カスミコネクト (無駄遣い)
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少女探偵と果物泥棒

導入部分です。


 穏やかで涼しい風が吹く昼下がり。

 

頂点で輝く太陽は決して熱すぎることはなく、むしろこの風を味わうためのスパイスのようだ。

 

普段は外に出歩くことを好まないカスミも読みかけの本を閉じ、ギルドハウスを出ることにした。

 

普段は外に出ても、獣人の居住区の外に出ることはめったにない。

 

だが今日は自由に吹く風に誘われて随分遠くまで来てしまった。

 

帰ろうかと考えたがギルドハウスには今は人はおらず、戻ったところでやることといったら読書くらいだ。

 

「まあ、誰かが居ても読書くらいしかないんだけどね。」

 

それを言うならばこのまま外にいても、散歩するくらいしかない。

 

思わずため息がこぼれる。最近笑ったのはいつだろうか。

 

まあ、このまま当てもなく歩くより読書のほうが有意義だ。カスミは来た道を戻ろうと振り返る。

 

その後ろに怒号が響く。

 

「ドロボー!」

 

事件だ。武闘派ではないとは言え、放っておけない。

 

急いで声をほうを向き、思わず首をひねる。

 

追われている男は目の前にいる。両手にリンゴを一つずつ持ち、追われているとは思えない笑顔で一直線にこちらに近づいてくる。

 

その後ろで息を切らす店主のような男性は膝に手を置き悔しそうに立ち止まった。

 

「止まれ!」

 

カスミは男の前に立ちふさがり言う。

 

荒事には慣れていないがこの男からは敵意を感じられない。

 

事実、男は立ち止まると困った笑顔を浮かべた。

 

「これが欲しいの?ごめんね。これは僕の大切な人の分なんだ。こっちはもう食べちゃったし。」

 

見れば右手に持つリンゴは半分ほど食べられている。

 

「私はリンゴが欲しくて君を止めたんじゃないだ。」

 

カスミの言葉に男は首をひねる。

 

その姿からはとても果物泥棒とは思えない。

 

「君はそれをルピを払って買ったのかい?」

 

「ルピ?」

 

男は左手のリンゴを抱えるように右腕で持つと左手をポケットに入れて硬貨を取り出した。

 

「これ?」

 

「そう。それだ。」

 

「これってどう使うの?」

 

「はぁ!?君は私を馬鹿にしているのかね!?」

 

カスミのため息に困った顔をする男。その後ろから先ほどの店主が肩を掴み振り向かせると怒鳴る。

 

「ドロボー!たったこれだけだからって許さないぞ!」

 

その驚いた表情は嘘とは思えない。この男は本当に買い物というものを知らないようだ。

 

あまり騒ぎが大きくなればこの人は捕まってしまうかも知れない。

 

「すいません店主さん。」

 

「ん?どうしたんだい。嬢ちゃん。」

 

「この人は盗むつもりではなかったみたいです。どうやら買い物を知らなかったらしくて。」

 

「えぇ!?そんなはずはない。捕まったからって嘘をついてるんじゃないのかい?」

 

店主はそう言うと男の顔を覗き込む。カスミも同じように表情を伺う。

 

困ったように首をかしげ、胸ぐらを掴まれながらも大事そうにリンゴを持っている。

 

「た、たしかに。なんだか子供をいじめている気がしてきたよ。」

 

「この人には私がしっかり言っておくので、どうか許してやってください。」

 

カスミは頭を下げ、男からもらったルピを払うと店主も仕方ないと許してくれた。

 

店主の背中を見送っていると先ほどの男が消えている。

 

「しまった!?私としてことが。」

 

急いでその背中を追いかけると男はある店の前で止まっていた。

 

そこで店番をしている小さな少女にリンゴを差し出している。

 

その姿は優しく、あどけなく。まるで小さな子供が母親から頼まれたお使いを無事に達成したような顔をしている。

 

「あんな小さな子に頭を撫でられている。」

 

その姿を笑顔で眺めている自分にカスミは気づくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




読んでいただきありがとうございます。
ゆるく書いていきます。


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