ハリーポッターと転生の双子 (黒い柱)
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設定と登場人物紹介(オリキャラ)
主人公
〇マーティン・ウェリス
交通事故により双子の妹とともにハリーポッターの世界に転生してしまった。
元の年齢は17歳。しかし、人生を一からスタートすることなってしまう。なお、マーティン・ウェリスという名前は転生後の名前であり、本名は佐川裕一。
また、転生後の父親がハリーポッターの父親の幼なじみであり、彼は優秀な魔法使いでもある。ダンブルドアの命令でアメリカに行っており、ヴォルデモートの目には届いていない。
魔法の能力は父親からの英才教育と原作の知識により非常に高い。しかし、スタミナがなく、早めに敵を倒せないと劣勢に立たされる。また、魔法界、非魔法界に関わらず動物を殺すのは苦手である。
〇ユラナ・ウェリス
マーティン・ウェリスの妹で、もう一人の主人公でもある。兄とともに交通事故に巻き込まれてしまった。本名は佐川葵である。
兄と同じように父親にかなり強くされるも、集中力が今一つなく、対人戦には向いていない。しかし、その無尽蔵なスタミナでドラゴンなどと戦うときには異常な強さを発揮する。
兄のことが大好きであり、周りからシスコンと言われている。
〇ブライアン・ウェリス
マーティンとユラナの父親であり、ハリーの父、ジェームズやシリウス、ルーピンらとの同級生でもあった。彼らとは非常に仲がよく、また、ジェームズやシリウスと敵対していたスネイプとも相性は良かった。スネイプが闇の魔法に飲み込まれたことを悔いており、ヴォルデモートを強く憎んでいる。自分の息子たちには闇に飲み込まれない強さを身に付けて欲しいと思っている。
ヴォルデモートの追討のため、アメリカを中心に世界を巡っていたが、その高い実力を買われ、ダンブルドアからイギリスに呼び戻される。
〇エレナ・ウェリス
マーティンとユラナの母親であり、ブライアンとはホグワーツで出逢っている。温厚な性格で争い事を好まない。息子たちを溺愛しており、過保護だと言われることもしばしば。
また、ハリーの母親のリリーが大好きで、ヴォルデモートに殺されたときは跡を追おうとしてブライアンに止められた。
この作品にはオリジナル呪文がいくつか存在しているので、ご注意ください。
〇サンダラバス(雷撃)
敵に雷撃を打ち落とす。威力は調節可能。使用できるのはブライアン・ウェリスとマーティン・ウェリスのみ
〇念話呪文
呪文の内容は不明。言葉を発することなくコミュニケーションを取れる。兄妹二人のみが使用可能。
〇フルプレント(分身せよ)
三つに分身できる呪文。一度に三人まで分身可能。使用範囲は半径400メートル。なお、分身に攻撃が当たっても、本人にダメージはない。使用できるのはユラナ・ウェリスのみ。
自分で書いてて思いました。なかなかむちゃくちゃな設定ですね笑
次がいつか分かりませんが、楽しみにしていてください。
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妹と二人きり
今では、それがいつだったかも覚えていない。しかし、それは確かにあったことだとは覚えている。
俺は妹とその友達二人の四人でショピングモールに来ていた。妹は楽しそうに微笑んでいた。こんな日々が続いてくれればいい。そう思っていた矢先のことだった。
激しい轟音とともに大型トラックが突っ込んできたのだ。俺たちの目の前に。
妹は友人二人を弾き飛ばし、轢かれないようにしようとした。そして、彼女を守るために俺も駆け出した。
妹に触れたのと俺たち二人の体がトラックにぶつかり、吹き飛ばされるのはほぼ同時だった。死ぬのか、自分は。でも、妹が生きてくれていればそれでいい。それだけを願っていると、俺の視界は暗闇に包まれていった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
自分を呼ぶ声が聞こえる。死んだ俺を誰が呼ぶというのか。
「葵、大丈夫か?」
「よかった。お兄ちゃん」
俺は目を開ける。失明しそうなくらい眩しい。
「ここはどこだ? 死後の世界か?」
俺は立ち上がろうとした。しかし、それはできなかった。というか、体が小さい。全身に力が入らない。
「お兄ちゃん、これ」
俺と同じ小さい手で妹は何か紙のようなものを掴む。
そこに書かれていた文字に俺は愕然とする。
「日刊予言者新聞」
その新聞の写真は動いている。これは人間の世界じゃないのか。いや、このタイトルはどこかで見たことがある。そうだ、この世界は……。
「もう分かったでしょ。ここはハリーポッターの世界なんだよ」
妹が告げる。
「どういうことだ?」
「世にいう転生というものが起こったらしいの。この世界は魔法でできているわ」
俺はその手のラノベなどを読むのは好きだった。だから、転生というものがどういうものかは分かっている。
「俺は……誰になったんだ?」
「ハリーポッターの原作の登場人物じゃないよ。オリジナル、もしくはモブのキャラ、マーティン・ウェリスという人物になったわ。ちなみに私はユラナ・ウェリスというあなたの妹になったの」
「ここは、どこだ?」
「アメリカのニューヨークね」
ということは、今はイギリスにいるハリーポッターら原作の人物との関わりはないのか。
「というか、なんでそんなこと知ってるの?」
「名前はさっき親が呼ぶのを聞いたから。住んでる場所はこの新聞を見たからよ」
「俺たちは何歳なんだ?」
やたらと小さいこの体。いくら魔法が使えるからといって、17歳のままではなかろう。
「正確な年齢は分からないけど、たぶん一歳ぐらいじゃないかしら?」
ちょっと待て。だとしたら、なんかおかしい。
「なぁ、一歳なのに俺たちなんで話せんの?」
それを聞くと、ユラナは驚いたような表情を浮かべた。
「言われてみればおかしいわね。なんでかしら?」
試しに普通に声を出してみる。が、赤ん坊の鳴き声のようなものしか出なかった。
これはよく分からないので、とりあえず無意識に謎のテレパシー的な呪文を使って話しているということに落ち着いた。もっともこの転生しているという状況の方がおかしいことには間違いない。
しばらく俺たちは見つめ合っていたが、数十秒ほど経って俺は呟いた。
「……葵、いや今はユラナか。すまなかったな」
そう言うと、ユラナは小さく微笑んで答えた。
「ううん。気にしないで。だってお兄ちゃんとここで会えているんだから」
確かに、どちらか一人生き残っていたら、悲しみは大きかったに違いない。そうならなかったのだから、ありがたく思った方がいいだろう。そう思いながら、俺は微笑み返した。
同じときイギリスのゴトリックの谷では、史上最悪の魔法使いヴォルデモートが僅か一歳の男の子ハリーポッターに敗れて闇夜に姿を眩ましていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。評価、感想いただけたら嬉しいです
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賢者の石編
イギリスへの旅立ち~やべぇ道具とともに~
side マーティン・ウェリス
月日が経つのは恐ろしく早く俺と妹のユラナが転生されてからあっという間に10 年が経った。高校生活もあっという間だったけど、転生した魔法界での時間も早い。
いや、高校生活はまだ終わってなかったな。交通事故のせいで強制的に幕が落とされただけだな。
「なぁ、ユラナ。いったいいつ俺たちはイギリスに行けるんだろうな」
すっかり流暢になった英語で聞く。
「分からないわ。でも、父さんがスネイプやルーピンと話していたから、もうすぐかもね」
俺たちの父、ブライアン・ウェリスはなぜかハリーポッターの重要人物であるスネイプやルーピンと仲がよく、ヴォルデモート関係のことでよく話している。アメリカに来てもらうのではなく、イギリスに仕事で行ったときに話しているのだ。ときどき二人からのお土産が届いたりもする。
それにしてもこの父は何者なんだろうか。ダンブルドアにここまで信頼されているとは。
そう思っていたところで、俺たちの部屋のドアがノックされた。
「マーティン、ユラナ! イギリスに行くことになった! 明日までに準備をしといてくれ」
……急過ぎじゃありませんか、お父様。いや、ハリーポッターの仲間たちに会いたいから行くけども。
「どうして急に?」
ユラナが聞く。
「ダンブルドアから要請があった。ジェームズとリリーの息子がホグワーツに入学するんだと」
「彼を守れ、ということか?」
俺が言う。
「ああ。もちろん、俺には俺の仕事があるから、四六時中見守ることはできん。だから……」
「私たちを使って、彼の観察をしてもらうという訳ね」
ユラナが言うと、彼は頷いた。
「そうだ。さすが二人とも、俺たちの子どもだ。話が早い」
俺は心の中で苦笑いする。小説や映画を見た限り、ハリーポッターら仲良し三人組は厄介事に巻き込まれるのが定番だ。楽しいけど、面倒臭いことになりそうだ。
side ユラナ・ウェリス
お兄ちゃんが言う通り、面倒臭いことになりそうね。なんで彼の考えが分かるかというと、無言呪文で開心術を使ってみたから。
十代で開心術とかが使えるのは異常かもしれないけど、底の知れない私たちの父さんブライアン・ウェリスに英才教育を叩き込まれたから、ある意味仕方ないわね。それにホグワーツに行ってから楽になりそうだし。
そんなことをしているうちに一日は過ぎ、出発の日が来た。
もちろん、移動に飛行機や船を使うのではなく、ポードキーとかいう、魔法使い専用のやべぇ移動手段を使うことになっている。
箒はそこそこ好きだけど、これはやったことがないのよねぇ。
「お兄ちゃん、これって握っているだけでいいんだよね?」
それに答えたのは母のエレナ・ウェリスだった。よく見たら、彼も怖そうにしている。
「大丈夫よ。私たちが合図するまでに手を離さなければ」
母さん、父さん、私、お兄ちゃんの順でポードキーに触れた瞬間、とんでもなく強い力で何かに引っ張られた。そしてぐるんぐるん振り回されているうちに目的地に着いた。
これは乗り物酔いはしないけど、できれば二度と乗りたくないわね。そうとしか私には思えなかった。
やべぇ道具、ポードキーによって落とされた場所は映画で何度も見た賑やかな場所、ダイアゴン横町だった。
「よし、着いた。ここがダイアゴン横町だ」
いやこんな賑やかなところでこれ使っちゃ駄目でしょ。そう思ったが、魔法の世界ならそれも許されるらしい。
「こっからは案内人を呼んである。もうすぐ来ると思うから、ちょっと待ってな。じゃ、俺たちは用事があるからダンブルドアのところに挨拶しに行くわ」
そういうと同時に姿現しでどこかに行ってしまった。魔法がある程度使えるとはいえ、十一歳の子どもをこんなところに置いてきぼりにするか、フツー。
しばらく待っていると、大きな声が聞こえた。
「すまんな、遅れて。俺はハグリット。お前らの両親から案内してくれと言われたよ」
と現れたのは、大男ハグリットであった。
「はじめまして。ブライアン・ウェリスの息子、マーティン・ウェリスと言います。よろしくお願いします。こっちは妹のユラナです」
お兄ちゃんが私の分まで自己紹介をしてくれる。
「別に敬語じゃなくてもいい。これからよろしくな」
すると、横に隠れて見えなかった男の子が声をかける。
「ハグリット、案内する人ってこの人たちのこと?」
「おう、そうだ。これから一緒にホグワーツに入学する人たちだぞ」
その眼鏡の男の子を見た瞬間に私は言葉を失った。お兄ちゃんも「マジか……」とか言っている。
「僕はハリーポッター。よろしくね」
物語の主人公と早速かち合ってしまったことに私たちは呆れるしかなかった。
ついにハリー登場!
物語が少しずつ動いていくと思います。
コメント、評価もらえれば嬉しいです。よろしくお願いします。
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初めての親友~フォイフォイの出現~
side マーティン・ウェリス
こんなところで主人公に会えるとは思ってなかったわ。まあ、父さんもなぜか親世代と知り合いだし、いまさら驚かないけどさ。
(というか、ハリーって結構かわいくない?)
急に念話呪文を使って話しかけてきたのは、妹のユラナである。
(まあ、そりゃ主人公なんだしな。というか、ゲットしようとすんなよ)
(分かってるって。私だって身の程はわきまえてるわよ)
「二人とも黙ってるが、体調でも悪いのか?」
俺とユラナが黙っていると、ハグリットが話しかけてきた。
「いや、大丈夫だよ。ハリーってジェームズの息子さんかい?」
何分かりきったこと聞いてるの、とユラナの声が聞こえるが敢えて無視する。
「そうだよ。父さんのこと知ってるの?」
俺は頷いた。
「もちろん。俺の父さんが学生時代仲が良かったらしくてさ」
その声に反応したのは、ハグリットだった。
「ブライアンか。懐かしいな。あいつは百年に一度の天才って言われてたな」
「そんな凄かったの?」
「おう、そうだ。ホグワーツの伝説を挙げさせたら、必ず出てくるぐらいにな」
(このときから底の知れない人だったのね)
(さすがだな)
無言で妹と会話する。いや、別にこの会話は声に出していいと思うけどな。
「そんなに凄い人なんだね」
ハリーが言う。
「いや、お前の父さんや母さんも十分凄いだろ。例のあの人に歯向かったぐらいだしさ」
(こっちの父は何やっているか分からないしさ)
(まあ、闇祓いの一種って前、言ってたけど)
そんなことを話しているうちに、目的地の洋服店についた。なるほど、ここで制服を買ってもらうのか。
ハグリットが一通り説明したあと、俺たちは店の中に入る。その中でどっかで見たことのある後ろ姿が見えた。シルバーの髪の持ち主、その顔を見て思い出した。スリザリンの生徒でハリーたちのライバルのようになるドラコ・マルフォイだ。
それに気づいた瞬間、妹からとんでもなくヤバい心の声が聞こえた。
side ユラナ・ウェリス
キターーーーー。ハリポタssで大人気。フォイフォイことドラコ・マルフォイがキターーーーー。
そんなおかしな状況になっている私をお兄ちゃんは呆れた目で見てくる。
(ごめん。でも、こうならずにはいれなくて)
お兄ちゃんは小さくため息をついて、
(……アホ)
とだけ言った。アホ呼ばわりされるとは、解せぬ。
採寸をしてもらっていると、マルフォイが話しかけてきた。
「人の顔を見てため息をつくとは失礼なやつだな」
あー、お兄ちゃんごめん。いきなり変な目で見られちゃったね。
「いや、すまない。妹が失礼なこと考えていたみたいでな。俺はマーティン・ウェリス。で、こっちが妹のユラナ・ウェリスだ。君は?」
「僕はドラコ・マルフォイ。君はハリー・ポッターだよね?」
彼はハリーを見る。ハリーは頷いた。
その後彼は一気呵成に寮やクィデッチのことを聞いてハリーを実質質問攻めにし、去っていった。初対面でこの距離感。イギリスのクオリティー、さすがです。
一方、ハリーの方は呆然としていた。そういえば彼は実質マグル育ちだから、知っているというのが無理があるのか。
その間、ハグリットがどこかに行ってしまったため、私たちは店の外で彼を待っていた。
「君たちは知ってたの? クィデッチとか寮のこととか?」
「まー半分くらいは分かったかな。私たちもイギリス来たばっかりだから、ホグワーツの寮がどうとかはちょっと分かりにくかったけど」
そう私が言うと、どこか悲しげにハリーは目を伏せた。
「僕は実質マグル育ちだから、そんなんで魔法使いになれるのかな……」
お兄ちゃんが励ますように言った。
「気にすんなよ。今のご時世、マグル生まれなんて結構いるんだ。知らない世界に入るのは不安かもしれないけど、なんとかなるよ」
そう言うと、ハリーはにっこりと笑った。ヤバい、その微笑みは私じゃなきゃ、女の子は落ちてる。なぜ、私が大丈夫か? 人生二週目だからね。
「なんか君って、お兄ちゃんみたいだね」
「俺はユラナのお兄ちゃんだよ。年下の扱いには自信がある」
なんか自信満々のお兄ちゃんを見たときハグリットが戻ってきた。フクロウを三匹連れている。ハリーには誕生日プレゼントで、私たちには父さんとの連絡用であらかじめお金は渡されていたらしい。本当に彼は抜かりがない。
その後、私たちはハリーとハグリットとは別れた。ちなみに、私たちはアメリカでだいぶ昔に杖を作ってもらっていたので、杖作りの店に寄る必要はない。
「ねぇ、お兄ちゃん。原作メンバーたくさん会っちゃったけど、大丈夫かな」
「いまさらだろ。この世界に落とされたときから決まってたようなもんだ。よし、とりあえず新しい家に行くか」
明日の電車でロンやハーマイオニーとも会うことになるんだろうか。そんなことを考えながら、私たちは新しい家に向かって姿眩ましをした。なんで十一歳でできるのかって? アメリカでは許されてるらしいよとしか言い様がありません。ごめんなさい。
ご都合主義過ぎるな、この作品。まあ、下手くそが書いた作品なんで笑いながら見てください。
感想、評価もらえれば嬉しいです。よろしくお願いします。
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ホグワーツ特急での出会い~大事な友達との絆~
side マーティン・ウェリス
ダイアゴン横町に行った翌日、俺たちは両親に連れられキングズ・クロス駅に向かった。ホグワーツには特急に乗って向かうらしい。例外的にどっかの誰かは空飛ぶ車で向かったことがあったらしいが。
(やっとあの人たちに会えるわね)
妹のウキウキした心の声が聞こえる。まあ、気持ちは分かる。俺も柄にもなく楽しみにしている。
「ホグワーツに行くのを楽しみにしていてくれて嬉しいよ」
俺たちの様子を見た父さんが言う。
「まあね。俺としても本当に楽しそうなところだしな」
ハリーポッターシリーズを読んだ人間には一度はこの世界に入ってみたいと思ったことがあるのではなかろうか。
「そうね。私とブライアンが出逢った場所だし、あなたたちにも素敵な出会いがあると思うわ」
そう言ったのは俺たちの母である。
「そうだね。期待しとくよ」
(もう素敵な出会いはある意味済ませてるんだけどね)
(空気読めよ、妹よ)
そんなことを言っていると、列車が出発する十一時が近いてきたので、俺たちは柱の中に向かって走り出した。いや、初めての人にとってはこれはちょっと怖いわ。
駅は見送りに行っている人たちで大混雑していた。つーかまじで俺が人酔いする体質じゃなくてよかった。
「それじゃあ、そろそろ行くよ。列車も出るし」
父さんと母さんは俺たちの頭を撫でて抱き寄せた。
「気をつけてね。何かあったら、ふくろう便を送りなさいね」
「そんなこと言わなくてもちゃんと送るよ。父さんからも仕事頼まれてるし」
父さんはカラカラ笑う。
「仕事も大事だが、学生の本業は学問だ。お前たちなら大丈夫だと思うが、頑張れよ」
俺たちは頷いて電車に乗った。
さて、中は大変混雑していた。ただでさえ細い通路に荷物をたくさん持った学生たちがいるのだから仕方ない。
空いているコンパートメントはもちろんなかったが、幸いあてはある。ダイアゴン横町で知り合いを作っておいてよかった。
俺たちはしばらく歩いてそのドアをノックした。中にいたのは、眼鏡の似合う男の子、ハリー・ポッターと赤毛で背の高いロン・ウィーズリーだった。
side ユラナ・ウェリス
私たちは声をかけて部屋に入った。
「こんにちは、ハリー。元気?」
私が言うと、ハリーはほっとしたような表情を浮かべた。やべ、ちょっとそれは可愛すぎ。鼻血出そう。
(ねぇ、今の可愛すぎない?)
(いや、なんで俺に聞くんだよ。お前が考えているようなグフフな展開にはならんぞ。おい、兄受けとか考えるな)
そんな会話を念話呪文を使ってしながら、荷物を降ろした。
「ハリー、知り合い?」
ロンが聞く。
「そうだよ。僕と一緒にダイアゴン横町に行ったウェリス兄妹だよ」
「はじめまして。兄のマーティン・ウェリスだ。よろしくな」
「私は妹のユラナ・ウェリスよ。あ、一応言っておくと、私たちは純血だよ。まあ、血がなんであれどうでもいいけど」
「僕はロン・ウィーズリー。よろしくね。二人はどの寮に入りたい?」
やはり、ここでもその話か。まあ、どこに組分けされるか楽しみではあるよね。
「私はどこでもいいかな。自分が楽しいと思えるなら。そして、お兄ちゃんと一緒にいれるならね。まあ、ホグワーツにいる限り、一緒にはいれるんだけどね」
私がそう言ったとき、空気が微妙なものになった。え、私なんかやらかした?
(お前のブラコン告白のせいで微妙な空気になってるぞ。前世で学ばなかったのかよ)
(いや、だって事実じゃん。それにお兄ちゃんだって隠れシスコンでしょ?)
(いや、俺は断じてシスコンじゃない)
(ツンデレ乙)
(こいつ、ウゼぇ……)
ロンが空気を元に戻すかのように言う。
「そうなんだ。なんか仲がよくていいね。僕は兄妹は多いけど、こういう感じじゃないからさ」
おずおずと言うロンはなんか可愛い。やべ、こっちも私には射程圏内かも。
「そっか。ウィーズリー家って兄妹が多いことで有名だもんね。でも、兄妹多いのも幸せそうでいいなぁ」
私が言うと、お兄ちゃんは笑いながら答えた。
「お前みたいなのがたくさんいたら、俺は過労死しかねんわ」
なんでこんなときに念話呪文使わねぇんだよ。
「うるさーい。お兄ちゃんは黙っときなさい」
私の声にハリーは笑いながら、
「仲いいんだね」
と呟いた。
「それでさ、ロンは何か魔法使えたりする?」
ロンは頷いてスキャバーズ、後のピーター・ペディグリューとユニコーンの毛らしきものが見えた杖を取り出した。
「うん。フレッドに魔法を教わったんだ。やってみよう」
ここで黄色になったピーター・ペディグリューが出てきたら、さぞかし面白いだろうなぁ。そう思っていると、ドアがノックされた。
外にいたのは、泣きそうな顔をしているネビル・ロングボトムとハーマイオニー・グレンジャーだった。
「ごめんね、僕のヒキガエル知らない? トレバーっていうんだけど」
お兄ちゃんが答えた。
「いや、すまん。知らんな」
そう言うと、彼は杖を取り出し、
「アクシオ、トレバー!(トレバーよ、来いっ)」
と唱えた。すると、数秒後、お尋ね者のヒキガエルはお兄ちゃんの左手に貼り付いた。私とお兄ちゃん以外なぜか呆気に取られていた。
(なぁ、俺なんかやらかした?)
(ごめん、こればっかりは分からない)
お兄ちゃんはヒキガエルをネビルに渡した。すると、彼はおずおずと、
「あ、ありがとう……」
と言った。そして、ハーマイオニーが声を出す。
「凄いわね。それ、かなりレベルの高い呪文のはずよ」
あーなるほど。あの微妙な空気はそれで起きたのね。
「まあ、昔から鍛えられてきたからな。それで、二人は誰?」
「自己紹介がまだだったわね。私はハーマイオニー・グレンジャーよ。よろしくね」
(可愛すぎぃ。なんでこんなホグワーツの生徒のレベルって高いの)
(だから、狙いをつけるな。百合展開は嫌いじゃないが、お前にはまだ早い)
私が残念そうにしていると、ヒキガエルが見つかって嬉しそうなネビルが、
「僕はネビル・ロングボトム。よろしくね」
と言った。
「で、あなた魔法を見せてくれるんでしょう? やってみてよ」
とハーマイオニーがロンに言った。いや、呼び寄せ呪文見せられたあとに言っちゃダメでしょ。可哀想じゃん。
「いや、何でもないよ……」
ロンが残念そうに言った。
(本当にごめんね、私の馬鹿兄貴のせいだよね)
(おい、呼び方違うし、なんで念話呪文使っているときに言うんだよ)
お兄ちゃんの声が聞こえたけど、私は無視した。
書いてて思った。ハリーが空気過ぎる。
こりゃ駄作と言われてもまったく文句言えませんね。まあ、感想、評価募集中です。是非ともよろしくお願いします
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組分け帽子~ホグワーツ生活の始まり~
「ところで、あなたたちは?」
落ち着いたところでハーマイオニーが聞いてくる。
「私? ユラナ・ウェリスっていうの。こっちは私の馬鹿兄貴のマーティン・ウェリスよ。よろしくね」
(だから、その馬鹿兄貴というのはやめろ)
お兄ちゃんが言うが、もちろんそんなことは無視だ。
そうしていると、急にお兄ちゃんの声音が変わった。
(ユラナ、ちょっといいか?)
(何よ?)
(これから恐らくマルフォイがくる。マグル生まれのハーマイオニーとドンパチすることになったら、面倒だ。俺がどうにかするから、ハーマイオニーを連れて外に出て行ってくれないか?)
確かにそんなシーンもあったかもしれない。
(お兄ちゃん、後でなんか奢ってよ)
(分かった。だから、頼む)
私は頷いて、ハーマイオニーに言う。
「ねぇ、ハーマイオニー。そろそろホグワーツに着くと思うから空いてるコンパートメントで制服に着替えない?」
ハーマイオニーは少し戸惑ったように答えた。
「えっ、まだ時間はあると思うけど……」
「いいから、いいから」
私は笑顔でコンパートメントの外に彼女を押し出した。
(これでいいんだよね? ついでにハーマイオニーを好きにしていい?)
(おう、恩に着るよ。あと何するつもりか知らんが、ちゃんと許可は取れ)
ここで私は念話呪文をオフにする。そこまでヤバいことをするつもりはないが、一応だ。
私はハーマイオニーを空いてるコンパートメントに押し込んだ。
「ねぇ、ユラナ、どうしたのよ、急に」
私は答えずに、ハーマイオニーをじっと見つめる。こうやって見ると、本当に可愛らしい。ハリーの後の奥さんになるジニーも凄く可愛いけど、これはこれでいいわね。ボサボサだけど柔らかそうな栗毛に、スタイルもかなりいい。前歯が大きいのは、本人はコンプレックスだと言っていたけど、それすらチャームポイントに私には見える。
というか、この言葉お兄ちゃんに聞かれなくてよかった。
「ユラナ、恥ずかしいわ。そんなじっと見つめないで……」
「可愛い……」
思わず声がこぼれてしまった。
「ちょっと、ユラナ……」
やべ、このままじゃこのやり取りが無限に続きそう。私たちはとりあえず制服に着替えることにした。抱きついて軽くもみもみしたくなるのを必死にこらえていたのは内緒だ。
私は念話呪文をオンにして、お兄ちゃんの声を待つ。
(ひとまず片付いた。戻ってきていいぞ)
(分かったー)
「じゃ、私戻るね。ハーマイオニーも来る?」
彼女が頷いたので、私たちは二人でコンパートメントに戻った。その道中手を繋いでみたが、彼女は何も言わなかった。よっしゃ、これで仲が進展した?
進撃のフォイフォイの攻撃により、コンパートメントの中は微妙な空気になっていた。
(何て言ってきたの?)
(ハリーに対してだが、友達は選んだ方がいいとかだ)
(それで、お兄ちゃんは何て?)
(お前の価値観で人を語るな。こいつが誰と仲良くするかはこいつが決めることだ。そう言ってやった。そしたら、すごすごと帰って行ったよ)
お兄ちゃん、ちょっと怒っちゃったのかな。この人は温厚だけど怒ると結構怖いからなぁ。あとでマルフォイはフォローしといた方がいいかも。
「ハリー、どしたの?」
お兄ちゃんをおずおずと見つめている。
「いや、ちょっと怖かったから……」
「お兄ちゃん、怒らせると凄く怖いから、気をつけた方がいいよ、三人とも」
「待て、俺はお前が一番怒らせている思うぞ」
そう言ったと同時に列車は駅に着いた。大柄なハグリットが手を振っている。人に揉まれながら私たちは降りた。
「イッチ年生はこっち! イッチ年生はこっち!」
ハグリットは独特なかけ声とともに一年生を誘導する。
「ハグリット、久しぶりー」
私が声をかけた。
「おう、よう来たな。見ろ、ここがホグワーツだ」
美しいその城に思わず息を飲んだ。本当に映画の通りの城なんだなぁ。ここが戦地になってボロボロにならないようにしなくちゃ。私は小舟に乗りながらそんなことを考えていた。
やがて、一年生とハグリットを乗せた小舟はホグワーツ城内に着いた。そこで待っていたのは、副校長であり、同時に変身術の教授である、マクゴナガル先生だ。
組分けの説明がなされているが、私はお兄ちゃんに念話呪文で話しかけた。
(ねぇ、原作通りにいくと思う?)
(正直、分からん。この手の転生モノにはそうじゃないやつもあるからな。あいつらを信じるしかないな)
(帽子に服従の呪文かければいけるかもよ。お兄ちゃんならできるでしょ?)
(お前は俺をアズカバン行きにしたいのかよ)
そう彼が笑ったところで、マクゴナガル先生の話が終わり、私たちは大広間に入った。天井には星空があり、とても綺麗だ。
「これは魔法よ」
ハーマイオニーが言う。夢がないなぁ。
一年生たちが歩いた先にあったのは台座に置かれた組分け帽子である。ロンはトロールと戦わずにすんだことで安心しているようだ。まあ、こんな人が大勢いるところでトロールなんか放ったら、大変なことになると思うけど。
帽子が突然、歌い始めた。新入生たちは度肝を抜かれていたが、私とお兄ちゃんは知っていたことなので、落ち着いて聞くことができた。
マクゴナガル先生が一人一人名前を指名して、生徒が椅子に座る。そして、帽子が叫び、生徒はその寮の席に座る。それを何回か繰り返した後だった。
「グレンジャー・ハーマイオニー!」
マクゴナガル先生は高らかに叫んだ。
彼女はゆっくりと椅子に座る。どの寮であっても仲良くするつもりだが、一応気になるものだ。
しばらく経った後、帽子は
「グリフィンドール!」
と叫んだ。彼女は歓迎を受けながら、グリフィンドールの席に座った。ロンはなぜか呻いていた。ちょっと、後の奥さんでしょ。
それからしばらく経ち、ハリーの名前が叫ばれた。周りは静まりかえる。そりゃそうだ。英雄がこの一年生として入学するんだから。日本で言うなら、徳川家康とかが同じクラスになるようなものだ。いや、それはちょっと違うか。
さあ、一番重要な時間だ。彼がどこになるかで今後の世界が変わってくる。
周りと違う理由で私が固唾を飲んで見守っていると、ついに帽子は叫んだ。
「グリフィンドール!」
よかった。これで原作通りにいきやすくなる。まだ、ロンが決まってないが、ここまで原作通りなら心配はいらないだろう。
そして、またしばらくして呼ばれたのは、お兄ちゃんである。お兄ちゃんが何を考えているかまでは私には分からない。開心術を使う訳にはいかないし。
それでも、彼なら大丈夫だとどこか安心していた。
「グリフィンドール!」
そう帽子は叫び、お兄ちゃんは笑顔でこっちを見て、グリフィンドールの席に座った。
私の名前が呼ばれたのはその直後である。私はゆっくり進み、椅子に腰かける。帽子が頭に乗っかる。つーか結構デカイな、これ。
「ほう、また面白いな。4つの寮の適正はすべて満たしておる」
「そうですか。私としてはお兄ちゃんと笑っていられて、みんなを愛せる寮ならどこでも構いません」
「そうか、それならば、グリフィンドール!!」
帽子が叫び、私はグリフィンドールの席に向かった。みんなが笑顔で歓迎してくれる。中でも一番喜んでいたのは、お兄ちゃんである。私もそれが堪らなく嬉しかった。
その後、ロンはグリフィンドールになり、組分けは終了した。主要メンバーがちゃんと原作通りの寮になったことに安心しつつ、そして、幸せを感じながら、私は目の前の夕食を口に詰め込んでいた。
今回はここまでです。結構進みましたね。
評価、感想、募集中です。いただければ、めちゃくちゃ嬉しいです。よろしくお願いします。
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怪しげな夢と学校生活~チート能力の本領発揮~
side マーティン・ウェリス
食事を食べきった後にダンブルドアから四階の廊下に近づくなというお達しがあった。俺としてもそこに何があるのかは当然分かっているが、分かった上でどのように立ち振る舞えばよいだろうか。
(賢者の石があるんだよね?)
ユラナの念話呪文による声が聞こえる。寮に帰る途中のことだ。
(ああ。で、どうする?)
(どうするって……。私たちなら切り抜けられるんじゃない? 罠の内容も知っているし)
(そうだよな。まあ、まだ時間は十分にあるし、しばらく考えてみるよ。何かいいアイデアがあったら、教えてくれ)
そう言って俺たちは念話呪文をオフにした。
「お疲れ、マーティン」
話しかけてきたのは、ハリーである。
「ありがとうな。それにしても一緒の寮になれてよかったよ。これからよろしくな」
「それにしてもさ、四階の廊下に何があるんだろうな」
そう言ってきたのは、ロンである。
俺はもちろん正体は知っているが、それを今言う訳にはいかないだろう。とりあえず、分からないふりをしておこう。
「何があるのかは知らんが、ダンブルドアが俺たちをケガさせる訳がないだろう。まあ、普通に過ごす分には大丈夫と思うよ」
その後、寮の中へそして、寝室へ向かった。その最中、俺は今後すべきことを考える。
今の俺は年齢のせいもあり、まだ大して強くはないだろう。もちろん、一年生のレベルは優に超えている。それでも、ダンブルドアやヴォルデモートといった格上と当たったら、勝ち目は薄いだろう。現に父のブライアン・ウェリスにはユラナと二人で挑んだにもかかわらず、あっさり敗れてしまった。
みんなが死ぬような最悪な未来を避けるには、俺が誰よりも強くなるしかない。ダンブルドアやヴォルデモートを凌ぐほどのものが必要だ。
そんなことを思いながら、眠りについた。
それは懐かしい光景だった。ユラナと二人の友達、そして俺の四人でショッピングモールにいるのだ。三人とも笑っているが、俺にはこのあとの展開が読めてどうしても顔が曇ってしまう。それでも、今の俺には魔法がある。なんとかできる自信があった。
車が轟音とともに突っ込んでくる。妹が二人を庇おうとする。そして俺は三人を守るために杖を取り出し、盾の呪文を唱える。そのはずだった。
が、杖がない。もちろん、魔法を唱えたところで、何も起こらない。まずい。このままだと、妹が死んでしまう。しかし、全身金縛りにあったかのように俺の身体は動かない。そして……。
残骸とともに倒れていたのは、妹の身体だった。周りの音が止まる。俺はどうなってしまうんだ。金縛りをかけられたまま、俺の思考は闇に沈んでいく。負の感情ばかり積み重なっていく。抵抗する気持ちすら、手放そうとしていたときだった。
「マーティン!」
ハリーの声が響いた。
「……。ハリー? どうしたんだよ? そんな大きな声出して」
今は多分二時ぐらいのはずだ。
「君、すっごいうなされてたよ。大丈夫?」
俺は苦笑いする。まあ、あんな夢を見ればな。
「いや、大丈夫だ。さ、寝ようぜ。明日から授業もあるしな」
ハリーは頷いて床に入った。俺も毛布を被る。
「あのときの二の舞にはならない」
前世と比べて明らかに小さい自分の拳を握りながら呟き、俺は眠りについた。
side ユラナ・ウェリス
ついにホグワーツでの授業が始まる。緊張よりも楽しみの方が勝っている。なんせスネイプ先生の授業を受けれるんだから。
「楽しそうね、ユラナ」
ハーマイオニーが言ってくる。
「もちろんよ。あなたもでしょ、ハーマイオニー」
彼女は優しく微笑んだ。う~ん、可愛いっ!
「そうね。緊張しているけどね」
最初の授業はマクゴナガル先生の変身術の授業だった。原作と同じような説教で始まったので、ほとんど話を聞かずに、念話呪文でずっとお兄ちゃんと話していると、
(お前、肝心なところはちゃんと聞いとけよ)
と怒られた。
(大丈夫だって。私がこんなことするのは、つまらない話かお説教のときだけだからさ)
と言うと、お兄ちゃんからため息が聞こえてきた。
理論をノートに取った後に、マッチを針に変えることになった。私とお兄ちゃんは一分もかからずに、それは成功したため、他に配られた予備のマッチをナイフやクナイに変化させていると、それに驚いたマクゴナガル先生がグリフィンドールに20点を与えてくれた。
その間、私たちと同じように針に変えれたハーマイオニーは私たちを微妙な目で見ていた。なんか、ごめんね。
その後、午後には、魔法薬の授業があった。みんなはスリザリンと一緒なのが嫌だったみたいだが、私としてはとても楽しみだ。スネイプ先生に会えるんだから。
地下の教室に入った後に、スネイプ先生の大演説が始まった。
やっぱり、カッコいいなぁ。あのミステリアスな感じが何とも言えないわ。
私が見惚れていると、スネイプ先生は突然、
「ポッター!」
と叫んだ。うわ、びっくりした。
「アスフォルデの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」
ハリーは分かっていないようだ。ハーマイオニーが手を高く挙げるが、それをスネイプ先生は無視している。
にしても、凄いツンデレだなぁ。
その後、何を聞いてもハリーが答えられなかったので、その矛先はなぜか私に向いた。
「ミス・ウェリス。貴様はどうだ?」
「えー最初の問いの答えは『生ける屍の水薬』になりますね。引くほど力が強いので、そんな風に呼ばれてます。んで、ベゾアール石は山羊の胃から手に入ります。大抵の毒薬に効く非常に便利な品です。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物です。トリカブトとも言いますが、脱狼薬の製造に使われます。しかし、非常に難易度が高い薬なので、それを煎じられる魔法使いはほとんどいませんね」
辺りが静かになる。
「なるほど、見事な説明だ。ブライアン・ウェリスが自慢気に語るほどはある。しかし、なぜその説明をノートに取らない?」
スネイプ先生が言うと、慌てて全員メモを取り出した。
(お前、つまらないことは聞かない主義じゃないのかよ)
(スネイプ先生の話はつまらなくはないわ。それにハリーには早く彼を信頼してもらいたいから、なるべく距離を詰めておきたいのよ)
(ま、頑張れよ)
お兄ちゃんは呑気に答えた。
その後、ネビルがおできを治す簡単な薬の調合に失敗し、医務室に連れていかれて、その中グリフィンドールに減点したため、彼らはムカついていたが、私は距離を少し詰められたので、満足していた。
評価、感想がいただけば、とても嬉しいです。よろしくお願いします。
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飛行術と呪文学~ハリーの覚醒~
第8話です。よろしくお願いします。
side マーティン・ウェリス
ホグワーツに入学してから十日ほどが経った。今のところの感想を言うと……。ものすごく暇である。
宿題やレポートは確かにあるが、父さんにめちゃくちゃ鍛えられたことにより、一年生の課題ぐらいならば、まったく大したことはない。俺もユラナもすぐに終わってしまう。ならば、闇の魔法の特訓をしたいところだが、人がたくさんいる中で呪いを打ちまくる訳にもいかない。ハリーやロンの手伝いはハーマイオニーがしてくれているため、俺たちは暖炉の炎を眺めているしかすることがない。
(チート能力は嬉しいけど、暇過ぎるわね)
ユラナが念話呪文で話しかけてきた。
(そうだよな。でも、そろそろ飛行術の練習が始まる。あれはハリーが無双するはずだから、俺たちはあんまり目立たなくて済むぜ)
(そうだといいけど)
その翌日についに飛行術の授業が始まった。フーチ先生の指示で俺たち生徒は練習場に並ばされる。
「皆さん、それでは目の前の箒に『上がれ』と叫んでください」
彼女が生徒全員に告げ、あちこちで上がれという声が聞こえてくる。
俺も、
「上がれ」
と叫んだが、まったく箒は動かない。ハリーなどはとっくに箒を手にしている。
まあ、普通にやっても駄目だよな。そう思ったので、今度は少し低く冷たい声を出してみた。
「上がれ」
箒は少し恐れたかのように震えて、すぐに俺の手に収まった。何、この箒、ドMなの?
ユラナの方を見ると、彼女もまだ上がっていなかった。
「おい、トーンとか変えると上手くいったぞ」
俺が声をかけると、彼女は頷いて、
「お願い、上がって?」
と語尾にハートマークがつくかのような声で箒に言った。すると、箒はすぐさま持ち上がった。この箒も変態かよ。
全員が箒を手に持ったところで、フーチ先生はそれに乗って数メートル上に飛ぶよう指示した。
フライング気味に地面を蹴ったネビルが上空に登っていく。フーチ先生の降りろという指示も当然、届いていない。
しかし、ネビルは塔に引っ掛かり、ローブが破れたことにより落下していった。みんながざわめいている中、俺はこっそり落下するであろう方向に近づき、
「デューロ!(沈め!)」
とネビルが落ちる直前に唱えた。柔らかくなった土地のおかげで衝撃は少なくなっただろうが、まあ、骨折ぐらいは避けられないだろう。この対応を評価され、グリフィンドールに十点が与えられた。
ネビルはフーチ先生に連れていかれて、しばらく待つことになった。
(で、お兄ちゃん、このあとハリーとマルフォイが揉めるけど、止めなくていいの?)
(俺がすることじゃないだろ。まあ、ハリーに任せとけよ)
その直後である。
「なぁ、見たかあのアホ面」
マルフォイが小馬鹿にしたように言う。その手にはネビルが落とした思い出し球が握られている。
「おい、マルフォイ、それを渡せよ」
ハリーが言うと、マルフォイは鼻で笑った。
「取れるものなら取ってみろよ」
そう言って上空に彼が飛び、ハリーの手の届かないところに向かった。ハーマイオニーが止めていたが、ハリーもそれを追って上がっていく。
すると、マルフォイは思い出し球をさらに上に投げた。彼の手から離れた以上呼び寄せ呪文で手にすることはできるが、ハリーをクィディッチのシーカーにさせるために俺は手を出さなかった。
結果、その後、ちゃんとハリーはマクゴナガル先生にその実力を認められ、無事にクィディッチのシーカーになった。
side ユラナ・ウェリス
お兄ちゃんが言っていたように今はかなり暇だ。でも、そのぶんハリーやロン、ハーマイオニーを愛でる時間があるから、楽でいいのよねぇ。
飛行術が終わってしばらくして、今度は呪文学で物を飛ばす練習を始めることになった。一年生は全員喜んでいたが、私としてはもともとできている。
(お兄ちゃんさ、そろそろ私たちも本格的に鍛えない?)
呪文学の授業の前の晩、お兄ちゃんに聞いた。
(鍛えるってどうやってすんだよ。父さんはいねぇよ)
(父さんじゃなくてさ、私たちだけで鍛えるの)
(どこにそんな場所がある)
(必要の部屋は?)
しばらく彼からの返答はなかった。
(分かった。考えてみる)
そう言って彼は念話呪文をオフにした。彼にも何か考えがあるのだろう。
さて、翌日、ついに呪文学の時間になった。唱える呪文は「ウィンガーディアム・レヴィオーサー(浮遊せよ)」である。
辺りに羽根ペンが舞うと思いきや、思った以上に上手くいかない。いや、私、お兄ちゃん、ハーマイオニーの三人はできているが、それ以外の生徒は誰もできていなかった。
ハーマイオニーはロンに正しいやり方を教えようとしているが、ロンは、
「そんな言うなら、自分でやってみろよ」
と言った。ハーマイオニーが簡単に成功させたところ、ロンはさらに不機嫌になってしまった。
「大丈夫? ロン」
私が声をかけた。
「君もできているんだろ」
不満気に彼は言う。
「そうだね。でも、私もお兄ちゃんより先にはできなかったよ。でも、頑張ったからできるようになった。だからさ、今はムカついているかもしれないけど、ほら、頑張ろ」
ロンは黙ったまま、練習を再開したため、私は安心した。しかし、どういうことだか、ロンとハーマイオニーの関係は拗れてしまうのだった。
キャラ崩壊が進行中ですねぇ笑
時間なかったので、短くなってしまいましたが、次も楽しみにしてください。
感想、評価いただけば、すごく嬉しいです。よろしくお願いします。
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ハロウィーンの戦い~トロール出現~
side マーティン・ウェリス
ロンとハーマイオニーの対立は悪化の一途をたどっていっていた。ハリーに聞いたところ、俺とユラナが寝ている間に彼らが三頭犬にかち合ってしまったのが、きっかけといえるらしい。
(ついていないわね。私がいれば三頭犬を失神させれたのに)
妹が念話呪文で偉そうにのたまう。
(お前のチート能力を信頼していない訳じゃないが、スネイプ先生にケガを負わせたあの猛獣と戦わせるのは、ちょっとケガしないか心配だ)
(本当にシスコンねぇ。あらぬ噂をかけられても文句言えないわよ)
(それは気をつける。だが、問題はあの二人だ)
このままだと対立しているロンとハーマイオニーに挟まれているハリーが可哀想だ。
(確かにねぇ。私はハーマイオニーにどうにかできないか聞いてみるから、ロンをお願いしていい?)
(分かってる。だか、お前がそんな気を回す必要はないんじゃないか?)
(そうだけど、私にとってはみんな大事だから。それじゃよろしくね)
そう言って彼女は念話呪文をオフにした。苛立っているロンに話しかけるのは、少し気が引けるが、ユラナに頼まれたのだから仕方ない。俺はハロウィーンの日の昼休みロンに話しかけてみた。
「なぁロン。ハーマイオニーのこと許せないか?」
俺が聞くと、ハリーは少し驚いたような顔をした。まさか、直球でいくとは思わなかったのだろう。
「僕は向こうが謝ってくるまで、謝る気はないね」
これは重症だ。かなり、面倒だな。
「そうかぁ。まあ、二人とも頑固だからな。正直言って謝るとかそういうのは期待してないよ」
ロンはギラリと俺を睨み付けた。
「何が言いたいんだ?」
「そんな目で睨むなよ。それでも俺がお前たちになんで仲直りして欲しいか分かるか?」
ロンもハリーも首を横に振った。
「俺はさ、お前たちに期待しているんだ。こうやって上から目線で言われるのは癪かもしれないが、俺はお前たちには俺にもユラナにもない力があると思うんだよ」
「買いかぶり過ぎだよ」
とハリー。
「まあ、そうかもな。でも、お前たちが俺にもないものをもっているのは事実だ」
ロンが睨みを効かせて言う。
「なんでもできて成績も良くて人気者の君たちに勝るものがある訳ないだろ。あるんだったら、何なんだよ?」
俺は微笑んで答えた。
「それは俺が決めることじゃない。自分たちで見つけるものだろ? あと俺たちはそんなにグリフィンドールで人気なのか?」
俺はハリーに聞く。そんなことは正直聞いたこともない。
「うん。優しいし、なんでもできるから、グリフィンドールのお兄ちゃんやお姉ちゃんって呼ばれてるよ。しかも、なぜか上級生にも。知らなかったの?」
「知らなかったな。ユラナはともかく俺が好きだとか、どんな物好きだよ。というか、俺たちに上級生がなんでお兄ちゃんだのお姉ちゃんだのと言うんだよ」
どうやら精神年齢は前世の十七才から変わっていないらしい。
「まあ、あれだ。早めに仲直りしとけよ」
俺はそうとだけ言って、その場を後にした。
というか、魔法界に俺のファン的なやつがあるとは。ユラナは前世でもわりかしモテていたが、俺にはそんなことはほとんどなかったというのに。まあ、俺が死んだときは魔法界では成人年齢にあたる十七才だったから、上級生がお兄ちゃんと感じるのはあながち間違ってはいないと言えるだろう。
それとユラナ。ハーマイオニーは任せた。
side ユラナ・ウェリス
その任された私はハロウィーンの夕食の時間にどういうわけだか、トイレにいた。というのも、ハーマイオニーがここに引きこもってしまっているからだ。
「ハーマイオニー?」
私は声をかける。
「……ユラナ?」
涙声とともに私の名を彼女は言った。
「ハーマイオニー、大丈夫? 夕食、行ける?」
それに対する答えはしばらく返って来なかった。
「みんな、私にムカついているでしょう。ノコノコと食事なんてできないわ」
「頭でっかちってロンに言われたの、気にしてるのね」
「……ねぇ、何か私は間違ってたかしら? 確かにロンへの言い方は少し悪かったけど……」
「間違ってはないわよ。でも、ロンも頑固なところがあるからねぇ」
そう言ってしばらく私は言葉を選ぶ。
「でもさ、私はロンが好きだよ」
「ユラナ……」
「あんな不器用なところを含めて可愛いと思っちゃう。私って甘いよねぇ。あと、ハリーも好きだよ。魔法のことあんまり知らずにおどおどしてる姿とか、めちゃくちゃ可愛い」
「……何が言いたいの?」
ハーマイオニーがか細い声で聞く。
「ハーマイオニーのことももちろん好きだよ。そんな風に頑固なところがあるのも私からすれば、チャームポイントでしかないわ。泣いている姿も可愛いけど、どうせなら私には笑顔を見せて欲しいな」
私が言って数秒後、彼女はドアを開けてようやくその涙で濡れた顔を見せてくれた。
「やっと開けてくれたわね。みんながあなたのことを嫌ってたとしても、私は絶対あなたのことを好きでいるわ。誰が何を言ってもそれは変わらない自信があるわ」
そう言った私は彼女にはどう見えただろうか、私には分からないけど、その涙でぐちゃぐちゃになった中、彼女は微笑んで、
「ありがとう。さすがグリフィンドールのお姉ちゃんね」
と言ってくれた。ちょっと待って。グリフィンドールのお姉ちゃんって誰が言ったの。そう聞こうと思ったとき、激しい音が響いた。
私とハーマイオニーが驚いて振り向く。その怪物のような叫び声とともに立っていたのは、巨大なトロールだった。
(ユラナ! トロールが学校に侵入してきた。お前なら大丈夫とは思うが、一応気をつけろ!)
(馬鹿兄貴! もうかち合っているわよ!)
(何だと。ハーマイオニーは?)
(私と一緒。ハリーとロンを連れて急いで来て。戦闘に集中するから、落とすわよ!)
私は念話呪文をオフにして、目の前の怪物と向き合う。一対一なら負けない自信があるけど、怯えてるハーマイオニーを庇わなきゃいけない。正直、それはかなり難しい。
「フルプレント!(分身せよ!)」
私はトロールの棍棒の攻撃を避けながら叫ぶ。これは私自身を三つに分身させる呪文だ。しかも、呪いの効果は三倍になるので、非常に便利だ。
私はうち二体の自分でハーマイオニーを庇う。そして、私は、
「ステューピファイ!(麻痺せよ!)」
と叫ぶ。赤い閃光がトロールに飛ぶが、効果は今一つだ。しかも、トロールは単体の私ではなく、ハーマイオニーを守っている私を攻撃することにしたらしい。
「プロテゴ!(守れ!)」
私は棍棒による攻撃をギリギリで防ぐ。ハーマイオニーの悲鳴がトイレに響き渡る。そのときだった。
「ハーマイオニー!」
ロンとハリー、そしてお兄ちゃんの声がした。
トロールは二人に気を取られ、ハリーに掴みかかっていく。私も失神術を打ちまくるが、今一つ効き目はない。
「ロン! 何か魔法を叫べ!」
ロンはハリーの声に動揺しながらも、
「ウィンガーディアム・レヴィオーサー!(浮遊せよ!)」
と叫んだ。原作と同様にトロールが手を離していた棍棒が頭の上に落ちた。私の失神術のダメージとも合わさってトロールはノックアウトした。
ロンがハリーを助け出した後に、ノックアウトしたトロールの前に立っていたのは、お兄ちゃんである。
「ユラナ、よくやった。悪いが、美味しいところ、もらうぞ」
私は呆れて答える。
「ホント。もうちょっと早く来てよ」
「それは悪かった。だが、このトロールは俺の妹に手を出した。死んでもらうぞ」
そう言って杖を取り出し、
「サンダラバス!(雷撃!)」
と唱えた。金色の光がトロールに走る。こうなったお兄ちゃんはトロールぐらい簡単に殺してしまう。御愁傷様、トロール。
トロールがあの世へ旅立ったとき、ようやく先生方が来てくれた。ていうか、遅すぎ。
「何ですか!? これは!」
この状況を見たマクゴナガル先生が叫んだ。クィレル先生は腰を抜かしてしまっている。
「あーすんません。これ、俺がやりました」
「どういうことですか。ミスター・ウェリス」
お兄ちゃんが説明しようとするとハーマイオニーが叫んだ。
「私のせいです。私がトロールを倒せると思ったので……」
マクゴナガル先生は呆れて答えた。
「まったく。あなたには失望しました。グリフィンドール、五点減点」
ハーマイオニーが項垂れる。
「しかし、無傷なのは、五人とも運が良かった。その幸運に一人五点ずつあげましょう。さぁ、寮でパーティーの続きをやってます。早く戻りなさい」
私たちはそうしてトイレを後にした。その前に私は分身して、少し離れたところで彼ら先生方がどうするのか、見守ることにした。
「これは、いったいどういうことなんでしょうか?」
マクゴナガル先生がスネイプ先生に尋ねる。
「我輩も見たことがありませんな、こんな魔法は。しかし、どんな魔法にしろ、一年生でトロールを殺せるとは、到底思えない」
マクゴナガル先生はしばらく考えて答えた。
「……ウェリス兄妹でしょうか」
「でしょうな。ブライアン・ウェリスが鍛えた魔法使いだとすれば、万が一があってもおかしくはない」
「三つ子の魂、百までということでしょうか。このことは一応、校長にお話ししておきます」
そう言って、二人はトイレを後にした。そして、私も分身を消して元の姿に戻る。
(お兄ちゃんさぁ、もしかして、こうなること分かってて二人の喧嘩止めなかったの?)
(んな訳ねぇだろ。ただ、遅かれ早かれこういう経験は必要になるとは思っていたけどな)
(ホント、喰えない人だね、お兄ちゃん)
(ま、グリフィンドールのお兄ちゃんだからな)
彼はそう言って笑った。
ちょっと長くなりましたね。またしてもチート能力が発揮されましたが、楽しんでいただけば、何よりです。
感想、評価、いただけば嬉しいです。よろしくお願いします。
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クィディッチ観戦~今後の学習計画~
side マーティン・ウェリス
ハロウィーンの一件を経て、ハーマイオニーとロンの関係はついに改善された。妹のユラナが三人組に関わる気、満々であり、俺も父からハリーについて教えて欲しいという指令を受けているので、いつも五人で一緒にいることになった。
(ああ~。三人ともマジで可愛い。そこにいるだけで私からしてみれば眼福なんだけどぉ~)
猛烈に癒されたような声を三人組を見て念話呪文で発したのは、ユラナである。しかも、授業中である。いくら余裕があるからといっても、念話呪文で下らないことを言うなよ。
(お前ってもしかして、バイのロリコンなの?)
(前世じゃそうじゃなかったんだけどね。ここにきて新境地を切り開いたかも。でも、お兄ちゃんなら気持ち分かるでしょ。あと、ショタコンも拗らせてるよ)
(何追加してんだ。頼むから、同級生で欲望満たそうとすんなよ。見てられないから)
(大丈夫だって~。一線は越えないから安心していいよ~)
うわ、これ程安心できない安心していいよがあっただろうか。前世含めての三十年近くの長い歴史ではなかったことだろう。いや、三十年ちょっとならそれほど長くないな。
(分かった。ただ、魔法使ってあいつらにちょっかいかけ始めたら、本格的な対応を考えるからな)
(なるほど。魔法使うのもありかも)
くそ。なんでやり方教えちまってんだよ。
(そういえばさ、お前、自主練したいとか言ってたよな?)
(うん。どうするの?)
(俺なりにやり方考えてみたんだよ。ほら、順序つけてやった方がやりやすいし。てなわけで、今年は失神術や武装解除、妨害の呪文を中心とした基礎練習に時間を割きたいと思っているんだけど、どうだ?)
(いいんじゃない。来年は守護霊とか、オリジナル呪文の練習を増やせば?)
(そうだな。明日から開始ということで。あ、基礎練習だから、ハリー達も連れて来てもいいぞ。といっても、まあ基礎の基礎からの練習になると思うけど)
そう言っている間に授業は終わってしまった。やべ、ほとんど聞いてなかった。
翌日、俺たちは八階の必要の部屋に向かった。五人一組でいつも行動しているから、ハリー達もついてきた。
「さてと、今から魔法の特訓を始めたいと思う。正直言って、一年には難しい呪文も多いから、とりあえずこれから練習してみよう。武装解除呪文だ。ユラナ、手伝ってくれ」
三人は興味津々で俺たちを見る。ユラナは杖を持ったまま、だらりと立った俺に、
「エクスペリアームス!(武器よ、去れ!)」
と叫んだ。青い閃光が走り、俺の杖はユラナの手に収まっていた。三人が拍手している。
「サンキュー、ユラナ。それじゃ、俺はハリーと組むから、ロンはハーマイオニーと組んで練習を開始してくれ」
三人は口々に呪文を唱え始めた。が、三人ともうまく武装解除はできていない。というか、そんな簡単にうまくいかれたら、教えることがなくなってしまう。
「ねぇ、マーティン。なんかコツとかはあるかな?」
一緒に練習していたハリーが聞いてくる。
「そうだな。俺が意識しているのは、杖を飛ばすイメージと絶対できるっていう強い自信だな。精神は出来に比例すると思う」
「そうかぁ。ありがとう。マーティン」
彼はニッコリ微笑んで、再び杖を構えた。ユラナが生唾を飲む音が聞こえてきた。おい、気持ちは分かるが、興奮するな。
三人の中で最初に成功させたのは、ハーマイオニーだった。予想通りではあったが、こんなに早く成功させるとは。
「やったわ! ユラナ、見てた!?」
笑顔でピョンピョン跳ねて喜んでいる。
「ええ。見てたわよ。おめでとう、ハーマイオニー」
ユラナは微笑んで答える。その心の中は可愛いと思う感情で満たされているだろう。
(あぁ^心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~)
(おい、ユラナ、ぴょんぴょんしているのはハーマイオニーだろう。あと、前世でのネタをぶちこむな。ワケわからんくなるだろ)
唐突なごちうさネタはこいつらには通じないだろうから、俺に言いたくなる気持ちは分かるが。
そんな風に練習していると、夕日は沈みかかっていた。
「そろそろ夕食の時間だし、ここまでにするか。今日できなかったとしても焦ることはない。繰り返せば必ずできるようになる。そこは俺が保証する」
実際のところ、三人ともかなり吸収力はある。ハーマイオニーなどは俺の用意したカリキュラムを四年生ぐらいで全部マスターするんじゃないだろうか。今はできていない二人も次ぐらいには成功するだろう。
(強くなりそうだね、三人とも)
(ああ。原作のような悲劇は俺が起こさせない)
(格好つけちゃって~。グリフィンドールのいや、ホグワーツのお兄ちゃん、期待してるよ)
(ホグワーツのお兄ちゃんとは大きく出たな。ま、どうにか頑張るよ)
俺とユラナは笑いあった。
sideユラナ・ウェリス
魔法練習の翌日、クィディッチのグリフィンドール対レイブンクロー戦が組まれていた。今季初戦、つまりハリーのデビュー戦である。
確か、クィレルが魔法を箒にかけてハリーを殺そうとしていたんだよね。どうやってクィレルを止めようか。あんまり私が動くとクィレル(ヴォルデモート)に怪しまれるからなぁ。
「ハリー、頑張れよ」
ロンがハリーに声をかける。うんうん、仲良きことは美しきかな。しかし、ハリーは緊張からか少し青ざめている。
「大丈夫だって。万が一、落っこちたりしたら、お姉ちゃんが、じゃなかった私が助けてあげるからね」
頭をナデナデして私が言う。
「いや、先生方が助けてくださるだろ。あと、お前は俺の妹だ」
とマーティンが突っ込んできた。それに笑ったことでハリーの緊張は少し取れたようだ。
そして、一時間後、大興奮に包まれてグリフィンドール生たちは競技場に向かった。ライオンの横断幕を持った人もいて、ホグワーツのクィディッチ人気がうかがえる。
試合は三十点ほどグリフィンドールがリードしたところで、ハリーの箒がおかしな動きをし始めた。
(お兄ちゃん)
(分かってる。クィレルだろ)
(うん。私、止めに行くわ。疑われたままだとスネイプ先生が可哀想)
反対呪文を唱えているスネイプをハーマイオニーたちは疑っている。
(……分かった。行ってこい)
お兄ちゃんが指示を出したので、私は急いで教師席に向かった。ハーマイオニーは確か火をつけたはず。でも、火事になったら、ちょっと困るなぁ。
「アグアメンティ!(水よ!)」
私が小声で言うと、クィレルのお尻辺りがびしょ濡れになった。こう見たら、なんだかおもらししたみたい。
クィレルのお尻が濡れていることで、うるさくなってきたので、私は急いで戻る。やべ、このいたずらなんか楽しい。
ハリーはすぐさま元通りになり、再び金のスニッチを狙い始めた。
(いや、お前、よくこんなこと考えつくなぁ)
(ほら、この方が面白いじゃない?)
お兄ちゃんが笑いながら言う。
(他の人にすんなよ)
(それはフラグですね分かります)
クィレルは急に失禁した恥ずかしさのあまり、ハリーに呪いをかけるどこではなくなっている。
その後、しばらくしてハリーがスニッチを飲み込むという前代未聞の終わり方でグリフィンドールの初戦は幕を閉じた。
グリフィンドール生は勝利の雄叫びを挙げているが、このあとハーマイオニーとロンのスネイプ先生に対する誤解を解くのにかなり時間がかかった。
もうちょい、スネイプ先生、グリフィンドール生に優しくしてあげなさいよ……。いろいろあったから、仕方ないけどさぁ。
今回はここまでです。次回は一気にクリスマス辺りにいくかと思います。
なお、これから投稿が忙しいので不定期になるかと思います。
感想、評価、いただけばアホみたいに喜びます。どうかよろしくお願いします。
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クリスマス~カップルのいない聖夜~
side ユラナ・ウェリス
12月を過ぎ、ホグワーツ校内はクリスマス一色になっていた。私にとってはクリスマスというものにそれほど思い入れはない。適当にプレゼントを渡したり、おめでとうを言い合ったりするぐらいか。前世ではカップルというものには、縁がなかった。まあ、今生きてるハリーポッターの世界でも縁がないかもしれない。いや、なくていい。幼い可愛い三人組がクリスマスにプレゼントもらってはしゃいでる姿を見てるだけで、眼福ってやつですよ、グフフ……。
(おい、ユラナ、気持ち悪い心の声が丸聞こえだぞ)
念話呪文で叱ってきたのは私の兄のマーティン・ウェリスである。
(ええ~。お兄ちゃんだって可愛いと思うでしょ~)
(いや、お前みたいにロリコンやショタコン拗らせてないし)
呆れ顔で彼は言う。ちなみに今は呪文学の授業中である。チート能力(あくまで自力で身に付けたものだが)で余裕がなければ、こんな悠長なことはできないだろうなぁ。
(ま、それはいいや。お兄ちゃんはクリスマスホグワーツに残るの? ハリーとロンは残るみたいだけど)
(俺は一度帰るぞ。父さんがどっか行くみたいだから、それについていくつもりだ)
(父さんも忙しいんだねぇ。私は残るつもりだから、よろしく言っといてね)
お兄ちゃんが頷いたので、俺は念話呪文をオフにした。あの三人組でアブナイ妄想をしているのは聞かれないように気をつけよう。
一週間ほど経ち、クリスマスの朝を迎えた。普段は隣にいるはずのハーマイオニーはいなかったけど、その代わりに可愛らしいピンク色の髪止めが置いてあった。彼女からのクリスマスプレゼントということだろう。ちなみに私はみんなにお菓子の詰め合わせを送っておいた。
私が談話室に降りていくと、すでに興奮した様子のハリーとロンの姿があった。
「メリークリスマス、ハリー、ロン」
「「メリークリスマス、ユラナ!」」
ああ~可愛いよ~。朝から最高の癒しだわ。ごちそうさまです。
「ねぇ、ユラナ。これって……」
ハリーが掴んでいたのは透明マントだった。
「あ、透明マントじゃん。激レアだよ、これ」
「知ってるの? ユラナ」
映画や小説からの知識と言う訳にはいかないので、
「うん。父さんが前、使ってたよ」
と誤魔化した。するとロンが不思議そうに聞いてきた。
「前々から思ってたけど、ユラナたちのお父さんって何者なの……」
「いや~、ごめん。私にもいまいちあの人が何をしてるのかは分からないんだよね。多分、機密的なことをやってるんだと思う」
いや、本当にあの人のやってることは分からない。開心術使っても、表情変えずに防がれるし。真実薬も効かないんじゃなかろうか。
「良かったね。ハリー、大事に使いなよ。きっとこれがあればなかなか面白いことができると思うから」
「うん、ありがとう、ユラナ!」
本当に前世でこれがあれば、高校生男子は女子更衣室に忍び込み放題だっただろうなぁ。この子たちはそんなことを考えないぐらい純粋みたいだからよかったけど。
クリスマスパーティーが終わった後、ハリーは透明マントを着てどこかに向かったらしい。私は就寝時刻をとうに過ぎていたが、暖炉の前で座って待っていた。
ボケーっと過ごしていると、ハリーが慌てた様子で、駆け込んできた。みぞの鏡を見つけて興奮しているようだ。私も知ってなければ、一緒に興奮できたのにと思ったが、まあ仕方ない。
私は興奮するハリーとロンを諌めつつ、透明マントの中に入り、ハリーに案内された場所に向かった。
ハリーには両親の姿、ロンには自身が首席になっている姿が見えたらしい。さあ、私には何が映るのか。
まず、最初に目についたのはお兄ちゃんと三人組の姿である。お兄ちゃんとハーマイオニーはいないけど、これは普段から見てる風景だ。これが私の望みなのだろうか。
が、しばらくすると、本当に不思議なことが起きた。鏡に映っている私たちの背後に見慣れた人の姿が見えた。それを認識した瞬間、なぜだか私の頬には涙が伝っていた。
「……ユラナ、大丈夫?」
ハリーが心配そうに聞く。
「……うん。でも、私はこれを見るべきじゃなかったかもなぁ」
小声で私は呟いた。それもそのはずだ。私の目に映っていたのは前世の友人たちの笑っている姿だったからだ。それを見た瞬間、何とも言えない感情に私の心は支配され、いつの間にか涙がこぼれていたのだ。
「後ろにいるのは分かってますよ、ダンブルドア先生」
私は鏡を眺めたまま、呼びかける。
「何でもお見通しじゃのう」
ハリーとロンが驚いて後ろを振り返ると同時にダンブルドアの声がした。
「ま、なんとなくでそれくらいは分かりますよ。メリークリスマスです」
私はダンブルドアに頭を下げる。
「今日はそなたに言いたいことがあって来たのじゃ。しかし、その様子だとミス・ウェリスはわしが何を言いたいのか分かっているようじゃのう」
確かに原作を一度読んだことのある私は分かっているが、それすらもこの人には気づかれるとは。
「自分の望みに縛られて『今』を無駄にするな、ということでしょうか」
ダンブルドアは微笑みながら言う。
「その通りじゃ。この鏡に引き込まれてしまうのはよくはないじゃろう。三人とも二度とこの鏡を見てはならん」
最後の一言だけ、明らかに重いトーンであった。そこで、本来なら、ハリーが聞くセリフであるが、私が今回は聞いてみることにした。
「ちなみに、ダンブルドア先生では何が映っているのですか?」
「わしか? 自身が靴下をもっている姿じゃのう」
笑顔で彼はそう言ったが、本当にそうだろうか。苦しい人生を過ごしてきた彼には望みですら、映されることは許されていないのではなかろうか。そう思いながら、私は透明マントは中に入り、談話室に引き返したのだった。
side マーティン・ウェリス
ユラナたちがみぞの鏡を発見しているとき、俺は日本の首都東京の渋谷にいた。なぜ俺がそんなところにいるのかというと、父が仕事の都合で向かった場所が東京だったからだ。が、依然として俺は彼が何をしているのかは分からない。息子たちですら、話してはいけない大事なことだという。
という訳で、暇になった俺は人生初(この身体では)の東京観光をすることになったのだ。
どこに行くのか考えたとき、俺には忘れてはいけない重要な場所がある。ハリーポッターの世界に行くきっかけとなった車の暴走事故が起きた、ビルのところである。それと自分が向き合ったとき、どのような感情を抱くのか気になっていた。
もちろん、今より三十年近く先のことなので事故の面影すら感じることはないだろう。しかし、なぜか俺がそのようなことを気にしているのか、それも知りたかった。
事故が起きた現場にはもちろん、何も起こっていなかった。俺たちが当時行った建物は残ってはいたが、すべてが三十年後とは違う。そんな風に思っていた。それなのに、それなのに……。
俺の目からは涙がこぼれていた。
自分に何が起こっているのか理解できない。確かに、ハリーポッターの世界に転生した直後は悲しみを抱いていた。それでも、その感情も十年経った今では落ち着いてきたはずなのに。この感情は何なのか。ありきたりの言葉を使っては説明できない気がした。
そんな感情の所以を探しているうちにどういうわけだか、俺は座り込んで泣き崩れてしまっていた。誰か教えてほしい。この感情の答えは何なのか。それを求めるかのように俺は座り込んで泣き続けた。
「……あの、大丈夫ですか?」
若い女性の声が聞こえた。俺は涙でぐちゃぐちゃになった顔を持ち上げる。初対面の人にこんな泣き顔見せるとか、恥ずかしい以外の何物でもない。
「ごめんなさい、大丈夫です。どうして……」
俺が言うと、彼女はハンカチを手渡して恥ずかしそうに言った。
「突然すみません。でも、なぜだか私の愛した人に雰囲気が似てるような気がしたので」
俺は涙を拭って、彼女の顔を見た瞬間、目を見開くことになった。その彼女は俺が前世で見た顔にそっくりであったからだ。
久しぶり過ぎて下手くそですね。ごめんなさい。今年も皆様が楽しんでいただけるような作品を作っていきたいと思います。感想や評価などの応援もどうかよろしくお願いいたします。
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禁じられた森と罰則~メタい決意~
side ユラナ・ウェリス
クリスマスが過ぎて、ハリーたちは賢者の石について調べ始めた。ハグリットがうっかりこぼしてしまったそうだ。口が軽すぎるにも程があるなぁ。
お兄ちゃんの方はクリスマスにあったことについては何一つ教えてくれなかった。念話呪文を使っても開心術を使っても無意味だ。そこまでしても隠したいことなのだろうか。
賢者の石に関しては三人なら勝手に答えを見つけ出せるはずだから、そんなに気にしてない。ということで、私は三人の魔力増強と自身のオリジナル呪文の作成に集中することにした。その甲斐もあってか、三人ともついに武装解除呪文はマスターできていた。
そして、どういうわけだか、私たち五人はハグリットの小屋の中にいた。
「さあ、よーく見ちょれ……孵るぞ!」
違法なはずのドラゴンの出産に立ち会っていた。というかこれがきっかけで全員罰則を受けたんじゃなかったっけ。
私とお兄ちゃんだけ、三人がハグリットに対してホグワーツで飼わないように必死の説得を行っているうちに、こっそり抜け出すことにした。あのときは三人だからどうにかなったけど、五人同時に大量減点されたら、下手したらマイナスになるんじゃない?
(ねぇ、お兄ちゃんどうするの? このままだと確かマルフォイも巻き込まれるはずだけど)
(大丈夫だ。すでに交渉済みだ。金で買収して外に出るなと言っておいた)
(うわー、やることがゲスいな、この人)
(ま、どっちにしろ見つかると思うけどな)
お兄ちゃんの予言通り、三人はバレて150 点の大量減点を食らうことになった。
糸も簡単にフィルチに見つかってしまったらしい。
その結果、他寮からの大ブーイングを受けると思ったが、思ったよりそれは少なかった。お兄ちゃんがまたしても裏で手を回したらしい。
「本当にごめんね。見殺しにしちゃって」
禁じられた森への罰則を受ける直前に私たちは再度謝った。
「気にしなくていいよ。寮のことを考えてだろ?」
と言ったのはロンである。
「そうだけど、申し訳ないね。ということで、ハリー、透明マント貸して?」
ハリーは驚いて私を見る。
「禁じられた森で何が起こるか分からないし、私としてもまだ申し訳ない気持ちはあるから、後ろからこっそりついていこうと思うの」
「いいけど……気をつけてね」
ハリーがそう言ったので、私は頷いて、透明マントを頂いた。そして、罰則が始まった。
(お前も来る必要あったか? 俺だけでよかったんじゃね)
(念のためだよ。それに万が一の保険だし)
薄暗い森の中を兄妹で透明マントの中に入った状態で歩きながら言う。
その後、分かれ道にさしかかったところで、ハリーは一人でヴォルデモートがいるであろうところに向かうと言った。彼自身、私たちが後ろからついていくのにも気づいているはずだ。
しばらく歩いたところで、ユニコーンの死骸があった。一度映画で見てるけど、実物はやっぱりグロいなぁ。
そう思った直後、ユニコーンの後ろから黒い影が現れた。まがうことなきヴォルデモートである。私とお兄ちゃんは透明マントを脱ぎ、叫んだ。
「エクスペリアームス!(武装解除せよ!)」
当たったかと思ってみるが、防がれたみたいだ。ハリーは驚いて腰を抜かしてしまっている。それもそのはずである。この男の殺気は伊達ではない。
(どうする、お兄ちゃん。奇襲がバレてたし、このままだとジリ貧だと思うけど)
(しょうがない、ハリーだけ守ることにするか。ここでカタをつけたかったんだがなぁ)
そう思ったところで蹄の音が聞こえてきた。恐らくケンタウルスが来てくれたのだろう。私とお兄ちゃんは急いで透明マントに潜り込んだ。
ケンタウルスがヴォルデモートを追い払ったあと、しばらくしてハグリットたちが来てくれた。もう少しタイミングが早かったら、皆殺しにされてたかもだから、このタイミングでよかった。
帰りながら、ハリーが聞いてきた。
「ねぇ、さっきのって……」
それに答えたのはお兄ちゃんだ。
「よく分からないまま攻撃したが、恐らくヴォルデモートだろうな。ケンタウルスが来てくれて助かった」
「でも、ヴォルデモートがあんなところに……」
「あくまでも予想だよ。どっちにしろ、あのままだったら殺されてただろうな」
「二人でも無理なの?」
と聞くのはハーマイオニー。
「しばらく足止めすることぐらいはできるだろうけど、倒すのは無理だよ」
(倒すのはハリーの仕事だし)
(確かにそうだな)
でも、私は内心怒っていた。誰にか。ヴォルデモートにである。私の可愛い大事なハリーにケガを負わせようとしたのだから。今度会ったら、ただじゃおかない。
呆れたような表情で四人が私を見てきた。
「え? どうしたの?」
答えたのはお兄ちゃんだ。
「心の声のつもりなんだろうが、丸聞こえだったぞ……」
恥ずかしい。まあ、実際その通りなんだけどね。とりま、ヴォルデモートは次会ったら、ぶっ殺す。私はそう今度こそ心の中で呟いた。
(無茶はするなよ。お前がケガしたら困る。ヴォルデモートのことだから、ケガで済むとも思えないが)
(分かってるってば。あと、お兄ちゃんには悪いけど、四階の廊下には私一人で行っていい?)
(どういうつもりだ? 死ににいくのか?)
(違うの。もちろんハリーたちには来てもらうよ。それまでの罠は一人じゃ無理だろうからね。だけど、私一人でヴォルデモート相手にどこまで通じるか、試したいの)
お兄ちゃんは真剣な眼差しで答えた。
(ダメだ。何かあったら、どうする)
(大丈夫、私、失敗しないので。なんちゃって)
(お前、前世のネタを拾ってくんなよ。著作権的に危ないだろうが)
(お兄ちゃん、それ以上はメタいからダメだよ)
(ま、いいや。そこまで自信があるのなら生きて帰ってこい)
私たちが小さく微笑み合ったときには寮の前に着いていた。今年最後の決戦のときが着々と近づいてきた。
(やめろ。そのフリはダサい。もうちょいマシなのにしろ)
(やっぱりダサいかな。カッコつけてみたつもりだけど)
今回はここまでです。次回から賢者の石の最終章になるかと思います。下手くそな作品ですが、どうかよろしくお願いいたします。感想、評価がいただけたら非常に嬉しいです。ぜひお書きください
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仕掛けられた罠~本気の大勝負~
side ユラナ・ウェリス
季節は移り変わり、冬が完全に明け、春の日差しがホグワーツを照らしていた。しかし、生徒の表情は悲痛なものへと移り変わっていく。そう、時代や世界線が変わろうと学生の大敵である、学期末試験が待ち構えているのである。
私とお兄ちゃんはチート能力のおかげで勉強する気など毛頭ないが、周りはそうはいかない。初めて受けるテストに万全の準備をしている。ウィーズリーの双子ですら、大人しく勉強し始める始末だ。
特にハーマイオニーはそんな顔色の変わった周囲が引くぐらい必死である。私が抱きつきにいっても簡単に避けられてしまった。
しかし、緊張感のまるでない私でも試験は想像以上に簡単だった。最終日など余裕で解き終えて、軽く眠っていたら、起こされたのは試験が終わって15分後だった。
「お兄ちゃん、ハリーたちは?」
「ハグリッドのところに行ったみたいだぞ。つか、お前試験中に寝るとか緊張感なさすぎじゃね?」
「あー、ハーマイオニーの寝顔見てたら、朝の3時になってて……」
私がうつむきながら言うと、
「いや、普通にキモいわ。お兄ちゃん、お前が間違った道に進まないか、心配だよ……」
ドン引きしながら答えてきた。本人にはバレないように気をつけよう。
そんなこと言い合っているとハリーたちが戻ってきた。
「おかえりー。どうするの?」
「ユラナ、おはよう。ダンブルドアが今日はいない。スネイプが石を狙うなら今日だ」
ハリーが真剣な眼差しで言う。私が寝てる間に、そこまでしてたのね。
「あのね、ハリー……」
「こんなところで悪だくみかね?」
私が真実を言おうとしたときである。後ろに立っていたのはスネイプ先生本人であった。
「なんでもありません。スネイプ先生」
笑顔で答えたのはお兄ちゃんだ。
「なら、こんな天気のいい日は外に出てはいかがかね? これ以上グリフィンドールの点が引かれる訳にはいかないだろう?」
そう、軽く言って去っていった。その後ろ姿に声をかけたのは、お兄ちゃんである。
「スネイプ先生!」
ちらりとこちらを振り返る。
「今夜時間、ありますか?」
スネイプ先生は小さく頷いて今度こそ去って行った。
(お兄ちゃん、どしたの?)
(ちょっと話したいことがあってな)
お兄ちゃんの表情からは何一つ読み取れない。私は彼が何をするつもりなのか考えながら、決戦のときを待つことにした。
9時ぐらいに私はハーマイオニーに呼ばれて薄暗い談話室に降りた。すでにハリーとロンは準備万全である。
が、ネビルがそこで道を塞いできた。
「僕、僕……君たちと戦う!」
確かに、これ以上グリフィンドールの点が引かれるのはまずい。私も逆の立場なら必死になって止めたかもしれない。
「バカ言うな!」
「これ以上規則を破っちゃならない!」
なまじ言っていることが正論だから、誰一人反論できない。三人が困った表情で私を見る。
「ネビル、本当にごめんなさい」
私は小さく謝って全身金縛りの呪いをかけた。だって三人からあんな目で見られたら断れないじゃん。
その後、軽い妨害などがありながらもどうにか四階の廊下にたどり着くことができた。
「ねぇ、三人とも、僕の透明マントを預けるから、戻ってもいいんだよ?」
ハリーが三頭犬がいる部屋の扉の前で言う。
「ここまで来たら行くしかないだろ」
とロン。
「ええ。こうなったら、一蓮托生よ」
とハーマイオニー。
なんか死ぬみたいなフラグ立てまくりの空気だったので、わざと明るく、
「お姉ちゃんにまっかせなさい!」
と言ってみた。すると、三人はクスクス笑っていた。そして、ハリーがドアを開ける。
勢いよく襲ってきた三頭犬に対して、私が失神術を放つとズルズルと彼は倒れてしまった。
なんか、三人がヤバいものを見る目で見てきてる気がする……。
隠し扉をくぐって落ちた先には悪魔の罠が待ち受けていた。案の定、動く縄が襲ってきた。
対処法をわきまえてるから、いいけど、これ結構恥ずかしいなぁ。私、縛りプレイは受け入れてないし。
私が早々に落ちていき、三人の絶望の色が濃くなる。しばらくすると、対処法を閃いたハーマイオニーが炎を出してどうにかなったが。
そして待ち受けていたのは、羽のついた鍵である。ここはグリフィンドールのシーカーであるハリーが簡単に鍵を掴んで終了。動くチェスのある部屋に向かった。
正直、チェスに関してはロン以外、下手くそだから、ロンに任せるしかないか。そう思いながら、私たちは挑むことになった。
駒が動くにつれてロンは険しい顔になる。
「……詰みが近い。僕が取られるしかない……」
ロンが唸る。
「それは、ダメ!」
とハーマイオニー。するとロンは、
「これはチェスだ。誰かが犠牲にならなくちゃ勝てないんだ!」
と答えた。そしてしばらくして実際にその通りになってしまった。
激しくロンが殴られる。ハーマイオニーが痛々しい悲鳴を挙げた。私だってこうなることは分かっていたけど泣きたい。咄嗟に地面を柔らかくしたが、ロンは気を失ってしまった。
その後、ハリーがチェックメイトをかけ、どうにか勝利。私たちは次の部屋へと進むことができた。
そこで待ち受けていたのは、気を失ったトロール三匹。原作では一匹だったよね。と思いながら、通り抜けていると、あと少しで次の部屋へと進む扉に着くというところで、低い唸り声が響いた。
トロール三匹が一斉に起きたのだ。彼らはすぐさま私たちに襲いかかる。
「ハリー、ハーマイオニー、先に行って! ここは私がなんとかするから!」
「ダメだよ、ユラナ!」
とハリー。
「師匠を、お姉ちゃんを信じなさい! 大丈夫だから!」
そう言って、二人を次の部屋にねじ込む。次の魔法のパズルはハーマイオニーの頭脳があれば、どうにかなるだろう。
(ふーん、ここが私の仕事場って訳ね)
そう思いながら、杖を取り出し、十八番の呪文を唱える。
「フルプレント(分身せよ)」
この姿は普通の人なら三人の自分をコントロールしなくてはならないため、体力的にもかなりきついが、スタミナには自信がある。私は久しぶりの本気の勝負にほくそ笑み、トロールに向かって行った。
前回よりかは少し短くなってしまいました。賢者の石編はあと少し続きます。よろしくお願いします。感想、評価も募集中です。
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1年目の終わり~新たなる始まり~
side マーティン・ウェリス
ハリーたちが仕掛けられた罠と格闘しているとき、俺は地下のスネイプ先生の研究室にいた。原作通りにいけば、ハリーたちが殺されることはないだろうし、不確定要素があったとしても、我が妹のユラナならどうにかできるだろう。
「こんな夜遅くに何の用だ、ミスターウェリス」
彼の研究室に着いて、椅子に腰かけるとスネイプ先生は聞いてきた。
「そうですね。まずは一つお礼を言わせていただきたい。ハリーを助けて下さりありがとうございます」
俺が言うと、スネイプ先生は眉をひそめた。
「助けた、だと? 我輩はあやつを助けてなどおらんが……」
俺は彼の言葉を小さく微笑みながら遮る。
「ご冗談を。クィレルの呪文からハリーを救ったのはあなたに他ならないでしょう?
そう思っているのは、多分俺と妹だけでしょうけど」
「だとしてもそのような下らないことを言うためだけに、我輩の貴重な時間を奪おうというのなら、成績のいい貴様であっても容赦なく罰則を与えなければならんだろうな」
その声に頷いて俺は続ける。
「もちろん、そのためだけに来たのではございません。あくまでもそれは前置きというものです。今日は先生に一つ提案をしに参ったのです」
「提案?」
「はい。先生、ヴォルデモートを裏切って我々、いや我が父の陣営に来てくれませんか?」
スネイプ先生は黙って俺をしばらく見て言った。
「我輩は闇の帝王の配下ではない。そもそも闇の帝王はもういない」
「いますよ。先生なら気づいておりますでしょう? どこにいるのかを」
「だとしても、なぜブライアン・ウェリスが我輩を必要とする?」
「父は魔法戦士としての腕は優秀です。しかし、先生のように魔法薬に優れた人物も求めておられるのだと思います」
というのも、俺自身、父がなぜスネイプ先生を必要とするのかは正直分からない。だが、その狙いは今言ったこととは別にあるのだろう。
俺はスネイプ先生が反論する前に続ける。
「俺のこの提案は何の強制力ももちません。ですから、すぐに結論を出さずに、とりあえず頭の片隅にでも置いといていただければ嬉しいです。いつか先生の気持ちがはっきりした際にまた同じ質問をさせていただきます。それでは夜分遅くに失礼しました」
俺が立ち去ろうとすると、先生は声をかけてきた。
「待て、何故今そのようなことを?」
俺はドアに手をかけながら答えた。
「ブライアン・ウェリスの差し金と言えば十分でしょう?」
そう言って、彼の反論を待たずに、その場を後にした。交渉は完璧にはうまくいかなかった。それでも、悪い結果という訳でもないだろう。相手にこちらの存在に意識を向ける。それだけでもできたのだからファーストステップとしては成功だ。そんなことを考えながら、俺は静かに四階の廊下に向かった。
三頭犬と悪魔の罠を通り抜け、魔法の鍵を捕まえ、ドアを開けると、ぐったり倒れたロンがいた。ケガはしているが、脈はある。
「大丈夫か、ロン」
答えないとは思っていたが、俺は呼んでみる。
「……ううん。マーティン?」
彼はぼんやり目を開けた。
「おう。良かった。すまんが、もう少し待ってもらえるか? ハーマイオニーを呼ぶから、彼女が来てくれるまで」
ロンが頷いてくれたので、俺も答えた。
「ありがとうな。わざわざケガしてまで、みんなを先に進めてくれて」
俺は軽く頭を撫でて、その場を後にした。ドアを開ければハーマイオニーがいるはずだ。そのつもりだったが、先にあったのは恐ろしい光景だった。
トロールであろう肉片が辺りに積まれているのである。
「……なんじゃこりゃあ」
このグロテスクな光景に俺は思わず息を呑んだ。その肉片の上にいたのは、一人の少女であった。
俺の妹、ユラナ・ウェリスである。
「おい、そこの馬鹿力。さっさと降りてこい」
俺は声をかけた。俺に気づいたユラナが降りてきた。
「どしたの、お兄ちゃん」
「どしたの、じゃねぇよ。何だよ、こりゃ」
「いや、だってハリーとハーマイオニーを攻撃しようとしてきたから、完全に叩きのめさしてもらったわ」
ユラナは平然と言う。こいつのロリコン、ショタコンは本格的にヤバいな。
「だからといって、これはやり過ぎ……」
そう言ったところで、ユラナはフラフラとこちらに倒れかかってきた。
「おい、大丈夫か。しっかりしろ」
頬を軽く叩くと、
「……唐揚げ弁当……」
などとおかしなことを言ってきた。寝言がこれとか本当に変な妹だ。
とりあえず、眠ってしまったユラナを担いでドアを開けた。それと同時にハーマイオニーの声が響く。
「ユラナ、大丈夫! って、マーティン?」
「落ち着け、ハーマイオニー。ユラナは無事だ。疲れて寝ちまってるけどな。それよりか、ロンのところ行ってくれ。ケガしてるはずだから」
「でも、この先には行けないわよ」
炎の壁を指差して言う。
「大丈夫だ。恐らく右端のビンの中にこれをくぐれる薬があるだろう?」
「どうして分かるの?」
内容を覚えてると言う訳にはいかないので、とりあえず、
「俺の野生の勘はけっこう当たるんだよ。妹を任せていいか?」
腹の中が少し冷え冷えとするような薬を飲み、俺は聞いた。
「それはいいけど……。気をつけてね」
俺はハーマイオニーに軽く手を振って炎の中に向かった。ユラナとしては愛しのハーマイオニーに抱かれて眠っているのだから天国に違いない。
さて、俺は先を突き進み、みぞの鏡のある部屋へとたどり着いた。が、すでにクィレル(ヴォルデモート)の姿はなく、気を失ったハリーが倒れていた。
「……もう終わってたか」
俺はハリーの横に座り込んで呟いた。まあ、今晩ヴォルデモートと一戦交える気はなかったが。そう思ったところで後ろから気配がした。
「……校長先生。見廻りお疲れさまです」
「妹も気づいておったが、そなたもか。ウェリス兄妹は勘がよいのう」
何か楽しむかのように現れたのはダンブルドアである。
「……お褒めに預かり恐縮ですよ。ハリーを連れて帰ってもらえますか?」
「もちろんじゃ。そのつもりできたからのう。そなたはどうするのじゃ?」
「俺はしばらくここで物思いに耽っていようと思います。それではおやすみなさい」
「気をつけて帰るのじゃぞ。それではおやすみ」
そうしてダンブルドアが去ったあと、俺はその場を動かず、揺らめく炎を眺め続けた。
side ユラナ・ウェリス
私が目を覚ましたのは医務室で、すでにすべてが終わったあとだった。傷だらけとなったハリーとともにベッドに寝かされていた。
「ようやく起きたか、寝坊助姫め」
「おはよう、ユラナ!」
お兄ちゃんが呆れた声でハリーが嬉しそうに言う。
「おはよう、二人とも。ごめんね、心配かけて」
「本当に無鉄砲なことはするなよ。それより、凄い量だな。お前、慕われてるなぁ」
私の足元には大量の見舞いの品が置いてあった。生き残った男の子として有名なハリーへの献上品よりも多いほどである。全校生徒が私の見舞いに来てくれたのではないだろうか。これじゃおちおちケガもできないなぁ。
「で、私は何をしたの?」
「覚えてないのか?」
「うん。トロールの部屋に入ったあと、その次の部屋にハリーとハーマイオニーを押し込んだところまでしか覚えてない。もしかして、私やられちゃった?」
私が言うとお兄ちゃんはため息をついて答えた。
「逆だよ。お前がトロールをバラバラにしたんだ」
「バラバラ? ボコボコではなくてバラバラ?」
「ああ。校内では伏せられてるが、お前はどうやったのか分からんが、トロールを文字通り肉片にしてたぞ。めちゃくちゃグロかった」
あのお兄ちゃんがビビるとか相当ヤバかったんだろうなぁ。私は少しやり過ぎたことに反省しつつ学期末のパーティーに向かった。
その後はハリー、ハーマイオニー、ロン、ネビル、そして私がグリフィンドールに大きな加点をしたことにより寮杯を獲得することに成功した。この辺りは原作通りなので言うまでもないだろう。大歓声の中の三人組の笑顔は一際輝いて見えた。
家への帰り支度を行っていると、お兄ちゃんが聞いてきた。
(一年間お疲れさま。よく頑張ったな、ユラナ)
(あら、珍しく素直に褒めてくれるのね)
(まあな。けど、お前、他所のネタ使いすぎだ。著作権的に何か言われても文句いえないぜ)
(誰が言うのよ、そんなん。で、今後はどうするの?)
(今後?)
(次は秘密の部屋よ。私たちもするべきことが山積みでしょ?)
(そうだなぁ。でも、俺たちが下手に手を出しても拗れるだけだからな。万が一のときだけ手を貸すということでどうだ?)
(オーケー。お兄ちゃんも頑張り過ぎないようにね)
(おう。ぶっちゃけ俺は自分にとって面倒臭いことはなるべくやらんようにしてるから大丈夫だと思うけどな)
お兄ちゃんはこう言ってるみたいだけど、なんだかんだ私たちは三人組に巻き込まれることになると思う。あの子たちめちゃくちゃ可愛いし、危なっかしいところ見てると、守ってあげたくなってしまう。にしてもホグワーツってロリコンとショタコン拗らせてる私にとっては天国だわ。食べちゃいたいくらい可愛いってまさにこのことを言うんだろうなぁ。あぁ、一日中ナデナデしてあげたい。
そんなことを考えていると、お兄ちゃんは気持ち悪いモノを見るような目で私を見てきた。失礼な。可愛いものを可愛いと言って何が悪い。あと、私は前世ネタはやめる気はまったくない。
そうしているうちに私たちは汽車に乗り込んで、マグルの世界へと戻っていくのだった。
読んでくださりありがとうございました。秘密の部屋編も随時投稿していきたいと思います。コメント、評価、お気に入り登録よろしくお願いします。
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秘密の部屋編
2年目の開始~まさかのタイミング~
序盤はオリジナル展開になります。つまらないと思う方もいるかと思いますが、ぜひご覧ください
side ユラナ・ウェリス
「お兄ちゃん、なんで私はこんなところにいるのかな?」
夏休みのある日、私とお兄ちゃんはどういうわけだか、東京都内の料亭にいた。私が進んでわざわざ日本にくる訳もない。お兄ちゃんと父さんが私が眠っている間に運んだらしい。有り体にいう拉致である。
「まあまあ落ち着けよ。今日はお前に会わせたい人がいるんだよ」
「だとしても、今である必要あった? 今ハリーがどれだけ辛い状態か分かってる? 一刻も早く助けに行くべきなんじゃないの?」
二年生の夏休み、ハリーは学校に戻らせようとしないドビーの策略により、自分の部屋に監禁され餓死寸前になっているはずだ。
「分かってる。ハリーの救出はロンと双子がしてくれるはずだ。心配するな」
だとしても納得はできない。私からしてみれば自分たちがのうのうと暮らしているのは許し難い。
「そんなに睨むなよ。この鱧、うまいぞ。お前も食えよ」
「もういい、帰らしてもらうわ」
私がそう言って立ち上がろうとしたときだった。不意にふすまが開いた。
「遅れてすみません。マーティンさん」
その人を見た瞬間、私は座らざるをえなかった。自分の内面を刺激される何かを感じてしまったからだ。確証はないが、自分の前世と関わりがあった人物ではないだろうか。
「いや、大丈夫だよ。これが妹のユラナだ」
「はじめまして、ユラナさん。鈴野舞子と申します」
やっぱり自分の勘は当たっていた。
(ねぇ、お兄ちゃん、この人って……)
(お前も気づいたか。そりゃそうだな。この人は俺たちの本当の母親、後の佐川舞子なんだからな)
(やっぱり……。でも、どうやって?)
お兄ちゃんがその質問に答えようとしたときだった。
「あの……ユラナさんも魔法使いなんですか?」
鈴野舞子が聞いてきた。
「ええ、まあ……。お兄ちゃん、もしかして話したの?」
「まあな。マグルと話す上で避けられないだろ。そうだよ。ユラナも魔法使いだ」
このマグルはどの程度知っているのか。そもそもマグルに魔法使いのことはあまり知られるべきではないのでなかろうか。
「ただ、彼女は魔法使いではない。そんな彼女と話す上で欠かせない人物も呼んできた」
その声とともにふすまが再び開いた。
「はじめまして。お呼びに預かりました秋野裕介と申します」
20代くらいの若い青年が穏やかな笑みを浮かべて入ってきた。だが、その笑みとは裏腹にどこか強そうな雰囲気があった。
「彼は?」
「日本魔法界のエースだよ。俺が舞子さんと話せるのもすべて秋野さんのおかげだ」
「褒めすぎだよ、マーティン。君は妹のユラナさんだったよね。よろしく」
私は困惑しながら差し出された手を握った。
「お兄ちゃん、この人は舞子さんとなんの関係があるの?」
「それを含めて今から説明するよ」
お兄ちゃんは何があったのかを話し始めた。
side マーティン・ウェリス
去年のクリスマス、俺が日本に行ったのは皆さんご存知のことだろう。そして、俺が泣いているときに出会った女の子が俺の本物の母親、鈴野舞子であることは気づいている人も多いと思う。
しかし、それが分かったところで魔法使いとマグルが関わるべきではない。本来ならそんなルールはもちろんないが、なんとなく彼女といたら魔法のことをいろいろ教えたくなって、いずれとんでもないことをしでかしてしまいそうな気がしたからだ。
彼女は俺に住所を書いたメモだけを渡してくれた。見知らぬ人にそんな個人情報を渡すべきではないと思ったが、俺は悪用する気もないので、ありがたくいただいておいた。
舞子と別れた後、俺は父に連れられて、日本の魔法界の本部に向かった。イギリスでいう魔法省にあたるものだ。マグルにバレる訳にはいかないらしく、こちらも地下にあるようだ。
「ブライアンさん、わざわざありがとうございます」
現れたのは秋野裕介だ。
「いつも悪いな。大臣に話があるから、案内してくれるか?」
秋野は頷き、父を奥へと通していった。俺はロビーの椅子に座ってぼんやりすることにした。
舞子と出会ったことは魔法使いである自分に影響を与えるのだろうか。マグルの彼女を危険な目には逢わせたくない。彼女もやがて、結婚して子供が生まれたりするのだろう。そのときの子供は元の自分である、佐川裕一や葵になるんだろうか。そして、万が一それに出会ってしまったら、自分に何が起きるのであろうか。
「いろいろとお考えのようですね」
後ろから声をかけられた。
「秋野さん?」
「はい。秋野裕介と申します。何か迷っていることがあるのなら私が相談に乗りますよ、マーティンさん」
穏やかな笑みを浮かべて彼は言う。
「マグルと魔法使いが人と関わりをもつべきではないのでしょうか」
「人によりますね。しかし、それが鈴野舞子なら関係はもってもらいたいものです」
俺は驚かざるを得なかった。
「……どうして、あなたがその名前をっ」
「鈴野舞子は我々にとってある意味キーマンなんですよ」
「キーマン?」
「ええ。日本の魔法界は今、私たちのように西洋の魔法を主体とする流派と日本古来の神道を主体とする流派に分かれています。神道というのは古くから神社や寺で式神等を用いて祈祷を行うものです。しかし、古くからあるものは新しいものを憎らしく思うのでしょう。我々は普段から目の敵にされているのです」
「それと舞子のなんの関係が?」
「鈴野舞子はその総本家の神社の娘なんですよ。要するに、神道における姫みたいなものです。本人には自覚はありませんが。我々は彼女を中心に神道と手を組みたいんです。今、世界ではイギリスのヴォルデモートが復活するとされています。それに呼応するものも多くいることでしょう。そんな状況で国内でいがみ合いしている暇はない。という訳で、どうにか鈴野舞子を取り込みたいのです」
「……分かりました。彼女の住所です。その代わり一つ頼みがあります」
俺はメモを渡して言う。
「何なりと」
「俺と彼女のやり取りの仲立ちをしていただきたいのです。俺がマグルに魔法界の情報を横流ししているなら、こちらの魔法省に咎められるかもしれません。しかし、あなたと文通しているという体なら問題ないでしょう」
「分かりました。もちろんしましょう。しかし、なぜあなたは彼女と連絡をとりたいのですか? それだけ教えてもらえますか?」
それを言うことは俺の正体がバレることに近い。さすがに教えるべきではないだろう。
「まあ、今は言えないこともあるでしょうね。手紙の件は承りました。お任せください」
そう言って彼は去っていった。どうにか俺は本物の母親と繋がりをもつことに成功した。
side ユラナ・ウェリス
「という訳だよ。納得してくれたかい?」
お兄ちゃんはそう締めくくった。
「とりあえずはね。お兄ちゃんは舞子さんに何を話したの?」
「俺も魔法のことを完璧に知っているわけではないし、ホグワーツがどんなところか、俺と仲のいいやつらはどんな感じかっていうところだな」
舞子さんは嬉しそうに頷いた。
「マーティンさんのお話はいつもとても面白いです。私も彼らに会いたいものです」
「そう。舞子さんには申し訳ないけど、私はそろそろ帰るわ。今がどういう状況か分かっているでしょう?」
私は立ち上がる。
「落ち着けよ。ハリーは大丈夫さ」
「別に止めてもいいわよ。勝手に行くから」
「いや、しかしな……」
何かを言おうとするお兄ちゃんを押し退けて、私はふすまを開ける。舞子さんは困惑した表情、秋野裕介はなぜかニヤニヤ笑っていた。
私は料亭のトイレに入り、姿眩ましした。行き先はウィーズリー家、つまり隠れ穴である。
長距離の姿眩ましでかなりの魔力を使いながらもどうにか家の前にたどり着いた。
そして家のベルを押そうとした。しかし、押す前にドアが開いた。
現れたのは、ウィーズリーおばさんかと思いきや違った。なんとウィーズリー兄弟の三人、ロン、フレッド、ジョージだった。三人とも驚きの表情を浮かべている。
「ど、どうして、ユラナがここに……」
それを抑えたのは、フレッドである。いや、ジョージか? 分からないから、どっちでもいいや。
「おっと、その話はまた後でだ。まずはハリーを迎えにいくんだろ? なあユラナ、お前もどうだ?」
磯野ー、野球しようぜー的な感覚で誘ってくるもんだから、思わず吹いてしまった。そんな軽く誘ってるけど、一応犯罪なんだけどなぁ……。
「いいよ、君たちだけだと心配だし。いや一番ハリーが心配なんだけどね」
なるほど、そうきたか。このタイミングで移動してしまったかぁ。そう思い、苦笑いしながら、改造された空飛ぶ車に私はウィーズリー兄弟とともに乗り込むことになった。
今回はここまでです。読んでいただきありがとうございました。評価やコメント、よろしくお願いします
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ハリー救出大作戦~耳元で聞こえる謎の声~
side ユラナ・ウェリス
空飛ぶ車に乗って、イギリスの空を飛行していると、
「ねぇ、ユラナ。今までどこにいたんだい?」
とロンが聞いてきた。
「もしかして、心配かけてた? だったらごめんね。日本の東京というところにいたのよ」
「旅行?」
お兄ちゃんに拉致されたとか言ったら、ドン引きされるだろうなぁ。一応お兄ちゃんの名誉のためにも嘘ついとこう。というか、拉致されたのにこんなにすぐ許しちゃうとか私も大概ブラコンだなぁ。
「まあそんなとこ。けっこう忙しくてお土産とか忘れてた。ごめんね」
「ううん。気にしなくていいよ。それより東京ってどんなところなの?」
それを言われると説明しにくいなぁ。なんかマグルの世界はごちゃごちゃしていて、魔法界は二分されていたぐらいしか正直分からないし。
「東京についてはまた今度ね。それよりハリーは大丈夫なの?」
私が言うと、フレッドが小さく笑った。
「大丈夫かどうか分からないから、迎えに行くのさ。俺たちのことは心配するな」
まあね。実年齢29の大人もいることだし、そこまで心配しなくてもいいかも。でも、いざ魔法省にバレたときにいくら渡せば黙ってくれるかな。
腹黒いことを考えていると、ハリーの家が近づいてきた。この家で虐待されてるとなるとちょっと私も実力行使したくなっちゃうなぁ。
車を近づけて窓に寄せる。あと少しでハリーは救える。しかし、彼を助けようとする前にダーズリー一家が起きてしまうだろう。けど、そこまでは想定内。問題はハリーと荷物を載せてしまったら、この車は人数的な限界がきてしまう。そうなったときはどうすればいいだろうか。
そんなことを考えていると、ロンとジョージがハリーの寝室に入って、荷物の搬入をし始めた。
「ユラナ!?」
「やっほー、ハリー。久しぶりだねー」
私もハリーの部屋に入って荷物を片付ける。さてと、私はどのタイミングで離脱しようかなぁ。
(ハリーポッターか。美味しそうな獲物だなぁ)
今まで聞いたことのない若い男の声が耳元で響いた。周りを見るが、誰もそんなことを話した様子はない。というか、実際のところダーズリーが起きてしまうため、大きな声は出せないのだ。
だとすればこの声はどこから……
(分からないかなぁ。上だよ上。まあ、こちらは忙しくないから、ゆっくりしてもらって構わないよ。……ま、最終的にはすべていただくけど)
上……。上空にいるのか……。何者なんだろうか。
「どうしたの、ユラナ。急がないと、ダーズリーが起きちゃうよ?」
とハリーが言い、私は我に返る。
「あー。ちょっと言いにくいことなんだけど、ちょっと急にやるべきことを思い出した。だから、悪いけど、ここで離脱させてもらうよ」
「離脱?」
「うん。どちらにせよ、あの車に五人は入らない。ちょっと早いとこ片付けたい用事がね……」
私が言うと、鷹揚にジョージが言う。
「オッケー分かった。じゃあ、ここは俺たちに任せとけよ」
それに頷き、私はハンドバッグから小さな羽を取り出す。この羽は食べると背中に羽が生えて、自在に飛び回れるようになるという箒いらずの便利グッズだ。ちなみに、製作者は私の母である(母は父の秘書官をすると同時に魔法の便利グッズの製作にも携わっているのだ)。その代わり少し魔力を吸われることになるのだが、魔力的にタフな私にはそんなことは関係ない。
「うん。分かった。もうすぐダーズリーが起きてくると思うから、急いでね。それじゃ、新学期にまたね」
私は小さく手を振って、窓枠から外に出る。小さな羽を羽ばたかせて私は上空に向かう。どんな相手だろうと私たちに危害を加える相手なら関係ない。徹底的に叩きのめすまでだ。
side マーティン・ウェリス
「やれやれ。行ってしまったみたいだね。君にとってはそれは問題ないのかい?」
ユラナがイギリスに戻ってしまった直後、日本の首都東京のとある料亭で食事をしていると、同席している秋野裕介が聞いてきた。
「いや、別に構わないさ。どちらにせよ、鈴野さんをあいつに紹介できただけでも十分ノルマは達成できたさ」
鈴野舞子は申し訳なさそうに答える。
「もしかして怒らせちゃったかな」
「いや、気にしなくてもいい。むしろ、あいつは俺に怒ったんだと思うよ」
俺が答えると、秋野裕介がクスリと笑う。
「確かにそう見えたな。それでなんで俺をここに呼んだのかな?」
「あー。ユラナが暴走したときの万が一の保険として来てもらっただけだ。まあ、話を円滑に進められたから、来てもらって助かったよ」
秋野裕介は苦笑する。
「仕事が終わったからよかったけど、わざわざそんなことで呼び出すとはね。なんとも君は肝が太いね」
「誉められてるように聞こえないな、それ」
俺も笑って答える。
「それで、鈴野さん。今日は何が聞きたい? 魔法のこと? それともホグワーツのこと? それとも俺のこと? あるいは、人生相談? どれであれ、オーケーだよ」
彼女は俺が言うと、口を開く。そんな無邪気に質問してくる彼女は俺が息子として見てきた母親としての姿とどこか重なるように感じられた。
今回は少し短いですが、ここで終了です。次回は謎の声の持ち主が明らかになります。前回からだいぶ時間が空いてしまいましたが、まだまだこの作品は続きます。これからもどうぞよろしくお願いします。
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恐怖の戦い~激痛の中で~
side ユラナ・ウェリス
私が向かった先にいたのは、見たところこれといった特徴のない黒いスーツを着た青年であった。しかし、ラノベやアニメではこういう一見特徴のない男が意外と猛者であったりするものだ。私は気を引き締めて怪しげな男を睨む。
「こんな時間にわざわざ呼びつけるとか、どれほど非常識か分かってる?」
男は薄ら笑いを浮かべて答える。
「自己紹介すらさせてもらえないうちに文句を言うとは、なんとも性格が悪いねぇ。ま、急に呼び出されたならそう思っても仕方ないよね」
その嘲笑うかのような話し方にイライラしながら答える。
「それでは改めて聞かせてもらう。あなたは何者だ」
「今は亡き死神の王の配下である死神の牙だよ。『蝙蝠《こうもり》』とでも呼んでくれ」
「蝙蝠とやらが、私に何の用だ。私はともかくハリーたちに危害を加えるのなら容赦しない。このウェリス家長女ユラナ・ウェリスがしかるべき罰を与えてやる」
そう私が言うと、蝙蝠はさらに笑う。
「その気概はいいねぇ。でも、今の僕が欲しいのはそれじゃなくて、ハリーポッターの力なんだよね」
「なら、なんで今回私を呼びつけた?」
「彼を食べる上で、一番邪魔なモノは片付けておかなくては、と思ってね。ちなみに、なぜ僕がハリーに目をつけたのかというと、あの死の呪いすら掻い潜った愛の力というものに興味が湧いたからさ。ついでに言うなら彼は分霊箱の一つで一度死ぬ状況であっても死なない。なんともすごい能力だ」
「なぜ、それを……」
そうだ。このことは原作をよく知る私とお兄ちゃんしか気づいていないはずだ。ヴォルデモートやダンブルドアですら知り得なかった情報をなぜこいつが持っているのか。
「あくまでそれは僕の予想さ。でも、その様子だと図星みたいだね」
「……どちらにせよ関係ない。彼に手を出すこと、それだけでもう有罪だ。覚悟しろ」
私は分身術を唱え、三人になる。
「……へぇ、面白い魔法を使うんだねぇ。ハリーポッターを食べるのがいいと思っていたけど、まずは君から味見してみるのが面白いかもなぁ」
彼を黙らせようと私は三方向から失神術を放つ。完全な不意打ちで無言呪文であるため、相手は避けられないはずだ。仮に一本避けれたとしても、その先にまた打ち込めばいい。
決まったかと思ったが、その直後の光景に私は目を疑った。
三方向からの失神術を、その赤い閃光をすべて防いでいるのだ。確かに、一本なら盾の呪文で防げるはずだ。しかし、三本とも防ぐことはできない。そもそも私は彼が反応できない死角から放ったからだ。
蝙蝠はニヤリと笑って呟く。
「それにしても乱暴だなぁ。でも、殺しにかかるってことは殺られる覚悟もできてるってことだよね」
それと同時に腕を大きく振った。何か来ると思い、私は上に避けたが、気づいたときには腹部に激痛が走っていた。下腹部はまるで刀で切られたかのようになっていたからだ。その衝撃で分身の二つも消えてしまった。
「……ぐっ、あぁぁ!!」
私は腹部を押さえて激痛に悶える。治癒呪文を唱えるが、自分の魔力切れもあって今一つ効果がない。
「さて、避けられたのはある意味予想外ではあったけど、これより先の地獄を見せてやろうか。ああ、これでこそ死神の牙の真骨頂だ」
蝙蝠が近いて来る。腹部から止めどなく流れ出る血を抑えながら答える。
「……黙れっ! そんなもんに屈してたまるかぁ!」
そして私はさらに失神術をぶつける。これはさっきよりもずっと魔力を込めた一撃だ。
しかし、それすらも簡単に防いでしまう。
「なるほど。確かに、君は面白い。なら、君にチャンスをあげよう。次、僕が攻撃したら、今プラスアルファの地獄を味わうことになるだろう。場合によっては死ぬかもしれない。その苦しい激痛の選択肢と女としての絶望を味わう選択肢、どちらがいい? ちなみに後者の意味は分かってるよね? これもまた徹底的なまでの生き地獄だけどね」
彼は舌なめずりをしながら近づいてくる。さらにいえば、出血が多すぎて意識が遠のいてしまいそうだ。時間稼ぎもできないらしい。なら、ここは撤退するしかない。
「さて、絶望の選択肢のどちらを選ぶか決まったかな」
私は軽く頷き、答える。
「……こんな状況なら、こうするしかないわね!」
その声と同時に指を鳴らして姿眩ましをする。向かう先は最初に思い浮かんだ「隠れ穴」だ。
それと同時に再び彼は攻撃をぶつける。自分が切り裂かれる痛みが走ったが、ここで止まる訳にはいかない。
「本当に面白いね。次会う機会を楽しみにしているよ」
その冷ややかな声が耳元で響いた。
うるさい。こちらからすれば、二度と顔も見たくない。そう思いながら、息絶え絶えになりながらやっとのことで私はウィーズリー家の前の草むらに着地した。
立ち上がろうとしたが、それはできなかった。
「……痛っ!」
腹部だけでなく、右肩から左腰にかけてを大きく抉られていたからだ。
ここまで来て死ぬのか。私は這いつくばりながら思う。
いや、こんなところで死ぬ訳にはいかない。どこぞの団長さんだって部下に見守られながら、止まるんじゃねぇぞと遺言を言って死んだんだ。このまま何も残さないまま死んでたまるか。というか、どうせなら皆に見守られながら、人差し指を突き立てて倒れて、止まるんじゃねぇぞと言いながら死にたい。
そんな下らないことを考える余裕があるならまだかろうじて大丈夫だ。そう思っていると、後ろから車の音が聞こえてきた。ハリーたちが乗っている空飛ぶ車の音だ。
私はゆっくり這いつくばって、邪魔にならない位置に移動する。
「……ユラナ!」
車から降りてボロボロになった私の姿を見て、ハリーたちが驚く。その姿を見て私は思わず胸を撫で下ろす。いや、だいぶ抉られているから撫で下ろす胸も消えつつあるけど。まぁ貧乳はステータスと言うし、セーフセーフ。
「……ハリー、やられちゃった。てか、眠い。マジで眠い」
細々とした声で私は呟く。皆が何か騒いでいる声が聞こえてくる。しかし、めちゃくちゃそれも遠い。そうか、自分の意識が遠のきつつあるのか。たぶん、死ぬからという意味より、疲れた上に彼らを見て安心したからというのが大きいのだろう。
そう思いながら、最後に小さく微笑んで私は意識を手放した。
今回はここまでです。評価、感想などをいただけると嬉しいです。よろしくお願いします
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神様との邂逅~死に抗う誓い~
side ユラナ・ウェリス
真っ暗な世界で誰かが叫んでいる。私は死神の牙の一人にめちゃくちゃにやられてしまった。それで瀕死の状態になっているならば、ここで叫んでいるのがお兄ちゃん、あるいはハリーやロンというのが典型的なパターンだろう。そして、気がついたら見知らぬ天井だとなるまでがお決まりのはずだ。さて、誰が私に近づこうとしているのか、見てみようじゃないか。
しかし、私の目に映ったのはまったく見たことのない銀髪の女性であった。しかも、私がいたのは湖に囲まれた島の上である。
「おや、やっと目を覚ましたかい、お嬢様」
彼女は穏やかに言う。
「ここは……どこ?」
「ここは私が作った庭だよ。世界のすべてを自由に操る神々の領域とも言えるかな?」
「言えるかなって言われても……。私には分からないし。そもそもあなたは誰?」
「私はクリファナ。世界を、そして死ぬであろう人を別の形で生き返らせる神の一人だよ」
「神? 正直、ピンと来ないんだけど……」
クリファナは笑顔で答える。
「それはそうだよね。なら、私が世界を書き換えられるという証拠を見せよう。というか、君はもう見てると思うんだけどね」
「証拠?」
「そう。説明に少し時間がかかると思うから、ここに座ってよ」
彼女は椅子を二つ作り出した。そして、話し始めた。
「さあ、君が先ほど見た死神の牙。それはあの世界にはそもそも存在しなかったモノだ。原作を知ってる君ならよーく分かっているだろう? そんなものがなぜいるのか、それは私が君と君のお兄ちゃんをあの世界に送ったためにそれの代償で私がが作り出したモノだ。なぜ、そんなものを私が作り出したかって? 人を生まれ返らせるというのは、案外難しいことでね。うっかりすると、世界そのものを破壊してしまうかもしれない。そうならないようにバランスを取るためにそのようなものを加えたんだ」
「バランス?」
「そう。チートスペックを持つものがあまりにも楽にこの世界を攻略してしまっては私が送り込んだ意味がない。そう簡単にはクリアできないように作ってあるんだ」
「うーん。あまりにも急な話で理解しにくいかな。でも、結論からいうと、私はあの世界に戻れるんだよね?」
「もちろん。私が責任をもって戻してあげるよ。その前にいくつか聞きたいことがあるんじゃないかなぁ?」
私としては早めに彼らの元に戻りたい。いつあの化け物が皆に襲撃を仕掛けて来るか分からないからだ。あれの強さを考えたら、敵うのはダンブルドアかヴォルデモート、あるいは父さんくらいだ。早めにあれがいるのを伝えなくては。
「今は特にないかな。それより早く戻してもらえる?」
「はぁ!? せっかくすべて知識を持ち、あらゆる力を持つ私と話せているのに。馬鹿か? 馬鹿なのか君は!? 私と話す機会なんてもう二度とないかもしれないというのに……」
クリファナが叫ぶ。神でありながら意外にも表情豊かだなぁ。
「そんなに慌てることないじゃない。またいつか来てあげるから。だから、そんなにうなだれないで」
「そんな簡単なことじゃないんだよ。生きている人をここに呼びつけるのは……」
そう言われても、私は神が何をどうするとか知らないから困ってしまう。
「でも、ここでの暇な時間も君と話しててかなり潰れた。また、来てくれると約束してくれるなら、君に一つプレゼントをあげよう」
「プレゼント?」
「ああ。本来なら神しか用いることができない力だ。でも、私からしてみれば君はそれを持つに値する者だと思ってね。その力とは、あらゆる世界に自在に行くことができる力だ」
「あらゆる世界?」
「そう。君が望む世界にどこでも連れていってあげよう。目的は自由、どこに行くのも自由さ。もちろん、今君が持っている能力も全部セットで」
それが本当なら、それこそチートに近しいものではないだろうか。
「いいの? そんなものを与えてしまって」
「いいさ。君は私の期待に応えてくれるに違いないからね。ちなみに、使い方は簡単だ。どこの世界のどの場面に行きたいのか強く念じるだけさ。あとは私に任せておけばいい。言語などはこちらでどうにかする」
そう言うと彼女は指をパチンと鳴らし、人が一人入るくらいの穴を作った。
「ここに入れば元の世界に戻れる。早々に帰ってしまうのは残念だけどね」
「だから、そのうち会えるって。それじゃ、神様よ。その高みから私が足掻く様を見守っててね」
私はそう答えて、再び暗闇に足を踏み入れた。
……見覚えのある天井だ。ほんの数ヶ月前もここのベッドに寝ていたはずだ。
「……派手にやられたなぁ。大丈夫か?」
横で言うのはお兄ちゃんだ。
「おはよ、お兄ちゃん。ここって……」
私はゆっくり体を起こす。多少腹部に痛みが走るが、だいぶ治りつつあるだろう。
「ここはホグワーツの医務室だ。組分けの二、三時間前さ。二週間くらい寝てたんだよ、お前は」
二週間って……。それはエグいなぁ。
「また、心配かけたよね?」
「そりゃあな。正体不明の怪物にウェリス家長女が襲われたんだ。魔法界全体が大騒ぎだったよ。特にハリーたちは気が気でなかっただろうな」
「お兄ちゃんは?」
私が聞くと、彼はなぜか目に涙を浮かべて答えた。そして、私に抱きついた。
「……馬鹿、お前。心配したに決まってんだろ。しかも責任の一端は俺にある。気が狂いそうだったよ」
「ごめん」
謝ることしかできない。皆を悲しませた罪はかなり重そうだ。
「……何にやられた?」
私を抱きしめたまま、お兄ちゃんは言う。
「ごめん。それは言えない」
お兄ちゃんはより私を強く抱きしめて答える。
「なんでだよ。俺はお前を殺そうとしたやつに一発かまさないと気が済まない。頼む、教えてくれ」
私は首を横に振る。
「お兄ちゃんでもダメだよ、それは。あいつと会ったら絶対に殺される。私もそんなのは、嫌だよ」
「でもっ!」
「ねぇ、お兄ちゃんはさ、分かる? 自分のお腹が抉られる瞬間。自分の内臓を自分で見る瞬間。あんな痛みは誰も味わって欲しくない。なんで、それを自ら味わおうなんて考えるの?」
お兄ちゃんは私から離れて呟く。
「分かったよ。お前が教えてくれないなら、自分で探してやる」
そう言い残して、彼は医務室から出ていってしまった。それと入れ替わりで今度はダンブルドアが入ってきた。
「君の兄君が鬼のような形相で出ていったみたいじゃが、喧嘩でもしたのかね?」
ベッドサイドに腰かけて聞く。
「まったく面目ない話です」
「気持ちは分からぬでもない。本当に大事な人は何があっても守るべきじゃからのう」
私は頷いて、答える。
「先生にはお話ししてもいいかもしれませんね。まあ、それが狙いで来たのでしょうが」
校長は小さく微笑む。
「相変わらず勘が鋭いのう。それでは何が君を襲ったのか、教えてくれるかね?」
「私が襲われたのは『死神の牙』の一人『蝙蝠《こうもり》』というものです。それだけは話せます。しかし、今どこにいるかも分からない。さらに言うなら、どんな魔法を使ってくるのかも理解できてないんです。どちらにせよ、先生には行動していただきたくないんです」
校長は黙っているので、私は続ける
「校長にはホグワーツを守る義務がある。ですが、それ以上にあの敵だけは私が倒さなくてはならないんです」
「無粋かもしれぬが、なぜそこまで思えるのか聞いてもいいかね?」
「一つは私の成長のため、強くなったその先に何があるのか気になるんです。そして、もう一つが大きい理由なんですが、もう誰も死なせたくはないんです。私自身がどれほど苦しんだとしても」
校長は小さく頷いた。
「話してくれてありがとう。それでは、パーティーの準備に取りかかるとするかのう」
立ち上がった校長に私は言う。
「今話したことはくれぐれも内密にお願いします。特にお兄ちゃんには」
校長は再び頷き、今度こそ去っていった。彼のことを完璧に信用できる訳ではないが、恐らくお兄ちゃんに言うようなことはしないだろう。だとすれば、あの怪物は私がなんとかしなくてはならない。しかし、今のままだと明らかに力が足りない。どう考えても勝ち筋が見出だせないのだ。
〔それならば、私に頼ってみてはどうかな〕
頭の中で聞き覚えのある女性の声がした。数分前に話したクリファナだ。
〔あなたはどうして私の脳内にいるの?〕
〔さっき言うのを忘れていたよ。君の頭の中に入れるように細工を施したんだよ〕
私は苦笑する。
〔脳内に入られるのって、正直心地よいものじゃないわね。だって考えが丸聞こえなんでしょう?〕
クリファナは笑う。
〔そう思うのはごもっともだよ。さあ、どうする? 君と私であの化け物を倒そう。私は君の脳内にしか存在できないんだ。これは君の親しい人を巻き込むということにはならないはずだ〕
〔そうね。私一人じゃ心もとないからお願いしようかな。それ以外にも相談とかに乗ってくれると助かるけど〕
〔もちろん、いいさ。むしろ、こちらからお願いしたいくらいだ。それではよろしくね、ユラナ・ウェリス〕
彼女はそう笑った。私一人で勝つことが無理なら、そして他の人を巻き込むことすら無理なら、クリファナに魂を売ってでも自分の力で解決してやる。今年中じゃなくても、いつか必ず決着をつける。そう、ハリーたちがヴォルデモート率いる闇の陣営といつか必ず決着をつけなくてはならないのと同じように。
今回はここまでです。次回からまた、原作通りの話になるかと思います。今後もよろしくお願いします。
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戻ってきたホグワーツ~おかしな私の性癖~
side ユラナ・ウェリス
私を転生させた女神クリファナと話して、彼女をリアルに脳内に押し込んだ後、私は在校生の一団に混じって組分けが行われるホールに向かった。
「ユラナ! 大丈夫なの?」
慌てた声で駆け寄ってくるのはハーマイオニーである。というか半ば抱きつくような感じになっている。うーん、こんな可愛い子とくっつけるなんて本当に役得だなぁ。
「大丈夫だって。それくらいで死ぬような私じゃないわ」
私はそう笑う。
(お前、かなり危なかったろ)
(お兄ちゃん、マジで無粋。つまらんこと言わんでもらえる?)
念話呪文で呟いたのは、お兄ちゃんである。これって、表記上クリファナとの会話と見分けがつけにくそうだなぁ。
「それでも……。ハリーたちから手紙もらったときは寿命が縮むかと思ったわ」
「……何があったのかは言えない。でも、心配かけてごめん」
ハーマイオニーは思い出したように聞く。
「ところで、ハリーとロンがどこにいるか知らない? 汽車の中でも見かけなかったんだけど」
二人は汽車に乗り遅れて空飛ぶ車でダイナミック登校を試みようとしているに違いない。後にも先にもそんなことをするのは彼らしかいないだろう。
「うーん、ごめん。分からないかな。まあ、二人なら大丈夫だと思うよ」
確かに心配するのは仕方ないが、ネタバレしてしまっては、二人のサプライズを踏みにじることになる。
私はとりあえず彼女を安心させて、組分けに向かった。といっても、これと言っておかしな事態も起こらず、原作通り(いかんせん、描写はされていなかったが)組分けは進んだ。
と、組分けが終了し、夕食にありついてるところでなぜか多くの視線を感じた。
「ねぇ、お兄ちゃん。なんかやたらと視線を感じるんだけど……」
「すまんが、分からんな。しかし、ユラナにばっかり向けられてるな」
ハーマイオニーがここで口を開く。
「あー、それはしょうがないと思うわ。去年ユラナがやったトロールバラバラ殺害事件がかなり有名になっちゃったから」
「ちょっと待って。そんなの聞いてない」
畏怖の目で見られるのは正直気持ちがいいものではない。むしろより積極的にフレンドリーに話しかけて欲しいものだ。
クリファナはどこ吹く風で笑う。
〔さすが、強い女性というのは人気があるものだ〕
〔これを人気で割り切っていいものなの?〕
私が脳内でクリファナを睨んでいると、横から声をかけられた。
「あ、あの、す、すみません!」
そこには小さな青髪の少女と朱色の髪のグリフィンドールの少女がいた。なんか小さくて可愛いなぁ。
〔君がショタコン、ロリコン拗らせてるとはね。また面白い情報が手に入ったよ〕
(相変わらずだな、お前。妹が性犯罪者になるのは、兄としてはかなり困るんだが)
クリファナとお兄ちゃんが念話呪文で言いたい放題言っている。こいつら、人の性的嗜好を馬鹿にするとか本当にいい趣味してる。
「ええと……。君たちは?」
「あ、私はエルティナ・リューウェルです。こっちが妹のレイザ・リューウェルです。こ、これからよろしくお願いします!」
めちゃくちゃ緊張してるなぁ。そんなに緊張することもないのに。
「私はユラナ・ウェリス。ユラナでいいわよ。んで、この目付きが少し悪いのがお兄ちゃんのマーティン。そして、こっちの可愛いのがハーマイオニーよ。よろしくね」
私の紹介にお兄ちゃんは腹立たしそうに睨み付け、ハーマイオニーは小さく頬を染めている。可愛いなぁ。まさにHMT (ハーマイオニー、マジ天使)だわ。ん? どこぞのリゼロのパクりだって? そんなこと気にしたら負けですわよ。
レイザがこれまた恥ずかしそうに言う。
「よろしくお願いします。ユラナ先輩……」
先輩は別につけなくてもいいのに。まあ、実年齢からすればここにいる生徒全員より年上だけどさ。
「うん! よろしく」
そう言って頭を撫でようとしたら、二人は顔を真っ赤に染めて、私から離れてしまった。あーあ、小動物みたいで可愛いけど。
「恥ずかしがり屋さんなのね」
ハーマイオニーが呟く。
「残念だなぁ。せっかく可愛い後輩をナデナデしようと思ったのに……」
「なんか、ユラナって距離の詰め方が独特よね……」
「可愛い子を愛でたくなるのは当然じゃない。そうよね、ジニー!」
私は偶然、目の前に座っていた赤毛のロンの妹に声をかけた。
「ひゃうん!」
彼女は小さく飛び上がったようだ。急に話しかけられてビックリしちゃったのかな? ちなみにジニーと私はまだ顔を合わせたことはなく、これが初対面である。それでも、彼女は何回か目を覚まさない私の見舞いに来ていたようだ。
「やめてよ、ユラナ。ビックリしちゃったじゃない」
恥ずかしそうに彼女は言う。
「それでどうなの? 私が可愛い子をナデナデするのは普通のことでしょ?」
ジニーは呆れてため息をつく。
「そりゃ、ユラナにとっては普通かもしれないけど、普通の人ならそんなことしないわ」
(遠回しに私が普通じゃないって言われてるみたい……)
私は念話呪文で呟くと、お兄ちゃんとクリファナの声が同時に響いた。
〔(いや、転生者の時点で普通じゃないだろ)〕
この二人本当に息ピッタリだよね。もはやわざとタイミング合わせてるとしか思えなくなってくるわ。
「うーん、まだあなたたちには分からないかぁ。でも、いつかはその魅力に気づくかと思うわ」
そう呟いたところで、ダンブルドアのかけ声とともに食事が終わってしまった。そのあとは普通にダンブルドアのご忠告タイムだ。知ってる人も多いと思うから、ここはスルーしましょう。手抜きとは思わないでね。気になる方は原作をどうぞ。
眠たい目を擦りながら、寮に向かうためゆっくり歩いていると、ハリーとロンが近づいてきた。
「ユラナ! 大丈夫!?」
私に気づいたハリーとロンは急いで駆け寄ってくる。
「大丈夫よ。ていうか、大丈夫じゃなかったら、今ここにはいれないよ」
私は軽く笑う。
「いや、あんなに大怪我して大丈夫ってのもすごいけど……」
確かにそうかも。にしても、可愛い二人に私の腸覗かせたことは結構なトラウマとかにならないかな。
「二人こそ、大丈夫だった?」
私が聞くと、ハリーたちはどのように学校に来たのかを思い出したように話し始めた。
それにしても、よく車で突撃するなんて考えるよねぇ。私だったら、無理矢理クリファナに世界を変えてもらってたかもしれない。
〔そんなことに私の力を使うのかい?〕
〔あのーすみません。ナチュラルに思考を読まないでください。文字数が増えるので〕
〔メタい、メタいなぁ〕
ハリーとロンが話していると、いつの間にかたくさんの人が集まっていて、なぜか拍手みたいなことも起きていた。もっともハーマイオニーは心配顔だったが。
夜が更けて寝床に向かう中、私は再び念話呪文をオンにした。
(お兄ちゃん、今年もよろしくね)
(おう。面倒事をあんま起こすなよ)
(いつの間にか面倒事に巻き込まれてるんだけどなぁ。それにハリーたちもいるから仕方ないでしょ)
(それもそうか……)
そう言ってお兄ちゃんは黙り込んだ。しかし、念話呪文を切った様子はないようだ。
(お兄ちゃん? どしたの?)
私が聞くと、彼は重々しく答えた。
(けど……。本当に気をつけろよ。もしかしたら俺たちにはどうにもできないこともあるかもしれん)
そう言ってお兄ちゃんは念話呪文を切った。どうにもできないこと。それが何かは今は分からない。しかし、その危険に私はすでに片足を突っ込んでいたのだ。
いかがだったでしょうか。久々のコメディ展開が見られたかと思います。お気に入り登録、コメント、評価などをいただければ嬉しいです。よろしくお願いします。
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トチ狂ったロックハート~ベッドサイドに可愛い侍従がいる件について~
side ユラナ・ウェリス
「……きてください。起きてください」
自分の近くでそう呼びかける声が聞こえた。それとともに私の意識は覚醒し、自分がホグワーツに戻ってきたことを思い出した。
「……おはよう」
体を起こすと、そこにいたのは昨日パーティーで私に声をかけてきた二人の美少女だった。
「ありがとうね。起こしてくれて」
そう言うと、朱色の髪の姉、エルティナが微笑んで答えた。
「構いません。その代わりと言ってはなんですが、私たちをユラナ先輩の侍従にしてもらえませんか?」
「私の侍従?」
青髪の妹、レイザが答える。
「はい。ユラナ先輩は今後の魔法界を担う大事なお方です。そんな方に雑用とかをさせる訳にはいきませんから」
そう言われると私が雑用とかを押しつけてるかのような気持ちになってしまう。
「どうしてもやりたいって言うなら構わないけど、私、自分の仕事は基本自分でやる主義だから、そんなにすることはないわよ」
「全然構いません。私たちからすればユラナ先輩の隣にいれるだけで十分なんですから」
こう笑顔で答えられると嬉しくなる。抱きしめちゃっていいかなぁ。
〔戻ってきた初日に侍従を作るロリコンユラナ先輩、マジさすがです〕
脳内に居座る女神クリファナが私をからかう。
〔昨日から思ってたけど、あなたってなかなか辛口よね〕
そう答えながら、バックに教材を詰めようと立ち上がったところで、
「あ、教科書とかですよね。準備しておきました。こちらです」
エルティナがバックを手渡してきた。
「えっ……。あ、ありがとう……」
「もちろんです。ご主人様の手を煩わせる訳にはいきませんから」
とレイザが答える。
すげぇな、この二人。二年生の時間割どこで調べてきたんだ……。
午前中最初の授業である薬草学の授業ではマンドレイクの植え替え作業を行うことになった。耳あてをつけておかないと耳がぶっ壊れるそうだ。
〔クリファナ、これって君の耳にも効果あるの?〕
〔あるかもしれないなぁ。こいつらの絶叫を消すことも不可能じゃないかもしれないけど、それを巻き込んでどれほどの範囲に被害が出るか分からないから、やめとくべきだと思うけど?〕
……その気になればホグワーツごとぶっ飛ばしそうだ。
何人かが意識を失って医務室送りになったようだが、どうにか私とお兄ちゃん、ハリーたちはそれを免れることができた。
そのあとはなんと闇の魔術に対する防衛術の授業が組まれていた。ハリポタssでネタキャラにされがちなロックハート先生の登場だ。女子生徒は大興奮の面持ちだが、ダイアゴン横丁で一悶着あったためか、ハリーのテンションはだだ下がりだ。
彼の授業の最初に行われたのは教科書の予習テストであった。私を除く女子は羽ペンをめちゃくちゃ走らせているが、私としてはこんなテスト、マジでやってられんわとしか思えなかった。秘密の部屋の一件で確かなくなるはずだが、もしこの授業の学期末試験が行われたら、こんなクソみたいなテーマの問題が大量に出題されることになるんだろうか。
適当に書きなぐっていると、クソどうでもいいテストは終わっていた。ロックハートは首位になったハーマイオニーに10点を与えた。
私を除く女子からのテストの点が高かったためか、上機嫌のロックハートは穢れた魔法生物と戦うだとかトチ狂ったことを抜かし始めた。
「さあ、どうだ! 捕らえたばかりのコーンウォール地方のピクシー」
その声とともに、どこからか取り出した巨大なカゴを包む布を剥ぎ取った。中にはキーキーうるさいピクシーがたくさんいる。
〔……この若年齢でせん妄のような症状があるのは非常に珍しいな〕
クリファナは興味深そうに呟く。生徒たちは(特に男子生徒)はロックハートの奇行に呆れ返っているようだ。
「さあ、それでは。君たちがピクシーをどう扱うか、お手並み拝見です!」
カゴを開けてピクシーが暴れ始める。インク瓶を倒したり、教科書を撒き散らしたり、ネビルをシャンデリアに引っ掛けたりと本当になんとも自由だ。
「さあ、さあ、捕まえなさい。たかだかピクシーでしょう!」
ロックハートは意気揚々と杖を取り出し、呪文を唱えた。
「ペスキピクシペステルノミ!」
原作にあるようにこの呪文はあっさり不発に終わった。それと同時に授業終了のチャイムも鳴った。
すると、ロックハートは慌てたように次の授業の準備があるからあとは任せたと言って、教室から出ていってしまった。生徒に丸投げとか教師としてそれはどうなのよ。
他の生徒もほとんど出ていってしまい、三人組と私とお兄ちゃんだけになってしまった。
「ねー、お兄ちゃん。片付けよろしく頼んでいい?」
お兄ちゃんは私を睨む。
「なんでハリーたちならともかく、お前がそれを言うんだよ」
「いやだってこれすごく面倒臭いしさー。ほら、可愛い妹の頼みでしょ?」
お兄ちゃんは呆れたように答えて、杖を取り出した。
「ったく、しゃらくせぇなぁ。サンダラバス!(雷撃!)」
お兄ちゃんは暴れ回るピクシーに対して、気を失う程度の雷撃呪文をぶつけた。ハリーたちは唖然としているようだ。
(お兄ちゃん、ナイス雷撃!)
(お前、今度はこのすばネタかよ。めぐみん推しがブチ切れるそ)
ピクシーをつまみ上げてカゴに入れていると、会話がなくて存在感が薄くなりつつある、ロンがお兄ちゃんに、
「ねぇ、マーティン。その呪文って君のお父さんに教えてもらったんたよね? 君のお父さんってどんな人なの?」
と聞いてきた。お兄ちゃんはチラリと私を見て答えた。
「父さんか……。一言で言えば彼は最強と表現するのがふさわしいかもな」
「最強?」
ハリーが言う。
「ああ。俺とユラナが何度挑んでも、杖を抜くことはなかったし、それなのに傷一つつけることすらできなかったしな」
お兄ちゃんの言うことは当たっている。ぶっちゃけ父さんを除く全部の魔法使いが徒党を組んで父さんに挑んでも勝つことはできないんではないだろうか。例えるなら、リゼロでいうラインハルトポジだ。まあ、あれとは強さのジャンルが違うから比較しにくいけど。
「そんなに強いんだ……。でも、そんなに目立ってないよね?」
「まあな。父さんはめちゃくちゃ強いけど、そんなに大きな功績があるって訳でもないから、ダンブルドアとかと比べたら、霞むかもな。もともとは戦闘嫌いだし」
そうなのだ。父さんがめちゃくちゃ強くなったのは、嫌いな殺し合いとかをさっさと終わらせるためらしい。
そんな風に話しているうちに、片付けは終わった。その後は五人で仲良く夕食の席に向かうのだった。そんな中、私には父さんのことを自慢気に話しているお兄ちゃんの顔が嬉しそうなのを見て、なんだかんだ年頃の男の子なんだと思えて、どこか可愛らしく見えた。
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穢れた血と幽かな声~夜中に蛇の囁き声が聞こえるってどんなASMRよ~
side ユラナ・ウェリス
ホグワーツに戻って来てから一週間が経った。日々の授業に追われながら、私は三人組の特訓の成果を見せてもらった。真面目なハーマイオニーは夏休みの間、かなり勉強してきたらしく、めちゃくちゃ上達していた。ハリーとロンも既に二年生のレベルははるかに超えているのではないだろうか。
そんな中、私も分身術に代わる新たな魔法の練習を行うことにした。蝙蝠に分身術が効かないならば、別のやり方を見つけるしかない。しかし、お兄ちゃんの様子はどうもおかしかった。練習にもほとんど来なくなり、私ともあまり話さなくなった気がした。念話呪文を使っても返答はない。私に飽きちゃったようなら、ヤンデレになる必要があるだろうか。
〔その様子なら全然大丈夫だね〕
私に脳内に住み着く女神クリファナが言う。
〔相変わらず辛口なのね、あなたは。ねぇ、蝙蝠を倒す新たな武器に心当たりあったりする?〕
〔うーん。私もあいつらが何者なのか把握できてない点が多すぎてさ。どうすればいいのか分からないかなぁ〕
クリファナもダメならできることはあらゆるものを調べて使えそうな魔法を見つけ出すか、新しく自作の魔法を作り出すかのどちらかだろう。しかし、どちらともめちゃくちゃ難易度は高い。
そんな中、事件は起きた。グリフィンドールとスリザリンでクィディッチの練習場の取り合いとなってしまったのだ。これは避けては通れないイベントではあるが、フォイフォイ、もといマルフォイに「穢れた血」という言葉を発させる訳にはいかない。これは原作を壊す可能性があるが、後に味方になるであろうマルフォイと余計な不和を生む必要はないからだ。
そう思いながら、私が見つけたのはマルフォイがグリフィンドールチームに新しい箒を見せびらかしているところだ。
それに対してハーマイオニーが反論する。
「グリフィンドールの選手は誰一人お金で選ばれたりしてないわ!」
マルフォイが鼻で笑う。
「君みたいなマグル生まれに何が分かる。この生まれそこないのーーー」
「そこまでよ」
マルフォイの言葉を遮ったのは、沈黙を守っていた私である。
「あなたが何を言おうとしたのかはだいたい分かるけど、それを言わせる訳にはいかないわ。もしまだごちゃごちゃ言うんであれば、実力行使も辞さないけど、どうする?」
私が杖を取り出し、軽く睨む。もちろんここでドンパチする気はまったくないが、こうすればロンがナメクジを吐く展開も避けることができるはずだ。
そう考えていると、頭上からチョップが降ってきた。お兄ちゃんの登場である。
「そこら辺にしとけ、アホンダラ。なあ、ここは俺とユラナに免じてなかったことにしてくれないかな?」
スリザリンチームのキャプテンがそれに答える。
「いや、しかしな……」
それに対してお兄ちゃんは軽く笑みを浮かべた。
「ここでなかったことにしてくれれば、俺とグリフィンドールに借りを作ることができる。これならどうだ?」
相手は黙ってしまった。というか、お兄ちゃんどんだけホグワーツで影響力高めてんのよ。
「……分かった。帰るぞ、お前ら」
スリザリンチームのキャプテンがそう答えて、彼らは去っていった。マルフォイは私とハーマイオニーを睨んでいるような気がした。ちなみに、私はショタコンロリコンのW属性持ちだが、睨まれて興奮するような趣味はない。
その後、多少の後味の悪さはあったものの、どうにか原作よりかは誰も傷つかない結果で、グリフィンドールチームは練習を始めることができた。
それを眺めながら、ハーマイオニーが私に聞く。
「ねぇ、ユラナ。さっきマルフォイが何を言おうとしたか分かる?」
私は軽く頷く。
「うん。でも、私としては教えたくないかな。具体的には『例のあの人』の本名と同じくらい言いたくない。特にハーマイオニーには」
ロンも頷く。
「そうだね。僕としても言いたくはないかな」
伝えるべきか否か迷っていたところで、お兄ちゃんが答えた。
「……穢れた血、だろうな」
その小さな呟きをハーマイオニーは聞き漏らさなかった。
「穢れた血?」
ロンがそれに答える。
「マグル生まれに対する最大限の蔑称だよ。だから、言いたくなかったんだ」
そして、お兄ちゃんは答える。
「だがな、これはあくまでも俺の想像だ。マルフォイが必ずしもこの最悪な言葉を言ったとは限らない。だから、そんなに気にするな」
その言葉に対してハーマイオニーは軽く頷き、私に微笑んで、
「ありがとう、ユラナ」
と言った。その笑顔、実年齢30前のお姉さんには効果バツグンだわ(おばさんとか言ったやつ、表出ろ)。
「気にしないで。私のためにやったことだから」
これでグリフィンドールとスリザリンの不和は軽減されることはなくても、悪化することはなかったようだ。でしゃばった甲斐はあったかな。
(お兄ちゃんもありがとうね)
念話呪文で礼を言う。
(気にすんなよ。お互い様だ。あと、恥ずかしいのは分かるが、兄としては直接礼を言って欲しかったなぁ)
お兄ちゃんがぼやく。私はそれを軽くあしらって、穢れた血の事件は幕を閉じたのだった。
前述した事件からしばらく経った日の晩、私はより強い魔法を探しながら、クリファナと話していた。
〔ねぇ、クリファナ。死神の牙について何も知らないというのは本当なの?〕
〔何も知らないとは言ってないよ。いくつか知っていることはある。だが、それを教えるのは今じゃないという訳だ〕
〔どうして? あらかじめいろいろ伝えてくれた方が対策とかも練れるんだけど〕
〔確かにそれはそうかもしれない。でも、それはサスペンス小説をネタバレした状態で読むようなものだよ。それはあまりにつまらないことなんじゃないかな〕
私はそこで話を切った。彼女の言うことも一理あるからだ。それに今の私はそれを論破するほどの言葉も出せない。
そのときハリーとロンが談話室に戻って来た。二人は今日、車で暴れ柳を粉砕してサプライズ登校したことの罰則を受けていたのだ。
「お疲れさま、二人とも。ん? 何かあったの?」
二人ともどこか浮かない顔をしているように感じられた。
「ちょうどよかった、ユラナ。さっき変な声を聞かなかった?」
「声?」
「うん。『引き裂いてやる……八つ裂きにしてやる……殺してやる』こんな感じだった」
パジリスクが動き始めたかぁ。それを分かってても、今の段階で私ができることはそんなにないかなぁ。
「一応聞くけど、ロンはそれは聞いた?」
「ううん。まったく聞こえなかったよ」
だろうね。私も蛇とコミュニケーションがとれる訳ではないから聞き取れなかった。
「私も聞いてない。でも、一つ言えるのはこれ以上ハリーに訳の分からない声を聞かせるんであれば、八つ裂きにされるのはその狂人だってことかな」
ハリーがおずおずと言う。
「ユラナ、目が怖いよ……」
「ダンブルドアとお兄ちゃんと私がいる限り皆には手を出させないわ。それだけは安心していいわよ」
そう言って微笑む。さてと、ハリーをどこまで守りきれるか、私の脳内という特等席で見てなさいよ、クリファナ。
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石になった猫と継承者~私が悪いんじゃなくて社会が、いや可愛すぎるあの子たちが悪い~
10月になり、ハロウィーンの季節となり、ホグワーツにはカボチャの匂いが広がり始めた。去年はトロールに襲われたりして大変だったなぁ。お兄ちゃんが早く動いてくれていればもうちょっと楽に済んだんだけど。
(なあ、ユラナ。終わったことを今更言うのはやめてくれ)
念話呪文で答えたのは私の兄であるマーティン・ウェリスである。
(過去のことをしっかり教訓にすべきでしょ?)
私がウインクして答えると、お兄ちゃんはため息をつくのだった。
さて、私とお兄ちゃん、そして三人組は今ハロウィーンにある絶命日パーティーからグリフィンドールの寮に戻るところだ。ゴーストのパーティーがどんなものか気になったから行ってみたけど、正直に言ってしまえば、二度と行くもんじゃないと感じられた。
そう思って三人組の後ろを歩いていると、急に彼らが足を止めた。
「どうしたの、急に」
ロンが恐る恐る床を指差しながら言う。
「ユラナ、これって……」
そこにいたのは一匹の猫であった。その猫はまさに冷たいという言葉が似合うかのように固まって動かなくなっている。しかも質の悪いことにこの猫はフィルチの飼い猫のミセス・ノリスであったのだ。
そして、目の前の壁には案の定文字が書かれていた。
「秘密の部屋は 開かれたり
継承者の敵よ 気をつけよ」と。
原作をよく知る私とお兄ちゃんが同時にため息をつく。フィルチが近づいてくる気配がしたからだ。いや、フィルチだけじゃない。ハロウィーンパーティーから戻ってくる学生が続々とやって来たのだ。
フィルチが半狂乱になりつつ私たちに詰め寄ったところでダンブルドアら教師が来た。どうやら事情聴取が行われるらしい。
「どうして君たちは三階の廊下にいたのかね?」
答えたのはハリーだ。
「絶命日パーティーからの帰りだったんです」
今度はスネイプが聞く。
「それを証明するものは?」
「ゴーストたちが証明してくれます。それに……」
それを遮ったのはお兄ちゃんである。
「どちらにせよ、やったのはハリーたちじゃありませんよ。この魔法は想像以上に強い。半人前の二年生ができる所業じゃあないです。それよりも気になるのは壁の文字では?」
おいおいおいおい。何してくれちゃってるのよ馬鹿兄貴。このまま丸く収まる予定だったのに、あんたが口挟んだら話が拗れるじゃないの。
「そうじゃな。あの文字に心当たりは?」
私を含めて四人が首を振る。お兄ちゃんは、
「ありません。しかし、継承者とはね……」
となぜか微笑む。それを見逃さなかったフィルチが言う。
「お前だ! お前がやったんだ! お前が犯人だ! 何か企んでいるに違いない!
そうだ。貴様ほどの力があれば、私の猫を殺すことぐらい容易い!」
その通りだ。お兄ちゃんが犯人ではないとは間違いないが、こうやって見ると明らかに何か企んでいるように見える。
ここでダンブルドアが言う。
「フィルチや、あの猫は殺されたのではなく石になったのじゃ。マンドレイクが完成すれば治せますぞ」
「同じことだ! お前がやったんだろう!」
フィルチがお兄ちゃんに掴みかかろうとしたところでダンブルドアが、
「疑わしきは罰せず、じゃよ」
と止めに入った。そうしてようやく私たち五人は解放されることとなった。そして、グリフィンドールの談話室に帰りついた。
「ねぇ、お兄ちゃん。さっきの茶番は何だったの?」
私が軽く睨みながら聞くと、お兄ちゃんはカラカラ笑った。
「あんな大根芝居でも思いの外騙せるもんだな。ま、ダンブルドアやスネイプ辺りは気づいてそうだったけど」
ハーマイオニーが聞く。
「芝居? なんでマーティンが……」
「状況的に石化した猫を最初に見たのは君たち三人だ。だとすれば疑われるのは当然だ。てな訳であの三文芝居で注意を反らしたって訳さ。今一番容疑者候補として疑われているのは君たち四人じゃなくて俺だろうね」
ハリーが慌てたように答える。
「マーティンは何もしてない! そうだろ?」
「もちろんだよ。俺としてもあの猫をわざわざ石にするメリットはないからね。でも、同じ理由で君たちが白い目で見られるのは我慢ならなくてね」
そう言って彼は寝室に向かっていった。それから数秒経ってハリーが聞く。
「秘密の部屋って壁に書いてあったけど、何か心当たりはある?」
私は首を振る。だいたい秘密の部屋と言いつつ、それが当たり前のように生徒に知られて秘密になっていないのって盛大な矛盾なんじゃないかな。
「分からないわ。でも、秘密の部屋だろうが継承者だろうが関係ないわ。ダンブルドアとお兄ちゃん、そして微力ながら私もいればね」
不安になるこの三人に寄り添うのも私の役目だ。ロリコン、ショタコン拗らせててもこれには他意はない。ないはずだ……。
(途中で自信なくすなよ……)
ハーマイオニーとともに女子寮に向かっているとお兄ちゃんが呆れたように言ってきた。
(うっさいわね。私が悪いんじゃなくて、社会が、いや可愛すぎるあの子たちが悪い。それよりもさ、さっき言ってたことって他にも何か狙いがあるんじゃないの?)
(無駄に勘が鋭くて可愛げのない妹だなぁ)
(妹なんだから、兄にはフランクに接するのは普通でしょ。それよりラノベや漫画の妹キャラみたいにラブラブしてた方がいい?)
(やめろやめろ。悪かったよ、お前は俺の可愛い可愛い妹だ。で、何の話してたんだっけ?)
(話が逸れたわね。何か他の狙いがあったんじゃないかって聞いてるのよ)
(そうだったな。ネタバレ済みのお前には言っていいと思うから言うが、その通りだよ。あそこで俺が身代わりになったのは継承者に俺の存在を意識させるためさ。継承者の日記を持っているであろうジニーがこれを知れば、早めに日記を手放すかもしれない。これでもホグワーツ最強を自負しているんでね)
このイキった答えに私はドン引きする。
(うわぁ。急にナルシストスイッチ入れないでよ。でも、あながち間違ってないかもね。こうすれば被害が最小限で済むかもしれないし)
私がそう言うとお兄ちゃんは不敵に笑った。ただ、一言だけ言わせてもらうならば、どこまでもこの男はお人好しだということだ。まあ、そこがお兄ちゃんのいいところではあるんだが。
今回は割りと少なめです。もっと長く書けるように頑張りますので、感想、評価、お気に入り登録よろしくお願いします。
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狂ったブラッジャー~動けない私の苦悩~
ハロウィーンの翌日から生徒たちの間で「秘密の部屋」というフレーズを聞かない日はなかった。もし、このホグワーツにTwitterのようなものがあったら、確実にこの言葉はトレンド1位になっていたことだろう。
さて、この事件において容疑者候補のナンバーワンとして疑われているのは私の兄であるマーティン・ウェリスである。ダンブルドア辺りは騙せなかっただろうが、彼の事件直後の大根芝居はホグワーツの生徒に自分を犯人と思わせるには十分なものであった。それに加えて超強力な魔力、生徒全体を掌握するカリスマ性(笑)、そして純血の家系。この3つが我が兄=犯人説をより強くしていた。まあ、それすらも彼の狙い通りだろうが。
そんな訳でお兄ちゃんはほとんどの生徒から避けられていた。ハリーたちに迷惑をかけないようにするためか、グリフィンドール内でも誰とも接していないようだ。
クィディッチ初戦の試合前、ハリーが私に心配そうに聞く。そういえば、確かここでハリーの腕がブラッジャーとロックハートの魔法により文字通り骨抜きにされてしまうんだっけ。
「ねぇ、ユラナ。マーティンは大丈夫かな?」
「うーん、たぶん大丈夫とは思うけど?」
彼は今もなおボッチ飯を決め込んでおり、周りには誰も近づいていない。
(ねぇ、このまま孤高を気取るなら止めはしないけど、メリットはないわよ)
念話呪文で呼びかけると、彼は小さく笑った。
(気にするなよ。この状況は俺にとっては好ましいものだ。これで君たちに迷惑をかけるようなら申し訳ないが、しばらくこのままでいさせてもらうこととしよう)
その声がどこか切なく聞こえるのは気のせいだろうか。彼には私、いや他の人間は等しく必要ないと言われてるような気がしてしまう。でも、それは認めたくない。私は妹として、同じ転生者としての運命を背負う者として側にいたい。今はその思いも彼には届かないかもしれないが……。
「……ラナ、ユラナってば!」
考え込んでいた私を呼び起こしたのは、ハーマイオニーである。いつの間にか他の生徒たちは昼食を済ませている。
「どうしたんだい? ボーっとしちゃって」
そう言うのはロン。
「大丈夫。ハリーはもう試合?」
「うん。でも、大丈夫なの? あなた、完全に意識なくなってる風に見えたわよ」
「本当の本当に大丈夫。心配かけてごめんね」
この二人に余計な不安を抱かせる訳にはいかない。私は軽く笑って競技場に向かった。
試合はグリフィンドールがリードしている。しかし、彼らはかなり焦っていた。選手を箒から叩き落とすブラッジャーがシーカーであるハリーだけを狙い続けていたからである。
「誰かがブラッジャーに細工したんだわ!」
ハーマイオニーが叫ぶ。ハリーはスニッチを狙う以前に追ってくるブラッジャーから逃げ回るのに精一杯だ。そして助けを求めるようにグリフィンドール生の何人かが私を見る。
「ごめんだけど、私じゃどうにもできないわね。魔法で止めるには狙いの動きが速すぎるし、無理に当てようとしたらハリーまで巻き込むかもしれない。何よりルール違反だわ」
これって確かハリーがスニッチを掴んで勝利するんだよね。黒くて硬い物体(下ネタではない)から逃げながらよくあんな小さいやつ(下ネタではない)を掴めるよね。本当に超人的な動体視力だわ。
「……ハリーを信じるしかないよ」
私は独り言のように小声で呟いた。これって確かドビーの仕業のはずだ。彼もハリーが大好きで善意でやってることに間違いないから、私もこれは責められない。
それからしばらく経って、ハリーは隙を狙ってスニッチに近づいた。全員が手に汗握るこの瞬間。自分はクィディッチにそんなに詳しくはないが、ここが正念場というのは分かる。その一瞬をハリーは一気に突いた。
爆発的歓声がスタジアムに響き渡った。ハリーがスニッチを掴んだのだ。
しかし、それも一瞬で止んだ。それと同時にブラッジャーがハリーの腕に直撃したためだ。そして、ハリーがロックハートの魔法によって骨抜きにされるというのがシナリオだ。すぐに医務室に連れていくべきではあるが、なぜか私の足は動かなかった。それはなぜなのだろうか……。
〔原作を壊すまいと悩む君の姿、非常に興味深いね〕
脳内に居座るクリファナの声が聞こえる。
〔私はどうすべきなのかな。今更こんなこと気にしなくても私というものが存在する以上どうにもならないんだけどさ〕
〔それは自分で考えなよ。君の身体をコントロールできるのは君だけだからさ〕
彼女はそう言って微笑んだ。その微笑みはまさに女神と呼ぶにふさわしいものだった。
多くのグリフィンドール生がグラウンドで倒れるハリーに駆け寄る中、私がしばらく動かずにいた結果、ハリーは原作同様、ロックハートの魔法によって腕の骨を失ってしまっていた。
私はハリーが傷つくのを止められなかったことを悔やむべきか、原作通りにいったことを安堵すべきだったのか、今はそれすらも分からなかった。
ボリュームは少しありませんが、とりあえず続きを書きました。評価やお気に入り登録していただければ幸いです。次の更新がいつになるか分かりませんが、今後もよろしくお願いします。
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使命と決意~心を決めた少女の笑み~
私とロン、そしてハーマイオニーはクィディッチの試合によって負傷したハリーの見舞いに来ていた。狂ったブラッジャーとの激戦に終止符を打ち、スニッチを掴んで試合には勝利したものの、その代償は大きかった。頭のネジが抜け落ちてそうなポンコツ(ロックハート)によりハリーの腕の骨がなくなってしまったためだ。
ハーマイオニーとロンはハリーを励ましているが、私は黙ってその様子を眺めていることしかできなかった。
「ねぇ、ユラナ。今日、君、本当に様子が変だよ。疲れてるんじゃないの?」
ロンのその声に私は苦笑いして首を横に振る。
「大丈夫。そのついでなんだけど、後でハリーと二人きりにしてもらえない?」
二人は頷き、しばらくハリーと話してから医務室から出ていった。
「ユラナ、どうしたんだい?」
私は小さく頷いて答える。
「ハリー、私は君に謝らなきゃいけないわ」
「何を?」
「あのとき私は自分がやるべきことを怠った。そのせいで君はこんな大怪我をしてしまったの。つまり、責められるべきは私よ」
ハリーは首を横に振る。
「違うよ、ユラナ。それは君のせいじゃない。だって、もし君が僕を助けられなかったんなら、それは何か理由があって躊躇ったということだと僕は思うよ。それがなければ、迷わず動く。そういう人だと思ってるから」
彼は真っ直ぐな瞳で私に告げた。彼は、ハリーは私をここまで信じてくれているのか……。
「でも、私はそれに応えられるか……」
「別に無理に応えようとしなくてもいいよ。僕たちが勝手に思ってることだからさ。だから、ユラナ、君は今の君のままでいて」
その一言に私は再び黙る。何を言うべきか考えていたそのとき、夕食を告げる鐘が鳴り響いた。
「ごめん、ハリー。そろそろ戻るね。お大事に」
「うん、ありがとう」
そう言って私は医務室を後にした。
〔覚悟は決まったみたいだね〕
脳内に居座る女神クリファナが囁く。
〔ええ。秘密の部屋の一件に関しては私からヒントなどは一切与えないことにするわ。その代わり、私は私のやり方で邪魔を排除する〕
〔というと?〕
〔最終目標はあの男、死神の牙の撃破よ。でも、とりあえずはそいつの攻撃からハリーたちを守ることに専念しつつ、ハリーの指示に従って、ストーリーのサポートを行うことにさせてもらうわ〕
〔なるほど。実に君らしい結論だね。それでこのあとはどうする?〕
〔とりあえずは、スネイプ先生がいる地下に向かいましょうか。お兄ちゃんの企みが気になるわ〕
私は地下へと足を向かわせるのだった。
「お久しぶりと言った方がいいでしょうか。授業では毎回顔を合わせてますが」
地下の研究室の椅子に座り、スネイプ先生に話しかける。
「こんな夜に何の用があって来たのかね、ミス・ウェリス」
「そんなに睨まないでくださいよ。一つ質問したいことがあって来ただけです。用が済めばすぐに帰ります」
「それで、何を聞きたい?」
「去年の夏、兄と二人で話してらっしゃいましたよね? あのとき何を話していたのですか?」
スネイプ先生は目を逸らした。
「そのようなこと、何故、貴様に言わねばならぬ」
「なら、はいかいいえでお答えください。あなたはあのとき、兄から父の陣営に着くよう言われましたか?」
スネイプ先生は何も言わない。
「沈黙は肯定と捉えさせていただきます。それに、結論は出ましたか?」
先生は首を横に振った。
「分かりました。ありがとうございました。これにて失礼させていただきます」
外に出ようとすると先生が呼びかけてきた。
「……どうして急にそのようなことを?」
「誰かの差し金という訳ではありません。純粋に私が気になったというだけです。失礼しました」
そうして私は研究室を後にした。
〔さて、これはどんな収穫があったのかな?〕
クリファナが言う。
〔収穫が多いという訳ではなかったけど、お兄ちゃんが何かを企んでいるという確信が掴めたわ。次は直接彼に聞く必要がありそうね〕
〔というと?〕
〔決闘クラブよ。彼はそこに現れる。そのときに何としてでも……〕
〔企みを阻止するという訳か〕
それに対しては首を横に振る。
〔残念ね、クリファナ。あなたも私をかなり知った気でいるみたいだけど、まだまだね。私は信じてるわ、お兄ちゃんが意味もなく悪行に近しい行為は行わないと〕
クリファナは小さく笑った。
〔なるほど。これは驚いた。企みを聞いた上で、秘密裏に彼と協力するという訳か〕
〔そこまでするかは彼の考えによるかな。それでもだいたいは合ってるわ。見てなさいよ、こっから面白くなるわよ〕
私にとっての激戦が再び幕を開けた。
今回は以上です。次がいつになるか分かりませんが、評価やお気に入り登録、感想など、よろしくお願いします。
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