個性『RTA』があまりに無慈悲すぎるヒーローアカデミア (ばばばばば)
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1話

最近のRTAブームに触発されて書きました(自供)


ホモ要素はありません

基本ギャグです(ホモは嘘つき)

読む前にタイトルを二度見して♥️


【挿絵表示】
すん(@sun_1200)様


 

 

 

 

 私の名前は本条 桃子(ほんじょう ももこ)

 

 

 

 私は自分の個性が嫌いだ。

 

 

 私の個性は『成長』

 

 

 重たい物を持てば力が強く、走れば足が速く、勉強すれば賢く、細かいことをすれば手先が器用になる。

 

 努力すればそれが向上するのは普通の人間も一緒だろうと考えるかもしれないけど、この個性はそんな生易しい物じゃない

 

 私という人間は意思を以って己を鍛えれば人間の上限を大きく超えることができるのだ。

 

 上限は分からない、天井があるかもしれないけど今のところまだ私は成長し続けている。

 

 この個性のおかげで私は人生でほかの人が悩むようなイベントで何かに困ったことはない

 

 

 自分のこの個性には感謝している。

  

 

 でもどうしても、()()()()()()()だけは好きになれなかった。

 

 

 

 

 

『キャラを作って放置、究極のクソ運ゲーRTA第2部 はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 

 この気色悪い宇宙人のような声を消せるなら私は無個性にだってなってもいい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 物心ついた3歳の時、私の個性は発現した。

 

 

 両親が共働きでおばあちゃんの家によく預けられた幼い私は、迎えに来る時間になると家の前が見える窓からその迎えを探すのを日課にしていた。

 

 少し町から離れたおばあちゃんの家の周りは何もなく、そこから家に向かってくる車のライトを見つけては家の玄関まで出て、迎えのお父さんに抱き着く

 

 はじめのうちは暗くて別の車と見間違えたりしたこともあったが、その習慣を繰り返すうちにすぐに見分けられるようになった。

 

 ここで終わればかわいい幼年期の思い出で済むが、私が何キロも離れた暗闇とライトの逆光の中で大きなあくびをしていた父を見たと話すとそうはならない

 

 病院に連れてこられた私はいろいろな検査を受けて、最後に両親に挟まれて座り、医師に自分の個性について説明される。

 

 

 

 その直前

 

 

 

『生まれによって全てが決まる。世の無常を精巧に表した名作リセマラゲー、僕のヒーローアカデミアRTA、 はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 まるで宇宙人のようで抑揚のないその声が急に頭の中に響く。

 

 私は驚きながらあたりを見回すがそこには両親と医者以外誰もいない

 

 

『主人公の名前は入力速度を考慮してホモ、しかしゲーム内の不可思議な力で禁止ワードには修正がかかります。ホモが禁止ワードって差別ですかね、もう許せるぞオイッ!』

 

「君の個性は『成長』、めずらしい個性だよ。この個性は……」

 

『リセマラで親の顔より見た医者が表示された瞬間から測定開始、コイツいっつも個性を解説してんな』

 

 どうしてみんな平然としているのだろうか、この声は何? そう思って私は口を開こうとするが一切動かなかった。

 

『今作ではノーマルエンド、雄英を卒業しプロヒーローになるまでのタイムを測定します。それはSpeedrunじゃないかって? えっそんなの関係ないでしょ(威圧)』

 

 私はパニックになりながらなんとか口を開こうとするがなぜか体が固まってしまう

 

『今回の個性は強いですね、まずスタートする時点で有能な個性を引き当てるために114人ほど犠牲になってます。

 しかしここを妥協すれば序盤中盤となすすべもなく詰むので、ひたすら死んだ魚の目で厳選する必要があります』

 

 詰む? なにを言っているのか何一つ理解できない。

 

『ここですぐさま主人公を確認、ちょっと自信なさげでやさしそうな顔、いいですね、おそらく性格が臆病、素直のどちらかです。

 あとは男であれば完璧でしたがそれを差し引いても全体的に優秀ですね、これは期待の新人だ~↑』

 

 見られているの? どこから?

 

『本作は戦闘シーン以外のシナリオパートは非常にランダム性が高く大まかな指示しか出せません、その指示通り行動してくれるかも運ですが114514人いる攻略班によると性格が素直、臆病だと指示が通りやすいそうです。

 

 逆に強気、頑固は相当な強個性でなければリセット案件です。

 

 主人公ですら適当な指示しかできないとかDQ4以下じゃねーかお前ん家(憤怒)』

 

 もはや目の前で行われている私の個性の説明なんて耳に入らない、そんなものより私を見ている何かが頭の中にいるのだ。

 

 

 

 

 

 そこから私の中にいるコイツに悩まされる人生が始まる。

 

 

 

 

 

 

『このゲームで最速クリアをするために何をすればいいかと言いますと、とにかく個性を育てて道中を安定させ、人と関わらないでイベントをおこさない、これにつきます。

 

 なので序盤はイベントを乗り越えられるだけの身体機能と個性を上げてから家に引きこもるのが理想です。

 

 ですが今回の個性の「成長」のおかげで体を鍛えれば個性も強くなるため、かなりタイムの短縮を期待できます。

 

 やっぱり才能マンの……、個性を……、最高やな!

 

 では早速指示を出しましょう、「個性を育てよう」』

 

 

 

 しばらくして分かったことはこの謎の声を他者に伝えることはできない。

 

 声や絵に描こうとしたりすることは不可能、その存在を匂わせるような不審な動きすらできない

 

 だがこの声の内容からこいつの大まかな目的が見えてきた。

 

 

 1つ、声の主は自身のことをRTA走者あるいはRTA投稿者と名乗る。自分の個性なのかそうじゃないのか謎の存在である。

 

 2つ、この世をゲームのようなものと思っており、この世界を何度も繰り返しているらしい。

 

 3つ、ヒーローにさせることが声の主の目的であるらしく、その目標は早ければ早いほどいいらしい

 

 4つ、私を主人公と呼び、私がヒーローになるために個性を強くし、人と関わらないように指示を出している。

 

 

 

 独特な話し方や、わからない単語が多いなか、頭の中の声が話していることを信じるならこうなる。

 

 やることなすことに口を出すこの声は私をヒーローにさせたいらしい、もちろんあこがれる気持ちもあるが自分が本当にそうなれるなんて思ってはいない、そして人間関係を絶てと命令する頭の声を私は当然無視した。

 

『個性を育てよう』

 

 私はその声を無視して過ごした。

 

『個性を育てよう』

 

 無視し続けたことが効いたのか、2年も経てば、声を聴くことが少なくなり、大抵は週の初めに私がすべきこととやらを指示してきて、その週いっぱいは聞こえなくなるということが続いている。

 

『個性を育てよう』

 

 次第に私はこの声を気にすることもなくなり、6歳となって、小学校に上がることになる。

 

『個性を育てよう』

 

 私は新しい友達がたくさんできて毎日が楽しかった。自分のもう一つの個性? である謎の声は不気味ではあるが何をしてくるわけでもない、人間の成長は恐ろしいものですぐに慣れてしまったのだ。

 

『個性を育てよう』

 

 こうして私が小学二年に上がった時、いつもの声で私に個性を鍛えるように指示が聞こえるが、今の私にはそんなことより女の子同士の付き合いのほうがよっぽど大事だった。

 

『うーん、困りましたね』

 

 いつもならそこで終わるはずの声であるが、今日は珍しくまだ何かをしゃべり続けている。 

 

『個性を鍛えるように指示をしていますが、友達と遊んでばかりでなかなか個性を使ってくれませんね、これは厳しいです。人と接しすぎて魅力が上がるとイベント発生率や好感度上昇でフラグが立ってタイムが伸びてしまうのでうま味ではないです』

 

 私はその声に満足する。

 

『このままだと魅力が上がりすぎたせいで確率で起きるイベントで氏んでしまいますので、主人公が自分の体を鍛えるように祈りましょう、いい個性が出て流れるようにここで氏ぬ、そんな繰り返しですね(白目)』

 

 え? 死ぬ?

 

『イベントを見たいあまり、魅力を上げたはいいものの、イベントを乱発して戦闘に巻き込まれるがステが足りないなんてこのゲームをプレイしたならだれもが経験したことがあると思います。このゲーム、イベントさえ起こさなければ戦闘はクッソ少ないですからね』

 

 私は固まってその声を聴いた。

 

 今日は学校で一番の親友のあみちゃんとオシャレをして遊ぶ予定だったのでそのまま出かけたが頭の声の内容に後ろ髪をひかれて気が気ではなかった。

 

 謎の声は時々、荒唐無稽だがまるで未来を予言したような内容を話す時がある。それは先のこと過ぎて嘘か本当かはわからない、だけど、もしそれが本当なら

 

 

 

 

 なら私は近い将来で本当に死んでしまうような危機が訪れてしまうのだろうか

 

 

 

 

『個性を育てよう』

 

 

 

 

 その無機質な声に恐怖し、私は個性の練習を始めた。

 

 

『いいですね、いい感じにデレてます。これはギリギリで何とかなるかもしれません(何とかなるとは言っていない)』

 

 私は少しずつ声に従うようになった。不安なのもそうだったのだが、この声の言っているイベントが本当にくるのか確かめることにしたのだ。

 

 とはいっても体をめいいっぱい動かして遊ぶだけだ。男の子たちの中に混じって駆けっこ、野球、川遊びなど、何でもやった。

 

 はじめは女のくせにと見られていたが、私が男顔負けの剛速球や俊足を見せるようになると次第に仲間の一人に認めてくれるようになった。

 

「よし! ホモ子、今日は隣町の奴らと試合だぜ! お前の鉄壁のショートを見せてやれ」

「うん!」

 

 特に男の子の中では一番に自分を認めてくれたリキ君と仲良くなった。そのいかつい顔に似合わず甘党で、彼のお勧めするお菓子屋さんは絶対にはずれがない

 

 ついでに説明するとホモ子とは私のあだ名だ。

 

 本条 桃子で縮めてホモ子、はじめはモモと呼ばれていたのだが男の子たちからはホモ子とあだ名され、もともとあったあだ名が駆逐され、今は女の子からもホモ子と呼ばれるようになっていた。

今では昔からのモモちゃんのほうのあだ名を使ってくれるのはあみちゃんくらいだ

 

『本作は原作キャラの幼馴染になることが可能です。

 

 幼馴染イベントが発生するので誰とも顔見知りでないことが理想ですが難しいでしょう、クソ下水煮込みとかファッキンデクのぼうと幼馴染になると爆発的にイベントが増えますのでこの二人とは絶対に幼馴染にならないでください。

 

 というか今作はこの主役どもと関わらないことが主眼となりますのでこいつら二人はRTAにおける大戦犯、鎖マンです。

 

 なので佐藤君はベターと言えるでしょう、何より佐藤君関連のイベントは筋力値が上がりやすいのがうま味』

 

 この声は時々、全く知らない人たちのことを話す時がある。彼らは将来ヒーローになる人物であったり、ヴィランだったりの名前らしい、木偶の棒? 下水煮込み? という人が主人公だと話すが、この声は以前、私も主人公だとも話した時もあるので整合性が取れない、一体どういうことなのだろうか……

 

「どうしたホモ子、行こうぜ!」

 

「リキ君って将来大物になるかも……、きっとヒーローとか」

 

「急になんだよ、けどそうだな! 俺の夢はヒーローだ!!」

 

 それにしても目の前のリキ君がもしかして将来、あの有名な雄英高校に入るかもしれないなんてすごすぎる。今のうちにサインをもらっておいたほうがいいのかもしれない

 

 

 こうして私は体と個性を鍛えながら楽しい日々を過ごせば、いつの間にか小学五年生になっていた。今の私は小学生ながら大人顔負けどころかそれを大きく超えた身体機能を得ることができた。

 

『おぉ~えぇやん、なんぼなん?(身体強度) クォレは強い(確信)そんだけ体鍛えてれば 自信あるでしょ?』

 

 頭の中の声を聴くにこれで最低ラインはクリアしたらしい。

 

『ここで、確率イベントが入るか入らないかが決まりますが…』

 

 そうして体を鍛え続ける日々、いつものように家に帰る途中、親友のあみちゃんに偶然出会う

 

「モモちゃん久しぶり!」

 

「あみちゃん!! 最近遊べなくってごめんね!!」

 

 最近は体を鍛えることに集中しすぎて会えない時があったので私の気分は一気に上がる。

 

『あー入ってしまいました。変質者イベント

 

 一定以上の魅力値がある場合、確率で起こります。内容は変質者が絡んでくるという内容です。

 

 このロリコンどもめ!!

 

 撃退すると経験値が稼げるのですが乙る可能性があるので序盤はあまり発生させたくないイベントです。しかし今回はそれなりに個性が育っているので問題はなさそうです。

 

 出現する敵は大抵は変態おじさんか一般個性持ち犯罪者ですが噂によると極まれに……』

 

 

 

 私たちの目の前に影が差す。

 

 頭を上げた瞬間、私たちは恐怖で固まった。

 

「にく……小さな肉の中身……、ピンクの肉……見せて……?」

 

 

 

 同じ人間じゃない、人は人をあんな目で見たりはしない

 

 目の前のモノはきっと私たちの常識なんて一欠けらも通じない化け物だと、子供ながらに直感した。

 

 

『ムーンフィッシュとか うっそだろお前!(全ギレ)バカじゃねぇ?(現実逃避)笑っちゃうぜ(諦め)

 

 ムーンフィッシュ、人を切り裂きその断面に美しさを見出すサイコ野郎でかなり強いです、序盤じゃどうあがいても殺されます』

 

 私たちは目の前の化け物に対して一歩も動くことができなかった。

 

「子供の…断面は……、丁寧に切らないと…すぐこぼれる……一人ずつ丁寧に……丁寧に……見せて?」

 

 

『う~ん、正直リセット案件ですが、ここでオリチャー発動です』

 

 

「えっ?」

 

 瞬間私の体が勝手に動き出す。

 

 それは頭の声を周りに伝えようとするときと同じような感覚で私の体の自由を奪った。

 

 私は一歩その場から飛び去り、すかさず右手を押し出した。

 

「モモちゃん……?」

 

 あみちゃんの背中にむかって手をつき出すとその細い体はあっさりと体勢を崩してペタンと地面に腰をついた。

 

 その瞬間、自分の体は反転し、小さな体を活かしてモノに隠れながら全力で駆け出した。

 

 

 勝手に動く自分の体をまるで他人事のように呆然と見ていた私は、背後から聞こえる……、親友の……、いや違うあみちゃんはあんな声出さない……、あんな大きな声……、あんなのかわいい声をしたあみちゃんじゃない、違う……

 

 

 私が……、私が………、私のせい?

 

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きがつくとわたしはひーろーにほごされていた。

 

 

『いやーこのイベント生命の危機がある場合の救済処置として、親友を犠牲にして自分が生き残るという選択があるんです』

 

 

 ■■ちゃんのそうしきで■■ちゃんのおとうさんとおかあさんはすごいないてた。

 

 

『これをすると性格がロウからカオス寄りになりますし、特性で「トラウマ」が入っちゃうんですけどまだ挽回の余地はあります』

 

 

 わたしのおとうさんとおかあさんはなきながらわたしがいきていてよかったっていってる。わたしは■■ちゃんのぶんもいきたほうがいいらしい

 

 

『実はヒロアカのRTAのランキング上位にはトラウマ持ちルートがチラホラいたりするんですよ』

 

 

 ■■ちゃんはわるいひとにころされたらしい、わるいひとってだれだろう

 

 

『人と関わることを極端に恐れるせいでうまく嵌ればほとんどのイベントをスルーすることができます(安定するとは言ってない)』

 

 

 わるいひと、わるいひと、わるいひと

 

 

 それって■■ちゃんをころしたわたしなの?

 

 

『それにしても幼女を犠牲にしたのは心苦しかったですね』

 

 

 ちがう、わたしがころしたんじゃない!!!!!!! 

 

 

「おまぇぇぇぇぇぇえぇぇ!!!!!!!! お前のせいだぁッ!!!! お前が私の体をのっとってっぇぇぇぇぇえぇ!!!!!!!!」

 

「桃子! どうしたの!! 落ち着いて」

「止めるんだ桃子!!」

 

 おとうさんとおかあさんがわたしをつかむけど、わたしはつよいからずっとじぶんのあたまをわろうとした。でもまわりのひとのこせいをつかわれてわたしはうごけなくなって

 

 

『ちがうんや! これもホモ子が個性を上げずに人と遊びまくるのがいけないんや! そもそも主人公に近しい人間に平穏なんて訪れないから(震え声)』

 

 

 

 あぁ、そうか

 

 

 全部私のせいなんだ。

 

 

 私のせいであの子は死んだんだ。

 

 

 この声におとなしく従えばよかったのに……

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めたとき、そこはベッドだった。

 

 そこで私の頭の中に声が響く

 

 

 

 

 

 

 

 

『個性を育てよう』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ……、個性を強くしなきゃ……」

 

 

 

 

 この日、私は自分で考えることをやめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 正直主人公の過去とかどうでもいいから1話にまとめました。

 ギャグを書こうとしていたらいつの間にかホラーになっていた。

 頭の中に正解をささやき続ける悪魔がいたらその誘惑に勝てる人間はいないと思います。

 まぁ声の主はガバなんですけどね初見さん



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2話

『キャラを作って放置、究極のクソ運ゲーRTA第2部 はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 

 

「……899……900……901」

 

 

 

『プロヒーローというゴールに向けてハイ、よーいスタート(棒読み)』

 

 

「……913……914……915……916」

 

 

『しかもここにきてホモ子が怒涛の勢いで育っているのは良いですね、今までのクズ運は乱数調整だった……?

 

 前回の事故のおかげで学校に行かないでいい期間ができましたので、人に会わず家で集中して鍛えることができます。

 

 一時はガバったけど見事なリカバリですね(ご満悦)』

 

 

「桃子? 少しいいかしら……」

 

「938……なに? お母さん」

 

「今日のご飯はみんなで食べないかしら、あなたの好きな大学芋も作ってるのよ」

 

「943……いいよ、今そんなにおなか減ってない」

 

「桃子、たまには外に出るのはどうかしら!! お母さんとお買い物とか」 

 

「……だったらなんでもいいから重いものが欲しい、今のバーベルじゃもう負荷がかけられないの」

 

「ふふ、全くもう……女の子らしい物をもっと揃えたほうがいいわよ」

 

 お母さん顔は笑ってるけどすごく辛そうで、私はそれを見るとたまらなく申し訳ない気持ちになる。

 

「じゃあ下で先に食べてるわよ」

 

 小柄なお母さんのさらに小さな背中を見た時、私は強烈な後悔に襲われる。

 

 

 昔みたいにお母さんと買い物に出るのもいいかもしれない、きっとそうすれば喜んでくれる。

 

 何よりここ1年は人としゃべらないせいで孤独で押しつぶされそうだった。

 

 私は部屋に置くには邪魔なバーベルを床にそっと置いて、お母さんに話しかけようとした。

 

 

「お母さん、今度…」

 

 

 

『個性を育てよう』

 

 

 

「どうしたの桃子?」

 

「……………………今度からはいつも通り、ご飯は部屋の前に置いて欲しいの、ちゃんと自分で食器は洗うから」

 

『雄英高校の受験に向けて個性は必要値を最速で完成させなければいけません、今の時期は鍛えて足りないということはないので、安定を取るためにここは個性を育てる一択です。このゲームは気を抜くとすぐにイベントが起きて自分や仲間(にくかべ)が死にますからね』

 

 自分が人に関わればどういうことになるか思い出した。

 

 一度置いた二つのバーベルを両手に持ち直す。

 

「976……977……978」

 

「そう………、分かったわ、桃子……」

 

 

 

 

 お母さんが下に降りて、部屋を通ってリビングまで歩く、そして私に聞かれぬようにと口を手で覆い、小さな嗚咽を一つ漏らした。

 

 お父さんはいたわるように近づき、そっと母さんを抱きしめる

 

 

「あの子……、もうずっとあんな風に自分を痛めつけて……!」

 

「今はあの子も何かしていないと不安なんだよ、お前も自分をそんなに追い込むな」

 

「あんなに明るい子だったのに……!! あんなにふさぎ込んで…… 」

 

「………今は時間が必要なのかもしれない、ここは……、少し悲しいことが多すぎた……」

 

「うッ……、うぅ……」

 

「実は静岡県あたりに転勤の話が出ててな、お前の実家からもかなり近いしちょうどいいんじゃないかと思うんだ。家族みんなで少し休もう」

 

 

 

 

 

 私の個性で強化された聴覚は、お父さんとお母さんの会話をまるで横に突っ立っているように聞き取っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日から私は小学校に行くのを止めた。

 

 声に従って毎日を過ごしていると気づけば小学校を卒業していたらしい

 

 

 中学校は行かないつもりだった。

 

 

 中学はエスカレーター式でほとんどが顔見知り、行ってしまえば、仲のいいみんなは私を心配してくれる。

 

 

 純粋な善意によって言葉をかけられ、気遣われ、励まされるだろう。

 

 

 私はそれを抗えず受け入れてしまう。

 

 

 

 

 そして私はまた人と関わり……、繰り返す。

 

 

 

 だからお父さんが別の学校に行こうとした時、私は少しほっとした。

 

 

 知らない他人なら、仲良くなっていない内なら、初めから関わろうとしなければ耐えられるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『事件に巻き込まれて敗北すると結構な確率で転校します。転校先はどこでしょうかね、まぁ最悪でも鎖マンがいるところじゃなければどうでもいいです』

 

 私は頭の声をぼんやりと聞き流しながら挨拶をする。

 

「本条 桃子です。私は鳥取からの転校なのでこの中学校に顔見知りがいませんが、どうぞよろしくお願いします」

 

「へぇ、また暗そうな奴が来たな、緑谷とタメを張れるんじゃねぇか爆豪?」

 

「あっ? 確かに根暗そうな女だな、てかキョーミねーよあんなモブ」

 

「やめようよ、かっちゃん、人をそんな風にいうのは……」

 

「あ゛? なに俺に説教たれてんだ、クソナード」

 

 片隅でガラの悪そうな男の子のグループが小声で隣のくせ毛の男の子に絡んでいた。

 

 

『…う、うわああああ(イスから転げ落ちる)

 

 ファッキンデクの棒と下水煮込みじゃねーか!!!!!?????

 

 タイムこわるる^~ お兄さん許して^~↑』

 

 あれが声の言う主人公らしい

 

 私は自己紹介を終えて席に座ると、主人公と言われる二人をチラリと見た。

 

『気を付けろホモ子!! 相手は袖振り合うもどころか、目が合った瞬間にフラグを創造する化け物だぞ!!!』

 

 私はその言葉を聞いて自然に、なおかつ素早く目線を戻した。

 

 だというのにくせ毛の彼はこちらを見て、少し難しそうな顔をしているのが視界のかたすみに映っている。

 

 

「あの子……」

 

「なんだよ緑谷! 好きになっちゃった?」

 

「オタク君が色づいちゃったか~」

 

「ちっ、違うよ……」

 

 

『お前…もしかしてあいつのことが好きなのか…?(青春)

 

 じゃぁねえぇぇぇぇぇ!!! フラグを立てるのは止めろ! 繰り返す 当然の権利のようにフラグ立てるのは止めろ!

 

 目線すら合ってないのに視界に入れば仕掛けてくるとかポケモントレーナーか何か?』

 

 この人たちに関わるとイベントが起きてしまう、そう頭の声にいわれた私は頭が真っ白になる。

 

 繰り返してはいけない

 

 この二人にだけは絶対に関わらない、私はそう心に決めた。

 

 だというのに

 

 

 

「あっ、ゴミ捨ててくるよ」

「そう、じゃあ、私もう帰るね」

 

『オタクくんには基本塩対応、むしろ少し嫌っている風に接すればフラグが立ちにくいです』

 

 

 

「係の仕事だぁ? メンドくせーな、早く終わらすぞ」

「分かった。私はここから半分をやるよ」

 

『この全身接触信管男は好感度を上げても下げてもイベントが反応する感度ビンビンの実の感度3000倍人間なので可もなく不可もなく、合理的な判断や相手の指示に機械的に従うのがベストです』

 

 

 

「あっ、図書委員会のことなんだけど……」

「今日予定があるの緑谷さん一人でいいよね」

 

 

「郷土史ポスターだぁ?」

「発表のポスターは最低限、見れるぐらいの出来で手早くやろうよ」

 

 

 

 ……偶然、なのだろうか?

 

 

 係や委員会、偶発的な班など、妙に顔を合わせる機会が多い気がする。

 

 

 

 

 

『オレノタイムはボドボドダァー!

 

 本当にこの二人はアホみたいにイベントを発生させようとしてくるな(憤怒)

 

 はい、これは偶然ではありません、トラウマ持ちルート最大の障害はこれです、トラウマ持ちになるとこちらからフラグをたてにくい代わりに向こうから勝手にかかわろうとしてきます。

 

 そしてトラウマを解消されるとその解消したキャラとのルートがほぼ確定してしまうので大ロス、それが主人公共ならリセットです。

 

 しかしこの二人、特に頭部ワカメ野郎は主人公特有のわかるってばよ空間を仕掛けてくるので非常に危険です。

 

 トラウマルートがあまりにリスキーで走る人が少ない理由ですね

 

 しかしそれは次回の反省として本RTAは続行します(鉄の意志)

 

 そうこうしている内にクラス初めての席替えですね、おやクラスの様子が?』

 

 

 

「新しい席は…………えーと………」

 

 

『BBBBBBBBBBBBB』

 

 

「新しい席はここか……、ようやく静かな席にこられたよ……」

 

 

『だから(タイムが)痛ぇっつってんじゃねぇかよ』

 

 

 この特徴のあるくせ毛に大きなくりくりとした目をしている子が緑谷出久、主人公らしい

 

 緑谷君は重度のヒーローオタクであり、それを周りに馬鹿にされがちであるが、私にとっては素直で良い人といった印象だ。

 

 というかクラスで浮いている者同士、妙な親近感を感じているので悪くは思えない

 

 でも申し訳ないけど声の指示の通り冷たい態度をとらせてもらう。

 

 

「独り言が出ていて、聞いてるこちらが恥ずかしいんだけど」

 

「へ、あっ……、えっと、ごめッ……」(女の子に声かけられた……)

 

「別に謝ってほしいわけじゃないから早く座ればいいのに……」

 

「あっ、その……」(いやよく考えたら注意されてる。うわ、僕キモかったな今の……)

 

 

『あっ、そうだ(唐突)「あっ」ていわなくなる薬を売り出されたら欲しい、欲しくない? 俺は100万は出せるけどな~、俺もな~(関係ない話による現実逃避)

 

 

 ……くそ、何度見ても隣の頭部モリゾーが消えてくれませんね

 

 

 ふん、運など初めからあてになどしておらぬ(唐突な武人)

 

 席替えでミドリムシがホモ子の隣の席へきました。常に0歩エンカ状態です。

 

 本当に主人公共の処理をしながら育成するのはキツイっす……

 

 こいつらに関わるとロクなことにならないので、個性の練習は家だけで、学校ではひたすら勉強をして知力を上げ、雄英ヒーロー科入学試験に備えましょう

 

 予定ではもう少し学校で個性を上げてから勉強を始める予定だったのですが、この二人に強個性を見せるとさらにロスですので個性の値が少し心配です。

 

 合格自体は片方が基準値を超え、もう片方もある程度であれば問題ないのですが、受験に限らず学校行事系の強制イベントは成績が反映されたボーナスが出るので積極的に活躍を狙っていきます』

 

 

 

 言われたとおりに私は行動し、家では個性を伸ばす練習を、学校ではひたすら勉強して知識を詰め込んだ。

 

 私の個性「成長」は学習や手技にも反映される。

 

 

「すごいね本条さん、全部ほぼ満点!!」

 

「………ありがとう、でもその答案を返してもらってもいいかな……」

 

「うっそほんとだ!全教科ほぼ100点とかすごっ!」

 

「今度アタシにも勉強教えてよ!」

 

「じ、実はあたしも……、分かんないところがあって」

 

「ナニナニ、何の話よ」

 

 いつもは誰ともしゃべることなどなかったのだが、放課後、クラスメイトの一人に自分の答案を見られたことがまずかった。

 

 このまま人が集まらないよう、申し訳なく思いながらも断った。

 

「ごめんなさい、最近忙しくて、また余裕ができたら誘ってもらってもいい?」 

 

「うん、全然いいよ!」

 

「まぁしょうがないか」

 

「というかアンタの頭じゃ本条の説明なんて理解できないっしょ」

 

「何だと!?」

 

 

「ごめん、じゃあさようなら」

 

 

 じゃあねと口々に声をかける彼女たちに背を向け廊下に出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんであんなに勉強しているんだろうね」

 

「本当にずっと勉強してるわよね」

 

「何が楽しくて学校に来てるんだろ」

 

「つーかアレ、声かけても面倒そうな顔するし」

 

「話しかけられたくないのかな」

 

「勉強できないからって周りをバカにしてるとか」

 

「あー、ありそう見下してそう、ちょっとそういうとこありそうじゃないあの娘」

 

 

 

 

 教室のクラスメイトは私がこの会話を聞いているなんて思いもしないだろう

 

 彼女たちが言うように、学校にきて勉強しかせず、人と関わらないように過ごしている人間なんて、他人からどうみられているかなんてわかっている。

 

 

 

 

 

 学校にきて楽しいのかだって?

 

 

 

 ………楽しくない

 

 楽しいわけがない

 

 仲良しの友達も競い合う仲間も誰もいない

 

 登校するとき、廊下を歩いているとき、クラスで自分の席に着くとき、休憩時間 お昼 放課後 部活の時間 私はずっと一人だ。

 

 

 私の青春がなんの意味もなく消費されている。

 

 

 さみしくてみじめで泣きそうだよ。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の学校での評判は悪い

 

 正直、無視や仲間はずれのような扱いや陰口も何度かあった。

 

 しかし、無視や仲間はずれは常に一人でいようと心掛けていた私にはあまり関係がなく、唯一陰口は、遠くの音も聞き取れる私にとって非常に効果的だったが、他人から見て、何の反応も示さない私は陰口をしてもあまり効果もないと思われ、次第に私の話すらしなくなった。

 

 

 普通の人間にはこれがいい状態とは言えないが、声の指示に従う私にとっては望ましかった。

 

 

『なんとかイベントはかわして、順調に育ってます。頼むからこのまま安定してほしいですね』

 

 

 声にとっては理想的に安定した学校生活を送る私。

 

 

 そんな私に対する周りの態度が悪い意味で変化したのは二年目の年だ。

 

 

 

「男女二人三脚だぁ? チッ……文字通りの足手まといじゃねーか」

 

 体育祭の参加種目は偏りが大きく、最後は運による割り振りがされた結果、私は爆豪君と一緒の男女二人三脚になった。

 

『このボンバーマン、本当に出たがりすぎだろ……』

 

 爆豪君は不良のような態度とは裏腹に成績や内申点を非常に気にしているらしく、学校行事などは決して休まないし、あからさまな非行もしない、よく言えば完璧主義と言える人なので、嫌と言いつつも参加はする。

 

「体育祭に参加さえすれば内申に問題はない、順位は関係ないよ」

 

 あまりに面倒そうだったので、練習をするフリでもしようか提案するとこちらを睨みながら

 

「あ゛ やるからには一位取るに決まってんだろ、テメーは足引っ張るんじゃねーぞ」

 

 二人三脚という競技を真っ向で否定するようなことを言い出したよ爆豪君……。

 

 私たちは練習時間にあてられた体育の時間も目をつけられないように真面目に練習した。

 

 それにしても同じクラスメイトをテメー呼びは怖い、私が言うのもなんだがこんな態度で人間関係は大丈夫なのだろうか、噂では彼は興味のない人の名前どころか顔すら覚えないらしい、そう考えるとあだ名で呼び合う緑谷君とはある意味仲がいいのだろうか……

 

「おらいくぞ」

 

「うん、いつでもいいよ」

 

「オマエが走るんだよ」

 

 正直、相手のペースなど考えずに走りだすのではないかと思っていたが、さすがにそんなことをしても早くはならないと考えていたようで、私にペースを合わせようとしてくる。

 

 だが私もペースを合わせるつもりだったので、ある程度の速さは出せるがかみ合わない

 

 そんな不自然さを疑問に思ったのか爆豪君が聞いてきた。

 

「おまえ、もっと速く走れるのか?」

 

「女子の中ではかなり速いと思うよ」

 

「そうか、じゃあ全力出せ」

 

 おそらく自分が私に合わせるつもりで言っているのだろうが、私が本気を出して走ればコントロールがきかず、爆豪君の足が折れてしまうので、宣言通り、女子の中では速いくらいの速度で走った。

 

 流石は運動神経が良い人なのでかなりの速度が出る。おそらく彼の望み通り、体育祭では一位になれるだろう。

 

 

「それなりに走れるんだな根暗女」

 

 

 それにしても彼の口はあまりにも悪すぎるのではないだろうか。

 

 

 

 

 そうした一幕もありながら、学校生活を送っていると、ある日、私の机の中に置いていた参考書が消えていた。

 

 私はすぐさま匂いの元を探すとそこは学校裏の雑木林にぐしゃぐしゃになって落ちている。

 

 それを拾いなおしてみると知ってるクラスメイトも混じった複数人分の匂いがする。

 

 

 

 私は陰鬱な気分になった。

 

 

 

 

 

 

「本条って最近調子乗ってない?」

 

「わかるわ~」

 

「この前見たのよ、あの子、体育祭で爆豪君と同じ種目になったからってすっごくデレデレしてた」

 

「うわ~、私たちにはあんなに反応薄いのに露骨じゃん」

 

「マジむかつく奴よねそういうの」

 

 

 …………そういうこと

 

 

『あれ、なぜか能力値の上りが悪いですね、ん? あぁ、いじめですねこれは……

 

 えー、いじめイベントは学校生活中に周りの好感度を上げずにいると時々起きる時があり、学校での能力の上昇値が微減します。(クズ運)

 

 邪魔ですが、積極的にイベントを消化しようとすると中ロスですので、いじめのイベントが勝手に終了するまで無視して鍛えるしかないです』

 

 

 

 言われたとおりに私はなるべく気にしないように過ごした。

 

 

 しかし仲間はずれにしようにも仲間に入っていない私は無視はいじめのうちに入らず、悪口もきかないと思われている。

 

 そうなれば最悪なことに、手法は直接的なものになっていった。

 

 物を隠されたり、壊されたり、それでも声に無視をしろと言われたので私は我慢をしてなるべく学校に物を置かないようにした。

 

『アンチはスルーってそれ一番言われているから、やっぱりメスの争いは醜いな(ホモ特有の男の友情信仰)』

 

 大抵のことで頭の声の言うことに間違えはない、だが何の反応もしない私に明らかに彼女たちは苛立っていた。

 

 ……いや、本当にあっているの? 火に油を注いでいるような気もしない、素直に先生に相談すればよかったんじゃないだろうか

 

 

「ねぇ本条、放課後に空き教室まできてよ」

 

 

そして私はとうとう呼び出しを食らってしまう。

 

『アンチはスルー、ウンチはパクーで』

 

 声が言うなら仕方がない、私は素直に帰ることにした。

 

 

「アンタのカバンのキーホルダー拾ったの……コレ、返したいから来てくれる?」

 

 

 ……最悪だ。

 

 あのキーホルダーは昔の友達の贈り物だ。もう世界に二つとない

 

 もちろん警戒してすぐにカバンから取り外して家で保管していた。盗まれるはずがない。

 

「個性『拾い物』詳しくは省くけど、落し物が集まる個性なの、私に感謝しなさいよ?」

 

 彼女の個性なのか見せつけていたキーホルダーは目の前で瞬時にかき消えた。

 

『さぁ家に帰って筋トレだ!!』

 

 ………

 

 声は優先すべきだ。思えばあれを見ていい気分になったことはない、捨てるいい機会じゃないだろうか

 

『ぼくもかえろ おうちへかえろでんでん でんぐりかえってバイ、レズ、ゲイ、トランスジェンダー』

 

 

 私の足は、夕暮れの校舎へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

 教室についた私は案の定後悔した。 

 

 

 

 

 

「本当にムカツク!!」

 

「何でアンタみたいのが爆豪君に顔覚えられたのよ!!」

 

「……別に覚えられてないと思うよ」

 

「だってアンタ根暗女って! 顔覚えられてるじゃない!!」

 

 ……まさかあの根暗女とかいう罵倒への嫉妬がこの事件のきっかけなのだろうか。

 

 

 

『ファッ爆豪!?(驚愕)イジメイベントは特に好感度を変化させなければ原作キャラは関わってこないはず!?いつフラグ立ったんだ(絶望)

 

 すぐにいじめイベントを終わらせないとタイムがががが』

 

 

「爆豪君と、もしかしてとか考えてるんじゃない?」

 

「うわ~身の程知らなすぎ、釣り合って緑谷でしょ」

 

「てかくっ付けてあげる? オタクとネクラでいいコンビっしょ」

 

「あはは、それよくない?」

 

「というかそう考えてあいつにラブレター渡して来たからさ、告白すれば?」

 

「お前天才かよ!!」

 

 

 なぜそこで緑谷君を引き合いに出すのかが分からない、私みたいな人間は分かるが、それでまともな人を巻き込むのはダメだ。

 

 

『ファッ緑谷!?(天丼)

 

 ISTD!!(いかんそいつに手を出すな!!)

 

  あーもうめちゃくちゃだよ、どう責任とってくれるの…………。

 

 イジメイベントは一度でも好感度があがったことがあるキャラが助けにきます。 場所はランダムなのですが、どんな不自然な場所であろうと駆けつけてくるのでちょっと笑えますね。

 

 私は以前、ゴスロリショップの更衣室に閉じ込められた時にどう考えてもこんな店には来ない♰常闇君♰がきたのを見たことがあります』

 

 

 あの二人が近くにいるなんて私の感覚でもわからないのになぜ分かるのだろうか、しかし頭の声が言うのならそうなのだろう。

 

 

 

 

『助けられると例のごとくフラグが乱発するので、もうこいつらが来る前に自力で解決しましょう、まずは文化的に説得を試みます。ラブアンドピース!みんな!愛だよ愛!

 

 

 ……ダメだったらK!(加虐)B!(暴力)S!(折檻)って感じで』

 

 

 

 

 

 私はあの時と同じように嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 だからこそ私はまず自分の意志で動いた。

 

 

「……もう私に関わらないで」

 

 私は瞬時にすぐそばにあった椅子を掴みながら彼女たちの後ろに回りこむ、なにが起きたなんて彼女たちにはわからないだろう。

 

「私、足も速いし力も強い、でも加減ができないの、もうこんなことは止めて」

 

 私は勉強椅子を飴細工のように捻じ曲げ、最後は握りつぶしてくしゃくしゃに纏めたチラシのように手でこねた。

 

「ヒッ…」

 

「やっ、やめたほうがよくない? あいつガチじゃん」

 

「調子に乗るんじゃねぇ!!!!」

 

 

 でもだめだった。幾人かは怯んだが、逆に敵意をむき出しにさせてしまった人がいる。

 

 大股でにじり寄ってくる彼女に本当は喧嘩なんて一度もしたこともない私は怯えすくんだ。

 

「こ、来ないで!!」

 

「ハハッ、お前、人に個性を使ったことなんてないんだろ!! つーかテメーが先に個性を使ったんだから正当防衛だな!!」

 

「あぶないから止めて!」

 

「くくッたいそうな個性持っても、中身がビビりかよ」

 

 体の乗っ取りではない、私の体がまるで何かに縛り付けられるように動きにくくなり、そのせいでパニックに陥る。

 

「私の個性は「金縛り」大の男だって指一本動かせない!! どうだ、息すらできないだろ!!」

 

「あ゛、うぐぅ……」

 

 

 

『ダメみたいですね(諦観)まぁ、そもそも魅力値が低いんだから説得できるわけないですよね』

 

 

 

 私は事態の収拾に失敗した。これが最後のチャンスだったのに、私は一縷の望みにかけて懇願する。

 

『敵の個性は『金縛り』サイコキネシスの完全下位互換、こちらにしてみればリセマラ確定の弱個性ですね』

 

「……お願い……止めて……ひどいことはしないであげて……、おねがいします」

 

「はは、不利になったとたんその態度か? 調子乗るんじゃ…」

 

 

 

 

 

 

『では、戦闘開始です』

 

 

 

 

 

 

 全く感情がこもっていない声が頭の中に響いた。

 

 

 私の体が勝手に動きだす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、すぐに空き教室を後にした。

 

 

 その途中、顔を真っ赤にした緑谷君にあったが、私はことのあらましを脚色して伝え、すべてが行き違いであったことを謝罪し、引き返すように忠告した。

 

 そのすぐ後に爆豪君に会った。取りに行かされたという空き教室に置かれていた教材とやらは私が手渡した。不審がってはいたが、すぐに興味をなくした彼が部屋に近づくことはなかった。

 

 例え、大切なものを盗まれたといえども、声に従って帰ればよかった。

 

 無視をすれば彼女たちもあんな目に遭わなかったのに。

 

 

 

 

 最悪だ。

 

『いじめイベントは自分が解決する場合はまず説得に入り、それがだめなら戦闘になるので中ロスです。しかもたとえ戦闘に勝ったとしてもいじめが終わらない場合があります』

 

 こぶしに染み付いたあの感触がいくら手を洗っても落ちない。

 

『これにはモブに与えたダメージの総量分がいじめを止める確率へと換算されるのですが、たとえ体力の99%を調整して削ったとしても改心する可能性は6割ほどです』

 

 ずっとやめてと叫んでいた。私だって止めたかった。やりたくなかった。

 

『本イベントは敵HPの2分の1を削れば終了、しかもHPを10割削りきるほどのダメージを与えると主人公に前科が付いて雄英に行けません、なので普通にやる分にはイベントを確実に終了させることができないんですよね』

 

 自分の口から信じられないほど汚い言葉が勝手に垂れ流された。

 

 『前科者になって、街をうろついて勧誘からのヴィランルートは面白いけどRTAだとクソ面倒なのでNGだ』

 

 耳をふさぎたくても私の両手は勝手にこぶしを握り、勝手に動く、私に許しを請おうとする人たちに、どうすることもできなかった。

 

『なので、特殊な個性でなければ、格闘技に習熟して覚える「ノックアウト」か、夜の街中に現れる不良を何体か養分にするともらえる「恐喝」などの敵にダメージをあたえても削りきらない技を駆使して、最低でも元の体力の二倍のダメージを与えてから処理しましょう』

 

 そんな目で……、そんな声を出すのだけは止めて……

 

『みんなはクッソ手間なのでそもそもこんな状態にならないように気を付けてくれよな!!(中ガバによる自暴自棄)』

 

 あの時の化け物を見るような目で……■■ちゃんみたいな声を出すのだけは…………

 

 

 

 

 

「はは、こんなわたしがヒーローかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日にクラスに入って席に着けば、私に怯えたような目を向ける人が何人かいる。

 

 それを察したのか周りの人からも避けられるようになった。

 

 いてもいなくても変わらない奴から、いないほうがいい奴に私は変わったのだ。

 

 

 

あのあと、彼女たちの幾人かは学校に来ず、その中の2人はもう二度と見かけなかった。

 

 

 

 しばらく、時が経った。もはや私に関わる人は一人もいない。

 

 

 

 

 

 私は以前より、偏執し狂ったように個性を鍛え上げた。

 

 

 家の重りではもう何の枷にもならないので外で重いものを探した。

 

 廃車、岩石、廃バス、直ぐに使えなくなる。使えないので最終的に行き着いたのは自分の力で抑えつけながら自分の力で腕を持ち上げるというよくわからない運動だった。

 

 お昼の授業中も暇さえあれば窓から星空を見ようと目を凝らした。

 

 英語のリスニングをしながら、校外より遠くの音を、より細かく、指向性を加えるように聞き取った。

 

 勉強はむしろ先生の話を聞く時間が無駄なのでもっとより高速で並列な思考ができるように学習した。

 

 人とは関わらない、近づいてくる人には嫌味や罵倒をぶつけた。いい気分ではなかったが、私は人と関わってはいけない人間だと自覚しなければいけない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな日々をがむしゃらに過ごすと私はいつの間にか中学3年生、15歳になっていた。

 

 

「本条、進路希望の紙を出していないのはお前だけだぞ」

 

 

 担任教師が私の目の前に一枚の紙を突き出している。

 

 

 もちろん私の未来はヒーローだ。日本最難関、倍率300倍の雄英高校ヒーロー科しか私には許されない

 

 

 たとえ自分がヒーローを口にすることすらおこがましいロクデナシだとしても、私の願いはただ一つ

 

 

 

『プロヒーローというゴールに向けてハイ、よーいスタート(棒読み)』

 

 

 

 頭の声はプロヒーローになればゴールといった。

 

 

 つまりヒーローにさえなれば、私は自由になれるんだ。

 

 

 そうに違いない、そうでなければ許されない

 

 

 私は私が救われるために、プロヒーローになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 正直ノープランで書いているので今後の展開は迷いますねぇ!!

①ホモ子「馬鹿野郎お前、俺は勝つぞお前!!(天下無双)」
 →天の声と反目し、絶望にうち負け、傷つき続けながらも戦い続ける展開

②ホモ子「ORDER is GOD(命令は絶対)」
 →人格レイプ、機械人間と化したホモ子

③ホモ子「もう十分だ・・・もう十分堪能したよ(やだ怖い…やめてください…アイアンマン!)」
 →諦めと恐怖で声に従いながらも、人の心を捨てきれぬゆえに苦悩するホモ子

④ホモ子「あみちゃんごめんなさい…お母さんごめんなさい…お父さんごめんなさい…僕を死刑にしてください!!(早く殺してくれ! もう待ちきれないよ!!)」
 →言い忘れていたけど、これは君が最速でヒーローに()()()()の物語だ(無慈悲)


 諦めながらも実は少し期待しつつ、それが裏切られ、『まぁ、期待なんて初めからしてないし……』と平素なふりをしつつもがっつり傷ついている展開が好きなので僕は3番です。


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3話

『めちゃクソ面白い最高級マインドシーカーこと僕のヒーローアカデミアRTA3作目、はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 私はなにも考えずに無心で歩く、目の前には試験会場へと流れる人の群れがあった。

 

 

『まずは校門を駆け抜けよう、イベントはランダムだ! 今回の場合は知り合いである主人公か砂糖マンと会うと会話のイベントが長くて微ロスですね』

 

 

「なぁアレ……、バクゴーじゃね? ヘドロん時の……」

 

「おぉ本物じゃん」

 

 

『ヴィランに襲われるなんてロスじゃ日常茶飯事だぜ!! きっと他人の空似だな!』

 

 

「おい根暗女なんで、てめぇもいやがる……」

 

 

『ノゾミガタタレター!

 

 日常茶飯事なのはタイムのロスでしたね(激ウマギャグ)』

 

 

 目の前には爆豪君がいた。

 

 私は盗み聞きだが、受験前にヘドロのヴィランに襲われて危ないところだったが、そんな絶体絶命の場面でオールマイトがそれを瞬時に解決。

 

 見事な物語性が人の目を引き、一躍時の人になったらしい。

 

「…………」

 

 でも困った。なんて返答すればいいんだろうか、何でここにいることになったのかを聞きたいのは私のほうだ。

 

 無視はさすがに失礼か、そうも思ったが返答に時間がかかりすぎた。

 

「チッ………」

 

 爆豪君はしびれを切らしたのか、その場から歩き出す。

 

『短めの会話で終われました。運がデレましたね。

 

 いやよく考えればそもそもあいつに会わないのが一番です。私は不良が不意に見せた優しさなどで落ちはしません

 

 人生という道を真面目に生きてるやつが一番偉い(こち亀感)

 

 さらに言えばチャートという道を守る私が偉いのは自明(守れるとは言ってない)』

 

 私もここに立っているわけにはいかないので歩き出そうとした。

 

「あれ? 本条さん?」

 

 緑谷君がいた。

 

 

『言い忘れましたが発生するイベントとその発生数も運です。

 

 私は最高8連鎖させました。

 

 受験会場前で次々と見知らぬ誰かに話しかけられ続ける主人公、こんな不自然なことが起きますか? おかしいと思いませんか?あなた(絶望)』

 

 

 

 私は思いのほか遅れて会場に入ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は俺のライヴにようこそ!!! エヴィバデェセイヘイ」

 

 

 

 プロヒーローであり、教師でもある試験官から事前にあった試験内容の説明が行われる。

 

 今から行われるのは絶対に受からなければいけない試験。

 

 私は一言一句を聞き逃しまいと神経を集中させた。

 

 

『もうみなさんルールなんて今更ですので、プレゼントマイクの解説をBGMに、今後の趨勢を決める大事な話をしましょう』

 

 

 ……私が並列思考を使えるように成長できなければ癇癪を起していたかもしれない。

 

 

『うーん、40分くらい話そうかな』

 

 

 ……癇癪を起しそうだ。

 

 

『冗談ですが雄英高校ヒーロー科入学試験で最高率の結果を狙うとき、それほどすべきことは多いということです。そしてそれを狙うだけの価値がこの試験にはあります。

 

 このRTAはできる限り個性を育てながらもイベントは起こさない方針ですが、この場合入学後にある問題が発生します。

 

 本編開始前の経験値の取得できるイベントは限られているため、通常プレイとそこまで大きな差はありませんでした。しかし入学後はイベントがガンガン増えるため、通常プレイと比べてイベントを避けるRTAは経験値の不足に悩まされます。

 

 限られた経験値を自分の個性と他の必要なスキルや能力値にどう割り振るかが走者の腕の見せ所となるわけですね。

 

 まぁ、私としてはそんなことは考えるくらいなら個性の強化全振りでいい増強型の個性一択です(脳筋)

 

 回復系の個性で走っている酔狂な人もいるみたいですよ

 

 長々と語りましましたが、つまり入学後は得られる経験値が限られるため、うま味なイベントは逃さないことが重要になってきます。

 

 そしてこの入学試験に始まる学校イベントは、戦闘イベントのような敵味方の生死と条件の調整などクッソ手間がかかるフラグ管理を考えなくてよく、ただいい成績を残せばそれに応じた経験値がもらえる純粋な経験値ブーストというわけです。

 

 

 

 なので今後を楽にするためにもこの試験はぶっちぎりの1位で終了させるのが大事です』

 

 

 

 ……受かることを通り越して当たり前のように1位を取ることが前提であると語る頭の声に、私は唖然とした。

 

 

 並みいるライバルたちを押しのけて私がそのトップになる?

 

 

 こんなたくさんの人の中で自分みたいな人間が?

 

 

 ……いや違う、できるかではない、やるのだ。もともと私にはそれしか残されていないんだ。

 

 

 私は自分が弱気になっていることに気付いて歯を食いしばった。

 

 

 

 

 

 

『ではこの入学試験で1位になるために最も重要なことですが……』 

 

 

 

 覚悟はもう既にした。

 

 私は何が何でもヒーローになって終わらせなければいけない、その日まで私は心を凍らせてこの声に従うと決めたのだ。

 

 

 

 

 

 

『実はもう終わっています。 

 

 あとは一位を取るだけです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 試験会場は市街地を丸ごと摸して作られた巨大施設だった。

 

 このような大規模の会場が他にも何か所もあるという事実は、数多くの受験生たちに雄英の途方もないスケールを感じさせた。

 

 そこで受験者は複数の場所へと割り振られ、待機させられる。

 

 待っている間の彼らはほとんど会話がなく、張り詰めた空気が漂っていた。

 

 事前に知らされた内容から、点数の奪い合いになることは自明。

 

 受験者たちは周りを見やりながら浮足立っていた。

 

 

 

「ハイスタート!」

 

 

 

 そんな中で突然言われた言葉に反応できたものは少なかった。

 

 

 ごく少数の者たちがそれを聞いて走り出す。

 

 それを見て、意図に気付いた者たちも素早くそれに続く

 

 この時点で動けたものは1割ほどだ。

 

 

「どうしたぁ!? 実践じゃカウントなんてねぇんだよ!! 走れ走れぇ!!」

 

 

 そこで事態に気付けた者が大半だ。誰もが我先にと駆け出す。

 

 

「賽は投げられてんぞ!!」

 

 

 ここで最後まで残ったものはようやく事態を飲み込み、遅まきながら走り出す。

 

 

 

 

 そのような光景が焼き直しのように会場のいたるところで見られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ならばその駆け出す集団を眺めながら歩くものなど何を考えているのであろうか。

 

 

 

 

 

 全く焦りを見せないが、何か秘策を隠しているといった自信も感じさせない、それどころかどんな感情も見せていない。

 

 

 全くの無

 

 

 これを見れば人形でさえ表情豊かであると断言できるほど、彼女の顔からはすべてが抜け落ちていた。

 

 

 ゆっくりと歩く姿とは裏腹に、彼女の眼球だけが散らばっていく受験者を瞬時にとらえながら異常な速度で動く

 

 

 駆け出す彼らの背中に顔を向け、

 

 ……しばらくすると彼女はとうとう歩くことすらやめた。

 

 

 そして何秒かしたのち

 

 

 

 

「…………はい、よーい、すたーと」

 

 

 

 

 その体が消えた。

 

 

 

 常人が見るならテレポートに類する個性であると考えただろう、しかしそれは先ほど前までは無かった地面に入る無数のヒビを見て違和感を覚えさせる。

 

 

 

 女は空を飛んでいた。

 

 

 

 ただの純粋な踏み込みによる跳躍が飛翔に見えたのはそれがあまりにも縦横無尽だからだ。

 

 4車線と歩道を隔てて立っているビル群を交互にはねながら移動し、駆け上がる様は意思を持つ悪魔じみたピンボールだった。

 

 

 彼女はその速度を持って、知っていたかのように悠々と誰もいない狩場を見つけ、そのいかれた速度と質量で存分に狩りの限りを尽くす。

 

 そうして終わった瞬間、一切の減速をせず、違う方向へと迷いなく飛んだ。

 

 

 そんな繰り返しの中で、戯れのように他の受験者たちがいるところに現れては仮想敵を打ち壊す。

 

 それは注意深く見れば、けがをする直前である者、敵に追い込まれている者であったのだが助けられた彼らはそのあまりに暴力的な姿を見て、どうしてもそれが自分を助けたとは思えなかった。

 

 まるで食い散らかすように、仮想敵をバラバラにされたことにより、残された者たちは己の獲物を焦ったように探す。

 

 

 残る敵は、あの化け物が残した食べカスしかないとしても、それに群がる。

 

 

 そんな風に点々と残されている敵をたどっていくと幸運なことに敵が固まっている場所を見つける。

 

 

 彼らは涎を垂らしながら、しかし周りに気付く、横を見れば同じように飢えた者たちが何人もいた。

 

 それが意味することを理解したものは一斉に動き出す。 

 

 

 

 

 

 

 しかし点数に夢中の者たちは気づかない。

 

 

 

 

 

 突然、横合いのマンションから、今まで隠れていたように圧倒的質量が飛び出す。

 

 

 倒すことなど考えることも烏滸がましい破壊不能の敵

 

 

 ビルと同じ大きさの構造物のそれが動く光景は人を恐怖させた。

 

 

 この場にいる皆が敵に集中していたせいで反応が遅れ、どうして今まで気づけなかったのかと焦りながらも逃げ始めるがもう遅い。

 

 

 突き出された機械の腕はすでに振り下ろされている。

 

 

 

 だがその腕が地面に到達することはなかった。

 

 

 

 瞬間その腕が横合いから飛び出した何かに打ち抜かれ、ひしゃげる。

 

 

 その軌道はそらされ、同時に……

 

 

「終了~!!!!!!!!」

 

 

 試験終了を告げられた。

 

 

 

 

 何が起きたのか理解ができない、そんな風に呆然としていると衝撃で潰れた機械の腕のすぐ傍、立ち込める粉塵の中で浮かぶ影がある。

 

 

 それを見て自分たちが助けられたことに気付いた者たちは粉塵が薄くなった時、目の前の人物をみて息をのむ。

 

 

 ひしゃげたロボの腕と同じ、いやそれ以上にぼろぼろになった腕はただ胴体にくっついているぐしゃぐしゃの棒切れだ。それを支えた肩から胴、足にかけても同じようにずたずたに傷ついていた。

 

 

 それほど傷つきながら、あれほどの英雄的な行為をしたというのに、彼らの心に感謝や憧れといった感情は浮かばず、あるのはただただ恐怖と不安感だった。

 

 

 目を背けるほどの傷を負いながらも、微動だにせず地面に直立し、こちらのほうを瞬きすらせず、見つめ続ける何の光も映さない目は真っ赤に澱んでいた

 

 その姿があまりにも不気味すぎて同じ人間には見えなかったのだ。

 

 

 

 

 

 ようやく彼女が口を開いたのは救護班が来たときだ。

 

「自分の個性を超えて体を酷使したのかい? 全く、今年の受験生は無茶ばかりする子が多いね」

 

 

「自分の個性の練習をしたいので回復はさせないでください」

 

 見れば彼女の怪我はほんの少しずつ、ゆっくりであるが、よく観察すれば目に見えるスピードで治癒している。

 

「……そうかい、無茶はするんじゃないよ」

 

 

 

 彼女はそこでようやく地面に座り込み、しばらくして歩き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『実はもう終わっています。あとは一位を取るだけです』

 

 

 

 私はプレゼントマイクの説明を聞くことを忘れて言葉をなくす。

 

 

『ここで重要なのは立ち回りもそうですが、理想の会場、つまり最も効率的な稼ぎができる会場Fで参加することが条件です。

 

 本来ならこの会場Fを引き当てるために、受験申込の時間をずらしたり、特定の行動をおこして乱数をひきよせるなどの必要があります。

 

 しかしその乱数は様々な条件で変化し、それぞれに対応したとても細かい操作が必要となり、走者を悩ますのですが今回は必要ありません。

 

 なぜならこの会場F、主人公二人の後の受験番号、つまり同じ学校で最後に受験を希望すれば自動で確定するからです。

 

 これは主人公と原作キャラたちの受験番号が固定であり、この二人の後の受験番号が会場Fへと割り振られることによる現象ですね。

 

 すごいぞ、まったくこんな簡単に会場Fにたどり着けるというのになぜ他の走者はこのルートを選ばないのか私には理解に苦しむね(すっとぼけ)』

 

 

 

 ……それが準備なのだろうか?

 

 

 私は疑問に思いながらも受験会場へと進んだ。

 

 誰もが自信と気力に満ち溢れ、気圧される。

 

 がちがちに固まりながらも深呼吸を繰り返していると

 

 

「ハイスタート!」

 

 えっ……

 

「どうしたぁ!? 実践じゃカウントなんてねぇんだよ!! 走れ走れぇ!!」

 

 周りがあわただしく動いているのを見ながら私も走り出そうとするがあの感覚が来た。

 

 

 体の五感がストンと落ちるような、いや切り替わるような感覚。

 

 

 私はその場から一歩も動くこともできず棒立ちとなった。

 

 

 すぐに動かないといけないのにと焦るが頭の声はやはりいつも通りだった。

 

  ようやく私の足がゆっくりと動き出す。

 

 

『まず今回の敵の分布と受験者のばらつきを見ましょう。

 

 ちょっと普通……3点(何点満点かは言わない)

 

 可もなく不可もなくというところです。

 

 この試験、仮想敵のロボを倒すヴィランポイント、救助や協働といったレスキューポイントがありますが……』

 

 初耳だ。そんな審査項目は聞いていない。

 

『……会場Fは敵の分布が一番狩りやすく、受験生もへなちょこが多いので救助するタイミングも多いです。

 

 なおかつタイム切れ間際で0ポイントのロボが現れ、男気を見せるタイミングが固定であるので相当なポイントが期待できます。

 

 うまくいくと総合200点越えとかも出せるみたいですよ』

 

 

 私に頭の声を聴く余裕はない、自分の眼球が信じられない速度で動き、それぞれの受験者の動きを認識すると同時に聴覚によりこの先にいるであろう敵の位置を探り出した。

 

 その処理を自分の脳が行い、勝手にこの場所のマップを頭の中に作り出す。

 

 脳が焼ききれそうな痛みで失神しそうになるが体がそれを許さない。

 

 私は自分でも知らないような個性の使い方を体に刻まれ続ける。

 

 

 

 

『では移動しましょう』

 

 

 

 

 

「…………はい、よーい、すたーと」

 

 

 

 

 

 

 口から漏れた声はひどく虚ろで、なんの抑揚もない。

 

 

 

 私はまるでジェットコースターに乗せられたような、自分がどこにいるかも分からなくなるほどのGに翻弄される。

 

 だが奇妙なことに、体のどこかでここがビル街のど真ん中であり、自分がどのような体勢で、どの座標にいるかをその優れた五感で理解させられていた。

 

 今まで鍛えてはいたがその体で何ができるか、どのように組み合わせ体を動かすかなんて試したこともなかった。

 

 まるで強制的に学習させるかのように限界ギリギリで稼働し、頭に叩き込まれる情報は苦痛を通り越して発狂を引き起こす域まで達した。

 

 

 私の絶叫はもちろん自分の喉すら震わせることができない無為な行為として片づけられる。

 

 

『分布している敵を片づけながらピンチに陥っている受験生(ポイント)を助けましょう。

 

 そして、その中でマップの十字路の敵、クソデカ看板の前の敵、電波塔前の道路の敵は必ず1、2体は残しておいて、マンションの前の敵は倒さず全部残しておきましょう。

 

 これをすることで、ポイントに飢えた受験生(ポイント)がここに集まります。

 

 うーん何人くるやろなぁ~、再走回数、オフ会のお知らせの練習回数から考えて、0人ってことはないと思うんですよねー、ええ、はい、まさか0人ってことはないと思うな~

 

 

 36……、普通だな!』

 

 

 私はその広場の奥に一人、静かに降り立つ、一体何をするつもりなのだろうか、そう思っていると突然轟音が聞こえた。

 

 目の前のマンションが崩れ去り、巨大な兵器が広場の全員を叩きつぶさんと腕を上げていた。

 

 

 記憶が瞬く。

 

 

 無慈悲な敵、振り下ろされる凶器、それを受ける無辜の人

 

 

 だめ!!!!!!!!!!!!!

 

 

 私は目の前の人たちが潰されようとする前に自分の全身全霊で手を伸ばす。

 

 

 この時、初めて私の動きと声の支配が一致した。

 

 

 

 

 爆発的な踏み込みで足の筋肉がブチブチとちぎれていく音を聞き取った。

 

 瞬間的加速で目の毛細血管が破裂する。

 

 衝撃

 

 足の力を腰のひねりと肩の回転で余すことなくこぶしに集め、金属の塊にたたきつける。

 

 だが、敵を殴りに行くことは同じ衝撃が拳に伝わることと同義である。

 

 私の腕が弾ける。中の骨は粉々でもう腕としては使えないだろう、同じように伝わった衝撃は内臓をかき回し、踏み込みを行った利き足も腕と同じぐらいひどい有様だ。

 

 

 

『ホモ子と受験生が死にかけましたが、点数を取得できたので問題はありません』

 

 

 

 私はすべてを理解する。

 

 

 これだ。声はこれを狙っていたのだ。

 

 目的のためなら自分以外の誰がどうなっても……いや違う……私も含めたすべてを犠牲にしてもかまわないのだ。

 

 

『最後はどうしても威力が足りないのでスキルで補正しました。全く……個性のおかげで主人公は片腕だけの犠牲でロボ全体をぶっ壊すんだからやっぱりこのゲームは個性ゲーですね』

 

 

 

 呪詛を吐こうにも口は動かず。そもそも体の痛みでそれどころではない。

 

 私はただただ心の中で慟哭した。

 

 

『ダメージは受けましたが個性「成長」はアイテムや個性を使わず自力で回復するとその分能力にボーナスが入るので傷は放置しましょう』

 

 

 あとあと来た、学校側の人間は私に治療を提案する。 

 

 

 その直後、体が動くようになった。

 

 その場で倒れこみそうになるのを気力で抑えながら声を出す。

 

 

「自分の個性の練習をしたいので回復はさせないでください」

 

 

 

 それでも声に従う、それが私にできる唯一のことだと信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 本条 桃子

 

 

 ヴィランポイント122点 レスキューポイント55点

 

 

 実技総合成績177点で次席と2倍以上の差をつけ1位

 

 

 行われた学力試験は5教科500得点で1位

 

 

 

 

 

 一部の人間には試験中の不可解な挙動について指摘されたが、誰に何と言われようと圧倒的な主席合格だった。

 

 

 

 

 

 




 結構、ギャグと思ってみて引かせてしまった人がいますね……、

 許して腸捻転(HHEM感)

 行き過ぎた悲劇はもはや喜劇(ギャグ)だと思うけど、これもうわかんねぇな、お前どう?

 今後の方針は……、そうですねぇ……、やっぱり僕は外道を征く、ダーク系ですか(鉄の意志)





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4話

『第四章、確率レ○プ、パワプロペナント観戦編と化した名作クソ運ゲー、はぁじまぁるよー!』

 

 

 

「桃子……、雄英から合否通知が来たぞ」

 

「ありがとうお父さん」

 

「大丈夫、お母さん桃子が頑張ったことちゃんと知ってるわ」

 

 

 合否については流石に両親に話さなければいけないだろう、私は部屋の扉の前で無造作に封筒を開ける。

 

 

 中身を見ると何枚かの書類と小型の機械が入っており、それを取り出してみた瞬間に空中に画面が浮かび上がりだした。

 

 

「私が投影された!!!」

 

 

『はい、トイレタイムです。小さいほうなら急げば間に合います。大は諦めてください、私は喉が渇いたので飲み物を取ってきます

 

 ここで草(緑茶)飲めるんで』

 

 

 どうやら投影装置の一種らしい、映されたオールマイトは私が主席合格であること、試験中に見ていたヴィランポイントとヒーローポイントの話を含め私を称賛している。

 

 それをどこか他人事のように眺めているといつの間にか映像は終わっていた。

 

「やったー!! 雄英よ! お父さん!」

 

 知っている。

 

「おまえは大したものだよ、桃子」

 

 私がすでに合格することも

 

「今日はごちそうね!!」

 

 本当はお母さんは私にヒーローなんて危険な仕事について欲しいとは思ってなくて、いつも泣いていることも

 

「お前は俺たちの自慢の娘だ」

 

 お父さんはお母さんと私、何より家族を優先していつも支えてくれていて……、でもその所為でお酒が増えていることも

 

「ありがとう」

 

 全部知っている。全部私のせいだということも

 

 

『さーて、雄英に受かったわけですが、入学に備えてやることは変わりません「個性を育てよう」一択です。 プルスウルトラァ!! RTAに遊びなんざ必要ねぇんだよ!!』

 

 

「ごちそうもいいけどさ、雄英はすごい所だから、きっと私の力じゃ全然足りないと思うんだ。だから外に行ってくるよ」

 

「っ……い、行ってらっしゃい桃子、準備して待ってるわよ!」

 

「……車に気をつけてな」

 

 だけどこの声は無慈悲だ。

 

「……もし……、あのね、もしなんだけど……」

 

 でも一言、どうか一言だけでいいから許してほしい

 

「もしも私がプロヒーローになれたらお花見に行きたいな、昔みたいにみんなで……」

 

 いつか自由になれたなら

 

 そう言って返事は聞かずに私は玄関に向かった。

 

 

 

 

 私の自由を勝ち取るための学校生活が今始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今雄英高校教室の前にいる。

 

『さてここからが本番です。教室にはゆっくりめに、大体の人数が集まってから入りましょう、新しい生活とクラスメイト達、ここで一番大事なことは初対面の印象です。言い争いをするトンガリコーンとメガネのイベントを無視して颯爽と席に着きます』

 

 なぜか言い争いをしている爆豪君と真面目そうな人を遠巻きに避けながら指定された席に無言で向かうと席に着いた。

 

『試験で首位を取った場合、高確率で誰かが話しかけてきます。ここで話しかけてくる人たちはランダムですがこの会話イベントに限り周りの好感度も変動しますので、会話の失敗を祈りましょう、初期値の好感度を下回ると話しかけられる確率がぐっと減るので運のくせに実はかなり重要な場所なんですよねここ、ちなみに個人個人との好感度とは別にクラス全体での好感度が設定してあり……』

 

 私が頭の声を聴き流しながら席について空いた時間で勉強していると話しかけてくる人がいる。

 

「……おい根暗女」

 

 

『あっ…そっかぁ……(痴呆)ボンバーマンと幼馴染だとこっちが強制されるんだ。あまり走らないから勉強になるゾ……』

 

 

「テメーといい、デクといいことごとく俺の人生設計をぶち壊しにしやがる。史上初の雄英進学者!! その箔をよぉ!!!!」

 

 そういえば自由登校は学校に一切行かず、三年目は別のクラスだったので受験から会うのは初めてだった気がする。

 

 でも、私立中学史上初の雄英高校合格者が3人も同時に現れたことはむしろ地元で伝説と噂されているのでそれで納得してはくれないのだろうか?

 

 私は息を吸ってこわばった顔を作る。

 

「そのあなたの都合、私に関係あるのかな? 勝手な考えを押し付けられて正直不快だよ」

 

 ……ごめんなさい爆豪君。

 

『このイベントでは感度3000倍男にどれだけ攻撃的な会話をしても周りの好感度は下がりません、向こうがそもそも喧嘩腰だからね、しょうがないね』

 

 

「あ゛ぁ!!!!!????」

 

「こら、君たち喧嘩は良くないぞ!」

 

『相手がカンカンでいらっしゃる。咥えて差し上げろ(煽り)』

 

 

 そうしてわたしたちがうるさく言い合いをしていると

 

 

「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け」

 

 

 廊下に何かいるとは思っていたが寝袋に包まり、無精ひげを生やした人が横になっていた。

 

 学校における学生以外の大人なんてものの職業を用務員以外に一つしか思いつかないが、目の前の光景はそういった私の常識を揺らがせる。

 

 

『出ました合理性マン、1-Aのツンデレ教師ですね』

 

 

 ……どうやら本当にこの人は教師らしい

 

 

 ポカンとしている私たちは、ごそごそと寝袋から這い出す先生らしき人を黙って見る。

 

「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 

『時間は有限、それには同意です。コイツまさか私と同じ走者か?』

 

 

「担任の相澤消太だ。早速だが体操着着てグラウンドにでろ」

 

 

『うーんこのスピード感、ちゃっちゃと展開が進んで素晴らしいですね』

 

 

 私たちは言われるがままに着替えて急いでグラウンドへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからお前らには個性把握テストを行ってもらう」

 

 

 先生の説明によれば自分の個性を把握しようということらしい

 

 今まで個性を禁じられて生きてきた周りのみんなはやる気に満ち溢れた顔をしている。

 

 

「なんだこれ!! すげー面白そう!」

 

「個性を思いっきり使えるんだ!! 流石ヒーロー科!!」

 

 それを見ていた相澤先生が呟いた。

 

 

「……面白そう……か」

 

 不気味に目を細める先生に私は何か嫌な予感を感じた。

 

「ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごすつもりか? よし、トータル成績最下位の者は見込みなしとして除籍処分としよう」

 

 周りから驚愕の声が響き渡る。

 

 

 ……こんなところで立ち止まってなんかいられない、私はヒーローになるんだ。

 

 

「はじめは50メートル走だ。さっさとならべ」

 

 

 私は緊張をほぐす為に一つ息を吐いて、集中を高めた。

 

 

 ……大丈夫、私の個性は入学試験でも通じた。いつも通り頭の声にまかせて体を動かせばそれでいい、ただ歯を食いしばればそれでいつか終わるんだ……。

 

 

『個性把握テストは特に操作することもないのでオート放置です。ホモ子一人で頑張ってもらいましょう』

 

 

 え……?

 

 

『ここで続けてのトイレ休憩です。偏りスギィ!もっと後半にトイレ休憩を作ってほしいです……、そんな蛇口みたいにおしっこは出ないから……、なおウンコができるほどの時間でもない模様

 

 長時間かかるRTAでは尿意と便意は大敵です

 

 利尿作用の強い緑茶、紅茶、コーヒー、コーラなどの飲み物はRTAでは避けましょう』

 

 

 実を言うと私は自分の個性を使いこなせる自信が全くない。

 

 確かに私は個性を育て続けていたが、その使い方の練習なんて一度もしたことはないからだ。

 

とてつもない力を出すことはできるが、ある一定以上の出力を出そうとすると全くコントロールできない、張りぼての個性が私だ。

 

 走るにしてもそうだ。個性を一般人がむやみに使うのは禁止されている。だから私は隠れて鍛えるしかなく、足だって走るのに必要な筋肉をただ育ててきただけで、一度だって全力で走ったことなどない。

 

 中学時代、個性を使って学校の子たちの後ろに回りこんだ時も、あれは本来なら目の前に止まるつもりが行き過ぎただけであり、むしろ自分の力に振り回されて転ばなかったことが奇跡だった。

 

 たとえ、この個性で50メートル走をしたところで、私は前に向かって動くことすらできるか怪しいだろう。

 

 

 声の操作なしの私は弱い。

 

 私一人に、ヒーローになるなんて、そんな実力はありはしない。

 

 

 嫌悪していたこの声に実は期待していた自分に気付いて情けなくなるが、それ以上に不安が出てきた。

 

 このままだと記録なんて出せるわけがない、下手をすれば除籍するのは自分かもしれないのだ。

 

 握力や視力、聴力などの純粋な身体機能ならまだ望みがあったのに……、いや違う……、そもそもまともに個性を調節できないような人間をあの先生が許してくれるだろうか……?

 

 

 

『操作することもないので今のホモ子の育ち具合についてでも語りましょうか。

 

 実はホモ子の個性は言うほど強くはありません。

 

 敵の強キャラやプロヒーローたちには及ばないうえ、これから仲間たちの戦闘力もインフレしていくのですごい勢いで追いかけられます。

 

 安定して無双ができるのは序盤ぐらい、だから無理にでも入学試験で稼いだわけなんですが……』

 

 

 

 当然だ。

 

 ここにいる人たちは私と違ってヒーローになるべき人たちだ。私とは何もかもが違う

 

 

 

「飯田天哉、3秒04」

 

(50メートルじゃ3速までしか入らんな……)

 

 

 すごい個性だ。足についているエンジンのような機関で、圧倒的な速度を走り抜けている。

 

 

「ふふ、みんな創意工夫が足りないよ、個性を使っていいってのはこういうことさ」

 

「青山優雅、5秒51」

 

 

 レーザーのような個性の反動を利用した移動方法に個性の工夫なんて考えたこともない私は驚かされた。

 

 

「オラァ!!」

 

「爆豪克己、4秒13」

 

 

 みんな自分の能力を十全に出しながらタイムを出している。それを見て既に喉はカラカラだった。

 

 私の体が動くとき、その時は全部が声任せだった。

 

 あの悪魔じみた効率的な体の運用、あれがあって初めて私はヒーローになれる可能性があったのだというのに……

 

 

「おい本条、お前の番だ、早く準備しろ」

 

 

 除籍はやだ。やだやだやだ……

 

 

「なんかあいつ顔色悪くないか?」

 

「……顔が真っ青、もしかして体調がすぐれないんじゃ……」

 

 

 ふるえる足を何とかおさえながら、私はスタートの白線の前に立つ。

 

 

『ホモ子はいわゆる早熟型の天才って感じです。

 

 神童も二十歳過ぎればただの人、普通にイベント前提のゲームだからね、パワポケでただ野球だけをしても強くなれないのと同じです』

 

 

 

「スタート!」

 

 

 ただがむしゃらに踏み込むしか私にはできなかった。

 

 

「…………ッはぁ!!……」

 

 

『ですがその20までの才能で逃げ切るのがこのチャートなんですけどね』

 

 

 

 

 

 

「……本条桃子、2秒50」

 

 

「おいおい、なにが体調が悪いだよ……」

 

「……すげぇ、まじかよ、地面がえぐれてるじゃねーか」

 

「クッ……、走りで負けるとは……、さすが雄英主席」

 

 

 

『ヒューッ! 自慢じゃないがうちのホモ子は百メートルを五秒フラットで走れるんだぜ(宇宙海賊感)

 

 なんで受験でアホほど目立ち、イベント発生の危険を無視して1位を取ったと思っているんですか、まさか皆さん何も考えていないガバと思っていませんよねぇ(ねっとり)

 

 というか増強型がこのテストに有利なのは当たり前だよなぁ?』

 

 

 動けている。

 

 あの受験会場での体の動かし方がなぜか自分にも刻み込まれていると感じる。

 

 いやそれどころかあの時よりも体の動きが自分で理解できてずいぶんと楽になったと言ってもいい

 

 

『前回分の強化でさらに育ったので、本RTAは個性だけで見ればホモ子の仕上がりは理想的です。

 

 一気にスキルも取得したので多少のガバはお釣りがくるのでガンガン行こうぜ!!』

 

 

 情けない話だが、私は全てが声の掌の上のような気分に対する怒りよりも、なにより除籍にならないことにほっとしていた。

 

 

 

 

 

 第2種目 握力測定

 

「おいおい、筋肉ダルマみたいな男を超えた記録を出している女がいるんだが……」

 

「ゴリラか?」

 

「メカゴリラだな」

 

 

 第3種目 立ち幅跳び

 

「ミサイルかよ……、まだ飛んでるぞ」

 

「アレ着地大丈夫か……、うっわ落ちた所がすげぇ土煙だ」

 

「着地っていうより着弾だろ」

 

 

 

 第4種目 反復横飛び

 

「速っ! 目で追えねぇ」

 

「残像が見えてというか……、あの子地面がすり減ってどんどん埋まってない?」

 

 

 第5種目 ボール投げ

 

「レーザービームかよ……、ってさっき似たようなこと言ったな俺」

 

「全身凶器かあいつ」

 

「全身兵器のゴリラとか恐ろしすぎるぜ」

 

「アンタら女の子に何失礼なこと言ってんのよ!」

 

 

 私は自分の女としての評価が著しく下がっていくのを感じたが除籍にさえならなければなんでもいい。

 

 

 こうして私は自分のテストを終えると、クラスメイトの結果を見て、自分が除籍にならなそうだと分かり卑しくも安心した。

 

 

 

 

 

『結果発表おおおおお!!!!!(一般レジェンド芸人型ゴリラ)

 

 ……の前に、主人公のイベントです』

 

 

 

「緑谷出久、46メートル」

 

 

 緑谷君はまだハンドボールを投げようとしている。

 

 ……が、どうやら様子が変だ。

 

 

 先生は緑谷君を睨みつけ。

 

 緑谷君は先生に向かって信じられないものを見たように硬直している。

 

 

『あれれ~おかしいぞ~、一人だけロクな成績出せてない人がいる~、なんで~、教えて相澤のおじさん』

 

 

「……つくづくあの入試は合理性に欠くよ、お前みたいな奴らも入学できる」

 

 その冷たい目がこちらをチラリと見た気がして背筋が凍った。

 

「個性を制御できていない、また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりか」

 

「そっ、そんなつもりじゃ…」

 

「お前がどう思おうが周りがそうせざるを得ないって話だ」

 

 そういわれた緑谷君は口をつぐんで苦しそうな顔をする。

 

「さっきはお前の個性を消した。ボール投げは二回だ。さっさと済ませな……」

 

 

 

 個性を消した!?

 

 そんなことができる個性があるなんて、だとしたら私の中の声にもきくのだろうか

 

 

『頭マリモッコリ君がオールマイトからもらった個性「ワン・フォー・オール」を使いこなせていませんね、純粋な殴り合いに限って言えばホモ子の個性の完全上位互換です。ちょっと主人公補正強すぎんよ~』

 

 

 ……………は?

 

 緑谷君がオールマイトの個性?

 

 

『今年の夏にオールマイトが引退するんだから頑張るんだ主人公! 悪の秘密結社ヴィラン連合を打ち倒すため、男なら背負わにゃいかん時はどない辛くても背負わにゃいかんぞ!』

 

 

 引退!? オールマイトが!? なんで!!??

 

 

『ヒーローが負けたら、この国、かなり修羅って大変なことになっちゃうので、ひろあきゃあのみんな~ がんばえ~』

 

 

 …………国が大変なことになる?

 

 

 私は顔色を一人でくるくると表情を変えながら、緑谷君を見る。

 

 

 彼は無個性のはずだった。

 

 

 だれも彼が雄英に来るなんて思ってはいなかっただろう。

 

 しかし、この声は彼がこの雄英に来ると昔から確信していた。

 

 

 声の話す未来のほとんどは、外れたことがない。

 

 この雄英に入る学生のほとんどの名前を、ここに来る前から言い当てていたのもそうだ。

 

 この声が話す未来の内容はおきる可能性が非常に高いと考えていい、それが12年間この声を聞いてきた私の結論だ。

 

 

『下手に友情ムーブに巻き込まれると死ぬ確率が跳ねあがるので、彼らに期待して、私たちはポップコーンでも食べてましょう』

 

 

 つまりこの高校生活は恐ろしい何かが待ち受けている。

 

 それはこの国が変わるような重大な何かだ。

 

 私にそんな大それたものを左右するヒーローみたいなことができるわけがない

 

 長考して下した結論は何もしないという呆れるほど情けない答えだった。

 

 

 

 ……私が見捨てたわけじゃない

 

 見捨てたんじゃない、元の運命がそうなだけ、私が知ったのは偶然で……、私が悪いわけじゃ……

 

 だれだって私と同じように考える。

 

 仕方がない、仕方ないんだ

 

 

 

 

 その時、空気を無理やり割くような大きな音が私の考えを中断させる。

 

 

 

 緑谷君が全力の一投を投げていた所だった。

 

 

「まだ……、動けます」

 

 

あぁ、なぜ皆はあんなに輝いているのだろうか

 

 

「すっげぇ!!!!」

 

「とんでもねぇ記録だ!」

 

「あいつかなり熱い奴だぜ!」

 

 

 どんな逆境でも諦めない緑谷君。

 

 自分以外の誰かを蹴落とさなければいけない、この状況で、こんなに誰かの活躍を喜べる人たち。

 

 彼らは本物のヒーローで、ここにいる全員がおそらく私のような答えは出さないと確信できた。

 

 

 そんな自分の醜さを照らされた時、もう限界だった。

 

 

 

「……先生、体調が悪いので、保健室に行かせてください」

 

 

 

 ここにいるのが嫌で嘘を言ったわけではない

 

 ただ私は本当に気分が悪くて……、吐きそうで立っていられなかっただけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼は目の前にいる自身の教え子である女生徒。

 

 

 本条桃子を前にどうしたものかと頭を悩ませていた。

 

 

 

 うつむく彼女を見ながら、受験試験直後のことを彼は思いだす。

 

 

 

 

 

 

 

「YEAH! 今年は豊作だ! どいつもこいつもなかなかに活きがいいじゃないの!!」

 

「えぇ、今年は例年に比べて実技、筆記と高いレベルです」

 

「しかしその分、はねっかえりも多そうだ。今年の一年の担任は相澤先生と管先生ですが大丈夫ですか?」

 

「1のB組は面白くなりそうです。うまくやりますよ」

 

「……………」

 

「相澤君のほうはどうだい? ……ん?どうかしたのかい相澤君」

 

 話を向けられた男は静かに顔を上げる。

 

 世間話に興じる教師たちの中でただ一人、眉をひそめるのを隠しもしなかった彼は静かに口を開いた。

 

 

「私は再三言ってきたはずです。この本条という受験生は他の受験生を危機にさらしてポイントを稼ごうとした。だからそんな奴にヒーローポイントなんて与えるべきではないと」

 

「………それは全て偶然だったという結論に落ち着いたじゃないか」

 

 

 そんなわけがない。あれは意図的な誘導だったと彼は確信していた。

 

 あれほどの実力をもっていたにもかかわらず、あの一帯だけ不自然に残された仮想敵は、一つの場所に通じるように配置されていたのはなぜか

 

 すべてはあそこに他の受験生を集め、自分がそれを救ったように見せかける彼女の策略であると彼は周りに意見した。

 

 

「あの時、あの場所でロボを襲わせたのはこちらのアドリブだった。そうだろう? そして彼女のレスキューポイントが0点だとしてもヴィランポイントだけで主席だ。結局合格になることは変わらない、違うかい?」

 

 

 目の前の優秀な上司がそのことに気付かないわけがないことは彼には分っていた。

 

 だというのに、そのとぼけるような態度がさらに彼を苛立たせる。

 

 

「えぇ、私が彼女を認めなかった。それだけの話です」

 

 

 だからこんな入試は合理的ではないと言い続けているというのにと、彼は内心で毒づいた。

 

 

「ではなぜそんな奴をよりによって私のクラスに入れたのでしょうか」

 

「不満かね?」

 

「疑問です。言っておきますがそこまでして入れても、私はヒーローにふさわしくないと感じたら除籍させますよ。彼女に可能性を感じるならB組にでも入れておいたほうが合理的だ」

 

「ふむ、じゃあどうすれば君はあの子の担任になってくれるんだね?」

 

 

 彼にはなぜ頑なに自分にあの少女を預けようとするのかが分からなかった。

 

 

「……繰り返しますが私は彼女をすぐに除籍させます。全く以て非効率的だ。彼女の担任をするなら他の受かるはずだった奴の担任に私がなるほうがまだ合理的ですね」

 

 

 嫌味も多分に含んだ言葉だったが、相手の顔は涼しく、まったく堪えた様子はない。

 

 

「なるほど分かった。ならば君のクラスは21人目の枠で用意しよう、これで君の心残りはないわけだ」

 

 

 あまりの無茶苦茶に思わず彼は返答に詰まった。

 

 

「……そういう話ではないでしょう」

 

「君が即除籍させれば、ちょうどぴったりクラスは20人、したいならすればいい、君の言う合理的な判断という奴ではないのかな」

 

 

 どうやらどうしても自分に主席様の担任をさせたいらしいと彼が気づくと、押し黙る。

 

 わだかまりはあったがこれ以上、理屈をつけて反論しても意味はない。

 

 彼は合理的に考えて口を開くのを止めた。

 

 

 

 

 

 

 反論を止めたがもちろん彼は彼女を認めたわけではない。

 

 

 

 

 

 

 本条桃子の試験結果は完璧だった。

 

 

 ルールの中で自分の最大最高率を打ち出す。

 

 

 合理主義者の彼に言わせても反吐が出るほどの合理的行動だった。

 

 

 人の獲物の横取りは当たり前、偶然に残した敵は他の受験生が敵の多い場所に近づかせないよう誘導する囮

 

 そして何より最後。

 

 

 彼女は他人を踏み台にしてレスキューポイントを総取りにしようとした。

 

 自分で危険を作り自分で救うマッチポンプ

 

 

 その時、この女は人を助けようなんてことは微塵も考えていないと彼は確信した。

 

 だからこそ彼女が雄英にふさわしくないと彼自身の考えを意見したのだ。

 

 彼の提言は試験当日の教師の中でもかなりの議論となり、結果として巨大ロボの最後の一撃はヒーローの資質を見るために学校側で仕組まれたランダムなもので予測は不可能とされ、横取りや狡猾な誘導、露骨な救助などの不自然な動きは試験開始から受験生の動きを俯瞰して予測し、レスキューポイントの存在を推察した彼女の優秀さとして主席合格となった。

 

 

 

 そもそも主席合格者を入れるか入れないかなんて議論が白熱した時点で察せられるだろう。

 

 あれだけの人を救ったのに緑谷の救助ポイントより低いのは、あの場の教師全員が彼女の目を見た時に分かっていたからだ。

 

 

 

 あれはヒーローになるべきではない

 

 

 

 だが一人の少女のことをそんな風に言えるヒーローがあそこにはいなかった。

 

 ……いやヒーローだから言えなかったのかもしれない。

 

 だからこそ合理性を考えて彼が言った。

 

 

 そしたらこのざまだと彼は自嘲する。

 

 

 こうしてすぐにでも除籍してやろうと考え、今実際にその本条桃子の目の前に彼はいるわけだが……。

 

 

「……先生、付き添ってもらってすみません」

 

 

 目の前で本条はベッドに腰かけながら浅い呼吸を繰り返していた。

 

 

 平凡

 

 

 普通すぎてヒーロー科には向いていないだろうと彼は思った。

 

 もっと破綻した性格の人間かと思っていたらそうでもない。

 

 おとなしく、目立とうとしない、悪く言えば流されやすそうな雰囲気、全く以て現代の大多数をしめる若者の典型。

 

自分以外の全てを道具としてしか見ないような、残酷なまでの冷徹さを見せた奴とは思えない、いたって普通の学生だ。

 

 そこまで考えて、彼は体力測定の彼女を思い出す。

 

 

 思い返せば普通ではあるがおかしい所がないわけではなかった。

 

 

 テストの最中それとなく観察していたが、彼女はテスト中、一人で緑谷や周りを見ながら打ちひしがれていた。

 

 それはあまりにも大きな他者と自分の差を見たかのような深い絶望の顔だった。

 

 

 最下位ならわかる。

 

 自分の力が周りに及ばず、除籍処分を覚悟した顔

 

 

 というか途中の緑谷少年がそうだった。

 

 

 ……だがなぜそんな顔をこのテストで他をよせ付けずにトップに立った彼女がするのかが彼にはわからない。

 

 

 

「本条、お前はなぜ雄英にきた」

 

 

 目の前の少女がびくりと肩を震わせる。

 

 その目には涙がうっすらとたまっていて、見ていて哀れになるほどの怯えだった。

 

 

 彼はさらに混乱してしまう。

 

 わからない、なぜこんな反応をするんだ?

 

 そうしばらく考えるが、聞いたほうが早いと思いなおす。

 

 

「正直お前にはヒーローは向いていないと思っている。

 

 受験の時他人を危険に晒して蹴落としただろう、俺はそれが気に食わない。

 

 俺が納得できる返答ができなければ今すぐにでも理由をつけて除籍処分を下すつもりだ」

 

 

 少女はうつむき黙り込んだ。

 

 目の前で震える少女にこのような言葉をかければそれも当然だったと彼も思うが、容赦はしない

 

 そもそもこの程度の質問に即答できないならヒーローに向いていない、ここで辞めさせるのが一番傷が浅いと彼は考えていた。

 

 

「黙っていても除籍は取り下げないぞ本条、答えろ」

 

 

 無言の沈黙がしばらく続く

 

 これ以上は時間の無駄か……、彼がそう思った時だった。

 

 

「ここに来た理由はヒーローになるためです……」

 

 

 上げたその顔は意外にも強い意志があった。

 

 

「なぜヒーローになろうと思った」

 

 

そう彼が問いかけると低い声で返す。

 

 

「理由は話せません、ただ私がどれだけヒーローに向いていなくても、私の人生はヒーローになってようやく始まるんです」

 

 

 それは怨嗟だった。

 

 

「すごく苦しいんです……。でも……だれも、……だれも助けてくれない……、だから私が私を救う以外に私が救われる方法はない」

 

 

 理由は分からない、だが確かに彼女は何かを呪い、呪われていて、それをどうにかするためにここにきたのだと、彼はうすぼんやりと理解した。

 

 

 

 

「…………とりあえず、除籍は保留としておく、俺は先に教室に戻るぞ」

 

 

 

 

 彼にはなにが彼女にここまでさせるのか分からなかった。

 

 

 ……だがそれをはっきりさせるまでは判断はつけられない。

 

 

 そう考えて彼はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保健室を出たところで彼は横から話しかけられる。

 

 

 

「……校長」

 

「やぁ、たった今しがた今年の生徒の追加調査票ができたから後で目を通してくれ」

 

「ずいぶんタイミングが良いことですね」

 

 

どうせ今までの会話も聞いていたのだろうと彼は考える。

 

 

「本条桃子、人物評は学業優秀だが対人関係をうまく築けておらずクラスでは孤立気味、学校側は隠しているけど個性によるクラスメイト傷害の疑いあり、うーん、同じ学校でうちに三人もくるなんてすごいね、小学校は君のクラスの砂藤くんと同級生だったらしい」

 

 

 生年月日、出生地、家族構成、素行、聞いてもいなければ返事もしていないのにも関わらず彼女のプロフィールを校長はわざとらしく羅列していく。

 

 

「小学校卒業後は父の転勤により折寺中学校へ入学と書いてあるが実際はそれだけじゃない、向こうで事件に巻き込まれて引っ越したらしい」

 

 

 今言われたことは中学の内申書や調査書から彼も大体は把握している。しかし傷害やその出来事とやらの話は聞いたことがなかった。

 

 

「11歳の彼女は親友との帰り道に個性犯に襲われる。

 

 犯人は彼女の親友の方に気を取られ、幸運にも本条君はケガもなく助かった。

 

 犯人の名はムーンフィッシュ、あの死刑囚だよ」

 

「…………」

 

 

 ムーンフィッシュ

 

 その名前を聞いて、当時の事件と照らし合わせれば、その親友がどうなったかは察せられた。

 

 つまり彼女は自分たちヒーローが助けられなかった被害者の一人というわけだと彼は気づく。

 

 ならばそのヒーローになるのは復讐か、それとも一人生き残った贖罪か

 

 

「復讐や後悔でヒーローになるのは止めたほうがいいと私は思いますがね」

 

「僕は思うんだ。

 悪に強いは善に強いという言葉がある。 

 もし彼女が正しい形でヒーローを目指すのならきっと素晴らしいヒーローになる。

 そして君ならそういった生徒をうまく導けると確信して任せたいんだ」

 

「私は授業の準備があるのでここで失礼します」

 

 彼は足早にその場を後にしようとする。

 

「やっぱり、納得はしてくれないのかい?」

 

 

 背後から声をかけられたので体はそのまま、後ろのほうを少し振りむいて彼は答える。

 

 

 

 

 

 

「……………とりあえずは21人分の授業の教材を揃えなければいけないので」

 

「君ってもしかしてツンデレって言われることが結構あったりしないかい?」

 

 

 今度は振り向きも答えもせずに彼はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 




※私は青山君が好きなので話の整合性や設定に矛盾が起きても、適当な設定を作って1-Aに無理やりねじ込みます。


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5話 前編

 私は登校しながら、先日の相澤先生とのやり取りを思い出す。

 

 

 

 なぜヒーローになろうと思った

 

 

 

 そんなのは決まっている。

 

 私はこの声から解放されるためにヒーローになるんだ。

 

 人を救いたいだの守りたいだのそんな余裕は自分にはない。

 

 私は私を救うためにヒーローになる。

 

 

 それがいけないことなの?

 

 

 ずっと助けて欲しかった。

 

 自分をこの地獄から救い出してくれる誰か、それこそヒーローが来てくれないかと夢想した時もある。

 

 でも、助けてなんて言葉、大声で叫んでも、絞り出すように呟いても、心で祈ってもなんの意味もなかった。

 

 

 誰も来てくれなかった。

 

 

 じゃあ私が頑張るしかないじゃないか

 

 

 だれも助けてくれないから私が自分を助けようとしているのに、よりによって今まで私を無視してきたヒーローから除籍を言い渡されそうになった時、思わず先生に言い返してしまった。

 

 ……私がヒーローにふさわしくないのは事実で、先生がわたしを認めないのは正しい

 

 個性「抹消」は気になるけど、あそこまで先生に睨まれては私に個性を使ってくださいなんて頼むことも難しい。

 

 おまけに先生が保健室から出た後に、雄英は私の過去を把握していると知った。

 

 中学で私がおこした個性による暴力行為の可能性の話をしだしたあたりからは耳をふさいでうずくまった。

 

 

 自分の過去を知れば雄英が私を認めることはないだろう。

 

 

 だからこそ圧倒的成績で周りを黙らせなければいけない

 

 

 

 

 そんな考え事をしながら私はうつうつとした気分で校門をくぐった。

 

 

 

『ただし陽キャは通さない、陰キャによるタワーディフェンスRTA part5はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 今日も他人のような私の人生が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教室に入った時、私は面を食らってしまった。

 

 

『……とうとう来てしまいましたね、トラウマルート最大の関門。

 

 以前説明したと思いますがトラウマルートはこちらからのフラグがたちづらくなり、うまくいけばイベントをスルー出来るといいました。

 

 ……そう、うまくいけばです』

 

 

「あっ本条さん体大丈夫? 昨日は早退したんでしょ?」

 

「みんなあのあと心配してたんだよー」

 

「本条!! あの記録で本調子じゃないとかすごすぎるぜ!!」

 

 教室の扉を開けてなだれ込んでくるクラスメイトの勢いに押されてしまう。

 

 

『私は以前「トラウマになると向こうから声をかけられやすくなる」と話しましたね?

 

 通常プレイですら頻繁に話しかけてくるこの1-Aは、トラウマ持ちだとえげつないぐらいこちらに関わってこようとしてきます

 

 えっ……なにこいつら、こんなに無視したら普通は察してくれるだろ? パーソナルスペースの概念とか理解してる?

 

 そう言いたくなるほどぐいぐい来ますし、すごい勢いで自ら好感度をガンガン上げていきます。

 

 クリアを無視した好感度減少でも狙わないと最後まで話しかけ続けてくる1-A達はナチュラルボーンの陽キャ(陽性キャリア)集団です。

 

 こちらがどんなに嫌っても、向こうはこちらを嫌わないとか聖人か何か?

 

 人に好かれる奴は人を好きになるのがうまいんやなって……

 

 圧倒的な光パワーでダークサイドのこちらに勝てる道理はありませんので逃げるしか方法はないです

 

 なお、ヒーロー科では好感度が上昇すればするほど個別のイベントの発生やエンカウントが起きるので、後半になればなるほど逃げるのが困難になります』

 

 

「……私、うるさいのがだめなの、用がなければあまり話しかけてこないでくれるとうれしいかな……」

 

 

 私はそういい捨ててすぐさま自分の机に座り、拒絶するように参考書を開いた。

 

 あまりにも嫌な奴だ。

 

 こんな奴は集団から迫害されても周りに全く罪はないだろう。

 

 

「朝のわずかな時間も自己学習に充てる。ふむ、やはり彼女の優秀さはその勤勉さにある!! 俺も見習わなければいかんな!!」

 

「ケロ、クールな子なのね」

 

「……頂点に立つ者は常に孤高だ」

 

 

 ……どうしてそうなるの

 

 

 どうも今までと手ごたえが違うので戸惑うが、私は周りを完全に無視して机にかじりつく。

 

 結局は一緒だ。

 

 拒絶し続ければいつかは拒絶される。

 

 

 

 

 だが声の言う通りに私の予想は裏切られる。

 

 

 

『そもそもこの個性があるという世界で、すぐれた個性を持つものは総じて陽キャです。

 

 ましてやヒーローを目指す者が集まるこの雄英で個性がしょぼい奴なんていません、ここに来るような奴らはもともとクラスの中心人物、スクールカースト頂点の怪物どもです。

 

 クラスの生徒全員がクラスの中心とかここは小宇宙かなにか?

 

 陰に潜むような人間は、なすすべもなくここの重力に引き裂かれる運命しかありません』

 

 

「私は芦戸三奈! よろしくね! これから仲良くなりましょ!」

 

「ほどほどの距離感でいいよ」

 

『性格がいい・運動ができる・顔がいい、三拍子そろった陽キャ中の陽キャですね、恐ろしいことにこのクラスのほぼ全員が当てはまります』

 

 

「元気そうでよかったわ、私は蛙吹梅雨よ、梅雨ちゃんと呼んで桃子ちゃん」

 

「よろしくね蛙吹さん、私のことは本条さんと呼んで」

 

『大胆な名前呼びは陽キャの特権』

 

 

 

「葉隠透! 見ての通り個性は「透明」よろしくね!」

 

「……人に話しかけられるのは嫌いなの、その目立たない個性がうらやましいな」

 

『陰キャに陽キャは直視できない、つまり視認できない透明人間は陽キャ(暴論)』

 

 

「ウチは耳郎響香、あんまこういうの好きじゃなさそうだけど、これから長い付き合いになるかもだしよろしくね」

 

「一人が好きなの、今後はそうしてくれると助かるな」

 

『楽器ができる奴は総じて陽キャ(偏見)』

 

 

「おっ、自己紹介なら交ぜてくれよ、俺は上鳴電気、顔だけでも覚えてくれよな」

 

「別に忘れはしないよ、話さないと思うけど」

 

『女、女、女ときてこの流れに入っていくなんて陽キャ以外できるわけないだろ! いい加減にしろ!!』

 

 

 その後もこんなに突き放しているというのにクラスのほとんどの人が話しかけてくる。そのたびに私は嫌味や失礼な言葉をかけるのが申し訳なかった。

 

 

『ファッション不良なので爆豪は陽キャ、女子に下ネタを振れるので峰田は陽キャ、鳥の頭のような髪形をしているので常闇は陽キャ、親と仲が悪いので轟は陽キャ、親と仲がいいので緑谷は陽キャ、動物が好きなので……』

 

 

 後半になるほど理由が雑になっている気がする……。

 

 それにしてもこの声はよくわからない造語を使う、陽? 陰? 人間的に明るい暗いという話だろうか、言葉の意味は少ししかわからないがすごく嫌な気分になる……。

 

 

 

 こうしてクラスメイトとの交流を避ける私は昼休みになると逃げるように教室を後にした。

 

 雄英の敷地は大きいので一人でご飯が食べられるところはたくさんあった。

 

 私は特に目立たない場所を探し、そこで一人、お母さんのお弁当を食べる。

 

 

 

 午後からはヒーロー基礎学、実際に体を動かす授業もあるらしく気分は憂鬱だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」

 

 

 

「オールマイトだ……!! すげぇや、ほんとに先生やってるんだな」

 

「本物だ……、画風がちがいすぎて鳥肌が……」

 

 本物のオールマイトを見て、ヒーローにあまり詳しくない私も思わずまじまじと観察してしまう。

 

「ヒーロー基礎学、ヒーローの下地を作るため様々な訓練を行う科目だ。

 早速だが今日の科目はコレ!! 戦闘訓練を行ってもらう!!!」

 

 だが、オールマイトが手元から取り出したカードを見てそんな興奮も一気に冷めてしまった。

 

 

 戦闘訓練、おおよそ嫌な予感しかしない。

 

 

 私に戦闘なんてできるわけがないのでこのままいけば無様をさらしてしまう……、それだけならまだましだ。

 

 もしも頭の声がでてきたら……、いったい何が起きるか分からない。

 

「そしてこれが今回の訓練に合わせて、入学前に送ってもらった個性届と要望に沿った君たちの戦闘服(コスチューム)だ」

 

 

 まだ学校が始まったばかりというのに追い込まれた私は、この先の学校生活の先行きが明るくないと予感した。

 

 

 

 

 

 

『コスチュームですが今回のホモ子は簡易選択で性能を「機動重視」にすれば見た目や他の選択はなんでもいいです。

 

 コスチュームの見た目は細かく自分で作るキャラメイクモードといくつかの選択を選べばオートで作ってくれる簡易選択モードがあります。

 

 見た目がかっこいいとテンションが上がって操作性が増すと言い張り、RTA中にいきなりキャラメイクを始める心臓に毛が生えた兄貴もいますが、私は凡人なので簡易選択一択、やったとしても自分のプリセットからペイントを張り付けるぐらいです』

 

 

「飯田お前のその鎧みたいな戦闘服、動きにくくないか?」

 

「見た目よりずっと軽い、それどころか俺の個性に合わせてあって動きやすいまであるよ」

 

「ヒーローのコスチュームは個性由来の素材が使われたりもするからな、飯田のもそうなんだろ」

 

 

「あっデク君、かっこいいね、地に足ついてるって感じ」

 

「麗日さ……うぉぉ!!」

 

「あはは、要望ちゃんと書けばよかった。パツパツスーツになっちゃった」

 

 

「どうだい僕のきらめくマントは」

 

「マントが光を反射して目に良くなさそう」

 

「まさにきらめき☆」

 

 

 みんなそれぞれ個性的なスーツで似合っていた。

 

 私のスーツも基本は声の指示を聞いて機動重視だがそれ以外でつけた要望もある。

 

 

「本条だよな? 飯田みたいな全身装備で良くわからねぇ」

 

「……あまりじろじろ見ないでもらっていいかな?」

 

「声が変!! えっなんでそんな合成っぽい声なの?」

 

 

 まずは目と声を隠すための変声機付きのフルフェイスヘルメット、これは何より強く訴えた。

 

 あとはとにかく機能重視、見た目は目立たない色であれば何でもいいと希望を出し、

スーツの基本色は都市迷彩のような灰色となっている。

 

 その結果、あまりにも飾り気がないスーツだと頼んだ企業に思われたのか、ヘルメットにデフォルメされたちょっと下手でゆるい顔が勝手に書かれていたのは余計だと思う。

 

 

「なんか正に戦闘服って感じだな、軍隊とかにいそうだ」

 

「う~ん、でもヒーローって顔を売る所もあるじゃん、顔を隠すのはどうなんだろう」

 

「というかなにそのリラックスしちゃうような顔、かわいいー」

 

「……ヒーローなんて暴力を商売にしている職業が恨まれないわけないよ、敵に素性がバレたら自分の周りの人が狙われるよね?」

 

「なるほど、そういう考えもあるか……って声が間抜けすぎて頭に入んねぇな!」

 

 

 もちろんそれも理由に入るが、とにかく声に操られている時の私は自分で見てもどうかと思うほど非人間的だ。

 

 なので不気味な顔は隠し、感情のない声は合成音にしていっそ本当に機械の声のように加工することを思いついたのだ。

 

 

 そんな風に互いのスーツの感想を言い合うクラスメイト達にオールマイトが咳ばらいをして注目を集める。

 

 私もやっぱり自分のスーツが届いて少しはうれしいので、無駄に多いポッケなどいじっていたが、それを止めてオールマイトを見る。

 

 

「今回の戦闘訓練は屋内での対人戦だ。君たちはこれから敵組とヒーロー組に分かれてもらい、2対2の対人戦を行ってもらう!!」

 

 

 今回は基礎訓練ではなく実践的な戦闘訓練、ということは恐らく声が出てくる。

 

 

「状況設定は敵が核を持っている。それをヒーローが処理……」

 

 

『はい、おなじみの屋内対人戦闘訓練、21人目の生徒であるホモ子は自動で3人チームを作り、3対2のチーム戦に参加することになります。

 

 3人に勝てるわけないだろ! 勝ったな、そう思われるかもしれませんが簡単にはいきません、3対2の不均衡を補うため、こちらにランダムでハンデがつけられます。

 

 内容は、敵の核が隠しやすい小型のものになる。撃たれたら撃破扱いになる銃の使用。ヒーロー側の制限時間が減るなど様々です。

 

 個人的に一番最悪なのはこちらの位置が敵に伝わるレーダーですね、タイムが伸びる上に高評価が取りにくくなります

 

 とにかく運要素が強すぎるゲームですので相手と仲間から最善の行動を組み立てていきましょう』

 

 

 やはり来た。声の通り私は芦戸さんと青山君の3人チームになる。

 

「よろしくね! ふたりとも頑張っていこ!」

 

「僕のきらめき、みせちゃうかな?」

 

 

『悪くないですね、ビームと酸、意表を突いた作戦が可能なのでどちらかと言えば攻撃側が望ましいです。というか私が脳筋なので防衛より突撃するヒーロー側が好きです。

 

 一応この訓練のペアで気を付ける点でも解説しましょうか。

 

 仲間ペアで一緒になると最悪なのは轟、障子のBチームです。これは強すぎて活躍の場がほぼないので評価が取りづらいからですね。

 

 次点は爆豪、飯田ペアのDチームです。このチームに入れられた状態で緑谷のチームと対戦すると爆豪の私怨に巻き込まれ、評価が下がりますし、それ以外でも大抵突出する爆豪をフォローするプレイに終始することになり高評価が狙いづらいです。

 

 相手にすると厄介なチームは個性やプレイングによりかなり個人差があると思うのですが、増強型脳筋プレイの私は峰田、八百万のCチーム、特にこいつらの敵組が苦手ですね』

 

 

「おっと、3人組のDチームはヒーロー側、敵組は峰田少年と八百万少女のCチームだ!!」

 

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛

 

 救いはないんですか!?(哲学)』

 

 

「ハンデは……GPSでヒーローチームの位置が分かる小型レーダーを渡しておこう」

 

 

『救いはないね(絶望)

 

 おかしい……こんなことは許されない……』

 

 

 何やら頭の声はかなり憤っている様子だ。

 

 

『このぺアの何が嫌だというと八百万の個性「創造」の道具作成と峰田の個性「もぎもぎ」の強力な粘着ボールによって罠や飛び道具を量産し、適当にプレイすると仲間に引っかかって高評価を逃すことです。

 

 この授業で高評価をとるには一人の力押しで敵を鎮圧したり、高速移動で核を確保しても大して経験値はもらえません、仲間との共同と連携、屋内戦に即した行動をとる必要があります。

 

 具体的に判明しているのは自分と仲間の低ダメージクリア、仲間の危機を助ける、核や敵情報の発見と共有、連携技での敵の撃破、核の確保、これらを満たすと高評価が期待できます。

 

 ですが味方には大まかな指示しか出せません、それでも当然勝手に動きます。そしていつの間にか自分より先に核を見つけたり、単騎で敵を撃破したり、罠にかかってしまったりで評価が下がります。

 

 つまり敵のガン待ち遅延マンと仲間の要介護あへあへAIの両方に対処しなきゃいけません。3対2? いいえこの戦いは1対4です。馬鹿野郎お前、俺は勝つぞお前!!

 

 まさにクソゲー、そして敵にこちらの位置がバレると遠距離攻撃や進行方向に罠を仕掛けてくるのでハンデのせいでクソゲー度は加速します。

 

 作戦「固まって行動」「付いてこい」などで味方を介護しながら戦うしかありません……これもうわかんねぇな(思考放棄)』

 

 

 どうやら頭の声は敵味方から活躍を奪い、自分だけが目立とうとしているようだ。

 

 声が話す評価されるポイント、相手の個性や行うだろう作戦の内容を疑うようなことはもうしない、どうせ真実だ。

 

 私は声の仲間への物言いを不快に思いながらも、どうすればこの試験で高評価を取れるか思案しながらチームの2人の方に近づく。

 

 

「……お互いの紹介をすべきだね、私の個性は成長、増強型で性能はこの前のテストで見せたけど、目や耳みたいな感覚も鋭いよ」

 

 急にしゃべりだした私に芦戸さんが驚いたような顔をしたが直ぐに意図を察し、笑顔で答えてくれた。

 

 

「私の個性は酸、体のどこからでも溶解液を出せるけど強すぎて人には使えないんだよね」

 

 強力な個性だ。

 

 だけどすごいのはそれだけでなく、純粋な運動神経だとこの前のテストで私は知っている。

 

 

 次は青山君の方に顔を向けるとポーズをつけながら自分の個性を語りだしてくれた。

 

「僕の個性はネビルレーザー、僕のきらめきは止まらないよ」

 

「あはは、でも1秒以上発射し続けるとお腹が痛くなるっていってたよね」

 

 こちらもすごい個性だ。

 

 遠距離性かつ高威力のレーザはこのチーム唯一の飛び道具なので切り札になるだろう。

 

 

「相手の個性は八百万さんが自由に道具を作る個性、峰田君がおそらく強力な粘着ボールのようなものだと思うけど何か意見はあるかな」

 

「あの子の個性ってあのボールだとは思ってたけど自分で普通にさわっていたよね、自分にはくっつかないのかな」 

 

「そうだと思う、自分で剥がせるのか、他にも機能があるか分からないけど、相手の個性から考えて、向こうは罠や武器を量産して待ち伏せ、レーダーでこちらの動きを把握して攻撃してくると思う」

 

「なるほどね、いい分析だよ」

 

 

 こんなものは頭の声をそのまま垂れ流しているだけで分析でもなんでもない

 

 

「私の個性の感覚器を使えば向こうの大まかな場所や罠の発見に有利、だからこちらは各個撃破されないよう、私たち3人が、かたまって連携をとる作戦がいいと思うの」

 

 実際、敵の位置が分かるなら数に物を言わせて各個で動く作戦も悪くはないような気がするが、私の声は固まって行くつもりなのでそれらしい理由をつけて話す。

 

「目と耳がいい私が斥候で前衛、その酸でどんな罠も壊せる芦戸さんが中衛、唯一の遠距離攻撃持ちの青山君が全体を見て私たちを援護する後衛、これがいいと思うんだけどなにか意見や不満はある?」

 

 何が起きるか未知数の訓練で、別に今すぐ自分たちの役割を固める必要があるかと言われたら疑問だが、声の支配で私が動けば絶対に突っ走る。そう考えてあえて役割を分担した。

 

 傍から見れば、上から自分勝手に作戦を決めつけてくる偉そうな奴なので、内心は反発があるのではないかと手に汗を握っていた。

 

 

「……いいね」

 

「トレビアン、僕もそう思うな」

 

「……えっ」

 

「いいじゃん!! 罠の破壊とかって、すごい私向きの役割! よく短い時間でそこまで考えられるね!!」

 

「僕は後ろから君たち二人を守るよ」

 

 

 こんな頭ごなしに伝えた作戦でも素直に受け入れ、真っすぐな称賛をしてくれる彼らに、頭の声というインチキを使っている私は目をそらした。

 

 

「……じゃあそういうことで、まず相手がしてくるだろう攻撃の予想なんだけど……」

 

 

 声に操作された私がまともな指示を出せるとは思えないので今のうちに作戦を詰める必要ある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある程度の話し合いが終わった後、ニコニコとした顔を向けてくる芦戸さんとほほ笑む青山君の視線を避けるように私は訓練が映し出されているモニターを注視した。

 

 

 モニターでは爆豪君、飯田君ペアと緑谷君、麗日さんペアの試合が始まっている。

 

 

 緑谷君と爆豪君の戦いは訓練を通り越した気迫で周りを圧倒させた。

 

 

 次の試合、障子くんの索敵までこなせる高い汎用性を持つ個性とビルを丸ごと凍らせる轟君の圧倒的な強さを見て、この二人と組むと活躍できないとぼやいていた頭の声の意味を知る。

 

 

 他にも硬化した切島君とテープで陣地を構築した瀬呂君の圧倒的防衛力、常闇君と蛙吹さんの普通の人間では考えられないような立体的な戦闘、耳郎さんと上鳴くんの単純な力では測れない巧みな個性の応用、どれも見ごたえがあり、素晴らしい個性だった。

 

 

「次はEチーム対Cチームだ」

 

 

 そんな光景に現実を忘れかけていたが、当然順番は回ってくる。

 

 

 

 

 

 悪寒がする。

 

 なんとなく分かってきた。

 

 

 あの意識が切り替わる感覚が来る。

 

 

 自分の自由がそれほど残されていないことを感じ取ると私は芦戸さんと青山君にせめてもの警告をする。

 

 

「……訓練が始まる前にこれだけは言わせて、私達はチームだけど仲間じゃない、私はこの訓練で自分が高い評価を受けることにしか興味がないの、必要であれば誰であろうと犠牲にする。私はあなた達を信用していない……、だから私に気を絶対に許さないで」

 

 

「それって……」

 

 

 突然の宣言に呆気にとられる二人、彼らは何かを言いだそうとするがその前に私の体がきりかわった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘訓練の開始は静かな立ち上がりだった。

 

 本条、芦戸、青山のDチーム3人はお互いの動きを決めているのか、よどみなく縦隊でビル内に侵入した。

 

 一方で事前に大量の罠を仕掛けた八百万と峰田のCチームはレーダーだけでなく、映像で相手の動きを確認しながら初めに仕掛けた罠の反応を窺う。

 

 八百万の個性である創造により監視カメラを作り、要所に設置することでCチームは位置情報と視覚情報を同時に把握することができた。

 

 

 それは作られた多量の罠との相乗効果を考えれば凶悪すぎる組み合わせだった。

 

 

 ただのビルはもはや要塞と言っていいほどの拠点と化している。

 

 

(もうすぐですわ、あともう少し先に入れば、いかに本条さんでも回避不可能の罠にかかります)

 

 

 本条が止まることなどは一切考えていないような速度で罠に向かって移動している。

 

(あと10メートル)

 

 罠の存在など考えていない進行速度であった。

 

(6メートル、3、2、1……今!)

 

 

 

 だが本条はまるで予兆などを見せずに機械のように急停止した。

 

 

(罠がバレた!?)

 

 

 特に力を入れて作成した気づかれにくい罠の群れ、そのキルゾーン一歩手前で、付いてきた後ろの2人に本条は合図を送る。

 

 

 

 するとEチームが一斉に動き出す。

 

 

 

 本条は巧妙に隠された罠の位置をまるで知っていたかのように次々と指をさして仲間に伝える。

 

 その指示に従って芦戸は酸を撒いて、罠の機構ごと壊して無効化していった。

 

 運よく作動した罠も青山によるビームの的確な援護射撃によって破壊される。

 

 

 始めで勝負を決めることも考えて設置した多量の罠が次々と無効化されている状況を八百万達はディスプレイ越しに分析する。

 

 

(……単純に筋力を増強させているだけじゃなくて、他の機能も人間以上なのかしら、主席合格者を普通の罠だけで倒そうなんて虫が良すぎる考えだったようね)

 

 

 すぐさま八百万は手元に握りこんだ機械のダイヤルを操作し、スイッチの一つを押し込む。

 

 罠の中には遠隔操作できるものも隠されており、八百万は罠の暴発に見せかけて罠を起動させた。

 

 壊れゆく罠たちの中から、芦戸と青山に向けてそれぞれ矢が発射されようとカチリと音を立てた。

 

 

 青山がその異音に気付いて迎撃するが一つしか破壊できない、残ったもう一つは青山自身に飛んでいく。

 

 

 その初速400キロで撃ち出される矢じりを青山はよけられない。

 

 

 しかしそれは横合いから伸びた手にひょいと掴まれる。

 

 膨大な運動量が逃げ場を失い、止められた矢は小刻みに震えていた。

 

 

(想定はしていましたわ。私はヴィラン、卑怯とは思わないでくださいね)

 

 

 すでに時間差で押しこんだもう一つのスイッチと連動して発射された麻痺毒入りの矢は別方向から4本、それが同時に飛び出す。

 

 

 

 いかに本条と言えども死角を突いた4方向の攻撃、しかも仲間を救うために体勢を崩した状態では避けられまいと二人は確信する。

 

 

 だが現実は違った。

 

 

 

「おいおい嘘だろ?」

 

 

 

 そう呆然と呟く峰田は八百万の内心を強く代弁していた。

 

 

 本条は空間を把握しているかのように少しだけ体を捻って避け、どうしても避けられない一本は2本の指で挟んで受け止めていた。 

 

 

 序盤の罠はもうほとんど残っていない

 

 唇を噛みしめる八百万は、せめてカメラ越しに映る本条から少しでも情報が取れないかとにらみつける。

 

 

「えっ……」

 

 

 そしてふざけたデザインの絵と目が合う

 

 

(……偶然です)

 

 

 八百万はそう考える。

 

 

 ビルにはいくつもの監視カメラがあり、これは教師と待機している生徒が評価を行うためのカメラであるため攻撃は禁止されている。

 

 だからこそ裏をかいて同じような監視カメラを設置した。

 

 

 勘付かれる要素はないはずだ。

 

 

 そう自分を納得させようとするが本条はカメラを見たまま動かない。

 

 本条はしなるムチのように体を捻って、掴んだ矢を投げ返す

 

 八百万の自信はカメラと共に砕け散った。

 

 

 

 

「気づかれた……!? とりあえず立て直さないと、今の罠じゃまるで意味がない、対人程度に威力を抑えた物じゃ彼女の足止めにもならないなんて……」

 

 

 動揺を押し殺したまま八百万は次の一手を考えるが、まるでその感情を見透かしたように進行速度が跳ねあがる。

 

 レーダーに映る敵の位置を示す光点の1つが、2つを置き去りにして突出する。

 

 その速度はもはや罠の中を駆け抜けるような速度、そしてその動きはどう考えてもこちらの位置を特定していた。

 

(早すぎる……! 今からここで罠を作り直す時間はない、撤退しながら罠を作れば、ダメ、私達の後退よりこっちにくる方がずっとはやい)

 

 ここで陣地の構築、罠を作りながらの撤退、彼女の脳内で様々な可能性が浮かんでは否定される。

 

 次の対応を考えようとするが思った以上に敵の接近が早い、八百万は動揺と緊迫感で咄嗟の判断ができないでいた。

 

 

「時間がねぇ、あれを倒せる道具を作れるのはお前だけだろ?」

 

 

 ここで動けたのは意外にも峰田だった。

 

 

「そうなっちまったら俺がしなきゃいけないことは決まってるよな、やりたくねぇけどよ……」

 

 事前に作られた飛び道具を掴むと、敵の方向に歩き出そうとする。

 

 

「峰田さん……、まさか私のために……犠牲に?」

 

「その言い方やめろ! なんか俺が死ぬみたいで縁起悪いだろ!!」

 

「下品な人だと思っていましたが……ちょっと見直しましたわ」

 

「惚れたか?」

 

「それはありえません、それに時間がないので早く行動にうつりましょう」

 

「…ッチ、そーですね」

 

 

 

 彼らは背中合わせに走り出した。

 

 

 

 

 

 

 峰田は託されたクロスボウ、空気銃、ネットランチャー、ありったけの武器を担いで、生きている罠がある所まで走る。

 

 峰田の前方には罠を破壊しながらこちらに突っ込んでくる本条がいた。

 

 

「くっそ、訓練だって言ってるのにどいつもこいつも初めから全開じゃねーか! めちゃくちゃ怖えーよ!!!」

 

 

 峰田は震える銃口を自覚しながら引き金を引いた。

 

 

 その弾丸は本条にはかすりもせず、あらぬところに飛んでいく

 

 

 本条は峰田をまるで無視したように変わらない動きで前進を続ける。

 

 

 しかし、ふいにその足が止まった。

 

 

 作動するはずのない罠である矢じりが本条の鼻先をかすめたからだ。

 

 

「足止めだと思ってなめんなよ!」

 

 

 もともと峰田の狙いは本条などではなかった

 

 本体をねらってまともに当たることが無いのは先ほどの映像で峰田は理解していた。

 

 

 

 だからこそ峰田は罠を狙う。

 

 

 

「叩けば動く罠も多いからな、一人で来たのは早計だったんじゃねーの?」

 

 

 今まで活躍できなかった罠達が思うがままに弾ける。

 

 

 完全に本条の足が止まり、罠の対処に集中する。

 

 どうやら峰田と罠の2方面を相手にするのはリスクがあると、周りの罠を無効化させながら追い詰める作戦に変更したようだ。

 

 

「くそ、とんでもねぇ動きしやがって」

 

 

 次第に周りの罠がなくなっていく、もう少し先にある罠まで走らなければいけないが峰田には目の前の女がそんな隙を見せるとは思えない。

 

「くっ、くるんじゃねぇ!!」

 

 峰田は怯えたようにそう口にしながらも気づかれぬよう、後ろ手で八百万に渡された罠のコントローラーを操作する。

 

 

 峰田の個性を利用したトリモチ

 

 高速で動くだろう本条をとらえるためのネット

 

 行動を制限するためのまきびし

 

 足の踏ん張りをきかなくさせるための潤滑剤

 

 

 それらの数々の罠を峰田は適切なタイミングで起動させた。

 

 

「へへ、ローションはオイラ考案だぜ?」

 

 

 峰田は健闘し、足止めの役目を十分に果たした。

 

 だがそんな追いかけっこも永遠には続かない。

 

 とうとう罠などは配置されていない場所まで追い込まれた峰田が最後に逃げ込んだ先は開かれた空間だった。

 

 

 「峰田さん!!!」

 

 

 八百万もそこにいた。

 

 ボロボロになった峰田は転がりながら合流する。

 

 

「最後の罠もダメだった! すぐに本条が来る!!」

 

「峰田さん!! 伏せてください!!」

 

 八百万の目の前には巨大なクロスボウ、それは建造物への攻撃するためのもので人に使えば四散するだろう。

 

「おいおい、なんてもの出したんだよ!!!」

 

「今、私声が聞こえませんの! だから早く伏せて!!」

 

「ハァ!?」

 

 

 叫んだ八百万は手に持った筒状の物体を入り口にいくつも投げ入れた。

 

 ほぼ同時に瞬間に部屋に飛び込んでくる影。

 

 

「いくら貴女が駆けっこの一等賞でも光には勝てませんでしょう」

 

 

 目の前で炸裂する道具は八百万が作り出した非殺傷兵器。

 

 常人なら突発的な目の眩み・難聴・耳鳴りを発生させる程度で済むそれは、鋭敏な感覚器を持ち、それを研ぎ澄ました状態でいる本条には致命傷だった。

 

 スタングレネード。180デシベルの爆音と100万カンデラの閃光がたたきつけられ本条は膝をついた。

 

 

「あなたのためだけに用意させていただきましたわ」

 

 

 八百万はすでに狙いをつけていた。

 

 通常の矢とは素材も大きさも違う特別製、射出機構に使われるバネや糸も特別仕様で弓を引くためにも専用の機械を作らなければいけない。

 

 本条を倒す目的だけに作られたワンオフの一品

 

 そんな化け物を退治するための銀の弾丸が本条に襲い掛かる。

 

 

 

 怪物はそれでも反応した。

 

 

 

 ぎこちない動きで回避が間に合わないと悟ると、ぐるりと首と手だけを回してその矢の中ほどを両手でつかみ、耐えようと試みる。 

 

 だがその膨大な運動エネルギーはいくら足を踏ん張ろうが床の方が持たなかった。

 

 矢ごと吹き飛ばされ、鉄筋コンクリートの壁にたたきつけられる。

 

 

 

 

「や、やったの?」

 

「それを言うと大抵は……、いやマジで生きてくれているよな?」

 

 

 

 

 正直その破壊現象をみて八百万と峰田はやりすぎてしまったのではないかと不安になる。

 

 

 しかしその残骸から動く人影をみてそんな同情は一切なくなった。

 

 

「おい、もう手なんて残ってねーぞ」

 

 

 その動く人型はボロボロでスーツは破け、頭部のヘルメットは砕けて取れかけていた。

 

 瓦礫の中から這いずるように出てくる姿は人間とは思えない。

 

 それは地面に手を突き立てるがぽろぽろと崩れ落ちては頭を地面にたたきつけている。

 

 

「お、おいもうやめろ」

 

 

 何度かするとごとりと首が落ちるようにヘルメットが脱げる。 

 

 

 そして二人は不幸にも目を合わせてしまった。

 

 

 

「……のあと…………なら………おつり……」

 

 

 

 何も映していない空洞。

 

 あれは人間の目ではない、あれに見られたくない。

 

 強烈な生理的嫌悪感と恐怖。

 

 何も映っていないのにその目はこちらに固定されていた。

 

 

 よく聞けば、うわ言のように無感情に何かを呟いている。

 

 

 二人は今が訓練中で自分たちがヒーローを目指していることを忘れて祈った。

 

 

 

 目の前のこれが二度と立ち上がらないことを……

 

 

 

 

 

「……ぞっこうします」

 

 

 

 

 

 だが無慈悲にも怪物はゆっくりと立ち上がった。

 

 

 

 

 その異様な光景に圧倒され二人は動くことができない。

 

 

 

「ヒーローチーム!!!!! ウィィィィーーーーン!!!!!!!!」

 

 

 歩きだそうとする本条を止めたのは試合終了の合図だった。 

 

 

 オールマイトは本条の肩に手を置いている。

 

 

 

 

 

「そこまでだ。核は青山くんと芦戸くんが確保した。とりあえずは講評をしようか本条くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この後がすべてノーミスならばタイム的にはお釣りがでるので続行します(ウンチー理論)

後半はホモ子視点です。

これはRTAなのか、通常プレイなのか、度重なるクズ運、加速するガバは、ついに危険な領域へと突入する。

次回 走者レイプ! 鎖マンと化した同輩


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5話 後半

 

 

 あの意識が切り替わる感覚が来る。

 

 

 

 

 

 自分の自由がそれほど残されていないことを感じ取ると私は芦戸さんと青山君にせめてもの警告をする。

 

 

 

「私はあなた達を信用していない……、だから私に気を絶対に許さないで」

 

 

 

 

 突然の宣言に呆気にとられる二人、彼らは何かを言いだそうとするがその前に私の体がきりかわった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ついてこい」

 

 

 

 話の前後を無視し、いきなり言い捨てると同時に動き出す私、それを青山君と芦戸さんは戸惑いながらもついてきてくれる。

 

 

『ハイ、よーいスタート(棒読み)まずは「ついてこい」でとにかく勝手な行動をとらないように牽制しましょう、もう始まってる!(仲間という名の敵との闘い)』

 

 

「本条さん? ちょっと速くない?」

 

「……ついてこい」

 

「スパルタだね☆」

 

 

『おっと、離れすぎると命令が出せないので、仲間から目線を切らないようにしましょう。おそいおそいおそい、あ^~もうおしっこ出ちゃいそう!(苛立ち)』

 

 

 ついてこれるギリギリの速度で動きながら必ず2人を視界に収めた。

 

 そしていつかやったように私の脳が勝手に動きだし、閉鎖されたビルの内部構造を勝手に作りあげる。

 

 壁に囲まれた建物ではその内部構造までは詳しくわからない。

 

 だが3階に2つ並んで呼吸音がする。音の位置が高いほうが八百万さんだろうか?

 

 でももう一方の方が呼吸数が多い……、いや荒い?

 

 以前ほど脳に痛みが走らない、それどころか精度も上がっている気がするのは気のせいだろうか。

 

 

「ぐへへへ」

 

「ちょっとレーダーの画面が一つしかないからって引っ付きすぎです!!」

 

 

 ……これでどちらが峰田君で、どちらが八百万さんか分かった。

 

 

『峰田と八百万に当たることが確定した時、先んじて投擲、回避、索敵のスキルを取得しておきました。

 

 ここは余剰分の経験値を使って当たった敵に合わせて割り振りましょう。

 

 敵に合わせて最適なスキル構成を組むのキモティカ・キモティ=ダロ

 

 私的にはゲームの楽しさの神髄は試行錯誤ですね。

 

 貴重な戦闘フェイズでは新しいスキルもガンガン使って熟練度を貯めてイクゾー』

 

 

 ビルに侵入する直前、不意に私は道端の小石を掴むとそれをビルに向かって無造作に投げつける。

 

 昔、友達の部屋の窓にコツンと小石を投げて呼んでいた男の子を見た時があるがこれは違う。

 

 私の知っている野球投げではない、腕を鞭のようにしならせた独特の投げ方は遠心力を受けてビルの窓に次々と飛んでいく

 

 あまりに軽い小石達は、全て同じ硬質な音を立てるとそのまま地面に落ちた。

 

 全く別々の距離にあるというのに同じ衝撃で石が窓や壁に当たる。

 

 その反響音を耳が聞き取り、脳が勝手に処理を始めてビルの構造の空白を埋めだした。

 

 

 どう考えても人間業じゃない。

 

 ようやく慣れたことの一段階上の機能で酷使され、脳はまたもや悲鳴を上げた。

 

 

「何してるんだい?」

 

「……かたまってこうどうしよう」

 

「お~、よくわかんないけど仕事人な雰囲気だね本条さん」

 

「……ついてこい」

 

 

 当然、その奇怪な行動を二人は不思議そうな目をしながら見てくるが私は一切の意味ある返答をせずに、ビルの内部に侵入する。

 

 

『核を見つけました。5階の西側の大部屋です。八百万の個性で壁の中に隠してありますね

ずいぶんと遠いですが、状況的にはデレてます。

 

 峰田、八百万の核の配置はたいていが奥、場合によっては罠がつまった核の張りぼてを八百万が作るとかいう遅延行為を行ってくるので要注意です。

 

 ここで仲間に敵の位置を共有することもできますがまだしません

 

 それでは罠を注意しながら進みましょう』

 

 

 注意しながらと言いつつも私の体は一切の減速をしない。

 

 

『んにゃぴ……、罠の場所がよくわかんなかったです(んにゃっぴ警察への煽り)

 

 卑劣な罠はどこ…・・・、ここ?

 

 まぁ目視だと流石にきついので大人しく索敵のできる個性かスキルに頼りましょう』

 

 

 

 声の宣言と同時に私の体に異変が訪れた。

 

 

 耳が拾う音が脳に直接突き刺さる。

 

 私の足音に反響した音から今までなら聞き逃すような小さな空間が隠されていると知った。

 

 

 ヘルメットに隠れた目とその奥がひどく熱く、今にも溶けてしまいそうになる。

 

 暗闇に紛れた光止めが施された極細の糸が景色から浮き出した。

 

 

 周りの空気が全く別々の動きをして、気持ち悪いぐらいに体をまさぐっている。

 

 空気の流れから異常な熱源が隠れている場所を肌で感じ取った。

 

 

 今まで嗅いだことのない匂いに顔面を真正面から殴られたような衝撃を受ける。

 

 漂っていた匂いを分類し、金属と人の皮脂の匂いからどこに彼らが触れていたのかが分かる。

 

 

 

 感覚による情報の暴力は私の意識を洗い流すような勢いで頭を駆け巡る。

 

 

 

『ヤオヨロッパイの罠は本当に姑息です。そのバリエーションはかなり豊富なので対応を考えるのが手間です。

 

 なので基本は罠を見つけて安全な所からガンガン物をぶつけて壊すなり、作動させるなりするか、罠の速度を振り切る超速移動で回避していきましょう』

 

 

 目の前の空間に多量の罠が隠されていることに、私は気づいたというよりも脳に無理やり理解させられている。

 

 

「とまれ」

 

「……罠かい?」

 

「えっ! どこどこ!!」

 

 

「わながある」

 

 

 一つ目の罠を指さしたと思うと、芦戸さんの反応を待たずに別の場所を指さしはじめる。

 

 

「わながある」

 

「ちょっ!? 早いって」

 

「ふぅ、おてんばさんだね」

 

 

 しかし、二人の動きは淀みなかった。

 

 

 早いとぼやきながらも芦戸さんは確実に罠を溶かして無効化しているし、青山君は的確にフォローに回っている。

 

 

 しかし二人は気付いていないだろう。

 

 

 周到に隠されているが私の目は可視光の外側にあるセンサーのきらめきを見つけていた。

 

 私の感覚はまだ隠されている罠の存在を鋭敏に感じているというのに、声の動きはまるでそれを見えていないかのように振る舞っている。

 

 

 私が見えるのに声が気づいていないはずがない。

 

 

『はい、ここで小技です「核や敵情報の発見と共有」「仲間の危機を助ける」「連携技での敵の撃破」を満たしていきましょう。

 

 敵の仕掛けた罠類は当たり判定があり、しかも敵の判定です。

 

 これを生かして仲間に位置の共有を行い破壊させることで「核や敵情報の発見と共有」「連携技での敵の撃破」が満たせますね。

 

 とはいっても核と敵本体を発見したほうが高得点の傾向にありますし、ある一定の数以上罠を壊してもスコアは上がらないことが報告されているので芦戸と青山にそれぞれ7個以上罠を壊させたら切りあげましょう』

 

 

 声は何を考えているのか私の体を無防備に罠の当たりやすい場所まで歩かせる。

 

 

『次に「仲間の危機を助ける」必要があるわけですが……』 

 

 

 声は歩きながら、明らかに意図的に二人へ射線が通るような位置取りに誘導していく。

 

 

 ここで私は声の意図に気付くと血の気が引く。

 

 

 

『そのためにはまず危機に陥ってもらう必要があります』

 

 

 

 芦戸さんと青山くんへ矢が飛び出す。

 

 

 

 芦戸さんへ向けられた矢は、それに気付いた青山君が身を挺して破壊した。

 

 

 しかしその英雄的行動は彼自身の破滅を呼んだ。

 

 

 私の目はゆっくりと放たれる矢、それに気づいているのか汗を浮かべる青山君をとらえる。

 

 

 不可避の矢が青山君に伸びる姿を見て、私は自分の体の自由も利かないことも忘れて矢に向かって無我夢中で手を伸ばす。

 

 

『取れないボールがあるものか~♪

 

 両方残るのが理想でしたが片方は壊されちゃいましたね』

 

 

 高速で動く矢を掴むと腕が軋むのを感じ取るが、それでも動かないように握り締めた拳は矢のシャフト部分を変形させる。

 

 

『たまに取り損ねることもありますが(4敗)自分の判定との重なりに慣れれば難しくはありません』

 

 

 私は頭の声に仲間を無駄な危機に陥れた怒りを感じようとするが、それは悪寒に阻まれる。

 

 

 背後、左、右前、正面上方

 

 

 私の感覚は四方から飛んでくる凶器を察知する。

 

 

 どうして? 勝手に動くような罠ではなかったはずなのに

 

 

 青山君を助けたその体勢は伸びきっており、とっさには動くことなどは到底できないはずだった。

 

 

 

『真ん中来いよオラァ!』

 

 

 

 だが私がいくら動けないと思っていようが頭の声には関係がない。

 

 

 時間が引き延ばされる。

 

 私の周りから音が消え、色が濃淡だけを映したひどく淡泊な世界になる。

 

 その空間は全てが水中の中にあるように何もかもが動きにくそうだった。

 

 

 まるで魚のように矢羽を揺らす矢

 

 こちらに手を伸ばそうとする芦戸さん

 

 驚いたように瞳孔を開く青山君

 

 

 

 だというのに私の頭だけはその速度を無視したように痛み出す。

 

 

 頭の中に熱くじわりと広がる鈍痛がそこらかしこに生まれる。そこから次いで、まるでバットで後頭部を延々と殴られ続けるような痛みが私を襲い、鼻の奥の細い血管が破裂してドロリと流れる不快感が消えない。

 

 

『はい新スキル、アクションゲームでよく見る敵が遅くなる例のアレです。

 

 使用中はダメージ受けます。

 

 話は変わりますがよく、頭を酷使すると鼻血が出るって描写、あれどういう仕組みなんでしょうね?』

 

 

 停滞した世界で、私だけが最短の道で矢を次々と避ける。

 

 どうしても間に合わない弓は二つの指でつまんで見せた。

 

 掌で掴めばいいものをまるで自分の力を誇示するように見せつけた結果、私の指がしびれる。

 

 

『北斗神拳の奥技には二指真空把がある! 矢を放ったその場所に矢が返ってくるぞ!』

 

 

 頭の声が意味の分からない言葉を放ち、矢が放たれた罠ではなく授業用のカメラに向かってその矢を投げつける。

 

 

『八百万は授業用監視カメラに擬態したカメラを配置してきますので壊しましょう。

 

 壊した瞬間に遠隔の罠の危険はなくなります。

 

 しかし、カメラを壊すと敵のAIがこちらに突っ込んで来たり奥に引きこもる動きに切り替わり、チャンスが生まれるので、壊すのは突入のギリギリまで引き延ばします。

 

 ここからは時間との勝負です。

 

 いままでは時間と戦っていなかったような言い方ですが、言葉の綾です』

 

 

「本条さん! 大丈夫!?」

 

「助けるどころか助けられてしまったね」

 

「というか青山もありがと、ごめん、気を抜いてた」

 

「…………かたまってこうどうしよう」

 

 

『さて、いまから「核と敵の発見と共有」「敵の撃破」「核の確保」これを自分一人でこなします。

 

 と簡単に言ってしまいましたが、この三つの条件を満たすのはめちゃくちゃ厳しいです。

 

 仲間に敵や核の位置を共有するとそこに向かって勝手に動きます。

 

 普通に進めば敵か核、どちらかを仲間に譲ってしまうので、全然気持ちよくありません。

 

 ならばどうするかというと答えは簡単です』

 

 

「……敵の位置は3階西側の通路、核はここから真上、5階西側の大部屋を入って左の壁の中に隠されている。……ガンガン行こうぜ」

 

「了解! ってえぇ!? ……もう行っちゃった」

 

 

 

『仲間より早く先行し、敵を撃破したのち、先に核を確保する。

 

 つまりはゴリ押しです。

 

 力こそパワー(至言)

 

 このゲーム、強個性のゴリ押しが最強ってそれ一番言われてますから

 

 仲間との協働? 屋内戦に沿った動き? フラグさえ押さえておけば大丈夫でしょ(慢心)

 

 仲間モドキ達とのイライラ棒はもう十分に堪能したのでさっさと終わらせましょう』

 

 

 急に駆け出した体は二人を置き去りにする。

 

 この声、自分で試験の評価基準を語ったというのに、なぜ独断専行をしようなどと考えつくのだろうか?

 

 

『それでは罠地帯を細心の注意を払って通り抜けます。

 

 コツは最速で駆け抜けることです。

 

 止まるんじゃない!犬のように駆け巡るんだ!』

 

 

 避けきれない罠のみ破壊し、反応するよりも早く駆け抜け続ける。

 

 

『峰田が来ました。罠を暴発させてきて厄介なので被ダメ覚悟で撃破するのも手ですが、安定をとって罠を壊してから一気に接近して倒しても十分に間に合います。

 

 ちなみに峰田撃破のこ↑こ↓ 0敗です(威風堂々)』

 

 

 その場で足を止めて、投石で罠を端から壊すと一気に駆け寄る。

 

 だが峰田君は手元の機械を操作することで、それをすんでのところで避けた。

 

 

『ファ!?(1敗)

 

 こんなところでミスるのか(困惑)

 

 ブドウ人間が次の罠場まで逃げたので落ち着いて次で倒しましょう』

 

 

 しかし次も、小柄な峰田君は罠を駆使してひらりと逃げる。

 

 

『こマ?(2敗)練習量に比べて本番の動きが貧弱すぎるだろ……

 

 くっそ恥ずかしいガバですね、早く切り上げてしまいましょう』

 

 

 次も

 

『疲れが出てますね、少し落ちつきましょう(3敗)

 

 苛立っても操作の精度が下がるだけです。ロスからのリカバリこそ走者の腕の見せ所です』

 

 

 その次も

 

 

『初めてですよ……、ここまで私をコケにしたおバカさん達は……(4敗)

 

 ぜったいにゆるさんぞ虫ケラども! じわじわと最速でなぶり殺しにしてくれる!!(豹変)』

 

 

 そして……

 

 

『どこだここ…誰かー!!!(7敗) アァー、迷っちゃったぞ~、誰かー!!!誰かいるー!!??(精神崩壊)

 

 どこだぁ…? 探すぞぉ…! 見つけた!! ブドウだぁ…、幻のグレープだ!』

 

 

 結局その後も峰田君と八百万さんが合流するまで倒すことはできなかった。

 

 

 取り乱した声は峰田君が逃げ込んだ部屋に突貫する。

 

 

『……長引いたおかげで投擲やその他スキルの熟練度がかなり上がってしまいましたね(皮肉)

 

 まだ時間があるはずなので、速攻で敵二人を倒して核を確保しましょう』

 

 

 部屋に踏み込んだ瞬間、色の濃いレンズのゴーグルをつけた八百万さんが見えた。

 

 

「いくら貴女が駆けっこの一等賞でも光には勝てませんでしょう」

 

 

 

 爆音と閃光

 

 

 

 比喩でなく本当に光と音が刺さった。

 

 たまった鼻血がごぼりと溢れて、マスクの中を汚す。

 

 あまりの衝撃に精神は千切れ、意識は蒸発した。

 

 

 

『わぁ、これがRTAですかー いろんなガバがありますねー(現実逃避)

 

 ランキングで入賞したこの素敵な走りを見せてお(白痴)』

 

 

 目の前の大きなクロスボウをこちらに向けられても何も考えることはできない。

 

 

 飛び出た矢を私の体が勝手に防いで、勝手に壁にたたきつけられる。

 

 矢に直撃した頭部はヘルメットに守られたがその質量は私の頸にかかり、ゴキリと嫌な音を脳内に響かせる。

 

 たたきつけられた体は骨が砕けた。

 

 

『立つんだ! 立つんだホモ子!! 主人公にとってあばらの1本や2本かすり傷だろ! 普通に重症だとしても、あばらが折れたら実際は動くことも息することもできない痛みだとしても! それが主人公の条件なんだ!!(錯乱)』

 

 

 体の発する痛みの信号に脳がどうだ以前に心がついていけなかった。

 

 頸が再生されるときの神経を無理やり生やされる痛みなんてどう表現すればいい。

 

 折れた骨を無視して動いて内臓がずたずたにされ、その端からつながれていく感覚は?

 

 

 しかしそれらを無視して体は立ち上がり、こちらを見ている峰田君と八百万さんと目を合わせる。

 

 

「……のあと…………なら………おつり……」

 

 

『再走?

 

 この後がすべてノーミスならばタイム的にはお釣りがでるので続行します(ウンチー理論)

 

 まだ間に合うはずです。最悪でもこの二人は倒さないと経験値が足りずに再走案件確定です』

 

 

「……ぞっこうします」

 

 

「ヒーローチーム!!!!! ウィィィィーーーーン!!!!!!!!」

 

 

『は?』

 

 

「そこまでだ。核は青山くんと芦戸くんが確保した。とりあえずは講評をしようか本条くん」

 

 

『ン゛ォ゛オ゛オ゛ォ゛オ゛オ゛ォ゛オ゛ォ゛ォ゛!!!!!!!!!!!!!!ゥ゛!ァア゛ア゛ア゛!!!!!!アア" !ア" !ア" !ア" !ア" !ア" !ア" !ア"ア"ーーー!!!!!!』

 

 

「動けるかい?」

 

 

 動けるわけがない、そう叫びたい心とは裏腹に、バラバラになった体は何とか歩けるまでにつながっていた。

 

 

「あぁ、あぁ……、動けるみたいです」

 

 

 ここで倒れたら減点される。

 

 私は棒みたいになった体を無理に人のように動かして講評の場へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、今回のMVPは誰かな!!」

 

 

「いやー、本条ちゃんのおかげで私たち勝てたからね、でもみんなで協力したからあの結果って感じでしょ」

 

「僕のきらめきも忘れないでね☆」

 

 

 最後に合流し、私の戦闘を見ていない芦戸さんと青山君は嬉しそうにそう話した。

 

 

 先についた時の私を見る彼らの目は何時かと同じような目で、笑いそうになってしまった。

 

 

 今、クラスメイト達は皆一様に複雑そうな顔をしている。

 

 その反応に気付いた二人は怪訝な顔をしながらあたりを不思議そうに見まわした。

 

 

「あ~、峰田の粘りはすごかったよな」

 

「芦戸ちゃんと青山ちゃんの核の確保の仕方は個性をよく活用していたわ」

 

「八百万さんの個性で作った罠も……」

 

 

 

 

「私だよね」

 

 

 

 

 何かに遠慮したかのような空気を無視して私は声をあげた。

 

 こんなことを臆面もなくいうなんて心臓が潰れそうなほどの吐き気がする。

 

 この場で私がMVPだなんておこがましいことが言えるはずがない。

 

 

 

「私がMVP」

 

 

 

 だけど言うしかない、私がヒーローになるためには。

 

 

 もちろん、そんなたわ言は反論される。

 

 

「悪いが本条、俺はそうは思わねーな、お前の動きは前半は良かった。だが途中の独断専行、あれはどう説明するんだ」

 

「私が何かミスをした?」

 

 轟くんが私の人を食ったような反応に眉をひそめる。

 

「一人で突っ走って、敵にやられかけた。勝手な判断が減点対象なのは爆轟の時に注意を受けてわかっていただろ、それを聞いて同じことすんのはミスじゃないのか?」

 

「ううん、違うよ、むしろもう少し時間があれば二人を倒していたよ、だよね峰田くん? 八百万さん? あのあと私を倒せた? 私から優勢をとった時が一度でも二人にあったかな」

 

 

 早口で捲し立てると私の異様な雰囲気に呑まれた二人はあからさまに目をそらした。

 

 

 私の攻撃的な態度を咎めてか、周りから私に対しての反論が出る。

 

 

 

「でも……、みんなで協力すればもっと確実に倒せたんじゃないかな」

 

「俺もそう思うぞ! 君は知っているかはわからないが、あのあと青山君と芦戸さんの機転で核を取ったんだ。君も素晴らしかったが二人の活躍もすごかったぞ本条君!!」

 

「酸で天井を溶かして、青山君のレーザーの反動で登る。とっさの判断で個性の力を合わせてたケロ」

 

 ほかにもいくつかの反論が出てきたが私は不満が出切るのを待った。

 

 会話が途切れた時に私はゆっくりと周りを見渡す。

 

 

「ふーん…、じゃあみんなは二人がMVPだと考えてるんだ」

 

 

「……正直全員すごかったけど、強いてあげればだよな」

「本条さんの活躍もすごかったから……」

 

 

 みんな私に気を遣うように口を開く、どうやら私が癇癪でもおこしているようにでも見えるらしい、実際は驚くほどに心は冷めているといのに。

 

 

「うん、私もそう思うよ、二人の連携の発想、最高だね、あれこそがMVPだよ」

 

 

 私の反応があまりにも意外だったのかみんな一様に驚いた顔だ。

 

 

 

 

「じゃあ、やっぱり、その連携を考えた私がMVPだよね」

 

 

 

 私は首を回して二人を強く見つめる。

 

 

「うん、私たちの個性から事前にそういうことができるか確認されたの、他にもいろいろ作戦を考えてくれたのも本条さん、GPSは高さの位置情報が弱くてばれにくい可能性があるから、核の真下から登って行けって」

 

「とにかく前から行動は決められていたんだよ、一人飛び出した時も事前の取り決め通り、僕たちは核、本条さんは敵を担当したわけさ、それでも急に走り出したのは驚いたけどね」 

 

 

 二人がいなければできなかった手柄を、まるで自分のおかげであるかのように論点をすり替えると私は一気に畳みかける。

 

 

「二人の連携は、ついさっき、個性を初めて知った赤の他人である私が考えたものだった。

 

 独断専行は全部事前の取り決めで、私たちは敵中で相談なんて無様なことはせずに迅速な行動ができた。

 

 時間をかけながら、みんなで一緒に戦う? 時間を与えたら八百万さんがもっと強い罠をたくさん出してたよね。

 

 私が追い詰められたってホントに言ってるの? あの攻撃を受けたのも二人の意識を私に集中させるためだよ」

 

 

 連携を考えたのは確かに私だけどそれは二人がいてこそ。

 

 独断専行はその通り。

 

 あの攻撃で私は死にかけた。

 

 いまだって表面だけはきれいだが中身はぐちゃぐちゃな体を意地を振り絞って動かしてる。

 

 

 だけどそんなことは誤魔化して、私は周りの反論の一つ一つを潰して黙らせた。

 

 

 静まり返る周りの中、八百万さんがふいにポツリと呟いた

 

 

「……どうして監視カメラが私の作ったものだと」

 

「狙いすましたかのようなタイミングの罠、絶対にどこかから見てると思ったよ、あんな露骨な位置にあって、笑っちゃった。

カメラを壊したのも突出して移動したのもプレッシャーを与えるためにしたけど効いてた?」

 

 全部あと付けの屁理屈だ。声がなければカメラなんて気にもしていなかった。

 

 律儀に返答のお礼を呟いてから八百万さんは悔し気に口を結ぶ。

 

 

 私は反論が出ないことを確認してから、厚顔不遜に言い放つ。

 

 

 

 

 

「ねぇ、もう一度聞くよ、誰が一番?」

 

 

 

 

 

 今度は誰からの反論も出なかった。

 

 

 

 もちろん賛同した人も誰もいなかったわけだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おかしい……、まだ時間があったはずです。 あの二人がこんなに早く核を確保することはないはず……』

 

 

 何か肩の荷が下りた気がする。

 

 

『RTAの名を騙るただの通常プレイ……』

 

 

 彼らは善人で、優しくて、それは本当に私にとっては毒だった。

 

 

『自分のことをRTA走者と思い込んでいる精神異常者……』

 

 

 いい加減慣れろ、覚悟を決めろ、痛みと孤独にいちいち感情を動かすのはもうやめろ。

 

 

『ただの近所のゲーム好きのあんちゃん……』

 

 

 私の個性は「成長」ならこの心を閉ざすよう成長することだってできるはずだ。

 

 

『はい……、リザルトは……、ファ!? 悪くない!!?? ええやん……(困惑)

 

 なんで?(混乱)なんで?(疑念)なんで?(受容)なんで?(歓喜)

 

 目標より少し低いですけど全然マシです。

 

 このゲーム相変わらず未知のエリア♂がありますね……

 

 

 ……まっ、いっか、誤差だよ誤差!!!

 

 きっと幸運の女神が私に微笑んでるんでしょうね』

 

 

 

 このふざけた声にだって私は耐えられるようになれるはずだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今回のホモ子は悲劇のヒロインぶり過ぎて好きじゃないですね。

 精神ほせーな(崩壊寸前)、お前なぁ。人間不信系ヒロイン見たいな手してんな。

 泥の中で輝く人間性こそが美しいからオメーもがんばんだよ!!(激励)


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6話

 私の個性は自慢のようではあるが万能だ。

 

 

 この個性は鍛えたい部分を意識して酷使すれば強くなる。

 

 

 ボロボロにされた私の体はそのたびにヒトから離れ、硬く、しなやかになっていく。

 

 

 そしてふと思った。それならば心だって同じではないだろうか?

 

 

 恐怖を感じない、動揺しない、常に平静を保つことができる究極の精神。

 

 

 そんな心を望めば、私はそう成長できるはずなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある時、私が帰ろうとすると切島君が話しかけてくる。

 

 

「今度の休みにみんなでクラス会をするんだけど、どうだ本条! お前も参……」

 

「別に興味ないかな、私もう帰るから退いて」

 

「おっ、おう……」

 

 私の言葉にクラスメイトのみんなが会話が途切れこちらを見る。

 

 

 こんなとき、私はいつも通り、吐き気を催すほどの緊張を感じていたが、それを押さえつけ、形だけでも誘ってくれた切島君を無視して一人、教室のドアを抜けた。

 

 教室を出た後も心臓の鼓動が痛いほど止まらない、でもだめだ。もっと痛めつけて成長させなければこの感情は消えない。

 

 

 後ろから声がする。

 

 

「はは、切島には興味ないってよ、フラれたな!」

 

「クラスみんなを誘ってんだよ!!」

 

 

 上鳴君の絶妙なフォローでクラスの悪い雰囲気は霧散していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 校門を出た後、気づけば私は走っていた。

 

 

 なんてことはない、平均的な女学生の域を出ない速度だ。

 

 個性から考えれば体への負荷はほんの爪の先にも及ばない消耗だ。

 

 だが、私の息は切れ切れで動悸が激しく胸が痛い。

 

 

 無様に逃げるように電車へ駆け込んでそのまま自分の家にかけこむ。

 

 

 私の顔を見た母はなにかあったのかと心配してくれるが、愚かな私は八つ当たりのように不機嫌そうに否定すると部屋に閉じこもる。

 

 心配した母は私の部屋に何度も入ろうとするが私は追い返した。

 

 しばらくして、それを聞いた父が私の部屋に来たが、そのころになって冷静になった私は母にしでかしたことを理解して死にたくなった。

 

 だが、この愛すべき人たちこそ私に関わらないほうがいい、そう考えて心無い言葉を浴びせて私はベッドにもぐりこむ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 布団をかぶりながら私はありもしない夢想をする。

 

 

 もし……、もし彼らと友達になれたらどんなに楽しいのだろうか……

 

 

 

 

『一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし……、会話を避け続けるコミュ障シミュレーションゲームRTA part6はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日も私は教室の椅子の上に周りと関わらず座っていた。

 

 

『いやー、峰田と八百万は強かった。長く厳しい戦い(直喩)でしたね。

 

 明らかに敵の繰り出す武器や罠の偏りが酷かった上に、味方の核への到達速度がどう見ても不自然でした。

 

 これは記録にも残してありますし、晒して検証ですね。

 

 もしかして今回の走り、かなり荒れるかもしれません……(今まで荒れてなかったとは言ってない)』

 

 

「先日の戦闘訓練お疲れ、映像と成績を見させてもらった。爆豪お前もうガキみてえなマネすんな、能力あるんだから」

 

「……わかってる」

 

 

『しかしあれからどうなったかといいますと、なんと乱数がデレにデレてます』

 

 

「で、緑谷はまた暴走、腕をぶっ壊して一件落着か、いつまでもできないじゃ通さねえぞ、……それさえクリアすればやれることは多い、焦れよ緑谷」

 

「っはい!」

 

 

『あれ以降はロスがかけらもありません、会話イベントも最低限でイベントを回避しています。

 

 ウンチー理論は正しかった……?』

 

 

「そして本条、お前も緑谷と同じだ。お前、個性で自分の体を傷つけていただろ、しっかりばれてるぞ、制御しろ」

 

 私は正論に反論する。

 

「同じじゃないです先生、緑谷君は制御できないで暴走させてますが、私は制御の上で暴走させています」

 

「なお悪いんだよ」

 

「私の個性の成長のために必要な合理的行為です。個性を育てるためですよ、教師がそれを阻むんですか」

 

「時間の無駄だ。今ここで問答はしない、だが本条、お前は焦り過ぎだ。……じゃあHRを始めるぞ」

 

 

 先生に諫められて私はおとなしくする。

 

 

『ここで恒例の委員長決めです。

 

 学級委員長とかいう教師の調教を受ける人間便器マスクになりたいなら犬のように周りに媚びを売って好感度を上げておきましょう。

 

 本RTAではそもそもの好感度が足りていないので委員長にはなれません』

 

 

 声の予言通りにHRの内容は誰が委員長かを決める流れへと移っていった。私に関係のない話なので、そのまま手元の本に目を落とす。

 

 クラス委員長なんて声に言わせれば時間の無駄だろう。

 

 

「委員長やりたいです! ソレ俺!!」

 

「ウチもやりたいス」

 

「おいらのマニフェストは女子全員膝上30㎝!!」

 

「ボクの為にあるヤツ☆」

 

「やらせろオラ!!」

 

 

 そう考えていた私はしかし周りの勢いを見て、困惑する。

 

 委員長をクラスの雑用と考える私に対して、真剣にヒーローを目指す彼らにとってリーダーという肩書はたとえクラス委員長程度でも重要という考えに私は至らなかった。

 

 

『自分で自分を推薦とはたまげたなぁ……、自分を売る(至言)』

 

 

「静粛にしたまえ!! 周りを引っ張る責任重大な責務だ。やりたいものがやれるというものではない! ここは民主主義に乗っ取り多数決で決めるべき議案だ!!!」 

 

 

 一気に沸き立つクラスメイト達に飯田君が活を入れ、投票で決めることになった。

 

 そんな風にみんなをまとめる飯田君の姿を見ればどう考えても彼が向いてる仕事だと私は思える。

 

 私がなる可能性は無いだろうが、念のため、一番委員長に向いてそうな飯田君に投票して終わりでいいだろう。

 

 さっさと手元の紙に書き込むと折りたたんで集計に返した。

 

『ここの委員長決めは投票したキャラの好感度が上がるので当然のように自分に入れるよう願いましょう(屑運)

 

 ホモ子が選んだのは飯田でした。

 

 操作感が戻ってきた感じがするな(白目)

 

 緑谷、爆豪、轟とかいう腐った方々の玩具に次いで女主人公関連で濃いイベントがあるのは飯田や切島な気がします。

 

 RTAでしませんが、飯田と主人公でクラス委員長副委員長を務めるとフラグが立ち、正史との差異が生まれて面白いのですが見たい奴は自分でしてください(宣伝)』

 

 

 

 ……自分に投票することが正解だったらしい。

 

 気が緩んでいた。

 

 次はおとなしく声の指示をなぞらなければ……

 

 

 

 気を抜き過ぎていた自分を戒めて授業に臨めば、午前の授業はすぐに終わり、昼休みのチャイムが鳴った。

 

 

 当然私は周りの人間と距離を取るためすぐに教室を後にする。

 

 

 向かう場所はヒーロー科の教室から離れた一般科本棟の方だ。

 

 

 

 都合のいいことに、この雄英高校は一人でいてもさほど不審がられない。

 

 

 

 雄英高校は森に囲まれた小高い山の上にあり、一部の施設へはバスを使って向かわなければいけないほど敷地が広く、いくつもの学科に分かれた生徒の数は数えきれない。

 

 その結果、たとえ昼休みを一人で過ごしていてもさほど奇異の目で見られることはないのは素直に嬉しい。

 

 もっとも、前の学校と違い一人でご飯を食べることには困らないなと気付いたのが、この学校に来てから初めての良かったと思えたことというのは泣けてくるが……

 

 そんな考え事をしながら、いつも弁当と参考書の入れているトートバッグを片手に歩くと広場の片隅にたどり着く。

 

 特に何があるわけでもない立地上の隙間、その空いたスペースを埋めようと適当に配置されたベンチの一つ、そこに私は腰掛ける。

 

 ちらりと周りを見れば、まったく人通りがないわけではないため、同じような一人になりたい人たちが各々好き勝手に過ごしている。

 

 静かに読書をしている人、何やら製図のようなものをにらみつけてる人、一心不乱にノートパソコンに何かを打ち込んでいる人、何もせずただぼんやりしている人。

 

 ここの他人に無干渉でありながら、適度に人のいる空気が好きだった。

 

 

 こうして私は弁当を食べようとトートバッグを開けるがとんでもないことに気付く。

 

 

 

 ……………弁当がない。

 

 

 そういえば昨日、お母さんとの言い争いの中で、いちいち弁当なんて作らなくていいと愚かにも喚いたのは私だった。

 

 

 本来弁当が入れてある場所には、弁当代のお金が几帳面にケースにしまって入っている。

 

 

 今日帰ったら絶対に謝ろう。

 

 

 そう考えてため息を一つついたあと、私は立ち上がると購買へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何もかもスケールの大きい雄英は購買もすごかった。

 

 

 

 

 おいしそうなお弁当は栄養を考えられたヘルシーなものからガツンと食べられる高カロリーなものまでそろっているし、パンは焼き立ての香ばしいにおいを漂わせるものが置いてある。

 

 寄る気はなかったが、食堂は購買の横に併設されているため、その中がのぞける。

 

 その中は下手な大型スーパーよりも広いフードコートのような場所になっていた。

 

 人も多く、様々な科が入り乱れて誰が誰だか分からない。

 

 意外にも一人席も結構あり、そこで食べてる人も多いようだ。

 

 

 せっかくなので今日はここで食べるのもいいかもしれない。

 

 

 これだけ賑わっていればクラスメイトに会う心配もないし、温かいものが食べられる。

 

 そう考えた私はあたりを見まわし、少しワクワクしながら何を食べようか考える。

 

 カレー、ラーメン、定食、丼もの、ハンバーガー、思い当たる食べ物は大抵メニューにあるとは流石雄英。

 

 最終的に、旬菜五目あんかけラーメン+ミニチャーハン餃子セットと熾烈な争いを繰り広げた新玉ねぎのタルタルソースとチキン南蛮定食チキンダブルに軍配が上がると私はいそいそとかばんからお金を取り出した。

 

 

「ご飯大盛無料だよ」

 

「ご飯大盛で」

 

 

 料理は驚くほど素早く出てきたというのに出来立てだ。

 

 私は顔にパイプが付いたマスクにコック帽をのせた彼にお礼を言うと適当な席に座ろうとする。

 

 

「むっ! 本条君じゃないか」

 

 

 この広くごった返した中で、たまたま寄った私とクラスメイトが出会う確率はいったいどれほどであろうか

 

 

「本条さんも食堂なんだ、弁当派だと思ってたよ」

 

「どうせなら一緒に食べちゃわない?」

 

 

 話しかけてくる飯田君、会話を広げようとする緑谷君、食事に誘ってくれる麗日さん。

 

 この人たちはただ純粋に普通のクラスメイトとして話しかけているだけで、変な気はないことは見ればわかる。

 

 だけれども、客観的に見て私のような人間を誘う理由がわからない、これもヒーローの義務というやつであろうか。

 

 

「……人に食べている所を見られるのが大っ嫌いなの、一人で食べさせてもらうよ」

 

「本条さんって意外に食べるんだね」

 

 突然ポツリとつぶやいた緑谷君の目は私のチキン南蛮定食チキンダブルご飯大盛を見つめていた。

 

 言われた言葉の意味を考えた途端に顔が熱くなる。

 

「わ、わ……」

 

 私の勝手でしょ、そう言いたかったが声がどもる。

 

「デクくん、女の子にそういうこと言うのはいただけないなぁ」

 

「そうだぞ緑谷くん」

 

「えっ!? ごめん……」

 

 弁当ではいつも少しだけ物足りないと思っていた所に、好きに食べていいとお金を渡されたので、たまには重いものが食べたかっただけ、いつもはこんなに食べてるわけじゃない。

 

 そう言い訳したいがいまさらできるわけがない。

 

「私が何を食べようと関係ないよね、もういくから」

 

 

 少し取り乱した私は無理やり話を打ち切ると席に座った。

 

 

 

 しばらくすれば彼らも自分の料理を頼みに行ってしまった。

 

 さっさと食べてここを出ようと私は料理に手を伸ばした。

 

 

「じゃあここにしよっか」

 

 

 私が食べ進めていると、なぜかわざわざ戻ってきた彼らは私の席から一個空けて隣の長机に座った。

 

 ……おかしい、声に同調するわけではないが、こういう時はふつう気を使ってもっと離れた場所で座るものではないだろうか

 

 

 

「それにしても僕が委員長なんて……、務まるかなぁ」

 

「大丈夫さ、君のいざという判断や勇気は多を牽引するにふさわしい、いや、正しいと感じた。だからこそ君に投票したのだ」

 

 私は飯田君に投票したが、あの個性的なクラスメイトをまとめるのには案外緑谷君のような柔らかな物腰の人が良いのかもしれない

 

「あれ、飯田君はデク君に入れたの? 飯田君にも一票はいってたよね」

 

 

 額に冷汗が一筋流れる

 

 

「そうなんだ。ありがたいことに俺が委員長に相応しいと感じてくれた人もいるらしい」

 

「そういえば麗日さんも自分に票がなかったけどもしかして誰かに入れたの?」

 

「まさかッ麗日くん!! 君が俺に!!!」

 

「いや~ごめん、デク君に……」

 

「えぇッ!!??」

 

「む、そうか、では誰が……、自分に投票していなかったのは轟君と……」

 

「あっ、轟君は八百万さんに入れたらしいよ」

 

 

 私は嫌な予感をひしひしと感じながら手と口を急いで動かすが間に合う気がしない。

 

 

「あとは本条さんだね」

 

「まさか本条君!! 君が入れてくれたのか!!」

 

 

 

 勢いよく立ち上がり、そのまま遠慮なくこちらの横に距離を詰めてくる飯田君に私はどう言い訳したものか頭を悩ます。

 

 

『自分以外に投票した場合、このように会話イベントが発生します。

 

 大したロスではありませんがメガネ委員長のみ投票した場合、食堂に飛ばされ、流れでイベントへとつながるため、20分の1のババを引いたわけです。

 

 正確には他の生徒と同じように、半分の確率で自分に投票もするので40分の1ですね。

 

 普通だな!(屑運)』

 

 

「……委員長なんて雑用やりたくなかっただけ、メガネで真面目腐ってて雑用が好きそうな顔してたから投票したの、それだけで他意なんてないよ」

 

「俺は今感動している。どうであれ、君が俺をふさわしいと認めてくれた!! その気持ちに感謝したいんだ!!!」

 

 

 嫌味もものともせず飯田君は喜んでいる。

 

 これだ。このヒーロー科の人たち特有の前向きさが私の心をかき乱す。

 

 

 

「……今たべてるから、もういい?」

 

 彼らはあまりにも魅力的で、心のどこかでその輪に憧れている自分がいる。

 

「確かに食事中にすまなかった。本条君、ではな」

 

 

 

 その時、食堂の空気が震えるほどのサイレンが鳴り響く。

 

 

 

 その人の危機感を煽るような高音に生徒たちは皆何事かと静止している。

 

 

《セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください。》

 

 

『ここのイベントは飯田に投票した時点で確定してました。

 

 おかしなことに主人公は吸い込まれるように食堂へ向かいます。

 

 ここではマスコミが校門からネタを求めて敷地の中をグルグルしますし、学内の警報が鳴り、生徒も出口を求めて大混乱となるわけですが、陰毛ニウム(弟)がとっさの機転でけが人を出さずに場をおさめます。

 

 玉(度胸)も竿(意志)もでけぇなお前。

 

 

 ここではテレパス関連や一部の個性しかストーリーに介入することはできません。

 

 操作パートすら入らず原作イベントの垂れ流しです。

 

 脳筋ができること?

 

 心穏やかに時間が過ぎるのを待ちましょう(ロス)』

 

 

 マスコミによる不法侵入、あぁ……、なんてことだ……

 

 どうやらただゆっくりと食事をすることすらできないらしい

 

 

「え、なにどういうこと」

 

「誰かが校内に侵入してきたってことだ。いいから逃げるぞ!! 」

 

「おいおい、こんなの3年間で初めてだぞ……!?」

 

 

 人々が立ち上がると出口に殺到する

 

 声の指示通り私は何もしない、あわただしく動く生徒たちを見ながらも動けないままだ。

 

 声はけが人は出ないといった。

 

 ならば問題はないはずだ。

 

 

「いてぇ!」

 

「押さないでよ!!」

 

「倒れるぞ!」

 

『溺れる! 溺れる!』

 

「やめて……、体が……」

 

「あぶねぇってば」

 

 

 生徒たちの悲鳴がそれぞれ私に届く、耳を塞いでも意味はないので心を塞ぐ、何もかも興味ないような顔をして黙って突っ立っている。

 

 声がそうすればいいといったのだ。そこに間違いは発生しない。

 

 悲劇が起きるとすればそれはいつだって私が間違った行動を起こす時だ。

 

 

 

「おっ、押さないで……、もぅ……」

 

 

 

 私が勝手に動いて結局は何になる? みんな逆効果だった。

 

 あの時だって私の小さな自己満足が周りに犠牲を振りまいた。

 

 

 

「ぃ……たい、息が……」

 

 

 

 数多くの生徒たちがすぐさま出口へと殺到していく

 

 とても危険だ。

 

 もし将棋倒しにでもなったら潰されてケガをする人も出てしまうだろう。

 

 でも私は動かない、私には関係ない、私は痛くない。

 

 そもそも私は自分を助けるためにこの学校に来たひどく利己的な人間だ。いまさら私が他人を見捨てても、犯した罪に大した違いはない

 

 もう疲れた。いちいち人を傷つけたからなんだというんだ。

 

 自分の幸福の為に他人を踏みにじる覚悟をしろ。

 

 本当に守りたいものは何だ。決まってる。自分と家族の幸せ、それくらいだ。

 

 ならばそれを守るためだけに動くんだ。

 

 

 

 

 

「だれか……、たすけて……」

 

 

 

 

「頑張ったね、もう大丈夫、私の手を握って……」

 

 

 

 

 は?

 

 なぜ体が勝手に動いている?

 

 いつ、声の支配が来ていたんだ? 気配がしなかったのに。

 

 

 

 

 私の体は自然に立ち上がると、その人波にさらわれながら、不意に現れる人の隙間を泳いでいた。

 

 私の体幹と平衡感覚で転ぶということは起こり得ない。

 

 

 

「あ、ありがとう……えっ、誰もいない?」

 

「遅ぇよ!! 早くどけって、オラ!! って壁!? 動かねぇ!?」

 

「人が倒れたぞ! ってあれ? もう立ってる」

 

 

 転びそうになっている人を支え、倒れた人を引き起こし、潰れそうになった生徒同士の間に割って入った。

 

 

 私はいったい何をしているんだろうか?

 

 声を無視した行動は周りにどう影響するか分からないというのに、なんて身勝手な自己満足だ。

 

 

 

「大丈夫!!!! 侵入者はただのマスコミです! 何もパニックになることはありません、雄英の生徒としてふさわしい行動をとりましょう!!」

 

 

 

 その大声に私は力なく首をあげる。

 

 いつの間にか飛び上がった飯田君が、出口の壁面に張り付いた。

 

 その行動に興奮状態と化していた生徒たちは落ち着きを取り戻していく。

 

 

 ああいうのが本物だ。

 

 ヒーローを目指す英雄の卵だ。

 

 こそこそと人を助ける振りをして己の心の平穏を保とうとする人間なんかと同じクラスだとは信じられない。

 

 

『あれ、経験値が入ってますね……。

 

 取得したスキルがスイッチになったのでしょうか、このゲーム、フラグ管理がガバガバなせいなのか小さなバグがかなり報告されているんですよね。

 

 バグとランダム性がそなわり、最凶に見えますが、走者は頭がおかしくなって死にます。

 

 ……まぁ、バグプレイを特に縛っているわけでもないのでいいでしょう!

 

 バグといっても別に剣戟アクションがいつの間にか空中スイミングゲーと化すほどのどでかいバグではないのでヘーキヘーキ』

 

 

 

 

 結局、この騒動は昼休みが終わるころには警察が駆けつけてすぐに収束した。 

 

 声の言う通り、けが人は出なかった。

 

 私が手を出さなくてもきっと結果は変わらなかったのではないかと思う。

 

 つまりはこの行動は無駄な行為だ。

 

 

 

 

 

 昼休みが終わった午後の授業を受けながら私は自分がしでかした不合理な行動を考える。

 

 

 不用意だった。

 

 

 あの行動は私の目的と合致していない、もう一度よく考えろ、私の第一の目的は声からの解放だ。

 

 私が声から解放されるためにはヒーローにならなければいけない。

 

 そのためには、ヒーローになる力がない私は声の支配を受け入れる必要がある。

 

 声から逃れるために声に従う、これは矛盾するようだがそれ以外の方法はあまりにも不確かだ。

 

 声の言うゲームオーバーとは? 再走って? リセット?

 

 もしも声に見捨てられたとき、私はいったいどうなるのだろう

 

 それらの不穏な言葉の先に私は私でいられる保証なんてあるのだろうか

 

 この理論で言えばゲームクリアという言葉すら確実ではないのはわかっている。

 

 しかし、もう頭がおかしくなりそうで、 私は残酷な言葉の中に浮かんだゲームクリアという言葉に縋ることだけしかできない。

 

 だからこそ、どんなに気に食わなくても、声の指示に私は完璧に従わなければいけない、それが私が救われるかもしれない唯一の道だからだ。 

 

 

 だというのに今回、私のちっぽけなプライドがそれを阻んだ。

 

 

 あの時、自分の為には生徒たちを見捨てるべきだったというのに、私は動いた。

 

 考えるより先に体が動いていたなんて言い訳にもならない。

 

 

 私は、私自身何が大切かもう一度心に刻む必要がある。

 

 たとえ今後、周りに危機が訪れたとしても心を凍らせて大切なもの以外は見捨てる覚悟が必要だ。

 

 

 私が守るのは私と、私の大切な人たちだ。

 

 

 それ以外を望もうとすれば、私は私の目的すら果たせずに身動きできなくなることはあきらかだった。

 

 

 ふとクラスメイト達の顔がちらちらと頭に浮かびだす。

 

 

 ……彼らは違う、大切な人ではない。

 

 なにせ彼らは私にとってただの他人だ。

 

 

 

 だって、そう思うために今まで他人に嫌われようと必死に努力してきたんだ。

 

 いまさらそんな……、そんなことは……、すべてが嘘になってしまうじゃないか……

 

 

 

 私が意識を思考から引き揚げた時

 

 いつの間にか授業は終わり、放課後になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「任せたぞ非常口!」

 

「非常口飯田! しっかりやれよー!!」

 

 

 気づけば私と違い、正しく生徒を守った飯田君は周りに囲まれ、にぎやかに食堂でのことをからかわれていた。

 

 

 事件のその後だが、飯田君はその活躍で緑谷君から委員長の職を譲り受けた。

 

 せっかく手に入れた委員長という地位をどうして緑谷君は簡単に譲り渡してしまったのかと私は驚くが、緑谷君いわく、飯田君がやるのが正しいから彼がやるべきだということだ。

 

 彼らの行動は未来の英雄としてふさわしく、邪な打算や思惑なんてものはない清廉な行動だ。

 

 正しい正しさに目が潰れてしまいそうになる。

 

 

「ではこの非常口飯田! 委員長としてこのクラスのために粉骨砕身で励ませてもらう!!」

 

「おっいいぞ!」

 

「やれ、やれー」

 

 

 はやし立てる周りに飯田君本人はうれしそうに眼を細めている。

 

 

 

 そんな姿を見ていると飯田君が突然こちらの方に顔を向けてきた。

 

 

「本条君!! 君に言いたいことがある!!!」

 

 

 なぜか飯田君はこちらにツカツカと歩み寄ってくる。

 

 

「俺は上にいたから気づいた。君は君で生徒たちを守ってくれていたのだろう、多くの生徒を体を張って守っているのを見たよ」

 

 

 

 ……最悪だ。

 

 

 

「……別に、全部私の評価のためだよ」

 

「ふっ……、隠れて助けたというのに評価のためというのは妙な話だ。 隠れての信は顕れての徳、君のその行動はヒーローだった」

 

 

 ……やめて欲しい、そんなものではない。

 

 

「マジか、やるな本条!」

 

 

 やめろ、だから違う。

 

 

「君の態度は爆豪君と双璧をなす問題児だが、俺たちは皆同じようにその根底にヒーローの志がある、俺はそれを確信した!!」

 

 

 そんな目で見ないで。

 

 

「まさかのツンデレなのか本条、わかりにく過ぎるぜ」

 

「……人に見られていない場所、影にこそ人の本性は現れる……」

 

 

 やめてください、お願いします。

 

 

「だから言ってたでしょ、本条さんはそんなに怖い人じゃないって!」

 

 

 やめて。

 

 

「やっぱりさ、同じ1-Aの仲間なんだから今度の休み本条さんもクラス会に参……」

 

 

 

「……違う」

 

 

 震えた声がやけに教室にひびく。

 

 

「今すぐその妄言をやめて、あなた達とこの私が同じ? 仲間? 冗談にしても笑えない」

 

 私は心からあふれる声をそのまま口から垂れ流す。

 

「ありえない、ありえないよ、私とあなたたちの間には何一つない、何一つなくていい、何一つあってはならない」

 

 一度話出せば口は止まらない。

 

「あなたたちは協力してヒーローを目指せばいい、でもそこに私はいらない、絶対にいらない、邪魔、余分、無駄、無意味」

 

 自分でも何をしゃべっているかよくわからないが捲し立てた。 

 

 

 

「私は一人でヒーローになる」

 

 

 

 一息で言い切った後、大きく息継ぎをすると驚いた様子で固まったクラスメイト達がこちらを見ている。

 

 

 表情まで見たくなくて、私はかばんを引っ掴むと早足でクラスを離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気づけば私は家に帰って、自分の部屋にいた。

 

 

 

 

 

 

 

 布団をかぶりながら私はありもしない夢想をする。

 

 

 もし……、もし彼らと友達になれたらどんなに楽しいのだろうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふざけるなよこのうす汚い人殺しが……」

 

 

 

 

 

 

 そこまで考えた自分の感情に気づくと、憎しみを込めてそれを握りつぶす。

 

 眺めることすらおこがましいというのに、ましてや触りたいと願うなんて、そんなことは決して許されない。

 

 あの中に私のようなものは混ぜてはいけない。

 

 

 

 好きになってはいけない。

 

 

 

 心を動かすな、感情を殺せ、そういう風に心を作り替えろ。

 

 

 

 そうして心を止めればいつか終わる。いつか終わって……

 

 

 いつかおわって…………、おわっ……て…………、その後は…………?

 

 

 

 

 

 




6話は展開の起伏もない日常回になってしまいましたね。
個人的にはアニメ主人公の葛藤シーンが1話続くだけでも長い……、長くない?
(心の葛藤が)うるさいんじゃい! さっきからウジウジよぉ! 主人公たるものさっさと次話の戦闘回で覚醒するんだよ、あくしろよ!!(RTA感)


※(ホモ子の心が個性により強くなることは)ないです。心の成長も能力だよりはいかんでしょ
 感情の摩耗による鈍化を成長と呼ぶなら強くなっているんじゃないですかね?(適当)



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シュガーマン1

 彼には幼馴染がいた。

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、私も仲間に入れてよ」

 

 

 

 その少女は野球をしている少年たちの姿を遠目で眺めて、しばらくすると話しかけてきた。

 

 

 

「はぁ! 誰が女なんか入れてやるかよ」

 

 

 男の子の一人がそう声を上げる。

 

 

 当時小学生だった彼らは、女と遊ぶことは恥ずかしいという共通の認識があった。

 

 なぜそれが恥ずかしいか考えられないのが小学生男児の限界だが、それはどうしようもない。

 

 別に遊んでもいいぐらいに思っていた砂藤少年でさえ、ひらひらとした汚れのない白いワンピースを着て野球をしたいと言ってきた少女を見て少し呆れ、やはり女は分かってないなと思っていたぐらいだ。

 

 

「だめ?」

 

「女なんて入れた方が負けちまう!」

 

「でも私、足早いよ」

 

「野球はそれだけじゃねーの! 大体なんだよその服、まともに動けんのか?」

 

 

 それでも一緒に遊ぶと食い下がる女子に少年の一人が少女の肩をかなりの強さで押そうとする。

 

 

「いいから帰れってば!」

 

「まぜてってば!」

 

 

 しかし、押し出す腕とまるで鏡合わせのように動かした少女に少年は思わずのけぞって倒れこみそうになる。

 

 砂藤少年は友人が倒れる前に軽く支えると、急に現れた変わり者をまじまじと観察する。

 

 男に押されたというのに微動だにしない相手を見て、足腰が強い奴は野球で強い。もしかしたら、案外やるかもしれない。

 

 

 ただ純粋にそう考えて、砂藤少年は声をかけた。

 

 

「じゃあ入団テストやろうぜ!」

 

 

 これはつい最近、読み切りギガンテスの入団テストがテレビで特集されてたのを彼が思い出して適当に出た言葉だが、当時全員が同じ番組を見ていたので彼の友人たちからの反応は良かった。

 

「聞いたか? 俺たちの仲間に入れてほしけりゃテストに合格してみるんだな!!」

 

「そーだ!そーだ!」

 

「で、どうやって試すんだリキ!」

 

 

「一次テストは50メートル走と遠投で二次テストは投手はピッチング、野手は守備。つまり足が速くて球を遠く投げれて動けなきゃだめだ」

 

 

 競争、遊び、対決、小学生男児がこんな面白いことに食いつかないはずはなく、少女の気持ちは置き去りにどんどん話は先に進んでいく。

 

 

「よし、これを投げてあたったやつは死ぬ。キャッチされたらノーカン、これで戦う」

 

 別に本当に死ぬわけではないが、小学生男児はそういう言葉が好きなのだ。

 

「さすがリキ、頭いいぜ」

 

 どちらかといえば頭の悪い発想であろう。

 

「早く逃げるぞ」

 

 

 砂藤少年は大きめのスポンジボールを少女に渡すと、周りの奴らと一緒に一斉に駆け出す。

 

 

「よくわかんないけど、これをぶつければいいんだよね」

 

 

 走り出した少女は自分で言うだけあって、かなり速かった。

 

 その速度であっという間に距離を詰められ、女と思って甘く見ていた彼らは皆焦る。

 

 

「うぇっ!? 外しちゃった」

 

 

 しかしそこからの投げが下手だった。

 

 

 典型的な女投げ、まっすぐ飛ばずに地面に向かってたたきつけるように投げられたそれはあたるはずもなく、地面に転がっていく。

 

 

「早くとって来いよ」

 

「一回地面についたらあたっても無効ー」

 

 

 少年たちは笑いながらそれを避けていく。

 

 どうせすぐ音をあげて、あきらめるだろう。そんな風に考えていた少年たちだったが、少女の体力は本当に大したもので、いまだに衰えていない。

 

 

 いや、それ所か時間とともに、少年たちの方の余裕がだんだんとなくなっていく。

 

 

「ふん! コツをつかんできたもんね!!」

 

 

 明らかに球筋がよくなっていた。

 

 手だけで投げてた女投げから腰のひねりと肩の力を加えて、より精確で速くなるその姿に少年たちは恐ろしさすら感じ始める。

 

 

 始めてから30分も立たないうちに、次第に当てられてくる者が出始めていった。

 

 

「くっ、早ぇな」

 

「へへーん、息が上がってるよ」

 

 

 鋭い球を投げられるようになってからはどんどん仲間はボールに当てられてしまい、残されたのは砂藤少年だけになる。

 

 彼は逃げることを諦め、迎えうつように体を少女の真正面へと据える

 

 

「当たれ!」

 

「ふんッ」

 

 

 投げられた球を彼は取り返すと逆に投げ返す。

 

 

「うぉっとっと、お返しだよ!!」

 

「ぬッ……」

 

「すげー。リキがとったぞ」

 

 

 既に少女の球は、少年たちの誰よりもいい球を投げてくる。そして恐ろしいことにそこからでさえ、球威が上がっていることに砂藤少年は気づいた。

 

 これは少女の個性かもしれない。

 

 彼はそう分析し、必死に食らいついていくが目の前の相手にはまだ余裕が見えることに気付く。

 

 

「すげぇ! すげぇ!」

 

「負けるなよリキ! やっちまえ!!」

 

 

 周りの声に押され、彼は奥の手を使う、個性による投球だ。

 

 

「これで、終わりだ!!」

 

「キャッ!」

 

 

 流石にその速度に追いつくことはできなかったようで、取り損ねたボールはころころと転がっていく。

 

 

「やった!リキの勝ちだ」

 

「いぇーい!」

 

「俺たちの勝ちー」

 

「えぇ~そういうルールだっけ」

 

 

 理不尽の極みである。

 

 だが恨まないでほしい。その場のテンションですべてが決まるのが小学生のルールなのだ。

 

 

「まだ私まだ動けるし、まだやれるよ」

 

「どうするリキ?敗者復活戦か?」

 

「やーい負け~、まけまけまけ~」

 

「う~、まだ負けてないもん!」

 

 

 意外に負けず嫌いなのか、その目の闘志はまだ衰えていない。砂藤少年もここでもう少し少女と遊びたかった。

 

 

「よし、じゃあ三次テストだ」

 

「三次テストって何やんだよリキ?」

 

「たしか実戦形式の試合だったぜ」

 

「よし、じゃぁ次は試合だな!」

 

「さっさとグラウンドに行こうぜ」

 

「おい、なにぼさっとしてんだ、行くぞ?」

 

 

 ポカンとした表情をして、動かない少女の手を引いて少年たちはグラウンドへと走り出した。

 

 

「フフ……」

 

「なに笑ってんだよ?」

 

「なんでもなーい」

 

 

 グラウンドについてすぐに彼らは野球をした。

 

 もちろん2つに分かれて試合ができるほどの人数がいない彼らは、攻撃も守備もぐちゃぐちゃの入れ替わりで行っているため、敵も味方もありはしない。

 

 

「うぉ、女のバッティングじゃねーぞ!でかい! でかい! 下がれ下がれ!」

 

 

「ナイスキャッチ!! 女のくせにやるじゃねーか」

 

 

 これでは野球どころかテストにすらならないが、そもそも彼らはその時すでにテストのことなんて忘れてただ遊んでいるだけだった。

 

 

 夕日でグラウンドが赤く染まる頃には少女の白い服は泥まみれであったが、そんなことは誰も気にしない。

 

 

「おい! お前!! また明日も来れるか?」

 

「……私、本条 桃子っていうちゃんとした名前があるんだけど」

 

「ほんじょうももこ?」

 

「桃? こいつが桃とかいうガラかよ」

 

「確かに、じゃあ縮めてホモ子で」

 

「それでいいじゃん」

 

「明日も練習あるから来いよな、ホモ子」

 

 

 これが砂藤少年とホモ子の出会いだ。これは彼自身思い返しても頭を痛めていた。

 

 

 小学生が考えるあだ名のネーミングセンスは残酷で常軌を逸してるといえども、このあだ名だけはなかったと、後になって彼は深く後悔する。

 

 

「えー……、全然かわいくない」

 

「それでいいだろ、じゃあなホモ子」

 

「あばよホモ子」

 

「そろそろ帰るか! さらばだホモ子!」

 

「じゃあね~ホモ子!」 

 

 

 

 こうして彼らは友達になった。

 

 

 それからは彼らにとって楽しいことがたくさんあった。

 

 山に入っての秘密基地、泥だらけになった川遊び、隣町の奴らとの対決。

 

 女であるならまずいかないような場所にも彼女は付いていき、傷だらけの汚れだらけになって遊んでは笑い合う。

 

 そうすれば男勝りの快活な笑顔を浮かべる少女を仲間外れにする者はいなくなった。

 

 

 

 そんな風に過ごせば彼らはあっという間に5年生、もうすぐ中学に上がる年になっていた。

 

 

 

 何時ものように喧嘩を通じて仲良くなった隣町のチームと野球の試合に行くとき、ホモ子がまぶしいものを見るように、目を細めながら砂藤少年を見る

 

 

「リキくんって将来大物になるかも……、きっとヒーローとか」

 

「急になんだよ、けどそうだな! 俺の夢はヒーローだ!!」

 

 

 確かに彼の夢はヒーローだ。

 

 だがそれは、大抵の子供が夢見る職業である。

 

 ヒーローになれるなんて、子供に対してよく使われる称賛。悪く言えば、中身のない褒め言葉であった。

 

 

「リキくんは絶対なれるよ、うーんすごいなぁ……、きっとみんなを守れるオールマイトみたいなヒーローになるんだろうなぁ、今のうちにサインもらおうかな……」

 

 だがホモ子の言い方は、まるで砂藤少年が間違いなくヒーローになることを確信しているようであった。

 

 そんな彼女の態度を見て、砂藤少年はもしかして、本当にヒーローになれるのではないかと大いに自信をつける。

 

 

「当たり前よ! 困った人みんなをかっこよく守れるすげぇヒーローに俺はなるぜ!」

 

「リキくんが望めばそんなヒーローになれるよ」

 

 

「俺がヒーローになった時には助けを呼べよ! 飛んで駆けつけてやる」

 

 

「うん! ありがとう!」

 

「……おうっ、そろそろ行くか」

 

 

 その屈託のない笑顔と称賛にさすがの少年も少し照れてしまう。

 

 彼は少し赤くなった顔を見られまいと鼻をかいた。

 

 

 

 彼はこの時、ふと目の前の少女と周りのことを考える。

 

 

 思えば、ホモ子の周りの男たちが最近妙だ。

 

 

 生花店のハッちゃんは、男勝りなのも逆に気心が知れて良いし、笑った顔に最近ドキドキすると本人に言えばいいものを何故か自分に相談してくる。

 

 ごっツンもみんなで遊んだほうが楽しいのに、最近やけにホモ子と二人だけで遊びに行こうとするし、女なんてと最後までツンケンしていたジローは川遊びの時、ホモ子をちらちら見てからかわれていた。挙句の果てに隣町のガキ大将のダイキなんて、ホモ子をチームから引き抜こうとしている節がある。

 

 

 確かにホモ子は他の女と違って折角とったカブトムシを気持ち悪いとか言わないし、作った秘密基地を汚いだの危ないだの陰でこそこそ言ったりもしないので、他の女子と比べたら断然ホモ子と遊んだほうが楽しい。

 

 

 ホモ子は確かに一緒にいて楽しい。だが、みんなでいればもっと楽しい。

 

 

 そう考える砂藤少年は一つ横の少女にばれぬよう小さなため息を一つつく。

 

 

 

 ここ最近、急に友人たちが浮ついていくことに彼は距離を感じてしまっていた。

 

 

 変わっていく周りを彼は少し寂しく思いながら歩く。

 

 

 人は成長していく。

 

 それは避けられないことで、人が変化していく生き物だからだ。

 

 

「お~い、リキ、ホモ子、何やってんださっさと行かないと試合に遅れちまうぜ!」

 

「遅れていちゃもん付けられたらかなわないぜ」

 

「早く自転車取って来いって」

 

 

「あぁ、今行くぜ!」

「うん、今行くよ!」

 

 

 

 だがそれでもその時まではもう少しこいつらと変わらない関係で一緒にいたい。 

 

 少年はただそう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だがそれは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 彼には幼馴染がいた。

 

 今はもう分からない。

 

 

 




約束は守れましたか?(小声)


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シュガーマン2

 突然学校が休校になった。

 

 

 なんでも不審者がここら辺に出たらしいと、砂藤少年は聞いていたが、詳しい話は分からない。

 

 ただ、なにか事件があって、そのせいで外へ出てはいけない。とだけ、伝えられた。

 

 だからと言って、この降ってわいた休みを小学生が見逃すわけはなく。砂藤少年も例にもれず、抜け出そうとしたがすぐに両親に見つかった。

 

 

 今日は外に出るな。

 

 

 首根っこをつかまれて引き戻した親の顔があまりにも真剣だったため、彼はおとなしく家で過ごすことにした。

 

 どうも今日は大人たちが騒がしい。

 

 そう違和感を感じつつも家に居ろというならば、ゲームでもしようかと彼は考え、テレビに向かった。

 

 

 普段ならば、休みの時にテレビゲームをしようものなら、見たい番組が見れないと嫌味を言われるのが決まりであったはずなのに、今日は何故か何も言われない。

 

 それどころか、ゲームしようとリモコンを探すと、親が素早くテレビを操作してゲームの画面を表示し、ゲームをやりたいなら今日はずっとやっていいと言ってくる。

 

 

 ここまで来たら、何か隠されていることに嫌でも気付いた。

 

 

 今日の休校、不審者騒ぎ、テレビの方をちらちらとみる親。

 

 

 なにかテレビにあるのではないか?

 

 

 そう考えた彼は、親が少し離れた隙にテレビをつける。

 

 

 いつも通りのテレビだった。

 

 彼は惰性でチャンネルを回すが、特段変わったものはない。

 

 

<では次のニュースです。昨夜6時ごろ、T県○市××町で小学高学年の女子児童が遺体で発見されました>

 

 

 砂藤少年は見覚えのある景色に疑問を浮かべる

 

(あれ……、ここの近所だ。ホモ子と別れる時に何時も通ってた交差点の……〉

 

 次第に状況を飲み込みだすと、彼は顔面蒼白になる。

 

 

<遺体の状態から警察は個性犯によるものと特定、目撃証言から……> 

 

 

 

 急にテレビの画面が暗転し、後ろから声をかけられた。

 

 

 

 大事な話があるから座りなさい。

 

 

 

 後ろを振り向くと、硬い表情をした親が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 話された内容に砂藤少年は歯を食いしばる。

 

 

 死んだ女の子は彼と同じ小学校の女子であり、ホモ子の友達だったので、話したことや遊んだことだってあった。

 

 

 自分たちの町で自分たちの知っている女の子が殺される。

 

 

 彼の腹の中が強い悲しみと怒りでぐちゃぐちゃになった。

 

 

 なんでそんなひどいことを……

 

 どうしてあの子が殺されなきゃいけないんだ……

 

 犯人がゆるせない……

 

 俺はその時いったい、なにをしてたんだ……

 

 

 彼はふつふつと湧き出す感情を持て余しながら、拳を握りしめることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校に行った時、ホモ子の席には誰も座っていなかった。

 

 そこで彼は知った。

 

 ホモ子は事件に巻き込まれたらしい、と。

 

 

 

 

 それを知った彼と友人はいてもたってもいられず、ホモ子の家まで行くが、ホモ子はそこにいなかった。

 

 

「今日は来てくれてありがとう。君たちの思いは私が必ず伝えるよ。いま桃子はお婆ちゃんの家で休んでてね、元気になるまで少し時間がかかるかもしれない。戻ってきた時、変わらずうちの娘とお話ししてくれるかい?」

 

 

 ホモ子の父は、彼らが来てくれたことにお礼を言ってみせる。

 

 

 疲れた様子を見せながら最大限気を使う姿を見て、それが逆に自分たちにできることの少なさを突き付けられたように彼らは感じた。

 

 

 家から出ると、ホモ子の家の周りにはパトカーと警官、それと何か言い合っているマイクとカメラを持った数人の大人たちがたむろしていた。

 

 

 警察に何かを言われ、その場を離れる彼らとちょうど鉢合わせる。

 

 

 そのまま追い越して通り過ぎるかと思われたとき、不意に声をかけられた。

 

 

「君たち、もしかしてあみちゃんのお友達かな」

 

 その中の一人、キレイ目な大人の女性がしゃがみこんで話しかけてきた。

 

「悲しい、事件だったね……、すごくいい子だったのに」

 

 本当に悲しそうな顔をして、その目に涙を浮かべていた。つられてか彼の友人の何人かは悲しみの表情を堪える。

 

「もしよかったら、あみちゃんの思い出のことを聞いてもいいかしら」

 

 そう言われて、彼の友人の一人が学校のことを話し始めようとする。

 

 

「あの子、たまに俺らとまじって遊んでたよな」

 

「……なぁ、学校で事件のことを聞いてくる人には反応しないっていわれてなかったか……」

 

「そう思うのは当然ね、でもそれじゃあなた達もつらいでしょう。お姉さんに吐き出してみない? 少しは気が楽になるかもしれないわ」

 

 

 砂藤少年の言葉を優しいほほえみで返すその女性にひとたび口を開ければ、彼の周りの友人はいつの間にかどんどんと話を続けていた。

 

 

「ほもこ?」

 

「あの家に住んでる友達だよ」

 

「ほもこちゃんは、あみちゃんと友達だったの?」

 

「親友だって言ってた……」

 

「だから俺達、ホモ子が心配で……」

 

「元気そうだった?」

 

「俺達ホモ子が家に居ないから会えなくて……」

 

「いまはばぁちゃんの家で休んでるんだ」

 

「……その家ってどこらへん」

 

「ちょっと遠いって言ってたけど……」

 

「たしか隣町だろ、周りに何にもない田んぼのとこだって」

 

「お婆ちゃんってホモ子のお父さんの?」

 

「それはしらねーけど……」

 

「ふーん……、そういうことね。うん、お話しありがとね」

 

 

 そう言うと女性は会話を唐突に打ち切ってすぐに立ち上がると、呆気にとられるほどの速さで立ち去ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<本誌独占スクープ!! 女児コマ切れ殺人事件の犯人を特定!! 現場にはもう1人いた!!! 被害者の親友Mちゃんが語ったその壮絶な最期と犯人の正体とは!!!!>

 

 

 

 後日、ホモ子の母が記者に殴りかかったとの噂を砂藤少年は聞いた。

 

 ホモ子のいる祖母の家に連日押し掛け続けたジャーナリストに激したとは、クラスのゴシップ好きの女子の言である。

 

 

 

 彼は初めて、自分を殺したいほどに憎んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 事件から1週間たった時、亡くなった少女の葬式が行われる。

 

 

 

 砂藤少年は親に難しい顔をされながらも食い下がり、葬式についていく。

 

 

 そしてそこには驚くことに、母親と手をつないだホモ子がいた。

 

 

 彼は声をかけようとするが、踏みとどまる

 

 

 その能面のような表情を見て、いったい何をすればいいか分からなくなったからだ。

 

 

 ……だがそれでも

 

 

 それでも、ホモ子に何か声をかけるべきだと強く彼は感じた。

 

 

 

「ほんとこんなことがあるなんて……、旦那さんも奥さんもやりきれないでしょう……」

 

「もう遺体は焼いてしまったんですってね……」

 

「あんな殺され方で、亡くなってから1週間後に葬儀でしょ……、それって……」

 

「…………まぁ、遺体がそれだけ……、ってことでしょう」

 

 

 人の波をかき分ける中で、人々の声が耳に入ってくる。

 

 

「……本条さん、お子さんも一緒に来てますね」

 

「あんな小さな子が……、子供のためにも葬式に来させないほうがよかったんじゃないかしら」

 

「……確かに。あみちゃんのお父さんお母さんに親子連れだってる姿を見せるのも……、その、残酷でしょう」

 

「本条さんのところだってつらいでしょうにね」

 

 

 足が鈍る。

 

 両親が葬式についていこうとするのを渋った理由を彼は今思い知る。

 

 

「本条さんのお子さんの所にマスコミが殺到したんだろ? まだ11だぞ。犯人を見たからって、そんな小さな子によってたかることはないだろ……」

 

「警察が事情聴取を遅らせてたから、先に聞ければって魂胆だったんだろうな……、家に不法侵入した人もいるらしいって……」

 

「それでわざわざお子さんの場所を移したのに、よく調べ上げてくるもんだな……」

 

 

 人の隙間を歩くごとに罪悪感がのしかかり、足が鉛のように動かなかくなる。

 

 

「最後は桃子ちゃんが自分で事情を説明してマスコミにもう帰ってくれって頭を下げたんだって……まぁ、そんな姿をカメラに収めて帰ろうとはしなかったそうですけどね」

 

「おいおいそりゃマジかよ……」

 

「それで奥さんブチ切れって話っすよ」

 

「カメラをぶん投げ、マイクを振り回しての大立ち回りだったそうです。あんなに小さな人がねぇ……」

 

「だが暴力は悪手だろ? 」

 

「……そりゃ、でもお母さんだって激高してぶん殴りますよ。子供を守るためですもん」

 

 

 

 足が完全に止まる。

 

 

 今更、自分がホモ子になんて声をかければいいのだろうかと

 

 

 彼は必死になんと話しかけるか考えるが、口をパクパクと動かすことしかできなかった。

 

 

 

 結局、声がかけられず時間だけが過ぎ、葬儀が始まる時間となる。

 

 

 

 葬式は初め、しめやかにとり行われた。

 

 しかし途中で、周りに挨拶をして回りながら、気丈にふるまっていた亡くなった少女の父の目に涙がにじみはじめ、母の方が肩を震わせて涙を流してから、会場に悲惨な雰囲気がながれていく。

 

 両親とも膝を濡らすほどの涙を流し、それにつられて多くの人が涙を流した。

 

 

 最後にそれぞれ、微笑む写真へと歩いていき、手を合わせていく。

 

 

 砂藤少年の順番になり、親に言われた動きをしながら歩くと、ちょうど通路側の席に座るホモ子が見えた。

 

 

「…………」

 

 

 うつむいた顔とその震える肩と真っ白になるまで手を握りこんでいた。

 

 それを見た彼は決心する。ホモ子のそばを通り過ぎながら、この後でホモ子に絶対に話しかけることを誓う。

 

 

 

 だが、それでは遅かった。

 

 

 

「……ちがう…………、じゃない」

 

 

 

 後ろから、どす黒い、声が聞こえる。

 

 

 それは、強烈な憎しみの泥を口からまき散らすような呪詛だった。

 

 

 あのそこ抜けた明るい笑顔で、優し気な声色をしたホモ子の喉から出たとは思えない声に、彼は思わず振り返り、見てしまう。

 

 

 

 

「おまぇぇぇぇぇぇえぇぇ!!!!!!!! お前のせいだぁッ!!!! お前が私の体をのっとってっぇぇぇぇぇえぇ!!!!!!!!」 

 

 

 

 彼にとって、ここまで怒りの感情を出した人間は人生で一度も見たことがなかった。

 

 髪は逆立ち、目は血走り、歯は絶えず軋んではじけ、体の筋肉は隆起し、肩をいからせる。

 

 

 そして、彼女は自身の右手を高くに掲げると、目にもとまらぬ速さで彼女自身の顔面に叩き付けた。

 

 

 ボーリングの球を床にたたきつけたような打撃音が式場に響き渡る。

 

 

「桃子! どうしたの!! 落ち着いて!」

 

「止めるんだ桃子!!」

 

 

 ホモ子の両親が必死に抱き留めようとするが止まらない。

 

 それを見ていた大人たちもホモ子を止めようとするが、その腕力で大の大人4人を引きずってホモ子はひたすら自分の頭を殴り続けた。

 

 もう顔は血まみれで、右の顔の形が膨れ上がったり、陥没していた。

 

 

 その様子に悲鳴も上がるが、さらにホモ子を守ろうと大人たちが集まる。

 

 その中には亡くなった女の子の父もいた。

 

 

 

「クソッ、本条さん!! 私の個性は蜘蛛! 弱い麻痺毒も出せる!! いいか!」

 

「……構いません! お願いします!!!!!」

 

「私の個性は寄生木(やどりぎ)、捕縛を手伝います!!」

 

「お願いします!!!! 皆さん、危ないので一度離れてください!!」

 

「いえ、大丈夫です!!」

 

「我々ごと縛り上げて構いません!!」

 

「それより早く桃子ちゃんを!」

 

 

 しかし、ホモ子の腕力は追い詰めれば追い詰められるほど、より力強くなっていく。

 

 

 ただ純粋に腕を振り回す。

 

 

 それだけでその桁外れた力により、しがみついた大人たちが振り落とされる。

 

 

「あ゛あぁ!! う゛う゛ぅ、あ゛っ、あ゛あ゛ぁっ!!」

 

 

 獣のように呻くホモ子はぶつぶつと言葉にならない音を立てているが、その中で意味ある言葉が砂藤少年の耳に届く

 

 

 

 

「………けて……」

 

 

 

 

「桃子、大丈夫、お母さんがいるから」

 

 

 

 ほとんどの大人が振りほどかれた、しかしただ一人

 

 

 ホモ子の母だけは背中から抱きしめていた。

 

 

 一体どういう手品だろうか、力を込めたホモ子の動きはその小さく細い腕に阻まれている。

 

 

「ごめんね桃子、頑張ったね、もう大丈夫、私の手を握って……」

 

 

 一瞬、二回りも大きくなったホモ子のお母さんの体を砂藤少年は幻視する。

 

 

「今です!!! 皆さんお願いします!!」

 

 

 ホモ子の父の声に弾かれたように二人の人影が飛び出す。

 

 蜘蛛の顔を張り付けた異形型の男と、手のひび割れた皮膚から根が張っている女だ。

 

 

「体には痛みは無いわ」

 

 

 女は手を地面に突き刺すと根が地面を這い、ホモ子の足まで達した瞬間に足に突き刺さり、体の内部を駆け巡る。 

 

 

「すまん!! 傷は残らんように努力する!」

 

 

 その隙に男はホモ子の腕を牙で軽く引っ掻くと同時に、器用に副腕を交差して体を糸で張り巡らせた。

 

 

 

 体をしびれさせ、体を内部から固定しているというのにホモ子はそれでも腕を振り上げる。

 

 

「もういいんだ桃子」

 

 

 体から伸びた根の一部にホモ子の父は触れる。

 

 

 そこから根はさらに太く生育していき、ホモ子の体を完全に止めた。

 

 

 

 ホモ子は周囲の協力のもと救われた。

 

 

 

 皆が胸をなでおろす中

 

 

 

 

 

 

 

 

 ただ、一人砂藤少年だけは、微動だにしない自分の足を呆然と見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくすれば、誰かが呼んだだろうヒーローが到着し、ホモ子は担架に乗せられ、個性で消耗していた母の付き添いで病院へ運ばれる。

 

 

 

 大人たちは葬儀の人と話し合いながら、これからひとまずどうするか話し合っている。

 

 ホモ子の父は方々で頭を下げて回っているが、皆それを押しとどめていた。

 

 

 

  砂藤少年は、ただ立っていた。

 

 

 

 ホモ子の姿を見たその場所から、一歩も動いていない。

 

 

 砂藤少年は考える。

 

 

 自分には強力な個性があったはずだ。たとえ止められないとしても、時間は稼げた。そして協力すれば、もっと早く助けられた。

 

 俺の個性を使えば容易に取り押さえられるような大人や、少女を亡くしたばかりの父親だって動けていたのに、なぜ俺は一人突っ立っていただけなんだ。

 

 

 

 

 いやそもそも

 

 

 

 あの時自分の耳には届いていたはずだ。

 

 

 血にまみれる中でかすかに開いた唇。

 

 

 

 

 

 

 

 た す け て と動く口を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リキくんは絶対なれるよ、きっとみんなを守れるヒーローになるんだろうなぁ

 

 当たり前よ! 困った人みんなをかっこよく守れるすげぇヒーローに俺はなるぜ!

 

 リキくんが望めばそんなヒーローになれるよ

 

 俺がヒーローになった時には助けを呼べよ! 飛んで駆けつけてやる

 

 うん! ありがとう!

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは、こんな俺がヒーローかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼には幼馴染がいた。

 

 今はもう分からない。

 

 もう何も分からない

 

 




砂藤くんがホモ子のせいでネガティブをポジられてますね……

RTA走者がいないとホントにただのシリアスで、カタルs(噛み)……カタルシスに至る逸話も出てこない……ただただ(タラタラ)暗いだけだ!

さっさとRTAパートに戻りてぇな~、俺もな~


あっそうだ(唐突)映画『シュガーマン』創作者の悲哀みたいなテーマでクソ面白かったから見ろよ、見ろよ


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7話 前半

 もう元には戻れない。

 

 

 先日しでかしたクラスでの行動は決定的だった。

 

 彼らに自分の激情をぶつけ、彼らの善意を踏みにじるあの行いは、私と彼らの間に明確な壁を作っただろう。

 

 だとしても関係ない。

 

 早くヒーローになれば終わる……、そのはずである。

 

 

 

『君が泣くまで殴るのをやめない、親指を崩壊させる連打ゲーRTA Part7 はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校に行きたくないと思う気持ちとは裏腹に、最近ますます高機能になった体は、その健脚ぶりを発揮し、あっという間に教室のドアの前にたどり着いた。

 

 今の気持ちと同じく重い戸を開けながら、すぐさま誰とも目を合わそうとせずに席に向かおうとした。

 

「やぁ本条君! おはよう!!」

 

「おっす」

 

「はよっす」

 

「本条さんおはよー」

 

 私は思わず面食らって立ち止まる。

 

「今日は結構早いじゃん、本条」

 

「おはようなのね、本条ちゃん」

 

 ……いやいや、おかしい。

 

 あんな態度を取ったすぐ次の日だというのに、みんなのこの態度はなんだ。

 

 まるで気にしているのが自分だけといった雰囲気に動揺する。

 

 なんとか間抜けな顔を晒さないように表情を凍らせ、私は無言で椅子に座った。

 

 

『はぁ、今日も今日とて陽性キャリア達がホモ子をポジらせようとしてきますね。

 

 しかし、ホモ子、ここはイベントすら立てずにスルー

 

 貞操観念は大事、はっきりわかんだね

 

 本当にここまでイベントを発生させないホモ子は人力最速の理想ですね、TASだと疑われちゃ~^う(慢心)

 

 はい? TASなら戦闘シーンがもっとうまい? えっそんなん関係ないでしょ(半ギレ)』

 

 

 いくらこのクラスに善人が多いと言えども不自然では?

 

 そうも考えるが、私は気持ちを切り替えることにした。

 

 結局私のすることは変わらず、話しかけられようが何をされようが無視をするだけだ。

 

 周りのことなんて考える必要もない。もっと私に必要なことだけを考えよう。

 

 いつものように本を開きながら周りとの目線を遮って一人の世界にこもると、今日の授業について考える。

 

 今日の午後からのヒーロー基礎学は、おそらく救命救助訓練だと思われる。

 

 なぜそんなことを知っているかといえば、訓練によっては声が出てくる可能性もあるため、念のために以前から授業の予定を探っていたからだ。

 

 今回は例年のガイダンスと今年度の予定表、そして主に耳を活かした教師からの盗み聞きで今日の予定を推測したが、もし救助訓練だとしたら私にとっては都合がいい。

 

 なにせ救助だ。別に争うわけじゃない。

 

 

 救助訓練で声が介入するような何かが起きる可能性は少ないはずだ。

 

 

『それでは今日のイベント、人命救助訓練withヴィラン襲撃を頑張りましょう

 

 今回調教する少年少女は雄英っ! 端正なマスクと、均整のとれた体、まだ15歳のこの少年少女たちは、ヴィランの襲撃に耐える事が出来るでしょうか? それでは、ご覧下さい』

 

 

「…………なんで」

 

 

『人命救助訓練中にいきなりヴィランに侵入されるとか雄英の警備ガバガバじゃねーか

 

 ヴィランとの戦闘なんて敵味方の生死の管理でタイムがあーあ、もうめちゃくちゃだよ

 

 なので基本的に固定行動をとって大筋に影響を与えないように丁寧丁寧に立ち回っていきますので見とけよ見とけよー』

 

 

 ……本当にふざけた話だ。

 

 

 雄英が襲われるらしい、ヴィランから。

 

 ヒーローとはつまりヴィランと戦う者のことであるが、私たちはただの学生に過ぎない。

 

 そんな私たちが襲われる?

 

 しかも先日のマスコミ騒ぎのせいで、今、雄英は厳戒な警備がなされている。ここが襲われるなんてあり得ない。

 

 そう自分を納得させようとするが、体は落ち着きなく動くのを止められない。

 

 

 なぜなら、声は嘘をつかない。

 

 

 私の経験から判断すれば、今日の人命救助訓練はヴィランに襲撃される。これは現実だ。

 

 私が何もしなければ確実に起きる。

 

 知っているのは私だけ。ならば、この事件を避けることができるのも、わたしだけということ。

 

 

 今すぐ警備や先生に伝えるべきだろう。

 

 

 伝え方は考えるべきだが、早くこのことを知らせなければいけない。

 

 そうすれば敵も手をだしてくることは……

 

 

『そうはいっても今回氏ぬポイントなんて2、3か所しかないので安心してくれよなー

 

 余計なことをしない限り全員生存でみんなハッピー(フラグ)

 

 登場キャラ達はいるだけでウマ味なので、なるべく戦線離脱させないようにさせておきたいけどなぁ、俺もなぁ~

 

 でもまぁ一人ぐらい消えても……ばれへんか

 

 全部ホモ子次第ですね、言うこと聞いてくれよな~、頼むよ~』

 

 

 余計なことをしなければ……

 

 

 その言葉を聞いて心臓が締め付けられる。

 

 声は余計なことをしなければと言った。

 

 

 私がこの情報を学校に伝えることは本当に正しいことなのか? もしかして何か別の形で不幸が訪れるのでは?

 

 

 そうだ。私が正しく声に従っていれば誰も死ぬことはない、死ぬことはなかったんだ。

 

 ……声の言うとおりにすることが、結局は一番安全だ。

 

 私が何かしようとすることが周りに危険を振りまくことになる。今までずっとそうだったじゃないか。

 

 

 

 

 結局、私の決定は“何も言わない”。

 

 私は敵の襲撃を見逃した。

 

 

 

 

 昼休みとなり、私はすぐに教室から出ようとするが声をかけられる。

 

「本条君、午後は移動があるらしいから早めに戻ってくるよう心がけた方がいいぞ」

 

 飯田君だ。

 

「よかったら今日は弁当を買って教室で食べるのはどう?」

 

 麗日さんも声をかけてくる。

 

 

「ごめんなさい、ここに居たくないの」

 

 

 私は誘いを無視して、いつもの場所に向かった。

 

 

 広場に着くと、私はお弁当を買っていないことに気付く。

 

 でも別にいい、食欲なんてない。

 

 ベンチに座り込んで、目を固くつむり、深く息を吸い込む。

 

 

 私の選択は正しい。

 

 声の通りに動けば誰も死なない、これが一番いい。

 

 ……クラスメイトを危険に晒しておいて?

 

 

 私が動けば人が死ぬかもしれないって言ってるじゃないか。

 

 見逃さなければ、彼らが私のせいで傷つく可能性もあった。

 

 ……自分の為ならクラスメイトがどうなってもいいんじゃなかったの?

 

 

 どうなってもいい、でも積極的に傷つける必要もない。

 

 本当だ。私は、私の目的の為なら彼らのことなんて何とも思っていない。

 

 ……じゃあ彼らが死ぬようなことになっても見捨てられるよね?

 

 ……………そのために嫌われてるんだもの、当然できるよね?

 

 

 

「うるさいよ……」

 

 

 

 意外にもよく響いた私の独り言に広場にいた何人かがこちらに視線を向ける。

 

 取り繕う元気もない私はその視線に顔を向ける。

 

 私を見ていた人々はまるで気色悪いものでも見せられたように顔をゆがめながら目を背けていった。

 

 皆なんでそんな目で私を見るのだろう?

 

 そう考えている中、ある一人だけが目をそらさずにこちらに近づくと、気まずそうに声をかけてきた。

 

 

「おいあんた、ひどい顔だが大丈夫か?」

 

 

 そんなに、ひどい顔をしていたのか、見ず知らずの親切な他人にも気を使われてしまった。

 

 私は緩慢な動きでポーチから手鏡を出して、自分の顔を見る。

 

 

 そこには何時かの声に操られている顔に少し似ている私がいた。

 

 

「はは、ほんとにひどい顔だ」

 

「保健室に行った方がいいんじゃねーか」

 

「ううん。大丈夫です」

 

「おい、本当に大丈夫か? 」

 

「安心してよ。へーき、へーき……、ヘーキだから」

 

 

 私は適当な生返事をすると、その場から立ち去る。

 

 お気に入りだったのにしばらくこの場所は使えないなと一人考えながら、昼休みの残り時間、あてもなくふらつけば、時間だけは過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺と、あともう一人で担当することになった。災害、水難なんでもござれ、人命救助訓練だ」

 

 気が付けばもう午後だ。

 

「中には活動を限定するものもあるだろうから、今回コスチュームの着用は各自判断で構わない。訓練場は遠いのでバスで行く、以上、準備開始」

 

 ワイワイと話しながら準備を始めるクラスメイトをしり目に、以前壊されたヘルメット以外のコスチュームをすぐさま装着してバスに向かった。

 

 声は訓練の時に襲われるとは言ったが、訓練のどのタイミングで襲われるかは明言していない。襲われるのは今であったとしても何もおかしくはない。そう考えた私はひたすらに周りを警戒する。

 

 一番にバスへ到着して、まずは、個性で感覚を拡張し、バスの下、周り、おかれている荷物などを見回った。

 

 エンジンやバッテリー以外で異常な熱源なし、バスの機械音以外は置き忘れた時計と車内にいる羽虫数匹以外に音を発するモノはないようだ。

 

 バスを確認した後、私は周りを再度確認する。

 

 近づいてくる人間は生徒以外はおらず、虫や小動物にも明らかに不審な動きをしているものはない。

 

 

 

 

 

「おっす本条、早いじゃん」

 

「実は緊張していたり、そんなわけねーか」

 

「……うるさい、気が散るから話しかけないで」

 

「きっつ! 性格きついぜ本条!!」

 

 

 上鳴君と瀬呂君の言う通り、私は今心臓が口から飛び出しそうなほどに緊張している。

 

 

 いくら警戒しても敵に私の五感でも気付かない個性があるといわれたらどんなに感覚を研ぎ澄ませていようが無駄だろう。

 

 そしてそんな話はこの個性社会で無数に転がっている。

 

 しかしいくら無駄だとしても、私が周りを警戒しない理由にはならなかった。

 

 

「よし! 皆! 出席番号順でスムーズに並ぶんだ!!」

 

「さすが飯田君、委員長フルスロットルだね……」

 

『ではいざ鎌倉、バスにのりこめー』

 

 

 肝心の声はいつもの雑談以外は何も話さない。

 

 

「しっかし増強型はシンプルかつ派手でいいよな。俺の硬化はタイマンなら自信があるんだけど、いかんせん地味でなー」

 

「僕はかっこいいと思うよ、プロヒーローにも通じるいい個性だよ」

 

「個性に詳しい緑谷大先生にそういわれると自信がつくぜ」

 

「えっ、そっ、そうかな」

 

『ずいぶん勉強したな、まるで個性博士だ……』

 

「私、思ったことはつい口に出しちゃうんだけど、緑谷君の個性、オールマイトに似てるわ」

 

「そそそそうかな!?、いやでも僕は、そのえー」

 

『でもただの個性博士じゃないよ! このデクはただの個性博士じゃないよ!』

 

 

 あぁ……、本当にこの声の使う言葉は奇妙で何一つわからない。

 

 私はバスに乗り込み、雑談に花を咲かせるクラスメイト達の輪には入らず、にじみ続ける手汗をぬぐいつけていた。

 

 

 いつ来るのだろうか。

 

 今? ここでバスごと一網打尽にされるんじゃ……

 

 それとも授業中、先生の意識が分散した瞬間、私たちを襲う腹積もりなのか?

 

 

 私だけだ。襲撃を知っている私だけが何よりも先んじて動ける。動かなきゃいけないんだ。

 

 

「爆豪と轟、あと派手でいったらやっぱり本条か、これぞ増強型の上位って感じでうらやましいぜ」

 

 

 急に話しかけられて、外に警戒を向けていた私の意識が引き戻される。

 

 

「個性もつえーけど、性格もつえー、てかこえー。バクゴーを反面教師にもう少しかわいらしくいった方がいいぜ本条」

 

「……」

 

「無視!! 爆豪とは別方向でひでぇ!!」

 

「そういえば緑谷と爆豪と本条、同じ学校なんだろ、すげーなその中学、どんな教育してんだよ、力がすべての世紀末か?」

 

「おい根暗女、……あんときから個性を隠してやがったな」

 

「……興味ない」

 

「てめぇ……!!」

 

「個性“成長”はすごい個性だよ。単純な増強型では筋力が底上げされる場合が多いけど、彼女はそうじゃない。前回の屋内訓練の映像を見る限りじゃ、聴力、視覚、おそらくだけど嗅覚、触覚、文字通り五感のすべての機能が強化されていると考えていい。……いや、彼女の学力を見ると、まさか知識や技術も個性の範囲なのか? だとしたら、彼女はもしかして脳の処理速度や機能すら拡張している……? あの訓練中の体さばき、あの未来予測じみた動き。人の反射神経じゃ説明がつかないのはそういうことなのか……!! 彼女はプロヒーローが長年かけて掴む第六感すら、その個性で成長していく。なんて個性だ……! すごすぎる……!! いったいどこまで上限がある……? 弱点はないのか……、そうだ、八百万さんの個性による攻撃で怯んだ。成長し続けた感覚器官が仇となったと考えられるけど、それが弱点といえるか? いや、本条さんなら、その攻撃すら込みで成長していると考えた方が自然だ。なら倒すには対策されていない奇策や対応できないほどの高威力で一気に攻め落とすしかない、はは、そんな力押しをよりによって成長し続ける増強型相手に……? 彼女自身かなり慎重な性格だ。そうやすやすとこちらの思い通りには…………」

 

 

 

『バスの能力解説イベントが発生してクラス好感度が変動しましたね。

 

 個性オタクと化した主人公が個性を解説してくれます。この長文、ステータス画面で見れる個性の情報を網羅している上にそれ以上の解説もあります。

 

 なので、攻略情報にのっている個性の解説は緑谷の解説の丸写しです。

 

 つまりwiki=緑谷です。

 

 何だこのオタク!?(驚愕)

 

 しかも、同じような個性でも発言が微妙に違うので個性の分類も緑谷の発言を中心に割り振られています。

 

 もう、個性やヒーローに関する学者にでもなればいいんじゃないですかね……』

 

 

「おい、本条、緑谷が何時もの状態になっちまった、幼馴染だろどうにかしろよ」

 

「……きもちわるい」

 

「…………死のう」

 

「おい本条!! 誰がそこまでやれと言った!!!」

 

「緑谷ッ!? 死ぬなッ!!」

 

 

『いい機会なので今回使っている個性でも解説しましょうか(激遅)

 

 この個性がすべてを決めるヒロアカRTAで、今回使っている個性である「成長」

 

 ステータスの伸びが格段に良くなる効果があり、いくつかの脳筋御用達個性系統の一つです。

 

 スキルポイントや習熟度の補正もかかるので、初心者にもおすすめな有能個性ですね。

 

 ですが、実はこの「身体能力と成長にブーストがかかる個性」の系統、別に「成長」が最良個性ではありません。

 

 まぁ星4くらいです(FGO感)

 

 普通に完全上位互換がいくつもあります。

 

 私が実際引けたのでもっと強い個性は「適応」「改造」ですね。適応は今の個性よりも数段早く強化されていきますし、改造は幅広い良能力をガンガン付与できます。

 

 私は引けませんがSSR(アイマス感)のこの系統最良といわれる「進化」に至っては戦闘を長引かせれば、確実に相手の能力を上回れるチートです。

 

 なぜそれで走らないかといえば、毎回走るたびにリセマラを10時間かけてたらRTAどころじゃないからです(白目)

 

 まぁ、たとえその「進化」を引けても一周目縛りでは個性好きの悪方のおっさん(年齢不詳)は倒せませんので、RTAで無理に引く必要はないから安心してください。

 

 最速は神野編で(個性を)拒むことを知らない種壺野郎を倒すことですが、一周目で人力は不可能です。

 

 一周目攻略はTASさんの領分ですし、通常プレイでは周回マラソンが前提ですね』

 

 

 個性の話す言葉を暗記する。

 

 何時もなら、この狂人の戯言としか思えないような言葉の意味を考えながら、声にとってこの世界がどう見えているかを考える作業をするところであるが、今日の私にそんな余裕はない。

 

 

「もう着くぞ、無駄なおしゃべりはそこまでにしろ」

 

 

 着いてしまった。

 

 敵は必ずここに来る。

 

 心臓の鼓動が先ほどからうるさいくらい鳴っている。

 

「すっげーーー!! USJかよ!!?」

 

 バスから降りるクラスメイトに続く、降りたところに誰か人がいる。私はその人物の一挙手一投足を観察する。

 

 

「どうも皆さん、水難、土砂災害、火事、etc(エトセトラ)あらゆる災害を想定し僕が作った演習場です……、その名も(嘘の) (災害) (事故ルーム)

 

 

『当時は若く、デ○ズニー“シー”と聞いてディ○ニーAと○ィズニーBがあると思ってました(唐突な独白)』

 

 

「スペースヒーロー13号だ! 災害救助で目覚ましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」

 

「わー、私大好きなの13号!」

 

 

 どうやら敵ではないらしいと気付いて警戒を解く。周りのみんなに合わせて、私も先生の前に整列した。

 

 

「えー訓練を始める前に小言を1つ……、2つ……、3つ……、皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール、どんなものも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

 

 まだ敵は攻めてこない、いったいどこからくるというのだろうか。

 

 

「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね」

 

「えぇ……、しかし簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう」

 

 

 この雄英のセキュリティを通り抜けてくる(ヴィラン)ならばイタズラ程度ではすまない。

 現に警備の薄くなるこの授業を把握し、狙い撃ちにしていることが相手が綿密な計画を立てている証明だ。

 

 

「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく取り締まることで一見成り立っているように見えます。しかし、一歩間違えば容易に人を殺せるいきすぎた個性を個々が持っていることを忘れないでください」

 

 

 敵の目的は今考えたところで分らないので、考察はしない。問題は敵が無計画でないなら、こちらを制圧しうる規模の力を持って臨んでくる可能性が高いということだ。

 

 

「相沢先輩の体力テストで自身の可能性を、オールマイトの対人戦で個性を人に向ける危うさを……、それぞれ体験したと思います。この授業では心機一転! 人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう」

 

 

 そもそもの話、なんで(ヴィラン)は今日ここで私たちが災害救助をすると知っているんだ?

 ヒーロー科の生徒という内部の立場、かつ個性を使用した私の調査でも、今日救助訓練が行われるというのは予測にすぎなかったというのに……。

 

 

「君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない、助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」

 

「かっこいい!」

 

「流石ヒーロー!」

 

 私の思考を遮るように、クラスメイト達の拍手が鳴り響く。

 

 

 が、私の感覚は拍手の中でソレの音を捉えた。

 

 

「そんじゃあまずは……」

 

 空気が一方に流れ込むような音、まるで唐突に別の空間をつなげる“扉”が生まれたとしか説明がつかないような異音だ。 

 

「ひとかたまりになって動くな!!」

 

 あちらこちらでどう見ても堅気には見えない格好の者たちが、空間にぽっかり空いた穴から顔を出す。

 

「13号! 生徒を守れ!!」

 

「なんだよアレ、もう試験は始まってるってパターンか?」

 

「俺たちの後ろから出るな!!」

 

「ヒッ……」

 

 その穴から覗く目を見て、私は誰にも気付かれないよう小さく悲鳴を上げる。

 

 

(ヴィラン)だ!!!!」

 

 

「……おいおい、せっかくこっちは大衆引き連れてきたのにさ……、オールマイトがいないなんてゲームが成り立たないだろ……」

 

 

 私は恐怖する。

 

 どうして(ヴィラン)という存在は揃いも揃ってあんなに異質な目ができるのだろうか。

 

 

「子供を殺せば来るのかな?」

 

 

 途方もない悪意と憎悪を喜悦で固めたその目に私が腰を抜かして倒れこまないのは、ただ体が恐怖で固まっているからだ。

 

「13号! 任せたぞ!」

 

 その場の誰よりも素早く相澤先生は飛び出した。

 

 

『はい、敵連合が来ましたね。それでは通常ルートでの最善手を説明します

 

 通常ルートの場合、このUSJ編は何もしないことが最速です

 

 なにせ戦闘シーンが飛ばされるので本当にすぐ終わります

 

 といってもこのパターンはめったにありません。極端に能力が低いか、性格に臆病が入っている。または敵側のスパイとして潜入しているなどの特殊な場合を除き、ほぼ確実に戦闘に入ります。

 

 性格で臆病がRTAで強いのはこのように敵との戦闘イベントをごく低確率で避けてくれることもあるからなんですよね』

 

 

 正直に言うなら、声に戦えと言われなかったことに私はほっとした。

 

 あの悪意の中で冷静に敵を鎮圧する先生を見れば、プロヒーローと学生の格の違いが判るはずだ。

 

 私たち学生が何かできるわけがない。

 

「皆さん!! 避難をしてください!!」

 

 13号先生が生徒を逃がそうと誘導してくれる。

 

 情けないことに、逃げ出していいと聞いた瞬間に私の体の硬直は解けた。

 

 

 

 

『ですがそれは通常ルートの話で、トラウマルートでは話は別です。

 

 ホモ子には是が非でも、絶対に、確実に、戦ってもらいましょう』

 

 

 

「え……」

 

 

 私が呆然とした瞬間。

 

 

 

「逃がしませんよ」

 

 

 黒い霧が私たちの行く手を遮った。

 

 その異形の姿は全身が黒い霧に覆われ、目にあたる部分が不気味に光っている。その不定形が人型を伴って男の声を出しているからなんとか人間だと区別できるが、それがなければただの不気味な靄である。

 

「初めまして私達は敵連合(ヴィラン連合)。僭越ながらこの雄英に侵入させていただきましたのは、平和の象徴(オールマイト)に息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 

 とんでもない口上と共に、その霧は私たちを包み込むと瞬時にかき消えた。

 

 消えたのは霧だけではなく、隣にいたはずの何人かの生徒も消えて、私たち生徒は混乱に陥った。

 

 

『ンアーッ、来ましたね黒霧のワープゲート

 

 ここで飛ばされるか、飛ばされないかは完全に運です。

 

 飛ばされた場合は、その場の敵を殲滅、そこで遅ければ戦闘終了、良タイムなら中央広場の死柄木と戦闘に入ります。

 

 通常ルートでは飛ばされた先でスキル上げをおこない、時間を潰してイベント終了です。

 

 今回は残りましたのでまずは黒霧戦です

 

 テレパスなどの連絡系、ワープや高速で脱出できる個性以外は飯田の突破口を作るための黒霧戦からの死柄木戦というながれですね

 

 つまり、さっさと飯田を脱出させ、シガラキをパパパッとやって、終わりっ!』

 

 

「皆! いるか 誰が飛ばされた!!」

 

 私が呆けている内に飯田君が周りの状況の確認に努めている。

 

 そうだ、まずは現状を……、何がどうなっているか確認しないと……

 

 …………確認ってなにを? 

 

「散り散りになってはいるが、この施設内に全員いる」

 

 障子君が全員の無事を確認していた。

 

 そうだ、まずはみんながいるか確認しないといけない

 

 

『あー、ここで味方の位置を感知できたら経験値がおいしいのですが発生しませんでした

 

 ホモ子の個性なら8割ぐらいイベントが起きてたんですがね(屑運)』

 

 あっ……そうか、わたしもできたんだ。

 

 次……、次は何を……どう動けば……

 

 

「委員長、君に託します。君が学校まで駈けて伝えてください」

 

「しかし、クラスメイトを置いていくなど……、俺は長距離なら優っていますが、敵を突破するなら高機動な本条君の方が……」

 

 先生がこちらを見る。

 

 だが、私の表情を見てすぐに顔を戻した。

 

「……いえ、委員長、あなたが行きなさい、行きは私がサポートします」

 

 私は思わず自分のしていた表情を触って確認する。

 

 ちがう、いまのはちがう、わたしも……

 

 

「行けって非常口!!」

 

「外には警報がある。外に出ちまえば追ってこれないはずだ!!」

 

「サポートなら任せて」

 

「お願いね委員長!!」

 

 そうだ。

 

 やれる。たたかえる。わたしはたたかえる。

 

 もうむかしとはちがう

 

「全く、手段がないからとはいえ、敵前で作戦を語る阿呆がいますか」

 

 そうだ作戦だ。

 

 飯田君を外に逃がさないといけない。私の個性なら敵を吹き飛ばすなりすればいい

 

 それに声に任せれば確実に敵を倒してくれるはずだ。

 

「バレても問題ないから語ったんでしょうが!!」

 

 先生が指のハッチを開く、その瞬間、空気が、匂いが、熱さえもバラバラに分解してその指先に吸い込まれていく。

 

 常人には防ぐことも逃げることもできない、とんでもなく強力な個性だ

 

 

 あっ……

 

 

 私だけが聞こえた。

 

 あのズズズと空気が一方に流れ込むような音を私だけが気づいていた。

 

「13号、災害救助で活躍するヒーロー、やはり戦闘経験では他のヒーローより一歩劣っていますね」

 

 

 私が音に気付いてたっぷりと2秒後、先生の背中は分解されていた。

 

 

「先生ー!!!!」

 

 

 皆の叫び声が聞こえる。

 

 

 先生がやられた。

 

 プロヒーローの先生がである。

 

 頭の中が絶望に支配され、私はペタンと腰を抜かした。

 

 芦戸さんが全力で駆け出し、敵から先生を守るように身を置くのを私は震えながら見ることしかできない。

 

 あ、そうだ先生を助けないと……

 

 

「飯田ァ!!! 行けッ!!!!!」

 

 

 誰かがこの膠着を打ち破るように叫ぶ。

 

 その声に弾かれたように飯田君は走った。

 

「行かせるわけがありません」

 

 黒い霧は飯田君に向かってその霧を滑らせるが、黒い影がそれを遮る。

 

「行かせるんだよ!!」

 

 誰かが石畳の床を殴りつける。それだけで石畳は爆発したかのように弾け、すさまじい風圧と瓦礫を浴びせかけた。

 

「……危ないですねぇ」

 

 しかし霧はそれをするりと避けて飯田を追いかける。

 

 だがその一瞬の隙で障子君が追いついた。

 

「行け!!!」

 

 その上背と副腕によって霧を包み込むように押さえ込み、その動きを封じた。

 

「くそっ!! 邪魔だ」

 

 抜け出すのに手こずった霧だが、出た時にはもう遅い。飯田君はすでに敵を抜いている。

 

 それでもなお、追いすがる霧に麗日さんと瀬呂君は、とどめとばかりにとびかかった。

 

「理屈は知らんけど本体があるなら私の個性で浮かばせられる!!!」

 

「なるほど、な!!」

 

 麗日さんの個性で浮かび上がらせた敵を瀬呂君が捕まえ、引き寄せれば、相手は何の抵抗もできずに飯田君を見送った。

 

 

 彼らの足止めで飯田君は外に出ることに成功したのだ。

 

 

「応援を呼ばれる……、私たちの負けですね……」

 

 

 敵はそう一言悔し気に呻くと、空中に溶けて消えた。

 

 

 

『あれ、黒霧戦は飛ばされましたね。

 

 こういう時に限って珍しい方を引くとかどゆこと?

 

 トラウマルートでは戦闘の必要があるのに、二連続で戦闘スキップとか、そんな都合の悪い時に限って屑運を発揮させる走者の屑なんていませんよね(自己紹介)

 

 …………ないですよね』

 

 

 ひとまずの死地を逃れた彼らはお互いの安全を確認していく。

 

 先生を守った芦戸さん

 

 敵の足止めをした。障子君、麗日さん、瀬呂君

 

 それぞれの身の安全を確認され。

 

 最後に一番後ろにいた私に視線が集まる。

 

 皆、不思議そうな目をしていた。

 

 哀れみとか、蔑みとかじゃ決してない、ただ純粋な疑問

 

 麗日さんが無様に腰をついて座り込んでいる私に問いかけた。

 

 

 

「どうしたの本条さん?」

 

 

 唯一すべてを知っていた私ただ一人があの場で何もできなかった。

 

 

「えっ、うっ、うあ……」

 

「え?」

 

 

「うわぁぁぁぁああああ!!!!!!!」

 

 

「本条さん!?」

 

「本条!」

 

 

 気づけば私は這うようにみんなから逃げていた。

 

 驚くみんなを振り切ってただこの場から消えるために手足をバタバタと動かす。

 

 

 

 何も変わっていなかった!!!

 

 何も!!!

 

 ちょっと強い体を手に入れたからって、何一つ私の心は変わらない!!

 

 

 他人を犠牲に自分の小さな安全にしがみつく臆病者!!

 

 そしてそれすら直視できない卑怯者!!

 

 

 個性で心を強くする?

 

 

 何をそんな馬鹿なことを

 

 何年この個性と付き合っていると思っているんだ。自分を奮い立たせる虚言にしても、もっとまともな嘘があるだろう。

 

 

『いやいやいや、まさかありませんよね! そんな仮にもヒーローを目指すものが敵を目の前に闘わないとか!!

 

 そんなヒーローの屑いませんよねぇ!!!(走者の屑)』

 

 

 そうだ。私は怖いんだ!

 

 たまらなく怖い

 

 あんな悪意に染まった眼を見たら何もできない、あの暗い道で震えていた小さなころからずっとそうだ!!

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

 

 前後不覚のまま私は立ち止まる。

 

 まるで長時間全速力疾走の体であるというのに大した距離も走っていない、先ほどの場所からは目と鼻の先だった。

 

 

 

「あぁ なんだお前?」

 

「えっ……」

 

「本条……? ……こいつの指に気をつ、………………いや、逃げろ!!」

 

 

 そこには腕を折られた相澤先生とそれを折る化け物、そしてその横にはワープゲートで見た男がしゃがみこんでいた。

 

 

「ひゃ……、あっ……」

 

「あ? 何転んでんだ? 」

 

 男もみんなと同じように心底不思議そうな目で私を見た。

 

「え?…………いや、おまえ……」

 

「ぅ……」

 

 

「まさかヒーローがヴィランにビビってんのか!!」

 

 

「うぅぅ……、ぅぅ……」

 

 逃げようとして足がすくんでさらに地面に小さくうずくまる

 

「ひゃははははは!! いいねぇ!! いや思ってたんだよ!! どのガキも流石雄英!! 見事に全員抵抗してきてさぁ!!」

 

 こちらを指さしてそいつは破顔する。

 

「あいつのいない間どうやってガキを殺ったか言う時よぉ…… 、みんな立派にヒーローとして殉死しましたじゃつまらないだろ? 一人ぐらい泣きながら許しを請って死んだみたいなやつがいた方がバラエティに富んで、あいつの反応がよくなると思わないか?」

 

 

 狂人の瞳、こちらの道理が一切通じない、そんな確信を私は経験から理解した。

 

 

「おもしろいなぁ……、我ながら良いゲームだ」

 

 

 男がゆっくりと立ち上がる。

 

 その時手をついた地面がさらさらと崩れ去っていた。

 

 

「本条!!!! 逃げろ!!!!」

 

「脳無」

 

 

 一切のためらいなく、怪物に相澤先生のもう片方の腕がへし折られた。

 

 

「ひぁ……」

 

 

 私は間抜けな声を出しながら、腿のあたりに生温かい液体が伝うのを感じた。

 

 こわい、こわい、たまらなく恐ろしい、こんなひどいことを他人に対して平気で行える存在が理解できない。

 

 

「じゃ、ゲーム開始だ」

 その時、ゆっくりとこちらに近づこうとする男の横で空間が歪んだ。

 

 

「死柄木」

 

 

 その黒い霧が男の横ににじみだす。

 

 それは先ほど戦った……、戦っているのを見た敵だ。

 

「よぉ黒霧、13号はやったか!」

 

「行動不能にはできたものの、生徒の一名に逃げられました」

 

 

「…………、は? ……はーーーー、……はぁぁぁーーー」

 

 

 がりがりと自分の頸を掻き毟るその不気味さに私はさらに恐怖した。

 

 

「せっかくいい気分だったのにさぁ……お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ……、ゲームオーバー、今回はゲームオーバーだ! あーあ、帰るか」

 

 

 帰る。

 

 もしかして助かった……?

 

 

「けどもその前に平和の象徴としての矜持を少しでも……」

 

 

 あっ

 

 

 私は敵が迫る1秒後の死を予感した。

 

 

 

 

「へし折って帰ろう」

 

 

 

「ホモ子ォォォォォオオオオオ!!!!!!」

 

 

 突然、私と敵の間に破砕音を響かせながら大きな壁が現れた。

 

 背中越しに、敵の指が目の前の彼にゆっくりと近づいていく様子が見える。

 

 

 いや、手はもう彼に触れていた。

 

 

 コスチュームが分解されてすぐにお腹、敵の腕がずっぽりと突きささる。

 

「逃げろ」

 

 彼はそれでも既のところで身をひねって敵の手を払いのけると私を見てそう言った。

 

 

 ●●君のお腹が破れて、真っ赤な血が噴き出す。

 

 ゆっくりとうつ伏せに倒れた●●君のお腹から真っ赤な血がどんどん広がっていく。

 

 

「あーあー、まっ誰でもいいか、はいはい、ゲームオーバー、さっさと帰ろうぜ、たくとんだクソゲーだったぜ」

 

 

 

 

 

 

「なにがゲームだよ……」

 

 

 

 

 

 腹の中に熱湯をぶち込んだように臓腑が熱い、頭が強くしびれて目の奥が痛い、筋肉の震えが逃げ場を失い息をすることさえ満足にできない。

 

 

「あ?」

 

「人が精いっぱい生きてるのにそれをゲームとか面白いとおもってるの?」

 

「なんだコイツ、急に? ゲームのザコキャラのくせに」

 

「答えてよ……」

 

「あぁ、最高に面白いよ!! 高レベルで低レベルを蹂躙するって面白くないわけがないだろ!!」

 

「あのさぁ…………」

 

 

 

 私が敵意を相手に向ける。

 

 まるでそれがトリガーになったかのようにあの感覚が来る。

 

 以前よりはっきりと伝わる。手足が何者かに操られる感覚、その意図をより深く、頭の奥、脳の真ん中にある別の器官で理解した。

 

 

 

 

 

「私は!! 現実をまるでゲームみたいに扱う奴が大っ嫌いなんだよ!!!」

 

 

 

 

 いつもの自分と違う、一致しているんだ。

 

 

 目の前のこいつを最速で

 

 

 

 ……殺したい。

 

 

 かつてないほどに私の気持ちと声の意志が溶け合っている。

 

 脳の奥で何かが大きく成長していくのを感じる。とてつもない万能感だ。

 

 まるで未来なんて一つも恐れることがないと今の私は断言できる。

 

 

 沸き上がる喜色のままに出る言葉は自分のものとは思えない。

 

 

 

 

 

「ゲーム開始だよ……はいよーいスタート、なんてね……」

 

 

 

 

 

 




敵との戦闘中にセクシュアリティをカミングアウトするシュガーマンはホモの鏡

それに比べてホモ子ォ!!

はぁ~~~~~(クソデカため息)、自分の為に周りを犠牲にする覚悟もなければ、敵に立ち向かう度胸もないとか止めたら主人公?


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7話 後半

――――――――――Heroes' Side――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの本条さん?」

 

 

 麗日 お茶子のその言葉は周りの心の声を代表した疑問だった。

 

 黒い霧のヴィランを撃退した後に彼らは周りの安全を確認していると座り込んでいる少女に視線が集まった。

 

 

 うつむき、よく見れば肩を震わせている。

 

 

 普通に考えれば単純だ。この窮地に彼女が怯えている。ただそれだけだろう。

 

 だが目の前の人物に限って言えば、それはないと皆が断じる。

 

 これはクラスメイトの共通認識だった。

 

 常にクラスの成績はトップ、他の追随を許さない実力と、孤高を貫く氷のような態度。

 

 強靭な力と精神を兼ね備えた傑物。

 

 それが彼らの知る本条桃子だ。

 

 ひとたび戦闘に入れば一切の容赦がない、底抜けた冷徹さを発揮する彼女が何故か地面に座り込んでいる。

 

 実に不可解だ。

 

 彼女の身に何が起きているのか確認するため、麗日は純粋な疑問を問いかけた。

 

 ヴィランの攻撃を受けている? 彼女の知らない個性の活用か? 彼女のことだ何か意味があることに違いない。

 

 

「うわぁぁぁぁああああ!!!!!!!」

 

 

 そうして帰ってきたのはただの悲鳴、直視できない現実に壊れそうなただの少女の悲鳴にしか聞こえなかった。

 

 

「本条さん!?」

 

「本条!」

 

 まるで何かに追い立てられるように彼女はがむしゃらに背を向けて走りだす。

 

 皆あまりのことに呆ける。

 

 

 彼女が見えなくなっても、彼らは目の前で起きたことが理解できなかった。

 

 

 ただ一人、砂藤だけがすぐさま少女を追いかけようとする。

 

 

「あっちは敵がいて危ない、俺はあいつを追う! 先生を頼んだ!」

 

「危険だ、本条の個性なら問題はないはず……」

 

「……あんなに怖がって平気なわけがねぇだろ!!」

 

 

 そのまま砂藤が駆け出しながらこぼしたその一言に皆がはっとした。

 

 

 残された者たちはすぐさま行動を始める。

 

 

「私たちも後を追おう!」

 

「先生は私に任せて!」

 

「ではこの場は芦戸に任せて他で向かうことになるな」

 

「おぅッ! 行こうぜ!」

 

 

 本条と砂藤を追いかける一行は広場まで降り、そこで凄惨な現場を目撃する。

 

 

「あーあー、まっ誰でもいいか、はいはい、ゲームオーバー、さっさと帰ろうぜ、たくとんだクソゲーだったぜ」

 

 

 心底つまらなそうに首を掻く醜悪な男、座り込んだ本条の前には血だまりの中、彼らのクラスメイトが沈んでいた。

 

 男がその場から背を向けて歩き出そうとしたとき、その背後でゆらりと本条は立ち上がる。

 

 

「なにがゲームだよ……」

 

 

 押し殺した声は、どろどろとした怒りを隠しきれていない。

 

 

「あ?」

 

「人が精いっぱい生きてるのにそれをゲームとか面白いとおもってるの?」

 

「なんだコイツ、急に? ゲームのザコキャラのくせに」

 

「あのさぁ…………」

 

 

 死柄木の妄執じみた狂眼を、本条は真正面に睨み返した。

 

 

「私は!! 現実をまるでゲームみたいに扱う奴が大っ嫌いなんだよ!!!」

 

 

 怒りが爆発する。

 

 普段感情を見せない彼女がここまで激するのは、あの放課後以来だ。

 

 だがこの怒りはそんなものがかわいく見えるほどの物であった。

 

 髪は逆立ち、目は血走り、歯は絶えず軋んではじけ、体の筋肉は隆起し、肩をいからせる。

 

 人が鬼に転ずる話とは、つまりこういうことであったのだろうと見た者が思うほどの変化。

 

 ただ弱弱しく震えていた少女が鬼に変わる姿は周りの者にある種の凄みを与えた。

 

 

 だがその後にもっと恐ろしく、グロテスクな変化が彼女に訪れる。

 

 

 彼女の表情から徐々に感情の色が失われていく。

 

 体はだらんと力なくたらし、頭は明後日の角度を向いた後、ゆっくりと目の前の男に体を向ける。

 

 

 その目玉はいつの間にかすべての感情が消え去って……いかなかった。

 

 いつか見た屋内訓練の彼女ではない、もっと悍ましい何か。

 

 

 目の奥にはもっとグチャグチャした混沌が浮かんでいる。

 

 

 これは違うと彼らは直感した。

 

 これは決して感情が高ぶった結果その緊張が切れたとか、彼女が怒りのあまり冷静になるといったことでは決してない。

 

 もっと異質な、まるで一人の美しい人間を裏返して、その内臓を外側にさらけ出したくらいに醜悪で激的な変化だ。 

 

 

「ゲーム開始だよ……はいよーいスタート、なんてね……」

 

 

 その声は、彼女の持つヘルメットを通した機械音よりも硬質で、一切生命としての温もりを感じさせない暗い声。

 

 

 怪物の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――Villain's Side――――――――――

 

 

 

 

 

 

「ゲーム開始だよ……はいよーいスタート、なんてね……」

 

 

 死柄木は困惑していた。

 

 ザコと侮った目の前の女の異質さを徐々に理解していたからだ。

 

 

「はぁ……? 意味わかんねぇ奴だな」

 

 

 先ほどの宣言とは全く正反対の言葉を言い放つ女に、死柄木はえもいわれぬ不快感を感じる。

 

 

「死柄木、何やら雰囲気がおかしい、先ほどまでとはあまりに目つきが違う、慎重に行くべきです」

 

「……チッ、ゲートをだせ」

 

 死柄木も目の前の女が何か別のものになったことは理解していた。

 

 よって繰り出すのは必殺必中、必ず相手を葬る方法をとる。

 

 黒霧のゲートと死柄木の崩壊、二つの個性を合わせた攻撃は、タイムラグなく、目の前の女の死角からその頭をつかまんと迫った。

 

 だが女はそれをよけた。

 

 なんの予備動作なく、電源が切れたように崩れ落ちた女はこちらから一切目をそらさず。手を掲げた。

 

 死柄木の中指にそっと細い指が絡まる。その温かで柔らかな感触に怖気を感じた。

 

 引き抜かねば

 

 そう思いたった時には中指が圧搾される。

 

 捻るでも折るでもない圧搾、ばかげた力が均等に中指に加わる。

 

 よって骨は折れない、ちょうど彼の個性のように粉々に潰れるのだ。

 

 

「があぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 経験のない痛みに死柄木は絶叫する。

 

 それと同時に、ふつふつと憎悪が沸いてくるがそれを全く気にせず目の前の女は別の指を握りつぶしてくる。

 

 このままではゲートを閉じても死柄木の腕は残ったまま、動けない彼にできることは少ない。

 

「くそ、手を抜いてください死柄木、このまま閉じたらあなたの腕ごと空間に引きちぎられる!」

 

「ぐわぁぁぁあ!!!! ちくしょう!! 指を潰しやがった!!! 脳無! そいつを殺れ!! 黒霧はゲートを広げろ!!」

 

 死柄木は脳無を動かし、広げたゲートへ残る腕を突き出して目の前の目障りな女を殺そうと心に決める。

 

 黒霧によりワープゲートは広がった。

 

 死柄木は怒りに我を忘れて腕を振りかぶる。

 

 が、その自分の顔面に拳が叩き込まれるとなればその動きは止まった。

 

「だめですこの威力、まともに当たったら頭が吹き飛びます!!」

 

 拳圧で髪が後ろにまくり上げられる。まともに当たれば確実な死を予感させた。

 

 ワープゲートは双方向に通じる、なら死柄木の拳の届く距離は相手の拳の届く距離なのは当たり前である。

 

 死柄木がそれを避けられたのは黒霧が瞬間的にワープゲートを盾に女の拳をその後頭部にワープさせたからである。

 

 そしてふざけたことに、自分の拳が後頭部に移ったはずだというのに、目の前の女は首を傾げてそれをよけた。

 

 こちらにあの目を向けたまま。

 

「黒霧ぃ!! 脳無に協力して早くソイツを殺せ!!」

 

 女は止まらない、死柄木の腕を執拗に殴り続ける。

 

 いくつかの拳は黒霧のワープゲートに吸い込まれ、女自身に返っていくというのにそのすべてを避けきる。

 

 そしてそれを避けるために不自然な体勢になりながらも、その目を死柄木から決して離そうとしない。

 

 その常軌を逸した光景に、死柄木は痛みに対する脂汗以外の汗もかいていく。

 

 だがそれでも、彼には最強の手札があった。

 

 脳無だ。

 

 いくら目の前の女が強かろうが、対オールマイトの為に調整した改造人間を倒せるわけがない。

 

 

 その巨体が女に迫る。

 

 

 だがひらりと、まるで落ちる木の葉をつかみ損ねたように彼女は避けた。

 

 1度も、2度目も、3度目も。

 

 まるで追い詰めていない、むしろ避ければ避けるほどその動きは洗練されていくその姿は死柄木にとって悪夢以外の何物でもなかった。

 

 4度目の突撃をする脳無を見て、死柄木にありもしない悪寒を想像させる。それは直感とも言い換えていい何かだった。

 

 

「ウォォォォォオオオオオ!!!!!!」

 

 

 その獣のごとき叫びに思考を打ち切られる。

 

 

 先ほど倒したはずの男が、その巨体を起こして脳無にしがみついていたのだ。

 

 死にぞこないではあるが見事に脳無の足を止めている。すぐには動けない状態だ。

 

 

 時間もない、手下はほぼ倒された。自分自身も追い込まれている。

 

 

 死柄木は苦虫を噛み潰した顔で決意する。

 

 

「……撤退だ」

 

 

 

 目の前の女の顔を焼き付けながら、死柄木はワープゲートに消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――HOMO's Side――――――――――

 

 

 

 

 

『おっぶぇ!!!!!

 

 よしよし、無事にゲームスタート!!

 

 普通に考えたら二連続で戦闘回避とかありえねぇからな、はー、心配して損しましたね

 

 この怒りを竹下通りに居そうな奇抜な格好の男にぶつけましょう』

 

 

 

 

「ゲーム開始だよ……はいよーいスタート、なんてね……」

 

 

 

 この男は絶対に許さない、許してはいけない。

 

 

 

「はぁ……? 意味わかんねぇ奴だな」

 

 

『はい、始まりました死柄木戦、これはオールマイトが来るまでの持久戦です。

 

 時間経過でクリアですがRTAなので撃破を狙います。当り前だよなぁ!

 

 撃破の場合、敵三体の内いずれかの体力を半分に削る必要があります。

 

 そしてこの勝負、死柄木戦と銘打ちながらその実態は、クソ強脳無+物理ほぼ無敵どこでもドア君+おまけのマドハンドしゅきしゅきマン

 

 当然くそザコナメクジの死柄木を狙いましょう』

 

 

「死柄木、何やら雰囲気がおかしい、先ほどまでとはあまりに目つきが違う、慎重に行くべきです」

 

「……チッ、ゲートをだせ」

 

 

『はい、では死柄木戦の攻略をお伝えします。

 

 警戒すべき脳無はまだ動きません、敵に一撃与え、脅威認定されると動き出します。

 

 なので初めは脳無を気にせず、遠目の距離でウロウロしましょう

 

 そうすることで手を入れる専門家(意味深)の攻撃を誘発できます』

 

 

 私の背後でゲートが開く音がする。

 

 それで奇襲のつもりだろうか、遅すぎて遅すぎてあくびが出る。

 

 ほぼゼロ距離で私の後頭部に掴みかかったが、私に恐怖はない。

 

 

『ここの死柄木と黒霧による、ゴ○ゴムのピストルなんですけど、食らうと先生が個性で助けてくれる時もありますが基本即死です。

 

 予備動作も大きいので大きく避けがちですがこの攻撃、あたり判定と同時に敵の判定も残っていますし、どちらもロックオンをかけることができます。

 

 なのでうまいこと迎撃するとわずかにダメージを与えられるんですが、そうするとこの遠距離攻撃をしてくる頻度がすごく少なくなりますし、敵が脳無をガンガンに使ってきます。

 

 ではどうするか』

 

 

 私の膝が折れ曲がり、敵の腕が私の頭の上を間抜けに通りすぎる。

 

 それと同時にその指先の一つをつかむと、そのまま握りつぶした。

 

 

「があぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

『掴み攻撃が通じます。

 

 ここで重要なのは死柄木の本体側にロックオンをかけながら、分離された手につかみ攻撃を行うことです。

 

 これにより、判定バグなのか、掴んでいる最中の死柄木は何故か棒立ちです。振りほどいてこないので延々とマドハンドのマドハンドに攻撃を加え続けましょう。

 

 ただし攻撃を受けると中断するので、脳無が来る前に狂ったようにボタンを連打しましょう。

 

 これを行えば体感9割の確率で脳無が来る前に倒せます

 

 

 どうでもいいことを今思ったんですが崩壊の個性って、ケツふくときとかすっごい大変そう(小並)

 

 この子ウンコ拭いている時に紙が崩壊したとき絶対ありますよ、ばっちぃ! エンガチョ!』

 

 

 ひたすらに突き出した腕を、苦しむよう、苦しむよう、長く痛めつけられるように指先から潰していく。

 

「くそ、手を抜いてください死柄木、このまま閉じたらあなたの腕ごと空間に引きちぎられる!」

 

「ぐわぁぁぁあ!!!! ちくしょう!! 指を潰しやがった!!! 脳無! そいつを殺れ!! 黒霧はゲートを広げろ!!」

 

 男は広げたゲートに体を滑り込ませて私の拘束を解くつもりのようだが、馬鹿なのだろうか? そちらがこちら側に来れるということはもちろん、私の拳も向こうに届くことになる。

 

 そう思い腕を突き出すが、男の顔面を破砕するはずの拳はワープに呑み込まれる。

 

 どうやら黒い靄が防いで私の後頭部に出口を開こうとしているようだ。

 

 まるで馬鹿の一つ覚えだ。

 

 私は首をひねって避けると、引きちぎられる前に腕を素早く抜き、再度男の腕を殴りつける。

 

 

『よくわかりませんが連打してると時々相手に大ダメージが序盤で出る時があります。

 

 出る時は連続でダメージの判定が出て一瞬で終わるんですが、今回はしぶといですね』

 

 

「だめですこの威力、まともに当たったら頭が吹き飛びます!!」

 

「黒霧ぃ!! 脳無に協力して早くソイツを殺せ!!」

 

 

 黒い霧は男を守るが手数が足りない、時間をかけてこの男の腕を破壊していく。

 

 だが視界の片隅で相澤先生を押さえつけていた怪物がこちらに駆け寄ろうとするのが見えた。

 

 これは少しまずい、だが私には心のどこかでこの攻撃をよけられる確信があった。

 

 

『脳無が来ますがこのバトル、時間経過で仲間達も参戦します。

 

 大抵は緑谷、爆豪、轟の3人のそれぞれが9割の確率で来てくれます、他おまけ1、2名が来てくれます。

 

 こいつら肉壁が脳無を相手にしてくれることでしょう。

 

 さーて今回の仲間は…………

 

 ん? これ仲間まだ来てなくない?

 

 

 …………え?』

 

 

 すでに怪物はスタートを切ろうと体を傾けている。

 

 こい、返り討ちにしてやる。

 

 

 

『ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛↑ア゛↑

 

 おかしいだろ!! なんでいないんだよ!! 最低1人はいただろうが!!

 

 9割の9割の9割だぞ!! いい加減にしろ!!! やっぱりバグってんだろお前んち!!』

 

 

 体を引き絞り、こちらに突進するつもりのようだ。

 

 おそらく弾丸のようにこちらを食い破るつもりだろう。

 

 速いだけだ。なにも恐れる必要はない。

 

 

『協力者は誰一人来ませんでした。誰一人来ることなかったですぅ。残念ながら。はい。

 

 一人くらい来るやろうなーと思ってたんですけども、スゥー、結局待っても誰一人来ませんでしたね、えぇ。

 

 えー今回のRTAは残念ながら、こういう悲しい結果で終わりですね(諦観)

 

 というわけで次の動画でお会いしましょう。またのぉーい、やっ!(ヤケクソ)』

 

 

 ゆっくりと余裕をもって避ける。

 

 力任せの動きは単調で、飛び上がってそれを避けた。

 

 次はもっとひきつけて、次の次はもっと、もっと

 

 

『生きてるゥー!』

 

 

 3度目の突進で敵の底は知れた。

 

 4度目で確実にやれる。

 

 

『もう無理っす……

 

 仏の顔も三度まで、三回耐えた私は仏を超えてどこに行くのですか!? おぉ!! ブッダよ!!(錯乱)』

 

 

 だが怪物の動きは、横合いから飛び出した影に防がれた。

 

 あーあ、そんなことしなくてもいいのに、じゃまだなぁ……、あんなにお腹から血をだして……、血を……。

 

 

「ウォォォォォオオオオオ!!!!!!」

 

「なにをしている脳無!! そんな奴早く振り切れ!!」

 

 

 あっ

 

 その姿を見た時、声と重なる自分の体が急激に冷めていくのを感じる。

 

 

『良質タックル! すっごい高品質かつ良質なタックルですねぇ!!(称賛)

 

 よーしよしよしよしよし大したやつだよ砂藤お前は、ご褒美をやるぞ、角砂糖をやろう、3個か? 甘いの3個ほしいのか? 3個……、イヤしんぼめ!!(狂喜)』

 

 

 今私は何をしようとしていた……?

 

 今までの自分が酷く恐ろしい。

 

 殺そうとしてた……、人を?

 

 

 いつも通りの声の操作で動く体は先ほどの動きよりも精彩を欠く。

 

 だがその拳は、男の腕の一番太い骨をたたき折るには十分だった。

 

 

「……撤退だ」

 

 男がこちらをにらみつけながらそうつぶやく。

 

 

『死柄木……、お前は強かったよ。

 

 でも、間違った強さだった……。

 

 まあ、こっちもダメダメだったし!

 

 全員間違ってるってことで、はいヨロシクゥ!!』

 

 

 私の体が声の支配から完全に外れる。

 

 その脱力から思わず私は手を放してしまう。

 

「黒霧、ゲートを閉じろ」

 

「それは……」

 

「早くしろ……、あ? なんで放しやがった……くそ、帰るぞ黒霧」

 

 

『はーいここからはイベント垂れ流し、オールマイトが来て、委員長と愉快な先生到着!!

 

 ヒーローは遅れてくるものとはいえ、なんだこの体たらく(嘲弄)

 

 ハァーーー(クソデカ溜め息)辞めたらこの仕事?

 

 お前らも学生を見習わないかんのとちゃうんか (イニ義)』

 

 

「覚えていろよ、雄英……、次は必ず殺すぞオールマイト……」

 

 

『オールマイトと会う前に撤退させるとこのセリフめちゃ滑稽ですね……』

 

 

 

 

 全てが終わった後、私は広場の真ん中に立っていた。

 

 

 

 

 誰も私に話しかけてこない。

 

 少し振り返ればわかる。みんな私を気持ち悪いものを見る様な目をしている。ようやく皆も私を嫌ってくれたんだ。

 

 はははははは、ようやくスッキリした。

 

 吹っ切れた。

 

 私が人を人とも思わなければ、人も私を人と思わない。

 

 

 

「ひさしぶりだな」

 

 

 

 だというのにたった一人だけ、私に近づく人がいた。

 

 こんなことをしている場合ではない、すぐに治療を受けなきゃいけないのに、彼は息も絶え絶えで、私に追いすがる。

 

 

「なぁ……」

「ねぇ……」

 

 本当に、なんで君がここにいるのかなぁ……

 

「ねぇ聞いていい?」

 

 私は無理やり言葉を遮って逆に聞き返す。

 

「なんだ」

 

 だというのに、この人は律儀にまずはこちらの話を聞こうとしているのが何だがおかしかった。

 

「私にあえてうれしい?」

 

「うれしい。俺はあの時からお前をずっと……」

 

 彼の顔を見て、あの時から何一つ変わっていないことを私は感じ取った。

 

 

 

「私の気分は最悪。ここであなたにだけには会いたくなかったよ」

 

 

 

 精一杯の嫌悪感を込めた表情でそう伝えた。

 

 

 私は黙り込んだ彼を一切無視して、その場を離れた。

 

 

 

 

 




HOMO's Side(迫真)

すまない、ホモ以外は帰ってくれないか!


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8話 前編

 雄英襲撃の事件の後、私達1-Aは遭遇したヴィラン達とその出来事についての事情聴取を全員が受けた。

 

 私は記憶された映像と音声から、正面から見た顔を絵として正確に出力したり、ヴィランそれぞれの会話内容を時系列で全て書き出すなどしながら全面的に協力した。

 

 普通に考えるなら襲われた学生に対してすぐそのようなことをさせるのは世間の批判を受けそうなものであるが、ここは雄英、生徒であったとしてもヒーローとしての振る舞いを求められるのだろう。

 

 当然、最前線で敵の頭目とされる人物と戦った私は特に念入りに話を聞かれた。

 

 敵の顔、名前、個性、会話の内容からの襲撃の目的……。

 

 そして……私の行動。

 

 あの時、命の危機を感じた私は何もできなくなった。

 

 まさか怖いから動けないなんて自分のことながら笑いたくなる。

 

 

 でももう間違えない。

 

 

 ご丁寧に声はすべてを準備してくれている。

 

 走りやすく作られた道、行く場所を示された分岐、初めから決められた終着点

 

 ここまで揃えてあるというのに私という人間が何かを考える必要なんてない。

 

 

『友情は見返りを求めない♥ 恋愛シミュレーションと化したヒロアカRTA Part8 はぁじまぁるよー!』

 

 私はただ声の指示をなぞるだけの存在になればいい。

 

 

 

 

 

「雄英体育祭が迫っている」

 

 

 事件から2日しか経っていないというのに、教壇に上がった相澤先生は生徒たちに言い放った。

 

 

『はい来ました雄英体育祭。学校行事は生死のフラグ関係なしに純粋な経験値稼ぎが行えるので積極的に上位を狙っていくとは以前お伝えしたと思います』

 

 

 雄英体育祭は日本において形骸化したオリンピックに代わるビッグイベント、当然多くの注目が集まることとなる。

 

 

『この雄英体育祭は3種目で成り立っており、その3種目それぞれで経験値の配当があり、最終的な総合順位でさらに取得経験値は増えます。

 

 経験値的には、各種目1位かつ優勝を狙っていきたい所ですがこれはかなり安定しません。詳しい理由は後で話しますが、無理に狙えばタイムが犠牲になるのでRTA走者達は様々な方法で対策をとっていきます。

 

 現状で最も早い選択は途中の順位が多少ぶれても総合優勝を狙っていく方法です』

 

 

 つまり、ここで活躍することはヒーローを目指す上で非常に重要だ。

 

 自然にペンを持つ私の手の握りも強くなる。

 

 

『ですが全部1番の方が気持ちがいい上経験値が太いので、王道を征く、各種目1位、総合優勝を目指します(安定志向)

 

 えっ? こんなだらしねぇ♂低速ボディでRTAを名乗るなんて各方面に失礼?

 

 うるせぇっ!! 今更止められねぇよ!オリチャースイッチONだ! (TNTN亭)

 

 オレはRTAが好きなんじゃねえ…… チャート作成と安全完走が好きなんだよオォッ!!!』

 

 

 将来のプロを思い、興奮に包まれるクラスの皆はお互いに頑張ろうと仲良く語り合っている。

 

 

 私は醜いことを自覚しつつも、冷ややかにその様子を眺めるのを止められない。

 

 

 雄英体育祭で1位を取るということは自分以外のすべてが敵になるということ。ましてここはヒーロー科、本番で最も厄介な敵になるのは今すぐそこで座っている彼らだ。

 

 そう思えば、敵の前で友達ごっこをする彼らのような豪胆な真似は凡人の私には到底できない。

 

 声は勝利を望んだ。

 

 ならば自分にとって勝利こそがすべてだ。

 

 友達を踏みつけてでも……いや、そもそも彼らは友ではない。私は誰に憎まれようと、この雄英体育祭で勝たなければいけないのだ。

 

 

『はい、では学校行事である雄英体育祭までにすべきことをお伝えします』

 

 

 声の指令が下る。

 

 どんな命令だろうと私は完璧に遂行してみせる。

 

 

 

 

 

 

『友達を作りましょう』

 

 

 

 

 私は握ったペンを取り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は今、何時ものベンチで座りながらモソモソと購買で買った弁当を割りばしで食べていた。

 

 

『いやー、ようやくこのゲームの楽しい部分を紹介できますね。

 

 このゲームは本来ならキャラたちの交流とそれに合わせて変化する複雑なストーリー、様々な仲間との組み合わせが生み出す人間模様が名作といわれる所以の一つとなっています。

 

 幸先のいいことにホモ子もこちらの狙い通り、一般科近くの休憩所にいますね』

 

 

 

 突然友達を作れ、そう話す声は続けて私が以前からよく来ていた場所に行けと命令した。

 

 今まで人と関わるなと言われていた中、今になって人と仲良くしろなんて悪い冗談にしか聞こえないが、声の指示なら従うしかない

 

 

『今までのプレイでわかる通り、RTAではその面白さを殺しきっていました……

 

 まるで、ぼくのなつやすみRTAみたいな虚無だぁ……(直喩)

 

 ようやくこのゲームの面白さを伝えられます

 

 それを初めて教えてくれる記念すべきキャラはちょうど画面の端、木の生えたベンチの前でボーっとしてますね

 

 今回は彼との友好度を雄英体育祭までに5に上げるのが目標です』

 

 

 声の言葉に私は思わず顔をあげる。

 

 この場所で木の前に置かれたベンチは一つだけだ。

 

 そこには一人の男の子が気だるげに、ベンチに座っていた。

 

 見たことがある、彼は以前悩んでいた私に心配して声をかけてくれた親切な人だった。

 

 

『心操人使、彼と友達になりましょう』

 

 

 私は決意を込めて拳を握りしめると声の命令に従おうとする………。

 

 命令に従って友達になろうと……

 

 

 

 あれ、

 

 友達ってどうやってなるんだっけ?

 

 

 

 友達になる……? どうやって……?

 

 今になって気づく、

 

 とうの昔に友達の作り方など 忘れていた。

 

 

 いや、そもそも彼と私に接点などない。そんな私が、急に友達になろうと話しかける?

 

 

 私は必死になって考えるが何もいい答えは浮かばない。

 

 一瞬で見た映像を保管して瞬時に取り出す記憶力、物質の動きのシミュレーションまで可能にする処理能力。

 

 これらの力を兼ね備えた脳は私に友達の作り方一つ教えてくれない。

 

 

 どうやって友達になる? そうだ話しかけなければ

 

 どうやって話しかける? そうだ友達なら話しかけられる

 

 どうやって友達になる? そうだ話しかけなければ………………

 

 

 あれから10分間、私はひたすら考え続ける。初めの1秒で既に脳はオーバーヒートし、残り9分と59秒間は、同じ考えがグルグルと脳内を回っているだけだ。

 

『はい、ヒーロー科への入試に不合格となり鬱屈捻くれボーイと化した心操人使です。心操とのイベントを安定して発生させるには幼馴染かヒーロー科に編入後に起こすかになるのですが、一応その前でも、イベントを起こすことは可能です』

 

 

 私は藁にもすがる思いで声に耳を傾ける。

 

 彼はどうやらヒーロー科を目指して落ちて一般科に来た生徒。しかも声によれば、彼は将来的にはヒーロー科に編入する予定らしい。

 

 ヒーロー科で落ちて一般科に入った生徒は多いと噂話の盗み聞きでよく聞いたが、そこからヒーロー科に編入する生徒がいたとは聞いたことがない。だとしたら彼は相当に優秀な生徒なのかもしれない。

 

 だがそれを知っていたところで「あなたはヒーロー科を目指して落ちて一般科に来た生徒なんだね、でも大丈夫、君は優秀だからヒーロー科に入れるよ」、と訳知り顔で話しかけてくる奴と友達になろうとは思うまい。

 

 

『編入前のイベント発生条件は、一般科近くの場所で他のキャラとのイベントを起こさずに一人でいる。この行動を最低でも5回目以上行うことで、その後、たまに発生します。

 

 なので面白いことに教室外の場所に飛ばされることの多いトラウマルートの方が彼とのフラグは立てやすいんですよね

 

 つまり今回はトラウマルート特有のボッチ飯ですでに仕込みは終わっていたわけですね』

 

 

 だめだこっちの情報はあまり役に立たない

 

 

 焦った私はちらりと彼の方を見る。

 

 

 ちょうど彼もこちらを見ていた。

 

 

 なぜこっちを見ているのだろうか

 

 固まる私と、胡乱げにこちらを見る彼

 

 しばらく見つめ合った私たちの沈黙を破ったのは彼の方からだった。

 

 

「……おい、割りばしいるか」

 

「はい?」

 

 彼は自分が持っている割りばしで私の利き手を指していた。

 

 私はそこで自分の握りしめたこぶしを開くと、そこには無残にも細やかな木片になった割りばしがあった。

 

 

「……」

 

「はぁ、あんた本当に大丈夫か? 前もひでぇ顔してただろ?」

 

「あ、あの時はありがとう……」 

 

 やっと会話ができた。私はホッとして一息つこうとする。

 

「まぁ、それならいいよじゃあな」

 

 

 彼は割りばしをこちらに放ってそのまま自分のベンチに戻ろうとする。

 

 ……私は何を落ち着いているんだ。

 

 このチャンスを逃してはいけない

 

 

「あのっ!!」 

 

 

 声は緊張でどう見ても声量はトンチンカンで裏返っていた。

 

「はい?」

 

 まずい、私は馬鹿か、何を話すか考えていない

 

「お礼をさせて欲しいの、以前も心配してもらったし、今回も助けてもらったから……」

 

 口から出た言葉の意味を自分でもよくわからないまま捲し立てる。

 

「……いや、いいよ別に、たかが割りばしで」

 

 私の勢いに困惑した心操君の反応、当然私だって同じ反応を返すだろう、だがそれでも止まるわけにはいかない。

 

 

「お願い、心操君、それじゃあ私の気が済まないの」

 

「……なぜ俺の名前を?」

 

「あっ……」

 

 

 しまった!

 

 私と彼はこの場所以外で面識はない、そんな状況で私が彼の名前を知っているのはどう考えても不自然だ。

 

 彼の目が私を警戒したような視線になる。

 

 自分の失言に気付いた私は必死に言い訳を考えていると、心操君はポツリと呟いた。

 

 

「……俺の噂でもきいたのか」

 

 噂……? いやなんでもいいから不審に思われないようにふるまわなければいけない。

 

「……そう噂、私、個性で耳がよくてね、それで心操君のこと知ってたの!」

 

 

 間髪入れず言い訳に飛びついた私に、心操君は面食らった顔をしている。

 

 今思えば、彼の言い方だと噂とやらは良い内容ではないのかもしれない。

 

 ならば、今の選択は間違いだったのだろうか

 

 

「ごめんなさい、話し続けて」

 

「いや……、なんでもねぇけど」

 

 

 会話が途切れて私達の間に沈黙が流れる。

 

 その間を恐れた私は口を開いた。

 

 

「お、お礼なんだけど今度お弁当奢らせてもらってもいいかな」

 

「いや、だから別にそこまでしなくていいって」

 

 あまりに脈絡のない私の提案に心操君は明らかに不信そうな顔をしている。

 

 その気持ちは痛いほどわかるが、私にはこれ以上の策を練る余裕はない

 

 

「じゃあ、あの、ま、また明日、ここで待って……ます!」

 

 

 なにか彼が口を開いて断られる前に、強引に押し切ると私はその場から逃げ出した。

 

 

『まずは一回目のイベントが終了しました。

 

 本作はマップ上のキャラと一緒の場所に留まると好感度が無条件で上がり、一定数貯めればイベントが起きて友好度が上がるといった古き良きエンカウントスタイルです。

 

 なので今後も執拗に心操の尻を追いかけましょう』

 

 

 

 

 

 

 とにかく学校から遠い場所に逃げ込んだあと私は頭を抱えた。

 

 ボロボロだ。

 

 私はこんなに人と話すのが下手だったのだろうか?

 

 出会えば好感度が上がる? 声を疑わないと決めていたが、それがこんなにも簡単に揺らぐ。

 

 先ほどまでの会話を客観的に見て反省して悶絶することでその日の午後は占められた。

 

 せめてもし次に会うことがあればと、私は図書館と書店から他者との会話に関する書物を手当たり次第に暗記し、家で作戦を練って次の日に臨んだ。

 

 

 

『んほぉ~この幸運たまんねえ~、また心操とエンカウントです』

 

 

 次の日、一応は約束通りにベンチの場所で彼を待っている。

 

 既に匂いと足音と歩幅は覚えたので位置は把握しているが、まだ彼はクラスの教室内にとどまっていた。

 

 来ない公算の方が明らかに大きい。私だって、あんな不審な誘いに乗らないだろう。

 

 だが彼は声の言う通り、しばらくすると教室を出て私の方に歩いてきた。

 

「……まさか本当に来るなんて」

 

「誘っておいて、なんてセリフだよ」

 

「あっ、……ご、ごめん、来てくれてありがとう心操君」

 

 

 驚くべきことに彼は来てくれた。

 

 昨日よりは心の準備ができていたので、取り乱すようなことは表面上はなかったと思うが、来るとは思わなかった私はかなり動揺してしまう。

 

 

「まぁ別にくれるっていうんなら、もらって損はねぇし」

 

 そう言いながら、突然こちらの横に腰掛ける彼に私は事前に考えておいたいくつものシミュレーションの3割が吹き飛ぶが、残りの計算通りに受け答えを行う。

 

「なにか食べたい物とかあった?」

 

 彼はしばらく考え、ポツリと言葉をこぼす。

 

「ビッグステーキ弁当」

 

「わかったよ、すぐ買ってくるね」

 

 私はすぐに立ち上がって、彼が見えるところでは普通に、見えなくなった瞬間全力で購買に向かって買いに行くと、すぐさま出来立てを心操君のもとに届けた。

 

「……じゃあもらっとく」

 

 こうしてお互い横に座ってご飯を食べ進めていく。

 

 ご飯の途中は無言でも許される。

 

 しばらく食べ進めながら気持ちを落ち着け、一息ついた時に私は、練りに練った話題の一つを慎重に投下した。

 

 

 

「今日はいい天気ですね」

 

 

 

 日常会話の王道である天気の話題、老若男女に通じる無難な会話だ。

 

 将棋における角道を開ける7六歩しかり、オセロのウサギ定石、チェスのオープニング、盤石に進める一手、可能性を残し、自分の不利にさせない、まさに王道の選択だ。

 

 

「いや、曇ってるだろ」

 

 

 えっ、あれ……本当だ。曇ってる。

 

 

 今日の天気予報は晴れだったはずだというのに

 

 だっ、だめだ。これでは私の戦略が崩壊してしまう、何とかして元の流れに戻さないと

 

 

「晴れとは空の雲量が8割以下で、かつ降水現象がない状態だよ、だから今日は晴れだよ」

 

「つっても8割がた雲に覆われてんじゃねーか」

 

「でも定義上は晴れであることは間違いないよね?」

 

「定義とかはよくしらねーけど……、まぁそうなのかもな」

 

「今日はいい天気ですね」

 

「あっ? ……あ、あぁ、いい天気だな」

 

 

 よし定石は守られた。

 

 

「ここ数日は良い陽気で過ごしやすいよ」

 

「まぁそうだな」

 

「私は色々な命が芽吹く春が好きだけど、心操君は好きな季節はある?」

 

 

 私は会話を広げにかかる。好きな季節からその季節特有の話題を広げる。

 

 一分の隙も無い作戦である。

 

 

「……いや、特にどれがいいってのはないな、どれも同じくらいだ」

 

 

 一つや二つではなく全部だと……?

 

 

 そんな回答予想できるわけが……

 

 

 と言うとでも思ったかな

 

 

 もちろん春夏秋冬どれを何個選んでも隙は無い、16通り全て想定ずみだ。

 

 

「ふふ、心操君は四季が全部が好きなんだね……」

 

「まぁそうなるか」

 

「よく四季が有るのは日本だけではないと言われているけど、ケッペンの気候区分におけるcfa(温暖湿潤気候)で山と海の距離が近いのは特筆されるべき点だよね、日本はより気候の差が出やすく、自然と共に醸成された季節ごとの独自の文化があるの面白いのはたしかだし」

 

「うん?」

 

「特に日本の四季における特徴でおもしろいのは……」

 

「ちょっと待ってくれ」

 

「なに?」

 

「……四季の話題はいったん止めないか?」

 

 

 なんだって、昼休みいっぱいはこの話題で粘れるのに

 

 しかしそう言われたら仕方ない、自分の好きな春の話題でもして時間を稼ぐしかない

 

 

「私の好きな春は、低気圧と高気圧が交互に日本付近を通過するから、低気圧に伴って気温は大きく変動するの、だから天気は数日の周期で変わって……」

 

「おい、いったん止めろ……」

 

「なに?」

 

「なにじゃない。ここまで季節と天気の話題を引っ張るヤツははじめてだ。その話題以外にしてくれ」

 

 

 難しい注文をする。

 

 

「……実は春キャベツは春にとれるわけじゃなくてね、正確には春系キャベツという名称で、葉がやわらかいから生食に向いて加熱調理には向いてないの、中心部にはビタミンC、外側にはカロテンが多く含まれていて、どちらも食べられる輪切りにした方が栄養バランスがよく食べられるんだよ」

 

「わかった。あんたさては会話が苦手だな」

 

「ちっ、ちがうよ、得意だよ」

 

「春キャベツ、どう考えても春の話題から流用しただろ」

 

「……さぁ」

 

「ふーん、じゃあ他にどんな話題があるってんだよ」

 

 

 だめだ。実は私が会話が苦手で、昨日徹夜で初対面の人と会話するための関連書籍12冊を読んで対策を練っていたとばれてしまう。

 

 この秘密だけは守らないと……

 

 しかし考えれば考えるほどドツボにはまり、とっさに答えが出てこない。

 

 

「……野球とか話せるよ」

 

「あんた絶対にわかだろ」

 

「4月におけるセ・リーグ、パリーグの日程と結果はもちろん、各選手の成績も言えるし、新人王の予想にも毎年参加して当ててるよ」

 

「いや、それは逆に俺が分かんねぇ……」

 

「あっ! ……今のなし、忘れて」

 

「は?」

 

「野球と政治と宗教の話題はタブーって本に……」

 

「本?」

 

「あっ……」

 

 

 あぁ!!? もうだめだ!!。

 

 何一つうまくいかない

 

 最悪の場合もしかして友達どころか絶対に変な奴だと思われてしまっているかもしれない。

 

 

「クク、意味わかんねぇ、あんた変な奴だな」

 

 

 なんてことだ……、もう思われていた。

 

 

「弁当おごったり、よくわからない話をしたり、なんで俺にわざわざ関わるんだか訳わかんねぇ」

 

「そ、それは……」

 

 進退窮まった私は、言いつくろうことも難しく、命令を素直に話してしまう。

 

 

「……その、心操君と友達になるため」

 

「は?」

 

 心操君の眠そうな半開きの眼が初めて開かれた。

 

「俺とか?」

 

「うん」

 

「なんでだ?」

 

「なんでって言われたら……」

 

 

 声の命令でと言われたのがきっかけであるが、彼と友達になれと言われて、今までの自分の努力が打ち砕かれる苦しさを味わいはしたが、彼自身への拒否感は全くなかった。

 

 

「だって心操君いい人じゃない」

 

 

 私を心配してくれたし、割りばしをくれた。

 

 ヒーロー科に編入すると聞いてむしろ納得してしまったくらいだ。

 

 彼のような人こそヒーローに向いている。

 

 

「良い奴だから友達になろうってか? ガキみたいな理論だな」

 

「うん」

 

「はぁ……」

 

 心操君が呆れたようにため息をつく。

 

 

「……俺の個性がなんだか知ってんだろ“洗脳”だ。俺の言葉に応えた者は、みんな俺の言いなりなんだぜ?」

 

 

 なぜか、急に威圧するような態度で今度はにやりと不気味にこちらを見つめてきた。

 

「どうだ? 怖いか?」

 

 しかし、洗脳。

 

 強力な個性だ。私の声もある意味洗脳と言えなくもないため、その強さは身に染みて理解できた。

 

 

「強そうな個性、ヒーロー向きだね」

 

 

 個性の話題は天気に並ぶ鉄板の話題と本に書いてあったはずだ。

 

 そして目の前の彼はヒーロー科にいずれ編入することが決まっている。その個性は確かにヒーローを目指すうえで非常に強力な個性だ。

 

 私は思ったそのまま彼の個性を褒めた。

 

 

『順調に心操イベントの個性に関する話題が発生してますね

 

 彼の個性は「洗脳」

 

 彼は自分の個性に強いコンプレックスを抱いているので、友好度を上げていきながらその悩みを解きほぐしていくのが彼のストーリーの主軸となります』

 

 

 …………はい?

 

 

 私は無表情で固まった心操君を見た。

 

 

 そして声の言葉をもう一度咀嚼する。

 

 

 つまりこういうことだろうか?

 

 私の触れた個性の話題は、彼が触れられたくないデリケートな部分で私はその中に無遠慮に突っ込んだと

 

 彼の無表情と対照的に私の顔がどんどん青くなる。

 

 もうだめだ。仲良くなるどころか関係の修復すら困難になってしまう、せめてもの悪あがきに私は彼に精いっぱいの謝罪をする。

 

 

「ごめんなさい。個性はデリケートな話だったね、心操君。怒らせるつもりはなかったの。だから気を悪くしないで……謝罪の用意はあるわ。今日だけとは言わない。体育祭までのお昼は私がだして……」

 

 

「なぁ、そういえばアンタの名前ってなんて言うんだ?」

 

 私の謝罪を打ち切って彼はこちらを見てそう話した。

 

 そこで今更、自己紹介は人間関係の初歩の初歩であると私は気が付いた。

 

「ほ、本条です」

 

 

 私の謝罪と自己紹介を本当に聞いているのか、適当な相槌を彼は打って昼休みは終わった。

 

 

 ……これは失敗したかもしれない。

 

 

『心操の友好度が早速2になりました

 

 友好度的には1~2が知り合い、3~4が普通の友人、5~6が親しい友人、7~8が恋人またはおホモだち、9~10はポジ種ヤバ交尾であろうと躊躇なくナメクジばりにまぐわいだす仲です(右枠ナメクジ表示)

 

 好感度は恋人まで行ってしまうとトラウマがはがれて特大ロスなので絶対に防ぎましょう

 

 個人の好感度を積極的に上げるのは心操だけですね』

 

 

 声が言うには好感度が上がっているらしいが、私が声の命令をこなせたとはどうにも思えない。

 

 

 次の日も私はいつもの場所へ行く、わずかな可能性もないと思いつつも諦められなかった。

 

 深く落ち込みながらベンチに座る。

 

 

「よぉ本条」

 

 

 だが彼は来た。

 

 混乱に陥った私は、失礼にもなぜここに来たか直接心操君に聞いた。

 

 

「……まぁ友達は急だが、知り合いくらいから始めるのがちょうどいいだろ」

 

 

 その意味をたっぷり時間をかけて考え、理解した時に私は驚きの声を一つ上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




前話で砂藤、今話で心操、その変わり身の早さ、恥ずかしくないのかよ?

女主人公のくせに男をとっかえひっかえとか、こいつすげぇ変態(ビッチ)だぜ。

 


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8話 中編

 心操人使がその少女の存在に気付いたのは入学してしばらくたった時だった。

 

 

「よぉ心操、今日のメシどうする」

 

「どーすっかな、まぁ歩きながら決めるわ」

 

「食堂でも弁当でもいいけどよ、委員長に昼までに出さないといけないプリントあったろ? 忘れんなよ」

 

「そうだったな。おっ、なぁ委員長、これ」

 

「あっ……、うん確かにもらったよ心操くん」

 

「……助かるよ」

 

「なぁ心操! やっぱり食堂いこうぜ!!」

 

「……あー、やっぱ俺弁当買って食うわ」

 

 

 

 彼は時々、無性に一人になりたい時があった。

 

 それは彼のもともとの気質のせいか、あるいは彼が話しかけると少しこわばった表情のするクラスメイト達のせいか

 

 自身の気質のせいだと納得させて、彼は一人普通科棟を出て少し歩いた所にある場所に向かった。

 

 校舎の無駄に空いたスペースに適当に置かれたベンチ、建物のすぐ横で影にはなっているが、春のちょうどよい風が吹き抜けてジメジメとした印象は受けない。

 

 周りの人間も全く他人を気にせず思い思いにくつろいでいる。

 

 彼がひとりで考え事をするのにちょうどいい場所であった。

 

 

 ベンチの真ん中で、背もたれにだらしなく体を預けながら何気なく空を見つめる。

 

 今は何も考えたくない、そんな時に彼はここに来ていた。

 

 

 心地よい風、暖かな陽気に、次第に瞼が重くなる。

 

 

(すっげぇー、個性が洗脳ってわりぃことし放題じゃん)

(ぜってぇバレないとかうらやましいわ)

(すごい個性だけど、私達を操らないでね)

 

 そんなことはしない

 

(すげぇ、エッチなこともし放題じゃねーか)

(全男子の夢だぞこりゃ)

(男子ってサイテー)

(実はこっそり使ったことあんだろ? 俺達だけに教えてくれって)

(ヤダ……心操くんって……)

(怒るなよ心操、ジョークだって、話の分からないやつだな)

 

 そんなことに俺は個性を使わない

 

(よう心操、今度遊ぼうぜ、洗脳? 俺は全然そんなのこわくねぇよ)

(お前よく心操とつるめるよな、俺怖くて無理だわ)

(ばっか、肝試しだよ、どんどん心操を怒らせることを順番にしていく遊び、この前制服にジュースこぼしてやってさぁ!)

 

 頼むから俺の言葉を信じてくれ。

 

(心操くんってさ、洗脳してこの学校の気に食わない奴に使ってるってしってる?)

(あぁそれね、なんか目つき悪くて不気味だしあってもおかしくはないって先輩が)

(このまえの野球部の部員がタバコ吸って退部になったの心操の仕業なんだって)

(うっそ!! マジ!?)

 

 俺はそんなことのために個性を使ったことなんてないんだ

 

(なぁ心操、その個性の力、ちぃっとだけ、貸してくんねぇ? 10万出す。いい話があるんだよ)

(まぁよく聞け? お前と俺が組めば絶対無敵だ。ぜってぇサツにはあしがつかねえんだって)

(クソが!! 一人で小金を貯め込みてぇなら勝手にしろ)

 

 信じてくれ……頼む……、頼むから……

 

 

 彼は目を静かに開く。

 

 

 ただ頭を空っぽにしたい、そう思いながら、浮かび上がってくる記憶は自分が考えたくないことばかりであったことに、彼は心で苦笑した。

 

 

 彼は今のクラスに不満はない。

 

 むしろいい人ばかりだとすら思っている。

 

 だが、なぜか、どうしても何か見えない一枚の膜のようなものを彼は感じている。

 

 それは自分のせいなのか周りのせいなのか、彼にはもう分からない。分からなくなってしまった。

 

 

 こうなってしまっては気分も塞ぐ一方と考えた彼は一度体を起こし、大きく息を吐いた。

 

 

 体を起こしてみれば周りには普通科の他にも色々な生徒がいる。

 

 静かに読書をしている恐らく普通科の男子生徒、製図とにらめっこしている上級生は恐らくサポート科、膨大な資料を片手にノートパソコンに何かを打ち込んでいる神経質そうな男は経営科だろうかと彼はあたりを付ける。

 

 

 ここに居ないのはヒーロー科ぐらいだろう。

 

 

 そんな風に考えながら目線を滑らせると、一人の女生徒に彼の目は留まる。

 

 別に格段目を引くとか、奇抜なことをしているわけではない、むしろその逆、ただでさえ学校の隅にあるココのさらに隅、そこで目立たないようにいるのである。

 

 

 彼は以前も同じ場所に彼女が居たところを見た時があった。

 

 

 この場所は様々な人間が思い思いのタイミングで訪れる。

 

 当然彼もそうだが、彼が適当に訪れた時でさえ、少女はいつも一人でいたことに気付いた。

 

 花の高校生生活、そんな貴重な時間に辛気臭くわざわざ一人でいる理由は何か。

 

 

 彼はそこまで考え、まぁ、なんというかありがちな事なのだろうと察した。

 

 

 別に見た目も悪くなく、広げた風呂敷を膝に、きれいに箸を持って丁寧に弁当を食べる少女は、むしろ親の教育が行き届いていて好感すら彼は覚える。

 

 だがこういうのは運であるとも彼は考えていた。

 

 彼に言わせれば、学校生活をいくらうまく過ごそうと努力しても、どう立ち回っても仕方がない部分があるものだ。

 

 少女のどこか生気のない表情を見れば、なにか同情に近い心もわいたが、彼にできることはないと思考を打ち切り、彼はまた背中を投げ出し空を見た。

 

 

 心操人使がその少女の存在に気付いたのはそんな、日常の片隅だった。

 

 

 

 

 

 

 

 それからも週に1回程度、気が向けば彼はベンチに座って空を眺めた。

 

 そうして、頭の中に邪念が入ると体を起こしてそれを振り払い、彼は様々な人々を眺める。

 

 

 そうすると毎度のことながらこの場所の隅には彼女が居た。

 

 その表情が以前より暗くなっているのを見るにあまり学校生活は順風満帆とはいかないようだと考えるが、自分がそれを言えた口だろうかと苦々しく思った。

 

 所詮は同じ穴のムジナか、そう彼は自嘲する

 

 そんな小さな、しかも不純なシンパシーを感じながら彼女を見ていたがある時、彼女に異変があった。

 

 

 いつも見ていた彼だからこそ、何より先に気付いた。

 

 

 その日は手元にいつもある小難しそうな本も、いつのまにか手作りから購買のものに変わった弁当もない。

 

 そして何よりその佇まいだ。

 

 暗い、鬱々、重苦しい、いろいろな言葉が当てはまるが、身もふたもない言い方をすれば今にも死にそうな表情の彼女が居た。

 

 流石に心配に思った彼は、しかし声をかける理由もないと葛藤していると彼女が一言。

 

 

「うるさいよ……」

 

 

 底冷えするほど恐ろしい声。

 

 

 おどろおどろしい血を吐くような呟きは、初めて聞いた彼女の少女らしい声でよく通った。

 

 何事かと頭をあげたその場の人間は少女の顔を見て、すぐさま顔を伏せる。

 

 それも仕方がないことだと彼は考える。

 

 感情を押し殺し、干からびたミイラの落ちくぼんだ眼窩を思わせるそれ

 

 その光なく、濁った瞳は底なしの暗闇で見た人間の足元をおぼつかなくする。

 

 誰もが目を背けるそれを見た瞬間、だが彼の足は動いた。

 

 彼自身も驚きながらも、思ったより強い力で立ち上がった勢いのまま少女へと向かう。

 

 

「おいあんた、ひどい顔だが大丈夫か?」

 

 

 うら若き少女にかける言葉としては下の下だが、この場合はそれ以外の言葉は浮かばないのも仕方ない

 

「はは、ほんとにひどい顔だ」

 

 ゆっくりと自分の顔を確認する彼女の顔は少し生気が戻っていた。

 

「保健室に行った方がいいんじゃねーか」

 

「うん。大丈夫です」

 

「おい、本当に大丈夫か? 」

 

「安心してよ。へーき、へーき……、ヘーキだから」

 

 

 どう見ても大丈夫ではないが、本人はへらへらと一切喜びの感情を出さない笑顔を浮かべ手を振った。

 

 おぼつかない足取りのまま彼女はどこぞへときえてしまう。

 

 

 

 言いようのない不安感、何かとてつもない間違いを犯したような違和感を感じるも、彼女が言うならそれ以上彼は何もできない。

 

 せめて明日、様子をちらりと見た方がいいかもしれないと彼は考えた。

 

 

 

 しかし次の日は雄英襲撃という大事件で休校となったため、さらに間を置くことになった。

 

 

 

 雄英襲撃、これはヒーローを目指す彼自身にも大きな衝撃を与える。

 

 彼自身が慣れない人付き合いをしながら情報を集めた。

 

 ヴィランの不意の攻撃に対してプロヒーローである先生がやられたが残ったヴィランを1-Aが撃退した。怯えて動けない生徒の一人がヴィランにやられて重傷になった。突飛な噂だとたった一人の生徒が敵の親玉を倒したという情報も聞く。

 

 

 その話を聞いた時、自分の中でわだかまる何かが一気に膨れ上がった気がした。

 

 

 同じ学校の生徒として心配する心、そんな中で活躍して脚光を浴びるヒーロー科への妬心、そして何もできない自分への嫌悪。

 

 彼自身でも制御できない苛立ちに、廊下を歩く足は自然と速くなる。

 

 とうとう彼の不注意で誰かと軽く肩がぶつかる。

 

「……わるい」

 

「ったく、気を付けてくれよな、俺の個性“チャッカマン”は驚いたり気持ちが昂ると火が出るんだぞ」

 

「何してんだよ早く? ……おい揉めるのはやめとけ、コイツが心操だぞ」

 

「げ、おまえが……、わ、悪かったよ」

 

「いや、俺の方がわるかった。すまない」

 

 

 眼の前から逃げる彼らに、心操は自分の体に重くて暗いなにかが降り積もるのを感じた。

 

 自分と夢がどんどん広がる絶望、その夢のスタートラインにすら立てない自分の現状に酸欠みたいに周りが暗くなる。

 

 俺だってもっとヒーローみたいな個性があれば……

 

 そこまでして口の中から這い出して来る黒いものを無理やり飲み込んだ。

 

 なれている。いつものことだ。気に病む必要もない

 

 だが、今日は一人で休まなきゃいけない、そう思って、彼はいつものベンチに向かった。

 

 

 

 彼は広場に力なく座り込むとここでようやく少女のことを思い出した。

 

 そのことに自分の小ささを感じながら、何時も少女のいる場所に目をやる。

 

 少女は、意外にも元気そうであった、いやどこか吹っ切れた様子にも見えた。

 

 

 それがいいことか悪いことか分からないが、少なくともあの時のような心の不安定な様子は見られないと彼は安心する。

 

 

 だが今日も妙といえば妙だ。

 

 何か真剣に考え事をしてるかと思ったら、唸り声が聞こえそうなほど難しい顔をして固まる。

 

 その手にある弁当の割りばしは粉々に握りつぶされている。

 

 折れもせずに凝縮された割りばしを見て、彼は個性は増強系だろうかと呆れながら少女を見ていると、突然少女が彼に目を向けた。

 

 当然二人は見つめ合うわけであるが、なぜか両者とも目をそらさない。

 

 奇妙な沈黙が続く。

 

 先に折れたのは心操少年だった。

 

 

「……おい、割りばしいるか」

 

「はい?」

 

 話してみれば確かに彼女は以前と比べて元気だった。

 

 もともと少女を心配していた彼は、その目的さえ果たせればそれでいい、話のだしに使った割りばしを渡してそのまま退散しようと背を向ける。

 

「あのっ!!」 

 

「はい?」

 

 彼はまさか声をかけられるとは思わず、驚きで固まる。だというのに相手側も驚いている姿というのは滑稽である。

 

 これはどういう状況であろうかと彼が困惑していると、少女は一気にこちらに詰め寄った。

 

「お礼をさせて欲しいの。以前も心配してもらったし、今回も助けてもらったから……」

 

 意外に素早いその動きに彼は驚かされたが、お礼をもらうほどのことはしていないと彼は断った。

 

「……いや、いいよ別に、たかが割りばしで」

 

「お願い、心操君、それじゃあ私の気が済まないの」

 

 増強型はどうも我が強い傾向にある気がする。

 

 そんな風に考えた彼であるが、彼女の言葉に聞き逃せない一言が混じっていることに気付く。

 

「……なぜ俺の名前を?」

 

「あっ……」

 

 思い浮かぶのは先ほどの光景。自分の名前が独り歩きしていくというものは非常に不快なものである。

 

 彼の心中にも先ほどのどす黒い感情が沸き上がる。

 

 

「……俺の噂でもきいたのか」

 

 

 彼が一歩詰めようと足を踏み出す。

 

 だが、なぜか少女も一歩踏み出してきたことで彼の出鼻はくじかれた。

 

 

「……そう噂、私の個性で耳がよくて、それで心操君のこと知ってただけなの!」

 

 

 なぜ自分の噂を知ってこのような態度をとるか、彼には分からない。

 

 何か裏があるのではと彼は勘ぐった。

 

 思えば、先ほど見た個性は増強型だというのに耳がいいというのも変と思い、もしや目の前の少女は自分に対して何か思惑があるのではと疑心暗鬼になる。

 

 

「あっごめん、話続けて」

 

「いや……、なんでもねぇけど」

 

 

 思考の沼に嵌った彼は口を閉じ、目の前の少女を注意深く観察した。

 

 涼しいくらいの天気なのに額に掻いた汗、泳ぐ目線、不自然な態度。

 

 

 まさか本当にお礼がしたいだけで、この挙動不審は生来の物なのか

 

 例えば自分みたいな人間と話すよう、誰かに強要されているといったある種のイジメなのか

 

 

 後者の疑いは前者と同じぐらい、どちらも荒唐無稽なものであるというのに、悲しいことに擦れた彼は悪い方がありそうな話だと判断してしまう。

 

 

 正解はその両方だとはこの世の妙であろう。

 

 

「お、お礼なんだけど今度お弁当奢らせてもらってもいいかな」

 

「いや、だから別にそこまでしなくていいって」

 

 押しつけがましい好意に、彼はさらに警戒心を募らせていく。 

 

 

「じゃあ、あの、ま、また明日、ここで待って……ます!」

 

 

 そんな横暴な一言を添えて、彼女は走り去った。

 

 

 もう少しお淑やかな女性だと彼は見た目から判断していたが、一拍置いて自分の人の見る目のなさに思い至って一人で納得していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ、今日はどっちだ?」

 

「あー、今日は弁当を奢ってくれるって言う奴がいるらしくてな」

 

「らしくってなんだよ」

 

「居ないかもしんない」

 

「どっちだよ!?」

 

「まぁ行って貰えたらラッキーって感じだ」

 

「じゃあ、俺たちは学食に行くけど、食いそびれたらこっちこいよな」

 

 

 生返事で教室を出た彼は、正直昨日の話があまりにも一方的で何かの間違いではないかと思っていた。

 

 彼は悩んだが、一方的な約束であっても反故にするのはまずいと、生来生真面目な性格が災いし、一応のために昨日の場所を覗いていた。

 

 

「……まさか本当に来るなんて」

 

 それは彼のセリフである。

 

 だというのに約束をした当人である少女がそんなことを言い出したのには、彼も少しムッとした。

 

「誘っておいて、なんてセリフだよ」

 

「あっ、……ご、ごめん、来てくれてありがとう心操君」

 

 彼女の大慌ての謝罪に、ただ飯を食べて帰るくらいの気持ちでいけばいいと考え直す彼は少女の隣にどかりと座った。

 

 横を見れば背筋は伸びきって緊張しているのが彼にはまるわかりだった。

 

 ただの男慣れしていない緊張か、それとも何かの裏があるのか、そう考える彼に少女は声をかけてきた。

 

 

「なにか食べたい物とかあった?」

 

 

 ここはひとつ試してやろうと彼は一つの意地悪を思いつく。 

 

 

「ビッグステーキ弁当」

 

 

 雄英におけるがっつり系の弁当で一番人気の目玉商品

 

 そこまでしてステーキを食べたいなら食堂で腰を据えればいいと彼は考えているが、その極厚の一枚肉を好きな場所で食べるという解放感が人を狂わせる魅惑の一品だ。

 

 雄英の学生用弁当は予約以外は公平を期すため昼休みの5分後に開く。そしてこの手の学食は売れ残りを嫌うため、売れきれる量を販売するのが一般的である。

 

 つまり、彼が弁当を頼んだ時点で食堂の混雑は頂点に達している。

 

 目の前の小柄な少女がその中に割って入り、なおかつ男どもを押しのけて一番人気のビッグステーキ弁当を手に入れることはできない。

 

 あえてできないことを言って相手の反応をうかがう彼の心は、疑り深いでは収まらない根の深さを感じ取れる。

 

 

「わかったよ、すぐ買ってくるね」

 

 

 だというのに安請け合いをする少女、もしや現実が分かっていないのではと彼は疑う。

 

 彼女が立ち去り、5分の時が過ぎる。

 

 歩いて戻ってきた少女を見て、どうやら代わりに適当なものを買ってきたようだと考えるがそうではなかった。

 

「はいどうぞ」

 

「なッ……!?」

 

 目の前にはビッグステーキ弁当、しかも自分と少女の分を合わせて2つ。

 

「あっ、ご飯の量の好み聞いてなかったから大盛と普通盛り両方買ってきたんだ。食べきれないなら無理しないで」

 

 正直に言うならビッグステーキ弁当のみでも限界だというのにご飯大盛はつらい。だが無理を言って買ってきた手前、己がたいらげねばならぬと彼は果敢にも大盛を選んだ。

 

 心無しか残念そうな表情をする少女に気付かず、彼は目の前の巨大な肉と米を相手に格闘を始めた。

 

 彼が付属のプラスチックナイフで肉を切るのに苦戦している中、まるで彼女のナイフだけ切れ味抜群の重厚なナイフを使っているのではないかと疑うほど手際よく食べ進めている。

 

 なんとか彼が食べ終えた時、彼女は既に水筒に入った温かい番茶をすすって待っていた。

 

 少女がチラチラとこちらを見ながら何かの機を窺っていることに彼は気づく。

 

 

 彼女の意図は案外わかり易いと思う彼は、話しかけやすいようあえて一息ついたように体をほぐす。

 

 そうして身構える中、少女は口を開いた。

 

 

「今日はいい天気ですね」

 

 

 ここからの会話は、彼にとってツッコミどころしかなく、少女のずれ具合に頭を痛めることになる。

 

 だが、会話をするうちに、どうやら横にいる彼女は致命的な会話下手で、嘘をつくことなどできない少女であると分かってきた。

 

 

 だが、自分の噂を知ってここまで近づくのか、それがどうしても彼には分からない。

 

 

「……その、心操君と友達になりたくて」

 

 

 なのでそのシンプルな答えは彼の思考を停止させるのに十分な威力だった。

 

 

「は?」

 

「俺とか?」

 

「なんでだ?」

 

 出てきた言葉は、そんな片言で、彼は動けずに呆然とする。

 

 

「だって心操君いい人じゃない」

 

 

 彼女の言葉が虚言であるという証拠を作り出そうと彼は躍起になるが、先ほど彼自身が嘘の類が恐ろしく下手な少女と判断したばかりであった。

 

 ここで彼は自分でも分からない強烈な不安感、何か自分が崩されるようなそんな感覚に襲われた。

 

「良い奴だから友達になろうってか?ガキみたいな理論だな」

 

「……俺の個性がなんだか知ってんだろ“洗脳”だ。俺の言葉に応えた者は、みんな俺の言いなりなんだぜ?」

 

「どうした? やっぱり怖いか?」

 

 

 彼がとっさに口に出したのは何故か攻撃的な言葉、そんな言葉だけは何故か流暢に彼の口から出てきた。

 

 

 

「強そうな個性、ヒーロー向きだね」

 

 

 

 だから、嘘もへつらいもなく、ただ純粋に感心したように話す彼女の言葉に彼は逃げ場を失った。

 

 そもそも、何から逃げてるのだろうかとも彼は考えるが答えは出ない。ただすぐにでも拒絶しなければとだけ強く思った。

 

 体の芯がしびれたような衝撃を抑えながらなんとかしゃべろうとした言葉はなぜか正反対のもので

 

 

「なぁ、そういえばアンタの名前ってなんて言うんだ?」

 

 

 目の前の少女のことを笑えないくらいに下手な会話だった。

 

 

 彼の体感では昼休みはいつの間にか終わっていた。

 

 そしてその日の午後の間中、ずっと彼は自分の行動にどうしようもなくイライラしてその焦燥がどうにもなくならない。

 

 そして次の日、彼はクラスメイトの誘いを断ってあの場所に行く。そうするしかこの胸のつかえを取ることは難しいと思ったからだ。

 

 

 

「よぉ本条」

 

「……まさか本当に来るなんて」

 

 見ていて面白いぐらいに表情をくるくる変える彼女はもしや自分が声をかけなければそのままなのではという考えがよぎったが、彼は素直に声をかけることにした。

 

「昨日も言ってたな」

 

「ご、ごめん。あっ昨日のことも、変なこと言っちゃって、せめてご飯を……」

 

 小さな体をさらに縮こませる彼女に昨日そんなことを言っていたなと彼は思い出す。

 

「気にしてねーよ。それにメシも奢んなくていい、俺がいじめているみたいじゃねぇか」

 

「えっじゃあなんでここに居るの」

 

 それは彼自身も知りたかったことであるので少し考え込む。

 

 いや、もとはといえば目の前の少女が自分と友達になりたいと言ったのでは無かっただろうか。だというのに、何でここにいるなんて言いぐさは、一体どういうことだろうか、……まてそうするとここに来た自分は目の前の彼女と友達になりたいのか?

 

 そこまで考えた彼は自分の考えを否定するため適当な言い訳を見つけようとする。

 

 

 

「……友達は急だが、知り合いくらいから始めるのがちょうどいいだろ」

 

「…………………………………………………へぇッ!?」

 

 

 自分で出た言葉に彼自身が驚いていた。

 

 だがそれ以上に目の前の彼女の驚きはすさまじく、しばらくボーっとしたかと思うといきなり奇声をあげる。

 

 

 そうしてお互い昨日と同じように隣に座り込む。

 

 

 しばらく無言であったが、少女はこの状況にハッとしたように何を思ったのか口を開く

 

 

 

「今日もいい天気…」

 

「待て」

 

「ひゅい!!」

 

 

 またあのような不毛な会話をするつもりであると感づいた彼により、事態は未然に防がれたのだった。




ぷはー 今日もいい天気☆

迫真ヒーロー科会話苦手部、話術の裏技

おいHMK、お前さっき心操のことチラチラ見てただろ(マッチポンプ)
なんだHMK、嬉しそうじゃないかよ~(ご満悦)

最近ホモ子の元気がなかったからな! しっかり心操と仲良くなれ! おかわりもいいぞ! 遠慮するな、今までの分しっかり楽しめ!


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8話 後編

 最近、ほんの少し学校が楽しいかもしれない……

 

 

 こんなことを思ったのは何年ぶりだろうか。

 

 

『はい、もう友好度は4、目標まであと一息です

 

 はえ~ここまでうまくいくとはやっぱりホモ子もホモだから男が好きなんすねぇ~』

 

 

「よぉ本条」

 

「……あっ、今日は来てくれた。毎日来てくれてもいいのに、あっ、ウソウソ今のは冗談」

 

「そりゃ毎日は無理だ。俺にはクラスでの付き合いがあるからな、お前もクラスでがんばれよ」

 

「だって私にはクラスの友達なんて一人もいないし……」

 

「悲しいことを自分で言うな」

 

「ううん悲しくなんてないよ! 中学から友達は一人もできない予定だったから、この学校生活で普通の会話ができる知り合いができて全然うれしいよ!」

 

「後ろ向きにポジティブだな」

 

 

 人との関わりを絶っていた私にとって、声から許された。週に2、3回の、この時間は何より貴重なものだった。

 

 正直毎日でも会いたいとは思うけど、彼の負担になるので心にとどめる。

 

 私を迷惑に思って居なくなるかもしれないからだ。

 

 

 こうして心操君とは何気ない会話を楽しむ仲になった。

 

 だがこの関係を友達と言う勇気が、まだ私にはない。

 

 

「なぁ本条、もうすぐ雄英体育祭があるだろ?」

 

 会話のさなか、彼は近頃学校で聞かない日がない雄英体育祭についての話題をむけてきた。

 

「みんなその話題でいっぱいだよね。普通科が引き立て役だの、サポート科の人が自分を売り込むだの」

 

「流石に本条でも噂を聞いたことがあるか」

 

「あっ、ほら私個性で耳がいいから、一人で暇なときは周りの雑談を拾ってラジオみたいに聞いたりしてて、それで聞いたんだ」

 

「……おまえ」

 

「あっ、盗み聞きは趣味悪いよね、ごめん」

 

「いや、あまりにも不憫すぎて……」

 

「うっ……、そ、それでその雄英体育祭がどうしたの」

 

 学校の調査の一環でやっているだけで、それ以外の目的にはたまにしか使わないと言い訳したいができないのがもどかしい。

 

 心操君の憐れんだ目を避けるため、私は無理やり話題を元に戻した。

 

 

「そうだ。雄英体育祭がもうすぐあるわけだが、……本条はどう思う」

 

「どうって……、正直いやだなぁ、でも全力でやるよ」

 

 声が出るとなれば、穏やかに終わるという可能性は欠片もない。だが私は命令には必ず従うと決めていた。

 

「なるべく上を目指すのか?」

 

「もちろん目指すは1位だよ、やっぱり敵はヒーロー科だね」

 

「へぇ……驚いたな、普通科でそこまで思っている奴は少ないと思ってた」

 

 うん、普通科?

 

「俺も同じ考えだ。俺だって機会がありゃヒーロー科のヤツらを喰ってでも上に行ってやる」

 

 ……そういえば、私は彼に自分がヒーロー科だと話したことはない

 

 この勘違いはあまりよくないかもしれない、私は訂正する機会をうかがった。

 

「正直、ヒーロー科は化け物ぞろいだ。知ってるか? 雄英襲撃、敵の親玉を倒したのはたった一人の学生だぜ? 初めは俺も嘘だと思ったよ」

 

 ……嘘でしょ

 

「ヒーロー向きのいい個性を持って、そんな風にみんなの脚光を浴びて、まるでマンガのヒーローみたいだろ? いっそ、こっちとの差で笑えてくる」

 

 心操君の目には深い嫉妬と悲しみが浮かんでいる。

 

 ここでそのコミックから飛び出したスーパーヒーローは私ですと言えるはずがない。

 

 どうするべきだろうか、正直に伝えることも難しい。

 

 そう考えているうちに心操君がこちらを見て宣言する。

 

 

「だが俺はヒーローになる」

 

 

 強い意志を込めて宣言する彼はぎらついていて、正の感情だけではなかったけど、私にとってはどこかきれいに映った。

 

「うん向いてると思う、心操君は困った人がいたら見捨てないし、私みたいなのにも声をかけてくれたもんね」

 

 本当は素直に心操君がヒーローになれると言いたかったが、それは心操君の踏み入ってはならない部分だと考えて私はやめた。

 

「つっても、まずは体育祭でいい結果出さねぇとどうにもならないけどな」

 

 彼がむき出しの感情を見せた時間は短く、あとは互いに普通の会話に戻る。

 

 

「……話してたらお腹減っちゃったね、ご飯食べようか」

 

「あぁ、俺まだ買ってないから、適当に買ってくるわ」

 

「私もまだだから、買ってくるよ!」

 

「だからそんなことしなくて良いって言ってんだろ……、しかたないし、一緒に買いに行くか」

 

「えっ」

 

 一緒に買いに行って、ヒーロー科の人たちにバレないだろうか、もしかして他の科に自分を知っている人がいたら……

 

「別々に買いに行くつもりなのか? 逆になんでだよ」

 

「そ、そうだよね」

 

「なんだ、俺といるところを見られて噂されると都合が悪いってか?」

 

「そんなこと! 逆に私と一緒にいて心操君が変な噂されないかって」

 

「自意識過剰すぎるだろ、……いやそれは俺も一緒か」

 

 

 しかし、せっかく誘ってもらった嬉しさに私は背を押されて、一緒にお弁当を買いに行くことにした。

 

 

「……お前は本当に俺を怖がらないよな」

 

「えっ何、急に」

 

 購買へと続く廊下を歩きながら突然、心操君は私に問いかけてきた。

 

「洗脳だぞ。俺がその気になりゃ勝手に操られちまう。ふつう不気味に思ったり、身構えたりすんだろ。本当に分かってんのか」

 

「洗脳は使い方しだいですごく恐ろしいこともできる個性だと思う。自分の意志とは裏腹に勝手に体を動かされるなんて、すごく怖いと思うよ」

 

 だったら、そう言いかける心操君の言葉を私は遮った。

 

「でも、心操君はそんなことに個性を使わないんでしょ」

 

「それは……」

 

 

 心操君が何かを言いかけた時、目的の場所である購買から何故か人が飛び出してくる

 

 

 

「やべぇ逃げろ!! 個性事故だ!! 炎系の個性を持った奴の火が植物系の個性を持った奴にぶつかって大参事だ」

 

 

 

「はぁ?どういうことだよ」

 

「植物系の個性の奴の体から粉が噴き出して、みんなおかしくなっちまった」

 

「奥からさらに来るぞ!!」

 

「助けてぇ!」

 

 

『今回の友好度上昇時イベントは、幸運なことに戦闘系ではないようですね

 

 なのでホモ子にお任せして余計な操作はフヨウラ!

 

 ゴールデンひとしくん人形には己のトラウマである個性「洗脳」と向かい合って貰いましょう』

 

 

 声の言葉に私は不吉な予感を覚えたので、心操君のすぐそばに控えた。

 

 

『というかその個性でヒーローに向いていないは無理があるでしょ

 

 世の中には「屑個性でイク名前を出してはいけないあの方撃破RTA」もありますからね

 

 個性「靴ひもが固く結べる」という屑個性で376周目でようやく完走した走者兄貴もいるんだから見習って?』

 

 

 その騒ぎと共に、コンビニのように区切られた場所の奥から黄色い煙のようなものが漂ってくる。

 

 その粉を目視で解析する。

 

 3~5㎛、非常に変化に富み、特徴的で有機的なフォルムは生物由来の構造だ。

 

 先ほどの人は植物系と言っていたがこれは菌類、おそらくキノコ、カビ、酵母、などの胞子ではないかとあたりを付ける。

 

 

『おまえ悪役っぽい個性だから嫌だとかR-18 Mod(非公式)を入れて「触れた相手を絶対発情」とか「絶頂時に世界が白く瞬く」とかいう個性を引いた兄貴の目を見て言える?

 

 触れられたら絶対発情とかもう性産業か畜産業、研究で動物の交配を眺めるくらいしかできねぇぜ?』

 

 

「心操君、はやく逃げよう。あの煙は胞子、口を濡らした布か何かでふさいだ方がいいよ」

 

 購買の中にいる人達は何故か外に出ずウロウロとしている。

 

 

「ウィヒヒヒヒ、スゲェぞ! 空を飛んでる!!」

 

「神のお告げが聞こえる!! 神が私にこの学校の王になれと言ってるわ」

 

「なに!? 俺はそんなこと言った覚えはないぞ!!」

 

「アハハハッハ。宇宙が見える!! 興奮してきたぞ……」

 

 

 煙のせいだろうか、どう見てもまともな様子には見えない。大変な状態ではあるが、助けようとしても二次被害に遭うだけだ。

 

 煙は購買内部を埋め尽くしているが外に出れば風で少しづつ霧散していく、先生を呼んで待つしかないだろう。

 

 

「どうやら吸うと危ないみたいだよ、逃げようよ」

 

「……………まずいな」

 

「どうしたの心操君?」

 

「……本条、俺は中に行く。説明している時間はない、ここから離れろ」

 

「え、どうして? 別に心操君が行く必要は……」

 

 

 その瞬間、なじみ深い感覚が体を支配する。

 

 

 

「ベンチの所まで戻れ、なに、弁当は俺が買っておく」

 

 

 

 いつもの感覚に比べ、やわらかく包むそれは私の体の自由を奪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最近、心操少年に学校生活の楽しみが一つ増えた。

 

 

 それはいつものベンチに座る少女との会話だ。

 

 

 彼女は彼を決して恐れない。

 

 しかもそれは無知からくるものではなく、自分の個性や性格を理解した上で肯定してくれる。

 

 自分の欲しい言葉、認めてもらいたいこと、触れて欲しくないこと、相手はそれを知っているかのように彼が望むような返答をしてくれるのだ。

 

 まるで相手が自分のことを見通しているようだと彼は感じた。

 

 その心地よさに、彼は一欠片の恐れを持ちながらも、あらがえない。

 

 あまりにも都合のよい存在に、彼は疑いの心を抱きつつも、また少女に会いに行くのだった。

 

(強そうな個性、ヒーロー向きだね)

(うん向いてると思う)

(心操君は困った人がいたら見捨てない)

(でも、心操君はそんなことに個性を使わないんでしょ)

 

 彼にとってその言葉達は麻薬以上だった。

 

 昔からずっと望みながらも結局、誰一人にも言って貰えなかった言葉。

 

 干からびた心に、過剰なまでの甘さを含んだ言葉が彼の胸中に染みわたる。

 

 

 もしかして自分でもヒーローになれるのでは?

 

 

 彼は普段の自分なら想像することすら難しいそんな幻想を思い描く。

 

 少女の態度はまるで彼がヒーローになることが当然だというような態度だ。

 

 そしてそれはおためごかしであるとか、幼さからくる憧憬などではなく、彼女が時々見せる深い理性に富んだ機械的な目からまるで予言のように彼に伝えられた。

 

 

 そんな風に言われた彼はある日、事件に遭遇する。

 

 

 煙に塗れた購買の中心には体から煙を噴き出す学生と、その周りで狂騒に包まれる学生達。その中の一人に彼は見覚えがあった。

 

 

(ったく、気を付けてくれよな、俺の個性“チャッカマン”は驚いたり気持ちが昂ると火が出るんだぞ)

 

 

 その男は何時か彼がぶつかった学生だ。

 

 そしてその個性を思い出した時、彼は不吉な予感がよぎった。

 

 

「アハハハッハ、宇宙が見える!! 興奮してきたぞ……」

 

 

 例えばだが、もし彼が今、興奮して火を噴いたらどうなる?

 

 可燃性の粉塵、着火源の生徒、購買という閉鎖空間に満ちた酸素。

 

 三文小説にもたびたび出てくるこの現象はなぜこんなにも多くの創作から愛されるのか

 

 

 

 なぜならそれはいとも簡単に引き起こせるからである。

 

 

 

「……本条、俺は中に行く。説明している時間はない、ここから離れろ」

 

「え、どうして? 別に心操君が行く必要は……」

 

 彼は自分の個性を発動する。

 

「ベンチの所に戻れ、なに、弁当は俺が買っておく」

 

 彼女はもはや何も言い返さず、今まで来た道をふらふらと引き返す。

 

 それを見届けて彼は大きく息を吸い込み、購買へと駆け出した。

 

 周りの野次馬を退かして購買に乗り込む。

 

 その野次馬もどこか興奮した様子で、まともな様子でない。胞子の影響を受けたのは一目で分かる。

 

 彼はまずいつかで会ったチャッカマンの個性の生徒に話しかける。

 

 

「すげぇ、吹き上がりそうだ……もう我慢できねぇ……」

 

「何が吹き上がるんだ?」

 

「そりゃ俺の真っ赤な火さ!!」

 

 

「すぐにここから離れて近づくな」

 

 

 そう言われた彼は、まるで弾かれたように購買から走り出す。

 

 息を節約するためになるべく短い言葉で洗脳をかける。

 

 ひとまずの安全を確保し、次に彼は騒ぎを鎮めるために元凶へと向かう。

 

 体に袋のような器官を大量に付けた彼は、その袋を振り乱し、粉をまき散らしながら絶叫していた。

 

「あぁ!! 火が俺の体を這いまわって!? あぁぁ!!!」

 

 この個性、とてつもなく強力ではあるが、どうやら彼の個性は自身には効かない都合のいい個性ではないらしいと心操は気づく。

 

「大丈夫か?」

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!」

 

 しかも混乱のあまりこちらの言葉が通らない、これでは洗脳が通じない。彼は少し考えて言い放つ。

 

「おい! 無視するな!! テメェを胞子ごと燃やすぞ!!」

 

「ヒぃッ!! やめてくれ!!」

 

 

「今すぐ個性を止めて、換気しろ」

 

 

 彼の洗脳にかかればピタリと怯えるのを止め、まるで何事も無かったかのように購買の窓を開きに歩き出す。

 

 彼も息が続く限りそれを手伝った。

 

 

 ようやく事態が鎮静し、煙が薄くなり始めた時、胞子を吸った者の多くは正気を取り戻し始める。

 

 

 彼はこの場でただ一人だけ現状を把握し、多くの人命を救いきった。

 

 まさにヒーローと言っていい活躍だ。

 

 

 

「なんだこれ? 何の騒ぎだ?」

 

「いやなんか、個性を暴発させた奴がいるって」

 

「おいおい、高校生にもなって勘弁してくれよ、メシ買えねーじゃん」

 

「うえー粉まみれで気持ちわるーい」

 

 あれだけ危ないから離れろと言っても集まった野次馬に彼は辟易としながらも、彼は洗脳を解いた。

 

 

 気が緩んでいたのだろう、何時もの彼なら防げていたミスだった。

 

 

「ひっ!? お前が俺を操って!! よ、寄るな!! オレのそばに近寄るなああーッ 」

 

「なッ!?」

 

 

 洗脳していた胞子の彼は、彼自身の個性で最も胞子の影響を強く受けた者であると彼は失念していたのだ。

 

 怯え切った彼は罵声を浴びせかけながら、もう一度個性を使う気のようでその体についた袋状の器官を大きく膨らませている。

 

 

 彼の判断は素早い。

 

 

「なんだお前? もう一度俺に燃やされたいのか?」

 

 わざと煽るような言葉を吐き出すと相手の動揺を誘った。

 

「やっ、やっぱりお前が、俺を燃やそうと」

 

 

「そのまま個性を使わず、外の広い人気のないところで落ち着くまで突っ立ってろ」

 

 

 そう言われた瞬間、男は踵を返してその場から消えた。

 

 

 彼は何とかさらなる被害を避けたことに安堵し、ため息を一つついた。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、犯人ってアイツなのか?」

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 

 

 

 彼はこの場でただ一人だけ現状を把握し、多くの人命を救いきった。

 

 まさにヒーローと言っていい活躍だ。

 

 

「見た限り、あいつがあの生徒を脅して個性使わせたんだろ?」

 

 

 だがそれを知っているのは彼だけ……、彼一人だけだった。

 

 

「えぇ……なんでこんなひどいことしたのよ」

 

「あれ? でもこれってさっき逃げた植物系の個性の奴の仕業じゃ?」

 

「あっ!? あいつ心操だ!! 個性が洗脳の!!」

 

「マジ? じゃあ、あいつが操ってこんなことをしたのかよ!!」

 

「ひどい……、信じらんない、何でそんなこと……」

 

「やべーやつじゃん」

 

「ヴィランかよ」

 

「洗脳なんて個性、まともな奴じゃないでしょ」

 

「きっと個性のせいで歪んじゃったんだろうね」

 

 

 

 彼は自分が弁当を食べる前でよかったと心底思った。

 

 でなければ彼は腹にあるすべてをこの場で吐き出してしまっていただろう。

 

 

 強烈な吐き気、目がちかちかして立っているのがつらかった。

 

 

 彼は必死に弁明の言葉を言おうとするのに喉どころか体の指先だって動かせない。

 

 彼は心の中で叫ぶ。

 

 

 そんなことはしない

 

 そんなことに俺は個性を使わない

 

 頼むから俺の言葉を信じてくれ。

 

 俺はそんなことのために個性を使ったことなんてないんだ

 

 信じてくれ……頼む……、頼むから……

 

 

 

「頑張ったね。もう大丈夫、私の手を握って」

 

 

 

 倒れ込みそうになる彼に温かな手が触れる。

 

 

 彼女は大きく息を吸い込むと、信じられないほど大きな声で叫んだ。

 

 

「心操君は絶対悪くない!! むしろヒーローだ!!! 個性で勝手に決めつけるお前らの方がよっぽどヴィランなんだからな!!」

 

 

 

 離れた彼らの耳にさえ、耳元で直接怒鳴られたと感じるほどの大声は、彼女に耳を押さえられていると言えども心操少年の耳に大きなダメージを与えた。

 

 その衝撃にその場にいる全員の意識がそがれ、再び顔をあげると自分より大きな男の子を担いだ少女はその場から瞬時に掻き消えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が強烈な風と重力から解放された時、そこはいつものベンチだった。

 

 

「大丈夫だった?」

 

「……耳が痛くて全然、大丈夫じゃねぇ」

 

「ご、ごめん」

 

 

「……なんで来たんだよ、来るなっていっただろ」

 

 

 たくさん言いたいことがあったはずだが、彼はそんな当たり障りのない言葉しか話せなかった。

 

「洗脳が解けて、急いで戻ろうとしたら、購買の中にいた人が走ってきてね。多分心操君の個性だろうなって思って肩を叩いてみたら急に怒り出して火を噴いてね。多量の粉塵と炎で心操君が何を守ろうとしたかピンときたんだ」

 

「……だから何だよ」

 

 自分の意図に気付いてくれる人間がいた。彼はそこまで考えるが、それがどうしたと自嘲する。

 

 ヒーローになれるのではと調子に乗って、その挙句の果てに起きた結末。

 

 彼の中では後悔と絶望に塗れていた。

 

「すごい!! ヒーローだ!! って思った。頭がどれだけ優れていてもダメだね、その発想力は流石心操君だなって」

 

 だというのに目の前の少女はまるでそんなことは知らないとばかりに、一人まるで感動したかのようにこちらをキラキラとした目で見つめてくるので、彼にとっては針の筵だった。

 

「発想力……? もっとマシな頭持ってたらあぁはならないだろ」

 

「ああいう時は何を言っても無駄、逃げるが勝ちだよ。確か、れすば? 口喧嘩では『最後にクソを投げつけた方が勝ち』なんだって」

 

「なんだよそれ、意味わかんねぇ……」

 

「とにかく、心操君はすごかった。うん、あの振る舞いはまさにヒーローだよ!!」

 

 

 惨めな自分をそれでもヒーローだと言い張る彼女に、彼の心はもう耐えきれない。

 

 

 

 

「うるせぇ!!!!」

 

 

 

 その声は怒りというよりも悲鳴だった。

 

 いつもなら、こういう時すぐさま身をすくめる彼女は何故か何も言わずに彼を見つめ返す。

 

 

 

「きっと心操君はヒーローになりたかったんだね」

 

 

 

 全くもって前後の会話がつながらない少女の言葉は、しかし彼の核心を抉った。

 

 

「好きなことに手を伸ばしたいのに、どうして素直になれないんだろうね」

 

「……なにいってるんだよ」

 

 彼は分からないふりをした。 

 

「その個性、すっごく強いと思うよ、心操君が望めばヒーロー科にだって編入できると思う」

 

 少女の言葉で、彼の中でドロドロとした塊が自分との意思と関係なく一気に流れ出そうとする。

 

「だから何を……」

 

 それでも彼は、分からないふりをしようと努めた。

 

「あっ、ヒーロー科に行けるっていうのは個性とか関係なくて、誰かの為に動ける心操君は私と違ってヒーローに向いてると思うから」

 

 だがそれも限界だった。

 

 

「心操君はきっといいヒーローになるよ」

 

 

 

 なにも言い返せない彼はただ力なく座り込んだ。

 

 こんなとぼけた奴に自分が見透かされたのだと思い、腹を立てようにも腹が立たない。

 

 それが何より腹立たしかった。

 

 

 

「正直むかつくんだよ」

 

 

「……」

 

「初めからそうだ。いきなり話しかけてきたかと思えばいきなり訳知り顔でずかずかと、俺と友達になりたい? 俺がヒーローに向いてるだ?」

 

「……うん」

 

「お前に俺の何がわかるって怒鳴りちらしそうだったよ、そんなこと赤の他人になんて言われたくねぇよ……」

 

「…………大変だったね」

 

「ずっと悪者扱いだった。この個性のせいで、いっつもヒーローごっこでヴィランをやらされた」

 

「……私もね、いつも悪だよ。でも心操君はヒーローの子を立ててあげられたんだ。すごいよ」

 

「会話が個性のトリガーだってばれたらイジメられて学校で無視された」

 

「……そんなことがあっても心操君はイジメた人に個性を振るわなかったんだね」

 

「こんな個性でも悪い奴じゃないって必死にいいヤツを演じてたら、怒らせてやろうってふざけたゲームで殴られた」

 

「……わたしは、ふざけたゲームに巻き込まれて良い人になんてなれなかったよ」

 

「俺の力を利用しようとする奴らがいた」

 

「うん……でも利用されなかったんだよね、よく頑張ったね」

 

「やってもいないのに犯罪者扱いされた」

 

「……心操君は、……とちがって……、犯罪者じゃない、薄汚い犯罪者と一緒じゃないよ」

 

 

 

 

「おれだって、ひーろーに……、なりたかった……」

 

 

 

「うん、なれるよ」

 

 

 

 いつの間にか彼女は彼のすぐ隣にいた。

 

 ベンチに腰掛けて地面を向いた彼の横で彼女はやさしく背中をさする。

 

 

「間違いなく心操君はヒーローになれる」

 

「なんでそんなことがわかんだよ……」

 

「……だって、友達じゃない」

 

 

 

 震えた声を出して地面を見る彼に対して、彼女はあえて空を見た。

 

 

 




心操君とかいう二次創作の使い勝手が良すぎる壊れ性能の飛び道具キャラ、嫌いじゃないし大好きだよ
だから勝手に設定盛っちゃったけど……、まま、えやろ、心操君は各SSでオリキャラみたいなもんやし(キャラへの冒涜)

今回急なラブコメ展開で正直(別作品過ぎて)笑っちゃうんすよね

さて……、ただ今より毒ガス訓練を開始する!!(唐突)


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9話 前編

 盛大なファンファーレと歓声。

 

 

 例年よりさらに賑わいを見せるドームには数えきれないほどの人がいた。

 

「雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとしのぎを削る年に一度の大バトル!!!」

 

 例年なら1年の競技種目にこれほど人が集まるのは珍しい、そしてそれにはもちろんそれだけの理由がある。

 

「どうせてめーらこいつら目当てだろ!!? 敵の襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星、ヒーロー科!! 1年!!! A組いぃぃぃ!!!!!」

 

 人々の歓声が上がる。

 

 1-A、最近のニュースでも連日取り上げている雄英襲撃事件。

 

 教師が負傷した中、生徒達のみでヴィランを撃退したという、そのキャッチーな情報は人々の想像を掻き立たせた。 

 

 

「選手宣誓!! 1-A ヒーロー科代表!!」

 

 

 その1-Aの中でも最も優秀な生徒が宣誓を行う、人々の関心は否応にも高まった。

 

 だが出てきた人物を見て皆不信に思う。

 

 なぜなら出てきた人物はボディラインから女生徒だとなんとかわかるがそれ以外の一切を隠していた。

 

 武骨なヘルメットにとって付けたようなふざけたマスコット、長袖長ズボン、裾に手まで覆い、己のシルエットを隠しているのは、この雄英体育祭であまりにも奇妙に映る。

 

 

「おーっとこれはどういうことだ!ちょっと確認するぜ!!!」

 

 

 実況も務めるボイスヒーロープレゼントマイクは、マイクに音が入らないように気を付けながら横に座る同僚に問いかける。

 

 

「え? まじでどういうことだよお前のとこの生徒」

 

「……少し前に、高校の体育祭行事が全国に放送されるということは、学校内の活動をはるかに超えることであり、肖像権の侵害にあたるという文面の書類が内容証明付きで送られてきた。それと同時に、顔を隠すようなものを身に着けさせろとあいつが乗り込んできてな」

 

「えぇ……、どうしたんだよそれ」

 

「雄英体育祭は現在の日本における著名な一大行事であり、その選手と位置付けられる生徒の顔が映ることは大会の報道という公共目的であるためだと却下した」

 

「いや、でも今つけてるじゃん」

 

「向こうは話してみて説得は無理と悟ったんだろう。次は今後ヴィランと接触する上で、雄英体育祭での報道カメラで顔が割れることが、今後の自分のヒーロー活動に支障をきたす可能性があるので顔を隠すのを認めろと言ってきた。俺は確かに合理的な判断だと思って許可しただけだ」

 

「それ、お前もカメラとかマスコミが嫌いだから許可しただけじゃないのか?」

 

「さぁな」

 

 競技の公平性が損なわれた訳ではないと分ったプレゼントマイクは再度マイクの電源を入れなおす。

 

「ウォホン! 確認の結果、どうやら代表生徒はかなり用心深く、公の場で顔を晒したくないようだァ!? 最近の学生は情報リテラシーもかなり高いみたいだぞ!!!」

 

 彼女は広い会場をかなりの速さで歩き切ると、息もつかぬままマイクに頭を近づけた。

 

 

「宣誓」

 

 

 その声は何故か、人の声から抑揚と個性を奪ったかのような間延びした機械音だった。

 

 

「声も機械音だ! そこまで情報の流出を抑えるかァ!? この用心深さが敵の襲撃を乗り越えた者の危機管理能力なのか!!」

 

「我々選手一同はヒーロー精神にのっとり、正々堂々と戦い抜くことを誓います」

 

「見た目の奇抜さに比べて、宣誓の内容はいたって普通だァ!!!!」

 

 

 少々の印象的な場面であったが、個性の塊である雄英高校ではこの程度のハプニングはハプニングとさえ呼べない。

 

 

 こうして一応の形は保って、雄英体育祭1年の部は開催された。

 

 

 

 雄英体育祭第一種目は“障害物競走”。

 

 

 その始まりは、たった一人以外は教師間の下馬評通りであった。

 

 

 スタートダッシュを決め、地面を凍結させて先頭に立ったのはNo.2ヒーローエンデヴァーの息子である轟焦凍。

 

 それに爆発の反動で飛び上がりながら追随するのは天性のセンスとタフネスを持つ天才マン、爆豪勝己。

 

 ヴィランの襲撃を体験した1-Aは障害に対して立ち止まる瞬間が短く、集団の中でも好タイムを出している。

 

 

「おぉ、やっぱり1-Aはいい感じじゃねーの、先生として鼻が高いだろ」

 

「……奴が見当たらないな」

 

「奴? ……あぁ、たしかに、どこにいるんだ。いいとこに居そうなもんだが」

 

「……」

 

 実況席にいるプレゼントマイクは、気になりこそすれど実況という役目があるため、目線を先頭集団に戻す。

 

「さぁこのロボインフェルノ!!! 一部の機動性の高い生徒は避けて通る!! 他の生徒は協力してロボを倒して進んでいくぞ!!!」

 

 相澤 消太は生徒に対する我が子かわいさというよりは嫌な予感を感じて彼女を探した。

 

 先頭の2人、それに追従するのは立体的な機動に優れた者達。

 

 だがその中にはいない。

 

 率先してロボを倒していく生徒達、この中にもいない。

 

 ならばロボの隙間を着実に進んでいる者達、この中にもいない。

 

 まさか最後尾付近だろうかと覗いてみるが、当然いない。

 

 それでは、いったいどこにいるのだと頭を掻きながらふと会場の目の前に視線を落とすとそこには倒れ込んだ人がいる。

 

 初めに行った轟の氷結でリタイアした生徒達かとも思われたが、よく見れば奇妙だ。

 

 まるで一塊になって倒れ込んでいる集団は轟の妨害攻撃から外れた場所で寝ている。

 

 その真ん中に見覚えのある姿があることに相澤は気づいた。

 

 

「……いた……」

 

 

 倒れ伏している生徒はある規則性があった。

 

 みな同じユニフォームであるはずであるがその衣装はバラエティに富み、何かを装着する金具やベルト、機械などが取り付けられている。

 

 それを見れば彼らがサポート科の人間であるとすぐにわかった。

 

 だが、彼らは倒れ込み、その中央には例の奴がいる。

 

 身に着けていただろうサポートアイテムを引きはがしてから一瞥して、すぐに地面にたたきつける。

 

 その一連の動作をまるで機械のように、よどみなく行い続ける。

 

「おっ愛しの教え子様は見つかったか?」

 

「……あいつ、マジか、……サポート科からアイテムをぶんどってやがる」

 

「は?」

 

 やっと目当ての物が見つかったのか、ある一つの機械を手に取ると瞬時に装着し始める。

 

 まるで自身が開発したかのように手早く操作すると、ようやく出口に向かって走り出した。

 

 

 彼女が奪い取ったアイテムは飛行を可能にするジェットパック。

 

 

 本来なら徐々に出力を上げて空中に浮かびあがり、障害物を無視して移動するというパフォーマンスをするつもりであったそれは、セーフロックなどはとうに外され、ただ推力を吐き出すだけのイカれた加速器にされていた。

 

 本来垂直方向に使うべきその力を彼女は体を真横に倒して疾走を始める。

 

 既に会場の出口は誰もいない。

 

 そんな人のいない道を彼女は滑走路のように駆け抜けた。

 

 あっという間で最後尾を追い越し、ロボットが集まる場所まで追いつくと彼女は、足を滑らせ、その背中を地面に投げ出す。

 

 

 正確には膨大なエネルギーで吹き飛んでいるというのが正しいはずであるが、どうやら彼女は手足を器用に動かし、そこでバランスを取ることができていた。

 

    

 

 

「なっ、なんて奴だぁー!!!! 先ほど正々堂々と言ったその舌の根の乾かぬ内に行われた極悪非道行為!!!! サポート科から奪ったアイテムを完璧に使いこなして一気に一位に躍り出た!!!! 

 

 

 最後尾から一条の尾を引いて伸びていく彼女は悠々と第一の障害を飛び越えると、体を半回転させてブレーキを行い、その着地間近にいた轟を踏み倒した。

 

 

「これが期待の超新星1-Aの首席の実力なのかっ!!! 自分自身の目的を達成するためには、手段を選ばない!!! まさに雄英新鋭のダークヒーローだぁ!!!!!」

 

 

 後はただ先頭を独走する姿を映すだけとなる。

 

 どの障害も関係なく飛んで行く彼女は、二つ目の障害も通り過ぎ、最後までそのジェットパックを使いつぶすと、三つ目の障害である地雷原の真ん中に着陸する。

 

 

「おおっと無茶が祟ったか!! アイテムが壊れたようだ!!ここからは慎重にいかな……、って一切の減速をしていない!!!」

 

 

 だが彼女は止まらない、まるで場所を知っていたかのように全力で地面を駆け抜け、最後は地雷すら利用しての大ジャンプを行って地雷原を駆け抜ける。

 

 

「爆風を踏み台にして飛んだぁ!!! もはや何でもありかこの女!!!! いつから雄英体育祭は曲芸サーカスとなったんだぁ!!!」

 

 

 結局、いち早く会場に戻ってきたのは彼女であった。

 

 

 雄英体育祭第1種目、1位 本条桃子(本人希望のため名前は表記せず)

 

 

 会場では彼女によってサポート道具を奪われた者が怒りで我を忘れながら詰め寄ったが、彼女はなにも気にした様子などなく、何か一言話すと振り返りもせず歩き出した。

 

 1位を取ったというのに歓声に一切の反応を返さず、次いで到着する選手たちを舐めるように観察し続ける彼女に一部の人間は薄気味の悪さも感じていたが、それでも会場は盛り上がった。

 

 悪趣味な言い方をすればベビーフェイスが多い、というより育成している雄英で、こんなにもあからさまなヒール役は、ある種の大衆の刺激でしかないからだ。

 

 あるいはその暴虐非道を尽くす彼女がヒーロー役に打倒されれば面白い。

 

 そんな身勝手な考えを聴衆は考えながら、雄英体育祭を楽しんだ。

 

 

 そして、二種目目の騎馬戦が始まればそんな大衆の望むような展開がすぐに現れる。

 

 

 騎馬作り

 

 1位1000万点の点数は、チームを作ることを躊躇させた。

 

 さらに言えば先ほどまでの戦いで彼女の印象は悪く、少なくともヒーローを志す他の者の目には好ましく映らなかったのは確かだ。

 

 

 そんな彼女は周りを一切気にすることはなく、すたすたと、たった一人の生徒のもとに歩いていく。

 

 そして一言二言言葉を交わすと、彼女は突如ヘルメットを外した。

 

 押し込められた髪が広がり、その素顔があらわになる。

 

 彼女は、ほんの一瞬外してすぐにヘルメットをかぶりなおす。

 

 その一瞬を偶然見た者が表現すればスレていない、素朴で人の好さそうな顔と表現していただろう。

 

 交渉相手の男子生徒はひどく驚きながらも、どうやらチームを組むことになったのか、なにやら話し合いをしながら移動している。

 

 何とか2人はチームを組めたらしい。だが異形型でもない2人では騎馬を作れない。

 

 まだまだ騎馬づくりに苦戦するだろう。

 

 

 

 そんな人々の予想はすぐにでも裏切られることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――HOMO's Side―――――――――

 

 

 

「雄英体育祭がんばってね桃子、はい、お弁当」

 

「気を付けてな、頑張るんだぞ」

 

「……うん、行ってきます」

 

 

 雄英に通っている時点で、両親は雄英体育祭のことは知っていたし、もちろん二人は仕事を休んで私を見に来るつもりであった。

 

 だがそれを全力で止めた。

 

 私がこれから何をするかを見て欲しくなかったからだ。

 

 直接見に来ることも、テレビで間接的に見ることも止めて欲しいと頼み込むが、それは逆効果で、両親は私が学校で何かあったのではないかとさらに余計な心配をさせてしまう。

 

 最近、両親は私をよく心配してくれる。

 

 雄英入学時当初は、まだそれでも私の自由にさせてくれたが、前回の雄英襲撃をきっかけにそれは完全に変わった。

 

 家から帰ってくると心配そうに学校のことを聞こうとする両親と、一切話さないどころか開き直って攻撃的な口調になる私。

 

 家の雰囲気は私のせいで酷いものだ。

 

 そんな中、私の学校の生活を知ろうと雄英に来るつもりの両親に、私は来ないでと筋の通らない話をするわけなのだから話は拗れた。

 

 

 どうして行っちゃいけないのかしら

 学校に何か嫌なことがあるのか

 私たちに見られるのが嫌なの

 何か理由があるなら心配せずに言ってみなさい

 

 

 私を見ないでください

 

 

 これ以上、言葉が思いつかない私はただ頭を下げてただひたすらに同じ言葉を繰り返す。

 

 

「わかった。ただよく聞いてくれ桃子、お父さんとお母さんはいつだってお前の味方だ」

 

「その代わり、当日は私の腕によりをかけた手作り弁当を持って行ってもらいますからね」

 

 

 そんなことをしていれば両親は悲しそうな顔で私を抱きしめながらも、最後は笑顔で雄英体育祭を見ないと約束してくれた。

 

 

 

「桃子、応援しているわよ!! 頑張って、でもケガだけには気を付けてね」

 

「緊張しそうなときは深呼吸だ。慌てずにいれば、きっと今までの努力を出すことができる」

 

 

 何の意味もない私でも、死んだら、この二人は悲しむから。

 

 この人たちの笑顔の分は生きねばならない。

 

 

 そのために、はやく、はやく、この時間を終わらせよう。

 

 

 

 

『友情は壊すもの。大乱闘くにお電鉄エアライドと化したヒロアカRTA Part9 はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はいやってきました雄英体育祭』

 

 

 今、私は選手控室にいる。

 

 

 皆好き勝手に過ごしているが、勝負の前だけあって、普段通りにふるまっているように見えて、皆がそれぞれの方法で気持ちを高めていた。

 

 

 目を閉じ精神統一を図る人、己の意気込みを語る人、雑談に興じて平静を保つ人。

 

 その中で、どうにも落ち着かない私は、手元にあるペイント付きのヘルメットに付いたマイクの位置を確認しながら平常心を保とうとした。

 

 

「緑谷」

 

 そろそろ入場の時間直前となった時、轟君が緑谷君に話しかける。

 

 もともと冷たい印象を受ける轟君だが、今日はそれに輪をかけて尖った雰囲気なので、気になった私はついそれを見てしまう。

 

 その普段とは違う様子に何かを感じたのか周りの皆も雑談を止めて二人を見た。

 

「轟君……、なに?」

 

「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」

 

「へ!? う、うん……」

 

「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別に詮索するつもりはねぇが……、お前には勝つぞ」

 

 

『目にかけて!目に!

 

 はい、この原作イベント、本来なら雄英襲撃で緑谷のワンフォーオールを間近に見た轟が、緑谷とオールマイトがデキてるんじゃないかと疑うことから引き起こされるのですが、ホモ子が緑谷の活躍を分捕ったので、会話の余波がこちらにも来ます。

 

 まぁ辻褄合わせのフレーバー程度に内容が変わるだけだから気にしないでください。

 

 まるで二周目でスキップするも、所々変わっている内容のせいで文章が止まるエロゲ―のようだぁ……』

 

 

 轟君の宣言に、周りのクラスメイトがにわかにざわめきだす。

 

 

「おぉ、クラス最強格が宣戦布告か!?」

 

「急にけんか腰でどうした!? 直前にやめろって……」

 

「仲良しごっこじゃねぇんだ、何言ったっていいだろ」

 

 

 轟君の目は剣呑な雰囲気で緑谷君を睨んだ。

 

 

 しかし仲良しごっこ、その意見には私も半分は同意する。

 

 仲良しごっこどころか、互いの個性を知り、対策も取られるだろう私たちは、最も厄介な敵同士だ。

 

 そんな相手に気を使う必要なんて微塵もなく、クラスの誰だろうが私の敵である事実は変わらない。

 

 

「それに本条、お前もだ」

 

 

 声の通り、轟君に絡まれる。

 

 その目は激しい怒りを持って私を刺すようにも見えるが、私でないもっと遠くの何かを見据えているようにも見えた。

 

 

「お前が強ぇのは認める。お前は俺の敵になる可能性がある。だからこそ俺は勝つぞ」

 

「轟君ってバカ? 自分以外が敵なのは当たり前じゃない」

 

 

 そうだ。ここに居る誰もが私より強い、ひとたび気を抜けば、勝利なんていとも簡単に私の手をすり抜けてしまうだろう。

 

 私は轟君の名指しをつまらなそうに装って横目で見ると、自分の手元に集中した。

 

 

「……眼中にねぇってか、その余裕、剥がしてやるよ。お前も緑谷もまとめて超えて俺がトップになってやる」

 

 私たちのやり取りで待合室は沈黙に包まれる。

 

「なんだこの空気? めっちゃ修羅場じゃん」

 

「……誰か収拾付けろよ」

 

 その雰囲気を全く悪い意味でぶち破ったのは、先ほどから青筋を浮かべながら笑顔を浮かべる爆豪君だ。

 

「あぁ……? 黙って聞いてりゃ、うるせぇな。言っておくが、テメェら仲良く全員俺の踏み台だ」

 

 

 私たちの会話を聞いていた爆豪君が喜色を我慢しきれないといったように歯をむき出す。

 

「案の定、バクゴーが行ったぁ!!」

 

「燃料と火種を兼ね備えた爆発さん太郎の参入で、もうこの場はどうにもならねぇ!?」

 

 

「すまんな。話で爆豪が抜けたのは、お前を無視したわけじゃねぇんだ」

 

「んだと……」

 

 悪気のない轟君の謝罪のような煽りに口論はヒートアップしていく。

 

「僕は」

 

 そんな中で、緑谷君が一人静かに呟く声が聞こえた。

 

 その声に強い意志を感じた私はついちらりと彼の方を向いてしまう。

 

 

「……轟君が何を思って僕に勝つって言ってるのかは、わかんないけど……、そりゃ客観的に見たら君の方が上で、僕は大半の人にはかなわない」

 

「あー、緑谷もそういうネガティブのは言わねぇ方が……」

 

「でも!」

 

 その一言で、その場の目線が緑谷君に集まる。

 

「みんな、他の科の人だってトップをねらってる……、僕だって後れを取るわけにはいかないんだ」

 

「僕も本気で獲りに行く!」

 

 いつの間にか口論を止めて緑谷君を見る二人はいつもは穏やかな彼が見せた気炎に驚いているようだ。

 

「……おぉ」

 

「……ッ」

 

 緑谷君の宣言に私自身気が引き締まる。

 

「……」

 

 勝利、何より大事なのは勝利だ。

 

 それもただの勝利じゃない、声は完膚なきまでの1位を宣言した。

 

 命令は絶対。

 

 クラスの誰だろうが私の邪魔になる人間は許さない。

 

 何を犠牲にしても私は勝つ。

 

 

 

 

 しばらくすれば時間になり私たちは薄暗い通路を抜け、光で見えない出口を抜けた。

 

 

 

 

 

「雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとしのぎを削る年に一度の大バトル!!!」

 

「どうせてめーらこいつら目当てだろ!!? 敵の襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星、ヒーロー科!! 1年!!! A組いぃぃぃ!!!!!」

 

 人々の注目が私に集まるのを感じた。テレビのカメラだって何台もある。それらを通していったい何人が私を見ているのだろうか。

 

 ヘルメットの中でじっとりと嫌な汗をかきながら私は歩く。

 

 

「選手宣誓!! 1-A ヒーロー科代表!!」

 

 

 私は早歩きで壇上に上がった。

 

 

『雄英体育祭の宣誓は人に譲ることもできますが、他人の好感度を上げる必要なんて一切ないので自分でちゃっちゃと宣誓を終わらせましょう』

 

 

 雄英体育祭の1年の選手宣誓は例年ヒーロー科入試の首席が行うことになっている。

 

 私自身、そのような役目はやりたくなかったが、声いわく、2番目に優秀な爆豪君に宣誓をさせると他科の生徒から狙われる確率が上がるらしい。

 

 もし爆豪君がここに立ったとしたら、一体どんな宣誓を彼はするつもりだったのだろう。

 

「えっ、なんであの子、ヘルメットつけてんの」

 

「ヒーロー科はコスチューム禁止のはずじゃ?」

 

「不公平じゃね?」

 

「おーっとこれはどういうことだ!? ちょっと確認するぜ!!!」

 

 ヘルメットをかぶっている理由は、声に操られた私を見せればそれこそ放送事故なこともあるが、何より、自分の身元がバレるのが恐ろしいからだ。

 

 多くの目に晒されるという危険、そんな中で面白がる幾人かの目に留まってしまい、それが大きな流れになれば、個人の力では何をしようと無駄だ。

 

 なので、私は雄英体育祭の前で必死に相澤先生を説得して、顔を隠すための物を身に着ける許可を勝ち取っていたのだ。

 

 もちろん公平を期すために、私の戦闘服のヘルメットに似たこれに防具としての性能はなく、ただのハリボテに変声機だけ付けたものだ。

 

「ウォホン! 確認の結果、彼女のコスチュームは被り物みたいなものでむしろ邪魔にしかならないから安心してくれ!! どうやら代表生徒はかなり用心深く、公の場で顔を晒したくないようだァ!? 最近の学生は情報リテラシーもかなり高いみたいだぞ!!!」

 

 ざわつく観衆の目から早く逃れたい、その一心で抑揚なく文章を読み上げた。

 

 

「宣誓」

 

 

「声も機械音だ! そこまで情報の流出を抑えるかァ!? この用心深さが敵の襲撃を乗り越えた者の危機管理能力なのか!!」

 

「我々選手一同はヒーロー精神にのっとり、正々堂々と戦い抜くことを誓います」

 

「見た目の奇抜さに比べて、宣誓の内容はいたって普通だァ!!!!」

 

 

『ホモ子が何故かヒーロースーツの頭部パーツを付けてますね。

 

 実はこれはありがちなテクスチャバグで、雄英体育祭で稀によくなります。

 

 直前に装備した頭部装備が反映されますが、見た目だけなので性能は反映されません。

 

 クソ(バグ)だよクソ(バグ)、ハハハ!』

 

 

 まばらな拍手でも、この場にいる大勢がすればそれなりの音量となり、場の興奮は続く。

 

 

「さーてそれじゃあ、早速第一種目行きましょう。いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!! さて運命の第一種目!! 今年は……障害物競争!! 」

 

 

『雄英体育祭第一種目はマリカー(障害物競走)です。ここで上位を取ることはそう難しくありません。

 

 かなり育った強化型なら普通にプレイして5位圏内は固いです。

 

 スタート位置はいつものランダムですが私はアイテム使用チャートで走るので、後ろ側の方が走りやすいですね。

 

 先頭の場合はそのままスタートダッシュを決められますが、全員好き勝手動きますので事故に気を付けましょう。

 

 真ん中スタートの場合は事故に気を付けて一度後ろに下がるか、それとも先頭に食いつくかはお好みで、まぁこの種目は結構簡単に1位を取れます』

 

 

「我が校は自由さが売り文句! ウフフ、コースさえ守れれば何をしたってかまわないわ! さぁ位置につきまくりなさい」

 

 

『ん?今何でもするって言ったよね?』

 

 

 声の支配はスタートと同時にくるだろう。

 

 自分が何かとつながる感覚、それが以前よりはっきりと知覚できるように成長している。

 

 私はスタートラインに詰めかける生徒たちの流れに逆らって少し後ろの一団と並ぶ。

 

 

 ここに居るのはやる気のない普通科の生徒や、企業アピールのために道具を整備するサポート科であった。

 

 敵になるだろう先頭集団は後ろから見ればその真剣さがよくわかる。

 

 

 その広く高い背中を見つめながら、彼らを追い越して私は勝たないといけないと自分を奮い立たせた。

 

 

 緊張はいつものことだ。

 

 吹き上がる汗と連続する拍動を無理やり押さえつけて自然体を心がける。

 

 

 大丈夫。落ち着いて。

 

 

 ここにきて一時、歓声が止む、前を見れば、皆は張りつめながら体を構えていた。

 

 

 気にしちゃいけない、私は私の戦いをする必要がある。

 

 目をつむりながら深呼吸を一つ。

 

 ヘルメットにこもった熱と湿度を吸い込みながら、さらに熱い吐息を吐き出すと私は目を開けた。

 

 

 このためにわざわざ作られただろうスタートシグナルが点滅を三回繰り返す。

 

 

 私の頭の真ん中を通る細い何かを伝って、私の体の所有権が切り替わる。

 

 

「スタート!!!!!!!!」

 

 

 私は姿勢を低く、飛び出した。

 

 

 

 なぜか後ろに

 

 

 

『はい、では初めに素早くアイテムボックスを回収しましょう

 

 アイテムを制するものがマリカーを制するんだよ!!』

 

 

 私は低い姿勢のまま自分の作ったサポートアイテムを身に着けているサポート科の人たちを殴りつける。

 

 

「ひっ!? や、止め」

 

「それは私の作った大切なアイテムなの!!! 盗らなっ、ウギッ……」

 

「おまえそれでもヒーロー……、おごっ……」

 

「ボ、ボクの作った努力の結晶……」

 

 

 自分よりアイテムを守る人、私に許しを請う人、身に着けたアイテムで抵抗する人、その全員を私は凌辱した。

 

 

『他人が苦労の末、手に入れた宝ってのはまた……、格別の味がするもんだ(安定という名のチキンプレイ)

 

 ………人がおれを何て呼ぶか教えてやろうか

 

 "ハイエナ"だ ハハッハハ!!!(唐突なBRM)』

 

 

 彼らサポート科にとってこの雄英体育祭とは自身を企業へと売りつける重要な場だ。

 

 その事実を直視しながら私はすべてを切り捨てる。

 

 

『アイテムは1つのみ使用可能です。

 

 なので目当てのアイテムが引けるまで回します。確率はここに居る全員を倒して確定で1つ落とします。

 

 いらないのが出たら捨ててすぐに次のアイテムボックスを引きましょう。

 

 オラァン はやく目的のアイテムおとせや!! それも一つや二つではない……! 全部だ!!!』

 

 

「あぁ……、チャージショット改四が……」

 

「私の跳人(ホッパー)ブーツVer1.43……」

 

「俺の電刃装甲“叢雲”をよくも……」

 

 

 その自身の価値を詰め込んだアイテムを取ったかと思えば地面に叩き付けて破壊していく私。

 

 その行動を流れ作業のように繰り返す。

 

 

『ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴミ、ゴ……あっ間違え……、あっ、出ましたジェットパック

 

 ………………このアイテム、連続で二つ出るの初めて見ました(ボソッ)

 

 さぁ! 妨害系は良いのが出ませんでしたが、ここでとれる移動系のアイテムの最上位がきたのでここで切り上げて進みましょう。

 

 リセマラが早く済んだので、今からなら余裕で間に合います』

 

 

 許しを願うことすら傲慢だ。

 

 

 彼らの夢を砕いた私は地獄に落ちるべきだが、それでも私は終わらせなければいけない。

 

 全てが終わった時、その時彼らが私に罰を望むなら、その時、私に出来ることはなんだってしよう。

 

 

 声がアイテムの選別を行うとすぐに翻ってドームの出口に向かう、人数に対して明らかに狭い出口は人が殺到していただろう。

 

 だが、遅れに遅れた今となっては人はおらず、貸し切り状態だ。

 

 背中の機械をまるで知っていたかのようにいじりだす私の手、ジェットの点火音が後ろから聞こえる。

 

 

 徐々に押されていく私は出口に向かって走り出した。

 

 

 ようやく外に出れば人は遠くに見え、そこから見えるのは小さな人に対しての縮尺が狂ったかのような巨大ロボ。

 

 いつかの受験会場で見た大小さまざまなロボが、歩く隙間もなくひしめいているのが見て取れた。

 

 状況を見るにどうやら今は協力して何とか道を切り開こうと協力している様子がうかがえる。なら私も早く手伝って道を切り開かなければ。

 

 そう考えた時、身に着けたバックパック型のアイテムから背中越しにさらなる熱を感じる。

 

 低く唸るような音が、いつの間にか耳をつんざくような高音になる頃には、先ほどの比ではない力に押される。

 

 私は足は必死に動かすが、それでもまだまだ加速し続ける。

 

 

 これ以上は危険だ。

 

 

 その推進になんとか並走しながら走る私の足は、今にもつれて転倒してしまいそうだ。

 

 こんな速度で転んでしまったらただでは済まないのでは?

 

 そんな恐怖を感じている瞬間もお構いなしに加速は続いていく。

 

 

『「RTA」ってゅぅのゎ。。

 

 逆から読むと「ATR」。。

 

 FXにぉけりゅ銘柄の平均的な1日の値動きぃのことぉ。。

 

 もぅマヂ意味不明。。

 

 ぁり金、溶かしょ。。』

 

 

 

 ロボと戦っている場所に近づいていくと、遠くからロボが破壊されてマッチの先にも満たない小さな破片が飛んでくる。

 

 おそらく八百万さんの個性と思われる砲弾で倒した巨大ロボの破片だろう。

 

 加速した私と向かってくる破片はその速度が合わさって私の腹の一点に突き刺さり、貫通した。

 

 その小さな欠片の衝撃で体勢を崩しかけるが、上半身でうまく衝撃を逃がすと何とか持ちこたえる。

 

 転べばもはや大けがでは済むまいと私は確信した。

 

 あれだけ遠くにあったロボたちがもうこんなにも近く、目の前には巨大ロボが壁のように立ちはだかっているというのに進路を変える様子はない。

 

 まだまだ上がっていく背中の推進、私の足の限界、目の前に迫る壁。

 

 

 私の死を強く予感させた。

 

 

『ぁ、攻撃かすった。。

 

 屑運にぃぢめられた。。

 

 しょせんゥチゎィきてるぃみなぃってこと?

 

 もぅマヂガバ。

 

 今アイテムの電源ぃれた。

 

 マリカしょ・・・

 

 

 ブォォォォォォォォォンwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwイイィィィイイヤッヒィィィィイイイwwwwwwwwwwwwwwwwwww』

 

 

 

 突然、私はかかとだけを前に滑らせる。

 

 後ろにひっくり返って転ぶように身を投げ出すが、頭を打つことはなく、膨大な前方へ向かう推進力を上方に逃して、私が空に射出される。

 

 強烈な圧迫感の中で、安定した形をとるために私の脳は体の傾きと推進を細かく演算し続けた。

 

 無様にバタバタと手足を動かす私だが、それは手足をミサイルの操舵翼のように細かく操作しているためだ。

 

 

『やっぱジェットはうめぇな(ダミ声)

 

 星の戦士DXのRTAでも使われているぐらい強力な能力ですからね。

 

 おっと、ちょうどいいところに、美形あしゅら男爵がいるので踏み台にしましょう』

 

 

「なっ、なんて奴だぁー!!!! 先ほど正々堂々と言ったその舌の根の乾かぬ内に行われた極悪非道行為!!!! サポート科から分捕ったアイテムを完璧に使いこなして一気に一位に躍り出た!!!!」 

 

 

 私は体をくるりと一回転させてブレーキをかけながら先頭を走っていた轟君を踏みつける。

 

 私は彼の肩をけって、さらに飛び上がって着陸すると、後ろを見ずにそのまま駆け出した。

 

 

『ここでお洒落キカイダーを叩けたのはうれしいですね。後ろから赤こうらや青こうら並みの糞攻撃を飛ばしてくる前に距離を離しましょう』

 

 

「これが期待の超新星1-Aの首席の実力なのかっ!!! 自分自身の目的を達成するためには、手段を選ばない!!! まさに雄英新鋭のダークヒーローだぁ!!!!!」

 

 

『それでは一位になった後の作戦は単純です。

 

 圧倒的な差でぶっちぎりましょう

 

 下位は下位同士で足の引っ張り合いをしてもらって、トップで独走するのが早いってそれ一番言われているから(マリカー理論)』

 

 

 

 私が本気で走れば、おそらく追いつけるのは知っている限り飯田君だけだろう。しかしそれも平面な地面であればと限定できる。

 

 障害物込ならどう考えたって私の方が速い。

 

 二つ目の障害である断崖絶壁に浮かんだ足場、そしてそこに張り巡らせたロープ。

 

 普段の自分なら、最短でも足場間の跳躍を6回、ロープ渡りを3回する必要があったその場所をたった一度の飛行で飛び越す。

 

 

『ここで後続が近いようならロープを切って妨害してもいいですが、ここまで離していればロスなので無視します。

 

 ジェットパックのエネルギー残量はマックスチャージで3回ちょうど使えるので残りは地雷原で使えばぴったりですね』

 

 

 3度目の跳躍を行う、それにより行われた一つのミスも許されない繊細な体の操舵の中で、私の体は声の予想を裏切り、突然その安定性を失った。

 

 その原因はジェットの出力だ。まるで切れの悪いコンロのようにとぎれとぎれに火を噴きだせば私の体はすぐさま重力につかまる。

 

 

『なに!? メインブースターがイカれただと!狙ったか八百万!よりによって空中で……クッ、ダメだ、飛べん!(水没王子)

 

 あー、なんか攻撃がかすったせいでぴったり3回分のエネルギーを貯めきれなかったみたいですね。

 

 このまま地雷原に着陸します』

 

 

 その一言でロボの小さな破片が私の体を突き抜けたことを思い出す。もしやあの時どこかにあたっていたのでは。

 

 そんな考えは自由落下によって打ち切られる。

 

 尻切れトンボとなった最後のジェットの推進力を着地に回す。だがそのすべての衝撃は抑えきれず私の足にかかってしまう。

 

 声の動かす私は体をひねり、折りたたむように着地するとすぐさま立ち上がって駆け出した。

 

 

『はいはい、最後にガバる、そんな定めです。

 

 地雷の位置は固定なので、RTA走者なら目をつぶっても駆け抜けられます。

 

 ここの梁をダッシュで駆け抜けられない走者はRTAをやめてください(ダクソ芸人感)

 

 もちろん私も駆け抜けられますが、今回はホモ子の個性を使用して地雷を可視化しています。

 

 えっ? 何で見る必要なんかあるんですか(正論)ですって?

 

 ……しっていますか? 獅子はウサギを狩る時も、おっぶぇ!?』

 

 

 何故か地雷を踏みかけ、その瞬間大きく踏み込んで飛び上がる、爆風を背に受け加速した私は地雷原を抜けた。

 

 

『オ゛ッ♥ ヤッベ♥ 見てたのに踏みかけたっ♥ あ゛~っ♥ やっべ引退する♥ んほおぉ~♥ これ引退確定ッ♥ とぶっ♥』 

 

 

 

 そこまで来ればもうゴールはすぐそこだった。

 

 

 

「圧倒的!! 冷徹なまでに手段を選ばない!! あまりにもヒーローらしからぬ無慈悲な策略!!! しかしながらその相手を寄せ付けない後ろ姿には一本の信念が見える!!!!」

 

 

 過剰な煽りに会場は歓声に包まれる。

 

 私のした行いでどうしてあんなに盛り上がれるかは理解できない……というよりはわかりたくない。

 

 

「人気取り? 評判? 他者の評価? そんなもので私は左右されない!! 鉄の女!!!! 名と顔すら捨てた彼女は一体何者だぁ!!!!!」

 

 

 私はいつも周りに怯えているし、名前は捨てたわけではなく、ただ人の目に映りたくないだけだ。

 

 私はしばらく人の目に晒され続けるのをひたすらに我慢した。

 

 

「おい……」

 

 

 ふと気づくと後ろに頬をケガした男の子がいた。

 

 忘れもしない、私が襲ったサポート科の人だ。

 

「よくも、俺たちの体育祭を……、絶対に許さない……」

 

 

 正当な怒りだ。

 

 

 彼には私をどうにでもするだけの理由と権利がある。

 

 黙りこくった私に彼はさらに詰め寄る。

 

 

「他人を犠牲にして……、それで一位を取って……、てめぇ! それでもヒーロー志望かよ!!」

 

 

 私には言い訳も謝罪もする権利はない。

 

 

「恨んでいい、むしろ恨んでいてください、いつか私は報いを受けます」

 

「なんだよ、それ……、おい!!」

 

 

 私は背中を向けて移動を始める。

 

 時間がない、予選を通過する人たちの様子をみなければ、なぜなら次の敵は彼らだからだ。

 

 次々に生徒たちがゴールしていく。

 

 やはり予選通過43名は下馬評通りヒーロー科が多い、……それ以外ではサポート科が1人、普通科の生徒が一人だけだった。

 

 完走したみんなは、障害物競争の結果を聞いて何かを言い合っている。

 

 A組はそうでもないけど、B組には露骨に私を見て顔をしかめる人がいた。

 

 

 

 

 

「次はいよいよ本選、さーて、第二種目はこれ!!」

 

 

 

 そこには大きく“騎馬戦”の文字が示される。

 

 

 スクリーンに映る文字を見ながら、競技の内容はある程度の予想を超えていないことを私は確信する。

 

 毎年開催されている競技の傾向から、他者との協働の要素が近年の競技によくみられることは分っていた。

 

 1種目目はふるいに掛け、3種目目は個人による戦いが多いため、必然的に2種目目に協調性を見る種目が設定される場合が多い。

 

 この2種目目に協調を問われるパターンでは、前々年のチーム対抗棒倒し、4年前の球入れに見られるようにチームの編成も生徒主導で行われる可能性が高いだろう。

 

 私の人物評は下の下だが、それでも強い奴と組みたいという考えの人もいるなら仲間集めもこちらが優位に立てる。

 

 

「参加者は2~4人のチームを自由に組んで騎馬を作ってもらうわ! 先ほどの結果ごとにポイントが割り振られ騎馬のポイントが違ってくるの!!」

 

 

 よし、やっぱり、これで比較的ポイントが高く強い個性を持つ人と組めば1位に近づける。

 

 いくら雄英と言えどもそう毎年同じことをしていればどうしても型にはまってしまうのだろう……

 

 

 

 

「ちなみに1位に与えられるPは1000万よ」

 

 

 

 ………ぷるすうるとら

 

 

「つまりは上位の奴ほど狙われちゃう下剋上サバイバルよ!!!」

 

 

 落ち着け……、これはそう悪い話じゃない、つまりは自分の点数さえ保持すればそれだけで1位だ……

 

 

『はい来ましたRTAによる全種目1位通過を阻止するクソ種目です。

 

 以前から全種目1位通過は難しいと話していましたがすべての原因はこいつです。

 

 説明しましょう。

 

 この第2種目“騎馬戦”の流れはまず、チームを編成、他者からチームに誘われたり、自分から動いて指名していくことになります。

 

 選択はドラフト制で、一回それぞれ交渉していくうちにどんどん他のチームが出来上がっていきますので有能な味方は第一巡で素早く確実にとる必要があります。

 

 一応は既に決まったチームの相手を引き抜こうとすることもできますが、その場合は基本的に成功率はほぼゼロです。

 

 交渉相手は自身のポイント・好感度によってチームに入ってくれるかが決まります。

 

 基本的には高得点は勧誘に有利に働きますが1位の1000万ポイントの場合、勧誘率は一部のキャラを除き減少します』

 

 

 私は声の淡々とした説明を聞きながら今の状況と照らし合わせてその先行きを理解した時、絶望しかける。

 

 

『みなさん、ここらへんで察してくれましたか?

 

 通常プレイなら、意図的に好感度を上げておいた仲間を使って戦うのがセオリーです。

 

 好感度……、RTA……、あっふーん(察死)』

 

 

 つまり、今、私の半径3メートルに誰も人がいないことが答えである。

 

 

『RTAにおいてこの騎馬戦のチーム決め、もしも1種目目で1位を取った場合に起きる現象は、教師による「はい二人組つくってー」以上の地獄です。

 

 誰も組んでくれずに適当に吸収されたチームでプレイしなければならず、吸収されたため主体的に動けず3種目目にいけるかは完全に運、純粋に1位を目指す場合は1000万点の鉢巻が狙われ続けるため、そもそもが高難易度です。

 

 解決策というか次善策は障害物競争でわざと順位を落として、2種目目で高ポイントを盾に良い仲間を取って優位を取り、1位は取れたらぐらいの気持ちで安定に徹する方法が現在一番早いと言われています』

 

 

 だがその時、声の操作で私の足が無遠慮に人を突っ切りながらたった一つの方向に向かって歩き出す。

 

 

『ここでは全種目1位に対して、様々な解決策やルートが考察されてきました。ですが今回私はあえてオリチャーを引っ提げてここにきているわけです』

 

 

 その人物はぎょっとした様子でこちらを向くと、普通の人なら睨みつけていると勘違いするような目を向けてきた。

 

 

「私の仲間になってください」

 

「はっ……?」

 

 何の脈絡もなく右手を相手の胸に伸ばす。

 

 口から垂れ流す無感情な言葉は変声機を通して少しはまともな音として目の前の彼に投げかけられる。

 

 まるで勧誘の意味を成さなかった言葉を言い終わった後、仕事はしたといった風に体から声の支配が離れた。

 

 

 残されたのは私と、私の言葉をゆっくりとかみ砕きながら不審気に目を細める彼。

 

 勿論こんなものでは説得にはならない、私は続けて言葉を言いなおす。

 

 

「あなたが勝利を望むなら、私はただその一点だけなら与えられるよ」

 

「勝利ねぇ、そりゃ願ってもない、……だが俺を選ぶ理由が分からないな」

 

 

 私は目の前の彼を誘いながらも、心のどこかで断った方が彼のためだと気付いていた。

 

 彼は私に関わらずただ自身の力で未来を切り開ける、それだけの力がある。

 

 だから彼が私の手を握る必要はない。

 

 おそらく声は勝利を与えてくれるだろう。逆にそれは悪魔の契約めいて、勝利以外の全てを失うことになるのではないかと、私はそう予感した。

 

 

「あなたとあなたの強い個性が必要」

 

「俺の個性ね……、わざわざ俺を誘うってことは知ってるのか、そんな良い個性を持っているのによく足元まで目が届くな」

 

「……どう?」

 

「1000万点なんて目立ち過ぎて無理だ。俺は俺でやらしてもらうよ」

 

 

 彼は正しい選択をした。

 

 その背中を見逃すべきだ。

 

 だけど私は勝手に彼に縋った。

 

 

「待って、お願い、仲間になって」

 

 

 もし彼が仲間にならなかったら私は勝てない、命令をこなせない、また不幸が起きる。

 

 そしたら、今までの犠牲もみんな無駄になる。 

 

 それはいやだ、やだやだやだやだやだ

 

 

 

 私は既にその場から去ろうとする彼の腕を後ろから引いた。

 

 

 

「なんで俺にこだわるのか分からないが、悪いが他を……」

 

 

 

 その時。

 

 私が思いつく彼を引き留めるために思い浮かんだ唯一の文句で、おそらく私が人生で発した言葉の中で最も最低な言葉を吐いた。

 

 

 

「……だって、友達じゃない」

 

「なっ……!?」

 

 

 

『つまりこういうことです。心操に洗脳で勧誘してもらってドリームチームを作ろうぜ!!』

 

 

 ヘルメットを脱ぎ捨て、媚びた目で彼を見た時。

 

 私は友情が崩れ始める音が聞こえた気がした。

 

 

 

 




はえ~、ホモ子と心操のコンビ

これは友情が深まるんやろなぁ~


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9話 中編(1/2)

 

 

『つまりこういうことです。心操に洗脳で勧誘してもらってドリームチームを作ろうぜ!!』

 

 

 私の顔を見て驚いた様子だった心操君は私の目を見てすぐに真顔に戻った。

 

 

「……とりあえずこっち来い」

 

 

 そう一言話して背中を見せる彼に連れられながら、私はヘルメットを被り直してチーム作りの集団の輪から離れる。

 

 一息ついて心操君が振り返ると私に語り掛けた。

 

「お前、ヒーロー科だったんだな」

 

「……うん」

 

「なんだよその声」

 

「ごめん、変声機使ってて……、切るね」

 

 彼の顔は険しい、当然だ。

 

 ヒーロー科を羨む彼の前で、そのヒーロー科の人である自分を隠していた。

 

 そしておまけに第1種目目の振る舞い。

 

 多くの人に軽蔑されただろう作戦は、彼の目にどう映ったのか。

 

 

 無言でこちらを見る心操君の目を、ヘルメット越しでも直視できなかった。

 

 

 

「はぁ、お前今酷い顔してんだろ」

 

 

 しばらく無言で向かい合うと不意に心操君がため息を一つつき、ひょいと私のヘルメットを両手で挟み込んで持ち上げる。

 

「あっ」

 

「やっぱりな、こっからが本番っていうのに勘弁してくれ」

 

 心操君に軽蔑されると思っていた私は、ニヤリと口角を吊り上げる彼に面食らう。

 

「え……、あ……」

 

「おいおい、俺に勝利をくれんだろ?」

 

「……その」

 

「組むんだろ? なのに誘ったお前が何驚いてんだよ」

 

 その一言を聞いた時、私の頭は真っ白になる。

 

「なんで……」

 

 そんな言葉が浮かんで口につく、心操君と組むために声をかけたのは私なのにおかしな話だ。

 

「一つ、普通科の俺とまともに組んでくれる奴なんて居ない。二つ、いちいち命令しないと動かない騎馬よりは自分で考える奴の方が動きがいい。三つ、俺の個性を知っている奴と連携がとりやすい。お前と組むメリットの方が多かった、それだけだ」

 

「……私かなり評判悪いよ」

 

「悪名だって誰にも見られないよりましさ。俺だって、他人を操り、足蹴にしてここまで来た。なりふり構ってなかったのは同じだからな」

 

 ろくに言葉をしゃべれない、うつむく私に彼は大きく一度咳ばらいをする。

 

「で、これからどうする。俺は目立たないやつを洗脳して騎馬を作ろうかとも思ったんだが、作戦はあるのかよ」

 

 

 当然のように同盟を受け入れてくれる心操君に私は泣きそうになった。

 

 

『はい! ではこれからこの騎馬戦における本チャートの攻略法をお伝えしましょう』

 

 

「……心操君、私にほんの少しだけ時間を頂戴」

 

 

『はいそれでは雄英体育祭第二種目騎馬戦の攻略法をお伝えします

 

 本来なら目当ての学生の好感度を事前に上げておき、この種目で狙い撃ちにして攻略するのが通常プレイですね

 

 おおよそ好感度が5以上あれば確実に取れますし、他のチームに引き抜かれても奪い取れる可能性があります

 

 通常RTAでここは1種目目をあえて落として仲間づくりに専念すると伝えたと思いますが、今回は変則オリチャーで標的を心操に定め、彼の個性で仲間を作って行くことが可能です。

 

 よっしゃ! ならドリームチームは爆豪、轟、緑谷の主人公組から適当に選ぶんや!!

 

 とりあえず強いやつ入れとけば勝てるやろ!

 

 ……とはならないのが面白いところなんですよね

 

 私も周回プレイで無理やり好感度を上げて一度やってみましたが、この3人、勝てるは勝てるんですが個性が強すぎてまとまりがなかったです

 

 この騎馬戦、個々が強くても個性がかみ合わなければそんなもんです。

 

 この騎馬戦の攻略法とは強い個性の仲間で固めることではなく、相乗効果のあるキャラ同士を組み合わせることなんですよね。

 

 どんどんとチームが作られ、限られていく選択肢の中で、どの組み合わせが強いか、しっかりと覚えておいてそれを臨機応変に組み立てていくのが一番重要です。

 

 原作の障子の副腕に覆われた峰田と蛙吹、上鳴と八百万の放電と絶縁、このように例を挙げればわかり易いですかね

 

 勿論、原作外でもこのようなコンボは無数にあります。

 

 砂糖、凡戸、障子の鉄壁脳筋重戦車、圧倒的耐久力と高所から繰り出す一方的な簒奪ができます。これは自分で脳死プレイしていて一番楽しいです。

 

 泡瀬や凡戸による鉢巻を首に固定し、奪取攻撃を無効化する小技、これは5回鉢巻を狙われると審判から解除するよう警告があるので実質、攻撃無効の5枚積み。

 

 とりあえず攻撃で勝ちたいなら、常闇と黒色の暗黒コンボはダークシャドウに黒色を潜ませて適当にラジコンすれば勝てるのでお勧めです。

 

 逃げ切り型でおすすめは物間に麗日の個性をコピーさせ、互いと仲間を浮かせて、機動力に優れた飯田あたりなどを適当に見繕って戦う超絶高機動騎馬ですね。

 

 では今回はどの騎馬を選ぶと言いますと……』

 

 

 私は声の指示した名前をそのまま心操くんに伝えた。

 

「仲間にしたい人たちなんだけど、あの人とあの人、彼らがどうしても必要なの」

 

「あいつらか? もっと体格のいい奴の方が……」

 

「あの人たちがいい、ううん、あの人たちじゃなきゃダメなの」

 

「……分かった。なにか考えがあるみたいだな」

 

 

 心操君が声の指示通りに目当ての二人を連れてくる。

 

 連れてきた彼らの個性を解説しながら、自分の知る限りの情報を心操君と共有する。

 

 

「改めてよろしく心操君、私の個性は“成長”。あらゆる身体機能に対する増強系って考えてくれれば間違いはないよ」

 

「ぶっ飛んだ強個性だな。俺の個性は……ってもう知ってるか」

 

「ごめん」

 

「だから謝るなって、それより作戦はどうするんだ」

 

「それなんだけど……」

 

 

 周りに聞かれないよう、心操君にこっそりと情報を耳打ちしながら、私は少しでも勝率を上げるために情報の共有をしながら対策を練った。

 

 途中、声に支配されるだろう自分に困惑しないよう、多くの作戦は語らずにその都度自分が指示させて欲しいと、どう考えても理不尽な提案をするが、心操君は私の言葉に耳を傾けながらも何も言わずにいてくれた。

 

 

「……あぁ、勝つぞ本条」

 

 

 私が最後につい口から出た弱音にも、彼はそう答えてくれた。

 

 

 

『一見、余りものを適当にぶち込んだクソチームに見えますね

 

 ア便ジャーズと名付けましょう

 

 しかし、これこそ私の見つけたオリジナルの組み合わせです。その完璧な戦略、見たけりゃ、見せてやるよ』

 

 

 騎馬を組んで、深呼吸をする。

 

 

「よォーし、組み終わったな!!? 準備がいいかなんて聞かねぇぞ!!」

 

 

 あの感覚が来る。

 

 

「血で血を洗う雄英の合戦が今! のろしを上げる!!」

 

 

 脳の真ん中から何かが飛び出て、その先端がここではないどこかに繋がる。

 

 

「行くぜ残虐バトルロワイヤル!!」

 

 

 その線の太さは、私が操られていくたびに徐々に太くなっていく。

 

 

「よーい スタート!!!!」

 

『はーい、よーいスタート(棒読み)』

 

 

 その正体不明の存在のおぼろげな輪郭に指をかすめた時、私は線を伝ってくる大量の何かに飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雄英高校騎馬戦、その始まりは予想通り、一つの場所へ多くの騎馬が駆け寄った。

 

 ヒーロー科という上昇志向の多い者たちにとってこの戦い、ソレの奪い合いになることは当然だった。

 

 

 1000万ポイントの鉢巻き

 

 

 それに向かって全力で向かう彼らの目には目的の騎馬は少し奇妙に見えた。

 

 体格の合わない騎馬は傾いているというのにその上に力を抜いて直立する少女、その姿は見たものに錯視じみた違和感を感じさせる。

 

 自信か傲慢か、もう間もなく会敵するというのに動き出しもしない彼女に、周りの者はさらに警戒を強めた。

 

 

 そして、あと5秒もあれば腕の範囲内という時、彼女はようやく動き出す。

 

 

 素早く鉢巻きをほどき、丸めると上半身の力だけで鉢巻きを投擲した。

 

 集まった騎馬たちの頭上を大きく越えたそれは、空中でほどけるとひらひらと地面に落ちていく。 

 

 

「これはなんてことだ! 一位がその鉢巻きを自ら手放した!! いったんポイントを捨てて身軽になる作戦か!! しかしこれはかなりリスキーだぞ!!」

 

 

 戦いの場は彼女が投げた鉢巻きの奪い合いとなる。

 

 

 落ちる間にその鉢巻きをつかみ取ろうと個性で空をかける爆豪、それに先んじて鉢巻きを握りしめる緑谷。

 

 すぐに戦いの場は1000万ポイントの落ちた所へと移る。

 

 そうなってしまえば、0ポイントの騎馬に目を向けるものなどすぐに誰もいなくなった。

 

 その騎馬も積極的にポイントを取りに行くわけでもなく、中途半端な距離でうろうろと戦いの場の端にいるだけだ。

 

 そんな腑抜けた動きをする騎馬にもはや注目など集まらない。

 

 

 今観客の目は1000万ポイントを保持する緑谷チームとそれに猛追するA組の面々、1種目目を敵の観察に回し、堅実にポイントを狙っていくB組のチーム達。 

 

 そんな目まぐるしく変わる展開に観客らは熱中する。

 

 

 生徒達の気迫は凄まじく、生徒たちから湯気のようなものが立ち上り、蹴り上げた砂埃がそこらかしこで浮かび上がった。

 

 

 

 

「アハハハ、所詮A組なんてちょっと目立っただけで、実力は全然だね!」

 

「そうよ! 物間!! もっと言ってやりなさいよ!」

 

 

「おいバクゴー何やられてんだよ!! しっかりしろよ!!!」

 

「殺す……、殺す殺す殺す殺す殺すコロスゥ!!!!」

 

 

「いい作戦だと思ってあなたでも組んだのにどうしてくれるの」

 

「失望したぞ峰田」

 

「うるせぇ! お前らだっていつ鉢巻きがとられたか気づかなかっただろ!!」

 

 

「いい加減に決めるぞ、……クソ親父が見てるからよォ……、あぁくそあの野郎……、よく見やがれ、テメェを……」

 

「何をしているんだ轟君! 勝負に集中したまえ!!」

 

 

「僕だってただ負けるわけには!!」

 

 

 生徒たちの動きはどんどん激しくなっていく、守りでなく攻撃へ、その苛烈なせめぎあいをみて観客たちの興奮のボルテージはさらに上がっていく。

 

 信じられないことに生徒たちのむせかえるような熱気で上空で雲ができるほどだ。

 

 

「すげぇ戦いと熱気だ!! 全員が派手に個性をぶつけ合って息をつく間もねぇ!! 」

 

 

 

 そんな歓声に包まれながら、生徒の幾人かは心のどこかで違和感を感じていた。

 

 それは己こそが走り気味な爆豪のストッパーとしてうまく立ち回らなければと考えていたのに、失点時に爆豪を責めてしまったことに驚く切島。

 

 A組を敵視するあまり視野が狭くなりがちな物間を注意する自分が、なぜか同じようにA組を煽っていることに気付いた拳藤。

 

 死力を振り絞って戦っている者たちに対して、自分が1位になることを阻む憎たらしい敵だと、普段の自分なら思いもしない感情が浮かんでいることを不審に感じる緑谷。

 

 他にも何人かはこの状況に違和感を覚えていた。

 

 だがそれだけだ、息をつく間も与えない攻防が行われている今この場で、そんなことを考える余裕はすぐに失われていた。

 

 

 戦いの勢いは留まることはなく、際限なく加速する。

 

 試合も終盤となれば全ての生徒たちが空になった残りの気力を振り絞り、攻勢を仕掛け合った。

 

 

 観客たちは手に汗握ってその戦いを見守る。

 

 

 そして観客たちはその戦いの中、どうしても、ちらちらと映る騎馬の一つが目の端から離れない。

 

 

 その騎馬は目立っていた。

 

 それは華麗な動きをしているなどでは決してない。

 

 

 素晴らしく動きのそろった激しいダンスの中で、たった一人、酔っ払いが千鳥足で交じっているような不快な光景といえばいいのだろうか。

 

 この激しい動きをし続ける戦場で、ただただ緩慢に動く騎馬は遠くで見れば嫌でも目につく。

 

 場違い、この場における不協和音、観客の興奮に水を差す邪魔者。

 

 

 そんな騎馬の上に立つ少女が初めて動き出したとき、観客の視線は一瞬だけ、ほんの1秒に満たない間だけ、素晴らしい戦いを繰り広げる者たちではなく、少女に集まった。

 

 

 驚くことに彼女は騎馬から、まるで階段をくだる気軽さで降りようとしているのだ。

 

 

 やる気がないにしてもこれはひどすぎる。

 

 

 そうした非難と不快感からくる視線を集めながら騎馬から飛び降りた彼女の足は地面に……

 

 

 

 

 つかなかった。

 

 

 

 すぐに目線を切ろうとした観衆は、目をこすってもう一度彼女を見た。

 

 

 彼女の足はなぜか地面につかず、空中で何かを踏んでいた。

 

 

 それはいったい何なのか。

 

 

 それを無理やり表現するなら雲、あるいは煙と言い表せたかもしれない。

 

 

 だがそれが煙や雲だとして、プカプカと浮かぶそれらに人間を支えることなどできるはずもない。

 

 

 だというのに彼女はそれを足場にして、たまたますれ違った敵の騎馬に近づいた。

 

 

「さぁ勝負も終盤……って、なっ!? 何だあれは!? いままで沈黙を保っていた仮面の女!! それが妙なものに乗って、浮かんでいる!! なにが起きているんだぁ!! 」

 

 

 今まで全くのノーマークだった騎馬、いや、正確にはその存在を忘れさせられていた騎馬に、会場の目が集まる。

 

 彼女が踏んでいる何か、それは奇妙な何かとしか言い表せられないが、決して脈絡なく現れたものではない。

 

 生徒の激しい動きのせいで立ち上ったままの土埃であったり、戦う彼らから闘気のように吹き上がる煙、その熱気に充てられたかのよう上方で浮かぶ霧である。

 

 

「なんと仮面の女は雲に乗って移動している!! おとぎ話やメルヘンじゃぁねーんだぞ!!」

 

 

 いやしかし、よく考えればおかしい。

 

 

 砂埃? 確かに見栄えがいいが、なぜあの土埃はあんなにも派手に生徒の動きにあわせて舞い上がるのか。

 

 空に浮かぶ霧? 人が集まり条件が合えば雲状のものが浮かぶ時もあるだろう、だがそれは、こんな開けた野外でおきる現象だっただろうか。

 

 体から煙? 気炎のように立ち上らせているそれは迫力のある光景だが、今に思って注視すれば不自然でしかない、個性か風呂上りか、平時であれば人の体から煙が出るということなどないはずだ。

 

 

 まさか漫画じゃあるまいに。

 

 

 そんな彼らの困惑を無視して、彼女は騎馬の周りを緩慢に飛んだと思うと、近づいた騎馬の目線が彼女に集まった。

 

 浮かぶ雲から雲へ、跳ね回りながら徐々に加速していき、とうとう目線が追いつかなくなった瞬間に騎馬の後ろに回り込むと、鉢巻きを奪い取り飛び去って行く。

 

 空を飛んだ彼女は、足場を使って減速すると追いついた騎馬の上に静かに着地して、すぐに別の鉢巻きを持つ騎馬へと駆け出した。

 

 

「おいおい、前世は軽業師かサルか!! 雲から雲を踏み台にして加速してやがる!! 騎馬じゃどうあがいても後ろに回り込まれちまうぞ!! 相手も疲れが見えているのかロクな抵抗もできねぇ!!!」

 

 

 その動きは、今までの真剣勝負を侮辱するような光景だった。

 

 動き疲れて息も絶え絶えな者たちに近づくと、彼女が飛び上がる。

 

 すると不思議なことに大きな抵抗も受けずに鉢巻きを奪い取り、悠々とその場を離れていく。

 

 そこに、先ほどまでの俊敏な動きをしていた彼らはなく、なぜか鉢巻きを取り返そうともしないでまごついた。

 

 ようやく持ち直して動き出そうにも、追いかけることは叶わない。

 

 いつの間にか足元にはぬめぬめとしたキノコが足元を包んでおり、そのキノコは焼き払っても溶かしてもひっきりなしに生え続けているため、追いかけようにも足止めされてそれどころではない。

 

 そんな繰り返しの作業を機械的に行いながら、彼女は端から鉢巻きを奪い続ける。

 

 逆に奪い返そうにも空を飛んでいる彼女の鉢巻きには手を出しにくく、逃げ出そうが飛び出した彼女が行く手を遮る。

 

 そうすると突然動きの悪くなった騎馬に彼女が襲い掛かり、いとも簡単に鉢巻きを奪って去っていくのだ。

 

 

 観客も、これは勝負ではなく作業だと気づいた。

 

 

 おそらく仮面の女は圧倒的な優位な状況に立っていて、その安全圏から自分の身をさらさずに鉢巻きを奪っている。

 

 先ほどまでの激しい戦いとの落差、興奮はできない、だが目を離すことも決してできない光景に、観客もざわつきながらもその様子を食い入るように見つめる。

 

 1000万ポイントは仮面の女から一番遠い、ならばこの女はまさか、騎馬を一つずつ攻略しながらすべての鉢巻きを奪う魂胆なのか。

 

 総観客たちの考え通り、騎馬は得点を奪いながらただ一点を目指す。

 

 一切の慈悲を見せず、作業的に点を刈り取っていく彼女は、とてもではないがヒーローには見えない

 

 

「略奪劇は終わらねぇ!! 端から一気に攻めてポイントを総取りするまでこの女!! 止まらないつもりだぁ!!!!」

 

 

 一人、また一人と彼女に敗れる者たちを見て、次第に観客から悲鳴やため息が出る。

 

 

「あぁ! またやられた」

 

「負けんなヒーロー、しっかり止めろ!!」

 

「頑張ってみんな!! アイツを倒して!!」

 

 

 そんな流れに勢いづけば、場は仮面の女とそれ以外という構図をつくりだしてしまう者たちが現れだす。

 

 

 そんな期待に応えるように、彼女に近づく騎馬がいた。

 

 もちろん彼にとって観衆の期待などは欠片ほども興味はない、両腕の爆発で浮かび上がると、彼女めがけて飛んでくる爆豪勝己はただ彼女を倒すために動き出す。

 

 

「抵抗できる奴がまだいた!! まだこの女に好き勝手させるわけにはいかないと、爆豪とんだぁ!!!!」

 

 

 彼女は猛進してくる爆豪を見て距離を空けるが、相手はその距離を瞬時に詰めてきた。

 

 驚くべきことに彼女が使う足場と自身の個性を利用し、変則的に近づいてくる爆豪は、とうとう彼女の前に飛び出し、空中で接近戦闘を仕掛けてきたのだ。

 

 頭の上の足場を蹴っての回し蹴り、爆発を利用してのスウェー、敵の用意したものだというのにそれを使いこなす爆豪は、ここに来て初めて彼女とまともな戦闘を繰り広げる。

 

 

「空を飛んで戦うとか、お前らドラゴンボールの住人かよぉ!!??」

 

 会場はさらに盛り上がり、二人の戦いの結末を見届けた。

 

 逃げるように自分の騎馬のほうに戻る本条とそれを追いかけ、攻撃を続ける爆豪。

 

 息つく暇もなく繰り出される攻撃の応酬、その最後を制したのは彼女だった。

 

 今まで逃げの一手であった彼女は素早く反転すると、両足をそろえて足場を蹴り込む、拳が爆発的な加速で爆轟の顎先をかすめると、彼は空中から墜落していった。

 

 

「ここで決着!!!! 深追いしすぎたのか爆豪! とうとう仮面の女に強烈な一発を顎にもらって吹っ飛んだぁ!!! 仲間のテープで巻き取られて回収されたが、どう見ても意識が飛んでる!!」

 

 

 その高速戦闘の最中で何が起きたか、気づけた観客はいなかった。目のいいヒーローたちは最後の爆豪の動きが少し不自然な隙だとも感じたが、逃げると見せかけて、今までよりも数段早い攻撃を隠し持っていた彼女の動きに対応できなかったと考えれば、その違和感もすぐに消えた。

 

 

 唯一抵抗の芽があった爆豪を倒し、残る騎馬は氷のフィールドで1000万ポイントを奪いあう緑谷と轟。

 

 彼女は一度騎馬に戻ると、何かを指示してすぐに氷塊へと向かって飛び出す。

 

 実況を聞いて異常事態を察した二人が戦いを一度止めて乱入者に対して迎撃態勢をとろうとするのと、彼女が氷壁の一角を打ち破るのは同時だった。

 

 

 光を乱反射しながら舞う砕けた氷の中に、光を吸い込む黒い人影が見える。

 

 

「ここで隔絶した氷の世界を割って、簒奪者のエントリーだぁ!!! この三つ巴、いったいどうなるのか目が離せない!!!!」

 

 

 氷の壁を吹き飛ばして突入してくる彼女に、二人は守りを固めるとともにそれぞれの騎馬で攻撃を加える。

 

 だが、空中の足場から足場へと移る彼女には届かない。

 

 そのように時間をかければ、彼女が壊した氷壁の穴から彼女の騎馬が追いついてくる。

 

 さらなる敵の参加で警戒を強める彼らと、それを待っていたように大きく距離を取った彼女により、その場に一瞬の膠着状態が生まれる。

 

 

 遠くから見れば、騎馬同士で数言言葉を交わしあっているようにも見える。

 

 

 時間も残り少なくなってきた中、やはり場の均衡を破ったのは彼女だった。

 

 

「おおっと、仮面の女が攻めた!! 轟チーム、迎撃するが避ける避ける!」

 

 

 八百万と上鳴の迎撃を避けた彼女は、騎馬の真上から襲い掛からんと飛び上がる。

 

 

「轟! 直上からの急襲に反応できない!! そのまま得点を奪われたァ!!!」

 

 

 多くの騎馬がそうであったように、あっけなく敗れる轟。

 

 

「強い! 強すぎるッ!! 残るは一人!!! 緑谷出久! 彼が最後のポイント保持者だァ!!!!」

 

 

 観客の中には彼女の圧倒的な力に歓声を上げる者もいれば、ヒーローらしからぬ姿への悲鳴やヤジも聞こえる。

 

 混沌とした会場の中で、最後に彼女は緑谷の騎馬へ近づいていった。

 

 

「この場に立った2人にすべてのポイントが集中している異常事態!! だが両者にらみ合って動かない!!!」

 

 

 そして彼女が選んだ行動は突貫、勝利を確信した慢心が生み出す稚拙な攻めであった。

 

 だがそんな愚直な攻撃であっても、彼女の身体機能の粋を集めて繰り出せば、ただそれだけで一つの奥義となる。

 

 足場を踏みしめていき、その最高速度を更新し続ける彼女と、なぜか固まったように動かない相手の騎馬大将。

 

 

 彼女が相手の騎馬をぐるりと3周し、加速を終えて直撃するコースを取った時、多くの人間が緑谷出久の敗北を予感した。

 

 

 その時ベキリと

 

 

 聞くに堪えない音が緑谷少年の指の一つから聞こえる。

 

 

 彼女が前方へと射出されるのとほぼ同時、緑谷の指が爆発し、そこから暴風が吹き荒れた。

 

 

 そこからの攻防は、一瞬。

 

 

 高速で飛び出した彼女と、片腕をあげて彼女めがけて指を弾く彼。

 

 

 その馬鹿げた威力は地面をえぐり、掠ってすらいないというのに彼女は真後ろに吹き飛ばされた。

 

 その風圧で、襟にぶら下げた得点のほぼすべてを空中でまき散らす。

 

 

 大きく吹き飛ばされていく彼女を見て、場の歓声が止む。

 

 

 

「緑谷!! 返り討ち!! ここで初めて個性を見せたぁ!!!? あまりにもすごすぎる爆発力!!! 威力だけなら文句なしの一位ッ!!!! 仮面の女を止めたのはだれも予想もしていなかったダークホース!!! 緑谷出久この男だあぁッ!!!!!」

 

 

 

 最後の大番狂わせに会場の歓声が爆発した。

 

 

 観衆は手を振り回しながら、そのジャイアントキリングに熱狂し、空気を震わしている。 

 

 

 

 一方で、仲間の騎馬が着地地点で崩れかけながら何とか支えられた彼女、その体はぐったりとして力がない。

 

 この試合で再起をはかるのは難しいことは見て取れた。

 

 

 

 そして、ここでようやくほかの騎馬が追いついてくれば、そこらかしこに舞っている鉢巻きの奪い合いが始まったのだった。

 

 

 

 

TIME UP!(タイムアップ)

 

 

 

 勝者と敗者の明暗を分ける雄英体育祭第二種目は、この日最も熱い盛り上がりを見せて終了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




4話あたりからホモ子のヒーローネームを考え続けてますが欠片も浮かびません……


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9話 中編(2/2)

『はーい、よーいスタート(棒読み)』

 

 

 スタートではない、私たちは今試合の始まりと同時に絶体絶命の窮地に陥っている。

 

 

「……全員がこっち向かってるぞ、どうすんだよ」

 

 

 心操君が額に汗を浮かべながらこちらをチラリと見る。

 

 

「動くな」

 

「おいおい、本気(マジ)か」

 

 

 目の前に広がるのは全方位からこちらに向かってくる敵騎馬たち、その目は殺気すらこもっているのではないかと思うほどで、もし私が声の支配なしであったとしても動くことなんてできなかっただろう。

 

 

『では今回の騎馬戦で役立ってくれるいかれたメンバーを紹介するぜ!

 

 チームのリーダーは、本条桃子。通称ホモ子。

 奇襲戦法とRTAの名人。

 天才RTA走者のような俺がついた彼女でなければ百戦錬磨のつわものどものリーダーは務まらん。

 

 次は心操人使。通称くれ悪能力者。

 自慢の個性で、みんなイチコロさ。

 洗脳かまして、ブラジャーから仲間まで、何でもそろえてみせるぜ。

 

 よお、お待たせ! 彼こそ吹出漫我。ヒーロー名はコミックマン。

 擬音を使った能力者としての腕は天下一品!

 エコーズACT2? サンドマン? だから何。

 

 最後に小森希乃子、ヒーロー名はシーメイジ

 キノコの天才だ(意味深)ファーストレディにだって生やしてみせらぁ。

 でも乾燥だけはかんべんな。

 

 以上だ!』

 

 

「おい本条!! このままじゃ蹂躙されるだけだぞ!」

 

 

 とうとう騎馬たちが目前に迫り、対して一切動かない私に、心操君は焦りだす。

 

 だがそれをまるで気が付いていないように、いや実際に気にも留めてもいないのだろう、自分の頭にある1000万ポイントを簡単にほどけないように丸めると、大きく振りかぶった。

 

 

「おい!? 嘘だろ!!!」

 

 

 心操君が私の声を代弁してくれる。

 

 

 放物線を描くハチマキは、ほかの騎馬の目線をくぎ付けにしながらあらぬところに飛んでいく。

 

 

『制限時間のあるこの競技で短縮要素はありません

 

 一応の最短として、危険行為をして失格になればすぐ終わりますが、経験値が吹き飛んで本末転倒です

 

 そしてここで1位を狙うということは最後に1000万ポイントさえ取れればいいということですので戦略としては1000万ポイントを死守する布陣にするか、最後の瞬間に点を取得できる攻撃を組み立てるかです。

 

 今回のチームでは1000万ポイントを守り切れないので攻撃対象にならないように得点を一時放棄しましょう

 

 ラストアタックさえうまく行きさえすればいいのでそれまでは仕込みの時間ですね』

 

 

 その時、私の口が勝手に開き、空気を震わせる。

 

 

「心操に指示 個性を使わせる 洗脳されたものへの指示 吹出漫我 個性を使わせる 擬音 ムカムカ プンプン を小声で」

 

 

「は? あ、あぁ、こいつに個性を使わせろってことか? けどなんなんだそのしゃべり方は……?」

 

 

 私の遠回しで不自然にくどい片言を心操くんは戸惑いながらも実行してくれる。

 

「個性を使って擬音むかむか、ぷんぷんを小声で出せ」

 

 心操君がそう命令すると、間髪入れずに吹出君の口が細かく、機械的に動く。

 

「むかむか、ぷんぷん……、むかむか、ぷんぷん……、むかむか、ぷんぷん……」

 

 うわ言のように同じ言葉を繰り返す吹出くん、その口の端から風に乗るように、あるいは地面に垂れ流すように言葉たちが溶けて広がっていく。

 

 

『はい、あとはいい時間になるまで、敵の近くをうろうろするだけです。

 

 このマンガ脳の個性、「コミック」は擬音を具現化出来るというものですが、めそめそ、うきうき、ぞくぞくなど、感情を示す擬音語を使用すると、その感情のステータスを相手に付与できます。

 

 めそめそなら悲哀、うきうきなら喜悦、ぞくぞくなら恐怖ですね

 

 今使っている「むかむか」「ぷんぷん」はバッドステータス「激怒」を引き起こせます。

 

 こうなると行動指示不可になり、攻撃力上昇と防御力減少、攻撃の回避率と抵抗率の極大低下、好戦的になり敵が接近すれば高確率で攻撃します』

 

 

「前進」

 

 

『ポイントを失っていればこの試合、巻き込まれ以外で攻撃対象になることはないのでこの場を擬音で満たすまで、適当にうろうろして過ごしましょう。

 

 あっ、うろうろって言葉もよく考えれば擬音語ですね、これコイツの個性で使わせたらどうなるんでしょうか、今度検証してみたいですね』

 

 

 私たちは戦闘に参加せず、その戦いの合間を縫うように動きながら時間をつぶした。

 

 

『語録を垂れ流すクッソ単調な作業ですね

 

 そういえば擬音で思い出したのですが、昔ALTの先生に日本の昔話を紹介しようという授業があったんです(唐突)

 

 私たちのグループは桃太郎を担当したのですが、ロングロングアゴーから始まり、桃が川からどんぶらこと流れてきた場面を

 

 One big peach flowed from the river with Don Brako.

 

 と訳したのですが、その時に先生が困惑しながらドンブラコとは何ですかと話の途中で聞いてきたんです。

 

 なので、そのまま、ドンブラコとは巨大な桃が川を流れてくる時に出る音ですと説明したら、先生はこいつ正気か?という表情で困惑されていましたね

 

 リンゴじゃダメなのか? なぜ桃なのか? そのような限定的なオノマトペに本当に意味はあるのか? マジでDon Brakoで日本国民全員が川から流れていく桃を連想するのか?

 

 疑問を繰り出す先生に私たちも困って、そういうものだから納得してくださいと説明した時のあのジェイソン先生の切ない表情が今でも忘れられません』

 

 

 声のどうでもいい世間話に耳を傾けながらも、指示通りに私たちは個性を使い続け、周りの騎馬と十分な距離を取りながら擬音語を振り撒いていく。

 

 誰にも気づかれぬように、目立たず、だけれどもその擬音語がこの場に満ちるように

 

 

 そうしていけばこの場で起きた変化は劇的だった。

 

 

「なるほど、こりゃ最後に漁夫の利を狙うつもりなのか本条」

 

 

 言葉足らずの声の指示をよく汲んで先導している心操君がポツリとつぶやいた。

 

 

 擬音語はこの場を覆う、それは知らないうちに生徒たちに染み込み、正常な判断を狂わしていった。

 

 あまりにも激しい攻防、残りの力など考えず全力でポイントを奪い合う彼らは、互いの体力を削りあい、まだ序盤だというのに満身創痍になっている騎馬も見かける。

 

 それでも動きを止めない姿を見れば、いつ大怪我をしてもおかしくない、だれか止めなければおかしいはずだ。

 

 だというのに、それを無視して戦い続ける生徒と、ただただ生徒の負担を考えずに歓声を浴びせて扇動する観客。

 

 

「……このペースで動き続けりゃ最後にはガス欠、そこで俺たちはとどめを刺すってわけだな、なぁ、吹出だっけか、こいつの個性は十分だろ、一時的に止めるぞ」 

 

 延々と個性を使わせてしまった吹出君の声は少し枯れていた。

 

 個性をつかうと喉に負担がかかるのだろう、動きながらもひたすら小声でしゃべり続けていた彼の顔色はわかりづらいが、肩で大きく息をしているのが見える。

 

 

『あっ、こら! 何、放棄している! 田舎少年は手を抜くことしか考えないのか(偏見)

 

 このように一定時間が経過すると心操の指示が解ける場合があるのでその都度何度でも指示の上書を連打しておきましょう』

 

 

「心操に指示 個性を使わせる 洗脳されたものへの指示 吹出漫我 個性を使わせる 擬音 むかむか ぷんぷん を小声で」

 

「いや、もう十分じゃ……」

 

「個性を使わせる 擬音 むかむか ぷんぷん を小声で」

 

「……それが勝利のためなのか?」

 

「擬音 むかむか ぷんぷん を小声で」

 

「………吹出、個性を使って擬音むかむか、ぷんぷんを小声で出せ」

 

 吹出くんは先ほどよりしゃがれた声でまた同じ言葉を繰り返す。

 

 大丈夫だろうか、……いや、大丈夫なわけがない、それでも私は他人を無理を強いても指示通りに勝たなければいけない。

 

 心操君はあまり納得していない様子だがそれでも指示に従ってくれた。

 

 

『今回の作戦はこの二つの擬音をこの場に溢れかえらせなきゃ成立しませんのでどんどん吹き出もの君を酷使しましょう

 

 語録の濃度がなんか足んねえよなぁ? もっと舌使って舌使ってホラ』

 

 

 すでに会場には空気や地面に溶けるように擬音たちが染み込んでいる。

 

 それで十分だと思えるというのにまだ擬音を出し続けていると次第に擬音たちに変化が訪れる。

 

 

『もう始まってる!(反撃)』

 

 

「もう、擬音達のいく場所がなくなってるぞ」

 

 生徒たちの中に入りきらない擬音達が湯気のように立ち上っていき、そのほかの場所にある擬音も地面から浮かび上がる。

 

「何が起きてんだ?」

 

 

『小技ですが擬音同士がぶつかると言葉同士が入れ替わり、新しい擬音語になる時があります。

 

 そして言葉を飽和状態にすると、その頻度が爆発的に上がるわけですね

 

 これ発見したの私です(自己顕示欲)

 

 ムカムカとプンプンという擬音語を選んだのも理由はもちろんあります

 

 この二つからできるプカプカ、ムンムン、カンカンを使ってこの場で一気に点を取りに行きましょう

 

 プムプム? まぁ多少のあまり物はね?』

 

 

 それは不思議な光景だった。

 

 

 生徒の体からムンムンとした熱気が飛び出し、プカプカと煙になって体の外へと排出されていく。

 

 地面も同じだ。ムンムンとこもった熱気に地面が暖められ、プカプカと砂ぼこりなどを巻き込みながら空中に浮かび上がった。

 

 

『ではそろそろいい時間なので攻めに転じますか。

 

 時間ギリギリに1000万ポイントさえ取ればそれで良いので他の得点は無視すべきなのですが、今回は目につくやつら全員に喧嘩を売りましょう』

 

 

「敵へ前進 心操に指示 個性を使わせる 洗脳 相手を洗脳しろ」

 

「ここから勝負を決めるんだな、っておいッ」

 

 

 私は心操君の返事も待たず、宙へと体を投げ出す。

 

 落ちる。

 

 そう思った私の足は何か柔らかいものを踏みつけた。

 

 

『ぷかぷか、主に「浮遊」する様子を表現した擬音語です。

 

 このプカプカは足場にすることが可能なので、反撃されにくい敵の後ろに回り込んで一撃をぶち込みましょう

 

 ほんならケツの穴見せろや(ガン掘り)

 

 え?直接攻撃は禁止?

 

 私は鉢巻を取ろうとして、そこにたまたま人間の体があった。

 

 攻撃ではなく不幸な事故いいね?

 

 正直、何体かの強い騎馬以外はこのゴリ押しで倒せますが、ここは心操が追いつくのを待ちましょう』

 

 

 私は雲のようなものを踏み込みながら移動する。

 

 踏み込んだ足場はかなり不安定で力を籠めると沈み込んで突き抜けそうだが、私の体は新しい足場を踏み込んで徐々に加速していく。

 

 

 加速しながら大周りに近づいた騎馬は拳藤さんの騎馬だった。

 

 上空で旋回して速度を維持していると、こちらを警戒しているのか拳藤さんの個性で手を傘のように広げてこちらの射線をふさいでいる。

 

 攻めあぐねているうちに心操君が相手騎馬に近付いた。

 

 

「やばい何あれ、上から来てるわ、ここは逃げて……」

 

「手が大きくなるなんて武闘派な個性だなぁ、男勝りなのも合わさって女には見えねぇぜ」

 

「ふん! そんな情けないこと言ってるようじゃ私たちには勝てな……」

 

 

「もう俺たちの勝ちだ」

 

 

 私は心操君が話しかけた瞬間に、重力に従って敵騎馬に突っ込む。

 

 空中でその巨大な手を蹴り上げるとそのまま、彼女の毛髪のいくらかと共にハチマキをむしり取った。

 

 

『ただの案山子ですな

 

 はい、スタミナ切れでナメクジ速度の騎馬と、洗脳で案山子となった騎手を襲撃しましょう

 

 洗脳状態にするのは本来運が絡みますが、ここで状態異常「激怒」がいきてきます。

 

 攻撃の回避率、抵抗率の低下、つまりはほぼ間違いなく敵に刺さるという仕組みです

 

 なんて練られたチャートだぁ(恍惚)』

 

 

「一佳ッ!!」

 

「あれ? 私今何を……、イッツぅぅ……、ってハチマキが!?」

 

「は、早く取り戻さないと」

 

 

『さらに、もう一つの擬音ムンムンも使っていきましょう。

 

 むんむん、においや熱気などが息苦しいまでに強くたちこめている様

 

 つまり高温多湿ということですね』

 

 

 私は味方の騎馬へ減速しながら戻り、すぐさま心操君に指示を出す。

 

 

「心操に指示 個性を使わせる 洗脳されたものへの指示 小森希乃子 個性を使わせる キノコを使って足止めをさせる」

 

 

 瞬間的に相手騎馬の足元からキノコが生える。

 

 その速度は別の地面がせりあがってきたかのようで、相手の足場を不確かにし、動きを大きく制限した。

 

 

「な、なめこ!? ば、バランスが!!」

 

「そもそもなんで小森と吹出があっちにいるんだよ!!!!」

 

「知らないってば!!」

 

 

『これは原作で出た吹出と小森、二人の個性のコンボですね、あの時はジメジメでしたか

 

 こういう原作リスペクトのコンボとオリジナルの要素があるのでそれを探すのは楽しいですね

 

 こういう細部にこだわるからこその名作といえるでしょう(ダイマ)』

 

 

 声ののんびりとした雰囲気とは裏腹に、私たちは敵の騎馬から騎馬へと見境なしに襲い掛かり点を巻き上げていく。

 

 大抵の騎馬は疲れきっていて、私の攻撃をロクに防ぐこともできずにハチマキを奪われた。

 

 

「すげぇ……、何点目だ? つーか俺が洗脳しなくても本条だけで敵の防御をぶち抜いてるじゃねーか……」

 

 

 その時、会場が歓声に沸く。

 

 何事かと思ってみると、そこには爆豪君が私めがけて飛んできていたのだ。

 

 

「抵抗できる奴がまだいた!! まだこの女に好き勝手させるわけにはいかないと、爆豪とんだぁ!!!!」

 

 

「やっちまえ!!」

 

「そいつを止めろ!」

 

「倒せよヒーロー!!」

 

 

 自分を見る観衆を意識してしまい、私は少し吐き気を覚えてしまうが結局声の動きには関係がない。

 

 会場の期待が爆豪君に集まるとともにその声はさらに強まった。

 

 

「うるせぇモブ共!! いわれなくたって、この俺がぶっ殺してやる!! 全力で来い根暗女ァ!!!!」

 

 

「なんだその態度!」

 

「それでもヒーローか!!」

 

 

 この場の正義と呼ぶべき後押しを受けた彼に私は少し気圧されたが、そんな歓声が邪魔だと切り捨てる爆豪君の我の強さを見て少し落ち着いた。

 

 でもそれも彼の動きを見るまでだ。

 

 

「これはテメェの個性じゃねぇ、だったら俺だって使えるよなぁ!!!」

 

 

 信じられないことに爆豪君はこちらが使っている足場すら利用してこちらに迫ってきていたのだ。

 

 

『えぇ、この作戦で一番厄介な敵はこいつです

 

 こちらの足場に速攻で適応し、爆破も併せて、放っておくとこちら以上の機動性で迫ってきますのでジリ貧です』

 

 

 反転して逃げ出すが、爆豪君はすぐにでも追いついた。

 

「死ねぇ!!」

 

 背後からの飛び蹴りを屈めて避ける。

 

 前方に飛び出した爆豪君は爆破で器用に私の進路をふさぐと今度は回し蹴りを叩き込んでくる。

 

 さすがによけられないのかそのまま防御、その威力のまま地面に落ちて逃げる。

 

「ハハハハッ!!! 逃げてんじゃねぇぞこの根暗女ァ!!!!!」

 

 

 天才という言葉は彼のためにあるのだと確信する。

 

 成長の個性で誰よりも体をうまく動かせるはずの自分と同等の動き、それどころか、爆破がある分、向こうがこちらを圧倒している。

 

 牽制の攻撃も爆破で移動されては、足場と足場の間しか動けない私に勝ち目はない。

 

 

 

「まったく、ヘドロ事件であんなにボコボコにされたのによくそんなにイキれるな」

 

 

「あ゛っ!? なんだテメェ」

 

 

「動くな」

 

 

『なので引きうちしながら自陣に戻りましょう』

 

 

 爆豪君が空中で固まる。

 

 そのタイミングを読んでいたかのように私はすでに体を丸めて反転し、足の筋肉を膨らませてその時を待っていた。

 

 

『そのための心操……、あと、そのための拳……?』

 

 

 私は軽い雲を踏みしめる。

 

 その瞬間に雲は霧散して、私は爆豪君に殴りかかる。

 

 こぶしで顎を打ち抜くと、白目をむいて彼はこの戦いの場から失墜した。

 

 

『しっかりノックアウト攻撃で気絶させておきましょう、鉢巻きに攻撃すると気絶するとか脳震盪か何か?

 

 お次はようやく1000万ポイントをとりましょうか

 

 おそらく持っているのは緑谷か轟のどちらかですね、爆豪は倒したので後は何の起伏もない敗残兵の処理です』

 

 

「ついてこい」

 

「次! 取るのか1000万!!」

 

 すぐさま方向を変えて飛び去ろうとする私に心操君が叫んだ。

 

 

 私は自分の騎馬より一足先に残りポイントの奪い合いの場にたどり着く。

 

 

 緑谷君はいま、轟君が作った氷の壁に囲まれている。

 

 その物理的に離されたはずのそこを私は無理やりこじ開けて侵入した。

 

 

「クッ、また敵が……」

 

「……遅いスタートだな本条」

 

 

「ここで隔絶した氷の世界を割って、簒奪者のエントリーだぁ!!! この三つ巴、いったいどうなるのか目が離せない!!!!」

 

 

 すでにこちらをにらみつけている彼らの騎馬から、雷撃、弓矢、氷の礫、矢継ぎ早に攻撃を受ける。

 

 三つ巴なんて嘘だ。

 

 二人とも私を倒すために一時共闘して追い詰めてきている。

 

 

「本条!!!!」

 

 

 心操君が追いついたとき、思わず安心しかけてしまった。

 

 私は自分の騎馬に戻り、敵との距離を取った。

 

 状況の変化から訪れる一瞬の間、それだけあれば彼が決めてくれる。

 

 

 私に軽く目配せをした心操君は、いかにも悪そうな声で2人に話しかける。

 

 

「へー、アンタがオールマイトのお気に入りで、本条が警戒してた奴か、つってもこの体育祭で全然パッとしねーな」

 

「……僕は」

 

「まぁそこで固まっててくれよ、そんでそっちがエンデヴァーの坊ちゃんか、……すげぇ、目つきも雰囲気も親父さんそっくりだ」

 

 

 轟君は反論もできずに固まった緑谷君を見て、違和感を覚えているようだが、心操君が話す言葉ですべてが吹き飛んだ様子だ。

 

 

「なんだと……」

 

「お前も動くな……、いけッ! 本条ッ!!」

 

 

 その言葉にはじかれるように場の均衡を破って私は飛び出した。

 

 

「おおっと、仮面の女が轟チームに接近!! 轟チーム、迎撃するが避ける避ける!」

 

 

 攻撃を避けながら、私は騎馬の真上から襲い掛かる。

 

 

「轟君、上だ! カウンターで得点を狙うんだ!!」

 

 しかし轟君は仲間の声には反応しない、それどころかろくな抵抗すらできないのは、もうわかっていた。

 

 

「轟! 直上からの急襲に反応できない!! そのまま得点を奪われたァ!!!」

 

 

『ハズレの方でしたね、では緑谷を倒して空高くの場所に逃げましょうか

 

 どうせ最後なのでド派手にやりましょう

 

 作中最強威力を持つ緑谷とのパンチ対決ですね(相手がパンチできるとは言っていない)』

 

 

「轟さん!?」

 

「おいおい! 一体どうしたってんだよ!!」

 

 

 頭を揺さぶられた轟君は鉢巻きを取られた自分自身に驚いた様子だったが、もう遅い、足元にはキノコが敷き詰められている。

 

 

「クソッ……! 氷で道を作る!!!」

 

 

「強い! 強すぎるッ!! 残るは一人!!! 緑谷出久! 彼が最後のポイント保持者だァ!!!!」

 

 

 轟君を取った! けど1000万ポイントは緑谷君の方だ。

 

 私は雲を踏みしめて、どんどん加速していく

 

 その速度は今までで一番早い、最高威力の攻撃をぶつけるつもりのようだ。

 

 

「で、デク君、とにかく逃げなきゃ……、デク君?」

 

 

 そう、何一つ抵抗できない彼にだ。

 

 

『いやー、こいつは本当にRTAの敵ですからね、こういうところで発散していきましょう

 

 よっしゃ 無抵抗なところを殴るけるなどの暴行だ!!』

 

 

 彼らの周りを大きく旋回する速度はすさまじく、ぶつかる私自身もタダで済むとは思わない。

 

 

『いいか……、ヒーローが夢を見る時代はもう終わったんだ!!!ナチュラルボーンヒーロー!? 平和の象徴!?大秘宝ワンピース!!?(唐突な名作)

 

「ヒーロー」に目がくらんだアホ共は足元の利益に気付かねェ……!! この個性社会で誰よりも強く世を渡れる野郎共がありもしねェ幻想に振り回されて潰れていく!!

 

 潰れたバカはこう言われるのさ「あいつは夢に生きて幸せだった」!!ハハッハ……!!!負け犬の戯言だ!!!

 

 構えろ臆病者!!!(自己紹介)

 

 お前がパンチの打ち方を知ってるんならなァ!!!(フラグ)』

 

 

 とうとう、私は緑谷君の方へと飛び出す。

 

 

『何が「自己犠牲」!!? 何が「正義」だ!!!? 夢見る時代は終わったんだヒーローの恥さらしども!!!!(フラグ増設)』

 

 

『パンチの打ち方を知ってるかって……?(一般通過RHI)』

 

 

『あばよ!!!! 緑谷らァ』

 

 

「ッ……あぁッ!!!」

 

 突然目の前に暴風が巻き上がり視界を塞ぐ。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 いつの間にか目の前には片腕をこちらに向けていた彼がいた。

 

 

 

 あっ、負ける

 

 

 

SMAAAAASSSHHHHHHHH!!!!!!!(スマアァァァァァシュッ)

 

 

 掠ってすらいない。

 

 だけどもそれだけで私は真後ろに吹き飛ばされようとしている。

 

 莫大なエネルギーが緑谷君の指先から前方に向かって滅茶苦茶に広がっていく。

 

 最高速度の物体が、同じかそれ以上の威力で正反対に打ち返される時の莫大なエネルギー、そこにかかる衝撃が丸々私の体にかかって、体の中身がかき混ぜられた。

 

 

 ダメだ負ける。それだけは許されない。

 

 

『あああああああもうこのクソゲーやだああああああ!!!!(HIDE)

 

 お前は洗脳されたんだぞ?ダメじゃないか!洗脳された奴が動いてきちゃあ!死んでなきゃあああ!!

 

 歯ぁ食いしばれ!!そんなバグ、修正してやるーーっ!!』

 

 

 届かない、手が。

 

 勝利が遠ざかる。

 

 

 いつの間にか私の手が伸びていた。

 

 

 緑谷君の指先から出ている力は、緑谷君を守るように乱回転して、まるでシュレッダーのようだ。

 

 

 

 私はそこに右手を突っ込んだ。

 

 

 たださえ大きな目の緑谷君がさらに驚いたように目を見開く、それと同時に私の腕は緑谷君の破裂した指先よりひどい具合になる。

 

 骨は砕けて手はタコのようにグニャグニャだが都合がいい。

 

 吹き飛ばされる直前に千切れかかった筋繊維だけで手を伸ばす。

 

 関節など存在しない私の腕はゴムのように、正確には千切れ伸びてその鉢巻をつかむ、もはやそれが自分の意志か声の支配か分らない、どうでもいい。

 

 

「本条!!!!」

 

 

 そして吹き飛ばされた私は今まで手にしたハチマキをまき散らしながら、ただ一つ。最も大切なただ一つだけを必死に握りしめた。

 

 吹き飛ぶ私をしっかりと抱え込んでくれた心操君は私を見て動転しているがそれどころじゃない

 

 

『大きなガバが点いたり消えたりしている…。あはは、大きい! 通常プレイかな? いや、違う……違うな。通常プレイはもっと、エンタメ重視でバァーって動くもんな。遅いなぁ、ここ。うーん……良タイム出ないのかな?おーい、出してくださいよ。ねぇ?(精神崩壊)』

 

 

「ようやく追いついたわ!!」

 

「鉢巻きが散らばってやがる! 早く確保しろ」

 

「今、1000万ポイント持っているのは誰だ!!」

 

 

 まだ時間がある。

 

 壁からほかのチームもどんどん来る。

 

 今このままじゃ点数を奪われる。

 

 

 

「ぜったいにわたさない……だれにも……、ぜったいに……」

 

 

「ほ、本条、お前……」

 

 

「しょうり、しょうり、しょうり、しょうり、ぜったいにひーろーになる……じゃまするひとはゆるさない……」

 

 

 私は朦朧とした意識を何とかつなぎながら騎馬の上に立とうとする。

 

 時間なんてわからない、何も見えないし分からない中、ハチマキを握りしめ、必死に意識だけをつなぎとめていた。

 

 

『……ファ!? 1000万点取得してるやん!!!???

 

 えぇ……(困惑)もうこれわかんねぇな……

 

 一応の予測を言いますと、こちらの攻撃が当たったためハチマキがこちらに、その処理をしている間に緑谷の攻撃でこちらのハチマキが全部奪われたということでしょうか……?

 

 こちらは百歩譲ってわかります。

 

 だが緑谷、テメーはだめだ

 

 心操の洗脳してるのに動くとか試走中に一度もしてないだろ!!! いい加減にしろ!!!

 

 そんな設定崩壊……、……でもないですね

 

 確かに緑谷は心操の洗脳を原作で打ち破っていたような……?

 

 え、こマ? 実は新要素の発見ですか、やべぇ、110番だな!(攻略情報投稿)』

 

 

 なぜ生き残れたのかはわからない、心操君が頑張ってくれたのだろうか、今回の戦いもやはり綱渡りだった。

 

 

TIME UP!(タイムアップ)

 

 

 その言葉を聞いた瞬間に、私は全身を脱力させた。

 

 

 




心操の個性って洗脳状態で個性使わせられるの?(心の声)
吹出の個性ってこんなことできる描写ってあったっけ?(原作への良心)
他にもこの場面ってそもそも……(内省)


うるせぇ!かこう!!!!!  ドン!!!!(内なるRHI)


そうだよ妄想だよ(震え声)何の問題ですか? 何の問題もないね(自己解決)
そもそもオリキャラだしてそれがホモの時点で最早……、戻れる場所なんかないんだよ……(原作レイプ)


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9話 後編


【挿絵表示】

すん(@sun_1200)様が描いてくださった作品を勝手ながらこの場で紹介させていただきます。
ウレシイ・・・ウレシイ・・・(ニチニチ)



 第二種目の騎馬戦が終わった時、もう私の体はボロボロだった。

 

 

 緑谷君の桁外れの攻撃を受けた右手もそうだが、なにより全力の突進を受け止めた時にかかった体への負荷が深刻だ。

 

 トップスピードからの急停止により、私の内臓はろくでもないことになっている。

 

 それを抑え込んで、自己再生が追いつくように何とかバランスを取って立とうとすると、後ろから声がかけられた。

 

 

「おい、本条!」

 

 騎馬から降りてふらついている私に、心操君が駆け寄ってきてくれる。

 

 

『いやー何とか勝てました。 ここまで来たらもう一安心、最後は個人戦ですが1対1なら不確定要素が少ないので山は越えました。

 

 ここまでやってくれたパープルひとしくん人形には感謝してもしきれません』

 

 

「約束通り1位を取ったよ心操君」

 

「馬鹿なこと言ってないで、いいから肩をかせ」

 

「いらない、それより話を聞いて」

 

「まっすぐも歩けない奴が何言ってやがる」

 

「聞いて」

 

 

 心操君がふらふらしている私を支えようとしてくれる。

 

 そんなやさしさが私は本当に泣きそうになるぐらいうれしかった。

 

 だからこそ私はその手をゆっくりと押し戻して、自分の両足で無理やり立つ。

 

「もう約束は終わったの、だからダメ、だって次からは敵同士だから、同情でも肩を貸すなんてしちゃいけないよ」

 

 

 

『まぁ、今後彼とは関わることは無いんですけどね、むしろ避けます』

 

 

 こういう展開になることもある程度予想していた。

 

 私もこれ以上心操君と関わるつもりはない。

 

 心操君を置いて、一人で通路を抜ける。

 

 

 急に作れと言われた友達、雄英体育祭に合わせたような時間制限、洗脳という優れた個性、疑わしい点は多くあった。

 

 声の内容から考えれば、心操君を体育祭で利用しようとしていることはすぐに予想がつく。

 

 どうせいつか壊れる関係なら表面だけで取り繕えばいいというのに私はそれができなかった。

 

 孤独から彼に縋り、そこにある穏やかな時間をただ甘受した。

 

 終わりが来ることはうすうす気づいてはいたのだ。

 

 もともと期間限定のものが終わった、ただそれだけである。

 

 

『心操を活用したルートの利点は、ヒーロー科同士の好感度が上昇すると、そのキャラとのエンカウント率が上昇するという仕様の抜け穴になるということです

 

 好感度が1や2程度ならまだ許容範囲ですが、5ともなれば、自由時間に何のイベントも挟まなければ問答無用でそいつと過ごすことになってしまいます

 

 明確なロスですし、そのせいで好感度が上昇して恋人になってしまえばイベントが爆増するので再走案件になります

 

 しかし、心操の場合は現時点ではヒーロー科ではないのでこの仕様の縛りは受けません

 

 心操さんは(RTA的に)神的にいい人だから』

 

 

 楽しかった。たった一時でも本当に楽しかった。

 

 でもこれ以上、私は彼に関わるべきじゃない、彼はヒーローになるべき素晴らしい人なんだから

 

 

 

 

『なので今後はホモ子のために心操にヒーローの夢を諦めてもらいましょう』

 

 

 

 

 なにを

 

 

『これは心操をヒーロー科から締め出すことで、好感度は据え置きで、イベントで必要な時に利用できるように一般科に収容しておきます。

 

 こういう年に1回しか会わない友達っていますよね』

 

 

 なにをいっている?

 

 

『心操がヒーロー科に編入してくる条件は、先駆者兄貴達の検証の結果、心操の洗脳の個性がプレゼントマイクに実況されることがフラグだと判明していますので、そのセリフを出さない様に実は先ほどの騎馬戦などは鉢巻の奪取、個性の使用などのセリフとかぶせて阻止するように立ち回っていました』

 

 

 背中から冷や汗がにじみ出る。

 

 

 先ほどの騎馬戦では彼の個性が大活躍していた。

 

 あんな強い個性を見ているプロヒーローたちがいたなら彼が注目を受けないはずがない。

 

 だがどうだろう、先ほどの心操君の個性をかけるタイミングは完璧で、ほかの騎馬が見ても個性の発動を見破られて警戒されないものだった。

 

 そうつまりこの場の観客で心操君の価値を真に理解している人は、敵対した騎馬とごく一部の学校側の人間だけで、ヒーローにとって最も重要なスカウト目的で来た者たちにはだれ一人として伝わっていない。

 

 これが意味することに私の膝は崩れ落ちそうになる。 

 

 

 

『これは2種目目もそうですが3種目目でも同じです

 

 個人戦で洗脳を使われても彼は編入が決まってしまうんですよね、この場合、心操が洗脳を成功できるかはNPCしだいとなってしまいます』

 

 

 そうだ、まだ彼の道は閉ざされていない、最後の個人戦で彼が活躍してくれればまだ……

 

 

『だから騎馬戦では片っ端から心操の個性を使用する必要があったんですね。

 

 心操の個性を使われたキャラや騎馬を組んでいたキャラはまず次の個人戦で洗脳にかかることはありません

 

 通常プレイではこのタイミングで心操の個性についての情報を仕入れず、工夫もしない状態で挑めば敗退しますが、今回は同じ騎馬で親交もあるので無問題です。

 

 例外は緑谷のイベントぐらいですね、当たらないことを祈りましょう。

 

 こんなところでも奴は私をガバらせようとしているのが腹立たしいですね、クラスメイトの警告に耳を貸さないで引っかかるとか頭ハッピーセットか?

 

 聞かないって言ったのに聞くってお前おかしいだろそれよォ!(正論)』

 

 

 私だ、私が心操君の夢を壊した。

 

 

「おい本条、そんなボロボロな状態でほっとけるわけねぇだろ」

 

 

 彼は私を追いかけ、こちらを気遣うようにやさしく触れてくる。

 

 

「これでも一応ヒーロー志望なんだぜ、困った奴は見過ごせねぇよ」

 

 あぁ、あ゛ぁ! あああぁぁぁぁぁぁ!!!!

 

「やっぱ顔色も悪いじゃねーか」

 

 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

 

「…………」

 

 私のせいですごめんなさい。

 

「おい、ほんとにどうしちまったんだ?」

 

 なぜ私なんかのために、心操君の夢が犠牲にならなければいけないんだろうか。

 

 

『通常チャートでは体育祭用に好感度を上げたキャラはそのまま好感度が恋人に移行してイベント爆増で再走案件なので、その直前に、戦闘で氏んでもらわなければいけない場合がありますが心操チャートは合体しているから安心!(意味不明)』

 

 

 好感度を上げたら 死ぬ? あぁ、そうだ、私は誰とも仲良くなっちゃいけない

 

 

『まぁこれもホモ子の調子がいいので大丈夫でしょう

 

 私だって原作キャラのロストはまず味の方がはるかに多いので死なないに越したことは無いです』 

 

 

 だめだ。もうだれ一人だって私のせいで死んじゃだめだ。

 

 

『まぁ心操の好感度が上がりすぎにより、ルドン送り(謀殺)されて、 先帝の無念を晴らす! となるかは全部ホモ子次第ですね』

 

 

 

「ハハハハッ……、心操君ってさ本当に馬鹿だよね」

 

 

 私は感情を殺して、殺して、殺しつくしてから口を開いた。

 

 

「なんだよ急に」

 

「まだ自分が騙されたことに気づいてないの?」

 

「なにいってるんだ?」

 

「うん? 私が君と友達じゃなくて、必要だからあなたにやさしくしてあげてたってこと」

 

 心操君は目を見開いてこちらを見ている。

 

「なにを……いってるんだ」

 

「まだわかんない? おかしいと思わない? 今日の作戦だって全部心操君が洗脳で仲間を作ることが前提だったでしょ、だってそうでもしないとB組の人なんて仲間にできるわけないじゃん、はじめっから心操君の個性が目当てに決まってるでしょ」

 

 私は口と目を無理やり歪めて話した。

 

「な、……に、を……」

 

「もー、なにを、なにをってそればっかじゃん、あなたはこの体育祭で何の評価を得られてないのに個性だけは全員に知られてるんだよ、この意味理解してる?」

 

「ッ!?」

 

「なのに、金魚の糞みたいにくっついてきてヒーローになる? いやいやもうなれないから、挙句の果てに私を友達扱いとかおなか痛いなぁ」

 

「う、うそだ……」

 

「うん嘘だよ! あなたと私の間にあるものはぜーんぶ嘘、あはは」

 

「な……んで……」

 

「またなんで? はなし聞いてた? 私が勝つためだよ、最初からそう言ってるじゃない」

 

 

 心操君は今まで見たことがないぐらい苦しそうな顔でかすれた声を出す。

 

 

「……なぁ、最後に、最後に教えてくれ……、お前は……、俺の個性の為に近づいたのか」

 

「はははっはは、最後の質問が同じ質問じゃん! そうだよ!! あなたに近付いたのはあなたの個性が欲しかったから あはは! 楽しかったよ! あなたとの友情ごっこ」

 

 

 瞬間、体を縛られるような感覚が全身を覆う、彼が他者に最もしたくないことを私はさせたのだ。

 

 

 私を見る心操君の目は揺れに揺れて、時間をかけて怯えながらその一言を絞り出した。

 

 

「俺たちは………、友達だよな」

 

「……いいえ」

 

「…………………………そうか」

 

 

 

 最後に一言そう呟いて、虚ろな目をした心操君はその場からフラフラと歩いて行った。

 

 

 

 洗脳された時、私は以前の屋内訓練で使った時の流れが遅い世界を知覚することで防いだ。

 

 私の脳へ常にダメージを与え続ければ洗脳がきかないのではという予想は正解だった。

 

 予想外だったのは、全てが止まった世界で、心操君の絶望し続ける顔を体感時間で5分間眺め続けなければいけなかったことだろう。

 

 

 

 そのあとのことはよく覚えていない、私はただ必要なことのために自動的に動いた。

 

 

リカバリーガールと自分の個性で体を治して、失った栄養を掻き込もうと、会場に戻ってお母さんの弁当を食べようとしたが見当たらず、匂いを探れば会場の裏の林に捨ててあった。

 

 わずかに機械油のにおいが混じってる。誰がやったかは予想どころか探ればすぐにわかるが止めた。

 

 これは当たり前の結果なのだ。

 

 酷いことをして、それが返ってきた。

 

 人を人として扱わなかった私が、人として扱われない、ただそれだけだ。

 

 

 私は砂のついた弁当を拾って食べた。

 

 

『弁当を食べるとおなかを壊して体力微減とか草 なんですかねこの人生ゲームWiiのような適当なイベント

 

 なんか深夜テンションで、これ見て思わず笑っちゃいました』

 

 

 食べ終わった後はすることもない、ただうずくまって時間が過ぎるのを待った。

 

 しばらくすればトーナメントの組合わせが発表される。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1回戦目の相手は心操君だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやー相手は心操、初見の場合洗脳が強力ですが今回の条件ではトーナメント最弱なので運がいい

 

つまり今回負ける要素はないので、最速でぶんなぐって場外に吹っ飛ばしましょう』

 

 

「1回戦目!! その素顔を仮面で隠した謎多き女! ひび割れたままの仮面をあえて被る姿には並々ならぬ怒りを感じる!!

 

 一方で対戦相手の紹介だ。 ごめん! 目立つ活躍なし! 普通科心操人使!!」

 

 

 向き合った心操君の顔は青さを越して真っ白だった。

 

 そんな彼がこちらにひきつった笑いを見せながら、両手をひろげて観客席を指す。

 

「おまえの言ったとおりだ。俺はこの体育祭で何の活躍も見せられずに負けちまうんだろうぜ」

 

 実況の声を聴いてぼんやりとしている彼のつぶやきに、私は何の返答もせずに無言を貫いた。

 

「返事もなしか、……あたりまえだよな、お前は俺のほとんど全部知ってるもんな」

 

「……」

 

「なのに思えば俺はおまえのことなんも知んねーの」

 

「……」

 

「どこのクラスだとか、どんな個性とかさ」

 

「……」

 

「いまさら恥ずかしくて本条の下の名前も聞けてねぇんだぜ! 笑えるだろ!! なぁおい!!!」

 

 

 これは彼の最後の抵抗なのだろう、せめて私に勝つためには洗脳をかけなければいけないのだから。

 

 

 

「………そんなに勝利が大事なのかよ」

 

 

 今、私にできることは限られている。

 

 

「勝利が大事? それは全然違うよ」

 

 

 私が質問に返答した瞬間、体が動かなくなる。

 

 

「は?」

 

 

 それは私が個性を知ってるにもかかわらず返事をしたことか、それとも問いかけの答えが意外だったのか

 

 

「レディィィィィイ スタァート!!!!」

 

 

 

「勝利がすべてだよ」

 

 

 

 今、私にできることは彼に二度と私に関わろうなどと思わせないこと

 

 

 

 次の瞬間には最速で心操君を場外まで殴り飛ばした。

 

 

 これは声に任せたわけではない、私の意志で、私が殴りたくて心操君を殴った。

 

 

 

 

「勝者! 仮面の女! 相手を瞬殺だァ!!!」

 

 

『心操に勝つには洗脳の個性の情報を知っているか、毒状態や出血状態、以前屋内戦で使ったスキルのようにあえて持続的にダメージを受ければ洗脳は端から解除されるので無効化できます

 

 洗脳系の個性は大体この手の方法で何とかなりますので、知っていれば恐れる必要はないですね』

 

 

 苦しみにうめく彼に目を向けることもなく、私は危なげなく1回戦目に勝利した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来ならすぐに、次の対戦相手の対策や他の試合を見て、作戦を練らなければいけないのに私は洗面台の鏡の前で自分を睨みつけていた。

 

 洗面台で口をゆすいでいると、目の前の鏡に映る自分と目が合う。

 

 死にたいではない、こいつを殺したかった。

 

 

 だがそれはできない。

 

 私はヒーローになる。

 

 それはもう一人の都合ではない、もはや私のせいで何人の人生を狂わしているのかも分からない。

 

 ならば私の我儘は彼らの犠牲に見合うだけの価値がなくてはいけない、そうでなければいけないんだ。

 

 

 しばらく休んでから、関係者用で使う人が少ないくせに、やけに数が多いトイレから出て、会場に戻ろうとする。

 

 

 私が廊下を歩いていると、目の前から大きな大人の人が歩いてきた。

 

 狭くはない通路だが、相手はかなりの肩幅で、威圧的な雰囲気を感じた私は道の端によってすれ違おうとする。

 

 

「あぁ、きみきみ」

 

 

 呼び止められてから、ようやく相手をしっかり見て驚く、俯いて目を合わせないように通り過ぎようとしていて気づかなかったがその姿には見覚えがあった。

 

 

「……エンデヴァーさん、どうかされましたか」

 

 

 こういう威圧的な人はあまり得意ではない、でもこの業界の大先輩を無視する度胸も私にはなかった。

 

「君の戦いも見せてもらったよ、なるほど緑谷君といい君といい素晴らしい個性だ、力はやはり緑谷君が飛びぬけているが技量や身のこなしに関していえば、君はオールマイト級といってもいいかもしれんな」

 

「ありがとうございます。エンデヴァーさんほどの方にお世辞でもそう言ってもらえるなんて恐縮です」

 

「いや、本心だよ、君たちのような同級生がいて焦凍にとっても良い刺激になる」

 

 エンデヴァーさんに紋切り型通りの返答をする。彼も社交辞令でこのようなことを言っていると思ったのでそう長い会話にはならないと思ったのだが、彼は意外にもこちらに強い関心をもって話しかけ続けてきた。

 

 会話の内容はほとんどが轟君のことについてや私と緑谷君についてだ。

 

 調査の結果、轟君は自身のお父さんとうまく行っていないようで、そのせいなのか炎の個性は使っていないようだが、それはただの親子のすれ違いなのだろうか。

 

「二人とも優れた強化系の個性だ。力で言えば緑谷君、技で言えば君が、それぞれオールマイト相手の仮想敵としてふさわしい、いい壁になってくれるだろう、そうすれば焦凍も左を使わずにとはいられんさ」

 

 そう思っていた矢先、突然言われた言葉に私は困惑する。

 

「仮想敵ですか?」

 

 

「あぁ、うちの焦凍はオールマイトを超えさせるために私が作った」

 

 

 その一言を聞いて私は思わず固まってしまう。

 

 

「私の個性だけでは足りない、だからこそ理想の個性を探した」

 

 

 あぁ、最悪だ。私だって疲れているというのになんでこんな話を聞かないといけないのだろう。

 

 

「あれは最高傑作だ。最高の個性、幼い時から鍛え上げてきた」

 

 

 私は目の前の彼に敬意を持っていた。

 

 プロのヒーローは私なんかとは違い、本物で、自分と違って心には正しさというものがしっかりとあるはずだと、クラスメイトや先生たちを見るたびに思っていた。

 

 

「私が“個性を育てよう”として作り上げた子がアレだ。君にはそのテストベッドとして期待しているよ」

 

 

 その言葉を聞いた瞬間、私の頭は沸騰して、瞬時に冷却した。

 

 

「すまない、試合前に失礼した」

 

「いえいえ、貴重なお話ができてよかったです。エンデヴァーさんのおかげで心が軽くなりました」

 

 私の反応が意外なのかエンデヴァーは少し驚いた様子だ。

 

「ほぉ……、さっき緑谷君と会ったがね、最後は私を睨みつけていたよ、君たちぐらいの年頃の子には受け入れられづらい話かとも思ったが、やはり君は少し変わってるな」

 

 

「はい、実はすごく安心したんです。あなたみたいな人でもヒーローにはなれるんですね、私のようなクズでも力さえあればヒーローになれるとそう思えてきました」

 

 

 そういった後に会話を打ち切って私はこの場を後にした。

 

 

 

 

 私の気力は萎えかけていようと試合は続く。

 

 

 

 

 

 

「瞬間的加速で場外に投げ飛ばそうとした飯田を逆にそのままの勢いで投げ飛ばしたぁ!!!!??? 仮面の女!! 二回戦目も危なげなく勝利だァ!!!」

 

 

『飯田はしょっぱな速攻を仕掛けてくれる行動がデレ行動です。勝手に土俵際まで動いてくれるのでつかみ攻撃を受けましょう、直前で解除、逆につかんで場外、慣れればそうでもないですね』

 

 

 二回戦目の飯田君を倒したのはついさっきの話。

 

 いま準決勝の相手は轟君だ。

 

 以前のリサーチ通り、右の氷結の能力だけなら勝てる自信があったが今はそうはいかない。

 

 緑谷君 対 轟君

 

 その試合は素晴らしく、緑谷君が一時相手を追い込みながらも、あえて轟君に送った激励は轟君の呪縛ともいえるなにかを一時的にでも解き放った。

 

 その光景は萎え切っていた私の気力すら活力をもらえるものであったのだが、そのおかげで目の前の轟君は相当手ごわくなってしまった。

 

 

『緑谷と戦う前の初期ろき君なら、戦っていくうちにダメージと相手の凍えのおかげですぐに倒せるのですが、以降、炎を使ってくる轟の戦闘力はうなぎ上りとなっていきます』

 

 

 頭の声をききながら、位置につくと、そこには憑き物が取れたような顔をした轟君がいて少し、うらやましかった。

 

 勝手な思い込みだが、いつも何かを憎んで刺々しい態度の彼を見て私が勝手なシンパシーを感じていたからだ。

 

 今、彼にそんなものは感じない、あるのは静かな表情だけである。

 

 

 そんな轟君が試合前に口を開く。

 

 

「なぁ、緑谷ってさ、昔からあんなやつなのか」

 

「さぁ、興味ないから覚えてない」

 

「俺も今まで周りになんか興味なくてさ、目に見えるのは敵だけだったんだ。さっきまで目に映るのは憎い親父とオールマイトっぽい緑谷と」

 

 

 そこで一言きって、轟君が私を見る。

 

 

「あとは俺みたいなお前だ本条。あぁそうか、だから俺はお前がなんか苦手だったんだな」

 

「勝手に自分と重ねられて、正直に言えば鳥肌が立ったよ、轟君」

 

「俺は周りなんて全然見えてなかったけど、お前を見た時、たぶん俺だけは他の奴らと違って気づいてたよ」

 

「親切で言うけど、今のあなたちょっと痛いね」

 

 

「お前は一体何を憎んでるんだ?」

 

「…………」

 

 

「俺はもう憎しみが混ざってよくわからなくなってたんだ。親父か、お袋か、自分か、憎しみの原因がすぐそこにある気がするのに直接ぶん殴れないもどかしさがあってさ、苦しかった。お前はどうなんだ本条?」

 

「…………少し知り合いに説教されただけで、そんなに悟った風になれるなんて、あなた単純なの?」

 

 負け惜しみのようにうめいた私の挑発は轟君に何の痛痒も与えていなかった。

 

「俺も思った。でもやっぱり単純なことなんだよな」

 

 

 その微笑を見て私の中に今まで感じたことのない嫉妬心が沸き上がる。

 

 

 あぁ、彼はヒーローに救われたのだ!

 

 あれほど願った救いが、何の因果か、彼にだけ照らされた。

 

 私ではなく、彼が救われた!!

 

 

 もちろん勝手な言いがかりだ。だがそう思う心の動きは止められなかった。

 

 

 

「自分語りで気は済んだ?」

 

「あぁ、悪いな、確かに少し悪趣味だった」

 

 

 

「注目のカード! 両者ともこの大会の頂点に最も近い者たちだ!!! 両者見合って!! スタァァァアト!!!!」

 

 

 まずは互いに様子見、下がって距離を取る。

 

 私は地面を踏みつけて浮かび上がった瓦礫を前に向かって蹴り飛ばし、轟君は氷の壁でそれを防いだかと思えばこちらまで氷が押し寄せてくる。

 

 

『先ほどうなぎ上りの戦力とは言いましたがこの段階の轟は、原作再現なのか、炎の方はめったに使ってきませんし、AIもお粗末です

 

 舐めプしてくれる分にはこちらにとっていいことしかないので、ありがたくその隙をいただきましょう』

 

 

 声の動きは的確だった。

 

 近づかれたくない轟君の戦略に乗って、攻撃を氷で防がれ続けながら、声は相手の消耗の一瞬を見逃さなかった。

 

 

 真っ白な息を吐く轟君がチラリと左手を見る。

 

 

 観客席では俺の力を使えと叫ぶエンデヴァーの声が聞こえるが、それよりも緑谷君の、がんばれという一言に呼応して、轟君の半身が燃え上がろうとしている。

 

 だが遅すぎた。

 

 思考と行動の速度がほぼ一致した私の攻撃が轟君の正中をとらえる。

 

 吹き飛んだ彼はしっかりと受け身を取っていたが、そこは場外だ。

 

 

「決着ゥ!!!!! 決勝にコマを進めるのは仮面の女だぁ!!」

 

 

 おそらく轟君はこれからもっと強くなる。今回勝てたのは彼が心の整理がまだできていなかったからというだけだろう。

 

 

 

 

 ステージから降りれば、決勝進出者として、広めの控室にアナウンスされ、私はポツンと一人、椅子に座ることとなる。

 

 

 

 

 

 決勝戦は爆豪君だ。

 

 彼にはこれといった隙も無い、天才が努力をしたらどうなるか、そんな悪夢みたいな現実が彼だ。

 

 生半可な戦いにはならないだろう。

 

 

「よぉ、根暗女」

 

 

 そして、その爆豪君は、控室のドアを蹴り開けてこちらを睨みつけている。

 

 

「ドアは手で開けて、そして私はあなたに用なんてないから帰って」

 

「あ゛ぁ゛!? なんだその態度はてめぇ!!」

 

「態度について爆豪君にどうこう言われたくないよ、いきなり来て怒り出して、いったい何がしたいの?」

 

「オレはお前に宣戦布告しに来たんだよ」

 

 まぁそうだろう、試合前にあいさつなんて彼のキャラじゃない。

 

「轟君と戦って疲れてるからほっといて」

 

「……半分野郎との試合か、あいつは糞だな、戦いの最中に考え事なんてしやがって」

 

 爆豪君は悪口を言いながらその雰囲気は悔しそうだ。

 

「まぁ緑谷君に何か言われてから露骨に攻撃の動きが悪くなったからね、試合に手を抜いてくれるなんて私からしたら願ったり叶ったりだけど」

 

 緑谷君の名前を聞いた瞬間に彼は露骨に機嫌を悪くする。 

 

「あんな糞ナード、どうでもいいんだよォ!! 俺は全員ねじ伏せるつもりだっていうのにあの舐めプ野郎!! 俺の完全無欠の勝利をよくも……」

 

 彼は完璧主義なのだろう、轟君の不調が自分の勝利に影を落としたと本気で言ってるのだ。 

 

「根暗女ァ! てめぇ、手なんて抜いたらぶっ殺すからな!! デクを倒した半分野郎を倒した根暗女をぶっ飛ばせば自動的に俺がトップだ!!」

 

 ある意味、彼より純粋な気持ちで体育祭で戦っている人はいないかもしれない、おそらく、この戦いがもっとも苦戦するだろうと思った。

 

「爆豪君は私の何を見てたの? 私が今まで一度たりとも勝利のために何か妥協をしたと思ってる? 必要だったら、毒も盛るし、不意打ちをしてでも私は勝つよ」

 

「まぁたしかにそうだな、その点だけは他の奴らよりましだ。へっ、いいぜぇ、やれるもんならやってみやがれ」 

 

 私の脅し文句の何がいいのか、ここにきて一番邪悪な笑みを浮かべる彼に、逆に飲まれそうになるが何とかこらえる。

 

 彼が出ていき、足音が遠くなってから私はようやく息を吐いた。 

 

 

 ようやく、ここまで来た。

 

 私は残る時間を心を落ち着けるために過ごした。

 

 

 

 

 

『決勝戦は爆豪です。

 

 戦いを進めていけば大抵は彼に当たります。

 

 多彩な攻撃と臨機応変な行動、間違いなく彼は強キャラの一人です』

 

 

 戦う前はあれほど激しい口上も、試合前では一切しゃべらずこちらを睨んでいる。

 

 

「スタァァァアト!!!!」

 

 

 試合開始の宣言と、彼の攻撃は同時だった。

 

 

爆煙弾(スモークグレネード)

 

 

 彼がこちらに手を突き出すとともに、手から白煙が噴き出し、あたり一面に煙幕が広がる。

 

 これが作戦なのだろうか? 私の感覚器が他人より優れていると知らない彼ではない、この煙が彼に利することなどないはずである。

 

 立ち込める煙の中で攻撃をした姿勢そのままで動かないでいる爆豪君がわかる。

 

 私は足音を殺して彼に近付いていく、どう見ても私を見失っている様子だ。

 

 それを見て投石すれば目の見えないはずの彼は持ち前のセンスで直撃は避けたが、コンクリートの破片は胴をかすった。

 

 彼も必死によけているようだがそれでも手傷を負うのは彼だけで、私ではない。

 

爆煙弾(スモークグレネード)

 

 煙が薄まると同時に彼はさらにこちらに向かって煙幕を張る。

 

 相手の意図が分からない、何か罠を張っているようにも見えない、彼の手から吹き上がる煙も非燃性で攻撃の手段はない純粋な煙幕である。

 

 この煙は何かを隠すためであるという予想はつく。だがその隠しているものがわからないという気持ち悪さに、私は優位であるにもかかわらず苛立つ。

 

 

『強力な脳筋個性と戦う場合、爆豪は一撃必殺を狙ってきますので不用意に接近しないよう、しびれを切らすまで距離を取ってチマチマと体力を削りましょう』

 

 

 声は攻めはせずに遠巻きに攻撃するだけで接近する気はないようだ。

 

 しかし一撃必殺、やはりこの煙幕はその攻撃へつなげる布石とかんがえるべきなのだろうか。

 

 私は爆豪君がスタングレネードのような、以前八百万さんから受けた音と光の攻撃を再現するのではないかと読んで、強烈な光源や音響があった場合は刺激を絞ることができるように対策をしてきたのだが、この不明瞭な視界では全くもってそれが無駄になった。

 

 彼は同じように煙幕を張り続け、私はそれに潜んで遠くから石を投げる。

 

 解説は常に煙幕に包まれたステージで何が起きているか何とかトークでつないでいるが、それももう苦しそうだ。

 

 この試合は傍から見れば、天下の雄英体育祭の決勝だというのに映るのは、煙幕と、そこから時々噴き出す煙と石の転がる音だけだ。

 

 そんな繰り返しを何度も繰り返せば、さすがの爆豪君も石が多く当たるようになり傷は増え、息も切れている。

 

 彼の打ち出す煙幕も疲労に伴って安定しないのか、煙の濃さも広がりも不安定、先ほどに至ってはわずかな煙しか出ずに不発になっていたぐらいだ。

 

 確かに私の攻撃はきいている。いずれ倒れるはずだ。

 

 

「いい具合に温まってきたぜぇ……」

 

 

 

『半分近くも削ればそろそろですね』

 

 

 声の意味深な言葉に警戒を強めるが、彼は同じように動いた。

 

 

「……爆煙弾(スモークグレネード)

 

 

 だがそれは幾度も繰り返された同じ攻撃だ。

 

 

 私が投げた石を寸でよけると両手をつぼみのように合わせて、投げられた場所から探った私の方向に最速かつ的確に、手を広げて打ち出す。

 

 だが私は位置を探られないように移動を繰り返しているので直撃などするわけもない。

 

 少し離れた場所に先ほどと同じように白煙が広がった。

 

 こちら側にまで白煙が拡散していく。

 

 私にとっては隠れる場所が増えるので好都合だ。薄くなってきた煙から移動し、隠れるように身を潜ませて。

 

 

 あれ?

 

 

 瞬間、脳天から氷柱を突き刺されるような、怖気が走った。

 

 それは第六感といってもいい感覚かもしれない、脳の奥にある何かが伸びてそこから伝わってくる何か、天啓ともいえる唐突なひらめきが私の中でおこる。

 

 同時に私は真横に飛ぶ、今動いているのは私か声か、それすらも分からなくなる感覚。

 

 そして、違和感が次々と頭に浮かんでいく

 

 

 この白煙は見た目こそ同じだが、その匂いが僅かに先ほどと違うこと

 

 煙の広がり方があまりにも早すぎること

 

 彼が口を悪魔のように耳まで吊り上げたこと

 

 

 

 

 

 

燃料気化弾(サーモバリック・グレネード)

 

 

 

 

 パンと、彼の手元が軽く光った瞬間に私を覆う煙の塊が爆発する。

 

 彼の普段の大きな爆発から見れば慎ましやかに感じるだろう。

 

 だがそれは間違いだ。

 

 

「これは、ちょこまかと動くテメェを殺さねぇ程度にぶっ殺すために作った。とっておきだ」

 

 

 膝をついた私めがけて爆豪君がとびかかってきているのが見える。

 

 

 

 これは洒落にならない。

 

 

 白煙に見えたあれは気化された彼の爆発する汗であり、彼はそれを手の中で高圧高温状態で溜めていたのを解放し、爆発的に膨張する勢いのまま、あたりにまき散らしたのだ。

 

 この技はつまるところ、吹き荒ぶ爆風の中に突っ込まれ、体をありとあらゆる方向から殴られる攻撃に他ならない。

 

 こうなった私はどうなっていたか。

 

 まず爆風で両目と右耳がやられた。音と閃光のせいで目が一時見えないなんてものではない、両目は破裂してるし、爆破側にさらされた右片耳の鼓膜も破れている。

 

 こんなのはただの爆弾だ。命に関わる攻撃は反則とはなんだったというのか。

 

 

 早く立ち上がり、爆豪君に勝たなければ、そう思う頭とは裏腹に私の足はもう動かない。

 

 

 

「食らいやがれぇッ!!!!! 榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)

 

 

 

 負ける。

 

 ここまできて負ける?

 

 じゃあ今までの犠牲は何だったんだ。

 

 私は何のためにサポート課のみんな、クラスメイト、心操君、他にももっともっと、私に関わるみんな踏みにじってきたというのだろうか。

 

 

 許されない、敗北だけは決して許されない。

 

 

 

 

自分の頭の中にある線を伝って私は初めて『それ』と繋がる。

 

 

 

 この線が私と声をつないでいたものだと、本能で理解する。

 

 私の頭の真ん中にできた線はどんどんと太くなり、右脳と左脳を押しのけ、頭蓋の頭頂から手を伸ばし、はるか遠くの『何か』とがっちり手を握り合った。

 

  

 

 その瞬間、意識が蒸発する。

 

  

 この時の私にあったのは相手への恐怖や怒りではなく、ただ頭の中を埋め尽くす一つの思念。

 

  

 

『はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく、はやく』

 

 

 

 私の感情を支配したそれは強烈な速さへの渇望。

 

 はやさとは正義である。

 

 その正義の中で私は強烈な多幸感と高揚感に包まれた。

 

 

 目が見えない、皮膚も焼かれた。耳も聞こえないし、鼻もきかない

 

 

 だというのに私には爆豪君が振りかぶってこちらに殴りかかってくる姿が頭の中で鮮明に映し出されていた。

 

 

 知っている。そう私は知っている。

 

 

 爆豪君は敵ごとの弱点を狙うため、個性によって戦法を変化させる。

 

 そして成績で彼を上回った場合、彼はそのキャラに対策した攻撃を仕掛けてくる。

 

 私のような高機動な強化型にはキャラの感覚を奪ってからの本命の一撃

 

 よって最速の攻略は突貫から、敵の対策された攻撃をよけてからの接近戦、次善はそれを受けてからのカウンター

 

 今回は次善策を選ぶしかない、あぁ、もどかしい、私なら彼を最速で倒せていたのに

 

 

 

『ここでカウンターを入れて、工事完了です……』

 

 

 分かる。

 

 これから先、爆豪君の体がこの先どのような軌跡を描くか。

 

 

 私は大ぶりの右を避けて懐に入ると、そのまま腕を振りぬいた。

 

 爆豪君の攻撃がヘルメットに掠る。

 

 先ほどの攻撃でボロボロになっていたそれはいとも簡単に砕けてあたりに散らばる。

 

 

『この技をあえて端で食らって、画面が真っ黒になってから一拍置いてカウンターを入力すると見事にささるので安定して早いです。

 

 最速は接近戦からのタコ殴りですが、先ほどの技が刺さるとあまりに距離が近すぎて、カウンターをする暇なく倒されるので安定を取りました。

 

 というか乱数が暴れない個人戦、そして一番戦うことの多い爆豪と轟あたりでガバる走者なんているわけないよなぁ!!』

 

 

 私のこぶしをまともに受けた爆豪君はそのままステージの中央へと吹き飛ぶ。

 

 

『爆豪はAIが優秀で、相手の弱点を突くぅ^~戦術をとる場合が多く、初見の皆さんは苦労した記憶があるのではないでしょうか

 

 今の動きは高機動脳筋の対策で全体に足止め攻撃をして、本命をぶち込んでくる作戦です。

 

 まぁ、ホモ子を対策している爆豪の対策をしているので負けるわけがありませんね』

 

 

 不思議なことに目の見えないはずである自分が、悪人顔のまま白目をむいてこちらを睨む爆豪君を見ながらぼんやりとあたりを見回す。

 

 いつのまにか、煙幕は彼の爆風に特化した攻撃が消し飛ばしていた。

 

 顔の晒された私に向けて、観客席から歓声ともブーイングともとれない大声が上がっている

 

 観客は、いきなり煙が晴れたら倒れこんでいる爆豪君が見えたわけだから、盛り上がりきれないのだろうとも思うが、私には関係ない。

 

 

 もはや先ほどの高揚感など欠片もなく、今心にあるのは苦り切った自分だけだ。

 

 

 

 

 終わった。

 

 

 

 

 声の通り、私は雄英体育祭の全種目で1位を取って優勝した。

 

 

 

 

 

 

 

 




ホモ子「しかし君は単純だよなァ、私の口から出たでまかせを、全部信じちまうんだからなァ! ヒッヒヒヒヒヒ……、みんなを守るぅ~? ヒーローになるぅ~? ヒャーッハハハハハ!! 楽しかったぜェ、お前との友情ごっこォォォ!!(意約)」

こマ?
ホモ子最低じゃん



燃料気化弾(サーモバリック・グレネード)

爆発のもつ効果のうち、熱や破片による攻撃ではなく、爆風による衝撃波に焦点を当てた技。爆豪の特殊な汗を手の中で高温高圧状態にしてから、前方へ一気に開放することで、相転移を引き起こし、急激に空気と混ざり拡散して爆発する。

 つまりどういうこったよ?

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10話 前半(1/2)

 多くの犠牲を出しながら、雄英体育祭は私の勝利で終わった。

 

 

 声に操られ続けた私は、その果てで、とうとう、その一端に触れる。

 

 

 あの日、爆豪君に勝つために『何か』と繋がった時。

 

 

『はやく、はやく、はやく』

 

 

 たった一つの思念と、なだれ込んでくる情報を処理しきれず、それが限界に近い私へのとどめとなって、あの後すぐに意識を失って倒れた。

 

 

 

 結局、私は倒れたまま閉会式にも出れずに、1位不在のまま(恐ろしいことに爆豪君はあの後すぐに意識を取り戻した)表彰となり、雄英体育祭は終了した。

 

 

 

 そしてあれから何日か過ぎ、今現在私は、いつもの通りに電車に乗って雄英へと向かっている。

 

 

 世間的には雄英体育祭の熱気が冷め止まぬまま、それでも学生である私は日常へと戻る

 

 

 ……はずだった。

 

 

 いつもなら、電車は混雑するため、特に理由がなければそのまま立っている私であるが、今は背中を席に預け、周りの迷惑にならぬように小さくなりながら脱力していた。

 

 

 体の方はおおむね治ったはずである。

 

 

 だというのに、どうにもおかしい。

 

 

「……あっ、ぐっ……」

 

 

 雄英体育祭から断続的に立っていられないほどの頭痛が発生する。

 

「ハァ……、ふぅ……、スゥーーー、…………よし」

 

 別に痛みはいい、息を整えて無理やり体を正しく動かせばいいだけだ。

 

 だが問題はこの頭痛が現れると同時におきる奇妙な現象だ。

 

 

「…………」

 

 

 

 だんだんと強まるその奇妙な感覚には耐えようがなく、私は時間が過ぎるのを待つ。

 

 

 まるで現実が現実と思えない強い違和感、自分が自分から切り離され、起こったことがすべて他人事のように感じてしまう。

 

 あるいは、自分とその周りを遠くから観察しているような現実感の消失。

 

 

 なにも分からない、そこに自分は存在せず、ただこの電車の中の光景が流れていく。

 

 

 

 

 なんと例えたらいいものだろうか

 

 

「……っぱり、クールな人ですね! ますますファンになりました!!」

 

 これは……、そう

 

「強い女の子に憧れてました! 色々言われてるけど応援してます!」

 

 支離滅裂な思考であるとは思うのだが 

 

「生で見るともっと凛としててかっこいいし! あ、あの! よ、よかったらサインください!!」

 

 まるで、

 

「……それはできないよ、ここは公共の場だし、あまり騒がないで」

 

 

 おままごとの人形を見ているような

 

 

 

「………ッ!?」

 

 

 

 ここで私はようやく現実を認識しだす。

 

 

 いつの間にか目の前に、私と同じぐらいの年頃の女の子達がこちらの手を掴まんと近付いていた。

 

 正確にはいつの間にかではない、私の口は勝手に開いて会話すらしていた。声をかけているという事実を、ようやく認識したのが今なのだ。

 

 

「どうされたんですか? 顔色が悪そうですけど」

 

「だいじょ……、ううん、実は今体調が悪くて、申し訳ないけどちょっと人の相手をする元気がないの」

 

 

 目の前の彼女たちはそれを心配するが適当にあしらって一人になった、嘘は言ってないので許してほしい。

 

 これが雄英体育祭のせいで起きたと考えられる弊害の一つだ。あの日からマシになってきていると言えども、ふいに今のような奇妙な感覚が訪れてしまう。

 

 

 そして嫌なことは重なるものである。

 

 

 雄英体育祭の後、この発作と合わせて、私の頭を悩ましているものはまだあった。

 

 

「……あいつが例の奴だぞ」

「まじ? そうは見えねぇけどおっかねぇー」

 

「俺、結構あぁいう子タイプ、キツイ女ほど内にさえ入ればイチコロよ」

「……アタシ、ああいう女嫌いだわ、つーか彼女の前で色目使ってんじゃないわよ」

 

「さすがに実際見た時引いたわ」

「卑怯すぎてやばいっしょ、普通にあれはヒーローじゃねーよ」

 

「あんな奴がヒーロー科か、雄英も地に落ちたな……」

 

 

 私の耳が周りの音を捉えてしまう。

 

 頭痛の方は徐々に来る頻度も落ちてきているというのに、こちらの方は日に日にひどくなっている。

 

 

 雄英体育祭の結果はテレビやニュースで取りざたされ、私の行動も白日の下にさらされた。

 

 

 そして案の定、実際に学校へ保護者、部外者からのクレームが頻発したそうだ。

 

 あの日から、学校どころか街中でも睨みつけられた時がある。

 

 やめておけばいいものの、インターネットで自分の名前を検索してみたが、その内容に30秒も耐えられずすぐに閉じた。

 

 

 だが、この二つは私が受けるべき、真っ当な評価であり、気分良くとはいかないが何とか耐えられていた。

 

 

 最悪なのは3つ目だ。

 

 

 

 簡潔に言えば家族にばれた。

 

 

 

 そもそもこんな大事になっている時点でいくら当日雄英体育祭の中継を見ていなくともニュースでばれるに決まっている。

 

 その危険性を防ぐためヘルメットを被っていたというのに最後に顔が晒されれば何の意味もない、もっとも、ニュースで顔を隠した私を見て、すぐにお母さんは私だと気づいたので、初めから意味はなかったが。

 

 

 このことを知ったお父さんは今まで見たこともないぐらいに怒って、お母さんも泣かせてしまう。

 

 

 これ以上自分を大切にしないなら、私に雄英をやめるようにまで言ってくる両親の説得には苦労した。

 

 私がいくら罵倒したり、激高したフリをしようが、意志を曲げないお父さんは、私を転校させようと必要な書類を持って外に飛び出してしまう。

 

 

 私ができることは車に乗り込んだお父さんの前を遮って、地面に何度も頭を擦り付けて土下座して、雄英に通わせてもらうよう懇願することぐらいしかない。

 

 

 そうやって謝っていると、お父さんが悔しそうに顔をゆがませて、私が謝るのを止めようとする。

 

 それでも転校を撤回させるまではと土下座を続けると、お父さんもなぜか泣き出して、ようやく転校は撤回してもらえた。

 

 

 

 こうして、なんとか雄英に通うことは許されたが、家の雰囲気はもっと悪くなった。

 

 

 

『短縮要素なし、RTAにおけるオアシス! 日常ノベルゲームと化したヒロアカRTA Part10 はぁじまぁるよー!』

 

 

 

 そうだ。よく考えればいつも通りの日常だった。

 

 今日も私のヒーローアカデミアが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、一日で有名人になっちまったなぁ!」

 

「私もここに来るまでメッチャ声かけられた!」

 

「俺も俺も!」

 

 

 教室の扉を開ける。

 

 こちらに何人かの視線が集まり口を開きかけるのを真正面から睨み返す。

 

 

「何見てるの? 目障りだなぁ」

 

 

「げぇ……、今日はいつもの5割増しでおっかねぇ」

 

「ははん、分かったぜ、さてはお前今日、女の子の……」

 

「言わせないわ峰田ちゃん」

 

 

 いつまでも挨拶をされても面倒なのでこちらからペースを崩そうとしたが、それでもだめだったようだ。

 

 私は露骨に顔をしかめ、大きく舌打ちをして自分の席に座る。

 

 

『さて、雄英体育祭が終われば次は職場体験編です

 

 各地のヒーローのもとで職場体験をして経験値を稼ぎましょう

 

 職場体験編といえば保須市で、若いオス♂のエキス舐め舐めおじさんことヒーロー殺し「ステイン」との対決がありますね』

 

 

 

 ヒーロー殺し、その名前は知っていた。

 

 ヒーローだけを狙った犯行で巷を騒がしている連続殺人鬼

 

 

 これまでに17人を殺害し23人を再起不能まで傷つけて、なお逃げおおせているヴィラン。

 

 

 

 どうしてこの世にはこんな人達が平然と存在しているのだろう。

 

 人を殺しちゃいけないなんて簡単なことが、どうして分からないのだろうか?

 

 法律で禁止されてるから、自分がされるといやだから、残された人々が悲しむから、そんな屁理屈なんかじゃない。

 

 

 人を殺してはいけないから人を殺してはいけない、理由なんてなくても心からそう思えなくちゃだめだ。

 

 人を殺した人はもう人には戻れない、そんなことも分からない彼らは人間とは違う怪物だ。

 

 

『拗らせホモのステインがどのような人物か紹介するとこうです。

 

 ヒーローとは見返りを求めてはならず、自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない。そのような英雄回帰という思想を持っており、現代の間違ったヒーローに粛清を与えて世界を正そうって感じの思想犯です。

 

 申し訳ないが3行以上の説明はNGという方向けに説明すると

 

 ガンダムはファースト以外は認めない(過激派原理主義)

 いくら圧倒的な売上と人気を叩きだそうがガンダムはただ一つ

 つまり鉄血のオルフェンズはガンダムではない

 

 とまぁ、こういう感じの魂を宇宙世紀に囚われた奴です

 

 なんでや! 全ガンダム大投票で1位を擁する作品やぞ!!(ORG)』

 

 

 私にヴィランを捕まえろと言われたらできるだろうか?

 

 

 今まで出会ったヴィラン達と、いつかのように無様をさらす自分を思い出しながら、胸の心臓辺りを鷲掴みにして鼓動を確かめる。

 

 拍動は強いが、乱れてはいない。

 

 

 …………よし、冷静だ。

 

 

 今の私ならやれる。

 

 気負いなくそう確信した。

 

 

『はい、ですがステインとは戦いません、タイムの関係上当たり前だよなぁ!?

 

 いつもの復讐者のあんちゃん(飯田)先ほど位置メールくれた怪我好きのにいちゃん (デク)と轟(15歳)の3人で路地裏にいるヴィランの下(意味不明)で盛りあってもらいましょう

 

 選ぶべき体験先は原作の名ありであったり、ヒーローとしての評価が高いほど経験値がお太いですが、そういうところには大抵クラスメイトがいて、イベントが起きるので避けましょう。

 

 原作イベかつ、今後の展開のキーとなるヒーロー殺しに関わるなんて、いくら経験値が多くてもタイムロス、保須市は論外です。

 

 事務所で保須を避け、立教トリオ(デク・飯田・轟)を避けましょう。

 

 別に保須市じゃなくても割のいい場所はたくさんあります。

 

 総合1位を総なめにしている時点で引く手は数多ですので気にする必要はありません

 

 こちらは選ぶ側ですので自分の伸ばしたいスキルが伸びる場所を選びましょう』

 

 

 どうやら、私は戦わなくていいらしい、どこかでホッとしている自分に気づいて勝手に苛立った。

 

 

『保須市のイベントは飯田の兄がステインに再起不能にされたことで、飯田がステインに復讐しようとしますが返り討ち、しかし駆け付けた緑谷と轟が加わり、一転攻勢で仇討ち完了って感じのイベントです』

 

 

 …………飯田君のお兄さんが

 

 

『飯田の好感度やイベント次第では飯田(兄)を助けられますが、その場合は飯田が弱体化するか、飯田イベが爆増するのでお勧めはしません。

 

 このゲーム、復讐は何も生まないけど滅茶苦茶すっきりする上に肉壁が強化されるからね、(あえて放置も)しょうがないね』

 

 

 くそ、くそ……、なんでそんなこと、いまさら言うんだ……

 

 飯田君の方をみる。

 

 

「みんな! 雄英体育祭の興奮はまだ収まらないだろうが、切り替えは大事だ! 席に着きたまえ!」

 

 

 表面上は変わらない、いつもの飯田君だった。

 

 手元のスマホで調べれば目当ての記事はすぐに見つかった。もっと調べればやられたヒーローの名前と安否も。

 

 

 よかった。どうやら生きているようだ。

 

 

 ……いや、いいわけがない

 

 

「おっと本条君! もうチャイムが鳴るから、スマホは片づけた方がいい!」

 

「……ごめんね飯田君」

 

「む? いや、別に今しまえば構わないぞ!」

 

 

 意味の通じない謝罪に彼は不思議そうにこちらを見る。

 

 全てを救いたいなんて傲慢で、実際には自分の手の平にあるものすら守れるか自信はない。

 

 

 こんな話は世界にはありふれている 

 

 

 ヒーローは遅れてやってくるどころか、現実では影すら見せずに悲劇で終わってしまうことを私は知っていた。

 

 

 これは仕方がないことなのだ。

 

 

 本当にそう思っているのか? そう叫ぶ自身の心に蓋をして、私は授業開始のチャイムを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相澤先生が来れば1限目はヒーロー情報学だ。

 

 

「今日の授業はちょっと特別だぞ、コードネーム、つまりヒーローネーム名の考案だ」

 

 その一言に教室中が沸き立つ。

 

「前にも話したと思うがこれからお前たちには職場体験に行ってもらう、だが体験といってもお前たちにはヒーローという肩書がつくわけだ。そこで一応の名前が必要になる。仮ではあるが適当なもんをつけると……」

 

「地獄を見ちゃうわよ!」

 

 

『なんだこのおばさん!!(驚愕)』

 

 

 相澤先生の話を打ち切って教室に入ってきたのは18禁ヒーロー、ミッドナイト先生だった。

 

 あと、おばさんは失礼だ。お姉さんといっていいほど先生は綺麗な人だ。

 

「そこらへんのセンスは俺じゃ難しいので、今回はミッドナイトさんに選定してもらう、名前ってのはこれが馬鹿にならなくてな、名は体を表す。自分がどんなヒーローになりたいか、まじめに考えてやれよ」

 

 

『そうなんです。ですから私たちチルドレンが入力速度を考慮した結果、ホモに収束してしまうのも運命だってはっきりわかんだね

 

 名前は生まれて初めてもらえる親(兄貴)からの贈り物ってそれ一番言われているから

 

 まずは名前をしっかりと考えて決めましょう』

 

 

 クラスのみんなが思い思いにボードへ自分のヒーローネームを書き込んでいく。

 

 私も書こうとペンを持つが手が止まる。

 

 理想のヒーロー像なんて言うが、自分がヒーローなんて想像もできない、何も案がない人は名前を書くらしいが、本名でヒーローなんて危険すぎて書けない

 

 

「ピンキー!」

 

「あら芦戸さん、かわいらしくて良いじゃない!」

 

 

『デデドン(絶望)

 

 ファ!? クゥーン……(心停止)』

 

 

 そうこうしている内に、まるで前から考えていたかのように、いや、実際そうなのだろうけども、どんどん名前を決めていき、残る人物は少なくなっていく。

 

 

「残ってるのは再考の爆豪君に、……あとは緑谷君と飯田君、本条さんね」

 

 

『ではヒーローネームです。

 

 入力速度を考慮して名前は「あ」としました

 

 えっ? ホモ? 何を言ってるんだ冗談はよしてくれ(タメ口)、これRTAですよ、こんなどうでもいいところでなんで時間を使う必要があるんですか(正論)

 

 ホモはどうせ規制されるし、1、2文字だけの意味不明な言葉を入力すると、なんかそれっぽいヒーローネームを勝手につけられるので気にするだけ無駄です。

 

 名前の重要性? それドラゴンボールの前でも同じこと言えんの?

 

 名前なんか記号だよ記号!』

 

 

 無茶苦茶なことを言い出す声を無視するがどうにも声の決定というものに引っ張られているのか、頭が「あ」の言葉を探してしまう。

 

 聞きかじったヒーロー名でアのつくヒーローたちを思い出す。

 

 アーサー、アイアン、アイス、アクア、アズラエル、アトム、アナーキー、アルテミス、アンノウン……、いや別に英語にこだわらなくてもいいのだろうけど、ヒーロー名って英語が多いし

 

 

「はい、飯田君も名前ね、じゃあ次は本条さん」

 

 

 

 私の番が来て、教壇に立った私はいったい何を考えていたのか、混乱した頭の中で残った一つの単語を書き出した。

 

 

 

「えーと………R(アール) T(ティー) A(エー)? どういう意味かしら」

 

「最速で終わらせる。そういう意味です」 

 

 

 

『ファ!? なんだこのヒーローネーム!

 

 あまりの偶然にたまげてRTA中にスクショを取り始めてますね……、走者のクズがこの野郎……

 

 この時私はヴォースゲー(興奮) スクショ取らなきゃ(使命感)タイムの無駄? そんなん関係ねぇんだよ! と興奮していましたが、冷静に考えれば録画してんじゃん……』

 

 

「アールティーエー?つーか名前じゃねーじゃん!」

 

「ううん、アルファベットの組み合わせ3文字のヒーロー自体はいるよ、演算ヒーローCPUや解決ヒーローQED、水星ヒーローORTとかね」

 

「アールティーエー、三文字頭字語でしょうか? スペルで考えれば色々考えられますね、ヒーローならRescue them all “皆 全てを救う”とかでしょうか」

 

「頭文字だけならどんな言葉でも何でもありだろ」

 

「アールティーエー……? アルティエ、アルティア、もしやアルタイルの別読みでは……? アルタイルはアラビア語で“飛翔する鷲”……、フッ……なるほど、鳥の王者の名を冠するか、これは大きく出たな……」

 

「いや何言ってんだ常闇」

 

「うーん、まぁ、あなたなりに意味を込めて考えたみたいだしいいでしょ! 本当の意味は隠されたミステリアスなヒーロー名、それもそれでアリよ!」

 

 

『幸先のいい名前も出たしこのRTAは勝ったな、ガハハ』

 

 

「じゃあ、事務所からの指名がある奴には、今から各自プリントを配るぞ。……例年はもっとばらけるんだが今年は轟と爆豪にかなり集まったな」

 

 

 やはり二人はとびぬけていた。

 

 指名の9割を超えて二人に集中しているのは流石というしかないだろう。

 

 

『さーて、指名はどんな感じでしょうか! たのしみですね!

 

 活躍的には5000ぐらい指名があってもおかしくないはずです。

 

 

 …………は?

 

 

 ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!待って!助けて!待って下さい!お願いします!アアアアアアアア!』

 

 

 当たり前だ。あんなことをして指名が増えるわけがない。私の指名は一応はあるが30件にも満たない、むしろこんなに大勢のヒーローが選んでくれたことに感謝しなければいけないぐらいだ。

 

 

『こマ? 活躍に比べて指名数が貧弱過ぎるだろ……

 

 こんなんじゃ(ロクな指名が)ないです

 

 もうこれ、学校側の選んだ指名から適当に受けるしかないじゃん

 

 ん?

 

 ちょっと待ってください

 

 クォレは……、これってもしかして、もしかするかも知れませんよ?』

 

 

 私が指名されたヒーロー事務所が載っている紙をめくっていると同時に声がそのヒーロー事務所の名前を告げる。

 

 

『おっ、空いてんじゃーん、ここにしましょう』

 

 

 

 その事務所名が書かれた部分を見つけると、私はすぐにその事務所について調べ始めた。

 

 

 

 




かっこいいヒーローネームとか無理無理っ!産めない!

ここで一度作者名見てください(ステマ)、お前見ろよこれなぁ!この無残な姿(ネーミングセンス)よぉなぁ!?


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10話 前半(2/2)

 職場体験当日、それぞれの事務所に向かうため、朝早くから駅のホームに集まった。

 

 

「よし、コスチュームは持ったな、学生のお前らは、まだ公共の場での着用は不許可だ。絶対に落とすなよ、……よし、くれぐれも失礼のないように気をつけろ」

 

 先生が、目線で生徒の人数を数えながら、本日何度目かも分からないほど繰り返された話をして、興奮気味な生徒に釘を刺す。

 

 ここからは別行動、それぞれの目的地に分かれることになる。

 

 一応、個人で向かうことも可能であるが、学校に申請して向かえば金銭も予約も雄英が行ってくれるので、あえてそんなことをする必要もない

 

 目的地の方向が同じ生徒はそれぞれ固まって出発していく。

 

「お前九州か? じゃあ逆だな」

 

「楽しみだなぁ」

「じゃ! またね!」

 

「飯田君……、本当にどうしようもなくなったら言ってね、友達だろ」

「ああ」

 

 

 私が乗るべき車両のアナウンスが流れると、誰に何も言わずに動き出そうとするが

 

 

「おや、本条君もこの列車か」 

 

 飯田君に話しかけられる。

 

「っと、こんなところで立ち止まっては人の邪魔か、早く席に着こうか」

 

 ふと手元の乗車券を見れば、さすが金満雄英だ。見事にグリーン車かつ指定席、嫌な予感をひしひしと感じる。

 

「ふむ、俺は通路側で君は窓側だ。先に行ってくれ」

 

 私の先を歩いていた彼が手元の乗車券を覗き込みながら、交互に席順を確認する。もちろん飯田君は隣席だ。

 

 まともに目をあわせずに席に座ると、話しかけられないようにすぐに窓にそのまま視線をスライドさせる。

 

「本条君と同じ方面とは奇遇だな。君はどこのヒーロー事務所に行くんだ?」

 

 だが彼は普段通りに私に何気ない会話を仕掛けてくる。

 

 次は話しかけられないよう、最大限に気だるげに飯田君を見るととげとげしく突き放す。

 

「そんなに遠くはないよ、私は5つ目の駅で降りるから、あなたを残してそこでお別れ」

 

「うん? 俺の行き先を本条君は知っているのか?」

 

 ……失言だった。

 

 たしかに、いつ別れるなんて相手がどこに降りるか知ってないと言えることではない、内心焦りながらも表情には出さずにごまかした。

 

「…………さっき、券を出した時、後ろから見えたから、私の目がいいの、知ってるでしょ」

 

「あぁ、切符に載ってたからか」

 

 言った後に、自分の個性を言い訳に出したのはわざとらしかったと冷や汗をかくが、飯田君はこちらを気にしたような様子はない。

 

「俺のいく場所は結構栄えてる場所でな、やはりそういうところにヴィランは潜むのだろう、気を引き締めなければ、お互い頑張ろう、本条君」

 

 笑顔でそう話す彼は、復讐を企てるような人間には見えない。

 

「まぁ、勝手にそっちは保須市でよろしくやれば、私には関係ないから、ちなみに考え事の最中に声をかけられるのは嫌いなの、そこらへんよろしくね」

 

 これ以上、彼を見るのが辛くて傲慢な態度に言葉を切ると、目線を切って窓を見た。

 

 飯田君はそうか、と一言言うと、前を向いてしまう。

 

 

 ここからは互いに無言となる。

 

 何をするわけでもない私と、行った先の町の地図を読み込んでいる飯田君

 

 お互いしゃべらず、あと一駅で私の職場体験の場所につくといったところ、やることもないので窓に流れる景色を見ながら時間をつぶしていると、窓に映る飯田君の横顔をつい見てしまう。

 

 窓に反射した彼の横顔が嫌でも見えてしまうのは失敗だった。

 

 何か適当な本でも持ってくればよかったと反省する。

 

 

 ……飯田君の態度は平然としたものだ。

 

 

 大切な人がヴィランに殺されかけたというのにその感情をおくびにも出していない。

 

 もしも自分の大切な人がヴィランに奪われたら、そんな考え私なら思い浮かべるだけでも耐え切れない。

 

 飯田君はたしか、襲われたお兄さんを誰よりも尊敬していた。

 

 犯人を許せるわけがないだろう。

 

 

「……本条君」

 

 

 考え事をしている最中に突然声をかけられた私は動揺した。

 

「さ、さっき言わなかった。考え事をしている時に話しかけないでって」

 

「そうは言うが、窓越しに睨まれたら、何か俺に用があるのではないかと思ってしまうだろう」

 

「…………」

 

 瞬時に言い訳が浮かばない

 

「……窓の景色が見たいのに飯田君の顔が映って不快だっただけだよ」

 

 あまりにも自分勝手で幼稚な言い訳だが、普段の自分勝手で幼稚な行いの良さを信じてそう言い切る。

 

 

「……」

 

 

 飯田君がこちらをじっと見る。

 

 あまりのことに飯田君も閉口しているかと思ったがよく見れば、何かを話したそうに口を軽く開きかけていた。

 

 

「本条君、君に聞きたいことがあるんだ」

 

「……突然何?」

 

 

 彼は言いよどむと、彼の口からは似合わない一言をつぶやいた。

 

 

「本条君は……、どうしても許せない人がいたらどうする?」

 

 

 その一言にどう返答していいものか私は固まる。

 

 彼はそれを見て、こちらに申し訳なさそうに、言葉を取り繕った。

 

 

「いや、君にこんなこと……、変なことを聞いた、忘れてくれ」

 

 

 飯田君の目には暗い火がともっていたのを嫌でも私は見てしまう。

 

 再度私たちの間に沈黙が訪れた。

 

 ここで何も言わなければ何も起きずに別れられるだろう。

 

 

 

「復讐でもしたいの?」

 

 

 

 だというのに私は余計な口を開いてしまう

 

 言ってしまったと顔をゆがめるがもう遅い

 

 そこからはお互い話したくないのに話さなければ耐えられないという、ひどく歪な言葉のキャッチボールが始まってしまった。

 

 

 

「どう、言ったらいいんだろうな……、まず、本条君は俺が保須市に行くと知っていただろ」

 

 

 私の唐突な言葉をさらに投げ返した飯田君、彼も自分が口にした話題に対して苦々しい顔をしている。

 

 

「あぁ……、うんつまりだな、俺が行き先を教えていたのは一部の人にだけだ。切符に書いてあるのは最寄りの駅名で保須市じゃない、君は知るはずのない地名を俺が言う前に言い当てた。君は俺が保須市に行くことは初めから知っていたんだ。なら、それならそう言えばいいものを君はそれを隠した」

 

「……たまたま聞いてたのよ、盗み聞きで聞いて体裁が悪いからごまかしただけ」

 

「教えていたのは一部の人にだけだ。君はそれを誰に聞いた?」

 

「緑谷君と麗日さん」

 

 当てずっぽうだ。 でもたぶん外れてはいないと思う。

 

「その通り、まぁその話はスマホの会話で伝えたのだが」

 

「……」

 

「君は俺がなぜ保須市に行くか知っているな」

 

 もうここにきてはごまかすこともできないと、私は正直に伝える。

 

「予想だけど、お兄さんがヒーロー殺しに再起不能にされたことを飯田君は許せないの?」

 

「……そうだ」

 

 

 飯田君は深く座席の背もたれに息を吐きながら体重をかけた。

 

 

「だからこそ君に聞いた。聞いてしまった」

 

「どういうこと?」

 

「いや……、まぁ……、君はこういう話をしても人には言わないだろうと思ったんだ」

 

 

 言い方になにか引っかかりを覚えるが、そのままこちらへ力なく顔向けてくる彼を見て何も言えなくなった。

 

 

「分からないんだ」

 

 

 まるで、途方に暮れた子供のように普段の彼からは想像もできないほどの弱った姿だった。

 

 

「誰かをこんなに憎んだことは無い」

 

 静かな力ない語り口とは裏腹に、握りしめたひじ置きは軋んでいた。

 

「苦しいなんてものじゃない、初めてだ。こんな気持ちは、臓腑が煮えくり返って頭がどうにかなりそうだ」

 

 そうだろう、大事なものを失えば苦しいなんてものじゃない、苦しいを超えて痛くて痛くて仕方がないだろう、自分の体と心なんて何の自由もなく憤怒に支配されて全部がバラバラになるぐらい痛いはずだ。

 

「自分はヒーローを目指している。だからこそこんな考えは許されない、許されないとはわかってる……! だが……」

 

 私にはわかった。 私には彼が何を考えているかが手に取るように理解できる。

 

 

 

 

「僕は、こう思ってしまう……、奴を……ころ」

 

「ダメ」

 

 

 私は自分の手を彼の口に当てて、その先を遮った。

 

 

 

 

「それだけは言っちゃダメ、嘘でも絶対に言わないで」

 

 

 飯田君は驚いた表情で固まってこちらを見ている。

 

 私はそっと口から手をどけて、飯田君の胸に手で触れる。

 

 

 

 

「痛い?」

 

「ッ!?……」

 

 言われて気づいたみたいにビクリと飯田君は体を震わせる。

 

「普通は痛いよね、もうどうしようもないくらい」

 

「……僕なんてどうでもいいさ、兄さんの受けた苦しみに比べれば」

 

 飯田君は軽く私の手をのけようとするが、私は手をどかさなかった。

 

「普通は痛いの、本当は痛いのに、人のためにこんなに我慢するなんて、馬鹿かヒーローぐらいだよ」

 

 

 私は飯田君の目を見て伝えようとする。

 

 

「飯田君は強いから、今から厳しいことを言うよ」

 

 飯田君は目をそらそうとするが、目線を合わせてくれるまで私は待った。

 

 根負けした彼が伏し目がちにこちらを見る。

 

 

「飯田君はまっすぐすぎ、辛いこと全部抱え込んでたんじゃ、飯田君がダメになっちゃう、周りを見てみようよ、力になってくれた人がきっといたでしょ」

 

「……僕の私事に、巻き込めるわけないだろう……」

 

 今、飯田君にどう言おうともその復讐心はどうにもできない、そんなことでどうにかなるほどのものなら、そもそもここまで苦しんでいない、それをどうにかすることは私では不可能だ。

 

「そうだね、でも君の周りは君が思っている以上に君を思って、巻き込んで欲しいと思ってる人がいることは忘れないで」

 

「……君が、それを言うか」

 

「私は関係ないよ、君を助けるのは私じゃないから」

 

 

 

 そこから飯田君と私はしばらくその場で動けなくなる。

 

 

 

 ふいに、私の手をのけようと触れたままの飯田君の手に力が少しこもったのを感じた。

 

 そのまま強まる力で手を握られる前に私はひょいと飯田君の手から逃れる。

 

 

 

「そろそろ私は降りる準備をするよ」

 

「そうだな」

 

 目的地の駅名が言われたとはいえ、まだ誰も立ってなどいない車両内で残る時間、私たちは何もせずに黙り込んだ。

 

 

「悪かった本条君、君にこんな話をしてしまって」

 

「お互い、がんばりましょ」

 

「あぁ、元気で……いや、待ってくれ」

 

「なに?」

 

「ありがとう、少し楽になったよ」

 

 

 

 最後に短く会話を交わすと私は飯田君と別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「“周りを見ろ”か……」

 

 飯田天哉は、深く座席に腰掛け、兄を再起不能にされてからの自分と、先ほどまでの奇妙な時間を思い返す。

 

 

 

 

 

 飯田天哉は、どうしようもない感情のジレンマに陥っていた。

 

 

 ヒーローは個性の使用が特例で許可されているが刑罰を行使する権利はない。

 

 それはヒーロー活動が人を救う為のもので私刑を行うためのものではないからだ。

 

 そんなことはヒーローを目指すうえでの常識で、学んだ資料の中でそんな事例や解説は幾つも載っていた。

 

 優秀な成績を収める彼も、当然そんなことは理解している。

 

 

 だが、それがどうした。

 

 自分の憧れの兄がヴィランによって半身不随にされた

 

 それがすべてだ。

 

 

 ただ頭で理解したことなど、吹き飛んでしまうぐらいに、彼の体の全てが憎しみを叫んでいた。

 

 許さない、絶対に捕まえる。

 

 それこそ、もし相手が抵抗するなら、手足を砕いても、いや、いっそ……

 

 

 そこまで考えると彼はかぶりを振って思考を凍らせた。

 

 彼の兄が襲われてから、もう何度したかわからない作業だ。

 

 

 彼は、正しい人間だった。

 

 

 それが幸か不幸か、容易に曲がれないほどの実直さを持っていた彼の理性は、憧れたヒーローである兄にふさわしくと思えばこそ、そのような私刑じみたことが許されないと分かっていたのだ。

 

 規則を守るべき者がそれを守らないなどという矛盾は決して許されない、そんな正論に彼は挟まれ、表面上では取り繕いながらも急速にその心は摩耗していく。

 

 

 そんな時、体験学習の指名のプリント、彼の目の前にある文字列が鮮明に映った。

 

 

 マニュアルヒーロー事務所 住所 ……保須市

 

 

 仇のヒーロー殺しは何件かの被害を出してから拠点を移すことはすでに知っていた。犯人はまだ保須市に潜伏している可能性が高い

 

 

 彼にある考えがよぎる。

 

 

 もし、偶然にヒーロー殺しと体験学習中に会えばどうだ?

 

 正式ではないとはいえ仮にもヒーローとしてその場に立つ、ならば捕まえるようなことになったとしても仕方がないことでは? 

 

 

 自分を留めていた理屈にひびが入った瞬間、彼の心の激情は解放された。

 

 

 

 もはやそれを止めるのは彼自身では不可能だった。

 

 仲間へ対する取り繕いはより強固になり、ヒーロー殺しへの憎しみはより強くなる。

 

 

 そして彼は自分に渦巻く感情を整理できぬまま、保須市に向かった。

 

 

 

 

「復讐でもしたいの?」

 

 

 

 

 そして時間は一気に飛び、クラスの問題児と優等生の二人が隣り合う奇妙な時間に移る。

 

 

 保須市への道すがら、隣になったのはクラス1の問題児だった。

 

 いや、ただの問題児というには正確ではない、何せ彼女の成績や授業態度はわるくない、それどころか優秀で、クラスの誰よりも上にいた。

 

 だがそれを帳消しにするのが彼女の人当りだ。

 

 決して誰とも関わろうとしない、それどころか人を遠ざけているとしか思えないその態度、ストイックというには行き過ぎな普段の授業に対する鬼気迫る姿勢。

 

 いくら友好的な1-Aの面々でも、周りを見下すような発言やUSJのヴィラン襲撃での彼女を見て。お互い傷つけない適切な距離を取るべきと何人かが考え始めた時もあった。

 

 その時は、ある出来事から、クラスメイトたちは偶発的に彼女の過去を知ってしまい、皆、彼女がただ残忍な性格なだけでないと知った。

 

 彼自身は、以前自分が委員長に立候補した時に票を入れてくれたことを感謝しており、むしろその話を聞いて、声をより多くかけようと考えていたぐらいだが、今説明すべき話はそんなことではない。

 

 

 つまり彼女、本条桃子は自分と同じような過去の経験があることを彼は知っていたということだ。

 

 

 一体この気持ちをどうしたらいいのか、そう苦しむ彼が彼女と二人きりになってしまった時、その答えを彼女なら知っているのではないかと考えるのは当然だ。

 

 だが初めは聞くつもりはなかった。

 

 知らないうちに勝手に彼女の事情を知って、不躾にそれを聞くことははばかられたからだ。

 

 だが、彼女と話すうちにその欲求はどんどん高まる。

 

 そして、彼女が自分の目的を知っているのではという予感が強まってからは、それを耐えるのも難しくなる。

 

 

「復讐でもしたいの?」

 

「予想だけど、お兄さんがヒーロー殺しに再起不能にされたことを飯田君は許せないの?」

 

 

 もし、どうしても許せない人がいたらどうするか?

 

 そんな最大限、言いぼかした質問の本意を真正面でうち返され、あまつさえ自分の事情を言い当てられる。

 

 こんなことをされてはクラスメイト達の前でいるような、規則を守る委員長ではいられない。

 

 

「誰かをこんなに憎んだことは無い」

 

「苦しいなんてものじゃない、初めてだ。こんな気持ちは、臓腑が煮えくり返って頭がどうにかなりそうだ」

 

「自分はヒーローを目指している。だからこそこんな考えは許されない、許されないとはわかってる……! だが……」

 

 

 彼は驚くくらい、すらすらと、心のうちにあった黒々としたものを吐き出した。

 

 自分の口から出たとは思えないと彼は驚きながら、考える前に怒りと悲しみを含んだ言葉を吐き出し続ける。

 

 そして最後に、止まれなくなった彼はヒーローが言ってはいけないその言葉を言おうとする。

 

 

「僕は、こう思ってしまう……、奴を……ころ」

 

 

 瞬間、彼女が彼の顔に手を伸ばす。

 

 その表情があまりにも苦しそうで、彼は、彼女の指先が唇に触れる前にその一言を言わずに済んだ。

 

 

「ダメ……、それだけは言っちゃダメ、嘘でも絶対に言わないで」

 

 

 普段の強気な彼女とは思えないほどやさしい声色、動揺した彼を差し置いて、彼女の手は顎から首を伝って胸に手が伸びる。

 

 

「痛い?」

 

 

 そう言われて初めて

 

 あぁそうか、自分は痛いのか

 

 彼はそう自覚した。

 

 

 憐みの感情ではない、彼女も同じぐらいの痛みを感じているのだと彼は気づく

 

 

「飯田君はまっすぐすぎ、辛いこと全部抱え込んでたんじゃ、飯田君がダメになっちゃう、周りを見てみようよ、力になってくれた人がきっといたでしょ」

 

「君の周りは君が思っている以上に君を思って、巻き込んで欲しいと思ってる人がいることは忘れないで」

 

 これから厳しいことを言うなんて言っておいて、かけられた言葉には甘やかな優しさしか含まれていない、普段の彼女とあまりにも違う表情を見て、これは彼女の演技か、それとも本来の彼女なのか、動かない頭で彼はぼんやりと考えた。

 

 いつの間にか、彼女の手を掴む自分の手のひらに力が入る。

 

 そうすると彼女は抜けた感覚すら覚えさせずにするりと手を自分のところに戻した。

 

 

「そろそろ私は降りる準備をするよ」

 

 

 彼女の顔はいつも通りの無表情に戻る。

 

 彼は最後に感謝を伝え、彼女と別れた。

 

 

 

 

 彼女が隣からいなくなり、彼は深く座席に腰掛けひとり呟く

 

 

「“周りを見ろ”か……」

 

 

 自分を心配してくれた人たちの顔を彼は思い出す。

 

 今から自分がやろうとしていることは、そういった人たちに対する裏切りではないかと彼は復讐に囚われかけた心の中で思い返す。

 

 彼女の話を聞いても、まだ彼の心は、ヒーロー殺しに復讐したいという気持ちが消えたわけではない。

 

 だがそれは、個人としてではなく、ヒーローとして彼を捕まえるべきであると、彼女のおかげで少し思えるようになっていた。

 

 

「……本条君はどうなのだろうか」

 

 

 自分のことばかりで、いまさらになって彼女の事情を知りながらあのような質問をしてしまったことを彼は恥じ、そんな一言がつい出てしまう。

 

 

 彼女も自分と同じ復讐に囚われているのか

 

 

 彼は考えを巡らせるために彼女を倣って窓を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に短く会話を交わすと私は飯田君と別れた。

 

 私の行くべき目的地へ徒歩で向かおうとする。

 

 

 なんであんな話をしてしまったのだろう

 

 私と彼の言葉の応酬には何の意味もない。

 

 彼はあぁ言っていたが、私の助言で彼が憎しみを捨てられる可能性は少ないと考えていた。

 

 飯田君が堕ちてしまったのならもうすべてが遅い。

 

 憎しみに目先の言葉なんて関係ない、仇を見た瞬間に我を忘れ、私の言った綺麗ごとなんて吹き飛んで、本能を露わにするに違いない。

 

 そしてたとえ憎んだ相手を友達と協力して捕まえようが、いまさらなのだ、憎しみで歪んだ心は変わらない。

 

 

 飯田君はもう逃げられないんだ。

 

 

 大した親交もない飯田君に、なぜそんなことを言いきれるかといえば簡単だ。

 

 

 

 

 私がそうだからだ。

 

 

 

 

 もしも、もし、そんな行き止まりの感情から人を救い上げるような、全部に手が届くような存在がいるなら

 

 

 それこそおとぎ話のような表現になるが“ヒーロー”しかいないだろう

 

 

 

 

 

 

「ヘーイ! そこのしかめフェイスの君!」

 

「きゃっ!!」

 

 

 私は思わず驚きの声を上げて、目の前の地面を見る。

 

 まるで私の感覚内に急に浮かんだように出現したその人物は、地面に落ちた仮面のように床から生えていた。

 

 

「おっ、ようやく気づいてくれたね! 君が体験学習の子でしょ? 俺は通形ミリオ、これから君が向かうヒーロー事務所の案内役を任された……、君と同じ雄英生さ!」

 

 

『はい、来ましたね、彼は雄英ビッグ101のアイツ、ボルトボーイこと通形ミリオ

 

 スタンド名はハヴォック神、非常に強力なスタンドで、名ありキャラを選択するモードで、彼を操作するTAS動画はもはや眼球に対するテクスチャの暴力です』

 

 

 




ホモ子「私と(ダークサイドに)堕ちろ! ……堕ちたな(確信)」
IID「イッテェ……(堕ちてない)」


ホモ子、お前なんだ男の乳首触って喜んでんじゃねーよお前

IID君はヒーローの鏡だからホモ子と違い復讐心に負けるわけないんだよなぁ……


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10話 後半(1/4)

 正体不明の彼は、地面から浮き上がるように私の目の前に現れた。

 

 

 

「おっ、ようやく気づいてくれたね! 君が体験学習の子でしょ? 俺は通形ミリオ、これから君が向かうヒーロー事務所の案内役を任された……、君と同じ雄英生さ!」

 

 

『はい、来ましたね、彼は雄英ビッグ101のアイツ、ボルトボーイこと通形ミリオ

 

 スタンド名はハヴォック神、非常に強力なスタンドで、名ありキャラを選択するモードで、彼を操作するTAS動画はもはや眼球に対するテクスチャの暴力です』

 

 

 一切意味の通らない説明を聞き流しながら私は自分のスカートの端をおさえると、一歩下がった。

 

「……雄英高校1年、本条桃子です。今日からお世話になります」

 

 動揺が表れないように一呼吸おいてから、続けて、取り繕うように低い声で嫌味を言う。

 

「天下の雄英生がのぞきですか?」

 

「スカートの中は見てないから安心してくれ! どうにも堅くて気難しそうな新人が来ると思っていたからね、軽くアイスブレイキングをかましてみようと思ったのさ! いや悪かった。まさかこんなかわいい声を出すなんて」

 

 その人は、まるでいたずら小僧のようにはにかみながら、こちらに頭を下げた。

 

「別に見られたところでどうも思いません、急に現れたので驚いただけです」

 

「はははは! 頼むから学校には言わないでくれよ、これ以上変態の名を集めるといい加減、本当にヒーローになれなくなってしまう」

 

 毒気を抜かれるような、屈託のない笑い声に私はやりづらさを感じながら。話を無理やり本題に戻す。

 

 普通なら、こんなことをされて素直に彼の言うことなど信じられないが、声のお墨付きだ。信じがたいことだが、彼は本当にあの雄英ビッグ3の一人なのだろう。

 

 盗み聞きで聞いた噂によると、雄英にはもっとも実力の高い3年生の3人、通称雄英ビッグ3というものがいるとは知っていた。その中で実質ナンバー1の通形ミリオ、その実力はプロヒーローの中で比類してもトップクラスという話だ。現在は指名された事務所で、もはやプロに近い活動をこなしているらしい。

 

「……それで、通形先輩は、案内で来てくれたんですよね」

 

 言外に早く自分の仕事をしてくれと願う私だが、彼は自分のペースを崩さない。

 

「噂にたがわぬセッカチさんだな君は、だが確かに時間は限られている。さぁついてきてくれ!」

 

 私は歩き出した先輩の斜め後ろを歩こうとするが、彼はひょいと身を滑らせて、私のすぐ横に並ぶ。

 

「……これだと案内しづらくないですか?」

 

「まぁまぁ、これから一緒に働くんだ。コミュニケーションは大事だろ、おっ、あそこのドーナッツ屋は朝のコーヒーが1杯サービスなんだ。コーヒー好き? 寄っていくかい?」

 

「あまり苦いのは得意じゃないです。そもそも相手を待たせると悪いので早く事務所に行きたいのですが」

 

「うーん、素っ気ない」

 

「これが素ですから」

 

 

 私の実習先はあのオールマイトのサイドキックを務めたこともあるヒーロー事務所。

 

 今まで詳しくは知らなかったけれども、その手の方面ではかなり有名なヒーローらしい。

 

 私の調べでは、親しみやすいオールマイトとは違い、冷徹無比で機械のような仕事人といった評価。

 

 個性は不明、しかし、その身のこなしと判断力から、私と同じ身体強化系ではと噂がされているらしい。

 

 

 そんな考え事をしている私に通形先輩はパーソナルスペースを理解していないかの如く、距離を詰め、マシンガンのように話しかけてくる。それに対して私は表情を変えずに、最低限失礼のない返事を淡々と答えていった。

 

 とうとう私に話しかけるのは無駄だと、諦めてくれたのか、先輩は少し呆れた顔をしながら問いかけてくる。

 

「うーん、優等生だね、……言われてみれば君も真面目そうだしサーに似た所があるのかな、 本条くん、君ってサーと知り合いだったりする? 実は親戚とか、だから選ばれたとか、あぁごめん、変な意味じゃなくってさ、サーはなんで君を選んだんだろうって思ってね、あんまりそういうことをしないタイプの人だから」

 

「いえ、面識はないはずです。しかし自慢でしょうか? 通形先輩も指名でこの事務所に来たのでは?」

 

「あははは……、俺の場合、君みたいに優秀だから選ばれたってわけじゃないからね、でもサーは多分、いくら優秀でもそういうところだけで人を選ばないと思ってさ」

 

 先輩に言われずとも疑問には思っていた。

 

 オールマイトのサイドキックまで務めたほどのヒーローがなんで自分なんかを選んでくれたのだろう。

 

 真っ当なヒーローなら雄英体育祭で私のような行動をした奴なんて指名するわけがない。

 

 

『先ほども説明しましたがRTAで選ぶべき事務所は、フラグを立てないようにクラスメイトがいない、かつ経験やスキルが溜まるよう良いヒーローがいる場所です。

 

 しかしそういう稼ぎの良い場所にはクラスメイトがいるため、それを避けるため今回は陰険メガネを選びました。

 

 経験値の上昇はしょっぱいのでこの際どうでもいいですが、固有で習得できるスキルがもらえる可能性があります。

 

 特に回避を補正するスキルは今回の構成との相性がいいのでぜひ欲しい所ですがあまり期待せずにいきましょう(物欲センサー対策)』

 

 

「じゃあさ、逆になんで君はサーの事務所を選んだの?」

 

「……高名な方で経験も豊富です。それに戦闘での的確な身のこなしを見て、私にとってより多くのことが学べると考えて選びました」

 

「面接かよ!! かたいなー、サーはあれでユーモアを尊重しているからね、もっとスマイル! スマイル!」

 

「ユーモアですか?」

 

 ユーモアなんて不要と切り捨てそうな眼光で、そんな風な人には見えなかったのだが本当だろうか

 

 そんな疑いの気持ちが目に出ていたのか通形先輩は強く言い切った。

 

「そうユーモア! サーはむしろ面接みたいな型にはまった感じが嫌いなタイプだよ! もっと自分を出していこうぜ! 会ったら小粋なジョークで相手を笑わせるなんてすれば掴みはバッチリだね! 俺は指名でそういうのはパスしたけど、同じ事務所のバブルガールさんなんて一発ギャグをさせられたってさ」

 

 私の目的地である事務所はパワハラの横行するブラック事務所なのではと頭によぎる。

 

「私も指名ですのでそんなのはしたくないですね……、というか相手を笑わせるのが面接なんて意味ありますか」

 

「世界的に有名な多国籍テクノロジー企業のゴーグルなんて、よく変わった面接の質問とかするだろ?」

 

「その手の変わった質問が取り上げますが、その質問を作っている会社自身の調査で、うまく答えられたグループと、答えられなかったグループ、その二つに業績で有意な差はなかったそうですよ」

 

「えっ、それ本当?」

 

 

 一方的に話しかけてくる通形先輩に心無い返答を心がけるが、どうもその人懐っこさに押されている。

 

 先輩がパトロールの時にしてしまった失敗、最近あった変わったこと、私のこと、様々な話題が尽きることなく提供されていく。

 

 これ以上、会話をしないよう自分を戒めながら歩くが、適当な相づちを打っても、先輩の小気味良いレスポンスに話は続いてしまう。

 

 

「でね、その集団面接で言われたんだ、“シカゴにピアノの調律師は何人いるでしょうか”ってね」

 

「フェルミ推定ですね、雄英受験の面接対策でやりました」

 

「うわっ、そのナントカ推定! ちょうど俺の前にあてられた頭よさそうな人もそう答えてたよ」

 

「正確な人数ではなく、人を納得させる筋道の立った答えを用意すればいいだけですから、計算というほどのものでもないですよ」

 

「確かにその人もさ、シカゴの人口はウン万人で、1世帯あたりの人数がどうで、その内ピアノを持っている家がどうとか、それで最後に“シカゴに必要なピアノの調律師は130人だ”ってかっこよく決めてたなぁ、その後“あなたはどう考えますか?” なんて俺に話を振られて焦ったよ、その時俺がなんて答えたと思う?」

 

「はぁ、なんて答えたんですか」

 

 私は興味なさげなふりをしていたが、先輩はめげない。

 

 

「シカゴでしたら調律師は“4人、あるいは5人です”って答えたんだ」

 

「…………なんでですか?」

 

 

「理由は()()ってね」

 

 

「…………そうですか」

 

「あっれー、滑っちゃった?」

 

 

 

 渾身の決め顔で、オチを言いきった先輩はこちらの反応をチラチラ見た後、他の話題をあわてて話し出す。

 

 そんな先輩に対してほだされぬよう、努めて無表情を貫いて歩いた。

 

 

 

 そんなことをしていれば、いつの間にか目的地のヒーロー事務所につく。

 

 

 

 五階建てのきれいなビルの中に事務所があり、先輩に促されてはいる。

 

 内装は良く言えばこざっぱりした。悪く言えば打ちっぱなしのコンクリが壁や床の多くを占めて冷たい印象を受ける。

 

 

「案内はここまで、サーは君と一対一で会いたいそうだから行ってきてくれ」

 

「まるで面接ですね、そういうのは嫌いなのでは?」

 

「ハハハ、さっきも言ったろ、サーはそういうのは嫌いだって、ないない」

 

 

 そうして私は言われた通り、奥の一室の前に立つと3回ノックをする。

 

 

「入ってくれ」

 

 

 ある程度の広さの個室、その真ん中にはパイプ椅子がポツンと置かれている。

 

 一体いつからその姿勢でいたのか、机に置かれたブラックコーヒーは一切口を付けられておらず冷え切ったコーヒー特有の酸味が香っていた。

 

 その奥にいた目的のヒーローは奥のデスクに肘をつき、まるでこちらを値踏みするように鋭い目を向けて微動だにせず待ち構えている。

 

 

「……雄英高校から来ました。今日からこちらの事務所で体験学習をさせていただく本条桃子です。よろしくお願いします」

 

 

「指名に応じてもらい感謝する。私はサー・ナイトアイだ」

 

 

 何をどう見ても面接の様相だ。

 

 私は心の中で通形先輩へ毒を吐く。

 

 

 

「私のことはサーと呼んでくれ、まずはそこにかけなさい」

 

 

 

『はい、あまりにも強個性で原作ではそれを活かしきれなかったサー・ナイトアイ、本名は佐々木未来です。

 

 サーの意味は男性に対する敬称ですが、自分でサーと呼ばせる傲慢さは嫌いじゃないです。

 

 サー・佐々木と呼んであげましょう』

 

 

 時計、カレンダー、マグカップ、万年筆、ポスター、部屋の内部はシンプルなはずであるのに所狭しと飾られたオールマイトグッズが異彩を放つ。

 

 気圧されながら、私は言われるがままに椅子へ座った。

 

 その重苦しい雰囲気から、机越しに話しかけられる。

 

「まずは仕事をしてもらう前にお互いの自己紹介をしよう、何ができるかを教えてもらいたい、君の個性について教えてくれないか」

 

 個性については事前に雄英から説明がされている通りに同じ説明を繰り返した。

 

「個性“成長”鍛えれば鍛えるほどに体の機能が強化されます。これは身体だけでなく記憶力や計算速度、指先の巧緻性や道具の技量なども含まれます」

 

「……それだけか?」

 

 サーの表情はなぜか険しく、眉間にシワを寄せる。

 

 その一言は私には理解できない真剣みを感じ取れた。

 

 

 質問の意味が分からず、私が焦りながら何かをしゃべろうと口を開きかけるが、サーが先に口を開く

 

 

「君の個性“成長”の能力はそれだけなのか?」

 

「はい、そうですが……?」

 

 一瞬、何かを考えこむサー、私は質問の返事を間違えたかとも感じたが、なぜかサーの方は難しい顔をしている。

 

「……いや済まない、何でもないんだ、では次の質問だが」

 

 

 そこからされた質問はまさに面接の王道といった内容だ。

 

 どうしてこの事務所を選んだか、なぜヒーローを目指すのか、どのような成長をしたいのか

 

 それらに私はよどみなく返答していく、奇妙なのは、質問としてはこちらの方が重要であるはずであるのに、先ほどの真剣な態度は霧散しており、正直に言えば答えをまじめに聞いているのかと疑うほどだ。

 

 

「そちらばかりに喋らせて、悪いな、次は私の自己紹介をさせてもらう」

 

 

 釈然としない会話を打ち切ってサーは組んでいた手をどけて立ち上がる。

 

 

「私の個性は“予知”平たく言えば未来が見える」

 

「それは……、怖ろしい個性ですね」

 

 目の前の人の、突然の爆弾発言に私は動揺する、これが面接でなければみっともなく、口をあんぐりと開けていただろう。

 

「あまり驚いた風には見えないな」

 

「いえ、あまりにも強力な個性なので反応が遅れました」

 

 そんなインチキじみた個性を持っていたら、使い方次第で望めばなんだってできる。まさに夢のような個性だ。

 

「そこまで使い勝手の良いものではないさ」

 

 サーは何かを考えていたのか、冷えたコーヒーの方を数秒見てから動き出した。

 

「では、これからすぐ、仕事に入ってもらう」

 

 これで面接は終わったのだろう、動き出したサー・ナイトアイはカツカツと靴を鳴らしながら近づくと、右手を差し出してきたので、私もその動きに合わせる。

 

「今日から短い間だがよろしく頼む」

 

「こちらこそお願いします」

 

 

『個性「予知」は相手に触れて目線を合わせることで、相手の未来を見ることができます』

 

 

 私はその一言で、さし伸ばそうとした手を静止させる。

 

 

『サー・ナイトアイの予知の個性は考察が盛んに行われていますね。

 

 曰く、見てしまった未来は必ず発生してしまうため、自分が個性で先を見たことで未来の事象を確定させてしまうと自分を追い込み、サーは自身の個性の使用を控えているみたいです。

 

 え? よくわからない?

 

 つまり、私たちがほんへを知っていることで、当時は若くお金が必要なただの青年にいくら大金を渡しても監督はたまげてしまうし、どれだけ安全運転を心がけても白のボンゴフレディは必ず黒のセンチュリーに不幸にも追突してしまう感じです(適当)』

 

 

 

「どうかしたかね」

 

 

 

 サーはこちらを見下ろしながら、興味深そうにこちらを見つめていた。

 

 差し出された手を握ろうとしかけたところで立ち止まっていたが、ここまで来て握手をしないことは不自然であるため、手を大人しく差し出す。

 

 

 しかし、決して目が合わないように頭を下げた。

 

 

 彼の見た目通りに固い手を握りながら、もし、サーが私の未来を見たら一体何が見えるのだろうかとふと思う。

 

 

「今日の予定だが、本条にはミリオについてもらう、俺からも伝えておくが、仕事が終わったら一度事務所に戻ってきてくれ」

 

 

『正直、ツッコミ所さんも多い個性ですが、確定した未来、それを打ち破る主人公達!って展開はアツゥイ!から好きですねぇ!!

 

 まぁこのゲームはマルチエンディング方式なので、未来は一本道で不変だとか言われてもピンときませんけどね。

 

 あっ、でもチャートという名の運命に沿って進んでいるわけですから、RTAはある意味一本道ですね』

 

 

 どうせロクな未来じゃないのだし、考えるだけ無駄か。

 

 ……私の未来に私の居場所はないし、過去からも逃げた、そして今は私のものじゃない。

 

 

「よし! 本条くん、コスチュームに着替えたらすぐに行こうか!」

 

 

 呼び出された通形先輩は今日の予定を伝えられると、私に親指を突き出して話しかけてくる。

 

 

 

 

 私の体験学習はこうして始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……彼女もそうなのか?」

 

 

 この事務所の主であるサー・ナイトアイ。

 

 彼は部屋から誰も居なくなって、しばらくしてから呟き、何かに悩むように固まる。

 

 が結局は何かを諦めるように体を緩めた。

 

「……しかし、結局これに縋ってしまうのが私の弱さか」

 

 覚悟を決めた彼は深く息を吐いた。

 

 

 

 彼が雄英の体験学習で一人の学生を受け入れると宣言した時、彼の周りの人間はその理由が分からなかった。

 

 サイドキックの2人はサーには何か考えがあるのだろうと思ってはいたが、選ばれた学生はどうも彼好みの人間ではないと気づいていたし、落ちこぼれていた自分を育ててくれた過去があると理解していた通形少年も、自惚れと言われようがサーは自分以外で学生を受け入れることはよほどのことがなければないと考えていた。

 

 しかし彼は、突然の宣言のまま、何の脈絡もなくたった一人の少女の情報を洗いだすとすぐさま雄英へオファーをかける。

 

「気になることがあってな。それに雄英体育祭1位の実力者だ。未来の一線級ヒーローを見ておくのも悪くない」

 

 当然事務所のものが理由を問うても普段の彼らしくなく、曖昧な言葉で明言は避け、まるで用意された理由を言うだけだった。

 

 周りのものにとってはさらに謎が深まっただけだがこれは仕方がない。

 

 その理由は決して理解されない、彼女を呼んだのはその成績でも個性でもない、それは恐らく彼しか知りえない判断基準であったからだ。

 

 

 

 彼が彼女に執着する理由、それは雄英体育祭の日までさかのぼり、より正確に話すにはそこからさらに前の出来事を話す必要がある。

 

 

 

 それは彼がある犯罪組織を追っていた時だ。

 

 

 その組織は個性から作り出した有機化合物であるアンフェタミン類、つまるところの覚せい剤を売りさばき急成長を始めた組織で、その巧妙な隠ぺい工作から、末端のメンバーは割り出せても幹部級の者たちのしっぽは掴めずにいた。

 

 だが彼は自分の個性を用いない地道な捜査を行い、とうとう幹部と思われる男といくつかの主要なアジト、そして近々組織で行われる大口の取引の情報を手に入れる。

 

 あとはどうにかして取引現場を押さえるだけであるがここからが難航した。

 

 頻繁にアジトを変える幹部は様々な偽装工作を行い、肝心の取引が何時、どこで行われているかを巧妙に隠したのだ。

 

 ここで下手に踏み込めば、今までの苦労が水泡に帰す。

 

 

 サーはここで最後の詰めとして個性を使用した。 

 

 

 偶然を装って容疑者と接触して未来を見る。

 

 

 個性を使用した未来はまるで一枚の写真のように一つの光景を映し出した。

 

 

 テレビに照らされた薄暗い部屋とその真ん中に置かれた大量の金と薬物、それを挟むように立つ容疑者と黒服の男達

 

 

 間違いなく取引の現場だと彼は確信する。

 

 

 普段ならば、ただ個性を使うだけでは、対象を中心とした映像のみであることも多く、ここまで分かりやすく映ることは珍しい。

 

 未来を視ると言えば聞こえはいいが、対象の周囲しか分からないという効果では、それが正確にいつどこで何をしているかが分からない場合も多く、むしろそういった映像の方が多かった。

 

 対策として、よく個性を使う対象のサイドキックから自分の周りの未来を正確に測るため、事務所に限定版のオールマイトカレンダーなどを目立つ場所に飾るなど様々な工夫はしているが無駄になることも多い。

 

 これほど詳細な未来が見えたのは彼が情報を集め、組織の背中を掴みかけている状態で予知を行ったからこそという理由も少なくないだろう。

 

 ここから彼はさらに、その光景から取引がいつ、どこで行われていたか分析しようとする。

 

 そしてすぐに気づく。

 

 唯一の光源、そこには彼の敬愛するオールマイトと少年が映っていた。

 

 もっとも高い壇上に立っているトゲトゲとした少年が、オールマイトに挑戦的な目つきを見せながら()()()()を授与されている様子が印象的だ。

 

 彼は学生の付けた服装から、それが雄英生であることはすぐに分かった。その状況から時間を置かずして、テレビに映る光景が近々行われる雄英体育祭、おそらく例年行われているメダル授与式であると結論付ければ、日時はすでに確定、映った部屋の間取りから、調べ上げたアジトと合致する構造を考えれば場所もすぐに絞られた。

 

 あとはその時と場所に向けてヒーローを集め、完璧な準備をもって挑むだけだった。

 

 

 結果として予知は現実へと収束する。

 

 

 まるで吸い込まれるようにサーが見た未来と同じ光景の取引が行われる瞬間、ヒーローたちが踏み込む。

 

 その襲撃を全く予想できなかったヴィラン達に対して万全を期したヒーローたちは抵抗する間も与えずに制圧した。

 

 もちろん突入の先陣を切る一人として現場にいた彼も、すぐさま容疑者を無力化し、クスリと金を確保する。

 

 無線から伝わる作戦の成功とヒーローたちの無事を聞きながらも、最後まで気を抜かぬように警戒を続ける彼はふとテレビから流れる音を拾う。

 

〈君の目と、あの死力を尽くした肉弾戦を見れば、並々ならぬ覚悟が見えた。3位という順位は関係ない、君はすでに走るべき目的地があるのだろう、問うな! 進め少年! その先に君の未来がある〉

 

 聞き覚えのある声が彼の意識をテレビに向けさせた。

 

〈2位では決して満足しないその気概! その上を目指す気持ちは君を強くする!! あえて何も言うまい! 走れ!!少年!!〉

 

 そこには映像と同じ壇上、その頂上にはだれもおらず、オールマイトが不機嫌そうな目つきの悪い少年に()()()()()()を手渡しているところであった。

 

 雄英体育祭、将来活躍するヒーローの卵たち、その中でも1位に輝き、()()()()を手に入れた少年が結果としてこの現場を押さえるカギとなったことに噺じみた愉快さを感じながら、目を離そうとする。

 

 

 

 しかし、彼は強い違和感を感じた。

 

 

 

「2位だと……?」

 

 

 彼の目は()()()()()()に釘付けとなる。

 

 彼は目の前の金とクスリを踏みつけてテレビに寄ると、自分の記憶と目の前の光景を何度も何度も比べた。

 

 そこには本来1位で金メダルを手にしていた少年がいたはずだというのに、目の前の光景は違っている。

 

 

〈では次の表彰に移りたいところだが……〉

 

 

 彼は呆然とする。

 

 予知は絶対のはずならばこれはなんだ?

 

 

 もしや自分が見た雄英体育祭は来年や再来年のものだとでもいうのだろうか、いやそんなわけがない、1年後2年後もここで取引が行われるほど警察もヴィランも間抜けではない

 

 

 彼の経験では今まで予知が示す未来は、時期がずれることがあっても、覆されたことなど一度としてない、どんなに未来を変えたいと願おうと、視てしまった未来が変わることはありえないのだ。

 

 

 一体何が原因かを考えていると、テレビのオールマイトがアップで映った。

 

 

〈1位の彼女は不在だが、ここから言葉を送らせてもらおうか、彼女の戦いへの真摯さは過程はどうあれ人を引き付けた。その強い気持ちで勝利をつかんだと言っていい、彼女は今後この雄英で心身共に大きく飛翔することを約束しよう!!〉

 

 

 オールマイトの言葉に、過去映像がテレビの隅に小さく表示される。

 

 

 

 そこには全力で勝利をつかみ取ろうとする少女がいた。

 

 

 

 幾つもの危機に直面するがそれでも苛烈に戦い、勝ちを拾う少女に彼の目が釘付けとなる。

 

 本来、1位になるはずの者を押しのけて1位になった学生

 

 

 未来を変えた人間

 

 

「…………早計だ。……だがまさか、あり得るのか?」

 

 

 それは運命の奴隷である彼の興味を引くには十二分すぎるほどの存在だった。

 

 

 

 こうして彼は、本条桃子に職場体験のオファーを出すに至る。

 

 

 

 幸運なことに彼自身、業界では一角の人物であり、彼女のオファーには他に目ぼしい事務所からのものがなかったことから直ぐに了承の連絡が届いた。

 

 事前に学校側から送られてきた詳細からは一見彼女の個性が未来に干渉するような力ではないが並外れたものであり、少なくとも全く可能性がないとも言い切れない。

 

 未来を変えられる可能性、それは彼が何よりも、それこそ自分の命すら天秤に賭けられるほどに欲した希望であった。

 

 そして実際に少女に会い、その期待は徐々に高まっていく。

 

 彼は彼女が本当にそうなのか、面接じみた問答で聞き出そうとしても、大きな収穫はなかったが、要所要所で見せる奇妙な勘の良さを感じてしまう。

 

 それは自分で明かした個性への反応であったり、握手をしようとした時のもたつきであったり、彼にはどうにも腑に落ちない。

 

 まるで()()()()()()()()()()動き、それは彼自身、よく身に覚えのある振るまいだった。

 

 

 その時、ある考えが彼の脳裏をよぎる。

 

「……彼女もそうなのか?」

 

 それを確かめる方法は一つだけだった。

 

「……しかし、結局これに縋ってしまうのが私の弱さか」

 

 

 

 

 

 サー・ナイトアイの知る確実な方法。

 

 それは本条桃子の未来を視ることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 職場体験の1日目は先輩についてのパトロールだったが、これは不都合なく、お昼に入る前にはすぐに終わった。

 

 

「ハハハハ、まさか本当に面接になるとはね! 扉の隙間から見えたけど、さすがに申し訳なかった」

 

「……気にしてませんので安心してください」

 

 私たちは市街地をパトロールしながら歩いていた。

 

 授業では着慣れていたが、外でヒーロースーツを着るとなると何か落ち着かないような気持ちになってしまう。

 

「ふふふ、分かる。分かるぞその気持ち、初めてコスチュームで人前に出た時の緊張と高揚感! そう、君が学生であれ、今ここにヒーローとして立っているんだ!」

 

「……そうですね」

 

「気負いすぎることは無いぞ! みんな初めは誰だってそうさ!」

 

「通形先輩、今日はよろしくお願いします」

 

「おっと、今の俺の名前は通形じゃないぞ! 俺はルミリオン、全て(オール)とはいかないが、100万(ミリオン)を救う人間になれるように命名した。レミオロメンみたいでかっこいいだろ?」

 

 すごい名前だ。

 

 100万を救うなんて途方もない目標、私では考え付きもしない。

 

「ありがとうございますルミリオン、いい名前ですね」

 

「ありがとう! それで本条のヒーローネームは何だい?」

 

「私のヒーローネームはRTAです」

 

「RTA……、RTA?」

 

 

『レミオロメンとミルメコレオが脳内でなぜかこんがらがるのは私だけでしょうか、まぁそんな話は置いて、パトロールの解説でもしましょうか

 

 といっても解説することは多くありません、このイベント、通常プレイでは、パトロール中、町の中でNPCが配置され、ペアと様々な困っているNPCを時間制限内に解決していくというものです。

 

 終了条件は一定時間の経過かペアと目的地に到着すること、高評価を狙うには多くのNPCを助けたうえで、時間通りに目的地にたどり着く必要があるのですが、この脇道にそれる人助けが曲者で、のめりこむとついタイムアップしてしまうんですよね。

 

 報酬はまず味の経験値、助けた住人からランダムでもらえる糞低レベアイテムです。

 

 これマジ? 面白さに対して報酬が貧弱すぎるだろ。

 

 なので本RTAでこの操作パートはペアに金魚の糞のようについて行き、目的地を目指すだけのクソゲーです。

 

 糞雑魚ナメクジのように遅くフラフラと動くNPCに殺意を覚えながら後をついていくだけですが、一定距離離れると立ち止まったり、近づきすぎても接触してのけ反りが発生してしまうのでロス。

 

 あまりの遅さに耐えきれない走者たちが個性や攻撃などで早く位置をずらそうにも、ペアへ複数回の進路妨害や攻撃を行うとこの体験学習でもらえるスキルや経験値が糞となります。

 

 まるでイライラ棒ですが、安心してください、このイベント、だれでも理想タイムをたたき出せる方法があります』

 

 

 先輩の後をついていきながら、困っている人がいると聞いて、町の通りに聞こえる音を探る。

 

 通りの向こうに風船を樹に引っ掛けてしまい、親に駄々をこねる子供の声、落とした財布を探す主婦、待ち合わせを間違えたのか一本通りを挟んで互いを探しあう恋人など、困っている人達をすぐに聞き分ける。

 

 

「パトロールは重要な仕事だよ、……やぁ! おはようございます」

 

「っす……」

 

「犯罪の抑止もそうだけど、……おはようございます!」

 

「おはよーございます!!」

 

「おっと元気がいいね! ……地域との関りを深めるいい機会だからね、……おはようございます!」

 

「やぁ、朝から精が出るね」

 

「ありがとうございます! ……こうやって地域住民との連帯感を深めることが防災にもつながるから大切なのさ」

 

「えぇ、そうですね、勉強になります」

 

 

 口で肯定しながら、私は困っている幾人もの人を見て見ぬふりをした。

 

 今、私は自分の意志で動けるが、誰も助けようとはしなかった。

 

 先輩はヒーローの心構えを話しているのだが、どうも私の心は上滑りする。

 

 先輩は素晴らしいヒーローなのは間違いない、間違いないのになんで彼は困っている人を助けられないのだろうかと、知っていて無視している自分を棚にあげてそんなことを考えた。

 

 

『このイベントを無駄なく、行える最速行動は戦闘をAUTOに任せることです。

 

 他のイベントではポンコツ行動をして、ロクな動きをしませんが、いくつかのイベントでは、手動より早い場面があります。

 

 覚えているでしょうか、Part4でやった体力測定がそれですね、こういったオートの場面で適宜、トイレ休憩や飲み物を取っておいてください。

 

 実質トイレ休憩できるほどの場所はここぐらいなので用を足すならガチでここでやっておきましょう。

 

 ウンチして♡

 

 ですが、夜更かしで小腹が空いた私はポテチとコーラを選択します。

 

 なんで?(殺意)』

 

 

 簡単なことだ。

 

 いくらヒーローでもすべてを救うことはできないし、世界から問題はなくならない。

 

 もともと世界はそういう風にできている。

 

 改めて口に出すことも恥ずかしい、陳腐な事実だ。

 

 

「……いつも通りですね」

 

「今日も町は平和でなによりだ! よし、そろそろ戻ろうか」

 

 

『操作パートが終わるまでオートモードは切れず、次回操作にも引き継ぐので戦闘終了後は必ず操作を手動に切り替えておきましょう。

 

 オートモードで眺めるこのゲームは、パワプロのペナントモードで観戦しているような気分になりますね。

 

 使用に賛否は分かれますが周回で忙しい人用のレベル上げとしても使えます』

 

 

 

 

 パトロールは特に何も起きることもなく、正確には何も起こさずに終わらせ、事務所に戻った。

 

 

 

 

 事務所に戻ると、そこには朝にはいなかった人たちもいる。

 

「彼女が朝話したバブルガールさん、それでもう一人のクールなジェントルがセンチピーダーさんだ」

 

 

 午後からは、サーは通形先輩を連れてどこかに行ってしまったため、サイドキックの方々からプロヒーローの体験談を生で聞くことができた。

 

 ヒーローの実際や裏話

 

 これはとても興味深く、私はいくつもの質問をしながら話すと、時間は驚くほど速く過ぎていった。

 

「戻った」

 

 日も傾くころ、サーが事務所に帰ってくる。

 

 気が付けば事務所には赤い日が差し、時計を見れば体験学習の終了時間が差し迫っていた。

 

 

「1日目はここぐらいにして明日に備えなさい」

 

 

 私は周りに頭を下げてお礼を言い、その場を後にしようと腰を上げるが、予想外のところから声がかかる。

 

 

「本条、駅まで送っていこう」

 

 

 腰を浮かせたまま私は一瞬固まる。

 

 送る?

 

「流石に今日は疲れただろう、短い距離だが車で送ろうと言っている」

 

 精神的な疲れを言うなら、一人で歩いて帰してもらう方が実はうれしい、だが断ることは失礼なのでお礼を言いながら、車に乗せてもらうことになってしまう。

 

 サーの運転する車は大きな車体で、見かけは古いがよく整備されている。素人目にも分かる高そうな車だ。

 

 中に乗り込めば、サーは無言で車を走らせた。

 

 気まずさがある中、大した話題もない私は無難に今日の体験学習の感想でも話してみる。

 

「今日は本当にありがとうございました。町でのパトロール、サイドキックの方々のお話は大変勉強になりました」

 

「そうか、良かった」

 

「実際、ヒーローの姿で大勢の前に立つのはやはり緊張しました」

 

「そうだな」

 

「バブルガールさんの苦労話は実際にヒーローになる上で想像してなかった視点が沢山あって、面白くてクスッとしながらもタメになりました」

 

「そうか」

 

 ……サーの返答は淡白で、むしろ黙っていた方がいいのではないかという気がしてきたのだが、一つだけ、気になっていたことがあったため、いい機会なので聞いてみることにした。

 

 

「……そういえば、聞いていなかったのですが、今回の体験学習、なぜ私を選んでいただけたのでしょうか?」

 

 まさか雄英体育祭を見て、私の腐った性根を叩きなおすためと言い出すかもしれない、そう思いながら、私は恐る恐る口を開く。

 

 

「君は運命を信じるか?」

 

「はい?」

 

 

 だが返ってきた言葉は質問の答えにもなっていない唐突な問いかけだった。

 

 

「文字通りだ。不運も幸運もすべては決まっていて、人の意思などではどうしようもない巡り合わせが存在しているかということだ」

 

 あまりに突拍子もない質問に私は聞き返すが、ミラーに映るサーは眉をピクリとも動かさずに運転に集中している。

 

 その表情は別にこちらをからかっているような雰囲気ではなく、いたって真剣に見えるので、こちらも至極真面目に答えなければいけないだろう。

 

 

「運命ですか、あまり好きな言葉ではありませんが……」

 

「私もだ」

 

 

「ですがおそらく存在しています。それを運命と呼ぶかは分かりませんが、未来が無数にあるとは思えませんね」

 

 

 私がそう答えると、彼は初めて、興味深そうにバックミラーからこちらの顔を見た。

 

「ふむ、なぜそう思う」

 

「なぜですか……」

 

 私は本能的にこの話を避けようと目を伏せるが、車は運悪く交差点に引っかかり、サーは続きを促すようにミラーを見たままだ。

 

「未来は自分で切り開く。そういう考えこそヒーローらしいんじゃないのかね」

 

「そうですね、でも私、ちょっと思うんです。未来はたくさんの可能性があるってみんなはよく言います。でもそれって多分見せかけなんじゃないかなって」

 

「……続けてくれ」

 

「あの? これって何の話なのでしょうか?」

 

「必要な話だ。続きを」

 

 自分の実習先の上役がこういう言い方で迫るのはもはや脅迫だ。

 

 私は不機嫌になりそうになる声色を抑えながら無感情に話す。

 

 

「あの時こうしていれば、こうなることが分かっていれば、そうしたらきっと未来は変わったはず、そんな仮定、意味なんて無いと思うんです。どうあがこうと人の選択は変えられない、変えたつもりになっても変わってなんかいないんですよ」

 

 

 そこまで話して、私は自分が一体何を捲し立てているかに気づく。

 

 いつの間にか良くも分からない、幼稚な主張を恨みがましくブツブツとつぶやいていたと、ようやく理解した私は言葉を切って黙り込む。

 

「……すいません喋りすぎました」

 

 だからこういう話は嫌なんだと深く恥じた。

 

「いや、続きを聞きたい」

 

「……言いたくないです」

 

 もはや不機嫌な声を隠すことはできず、言葉の端の棘を自分でも自覚した。

 

「一応、今、私は君の上司に当たるわけだが」

 

「……パワハラです」

 

「……どうすれば教えてくれる?」

 

「どうって、こんな意味のない質問何でするんですか?」

 

「私には重要なことなんだ」

 

 

 このままでは埒が明かないと思った私はあきらめ、重い口を開く。

 

 

「…………運命は変えられないって言われたら、ちがう、っていう人沢山いますよね」

 

「あぁ」

 

「でも、全ては努力次第で未来は決まる。なんていったら皆、そうだ、って頷くんです。笑えますよね」

 

「どっちも所詮同じことを言いかえただけなのに……、結果には原因があるんです。今は過去の選択で存在していて、そしてこれからの選択は過去の積み重ねで決まります。ほら、一本道でしょ?」

 

「……」 

 

「結局はこうなるしかなかった。みんな自分の意志で分かれ道を選んでいるようで、決められた道を歩いているにすぎないんですよ……」

 

 

 私は最後に言い捨てる。

 

 車内には車の駆動音しか聞こえない

 

 その独白の後に

 

 

 

「同じだよ」

 

 

 

 あまりにも力ない呟きが聞こえて、私はすぐにそれが目の前のサーから発せられたと理解できなかった。

 

 

 今度こそ、車内は沈黙に包まれる。

 

 

 

 もともと歩けるほどの距離にある駅である。いつのまにか車は駅の前についていた。

 

 

「……ありがとうございました。明日からもよろしくお願いします」

 

 

 そういって足早に駅に戻ろうとする私に、サーは最後に声をかけてくる。

 

 

「……そういえば君をなぜこの体験学習で選んだか言ってなかったな」

 

 

 私は足を止めてサーの方へ、ふり返る。

 

 

 

 

「本条、おまえも未来が見えているんじゃないのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サー「お前……、タイムリープ(未来視)してね?」


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10話 後半(2/4)

 体験学習2日目、私のコンディションは最悪だった。

 

 

『オッハー!!!オッハーーー!!!!!!(爆音)

 

 勤め人たるものあいさつは大事(至言)今日もサーッ!(迫真)のもとで修行に励みましょう

 

 昨日はさぼった?

 

 たしかにガバガバパトロールのせいで多少評価の上昇は低いですが、その他の実習の評価はその段階のステータス依存なので、ホモ子のステなら十分な経験値がもらえます

 

 なので実習はよほどのポカをしなければ自動的に高くなります』

 

 

 それは家に帰った時、我が家にされている落書きを必死に消そうとしている母を見つけてしまったことだったり

 

 そのことが学校にバレて聞き取りのため、実習終了後に面談を組まされてしまったこともあるのかもしれない

 

 

 だが目下のところで今、苛立っているのは

 

 

「でだ、本条、お前はどのように未来が視える?」

 

「サー、何度も説明するようですが私に未来をみる力なんてありません」

 

「そうか、じゃあ、私の目を見て握手してみろ」

 

「しませんよ、……その行動をする意味が分かりません」

 

「分からない? 分かっているからこそだろう? 嘘は実習においてマイナス査定だな」

 

「ッ!? そんな理由で成績を下げられたらたまりません!!」

 

「……ずいぶん成績にこだわるじゃないか」

 

 

 当たり前だ。この実習を何事もなく好成績で終える。

 

 その声の命令に従おうとしているのに、こんなつまらないことで邪魔されてはたまらない。

 

 

「……ふむ」

 

 

 昨日から、サーはなぜか私が未来を視れると確信している。

 

 

 昨日の駅で言われたことを私は瞬時に否定した。

 

 未来を見ている方法を説明するということは、声の存在を明かすということ。

 

 声の存在を明かすことが、私にはできない以上、私が未来を見ていることは話のしようがない。

 

 

 そもそも私に未来を視る力がある? これがそんなものであるはずがない。

 

 

 声の話すことを未来予知というならそれは違う。

 

 

『この実習において操作パートは一部イベントとパトロールを除いてなく、イベントといってもクラスメイト関連以外はありません

 

 ミリオは多少関わったところで後のイベントに関わらなければ許容範囲内のロスですので、この1週間はほぼ完全に育成パートだけです。

 

 淡白になるのは仕方ありません、普通なら保須に絡みに行くのが王道ですからね』

 

 

 これは予知なんて、使い勝手のいいものではない

 

 正確に言うなら予知というよりは預言だろう

 

 未来を知っているのは声だけで、いつだって唐突に情報を私に与えて、私の知りたいことなど教えようとしたことがない。

 

 

「あっ、サー、それに桃子ちゃんおはようございます、もうサーと仲良くなったんですか」

 

 

 事務所に入ってきたバブルガールさんはこちらを物珍しそうに見ているが、私は黙秘する。

 

「今日の学生の面倒は私がみる。仕事はセンチピーダーに振ってあるので後は任せた。では行くぞ本条」

 

 そういい捨てると私についてこいと目線をくれて足早に移動した。

 

 

「ところで本条、お前に初めに会った時、なぜヒーローを目指すか聞いたな」

 

 歩きながらサーは話を私に振る。

 

「はい」

 

 私の目的はヒーローになることであり、その先には何の興味もない、だがそんな目的を持つ人間がまともに思われるわけではないので、対外的には博愛、平等、平和、そんな世のため人のためという、ヒーロー達の似たり寄ったりな主張をそのまま嘘らしくならないように引用していた。

 

 

「その嘘は別にいいとして、本当のところ、お前は何でヒーローを目指しているんだ?」

 

「……おっしゃる意味が良く分かりません」

 

「あぁ、違う、責めたわけじゃない、ただの質問だ。別にヒーローらしからぬ個人的な理由でもいい、ただお前の口からききたかっただけだ」

 

 

 ……まぁ、確かに雄英体育祭の私を見て素直に信じるとは思わないまでも、ここまでストレートに言われるとも思ってはいなかった。

 

 だが、このことに関して私は本音を言うつもりは微塵もない。

 

 

「最初に言ったことが全てです」

 

「そうか、分かった」

 

 

 サーは一欠けらも信じていないと私は知っていたが、話はそこで終わりだ。

 

 残りは無言で階段を上る。

 

 移動といっても同じビルの中の別の階

 

 

 すぐにでも着いたその一室は雄英の設備と比べても遜色ないトレーニング機器が置かれていた。

 

 

「サー! それと本条もおはよう!」

 

 

 中には通形先輩も汗を流しながらベンチマシーンに座っていた。

 

 

「今日はお前に稽古をつける。現場でそういったヒーローとしての資質を磨くのも体験学習の役割だ」

 

 

 サーがピラピラと雄英から渡されたと思われる指導要綱を片手でつまんでいた。

 

 

「当然、これは学校の授業の延長だ、私が評価し、成績に反映される」

 

 

 その中の書類の一枚を私へ向かって見せつける。

 

 その日ごとに実習評価を用紙に記入してもらい、それが雄英へと送られることで私の職場体験の成績が決定されることは知っていた。

 

 

「つまり私のさじ加減一つで成績など、どうにでもなるということだ」

 

 

 その物言いに嫌な予感を感じだす。

 

 

「お前に課題を与える。私の持ってるこの書類を破らずに奪い取ってみろ、互いへの直接的な攻撃は無効とする」

 

「……取れなければどうなるのでしょうか?」

 

「なんでもお互いに要求できることとしよう。私が勝てば……、そうだな、お前の成績に最低評価を付けようか、それとも、その能面のような表情を剥がしてみるのも面白そうだ」

 

 

 目の前の人物は冗談を言っているようには見えないし、たった二日であるが冗談を言うような人物にも思えない。

 

 

 私は助けを求めるように通形先輩に目を向ける。

 

 

「サー、その条件は流石に彼女に厳しすぎるのでは」

 

「こいつに限って言えばそんなことはあり得ない」

 

 

 通形先輩の援護もむなしく、サーは上着を脱いでその辺のトレーニング機材にかけ、開けた場所に私と相対して立つ。

 

 

『先ほども説明しましたが、プロヒーローとの直接トレーニングは普段の育成よりも効率が高い上に、場合によってはスキルも取得できます。

 

 佐々木は優秀なスキルを覚えさせられるキャラなので、ホモ子がなんか引いてくれると嬉しいですね……』

 

 

「では始める。試験開始だ」

 

「そんな……、急に言われても。サーの個性は知ってます。私が勝てるわけがありません」

 

 体を斜めに構えるサーに私は訳も分からない状況に狼狽えたような声をあえてだし、一歩後ずさる。

 

「サー、彼女の言う通りです。いくら何でもこの勝負、あまりに不公平ですよ」

 

 通形先輩が戸惑ったようにサーに話しかける。

 

「誤解のないように言っておくが……」

 

 

 

「シッ!!」

 

 

 

 サーが先輩の方に意識を割いた瞬間、私は飛び掛かった。

 

 

 

 

 頭の動きを強制的に叩き込まれた私は以前のように力を持て余すようなことはない、十全とはいかなくても半分は動かせる計算だ。

 

 確かにサーの予知はこの勝負で有利に働く、しかし物事には相性というものがある。私は強化系の個性だ。体の能力で優っているのは私で、反射神経もこちらの方が上、そして何より、まだサーは予知を発動させていない。

 

 

 未来を見られる前に速攻で倒す。

 

 

「この勝負の前提条件は公平だ。そうだろ本条?」

 

 

 だが、それは彼が予知していたように見事に避けられた。

 

 紙と体をひらりと捻ると彼は私の体をいなしながら自然に触れようとしてくる。

 

 私は触られないようにと体を無理に折りたたむと奇襲の勢いのまま距離を取った。

 

 

 完全な不意打ちを防いだサーに、私は驚きを隠せず目を見開き、嫌な汗をかいてしまう。

 

 

 今日は一度もサーに目を合わせて触れられていない、ならば予知は使われないはずだ。だというのに、なぜ今の攻撃を避けられたのか。

 

 

「どうして、と聞きたそうだな本条、なんてことはない、お前の奇襲がいつ来るか分かっていたにすぎない」

 

 まさか、いや、はったりだ。サーの個性の発生条件は目線を合わせて体に触れること、これはまだ満たしていない。

 

「これは個性の予知ではなく予測だ。目線や動き、そういった所から思考を読んだだけだ」

 

「そ、そんなこと……」

 

 プロヒーローという存在に私は震える。

 

 サーは簡単に言うが仮に読んでいたとしても、私の加速に強化系の個性でもない人間がついてこれているという現実を飲み込めないでいた。

 

「そんなに、大きく避ける必要はないだろう? この勝負、互いへの攻撃は禁止されているのだから胸を借りるつもりで打ち込んでこい」

 

 できるわけがない、それはサーの個性の発動を許すことになる。そうなったらこの試験は本当におしまいだ。

 

「しかし妙だ。未来を読める私に奇襲など、おまえは私がまるで予知を使えないと思っていたようだな、それに私に触られるのがずいぶん嫌みたいじゃないか、いや不思議だ。まぁ実際私の個性の発動条件から考えればその行動は理にかなっているのだがね」

 

「……」

 

「まるで知っていたような動きだ。私は教えた記憶はないのだが?」

 

「おじさんに触られたい、女子高生はいません」

 

「いいぞ、多少はユーモアのある返しだ。だが毒を含みすぎてる。合格は出せないな」

 

 

 サーは手ごわい、だがまだだ。

 

 

 腐っても私は強化系の個性、身体の性能を全力で使えば、いかにプロであろうと先に体力の底を突くのは向こうのはず。

 

 からかうように眉を上げるサーに私はもう一度攻撃を仕掛ける。

 

 

 地面を踏み込んで、私は跳躍した。

 

 

 高校入試で行った壁面を蹴った高速移動、あの時の最速を更新した影すら残さないこの技で確実に書類を奪い取って見せる。

 

 はじめは目で追おうとしていたサーであるが、私がもう2段加速すると、明らかに私を見失い、目で追いきれなくなった。

 

 

 いける! これならやれる。

 

 

 そこで念のため、さらに加速し、手ごと書類を叩き落とそうと私は飛び出した。

 

 

 

「驚くほど素直な攻撃だ」

 

 

 だがそこには腕はなく、つまらなそうに書類をひょいと持ち上げたサーがいた。

 

 

 通りすがりに振り向いて目が合う、そしてまるで励ますように軽く肩に触れられる。

 

 

 

「…………これは……」

 

 

 

 これがプロヒーローなのか

 

 

 いい勝負ができるのではと考えていた自分の思い上がりが根本から間違っていた。 

 

 

 個性を使われなければ? 私の身体能力があれば?

 

 個性だけではヒーローになれないなんてありふれた話、耳にタコができるほど何回も聞いていたというのに、その言葉の本当の意味を今、理解させられている。

 

 

 予知を発動させる条件を整えたサーに、予知を使う以前で圧倒されていた私に勝ち目があるはずがなかった。

 

 

「予想できた死角からの攻撃、加速してから攻勢に至る間の取り方、どれも凡庸だ。雄英では私も舌を巻くぐらい慎重で姑息な立ち回りをしていたというのに……、手加減しているつもりかね、まぁそれならそれで私は構わんが」

 

 

 早さで上回ろうと、直接攻撃せず、紙も破かないという枷では私の個性を十全に活かすことができず、時間だけが過ぎ去っていく。

 

 

「……はぁ、これが貴様の本気か?」

 

 

 その緊張感の抜けた。サーの変わりない動きに、本当に予知の個性を使っているかも怪しい。

 

 サーの体力が全く削れていない、私はこのまま戦い続けても意味がないという絶望を次第に理解させられていた。

 

 

「……ユーモアが足りない」

 

 

 いつのまにか肩で息をする私を見て、サーがつぶやいた。

 

 

「まるでナイフを持って自分が強くなったと思いこんだチンピラだ。動きがあまりにつまらない、能力と戦闘センスの乖離が甚だしい、雄英体育祭のあれはまぐれか?」

 

 ……頭に一瞬血が上る、が私に何が言い返せるわけでもなく、口をつぐむしかない。

 

「私の個性の発動条件を知っているなら、初めから目を瞑っていればよかっただろうに、お前の個性ならそれくらいできるのだろう?」

 

 そう言われて私はハッとする。

 

 サーは相手に触れたうえで目線を合わさなければいけない、目に関していえば私の感覚器なら暗闇の中でも動けていたはずだった。

 

 そこまで考えて、自身の個性すら使いこなしていない羞恥に俯いてしまう。

 

「……そこで、その表情ということは、本当に私の個性の発動条件を知っていたのか」

 

「あっ……」

 

「顔に出すぎだ。本当にどうしてお前が一位を取れたのか……、あとどれくらい時間があれば私から紙を奪えるのかね?」

 

「わ、私は何時間でも戦えます」

 

「そうか、よろこべ、私も今日はもう少し付き合ってやろう、だがこの様子であれば最低の成績で帰ることになるがいいのか?」

 

 

 その横暴な言いように私は奥歯をかみしめる。

 

 

「どうした本条、お前の力はこんなものなのか? 私はお前の先を読むぞ、どうやって立ち向かうつもりだ? 奥の手があるなら早く使った方がいい」

 

 

 

 お前も未来を視ればいいだろう? サーのそんな声が聞こえそうなほど、わざとらしい挑発だが、未来を知っているのは私ではなく声だ。

 

 私の乏しい経験から必死に頭の中で思考を巡らせて打開策を探る。

 

 

 ……が何度考えてもダメだ。

 

 

 私の力ではサーに勝てない、どうやらこの戦いは声にとって操るべき場面でもないため、声の力は使えない

 

 

 

 

 

 声のない私に勝機はない

 

 

 未来を視るサーに、未来が見えない私が勝てる道理がない。

 

 

 そう、私だけの力では未来を視ることができない

 

 

 

 ……………………

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 ……意図的に考えることを止めていた方法が一つある。

 

 

 

 『アレ』を使えば……、あるいは……、しかしそれは……。

 

 

 

 雄英体育祭で爆豪君と戦った時、爆風で五感が潰えた状態で『アレ』と深く繋がった私は見た。

 

 五感が消失した私が見えるはずのない爆豪君の動き、そしてそれがどのように振るわれるかを

 

 無我夢中で、あれがどのような原理だったかは分からない、ただあの時私はそれが()()()

 

 

 

 

 

 

 幸い、今はあの時と違い、私には十分な気力と時間がある。焦る必要はない。

 

 

 

 私は落ち着いて、ゆっくりと浅く息を吐き、サーの方に体を向けると同時に意識を集中させた。

 

 

 

「どうした? 動かなければなにも変わら……ッ!?」

 

 

 意識をサーではなく、脳とそこから伸びる線に集中する。

 

 

 

 あの時、頭の線がつながったのは死線の中、驚異的な集中力が引き起こした全くの偶然だ。

 

 

 普通ならもう一度やれと言われて再現することは難しいだろう、だが幸か不幸か、私には自信があった。

 

 

 成長とは物事の効率化だ。

 

 

 一度()()()ならは次も()()()。その次はもっと上手く、次の次はもっともっと上手く

 

 

 私とは違い私の個性は一度した失敗は二度としない。

 

 

 完璧な再現、線は、狭い脳内を押しのけ、頭蓋を突き破り、頭から飛び出した。

 

 

 

 私の脳が『アレ』と再度繋がる。

 

 

 

 

 

 

 

 ブツンと電源が落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一瞬だけ真っ暗になったと思えば視界がすぐ戻る。

 

 

 

 

 あれ?

 

 

 

 

 訳も分からない私の目の前にいつの間にか電灯が見える。

 

 サーは一体どこに?

 

 背中が冷たい。どうなってるのだろうか?

 

 

「ここまでとする」

 

 

 まるで見上げるように視界の下からのびるサー

 

 

「お前の現状はある程度把握した」

 

「……えっ?」

 

「どうした、早く起きろ、時間は有限だ」

 

 

 

 位置がおかしい、なぜサーが寝転んで……

 

 

 違う、私の方が倒れている?

 

 

 

 

 ここでようやく私は何が起こったか把握する。

 

 

 サーとの成績をかけた勝負、未来を読むサーに対抗するため、私も未来を視ようとした。

 

 その結果がこれだ。

 

 

 私は力を使いこなせずに昏倒し、サーに見下ろされて敗北している。

 

 

「そんな……」

 

 

 負けた。最低成績だ。

 

 声の命令に応えられなかった。

 

 

 

 

 また失敗する。何かが私の手をすり抜けてどこかに行ってしまう。

 

 

 

 

「成績云々は嘘だ」

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「まさか本当に学生がプロの私に勝とうと思っていたのか?」

 

「だ、だって」

 

「本気を見るために決まっている。私は互いに要求をのませるとは言ったがその内容は指定していない」

 

 

「なっ!? は、このっ! ……ッ!無茶苦茶です!!!」

 

 

 私は一瞬、彼が何を言っているか分からず、もごもごと何かを言いかけ、一拍置いて絶叫した。

 

 

 似たようなことを雄英の初めにやらされたとはいえ、あの時は自分とは関係ないからまだ心に余裕を持てていたというのに

 

 今、緑谷君の立場になって、相澤先生を素直に慕っている緑谷君の懐の広さを意外なところで知ってしまった。

 

 

『やりますねぇ!!

 

 たった一度の訓練でスキルを習得しました! スキル入ってるやん!? この中の中で?』

 

 

 サーは血走った眼をしているだろう私を見下ろしながら問いかける。

 

 

「それでは本条、約束通りお前に要求する。が、お前に選ばせてやろう。ジョークで私を笑わせるか、私の特別訓練を受けるか」

 

 

「は? じ、ジョーク?」

 

 

 真顔でふざけたことを言うサーに私は聞き返す。

 

「お前にはユーモアが決定的に足りていない、これは私の事務所にいる上でもっとも由由しき事態だ」

 

「……貴方は何を言っているんですか?」

 

「本条には無茶ですよ!? そんな役回りバブルガールさんだけだと思っていたのに!!」

 

 良く分からないところで口をはさむ通形先輩を無視してサーはこちらを睨む。

 

 

「選びたまえ、本条桃子」

 

 

 全く意味不明な提案だが、私はここで考え込む。

 

 

 

「……笑わせられたらもう私に対して変に絡むこともないんですか」

 

「あぁ、約束しよう、成績だっていいように書いてやる」

 

 

 

 こちらに損はないのだ。

 

 私は覚悟を決めた。

 

 

 

「……こんな話を知ってますか?」

 

「の、乗った!?」

 

 

 なぜか通形先輩が息をのんでこちらを凝視している。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あるところに野菜しか食べないヴィランと博愛、平等、平和を唱えるヒーローがいました」

 

 

「ふむ、それで?」

 

 

菜食主義者(ベジタリアン)のヴィランである彼は野菜(ベジタブル)しか食べられません、なら、人道主義者(ヒューマニタリアン)のヒーローは何を食べて生きているのでしょう?」

 

 

 

 

 

 

 一瞬の静寂

 

 

 

 

「では私の訓練を受けてもらうぞ」

 

 

「……うん! 何事もチャレンジだぜ!」

 

 

 

 

「…………………………」

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーによる無茶苦茶な課題の後、私を見て優しく微笑みながら親指を立てた通形先輩はパトロールのためその場を後にした。

 

 

 残されたのは無表情のサーと、羞恥心で感情が死んだ私だ。

 

 

 ホワイトボードの前で私は机に座り、サーは講師のように立っている。その気真面目でエリートそうな顔が際立って、その姿は堂に入っている。

 

 

「未来予知の個性は、非常に強力でコントロールが難しい、しかも表に出ている実例も数が少ない」

 

「私の個性は未来を見るものではないです」

 

「いいから話を聞け」

 

「……」

 

 貴重なプロの指導をあえて拒否する必要はないので素直にサーの話を聞けばいいものの、私の心の隅にはフツフツとサーに対する敵愾心が湧いてくる。

 

 立場を利用したパワハラじみた質問、無茶苦茶な脅し、虚言、体に触れようとするセクハラ

 

 ここにきて、私から見たサーとの心理的距離は非常に遠いものとなった。

 

 

「先ほどの様子、どうもお前は個性のコントロールができていなかった。よく幼児期に見られる個性の暴走に近いな、歪んだ個性の使い方により個性を体力の限り出し尽して倒れたように私は見えた」

 

「……個性の制御ぐらいできてます」

 

 

 私の小さな反論をサーはあえて無視して話し続ける。

 

 

「よく、小学年次一斉個性カウンセリングでは個性の制御について“勢いよくこぼれないように自分の中の蛇口をほんの少し開く”といった表現がされているが、お前の場合は特殊だろう、私もそうだった。具体的な感覚を掴むまでは苦労したものだ」

 

 

 サーはなぜ私にこのようなことをするのだろうか

 

 

「普通の個性ならそんなイメージすら必要ないのだがな、初めから個性を操れるものは感覚が染みついて体の一部となっているから、個性の感覚を何かに例える必要がない、足を動かすときの感覚を手で例える奴がいないようにだ。だがしかし、我々のような者達にはその感覚が必要だ」

 

 

 同系統の個性かもしれない私を慮って選んだ?

 

 いや、それにしてはあまりにも扱いがひどすぎる。

 

 

「操作できない程の強力な力、そういったピーキーな個性の場合、個性のコントロールの難度は跳ね上がる。それを制御するイメージは……、例えるなら車のクラッチだ」

 

「……クラッチですか?」

 

「エンジンという膨大なエネルギーに、ほんの少しだけ自分という車輪に伝わるようにギアを入れる。半クラッチのように自分の望むだけの動力を伝える加減を覚える。そうやって……」

 

「……私、そもそも車の運転したことありませんのでクラッチが良くわからないのですが」

 

「むっ……、だが、ふつうクラッチぐらい一般常識で知っているだろう、男なら小さい時に車の仕組みぐらい知って……」

 

「私は女です。それにこの時代、自動変速機(オートマチックトランスミッション)付きの車か、最近はAIによる完全自動運転ですよ」

 

「ふむ、この例えは失敗だったか、……いやまて、トランスミッションがわかってクラッチが分からないわけがないだろうが」

 

「さぁ? そもそも私には関係のない話ですし」

 

 

 つい生意気な口答えをしてしまう、私にサーが呆れたような顔を見せる。

 

 

「もう少し真面目に取り組め」

 

「いたって真面目ですが」

 

 

 問題は何も解決していないが、私は少し清清したと暗い喜びを覚える。

 

 

「本条、さっきのジョークの話だが、ブラックユーモアは……」

 

「すいません、真面目に取り組みます」

 

「よろしい」

 

 

 ……卑怯だ。

 

 あんなこと真に受けて慣れないことをするんじゃなかった……

 

 

「……話を戻すぞ、大切なのはイメージだ。自分の力を引き出して、調節する自分にとって正しいイメージ、私はクラッチといったが何でもいい、蒸気のバルブ、電源のスイッチ、銃のトリガー、自転車のペダル、人により千差万別だ」

 

「イメージですか……」

 

「そうだ。普通、個性のコントロールはひたすら反復させて体に覚えこませることが基本だ。だがお前のような負担の大きい場合はそうはいかない、……どうだ本条、急に倒れたが体調の方は」

 

 

 ふいに、本当に心配そうな声色で体の調子を聞かれ、私は一瞬ペースを崩される。

 

 

「……別に、もともと何も問題はないです」

 

「馬鹿め、何もない人間が急に倒れたらそっちの方が問題だ」

 

「あの時は自分の限界を超えて個性を使ったせいで倒れただけです」

 

「やはり個性を制御できていないじゃないか」

 

「……制御できないレベルを出さなければいけない状況に、サーが追い込んだんですよ」

 

「つまりお前の個性の限界は本来もっと上にある。だというのに引き出せていないわけだ。一般人ならともかく、ヒーローにとって、この状態が個性を制御できないと言わずになんというのだ?」

 

「それは……」

 

 

 サーには口で勝てないことを悟り、むっつりと黙りこむことしかできない。

 

 

「それでは、お前には、用意した特訓をこなしてもらう」

 

「イメージを掴むため、具体的には何をするのでしょうか?」

 

「安全が確保された場所で集中的に鍛える」

 

「ひたすら個性を使っての訓練ですか?」

 

「そんなものはどうせ雄英で飽きるほどやらされるさ。限られたこの1週間、お前が今必要なことは成長のための自己分析だ。そしてそれには同系統の個性である私と比較して学べ、実習中は1日1時間だけ今日みたいな時間を取るようにする。本格的な訓練は明日からだ」

 

「訓練についてはわかりました。ですが私の個性は成長でサーの個性とは違いますよ」

 

「頑なに認めんな……」

 

「プロから受ける特訓は望むところです。私は、私の個性である“成長”の個性のために特訓をさせてもらいます」

 

「……とにかく私の指示に素直に従うことだ」

 

「わかりました。それと私はすでにサーには素直に従っているはずです」

 

 

 

「先ほどのものと比べれば、本条が話した中で一番面白いジョークだ。お前への認識を少し改めておこう」

 

 

 

「ジョークについてはもう弄らないでください……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり本条桃子には何かある。

 

 

 サー・ナイトアイの疑念が確信に変わったのは車内での会話だ。

 

 

「結局変えられないんですよ、みんな自分の意志で分かれ道を選んでいるようで、その実、決められたレールの上を歩いているに過ぎないんです」

 

 

 未来ある十代が考えるにはあまりにも擦れた未来観

 

 諦観にも似たその感情はどこかで聞いたと誤魔化すには無理があるほど身に覚えのある感情だった。

 

 

 彼女、本条桃子はヒーローになど微塵も期待や関心を寄せていないことをサーは知っていた。

 

 

 それは短い接触であったが、彼の驚異的な観察力により、行動の節々に見られた。

 

 プロヒーローの事務所に体験学習に来たというのに全く興奮も気負いも見せないヒーローへの興味の薄さ。

 

 それは自分の才能への傲慢かとも思えば、彼女の姿勢は低姿勢で、それが慇懃無礼などではなく、自身に足りないものを学ぼうとする真摯さが見えた。

 

 

 まるでチグハグ。

 

 

 ヒーローになんて微塵の興味もない癖に、何よりヒーローになりたがっている人間

 

 ヒーローになることが彼女の別の目的と合致しているのかもしれない。

 

 

 そんな人物像をサーは経験からプロファイリングしていた。

 

 本音を言えば、彼女の心根がヒーローに向いているとは思えなかったが、それは自分にも少し言えることだと顧みて、口に出すのはやめた。

 

 あえて無理やり彼女の目的を予想するなら復讐・償いといった代償行為があげられるが、彼は釈然としない。

 

 彼が調べた彼女に起こった過去の事件が原因かとも彼は思ったが、それではいくつかの疑問や矛盾が解消しなかった。

 

 

 そこで、これ以上は推測の域を出ないと、彼は一旦思考を打ち切る。

 

 

 その不可思議な二面性を確かめるため、最も手っ取り早い方法を彼は知っていたからだ。

 

 

 

 

 こうして彼は次の日、訓練にかこつけてすぐさま彼女の未来を見る。

 

 

 

 彼の個性は彼女の先を見た。

 

 

 それを見てサーは勝手な話ではあるが、わずかに落胆してしまう。

 

 

 近い所から順々に見ていけば、初めのうちは他の者達とそう変わらない

 

 

 倒れる彼女と見下ろすサー。

 

 

 サーと戦い、手も出せずに敗北。

 

 

 この実習を無難にこなしていき、そのまま雄英に戻る。

 

 

 そんな、なんの変哲もない、未来だった。

 

 

 全ては自分の勘違いだったのか?

 

 それでもあるいは……

 

 

 

 だが未来を視たサーの感覚がここで強い違和感を覚える。

 

 

 

 彼が見た本条桃子のより先の未来、違和感の正体はその光景だ。

 

 

 色、色、色、でたらめに色を塗りたくった乱雑な光景

 

 

 

 ある一定の未来からそんな光景で塗りつぶされ、全く先が見えない。

 

 

 それはまるで色付きのモザイクといえばいいのだろうか、極彩色に彩られたそれが延々と続く現実離れした光景で、予知の意味を全く成していない。

 

 

 

 このような見え方はあり得ない、たとえ死んだ人間だとしても、それは何も映さない真っ黒な映像が流れるだけである。

 

 

 

 サーは動揺を隠しながらもその意味を見極めるため、彼女と煽るように戦い、その本気を引き出そうとした。

 

 

「どうした本条、お前の力はこんなものなのか? 私はお前の先を読むぞ、どうやって立ち向かうつもりだ?」

 

 

 そんな煽りを受けて少女は集中するように呼吸を整える。

 

 

 彼はすでに未来視を行い、地面に這いつくばる彼女と、それを見下す自分が映った光景を見ていた。

 

 

 やはり未来は変えられないのか。

 

 

 

 彼がそう思った時である。

 

 

 

「……………」

 

 

 

 ゆっくりと浅く息を吐き、サーに向かって構える。

 

 それと同時に、予知の個性が信じられないものを映す。

 

 

 

 予知の映像は変わらない、それは彼にとっての不変のルールであるはずであった。

 

 

 だが目の前で見る予知の光景は違う。

 

 

 輪郭がぶれて重なり合う人体。

 

 

 その一瞬で変わらないはずの映像が更新され、さらにぶれていく、1人が2人に、2人が4人に、指数関数的に増大する彼女の虚像が未来を映し出し、色が折り重なり極彩色の光景が作り出される。

 

 

 その輝きは一瞬で、目の前の彼女は後ろに倒れこんだ。

 

 それと同時に予知の映像の輝きは収まり、光が失われ、いつもと変わらない景色に戻る。

 

 

 

 結局は目の前で倒れている彼女と、見下ろす自分という光景は変わらないままだ。

 

 

 

 だがサーはそれを見て興奮からくる体の震えを抑えきれていなかった。

 

 大げさに言えば倒れこんだ彼女以上にサーは卒倒しかけていたくらいだ。

 

 未来という常人に不可知な感覚を知る彼だからこそ気づく

 

 

 

 この極彩色の塊は、そのまま、未来の可能性なのだと。

 

 

 

 今起きたことはそのまま未来への干渉に他ならない。

 

 彼女は未来を変えるなにかを持っている。

 

 

 ここでサーは一つの決意をした。

 

 

 

「それでは本条、約束通りお前に要求する。が、お前に選ばせてやろう。ジョークで私を笑わせるか、私の特別訓練を受けるか」

 

 

 

 

 ヒーローとして未熟な彼女に道を示す。

 

 それが運命に対する僅かばかりの抵抗になるのではないか

 

 

 

 なによりまず、その面白くもないしかめっ面に多少のユーモアを浮かばせられるように願って。

 

 

 

 

 

 

 その少し後、彼女のユーモアについて彼は後悔することになるのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




修行編って退屈なんすよね……
次話で三年後……、とかで良くない? よくなくない?
やめたくなりますよ〜修行ぅ(努力することを知らない手抜き野郎)


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10話 後半(3/4)

 実習3日目、今日からサーの訓練が始まる予定だ。

 

 

 とはいっても、通常の職場体験もしなければならない、というより本来の主目的はこちらだ。

 

 今日は、センチピーダーさんと一緒に、資料の収集や整理などを手伝わさせていただいた。

 

「今日は収集した情報の整理を手伝ってもらいます。犯罪の捜査は警察の領分、しかし、平和を維持するヒーローとして、現場単位でヴィランの兆候や痕跡を敏感に収集する必要があるのは理解できますね」

 

 指示された通りに細かく情報を分けていく、波乱のない粛々とした単純作業は、この職場体験で荒んだ私の心を落ち着けてくれた。

 

 気づけば我ながらあてがわれた仕事量を超えて、私は業務をこなしてしまう。

 

「情報の処理が早い上に正確、手際が良くて助かりますよ」

 

 しかも、サイドキックのセンチピーダーさんがすごく優しい、気遣いも完璧で、出来る大人といった余裕には憧れてしまう。

 

「少し休憩を挟みましょう、甘いものは好きですか? 実はケーキがあるんです」

 

 ムカデ頭をリズミカルに揺らすセンチピーダーさんは、学生の私にも常に紳士的な態度で、よく気を使っていただいた。

 

 センチピーダーさんがお菓子を食べる私の邪魔にならない、心地よい会話や気遣いをしてくれる。それに癒やされながら、私の職場体験は進んだ。

 

 

「今日はここまでとしましょうか」

 

 

 そして、何事もなく進んでいく体験学習

 

 

「…………終わったか」

 

 

 だがそこで終わりとはならない。

 

 

 いつの間にか事務所に戻っていたサーはこちらを一瞥すると、トレーニングルームへのドアを視線で指した。

 

 

 ついてこいと言いたげなサー、それを見た私は、センチピーダーさんにお礼を急いで言うと、サーを追いかけ部屋を出る。

 

 こちらに振り向かない後ろ姿にようやく追いつくと、今度はこちらの反応を待たずにサーは話しかけてくる。

 

 

「前回倒れた原因は理解しているか? 言ってみろ」

 

「少し力加減を間違えただけです。改善策はあります」

 

「ならいい」

 

 

 先ほどのセンチピーダーさんと比べて、なんと横柄な態度だろうかと私は眉を顰めた。

 

 トレーニングルームについたサーはくるりとこちらを向くと、今度は追いかけてきた私にぶつかる勢いで距離を詰めてくる。

 

 

「よし、ではまずはこっちにこい」

 

 

 そういってサーはこちらに手を伸ばす。

 

 2メートルほどの高身長の彼がまっすぐ手を伸ばせばそこはちょうど私の頭の上だ。

 

 

 当然私はその手を避ける。

 

 

「なぜ逃げる」

 

「なんで触ろうとするんですか」

 

 

 サーは聞き分けのない子供を見るような眼で、こちらを見ながらため息をついた。

 

「訓練中は予知を使わせてもらう、そっちの方がお前の粗を分析しやすい、安心しろ、お前の直近の未来を視ることはあっても、先の未来は見ないと約束する。 前の時もお前の将来は見ていないぞ」

 

「……本当ですか? それ、オールマイトにかけて言えますか?」

 

「本当だ。この実習の終わりまでの未来しか見ていない、……そしてその確認の仕方はやめろ」

 

「……信じられません」

 

 サーはそういうが、私の未来を視たのではないかという疑念が生まれ、つい粘着質な言い方をしてしまう。

 

「すいません、つい、……でもやっぱり、よく分からない個性で、好き勝手に自分の未来なんて見られたくないです」

 

「私の個性をよく分からないと来たか……」

 

 

 サーの個性、予知、それは声の説明を受けても謎が多く残り、その詳細は謎だ。

 

 というより、未来なんて理外の領域、予知の個性を持つサー以外には知りようがない。

 

 そして何より、私の未来を視て、サーがどう動くか全く予想がつかないのが恐ろしい。

 

 

「それに、未来を視なきゃ私に勝てる自信がないんですか?」

 

 もうこの話題は避けたい、そう考えた私は焚きつけるような態度をあえてサーに取った。

 

「この前は完敗したというのに言ってくれるじゃないか」

 

「……前のようにはなりませんよ」

 

「そうか、期待しよう」

 

 

 うすく笑うサーを見るに、挑発には失敗したようだが、本来の目的である会話は止まり、ようやく訓練が始まる。

 

 上着を脱いだサーを見て、私もそれ以上の思考を打ち切り、距離を取って構えた。

 

 

「いつでも来ていいぞ」

 

「…………」

 

 

 以前のようにやられっぱなしでは終われない、雄英体育祭で私は頭から伸びる線を知覚した。

 

 そして先日のサーとの勝負で再現できることも確認済みである。

 

 ならば次は改善だ。

 

 サーは私に個性をコントロールできるようになれと言ったが、言われるまでもない、私の個性は成長、二度繰り返せば以前より繊細に頭から伸びる線を操れる。

 

 サーと相対しながら呼吸を整える。

 

 以前より慎重に、時間をかけてゆっくりと線を意識した。

 

 『アレ』とまともに繋がれば、私の脳は一瞬で機能不全に陥る。

 

 だからこそ、ほんの少し、針先より線を細くして、なでる程度に『アレ』に触れようと私は頭から手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 そして、意識が暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハッ!? …………あっ、あれ?」

 

「でだ。前の時と全く同じ光景なのだが」

 

 

 私は以前と同じく、地面に倒れ昏倒していたところで、目を覚ます。

 

 

「こ、こんなはずじゃ……」

 

「いわゆる天丼のつもりか? なるほど、なら多少は笑ってやっても……」

 

「違います! 嫌味な人ですね!」

 

 

 自分でも少しはやれるのではと思っていたらこの様だ。あれほどの大見得を切ってこれは正直顔から火が出るほど恥ずかしい。

 

 赤くなってる顔を鎮めようとしている私の狙いを当然のように裏切って、サーは私の頭側に近付いて、顔を覗き込んでくる。

 

 

「なんで失敗したか掴めているか?」

 

「個性の……、コントロールがうまく行かなかったんですよ、でも前よりはうまくやりました。回数をこなせば……、もう一度お願いします」

 

 

 照れ隠しに、大してついていない服の汚れを大げさに叩きながら立ち上がり、もう一度サーとの特訓を続けた。

 

 

 サーとの訓練は私の目的通り、線に対するコツを急速につかんでいく。

 

 今では繋ぐまでの速度も一瞬で、太さや長さの調節も自由自在、頭から伸びる線であやとりをしながら縄跳びだってできるぐらいだ。

 

 

 ……だというのに

 

 

 

「これで33回目、同じことの繰り返し、いい加減変化が欲しい所だが」

 

「はぁ、はぁ、はぁ、も、もう一回させてください、上達はしているんです! ただ……、それでも……」

 

「大して変わらんさ、付き合ってられんな」

 

「……だったらいいです。勝手にやりますから」

 

「私に従うと約束したはずだ。この時間以外でお前の訓練は認めない」

 

「…………」

 

「私に隠れて練習すればいいとでも言いたげだな、言っておくが、そんな勝手な事をしたら本当に最低成績で雄英に帰ってもらう」

 

「うっ……」

 

 

 あれから何度もやっても、私は一瞬で昏倒し続けた。

 

 『アレ』と繋がった反動のせいで私が昏倒していることは予想できる。

 

 だからこそ線を細くして負担を軽くするために制御し、私の脳自体の処理を成長させているというのに、一向に成果が見られない。

 

 今や私の線の扱いはかなり熟達しているはずだ。だというのに私が意識を失うことは変わらない。

 

 考えられる理由は『アレ』との接触に耐えるために必要な能力が、私に足りていないということだろう。

 

 ならば、続けて私の体の方を適応させるしかない、そう考え私は立ち上がろうとしているわけだが、なぜかサーから邪魔をされている。

 

 

 私は知らず知らずのうちに不満そうな眼をしていることに気づいた。

 

 

「私は言ったはずだ。個性の鍛えこみなど雄英で飽きるほどやらされると、もっと時間は有意義に使え」

 

「自分のことは自分が一番わかっています。……問題はわかっているんです。あとはそれを克服するだけですから」

 

「自分のことは分かっているか……、もう1時間経つが、傍から見て、成長しているとは思えないな」

 

「しています。それに、私の個性“成長”ならいつかできますから」

 

「……その個性のせいか」

 

 

 サーはなにか勝手に納得したような顔をして、ため息をつく。

 

 

「本条、お前、成績は良くても要領悪いだろう」

 

「なっ……!」

 

「しかも、なまじ個性の力押しでまかり通ってきたせいで、その事実に気づけていない、お前、個性がなければかなり不器用なんじゃないか?」

 

 

 そんなはずはない。少なくとも外面では器用な人間と思われていたと私は自負している。

 

 

「なんのために時間を作っていると思っている。お前に今必要なことは成長のための自己分析、つまり自分を見つめ直す作業だ」

 

「言われたことぐらい覚えてますよ」

 

「同系統の個性である私と比較して学べと言ったはずだが」

 

「だから私の個性は……」

 

「なぜ、そこまで未来が見えることを隠す。バレているのだから別に隠す必要もない、素直にお前の個性を教えてくれてもいいだろう?」

 

 しつこいを通り越して、開き直ってるとしか思えない追求に私も感情を隠すことを止めた。

 

「……サーだって自分の個性を詳しくは、私に言ってないじゃないですか」

 

「…………」

 

 

 私の嫌味にサーは押し黙る。

 

 

 こういえば流石にこれ以上の追及はできまい。

 

 当たり前だ。なぜなら個性の詳しい情報はヒーローにとって命に直結するほど重要な情報、ヒーローでもない学生の持つ個性とは訳が違う。

 

 

 実際にサーは自身の個性に関する質問を一切シャットアウトするほど、個性の情報に気を使っていたことは、彼を調べて出てきたインタビュー記事やヒーロー雑誌のコラムから分かっていた。

 

 

「ほら、言えないでしょ、だから早く訓練の続きを……」

 

「いいだろう」

 

 

「はじ……め?」

 

 

 聞き間違いのはずはない、私の耳は正確にその音と意味を聞き取ってしまう。

 

 

「そうだな、自分の個性の細かい情報を人に言ったことなど数えるほどすらないがお前には伝えておこう」

 

「え……」

 

 サーは事もなげにそのようなことを言い出そうとするので、私は大いに驚愕する。

 

「自分の個性ですよ!? 学生ごときにそんな!」

 

「黙って聞け、そうだな、私の個性である予知は……」

 

「ま、待ってください」

 

 

 思わず私は急いで周りに誰かいないか、盗聴器の類がないかを念入りに確認してしまう。

 

 

「何をしているんだ?」

 

「こっちのセリフです! どこかの誰かに聞かれていたらどうするんですか!」

 

 

「リスクは承知だ」

 

 

 そういって動揺した私を置き去りに、サーはヒーローにとって命そのものと言える情報を私に簡単に明け渡した。

 

 

 サーは私に自分の個性の詳しい情報を説明する。

 

「いいか、私の個性は説明するならコマ送りのフィルムと例えられるかもしれん。発動条件は相手に触れて目線を合わせることで、発動後の1時間だけ対象を中心とした限られた周辺の未来を確認できる」

 

 こんなことはたまたま体験学習で来た学生にすることじゃない、明らかにサーは私に何らかの意図を含んでいる。

 

「未来の映像がコマ送りのように見える。すぐ先の未来であるなら、ある程度の連続した光景だが、遠くなれば誤差は大きく、コマとコマとの間の時間はあやふやになってしまう」

 

 それは一体なんだ?

 

「かなり先の未来を視れば年単位でずれることもある。しかし、どれだけ先であろうと、あるいは1秒先のことであろうが、予知の映像は変わることはない」

 

 

 

 一通り話しおわったサーはこちらを見る。

 

「おおよそ話した。分からないことはあったか?」

 

 

 しかし私は返答をすぐには返さず黙り込むと、少し間を開けてから、サーに問いただす。

 

 

「……サー、いったい何故、私に個性の情報を?」

 

「おまえが言ったのだろう、“自分の個性を私に言ってない” 確かに公平じゃない、そう思っただけだ」

 

「理由になりません、なにか目的があるんですか?」

 

 

 目の前の人物は短い付き合いだが、相当な合理主義、私にこの話をする理由が必ずあるはずだ。

 

 

「ある。私にとって重要なことだ」

 

 

 サーの迷いない返答に声の発言や今までのサーの言動を思い返す。

 

 

 サーの持つ個性は未来予知、車での運命に関する偏った会話、サーは私が未来を見えると思っているから指名したという事実、そして声によると彼は未来が変えられないで苦しんでいる。

 

 

 いくつかの情報から一つの可能性が私の頭に浮かぶ。

 

 

 そういうこと、なのだろうか……、

 

 だったらそれは……、酷い勘違いだ。

 

 

 彼が私に何を望んでいるか、予想できてしまった。

 

 

「フフフ……、ハハッハハ……、もういいです」

 

 

 私は表情を消して乾いた声を出す。

 

 

「別にあなたが勝手に自分の個性を喋っても、そもそも私が自分を明かす必要なんてありませんよね」

 

 ここまで話してくれたサーに対して、小ばかにした態度で突き放した。

 

「馬鹿な勘違いですよ、私の個性は未来予知ではありません、もうこれ以上は同じことを言われても迷惑なので、この際はっきり言っておきますね」

 

 私は、冷笑しながら彼を見上げる。

 

「なーんか、サーが私に何をさせたいのか分かっちゃったんですよね、私なんかを指名したり、急に未来がどうのとか言ってきたり、確か“お前も未来が見えているんじゃないのか”でしたっけ? ねちっこいなぁ、なんて思ったら……」

 

 私は攻撃的な態度で無表情のサーを見ながら、言葉を続けた。

 

 

「まさか、サー。あなた、私が未来を変える何かでも、持っていると思っているんですか?」

 

 

 それは違う、違うんですサー

 

 

 私はこれ以上サーが絶望しないよう、私なんかに期待しないよう。的外れな希望を丁寧に踏みにじる。

 

「車の時の会話も、急に運命とか変なこと言いだして怖かったですけど、今になって納得しました。多分ですけどサーは今まで、運命を変えようと足掻いてきたんですよね?」

 

 サーの眉がピクリと動くのを見逃さない。

 

「で、それを私が何とかしてくれると思ってる」

 

 実際は、そんな期待と私は最も遠い位置にある。

 

 あまりに無意味でサーが哀れすぎる。

 

「何か私に期待してるようなんですけど、笑えますよ、サーも言ってましたよね、未来は変わらないって、その通りだと思います。変えられませんよ、そして私自身、変える気もない」

 

 

 まったくおかしな話だ。

 

 サーは私が運命か何かを変えられる力を持っていると思っているようだが、それは違う

 

 言われた通りに動き、傷ついても、媚をへつらいながら、声にしがみ付いて従い続ける私のどこにそんな力があるというのか

 

 未来を変えるどころかそれを妄信すらしている。

 

 そんな運命の奴隷が私だ。

 

 

「どうです? あってますか」

 

 

 ここまで言えばサーも分かるだろう、私はあなたの期待するような人間じゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴様は本物の馬鹿か? しかも笑えないから質が悪い」

 

 

 

 

 

 私の言葉はサーの心を抉りに行った。なのに目の前の人は呆れたように私を見ていた。

 

 

「反論は3つある」

 

 

 サーは一歩近づき、私は思わず後ずさる。

 

 

「まず1つ目、貴様の力など理由のほんの一欠片にすぎん、私はお前が未来を変える可能性があるからこんなことをしてるわけじゃない、なによりお前のそのユーモアの欠片もない、つまらなそうな顔に我慢ならんからだ」

 

 

 長身のサーの歩幅は大きい、さらに距離を詰めてくるサーに私はもつれながら離れようとするが逃げ切れない

 

 

「2つ目、お前は未来は変えられないと諦めかけてはいるが、まだ完全に諦めてはいない」

 

 

 何をいっている? そんな話私はしていない……、急に何を……

 

 

「攻撃的な態度は焦りの裏返し、お前は秘密を隠している。そして今している癇癪は、私の話がその何かに触れたからだろう、まぁ追及はしないでおいてやるがな」

 

「ちっ、ちがっ……!」

 

 サーの言葉に、なぜか私は恐怖する。これ以上話してはいけない、そんな恐れに支配された私は、さらに逃げようとするが、いつの間にかそこは壁際だった。

 

 

 

「最後に3つ目、お前は自分に期待していないが、私はお前に大いに期待している」

 

 

 その一言に私の心臓はひと際強く跳ねた。

 

「意味が分からない、……そんな話はしていません、耳がおかしいんですか……?」

 

「“私なんかに期待するな”さきほどの戯言全部、そういうふうにしか聞こえなかったな」

 

「…………」

 

「卑屈は人を腐らす。私の事務所には全くもって不要だ」

 

 

 下を向く私の頭に平たいのにデコボコした何かが乗って、そしてすぐ離れる。

 

 

 私がゆっくり目を開くと、サーはいつの間にか上着を取って、既に離れていた。

 

 

 

「今日はここまでだ。車で送る。早くついてこい」

 

 

 そういうと彼は一人、トレーニングルームから出ていった。

 

 

 

 誰もいない、部屋。

 

 

 

 

 …………なんなんだあの人は

 

 

 

 

「ズビッ……」

 

 

 急に運命とか、未来だの、いい年した大人が言う言葉じゃないし。

 

 女の子の体や頭を勝手に触ったり、成績を盾にして脅してきたり、パワハラもセクハラもいいところだ。

 

 控えめに言って最悪だ.

 

 

 だからこれはちょっと油断しただけ。

 

 

 これはそういうのじゃなくて、2メートルの大きくて苦手な男の人に迫られたのが怖かったからだ。

 

 

「ズビビッ……」

 

 

 

 私は襟を持ち上げて顔を隠すと、顔を拭った。

 

 

 

 

 

 

 

「遅い、いつまで待たせるつもりだ」

 

「乗るわけがないでしょう!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4日目はバブルガールさんとただのパトロールになるはずだった。

 

 

「いやー、桃子ちゃんすごいね! スリ犯を見破るとは!」

 

「街中で急に足音がどんどん重くなるんです。怪しかったのですぐにわかりましたよ」

 

「いやいや、あの人数から絞り込むの、普通は無理だよ」

 

「私も財布を取られたと、あの場で騒いだ人がいなければ気づきませんでしたから、それに実際に捕まえたのはバブルガールさんですよ、見事な捕縛でした」

 

「えぇ、照れるなぁ……、えぇっと、警察によると犯人の個性はアポート、半径10メートルで785グラム以下の物体を自身の手元に引き寄せることが出来る。……普通に考えて785グラム程度の重さの上下なんて分かるの? じゃあ私の体重とかも分かったり?」

 

「えぇ、まぁ、というよりなんで言って欲しくなさそうなのにあえて聞くんですか……、そんなプライベートな部分、調べませんし言いませんよ」

 

「あはは、ついユーモアを追求しちゃって、うちの社訓みたいなところがあるから」

 

「…………」

 

「あっ、桃子ちゃん明らかに機嫌悪そうな顔、やっぱりサーとなにかあったんだ」

 

 

『事件解決イベント、貢献度により実習評価、つまり取得経験値やスキルがアップします

 

 結果は事件解決に貢献、大量の実習評価がもらえました

 

 一緒に出ているのはバブルガール、個性は「バブル」 初登場でサーに縛られ器具で攻められる……、緊縛調教されてた♀です

 

 サー! お前ノンケかよぉ!?(失望)』

 

 

 あの人、そんなことをバブルガールさんにしていたなんて……

 

 

「パワハラとセクハラを受けてます。バブルガールさんも同じですよね、今すぐ立ち上がるべきです」

 

「サーがですかッ!? セクハラやパワハラなんてそんな……、いえ、お仕置きとかはありますね……」

 

 

『ちなみに彼女が好きなものは「お風呂」 性格は「頑張り屋さん」必殺技が「パヒュームバブル」

 

 お風呂が好き、個性がバブル……、泡……、必殺技がバキューム(難視)

 

 あっ……、ふーん(察し)これは王道を征ってますね』

 

 

「まぁ、でもサーはそれだけじゃないですよ、皆を笑顔に、そういう考えは好きですから」

 

 

 そう言うバブルガールさんは屈託のない笑顔を浮かべる。

 

 

 これはバブルガールさんがいい人すぎるからであって、サーが慈愛を持った人物であるわけでは決してない

 

 そんな幼稚な怒りをさますことが出来ないまま、事務所に帰る。

 

 その日の報告をした後から、訓練の時間となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では始める。がその前に言わせろ、この体験学習は7日間、訓練ができるのは今日を合わせて残り4日しかない、分かっているのか」

 

「足し引きくらいわかります。私が本気になれば1秒間で円周率をどこまで求められるか知っていますか?」

 

「いちいち、頭の良さを自慢しなくていいぞ、馬鹿に見える」

 

 

 …………私、馬鹿じゃないのに

 

 

「いいか、今一度いう、今のお前のやり方では非効率的だ。だからこそ、自身の個性について考える必要がある。お前の、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()未来予知のような個性でな」

 

「……?」

 

 サーは突然意味の分からない事を言い出すので私は困惑する。

 

「頭のめぐりが悪いな、()()()()()()()()()()()()お前の個性に未来を視るような力はなく、あるのはまるで未来を視ているような使い方のできる成長の個性だ。相手の動きをその鋭い五感で観察し、予測する。まるで()()()()のように、その個性の負荷にお前は耐えきれないというわけだ」

 

 

 

 あまりに私に都合のいい話

 

 もちろん、サーの言った筋肉の微弱な動きどうこうを私はしたい訳ではない、だがサーはあえて私にそういった。

 

 

「お前はその個性を使おうとした時、いったいどこにつまずいた?」

 

「それは……、その……」

 

 これはつまるところ私が彼の話にのるかのらないかだが、サーのしてくれた最大限の配慮と譲歩を汲めない程、子供じゃない。

 

「…………」

 

「どうだ? 言えるか本条?」

 

 

「……自分の個性の全力を引き出すために、えー、その、大きい力を自分に少しだけ伝わるように細い線でつなごうとしてました……」

 

 ようやくでた言葉は酷く抽象的で断片的な話。

 

 声について説明するわけにもいかず、かなり伝わりづらい言葉になってしまったそれが、私にできる精一杯の承諾の合図だ。

 

 

「線……、それがお前のイメージか、つまり、その線を調節しても、個性にお前自身が耐えられないから、個性“成長”の力押しで体自体を慣らせようとしているわけなんだな、だがそれは傍から見て、すぐにどうにかなるほどのものじゃないようだがどうなんだ?」

 

「うっ……、そうです」

 

 だがサーはそこから私の言いたいことを読み取り、あまつさえ問題を指摘した。

 

 そしてその分析はほぼ現状の私の問題点を正確についている。

 

 

「まず聞きたいのだが、お前のその個性、うまく使えた時のことを詳しく思い出してみろ、……例えば体育祭、お前は1位を取った。その時の動きは、ひょっとしたら、今しようとしていたことにかなり近いのではないか? そういった成功体験を分析しろ」

 

「……はい」

 

 あえて反論するところもない普通の指導なので私は素直にサーの言うことに耳を傾ける。

 

 といってもそれくらいのことはもちろん考えたことぐらいある。

 

 ……がしかし、他者の視点というものは私にない発想があるかもしれないことも事実、私はサーの性格はともかく、その分析力を少しだけあてにした。

 

「成功……、かはわかりませんが近いような事ならありました」

 

「ほう、どんな時だ」

 

「雄英が襲撃された時とか、雄英体育祭の時、うまくいったんじゃないかと思います」

 

 

 サーの言う、雄英体育祭で見せたような成功体験、そう聞いて思い浮かぶのは数々の戦いだ。

 

 

 雄英襲撃でのヴィランとの攻防、騎馬戦最後の緑谷君への攻撃、トーナメント1回戦目、爆豪くんとの決勝戦

 

 思い出してどれも成功と言えるわけがない苦さが心中に広がる。だがあれらは明らかに何時もの声の支配と違っていたと、今ならわかる。

 

 声の支配か自分が動いているのか分からない感覚、これは線と繋がっている状態のことだったのだと私はすでに気づいていた。

 

 

「どれも極限状態と言えるな、追い込まれないとできないのか」

 

「いえ、それはないです。私の個性で一度できたことが二度できないとは考えにくいですから、昨日の訓練での個性の使い方は雄英決勝の動きと全く同じだったと言いきれます」

 

 必死さが足りなかった?

 

 そんな訳がない、声の命令で私はこの実習で好成績を残さなければいけなかった。今回だって真剣に取り組んだに決まってる。私は全力でサーに挑んだはずだ。

 

 

「……意識消失が起きたのは私と戦っている時だけか?」

 

「どの戦いが負荷が大きかった?」

 

「お前の線のイメージが強固になって変化は?」

 

 

 サーとの議論を重ねながら私は考える。

 

 

 2人で話し合いながら、力を引き出せた時の共通点や法則を探す。

 

 線を繋ぐまでの動きは、爆豪君の時と同じで完璧だったはず、むしろ、爆豪君の時よりも、線をうまく操れる今の方が負荷は少ないはずだ。

 

 

 雄英襲撃の時はとにかくヴィラン達をすぐ倒そうとした。

 

 騎馬戦最後、緑谷君への攻撃は1000万をタイムアップの前に奪おうと手を伸ばした。

 

 トーナメント1回戦目、心操君は声よりも先に、私が殴るべきだと考えた。

 

 最後に爆豪くんは、すぐに飛んでくる攻撃をとにかく避けようと。

 

 

 なにが違う、なぜあの時はうまく行った?

 

 そう考えれば、確かにサーに対して試したいアプローチが何個か浮かんできた。

 

「……とりあえず試したいことが何個かできたので、訓練をお願いします」

 

「ようやくまともに頭を使い始めたか」

 

 

 サーは話を止めていつもの位置に歩き出そうとする。

 

 

「……まってください」

 

 

 私はスーツの袖を軽くつまんだ。

 

 サーは振り返ると私を見下ろした。

 

 

 私は澁面を作りながらサーと()()()()、ゆっくりと()()()()()()()()()

 

 

「ほぉ、なんだその手は」

 

「握手……、です。訓練前の礼儀として」

 

「つまり、そういうことか?」

 

「……これはサーから言い出した提案じゃないですか」

 

「まぁいいだろう、だが、目が合わんことには意味はないぞ」

 

「うっ……」

 

「それとも本当に私と握手がしたいだけなのか? いいぞ、サインもつけてやろう」

 

 

 サーは明らかにからかっている様子だ。睨みつけたい気持ちを何とか押しとどめ、顔を見上げて手を差し出す。

 

 

 

「よし」

 

 

 だが、サーはなぜか私の手を無視して頭の上に手のひらをポンと乗せた。

 

 そして、固まる私を、これもまた無視をしてくるりと背を向け歩き去る。

 

 

「なっ」

 

「では続きを始めよう」

 

「なに触ってるんですか! 女性の頭を触るなんて普通にありえませんからね!」

 

 

 

「フッ、女性?」

 

 

 なぜかサーは鼻で笑うようにこちらを見ながら口角を上げる。

 

 その表情がゴングとなり、私はサーに向かって地面を強く踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の体験学習は終わりだ」

 

 

 

 息を切らせて立つ私は、サーの言葉で壁掛けの時計を見て、実習の終了時刻を大きく超えていることにようやく気づいた。

 

 

「あ、ありがとうございました」

 

「いい、遅い時間だ。送る」

 

 

 サーは上着を羽織り、車のキーを引き抜くと私を見る。

 

 

 今回に限って言えば、精神も身体も疲れ切っていた私は素直な気持ちで車に乗り込んだ。

 

 

「はぁ……、疲れた。喉も乾きました」

 

 車に乗り込んだ私にたまりにたまった疲労が一気にのしかかる。

 

 結局あの後も私は昏睡しては起きるを繰り返しただけだ。

 

 そのたびにごっそりと気力と体力を奪われ、今は指の一本だって動かすのが億劫だ。

 

「飛ばしすぎだ。考えることに多くを割けば、ここまで疲れる必要もなかったはずだ。今日の訓練は……、試行錯誤の痕は見えたがうまく行ってないな、私が見た所おそらく、お前は根本的なところで方向性を間違えている。今日はもう一度頭を良く冷やして考えておけ」

 

 サーの嫌味も、もはや心に響かない

 

「どうせ要領悪いです。予知みたいに初めから答えを知ってるわけじゃないんですから、無理を言わないでください、というより初日からアドバイスをしてくれればよかったのに……」

 

 疲れか、それ以外の理由か、私は喋った後に、なぜか何時もの自分らしくない、子供のような態度でサーに食って掛かってしまう自分に気づく。

 

 素の自分が出始めていることに気づいて私は表情を硬くしようとするが……

 

 

「初めに私が助言をしたとして、お前が素直に聞いたとは思えん、鼻柱を折ってやって、ようやく聞く態度にしてやったというだけだ」

 

「……言われれば素直に聞きましたよ」

 

 サーの絶妙な煽りにそれが阻まれる。

 

「どうだか、どうせ変わらなかったさ、それに自分で気づかなければ意味などない、素直なのは良いが、お前にはその発想力の部分が個性のせいで欠如している」

 

「むっ……」

 

 口を尖らすも、別に本当に不快なわけではない。

 

 でもなぜかそこまで怒っていない自分に、おそらくただサーの悪態に慣れただけだと思うようにした。

 

「お前は手がかかるだろうということは、予知を使わずとも分かりきっていたことだからな」

 

「……」

 

 

 また性懲りもなく幼い反論をしようとした私は何とか思いとどまる。

 

 どうも自分らしくない、疲れた状態で車に揺られているせいだろうか、昔のお父さんの車を思い出して変にリラックスしてしまっているのかもしれない。

 

 

 何か別の話題を探そうとして、サーの変わらない、という言葉でふと私は思い出す。

 

 

「話は変わるんですが、サーは一度見た未来は変わらないって言いましたよね」

 

「あぁ」

 

「思うのですけども、それっておかしくないですか? 未来が見えるのに未来を変えられないなんて道理に合いません」

 

「なんだ。お前も未来は変わらないと言っていたじゃないか」

 

「占いみたいに曖昧なものならともかく、未来がしっかりと見えていたら話は違うでしょう」

 

 

 サーは一度見た未来は変わらないと話したが気になる部分があった。

 

 

 例えば今朝の朝食に白米を食べている未来を視たとする。

 

 それを見たうえで食パンを食べようと選択すれば、当然予知の光景と食い違う

 

 見てしまった映像は変えられないというが、その程度の未来が変えられないというのはおかしくはないだろうか?

 

 

「つまりこう言いたいのか、私が5秒後に石につまずいて転ぶお前の未来を視たとして、歩くのをやめろと私が忠告すれば当然お前は転ばなくても済むはずだと」

 

「えぇ」

 

 ……私の食パンとお米の例えの方がわかりやすくないだろうか?

 

「そうだな……、少し寄り道をするぞ」

 

 

 そういうとサーは、車のハンドルをきり、コーヒーショップ……、そのドライブスルーに進んでいく。

 

 

「サー?」

 

「私とおまえの分、好きなものを頼むといい、奢ってやる」

 

「え、ありがとうございます」

 

 私の方の車の窓が自動で下がり、サーが注文口に横付ける。

 

 

「だが予知しよう、お前は私にコーヒーをさし出す。外れたら明日からも飲み物の代金を払ってやるぞ」

 

「……今言ったら違うのを注文しますよ?」

 

「構わん」

 

「いらっしゃいませ! 注文をマイクに向かってお願いします」

 

 

 うすぼんやり、サーが何を私にさせたいか理解し始める。

 

「お前が喉が渇いたと言ったから来たんだ。早くえらべ」

 

「今、真剣に選んでるんです、話しかけないでください!」

 

 

 私は慎重に注文を選ぶと店員に伝えた。

 

 

「……グランデノンティーストロベリーティーフラペチーノアドホワイトチョコシロップアドカスタードクリーム1つと、グランデアイスライトアイスエクストラミルク抹茶ラテ1つください」

 

「注文をご確認いたします。グランデノンティーストロベリーティーフラペチーノアドホワイトチョコシロップアドカスタードクリームがお一つにグランデアイスライトアイスエクストラミルク抹茶ラテがお一つですね」

 

「はい、お願いします」

 

「お車を前に進めてお待ちください」

 

 

 私はサーの表情をうかがった。

 

 

「どうですサー、予知通りになりましたか?」

 

 

「……なぜ1つの商品名にアイスが2つもついているんだ?」

 

「グランデアイスライトアイスエクストラミルク抹茶ラテのほうですか? 最初のアイスが飲み物自体の温度、後ろのアイスは氷少な目という意味のアイスです」

 

「そうか、……ついでに聞くと、どっちが私の注文だ?」

 

「グランデノンティーストロベリーティーフラペチーノアドホワイトチョコシロップアドカスタードクリームの方です」

 

「これを私が飲むのか……?」

 

 サーは無言で料金を支払うと、少し車を進めて、私がドリンクを店員さんから受け取る。

 

 絶対にサーが頼まなそうなものと考えたが、流石に勝手な注文にしすぎたかもしれないと少し反省する。

 

「お客様、本日ファミリーキャンペーンを実施していまして、お子さんが商品を頼まれると、ご家族の方にドリップコーヒーをお一つサービスしています」

 

 

「えっ」

 

 私は手元の袋を覗き込むと、3個目のブラックコーヒーを見つける。

 

 

 サーはあからさまにほっとした顔になる。

 

 

「賭けは私の勝ちだな、そっちのコーヒーを私はもらおう」

 

「ま、まだです! 私がコーヒーを渡さなければ予知通りとはなりません! 予知は私がサーにコーヒーをさし出すというものだったはず!」

 

「何ッ……!?」

 

 私はクリームの山にこれでもかと乗せられたストロベリーをサーに突き出すと、サーの手から守るように抱え込んだコーヒーをなめるように飲んだ。

 

 

 苦い、死ぬほど苦い

 

 

 実はここ最近、個性が急激に向上した弊害として、苦みと辛みに対する感じ方が鋭くなりすぎている。

 

 だから苦い食べ物は……

 

 ……いや、それも言い訳、ある程度のコントロールは効く、それに辛い物は割と好きだ。苦いゴーヤチャンプルだって美味しく食べれる。

 

 

 ではなぜコーヒーをこれだけ時間をかけて飲んでいるのか。

 

 

 正直に言おう……、実は私はコーヒーが飲めない。

 

 理由は……、その、飲む人もたくさんいるから言いづらいが、……単純にまずいからだ。

 

 

 今も何とか抹茶ラテを間に挟みながら飲めているが、もう抹茶ラテは8割飲み切ってしまっている。

 

 

「……苦い」

 

 

 黒い現実と向き合わねばいけない時間はすぐそこまで来ている。

 

 本当に世の人たちはブラックコーヒーを美味しいと思って飲んでいるのか?

 

 成長すれば飲めると言われても、わざわざ美味しくないものを成長してまで飲むものなのであろうか

 

 

 ちらりとサーを見る。

 

 

「甘い……」

 

 

 一口飲んではカップを置き、一口飲んではカップを置く、明らかに顔色が良くない上、なぜか脂汗が滲んでいる。

 

「なんだ、この少し飲んだだけで感じる恐ろしいほどの満腹感は……」

 

 

 白い山を絶望した表情で見た後、サーもちょうど私の方を見る。

 

 

 

「自分の注文には責任を持て、これをやる。だからコーヒーをよこせ……」

 

「……あ、明日からのドリンク飲み放題が……」

 

「いい、それくらい出す。はやくコーヒーを渡すんだ……」

 

「くっ……、お願いです。これ、飲んでください……」

 

 

 お互いに栄養を補給しているというのに、げっそりとした顔で飲み物を交換した。

 

 

 その光景を他人が見れば、コーヒーをサーに手渡す私という光景だ。

 

 

 まるで予定調和のように、実際その通りなのだが……、サーの予知通りに未来は進んだことに歯噛みする。

 

 

「まさか、本当にサーの予知通りになるとは……、もう一度……、もう一度私にチャンスがあれば……」

 

「今日から残る3日、私はコーヒーを飲み続けている未来を予知したから無駄だ……、というより二度とお前に俺の飲み物は頼ません……」

 

「そうですか……」

 

 

 私は口直しのドリンクを飲み込んで一息つき、サーもコーヒーを舌で転がしてため息をついた。

 

 

「まぁ、なんというか、このように未来というものは非常に強固だ」

 

「それは……、そうですけど、私がコーヒーを車から投げ捨てたりすれば未来は変わってましたよ、明日からのサーのコーヒーもこの店を破壊すれば避けられます」

 

「じゃあそうすればいい」

 

「……冗談です。……普通に考えてそんな常識はずれなことはしないですよ、もったいないですし……」

 

「その通り、お前は私にコーヒーを渡さないこともできた。だがそうはならなかった。このコーヒーが車内に持ち込まれた時点で、私の手に渡ることは決まっていた。だから私はコーヒーを手渡される未来を視たんだ。つまりお前は言われた未来を変えるだけの意思がなかったと言える」

 

「……おっしゃる意味がよく分からないのですが」

 

「先ほどお前が5秒後に石につまずいて転ぶ未来を視て、歩くのをやめろと忠告すれば転ばなくても済むという話をしただろう」

 

「はい」

 

「結論から言うと、お前を予知をした時点で、お前が石につまずいて転ぶ未来を私が視ることは無い、見るのはすでに私が転ばぬよう助言し石を回避したお前だ。未来予知は私が未来を予知した前提の光景しか見えないからだ」

 

「じゃあ、予知した前提の未来の逆をいけばどうなるんです? 転ばない未来を視たのなら、逆にあえて転ばせれば未来が変わるのでは?」

 

「そういう曖昧な考えで予知を行った場合、予知は成立しない」

 

「はい?」

 

「私はお前が石に転ばないように、強い意志を持って個性を使わなければ、予知で未来は見えないということだ」

 

「その石に転ばないように願うこと自体が石で転んだ私を視なければ成立しないのでは?」

 

「成立する。なぜなら私はお前を必ず助けるからだ」

 

「な、なんですか急に」

 

「……わからんのか? つまり、私が強く1つの意思を持つことで未来が確定し、ようやく私はそれを見ることが出来たんだ」

 

 急な不意打ちにドキリとするが、続くサーの言葉で私は正気に戻る。

 

「それは……」

 

 

 ここでようやく、サーの予知の個性がどのようなものかが理解できた。

 

 それは、世間一般が想像する予知とは違っていた。

 

 

「予知で未来を視るには自分の未来の行動を縛るほど強い意志が必要だから……?」

 

「そうだ」

 

 サーの行う予知とは目的を定め、そこに続く過程を固定して、自身が介入した結果を見ることだ。

 

「よく覚えておけ本条、未来を視る。あるいは掴むのに最も大切なことは人の意思だ」

 

 サーの未来予知に右か左、そのような矛盾は起こりえない、サーは片方の扉しか選ぶことができない、サーが望む選択を固定した時、予知はたった一つの扉へと続く未来を見せるからだ。

 

 

「おっと、話をしていたらもうすぐ駅だ。降りる準備をしろ本条」

 

 

 もう少し話を聞きたい気もしたが、サーは混みがちな駅前の移動に集中しているため話しかけられなくなってしまう。

 

 

 手持無沙汰になった私はその話を聞きながら考え込む。

 

 

 私の『アレ』の力の仕組みとサーの予知の仕組み、この二つは同じものではない、しかし、ある面では通用する部分もあるのではないか?

 

 未来を確定させるほどの意志の力でサーは未来を予知させている。

 

 思えば、サーとの特訓では線をうまく扱うことだけに集中していて、それでどのような未来を求めるかなど考えていなかった。

 

 私も強い目的をもって未来を視れば?

 

 線を伸ばすとき、強固な目的意識をもって繋げればどうだろう?

 

 ……もしや、次こそはサーに目にものを言わせられることが出来るかもしれない。

 

 

「…………」

 

 

 ふと、ミラー越しにサーがこちらを静かに見ていることに気づく。

 

 

 いや待て。

 

 

 ……そもそも、この考え自体サーが自分の個性を説明したから気づけたことだ。

 

 もしや、サーが今まで散々私を怒らせたのも、あえてこの話をしたのも、私の成長を促すためだとしたら?

 

 

 私にそのことを自分で気付かせるため……? というか、全てサーの手のひらの上であったのでは?

 

 

 

 だとしたら、おっ、おもしろくない……!!

 

 

 

 

 私は答えのない思考に陥りながら、何かを言ってやろうと鼻を膨らませながらサーを見る。

 

 

「着いたぞ、私も忙しいんだ。早く降りてくれ」

 

 

 何か声をあげようとするその瞬間、機先を制して私の席側のドアが開く。

 

 

「お帰りはあちらだ」

 

 

 余裕しゃくしゃくの表情でコーヒーを飲み、鼻で笑うサーに私の頭は茹だった。

 

 

 

 この結末も彼の予知のうちなのかと疑心暗鬼に陥りながら、実習4日目は終わったのだった。

 

 

 

 

 




校内の男に飽きて、学外のイケおじにパパ活とか、こいつ相当な変態だな

情けない格好、恥ずかしくないの?


学校じゃ虐められているから、学外の社会的地位のある男で寂しさを埋めようとするなんて、まるでメンヘラビッチみたいだぁ……(偏見)


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10話 後半(4/4)

 体験学習5日目、気分はよくない、それは何時ものことだが、それでも今日のは強烈だ。

 

 

 端末でニュースを見れば、昨日の夜から話題はどこもかしこも、同じニュースで持ち切りであった。

 

 それに気が滅入って、端末の電源を落としても、街角に置かれたモニター、人々の噂話、つけっぱなしのラジオから、念入りに同じ話題が繰り返されているので、私の耳に嫌でも入ってくる。

 

 

 

〈贋者……、誰かが正さねば……、誰かが血に染まらねば……〉

 

 

 

『はい、ステインが捕まったという時報イベントです。

 

 体験学習3~5日のどこかの時点で立教トリオとヒーロー大好きおじさんとの戦闘が発生しますが、ホモ子は特に誰とも親しくないので遅れてニュースの情報で知ったという形です。

 

 このステインの逮捕がヴィラン連合を勢い付かせる要因になる重要な話ですが、(RTA的に)関係ねぇんだよそんなもん!

 

 ちなみにこのイベントが見舞いやメールのやり取りなどのロスもないため、最速です(威風堂々)

 

 本当にホモ子のイベ回避に無駄がない、一族にあるまじき豪運、これはチルドレンの面汚しでは?

 

 まぁいいでしょう、大体なあ……、親父(親)がガバだから三浪したんだよ!!!

 

 俺悪くねぇよ……、 俺悪くねぇからな……(親をリスペクトしないチルドレンの屑)』

 

 

 

 

英雄(ヒーロー)を取り戻さねば!! 来てみろ贋物ども……、俺を殺していいのは本物の英雄だけだ!!〉

 

 

 

 いったい何度繰り返されたか分からないこの動画

 

 巷では信念があるだの、主張に見るべきところがあるだのと、はやし立てている者もいるらしいが、私に言わせれば馬鹿らしい。

 

 ヒーローとはただの職業名でしかなく、この男の脳にある白馬の王子様などでは決してない

 

 そもそも、人を殺した時点で、その主張に何一つ聞くべき点はない、理想を吐こうが汚らわしい言い訳にしか聞こえないというのに

 

 

『保須のイベントは通常プレイなら、とりあえず絡んで経験値を取りに行くところですがRTAでは論外です。

 

 強制的にあの3人との好感度が上がるうえに、オールマイト、警察組織、ヴィラン連合の開闢行動隊とかいう、後の幹部候補共に因縁を付けられます。

 

 なにより好感度が上がってしまうのが辛い

 

 流石に緑谷、轟あたりは好感度上がって消すのは、攻略において現実的ではないです。

 

 飯田あたりならなんとか……

 

 序盤で委員長指名したせいで地味に好感度が上がりそうで怖いんですよね』

 

 

 

 …………

 

 ……言われなくとも飯田君どころか、誰にだって深く関わるつもりはない。

 

 

 テレビは続けて、犯罪者の妄言を映した映像を流し続ける。

 

 NO2ヒーロー、エンデヴァーが捕まえたという話だが、ヒーロー殺し逮捕の瞬間には、ボロボロな体の飯田君、緑谷君、轟君が映っていた。

 

 どこか憑き物が落ちた表情の飯田君、もうヒーローらしく意志の強い目を持った轟君、緑谷君は言うまでもない。

 

 そっか、結局、飯田君はヒーロー殺しを殺さなかったんだ……。

 

 彼はやはり私とは違い、ヒーローということだろう。

 

 ほっとしたような、どこか妬ましいような感情を飯田君に抱きながら、嫌でも聞こえるニュースを聞き流す。

 

 

「やぁ本条!!」

 

「…………どうも」

 

 そんな風に考え事をしながら事務所に向かうところ、偶然通形先輩に出会う。

 

 先輩は私の顔を見て、元気よく挨拶をしてきた。

 

「なんだ、いつもよりさらに暗い! どうした……、ってそんな風に不安そうにもなるか、彼ら君と同じクラスだろう?」

 

 先輩は私の不機嫌さを察するとテレビに目を向け、もっともらしい理由を挙げた。

 

「そんなんじゃ……、いえ、そうですね、無事でよかったです」

 

 彼らと私に何のつながりもない、そう言いかけるが、あえて否定するのも面倒なので私は適当な返事を返してその場を濁した。

 

「……そっか、よし、事務所まで競争しよう! そういうモヤモヤした時は体を動かすんだ!」

 

「しませんよ」

 

 思えば最近、人との距離の取り方が甘い、もっと気を使わなければいけないだろう。

 

 

『保須と比べれば、この体験学習で得られる経験値はぐっと少ないですが無視できる量ではありません

 

 実習の高評価と良スキル狙いで効率的に強化して、なんとかしのぎ切りましょう』

 

 

 私は隣でいつも通り口数の多い先輩の相手をしながら、内心は焦る気持ちを抑えて事務所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、桃子ちゃんおはよう」

 

「はい、おはようございます」

 

「……今日って桃子ちゃん、お昼空いてる? 良かったら女どうしでランチなんてどう?」

 

「いえ、すいません、休憩中にも今回の体験学習のまとめをしたいので」

 

 

「本条さん、期限の切れそうなお茶請けあるんですが、どうも皆さん食べきれなくて困っているんです。良かったらどうですか?」

 

「……申し訳ないです、実は軽食を駅前でとってきたばかりなんです」 

 

 

 バブルガールさんとセンチピーダーさんが声をかけてきてくれるが、私は何時も以上に最小の会話に努める。

 

 

 事務所についた私は、そこでも考えが止まらない。

 

 保須市の事件にはヴィラン連合も一枚噛んでいるらしい、声はこの事件が重要と言ったが、それはどういう意味だろうか。

 

 それに新たな言葉が出てきた。

 

 かいびゃく行動隊? 開闢のことか?

 

 始まりを意味するその言葉を鑑みるに、革命家でも気取っているのだろうか

 

 

 声の新たな情報について考察しながら、その断片的な情報にすぐに行き詰まる。

 

 このまま何も対策も取らずにいて、本当にいいのだろうか、この道は間違ってないだろうか

 

 私はまた失敗を……

 

 

 

「フンッ……」

 

「痛っ!?」

 

 

 

 不意に頭に走る衝撃、私は何事かと振り向く。

 

「少しはマシになったと思えば、相も変わらず酷い顔だ。よくも私の事務所でそんな顔が出来たものだ」

 

 

 そこには片手を私の頭に振り下ろすサーがいた。

 

 

「今日も一段とユーモアのない表情、お前はもう少し、愛想というものを学んだ方がいい」

 

 まさかの愛想をあのサーに説かれるという理不尽、私はつい、最近やけに言いやすい憎まれ口をたたく。

 

「それはツッコミ待ちというものでしょうかサー」

 

 売り言葉に買い言葉。

 

 事務所に来てからというものいちいち私を怒らせようとするサーに、とうとう私はカチンときてしまう。

 

「そもそも、サーだって言うほどユーモアありま