な口調で言った。ガオゴールドも驚くが、気を抜いたライを潜り抜け飛び上がる。

 

「龍牙…墜衝‼︎」

 

 ドラグーンウィングにガオソウルを纏わせ、高所からの斬撃を放つ。重力が加算された斬撃は鎖鎌オルグの鎖による防御を崩した。

 

「今だ‼︎ シルバー、グレー‼︎」

 

 ガオゴールドは三人の破邪の爪を合わせ、合体させた。

 

 

「破邪三獣砲‼︎ 邪気…滅却‼︎」

 

 

 合体技、破邪三獣砲から放たれた三色の光弾が、ライと鎖鎌オルグを包み込んだ。

 光が収まると、木っ端微塵に吹き飛んだ鎖鎌オルグとライを模した人形が転がっていた。

 

「く…変わり身の術か…‼︎」

 

 すでに逃走したライに対し、ガオシルバーは毒吐いた。

 その様子を離れた場所から見ていたのは、ニーコだった。彼女はニヤリと笑うと、手にしていたボーガンを構え……

 

「オルグシード抽出剤、発射♡」

 

 と、言うと粉々になった鎖鎌オルグに矢が放たれる。すると、バラバラになっていた肉体は再び結合し始め、更に巨大なオルグ魔人として復活した。

 

「カマカマァ‼︎」

 

 祈に破壊された鎖鎌も元通りとなった。ガオゴールドは、ガオサモナーバレットを取り出し……

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 撃ち出された三つの宝珠に呼応し、召喚されたガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンと三体のレジェンド・パワーアニマル。ガオシルバーも宝珠を取り出すが、ガオグレーに止められた。

 

「止めておけ、ガオウルフ達の傷は癒えておらんだろう」

 

 先の戦い、ゴメズや狼鬼として操られていた時の反動が重なり、ガオウルフ達に蓄積されたダメージは極めて著しかった。今の状態で、ガオハンターを出しても負けてしまうのは明白だ。ガオシルバーは済まなそうに宝珠を下ろした。

 

「ワシに任せておけ‼︎ 百獣召喚‼︎」

 

 ガオグレーは、そう言って宝珠を打ち上げた。と、その際、姿を消した筈のライが奇襲を仕掛けて来る。

 

「鎖鎌オルグは囮や‼︎ その隙に巫女の首は貰うでェェ‼︎」

 

 そう言いながら、忍者刀を構えながら祈に襲い掛かる。ガオシルバーはガオハスラーロッドに持ち替え、ライと対峙した。

 

「貴様の相手は俺だ‼︎」

「チィ! 邪魔すなや‼︎」

 

 ガオシルバーはガオハスラーロッドをサーベルモードにして、ライの刀を受け止めた。

 

 

 一方、ガオパラディンは鎖鎌オルグと対峙していた。ユニコーンランスで鎖鎌オルグを攻撃しようとするが、その際に放たれた鎖鎌がガオユニコーンに絡まる。

 

「カマカマ‼︎ 捕まえた、もう離さんぞ‼︎」

 

 そう言って、鎖を引き寄せようとした刹那……。

 

 

「離さん、だと? ならば、絶対に離すなよ?」

 

 

 そう言って、横から鎖を掴む影。ガオグレーの搭乗するガオビルダーだ。

 

「ぬ、ぐ…‼︎ な、何をする……‼︎」

「ほれ? どうした、離さんのじゃ無かったのか?」

 

 ガオビルダーの左腕、ガオリンクスが鎖を掴んだまま持ち上げる。思わず鎖と融合している鎖鎌オルグも引き摺られてしまった。

 

「ボアーバズーカ‼︎」

 

 やっとの思いで立ち上がった鎖鎌オルグに、右腕のガオボアーから放たれた光弾を発射した。直撃したオルグは後ろまで吹き飛ばされ、鎖はガオビルダーが持っていた為、その反動に耐えられず引き千切れてしまった。

 

「よ、よくも……‼︎」

「ゴールド、決めるぞ‼︎

「分かった‼︎

 

  双獣爆砕! ダブルスインパクト‼︎」

 

 二人同時に、ユニコーンランスとリンクスパンチを叩き込む。その凄まじい衝撃で、鎖鎌オルグの身体に響き渡り……

 

「カマ……カマカマァァァ!!!」

 

 断末魔を上げながら、大爆発した。

 

「ああ⁉︎ 鎖鎌オルグが⁉︎」

「後は貴様だ‼︎ ブレイクモード‼︎」

 

 トドメを刺さんと、ガオシルバーはブレイクモードにして宝珠を番えるが……。

 

「クッ…‼︎ この勝負は預けたで‼︎」

 

 と、捨て台詞を残して煙玉を投げ付け、消えてしまった。

 

「ち……逃したか……‼︎」

 

 ガオシルバーは、してやられたと言わんばかりに呟く。其処へ祈と摩魅が駆け寄って来た。

 

「大神さん、大丈夫ですか⁉︎」

「ああ、何とかな……。しかし、さっきのオルグ、かなりの手練れだ……‼︎」

 

 と、同時にガオゴールドとガオグレーも降りて来る。

 

「シルバー、ありがとうございます‼︎ 祈を守ってくれて……」

「お疲れじゃったのォ、大神‼︎」

 

 ガオシルバーの健闘を称える二人に対し、シルバーもサムズアップで返した。

 和気藹々とした様子を遠方より伺う人影……其れは、無表情の面持ちの美羽だった。

 

「……まだ、その時じゃ無い…か……」

 

 と、言い残すと、その場から去って行った……。

 

 

 〜オルグ忍軍、最初の刺客、黄のくノ一、ライを退けたガオレンジャー! しかし、何かを知っていると思しき美羽の真意は、一体、何なのでしょうか⁉︎〜




ーオリジナルオルグ
−鎖鎌オルグ
ライが連れて来たオルグ魔人。オルグ忍軍に所属するオルグ忍者の一人で、鎖鎌に邪気が宿り変異した。
ライには、ガオレンジャーの注意を引く為の囮としつ見做されていた為、忍軍での実力は低い。

−下忍オルゲット
オルグ忍軍に所属するオルゲット。見た目は黒い体色、棍棒の代わりに刀を所持しただけしか変化は無いが、実力は普通のオルゲットよりは強いらしい。


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quest33 混沌の獣達

 鬼ヶ島にある、オルグ忍者達が集まる一室では……。

 

「呆れ果てて物が言えん……」

 

 鬼灯隊の纏め役であるくノ一、ホムラは言葉通り呆れた様子だった。

 

「ガオレンジャーを誘き寄せ倒す、これでは今までの短調なやり方と変わらないでは無いか……」

「全くで、ございます……。ライは昔から爪が甘すぎましてよ……」

「う…ぐ…」

 

 仲間にネチネチと責め立てられるライは居た堪れ無い様子で、縮こまっていた。

 

「アハハッ‼︎ こりゃ良いや、何時も怒られるのはアタイだけど、ライが怒られてら‼︎」

「……」

 

 ライの説教されている姿を腹を抱えながら笑うコノハと、黙々と読書するリク。

 

「喧しいわ、コノハ‼︎ お前にだけは笑われる筋合いは無いねん‼︎ 黙っとり‼︎」

「ハァ⁉︎ 失敗した八つ当たりを、アタイにする気か⁉︎ 上等だよ、返り討ちにしたらァ‼︎」

 

 売り言葉に買い言葉、と言った具合に喧嘩腰になるライとコノハ。いよいよ呆れ果てた、と言わんばかりにホムラとミナモは顔を見合わせる。

 

「……止めませんの?」

「ああなった二人を止められるのは、親方様だけだ。其れとも、ミナモが止めに入るか?」

「遠慮しておく、でございます。とばっちりを受けるのは、まっぴらですもの……」

 

 互いに気の済むまでやらせておく、と言うスタンスを取ったホムラとミナモは冷ややかに言った。

 そうこうしてる間に、ライとコノハの喧嘩は益々、ヒートアップして行った。

 

「この際だから言うからけどよ……アタイは前々から、テメェが気に食わなかったんだよ‼︎ 何かに付けて、手数にモノを言わせる汚ねぇやり口にな‼︎」

「ハッ! そら、コッチの台詞や‼︎ 計算も作戦も無く、牛みたいに突っ込んでいくだけのノータリンよりはマシちゃうか⁉︎」

「ああ⁉︎ んだと、コラ‼︎」

「やるんか、オラ‼︎」

 

 

「止めないか、馬鹿共が‼︎」

 

 

 突如、室内に響き渡る重く低い怒声。全員が振り返ると、頭領のヤミヤミが佇んでいた。

 

「忍びが感情に任せて争うとは……忍びたる者は常に冷静に、かつ的確に……掟を忘れるな!」

「お、親方様…‼︎」

 

 ヤミヤミの叱責に、ライは頭を下げた。それに倣い、他のくノ一達も頭を下げる。

 

「貴様もだ、コノハ…! 己の不甲斐なさを責められて我を忘れるとは、過ちを認めたも同然! 下らぬ事で、忍軍の秩序を乱すな‼︎」

「……ハッ‼︎」

 

 流石のコノハも、頭領の言葉には従わざるを得ないとして渋々に頭を下げた。

 

「して、親方様……、我々の今後の動きは……」

 

 ホムラが、静寂を破り尋ねた。ヤミヤミは振り返り……

 

「我々は、これより外部よりの監視に徹する。此方からは手を出さずにな…」

「なッ⁉︎ それは、何故に……⁉︎ 我々、オルグ忍軍の全兵力を用いれば、ガオレンジャーを叩き潰す事なぞ……」

 

 ホムラは納得いかない、と言わぬばかりに声を上げるが、ヤミヤミの無言の圧に黙らされた。

 

「貴様等には、打ち明けておこう。テンマ様が、遂に『鬼還りの儀』の準備に入られた」

 

『⁉︎』

 

 この言葉には、鬼灯隊の面々は驚愕を隠せなかった。と、同時に表情には期待も込められていた。

 

「では……我々、オルグの時代、再臨と言う事で⁉︎」

「左様……。既に、テンマ様は来るべき日に備えて、力の蓄えに入った。

 後は……我々が“穴”を開けるだけだ。既に綻びの場所は粗方、ニーコが三つまでは確保した。後は二つ……」

「我々が、その綻びを見つけ出すので、ございますね?」

 

 ミナモの言葉に、ヤミヤミは頷く。

 

「そうだ……綻びの場所を確保し、その一帯に楔を打ち込むとは、我々にしか出来ぬ。代々、かの穴を守護して来た我等、オルグ忍軍にしかな……。

 だが、鬼還りの儀を行うにあたり、不安要素も存在する。

 あの腹の底を読ませぬ男、ガオネメシス……そして、メランだ……」

 

 ヤミヤミは厳しい表情を浮かべながら、淡々と続けた。

 

「ガオネメシスは、ガオの戦士にありながら、オルグの側に付いたが、奴は明らかに我々とは別の意図があって動いている……! メランは捨て置いても、我々に牙を剥く事は無いだろうが、計画に障りが有ってはならない……有事の際には、我々の手で始末を付けねばなるまい」

「……ツエツエ達は? 勝手に独立して、自分達の軍隊を組織したって、ニーコが言ってた……」

 

 それまで、無言を貫いていたリクが尋ねてきた。ヤミヤミは鼻で笑う様に肩を竦ませた。

 

「奴等こそ、さしたる脅威にはなるまい……。放っておいても、勝手にガオレンジャーに戦いを挑み、勝手に倒されるのが関の山だ。それより、ガオレンジャーの一人でも葬ってくれれば、手間が省けると言う物……気にするな」

 

 あっさりと、ツエツエ達を見限る様な言い草のヤミヤミ。非常に余談だが、彼の弟であるドロドロも、作戦の為とは言え、ツエツエの角を切り落としたり、囮として使い殺したりとぞんざいな扱いをしたのだが……。

 

「これより、我々は残された綻びの探索、ガオネメシスの監視に入る! メランは拙者が自ら監視し、あわよくば始末する。貴様等は、己の使命を全うせよ‼︎

 ミナモ、リク‼︎ 貴様達は引き続き、ガオゴールドの身辺を当たれ‼︎ 決して悟られぬ様にな……」

『ハッ‼︎』

 

「ライ、コノハ‼︎ 貴様等は綻びを探索に当たれ‼︎

 繰り返すが、これ以上に下らぬ問題を起こすなよ? 次は無いぞ…」

『ハッ‼︎』

 

「ホムラ‼︎ 貴様は、ガオネメシスを見張れ‼︎ だが、見張るだけだ‼︎ 一切、手を出すな‼︎ 良いな‼︎」

「ハッ‼︎」

 

 くノ一達に命令を下したヤミヤミは彼女達に背を向けた。

 

「失敗は許さぬ…。確実に成功させよ……散‼︎」

 

 その号令を最後に、ヤミヤミ達は一斉に姿を消した。

 

 

 

「ククク……遂に動き出したか……」

 

 某所にある崩れ落ちた洞窟内にて……ガオネメシスが歩いていた。その横には、ニーコが連れ添う様に歩く。

 

「はァい♡ 何もかも、計画通りに事は運んでいる、と言った具合ですわねェ……」

 

 ニーコも薄ら笑いを浮かべながら、ガオネメシスを見る。ネメシスは、再び「ククク…」と含み笑いを発した。

 

「異世界より採取したオルグベリーは既に配布した、後は時が来るのを待つばかりよ……鬼還りの儀を行えば、この地上に何万、何億と言うオルグが湧き出て来る……。

 そうすれば、地上は最高の宴となるだろう……‼︎」

「歓声は……人間達の苦痛に満ちた絶叫と悲鳴……ですわねェ?」

 

 ニーコは下卑た表情を浮かべながら、言った。

 

「時に、ネメシス様? “あのお方”は何と?」

「フン……一日も早く儀式を行え、と急かしてばかりだ……余程、無限に続く退屈に辟易してると見える……」

 

 どうでも良い、と言わんばかりに、ガオネメシスは言葉を切った。

 

「しかし、奴の為にやる訳では無い……。全ては我が悲願の為……これは、俺の“復讐”の為だ…‼︎」

 

 ガオネメシスのヘルメットのバイザーの奥から、妖しい輝きを見せた。その様子を、ニーコはクスリと笑う。

 

「テンマ様が、またヘソを曲げちゃいますよォ? ネメシス様、最近の態度が露骨過ぎますからァ……」

「クックック……構うものか……全て事が終われば、奴とも縁は切れる……それまでは精々、表向きの“王”として、君臨して貰うさ……」

 

 悪辣に笑いながら、ガオネメシスは洞窟の最深部に到着した。最深部の奥は何処までも漆黒の闇が広がる。

 

「使うんですかァ? この子達……」

「ああ……儀式が始まる前の余興として、ガオレンジャーを遊んでやるさ……。ククク……久しぶりに、貴様等の力を使う事になりそうだ……」

 

 そう言いながら、ガオネメシスはセピア色に輝く宝珠を翳した。すると、暗闇の中から紅色の六つの光が灯り、低い唸り声が響き渡った……。

 

 

 

 その翌日、ガオズロックは上空を飛行していた。今回はオルグが現れたからでは無い。今回は、別件にて用があったからだ。

 やがて、ガオズロックは着地した為、降り立つ。中から陽、大神、佐熊、テトムが降りて来た。

 

「ほう! これは、良い景観じゃ‼︎ 物見雄山には、持ってこいじゃのォ‼︎」

 

 佐熊は、カラカラと笑う。陽は見回すと、確かにピクニックやハイキングするなら、最高の穴場だろう。

 だが、今回は遊びで来た訳では無い。大神は、辺りを見回しながら……

 

「ガオウルフ! 俺だ‼︎」

 

 と、叫んだ。すると草木を分けながら、ガオウルフは姿を見せた。

 

「久しぶりだね、ガオウルフ‼︎ 元気そうで良かった‼︎」

 

 陽も言った。ガオウルフは小さく吠えた。

 

「大分、完治したらしいわね……」

 

 後ろから、テトムがやって来た。

 此処は、天空島を追われたパワーアニマル達の隠れ家であり、戦いの中で傷を負ったガオウルフ達が傷を癒す場所でもある。この場所を見つけたのは偶然だった。

 偶々、ガオズロックにて飛来していた際に、大地からのエネルギーが供給され易い、この場所を見つけた。

 大神は、ガオウルフ達の傷を癒す為、此処に彼等を呼び寄せたのだ。その甲斐もあり、オルグ達も、この場所には勘付いていない……寧ろ、邪気の化身である彼等では、場所を特定する事が出来ないのだろう……。

 

「ガオドラゴン達も、此処に来れば良いのにな……」

 

 陽は、ポツリと呟く。だが、ガオドラゴン達は姿を消して竜胆市内に残っている事を選んだ。

 曰く「自分達、レジェンド・パワーアニマルは体の出来が違う」との事だ。

 以前に比べ大分、柔らかくなったが、それでも頑固な性格は変わらない。

 

「天空島は、もっと良い所よ。空気も澄んでいるし、緑に溢れているし……」

 

 テトムは、しみじみとした様子で語る。陽も、ガオゴッドに天空島へ連れて行って貰ったが、その際に見た天空島は、オルグの侵攻によって荒らされて、見るも無惨な姿であった。

 その上、天空島はガオネメシスによって封印されてしまっている。パワーアニマル達の聖地が復活するのは、まだまだ先になりそうだ。

 

「早くオルグを倒して、パワーアニマル達に住む場所を返してあげなきゃね……」

 

 その陽の言葉は、他のガオレンジャー達にも響き渡る。

 オルグ達は、人間の平和を壊しただけに飽き足らず、パワーアニマルの住む場所まで奪ったのだ。

 天空島にて新たに育まれるであろう若いパワーアニマル達……今のままでは、それさえも叶わぬ願いだ。

 天空島を復活させ、パワーアニマル達の安穏を取り戻す…そして、オルグ達の手に落ちたガオレッド達を助け出す…自分達に出来る事は、それしか無い。

 

 

「クックック……相変わらず、愚かな奴等よ……」

 

 

 突如、聞こえた声に振り返ると、ガオズロックの上に佇む二人の影……。

 

「お前は…ガオネメシス⁉︎」

 

 姿を現したのは、これ迄に幾多とガオレンジャーの前に姿を現して、その絶大な力で危機へ陥れて来た悪のガオの戦士、ガオネメシスが立っていた。側には、テンマの側近であるデュークオルグ、ニーコも居る。

 

「どうして、お前達が⁉︎」

「何の事は無いさ、貴様等の行動など、こちらに全て筒抜けなのよ……情報などは力のある奴には、さしたる苦労も無く手に入るのだよ……」

 

 そう言って、ガオネメシスは陽の前に舞い降りた。

 

「クック……良い顔だ……正義を信じている、偽善を貫かんとする腹立たしい顔だ……」

「……何が言いたい⁉︎」

 

 人の神経を逆撫でする様な言動のガオネメシスに対し、陽は声を荒げる。ガオネメシスは含み笑いを上げた。

 

「クックック……貴様の気高き思想など、時を経て人の醜さを知れば知る程、脆く崩れ去る……所詮、その程度でしか無い、と言う事だ……」

「お前のたわ言なんか、聞く耳を持たないし理解する気も無い。僕にとって、オルグは地球を仇成す敵だ‼︎」

 

 その言葉を聞いたニーコは甲高い声で、嘲笑した。

 

「オルグは敵ィ? なら、貴方が受け入れた例の混血鬼も、敵であるとォ?」

 

 ニーコはニヤニヤしながら、陽を見つめた。

 

「摩魅は違う! あの娘は、オルグじゃ無い、人間だ‼︎」

「半分は、ねェ? でも、もう半分は私達と同じ、オルグですわァ。あの娘も自分の中にあるオルグの血が勝てば、貴方達の寝首を掻きに来るでしょうねェ」

 

 ニーコの辛辣な言葉が陽の胸を掻き毟る。摩魅が、自分達の寝首を掻く? 彼女は自分の辛い生涯を嘆いていた。オルグの血を引いて生まれた事で、人にもオルグにも拒絶されて生きて来た半生……それでも、彼女は前向きに生きる事を決意した筈なのに……。

 

「摩魅は……そんな事を絶対するか‼︎」

 

 彼女の涙ながらの告白を聞いた後、陽は摩魅の中にゴーゴやヒヤータの様な残忍な一面があるとは思えない、思いたくなかった。

 

「ふん……物事を見た目で判断するか…それも良かろう……。だが忠告してやるが、目で見える物だけが真実では無い。動物は直感で、目の前に居る者が敵か味方かを見分けるが……人間は知性が働く余り、余計な事を考えて敵味方の区別が付かなくなる……。貴様も、それの最たる例だ。

 もし、その混血鬼の娘が貴様の妹を手に掛ければ、貴様は笑って受け入れるのか? そいつを赦せるか? 以前も言ったが、人間は一皮剥けば獣のそれと変わらない。

 寧ろ、知性と言う堰に阻まれている獣性が解き放たれた時、人間は野生の獣さえも真っ青になる様な残忍な行為に及ぶだろう!」

 

 ガオネメシスに人間こそ、動物と変わらない獣性を持ち合わせていると言う真実を告げられ、陽は揺らいでしまった。

 

「摩魅が……祈を?」

「陽、乗せられては駄目‼︎ 無心になるの! 彼等は、貴方を動揺させる為に挑発しているだけ‼︎」

「クックック……動揺? それは違うぞ、ガオの巫女。俺は、つまらない理性に囚われている其奴を解き放ってやろうとしているだけだ」

 

 テトムは、ネメシスに揺さぶられる陽を嗜めるが、それでも尚、陽の心の隙に潜り込んで来る。

 

「テトム……大丈夫……! 僕は、こんな奴等の言う事を信じたりしない……‼︎」

「クスクス……その割には惑いに満ちているのが、見え見えですわァ♡」

 

 更に追い討ちを掛ける様に、ニーコが囁く。其処へ、ガオネメシスが割って入る。

 

「……まァ、良い……俺の言葉を信じようが信じまいが、全てが手遅れ。今更、貴様等がどう足掻こうとも、間も無く“鬼還りの儀”が完遂する為の手筈が整う……」

「鬼還りの儀?」

 

 ガオネメシスの発した謎の言葉に、陽は尋ねた。

 

「この地上を、オルグの楽園とする為の儀式さ。その儀式が行われれば地上は引き裂かれ、鬼地獄より何万、何億と言うオルグ達が這い上がって来るのだ……‼︎

 ハハハハ、壮観な眺めだぞ‼︎ 鬼霊界、鬼地獄に所狭しと蠢くオルグ達が地上を覆い尽くすのはな‼︎」

「ふ、ふざけるな…‼︎ そんな事をしたら、人間はどうなる⁉︎」

 

 ガオネメシスの語る壮大な目論見に、陽達は背筋が凍る。もし、それが実現すれば、血に飢えたオルグ達により人間は縊り殺され、地上は邪気に覆い尽くされてしまう。考えただけで震えが止まらない。

 

「ふ……さァな……。オルグ達に聞いてみるが良い……。遅かれ早かれ、やって来るからな……。

 そうだ、ガオシルバー。親切心で教えてやるが、鬼還りの儀を行うにあたり、生贄が必要となる。その時、捕まえてあるガオレッド達を役立たせて貰うつもりだ」

「な、何だ……と⁉︎」

 

 今度は大神は絶句した。ガオレッド達を生贄に……⁉︎ ガオネメシスは下卑た声で笑う。

 

「そう……地上と鬼地獄を繋げる扉を開く為の人柱として、奴等を利用するのだ……‼︎

 名誉な事だぞ? 新たな時代を切り開く為の、生きた楔として身を犠牲に出来るなんてな!」

「き…貴様…‼︎」

 

 仲間達を捨て石の様に扱うガオネメシスに対し、大神は怒りを滲ませる。

 

「ガオネメシスよ……一体、貴様は何の目的があって、オルグに味方をする? 何やら、単純にオルグへ味方するだけとは違う気がしてならんのだが……」

 

 佐熊の質問に対し、ガオネメシスは苛立ちを見せた。

 

「……貴様等との問答にも飽きた。鬼還りの儀が行われてしまえば、貴様等のやって来た事は水泡に帰す……だが、貴様等は俺を邪魔し過ぎた……見せてやろう! 地獄より這い上がって来た、復讐の炎を纏いし戦士の力を‼︎」

 

 そう言って、ガオネメシスは手をかざす。すると紫色の光が現れ、光が収まると右手には漆黒の武器が握られていた。

 

「これが、俺の武器……ヘルライオットだ‼︎」

 

 そう言いながら、ヘルライオットの鞘を抜く。其処から黒く妖しく輝く刃が覗いた。

 

「ヘルライオット……⁉︎ 破邪の爪、じゃ無いのか⁉︎」

 

 陽は困惑した。以前、ガオネメシスと対峙した際は他のガオレンジャーの武器を使っていた筈だ。

 ガオネメシスは、刃を向けた。

 

「これを、貴様等の使う脆弱な爪と一緒にしてくれるな‼︎

 ヘルライオットの破壊力を見るが良い‼︎」

 

 そう言って、ガオネメシスは刃を振るう。すると放たれた剣風が衝撃波と化して、陽達を吹き飛ばした。

 

「ク……なんて力だ‼︎」

 

 体制を立て直しながら、改めてガオネメシスの力に戦慄を覚える。恐らくだが、本気を出した奴の力は四鬼士達と同格、若しくは其れさえも上回るかも知れないからだ。

 

「さァ、変身しろ! 見せてやる! この俺、ガオネメシスの力をな‼︎」

 

 ガオネメシスが挑発して来た。どうやら、やるしか無いらしい。

 

「皆、変身だ‼︎ ガオアクセス‼︎」

 

 陽の掛け声で、三人はG−ブレスフォンを起動した。光が収まると、三人のガオの戦士が現れる。

 

「天照の竜! ガオゴールド‼︎」

 

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

 

「豪放の大熊! ガオグレー‼︎」

 

「命ある所に正義の雄叫びあり!

 百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎」

 

 三人の戦士達は口上を述べながら、戦闘態勢に入る。しかし、ガオネメシスは余裕そうだ。

 

 

 

「フン……ならば、俺も名乗るとしよう……!

 叛逆の狂犬! ガオネメシス、参る‼︎」

 

 そう叫び、ガオネメシスは迫って来た。ニーコは、パチンと指を鳴らす。

 

「オルゲット、出番ですわよォ!」

「ゲット、ゲット‼︎」

 

 多数のオルゲット達を召喚すると、自身も身の丈ほどある巨大な大鎌を構えた。

 

「アハッ♡ 私、こう見えて結構、強いですよォ‼︎」

 

 ニーコは大鎌を振り下ろしながら、ガオシルバーに斬り掛かる。だが、ガオシルバーは寸での所で受け止めた。

 

「ンフッ♡ 良い反応ですわァ♡」

「その気持ち悪い喋り方ごと、黙らせてやる‼︎」

 

 仲間を盾に取られたガオシルバーは怒り心頭の様子で、ニーコを凄む。しかし、ニーコも負けては居ない。

 

「気持ち悪い、とは御挨拶ですこ、と! 私をツエツエちゃんと一緒にしてるなら、お気の毒様‼︎」

 

 ニーコは鎌を軽々と振り回しながら、攻撃を仕掛ける。非力そうな見た目に反し、オルグに相応しい怪力を持ち合わせているらしい。確かに、実力はツエツエ以上だ。

 

 ガオグレーは、グリズリーハンマーでオルゲット達を叩き伏せて行く。更には怪力にて、オルゲット達を投げ飛ばす、殴り飛ばすと力に身を委ねた豪快さを発揮した。

 

「グレー……ツイスター‼︎」

 

 ガオグレーは身体を一回転させて、グリズリーハンマーを持ったまま振り回した。するとグレーを中心に灰色の竜巻状となって、オルゲット達を吹き飛ばして行く。

 

「雑魚など、肩慣らしにもならんわい‼︎」

 

 力強く、ガオグレーは豪語した。

 

 ガオゴールドは、ガオネメシスと対峙していた。交錯する二つの刃は、力を拮抗させていた。

 

「ほう……少しは強くなったな……。メランが貴様に執心する訳だ」

「……お前達の好きな様には、させない‼︎」

 

 仲間達、大切な家族、そして地球……守る物が沢山あるガオゴールドには、敗北は許されない。

 目の前に居るガオネメシスを何としても倒さなければならないのだ。

 

「竜牙……墜衝‼︎」

 

 ガオゴールドは飛び上がり、一気に下へと斬り下ろす。放たれた斬撃は大地を抉るが、ガオネメシスには、さしたるダメージを与えられて無い様子だ。

 

「しかし……まだまだ緩い……‼︎」

 

 嘲笑いながら、ガオネメシスは後退してヘルライオットを鞘に納めて変形した。

 

「ガンナーモード‼︎」

 

 銃形態となったヘルライオットを構え、引き金を引く。すると三つ首の犬に似た銃口から、漆黒の光弾が複数発に渡り射撃された。

 

「うわあァァ!!!」

 

 至近距離による散弾銃の弾丸を受けたガオゴールドは、その衝撃で吹き飛ばされる。

 辛うじて立ち上がるが、胸部に鋭い痛みが走った。ガオスーツの恩恵が無ければ、即死は必至だっただろう。

 

「フン、その程度か……。 今の貴様等では逆立ちしても勝てんぞ? 」

 

 ガオネメシスの辛辣な言葉が、重傷を負ったガオゴールドにのし掛かる。

 これ程までに遠いなんて……これ程までに差があったなんて……! 自分達とガオネメシスの間にある壁の高さに、ゴールドは愕然とするしか無い。

 

「ネメシス様ァ? あんまり、本気を出すと死んじゃいますよォ?」

 

 ニーコが、ネメシスの横に立つ。振り返ると、ガオシルバーとガオグレーは虫の息状態だった。

 

「そ、そんな……‼︎」

「アハハッ‼︎ 弱い、弱ァい‼︎ 弱過ぎて、ガッカリですゥ‼︎ これじゃ、ガオレンジャーは鬼還りの儀を待たずに死んじゃいますねェ‼︎」

 

 鎌に付着したシルバーの返り血を舐めながら、ニーコは小馬鹿にした様に笑う。

 信じられない……今迄、戦って来た敵達の中で、この二人は明らかにレベルが桁違いだ。

 

「な、舐める…な‼︎」

 

 ガオゴールドは、ガオサモナーバレットを構える。バレットに、ガオソウルを装填していき……

 

「破邪…聖火弾! 邪気…焼却‼︎」

 

 バレットの銃口より放たれる金色の光弾……ガオゴールドの持てる全てを乗せて撃ち込んだ。

 しかし……ガオネメシスは蝿でも払い退ける様な気怠げな仕草で、その光弾を弾き飛ばした。

 

「ば……馬鹿な……⁉︎」

「これで分かっただろう? 貴様では、このガオネメシスに手傷一つ負わせる事は出来ん‼︎」

 

 勝ち誇ったネメシスの言葉が、ゴールドの耳に木霊した。だが、それと同時に蓄積したダメージと疲労がピークに達し、ゴールドは倒れ伏す……。それと同時に、ガオソウルを使い果たしたガオゴールドの変身は解けてしまった。

 

 

 

「あ、陽ァァ!!!」

 

 気を失った陽に、テトムは絶叫する。しかし、ガオネメシスは動かなくなった陽に無情にも、銃口を向けた。

 

「ま、待てェェ‼︎」

 

 今にも射撃されそうになった陽の前に、ガオシルバーとガオグレーが立った。

 

「陽を……殺させるか……‼︎」

 

 ガオシルバーは、ガオハスラーロッドを構えながら叫ぶ。しかし、足元は立っている事もやっとだ。

 

「死に損ないが……。そんなに死に急ぐなら……貴様から殺してやろう‼︎」

 

 と言って、ガオシルバーにヘルライオットを向けるガオネメシス。その時、ガオウルフ、ガオリゲーター、ガオハンマーヘッド達が、シルバーに集結した。

 

「お、お前達……‼︎」

「気に入らんな…‼︎ 負け犬共が、負け犬を庇うとは……‼︎ 丁度良い、こいつ等の力を試してやる‼︎

 出でよ、魔の眷属達よ‼︎」

 

 そう言って、ガオネメシスは左手から三つの宝珠を取り出す。セピア色に輝く宝珠だ。

 

「そ、それは……⁉︎」

「ハハハ‼︎ 来たぞ、カオス・パワーアニマル達が‼︎」

 

 ガオネメシスが高らかに笑う。地を崩しながら現れたのは三頭の魔犬だった。三つある首は、それぞれが低く唸りながら威嚇する。

 

「奴が、ガオケルベロスだ‼︎」

 

 また、右手から現れたのは角を持った馬だった。姿だけなら、ガオユニコーンと同じだが、頭からは大きく湾曲した二本の角が生えている。

 

「奴が、ガオバイコーン‼︎」

 

 更に、左手からは巨大な蛇が現れた。大きさは巨大だが、とりわけ巨大だったのは大きく開かれた口である。

 

「そして奴が、ガオムンガンド‼︎」

 

 集結したのは、いずれもパワーアニマルだった。だが、他のパワーアニマルの様な神聖さは欠片も無く、何処までも邪悪で禍々しかった。

 

「あ、あれは……パワーアニマル……⁉︎」

「違う‼︎ 奴等は、カオス・パワーアニマルだ‼︎ 地球の生命エネルギーから生まれた、パワーアニマルと異なり……奴等は地球の混沌から生まれたのだ‼︎」

「混沌から…じゃと?」

 

 ガオグレーはカオス・パワーアニマル達を見た。成る程、確かに奴等からは禍々しく、そして底の知れない闇が感じ取れる。混沌(カオス)……とは、よく言った物だ。

 

「そして、見せてやろう‼︎ 混沌の精霊王をな‼︎ 魔獣合体‼︎」

 

 ガオネメシスが号令を出すと、カオス・パワーアニマル達は合体を始める。ガオケルベロスが前足を上げて直立、左右の頭が肩部をとなった。右腕を分裂したガオムンガンドが、左腕をガオバイコーンが構成した。

 そして、ガオムンガンドの尾の部分が右手に装備され、ガオネメシスは体内ヘ収納された。

 

「誕生‼︎ ガオインフェルノ‼︎」

 

 〜何という事でしょう‼︎ 混沌の力を持つ三体のパワーアニマルが合体する事により、邪悪なる破壊の精霊王が誕生したのです‼︎〜

 

「…ガオウルフ…病み上がりでスマンが、頼む! ガオグレー、陽を頼む‼︎ 百獣合体‼︎」

 

 ガオシルバーは、陽の介抱をガオグレーに任せて、ガオウルフ達に号令、正義の狩人ガオハンターとなった。

 

 

 

 相対する二体の精霊王……先手は、ガオハンターがリゲーターブレードを突き出した。しかし、ガオインフェルノには、まるで効いていない様子だ。

 

「その程度の攻撃……! ガオインフェルノ、ムンガンドセイバー‼︎」

 

 ガオネメシスの命令で、ガオインフェルノはムンガンドセイバーを振るう。凄まじい衝撃が、ガオハンターを襲う。

 

「クッ……‼︎ ガオハンター、ブルームーンだ‼︎」

 

 ガオシルバーの指示に従い、ガオハンターは力を貯め始める。此処で休息している最中、ガオウルフ達は地球のエネルギーと青き月のエネルギーを蓄積させていたのだ。

 

「ガオハンター・ブルームーン‼︎」

 

 全身が青くなった、ガオハンターのもう一つの姿である、ガオハンター・ブルームーンを披露した。

 通常のガオハンターの十倍の出力を発揮するが、それと同時に、ガオソウルの消費も著しい為、ガオハンターからすれば諸刃の剣でもある。

 

「リゲーターブレード三日月斬り‼︎」

 

 ガオハンターは、リゲーターブレードを振るいガオインフェルノに斬り掛かる。しかし、それでもガオインフェルノは僅かに揺らいだだけだった。

 

「月下咆哮! ブルームーンハート‼︎」

 

 ガオハンターの胸部から放たれる蒼色の光線、ブルームーンハートが、ガオインフェルノに襲い掛かる。

 だが、それと同時にガオインフェルノの胸部と両肩の犬の頭が開く。

 

「煉獄業火! インフェルノカノン‼︎」

 

 三つの口がら、漆黒の火炎弾が放たれた。漆黒の炎は、蒼色の光線を弾いていき、やがて一つに合体した巨大な火炎弾が、ガオハンターに着弾した。

 凄まじい爆炎と、轟音が響き渡る。ガオハンターは炎に包まれながら倒れ伏した。

 

「シルバーァァ‼︎」

 

 ガオグレーは絶叫した。だが黒煙の中に立っていたのは、ガオインフェルノだけだった。ガオネメシスの笑い声が響き渡る。

 

 

 

 爆炎が治まった中に駆け寄ると、変身の解けた大神が倒れていた。しかし、辛うじて生きていた彼は這いずりながら、目の前に転がる宝珠に手を伸ばす。

 しかし、その手を振り下ろされた足が踏み止めた。

 

「ぐゥッ…‼︎」

 

 苦しそうに呻く大神。手を踏みつけたのは、ガオネメシスだ。そして大神を蹴飛ばすと、宝珠を拾い上げた。

 

「か…返せ…‼︎ 何を…‼︎」

 

 大神の言葉に、ガオネメシスは何も答えずに宝珠を握り締めた。すると、三つの宝珠は全てセピア色に染まっていた。

 

「コイツ等は今、邪気を注ぎ込む事で、魔獣に変えてやった。この俺の眷属としてな……」

「な、何だ…と…⁉︎」

 

 ネメシスの言葉を聞いた大神は愕然とする。憫笑する様に、ガオネメシスは小さく笑いながら背を向けた。

 

「貴様等では、俺には勝てんさ。帰るぞ、ニーコ」

「は〜い♡」

 

 そう吐き捨て、ガオネメシスは鬼門の中に消えていった。残された大神は悔しそうに地を握り締めた。

 

「また…守れなかった…また…‼︎」

 

 悔し涙を流しながら、大神は慟哭した。重々しい空気の中、佐熊とテトムは立ち竦むしか出来なかった……。

 

 〜圧倒的な強さを発揮し、ガオレンジャーを追い詰めたガオネメシス‼︎ 更にカオス・パワーアニマルの登場で、ガオウルフ達をも奪われる事態に‼︎ ガオレンジャーは果たして、ガオネメシスを倒せるのでしょうか⁉︎ そして、ネメシスの発する鬼還りの儀とは⁉︎〜



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quest34 失意の銀狼

 ガオズロック内では沈痛な空気が流れていた。仲間達は誰もが閉口したまま、一言も口を利かない。

 完膚なき迄の敗北……今回ほど、その言葉が似合う敗戦は無かった。ガオネメシスの再登場、そしてカオス・パワーアニマル……極め付けには、ガオウルフ達を奪われた事実……。

 陽は戦いの後、目を覚まして事の顛末を聞くと同時に、自身が気を失った後に起こった一大事に耳を疑い……そして、痛感せざるを得なかった。

 かつて、風のゴーゴに敗北して以来、自分達に敗北は無かった。あらゆる強敵達も倒して、ピンチを切り抜けて来た。

 だが今回、過去に於いて前例の無い程の大敗を喫してしまう。自責の念と後悔ばかりが押し寄せて来る。

 失意の中、竜胆市に戻るが、彼等の気は一向に晴れない。

 

「……ガオネメシス……まさか、あれ程の強さとは……」

 

 佐熊は、ポツリと呟く。今迄、奴の強さを完全には把握していなかった。しかし今日、その強さを否応無く体感する事になった。

 気を失った陽や、ガオグリズリー達を召喚する間も無く敗北した佐熊も、ガオパラディンやガオビルダーを召喚した所で、ガオインフェルノには勝てる気がしない。

 直接、奴と対峙した大神は、ネメシスやガオインフェルノの桁外れの強さに身に染みたばかりか、ガオウルフ達をも奪われてしまったのだ。

 ガオウルフ達が居なければ、大神はガオシルバーに変身する事も出来ない。詰まる所、ガオレンジャーの戦力は大きく削がれた事となる。

 

「何故……ガオネメシスは、あの場所を突き止めたのかしら?」

 

 テトムは、決してオルグに嗅ぎ付けられ無いと安心していた場所を、ガオネメシスは探り当てたのか、考えていた様だ。

 確かに、あのタイミングで何故、ネメシスは隠し場所を察知出来たのか? 考えれば考える程、不可解である。

 

「……まさか、テトム。俺達の中に、オルグへの内通者が居ると考えて居るのか?」

 

 それまで沈黙を貫いていた大神は、鋭い目線を彼女に向けた。

 

「……そうじゃ無いわ‼︎ …でも、あのタイミングで急にガオネメシスが現れるなんて、どう考えても不自然じゃ無い……」

 

 テトムの言葉に、大神も押し黙る。確かに、ガオネメシスの現れたタイミングは偶然と片付けるには、都合が良すぎる。

 まるで自分達が、あの場所に居ると最初から分かっていたみたいだ。それこそ、誰かが密告でもしたかの様に……。

 とは言え、自分達の何れが内通者等とは考えられないし、陽は考えたくも無かった……。その際、大神は陽を見た。

 

「オルグと内通している可能性の高い…とすれば一人、疑いのある者が居るだろう……」

 

 彼は多くを語らなかったが、彼が何を言わんとしているかは陽にも理解出来た。

 

「大神さん……まさか、摩魅ちゃんを疑って居るんじゃ……?」

 

 陽は途端に鋭い目で彼を見た。しかし、大神は敢えて続ける。

 

「……陽、結果と言う物は原因がある……最初から結果だけ

 は存在しない……現に彼女が、俺達の前に現れた以降に、ガオネメシスの奇襲が起きた。彼女が内通者として、オルグに情報を流したとも考えられる……」

「何の証拠にもならないじゃ……」

「先日の、オルグ忍者の奇襲はどうだ? あからさまに、お前の目と鼻の先で騒ぎを起こした。

 暴れ回れば、俺達がやって来ると知っていたからじゃ無いか?」

 

 大神は摩魅を疑わしげに考えている様子だった。確かに摩魅が自分達の前に現れてから、オルグの攻撃はピンポイントになった……これ迄は、無差別かつ大掛かりな攻撃だったが、より確実に自分達を仕留める傾向が見える……。

 

「僕は……彼女が、スパイだとは思わない……! 僕は彼女を信じている……‼︎」

 

 摩魅の凄惨な過去を知ってしまった陽は、彼女が悪意を持って自分達に近づいて来たとは思えない。

 しかし、そんな陽を大神を厳しい目で睨む。

 

「陽……信じる、信じないの話じゃ無い! 可能性の上での話をしているんだ‼︎

 確かに彼女は人間かも知れないが……内には、オルグの血が流れているのも事実……! ガオネメシスも言っていただろう⁉︎ 目に映る物、全てが真実では無い、と‼︎」

「大神さんは、ガオネメシスの言う事を間に受けるんですか⁉︎ 貴方らしくもない……‼︎」

 

 陽には珍しく、他者を皮肉る様な言い草だった。大神は、それに対して正面から突っ掛かった。

 

「俺らしく無い、だと? お前が俺の何を知っている⁉︎

 分かった風な口を聞くな‼︎」

「大神さんだって、彼女の何を知っているんですか⁉︎ 憶測だけで、彼女をスパイだと決め付けて……最低だ‼︎」

「憶測だけじゃ無い‼︎ 彼女がオルグの混血である事は周知だし、その上での危機感を述べただけだ‼︎ 俺を最低だと言うなら、自身の目線だけで彼女を信じ切って危機感の欠片も見せない、お前の方が余程、最低じゃ無いのか⁉︎」

「二人共、いい加減にしてッ‼︎」

 

 余りに見るに耐えない争いを続け白熱する二人を見兼ね、テトムは叫んだ。

 

「仲間同士の揉め事なんて沢山…‼︎ 今、貴方達がすべきなのは、オルグを倒す事でしょう⁉︎」

 

 テトムは涙ながらに訴える。確かに、今は仲間内で対立している場合じゃ無い。オルグの戦力は絶大、ひいてはガオネメシスと言う桁外れの強さを持つ強敵も控えている。

 こんな時こそ、結束が必要なのは分かっていた。しかし一度、外れてしまった歯車は噛み合わず、ただただ不協和音を発しながら、ぶつかり合うばかりだった。

 

「……テトム……‼︎ 俺は、ガオウルフ達を失ってしまったんだ……‼︎ もう、ガオシルバーになる事も叶わない……そうなったら、結束も何も無いだろう……‼︎」

 

 そう言いながら、大神は力無く笑った。今の自分は、ガオレンジャーの中で一番の足手纏い……その自虐的な考えが、彼に焦りを抱かせていた。と、同時に今迄、陽に対して密かに抱いていた暗い感情が爆発しつつあった。

 

「もう陽には、俺が居なくとも強くなった……それに引き換え、俺はガオレッド達を救う事も出来ず、あまつさえはパワーアニマルをも奪われる体たらく……今の俺は寧ろ、ガオレンジャーには居ない方が良い……」

「……月麿、其れは本気で言うとるんか?」

 

 心の丈をぶつける大神に対し、佐熊は怒りを含めた目を向けた。

 

「……じゃが……一理あるのゥ……。戦う事も出来ずに悔やむ事しか出来ん様なら……居らん方が良いかも知れん……」

「佐熊さん⁉︎」

 

 辛辣な物言いをする佐熊に対し、先程までは大神と対立していた陽が見た。その言葉を聞いた大神は、立ち上がる。

 

「……なら、これで終わりだ……俺は、ガオレンジャーと戦う資格も理由も無くなったんだ……悪いが、此処で袂を分かつ事にする……」

 

 其れだけ言うと、大神はガオズロックから出て行こうとする。テトムは慌てて飛び出し、彼を引き止めた。

 

「待ちなさい、シロガネ‼︎ 戦士としての宿命から逃げるつもり⁉︎ 其れは、ガオレンジャーの仲間達……ひいては千年前に貴方と共に戦った戦士達全員に対する裏切りよ⁉︎」

「……放っておいてくれ……。俺は牙を抜かれた狼……戦いに負けた狼は群れを離れ、死に場所を求めて彷徨うだけだ……それが誂え向きだ……」

 

 とだけ吐き捨てて、大神は歩き去っていく。何時の間にか、雨が降って来てテトムの肩を、髪を濡らした。

 その後から出てきた陽は、大神の背に向かい……

 

「大神さん‼︎ どうか、戻って下さい‼︎ 今、貴方が居なくなったら……」

 

 陽は何とか続けようとしたが、混乱して言葉が纏まらなかった。彼の後ろから、佐熊が覗き見た。

 

「……頭を冷やさせるしか無い……。人一倍、生真面目な男じゃからのゥ……アイツもまた、人の子じゃ……」

 

 佐熊は、しみじみとした様子で言った。陽は雨の中、去り行く彼の後ろ姿を見ながら……

 

「……頭を冷やさなきゃならないのは、僕の方です……! 大神さんの気持ちも考えずに、無遠慮な発言だったかも知れない……」

 

 さっきは、ガオネメシスの敗北で取り乱していたとは言え、大切な仲間である大神に当たり散らしてしまった……そうしなければ、彼は去らなくて済んだかも知れないのに……。

 しかし、テトムは降り頻る雨に打たれながら言った。

 

「……大丈夫……彼は、きっと帰ってくるわ……」

 

 テトムは信じていた……未だ、大神の心は完全に折れていない事を……必ず、再び帰って来てくれる事を信じていた……。

 

「それより、ガオネメシスについて……貴方達に知らせておきたい事が……」

 

 テトムの言葉に、陽と佐熊は振り返る。彼女の顔は深刻さに満ちていた……。

 

 

 鬼ヶ島にて……ガオネメシスは、地下室にて腰を下ろしていた。目の前には結晶の中で眠りに付くガオレッド達が……。

 

「ふん……、俺の睨んだ通りになったろう?」

 

 〜ガオシルバーの決別に、ついてか〜

 

 ネメシスの横にある鏡から低い声が響く。その声は気怠げで、どうでも良いと言う様に聴こえるが……。

 

 〜今更、奴等が仲違いしようがすまいが、さしたる問題にはならぬ筈……。ワシのくれてやった切り札である、カオス・パワーアニマルを無断に持ち出しおって……あれは、鬼還りの儀の行われる瞬間まで使うな、と釘を刺しておいたでは無いか……〜

 

「ククク……問題にはならんが……無視する事もない。出る杭は早めに抜いておくべきだろう……。何より……ガオハンターは、戦力と共に使いようがある……全てが終われば、天空島のパワーアニマル含めて、鬼還りの儀での生贄としてやるまでだ……」

 

 邪悪な言動を立て並べるガオネメシスに対し、鏡の中には髑髏を模した顔が浮かび上がる。

 

 〜ガオネメシス……貴様は、そうまでしてガオレンジャーを根絶させようとしている理由は何だ?

 何かを払拭しようとしている風に見えるがな……〜

 

「……何が言いたい?」

 

 その声の発する挑発じみた台詞に、ガオネメシスは明らかに苛ついていた。声は続ける。

 

 〜忘れられないのだろう? 貴様に復讐の道を歩ませる要因となった……その冷徹な仮面(マスク)の中に封印した、あの女を……〜

 

「黙れッ‼︎」

 

 ガオネメシスは、さっきまでの余裕は無くなり酷く取り乱していた。

 

「俺の復讐と……彼女の事は無関係だ……‼︎ 二度と口に出すんじゃ無い……‼︎」

 

 〜クックック……貴様も、つくづく哀れな男だ……忘れる事も消し去る事も出来ず、過去に囚われている咎人……それが貴様、ガオネメシスと言う男の本質だ……〜

 

「黙れェェッ!!!!!」

 

 ガオネメシスは慟哭しながら、ヘルライオットを取り出し、鏡を撃ち砕いた。壁に幾つもの弾痕を創りつつも、跳弾した弾丸がマスクのバイザーに当たって一部を砕いて、構う事なく引き金を引いて射撃し続けた。

 やがて鏡は跡形も無く粉砕され、残されたガオネメシスはヘルライオットを下ろしながら天井を仰ぎ見た。

 

 

「……姉さん……もう少しだよ……姉さんを裏切った世界に、俺が復讐してあげるから……」

 

 

 ポツリと呟くネメシスの砕けたバイザーの隙間から、一筋の涙が流れ落ちた。

 

 

 

 敗戦から翌日経った日……陽は何時もの様に朝食の席に着き、祈が用意した朝餉を食べていた。

 あの後、大神の行方は忽然として眩まし、彼から連絡は来ない。陽は心底から憂鬱だった。それ以外は何時もと変わらぬ朝だったが……。

 もう一つの変化は竜崎家の食卓の場に、もう一人、加わった事だった。陽の左向かいに座る少女、摩魅……。

 竜崎家に居候として住み込んでおり、今は家族同然に暮らしている……ふと陽はパンを齧る摩魅を見る。

 大神が言う通り、もし彼女がオルグの送り込んだスパイだったら……このまま、彼女を此処に置いておくのは危険なのでは無いか……。

 陽は、摩魅がスパイだなんて信じたくなかった。確かに、彼女はオルグの血が流れている。しかし、人間でもあるのだ。

 彼女が自分達と出会う迄に受けて来た仕打ちの数々……それさえも、自分達を信用させる為の演技かも知れない……そんな風には考えたく無かった……。

 

「兄さん……?」

 

 祈は食事に手も付けず、心此処に有らずといった具合にボーッとしている陽を呼び掛ける。

 彼女の声を聞いた陽は我に返る。

 

「どうしたの? 全然、食べて無いけど……食欲無いの?」

「い、いや……別に……」

 

 正直、祈に打ち明けるべきかと考えていた。だが、その時に、ガオネメシスの言葉が脳裏にリフレインする。

 

 

 〜目で見える物だけが真実では無い。動物は直感で、目の前に居る者が敵か味方かを見分けるが……人間は知性が働く余り、余計な事を考えて敵味方の区別が付かなくなる……〜

 

 

 もし、ネメシスの言う事が真実なら……自分の目に見えない場所に真実があるなら……また、祈を危険に晒してしまう事になる……。

 

「ねェ……本当に大丈夫?」

 

 明らかに普通では無い陽に、祈は不安そうに尋ねた。そして、陽の前に座る。

 

「何も無い訳ないじゃない‼︎ 隠してないで話して! 私には打ち明けてくれる約束でしょ?」

 

 ズイッと迫って来る祈。陽は観念した様に話し出す。

 

「……大神さんが居なくなったんだ……」

「大神さんが? どうして?」

 

 急に別角度から飛んで来た変化球な返答に、祈はキョトンとした様に首を傾げた。

 

「……些細な事から口論になって……互いに譲る事が出来ずに衝突して……大神さんは出て行ってしまったんだ……」

 

 大部分を端折りながらも、陽は淡々と述べた。祈も深刻な顔で聞いていたが……

 

「何処に行ったか、分からないの?」

 

 と、聞くしか無かった。陽は力無く首を振る。祈も不安そうに座る。

 

「……大神さんが出て行ったのは僕の所為だ……パワーアニマルを奪われて消沈しているのに……」

「自分を責めちゃ駄目だよ、兄さん……大神さんだって、きっと解って来れるよ……」

 

 自責の念に駆られる兄を、祈は慰めた。だが、陽は曇った顔のままだ。と、同時に摩魅も席を立つ。

 

「摩魅ちゃん、どうしたの?」

 

 摩魅の様子を見た祈は尋ねる。

 

「え…あの…トイレに…」

 

 そう言って、摩魅はリビングから出て行く。陽は摩魅の背中を見続けていた。

 

「どうしたの、 兄さん?」

 

 様子が変わった陽に対し、祈は怪訝な顔をする。

 

「……祈、学校に行く間、彼女はどうしてる?」

「? 何で?」

「……少し気になる事があってな……」

 

 そう言って陽は席を立つ。祈は陽の様子に不可解さを覚えながらも、それ以上に追求する事はしなかった。

 

 

 摩魅は二人に気付かれ無い様に外に出る。キョロキョロと周りを見通して、誰も居ない事を確認する。

 そしてポケットから紅い石が付いた手鏡を取り出す。すると、鏡から声が聞こえて来た。

 

 〜摩魅……報告が遅いぞ?〜

 

「……申し訳ございません、ヤミヤミ様……」

 

 彼女は恐る恐る、と言った具合に返事する。鏡には、ヤミヤミの姿が映し出された。

 

 〜ガオゴールドには悟られていないだろうな?〜 

 

「……はい、大丈夫だと思います……」

 

 〜宜しい……引き続き、奴等の行動は逐一、報告する様に…。本来なら裏切り者である貴様は打ち首にされても文句を言えない立場だが、テンマ様の寛大な処遇により生かされているのだ。重ねて言うが……貴様の行動は鬼灯隊の二人が見張っている事も忘れるなよ。万が一、裏切りや逃亡を試みれば……解っているな?〜

 

「……はい……」

 

 摩魅はビクッと身体を強張らせる。自分は逐一、彼等に監視されている。もし、逃げ出したり事の真相をガオレンジャー達に話そうとすれば、瞬く間に殺されてしまう。

 そう言った四面楚歌な状況下にて、摩魅が反逆する等とは到底、無理な話だった。

 

 〜我々は現在、儀式を行う為の穴を探す作業に入っている……決して、ガオレンジャーに、その事実を悟らせる訳にはいかん。貴様は与えられた任務をこなすのだ……〜

 

 それだけ言い残し、ヤミヤミの姿と声は消えた。残された彼女は自分の顔が映る手鏡を無言のまま見つめ、ポタリと涙を溢した。

 

 

 

 暗闇の中を大神は一人、彷徨っていた。右に行って良いのか左に行って良いのか分からない暗闇……しかし、前に進むしか彼には道が無い……一体、どの位、歩いただろうか?

 詰まらない意地の張り合いから、仲間達から離れてしまった…否…戦士としての宿命から逃げてしまった…。

 逃げた所で、自分には行く宛も帰る場所も無い……ただ、逃げて逃げて……現実から目を背けた。

 もう自分には戦う力も無い……ガオウルフ達を奪われて、ガオシルバーになる術を失ってしまった。腕にあるG−ブレスフォンも消失し、今の自分はただの人……残されたのは、後悔と空虚だけだ……。

 構わない、例え自分が居なくとも、陽や佐熊が何とかするだろう……自分は必要無い……オルグに負け、牙を折られた自分は……そんな捨て鉢な感情が大神の中を支配する……。

 ふと、大神は立ち止まる。彼の後ろから気配を感じたからだ……振り返れば、其処には懐かしい人物が居た。

 

「ムラ…サキ…?」

 

 それは先代のガオの巫女にして、テトムの祖母にあたる女性ムラサキ……大神にとっては、非常に懐かしい存在だった。

 彼女は、あの頃と変わらない長い白髪を靡かせ、穏やかな笑みを浮かべている。彼女は自分を迎えに来てくれたのか?

 

「ムラサキ……」

 

 大神は堪らずに、手を伸ばす。しかし、途端に彼女の表情は曇る。憂いに満ちた悲しげな表情に……。

 

「何故…そんな顔をするんだ? ムラサキ…?」

 

 大神は尋ねる。しかし、その伸ばした手を見た大神は絶句する。彼女に触れようとしていた手は漆黒の異形の腕と化していたからだ。

 

「な……これは⁉︎」

 

 大神は自身の両腕を見据える。すると片腕まで大神の衣服、地肌は剥がれていき異形の腕となる。更には彼の両脚、胴体も見る見る剥がれ落ち、漆黒の異形の身体が露わとなっていた。

 

「止めろ⁉︎ 一体、何が⁉︎」

 

 パニックに陥った大神は自身の顔を掻き毟る。すると、顔の皮膚や髪も剥がれ落ちて行き……やがて、露わとなるのは灰色に燻み縮れた髪、長く伸びた角、そして狼に似た鬼の顔だ。

 

「あ……ああァァァ……!!!!!」

 

 大神は激しく慟哭した。何時しか、自身は狼鬼そのものとなっていたからだ。そんな醜い自分の姿から目を逸らす様に、ムラサキは去って行ってしまう。

 

「待て……待ってくれ、ムラサキ……!!!」

 

 大神は絞り出す様な声で叫ぶ。だが自分はオルグだ。ムラサキは振り返ろうとしない……突然、ムラサキの姿は消えて、ガオゴールド、ガオグレーの姿が自身の前に立ち塞がる。

 

 〜オルグは全員、倒してやる‼︎〜

 

 ガオゴールドは、ドラグーンウィングを構えながら迫って来る。大神は後退りながら……

 

「や、止めてくれ‼︎ 俺は、オルグじゃ無い‼︎」

 

 と、決死に叫ぶが大神の声は野太い狼鬼のそれとなっている。そうしてる間に自分の眼前に迫ったガオゴールドは、自身の武器であるドラグーンウィングを振り下ろすに至る。

 

 〜オルグめ‼︎ 地球の敵め‼︎〜

 

「俺は…俺は…‼︎」

 

 振り下ろされた刃を躱して、大神は座り込む。すると自分の右手下に触る堅い感触……。

 見下ろせば、狼鬼の得物である三日月刀があった。彼は悟る……もう自分は、オルグなのだ。一度、外道に堕ちた自分には二度と光のさす道を歩く事は許されないのだ、と…。

 そして自分が為すべき事を理解した。オルグと成り果てて罪の無い人間を傷付けるくらいなら…大切な仲間達に、自分を斬らせると言う(カルマ)を背負わせるくらいなら…今ここで楽になろう…大神月麿の人生を此処で終止符を打とう…。意を決した大神は三日月刀を両手に持ち、自身の首元に向ける。そして目を閉じると、漆黒の刃を首筋に勢いよく突き刺した……。

 

 

 其処で大神は目を覚ます。辺りは静寂に包まれており、自分の前には焚き火をしたと思われる積み上げられた木が、僅かに燃え燻っている。

 大神は額を拭うと、寝汗がビッショリかいていた。その際、自身の腕を見ると異形では無い普通の腕だった。

 どうやら、悪夢を見たらしい。ここ最近、悪夢を見る量が頻回となった。ガオレンジャーが敗北し封印され、天空島から逃げ果せてから、ちょくちょく見る様になったが、今日程に鮮明かつ後味の悪い夢は初めてだった。

 だが、夢の方が幾分かマシだ。現実にて起きている出来事の方が、余程に悪夢である。

 ガオネメシスの敗北後、大神は逃げ出した。ガオレンジャーの事も、パワーアニマルの事から完全に目を背けて……。

 夢の中に出て来たムラサキは、自分に対し悲しげな視線を向けていた。宿命から逃げた自分に呆れたのか、はたまた仲間を二度に渡り救えずに居た己を見放したのか……。

 ガオレッド達は今の自分を見たら何と言うだろう……? 情け無い姿を晒し、我だけ生き残った事を嘲笑うか、それとも地球を救うと言う重責に背を向けた事を怒るか……。

 だが、もうどうする事も出来ない……自分は逃げた。此れは取り繕い様の無い事実だ。野生の狼も、弱い個体は群れから追放され野に残される。後は死に場所を求めて彷徨い続け、最後は飢え死にするか他の動物の餌食となり、残された骨は地に帰る……正に今の自分に誂え向きである。

 等と後ろ向きに考えていると……。

 

 

「おお、やっと目を覚ましたかい」

 

 

 急に声がした方へ振り返れば、猟銃を携えた初老の老人が歩いて来た。

 

「朝方、やって来れば、お前さんが倒れているのを見て最初は遭難者かと思ったが……どうやら、取り越し苦労だったの」

 

 老人は大神の前に腰を下ろした。

 

「貴方は…?」

「俺か? 山口っちゅうもんじゃ。ここから近い場所に掘立小屋を建てて住んどる偏屈な老人じゃよ。

 それで、アイツが…」

 

 山口が指をさすと、一匹の犬が駆けてきた。

 

「コイツが銀次郎じゃ。ホッホ、こいつ、お前さんが好きみたいじゃな」

 

 銀次郎は、大神に人懐っこく擦り寄って来る。不思議な事に大神は、この犬を知っている気がした。

 

「……お前は……」

 

 舌を出して甘えて来る犬を眺めていた大神は、ふと記憶が蘇る。二十年前、自分は彼と会っている筈だ。そう…狼鬼として人を捨てていた時、自分の孤独を埋める様に近付いて来た……。

 

「……そうか、あの時の……」

 

 完全に思い出した。狼鬼として生きていた時、戦いに巻き込むまいとして冷たく突き放し、刃で脅し野に降らせた、あの犬に違いない。

 まさか、こんな場所で、この様な形で再会するとは……。

 

「銀次郎は不思議な犬でな、そいつと出会って二十年一緒に居るが、一向に衰えを見せんのよ……。

 しかし、どうやら……お前さん、銀次郎とは顔見知りの様じゃの……」

「ああ……」

 

 大神は、しみじみと思い出す。あの時、自分は仲間を持たずに、ガオレンジャーへの憎しみだけで生きていた。だが、いくら、ガオレンジャーを痛めつけても憎しみは消えない……無限に続く渇きと虚しさ……そんな自分の心の隙間を埋める様に、銀次郎は近づいて来た。

 あの時とは状況が違うが……また、孤独に苛まれる自分に近付いて来た……もう、今の自分には何も残されていないのに……。

 

「お前さん……何か、辛い事があっで逃げて来たんじゃ無いか?」

 

 山口老人が不意に尋ねて来る。大神は「何故?」と言わんばかりに、顔を上げる。

 

「……余計な世話かもしれんがな……お前さんを見ていると、若い頃の俺を見ている様でな……」

「貴方の?」

 

 その言葉に山口老人は穏やかに微笑む。

 

「……俺もな……若い時分に、人の中で生きている事が嫌になって、山に逃げて来たんだ……。山は良い、どんな事情があっても外から、やって来る人間を受け入れてくれる……。

 だがな……一度、甘えてしまうと其れ迄よ……ズルズルズルリと囚われてしまって戻れなくなってしまう……。

 ……お前さんは、まだ間に合うんじゃ無いか?」

 

 山口老人の指摘に対し、大神は老人を見つめる。

 

「……俺は……」

 

 苦悶に顔を歪めながらも、大神は悩んでいた。本当に分かっていた……逃げた所で、如何にもならない事を……。

 しかし、迷いと悩みが大神の判断を鈍らせてしまう……その際、銀次郎が、大神に擦り寄る。

 

「ホッホッホ……銀次郎にも分かる様だな、お前さんの苦悩が……」

 

 千切れんばかりに尻尾を振る銀次郎を見ていると、己の内に閉じ込めていた弱さを、剥き出しにされそうになる。

 ガオレッド達を失い、ガオウルフ達を奪われた自分には精一杯に張り続けていた見栄さえも、張れなくなっていた。

 

 と、その時、ガサリガサリ…と近づいて来る音がした。銀次郎は低く「ううゥゥ……‼︎」と唸り始める。大神が、その方角を見ると……。

 

「ろ、狼鬼⁉︎」

 

 それは、かつて自分を支配していた狼のオルグ、狼鬼そのものだ。だが、目の前に居る狼鬼からは意思は感じられない。

 山口老人は猟銃を構えながら

 

「鬼じゃな…」

「知っているんですか⁉︎」

「山で長い事、住んでいるとな……こう言った手合いに出くわす機会が多いんじゃ。

 心配要らん、あの鬼に既に意思は無い。本能だけで生きながらえている過ぎん……」

 

 山口老人は厳しい目つきで狼鬼を睨む。対して、狼鬼は老人には目もくれずに、大神に近付いて来た。

 

「ふむ……この鬼は、何かに魅かれる様に現れたらしいな……。ひょっとすると、お前さんと何か因縁のあるのかも知れぬ……」

「俺に?」

「無念を抱えたまま死した者は、無念を晴らす迄は死ねぬのよ。肉体が朽ち果てても、魂だけが現世に残り彷徨い続けるのじゃ……。早く眠らせてやれ。このまま放っておけば、無念ごと山に呑まれて祟りそのものとなってしまう……」

 

 そう言うと、老人は手に構えた猟銃を下ろす。自分の不始末は自分で付けろ、と言う事だろう……。

 

「……しかし……今の俺には戦う力は……」

「やれやれ、仕方の無い奴じゃ。ほれ、銀次郎……」

 

 山口老人に促され、銀次郎は大神の横に立つ。

 

「心配するな、銀次郎は強い。過去に囚われて悩んでいる、お前さんより遥かにな……。

 早く片を付けろ。鬼は、こっちの都合なぞ待って来れんぞ」

 

 そう言われて、大神は狼鬼の前に立った。そうだ……この鬼も、かつては自分だった……己の弱い心を邪気に突かれ、狼鬼と化してしまったのだ。ならば、ケリを付けなくてはならない……。他の誰でも無い、俺自身の手で……。

 覚悟を決めた大神は懐より、佐熊から預かったままで居たムラサキの守り刀を取り出し、構えた。

 

「やるぞ、狼鬼! 俺は、お前を倒し……弱かった過去の自分と決別する‼︎」

 

 そう叫び、銀次郎と共に駆け出す。狼鬼は三日月刀を振るいながら、迫り来る敵を迎え撃たんと咆哮を上げた。

 

 

 〜自責に苦しむ大神の前に現れたのは、もう一人の自分とも言える存在、狼鬼! 彼は、自分の罪の形である狼鬼に打ち勝つ事が出来るのでしょうか⁉︎〜



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quest35 恐竜鬼(オルグ)の襲来‼︎

 その時、街では大きな騒ぎが起きていた。人々の悲鳴が街中に響き渡り、瓦礫の崩れる音が轟く。

 一件のビルが崩落したかと思えば、青ざめた人達が我先にと飛び出して来た。濛々と舞い上がる砂埃の中から、巨大な三つの影……。

 

 

「グオォォォォッッ!!!!!」

 

 

 砂埃をかき消さんばかりの咆哮が木霊した。姿を現したのは、恐竜の王ティラノサウルスに酷似したオルグ魔人、ティラノオルグだ。その巨体に見合った頭部には、オルグの証たる角と大きく裂けた口内には、鋭く尖った無数の牙が生え並んでいる。更に本来のティラノサウルスの物とは異なる二の腕は筋骨隆々としており、掴んでいたビルの柱を振り回した。すると、辛うじて保っていたビルは完全に瓦解し、後は文字通りの瓦礫の山と化してしまった。

 其処へ追い討ちを掛ける様に、複数の車をスクラップにしながら突き進むのは……。

 

 

「オオォォッ!!!!」

 

 

 重戦車を思わせる巨体と、城塞を思わせる頭部から一際、大きな三本の角が生えたオルグ、それは、トリケラトプスに似た魔人、トリケラオルグだ。

 愚鈍そうな体格に見合い、突き進む姿は瓦礫を押し潰しながら尚も進軍する戦車に等しい。

 更に追い討ちを掛けるかの如く、空上より滑空しながら逃げ惑う人々を襲撃して来るのは……。

 

 

「ギエェェッ!!!!」

 

 

 グライダーの如し鋭角な翼に、細くシャープな体格、猛禽類のクチバシの様な鋭い口、それはプテラノドンに似た魔人、プテラオルグだ。 

 その翼を羽ばたかせると、突風が巻き起こり周囲の建物や車を吹き飛ばし、破壊していく。

 その様子を遠方より見守る二人組が居た……。

 

「凄い…凄過ぎるわ…‼︎ これが、古の時代に世界を蹂躙したオルグの力……!」

 

 ツエツエは恍惚し切った様子で、ウットリと見ていた。

 

「確かに凄ェぜ……。百鬼丸が持て余す訳だ……こんなの、解き放った日には世界そのものが終わっちまう……‼︎」

 

 ヤバイバは圧倒的な力を見せつける恐竜オルグ達に戦慄を覚える。ツエツエは邪悪に笑った。

 

「……けれど! この、ツエツエは征服したのよ‼︎ シュテン、ウラ、ラセツ、テンマさえも諦めた最凶のオルグを、完全なる支配下に置いたの‼︎ 彼等が居れば、私達の向かう所に敵無し! ガオレンジャーなんか恐るるに足らずよ‼︎

 見なさい! 人がゴミの様だわ‼︎」

 

 ツエツエは完全に陶酔し切って居た。恐竜オルグ達に吹き飛ばされ、逃げ惑う人間達は成る程、確かに向い風に吹き散らされる塵に等しかった。

 

「フフフ….この恐竜オルグを利用して、ガオレンジャー達を殲滅した後、私達を散々に虚仮にしたテンマもニーコも、ガオネメシスも四鬼士達も全て叩き潰してやるわ‼︎

 そうすれば、この私が……次代のオルグの女王、オルグ・クイーンよ‼︎」

 

 野心を胸を滾らせながら、ツエツエは高らかに宣言した。そんな大それた望みを抱かせる程、恐竜オルグの強さは凄まじかった。長きに渡り、ガオレンジャーに辛酸を飲まされ続けた自分達が、オルグ達の頂点に立つ……正に下克上である。

 この瞬間の為に、テンマやニーコ、四鬼士達から受けた数々の屈辱に耐えて来たのだ……。

 

 

「止めろッッ!!!」

 

 

 突然、ツエツエ達の前に陽と佐熊が駆け付けて来た。聖なる泉が異変を察知し、ガオズロックでやって来たのだ。

 彼等の姿を見たツエツエは、ニィィッと笑う。

 

「来たわね、ガオレンジャー‼︎ この日を指折り数えて、待ち侘びたわよ‼︎ 今日こそ、お前達に引導を渡してやるわ‼︎」

 

 ツエツエは勝ち誇った様に言い放つ。今迄の様に、一方的には敗けない……そんな自信に満ち溢れていた。

 その際、ヤバイバが、陽達を見て気付く。

 

「んん? ガオシルバーはどうした?」

 

 その言葉に陽達は顔を曇らせる。昨日の敗戦後から、大神の行方不明のままだ。

 二人の様子を見たヤバイバは、茶化す様に笑う。

 

「はは〜ん? さては逃げたな、あの負け犬野郎‼︎ ま、天空島にオルグが襲撃して来た時も、ガオの巫女と一緒に我先にと逃げ出したからな、アイツは‼︎」

 

 ヤバイバの馬鹿にした態度に、佐熊は激昂した。

 

「き…貴様ァ…‼︎ 言うに事欠いて、負け犬じゃと⁉︎ その言葉は、聞き捨てならん‼︎ 大神を侮辱する事は、ワシを侮辱されたも同然じゃ! 取り消せ‼︎」

 

 千年前から共に戦って来た盟友であり、掛け替えの無い相棒でもある大神を扱き下ろした態度を取られた佐熊は、怒り狂う。しかし、ヤバイバは前言を撤回する所か益々、嘲る様に続けた。

 

「何を取り消せって⁉︎ ムキになる所を見れば、本当だったみたいだな‼︎ 風の噂で聞いたぜ? お前等、ガオネメシスの野郎と戦って、こっ酷く敗けたらしいじゃねェか‼︎

 ハハハハ‼︎ やっぱり、お前等じゃ、その程度さ‼︎ 先代のガオレンジャー達の方が余程、強かったぜ‼︎」

「き…貴様ァァ……!!!」

 

 完全に見下された言い草を取られた佐熊は、怒りが頂点に達しそうになった。しかし、陽は佐熊を冷静に宥めた。

 

「佐熊さん、敵の挑発に乗せられたら終わりですよ!」

「しかし、陽……!」

「大神さんは逃げたりなんかしない…‼︎ 誇り高い狼の様な人だ…必ず、戻ってくる! だから、僕達だけで大神さんが来るまで時間を稼ごう‼︎」

 

 陽は信じていた。大神月麿と言う男を……彼は一度や二度、敗北した位で折れてしまう様な弱い人間じゃ無い……。必ず、弱さを克服して自分達の下へ帰って来てくれると彼は信じていたのだ。

 

「オホホホ‼︎ 美しい仲間愛だこと‼︎ けど、時間を稼ぐなんて無理だわね‼︎ お前達は、ガオシルバーが帰って来るのを待つ事なく、この恐竜オルグ達の餌食になるのだから‼︎」

 

 ツエツエが杖を振るうと、恐竜オルグ達は一斉に集結して来た。

 

「恐竜オルグ…だと?」

 

 陽は、ツエツエに付き従う三体のオルグ魔人達を見た。確かに、ティラノサウルス、トリケラトプス、プテラノドンの姿をした彼等ら、その名の通り古代に地上を我が物顔で君臨していた恐竜達に酷似していた。

 

 〜陽、気を付けて‼︎ 彼等は、今まで戦ったオルグとは違うわ‼︎〜

 

 テトムが、G -ブレスフォンを介して、陽にアドバイスを送った。

 

「その声は、ガオの巫女ね‼︎ こうして話をするのは久しぶりだわね⁉︎」

 

 ツエツエは、二十年前の戦いで因縁の出来たガオの巫女に対し、挑発する様に話し掛けた。

 

 〜オルグの巫女……貴方達、何を封印から解いたか分かっているの⁉︎ 恐竜オルグは一度、封印から醒めれば見境なく暴れ回る怪物なのよ⁉︎ 貴方達の手に負える様な代物じゃ無いわ‼︎〜

 

「御忠告傷みいるわ、ガオの巫女……こいつ等の危険さは重々、承知しているわよ‼︎ 大昔に滅びた恐竜の化石に、それこそ千年の邪気なんか目じゃ無い濃度の邪気が宿り、オルグと化したのが、この恐竜オルグ! あまりの凶暴ぶりから、千年前のオルグの王、百鬼丸さえも制御出来ず、再封印して放置したと言う曰く付きのオルグ達よ……。

 けど! このツエツエは、その制御不能の怪物を支配下に置いたのよ‼︎」

 

 そう叫びつつ、ツエツエは仰々しく手を広げた。恐竜オルグ達も今は大人しくしているが、ツエツエが命令を下せば何時でも襲い掛かって来そうな勢いだ。

 陽は覚悟を決める。このまま、彼等を放置すれば多数の被害が出てしまう。それを防ぐには、此処で奴等を迎え撃つしか無い。だが、テトムの言葉を察するに、この恐竜オルグ達は並のオルグとは比べ物にならない実力を有しているらしい……。ウカウカしていたら、こっちの足元を掬われてしまうだろう……と、強く考えながら陽、佐熊はG -ブレスフォンを起動させ、ガオレンジャーに変身した。

 

 

 

 ガオレンジャー達が、恐竜オルグ達を迎え撃っている所……大神は、狼鬼と激戦を繰り広げていた。

 ガオレンジャーとして戦い慣れているとは言え、今はガオスーツの恩恵を受けていない。デュークオルグ級である狼鬼と生身で戦うのは、苦戦は必然だった。

 それでも大神は守り刀を用いて、狼鬼の三日月刀を受け止めた。しかし、実力差は火を見る様に明らかである。

 銀次郎も、狼鬼の脚に噛み付いて攻撃したが、当の狼鬼は鬱陶し気に蹴り、払い退けた。だが、それでも銀次郎は唸りながら狼鬼に向かって行く。

 

「……銀次郎……もう良い……。後は、俺が……‼︎」

 

 そう言う大神も既にボロボロの有り様だった。それでも倒れる訳には行かない。

 目の前に立ち塞がるのは過去の自分。己の内に潜む弱さから、精神を邪気に蝕まれ身も心もオルグと化した自分…。

 あの時、シロガネだった自分は、闇狼の面を付けてガオゴッドでさえ手に負えなかった百鬼丸を滅ぼした。

 しかし、内にあったオルグとなる恐怖、仲間と戦わなければならないと言う苦痛が何時しか仲間への怒り、憎悪へ変わり狂戦士、狼鬼と変えてしまったのだ。

 そして今回…また、自分は己の内にある弱さに敗けて逃げてしまった……だから、もう逃げる事は許されない。例え、針のむしろに座り続ける事になっても、業火に身を晒し続ける事になっても、運命に立ち向かって行く! 平和な日常に背を向け、オルグとの終わりの見えない戦いに身を置いたガオゴールドやガオグレー、ガオレッド達の様に…!

 

「皮肉だな……かつて、こいつが慕っていた奴を俺自身の手で倒さなくちゃならないとは……」

 

 半ば自嘲する様に、大神は零す。狼鬼だった頃、確かに気持ちを共にした犬……言うなれば、自分で自分を傷つけるのも同じだ。

 それでも大神は、守り刀を振り上げ狼鬼に斬り掛かる。しかし、狼鬼の三日月刀に払い飛ばされてしまう。

 

「クッ…‼︎

 

 腕に残る傷みに、大神は顔を顰める。守り刀は遠くに飛ばされてしまい、手ぶらとなってしまった。

 銀次郎は大神の前に立ち、再び狼鬼の脚に噛み付いた。しかし、狼鬼は痛みを感じる所か、三日月刀を逆手にして銀次郎に突き下ろした。

 

「や、止めろォォォォッ!!!」

 

 冷静さを欠いた大神は手ぶらのまま、狼鬼に突撃した。彼に掴みかかり、銀次郎に傷を負わせない様にする。

 だが、生身の身体である大神に対しても狼鬼は三日月刀で斬りつけて来る。全身の服は裂け、鮮血が滲む。

 それでも大神は狼鬼から手を離さない。勝てないから、やらない……そんな半端な考えでは駄目だ……。勝てないと分かっていても、やらなければならない、そんな戦い方もある。

 そんな時、大神は狼鬼の顔を見る。何と鬼面の目にあたる部位より涙を溢していたのだ。

 その際、絞り出す様な声が狼鬼から聞こえて来る。

 

「何故ダ……何故、戦ワナケレバ、ナラナイ……何故……」

 

 今の自分を深く追い詰める様な声……其れを聞いた大神は、初めて狼鬼の中に無いと思われた心を知る事が出来た。

 この目の前の居る狼鬼もまた、大神自身なのだ。大神の無念そのものが具現化した存在だったのだ。

 自分の前に現れたのも、動物や鳥が生まれた場所に戻って来る一種の帰巣本能に過ぎなかったのだろう。

 にも関わらず、自分は彼を拒絶した。過去の忌まわしい存在だと断じて、狼鬼を消し去ろうとした。

 そうでは無い……狼鬼を受け入れなければならない……敵対するので無くて、自分の存在として……。大神は、狼鬼から手を離し前に立つ。

 

「……済まなかった……。お前は俺だ……俺が、お前を望んだ……弱かった自分に対して、仲間を救ってくれる存在を欲した……。なのに、お前を受け入れなかった……弱かった自分を認められなかった……」

 

 淡々と大神は謝罪の言葉を述べる。狼鬼は大神の告解を黙々と聞いていた。その際、三日月刀を下におろした。

 

「……俺は弱い人間だった……仲間を守る事も出来ない様な、そんな惨めな人間に過ぎん……。

 だが、それでも俺と共に苦楽を共にしてくれる仲間の存在が居る……。俺一人で全てを解決するのでは無く、皆で困難に立ち向かってくれる……。だから、狼鬼……もう、お前も戦う必要は無い……もう闇の力は……必要ない。お前も、ゆっくり休んで来れ……」

 

 大神は一旦、言葉を切った。それを聴き終えた狼鬼も、右手の力を緩め、三日月刀を下に落とした。

 そして、大神を見つめていた彼の眼差しは、オルグとは言えない程に穏やかで、優しかった。

 やがて、狼鬼の角の部位から光り輝く砂の様な粒子に風化していき、やがて跡形もなく消えて行った……。

 

「振り切った様じゃな……迷いを……」

 

 林をかき分けながら、山口老人がやって来た。大神は驚いた様な顔になる。

 

「……老人……。貴方は一体……?」

「……言ったろう? 俺は、ただの暇な年寄りだ……。それよりも……行くんだろう、戦いに……」

 

 老人の質問に対して、先程までの惑いに満ちた表情が嘘の様に晴れやかな大神の顔があった。

 

「……ええ……」

「……お前さん達が、パワーアニマルと呼んでいる者が無くとも……戦えるのかい?」

 

 パワーアニマルの事まで知っている……いよいよ、只者では無い。しかし、そんな事はもう、どうだって良い。

 

「……武器を奪われたなら、取り返せば良い……。敗けたなら、再戦して勝てば良い……。終わった事を悔んで、後ろを振り返り続けても前に進めない。俺は……もう振り返らない……前に進む!」

 

 強い決意に満ちた顔で大神は宣言する。最早、迷いは欠片も感じられない。山口老人は、ニッコリと微笑む。

 

「……フフ、良い顔じゃ。ならば、お前が戦える力を返さなくてはのォ……。のゥ、銀次郎?」

 

 山口老人が大神の横にいた銀次郎に語り掛けた。すると銀次郎は、二人から離れた場所へ行き……全身が光に包まれた。

 次の瞬間、銀次郎の姿は無くなり、漆黒に輝く巨大な狼の姿をしたパワーアニマルとなっていた。姿形は、ガオウルフに似ているが、こっちは瞳の色が緑色だった。

 

「銀次郎…⁉︎ お前も、パワーアニマルだったのか?」

「……俺と出会った時、既に銀次郎はパワーアニマルの力を有していた。しかし、その姿を俺に見せたのは一度だけ…。

 こいつは、お前さんと再会する瞬間を待っていたのだろうよ……。誇り高い狼のパワーアニマル、ガオハウルはな」

 

 大神は、銀次郎改めて、ガオハウルに手を伸ばす。ガオハウルは大神に顔を寄せると、大神の腕に小さな光が寄せ集まり姿を消した。やがて光が収まった時、腕を上げると、其処にはG -ブレスフォンが装着されていた。

 

「フフフ……どうやら、ガオハウルは、お前さんを認めた様じゃ……。さァ、行け! もう自分を見失うなよ?」

「……はい‼︎」

 

 山口老人に背を押され、大神は駆け出した。残された老人は、その様子を見守りつつ……

 

「頼んだぞ、シロガネ……そして、ガオハウルよ……私の力が完全に戻る、その時まで……」

 

 そう言い残し、山口老人の姿は跡形も無くなり、一瞬だけガオゴッドの姿を見せて青空の中に消えて行った……。

 

 

 

 その頃、恐竜オルグの侵攻を食い止める為に戦うガオゴールド達もピンチに陥っていた。恐竜オルグ達の猛攻を前に、ゴールドとグレーの攻撃は何れも歯が立たなかった。

 遂には、ティラノオルグの仕掛けた攻撃に二人は吹き飛ばされ、大ダメージを負ってしまった。

 

「クッ……! つ、強い……!」

 

 先日のガオネメシスの戦いでも、かなりの深手を負わされたガオゴールド達では、異常な程のタフネスさを誇る恐竜オルグ達と五分五分で渡り合うには至れなかった。

 

「あ……スーツが……‼︎」

 

 佐熊はガオソウルが尽きた事で、ガオスーツが消失している事に気付いた。

 ツエツエは勝ち誇る。

 

「オホホホ‼︎ 勝負あったわね、ガオレンジャー‼︎ さァ、ティラノオルグ‼︎ ガオレンジャーを踏み殺しておしまい‼︎」

 

 ツエツエの命令に従い、ティラノオルグは陽の前に歩み寄る。霞んだ目で見上げると、悠然と立つティラノオルグが右脚を持ち上げた。

 

「クソ……大神さんが居てくれたら、こんな……‼︎」

 

 陽は悔やむ様に呟く。もし、ここに大神が…ガオシルバーが居れば、少なくとも無様に負ける事は無かった筈なのに………そんな、後悔が押し寄せて来る。

 やはり自分達には、ガオシルバーが居なければ駄目だ……しかし、もう遅い。ティラノオルグを巨大な脚が、迫って来る。

 

「あ…陽…‼︎」

 

 佐熊が手を伸ばして来るが、自分も身体を動かす事が出来ずに居た。

 その際、ティラノオルグの脚に爆発が起きてバランスを崩した。

 

「な、何だァ!!!?」

 

 ヤバイバは素っ頓狂な声で叫ぶ。地響きを上げながら仰向けに倒れ伏すティラノオルグ。

 陽は何が起こったか分からず、辺りを見回す。すると右方向から、こっちへ歩いて来る人影……。

 

「ガオ…シルバー…⁉︎」

 

 陽は朦朧とする意識の中、幻覚を見ているのかと我が目を疑う。いや、幻では無い。確かに、ガオシルバーの姿だ。

 

「お…大神…さん…!」

 

 やはり、彼は帰って来てくれた。逃げてなど居なかったのだ。ガオシルバーは、ガオハスラーロッドを構えつつ恐竜オルグ達を睨み付ける。

 

「が、ガオシルバー⁉︎ 生きていたのか⁉︎」

 

 ヤバイバは驚いた顔で叫ぶ。

 

「勝手に殺すな。お前達を倒し尽くす迄は死なないさ…。一度、牙を抜かれた俺だが、力を取り戻して地獄から這い上がって来た‼︎」

 

 そう言って、ガオシルバーはガオハスラーロッドをサーベルモードにして、トリケラオルグに迫った。

 

「銀狼満月斬りッ!!!」

 

 ガオハスラーロッドから放たれた斬撃が、トリケラオルグに直撃、吹き飛ばした。

 プテラオルグは空中より奇襲を仕掛けようと舞い上がるが、その一瞬を、ガオシルバーは見逃さない。

 すかさず、ガオハスラーロッドをブレイクモードに切り替えて、フィールド上にエネルギーのプールを創造、宝珠を構えた。

 

「破邪聖獣球! 邪気…玉砕‼︎」

 

 撃ち出された宝珠が、プテラオルグに全発命中した。

 

「ギ……シャアァァァッ……!!!!」

 

 大爆発を起こしながら、断末魔を上げ墜落するプテラオルグ。爆炎の治まった後、プテラオルグの残骸が散乱していた。

 

「ば…馬鹿な…‼︎ 恐竜オルグを、まるで赤子扱いに…‼︎」

 

 自分達の絶対的な切り札を、あっさりと撃破された事に、ツエツエ達はショックを隠し切れない。

 ガオシルバーは、悠然と立っていた。

 

 

「す…凄い…‼︎」

 

 陽は、ガオシルバー単独で、自分達を苦しめた恐竜オルグを倒してしまった事に驚愕していた。

 

「ぬゥ……‼︎ 大神の奴、以前よりずっと力を増しておるな……‼︎ それに、ガオウルフ達を奪われて変身能力を無くした筈のあいつが、どうやって…⁉︎」

 

 佐熊も、大神が復帰して直ぐに、あれ程の凄まじい強さを発揮した事に驚いていた。

 明らかに前よりも、パワーアップしている……。

 

「今は、何でも構わない…‼︎ ガオシルバーが戻って来てくれたなら、あいつらにだって勝てる…‼︎」

 

 陽は、心強い味方の復帰に、心が湧き上がる気持ちだ。彼が帰ってきた以上、今度こそ自分達に敵はいない…そう言い切れる程だ。

 

 

「あ、陽⁉︎」

 

 

 その際、ふと声がした為、陽は振り返る。すると、其処には今ここに居るべきでは無い二人が立っていた。

 

「た、猛⁉︎ それに、昇も⁉︎」

 

 それは陽の親友である二人、猛と昇だった。二人も偶々、この場所に居合わせ、恐竜オルグ達の襲来に巻き込まれてしまったのだ。命辛々、逃げ出し避難していた時、負傷した状態で座り込んでいた陽を発見し、駆け付けて来た次第である。

 

「な、何で二人が……⁉︎」

「いや、それはこっちの台詞だよ‼︎ 遊びに来てたら、あの化け物が現れて、何とか逃げ出したと思ったら……お前を見つけて……」

 

 猛は、陽を意外な場所で、しかもボロボロの状態で会った事に驚きを隠せない様子だった。

 しかも、昇は同じくボロボロの姿である佐熊を見て、かつ現在の事態に、疑念を抱く。

 

「……さっき、あの化け物と戦っていた戦士が、お前になるのを見たけど……まさか、お前……」

 

 頭の良い昇は、あの化け物達と対峙していた戦士と陽達が同一人物であると見抜いてしまったようだ。

 陽は言葉を濁してしまう。今、この状態で、どう言い訳しても誤魔化し切れる物では無いのは明白。

 可能な限り、自分がガオレンジャーである事は秘密にしておきたかった。巫女の生まれ変わりである祈は兎も角、猛達はガオレンジャーの関係者では無い。

 オルグとの抗争が著しくなって来た現在となっては、彼等を巻き込みたくは無い。

 と、その時、急に二人は意識をなくしたかの様に、ガクリと膝を突く。

 

「エッ⁉︎」

 

 突然、二人が倒れた事に陽は驚く。いつの間にか、二人の後ろに回り込んでいた佐熊が、猛と昇の首元を素早く突いたのだ。意識を失った二人を佐熊は倒れない様に抱え、静かに寝かせた。

 

「心配要らん。気絶しただけじゃァ……。この二人には、まだ真実は打ち明けられんのじゃろう?」

「佐熊さん……」

 

 陽の心情を察し、トラブルにならない様に気を利かせてくれたのだ。陽は彼の機転の良さに感謝する。

 

「さァ! シルバーを援護してやらなくちゃのォ‼︎」

「はい‼︎」

 

 佐熊に促され、陽も立ち上がる。そして「ガオアクセス‼︎」と同時に叫ぶと、ガオゴールド、ガオグレーの姿となって駆け出した。

 

 

 

「こ…これで、終わった訳じゃ無いわよ‼︎ 鬼は内! 福は外!」

 

 ツエツエはオルグシードをプテラオルグの残骸に投げて、呪文を唱える。すると残骸は再結合し巨大化、巨大オルグ魔人として復活した。

 と、同時に角を切られて蹲っていたトリケラオルグも、オルグシードを喰らい始め、巨大化していった。

 さながら、本物の恐竜のそれを上回る姿となった。

 

「おい‼︎ ティラノオルグも食わせるか‼︎」

 

 ヤバイバは、ツエツエに尋ねるが、ツエツエは首を振る。

 

「ティラノオルグは出さないわ‼︎ 一旦、引くわよ‼︎」

 

 と、だけ言い残し、鬼門を召喚すると中へと消えていく。ヤバイバ、ティラノオルグも続いた。

 残されたプテラオルグ、トリケラオルグは自我も無く司令塔も無くなった事で、暴れ回り始める。

 

「幻獣

   百獣召喚‼︎」

 

 ガオゴールドとガオグレーは同時に宝珠を打ち上げ、パワーアニマル達を召喚する。

 ガオドラゴン達を中心にしたガオパラディン、ガオグリズリー達をした中心にしたガオビルダー。

 そして、ガオシルバーはガオハスラーロッドを天に構えた。

 

「百獣召喚‼︎」

 

 宝珠を打ち出すと、天上にて光り輝く。すると、他の精霊王達を掻き分けて姿を現す狼型のパワーアニマル、ガオハウル。現れ状に高々に吠えると、別々のパワーアニマルも姿を現した。

 一体は、黒いワニの姿をしたガオリゲーターとは色違いのパワーアニマル、ガオダイル。

 もう一体は、シャチの姿をしたパワーアニマル、ガオグランパス。

 何れとも今迄、見た事が無いアニマルばかりだ。だが一つだけ言えるのは……彼等の目的は、ガオシルバーを守る為、それだけだ。

 

「百獣合体‼︎」

 

 ガオシルバーの掛け声で、三体のパワーアニマル達は合体して行く。ガオダイルが直立して胴体に、右腕をガオグランパス、左腕をガオハウルが構成する。

 そして、ガオダイルの頭部が下がり別の頭部が出現する。ガオハンター同様、狼の顔をしていたが口が開くと、ハンターとは違い鉄仮面状のマスクに覆われていた。

 更に分離したガオグランパスの背鰭を右手で装備すると……。

 

「誕生! ガオアキレス‼︎」

 

 〜三体の瞬の技を持つパワーアニマルが合体する事で、ガオハンター以上の瞬足の精霊王に生まれ変わるのです〜

 

「あれが……ガオシルバーの新しい……力……!」

 

 ガオゴールドは、絶句した。一度、敗北による挫折から折れてしまった大神だが、見事に復活を果たして……。

 

「ゴールド‼︎ よそ見しとる場合じゃ無いぞ‼︎」

 

 ガオグレーに怒鳴られ、ガオゴールドは我に帰る。目の前には、トリケラオルグが突進して来た所だ。

 だが、ガオビルダーが其れを受け止め、ゼロ距離よりリンクスパンチを喰らわせた。

 堅牢なボディーを誇るトリケラオルグを傷付けるには至らなかったが、その巨体を仰け反らせる事に成功した。

 その隙を突いたガオパラディンは、殴打した部分をユニコーンランスで貫徹した。

 矢張り、ダメージによって脆くなっていたのか、ランスが深く突き刺さる。苦痛にトリケラオルグは呻くが、もう逃がさない。

 

「ガオグレー、今だ‼︎」

「よし来た! 轟々獣撃! ストロングショット‼︎」

 

 蓄積された破邪のエネルギーが、ガオボアーの鼻が変形した砲口から発射された。

 

「グギャ……ああああァァァッ!!!!」

 

 断末魔を上げつつ、トリケラオルグは吹き飛ばされ、巨大な爆炎の中に倒れてしまった。

 ガオパラディンとガオビルダーは揃ってポーズを決める。

 

 

 ガオアキレスとプテラオルグもまた激戦を繰り広げている最中だった。空中から奇襲を仕掛け、ガオアキレスを追い詰めようとするが、その素早い身のこなしに、逆に翻弄されてしまう。勢い余ったプテラオルグは更に高く舞い上がろうとするが、ガオアキレスのジャンプの方が高かった。

 

「オルカブレード‼︎」

 

 その状態で、プテラオルグを二回に渡り斬り付ける。その影響で、翼を失ってバランスを崩したプテラオルグは、地べたに叩き付けられてしまった。

 高度からの落下による反動で逃げる事も出来ないプテラオルグ目掛け、ガオアキレスはオルカブレード逆手に持ちつつ、着地した。

 

「悪鬼両断! アキレススライサー‼︎」

 

 プテラオルグを斜め袈裟斬りに斬り付けるガオアキレス。その直後、プテラオルグの斬り口から発火し大爆発を起こした。

 その爆心地の手前に着地したガオアキレスは、オルカブレードを肩に置いた……。

 

 

 

 戦いを終えた後、ガオアキレスを前に佇む大神。其処へガオパラディン、ガオビルダーから降り立った陽と佐熊がやって来た。

 

「大神さん! 戻って来てくれたんですね‼︎」

 

 陽は嬉しかった。一度はスタンスの相違から決裂してしまったが、矢張り大神は帰還した。

 しかし、理由は如何であれ仲間を見捨てて逃げ去った事に自己嫌悪を抱かずには居られない大神。しかし、佐熊は笑いながら……

 

「月麿、遅いぞ‼︎」

 

 と、軽く皮肉を交えながら言った。その言葉は、大神は必ず帰って来る……そう確信があった様にも聴こえた……。

 大神は、自分を変わらずに信じてくれた『もう一人の千年の友』に無言ながらも、笑顔で応えた。

 

 

 〜大神、過去の懺悔を振り切り、新たな力を携えて堂々と帰還‼︎ 更には強敵とされた恐竜オルグの内、二体を倒す快挙を成し遂げ、彼等は先に待ち受ける強敵に備えるのでした〜




ーオリジナルオルグ
−トリケラオルグ

トリケラトプスの化石に邪気が宿り、オルグ魔人と化した三体の恐竜オルグの一角。巨大な角と怪力が武器で、普通の攻撃では傷一つ付かない堅牢な皮膚を持つ。

−プテラオルグ
プテラノドンの化石に邪気が宿り、オルグ魔人と化した三体の恐竜オルグの一角。翼を用いた機動力とトリッキーな動きが武器だが、それ故に防御力は致命的に低い。


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quest36 鳳凰、煌めく‼︎

「臨・兵・等・者・皆・陣・列・在・前…‼︎」

 

 竜胆市某所……古ぼけて朽ちた洋館の前にて、ライとコノハが印を結んでいた。周囲には多数の下忍オルゲット達が、蠢いていた。すると巨大な苦無の形をした物体が浮かび上がり、地面へと潜り込んで行く。やがて姿が見えなくなった後、何事もなかった様に静かになった。

 

「よっしゃ。これで打ち込み完了や!」

 

 ライは自信満々に言った。一方、コノハは不貞腐れた様子だ。

 

「ケッ! こんな簡単な作業、ニーコにやらせば良いじゃねェか! なんで、アタイ等が……」

 

 と、ブツクサと呟く。ライは呆れた様に見た。

 

「……コノハ、前から思うてたけど……お前、阿保ちゃうか?」

「ああ⁉︎ テメェ、喧嘩売ってんのか⁉︎」

 

 コノハはライを、鋭い目で睨む。だが、ライは益々、呆れ顔だ。

 

「親方様が何で、ニーコに綻びの場所だけ特定させて、その場所にウチ等が赴く様に命令するんか……分からへんか?」

「知らねェよ! だから聞いてんじゃねェか‼︎」

「そんだけ、ウチ等を買うてくれてるっちゅう事や! 他の誰でも無い、ウチ等にな‼︎」

 

 唐突にライの発した言葉に、コノハは雷に打たれた様に硬直した。あの、ヤミヤミが自分達を? 必要とあらば、部下の命さえも捨て去る冷酷を絵に描いた様な、ヤミヤミが⁉︎

 そんな考えが、コノハの脳裏に巡る。

 

「そやから、ウチ等、鬼灯隊は親方様の為なら何時でも死ねる覚悟を持っとかな、アカンねん!

 親方様の言葉は絶対! それが、オルグ忍軍の掟やろ!」

 

 ライは、ヤミヤミに対する深い敬意を言葉で表した。コノハも、やる気が出た様に勢い付いた。

 

「よっしゃァァ‼︎ 気合い入って来たぜェェ‼︎」

 

 一人で盛り上がるコノハだが、その様子をライは冷めた様子で見ていた。

 

「(はァ……ホンマ、単純な奴やなァ……)」

 

 つくづく良く言えば相方の竹を割った様な、悪く言えば大雑把な一面に呆れてしまう。

 

「……ほな、次行くで」

「あ、オイ‼︎ ちょっと待てよ‼︎」

 

 ライは鬼門の中に消えていくが、コノハも後へ続いた……。

 

 

 それとは別の場所では……ガオネメシスが、朽ち果てた岩の前に佇んでいた。自然に出来た岩と言うより、何処か人工的に造られた様に見えた。

 

「……姉さん……」

 

 ガオネメシスは岩の前に膝を突く。その様子は何時もの冷徹かつ残忍な様子は無く、人の死を悲しんでいる様にも見えた。

 

「……もう少しだよ、姉さん……。地上は、オルグに埋め尽くされ地上に蔓延る人間達は全て、駆除される……。

 その時、姉さんを裏切った人間共は己の罪を思い出させてやるんだ……」

 

 天を仰ぎながら、ガメネメシスは呟く。その際、マスクを顔から外す。すると、背後から長い黒髪が下された。

 

「……愛してるよ、姉さん……。俺から姉さんを奪った人間共に、復讐を果たしてあげるから……」

 

 そう言うと、ネメシスは項垂れる。ダラリと伸び落ちた黒髪が地面を這い……髪の隙間より、ポタリ…ポタリと涙が零れ落ちた。

 

 

 

 陽は祈と共に通学していた。その横には陽の学校の制服を着た摩魅も一緒に歩いている。

 

「摩魅ちゃん、制服のサイズ合ってる?」

 

 祈は摩魅の顔を覗き込む。摩魅は照れ臭そうにしていた。

 

「あの……スカートが短すぎて……」

 

 と、言いながら白いセーラー服のスカートを抑える。

 彼女が元々、来ていたボロボロの布切れは処分したし、この前、デパートで摩魅の服を買った際、彼女はあまり着慣れていない様子だった。

 だが、祈は優しく頬んで見せた。

 

「大丈夫! 凄く似合ってるから‼︎」

 

 まるで姉が妹を宥める様に、祈は言った。摩魅は益々、赤面した。

 陽は、その様子を遠目から見ていた。彼女を自分と同じ学校に通わせる様に手筈を整えたのは、陽の提案だった。

 大神と和解した後、陽もまた、ガオネメシスの言葉が耳から離れずにいたのだ。

 何れ、彼女の中にオルグが自分達の寝首を掻かれる…。

 信じたく無かった。彼女が祈を殺しに来るなんて、そんな事は決して有り得ない。そう信じたかった。

 しかし、有り得ないなんて言う事は有り得ない…と昔、誰かが言っていたのを思い出す。

 其処で、テトムや大神に一計を案じて貰ったのだが……。

 

「……でも、兄さん。摩魅ちゃんの編入の件、大丈夫なの?」

 

 祈は不安気に尋ねた。そもそも、摩魅は全うな人間では無い。これ迄、高校は愚か小学校や中学校にも通った事が無いのだ。漫画では特に説明なく編入出来たりもするが、いきなり身元の分からない少女を高校に通わせるのは不自然である。

 

「ああ……テトムは『私に任せておいて』って言ってたけど……」

 

 陽は曖昧ながらも応える。『テトムの任せておけ』は、はっきり言って、信用出来ないからだ。

 嫌な予感を一縷に感じていると……。

 

 

「ヨッ‼︎ おはようさん‼︎」

 

 

 急に声を掛けられ、三人は振り返る。陽と祈はよく見知った顔である、猛と妹の舞花、そして昇が歩いて来ていた。

 二人の姿を見た陽様内心、ホッとした。昨日、自分がガオレンジャーとして戦っている姿を端的ではあるが、二人に見られてしまったのだ。

 しかし、二人の様子を見るに、どうやら記憶は残っていないと思われた。

 と、祈の後ろに隠れていた摩魅に気付いた猛は、近付いていく。

 

「お⁉︎ 誰だよ、この可愛い娘は⁉︎」

 

 摩魅の見た目に興味を惹かれた猛は、グイグイと迫って来る。摩魅は、いよいよ縮こまる。

 

「エッ⁉︎ えっと…あの…」

 

 どう答えて良いか分からない摩魅は、陽達に助け船を求める様に見てきた。

 

「……彼女は……僕達の従姉妹なんだ……」

「従姉妹? 祈、そんな子、居たっけ?」

 

 舞花は祈に話し掛けた。急に話を振られて困惑しながらも、祈は答える。

 

「え、えっとね……。兄さんの遠い従姉妹なの……」

「ふーん」

 

 やや違和感を覚えつつも舞花は納得した様だ。だが、昇は無言のまま、摩魅を見続けていた。

 彼の視線に気付いた摩魅は恐々と見て来る。

 

「おい、昇‼︎ あんまり睨むなよ‼︎ 怯えてるじゃねェか‼︎」

 

 女好きな猛は既に、摩魅への態度を軟化させていた。その際、昇は……

 

「……あんた、名前は?」

 

 と尋ねた。摩魅はか細い声で

 

「……り、竜崎…摩魅……です……」

 

 と自信なさげに名乗る。この場合、陽や祈と同じ、竜崎姓を名乗っておく方が無難であると、摩魅は判断したのだ、

 

「………そうか」

 

 聞くだけ聞くと、昇は興味なさ気に目線を逸らす。取り敢えず上手く躱せた、と二人は一息吐く。

 

「中学校の道はあっちだろう? 早くしないと遅刻だぞ?」

「え? あ、本当だ‼︎ 祈、行こ‼︎」

「そ、そうだね…‼︎ じゃあね、摩魅ちゃん‼︎」

 

 背中に引っ付いたままの摩魅に別れを告げ、祈は舞花の後に続く。振り返り様に、祈は陽に小声で

 

「兄さん、頑張ってね…」

 

 と囁いた。陽は肩を竦めながら、摩魅を見る。

 

「よし、僕達も行こうか?」

「は…はい!」

「待てよ、陽」

 

 歩き出そうとする二人を呼び止める様に、猛が呼び止める声がした。振り返ると、猛と昇がシリアスな顔て見ている。

 

「どうかしたか、猛?」

 

 陽が怪訝な様子で尋ねると、猛は昇と顔を見合わせた。

 

「……昨日の話だけどよ……」

 

 猛には珍しい抑えた声に、陽はゾクッと嫌な感じがした。

 

「な、何?」

「……いや、やっぱり良いわ。後で聞かせてくれ」

 

 とだけで応え、猛はフイッと言ってしまった。昇も無言のまま、行ってしまう。

 陽は悟った。猛と昇は昨日の事を覚えている……もう隠し通す事は出来そうに無い……。そう考えると、陽はギュッと拳を握りしめる。その様子を、摩魅は悲し気に見続けていた……。

 

 

 

 学校に着くや否や、陽と摩魅は校長室へと呼ばれた。すると意外過ぎる人物の顔に、陽は目を見開いた。

 

「ああ、竜崎君。遅かったね、叔父さんと叔母さんも、待ち兼ねているよ」

「? 叔父さん、叔母さん?」

 

 藪から棒に訳の分からない事を言い出す初老の校長の言葉の意味が分かった。

 何と校長室には、テトムの大神が立っていたのだ。しかも、何時もの巫女装束と灰色の服では無く、テトムは白っぽいスーツを、大神はグレーの背広を着こなしていた。

 

「待ってたわよ、陽。摩魅も一緒ね」

 

 と、やんわりとした口調で尋ねて来るテトム。まさか、テトムの良い考えとは、この事だったなんて……。

 幾ら、摩魅の為とは言え民間人に姿を晒さない事を原則とするガオの戦士の掟を、かなりアウトスレスレに破ってしまっているが、この際、閉口する事を陽は決めた。

 

「は、はい……叔母さん……」

 

 かなり、苦しい作り笑いを浮かべながらも陽は返した。一方、大神は校長相手に世間話をするテトムを尻目に、陽にそっと耳打ちした。

 

「(大丈夫か? 陽…?)」

「(ええ……何とか……)」

「(しかし、本当に良いのか? まだ、彼女がシロである、と決まった訳じゃ…)」

 

 大神は、まだ彼女を信頼出来た訳では無い。それは、彼女の素性もそうだが、何かと不審な言動の目立つ摩魅に対する警戒を強めていた。

 だからこそ、陽は彼女を確かてる理由も兼ねて側におく事を決めたのだ。

 

「(……大丈夫です。万が一の時は……僕が……)」

 

 陽は真剣な眼差しをしながら、摩魅の背中を見た。万が一…と言うが、もし、その時が来たら自分に彼女を殺す事が出来るのだろうか? 確かに彼女が、オルグの回し者である可能性は捨て切れない。だからこそ、陽は彼女を信じたかった。信じる為にも……彼女を側に置いて置く必要がある……。

 やがて、校長とテトムの話も終え、事前に陽が渡していた編入に関する書類を読み返していく内に、摩魅は陽と同じクラスに所属する事が、とんとん拍子に決まった。

 廊下に出て、テトムと大神は振り返る。

 

「全く、ヒヤヒヤしましたよ……! こう言う事は事前に言っておいて下さい……‼︎」

 

 陽の非難に対し、テトムは悪戯っぽく笑う。

 

「フフ…‼︎ 敵を騙すなら、まず味方からってね? でも中々、様になってるでしょう?」

 

 そう言いつつ、テトムはスーツ姿を見せて来る。その姿に大神も、呆れ顔だった。

 

「テトム……俺達は、そろそろ退散した方が……!」

「あ! そうね……じゃ、私達も行くわね‼︎ 」

 

 そう言いながら、反対側の廊下に歩み去っていくテトム。その後ろから、大神が続きながら再度、陽へ振り返った。

 無言のままだが、何かあれば直ぐに連絡しろ、と強い言葉が込められていた。陽は暫く、その姿を見続けていたが、始業ベルの音を聴いて、摩魅を連れて教室へと向かって行った。

 

 

 教室に着いたら着いたで、大騒ぎだった。こんな時期に転校生が、しかも、かなりの美少女がやって来たのだから、男子連中は騒ぎ始め、授業にならない程だ。

 摩魅は、こんな風に騒がれるのを慣れていない様子だ。以前、オルグ達に利用され持ち前の歌で集団洗脳を掛けて操った事もあったが元々、彼女は人前に出ずに、コソコソと隠れ住んでいたのだから、無理もない。

 男子、女子から取っ替え引っ替え質問攻めに合っていたが、側から見ていた陽からして見ても、かなり困惑しているのが明らかである。

 そんな中、男子の一部が陽に詰め寄って来た。

 

「な、竜崎! 摩魅ちゃんって、お前の従姉妹ってマジ⁉︎」

「え? ……まァね……」

 

 流石に彼女の素性をバラす訳にも行かない為、話を合わせる事にする陽。男子生徒達は、その言葉に益々、ざわめき立つ。

 

「嘘だろ⁉︎ あんな可愛い従姉妹とか、羨ましい‼︎」

「しかも、お前の妹も、相当の美少女だろ⁉︎ 勝ち組か‼︎」

「その上、成績優秀でスポーツ万能って……モテスペック、チート過ぎんだよ‼︎」

 

 最早、完全に収拾が付かなくなってきた。とは言え、遠目から見たら、摩魅はクラスの女子達と、それなりに馴染んでいる様に見え、陽は安心した。

 しかし、陽は気付かなかった。そんなクラスの様子を、遠目から妖しい目で見ている女学生の姿に……。

 

 

 

 やっと昼休みになり、陽は摩魅を連れて屋上に出た。祈の手製の弁当を広げながら、摩魅を見た。

 

「どうだった? 学校デビューは?」

「えッと……疲れました……」

 

 その言葉に、やっと心から笑えた気がした。摩魅は、本当にこうして見れば、普通の女の子だ。いや、クラスの男子達が浮き足立つのも分かるくらい、普通以上の美少女である。

 とは言え……彼女は自分に対し、これ以上無いくらいに卑屈な感情を抱いている。オルグの血が流れている、自分に……。

 

「陽さんは……優しいですね……」

「ヘッ?」

 

 唐突に彼女から発せられた言葉に、陽は戸惑う。

 

「だって……私みたいな混血鬼にも……陽さんは……」

 

 彼女は苦しそうだった。やはり、未だに自分の中にあるトラウマから抜け出せずに居る……。

 話題を変えようと、陽は話を振る。

 

「そう言えば、摩魅ちゃんは歌が上手いよね⁉︎ 今日、クラスの女子達が歓迎会を兼ねて、ってカラオケ行こうって誘われてなかった?」

 

 その言葉に対し、摩魅は力無く首を振る。

 

「……私、歌が上手いんじゃ無いんです……。それが、私の中に流れるオルグとしての唯一の力なんです……」

「唯一の?」

 

 陽は聞いては行けなかったことを聞いたかな、と思いつつも好奇心が勝り、聞いてしまう。

 

「……オルグには多種多様な力を持っていますが……私とて例外ではありません……。生まれついて私の歌には、人間の心を操る力があります……。オルグ達は私が歌う事に不快を示し、鬼ヶ島では歌う事を禁じていました……。

 でも……私の歌の有用性を編み出したテンマやヒヤータは、私を利用し始めたんです……。それからは、毎日が地獄でした。アイドルとして潜伏し、人々を操る為に利用され始めました……。オルグの支配する世界を作る為……」

 

 ポツリポツリと語り続ける摩魅の瞳からは、涙が溢れ出していた。彼女が生まれた事を否定されたばかりか、自由に生きる事さえも許されなかった。

 地獄……確かに、そうだろう。自分の意思に反し、人を操り心を踏み躙る行為は、身を裂かれるより辛かった筈……。

 

「……何度も死のうとしました。でも、オルグの血が私を死なせてはくれない。だから……私は……」

 

 遂に堪え切れなくなった摩魅は、さめざめと泣き出す。陽は黙したまま、彼女の告白を聞いていた。

 オルグの血を引く以外は、人間の娘とは違わない……。だが、それを認めてくれる者は人間にもオルグにも居なかった。そんな針のむしろの上に、彼女は座り続ける事を強制され続けていたのだ。

 と、その時、ガタンと音がした。二人は振り返ると、ドアが少し開いていた。陽はドアの元へ行き開けると、猛と昇が立っていた。

 

「……! どうして……⁉︎」

「い…いや、昼飯食おうと思ったらよ……」

 

 猛は曖昧ながらまを言った。昇は罰の悪そうな顔で、彼女を見てきた。

 

「……スマン……立ち聞きする気は無かったが……聞こえてしまった……」

 

 陽は暗い顔をする。よりによって、彼女の秘密を知られてしまった。最も、部外者に聞かれても信じられる話では無いだろうが、二人はガオレンジャーの秘密を端的にではあるが知っている。

 

「……ごめん……今の事は、皆には秘密にしておいてくれないか?」

「……謝んなよ……。寧ろ、謝んなきゃならないのは、コッチだ……」

「エッ?」

 

 突然、猛の言い出した事に、陽はキョトンとする。猛は昇と顔を見合わせた。そして、猛は頭を下げた。

 

「……俺達……知ってたんだ……! 陽が、俺達に隠れてやってる事……‼︎」

「何だって…⁉︎」

 

 唐突の事に、陽は唖然とした。

 

「あの後、目が覚めた後……俺達、お前の後を付けたんだ……! そしたら、あのテトムって呼ばれた女と、お前が話してる所、見ちまって……マジ、ごめん‼︎」

 

 頭を下げたまま、猛は謝罪した。昇も、スマなさそうに言った。

 

「実の所を言えば、ここ最近の、お前の様子が可笑しい事が、どうしても腑に落ちなくてな……色々と探ってたんだ……! 友達を嗅ぎ回るのは正直、心苦しかったが……それでも、俺達は知りたかった……! 」

「どうして…?」

「友達だから、だよ」

 

 昇の言葉を聞いた陽は絶句した。

 

「……俺達じゃ、助けにはなれないかも知れないけど……それでも助けになりたかった……! 陽が抱えている苦しみを分かち合いたかった……。そんな理由じゃ、ダメか?」

 

 昇は苦しそうにしながらも、自身の意思を述べた。それは、猛も同様である。陽は改めて、この二人を友と出来て良かった、と思えた。

 立場は異なるが、彼等は自分の秘密を知っても見放そうとしなかった。寧ろ今迄通り、もしくはそれ以上の形で彼を支え続けたい、と言う意思を示してくれたのだ。

 陽は彼等の直向きな友情に胸が熱くなった。そして、小さな声で……

 

「ありがとう…‼︎」

 

 と、呟いた。その際、後ろで居心地の悪そうにしていた摩魅に、猛は気付く。

 

「あ……心配すんなよ? その娘が、オルグとか言う奴の仲間だって事は、バラさねェよ。俺も昇も口は固い方だから……」

「大丈夫だ……。陽の不味くなる様な事は言わない……」

 

 それだけ言ってくれるだけで、陽は助かった。が、その時、摩魅は陽の前に立ち塞がった。

 

「陽さん! わ、私……!」

 

 摩魅は目に大粒の涙を浮かべながら、跪いた。

 

「わ、私……陽さんに本当の事を言います……! もう隠し通す事は出来ません……陽さんや祈さんや、この人達を巻き込んで迄、嘘を突き通すなんて……とても、耐えられません‼︎」

「ま、摩魅ちゃん?」

 

 突然の事に困惑しながら、陽は尋ねた。内心では一縷の嫌な予感が過った。

 

「白状します…‼︎ わ、私……オルグのスパイです‼︎ 陽さんに保護される名目で近付いたのも、ガオレンジャーの情報を筒抜けにする為の、オルグの計画なんです…‼︎

 ガオウルフ達をガオネメシスに奪われたのも、ニーコに私が情報を漏らしたから……なんです……‼︎」

「な、何だって……⁉︎」

 

 陽の嫌な予感が的中してしまった。まさか、考えたくなかった事が真実であったなんて……!

 

「……許してくれ、なんて言えません……! だって、私は……‼︎」

 

 

「あーあ……ばらしちゃったァ♡」

 

 

 その言葉を聞いた陽は身構える。すると、猛達の後ろから巨大な鎌が襲い掛かってきた。

 

「‼︎ 伏せろ‼︎」

 

 猛が間一髪で、摩魅を庇う。昇もドアの方を見ると、学校の制服を着た女生徒が妖しい笑みを浮かべながら、巨大な鎌を携えていた。

 

「な、何だ⁉︎ 」

 

 昇は、その異常ないでたちの女生徒を見据える。すると女生徒はクスクスと笑いながら、姿を変えていく。

 制服ははだけ、その下にはゴスロリ調のメイド服、黒髪をツインテールにして頭頂から生えた長いツノ……。

 

「ニーコ……‼︎」

「チャオ♡ お元気でしたかァ、陽さん?」

 

 ニーコは鎌を振り回しながら、陽に微笑み掛ける。一方、摩魅は猛に抱かれながら、ガタガタと震えていた。

 

「あらあらあらァ? 約束を破っちゃったわねェ、摩魅ちゃん? ヤミヤミ様と約束したでしょう? ガオレンジャーの情報を逐一、報告しろ、とォ? 鬼還りの儀まで、ガオレンジャーの余計な加入は避けたいから……まさか、忘れたのかしらァ?」

 

 クスクス笑いながら、ニーコは厭らしく嘲笑う。摩魅は、恐怖に震えていた。

 

「やれやれ、出来損ないは何処まで行っても出来損ない、と言う事かしらァ? まァ、良いでしょう。どの道、今更、何をやっても手遅れ。鬼還りの儀が執り行われるのは時間の問題ですわァ♡ 要するに、役立たずの摩魅ちゃんは、もう用済みと言うこ・と♡」

 

 そう言うと、ニーコはパチンと指を鳴らす。すると、オルゲットが屋上に覆い尽くした。

 

「クスクス! 逃げられませんわよォ♡ 邪魔者が入ってこれない様に屋上一帯に、不可視の結界を張りましたからァ♡

 さてさて! 裏切り者と共に、ガオゴールドさんには死んで頂きましょうかァ‼︎」

 

 ニーコは鎌を突き付けて、陽に威嚇してきた。仕方ない、戦うしか無い!

 

「猛、昇! 彼女と一緒に退がってろ‼︎ こいつ等は僕が‼︎」

「無茶だって、陽‼︎ 何人居るんだよ、こいつ等⁉︎」

 

 猛は叫ぶ。ニーコ、オルゲット多勢……加えて、まともに戦えるのは陽だけ……戦況は極めて悪い。

 

「待って‼︎ 私は裏切りの罰を受けます‼︎ でも、この人達は殺さないで‼︎」

 

 摩魅は嘆願した。しかし、ニーコはプッと吹き出した。

 

「アハハハハ‼︎ おっかしィですわァ、この人達は殺さないで⁉︎ 中々、面白いですわよォ! で・も……。

 許す訳無いじゃ無い、お馬鹿さん‼︎」

 

 一頻りに笑い終えた後、ニーコは侮蔑に満ちた目で、摩魅を睨む。

 

「そもそも、テンマ様やガオネメシス様のお情けで生かして貰ってた時点で充分過ぎる程に、お情けを頂いているですわよォ? にも関わらずに反逆するなんて……殺されたって文句は無いですわよォ⁉︎」

 

「クッ‼︎ ガオアクセス‼︎」

 

 陽はG−ブレスフォンを起動させ、ガオゴールドに変身した。そして、ドラグーンウィングに変身する。

 

「鬼還りの儀……其れに付いて話して貰おうか⁉︎ 」

「クスクス……嫌だと言ったら?」

 

 殺気を込めながら言い放つガオゴールドに対し、ニーコは余裕に満ちた感じだった。

 

「力尽くで聞き出す迄‼︎」

「フフフ‼︎ ガオシルバー、ガオグレーの助太刀を期待しているならァ……無駄ですわよォ? 今頃、あの二人も……」

 

 

 大神、佐熊は決死の思いで走っていた。陽と別れた後、大神は佐熊と共に、ガオズロック内にて待機していたが、突如、ガオの泉が湧き上がるのを、テトムが感じた。

 どうやら、オルグが姿を現したらしい。昨日、ツエツエ達が恐竜オルグを嗾けて来たばかりだが、また現れたかも知れない。三体居た恐竜オルグの内、二体は倒したものも、とりわけ厄介なティラノオルグは、まだ倒せていない。

 他の二体だけで強敵だったのだ。ならば、ティラノオルグは更に上回る事は間違い無い。

 ガオズロックを学校の近くに待機させ、大神と佐熊は陽の学校へと急いだ。

 

「陽…! 無事で居てくれ…‼︎」

 

 大神は自身のミスを呪った。数重なる連敗により、オルグ達も慎重になったと油断した。しかも、オルグ側は鬼還りの儀を執り行う準備に入り、表立った奇襲は仕掛けまいと考えていたが、それは甘かった。

 一刻も早く、陽の下へ向かわねばと二人は息を切らしながら走る。

 その時、大神達の足元に複数の苦難が突き刺さる。

 

「誰じゃァ⁉︎」

 

 佐熊が怒鳴ると、屋根から飛び降りてくる二人組。鬼灯隊のくノ一、ミナモとリクである。

 

「お久しぶり、でございます」

「………」

 

 ミナモとリクは、陽の身辺を見張っていた。しかし、その陽の下にニーコが奇襲を仕掛けたのを機に、彼等二人が陽の援護に訪れると直感したニーコによって、此処に配置されていたのだ。

 

「ワシ等の首を取りに来たんか⁉︎」

 

 佐熊は焦れているらしく、乱暴な口調で言った。ミナモはクスリと笑う。

 

「いいえ。私達、二人で貴方がたを倒せると自惚れては居ません、でございます。私達は……ガオゴールドの始末が終わる迄の刻を稼ぐだけ、でございます」

 

 ミナモの淡々とした口調に反して、リクは苦難を投げた。大神は其れを、ガオハスラーロッドで弾く。

 

「……残念。眉間を貫くつもりで投げたのに……」

 

 リクは無口ながらも、攻撃的かつ物騒な物言いをした。その際、口を口角まで吊り上げた。

 

「はっはっは‼︎ 無口な娘じゃと思えば、中々に気の強い娘じゃな‼︎」

「…止しなさい、リク……。次、勝手に動いたら……殺すわよ?」

 

 一瞬だが、ミナモの顔が冷徹な顔でリクを睨む。リクは無言のまま、頷いた。

 丁寧口調だが、残忍な本性を垣間見せたミナモに、大神は誰かと似ている、と感じた。

 

「…お前…誰かに似ているな…」

「あら、失敬、でございます……。恐らく貴方が言っているのは、四鬼士の一角、水のヒヤータを指しているのでは?」

 

 ミナモの指摘に大神は、かつて戦った四鬼士、ヒヤータと彼女が何処と無く似ているのを感じた。

 

「似ているのは当然で、ございます。ヒヤータは私の姉なのですから……」

「‼︎ 姉妹だったのか⁉︎」

「ま、私はあんな女、今更、姉とも思っていない、でございますが……オルグとして力を持ちながら、智謀に頼り詰めを図り損ねた愚姉……ただ、それだけでございます…」

 

 ミナモは吐き棄てる様に、言い放った。ヤミヤミもそうだが、やはりオルグには血の繋がりによる情愛などは無いのかも知れない。

 

「そもそも、オルグ忍軍の門を叩いた瞬間より、既に姉妹の縁は切れていますし……けど…!

 同じオルグとして……姉の不始末は取らせて頂きます‼︎」

 

 そう叫ぶと、ミナモとリクは同時に飛び掛かってくる。大神と佐熊も、G−ブレスフォンを起動させた。

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 ガオシルバー、ガオグレーに変身した二人は、遅い来る鬼灯隊のくノ一を迎え撃った。

 

 

 

 学校での戦いは、オルゲットの団体をガオゴールドが概ね片付けたが、矢張り数が多かった為、苦戦を強いられていた。

 

「アハハァ‼︎ もう息が上がってますわよォ♡ そ・れ・と・もォ? ニーコちゃんが強過ぎたからかしらァ?」

 

 ニーコは完全に馬鹿にして掛かる。だが、彼女の言う通り、ガオゴールド一人で片付けるには、分が悪すぎた。

 ニーコはニヤリと笑うと、鎌の刃を舌でペロリと舐める。

 

「ンフフゥ♡ 摘み食いで終わらせようと思ったけど……此処で食べちゃお♡」

 

 そう言って、ニーコは鎌を振り下ろしながらガオゴールドに迫って来た。しかし、その鎌を何かが弾く。

 見ると光で出来た刃が地面に突き刺さって居た。

 

「な⁉︎ 誰ェ⁉︎」

 

 ニーコは辺りを見回す。すると、学校の屋上に佇む一人の影があった。

 

「あ、あれは⁉︎」 

 

 ガオゴールドは、その影を見て驚いた。逆光で分からなかったが、よく目を凝らせば自分と同じ、ガオスーツを着用していた。その人物は飛び降りると、ニーコの前に立った。

 

「私は煌めきの鳳凰、ガオプラチナ‼︎」

 

 光り輝くプラチナカラーのガオスーツに鳥を模したマスクを着用した謎の戦士、ガオプラチナは高らかに名乗った。

 

〜追い詰められたガオゴールドの前に姿を現し、彼を救ったのは新たな戦士ガオプラチナ‼︎ 果たして、その目的…そして正体は何者なのでしょうか⁉︎

そして、ガオシルバー達の前に立ちはだかる鬼灯隊の強さは⁉︎〜



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quest37 狂犬、暗躍‼︎

「ガオプラチナぁ?」

 

 ニーコは自身の前に立ちはだかる戦士に対し、挑戦的に言った。ガオプラチナは態勢を整える。

 

「何処の誰かさんか存じませんけどォ、邪魔をするつもりなら唯じゃ済ましませんよォ?」

 

 そう言いつつ、ニーコはやんわりとした口調ながら、殺気を露わにした。ガオプラチナは手をかざした。すると、プラチナの右手に光の粒子が集まって行く。

 

「フェニックスアロー‼︎」

 

 現れたのは鳥の翼に似た弓だった。其れを右手に持ち、左手で弓から噴出した光の弦を持つ。そうしたら、光で構成された矢が現れ、アローに番えた。

 

「鳳凰一矢‼︎」

 

 放たれた光速の矢が、ニーコ目掛けて飛んで行った。しかし、それと同時に、ニーコは側に居たオルゲットを捕まえて盾にした。

 

「アハッ‼︎ 中々、やりますねェ‼︎」

 

 ニーコはせせら笑いながら、オルゲットを投げ捨てる。地べたに転がったオルゲットは泡となって消えて行った。

 

「……さっさと立ち去れ‼︎ 次は外さない‼︎」

「ンフフぅ‼︎ 言ってくれますねェ……け・ど‼︎ 死神の力を舐めて貰ったら、困りますよォ‼︎」

 

 そう言って、ニーコはメイド服を脱ぎ捨てた。すると、黒一色に胸元が大きく開いたパンク風のボンテージと言う際どい服装、脚部は薄黒いタイツを履き、頭にオルグの角と同時に髑髏の飾りを着けて、手に持つ大鎌はより禍々しいギザギザの形になった。

 その様子で、ニーコは宙に浮きながら鎌の上に座り足を組む。

 

「ンフフフフぅ‼︎ 此れが私の戦闘形態‼︎ 鬼地獄のキュートな死神ニーコちゃん、で・す・よォ♡」

 

 ニーコはケラケラと嗤い出す。すると背中から巨大な蝙蝠の翼がバサァっと広がった。

 

「……ヘル・オルグか……」

 

 ガオプラチナは彼女の姿、更に鬼地獄と言う言葉を聞いて確信を得た様に呟く。しかし、ニーコは、その言葉を気に入らなかったらしく、不機嫌そうになる。

 

「ヘル・オルグぅ? 私を、そんな低級なのと一緒にしないで下さいますゥ⁉︎ 私は、ヘル・デュークオルグ‼︎ 鬼霊界、鬼地獄に漂う下等なオルグ達の魂を統括する存在‼︎

 当然、戦闘力も相応ですわよォ‼︎」

 

 と、言いながら、ニーコは空中で舞い踊りながら鎌を横に切った。すると、空間が斬り裂かれて中から多数のオルグ達が這い出て来た。姿形はオルゲットに似ているが、頭のこぶ状に角は溶けた様に爛れ、腹部は異様な程に膨れていた。

 

「初めて見ましてェ? この子達は餓鬼オルグ! 鬼霊界に這い回るオルゲットよりも最下級のオルグですわァ‼︎ オルゲットを少し強くしたくらいで知能も虫ケラ以下ですけどォ……数が揃えば中々、頼りになるんですのよォ♡」

 

 餓鬼オルグは呻く様な奇声を上げながら、うじゃうじゃと湧いて出て来た。確かに他のオルグの様な知性を感じさせない。パカッと開かれた口内からはダラダラと薄緑色の涎を垂らし舌をベロンと出した姿は、さながらゾンビだ。

 

「ンフフ‼︎ それでは、始めましょうか? 地獄の立食パーティーを‼︎」

 

 ニーコが鎌を振りかざして指示を出すと、餓鬼オルグ達は一斉に動き出した。ガオプラチナも、フェニックスアローを構える。その横へ、ガオゴールドが並び立った。

 

「ガオプラチナ‼︎ 僕も戦うよ‼︎」

「……足手纏いなら必要無いけど……」

「足は引っ張らないさ‼︎」

 

 ガオゴールドの言葉に、ガオプラチナは素っ気無く肩を竦ませた。ニーコはニタァと笑い…

 

「そ・れ・じゃ……直ぐに殺すのは詰まらないからァ……うんと、苦しんでから死んで下さいねェ‼︎」

 

 挑発気味に吐き捨てながら、ニーコは飛び掛かって来た。

 

 

「おい、昇……これは夢じゃ……ねェよな?」

 

 猛は目の前で繰り広げられる常識外れした出来事に付いて行けなかった。恐らく、それは至極真っ当な感覚であった。

 目の前で親友が異質な格好で、アニメにしか出て来ない様な化け物と戦っている……他の人に話したって信じないだろう、当事者である自分が信じられないのだから……。

 

「……そう思うなら自分の頬をつねって見ろ……」

 

 それは昇も同じである。こんな事、普通に生きてきた自分達には一生、無縁だと思っていた。

 だが今日、昇は知ってしまった。日常の壁一枚で隔てた場所に存在する非日常……陽は、そんな世界に身を置き戦い続けて居たのだ。

 餓鬼オルグを斬り捨てては、新たな敵に向かっていくガオゴールド……昇は改めて、陽が自分達を守る為に血を流し続けて来た事を否応も無く理解した。

 二人に挟まれ、ブルブルと震えている摩魅を見た猛は、怪訝に思いながらも様子を尋ねた。

 

「おい、大丈夫か?」

「……私が悪いんだ……私がオルグに立ち向かう勇気があれば……私が生まれて来なければ……私が……」

 

 虚ろな表情で一点を見つめたまま、念仏の様に懺悔を繰り返す摩魅。元を辿れば、自分の存在がこの様な事態を引き起こしていた。

 心の何処かで、オルグに従えば、いつか仲間と認めて貰えると甘い期待をしていた。しかし、それは儚くも粉々に打ち砕かれた。彼等は所詮、自分の事を蜥蜴の尻尾程度にしか考えていなかった。利点が無くなれば、あっさりと踏み潰される……そんな事は分かっていた筈だ。

 

「なァ……本当に生まれて来なければ良かった、と思ってるのか?」

 

 ふと、昇が語り掛ける。摩魅は涙でグシャグシャの顔を上げ、彼を見た。

 

「アンタが、どんな人生を送って来たのかは分からない……だが、辛い人生を耐えて来たのは分かるよ……。

 俺も、そうだった。クソの様な親の下に生まれ、世の中を憎んで生きていた時期もあったよ……。

 そんな俺を変えてくれたのが……アイツだった」

 

 昇は目の前で戦っているガオゴールド、陽を見ながら言った。

 

「陽が居なければ……今頃、俺もアンタと同じで全てに悲観しながら生きていたかもな……」

 

 昇の言葉は摩魅の胸に染み渡る。こんな自分でも……鬼の血を引く自分でも、彼は受け入れてくれた。

 生まれて初めて自分を、人として扱ってくれた陽と祈……ただただ、生涯を悔やみながら生きてきた自分に、微かな希望を抱かせてくれた……。

 

 

 

 ガオゴールドとニーコの戦いが繰り広げられている間……ガオシルバー、ガオグレーも熾烈な戦いを演じていた。

 オルグくノ一であるミナモとリク……改めて闘ったが、他のオルグとは明らかにレベルが違う。

 単体の強さだけでも、オルゲットは元より二本、三本角のオルグ魔人、四鬼士等のデュークオルグにも匹敵する強さだ。

 つまり、今迄に倒して来たオルグ達とは桁外れに強敵である者達が立ちはだかって来る……それこそ、自分達を圧倒したガオネメシス級の強敵達が……。

 

「ぬゥ……‼︎ 手強いのォ‼︎」

 

 ガオグレーは、ミナモの放った苦無を払い飛ばしながら、苦言を漏らす。彼女は淑やかな口調とは裏腹に、確実に敵を仕留めに掛かって来る。ミナモは、艶やかに微笑む。

 

「お褒めの言葉、感謝致します…で、ございます」

「……別に褒めとらんわい……‼︎」

 

 彼女の余裕のある返しに対し、ガオグレーはぶっきらぼうに言った。恐らくだが、彼女の実力はこんな物ではない筈。伊達に、四鬼士の一角に数えられたヒヤータの妹を名乗る訳では無い、という事だろう。

 リクもまた、ガオシルバー相手に善戦していた。無口かつ無表情な彼女だが、先制攻撃を見せた通り、彼女はかなり好戦的な性格らしく、戦いそのものを楽しんでいる節があった。

 先程は苦無を投げた遠距離攻撃だったが、現在は二振りの忍刀を使った近接攻撃を仕掛けて来る。

 斬り掛かる度、彼女は残忍な笑みを浮かべた。まるで獲物に襲い掛かる野獣の様な、ギラギラした目を見せながら…。

 ガオシルバーは目の前から迫るリクの振り下ろした刃を受け流しつつ反撃の機会を伺うが、次から次へと攻撃を繰り出して来る為、防御に徹するので精一杯だ。

 

「……楽しい…‼︎ 人間を斬るのって楽しい…‼︎ 人間を嬲るのって楽しい……‼︎ 楽しい……‼︎」

 

 リクは淡々とした口調ながらも、刃から狂気を滲み出ていた。見た目は人間の娘だが、内実は非情なオルグである、と戦慄を覚えた。

 

「リク……嬲るのは止めなさいったら……。そんなのは人間の感情よ、でございます」

 

 ミナモは嗜める様に言った。その言葉を聞いたガオシルバーは首を傾げた。

 

「人間?」

「あら、知りませんでした? リクは混血鬼ですわ」

「⁉︎」

 

 意外な事実を聞かされたガオシルバーは驚愕した。混血鬼……即ち、オルグの血を引く人間の事。あの摩魅と同じと言う事だ。

 ミナモは、クスクスと笑う。

 

「別に人間の血を引くオルグ、なんて珍しい事じゃ有りませんわ。古来より、異種間での交配は人知れず行われて来たのですよ? 最も、リクの場合は人為的に生み出された混血鬼ですけど……」

「人為的…だと⁉︎」

 

 その言葉に、ガオシルバーは耳を疑う。人間とオルグの交配が、人為的に行われてたなんて……。

 

「今は少なくなったけど、昔はあったのよ。オルグと人間……そもそも、相反する二つの種族が交わる事は決して有り得ない……水と油が混ざらずに分離する様に、犬と猿が互いを敵視し合う様に……対極の存在同士を強引に混ざり合わされば、何が起こるか想像が付かない……故にオルグと人間の交配は禁忌(タブー)とされて来た……だから、人間の血を引く混血鬼は、オルグからも人からも疎まれる様になったので、ございます」

「禁忌だと言うなら……何故⁉︎」

 

 其れが本当なら、今目の前に居るリクは、どう説明するのだろうか⁉︎ ミナモは続けた。

 

「簡単な事ですわ。人身御供として差し出された生娘を、オルグと交わらせて子を生させる……実際の所を言えば、上手く子を孕む確率が低く、大半の生娘はオルグと行為に及んだ際に腹上死してしまう、でございます。

 時代が移り変わる内に、混血鬼を産ませる風習は無くなったと聞きますが、一部の野に降ったオルグが辺境の地に住み着き、無理矢理に子を産ませ続けた…と、有りますがね」

 

「き…貴様…‼︎」

 

 その人間を愚弄し切ったミナモの言い草に対し、ガオシルバーは怒りに震えた。

 

「そんな事が、まかり通って堪るか‼︎ 貴様等は、人間を何だと…⁉︎」

「何を怒りまして? 人間だって動物だって、似た様な産卵形態をしているじゃ有りませんか。雄は自分の気に入った雌と子を作るでしょう? 雌も、また然り……実に単純かつ合理的な自然のサイクル……オルグも、それと同じ事をしているだけ……で、ございます」

 

 取るに足らない、と言い切るミナモに対し、ガオシルバーもガオグレーも言い返す事が出来ない。 

 動物、植物、人間には自分の子を残したい、血を受け継がせたいと言う欲求が本能的に存在する。つまり、その欲求がオルグにあったとしても何ら不思議では無いと言う事だ。

 しかし……その為に、罪の無い娘達がオルグに拐かされたばかりか、望まぬ命を産み堕とさなくてはならないのだ。

 だが…それを認めてしまえば、オルグの存在を正当化してしまう事になる。地球を守るガオレンジャーとして、それを守る訳には行かない。

 

「それと…これとは、話が別だ‼︎」

「クスクス……どう別なのですか? 認めない、と言う事は貴方達が保護している混血鬼の娘の存在を認めない事になる、でございますよ?」

「‼︎」

 

 ミナモの発した言葉に、ガオシルバーば絶句する。

 

「クスクス……それを言うなら、貴方だってそう……。一時は鬼面の力でオルグとなった身の上なのでしょう? 境遇は異なるとは言え、混血鬼である事は違いない……。

 ならば、世に蔓延る人間が全て、オルグになる可能性があると言う事で、ございます。それこそが鬼還りの儀……」

「……そんな事をさせるものか‼︎」

 

 ガオシルバーは強い口調で叫ぶが、ミナモはニィィっと邪悪に笑う。

 

「フフフ……させるものか? それは出来ない相談ですわね

 ……だって、貴方がたは……

 

 此処で死ぬのですから‼︎ オルグ忍法‼︎ 水球牢縛(すいきゅうろうばく)‼︎」

 

 ミナモは印を結ぶとアスファルトを破壊して、水がうねりながらガオシルバー達を一人ずつ捕らえた。

 水はギッチリと身体を縛り、やがて全身を覆い尽くし、球体の中に囚われてしまった。

 

「フフフ……水で出来た牢獄は逃げ出そうと、もがけばもがく程、自由を奪い、やがて抵抗する力も無くなり、最後は溺死して行くのみ……これぞ、オルグ忍法・水球牢縛、でございます……」

 

 ミナモは水を掻き分けようとするガオシルバー達を見上げながら、クスクスと笑う。リクは不満そうに……

 

「…つまらない…直接、殺したかったのに…」

 

 と漏らした。それに対して、ミナモは……

 

「我慢なさい。私達の目的は、ガオレンジャーを足止めし、確実に仕留める事……」

 

 と嗜める。ガオシルバーば足元にあるガオハスラーロッドを手にしようとするも、水の力により阻まれてしまう。

 このままでは二人共、溺死してしまう。万事休す、と思われた時、突然、水の球体が破裂した。

 

「がはァ‼︎」

 

 球体から解放されたガオシルバーは、息を吸えた事で安堵した。ミナモは、自身の術を解除された事に激しく動揺していた。

 

「な、何が起こった、でございますか⁉︎」

 

 突然の事態に慌てふためく彼女の前に、謎の影が降り立つ。

 

「……何者?」

 

 リクは獲物を横取りされた事に、若干の苛立ちを発しながら尋ねる。すると、謎の影は無言のまま、顔を上げた。

 

「な⁉︎ あれは⁉︎」

 

 その正体は、ガオの戦士だった。ライトグリーンのマスクとガオスーツとマスク、肩部と胸部に掛けて銀色の鎧を装着している。何処となく、ガオネメシスに雰囲気が似ているが、彼の様な禍々しさを感じさせない、寧ろ、神々しささえ見て取れた。

 

「だ、誰だ、あんた⁉︎」

「……誰でも無い……名は捨てた」

 

 謎の戦士は素っ気無く応える。ミナモは敵意を剥き出しにしながら、彼を睨む。

 

「よくも邪魔してくれましたわね……‼︎ 貴方も、ガオの戦士で、ございますか⁉︎」

「何度も言わせるな……私は誰でも無い者だ……」

「そうですわね……これから死に行く貴方の名など、聞くだけ野暮と言う物ですわ…ね‼︎」

 

 そう叫びながら、ミナモとリクは同時に向かって来る。しかし、謎の戦士は慌てる事なく彼女達の攻撃を受け流すだけだ。その上、自分からは攻撃を仕掛けずに、防御する事に徹底する等、極めて珍しい戦い方だった。

 

「…なんて優しい戦い方なんだ…‼︎」

 

 ガオシルバーは、謎の戦士の戦い方を見て驚愕した。攻撃を受け流す為、自身は拳を解いた状態で構えていた。

 

「全くじゃ……あんな柔に徹した技で戦えるとは……只者じゃ無いぞ‼︎」

 

 ガオグレーも、戦士の見せる只者のは思えない空気を肌で感じ取っていた。その様子を見た謎の戦士は、二人を叱責する。

 

「何をしている⁉︎ 仲間の下へ行くのでは無いのか⁉︎」

 

 リクの刀を受け止めながら謎の戦士は一喝する。その言葉に、二人は我に返った。

 

「……ガオグレー、此処は彼に任せて行こう‼︎」

「む⁉︎ そうじゃったな‼︎ 」

 

 漸く二人は隙間を擦り抜けて学校へと走った。戦いを、ひいては獲物を横取りされた事に、リクは苛立ちを隠さなかった。

 

「邪魔した……許さない……‼︎」

 

 そう言って、リクは刀を謎の戦士に振り下ろしに掛かる。しかし、その刃は弾かれたばかりか、見事に折れてしまった。

 

「なっ⁉︎」

 

 何が起こったか、と凝視したミナモは目を凝らすと、謎の戦士の周りにバリヤーの様な不可視の壁が張られていた。

 

「止めておけ……お前達では勝てん……」

「クッ‼︎」

「どうしてもやると言うなら……容赦はしないぞ……」

 

 そう言うと、謎の戦士は握り拳を固める。次からは本気でやる、と表明した様に……。

 すると、リクは急に首を傾け始めた。

 

「うふふ……あはは……! 人間って脆いから……簡単に壊れちゃう。オルグの血が入った混血鬼は簡単には壊れないけど……人間の身体は傷つくと痛いし、壊れちゃうし……。

 でも! それが最高に楽しい‼︎ 壊すか壊されるか‼︎ そんな遊びって、混血鬼じゃなきゃ出来ない‼︎」

 

 リクは狂気に満ちた顔で、ケタケタと笑い出す。ミナモは眉を潜めた。

 

「ああ……リクの“病気”が出たわ、でございます……」

 

 ミナモは呆れた様に呟く。こうなった彼女は、自分の手には負えない事を知っているからだ。

 

「哀れな…! 人の血とオルグの血……相反する二つの血は互いに互いを反発し合う……。その矛盾が、この様な事態を引き起こしたのか……‼︎」

「あははははははは‼︎ 私、貴方を壊したい! バラバラにしたい‼︎ めちゃくちゃにしたい!!!」

 

 かなり不安定な状態になりながら、リクは折れた刀を投げ捨てて土を掬い上げると、新しい刀に錬成した。 

 

「ねェ? 簡単に…壊れないで…ね? 」

 

 常軌を逸した目で謎の戦士を見ながら、リクは飛びかかろうとする。

 

 

「何をしている?」

 

 

 底冷えする様な低い声が響く。途端に二人は振り返ると、ヤミヤミが立っていた。

 

「お、親方様⁉︎ 何故、此処に⁉︎」

「何をしている、と聞いているんだ」

 

 ヤミヤミは静かな口調だが、怒りを滲ませながら発した。さっき迄、ハイの状態だったリクも、打って変わり大人しくしていた。

 

「貴様等の任務は、ガオレンジャーの見張りだった筈だ。戦闘をして良いとは、言わなかった……」

「あの……私達は……」

 

 ヤミヤミの指摘に、バツが悪そうに、ミナモは目線を逸らした。ヤミヤミは二人を押し除けて前に出る。

 

「言い訳は後だ。任務を放棄した仕置きも含めてな……」

「……親方様。私、まだ戦い足りない……」

 

 駄々を捏ねる子供の様に、リクは言った。ヤミヤミは鋭い目で睨む。

 

「黙れ。拙者は同じ事を何度も言うのは好かん。解らんのか? この男は貴様等に勝てる様な敵では無い……!」

「……むゥ……」

 

 リクは納得は行かないながらも、頭領の命令に渋々ながら従った。ヤミヤミは謎の戦士を向き直る。

 

「貴様が何処の誰かは知らんが……我々の邪魔をするなら、次は無い……」

 

 そう言い残すと、ヤミヤミ達は跡形も無く消え去った。残された謎の戦士は背を向けながら……

 

「……此れが、お前の望んだ未来なのか? ネメシスよ……」

 

 と嘆く様に呟き、姿を消した。

 

 

 

「ンフフ‼︎ どうやら、此処までの様ですわねェ‼︎」

 

 ニーコは悪辣に笑いながら、ガオゴールドとガオプラチナを見下ろす。餓鬼オルグの猛攻に耐え抜きながら、何とか本体であるニーコを叩こうと機会を窺っていたが、餓鬼オルグは倒しても倒しても、無限に湧いて来る様に立ち上がって来る。その様子を見ながら、ニーコは

 

「諦めて下さいなァ♡ 貴方達じゃ、この子達には勝てないですよォ♡ 頼みの、ガオシルバーもガオグレーも今は居ないですしねェ、アハハ‼︎」

 

 と、完全に勝ち誇りながら吐き棄てる。確かに悔しいが、状況は極めて悪い。餓鬼オルグは数に任せた物量作戦で、二人のガオの戦士を包囲した。

 

「ガオゴールド! 貴方だけでも逃げて‼︎ 後ろの三人を連れて早く‼︎」

 

 ガオプラチナは、せめてガオゴールドだけは逃がそうと試みた。しかし、ゴールドは首を振る。

 

「そんな事、出来ないよ‼︎ 君を置いて逃げれる訳が……‼︎」

 

 頑なに戦いを続けようとするガオゴールドに対し、ガオプラチナは肩を掴み捲し立てた。

 

「分かんない⁉︎ 今、貴方が死んだら……誰が、あの娘を守るの⁉︎」

「え⁉︎」

「貴方の命は…貴方だけの物じゃ無いの‼︎ 自覚して‼︎」

 

 ガオゴールドを叱咤する様に、ガオプラチナは怒る。一方、ニーコはクスクス笑いながら言った。

 

「ンフフぅ‼︎ 痴話喧嘩なんて、してる場合じゃ無いですよォ⁉︎ 餓鬼オルグ、やっちゃって下さァい‼︎」

 

 ニーコの命令を受けた餓鬼オルグ達は一斉に襲い掛かって来た。それに反応する様に二人は構えるが、餓鬼オルグ達の手が眼前まで迫ろうとしていた。

 

 

「銀狼満月斬り‼︎」

 

 

 その刹那、餓鬼オルグ達は次々に斬り伏せられて行った。ガオゴールド達は何が起きたか、と見回すと、ガオシルバーとガオグレーが間一髪、間に合ったと言った具合に姿を現していた。

 

「シルバー! グレー!」

「すまん、ゴールド‼︎ 遅くなった‼︎」

 

 やっと援護に駆け付けれた、とガオシルバーは謝罪しながら言った。ガオグレーは、ガオプラチナの姿を見て

 

「何じゃ? そっちのは?」

「ああ、彼女はガオプラチナ。此処まで、僕と一緒に闘ってくれたんだ‼︎」

 

 ガオゴールドが説明した。しかし、新たな顔の戦士が居た事に、二人は余り驚いていない様子だ。

 

「? あんまり、驚かないんですね」

「ん? ああ、実はな……」

「今は話している場合じゃ無いぞ‼︎」

 

 戦闘中に関わらずに話を始めた二人を制する様に、ガオシルバーが一喝した。ガオプラチナは少し呆れた様子だ。

 

「アハハぁ‼︎ どうやら、ミナモちゃん達は失敗した様ですねェ‼︎ でもォ、もう用事は済んだから良いですけどォ!」

「⁉︎ どう言う意味だ‼︎」

 

 ガオゴールドが怒鳴りつけると、ニーコはペロリと舌を出す。

 

「ンフフぅ♡ 分かりませんか? どうして、私が貴方を奇襲を仕掛けたか? 別に出来損ないの混血鬼を殺す事なんか、どうでも良かったんですよ?

 ただね? 私達の計画を邪魔する、もう一つの布石を潰す為に……貴方がたを足止めする為の時間稼ぎだったってこ・と♡」

 

 そう言うニーコは、邪悪に微笑む。その何かを含めた言葉に、ガオゴールドは嫌な予感が胸をよぎった。

 

「何が言いたい⁉︎」

「ンフフフぅ、まァだ分からないんですかァ? 貴方の妹ちゃん、今、どうしてますかねェ?」

「‼︎ 祈⁉︎ 一体、何をした⁉︎」

「答えは……ご自分で考えて下さい♡ では、チャオ‼︎」

 

 そう言い残して、ニーコは鬼門の中に消えて行った。残されたガオゴールド達は顔を見合わせる。

 

「まさか……⁉︎」

 

 その時、ガオゴールドのG−ブレスフォンに通信が入る。此処にいる仲間達では無い。テトムから、テレパシーを送って来る筈だ。じゃあ一体、誰が?

 ガオゴールドは恐る恐る、通信に出た。

 

 〜やっと出たか、ガオゴールド〜

 

 それは、ガオネメシスその人の声だった……。

 

 

 

 ガオゴールド達が戦いを繰り広げていた最中、祈は中学校の昼休みを送っていた。そんな中、彼女は困った事態に陥っていたのだが……。

 

「祈センパーイ‼︎ お昼、ご一緒にして良いですか♡」

 

 後輩の千鶴が、やたらベタベタと引っ付いて来た。祈は困惑した様に笑っていた。

 

「あ、あのね、千鶴……お弁当、食べるのは良いけど……少し離れて……」

 

 昼食前、部室に用事があった為、舞花と待ち合わせて食べていたのだが……其処へ千鶴も乱入して来て一緒に食べる事になったのだ。

 千鶴の祈への過剰なスキンシップは日増しに強くなって行った。今では校内、部活に関わらず擦り寄ってくる。

 

「え〜〜? 先輩は私の事、嫌いですか?」

「だ、だから……そう言う意味じゃ無くて……食べにくいから……」

「じゃあ、私が食べさせてあげます‼︎ 先輩、あ〜〜ん♡」

「もう‼︎ 自分で食べれます‼︎」

「アンタ達、すっかり仲良しねェ……」

 

 舞花は呆れ半分、驚き半分に言った。少し前まで不仲だったとは思えないくらい、今の祈と千鶴の距離は縮まっていた。

 

「舞花! 見てないで、助けてよ!」

「え〜? だって、見ていて、何か和むし……」

「もう! 他人事だと思って‼︎」

「センパーイ! 早く、お口開けて下さァい♡」

「千鶴も、離れなさいったら‼︎」

 

 と、こんな具合だが、和やかな学園生活を送っていた祈だった。毎日の様に、舞花と話したり千鶴に絡まれたり部活に勤しんだり……色々と騒がしくはあるが、祈は平和である事を享受していた。

 そんな時、チャイムが鳴り響く。

 

 〜二年A組の竜崎祈さん。御家族から連絡が来ている為、至急、職員室に来て下さい〜

 

「え? 家族から?」

「陽さんじゃ無い?」

「だって、兄さんなら携帯に……」

 

 これ迄、陽が学校に電話を掛けて来た事は無かった。自分の携帯を掛けて来た筈なのに……。

 

「ゴメン、一応、行ってくるね」

「うん、いってらっしゃい」

「ああ‼︎ 祈センパーイ‼︎」

 

 立ち上がる祈を引き止めようとする千鶴を躱しながら、祈は部室を出た。

 職員室に向かう最中、廊下を歩いている際、祈は何か、妙な雰囲気を感じた。

 何故だかは分からない、分からないが……ただ、胸騒ぎがするのだ。

 と、その際、祈は後ろから気配を感じて振り返る。しかし、其処には誰も居ない。

 ホッとした刹那……。

 

 ートンー

 

 何か首の後ろに衝撃が走った。その際、祈の意識が飛びそうになる。最後の力を振り絞り、自身の後ろを見ようとしたが……其処には、ガオスーツのマスクが見えただけだった。

 

「クックック……上手く行ったぞ….」

 

 意識を失い気絶した祈を抱きかかえる様に受け止めたのは……何と、ガオネメシスだった。

 

「……瓜二つだ。まさか、これ程に瓜二つだとは……‼︎」

 

 ガオネメシスは、コンコンと眠り続ける祈を見下ろしながら、残忍な彼には似つかわしく無い、まるで大切なものを愛でる様な雰囲気を醸し出した。

 そして、祈を両腕で抱えあげると、鬼門の中に消えて行った……。

 

 

 〜大変な事になりました‼︎ 祈が、ガオネメシスの手に落ちてしまい、彼女を攫うという事態へ発展します‼︎

 果たして、彼の目的は⁉︎ そして、彼の言う「瓜二つ」とは何を意味するのでしょうか⁉︎〜




−餓鬼オルグ
 ニーコが鬼地獄から呼び寄せた最下級のヘル・オルグ。ゾンビに似た見た目通りに知性は皆無で、オルゲットより少し強い程だが、数に任せた攻撃で敵を追い詰める。
 その名の通り、常に飢餓感に襲われており獲物を喰らう事しか考えてない。鬼地獄では、オルグの屍肉を漁っていたらしい。外見モチーフは、ゼルダの伝説のリーデッド。


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quest38 狂犬の真実

 ガオゴールドはG−ブレスフォンが聞こえてくる声に戦慄した。声の主は今迄、幾多と自分達の前に現れ陥れて来た敵、ガオネメシスからだった。

 

「ガオネメシス……‼︎」

 

 湧き上がる怒りを抑えつつ、ガオゴールドは返事をする。ブレスフォンの向こうで、自身を嘲笑しているガオネメシスの姿が浮かんだからだ。

 

「何で、お前が⁉︎」

 

 〜ク……! 俺も、ガオの戦士だからな。G−ブレスフォンに連絡を取る事くらい容易い……。そんな事より……ニーコからの言伝を聞いてくれたかな?〜

 

「何だと…⁉︎」

 

 ガオゴールドは左拳を握り締める。そうしなければ、今にも自分で感情が爆ぜてしまいそうだった。

 

「祈に何をした⁉︎」

 

 〜クックック……鬼還りの儀を執り行なうには、純潔なる娘の生贄が必要だ。その為に、お前の妹を利用させて貰うだけさ〜

 

「き、貴様ァァっ!!!」

 

 もう我慢の限界だった。事もあろうに、祈を鬼還りの儀の生贄にする? その蒸気を逸した考えに、ガオゴールドの怒りは頂点に達した。

 

 〜案ずるな、殺しはせん……。文字通り、生きたまま利用するだけだ。全てが終わった時、貴様の妹はオルグの支配する世界に於いて、全オルグの母となって貰う……‼︎〜

 

「ふざけるな‼︎ そんな事させるか‼︎」

 

 G−ブレスフォンに向かって、ガオゴールドは怒鳴る。ガオネメシスの高笑いが響いた。

 

 〜もう遅い! お前の妹は既に、俺の手中にある‼︎ 取り戻したければ……探し当てて見るんだな〜

 

 と、言って通信は一方的に遮断された。ガオゴールドは呆然と佇むしか出来ない。

 

「すまん、陽……俺達のミスだ……」

 

 変身を解きながら、大神は謝罪した。まさか、此処まで大胆に仕掛けて来るとは思わなかったからだ。

 ガオゴールドをニーコが、ガオシルバー達をミナモとリクが、と二重から攻める事で祈に対する注意を逸らされた。

 思えば簡単な理屈だった。祈は原初の巫女の力を受け継ぐ、オルグ達がこれを見過ごす訳が無い。

 ましてや、鬼還りの儀を執り行なう為、となれば不安要素は取り除いて置く必要がある。

 完全にオルグの掌で踊らされていた事に対し、陽は悔しく歯軋りした。

 

「全部、私のせいです……」

 

 ふと、摩魅がやって来ながら言った。目には涙が浮かんでいる。

 

「私が、オルグ達を恐れてたから……‼︎ 私のせいで、祈さん迄……‼︎」

「おい、落ち着けって……‼︎」

 

 猛は、取り乱す摩魅を宥め様とするが、摩魅は聞く耳を持たずに、かぶりを振った。

 

「祈さんの身にもしもの事があったら……私……‼︎」

 

「もう止めろ‼︎」

 

 突然、陽は叫ぶ。その怒声に、其処に居合わせた全員が飛び上がりそうになった。

 

「今、誰が悪いとか、責任は誰にあるか、なんて言わないでくれ‼︎ 僕だって一杯一杯なんだ‼︎」

 

 陽は眉根を寄せながら喚く。この中で一番、現在の状況に参っているのは他でも無い、陽だ。

 信じていた摩魅はオルグから送り込まれていたスパイ、猛と昇にはガオレンジャーの秘密を知られていた、挙句には祈がガオネメシスに拐われたと来た。

 正直言って、陽自身は抱え切れない程に重荷を背負わされていた。僅か十七にも満たない、大人と呼ぶには未成熟な彼には、あまりに酷過ぎた。

 

「……ごめん……。君を責めるつもりは無いんだ……ただ……‼︎」

「ああ……分かってる、ワシ等、全員の責任だ。だからな……全員で責任を取るべきじゃろう?」

 

 ふと佐熊の発した言葉に、陽も大神も耳を傾ける。

 

「考えてみィ! なんの責任を抱えずに生きている奴なんて、この世に居らん! みんな、何が正解か間違ってるか、そんな事を考えながら生きとる‼︎

 ワシだってそうじゃ‼︎ 自分が何の為に戦っとるんか、って考える時がある! しかし、その時、頭に過ぎる事がある‼︎

 お前さん達を死なせたく無いから、ワシは戦う‼︎ 理由なんて、どうでも良い! そう考えてるのよ、ワシは!」

 

 普段の豪快かつ単純な佐熊らしい力強く、そして実にシンプルな励まし方だった。

 陽は様々な考えで、ごちゃごちゃになっていた頭の中が整理されて行くのが分かった。

 そうだ、自分だって何の為に戦うか、それは祈、猛、昇、大切な者達を守る為にガオレンジャーとして戦うと決めた。

 此処まで来る道のりは楽では無かった。けど、その度に乗り越えて来たじゃ無いか。大神、佐熊、テトム、こころ、パワーアニマル達……彼等が居たから、戦って来れた。強敵に次ぐ難敵、オルグは日増しに強くなる。それでも、彼等が共に居てくれれば必ず、乗り越えて行ける。陽には、そう確信があった。

 

「行こう……‼︎」

 

 陽は強い眼差しで応える。迷っている暇など無い。今は前進あるのみだ。

 

「ん? ガオプラチナとやらが居らんぞ?」

 

 佐熊はいつの間にか姿を消していたガオプラチナに疑問を抱く。だが、今は其れ所では無い。

 

「猛、昇。僕は行くよ。祈を助けに行く!」

「陽、大丈夫なのかよ? 祈ちゃんが危ないんだろ? だったら、俺も……」

 

 猛は戦地に赴こうとする親友を気遣うが、昇が制止した。

 

「止めろ! ロクに戦い方を知らない俺達が行って、足手纏いになるだけだ‼︎」

 

 その言葉を聞いた猛は押し黙る。

 

「……ヘマしねェよな?」

「……猛じゃ無いんだから、大丈夫だ!」

「ヘッ! 言ってくれるね…!」

 

 軽口で返す陽に、猛はニヤリと笑う。

 

「でも、ガオネメシスは何処に……?」

 

「あ、あの……‼︎」

 

 ガオネメシスの隠れ家を探り当てんと仲間達は全員、首を傾げるが、摩魅が突然、言葉を発した。

 

「ガオネメシスは、普通のオルグとは異なる邪気を発しているんです! 」

「何で、そんな事が?」

「私、混血鬼だから……分かるんです! ガオネメシスからも人間の気と、オルグの邪気が混じって発せられているから……!」

「すると、ガオネメシスの正体も君と同じ……」

 

 陽は此処に来て、ガオネメシスの正体に目星が付き始めていた。正体不明で底の見えない彼の真の姿は、人間とオルグの血を引く混血鬼かも知れないなんて……!

 

「……だから、ガオネメシスの居場所なら特定出来ます! 私も協力させて下さい‼︎」

「良いのか? そうなれば、君はいよいよ裏切り者として、オルグ達に怨まれるぞ?」

 

 大神は懸念する。摩魅は混血鬼であり、オルグ達からスパイとして送り込まれた身。しかし、反逆すれば元々、彼女を敵視しているオルグ達は一斉に彼女も攻撃対象とするだろう。

 摩魅は薄く笑う。

 

「良いんです。どの道、私はオルグ達からすれば、無用の長物ですし……私みたいな混血鬼を信じてくれた陽さんや祈さんに罪滅ぼしがしたいんです……」

 

 弱々しいながらも、摩魅は強い意志を示した。オルグの血を引く者では無く、人間として力になりたい。

 そんな彼女の意思を汲み、陽は肯く。

 

「分かった‼︎ 行こう‼︎」

 

 陽は、仲間達と共に空の彼方を見据える。先に立ち込める暗雲が、不吉を案じていた。

 

 

 

 ふと気が付くと、祈は花畑の上に居た。様子が掴めない祈は辺り一面を見れば、見渡す限りの花畑だった。

 夢を見ているのか? 更に服装を見れば、学校の制服では無く巫女装束に似た服を着ていた。

 いよいよ混乱していると、後ろから声がする。

 

 〜姉ちゃーん‼︎〜

 

 駆けて来たのは小さな可愛らしい男の子が二人……子供達も古めかしい弥生時代の服装と髪を両サイドで団子状に結っていた。子供達は、自分の膝下に抱きついて来る。

 

 〜姉ちゃん‼︎ 見て、バッタを捕まえた‼︎〜

 

 端正な顔をした男の子が、右手に持ったバッタを見せて来る。自分は、ふと愛おしくなり、男の子の頭を撫でてやる。

 すると、自分とは異なる声が口から出て来た。

 

 〜逃してあげなさい。その子にも、帰る場所があるのだから〜

 

 自分の声では無い筈なのに、慣れ親しんだ声に感じた。男の子の一人は甘える様に、祈にしがみつく。

 

 〜姉ちゃん、大好き‼︎〜

 

 男の子は満面の笑みだ。もう一人の弟も、輪に入りたそうにしていた為、祈は抱き寄せやった……。

 

 

 その瞬間、祈は目を覚ました。

 

「何? 今のは……」

 

 夢を見ていたのだろうか? 目が慣れて来た為、室内を見回すと、其処は妖しい空気の漂う部屋だった。

 身体を起こし、ベッドに座り直すと……。

 

 

「お目覚めかな?」

 

 

 ふと声がした為、振り替えると、ガオネメシスが壁にもたれ掛かっていた。

 

「誰、貴方⁉︎」

「そう言えば、貴様とは初対面だったな。俺は、ガオネメシスだ」

 

 祈は今迄、ガオネメシスと顔を合わせた事が無かった。だが、陽より話は聞いている。オルグ側に味方するガオの戦士が居ると…。恐らく、この男がそうなのだ。

 

「私を、どうする気⁉︎」

 

 祈は恐怖を悟られない様に、毅然とした態度で振る舞う。ガオネメシスは、クックッと含み笑いを上げる。

 

「中々、気丈な娘だな……。だが、心配するな。別に殺しはしない……貴様には……生きて貰わなければ、ならん」

「? 」

 

 ガオネメシスの意外な言葉に、祈は首を傾げる。

 

「貴様は自分が、原初の巫女の生まれ変わりであると知っている筈だ」

「ええ……知ってるわ。兄さんから聞いたから……」

「宜しい……。だが、巫女の為に命を捧げた戦士の話は聞いているまい」

 

 ガオネメシスは、祈の前に歩み寄りながら語り出す。

 

「原初の巫女アマテラスは、後世にて史実上で初めて、オルグを倒し尽くした巫女と伝えられているが……彼女と共に生き、襲い来るオルグの毒牙を防ぐ盾となり、オルグを貫く矛となった戦士が居た……。

 原初の巫女と同じくして、初めてオルグを倒した原初の戦士……その名を、スサノオと言った」

「スサノオ?」

 

 その名なら、祈も知っている。日本神話の中に登場し、八岐大蛇なる怪物を討ち滅ぼしたと言われる、古の戦神の名だ。

 スサノオが八岐大蛇を倒した際に取り出した剣の名は『天叢雲剣』と呼ばれ、八咫鏡、八尺瓊勾玉と並ぶ三種の神器として祀られている、と授業で習った事があった。

 

「それが……私と何の関係が?」

「大いにある。スサノオは、アマテラスに全てを捧げた。彼女の笑顔が好きだったからな。彼女が笑っていてくれるなら……彼女の笑顔を遮る者達が居るなら……弟スサノオは剣を取り戦った。我が身が血で汚く汚れる事も構わずにな……」

 

 そう語るガオネメシスは何処か悲しげで、懐かしい昔話を語る様だった。

 

「アマテラスの敵対していたのは、オルグと呼ばれる鬼の種族。彼女は巫女として、オルグ達を滅する事を宿命付けられていた。スサノオは、彼女がオルグに傷を付けられない様に身代わり役を買って出た。

 長い戦いの中で、スサノオが負った傷は数え切れまい。しかし、それでも奴は戦う事を止めなかった。姉を守る為なら……と、自分に鞭を打ってな……。

 やがて全てのオルグを滅ぼし、漸く平穏な日々が戻って来る……スサノオは、そう考えた。

 だが……今度は人間共は、彼に敵意を向けた。

 

『鬼を滅ぼした人間……鬼人……』とな……」

 

 ガオネメシスは、さも愉快そうに笑った。だが、彼の様子を見た祈は、ネメシスは自嘲している様にも思えた。

 

「ハハハハハ‼︎ 実に愉快だろう⁉︎ 人間共は平和になった瞬間、その平和が再び破壊される事を恐れた‼︎

 スサノオは日に日に懐疑に染まり、唯一、自分を庇っていたアマテラスにさえ人間共が危害を加え兼ねない、と判断し一人、流浪の旅に出た。

 しかし、それでも奴は剣を捨てず人間を怨まなかった。姉の『人間を許せ』と言う言葉を頑なに信じていたからだ!

 それから何年も旅を続け、再びオルグが現れた際には斬り続けた。人間共の疑いが晴れ、再び姉の元へ帰れる事を願ってな……。しかし……その願いが叶う事は、遂に無かった……。倒しても倒しても、オルグは再び現れる。そんな中、スサノオは知った。オルグは怒り、妬み、憎しみを抱いた人間から生み出される事を……。詰まる所、オルグは自分が守り続けた人間より生まれていたのだ。

 更に不幸は続く。姉アマテラスの死……スサノオは故郷に戻った。しかし、其処に姉の姿は無く……姉と共に築いた故郷も跡形も無く滅び去った後だった」

 

 ガオネメシスの語りは続く。

 

 「スサノオは今度こそ、深い絶望に沈んだ。アマテラスは、弟を迫害する人間共に失望し、最後は自ら岩の中に閉じ籠もり…果てた。彼女を失い、人間共は好き勝手に振る舞った挙句……自らの手で国を滅ぼした。

 人間等、最初から守る意味など無かった。本当に守りたかった姉は、守り抜いた人間に裏切られて死んで行った……。

 スサノオは血の涙を流しつつ、姉の果てた岩の前で己が身に刃を突き刺し、自害した……。

 だが……長い時を経ても、その魂は消えなかった。スサノオの魂は、人間共への怨念を糧に崩壊した肉体を再構築し、邪気を取り入れて……復活したのだ‼︎

 そう……それが、この俺……叛逆の狂犬ガオネメシス! かつて、スサノオと呼ばれた男の成れの果てだ‼︎」

 

 ガオネメシスが狂った様に叫ぶ。祈は絶句した。この目の前に居る男が、兄より遥か昔に生きていた戦士だったなんて……。

 

「フフフ……驚いたかな? これが、ガオネメシス誕生の秘密であり……俺が、世界に復讐を誓う理由なのだよ‼︎

 姉は人間共を守り抜いた、にも関わらず人間共に裏切られた! 俺だけを責め苛むならば、甘んじて受けよう! だが、姉は……姉さんは何故、死ななければならなかった?

 俺は姉さんの代わりに、人間共を地獄に叩き堕としてやるつもりだ‼︎ それが人間共への復讐であり……姉を見捨てた世界への叛逆でもある‼︎」

「……貴方の考えは間違っているわ……」

 

 ガオネメシスに対し、祈は憐みに満ちた目を向けた。

 

「俺が間違っている、だと?」

「貴方の、お姉さんがどんな人だったかは知らないけど……少なくとも、人間達に復讐する事は望んで居なかった筈よ」

 

 祈の訴えに対し、ガオネメシスは嘲る様に笑った。

 

「何が可笑しいの⁉︎」

「クックック……ならば逆に問おう。もし、貴様の兄が俺と同じ立場だったら……兄を否定出来るのかな?」

「⁉︎」

 

 突然、突き付けられた返しに対し、祈は口籠る。構わずに、ガオネメシスは続けた。

 

「竜崎陽は、俺と同じ穴の狢だ‼︎ 奴の強さの根源は他者を思いやる優しさとやらにある! だが俺から言わせれば、そんな物は凶器でしか無い‼︎ 貴様を始めとした、奴にとって大切な者達を人間共が傷付けようとするものなら、俺以上に常軌を逸した行動を取るだろうよ‼︎」

「…‼︎ 兄さんは、そんな人じゃ無いわ‼︎ 兄さんの事を何一つ分かって無い人が、知った風な口を聞かないで‼︎」

 

 祈は激しく否定した。兄であり、自身の想い人である陽を侮辱する事は、即ち自分を侮辱されたも同然だからだ。

 しかし、彼女の様子を見下ろしながら、ガオネメシスは揶揄う様に囁いた。

 

「クックック…その実、言葉に不安が満ちているわ….…まァ良い。俺の言葉を信じるも勝手、信じないも勝手……だが、覚えておくが良い。近い未来、奴もまた人間に裏切られて傷付き、そして自ら外道の道に堕ちて行くだろう……。 

 自分が守るべき存在が、守るに値しない物と知り、そして最後には己が人間への災厄そのものに成り果てる! その時、貴様は……!」

 

「止めてェェっ!!!!」

 

 祈は、ガオネメシスの言葉を耳を塞いで遮り、金切り声を上げた。その様子を見ていたガオネメシスは急に顔を横に向けた。

 

「クックック……どうやら、貴様の兄が助けに来た様だな……。あの混血鬼の小娘の口添えか……」

「……兄さんが⁉︎」

「……しかし奴が、お前を助ける事は叶わぬ。俺が、この手で闇に屠ってくれる‼︎」

 

 そう言い残し、ガオネメシスは祈を残して部屋から出て行った。自分以外、誰も居なくなった部屋を見渡した。此処から逃げ出さなくては……。しかし、部屋はネズミ一匹抜け出る隙も見当たらない。その時、祈の脳裏に声が響く。

 

 〜手をかざせ〜

 

 その声は聞いた事の無い声の筈だが、何故か懐かしい感じがした。言われるがままに、祈は手をかざす。

 すると何も無い空間に、光のゲートが出現した。

 

 〜その中に飛び込むのだ!〜

 

 何やら怪しさを感じたが今は、この声を信じるしか無い。迷わず、祈は光のゲートに足を踏み入れた……。

 

 

 

 一方、陽達は崩れ掛かった廃屋の前に居た。其処は明治時代初頭に建てられた洋館だった。しかし、今は持ち主も居らず荒れ果てたまま、放置されている。地元の子供達は『お化け屋敷』と呼んで、誰一人として近付こうとしない。

 しかし今思えば、オルグ達が潜伏するには、これ以上に打って付けな立地である。

 隣に立つテトムは注意深く、洋館を見つめる。

 

「どう? テトム」

 

 陽は尋ねた。テトムは頷き返した。

 

「祈ちゃんは、間違いなく此処に居るわね。それと同時に、禍々しい気配も感じるわ……」

「ガオネメシス…だな」

 

 大神は烈しい表情で言った。佐熊は、こんな辺鄙な場所にガオネメシスが潜んで居た事に驚いている。

 

「しかし…まさか、此の様な所に潜伏しとったとはのォ……全く、気付かなんだ…」

「灯台下暗し、とは良く言った物ね……。摩魅ちゃんの案内が無ければ気付かなかったわ……」

 

 テトムは摩魅を見た。彼女は顔を曇らせる。

 

「わ、私は…何も…」

「いや、君のお陰だ。君が勇気を出して、案内してくれたから気付けたんだ……ありがとう」

 

 陽に御礼を言われた事で、摩魅は俯く。その際、顔は赤く染まっていた。

 

「待ってろよ、祈‼︎ 必ず、助けるからな‼︎」

 

 陽は洋館の何処かに囚われているであろう祈の身を案じながら、呟く。

 と、その際に目の前に鬼門が開いた。

 

「チャオ♡」

 

「ニーコ‼︎」

 

 鬼門から出て来たのは、ニーコだった。大鎌を構えて、余裕がある笑みを浮かべている。 

 彼女の後ろからは多数の餓鬼オルグが付いて来る。

 

「ようこそ、ガオレンジャーの皆様♡ 遠路はるばる、ご苦労様。ですが折角、来て頂いたのに、おもてなしも程々にしなければなりませんわァ♡

 だって……貴方がたは、此処で死んで頂くのですから‼︎」

 

 やんわりとした口調はそのままに、ニーコは大鎌を手にして冷徹な顔となった。敵は、やる気らしい。

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 陽達はG -ブレスフォンを起動させて、ガオスーツを身に纏う。その時、ガオプラチナが駆け付けて来た。

 

「ガオプラチナ、何時の間に⁉︎」

「今は、そんな事よりオルグを倒すのが先決よ‼︎」

 

 ガオプラチナを促され、気を取り直したガオゴールドはニーコを睨む。

 

「天照の竜! ガオゴールド‼︎」

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

「豪放の大熊! ガオグレー‼︎」

「煌めきの鳳凰! ガオプラチナ‼︎」

 

「命ある所に正義の雄叫びあり‼︎

 百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎」

 

 四人のガオの戦士達は力強く叫びながら名乗りを上げ、戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 それと同時に、祈は洋館内を走り回っていた。しかし、薄暗い館の中は右も左も分からず、どっちに行けば良いか分からない。だが、陽達が来てくれているのだから、彼と合流すれば良い。

 と、その際、目の前に人影が現れた。

 

「‼︎」

 

 まさか、逃げ出した事がガオネメシスにバレた⁉︎ 身構える祈に反し、人影は穏やかに言った。

 

「恐れるな。私は、味方だ」

 

 僅かな漏れ日に映し出されたのは、ガオマスクを身に付けた男性だ。しかし、ガオネメシスでもガオゴールドでも無い。

 

「あ、貴方は⁉︎」

「私は……名など、どうでも良い。しかし、敢えて名乗るなら……ガオマスター、とでも呼んでくれ」

「ガオ…マスター?」

 

 祈は、ガオマスターと名乗った男を見た。ガオネメシスの様な禍々しさは感じられない。寧ろ、非常に慈しみに満ちた雰囲気だった。

 

「兄さんが貴方を?」

「今は、ゆるりと話している場合では無い。君を助けに来た。此処から出よう、私に付いて来なさい」

 

 ガオマスターは急ぐ様に促した為、祈は彼を信じる事にした。

 

 

「何処に行くつもりだ?」

 

 

 その刹那、闇の中よりガオネメシスが現れた。ガオマスターは祈りを背に隠し、彼と対峙する。

 

「貴様、何者だ?」

 

 ガオネメシスは敵意を滲ませながら、ガオマスターを威嚇した。しかし、マスターは穏やかな声で

 

「私が誰なのか……お前は知っている筈だ。スサノオ……」

 

 ガオネメシスは珍しく動揺した。自分の本当の名前を知っている? いや、それ所か自分も、この男を知っている気がした。

 

「な、何故⁉︎ まさか、貴様は⁉︎ あ、有り得ない、奴は死んだ筈だ‼︎」

「スサノオよ……有り得ない事は有り得ないのだ……現に、お前が生きているならば、私が生きている事も必然だろう?」

 

 ガオマスターの言葉に対し、ガオネメシスは返す言葉が出てこない。

 

「……ならば今更、何をしに来た‼︎ 俺を殺す為か⁉︎」

「違う。救いに来たのだ」

 

 菩薩の様な穏やかなオーラを発しながら、ガオマスターは言い放つ。ガオネメシスは殺意を剥き出しにした。

 

「救いに、だと? 笑わせるな! 」

「聞け、スサノオよ…。このまま突き進んだ所で、お前には絶望しか無い…。永遠に満たさぬ渇きと、怒りに苛まれて生きていくだけだ…。少なくとも、あの人は、そんな事は望んではいまい」

「喧しい‼︎ 俺に指図をするなァァ!!!」

 

 ガオネメシスは絶叫しながら、ヘルライオットを乱射した。

 

「キャアァァァっ!!!」

 

 祈は足下に屈み込む。だが、ガオマスターは倒れる様子を見せない。恐る恐る見上げると、ガオマスターは左手を前に突き出していた。

 彼の手には円形状の満月に似た盾が握られていた。盾の頭頂部には、持ち手が付いている。

 

「ほう? 盾を使うとは、臆病な性格になったな。かつての貴様は、俺以上に荒々しい男だったろうに」

「……此れが私の破邪の爪、フルムーンガードだ」

 

 ガオマスターは祈を振り返る。

 

「私より前に出てはいかん。ジッとしていろ」

「は、はい‼︎」

 

 そう言うと、ガオマスターはフルムーンガードの頭頂部にある持ち手を握る。すると盾と一体化していた部位が外れ、持ち手を引き抜くと光り輝く刃が出現した。

 

「そして、此れがルナサーベルだ。出来れば、お前を傷つけたくは無いが……私はガオの戦士として、私の使命を果たす」

「クックック……果たせるかな?」

 

 ガオマスターはルナサーベルを振り上げ、ガオネメシスへ向かって行く。ネメシスも負けじと、ヘルライオットのトリガーを引いた。

 

 

 

 館の前でも、また熾烈な戦いとなっていた。ニーコが次から次へと嗾けて来る餓鬼オルグに加え、今度はニーコも戦闘に加わって来た。四人に対し、餓鬼オルグは倒しても再び起き上がって来る為、事実上に無尽蔵の敵を相手にしているに等しい。

 

「ガオゴールド‼︎ ニーコを叩くの‼︎ 餓鬼オルグはニーコの支配下にあるから、彼女を倒せば……‼︎」

 

 ガオプラチナが叫ぶ。成る程、ニーコが餓鬼オルグ達の司令塔であり、彼女を倒さない限りは餓鬼オルグは永遠に現れて来る。意を決して、ガオゴールドはニーコにガオサモナーバレットを向け、射撃した。

 しかし、ニーコはクスクス笑いながら、大鎌で光弾を防ぐ。

 

「アハッ♡ 私を弱いと勘違いしてますゥ? お生憎様。私、こう見えて結構、強いんですよォ‼︎」

 

 そう言うと、ニーコは大鎌を構えてガオゴールドに斬り掛かって来た。しかし、ガオゴールドも負けてはいない。

 すかさずにドラグーンウィングに持ち替え、攻撃を受け止めた。

 

「ンフ♡ 中々、やりますわねェ⁉︎ で・も! 私に手間取っている様じゃ、ガオネメシス様には歯が立ちませんわよォ?あの方は、人もオルグも超越した存在……正真正銘の化け物ですから‼︎」

「人もオルグも⁉︎ どう言う意味だ⁉︎」

「クスッ♡ 言葉通り、ですわ‼︎」

 

 そう言って、ニーコは大鎌を軽々と振るいながら、ガオゴールドに連続で攻撃して来た。

 確かに自身で強い、と言い切るだけあり、ニーコは強かった。並のオルグなど、目では無いだろう。

 だが、負ける訳には行かない。陽はドラグーンウィングを分解して二刀流にすると、ニーコの懐を斬りつけた。

 

「ッン⁉︎」

 

 素早い動作に対応出来なかったニーコは思わず怯んでしまう。しかし、ニーコは宙に浮いてから鎌に邪気を込めた。

 

「ならば……これは如何⁉︎」

 

 邪気を込めた鎌による斬撃が、ガオゴールドに襲い掛かった。不意打ちに倒れたガオゴールドを見て、ニーコはほくそ笑む。

 

「ンフフ‼︎ 餓鬼オルグ、捕まえなさい‼︎」

 

 ニーコの指示を聞き、地面から飛び出して来た餓鬼オルグに、ガオゴールド両腕を拘束されてしまう。

 

「くッ⁉︎」

「ンフフ‼︎ さァ、フィナーレと行きましょうか⁉︎」

 

 動けなくなったガオゴールドを目掛け、ニーコは大鎌を振り下ろしに掛かった。

 だが、其処へ光の矢が飛んで来て、ニーコの胸に突き刺さる。

 

「イッタァ〜イ‼︎」

 

 不意に矢で射抜かれたニーコは苦しむ。更に、光の矢が二本、餓鬼オルグの頭部を射抜いた。

 

「ガオプラチナ‼︎」

 

 助けたのは、ガオプラチナだった。彼女の放った矢が、餓鬼オルグとニーコから救ったのだ。

 

「ガオゴールド‼︎ 今よ、ニーコを‼︎」

 

 ガオプラチナはニーコを指差す。ガオゴールドは頷き、ニーコにガオサモナーバレットを向けた。

 

 

「ああ、分かった‼︎

 破邪炎滅弾! 邪気…焼却‼︎」

 

 

 ガオサモナーバレットから放たれる金色の光弾が、ニーコに直撃した。

 

「いやあァァァッ!!!」

 

 燃え上がるニーコは、そのまま落下して来た。ガオシルバー、ガオグレーが戦っていた餓鬼オルグ達も、そのまま動かなくなってしまう。

 

「やったのか⁉︎」

「そうらしいのォ……‼︎」

 

 ガオシルバー、ガオグレーは二人に近づいて来た。一先ず、敵を倒した。

 

「ニーコは倒したが……まだ、ガオネメシスが残っているな……皆、行こう‼︎」

 

 ガオゴールドは燃え盛るニーコの亡骸に背を向け、仲間達を連れて洋館へ入ろうとしたが……。

 

 

「ンフフ…‼︎ まだ倒したなんて…思わないで下さいなァ…‼︎」

 

 

 燃え盛る炎の中から、ボロボロになったニーコが出て来た。

 

「な…生きてる⁉︎」

「此奴……不死身か⁉︎」

 

 その生命力の高さに、ガオゴールドとガオグレーは驚く。ニーコはクスクスと笑った。

 

「言ったでしょう? 結構、強いって! ですが……貴方がたを相手にするのは、新しい玩具を投入する必要がありますねェ‼︎」

 

 ニーコは不敵に笑い、指を鳴らす。すると森を掻き分け、姿を現す巨大な影……。

 

「な……あれは⁉︎」

 

 今度は、ガオシルバーが驚愕した。見間違える筈が無い。其れは、ガオシルバーと共に数々の戦いを乗り越えて来た大切な相棒だった。

 

「ガオハンター・イビル……カモォン‼︎ ウフフ♡」

 

 ガオハンター・イビルの肩に乗ったニーコは、挑戦的にクスクスと笑った……。

 

 〜やっとの思いで、ニーコを倒したかと思えば、ガオネメシスに奪われた仲間、ガオハンターが敵となって立ちはだかる‼︎ 果たして、ガオゴールド達は如何にして戦うのでしょうか⁉︎〜



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quest39 精霊王頂上決戦 再び!

 ガオゴールド達が戦いを繰り広げる一方、ガオマスターとガオネメシスの交戦も白熱した物となっていた。

 ネメシスが、ヘルライオットから銃弾を撃ち出し、マスターを狙い撃つ。しかし、全てがフルムーンガードによって防ぎ落とされてしまう。

 その隙を狙い、ガオネメシスの懐に入り、ルナサーベルを振り下ろすガオマスター。

 だが、やられる一方のガオネメシスでは無い。近接に踏み込まれた際も、ヘルライオットを直立させ、銃身に刃を纏わせた。ガオマスターは、その攻撃をルナサーベルを受け止める。

 

「……何故、本気で斬り掛かって来ない?」

「……お前こそ。距離を詰めようとしたり、わざと刃を逸らしたり……」

「自惚れるな‼︎ 貴様の出方を伺っているだけだ‼︎ 其れとも……俺が、貴様に情けを掛けていると、甘い期待をしているのか?」

 

 ガオネメシスは冷たく、せせら笑う。

 

「期待では無い、確信だ。まだ、お前にも“心”が残されていると言う事だ。スサノオ、悪い事は言わん。オルグと手を切れ! このまま、身を闇に沈めれば全てを失うぞ‼︎」

「……何を……‼︎ 黙れ‼︎ 何が心、だ‼︎ 俺にとって大切な者は、もうこの世には居ない‼︎ 最早、失うものも守るべき物も何一つ残ってないのだ‼︎ 」

「……忘れたのか、スサノオ……! 私達は二人共、同じ人の背を見て育ち……同じ人を守る為に戦って来たでは無いか……‼︎ 彼女は、復讐など望んではいまい…!」

 

 ガオマスターの言葉に、ガオネメシスは動揺した。僅かだが隙が出来、マスターはヘルライオットを弾き飛ばし、ネメシスの首元に、ルナサーベルを突き付けた。

 

「クッ⁉︎」

「お前が其処まで堕ちたのは……あの日、お前を助ける事が出来なかった私の罪だ……‼︎ お前が私を怨むなら、甘んじて罰を受けよう……だが! 罪の無い人間達に、お前の怒りをぶつけるのは、お門違いだ‼︎」

「“罪の無い”⁉︎ 人間共には罪が無い、だと⁉︎ 其れこそ、お門違いも甚だしい‼︎ 姉が、我々が、命を賭けて紡ぎ出した平和を己が手で壊し、自然を壊し、オルグを際限なく撒き散らす人間共に罪が無い訳が無い‼︎ 其れ程、平和を無下にするなら、奴等の望む地獄へ俺が変えてやる迄だ‼︎」

「何を…馬鹿な…‼︎」

 

 ガオネメシスの発した狂気に満ちた言葉に、ガオマスターは言葉を詰まらせる。その際に隙を見せたマスターを、ネメシスは見逃さなかった。

 ガオネメシスはガオマスターの腹部を蹴り飛ばし、怯んだ隙にヘルライオットを回収した。

 

冥獄焔弾(みょうごくえんだん)‼︎」

 

 ヘルライオットの引き金を引いて、銃口から漆黒の炎の弾が発射された。ガオマスターはフルムーンガードを使う前に吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐッ……‼︎」

 

 ガオマスターは辛うじて立ち上がるが、マスクに亀裂を生じる程の威力だった。

 

「フ……さらばだ、ガオマスター‼︎ 親愛なる我が兄君よ……」

 

 ガオネメシスは嘲笑いながら、ヘルライオットを突き付けた。と、その時、二人の間を割って入る者が居た。

 

「止めて‼︎」

 

 其れは祈だった。今にも撃ち込まれそうな銃口の前に立ち、ガオマスターを庇う。

 

「其処を退け」

「退きません!」

 

 ガオネメシスは冷たい口調で言ったが、祈は毅然とした態度で拒否した。

 

「……撃たれたいのか⁉︎ さっさと退け‼︎」

「撃ちたいなら、撃てば良い‼︎ でも、私の目の黒い内は絶対に、この人を撃たせない‼︎」

 

 祈は、ガオマスターを絶対に撃たせまいと、身体を盾にして立ちはだかる。本来なら彼女ごと、後方に居るマスターを撃ち抜く事は、ガオネメシスには容易い。しかし、祈に銃を突き付けたネメシスの手は何故か、ブルブルと震えた。

 

「ね…姉さん…!」

 

 ガオネメシスは見た。祈の顔に、面影に姉アマテラスを重なって見えた。祈は憐みを込めた悲しい表情を浮かべつつ、ガオネメシスを見つめる。

 

「思い出して……。貴方だって、かつては誰かの為に闘う戦士だったんでしょう?」

 

 祈は、ガオネメシスの中にある“心”に訴えた。その姿に、ネメシスは思い出していた。まだ平和だった頃、幼い自分に寄り添ってくれたアマテラスの顔を……。

 

「(この悲しげな顔は……たった一度だけ、見た事がある……‼︎ 俺が幼い頃……死に行く人間の姿に涙を流していた姉さんの顔を……‼︎)」

 

 ガオネメシスは、自分がスサノオとして生きていた時、姉と共に生きて幸せだった時に、野垂れ死んでいた人間の為に涙を流して、祈りを捧げていた姿を思い出した。

 彼の胸は、短刀で抉られる様な苦痛が走る。彼自身、自覚はして無かったが、彼の中に、ほんの僅かに残されている良心が呵責で苛まれていたのだ。しかし今更、引き返す事は出来ない。

 既に人を捨て去り、半ばオルグの様な歪な存在へと成り果ててしまった自分は、あの頃には戻れない。

 一度、外道へ足を踏み入れた者は二度と内道へは還れないのだ。その先に待つのが絶望であったとしても、ひたすら歩き続けるしか無い。

 

『スサノオ……もう、止めなさい……』

 

 ふと祈の口から発せられる声。ガオネメシスは耳を疑ったが、その声に後退った。

 

「姉さん⁉︎」

 

『貴方は、自分で自分の首を締めているだけ……。もう自分を追い詰めるのは、よしなさい……』

 

 アマテラスは、祈の身体に降りて彼女の口を借りて話しているのだ。平坦な道を自ら踏み外し、茨の道を行く弟を止める為……。

 しかし、ガオネメシスの首を振った。

 

「姉さん……俺は、もう守る者は無い。姉さんの居ない、この世界には何の価値も見出せないんだ……!」

 

『スサノオ、守る者は私じゃ無いわ……。貴方が守るべき者は……この世界に生まれてくる明日の命よ……」

 

「明日の……命?」

 

 アマテラスの語り掛ける言葉は、ガオネメシスの雁字搦めに縛られた心に響く。

 

『貴方は、かつて其れを守る為に戦っていた。今を生きるガオの戦士達……形や思想は異なれど、本質は変わっていないわ……。其れは慈しみ、自分の後ろに居る者達を守り戦う慈しみよ……。今代を生きるガオの戦士達の志は、貴方から始まったのよ……‼︎ 竜崎陽を見たでしょう? 彼は、かつての気高い思想に満ちていた貴方と寸分と違わない……。思い出して、スサノオ……‼︎』

 

「ち、違う……俺は……俺が守りたかったのは……」

 

 姉に間違いを指摘され狼狽する弟の様に、ガオネメシスは頭を振った。もう彼には、過ちを過ちと認める事さえ出来ない。姉の復讐こそが真実だと思い込もうとしていた。

 ネメシスは憎々しげに、祈とガオマスターを睨みながら、後退して行く。

 

「クッ…‼︎ 貴様の始末は後だ…‼︎ 鬼還りの儀が完遂するには、ガオゴールドの存在は邪魔でしか無い‼︎ 奴等を血祭りに上げ……俺の復讐を果たす‼︎」

 

 ガオネメシスはアマテラスは言葉を振り切り、鬼門の中に消えて行った。残された祈は力が抜けた様に、崩れ落ちる。

 其れを態勢を立て直したガオマスターが受け止めた。亀裂が広がったマスクの一部から覗いていたのは……何処と無く、陽と良く似た顔だった。

 

「……姉さん……」

 

 ガオマスターは小さく呟き、祈を抱えると歩き去って行った。

 

 

 

「な、何という事に……‼︎」

 

 ガオシルバーは絶句した。ニーコに従い姿を現したのは、彼の相棒にして千年来の付き合いとなる精霊王、ガオハンターだった。先の戦いで、ガオネメシスの操る混沌の精霊王ガオインフェルノに敗れ、彼に奪われた宝珠に邪気を注ぎ込まれてしまったのだ。その影響で、正義の狩人ガオハンター・ジャスティスは再び、邪の王ガオハンター・イビルへと変貌してしまった。今回は狼鬼が操る物では無く、純粋にガオネメシスの眷属となった、完全なるオルグの僕となった事を物語っているからだ。

 

「ンフフ‼︎ 御覧遊ばせ♡ 今や、ガオハンターは私達の可愛いペットとなっていますのよ‼︎」

 

 ニーコは悪辣な笑みを浮かべる。本来なら精霊王がオルグを従う等とは、あってはならない事態だ。

 しかし先述の狼鬼の件に加え、過去にはパワーアニマルや精霊王を支配し操る能力を持つオルグも存在した。

 そう考えれば、オルグがパワーアニマルを手下に出来る事も、あながち不可能では無いかも知れない。

 ガオゴールドは、過去の様々な局面に於いて、自分達を救ってくれたガオハンターと再び敵対しなければならない事に困惑した。

 

「……また、仲間と闘わなければならないのか……‼︎」

 

 今回はガオシルバーの時とは訳が違う。ガオハンターそのものが敵として、自分達の前に立ちはだかって来たのだ。

 だが、悩んでいる暇はない。一刻も早く、祈を助けなければならないのだ。ガオゴールドは、ガオサモナーバレットを取り出す。

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 掛け声と共に三つの宝珠が撃ち上げられる。其れに呼応して、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンが姿を現す。

 

「幻獣合体‼︎」

 

 ガオドラゴン達は合体を始め、間も無くして竜騎士ガオパラディンへと変形した。

 ガオゴールドに追い付く様に、ガオシルバー、ガオグレーもパワーアニマル達を召喚、瞬足の精霊王ガオアキレスと精霊の闘士ガオビルダーと三体の精霊王が現れた。

 しかし、先程迄に共に戦っていたガオプラチナはまたしても、姿を消していた。しかし、ガオゴールド達は気にする暇も無いでいた。テトムと摩魅が退がったのを見届けると、戦闘態勢に入る。

 と、その際、ガオハンターの横から別の精霊王が姿を現した。

 一人は、ガオハンターを完膚なきまで叩き伏せた混沌の精霊王ガオインフェルノだ。

 

「クックック……性懲りも無く、このガオインフェルノに挑むか……」

 

 ガオインフェルノから、ガオネメシスの声がした。と、同時に、ニーコに向かって、ネメシスは

 

「ガオレンジャー如きに、手こずるとはな……。鬼地獄の死神の力も、その程度か?」

 

 と、嫌味を零す。ニーコは不満そうに

 

「むゥ! 失敬な、本当はもっと強いんですけどォ、私の真価は鬼地獄で、より発揮されるんですゥ‼︎」

 

 と、返す。その返しを無視し、ガオネメシスはガオパラディン達の前に立つ。

 

「……フン……。ガオハンターの代わりの精霊王を見つけたか? だが、侮らん事だな。この、ガオハンターには俺が自ら邪悪で強大な邪気を注ぎ込んである。戦闘力は、数十倍となっているぞ‼︎」

 

 ガオネメシスの言葉に、ガオアキレスの中にいるガオシルバーは身構える。確かに、今のガオハンターからは尋常では程の邪気が放たれている。

 それと同時に、ガオインフェルノの足元から放たれた黒ずんだ影が形を織り成し始める。

 すると、其処には筋骨隆々としたガオインフェルノやガオハンターとは異なる、寧ろガオビルダーと似通った漆黒の精霊王が出現した。

 

「あ、あれは⁉︎ ガオマッスル⁉︎」

 

 ガオシルバーは、その姿を見て驚愕した。あの姿は、かつて先代のガオレンジャー達を支えて戦った筋肉の精霊王ガオマッスルだったからだ。

 ガオネメシスの、せせら笑う声が響く。

 

「コイツは、ガオマッスル・ダークネス‼︎ 前回、貴様等が倒したガオキング・ダークネス同様、闇から作り出したガオマッスルの模倣(クローン)だ‼︎

 力はオリジナルのガオマッスル同様、若しくはそれ以上にしてある‼︎ ガオマッスル・ダークネスよ、ガオビルダーを叩き伏せてやれ‼︎」

 

 ガオネメシスの指示に従い、ガオマッスル・ダークネスはボディービルダーさながらのポージングを決めた。

 

「ほゥ…ご指名とはのォ…! このガオビルダーに力で勝負を仕掛けるとは……相手にとって不足は無い‼︎」

 

 ガオグレーの勢いが、ガオビルダーに伝わり強く闘気を放った。

 ガオアキレスは、ガオハンター・イビルの前に立つ。ニーコはガオハンターの肩に乗って、戦闘に参加した。

 

「アハッ♡ かつての相棒に引導を渡されるなんて……可哀想ですねェ‼︎ で・も、安心して下さいねェ? 苦しまない様に短期で決着しちゃいますから‼︎」

 

 ニーコは既に勝った、と言わんばかりに嘲笑う。ガオシルバーは、コクピット内にて……

 

「許せ、ガオハンター……‼︎ 地球を守る為に俺は……お前達を倒す‼︎」

 

 決意を新たに、ガオアキレスは右腕のガオグランパスの持つオルカブレードを構えた。

 ガオパラディンは、ガオインフェルノと対峙した。だが、ガオパラディンは何時もとは異なり、何処か落ち着かない様子だった。

 

「ガオドラゴン、どうしたんだ?」

 

 ガオゴールドは、ガオドラゴンに語り掛けた。すると、ガオドラゴンは

 

 〜……いや、気にするな……これは、我々の私的な問題だ……! 例え、相手が誰であろうと…地球に仇なす者は倒す……‼︎〜

 

 と言いながら、ガオパラディンは構える。ガオネメシスの声が響いた。

 

「クックック……かつての仲間をも俺を拒むか……まァ良い。ならば俺も……全てを拒絶してくれる‼︎」

 

 そう叫ぶと、ガオインフェルノは起動を始めた。相対する聖なる騎士と冥府の戦士による激闘が幕を上げた。

 

 

 

 その頃、ガオプラチナは洋館の中を走っていた。後には、テトムと摩魅を続く。

 

「ねェ、本当にこっちなの?」

 

 テトムは前方を走るガオプラチナに呼び掛ける。プラチナは振り返らずに

 

「ええ……。彼がきっと….」

 

 とだけ応えた。先の戦いで、ガオプラチナは巨大戦が始まると同時に洋館へと走り出した。それを察したテトムは、彼女の後に続いた。

 案の定、ガオプラチナは祈を助けに行ったのだ。そう考えた際、眼前から人影が現れた。

 

「ガオマスター‼︎」

 

 ガオプラチナは叫ぶ。姿を現したガオマスターの両腕には、気を失った祈が大事そうに抱きかかえていた。

 

「あ、貴方は⁉︎」

 

 テトムは初めて見た戦士の姿に驚愕する。そもそも、ガオプラチナ自体も初めて見たのだ……。

 

「私は、ガオマスター。彼女を助けに来た者だ……」

 

 ガオマスターは淡々と話した。そして祈を、テトムに手渡す。

 

「心配するな……極度の緊張と疲労で気を失っているだけだ。ガオプラチナ、そっちの状況は?」

 

 ガオマスターの質問に、ガオプラチナは答える。

 

「極めて良くないわ。ガオネメシスが動き出した。まあ、そろそろ私達も……」

 

 ガオプラチナは何かを言い掛けるが、ガオマスターは首を振る。

 

「駄目だ。まだ、我々が直接は動けん。だが……あの方の力の一部を貸し出せば、或いは……」

 

 そう言って、ガオマスターは宝珠を取り出す。それを天にかざすと同時に、テトムを見た。

 

「済まぬ、テトムよ……お前を見込んで頼みたい。ガオネメシスに、あの歌を聴かせてやってくれないか?」

「えッ?」

 

 テトムは首を傾げた。

 

 

 

 ガオゴールド達は、ガオネメシス率いる悪の精霊王に対し、苦戦を強いられていた。ガオパラディンの攻撃は全て、ガオインフェルノの前には無意味であり、反対にガオインフェルノの放つ邪気に当てられた影響で、ガオパラディンの動きが鈍っている。

 

「く……強過ぎる……‼︎」

 

 コクピット内で、ガオゴールドは苦しそうに喘いでいた。ガオパラディンの受ける邪気は、ゴールドにも 悪影響を及ぼしているらしい。

 更にはソウルバードであるこころも、火花が迸る等のダメージを受けていた。

 ガオネメシスの勝ち誇った笑い声が響き渡る。

 

「ガオゴールド、無駄な事は止めるんだな! 今の貴様と、レジェンド・パワーアニマル如きでは、この冥府の王ガオインフェルノを打ち破る事は叶わぬ‼︎ 頼みのガオハンターは、こちらの手中にあるしな…。

 ハハハハハハ!!!!」

 

 悔しいが、ガオネメシスの言う通りだった。力量差に於いては、ガオネメシスと自分達には圧倒的な差が存在する。

 現に、ガオアキレスやガオビルダーも、対峙するガオハンター・イビル、ガオマッスル・ダークネスに手こずっている様子だった。

 最初にガオネメシスが宣言した通り、ガオハンターは異常な程に強くなっていた。素早さ、攻撃力と共に、ガオアキレスを優に上回っていた。

 ガオマッスルも然り、ガオビルダーの攻撃に対しびくともしない堅牢な防御力を誇っていた。

 

「くゥ…‼︎ まさか、これ程とは……‼︎」

「信じられん……同じパワーアニマルとは到底、思えん…‼︎」

 

 ガオシルバー、ガオグレーの辟易した声が聞こえる。ニーコは、ケラケラと高笑いを上げた。

 

「アハハ♡ 良い眺めですねェ♡ 精霊王が精霊王を叩きのめすなんて、中々の景観ですわァ♡」

 

 ガオハンターの肩に乗るニーコは言った。このままでは、また負けてしまう。

 

「ど、どうすれば…⁉︎」

 

 ガオゴールドは困惑した。正攻法で通じないならと、ゴールドはガオワイバーンとガオナインテールの宝珠を取り出す。

 

「幻獣武装‼︎ 

 ガオパラディン・アロー&ウィップ‼︎」

 

 ガオワイバーンとガオナインテールを武装し、ワイバーンアローで先制を仕掛ける。だが、ガオインフェルノはムンガンドセイバーで弾き落とした。

 

「小賢しい‼︎ 」

 

 ガオネメシスは嘲笑いながら、ムンガンドセイバーに邪気を纏わせた。

 

「冥府螺旋撃‼︎」

 

 セイバーを鞭状にしならせ、螺旋の形に振り回した。

 

「テールウィップ‼︎」

 

 対抗して、ガオナインテールの尻尾を使い、ムンガンドセイバーとぶつけ合うが、邪気の力を纏わせたセイバーの方が一枚上手だった。

 

「ハアァァァッ!!!!」

 

 ムンガンドセイバーの振り下ろしたガオナインテールの右腕に直撃した。ガオナインテールは、そのまま叩き落とされてしまう。

 

「ぐあァッ…!!!」

 

 ガオパラディンのコクピット内に、火花が激しく上がった。ガオネメシスの高笑いが響き渡る。

 

「ハハハハハハ!!! 勝負あったな、ガオゴールド‼︎ トドメだ、絶望に沈め‼︎」.

 

 ガオインフェルノの胸部と肩にあるガオケルベロスの口から、邪気のエネルギーが溢れる。

 

「煉獄業火! インフェルノカノン‼︎」

 

 放たれる漆黒の火炎弾が発射された。このままでは直撃してしまう。ガオパラディンを動かそうとするが、先程の攻撃を受けた反動で身動きが取れない。

 と、その際に、ガオパラディンの前で火炎弾は爆ぜた。

 

「な、何だ⁉︎」

 

 突然の事態に、ガオゴールドは目を疑う。炎が晴れていくと、ガオパラディンを守る様に立つ三つの影……。

 それは、パワーアニマルだった。中央に居るのは、ダークグリーンの体色をした牙の長い象に似たパワーアニマルと、右に居るのは長い犬歯にダークイエローの体色の虎に似たパワーアニマルと、左に居るのはダークブルーの体色をした鮫に似たパワーアニマルだ。

 

「な、何だと言うのだ⁉︎ あいつらは一体……‼︎」

 

 ガオネメシスも珍しく困惑した。と、その際、何処からか歌が聴こえて来た。その歌は、ガオインフェルノの頭上を飛ぶガオズロックから流れる物だった。

 すると、ガオネメシスは途端に苦しみ出した。

 

「ぐ、グオォォッ…!!! や、止めろッ‼︎ その歌を止めろォォッ…!!!」

 

 ガオネメシスは頭を抱えながら、苦しそうに暴れ回る。操縦者であるネメシスに呼応し、ガオインフェルノの鉄壁の防御が崩れた。

 

 〜ガオゴールド、今よ‼︎ 彼等を使って‼︎〜

 

 テトムの声だ。すると眼前に立つパワーアニマル達は振り返った。象の姿をしたパワーアニマルが長い鼻を上げる。まるで早くしろ、と急かす様に……。途端に、彼等は宝珠へと姿を変えて陽の掌に収まる。

 宝珠を手にした瞬間、彼等の姿、そして名前がガオゴールドの脳裏に流れ込んで来た。ガオマンモス、ガオスミロドン、ガオメガロドン、と……。

 悩んでいる暇は無い。ガオゴールドは宝珠を、台座にセットした。

 

「百獣武装‼︎」

 

 すると、ガオメガロドンが右腕に、ガオスミロドンが分離したガオワイバーンに代わって左腕を構成した。

 更に体が頭部と胴体に分離し、胴体側にあったガオマンモスの鼻が長々と伸びたノウズクレイモアとなった胴体側がガオメガロドンに、タスクシールドとなった頭部側がガオスミロドンに覆い被さると…。

 

「誕生! ガオパラディン・ブレイブ‼︎」 

 

 〜ガオマンモス、ガオスミロドン、ガオメガロドンと古代の動物達のパワーアニマルを百獣武装し、ガオパラディンは勇猛さと剣技を兼ね備えた聖なる騎士へとパワーアップしたのです〜

 

 

 

 パワーアップしたガオパラディンを見たガオシルバーは、先程までに押されていたのが嘘みたいに回復した。

 眼前に迫るガオハンター・イビルのリゲーターブレードを、ガオアキレスのオルカブレードで受け止め、押し返す。

 同様に、ガオビルダーもガオマッスル・ダークネスの拳を下半身を構成するガオトードのトードキックで蹴り倒した。

 形勢逆転と言わんばかりに、ガオアキレスとガオビルダーは二体の悪の精霊王の前に立った。

 ニーコは「アラアラ」と呟きながら、ガオハンターから離れた。

 

「これ以上は付き合いきれませんわね。では、ガオネメシス様‼︎ 私、先に帰りますね! チャオ♡」

 

 と、嘯きながら姿を消した。残されたガオハンター、ガオマッスルも操り主が居なくなった事で沈黙し、そのまま姿を消してしまう。

 

「ガオハンター‼︎」

 

 ガオシルバーは叫ぶ。だが、大切な相棒はまたしても、オルグに奪われてしまった。

 

「シルバー! 気を落とすな‼︎ 必ず、ガオハンターを取り戻す機会はある‼︎ 諦めてはならん‼︎」

 

 ガオグレーの励ましが、ガオシルバーを慰める。と、その時、ガオパラディンの戦いが再開していた。

 

 

 ガオパラディンは、ノウズクレイモアでガオインフェルノの胴体を袈裟斬りにした。先程まで、ダメージを与えらなかったガオインフェルノから火花が走る。

 

「お、おのれ…‼︎ バイコーンスパイク‼︎」

 

 何とか反撃しようと、ガオネメシスは左腕のガオバイコーンを突き出すが、タスクシールドから発生したエネルギーシールドに防がれてしまう。

 と、その際にノウズクレイモアにエネルギーが溢れ、刃として纏われて行った。振り返ると、ガオアキレス、ガオビルダーがガオソウルを注いでくれていた。

 

「ゴールド‼︎ 俺達のガオソウルを力に‼︎」

「ガオネメシスを倒すんじゃ‼︎」

 

 二人の激励が、ヘルメット内に響く。ガオゴールドは頷いた。

 

「ガオネメシス‼︎ これが、僕達の絆による力だ‼︎

 『氷結粉砕! フリージングバスタード‼︎』」

 

 ノウズクレイモアに纏われたガオソウルが、凍てつく氷の刃に変換され、ガオインフェルノに振り下ろされた。すると、ガオインフェルノの身体は一瞬で凍り付いたと思いきや、粉々に砕け散った。

 だが砕けたのは外側の氷だけで、中身にある筈のガオインフェルノは姿を消していた。

 

 

 〜フン……まさか原初のパワーアニマル達まで味方に付けたとはな……だが、俺を倒すには至らん……勝負を預けておいてやる……。

 鬼還りの儀を止めたければ、鬼ヶ島までやってくるが良い……最も、やって来れたら、の話だがな……ハハハハ……‼︎〜

 

 

 ガオネメシスの捨て台詞が、虚空を木霊する。ガオパラディンは消え去っていくネメシスの声を聞きながら、天を睨んでいた……。

 

 

 戦いの後、陽は地上に降りた。大神と佐熊もやって来る。

 

「ガオネメシスには逃げられましたね……」

 

 陽は悔しげに言った。佐熊は強く、背を叩く。

 

「そう落ち込むな、陽。あの手も足も出なかったガオネメシスに逃亡させる迄に追い込んだのは事実……次こそ決着を付けてやれば良い」

 

 佐熊の励ましに対し、陽は肯く。確かに、ガオネメシスは強敵だったが、今回は何とか追い払う事が出来た。だが、それでも彼が強敵である事は変わらない。もっと精進しなければ……。

 

「兄さん‼︎」

 

 降り立って来たガオズロックから、祈が走って来た。彼女の無事の姿を見て陽は心底、安堵した。

 駆け寄って来た祈を、陽は優しい抱き締めてやる。

 

「兄さん、兄さァん…‼︎」

「……無事で良かった……」

 

 ただ、それだけしか言えなかった。さめざめと泣き続ける祈を、陽は落ち着く迄、抱き締めていた。

 

「済まない、私の責任だ」

 

 突然の誰かの声に、陽達は振り返る。ガオズロックから、見慣れないガオの戦士が降りて来たからだ。

 

「貴方は、さっきの……」

 

 大神は、鬼灯隊の奇襲から自分達を助けてくれた謎の戦士がここに居る事を驚いた。

 

「ガオネメシスが、この様な大胆な行動に移すとは思わなかった。彼女の中にある巫女の力に甘えていた……」

「貴方は?」

 

 陽は泣き続ける祈を胸に抱きながら尋ねる。

 

「私は、ガオマスターだ。君達が、オルグと戦い続けている事は知っていたが……私は、それに介入する事は出来なかった……。本当に済まない……」

「マスターの所為じゃ無いわ……」

 

 ガオマスターの背後から、テトムと共に降り立って来たのは、ガオプラチナだった。と、同時に、ガオプラチナのスーツが粒子になって消えていく。

 

「鷲尾さん⁉︎」

 

 ガオプラチナの正体を知った陽は驚く。なんと、陽の同級生である鷲尾美羽こそがガオプラチナだったなんて……。

 

「隠してて、ごめん……。だけど、本当の事を明かせなかった……。竜崎が傷つきながら、苦しみながら戦っているのは分かっていたけど……」

 

 美羽は申し訳なさそうに頭を下げた。陽は数々の展開に頭が付いていけないながらも、ガオマスターを見据えた。

 

「教えて下さい‼︎ ガオネメシスは一体、何者なんですか⁉︎ どうして、祈が狙われたんですか⁉︎」

 

 陽の興奮しながらも一気に捲し立てた。何故、祈をガオネメシスは狙うのか…ガオネメシスの正体は人なのか、オルグなのか…彼が知っている事を全て知りたかった。

 ガオマスターは落ち着いた様子ながら、語り出す。

 

「……無論、そのつもりだ。最早、隠し通す意味も無い。ガオネメシスが……いや、スサノオが此処までしゃしゃり出てくればな……」

「スサノオ?」

「天照の竜、ガオゴールドよ……今から私が話す事に、どうか怒らずに耳を傾けて欲しい……。君が、ガオの戦士として選ばれた事……アマテラスの生まれ変わりたる彼女と出会った事……これらは全て、必然だったのだ……」

 

 淡々とした口調で、ガオマスターは語り始めた……。

 

 

 〜ガオマスター、ガオプラチナの助けもあって、ガオネメシスを退けたガオゴールド達! ガオネメシスの正体、そして過去を知るガオマスターの口から語られる真実の物語は如何なる物なのでしょうか⁉︎〜



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quest40 明かされる過去

「ぐ…うおォォ……!!!」

 

 鬼ヶ島の一室にて…。ガオネメシスは頭を抑え、悶え苦しんでいた。ガオゴールドとの戦いで形成を逆転され、トドメを刺される寸前に戦線を離脱したが、先程にテトムより聴かされた響きの調べが、ネメシスに精神的なダメージを与えていた。

 何時もの余裕のある傲岸不遜な態度は全く見られず、かなり追い詰められている様子だ。

 

「大丈夫ですかァ?」

 

 ニーコがヒョコッと顔を見せ、ガオネメシスに語り掛ける。彼女が周りを見れば、多数のオルグ魔人やオルゲットの亡骸が散乱していた。

 ガオネメシスが周囲に当たり散らす様に、ヘルライオットを乱射し、それに巻き込まれる形で、死んでしまったらしい。

 

「あーあ、皆、死んじゃったじゃ無いですかァ……。ネメシス様の気晴らしの為にオルグを殺したら、テンマ様に叱られますよォ?」

 

 小馬鹿にした様な彼女の台詞に、ガオネメシスは今にも噛みつかんと言った感じで、ヘルライオットをニーコの眉間に突き付け、射撃した。

 

「二度と、この俺に減らず口を叩くな…‼︎」

 

 ゼロ距離から放たれた弾が、ニーコの顔を吹き飛ばした。首の無くなった胴体が、糸の切れた人形の様に崩れ落ちた。

 しかし、コンマ2秒で破壊された顔は復活して、ピンピンとした様子のニーコが起立した。

 

「アハッ♡ 私を殺すなんて無駄ですよォ♡ 知ってる癖にィ♡」

 

 他者の神経を逆撫でする事に関しては、ニーコの十八番である。ガオネメシスは口の中に放り込まれた苦虫を噛み潰した様に、苛々としていた。

 

「クッ…‼︎ 性悪猫が……‼︎」

「クスクス……苛立ってますねェ、ネメシス様?」

 

 激昂しているガオネメシスを見ながら、ニーコは火に油を注ぐかの如く、近付いて来る。益々、ネメシスは憤怒のオーラを漂わせた。

 

「……ニーコ、俺は今、虫の居所が悪いんだ……‼︎ 無闇に近付かない方が身の為だぞ……‼︎」

「ンフフ♡ そんな、ネメシス様に、とっても良い事を教えてあげようと思ったのにィ♡」

 

 馴れ馴れしく擦り寄って来るニーコに対し、ガオネメシスは煩わしそうな態度を取る。

 

「良い事、だと? 貴様の情報など当てになるか」

「あらら〜? そんな事を言っちゃって良いんですかァ?」

 

 勿体ぶった様に焦らしながら、ニーコはガオネメシスのマスクに口を近づけると小声で、何かを話した。

 すると、ガオネメシスは「クックッ…」と含み笑いを上げた。

 

「成る程な……! 実に貴様らしい姑息な手段だ……」

「ありがとうございまァす♡ そ・れ・に、ネメシス様の“身体”、そろそろ限界じゃ無いですかァ? 丁度良いと思いますよォ?」

 

 ニーコの発言に、ガオネメシスは胸を抑えた。

 

「……ああ、そうだな……。半ば悲鳴を上げ始めている身体だ、確かに丁度良いかも知れん……」

 

 そう言いながら、胸を抑える手に力を込めるガオネメシスだった…。

 

 

 

 その夜、陽と祈はガオズロック内に座っていた。あの後、無事に祈を連れ戻し学校へ送ったが、急にいなくなった事を周囲に弁明するのには骨を折ったらしい。

 陽もまた学校へ戻り、猛や昇のお陰で怪しまれなかった事を知り、胸を撫で下ろした。

 同時に美羽も、さりげなく学校に戻っていたが、洋館で別れた際「後で話す」と言われて、話す機会を失ってしまった。

 恐らく、ガオマスターや美羽も此処へ来るのだろうが、まさか同級生だった鷲尾美羽が、ガオの戦士だったとは、と陽は驚きを隠せなかった。

 

「美羽さんも、ガオの戦士だったなんて……」

 

 驚愕していたのは、祈も同じだった。以前、魏羅鮫オルグの件で彼女に助けられた際、意味深な言葉を発していた事があったが、こう言った伏線だったとは思わなかった。

 それは、大神や佐熊も同じだった。一度だけ、彼女と邂逅した時、彼女が、先代ガオレンジャーの一人、ガオイエローこと鷲尾岳の縁者である事を聞かされた。

 あの時点で、ガオレンジャーについての知識を有していた美羽だが、この様な展開は想像だにしていなかった。

 

「……しかしのォ、あのガオマスターっちゅう男、中々の曲者じゃのう……。オルグを相手にした際、武器を使わんと素手で立ち向かっておった……」

 

 佐熊は、ガオマスターと初めて顔を合わせた時、彼が鬼灯隊のくノ一二人に武器無しで、徒手空拳のみで渡り合い、勝利していた事を二人に話した。祈も

 

「あの人、ガオネメシスとも互角以上に戦ってた……」

 

 ネメシスとの戦いでは、負傷を負わされていたが、それでも尚、彼にはガオネメシスと立ち向かえる余力があった。

 つまり、彼はガオネメシスやデュークオルグ級のオルグと同格の力を有している事になる……。

 等と考えていると、テトムとこころと摩魅、更にはガオマスターと美羽が入室して来た。

 摩魅は、祈を見るなり大粒の涙を浮かべ、縋り付いてきた。

 

「祈さん、ごめんなさい…‼︎ 私、私…‼︎」

 

 泣きじゃくりながら、摩魅は祈に謝罪し続けた。元を正せば、摩魅がオルグ達に情報を流したのが原因だった。

 しかし、祈は摩魅の頭を撫でながら微笑む。

 

「…もう良いよ、摩魅ちゃん。無事に帰って来れたんだから、もう良い……」

 

 涙でグシャグシャになった摩魅の顔を見ながら祈は言った。その様子に陽は微笑ましくなった。

 

「……さて、盛り上がっていく所、申し訳ないのだが……」

 

 騒がしくなった室内を静かにする様に呟くガオマスター。

 

「先ず君達に集まって頂いたのは、他でも無い。私とガオネメシスの関係についてだ……」

「それより、僕が聞きたいのは……」

 

 話を始めようとしたガオマスターを遮る様に、陽は水を差した。

 

「僕が、ガオゴールドに選ばれたのは必然だったと……ガオの巫女の生まれ変わりである祈と僕が出会った事も偶然では無いと……なら、僕がガオの戦士に選ばれた理由を教えて下さい‼︎」

 

 陽は激しく問い詰めた。そもそも気になって居た。これ迄、ガオの戦士と関わりなく生きてきた自分が何故、ガオの戦士となったのか?

 そもそも、先代ガオレンジャーもパワーアニマルに選ばれる迄は、互いに接点すらない関係だったのだ。

 それなのに、自分がガオの戦士となる事は最初から決まって居た事だった。ガオマスターが、そう言う理由が彼は気になって仕方無かった。

 マスターは、小さく溜め息を吐く。

 

「……せっかちな奴だな……。それを話すのは非常に長い話になる……先ずに話さねばならないのは……二千年以上の昔に迄、遡る……」

 

 ガオネメシスは、遠い昔の御伽噺を話す様な口ぶりで話し出す。陽達は全員、耳を傾けた。

 

「今から二千年以上前……まだ人類に文明らしい物がなく、小さな集落に似た国々が各地に点在していた時代……」

 

 

 

 〜二千年以上前

 

 当時は人と獣は互いに狩り、狩られあいながらも共存し、助け合い生きていた。

 人は生きる為、山で動物を捕まえて、海、川で魚を獲り、野山から木の実を採取して、正しく獣と一体した生き方をしていた。

 そんな中、増えていった人間達に呼応するかの如く、異形の怪物達が現れ始めた。人々は、それを“鬼”と呼んで恐れていた。

 だが、鬼に負けっぱなしと言う訳じゃ無かった。鬼へ対抗するかの様に、姿を現した巨大な獣達……。彼等が暴れ回る鬼達を倒して回り始めた。人々は、その大いなる存在を大自然の化身“精霊”と呼んで、感謝し奉った。ある時から、人間の中に神獣達と交信する者、鬼達と戦う者達が現れた。

 その存在を人々は敬意を込め、交信する者を“巫女”、戦う者を“戦士”と呼んだ……。

 

 

『アマテラス様! お導き下さい、アマテラス様!』

 

 

 周囲の立ち並ぶ家屋の中で一際、立派で荘厳な造りの建築物……その周りに、多くの人々が集まっていた。すると屋敷から出てくる白を基調にした清楚な出で立ちの女性……彼女が、初代ガオの巫女であるアマテラスである。

 アマテラスは不安気に集う人々を、穏やかな様子で見回した。

 

『また、鬼達が現れました‼︎ 立ち向かった若い衆が、傷を負わされ築かれた防壁も破られそうです‼︎』

 

 初老の男性の言葉に、アマテラスは真剣な面持ちだ。

 

『お静まりなさい……神獣の声が聞こえて来ました! 神獣の加護を受けし戦士達を遣わせよ、さすれば災いは鎮まらん……』

 

 アマテラスの発した言葉に、どよめく人々は一斉に静まった。アマテラスは自身の後方にて傅く二人の男を振り返る。

 

『ツクヨミ、スサノオ! 精霊より恩恵を賜った貴方達に銘じます! 鬼達を鎮めよ!』

 

『御意‼︎』

 

 二人の男は顔を上げる。一人は端正な顔立ちに黒髪を肩で綺麗に整えた美青年、もう一人は端正ながらも何処か荒々しい風貌で腰まで伸ばした黒髪をざんばらにした偉丈夫だった。

 二人は腰に差した剣を持ち、立ち上がった。

 

 

「そのスサノオと言う人が、ガオネメシスの正体?」

 

 ガオマスターの話を聞いていた陽は尋ねる。マスターは頷き、祈も陽に言った。

 

「ガオネメシスも言っていたわ。自分は、原初の戦士スサノオの成れの果てだって」

 

 余りに壮大な話に、陽達もテトムでさえも開いた口が閉じない。

 

「原初の巫女アマテラスに弟が居たなんて……おばあちゃんも知らなかったわ……」

 

 テトムは自分の一代前のガオの巫女ムラサキを思い出す。彼女は、長命なガオの巫女だが、自分の前に居た巫女アマテラスについての情報を、殆ど持ち合わせて居なかったのだ。

 

「…無理もあるまい…。そなたが祖母、ムラサキが巫女として生きた時代には、アマテラスの情報は殆ど残されて居なかった…。

 いや、意図的に掻き消されてしまったのだ…」

「意図的に?」

 

 今度は大神が尋ねた。ガオマスターは、何処か苦し気だった。

 

「……そうだ。今でこそ、アマテラスやスサノオは神と語られ、神話の中で神格化されているが……それは、彼女の末路を哀れんだ者達が、後世に残した精一杯の感謝だったのだ……」

「……末路を哀れんだ? 一体全体、アマテラスの身に何があったんじゃ?」

 

 佐熊も会話に入る。

 

「……祈……君は、ガオネメシスから、アマテラスについて何と聞いた?」

 

 ガオマスターは、祈に聞いた。祈は困惑しながらも

 

「……彼は……アマテラスは守っていた人間に裏切られて、人間に失望して死んだ、と……」

「それは間違いでは無いが……正解でも無い……」

 

 祈の答えを聞いて、ガオネメシスは言った。

 

「アマテラスは確かに人に裏切られた……しかし……彼女は人間に失望した訳でも、見限った訳でも無い……。

 彼女は…アマテラスは、人間を守る為に命を未来に繋いだのだ……」

「繋いだ?」

 

 陽は話が見えない。何故、アマテラスは自分を裏切った人間を赦し、最後まで守ろうとしたのか? ガオマスターの話は続く。

 

「……少し話を戻そう。アマテラスは生まれた時から、大自然の化身……君達が、パワーアニマルと呼ぶ精霊達の声を聞く力があった……。最初は、ただそれだけだったが……やがて、精霊達と心を通わせ、その力を引き出す術を身に付けた……君達が、戦う際に身に纏うガオスーツ、破邪の爪の源たるガオソウルとは……アマテラスの編み出した力を応用したに他ならぬ……」

 

 これには、テトムさえも驚いた。ガオレンジャーの力の根源たるガオソウルとは……何と、二千年以上の昔に、アマテラスによって編み出されていたなんて……。

 

「アマテラスは、この力を用いて、オルグ達と対抗した。しかし……その当時は、まだ君達の様に全ての人間が、ガオの戦士となれるには至らなかった……。アマテラスを守りたいと願う、彼女の血を分けた二人の弟しかな……」

「じゃあ、その弟が、スサノオ?」

 

 陽は、ガオネメシスのマスクの下にある人物が、アマテラスの弟にして、原初の戦士スサノオである事を知った。

 ガオマスターは頷く。

 

「……スサノオは強かった……。純粋な強さなら、歴代のガオの戦士が束になっても勝てないだろう……。ただ強いだけでなく、ガオソウルを破邪の爪として利用する方法を編み出したのも、スサノオだ…」

「……それで、ネメシスはガオレッド達の破邪の爪を扱えたのか……‼︎」

 

 大神は、ガオネメシスとの初戦で、ガオレッド達の破邪の爪を彼が用いていた事を思い出す。ガオの戦士たる彼は、他のガオレンジャー達の武器である破邪の爪を最大限まで引き出していた。其れ等は、ガオソウルの活用法を、彼が熟知していたからに違いない。

 

「アマテラスは、スサノオと、もう一人の弟ツクヨミを率いて、国に襲い掛かるオルグ達と迎え撃った。

 そして遂に、オルグの支配者にして、全オルグの祖とも言える存在が現れた……。其奴の名は、雄呂血……。歴代のオルグの中で最も強く、最も凶悪で、最も人間を憎んでいたとされた古のオルグの王……。

 奴は、アマテラスを倒す為、全オルグを率いて、彼女に戦を仕掛けた……当然、スサノオとツクヨミが黙ってはおらず、当時のパワーアニマル達を率いて、雄呂血と対立した。

 三日三晩に及ぶ死闘の末、遂にスサノオが雄呂血の首を落として勝利を得た。頭目を失い、オルグ達も全て消滅した……現代においては、闘神・須佐之男命による妖蛇・八岐大蛇の退治と銘打たれているが、これこそが、八岐大蛇伝説の真相だ……」

 

 ガオマスターの口から聞かされた日本の歴史の影に埋もれた、ガオの戦士の歴史……改めて、陽は自身が身を置くガオレンジャーの世界には、未だに理解出来ていなかった事を痛感した。 

 

「伝説では、此処で終わりだが……話は続く。全てのオルグを滅ぼし、アマテラスは称えられた……だが、雄呂血を倒したスサノオを見た人々の反応は違った。

 雄呂血を倒した、と言う事は……その雄呂血以上に強大な鬼となるのでは無いか……一人の言い出した言葉は、やがて野火の如く広がり、遂には、スサノオへの迫害が始まった。それだけ、スサノオの強過ぎた。

 アマテラスやツクヨミは、スサノオの潔白を人々に訴えたが、疑惑に染まり、オルグの恐怖を焼き付けられた人々には聞く耳を持たれなかった……。スサノオを殺すか、追放するか……そんな穏やかでは無い話が持ち上がり始め、とうとうスサノオが言った。

 

 〜この国を出る〜、とな」

 

 ガオマスターは天を仰ぎながら続けた。微かに揺れるマスクの下では、はひょっとしたら泣いていたのかも知れない。

 

「当然、アマテラスもツクヨミも止めた。しかし、自分が居続ける限り、この混乱は収まらない。漸く訪れた平和を守る為、スサノオは我が身を犠牲にする形で、国を出た……。

 しかし皮肉にも……これが悲劇の始まりだった」

 

 一旦、話を切ったガオマスターは、すっかり夜となった景色を見ながら、外へ出ようと誘う。

 判らぬまま、陽達は彼に続く。夜の冷たい風が肌に突き刺さる。

 

「スサノオが国を出た後、混乱していた人々は収まった。だが……今度は人間同士で殺し合う事態となった。国が大きくなり、増え過ぎた人間は、平和の中で持て余した力を間違った方角へ使ってしまったのだ。

 アマテラスは悟った。これこそ、雄呂血の仕掛けた最後の復讐なのだと……。奴は、死する瞬間に自分の中にあった邪気を吐き出し、国中に撒き散らした。邪気に侵された人間は、怒りや妬み、嫉みと言った負の感情を抱き、互いに殺し合う……そして、雄呂血と共に消え去った筈のオルグは再び、姿を現した。

 国の危機、アマテラスの危機に、スサノオは祖国へと戻ったが、既に国は滅び去り、アマテラスもツクヨミも戦死していた……。

 大切な者を全て失ったスサノオは悲しみと絶望に慟哭し、自らに剣を突き立てて果てた……」

 

 そう言うと、ガオマスターの変身が解けた。ガオマスクによって隠されていた黒髪が露わになる。

 

「……だが、アマテラスは最後の賭けに出た。自身の魂の一部を地上に残して、生き残った僅かな人間達と共に、パワーアニマル達の住う楽園、天空島に封じた。そして残りの魂を地上に残して、何時しか自分の魂を受け継ぐ者が転生する日に備え、其れを見守る役目を私に託した……」

 

 ガオマスターは振り返る。顔立ちこそ何処となく陽に似ているが、憂いを帯び、非常に悲しみに満ちた顔をしていた、

 

「じゃあ…まさか、貴方が⁉︎」

「そうだ、私がアマテラスの弟の片割れであるツクヨミ。私は姉の意思を尊重し、彼女の魂の転生を待っていた……。歴史の中、オルグが幾度と蘇り、その度にパワーアニマルの加護を受けた戦士達との戦いを見守り続けていた……。彼等と共にな……」

 

 ツクヨミは振り返る。すると、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィン、ガオナインテール、ガオワイバーンが現れた。

 

 〜久しぶりだな、ツクヨミ……二千年振りか…〜

 

「ああ……再び、出会う事になるとはな……」

 

 驚いた事に、ツクヨミとガオドラゴン達は互いに知り合いの様子だった。ガオユニコーンも続く。

 

 〜あの日、スサノオを救えなかった後悔から、私達は人間から手を引いた……彼を見捨てた人間達、オルグを生み出す人間達と見限って……〜

 

 ガオグリフィンも続く。

 

 〜我々も、人間の前から姿を消して、天空島にも行かず、アマテラス達と過ごした日々を想いに馳せて来た……。

 陽……お前と出会う迄はな……〜

 

 ガオナインテールは、陽を見た。

 

 〜アマテラスは言った。自身が魂を受け継ぐ者と、スサノオの強さを受け継ぐ者が必ず現れる、と……。だが其れは中々、現れず……長き時を生きていく内に妾達は、レジェンド・パワーアニマルと呼ばれるに至ったと言う訳じゃ…〜

 

「じゃあ、ガオドラゴン……君達は最初から?」

 

 陽は知った。ガオドラゴン達が、自分をガオゴールドに選んだ理由を……。つまり、彼等は最初から知っていた事になる。

 

 〜……スマン、陽……。本当は、もっと早く話すべきだったが……陽や祈の力が完全に目を醒ます迄は、として黙っていた……。

 だが、我々は最初に見た時から分かった……。お前こそ、我々の待ち望んだ、アマテラスの最期の際に残した予言の戦士であると……〜

 

「アマテラスの最期の予言?」

 

 大神は尋ねた。ガオユニコーンが昔を思い出す様に語り始める。

 

 〜アマテラスは最後に言い残した。悠久の刻を経て、天の巫女と日輪の戦士、目醒めん。その時、我等、六聖獣は集結せん……と〜

 

 ガオユニコーンの言葉に、陽は耳を傾ける。天の巫女と日輪の戦士? 六聖獣?

 

「天の巫女と日輪の戦士って、祈と僕の事?」

 

 陽の問いかけに対し、ガオドラゴン達は頷く。

 

 〜我々は、お前こそが、アマテラスが命を賭して未来へ繋げた希望であると信じたい。頼む……スサノオを我々の友を救ってくれ…!〜

 

 そう言って、ガオドラゴン達は姿を消した。残された陽達は、ツクヨミと美羽を振り返る。

 

「済まない、陽……。私は、弟を闇の中より救い出してやりたい…。しかし、奴には既に私の声は届かない……。頼む……弟を救い出してくれ……」

「……分かりました……‼︎ 僕は、ガオの戦士です‼︎ ガオレッド達と共に、スサノオも救って見せます……‼︎」

 

 陽の言葉に合わせ、大神達も前に進み出る。

 

「待て、陽……お前一人に背負わせるつもりは無いぞ! 俺達だって、ガオの戦士だ‼︎ 協力するぞ‼︎」

「仕方無いのォ…‼︎」

 

 佐熊も彼に合わせて応える。ツクヨミは満足げに頷いた。

 

「よく言った、若きガオの戦士達よ…‼︎ 君達ならば、地球の未来を任せられる……。陽よ、ガオサモナーバレットとドラグーンウィングを貸してくれ」

 

 そう言って、ツクヨミは陽の差し出したガオサモナーバレットとドラグーンウィングに力を注ぎ込み始めた。

 すると、二つの破邪の爪は融合し、一つの武器に姿を変えた。見た目は、ガオドラゴンがそのまま銃になった様な姿だ。

 

「受け取れ、日輪の戦士よ……アマテラスの遺した真の破邪の爪『ソルサモナードラグーン』だ‼︎」

 

 パワーアップした破邪の爪を手にした陽は、ドラグーンウィングが銃身の左右に折り畳まれているのを見た。

 

「銃身を垂直に立てて見ろ」

 

 ツクヨミの指示に従い、陽はソルサモナードラグーンを垂直にした。すると翼が銃口の左右を隠す様に反転し、銃口より光り輝く刃が出現した。

 

「それは、かつてスサノオが使っていた物だ。君の力が覚醒する迄、その姿には至らなかったが……どうやら、君は認められた様だな……」

 

 陽は光の刃を天に翳して見せた。どうやら、自分はガオの戦士として新しい段階へと進んだらしい。

 そして、大神を見て…

 

「大神さん…」

「……ああ」

 

 次に、佐熊を見て…

 

「佐熊さん…」

「んん?」

 

「僕達で、オルグを倒そう‼︎ 必ず‼︎」

 

「ちょっと。私、忘れないでよね」

 

 話の腰を折る様に、美羽が入って来た。

 

「……ごめん、竜崎。ずっと隠してて……。私にガオの戦士としての力をくれたのは、ガオマスターだった。

 でも、貴方達の成長に妨げになるとして、戦いに加わる事も真実を告げる事も出来ず、影から見守る事しか出来なかった……」

「そうだったのか…」

 

 美羽が、ガオの戦士の知識を有していた事、ずっと引っかかっていた事に対する謎が漸く解けた。

 

「……でも、これからは私も力を貸す‼︎ その時は私に力を貸してくれた、この子も目を覚ましてくれるから!」

「この子?」

 

 陽の質問に対し、美羽は懐から虹色に輝く宝珠を見せた。

 

「この子は、ガオフェニックス。永遠の命を生きるレジェンド・パワーアニマルだよ……。でも、今はまだ眠っている……」

 

 恐らく、アマテラスの遺した予言に出てくる六聖獣……恐らく、ガオフェニックスの事を指すのだろう。

 陽は思い出した様に、ガオマンモス達の宝珠を、ツクヨミに返した。

 

「これは貴方のパワーアニマルですよね、お返しします」

「…ああ」

 

 そう言って、宝珠を懐に戻すツクヨミ。陽は、ずっと黙りこくっていた摩魅に振り返る。

 

「摩魅ちゃん……君だって、これから僕達の大切な仲間だ……」

「な、仲間? でも、私は……」

 

 オルグの手先となって、陽達の情報を流し続けて来た自分を、改めて仲間と認めてくれる陽に、摩魅は困惑した。

 

「……摩魅ちゃんは私達に申し訳無いと思っているからこそ、涙を流したんでしょう? それで、もう良いじゃない……」

「……祈さん……」

 

 優しく語り掛けて来る祈に、摩魅は大粒の涙を流しながら、抱きついた。陽は決意する、もう彼女の様に涙を流す者は出させまいと……ガオネメシスの企む鬼還りの儀は、必ず食い止めてみせると……。

 

 

 何処か遠く離れた地……あたり一面に散乱するオルグの死骸……。どれもこれも、まるで食い散らかした様に、グチャグチャだ。と、その際、何かを咀嚼する様な音が響く。

 音のする方には、巨大な影が一心不乱にオルグの血肉を喰らっている姿があった。その様子を、遠方よりツエツエが不遜な様子で見ていた。

 

「フッフッフ……機は熟したわ…‼︎ さァ、ティラノオルグ‼︎ 今度こそ、ガオレンジャー達を根絶やしにしてやるのよ‼︎」

 

 ツエツエが杖を振り上げる。ティラノオルグは天を見上げ、高々に吠えた……。

 

 

 〜遂に明かされたガオネメシスの正体と、原初の巫女アマテラスの秘密‼︎ 新たな仲間として、ガオプラチナとガオマスターを加えたガオレンジャーですが、ガオレンジャーを根絶やしにすべく、ティラノオルグを従えたツエツエの牙が遂に、ガオレンジャーに届こうとしています‼︎

 果たして、ガオレンジャーの運命は⁉︎〜



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三章 最終決戦
quest41 悲しき鬼


 昼休み……陽は学校の屋上にて、摩魅と一緒に弁当を食べる為、彼女を待つ最中、物思いに耽っていた。ガオレンジャーの歴史、アマテラスとスサノオの悲劇を知って、自分の身を置く戦いが最早、自分一人だけの物では無い事を痛感した。

 ツクヨミから聴かされたガオの戦士の歴史、それは自分の想像を絶する物だった。

 自分と祈……ガオの戦士としての運命から逃れられ無い、寧ろ最初から定められていたなんて……。陽は右掌を開けて見た。

 つい最近まで、自分が戦いに生きるなんて、考えても見なかった。仲間達に支えられて、やっとの思いで戦い抜いて来たが……余りに重なり過ぎた事に、陽は折れそうだった。

 何時迄、続くのか……果たして戦いの果てに、ガオネメシスやテンマを倒せるのか……仮に倒せたとしても、その時、自分は正気で居られるだろうか……。

 かつて、ガオネメシスから言われた言葉が耳に突き刺さる。

 

 

 〜貴様の気高き思想など、時を経て人の醜さを知れば知る程、脆く崩れ去る〜

 

 

 あの時は、馬鹿馬鹿しいと聞く耳を持たなかったが、彼の過去を聞いた今となっては、痛い程に身に染みて来る。

 ガオネメシスも、スサノオとして生きていた時は気高い思想を持ち、強きを挫いて弱きを助ける、と言った絵に描いた様な好漢だったに違いない。しかし人間に裏切られ姉を失い、絶望に苛まれた結果、人類に復讐を目論む戦士ガオネメシスへと堕ちてしまったのだろう……。

 もし、自分も祈を喪ってしまったら……守って来た人達、全てに裏切られてしまったら……自分が第二の、ガオネメシスとなり人類に牙を剥く……考えただけで、ゾッとする。

 

「竜崎……」

 

 ふと声がした為、振り返って見れば、美羽が不安気な様子で自分を見ていた。

 

「鷲尾さん……」

「美羽で良いよ……。昔は、そう呼んでたじゃん……ねェ、大丈夫?」

 

 美羽は、陽の隣に腰を下ろしながら言った。

 

「……ん、大丈夫……」

「大丈夫な訳無いじゃん。そんな辛そうな顔して言っても、説得力無いよ……」

 

 美羽には、陽の本心を見抜いている様だ。陽は困った様に、笑う。

 

「陽って昔から変わんないね……辛そうにしてればする程、周りに掛かる心配事を考えて、隠そうとする……」

「でも、美羽……どうして?」

 

 陽は自分を気に掛けてくる美羽に、やや困惑しながらも尋ねた。

 

「美羽も僕と同じ、ガオの戦士だから?」

「其れもあるけど……祈に頼まれたんだ……。『兄さんが無茶をしない様に見ていて欲しい』って……」

 

 やっぱりか…と、陽は溜息を吐く。

 

「祈だけじゃ無いよ……皆、心配してる……。乾も申利も……勿論、私もね……。陽が壊れてしまわないか、心配なんだよ……」

 

 美羽の労りに満ちた言葉に陽は、ハッとした様に彼女を見る。不思議と彼女と一緒に居たら、ササクレだっていた心が緩やかになって行くのを感じた。

 

「私も叔父もね……ガオレンジャーだったんだ……」

「エッ⁉︎」

 

 急に美羽の発した言葉に、陽は呆気に取られた様な顔をした。美羽は無表情のまま、ポケットからメモ帳を取り出す。

 

「ほら、この人……」

 

 メモ帳に挟み込まれた一枚の写真……写真には、七人の人間が映り込んでいた。内、二人は大神とテトムだ。

 他の五人は以前、ガオゴッドに見せて貰った過去の幻影によって見た先代のガオレンジャー達……一人は、陽も所縁ある人物、ガオホワイトこと大河冴である。ガオレッドと思しき青年の隣に立つ金髪に、やや荒々しい見た目の青年……彼が、ガオイエローにして、美羽の言う叔父なのだろう。

 

「鷲尾岳って言って、私の一番、大好きな叔父さんだった……。若い頃は自衛隊に居た事や、小鳥の飼い方とか、色んな事を教えてくれてね……。その中で叔父さんが、ガオレンジャーとして戦って居た事を知ったんだ……」

 

 しみじみと昔を語る美羽の話に、陽は聞き耳を立てた。

 

「……最初はね……冗談だと思ってた……。でも、ガオマスターが私の前に現れた時、知ったんだ……。岳叔父さんの言ってた事は嘘じゃ無かった、てね……」

「……僕も、そうだった……従姉の冴姉さんが、ガオレンジャーとして戦ってた事、自分がガオレンジャーになって初めて知ったんだ….」

「…ふふ、何か可笑しいね。私達、お互いに親戚にガオレンジャーが居て、何年かした後に出会うなんてさ……」

「……きっと運命だったんじゃ無いかな……」

 

 陽が、ポツリと呟く。奇しくも二人共、奇妙な共通点があった。どちらも、ガオレンジャーに対して接点がある所か、ガオレンジャーになるべくして出会ってしまったと言える。

 現在、陽のパートナーとするレジェンド・パワーアニマルは、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィン、ガオワイバーン、ガオナインテールの五体だ。加えて、美羽がパートナーとする未だ全貌の掴めないレジェンド・パワーアニマル、ガオフェニックス。

 この六体こそ、かつて原初の巫女アマテラスがスサノオと共に戦った六体のパワーアニマル、通称『六聖獣』であると、ツクヨミは語った。

 六聖獣は、その名の通り他のパワーアニマルと違い、実在する動物では無く、竜や不死鳥と言った伝説の動物をモチーフとしている。

 運命だとか、神のみぞ知る答えなんて陳腐だと、少し前の自分なら失笑した筈だ。だが、ガオレンジャーとなった今となっては、本当に最初から仕組まれて居た、と思わざるを得ない。

 

「運命……か……。私は運命とか信じないタイプだったけど、今の私達は、あながち“運命”かも知れないね……」

「エッ⁉︎ それって……」

 

 美羽の言葉の意味を理解出来ずに陽は尋ねようとしたが、美羽は立ち上がる。

 

「……次に戦う時は、私も行くから……‼︎」

 

 それだけ言い残し、美羽は歩み去っていった。残された陽は天を仰ぎながら、誓う。もう決して迷わない、と……。

 

「……僕が迷えば、祈や美羽への負担となる……。迷いは断ち切って……前へ、突き進む‼︎」

 

 これ迄以上の苦しい戦いを強いられるだろうが、もう迷っては居られない。平坦な道を探して回り道するくらいなら、多少の荒れた道でも突き進むのみ…! 覚悟を決めた目が、輝いて居た。

 

「そう言えば……摩魅ちゃん、遅いな……」

 

 

 そんな二人の様子を陰から伺っていた人影……摩魅だった。手には朝方、祈が持たせてくれた弁当を持って……。

 だが、美羽と仲良さげに話をする陽を見ていると、中に入り込めなかった……。側から見れば、とても仲の良いカップルに見える。しかし、それは陽と美羽が人間同士だから、成立する事だ。

 自分には、とても無理だろう……見た目が、どんなに人間に見えようが、一皮剥けばオルグでしか無い自分には……陽の隣に立つ事など出来ない……。

 摩魅は先の、自身の裏切りを許したばかりか、仲間として受け入れてくれた陽に、密かな恋心を寄せていた。

 しかし……それは、許されぬ恋である、と他ならぬ摩魅が自覚していた。

 所詮、オルグの血を引く自分には、彼に対する恋心は卑しい劣情でしか無い……彼女は、そう考えて居た。

 何より、陽の事を祈もまた愛している事を、摩魅は理解していた。これ迄、彼女は誰かを好きになる事は無かった。そんな物は無縁な物だと、理解していたからだ。

 仮に百歩譲って、摩魅を陽が受け入れてくれたとしても、きっと自分は変わらないのだろう……。

 

「(こんなに苦しいなら……心なんか要らない……)」

 

 改めて、オルグでありながら人間らしい心を持って生まれた自身の人生を摩魅は呪った。こんな事なら、他のオルグ同様に破壊を楽しむ性格に生まれてくれた方が、どれ程にマシだったか……。

 彼女は、溢れ出る涙を乱暴に拭いながら、摩魅は陽に気付かれない様に場所を離れて行った……。

 

 

 

 その頃、テトムは、ガオズロック内で書物を読み耽っていた。側で見ていたこころは訝しげに、彼女に尋ねる。

 

「さっきから何を読んでるの?」

 

 ガオズロック内の、テトムの部屋には彼女しか入れない秘密の部屋がある。それは、テトムの祖母であり先代巫女ムラサキの遺した書物が保管されている。

 其処には、かつて戦いを共にした千年前のガオの戦士に対する記述や、確認され得る限りに発覚しているオルグ魔人に対する情報、これ迄に姿を見せたパワーアニマル達についてが、綿密に記されていた。

 しかし、この書物は歴代のガオの巫女のみが閲覧する事を許され、どんな理由があろうとも、ガオの戦士や一般人が内容を確認する事も、例え内容を知っても口外する事は許されない。

 何故なら、この書物には、ガオの巫女のみ受け継がれる人類の正しい歴史が遺されているからだ。

 現代に一般的に残されている歴史は、何れも意図的に改竄され、真実を知る術は無い。現代人は、過去に起こった事象を発掘した古来の遺物を照らし合わせ、それこそが真実である、と結論付けて来た。

 しかし……歴史上にて名を残した偉人、出来事の陰には必ず、オルグの暗躍があった。古く言えば源平の戦、戦国時代の到来、関ヶ原の戦……近代においては、第一次、二次大戦、太平洋戦争……血生臭い戦の原因を辿れば、オルグが行き着いてくる。

 そんな、オルグの暗躍を防ぐ為、ムラサキやテトムと言った歴代のガオの巫女は、パワーアニマルの加護を受けた戦士達を率いて、オルグの侵攻を食い止めて来た。

 また非常に長命であるガオの巫女は、その後に起こった修正される前の歴史を守り続けているのだ。その中で、テトムはムラサキからアマテラスやスサノオについて、聞かされた事は一度も無い。

 

「……何かを見落としている気がするのよ……ムラサキおばあちゃんでさえ、気付かなかった何かを……」

 

 そう言って、テトムは食い入る様に、書物を読み漁っていたテトムは、とあるページで指を止めた。

 

「これは…‼︎」

 

 それは相当、古い書物だった。そのページには、巫女に付き従う二人の男、上の男は剣を構えて、下の男は弓を構えている。

 対峙しているのは、多数のオルゲットと思しき怪物を使役する男だった。その姿は、仏典などで語られる地獄の支配者、閻魔大王に酷似している。更に上には、ガオパラディンでよく似た巨神と八つの首を持った蛇の怪物が相対している……。

 

「これが……原初の巫女?」

 

 テトムは書物に記された原初の巫女の闘いを読み進めた。その際、こころか呼び掛けて来る。

 

「テトム、あれ……‼︎」

 

 こころが指を差すと、ガオの泉が尋常では無い程に、ボコボコッド 泡立っていた。

 

「何なの、この反応……⁉︎」

 

 此処まで、ガオの泉が反応すると言う事は、相当に強力なオルグが現れたに違いない。テトムは、祈りを捧げる。

 

 〜陽、月麿、力丸、美羽……‼︎ オルグが現れたわ……‼︎〜

 

 テレパシーを送り、ガオの戦士達に招集を掛けた。

 

 

 とある山中の頂き……辺りの岩は崩れ、地面の野草は消し炭の如く、煤けていた。その際、力強く風を切る音が響く。

 其処に居たのは四鬼士の一角、焔のメランである。愛刀である炎の剣メラディウスを手に、佇んでいた。

 その時、背後にある一本の老木に振り返る。そして、メラディウスに炎を纏わせ、老木に刃を振り下ろした。

 老木は真っ二つに両断されたが、メランは飛び上がり、老木に追い討ちを掛けるがの如く一太刀、二太刀、三太刀と斬撃を入れた。

 すると老木を斬りつけた場所から黒い炎が発火し、とうとう燃え広がった木は音を立てながら倒され伏した。

 メランは、メラディウスを炎に戻して収納する。

 

「……山に篭り、修行を重ねる日々にも飽きて来たな……。最早、我の退屈を紛らせてくれる者は、ヤミヤミか……彼奴だけだ……」

 

 そう呟くと、メランは鬼門を発生させた。

 

「クク……少しは強くなったのだろうな、ガオゴールドよ……」

 

 と、傲岸不遜に笑いながら鬼門の中へと、メランは消えて行った……。

 

 

 

 その頃、街中では大多数のオルゲット達が暴れ回る事態であった。その集団の指揮を執るのは、ヤバイバだ。

 

「さァ、暴れろ! しっちゃかめっちゃかに壊し尽くせ‼︎」

 

 ヤバイバが勢い付いて、煽り立てる。オルゲット達は、その命令に従い金棒を振り下ろした。

 

「な、何だ、あいつらは⁉︎」

「に、逃げろォォッ‼︎」

 

 暴徒と化すオルゲット達から逃げ回る民間人。しかし、そんな悲鳴など、お構い無しと言った具合に、オルゲット達と金棒から放たれた光弾が車をひっくり返し、電柱を叩き折る等と暴挙を繰り返す。

 

 

「止めろッ‼︎」

 

 

 オルゲット達の前に立つ四人の影。テトムのテレパシーを聞いて集結した陽、大神、佐熊、美羽の四人だ。

 

「ン〜〜⁉︎ 来たな、ガオレンジャー……って、あれ⁉︎ お前は、あの時の⁉︎」

 

 ヤバイバは、美羽を見ながら思い出す。かつて、祈に襲い掛かった際に、凄まじい気迫にて自身を圧倒した、あの少女だ。

 何処か、ガオイエローに似た雰囲気を醸し出す、あの空気を……。

 

「私も、ガオレンジャーだからね‼︎ 」

「チッ……また、増えやがった……‼︎ まァ良い……見せてやれ、オルゲット達‼︎ 」

 

 ヤバイバは命令を下す。すると、オルゲット達の中途半端な角が鋭く伸び切り、体躯も筋骨隆々へと変わる。

 同時に、ヤバイバの外見も、より刺々しく口内に牙が生え揃い、角には緑色の紋様が浮かび上がって来た。手に持つ剣も、肥大している。

 

「ハーハッハッ‼︎ お前等が倒したトリケラオルグと、プテラオルグの邪気を吸収し、装甲ヤバイバにパワーアップしたのだ‼︎

 こうなりゃ、お前等なんざ『飛んで火にいる団子虫』よ‼︎」

「……其れを言うなら『飛んで火にいる夏の虫』じゃ無いか?」

 

 ヤバイバの誤った諺に対し、大神は訂正する。しかし、ヤバイバは気にする素振りなく、オルゲット達を率いて…

 

「よっしゃ、行くぜェ‼︎ ズッタズタに切り裂いたらァ‼︎」

 

 と、力を付けたヤバイバは、今迄の鬱憤を晴らさんとして、強化オルゲット達と共に襲い掛かって来た。

 陽は、G−ブレスフォンを起動させ……

 

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 

 と、ガオスーツを纏い変身する。

 

「天照の竜! ガオゴールド‼︎」

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

「豪放の大熊! ガオグレー‼︎」

「煌めきの鳳凰! ガオプラチナ‼︎」

 

「命ある所に正義の雄叫びあり‼︎

 百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎」

 

 ガオレンジャー達の気高い闘志が燃え上がり、邪気を撒き散らすオルグ達を迎え撃とうとしていた……。

 

 

「フフフ……ヤバイバ、良いわよ‼︎ 目一杯、時間を稼いでいて頂戴……‼︎ 最早、ガオレンジャー等、恐るるに足らず‼︎

 さァ、間もなくよ……私が腕によりを掛けて完成させた、この特製オルグシードを使えば、ガオレンジャーなぞ……フフフ……‼︎」

 

 ビルの上から戦いを見下ろしながら、ツエツエは不敵な笑みを浮かべた。その手には西瓜ほどの大きさである、ドリアンに似た形状のオルグシードが握られていた。

 

「ティラノオルグも力を目一杯、蓄えているし……ガオレンジャーを一網打尽にした後は私達を散々、虚仮にしたテンマやニーコを殺す‼︎

 そして、このツエツエが女王として、世界に君臨し続けるのよ‼︎」

 

 圧倒的な力を得て完全に調子付いたツエツエは最早、自分に恐れる者は何も無い、と言わんばかりに狂笑した。

 

 

 

 ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンをガンナーフォルムにして、オルゲット達を撃ち抜いて行く。

 しかし、強化オルゲット達は一発ぐらいでは倒れず、何度も立ち上がって来る。

 

「クッ…‼︎ 硬い⁉︎」

 

 やはり、光弾による攻撃より、ソードフォルムにして直接、ガオソウルを叩き込まなければ、倒す事は難しい。

 苦戦しているのは、ガオシルバー達も同様だ。オルゲット達の堅牢な肉体に反した素早い動作に、まともにダメージを与える事もままならない様子だった。

 

「……数が多すぎる上に、攻撃を躱し切れん⁉︎ 今迄のオルゲットとは違うぞ⁉︎」

「……司令塔は、ヤバイバじゃ‼︎ 奴を倒さん限りは、手も足も出ん‼︎」

 

 ガオグレーは、オルゲット達をグリズリーハンマーで叩き潰しながら、ヤバイバを指差す。

 成る程、確かにオルゲット達を嗾けて居るのは、ヤバイバだ。奴を何とか倒す事が出来たなら、オルゲット達を沈黙させる事が出来るかも知れない。しかし、ヤバイバの周りには、彼を守護するかの様に、オルゲット達で固められている。

 

「私に任せて‼︎ フェニックスアロー‼︎」

 

 ガオプラチナが、フェニックスアローに矢を番えた。放たれた矢は、ヤバイバを捉えたが、あと少しと言う所で、オルゲットの肩に当たって阻まれてしまう。ヤバイバは、ケタケタと嘲笑した。

 

「バーカ‼︎ 下手な矢なんざ、いくら射ても当たんねェんだよ‼︎」

「……馬鹿は、アンタだよ」

 

 ガオプラチナは底冷えする様な、冷たい声で言った。すると、オルゲットの肩に刺さった矢が燃え上がり、オルゲットの身体は炎に包まれた。

 

「な、何ィ⁉︎」

「フェニックスアローの矢に込められて居るのは、邪気を祓う聖なる炎! 擦り傷だって、オルグには致命傷と成り、体内に混入すれば中から、炎で焼き滅ぼす‼︎」

 

 勝ち誇っていたヤバイバは一転、自分達を倒し兼ねない武器を持つガオプラチナに戦慄した。

 

「クッ…‼︎ ガオプラチナを狙え‼︎」

 

 遠距離から自分達を倒せるガオプラチナを先に片付けようと、ヤバイバは守りで固めていた陣形を解く。オルゲット達の一糸乱れぬ動きが崩れ、有象無象の動きとなった。

 

「ヤバイバを守る者は無くなった‼︎ 行って、ガオゴールド‼︎」

「オルゲット共は俺達が引き受ける! 行け、ゴールド‼︎」

 

 ガオプラチナが指示を出し、ガオシルバーとグレーが、オルゲット達の攻撃を受け止めた。彼女の作り出した隙を逃すまいと、ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンを直立にした。

 

「ソードフォルム‼︎」

 

 ソルサモナードラグーンの銃口から光刃が出現し、行手を遮るオルゲット達を斬り伏せて行った。

 その切れ味は、ドラグーンウィングの時より遥かに上回って居る。

 

「ヤバイバァ‼︎」

 

 ガオゴールドはヤバイバの前に迫り、ソルサモナードラグーンを振り下ろす。ヤバイバも負けじと、自身の手に持つ短剣で防いだ。

 だが、そのヤバイバの単純な力さえも強化されて居るらしく、ガオゴールドと見事に拮抗した。

 

「クッ…‼︎ 負けて堪るかよォォッ!!!! 」

 

 ヤバイバは更に力を上乗せさせ、ガオゴールドを押そうとする。それは最早、執念さえ感じられる。

 しかし時折、ヤバイバは苦しそうに歯を鳴らして居る事に、ゴールドは違和感を持った。

 

「(……ヤバイバの様子が変だ? )」

 

 どうやら、ソルサモナードラグーンの斬撃に耐えて居る訳では無く、何やら痛みに耐えて居る様だ。

 しかし、考察をして居る場合では無い。と、ウカウカしていた隙に、体制を立て直したオルゲットが、ガオゴールドの背後を取った。

 

「危ない、ゴールド‼︎ 陽ァァ‼︎」

 

 ガオプラチナは、フェニックスアローを構えるが、オルゲット達の邪魔で矢が届かない。オルゲットの振り下ろした金棒が、ガオゴールドの頭部に直撃した。

 

「グッ⁉︎」

 

 ヘルメット越しとは言え、頭部に走る衝撃に、ガオゴールドは大きく怯む。ヤバイバは、その隙を待っていた、と短剣をゴールドに突き出すが……?

 突如、ヤバイバの短剣が弾き飛ばされた。と、同時にオルゲットも胴体から真っ二つに両断され、燃え上がる。

 

「な、お前は⁉︎」

「梃子摺って居る様だな、ガオゴールド」

 

 そのピンチを救ったのは、メランだった。メラディウスを払って、オルゲットの体液と火花を散らす。

 

「テメェ、メラン‼︎ 何で、オルグのテメェが、ガオレンジャーの味方をする⁉︎」

「味方? 何度も言わせるな、ヤバイバ。ガオゴールドは我の獲物だ、それ以外の奴に倒されたくは無いからな」

「な、何をォ⁉︎」

「……ふん、そんな事より……随分と苦しそうだな、ヤバイバ……」

 

 メランは、ただならぬ状況にあるヤバイバを見下ろしながら尋ねた。見れば、ヤバイバの全身から尋常では無い程に邪気が漏れ出て居る。

 

「恐竜オルグの一部を身に取り込んだか? 馬鹿な事を……煮え滾った熱湯を飲み干す様な物だ。自分の命を削って迄、束の間の力に縋り付いて手にした勝利に何の意味がある?」

「だ…だま…れェ‼︎ テメェなんざに、理解されようなんて爪の垢ほども思っちゃ居ねェ……‼︎」

 

 ヤバイバは邪気と同時に、多量の血を垂れ流しながら凄む。

 

「束の間の力だろうが……何だろうが……力となれるなら、何だってやるさ…‼︎ テメェ以外の全てを敵に回してでも、世界に反逆しようって決めた、アイツの為なら……‼︎」

 

 そう叫びながら、ヤバイバは溢れ出る邪気を体内に押し戻して再び、ガオゴールドに襲い掛かった。

 

 

 ガオシルバーはオルゲットを倒しながら、メランが、ガオゴールドを助けた事に驚いていた。

 だが、それ以上に驚いたのは……あの、プライドの高いヤバイバが、ガオゴールドを倒す為に、自分に過ぎたる力を身に取り込むとは……。

 不思議なものだが、かつてはガオシルバーも彼と同じだった。仲間を助ける為、我が身に邪気を取り込んだ結果、狼鬼と化してしまった……。

 しかし、それは仲間を守りたい、と言う彼の執念からだった。故に、ヤバイバの取った行動を一概には非難は出来ない。

 しかし……今の彼の姿は、余りに痛々しかった。恐らく、彼の言う“アイツ”とはツエツエの事に他ならないだろう。

 彼女とは、確かなる絆があり、互いに苦楽を支え合ってきた故の信頼もあった。だからこそ……。

 

「……なァ、シロガネよ……オルグにも友情なんてあると思うか?」

 

 急にガオグレーの発した質問に対して、ガオシルバーは振り返りながら……

 

「……さァな、だが……摩魅の様な娘も居るんだ……もしかしたら……」

 

 と、そんな希望を抱かずに入られなかった。もし、全てのオルグにも、そう言った感情があれば或いは……等と陳腐な希望だ。

 しかし、地球を守る宿命を背負った者として甘えは許されない。オルグが地球に仇を成すなら、それを食い止めなければ……。

 そんな思いは、ガオシルバーの持つガオハスラーロッドを強く握らせた。

 

「銀狼満月斬り‼︎」

 

 ガオハスラーロッドから放たれる銀色の斬撃が、オルゲット達を切り捨てた。ガオグレーもグリズリーハンマーを振り下ろす。

 

灰熊衝波(はいぐましょうは)‼︎」

 

 グリズリーハンマーから放たれた灰色の衝撃波が、オルゲット達を吹き飛ばした。ガオプラチナは再び、フェニックスアローを番える。

 

鳳凰翼撃(ほうおうよくげき)‼︎」

 

 フェニックスアローから放たれる鳥の羽根を模した炎の矢が、オルゲット達を焼き尽くして行く。

 彼等の活躍で、オルゲット達は概ね片付いた。後は、ヤバイバさえ倒せば……。

 ガオゴールド達の下へ、仲間達は集結した。しかし、ヤバイバは益々、苦しそうに呻いていた。空気を詰め過ぎた袋が裂け、隙間から空気が漏れ出る様に、邪気が溢れ出して来る。その邪気は執拗に、ヤバイバの身体を傷付け、あらゆる箇所から緑色の血が噴き出した。

 

「……もう駄目だな……恐竜オルグの邪気は、ヤバイバの身体には合っていない。あと数時間と待たずに、奴の身体はバラバラに四散してしまうだろう……」

 

 メランは吐き棄てる様に言った。愛刀メラディウスを下ろし、もう戦う素振りを見せない。

 

「……さて……ヤバイバは、もう戦えまい。次は我と戦え、ガオゴールド」

「助けようとは思わないのか?」

 

 この期に及んで、ガオゴールドとの決着に拘るメランに対し、ゴールドは嫌悪感を露わにした。

 敵とは言え、ヤバイバのあんな痛々しい姿を見せられたら、どうしても情けを掛けてしまう。そんなガオゴールドに対し、メランは冷たくせせら笑った。

 

「助ける? 何故だ? 身の程を弁えず、過ぎた力に身を委ねた愚者を助ける等とは……愚の骨頂も甚だしいわ」

「何だと⁉︎」

「それに奴は、こうなる事は最初から予測はしていた。それを承知の上で、貴様等に戦いを挑んだ……。

 今まさに死に掛けている者に慈悲を掛けるのは人間くらいのもの…それは、敗者への侮辱行為だ。

 奴を思うなら、今この場で楽にさせてやれば良い……それだけだ」

 

 冷淡な彼の言葉に、ガオゴールドは言葉を失う。確かに自分の使命は、オルグを倒す事だ……けど……少なくとも、ヤバイバは確かな覚悟を持って、戦った……そんな彼を踏み躙るなんて到底、出来やしない……。

 

「あらあら、やられちゃったの? ヤバイバ……」

 

 急に声がした方を見ると、ツエツエが歩いて来る。ヤバイバは、膝を突きながら彼女に手を差し出す。

 

「……スマネェ……邪気の副作用でよ……手ェ貸してくれねェか?」

 

 しかし、ツエツエばヤバイバの手を、まるで汚物に集る蝿を追い払う様に杖で払い除けた。

 

「つ…ツエツエ⁉︎」

「もう、アンタは用無しよ、ヤバイバ。忘れたの? オルグの掟では、戦えなくなった者や役に立たない者は死ぬしか無い……」

「じ…冗談だろ? 長い付き合いじゃねェか……俺達は……」

「“仲間”だ、と言うつもり? フン、自惚れるんじゃ無いわよ。アンタとの腐れ縁も、これで終わり。オルグの支配者は一人で沢山よ」

「つ……ツエツエぇ……‼︎」

 

 あっさりと見限られたヤバイバは悲しみに満ちた表情で、這いつくばる。こんな筈じゃ無かった……テンマに虐げられても、ニーコや四鬼士に嘲られても、鬼ヶ島を脱退し分裂した際に彼女に付いて行ったのも全ては、ツエツエを思うが故だった。その思いを、ヤバイバは見事に踏み付けにされた。

 余りの言い草に、ガオゴールドはツエツエに怒りを滲ませた。

 

「……お前は……これ迄、共に戦って来たヤバイバに対し、情の欠片も無いのか⁉︎」

「ある訳無いでしょ? 元々、私は一人で甘い汁を吸うつもりだったもの。ま、私がオルグの支配者になった暁には感謝しててあげない事もないわ」

「き、貴様ァ…‼︎」

 

 ツエツエの非情かつ下劣な考えに、ガオゴールドは完全に激怒した。それは、他の仲間も同様だ。

 

「救い様の無い奴だな…」と、ガオシルバーは唸る。

「元より救うつもりは無いがの…」と、ガオグレーは吐き棄てた。

「どの道、敵には変わらない。此処で倒す!」と、ガオプラチナは言った。

 メランも、メラディウスを構えて立ち並ぶ。

 

「おやおや、四鬼士の一角たるメランが、ガオレンジャーに味方するとは、どう言う風の吹き回しかしら?」

 

 ツエツエの言葉に、メランは冷笑した。

 

「ガオゴールドと戦うには、貴様が邪魔だからだ。先ずは邪魔な蛆虫を駆除してからだ」

「蛆虫…とは、大した言い草ね。良いわ、お前達に見せてやろう‼︎ オルグの巫女にして、次世代のオルグクイーンであるツエツエの切り札を‼︎

 

 〜来たれ、来たれ! 太古の地に闊歩し、地上に君臨した一族の末裔よ!

 今、その力を解き放ち、万物を喰らい尽くせ‼︎

 鬼は内! 福は外‼︎〜」

 

 ツエツエが杖を振りかざし、地に突き立てる。すると、地面に巨大な鬼門が現れた。その中から殊更、巨大な腕が伸びて地面を掴むと……。

 

 

「グオアアァァァァァァッ!!!!!」

 

 

 恐ろしい咆哮と共に地面から這い上がって来たのは、恐竜オルグの一角ティラノオルグだ。しかし、その姿は最初から巨大で眼は紅く血走り、頭部に大きく湾曲した角が生えていた。

 

「さァ、これから始まるのよ‼︎ このツエツエ様の君臨する世界が‼︎」

 

 圧倒的な力を従え、鬼の巫女の高らかな笑いが響き渡った……。

 

 

 〜遂に、ツエツエの従える古代のオルグ、ティラノオルグが姿を現しました‼︎ かつてのオルグの王をも手に焼いた怪物を相手に、ガオレンジャーは如何にして戦うのでしょうか⁉︎〜



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quest42 暴竜の侵撃‼︎

 その頃、竜胆中学校では……剣道部が、体育館に集まっていた。部員達は各々に相手を組み、掛かり稽古に励んでいる。

 内の二人、祈と千鶴もそうだ。

 

「宜しくお願いします‼︎」

「行くよ…!」

 

 先には対立関係にあった二人だが、今では良き部員仲間だ。特に祈を、先輩としても異性としても意識している千鶴からすれば、彼女と組めるのは最高の御褒美である。

 とは言え稽古だとしても、痩せても枯れても剣道家の娘の千鶴は決して手を抜かない。何時しか、他部員達も掛かり稽古を中断し、緊迫した空気を醸し出す二人を見守っていた。

 先に踏み込んだのは千鶴だ。祈の間合いに入り、得意の早斬りで彼女の小手を狙う。しかし、祈は千鶴の態勢に合わせる様に後退し、竹刀を振り下ろした千鶴の面に竹刀を当てた。

 やっぱり強い。千鶴は改めて、祈の強さに感服した。これ迄、自分は生まれついての天才である、と自負があった。

 だが今となっては、それは単なる驕りであった、と千鶴は痛感せざるを得なかった。祈も天才だった。

 しかし、それは千鶴の様に天賦の才と有名な剣道家の娘と言う恵まれた環境に育った“生まれついての天才”では無く、祈の場合は絶え間ない努力と訓練の積み重ねの末に身に付いた“汗と涙の天才”だった。

 彼女が、この領域に達するのは決して楽では無かった筈。それこそ、長い年月を経て、積み重ねに更に積み重ねた末に漸く、これだけの強さを得たのだろう。

 

「はい、其処まで‼︎ 」

 

 小手川先生が声を張り上げる。部員達は漸く休める、と肩を伸ばした。

 

 

 面を外し、10分間の休憩後に掃除をして解散だ。祈は長い髪を稽古中は結ってあるが、ヘアピンを外して髪を下ろした。

 

「祈せーんぱい!」

 

 相変わらず、千鶴は稽古が終わるとスキンシップを図ってくる。自分を慕う千鶴には、いい加減に慣れて来たが矢張り同性とは言え、ベタベタと纏わりついて来られるのは、抵抗がある。

 

「ね、先輩? 今日、この後、暇ですか? 来週の交流試合の打ち合わせをしません?」

「え? 良いよ、じゃあ部室で先輩達と……」

 

 珍しく真面目な理由だった、と祈は安堵した。しかし、千鶴は首を振る。

 

「部室じゃ無くて! 今日、私の家、誰も居ないんです。だから、二人っきりで…ね?」

 

 やっぱりか…と千鶴は暑さから来る目眩と共に、同時に頭痛に襲われた。

 

「…なんで、千鶴の家で二人っきりでなの」

「…もう…分かってる癖に♡ 打ち合わせしたら、一緒に……♡」

 

 最近、千鶴のスキンシップが過剰になって来た気がする。二人の様子に他部員達は苦笑していた。

 

「…あんた達、仲良くなったわねェ…。つい最近まで敵対していたなんて嘘みたい」

「垂水部長、止めて下さいよ‼︎」

 

 垂水部長の茶化する口ぶりに対し、祈は猫の様に戯れついて来る千鶴を引き離す。

 その際、他部員の女生徒が会話に参加して来た。

 

「そう言えばさ…祈、さっき男子剣道部の先輩に告られてたじゃ無い」

 

 その言葉に対し、千鶴は慌てふためいた。

 

「そ、そんな⁉︎ 誰ですか、祈先輩‼︎ 名前は誰ですか⁉︎」

 

 さっきとは打って変わり、動揺している千鶴に対し、祈は苦笑する。

 

「別に慌てる必要なんか無いよ。男子剣道部の松胴先輩、千鶴も知ってるでしょう?」

「ま、松胴先輩? 駄目です、祈先輩‼︎ あの人、大の女たらしで有名なんですよ‼︎ 気に入った女子には取っ替え引っ替え、声を掛けてるって噂だし、交流試合先の部員にも色目使ってるって……‼︎」

 

 千鶴は必死になって松胴と言う男子部員のネガティブな部分をアピールした。

 

「だ、大丈夫だから‼︎ 別に松胴先輩と、お付き合いするつもりは無いの‼︎ もう丁重に、お断りしたから‼︎」

「ほ、本当ですか⁉︎ 本当に本当ですか!?!?」

 

 完全に千鶴は取り乱していた。他部員達も、これが最近まで傲慢な態度で反抗していた千鶴と同一人物か、と疑う程だった。

 例えるなら、まるで飼い主の捨てられる寸前の飼い猫の様だ。

 

「うん、本当だってば‼︎」

「良かったァァ……祈先輩! 浮気なんてしないで下さいね‼︎」

 

 千鶴は心底、ホッとしていたが、祈が松胴の告白を断ったのは理由があった。そもそも、祈が男子から告白を受けたのは、此れが初めてでは無い。自惚れるつもりは無いが、祈は其れなりにモテるのだ、

 しかし、其れ等の告白は全て断って来た。祈の心の中には既に意中の人が居るからだ。兄の陽……祈にとっては、彼が理想の男性だ。

 兄ではあるが、血は繋がっていない。その想いは歳を重ねれば重ねる程に大きくなって行く。しかし、この想いを吐き出すつもりは無い。

 陽は自分を妹として愛しては居るが、異性として意識はしていない。それは明白だった。無理に詰め寄って、今の心地良い関係を崩したくは無い。兄と妹……それだけで十分だった……。

 等と考えていると、途端に陽に逢いたくなった。今、また陽は、オルグとの戦いに身を投じているのだろうか……? 自分に出来る事は、何も無いのか? ガオの巫女アマテラスの力を受け継ぐが、戦いに傷付く陽の為にしてやれる事は無いのか……そんな無力な自分が嫌になる…。

 

「…んぱい…‼︎ 祈先輩‼︎」

 

 思案に暮れていた祈は、千鶴の呼び掛ける声にて我に帰った。

 

「どうかしたんですか? 」

「エッ? あ、ゴメン! 大丈夫!」

 

 千鶴に心配を掛けまい、と祈は笑顔で返した。

 

 

 

 その頃、ガオレンジャーの前には、ツエツエに召喚された、ティラノオルグが迫っていた。以前、戦った時より、ずっと大きく、ずっと屈強な肉体となっており、百戦錬磨のガオゴールド達は思わず後退した。

 

「オホホホ‼︎ どう⁉︎ これが、あらゆるオルグを喰らいまくった結果、より強大に進化したティラノオルグの姿よ‼︎」

 

 ツエツエは高らかに宣言した。ティラノオルグは血走った目で、ガオレンジャー達を見据える。

 更に、ツエツエは懐から大きなオルグシードを取り出す。

 

「これが何が分かる? 私が、恐竜オルグや様々なオルグ達の邪気をの凝縮させて造り出した改良種オルグシードよ‼︎

 此れを食したティラノオルグは、更に凶暴性を増して暴れ回り、お前達を襲い掛かるのよ‼︎ さァ……お食べ‼︎」

 

 そう言うと、ツエツエに大きく開かれたティラノオルグの口内に投げ入れた。途端に、ティラノオルグは激しく咆哮する。

 すると背中にプテラオルグの翼を模した突起が、胸部にトリケラオルグの顔が浮かび上がった。更に皮膚上には、様々なオルグと思しき異様な顔がびっしりと現れ、さながら人面瘡の様な醜悪な容姿となった。

 ティラノオルグは牙を剥き出しにして、ガオレンジャーを威嚇した。

 

「オホホホ‼︎ サァ、恐竜キマイラオルグの誕生よ‼︎ ティラノオルグ、ガオレンジャー達を喰らい散らすのよ‼︎」

 

 ツエツエは命令を出す。だが、ティラノオルグは動かない。反対に、ツエツエの方を見た。

 

「何をしているの⁉︎ さっさと、おや……」

 

 業を煮やしたツエツエは、ティラノオルグを怒鳴る為、振り向く。すると、ティラノオルグの巨大な口が、ツエツエに迫っていた。

 

「えッ?」

 

 間の抜けた声を出すツエツエ。その瞬間、ティラノオルグの口がツエツエに喰らいつき、持ち上げる。

 

「な、ち…違う‼︎ コッチじゃ無い…‼︎」

 

 ツエツエは杖でティラノオルグの顔を叩きつけるが、既に手遅れだった。その鋭い牙が、ツエツエの身体を貫いた、

 

「があァァァッ!!?」

「ツエツエぇぇ⁉︎」

 

 ツエツエの絶叫と重なる様に、ヤバイバが叫ぶ。しかし、ティラノオルグは血を流すツエツエをゆっくり咀嚼した。

 

「……は、早過ぎたの⁉︎ て…敵と…味方の…区別も付かない…なんて……‼︎」

 

 噛み砕かれながら、ツエツエはティラノオルグの凶暴性を見誤ってしまった事を悔いる。元々の凶暴性は、ツエツエの術で封じ込めていたが、多数のオルグを捕食し、かつ、オルグシード改を喰らった事で、ティラノオルグの凶暴性が跳ね上がり、ツエツエの術さえも無力化してしまったのだ。しかし、気付いた時は、もう遅い。

 凄まじい顎の力でツエツエの身体は、嫌な音を立てつつ口の中に吸い込まれていく。苦しげに、ツエツエは口から血を吐き手に持っていた杖を取り落とした。

 

「ツエツエッ! テメェ、ツエツエを離せ! お前を封印から解いてやったのは、俺達だぞ‼︎」

 

 ヤバイバは相棒を飲み込まんとするティラノオルグに怒鳴るが、彼の悲痛な声はティラノオルグには届かない。その際、ツエツエは足下で喚き散らすヤバイバを見て、ツエツエは涙を流す。

 

「ご…ゴメン…ヤバイバ……私が……ば、馬鹿だったわ……‼︎ あ、アンタ…だけでも……逃げ…て……‼︎」

 

 ツエツエは恐竜オルグと言う切り札さえあれば、オルグの支配者になれると信じていた。だが、それは、とんだ間違いだったのだ。

 考えて見れば、百鬼丸や名だたるハイネス達でさえ、手を持て余した怪物を、自分が完全に制御出来る筈が無かったのだ。しかし、テンマやニーコ、四鬼士と言う力の強い者達に対抗するには、それを上回る力が必要だった。詰まる所、ツエツエは恐竜オルグに手綱を掛ける所か、その手綱で目一杯、自分の首を絞めている他無かったのだ 

 と、己の浅はかさを呪いつつ、ティラノオルグの牙が彼女の内部まで達し、五臓六腑を噛み潰した。

 

「グフゥゥッ!!?」

 

 最期の断末魔を上げ、ツエツエはティラノオルグの口の中へ消え去り、その骸は彼の胃袋の中に収められた。

 ツエツエを飲み込んだティラノオルグは満足気に喉を鳴らし、舌に残されていた物を、ぺっと吐き出した。

 呆然と佇むヤバイバの足下に転がり落ちたのは、ツエツエのツノだった。

 

「そ、そんな……嘘だろ? ツエツエ……」

 

 ヤバイバは、ティラノオルグに噛み砕かれて、見る無残な有様になったツエツエのツノを持ち上げ、がくりと膝を突いた。

 ヤバイバが、ツエツエの死を直面したのは、これで二度目だ。前の戦いで、オルグ忍者ドロドロの作戦で盾にされ命を落とした、あの時と…。

 あの時は、ヤバイバの努力で、ツエツエは生き返った、しかし、二度死んだツエツエは、もう鬼地獄より引き上げる事は叶わない。

 通常、オルグは死ぬと鬼霊界に堕とされるが、ツエツエはデュークオルグだ。ハイネス達と同様、鬼地獄に堕ちる。

 しかし、二度死んでしまったオルグは、鬼霊界にも鬼地獄にも行かない。邪気の残り滓の様な状態で現世を彷徨い続け、やがて消滅するしか無い。これは、オルグの巫女であるツエツエから聞いた話だ。

 一度は切り捨てられたが、それでもヤバイバにとってツエツエは長年に渡り苦楽を共にした仲だ。簡単に諦め切れる物ではない。

 しかし、もう、どう足掻いてもツエツエには二度と会えないのだ。ヤバイバの足下に転がる彼女の杖が、力無く転がるのみだ。

 

「……ヤバイバ……」

 

 ガオゴールドは敵ではあるが、彼の余りに報われない結末に同情せざるを得ない。そもそも、恐竜オルグの力を図り損ねたのは、彼等の失態だ。しかし、それでも彼等の信頼は本物だった筈だ。

 強大な力を得て慢心したツエツエだが、それでも最後に見せた彼女の顔は紛れも無い、ヤバイバを気遣う顔だった。

 と、その際、ティラノオルグは笑っていた。裂けた口を捲りあげ、笑っている。いや、そう見えただけに過ぎないが……ガオゴールドの中で怒りが込み上げて来る。

 

同族(ツエツエ)を殺していて……何を笑っている……?」

「ゴールド?」

 

 様子のおかしいガオゴールドを、ガオシルバーは尋ねる。しかし、変わらずままティラノオルグを厭らしい笑みを浮かべながら、歩み寄って来る。遂に、ゴールドの怒りが爆発した。

 

 

「笑うなァァァッ!!!!!!!」

 

 

 ガオゴールドは怒りに任せて怒鳴り付けた。

 

「許さない……‼︎ お前を……僕は……絶対に……許さない…‼︎」

 

 幾ら、オルグと言えど命を無碍に扱っていない筈が無い。しかし、このティラノオルグは、命を軽々しく踏み躙った。決して許せる筈がない。

 あの時と同じだ。祈を殺そうとした魏羅鮫オルグに対し、やり場の無い怒りを抱いた、あの時と……。

 ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンを構えた。

 

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 

 撃ち出された宝珠が天に舞い上がり、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンが召喚される。やがて、合体しガオパラディンへと姿を変えた。ガオパラディンに搭乗したガオゴールドは、ティラノオルグの前に対峙する。

 

「ユニコーンランス‼︎」

 

 ガオパラディンの右腕であるユニコーンランスがティラノオルグの身体に突貫するが、堅牢な皮膚には傷一つ付ける事が出来ない。

 

「グリフカッター‼︎」

 

 左腕のグリフカッターを全弾、ティラノオルグに命中させても、怯ませるには至れない。それ所か、ガオネメシスに巨大な尻尾を叩き付けて来た。ガオパラディンは堪らず、吹き飛ばされてしまう。

 ティラノオルグは倒れたガオパラディンにマウントを取る様に両腕を叩き付けて来る。激しい火花が走り、ガオパラディンは右に左にと転がされた。

 

「な、何という力だ……‼︎」

 

 ガオシルバーは、ティラノオルグの強さに絶句するしか出来ない。しかし、このまま放置しては置けない。

 

『百獣合体‼︎』

 

 ガオシルバー、ガオグレーも宝珠を撃ち上げ、ガオアキレスとガオビルダーとして加勢を始めた。

 ガオアキレスは、ティラノオルグの背面に回り込み、グランパスソードで斬り付けるが、刃は皮膚に通らない。ガオビルダーも、リンクスパンチやボアーショットで正面からぶつかるが、逆に怒ったティラノオルグは、尻尾でガオアキレスを転倒させ、その巨大な口でガオビルダーの右腕に噛み付いた。ガオビルダーは左腕で引き離そうとするが、とうとうティラノオルグの渾身の力で噛みちぎられてしまい、そのまま吹き飛ばされてしまう。

 ガオパラディンは、戦闘不能寸前にまで追い込まれたガオビルダーに替わって、再び立ち上がる。

 

「百獣武装‼︎」

 

 倒れたガオビルダーの両腕、ガオボアーとガオリンクスを百獣武装にて装備した。

 

「ガオパラディン・ストロングアーム‼︎」

 

 パワー型のティラノオルグには、パワーで対抗せんとして、リンクスパンチやボアーパンチを撃ち込んでいく。ガオアキレスも、激しく飛び回りながら翻弄しようとする。

 だが突然、ティラノオルグの背中にプテラオルグの巨大化した翼が出現し、空へと舞い上がる。

 空中へと逃れたティラノオルグの口内からは、凝縮された邪気の塊が吐き出された。塊はガオアキレスに衝突し、倒されてしまう。

 

「…なんて力だ‼︎」

 

 ガオゴールドは凄まじい力を持つティラノオルグに戦慄を覚えた。空中から、二発目の邪気弾を放とうと口を開けるが……。

 突如、ティラノオルグの翼が片方、炎に包まれ切断された。ティラノオルグは、そのまま地面に落下してくる。

 すると、ティラノオルグの背に降り立ったのは、メランだ。炎の剣メラディウスに炎を纏わせている。

 

「…フン…身体が大きければ、有利と言う事は無い。寧ろ、的が当たりやすくなって好都合だ…」

 

 メランは、ニヤリと笑う。遥かに体躯の異なるティラノオルグを一刀の下に斬り伏せるとは……ティラノオルグ以上に、メランも規格外の化け物だ。しかし、怒り狂ったティラノオルグは牙を剥き出しにして起き上がる。メランは飛び上がり、メラディウスを逆手に持つと纏わせていた炎が伸びた。

 

「炎に決まった形など、ある筈がない……小さな燻り火だろうが、燃え広がれば、やがて全てを飲み込み焼き尽くす……故に万物を侵略し歯止を知らぬ炎こそ……最強なのだ…‼︎」

 

 メランは長く伸びたメラディウスを降り下ろす。すると、ティラノオルグの両眼を焼き抉った。

 凄まじい激痛に、ティラノオルグは苦しげに、のたうち回った。だが、メランは手を緩める事なく、今度は巨木の如く太い尻尾に降り下ろした。尻尾は焼き斬られ、吹き飛ばされると同時に灰となった。

 精霊王三体を寄せ付けない強さを持つティラノオルグを、等身大の体躯であるメランは、まるで赤児の手を捻るかの様に手玉に取り、まるで試し斬りする様に部位破壊して行く。

 しかし、当のメランは不服そうだ。

 

「……ふむ……やはり、この程度か。実戦を怠ると、勘が鈍るか。だが……暇潰しにはなったわ……」

 

 メランは不満そうだが、何処か満足げにゴチる。暇潰しを兼ねて、ティラノオルグと一戦、交えたが彼の期待に沿う物では無かったらしい。

 しかし、間近で自身の終生のライバルである、ガオゴールドの強さを再確認出来た事には満足したらしい。

 メランは、メラディウスを炎に戻して鬼門を出現させた。

 

「……さて、我は帰る事にする。出来れば今日、貴様との因縁にケリを付けたかったが、まだまだ楽しみは後になりそうだ。

 ガオゴールド! 次に相対する日までに精々、腕を磨いておけ。我を失望させてくれるなよ?」

 

 そう言い残し、鬼門の中へと消えていくメラン。彼の後ろ姿を見送りながら、ガオゴールドは改めて彼の強さを間近で見た。

 自分達が苦闘する敵も、メランにとってはや暇潰しの延長でしか無いと言う事実。実際の所、メランは先程のティラノオルグに対しても、本来の実力の半分も出していない。その上で、あの強さである。

 何れにしても……ティラノオルグと梃子摺っている様では、メランに勝つ等とは夢のまた夢である。

 ガオゴールドは体勢を直し、右腕のガオボアーに突き出す。

 

「ボアーガトリング‼︎」

 

 ガオボアーの鼻から発射されるエネルギー弾が、ティラノオルグの身体に直撃する。先程はダメージを与えられているとは思えなかったが、メランに痛めつけられて、相応に弱体化したのか、大きく揺らぐティラノオルグ。

 しかし、目を潰されても尻尾を失っても、ティラノオルグは未だに倒れる事は無い。腐ってもオルグ……と言う事か……。

 更に言えば、先程からの連戦でガオパラディンはかなりのガオソウルを消費し疲弊している。あと残されている、ガオワイバーンとガオナインテールを出すしか無いが、果たしてティラノオルグにどれ程のダメージが見込めるか……次で決めなければ、ガオゴールド達が危ない。

 

 と、その時、ガオパラディンの頭上から光が差す。何事かと見上げれば、空間が歪んでいるのが見えた。

 すると、ガオプラチナが戦場の真下に立ち、空間に向かってフェニックスアローを射掛ける。

 飛び立った矢が空間を切り裂くと、隙間から巨大な幻影が覗く。

 

「ガオゴッド⁉︎」

 

 其れはパワーアニマルの神、ガオゴッドだ。神々しい上半身を見せながら、ティラノオルグを見据える。

 

 〜すまぬ、ガオプラチナ……古より蘇りし鬼の眷属よ……これ以上の狼藉は許さぬ…〜

 

 ガオゴッドが手を振ると、降り注ぐ雷がティラノオルグに直撃した。雷の雨に、苦しむティラノオルグ。

 と、更にティラノオルグの足元に結界が現れ、巨大な下半身が瞬く間に凍り付いた。

 

「ガアァァァッ!!?」

 

 ティラノオルグは巨木な氷柱に身体を貫かれ、動きを封じ込められてしまう。

 見上げれば、ガオズロックがガオゴッドの側を飛来し、亀岩の上にガオマスターが立っている。手にはフルムーンシールドを持っている。

 

 ~行け、若き戦士達よ‼︎ 活路は見出した、後はお前達が止めを刺せ‼︎〜

 

 〜ガオゴールド、行って‼︎〜

 

 ガオマスターとテトムが叫ぶ声がした。ガオゴールドは内心で感謝した。ガオゴッド、ガオマスター、そして、メラン…。

 神様や始祖の戦士、そして敵であるメランにまで御膳立てされるとは……居た堪れない気持ちになって来る。だが、落ちこぼれだからこそ、出来る事がある。

 それは最後まで諦めない事。例え、危機的な状況にあったとしても、諦めずに突き進む。それだけだ。

 

「ガオシルバー、ガオグレー‼︎ まだ戦えるか‼︎」

 

 マスクを通じて、二人の仲間に呼び掛ける。すると、シルバーとグレーの言葉が返って来た。

 

 〜ああ! ガオアキレスも、戦えるそうだ‼︎〜

 

 〜ガオビルダーもじゃ‼︎〜

 

 二人の意思を聞き、ガオゴールドはガオナインテールとガオワイバーンの宝珠を取り出す。

 

「幻影武装‼︎ ガオパラディン・アロー&ウィップ‼︎」

 

 右腕にガオナインテールを左腕にガオワイバーンを武装し、ガオパラディンはワイバーンアローにテールウィップを番える。

 

「風雷一矢! テールスティンガー‼︎」

 

 撃ち出されたテールウィップに風と雷のエネルギーが纏わり、ティラノオルグの大きく開かれた口内から侵入し、上顎を貫通した。

 矢張り……身体は恐ろしく強固でも口の中は柔らかい。ならば、奴の体内を集中して攻撃すれば……。

 

「ティラノオルグの口の中を狙え‼︎」

 

 ガオゴールドが叫ぶ。両腕を復活させたガオビルダーが右に、回復したガオアキレスが左に並び立つ。

 

 

『獣神三烈! アニマルトリニティー‼︎」

 

 

 それぞれの精霊王の胸部…ガオドラゴン、ガオグリズリー、ガオダイルは口から放たれる三つの光線が合体して、一つの巨大な光線となって放たれた。その光線は、ティラノオルグの口内に直撃する。

 膨大なエネルギーが体内に蓄積して行き、苦しげに口を閉じようとするが、既に溜まりに溜まったエネルギーはオルグの身体から漏れ出ていき……。

 凄まじい爆音と共に立ち上がる巨大な火柱……。やがて、頭部を破壊されたティラノオルグが、ズルズルと崩れ落ちて行き、やがて身体に亀裂が生じたかと思えば、風化した化石の様に風に撒き散らされて行った。

 

 

「やったァァ!!!」

 

 

 ガオゴールドは勝利に歓喜した。同時に、ガオソウルを使い果たした事で変身は解けてしまったが、辛うじて勝つ事が出来た。

 大神、佐熊も変身がギリギリで解除されたが、勝利を掴めた事に歓喜する。三体の精霊王は、各々の右腕を掲げて天を衝く。

 

 

 

 ティラノオルグを倒した事で、陽達は姿を消した精霊王を尻目にガオズロックへ帰還した。テトムも笑顔だ。

 

「皆…良くやってくれたわ‼︎」

 

 美羽もボロボロになった陽に駆け寄る。目には薄っすら涙を浮かべている。

 

「……陽、無事で良かった……‼︎」

 

 ツクヨミも、三人の戦士達の健闘ぶりに感心している。

 

「見事! しかと見届けたぞ‼︎」

 

 皆から称賛を受けて、陽は今更になって疲労が押し寄せて来た。

 

「……僕一人の勝利じゃ無いよ……。大神さんや佐熊さん、美羽やガオマスター、ガオゴッドの力が有って初めて勝てたんだ!」

「……私は?」

 

 いつの間にか、陽の背後に回り込んでいたソウルバードのこころが不満そうにしていた。

 

「そうだね……こころもありがとう……‼︎」

 

 そう言われて、初めてこころは照れ臭そうに笑顔を見せた。急に、テトムは真剣な表情を見せる。

 

「でも、戦いはこれからよ‼︎ 本当に倒さなくてはならない敵は未だ居るわ‼︎」

「ああ、そうだな……戦いは、まだまだ終わらない……‼︎」

「確かにのォ……!」

 

 疲れを身に受けながらも、ガオネメシスやテンマと言った、これから戦うであろう敵達を思い浮かべる。

 奴等を倒さない限り、ガオレッド達を救い出す事は出来ない。それを成し遂げたとき、改めて真の勝利となるのだ。

 

「あ! そう言えば、ヤバイバは⁉︎」

 

 陽は思い出した様に、戦いの渦中に居たヤバイバの名を言った。あの戦いは騒ぎの中、ヤバイバの姿を確認出来ていないからだ。

 

「問題無いだろう。あいつ一人では大した事は出来ん」

 

 大神はサラッと、ヤバイバに対して失礼な言葉を言った。だが実際に、ツエツエと言う知能派と行動して、初めてヤバイバは厄介さを見せるが、単体では戦闘力も行動をさしたる問題にはならない。

 現在、最も危険視すべきなのは、ヤバイバ等より、鬼ヶ島に居るテンマ率いるオルグ本隊と、ガオネメシスだ。

 だが…陽は内心、嫌な予感が、どうしても拭えずに居た。ヤバイバは大きな災いにはならないだろうが、ツエツエを失った彼を放置して本当に良かったのか、と言う不安が胸中に騒めく。しかし、今は勝利を素直に喜ぶ事にした。

 

 

 その頃、ヤバイバは戦いはドサクサに紛れて廃墟と化したビルに潜んでいた。手にはツエツエのツノと彼女の形見たる杖がある。

 

「待ってろよ、ツエツエ……‼︎」

 

 そう言って、ヤバイバは彼女のツノと共にオルグシードを即席の台座の上に置いた。そして杖を持って、何やらブツブツと唱え始めた。

 

『死したるオルグ、ツエツエの魂を宿す欠片よ……再び、邪気を取り込み此岸へと蘇り給え……』

 

 そう、ヤバイバはツエツエを蘇らせようとしていた。現在、彼女の魂は四散しているが、オルグにとっては命の次に大切な存在であるツノを回収出来たのは不幸中の幸いだった。

 ツノには彼女の邪気と魂の情報が残されている。それとオルグシードを使えば、時間は掛かるが死んだオルグを蘇らせる事が可能だ。

 オルグ巫女であるツエツエから、そのやり方を聞いていたが、この復活にはデメリットがある。必ずしも復活出来るとは限らないし万が一、復活出来たとしても、其れは全く別のオルグ……下手をすれば、ツエツエとしての記憶、人格さえも損なわれてしまう可能性がある。

 だが、それでもヤバイバはツエツエに蘇って欲しい。その一心で杖を振るう。しかし、ヤバイバの苦労は報われず、ツノもオルグシードも変化は無かった。深い絶望感に苛まれたヤバイバは座り込む。

 

「チクショウ…‼︎ ガオレンジャーは倒せねェし、ツエツエも生き返らせれねェ……鬼ヶ島にだって帰るに帰れねェし……こんなもの……‼︎」

 

 完全に自棄に陥ったヤバイバは苛立ち紛れに、杖を投げ捨ててしまった。その後、座り込む。

 

「……スマネェな、ツエツエよォ……俺一人じゃ、どうする事も出来ねェ……」

 

「そうでも無いぞ?」

 

 ふと声がした為、振り返ると、其処には意外な人物が居た。

 

「お前は…ガオネメシス?」

 

 其れは、ガオネメシスだった。彼は、ヤバイバに近寄る。

 

「ヤバイバ、だったな? もし、お前が望むなら、ツエツエを蘇らせる方法を教えてやらんでも無いぞ」

「ほ、本当か⁉︎」

 

 ヤバイバは思いに寄らない提案に食い付いた。すると、ガオネメシスは、ヤバイバの眼前に迫る。

 

「もし貴様に、その気があるなら……この俺の今から言う事を手伝え。全てが終われば、ツエツエを生き返らせてやる……」

「ど、どうしろってんだ⁉︎」

「クックッ……それはな……」

 

 訳の分からないままでいるヤバイバに反し、ガオネメシスのマスクの奥では妖しい光が、チラついていた……。

 

 

 〜烈戦の末、遂に恐竜オルグを討ち滅ぼしたガオゴールド達。しかし、相棒を失い、茫然自失となるヤバイバに、ガオネメシスが近づいてきました! 果たして、彼の企てる新たな計画とは何なのでしょうか⁉︎〜




ーオリジナルオルグ
−ティラノオルグ
ツエツエが蘇らせた古のオルグ、恐竜オルグの一角。最強の肉食獣ティラノサウルスの化石に邪気が宿り誕生した。
元々、知性の欠片も無い制御不能の怪物だが、ツエツエの術で操られていた。しかし、大多数のオルグ魔人を食し、更にオルグシード改を食べた事で、絶大な力と引き換えに、ツエツエの掛けた術を無力化し、ツエツエまで捕食してしまった。
トリケラオルグやプテラオルグの邪気を取り込み、外見にはトリケラオルグの頭部やプテラオルグの翼を有する、恐竜キマイラオルグと化している。

キャラモチーフは、星獣戦隊ギンガマンに登場した魔獣ダイタニクス。


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quest42.5 過ぎ去りし思い出

※今回は本編から外れた、大神と佐熊のメイン回です。千年前、佐熊が鬼地獄に堕ちた理由や、大神が狼鬼となる直前の心境となっています。
因みに、登場するムラサキ、大神、佐熊以外の登場人物は全て創作です。


 ある日の事……大神は街の様子を一望出来る高台に一人で来ていた。街の形は、自分の生まれた時代の面影は残されていない。

 しかし、千年の時を経ても変わらない物がある。青い空と雲……数える事も馬鹿らしく思える程に悠久の月日が流れ去ったが、この何処までも続く青い空だけは、あの頃のままだ。

 十九年前、この世に蘇ってから、大神は目紛しく移り変わる時代の流れの中で生きてきた。

 もう、自分を知る者は誰も生きていない。故郷の村の人々、ムラサキ、苦楽を共にした仲間達……そう考えると、自分一人だけ絶海の孤島に取り残され気分だ。

 等と、やや沈んだ気持ちになっていると……。

 

「シロガネ……やはり、此処に居ったんか?」.

 

 振り返れば、自分と同じく千年前の時代より時を越えて、やってきた同胞、佐熊力丸が居た。手にはビニール袋を携えている。

 

「……佐熊……」

「カイで良いわい……お前さんは変わらんのォ」

 

 そう言いながら佐熊は、大神の隣に腰を下ろす。

 

「……昔から、そうだったな。一人で考え事をする時は、必ず高い場所に居た……」

「……態々、そんな事を言いに来たのか?」

「何じゃ、連れないのォ……久しく酒盛りでもしようと思ったのに……」

 

 そう言って、佐熊は袋からワンカップの清酒を大神に寄越した。

 

「……悪いが、そんな気分じゃ……」

「堅い事を言うな。お前と腹を割って話すのは久しぶりなんじゃ、偶には付き合え」

 

 酒を飲む様な精神状態にはなれないが、佐熊が屈託なく薦めて来る為、大神も黙ったまま、清酒を受け取り蓋を開けた。

 二人はカップを、カチンとぶつけ合って酒を口にする。大神は少し顔を顰めた。

 

「薄い味の酒だな。あまり旨くは無い……」

「昔、ムラサキが作ってくれた酒に比べりゃ、薄いかもしれんがのォ……時代が移り変わった所で、酒の味だけは変わらん。

 それに一人で飲み明かすより、連れ立って飲めば、それに勝る酒は存在せんわい」

 

 佐熊の言葉に対し、大神は苦笑いしながら清酒を飲む。口内に酒ならではの甘辛い風味が染み渡る。

 

「……シロガネよ。今、何を考えとる?」

「別に……」

「そうか……ワシは、“あの日”の事を思い出しとったが……お前さんも、そうなんじゃ無いか?」

 

 途端に大神は佐熊を見つめ返す。そして再び苦笑いした。

 

「全く……変な所で勘の鋭い奴だな。ああ、その通りだよ」

 

 観念した、と言わんばかりに、大神は認めた。佐熊は、してやったりと笑う。

 

「……思えば、ムラサキが怒った顔を見たのは、あの時だけだったのォ……」

「確かにな……」

 

 そう言うと、大神はカップの中に揺れる酒の表面を見つめ返す。映し出される自身の顔が、波紋と共に大きく揺れた……。

 

 

 

 千年前……今より、オルグによる被害により脅かされていた。人々は、オルグ達から隠れ住む様に、その脅威に怯えながら生きていた。

 しかし……オルグに対し、命を賭けて戦い、命を守る戦士がいた。彼等を直接、見た人間は居なかったが、彼等に救われた人達は口を揃えて、同じ言葉を発する。

 

 曰く……

「戦った戦士は七人だった…」

 

 曰く……

「巨大な鬼に対峙する際、山を越す様な巨人を使役していた…」

 

 等と、眉唾染みた噂話の域を出ないが、その様な話が後を絶たなかった。だが……決して噂などでは無く、彼等は実在していた。

 人知れずに戦い、オルグを討ち取る彼等の名は……通称『ガオの戦士』と呼ばれていた。

 

 

 さて、人の住む都より遠く離れた山中……森の中に開かれた空き地の中央に座するのは巨大な亀の形をした岩、亀岩……。

 その中には複数人の深刻な顔で話す者達が居た。

 

「遂に現れたか……」

 

 緋色の着物と獅子を模した冠をした青年が眉間に皺を寄せながら言った。ガオの戦士達のリーダー格であり、名をクレナイと言う。

 

「……ああ……鬼達の王が……」

 

 黄色の着物に鷲を模した冠をした青年も、低く唸る。同じく、ガオの戦士達のサブリーダー格、名をコウと言う。

 

「……百鬼丸……か……」

 

 蒼色の着物にノコギリザメを模した冠をした青年が不安気に言った。彼も同じく、ガオの戦士であり名を『ソウ』と言う。

 

「……我々は先日、京の大江山に巣食っていた大鬼を倒したばかりだ……!」

 

 黒い着物に牛を模した冠をした青年が、忌々しそうに言った。彼も、ガオの戦士であり名を『コク』と言う。

 

「……大変な事態になったわ……」

 

 白い着物に虎を模した冠をした女性が、困り果てた様子で呟く。彼女も、ガオの戦士の紅一点、名を『ハク』と言う。

 

「ムラサキよ。荒神は、もう戦えんのか?」

 

 灰色の着物に熊を模した冠をした青年、カイが神妙な顔をした巫女の女性ムラサキに尋ねる。ムラサキは顔を曇らせたまま、力無く首を振る。

 

「……もう荒神様の声も聞こえない……百鬼丸との戦いで、姿を消してしまったわ……」

 

 ムラサキの言葉に、ガオの戦士達は力無く項垂れた。自分達は、現れる鬼達を尽く倒して来た。しかし、それは神獣達を束ねる荒神の恩恵があってこそ為せた事だ。

 しかし、その荒神は、これまで倒して来た鬼達の力を集結させて誕生した鬼の王、百鬼丸の前に敗れ去り、その姿を消す事態となった。

 

「シロガネ……貴方が契約した神獣達は?」

 

 ふと思い出した様に、ムラサキは銀色の着物に狼の冠をした青年、シロガネに尋ねる。しかし、シロガネは……

 

「駄目だ……彼等の力だけでは、荒神には遠く及ばない……」

 

 と、告げた。カイも続く。

 

「ワシの神獣達もじゃな……。そもそも、これ迄は荒神の力に依存していた……。その荒神で勝てん様な奴に、果たして勝てるとは……」

 

 カイの言葉に、ガオの戦士達は万策尽きた、と諦めかけていた。しかし、クレナイは、仲間達に力付ける様に語り始めた。

 

「皆、情けないぞ! 我々が諦めたら、それこそ百鬼丸の思う壺だ! 何か方法がある筈だ!」

 

 

 〜クックッ……愚かな……。無駄足掻きと知りながら、尚も足掻くとはな……〜

 

 

「何者だ⁉︎」

 

 

 突然、響き渡る声に、ガオの戦士達は辺りを見回す。すると、聖なる泉はボコボコッと泡立ち始め、その上に髑髏が浮かび上がる。

 

「あ、貴方は⁉︎」

 

 ムラサキは、その禍々しい髑髏に尋ねた。すると髑髏は、顔を歪めた。

 

 

 〜儂の名は、ヤマラージャ…。汝等が倒して来た鬼達が流れ着く鬼地獄を統治する者だ…。クックッ……百鬼丸め、地上の支配に王手を掛けたらしいな……儂とした事が、遅れを取ったわ……〜

 

 

「遅れを取った⁉︎ どう言う意味だ⁉︎」

 

 コウは、ヤマラージャと名乗る髑髏に威嚇する。だが、ヤマラージャは高笑いを上げた。

 

 

 〜何の事は無い……儂と百鬼丸の奴の間には、ちょっとした賭け事をしていたのよ……。どちらが地上の支配者として名乗りを上げるか、でな……。しかし、儂は有象無象で溢れ返る鬼地獄を治めている間に、百鬼丸が憎き荒神を倒しよった……。

 だが、まだ賭け事は終わっていない。荒神の見出した汝等が残っているからな……汝等を根絶やしにし尽くした者こそ、即ち地上の支配者として君臨する時‼︎ そう考えれば、百鬼丸は儂の手間を省いてくれたと言う物よ……‼︎〜

 

 

「ふざけるな‼︎ お前達の賭け事なんかに、地上の人々を巻き込ませる気か‼︎ そんな事は、させない‼︎」

 

 ソウが、ヤマラージャに対し言い放つ。しかし彼の叫びをせせら笑いながら、ヤマラージャは嘯く。

 

 

 〜そんな事は、させない…だと? 笑わせるな‼︎ 荒神の居なくなった汝等に何が出来ると言うのだ‼︎ それに、もう遅い! 既に儂は鬼地獄に堕ちた鬼共を軍勢とし、地上に迫って来ている‼︎ 明晩、月が真円を描きし時、一時的に我々の住む鬼地獄と地上の境界が消える! その時、儂は大軍を率いて、地上へと出陣するのだ‼︎

 クックッ……楽しみにしているが良い……汝等に滅ぼされた鬼共は、その屈辱を晴らさんと、復讐の爪を研ぎ澄ましておるわ……‼︎

 地上に進出し、貴様等を根絶やしにした後は百鬼丸を殺し、儂が地上の全てを掌中に納めてくれるわ‼︎〜

 

 

 その様な不穏な捨て台詞を残して、ヤマラージャは姿を消す。残された、ガオの戦士の面々は顔を見合わせた。

 

「おい……今のは……⁉︎」

 

 コウが一番に口を開いた。出来る事なら夢であって欲しいと願っていた。しかし、ムラサキは……

 

「……百鬼丸に続き、鬼地獄の王が私達の敵として現れました……‼︎」

 

 と、仲間達に告げる。地上には、百鬼丸が暴れ回っていると言うのに、鬼地獄からは、ヤマラージャが軍勢を率いて迫って来ている。最早、八方塞がりである。ハクは頭を抱えた。

 

「どうしろ、と言うの⁉︎ 悔しいけど、今の私達には何も出来ないじゃ無い‼︎」

 

 彼女は既に投げやりな態度となっていた。しかし、それをシロガネが嗜めた。

 

「ハク……自棄になっている場合では無い。今は我々に出来る事を考えなくては……」

「……考えるって……シロガネ。何が良い策でもあるのか?」

 

 冷静に話すシロガネに対し、コクが尋ねるが、シロガネ自身も其の質問に答える事は出来ない。ハッキリ言って、完全に手詰まりだ。

 進路も退路も絶たれ、ただ迫りつつある危機を待つ事しか出来ないなんて……。

 

「……シロガネの言う通りです。私達が諦めれば、それこそ終わりです……。何か手を打たなければ……」

「手を打つと言っても……ヤマラージャが、やって来るのは明日の晩だ……あと1日しか無い……‼︎ たった1日で何を考えろと……⁉︎」

 

 焦りから、コウも感情を露わにした。確かに今の自分達には時間が殆ど残されていない。時間が止まってくれれば…と、誰もが、そう思った。

 ただ一人だけ……シロガネは無言のまま、何かを決心した様子だった……。

 

 

 

 其の夜……シロガネは夜風に当たりながら、物思いに耽っていた。考える事は当然、ヤマラージャと百鬼丸の事だ。

 今、自分が考えている事を仲間達が知れば、彼等はきっと怒るだろう…と思った。だが、悩んでいる場合では無い……グズグズしていたら、ヤマラージャが大軍を率いて、地上を滅茶苦茶にする。百鬼丸も、また然りだ。と、その時、シロガネの背後に近付く者が居た。

 

「……まだ起きとるんか、シロガネ……」

「カイ、お前こそ……」

 

 振り返ると、其処には穏やかな笑みを浮かべたカイが立っていた。彼とは長い付き合いにはなるが、未だに自分の頭一つ分、彼の方が背が高い。

 

「……背が伸びたのォ……お前を拾った時は、ワシの腰までしか無かったのに……」

 

 まるで成長した我が子を褒めそやす様に、カイは言った。

 

「……じゃが……まだ、ワシに復讐する為に走って来た、あの小さい童の頃のお前と同様に思えてならん……。フッフッ……ワシも随分と感傷的になったのォ……」

「そんな事を言いに来たのか?」

「いや……色々と考えていた事があって、せめて、お前には話しておきたくてのォ……」

 

 と言って、カイはシロガネの横に立つ。

 

「……ヤマラージャの事じゃが……ワシに任せて欲しい……」

「任せて欲しいッて……どうする気だ?」

 

 カイの発した言葉にシロガネは訝しげに聞いた。

 

「……ムラサキから聞いた。ヤマラージャは鬼地獄から来る鬼じゃ……つまり、地上に現れる前に奴を封じてしまえば良い……。ムラサキが奴等の出て来る夜に結界を張ってな……」

「……しかし、結界を張っても直ぐに破られてしまうのでは?」

 

 シロガネにも、ムラサキの考えている事が理解出来た。ヤマラージャを鬼地獄と共に永遠に封じてしまうと言う物だ……しかし、あれ程の鬼を封じるには、ムラサキの巫力だけでは無理だろう……。

 

「……ワシが、人身御供になるつもりじゃ……‼︎」

「⁉︎ 正気か⁉︎ そんな事をすれば……お前はどうなる⁉︎」

「……ムラサキが言うには、ワシの命を糧に結界を持続させる様だ。そうすれば、鬼地獄に張った結界は保たれるが、ワシは……そうだな、未来永劫に死ぬ事もできずに彷徨うのじゃろう……」

 

 まるで他人事の様に、あっけらかんと言い放つカイに対し、シロガネは食って掛かった。

 

「……何で、お前が其処までする理由がある⁉︎ お前にとって人間の為に犠牲になる意味など……‼︎」

「意味ならあるさ……。ワシァな、これまで自分が何の為に生まれて来たか分からなかった……。山賊として身を窶しながらも、空虚な人生だったと言える……。結果に、お前の祖父を殺める事になった……。

 しかし、ガオの戦士となってから、ワシの価値観は大きく変わった……そして確信に至ったよ。ワシは……この瞬間の為に生まれてきたのだと、な……」

 

 夜の帳の中、カイは天を仰ぎつつ呟く。彼の悲壮ながらも確固たる信念を見たシロガネは、もう彼を否定出来なかった。 

 

「……カイ……本当に宜しいのですか?」

 

 突然、ムラサキが現れた。彼女の顔は苦悶に満ちて居る。

 

「……貴方は、私に仲間の命を供えにしろと言うのですか? 私が言った人柱の儀式は、本来なら巫女である私の役目……貴方が命を散らす理由は何一つ、無いのですよ?」

 

 ムラサキの言葉に対し、佐熊は自嘲気味に笑いながら…

 

「……ムラサキ……お前さんが死んだら、ガオの戦士達を纏める人間が居らん様になる。そうなったら、本末転倒じゃ……其処へ行くと、ワシには家族は無い……誰も悲しむ者は無いしの……」

 

 と、言い掛けた時、パァンと言う鋭い音が響いた.ムラサキが、佐熊の頬を張り飛ばしたのだ。その顔は普段、温厚である彼女に似つかわしく無い険しい顔付きだった。

 

「そんな事、言わないで…‼︎ 貴方が死んだら、私達が身を裂かれた様に悲しいのよ…‼︎」

 

 ムラサキは両目に涙を堪えながら、カイを睨む。決して、彼との付き合いが長い訳では無い。しかし、共に寝食や苦楽を共にして来たのに今更、誰も悲しまない等と言われたのだから、尚更である。

 

「……スマン……じゃがのォ、ムラサキ……ワシは、お前さん達に逢うまでは、弱者を甚振り擂り潰す様な、鬼共と変わらない生き方をして来た……。だが、お前さんはワシを仲間として受け入れてくれた……だからな、せめて最後にケジメを付けさせてくれんか?」

 

 そう言ったカイの言葉には此れ迄、歩んできた半生に対する懺悔が込められて居た。その言葉を聞いたムラサキは遂に折れ、首から下げていた小刀を差し出した。

 

「なら、せめて、此れを持って行って下さい……荒神様の御加護が、貴方を守って下さいます……」

 

 ムラサキの差し出した小刀は、彼女が肌身離さず持っていた二振りの守り刀だった。カイは戸惑いながらも、小刀を受け取る。

 

「……ありがとうよ、ムラサキ……。必ず、返す……」

 

 そう言って、カイは小刀を懐に仕舞う。そして、後ろにいたシロガネを見た。

 

「…シロガネ…ワシの分も、ムラサキを守ってくれよ……頼むぞ…!」

「ああ……分かってるさ……」

 

 彼と言葉を交わしながらも、シロガネは胸中にある迷いを断ち、とある決断をした……。

 

 その翌日の日が沈み月が新円を描いた時、カイはムラサキに頼み、ヤマラージャの居る鬼地獄の入り口を封印する為の人柱となった。

 他の仲間達は最後まで反対したが、もうカイに迷いは無い。ムラサキの唱える術と共に、姿を現した穴へと飲み込まれて行く。

 涙ながら若き戦士達は、勇気ある彼に対し再会を願った。しかし、その願いは果たされる事は無いと、カイは知っていた。 

 彼の姿が消した後、シロガネは人知れずに取り出した闇狼の鬼面を握り締めた……。

 

 

 

 古き話に花を咲かせながら、大神と佐熊は昇った月を見ていた。丁度、あの晩も、こんな素晴らしい月夜だったのを覚えている。

 

「……千年……ワシにとっては、昨日の事の様じゃ……」

「……ああ……だが、人や景色が変わるには充分過ぎた….」

 

 ついつい、本音を漏らす大神。佐熊は、カップに残った酒を、グイッと飲み干す。

 

「……クレナイ、コウ、ソウ、コク、ハク、ムラサキ……ワシ等と共に生きた仲間達は皆、居なくなった……。じゃが、何れは逢う日が来る……その時は、謝らなきゃのォ……」

「……」

 

 佐熊の言葉を返す事なく、大神はムラサキの守り刀を佐熊に差し出す。

 

「……ずっと借りたままだった。お前に返す……」

「おお……そう言えば、貸したままじゃったなァ……」

 

 そう言いながら、佐熊は受け取ろうとしたが、何を思ったか、その手を引いた。

 

「……そりゃ、お前が持っておけ、シロガネ……。ワシには、もう無縁じゃ……」

「しかし……」

「良いから、持っておけ。ムラサキも、そう思っておるよ……」

 

 そう言った佐熊の顔は、とても優しかった。そう……あの日、自分を命懸けで助けようとした時に見せた、あの顔だ。

 

 そうして二人は変わらず、他愛も無い話へと移り、会話は進んでいった。その様子を少し離れた場所で、ムラサキの孫であるテトムは微笑ましい表情で見守っていた……。



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番外編 帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー 試作

※これは現在、連載している小説の初期段階を小説にした物です。
本編とは全く異なりますが、お茶濁しのつもりで、お楽しみ下さい。


 かつて……地上に蔓延る邪気より生まれし邪悪なる生命体『オルグ』の復活により、地上は地獄へと変えられた。

 だが、オルグの魔手から地球を守る為、立ち上がった六人の戦士達の活躍により、オルグ達の信仰は食い止められる事となる。地球生命の化身である獣を模した神秘なる精霊『パワーアニマル』の力を借り、彼等は遂にオルグの王を滅ぼした。戦いを終えた彼等は各々の日常へと戻って行き、パワーアニマル達も自分達の生まれ故郷、天空島に帰った。

 その地球を救った戦士達の名は……百獣戦隊ガオレンジャー‼︎

 

 

 東京の郊外にある町、竜胆市。普段は特に変哲の無い町だが、今は様子が違っていた。

 町中に仄暗い邪気が覆われて、町を往来するかの様に最下級の鬼オルゲットが跋扈していた。

 

「オホホホ‼︎ さァ、オルゲット達よ‼︎ この街をメチャクチャにしておしまい‼︎」

 

 先陣を切るのは、二人のオルグ。片方の比較的に人間の女性に近いオルグが、オルグ達の中でも最高位に当たる『ハイネス・デューク』に次ぐ『デュークオルグ』に位置する、名はツエツエ。

 もう一人の道化師染みたオルグが、ツエツエ同様にデュークオルグであるヤバイバ。

 二人は、オルゲット達を率いて非道の限りを尽くしていた。

 

 

「止めなさい‼︎」

 

 

 突如、二人に響く声。上を見上げると、亀の形をした飛行する岩『ガオズロック』が飛来した。

 

「あれは、ガオズロック! 」

 

 ヤバイバは憎々しげに睨む。ツエツエも同様だ。

 

「現れたわね、ガオの巫女‼︎」

 

 と、二人の目の前に降り立ったガオズロックの中から、白装束の衣装を着た女性、ガオの巫女テトムが出て来る。

 

「ツエツエ! ヤバイバ! 性懲りも無く、また現れたの⁉︎」

 

 テトムの厳しい口調に、ツエツエは怒りを露わにした。

 

「黙らっしゃい‼︎ 私達、オルグは不滅なのよ‼︎ 人間が存在する限り、何度だって復活するわ‼︎」

「その通り‼︎ 俺達を邪魔する奴は皆、ズタズタに斬り裂いてやるぜェ‼︎」

 

 長年の恨みを晴らすべく、と二人のオルグは勇ましく凄む。

 

「そう……じゃあ、何度だって阻んであげるわ‼︎ 私達、ガオの戦士が‼︎」

 

 そのテトムの掛け声に合わせ、ガオズロックから飛び出して来る五人の人影。

 

「また、お前等か‼︎」

 

 中央に立つ青年、獅子走が二人を睨みながら言った。

 

「二十年も大人しくしてたんだ、そのまま干からびてれば良かったのにな‼︎」

 

 走の右隣に立つ青年、鷲尾岳が皮肉を込めて叫ぶ。

 

「何度来たって同じだ‼︎ その度に、ぶっ潰すぜ‼︎」

 

 走の左隣に居た男性、鮫津海も続く。

 

「お前等、オルグの居場所は此処には無い‼︎ さっさと帰れ‼︎」

 

 岳の右隣にいた大柄な男性、牛込草太郎も怒鳴る。

 

「本当に、しつこいおばさんね‼︎ 」

 

 海の右隣に居た女性、大河冴も小馬鹿にした様子で言った。

『おばさん』と言う言葉に、ツエツエは酷く憤慨した。

 

「キィィィ!!! 相変わらず、口の減らない小娘ね‼︎

 て、失礼? 二十年も経てば、あんたも充分に『おばさん』かしら?」

 

 仕返しだと言わんばかりに、ツエツエは返す。今度は冴が怒った。

 

「人が気にしてる事を……‼︎ 私は、まだ38歳よ‼︎」

「あ〜ら、38だったら立派なおばさんよね〜! ひょっとして、未だに独身かしら? 相も変わらず白馬の王子様を待ち望んでいたら痛すぎるわよ⁉︎」

「言ったわね! この厚化粧おばさん‼︎」

「うるさいわよ! このちんちくりんおばさん‼︎」

 

 呆然とする仲間達を尻目に二十年越しの口喧嘩に発展する二人。この二人は、以前の戦いでも互いに罵り合う一種の因縁があったのだ。

 ヒートアップする二人の戦いを見兼ね、岳とヤバイバが仲裁に入る。

 

「さ、冴? 口喧嘩してる場合じゃ……」

「なァ、ツエツエ。先にガオレンジャー達を……」

 

 

「うるさい!!! 邪魔しないで‼︎

 するんじゃ無いわよ‼︎」

 

 

「「す、すいません……」」

 

 

 余りの剣幕に、岳もヤバイバも逆に言い負かされてしまい、すごすごと後退した。

 

「冴……あんなキャラだったかしら?」

 

 久しぶりに会った旧友である冴の余りの剣幕に、流石のテトムも引いていた。

 その後、暫しの間、二人の白熱した口喧嘩が繰り広げられ、走達、オルゲット達は遠巻きに見守るしか無かった。

 やがて、口喧嘩が終息すると……。

 

「ハァ…ハァ…」

「ゼェ…ゼェ…」

 

 二人は叫び疲れたのか肩で息をしていた。二十年分を叫んだ為か、クタクタである。

 

「じゃ…さっさと…決着付けよう…じゃないの…‼︎」

「の…臨む…所よ…‼︎」

「冴、もう良いか?」

 

 漸く落ち着いた冴に走は声を掛けた。気を取り直し、走達はオルグ達に凄んだ。

 

「何度来たって同じだ‼︎ 俺達が居る限り、この地球は守り通すぜ‼︎ 」

「オホホホ‼︎ 二十年も掛けたのよ‼︎ 前回と同じ轍は踏まないわ‼︎ さァ、オルゲット達! やっておしまい‼︎」

「ゲットゲット‼︎」

 

 ツエツエの命に従い、オルゲット達は飛び掛かろうとする。だが、それを遮ろうと彼等の前に現れる影があった。

 

「……済まない、遅れた‼︎」

「月麿‼︎」

 

 走は、その見知った顔に歓喜した。彼もまた、走達の戦友である大神月麿だ。

 

「くッ……またしても……‼︎」

 

 ヤバイバは、月麿の登場に苦虫を噛み潰した様な顔になる。

 

「よし、これで役者は揃った‼︎ 皆、行くぞ‼︎

 ガオアクセス‼︎」

 

 走を筆頭に、彼等は腕に装着されたG−フォンの真ん中にある起動スイッチを押した。

 

 

『サモン・スピリット・オブ・ジ・アース‼︎』

 

 

 その掛け声と共に、G−フォンは肥大化し人型を形成すると、走達の身体に装着された。

 最初はスーツ、次に動物を模したヘルメットを構成していき……。

 

「灼熱の獅子! ガオレッド‼︎」

 走の変身したライオンを模した戦士、ガオレッドが構える。

 

「孤高の荒鷲! ガオイエロー‼︎」

 岳の変身した鷲を模した戦士、ガオイエローが構える。

 

「怒涛の鮫! ガオブルー‼︎」

 海の変身した鮫を模した戦士、ガオブルーが構える。

 

「鋼の猛牛! ガオブラック‼︎」

 草太郎の変身した牛を模した戦士、ガオブラックが構える。

 

「麗しの白虎! ガオホワイト‼︎」

 冴の変身した虎を模した戦士、ガオホワイトが構える。

 

「閃烈の銀狼! ガオシルバー‼︎」

 月麿の変身した狼を模した戦士、ガオシルバーが構える。

 

 

「命ある所に、正義の雄叫びあり!

 百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎」

 

 

 今此処に、地球を守護する六人の戦士、百獣戦隊ガオレンジャーが復活した。

 

 

 

「相も変わらず、長々と口上を並べ立てて……もう聞き飽きてんのよ‼︎ 行くのよ、オルゲット達‼︎」

 

 焦れたツエツエが、オルゲット達を嗾けた。ガオレンジャー達も負けじと突撃した。

 

「ライオンファング‼︎」

 

 ガオレッドはパワーアニマルの力の一部である神器『破邪の爪』の一部であるライオン型の手甲、ライオンファングを召喚した。

 

「ブレイジングファイヤー‼︎」

 

 ガオレッドは両手に装着したライオンファングで敵を殴打しつつ、炎を纏わせながらオルゲット達を叩きのして行く。

 

「イーグルソード‼︎」

 

 ガオイエローは鷲の顔を模した長剣イーグルソードで、オルゲット達を斬り伏せて、迫って来たヤバイバと対峙した。

 

「ガオイエロー! 昔の様には行かんぜ‼︎」

「もう、お前なんか敵じゃ無いんだよ‼︎」

 

 そう言いながら、ガオイエローは刃にガオソウルを纏わせる。

 

「ノーブルスラッシュ‼︎」

 

 イーグルソードを数度に渡って振り、ヤバイバを斬り刻んだ。

 

「や、やばいバ⁉︎」

 

 ガオイエローの攻撃に対し、ヤバイバは斬り弾かれた。

 

「シャークカッター‼︎」

 

 ガオブルーは鮫のヒレを模した二振りの短刀シャークカッターを召喚し、ガオソウルを溜めた。

 

「サージングチョッパー‼︎」

 

 シャークカッターでトリッキーに飛び回りながら、オルゲット達を斬り刻んで行くガオブルー。

 

「バイソンアックス‼︎」

 

 ガオブラックは牛の顔を模した手斧バイソンアックスを召喚する。

 

「アイアンブロークン‼︎」

 

 バイソンアックスを振り下ろし、凄まじい地鳴りと共に発生した斬撃で、オルゲット達を吹き飛ばして行く。

 

「タイガーバトン‼︎」

 

 ガオホワイトは虎の顔の意匠をした根、タイガーバトンを召喚する。そして、ツエツエの杖とぶつかり合った。

 

「ほらほら! もう若くないんだから、無理するんじゃ無いわよ‼︎」

「馬鹿にしてッ‼︎」

 

 ツエツエの小馬鹿にした態度に対し、ガオホワイトは激昂した。

 

「ベルクライシス‼︎」

 

 タイガーバトンにガオソウルを纏わせ、ツエツエに攻撃を加えた。

 

「チィッ⁉︎」

「あら? 杖が無いと立てないかしらね、おばあちゃん!」

「い、言ったわねェェ‼︎ この小娘‼︎」

 

 さっきの仕返し、と言わんばかりの言葉に、今度はツエツエが激昂した。

 

「ガオハスラーロッド! サーベルモード‼︎」

 

 ガオシルバーが狼を模したロッドを召喚し、剣の状態にする。

 

「銀狼満月斬り‼︎」

 

 ガオハスラーロッドを円形状に振り、満月に似た斬撃を放つ。オルゲット達は、たちまち吹き飛ばされた。

 こうして、ガオレンジャー達とオルグ達の攻防は一進一退を繰り広げたが、やがてガオレンジャー達の方に有利となり始めた。

 

「くそ‼︎ 二十年経っても、これかよ‼︎」

 

 ヤバイバは、ガオレンジャー達の強さにボヤく。元々、ガオレンジャーとは幾多と渡り合ったが、自分達だけで勝てた試しは無いからだ。

 

「おのれ、ガオレンジャーめ‼︎」

 

 ツエツエも手勢であるオルゲット達を蹴散らされ、悔しそうに歯軋りする。

 

「さァ、これで終わりだ‼︎ 」

 

 ガオレッドの号令で、ガオレンジャー達は各々の破邪の爪を合体させ、巨大な剣へと変形させた。

 

「行くぞ! 破邪百獣剣! 邪気……退散‼︎」

 

 六人の持つ合体武器、破邪百獣剣から放たれたエネルギーの刃がオルゲット達を包み込んで行く。更に、ツエツエやヤバイバにも及びそうになるが……。

 

 

 〜戯けが……。何をしているのだ、貴様等は……‼︎〜

 

 

 突然、エネルギーの刃が掻き消されてしまう。

 

「な、何⁉︎」

 

 ガオレッドは突然の事態に目を疑う。すると、ツエツエとヤバイバに周りに邪気の障壁が張られていた。

 

「あ、あれは⁉︎」

 

 ガオシルバーが指差すと、ツエツエ達の頭上に渦巻く邪気が顔を成し始める。其れは巨大な髑髏そのものだ。

 

「閻魔様⁉︎ 助かりましたわ‼︎」

 

 ツエツエが礼を言うと、髑髏は顔を歪める。

 

 〜ガオレンジャーを呼び寄せる為に貴様等を差し向けたのに、倒されてしまえば元も子も無かろう……この愚か者共が……〜

 

「ハッ! お返しする御言葉も御座いません…‼︎」

 

 ツエツエとヤバイバは低姿勢で謝罪する。その謎の存在に、ガオレンジャーは目を疑う。

 

「今、閻魔様と?」

 

 ガオイエローが尋ねた。その言葉を聞いた髑髏は不遜に笑う。

 

 〜左様……儂は、閻魔オルグ。鬼地獄を統括するオルグ達の支配者にして、この地上の王となる者だ。

 そして、邪魔者となるであろう貴様等、ガオレンジャーを一網打尽とする為、ツエツエとヤバイバを差し向けたのだ〜

 

「ふざけるなよ‼︎ 閻魔オルグだか何だか知らないが、地球をオルグに支配させるか‼︎ 俺達が、お前等の野望を防いでやる‼︎」

 

 威勢よく啖呵を切るガオレッドに対し、閻魔オルグは忌々しげに見据える。

 

 〜フン……貴様等の事はしかと知っているぞ、ガオレンジャー……。いつでも、貴様等の様な英雄気取りの戯けが、我々の前にしゃしゃり出てくる……。だが……其れも、これまでだ‼︎〜

 

 閻魔オルグの目から放たれた光線が、ガオレンジャー達に直撃すると、ガオレンジャーの周りに覆われた邪気が、彼等を拘束した。

 

「くッ……動けない……‼︎」

 

 身体の自由を奪われたガオレンジャー達を地面に転がる。更にガオスーツの変身は解け、元の姿に戻ってしまう。

 

「お見事ですわ、閻魔オルグ様‼︎」

 

 〜フハハハ……これで、貴様等はただの人……手を捻る事など容易い……しかし、先ずは貴様等の守ろうとした地球を我々の支配に置かれて行く様を見ているが良い……〜

 

 あっという間に倒されたガオレンジャー達を嘲笑する様に、閻魔オルグは言い放った。

 

「クソッ……‼︎」

 

 悔しいが、走は言い返せない。こんな姿では、手も足も出ない。そんな時、天空より降り立つ五体の影が居た。

 

「ガオライオン‼︎」

 

 走は叫ぶ。それは、ガオレンジャー達に力を与え共に戦ってくれた地球の化身ある獣達、パワーアニマル達だ。

 そのリーダー格であるガオライオンが走達の危機を知り、ガオイーグル、ガオシャーク、ガオバイソン、ガオタイガーを率いて助けに来たのだ。

 

 〜おっと……動くなよ、パワーアニマル共……。ガオレンジャー共の命が惜しければな……〜

 

 閻魔オルグは脅す様に、パワーアニマル達に語り掛けた。それは、妙な真似をすれば、走達を何時でも葬れると言わんばかりだ。

 

「ガオライオン! 俺達の事は構うな! オルグ達を倒せ‼︎」

 

 走は叫ぶ。今此処で、オルグ達を倒さなければ世界は、オルグの手でめちゃくちゃにされてしまうだろう。そうならない為には、自分達の命に拘っている場合じゃ無い……。

 だが、ガオライオンはオルグ達に襲い掛かる事はしなかった。走達が、ガオライオン達を想う様に彼等もまた、走達を想っているからだ。皮肉にも、その優しさが、オルグ達の付け入る隙を与えてしまった。

 

 〜フハハハ‼︎ 愚かな四足歩行動物め‼︎ 我々、オルグに逆らえばどうなるか、思い知れ‼︎〜

 

 勝ち誇った様に嗤う閻魔オルグは邪気の光線を、パワーアニマル達に放った。ガオライオン達は苦しそうに唸る。

 

「や、止めろッ‼︎ 止めてくれェェッ!!!」

 

 走は金切り声を上げた。目の前で大切な仲間が傷付けられる姿を見せられるのは、身を裂かれるより辛い。

 しかし走の叫びは届かず、ガオライオン達への攻撃は一層、強くなった。

 

 〜フハハハッ‼︎ 死ぬが良い、パワーアニマル共‼︎ 心配するな、貴様等の仲間のパワーアニマル全員、後で送ってくれるわ‼︎〜

 

「オホホホ‼︎ 何て、痛快なのかしら‼︎」

「コイツは見ていて、胸が空く様だぜ‼︎」

 

 閻魔オルグに同調して高笑いを上げる。

 

「クソッ! 外れろ、外れろォォ‼︎」

 

 走は後ろで拘束された腕を大地に叩き付ける。だが、邪気の枷は強く喰い込み外れてくれない。

 

「……ガオイーグル……‼︎ ちくしょう……」

 

 岳は、己の不甲斐なさに男泣きを浮かべる。

 

「ガオシャーク……‼︎ 止めろよ、頼むから……‼︎」

 

 海は地面に顔を擦り付けながら嘆願した。

 

「……うう……ガオバイソン……‼︎」

 

 草太郎も悔しく唸るしか出来なかった。

 

「お願い……ガオタイガーを……皆を傷付けないで……‼︎」

 

 冴は号泣しながら、言葉を絞り出した。

 

「……クッ……‼︎」

 

 月麿は言葉にならない程に無力感に苛まれていた。

 

「……ああ……なんと言う事……‼︎ おばあちゃん……荒神様……‼︎」

 

 テトムも、亡き祖母や百獣の神に祈るしか出来ない。だが、現実は正直かつ無情だ。パワーアニマル達の命は風前の灯火だ。

 

 〜さァ……トドメだァ!!!〜

 

 

「其処までだ‼︎」

 

 

 突然、別の声が響き渡る。と、同時にパワーアニマル達へ放つ光線が途切れ、ガオライオン達は解放された。

 

 〜ぬゥ? 誰だ⁉︎〜

 

 閻魔オルグは声の主を探した。その時、走達とオルグ達の間に降り立つ二人の影……。

 

 〜貴様等か、儂に逆らう者は⁉︎〜

 

 閻魔オルグは怒鳴る。其れは弥生時代の人物が着る様な衣装と髪型をした二人組の男女だった。

 

「久しぶりだな、閻魔オルグ‼︎ 我々を覚えている筈だ‼︎」

 

 男は怒鳴った。しかし、閻魔オルグは小首を傾げた様に揺れた。

 

 〜何処の誰だか知らんが、儂を邪魔するつもりなら容赦はせん‼︎ ツエツエ、ヤバイバ‼︎ 奴等を殺せ‼︎〜

 

「「ハッ‼︎」」

 

 閻魔オルグの命令に、ツエツエとヤバイバは武器を構える。

 

「……忘れた、だと……? 俺達は忘れた事は無かったぞ! 貴様への復讐心を糧に、時の牢獄の中で生き続けて来た!」

 

 〜復讐心? 時の牢獄? 意味が分からんわ……〜

 

「忘れたなら、思い出させてやるさ‼︎ この、G -ブレスフォン・レジェンドでな‼︎」

 

 二人の男女は袖下から、G -ブレスフォンを覗かせた。

 

 

 

「ガオアクセス‼︎ サモン・スピリット・オブ・ジ・アース‼︎」

 

 二人の男女はG -ブレスフォンを起動させる。すると二人を光が包み込んで行き、やがて光が収まると……。

 

「紅雷の龍! ガオスパーク‼︎」

 

 ガオレッドと同じだが、彼より濃い紅色のスーツを身に纏い、龍を模したヘルメットをかぶった戦士、ガオスパークが現れた。

 

「蒼焔の鳳凰! ガオフレア‼︎」

 

 ガオブルーより濃い青色のスーツと、鳥を模したヘルメットをかぶった戦士、ガオフレアが現れた。

 

 

「赤き天より龍が吠え……!」

「青き空より鳳凰が舞う……!」

「幻獣戦士! ガオレジェンズ‼︎」

 

 

「変身した⁉︎ 彼等も、ガオレンジャーなのか⁉︎」

「でも今、ガオレジェンズって⁉︎」

 

 突如、姿を現した戦士達に走達は驚くばかりだ。

 

「テトム⁉︎ 彼等は一体⁉︎」

 

 月麿は、テトムを見た。だが、テトムも状況が飲み込めない様だ。

 

「違う……、私は知らないわ!……でも、あれは紛う事ないガオレンジャーの姿……!」

 

 混乱していたのは、ツエツエ達も同様だ。

 

「お、おい⁉︎ ツエツエ、あいつ等は何なんだ⁉︎ 聞いてないぞ、あんな奴等⁉︎」

「わ、私に聞かないでよ⁉︎」

 

 慌てふためく二人を尻目に、閻魔オルグは何かを悟ったかの様に、ほくそ笑んだ。

 

 〜……そうか、思い出したぞ‼︎ 貴様等は、あの時に殺し損ねた兄妹だな‼︎ クク……アマテラスめ‼︎ 小賢しい真似をしおって‼︎ ツエツエ、ヤバイバ! 奴等は、どんな手を使っても確実に殺せ‼︎〜

 

「は、ハッ‼︎ オルゲット達、出でよ‼︎」

 

 ツエツエは、オルゲット達を大量に召喚した。と、同時に別のオルグ魔人が姿を現した。

 

「お前も行け、チェーンソーオルグ‼︎」

「フンガー‼︎」

 

 ヤバイバに命令されたオルグ魔人、チェーンソーオルグは両腕のチェーンソーを回転させながら唸り声を上げた。

 

「破邪の爪、ドラゴンランス‼︎」

 

 龍の全身を模した槍を装備し、オルゲット達を薙ぎ倒して行くガオスパーク。

 

「破邪の爪、フェニックスシールド‼︎」

 

 鳳凰を模した盾を装備し、オルゲット達の攻撃を弾き返しながら、羽根状の光弾を発射して撃ち倒して行く。

 

「つ、強い……‼︎ 」

 

 その圧倒的な強さに、走達は度肝を抜くばかりだ。と、その時にチェーンソーオルグの仕掛けた攻撃が、ガオスパークに襲い掛かるが……。

 

「遅い‼︎」

 

 その刹那、チェーンソーオルグの腹部を刺し貫くガオスパーク。その速さは、さながら電光石火である。

 

「ふ、フガ……‼︎」

 

 腹を刺されたチェーンソーオルグは苦しそうに唸る。ガオスパークは振り返りながら……。

 

「あくまで、閻魔オルグに近付かせまいつもりか……! ならば、全員纏めて射抜いてやる‼︎ ガオフレア、やるぞ!」

「ええ、あに様‼︎」

 

 ガオフレアは水平にフェニックスシールドを構える。すると、翼の部分が大きく展開した。

 ガオスパークはフレアの隣に立ち、ドラゴンランスをシールドに合体させる様に装填し、巨大なボーガンとなった。

 

「破邪幻獣弾‼︎ 邪気…貫徹‼︎」

 

 フェニックスシールドの翼から展開されたエネルギーの弦を引き絞り、発射する。

 槍の先端から光り輝く矢が放たれ、チェーンソーオルグを射抜きながら閻魔オルグに直撃、大爆発を起こした。

 だが、爆発が収まると、其処にあったのはチェーンソーオルグの粉々になった骸だけだった。

 

 〜少しは、やるようだが……それが全力なら、儂には勝てんぞ。次にあった時は、本気で遊んでやろう……!

 フハハハハ…………‼︎〜

 

 閻魔オルグは、そう吐き棄てながら虚空へて消えて行った。間一髪で逃走したツエツエ達は、離れた場所からオルグシードを投げつけ、杖を振り回す。

 

「オルグシードよ‼︎ 消え行かんとする邪悪に再び巨大な力を‼︎ 鬼は内‼︎ 福は外‼︎」

 

 その呪文と共に、残骸は再び結合し始め、やがて巨大なオルグ魔人として復活した。

 

「! あに様‼︎ 」

「ああ! 行くぞ‼︎」

 

 二人は互いに宝珠を三個、取り出し各々の破邪の爪で装填した。

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 その状態で天に翳すと、雲を掻き分けながら姿を現す三体の巨大な生物達……。

 

「ぐおォォォォッ!!!」

 

 一体は紅く輝く龍の姿をしたガオドラゴン、一体は青く輝く鳳凰の姿をしたガオフェニックス、一体は九尾の狐の姿をしたガオナインテール……。

 

「幻獣合体‼︎」

 

 その掛け声と共に、ガオドラゴンは直立状に変形して首と尻尾が根本から分離した。後ろ足が伸びて下半身を構成する。

 ガオフェニックスが、その下半身に覆い被さる様に合体し翼が背面にマントの様に下りた。

 左腕をガオナインテールが、右腕を分離したガオドラゴンの首が構成し、分離した二つの尻尾が合体して、両刃となった。

 そして、ガオフェニックスの頭部が前倒しになり、別の龍に似た頭部が出現する。ガオスパーク、ガオフレアは巨人の中へと吸収されて行くと……。

 

 

「誕生! ガオカイザー‼︎」

 

 

 姿をあらわしたのは、パワーアニマル達が合体する事で誕生した巨人、精霊王である。

 ガオカイザーは手にしたテイルブレードを構え、チェーンソーオルグのチェーンソーと切り結んだ。

 激しく作動するチェーンソーの刃が、テイルブレードを弾こうとする。

 

「フンガガガガ……‼︎」

 

 チェーンソーオルグが腕に力を込め、チェーンソーの速度が更に加速した。激しい火花が飛び散る。

 

「ただ、力任せに押すばかりか……カイザーミラージュ‼︎」

 

 ガオスパークの指示を受け、ガオカイザーは複数人に分身した。

 

「ふ、フガ⁉︎」

 

 分身したガオカイザーに困惑したチェーンソーオルグは闇雲にチェーンソーを振り回す。だが、分身はいずれも空を斬って消滅するだけだ。

 

「後ろだ‼︎」

 

 突然、後方からチェーンソーオルグが斬られた。振り返ると、ガオカイザーは後ろに回り込んでいた。

 慌てて態勢を立て直そうとするが、翼を展開させたガオカイザーは空へと飛び上がる。

 

「ナインテールバインド‼︎」

 

 左腕のガオナインテールの口から金色のエネルギーが放出された。エネルギーはチェーンソーオルグを縛り上げ、動きを封じ込めた。

 

「フレア、決めるぞ‼︎」

「ええ‼︎」

 

「驚天動地・カイザーハート‼︎」

 

 突如、ガオドラゴン、ガオフェニックス、ガオナインテールの口から放たれる三つの光線が、チェーンソーオルグに直撃した。

 

「フンガァァァ……‼︎」

 

 断末魔を上げながら、チェーンソーオルグは爆炎に包まれ崩れ落ちて行った。その様子を、上空より見下ろすガオカイザーの姿……。

 

 

 

 戦いを終えた後、ガオカイザーは走達の前に着陸した。閻魔オルグが消えた事で、拘束されていた走達も自由となったのだ。

 困惑する走達の目の前に、ガオスパークとガオフレアが姿を現した。

 

「あ…助けてありがとう…。俺達は…」

「お前達を助けたつもりは無い。偶々、そうなっただけだ」

 

 礼を言う走の言葉を遮る様に、ガオスパークは素っ気無く言った。それが気に入らなかったのか、岳が突っ掛かった。

 

「聞きたい事が山程、あるぞ! そもそも、お前達は……‼︎」

「応える義理は無い。我々は、お前達に警告をしに来たのだ」

「け、警告?」

 

 岳の言葉を無視し、ガオスパークは続けた。

 

「そうだ、オルグ達を倒すのは我々の役目だ。部外者は引っ込んでいて貰おう」

「ぶ、部外者⁉︎」

 

 言うに事欠いて、かつて、ガオレンジャーと戦い抜いた自分達を部外者呼ばわりだなんて……。

 

「今回は見逃すが……次、俺達の前に現れたら、容赦無く攻撃を仕掛ける……!」

 

 それだけ言い残し、ガオスパークはガオカイザーに乗り込んだ。残されたガオフレアも無言のまま、後に続く。

 そして、呆然とするガオレンジャー達を尻目に、謎の兄妹戦士ガオレジェンズは、その場から飛び去って行った……。



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quest43 対決! 鬼灯隊‼︎

※最近の暑さをもろに受けて体調を崩してしまい、小説の仕上げが滞り、投稿も遅れてしまいました‼︎
非常に申し訳ございませんが、quest43を楽しんで下さい‼︎



 暗闇立ち込める樹海の中、闇に溶ける様に素早い動きで走り回る5つの影。其れ等は、やがて一つの場所へと集結し、影が晴れたかと思えば、鬼灯隊のメンバーであるホムラ、ミナモ、コノハ、ライ、リクの五人が跪いていた。

 すると、彼女達の目の前にあった岩が煙に包まれ消失したかと思えば、オルグ忍者達の頭領、影のヤミヤミが姿を現した。

 

「皆、揃ったな」

 

 ヤミヤミが五人を見下ろしながら、言った。

 

「……遂に来るべき時が来た。我々は鬼還りの儀を執り行う為に、楔を打ち込む作業に勤しんでいた。だが、その裏方も此れ迄だ。

 楔は滞りなく打ち込み、遂に残す所に最後の一箇所のみとなった……」

「…では、親方様……いよいよ……」

 

 ホムラが希望に満ちた目で、ヤミヤミを見た。

 

「……うむ……最後の楔を打ち込みに掛かる。だが、今回の場所は此れ迄の様に、辺鄙な場所にある訳では無い。人間共の目に触れる場所にあるのだ……」

「だったら、アタイらが人間共を皆殺しにして…‼︎」

「……フフ……皆殺し……‼︎」

 

 物騒な言動を発するライと、不安定な形で笑うリク。ホムラは呆れた様に、二人を見た。

 

「親方様の話を聴いていたのか? 人目に触れたら拙いと言っているのだ。そんな事をすれば本末転倒だろうが」

「全くですわ。少しは学習なさいな、でございます」

「ま、ライに学習しろってのは、オルゲットに言葉を教える様なもんやな」

 

 ホムラ、ミナモ、コノハは言った。ライは食って掛かろうとしたが、ヤミヤミの前なので閉口した。

 

「……案ずるな、ライ……。貴様達に十分の狩場を与えてやるつもりだ……。これより、指令を与える。ニーコ‼︎」

「はいは〜い‼︎」

 

 ヤミヤミの声に反応して、姿を現すニーコ。彼女は手に持った5枚の紙を、それぞれ一枚ずつ、鬼灯隊のメンバーに手渡す。

 

「…フム…」

「あ〜、そう言った具合に…」

「ほォ…」

「…成る程な…」

「…記憶した…」

 

 紙に書かれた各々の指令を読み進める五人。内容を把握した五人は、目の前に燃え盛る松明の中に投げ捨てた。指令書は、炎に包まれてメラメラと焼かれていった。

 

「貴様達は、各々の任務を全うし、拙者自らが最後の楔を打ち込む。例によって、貴様達の何れかが、ガオレンジャーと戦闘に入り敗北する事態となっても、援護は無いと思え。

 万が一、拙者が失敗する事となっても、助けは必要無い。念の為に備えた保険は用意してある。安心しつ、己の任務をこなせ」 

 

『……御意‼︎』

 

 ヤミヤミの言葉を受けた、鬼灯隊は立ち上がる。胸にあるのは、オルグ忍者として任務を完遂する事、それだけだ。

 

「……失敗は許されん。オルグ忍軍、掟その一! 失敗した場合は?」

 

『己で(こうべ)を斬り落とせ‼︎』

 

 ヤミヤミにつづき、オルグ忍軍の掟を復唱する。そして、ヤミヤミは彼女達に背を向けた。

 

「……拙者から言う事はそれだけだ……さァ、行け‼︎」

 

『ハッ‼︎」

 

 鬼灯隊は一斉に解散する。一人残ったヤミヤミは虚空を二言のまま、睨んでいた。ニーコはクスクスと笑う。

 

「……ヤミヤミさん、いよいよですねェ♡」

「ああ、我等の宿願が果たされる時が来た……」

 そう言って、ヤミヤミは自身の忍刀を抜く。

 

「……長かった……だが、我々の役目も漸く終わる……。思えば、数多の血が流れた……。ゴーゴ、ヒヤータ……気奴等の犠牲も大いに役立った……」

「あらァ? 犠牲と言えば、ヤミヤミさんだってェ……テンマ様から聞いているでしょう? 最期の楔を打ち込み、地上と鬼地獄の境界を開けたら、濃密な邪気がヤミヤミさんに襲い掛かりますよォ?

 そうなったら……」

 

 ニーコの言葉を最後まで言わせる事無く、ヤミヤミは彼女の言葉を遮らせた。

 

「皆まで言うな……忍びの本分は犠牲……主の望みを果たす為に我が腕を、我が心の臓を差し出せ、と問われれば勇んで差し出すのが答だ。

 我が血肉が、次代に繋がる礎となるならば……是非も無し‼︎」

 

 そう言い残し、ヤミヤミも姿を消した。残されたニーコはクスクスと笑い続ける。

 

「忍びの本分は犠牲、ですかァ……結構ですねェ……。存分に犠牲になって下さいねェ? 其れが我が主、ヤマラージャ様の望みなのですからァ……」

 

 と、だけ吐き捨て、ヤミヤミも鬼門の中に消えていった。

 

 

 

 さて舞台は変わり、竜胆市内にある市立体育館では……非常に大きな賑わいを見せていた。

 今日は、此処で竜胆市内にある二軒の中学校剣道部による交流試合が行われる日だった。その一件は祈の所属する剣道部であり、祈を始めとした剣道部員達は総動員していた。

 交流試合で良い成績を残した部は、次の大会に出場する権利を得られる。見方を変えれば、これは剣道部大会の予選大会とも言える。

 

「ひゅー‼︎ 流石、交流試合に参加するだけあって早々たる顔触れだな‼︎」

 

 体育館前の広場では、陽と共に来ていた猛、昇、舞花、摩魅が話していた。陽は祈の試合を観戦する目的があったが、同時に三人共、竜胆中学校剣道部のOBであり、後輩達の試合を観戦したかったのだ。

 

「思い出すな‼︎ 俺達が交流試合で繰り広げた戦いの日々‼︎」

「……お前、交流試合に出た事無いだろう?」

「そうよ‼︎ 三年生、最後の時の交流試合だって、風邪引いて欠席だった癖に‼︎」

 

 知ったかぶりの言動を取る猛に対して鋭く突っ込む昇と舞花。実際、自分達の交流試合で活躍したのは、陽と昇だった。

 痛い所を突かれた猛は、バツが悪そうに頭を掻く。隣に居た陽に助けを求めるが……

 

「なァ、陽ァ……」

「悪い、ノーコメントで…」

 

 と、言いながら陽は、キョロキョロと人を探していた。すると入り口付近に立つ女生徒、祈の姿を見つける。

 

「あ、居た……祈‼︎」

「兄さん‼︎」

 

 陽の姿を確認した祈は嬉しそうに駆け寄って来た。摩魅も一緒だ。

 

「来てくれたんだ…‼︎」

 

 祈は嬉しそうに歯に噛む。自身の晴れ姿を一番、見て貰いたい人に見て貰う。それは祈からすれば、何よりも嬉しかった。

 

「当たり前だろ? 祈が練習をサボってないか、チェックしなきゃな?」

 

 陽は悪戯っぽく笑う。祈は、ヘソを曲げた様にそっぽを向く。こうしてみれば仲の良い兄妹のジャレ合いだった。その様子を摩魅は一歩退いた所で見ていた。

 

「摩魅ちゃんも来てくれて、ありがとう!」

 

 突然、祈から掛けられた礼の言葉に摩魅は慄く。生きて来た人生の中で、誰かに礼を掛けられた事など、一度も無かった。

 戸惑いながらも、不思議と悪い気はしない。と、その際に猛達も駆け寄って来た。

 

「祈! 頑張ってね、今日の試合‼︎」

 

 舞花は、親友に激励を入れた。

 

「大丈夫だって‼︎ 祈ちゃんなら余裕、余裕‼︎」

 

 猛も気楽な様子ながら、力強く鼓舞した。

 

「相手の動きを理解すれば良い。そうすれば、君の腕なら負ける事は無い」

 

 昇も、的確なアドバイスを出した。

 

「……うん! 頑張るから‼︎」

 

 祈は幸せだった。自分を祝福してくれる人達が居てくれる事に、そして誰もが自分の勝利を信じてくれている事を、幸福を感じずに居られなかった。

 

「随分、浮かれてますわね?」

 

 突然、鋭い声が響く。すると多数の女生徒部員を引き連れ、腰まで伸ばした黒髪を後頭部で結って、ポニーテールにした女子が歩いて来た。

 見目は非常に美しく器量良しだったが、鋭く吊り上がった目に男勝りな口調が、非常に気の強い性格である事を表していた。

 

「此処は試合会場。遊園地ではありませんわよ?」

「瀧さん……」

 

 鋭い目で睨む女生徒に対し、祈はおずおずと返した。

 

「誰?」

 

 陽は、こっそりと舞花に尋ねた。

 

「今日の交流試合の対戦相手になる、浅黄女学園中等部の剣道部員達よ。で、あのお高く止まってるのが瀧菜穂美(たきなおみ)。祈とは剣道に於けるライバル関係なんだって」

 

 舞花がヒソヒソと説明した。瀧は、聴こえていたのかコホンと咳払いした。

 

「試合前に和気藹々と話し込んで居られるなんて、随分と余裕ですわね? それとも……昨年の交流試合で私に一度、まぐれで勝った事が、そんなに嬉しかったのかしら?」

「別に、そんなつもりは……」

 

 あからさまに敵意を剥き出しにして来る瀧に対して、祈は表情を曇らせる。それに対して瀧は、ふふんと高慢に笑う。

 

「ま、良いわ。前は勝ちを譲ってあげたけど今回は、そうは行きませんわよ。今年は私が勝ちますわ‼︎」

 

 そう言い放ち、瀧は悠々と歩み去って行った。彼女の背中を睨みながら、猛は不服そうに

 

「…んだよ、高飛車ぶったヤな女だな‼︎ なまじ美人なだけ余計に鼻が付くぜ‼︎」

 

 と、顔を顰めながら言った。それは舞花も同意した。

 

「自分の学校じゃ、学園長の娘のお嬢様だから、周りにチヤホヤされて、女王様みたいに崇められてるんだって!

 そんなだから、祈の事が気に入らないんじゃ無い?」

「……けど、瀧さん、変わったな……。去年、会った時は、あんな意地悪言ってくる人じゃ無かったのに……」

「フンッ! 去年の交流試合で、祈先輩に負けたもんだから、僻んでるですよ‼︎」

 

 いつの間にか、祈のそばに来ていた千鶴が、嫌悪感を滲ませて説明した。

 

「先輩! あんな高飛車女、やっつけちゃって下さいね‼︎」

「ちょ、千鶴……‼︎」

 

 鋤あらば、と引っ付いて来る千鶴に対し、祈は困惑する。その様子に、猛達は…

 

「百合って奴か…」

「百合だな…」

「百合ね…」

 

 と、ポツリと呟く。それと同時に、摩魅はオドオドとし始めた。

 

「どうかしたの?」

 

 彼女の唯ならぬ様子に気付いた陽は尋ねる。

 

「……何か……ザワザワします……。地の底から、湧き上がって来る様な、嫌な感じが……」

 

 彼女の中に流れるオルグの血が騒いでいるのだろうか? 言われてみれば、確かに妙な違和感を感じる。

 どうやら、テトムの予感は当たったらしい。そもそも、陽が此処に来たのは祈の試合を観戦する為だけじゃ無い。先日の恐竜オルグ達を退けた時から、急速にオルグ達の出現が無くなった。

 最初は切り札を倒された事で慎重になったのかと考えていたが、いつかガオネメシスは発した『鬼還りの儀』を思い出す。遂に、オルグ達が鬼還りの儀を執り行う為の準備に入ったかも知れない。 

 それを察したテトムは、陽に連絡して来たのだ。

 

『祈ちゃんの周辺に、細かく注意しておいて。追い詰められたオルグは何をするか分からないから』

 

 其れに了承した陽は、祈を注意深く観察する事にした。万が一、オルグが姿を現した時は……陽はジャケットの上から、G -ブレスフォンを握り締めた。

 その際、G -ブレスフォンが、激しく動く。話に夢中になる祈達に気付かれない様に、G -ブレスフォンを起動した。

 

 〜陽か? 俺だ〜

 

「大神さん?」

 

 ブレスフォンの向こうから聞こえるのは、大神の声だった。

 

 〜テトムの言った通りだ‼︎ 会場周辺に、オルゲット達が何人か彷徨いていた‼︎ 佐熊の方もな‼︎〜

 

「本当ですか⁉︎ 一体、何の為に⁉︎」

 

 陽は、嫌な予感が的中した事に顔を顰める。だが、破壊工作が目的なら何故、騒ぎを起こさないのか?

 

 〜分からんが、少なくとも俺達に勘付かれては困る事を企んでいるのは間違いない‼︎ 悪いが、陽。万が一の際は応戦を頼む‼︎〜

 

 そう言い残し、大神との通信は途切れた。陽は暫く呆然としていた。その様子を、摩魅は不安気に見ていた。

 

「大丈夫でしょうか?」

 

 袂を分かったとは言え、摩魅はオルグの性分をよく知っているつもりだ。彼等は非常に執念深く、何より目的を完遂する為なら手段など選ばない。祈や多数の一般人の居るこの場所が、地獄絵図さながらの様にならないかを心配しているのだ。

 陽は、彼女を心配かけまいとして優しく笑い掛ける。

 

「大丈夫だよ、摩魅ちゃん……何かあったら僕が……」

 

 そう言う陽の表情は、何処か余裕の無さそうな感じに見えた。実際の所、陽は焦っていた。早くオルグとの闘いに決着を付けなければ……その為に、多少の無理を自身に強いていた。

 鬼還りの儀が実現すれば、大多数の被害を出してしまう。そうならない為には、オルグを、そしてガオネメシスを止めるしか無い。

 しかし、陽の精神はかなり疲弊している。連日の戦いの日々による疲れ、苦悩は彼を蝕み、擦り減らしていく。いつ終わるか分からない戦いの中に、じきには18になろうとしている少年には、あまりにも酷な物だった。身体の苦痛に耐えられても、精神の苦痛は耐えられる物では無い。特に、まだ精神的にも未熟さを拭えない年頃である陽には尚更だ。

 

「陽……‼︎」

 

 急に誰かに声を掛けられ、陽は振り返る。そこに居たのは美羽だった。

 

「大丈夫? 深刻な顔してるよ?」

「あ……」

 

 側を見れば、摩魅も今に泣き出しそうな弱々しい顔で、自分を見ている。陽はかぶりを振った。

 何を考えているんだ、僕は……そんな後悔が、また自身を苛める。美羽は、陽の額を手の甲で、コツンと叩く。

 

「ま〜た、一人で悩んでる。言ったでしょ? アンタは一人で戦ってるんじゃ無いって。余裕が無いくらい疲れてるなら、少しは周りを見てみたら? 皆、アンタの味方だって……」

 

 そんな彼女の何気ない言葉が陽を、奮い立たせる。そうだった……自分は一人じゃ無い……。

 

「……ゴメン……ありがとう、美羽……」

「ん! 分かれば宜しい! ほら、試合が始まるよ‼︎ 祈の頑張ってる姿、見てあげなくちゃ‼︎」

 

 そう言って、美羽は陽の手を引く。陽も漸く笑顔を取り戻し、歩いて行く。摩魅は、仲睦まじい二人に複雑な表情を浮かべていた。しかし、そんな私的な感情は封じ、自分を付いて行こうとする。

 その刹那、摩魅の背後から伸びた手が彼女を口を抑えた。危機感を感じ、摩魅はもがくが突然、襲い掛かって来た眠気に意識を手放した。

 グッタリともたれ掛かる摩魅を、一人の警備員が支えていた。次の瞬間、警備員の顔はヤバイバへと変わる。

 

「…ヘヘヘ…悪く思うなよ?」

 

 そう言って、ヤバイバは鬼門の中に摩魅を連れ去ってしまった。

 

 

 

 やがて試合が始まった。祈は道着に着替え、防具を身に付ける。会場内には緊迫した空気が張り詰め、部員の誰もの顔に真剣さが覗いて見えた。それは、祈も同様である。

 

「祈先輩、緊張してます?」

 

 隣に居た千鶴が、祈に話し掛けてくる。流石に試合中に、ふざけて来る程、千鶴も子供では無い。ましてや優秀な剣術家の娘として育てられた彼女は、いつも以上に気合いが入っている様子だ。

 

「少しね……」

「ね、先輩……さっき、チラッと見たんですけど……」

 

 途端に千鶴は声のトーンを落とす。何事か、と思いながらも祈は耳を傾けた。

 

「今日、来てた先輩の、お兄様と一緒に居た女の人って……彼女さんですか?」

 

 千鶴の質問に、祈は頭を捻る。陽と一緒に居た女の子と言えば……舞花と摩魅と……。

 

「ほら、あの人……」

 

 千鶴は、観戦席に座る陽を指差す。陽の隣には、美羽が座っていた。

 

「…ああ…鷲尾美羽さん。兄さんの幼馴染なの」

「幼馴染?」

 

 祈の言った幼馴染と言う言葉に、千鶴は怪訝な顔をした。

 

「なんか、ただの幼馴染って感じじゃ無かったですよ。凄く仲良さそうだし……」

「そ、それは……」

 

 千鶴の返しに対して、祈は何も言い返せない。陽と美羽は、共にガオレンジャーだ。しかし、千鶴には、その事を話していないし、話した所で信じて貰える訳が無い。

 

「竜胆中学! 峯岸千鶴‼︎」

 

 審判席から千鶴の呼ぶ声がする。

 

「じゃ、行って来ますね、先輩!」

 

 千鶴は対戦相手と共に歩み去って行く。残された祈は一人、ヤキモキした感覚だった。言われてみれば、ここ最近で陽と美羽が共に過ごす機会が増えた。本当の所は、どうなのだろう?

 千鶴は対戦相手を寄せ付けない強さで、華麗に一本を取った。観戦席か

 らは「おおォォ……」と、感心する声がした。

 一人の観戦客が、誇らしげに千鶴を見ている。恐らく、彼が千鶴の父親だ、と祈は理解した。しかし祈には、そんな事はどうでも良かった。陽と美羽が楽しげに会話している事に、祈は非常に落ち着けない。

 祈が一人でヤキモキしてる間に、対戦は進行して行った。やがて、祈に順番が回って来る。

 

「竜胆中学! 竜崎祈‼︎」

 

 審判席から声がしたが、祈は聞き逃していた。周りの者達は、ザワザワとし始める。

 

「竜崎祈‼︎」

 

 二度目の呼ぶ声に、漸く祈は我に返った。いけない、今は試合に集中しなくちゃ‼︎ と、自分に喝を入れて祈は歩いて行く。

 対戦相手は先程、剣呑な空気となった瀧菜穂美だった。先程以上に、彼女は敵視して来る。

 

「試合中にまで上の空とは……来なさい、勝ち逃げさん。今日こそは負けませんわよ‼︎」

 

 瀧の侮蔑混じりの挑発が面を通して、聞こえて来る。それに対して、祈はキッと彼女を睨む。

 

「こっちこそ‼︎」

 

「東! 瀧菜穂美‼︎ 西! 竜崎祈‼︎ 正面に礼‼︎」

 

 審判員が叫ぶ。二人は試合会場のエンブレムに向けて一礼し、続いて互いに一礼する。

 

「始めェェッ!!!」

 

 やがて試合が開始した。瀧は先手必勝、として祈に攻め入って来る。しかし、祈は攻めはせずに後方に下がり、彼女の反応を伺う。

 相手に先ず打たせて、そして攻める。これは、祈の得意とする戦い方だ。しかし、陽と美羽の寄り添う姿が嫌でも目に入り、其方に視線が行ってしまう。其処へ、瀧は迫って来た。

 

「隙だらけよ‼︎ 面ッッ‼︎」

 

 瀧の振り下ろした竹刀が、祈の面に直撃した。

 

「面ありィィっ!!!!」

 

 一瞬の油断にて、祈は一本を取られてしまった。この余りに呆気ない事に一本取られた祈は勿論、部員達はポカンとした。

 

「嘘?」

「祈が?」

「こんな早く?」

 

 部員達の騒めきが立つ。面の向こう側で、瀧はフフンと北叟笑んだ。

 

「あらあら……やっぱり、去年の試合はまぐれだったのね?」

 

 その言葉に、祈の中で闘志が燃え上がる。今は、陽の事は考えずに居よう。そう自分に言い聞かせ、祈は竹刀を構えた。

 審判員の開始の合図で二人は動き出す。今度は祈は集中し、再び後方へと退がり、瀧の竹刀を躱す。そして、隙だらけとなった彼女の小手に狙いを定め、竹刀を振り下ろす。

 

「小手ェェ‼︎」

 

「小手ありィィっ!!!!」

 

 審判員は祈が一本、取った事を告げた。これで二人は互いに一本ずつ取られた事になる。瀧は余裕のある態度を消し、真剣そのものの表情を見せた。

 

 

「何だか、祈の様子、変ね……」

 

 観戦席で見守りながら、美羽はポツリと呟いた。ボンヤリとしていたかと思えば、いとも簡単に一本、取られてしまう……明らかに何時もの彼女とは異なる。

 

「美羽も気付いた?」

 

 陽も、どうも本調子では無い妹の様子に小首を傾げた。自分達が、祈の気を逸させているとは露知らずに、である。

 ふと、猛達は陽に向かって…

 

「…なァ…お前、マジで気付いてないの?」

「此処まで鈍感とはな……」

「祈、可哀想……」

 

 と、各々に言った。それに対して、陽はキョトンとした。ハッキリ言って気付いてないのは、当事者のみである。

 三人は祈が長らく、陽に一途な恋心を寄せている事を気付いていた。それは、彼女が陽の義妹であり、それを分かった上で黙認していたのだ。

 美羽と言うライバルの登場に祈が内心、穏やかで無い事は火を見るより明らかだったが当人達はまるで、その自覚が無いと来た。

 元々、陽と美羽は恋人同士などと言う浮ついた物ではなく、ガオレンジャーと言う戦友に等しい。しかし、事情を知っている猛達は元より、周りから見れば付き合っているのでは? と、誤解を受けても仕方が無い。

 と、そんな時、二人のG -ブレスフォンが激しく振動した。どうやら、オルグ達が出現したらしい。

 陽と祈は互いに頷き合う。

 

「猛、昇……悪いけど……」

「ああ、出たのかよ?」

 

 もう二人の正体を知っている猛は、陽達が何を言おうとしているか理解した。

 

「行けよ、試合が終わったら、祈ちゃんには上手く言っとく」

「ありがとう! 美羽、行こう‼︎」

「ええ‼︎

 

 そう言って、二人はコッソリと会場から後にした。その様子を見ていた舞花は、怪訝な顔で猛を見た。

 

「ねェ、やっぱり、あの二人って出来てんの?」

 

 不思議そうに出て行く二人の背を見ながら尋ねる舞花。しかし、猛は

 

「悪いが、言えねェ! 男は、時に口を鎖さにゃならん時もある‼︎」

 

 と、格好をつけながら言った。舞花は昇に尋ねる。

 

「このバカ兄貴は無視して……昇さん?」

「スマン……右に同じだ」

 

 昇も閉口した。益々、分からないままに、首を傾げる舞花。

 

 

 

 体育館の裏手にある広場には、鬼灯隊の面々が下忍オルゲットを率いて集結していた。

 

「まさか、こんな所にあったとは、盲点だった……」

 

 ホムラは呟く。地面には、オルグの言葉で書かれた文字が記されている。

 

「後は、此処に楔を埋め込めば終い、でございます……」

 

 ミナモは言った。コノハも続く。

 

「だったら、さっさと埋め込んじまおうぜ‼︎」

 

 コノハ急かすが、ライは…

 

「待ち! 親方様が来るのを待つんや‼︎ 最後の楔は、親方様やないとあかんからな⁉︎」

「マジかよ⁉︎」

 

 と制され、コノハは不満を漏らす。その際、リクが…

 

「……来た……‼︎」

 

 と、嬉しそうにした。他の四人も態勢を整える。其処へ陽達と大神、佐熊が合流し、鬼灯隊の前に現れた。

 

「……来たか、ガオレンジャー……‼︎ お前達が、此処に来る事は分かっていた……‼︎」

 

 ホムラが、陽に対し言った。陽は、負けじと言い返した。

 

「こんな所に現れるなんて……一体、何を企んでいる⁉︎」

「何を、だと? そんな事、決まっていよう…」

 

 ホムラは勝ち誇る様に、笑う。

 

「全ては、オルグの未来の為……最後の楔を打ち込み、鬼還りの儀を完遂させる為だ……‼︎」

「もとい、邪魔者である貴方がたを始末する為でもある、でございます」

 

 ホムラに続き、ミナモが言った。その言葉に大神が、怒り心頭で怒鳴る。

 

「此処には、大勢の人間が居るんだぞ⁉︎ その人達はどうなる⁉︎」

「はァ? そんなモン、知るかよ‼︎ アタシらは受けた命令をこなすだけだ‼︎」

「そもそも、ウチらはオルグやで? 人間が百人死のうが、全く影響が無いわ!」

「人はどうせ皆、死んじゃうから….…さして変わらない……」

 

 大神の怒りの叫びに対しても、コノハ、ライ、リクの言葉はオルグの価値観に則った物であり、取り付く島が無い。

 

「……ち……見た目が人間に近いから、と言っても腹の中はオルグじゃな‼︎」

「……やっぱり話し合いにならないね……‼︎」

 

 佐熊と美羽も、鬼灯隊への怒りを滲ませた。陽は顔を伏せる。

 

「……僕は勘違いしていた……例え、オルグの血が流れていても摩魅の様に分かり合えるかも、と……‼︎ でも、甘い幻想だった‼︎」

 

 ガオアクセス!!!」

 

 陽は、G -ブレスフォンを起動させて、ガオゴールドへと変身した。他の四人も変身する。

 

「お前達が地球に害を及ぼすなら! この天照の竜、ガオゴールドが、お前達を倒す‼︎」

「……宜しい……では、オルグ忍軍なりの敬意に評し、全力にて相手致す‼︎ 鬼面邪装‼︎」

 

 ホムラの叫びと同時に、鬼灯隊達は鬼面を着用すると、人間に近かった姿から本来の物であるオルグ魔人と化した。 

 

「行くぞ‼︎ 鬼灯隊の威信に懸けて、ガオレンジャーを迎え撃つ‼︎」

「了解‼︎」

 

 ホムラが忍刀、ミナモが両手に苦難、ライが忍鎌、コノハが小太刀、リクが忍刀を二本と、それぞれの獲物を構えて、突っ込んで来た。

 

 

 ガオゴールドは、ソルサモナーウィングを出現させ、ホムラの斬撃を受け止めた。刃から殺気が滲み出てくる。

 

「オルグ忍法! 陽炎分身‼︎」

 

 突然、ホムラの身体がユラリと揺れて、六人へと分身した。高熱を利用した幻覚だが、本体は一つだ。ならば……

 

「紅炎一閃‼︎」

 

 ソルサモナードラグーンに纏わせた炎を、太陽のプロミネンスの様に放った。炎の斬撃は、ホムラを斬り飛ばして行く。

 しかし五人共、消滅した。

 

「な⁉︎ 居ない、何処へ⁉︎」

 

 目の前には本物は居なかった。ならば……⁉︎

 

「こっちだ!」

 

 何時の間にか、背後に回り込んでいたホムラの刃が、ガオゴールドの首筋を捉えた。

 

「フェニックス・アロー‼︎」

 

 ガオプラチナの放つフェニックス・アローが、ホムラの刀を弾き飛ばす。手に痺れを感じたホムラは怯むが陽は、その隙を見逃さない。

 

「竜翼…日輪斬りィィ‼︎」

 

 振り下ろした刃に、ガオソウルを纏わせ、ホムラを斬った。だが、ホムラは、そのまま大地を蹴って後退する。

 

「浅い⁉︎ 寸前で、躱された⁉︎」

 

 ホムラの身体を刃が貫く寸前に、彼女は身体をくねらせて刃傷を浅くしたのだ。

 

「て、手強いな…‼︎」

 

 前回、戦った時以上に強い鬼灯隊に、ガオゴールドは驚く。苦戦しているのは、ガオシルバー、グレーも同様だった。

 成る程、流石に此処まで生き残ってきたオルグに弱い奴は居ない。それこそ、メラン級のオルグが次から次へと出て来る。

 鬼灯隊は再び、五人に集結する。

 

「ぬゥ……‼︎ 強いのォ……‼︎」

 

 ガオグレーは改めて、鬼灯隊の強さを納得した。コノハは見下す様に、せせら笑った。

 

「当たり前だろ‼︎ アタシ達を、並のオルグ魔人と一緒にされちゃ困るぜ‼︎ ヤミヤミの親方に直接、技を指導を受けてるからな‼︎」

 

 ミナモも、それに続き、水の泡を数個、創り出した。

 

「オルグ忍法! 炸裂水泡弾‼︎」

 

 彼女の放つ水泡は、ガオゴールド達を取り囲む。

 

「シャボン玉遊びなら、他所でやれ‼︎ ガオサモナーロッド、スナイパーモード‼︎」

 

 スナイパーモードに変形したガオサモナーロッドで、水泡を狙撃して行くガオシルバー。しかし、ミナモはニィッと笑う。

 と、その刹那……水泡は爆発し、連鎖して行く様に、他の水泡と共に爆発して行った。

 

『うわあァァッッ!!!!』

 

 ガオレンジャー達は爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされて行く。その様子に、ミナモは愉快そうだ、、

 

「水の力は、音や光さえも凌駕する速さで伝達しますのよ? 言ったじゃありませんか、炸裂って……で、ございます……」

「く、クッ……‼︎」

 

 やっとの思いで立ち上がるガオゴールド。しかし、鬼灯隊や下忍オルゲット達に取り囲まれてしまった……。

 

 〜ガオレンジャーの前に立ち塞がる、オルグくノ一『鬼灯隊』‼︎ その圧倒的な力を前に、ガオレンジャーは追い詰められそうです‼︎

 果たして、ガオレンジャーは鬼灯隊を倒せるとでしょうか⁉︎〜



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quest44 オルグ忍者の罠‼︎

※スマホが故障し、PCもない為、小説の投稿がまたしても遅れてしまい、誠に申し訳ございません‼︎


 ガオゴールドは、目の前にて立ち塞がるオルグくノ一達を、睨みつけた。何れとも、曲者揃いで単体による対決でなら、何とか太刀打ち出来る。しかし、五人一組による息のあったチームプレイを駆使する彼女達の陣を崩すのは困難だ。

 何とか一対一に持ち込みたいが、それさえもままなら無い、

 

「ガオレンジャー……今宵は貴様等の命日となる……今日に至る迄、数多の同胞を葬ってきた己の罪深さを悔いるが良い…‼︎」

 

 ホムラは印を結ぶ。すると、下忍オルゲットの数が明らかに増えた。通常のオルゲットと異なり、彼等は強い。

 ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンを銃形態にして構えた。

 

「シルバー! 援護を‼︎」

「了解‼︎」

 

 ガオシルバーは、その指示に従いガオサモナーロッドを構える。しかし、ミナモは印を結び…

 

「オルグ忍法! 炸裂水泡弾‼︎」

 

 と、ミナモの口から吐き出される水泡。さっきより数が多く、迂闊に飛び出そう物なら、また爆発に巻き込まれてしまう。

 

「私に任せて‼︎ フェニックス・アロー‼︎」

 

 ガオプラチナの射撃したフェニックス・アローに、水泡は覆い被さろうとする。と、その際…

 

「トラッキング‼︎」

 

 と、プラチナが指示を出すと矢は意思を持った様に空中へ舞い上がり、水泡は一縦直線に並列した。すると、矢は折り返す様に戻って来て、水泡を串刺しにする様に破壊して行った。

 矢の放つ高熱に水は蒸発し、不発となった。しかし、下忍オルゲット達は構わずに襲い掛かって来る。

 

「雑魚は散れィ‼︎ ハンマー・ブーメラン‼︎」

 

 ガオグレーは、グリズリーハンマーを持ってゴルフのスイングさながらに振り回した。すると、柄の先端から外れたハンマーは、下忍オルゲット達を叩き伏せて行く。

 やがて、全てのオルゲット達が泡となって消えるけど、柄の先端よりガオソウルの鎖が射出され、ハンマーに装着、そのまま柄へと戻って来た。

 

「さて……雑魚は片付いたな……後は、貴様等じゃ‼︎」

 

 ガオグレーは、高々と宣言した。しかし、ホムラ達は顔色一つ変わっていない。寧ろ、不敵な笑みを浮かべている。

 

「愚かな……オルグ忍法の真髄は、まだここからだ‼︎ 全員、行くぞ‼︎」

 

 ホムラ達は再び印を結ぶ。すると、彼女達の身体に黒煙が立ち昇り始めた。

 

 

 〜臨・兵・等・者・皆・陣・列・在・前……‼︎ オルグ忍法・極! 変幻武身の術‼︎〜

 

 

 煙の中から響く声……やがて、煙が晴れたかと思えば、鬼灯隊の姿は跡形も無くなり……

 

「な、馬鹿な⁉︎」

「こ、これは⁉︎」

 

 ガオゴールド、ガオシルバーは驚愕した。何と、鬼灯隊の面々はガオの戦士の姿に変わっていたのだ。

 ホムラはガオレッド、ミナモはガオブルー、ライはガオイエロー、コノハはガオブラック、リクはガオホワイトの姿である。

 

「鬼灯隊が……ガオレッド達に……⁉︎」

「げ、幻覚か⁉︎」

「これは幻覚じゃ無い、現実だ‼︎ 我々は、貴様等の内に存在する“最も強い存在”へと変身する事が出来る‼︎」

 

 ガオレッドに扮するホムラが得意げに言った。ミナモも続く。

 

「断っておきますけど……姿だけの変身だとは思わないで下さいな! 私達は事前に、ガオレンジャー達の戦闘データを事細かに分析している、でございます‼︎」

「更に、鍛え抜いたウチらの戦闘力が合わされば、本物のガオレンジャー以上の戦闘力を発揮する‼︎」

 

 ミナモに続いて、ライも言った。

 

「ついでに言えば、お前等、仲間を攻撃出来ねェだろ⁉︎」

「……皆、やっつける……‼︎」

 

 コノハとリクも挑発する様に言った。確かに、ガオゴールド達も今迄、倒して来たオルグ達では無く、先人のガオの戦士であるガオレッド達と戦う事には抵抗がある。

 ましてや、それで無くても鬼灯隊は手強いのに、ガオレンジャーの力を取り込んで来たのは非常に、厄介極まりない。

 だが……此処で負ける訳には行かない! 鬼還りの儀を何としても防がなくてはならないのだ‼︎ 祈を、友達を、大切な人達を守る為に……‼︎

 

「皆、行くぞ‼︎ 鬼灯隊を迎え撃つ‼︎」

 

『了解‼︎』

 

 ガオゴールドの指示に従い、他の仲間達も力強く応える。しかし、鬼灯隊扮する偽ガオレンジャーは不敵な態度だった。

 

 

 

 夢を見ていた。自分が幼い頃、鬼子と呼ばれ、忌まわしい存在と石を投げられて逃げた、あの頃……。

 何時しか彼女は雨が降り注ぐ中、一人で歩いていた。其処は捨てられてた廃村……雨が降り注ぐ中、哀れな少女は歩き続ける。行く宛も、帰る場所、頼る人も無い。ただただ……歩き続けるしか出来ない……。

 ふと、ぬかるんだ泥道に足を踏み入れた少女は、泥水の溜まりに顔から突っ伏した。起き上がる彼女の顔には泥がこびりつき、両目から滴り落ちる涙が、泥を流して行く。

 その時、彼女の頭上に傘が掛けられた。少女は誰が掛けてくれたのか、と主人を探す。それは、浪人風の出で立ちをした侍だった。

 腰に差した刀を見た少女は、ビクリと身体を強張らせる。侍は、笑った。

 

『刀が怖いか? 案ずるな、此れは竹光だ。廃刀令が出てから、刀を持つ事を禁じられてな……今や、武士などと名乗る者は一人といまい……』

 

 侍の言葉に少女は首を傾げる。はいとうれい、とは?

 

『……こんな所で、子供一人で何を? 両親はどうした?』

 

 侍の質問に対して、少女は首を振る。

 

『……そうか……なら、名前は?』.

 

 名前……思い出せば、母は自分に名前を付けてくれなかった。ひょっとしたら、付けてあったかも知れないが、母の死んだ今となっては確かめる術も無い……。

 

『名前も分からない、か……。某の生まれた国、摂津には摩耶と言う美しい山が有る……昼は、その頂きより見下ろす地上の風景で、夜は夜闇に瞬く星屑が登山中の旅人達を魅了する……。そなたも、摂津に行く事が有れば見てみると良い…。

 昼と夜、時によって違う形で人を魅了する摩耶の山に因んで……

 

 

 摩魅……と、言うのはどうだ?』

『ま…み…?』

 

 自身の名前すら知らずに生きてきた混血鬼の少女は、名を知らぬ通り掛かりの侍から、名前を貰った。

 その後、侍は歩み去っていったが、残された少女は…

 

『私は……摩魅……』

 

 初めて受けた人からの労り、優しさ、温もりに困惑しながらも、名付けられた自身の名前を愛おしげには呟き続けた……。

 

 

「う、う〜〜ん……」

 

 摩魅は漸く意識を取り戻す。ふと、昔の事を思い出す夢を見ていた………どの位、自分は眠っていたのだろうか?

 少しずつ意識を取り戻すと、どうやら、自分が暗い部屋の中に居る事を理解した。身体を動かそうとすると、両手がガチャガチャと音を鳴らす。目が慣れてきたら、自分の両手は背中の後ろに手枷で拘束されている様だった。

 思い出してみる……確か、自分は陽達の祈の試合を観戦しに行って、その際に急に眠気に襲われて……で、気が付いたら、此処にいて……。

 だが、やがて摩魅は思い出す。この部屋は自分にとって一番、思い出したく無い場所だった。摩魅の身体はガタガタと震え始め、更には全身の穴と言う穴から、冷や汗が溢れ出てくる。

 

「クスクス……思い出しましたかァ?」

 

 ふと部屋の隅から声がした為、見てみるとニーコが厭らしい笑みを浮かべている。

 

「そうですよォ? 此処は貴方の為に当てがわれた……拷問部屋ですよねェ?」

「あ…あ…」

 

 ニーコは、トラウマが頭に流れ込んで来て声が出て来ない。そんな様子に、ニーコは益々、上機嫌に笑う。

 部屋の中には、正しく拷問部屋と呼ぶに相応しい品が多々、置かれていた。鎖、鞭、抱石、三角木馬……何れも自分が無理矢理、強要された物ばかりだ。それも、オルグ達の『暇潰し』と言う、ただそれだけの理由だけで……。

 

「やっと目を覚ましたか?」

 

 部屋に入って来たのは、ガオネメシスだ。マスクの内側から、冷酷な光が覗き見る。

 

「……さて……何故、貴様を再び、此処へ呼び戻したか……分かっているかな?」

 

 ガオネメシスの質問に、摩魅は首を横に振る。

 

「理由は簡単だ。貴様を、ガオゴールド攻略の為に役立てようと思う……」

「こ、攻略?」

 

 訳の分からないままに、摩魅は尋ねた。ガオネメシスは、クックッと含み笑いを上げた。

 

「貴様を、ガオゴールドの元に行かせたのは、別に奴の動向を探らせる為ではない……奴の弱点とする物を増やす為だったのだ?」

「その弱点が……私?」

 

 すると、ニーコがクスクスと笑いながら割り込んで来た。

 

「ガオゴールドさんはァ…優しい人だから、貴方みたいな半端者にも優しくしたでしょォ? 其処が、ガオネメシス様の作戦だったんですよォ?」

「……奴は敵に対しては、オルグ顔負けの鬼となれる……しかし、気を許した仲間には拳を振り上げる事が出来ない……それは、狼鬼の一件で理解していた……。其処で、貴様を奴の下に送り込んだ訳だ……。

 今の貴様と奴には、深い繋がりがある……最も、貴様の一方的な繋がりに過ぎんがな……」

「‼︎」

 

 ガオネメシスの発した言葉に、摩魅は顔を赤くした。その様子に、ニーコは嘲笑う。

 

「ウフフ! 貴方、ガオゴールドに対し、劣情を抱いてるのですねェ? お馬鹿さん♡ 混血鬼の貴方を、ガオゴールドが相手にすると思っているのですかァ?」

 

 ニーコの容赦無い言葉は、摩魅の心を踏み躙る。更に、ガオネメシスは続けた。

 

「哀れだな、混血の娘……人にもオルグにもなれず、愛する者を選ぶ事も出来ず……貴様は、ガオゴールドが他に愛する者と幸せそうに、過ごす様を見せつけられながら、孤独の中で生きていくしか無い……。

 諦めろ……それが貴様の運命だ……」

「じ、じゃあ……貴方は……幸せなの?」

 

 摩魅は最後の力を振り絞って、ガオネメシスに語り掛ける。

 

「人を捨てて、オルグにもなり切れない……貴方だって、私と同じ……」

「何が言いたい?」

 

 ガオネメシスは口調こそ静かだが、怒りのオーラを滲ませていた。

 

「貴方は私を……哀れだと言うけど……人の温もりも優しさも全部、捨てて鬼になろうとしている貴方の方が……よっぽど、哀れに見える……」

 

 最後まで言い切る事なく、摩魅の腹部に衝撃が走る。ガオネメシスが、ヘルライオットで彼女の横腹を打ち据えたからだ。

 

「貴様ァ……半端な小娘の分際で……この俺を哀れむだと? ふざけた事を……抜かすなァァ!!!」

 

 ガオネメシスは激昂しながら、ヘルライオットで彼女を背を殴り付けた。摩魅は芋虫の様に身体をくねらせながら、呻く。

 

「混血鬼がァ……混血鬼がァァ……混血鬼がァァァ!!!!!! この俺をォ…見下すだと⁉︎ ふざけるな! ふざけるなァ‼︎」

 

 構う事なく、ガオネメシスは何度も何度も摩魅の全身を強かに打ち続けた。だが、摩魅は抵抗も叫び声も上げない。蹲ったまま、ネメシスの折檻に耐え続けた。

 

「どうだ、クズめ⁉︎ 少しは見に染みたか⁉︎」

 

 珍しくヒステリックなまでに肩で息をしながら、ガオネメシスは睨み付ける。しかし、ボロボロになった彼女は痣だらけになった顔を上げた。

 やはり、彼女は憐みに満ちた視線をネメシスに向けてくる。

 

「まだ……そんな目で……!!!!」

 

 再び怒りに震えながら、ガオネメシスはヘルライオットの銃口を彼女の頬に押し付け、撃ち出そうと引き金に指を当てた。

 しかし、その手を何者かが止めた。

 

「何の真似だ、メラン?」

 

 何時の間にか、彼の背後に回り込んでいたメランが、彼の腕を押さえていた。ネメシスは苛立たしげに、彼を睨む。

 

「そいつを殺すのは貴様の勝手だ……だが殺せば、鬼還りの儀に支障をきたすのでは無いかな? それでも良いなら、この手を離すが……どうする?」

 

 メランは有無を言わさず程の迫力を発しながら、ガオネメシスに言った。ネメシスは、チッと舌打ちして、ヘルライオットを消失させた為、メランは手を離す。

 

「ニーコ……そいつを手当てしろ‼︎」

「はァい♡」

 

 そう命令して、ガオネメシスは部屋から乱暴に出て行った。残されたニーコは、摩魅の傷を見ながら、メランにクスクスと笑う。

 

「どーして、こんな混血鬼を庇うんですゥ? 貴方からすれば、虫ケラ以下の存在なのにィ?」

「……さァな……気紛れだ」

 

 メランは壁に凭れ掛かりながら、気怠そうに言った。しかし、ニーコは続けた。

 

「そもそも、テンマ様と手を切る、とか宣っていながらァ……ガオネメシス様と手を結ぶなんて、プライド無いんですかァ?」

 

 小馬鹿にした様な、ニーコの発言にメランは、メラディウスの刃を彼女の首筋に突き付けた。

 

「……ペラペラ、よく回る舌だな……その減らず口ごと、焼き斬られたいのか?」

「あら? お気に障ったなら、失礼?」

 

 怒りを滲ませつつ、メラディウスの切っ先を向けるメランに対し、悪びれる様子なく肩を竦めるニーコ。

 

「刃を引っ込めて下さいな? 治療が出来ませんわ?」

 

 ニーコはメラディウスを指差しながら言った。メランは、剣を炎に戻す。

 

「勘違いするなよ? 我は、ガオネメシスに仕えている訳でも、元よりテンマに頭を垂れたつもりも無かった。

 我にとって、ガオゴールドとの雌雄を決することのみが最優先だ」

「拘りますねェ? 確かに、ガオゴールドは強くなりましたけど、はっきり言って、これ迄の戦いはパワーアニマルの力に頼って掴んだ薄氷の勝利。本気を出した貴方じゃ、5分と保たずに消炭と化すのが関の山では?」

 

 ガオゴールドの強さとは……即ち、他者を守る為に我が身を犠牲にする自己犠牲精神の強さである。結論から言えば非常に危うい、メランの様な真の強者と呼ぶには程遠い物である。

 

「だからこそだ。我は半端者だろうが何だろうが、その様な者と引き分けたままで居たくは無い。どちらが真の強者に呼ぶに相応しいか、はっきりさせておきたい。我にとって、それが重要なのだ」

 

 それだけ吐き捨て、メランも部屋から出て行った。メランが居なくなった所を見計らい、ニーコはニヤリと笑う。

 そして胸元に隠してあった、豆粒くらいの大きさしか無いオルグシードを取り出した。それを自身の舌に載せる。

 

「ンフフ……オルグに成り切れない混血鬼……恋慕う者に想いを告げる事も出来ない混血鬼……ならば、せめてオルグとしての幸福を味合わせてあげますよォ♡」

 

 そう言いながら、ニーコはグッタリとする摩魅の口を強引に抉じ開け、オルグシードを含んだ口を彼女の唇に押し付けた。そして、舌を通してシードを流し込む。やがて、口を離し唾液を糸の様に伸ばしながら、ニーコは舌で口周りをペロリと舐め、悪辣に北叟笑んだ……。 

 

 

 

「うう……‼︎」

 

 その頃、ガオゴールド達は鬼灯隊との戦いに苦戦していた。彼女達は見た目だけでなく、ガオレッド達の破邪の爪を駆使して攻撃してくるのだ。

 

「諦めろ、ガオレンジャー‼︎ 今の貴様達では、私達を倒す事は夢のまた夢だ!」

 

 ホムラは、ガオレッドの破邪の爪ライオンファングを構えながら、ふらつくガオレッドに接近した。

 

「ブレイジングファイヤー‼︎」

 

 ライオンファングから放たれた炎が、ガオゴールドを吹き飛ばす。マスクは砕け散り、陽の顔が覗く。

 

「ゴールドォォ…! くそ、こんな事が……!」

「ほらほら‼︎ よそ見しとる場合やないで‼︎ ノーブルスラッシュ‼︎」

 

 ライが、ガオイエローの破邪の爪イーグルソードで、ガオシルバーを斬り付ける。激しい火花が散った。

 

「まだまだ、でございます‼︎ サージングチョッパー‼︎」

 

 ミナモが、ガオブルーの破邪の爪シャークカッターを構えて、数回に分けてガオシルバーを斬り刻む。

 ガオグレーは、シルバーを助ける為に駆け付け様とするが……。

 

「ベルクライシス‼︎」

 

 リクが、ガオホワイトの破邪の爪タイガーバトンで、ガオグレーを殴打した。

 

「ぐふゥゥッ!!?」

 

 背面からの奇襲を受け、堪らずにガオグレーは崩れ落ちる。ガオプラチナは、フェニックス・アローを構えるが……。

 

「させるかよ!アイアン・ブロークン‼︎」

 

 コノハが、ガオブラックの破邪の爪バイソンアックスを振って、プラチナを吹き飛ばした。

 

「…くゥゥ…!!!!」

 

 ガオレンジャー達は、苦境に立たされていた。まさか、先人達の力さえも、オルグに利用される等、夢にも思わなかった。

 ホムラは、ガオゴールドの前に立ち、勝ち誇る。

 

「フフフ……何とも無様だな、ガオゴールド? だが、全ては貴様が悪いのだぞ? 偉大なるオルグの意志を背いたりするから、こうなる。

 だが、光栄だろう? 貴様達の先人であるガオレッド達の得物にて介錯されるのだからな‼︎」

「……知った風な……口を叩く……な‼︎」

 

 ガオゴールドは動くのも苦しいだろうが、辛うじて顔を上げて、ホムラを睨みつけた。

 

「……その武器は……その技は……ガオレッド達が命を賭けて……地球の未来を守る為に、使って来た物だ……!

 人の命を……地球の命を何とも思わない、お前達が……気軽に使って良い物じゃ……無い……‼︎」

「フン…! まだ、そんな減らず口を叩けるのか? 宜しい、我々の使う力が紛い物だと言うなら……この技を受けてからにするんだな‼︎」

 

 そう言って、ホムラ達は集結し、破邪の爪を合体させていく。5つの破邪の爪は、巨大な剣へと姿を変える。

 

『邪鬼百獣剣! 正気、退散‼︎』

 

 ホムラ達の放った邪鬼百獣剣の斬撃が、ガオゴールド達に迫る。しかし、その斬撃はガオゴールド達に届く事なく消失した。

 

「な、何や⁉︎ 何で、攻撃が効かんのや⁉︎」

 

 自分達の攻撃がかき消された事に、ライが叫ぶ。すると、ガオゴールド達の前に立つ人影があった…。

 

「お前達が、如何にガオの戦士の力を使っても無駄だ! それは地球を守る心を持つ戦士が使って、初めて真価を発揮する‼︎」

「ガオマスター‼︎」

 

 ピンチに応じ、自分達にすれば5人目の戦士であるガオマスターが姿を現す。彼の左手に掲げるフルムーンガードで、彼女達の攻撃を防いでくれたのだ。

 

「何をしている、若きガオの戦士達! 奴等は、ガオの戦士では無い偽物に過ぎん! 諦めてはいかん!」

 

 そう言って、フルムーンガードをガオゴールド達に向ける。すると、盾から放たれる光が、ガオゴールド達の身体を癒した。

 

「痛みが……傷が消えた……‼︎」

 

 ガオゴールドは再び、立ち上がる事が出来て、ソルサモナードラグーンを構えた。対して、ホムラは苛立ちながら、叫ぶ。

 

「チィ‼︎ ならば、オルグ忍者としての力を使うまでだ‼︎ 行くぞ‼︎」

 

 そう言って、ホムラ達は一斉に襲い掛かってくる。しかし、ガオゴールド達は仲間達と頷き合う。

 

「皆、行くぞ‼︎」

「応‼︎」

 

 ゴールドの言葉に、他のガオレンジャー達も走り出す。ガオマスターは、その様子に満足しつつ、若きガオレンジャー達に加勢した。

 

 

 第二戦は、先程とは比べ物にならない戦いとなった。鬼灯隊は破邪の爪を使おうとするが、さっきの様な力がどうしても発揮出来ずに居る。

 

「クソ! 何だよ、このポンコツが‼︎ あたい達に使える様に改造したんじゃ無いのかよ⁉︎」

 

 コノハは、バイソンアックスを叩き付けながら、毒吐く。其処へ、ガオグレーがグリズリーハンマーを振り上げながら突進して来た。

 

「分からんか⁉︎ お前達が使っとるから、破邪の爪が嫌がっとるんじゃ‼︎」

 

 と、言ってグリズリーハンマーを力一杯に振り落とした。バイソンアックスで受けるコノハだが、力負けして吹き飛ばされてしまう。

 

 ガオシルバーは、ライとミナモに対峙する。二重殺法を仕掛けてくるが、力を取り戻したシルバーの敵では無かった。

 

「銀狼満月斬り‼︎」

 

 ミナモの攻撃を掻い潜り、ライを斬り付ける。ライは崩れ落ちた。

 

 ガオプラチナは、フェニックス・アローでリクに狙いを定める。リクはタイガーバトンを使って攻撃を仕掛け様とするが、先手を仕掛けたプラチナは矢を精製する。

 

「鳳凰の飛翔‼︎」

 

 フェニックス・アローから放たれた矢が、火の鳥を模した巨大な炎となって、リクを飲み込んだ。

 

 最後に、ガオゴールドはソルサモナードラグーンで、ホムラと対峙していた。しかし、ホムラは…

 

「オルグ忍法! 陽炎分身の術‼︎」

 

 再び、複数に分身するホムラ。しかし、ガオゴールドは動じる事なく、ソルサモナードラグーンを銃形態にした。

 

「そこッ‼︎」

 

 一人だけ、明らかに違う動きをしていたホムラを、狙撃する。そして、ホムラの分身は消失した。

 

「クッ……まさか、我々が……‼︎」

 

 予想外の反撃に合い、鬼灯隊は逆に追い込まれてしまう。更に畳み掛ける様に、ガオゴールド達は集結し、武器をかざす。

 すると、4つの武器は合わさって、ガオソウルで構成された巨大な光剣が出現した。

 

「コレが、破邪神獣剣だ‼︎ 行くぞ、邪鬼……退散‼︎」

 

 ガオゴールドの掛け声で、振り下ろされた巨大な刃が、鬼灯隊を飲み込んで行った。

 

「あああァァァッ!!!!」

 

 打ち出されたガオソウルの光剣が、鬼灯隊を呑み込んで行く。力を出し尽くしたガオゴールドは、膝をついた。

 やがて、光が収まると倒れ伏す鬼灯隊の姿があった。

 

「や、やったのか?」

 

 予想以上に強敵だったが、何とか勝つ事が出来た。やがて、ガオソウルが切れて変身が解けてしまい、同様に変身が切れたガオシルバー、グレー、プラチナもやって来る。

 

「ああ……まさか、ガオレッド達の力を使うとはな……」

 

 大神は複雑そうに言った。

 

「だが……勝つ事は出来た……」

 

 耐久力には自信のある佐熊も疲労困憊の様子だ。

 

「……ガオマスターが……居ない?」

 

 美羽は、戦いに手を貸してくれたガオマスターの姿が消えた事に驚く。その時、後ろから…

 

 

「兄さん‼︎」

 

 

 道着を身に付けた祈が駆けて来る。

 

「祈⁉︎」

 

 どうして、祈が? 陽は違和感を覚えながら、疲労により思考が纏まらなかった陽は駆けて来る祈を抱きしめてやろうとする。

 すると、祈は陽の胸に軽く体当たりを仕掛ける様に、身体をぶつけて来る。と、陽は腹部に鋭い痛みが走った。

 

「グ⁉︎」

 

 陽は祈から身体を離す。すると、祈の手には血糊が付いた苦無が握られていた。

 

「い、祈……どうして…⁉︎」

 

 どうして、祈が自分を? 訳が分からないまま、陽は崩れ落ちた。大神が陽に駆け寄る。

 

「何の真似だ⁉︎」

 

 常軌を逸した行動を取った祈に対し、大神は怒鳴る。しかし、祈は邪悪に笑い……

 

「残念だったな……拙者は祈では無い……」

 

 と言いながら、祈は背後にジャンプした。すると、そこに居たのは……

 

「お前は、ヤミヤミ⁉︎」

 

 何と、ヤミヤミが祈に化けていたのだ。ヤミヤミは、クックッと含み笑いを浮かべる。

 

「これで、拙者の仕事は終わりだ。彼奴等も各々の使命を果たした……」

 

 そう言って、ヤミヤミは指を鳴らす。すると、倒れていた鬼灯隊が煙の様になっでは消えて行った。

 

「な、消えた⁉︎」

「戯けが。あれは、拙者の作り出した傀儡よ。貴様等は、最初から傀儡相手に戦っていた訳だ。

 無論、傀儡達も、わざと負けさせた。貴様等を油断させる為にな」

「そ、それじゃ……此処に最後の楔を打ち込む、と言うのは?」

 

 美羽の言葉に、ヤミヤミは嘲笑う。

 

「それも、ハッタリだ。目的の場所は此処では無い……しかし、計画の邪魔となるガオゴールドのみは此処で刺し違えてでも倒す必要があった……しかし、その計画も無事に終わりだ……」

 

 そう言うと、ヤミヤミは姿を消す。

 

 〜では、さらばだ‼︎ お前達は、鬼還りの儀が行われるその瞬間まで、指を咥えて見ているが良い……ハッハッハッハッ……〜

 

 ヤミヤミの声が木霊した。大神は悔しそうに地を叩く。

 

「クソッ‼︎ 俺達は嵌められた‼︎」

 

 悔しいが敵の方が一枚、上手だった。何より、ガオマスターをも騙し切ったのだから、気づける筈が無かった。

 

「それより‼︎ このままじゃ陽が‼︎」

 

 美羽は腹部から血が大量に溢れ出て来た陽を、介抱しながら叫んだ。このままでは、陽が失血死してしまう。

 

「月麿‼︎ テトムを呼べ‼︎」

「もう、呼んでいる‼︎」

 

 佐熊に言われる迄も無く、既に大神はテトムに連絡を取っていた。

 

「陽……陽ァ……‼︎」

 

 美羽は涙を流しながら、陽に呼び掛ける。彼女の頬から伝う涙が、陽の額に落ちた。

 

 

 〜辛うじて倒した鬼灯隊は偽物であり、更にヤミヤミの仕掛けた狡猾な罠により、陽は負傷してしまう‼︎

 果たした、陽の運命は⁉︎ そして、鬼還りの儀は阻止できないのか⁉︎〜



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quest45 原初の戦士、初陣!

※最近、投稿が遅れてばかりで申し訳ございません‼︎
中々、本調子に戻れずに遅筆になってしまって……
それでは、本編をどうぞ‼︎


「親方様‼︎ 指令通りに行いました‼︎」

 

 ビルの上に、集結し跪く鬼灯隊。その彼女達を見回す様に立っていたのは、ヤミヤミだ。

 

「ウム……ご苦労。これで、全ての布石は整った」

 

 ヤミヤミは満足げに言った。それに反し、コノハは不満そうだった。

 

「結局、ガオレンジャーとは戦えず仕舞いだよ……」

「文句を言うな、コノハ。我々は、飽くまで鬼還りの儀を完遂させる事を考えていれば良いのだ」

 

 ホムラが、コノハを嗜めた。

 

「けど……親方様。ガオゴールドを仕留める為とは言え、私達の傀儡を用いるとは、名案でした…で、ございます」

 

 ミナモは、ヤミヤミの最初に出した指令内容を改めて感服した。

 

「ま、どちらにせよ、鬼還りの儀が執行されたら、ガオレンジャーは一網打尽や。遅かれ早かれ、そうなる運命やったけどな」

 

 ライは、嘲る様に言う。

 

「……早く戦いたい……」

 

 リクは、ウズウズとした様子だった。

 

「……焦るな。ガオゴールドは今や虫の息。残ったガオシルバー、ガオグレー、ガオプラチナ……奴等を倒すのみだ……」

「親方様……ガオマスターも、残っております……」

 

 ホムラが付け加える。ヤミヤミは、ウームと唸る。

 

「そうだな……奴も危険だ……始末しておかねばなるまい……」

 

 

「呼んだか?」

 

 

 突如、ヤミヤミ達の背後から語り掛けて来る声。振り返ると、其処にはガオマスターが立っていた。

 

「ガオマスター……‼︎」

「其方から出向いて来たか! 飛んで火にいる夏の虫、とはこの事‼︎」

 

 ホムラは忍刀を構えながら、威嚇する。しかし、ガオマスターは動く事は無かった。その代わり、強い覇気を滲ませて来る。

 

「止めておけ。お前達では私には……勝てん!」

 

 そう言いながら、ガオマスターはフルムーンガードを構える。突然、飛来して来た苦無を受け止めたのだ。

 

「ウフフ……この前、邪魔した……お返し……ウフフ……‼︎」

「……相変わらず、躾のなってない……」

 

 苦無を投げたのは、リクだった。顔を邪悪に歪ませながら、多数の苦無を手に持ち、次から次へと投擲して来る。

 しかし、ガオマスターはフルムーンガードで全ての苦無を弾き落とし、防御した。だが、その隙を突いて、コノハが短刀を振り上げつつ、マスターの首下に狙いを定めた。

 だが、その刃は届く事無く弾かれた。いつの間にやら抜いたルナサーベルが、短刀の刃のみを破壊して、コノハの首筋にサーベルを突きつける。

 

「無駄だ。貴様達の技を持ってしても、私には傷一つ付けれまい……」

「チィっ‼︎」

 

 ガオマスターの強い言葉に、コノハは顔を歪ませる。

 

「止めろ、コノハ、リク! お前達の手に負える奴では無い‼︎」

「…けど…‼︎」

「二度は言わぬ‼︎」

 

 そう言うと、ヤミヤミは前に出る。

 

「…ガオマスターとやら…。我々、オルグの目標である鬼還りの儀を邪魔するつもりか?」

「ああ、そのつもりだ」

「ふん…笑止な。ガオネメシスに勝てなかった貴様如きが、オルグ忍術を極めた拙者に勝てると思うてか⁉︎」

「……試して見るか?」

 

 そう言って、ガオマスターはルナサーベルを構え直す。

 

「……ふむ、出る杭は早めに抜いておこう……甲丸(かぶとまる)! 鍬丸(くわまる)!」

 

「「ハッ‼︎」」

 

 ヤミヤミが呼び掛けると、金色のカブトムシの姿をしたオルグ魔人と銀色のクワガタムシの姿をしたオルグ魔人が現れた。

 

「故奴等は、甲丸と鍬丸。オルグ忍軍でも指折りの実力者達だ……甲丸、鍬丸‼︎ ガオマスターを始末せい‼︎」

 

「「御意‼︎」」

 

 ヤミヤミの命令に、二人のオルグ忍者は応えた。

 

「……では、行くぞ‼︎ 鬼灯隊、我に続け‼︎」

『ハッ‼︎』

 

 そう言って、ヤミヤミと鬼灯隊は一斉に姿を消した。ガオマスターは後を追おうとするが、甲丸と鍬丸が遮る。

 

「此処を通りたくば、俺達を倒して行けィ‼︎ なァ、弟よ‼︎」

 

 兄の甲丸は両刃の剣を構えながら、ジリジリと近付く。

 

「応よ、兄者‼︎」

 

 弟の鍬丸も刺又状の槍を振り回して、構える。ガオマスターは、ルナサーベルを右手に、フルムーンガードを左手に構えた。

 

「さて……この“身体”、果たして持つだろうか…?」

 

 と、ガオマスターは駆けて行く。甲丸、鍬丸も、それに応戦した。

 

 

 

 その頃、病院では……ヤミヤミの罠により、瀕死の重傷を負った陽は病院に担ぎ込まれるや否や、緊急手術を行われた。

 幸い急所は外れていたが、ヤミヤミの苦無は内臓を傷付け、出血が著しかった。あと数分、遅かったら本当に危なかったらしい。

 待合の廊下で大神、佐熊、美羽、テトム、こころは悲痛な面持ちで座っていた。テトムは

 

「……私の所為だわ……オルグ達の罠に気付けなかったなんて……‼︎」

 

 と、懺悔に項垂れる。そもそも、鬼灯隊が集結している、と言うのも全ては、ガオレンジャーの注意を引く為に過ぎなかった。

 

「……テトムだけの所為じゃ無い……‼︎ 俺達、全員が騙されたんだ…‼︎」

 

 大神も悔しげに歯軋りさせる。全ては、ヤミヤミの掌の上で翻弄されていたに過ぎなかった。鬼還りの儀を阻止する事にばかり考え、仲間を的に掛けてくると言う盲点を突かれる結果となった。

 

「結果には全て、原因がある……! ムラサキの口癖だった……! 此処に、オルグの策略に倒れた陽と言う結果と、オルグの策略を重要視しなかったと言う原因がある……‼︎」

 

 佐熊も拳を握りしめたまま、唸る。確かに、ここ最近は水面下にて作戦を進めるオルグより、表だって活動するオルグ達にばかり、目をやっていた。件のツエツエと恐竜オルグも然りである。

 

「……ねェ、そう言えば、摩魅は?」

 

 ふと、美羽は顔を上げながら言った。そう言えば、試合前から姿が見えなかった。

 

「まだ、会場に居るんじゃ無いかの? しかし、今は……‼︎」

 

 

「兄さん‼︎」

 

 

 病院の廊下に響き渡る声が、木霊した。声の方を見ると、制服に身を包んだ祈が血相を変えて走ってきた。看護師に見られたら、注意されそうだ。

 

「祈ちゃん……試合はどうしたの?」

 

 テトムは尋ねたが、祈は今にも泣き出しそうな顔になる。

 

「そんな場合じゃありません‼︎ 兄さんが怪我をして、病院に担ぎ込まれたって……‼︎ 兄さんは大丈夫なんですか⁉︎」

「祈、ちょっと落ち着いて……」

 

 完全に取り乱した祈を宥める様に、美羽が肩に手を置くが、祈は…

 

「触らないで‼︎」

 

 と、乱暴に払い除けた。その際に美羽を見る祈の目は、仇を見据える様な厳しい眼差しだった。何故、祈に睨まれるのか理解出来ない美羽は困惑した。

 

「ちょっと此処は病院ですよ⁉︎ 他の患者様の体調に差し支えるので、お静かに‼︎」

 

 年配の看護師が目くじらを立てながら飛んできた。しかし、祈は看護師に縋り付き…

 

「兄は…兄は助かるんですか⁉︎」

 

 と、涙を流しながら聞いた。

 

「落ち着いて、祈ちゃん! 今、もうすぐ手術が終わるから‼︎」

 

 看護師は優しく祈を宥めた。彼女は、かつて祈が病弱だった際、この病院に何度も担ぎ込まれた折、何度か担当になってくれたのだ。

 だから祈の事も、すっかり顔馴染みなのだ。

 その時、手術中のランプが消えて、扉が開く。

 

「……終わったみたいだな……」

 

 大神は顔を上げながら言った。すると、手術室から車輪付きのベッドに載せられた陽と執刀した医師、付き添いの看護師が出て来た。

 

「先生‼︎ 兄は……⁉︎」

 

 医師に駆け寄る祈。初老の医師は笑顔を見せた。

 

「大丈夫。急所も外れていたし、出血も止めた。今は麻酔が効いて眠っているが、直に目を覚ますだろう」

「良かったァ…‼︎」

 

 祈は力が抜けた様に、ヘタヘタと腰を抜かしながら椅子に座った。耐えていた涙が、止めどなく溢れ出て来る。

 

「暫くは入院だな。しかし、白昼堂々と通り魔に襲われるとは、付いてないな……」

 

 医師は麻酔で、こんこんと眠る陽を見ながら言った。そして、看護師に病室へ連れて行く様に指示を出し、入院後の手続きを祈に話すと言って歩いて行った。矢張り祈は、すれ違い様に美羽を鋭い目で睨み、後を去る。

 美羽は困惑気味に、祈の背を見た。

 

「……さっき、祈に睨まれた……」

「きっと陽が、怪我をして取り乱してるんだろう……」

 

 大神は気にするな、と美羽に言ったが、美羽には気になって仕方が無かった。

 

「行ってあげたら? 陽の事が気になるんでしょう?」

「わ、私は……」

 

 テトムの不意に掛けられた言葉に、美羽は戸惑う。佐熊も、ニヤリと笑う。

 

「…隠さんで良いわい。皆、知っとる。お前さん、陽に惚れとるんじゃろう?」

 

 佐熊の直球発言に、美羽は口をパクパクさせた。

 

「…陽が動けない今、俺達も無闇と動けない。オルグ達の事は、俺達が見ておく…行け」

 

 大神の後押しに、美羽は意を決して病室へと向かった。大神は、佐熊とテトムとこころに声を掛ける。

 

「行くぞ‼︎ 陽の分も、俺達が動かなくてはな‼︎」

「応‼︎」

「そうね‼︎」

「…ん…」

 

 そう言って大神達は、戦場へと向かって行った…。

 

 

 病室では、祈は眠り続ける陽の傍に座っていた。陽は点滴をチューブで繋がれて、まるで死んだ様に眠っている。

 祈は目を覚さない兄の手を強く握る。今朝まで元気だった兄が、今は病院のベッドの上に居る……。

 

「兄さん……」

 

 祈は、陽を握る手の上に、ぽたり…と涙を落とす。兄は、こんなになるまで戦ってくれていたのだ。それなのに、自分は何をしているんだろう?

 その際、病室のドアが開いた。祈は振り返ると、其処には美羽が居た。

 

「美羽……さん……」

 

 美羽の顔を見た祈は、涙を乱暴に拭う。と、同時に心の中にささくれた様な刺が生まれてきた。

 

「祈……陽は……」

 

「近付かないで‼︎」

 

 突然、祈は金切り声を上げた。美羽はびくりとして、足を止める。

 

「……兄さんに……近付かないで……‼︎ 兄さんが、貴方の為に、こんな目に遭ったのに……よくも抜け抜けとやって来れたわね⁉︎」

「祈……何を言ってるの⁉︎」

 

 美羽は祈が、兄を怪我させられた事を怒っていると思っていた。だが、彼女の様子を見るに、そうでは無いらしい。

 

「陽が怪我したのは、オルグとの闘いでの負傷だよ‼︎ 私を庇った訳じゃ無い‼︎」

 

 そう言いながら、美羽は感情的になった。祈の言う事も、あながち間違っていないからだ。ヤミヤミの仕掛けた罠を見抜けず、陽に負傷させてしまったのだ……祈の言う通り、自分にも少ならからず責任はあるかも知れない。

 

「……どうして……兄さんを守ってくれなかったの? オルグを倒す為なら、兄さんの命も取るに足らない物って事⁉︎」

「祈、落ち着いて…‼︎」

「離して‼︎」

 

 感情的になる祈を宥める様に肩を掴む美羽。しかし、祈は振り払った。

 

「闘いは、私から兄さんを奪った……今度は貴方が兄さんを奪いに来るの⁉︎」

 

 その祈の言葉に美羽は理解した。祈は陽を愛しているのだ。兄としてでは無く、一人の男性として……。その気持ちが陽の怪我によって、美羽に対する怒りへと変わってしまったのだろう。

 何一つ、言い返せない美羽に対し、祈はらしく無い冷たい声で嘲笑う。

 

「ほら……何も言えない、図星だったんでしょ? 貴方は私から兄さんを奪って……慌てふためく私を見て笑っていたんでしょう?」

「祈……陽の事が好きなんだ……」

 

 突然の返しに、祈は言葉を詰まらせる。だが、すぐに毅然とした態度になる。

 

「そうよ、悪い⁉︎ 私は兄さんの側にずっと居たの‼︎ 幼なじみだからって、ガオの戦士だからって、ぽっと出の貴方に兄さんを盗られたくない‼︎」

 

 祈は、そう言って、美羽に背を向けた。

 

「…出て行って…もう、兄さんに近付かないで……お願いだから……‼︎」

 

 そう言いつつ、祈は小さく肩を震わせていた。恐らく泣いているのだろう。美羽は今、祈に何を言っても理解して貰えない、と悟り病室を後にした。

 外に出た美羽は、ひっそりと涙を流す。確かに、自分も陽を愛していた……自覚はしていなかったが……。

 ふと、美羽はポケットから宝珠を取り出す。そして、宝珠を握りしめた。

 

「お願い……貴方の力で陽を……助けて……‼︎」

 

 そう呟くと、美羽はその場から逃げ出す様に足早に走り去った……。

 

 

 

 ガオマスターと、オルグ忍者兄弟、甲丸と鍬丸の闘いもまた大掛かりとなっていた。揃って、オルグ忍軍に要であり個人の実力のみなら、ヤミヤミには及ばずとも、二人が組めば鬼灯隊の面々をも倒してしまう。

 しかし、ガオマスターもまた原初のガオの戦士にして、ガオネメシスとの闘いでは不意打ちにて破れ掛けたが、本来なら並大抵のオルグを寄せ付けない実力者である。

 だが、2対1と言う非常に不利な状況であるのは事実であり、流石のガオマスターも苦戦を強いられている。

 しかも……ガオマスターには、誰にも明かしていない“秘密”がある。その秘密故、彼は従来以上の力を発揮しない…いや、発揮出来ないのだ。

 甲丸は、彼が遅々として自ら攻め入って来ない事に苛立ちを覚えた。

 

「おい、ガオマスター! さっきから攻撃を交わしたり、受け流したり……真面目に戦う気があるのか⁉︎」

 

 甲丸は、闘いを不真面目に行うガオマスターに対し、罵声を浴びせて来た。しかし、ガオマスターは無言を貫く。

 だが、血の気の多い兄に対し、冷静な弟の鍬丸は何かを閃いた。

 

「落ち着け、兄者よ。どうやら、ガオマスターは本気を出せない理由があるらしい。ならば、敢えて本気を出す前にケリを付けようでは無いか‼︎」

 

 そう言って、鍬丸は甲丸にこっそり耳打ちした。それを聞いた甲丸は、ニィィッと笑う。

 

「成る程な……そりゃ名案だ…‼︎」

 

 そう言って、甲丸は自身の髪の毛を引き抜き息を吹きかけた。すると、たちまち赤紫色に血管の様な物が浮き出た瓢箪を取り出した。瓢箪の中央には、閉じられだ瞼の様な紋様がある。

 

「鍬丸! 頼むぞ!」

「任せろ! オルグ忍法! 蠱毒殺‼︎」

 

 すると鍬丸の口から多数の蟲が飛び出してきた。百足、蠍、蜂、蛾……何れ共に毒を持ち、場合によっては並の人間を死に至らしめる毒虫ばかである。

 虫達は、ガオマスターの周りを取り囲み始める。しかし、マスターは構う事なく虫達を蹴散らすが、数が多く更に小さい虫達を全て蹴散らすのは骨が折れた。

 しかし、鍬丸の目的は攻撃では無い。兄の得意とする術を行わせる為、その布石をガオマスターに悟らせない為の撹乱に過ぎなかった。

 そして遂に、その準備が整った。甲丸は、瓢箪を構えて、ぶつぶつと唱え始める。

 

「……急急如律令……オルグ忍法・極! 蠱毒封じの術‼︎」

 

 甲丸が叫ぶと、瓢箪の目がカッと見開かれた。すると吸口の部分が開き、口の様な物が現れた。

 

「鍬丸、俺の後ろに退がれ! お前まで封印しかねん‼︎」

「分かった、兄者‼︎」

 

 咄嗟に、甲丸の背後へと飛び移る鍬丸。すると、吸口が大きく開かれ、ガオマスターの身体をすっぽりと飲み込んだ。マスターは一切、抵抗せずにされるがままに飲み込まれていき…やがて、口は元の大きさへと戻った。蓋が閉まる刹那、吸口は大きくゲップを放った。

 

「ククク……馬鹿め‼︎ あっさりと封じられよった‼︎」

「流石、兄者の術は見事よの‼︎ 使い手以外の全てを封印してしまう、オルグ忍具『鬼瓢箪』は‼︎」

 

 甲丸は鍬丸の褒め言葉に小気味良く、鬼瓢箪を揺らした。

 

「ククク…! ただ封印するだけでは無い! 一緒に封じた毒虫共と一緒に、ジワジワと毒で溶かされていく。しかも、この瓢箪は内側からは決して破壊される事はない‼︎ 閉じ込められれば最期、骨も残さずにドロドロに溶けていくのみだ‼︎」

 

 甲丸は瓢箪を掲げながら、高笑いを上げた。最早、ガオマスターは瓢箪の中で他の虫達と共に溶かされていくしか無いのか?

 勝利を確信した最中、突然に鬼瓢箪はガタガタと震え始めた。

 

「な、何だ⁉︎」

 

 驚いた甲丸は、思わず鬼瓢箪を手放す。しかし、瓢箪は益々、震えが強くなっていった。

 その様子に、鍬丸は嘲笑う。

 

「無駄だ‼︎ その瓢箪は、パワーアニマルをも封じてしまう代物! 押しても引いても決して……!」

 

 自信満々に言い放つ鍬丸を他所に、鬼瓢箪は膨張し始め爆発した。すると、中からルナサーベルを構えたガオマスターが姿を現す。

 

「な⁉︎ そんな馬鹿な! 鬼瓢箪を破壊するとは⁉︎」

 

 甲丸は予想に反した出来事に驚愕する。しかし、ガオマスターは何事も無かったかの様に、動き出す。

 

「この様な子供騙しで、私を封印しようとは……ガオの戦士も甘く見られた物だ」

 

 ガオマスターは余裕のある口調で言った。鍬丸は刺又を構え…

 

「ほざくな‼︎ 」

 

 と、ガオマスターに突きかかる。しかし、マスターの構えたフルムーンガードによって、刺又は弾かれてしまい、粉々に砕けた。

 

「残念だったな、オルグ忍者。確かに力を与えたくらいでは、かの瓢箪は壊れない。しかし……絶対零度の前には無力だったのだ‼︎」

 

 力強く叫ぶガオマスターは飛び上がり、鍬丸の腹部にサーベルを突き刺した。

 

「グッ……何の、これしき……‼︎」

 

「凍り付け‼︎ 氷結の牙‼︎」

 

 そのまま振り下ろしたサーベルは、鍬丸の身体を斬り抜いた。すると、鍬丸の切り口から溢れ出た体液が、たちまち凍り始めた。

 

「が…がらだが……ごおっで……⁉︎」

 

 身体の異変に気付くが、時既に遅かった。あっという間に、鍬丸は氷像と化してしまい、やがて粉々に砕け散ってしまった。

 

「く、鍬丸ゥゥゥ!!!!」

 

 甲丸は砕けて死んだ弟に叫び声を上げた。オルグとは言え、兄弟に対する情愛はあったのか、弟を死に追いやったガオマスターに対し、甲丸は激怒した。

 

「お、おのれ! よくも、俺の弟を‼︎」

「意外だな……お前達にも、兄弟を思いやる気持ちがあったのか?」

「思いやる? ち、違う‼︎ 鍬丸は、俺と連携を合わせる為の存在‼︎ そもそも我々、オルグに兄弟愛など……⁉︎」

 

 ガオマスターの指摘に対し、甲丸は混乱した。其処を、マスターはトドメを刺す様に…

 

「分からないか? それが兄弟愛、と言うんだ……」

 

 そう言った、ガオマスターの言葉は深く、そして何処か哀しげだった……。彼も願っていた。叶う事ならば時を巻き戻し、かつての兄弟に戻りたい、と……。しかし、幾ら願っても叶う事は無い……。

 

「ううう……おのれ‼︎ 許さん! 許さんぞ、ガオマスター‼︎」

 

 完全に我を忘れた甲丸は、懐からオルグシードを取り出し、それを口に入れた。

 すると、甲丸は巨大化して生き、ガオマスターの前に立ちはだかる。

 

「グハハハ‼︎ ガオマスター、この俺を本気で怒らせた報いを受けて貰うぞ‼︎ 」

 

 そう言って、ガオマスターを掴み上げようとする甲丸。すると、ガオマスターはフルムーンガードを天へと翳す。

 

「神獣召喚‼︎」

 

 すると、ガオマスターの翳した盾から放たれる光が天を裂き、その隙間から現れた光の道を伝う様に姿を現す5つの影……。

 

「あ、あれは⁉︎」

 

 それは、千年前のガオの戦士達と共に戦ったパワーアニマル達……

 

 獅子型のパワーアニマル、ガオレオン…

 禿鷲型のパワーアニマル、ガオコンドル…

 鋸鮫型のパワーアニマル、ガオソーシャーク…

 水牛型のパワーアニマル、ガオバッファロー…

 豹型のパワーアニマル、ガオジャガー…

 

 何れとも、過去に於いてガオの戦士達に力を貸したパワーアニマル達だった。そして彼等は、ガオマスターの周りに集結する。

 

「済まない、百獣の神よ……今一度、私に力を貸して欲しい…‼︎」

 

 ガオマスターの言葉に、ガオレオンは吠える。すると、ガオレオンが胸部に、ガオコンドルが腰部に、ガオバッファローが下半身に、ガオソーシャークが右腕として、左腕をガオジャガーが構成する。

 そして、ガオレオンの頭頂部から顔が出現し、ガオコンドルから外れた尾羽な当たる部位が、その顔へて装着された。

 

「誕生! ガオゴッド‼︎」

 

 ガオゴッドの体内に、ガオマスターが収納されていく。すると、ガオゴッドの内部にあるコクピットに当たる場所には、幻想的な空間が広がっていた。其処へ、ガオマスターは座禅を組む様に搭乗する。

 同時に、ガオゴッドに身体から溢れ出んばかりのガオソウルが放出された。

 

 〜百獣の神に、原初の戦士たるガオマスターが搭乗する事により、秘められた神々の力を解放します〜

 

「フン、ガオゴッドだと? 既に神の力も衰えた貴様が、この甲丸に勝てるものか‼︎ 七星の太刀を喰らえェ‼︎」

 

 舐めてかかった甲丸は、ガオゴッドに斬り掛かって来た。しかし、ガオゴッドは、右腕のガオソーシャークが変形した鋸で、七星の太刀を受け止めた。

 

 〜神の力が衰えた、だと? ならば、その目で確かめると良い‼︎〜

 

「ああ、そうさせて貰う‼︎ 喰らえェェ‼︎」

 

 そう言って、ガオゴッドの鋸を弾き飛ばすと、一気に斬り落とした。途端に、ガオゴッドは消滅した。

 

「グハハハ‼︎ 何だ、呆気ない‼︎ 所詮は苔生した旧時代の化石か⁉︎」

 

 勝ち誇りながら、甲丸は言い放つ。だが、その時、ガオゴッドの笑い声がした。

 

 〜ハハハハハハ‼︎ まだ勝ち誇るのは早いぞ⁉︎〜

 

「な、何⁉︎ 馬鹿な⁉︎」

 

 甲丸は、ガオゴッドの声に辺りを見回す。そして、振り返ると……甲丸を更に上回るくらい、巨体となったガオゴッドが見下ろしていた。

 

「あ…あ…あ…‼︎」

 

 〜甲丸よ、お前の力とは、その程度か? 貴様が斬ったのは、私の幻影に過ぎぬ‼︎ この、愚か者が‼︎〜

 

 甲丸は絶句する。この自分が、たった一人の精霊王の掌で踊らされていたなんて……。すると、ガオゴッドは再び姿を消す。

 

「ま、また消えた⁉︎ 何処に…⁉︎」

 

 姿を消したガオゴッドを探して回るが、その先、自身の右側にガオゴッドの姿が見えた。

 

「其処かァ⁉︎」

 

 と、七星の太刀で斬り付けた。だが、刃は当たらず空を斬った。

 

「また幻影か⁉︎ ん、そっちか⁉︎」

 

 左に、後ろに、そう思えば前に、と不規則に移動するガオゴッド。甲丸は苛立ちながら、叫ぶ。

 

「ええい、じれったい‼︎ 本物のガオゴッドは何処にいる⁉︎」

 

 甲丸は叫ぶ。すると、彼の目の前に、再びガオゴッドが姿を見せた。

 

「チィ‼︎ どうせ、また幻影だろ‼︎ 隠れてないで出て来たら…」

 

 甲丸は叫びながら、七星の太刀を振り下ろす。その際、ガオソウルを纏わせた鋸が、七星の太刀の刃を打ち砕いた。

 

「これが幻影か⁉︎ 痴れ者めが! 百獣の神の怒りを知れ‼︎

 

 神獣灼熱斬‼︎」

 

 ガオゴッドの鋸が激しく燃え上がる。そして、その圧倒的な力を前に茫然とするままの、甲丸を斬り伏せた。

 

「ぐ…が…‼︎」

 

 〜悔い改めろ…南無三‼︎〜

 

 甲丸の切り口が燃え上がり、甲丸は全身が炎に包まれて行く。

 

「グォォォ‼︎ この俺が負けるとはァァ‼︎ 許せ、鍬丸ゥゥゥ……‼︎」

 

 炎の柱の中で、甲丸は断末魔を上げながり崩れていった。残されたガオゴッドは、目の前に降り立ったガオマスターを見る。

 

「済まなかったな、ガオゴッド。其方の力を煩わせる事になり…」

 

 〜何をおっしゃいますか、ツクヨミ殿。原初の戦士たる貴方に、私の力が役立つので有れば、幾らでも……〜

 

 ガオゴッドは、それだけ言い残し、虚空へと姿を消した。残されたガオマスターは、直ぐにヤミヤミ達の後を追わねば…と走り出した……。

 

 

 

 陽の眠る病室では、祈が傍で見守っていた。陽は何時に目を覚ますか判らない。しかし、きっと目を覚ましてくれる……そう信じていた。

 間も無く、目が覚ますだろうと看護師は点滴を取り替える為、新しい点滴を用意しにいった。

 祈は試合の疲れがドッと出て、ウトウトとしていた。と、その際、祈の真上から何かが舞い降りた。

 其れは鳥の様な姿をしていた。鳥は祈と陽を交互に見渡しながら、やがて自身の身体を小さな宝珠へと変えると、陽の真上をグルグルと回り始めた。やがて、宝珠は陽を胸元に降り立ちわ陽の体内へと吸い込まれていった。そうすると、陽の頬に赤みが差し始め、呼吸も安定して来た。

 やがて……陽は、ゆっくり瞼を開けて行く。そして、横に座っていた祈に声を掛ける。

 

「祈?」

 

 陽の声に、祈は目を覚ます。そして、陽が起きていた事に驚くが、直ぐに涙を流しながら

 陽に縋り付いた。

 

「兄さん‼︎」

 

 祈は、さめざめと泣き続ける。そんな祈を、陽は黙って頭を撫でてやった……。

 

 

 〜ガオゴッドと共に、強大な力を見せつけたガオマスター。その時、陽の覚醒と同時に現れた鳥の幻影の正体は?

 鬼還りの儀は、もう寸前まで来ている! 陽は間に合うのでしょうか⁉︎




ーオリジナルオルグー
 −甲丸と鍬丸
 オルグ忍軍に所属するオルグ忍者。兄の甲丸がカブトムシ、弟の鍬丸がクワガタムシをモチーフにしている。
 その実力は高く、ヤミヤミからも太鼓判を押されている。
 必殺技は甲丸の持つ鬼瓢箪に、対象を封じ込める『蠱毒封じの術』と鍬丸の体内に飼っている多種多様な毒虫を吐き出す『蠱毒殺』。
 オルグ故、性格は非情だが、兄弟同士を思いやる気持ちはある。
 キャラモチーフは、ハリケンジャーのゴウライジャーと、西遊記に出てくる金角と銀角。


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重大な告知

 いつも、私が執筆している『帰ってきた百獣戦隊ガオレンジャー』シリーズを読んでくださいまして、誠に有難うございます。

 

 今日は皆さんに、謝罪を申し上げなければなりません。

 

 まず一つ、一身上の都合により現在、体調を持ち崩してしまいました。

 理由をあげましては、私の仕事上の激変、今年のコロナ関連による心労、更には身内間に於けるトラブル等が重なり、体力的に限界を来たしてしまいました。

 一度、書き始めた小説、最後まで書き仕上げたいと自分に鞭を打ち、頑張ってきましたが、今は小説を書いているのが非常に辛い状況に陥っています。

 

 これ迄、小説を応援して下さいました皆様に大変、失礼であると承知の上で、申し上げます。

 

 体調を最良の状態へ持ち直す為、今日から二週間に渡って掲載を休ませて頂こうと思います。

 此処まで風呂敷を広げておいて、大変に無礼である事は理解していますが、無茶をして書き続けていても、読者の方々にも申し訳ない為、どうか、ご容赦下さい。

 

 その為、次回作の投稿は10月4日からスタートさせる見込みです。私自身、此処まで物語を作成してきた意地がある為、体調を改善して再び、物語をラストまで仕上げて行く所存です。

 既に終盤までに掛けても構想も完成しており、後は文章に残して行くだけです。

 

 私自身の趣味と自己満足を兼ねて、執筆を始めた小説を今日まで応援して下さった事、感謝の言葉に尽きません。

 私自身の文章力の低さ故に皆様には、理解し難かったと思います。にも関わらず、読者の方々の応援して下さる感想には、とても救われました。繰り返しますが、誠に有難うございます。

 

 また、再開した折には、物語の結末まで付き合って頂ければな、厚かましいながらと願っています。

 その際、至らない箇所や読み難い文章、理解出来ない内容等があれば、指摘や批評等も頂きたい、そう考えています。

 

 全ては私自身の体調不管理が招いた結果であると、重く受け止めた後、現在の状態がら脱して再び、執筆を再開しようと思います。

 

 また、敢えて誰とは言いませんが、いつも熱心な感想を寄せて下さった読者の方々には、私自身の生きているポテンシャルとなっていました!

 これは誇張では無く、心からの事実です。

 

 最後になりますが、今日までガオゴールドの戦い、成長を見守って頂き、誠に有難うございました‼︎

 

 告知した通り、次回作の投稿は10月4日の7時半より再開する見通しです‼︎

 

 それでは長々と、申し訳ございませんでした。失礼致します。

 

 ※また、この告知に対する感想は受けさせて頂きますので、ご不明点がありましたら、そちらへどうぞ。



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quest 46 竜、覚醒す!

※二週間も休載させて頂き、申し訳ありませんでした。
体調自体は完璧に戻ったわけではないので、また投稿が遅れる場合がありますが、なるべく遅れない様に頑張りますので、これからも小説を宜しくお願いします‼︎


 ガオズロックは竜胆市上空を飛び回り、ヤミヤミ達の足取りを探していた。しかし、肝心のガオの泉は一向に反応しない。

 同じ所を行ったり来たり、と目的地が定まらない。搭乗している大神、佐熊、テトム、美羽の顔に焦りが見え始めていた。

 このまま、グズグズとしていたら、鬼還りの儀が行われてしまう。最早、一刻の猶予も許されないのだ。

 

「テトム! まだ見つからないのか⁉︎」

 

 業を煮やした大神は怒鳴る。さっきから、ウロウロしているのに、手掛かりの一つも掴めない事に対する苛立ち、ひいては陽を負傷させてしまった事に対する後悔から、大神もまた余裕の無い言動が目立った。

 

「今、探してるわよ‼︎ 苛々しないでちょうだい‼︎」

 

 テトムも感情的になって返した。その言葉に、大神は立ち上がる。

 

「分かってるのか⁉︎ 早くしないと、鬼還りの儀が行われてしまうんだぞ⁉︎ 俺達は、ガオの巫女であるテトムしか頼りが無いんだ‼︎」

「分かってるわよ‼︎ お願いだから、少し静かにしてて‼︎」

 

 大神とテトムは無言のまま、睨み合った。二人は比較的に気の合う間柄だった。二十年前の戦いで苦楽を共にし、ガオレッド達に対する思い入れも強かった。

 それだけに極端に追い詰められた二人は、互いに引くに引けなくなってしまったのだ。

 

「二人共、止めてよ‼︎ 仲間割れしている場合じゃ無いじゃん⁉︎」

 

 ギスギスした空気に耐え切れなくなった美羽は、二人の間に仲裁に入る。しかし美羽もまた、精神的に余裕が無かった。

 先程、祈と対立した際、陽が怪我したのは自分の力不足か原因だと断じられた美羽は、心に迷いが出てしまっていた。

 

「だったら、美羽! このまま、鬼還りの儀が行われても構わない、とでも言うのか⁉︎」

「はァ⁉︎ 別に、そんな事は言って無いでしょ⁉︎」

 

「止めんかァァ!!!」

 

 突然、今まで無言を貫いていた佐熊が、怒声を上げた。その大声は、ガオズロックが揺れた様にすら感じた。

 

「月麿! 苛立つからと言って、仲間に当たるな! 美羽もじゃ、己の個人的な感情を持ち込むな‼︎」

 

 佐熊の一喝により、さっきまで興奮していた大神、美羽、テトムは落ち着きを取り戻した。

 

「……スマン、美羽……どうかしてた……」

「いや…私こそ、ごめん……」

 

 普段、冷静な人間ほど頭に血が上れば、必要以上に感情的になってしまう。その際 最たる礼を示してしまった大神と美羽は、己の感情をコントロール出来ないまでに追い詰められていた事を反省した。

 それは、テトムも同様である。

 

「……力丸、ありがとう……」

 

 陽の負傷……それは此れ迄、鋼鉄の如しの堅い結束で結ばれていたガオレンジャーに、一筋の亀裂を生じる結果となった。

 当初は戦士としてもリーダーとしても、全てに於いて未熟だった陽。だが、其れ等の至らぬ部分を陽は、時には敵であるオルグにさえも手を差し伸べる優しさや決して諦めない不屈の意志でカバーし、自分達を引っ張って来たのだ。

 ガオレッド/獅子走の様な、戦士としてズバ抜けた“何か”こそ持ってはいないが、それでも陽は既に、ガオレンジャーの立派な一員であり、レッド不在に於けるガオレンジャーのリーダーとなっていた。

 決して欠いてはならない。オルグとの戦いに決着を付ける為には、陽の存在は必要なのだ。今回の一件で、それを改めて再確認した四人だった。

 その時、大神のG -ブレスフォンが鳴り響く。すかさず、大神はブレスフォンを取った。

 

 〜シルバー⁉︎ ヤミヤミ達の居場所が分かったよ‼︎〜

 

 ブレスフォンの話し相手は、こころだった。ソウルバードであるこころは、ガオレンジャー達と別行動を取って、ヤミヤミ達を探していたのだ。

 

「本当か⁉︎ それで場所は何処だ⁉︎」

 

 こころの言葉に反応し、仲間達も耳を傾けた。

 

 〜場所は…‼︎〜

 

 

 その頃、ヤミヤミ達は竜胆市一の大公園の中にある森の中に立っていた。後ろには鬼灯隊の5名、多数の下忍オルゲット達が控えている。

 先頭に立つヤミヤミは、チッと舌打ちした。

 

「番狂わせだ……甲丸と鍬丸がやられた……」

 

 ヤミヤミの失望に満ちた言葉に、鬼灯隊は酷くどよめいた。

 

「まさか…⁉︎ 我がオルグ忍軍きっての実力者にして、二枚看板が⁉︎」

 

 ホムラは驚愕した。甲丸、鍬丸兄弟の実力は嫌と言う程に知っているからだ。彼等と手合わせした際、鬼灯隊が五人掛かりで挑んでも手傷一つ負わせられ無かった。彼等と、まともに戦闘出来るのは頭領であるヤミヤミだけだった筈だ。

 その甲丸、鍬丸が倒されたのだから、鬼灯隊の驚きは隠せない。

 

「それは……計画に支障をきたすのでは…で、ございます」

甲大兄ィ(かぶとおおあにィ)鍬兄ィ(くわあにィ)が⁉︎ あの二人が負けちまったのかよ⁉︎」

 

 ミナモ、コノハも予想に反した事態に慌てふためいた。特に、コノハは二人を兄弟子として慕っていた為、その兄弟子二人が倒された事への驚愕以上に悔しさも滲み出ていた。

 

「こら、拙いとちゃうんか⁉︎ 鬼還りの儀どころとちゃうで⁉︎」

「……ガオマスター、私が倒す?」

 

 ライも計画実行が出来ないかも、と言う焦りと、実力者二人を倒したガオマスターへの興味がある、ひいては戦闘意欲が湧いて来た。

 

 

「えェェいッ!! 鎮まれェェい!!!!」

 

 

 混乱の渦中にある鬼灯隊に対し、ヤミヤミは怒声を上げて黙らせた。

 

「戯け共が‼︎ 混乱している場合か‼︎ 多少の被害が出る事など、周知の上だった‼︎ 我等、忍びとは闇より主を支え、決して表に出ずに目的を全うする事を極みとする‼︎ 甲丸と鍬丸の犠牲は、必要ある犠牲だった‼︎

 二人の犠牲に報いようとするなら、この身を犠牲にしてでも目的を達成する事だ‼︎」

 

 ヤミヤミの発した言葉は、鬼灯隊の面々に届いた。忍びとして生きる以上、決して名を残してはならない。決して利を求めてはならない。

 求めるは、仕える主への敬服、時には命さえも投げ出さんとする忠誠心のみである。

 

「さァ、我等、オルグは……長きに渡り、闇に隠れて生きてきた……だが、それも今日で終わる‼︎ これより、我々が大地に闊歩し君臨する時代が始まるのだ‼︎

 

 今こそ、楔を打ち込もうぞ! 鬼灯隊よ、配置に付けィ‼︎」

 

 ヤミヤミが号令を掛ける。すると、鬼灯隊達はヤミヤミを中央に立たせる様に円陣を組んだ。そして、ホムラは指を組み、術を唱え始める。

 

 〜大いなる鬼達の祖、雄呂血の系譜を受け継ぐ末裔の名代とし、この地に刻まん! 鬼の紋を‼︎〜

 

 それに続き、ミナモも唱え始めた。

 

 〜更に続けよう‼︎ 我等の中に流る血肉、魂の欠片を大いなる雄呂血に捧げん事を〜

 

 次には、ライが唱え始めた。

 

 〜そして、今こそ目が醒めん! 地の底に蠢く事を余儀なくされた、よろず鬼達よ‼︎〜

 

 更に、コノハも唱え始めた。

 

 〜時は満たされり! 地上と地底に隔てた壁、今、開かれん‼︎〜

 

 最後に、リクが唱え始めた。

 

 〜動き出せ! 鬼の血族よ‼︎〜

 

 鬼灯隊の面々が唱えた呪文は、少しずつ大気を歪め始めた。すると、ヤミヤミは頭上に巨大な苦無に似たレリーフを召喚し、其れを大地に突き付けた。

 

 〜いざ、鬼冥の城へ!

 オルグ忍法・奥義! 鬼還封解の術(きせんふうかい)‼︎〜

 

 やがて、苦無はグルグルと回転を始め、地面に飲み込まれて行く。掘って行く、と言う物理的な物ではなく、まるで地面そのものに吸い込まれて行く、と言った表現が正しい。

 

「これで、完了だ。後は、扉が開かれるのを待つばかり……」

 

 

「そこまでだ‼︎」

 

 突然、空を裂く怒声が響く。其れは、大神を筆頭にしたガオの戦士達だった。しかし、ヤミヤミは北叟笑む。

 

「…ほう…よく、此処が分かったな……しかし、もう手遅れだ‼︎ たった今、楔は打ち込んでしまったぞ!」

「くそッ! 遅かったか……⁉︎」

 

 完全に出遅れてしまった事に、大神達は悔やむ。だが、楔を打ち込んだばかり……ならば、儀式そのものは未だ、終わっていない。

 大神は、ヤミヤミに凄む。

 

「今すぐ、儀式を中断するんだ‼︎」

「戯けが。一度、打ち込んだ楔を取り出せる筈が無かろう。だが……そうだな。地中に打ち込んだ楔が完全に動き出すには、あと一時間と少々、掛かる。其れ迄に術者である拙者を倒す事が出来たなら……或いは、儀式を中断させれるかも知れんぞ?」

 

 それは、逆に言えば決して倒される事は無いと言う、ヤミヤミの大きな自信からだった。だからこそ、これ程に鬼還りの儀についての内情を話し、余裕のある態度にて接する事が出来るのだ。

 

「大した余裕だな……ならば、遠慮なく倒させて貰う‼︎」

 

 その余裕に対し、大神も応えた。だが、ヤミヤミは何を思ったか、鬼灯隊を退かせた。

 

「貴様等は手出し無用ぞ。此奴等は、拙者一人で料理する!」

「親方様……でも……‼︎」

「くどい! 鬼還りの儀を完遂する迄、気を抜くな‼︎」

 

 飽くまで儀式を達成する事に拘るのか、或いはガオレンジャーに対し自分一人で対峙出来る絶対な自信があるのか、ヤミヤミからは圧倒的なオーラが立ち昇った。

 思えば、これまでに四鬼士と呼ばれるデュークオルグは風のゴーゴ、水のヒヤータ、焔のメランと三人の力を見てきた。

 だが、このヤミヤミは未だに底の知れない。彼の弟に当たるデュークオルグ、ドロドロとは対峙した事がある大神だが彼も、それまで闘ったオルグ達と一線を画す実力者だった。

 ならば、このヤミヤミはそれ以上の力を持っている筈だ。

 

「いいか? 今は陽が居ない状況だ……気を抜くな‼︎」

「おう‼︎」

「任せて‼︎」

 

 大神の呼び掛けに、佐熊と美羽も応える。戦力的には陽が抜けた分、かなり不利だが、今はそんな事を言ってる場合では無い。

 三人は、G−ブレスフォンを起動させ……

 

 

『ガオアクセス‼︎』

 

 

 と、同時にガオスーツを着用、ガオレンジャーに変身した。その様子に、ヤミヤミは忍刀を両手に構え、更に背中から出現した二本の腕が更に忍刀を持ち、四刀流を成した。

 

「先に言っておくが、ガオシルバーとやら……拙者の強さを、ドロドロと同じに考えているなら……御門違いも甚だしいぞ?

 オルグ忍者の極意たるは『幻術、忍術、体術』の三つを極めて『心・技・体』を会得とする。しかし、奴は幻術と忍術にばかりかまけて、体術を怠った‼︎ だから、ガオレンジャーに敗北する等と言う醜態を晒す羽目となったのだ……‼︎」

 

 ヤミヤミは、亡き弟を蔑みに満ちた口調で罵倒した。

 

「だが、拙者は幻術、忍術、体術の全てを限界まで鍛え、研ぎ澄ましている……。さァ、来るが良い……オルグ忍軍『最強』にして『最恐』と謳われた男、影のヤミヤミ……推して参る‼︎」

 

 そう言って、ヤミヤミは刀を振り回して、ガオシルバー達に襲い掛かった…。

 

 

 

 その頃、病院では陽は祈と共に過ごしていた。側では、祈が林檎の皮を剥いている。内臓に損傷があった為、陽が食べ易い様に細かに切って皿に載せる祈。そんな彼女の様子を陽は、何処か浮かない面持ちで眺めていた。

 麻酔が切れ、薄れていた記憶が鮮明に呼び起こされてくる。鬼灯隊を倒したと思った矢先、急に現れた祈に刺されたのだ。

 その重傷で薄れゆく意識の中、ヤミヤミが祈に姿を変えて近づいてきた事を、そして自分達がやっとの思いで倒した鬼灯隊が、ヤミヤミの用意した偽物だった事を痛みの中、知る事が出来た。

 詰まる所、自分達はヤミヤミの計画通りに踊らされていたに過ぎなかった。我ながら情けなくなる……。

 

「兄さん、剥けたよ……」

 

 祈が呼び掛けて来た。陽は我に返り、祈の顔を見る。目元には泣き腫らした跡が残り、余計に痛々しく思える。

 事の顛末は祈から聞いた。自分は、ヤミヤミに刺されて重傷を負ったのち、病院に担ぎ込まれたのだ。腹部には縫われたばかりの傷口が鈍く痛む。きっと、自分が怪我をしたと聞かされた祈は心底、悲しんだに違いない。陽は自分の浅はかさを激しく嫌悪した。

 これ迄、無傷に済まなかった戦いは一度も無い。だが、その度に祈に辛い思いを強いていた。

 

「祈……試合は?」

 

 陽の尋ねた言葉に、祈は薄く笑う。

 

「……私の試合は勝った。でも、兄さんが怪我をしたと聞いて、途中で抜け出して来ちゃった……。瀧さんに、また嫌味を言われちゃうな……」

「…ごめん…」

「兄さんは悪くないよ……でも……怖かった……」

 

 そう言って、祈は陽の胸に額を押し付けた。

 

「……兄さん……美羽さんの事が好きなの?」

「エッ?」

 

 突然、祈が発した言葉に、陽はキョトンとする。

 

「……さっき、兄さんが美羽さんと仲良さそうに話していたのを見たの……。その時、凄く……辛かった……‼︎」

 

 絞り出す様な声で祈は言った。肩を震わせ、泣いている様である。

 

「……兄さんは居なくなる事よりも……兄さんが誰かに取られる事の方が、ずっとずっと……辛いんだから……‼︎」

「えっと…祈?」

 

 困惑しながら、陽は祈を見つめる。すると、祈は顔を上げた。涙に汚れた顔を隠そうとせず、陽の目を見た。

 

「……好き……私、兄さんが……好きなの……」

 

 突然、放たれた告白に対し、陽は困惑した。祈が、自分を好き? 頭の中がグルグルし、思考が纏まらない。

 

「僕だって好きだよ、祈は妹なんだし……」

「妹としてじゃ嫌……私達、血は繋がってない……‼︎」

 

 陽の言葉を遮り、長年に渡って抱え込んでいた想いを吐露する。そうまでされて、陽は漸く祈の気持ちに気付いた。

 ガオゴールドとして戦う内に、麻痺していた祈への気持ち……そうだった……祈は確かに義妹ではあるが、血は繋がってない……だが……

 

「……やめろよ、祈……」

「私の事、嫌いなの……? それとも、兄さんにとって私は……ただの妹でしか無い?」

「そうじゃ無い……そうじゃ無いんだ、祈……。だけど、僕は……」

 

 陽は優しく、祈の肩に手を置いた。

 

「僕は……ガオの戦士なんだ……。今回だって、まかり間違えば命を落としていた……。これが初めてじゃ無い……そして、これからも……」

 

 陽は思い起こす。ガオゴールドとなってから、陽は何回も死ぬ様な目に遭いかけた。その度に、もし自分が死ねば、祈は…? と言う恐怖が付いて回る様になった。

 陽にとって、ガオの戦士として戦うのは「大切な人の為に」と言う思いが強い。地球を守る為なら、我が身を投げ出しかねない大神や佐熊とは一線を画す物だ。

 大切な人の為に、陽は必ず生きて戻らねばならない……何時からか、そう考える様になっていた。

 けど……もう今更、戦いから退く事は出来ない。祈の事は大切だ、だが祈を守るには戦わなければならない、しかし戦い続ければ、また祈を悲しませてしまう……考えれば考える程、頭の中でグルグル絡まってしまうのだ。

 どちらが正しいかなんて、分からない。選択肢なんて、何時だって少ないし選んでいる暇も無かった。

 気が付いたら、陽は祈を強く抱きしめていた。陽も泣いている。

 

「……ゴメンな、祈……僕がもっと、しっかりしてれば……お前を悲しませる事なんて無かったのに……‼︎ 兄、失格だよ……」

「…兄さん…‼︎」

 

 陽の腕の中で、祈は泣きじゃくった。思えば、自分が祈に対して恋心を抱き始めたのを知ったのは、中学に上がったばかりの頃だった。あの頃、まだ恋について、まるで理解していなかった陽は、祈をそう言う目で見始めた自分に自己嫌悪を感じていた。その為、祈への気持ちを気づかないフリをして来た。必要以上に兄として振る舞っていたのは、そんな妹への劣情を悟られたくなかったからだった。

 だが、その抑え込んでいた気持ちが、この一件でバスタブの栓を抜き水が勢いよく流れ出す様に、止められ無くなった。

 

「祈……愛してる……」

「私も……」

 

 世間から見れば許されざる関係なのかも知れない。だが、そんな事、知った事では無い。自分が祈を愛し、祈も自分を愛してくれている。

 どちらかとも無く、顔を上げるとゆっくり唇を近づけ始めた……。

 

 

「陽ァ‼︎ 大丈夫か⁉︎」

 

 

 突然、病室のドアが開かれた。外には猛、昇、舞花、千鶴が立っており、舞花の手には花束が握られている。

 二人は慌てて距離を離した。

 

「バカ兄貴! ここ病院だよ! ……あれ? なんか話し中だった?」

 

 非常識な態度の兄を叱責しつつ、挙動不審な態度の二人に舞花は尋ねる。祈は慌てふためいた様子で、陽も黙したままである。

 

「…災難だったな、陽……通り魔に遭うなんて」

 

 昇は話を変えようと、話題を振る。最も、猛と昇は陽の秘密を知っている為、事情は察しているのだが…。

 

「千鶴、ごめんね……試合中に飛び出して……」

 

 祈は千鶴に謝罪した。しかし、千鶴は笑顔で……

 

「平気ですよ、先輩! 試合は無事に終わりましたし、先生や部長も気にするなって、言ってましたから」

「瀧さん、怒ってたでしょ?」

 

 恐る恐ると尋ねる。プライドの高い彼女の性格からすれば、自分との試合で勝って直ぐに居なくなった祈に対し、良い感情を抱いているとは思えない。だが、千鶴は首を振る。

 

「事情を話したら、あっさりしてましたよ。『試合で負けたのは事実だから、勝ち逃げしたなんて思わないで。次は必ず負かすから‼︎』っですって」

 

 如何にも、負けず嫌いな彼女らしい捨て台詞だった。張り詰めた雰囲気だった祈は、プッと吹き出す。

 

「タカビーな人だと思ってたけど結構、潔い性格なんだね。見直しちゃった」

 

 舞花は素直に、瀧を褒めた。負けた事を逆恨みする狭量な小者では無く、負けは負けと認める正々堂々とした人物だった、と再確認出来た。

 

「でも先輩‼︎ さっきの格好良かったですよ‼︎ 素敵です〜♡」

「ちょ、千鶴! 此処は病室だってば‼︎」

 

 人前に関わらず、ベタベタと引っ付きたがる千鶴に困惑しながら、祈は引き離そうとする。

 

「舞花、悪いけど、祈ちゃん達と一緒にジュース買って来てくれ。俺、コーラな」

「は⁉︎ 妹をパシラせる気⁉︎ 自分で行けば!」

「俺も頼む、メロンソーダで」

「う〜〜、昇さんに頼まれたらな〜。しょうがない……行ってくるわよ‼︎」

 

 そう言って、舞花は渋々ながらも立ち上がる。

 

「ほら、祈も行こう! 陽さんは、何か飲む?」

「あ…僕はいいや…」

「そ。ほらほら、早く‼︎」

 

 舞花は祈と、未だに彼女にくっ付く千鶴を促す。祈は陽の方を少し見たが、千鶴を連れて病室を後にした。

 昇が祈達が離れた事を確認すると、再び陽の横に座る。

 

「……済まないな。祈はともかくとして、舞花や千鶴には知られる訳に行かないだろう?」

「ん……ありがとう、昇……」

 

 陽は親友の機転の良さに感謝した。猛も深刻な顔をしていた。

 

「ガオレンジャーの戦いで、そうなっちまったのか?」

 

 珍しく声のトーンを落としながら、猛は尋ねてくる。陽は顔を曇らせた。「やっぱり…」と言った具合になった。

 

「お前さァ……あんま無茶すんなよな? 祈ちゃん、お前が病院に担ぎ込まれたって聞いた時、ぶっ倒れそうになったんだぜ?」

「祈ちゃんからすれば、お前はただ一人の家族だしな……」

「……分かってるよ……けど……」

 

 二人の言葉に、陽は罰が悪そうにした。このまま戦い続ければ、祈をまた不幸にしてしまうかもしれない。だが今更、戦いから逃げられない。

 オルグが居続ける限り、自分は戦い続けなくてはならないし、祈もまた平和に暮らす事は出来ない。

 

「お前が居なくなってみろ。祈ちゃん、一生、立ち直れないぜ?」

「心底、惚れている男だったら、尚更な」

「エッ⁉︎」

 

 陽は驚いた様に二人を見る。二人共、ニヤニヤしていた。

 

「いやァ、知らなかったぜ! 浮いた話一つ聞かねえ、と思ったら、まさか本命は陽だったとはなァ!」

「ま、人の恋愛に口を挟む事ほど、野暮な事も無いしな…」

「き、聞いてたのか⁉︎」

 

 陽は思わず叫ぶ。よりによって、あんな恥ずかしい一幕を他人に見られていたなんて……。

 

「おう、一部始終な! お前等が強〜く抱き合って、熱〜いキッスを交わそうとした瞬間までな!」

「余計なお世話かも知れないが、あんな熱烈に抱き合うなら時と場合を考えた方が良い……事情を知らない奴に見られると、面倒だぞ?」

 

 茶化す様に言う猛と、冷静にアドバイスする昇。陽は穴があれば入りたい、と言わんばかりに赤面した。

 と、その際、陽のG−ブレスフォンが激しく鳴り始めた。だが、何時もの仲間からの連絡とは違う。

 

「何だ、それ?」

 

 猛は、陽の右腕に嵌められているブレスフォンを覗き込む。出ようか出るまいか、と悩んでいると昇が……

 

「出てみたら、どうだ?」

 

 と勧める。陽は意を決して、ブレスフォンを起動させた。途端に、陽は意識を失った様に、ドサリと倒れた。

 

「お、おい⁉︎ 陽、どうしちまったんだよ⁉︎」

 

 急に気を失った陽に驚いて呼び掛ける。昇も同様だが、陽は目を覚ます素振りは無かった……。

 

 

 

 陽は意識を取り戻す。すると何もない真っ白な空間で目を覚ました。

 

「此処は?」

 

 陽は辺りを見回す。周りは白いペンキをぶちまけた様に真っ白であり、遥か地平線までも白い。

 

「此処は、君達の暮らす世界から一つ外れた場所に位置する狭間の世界だ……」

 

 聞き慣れた声が耳に入り振り返ると、其処には……

 

「ガオマスター‼︎」

 

 陽達の仲間である原初の戦士ガオマスターが立っている。

 

「済まない……病み上がりだと言うのに……」

「気にしないで下さい。ヤミヤミの策謀を見抜けなかった僕の不手際でした……」

「……そうではない……私は君に嘘を吐いた……」

 

 そう言うと、ガオマスターはヘルメットを外す。ヘルメットの下からは、原初の戦士ツクヨミの顔が現れた。

 

「鬼還りの儀を事前に防ぐ、と言ったが……残念ながら、儀式を防ぐ事は叶わない……既に、布石は盤石に整っている……」 

「そ、そんな⁉︎」

 

 陽は絶句した。鬼還りの儀を防ぐ為に死力を尽くしてきたのに最早、手遅れだったなんて……。

 もう、地球はオルグの支配下に落ちるしか無いのか…?

 

「慌てるな、まだ絶望では無い。鬼還りの儀を行えば、直ぐにオルグ達が鬼地獄から這い上がって来る訳では無い……」

「どう言う事ですか?」

「そもそも、人間達の住む地上とオルグ達の棲む鬼地獄との間には、眼には見えぬ壁で隔てられている。その壁がある限り、鬼地獄に居るオルグ達は地上に進出できないのだ。そうでなければ今頃、地上はオルグで溢れかえっているからな」

「た、確かに……」

 

 ツクヨミの説明に、陽は納得した。

 

「しかし、鬼還りの儀とは……その壁に穴を空けて、地上と鬼地獄を繋ぐトンネルを築く事に、他ならない。

 そうすれば、鬼地獄のオルグ達は特殊な手段無しで地上に進出できるのだ」

「じゃあ、そのトンネルが開通すれば……‼︎」

「地上は阿鼻叫喚の地獄と化す。だが元々、閉じている壁に無理に穴を開けるのだから、その穴は完璧な物では無い。オルグ達は開いたトンネルを固定する術を用いる様だが万が一、しくじれば空間同士に再生により、巨大なエネルギーが働き、トンネルは塞がれてしまう……」

 

 陽は理解に難しかったが、少なくとも鬼還りの儀は、オルグ達にとってもハイリスクな物だと分かった。

 とは言え……オルグ達の侵入を防ぐ事が出来ないなら、本末転倒では無いのか?

 

「……奴等の侵入は事前には防げない……ならば、鬼地獄へ我々が出向き、鬼地獄のオルグ達を指揮する者……閻魔オルグ、ヤマラージャを倒すしか方法は無い……」

「‼︎ そうか‼︎ トンネルが開通していると言う事は、僕達が鬼地獄へ乗り込む事も可能なのか‼︎」

「その通り……しかし……」

 

 此処まで話して、ツクヨミは話を切った。

 

「鬼地獄に巣食うオルグ達は、地上のオルグ達とは桁違いの強者ばかりだ。乗り込めば、先ず無事には済むまい……」

「……覚悟は出来てますよ」

 

 陽は強い瞳を覗かせる。

 

「ガオレンジャーとなったあの時から……戦い抜く覚悟は出来てます……‼︎」

「その言葉に二言は無いな?」

 

 ガオマスターが言葉を発した瞬間、陽の懐から宝珠が浮かび上がる。すると、陽の周りに飛び交う。

 

 〜陽……。ガオネメシスを……スサノオを倒すには、お前自身が“覚醒”せねばならない……〜

 

 ガオドラゴンの厳かな声だ。続いて……

 

 〜これ迄、貴方は覚醒する機会は幾度とあった……。しかし、貴方自身が戦士として未成熟だった故、そり日に恵まれなかった…〜

 

 ガオユニコーンの優しい声だ。更に……

 

 〜逆に言えば……我々が、お前の力を強引に覚醒させる事は出来た……。しかし、それを行えば、お前自身の精神を破壊してしまい兼ねないのだ……〜

 

 ガオグリフィンの勇ましい声だ。そして……

 

 〜正直……妾は、其方が日輪の戦士となるとは思えん……其方は優し過ぎる……。しかし……妾達は賭けてみたい! 其方こそ、地球をオルグの魔手から守ってくれる、と……〜

 

 そう言って、五体のパワーアニマルの宝珠から五筋の光が放たれた。その光ば、陽の身体に吸収されて行く。

 

 〜さァ、目を覚ますのだ‼︎ 新たなる力を持って‼︎〜

 

 陽の身体に吸い込まれた光は、全身の血流に沿って流れて行き満たされて行く。そうして、陽は再び意識を失った……。 

 

 

 〜ガオマスター、レジェンド・パワーアニマル達に導かれて、新たなる境地へと覚醒しようとする陽。

 鬼還りの儀が阻止不可能である、と断じられた今となっては、全ての黒幕である閻魔オルグを倒す他ないが、果たして陽とガオレンジャー達は、オルグ達の侵攻を留める事が出来るのだろうか⁉︎〜



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quest47 考えるな、感じろ‼︎

 病院の売店にて、祈はジュースを選びながら、物思いに耽っていた。さっき、長年に渡って想いを寄せていた陽に、自身の気持ちを告げた。

 だが……その事で祈は、消え入りたい迄に恥ずかしい気持ちになっていた。幾ら、好きだからって、いきなり、あんな大胆な事を……と、冷静になって考えれば、激しい羞恥心と自己嫌悪に苛まれた。

 陽が美羽に取られるかも知れない、と言う焦りが、奥手な彼女に行動へ移させたのだが、この後、どんな顔をして陽に会えば良いのか分からない。

 

「祈! 祈ってば‼︎」

 

 横から舞花が声を掛けて来た為、祈はハッと我に返る。

 

「何をジュース握りしめて、深刻な顔してるの⁉︎」

 

 舞花は、右手にジュースのペットボトルを握り締めながら、眉間に皺を寄せた祈を怪訝な目で見ている。

 

「え⁉︎ いや、別に…‼︎」

「別に、って事は無いじゃん? なんか、悩みがあるなら聞くよ? もしかして、恋バナ?」

「‼︎」

 

 直球な発言をぶつけられた祈は、あたふたとしてしまう。舞花は、ニンマリとした。

 

「へ〜〜、祈にそんな人居たんだ〜〜? で、誰なのよ?」

「……教えない……‼︎」

 

 顔を真っ赤に染めながら、祈は拒否する。言える訳が無い。まさか、自分の想い人が、兄だなんて……。

 しかし、舞花はクスクスと笑う。

 

「ふ〜〜ん、親友のアタシにも言えないんだ……別に良いよ、大方の予想は付くし………陽さんじゃない?」

「え⁉︎」

 

 舞花の言葉に、祈は何で? と、言った具合で彼女を見つめた。

 

「何で分かったの? って言いたそうだね? 分かるよ〜〜、女だよ、アタシだって……」

「〜〜〜!!!!」

 

 隠していたつもりが、舞花にバレていたなんで……益々、穴があれば入りたい程に、赤面させる祈。

 そんな彼女を舞花は優しく背を叩く。

 

「大丈夫! 誰にも言わないよ? 祈が好きな人が陽さんだって!!」

「ま、舞花‼︎」

 

 突然の舞花の発した言葉に、祈は叫ぶ。

 

「だって祈が、陽さんを見る時って全然違うからね。多分、自覚してないだろうけど、あれは『お兄ちゃん大好き〜』じゃ無くて、『大切な人』オーラ全開だし、さっきの試合で本調子出せなかったのだって、陽さんと美羽さんが仲良さげだったからでしょ?」

 

 秘密を簡単に舞花に見破られた祈だったが、ここまでバレていたら隠す事も出来ない。

 

「う、うん……実はそうなんだ……」

 

 と、白状する祈。

 

「そっかそっか〜‼︎ 大丈夫、私は応援するよ‼︎ 祈が千鶴のラブアタックを華麗に躱してまで、頑なに操を立てていたのも、その為だもんね!』

「ち、千鶴は関係ないでしょ⁉︎」

 

 急に話の中に千鶴が出された事を慌てふためきながら喋り続ける舞花に怒る祈。人の話を聞かないのは、猛とそっくりである。

 

「せんぱ〜い‼︎ なんの話ですか? 千鶴も混ぜて下さ〜い‼︎」

 

 千鶴が2人の間から割り込んで来る。

 

「うん? 何か、誰かが好きなんだ的な会話が聞こえましたけど……もしかして、祈先輩……‼︎」

「もう、違うったら‼︎ て言うか、千鶴‼︎ ドサクサに紛れて、ベタベタくっつかないで‼︎」

「んもう、祈先輩の照れ屋さん♡ でも、そんな先輩も素敵です〜♡」

「離れて〜〜‼︎」

 

 そんなこんなで、大騒ぎになる3人だった。

 

 

 その頃、病室では……。

 

「……あッ、目を開けたぜ!」

 

 猛が、ベッドに横になる陽を指差した。陽はゆっくりと身体を起こす。

 

「……何を騒いでるんだ?」

「お前、覚えて無いのか?」

 

 昇は驚いた様子で見ていた。そして話を聞くに、G−ブレスフォンの通信に出た際、自分が倒れてしまった事、最初はナースコールを押して看護師を呼ぼうと猛が提案したが、昇が静止した事を知った。

 

「マジでビックリしたぜ‼︎ お前が倒れた時はよ‼︎」

「……ああ、ゴメンな……‼︎」

 

 和気藹々と話す猛と、心配をかけた事に素直に謝罪する陽。そして、さっきの事を思い出す陽。

 あれは夢では無い、現実だった。ガオマスター、パワーアニマル達が自分に語り掛けて来たのだ。ふと、自身の左腕にあるG−ブレスフォンを露出させる。よく見れば、ブレスフォン全体が虹色掛かった色を帯びているのが分かる。

 やはり、ガオマスターの言う通り、自分は更なる力を得た事になったのだ。その際、またしても、G−ブレスフォンが激しく鳴り出す。

 陽は、ブレスフォンを見る。恐らく、これは大神達からの……。意を決して、ブレスフォンを起動させた。

 

 〜陽、良かった……意識が返って……。大変なの! シルバー達が、ヤミヤミと戦っているんだけど、苦戦しているのよ‼︎ このままじゃ、やられちゃうわ‼︎〜

 

 それを聞いた陽は、顔を厳しくする。ヤミヤミが動き出したと言う事は、恐らく鬼還りの儀が執行に移った、と言う事だ。

 ならば、一刻の猶予も無い。

 

「分かった‼︎ 直ぐに向かうよ‼︎」

 

 〜ありがとう…‼︎ ガオズロックで貴方を拾うから‼︎〜

 

 それだけ言い残すと、テトムとの通信が切れた。陽は、猛と昇を見る。

 

「行くんだろ?」

 

 昇が尋ねて来る。陽は無言のまま、深く頷いた。猛は、溜息を吐いた。

 

「……ま、しょうがねェよな‼︎ 早く行けよ、コッチは心配すんな」

「良いのか?」

「友達としたら、止めなきゃならないけどな……お前の事だ。止めたって行くんだろ?」

 

 昇の言葉に対し、陽は苦笑する。確かに、今の自分は静止されて「はい、そうですか」と納得する事は出来ない。

 

「だが、無茶はすんなよ! 祈ちゃんを悲しませる様な真似したら、タダじゃ置かねェ!」

「無論、俺達だって同じだ。お前の居ない世界なんて、考えられないからな」

「猛……昇……!」

 

 陽は改めて、二人の親友の偉大さに感動した。二人共、戦士では無いが、陽の事情を察した上で、これ迄と同様に支えで居てくれる。

 孤独の中、戦士として戦い続ける事を覚悟して居た初期の頃と今は違う。苦楽を共に戦ってくれる仲間が居る。立場こそ異なれど、支え続けてくれる友が居る。自分の身を案じながらも、帰りを待ってくれている愛する人が居る……陽には、これ以上に頼もしい事は無い。

 

「分かった……! ちょっと行ってくるよ‼︎」

 

 二人に強く背を押され、陽は私服に着替え病室から飛び出して行く。ヤミヤミから受けた傷の痛みは、もう気にならない。ただ、仲間達の下へ急ぐ、と言う思いだけだ。

 残された猛、昇は呆れ果てた様に顔を見る。

 

「カッコつけて送り出したけどよ……祈ちゃんや舞花に、どやされちまうな……」

「信じるしか無いだろう? 俺達に出来るのは、それしか無い……」

「ああ……、取り敢えず祈ちゃん達への言い訳、考えるか……」

 

 そう言って、二人は座り込んだ。

 

 

 

「クッ……‼︎」

 

 ガオシルバー達は、ヤミヤミ単体に大苦戦を強いられていた。シルバー、グレー、プラチナと果敢に立ち向かったが、ヤミヤミの力は、これ迄に戦って来たオルグ達が可愛く見える程に強かった。

 

「これで分かったろう。貴様等と拙者の間にある絶対的な力の差が! 貴様等が、どう足掻こうとも鬼還りの儀を防ぐ事は出来んのだ‼︎」

 

 ヤミヤミは勝ち誇った様に言い放つ。口惜しいが、彼の言う通りだった。今の自分達には、この圧倒的な戦況をひっくり返す事は出来ない。

 

「グレー……プラチナ……‼︎」

 

 ガオシルバーは後ろに倒れ伏す仲間達に目をやる。最後まで諦めずに果敢に立ち向かった仲間達……しかし、それでも(ヤミヤミ)には手傷を負わせる事は出来なかった。

 情け無い……ヒビ割れたマスクの隙間から覗く大神の顔は、己の不甲斐なさから酷く歪んでいた。

 その様子を見たヤミヤミは、せせら笑う。

 

「……フッ……仲間達を護れなかった己が許せぬ、か? それは弱者の言い訳に過ぎぬ。真の強者には、仲間を護る等とは不必要の物だ……‼︎

 戦い抜き、最後に立っていた方が強者で、倒れた方が弱者……恨むなら、弱い己を恨むしか無い……。

 拙者が貴様等より強く、貴様等が拙者より弱かった……ただ、それだけの事だ……」

「弱いから……か……! 耳に痛い言葉だ……。しかし、弱いからこそ、自分より弱い者達を護ろうと考えれる……壊す事しか知らない、お前達には永遠に分からないだろうがな……」

「ホザけ‼︎」

 

 ガオシルバーの絞り出した精一杯の反論に対し、ヤミヤミは4本の腕に持つ忍刀を振り回しながら、シルバーに迫る。だが、もう今のシルバーには逃げ出す気力も無い。

 

「し…シルバー…‼︎」

 

 ガオグレーは相棒に迫る凶刃に、振り絞る様な声を出すが、自身も身体を動かす事もままならない。

 シルバーは覚悟を決め、目を閉じる。その振り下ろした刃が、シルバーの首元を捉えた…。

 と、その際、撃ち込まれた光の塊が刃に直撃し、真っ二つに吹き飛ばした。

 

「ぬ⁉︎」

 

 突然の出来事に、ヤミヤミは後退し身構える。すると、ガオシルバー達の前に佇む人影が……。

 

「陽⁉︎」

 

 ガオシルバーは、その人物に驚く。ヤミヤミに致命傷を負わされ、負傷した筈の陽が、そこに居たのだ。

 手にはソルサモナードラグーンを持って、ヤミヤミを睨み付けている。

 

「陽、無事だったんか⁉︎」

 

 ガオグレーも、陽の登場に驚く。だが、それ以上に驚いたのは、陽の発するオーラが、これ迄と異なっている様だった。

 ヤミヤミは、陽を見ながら唸る。

 

「フン、死に損ないが……! まだ息があったか?」

 

 忌々しげに吐き棄てるヤミヤミ。だが、陽は澄ました顔で…

 

「トドメも刺されて居ないのに死ねるか。さっきは油断したが……もう負けはしないさ」

 

 と、豪語する陽。ヤミヤミは訝しげに見てくる。

 

「ほう? 随分な自信だな……ならば、今度こそ再起不能に迄、叩き潰してくれよう‼︎」

 

 そう言って、ヤミヤミは再び四本、刀を構える。陽も、G -ブレスフォンに手を伸ばした。

 

「サモン・スピリット・オブ・ジ・アース・ビヨンド‼︎」

 

 いつもとは違う号令を発しながら変身する陽。すると、彼の身体から虹色のオーラが発せられ、光に包まれて行く。

 やがて光が収まると、金色のマスクとガオスーツはそのままに、肩から胸に掛けて煌めく虹色のプロテクター状の鎧と手甲、脛当てを装着している。

 

虹鎧装(こうがいそう)! ガオゴールド・レインボー‼︎」

 

 〜レジェンド・パワーアニマル達の力により覚醒したガオゴールドは、虹の鎧を纏った真の竜戦士へと変身しました‼︎〜

 

「な、なんじゃ⁉︎ あの姿は⁉︎」

 

 ガオグレーは、見た事の無い姿に変身したガオゴールドに目を見張った。シルバーも同様だ。

 プラチナだけは、その姿に驚愕と共に期待を抱いていた。

 

「……あれは恐らく……ガオゴールドの中にある潜在能力が、解放された姿……‼︎」

 

 ガオプラチナは、陽に長らくから目を付けていた。彼には他の戦士と違う力を感じていた、そして、その力が今、解放されたらしい。

 ヤミヤミは、唯ならないガオゴールドの姿に、目を疑う。

 

「今更、何をしようとも所詮は付け焼き刃、拙者の敵では無いわ‼︎」

 

 そう言って、ヤミヤミは素早く移動し、ガオゴールドの眼前に迫る。しかし、ガオゴールドはそれを超える素早さで、ヤミヤミの前から姿を消した。

 

「き、消えた⁉︎ 何処に⁉︎」

 

 ヤミヤミは珍しく取り乱し、姿を消したガオゴールドを探す。

 

「後ろだ」

 

 ヤミヤミの背後から、声が聞こえる。振り返り様に、ヤミヤミは忍刀を振り下ろす。だが、その刃はゴールドに徒手で捉えられた。

 

「⁉︎」

「遅過ぎる……欠伸が出そうだ」

 

 ゴールドは見下した様に吐き捨てた。その状態で、ゴールドは脚を突き出してヤミヤミの腹部に蹴りを入れた。不意を突かれ、ヤミヤミはそのまま後方へと吹き飛ばされてしまい、ゴールドの掴んでいた忍刀は根本から折れてしまった。

 

「グ…フ…‼︎」

 

 ヤミヤミは痛みを堪えながら立ち上がる。ガオゴールドは余裕綽綽と言った具合に、刃を投げ捨てる。

 

「諦めろ、勝ち目はないぜ…」

 

 完全に見下した態度を取るガオゴールドに対し、ヤミヤミは初めて怒りを見せた。

 

「……貴様ァ……‼︎ どうやったかは知らんが、多少の力を付けた位で、良い気になるなよ……‼︎」

「……だったら、やってみろよ」

 

 とても、ガオゴールドとは思えない挑発染みた態度に、ヤミヤミは怒りを露わにする。残った三本の刀を右往左往に振り回して反撃するが、それに対しても、ゴールドはヒラリヒラリと躱していく。 

 それ所か、右手に持つソルサモナードラグーンで、ヤミヤミの背部から生えた腕二本を斬り落としてしまった。

 腕を斬られた事で緑色の体液を撒き散らしながら呻くヤミヤミ。

 

「これで分かっただろう? 俺とお前の戦力差が」

「クッ…‼︎」

 

 初めて劣勢に立たされ、苦悶の表情を浮かべるヤミヤミだった…。  

 

 

「おい、あれは本当に陽か?」

 

 ガオグレーは目の前で、ヤミヤミを対し終始、有利に運ぶ戦士が、自分達のよく知るガオゴールドとは大分、違っている事に気付く。

 

「ああ……確かに陽に違い無いが……今迄とは、雰囲気もオーラも違う……若さ故の甘さも殆ど感じられない……‼︎」

 

 ガオシルバーは戦いの長引く中、彼の戦い方を見てきて理解した。内に秘めた潜在能力は自分達から一歩、抜きん出ていたが、戦士としては未熟さの抜けない青さが目立った。

 しかし今、自分達の前で闘う戦士は、そう言った青さや詰めの甘さを感じさせない等と、敵に対して何処までも冷徹で非情な一面が目立った。

 

「……似てる……」

 

 ガオプラチナは呟く。彼女の言葉を聞いた二人は振り返ると、プラチナがゴールドを見ている。

 

「似てる? 誰に……?」

 

 ガオグレーは尋ねる。すると、プラチナは……。

 

「前に、ガオマスターが見せてくれた……かつて、ガオネメシスが堕ちる前の姿、スサノオに……」

 

 シルバーもグレーも理解出来なかったが、プラチナは目の前で戦う男を、かの男と重ねて見ていた。

 歴代の戦士で最初にして最強、人間の醜さを知って自ら最凶へ堕ち果てた戦士が……。

 

 

「お、親方様、押されてるんじゃねェか⁉︎」

 

 動揺しているのは鬼灯隊のコノハも同じだ。自分達にとって無敵と思われていた頭領が、劣勢に立たされているのだから当然だ。

 

「ま、まさか……そんな筈は……‼︎」

 

 ミナモも、ヤミヤミの危機に目を疑っていた。

 

「お、落ち着け! 親方様は気を伺っているのだ‼︎」

 

 ホムラは、浮き足立つ仲間達を落ち着かせようとするが、当人も理解が追いついていない様子だ。  

 

「……あの親方様が軽くあしらわれるやなんて……‼︎」

 

 基本的に冷静なライも、信じられないと言わんばかりだ。だが、リクだけは楽しそうだ。

 

「フフフ……強い。私も戦いたい……フフフ…….」

 

 戦闘狂の一面があるリクからすれば、ヤミヤミ以上の力を持っているガオゴールドには興味津々だった。

 

 

 

 ガオゴールドとヤミヤミの戦いは、ゴールドの優勢のままだ。しかし、ヤミヤミもまた、忍刀を構えガオゴールドに向ける。

 

「成る程……どうやら、貴様の力は本物らしい……メランが執心するのが分かる……」

「黙れ…!」

「だが……急に得た力を、貴様はまだ使い熟せていない……。何れにしても、貴様は自身の力に振り回されて……その身を滅ぼすだろう……!」

「黙れ‼︎」

 

 語り掛けてくるヤミヤミに対し、ガオゴールドはソルサモナードラグーンを構えて、突進して来る。しかし、ヤミヤミは指で印を結ぶ。

 

「オルグ忍法! 闇乃帳!」

 

 すると、ヤミヤミの身体が漆黒の靄状に分散し、ゴールドの身体を包み込んで行く。

 

「⁉︎」

「それ見た事か……力の使い方を測り損ねたな……」

 

 漆黒の闇の中より響くヤミヤミの声が響く。

 

「良い機会だ、教えてやろう……忍びの本領が発揮されるのは、闇の中だ……。視覚を封じられ、聴覚、嗅覚、触覚さえも暗闇の中では正常な判断が出来なくなる。故に、古来より忍びは常に闇の中での戦いに生きてきた……」

「それが、どうした⁉︎ 隠れてないで出てこい‼︎」

「カカカ……自慢の力で拙者を闇ごと払って見せよ……出来る物ならな……見せてやる! オルグ忍法の真骨頂にして、己を天才と謀った愚弟ドロドロも会得できず事実上、拙者だけが我が物とした忍法を…‼︎

 

 オルグ忍法・真‼︎ 夢幻闇地獄!!!」

 

 すると、ガオゴールドの右脚に激痛が走る。目が慣れて見てみれば、右脚から夥しい血が流れている。

 

「フフフ……前か後ろか、右か左か、はたまた上か下か⁉︎ 四方八方より遅い来る攻撃には、闇の中では対処出来まい‼︎

 この闇の中全体が、拙者の縄張りだ‼︎ 過去に、この技を出して見抜いたのは、メランだけだ‼︎ それ以外は全て、闇に囚われ肉塊と化して死んで行った…‼︎」

「く、くそ⁉︎」

 

 ゴールドは対応しようとするが、いつ仕掛けて来るか分からない為、手出しが出来ない。そうしてる間に、ヤミヤミの繰り出す攻撃により、ゴールドの身体は傷付いていく。

 

「ハハハハ‼︎ どうだ、予測出来ぬ苦痛の恐怖は! これが、オルグ忍者の戦い方よ‼︎ 冥土の土産に覚えておけ!

 可視できる苦痛など、たかが知れている! 不可視の苦痛は度重なれば、敵の心を狂わせる程の恐怖を与えるのだよ!」

 

 ヤミヤミは勝ち誇りながら闇の中で叫ぶ。ガオゴールドは姿が見えないまま、嬲られる様にヤミヤミの姿を追うが、その姿は一向に掴めない。

 と、その際、頭の中に声がした。

 

 〜ガオゴールド……姿の見えぬ敵を目で追っても無駄だ。思考も必要無い、雑念と焦りは心眼を曇らせる……。

 考えるな、感じろ……〜

 

 それは、ガオマスターの声だ。ゴールドは一度、無心となった。

 考えるな、感じろ……言われた通り、闇の中にて動き回るヤミヤミの気配を探る。確かに、気配を感じた。先程まで、掴めなかったヤミヤミの動き、体勢がイメージして来る。既に全身を斬り刻まれ、ズタズタにされながら、本能だけでヤミヤミの動きを追い続ける。

 今、自身の背を斬りつけた。そして、素早く正面に回り込む。恐らく、ヤミヤミは今、自分の目の前に居る。

 忍刀を構えた……その切っ先が、自身の首に狙いを定めている……焦るな、充分に引きつけてからだ……ソルサモナードラグーンを強く握りしめる。そして、ヤミヤミが動いた。

 

「其処だ‼︎」

 

 ソルサモナードラグーンを銃形態にして正面に構え…狙撃した。エネルギー弾の発砲音が闇の中に木霊する。

 

「グォォォ…⁉︎」

 

 苦痛に呻く声がした。手答えあり……すると、闇は払われていき、胸を抑えて蹌踉めく、ヤミヤミの姿があった。

 

「ば、馬鹿な……何故、分かった⁉︎」

 

 決して、破られないと自負があった技が破られた。ガオゴールドは、その隙を逃さない。

 

「これで…終わりだ…!

 

 虹陽…竜剣(こうよう…りゅうけん)‼︎」

 

 振り下ろす刃に続く様に、煌めく虹色の剣風が描かれる。刃は、ヤミヤミの頭部から一気に斬り裂き、やがてヤミヤミの身体に火花が走る。

 

「ば…馬鹿…な…‼︎」

 

 と同時に、ヤミヤミの身体は爆発し火柱が立ち昇る。残された虹の上に昇る日輪の太陽が、ゴールドの身体を眩しいまでに照らした。

 

「や…やった…‼︎」

 

 ガオシルバーは見た。照らす太陽と虹の下に立つ気高き竜の姿を……ガオゴールドは、強敵ヤミヤミを見事に討ち果たしたのだ。

 

「お、親方…様…‼︎」

 

 現実を直視出来ず、ホムラ達は只々、呆然としていた。ヤミヤミが倒される等、誰も予想だにしなかった。

 だが、その爆炎の中から突如、巨大な影が立つ。それは今し方、倒したと思ったヤミヤミだ。彼は見る見る巨大化していき、巨大オルグ魔人として復活した。

 

「フハハハ‼︎ 拙者の体内には、オルグシードを仕込んでおいたのだ‼︎ 万が一、倒された際に発動する様にな‼︎ 鬼還りの儀は、何人たりとも邪魔はさせん‼︎」

 

 そう言って、ヤミヤミは巨大化した忍刀を振り下ろす。刃は公園の木を切り倒して行く。

 ガオゴールドは迷わず、ソルサモナードラグーンを天へ掲げる。

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 撃ち出される三つの宝珠は輝き、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンを召喚する。

 

「幻獣合体‼︎」

 

 ゴールドの号令に合わせて合体していくパワーアニマル達。そして、天から飛来したソウルバードにゴールドが搭乗すると、バードのボディは虹色へと輝いて行く。

 その状態で、合体した精霊王ガオパラディンの体内へと吸収されると共に、ガオパラディンの身体もまた虹色へ染まり始める。 

 すると、頭部に太陽の後光を思わせる六角の冠が現れて、肩部から胸部に掛けて虹を思わせる鎧が装着された。

 

「誕生‼︎ ガオパラディン・レインボークロス‼︎」

 

 〜新たなる力を身に付けたガオゴールドと、ガオパラディンが心を一つにする時、精霊の騎士王は虹の鎧を纏うのです〜

 

「小癪な‼︎ オルグ忍法、闇乃……‼︎」

「グリフカッター‼︎」

 

 先程の戦法を取ろうとするヤミヤミに対し、左腕のグリフカッターで先手を打ち動きを封じるガオパラディン。余りに早い動きに、ヤミヤミは遅れを取る。

 

「ユニコーンランス‼︎」

 

 その状態で、右腕のユニコーンランスを振るい、ヤミヤミの胸部を貫く。不意を突かれたヤミヤミは後退する。

 

「グゥゥ……闇乃……帳‼︎」

 

 再び、身体を闇に変えてガオパラディンを拘束しようと襲い掛かるヤミヤミ。だが突然、ガオパラディンの身体が光り出す。

 すると、状態はガオドラゴンの姿に戻り右翼の下にガオユニコーンを、左翼の下にガオグリフィンが装着されていた。

 

「ガオドラゴン・スピードモード‼︎」

 

 その状態で、闇化したヤミヤミの追撃を躱すガオドラゴン。その速さは、闇の浸食を上回り、掻い潜る様だった。

 空中まで昇ると、ガオドラゴンは旋回して闇の塊へと、ミサイルの如く突っ込んで行く。すると、闇は四散していき、其処へガオドラゴンは何度も何度も突撃を繰り返した。

 とうとう、保っていられなくなったヤミヤミは、元の姿へと戻る。しかし、ガオドラゴンの突撃により、かなりのダメージを受けてしまう。

 と、姿を戻したガオパラディンがヤミヤミの前に降り立つ。

 

「……ヌゥゥゥ……かくなる上は……オルグ忍法究極奥義! 鬼霊界封じの術‼︎」

 

 かつて、弟のドロドロが行った生涯に一度しか使えないオルグ忍法の禁じ手を使おうとするが、疲弊したヤミヤミの身体では既に、それを行う事は叶わない。

 ガオパラディンの胸部のガオドラゴンが、口を開ける。

 

「聖霊衝動! レインボープロミネンス‼︎」

 

 放たれるは虹色に輝く美しく雄大な光線。その光線は、ヤミヤミの身体を覆い尽くしていく。

 

「クッ…‼︎ まさか、最後の一手を詰め損なうとは、な……‼︎ 拙者も、ドロドロ同様の、うつけであったか…‼︎

 ……しかし……‼︎ 拙者の命を賭し、鬼還りの儀は完遂となる……貴様は何も……阻めては……‼︎」

 

 最後の断末魔を上げながら四鬼士の三人目、影のヤミヤミは消し炭の如く、崩れ去っていった。

 やがて、光が収まると、ガオパラディンが勝利の咆哮を上げた。

 

 

 

 戦いが終わり、ガオパラディンの足元にガオゴールドが降り立つ。其処へ大神、佐熊、美羽が駆け寄った。

 

「凄いぞ、陽‼︎ 良くやってくれた‼︎」

 

 大神は、ゴールドを称賛した。その言葉に、ゴールドは振り返りつつ前に倒れそうになる。

 其れを美羽が駆け寄り、抱き止めた。

 

「……大丈夫……力を使い果たした……だけだから……‼︎」

「さっきの変身、相当、体力を使う様じゃな……‼︎」

 

 佐熊は疲弊し切った陽を見て直感した。あれは一時のパワーアップは可能だが、ヤミヤミの言った通りに未だ、陽は力を完全には使い熟せていない。その足りない分の力は、陽の体力を消耗する形で補っているが、こう度々と使っていたら、陽の命を削り兼ねない……。

 大神も今回の件で痛感した。陽一人、抜けただけで、ヤミヤミに苦戦を強いられる体たらくでは、テンマやガオネメシスには歯が立たないだろう……。

 

「……ヤミヤミは言っていた……奴の命を賭して、鬼還りの儀は完遂させるって……」

「何と……⁉︎ それじゃ、鬼還りの儀を食い止める事は、もう……」

 

 重苦しい空気が流れた。だが、陽は首を振る。

 

「……ヤマラージャを倒せば……鬼地獄へ乗り込んで、ヤマラージャを倒せば……鬼還りの儀は防げる…‼︎」

 

 陽は疲れ果てて、壁に腰を下ろしながら仲間に伝える。ガオマスターが、レジェンド・パワーアニマルが言った言葉を……。

 と、その時、ガオズロックから、テトムが降りてきた。

 

「陽、大変! 大変よ‼︎」

 

 テトムは青い顔をしながら走って来た。

 

「どうした、テトム⁉︎」

「い、祈ちゃんが……‼︎」

 

 大神の質問に対し、テトムは恐々と答えた……。

 

 

 〜強敵、影のヤミヤミを討ち果たしたガオゴールド‼︎ しかし、鬼還りの儀は刻一刻の迫っており、更に祈の身に何かが起きた様子です‼︎

 果たして、祈の運命は⁉︎〜




ーオリジナルオルグ
 −影のヤミヤミ
 四鬼士の一角にして、オルグ忍軍の頭領。かつて、ガオレンジャー達と戦い追い詰めたデュークオルグ、ドロドロの兄。
 多彩なオルグ忍法に加え、研ぎ澄まされた体術、剣術の使い手。


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quest48 鬼ヶ島、浮上‼︎

またしても、新作の投稿が遅れてしまった事を謝罪します‼︎
体調も、そうですが、仕事が忙しくて……申し訳ありません。

余談ですが、ガオドラゴンの外見はマジドラゴン(ゴーカイジャー仕様)と考えて下さい‼︎


 ガオゴールドが、ヤミヤミとの死闘を繰り広げている最中、病院…。

 祈は病室へと向かっていた。陽へのジュースを買って、彼に会いに戻るのだが……先程の一件が、まだ彼女の頭の中で残っており、どの様な顔をすれば良いか分からない。

 ドサクサに紛れて、陽への思いを告げたが、これまで通りに行くかどうか自信が無い。幾ら、義兄妹とは言え、長年に渡り兄妹として過ごして来た自分達が急に恋人同士にはなれない。

 それは、陽だって同じだろう。けど……もう目を逸らしたく無い。陽の事を自分は愛している、兄としてでは無く一人の男性として……。

 と、気が付くと祈の前に1人の女の子が立っていた。

 

「摩魅…ちゃん…?」

 

 それは摩魅だ。さっきは姿を見せなかったが、何処に居たんだろう? と、祈は尋ねようとする。

 

「祈さん……来て下さい……」

 

 唐突に、祈の腕を掴み歩いていく摩魅。どうも様子の可笑しい摩魅に、祈は怪訝な顔をする。

 

「ちょ、何処にいくの?」

「いいから、早く!」

 

 少し強めな口調で急き立てる摩魅。やはり、何かが変だ。気が付けば、病室とはまるっきり見当違いな方角へと進んでいく摩魅。

 やがて、階段を昇り、幾つか扉を開けると何故か屋上へと来ていた。

 

「先にどうぞ…」

 

 摩魅に促され、祈は黙ったまま屋上に入る。その後に、摩魅も続いた。

 

「……ねェ、摩魅ちゃん……こんな所に連れて来て、どうする気?」

 

 背を向けたままの摩魅に尋ねる祈だが、その際に扉がバキッと音がする。

 

「⁉︎」

 

 何かを壊した様な音に、祈は絶句した。ゆっくり振り返る摩魅の手には、外されたドアノブが握られていた。

 

「…これで、邪魔は入らないわ…」

 

 そう言った摩魅の顔は口角を吊り上げて、笑っていた。彼女らしく無い、不気味な笑みだ。

 身の危険を感じた祈は逃げ出そうとするが……。

 

「駄目ですよォ、逃げたりしちゃァ♡」

 

 いつの間にか、回り込んでいたニーコに塞がれていた。

 

「に…ニーコ‼︎」

「ンフ♡ チャオ、祈ちゃん♡ それより、跪きなさい‼︎ 貴方は今、オルグの支配者の御前にいるのよォ♡」

 

 ニーコがクスクスと笑うと、彼女の横に鬼門が開く。中から出て来たのは、巨大な一本角を携え、背中に翼の如く巨大な掌が二つ生えた大柄なオルグ魔人だった。

 

「此方におわす御方こそ、オルグの頂点に立たれる存在。ハイネス・デューク、テンマ様ですよォ!」

「ハイネス…デューク⁉︎」

 

 ニーコの紹介に対し、テンマはジロリと祈を睨む。その威圧感溢れる視線に、祈は腰が抜けそうになった。

 

「この娘か……巫女の生まれ変わりと言うのは……」

「はァい♡ そして、我がオルグの最大の仇敵にして、四鬼士の三方を死に追いやった怨敵、ガオゴールドこと竜崎陽の妹ですわァ♡」

 

 テンマは、フンと高慢に鼻を鳴らした。

 

「元より、四鬼士の連中など当てにはしておらんわ。所詮、奴等など鬼還りの儀が無事に済むまで、ガオレンジャーの気を引く為の繋ぎに過ぎん……。だが、ヤミヤミは良くやってくれた。お陰で、鬼還りの儀は滞りなく完遂する……。後は、この娘だけだ」

 

 そう言うと、テンマは、祈に近付く。

 

「わ、私をどうする気⁉︎」

 

 オルグの中でも最高位の座に冠するハイネスを前にしても、祈は毅然とした態度を崩さなかった。陽と違い、オルグに関わった事は数少ない彼女だが、彼等が人間と敵対する者である事は重々、承知しているつもりだ。しかし、彼女の様子にテンマは不敵に笑う。

 

「クハハハ! このオルグの王たる余を前にして中々、気丈な娘よ……しかし、貴様の恐怖心は隠し切れて居らんぞ……これから、自分がどうなるか? その先の読めない恐怖に、早鐘の如く心臓が鼓動を上げているのが、此処まで聴こえてくるわ‼︎」

 

 祈の本心に勘付いたテンマは嘲る様に言った。祈は後ずさるが、摩魅が後ろを遮って来る。

 

「摩魅ちゃん、どうして⁉︎」

「その娘は、人の血が敗れオルグの血が勝ったのだ。つまり……我々の忠実な僕となったのだよ‼︎」

 

 勝ち誇るテンマの声に、祈は絶望した。祈は完全に追い詰められてしまった。

 

 

 

 祈の危機を知った陽は、ガオズロックに乗って病院へと向かった。自分が病院から離れた隙を見て、オルグ達の奇襲に来るとは……。

 陽は祈の安否が気掛かりだった。だが、それ以上に……先程のダメージが残っており、立っているのがやっとの状態の陽だった。

 

「陽、大丈夫か⁉︎」

 

 大神は青ざめた表情の陽を見ながら、不安気に尋る。全く、大丈夫では無いが、自分の身体に鞭を打ち…

 

「祈の危機なんだ……行かないと……‼︎」

 

 と、倒れそうになるのを必死で堪えた。美羽は、フラフラの状態の陽を見て、思い切って言った。

 

「陽、さっきの変身は、もう二度とやらない方が良いよ……身体への負担が酷そう……」

「確かにのォ。これ以上、身体を酷使したら、ガオレンジャーに変身出来なくなるぞ?」

 

 美羽に続いて、佐熊も言った。だが、陽は作り笑いを浮かべ…

 

「平気だ…! 早く行かなきゃ…‼︎」

 

 と急かす様だった。しかし、テトムも顔を曇らせた。

 

「(仲間達に不安にさせない様に気丈に振る舞っているけど……陽のここ最近の肉体的ダメージと精神的負担が、余りに著しいわ…! これ以上、限界を無視して戦い続ければ、陽は……‼︎)」 

 

 テトムは一縷の不安が胸中に過ぎる。さっきのヤミヤミと戦闘でも陽は、かなり不安定な戦い方だった。

 自分でも制御し切れない程の力を使い続ければ、必ず破滅する。あの、ツエツエもそうだった。打倒ガオレンジャーの為に、恐竜オルグと言う度の超えた力を持った怪物達を復活させた結果、その力を暴走させて自らの首を締める結末となってしまった。

 もし、陽もそうなったら……そんな不安が、テトムを苛めた。

 

「見えたぞ、病院だ! あ、あれは⁉︎」

 

 大神は指を差す。眼前には、黒煙の立ち昇る病院の姿が見えた。

 

 

 病院の前に降りた時、彼等は目を疑った。オルゲット達が鬼門より湧き出て、逃げ惑う人々に襲い掛かって居た。

 

「な、何だ⁉︎ この騒ぎは⁉︎」

 

 大神も、此処まで大掛かりに起きた事態に声を荒げる。それは、陽も同様だ。まさか、オルグ達が此処までするなんて……病院のホームに入ると、中は更に大変な事態だった。

 

「あ…舞花ちゃん! 千鶴ちゃん!」

 

 気が付くと、オルゲット達に囲まれて身を寄せ合いながら怯えている二人を見つけた陽は駆け出し、オルゲット達を蹴散らした。

 変身してないとは言え、凄まじい気迫を放ちながら突っ込んで来る陽に、オルゲット達は怯み逃げ出した。

 

「二人共‼︎ 大丈夫⁉︎」

 

 屈みながら、舞花達に呼び掛ける陽。見た感じ、目立った怪我はしてない様だ。

 

「わ、私は大丈夫……それより、祈が……‼︎」

 

 舞花は恐怖に耐えながら、陽に事の顛末を告げた。陽は、舞花達を立たせる。

 

「祈は僕が助ける…‼︎ 舞花ちゃん達は、安全な所へ‼︎」

「で、でも……まだ兄貴達が……‼︎」

「舞花ちゃん‼︎」

 

 どうやら、猛達はまだ病院内に居るらしい。心配そうに渋る舞花を叱咤し、テトムに振り返った。

 

「テトム! 舞花ちゃん達を頼むよ‼︎」

「……ええ、分かったわ‼︎ 陽……くれぐれも無茶しないでね……‼︎」

 

 走り去っていく陽達の背に呼び掛けるテトム。陽は振り返り、親指を立ててサムズアップをした。そして再び、祈の下へ向かう陽達。

 

「あ、陽さん……‼︎」

「大丈夫よ……‼︎ 彼は大丈夫だから……‼︎」

 

 テトムは、そう諭しながらも、自身に言い聞かせる様に呟いた。彼女には嫌な予感が拭い去れなかったからだ。

 

 

 

 陽達は病院内を走りながら、辺りを探す。しかし、患者や医師、看護師は大半が避難したらしく、残っているのはオルゲットだけだ。

 佐熊が襲い掛かるオルゲット達を拳で殴り飛ばしながら、道を切り開いていく。と、廊下にもたれ掛かっている人影を見つけた。

 

「昇‼︎ 大丈夫か⁉︎」

 

 昇の姿に陽は絶句した。陽は命に別状はない様だが、左腕を抑えながら苦み走った顔をしている。

 

「怪我してるのか⁉︎」

「……大丈夫だ……ほんの擦り傷だ……‼︎」

「猛は⁉︎」

「……祈を追い掛けて行った……恐らく、屋上だ……‼︎」

 

 昇は屋上へと続く階段を指差す。陽は昇を気に掛けながらも、階段へと走り出す。美羽は屈んで、昇の負傷している左腕に引き裂いたハンカチで応急処置し、大神と佐熊と共陽の後に続く。

 陽は階段を休みなくに駆け上がって行く。疲れも痛みも忘れて、屋上を目指す。祈に万が一の事があったら……と言う焦りから、陽は正常な思考も困難になっていた。

 やがて、屋上へと入るドアが見えて来る。恐らく、あの向こう側に祈が居る筈だ。陽は一人、駆け出そうとしたが……。

 

 

「うわあァァッ!!!!」

 

 

 絶叫と共に、ドアが急に開かれて誰かが投げ出されて来た。見下ろすと、それは猛だった。

 

「猛⁉︎ 大丈夫か⁉︎」

 

 陽は地面に蹲る猛に声を掛ける。猛は頭部から、薄ら血を流しながら陽を見る。 

 

「あ…陽…‼︎ い、祈ちゃんが…‼︎」

 

 絞り出す様に、ドアの向こう側を指差しながら猛は気を失ってしまった。陽は猛を壁にもたれ掛けさせて、開かれたドアを潜り抜ける。

 

 

 ドアの向こう側では、祈が壁際に迄、追い詰められていた。その後ろにはニーコと摩魅が祈を羽交い締めにし、目の前には禍々しい雰囲気を放ったオルグ魔人が迫っている。

 

「や、止めろォォ!!!」

 

 堪らずに、陽は叫んだ。祈は陽の姿に気付き……

 

「兄さん‼︎ 逃げて‼︎」

 

 と、陽の安全を確保すべく叫ぶ。すると、目の前に居たオルグ魔人は振り返る。

 

「次から次へと邪魔者ばかり……小賢しい……‼︎」

 

 オルグ魔人は苛立ちを露わにしながら、陽を睨み付ける。明らかに、これ迄に見てきたオルグとは違う。

 

「お前は⁉︎」

「ほう……貴様が、ガオゴールドか……。我々の計画を度々と邪魔してくれた、小煩い羽虫めが……‼︎

 余の名前は、テンマ。現在に生きる唯一のハイネス・デュークにして、オルグ族の頂点に立つ者だ!」

 

 テンマは高々に名乗りあげる。と、同時に祈を拘束する摩魅の姿を見て、陽は目を疑った。

 

「ま、摩魅ちゃん⁉︎ 何で、祈を⁉︎」

 

 オルグ達から裏切り者のレッテルを貼られて居る筈の摩魅が、どうして? 陽の情報が追い付かない。すると、同じく祈を捕まえていたニーコをクスクスと嗤う。

 

「摩魅ちゃんはァ、今や立派なオルグと化したのですよォ? 本人だって本望でしょ? 人にもオルグにもなれない半端な混血鬼が、名実共にオルグとなれたのですからァ♡」

「き、貴様等ァ…‼︎」

 

 陽は、はらわたが煮え繰り返りそうな程に怒りを滾らせる。彼女が、オルグの血を引くが故に、どれ程に苦しんで生きてきたか知らない筈がないのに、こんな非道い真似を、よくも……。

 その時、陽に遅れて飛び込んで来た大神、佐熊、美羽も、テンマの姿に身構える。

 

「テンマ、貴様……‼︎」

「ほう? 天空島にて狩り損ねた、負け犬では無いか? 仲間達に背を向け、オメオメと生き延びたか……」

 

 テンマは大神に侮蔑の言葉を吐き捨てた。大神は、かつての負け戦の屈辱を思い出し、苦い顔を浮かべる。

 

「コイツが、テンマか……なんと、禍々しい奴じゃ‼︎」

「この男の為に、岳叔父さんは……‼︎」

 

 佐熊は初めて対峙したハイネスを警戒し、美羽は叔父である岳を倒し、封印した仇とも言える彼に敵意を露わにした。

 

「なんの理由があって、此処を襲った‼︎」

 

 陽は、怒りに任せてテンマに怒鳴る。しかし、当のテンマは涼しげに笑った。

 

「理由なら、ある。貴様等が邪魔立てしなければ、鬼還りの儀はもっと早く完遂していたのだ……。これは、余の計画を狂わせてくれた礼だ」

「だったら、僕達を狙えば良いじゃ無いか‼︎ 無関係の人達を巻き込むなんて……‼︎」

 

 この病院を襲撃した為、祈だけでなく、猛や昇、舞花や千鶴、病院に居た人達全員が巻き込まれる結果となったのだ。それだけは、陽は決して許せないのだ。自分にとって、大切な人達を的に掛けて来る様な卑劣なやり方は…。

 

「これは洗礼だ。鬼還りの儀を行う為のな……そして、これ迄の貴様等に対する見せしめでもある…」

「何だと……⁉︎」

「こんな物は小手調べ……間も無く、鬼還りの儀が行われると同時に、鬼地獄から何千何万と言うオルグ達が這い上がって来る。

 締めには、オルグにとって憎むべき原初の巫女の血を引きし生娘の血を大地に流す……此処に、鬼還りの儀は完了とする!

 そして……地上は我々、オルグの君臨する世界となるのだ‼︎」

「そんな事……させるものか‼︎」

 

 テンマの発した狂気の計画に、陽は激怒した。許さない、この男だけは……‼︎

 

「だったら、止めてやるさ‼︎ それが僕達、ガオレンジャーの使命だ‼︎」

「クハハハ…‼︎ 止めてやる、とな? ならば、止めて見せよ‼︎ この、ハイネス・デューク、テンマの力を見て同じ事が言えるのならな‼︎」

 

 そう叫んだテンマの背面にある巨大な二つの掌が展開した。すると、二つの掌は分離したかと思えば、真ん中に巨大な眼球が出現した。

 そして、テンマの右手には禍々しい気を発する大剣が握られている。

 

「これは『修羅怨鬼剣』‼︎ 貴様等に殺されたオルグ達、ひいては歴代の全オルグの怨念が込められている。当然、ゴーゴ、ヒヤータ、ヤミヤミの怨念もな。この剣に余が力を込めれば、万物を腐らせる邪気を垂れ流す‼︎」

 

 そう言った通り、修羅怨鬼剣から濃密な邪気が放たれた。すると、コンクリートの壁に亀裂が生じ、下に生い茂る木々が枯れて行った。

 

「そして余が振るえば、放たれた斬撃は立ちはだかる物を全て破壊する‼︎」

 

 続けて、テンマが修羅怨鬼剣を縦に振り下ろした途端、ドス黒い斬撃が光線の様にして放たれ、軌道を残しながら陽達の横を擦り抜けた。

 その斬撃は貯水槽に直撃し、タンクを真っ二つに切断した。吹き上がる水しぶきが、陽達を濡らす。

 

「これが、余と貴様等の間に存在する差……この世の全てに君臨するに相応しき力だ‼︎」

 

 圧倒的な力を見せつけ、テンマは勝ち誇る。陽は左頬に痛みを感じ、手で押さえると、頬はパックリと裂けて血が溢れ出ている。

 掠っただけで、この威力だ。あんな技を、まともに受けよう物なら一溜りも無いだろう。

 この時、陽は自身の掌が震えている事に気付く。恐ろしい……目の前に居るオルグに、陽は恐怖を抱いていた。

 四鬼士、恐竜オルグと言った多種多様な強敵達と刃を交えて来た陽だが、このテンマだけは違う。勝てる、勝てない云々では無く、次元が違い過ぎる……メランやガオネメシスの様な実力を出し切っていない故の底の知れなさとは更に違う、テンマの力は青天井の様にさえ錯覚してしまう。だが、ニーコに捕まる祈の姿を見た陽は、折れそうになっている自身の心に喝を入れた。

 自分が逃げれば、倒れれば、祈を守る事が出来ない。勇気を振り絞った陽は、G -ブレスフォンに手を伸ばす。  

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 光が収まり、ガオゴールド・レインボーに変身する。ガオシルバー、ガオグレー、ガオプラチナも援護に入る。

 新たに身に付けた変身と技で、テンマの修羅怨鬼剣にソルサモナードラグーンを打ち付けるゴールド。

 しかし、テンマの力の方が上で押し負けそうになってしまう。

 

「ガオハスラーロッド、スナイパーモード‼︎」

「フェニックス・アロー‼︎」

 

 ガオシルバーとプラチナの二名が、旗色の悪いゴールドを助けるべく遠距離より射撃してきた。しかし、二人の放った光弾と光矢は、宙を浮く巨大な掌の握り拳で叩き消されてしまう。

 

「うつけが! そんな子供騙しで、このテンマを倒せるか‼︎」

 

 すると、掌は大きく開いたかと思えば中央の眼球が見開かれた。眼球から緑色の血の涙を流し始め、次の瞬間、仄暗い緑色の光線が放たれた。

 ガオシルバー、ガオプラチナは諸に受けて吹き飛ばされてしまう。

 

「シルバー、プラチナ‼︎」

「他人の心配をしている場合か?」

 

 ゴールドは、吹き飛ばされた二人を気遣うが、目の前のテンマがそれを許してくれない。修羅怨鬼剣を押し付け、ゴールドをジリジリと追い詰めようとする。

 

「ゴールド! あまり、調子に乗るなよ‼︎」

 

 ガオグレーは、グリズリーハンマーを振り回しながら、テンマに特攻を仕掛ける。だが、もう片方の掌がグレーを背後より握り締めた。

 

「ヌゥ⁉︎」

 

 グレーは抵抗したが、掌は万力込めてグレーを絞め殺そうとした。彼の全身から、ギシギシと嫌な音がする。

 

「…フフフ…掌の分際で、ワシに力比べを仕掛けるとは……上等じゃ‼︎」

 

 不敵に笑うと、グレーは力を込めて掌に開かせようと試みた。拳は徐々に開かれて行くが……

 突如、もう片方の掌が人差し指で、グレーの腹部を刺し貫いた。

 

「グフっ⁉︎」

 

 不意を突かれたグレーは、指を抜かれた後、その場に崩れ落ちた。この短時間で、ガオゴールド以外の戦士が全滅する事態となり、祈は我が目を疑った。

 

「そ、そんな…⁉︎」

「ンフフ‼︎ 流石のガオレンジャーも、テンマ様の前には形無しですわねェ⁉︎」

 

 ニーコは勝ち誇った様に笑う。

 

 

 

「諦めよ、ガオゴールド‼︎ 貴様の仲間は、誰も居なくなった‼︎」

 

 テンマは、倒れて行ったガオシルバー達を指し、嘲る。何時しか、戦いは天空島で、ガオレッド達の戦いを彷彿する物となっていた。

 全身を斬り裂かれながらも、ヤミヤミとの戦いで身体が疲弊し切っていたが、ガオゴールドは倒れなかった。此処で自分が倒れる訳には行かない……そんな意地が、湧き上がって来る。

 と、その際、空から鬼門が現れ出現する巨大な影……。

 

「あれは、ガオインフェルノ⁉︎」

 

 その姿を現したのは、かつてガオネメシスの尖兵として現れ、圧倒的な力でガオハンターを叩き伏せた悪の精霊王にして、冥府の王ガオインフェルノだった。一度、倒した筈だが、またしても蘇ったのか?

 いや、それ以前に奴が此処にいると言う事は……‼︎

 

「フフフ……ガオネメシスの有無を案じているなら、心配無用だ……奴は、此処には居ない。あれは、余の命令で召喚されたのだ‼︎」

 

 テンマがそう言った刹那、ガオインフェルノはムンガンドセイバーを振り回して暴れ始めた。テンマだけでなく、ガオインフェルノと二重に相手をしなくてはならないのか……と、その時、ガオゴールドから宝珠が飛び出して、ガオインフェルノの前にガオパラディンが立ちはだかった。其れに呼応し、ガオハンター、ガオビルダーも参戦する。

 

「ガオパラディン⁉︎ 何を⁉︎」

 

 〜此奴は、我々が食い止める‼︎ お前は、テンマを倒すのだ‼︎〜

 

 ガオドラゴンの声だ。パワーアニマル達も自発的に助けて暮れているんだ。だったら、その気持ちに応えないと‼︎

 ガオゴールドはソルサモナードラグーンから光の刃を出現させて、テンマに向かって走り出した。

 

「地球の命を弄んだ報いを受けろ‼︎ 虹陽…竜剣‼︎」

 

 飛び上がりながら、虹色に輝く斬撃を繰り出す。虹の刃はテンマの胴体を真っ二つに分けた。

 バランスを崩したテンマは、そのまま倒れて行った。

 

「…やった‼︎ ハイネスを倒した‼︎」

「うつけめ……貴様の目は節穴か?」

 

 テンマの声がした。ガオゴールドは慌てて見ると、真っ二つに倒れるテンマの姿は跡形もなく消えていた。

 代わりに、元の状態のテンマがピンピンしていた。

 

「そ、そんな⁉︎」

「貴様如きに倒される余では無いわ‼︎」

 

 テンマの底知れぬ強さに、ガオゴールドは絶句する。

 その時、ガオパラディン達も危機に立たされていた。ガオインフェルノの侵攻を止める為、三体の精霊王は決死に挑んだが、パワーアップしたガオパラディンでさえ、ガオインフェルノの敵では無かった。

 やはり、自分達が搭乗しないと駄目なのか……悔しげに唸る。

 

「これで分かっただろう? 貴様では何も倒せぬし、何一つ守れぬ。妹一人も満足に守れない様で、地球を守るだと? 笑わせるな‼︎」

 

 テンマの侮蔑と嘲りの言葉が響く。ガオゴールドは我を忘れて、テンマへと斬りかかった。最早、作戦も段取りも無い。テンマを倒せさえすれば……その思いだけで、テンマを斬り続けた。

 しかし、その刃が、テンマに届く事はない。まるで、刃がどう来るか分かっているかの様に、受け流されてしまうからだ。

 

「まだ抗うか、諦めの悪い男よ……。貴様に教えてやろう……正義だの悪だのと、建前を並べ立てる様な奴は小物に過ぎん。ガオレンジャーの真似事をして正義の味方ごっこをしているだけの貴様も然り……仮染めの正義など、真の強者の前には紙屑以下だ…!」

 

 真っ向から、自身の生き方を否定されたガオゴールドはマスクの下で苦い顔を浮かべる。自分が、ガオレンジャーの真似事をしているだけの小物? それだけは聞き流せない。少なくとも、今まで戦ってきた中で、一度も生半可な覚悟で戦ったつもりは無い。

 

「僕の力を……見縊るな……‼︎」

「無駄だと言うのが分からんか‼︎」

 

 尚も食い下がらんとするガオゴールドに、遂に怒髪天を突いたテンマは激怒の表情を見せて、ゴールドの腹部を修羅怨鬼剣で薙ぎ払った。

 その余波で、ガオスーツはボロボロに破れ、マスクも半壊した。

 

「貴様と言い、ガオレッドと言い、勝てる見込みの無い敵に命を投げ打ってまで戦いに身を投ずる、人間の心理を疑う……。恐怖から逃げ出すも良し、首部を垂れて従属するも良しにも関わらず、自らを死に追いやるとはな……」

 

「……それが分からないのは、お前はオルグだからだ……‼︎」

 

 ガオゴールドは絞り出す様な声を出した。テンマは、意味不明と言った感じで傾聴した。

 

「……例え、勝ち目の無い敵だとしても……自分が死ぬかも知れないと分かっていても……後ろに傷付いて欲しくない人が居れば、命に変えても守り抜きたい人が居れば……人間は戦えるんだ‼︎ 壊す事しか知らない、お前達には絶対に理解出来ないだろうがな…‼︎」

「……呆れ果てた奴よ……貴様は、他人の為に死ねると言うのか? 愚の極みだ……。だが……それが貴様の矜恃と言うならば、仕方あるまい……。来い、ガオの戦士よ……せめて最後は、戦士として死なせてやる……‼︎」

 

 相入れないながらも、ガオゴールドの『諦めない闘志』にある種の感銘を受けたテンマは修羅怨鬼剣を両手に構える。

 更に分離した両掌が、テンマの背後に降り立った。

 これが最後……ヤミヤミとの戦いで傷付き、今日だけで二度も肉体を酷使した以上、次は保たないだろう。だが、ガオゴールドはソルサモナードラグーンに、ありったけのガオソウルを込め、走った。

 

「竜の剣よ……光を呼べ……! 虹陽……竜剣!!!」

 

 再び、ソルサモナードラグーンに力が宿る。すると、ガオソウルを装填した光の刃は肥大化し、遂には天に届かん程に伸びた。

 

「こ、これは⁉︎」

 

 流石のテンマも驚愕した。脆弱な人間と見下した者が、死に瀕した時に見せる力……振り下ろされた光の刃は虹を描きながら、テンマに直撃した。光が、包み込んで行く。

 やがて、光が晴れると……其処には変身の解けた陽の姿があった。

 

「に、兄さァァァん!!!」

 

 祈は、あらん限りの声で叫んだ。

 

「……い、祈……‼︎」

 

 最後に妹の名を言い残した陽は、その場に倒れ力尽きた。

 

「……見事……この、テンマをここ迄に追い込むとはな……」

 

 陽の目の前には、ほぼ無傷のテンマの姿があった。しかし、片方の掌は破壊され、煙となって消失した。

 

「しかし、これが限界だ……だが、このテンマと渡り合った事は敬意を表しよう……貴様は、人間として上出来だ……‼︎」

 

 それは、オルグでありながらも、陽の力を彼なりに評価した結果に送る賛辞だった。だが、ガオゴールドの全てを賭けた力は、テンマに届くには至らなかった。

 

「テンマ様ァ♡ 準備が整いましたわァ♡」

「うむ……こちらも用件は済んだ……。これより鬼ヶ島に帰還する……‼︎」

 

 そう言って、テンマは鬼門を作り出した。

 

「その娘を連れて来い……まだ、やって貰わねば、ならない事があるでな……。ガオインフェルノ、消えよ‼︎」

 

 テンマが号令を下すと、三人の精霊王が対峙していたガオインフェルノは消失した。元より、ガオパラディン達の足止め用に連れて来ただけらしく、インフェルノ自身も本気を出していなかった様だ。

 

「兄さん、兄さァァァん‼︎」

 

 陽の下へ駆け寄ろうとする祈だが、ニーコは彼女の口元を押さえ込む。すると、祈はぐったりとした。

 

「おやすみなさァい、眠り姫ちゃん♡ さ、帰りましょう?」

 

 そう言って、ニーコは歩き出す。摩魅も、祈を抱えたまま続いた。

 

「……テメェ、祈ちゃんを離せ……」

 

 ふと声がすると、階段を這い上がって来た猛が、近付いて来た。しかし、テンマは……

 

「ゴミに興味は無い……消えよ……」

 

 と、だけ吐き捨てた。そして、鬼門の中へと消えて行く。最後に摩魅が通ると、鬼門は完全に消失した。

 

「……陽……‼︎」

 

 崩れ落ちた猛は意識を失った陽を呼び掛けるが、そのまま自分も気を失ってしまった。

 

 

 

 鬼ヶ島に帰還した、テンマは玉座に居た。其処には、ニーコとガオネメシスが居た。

 

「フン……どうやら、ガオレンジャーは全滅したか……だが、人に断りなく、ガオインフェルノを使うとは……」

 

 自身の相棒を勝手に使われた事に、ネメシスは苛立っていた。

 

「貴様とて、余に断りなく勝手に動いていたでは無いか? お互い様だ……‼︎」

「チッ…‼︎」

 

 ネメシスは舌打ちをした。すると、ニーコがテンマを見た。

 

「テンマ様、何時でも行けますわよォ‼︎」

 

 何処か、テンション高めのニーコに対し、テンマは嗤う。

 

「時は満ちた……これより、鬼還りの儀を執り行なう‼︎ 浮上せよ、鬼ヶ島‼︎」

 

 テンマの掛け声で、鬼ヶ島全体が揺れ動く。すると島は突然、浮かび上がる。外部の岩が崩れ落ちた、城壁に似た造りを見せた。

 鬼の顔を模した岩も崩れ、まるで砦の様だ。島全体が、まるで戦艦に似た姿へと変形する。

 

「天空城塞オルグリウム! 発進‼︎」

 

 鬼ヶ島改め、天空城塞オルグリウムは空高々と浮上して行った……。

 

 

 〜姿を現したテンマの力に敗北したガオレンジャー達。そして、鬼還りの儀執行と共に、鬼ヶ島は天空城塞オルグリウムと真の姿を現したました‼︎ 地球の未来は、どうなるのでしょう⁉︎〜



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quest49 オルグ、宣戦布告‼︎

 鬼ヶ島内では、オルグ達が歓喜の声を上げていた。

 

「遂に、テンマ様はやられたぞ‼︎」

「俺達、オルグの時代が始まったのだ‼︎」

「テンマ様、バンザーイ‼︎」

 

 口々に、テンマを称える言葉を叫ぶオルグ達。彼等は待ち望んでいた。自分達の時代が始まる日を……前回、ガオレンジャーに敗れ去り、鬼ヶ島に隠れ住む事を余儀なくされてからも、再び表舞台に立つ日が来るのを指折り数えて待っていたのだ。

 もう隠れ住む必要は無い、堂々と振る舞えるのだ。それが、オルグ達からすれば嬉しくて仕方が無い……そんな風に和気藹々とするオルグ達を他所に一人、浮かない顔をしているオルグが居た。

 

「おい、見ろよ。ヤバイバの野郎だぜ?」

 

 一人のオルグが、ヤバイバを指差す。そして嘲りに満ちた顔をした。

 

「よくもまァ、デカい態度で此処に入れるよな? テンマ様も、少し甘いんじゃねェか?」

「散々、失敗して後が無くなったばかりか、テンマ様に反逆したんだろう? オルグの恥晒しだぜ」

「おまけに相方は、自分の復活させた恐竜オルグに喰われたってのに、テメェは生き残るなんて……プライド無いのかね?」

 

 そんな大っぴらな罵声が、ヤバイバの耳に突き刺さる。先の戦いで、ツエツエを喪ったヤバイバは鬼ヶ島に帰る他、無かった。

 しかし、彼を待っていたのは仲間達の暖かい言葉では無く、見下し切った冷たい陰口だった。

 ヤバイバ達が、ガオレンジャーへの幾多の敗北、ひいては恐竜オルグを蘇らせて反逆したと言う情報は、野火の如く鬼ヶ島内に広まり、今や、ヤバイバは鬼ヶ島に住むオルグ達全員から、オルゲット以下にも劣る存在へと成り下がっていた。

 しかし、ヤバイバは一言も反論しない。誰に何を言われても、黙々としているしか無いのだ。最初は、殴る蹴ると言った暴行を加えていたオルグ達も最近では、陰口こそ叩けど、手は出して来なくなった。

 

「ハッ‼︎ 面白くねェな、お前はよ‼︎」

「放っとけよ。あんな役立たずの木偶の坊に関わると、碌な事が無いぜ‼︎」

「これじゃ、混血鬼の摩魅以下だな‼︎」

 

 他のオルグ達は、馬鹿笑いしながら徹底的にヤバイバを扱き下ろした。しかし、ヤバイバには目的がある。ガオネメシスは約束したからだ。

 

 

 ー鬼還りの儀は無事に終われば、ツエツエに遭わせてやるー

 

 

 その言葉だけが、ヤバイバを繋ぎ止めていた。ツエツエとの再会、それがヤバイバの目的だ。

 何だかんだ言っても、ツエツエとは長いコンビだ。今更、彼女の居ない世界なんて考えられない。しかし、ツエツエとは二度と、会えないのだ。彼女は死んだ……だが、ガオネメシスなら、ひょっとしたらツエツエを生き返らせる方法を知っているかも知れない。それだけが、彼に残された最後の希望だった。

 ヤバイバは、ブツブツと繰り返す。

 

「これで、ツエツエと会える……ツエツエと会える……」

 

 そう呟きながら、ヤバイバは広間から出て行った。周りのオルグ達は、怪訝な表情を浮かべた。

 

「どうしたんだ、アイツ?」

「さぁな、遂にイカレちまったんじゃねェか?」

「あんなのに構うなよ。それより、これから忙しくなるぜ‼︎」

 

 ヤバイバの異変など取るに足らない、として、オルグ達はゾロゾロと出て行った。

 

 

 ヤバイバは、ガオネメシスに会おうと鬼ヶ島の最深部にある彼の居室を目指していた。鬼還りの儀は完遂した。後は約束通り、ツエツエを生き返らせて貰うだけだ。

 そして、彼の居室の前に着く。扉を開こうとすると……

 

「さァ、当初とは大分、予定は変更したが鬼還りの儀は執行された」

 

 〜うむ、ご苦労……〜

 

 ガオネメシスと共に聞いた事のない声がした。一体、誰と話しているのだろうか? ヤバイバは聞き耳を立てる。

 

 〜しかし、貴様も中々に酷な奴よの……あの混血鬼の娘のみならず、デュークオルグの男まで利用するとは……〜

 

「クック……ツエツエを生き返らせてやると嘘の情報をチラつかせたら、すぐ様に食いついて来たよ……」

「⁉︎」

 

 ヤバイバは自身の耳を疑う。扉に顔を押し付ける様に、耳を済ませる。

 

「だが、思ったより上手く行ったよ……万が一、四鬼士がしくじった時の保険として、ツエツエに恐竜オルグの情報を流しておいて正解だった……。ツエツエの事だから、強大な力を持つ恐竜オルグを手にすれば、テンマに反旗を翻す事は計画の範疇だったからな」

 

 〜そして、奴はその力に自ら溺れて無様に死んだ……まさに虫ケラに相応しい最期だった訳だ…〜

 

「ハハハ……違いない……」

 

 ガオネメシスは嘲笑した。ヤバイバは拳を握りしめる。自分は騙されていた事に気付いた。怒りに身を任せて、扉を叩き壊した。

 

「ガオネメシス、テメェ‼︎」

 

 激昂したヤバイバは武器である短刀を手に、部屋の中に雪崩れ込んだ。ネメシスは振り返ると、さして驚いた様子は見せない。

 

「何だ、貴様か? 何の様だ⁉︎」

「約束が違うじゃねェか⁉︎ 鬼還りの儀が行われたら、ツエツエを生き返らせてやると言ったのは、お前だろう⁉︎」

「ん〜? 約束が違う、だと? 何の話だ?」

「とぼけるな⁉︎ それに今の話を、バッチシ聞かせて貰ったぜ‼︎ お前が、四鬼士やツエツエを利用した末に使い殺した事もな‼︎」

 

 ヤバイバの怒声に対し、ガオネメシスは高笑いを上げた。

 

「フン……聞いていたのか? なら……もう隠していても仕方あるまい……。その通り、貴様は俺に利用されたのだよ‼︎」

「……じゃ、ツエツエは?」

「馬鹿め……今更、役立たずのツエツエを蘇らせて何のメリットがある? それに奴は一度、鬼地獄から生き返っているから、二度目は無いさ……恐竜オルグは、ガオレンジャーに倒された際に濃密な邪気を垂れ流して、大地を汚した。それにより、鬼還りの儀が、よりスムーズに執り行われる結果となる……。詰まる所、ツエツエは儀を完遂させる為の前座として、生贄になって貰ったのさ……」

「……テメェ……‼︎」

 

 抜け抜けと、ツエツエを蜥蜴の尻尾切りにしたと言い放つガオネメシスに対し、ヤバイバの怒りは限界に達した。

 少なくとも、ツエツエは最後までオルグの為に動いたのは事実である。テンマや四鬼士に見縊られながらも、彼女は彼女なりに行動していたのだ。それを、このガオネメシスと言う男は、あっさり見限り捨て駒にした、と言うのだから、ヤバイバは到底、許せるものでは無い。

 

「ガオネメシス……‼︎ テメェだけは……テメェだけは、絶対に許さねェ‼︎ ツエツエに仇を討ってやる‼︎ 

 

 ツエツエは間接的に言えば、この男に殺された様な物だ。力を求道する彼女に恐竜オルグの存在を流し、彼女が離反する様に仕向けたのだ。

 その末に、ガオレンジャーに敗北し最期は恐竜オルグの餌食となる事含めて、ガオネメシスの計画だったに違いない。

 短刀を手にしたヤバイバは、ガオネメシスの首元を斬り掛かる。しかし、ネメシスは気怠げに躱し、ヘルライオットでヤバイバの脚を殴打した。その際、机に置かれていたツエツエの杖が音を立てて、床に落ちる。

 

「グッ⁉︎」

「馬鹿め……貴様如きが、ガオネメシスに勝てるとでも思ったのか? だとしたら、ツエツエ同様にめでたい頭をしている……。あの女も恐竜オルグを手中にした後、自身がオルグの支配者になるなどと宣っていたが、あの様な小物は黙々と、テンマや四鬼士達の下で雑務でもこなしていれば良かったのだ……。欲をかいて、力を求めた結果……ご覧の有様だ。だから、ガオレンジャーに負けるのだ……」

 

 ガオネメシスは嘲笑う。確かに、ヤバイバにだけ言えた事では無いが、数多のオルグは、ガオレンジャーの力を過小評価し、己の力に驕る傾向があった。四鬼士の風のゴーゴ、水のヒヤータ、ツエツエ……何れも自身の力を絶対視した結果、ガオレンジャーに付け入られる隙を与えてしまった。人智を超えた力を持つが故、慢心し易い……それが、オルグ全体の最たる弱点とも言えた。

 ガオネメシスは倒れ伏すヤバイバの腹部に蹴りを入れ、仰向けにした。そのまま、彼の腹を踏み付ける。

 

「憎い……貴様等、オルグが……オルグを生み出す人間が……地球の化身を名代に君臨するだけの、パワーアニマルが憎い‼︎

 どいつもこいつも、姉さんの犠牲の上を生きている‼︎ 平和を享受し笑う人間達の声も、破壊を享受し嗤うオルグ達の声も……俺には、姉さんに対する侮辱にしか聞こえない‼︎」

 

 何時しか、ネメシスは個人的な怒りをヤバイバにぶつけ始めた。姉が命を賭して守った世界は所詮、守るに値する物では無い。要するに、姉は犬死にしたも同然だ。

 姉への深い愛情が憎悪へと変わり、抵抗出来ないヤバイバに対して理不尽に当たり散らす。

 

「仲間を生き返らせたい、だと⁉︎ 笑わせるな‼︎ 貴様等、掃き溜めから湧いて出たオルグが、人並みに仲間意識を匂わせるとは……この角は、飾りか⁉︎」

 

 倒れたまま動かないヤバイバの角を右手で掴んだネメシスは、万力の力を込める。すると角に亀裂が入り、ヤバイバは苦しむ。

 

「冷酷なオルグに徹する事も出来ない様な貴様に、オルグの証たる角は不要だろう? だから……こうしてくれる‼︎」

 

 ネメシスは腕を引っ張り上げる。すると、ヤバイバの角は根本から抜けて床を緑色の血が汚した。そうされても、ヤバイバは反抗する気力すら無い。ネメシスは忌々しげにも、舌打ちをした.

 

「ツエツエと言い、お前と言い……こうもあっさりと騙されるとはな……正しく、貴様は『道化』に相応しい男だ……」

 

「あらあらァ? 御冠ですわねェ、ネメシス様ァ♡」

 

 ニーコが厭らしく笑いながら、部屋に入ってきた。

 

「幾ら、テンマ様に先を越されたからってェ、八つ当たりは大人げ無いですよォ? そ・れ・と・も、ヤバイバちゃんに昔の自分を重ねちゃったりしましたァ?」

「……黙れ、ニーコ……! 次、何か抜かしたら、貴様も殺す…‼︎」

「あらァ、怖ァい♡」

 

 ガオネメシスの凄みを利かせた口調に、ニーコは悪びれる様子なく笑った。その際、ヤバイバは意識を取り戻し、ツエツエの杖が目に入る。

 

「つ…ツエツエ…‼︎」

 

 ヤバイバは手を伸ばし、杖を掴もうとする。しかし、それより先にニーコの大鎌が、杖を真っ二つに斬り裂いた。

 

「諦めなさいなァ、ヤバイバちゃん。もう、ツエツエちゃんは居ないのよォ?」

「つ…ツエ…ツエぇ…‼︎」

 

 ヤバイバは絶望に満ちた顔となった。尚も、ニーコは杖を足で踏み付け、グリグリと擦り潰した。残骸と化した杖を掬い上げようと、ヤバイバは手を伸ばすが、ガオネメシスによって腹部にヘルライオットの弾を撃ち込まれ、吹き飛ばされた。見るも哀れな姿に、ニーコはさも愉快そうにクスクス嗤う。

 

「惨めですねェ、ヤバイバちゃん? でも、良かったじゃ無い? ツエツエちゃんと同じ姿になれたんだからァ♡」

 

 今のヤバイバは角をへし折られ、死ぬ間際のツエツエ同様に、オルグとしては最も不名誉な『角無しオルグ』と化していた。

 オルグにとって角は自身の階級を示すのみならず、存在意義でもある。例え、折れてしまったとは言え、生涯に二度と生え変わる事は無い。

 要するに、ヤバイバはオルゲットにすら劣る低俗な鬼となってしまったのだ。打ち拉がれるヤバイバを尻目に、ガオネメシスは命令した。 

 

「もう、こいつに用は無い。片付けておけ‼︎」

「は〜い♡ オルゲット達、捨てちゃって!」

 

 まるで、ゴミでも捨てるかの様に冷淡に言い放つガオネメシスとニーコ。命令を聞いた数人のオルゲット達は動かなくなったヤバイバを担ぎ上げる。

 

「オルゲット、オルゲット‼︎」

 

 部屋の片隅にある穴に、ヤバイバはぞんざいに蹴り捨てられた。力無く、ヤバイバは転がり落ち、オルグリウムの最下層にある排出口から、地上へと落下して行った…。

 

 

「さて……役立たずは始末した……後は、テンマに任せて……我々は鬼地獄へと帰還するぞ‼︎」

「良いんですかァ? その身体、もう保ちませんよォ?」

 

 ニーコは意味深に言った。直後、ネメシスは苦しげに胸を抑える。

 

「構わん……どの道、ガオゴールドとは対峙する事になる……。奴が精神的に弱った時、幾らでもチャンスはあるさ……」

「はァい♡」

 

 そう言って、ガオネメシス達は鬼門を作り出した。しかし、ニーコはガオレッド達の姿が消えているのに気付く。

 

「そう言えば、ガオレッド達が居ませんねェ?」

「ん? テンマが移したよ。鬼還りの儀の生贄とする為にな……」

 

 ガオネメシスは、クックッと含み笑いを浮かべる。

 

 

 

「兄さん! 朝だよ、起きて!」

 

 祈の声がする。朝だから自分を起こす声だ。

 

「今日は、焼きそば作ったんだ‼︎ お母さんの味になってるかな?」

 

 初めて祈が作ったのは養母の得意としていた焼きそばだった。

 

「兄さん……兄さん……兄さん……」

 

 様々な場面の祈がフラッシュバックする。陽は手を伸ばそうとするが……。

 

 

「‼︎」

 

 陽は慌てて飛び起きた。自分が居たのは、ガオズロックの寝室だ。

 

「夢か……痛ッ…‼︎」

 

 全身に走る激痛に陽は顔を顰める。見れば、身体中が包帯で巻かれていた。その際、テトムが入って来た。

 

「まだ動いては駄目よ、陽……貴方、本当に死ぬ所だったんだから……」

 

 起き上がろうとする陽に対し、テトムは窘める。その言葉で、先程のテンマの戦いを思い出した。

 

「そうか……負けたんだ……‼︎」

 

 痛みと共に、悔しさと不甲斐なさが襲って来る。持てる限り全てを賭しても、テンマには及ばなかった。そして……自分は敗北した……その非情な現実を突きつけられる。

 

「貴方の所為じゃ無いわ……テンマの強さを図り損ねた私の……」

「それは、最初からテンマが強いと知っていれば、僕を行かせなかったと言う意味か?」

 

 陽は噛み付く様に、テトムを睨む。テトムは困惑した様に、陽を見た。

 

「所詮、僕はガオレッド達の様な真のガオの戦士にはなれなかった……だから、テンマには逆立ちしても勝てない……そう言いたいのか⁉︎」

「ち、違うわ……。ただ、私は……」

「何が違う⁉︎ テンマに、はっきり言われた‼︎ 僕の掲げる正義は、ガオレンジャーごっこだと‼︎ テトムだって、本当は……‼︎」

 

 パァン……室内に、乾いた音が響いた。いつの間にか、部屋に入って来た美羽が、息を荒げながら陽の前に立っていた。

 瞳には涙を浮かべ、怒りの表情で陽を睨んでいる。

 

「み…美羽…?」

 

 陽も、テトムも呆然とした面持ちで、美羽を見ていた。彼女は肩で息をしており、やがて大粒の涙を流しながら胸ぐらを掴む。

 

「テトムに当たって、どうすんの⁉︎ 負けた事は仕方ない、どうにもならなかった事じゃん⁉︎ 頭冷やしなよ‼︎ ガオレンジャーごっこ? 違うでしょ⁉︎ 陽は、選ばれたからなったんじゃ無い⁉︎」

 

 怒りに任せ、陽の胸を叩く。

 

「岳叔父さんが言ってた……『昔、俺達が苦しい戦いを強いられた時も、リーダーとして先陣切った奴が居た』って……‼︎ だから、岳叔父さんも最後まで戦い抜いたんじゃん‼︎

 今の陽は私達のリーダーなんだよ⁉︎ だから、着いて来たんじゃん‼︎

 ……今更、自分は駄目だった、力不足だった、みたいな風に言わないで……今、陽が折れたら……私達、どうすれば良いのよ⁉︎」

 

 美羽は心の丈をぶつける。陽は、ガオレッドの様なリーダーに、先代ガオレンジャーの様なチームにしようと躍起になっていた。

 リーダーとして、仲間の命も大切な人達の命も預かろうとしていた……しかし、それは、陽に重圧として伸し掛かる結果となった。

 

「……僕は……レッドの様な強い戦士にはなれない……皆を守る為に、どんな困難も乗り越えられる強い戦士には……」

 

「それは違うぞ、陽……」

 

 いつしか、入り口付近に同じく包帯を巻いた大神と佐熊が立っていた。

 

「……もし、レッドが此処に居たら、こう言うだろう……。『俺一人では、戦えなかった……』ってな……。それは、ガオレンジャー全員がそうだ。一人で出来る事なんか、たかが知れてる……だが、六人が集まれば、どんな強敵が来ても負ける気がしない……。一度、負けたら次で勝てば良い……俺達は、そう信じて来た……」

「陽よ……ワシは、ガオレッド達に会った事が無いし、どんな人間かも知らん……。だから、ワシは、お前さんをリーダーだと認めた上で、今日まで付いて来たんじゃ……」

 

 仲間達の言葉は、陽の胸に染み渡っていく。そして、最後に美羽は言った。

 

「一人で抱え込まないで……辛い時は私達を頼って……私達は、どんな時だって一緒じゃん……リーダー……‼︎」

 

 それは奇しくも、ガオイエローだった鷲尾岳が、リーダーにしてガオレッドだった獅子走に贈った言葉と全く同じだった……。

 仲間を救う為、仲間の幸せの為に時には無茶をして、我が身を犠牲にしかけた時もあった。

 そんな時、岳は走を叱責しつつも、彼を『リーダー』と言った。誰より、彼をリーダーとして認めていたのは、岳だった。

 美羽もまた、そんな叔父の持っていた熱い想いを胸に秘めている。テトムは陽と美羽の姿を、かつての走と岳に重ねた。

 テトムも涙を流す。世代を経ても、ガオレンジャーとして内に秘めたる信念は一緒であった事、かつて命を賭けて戦い抜いた勇者達の意思は間違いなく絶やされてなかった事を……。

 陽は涙を流しながら、皆を見る。

 

「美羽……大神さん……佐熊さん……テトム……ごめん…、そして……ありがとう……‼︎」

 

 陽は精一杯に伝えれる謝罪と感謝を告げた。自分一人では、此処まで来れなかった。辛い時は支えてくれる仲間が居たから……呼べば応えてくれる仲間が居たから……自分は決して折れなかった。

 

「よォ……そろそろ入って良いかな……?」

 

 大神と佐熊の後ろから声がする。二人が開けると、包帯を巻かれた猛、昇が入って来る。後に舞花と千鶴が居た。

 

「……すまねェ……話ちまったんだ……。陽がやってる事、全部……」

 

 猛は居た堪れなさそうに謝罪した。昇も同様だ。

 

「……あんな場面に出食わしたら、もう誤魔化し切れないし……其れに、もう嘘を吐くのも限界だった……」

「陽さん……ごめん……。実は、兄貴達から聞く前から何となく知ってた……。祈が私達に、何か隠してるって……」

「……私も……思い出しました……。悪い奴に騙されて、祈先輩を斬ろうとした時、助けてくれたのは、お兄さんだったって……」

 

 陽は、とうとう秘密が知られてしまった事に頭を抱えながらも、バレてしまった以上は隠し通す意味が無い、と悟る。

 

「……皆も、ごめん……巻き込んじゃって……」

「お前、さっきから謝ってばっかだな……』

 

 陽の謝罪に対し、猛はおどける様に言った。直後、舞花のローキックが為の脚に炸裂した。

 

「い、痛ェな‼︎ 何するんだよ、舞花⁉︎」

「馬鹿兄貴‼︎ 陽さんの気持ちを考えずに無神経過ぎだよ‼︎」

「……良いんだ……寧ろ、少し気が軽くなったよ……」

 

 二人に対し、フォローに入る陽。と、その刹那、こころが飛び込んで来た。

 

「大変だよ、テトム‼︎」

「こころ、どうしたの⁉︎」

「ガオの泉が…‼︎」

 

 

 

 こころに連れられ、ガオの泉に一同は集結した。陽は美羽に肩を借りて、やって来る。

 すると、ガオの泉は仄暗く濁り、泡立っていた。

 

「ガオの泉が濁っている⁉︎ こんな事、今までに一度も…⁉︎」

 

 テトムも予想だにしていない事態に慌てる。すると、ガオズロック前方にある窓から、野太い声がして来た。

 

 

 〜聞くが良い……平和な日常を享受する事しか出来ぬ、愚かな人間共よ…! 〜

 

 

 それは、テンマだった。しかし、体躯は非常に巨体で、オルグシードで巨大化したオルグ魔人をも遥かに上回る程だった。

 街全体を見下ろす様に、眺めている。

 

「あれは…⁉︎」

「恐らく幻影よ‼︎ 本体は、離れた場所に居る筈‼︎」

 

 テトムは目の前に現れたテンマが、実体では無い事を見抜いた。

 

 

 〜心して聞け、人間共‼︎ 我々、オルグ一族は古来より人間共の築き上げた下らぬ繁栄の影に潜み、生きてきた!

 貴様等は、やれ進歩だ、やれ発展だ、と題目を掲げて破壊、掠奪、戦争などと血みどろの歴史を繰り返して来た!

 全く持って、ご苦労な事だ! 貴様等は自分達の文明を繁栄して来たのではなく、我々、オルグの住み良い状況を創り上げていたに過ぎなかったのだ‼︎ 此処まで言えば、もう分かるだろう? この地球の支配者は、貴様等、人間では無い‼︎ 我々、オルグ一族こそが真の支配者だったのだ‼︎〜

 

 

 テンマは高らかに言い放つ。そして、下界を見ながら話を続けた。

 

 

 〜これからは、このテンマを筆頭にしたオルグ一族が地球を支配し、貴様等は我々の家畜として生きて貰う‼︎

 だが、心配するな……! 余は、貴様等を縛りつけようとはせん‼︎ 寧ろ、自由に振る舞え‼︎ 何故ならば、貴様等の放つ負の感情こそ、我々にとっては上質たる馳走となるのだからな‼︎

 しかし…‼︎ もし、余に歯向かおう等と下らない考えを起こせば……こうなるのだ‼︎〜

 

 

 テンマが、右手を上げる。すると地震が起こったかと思えば、建物を蹴散らしつつ木の根が出現した。更には地面から盛り上がりつつ、禍々しい巨樹が迫り上がってくる。

 

「あれは、オルグドラシル⁉︎」

 

 鬼地獄に群生し、邪気やオルゲットを垂れ流す魔性の巨樹オルグドラシル。それが出現し、竜胆市の真ん中に鎮座したのだ。 

 

 

 〜このオルグドラシルは貴様等、下賤な人間からすれば、有害である邪気を垂れ流す‼︎ 良いか? もし貴様等が余に対し反逆の意思を示せば、このオルグドラシルの根を通じて世界中に邪気を蔓延させ、貴様等の文明を崩壊させてくれるわ‼︎〜

 

 

「クッ……勝手な事を……‼︎」

 

 テンマの身勝手極まり無い発言に、大神は怒りを露わにした。

 

 

 〜さァ‼︎ 今日まで人の影に隠れて、歴史の片隅に追いやられていた我が同胞達よ‼︎ 今こそ、真の支配者は誰であるかを知らしめてやる時だ‼︎

 人間共を喰らい尽くせ‼︎ 暴れろ、鬼の一族達よ‼︎〜

 

 

 テンマは両手を掲げると同時に姿を消した。すると天から、地から有象無象のオルグ達が出現した。オルグ達は地上に降り立つと一斉に暴れ始めた。

 

「ハハハハ‼︎ もう我慢しなくて良いんだってよ‼︎」

「オルグの天下だ‼︎」

「殺せ! 人間共を殺し尽くせ‼︎」

 

 何れも二本、三本と言った地位の低いオルグ達ばかりだが、人間達からすれば、これ以上に脅威な事は無い。 

 陽達は、その地獄絵図さながらに悔しさを滲ませる。

 

「僕達の守って来た街が……‼︎」

 

 今迄、命懸けでオルグ達と戦い守り抜いた町が、たった一瞬で、オルグ達に陥落してしまった。鬼還りの儀、此処に完遂した瞬間である。

 

「……陽……落ち込んでいる場合では無いぞ……‼︎ こうなった以上、我々に出来る事は一つしか無い……‼︎」

 

 大神は陽を慰めつつも、喝を入れる。

 

「町中に蔓延したオルグ達を倒しても、鬼還りの儀により無尽蔵にオルグ達は攻め入って来るだろう……つまり、外堀を幾ら埋めても無駄だ…‼︎ 本丸に攻め入らなければ……‼︎」

「この場合は奴等の本拠地としている鬼地獄に行くべきじゃが、あれは行こうと思って行ける場所では無い……‼︎」

 

 一度、鬼地獄に生きながらに落ちた佐熊は鬼地獄の事を、良く知っている。しかし、あれは生贄となって封印されただけだ。実際に鬼地獄に行った訳では無い。

 

「なァ……鬼地獄? か、どうか知らないけどよ……」

 

 全く話について来れない風だった猛が、おずおずと言った。

 

「よく漫画なんかの展開だと、敵のアジトにしている船とか秘密基地とか出てくるじゃんよ? そう言った場所を探してみたら良いんじゃ無いか? 後は、あの祈ちゃんを攫った掌の化け物を締め上げて聞くのが、手っ取り早くね?」

 

 猛の、ふとした一言は陽達をポカンとさせた。

 

「そうか……鬼還りの儀を進めたのは、テンマだ……なら、テンマから聞き出せば……! ありがとう、猛‼︎」

「え⁉︎ いや、適当に言っただけだからよ……」

 

 陽に礼を言われながらも嬉しそうにする猛。それを見た昇と舞花は…

 

「コイツは、昔から考えなく核を突くな……」

「馬鹿兄貴の癖にね」

 

 と、褒めてるのか貶してるのか分からない評価をした。

 

「しかし……テンマが何処にいるか分からんぞ? 大体、テンマの所に行けたとしても、今のワシ等では返り討ちに遭うのが関の山じゃ無いか?」

「…確かに…」

 

 佐熊と大神は最もな発言をした。自分達では、テンマに手も足も出なかった。のこのこ奴に挑んでも、情報を聞き出す前にやられてしまうだろう。一同に重い空気が流れた。

 

 

「私に考えがある……」

 

 

 突然、声がした。すると、ガオマスターが立っていた。

 

「ツクヨミ様⁉︎ 何時から、其処に⁉︎」

 

 テトムが驚いた風だった。

 

「それより……済まない、陽……。テンマが前線に出て来たのは計算外だった。力を得たばかりの、お前では、テンマには敵わなかったのは分かっていたが……」

「いえ……僕が不甲斐ない所為で……」

 

 ガオマスターの謝罪に対し、陽は謝る。

 

「ガオマスター、策とは?」

 

 大神が尋ねた。

 

「テンマ、閻魔オルグと言った強敵達と戦うには、失われし都に行く他あるまい。あそこには、全てを凌駕する最強のパワーアニマルが眠っている……」

「最強?」

「そうだ……ガオドラゴン達と同様に、かつて姉さんに力を貸した最後の六聖獣、ガオフェニックスがな…」

「ガオマスター⁉︎ まだ、ガオフェニックスは……⁉︎」

 

 マスターの発言に対し、美羽は驚いた。しかし、テトムが聞いてきた。

 

「失われし都、と言うのは?」

「かつて、姉さんがオルグ達から人々を守る為に築き、人とパワーアニマル達の楽園として生まれた場所……邪馬台国だ」

 

 そう言って、ガオマスターは陽達を見る。彼等の瞳に僅かながら、希望の光が宿った。

 

 

 〜鬼還りの儀が始まり、人類に宣戦布告したオルグ達! テンマを倒し、オルグ達の侵攻を止める鍵は、ガオフェニックスと邪馬台国‼︎

 果たして、陽達はどうするのでしょうか⁉︎〜



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quest50 それぞれの戦い‼︎

 竜胆市の町では、大変な惨劇が起きていた。

 突如、空に見た事の無い巨大な化け物が現れ「世界の支配者はオルグ」だと宣言したと同時に、空から多量の化け物達が降り注いできたからだ。化け物達は、瞬く間に街を侵略していき、人々を襲い始めた。

 

「ハッハッハッハ‼︎ やっぱり、シャバは良いぜェ‼︎」

 

 オルグの一角にして頭部から上半身がガドリング銃の形をした機関銃オルグが、笑いながら弾を撃ちまくる。

 

「ああ、全くだ‼︎ こちとら、二十年間も鬼ヶ島の中に缶詰めだったんだ‼︎ ストレス解消にゃ、持ってこいだぜ‼︎」

 

 別のオルグ魔人、胴体が手榴弾の形をした手榴弾オルグも、機関銃オルグに便乗して、両手に持つ手榴弾を投擲していく。

 

「うおォォォォ‼︎ 壊す、壊すゥ、壊すゥゥ‼︎」

 

 頭部と両手が砲門となったバズーカオルグが砲弾を連発する。その他にも大多数のオルグ達が、これ見よがしに暴れ回っていた。

 二十年もの間、オルグ達は鬼ヶ島に閉じ込められていた。しかし、彼等は反省の色を一つ、感じさせない。

 二十年間、鬼ヶ島内にて、彼等は破壊衝動を高めつつも自身の爪を研ぎ澄ましていた。そして、我慢の限界に達していた時、オルグ達の王テンマが有象無象のオルグ魔人達に命を下した。

 

 

「鬼還りの儀が行われた時、貴様等の積もり積もった怒りを解き放つ時だ‼︎」

 

 

 その言葉に暴発寸前だった彼等は一旦、怒りを飲み込み、来たる日に向けて待つ事にした。そして、鬼還りの儀が行われた今、遂に自分達の力を遺憾なく発揮される時が来たのだ。

 其処へ人間達が、破壊されたビルの中から隠れていた人間達が這い出てきた。

 

「見ろ‼︎ 人間共が出て来たぞ‼︎」

「人間狩りだ‼︎ オルゲット達、追い詰めろ‼︎」

 

 バズーカオルグは命令を出すと、オルゲット達が襲い掛かって行く。

 

「た、助けてェェ!!!」

「殺されるゥゥ‼︎」

 

 オルゲット達の襲撃に対し、無抵抗な人々は逃げ惑う。しかし、手榴弾オルグは彼等の眼前に手榴弾を投げ、爆発した。瓦礫の山となって、行手を阻まれてしまう。

 爆発に巻き込まれた人々は転倒し、追いついて来たオルゲット達に捕まってしまう。手に持った棍棒で、なす術なく殴打される人々。

 其処へ複数台のパトカーが駆けつけ、中から警棒や拳銃を装備した警官、更に防護服を身に纏った警官も参戦しる。

 一人の警官がスピーカーを手に…

 

「破壊行為を繰り返す犯人達に告ぐ‼︎ 直ちに武装を解除して、大人しく投降しなさい‼︎」

 

 と、オルグ達に威嚇した。市民を避難させながら、オルグ達に相対する警官達。しかし、一般人より強いレベルの警官と、オルグとでは差が違い過ぎる。オルゲット達は構う事なく、進撃して来る。

 

「最後の警告だ‼︎ 投降する意思が無いなら、強行突破する許可は下りている‼︎ 今すぐ、武装を解除しろ‼︎」

 

 そう言いながら、警官達は拳銃の安全装置を外して、オルゲット達に狙いを定める。だが、オルゲット達は歩みを止めない。

 

「クッ…撃て‼︎」

 

 抵抗の意思を感じられ、警官達は拳銃の引き金を引いた。撃ち出された弾丸が、オルゲットの命中する。しかし、オルゲットは少し仰け反っただけで再度、歩き続ける。

 

「馬鹿な⁉︎ 効いて無いのか⁉︎」

「急所だぞ⁉︎」

「撃て! 撃ちまくれ‼︎」

「もう、弾が……‼︎」

 

 警官達は当たっている筈なのに、ダメージを受けている様子の無いオルゲット達に驚愕する。

 元々、法治国家であり、内乱や戦争とも無縁だった日本警官が、低級にオルゲットでさえも脅威である。

 そうしてる間に、オルゲット達が警官達に接近して来た。  

 

「うわァァ!!?」

「た、退却、退却‼︎」

 

 人間の文明の利器である拳銃を持ってしても、オルグには傷一つ負わせられない。危機を感じた警官達は武器を投げ捨てて、逃げ出し始めた。

 その際、空からヘリコプターが現れ、ロープに伝わって、自衛隊員が降りて来る。

 

「化け物達に構うな‼︎ 怪我人の保護に努めろ‼︎」

 

 隊長と思しき、壮年の男性が叫ぶ。すると、若い隊員達は武器を構えて走り出す。オルゲット達は自衛隊員にも攻撃を仕掛けるが、俄か訓練仕込みの警官と異なり、実戦を想定した訓練を経験している彼等には、大きく梃子摺る結果となった。

 

「しゃらくせェ‼︎ これでも喰らえ‼︎」

 

 機関銃オルグが右腕のマシンガンを乱射した。マシンガンの弾丸が隊員達を撃つが、下に防弾チョッキを着込んでいる為、構わずに全身する。

 

「人間如きが調子に乗りやがって‼︎ これでも喰らいなァ‼︎」

 

 業を煮やしたバズーカオルグが頭部の砲門から、砲弾を撃ち出した。炸裂した砲弾は、隊員達を吹き飛ばしていく。

 

「くそッ‼︎ このままでは埒があかん‼︎ 俺が囮になるから、お前達は先に行け‼︎」

 

 隊長が、若い隊員達に促す。しかし、隊員達は…

 

「従えません!」

 

 と、一人の隊員が叫んだ。

 

「黙れ! 上官命令だぞ‼︎」

 

 隊長は怒鳴る。先のある彼等を死なせたくは無い、この場合は隊長である自分が囮役を引き受けるべきだと言い聞かせた。

 

「何と言われても俺達は隊長と共に行きますよ! 隊長を死なせたら、岳先輩に怒られちゃいます‼︎」

「……チッ……頑固者め! 勝手にしろ‼︎」

「はい、勝手にします‼︎ 行こうぜ、皆‼︎」.

「応‼︎」

 

 若い隊員達は一斉に、隊長に従い走り出す。前方を走る隊長は脳裏に浮かぶ戦友を思い出していた。

 

「(こいつらを見守っていてくれ‼︎ 我が戦友、鷲尾岳よ‼︎)」

 

 彼は航空自衛隊に配備されていた際、鷲尾岳と共に訓練を重ねた戦友だった。今は行方不明になっているが、彼は生きていると信じている。

 この場に居ない友に、思いを馳せながら日本国の守護を誇りとする若き戦士達は、人の浅ましき罪から産み堕とされた(オルグ)達へと向かって行った…。

 

 

 

 その頃、ガオズロックでは…

 

「や、邪馬台国⁉︎」

 

 陽達は驚いた顔をする。その名は日本人ならば、誰でも知っているビッグネームだ。

 邪馬台国……世界的に見れば、紀元前か若しくは、それ以上から栄えていた文明を持った国もある為、割と古くは無いが、日本から見れば最も最古に栄えた国家として知られる。

 女王、卑弥呼によって統治され、同時に彼女は神と交信する巫女でもあった。神の言葉を民衆に伝え、人々を導き国に安定と平穏を齎らしたとされる。

 しかし、未だに邪馬台国が存在したと言う明確な証拠は無く、神の言葉と言う不確かな観点から、邪馬台国は空想上の国家と認識する者も多数、居る。その邪馬台国が実は存在して、かつ、建国したのが、原初の巫女アマテラスだったとは……。

 

「なら……女王、卑弥呼って言うのは?」

「無論、姉アマテラスの事だ。長い年月の中、邪馬台国の真実が誤った形で語り継がれる内に、神の言葉を聴く卑弥呼として後世に、残ったに過ぎんのだ。姉さんからすれば、非常に不名誉な話だが……これも人の歴史が長く続いた影響か……」

「……何か、邪馬台国とか卑弥呼とか、ぶっ飛んだ話だな……。付いて行けねェ……」

 

 猛は自分達の知らない場所で行われていた非日常に、足を踏み入れた事を驚く事しか出来ない。

 しかし、昇は冷静に…

 

「……陽は、その“ぶっ飛んだ”話が当たり前の世界に関わり続けていた……。つまり、これは夢でも幻でも無い……現実なんだ……」

 

 と、目の前に起こる非日常を受け入れていた。

 

「……昇……お前の、その順応の早さ、たまに尊敬するわ……」

「兄貴は、もっと昇さんを見習いなよ!」

 

 舞花は、厳しく猛を叱る。千鶴は不安そうにしていた。

 

「祈先輩、大丈夫でしょうか? テトムさんから聞いたんですけど、先輩って、そのアマテラスって人の生まれ変わりなんですよね?

 じゃあ、オルグ達が祈先輩に酷い事をするんじゃ…‼︎」

 

 千鶴は攫われてしまった祈の安否が気になって仕方がない様だった。

 

「……多分、直ぐには手を出さない筈よ。奴等の目的は、鬼還りの儀の完遂だから、其れ迄は……人質みたいな風に扱われてる筈……」

 

 テトムは安心させようとして言ったが『多分』と言うのが引っかかってしまう。もしかしたら、テンマが功を焦って、祈に早々に手を出してしまう可能性だって無きにしも非ずだ。

 まして、今や竜胆市はオルグに蹂躙される無法地帯と化し、鬼還りの儀が本格化すれば日本全土、何れは世界全体がオルグに飲み込まれる事態と成るだろう…。

 つまり、事は一刻を争う。

 

「……ガオマスター……僕達は四鬼士の内、三人を倒して、此処まで来た……其れでも、テンマには歯が立たなかった……。

 教えて下さい…‼︎ 邪馬台国には、どうやって行けるのか……‼︎」

「勿論、そのつもりだ……しかし、邪馬台国に行くには、協力者が二人要る……。一人は、ガオフェニックスの加護を受けた鷲尾美羽……そして……」

 

 ガオマスターは外に目をやる。すると空の上に、ガオゴッドが現れた。

 

「荒神様‼︎」

「千年の友‼︎」

 

 ガオゴッドは、ガオマスターを見上げながら呟く、

 

「ガオゴッドよ……時は緊急を要する。遂に恐れていた事態が、起きてしまった……オルグ達は鬼還りの儀を皮切りに、全世界へと進出しようとしている……。今こそ、ガオフェニックスが覚醒する時だ!」

 

 〜その通りだ……ガオゴールド達の頑張りに応えて、先んじてオルグ達の本拠地を見つけ出そうとしたが、奴等は己達の本拠地である鬼ヶ島に結界を張って、姿を隠していたのだ……済まぬ……〜

 

 ガオゴッドは謝罪する。しかし、陽は止めさせる。

 

「それを言うなら、僕達にも責任があります……オルグ達の計略に踊らされて、真実を見抜けなかった……。

 教えて下さい、ガオゴッド‼︎ 最後のパワーアニマル、ガオフェニックスとは何なんですか⁉︎」

 

 陽は痛みを忘れ、ガオゴッドに尋ねた。彼は昔を語る様に話し出す。

 

 〜ガオフェニックスは文字通り、不死鳥……他のパワーアニマルと違い、永遠の生命を司り悠久の中を生き続けるレジェンド・パワーアニマルだ……。お前達が、かつて異世界にて邂逅したガオシェンロン同様、遥か昔、地上のエネルギーから、パワーアニマルを生み出した……。

 詰まる所、ガオフェニックスは全パワーアニマル達の母とも言える存在だ……〜

 

「パワーアニマル達の……母……」

 

 ガオドラゴンやガオライオン達、更に言えばガオゴッド達にとっても、ガオフェニックスは母に当たる存在……ガオフェニックスとは、どんなパワーアニマルなのだろうか?

 

 〜陽……そして美羽よ……。お前達を邪馬台国へと導こう……さァ、来るが良い……〜

 

 ガオゴッドは、手をかざす。すると、二人はフッと糸が切れた人形の様に、座り込んだ。

 

「ど、どうしたんだ⁉︎」

 

 猛は驚いた様に二人を見る。すると、二人の身体から半透明になった陽と美羽が出て来た。

 

「だァァァ!!? 幽霊だァ!!?」

 

 猛は二人の姿を見て腰を抜かしながら叫ぶ。昇は呆れた様に、猛を諭す。

 

「多分、二人の魂が抜け出たんだろう? あそこに居るのが、神様みたいな物なら、それくらい容易い筈だ」

「…あ…そ、そうか……でも、お前、随分と的確だな⁉︎」

「冷静な判断を取れているだけだよ、馬鹿兄貴と違ってね?」

 

 舞花は皮肉る。最も、昇もそうだが舞花、千鶴も最早、ツッコミを入れる気すら出ない。ここまで非常識な所まで来れば、何が起こっても驚くまい、と考えたのだ。

 

 陽と美羽は、自分達の抜け殻となった身体が下に倒れているのを見て所謂、幽体離脱をした状態だと分かった。

 痛みも疲労も空腹も感じない。しかし、自分の仮死状態となった身体を眺めるのは、あまり気分の良い物では無い。

 だが今は、そんな事を言っている場合では無い。

 

『ガオマスター、ガオゴッド‼︎ 早く連れて行って下さい‼︎』

 

 事態が事態なだけあり、今は時間が幾ら有っても惜しい。そんな、陽の思いを察したガオマスターは頷く。

 

「分かった……ガオゴッド、連れて行ってくれ! 彼等を邪馬台国に‼︎」

「ガオマスター、貴方は行かないのか?」

 

 大神は尋ねる。すると、ガオマスターは首を振った。

 

「……残念ながら、私は邪馬台国に入る事が出来ない。あそこは、時間の流れが現世とは違う……私は、生と死を捨てて現世に残る道を選んだ。私が邪馬台国の地を、二度と踏めなくなる事を条件に、ガオフェニックスと約束したのだ……。

 そう言った意味では、千年の時を越えて現世に生きる道を選んだ君達も、邪馬台国に入る事すらままならないだろう……あそこは聖域なのだ……」

 

 ガオマスターの言葉の真意は分からない。だが、彼の台詞を察するに、邪馬台国に行く事を拒絶している、若しくは拒絶されている立場にあるのかも知れない。

 

「それに、ガオゴールドとガオプラチナが抜けた今、地球のオルグの侵攻を食い止める者も必要だ。

 それが我々、ガオレンジャーの務めだろう?」

 

 妙に説得力のある台詞に、大神と佐熊は心を動かされる。確かに自分達の役目は、オルグから地球を、地球に住まう人々の命を守る事だ。

 

「そうだな……陽! お前の留守は、俺達が守る‼︎」

 

 大神が力強く言った。陽は頷く。

 

 

『よし、行こう! 邪馬台国へ‼︎』

 

 陽は美羽に呼び掛け、ガオゴッドの中に吸収される。そして、ガオゴッドと共に消滅した。

 

「力丸‼︎ 俺達も行こう‼︎」

「おう‼︎ オルグ達の好き勝手にさせていたら、癪じゃしのォ‼︎」

「お、俺も行くぜ‼︎ 俺達の町を守りてェ‼︎」

 

 大神と佐熊に続いて、猛も立ち上がる。それを、大神が厳しい目で見た。

 

「駄目だ‼︎ これは遊びじゃ無いんだ、此処に居ろ‼︎」

「な、何でだよ‼︎ 町には、俺達の家族も居るんだぞ‼︎」

「だからこそじゃ‼︎ 家族を守る為に、お前さんが命を落とす結果となったら、目も当てられんじゃろうが‼︎」

 

 佐熊も叱責する。言わずもがな、猛達は一般人である。剣道を嗜んでいるとは言え、素人に毛が生えた程度の実力しか無い彼等が、オルグに挑んでも返り討ちに遭うか、辛うじて健闘しても最後は一蹴されるのが関の山だ。

 

「貴方達は、陽の大切な友達よ? だったら、剣を振り上げる戦い方じゃ無くて、自分の身を守る為に隠れるのも戦いの一つよ」

「猛……俺達が付いて行っても足手纏いにしかならない……。第一、俺達に万が一の事があったら、陽の立場はどうなる? 此処に居よう……」

 

 テトムと昇の言葉に猛は頭に昇りかけた血が下がって行った。確かに、自分達は陽の親友だ。粋がるままに、オルグ達に挑んで命でも落とせば、陽は深い絶望に苛まれるだろう……。

 

「……兄貴……私達に出来る事は無傷で、陽さんや祈を待つ事だよ? それに……私だって嫌だよ……。兄貴が、殺されるなんて……」

 

 珍しく、弱々しい口調で舞花は言った。今日、起こった事は、まだ十四の彼女には刺激が強過ぎたのだろう。万が一、実兄である猛まで居なくなれば……そんな恐怖が、彼女の本心を曝け出す。

 

「祈先輩の事は心配だけど……彼女の悲しむ姿は私も見たくないです……」

「あァァ! 分かったよ、分かりました‼︎ 此処に居るよ‼︎」

 

 千鶴も、止める言動を取った事で猛は遂に折れた。

 

「その代わり、頼むよ‼︎ 俺達の町、守ってくれよな‼︎」

 

 今の自分に出来るのは町を守る事を彼等に託す事だ。大神は、その言葉に頷く。

 

「では、ガオマスター……陽が居ない今……」

「そうだな。陽が居ないとなれば当然、代行のリーダーが必要だ。そして、それを務めれるのは……大神月麿、君しか居るまい?」

「エッ?」

 

 思っても見ない言葉に大神は首を傾げた。てっきり、経験豊富なガオマスターこそが、陽不在のリーダーを務めると思っていたからだ。

 

「お前さん以外、誰がやるんじゃ? ワシは却下じゃぞ、リーダーなんて器じゃ無いからのォ……」

 

 佐熊は言った。それを言うなら、自分だってリーダーに相応しく無いだろう……ガオレッド達を見捨てて、更にはガオウルフ達も奪われ、責任を陽に全てを丸投げした自分には……。

 

「……シロガネ……貴方が、皆を助けられず逃げてしまった事を悔み続けていた事を私は知ってるわ……。

 ならば今こそ、その償いを果たしなさい! それが、貴方もケジメよ‼︎」

 

 テトムの叱咤に大神は、また逃げ出そうとしていた自分が腹立たしくなった。もう逃げるのは、辞めた筈だった。自身の分身とも言える狼鬼と戦った、あの日から……。

 大神は、陽と初めて邂逅した、あの日の事が脳裏に浮かぶ。出会った当初、彼は戦いを拒み死を恐れる普通の少年だった。

 そんな彼を自分は、危険な戦いから遠ざけたいと言う思いもあったとは言え、平和な日常を壊される事を懸念する少年に対し『臆病』だと、辛辣な言葉を浴びせてしまった。

 しかし、大神は、その事を深く後悔していた。経験の浅く頼りない、と侮っていた少年は、何時しか自分達にとって、無くてはならない存在へと昇華していた。

 だが、それは大神に戦士としての矜恃を失わせ掛けていた。成長する陽を後ろから見守るだけで、何もしない自分……其れでは駄目だ! 大神の心底に眠っていたガオシルバーが叫ぶ。

 大神は顔を上げる。

 

「……分かった……‼︎ 行こう、オルグ達から町を守る為に‼︎」

 

 彼の放った言葉は、佐熊とガオマスターを頷かせた……。

 

 

 その頃、町から離れた場所……何時しか、風のゴーゴと激戦を繰り広げた河原を動く影があった。

 それは、ガオネメシスにより、オルグリウムから放逐されたヤバイバだった。ツノは根本から無くなり、高所から落とされた為、全身に痛ましい傷が目立った。しかし、彼は生きていた。オルグ故、生命力の高い事が功を成したらしいが、ヤバイバは足取りは覚束ない。

 

「…ツエ…ツエ…」

 

 絞り出す様に、今は亡き相棒の名を呼ぶヤバイバ。しかし、それに返してくれる者は居ない。

 ヤバイバは、ツエツエを喪い、居場所までも失った。ガオネメシスは最初から、彼女を蘇らせる気など、さらさら無かったのだ。体良く利用された挙句、紙屑を捨てるかの様に、あっさりと切り捨てられた。

 滑稽……今の自分は、正に滑稽そのものだ。もう抗う気力も、理由も無くし果てていた。そして、そのまま倒れる。

 どうでも良い……そんか自暴自棄な感情が、彼を覆い尽くす。もう、ツエツエとは二度と会えない……だが、死ねば彼女に逢えるだろうか……等と考えながら、目を閉じようとする。

 その際、彼の周りに降り立つ五つの影があった。ヤバイバは、小さく目を開けた。

 

「あ、何や! 生きとるやん⁉︎」

 

 それは、オルグ忍者の生き残りにして、ヤミヤミの死により離散した鬼灯隊の面々だった。最初に話しかけたのは、ライだ。

 

「誰だよ、コイツ⁉︎」

 

 コノハが訝しそうに、ヤバイバを覗き込む。

 

「デュークオルグのヤバイバに違いない、でございます」

 

 ミナモが続ける様に言った。

 

「……死に掛けてる……」

 

 リクが無表情のまま、言った。

 

「テンマから、見捨てられたのか? 私達と同じか……」

 

 ホムラは、ヤバイバの顎を持ち上げながら言った。ヤバイバは弱々しい声で……

 

「……何の用だよ……惨めな俺を嘲笑いに来たのか?」

 

 と、捨て鉢になって言った。ホムラは、つまらなそうに手を離す。

 

「……私達は、テンマに…ひいては、ガオネメシスに騙されていた……」

「?」

 

 唐突に彼女の放った言葉に、ヤバイバは首を傾げる。

 

「私達は親方様より、鬼還りの儀により、オルグの為の楽園を築かれると聞かされ、任務を行なっていた……。 

 だが……鬼還りの儀の“本質”は全く、別の意図があったのだ……」

「……別の……意図……?」

「私達の調べた調査によれば……鬼還りの儀とは、地球そのものを滅ぼし、後には何も残らない事を指す…で、ございました…」

 

 ミナモは淡々と述べた。

 

「要するに…ウチらは嵌められたんや! 馬鹿にし腐って…‼︎」

 

 ライは怒りを滲ませながら毒吐いた。

 

「ああ…‼︎ 特に、あのガオネメシスの野郎だ‼︎ あいつの為に、親方様は……‼︎」

「……‼︎」

 

 コノハは、ヤミヤミの死さえも利用したガオネメシスへの怒りを表明し、リクも無言ながらも怒りを抱いている様だ。

 

「……親方様が命を捨てたのは、人間からオルグの時代を取り返す為だと信じていたからだ……しかし‼︎ これでは、親方様の犠牲となった意味が無い‼︎」

 

 珍しく憤りを見せるホムラ。敬愛する頭領を別の意図で使い殺された事は、どうしても許せないのだろう。

 しかし、ヤバイバは項垂れる。

 

「……ガオネメシスに、どうやって挑むんだ? アイツは強いぞ?」

 

 ヤバイバは自惚れるつもりはないが、自分もデュークオルグとして純粋な戦闘力のみなら、ガオレンジャーと戦えるだけの力は持っている。

 しかし、テンマ、四鬼士、ガオネメシスと言った規格外の強さを持った者には到底、敵わない。

 

「大丈夫だ。ガオネメシスの弱点を調べて、特定する事に成功した」

「ああ、実は奴の身体は……」

 

 ホムラは自分達の調べ上げた調査を、語り始める。ヤバイバは一度は踏み消された反逆の炎が、胸中にてメラメラと燃え上がるのを感じた…。

 

 

 

 竜胆市では、更に凄惨な状況となりつつあった。オルグ達は所狭しと暴れ回り、既に多数のビルが焼き崩れつつある。

 自衛隊員達は逃げ遅れた人達を救助しつつも、オルグへの反抗を続けたが、頼みの銃火器では、オルグに傷一つ負わせられ無い。

 既に突入した際の人数の半分が、オルグ達に倒されてしまい、残されたのは隊長と数名の隊員だけだ。

 

「……クッ……最早、これまでか……‼︎」

 

 隊長は先程の、手榴弾オルグの投げ付けた手榴弾により爆撃で右脚を負傷している。副官を務める隊員は、彼を肩で支えながら、サブマシンガンを片手で乱射した。

 だが、とうとう弾切れとなってしまう。眼前には、オルグ達が立ちはだかった。

 

「す、すみません……隊長……‼︎ もう弾が……‼︎」

「……謝るな……俺も、とっくに切れている……‼︎」

 

 そう言って、隊長は自身の持つ特殊拳銃をオルグ達に投げ付ける。しかし、機関銃オルグによって撃ち落とされ、踏み砕かれてしまった、

 

「ハッハッ‼︎ 抵抗してくれたなァ⁉︎ だが、此処までだぜ? さァ、銃殺刑と、洒落込もうか‼︎」

 

 機関銃オルグが両腕の機関銃を隊員達に向ける。急に隊長が、副官を後ろに押した。

 

「た、隊長…⁉︎」

「……やるなら、俺からやれ……‼︎」

「ギャハハハァ‼︎ 泣かせるねェ、部下思いの隊長さんよ‼︎ ならば望み通りに……先ずは部下から殺してやる‼︎」

 

 機関銃オルグは、部下より先に自分の命を差し出そうとした隊長を嘲笑うかの様に、既に負傷し満足に動く事が出来ない部下達を殺そうとした。元より、彼等の任務は竜胆市を制圧し陸の孤島とした状態で、住民を皆殺しにする事である。どちらを先に殺しても、全く影響は無い。

 

「よ、よせ‼︎ 止めてくれ‼︎」

 

 隊長は支えの無くなった状態でふらつきつつ、機関銃オルグの前に立ち塞が老としたが、バランスを崩して、そのまま倒れ込んでしまう。

 機関銃オルグは、残忍に笑いながら両腕の機関銃に力を込めた。

 と、その刹那、機関銃オルグの両腕が爆発した。

 

「があァァァッ!!?」

 

 見ると、機関銃オルグの肘から下が暴発した銃器の様に崩れ、黒煙と共に緑色の体液が噴き出しながら、悶え苦しんでいた。

 すると、隊員達を守る為に降り立つ三人の影……。

 

「が、ガオレンジャー⁉︎」

 

 機関銃オルグを攻撃したのは、ガオシルバーだ。遠方より、ガオハスラーロッドで狙撃し、銃撃を未然に防いだのだ。

 見知らぬ戦士達の登場に、隊長達は慌てる。

 

「き、君達は……⁉︎」

「早く、この場から去れ‼︎ 戦いに巻き込まれたいか⁉︎」

 

 ガオグレーが怒鳴る。そうして、隊長を副官が抱え上げた。

 

「……誰かは存じませんが、感謝します……‼︎」

 

 副官は礼を言いながら、その場から離れていく。他の意識を取り戻した隊員達も同様だ。

 

「……折角の楽しみを邪魔しやがって……‼︎ おーーい‼︎ ガオレンジャーが現れたぜ‼︎」

 

 機関銃オルグは他のオルグ達を集め始める。手榴弾オルグ、バズーカオルグ達が、呼び声に反応してやって来た。

 

「あ〜? コイツらか、俺達、オルグに逆らって犬みてェに嗅ぎ回ってる、ガオレンジャーって野良犬共は?」

「躾のなって無い駄犬は、このバズーカで躾けてやらねェとな‼︎」

 

 手榴弾オルグ、バズーカオルグは、それぞれの得物を携えながら、ガオレンジャー達に迫る。

 しかし、ガオシルバーは、ガオハスラーロッドを構えて彼等を威嚇した。

 

「お前等が、どれだけ暴れようとも、俺達が居る限りは絶対に好きにはさせない‼︎ この町は俺達、ガオレンジャーが守る‼︎」

 

 誇り高く、孤高の中でも尾を見せる事をしない銀狼の力強い咆哮が、オルグ達に向けられた。

 

 

 〜邪馬台国に導かれた陽に代わり、オルグ達との戦いに挑むガオシルバー達‼︎ 果たして、彼等は人々を守れるのでしょうか⁉︎

 そして、鬼灯隊の語る鬼還りの儀の真の意図とは⁉︎




機関銃オルグ、バズーカオルグ、手榴弾オルグは全話で、ヤバイバを馬鹿にしていたオルグです。


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quest51 目醒める鳳凰と銀狼の死!

※今回はリクエストに応えた回となった為、一度、完成させた話を再構築していた為、時間が掛かってしまいました。
少々、ショックな内容となりますが、ご了承下さい!


 陽、美羽はガオゴッドに導かれる様に、異様に歪んだ空間の中を突き進んでいた。周りを見れば、様々な時代の風景、建造物が泡状のビジョンの中に浮かんでは消えて行く。

 

『一体、此処はどうなってるんだ⁉︎』

 

 あまり気分の良い空間では無い為、陽は苦言を漏らす。すると、美羽が話し掛けて来た。

 

『此処は私達の暮らす世界の少し外れた狭間にある場所だよ。だから、此処に移る風景は、様々な時代の事象が入り混じって、ごちゃごちゃになってるんだ…』

 

 美羽は随分、この風景に詳しい様子だった。まるで以前に見た事がある様だ。

 

『美羽は、此処へ来た事があるの?』

 

 考えて見れば、美羽は自分より、ガオマスターから事情を聞かされていた筈だ。ならば、邪馬台国についても知っていたのでは無いだろうか?

 

『ガオマスターに一度だけ、見せて貰ったんだ……私に力をくれたパワーアニマル、ガオフェニックスの現在の姿を……。

 でも、その時は全部は見せて貰えなかった……。陽が、力を付ける時期まで教える訳に行かないって……』

 

 その言葉にて、ガオマスターも全ては知らないらしい……。しかし、陽は邪馬台国について、様々な考察を上げてみる。

 邪馬台国は歴史上に伝え残される物では無く、人間とパワーアニマルの楽園として築かれた理想郷だと、ガオマスターは言った。

 そして、邪馬台国の女王として伝えられる卑弥呼は、原初の巫女アマテラスその人だと言う。

 つまり、全ての伝説は邪馬台国から始まった…と言う事となる。 

 

 やがて、入り混じる様な空間に、出口が現れた。

 

 〜着いたぞ。あれが邪馬台国の入り口だ〜

 

 ガオゴッドが語り掛ける。陽と美羽は、遂に辿り着いた、と感じた。やがて、ガオゴッドを先頭にゲートを潜り抜けた。

 

 

 陽と美羽が降り立った場所は酷く荒れ果てた廃墟だった。石造りの家は崩れ、所々に苔むしている。木造の家屋もあったが、完全に倒壊して家としての形を成していない。

 池があった場所は枯れ果てて、亀裂の入ったクレーターとなっていた。 

 

『此処が……邪馬台国……⁉︎』

 

 陽は絶句した。二千年以上と言う昔の筈だが、確かに国があった遺跡として残っていた。

 突如、風太郎に姿をに変えたガオゴッドが降り立つ。

 

『此処が、君達に取って始まりとなった国の成れの果てだよ。

 アマテラスは、ガオフェニックスを始めとするレジェンド・パワーアニマル達を率いて、古代のオルグ王として君臨した雄呂血を迎え撃った。

 闘いは当時の戦士だった、スサノオとツクヨミが前線に立って、多勢にて攻めて来たオルグ達を倒して行った……その過程で、アマテラスはオルグに迫害されていた人達を集めて、この国を建国したんだよ。

 やがて、闘いはアマテラス達が勝ち、雄呂血が倒れた事で彼の配下も全て、消滅した……そうして、世は平和となった……筈だった……』

 

 だった、と不自然に切った風太郎は顔を曇らせる。

 

『……その平和な長続きしなかった……。雄呂血は死にゆく最期の瞬間、世に毒を放った。その毒は人間の精神を蝕み、大地を汚した。

 人々は懐疑心に取り憑かれ、その狂気はアマテラスの弟にして、最初のガオの戦士スサノオへと向けられた。

 強大な力を持って、雄呂血を倒したスサノオ……その力が自分達に向かれるかも知れないと言う恐怖……遂には、スサノオも鬼では無いのか、と言い出す輩も現れ始めた……。

 アマテラスとツクヨミは荒れ狂う人々を説得したが、精神の均衡を崩された彼等に、その言葉は届かない。

 遂に、スサノオは自らが邪馬台国から出る事を決意した。それで人々が落ち着きを取り戻し、アマテラスの治世で国が穏やかとなるなら、と……』

 

 風太郎の言葉は悔やみとも、嘆きとも捉えられる悲痛な物だった。

 

『スサノオが国を出て暫く立った後……今度は、邪馬台国内にて血生臭い内乱が勃発した。

 人間同士が傷付け合い、憎み合い、殺し合う……さながら、地獄絵図だった……』

『今の竜胆市と同じだ……』

 

 陽はポツリと漏らす。オルグの進撃により、竜胆市はメチャクチャにされつつある。それと同様に、邪馬台国もオルグの毒牙に侵され崩壊した。

 今回は、この邪馬台国の崩壊以上の惨事が起きようとしている。それも世界規模で……。

 

『……もう此処には生き物は住んでないの?』

 

 美羽は荒れ果てた家々を見渡しながら、尋ねた。確かに、この様子では人間どころか、動物さえも住んでいるか怪しい。

 

『さっきも言ったけど、此処は時間の外れた……言うなれば、ガオフェニックスの創り出した結界の中にあるんだ……。

 だから、遺跡が辛うじて形を保っているのも、そのお陰。フェニックスが此処から離れたら、この遺跡は風化してしまうだろうね……』

『でも……それじゃ……』

 

 陽は邪馬台国が消えてしまう、と言う事実に驚く。しかし、風太郎は寂しく笑った。

 

『さァ、急ごう……陽、美羽! ガオフェニックスが、君達を待っている』

 

 風太郎は気を取り直して、陽達を促す。それに対して、陽も彼の後に続いた。幾つもある廃屋を通り過ぎて行きながら、進んでいく陽達。

 やがて一際、立派な屋敷の前に辿り着く。しかし老朽化が進み、辛うじて形を保っている有り様だ。

 風太郎は二人を招き寄せる。屋敷の中に入ると、広々とした空間が広がり、その真ん中に置かれた台座に目を奪われる。その台座の上には赤みがかった人の顔と同サイズの卵が置かれていた。

 

『まさか……この卵が、ガオフェニックス⁉︎』

 

 陽は愕然としながら、卵を見る。ガオドラゴン達と同様、レジェンド・パワーアニマルとしての姿かと思っていたが、その実態は卵のそれだった。

 

『まだ眠ってるんだよ……ガオフェニックスは再生と死を繰り返しす永遠の象徴……私達が、やってくるのを待ち続けてたんだ……』

 

 美羽は、卵に手を当てる。すると卵は僅かに動く。

 

『陽……君の持つ宝珠を卵の前に……』

 

 風太郎は陽に言った。言われるままに、ガオドラゴン達の宝珠を卵の前に置いた。美羽は首から紐に付けていた宝珠を持ち祈る。

 そして、風太郎は語り掛けた。

 

 〜原初の巫女アマテラスに従属した六柱の聖なる獣王達の頂点に立つ無限の鳳凰よ……今、再び世界に崩壊の危機が迫って来た……今こそ、長き悠久の時を経て、その大いなる翼を復活させる時が来た‼︎〜

 

 目覚めよ‼︎ ガオフェニックス‼︎〜

 

 風太郎のバックに一瞬だけ、ガオゴッドの姿がフラッシュバックした。

 そして、宝珠も順番に輝き出す。五つの光は卵を照らしていき、美羽の手に持つ宝珠と卵の間に光の線が繋がれた。

 すると卵はピシッと亀裂が入る。やがて亀裂は見る見る間に広がって行き、卵はカタカタと激しく揺れた。

 

 

『ピョォォォォッ!!!!!』

 

 

 卵が割れたかと思えば、中から赤い体色の雛に似た動物が出てきた。

 

『これが……ガオフェニックス?』

 

 陽は陽気に囀ってまわる動物を、キョトンとしながら見つめた。ガオドラゴン達に比べれば、ずっと小さくて、とても強大な力を持っているとは思えない。

 しかし、美羽は宝珠を手に取り、動物に近付けた。すると動物の身体は煌めく炎に包まれて行く。

 そして球体に変わったかと思えば天へと舞い上がり、炎は激しく爆発した様に広がった。

 

『……来る……‼︎』

 

 美羽は呟く。すると燃え広がった炎は虹色に輝く翼となり、鷹や鷲に似た猛禽類の頭が形成される。そして、二本の脚が現れると……

 

 最後の六聖獣にして、不死鳥のレジェンド・パワーアニマル、ガオフェニックスが復活した。

 

『これが……ガオフェニックス……なんて雄大な姿なんだ……』

 

 改めて、ガオフェニックスの姿を見た陽は言葉を失う。その姿は、正に神と形容するに相応しい神々しさを放っていた。

 全てのパワーアニマルにとって、彼女は母親であり創造神であると言う。その意味が納得した陽だった。

 

 〜ガオドラゴン……ガオユニコーン……ガオグリフィン……ガオナインテール……ガオワイバーン……懐かしい顔触れですね……〜

 

 〜ガオフェニックス……お久しゅうこざいます……〜

 

 突然、宝珠からガオドラゴンを筆頭としたレジェンド・パワーアニマル達が出現した。

 ガオドラゴンは、ガオフェニックスを前に低姿勢にて深々とお辞儀をした。普段はパートナーである自分は元より、ガオゴッドにさえ対等な口調を崩さない筈のレジェンド・パワーアニマル達が敬服している……如何に、このガオフェニックスが規格外な存在であるかを物語っていた。

 

 〜二千年……私達が、それぞれの道を歩み袂を分かってから、長き時が流れました……。最早、願っても叶う事ない、かつて幸せだった日々と共に……〜

 

 〜ガオフェニックス……我々は昔話に花を咲かせる為に、邪馬台国に舞い戻った訳ではありません……〜

 

 突如、ガオドラゴンは切り出す。

 

 〜……変わりませんね、ガオドラゴン……。そう……貴方がたが、この地を離れた理由は知っていました……。辛い思い出を断ち切りたかったからでしょう……分かっていますとも。貴方がたは必ず、この地に再び集結する日が来る……。そして、その日は遂に来てしまった……。

 

 ガオフェニックスの言葉は多くは語らなかった。しかし、その内には深い慈しみと暖かい思いやりに満ちていた。

 出会った当初、ガオドラゴン達、レジェンド・パワーアニマル達は人間への不信から、取り付く島も無かった。陽やテトムの説得も聞く耳持たなかった。

 だが、それは地球の環境を破壊し、オルグを生み出す遠因を作る人間への怒りだけでは無かった。

 彼等もまた、悲しんでいたのだ。共に歩んだアマテラス姉弟の辿った悲劇、その結末に……。

 の悲しみを忘れようと、彼等は頑なになっていた。陽は生まれて初めて彼等の心に刻まれた傷に触れ、理解した。

 

 〜竜崎陽……ガオゴールドよ……私は、ツクヨミを介して貴方の全てを見てきました。貴方が、人間へ見切りを付けた彼等に寄り添い、再び人間を守る為に戦う事を決意させてくれた事も……。

 ありがとう……心より感謝を申し上げます……〜

 

『僕は……何も……。今日まで戦い抜く事が出来たのは、仲間達やガオドラゴン達が居てくれたからです……。

 僕一人では……何も守れなかった……』

 

 そう……それは、陽の心から本音であった。戦いを知らず、ただ平和の中に生きて来た自分……祈と共に生きる、ありふれた日常を享受して来た自分……そんな自分が、ガオレンジャーとなって戦い今、全てのパワーアニマルの頂点に立つ存在の前に居る……なんとも滑稽な話だ。

 

 〜……貴方を見ていると……かつての、スサノオを思い出す様です……。彼も、かつては貴方の様に平和を愛し理想を尊び、姉を心から愛する優しい戦士でした……。

 しかし……非情な運命が、彼を変えてしまった……。唯一の支えだった姉と引き離され、孤独な戦いを続けて来た彼は、精神的にも疲弊していました……。そして……最愛の姉を失い、彼女が命を張って守って来た者達が守るに値しない物だと言う矛盾に耐えられなかった彼は、歪んでしまいました……。人間を怨み、パワーアニマルを怨み、そして地球そのものを怨んで……〜

 

『その末が、ガオネメシスか……』

 

 ガオネメシスは、かつて、スサノオとして生きていた時、受け入れ難い苦痛と絶望を味わった。己の無力さと世界の不条理さを彼は憎む内に、自分以外の全てを憎む様になった……そうしてる間に、彼は身も心も荒み……差し伸べる手を払い除けてしまい、救国の英雄スサノオは、叛逆の狂犬ガオネメシスへと転じてしまったのだろう。

 自分から姉を奪った世界に復讐する為に……。

 

 〜……スサノオは、もう決して振り上げた拳を下ろさないでしょう……世界の全てを破壊し尽くす迄……。宝珠を出しなさい、美羽……〜

 

 ガオフェニックス賞に促され、美羽は宝珠をガオフェニックスに差し出した。

 

 〜私の力を……アマテラスが最後に遺した力を、貴方達に託します……。その力で、憎しみに取り憑かれた彼を止めて下さい……〜

 

 そう言うと、ガオフェニックスは光となって消えた。すると薄暗く曇っていた宝珠は虹色に輝き始める。 

 

 〜其れが……アマテラスやスサノオに対しての、唯一の贖罪です……〜

 

 虚空に木霊するガオフェニックスの言葉……陽は遂に、最後の六聖獣の力を手に入れた。

 これで手札は揃い、戦力は整った。陽は振り返り、美羽と風太郎、そして、レジェンド・パワーアニマル達を見る。

 

『行こう……竜胆市へ……‼︎ これを最後の戦いにする為に‼︎』』

 

 覚悟など、とうに出来ている。後は、テンマやガオネメシスの野望を阻止するだけだ! その強い意思が、彼の中にあった。

 美羽、風太郎、六聖獣達は深く頷いた。

 

 

 

 竜胆市の戦いでは……ガオシルバー、ガオグレー、ガオマスターと言う三人の戦士達が決死の攻防をしていた。機関銃オルグ、手榴弾オルグ、バズーカオルグと言う切り込み隊長格のオルグと大多数のオルゲット達……倒しても倒しても、オルゲットの数は一向に減らない。

 

「クソッ‼︎ 次から次へと、虫の様に湧いてくる‼︎」

 

 ガオグレーは毒吐きながら、オルゲットをグリズリーハンマーで叩き伏せた。ガオマスターもルナサーベルで、オルゲットを斬り捨てて行った。

 

「このままでは、埒が開かん‼︎ 雑魚は無視し、隊長クラスのオルグを叩くしか無い‼︎」

 

 オルゲットの放った砲撃をフルムーンガードで防ぎながら、ガオマスターは提案した。それは、ガオシルバーも理解していた。

 しかし、オルゲット達により築かれた陣形により、三体のオルグ魔人に迄、ガオハスラーロッドによる狙撃は届かない。

 つまり、誰かが敵中に突っ込み、奴等と直接対決するしか無いのだが、それは、かなりのハイリスクを伴う。

 言ってみれば、それは囮以外に何物でも無い。ましてや、デュークオルグにも匹敵する実力者である奴等の懐に入れば、間違い無く無傷では済まないだろう。

 

「俺が行く! グレーとマスターは、オルゲット達を頼む‼︎」

「待て、シルバー‼︎ 一人で乗り込むのは危険じゃ‼︎ 」

 

 敵陣に特攻を仕掛けようとするシルバーに、グレーは止める。

 

「危険なのは百も承知だ‼︎ だが、突破口を作るには多少の無茶でも、行かなくてはならない?」

「なら、私が行こう‼︎ 君は、此処で倒れる訳には行かないだろう?」

 

 ガオマスターも止めに入る。だが、シルバーは首を横に振る。

 

「……頼む……俺に行かせてくれ‼︎」

 

 ガオシルバーは頼んで来た。彼は、陽不在の中、リーダー代行を引き受けた時から、覚悟は決めていた。

 例え、自分が命を落とし兼ねないとしても、もう逃げない、と決めていた。そんな彼の強い覚悟を知った二人は、とうとう折れる。

 

「……分かった……死ぬなよ、シロガネ……」

「死ぬものか!カイ…… 戦いが終わったら……ハンバーガーを好きなだけ奢ってやるよ!」

「フライドポテトも頼むぞ‼︎」

 

 互いに本名で呼び合ったら後、ガオシルバーは走り出した。オルゲット達の攻撃は全て掻い潜り、最後の一体に強力な鉄拳を喰らわせた。

 そして、三体のオルグ魔人の前に立つ。

 

「ほう……! 正面から来るとは、かなりの自信家だな……」

 

 機関銃オルグは厭らしい笑みを浮かべながら言った。

 

「其れとも、ただの馬鹿なのか…!」

 

 手榴弾オルグは侮蔑した様に言った。

 

「どちらにせよ、生かしちゃおかねェ…‼︎」

 

 バズーカオルグは荒々しく笑いながら言った。ガオシルバーは、ガオハスラーロッドを構えて走り出す。先ずは正面に居る機関銃オルグだ。

 機関銃オルグは右腕の銃を構えて、シルバーを撃ち抜こうとしたが如何せん、素早さでシルバーに追い付く筈が無い。発砲するより先に、シルバーのガオハスラーロッドによる斬撃でわ右腕ごと銃を斬り落とされた。

 

「がァァァ!!? 痛ェ、痛ェェ!!!」

 

 斬り落とされた右腕を庇いながら機関銃オルグは、のたうち回る。しかし、バズーカオルグが隙を作ったガオシルバーに砲口を向けた。

 

「木っ端微塵になれやァァ!!!」

 

 今の状態なら躱す事は出来ない。そう判断したバズーカオルグは砲撃した。しかし、シルバーは躱す気など無い。懐から取り出したムラサキの守り刀をバズーカオルグの生身の腕に投擲した。

 

「グッ!!?」

 

 腕に走る鋭い痛みに、バズーカオルグは思わず砲口の向きを逸らす。すると、シルバーの背後にいた手榴弾オルグに見事、命中してしまう。

 

「うがァァァ!‼︎?」

 

 手榴弾オルグは情け無い悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。バズーカオルグは、仲間を砲撃した事に気付く。

 

「あァァ!? しまったァァ!!?」

「フン……敵と味方の区別も付かないのか? 頭の中に脳みその代わりに、火薬でも詰まってるらしいな…‼︎」

「な…何だと、このォォ……‼︎」

 

 侮辱されたバズーカオルグは怒り心頭になり、改めて砲口をガオシルバーに定めようとした。しかし、彼の背後に衝撃が走る。

 

「グゥッ!!? な、何だ?!!」

 

 バズーカオルグは振り返る。すると自身の周りには、緑色のビリヤードのプール状に描かれたフィールドが完成しており、浮遊していた宝珠をシルバーは掴む。

 

「俺の狙いは、これだった‼︎ 貴様等の連携を壊し、確実に一人ずつ始末していく方法を狙ったんだよ‼︎

 

 破邪聖獣球! 邪気…玉砕‼︎」

 

 ガオハスラーロッドのブレイクモードで撃ち込まれた宝珠が、バズーカオルグに全て激突した。

 すると、バズーカオルグの身体から火花がほと走り、爆発した。

 急成長したガオゴールドによって差を付けられたものも、ガオレンジャーとしてのキャリアは、シルバーは方が上だ。

 機関銃オルグは立ち上がり、残った左腕でガオシルバーを構える。

 

「犬っころが、舐めた真似をしやがってェェ‼︎ 蜂の巣にしてやるぜ‼︎」

 

 そう叫ぶと、機関銃オルグの左腕のマシンガンが火を噴いた。弾は一発も外す事なく、ガオシルバーに命中する。

 

「ギャハハハァ!!! もう、お前等、ガオレンジャーの時代なんざ古いんだよ‼︎ これからは、オルグの時代だァ‼︎」

 

 勝ち誇りながら、機関銃オルグは狂笑した。しかし砂煙が晴れると、ガオシルバーの無傷の姿を確認した。

 

「オルグの時代が…何だって?」

「は、はあァ!!??」

 

 全く傷付いてないガオシルバーに、機関銃オルグは驚愕した。その筈、シルバーは弾が当たる瞬間、ガオハスラーロッドのサーベルモードで全て打ち落とすと言う離れ業で防いだからだ。

 

「あと、俺は犬じゃ無い……俺は……‼︎」

 

 ガオシルバーは走り近付いて来る。機関銃オルグは狙撃しようと構えるが……既に手遅れだった。

 

 

「銀狼満月斬りィィ‼︎」

 

 

 至近距離から放たれる真円を描く月の如し斬撃で、機関銃オルグを一閃した。機関銃オルグの身体は細切れに刻まれる。

 

「ち、畜生……‼︎」

「俺は狼だ…‼︎」

 

 放たれた言葉と同時に機関銃オルグは爆発した。これで全てのオルグ魔人を倒した。

 

「シルバー、やったのォ‼︎」

 

 ガオグレー、ガオマスターもオルゲット達を蹴散らして、駆け付けてきた。疲労しながらも勝つ事は出来た。そんな満足感が、シルバーの緊張を緩ませる。

 しかし、それ故に見逃してしまった。倒れていた手榴弾オルグが、まだ生きていた事に……。

 手榴弾オルグは、ガオシルバーに忍び寄り背後から羽交い締めにした。

 

「残念だったなァ‼︎ まだ、俺が居るぜ‼︎」

「グッ⁉︎ き、貴様ァ‼︎」

 

 動きを封じられたシルバーはもがくが、ガッチリと捕まってしまい逃げる事が出来ない。

 と、その際、手榴弾オルグの頭部にある安全装置が外れた。

 

「へ、へへへ…‼︎ 死なば諸共だ‼︎ 今、俺の中にある安全装置を外す事で、間も無く爆発するぜ‼︎」

「な、何⁉︎」

「この位置、この動きじゃ逃げられんだろうが‼︎ 俺達、オルグは時を経たら再生する……だが、貴様等はそうはいかねェ‼︎」

 

 そう言ってる間に、手榴弾オルグの身体から火薬の匂いが放たれ始めた。ガオシルバーは、ガオグレーに叫んだ。

 

「く、来るな、カイ‼︎」

 

 ガオシルバーの叫びで、ガオグレーは足を止める。その刹那、手榴弾オルグは大爆発した。

 

「し…シロガネェェェ!!!」

 

 ガオグレーの悲痛な叫びが木霊した…‼︎

 

 

 

 その時、空間が歪み始めた。其処に立っていたのは陽、美羽、風太郎だ。三人は何処に降り立ったのか、と辺りを見回す。

 町は悲惨な有様であり、陽は絶句する。

 

「あ、あれ‼︎」

 

 風太郎が指を差す。其処には、ガオグレーとガオマスターの姿があった。陽は駆け寄る。

 

「グレー‼︎ 街の様子は……‼︎」

「其れ所では無い‼︎ シルバーが……‼︎」

 

 グレーが指を差した先には巨大なクレーターが出来ていた。陽が確認すると無惨に砕け散った手榴弾オルグの亡骸と、力無く横たわる大神の姿があった。

 

「大神さん‼︎」

 

 陽は慌てて駆け寄り、大神の揺り起こした。すると、微かに目を開けて大神は反応した。

 

「あ…陽…か?」

「は、はい‼︎」

 

 全身に裂傷を負い、口からは一筋の血が流れていた。また目の焦点が合ってないのを見ると、大神は目をやられているらしい。

 

「い、今すぐに手当てを‼︎」

「そ、そんな事より……早く、オルグを倒しに……行け……‼︎」

「そんな事って……大神さんを放って行けないですよ‼︎」

「どの道……もう、俺は……助からん……それよりも……地球を……守る為に……戦うのが……俺達が使命……だろう?」

「な、仲間を守れずに……何が地球を守る……ですか……‼︎」

 

 何時しか、陽は泣いていた。瞳から流れ落ちる涙が、大神の顔に落ちる。

 

「……馬鹿……泣くな……。お前は……戦士だ……」

「大神さんッ……‼︎ どうか死なないで‼︎ 貴方が居なかったら、僕達はどうすれば……‼︎」

「……もう……お前に、俺の力は必要無い……それより、此れを……‼︎」

 

 大神は右腕を持ち上げ、陽の手に三つの宝珠を持たせた。

 

「……俺の……想いを……お前に託す……頼むぞ、陽……」

「嫌だ‼︎ そんな風に言わないで‼︎」

「……だが、最後に頼みがある……ガオレッド達やガオウルフ達を……助けてくれ……そして……あいつ等に……会ったら……伝えてくれ……仲間を守る為に……無様に逃げ出し続けて……最期は命を投げ出した……馬鹿な男が居た事を……。

 地球を……頼むぞ……ガオ……ゴールド……‼︎」

 

 最後に力を振り絞り、言葉を発した大神は、そのまま目を閉じて、そのまま眠る様に息を引き取った。

 

「大神……さァん……‼︎」

 

 陽は、冷たくなっていく大神の手を握り締めながら泣いた。

 また、守れなかった……祈、摩魅、そして大神……自分にとって大切な人達を誰一人と守れなかった……そんな後悔で、陽の心はグシャグシャになる。

 

「陽よ……泣いとる場合では無いぞ……‼︎ ワシ等が、為すべき事をしなくてはならん‼︎ そうで無くては、大神の死が無駄になってしまう‼︎」

 

 近寄って来た佐熊が、陽の肩に手をやり言った。そして、大神を見つめる。

 

「ど阿呆が……ワシより先に逝きよって……‼︎」

 

 そう言った佐熊の目からも涙が流れ落ちていた。共に千年の時を越えて再会した友は、逝ってしまった……最期まで、戦士としての矜持を持って……。

 と、その際、ガオマスターが何かに気付く。

 

「新手だ‼︎」

 

 マスターの指差す方角には一つの鬼門……其処から姿を見せたのは……。

 

「やっと雑魚は散ったか」

 

 それは最後の四鬼士にして、陽とは最も因縁深い相手である焔のメランだった。

 

「さて……これで漸く、心置きなく戦えるな……ガオゴールドよ……」

 

 メランは楽しげに言った。しかし、陽は動こうとしない。その姿に、メランは、つまらなそうに言った。

 

「そんな負け犬風情に涙を流すのか、貴様は? 哀れな奴だ、そいつは……千年もオルグとして身を窶した結果、仲間を救えず、地球を守れずに逝ってしまった……負け犬の末路としては、最も誂え向きではあるがな……。そう思わんか?」

「き、貴様ァァ……‼︎」

 

 地球を守る為に命を差し出した大神の死を侮辱するメランの発言に、佐熊は怒りを滲ませた。

 其れは陽も同様だ。怒りの炎がメラメラと、胸中を焦がして来る。大神を寝かせた後、陽はメランを睨み付ける。

 

「……取り消せ……‼︎ 大神さんは命を賭けて、闘った勇敢な戦士だ! お前に、彼の何が分かる‼︎」

「死んだ後に勇敢だ、立派だのと讃えた所、そんな物は単なる敗者への慰めでしか無い‼︎ 大神月麿は、負けて死んだ‼︎ ただ、それだけの事だ‼︎」

「黙れェェ! 黙れェェェ!!! 僕の大切な仲間を侮辱するなァァァ!!!」

 

 陽は涙を強引に拳で拭い、メランと対峙する。

 

「やっと、決着を付ける気になったか?」

「お前だけは……僕の全てに替えても……絶対に倒す‼︎」

 

 優しき竜は逆鱗に触れられた事で、全てを焼き尽くす焔の戦鬼に牙を向けた。それに対して、メランは待ち侘びたと言わんばかりに、メラディウスの刃を舐めた。

 

「では……始めようか、ガオゴールド……。我と貴様の戦いを……真の強者を決める戦いを‼︎」

 

 メランが戦いを宣告した。陽の目には一切の迷いは無かった……。

 

 〜戦いの中、仲間を守る為に命を落とした大神。そんな彼の前に現れたのは、陽にとって避けうる事の出来ない強敵、メラン!

 遂に、荒ぶる竜と血に飢えた鬼の終末の決戦が幕を開けたのです‼︎〜




ーオリジナルオルグ
−機関銃オルグ、手榴弾オルグ、バズーカオルグ
地球攻略の為、派遣されたオルグ魔人達。実力ならば、デュークオルグにも引けを取らない実力者達。
手榴弾オルグは自らの安全装置を外す事で、自爆する事が可能。


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quest52 聖なる鳳凰

※今回も大幅に掲載が遅れてしまい、申し訳ありません‼︎
年末ゆえ、忙しくて執筆も滞ってばかりで……。
それでは、お待たせしました‼︎ quest52、どうぞ‼︎


 陽とメランが対峙し始めた時、ガオズロックが降り立って来た。中から、テトムが血相を変えて飛び出して来る。

 

「シロガネ! 」

 

 テトムは変わり果てた姿となった大神に膝を突いて呼び掛けた。しかし、大神は言葉を発さない。すっかり冷たくなっていた。

 

「……ああ……まさか、こんな事に……‼︎ 嘘だと言って、シロガネ‼︎」

 

 現実を受け入れられずに、テトムはさめざめと泣き崩れた。共に苦楽を乗り越えて来た仲間が死んだ……しかも、大神は二十年前を共に戦った大切な仲間の一人だ。その彼が、今や物言わぬ骸となって目の前に横たわっている。

 

「……済まぬ、テトム……私が彼を行かせる様に言った……。あの時、止めていれば、この様な事態には……‼︎」

 

 ガオマスターも項垂れながら、謝罪した。そもそも、敵陣に突っ込む様にと提案したのは彼だった。

 しかし、風太郎はテトムの横に立つ。

 

「僕の責任だ、テトム……もっと早く、テンマの居所を探っていれば……陽の強さに甘えていた……」

 

 風太郎もまた後悔していた。着々と力を付け、四鬼士を次々と撃破していく彼に希望を見出していた。

 ひょっとしたら、彼ならオルグ達を殲滅させる事が出来るかも知れない、と……。だが、其れ故に千年前からの大切な友を死なせる結果となった。

 ガオズロックから降りて来た猛達は居た堪れない様子で見ていたが、舞花は陽と相対するメランを見て叫ぶ。

 

「あ、あいつ⁉︎」

 

 舞花は思い出す。少し前、祈と共に居た自分を襲って来たオルグに間違い無い。

 

「何だよ、舞花⁉︎ 知ってんのか⁉︎」

「前に、アタシと祈を襲った奴‼︎」

「ま、舞花先輩……あれ……‼︎」

 

 千鶴が恐る恐ると、舞花を呼び掛けた。すると、大多数のオルグ魔人やオルゲットが、ゾロゾロと湧き出て来た。

 

「侵略が、さっきから静かだと思ったら、こんなに居たんか……‼︎」

 

 佐熊は睨み付ける。すると、オルグ達は悪辣に笑った。

 

「見ろよ‼︎ ガオレンジャーが居やがるぜ‼︎」

 

 火炎放射器の姿をしたオルグ魔人、火炎放射器オルグが言った。

 

「コイツは良いぜ‼︎ 奴等の首を取ったとありゃ、デュークオルグに取り立ててくれると聞いたぜ‼︎」

 

 ナックルダスターの姿をしたオルグ魔人、メリケンオルグが叫ぶ。

 

「今日は、燃えるぜ‼︎ 何しろ、人間を幾ら殺しても良いってんだからなァ‼︎ 我等が偉大なる主君、テンマ様のお墨付きだからよォ!!」

 

 スタンガンの姿をしたオルグ魔人、スタンガンオルグが頭部をバチバチと鳴らしながら笑う。

 何れも、オルグとしては地位の低い二本、三本角のオルグ魔人揃いだったが、其れを上回る程に、オルゲットも多数に居た。

 

「……テトム、退がっとれ……‼︎」

 

 佐熊は、オルグ達を人睨みしながら言った。テトムは大神の亡骸を抱え上げると、猛達にも告げる。

 

「貴方達も、ガオズロックの中へ‼︎」

「ウッス……テトムさん、結構、力持ちなんすね……」

 

 女性でありながら、大神を抱え上げる程の怪力を発揮したテトムに感心しながら猛達も後に続く。

 残された佐熊は、美羽とガオマスターに語り掛けた。

 

「行くぞ‼︎ 奴等、一人たりとも逃さん‼︎ 全員、叩き潰す‼︎」

「ああ、勿論‼︎」

「……行こう‼︎」

 

 佐熊の勢いに乗じて、二人も頷く。しかし、そんな二人をオルグ魔人達は大笑いだ。

 

「ギャハハハ‼︎ この兵力差が見えねェのか⁉︎ こっちは、オルゲット含めて100以上、テメェ等は三人‼︎ これじゃあ、どっちが有利かは火を見るよりも明らかじゃねェか‼︎」

「……今の内に笑わば笑え……! ワシは今、機嫌が悪い……故に……手加減なぞ、期待するなよ‼︎」

 

 大切な友を殺された一頭の熊の憤怒の咆哮が、オルグ魔人達を威嚇した。

 

 

 気が付けば大神は見知らぬ場所を立っていた。それは地平線の果て迄も続く草原と花畑……空を見上げれば、雲一つ無い青空が広がっている。

 

『何処なんだ、此処は……? だが……こんな穏やかな気持ちは久方ぶりだ……』

 

 大神は深呼吸して、腰を下ろした。戦い続きの日々、苦痛に苦痛を重ねる毎日……とても、こんな風に休憩をする暇も無かった……。

 と、その際に自身の目の前に座っている人影が居た……。

 

『あ…貴方は⁉︎』

 

 大神は、その人物を見て息を呑んだ。

 

『お久しぶりですね、シロガネ……』

 

 その人物は、自分を本名であるシロガネと呼んだ。『大神月麿』と言う仮の名では無い、自分の本当の名前を知る者、そして呼ぶ者は生きている人間では、今代のガオの巫女であるテトムと戦友の佐熊だけだ。

 そう……生きている人間では……だ。

 それは、大神にとって忘れられない顔だった。かつて、自分をガオの戦士へと誘い、戦いに中に於いて自分や仲間達の心的な支えとなってくれた、家族を失った自分にとって母とも姉とも言える大切な存在……。

 

『ムラ……サキ?』

 

 白銀色に輝く長い髪をたなびかせ、頭に金の冠をかぶり、巫女らしい白い装束を身に纏った女性……

 

 先代のガオの巫女ムラサキ、その人だった。

 

『どうして?』

『忘れたのですか? 貴方はオルグとの戦いで、不意打ちを受けて……命を落としたのですよ?』

 

 その言葉に、大神は思い出した。そうだ……自分は死んだのだ。だから……。

 

『では、ここは……あの世か?』

『正確には、この世とあの世の境目……この先に死者の魂が辿り着き、黄泉へと流されていくのですが……多くの者は必ず、この場所を通るのです……。此処は生前、此岸にて心残りを残した者達は、その未練を断ち切る為の場所でもあるの……ほら、皆が迎えに来ました……』

『皆……』

 

 ムラサキの指差す方を見れば懐かしい顔触れ、懐かしい声の者達の姿が歩いて来るのが見えた。

 大神は彼等の姿に自然と笑みを浮かべた。最早、今生では邂逅する事は叶わない、と諦めた懐かしき仲間達に向けて……。

 

 

 

 陽とメランは長い事、互いに互いを睨み合っていた。二人の間には緊迫した空気と、吹き抜ける風の音だけだ。

 メランは至極、上機嫌と言った具合だ。まるで、最高の御馳走を目の前に用意された様に……。

 

「ガオゴールド……今、我がどんな気分か分かるか?」

 

 先に言葉を発したのは、メランだ。益々、機嫌良さげに振る舞っているが、対して陽は彼への敵意しか湧いて来ない。

 

「知るか」

「……フッフッフ……我は今日と言う日を、どれ程に待ち侘びた事か……。初めて貴様と対峙した、あの日……貴様は、力を使い熟して居ない、殻をつけたばかりの雛鳥さながらだった……。

 しかし、我は確信した! この男は、何れ強大な敵となる、と! だから、我は貴様を殺さなかった……殺せる機会など、何度もあったにも関わらずに、だ……‼︎」

 

 メランは、目に見えて歓喜している。自身がライバルと認めた男が、睨んだ通りの存在となって、自分の前に居る。これ以上に素晴らしい事は無い……常に、陽を対等なライバルと見做し、成長を見守り続けて来た彼からすれば、正に今日は記念すべき日であった。

 

「……しかし、力を付けたのは貴様だけと思うなよ? 我も、貴様と再び対峙する日に備え、自身を鍛えて来た……!

 今の我は、あの日に見せた我の力を大きく超えている、と自負している……。さァ、見るが良い……我の真の力を‼︎」

 

 メランはメラディウスを天に掲げると切先から爪先まで漆黒の炎に包まれていく。炎がメランの腕を、脚を、身体に燃え広がると、ワインレッドの光沢のある体色は、黒みがかったディープレッドへと染まる。

 肩の骨が変形して外部に露出、スパイクの付いた肩当ての様な形となり、胸部には鎧状の外骨格が覆われた。

 最大の特徴はツノだ。元々の一本ツノは更に伸縮し、両側頭部より新たなツノに似た装着品が現れていた。

 得物であるメラディウスも、より刺々しく形状が変わり、新たに腕に出現した手甲状の外骨格と融合している形だ。

 遂に、メランの真の姿が露わとなった。

 

「実に久方ぶりだ……この姿で戦うとは……良い戦いをしよう……‼︎」

 

 今の彼から放たれるのは異常な程の邪気と闘気だった。その両方を帯びた気は、ビルやアスファルトに亀裂を入れる。

 更に彼が一歩、前に踏み込んだだけで、コンクリートの道が砕けた。

 

「(これが……メランの真の力……‼︎)」

 

 陽は、その強大な姿に戦慄した。彼以外の四鬼士と対峙した時も、此処までに感じた事は無かった。

 だが、恐れている場合では無い。メランの次には、テンマやガオネメシスと言った更に上に位置する強敵が居るのだ。

 奴に恐れて居ては、テンマには歯が立たないだろう……陽は、G -ブレスフォンを起動させた。

 

「サモン・スピリット・オブ・ジ・アース・ビヨンド‼︎ ガオアクセス‼︎」

 

 掛け声と共に、ガオゴールド・レインボーへと変身する。ソルサモナードラグーンを手に、メランへと先手を仕掛けた。

 メランは、メラディウスでソルサモナードラグーンを防いだ。

 

「フフフ……良い腕だ……。力も以前とは、比べ物にもならぬ程に上がっている……。しかし……‼︎」

 

 回転させたメラディウスで、ソルサモナードラグーンを弾いて剣戟を浴びせ始める。だが、ガオゴールドは其れを受けて凌いだ。

 

「良いぞ、良いぞ‼︎ 反応も良くなっているぞ‼︎ ならば……これなら、どうだ‼︎」

 

 狂喜に身を震わせながら、メラディウスを袈裟斬りにした。すんでの所で後退し直撃は回避したが、刃から発せられた剣風がゴールドを吹き飛ばした。

 

「‼︎」

 

 凄い勢いで、吹き飛ばされたガオゴールドはビルの壁に叩きつけられた。胸部から腹部に掛けて袈裟状の切り傷が付けられ、痛みと共に火を押し付けられた様な熱さを感じる。

 一挙一動、全てを攻撃とするメランには一切の隙は無い、正面に、メランが歩み寄って来る為、立ちあがろうとするが背部に走る痛みにより阻害される。

 咄嗟にメラディウスを振り上げようとしたメランに対し、ゴールドは先手を取って、ソルサモナードラグーンをガンモードにして、狙い撃った。しかし、其れに対し、目にも止まらぬ速さで躱すメラン。

 その刹那、一瞬の隙を見出したゴールドは素早く起き上がり、メランの顔に刃を振り下ろす。右目を含め、顔半分に切り傷を付けて、片目を潰す事に成功した。メランは顔から夥しい量の血を垂れ流している。

 しかし、その様子に関わらず、メランは口角を吊り上げて笑った。

 

「……フフフ……矢張り、良い物だな……‼︎ 己と肩を並べる、若しくはそれ以上の強者と対峙する、と言うのは……‼︎」

 

 淡々と語り始めるメランに対し、ガオゴールドは黙ったまま、傾聴した。

 

「弱き者を叩き潰した所、勝利に酔い痴れる高揚感も……戦いを制した達成感も湧いて来ん……。

 己が勝つか……敵が勝つか……。その間に、計略も駆け引きも脅しも必要無い……ただ、最後に立って居た者が強者と言う証……‼︎

 実に単純だが……これ以上に、心地良い戦いを我は他にて、遂に味わえなかった……決着は直ぐに付いてしまうからな……‼︎

 ああ……漸く、見つけたよ……我を倒し得る者を……‼︎」

 

 メランは心の底から満足している様子だった。オルグとしては最上位の立場に位置し、力も手に入れながらも彼は満たされた事は無かった。

 自身と肩を並べ、かつ自身を倒せるかも知れない戦士……彼は、ずっとそれを探していた。

 しかし、その様な戦士は現れず、メランが少し撫でただけで、あっさりと壊れてしまう程に脆弱な者達ばかりだった。

 故に、メランは力を持て余し、退屈していた。そんな矢先、目の前に現れたのが、ガオゴールドだった。

 甘さの抜けきらない戦士の真似事をしただけの若造……それが、ガオゴールドを見たメランの最初の印象だった。

 しかし、数多の強敵を打ち破っていく内に、彼は強くなって行く。時には、自身が教えを授けた事もあったが、それをも彼は吸収し、四鬼士達をも倒す程となった

 彼が、ヤミヤミに勝ったと聞いた時は、驚き以上に歓喜した程だ。ヤミヤミは自身が認めた数少ない友にして、好敵手だった……その彼を倒す程の実力を、ガオゴールドが手に入れた……ならば、彼と戦う好機は今しかない……そう決したメランは、オルグリウムを後にして、彼の前に現れた……。  

 

「……我はな、ガオゴールド……この世に生まれ落ちた時、二本、三本角のオルグ魔人に、少し勝る程度の力しか無い脆弱なオルグだった」

「それが……なんだ?」

「本来なら、デュークオルグになり得ぬ我が何故、デュークオルグとなって四鬼士などと言う大層な異名を付けられているか……。

 答えは簡単だ、ガオゴールド……。我は、生きている全ての行動を、力の求道へと傾けた……。ゴーゴはオルグ本来の凶暴さで、ヒヤータは卑劣かつ狡猾さで、ヤミヤミは忍耐さで……それぞれの力を磨いて来た……。

 しかし、我は……己の力を高める事を一点に集中させた‼︎ 純粋な力は、研ぎ澄まされた技さえも凌駕する‼︎

 其れこそ貴様等、人間が一生、鍛錬を続けても、到達出来ないであろう境地に我は達する事が出来たのだ‼︎」

 

 メランは誇らし気に豪語した。今の自分が居るのは、他のオルグにある生まれついての才能などでは無く、純正にメラン自身の努力の賜物である事だと語る。

 そう言った意味では、メランはオルグよりも寧ろ、人間に近しい感情を持っていた。人とオルグの狭間で苦悩しつつ、人間でありたいと願った摩魅の様に……。

 

「……破壊する事を本能とするオルグの生き方に背いてまで、己を強くして……アンタは何になりたいんだ? メラン」

「……そんな事を知って、どうする? 我が、人間の味方になり得る、と甘い期待を寄せているのか?

 だとしたら無理な相談だな……。我は確かに、破壊にも支配にも興味は無い……強いて言えば、己を鍛え続ける事こそが、我自身の本能であり矜持だ。貴様が、飽くまで人間として戦う事と同じくな……。

 貴様が倒して来た、あの三人も……思想や経緯は異なれど、己の矜持を持ち、その矜持の果てに散っていった筈だ……」

 

 ばっさりと切り捨てるメランの言葉に陽は、やはり人間とオルグは別の生き物だと痛感させられた。

 しかし……それでも、諦める訳には行かない。摩魅、ガオネメシス……あの二人を救うには、彼を始めとしたオルグ達の根底にある『オルグ至上主義』を叩き潰してやらなきゃ、ならない……。

 ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンを直立に構える。

 

「……ならば、僕は……お前を越えて行く‼︎ お前を倒して、オルグを倒して……地球を救う‼︎」

 

 その言葉に、メランはニイィィッと口角を吊り上げた。

 

「……宜しい……。では、我が断ち斬ってやろう……‼︎ 貴様の甘い信念と共にな……‼︎」

 

 それと同時に、メラディウスに灯る黒い炎が益々、燃え盛る。相対するは、黒々と燃えて全てを焼き尽くす漆黒の炎、相対するは、煌びやかな光と虹色の後光で全てを照らす金色の太陽……。 

 

 

 

「そいやァァ‼︎」

 

 ガオグレーは、グリズリーハンマーで火炎放射器オルグの頭部から叩き下ろした。その後ろから、メリケンオルグがグレーを殴りつけようとしたが……

 

「甘いわァァ‼︎」

 

 ガオグレーは左手でメリケンオルグの腕を鷲掴みにし、多数のオルゲット諸共、投げ飛ばした。

 その姿は正に暴れ回る熊と呼ぶに相応しい姿だった。

 

「荒れてるわね、グレー……‼︎」

 

 ガオプラチナは遠方より、フェニックスアローで援護しながら、怒りに任せて暴れ回るグレーの姿に思う所がある様子だった。

 長年の友にして、千年前からの付き合いである大神を殉死と言う形で喪った。だから、そのやり場の無い怒りを、オルグ達にぶつけているのだろう。

 と、その際に、スタンガンオルグがガオプラチナの背後から迫ってきた。

 

「死ねやァァ‼︎」

 

 スタンガンオルグは奇声を発しながら、ガオプラチナに飛びかからんとする。其れを横から飛んできた剣に両腕が斬り落とされた。

 

「ぐあァァ!!?」

 

「月光の氷剣‼︎」

 

 その状態でスタンガンオルグの腹部を突き刺す。すると、スタンガンオルグは一瞬で凍りつき、粉々に砕け散った。

 

「油断するな! 一瞬の気の迷いが命取りとなるぞ‼︎」

 

 ガオマスターは油断していたプラチナを叱責した。ガオプラチナはかぶりを振る。自分は今、ガオの戦士なんだ‼︎ 逃げたり、怖気付いたら行けない……そんな思いが、彼女に鞭を打つ。

 

「(岳おじさん……‼︎)」

 

 弱気になりそうな時、浮かぶのは大好きだった叔父の顔……こんな時、彼ならどうするのだろう?

 ガオマスターから聞いた鷲尾岳は、ガオレッド不在の時のリーダーとして、時にはリーダーに喝を入れる役割を持っていた。

 だが、今ここには岳は居ない。だから、自分がしっかり戦士として務め上げなければ……と、美羽は折れそうになってい自分を奮い立たせた。

 

 

 ガオゴールド、メランの戦いは佳境と向かいつつあった。互いの刃を打ち合い、時には廃車と化した車や瓦礫を巻き込む攻撃を繰り出し、激しい斬り合いの内に場所は、更地となりつつある。

 ゴールドはソルサモナードラグーンでメランの首を狙った。しかし、彼の首には刃は通らない。

 

「生憎だな……我の五体は限界まで研ぎ澄まし、鍛え上げられている‼︎

 貴様の攻撃では、我が身を裂くには……温い‼︎」

 

 そう言って、メランは強烈な蹴りを浴びせ、ゴールドの体勢を崩した。其処へ、ガオゴールドの首を鷲掴みにし、万力を込めて締め上げる。苦しげに呻きながら、ゴールドはソルサモナードラグーンでメランの負傷している右目を撃ち抜き、力を抜いた所で追い討ちを仕掛ける。

 その様な攻防一体の激戦を繰り広げながら、二人の戦いの余波で瓦礫は取り除かれ、互いに取って足場の取れた地の利を活かし易い環境となった。

 メランはメラディウスを逆手に持ち、ゴールドを睨み付ける。ゴールドも然りだ。

 

「……腕を上げたな、我が好敵手よ……」

「……お前もな……」

 

 敵対し適合する事はなくとも、互いに認め合う節のあるガオゴールドとメラン。ゴールドは誰かを守る為、メランは己の矜持を守る為……。

 細かい部分は異なるが、何かを守る為に剣を奮う二人の戦士は、長き戦いの中で、とうとう単なる『敵』では無く、好敵手として意識する事となった。

 

「……それだけに惜しい‼︎ 我は貴様との戦いの因縁を断ち切らねばならないとは‼︎ 出来れば、貴様とは、この世の果てまで戦い抜きたいがな‼︎」

「……悪いが、お断りだ‼︎ 僕は、お前の後ろに居る敵を倒す使命がある‼︎」

「……そうか……ならば……‼︎」

 

 メランは手に持つメラディウスを正しく持ち直す。すると刃に漆黒の炎が立ち上がり、ビルを越す巨大な刃と化した。

 かつて、ティラノオルグを一刀の下に叩き伏した、あの技だ。

 ガオゴールドも同時にソルサモナードラグーンを構えた。すると、六つの宝珠が、弾倉へと装填された。

 すると、刃が虹色に輝き出し、メラディウスと同様に肥大化した。

 

 

「虹陽竜剣・極ィィ!!!」

 

「煉獄……豪剣!!!」

 

 

 虹色と漆黒の刃が、衝突する。すると、ぶつかり合った二振りの刃が激しい火花を散らしながら、空間にて拮抗し合う。

 この時点で、ガオゴールドとメランの互いの力は、ほぼ互角となっていた。

 

「ぐぐぐ……!!!!」

「ヌウゥゥゥッ!!!!」

 

 互いに苦悶の表情を浮かべながら、鍔迫り合う二人。その余波で、ガオゴールドのマスクにヒビが入り、砕けた部位から陽の表情が僅かに見えた。メランも全身に裂傷が入る程、力を入れている。

 しかし、ガオゴールドに力を貸す六聖獣達のガオソウルが、ソルサモナードラグーンに力を上乗せした事で、ガオゴールドに軍配が上がる。

 徐々に、虹色の光刃が漆黒の炎刃を押し戻して行く。

 

「うおォォッ……!!?」

「これで……終わりだァァ!!!」

 

 ガオゴールドが全身の力をぶつける。そうして、虹色の光刃がメランの身体を包み込んだ。

 

「ぐあァァァァ………!!!!!!」

 

 メランは、虹色の光刃の中に消えて行った……。残されたガオゴールドは肩で息をしながら、跪く。

 

「はァ…はァ……勝った…‼︎」

 

 苦戦こそしたが、強敵を倒した事に、ガオゴールドは喜ぶ。しかし、その考えも束の間、メランの声が聞こえて来る。

 

 

「……フッフッフッ……。見事だ、ガオゴールド……‼︎」

 

 

 砂煙の中から姿を現すのは、ズダボロとなったメランだ。虫の息となりながらも、生きていた。しかも、笑っている。

 

「……まさか、我を此処まで追い込むはな……やはり、貴様は我の睨んだ通りの男だ……。

 認めようでは無いか……貴様は確かに強い……しかしな……」

 

 そう言葉を切った瞬間、メランはメラディウスの刃を握り潰した。すると、メラディウスから溢れ出た炎がメランの身体に吸収され始めた。

 見る見る間に、メランの身体は巨大化して行く。

 

 

「我は貴様以上に強い」

 

 

 巨大オルグ魔人と化したメランの傷付いた身体は再生し、両掌に新たなメラディウスが握られていた。

 しかも背部から、炎が翼の様に形成され、その姿は炎を身に纏う有翼の悪魔そのものだった。

 その二振りのメラディウスを連結させ、両刃の大剣として装備したメランは、ガオゴールドを見下ろす。

 

「さァ……呼ぶが良い、貴様の切り札達をな‼︎ 貴様とは飽くまで、対等に勝負する事に意味がある‼︎」

 

 メランが高らかに宣言する。確かに巨大オルグ魔人と互角に渡り合うには、パワーアニマルしか居ない。しかし、自らパワーアニマル達を呼ぶ様に促したのは、メランが初めてだ。

 余程に自信があるのか、其れとも裏があるのか……だが、今はそんな事を考えている暇は無い。

 メランを倒し、オルグ達の本拠地へ乗り込まなければ、この惨劇は何時迄も終わらない。寧ろ、被害を甚大させるばかりだ。

 ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンを銃形態にして天に掲げる。

 

「幻獣召喚‼︎」

 

 召喚されるは、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンの三体。合体し、精霊の騎士ガオパラディン・レインボークロスへと変形した。

 

「誕生! ガオパラディン・レインボークロス‼︎」

 

 ヤミヤミを葬った虹の鎧を纏う聖騎士が、炎の鎧を纏う悪鬼に相対する。

 先手を取り、ガオパラディンが、ユニコーンランスをメランに突き出すが、漆黒の炎により阻まれてしまう。

 続いて、グリフシールドを展開して、グリフカッターを放つ。だが、メランの防御を崩せない。

 

「どうした、ガオゴールド‼︎ 貴様の力は、その程度か⁉︎ 我を、失望させるな‼︎」

 

 メランは挑発しながら、メラディウスで幾度と斬り捨てる。グリフシールドでも防ぎ切れない凄まじい威力だ。

 

「クッ……‼︎ 幻獣武装! ガオパラディン・ウィップ&アーチャー‼︎」

 

 すかさず、ガオナインテールとガオワイバーンのコンボを召喚する。

 遠距離からの狙撃で距離を取り、攻撃しようとするが……。

 

「小賢しい……。そんな付け焼き刃が通用するか‼︎」

 

 メランが剣を振るうと、炎の弾幕が放たれてガオパラディンに命中する。ありとあらゆる局面にて、メランには隙が無い。

 

「どうやら、勝負あった様だな‼︎」

 

 勝ち誇りながら、メランはガオパラディンの首元にメラディウスを突き付ける。悔しいが、戦闘力はメランの方が上回っていた。

 

「ううゥ……このままじゃ……‼︎」

 

 度重なるダメージにより、ガオゴールドは台座を支えに辛うじて立って居る状態だ。

 と、その際に、ゴールドの脳裏に声が聞こえて来た。

 

 〜ガオゴールド……私を召喚なさい‼︎〜

 

 それは、ガオフェニックスの声だ。ゴールドの目の前に、ガオフェニックスの宝珠が浮かび上がる。

 と、それと同時に、ガオプラチナの声もする。

 

 〜ゴールド、早く‼︎ ガオフェニックスの力を‼︎〜

 

 どうやら、プラチナの想いがガオフェニックスの宝珠を届けてくれたのだ。ゴールドは意を決して、その宝珠を手に取る。

 これが最後だ。ガオゴールドは宝珠を台座にセットする。

 

「幻獣武装! ガオフェニックス‼︎」

 

 ガオゴールドの叫びが、コクピットに木霊した。すると宝珠は輝き出す。その際、曇天を掻き分け、天から一羽の巨大な鳥型のパワーアニマルが飛来する。

 ガオフェニックスだ。

 

「ぬゥ⁉︎」

 

 メランは、ガオフェニックスの登場に驚いたが、何処か楽しんでいる様子だ。ガオフェニックスが一声、叫ぶと、その長い首を直立させて翼を真っ直ぐに展開した。

 その状態で、ガオパラディンの背面へと幻獣武装され……

 

「誕生‼︎ ガオパラディン・エタナールクロス‼︎」

 

 ガオゴールドの掛け声と同時に、無限の生命と消えぬ聖火を持つ、聖獣の騎士王が誕生した……。

 

 

 〜窮地に追い込まれたガオパラディンに、ガオフェニックスが幻獣武装、新たなる変身形態、エタナールクロスへと至りました‼︎

 この新たな力が、メランの漆黒の炎を打ち破るのでしょうか⁉︎〜




※本当は今回で、メランと決着を付けるつもりだったのですが、自分的に納得行かなかった為、決着は次話へ持ち越します‼︎


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quest53 メランの最期

※最近、体調がめっきり優れず、掲載が遅れがちになって申し訳ございません!

11月29日分の掲載が間に合わず、申し訳ありませんでした‼︎
詳しい事は活動報告を、読んで下さい‼︎


 ガオグレーは一頻り、敵を片付けると、ガオゴールドとテンマが新たな局面を迎えている事に気付いた。

 メランが巨大化し、ゴールドがガオパラディンを召喚して戦う……其処まで言えば、何時もと同じだが、今回は勝手が違った。

 巨大オルグ魔人と化したメランは、これ迄に倒して来たオルグ達を上回る強さだった。ガオパラディンの、ずっとパワーアップしている筈だが、そのガオパラディンが、まるで歯が立たない体たらく。

 此処は、自分がガオビルダーにて援護するべきかと、考えたグレーだが、倒したオルグ達が再び立ち上がって来る。

 

「やってくれたな……‼︎ おい、お前等‼︎」

 

 火炎放射器オルグが促すと、既に倒れていたスタンガンオルグとメリケンオルグに呼び掛ける。

 すると、倒れていたオルグ達は手に注射器に似た器具を握り締める。

 

「コイツが何が分かるか? オルグシードの成分を抽出した抽出液だ‼︎ 更に、此れはテンマ様によって直々に邪気を注ぎ込まれ……‼︎」

 

 オルグ達は一斉に抽出液を首筋に突き刺した。すると、オルグ魔人達が急にスライム状にドロドロと溶解し、一つに合体し始めた。

 その他にも機関銃オルグ、手榴弾オルグ、バズーカオルグの亡骸を取り入れて益々、巨大化して行った。

 やがて、巨大化したスライムが形を変えて、手と脚が出来て立ち上がる。両腕はナックルダスターを装備し、両脚はスタンガンとなった。

 胴体と頭部は火炎放射器、両肩にはバズーカが装着されていると言う異様な出で立ちだ。

 

『我こそは、戦いと破壊の権化、クリークオルグだ‼︎ 俺様は、戦争が好きだ‼︎ 銃撃、爆撃、電撃、打撃、焼撃……ありとあらゆる、人を傷つける戦争が大好きだァァァ!!!』

 

 狂気を帯びた口調で野太い声を発揮する。恐らく、戦闘力はデュークオルグ級か、それ以上……。今迄、鬼ヶ島に封じ込められていた分、暴れてやろうと言うのか、クリークオルグは肩のバズーカを連射した。

 放たれた砲弾が、街を破壊して行く。とんでもない真打ちが隠されていたものだ、とガオグレーは低く唸る。

 

「人を傷つけるのが好きじゃと言うなら……ワシは、オルグを倒すのが大好きじゃ‼︎ 掛かってこんかい‼︎」

 

 ガオグレーは宝珠を取り出す。それを見た、クリークオルグはニヤリと北叟笑む。

 

『面白ェ……‼︎ だったら……戦争(クリーク)だァァ‼︎』

 

 クリークオルグは高々と宣言した。その際、ガオプラチナの身体は急に光だした。

 

「グレー‼︎ 私、ゴールドを助けに行かなきゃ……‼︎」

「分かった‼︎ コイツは、ワシに任せておけ‼︎」

 

 そうして姿を消すガオプラチナ。其処へ、グレーは天へ宝珠を投げた。

 

「百獣召喚‼︎」

 

 投擲した宝珠は光を放ち、ガオグリズリー、ガオボアー、ガオリンクス、ガオトードの四体のパワーアニマルが召喚された。

 

「百獣合体‼︎」

 

 ガオグレーの掛け声で合体して行くパワーアニマル達。そうして、剛力の精霊闘士ガオビルダーが降臨した。

 

「誕生! ガオビルダー‼︎」

 

 ガオビルダーに収納されたガオグレーが叫ぶ。クリークオルグは悪辣に笑った。

 

『ガオビルダーなんざ、このメリケンで叩き潰してやるァァァッ!!!』

 

 クリークオルグは右腕でガオビルダーを殴りつけようとする。しかし、その前にガオビルダーの左アッパーが、クリークオルグの顎を捉える。

 

「ぐはァッ!!?」

 

 強烈なアッパーに、クリークオルグは仰反る。其処へ、ジャンプしたガオビルダーのトードキックが、オルグの腹部を蹴り飛ばした。

 

「がァッ!!?」

 

 アッパーからのハイキックに堪らず、クリークオルグは後ろに倒されてしまう。

 倒れ込んだ所を、ガオビルダーは上に跨り、マウントを取ろうとするが……クリークオルグの口内から、手榴弾が三発、吐き出された。

 全て命中して、ガオビルダーはグラつく。

 更に、隙を見せた所を、クリークオルグの左腕がマシンガンに変わり、ガオビルダーに射撃した。

 

「ぬゥゥ!!?」

 

 ガオグレーは、コクピット内に走る火花に唸る。目の前には、クリークオルグが迫っていた。ガオビルダーは大きくふらつきながら、ボアーガドリングを放とうと構える。

 しかし、クリークオルグの両肩のバズーカが火を噴いた。バズーカの砲撃が、ガオビルダーの身体を狙い撃つ。

 

「ううゥ!!?」

 

 とうとう堪らず、ガオグレーは意識を無くしてしまう。それに応じ、ガオビルダーも膝を突いて、クリークオルグに首を差し出した。

 其れを見て、クリークオルグはニタァッと笑う。左腕のマシンガンを、ガオビルダーに向けるが……。

 と、その時、クリークオルグに衝撃が走る。

 

『だ、だれだァ!‼︎?』

 

 クリークオルグは体制を立て直し、攻撃して来た敵を見る。其処には、ガオゴッドが居た。

 

『な、何だ⁉︎ コイツは⁉︎』

 

 ガオゴッドは、クリークオルグの前に立ちはだかる。ガオゴッドの中から声がした。

 

 〜ガオグレー‼︎ 私も助太刀しよう‼︎〜

 

 ガオマスターの声だ。どうやら、彼がガオゴッドに搭乗しているらしい。

 

「ガオマスターか……かたじけない‼︎」

 

 単騎による戦いを強いられていたガオグレーからすれば、ガオゴッドの助太刀は心強かった。

 しかし、クリークオルグは慌てる事なく、狂喜している様子だ。

 

『上等だァァ‼︎ どいつもコイツも、ぶっ殺してやるぜェェェ!!!』

 

 こうして、ガオビルダー&ガオゴッドvsクリークオルグと言う戦いが勃発する事となった。

 

 

 

 ガオパラディンとメランも、互いに睨み合いながら対峙している。巨大化したメランに対し、ガオパラディンは持てる全てを発揮して戦ったが、其れ等が尽く通用しなかった。

 追い詰められた自分に語り掛けて来たガオフェニックスを幻獣武装する事で、ガオパラディンは新たなる形態、ガオパラディン・エターナルクロスへと変形した。

 背面には、ガオフェニックスの巨大な翼を広げて、悪魔の様な風貌のメランに反して、天使の様な出で立ちとなったガオパラディン。

 更に頭部に、ガオフェニックスの頭が下降、装着された事で兜の役割を果たす。両腕は再び、ガオユニコーンとガオグリフィンとなった。

 すると、其処へガオプラチナが搭乗して来た。

 

「プラチナ⁉︎ どうやって、此処に⁉︎」

 

 突然、姿を現したプラチナに困惑するゴールド。

 

「ガオフェニックスの力を引き出すには、彼女と契約している私も必要じゃん? ほら、さっさと倒しちゃうよ‼︎」

 

 プラチナの言葉に、ゴールドは闘志を取り戻す。ユニコーンランスを構えて、メランに対峙した。

 しかし、メランはパワーアップしたガオパラディンの様子に臆する様子は全く無く、寧ろ楽しんでいる様だった。

 

「フハハハ‼︎ 良いぞ、良いぞ! 其れでこそ、我が宿敵だ‼︎ 我を、どこまでも楽しませてくれる‼︎

 さァ、始めようか⁉︎ 我と貴様の……最後の戦いを‼︎」

 

 そう言って、メランの背中に燃え上がる炎の翼を強く羽撃かせて、天へと舞い上がる。ガオパラディンも、それに続いた。

 

 

 二人の戦いは、空中戦へと移行していた。炎の翼にて飛び回り、ガオパラディンを翻弄しようとするメラン。しかし、ガオパラディンも同様に飛行し、逆にメランに追い付いていく。

 業を煮やしたメランは、二刀流にしたメラディウスを十字に斬り、十字型の炎の斬撃を放つ。しかし、ガオパラディンは其れを、ガオフェニックスの翼にて逆に弾いた。

 

「ほう? 中々、やりよるな……‼︎ ならば、これならどうかな⁉︎」

 

 メランは、そう言って自身の身体を炎に変えて、メランに突撃して来た。其れを躱したガオパラディンは、ユニコーンランスを直立させて翼を展開させると、身体をグルグルと回転させた。

 

「悪鬼炎滅! フェニックスリボルバー‼︎」

 

 高速で回転するガオパラディンは、そのまま燃え上がるメランに激突した。すると、メランの姿が露わになった。

 

「クックッ……貴様は不思議な奴よ、ガオゴールド……‼︎ 何度、打ち倒そうとも、圧倒的な力を見せつけても、貴様は何度も我に挑んで来る……‼︎ ならば‼︎ 我も、それ以上の力を見せつけなくてはなるまい‼︎」

 

 そう言って、メランは両手のメラディウスを燃え上がらせて、先程に披露した煉獄豪剣と同等の大剣を両手に装備した。

 

「さァ、見せてみろ‼︎ 貴様の力が、このメランより上だと言うならば‼︎ その刃で、我の首を斬り落として見ろ‼︎」

 

 飽くまで、互角としての戦いを望むメラン。それに対して、ガオパラディンも応えた。

 ユニコーンランスに、ガオソウルを纏わせつつ巨大な光の刃とする。

 メランは空中より滑空してくると、二本のメラディウスを振り下ろして来た。ガオパラディンも光の刃をメランにぶつける。

 

「鳳凰一閃! エターナルブレイバー‼︎」

 

「煉獄豪剣・二式‼︎」

 

 鳳凰の一撃と煉獄の二撃による攻撃は、空間にてぶつかり合い、大きく衝撃を与えた。先程同様、拮抗した二つの攻撃は周囲に多大な影響を及ぼす。それは何より、ガオパラディンに搭乗しているガオゴールド、プラチナにも負荷が掛かった。

 

「クゥゥ……‼︎ 凄い反動が……‼︎」

 

 コクピットに縋りつきながら、ガオゴールドは何とか踏ん張っている状態だった。メランとの交戦により受けたダメージも重なり、ゴールドには攻撃を弾き返す力は、殆ど残されていない。

 其処へ、ガオプラチナが手を添えた。

 

「ぷ、プラチナ⁉︎」

「諦めないでよ、ゴールド‼︎ あんたが諦めたら……シルバーが命を投げ出した意味が無くなっちゃうんだよ⁉︎」

 

 その言葉に途切れそうになったゴールドの闘志に再び、火が点いた。

 そうだ……命を捨ててまで、未来に繋いでくれた大神月麿と言う男の犠牲を無駄にしてしまう。

 未来なんて、どうなるか分からない。自分が、ガオレンジャーとなる未来だって予測出来なかった未来だ。

 けど……果てしない未来より、明日を生きる人々の幸せを守るくらいの事は自分に出来る筈だ、とゴールドは考える。

 

「……ああ、そうだな……‼︎ 変えてやろう‼︎ オルグの支配する未来なんて……願い下げだァァァァッ!!!」

 

 ガオゴールドの魂の叫びが、コクピット内を通して、ガオの心臓たるソウルバードに充満し、ガオパラディンの全身へと行き渡る。

 すると、ガオパラディンの両眼は金色に輝く。すると、虹色を帯びた光の刃は益々、強大となって行った。

 バチバチッと火花を散らし、徐々にメラディウスを押していく。

 

「フッ……ハハハハ……‼︎ 見事だ、ガオゴールド……‼︎ これ程とは……‼︎ 矢張り、貴様は……‼︎」

 

 そう中途半端に切った時、メラディウスは木っ端微塵に砕け散り、エターナル・ブレイバーの斬撃が、メランの身体を包み込んだ……。

 

 

 

 ガオビルダー&ガオゴッドも、クリークオルグに梃子ずっている様子だった。何しろ、クリークオルグは全身が武器と言って差し支えない物で、長距離には両肩のバズーカや口内の火炎放射とマシンガン、近距離では両手のナックルダスターと両足のスタンガン、正に攻防と共に隙の無い強敵だ。

 しかし、近距離にて優れているのは、ガオビルダーも同じだ。何とか、敵の至近距離に近付ければ、渾身の一撃を打ち込めるのだが……。

 と、その時、ガオマスターの両手が分離した。

 

 〜神獣武装‼︎〜

 

 すると、彼の両腕は、ガオマンモスを武装したガオメガロドン、ガオスミロドンとなっていた。

 一時は、ガオマスターに力を貸していた彼等だが元々、彼等の本分は、ガオゴッドを司るガオレオン達と同様に、ゴッド・パワーアニマルの一種だった。

 

 〜誕生‼︎ 真・ガオゴッド〜

 

 右腕のノウズクレイモアを振り回し、左腕のタスクシールドを構えながら、ガオゴッドは高々に名乗り口上を上げた。

 

 〜ガオマンモス、ガオメガロドン、ガオスミロドンと言うゴッド・パワーアニマルを武装する事により、ガオゴッドは更に雄大かつ強大な百獣の神と成るのです〜

 

『ハッ‼︎ 小賢しい‼︎ なーにが、真・ガオゴッドだ‼︎ 先ずは、テメェから粉々にしてやるぜェェ!!!!!』

 

 そう叫んで、クリークオルグは両肩のバズーカを乱射して来た。しかし、ガオゴッドは、その砲撃を全て、長く伸ばしたノウズクレイモアにて弾き落としてしまう。

 業を煮やしたクリークオルグは右腕をマシンガンにして、ガオゴッドを狙い撃った。だが、今度はタスクシールドにてバリアーを展開させて、全ての弾を無力化、そのまま至近距離にワープして、クリークオルグの右腕を両断してしまった。

 

『ぬあァァァッ!!!??』

 

 腕を奪われたクリークオルグは酷く取り乱した。その隙を見逃さないガオゴッドは胸部にあるガオレオンの口を開いた。

 

 〜ゴッドハート‼︎〜

 

 神の怒りに等しい光線が、クリークオルグの身体に直撃し、その堅牢ない皮膚を破壊した。

 破壊された胸部には、肥大化したオルグの心臓とも言えるオルグシードが脈打っている。

 恐らくは、あれこそが、クリークオルグの弱点だ。

 

 〜今だ、ガオビルダー‼︎ その渾身の一撃を、叩き込め‼︎〜

 

 ガオマスターと、ガオゴッドの声が両方、シンクロする様に聞こえた。

 言われずもがな、ガオボアーから発したボアーキャプチャーで、クリークオルグを捉えた。

 

『は、離せッ!!!』

 

 クリークオルグは、光の拘束を切り離そうともがくが、ガオビルダーには離させるつもりは無い。

 

「戯けが‼︎ 逃がさんわい‼︎ ガオビルダー、一気に決めるぞ‼︎

 殴打粉砕! ストロングブレイク‼︎」

 

 ガオボアーの鼻な中に光の縄を伸縮して行きながら、ガオビルダー鼻左腕のガオリンクスを振り回して、近付いた瞬間に、クリークオルグの弱点であるオルグシードに強烈な一撃を叩き込んだ。

 

『ぬ…ぐ…がァァ……‼︎』

 

 クリークオルグの身体に電流が弾け、黒煙を上げ始めた。

 

『む、無条件……降伏だァ……! オルグ帝国……ばんざァァァァい‼︎」

 

 そう断末魔を上げて、クリークオルグは大爆発してしまった。残されたガオビルダー、ガオゴッドは高々に勝鬨を上げた。

 

 

 

 メランを下して、ガオパラディンは地上へと降りて来た。ガオゴールド、ガオプラチナも変身を解いて、ガオパラディンを見上げる。

 

「ありがとう、ガオパラディン‼︎ 勝てたのは、君達のお陰だ‼︎」

 

 陽の御礼に、ガオパラディンは言った。

 

 〜礼を言うならば、我々の方だ、陽……。お前達のお陰で、我々は再び地球を守る為に戦う事が出来る……〜

 

 今や、ガオパラディン達の陽に対する信頼は絶大なる物だった。

 と、その時、佐熊とガオマスター、風太郎も駆けてくる。

 

「やったのォ、陽‼︎」

 

 佐熊は強くなった陽を称賛した。しかし、今や一番、共に勝利を分かち合いたい仲間は、この場に居ない。

 

「……大神さん……‼︎」

 

 この勝利は大神が居なくては成し得ない物だった。彼が命を懸けて、時間を稼いでくれたからこそ、被害を最小限に抑える事が出来たのだ。

 その大神は、もう居ない。そんな重苦しい空気が辺りを支配した。

 

「くよくよしている場合では無い! 我々は、まだ尖兵を倒したに過ぎん‼︎ テンマとガオネメシス‼︎ 真に倒さなくてはならない奴は、まだ残っているぞ‼︎」

 

 ガオマスターの叱責を受けて、陽は我に返る。そうだ、本当に倒すべき敵はまだ居る。そいつらを倒さなくては……!

 と、考えている際に、陽達の前に現れる一人の影……。

 

「メラン⁉︎」

 

 それは、倒した筈のメランだった。しかし、既に虫の息となり、体躯も元の大きさとなっていた。

 

「此奴‼︎」

 

 佐熊は、メランが仕掛けて来たと思い身構えるが、ガオマスターが制した。

 

「待て! 陽に任せておけ!」

「しかし……‼︎」

「それに……奴は、もう虫の息だ……‼︎」

 

 ガオマスターは既に、メランが長く無い事を見抜いていた。その上で、陽の前に現れたのは、何か意味がある事を悟り、陽に対応を任せたのだ。

 

「ふ…フフフ…‼︎ 見事だ、ガオ…ゴールド…‼︎ よく、我を倒したな…‼︎」

 

 それは確かに、陽に対する称賛であった。自分を倒した敵を前にして、メランは笑っている。

 

「……我は……貴様を……‼︎」

「メラン‼︎」

 

 力尽き、倒れそうになったメランを、陽は支えた。それに対し、メランは不思議そうに目を丸くする。

 

「……何故だ? 我は……貴様にとって……敵では……無いのか?」

「……確かに、アンタは僕達にとって敵だ。けど……」

 

 どうして、倒れ伏しそうになったメランを庇ったのか、陽には分からない。分からないが……不思議と、メランに対する憎しみは無かった。

 それは、幾度と闘って来た彼に対し、奇妙な形だが友情に似た感情が芽生えたのか……それとも弱り切った彼に対し、同情したのか……。

 

「……甘いな……貴様は……。その様な甘さでは……テンマに……勝てぬぞ?」

「甘さが理由で、テンマに勝てないなら……非情にならなくちゃ、オルグを倒せないなら……僕は一生、敗者で良い……!」

 

 メランの言葉を、陽は真っ直ぐとした目で見つめながら言った。残った片目を細め、メランは、その目を見据える。

 

「全てを投げ捨てて、ただ一人の強者になる事なんて、無意味だ! 僕は、そんな強さなんか要らない‼︎ 誰かを守れるだけの……ほんの一握りだけの強さで良い‼︎ アンタみたいに、目に映る者を全て焼き捨てる強さは……僕は要らない‼︎」

「……クッ……勝者が敗者の全てを否定するか……それも良かろう……。所詮、この世は弱肉強食だ……弱き獣は強き獣に……肉を食われて皮を裂かれて……骨を砕かれる……。

 其処に善も悪も無い……。勝った者が善で、負けた者が悪……ただ、それだけだ……‼︎」

 

 飽くまで、己が貫いて来た持論を、メランは貫かんとした。それは、彼の最後にして精一杯の抵抗だった。例え、死しても敵に迎合する様な無様さは晒したく無かった……そんな彼の姿を見ながら、近付いて来るのは、テトムだ。とても悲しい目をしている。

 

「ガオの……巫女か……!」

「メラン……貴方は、自分の生き様が虚しく感じた事は無いの?」

 

 テトムは、疑問を投げ掛けた。多くのオルグは人間への支配、社会の破滅を好む。だが、メランは、ただただ自分の力を極める為に、その全てを犠牲にした。

 その先に、何も残らないと知りつつも……メランは、自身を強くする為に、敢えて修羅道を突き進んだ。

 そんな彼の生き様を、テトムは虚しいと感じた。

 

「……間も無く……死ぬ者に対し……下らぬ事を……聞くのだな……?」

 

 その発言に、テトムは激昂した。

 

「下るも下らないも無いわ‼︎ 貴方は命を懸けて散って行った大神月麿を負け犬と言った‼︎ なら、貴方の今の姿だって、余程の負け犬じゃ無い‼︎」

 

 彼女は許せなかった。命を投げ出してまで、仲間を守ろうとした彼を負け犬と嘲笑った彼の所業を……。それは彼同様、千年前の記憶を持つ彼女が嘲笑われたも同じだからだ。

 しかし、メランは、そんな彼女をクックッと笑った。

 

「何が可笑しいの⁉︎」

 

 笑われた事に、テトムはムキになって怒鳴る。

 

「……戦士の死に、悲しいだの、愛しいだのと私情を吐き散らすな、青臭い小娘が……! 奴が貴様に……仲間達に自分の死を嘆いてくれと……頼んだのか……? 苦しんでくれ……と頼んだのか?

 そうで無いなら……奴の死を侮辱しているのは貴様だ……ガオの巫女……! 戦士にとって……戦場が自分の棺桶となる事も……戦火にて荼毘に付される覚悟も……とうに出来ている……。戦士の死に、一雫の涙も……一言の後悔も垂れ流す事は……その者への侮辱でしか……無い……。戦士に寄り添う者なら……命を賭けた者を魂に刻み、忘れぬ事……それが、戦士への最大の……手向けだ……」

 

 メランの言葉は、テトムだけでは無い、その場に居た戦士達全員に届いた。すると、メランはゲホッと咳き込み、口から緑色の血を吐いた。

 

「……フ……どうやら、我も……これ迄の様だ……な……! ガオゴールド……貴様は言ったな……? 甘さを捨てず、非情にならずに……戦い抜く……と……! ならば……その意思を……貫いて見せろ……!

 オルグの支配する未来を……貴様の手で……甘い考えで……変えて見せろ……‼︎」

「言われる迄も無いさ……! 僕は必ず……自分達の生きていく明日を変えてやるよ……‼︎」

 

 何故か、陽はメランに対し、涙を流していた。だが、それは決して彼の死を悲しいからでは無いし、悔いている訳では無い……。

 どんな形であったとしても、自分を認めた者の死を見届ける事に対し、知らぬ間に涙が流れたのだ。

 だが、メランは急に、オルグには似つかわしく無い優しい笑みを浮かべる。

 

「……貴様に……最後に良い事を教えて……やる……。我を倒した褒美だ……! テンマを倒すなら……囚われている、ガオレッド達の力を借りろ……! 奴等の封印は……我が外してある……! 後は貴様……次第だ……‼︎」

「⁉︎ どう言う意味だ⁉︎」

「……答えは……貴様の目で……確かめるのだな……!

 さ……さらば……だ……! 我が好敵手(とも)……竜崎……陽よ……!」

 

 最後の最後に絞り出した言葉は、自分と最高の戦いを繰り広げてくれた陽への感謝、更には彼を『ガオゴールド』では無く、『竜崎陽』と名前で呼んだ。それは彼なりの礼儀だったのか、それとも単に言っただけか……泡となって消えた今となっては確かめる術はない……。

 

「……最初は単なる敵だった……他のオルグ同様の……。けど、何度か戦い刃を交える内に……何時しか、互いに無視できない存在となっていた……。不思議だよな……メランは今でも敵だし、考え方も相容れないと分かっているのに……」

 

 陽は、メランの存在があったから、自分は此処まで来られた、と思うまでなっていた。あらゆる面で、メランに対する対抗意識が自分を強くさせ、時にはメラン自らが剣を取り、指導してくれた事もあった……。

 そう考えれば、メランは単なる敵とも宿敵とも違う、紛れも無い『好敵手(ライバル)』だった……。

 

「行こう、皆……鬼ヶ島へ……‼︎」

 

 陽は振り返る。佐熊、美羽、ガオマスター、テトム……仲間達が、自分には居る……。どんな時も彼等が居るから……自分は戦える……!

 陽の言葉に佐熊、美羽、マスターは頷く。テトムは、ガオズロックを指差す。

 

「乗って、皆! これを最後の戦いとするわよ! 」

 

 テトムの言葉に、陽は決めた。必ず、テンマを……そして、ガオネメシスを阻止して見せると……‼︎

 

 

 

 オルグリウムでは、テンマがとある一室に来ていた。其処には、ガオレッド達を封じ込めた水晶が安置され、巨大な装置と繋がれている。

 其処には魔女の様な漆黒の衣装を身に纏った摩魅が居た。その表情は一切の感情も無い。

 

「……テンマ様……先遣隊は全て全滅、更には最後の四鬼士、焔のメラン様も戦死された、と……」

「ふん……今や、テンマの一人や二人など、さしたる問題では無い……余の気にしているのは、鬼還りの儀が取り行われたにかかわらず、鬼地獄の鬼門が開かれぬ事だ……。

 ……どうやら、ガオレッド達の邪魔があった様だな……‼︎」

 

 テンマは憎々しげに、ガオレッド達を見据える。水晶に閉じ込められた彼等は何も言わない。その代わり、このオルグリウムと連結させて、鬼地獄の鬼門を開く為に利用せんとしたが……それが仇となったか……。

 

「まァ良い……そんな悪足掻きも、これ迄だ……‼︎ 余が自ら、鬼地獄の扉を開いてくれる‼︎」

 

 そう言って、テンマは修羅怨鬼剣を手に取る。と、同時に気配を感じた。

 

「……何者かの侵入を許した様だ……」

「ガオレンジャーですか?」

「違う……ガオレンジャーなら、馬鹿正直に正面から乗り込んでくる筈……。此奴等は、裏の道から入ってきおった……‼︎

 丁度良い……鬼還りの儀の生贄として用いさせて貰う迄よ……‼︎ ゴズとメズを投入しろ‼︎」

「……はい……」

 

 テンマが命令を出すと、摩魅は黙々と従った。だが、テンマが部屋から出て行った後、摩魅は一人、涙を流した……。

 

 

 〜メラン、クリークオルグを退け、遂にオルグリウムへの侵攻を決めたガオレンジャー達‼︎ しかし、テンマには彼を迎え撃つ準備は万端の様子でした‼︎ 果たして、摩魅の涙の真意は⁉︎〜




ーオリジナルオルグ
 −焔のメラン
 四鬼士、最後の刺客にして、ガオゴールド最大の好敵手。炎を操り、炎の剣メラディウスを用いた剣技を得意とする。

 −クリークオルグ
 火炎放射器オルグ、メリケンオルグ、スタンガンオルグを素体に、機関銃オルグ、手榴弾オルグ、バズーカオルグの骸を取り込んで誕生した合体オルグ魔人。
 単純な戦闘力だけなら、ハイネスと同格。


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quest54 鬼灯の花の下… 前編

※重ね重ね、投稿が遅れてしまい、申し訳ありません‼︎
体調を崩して、完成が今日になってしまいました‼︎


 鬼ヶ島の最深部に設けられた一室……其処に祈は閉じ込められていた。外部からの接触は無し、オマケに外から鍵が掛けられている。

 目を覚ませば、こんな場所に閉じ込められて、外に出る術も無い……しかし、黙って閉じ込められている様な、祈では無い。

 外を覗けば、見張り役にオルゲットが一体……あれさえ何とかすれば逃げられる……。しかし、問題はどうやって奴の注意を引くか、だ……。

 オルグと関わりを持つ内に、祈も随分と積極的になったものだ、と考えてしまう。

 ……等と考えていると、祈の頭に良いアイデアが浮かんだ。態々、外に聞こえる様に祈は叫んだ。

 

「出して! 此処から出しなさい‼︎」

 

 大きな声で叫ぶ。すると、オルゲットの扉に備え付けられた小窓から覗き込む。

 

「オルゲット‼︎」

 

 うるさい、と言う具合に、オルゲットは祈を怒鳴った。しかし、祈は尚も怒鳴り続ける。

 

「だったら、私を此処から出して‼︎ さも無いと、このナイフで首を切り裂いて死んじゃうからね‼︎」

 

 病院で、陽の為にリンゴを剥いた際に使った果物ナイフを首筋に突き付ける祈。単純なオルゲットは、それだけで慌て始めた。

 

 見張っている人間に死なれては拙い、と足りない頭を捻り出して考えたらしい……。慌てて鍵をガチャガチャと取り出し始める。

 上手くいった、と密かに北叟笑んだ祈は、出口と扉の間にある死角に入り込んだ。慌てたオルゲットが入ってきたが、祈の姿が居ない事に気付いて、キョロキョロと探し始める。祈は、その際に扉をゆっくりと押して行き姿を現し、手にはナイフに代わりに手に入れたばかりの鉄パイプ状の機器を握りしめ……オルゲットの頭を殴り飛ばした。

 オルゲットは暫く頭を押さえ、のたうち回っていたが、やがて動かなくなった。

 

「ごめんなさい!」

 

 オルゲットとは言え、人の頭を殴り飛ばすと言う乱暴なやり方をして、祈は謝罪する。

 そして開け放しになった扉から抜け出した。外に出れば、何とかなるだろう。それに、陽がきっと助けに来てくれる筈だ……。

 と、その時、気絶したオルゲットが、意識を取り戻して祈を後ろから捕まえた。

 

「ゲットゲット‼︎」

「離して‼︎」

 

 祈は、オルゲットの手を外そうと、もがく。すると、祈の手がオルゲットの腕を掴み、オルゲットの腕が焼け爛れる。

 

「げ、ゲットォォォォ!!??」

 

 オルゲットは奇声を上げながら手を離した。今のうちに、祈は走り出した。しかし、オルゲットは残った腕で壁に備え付けられたスイッチを押した。

 すると、廊下全体が赤く点滅した。

 

「た、大変!」

 

 危機を覚えた祈は走り出す。すると、前方から複数人のオルゲットが棍棒を持って迫ってきた。

 来た道をバックし、走ろうとすれば突き当たりの廊下から、別働隊のオルゲットがやってくる音がした。完全に袋の鼠である。

 

「ど、どうしよう……‼︎」

 

 進んでも戻っても、逃げ場は無い。と、その時、誰かが祈の口を押さえた。

 

「う⁉︎ うゥゥゥ!!!」

 

 捕まった、と祈は思った。それでも、ジタバタとして逃げようとするが……

 

「静かに」

 

 と、声がする。祈は顔を見ると、それは鬼灯隊のリクだった。

 

「捕まりたく無いなら、大人しくして」

 

 リクは淡々と言った。観念して、祈は抵抗を止めた。すると、リクは壁に近付く。すると、壁が液体の様になって、二人を包み込んだ。

 それと同時に、オルゲットはやってきたが、姿を消した祈を探して、あたふたしている。

 

「……1分だけ息を止めて」  

 

 リクの言葉に呼吸を遮断した。目の前では、オルゲット達が場所を間違えたかも知れない、と言わんばかりに、来た道を逆走して探しに行った。

 そうして、漸くリクは壁から抜け出て、祈から手を離した。 

 

「ぷはァッ!!!」

 

 新鮮な空気を吸う為、祈は深呼吸した。リクは変わらずに、淡々としている。

 

「なんで、助けてくれたの?」

 

 祈は、リクを振り返って尋ねる。しかし、リクは素っ気なく……

 

「……黙って付いてきて」

 

 と、言って歩き出した。彼女も、オルグであり一度、命を狙われた事がある。信用出来た試しは無いが……今は、彼女の言葉を信じるしか無い。祈は、リクに付いて行った……。

 

 

 その頃、オルグリウムの排水路に走る五つの影……。   

 

「おい⁉︎ なんで、こんな所から侵入するんだよ⁉︎」

 

 一番、後ろを走るヤバイバが先頭のホムラに尋ねた。

 

「我々は今、オルグ達から叛逆した身だ‼︎ この場所なら、気付かれる恐れも無いからな‼︎」

 

 ホムラの言葉に対して、ライも眉をひそめる。

 

「けど、匂いがキツいで‼︎ 鼻が曲がりそうや‼︎」

 

 排水路内は異常な悪臭に満ちていた。ミナモは足元を見ると、腐敗したオルゲットやオルグ魔人の亡骸が散乱している事に、不快げに顔を顰めた。  

 

「これが原因で、ございましょうか?」

「何だって、こんなもんが捨てられてんだ⁉︎」

 

 コノハが苛々しながら、ホムラに聞いた。

 

「恐らく、鬼ヶ島を浮かべる為のエネルギーにされたオルグ達の成れの果てだろう……。鬼ヶ島全体を城塞とした際、オルグの邪気をエネルギーとして吸収する、と親方様が仰っていた……。

 後は、ニーコやガオネメシスの玩具にされたか……‼︎」

 

 脱退したとは言え、同族が使い捨ての消耗品として扱われている事実にホムラは憤りを感じた。

 それは、ヤバイバも一緒だ。ツエツエも自分も、オルグの未来の為にガオレンジャーと戦って来たのだ。それを、利用するだけ利用したら、まるでボロ切れを捨てるかの様に、あっさりと捨てられた……。

 今の、ヤバイバの胸中は、テンマやガオネメシスへの憎しみに満ちていた。ある意味では、ガオレンジャー以上の仇敵であると言っても過言では無いくらいだ。

 

「おい! そろそろ、教えろよ‼︎ お前等、言ってたよな? ガオネメシスの弱点を突き止めたってよ‼︎」

 

 そもそも、ヤバイバが彼女達と手を組んだ理由はそれだ。ガオネメシスには騙されて利用された挙句、散々、痛めつけられた挙句、ツノをへし折られると言う仕打ちを受けたのだ。

 奴だけは、ズタズタに引き裂いても足らない程の借りがある。

 

「そうやな……もう逃げる恐れは無さそうやしな……。ホムラ、話したりや」

 

 ライは、ホムラに促す。彼女も振り返りつつ、頷く。

 

「……ガオネメシスの弱点を突き止めた、と言う話はしただろう? 奴の身体は、既に限界が来ているのだ……」

「限界?」

 

 ホムラの発言に、ヤバイバが聞いた。今度はミナモが話し始める。

 

「彼は元々、人間だった……しかし、その状態で高密度の邪気を肉体に注ぎ込む事は、彼自身の身体を蝕む事になるので、ございます…」

「ま、要するに……容量の小さい水瓶の中に、強引に水を流し込む様なもんや。そんな事すれば、水瓶は割れてしまう……今の、ガオネメシスは劣化寸前の肉体を、ガオネメシスと言う鎧で辛うじて抑え込んで居るに過ぎん、ちゅう訳や」

 

 ライも説明するが、ヤバイバには理解が追いつかない。

 

「……つまり、どう言う事だ?」

「鈍い奴っちゃなァァ……だから、ガオネメシスのスーツを破壊してしまえば、無理矢理に抑え付けている奴の身体は崩壊してまう、て寸法や」

「それは分かる! 俺が言いたいのは……どうやって、ガオネメシスのスーツを破壊するんだ、って事だよ‼︎」

「せっかちな方で、ございますね……その為に、貴方を連れて来たので、ございます……」

 

 そう言うと、ミナモは背中に背負って来た袋から一振りの刀を取り出した。厳重に鎖で縛り上げられ、抜けない様になっている。

 

「こ、コイツは……‼︎」

「覚えがある筈だ……。かつて、ヒヤータが自身の計略の為に使った刀……妖刀・魏羅鮫だ」

 

 ヤバイバは、この刀をよく知っている……。かつて、狂気の剣豪、霧雨武獰斎が腰に差し、数多の人間を斬り捨てた人斬り刀……彼の死後も、名高い剣豪の手に渡り、その刃に斬った者達の血を浴び続ける内に、刀に込められた怨念が邪気化、遂にはオルグとなって動き出すに至った血塗られた妖刀、銘を魏羅鮫……。

 しかし、これは……。

 

「コイツは、ガオレンジャーとの戦いで、ぶっ壊れた筈だぜ⁉︎ なんで、元通りに⁉︎」

 

 ヤバイバが驚くのも無理はない。この魏羅鮫、ガオゴールドを追い詰める作戦にて用いられ、邪気を解放後は魏羅鮫オルグと化したが、ガオゴールドによって破壊され、再起不能となった筈だ。

 それに対して、ホムラはニヤリと笑う。

 

「私達を誰だと思っている? ヤミヤミ様の下で忍術を修行したオルグくノ一、鬼灯隊だ。我々の力を結集すれば、魏羅鮫を元の状態へ修復する事など、容易いものだ」

 

 ホムラの言葉に、ヤバイバは魏羅鮫を持ち上げる。鎖で厳重な固定された鞘だが、その隙間から禍々しい気が漏れ出て来る。

 

「それで、コイツをどうすれば良いんだよ?」

「魏羅鮫は邪気を込めれば込める程、切れ味を増す。刀の状態で、持ち手の邪気の全てを込めて、敵を斬れば万物を破壊する大太刀となる…。

 ガオネメシスと対峙する際、我々が封印を解く。その隙に、お前が魏羅鮫で……ガオネメシスを斬れ‼︎」

 

 ホムラは魏羅鮫を指して言った。確かに、魏羅鮫の力が有れば、ガオネメシスのスーツを破壊する事が出来るかも知れない。

 

「しかし……ガオネメシスを斬り付ける迄、奴が待ってくれるか⁉︎」

「心配するな……“保険”も掛けてある……」

「保険?」

 

 と、ヤバイバが言うと、リクが現れた。

 

「……戻った……」

「リクか……連れて来たのか?」

「問題無い…」

 

 リクが後ろを振り返ると、祈が驚きながら、こちらを見ている。

 

「この女は……ガオゴールドの妹じゃねェか⁉︎」

「だ、誰?」

 

 互いに面識の無い二人は驚愕した。ヤバイバは彼女を知っているが、祈は彼と直接に対話した事は無いから、当然である。

 

「おい‼ こいつが、保険かよ?」

 

 ヤバイバは、ホムラを振り返りながら聞いた。すると、ホムラは……

 

「これで役者は揃った。後は、テンマ達の居る島中央の砦へと向かう‼︎」

 

 と、力強く言った。

 

「だが、その前に……‼︎」

 

 

 

 ガオズロックは高く飛翔し、何時しか雲の上まで来ていた。辺りを見回すと、見れば見る程に純白の海だった。

 陽は、窓の外を見て驚く。

 

「こんな場所に、オルグ達の本拠地が⁉︎」

 

 雲の上、即ち天上に鬼であるオルグ達が本拠を構える、とは何とも皮肉無い話だ。テトムは頷く。

 

「良い? これは最後の戦いになるわ‼︎ 貴方達が、オルグに負ければ、その時は世界に希望は無い‼︎ 敗北は許されないわよ‼︎」

 

 いつになく、シリアスな口調で話すテトム。陽、佐熊、美羽は頷いた。

 

「ああ‼︎ 必ず、祈を助け出す‼︎」

 

 鬼ヶ島には祈が捕まっている。彼女を助け出すのが、一番の目的だ。そして何より……仇を討たなければならないからだ。

 

「月麿の無念を晴らしてやらなくちゃいかんのォ…‼︎」

 

 戦士として戦い、その使命の下に殉じた大神月麿……彼が命を投げ出して未来へと繋いだ、オルグ打倒のチャンスを決して無駄には出来ない……。

 

「岳叔父さん…」

 

 鬼ヶ島に捕まっているのは、先代のガオレンジャー達……美羽にとっては叔父である鷲尾岳も居る。

 彼等を助け出す事……それが、テンマを倒す条件であると、メランは語った。

 いよいよ、戦いの瞬間は近づいて来る。陽達は、そう意を決した時……。

 

「おーーい‼︎ 何か見えて来たぜ‼︎」

 

 猛が叫ぶ。陽達は前方から前を覗き込むと……

 

「…あれが…‼︎」

 

 前方に迫るのは禍々しい姿をした島が浮いていた。しかし、島には植物一つ生い茂ってい無い。

 代わりに錆び付いた鉄骨の様な木が、地面から突き出している。辺りには大小の石が無造作に散乱し、まるで地獄の賽の河原の様だ。

 

「……鬼ヶ島……‼︎」

 

 その全景に陽は絶句した。想像を上回る禍々しさと邪悪な姿だ。 

 

「テトム、着陸出来そうか?」

 

 陽は、一刻も早く上陸しようとするが、テトムは難しそうだ。

 

「島ギリギリの所で滑空するわ‼︎ 後は貴方達が乗り込んで‼︎ 私達は、ガオズロックを確保する為にも空中で待機しておく‼︎」

「了解‼︎ 僕達は歩いて行くよ‼︎」

 

 テトムに返事しながら答える。すると、島の中央を見ていた佐熊は多数のオルゲット達が待ち構えているのが見えた。

 

「走る、の間違いじゃ無いか?」 

「その方が良いね…」

 

 覗き込んだ美羽も同意した。どうやら、オルグ達は歓迎する準備万端らしい。

 陽は佐熊、美羽と共に配置へと向かった。其処へ、猛達が駆け寄って来る。

 

「済まねェ、俺達には…‼︎」

「分かってるよ、猛…。皆は此処にいてくれ! 戦いは僕達に任せろ!」

「……死ぬなよ、陽……」

 

 昇が不安そうに言った。猛は青ざめながら…

 

「これから戦いに出る奴に、縁起でも無い事を言うなよ‼︎」

 

 と、突っ込んだ。

 

「心配してるんだろ⁉︎ 俺達には何も出来ないから……陽の無事を祈る事しか出来ない……‼︎」

 

 昇は歯痒そうに言った。確かに無事に帰って来れる保証は無い。けど、陽は笑顔で……

 

「必ず戻るよ! 祈を連れて‼︎」

 

 と、サムズアップをして見せた。舞花と千鶴も涙を浮かべながら…

 

「……祈を連れ去った奴等を……絶対絶対、やっつけてね‼︎」

「……祈先輩を、お願いします……! お兄さん……‼︎」

 

 と、頼んできた。陽は二人の頭を軽く撫でる。そして……

 

「行くぞ‼︎」

 

 と、陽は走り出す。其れに従い、佐熊と美羽も続いた。テトムは走り去る三人の後ろで祈りを捧げた。

 

「…おばあちゃん…皆を守って…‼︎」

 

 

 オルグリウムの地面ギリギリの高さまで、ガオズロックは滑空した所に、陽達は飛び降りる。降りる最中、G -ブレスフォンを起動させた。

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 ガオスーツを身に纏いながら、大地に着地する。降り立てば、改めて禍々しい雰囲気が突き刺さって来る。

 

「嫌な空気だ…‼︎」

 

 ガオゴールドは、その雰囲気に苦言を漏らす。と、其処へ、オルゲット達が迫って来た。

 

「凄い数じゃのォ…‼︎」

 

 そう言いながら、ガオグレーはグリズリーハンマーを構える。

 

「ねェ、ガオマスターは?」

 

 ガオプラチナは、ガオマスターが合流していない事を指摘した。彼は、ガオズロックでは無く、別方面から風太郎と共に侵入すると単独行動に入ったのだ。

 

「待ってられない‼︎ 僕達だけで行こう‼︎」

「よっしゃ‼︎」

「了解‼︎」

 

 オルゲット達の数は、かなり多い。彼等は、ガオマスターの到着を待ってくれなさそうだ。ゴールドも、ソルサモナードラグーンを構え走る。プラチナも、フェニックスアローを構えた。

 オルゲット達は一斉に飛び掛かってきた。

 

「竜翼…日輪斬り!!!」

 

 ソルサモナードラグーンから放たれた金色の斬撃が、オルゲット達を吹き飛ばして行った。しかし、今度は左右から奇襲を仕掛けて来るオルゲット二体。

 ガオプラチナが、フェニックスアローに光の矢を番え、オルゲットを射抜いて行く。

 すると地面から、オルゲットが棍棒を武器に、ガオゴールドに襲い掛かって来た。ゴールドは、ソルサモナードラグーンで剣を受け止めて、斬り捨てる。

 極めては更に一丸となったオルゲットの大群が、進撃して来た。

 

「今度は、ワシの番じゃァァ!!! 破邪…剛力衝!!!」

 

 ガオグレーが、グリズリーハンマーを振り下ろし、衝撃波を引き起こした。その衝撃で、オルゲット達は全員、吹き飛ばされて行った。

 

「くそッ‼︎ これじゃァ、キリが無い‼︎」

 

 ガオゴールドは、毒吐く。雑魚とは言え、こんな多量人数で攻めて来られては、一向に進めない。

 と考えていると、オルゲット達を掻き分けて、軍服を着込んだ一本角のオルグが現れた。

 

「ハハハハァ‼︎ のこのこ、やって来たな‼︎ 間抜けなガオレンジャー共‼︎ だが、残念な事に、貴様等はテンマ様の下へは行けん‼︎

 何故なら此処で、お前等は俺に殺されるからな‼︎ このデュークオルグ、鬼軍曹サジェンになァ‼︎

 ほら、いつ迄、寝ている! 下等で愚劣なオルゲット共! 貴様等は、その命を弾丸に、その身を盾にして、憎きガオレン共をぶち殺せェェ‼︎」

 

 デュークオルグ、サジェンは鞭を振り上げて、オルゲット達をしばき上げる。すると、倒れていたオルゲット達は活を入れて、ガオレンジャー達に向かって来た。

 

「な、何じゃ⁉︎ あんな、オルグが居たのか⁉︎」

 

 突然、現れたオルグ魔人の登場に、ガオグレーは驚愕する。ガオプラチナは、オルゲット達を焚き付けるサジェンを仕留めようと、フェニックスアローを番え様としたが突如、彼女を遠距離から攻撃して来た。

 

「な、何⁉︎」

「狙撃手は、お前だけじゃ無いぞ、ガオプラチナ‼︎」

 

 同じく軍服を着込んだカメレオンに似た一本角オルグが右手と同化した狙撃用ライフルを構えていた。

 

「私は、デュークオルグ、鬼狙撃手ズナイパ‼︎ 姿を消して、貴様等を蜂の巣にしてくれるわ‼︎」

 

 そう言うと、デュークオルグ・ズナイパは姿を消して、狙撃して来る。これでは下手に動く事も出来ない。

 

「ハハハハァ‼︎ いいぞ、いいぞ‼︎ ガオレンの豚共を追い込め‼︎ そして、擦り潰して、五臓六腑をズタズタに引き摺り出してやれェい‼︎」

 

 罵声と怒声で喚き散らしながら、サジェンは命令する。動けば、ズナイパの狙撃に狙われてしまうし、動かないでいれば、オルゲット達の格好の餌食だ。

 

「くそッ‼︎ こんな大胆な待ち伏せを仕掛けて来るとは……‼︎ それに、未だにこれ程の戦力が残っていたのは、計算外じゃわい‼︎」

 

 地上に進出して来たオルグ達や、メランだけでは少ないと思っていたが、自分達がオルグリウムに乗り込んで来る事を見通して、兵力を分散させていたのだ……ガオグレーは改めて、テンマの策謀に舌を巻く。 

 

「どうする、ゴールド‼︎ 一旦、ガオズロックに戻って作戦を立て直す⁉︎」

「いや……それも出来そうに無い……‼︎」

 

 ガオゴールドは天を見上げる。すると、ガオズロックを撃ち落とそうと、オルグリウムの砦から砲門が狙いを定めていた。

 

「今、ガオズロックが降りて来たら、間違い無く撃ち落とされてしまう‼︎ 僕達は、乗り込んだと見せかけて、誘い込まれていたんだ‼︎」

 

 ガオゴールドは漸く、自分達が罠に嵌められた事に気付いた。しかし、時既に遅く、オルゲット達が自分達の周りを取り囲んでいた。

 

「ハハハハ‼︎ 奴等は袋の鼠だ‼︎ オルゲット共! ガオレンジャーを嬲り殺せェェ‼︎」

 

 サジェンの命令で、オルゲット達がズンズンと迫って来る。更には、ズナイパの遠距離からの狙撃もあり、迂闊に反撃出来ない。

 

「こうなったら……パワーアニマル達を召喚して、強行突破するしか‼︎」

 

 ガオグレーの提案は理に適っていた。パワーアニマル達ならば、オルゲット達など、いとも簡単に蹴散らしてしまうだろう。だが、ゴールドには、其れが出来ない理由があった。

 

「駄目だ‼︎ ガオドラゴン達は、さっきのメランとの戦いで疲弊し切っている‼︎ テンマとの戦いまでは、何とか休ませないと‼︎」

「ぬゥ……それを言うなら、ガオグリズリー達も疲れとる‼︎ くそ……シルバーが居れば……‼︎」

 

 ガオグレーは悔しげに唸る。この場に、ガオシルバーが居れば、彼のパワーアニマル達が力となってくれただろう……。しかし、ガオシルバーは、もう居ない。万策尽きたか、と思ったが……。

 突然、ガオプラチナが叫んだ、

 

「ゴールド‼︎ あったじゃ無い‼︎ シルバーの遺した、最後の手段が‼︎」

 

 プラチナの言葉に、ゴールドの頭に光明が差した。

 

「そうか、その手があったか‼︎」

 

「何を、グズグズ言っとるか‼︎ オルゲット共、掛かれェい!!!」

 

 焦れたサジェンは、オルゲット達に突撃を指示した。その瞬間、ゴールドは、ソルサモナードラグーンに宝珠を装填する。

 

「百獣召喚‼︎」

 

 その言葉と共に撃ち上げられた宝珠に導かれ姿を現すのは、ガオシルバーのパートナーである漆黒の狼ガオハウル、黒金の大鰐ガオダイル、白黒の鯨ガオグランパスが召喚された。

 ガオハウルは大地を駆け抜け、オルゲット達を蹴散らして行く。更に、ガオダイルは大口を開けて、巨大は水弾でオルゲットを洗い流し、ガオグランパスは、その水流を泳ぎつつ、溺れるオルゲット達を飲み込んだ。

 

「な、何をやっとる! 役立たずのウスノロ共め‼︎ 早く、ガオレンジャーを倒せ! 倒さんか、間抜け共‼︎」

 

 戦況をひっくり返されたサジェンは慌てふためきながら、怒鳴り散らすが、オルゲット達は皆、倒されてしまった。

 

「ええい‼︎ かくなる上は……! ズナイパ‼︎」

 

 サジェンは姿を消しているズナイパに呼び掛ける。すると、ズナイパは姿を現す。

 

「オルグシード抽出液だ‼︎」

「……了解‼︎」

 

 命令されるがまま、ズナイパはオルグシード抽出液を首に注射した。すると、ズナイパは巨大化して行き、巨大オルグ魔人と化す。

 

「ケヘヘェ‼︎ 全員、ぶち抜いてやる」

 

 若干、破綻した様な口調で、ズナイパは叫び、ガオハウル達を狙撃した。その衝撃は、ガオハウル達を吹き飛ばす。

 

「ケヘヘケヘヘ‼︎ パワーアニマル狩りだァァ‼︎」

 

 愉快そうに笑うズナイパ。しかし、ガオハウル達も負けては居ない。ガオゴールドの指示を聞く事なく、百獣合体してガオアキレスへと変形した。

 ガオアキレスは、オルカブレードを手に、ズナイパに攻撃する。しかし、身体を景色と同化させたズナイパは姿を消す。

 だが、ガオアキレスは姿を消した、ズナイパの匂いを感じ取っていた。後ろに回り込んで、不意打ちから狙撃しようとしたズナイパに……

 

「ガオアキレス‼︎ 後ろだ‼︎」

 

 思わず、ガオゴールドは叫ぶ。しかし、その言葉を必要がない、と言わんばかりに、ガオアキレスは振り返り様に、オルカブレードで一閃した。

 

「ゲ…ヘェェ……‼︎」

 

 腹部を斬りつけられ、大きく揺らぐズナイパ。其処へ、ガオアキレスは高々と飛び上がり、ズナイパを頭から斬り下ろした。

 ズナイパは真っ二つに裂かれ、そのまま地面へと倒れ伏して爆発した。

 

「ああ‼︎ 何をやっとるんだ、間抜けめが‼︎ このクズ! ゴミクズ‼︎」

 

 サジェンは怒鳴り散らしながら喚く。だが、その隙に、ガオゴールドが眼前に迫っていた。

 

「後は、お前だけだ…!」

「あ、あ…あ…‼︎」

 

 追い詰められたサジェンは、さっき迄の勢いは何処にやら、震え始める。しかし、腐ってもデュークオルグ、サジェンは鞭を振り上げて、ガオゴールドに先制を仕掛けた。

 

「死ねェェ、ガオレンジャー‼︎」

「お前がな」

 

 ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンを横に振るう。伸びて来た鞭と共に、サジェンの胴体を真っ二つに切断した。

 

「が…はァァァ……‼︎ お…オルグ帝国……バンザーイ‼︎」

 

 呆気なく敗北したサジェンは、オルグの賛辞を叫びながら、泡となって消えて行った。

 

「……下衆め……‼︎」

 

 部下を道具の様に扱い、敗北した部下を労う所か、自分の無能さを棚に上げて罵声する始末……。まだ、ツエツエやヤバイバの方がマシなくらいの下劣な敵に対し、ガオゴールドは侮蔑を隠さずに、冷ややかに吐き捨てた。

 敵は消えた、後は向かうだけだ……ガオゴールドは、仲間達に振り返る。

 

「よし……行こう‼︎」

 

 仲間達に促し、砦へ向かおうとしたが……。

 

 

「これ以上は向かわせんぞ、ガオレンジャー‼︎」

 

 

 突如、響き渡る声に、ガオゴールド達は見回す。すると、上から降り立つ五人の影……。

 

「紅の忍……ホムラ‼︎」

 

「蒼の忍……ミナモ…で、ございます‼︎」

 

「黄の忍……ライや‼︎」

 

「緑の忍……コノハだぜ‼︎」

 

「紫の忍……リク……」

 

 

「闇に紛れて、人を斬る‼︎

 オルグ忍軍、鬼灯隊 見参‼︎」

 

 姿を見て現したのは、鬼灯隊の面々だった。ガオゴールドは、身構える。

 

「テンマの命令で、待ち構えていたのか⁉︎」

「違うな……。我々、鬼灯隊は、オルグ軍から脱退した……我々の目的は、テンマとガオネメシスの首を取る事だ‼︎」

「要するにや……あんた等の、出る幕は無いっちゅうこっちゃ‼︎ ウチ等は、ガオネメシスの弱点を掴んどるしな‼︎」

 

 ホムラとライが応える。ガオグレーは気になり…

 

「ガオネメシスの弱点じゃと? それは何じゃ?」

「秘密…で、ございます」

 

 と言う、ミナモの返事が返ってきた。今度は、コノハが食って掛かって来た。

 

「そんな事は、どうだって良いんだよ‼︎ あたい等が来たのはな……テメェ達への復讐だ‼︎」

「復讐?」

「忘れた、とは言わせん! よくも、私達の頭領を殺してくれたな‼︎」

 

 ホムラは殺気を滲ませながら、叫ぶ。

 

「頭領……ヤミヤミの事か?」

「他に誰が居る⁉︎ 」

 

 彼女達は、テンマやガオネメシスへの復讐よりも、ヤミヤミを殺したガオレンジャーへの怒りが爆発したのだ。

 

「それは、お前達が、鬼還りの儀を行おうとしたからじゃ‼︎ 逆恨みも甚だしい‼︎」

「ウルセェ‼︎ アタイ等にとって、親方様は掛け替えの無い親も同然なんだ‼︎ 親方様を利用したテンマやガオネメシスも許せねェけどな……親方様を殺した、テメェ等は八つ裂きにしても足りないくらい、許せねェ‼︎」

 

 ガオグレーの反論に対し、コノハは激昂しながら叫んだ。

 

「……混血鬼の私も、親方様は育ててくれた……‼︎ 親方様を殺した、お前達も殺す…‼︎」

 

 リクは無表情な顔に明確な殺意が表れていた。

 

「感情論で動くのは忍びとして、あるまじき姿……けど、私達には、貴方がたの首を取る以外、親方様への恩義に報いる術を知らない、でございます……‼︎」

 

 ミナモも冷徹ながら、ガオレンジャーに対しての怒りを見せる。

 

「……お互い……引けないな……‼︎」

 

 ガオゴールドは諦めた様に項垂れる。共通の敵を見出せば、彼女達とも分かり合えると、そう思えた。

 だが、ガオレンジャーとオルグ……水と油が混ざり合わない様に、決して相容れぬ関係にある以上、自分達には戦いしか道が無い……。

 

「…我々は所詮、闇にひっそりと種付き、実を結ばずに散っていくだけの徒花……ならば、せめて最期は……貴様等の血潮を浴び……我々は、紅く燃ゆる鬼灯を咲かそう……‼︎」

 

 そう言って、ホムラは忍刀を構える。それに倣い、他の鬼灯隊も得物を構えた。

 ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンを構え、彼女達に向ける。その刃は、何処か悲しげには輝いていた……。

 

 

 〜鬼ヶ島に潜入した、ガオレンジャーを前に立ちはだかるのは、オルグ忍軍の生き残り、鬼灯隊‼︎

 互いに引けぬ信念の下、最後の戦いを幕を開けました‼︎〜




ーオリジナルオルグー
−サジェン
デュークオルグ。別称、オルグ軍曹。
オルゲット達を率いて、罵声や鞭を使って率いるが、指揮能力と戦闘力は低く、ズナイパやオルゲットを用いた人海戦術に頼っている。
武器は鞭。
名前の由来は鬼軍曹と、サージェント(軍曹)から。また、昔の映画『フルメタルジャケット』の登場人物、ハートマン軍曹をモデルにしている。

−ズナイパ
デュークオルグ。別称、鬼狙撃手。
カメレオンに似た姿のオルグで、身体を景色に擬態化させて、敵を狙撃する。
性格は冷静だが、巨大化すると「ケヘヘ」と狂った笑い声を上げる。
武器は右腕と同化した狙撃ライフル。


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quest55 鬼灯の花の下… 後編

※一週間、遅れた掲載をお許し下さい‼︎
仕事と家庭が多忙を極め、執筆もままならない状況でした‼︎
それでは、新話をどうぞ‼︎


 ヤバイバは、祈を連れて鬼ヶ島内部を走っていた。後ろから付いてくる彼女を、苛々しながら叫ぶ。

 

「さっさとしろよ‼︎ 俺は忙しいんだ‼︎」

 

 何故、彼女と行動を共にしなくてはならないかと言えば……あの後、鬼灯隊は、ガオレンジャーの潜入を知り…

 

『私達は、ガオレンジャーの下へ行く! 言っておくが、魏羅鮫はガオネメシスと対峙する時まで抜くなよ? 今は封印してあるが、もし一度、封印が解ければ、魏羅鮫の邪気が解放されて、お前の手に負えないオルグ魔人となるからな』

 

 と言って聞かせた。祈は、ガオの巫女の力を持つ為、万が一に魏羅鮫が暴走を始めても力を緩和出来る、として、ホムラに連れて行く様に強要されたが、ハッキリ言って足手纏いでしか無い。

 

「……あいつ等、俺にお荷物を押し付けたんじゃねェだろうな……‼︎」

 

 ヤバイバは、彼女達がガオレンジャーと戦う為の口実に、自分は利用されたんじゃ無かろうか、と疑念を抱くが、どうでも良い。

 今の自分には、ガオレンジャーに対する恨み等、小さな事だった。目的は、ガオネメシスに対する復讐……その為の力は得た。

 祈は後ろから、ヤバイバに尋ねる。

 

「あ、あの……」

「ああ⁉︎」

 

 ヤバイバは振り返らずに、返事した。

 

「さっきの話を少し聞いたんだけど……ガオネメシスに、復讐するって……」

「そうだよ! アイツの所為で、ツエツエは……‼︎」

 

 と呪詛を漏らす。その様子に、祈はポツリと言った。

 

「オルグにも、色んな考え方があるんですね……」

「? 何がだ⁉︎」

「オルグって……命を紙屑の様にしか考えていないものだと考えていたけど……貴方の様に、仲間の為に怒れるオルグも居るんだね……」

「⁉︎」

 

 祈の言葉に、ヤバイバは言葉を詰まらせる。確かに人間の(マイナス)から生まれたオルグには、命を軽んじて欲望の赴くままに、暴れ回る者が大半である。寧ろ、オルグにとっては本能とも言える感情だ。

 しかし……ヤバイバは、ツエツエの死を哀しみ彼女の命を粗末に扱った、ガオネメシスやテンマに対して怒りを抱いていた……。

 

「く…くだらねェ事を言ってんじゃ無ェよ‼︎ 俺だって……残忍なオルグなんだ‼︎ お前なんざ用が済めば……どうやって殺してやろうか、って考えてた所だ‼︎」

 

 と、ムキになって怒鳴る。祈は黙り込むが、ヤバイバは複雑な様子だ。

 

「(何なんだ、このガキは……‼︎ 調子狂うぜ……‼︎)」

 

 ヤバイバは、祈に見透かされた様な気がした。確かに、ヤバイバはツエツエに対する想い故、テンマに反旗を翻す決意をした……しかし、それ故に他者を思いやる、と言うオルグならではの残忍さが薄れた、とでも言うのだろうが?

 腐っても、ヤバイバはオルグである。例え、私用でオルグから脱したとは言え、その意思だけは残っている筈だ。

 ならば……この胸中に渦巻くモヤモヤは何だと言うのか?

 

「オルゲットォォッ!!!!」

 

 突然、暗闇からオルゲットが飛び出して来た。オルゲットは祈を捕まえようと飛び掛かる。

 

「キャアッ‼︎」

 

 祈は不意打ちに尻餅付き、抵抗が出来ない。其処へ、ヤバイバは自身のナイフでオルゲットを斬り捨てた。

 オルゲットは泡となって消えていく。ヤバイバは尻餅付く祈を見た。

 

「あの……ありがとう……」

 

 おずおずと、礼を言う祈。それに対して、ヤバイバは…

 

「ケッ‼︎」

 

 と、そっぽを向いて歩き出す。祈も彼の後に続いて、立ちあがろうとするが…

 

「痛ッ‼︎」

 

 祈は右足に激痛が走る。さっきの奇襲で足を挫いてしまったらしい。ヤバイバは振り返り、舌打ちをした。

 

「何してんだ、鈍臭いガキだな‼︎ 時間が無ェんだぞ⁉︎」

「ゴメン……」

 

 申し訳無さそうに謝る祈。その時、ヤバイバは祈を抱え上げた。

 

「え…⁉︎ 何…⁉︎」

「暴れんじゃ無ェよ‼︎ お前が来なかったら、話にならねェんだ‼︎」

 

 ぶっきらぼうに言いながら、ヤバイバは毒吐く。祈は慌てふためきながらも、ヤバイバに掴まった。

 

「(何をやってるんだ、俺は…⁉︎)」

 

 ヤバイバは内心、困惑していた。どうして、祈を助けようとした? どうして、見捨てなかった? ガオネメシスを倒す為の切り札だからか? それとも……。

 一体、自分はコイツを……どうしたいんだ……? ヤバイバは自問自答を続けながら、歩き続けた……。

 

 

 

 ガオレンジャーと鬼灯隊の戦いも、大きな転換を見せていた。ガオゴールドは、ソルサモナードラグーンで、ホムラに向かって行く。

 

「オルグ忍法! 陽炎分身‼︎」

 

 灼熱にて六体の分身を作り出したホムラは、うち一体を犠牲にしながらも忍刀を、残りの五人でガオゴールドに襲い掛かる。

 

「避けてみろ‼︎」

 

 四方を塞ぎ、動きを封じたガオゴールドに、忍刀が突き刺さる。しかし、その瞬間、本体のホムラ以外の分身が斬り捨てられた。

 

「⁉︎」

「遅い!」

 

 奇襲を見破られた事に動揺したホムラは、その返しにガオゴールドの放った光弾を躱せず、腹部へと撃ち込まれた。

 ホムラは腹を押さえながらも、忍刀を構える。

 

 ガオグレーは、ミナモとリクを同時に相手していた。ミナモは空気中の水分を塊にして、手に浮かせる。

 

「オルグ忍法! 水弾幕‼︎」

 

 水の弾幕を発生さて、ガオグレーに襲い掛かる。しかし、グレーはグリズリーハンマーを振り回して弾幕を叩き落とす。

 だが、その隙にリクが背後に回り、リクに忍刀を振り下ろした。

 

「グッ⁉︎」

 

 ガオグレーは左腕を斬り付けられて仰反る。リクは、ニィィッと笑う。

 

「フフ……‼︎ 次は右腕? それとも左脚か右脚? 達磨にしてあげる…! フフフ……‼︎」

 

 リクは妖しく笑いながら、グレーに言った。ミナモは、水を忍刀に纏わせる。

 

「それとも、斬首して差し上げる…で、ございます…‼︎」

 

 そう言うと、ミナモは忍刀を伸ばしてガオグレーの首に伸びて来た。だが、グレーはグリズリーハンマーを力強く振り回す。

 すると、柄から鎖が伸びてハンマーが飛んできた。リーチの差で、ミナモを叩き付け、その状態で背後にいたリクごと吹き飛ばした。

 

「熊の剛力……舐めて貰ったら困る……‼︎」

 

 ガオグレーは、力強く勝ち誇る。ミナモは、グレーを睨み付けるが、リクだけは楽しそうだ。

 

 ガオプラチナは、ライとコノハを対峙する。

 

「よっしゃ、サッサ決めるで、コノハ‼︎」

「ああ、ライ‼︎」

 

 互いに息の合った連携プレイを用いた相性の良さで、プラチナを追い詰めに掛かる。プラチナは距離を取りながら、フェニックス・アローで狙い撃つ。しかし、何れも当たらずに躱された。

 

「はん‼︎ 矢なんか百本射たかて当たらへんわ‼︎」

 

 ライは侮蔑する様に言った。その隙に、コノハは両手に風を巻き起こす。

 

「オルグ忍法! 旋風払い‼︎」

 

 強烈な旋風を発生させて、ガオプラチナのバランスを崩させようとした。プラチナも何とか耐えるが、立て続けにライが忍刀に雷を纏わせた。

 

「オルグ忍法! 雷切一閃‼︎」

 

 目にも止まらぬ一閃を放ち、ガオプラチナに斬り捨てる。

 

「クッ…‼︎」

 

 元々、正面からの戦闘に慣れていないガオプラチナには、接近戦と遠距離戦の両方に隙の無い二人は、かなり相性が悪かった。

 

「よっしゃ‼︎ トドメや、コノハ!」

「おう‼︎」

 

 バランスを崩して、ふらついていたプラチナを、ライとコノハは左右から挟み撃ちにして、一気に仕留めようとした。

 しかし、ガオプラチナは諦めてない。フェニックス・アローを構えると翼状の弓が展開した。

 

「な⁉︎」

「……百本でも当たらない……けど、千本以上なら……躱せ無いでしょ‼︎」

 

 そう言って弦を引き絞る。すると、弓から無数の矢が連発して放たれる。二人の前方から、大多数の矢が津波の様に押し寄せて来た。

 

「あ、あかん‼︎ 躱し…‼︎」

 

 ライは何とか躱そうとするが、既に躱すには手遅れだった。ライとコノハは次々と矢に射抜かれて、遂に撃墜されてしまう。

 

「うゥゥ…‼︎ き、汚ェ…ぞ‼︎」

 

 コノハは、毒吐く。しかし、ガオプラチナはしれっとした様子で…

 

「五人掛かりで攻めてくる、アンタ達が余程、汚いじゃん? それに……私達だって遊びで戦ってるんじゃ無い! 勝つ為なら、どんな卑怯な手だって使うよ‼︎」

「……言うやないか……‼︎」

 

 フラつきながら立ち上がりつつも、ライは言った。

 

 

 追い詰めた、と思ったら再び、形勢を逆転されてしまい、鬼灯隊達の顔に焦りが見えた。

 ホムラは、リクを見る。何処か、リクはカクカクと挙動不審な態度を取っていた。

 

「……ま、まずいな……‼︎」

「アハッ…‼︎ 楽しい……戦い……! 楽しい……殺し合い……!」

「リク、落ち着きや‼︎」

 

 ライは慌てた様子で叫ぶ。しかし、リクは益々、壊れた操り人形の如く不安定な動きを見せる。

 

「おい……! これ、入っちまってんじゃねェか?」

「こうなっては……もう、手に負えません…で、ございます……‼︎」

 

 コノハとミナモも、恐る恐ると言った具合だ。

 

「な、何じゃ⁉︎ あの小娘、様子が変じゃぞ⁉︎」

「何? この異常な邪気は……⁉︎」

 

 ガオグレー、ガオプラチナもタダなら無い気配を察して警戒した。その時、リクは滴り落ちる血を右腕と共に上げる。

 

「オルグ忍法…血砂弾(けつさだん)…‼︎」

 

 リクが唱えると、彼女の血を含んだ砂が舞い上がり弾丸の様に、ガオゴールド達に襲い掛かった。

 

「クッ⁉︎」

 

 躱す余裕も無く、砂の弾を受けたガオゴールド達は、全身に負傷を負った。致命傷では無いが、不意打ちを受けた事によって精神的ダメージは大きい。

 

「アハハハハ‼︎ 当たった、当たった‼︎ 血がドピュッて、噴き出した‼︎」

 

 子供の様に、ケタケタと嗤いながらリクははしゃぐ。かなり精神的に不安定らしい。

 その状態で、忍刀を構えたリクは揺れたりしながら、ガオゴールドに突っ込んできた。

 

「アハハハ‼︎ 足りない、足りない‼︎ もっと血を流して‼︎ もっと苦しそうに足掻いて!!! もっと、もっと、もっとォォ‼︎」

 

 完全に壊れたリクは、刀を闇雲に振り回しながら、暴れ回る。ゴールドもソルサモナードラグーンで辛うじて防ぎながらも打開策を見い出そうとするが、リクの不規則な攻撃を読むのは困難だった。

 

「アハッ! アハッ‼︎ アハァッ!!! もっともっともっとォォ!!!」

 

 リクの狂気に侵された剣撃が、二度と三度と繰り出される。しかし、ガオゴールドは僅かに見えた。リクの攻撃の中にある隙を……。

 ゴールドは後退して、距離を取る。攻撃を外したリクは狂った目をゴールドに向ける。最早、正気とは思えない。

 彼女も摩魅同様、人間とオルグのハーフである混血鬼だと言う。相反する二つの血は、その者を此処まで歪めてしまうのか?

 

「アハハハハァァ!!!」

 

 遂に狂気の笑いを浮かべながら、リクは突撃してくる。其処へ、ガオゴールドはソルサモナードラグーンを横一直線に構えて、リクが眼前に迫った刹那……

 

「虹陽……竜剣‼︎」

 

 そのまま横に一閃する様に虹色に輝く刃を払う。すると、リクの身体から緑色の血が噴き出た。

 

「アハ……ハハ…ハハ……‼︎」

 

 リクは斬られながらも笑い続け、目を閉じて動かなくなった。

 

「り、リク‼︎」

 

 ホムラは絶命したリクを見て、声を張り上げた。

 

「て、テメェ‼︎」

「ぶち殺したる‼︎」

「コノハ、ライ‼︎ よしなさい、でございます‼︎」

 

 仲間を殺された事で我を忘れたコノハとライは、忍刀を振りかざしながら、ガオゴールドへと向かってくる。

 しかし、先程の読めない動きでは無く急所狙いである事は確定だった為、ガオグレーとガオプラチナはすかさず、反応した。

 

「破邪剛力衝‼︎」

鳳凰烈矢撃(ほうおうれつしげき)‼︎」

 

 グリズリー・ハンマーから放たれる衝撃波と、フェニックス・アローから放たれる煌めく光の矢が、それぞれコノハとライに直撃した。

 

「ぐァッ…‼︎ チックショ……こんな所で、アタイが……‼︎」

「堪忍、ホムラ……ミナモ……‼︎」

 

 二人は爆発する刹那、苦楽を共にして来た二人の仲間達に謝罪を述べながら、倒れ伏し爆炎の中に消えて行った。

 

「……おのれ……‼︎ ライとコノハまで……‼︎」

 

 ホムラは怒りに顔を歪ませる。少なくとも、自分達は個人の実力ならば、デュークオルグと同等……五人で組めば、ヤミヤミ以外のオルグ忍者とも対等に渡り合える強さはあると自負がある。

 その自分達が、手を捻るかの如く倒され、五人中の三人が倒された。

 

「……悪いけど、僕達も引けない理由がある……‼︎ 君達と戦うつもりは無い……どいてくれ‼︎」

 

 ガオゴールドは間接的ながら、二人を見逃そうとする。目的こそ異なるが、彼女達もテンマやガオネメシスに利用された被害者だった。何より、大切に思って来たヤミヤミを理由があったとは言え手に掛け、彼女達から奪ったのは自分達である。殺すのは忍びなかった。

 しかし、ホムラは怒りの目でゴールドを睨む。

 

「私達に同情でもする気か? 貴様は……我々を侮辱するのか‼︎ 私達は、オルグ忍者だ! 戦いの中で死ぬる覚悟は出来ている‼︎ 例え、此処で朽ち果てようとも……敵の情けを受けてまで生き延びようとは思わぬ‼︎」

「死んでいった仲間達や、親方様の意思は私が継いで行く‼︎ 此処を通りたくば……私達を殺して行きなさい、でございます‼︎」

 

 どうあっても退くつもりは無い二人に、ガオグレーはグリズリーハンマーを構える。

 

「ゴールドよ……敵に塩を送る、とは言うが残念ながら、其れを良しとせぬ者もいる……。奴等の気持ちを汲むなら、一思いにトドメを刺してやれ‼︎」

 

 グレーは戦士として、そして大切な仲間を失った者として、彼女達の気持ちが痛い程に分かった。

 しかし……決して譲れない物があった。オルグ忍者としての誇り……それが彼女達の退路を断ち、自ら破滅の道へと誘った。

 ゴールドも、その言葉で覚悟を決める。ソルサモナードラグーンを構えると、刃に光が込められて行く…。

 

「……できれば、君達とは……敵として出会いたく無かったよ……‼︎」

「それは、お互い様だ……! ガオの戦士とオルグ忍者……我々は戦い合う運命なのだ……‼︎

 ミナモ……行くぞ‼︎」

「承知! で、ございます‼︎」

 

 ホムラとミナモは駆け出す。ホムラの忍刀には炎が、ミナモの忍刀には水が纏われる。

 ガオゴールド、グレーも駆け出す。

 

「虹陽竜剣‼︎」「灰熊衝波‼︎」

 

「焔一閃‼︎」「激流一刀‼︎」

 

 互いに打ち出された一撃。しかし、鬼灯隊の負傷した身体では、強烈な一撃に耐える事は出来ない。更に二人の攻撃も加わり、倍返しとなってホムラとミナモも襲った。 

 ゴールドとグレーは未だ立っているホムラ、ミナモを見る。

 

「……私達の負けだ……」

 

 ホムラが言った。既に手負いの彼女は息をするのも苦しそうだ。

 

「……私の姉、ヒヤータは詰めの甘さで貴方達に敗れましたが……私も……相当に詰めが……甘かった、でございます……」

 

 ミナモは自虐げに呟く。そして、そのまま倒れた。

 

「血に染めし……刃を添えて……鬼灯の……

 朱花の下にて……我身土に帰す……。

 さらば……だ……ガオ……レンジャー……‼︎」

 

 時世を読み上げ、ホムラも倒れ伏した。溢れ出た緑色の血の海の中に沈んで行った……そして泡となって消えて行く。

 ガオゴールドは、マスクの下で何の高揚感も勝利の余韻を感じていない憂いを帯びた表情を浮かべていた。只々、虚しいだけの……。

 

「ゴールド……‼︎ 哀愁に耽っている場合じゃ無いぞ‼︎ 我々の倒すべき敵は、まだ居る……‼︎」

 

 グレーの叱責を受け、ゴールドは我に帰る。そうだ、真に倒す敵を倒さない限り、この戦いは終わらない。

 ゴールドは仲間達に振り返る。

 

「……行こう……時間を潰した!」

 

 憂いを払い飛ばし、ゴールドは仲間達を促しつつ走り出す。グレー、プラチナも後に続いた。

 しかし、戦場にて一人だけ残されていたリクの骸の指先が、三人の走り去った後、ピクリと動いた事に誰一人と気付かなかった……。    

 

 

 

 鬼の砦内にある、空間に歪みが入る広間……テンマは、すの歪みを見上げていた。部屋の五方には、結晶に封印されたガオレッド達が設置されている。

 結晶から、太めのコードを通じてエネルギーが吸収され益々、歪みが広がりつつある。しかし、テンマは何か違和感を感じていた。

 

「妙だ……エネルギーの配給が滞っている……」

 

 テンマは、本来なら鬼門がもっと広がっている筈なのに、中途半端な大きさで止まっている事に気付く。

 結晶を見渡すと、テンマは何かに気付いた。

 

「ふん……抵抗しているのか……。無駄な事をしおって……今更、抗った所で、鬼還りの儀が阻止出来る訳ではあるまいに……」

 

 ガオレッド達の思わぬ抵抗に対し、テンマは嘲る様に言った。

 既に計画は最終段階に達している。今更、どう足掻こうとも計画に一切、支障はきたさない……この鬼門が完成した時、地上はオルグに埋め尽くされて、このテンマが支配するオルグの世界が完成するのだ。 

 しかし……計画の障りになりそうな者が、このオルグリウムに乗り込んでいる……。ガオゴールド率いる、ガオレンジャー達だ。

 圧倒的な力を見せつけ、一度は牙を抜いた筈だった。しかし、奴等は性懲りも無く、やって来た……。

 

「……良かろう……今度こそ、完膚なきまでに叩き潰してくれる‼︎」

 

 そう言うと、テンマの背中にある掌が展開した。

 

 

 ガオゴールド達は、砦の間近までに迫っていた。あの中に、テンマが居る。奴を倒さなければ、地上の騒ぎが何時迄も続く。

 ゴールドは砦を見上げる。

 

「いよいよだな……‼︎」

 

 思えば長かった。ガオゴールドと戦う事を義務付けられ、何も分からぬまま、自身の納得も了解も出来ぬままに世界を救う戦士となった、あの日……それは全て、この瞬間の為だった。

 

「グレー‼︎」

「ん‼︎」

 

「プラチナ‼︎」

「ええ‼︎」

 

 ゴールドは後ろに立つ二人の仲間達を呼び掛ける。本来なら、シルバーも居てくれる筈だった。しかし、今や三人である。

 だが、砦内に囚われているガオレッド達を助け出せば……形成は逆転する。そんな決意が、ガオレンジャー達を歩み出させた。

 その時、三人の前に降り立つ二人の影……。

 

「グフォフォフォ‼︎ 来たぞ、来たぞ‼︎」

「バヒヒヒィィン‼︎ 来たぜ、来たぜ‼︎」

 

 それは過去に二回、戦ったヘル・デュークオルグ、ゴズとメズだった。

 

「お前達は、ゴズとメズ‼︎ しつこい奴等め‼︎」

 

 幾度と倒した二人組のオルグに対し、ゴールドは苦言を漏らす。

 

「グフォフォフォ‼︎ 俺達は、ヘル・デュークオルグ! 不死身だと言っただろうが‼︎」

「此処で待ち構えていれば、お前達がやってくると思っていたが……待った甲斐があったぜ‼︎」

 

 ゴズは鋭い棘付きの金棒を二本、メズはギザギザの鋸状の大太刀を二本、両手に持って、ニヤリと笑う。

 奴等を倒さなくては、砦には入れない。ガオゴールドは臨戦態勢に入るが……。

 

「ゴールド‼︎ 奴等はワシ等に任せィ‼︎」

 

 グレーが言った。ゴールドは驚いて振り返る。 

 

「何言ってるんですか⁉︎ あいつ等は二人だけで倒せる様な奴じゃ無い‼︎ グレーだって知ってるでしょう?」

 

 前回の戦いでは、グレーも参戦し、シルバーを含めた三人掛かりで挑んだが、それでも圧倒的な勝利には程遠かった。

 しかも、奴等の姿を見る限り、かなりパワーアップしていると見える。

 

「良いから、早く行け‼︎ 祈を助けるんじゃろうが‼︎」

「グレー‼︎」

 

 ゴールドは、グレーの必死な口調に、彼の思いを察する。意を決して、ゴズとメズを通り抜けるように走っていくゴールド。

 

「おっと‼︎ 此処は通さんぜ‼︎」

 

 走って来るゴールドを叩き潰さんと、ゴズは金棒を振り上げたが、プラチナの放つ光の矢が、ゴズの足を射抜いた。

 

「い、イテェ!!?」

 

 ゴズは足を抑えながら、のたうち回る。その隙に、ゴールドは走り去った。

 

「ありがとう、グレー! プラチナ!」

「私達も直ぐに追い掛ける‼︎」

 

 ゴールドの背に向かって、プラチナは叫んだ。ゴズは足を摩りながら、二人の前に立ちはだかった。

 

「やってくれるじゃねェか! なァ、メズの兄弟‼︎」

「おうよ、ゴズの兄弟! 望み通り、テメェ等から血祭りに上げてやろうか‼︎」

 

 メズも目を血走らせながら、睨みつけて来る。グレー、プラチナも臨戦に入る。

 

「さて……とっとと、始めようか‼︎」

 

 ガオグレーは、グリズリーハンマーを構えながら、ゴズとメズに言い放った。

 

 

 

 ゴズとメズを退けた後、ゴールドは単身にて砦の中に入った。内部は不気味な程に静まり返り、気配が感じられない。

 しかし、濃密な邪気が辺り一面を支配し、間違い無くテンマは此処に居ると言う確信があった。

 その時……。

 

『兄さん……』

 

 ふと、祈の声がした。ゴールドは声の方を見ると、祈が立っている。

 

「祈! 無事だったんだな‼︎」

 

 ゴールドは駆け出し、祈の下へ近寄る。しかし、その刹那、祈の姿は消えて、地面から漏れ出た闇の穴に包み込まれた。

 

「し、しまった‼︎ 罠か⁉︎」

 

 しかし気付くのが遅く、ゴールドは闇の中に飲み込まれていく。暫し、闇の中を落ちる様に下がっていくゴールド。

 下を見ると、祈が笑顔で微笑みつつ手を伸ばしているのが見えて、ゴールドは手を伸ばす。

 だが、あと少しと言う所でてがとどかず、ゴールドは地べたに叩きつけられた。

 

「こ、此処は?」

 

 ゴールドが落ちた空間が歪んだ広間だ。五方には水晶が安置され、その中には……。

 

「あれは……ガオレッド達⁉︎」

 

 其処に閉じ込められていたのは、ガオレンジャーのリーダーにしてガオレッド/獅子走、サブリーダーにして美羽の叔父のガオイエロー/鷲尾岳、切り込み隊長のガオブルー/鮫津海、力自慢のガオブラック/牛込草太郎、陽の従姉であるガオホワイト/大河冴……何れも、ガオの戦士達だ。

 

 

「ようこそ……我が城へ……。歓迎するぞ、ガオゴールド……‼︎」

 

 突然、響き渡る禍々しい声……ガオゴールドは声の方を見ると、眼前にある玉座に腰を下ろす、オルグの王テンマが居た。

 

「現れたな、テンマ‼︎」

「ククク……態々、祝福に来たのか? オルグが再び、地上の支配者として君臨する記念すべき日を……」

「違う‼︎ 止めに来たんだ‼︎ オルグの支配する世界を阻止する為‼︎」

 

 ゴールドの言葉に対し、テンマは高笑いを上げた。

 

「ハハハハ! 中々、面白き事を言うでは無いか? 貴様一人に何が出来るのだ? 貴様の仲間は、ゴズとメズによって引き離され、頼みのガオレッド達は水晶の牢獄の中……そして、この娘も……」

 

 テンマが自身の横を見る。其処には黒装束の衣装を着た摩魅が居た。

 

「摩魅‼︎」

「無駄だ! 最早、この娘には自分がオルグである、と言う記憶しか無いのだ! ……悲しむ事はない……間も無く、世界はオルグの物となる……オルグに逆らう人間など、全て滅びるのだ‼︎」

「そんな事はさせるものか‼︎」

 

 ガオゴールドは、テンマに言い放つ。その時、テンマは立ち上がった。

 

「ハハハハ……どうやら貴様等、人間の粗末な頭では、理解が出来ぬと見える……。良いだろう……貴様は、このテンマが直々に相手してやろう……。言っておくが、この前の様な半端な力では無い……本気の力を持ってしてな‼︎」

 

 そう言って、テンマは歩み始める。すると、テンマの身体に邪気が吸収されて行く。見る見る間に、テンマの身体は変異して行き、体格も三頭身の寸胴体型から八頭身のマッシブな物へと変わり、頭部から生えるオルグの証たる角も長く伸びた。両肩には掌の形をしたショルダーアーマー状の外骨格が、胸部には両手を閉じたチェストアーマー状の外骨格が形成されていき、背部の巨大な掌は大きく展開した。

 更に頭部から立髪の様な、漆黒のざんばら髪が生えており、まさに鬼と呼ぶに相応しい姿である。

 

「此れが余の真の姿! ハイネス・デューク、テンマ!、波旬の極みだ‼︎

 

 真の姿を現したテンマは修羅怨鬼剣を持つ。全身から凄まじい闘気を発した。

 

「ガオゴールド‼︎ 貴様に知らしめてやろう‼︎ この世界に相応しいのは、オルグの頂点へと昇り詰めた、このテンマだと言う事をな‼︎」

「ならば……僕も示してやるさ‼︎ 命ある所に正義の雄叫びを上げる戦士、ガオレンジャーの力を‼︎」

 

 ガオゴールドが高々に宣言した。自分が敗北する事は許されない。これは世界の運命を賭けた戦い……世界を守る為の孤独な戦いが幕を開けた‼︎

 

 

 

 一方、ガオズロック内では……寝室のベッドの上に寝かされた大神の姿があった。彼は眠る様に死んでいた。すっかり冷たくなり、もう彼は二度と目を覚まさない。

 と、そんな時……彼の上に光り輝くオーブが現れた。

 

 

 〜気高き銀狼よ……まだ貴方は死すべき時ではありません……貴方の力を必要としている者達が居ます……。

 さァ……シロガネ……目を醒ましなさい……〜

 

 

 何処からか、アマテラスの声が聞こえて、そのオーブは大神の骸の中へ入って行った。そして、見る見る間に大神の顔に血色が戻って行く……。




 〜遂に、オルグの王テンマに辿り着くが、仲間達と引き離され孤独な戦いを強いられる事となったガオゴールド!
 しかし、死亡した大神にアマテラスの声と彼に入り込んだオーブは、どの様な奇跡を起こすのでしょうか⁉︎〜


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quest56 百獣戦隊、復活‼︎ 前編

※今年、最後の掲載になります‼︎
毎回、毎回、遅れがちになる事を、お詫び申し上げます!

それでは、本編へどうぞ‼︎


 大神は仲間達と語り合っていた。自分が仲間達の反対を振り切り、オルグに身を堕とし封印されてから千年後に復活、今代のガオの戦士達と敵として戦い、狼鬼の面から解放された事……そして、戦いを終えた後に再び姿を現したオルグ達と戦ったが、その最中に敵の牙に掛かり止む無く命を落とした事……更に千年前に共に戦った同胞、カイも現代に蘇っていた事……ムラサキの孫に当たるテトムが、ガオの巫女となっている事……一度、戦いから逃げ出そうとした事……語り出せば止まらない程だ。

 その中で大神は、かつての仲間達への懺悔、今の仲間達を助けらなかった事の悔やみを包み隠さずに全て打ち明けた。

 ムラサキも仲間達も静かに耳を傾ける。大神は、弱かった自分の為に数多くの人々に迷惑を掛けてしまった事を全て告白するつもりだった。

 やがて、大神は話し尽くしてしまう。それまで、無言で居たムラサキは優しく微笑む。

 

『シロガネ……貴方は戦士として忠義を尽くし、信念を貫きました……。その想いは仲間達の中に確かな形で受け継がれているでしょう……』

 

 その言葉だけで、大神は救われた気がした。もう、自分の役目は終わった……ガオの戦士として覚醒した陽が、新たな時代の光として照らしてくれる筈だ……。ならば、古き時代の戦士である自分は眠りにつこう……。いつの日か、彼等がやって来た時、昔話に華を咲かせれば良い……そう考えた……。

 

 と、そう考えた時……大神の身体にオーブが飛び込むと、大神の身体は光に包まれ始めた。

 

『こ、これは⁉︎』

『どうやら、まだ此方に来るのは早い様ですね、シロガネ……』

 

 ムラサキが優しく微笑む。大神は困惑した様に彼女を見た。

 

『……シロガネ……貴方は先程、戦士として使命を全う出来なかったと悔やんでいましたね……。ならば、貴方は最後まで戦士であるべきです……』

 

 先程の温和さは無くなり、真剣な表情で話すムラサキ。

 

『私達は、貴方が来る時を此処で待っています……。それと……孫のテトムに宜しくね……』

 

 と言い残し、ムラサキは再び優しい笑みを見せた。周囲のガオの戦士達も笑う。大神は戸惑いながらも頷いた。

 

『分かった……必ず、皆に会いに来る……待っててくれ……‼︎』

 

 そう言い残し、大神は光の中に消えて行った。残されたムラサキは目を閉じ、再び戦いの中に帰って行く銀狼を見送った。

 

 

『誇り高き銀狼よ……貴方と言う戦士と共に歩んだ事を、私は誇りに思います……。貴方が戦場に戻る事で、貴方自身が茨の道を行く事になろうとも……貴方は貴方の道を歩み抜きなさい……』

 

 

 ガオズロックは鬼ヶ島から放たれる砲撃を躱しながら、ガオレンジャー達の様子を伺っていた。

 此処から見る限り、ガオレンジャー達の前には過去に幾度か対立したヘル・デュークオルグ、ゴズとメズが立ちはだかっていた。

 何とか援護をしたいが、オルグリウムの執拗な攻撃を躱すので手一杯の為、近付く事すらままならない。

 

「おい、テトムさん‼︎ 大丈夫なのかよ、この岩島⁈」

 

 猛は、岩台にしがみ付きながら叫ぶ。

 

「安心して! この、ガオズロックは例えミサイルを至近距離から撃ち込まれても絶対に壊れないから‼︎」

「本当かよ、それ⁉︎」

 

 あまり説得力の無い力説に、猛は不安そうに叫ぶ。

 

「何か来たわ‼︎」

 

 舞花は指を差す。途端に、オルグリウムからガオズロック目掛けて、複数の砲丸が放たれる。

 砲丸は形を変えると、オルゲットへと姿を変えて、ガオズロックへと張り付いた。

 オルゲット達は金棒で至近距離から、ガオズロックを叩き付けて来る。

 

「お、おい! 中に入ってくるんじゃねェのか⁉︎」

 

 猛は砂が落ちてくる天井を見上げて、狼狽した。テトムも、警戒する。

 

「皆‼︎ 奥の部屋に隠れなさい‼︎」

「テトムさんは⁈」

 

 叩き付ける音が強くなってきた事に、舞花も尋ねた。

 

「私は大丈夫‼︎ ガオの巫女なんだから、自分の身くらい守れます‼︎」

 

 そうは言っても、相手は最弱とは言え武装した鬼である。幾ら、場慣れをしているテトムと言えど、簡単に倒せる相手とは思えない。

 

「舞花‼︎ 奥の部屋に隠れてろ‼︎」

 

 猛は、そう叫ぶと、木の棒を持って出た。

 

「よしなよ、兄貴‼︎ 殺されるだけだよ‼︎」

「だからって、何もせずに居られるかよ‼︎」

 

 そう言いながら、猛は震えていた。生身の人間である彼からすれば、オルゲットと言えど脅威だ。しかし、妹に危険を晒す様な真似は兄としては出来ない。

 そんな彼の想いを汲んだ昇も、木の棒を持って挑みに掛かる。

 

「昇……お前まで……‼︎」

「約束しただろ、陽と……必ず、無事に再会するって……‼︎」

 

 昇も覚悟を決めている様子だ。それに対して、猛は…

 

「ハッ‼︎ 格好つけやがって……‼︎ わァってるよ、絶対に無事に再会するんだ‼︎」

 

 と、憎まれ口を叩きながらも、友に肩を合わせる。そうしてる間に、ガオズロックの天井に亀裂が入る。

 

「来るわよ‼︎」

 

 テトムが叫んだ次の瞬間、天井が砕け散り、オルゲット達が雪崩れ込んできた。

 

「ゲットゲット、オルゲット‼︎」

 

 オルゲット達は口々に叫びながら、棍棒を振り回す。猛、昇は覚悟を決めて、木の棒を握り締めた。

 と、その際に、オルゲット達は一斉に糸が切れた様に、ドサドサと崩れ落ちた。

 

「な、何だ⁈」

 

 何が起こったか分からず、猛は目を丸くした。と、次の瞬間に、倒れたオルゲット達の後ろには……

 

「あ、アンタは⁉︎」

 

 その姿を見た猛は絶句し、昇も目を疑う。テトムも驚愕と感嘆の表情を浮かべていた……。

 

 

 

 摩魅は暗闇の中に居た。もう自分が何者か、何の為に生まれてきたのかさえ分からない。

 

 〜……魅……〜

 

 もうどうだって良い……そんな投げやりな考えが、摩魅を支配していた。生きていた所で、自分の居場所は何処にも無いのだから……。

 

 〜……摩魅……〜

 

 さっきから誰かの声がする……けれど、そんな事、もう考えるのも馬鹿馬鹿しい。どうせ、自分はオルグなのだから……なら、オルグとして生きていけば良いじゃ無いか……。

 そう考えた摩魅は目を閉じてしまう……。

 

 〜お前は摩魅だ……‼︎〜

 

 耳障りな声に、摩魅は薄っすらと目を開けた。すると、いつだったか自分に名前を付けてくれた侍が居た。

 

『私は……摩魅……?』

 

 一度は見失いかけていた自身の存在……名前すら付けて貰えなかった自分に、摩魅と名付けてくれた侍……。

 と、考えていた摩魅は急に現実に引き戻されてしまう……目の前では凄まじい戦いが繰り広げられていた。

 

 

「竜翼……日輪斬りィィッ!!!」

 

 ガオゴールドは何度目かになるか分からない攻撃を、テンマに仕掛けた。だが、そんな彼の疲労を嘲笑うかの様に、テンマは攻撃を受けてもピンピンしていた。

 

「な、何故だ⁉︎ 何故、攻撃が効かない⁉︎」

 

 ゴールドも自身に違和感を感じていた。使い慣れている筈の、ソルサモナードラグーンも、ガオスーツも、まるで自分に馴染んでいない様だった。それ所か、先程から少し動いただけで全身に疲労が積み重なり、息苦しさまで覚える。

 テンマは高笑いを上げた。

 

「クハハハ‼︎ 戯けめが‼︎ この部屋全体に充満した邪気に気付かなんだか⁉︎ 貴様は、まんまと自ら墓穴に落ちて来たのだ‼︎」

 

 テンマの指摘に対し、ガオゴールドは全身の力が抜けて来た様に感じた。

 

「クッ…⁉︎ か、身体が……痺れて……⁉︎」

「効いてきたようだな……鬼地獄にて精製され、人間の身体を麻痺させて自由を奪う、より濃醇な邪気の毒が…‼︎

 流石の、ガオスーツも邪気の毒までは防いではくれなかった様だな」

「ひ…卑怯だぞ…‼︎」

「卑怯? 戦いの場にて、自身に有利な状況を作り出すのは当然では無いか? それに貴様等の戦いは、オルグ蟲を通じて、じっくりと解析させて貰ったよ。つまり……貴様等は、四鬼士を倒しているのでは無く、余に貴様等を倒す為の情報を提供していたに過ぎなかったのだ」

 

 テンマは勝ち誇った様に言い放つ。ガオゴールドは両膝を付いて、ソルサモナードラグーンを杖代わりにしながら悔しげに見上げた。

 

「そ、それじゃァ……これ迄の僕達の戦いは……一体……⁉︎」

「全くの無駄だったな。詰まる所、貴様は最初から余の掌の上で踊っていただけだ」

「そ、そんな……‼︎」

 

 驚愕の事実に、ガオゴールドは愕然とする。その様子に、テンマは邪悪に笑いながら修羅怨鬼剣を振り払う。

 剣から放たれたドス黒い剣波が、ガオゴールドを襲い掛かる。防御も躱す事も出来ずに、成すがままに吹き飛ばされてしまう。

 壁に打ち付けられたガオゴールドは、とうとうガオスーツが解けてしまった。側には摩魅が立っていたが、彼女は陽の姿に眉根すら動かさない。

 途端に、自身の前に現れたテンマが、陽の首根を掴み高々に持ち上げた。ギリギリッと首を絞め付ける音が響く。

 

「う…ぐ…!!!」

「ククク……惨めだな、ガオゴールド……。貴様は仲間を助ける事も、地球を救う事も出来ず、此処で死んでいくのだ……。

 だが、悲しむ事はない……。何れ、貴様の仲間達も…貴様の友も…貴様の妹も…此処にいるガオレッド達と共に、そちらへ送ってやる……それまで、先に死んだガオシルバーと抱き合って泣いているが良い‼︎

 ククク……クハハハハハハハ!!!」

 

 テンマは笑いながら、陽の首を絞める手を強める。陽は既に意識が朦朧としていた。

 

 

「……テトム……佐熊さん……美羽……い…祈……‼︎」

 

 

 薄れゆく意識の中で、脳裏に過ぎるのは大切な仲間と、愛しい妹の顔……其れらが走馬灯の様に、流れていく……。

 ああ……もう僕は死ぬのか……そう、陽は思う。最後に、そう思った刹那、強烈な光がテンマに襲い掛かる。

 

「グッ⁉︎」

 

 テンマは大きく仰け反り、思わず陽を手放した。拘束から解放された陽は幾度と咳き込む。

 

「な…何の真似だ? 摩魅…‼︎」

 

 テンマは怒りを激らせながら、唸る。陽は目を凝らすと、摩魅がガオレッド達の水晶に短刀で傷を入れていた。

 と、同時に水晶から光が漏れ出て行く。

 

「ま…摩魅⁉︎」

「貴様ァァ……既に人の心は消し去った筈だ……‼︎」

 

 テンマの問い掛けに対し、摩魅は無表情のまま涙を流していた。其れを見たテンマは益々、激怒する。

 

「また涙か……役立たずの混血鬼めが‼︎ 最早、貴様を生かしておく理由も無い‼︎」

 

 猛り狂ったテンマは、修羅怨鬼剣を振るう。すると、邪気が斬撃として放たれ、摩魅の身体を斬り裂いた。

 血を噴き出しながら、摩魅は血の海に沈む。陽は何とか身体を這わせながら、摩魅に近付く。

 血溜まりの中で、摩魅は見るも無惨な姿で横たわっていた。

 

「摩魅…‼︎ 摩魅…‼︎」

 

 陽は、摩魅の身体を揺さぶる。すると、僅かに摩魅は身体を動かし、少しだけ目を開けた。

 

「あ……陽……さん……」

 

 摩魅は力無く笑う。どうやら、洗脳されていた意識を回復させた様だ。

 

「……私……やっぱり駄目ですね……陽さんを裏切っちゃった……」

「摩魅は裏切ってなんかいないよ‼︎ 君は……‼︎」

 

 陽は叫びながら、摩魅を呼び掛ける。しかし、摩魅は首を振った。

 

「……もう良いんです……。でも……少しだけ欲を言っても良いですか……? こんな私でも……生まれてきた事が間違っていた私でも……誰かを好きになっては駄目ですか?

 陽……さん……私……貴方の事が……」

 

 最後の力を振り絞り、陽への想いを告げようとする。しかし最早、摩魅の身体は限界へと達していた。

 何より……摩魅が気付いていた。陽の心には既に、祈が住んでいる事を……その言葉を言おうか言うまいか、と考えあぐねている間に、意識が途切れ始める……。

 摩魅は薄っすらと目を閉じ始める。

 

「陽さん……私の事は……忘れて……下さい……。祈さんを……幸せにしてあげて……」

 

 と、だけ言い残し、摩魅の瞳は閉じられた。しかし、その死に顔はとても穏やかで、今にも目を覚ましそうだ。

 対して、陽は動かなくなった摩魅を抱き寄せ、涙を流す。

 

 

 〜また……守れなかった……〜

 

 

 大神の時と同じだ……守れた筈の命を、自分の弱さ故に守れずに消してしまった……そんな後悔の気持ちが、陽に押し寄せて来る。

 陽の目から流れ落ちた涙が、摩魅の額に落ちた。

 

 

「つくづく、救えぬ女よ……」

 

 

 テンマの嘲りに満ちた声が響く。陽は無言のまま、聞いた。

 

「オルグの血に抗い、人である事に拘った結果どうだ? 自ら命を落として、全てを失ったでは無いか。

 

 馬鹿な女だ…「………黙れ」

 

 テンマの言葉を遮り、陽は呟く。フツフツと怒りの感情が湧き上がって来る。

 

「オルグも人も関係無い……摩魅は、たった一人の……掛け替えの無い命だ……其れを奪う権利など……誰にだって、ありやしないんだ…‼︎」

「ふん……ガオレッドも、いつか似た様な事を、ほざいていたな……奪う権利は無いだと? 笑わせるな‼︎ 所詮、敗者の戯言に過ぎんわ‼︎」

 

 テンマの全身から邪気が放出される。陽は、摩魅を抱えながら背を向けながら立ち上がる。

 

「………敗者の戯言だと言うなら……僕が、お前に勝ったら……勝者の至言になる……‼︎」

 

 途端に、陽の全身がガオソウルに包まれていき、再びガオゴールド・レインボーへと変身する。

 テンマは目を丸くした。

 

「ば、馬鹿な⁉︎ 何故、変身出来た⁉︎」

「……人間の思いはな……例え零からでも、力を引き出せるんだ……‼︎」

 

 摩魅の心は愚か、命をも踏み躙ったテンマへの激しい怒りが、ガオゴールドの力を引き出させた。ゴールドに抱えられる摩魅の頬に、陽の涙が伝い落ちて行った……。

 

 

 

「グフォフォ‼︎ 大した事が無ェな‼︎」

 

 砦の門前では、ガオグレーとガオプラチナが、ゴズとメズに苦戦を強いられていた。ゴズとメズは前回に戦った時より、パワーアップしており、身体もこれまで以上に肥大化していた。

 ガオグレー、ガオプラチナは負傷により傷付き疲労も困憊だった。

 

「バヒヒヒヒ‼︎ 全くだ‼︎ 所詮、ガオゴールドとシルバーが居なけりゃ、この程度かよ‼︎」

 

 ゴズに呼応して、メズも囃し立てる。グレーはひび割れたマスクの隙間から、素顔を覗かせる。

 

「ク……情けなや……‼︎ ゴールドを先に行かせたと言うのに、この体たらくとは…‼︎」

 

 グレーは歯痒そうに唸る。この二匹を仕留めた後、直ぐにゴールドを加勢しに行くつもりだった。しかし、想像を越えたオルグの強さに、思わず苦戦する結果となった。

 最も、さっきから戦いの連続にして、休む間も無かった。肉体の疲労もピークに達していても無理はない。

 

「グフォフォフォ‼︎ 諦めな、ガオレンジャー‼︎ お前達が逆立ちした所で、テンマ様には勝てやしねェ‼︎ 今頃、ガオゴールドも血祭りに上げられているだろうよ‼︎」

「バヒヒヒヒ‼︎ 違いねェ‼︎」

 

 ゴズの嘲りに対し、メズも囃し立てる。しかし、グレーは、クックッと笑った。

 

「何が可笑しい? 恐怖で気が触れたか?」

「お前等は、ガオゴールドを嘗めているんじゃ無いかのォ? アイツは強い! だから、奴を一人で行かせたんじゃ‼︎

 お前等こそ、今の内に命乞いの言葉でも考えておけ‼︎ 無論、助ける気は無いがの‼︎」

 

 挑発する様に、グレーは言った。当然、ゴズは激昂した。

 

「虫ケラが、粋がりやがって‼︎ メズ、強化した俺達の力を見せてやろうや‼︎」

「おうよ、ゴズ‼︎」

 

 ゴズは金棒、メズは刀を構える。

 

「冥土の土産に見せてやるぜ‼︎ 鬼地獄最強の“血の蓮華”をな‼︎」

 

 その言葉と共に、ゴズとメズの腕に太い血管が浮き上がる。すると、辺りの空気がピンと張り詰めた。

 

「い、いかんな…‼︎ プラチナ、動けるか⁉︎」

「駄目……さっきのダメージが……‼︎」

 

 ガオプラチナは膝を突きながら呻く。グレーも、蓄積されたダメージによって、まともに動く事が出来ない。

 

『喰らいやがれ‼︎

 オルグ殺法‼︎ 鉢特摩紅蓮華(はどまぐれんか)!!!!』

 

 同時に撃ち出された紅蓮の一撃が、グレー達に襲い掛かる。最早、立ち上がる事も儘ならない程に疲弊していた二人は、襲い掛かる攻撃に逃げる事も出来ない。

 と、その時、二人の眼前に光弾が現れ、紅蓮の一撃と衝突した。その瞬間、爆発が巻き起こるが、グレーとプラチナには直撃せずに無事だった。

 

「な⁉︎」

 

 グレーは何が起こったか分からずに目を疑う。と、後ろを見ると……。

 

「あ、あれ⁉︎」

 

 プラチナと指差す方角に佇む一人の影……其れは銀色のスーツを纏った戦士だった。

 

「し、シルバー⁉︎」

 

 グレーは我が目を疑った。死んだと思っていた、大神月麿が…!…ガオシルバーが立っていたからだ。夢でも幻でも無い。確かに、ガオシルバーが其処に居た。

 

「あ⁉︎ なんで、アイツが⁉︎」

「死んだんじゃなかったのか⁉︎」

 

 ゴズとメズも驚く。しかし、ガオシルバーは軽々しく二人の前に立ち、ガオハスラーロッドを構えた。

 

「生き返ったんだ……お前達を倒す為に……もう一度な……」

 

 そう言って、シルバーはガオハスラーロッドをサーベルモードにして、メズの懐に飛び込む。そして素早く振り払い、メズの両眼を斬り捨てた。

 

「グガァァ!!? 目がァァ!!?」

 

 メズは、血が流れ出る両眼を抑えながら、のたうち回る。

 

「この死に損ないが‼︎ ならば、今度こそ地獄に叩き落として……‼︎」

 

 ゴズは金棒を振り上げ、シルバーを叩き落とそうとするが、ガオグレーがその腕を掴み止めた。

 

「て、テメェ…‼︎」

「地獄に叩き落とすじゃと? 其れは……貴様の方じゃろうが……‼︎」

 

 グレーは不敵に笑い、ゴズの腕を持ち上げると、背負い投げで吹き飛ばした。

 その瞬間、ガオプラチナがフェニックス・アローを連射して、ゴズを射抜いた。

 

「が…ガァ……‼︎」

 

 矢で縫い付けられたゴズは、やがて動かなくなる。のたうち回るメズに、ガオシルバーは飛び上がり…

 

 

「銀狼満月斬り‼︎」

 

 

 一閃する銀色の斬撃が、メズの斬り捨てた。メズは血を噴き出しながら、後ろへと崩れ落ちた。

 倒れたメズを見届けて、シルバーは振り返る。その時、グレーは近付きながら……

 

「シルバー……いや、シロガネ……ほんに、お前なのか?」

 

  と、友の姿を見つめる。シルバーは頷く。

 

「ああ……一度は死んだと思ったが……ムラサキ達に、まだ早い、と追い返されたよ……」

 

 と、シルバーが言った途端、グレーは彼を強く抱き締めた。

 

「お、おい⁉︎」

「……良かった……良かったのォ……‼︎」

 

 グレーは男泣きを発しながら、友の生存を喜んだ。もう、二度と会う事は叶わない、と諦めた。しかし、その大神月麿が生きていた。喜ばずには居られない。

 

「あ、あれは⁉︎」

 

 プラチナが声を張り上げる。すると、其処へガオハンター・イビルが姿を現す。どうやら、騒ぎを聞き付けてやって来た様だ。

 

「ガオ……ハンター……‼︎」

 

 ガオハンターの姿に、やはり、まだガオネメシスの呪縛が掛かっている事に勘付く。しかし、今の自分にはガオアキレスが居ない。

 と、考えていると、ゴズとメズが立ち上がる。すると、二体は見る見る間に巨大化して行った。

 

「グフォフォフォ‼︎ もう容赦はしねェぞ‼︎」

「バヒヒヒヒィィ‼︎ 捻り潰してやる‼︎」

 

 巨大化したゴズとメズ、ガオハンター・イビルに挟み撃ちにされた。

 

「クッ……こうなったら、ワシがガオビルダーで迎え撃つ‼︎」

 

 そう叫んだ、ガオグレーは宝珠を打ち上げる。すると、ゴズとメズの前にガオビルダーが立ち塞がる。

 

「バヒヒヒヒ‼︎ 馬鹿め‼︎ たった一体で、俺達を倒せるつもりか‼︎」

「グフォフォフォ‼︎ その度胸は褒めてやる‼︎ だが……死ね‼︎」

 

 ゴズ、メズは同時に殴り掛かって来た…。

 

 

 

 ガオシルバーは、ガオハンターと対峙した。やはり邪気に操られているガオハンターには、シルバーの姿を見ても敵にしか映らない。

 と、其処へ、ガオアキレスが追い付いて来る。しかし、宝珠をゴールドに渡してしまった為、搭乗は出来ない。

 ガオアキレスは、ガオハンターに掴み掛かるが、其れをリゲーターブレードで煩わしげに追い立てる。

 しかし、其れでもガオアキレスは何度も向かって行く。

 

「? ガオアキレスは一体?」

「……きっと、目を覚まさせようとしてるんだと思う……」

 

 プラチナは何かを悟った様だ。シルバーは彼女を見る。

 

「目を覚まさせる?」

「……ガオハウルもガオウルフも同じ、狼のパワーアニマルだから……戦いたく無いんだよ……」

 

 其れを聞いたシルバーは耳を澄ます。すると、ガオハウルの声が聞こえて来た。

 

 

 〜もう止めよう‼︎ 目を覚ますんだ‼︎〜

 

 

 ガオハウルの涙ながらの説得が、ガオウルフに届けようとしている。しかし、ガオウルフは邪気に操られて、正気では無い。

 シルバーは決死した。自分が彼等を救わなくては……その時、ガオアキレスは投げ飛ばされてしまう。尚もトドメを刺そうと、リゲーターブレードを構えるガオハンター。

 其処へ、シルバーは駆け出した。

 

「止めるんだ、ガオウルフ! ガオハンマーヘッド! ガオリゲーター‼︎ 思い出せ、お前達の守るべき物を‼︎」

 

 シルバーは叫ぶ。その時、ガオハンターの動きが一瞬だけ止まる。その時、シルバーのG -ブレスフォンから歌が聴こえてきた。響きの調べだ。

 だが、その歌声はテトムの声では無い。ムラサキの声だ。

 

 

 〜う…うおォォ……‼︎〜

 

 

 ガオハンターは、リゲーターブレードを取り落とし苦しみ始めた。すると、倒れていたガオアキレスも、ガオハンターに近づいて行き、ガオハウル、ガオグランパス、ガオダイルへと戻る。

 すると彼等の身体は光の粒子へと変わる。

 

「ガオハウル‼︎ な、何を⁉︎」

 

 プラチナは叫ぶ。彼女は彼等がしようとしている事が分かった。彼等は、自らの身体をガオソウルそのものにして、ガオハンターに分け与えようとしているのだ。

 しかし、それは下手をしたら、彼等も消滅してしまう事になる。だが、ガオハウル達は粒子化を止めない。

 シルバーは、彼等の命懸けの行動に心を打たれる。そして、苦しむガオハンターを呼び掛け続けた。

 

「頼む、ガオウルフ‼︎ 思い出してくれ、俺達が千年の時を超えて来たのは……地球を、地球に生きる人々の未来を守る為じゃ無いか‼︎」

 

 シルバーの叫び、そして、ガオハウル達の願いが、邪気に覆い尽くされたガオハンターの心を洗い流して行く。

 そして、ガオハウル達は完全に消失してしまうが……ガオハンターの顔を覆うイビルフェイスが、精霊王のジャスティスフェイスへと切り替わった…。

 

 

 ガオビルダーは果敢に立ち向かうが、ゴズとメズの二人掛かりの攻撃に押され始めていた。

 

「グフォフォフォ‼︎ どうした、ガオビルダー‼︎ 俺達を止めるんじゃ無かったのか⁉︎」

 

 ゴズが高笑いを上げながら、ガオビルダーの背部を金棒で殴り付けた。メズも、それに合わせて、刀で斬り付ける。

 

「バヒヒヒヒィィ‼︎ 大した事が無いじゃねェか‼︎」

 

 

「グッ……‼︎」

 

 

 ガオビルダーの内部では、ガオグレーは苦しげに唸る。自慢の怪力も、ゴズとメズと言う二体のオルグ魔人を前にしては形なしである。

 しかし、諦める訳には行かない。ガオビルダーは、リンクスパンチを繰り出すが、ゴズは鼻で笑う。

 

「そんな、ヘナチョコパンチじゃ、オルゲットも殺せんぜ‼︎ うォら‼︎」

 

 ゴズは返しざまに、ガオビルダーへキックを決めた。遂に、ガオビルダーは転倒してしまう。

 ゴズとメズは、これでもかと言わんばかりに、ガオビルダーに攻撃を仕掛け始めた。しかし、ガオビルダーは反撃する出来ない有り様だ。

 

「くゥゥ……このままでは……‼︎」

 

 これでは嬲り殺しになるだけだ。と、その時、ガオハンターが割り込んで入ってきた。

 

「あん⁉︎ 何をしやがる、ガオハンター‼︎」

 

 仲間である、と誤解したゴズは、ガオハンターに怒鳴り付けた。しかし、様子が変である事に、メズが気付いた。

 

「待て、ゴズ‼︎ こいつ、正気に戻ってやがる‼︎」

「何⁉︎ だったら、俺達の敵だ‼︎ ぶち殺せ‼︎」

 

 メズの言葉に、ゴズはガオビルダーを捨て置いて、ガオハンターに攻撃の矛先を向けた。

 しかし、ガオハンターは今迄に無い程の素早い動きで、ゴズを躱した。メズも攻撃に入ろうとするが、高々にジャンプしたガオハンターは、頭上から斬りつけに入る。

 

「グッ‼︎ どうなってやがる⁉︎」

 

 事態が掴めず、メズは驚愕する。ゴズは怒り狂い、ガオハンターを殴り掛かろうとするが、その巨大な両眼に光の矢が突き刺さった。  

 

「がァァ‼︎ いていていて‼︎」

 

 痛みの余り、ゴズはメズを殴り付けた。

 

「ッて‼︎ ゴズ、何処を攻撃してやがる‼︎ よく見やがれ、このノータリンが‼︎」

「ああ⁉︎ 誰が、ノータリンだ‼︎ この木偶の坊がよ‼︎」

「何を‼︎」

「やるのか⁉︎」

 

 互いに攻撃を受け、仲間割れを始めるゴズとメズ。それを好機と見たガオビルダーは立ち上がり、ガオハンターと挟み撃ちにした。

 

「さっきは、よくもやってくれたな‼︎ ボアーキャプチャー‼︎」

 

 ガオボアーの鼻から発射されたガオソウルの拘束で二人纏めて、縛り上げられてしまう。

 

「な、何をしやがる‼︎」

「は、離せ‼︎」

 

「二人仲良く、地獄へ帰るんだな……‼︎ 天地震撼! ビーストハリケーン‼︎」

 

 三体のパワーアニマルの口から放たれた光線が、ゴズとメズを襲った。

 

「「ぐ、ぐああァァァァッ!!!!!!!!」」

 

 ゴズとメズは断末魔を上げながら、ビーストハリケーンを受けて爆発、消滅した。

 

「よっしゃァァ‼︎」

 

 勝利を確信したガオビルダー、ガオハンターは互いの右腕を掲げ、勝鬨を上げた……‼︎

 

 

 〜ガオシルバーの帰還、更にガオハンターも復活した事で、強敵ゴズとメズを見事に打ち倒したガオシルバーとガオグレー‼︎

 しかし、テンマに苦戦を強いられるガオゴールドに勝機はあるのでしょうか⁉︎〜




上述通り、今年は今話で最後です‼︎
来年度は、1月10日より再開します‼︎
後もう少しで最終話到達ゆえ、もう少しの、お付き合い願います!

では、良いお年を‼︎


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quest57 百獣戦隊、復活‼︎ 後編

明けましておめでとうございます‼︎
今年一番の、作品投稿とさせて頂きます‼︎ 尚、この小説の投稿する時間を、現在のヒーロータイムに合わせ、9時半に変更します‼︎ 残す物語の応援宜しくお願いします‼︎


 現実とは一皮、隔てられた空間にある異次元……其処に漂うのは、百体もの獣の姿をした精霊達……。

 その中で最も、存在感のある五体の獣……赤い獅子、黄色い鷲、青い鮫、黒い牛、白い虎……。

 彼等は眠っていた……此処に閉じ込められてから、力を蓄えているのだ。自分達を呼ぶ、その時に備えて……。

 

 すると、獅子が目を覚まして、眠っている四体に吠える。まるで「起きろ‼︎」と言わんばかりに……。

 鷲、鮫、牛、虎は、その声に覚醒して顔を上げる。そして、獅子は天に向けて吠えた。

 すると空間が歪み、出口が開かれた。其処から聞こえるのは懐かしい声が……

 

 

 〜おーい、ガオライオーン‼︎〜

 

 

 懐かしい声だ。ガオライオンは目を輝かせる。呼んでいる……自分達を。ならば、応えなければならない……。

 ガオライオンは振り返ると、他のパワーアニマル達も準備は整っている様子だ。

 ガオライオンは一声、吠えると走り出していく。それに合わせて、ガオイーグル、ガオシャーク、ガオバイソン、ガオタイガーも続いた。

 あの光の先には、新たな戦いが待っている。自分達を必要としている者達を救う為に……。

 

 

 それに呼応し、水晶の中に眠るガオレッド/獅子走の精神は覚醒した。何処からか、ガオライオンの咆哮が聴こえた気がした……僅かに目を開けると、眼前では見知らぬ金色の戦士の姿……。

 あの時、新たなガオの戦士が出現する、と彼は次世代に希望を賭けたが、彼の予言は成就されたらしい。

 だったら、自分達が何時迄も休んでは居られない。共に地球を守る戦士として……戦わなければならない………。

 獅子は指を動かす。動いた……足も動く……。目の前には浮かび上がる、G -フォンの姿……それを手に持つと、G -フォンは光り始めた。

 そして、獅子は叫ぶ。

 

 

 〜サモン・スピリット・オブ・ジ・アース!!!!〜

 

 

 そう心で叫ぶと、ガオスーツが、ヘルメットが着用されていった……。

 

 

 

「……ふん……零からでも力を引き出す、とな? 成る程……それが、貴様の強みか……」

 

 再び、ガオゴールドへと変身した陽に対し、テンマは余裕のある態度を崩さないながらも、その力に驚異を覚えた。

 

「仕方あるまい……。貴様には勿体ないが……見せてやろう……余の真の力を……‼︎ ふゥゥゥん!!!!!!」

 

 テンマは全身に力を込める。すると、テンマの上半身は倍の大きさへと膨れ上がり、その二の腕は太い血管が浮き上がり、巨木の様に太ましくなった。背中の掌は分離して浮遊し、中央にある血走った眼球がギョロギョロと蠢く。

 

「クハハハァ!!!!! では行くぞ、ガオゴールド!!! 」

 

 テンマは修羅怨鬼剣を握り締め、力強く振り払う。すると、刃から漆黒の斬撃がエネルギーとして放たれ、床を破壊しながら直進して来た。

 其れを躱したゴールドは、すかさずにソルサモナーバレットを銃形態にして構えた。

 

「破邪聖火弾! 邪気……焼滅‼︎」

 

 発射した光弾が、テンマに直撃した。しかし、掌が盾となって防がれた。

 

「そんな子供騙しで余を殺せると思うな、戯けが‼︎」

 

 テンマは、せせら笑いながら掌の眼球を見開かせた。

 

「弾丸とは……こうやるのだ! 鬼眼砲‼︎」

 

 眼球から射ち出された漆黒の光線が、辛うじて躱したゴールドを擦って壁に直撃した。壁は腐食した様に、崩れ落ちた。

 あんなものが、もろに当たったら一溜まりも無いだろう……。

 

「休んでいる場合か⁉︎ 鬼眼砲、連弾‼︎」

 

 休む間も無い程に、鬼眼砲を連発して来るテンマ。其れを走りながら躱すゴールドだが、次第に追い詰められて行く。

 

「クハハハ‼︎ 袋の鼠とは、この事よ‼︎ 塵も残さずに消し去ってくれわ‼︎

 

 修羅怨鬼剣! 正気……退散‼︎」

 

 テンマが邪気と怨念を纏わせた一閃を振り下ろした。巨大な禍々しい斬撃が、襲い掛かる。

 だが、その一撃は、ゴールドに届く前に見えない壁に阻まれた。

 

「な……なんだ⁉︎」

 

 テンマは目を見張る。すると、ゴールドの前にバリヤーが現れ、修羅怨鬼剣の一撃を食い止めているのだ。

 ゴールドも訳が分からぬままに、バリヤーの出所を探す。すると、ガオレッドの封印されている水晶の亀裂から、ガオソウルが溢れ出ていた。

 先程、摩魅が傷つけた箇所だ。

 

「ガオレッドが……僕を守ってくれている……」

 

 マスクの下で、ゴールドは涙した。テンマは忌々しげに、唸る。

 

「こ…小賢しい‼︎ 力を封じられ、死を待つだけの虫ケラ共がァァ!!! 我々に踏み付けられるだけの下等種がァァ!!! 絶対的支配者である、オルグの王たる余に刃向かう等……断じて、あってはならぬのだァァァァ!!!!」

 

 暴走した様に、テンマは邪気を光線にして、あたり一面に放射した。だが、その光線も他の水晶から放出されたガオソウルによって掻き消される。

 

「ぬうゥゥゥ……!!! 忌まわしい!!! 」

 

 テンマは益々、激昂した。と、同時にガオレッドの水晶の亀裂が広がっていき、内から漏れる光が室内を覆い尽くした。

 

「こ、この光は⁉︎」

 

 視界を遮断されたゴールドは、目を凝らそうとする。テンマも怒り狂いながら、修羅怨鬼剣を振り回した。

 そうしてる間に、五つの影が二人の間に降り立った。

 やがて、光が収まっていくと……

 

「灼熱の獅子! ガオレッド‼︎」

 

 燃え盛る炎を纏う紅き獅子、ガオレッドが叫ぶ。

 

「孤高の荒鷲! ガオイエロー‼︎」

 

 吹き荒ぶ風を切り裂く黄の荒鷲、ガオイエローが叫ぶ。

 

「怒涛の鮫! ガオブルー‼︎」

 

 荒れ狂う水を打ち付ける蒼き鮫、ガオブルーが叫ぶ。

 

「鋼の猛牛! ガオブラック‼︎」

 

 揺れ動く大地を砕く黒き猛牛、ガオブラックが叫ぶ。

 

「麗しの白虎! ガオホワイト‼︎」

 

 咲き踊る花の如し白き虎、ガオホワイトが叫ぶ。

 

 

「命ある所に正義の雄叫びあり‼︎

 百獣戦隊! ガオレンジャー‼︎」

 

 

 かつて、地球をオルグの侵攻から守り、人々の為に戦った五人の勇者達が、今此処に復活した瞬間だった。

 

「ガオ……レンジャー……‼︎」

 

 ゴールドは呟く。直接の面識は無いが、彼等の話は聞いていた。どんな時も諦めずに、最後まで戦い抜いた戦士達……。

 自分にとっては、誇りある大先輩に当たる人達の復活に、ゴールドは感涙が止まらなかった……。

 

 

 

 ガオズロック内部では……テトムが膝を突いて崩れ落ちた。

 

「て、テトムさん⁉︎ どうしたんだよ⁉︎」

 

 猛は不安気に尋ねた。見れば、テトムは号泣していた。

 

「ど、どっか痛むのかよ⁉︎」

「……違うのよ……皆が……帰って来た……‼︎」

「エッ⁉︎」

 

 テトムは嗚咽を漏らしながら、呟く。さっき、大神が生き返って仲間達の下へと向かった……そして、今回に察した気配……彼等が復活したのだ……。

 

「百獣戦隊が……復活した……‼︎」

 

 

「こ、この感じは……⁉︎」

 

 ガオシルバーは戦いを終え、地上に戻った際に何かを感じ取っていた。

 

「な、何じゃ、シルバー⁉︎」

「帰って来たんだ……アイツらが……‼︎」

「アイツらって……もしかして、岳叔父さん達が……‼︎」

 

 プラチナは、シルバーの言葉に確信した。きっと、ゴールドはテンマの下まで辿り着いたんだ……。

 事情を察したグレーは、強く頷く。

 

「成る程のォ……だったら、こんな所でチンタラしてる場合じゃ無いぞ‼︎ 一刻も早く、ゴールド達の援護に向かわなくてはな‼︎」

 

 

「クスクス……援護に向かうゥ? それは出来ない相談ですわァ?」

 

 

 突然、甘ったるい喋り方に、シルバー達は振り返る。すると、大鎌に腰を下ろしたニーコが宙に浮きながら、厭らしく笑っていた。

 

「ニーコ! そうか、まだコイツが居たか‼︎」

 

 シルバーは、四鬼士やゴズ、メズと共にオルグ達の幹部であるニーコを忘れていた事に気付く。ニーコは、大鎌から飛び降りた。

 

「ガオシルバーさん、チャオ♡ 私を忘れちゃうなんて、釣れないですねェ?

 そ・れ・よ・り……貴方達が、ガオゴールドさんの援護に向かうなんて無理ですわよォ?

 な・ぜ・な・ら……貴方達は皆、此処で死んじゃうから‼︎」

 

 と叫んで、ニーコは指をパチンと鳴らす。すると大多数のオルゲットと餓鬼オルグが湧き出て来た。

 

「此処まで、ご苦労様♡ そして……さようなら……貴方達の骨は海にでも散骨させて頂きますわァ♡」

 

「骨になるのは、お前達だ……‼︎」

 

 ガオシルバーは言い放つ。そして、ガオハスラーロッド、グリズリーアックス、フェニックスアローを構えた。

 

「アハハ‼︎ 良いですわぁ……さァ、始めましょうか? 楽しくて愉快な……オルグの、オルグによる、オルグの為の……血みどろのパーティーを‼︎」

 

 ニーコは狂喜しながら、配下のオルゲットや餓鬼オルグ達を嗾けて来た後、姿を消した。ガオシルバー達は、それに対して果敢と立ち向かって行く……。

 

 

 

 ガオゴールドは目の前に立つ五人の戦士達を見て行った。とても封印されていたとは思えない程、力に溢れている様子だ。

 ふと、ガオレッドは、ゴールドを振り返り手を差し出す。

 

「立てるか? 俺達が動けない間……闘ってくれたんだな……」

「レッド……」

 

 レッドの顔はマスクで見えないがらも、ゴールドへの労りに満ちていた。かつて、ガオゴッドに連れられて過去の彼を見た。

 仲間や地球の人々、ひいては動物の命を思いやる熱い青年だったのを覚えている。

 と、その時、ガオホワイトが屈み込んで来る。

 

「私達の代わりに……辛かったでしょう? 祈ちゃんを守る為とは言っても……よく頑張ったね。偉いよ、陽君」

 

 ホワイトの言葉に陽は目を丸くした。

 

「さ、冴姉さん⁉︎ 僕が分かるの⁉︎」

 

 確かに、ホワイト/冴は、ガオゴールドの正体が竜崎陽である、と見抜いた。冴は優しく笑っていた。

 

「分かるよ、陽君のお姉さんだもん……ありがとう……」

 

 そう言って、ホワイトはゴールドを抱擁した。久しぶりに、彼女の暖かい温もりに触れる事が出来た。

 ガオゴールドとなってからは毎日が殺伐として、ピリピリした戦いを強いられて来た。

 そうしてる内に、心から棘ばかり生まれてくる様になった。そんな日常の中、オルグを倒すと言う信念だけで戦って来たが、ホワイトから受ける人の暖かさは、凍り付いた彼の心を融解してくれた。

 

「……俺も、お前に礼を言わなくちゃな……姪の美羽が世話になったみたいだ……本当にありがとう……」

 

 ガオイエロー/岳が言った。後から、ガオブルーとガオブラックも続く。

 

「君が居なかったら、地球はオルグの支配に落ちていた……本当に助かったよ……」

「俺達が不甲斐ないせいで、若い君にまで迷惑を掛けてしまった……」

 

 戦士達は謝罪した。そもそも先の戦いで、テンマ達の侵攻を食い止められなかった事が、この事態を引き起こしたのだから…。

 しかし、ゴールドは首を振る。

 

「……どうか謝らないで下さい……。僕一人だけでは無い……パワーアニマル達の力が無ければ、此処まで来れなかった……。

 僕は皆さんの意思を引き継いだだけです……やっぱり、地球の守護者は貴方達ですよ、レッド……‼︎」

「ゴールド……‼︎」

 

 戦士として、そして自分達の意思を引き継ぐ後輩としての思いを語ったゴールドに、レッドは感動していた。

 やはり、自分達の戦いは決して無駄では無かった。ガオゴールドと言う存在が現れ、自分達の不在を埋めてくれた事が、それを実証した。

 

 

「貴様等ァァ‼︎ 余を無視して、何を勝手に喋っておる‼︎」

 

 

 テンマの怒号が響いた。ガオレンジャーの復活に気を取られ一時、放心していたが、身勝手に盛り上がる彼らに対する怒りが、爆発した様だ。

 

「久しぶりだな、テンマ……。天空島では、世話になったな‼︎」

「フン……。あのまま、水晶の中で眠って居れば楽に死ねたものを……。ならば今度こそ、余の手直々にて貴様等を地獄に叩き落としてくれるわ‼︎」

 

 そう叫ぶと、テンマは邪気を放出した。ゴールドは再び、立ち上がる。

 

「戦えるか、ゴールド⁉︎」

「勿論‼︎」

 

 こうして、百獣戦隊ガオレンジャーは完全復活した。それぞれが破邪の爪を構える。テンマは掌の眼球を開いた。

 

「塵と化すが良い‼︎ 鬼眼砲‼︎」

 

 眼球から放たれた光線が、ガオレンジャー達に一斉に放たれた。だが、それを散開して躱す。

 ガオイエローは、イーグルソードを振り上げて飛び上がる。

 

 

「ノーブルスラッシュ‼︎」

 

 

 ガオソウルを刀身に纏わせて、片割れの右掌を斬撃した。眼球ごと傷つけられた掌は、力無く地面に落下する。

 

「ぬゥゥ……おのれェェ‼︎」

 

 

「アイアンブロークン‼︎」

 

 

 ガオブラックの、ガオソウルを纏わせたバイソンアックスで、残った左掌を斬りつけた。

 万力込めて振り下ろされた一撃が、掌を叩き潰す。両方の掌を破壊され、光線を放つ事が出来なくなったテンマは完全に怒り狂う。

 

「……貴様等ァァァ……‼︎ 余を完全に怒らせた様だな……‼︎」

 

 そう言って、テンマは手に持つ修羅怨鬼剣に邪気を込めた。そして、その斬撃を振るい、イエローとブラックを吹き飛ばす。

 しかし、続け様にホワイトとブルーが奇襲を仕掛けて来た。

 

 

「ベルクライシス‼︎」

「サージングチョッパー‼︎」

 

 

 ホワイトのタイガーバトン、ブルーのシャークカッターにガオソウルを纏わせた一撃を左右から、テンマに浴びせる。

 防御が出来なかったテンマは大きく仰け反るが、すぐさまに体勢を立て直す。

 

「……喧しいハエ共が……小賢しいわァァァッ!!!」

 

 テンマは再び、修羅怨鬼剣から邪気を放ち、ホワイトとブルーを弾き返した。

 だが、今度はレッドとゴールドが迫る。手にはライオンファングと、ソルサモナードラグーンが構えられていた。

 

 

「ブレイジングファイヤー‼︎」

「竜牙……追衝‼︎」

 

 

 二人が同時に放つ赤と金の炎による斬撃が、テンマに激突した。激しい爆炎と共に、テンマは大ダメージを受けた。

 

「お……おのれェェ……下賤な……人間共がァァァ……!!!」

 

 結束させた六人の戦士達の猛攻に度重なるダメージに、最初こそ無敵を誇ったテンマは次第な追い詰められて行く。

 一人の力では傷一つ負わせられなかったオルグの王も、絆により結ばれた数人の力の前には敵わなかったのか……テンマは満身創痍に陥り、憤怒の形相を露わにする。

 

「余を……余を誰だと心得ておるか……⁉︎ 余は、オルグ族の王にして地球の支配者、テンマであるぞ‼︎

 余に逆らう事が……如何に愚かであるか……その身を持って……思い知るが良いィィ……‼︎」

 

 怒り狂うテンマは、修羅怨鬼剣を大地に突き立てた。すると、刀身から邪気が奔流の様に溢れ出す。

 

「な、何を⁉︎」

 

 ゴールドは、テンマの行動に目を疑う。

 

「クハハハァァ‼︎ 何の事は無い‼︎ このオルグリウムは邪気を稼働源としている……その邪気を、攻撃手段として利用する迄だ‼︎」

「正気か⁉︎ そんな事をしたら、この島も墜落するぞ‼︎ 俺達も、お前も無事には済まないぞ⁉︎」

 

 レッドは、テンマの愚行を止めさせようと嗜めた。しかし、テンマは聞く耳を持たない。

 

「知った事か‼︎ 我等、オルグは不死身‼︎ よしんば、死んだとしても、このテンマ一人さえ生き残れば良い‼︎ 余が、また新たに生まれたオルグ達を率いて、新たに作り直してやる‼︎

 今は貴様等を根絶やしに出来れば良いのだ! 貴様をな‼︎

 クフフフフ……クハハハハハハハハハハハァァァッ!!!」

 

 人間達への烈しい怒りにより、既に正気を失った気高い鬼の王は、目に映る者を全て破壊する暴君と成り果てていた。

 修羅怨鬼剣に邪気が吸収されると同時に、部屋全体が揺れ始める。木の根を切られた大樹が倒れ伏す様に、砦そのものが倒壊しようとしているのだ。

 

「ま、拙いぞ‼︎ このままじゃ、俺達も生き埋めだ‼︎」

 

 見る見る崩れ始める部屋に、イエローは危機感を覚える。ブルーは焦った様に慌てた。

 

「ここに居たら、ヤバいぜ‼︎ 外へ脱出しよう‼︎」

「駄目よ‼︎ 今から出ても間に合わない‼︎」

 

 ホワイトが、半ば崩落した天井を見上げながら言った。確かに、これから走ったとしても、崩落に巻き込まれてしまうだろう。

 

「だが、このままでは……どちらにしても……‼︎」

 

 

「戦おう‼︎」

 

 

 あたふたする、他のガオの戦士達にゴールドは言った。レッドは彼を見た。

 

「本気か⁉︎ 死んだら、元も子もないぞ!」

「此処には祈も居るんです‼︎ 崩れたら、祈も巻き添えになってしまう‼︎」

「祈ちゃんも捕まってるの⁉︎」

 

 ホワイトが二人の中に入る。レッドは、仲間の安全とテンマへの抵抗の間で揺れている時、ゴールドは言った。

 

「レッド……獅子さんは、獣医でしょう⁉︎ 救いを求めてる人達に目を背ける訳に行かないでしょう⁉︎」  

 

 奇しくも、その言葉は、レッド自身が座右の銘として度々、口にしている言葉だった。

 レッドは驚く。自分と同じ様な言葉を発する戦士がいた事を……レッドは遂に頷いた。

 

「ああ、そうだな……! 皆、戦おうぜ‼︎ 俺達は、そうやって何度もピンチを切り抜けて来たんだ‼︎ 今度だって、そうだ‼︎」

 

 そう言うと、レッドはライオンファングを差し出す。

 

「……そうだな……‼︎ 後輩にばかり、活躍させたとあっては、ガオの戦士の名が廃るぜ‼︎」

 

 イエローは、イーグルソードを差し出す。

 

「よし‼︎ どんな時だって、ネバギバだ‼︎」

 

 ブルーは、シャークカッターを差し出す。

 

「やろう‼︎ 俺達の六人の力で‼︎」

 

 ブラックは、バイソンアックスを差し出す。

 

「見せてやりましょう‼︎ ガオレンジャーの力を‼︎」

 

 ホワイトは、タイガーバトンを差し出す。残された、ゴールドもソルサモナードラグーンを差し出しながら……

 

「この力に全てを込めて……放つ‼︎」

 

 と、自身のガオソウルを装填し始める。仲間達も、それに続く。すると、六人の破邪の爪は姿を変え始めた。

 イーグルソードを天辺の刀身、バイソンアックスを中央に、シャークカッターが鍔に、タイガーバトンが柄に、そしてライオンファングが柄を持つ。更に、ソルサモナードラグーンの竜頭が中央へと収まると、刃は光を放ちながら伸びた。

 

 

「真・破邪百獣剣‼︎」

 

 

 〜六人の破邪の爪を併せる事によって、悪鬼を烈断する無双の大太刀が誕生するのです〜

 

 

 レッド、ゴールドは二人で柄を握り締め構えた。その左右から、四人の戦士が支える様に寄り添った。

 その刹那、テンマは修羅怨鬼剣を抜き、構える。剣の刃は真・破邪百獣剣に勝るとも劣らない巨大な物と化しており、天を衝かんばかりだ。

 

「クハハハァァ‼︎ 全てのオルグ達の積もりに積もった怨みの力を……貴様等に見せてやろう‼︎」

「ならば‼︎ 地球を守ろうとする想いの力で、それを迎え撃つ‼︎」

 

 

「邪気……

 正気……退散!!!」

 

 

 同時に振り下ろされる二振りの刃。其れは交錯し、更に空間を大きく揺らした。

 

 

 

「な、何だァァ⁉︎」

 

 ヤバイバは激しく揺れる砦内にて、目一杯に踏ん張っていた。祈も、思わずヤバイバに強く、しがみ付く。

 

「な、何が起こってるんだ⁉︎」

「に、兄さん⁉︎」

 

 祈は、兄の危険を察知して飛び降りた。

 

「お、おい⁉︎ 何処に行くんだよ⁉︎」

「兄さんが危ないの‼︎ 助けないと‼︎」

「馬鹿か⁉︎ 俺達は、ガオネメシスを倒す方が先決だろうが‼︎」

 

 ヤバイバは止めようとするが、祈は振り切って歩き始める。

 

「放っておけないよ‼︎ 私、行かないと‼︎」

「ッ‼︎ 勝手にしろ‼︎ 俺ァ、知らねェからな‼︎」

 

 ヤバイバは、祈りを捨て置いて行こうとする。しかし、祈は足を引き摺りながらも行こうとしていた。

 最初は、その様子を見ながらも歩み去ろうとする。だが、痛む足を堪えながら歩き続ける祈の姿をみたヤバイバは、苦み走った顔に歪ませる。

 

「あ〜〜、俺は何考えてんだ⁉︎」

 

 自分の頭を抑えながらも、ヤバイバは祈に近付き無理やり背負う。

 

「な、何するの⁉︎」

「ウルセェ、暴れんな‼︎ テメェ一人で行かせたら、俺がネメシスと一人で戦わなきゃならねェだろう‼︎

 言っとくがな‼︎ 別に、お前が心配だから、なんて、そんな理由じゃ無ェぞ‼︎ 勘違いすんな‼︎」

 

 ムキになりながら、ヤバイバは喚く。祈は、キョトンとしながらも優しく微笑んだ。

 

「て、テメェ‼︎ 何を笑ってやがる⁉︎」

「ありがとう……ヤバイバさん……」

「!!?」

 

 ありがとう、だと? そんな事、言われた事が無かった……。全く、調子が狂う……ヤバイバは頭を振った。

 にも関わらず……何で、こんな暖かい気持ちになるんだ……?

 

 

 ガオレンジャーの真・破邪百獣剣と修羅怨鬼剣の刃が激突する。その衝撃の余波が益々、砦の壁を破壊して行く。

 しかし、その力は些か、テンマの方に傾いている様子だ。ガオレンジャー達は万力を込めて押すが、修羅怨鬼剣の邪気に食い潰されて行った。

 

「クハハハァァ‼︎ 潰れろ‼︎ オルグの怨念の前に潰されてしまえェェ‼︎」

 

 テンマは勝ち誇りながら、修羅怨鬼剣を振り下ろしに掛かる。レッド、ゴールドは握る力を強める。

 

「皆‼︎ 諦めるな! 最後まで、自分の力を出し切れ‼︎」

「だ、出し切れって言ったって……‼︎」

 

 レッドの激励に、ブルーは弱音を吐く。

 

「ブルー‼︎ 俺達が諦めたら、世界はどうなるんだ⁉︎ 頑張れ‼︎」

 

 イエローが、ブルーを叱咤する。ブラック、ホワイトも同様だ。

 

「まだだ‼︎ まだ、諦めれるかァァァ‼︎」

「限界まで、出し切るの‼︎」

 

 仲間達の後押しを受け、ゴールドも叫ぶ。

 

「負けられ無い‼︎ 負けて堪るかァァァ‼︎」

 

 レッドも、ガオソウルを尽き掛けながらも、まだ力を出そうとする。

 

「ガオライオン‼︎ 頼む、力を貸してくれェェ‼︎」

 

 この場に居ない、最大の友に加勢を願うレッド。その時、凄まじい咆哮が響き渡る。

 

「この声は……ガオライオン⁉︎」

 

 レッドは見上げる。すると、五体の獣の幻影が現れた。

 

「皆……来てくれたんだな‼︎」

 

 レッドの言葉に、ガオライオンの幻影は吠える。ガオイーグル、ガオシャーク、ガオバイソン、ガオタイガーも力強く雄叫びを上げた。

 

「よし、行くぜェェェ‼︎

 

 邪気……退散!!!」

 

 パワーアニマル達の後押しを得て、レッドとゴールドは破邪百獣剣に力を入れた。すると、修羅怨鬼剣の邪気を押し始め、やがてテンマの眼前にまで迫る。

 

「ば、馬鹿なァァァ⁉︎ オルグ、数万匹にも及ぶ怨念の塊が……人間如きに敗れる訳が……‼︎」

「人間如き……お前達からすれば、小さな存在かも知れない……でもな……‼︎ 僕達、人間とパワーアニマルの信じ合う絆こそが、オルグの怨念をも打ち破るんだァァァ!!!」

 

 ゴールドは叫んだ。そして、巨大な円を描いてから、唐竹割りの如く勢いよく破邪百獣剣を振り下ろした。

 遂に、拮抗していた怨念を込めた修羅怨鬼剣は、思いを込めた破邪百獣剣の前に逆に飲み込まれる。

 

「ぬ、ぬおォォッ!!??」

 

 絶対の自信を持っていたテンマは、予想を覆された逆転に狼狽する。

 

 

『いっけェェェェェェェェェ!!!!!!』

 

 

 ガオレンジャー達は、自分達の思いに加え、パワーアニマル達の思いを乗せた渾身の一撃を、テンマに振り下ろした。

 

 

「お……お……の……れェェェェェェ………!!!!」

 

 

 テンマは断末魔を上げながら、ガオソウルの光刃の中、灰塵となって消えて行った。

 

「や、やった…‼︎」

 

 ゴールドは歓喜の声を上げる。

 

「……か、勝ったんだな……?」

 

 レッドも信じられない、と言った具合に、目の前の光景を見ていた。

 だが、疑いようが無い。遂に、オルグの王テンマを撃破したのだ。仲間達も、二人に続く。

 

「……やったァァァ‼︎ 俺達の勝ちだぜェェェ‼︎」

 

 イエローが一番に歓声を上げた。ブルーはブラックの抱き合いながら、咽び泣く。

 

「本当に……本当に終わったんだな⁉︎」

「俺達は、やったんだ‼︎」

 

「皆‼︎ 喜ぶのは、まだ早いわ‼︎」

 

 ホワイトが仲間達を我に帰らせた。これ迄の戦いが引き金となって、もう砦の崩壊は免れない。

 

「皆、走れ‼︎」

 

 レッドは急いで、皆を走らせるが……生憎、度重なる疲労が手伝い、歩く事すら、ままならない仲間達。其れは、レッドとゴールドも同じだ。

 

「く、くそォォ‼︎ このままじゃ、皆揃って生き埋めだ‼︎」

「折角、復活出来たのに‼︎」

 

 もう、どうする事も出来ない……万策、尽きたかと思われた時……。

 

 

「兄さァァァん‼︎」

 

 

 祈の声が、響き渡る。ゴールドは顔を上げた。

 

「い、祈⁉︎ 無事だったのか⁉︎」

「って、あれは、ヤバイバじゃ無いのか⁉︎」

 

 レッドは祈を背負っているのが、ヤバイバである事に気づく。しかし、そうしてる間に、祈は両手を翳す。

 すると、ガオレンジャー達は光に包まれて、その場に居た全員が姿を消した。

 

 誰一人、居なくなり崩れ去ろうとする広間……瓦礫の一部が積み重なっていた所が、カタカタと動く。

 すると瓦礫を掻き分けて、巨大な掌が現れ、大地を掴んだ……。

 

 

 

 ガオレンジャー達は、崩落を始めた砦の外に居た。ゴールドは皆を見回しながら、安否を確認した。

 

「皆……無事みたいだね‼︎」

「何とか……な‼︎」

 

 レッドが元気よく応えた。ゴールドは、側に居た祈に気付く。

 

「ゴメンな、祈……遅くなって……‼︎」

「ううん……。私、信じてたから……! 兄さんは必ず、来てくれるって……‼︎」

 

 そう言いながらも、祈はゴールドに抱きついて来た。オルグの本拠地に捕らえられ、不安だったに違いない。

 その様子を動かなくなった摩魅の、側に座り込むヤバイバが居た。

 

「全く……結局、ガオネメシスは倒せず仕舞いかよ‼︎」

「……そう言えば何で、ヤバイバが、この娘と一緒にいたんだ⁉︎」

 

 イエローは、ヤバイバに尋ねて来る。話し出すと非常に長くなってしまうが……。

 と、その時……

 

「ゴールド‼︎ 皆ァァ‼︎」

 

 遠方より、ガオシルバー、ガオグレー、ガオプラチナが駆けてくる。三人共、スーツもボロボロである。

 

「ッ⁉︎ シルバー‼︎ 生きてたの⁉︎」

 

 死んだと思われたシルバーが、やって来た事に腰を抜かしそうになるゴールド。だが、レッドは嬉しそうだ。

 

「……今、戻ったぜ、シルバー……‼︎」

「ああ……また会えて、良かったよ……レッド……‼︎」

 

 無事に再会が出来た事に喜ぶ二人。グレー、プラチナも同様だ。

 

「岳叔父さん…‼︎」

「エッ⁉︎ まさか……美羽か⁉︎」

「ハッハッハッハッ‼︎ まあ、何にせよ、これで全員集合じゃな‼︎」

 

 

 〜クハハハ……まだ、勝手に終わらせんぞ……〜

 

 

 突如、瓦礫の中から低い声が響き渡った。

 

「こ、この声は……まさか……⁉︎」

 

 ホワイトは、瓦礫の方に目をやる。すると、瓦礫を押し除けながら、巨大な掌が二つ飛び出して来る。

 そして、その中央には……

 

 〜クハハハハハハハァァァ!!!

 余は、オルグの王テンマ‼︎ 全ての人間共を滅ぼし、その頂点へと君臨する者なり‼︎〜

 

「て、テンマ‼︎」

 

 巨大なオルグ魔人と化した、テンマの姿に、ガオレンジャー達全員に緊張が走った…‼︎

 

 

 〜遂に復活を果たしたガオレンジャーと力を合わせて、宿敵テンマを倒したと思われたが、テンマは死んでいなかった‼︎

 果たした、巨大化したオルグの王に対し、ガオレンジャーは、どう立ち向かうのでしょうか⁉︎〜




ありがとうございました‼︎

次回の投稿は、1月24日の9時半とさせて頂きます‼︎


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quest58 精霊王、全員集合‼︎ そして……⁉︎

 鬼ヶ島の一角にて……ガオマスターは苦しげに喘いでいた。手には宝珠が乗せられている。

 彼は息切れを起こしながらも宝珠に力を込めて、ガオソウルを注ぎ込んでいる。

 

「……スサノオ……許せ……。兄が……お前にしてやれる事は……最早、これだけしか残っていない……」

 

 苦しそうに呻きながら、マスターは宝珠に自身のガオソウルを注ぐ。

 

「……姉さん、済まない……。私には……もう幾ばくも、時間が残されていない……。姉さんも……故郷も守れず……スサノオを救う事すら……出来なかった……」

 

『ツクヨミ……止めるのだ‼︎』

 

 突如、ガオゴッドの声がして、彼の後ろに風太郎が止めようとしていた。

 

「これ以上、ガオソウルを消費したら……君は消えてしまうよ…‼︎ 今の君は、ガオソウルの力で身体を維持している……其れを無くしたら……」

 

 風太郎は心配そうに、マスターに言った。しかし、彼はガオソウルの注入を止めない。

 

「……止めてくれるな……。私は、これまで過去を後悔し続けて来た……姉も弟も……故郷も……何一つ守れなかった……。

 だから……せめて、こんな形でも……償いたいのだ……‼︎」

「ツクヨミ……」

 

 ガオマスター/ツクヨミの悲壮な決意に、風太郎は何も言えなくなった。その時、二人の後ろから声がして来た。

 

 

「……ふん……それで償ったつもりか? 反吐が出そうだよ…‼︎」

 

 

 振り返ると、ガオネメシスが近付いて来た。マスターは、フラつきながら立ち上がる。

 

「……スサノオ……‼︎」

「……その名で呼ぶな……‼︎ 俺は叛逆の狂犬ガオネメシス……スサノオは死んだ……‼︎」

 

 そう言いながらも、ネメシスは何処か哀しげだった。マスターは語り掛ける。

 

「……お前にも、まだ良心が残っている筈だ……今からでも遅くない……! 不毛な復讐など止めて地球を守る戦士に戻れ……! 此れは最後の警告だ……‼︎」

 

 かつての様に、兄は弟を説得した。しかし……

 

「ハハハハハハハハァァ!!!! 良心だと⁉︎ 地球を守る戦士だと⁉︎ ならば……姉さんを、俺の前に連れて来たら……生きた彼女の笑顔を、見る事が出来たなら……復讐だなんて、馬鹿馬鹿しい事など止めてやる‼︎」

 

 ネメシス自身、復讐が無意味である事は百も承知だった。だが……もう後戻り出来ない所まで、ネメシスは足を踏み入れていたのだ。 

 今更、引き返す事も……改心する事も出来ない……。

 

「……スサノオ……私に、お前を殺させる気か?」

「殺すだと? 貴様が? 片腹痛いわ‼︎ 既に俺は貴様を遥かに凌駕した力を得ている! 貴様は元より、ガオレンジャー如きでは、俺には勝てん‼︎」

「……オルグの思想だな……最早、お前の心変わりを期待するのは無理か……‼︎ 何処まで堕ちたとしても……やはり、お前は私にとって、掛け替えの無い弟だった……しかし! お前が世界に害を成す者と成り果てたなら……私が、姉さんに代わって貴様を罰する‼︎」

「クックッ……出来るかな?」

 

 ガオマスターとガオネメシス、かつて兄弟として血を分けた二人の戦士は相対する。本来なら、殺し合う必要など無い……しかし、運命は二人の道を残酷にも隔てた。

 すると、ネメシスが手を翳すと、闇の精霊王ガオインフェルノが召喚された。

 

「精霊王同士の対決としようか?」

「臨む所だ‼︎ ガオゴッド、行くぞ‼︎」

「分かった‼︎」

 

 マスターの掛け声に反応し、風太郎は精霊の神ガオゴッドへと姿を変える。

 

「スサノオ‼︎ 今こそ、決着を付けようぞ‼︎」

 

 マスターは、ガオゴッドへと搭乗する。精霊の神は、世界の破壊者に対して威嚇した。

 

「良ろしい‼︎ オルグの跋扈する世界の人柱として、死ぬが良い‼︎」

 

 ネメシスは、ガオインフェルノへと搭乗する。叛逆の神は、オルグの敵対者に対し吠えた。ガオゴッドは右腕のガオソーシャークの鋸で、ガオインフェルノは右腕に持つムンガンドセイバーで、互いを斬り付ける。

 凄まじい衝撃が大地を、空間を大きく揺らした……。

 

 

 

 〜クハハハァ‼︎ 覚悟しろ、ガオレンジャー共よ‼︎〜

 

 復活したテンマは、巨大化した姿で吠える。彼の背後には巨大な掌が浮かび上がり、同じく巨大化した修羅怨鬼剣を両手に装備している。

 

「邪気が……暴走している‼︎」

 

 ガオレッドは、荒れ狂うテンマを指して言った。彼の周囲には、濃密ナ邪気が目に見える迄に揺れ動いていた。

 瓦礫を蹴飛ばしながら、テンマはガオレンジャー達の前に襲いかかって来る。

 

 〜クハハハ‼︎ 捻り潰してくれるわ‼︎〜

 

 そう叫んで、テンマは修羅怨鬼剣を大地に叩き付ける。邪気の斬撃が大地を抉り飛ばす。

 ガオゴールドは仲間達を振り返る。

 

「皆、やろう‼︎ パワーアニマル達の力を‼︎」

「ああ‼︎」

 

 レッドも、それに応える。シルバー、グレー、プラチナも後に続いた。

 

 

「幻獣

       召喚‼︎」』

  『百獣

 

 

 ガオゴールド、シルバー、グレー、プラチナは宝珠を射出し、ガオレッド達は獣王剣に宝珠を装填し天に掲げる。

 すると、ガオドラゴン、ガオユニコーン、ガオグリフィンのレジェンド・パワーアニマル達が姿を現す。

 

「ガオドラゴン‼︎ 行くぞ、最後の戦いだ‼︎」

 

 〜あいわかった‼︎〜

 

 ゴールドの言葉に、三体のレジェンド・パワーアニマルは変形し始めた。更に現れたガオウルフ、ガオグリズリー達も変形を始めた。

 それから間も無く現れたのは、五体のパワーアニマル達。

 

「ガオライオン‼︎」

 

 レッドは嬉しそうに言った。ガオライオンも、レッドの姿を見て嬉しげに吠える。

 天空島の敗北後、レッド達は水晶に封印され、ガオライオン達も異空間の牢獄に囚われてしまい、身動きが取れなくなった。

 だが、ガオレッド達の復活を感じた彼等は、異空間の壁を破壊して再び現世に復活したのだ。

 

「ガオライオン……長い事、待たせたな‼︎ 復活早々だが、力を貸してくれ‼︎」

 

 レッドの問いに、ガオライオンは力強く応える。他のパワーアニマル達も同様だ。

 

 

「百獣合体‼︎」

 

 

 レッド達の掛け声に合わせ、合体し始めるガオライオン達。ガオライオンが胸部を成し、ガオイーグルが腰部と変形した尾羽が頭部を形成する。右腕にガオシャーク、左腕にガオタイガー、脚部をガオバイソンが変形して構成していく。更に、現れたソウルバードが……こころの母親が、ガオレッド達と搭乗させて体内へと吸収される。そして、精霊王の顔が露わになった……。

 

 

「誕生! ガオキング‼︎」

 

 

 かつて、ガオレッド達を幾度となく勝利へと導いた文句無しの巨大戦士、百獣の精霊王が復活した。

 

 

 ガオパラディン、ガオキング、ガオハンター、ガオビルダー……四柱の精霊王が、テンマを迎え討とうと立ちはだかる。

 

 〜ハッ‼︎ 小賢しい奴等め‼︎ 獣如きが、このテンマに勝てると思うてか‼︎〜

 

 完全に舐め切ったテンマは修羅怨鬼剣を振り下ろそうとする。だが、ガオハンターが先に動く。

 

「精霊・十六夜斬り‼︎」

 

 本来なら、悪に染まっていたガオハンターの技だが、正義に目覚めたガオハンターが用いたリゲーターブレードによる一撃を、テンマに浴びせた。

 

「グハァァッ⁉︎」

 

 先手を取られたテンマは大きく仰反る。しかし、其処へガオビルダーが突撃した。

 

「ボアーガドリング‼︎」

 

 ガオボアーから放たれる光弾の連発が、ガラ空きとなったテンマの胸部を狙い撃つ。

 

 〜ぬぐゥゥ……‼︎〜

 

 続け様に受けた攻撃に、テンマは呻く。其処へ、ガオキングが飛び上がりながら…

 

「フィンブレード‼︎」

 

 ガオシャークの尾が変形した剣で、テンマを斬り付けた。更に、ダメ押しとして…

 

「ユニコーンランス‼︎」

 

 ガオパラディンのユニコーンランスが回転しながら、テンマの胸部を抉る。四方から追い詰められたテンマは、激昂する。

 

 〜グッ……こざか……しい……‼︎ 余を……余を……舐めるなァァァ‼︎〜

 

 追い詰められた鬼の王の呪詛が響き渡る。しかし、四体の荒ぶる神々の攻撃は着実に、テンマを傷つけて行く。

 と、その時、テンマが右掌を上げる。すると、目の前に召喚された三つの影…。

 

「あ、あれは⁉︎」

 

 それは、ガオキング・ダークネス、ガオマッスル・ダークネス……何れ共に精霊王を模して作られた闇の精霊王達である。

 三体目は、その巨大な翼を広げる。

 

「ガオイカロスか⁉︎」

 

 三体目の闇の精霊王は、ガオイカロス・ダークネス。天空を制する精霊王の姿を模した闇の巨神である。

 

 〜クハハハァァ‼︎ 行けェェ、闇の精霊王達よ‼︎ オルグに刃向かう戯け共を蹴散らすのだァァァ‼︎〜

 

 完全に我を忘れたテンマは、オルグを至上とし見下していた精霊王の姿を模したレプリカに縋る有様だ。

 だが、今のガオレンジャーには闇の精霊王達など敵では無い。

 

「ガオキング・ダークネス‼︎ お前の相手は俺だ‼︎」

 

 ガオハンターが、ガオキング・ダークネスの前に立ち塞がる。

 

「ならば、ガオマッスルは、ワシに任せておけ‼︎」

 

 ガオビルダーが、ガオマッスル・ダークネスと組み合う。

 

「ガオイカロス・ダークネスは俺達がやる‼︎ 百獣召喚‼︎」

 

 ガオキング内のコクピットから、レッドは自身の武器、ファルコンサモナーを構えて、宝珠を打ち上げる。

 すると時空の壁を突き破り、隼を模した紅き空のパワーアニマル、ガオファルコンが飛来した。

 分離したガオライオンとガオイーグルに代わり、ガオキングの胸部を形成した。

 

「誕生! ガオイカロス・オリジンフット&アーム‼︎」

 

 ガオイカロスの機動力に、ガオキングの力を兼ね備えた新たな天空の精霊王が舞い上がる。それに呼応し、ガオイカロス・ダークネスも飛び上がった。

 ガオパラディンは、遂にテンマと対峙した。

 

「これで終わりだ、テンマ‼︎ 行くぞ、ガオパラディン‼︎ 幻獣武装‼︎」

 

 ゴールドの掛け声と共に召喚される三体の聖獣達……ガオフェニックス、ガオナインテール、ガオワイバーン……其れらが分離した二体の聖獣達に代わり、ガオパラディンに幻獣武装する。

 

「誕生! ガオパラディン・エターナルアーチャー‼︎」

 

 ガオフェニックスの翼が展開され、右腕のナインテールウィップ、左腕のワイバーンアローを構えた。

 テンマは掌を突き出し…

 

 〜喰らえ‼︎ 鬼眼砲・極‼︎〜

 

 両掌から放たれた特大の鬼眼砲が、ガオパラディンに襲い掛かる。しかし、其れをガオフェニックスの翼で弾き返し、隙ができた両掌をワイバーンアローで眼球ごと射抜いた。

 再び、掌は地べたに落とされる。

 

 〜こ、こんな馬鹿なァァ⁉︎〜

 

「信じ合う絆で戦う僕達に、敵うと思うな‼︎ プラチナ、行くぞ‼︎」

「ええ‼︎」

 

 ゴールド、プラチナの思いが重なり、ガオパラディンは、ナインテールウィップをテンマに振り下ろした…。

 

 

 

 ガオハンター、ガオビルダーは地上にて、ガオキング・ダークネスとガオマッスル・ダークネスを相手にしていた。  

 以前に対峙した時よりパワーアップしている二体だが、それはガオハンター達も同様だ。

 ガオハンターは素早い身のこなしで、ガオキング・ダークネスの攻撃を躱しながら、ダメージを与えて行く。

 ガオビルダーは、ガオマッスル・ダークネスを上回る怪力を駆使して、投げ飛ばす。

 しかし、二体の闇の精霊王達も黙って、やられているばかりでは無かった。ガオキング・ダークネスは、フィンブレードに邪気を纏わせながら、ガオハンターを斬り付け、ガオマッスルは両肩に装備した六門の砲台、マッスルクラッカーから邪気の砲弾を、ガオビルダーに浴びせる。

 思わぬ反撃に、二体の精霊王は怯んでしまう。其処を突いた闇の精霊王達は一気に攻め込もうとする。

 ガオキング・ダークネスの胸部から邪気がエネルギーが蓄積し、ガオマッスル・ダークネスは太い二の腕に邪気を纏わせる。

 体勢を立て直したガオハンター、ガオビルダーは再び、力を蓄え始める。

 

「天地震撼! ビーストハリケーン‼︎」

「轟々獣撃! ストロングショット‼︎」

 

 ガオハンターの胸部と、ガオビルダーの右腕から放たれるガオソウルの砲撃。其処へ見計らい、ガオキング・ダークネスは邪気の砲撃、ダークネス・ハートを発射する。

 ガオマッスル・ダークネスは、邪気を込めた右腕を振り下ろし、ダークネス・ラリアットを浴びせて来た。しかし、ガオビルダーのストロングショットが腕に当たる。

 四つのエネルギーは互いに拮抗し合う。だが、勝機を決めたガオハンター、ガオビルダー達だった。ビーストハリケーンとストロングショットに相殺され、二体の闇の精霊王はバランスを崩す。

 

「グレー‼︎ もう一度だ‼︎」

「よし来た‼︎」

 

 シルバーとグレーは合図を促し、闇の精霊王達の前に進ませた。

 

「悪鬼突貫! リボルバーファントム‼︎」

「殴打粉砕! ストロングブレイク‼︎」

 

 ガオハンターは右手のリゲーターブレードに、ガオビルダーは左手のリンクスアームにガオソウルを込め、ガオキング・ダークネスとガオマッスル・ダークネスへと叩き込んだ。

 渾身の一撃を見舞われた闇の精霊王達は後ろへと倒れ伏し、そのまま爆発した。

 ガオハンター、ガオビルダーは互いの得物を天に掲げ、勝利の咆哮を挙げた……。

 

 

 天空でも、ガオイカロス同士による苛烈な空中戦が繰り広げられていた。闇の精霊王であるガオイカロス・ダークネスは、より素早い機動力を武器に翻弄して掛かる。しかし、対するガオイカロス・オリジンフット&アームズは、本来の百獣合体とは異なる合体ゆえ、単純な機動力は大きく劣ってしまう。

 しかし、其れを補えるだけ、このガオイカロスの攻撃力は高い。何より、向こうは邪気に操られる傀儡に過ぎないが、此方はガオレッド達が搭乗している。此方が諦めない限り、必ず勝機はある。

 と、その時、ガオイカロス・ダークネスは身体を宙返りさせ、右脚に収納されている、黒いガオマジロを射出する。そして、其れを勢いよく蹴り飛ばした。

 本来なら、ガオイカロスの得意とする『究極天技・イカロスダイナマイト』と似て非なる技、名付けて『暗黒鬼技・ダークネス・ダイナマイト』と言った具合だ。

 放たれたガオマジロは邪気を纏いながら、ガオイカロスに迫ってくる。

 

「ガオイカロス、蹴り返せ‼︎ バイソンキック‼︎」

 

 ブラックが叫ぶ。後退した状態で、ガオバイソンの右脚で、ガオマジロをシュートする。蹴り返されたガオマジロは、そのまま、ガオイカロス・ダークネスへと激突した。

 もろにダメージを受け、ガオイカロス・ダークネスは大きくよろめいた。だが、気を取り直して、翼を展開させると眼球状の模様から漆黒の光線を放つ。

 

「ガオイカロス、ディフェンスモードだ‼︎」

 

 レッドの掛け声で、翼で全面を覆うガオイカロス。光線は全て弾かれ、防御した。

 胸部のガオファルコンが高く鳴いた。まるで「今だ!」と呼び掛ける様に……。

 

「ああ、分かった‼︎ 皆、一気に決めるぜ‼︎」

『おう‼︎』

 

 ガオレッドは仲間達に呼び掛け、仲間達も応えた。

 

 

『悪鬼爆砕! イカロスツイスター‼︎』

 

 

 ガオイカロス放つ、フィンブレードを天に掲げる。すると、身体が回転し始めた。まるで、竜巻の如し勢いで廻り始め、巨大な竜巻を生む。

 その状態で、ガオイカロス・ダークネスに体当たりを仕掛ける。合計で六回、体当たりして、遂にガオイカロス・ダークネスは空中で爆散した。

 

「やったァァァ‼︎ ガオイカロスの勝利だ‼︎」

 

 ガオイカロスは空中を旋回しながら、勝利のポーズを決めた。

 

 

 

 ガオパラディンは単体にて、テンマとの闘いを強いられていた。しかし、大きく疲弊したテンマに、ガオパラディン・エタナールアーチャーによる遠距離の攻撃は、かなり効率的だった。

 とは、やはり決定打を与えるには、至近距離から大技を与えるしかない。だが、下手に近付けば、修羅怨鬼剣の餌食となる。

 

「くそッ…‼︎ ちまちました攻撃じゃ、駄目だ‼︎ やっぱり、テンマの懐に飛び込むしか無いのか……⁉︎ でも……‼︎」

 

 コクピット内で、ゴールドは、テンマの弱点を探る。確かに、捨て身の覚悟で挑めば、まだ勝機を掴める。

 しかし、敵は強い…下手をすれば、同乗しているプラチナは勿論、ガオドラゴン達へのダメージも必至である。

 

 〜何を迷っている、陽‼︎ 我々に遠慮をするな、テンマに至近距離から挑みに掛かれ‼︎〜

 

 急に、ガオドラゴンの声が響く。

 

「ガオドラゴン⁉︎」

 

 〜お前は我々に掛かる負荷を気にして、本気を出さずに居るのだろうが……構う事はない!

 テンマを倒し、オルグの支配から人類を守る為に、お前は此処に来たのだろう⁉︎〜

 

 ガオドラゴンの言葉に、ゴールドは胸を揺さぶられる。最初は人類を毛嫌いしていた、レジェンド・パワーアニマル達……しかし、数多の死線を共に乗り越えて行く内に、人類を守り戦う事を尊ぶ様になった…‼︎

 彼らの思いを無駄にしない為にも、この戦いに負ける事は許されないのだ。足元には,祈が居る……何を差し置いても守り抜かなくては、ならない存在がいる……ゴールドは、強く念じながら、プラチナを見る。

 彼女も首を小さく、縦に振った。

 

「行こう、ゴールド‼︎ 私は、この為に、此処へ来たんだから‼︎」

 

 プラチナが励ます様に言った。其れで、ゴールドも覚悟を決める。

 

「ガオパラディン‼︎ テンマの懐に、飛び込め‼︎」

 

 ゴールドは指示を出し、ガオパラディンは高らかに吠える。ナインテールウィップを振り上げ、修羅怨鬼剣を持ち上げるテンマの懐へと特攻した。

 

 〜自ら死にに来たか‼︎ ならば、其れも良かろう‼︎ この修羅怨鬼剣の錆としてくれる‼︎〜

 

 テンマは邪気を込めた斬撃を幾多と放ちながら、攻撃してきた。その攻撃を躱しながら、テンマの腹部にナインテールウィップを叩きつけた。

 

「九尾雷閃撃‼︎」

 

 ナインテールウィップに雷を纏わせた一撃が、テンマに炸裂する。迸る雷撃が、辺り一面を照らした。

 

 〜な、何の……これしきの子供騙しで……‼︎〜

 

 テンマは強がりを言って見せるが、ダメージを受けたのは必至だ。しかし、修羅怨鬼剣を逆手に持ち、接近したガオパラディンの背部を突き刺そうとした。 

 突如、背部にあるガオフェニックスの翼が燃えあがる。修羅怨鬼剣は燃え尽きた炭の様に、ボロボロと崩れ去った。

 

 〜な,馬鹿な……‼︎ オルグの怨念が……‼︎ 浄化された、だと⁉︎〜

 

 テンマは崩れた修羅怨鬼剣を持ち上げ、慟哭した。その時、ガオフェニックスの声が響く。

 

 〜プラチナ……今こそ、ガオソウルを私に……‼︎〜

 

「分かった、ガオフェニックス‼︎」

 

 プラチナは自身のガオソウルを台座に注ぎ込む。すると、胸部のガオドラゴンの口内と、ガオフェニックスの翼が輝き出す。

 

 〜行け‼︎ 我々の力を,奴にぶつけるのだ‼︎〜

 

「分かった、ガオドラゴン‼︎

 

 聖獣波動・レインボー・ホーリーハート‼︎」

 

 その刹那、ガオフェニックスの翼から、ガオドラゴンの口から虹色に輝く光線が放たれる。

 光線は、テンマの身体を包み込み、その身体を焼き潰して行った…。

 

 〜お…おのれェェ…! おのれ、ガオレンジャー……‼︎ おのれ、パワーアニマル共……‼︎〜

 

 ガオレンジャーへの呪詛を叫びながら、テンマの身体は崩壊して行く。

 

 〜か、身体が……崩れる……‼︎ な、何故だ⁉︎ 余は……余こそが……オルグの支配者では……無かったのか⁉︎

 余は……何処で間違った⁉︎ どうすれば良かったのだ⁉︎〜

 

 自分の敗北を受け入れられず、ただ負け犬の如く吠える事しか出来ないテンマ。余りに惨めだが今、勝利の軍配は、ガオレンジャー達へ勝ちを告げた……。

 

 

 

 テンマを撃破した後、ゴールドとプラチナは地上へと降り立つ。辺りは焼け野原と化し、酷い有り様だ。

 だが、ゴールドは確信した。自分達は勝ったのだ……その勝利の余韻を噛み締める。

 

「おーーい‼︎」

 

 遠くから、呼び声がする。見てみれば、シルバーとグレー、そして、レッド達が走ってくるのが見えた。

 

「皆‼︎ 無事だったんだね‼︎」

 

 ゴールドは満面の笑みで返す。レッドは駆け寄りながら、ゴールドの肩に手を置いた。

 

「……ありがとう、陽……君が終わらせたんだ……この戦いを……‼︎」

 

 そう言いながら、レッドは走の姿に戻る。ゴールドも変身が解けて、陽へと戻った。

 陽は偉大な先輩に首を振る。

 

「皆さんの、お陰です‼︎ 僕こそ、お礼を言わなくちゃならないくらいです‼︎」

 

 その慎み深い言葉に、先人のガオの戦士は皆、感心した。

 

「本当に大した奴だな、大物だよ!」

 

 ガオイエロー/岳も笑いながら言った。

 

「そりゃ、私の甥っ子ですから!」

 

 ガオホワイト/冴は自分の事の様に、誇らしげだ。

 

「だけど、本当にありがとう‼︎ それしか言えないよ‼︎」

 

 ガオブラック/草太郎も豪快に言った。

 

「大神もありがとうな‼︎ 大変だったろ⁉︎」

 

 ガオブルー/海は、ガオシルバー/大神に笑い掛けた。

 

「いや……陽が居てくれたから、最後まで乗り越える事が出来た……彼が居なかったら何度、死んでいた事か……」

「ワシも忘れるな、シロガネ‼︎」

 

 佐熊は、大神の背を強く叩く。だが大神は、そのまま倒れてしまった。

 

「……もう少し手加減してくれ……まだ病み上がりなんだ……」

「おお‼︎ コイツは、済まんかったな‼︎」

 

 戦後とは思えず、呑気にカラカラと笑う佐熊。それに連れられ、仲間達も笑い出した。

 

「兄さ〜ん‼︎」

 

 すると、祈が飛び出してきた。側にはヤバイバも一緒だ。

 

「祈、大丈夫だったか⁉︎」

「ええ! ヤバイバさんが守ってくれたから!」

『ヤバイバさん⁉︎』

 

 祈の発言に対し、一同はハミングで尋ねた。特に岳は目を丸くしている。

 

「さっきから気になってたんだが、何でヤバイバが一緒なんだ⁉︎ お前は敵だろう⁉︎」

 

 岳は警戒心を解かない。ヤバイバとは先の戦いから、何度か戦った事があるから、当然である。

 ヤバイバも、バツが悪そうに……

 

「……色々、事情があったんだ‼︎ 言っとくがな、俺はまだ、お前等とは敵なんだ! そこは忘れんな‼︎」

「……そう言えば、ツエツエはどうしたの?」

 

 今度は冴が尋ねる。いつも、コンビで居たツエツエがら、此処に居ないのは不自然だからだ。

 

「……ツエツエは……ツエツエは死んじまったよ……‼︎ だから、俺は……復讐の為に、ガオネメシスを……‼︎」

 

 ヤバイバは悔しげに歯を鳴らす。と、その言葉に、大神は我に帰った。

 

「待て‼︎ ガオネメシスが、まだ残ってるぞ‼︎」

 

「ガオネメシス? だれだ、そいつ?」

 

 走達は聞いた事が無い名前に首を傾げた。彼等は、ガオネメシスとは直接の面識がないのだ。

 

 

「クックックッ……お呼びかな、ガオレンジャーの諸君……?」

 

 

 突然、地の底から響き渡る声に、全員が戦慄した。振り返ると、妖しい雰囲気の戦士が歩み寄ってきた。

 

「ガオネメシス‼︎」

「テンマを倒したとはな……一先ずは、褒めてやるぞ……。ご苦労だったな……これにて,鬼還りの儀は完遂した‼︎」

「⁉︎ どう言う意味だ⁉︎」

 

 

「ネメシスゥゥゥぅ!!!」

 

 

 ヤバイバは怒りの形相で、特攻して行く。手には魏羅鮫を持ち、鞘から刃を抜いた。

 

「おい、お前‼︎ 計画通りに行くぞ‼︎ コイツで、俺が……‼︎」

 

「俺が……どうする気かな?」

 

 ガオネメシスは、そう言いながら魏羅鮫の刀身を握り締める。

 

「クッ……離せ‼︎」

「成る程……魏羅鮫を持ち出して来たか……。馬鹿は馬鹿なりに、頭を使う、と言う事だな……! しかし……‼︎」

 

 ネメシスが軽く力を込めると、魏羅鮫はビシッとひび割れたガラスの様に砕け散ってしまった。

 

「⁉︎」

「ふん……俺を殺すには、こんな、なまくら刀では無理だ……‼︎」

 

 そう言いながら、ネメシスはヤバイバの腹部に、ヘルライオットの銃弾を複数発、撃ち込んだ。

 吹き飛ばされたヤバイバは、岸壁に叩きつけられる。

 

「ヤバイバ‼︎」

「クックッ……今更、俺の首を取りに来たか? ならば、無駄な事だ……‼︎ 間も無く始まる、鬼還りの儀の終幕を見る事が出来ずにいる、ツクヨミは気の毒だったがな……‼︎」

「つ…ツクヨミ…⁉︎ ガオマスターの事か⁉︎」

 

 陽は叫ぶ。それと同時に、ネメシスは何かを投げて寄越した。

 其れは、ぼろぼろに破壊されたガオマスターのヘルメットと宝珠のカケラだった。

 

「おまえ達が、テンマに手こずっている間に、ガオマスターは、この手で始末したよ‼︎ ガオゴッド諸共な‼︎」

「ガオゴッドだって⁉︎ そんな馬鹿な‼︎」

「千年の友が……‼︎」

 

 ガオゴッドが倒された事を聞いて、走達は絶句する……。しかし、ネメシスは高笑いを上げた。

 

「なに……悲しむ事は無いさ……‼︎ すぐに会う事になる……‼︎」

「き…貴様ァァ…‼︎」

 

 ゴールドは怒りに身を震わせた。しかし、ネメシスは益々、笑い声を上げた。

 

「そう急く事は無い……見るが良い‼︎ 鬼地獄の支配者が直々に、現れたぞ‼︎」

 

 ネメシスは天を指差す。すると天が大きく渦巻き始めた。

 

「な、何だ⁉︎」

 

 陽は何が現れるか、と身構えた。と、その時、天に巨大な髑髏が現れた。

 

 〜待ち侘びたぞ、ガオネメシス……ご機嫌麗しゅう、ガオレンジャーの愚か者共よ‼︎

 儂の名は、ヤマラージャ‼︎ 鬼地獄、鬼霊界の支配者にして悠久の時を生きる者……またの名を、閻魔オルグだ‼︎

 お前達には散々、世話になった……儂が考案した鬼還りの儀が、スムーズに取り行える様に、してくれた‼︎

 褒美として……お前達は無限に続く苦痛と悪夢を提供してやろう……。フッフッフッフッ……ハーッハッハッハッハッ……‼︎」

 

 ヤマラージャの勝ち誇った笑い声が、鬼ヶ島中に木霊した……。

 

 

 ー漸く、テンマを倒したかと思えば、最後の敵、ガオネメシスが現れ、長きに渡り潜伏していた鬼地獄の王にして真の黒幕、ヤマラージャが動き出した‼︎

 果たして、ガオレンジャーは如何にして戦うのでしょうか⁉︎ー




ありがとうございました‼︎
残念ながら、まだ少し話は続きますが、ガオネメシスとヤマラージャとの決着まで、どうか、お付き合い下さい。
次回は、二月七日の9時半に掲載予定です‼︎


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quest59 人間に潜む闇

今回、また投稿時間が少しズレました。申し訳ありません( ; ; )

また、今回は残酷な表現、不快な描写が多数にありますが、その辺りを理解した上で、お読み下さい。


 テトムは、空中に現れた巨大な髑髏の顔に戦慄した。

 

「あれが……閻魔オルグ……‼︎」

 

 その姿は、これまでに見てきた全てのオルグの中でもダントツに禍々しく、正に巨悪と呼ぶに相応しい存在だった。

 

「な、何だ…ありゃァァ⁉︎」

「閻魔オルグ……とは、よく言ったもんだな……‼︎ 地獄の支配者に相応しい化け物だ…‼︎」

 

 絵に描いた様な禍々しさを放つ姿に、猛と昇も恐怖を覚える。

 

「見て! 島が⁉︎」

 

 舞花が、鬼ヶ島を指差す。なんと、島全体に亀裂が入り崩れようとしているのだ。

 

「島が崩れて行く⁉︎」

「おい⁉︎ 陽達は大丈夫なのか⁉︎」

 

 千鶴と猛は騒ぎ立てる。その時、テトムは耳を澄まして、青ざめている。

 

「テトムさん、どうしたんだ⁉︎」

 

 ただならない様子に、昇は聞いた。テトムは…

 

「……地球が……叫び声を上げているわ……‼︎ 苦しい、苦しいって……‼︎」

 

 テトムは、ガオの泉を介し、地上の様子を確認した。しかし、泉はドス黒いドブの様に濁り、全く透き通っていない。

 

「邪気の量が異常だわ……‼︎ このままじゃ……地球そのものが死んでしまう……‼︎」

 

 絶望的な様子で、テトムは言った。猛は膝を突いて、祈り始めた。

 

「ちょ、兄貴‼︎ 何してるのよ‼︎ こんな時に‼︎」

「 俺達に出来る事なんか、何も無ェ‼︎ だったら……祈るしか無いじゃねェかよ……‼︎」

 

 猛の言う事も最もである。もう限界の限界にある瀬戸際に立たされてしまった。やるべき事は全てやり、もう出来る事は何もない……。

 あと、できる事はと言えば……祈るだけだ……。昇、舞花、千鶴も其れに続く。

 テトムも膝を突いて、祈りを捧げた。

 

 

「……荒神様……御先祖様……アマテラス様……おばあちゃん……‼︎

 お願いします……どうか、ご加護を……! 皆を護って下さい……‼︎

 地球を……地球に生きる全ての命を……御守り下さい……‼︎」

 

 

 大粒の涙を流しながら、テトムは強く祈りを捧げる。戦いの勝利に……そして、彼等の存命に……。

 

 

 

「……ヤマラージャ……だと⁉︎」

 

 大神は、姿を見せた閻魔オルグに驚愕した。確かに千年前、地上へて侵攻して来た、あの時と全く同じ姿だ。

 佐熊も、その姿に強い怒りを覚える。

 

「閻魔オルグめ……‼︎ 性懲りも無く、また現れたか‼︎」

 

 〜ほゥ……あの時、人身御供となった戦士だな、貴様は……。貴様と巫女の忌まわしい結界の為に、儂は鬼地獄から一歩たりとも、抜け出せなんだ……! だから、儂は力を蓄えてまち続けたのだ! 何れ、封印に綻びが生じる時をな!

 ……しかし、千年だ……如何に我々、鬼地獄のヘル・オルグが不死であるとは言え、無限に続く退屈とは実に拷問だったぞ‼︎

 だが……それも今日までだ‼︎ 邪魔をしていた貴様を三途の川に吐き出させ、鬼還りの儀にて打ち込んだ楔と、各地に植え付けたオルグドラシルの実であるオルグベリー……これらが綻びた結界を完全に破壊して、地上と鬼地獄を繋ぐ道を復活させたのだ‼︎〜

 

 ヤマラージャは高らかに言い放つ。

 

「クッ……やっとの思いで、テンマを倒したと思ったのに……‼︎」

 

 走は、更なる強敵の登場に、悔しげに唸る。だが、それを聞いたヤマラージャは、嘲笑う。

 

 〜テンマ……か……。彼奴は自分が、オルグの王などと宣っていた様だが……所詮、奴はゴズやメズと同様、儂の配下である一介のヘル・オルグに過ぎん‼︎ 少々、力を与えてやり、地上に進出して、ガオレンジャーを倒す迄は良かったが……その事に慢心し、増長し始めよった……‼︎

 挙げ句には、真のオルグの支配者である儂を差し置き、自分が支配者を名乗り始めた……地上に居た有象無象の、下等オルグ共を手下に据えてな……‼︎

 ガオネメシスは、その過程を経て、儂がテンマの下へ寄越したのだ……万が一、彼奴が力を暴走させて、儂の計画する鬼還りの儀が頓挫する結果とならん為の……保険としてな……‼︎〜

 

「な、なんだって⁉︎」

 

 誰もが驚愕した。あの、テンマも四鬼士達も全て、ヤマラージャの計画の内だったなんて……。

 

「もっと良い事を教えてやろう。お前達が倒した、テンマの身体には、鬼地獄を封ずる結界を破壊する最後の鍵が埋め込まれていた……。

 しかし、この鍵は、オルグでは破壊できん……この俺の力を持ってしてもな……。忌々しい精霊達の力を使わん限り、傷を付ける事すら叶わぬ……。詰まる所、お前達は自分の手で、鬼還りの儀を推し進めたと言う訳だ……‼︎」

 

 ガオネメシスの言葉を聞いて、陽達は絶句した。自分達が命を賭けて倒したテンマは、決して倒してはならない敵を倒してしまったとは……。

 

「……そんな……‼︎ じゃあ、僕達の此れまでの戦いは……⁉︎」

「全くの無駄だったな。いや、無駄では無いな……お前達のお陰で、計画は完遂したのだ……寧ろ、ご苦労だった……と言うべきかな?」

 

 悪びれもせずに嘯くネメシス。愕然とする陽に対し、祈は激昂した。

 

「ご苦労だった⁉︎ 人を散々、利用して……沢山の罪の無い人達の命を奪って……ご苦労だった、で済ませるの⁉︎

 最低よ……‼︎ 貴方達なんか、絶対に許さない‼︎」

 

 ネメシスに、ヤマラージャを啖呵を切る祈。其れを見た、ヤマラージャは小馬鹿にする様に、せせら笑った。

 

 〜……フン……我々を許さない、は良かったな……。実に人間らしい手前勝手な……保身に満ちた考え方よ……。

 なら逆に問うが、娘よ……我々、オルグを生み出したのは誰だ⁉︎ 地球環境を破壊して、人間同士で醜く殺し合い、地球を邪気に適した環境としたのは誰だ⁉︎

 ……そう……貴様等、人間では無いか‼︎ 貴様等が、何もかも自分で蒔いた種が芽を出し、この様な事態となったのだ‼︎

 其れを棚に上げて我々を許さない、とは……片腹痛いわ‼︎〜

 

 ヤマラージャは人間側からすれば痛い所を突いて、反論してきた。確かに、オルグからすれば現代社会は、最も過ごし易い環境と言えるだろう……。陽の脳裏に、かつて、ガオドラゴン達の言った台詞が過った。

 

 

 〜自然を壊し、人間同士で殺し合い、オルグを生み出す格好の状況を作り出す貴様等、人間の方が余程、身勝手では無いか?〜  

 

 

 人間とオルグ……決して相容れない存在でありながらも、切っても切れぬ関係性にある。人間が争えば争う程、オルグは益々、数を増やす。

 そして、新たなオルグが生まれる……正に無限に続く、鼬ごっこだ。

 そして皮肉な事に……そう言う環境を作り上げて来たのは、ヤマラージャの言う通り、他ならない人間達だ。

 かつて、スサノオは、それを知って人間に絶望した……そして、ガオネメシスへと変貌してしまったのだ……。

 

 〜丁度良い……! ガオゴールド、そして、巫女の生まれ変わりの娘よ‼︎ 貴様等に見せてやろう‼︎ 貴様等が護ってきた人間が、守る値打ちすら無い物である事をな‼︎〜

 

 そう叫ぶと、ヤマラージャの口から漆黒の煙が吐き出され、陽と祈、そして、ガオネメシスの身体を包み込んでいく。

 

「な、何だ⁉︎」

 

 走は、二人を包み込んだ黒煙を凝視する。

 

 〜フッフッフ……奴等に見せてやる迄だ! 人間の本来の姿をな‼︎〜

 

 ヤマラージャは邪悪に、北叟笑んだ……。

 

 

 

 陽と祈は気が付くと、竜胆市の中に居た。周りは、オルグの破壊行為により荒廃している。

 

「私達の街が……‼︎」

「メチャクチャだ……‼︎」

 

 陽も祈も、余りに酷い姿に絶句した。其処へ、ガオネメシスが現れる。

 

「これが人間の犯した罪の姿だ。人間達が地球を、長い年月を掛けて破壊し続けた結果、それが因果応報の形で帰って来たのだ!

 オルグと言う形でな‼︎」

「……勝手な事を言うな‼︎ そんな物、自分達の破壊行為や欲求を正当化する為の口実じゃ無いか‼︎」

「まだ、そんな事を言ってるのか⁉︎ あれを見るが良い‼︎」

 

 ガオネメシスは指を差す。其処には多数の人間達の姿があった。

 

「離せ! 俺は助かりたいんだ!」

「お願いします! 息子が、瓦礫の下敷きになってるんです‼︎」

「知った事か‼︎」

 

 泣きながら縋り付く母親と思しき女性を、中年男性が引き離そうとしていた。

 どちらも負傷しているが、中年男性の方は右頬に1センチ程の切り傷が出来ていたが、脚部に痛々しい裂傷のある母親からすれば、擦り傷に等しかった。しかし、それでも、彼は自分だけ助かろうとして、尚も食い下がる母親を強引に蹴り付けて、泣き叫ぶ彼女に振り返る事なく走り去って行った。

 他では既に動かなくなった被災者の懐を漁り、財布などの金品を火事場泥棒している心無い人間の姿もある。

 

「な、なんて事を……‼︎」

 

 同じ人間が、こんな薄汚い真似をしている事に、陽はショックを受けた。祈も口を両手で抑えている。

 

「クックッ……これが、人間だ」

 

 ガオネメシスが言葉を発した。

 

「……人間とは危機的状況に立たされれば、その本質を露わにする。自分が助かる事を最優先し、中には慌てふためいている周囲の様子を逆手に取り、欲望を満たそうとする愚か者ばかりだ。

 ……どうだ、馬鹿馬鹿しいだろう? こんな者達の為に命を賭けて戦った所で、コイツ等は命の尊さ等、微塵も考えていない……」

 

「違う‼︎」

 

 陽は、ネメシスを振り返りながら叫ぶ。

 

「全てが、そんな人間では無い‼︎ 中には自分の事を一番に考える人間も居るけど……そうじゃ無い人だって居る……‼︎」

「ハハハハ……まだ、そんな事を言ってるのか? ならば……これなら、どうかな……?」

 

 ネメシスが指をパチンと鳴らす。すると場面は移り変わり、今度は荒れ果てた島へと降り立つた。

 

「此処は?」

「今は地図から抹消された名もなき無人島だ。かつて、此処は人間社会から隔絶され、大自然に満ち溢れ動物達が生活する島だった……。

 所が、どうだ⁉︎ 今じゃ島には虫一匹住めず、草一本生えない死の島と化している! 人間共が、自分達の産み出した原・水爆などと下らない物の実験の余波にて、この島は荒れ果てたのだ!

 こんな風に、人間共の為に破壊された場所は世界中に吐いて捨てる程にある‼︎ 此れが人間の本性だ‼︎」

「や、止め…て…‼︎」

 

 祈は耳を塞いで、両眼を固く閉ざす。陽も目に涙を浮かべていた。

 

「人間共が生き続ける限り、この醜い歴史は幾度と無く繰り返されるのだ‼︎ そして、その都度に新たなオルグが生まれ、人間共に災いを齎す‼︎

 其れを食い止める為、第二・第三のガオレンジャーがオルグと戦う……そして、また歴史は繰り返される……キリが無いと思わないか⁉︎」

「だ、黙れ……黙れ……黙れェェェェ!!!」

 

 ネメシスの人類に対する酷評に耐え切れず、陽は叫んだ。と、同時に辺りの景色は歪み始めた……。

 

 

 気が付くと、陽と祈は仲間達の下へと帰って来た。走は陽へ駆け寄る。

 

「大丈夫か、陽⁉︎ 何があった⁉︎」

「さ、触るなァァァ!!!」

 

 陽は汚い物を払い飛ばす様に、差し伸ばした走の手を打ち払った。

 

「……人間は……醜かった……! 僕達が命を賭けて……守る価値は無かったんだ……‼︎」

「何を言ってるんだ⁉︎ 一体、何を見せられた⁉︎」

 

 〜クックックック……そいつは見たのだ‼︎ 人間共の負の歴史をな‼︎ 決して、人間共が後世に残そうとはしない汚らわしい歴史だ‼︎

 ……望むならば、全てを観せてやっても良いのだぞ? 儂の頭の中には、人間共が犯して来た罪の中で、最も残虐で形容し難い映像を記憶してある! ガオネメシスは……いや、スサノオは、其れを観て人間に愛想を尽かした! ほんの一部に触れた、ソイツでさえも、その様だ‼︎

 お前達は、どんな風に変わるか……見物だな……‼︎〜

 

 

「ね…ネメシスゥゥゥッ!!!!!」

 

 

 ヤバイバは折れた魏羅鮫を手に、ネメシスに掴みかかって来た。しかし振り返り様に、ヤバイバの右腕を叩くネメシス。

 途端に、ヤバイバの右腕は粉々に砕け散った。気にする事なく、残った左手でネメシスを殴り付けようとしたが、その左腕を掴み握り潰した。

 ヤバイバは呆然とした様に倒れ伏す。

 

「ふん……その程度で砕けるとは……哀れだな、ヤバイバ……」

 

 嘲りを超えて哀れみに満ちた目で、ヤバイバを見下ろすネメシス。

 

「……大人しく従っていれば、ツエツエと共に飼い殺してやったものを……。オルグに反旗を翻し、人間の肩を持つつもりか?」

「……だ、誰が……‼︎ 俺は……ツエツエの仇を…‼︎」

 

 ヤバイバは見上げながら、ネメシスを睨みつけた。しかし、その顔を、ネメシスは踏み付けた。

 

「違うだろう? ヤバイバ、貴様の本心は見抜いているぞ……貴様の心が、人間に傾きかけている事を……?」

「な、何を……‼︎」

「そもそも、純正なオルグが仲間の仇を、等と酔狂な考えを持つ筈があるまい? 貴様も、あの混血鬼の娘と同じだな……人間如きに飼い慣らされるとは……この欠陥品が‼︎」

 

 吐き捨てながら、ネメシスはヤバイバの顔面を蹴りつける。風に吹き飛ばされる紙切れの様に、走達の下へと投げ出された。

 

「や、ヤバイバ‼︎」

 

 岳は、かつての宿敵の惨め極まりない姿に見るに見かね、歩み寄った。

 

「そんな、ゴミ屑は要らん‼︎ さて……残ったのは、貴様等だけだな……‼︎ 鬼還りの儀の終盤として、貴様等の血を大地に流すつもりだったが……好都合だ‼︎」

 

 ネメシスは、ヘルライオットを取り出し構える。走達は前に進み出た。

 

「そうはさせるか‼︎ お前達を倒して、地球を守る‼︎ それが、俺達の使命だ‼︎ 皆、行くぜ!

 

 ガオアクセス‼︎」

 

 走は再び、ガオレッドへと変身した。他の六人も、それに続く。

 

「レッド! まだ、陽君が…‼︎」

 

 陽は、ヤマラージャの仕掛けた精神攻撃に囚われたままだ。

 

「……仕方ない、俺達だけでやるんだ‼︎」

 

 ガオホワイトの言葉を、ガオシルバーが言った。ハッキリ言って、今の陽では戦いには足手纏いだったからだ。

 

「仕方ないのォォ‼︎ プラチナ、行くぞ‼︎」

 

 ガオグレーも不安げに彼を見つめる、ガオプラチナに呼び掛けた。プラチナは止む無く走り出した……。

 

 

 

「……や、ヤバイバさん……‼︎」

 

 祈は、虫の息と化したヤバイバに近付く。既に両腕を潰されたヤバイバは手の施しようが無い。

 

「……ヘッ……ザマァねェぜ……‼︎ 結局、ネメシスに一矢を報いる事も叶わなかった……」

 

 自嘲気味に笑うヤバイバ。その瞳から涙が溢れ出た。

 

「……や、ヤバイバさん……涙が?」

「……チ……なんてこった……涙を流すなんてな……奴の言う通りだ……。俺は……オルグとして……欠陥品なんだな……」

「涙を流す事は生き物なら、自然な事よ……」

 

 そう言いながら、祈の瞳からも涙が溢れた。ヤバイバは、そんな彼女を見て……

 

「……妙だな……ちっとも悪い気はしねェ……寧ろ、清々しいくらいだ……。

 考えてみたら……俺なんかに、優しい言葉を掛けてくれたのは……ツエツエ以外だったら……お前しか居なかった……。

 時に……お前、料理は何が得意なんだ……?」

 

 こんな時に何を言い出すのか? しかし、祈は優しく答えた。

 

「……味噌汁よ……」

「……そうか……お前の作った味噌汁……食ってみたかったな……」

 

 死期を悟ったヤバイバは、とても穏やかな笑みを浮かべ、祈と語らった。しかし、祈は首を振る。

 

「駄目よ! 死ぬなんて許さない! 貴方は、生きて償うべきよ‼︎ 地球に……そして、地球に生きる全ての人達に‼︎」

「……生きて償う……か……。俺ァ、腐ってもオルグ……骨の髄まで、邪気に染まり切った地球の害悪だ……。

 それにな……そうするのは、俺じゃ無い……そうだろう?」

 

 ヤバイバは、横に蹲る陽に声を掛けた。

 

「……ケッ……なんて姿だ……! お前は地球を守る為に闘って来たんじゃ無いのかよ…⁉︎ そんな所で、グズグズしてる暇があったら……ガオの戦士としての意地を見せてみやがれ……‼︎」

 

 絞り出す様な、しかし、ハッキリとした激を、ヤバイバは陽に投げ掛けた。その時、陽は顔を上げる。

 

「戦士としての……意地……‼︎」

 

 呟く陽。と、其処へ別の声がする。

 

 〜陽さん……私、辛い事しかなかったけど……やっぱり、陽さんや祈さんと出会えた、この世界が好きです……。

 お願い……地球を守って……〜

 

 其れは摩魅の声だ。また、別の声がする。

 

 〜情けない奴め、竜崎陽……我は、そんな弱輩に負けた覚えは無いぞ……‼︎ 逃げる事は許さん。貴様は最後まで戦士として……守るべき物を守る為、戦い続けろ……‼︎〜

 

 陽にとって最大のライバルである焔のメランだった。好戦的である彼らしい激励だった。

 しかし二人は、良くも悪くも陽に成長を促した存在だった。摩魅は人として大切な『慈しみの心』を、メランは戦士として大切な『不屈の心』を陽に教えてくれた。

 

(そうだ……此処で諦める訳には行かないんだ……確かに人間には、助けるに値しない者もいる……。けど……そうだとしても……ガオレンジャーとしての使命を受け継いだ者として……戦い続けなきゃ……‼︎)

 

 そう自分に喝をいれて、陽は立ち上がる。

 

「兄さん?」

 

 立ち上がった陽を見て、祈は尋ねた。彼の顔には一切の迷いは無い。

 

「……ゴメンな、祈……心配掛けて……‼︎ でも、もう大丈夫……!」

「……うん…‼︎ 私、信じるよ‼︎ 兄さんの事……‼︎」

 

 全幅の信頼を寄せる兄に、妹はエールを送った。陽は親指を立てて、サムズアップをした。そして、ガオスーツを身に纏い、戦いの場に走って行った。

 ヤバイバは、力強く走っていく陽の背を見送りながら、自分も立ち上がった。

 

「ヤバイバさん、何を?」

「ヘッ……オルグなら、オルグらしく意地を見せ付けてやろうと思ってよ……‼︎」

(……俺が今からしようとする事……理解してくれるよな……なァ、ツエツエよォ……‼︎)

 

 ヤバイバは痛む身体に鞭を打ちながら、歩み始めた。残された祈は目を閉じ、手を組んで祈り始める。兄の無事を信じ……。

 その時、祈の脳裏に声が響く。

 

 〜スサノオ……聴きなさい……。貴方が最も好きだった歌よ…〜

 

 その時、祈は一人でに口を開き、歌い始めた…。

 

 

 

 

「フン…‼︎ この程度か…‼︎」

 

 ガオネメシスは、ヘルライオットを構えながら冷たく、せせら笑った。

 

「つ…強過ぎる…‼︎」

 

 ガオイエローは膝を突きながら改めて、ネメシスの強さを思い知らされた。テンマとの攻防で疲弊しているとは言え、此処までに差があったとは……。

 

「あ、諦めるな‼︎ 最後まで戦うんだ‼︎」

 

 ガオレッドは押されている仲間達に喝を入れる。だが、その様子を見たネメシスは一層、冷たく笑うだけだ。

 

「貴様等も、つくづく馬鹿な奴だな…! 守る価値も無い、と知った上で、地球や人間共を守ろうとするとは…‼︎」

「……ネメシス……何故だ‼︎ アンタは、こんな真似をして、心は痛まないのか⁉︎ アンタだって、かつては俺達と同じだったんだろ⁉︎ 地球を守る戦士だったんだろ⁉︎」

 

 ガオブルーは悲痛な声で叫ぶ。シルバーから聞かされた。彼もまた、自分達と同様に地球を守る為に命を賭けた戦士だった筈だ。

 其れが今じゃ、守る筈の地球を踏み躙ろうとしている……。ネメシスは忌々しげに唸る。

 

「貴様等と同じ? 一緒にするな、若造が‼︎ 俺が守りたかったのは、地球でも人間でも無い‼︎ ただ一人の姉だけだ!

 しかし……もう守るべき姉さんは、この世に居ない……姉さんは、守って来た人間共に裏切られて死んだのだ‼︎

 だから、俺が復讐してやる‼︎ これは、俺の復讐では無く、姉さんの復讐だ‼︎」

 

 そう叫ぶネメシスは、悲壮に満ちていた。姉アマテラスの死で全てを失い、兄ツクヨミをも、この手で殺めた。この上は全てを壊し、堕ちる所まで堕ちるまでだ。その過程で地球が、人間が如何なろうが知った事では無い。既に、ネメシスは完全に狂っていた。

 

「……哀れだな……ネメシス……‼︎ アンタも、ガオライオン達と出会っていれば……其処まで狂う事は無かったろうに…‼︎」

 

 ガオレッドは憐みを込めつつ、ネメシスに呟く。その言葉に、ネメシスは激昂した。

 

「憐れむ? この俺を? 何故だ、何故だ⁉︎ 俺は……ただ当たり前の事をしているだけだ‼︎ 何故、哀れられなければならぬ‼︎」

 

 激しく慟哭するネメシスに追い討ちを掛ける様に、辺りを歌声が響き渡る。

 

 

 〜耳を澄ませば 聴こえるだろう

  風が運んだ いつかの呼び声

 行きなさい〜

 

 

「この歌は?」

「テトムが歌っているのか?」

 

 此れは、テトムがよく歌っていた、ガオの巫女に代々、伝わる歌『響の調べ』だ。しかし、テトムは、この場に居ない。

 歌っているのは、祈だ。彼女の中に入ったアマテラスが歌っているのだ。と、同時に、ネメシスは激しく苦しみ始めた。

 

「……止めろ……‼︎ その歌を……聴かせるな‼︎」

 

 さっき迄、無双していたネメシスは苦しげに、のたうち始める。頭を抑え、近くにある岩にマスクを打ち付け始めた。

 しかし、尚も歌は続く。

 

 〜そこに在るのは まことのやすらかさ〜

 

 〜時は渡る 祈りのなかで 約束は果たされる

 深く息を 吸い込み 遥かなる魂を

 響かせて 響かせて〜

 

「……頼むゥゥ……‼︎ 止め…て…くれェェ……‼︎」

 

 ネメシスは懇願する様に、叫び続けた。すると打ち付けたマスクの亀裂が広がり始めた。

 と、其処に、後ろから奇襲を仕掛けてくる者が居た。

 

「チィ…‼︎ だ、誰だ⁉︎」

 

 辛うじて躱すネメシスは、其れを見た。奇襲者は、鬼灯隊のくノ一オルグ、リクだ。リクは唯なら無い様子で、ネメシスと対峙していた。

 

「アハァァ……‼︎ みィィ付けたァァァ……‼︎ 私の獲物……‼︎」

 

 既にリクは正気を失っていた。ただ内にあるオルグとしての本能のみに突き動かされているだけだ。折れた刀を構えて、ネメシスに飛び掛かる。

 

「死に損ないの混血鬼が……‼︎ 俺に勝てると思うのか‼︎」

 

 ネメシスは、ヘルライオットでリクに複数発、撃ち込んだ。しかし、痛覚をも麻痺しているリクに、銃撃など無意味だ。

 全身から緑色の血を噴き出しながら、リクはネメシスに攻撃を仕掛ける。

 ネメシスとリクが交戦している時、ガオゴールドが合流した。

 

「皆、ごめん‼︎」

「ゴールド、来てくれたのか⁉︎」

 

 レッドは嬉しそうに叫ぶ。しかし、目の前で起こる戦いに、ゴールドは目を丸くした。

 

「あの娘は……⁉︎ 何故、ネメシスと⁉︎」

「分からないが、この歌が聴こえると同時に、ネメシスは苦しみ出し其処に、あの娘が乱入して来たんだ…‼︎」

 

 レッドの説明に、ゴールドは驚愕しながらも、思わぬ仲間割れが起こった事に、チャンスを見い出す。

 更には両腕を捥がれて口に短剣を咥えたヤバイバも突入して来た。

 

「ネメシスゥゥ‼︎ て、テメェだけは…‼︎ 俺の手で……‼︎」

 

 ヤバイバは口に咥えた短剣をネメシスに刺す。しかし、その攻撃に対し、ネメシスは虫でも追いやる様だ。

 

「雑魚が何度も懲りずに……そんなに死にたいなら……死ね‼︎」

 

 ガオネメシスは、ヘルライオットを乱射してヤバイバを蜂の巣にした。更には、リクの顔を掴み引き離す。

 

「アハッ…‼︎ 私のォォォォ……獲物ォォォォ……‼︎」

 

 正気沙汰では無い様子で、リクは言った。しかし、構う事なくリクの顔を握り潰そうとする。

 だが、ヤバイバはネメシスを背後より羽交い締めにして来た。

 

「また貴様か……離せ‼︎」

 

 ネメシスは、ヤバイバを引き離そうとするが、ヤバイバは離れない。

 

「ガオレンジャー‼︎ 俺諸共、ガオネメシスを斬れェェ‼︎

 

 ヤバイバは、ガオレンジャーに向けて叫ぶ。其れを聞いたゴールドは、レッドに振り返った。

 

「レッド、やるしか無い‼︎」

 

 ゴールドは、ヤバイバの命懸けの行動を見て、其れを無駄にすべきでは無い、と悟った。レッドも、それに同意する。

 

「よし……皆、破邪の爪を‼︎」

 

 レッドの掛け声に、今度はシルバー、グレー、プラチナも加わった九人の戦士達による力を込めた合体武器、破邪百獣剣を展開した。

 

 

「破邪百獣剣‼︎

 邪気……退散‼︎」

 

 

 放たれた正義の一撃が、ガオネメシスへと直撃した。ヤバイバ、リクも其れに巻き込まれて行く。

 だが、最後の刹那、ヤバイバは非常に穏やかな表情。寧ろ、憑き物が取れたかの様だった。

 

(もしよォ……人間に生まれ変われたら……お前が作った味噌汁の食いに行きてェなァ……祈……。

 けど、やっぱり生まれ変わっても、アイツと一緒になりてェ……

 

 ツエツエ……‼︎)

 

 最後の刹那、ヤバイバの脳裏には優しく微笑む掛け替えの無い相棒の顔が浮かぶ。やはり、生まれ変わっても彼女とコンビを組みたい……。

 

 光が収まると、爆心地にはヤバイバとリクの姿は無い。代わりに、ボロボロとなったガオネメシスの姿があった。

 ネメシスは苦しげに身を震わせると、ひび割れたマスクが砕け散り、その下の顔が露わとなる。

 

「ウッ⁉︎」

 

 思わず、ゴールドは目を逸らした。其れは他の仲間達も同様だ。

 ミイラの様に干涸びた老人の顔が、其処にあった。髪の毛も眉毛も髭も無い、両眼は落ち窪み充血した目がギョロギョロと動く。

 肉は無く、骨と皮だけで生きている様な、正しく生きた屍とも言える見るに耐えない姿だ。

 かつて、スサノオと呼ばれた戦士は口角を吊り上げ、不気味に笑う。

 

「……クックック……言葉も出まい……。生きているとは言えず、死んでいる訳でも無い……ただ、僅かに残された生命力と人間共への怨念だけで繋いでいる……其れが、このガオネメシスの真の姿だ……」

 

 そう自嘲しながら、スサノオは笑い続けた。こんな姿となってまで、生き続ける事……最早、一思いに死ねた方が、遥かにマシだろう……。

 

「ヤマラージャよ……‼︎ 今こそ、我等の力を解放する時だ‼︎」

 

 〜良かろう……貴様と一体化し、この地上をオルグの支配下とする‼︎〜

 

 そう言って、ヤマラージャは邪気をエネルギーとして、スサノオの身体に降り注ぎ始めた。

 

「ウオォォォォッ!!!!!!」

 

 スサノオの身体は脈打ち始め、やがて異形の姿へと変異し始めた……。

 

 〜ヤバイバとリクの犠牲を持ってしても、ガオネメシスを倒すには至らなかった……! 其処へ、ヤマラージャと一体化し、新たな姿へと変異を始めたスサノオ‼︎ 果たして、地球の運命は⁉︎〜




※今回は、響きの調べの歌詞を一部、使わせて頂きました。

次は2月21日に掲載します。


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quest59.5 堕ちる須佐男、叛逆する狂犬

※また掲載が一週間も遅れました‼︎
職場を異動になり、思うように執筆できませんでした、すいません‼︎

今回は、スサノオの過去編に入ります‼︎


 ガオレンジャー達が、テンマと戦っている時……

 

 ガオゴッドとガオインフェルノによる攻防も繰り広げられていた。ガオマスターの搭乗するガオゴッドは、これ迄で最高の出力を発揮した。

 だが、ガオネメシスの搭乗するガオインフェルノも負けていない。ムンガンドセイバーを伸ばし、ガオゴッドへと攻撃を仕掛けるが、その刹那、ガオゴッドも瞬間移動して、背後より神獣荒神剣で反撃する。

 

「クッ……小賢しい……‼︎」

 

 忌々しげに、毒吐くネメシス。其れに対し、マスターは叫ぶ。

 

「スサノオ‼︎ これ以上は止めるんだ‼︎ もう、お前の身体は限界の筈だ‼︎」

 

 マスターは懸念していた。スサノオの身体に起こる異変に……そして、それは確かに、ネメシスの身体を蝕みつつあった。

 

「だ…黙れ…‼︎ 俺は……成し遂げるんだ……‼︎ 人類へ……世界へ復讐を……‼︎」

 

 そう言いながら、ネメシスは苦しげに呻く。既に、ネメシスの身体は限界だった。二千年と言う悠久の時間……そして、人の身体に邪気を流し込むと言う行為は、スサノオの身体を歪な迄に変異させた。

 辛うじて、ガオスーツで見た目を維持しているが、これ以上は保たないだろう。

 しかし……もう、戻れない。一度、外れてしまった歯車は、二度と噛み合わないのだ。

 どちらにせよ、自分には滅亡しか残されていない。ならば、世界を共に滅ぼす迄だ。

 ガオインフェルノは、バイコーンホーンを突き出し、ガオゴッドの胴体に突き立てる。ガオゴッドは火花を散らし、大きく仰け反る。

 

「……姉さん……もう少しだよ……! もう少しで……世界を……滅ぼせる……! 姉さんを見捨てた世界に……復讐を……‼︎」

 

 ネメシスのマスクにある瞳が悲しく輝いた。その瞳には、かつて姉弟揃って幸せだった頃の風景が、映し出される……。

 

 

 

 遠い昔……まだ、日本という国が生まれる、ずっと以前……。小さな村落の集まりでしか無かった小国……大きな戦も無く人々は、獣や木の実、魚を捕えながら生きていた。

 だが、最近は農業の様な物を人々は覚えた。植物の種を地に撒き育てる事で、人々は「田畑」を考案したのだ。

 一心に地面を耕す人々……その様子を見ながら、一人の若い女性が共に農耕に励んでいる。

 

「アマテラス‼︎ こっちへ来てくれ‼︎」

 

 逞しい体格の青年が、女性に呼び掛ける。女性は振り返った。腰まで伸ばした艶やかな黒髪を、後ろで結っている美しい女性だ。

 彼女の名は、アマテラス。元々は、この村の住人では無く異国の地より訪れた女性だ。

 最初は異邦人を見た事が無い村民に警戒されたが、彼女が村にもたらした『叡智』は、人々の暮らしを一気に豊かにした。

 今では、アマテラスを「異人」と呼ぶ者は誰も居ない……寧ろ、村人達から頼りにされる存在となっていた……。

 

「どうしたのです?」

「スサノオだ‼︎ また、スサノオが暴れてる‼︎ アンタじゃなきゃ止められん‼︎」

 

 青年の言葉に、アマテラスは、ハァ……と溜め息を吐く。だが、その表情は何処か微笑ましげだった……。

 

 

「スサノオ、貴様‼︎ これは何の真似じゃ‼︎」

 

 年寄り達は騒ぎ立てている。目の前には巨樹が倒れ伏し、その上に胡座を描いて座る青年が居た。漆黒のザンバラ髪に、上半身を裸にした筋肉質の青年だ。手には身の丈ほどもある大剣を握りしめている。

 

「この木は、ワシ等の御先祖様の霊が宿る神木じゃぞ‼︎ 其れを全部、切り倒してしまうとは……この罰当たりが‼︎」

 

 年寄りは憎々しげに、スサノオを罵る。しかし、スサノオは悪びれる様子を見せない。

 

「何が神木だ……唯の木じゃ無いか! こんな村の外れに生え茂っていたら、村を広げる事も出来ない。それに、この木が生えている事で折角、種を蒔いた作物が一向に育たない……だったら切り捨てて、薪にしたり家を建てたりしたら余程、役に立つじゃ無いか……」

「な、なんと無礼な口を……‼︎ アマテラス様の弟じゃからと大目に見ていれば、付け上がりおって‼︎」

「この悪童め‼︎ 今日と言う今日は容赦せんぞ‼︎」

 

 年寄りは、カンカンに怒り狂い、スサノオに折檻しようとする。其処へ、アマテラスが駆け寄って来た。

 

「皆さん、どうか怒りを鎮めて下さい‼︎ スサノオには、理由があっての事なのです! 木を切る様に彼に頼んだのは私です‼︎」

「な、なんと⁉︎ アマテラス様、何故に神木が切り倒す事を⁉︎」

 

 アマテラスの言葉に、年寄り達はどよめく。アマテラスは穏やかに言った。

 

「今、この村全体を水路を引こうとしているのです。この村の外れにある川より水路を開通すれば、村全体に水が潤され、田畑も良く育ちます。何より、この木々達は村の地下にある水脈を吸って成長し、本来なら育つべき田畑の成長を妨げていました……。

 村を豊かにする為には、この木々を切り倒すしか無かったのです……」

「……事情は分かりました……。しかし! このスサノオが問題を起こしたのは、今日が初めてでは無いですぞ‼︎

 村の食糧用の猪を勝手に殺したり、家を壊したり……最早、我々も我慢の限界じゃ‼︎」

「……あの猪は育ち過ぎて食えたもんじゃ無い……猪の餌だって馬鹿にならないしな……。家にしたってそうだ。あんな苔むした木で建てた家など一雨来たら、簡単に崩れ去るさ……」

 

 スサノオは、ぶっきらぼうに吐き捨てた。益々、年寄り達は激怒した。

 

「こ、この……言わせておけば……‼︎」

「もう許さん‼︎」

 

 年寄り達は口々に怒鳴り散らすが、アマテラスが宥めた。

 

「スサノオ、大人達を怒らせる様な事を言っては駄目よ…。ちゃんと謝罪なさい…」

 

 彼女は諭す様に、スサノオを嗜める。すると、さっきまで不貞腐れていた様子だった彼は、急に借りた猫の様に大人しくなり…

 

「…はい、姉さん…。ごめんなさい……皆さん…」

 

 と、シュンとしながら謝り出す。体格は、アマテラスよりずっと大柄だが、姉の前に立つ彼は小さな子供の様に身体を竦めた。

 その様子に、アマテラスは満足したのか、村人達に言った。

 

「どうか、スサノオを責めないであげて下さい。この子は、とても純粋なのです。私達の暮らす村を良くしようとしているだけなのです」

 

 彼女の穏やかな口調は、殺気だっていた村人達の落ち着かせるには充分だった。

 漸く怒りを鎮めた村人達は、渋々ながらも解散して行った。とは言え、スサノオを良く思わない彼等の内心は、穏やかでは無い。

 

「全く……アマテラス様は何故、あんな悪童を庇われるのか…」

「今に村に、厄介をもたらすぞ…」

 

 そう、ブツブツと呟きながら、村人達は仕事へと帰って行った。

 残されたアマテラスとスサノオは互いに顔を見合わせる。

 

「彼等を嫌わないであげてね、スサノオ……」

「別に、どうだって良い……。俺は姉さんが笑顔で居てくれたら……それで良い…」

 

 そう言ったスサノオは優しい顔になる。アマテラスも笑った。

 

 

 アマテラス達、三姉弟達は元々、この村の出身者では無い。ある日、突然、旅人として村へやって来たのだ。その時、村では子供ばかりが亡くなる、と言う奇病が流行っていた。

 大人達は高熱に苦しむ子供達の頭を冷やし、祈祷師の言葉に従って祈りを捧げるが、その甲斐も虚しく一日、また一日と経つ内に死んでいく。

 村人達は呪われた、と嘆き悲しんだが其処に現れたのが、アマテラスだった。

 彼女は子供達の様子を見て、二人いる弟達に命じて山から山菜を取ってこさせた。その山菜を擦り下ろし火にかけ熱した物を、子供達に飲ませて行く。そうすると、熱にうなされていた子供達は、たちまちに良くなった。

 こうして村人から絶大な信頼を得た彼女は村に居座るに至った。薬師としてだけでなく、更に彼女は並の祈祷師を上回る力を持っていた事から、次第に村長としての地位を得た。

 この村に暮らし始めてから半年となるが……今では、誰よりも村の暮らしに馴染んでいた。

 

「姉上……やはり、奴等の気配が……」

 

 村で一番、大きな屋敷の中にて、アマテラスと話す若い男……彼女の弟にしてスサノオの兄、ツクヨミだ。

 スサノオは胡座をかいて寛いでいる。

 

「そう……。やはり、この地に集中しているのね…‼︎」

「ああ……鬼共の動きが活発して来ている……。近付いているらしいな……奴が…‼︎」

「雄呂血か?」

 

 其処へ、スサノオが口を挟む。そもそも、アマテラス達が旅をしていたのは、その者を探していたからだ。

 

「間違いありません……。雄呂血こそ鬼達の親玉にして、災いの権化……奴を倒さない限り、被害は止まらない……‼︎」

「心配は要らん、姉さん‼︎」

 

 スサノオは勢いよく立ち上がる。

 

「雄呂血なぞ、この剣で血祭りにしてくれる‼︎」

「スサノオ、油断は禁物だ。奴等には人の作った剣や槍は効かぬ……対抗出来るとしたら……六聖獣の力を借りるしかあるまい……」

「そうですね……今こそ、彼等の力を……‼︎」

 

 アマテラスは振り返る。其処には祭壇が置かれて、南斗六星の形に嵌め込まれた宝珠があった。彼女は御幣を手に持ち、宝珠の前で巫女舞を始める。

 

 

 〜南の星々を司る六柱の神々よ……遂に、鬼達の魔の手が迫って参りました…

 人々の平和な日常を守り、母なる大地を守る為にも貴方様方の力が必要なのです…

 イザナミの子、アマテラス、精霊の巫女の名の下に嘆願します……神々の意思を、お伝え下さいませ……‼︎

 

 ハアァァァ……‼︎〜

 

 

 祈りの言葉と巫女舞を捧げながら、アマテラスは最後に大きく叫ぶ。すると、急に意識を失った様に倒れる。

 

「姉さん⁉︎」

「落ち着け、スサノオ‼︎ 精霊の神々が、姉上と交信しているのだ……‼︎」

 

 取り乱すスサノオを、ツクヨミは宥めた。暫しの間を置き、アマテラスは、ムクリと立ち上がる。

 

「ツクヨミ、スサノオ……精霊の神々の神託を受けました……‼︎ 彼等の協力を得られ、雄呂血を迎え撃ちます‼︎

 スサノオ……貴方に此れを……‼︎」

 

 アマテラスは台座の下に置かれていた剣を手に取り、スサノオに渡す。

 

「これは日輪の剣……精霊達の加護を受けた神剣です……。 ツクヨミ、貴方には此れを……‼︎」

 

 そう言ってアマテラスが、ツクヨミに渡したのは鏡の様に煌めく盾だった。

 

「これは破魔の盾。あらゆる攻撃による事象を防ぎ、邪気をも跳ね返す力があります……。

 この神器と宝珠……此れ等を合わせた時、精霊達は降臨し鬼達を祓う、と伝えられています……」

 

 アマテラスは台座に嵌る宝珠を指す。余談だが、珠、鏡、宝剣……この三つの物は、後世にて『三種の神器』と呼ばれ、代々に王権の象徴として受け継がれる三つの宝具の雛形となる……。

 

 スサノオ、ツクヨミは、それぞれに授かった神器を握り、覚悟を決めた……。

 

 

 

 それから数週間後……アマテラスの予言通り、鬼達の軍勢が押し寄せて来た。鬼達を率いるのは、異形な鬼達を上回る異形な姿の怪物だった。

 大柄な鬼達を見下ろす程にガッシリした巨躯、筋肉隆々な二の腕には、赤黒い鱗が生えている。頭部から天を衝く程に長いツノ、耳まで裂けた口内には、ギラギラとした牙が生え並んでいる。

 そして大きく見開かれた両眼は血の様に真っ赤に染まっていた……蛇が鬼となった様な、悍ましい外見……この者こそ、鬼達を率いる王、雄呂血だった。

 

「御頭‼︎ あれが、人間共の住む場所ですぜ‼︎」

 

 右手に立つ赤鬼が言った。雄呂血は蛇の様に、長い舌をチロチロと出して舌なめずりした。

 

「ああ……人間の匂いがプンプンする…! そして忌まわしい巫女の匂いもな……‼︎ 奴等の故郷を壊滅させた際、取り逃した時は流石に、ヒヤリとしたがな……。だが、それも今日で終わりだ‼︎」

 

 雄呂血は悪辣に北叟笑む。そして控える鬼達に指示を出した。

 

「者共‼︎ 儂等、鬼達の力を知らしめてやる時が来た‼︎ 驕り高ぶる人間共を皆殺しにしろ‼︎」

 

「オオオォォォォッ!!!!!」

 

 血に飢えた鬼達は、その邪悪な本性を隠す事なく、天に届かんばかりに咆哮を上げた。

 

 

「そうはさせません‼︎」 

 

 

 突如、威嚇する様な声が響き渡る。雄呂血は、その姿を見て、ニヤリと笑った。

 

「現れたな、巫女‼︎」

 

 鬼達の前に立ちはだかるのは、巫女装束を着たアマテラスと、彼女を守る様に左右に構えるスサノオとツクヨミ。

 

「これ以上、蛮行を重ねる事は許しません‼︎」

「フッフッフッ……これだけ潤沢とした地……低俗な人間共には勿体ないわ……‼︎ 何より……我等、鬼は殺してこそ、鬼だ‼︎」

「そんな与太話は聞き飽きたよ……‼︎」

 

 スサノオは日輪の剣を構える。雄呂血は右手を翳すと、右手が複数の蛇へと変わる。しかし、スサノオは全て斬り捨てた。

 

「……姉さんは……俺が守る‼︎」

 

 スサノオは、単身で駆け出す。ツクヨミは驚愕した。

 

「待て、スサノオ‼︎ 一人では危険だ‼︎」

 

 ツクヨミが止めるのも聞かず、アマテラスは迫り来る鬼達を斬り倒して行った。彼の様子に、雄呂血は目を見張る。

 

「……ほう……人間にも、中々の猛者が居るのだな……‼︎」

 

 彼が驚くのも無理はない。スサノオの強さは普通では無い。迫り来る鬼達を、土塊を蹴飛ばすかの様に斬り伏せて行く。

 その姿は人間では無く、寧ろ鬼のそれに近い。雄呂血は、何かを思い立った様に嗤った。

 

 

 それから戦いは三日三晩に渡って繰り広げられた。

 スサノオは活躍により、雄呂血の引き連れてきた配下の鬼達は殆ど全滅する至った。しかし、雄呂血は焦りを見せない。

 

「血に飢えているな?」

「何?」

 

 突如、彼の発した言葉に、スサノオは首を傾げた。

 

「貴様の目を見れば解る……。血に飢えて……破壊を好む目だ……貴様は、人間の命を守る事など、どうでも良いと思っているな?」

「黙れ‼︎ 鬼如きが、人間の心を語るな‼︎」

 

 スサノオの反論に対し、雄呂血は口をめくり上げ笑った、

 

「愚かな……貴様は何も分かっていない……。貴様は、何れ真実を知る日が来る……その時、自分の守っていた者が守るに値したい物だと理解するだろ……‼︎」

 

 最後まで言い切る事なく、雄呂血の首が刎ね飛ぶ。スサノオの剣が、彼の首を斬ったからだ。首はゴトリ、と地べたに転げ落ち、頭を失った胴体も倒れ伏した。

 

「戯れ言は終わりだ……続きは、黄泉で吐いているんだな……‼︎」

 

 スサノオは冷たく吐き捨てた。だが……

 

 

「ククク……鬼の首が、そう簡単に取れると思ったか……‼︎」

 

 

 急に喋り出す。雄呂血の首が、不気味に笑いながら浮かび上がる。

 

「生きている⁉︎」

 

 スサノオは流石に驚愕した。すると、斬り倒された胴体も立ち上がり断面から、邪気が溢れ出した。

 邪気は形を成して、八つの頭を持つ巨大な蛇の様な化け物として暴れ始めた。

 

「鬼は不滅なり‼︎ 儂は未来永劫、人間共を苦しめる厄災となるのだ‼︎」

 

 雄呂血の首は狂笑しながら、八つの頭で四方を襲い始める。蛇の口から垂れ流された邪気は大地を腐食させ、植物を枯らして行く。

 

「な、何という事を……‼︎」

 

 アマテラスは、その非道な行いに絶句する。このままでは、辺り一面が枯れ果ててしまう。

 アマテラスは祈りを始めた。

 

「ツクヨミ! スサノオの援護を‼︎」

「分かった‼︎」

 

 ツクヨミは破魔の盾を構えて、雄呂血へと向かって行く。邪気の蛇は大口を開けて、ツクヨミに襲いかかって来た。

 しかし、ツクヨミが盾を翳すと、精霊の力を得た盾は結界を出現させて、蛇の頭を防いだ。

 邪気の蛇は、ジュウッ…と焼け爛れた様な音を上げながら消滅する。だが、直ぐに頭は再生した。

 

「諦めろ、人間共よ‼︎ 我が力の前に、貴様等などの力は及ばんわ‼︎」

 

 雄呂血は蔑みに満ちた様に言い放つ。しかし、スサノオは諦めずに、日輪の剣を振りかぶり、雄呂血へと向かって行こうとした。

 それを、ツクヨミが止めた。

 

「無茶はよせ、スサノオ‼︎ 下手に攻撃すれば、我々が不利だ‼︎」

「なら、どうしろと言うのだ‼︎」

「あれを見ろ‼︎」

 

 ツクヨミが指を差すと、アマテラスが光り輝いた状態で宙に浮遊していた。その周りには六つの宝珠が浮かび上がり、其れに惹かれる様に巨大な六体の獣達が出現した。

 竜、馬、鷲、狐、飛龍、そして鳳凰……舞い降りた六体の精霊の化身たる獣達は、アマテラスの祈りに応え、姿を現したのだ。

 

 

 〜地上を汚す害悪共よ‼︎ 貴様等の暴挙も、此処までだ‼︎〜

 

 

 竜は高々に吠えた。それに対して、雄呂血は忌々しげに睨む。

 

「地上の生み出した獣もどきが、何を偉そうに‼︎ 我が邪気の前には貴様等の力なぞ、蠅に等しいわ‼︎」

 

 そう叫んで、雄呂血は蛇の頭を精霊達に迫らせた。しかし、鳳凰が翼を羽撃かせると、金色に煌めく炎の壁が現れた。

 邪気の蛇は苦しげに呻きながら、次々に消滅して行った……。

 

「鬼の王よ、彼等の力は大地の命そのもの……大地を汚す存在である貴方達には毒となるのです……」

 

 アマテラスの言葉を聴いた雄呂血は、ニタァッと笑う。

 

「……戯け共めが……。我々を生み出す秘密を知れば、貴様等は間違いなく自分に絶望するわ……‼︎」

「負け惜しみなど、見苦しい奴め‼︎」

 

 スサノオは日輪の剣を構える。すると剣は形を変え、光り輝く光剣となった。そして、嘲り笑う雄呂血の額に突き刺した。

 

「……スサノオ……予言してやる……‼︎ 貴様には……未来永劫に続く呪いを掛けた……‼︎ 貴様は、やがて……全人類に絶望し……憎悪し……永久に満たされぬ飢渇に苛まれ、生き続けるだろう……‼︎

 精々、苦しみ足掻くが良い……ハッハッハッ……‼︎」

「黙れ‼︎」

 

 スサノオは雄呂血の首を真っ二つに両断した。尚も笑いながら、雄呂血は塵となって消えていき、その身体や邪気の蛇も消滅した。

 

「お、御頭が⁉︎」

「う、嘘だろ⁉︎」

 

 鬼達は雄呂血の敗北に狼狽した。スサノオの凄まじい怒気を受けて、鬼達は散り散りになって逃げて行った。

 スサノオは振り返ると、アマテラスとツクヨミが笑っていた。

 

「やったな……‼︎」

「ああ……‼︎」

 

 ツクヨミの言葉を受け、スサノオも笑う。アマテラスは、六聖獣達を見ながら

 

「皆さん、ありがとうございます……‼︎」

 

 アマテラスは力を貸し与えてくれた六聖獣に、感謝を捧げる。竜は吠えた。

 

 〜これで地上の平和は守られた……‼︎〜

 

 

 

 雄呂血を倒した事により、鬼達の計略は一旦は食い止められた。こうして、アマテラスは人々の信頼を勝ち取り、平和を齎した彼女を讃え始めた。いつしか、小さな集落の集まりでしか無かった村は更なる発展を遂げ、国と呼ばれるに遜色ない規模となった。

 こうして、アマテラスを国の指導者、女王に据え、スサノオとツクヨミは、その側近を務めた。

 やがて、アマテラスを中心とした政権を持つ国を『邪馬台国』と呼ばれ、いつしか巨大な国として君臨する事となった。

 しかし……雄呂血を討伐し、邪馬台国の建国から数年が立った年……国内に不穏な影が現れ始めた……。

 

「スサノオを追放するべきだ‼︎」

 

 側近達を含めた会議にて、一人が意見をした。 

 

「スサノオは強過ぎる! 余りに、強過ぎるのだ‼︎ 雄呂血の亡き後、邪馬台国も国として形を持ち、平和となり始めた今、あの様な荒々しい男を国に置いていては危険だ‼︎」

「聞けば奴は、雄呂血を始めとした数多の鬼達を一人で滅ぼしたそうではないか‼︎ それは、雄呂血を上回る鬼の様な人間と言う事になる‼︎」

「そうだ! 奴は人の姿を被った鬼だ‼︎ 鬼人に相違ない‼︎ 奴を、邪馬台国に置き続ければ、間違いなく災いをもたらす‼︎」

「スサノオを国外に追放、でなければ死刑とすべきだ‼︎」

「賛成‼︎」「異議無し‼︎」

 

 次々と、スサノオの追放に同調し始める者が後を絶たなかった。元々、彼に対し不満を抱いていた邪馬台国の上層部の者達は、スサノオが女王の側近中の側近を務める事自体が気に入らなかった。だからこそ、彼に不名誉な汚名が付き纏い始めた事を口実に、スサノオを蜥蜴の尻尾切りにしようとしたのだ。

 これに対し、ツクヨミは反対する。

 

「待て‼︎ スサノオが居たからこそ、今日まで平和を保って来れたんじゃないか‼︎」

 

 ツクヨミは、スサノオを嫌っている者達が、ここぞとばかりに彼を除外せんとしている事に気付いた。

 雄呂血と言う人知を超えた災厄、其れを滅ぼしたスサノオ……精霊達の助力があったとは言え鬼達を、ほぼ一人で倒した事は、人間達からすれば脅威以外、何物でも無い。

 無言を貫いていたアマテラスだが、静かに語り出す。

 

「……皆さんの言葉は分かりました……。世は平和となり、時代も変わりつつあります……。

 宜しい、スサノオは邪馬台国より国外追放とします‼︎」

「あ、姉上⁉︎」

 

 毅然とした彼女の発言に、ツクヨミも困惑した。これまで、スサノオは明瞭な理由があれど、国の人を怒らせ、不満を煽って来た。

 しかし、それでも彼女は、その都度に人々を取り成し、弟を庇い続けて来たのだ。だが……スサノオの今後にて、こうも不和となっては、邪馬台国は二分に割れて、崩壊してしまうかも知れない。

 国を預かる者として、アマテラスは苦渋の末に、スサノオを追放する事を決意した。だが、死刑にしなかったのは、姉としての弟にしてやれる唯一の情けだ。

 アマテラスは凛とした表情に、憂いを帯びているのを、ツクヨミは見逃さなかった……。

 

 

 その夜……スサノオは、誰も寝静まった時計の街を歩いていた。右手には日輪の剣を持って肩に乗せ、左手には粗末なズタ袋を下げている。

 結局、スサノオは、これまでの功績を上げられ非常に寛大な措置として、国外追放となったのだ。

 誰一人と、彼を見送ろうとする者はいない。国を命懸けで救った英雄に対し、あまりに無情な仕打ちだ。

 無表情のスサノオは唇を強く噛み締めた。これで良い……自分が人々から疎まれているのは理解していた……自分が居なくなれば、全ては丸く収まる……そう頭で理解していても、心は割り切れない……。

 

 

「スサノオ‼︎」

 

 

 自分を呼ぶ声に振り返ると、アマテラスが松明を片手に立っていた。目の下には涙の跡が残っている。

 

「姉さん……」

「許して、スサノオ……。この様な仕打ちを課してしまう私を……」

 

 アマテラスは泣き崩れた。自分を守る為に我が身を犠牲にし続けて来た弟を追い出す様な真似をしてしまう……。

 しかし、振り返ったスサノオの顔には姉に気を遣わせまい、と笑顔を浮かべていた。だが、それは切なく……とても悲しい笑顔だった。

 

「俺は良い……。姉さんが笑っていてくれるなら……貴方が幸せならば……俺は、それで良いんだ……」

「スサノオ……‼︎」

 

 涙でグシャグシャになった顔をアマテラスは上げる。スサノオは彼女を強く抱きしめた。

 

「歌ってよ、姉さん……。あの歌を……」

 

 スサノオはねだる。まだ自分達が幼い頃、アマテラスが子守唄として歌ってくれた歌……その歌は、スサノオは好きだった。

 アマテラスは、弟の要望に応えて……歌い出す。

 

 

 ♪〜耳を澄ませば 聴こえるだろう

 風が運んだ いつかの呼び声

 行きなさい

 

 そこに在るのは まことのやすらかさ

 時は渡る 祈りのなかで

 約束は果たされる

 深く息を 吸い込み 遥かなる魂を

 

 響かせて 響かせて〜♪

 

 

 アマテラスの優しい声に乗った歌は、スサノオのささくれ立った心を優しく包み込む。

 かつて、小さい頃に泣かされて帰って来た自分を膝に乗せて、聴かせてくれた歌である。この歌は、スサノオを何度も彼女にせがんでいたのを覚えている。

 やがて歌い終わると、アマテラスは涙を浮かべながら、優しく微笑む。

 

「……スサノオ……忘れないで……。貴方が例え、何処に居ようとも私は貴方を考えています……。

 人々の疑惑が晴れた時、必ず貴方を呼び戻しますから……」

「……ああ、俺も姉さんを考えている……ツクヨミに宜しくな……」

 

 最後にそう言い残し、スサノオは踵を返した。このままでは決心が鈍ってしまいそうだったからだ。

 夜闇に消えて行く彼の後ろ姿を、アマテラスは見守り続けていた。其処へ、ツクヨミが現れる。

 

「姉上……身体に障ります……どうぞ中へ……」

「……ええ……」

 

 そうして、アマテラスは弟の姿を目で追いながら、ツクヨミと共に屋敷へと入って行った……。

 

 しかし……スサノオは知らなかった……。この会話が姉との最後の会話であった事を……。そして、雄呂血の予言は最悪の形で成就してしまう事を……。

 

 

 

 スサノオが国を追われてから数十年経った……当てもなく方々を旅していたスサノオだったが、その旅先にて鬼が現れては其れを下し、人々を救う毎日を送っていた。

 所が……ある村にて、休息していた彼に不吉な噂が届いた。邪馬台国にて大規模な戦が生じ、女王が行方不明になったと言う。

 居ても立っても居られなくなった彼は、すぐさまに故郷へと向かった。

 大人の脚で走っても一週間掛かるが、彼は倍以上の速さで走り、懐かしく故郷に三日で辿り着いた……。

 

 邪馬台国へと足を踏み入れた彼を待っていたのは、目を疑う光景だった。何と、其処は更地と化していたからだ。

 建築物も……水路も……姉と共に暮らした屋敷も無い……此れは一体、どう言う狂いなんだ? スサノオは目を疑う。

 

 その時……スサノオの後ろから声がした。

 

 〜久しぶりだな……スサノオ……〜

 

「お、お前は雄呂血⁉︎」

 

 其処には、かつて倒した筈の雄呂血の首が浮かんでいた。さも愉快そうに嗤っている。

 

 〜故郷は滅びたのだ……貴様が追放され、方々を転々している間にな…〜

 

「な、何だと⁉︎ 貴様達、鬼が⁉︎」

 

 スサノオは剣に手を掛ける。雄呂血は高笑いを上げた。

 

 〜貴様はうつけか⁉︎ 人間共は自分で自分の国を滅ぼしたのよ‼︎ アマテラスの王位を狙ってな‼︎

 更には、彼奴等の放つ邪気が垂れ流された事で、儂の残した呪いと合わさり、鬼達は世界中へと散っていたわ‼︎〜

 

「な、何だと……⁉︎」

 

 〜貴様に一つ良い事を教えてやろう‼︎ 我々、鬼はな……欲に塗れた人間の邪気から生まれてくるのだ‼︎ 

 要するに、貴様等が人数を守る事に何一つ意味は無かった、と言う事だ‼︎〜

 

 その言葉に、スサノオは剣を落として膝をついた。

 

「ね、姉さんは……⁉︎」

 

 〜貴様の姉か? ほれ、其処だ‼︎〜

 

 スサノオは、ゆっくりと振り返る。其処には硬く閉ざされた岩が残されていた。

 

 〜アマテラスは荒れる人間や鬼達から、精霊の力……ひいては自身の巫女の力を悪用させぬ様に、自身の力を封じたのだ‼︎ その岩戸に閉じ籠り、果てる事でな‼︎〜

 

「……姉さんが……死んだ……⁉︎」

 

 突き付けられた無情な現実……自分が居なくなった間に姉さんは死んでしまった……受け入れ難い残酷な運命に、スサノオは目が真っ暗になった。

 

「……姉さんが人間共を守る意味など無かった、と言うのか? ならば……姉さんは何の為に……?」

「お前の姉は……人間の欲と狂気の犠牲となった……お前が滅ぼすべきだったのは、人間だったな?」

「……う…ああ……あああああァァァァァァァッ!!!!

 

 スサノオの精神は遂に限界を迎え、発狂してしまう。そして、彼は足下に転がる自身の剣を手に取る。

 

「姉……さん……」

 

 血涙を流しながら、スサノオは剣を逆手に持ち、自身の腹へと向けた。

 

「姉さんの居ない、この世界に……何の意味も無い‼︎」

 

 全てに絶望したスサノオは剣を腹へと突き付け、大量の血潮を噴き出しながら血の海の中に沈んでいった。その様子を、雄呂血は悪辣に笑いながら見ていた……。

 

 

 次に目を覚ましたスサノオは暗闇に中にいた。右も左も分からない……自分は死んだのか……そう考えていると、彼の前に一人の少女が現れた。

 

「チャオ‼︎ お迎えに上がりましたよォ、スサノオ様」

「何だ、お前は……」

 

 スサノオは彼女を見た。大鎌を持った奇怪な服装の娘だ。

 

「私は、ニーコ。閻魔オルグ様の御使いですわァ。スサノオ様……このまま、終わるのは勿体ないですよォ?」

「何?」

 

 ニーコは小さく微笑み、スサノオを見る。

 

「貴方は人間を守る為に尽くしてきたのに、掌を返される様に人間に裏切られた……人間に復讐したくないですか? 世界に反逆したく無いですかァ?」

 

 ニーコの甘言は、スサノオの心を揺さぶる。

 

「俺に……鬼になれ、とでも言うのか?」

「クスクス……どうしますゥ?」

 

 最早、スサノオの心に迷いは無い。それ所か、人間に対する明確な殺意しか湧いて来ない。

 

「……良いだろう……どの道、堕ち果てた身だ……。ならば、堕ちる所まで堕ちてやる‼︎

 

 俺は復讐する‼︎ 愚かな人類に……くだらない世界に‼︎」

 

 スサノオは高々に宣言した。その様子に、ニーコはニィィッと笑った……。




次回の投稿は、2月14日になります。


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quest60 破壊神、降誕!

また投稿日が遅れた事を、お詫び致します!
納得がいかない展開だったので急遽、再執筆し直しました!
本当なら今話が最終話でしたが、一話、伸ばします‼︎
では、どうぞ‼︎


 ガオネメシスが現実へ戻ると、ガオゴッドが倒れ伏していた。ネメシスは、勝ち誇る。

 

「無様だな、ツクヨミ……! 貴様は姉を守り切れなかった……此れは、その報いだ……‼︎」

 

 ネメシスは高笑いを上げる。その言葉に、ガオゴッドが叫ぶ。

 

 〜スサノオ……目の前にある全てを憎み、目に映る者を全て壊し……その後、どうする気だ……〜

 

「何だと?」

 

 突如、発せられた返しに対し、ネメシスは思わず仰反る。

 

 〜考え直すなら今だ、スサノオ……。お前自身、気づいている筈だ……過ちを侵している事にな……。オルグを世界に送り込み、世界を滅ぼした所、お前の渇きは満たされる事は無い……永遠に自分の罪に苛まれ、死ぬ事も成仏する事も出来ずに時の輪廻を彷徨い続けるだけだ〜

 

「フン! 仮にも神とあろう者が、命乞いとは見苦しいな‼︎ 教えてやろう、ガオゴッド! 最早、この世界に必要なのは、ガオの戦士でも、パワーアニマルでも無い‼︎

 オルグによる圧倒的な破壊、滅亡による救済……それだけだ‼︎」

 

 ネメシスは吐き捨て、ガオインフェルノに力を込めた。すると、ガオケルベロスの三つの口内が妖しく光り始める。

 

「消え去れ、ツクヨミ‼︎ この忌まわしい記憶と共に‼︎」

 

 そう叫ぶと、ガオケルベロスの口から放たれた光弾。転倒していたガオゴッドには成す術なく、全弾を命中してしまう。

 

「ハハハハハハハハ‼︎ 死ぬが良い‼︎」

 

 ネメシスの勝ち誇った笑い声が木霊した。しかし、突如にネメシスの脳裏に映像が過ぎる。

 

 

 〜スサノオ‼︎ 待てよ、スサノオ‼︎〜

 

 〜また、悪戯をしたな‼︎ 姉さんに言い付けるからな‼︎〜

 

 〜釣りに行こう、スサノオ‼︎〜

 

 〜スサノオ……スサノオ……〜 

 

 

 幼い頃に共に過ごした兄との思い出が、彼の脳裏に流れ込んで来た。ネメシスは苦しげに呻く。

 

「く……‼︎ 何故、今更……‼︎」

 

 今は幻想となった、スサノオの幼き頃……姉弟三人で幸せだった、あの時……。スサノオの時間は、あの頃のまま止まっていた。

 思い返す姉アマテラスの顔……しかし、どんなに思い出してみても、姉の顔は悲しそうにしている……。

 

「な、何故だ⁉︎ 何故、姉さんは悲しげなんだ⁉︎ お、思い出せない……‼︎ 姉さんの笑顔が思い出せない……‼︎」

 

 ネメシスは狼狽する。思い返そうとすればする程、アマテラスの笑顔は靄が掛かった様に見えなくなって行く。

 それは、スサノオの中にある良心の呵責による物だった。彼自身、理解して居なかったが、自分のやっている事が間違いである、と言う考えが、スサノオを精神的に追いやる事となった。

 しかし、ネメシスは、そんな弱々しい自分に喝を入れた。そして、トドメの一撃をガオゴッドに打つける。巨大な火柱を上げ、炎上するガオゴッド。

 その様子を見ていたネメシスは狂笑を上げていた……自身の中にある矛盾を掻き消す様に……。

 

 

 

 そして、時間は少し戻り……

 

 

 

 スサノオは、ヤマラージャの発した邪気に周りを覆い尽くされ、昆虫の繭の様な姿となる。邪気の繭に守られ、中の様子を伺う事が出来ない。

 

「クッ……ブレイジング・ファイヤー‼︎」

「炎滅弾‼︎」

 

 レッドはライオンファングに炎を纏わせ、ゴールドはソルサモナードラグーンで炎の弾丸を撃ち出し、繭を攻撃する。

 しかし攻撃は、まるで効かない。傷つけられた箇所から、たちまち再生してしまうからだ。

 

 〜ハハハハハ‼︎ 無駄な事は止めろ、ガオレンジャー‼︎ 儂の邪気は、そんな脆弱な攻撃では破壊出来ぬ‼︎

 見ていろ……今に、スサノオは生まれ変わるのだ‼︎ 人を超え、オルグを超えた……“破壊神”としてな‼︎〜

 

「は、破壊神⁉︎」

 

 ヤマラージャの言葉に、シルバーは戦慄する。ただでさえ強敵であるスサノオが一体、どんな姿に進化するのか? 全く想像だに出来ない。

 そうしてる間に、繭が妖しく発光し始め、ドクン…ドクン…と、鼓動を上げる。

 

「み、脈打ってる……‼︎」

 

 イエローは、繭を凝視する。やがて、光が収まって行くと鼓動は、ますます大きく鳴り響き始めた。そして……

 

 バリッと、音を立てて繭を突き出して来たのは異形の腕だ。そして、その裂け目に十本の指が突き立てられ、繭を左右に裂き始めた。

 そして完全に裂開した繭を突き破りつつ、其れは立ち上がって……

 

「フウゥゥゥ………‼︎」

 

 其処に居たのは、ヘルメットやバイザーはネメシスの面影を残しながら、頭部から脚部に掛けて蛇や爬虫類を思わせる鱗が生え揃い、胸部に蛇を思わせる眼球が開いていた。

 頭頂より、オルグを思わせる長い角が形成され、蛇に似た尻尾が背部より生えていた。

 右手には、ヘルライオットと思しき銃と融合した禍々しい魔人だ。

 

「お前は……ガオネメシス……⁉︎」

 

 ゴールドは恐る恐る呼び掛けた。しかし、魔人は無表情のまま……

 

「ガオネメシスでもスサノオでも無い……‼︎ 我が名は、破壊神メツキ……。全ての生命、全ての文明を滅ぼし尽くし……全てを破壊する者なり……‼︎」

 

 その口調は、ネメシスともスサノオとも似つかない……一切の感情も無い、まるで虫と話そうと試みる様な、あらゆる感情移入を拒絶する物だった……。

 メツキは、ヘルライオットから紫色の光刃を発し、ガオレンジャー達に刃を振るった。

 突き出される剣圧が、ガオレンジャー達を吹き飛ばす。

 

「うわァァァッ!!!???」

 

 耐え切れずに、投げ出されてしまうガオレンジャー達。しかし、本当に恐ろしいのは、それだけでは無い。

 ガオスーツは綻び始め、変身が解除されつつあるのだ。

 

「な、スーツが……⁉︎」

 

 ゴールドは目を疑う。これ迄、自分達のガオスーツそのものを弱体化させる敵など居なかった。ヤマラージャは高らかに言い放った。

 

 〜鬼地獄の濃密な邪気に触れたからよ‼︎ これ迄の生半可な邪気とは訳が違うぞ‼︎〜

 

 ヤマラージャは勝ち誇る。此れでは戦う事すら、ままならない。其処へ、メツキは光刃の形状を変えて、巨大なライフルとなる。

 

「滅せよ」

 

 メツキの言葉と共に、撃ち出される複数発の邪気弾。其れ等は、満身創痍であるガオレンジャーに襲い掛かった。 

 ガオスーツの加護を無くしたガオレンジャー達は、正に格好の的だ。邪気弾により撃ち抜かれて行く。

 

「ぐあああァァァ……‼︎」

 

 邪気弾を全て喰らったガオレンジャー達は絶叫と共に崩れ落ちる。最早、スーツは殆ど消失し、生身の部分には痛々しい傷を付けられていた。

 メツキは悠々と立ちはだかる。

 

「……お前達には……礼を言う……。此れで私は……真の姿へと転生出来る……! ガオの戦士スサノオでも……叛逆の狂犬ガオネメシスでも無い……真の破壊の神へと……‼︎」

 

 そう言って、メツキは浮かび上がる。すると、其処へガオケルベロス、ガオバイコーン、ガオムンガンドと三体の、カオス・パワーアニマルが姿を見せる。

 

「さァ……三体の混沌の眷属達よ……今こそ、地球に終止符を打つ日が来た……!

 見せてやるぞ!」

 

 メツキの言葉に合わせ、三体のカオス・パワーアニマル達は融合して行く。すると、其処に立っていたのは、精霊王とは似ても似つかない禍々しい漆黒の巨神が佇んでいた。頭部は無表情の鬼神、胸部と肩部にガオケルベロス、右腕にガオムンガンド、左腕にガオバイコーン、胴体は禿山の様にゴツゴツと節くれだった怪物だ。

 

 〜グオアアァァァァ……‼︎〜

 

 メツキは獣染みた咆哮を上げた。

 

「此れが……神……⁉︎ 何て禍々しい姿なんだ……‼︎」

 

 変身の解けた陽は、目の前に立つ巨神に凝視する。どんなに贔屓目に見ても、神とは思えない禍々しさ……触れただけで生命力を吸い尽くされてしまいそうになる凶悪はオーラ……そして、胸部のガオケルベロスの頭部には上半身のみ露出したガオネメシスの姿があった……。

 

 〜儀式は完了だ‼︎ では、此れより鬼還りの儀の締めに取り掛かる‼︎〜

 

 そう叫んだヤマラージャは、メツキの身体へと乗り移る。すると、メツキの目が紅く染まる。 

 

「フハハハ‼︎ 漸く、手に入れたぞ‼︎ 全てを破壊し尽くす力……あらゆる交わりを拒絶する器‼︎ 遂に、儂は復活を果たしたのだ‼︎」

 

 ヤマラージャは狂気に満ちた顔で吠える。その様子は、これ迄のヤマラージャの其れとは異なる様だ。

 と、その時……

 

「キャァァァ⁉︎」

 

 祈の悲鳴に、陽達は振り返る。すると、祈の首元に大鎌を突き付けたニーコが微笑んでいた。

 

「動かないで下さいねェ? 祈ちゃんの首が、チョンパッしちゃいますよォ?」

 

 ニーコはクスクスと笑う。陽達は不用意に手が出せなくなった。  

 

「ニーコ、何の真似だ‼︎」

「クスクス……此れは計画……。雄呂血の肉体を復活させて、現世へ破壊神へと降臨させる為ですわァ♡」

「雄呂血⁉︎」

 

 大神は耳を疑った。雄呂血とは最初のオルグにして、スサノオに倒されたオルグの名だ。

 目の前に居るヤマラージャが雄呂血だと言うのか?

 

「フフフ……まだ分からんか? 儂こそ、雄呂血‼︎ 全てのオルグ達の始祖なのだ‼︎ そして、ヤマラージャとは……」

 

 ヤマラージャ改め、雄呂血は自身の正体を明かした。そして、ニーコは自身の髪を時、髑髏の仮面を顔半分に付けて邪悪な笑みを浮かべた。

 

「その通り……私が本当のヤマラージャ……誠の名を鬼地獄の支配者である閻魔オルグ、イザナミだ‼︎」

 

 これ迄の甘ったるい口調を捨てて、ニーコ改めてイザナミは正体を明かした。

 まさかのどんでん返しに、誰もが絶句した。

 

「お前が……閻魔オルグ⁉︎」

「フフフ……正体を欺いたのは、計画を悟られぬ為の私の迫真の演技‼︎とは言え、苦労したぞ? テンマの様な小物や、四鬼士達を焚き付けて勢力とし、我が息子スサノオを雄呂血と融合させる為に二千年の時を待たせたのはな‼︎」

「ま、待て‼︎ 今、我が息子と……⁉︎」

 

 イザナミの発した言葉に、走は反応した。イザナミはニィィッと笑った。

 

「その通り! スサノオを始め、アマテラスとツクヨミは私の息子! しかし、小賢しいアマテラスによって、わたしは封じられてしまった……‼︎

 何を隠そう、世界にオルグの種をばら撒き……手始めに、雄呂血と言う存在を創り出したのは、この私だ‼︎

 人間共を手っ取り早く支配するには、オルグと言う存在を創り出す必要があった……だが、アマテラスは、その事に反対した‼︎

 挙句には、私を黄泉の世界に追放し、スサノオとツクヨミを連れて出て行った‼︎ 私は我が子に、裏切られたのだ‼︎」

 

 イザナミは憤怒の形相を浮かべる。

 

「……憎かったぞ……アマテラスが……。其処で、私は復讐してやる事にした‼︎ 手始めに、私は肉体を二つに分割する所から始めた‼︎

 ヤマラージャに黄泉の世界を鬼地獄へと作り替えさえ、ニーコとしての肉体を得た私は、雄呂血を嗾けた‼︎ 奴が動けば、必ずやアマテラスは動く‼︎ そう確信があったからな‼︎

 そして私の計略通り、アマテラスは動いた‼︎ 雄呂血が、スサノオに倒されるのも計算済みよ!

 私は、雄呂血が倒されると共に人間共に疑念を焚き付けてやった!

 

『雄呂血を倒した人間、即ち鬼をも凌ぐ人間では無いか?』

 

 とな……。

 

 そして、私の睨んだ通りに事は進んだ。アマテラスは、スサノオを追放して、後は残された人間共の欲を刺激してやった……。

 そうして、アマテラスは建設した邪馬台国は滅び去り、国へ帰郷したスサノオは帰る場所、最愛の姉を喪う悲劇に見舞われた!

 そして、絶望したスサノオは自害し……人間共への深い憎しみから、叛逆の狂犬ガオネメシスへと堕ちて行ったのだ‼︎」

「こ、この……外道め‼︎」

 

 あまりの暴虐無人ぶりに、陽は嫌悪感を露わにした。彼女の弁を辿るなら、これ迄のオルグの侵攻も地球への被害も、全てイザナミの個人的な復讐、更に悪く言えば八つ当たりによる延長でしか無かった事になるからだ。オルグの支配者となるべく暗躍したテンマ、その計画に賛同した四鬼士、挙句には我が子であるスサノオや雄呂血さえも彼女の身勝手極まりない復讐に、利用されただけだった。

 

「ホホホ‼︎ 私を外道だと⁉︎ それは、オルグにとっては最高の褒め言葉だ‼︎ そもそも、私がオルグ達に存在意義を与えてやったのだ‼︎」

 四鬼士も然り、テンマもまた然り‼︎ 本来なら朽ち果てるのみの奴等に、人を殺すと言う快楽を与えてやったのは私の裁量‼︎

 スサノオだって、そうだ! 人間に憎しみを抱き、全てを絶望した奴に人類を滅ぼすと言う明確な道を示してやった‼︎ 」

 

 

「本来なら私を計略は千年前に成されていた‼︎ 愚かな百鬼丸を焚き付け、地球を侵攻させ、その後に妾が地球全てを掌握する手筈だった‼︎

 しかし、千年前のガオの巫女ムラサキが要らぬ事をしてくれたお陰で、妾の計画は大きく変えなくてはならなくなった‼︎

 我が子スサノオを利用する計画だ‼︎ スサノオは死後、鬼地獄にて肉体を再構築する為に少なくとも、二千年以上は眠りに就く必要があった!

 その繋ぎとして、シュテン、ウラ、ラセツと言った当代のハイネス達を焚き付け、ツエツエにガオの巫女としての力を与えてやった‼︎

 その計画も失敗した。センキとして復活したのも束の間、パワーアニマル共の反撃を受けたからな‼︎

 だが、私には大した問題にはならなかった……一度、倒したセンキの邪悪な魂を鬼地獄に受け入れ、私の力は大きく増した‼︎

 そして……私は、ムラサキの封印を強引にこじ開け、現世にテンマとスサノオを送り込んだ! 私自身、ニーコとして、オルグ陣営に忍び込んで、裏で工作をした‼︎」

 

 意気揚々と話すイザナミに対し、陽は怒りの余り、拳を握り締めた。

 

「お前は……自分の子供を何だと思ってる⁉︎ 自分にとって都合の良い駒だと⁉︎」

 

 人間なら至極当然な台詞だ。人間だけでは無く、犬や猫、馬や牛等の動物でさえ、血を分けた子供は命懸けで守ろうとする。

 しかし、このイザナミは……スサノオを利用するだけ利用して、其処に一片の愛情も無い。

 だが、イザナミは悪びれる事なく、ニヤリと笑う。

 

「駒? 違うな……強いて言うなら……私の欲を満たす為の……

 

 “餌”だな」

 

「ふざけるなァァァァァァ!!!!!!!!!!」

 

 イザナミの言葉に陽は激励した。言うに事欠いて『餌』だなんて……そんな事、例え冗談でも許されない。陽の父も母も、祈の母も子供達を心から愛してくれた。親は子を慈しみ、子は親に焦がれる。それが普通であり、そうに違いないと陽は信じて来た。

 だが、悲しいかな……実子を躊躇いなく殺す親も居るのは事実……だが、それは本意からでは無い……どうしようもない苦悩と断腸の思いがあったからだ。しかし、この、イザナミは……。

 

「何を怒る? 例えば、人間だって、生まれてきた子を望まぬ命と見捨てて死なせたり、虐待の果てに殺したりするでは無いか?

 あの混血鬼の娘もそうだ……無理矢理、オルグの子を孕まされ、生みたくも無い子を産む羽目になった……そうして、望まぬ生を受けた…。

 それと同じだ!」

「馬鹿言え! それとこれとは話が別だ‼︎」

 

 飽くまで子供に対し冷酷に振る舞うイザナミと、その持論に対し真っ向から批判する陽。

 しかし、陽の言うそれは人間だからこそ通用する持論だ。既に、オルグのそれに身を堕としたイザナミには、人間らしい感情など皆無に等しいのだ。

 激昂する陽を走は肩に手をやり宥める。

 

「……もう良い、陽……アイツには何を言っても無駄だ……‼︎」

 

 諦めた様に走は呟く。娘の裏切りから狂ってしまったのか元から壊れていたのか……最早、それは、イザナミにさえ分からない。

 彼女は、スサノオをも利用し、人間世界を破滅し尽くさんとする災厄そのものと成り果てていたからだ。

 

「……さて……貴様達に、もう用は無い! 我が破壊の眷属達よ‼︎ 姿を現せ‼︎」

 

 イザナミは鎌を持たない左手を翳す。すると、スサノオの両サイドに巨大な鬼門が現れる。

 すると、中から二体の巨大オルグ魔人が現れた。

 

「グオアアァァァァ!!!!」

 

 右手のオルグ魔人は、テンマだった。しかし、先程の其れとは異なり、知性が感じられない。大きく見開かれた両目は紅く染まり、口からは涎がダラダラと流れ落ちていた。

 左手のオルグ魔人を見た走達は絶句した。

 

「せ、センキ‼︎」

「嘘だろ⁉︎」

 

 それは、かつて、ガオレンジャー達が苦闘の末に撃退したオルグの王、センキに酷似していた。だが、身体の色は以前とは違い腐食した様に、ドス黒く染まり、かつて見せた冷静な面持ちでは無く、荒々しい野性染みた様子だった。

 

「グガアァァァァァァ!!!!」

 

 テンマに続き、センキは高々に吠える。その様子は冷酷ながら、オルグの王に相応しかった二十年前とは異なり、理性の切れたケダモノのそれだった。

 

「フフフ! 私が、鬼地獄より蘇らせた破壊の鬼神達だ! さァ、|再生・テンマ! シン・センキよ‼︎ 地上へと赴き、人間社会を完膚なきまで破壊し尽くせ‼︎」

 

 イザナミの命令を受けた二体の鬼神達は再び鬼門へと消えて行った。それを見届けたイザナミは、祈を捕らえたまま浮かび上がる。

 

「兄さん‼︎」

「祈‼︎」

 

 陽は祈に手を伸ばすが、メツキの放った攻撃に阻まれる。その反動に陽は吹き飛ばされてしまう。

 

「陽君、大丈夫⁉︎」

 

 冴は転倒した陽に気遣う。イザナミ、メツキは鬼門へと入って行った。

 

「この娘の骸は、鬼地獄の底で未来永劫、横たわり続けるのだ‼︎ 助けたければ、鬼冥城へ来るが良い‼︎

 

 ハーッハハハハハハハハ………‼︎」

 

 イザナミの高笑いが響き渡り、そして姿を消した。事態は最悪……単純だが、敵の方が上手だった。

 陽は膝を突いて、絶望感に苛まれた。

 

「陽……悔しいが、嘆いていても仕方が無い……。こうなれば、俺達に出来る事をするしか無い……!」

 

 大神は陽を慰める。しかし、彼の言う通りだ。イザナミの言葉が真実なら、地上は今、テンマとセンキにより大変な事となっている筈だ。

 

「行こう! 先ずは、テンマ達を……‼︎」

「……ああ……行かなきゃ……! 鬼地獄へ‼︎」

 

 陽は我に帰り、立ち上がる。そして呟いた言葉に、全員が耳を疑った。

 

「陽……今なんて言った?」

「鬼地獄へ行くんだ! 祈を助ける為‼︎」

 

 とんでもない事を言い出した彼に、走は驚愕する。

 

「お前さん、正気か⁉︎ 鬼地獄に行く、なんて……彼処は人間が、望んで行く様な場所じゃ無いぞ! 死にに行く様なもんじゃ‼︎」

 

 かつて、ヤマラージャを封印する為、鬼地獄に堕ちた佐熊は叱責する。現に彼は、其処に千年以上も封じ込められていたのだから……。

 

「危険な事は承知してる‼︎ でも、イザナミを倒さなくちゃ、また何度も攻め込んで来る‼︎ どちらにせよ、決着を付ける為には行かなくちゃ‼︎」

「いい加減にしろ‼︎ 仮に鬼地獄に行って、イザナミを倒したとしても、その後、どうする気だ⁉︎ 一体全体、どうやって、鬼地獄から脱出する⁉︎」

「……覚悟は出来てる……‼︎」

 

 佐熊の言葉を聞き入れない陽に、走は無言のまま、陽の胸ぐらを掴む。

 

「覚悟は出来てる? 何を分かった風な口を……死ぬと分かってて行くなんて……そう言うのを勇敢とは言わないぞ! お前が死んで悲しむ人間だって居る事が分からないのか⁉︎」

「死ぬ覚悟が無いなら……僕は、ガオレンジャーにはならなかった‼︎ 貴方達だって、覚悟を決めたから、戦い抜いたんでしょう⁉︎」

 

 走に対して、凄まじい怒号で返す陽。流石の走も、それには返す言葉が出ない。

 

「祈を助けられ無いまま生き続けるなら……僕は、そんな人生は生きたくない‼︎

 例え百人救う為に、一人を犠牲にする事が必要なら……僕は一人を救って百人を救う方を取る!」

「あのなァ……!」

 

 陽の言葉に、岳は呆れる。

 

「妹を助けたい、けど地球も救いたい、そしてオルグも倒したいって⁉︎ そりゃ全部を叶えれたら、一番良いに決まってるけどな‼︎」

「二兎追う者は一兎も得ず……欲張ったら、全部を駄目にしちゃうわ……‼︎」

 

 岳に続いて、冴も苦言しながら諭す。しかし、陽は譲らない。

 

「欲張ったら悪い⁉︎ 一人でも多く助けたい、と考える事が、そんなに悪い事⁉︎

 一人を見捨てて、それで手に入れた平和なんか、本当の平和じゃ無いし、きっと長く続かない‼︎ だったら僕は……皆全員を助ける‼︎」

 

 其れが陽の信念だった。かつて、スサノオは自分を犠牲にして、全てを失った。だから、陽は誰も失いたく無かった。

 そんな彼の意志の強さに、とうとう他のガオレンジャー達も根負けした。

 

「……負けたよ……其処まで言うなら、行けよ……」

「走⁉︎」

「ただし‼︎」

 

 ポツリと呟いた走に、海は仰天しながら叫ぶ。だが、走の言葉は続いた。

 

「俺も一緒に行くぜ‼︎ 其れが条件だ‼︎」

「…どう言う事ですか?」

「一人で行かせる訳無いだろう? それに、ガオレンジャーのリーダーは俺だぜ?」

 

 走はニカっと笑う。彼は動物を愛して命を尊ぶ獣医だ。だからこそ、仲間である陽を見殺しにはしない。

 

「だったら、俺も行くぞ。お前等だけじゃ、不安だ」

 

 岳も、ぶっきらぼうながらも言った。

 

「俺を置いていく、なんて言うなよ? 俺だって、まだまだ暴れ足りないんだ!」

 

 海も続いた。

 

「俺も共に行くぞ! 最後まで戦い抜くつもりだ!」

 

 草太郎も力強く応えた。

 

「祈ちゃんを助けたいのは、私だって同じ……私も行くわ!」

 

 冴も、仲間達と共に行く旨を述べた。

 

「だったら、地上に行ったテンマ達は……‼︎」

「其れは、俺達に任せてくれ! 皆が帰還する迄、必ず食い止める!」

 

 大神と佐熊が、テンマとセンキの足止めを引き受けてくれた。

 

「美羽、お前は大神達と行動しろ」

 

 岳は美羽に告げた。叔父としては、姪である彼女に危険な目に遭わせたくは無いからだ。しかし、美羽は首を振る。

 

「おじさん、私も行くよ! 陽や皆と最後まで戦い抜きたい‼︎」

 

 自分の意思を告げる美羽。既に彼女も、一人の戦士だった。此処まで来たからには、最後まで頑張りたい……そう言う意思があった。

 岳も彼女の意志の固さに根負けし、溜め息を吐きながら……

 

「分かった……その代わり、足手纏いにはなるなよ?」

 

 叔父の発した言葉に、美羽はコクンと頷く。だが、此処へ来て新しい問題がある。どうやって鬼地獄へ行けば良いのか?

 其処へ、テトムの声がG -フォンから聞こえてくる。

 

 〜皆、話は聞いてるわ‼︎ 貴方達を鬼地獄へ送る方法を、荒神様が教えてくれたの‼︎〜

 

「テトム! ガオゴッドが教えたって⁉︎」

 

 走は、懐かしい彼女の声に喜びながら尋ねた。

 

 〜ツクヨミ様が、最後の力で鬼地獄と現世を続く通路を開いてくれたの! 其処を使えば、鬼地獄に行けるわ‼︎〜

 

「ガオマスターが……」

 

 陽は胸が熱くなる。命を投げ打った彼の行動が、最後まで力となってくれるなんて……。

 

 〜でも……一度、通路が閉じてしまうと、貴方達は二度と帰って来れなくなるわよ……其れに鬼地獄に行ったら、私も力を貸せなくなっちゃう……〜

 

「大丈夫‼︎ 必ず帰るよ、祈を連れて‼︎」

 

 陽は強く断言した。必ず、生きて帰る……そう決めた。そんな彼の意思を汲んだ様に、ガオパラディンとガオライオンが姿を現した。

 

 〜行くぞ、陽‼︎ 全てに決着を付けに行くぞ‼︎〜

 

 苦楽を共にした相棒の言葉に、陽は頷く。その時、ガオライオンが大きく吠えた。

 

「そうか……分かった、ガオライオン‼︎」

 

 走とガオライオンは何かを通じ合った様だ。その瞬間、ガオライオンの身体にガオソウルが迸り始める。

 すると、見る見る間にガオライオンの身体は巨大化し始めた。

 

「な⁉︎ これは…‼︎」

「ガオライオンが、ツクヨミの力を吸収しているんだ‼︎」

 

 走が説明した。すると、ガオパラディンと同格の体躯と化したガオライオン。其処へ、下半身が背面へと迫り上がったガオパラディンが、ガオライオンの背中と合体する。

 更に分解したガオユニコーン、ガオグリフィンに代わり、右腕にガオシャーク、左腕にガオタイガーが百獣武装した。

 其処へ、象のパワーアニマル、ガオエレファントが分解、両腕に武装されると……。

 最強にして究極の精霊王、聖なる獣騎士ガオケンタウロス・ホーリーナイトが誕生した。

 

「す、凄い…‼︎」

 

 陽は凄まじい姿となったガオケンタウロスに感嘆する。その姿は神々しい、その一言に尽きる。

 

 〜さァ、乗るが良い! 鬼地獄へと乗り込むぞ〜

 

「ああ、分かった‼︎ 皆、行こう‼︎」

 

「ああ‼︎」

 

 陽達は、飛来したソウルバードに搭乗して、ガオケンタウロスへと吸収された。すると、下半身のガオライオンが吠える。

 そうして、背面のガオフェニックスの翼が羽ばたいて、天へと舞い上がる。すると頭上へて現れた時空の歪みへと飛び込み、消えて行った……。

 

「よし‼︎ 俺達も行くか‼︎」

「うむ‼︎ おや?」

 

 佐熊は天を見た。幾つかの宝珠が、自分達の前に落ちてきたのだ。大神は宝珠を拾い上げると、中にはガオゴリラ、ガオジュラフ、ガオディアス、ガオライノス、ガオベアー、ガオポーラーと行ったパワーアニマル達の力が込められていた。

 

「パワーアニマル達が……俺達に力を貸してくれているんだ…‼︎」

「どうやら、ワシ等も全力で戦わなければならない様じゃのォ‼︎」

 

 大神、佐熊は互いに宝珠を握り締めて強く頷く。そうして、近づいてきたガオズロックの存在に気付き、走って行った……。

 

 

 〜鬼地獄へ最後の戦いに挑む為、地上へ放たれた破壊鬼神達を食い止める為に二手に分かれたガオレンジャー達‼︎

 次回にて、遂に本当の最終決戦が幕を開けるのです‼︎〜



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quest61 百獣戦隊、吼えろ!

※最後の戦いです。掲載に遅れたのは、コロナ禍による激務とストレスで寝込み執筆出来ませんでした。
最終回は次話になりますが、戦いは今回で終わりです‼︎
それでは、ガオレンジャー最後の戦いをどうぞ‼︎


 地上に送り込まれた破壊鬼神オルグ達は、その名に恥じない暴れぶりだった。既に知性も自我も消え失せ、力の限り暴れ回る姿は、正に破壊神に相応しい。

 再生・テンマは両掌の眼球から光線を放ち、シン・センキは口から高密度な邪気の熱戦を放って破壊活動を続けた。

 それで無くても、先程からのオルグによる破壊活動にて、壊滅状態に陥っているのに最早、目も当てられ無い始末だ。

 

「うわァァァ‼︎」

「きゃあァァァ‼︎」

「助けてェェェッ‼︎」

 

 人々は、二体のオルグ魔人の攻撃から逃げ延びる。しかし、知性無く暴れ回る彼等には一切、慈悲は無い。

 逃げ惑う人を追い回し、非情に踏み潰す。其処へ、ガオズロックが飛来した。

 

「な、何という破壊力だ……‼︎」

 

 大神は二体の破壊神オルグの姿に、背筋が凍った。センキに至っては、二十年前に現れた者とは比べ物にならない程に力が増している。

 

「此れを、ワシ等だけで食い止めるんか……責任重大じゃ‼︎」

「二人共……気を付けて‼︎」

 

 テトムは二人の背中に語り掛けた。大神、佐熊は振り返り……

 

「ああ……行ってくる!」

 

 大神は、千年前の大切な人の面影を持つ彼女に笑い掛けた、

 

「テトム! この戦いが終わったら……卵焼きを腹がはち切れる程、食うぞ‼︎」

 

 佐熊らしい言葉に、テトムはクスリと笑う。

 

「いいわよ! 沢山、食べさせてあげる‼︎」

 

 それだけ言うと、二人はG−ブレスフォンを起動させた。

 

 

「ガオアクセス‼︎」

 

 

 ガオシルバー、ガオグレーに変身した二人は出口から下へと飛び降りた。その最中、宝珠を打ち上げる…!

 

 

 我が物顔で闊歩するオルグ魔人達の前に降り立つ二体の闘神……俊敏の精霊王ガオハンターと、剛力の精霊王ガオビルダー……それぞれ、テンマとセンキを相手に立ち塞がる。

 しかし、敵と見定めたオルグ魔人達は破壊活動を止めて、精霊王達に攻撃を仕掛けた。

 テンマの両掌から放たれる破壊光線が、ガオハンターを狙い撃つ。しかし、伊達に修羅場を乗り越えていない。すかさず躱して、テンマの背後からリゲーターブレードで斬りつけた。

 ガオビルダーも、センキの懐へと飛び込み渾身の一撃を浴びせた。だが、腐ってもオルグの王を名乗るだけあり、なまじ攻撃では、びくともしない。

 返し様にセンキは、強烈な一撃をガオビルダーに与えた。大きくグラつくガオビルダーに、センキは次々に攻撃を与えた。

 

「く……‼︎ 凄まじい猛襲じゃ……‼︎」

 

 火花が迸るコクピット内で、グレーは呻く。かつて戦った全てのオルグの中にも、此処までの力を持つ者は居なかった。

 追い詰められているのは、ガオハンターも一緒だ。最初の奇襲より後の攻撃は全て防がれている。

 

 〜グレー‼︎ 大丈夫か⁉︎〜

 

 シルバーの言葉が、ヘルメットに響く。余裕の無い彼の声から、かなり追い詰められているのは分かる。

 しかし、退く訳には行かない。ガオビルダー、ガオハンターは、それぞれの得物にガオソウルを装填した。

 

「悪鬼突貫! リボルバーファントム‼︎」

「殴打粉砕! ストロングブレイク‼︎」

 

 放たれた攻撃が、テンマとセンキを直撃した。しかし、直撃した筈なのに、二体は怯む様子を見せない。

 それどころか、傷を負った箇所が忽ち、再生し始めた。

 

「な⁉︎ 効いていない⁉︎」

「此奴等、不死身か⁉︎」

 

 その様子に、シルバーは察した。これは二十年前と同じだ。恐らく、彼等はヘル・ハイネス・デュークの持つ不死身の肉体を有するのだろう。そして、その再生能力も並ではない。つまり、幾ら攻撃しても、ほぼ無意味に等しいのだ。

 テンマ、センキは呆然する二体の精霊王に対し、それぞれの口内より高密度の邪気光線を放った。

 それを直撃したガオハンターの右腕、ガオビルダーの左腕は吹き飛ばされてしまった。

 そして、そのまま倒れ伏し大爆発を起こした。もうもうと舞い上がる爆炎を前に、破壊鬼神は勝ち誇る様に咆哮を上げる。

 だが、その間隙を縫うかの様に出現する巨体があった……。

 

 

「ガオマッスル・ストライカー‼︎」

 

 

 相対するのは力溢れる『筋肉の戦士』。シルバーとグレーの思いに応え、百獣合体した精霊王一の偉丈夫。

 右腕にはガオベアー、左腕にガオポーラー、下半身はガオライノスとガオマジロを据えて、戦闘態勢へと入る。

 技では、ガオハンターやガオビルダーには劣るが、力では文句無しの大戦力である。

 テンマは光線をガオマッスルに浴びせるが両腕を目の前に構え、ボクシングの構えに似た状態にて光線を無効化した。

 

「凄い……‼︎ 防御力も上がっている‼︎」

 

 シルバーは、ガオマッスルの強さを知っているが、直接に搭乗した事はない。ガオレンジャーの中で実力者である、シルバーとグレーが搭乗している事もあってか、その戦闘力は格段に向上しているのだ。

 其処に、センキが横から襲い掛かって来た。だが、ガオマッスルは、その腕を掴んで一本背負いで投げ飛ばす。 

 その状態で眼前に迫ったテンマに四連装砲マッスルクラッカーで砲撃した。ガオマッスルは、力強くポージングを決めた……。

 

 

 

 その頃、ガオケンタウロス・ホーリーナイトは異空間を航行していた。辺りは異様な風景で、正に混沌の世界だ。

 勢いよく正面から奔流の様に走ってくる空間の渦……まるで氾濫した川の様だった。

 恐らく、これが『賽の河原』なのだろう。この外に弾き出されたら最後、自力では抜け出せないだろう。

 コクピット内にいるゴールド達でさえ、その反動に耐えるのに精一杯である。

 

「み、皆! しっかり捕まってろよ‼︎」

 

 レッドが仲間達に叫ぶ。辛うじて台座にしがみ付きながら、立っている様子だ。だが、仲間達もギリギリの状態で耐えている様子だ。

 ガオライオンも苦しげに呻いて居る。やはり、パワーアニマル達にも反動はキツいのだろう。

 それは、ガオドラゴンも同様である。レジェンド・パワーアニマルとは言え、身体が引き千切られそうになりながらも、仲間達を鬼地獄へと送り届ける、と言う使命を果たさんとしていた、

 

「お、鬼地獄は、まだか⁉︎」

 

 イエローは叫ぶ。さっきから、どのくらいの時間経ったかも分からない。此処では一分も一時間も一年も関係ない、時間の流れさえも不確かな世界だ。

 ゴールドは、ゾッとした。仮に鬼地獄へ辿り着き、イザナミを倒して祈を連れ帰ったとしても……地上に、自分達の居場所が残っている確証は無いのだ。ひょっとしたら、その時に世界はオルグに滅ぼし尽くされ、人類は滅亡して居るかもしれない……。

 猛、昇、舞花、テトム、佐熊、大神……自分達の大切な人達は誰一人、居なくなっているかもしれない……。

 竜宮城で三百年の時が止まった三日間を過ごし、帰ったら家族も故郷も風化し、自身も玉手箱に閉じ込められた三百年分の時間に当てられた末、老人と化した浦島太郎と同じ様になっているかもしれない……。

 不安気に佇むゴールドを、ホワイトは揺さぶる。

 

「大丈夫、ゴールド⁉︎ しっかりして‼︎」

 

 彼女の呼ぶ声に、ゴールドは我に返った。そうだ……考えている暇など無い……今は、目の前にある問題を解決する事が先決だった……。

 

「……大丈夫だよ、姉さん……! 行こう……‼︎」

 

 ゴールドは本当に心強かった。これ迄、戦いは大神と佐熊が美羽が居た。しかし、三人が不在の時は孤軍奮闘を強いられる事もあった。

 だが、今の自分には歴戦のガオレンジャー達が居る……そんな、彼の手をプラチナが握る。

 

「……頑張ろうね……‼︎」

 

 プラチナの言葉を受け、ゴールドは迷いを吹き飛ばした。そして、遂にガオケンタウロスは長い異次元を抜け出した……‼︎

 

 

 異次元を抜けた先にある鬼地獄……大地には草木一本、生えていない不毛の地平が広がっていた。

 その中央に瓦礫が寄せ集まった様に立つ牙城があった……。これこそ、鬼冥城……ヘル・オルグ達の総本拠にして、鬼地獄の要とされる悪の要塞である……。

 その天辺に、漆黒の巫女服に似た衣装に身を包んだイザナミが立っていた。肩から漆黒のマントを羽織り、頭部にはオルグの角と並び、悍ましい顔を模した冠を付けている。手には鎌と融合した杖を持っている。

 彼女の傍には、水晶に閉じ込められた祈が眠っている。イザナミは、北叟笑んだ。

 

「時は来た……この私の長きに渡る復讐は、これにて完遂する……そして……この世界は私と、あの人の理想郷へと生まれ変わり……オルグに埋め尽くされた世界にて未来永劫、過ごし続けるのだ……。

 待たせて済まない……でも、間も無くだ……やっと会えるのよ……イザナギ……」

 

 そう呟くイザナミの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた……。

 

 其処へ空間を切り裂き、姿を現すガオケンタウロス。鬼地獄の禍々しい空気に意を介さず、大地へと舞い降りた。

 

「此処が……鬼地獄……! 正に地獄だな……‼︎」

 

 ゴールドは目の前に広がる風景に戦慄する。確かに荒れ果てた大地、淀んだ空気、此れは地獄と呼ぶに打って付けである。

 

「此れが……世界の縮図だ……‼︎ オルグの侵攻を食い止めなければ、地球の大地も、海も腐ってしまう……。そうなったら、俺達の住む地上も…‼︎」

「こうなってしまうってのか⁉︎」

 

 淡々と語るイエローに、ブルーは聞いた。レッド、ブラック、ホワイトも言葉が出ない様子だ……プラチナに至っては、目を背けている……。

 

「そんな事、させて堪るか!」

 

 ゴールドが叫ぶ。自分達の暮らす世界が、こんな事にされては堪らないからだ。防ぐには、イザナミを、そしてメツキを滅ぼすしか無い……。

 等と考えているて、目の前に聳える巨大な山に気付くプラチナ。

 

「あの山は?」

「違う、山じゃ無い……あれは……樹だ…‼︎」

 

 ブラックは、巨大な影に目を凝らす。其れは天に届かんばかりに佇む巨樹だ。その樹は禍々しい雰囲気に、全身から邪気を放っている。

 

「オルグドラシルだ……‼︎」

 

 ゴールドは一度、本物を見た事がある。邪気を放ち、大地を汚し命を吸い尽くす邪霊樹オルグドラシル……それは、鬼地獄の濃密な邪気を糧に無限大に成長すると言う……。

 かつて見たものより更に巨大で、それは鬼地獄中に根を張り巡らせて、まだまだ成長する可能性を残している。

 と、その時、声が響き渡る。

 

 

 〜まんまとやって来たか、愚かな人間共め…‼︎〜

 

 

 その声は、イザナミの声だ。すると、イザナミは目の前に現れた。

 

「イザナミ‼︎」

「貴様等は自ら墓穴へと足を踏み入れたのだ‼︎ 見よ‼︎」

 

 イザナミが杖を振るう。すると、オルグドラシルが動き出した。

 

「な、あれは⁉︎」

 

 ゴールドは目を見張る。なんと、オルグドラシルの根が足の様に持ち上がり方々に伸びる枝が絡み合い腕となる。

 やがて木の表面が畝ると、メツキが浮かび上がった。

 

「これは……オルグ⁉︎」

「そうだ……破壊神となったメツキを依代に、鬼地獄の全てのオルグの魂を吸収したオルグドラシルと一体化させたのだ‼︎」

「全て……だって…⁉︎」

「ゴールド、あれを見て‼︎」

 

 プラチナは、オルグドラシルの幹を指差す。すると確かに、幹の表面には夥しい数のオルグが浮かび上がっていた。

 よく見れば、其処には見知った顔がある。

 

「あれは……ツエツエとヤバイバ⁉︎」

「あっちには……ゴーゴとヒヤータも‼︎」

「下には……ヤミヤミとメランも⁉︎」

 

 レッド、ゴールド、プラチナは、かつて激戦を繰り広げたデュークオルグ達が、オルグドラシルに取り込まれてしまっている事に気付く。

 イザナミは狂笑を上げた。

 

「敗北したオルグ達の魂は全て、この破壊神メツキの一部としたのだ‼︎ 此奴等は未来永劫、破壊神の肉体を構成する為の柱となり続けるのだよ‼︎ 本来ならば朽ちていくのみの、此奴等に破壊神の肉体と言う最も名誉な役目を与えてやったのだから、本望だろう‼︎」

「ま、まさか……四鬼士達を僕達に嗾けたのは……‼︎」

 

 ゴールドは、イザナミを睨みながら聞いた。彼女ば邪悪な笑みを浮かべる。

 

「そう、そのまさかだ‼︎ お前達に、四鬼士を倒してくれたお陰で、破壊神は最強の姿へと変じた‼︎ おまけに鬼灯隊、恐竜オルグ、ツエツエやヤバイバと言う力のあるオルグ達も利用させて貰ったよ‼︎

 ご苦労だったな、ガオゴールド‼︎ お前の行動は人類を救う為では無く、寧ろ人類を滅ぼす為の布石だったのだ‼︎」

 

 イザナミは勝ち誇りながら言い放つ。ゴールドは怒りの余り、はらわたが煮え繰り返りそうになった。

 どうして、此処まで命を無碍に出来る? どうして、心を踏み躙る事が出来る?

 

「イザナミ……何が、お前をそうさせる‼︎ お前を其処まで歪ませたのは……一体、何なんだ⁉︎」

 

 ゴールドは人間として理解できなかった……かつて、同じ人間だった彼女が、こうも容易く世界を滅ぼし、人を苦しめ……挙句には、同族のオルグさえも利用した末に、木の実を捥ぎ取る様な手軽さで潰してしまう……。だが、イザナミは顔色一つ変えずに、淡々とした様子で……

 

「ガオゴールド……お前は何故、生き物が自らの腹を満たす為に他の生き物を殺すのか、と問われて……応える事が出来るか?

 そんな物、理由などあるか! 目の前に可能性があったから、利用した‼︎

 貴様とて、そうだろう? 鼻先に、ガオの戦士の力を突き付けられたから、その力を使った‼︎

 人間もオルグも、大差無い‼︎ 内に抱えた欲望は限りない物だ‼︎ だから、私は……その欲を叶える為に、人を捨てた‼︎」

「ふざけるな! お前と一緒にするな‼︎」

 

 ゴールドは激昂した。自分達の戦いを、ただのエゴでしか無かった、と言われたからだ。しかし、イザナミの嘲笑は止まない。

 

「しかし……知りたいなら教えてやろう‼︎ 私はな……取り戻すのだ‼︎ 私から全てを奪った神からな‼︎」

 

 そう叫んだイザナミの顔は、何処か憂いを帯びている様子だった……。

 

 

 

 その頃、ガオズロック内で、テトムは戦いを見守っていた。ガオマッスルは果敢に、二体の破壊鬼神に立ち向かっていく。

 しかし、やはり、元が強力なパワーを誇るハイネスだけあり、二体の破壊鬼神の戦闘力は桁外れだった。

 最初こそ、互角に渡り合っていたと思いきや、再び劣勢を強いられてしまっていた。

 テトムは、ただ祈る事しか出来ない。しかし、歯痒かった。目の前で仲間達が倒されそうになる仲間を見続けるのは。

 

「や、ヤベェんじゃ無いか⁉︎ やられちまうぞ‼︎」

 

 猛も横から騒ぎ出す。ガオマッスルが散々、痛めつけられる姿を見せられるのは不安でしか無いからだ。

 昇と舞花と千鶴も同様だ。

 

「何か、この乗り物には武装手段は無いのか⁉︎」

「無いわ……今、出来る事は貴方達の安全を確保する事だけ……‼︎」

 

 テトムは力無く言った。

 

「でも、みすみす目の前で……‼︎」

 

 舞花は悔しげに呻く。その際、千鶴は何か光が近づいて来るのに気付いた。

 

「あれは⁉︎」

 

 千鶴の声で全員、顔を上げた。すると目の前に光は降り立ち、その光は形を成した。

 

「あ、貴方は⁉︎」

 

 テトムは驚いた。それは、巫女の衣装を身に纏った祈そのものだったからだ。少し彼女より成長している様子だったが、容姿は祈そっくりである。

 

「祈……なの⁉︎」

 

 付き合いの長い舞花が聞いた。しかし、テトムはハッとした様子で彼女を見た。

 

「アマテラス様……ですね?」

 

 テトムは確信が行った。彼女こそ、祈の前世であり、ガオの巫女の始祖にあたる存在なのだ。

 アマテラスは頷く。

 

 〜今代の、ガオの巫女テトム……貴方には、伝えなければならない事があります。私の母イザナミについてを……〜

 

 アマテラスは語り始めた。だが、今度は猛が怒り始めた。

 

「そういやよ……スサノオやイザナミって奴は、アンタの身内なんだってな⁉︎ なんで、アイツらがこんな事をしでかす前に止めなかったんだよ⁉︎」

「止せ,猛‼︎」

 

 猛の暴言を昇が嗜めた。しかし、アマテラスは俯く。

 

 〜貴方がたの怒りは至極当然です……。そもそもの始まりは……私が母の悲しみを理解出来なかった事から始まったのですから……〜

 

「イザナミの……悲しみ?」

 

 テトムの質問に、アマテラスは悲しげに頷いた。

 

 〜母は優しい人でした……。私達が幼い頃は心から命を重んじ、私達に優しさと思いやりを注いでくれました……。

 しかし……あの時から、母は変わってしまった……。最愛の夫にして、私達の父イザナギを亡くした、あの時から……」

「イザナギ?」

 

 アマテラスは悲しげに続けた。

 

「イザナギは、母イザナミが心から愛した人でした……。あの頃は家族五人で幸せでした……。

 けれど、父は不注意で荒れ狂う川へ飲み込まれて死んでしまった……それからと言うもの、母は死を恐れる様になり……永遠の命を得る事に拘り始めたのです……」

 

 そう言いつつ、アマテラスの頬を涙が伝う。

 

「イザナミは、その過程で人の心から発せられ邪気を見つけ、其処からオルグを生み出す方法を発見しました……。

 そうしてる間に、オルグの力に魅せられた彼女は、この地上をオルグに埋め尽くそうとしたのです……。既に正気を失っていたのでしょう……」

「そんか事が……‼︎」

 

 テトムは絶句した。ガオネメシス、テンマ、鬼還りの儀……これら全ては、夫を失ったイザナミの暴走による事だったとは……。

 

 〜母は、もう人の心を無くし、誰にも救う事は出来ません……。母を救済する方法は最早一つだけ……荒れ狂う魂を鎮める事に他なりません……〜

 

「魂を……鎮める……? それは……?」

 

 〜私達、ガオの一族に代々、伝わる秘術……。私が母の為に後世へと託した……”鎮魂の聖歌”を歌うのです…!〜

 

 アマテラスの言葉に、テトムは首を傾げた。

 

「鎮魂の聖歌? 私、そんな歌、知りません…」

 

 ムラサキから、ガオの巫女としての様々な術を教わったが、その様な名前の歌は教わらなかった筈だ。

 だが、アマテラスは優しく微笑む。

 

「ありますよ……貴方は知っている筈です……。あの歌は、巫女の力を引き継ぐ者の魂に深く根付くのです……」

「! まさか……⁉︎」

 

 彼女の言葉に、テトムは何かに気付いた様子だった…。

 

 

 地上では、ガオマッスルが二体の破壊鬼神の前に膝を突いていた。健闘はしたものも、やはり強大な力を持つ破壊鬼神の前には、ガオマッスル一体では歯が立たなかった。

 コクピット内では、シルバーとグレーが疲弊し切った様子だった。

 

「……クソッ……‼︎ 最早、此処までか……‼︎」

 

 力の限り戦ったが結局、この体たらくである。シルバーは悔しげに唸った。もう、ガオマッスルにも反抗する力は残されていない。

 

「……むざむざ、やられるくらいなら……最後は戦士らしく……‼︎」

「なに、寝惚けた事を言っとるんじゃ……‼︎ しっかりせィ、シロガネ……‼︎」

 

 横にいるグレーが叱咤してきた。

 

「負ける前から死を飾り立てるくらいなら……最後まで無様に抗ってでも生き抜いてやる……‼︎ それくらいの気概を見せんか……‼︎」

 

 グレーの言葉は、弱気になり掛けていたシルバーの心を奮い立たせた。

 

「そうだな……! 此処で挫けたら……何の為に黄泉から生き返ったのか……分からなくなる……‼︎」

「そうじゃ……‼︎ 無事に生き抜いて……テトムの卵焼きを食わなくちゃのォ……‼︎」

 

 銀色の狼と灰色の熊が、戦いに向けて再び投資を燃やす。すると、目の前にセンキとテンマが迫ってきた。

 と、其処へ一筋の光がガオマッスルの身体に入り込んだ。

 

「な⁉︎ 此れは⁉︎」

 

 シルバーが急な事態に慌てふためく。其処に、別の声が響いた。

 

 

 〜私の最後の力を、君達に託す……‼︎ この力で、地球を……‼︎〜

 

 

 其れは、ガオマスターの声だった。途端に、二人のガオソウルが回復していくのが分かった。

 と、同じくして、ガオマッスルの身体にも異変が有った。

 

「見ろ‼︎ ガオマッスルが‼︎」

 

 グレーに促され、ガオマッスルを見た。メタリックグリーンのボディは炎の様なメタリックレッドへと変化、頭部に騎士の鉄仮面を思わせる兜を身に付けていた。

 右腕にはガオメガロドン、左腕にはガオスミロドンが装着して、その上からガオマンモスが分離したノウズクレイモアとタスクシールドが武装された。何れとも、ガオマスターに力を貸していたパワーアニマルだ。

 

「此れは……ガオコング⁉︎」

 

 シルバーは驚愕した。かつての戦いにて、異世界に飛ばされた際に力を貸した赤いゴリラのパワーアニマル、ガオコング。

 その彼を中心に誕生するのが『炎の精霊騎士』ガオナイトである。更にガオスミロドン、ガオメガロドン、ガオマンモスが合体し、下半身がガオトードとで構成された強化形態スーパーガオナイトとパワーアップしていた。

 

「凄い…‼︎ 力が、桁違いに跳ね上がっているぞ‼︎」

「これなら、勝てるかもしれん‼︎」

 

 シルバーとグレーは、台座に力を込める。すると、スーパーガオナイトは動き出した。

 センキ、テンマは二人同時に襲い掛かって来たが、其処へガオナイトはノウズクレイモアを伸ばして一閃した。

 返し様に、テンマは光線を放ったが、タスクシールドを展開されて、見事に弾き返されてしまった。

 先程まで、手も足も出なかった強敵に対し、ガオナイトは圧倒的な強さを誇る。

 これこそ、ツクヨミが残した最後の力…自身の魂を擦り減らして迄、後世に託した希望だった。

 ダメージを受けた二体の破壊鬼神は流石にダメージを負った。今なら、倒せる……そう確信したシルバーは…

 

「よし! 一気に落とすぞ‼︎」

「任せィ‼︎」

 

 再び、二人の戦士のガオソウルが装填されていく。ノウズクレイモアは光を帯び、天まで伸びた。

 

 

「森羅万象! ビッグバンファイナル‼︎」

 

 

 放たれるは、地球の生命を受けた大いなる斬撃……幾多に渡り、テンマとセンキを斬り結んだ。

 既にズタボロになっているが、不死身のヘル・ハイネス故に簡単には死なない。いや、死ぬ事は出来ないのだ。未だに立ち上がって来る。

 と、其処に後方から二つの攻撃が破壊鬼神を襲った。

 

「あれは……ガオハンター⁉︎」

「ガオビルダーもじゃ⁉︎」

 

 倒された筈の精霊王達が、ガオナイトの力を受けて復活したのだ。しかも、ガオハンターは右腕にガオジュラフの変化したジュラフスピアーを、ガオビルダーは左腕にガオディアスの変化下ディアスシザーズと下半身をガオライノスを百獣武装している。

 ガオハンターが、ジュラフシザーズを用いてテンマを刺し貫き、ガオビルダーがディアスシザーズでセンキを挟み拘束した。

 

 

「もう一度、行くぞ‼︎

 

 森羅万象! ビッグバンファイナル・ネクスト‼︎」

 

 

 再度に放たれた斬撃が、破壊鬼神達を今度こそ滅多斬りにした。これを受け、遂に二体の破壊鬼神は大爆発してしまった。

 

「やったぞ‼︎」

「よっしゃァァ‼︎」

 

 シルバーとグレーは勝利の勝鬨を上げる。其れに合わせ、三体の精霊王は咆哮を上げた……。

 

 

 

 鬼地獄では、テンマとセンキの敗北を知ったイザナミが驚愕していた。彼等の敗北は計算外だったからだ。

 しかし彼女は特に、それ以上は気にしなかった。死んだなら、また蘇らせるのみだからだ。其れより、今は目の前に居るガオレンジャー達を倒す方が先決である。

 

「どうやら、彼奴等は負けたか……死して尚、役に立たぬとはな……」

 

 半ば呆れた様に吐き棄てるイザナミ。彼女からすれば、テンマにもセンキにも、さして期待はしていなかった。自身が完全に力をつける迄の時間稼ぎとなれば、しめたものだと思う程度である。

 イザナミは動き出さずに居るメツキを見上げ、ニヤリと笑う。

 

「私には、此奴が居れば良い……さァ! 目を覚ませ、メツキよ‼︎」

 

 そう叫んで、イザナミはメツキの頭部へと降り立つ。すると先程まで、微動だにしなかったメツキは動き出した。

 

「動き出すぞ‼︎」

 

 レッドが叫ぶ。そうしている間に、メツキは悠然と立ち上がった。その巨躯はガオケンタウロスを遥かに上回る。

 ゴールドは意を決し、皆に叫ぶ。

 

「行こう、皆‼︎ 例え、何千何万のオルグが攻めて来たって、僕達なら負ける気がしない‼︎ 何故なら、僕達は信じ会う絆がある‼︎」

「ああ、そうだな‼︎ 信じ合う絆が……俺達の力になる‼︎」

 

 ゴールド、レッドは互いに叫ぶ。其れに呼応し、ガオケンタウロスは飛び上がった。メツキは木の根を操って、ガオケンタウロスに攻撃を仕掛ける。其れを、エレファントソードで斬り捨てながら、メツキに近づいて行く。本体を操るイザナミを倒せば、メツキも倒れる筈だった。

 しかし、イザナミはニヤリと笑う。

 

「甘いわ‼︎ メツキ、穿て‼︎」

 

 イザナミが命令した。すると、メツキの口内光り次の瞬間、ドス黒い光線が発射された。

 

「防いで、ガオケンタウロス‼︎ エレファントシールド‼︎」

 

 ホワイトが叫び、エレファントシールドを展開させた。しかし、その光線はシールドを持ってしても、完全には防ぎ切れなかった。

 余波ダメージが、コクピット内にまで及ぶ。

 

「ぐあァァ⁉︎ 凄い攻撃だ‼︎」

 

 イエローが絶叫した。メツキは、その巨躯であるが故にスピードは完全に殺されているが、その攻撃力と耐久力は桁外れである。ましてや、鬼地獄に存在した、よろずオルグ全てを吸収しているのだから、今のメツキと戦う事は、オルグの大軍に挑む事に等しい。

 思わず体制を崩したガオケンタウロスに、木の根が集結して鞭の様にしなりながら襲い掛かって来た。

 

「グゥゥッ!⁉︎」

 

 ガオケンタウロスは、そのまま地べたに叩き付けられた。衝撃から飛び立つ事も出来ずに居ると、メツキの木の根が一斉にガオケンタウロスを殴打し始める。

 

「ホホホホホホホホッ‼︎ 私に逆らう者は皆、こうなるのだ‼︎ 死ねェ‼︎」

 

 イザナミは高笑いを上げる。木の根の攻撃は熾烈を極めた。

 

「くッ‼︎ このままじゃ、やられてしまう‼︎」

 

 ブルーは猛襲に晒され、唸る。しかし、ゴールドは亀裂の入ったヘルメットから目を覗かせ、メツキを見上げた。

 

「スサノオ……‼︎ 此れが貴方の望んだ事か⁉︎」

 

 絞り出す様な声は、強い希望を求めている様だった。メツキの中にある、イザナミに抑え込まれた彼の心に語り掛けた。

 

「全てを滅ぼすだけの……それだけの存在に成り下がって……其れで満足なのか⁉︎ 違うだろ⁉︎」

 

 ゴールドは、スサノオの中にある最後の良心に問いかけた。まだ残されている筈だ。

 だが、その思いを嘲笑うかの様に、イザナミの甲高い声が響き渡る。

 

「無駄だ! 貴様等の脆弱な声など、届きはせぬ! スサノオは生きとし生きる者、全てに絶望したのだ‼︎

 最早、一欠片の希望も無い‼︎ 世界を滅ぼし……生命を滅ぼし……私の築き上げる鬼の理想郷の中にて、絶望に囚われたまま生き続けるのだ‼︎」

 

 イザナミは、メツキに問い掛けた。

 

「さァ、メツキ‼︎ ガオケンタウロスを塵に帰してしまえ‼︎」

 

 メツキの胸部が輝いたと思えば、禍々しい輝きを持つ光線が放たれようとしていた。

 だが、それを遮る光が現れ、メツキは大きく仰反る。

 

「な、何だ⁉︎ この忌々しい光は⁉︎」

 

 イザナミは喚く。すると、鬼地獄一帯に歌が響き渡る。それは間違いなく、響の調べだった。

 

 

耳を澄ませば 聴こえるだろう

風が運んだ いつかの呼び声

行きなさい

そこに在るのは まことのやすらかさ

時を渡る 祈りのなかで 約束は果たされる

深く息を吸い込み 遥かなる魂を

響かせて、響かせて

 

 

「うう……‼︎ 何だ⁉︎ 止めろ、この歌を止めろォォ‼︎」

 

 イザナミは頭を抑えて苦しみ始めた。メツキも同様に、身体を苦しげに震わせた。

 尚も歌は続く。ふと、聞き覚えのある声に、ゴールドは顔を上げた。

 

「て、テトム?」

 

 ゴールドは歌の主が分かった。間違い無く、テトムが歌っているのだろう。ガオネメシスに変身していたスサノオも、響の調べを聴く度に苦しんでいたが……?

 

「な、何故だァァァ!!? 何故、私が、こんな歌如きに……!!!」

 

 悶え苦しむイザナミだが、そんな時に鬼冥城に安置されていた祈の閉じ込められていた水晶が、ガオケンタウロスの前へと現れ、その中に吸収されて行く。

 ゴールドの隣へ、水晶から解放された祈が降り立った。

 

「祈‼︎」

「兄さん……来てくれたんだね……!」

 

 ゴールドと祈は互いに再会を喜び合う。だが、その様子を見たイザナミは激しく激昂する。

 

「お、おのれ……小娘がァァァ……‼︎ アマテラスの差し金かァァァ……!!?」

「静まりなさい、イザナミ! 原初の巫女アマテラスの魂を引き継ぐ巫女……龍崎祈! 巫女の名の下に、これ以上の狼藉は許しません‼︎」

 

 気高く応える祈の姿は、正にガオの巫女そのものだった。すると、祈は口を開き……響の調べの続きを歌った。その歌い方は、テトムの歌い方と寸分に違わなかった。

 

「や、止めろォォォォ!!! その耳障りな歌をォォォォ!!!」

 

 歌を歌い続ける祈を罵倒しながら、イザナミは叫び続けた。先程までの余裕綽々な態度とは打って変わり、確実にイザナミは弱体化しつつあった。  

 そして、祈とテトムの歌声が二重唱になった。

 

胸をめぐるは 遠い日の唄

谷間に渡る 彼方の笛の音

生きなさい

そこに在るのは 生命のうつくしさ

時を超えて 刹那のなかで 約束を果たすまで

かなしみは残る やさしさに変わるため

響かせて、響かせて

 

 

土に癒され 大地に抱かれ

なおも震える 心をひらいて

行きなさい

そこに居るのは おまえの同志たち

時を渡る 祈りのなかで 約束は果たされる

かなしみはいつか 優しさに変わるから

響かせて、響かせて

 

 

 二人の巫女による美しい旋律は、渇いた鬼地獄を満たしていく。しかし、イザナミとメツキは、その歌を聴けば聴く程、弱り切って行った。

 

 すると、ガオケンタウロスの真上に一人の女性が舞い降りた。

 

「アマテラス…?」

 

 ゴールドが呟く。彼女の姿を見たイザナミは忌々しげに睨んだ。

 

「アマテラス…だとォォ……!‼︎?」

 

 母は憎しみに満ちた目で、娘を見た。しかし、アマテラスは気にせずに右手を掲げる。

 すると、ガオフェニックスの翼が虹色に輝き始めた。やがて、ガオケンタウロスの傷付いた身体は癒されていき……

 

「見ろよ、ガオスーツが⁉︎」

 

 イエローが叫んだ。最早、ぼろぼろだったガオスーツは元の姿へと戻った。更に奇跡は続く。アマテラスのかざした手から開かれた時空の裂け目から、数多のパワーアニマル達が出現した。

 その数は正しく百獣……その中には、ガオユニコーン、ガオグリフィン、ガオワイバーン、ガオナインテールも居た。

 アマテラスの呼び声に応じ、全てのパワーアニマル達が招集したのだ。

 

 〜さァ、行くのです! 若き戦士達よ‼︎ 強大な邪気をも打ち破る“信じ合う絆”を持って……怨念に取り憑かれた者を退散させなさい‼︎〜

 

 アマテラスは号令を掛けた。それに呼応し、ガオケンタウロスは再び舞い上がった。

 右手のエレファントソードに光を纏わせ、メツキの身体に振り下ろす。

 

「グガァァァッ!!!!」

 

 強靭とされたメツキの身体は斬り裂かれた。更に間を置かず、エレファントソードの幾多にも渡る斬撃が叩き込まれる。

 

「なァァ……‼︎ こんな馬鹿なァァ……‼︎ 身体が……崩れて行く……‼︎」

 

 イザナミも、ガオの戦士達の思わぬ反撃に抵抗する事も出来ないで居た。一人の力には無敵を誇るオルグも、結束した絆の前には勝てなかったのか……。

 尚も、祈とテトムの響きの調べが、メツキとイザナミの力を削り取っていく。其処へ、ゴールドはソルサモナードラグーンを台座に置き、ガオソウルを込めた。  

 

「ガオドラゴン、ガオフェニックス‼︎ 頼む‼︎」

 

 〜ああ、任せろ‼︎〜

 

 〜何時でも行けますよ‼︎ー

 

 ゴールドの言葉に、竜と鳳凰は応える。すると、エレファントソードに虹色の輝きが宿り、鬼地獄の曇天まで伸びた。

 

「最終神技! ビースト・ラグナロク‼︎」

 

 放たれるは大いなる斬撃……地球に住まうパワーアニマル達、地球生命、全ての力を足した至高の技、神々の黄昏を意味をする正に、最後にして最強の一閃だった。

 その光剣はメツキの肉体を頭から両断にし、イザナミもまた真っ二つへと斬り裂かれた。

 

「わ……私が……こんな所で……‼︎ イ……ザナ……ギ……‼︎」

 

 再生する力を封じられも尚、自身の敗北を受け入れられないまま、今は亡き夫の名を呼ぶイザナミ。

 しかし、彼女は意識の途切れる最後の刹那、天にて微笑む男性の姿を見る。それは、彼女が長らく見る事が叶わなかった愛する人の顔……。

 

「……おお……イザナ……ギ……あなた……! やっと……やっと……会えた……もう……離れない……で……‼︎」

 

 イザナミは涙を流しながら手を伸ばす。しかし、その表情はとても穏やかだった。光に飲まれ、イザナミとメツキの身体は砕けていき……やがて、其処には瓦礫の山しか残っていなかった……。

 

「か、勝った……?」

 

 変身の解けた陽は呟く。目の前には、メツキの残骸だけがあった。振り返れば、走が微笑む。

 

「ああ……終わったんだ……‼︎ 君が終わらせたんだ、陽‼︎」

 

 走の労りに満ち溢れた言葉に陽は胸が暖かくなった。他の戦士達も称賛してくる。

 

「ありがとう、陽‼︎ お前のお陰だ‼︎」

 

 岳が肩を叩きながら讃えてくれた。

 

「最後まで、ネバギバだったぜ‼︎」

 

 海は陽気に励ましてくる。

 

「見事な戦いぶりだった、感動した‼︎」

 

 草太郎も力強く褒めてくれている。

 

「みんな、貴方のお陰よ、陽くん‼︎」

 

 冴が抱き寄せながら、陽を優しく労る。

 その後、振り返った先には、祈と美羽が居た。

 

「やっと……終わったね……」

 

 美羽は笑い掛ける。長かった戦いは、やっと終わったのだ。その言葉に全てが込められていた。陽は祈に駆け寄り強く抱き締める。

 

「ゴメンな、祈……‼︎ 待たせちゃって……‼︎」

「大丈夫だよ、兄さん……! 信じてたから! 兄さん、きっと来てくれるって……‼︎」

 

 そう言って、祈は泣きながら陽に顔を埋めた。その様子を美羽は、やるせ無い様子で見ていた。

 片想いでしか無い事は分かっていた……所謂、自分は負けヒロインである事も……。だけど……戦いが全て終わって、陽の心に変化があったのなら……自分の長年の想いを告白しようと思った……。

 しかし、その夢は淡くも儚く弾け飛んでしまった……浮かび上がったシャボン玉が、風に吹かれて消えた様に……。

 と、その際、鬼地獄の天から光り輝く粒子が降り注ぐ。

 

「これは……雪?」

「まさか……此処は鬼地獄だぞ?」

 

 冴の言葉に、走は返した。鬼地獄に雪が降るなんて……。その降り注いで行く粒子は、バラバラに崩壊したメツキの残骸へと積もって行き……

 

「あれを見ろ‼︎」

 

 岳が指を差す。なんとメツキの残骸は粒子に触れると同時に浄化され、やがて光と共に昇天して行った。最後の光の中に,陽の良く見知った顔が居た……。

 

「摩魅?」

 

 人とオルグの中間に生まれ、その身に余る迫害に晒されて来た少女、摩魅……その顔は、とても穏やかに笑っている……。

 

「解放されたんだ……イザナミの怨念から……」

 

 陽は理解した。イザナミは、その怒りによってオルグ達を支配して来た。そして今、やっと解放されていくのだ……。

 すると最後に小さな光で珠が、ガオケンタウロスは中へと飛び込んでくる。其れは祈の腕の中に収まると……。

 

「赤……ちゃん?」

 

 彼女の腕には布に包まれた赤ん坊が眠っていた。困惑する祈だが、陽は確信した。もしかして、この赤ん坊は……

 

「スサノオ……じゃ無いか?」

 

 陽の言葉に、一同は首を傾げながらも、赤ん坊を覗き見た。

 

「……生まれ変わり……みたいなものか……?」

 

 ポツリと言った走の言葉に、陽は見上げる。確かに、スサノオもまた被害者の一人だった……彼も漸く救済されたのだろう……と、思えて来てしまう。

 すると、ガオドラゴンが高らかに吠えた。

 

 〜さァ、帰るぞ‼︎ 地上へ‼︎〜

 

 ガオケンタウロスの翼は展開し、空へと舞い上がる。陽は、他のパワーアニマル達を見て、涙を溢しながら笑う。

 

「……アマテラス……パワーアニマルの皆……ツクヨミ……ありがとう……‼︎」

 

 陽達は戻っていく……掛け替えの無い日常へと……‼︎




091-3857-9

※響の調べの歌詞の部分、足しておきました。


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quest final エピローグ

※最終回です‼︎ 
長らく、お待たせしてしまいました‼︎
次回作の予告も設けていますので、どうか、楽しんで下さい‼︎

最後になりますが、帰って来た百獣戦隊ガオレンジャーを読んで下さった皆様、感想を頂いた皆様、今日までお付き合い頂いた事、心より感謝してます‼︎



 ガオケンタウロスは再び地上へと帰還を果たす。アマテラスが、テトムと祈を介して繋げた道を辿る事で帰り着いたのだ。

 降り立った場所は、復活した天空島アニマリウム……オルグの手で壊滅状態だった楽園は、見事に復活を遂げていた。大地に降り立った走達は久方ぶりに吸った新鮮な空気を満喫する。

 

「くあァァァ〜〜‼︎ やっぱり、シャバは良いぜ‼︎」

 

 岳は伸びをしながら言った。何しろ長い期間、水晶の中に眠り続けていたのだ。そう考えれば、水晶に幽閉されながらも正気を保ち続けた彼等の強靭な精神力には脱帽する。

 

「でも、やっと帰って来れたな‼︎」

 

 海も笑って返す。走、冴、草太郎も同様だった。

 

「おい、あれは……⁉︎」

「ガオズロックだわ‼︎」

 

 走と冴は久しぶりに見た自分達のアジトに嬉しそうだった。やがて、ガオズロックは着地し、中からテトムが姿を見せる。

 

「みんな〜‼︎ 久しぶり〜!!!!」

 

 漸く再会出来た事を喜びながら、テトムは走にダイブした。

 

「走‼︎ やっと会えたわね‼︎」

「テトム‼︎ 心配掛けたな‼︎」

 

 そう言いながら、テトムは走を強く抱きしめた。他のメンバーも、テトムを取り囲む。

 

「岳、海、草太郎、冴‼︎ 皆、本当に無事なのね‼︎」

「ああ…‼︎ 帰ってきたぜ‼︎」

 

 と、岳が珍しく涙ぐみながら言った。

 

「また、会えて嬉しいよ、テトム‼︎」

 

 と、海は歓喜しながら叫ぶ。

 

「心配掛けて済まなかった!」

 

 草太郎も男泣きしながら声を絞り出した。

 

「会いたかったよ、テトム!」

 

 冴は泣きじゃくりながら、テトムに抱き着く。蚊帳の外を食らった陽達に、猛達が近付いて来た。

 

「陽、祈ちゃん‼︎ よく帰って来たな‼︎」

「お疲れだったな、陽‼︎」

 

 猛と昇は陽を労う。舞花と千鶴も同様だった。

 

「祈、怪我してない⁉︎ 本当に良かった‼︎」

「先輩〜‼︎ 無事ですか〜⁉︎」

 

 二人はさめざめと泣き続けながら言った。祈は優しく微笑みながら……

 

「大丈夫! 2人とも心配掛けて、ごめんね!」

 

 そう言うと、祈も泣き出す。それを聞いた二人は驚いた様子で……

 

「何言ってんの⁉︎ 祈のせいじゃ無いじゃん‼︎」

「そうですよ! 先輩が謝る必要なんて絶対、ありません!」

 

 と、泣きながら祈を励ます。すると、祈が腕から泣き声がした。

 

「エッ? 何、この声…⁉︎」

 

 舞花は耳を疑う。すると、祈は気付いた様に抱えていた布切れを捲る。

 

「ごめんね〜、起こしちゃったねェ……よしよし……」

 

 祈があやす物を見た二人は、ギョッとした様子だ。祈の腕には赤ん坊が抱かれていたからだ。

 

「な、何⁉︎ この赤ちゃん、何⁉︎」

 

 舞花は慌てて赤ん坊を見る。祈は、どう説明するべきかを悩んだ。すると、陽を取り囲んでいた猛と昇も、こちらの異変に気付いたらしく、やって来た。

 

「ウオッ⁉︎ 何だ、この赤ん坊は⁉︎ ま…まさか…⁉︎」

「えェェ⁉︎ 祈、父親は誰よォォォォ⁉︎」

「祈先輩、私と言う者がありながらァァァ!!!」

 

 勝手に騒ぎ立て始める3人に、祈は困惑した。3人が大声で話すものだから赤ん坊は、また泣き始めた。

 

「ちょっと3人共、静かにして⁉︎ 赤ちゃんが泣いちゃったじゃ無い‼︎」

 

 祈は叱り付ける。すると、3人はバツが悪そうにする。祈は困った様に赤ん坊をあやすが、一向に泣き止む様子が無い。

 

「ちょっと貸してみな」

 

 見兼ねた走が横から赤ん坊を抱えて、あやし始める。

 

「おー、よしよし……大丈夫でちゅよ〜……。

 ねんねん、おころ〜り〜よ〜……」

 

 手慣れた手付きで、赤ん坊に子守唄を歌って宥める走。すると先程まで、グズっていた赤ん坊は落ち着いたらしく、スヤスヤと眠り始めた。

 

「寝ちまったな……」

「流石、走。手慣れてるな!」

「伊達に獣医やってる訳じゃ無いからな。しかし、この子は……」

 

 走は寝付いた赤ん坊を祈に渡すと、神妙な顔付きに戻った。佐熊は赤ん坊を見下ろしながら、陽に尋ねる。

 

「しかし、この赤子は一体、何なんじゃ?」

「そ、それは……」

 

 陽は口籠る。この赤ん坊の正体を知ったら、事情を知らない皆は困惑だろう……果たして、どう言えば波風を立てないで済むか……と、陽は思案する……。

 その時、テトムは口を挟む。

 

「……この子は……スサノオの生まれ変わりね……」

「ヌゥッ⁉︎」

「どう言う事だ、テトム⁉︎」

 

 案の定、佐熊と大神は目を見開いた。テトムは、ガオの巫女……それ故に、巫女の直感の様な物で理解したのだ。

 陽と祈は互いに顔を見合わせた後、走に助け舟を求めた。走も意を決して、仲間達に説明した。

 

「……テトムの言う通りだ……。俺達は鬼地獄で、イザナミを倒した後

 ……降り注ぐ光の粒子を浴びたオルグ達が浄化されていくのを見た……。

 その際、この子が俺達の前に現れたんだ……」

「光の粒子……それは転生の光粒(てんせいのみつりゅう)だわ……‼︎」

「何じゃ、それは?」

 

 テトムの口から出てきた言葉に、佐熊は首を傾げる。

 

「ガオの巫女に代々、伝わる究極の秘技……一度、発動させれば、朽ち果てた植物や渇き切った大地を潤し、緑溢れる世界へとする事が出来ると言う……。

 更には、彷徨う死者の魂を蘇らせる事も可能だと聞いたけど……発動した話は初めてだわ……」

 

 テトムの言葉に、仲間達の視線は赤ん坊に注いだ。転生の光粒……人間への憎しみに囚われたスサノオは、巫女の秘技によって救われた……ともすれば、この奇跡は……。

 

 その時、祈の身体から光が立ち上り始めた。それは、アマテラスへと姿を変えた。

 

 〜ありがとう、ガオの戦士達よ……。貴方達のお陰で、オルグ達の目論みは阻止されました……。

 そして……祈……。貴方にも、お詫びを申し上げ無ければなりません……。私達の母の問題に、何の関係の無い貴方まで巻き込んでしまった……〜

 

「そ…そんな……‼︎」

 

 アマテラスの謝罪に、祈は困惑した。しかし、アマテラスは構わずに続ける。

 

 〜先程、見せたのは……テトムの推測通り、転生の光粒です……。あれは、巫女の力を対価に差し出すと同時に発動する、ガオの巫女の最後の技……しかし、一度、発動してしまえば、その巫女としての力は永久に損なわれてしまう、正に諸刃の剣なのです……〜

 

「じゃあ……祈は、もう……」

 

 陽は祈を振り返る。あれが、祈の巫女としての力を対価にした物なら、祈は既に巫女の力を失った事になる。

 アマテラスは頷く。

 

 〜そう……彼女からは、巫女の力は永遠に無くなるでしょう……そして、竜崎陽……貴方も……〜

 

 アマテラスは悲しげに見つめる。陽は意味が分からなかったが、後ろに佇むガオドラゴン達を見て、確信した。

 

「お別れ……なんだね……」

 

 陽は予感していた。彼等は元々、アマテラスと同じ時代から生きた存在だった。その彼女との繋がりを無くすと言う事に過ぎない……。

 ガオドラゴンは陽を見つめ返す。その目は、とても優しかった。

 

 〜陽……お前は、我々の想像を上回る程に戦ってくれた……。そして、絶望に囚われたスサノオを闇から解き放ってくれた……〜

 

 ガオドラゴンに続いて、今度はガオユニコーンが話し始める。

 

 〜貴方は私達に、失いかけていた人間への絆の強さを見せてくれました……それだけで、充分です……〜

 

 次には、ガオグリフィンだ。

 

 〜お前と共に戦えた事……それだけで、我々は誇りに思う……〜

 

 ガオナインテールも語り始めた。

 

 〜ただ、夢想を語るだけの若者が……夢を現へと変えてくれた……。其方こそ、アマテラスの認めた戦士じゃ……。

 ガオワイバーンも認めておるしの……〜

 

 言葉を話せないガオワイバーンに代わり、彼女が代弁する。最後には、ガオフェニックスが紡ぎ始めた。

 

 〜わずかな期間でしたが、貴方の力となれた事……我々にとって、これ以上の誉れは無いでしょう……。

 本当にありがとうございます……気高い金色の竜よ……〜

 

 レジェンド・パワーアニマル達は称賛の言葉を個々に送った。陽は彼等を見上げて笑う。確かに辛い事は沢山あった。苦しい事も……しかし、それでも戦い抜く事が出来たのは、仲間達の支えがあったからだ。

 

「僕一人じゃ無いよ……この戦いは、ガオレンジャー全員の……全てのパワーアニマル達の……地球に生きる人々があっての勝利です……‼︎

 この戦いで失う物は沢山あったけど……それ以上に得た物も多かった……。僕は、ガオゴールドとして戦えた事を生涯の財産として、此処に刻み続けて行くよ……」

 

 そう言うと、陽は自分の胸を抑える。その言葉に、満足げに頷くアマテラス。そうすると、アマテラスはレジェンド・パワーアニマル達を見渡す。すると、彼女の隣に、ツクヨミも姿を現した。

 

 〜陽……ガオレンジャー達よ……弟を救ってくれた事、ありがとう……。私達は邪馬台国にて、お前達を見守っている……さらばだ……〜

 

 そう言い残し、アマテラス達は空気に溶ける様に透けていき……やがて、完全に姿を消した。

 

「……行っちゃったね……」

 

 ポツリと呟く祈。ふと陽は左腕のG−ブレスフォンに目をやる。ブレスフォンは色を無くした様に灰色に染まり、そのまま風化するかの如く散って行った……。

 

「……もう、ガオレンジャーになれないの?」

 

 祈は尋ねる。それに対して、陽は微笑む。

 

「地球に危機が来れば、また変身するかもね……。そんな日が来ない様に、僕達が頑張っていかなきゃ……‼︎」

「ああ‼︎ その通りだな‼︎」

 

 二人の間に、走が入ってきた。

 

「これからは、君達の時代だ‼︎ そして、その子が大きくなった時の為にもな‼︎」

「その赤ん坊、どうするんだ?」

 

 走に続き、岳も尋ねて来た。祈が大切に抱きかかえている赤ん坊……それは、スサノオの生まれ変わりだった。

 祈は赤ん坊を抱き締める。

 

「……この子を……助けてあげたい……‼︎」

 

 祈もまた、スサノオの過去を知って思う所があったのだろう。姉を思うが故の狂おしい情念から、全てを敵に回そうとした男……しかし、それは単純に、姉の愛を求めるが故の行動だった。最終的に、それは行き過ぎてしまったが……イザナミの仕組んだ計画だったが……彼にとっては、姉への想いだけが全てだったに違いない……。

 今となっては、スサノオに対する憎しみは無く……ただただ、憐れみの気持ちしか湧いて来ない。

 しかし、テトムの表情は晴れやかでは無い。

 

「……祈ちゃん、残念だけど……この子は貴方には任せられ無いわ……」

「どうして⁉︎」

「……地上には邪気が多い……いくら、オルグを倒したとは言え、人の心から生まれる悪い考えが、やがて邪気となってオルグを産む……結局、人とオルグは切っても切り離せない間柄なのよ……」

 

 テトムは悲しげに告げた。しかし、祈はスヤスヤと眠る赤ん坊を抱き締めた。この子を手放したく無い……だが、テトムの言う事も一理ある……。だが、他にどうすれば良いのか……。

 

「なら、ワシに任せておけ!」

 

 突然、佐熊が口を開く。仲間達は、彼を見た。

 

「ワシが天空島に移り住み、その赤ん坊を育てる! 今度こそ、スサノオが道を踏み外さん様に育ててやるわい‼︎」

 

 意気込んで語る佐熊だが、大神は心配そうに言った。

 

「……分かってるのか? お前は今後、天空島から動く事が出来なくなるんだぞ? そうなったら、お前の人生は……」

「ワシの人生? 何を言っとる、此れがワシの人生じゃ!」

 

 大神の問いに対し、佐熊はカラカラと笑う。

 

「……それにのォ……これはワシなりの罪滅ぼしでもあるしの……」

「罪滅ぼし?」

 

 ふと佐熊は笑みを消しながら言った。

 

「ワシはのォ……閻魔オルグを封じる為、自ら人身御供となった……。其れは大きな間違いであった……結局、ワシが封じたのでは無く、陽が終わらせたのだ……。

 ムラサキや仲間達に負わせた苦しみを考えれば、その赤ん坊を育てる事など屁でも無いわい」

「だとしても……‼︎ 尚更、佐熊さんが幸せになる事を、仲間の皆は望んでいるんじゃ……‼︎」

 

 陽も言葉を紡ぐ。幾ら罪滅ぼしとは言え、戦いが終わった以上は佐熊には幸せになる権利がある筈だ。けど、佐熊は譲らない。

 

「……ワシにとって幸せとはな陽よ……お前さん達が平和に生きてくれたら、それで良い……」

 

 そう呟いた佐熊に対し、陽達はまるで時間が止まったかの様に呆然とした。その様子を、佐熊は怪訝そうに首を傾げる。

 

「? どうした、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして?」

「いやァ……似合わないな……と思って?」

 

 陽は遠慮しがちに言った。途端に、仲間達は大爆笑した。

 

「な、何じゃ⁉︎ 何で笑う⁉︎」

「だ、だってよ……‼︎ 熊みたいな大男が、あんなクサイ事言ったら、もう……可笑しくてさ‼︎」

 

 猛は腹を抱えながら笑う。舞花、昇、千鶴も笑っていた。

 

「ちょっと、皆……笑ったら失礼だよ……ふふッ‼︎」

 

 祈も耐えきれずに笑い出した。

 

「何じゃ、祈まで‼︎ もう良い! 笑わば笑え‼︎」

 

 遂に不貞腐れて、佐熊は怒鳴る。仲間達の暖かな笑い声が、天空島を木霊した。パワーアニマル達も、そんな様子を微笑ましげに優しく吠えた。

 

 

 そうしてる間に、陽達はガオズロックへと乗り込んで行く。懐かしき竜胆市へと帰って行くのだ。離れたのは僅かな期間なのに、長い年月の様に感じた。

 

 陽は振り返ると、佐熊に抱かれたスサノオを見る。今度こそ、スサノオが道を踏み外さない様に、二度とオルグの現れない、そんな世界に自分達がして行かなくては……。

 

「兄さん、行こう‼︎」

 

 祈が呼び掛けて来た。陽は笑顔で彼女を見る。

 

「ああ! 今、行く‼︎」

 

 陽は返事して、ガオズロックに乗り込む。再び振り返ると、佐熊とテトムの顔を見る。

 佐熊は元気よく頷いて見せた。この子は任せておけ、と言わんばかりだ。

 安心した様に、陽は乗り込む……そうして、日常へと戻って行った……。

 

 

 

 それから半年程、経った日……。

 

「兄さん、早く早く‼︎」

 

 祈は楽しげに歩いていた。陽は祈に付き添い、久しぶりの休暇を楽しんでいる。

 

 あれから、ガオレンジャーを仲間達とは解散して行った……。

 走は獣医として動物達を治療し……岳は航空自衛隊に復帰し、今は若い隊員達に教鞭を取り……海は今は、サーファーとしてテレビによく出ており……草太郎は、自営業で花屋を始め……冴は故郷で空手道場を開いて……大神は再び、放浪の旅に出た……。

 あれから、オルグは姿を現さない……闘いは終わりを告げたのだ……しかし、陽の内心は晴れやかでは無い……。

 確かに世界は平和になった……オルグによって破壊された街並みも復興し、人々は平和な日々を享受している……自分が、ガオレンジャーとなる前の日常が帰ってきたのだ……だが……。

 

 

 この平和の代償は大き過ぎた……。

 

 

 確かに勝利はした……だが、勝利の下には多くの犠牲があった……ヤバイバ、ツエツエ、鬼灯隊の面々、ツクヨミ、そして……摩魅……。

 彼等とは敵同士であり、人とオルグとしての越えられない種族の壁があった……だが、それでも……彼等の死の上に、今の自分達が生きる日常があるのは紛う事ない事実……。

 

「兄さん……もしかして、後悔してる……?」

 

 いつの間にか隣に居た祈は尋ねる。陽は取り繕おうとするが、祈には見抜かれていた……陽は、苦笑する。

 

「守れた命もあったけど……守れなかった命もある……それが堪らなく悔しいんだ……。如何に、ガオレンジャーとして強くあっても……パワーアニマルが力を貸してくれても……僕は、ちっぽけな人間なんだ……。今なら、スサノオの気持ち、分かる気がする……」

 

 陽は天を仰ぎながら、自嘲する様に言った。そんな陽を、祈は後ろから抱き付く。

 

「祈?」

「兄さんは、ちっぽけなんかじゃ無いよ……。大きな背中だよ? 私達を守ってくれた……心強い背中……」

 

 祈は、ポツリポツリと呟く。陽は彼女の顔を見ると、とても優しい慈母の様な穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「自分の事を卑下しないで、兄さん……。スサノオは力を得て全てを捨てたけど……兄さんは力を捨てて皆を守ったでしょう?

 ……兄さんは変わらなくて良いよ……今のままで良い……」

 

 そう言った祈の頬に涙が伝う。陽は涙を拭ってやり、祈を強く抱き締めた。

 

「……祈……ずっと側に居るよ……」

「……兄さん……」

 

 そうして互いに顔を見合わせる。そして、どちらからも顔を寄せ、互いに唇を重ねた。

 暫くキスをしていたが、やがて陽が顔を離す。顔中が赤く染まっていた。

 

「……やっぱり……外でするのは恥ずかしかったかな……?」

「ううん……嬉しかった……」

 

 祈は笑った。陽も釣られて笑う。と、其処に……。

 

 

「あのよ〜、イチャつくんなら誰も居ないか、見てからやれよな」

 

 猛がニマニマと笑いながら、やって来た。陽は顔を更に紅くする。

 

「た、猛⁉︎ 見てたのか⁉︎」

「おう‼︎ ばっちしとな‼︎ しかし、兄妹でキスとか周りから見たら不純に映るかもな?」

 

 猛は追い討ちを掛ける様に言った。祈は顔を抑える。そんな所へ、舞花と千鶴が近付いて来た。

 

「別に良いじゃん? もう隠す意味を無いし……そうでしょ? 祈」

「……う〜〜〜……‼︎」

 

 舞花は祈を茶化すが、千鶴は納得が行かない様子だった。やはり、祈を陽に取られたのは割り切れないらしい。

 

「ま、別に責める気は無い。お前達の決めた事ならな」

「……そうだね……」

 

 昇と美羽もやって来た。だが、美羽もまた、陽と祈の関係には複雑な様子だった。

 その美羽の隣に来て…

 

「な〜んだよ、美羽‼︎ ひょっとして、妬いてんのか⁉︎」

「そんなんじゃ無いし‼︎ 大体、私は今、アンタと付き合ってるんでしょ⁉︎」

「へへ‼︎ まあな‼︎」

 

 そういうと、猛は美羽に肩を回す。其れを美羽は無理に外した。

 

「しかし……意外だったな……。猛と美羽がくっ付くなんて……」

「ああ……世の中、どうなるか分からん……」

「本当にね……」

「美羽さんには悪いけど……兄貴には勿体無いよ……」

 

 陽、昇、祈、舞花は口々に言った。あの戦いの後……美羽は、陽に告白した。しかし……陽は祈への想いを打ち明けて、美羽は失恋……彼女の恋は終わりを告げた。

 そんな傷心の彼女に対して、その間隙を縫うかの様に励ましたのが、意外にも猛だった。美羽は失恋した心の傷を癒していた所、気が付けば側に猛が立っており……二人が接近するのには、時間が掛からなかった。

 

 今日は、その後も付き合いを続ける、この6人にて久しぶりに遊びに行く事となった。

 陽は、漸く訪れた平和を噛み締める。と、其処に陽は気が付く。仲睦まじげに歩く二組の男女……

 

「んじゃーよ‼︎ 久しぶりに飯でも行こうぜ‼︎」

「アンタの奢りでね?」

「き、給料日前だぜ⁉︎ それは、ヤバいぜ‼︎」

 

 女性の方は何処となく、ツエツエに似ていた。男はヤバイバに感じが似ていた。

 更に通り掛かったのは女子高生の5人組……。

 

「ほらほら‼︎ 早くタピりに行きましょう、でございます‼︎」

「焦るな、タピオカは逃げないぞ?」

「その次はゲーセン行こうぜ‼︎」

「またかいな? 今日は、カラオケ行こうや?」

「……私はボウリングが良い……」

 

 何処となく、鬼灯隊の面々に似ている5人……。その後に、母と娘が通って行った。

 

「お母さん‼︎ 今日は晩御飯、私が作るね‼︎」

「フフッ……‼︎ また失敗しなければ良いけど?」

「大丈夫だよ‼︎」

 

 娘の方は摩魅にそっくりだった……。陽は、その様子を見て微笑ましくなる……。ひょっとしたら、彼等は……

 

「兄さ〜ん‼︎ 早く行こう‼︎」

 

 祈の呼ぶ声に再度、陽は歩き出した。漸く戻って来た平和な日々……その日を大切に噛み締めながら、陽は生きていく。

 空は何処までも青い……ひょっとしたら、今も天空島ではパワーアニマル達の咆哮が響いているかも知れない……。

 

 

 〜全ての戦いに決着を付け、日常へと帰って来た竜崎陽……。しかし、またいつか、オルグ達の牙が剥いてくるかも知れない……。

 だが、地球にはガオレンジャーが、パワーアニマル達が、そして、ガオゴールドが居る限り、大丈夫だと信じましょう……‼︎〜

 

 

 

 

 予告‼︎

 

 地球にはかつて……人類が踏み込む事を許されない前人未到の世界があった。険しく切り立った山々、水分を奪い尽くす灼熱の砂漠、血液を凍り尽くす極寒の氷地……果てには永遠の闇に支配された深海に、無限に広がる大宇宙……。

 しかし、文明の発達と共に、人は地球に足を踏み入れていない場所は無くなりつつある。と、同時に失われた古代文明の遺産である遺跡、財宝、歴史も人間達は介入して行った……。

 だが……人間達は知らない……。この地球には、凡人の理解を超えた……現代の科学水準を遥かに凌駕した古の秘宝が眠っている事を……。その宝は、使い様によっては世界を支配する叡智にも、世界を破滅に導く兵器にもなり得る……。

 その神の領域をも侵し兼ねない秘宝の名は“プレシャス”と言う。

 世界各地に人知れず眠るプレシャスが思慮の浅い者達に渡れば、世界は間違いなく滅びる。そうならない為、プレシャスを探索し保護する組織の名は“サージェス団体”。その団体に所属し、命懸けの冒険に身を投じる冒険者達が居た!

 彼等こそ、果てなき冒険(スピリット)‼︎

 轟轟戦隊! ボウケンジャー‼︎

 

 

「プレシャトピア?」

「世界の何処かにある理想郷だよ……其処に行き着いた者は誰も居ないが……大地を埋め尽くさん程の宝が隠されているんだよ」

「ふ〜〜ん」

 

 見識ある大人が、御伽噺と笑う様な夢物語……しかし、子供は夢を見ずには居られない……小さな頭では描き切れない程の夢物語を……。

 

「……おじいちゃんは若い頃から探し続けていたが……遂に発見できなんだよ……。果たして、ワシが死ぬ迄に見つけられるかの?」

「大丈夫だよ! おじいちゃんが見つけられ無かったら、私が見つけてあげる‼︎ 私が、プレシャトピアを見つけるの‼︎」

「そうかそうか……雪歩が見つけてくれるか……。それは楽しみじゃな……それじゃ、指切りをしようか?」

「うん‼︎ 絶対に約束‼︎」

 

 小さな頃に、大好きな祖父と交わした約束……それは時を経ても決して変わらず、夢を信じる強い信念となる……。 

 

 

 それから、数年後……。

 

 

「私、白瀬雪歩! 夢はプレシャトピアを見つける事‼︎」

 

 新たに、夢を追いかける若き冒険者……。

 

「お前一人じゃ不安だからな。俺も一緒だぜ‼︎」

「貴方がチームメイト? ハッキリ言って不安ですわ」

 

 共に戦う頼りある仲間達……。

 

「君達の、武器の整備は僕に任せておいてくれ、よろしく」

「私が貴方達のチーフを務めるよ‼︎ 頑張ろうね‼︎」

 

 戦いを支えるバックアップのチーム……。

 

「楽園を示すプレシャスがある……其れを奪ってくるんだ‼︎」

「オホホホ‼︎ プレシャトピアを見つけて、世界は再び我々、ゴードムの物よ‼︎」

 

 冒険を遮ろうと暗躍する者達……。

 

「プレシャトピアは君達を受け入れない、諦めたまえ」

「貴方は……何者なの⁉︎」

「通りすがりの仮面ライダー……とでも覚えておきたまえ」

 

 第三勢力の邪魔が入り、冒険は更に難航……‼︎

 

「プレシャトピアに手を出してはならない……‼︎ 本部からの厳命が来たわ……‼︎」

「嫌だ! 私は探すよ……だって……約束したから……‼︎」

 

 様々な困難、邪魔が入りながらも……彼女は夢の果てを目指して走り続ける……‼︎

 

 

「……やっと来た……此処が……‼︎」

 

 

 轟轟戦隊ボウケンジャー Return Adventure Of White

 2021年 10月 連載開始‼︎




次回作は、小説のプロット作成と話の構成を掴む為、現在、dvdを再度、視聴しています‼︎

それまでは、ガオレンジャーの、その後の物語、そして別の小説を執筆予定なので、楽しみにしていて下さい‼︎


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