Journey Through The Rainbow (がじゃまる)
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1話 世界の終わりが始まる日

ようやくスクスタが配信されたのでずっと前からため込んできた企画を開放しました
宜しければ一読お願いします


 

「―――・・・・・・ド。聞こえるか?」

 

 視界も感覚も全てが白い。

 何もかも覚束ない、ただただ白だけが延々と広がる世界に声が響く。

 

「・・・時は来たぞ。今、様々な世界の歴史が交わろうとしている」

 

 この世界が何なのか、声の主が誰なのかなど分からない。ただ一つ分かる事は、今この世界に存在しているのは、俺と、この一方的に語り掛けてくる声だけだという事。

 

「もしそうなれば世界の崩壊は免れない。だから、お前がそれを防ぐんだ」

 

 世界の崩壊に、それを防ぐ。羅列されるのはそんな現実離れした言葉。

 明確に事の概要を示すといった様子はなく、ただ一つ、世界を救えとだけ繰り返される。

 

「頼んだぞ―――」

 

 脈絡もなく、俺からの答えを待たずに話は切り上げられ、急速にその声は遠ざかっていく。

 完全に消失する刹那の瞬間、こんな一言を残して。

 

 

 

 

 

 

 

「――――――世界の破壊者」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ん?」

 

 胡乱の中にある意識に呼びかけてくる声に、強烈なデジャヴを覚える。

 

「――――――かさくん?」

 

 だが今度は少し違う。俺はこの声を˝知っている˝。

 俺と言う人間に嫌という程染み付いてしまったこの声を。

 

「―――・・・つかさくん・・・・・・? 士君‼」

 

「・・・・・・んぁ・・・?」

 

 瞼によって遮られていた視界が徐々に広がってゆき、暖かな自然光が眼球へと飛び込む。

 その眩しさに顔を顰めながらも辛うじて保った視線の先で、ライトピンクの髪が揺れた。

 

「もー、やっと起きた・・・。またこんな所でお昼寝?」

 

「・・・・・・歩夢・・・」

 

 呆れ半分のご立腹した様子で俺の顔を覗き込んできた少女を口にする。

 

 上原歩夢。高校二年生。

 やたら俺の事を気に掛けてくる、今の俺が最初に認知した存在・・・・・・と記憶している。

 

「ほら早く、もうライブ始まっちゃうよ!」

 

「・・・・・・ライブ・・・?」

 

 急いでいるような歩夢に手を引かれ、未だ白濁の中にある記憶の泥濘からこれに関連する記憶を弾き出す。

 

 ああ、そうだ。

 確か今日は、コイツが友達と一緒にやってる˝スクールアイドル˝とやらのライブイベント・・・・・・だったか。

 

「凄いよね! あのμ‘sさんとAqoursさんが一緒にライブをやるとか夢みたいだよ!」

 

 今回のライブが通常のスクールアイドルのライブとは違う、別々のグループ同士が共演する合同ライブだという事はコイツから聞かされた。

 

 今回共同でライブを行うという二グループの事は全くと言っていいレベルで知らないが、どちらかと言えば大人しい方の歩夢がこれ程興奮している事から察するに余程人気のあるグループらしい。

 

 と、まあ、そんな人気グループ同士の合同ライブという事もあってか、いつもに増してしつこく勧誘してきた歩夢の根気に負け、渋々ここに赴いたのだった。

 

「歩夢せんぱーい! もやし・・・じゃなくて士さん見つかりましたかぁー?」

 

「あー、うん! ごめんねかすみちゃん心配かけて」

 

「いえいえ~、士さんが心配だなんてそんなー。かすみんはただもやしのせいで先輩だけライブに遅れるのが可哀想だったから呼びに来ただけですよぅ」

 

 どうしてか俺に対して攻撃的な中須かすみとかいった一年生の後輩に手を引かれる歩夢。俺もその後に続き、歩夢と中須以外のも女子が集まった一帯の席に腰かける。

 

 歩夢含め、ここにいる九人の少女は虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の部員だ。

 普段は別々に行動する事が殆どらしいのだが、今回人気二大巨頭とも言えるグループの競演に際して全員集まったそうな。

 

「あ、士君? 今度はいなくならないでね? ライブ中寝るのも駄目だよ!」

 

 刻一刻とライブの時間が迫り、徐々に会場のボルテージが上がっていく中歩夢にそう言われ疲れて見せるように溜息をつく。

 いや別に、俺だって寝ようと思ってあんな所にいた訳ではないし、何なら歩夢の言う合同ライブだってちゃんと見るつもりだった。

 

 ただ、トイレがてらその辺をうろついていたら急に目の前が白くなり、気付けばあの夢を見ていたのだ。

 

「・・・・・・コイツ等と関係あるのか・・・?」

 

 深々と椅子に座り直し、懐から常に持ち歩いているもの、˝今の俺˝が気付いた時には所持していた19枚のカードを取り出す。

 

 カードに描かれているのは、それぞれ違う、人型をしているのだが人間ではない何かと、恐らくそれの名前だと思われる文字。

 

 

 KUUGA――――――クウガ。

 

 AGITO――――――アギト。

 

 RYUKI――――――龍騎。

 

 FAIZ――――――ファイズ。

 

 BLADE――――――ブレイド。

 

 HIBIKI――――――響鬼。

 

 KABUTO――――――カブト。

 

 DEN-0――――――電王。

 

 KIBA――――――キバ。

 

 W――――――ダブル。

 

 OOO――――――オーズ。

 

 FOURZE――――――フォーゼ。

 

 WIZARD――――――ウィザード。

 

 GAIMU――――――鎧武。

 

 DRIVE――――――ドライブ。

 

 GHOST―――――ゴースト。

 

 EX-AID―――――エグゼイド。

 

 BUILD―――――ビルド。

 

 

「・・・・・・」

 

 その中で1枚だけ、ブランクカードとでも言うべきか。名前が刻まれているのみで、そこだけ切り取られたかのように名前の主であろうモノの姿が映されていないカード。

 

 それがこのDECADE―――――ディケイド。

 

 調べてみてもカードに該当する情報はなく、何を意味しているのかも全く持って分からない。

 そんな意味不明な19枚のカードが、˝記憶を失った状態˝で発見された俺に残されていた唯一の所持品だった。

 

 

 と、こんな調子であるために身元も分からず、今は俺の第一発見者である歩夢、及び上原家の御厄介となっている。

 今日アイツの誘いを断り切れなかったのも、こんな事もあってか未だに俺が歩夢に対して頭が上がらないからだ。

 

 まあ、こうして部活の友人と共にイベントに誘ってくれる辺り好意的には思われているようだし、疎まれて名実共に厄介者になるよりは全然幸せなのだろうが・・・・・・、

 

「・・・・・・?」

 

・・・とまで考えた辺りで、ふと周りがざわついている事に気が付く。

いやまあ、ライブ前で会場の熱も上がっているので当然といえば当然なのだが、それとは何か違う。

言い表すならば、期待や高揚を孕んだ熱気とはまるで正反対。不安や畏怖のような、よからぬ感情だ。

 

「・・・? 何かしらあれ・・・」

 

 その理由は部員の一人、朝香果林が訝し気に指さした方向へと他の部員と同時に視線を流した事ですぐに分かった。

 

「っ・・・⁉」

 

 丁度今からライブが行われようとしているステージの真上で、空が揺れている。

 いや、揺れているというよりは、歪んでいるといった方がいいだろう。

 

「・・・何だろうあれ・・・・・・」

 

 中には好奇の視線を向け、携帯などで写真を撮る者もいる中、猛烈な胸騒ぎがあれはヤバいと訴えかけてくる。

 

 そしてその予感が的中するように歪みはその手を広げ、瞬く間に辺りの空間を侵食し出し――――――、

 

「うおおっ⁉」

 

「きゃああぁぁぁッ⁉」

 

 猛烈な勢いと衝撃をもって俺の横を何かが駆け抜ける。

 それにより転倒した俺がすぐさま身体を起こして何が起こったのかを確認してみれば、駆け抜けていったものの正体―――灰色のオーロラが俺と歩夢達を分断していた。

 

「士君⁉」

 

「ちっ・・・・・・ちょっと離れてろ」

 

 微かに見える灰色の向こうで困惑した顔を浮かべる歩夢達の方へ行こうと体当たりで突破を試みるも、見た目に反して異様な頑丈さを誇るオーロラは微動だにしない。

 辺りを見れば同じものが会場全体に出現しており、ほんの少し前まで存在していた熱気は一瞬にして混乱によって塗り潰されていた。

 

「・・・ッ? 今度は何だ・・・?」

 

「士君・・・? 士君ッ!!」

 

 急速に空間が白く染め上がってゆき、遮断された向こう側で俺の名を叫ぶ歩夢の声までもが遠くなってゆく。

 そうして出来上がった世界は、先程俺が夢に見たものと全く同じで―――、

 

 

 

 

 

「―――お、やっと繋がったか・・・って、何だお前その姿・・・」

 

 

 見える景色も、空間を支配する白も何も変わらない。

 ただ一つ、今度は俺以外にも別の者が存在している事を除いて。

 

「・・・・・・誰だアンタ・・・」

 

「・・・? 覚えてないのか・・・?」

 

 この季節に着るものとしては少し厚手にも思えるコートと、赤と青、左右で色の違う靴を除いてはこれと言ってパッとした特徴はない。強いて言えば少し顔がいいくらい。

 

「・・・アイツ等の妨害か・・・? けどどうやってこの世界に干渉を・・・」

 

 だがブツブツと何か呟いているこの声は、先程もこの空間で俺に語り掛けてきたものと同じ。つまりコイツがあの白昼夢まがいな現象を引き起こした張本人という事だ。

 

「・・・よく分かんねーけどなんなんだよここ。さっさと元いた場所に戻せよ」

 

「・・・ご生憎そう言う訳にもいかないんだよ。こっちにもこっちの事情ってもんがあるんでね。・・・お前の記憶がないなら尚更だ」

 

 悪態付く俺を飄々といなした後、一変して真面目な顔つきになった男が厳かに口を動かす。

 

「カードとバックルは持ってるか?」

 

「・・・カード? クレジットカードなら作らない主義だぞ」

 

「違うそうじゃない。どっかの筋肉バカみたいなこと言ってんじゃないよ。・・・・・・ライダーカードの話だ」

 

 アホを見るような目で俺を見た後、男は改めて俺に求めているらしいモノの名称を口にする。

 ライダー・・・心当たりのない名前だが、その意味不明な名称と関係がありそうなものなら丁度今俺の手元にある。

 

「・・・もしかしてこれか?」

 

「そう! それだ! ディケイドのカードは⁉」

 

 取り出したカードの束を見せつけると、強めた語気でそう急かしてくる。

そしてディケイドという名称には、これでもかという程心当たりがあった。

 

「・・・コイツの事か?」

 

 カードの束から一枚を引き抜き、唯一のブランク状態であるディケイドのカードを見せる。

 だが期待に添うようなものではなかったようで、男はあからさまに落胆した様子で頭を掻いた。

 

「・・・最悪だ・・・」

 

 

 一体何なんだ。

 

 いきなり俺を呼び出したこの場所は何だ。このカードは一体何なんだ。お前は一体誰なんだ。

 

 お前は一体、俺の何を知っている・・・?

 

「・・・お前の記憶が無いのはディケイドの力を失った事が関係してるのか・・・? けど、そうだとしたら他のライダーの力は失われていないのと辻褄が合わない・・・」

 

 訳も分からないまま一方的に話を進める男に対し、沸々と黒いものが湧き上がってきたのを感じたその瞬間、

 

 俺がこの場所に飛ばされた時と同じように空間の白が更に主張を増し、徐々に目の前にいる男の輪郭が覚束なくなってゆく。

 

「・・・・・・もうタイムリミットか・・・。おい、時間もないから大事な部分だけぱっぱと伝えるぞ」

 

 遠くなっていく男の声と姿と共に、白い世界が崩れていくのと、元の世界に引き戻されるのを感じる。

 

「一刻も早くお前の記憶と、力を取り戻せ。それが崩壊する世界を救う希望になる」

 

 最後に残されたこの言葉。

 俺がその意味を理解するのは、このすぐ、直後だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「―――――――――ッ!!!!」」」

 

 爆音と共に至る所で響いた悲鳴が俺の意識をこちらの世界へと完全に引き戻す。

 

「・・・ッ⁉ なんだよ、これ・・・・・・」

 

 目の前で広がる光景は、意識が向こうに飛ぶ前とはまるで違う。

 

 濛々と煙を上げるライブステージの上空には絨毯のように空を覆う灰色のオーロラが広がり、俺と歩夢たちを引き離した時のように伸ばした幕を地に下ろしては世界を分断している。

 

『『『オオオォォォォォ・・・!!』』』

 

 世界を遮断するオーロラの向こうから叫び声を上げては続々と飛び出してくる異形の怪物達が逃げ惑う人々を蹂躙し、その命を刈り取ってゆく。

 

「・・・おい・・・おい・・・・・・夢だよな・・・・・・」

 

 表現するならば、破滅と言う概念そのものが意思を持って人間に牙を剥いたかのような理不尽さ。

 

「・・・っ! 歩夢・・・? 歩夢‼」

 

 そんな世界の終わりを想像させるその光景の中、つい先程までオーロラの向こう側にいたであろう歩夢達の姿が確認出来ない。

 

 他の奴等と一緒に逃げたか、あるいは次々に襲い来る怪物の餌食になったか・・・・・・、

 

「・・・クッソ・・・! アイツ肝心なこと何も伝えないで消えやがって・・・!」

 

 一瞬頭に浮かんだ最悪な結果を振り払い、地面を蹴ってははぐれた少女の姿を探す。

 世界の崩壊が始まろうとしている・・・だとかは言っていた気がするが、そう言った直後に崩壊する世界があるか。

 

「歩夢! 歩夢‼」

 

 少女の名を叫んで走り回る俺の視界や耳に崩れる世界や命を落とす人々、その最期の姿や音が流れ込んでくる。

 悲壮や絶望の渦巻くその様相は、とても昨日まで平穏が満たしていた世界だとは思えない。

 

「・・・ぐっ・・・・・・うぅ・・・・・・!」

 

 瞬間、それに呼応したかのように走る頭痛。

 雷撃のように鋭いそれがもたらすのは痛みだけでなく、遠い記憶のような映像。

 

 目の前の混沌と全く同じ、世界が終わる、破滅の色。

 

 

「な・・・んだ・・・・・・?」

 

 

 俺はこの光景を・・・・・・この世界が終わる瞬間を知っている・・・?

 

 

 

「っ・・・・・・⁉」

 

 脳裏に崩壊する世界の中で戦う幾つもの人影らしきものが映る。

 

 クウガ、アギト、龍騎、ファイズ、ブレイド、響鬼、カブト、電王、キバ、W、オーズ、フォーゼ、ウィザード、鎧武、ドライブ、ゴースト、エグゼイド、ビルド。

 

 俺の所持するカードに姿が映されていた18人の˝ライダー˝。

 彼等が一様に敵意の眼差しを向ける先には、その戦士達と同じようで、全く異質な気配を纏った怪物達の姿。

 

 

 

 

 異形の者と化した自分自身と対峙するように衝突し、倒れてゆくライダー達。

 その中に、一点。

 圧倒的な覇気をもって力を振るい、ライダー達を倒した怪物達を叩き伏せてゆく、他の者とは一線を画する˝ライダー˝の姿。

 

 

 

 

「・・・・・・ディケイド・・・?」

 

 

 19枚のカードの内、一枚だけ抜け落ちたように何も描かれていなかったカード。

 そして、謎の男が俺に残した力を取り戻せという言葉。

 

 もしこの記憶らしき光景の中で猛威を振るうあの孤高の戦士がディケイドならば、あれが、あの男の言った俺の取り戻すべき力・・・?

 

 

 

「うっ・・・・・・⁉」

 

 頭痛が消え去り、脳裏に流れる景色も止まったと思った刹那、今度は胸―――否、懐のカードに熱が宿る。

 もしやと思い取り出してみれば、やはり。

 

「・・・ディケイド・・・」

 

 何も描かれていなかったカードに映し出された、バーコードのようなラインの走った戦士の顔。

 

「・・・・・・よく分かんねーけど・・・」

 

 これをどうすればいいのか、これのどこが力なのか。そんな事を考える事もなく、導かれるようにして動いた俺の腕は、いつの間にか巻き付いていたベルトのバックル部分、ピンクに近い色で形成されたその中にへと、ディケイドのカードを差し込んでいた。

 

 

《KAMEN RIDE》

 

 

「俺が世界を救ってやる・・・・・・・・・多分」

 

 何故か身体に走る懐かしいような感覚。

 その感覚に身を任せるように俺はバックルの側部に展開されていたハングルを内へとスライドし、戦士―――仮面ライダーディケイドへと姿を変えた。

 

 

 

 

《DECADE!》

 

 

 




まず初めに、合同ライブの時点で虹ヶ咲が全員揃っていたり、士に語り掛けてきたのが渡じゃなかったり、平成二期ライダーの力も所持してたりと所々改変している部分もあるのでご了承を。
お祭り作品的な要素がほとんどを占めると思いますが、それなりに工夫して進めるつもりなのでお付き合いして頂けると幸いです。


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2話 旅の出発点

先日大学の推薦入試を受けたのですが見事にボコボコにされました
一般で頑張ろうと思います(泣)


 

 

「・・・行くんだね。士」

 

「ああ。でないとこの世界・・・いや、他のライダーの世界も一緒に破壊されちまうからな。・・・てかお前も行くんだよ」

 

「・・・こんな事になって本当に悪いとは思ってる。・・・けど、もうこれしか方法が無いのも事実なんだ・・・」

 

「・・・大体分かってる。要するに、また通りすがってくればいい訳だ」

 

「・・・もうちょっと真剣に捉えなさいよ・・・・・・遠足じゃないんだぞ」

 

「フフ。まあ、今度は僕の邪魔をしないようせいぜい頑張ってくれたまえ」

 

「お前はさっさと捕まれコソドロ」

 

「だから何でそんな気楽なんだよお前等・・・事の重大さ理解してんのか・・・? ・・・まあでも・・・・・・頼んだぞ」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

「・・・また、新しい旅の始まりか――――――・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 知らない記憶が。

 朧げで遠く、それでいて懐かしくも感じる記憶が流れ込んでくる。

 

「フンッ! ハアァ!」

 

 レイピアのような刀身の細い剣を振るい、大挙として押し寄せてくる果実のような怪物の群れを羽虫のように切り捨ててゆく。

 視界と、記憶が目まぐるしく回る中、俺はある少女の無事を求めて声を張り上げた。

 

「歩夢ッ! どこだ歩夢!!」

 

 この姿に変身し戦い始めてからそれなりの時間が経ったが、未だ歩夢はおろか他のスクールアイドル同好会の面子すらも見つけることが出来ない。

 こんな状況で迷子探しをさせるなんざとんだお転婆姫どもな事で。

 

「こん・・・にゃろッ!」

 

 切っても切っても次から次へと湧いてくるこの怪物どもは俺一人で対処するにはあまりにも数が多く、周囲では次々とそいつ等によって人々が殺されてゆく。

もしその犠牲者の中にアイツ等がいたなら・・・・・・いや、今はそんな事は考えるな。

 

 とにかく今は、コイツ等を片付ける。

 

『アアアァァァァッ!』

 

 背後から迫る殺気を感じ、振り向いては水色の昆虫のような姿をした怪物の攻撃を収納された刃を伸ばしたカードケース状のマルチウェポン―――ライドブッカーを盾にして防ぐ。

 

 コイツはインベス。しかも怪物の群れの中に混じる下級の雑魚ではなく、固有能力を有した上級個体―――カミキリインベス。

 その情報が脳裏を掛けた瞬間、反射的に一枚のカードを腰に巻いたバックル―――ディケイドライバーへと挿入していた。

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《GAIM!》

 

 

 みかんを模した鎧を身に纏った戦士―――仮面ライダー鎧武へと姿を変え、ライドブッカーを用いてカミキリインベスを攻撃。

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《DAIDAI ITTO!》

 

 

 続け様に装填された別のカード。

それにより繰り出された切れ味と破壊力を増した剣閃が煌き、両断されたカミキリインベスの身体は炎を噴き上げて爆散した。

 

「・・・? なんで今・・・」

 

 さっきから当たり前みたいにこなしてたが冷静に考えると気持ち悪いものだ。

 

 不意に襲いかかってきた敵の正体、そいつに対する咄嗟にも拘らず的確な対処。

 元々所持しいていたライダーカードはおろか、ライドブッカーに収められていた未知のカードの使い方、諸々。

 

 何故だか分からないが、俺は知っていた。

 ディケイドとしての戦い方―――カードを収めていたケースが剣や銃に変形する事や、カードを駆使して様々な力を発揮できる事も。

 

『ウアアアァァァァッッ!!』

 

「チッ・・・」

 

 囲まれたか。

 それも上級インベスがぞろぞろ揃い踏みとか最初からクライマックスも甚だしい。

 

「お前等の相手をしてる場合じゃねぇんだよ・・・・・・どけ!」

 

 世界に何が起こっているのか。この力は何なのか。それを扱える俺は一体何者なのか。

 そんな分からない事だらけの状況の中、俺は歩夢を探し出す事の障害となり得る敵に向かって刃を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前の願いを言え・・・・・・』

 

『・・・・どんな願いでも願いでも叶えてやる・・・・・・』

 

『お前が払う代償はたった一つ・・・・・・』

 

 

「いや・・・・・・いやぁ・・・・・・!」

 

 地面から上半身が生え、その真上に下半身が浮遊している怪物の群れが青と白を基調とした衣装に身を包んだ二人の少女を執拗に追い掛け回す。

 

 このみかん髪の少女、スクールアイドルグループAqoursリーダー高海千歌。

 μ‘sとの合同ライブに心を弾ませていたのも束の間。現在絶望と恐怖の渦中、幼馴染の渡辺曜に手を引かれただ必死に迫る怪物から逃げ惑っていた。

 

『ウゥゥゥ・・・・・・!』

 

「っ・・・・・・!」

 

 正面からインベスが迫ってくるのを視認し、全速力で駆けていた足に急ブレーキをかける曜。

 彼女が後方を確認すれば自分達を追っている怪物もすぐそこにまで迫っており、もう逃げ場がなくなっているのは明らかだった。

 

『アアァァァァァッッッ!』

 

「千歌ちゃんッ!」

 

 二人を視認し、殴りかかってきたインベスの攻撃を千歌を抱えて殆ど転倒に近しい形で回避。

 

「くぅ・・・!」

 

『ウアアアァァ・・・・・・』

 

 激しく打ち付けた足の痛みに顔を顰めつつ上げた曜の視界に尚も歩み寄ってくるインベスが映る。

 

「曜ちゃん・・・・・・」

 

 未知の怪物に怯え、縋るような千歌の瞳が曜に向けられる。

 だがこの場において恐怖を覚え、もはや絶望に抗う気力を殆ど削がれているのは彼女もまた同じ。

 

 そんな折れかけた心のままに、渡辺曜は絞り出すようにして救いを求めた。

 

「・・・助けて・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――――契約成立』

 

 

 

 

 

 

 

 

『アアアァァァァ・・・・・・⁉』

 

「・・・・・・?」

 

 何者かの声の後に曜の耳朶に触れたけたたましい悲鳴と何かが吹き飛ぶ音。

 祈りが通じたのか。そんな希望を持った彼女の顔から再びそれが奪われるのに、そう時間はかからなかった。

 

『・・・˝助けて欲しい˝というお前の願い、叶えたぞ』

 

 自分達に襲い掛かったインベスを攻撃したのもまた怪物だと理解し、恐怖と戸惑いに表情を歪ませる曜。

 

『・・・契約完了だ』

 

「え・・・・・・ぅ――――――ッ⁉」

 

「曜ちゃん⁉」

 

 二人を助けたかのように見えた怪物―――イマジンが腕を振るうと、ビクンと震わせた曜の身体が真っ二つに開く。

 イマジンがその中へ飛び込むと間もなく彼女の身体は元に戻ったが、それに安堵する暇もなく次なる恐怖が二人を襲う。

 

「曜ちゃんはや―――え・・・?」

 

 頼ってばかりではいられないと決意したような千歌が曜の腕を取ろうとし―――その手が空を切る。

 そこには既に、渡辺曜の手はなかったのだ。

 

「よう・・・ちゃん・・・・・・?」

 

 千歌が握っていたはずの手が。ついさっきまで千歌を引っ張ってくれていた手が、なくなっている。

 

「え・・・? え・・・・・・?」

 

 変化はそれだけに収まらず、自分の身体に起きている現象に怯え混乱する曜の身体が淡く光を帯び出し、消えた手の先から徐々に砂の粒子と化して消えていく。

 

「ようちゃ・・・・・・曜ちゃんッ!!」

 

 必死の叫び虚しく、伸ばした手が曜の身体があった場所を通過した時には、既に渡辺曜の面影を残したものは何一つ残っていなかった。

 

「よぉ・・・・・ちゃん・・・・・・・?」

 

 目の前で親友が消えた。

 受け止めるに受け止めきれない事実に燻っていた勇気の灯も完全に鎮火し、千歌は力なくその場にへたり込む。

 

「千歌ちゃん!」

 

「梨子・・・・・・ちゃん・・・・・・」

 

 逼迫した声で彼女の名を呼ぶ、先程はぐれてしまったメンバーの一人である桜内梨子。

 あちこち傷だらけになりながら怪物から逃げてきた梨子と、親友が消えた千歌。今の二人に互いの無事を喜ぶ余裕はなかった。

 

「何してるの千歌ちゃん! 早く立って!」

 

「梨子ちゃん・・・・・・曜ちゃんがぁ・・・・・・!」

 

「曜ちゃん・・・・・・?」

 

 手を取って駆け出そうとする梨子にくしゃくしゃになった顔を向ける千歌。

 だが梨子は意味が分からないといったような怪訝で一瞬眉を顰め、すぐさま差し迫った表情で彼女に訴えかけた。

 

「誰か分かんないけどとにかく今は逃げないと! 早く!」

 

「え・・・・・・?」

 

 まるで曜の事を知らないかのような返答に千歌の目が見開かれる。

 

「・・・何言ってるの梨子ちゃん・・・? 曜ちゃんだよ? さっきまで一緒にライブもしてたじゃん!」

 

「後で聞いてあげるから今は走っ――――――――――ぅっ・・・・・・⁉」

 

 千歌の話に効く耳を持たない梨子。

そんな彼女が千歌の腕を強く握っては地面を蹴ろうとし、刹那にその身体がビクリと揺れた。

 

「く・・・ぁ・・・・・・?」

 

 ビクビクと痙攣する彼女の首筋に突き刺さった二本の牙が˝色˝を吸い取ってゆく。

 やがて完全に色を失い無色透明なガラスのようになってしまった梨子がゆっくりと地面に倒れ込み、音を立てて砕け散った。

 

『・・・ウウゥゥゥ・・・・・・』

 

「ひっ・・・・・・!」

 

 梨子の命を奪ったステンドグラスのような紋様が全身に走る吸血鬼―――ファンガイアが今度は自分を獲物として捉えたのを感じとり、また一人散っていった友人の死を悲しむ間もなく後ずさる千歌。

 だが既に彼女に逃げ道など残されておらず、踵を返した直後に衝突してしまったのは先程曜を消したイマジンによって退けられたはずのインベスだった。

 

「あ・・・・・・あぁ・・・・・・・・・!」

 

『ウアアアァァァァァァァァァッッッ!!!』

 

 耳を劈く咆哮に続いて拳が振り下ろされ、悲鳴もろともその命を押し潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぬっ・・・・・・ぐぅぅッ・・・・・・⁉」

 

 丁度インベスの群れを一掃した俺を唐突に襲った痺れるような感覚。

 

「なん・・・・だ・・・・・・?」

 

 瞬刻に戦国武将のような装甲が解除された俺の姿がディケイドへと戻り、ドライバーから鎧武のカードが排出される。

 しかしそのカードに仮面ライダー鎧武の姿は描かれておらず、ほんの数刻前のディケイドのカードと同じ様なブランク状態と化していた。

 

「どうなって・・・?」

 

 いや、鎧武だけじゃない。

 ライドブッカーに収まったカードを確認してみれば、元々所持していたライダーカードの内三枚、仮面ライダーキバに仮面ライダー電王のカードまでもがブランク状態となってしまっている。

 

「―――り、ダイヤ!」

 

「もう・・・・・・何なのさコイツ等!」

 

 ヒステリックな叫び声に釣られ、意識がカードから声のした方へと流れる。

 少し離れた場所。ガラス張りの建物を背に怪物の群れに囲まれる三人の少女。

 あの三人には見覚えがある。確か歩夢が「ライブ前に絶対覚えて!」と迫ってきた・・・・・・Aqoursの松浦果南、黒澤ダイヤ、小原鞠莉・・・・・・だったような気がする。多分。

 

 で、その人気グループのメンバーである彼女達に今も襲いかかろうとしている怪物は二種。あれは魔化魍とスマッシュか。

 

『KAMEN RIDE』

 

 

『HIBIKI!』

 

 

 例の如く怪物の正体とそれらへの有効打を弾き出した俺はライダーカードを用いて仮面ライダー響鬼へと姿を変え、流れるように別のカードの力で攻撃に移る。

 

『ATTACK RIDE』

 

 

『ONGEKIBOU REKKA!』

 

 

 両手に取った太鼓の撥のような武器に炎を纏わせてはそれを放出。清めの火球が魔化魍とスマッシュを燃やしてゆく。

 

「what・・・・・・?」

 

「味方・・・ですの・・・?」

 

「・・・そんなことより、今のうちに」

 

 最初こそ俺に畏怖と疑念の混じった視線を向けていた三人だが、怪物どもの注意がこちらに逸れた事で退路を見出したのか、奴等を刺激しないよう慎重に逃避を図る様が伺えた。

 

 それでいい。

 この状況においては俺を囮にして逃げるのが最善手だ。

 

『アアァァァァァッ!』

 

「・・・・・・?」

 

 この違和感は何だろうか。

魔化魍やスマッシュの咆哮に混じり、少なくとも生物の鳴き声ではない音が聞こえる。

 擬音で例えるならばキイィィィ・・・と言うような、猛烈に胸をざわつかせる共鳴音。

 

 

 これは・・・・・・、

 

 

「ッ・・・・・・! おい! さっさとそこから離れろ!!」

 

「え――――――」

 

 

『ゴガアアァァァァァァァァァァッッ!!!』

 

 

 その音があの三人の背後。本来映っているべきものが映っていないガラスの張りの壁から迫っている事を理解した俺は反射的に叫ぶが、僅かに遅い。

 次の瞬間には鏡の世界―――ミラーワールドと繋がったガラスから一体の龍が飛び出し、紅が散華した。

 

「え・・・・・・?」

 

「ま・・・・・・り・・・・・・?」

 

 龍が通り過ぎていったのは松浦と黒澤の間。つまりは今の今まで小原鞠莉がいた場所・・・・・・だったのだが、飛び散った血潮と血だまりに沈む肉塊が、何が起きたかを如実に物語っていた。

 

『ッ――――――!!』

 

 マズイ・・・!

 血の臭いで刺激され興奮したのか、魔化魍とスマッシュが俺に向いていた意識を生臭さの発生源、つまり呆然とする松浦と黒澤の方へと戻してしまう。

 

「「うわあぁぁぁぁぁっっ⁉」」

 

「っ・・・・・・! こんのッ!」

 

 一点に群がった獣達の中央から上がった悲鳴に続き、痛々しい殴打音と咀嚼音が不快な響きで耳朶に触れる。

 

「・・・・・・・・・」

 

 怪物どもを全て焼き払った時には既に断末魔は止み、残ったのはほんの数秒前まで人だったもの。方や全身がひしゃげ、方や至るところを食い千切られた、見るも無残な亡骸だった。

 

「ぐうぅ・・・ッ⁉」

 

 理不尽を前に散った命を悼む間もなく再度俺の身体に痺れが走り、響鬼の装甲が解除される。

 カードを見やればやはり仮面ライダー響鬼の力は失われており、続き仮面ライダー龍騎と仮面ライダービルドの力も消失し、ブランク状態と化す。

 

「・・・三枚・・・・・・?」

 

 今目の前で失われた命と、力の消えたカードの枚数が一致している。しかも消えたのはアイツ等が逝った直後。

 まさか・・・アイツ等の死に呼応して力が消えた・・・?

 

 

――――――ズガァァァァッ・・・・・・!

 

 

 そう遠くない場所で何かが砕けた爆音を背に、また新たな怪物の群れが押し寄せてくるのが見えた。

 どうやら救えなかった命を悼む時間も与えてくれないらしい。

 

「・・・こんな簡単に壊れちまうもんなんだな・・・世界ってのは・・・・・・」

 

 口ではこう言ったが、悲観している場合ではない。とにかく、俺のやるべき事は一つだ。

 

「・・・・・・スマン」

 

 届かなかった命にせめてもの手向けを送り、俺は最悪の結果が訪れぬ事を祈っては駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ・・・っ・・・」

 

「歩夢さんはやく!」

 

 突如舞い降りた混沌によって瞬く間に様相の塗り替えられた世界の中、辺りの人々同様、上原歩夢もまた逃げ惑っていた。

 

「逃げる事ないじゃない。ちょっと傷付くわよ?」

 

 背後から歩夢達に迫る、μ’sの一員である絢瀬絵里と同じ姿をした˝何か˝。

 見た目や声音と言った身体的特徴こそ本人のそれだが、明らかに異様な雰囲気や圧を漂わせるその姿は彼女達の足を動かすには十分だった。

 

「何なんですか・・・なんなんですかこれぇ・・・・・・! しず子ぉ・・・りな子ぉ・・・!」

 

「かすみさん・・・気持ちは分かりますが今は・・・・・・!」

 

 歩夢と共に逃げているのは、優木せつ菜に中須かすみだけ。他のメンバーの安否ははぐれてしまってからというもの不明だ。

 加え、いくら走っても歩いているはずの絵里を振り切れないという事実が更に彼女達の不安と恐怖を駆り立てた。

 

「・・・あら、追いかけっこですか?」

 

「「「ッッ・・・・・・⁉」」」

 

 そこら中で上がる悲鳴や爆音に遮られる事なく存在感を示した凛とした声。その途端に彼女達にずずんと圧し掛かる重圧。

 

「海未・・・・・・じゃないみたいね」

 

「・・・どうやら、絵里もこちら側のようですね・・・・・・丁度いいです」

 

「海・・・未、さん・・・・・・?」

 

 立てない訳ではないし、動けない訳ではない。まるで身体をスローモーション再生したかのように動きが遅くなっている。

 これが˝重加速˝と呼ばれる能力によるものなどと歩夢達には到底分かるはずなどなく、ただ憧れの存在の皮を被った化け物に蹂躙されるのを待つだけの身となる。

 

「さて・・・、鬼ごっこも終わりね」

 

「っ・・・⁉」

 

 嗜虐的に微笑んだ絵里の身体が緑炎に包まれ、昆虫の蛹が人型を成したような怪物に変わる。

 

「ワーム・・・重加速を使用せずとも何者より早く動けるとは羨ましい限りです」

 

 羨む海未の視線をよそに絵里に化けていたワームが一切の動作が目で追えない程の刹那で歩夢の眼前に肉薄。グロテスクな体表をその視界を支配した。

 

『シュゥゥ・・・・・・』

 

 振り上げられた腕の先で煌いた鋭利な爪が歩夢の恐怖心を煽る。

 どうにかしようにも、重加速の影響で速度を制限された動きでは逃げる事も間に合わない。

 

『アァァッ!!』

 

 ひゅ、と風を切る音と共に、瞼を閉じて自分の身体が引き裂かれる瞬間から目を逸らす事も出来ない歩夢にワームの凶刃が迫る。

 

(士君・・・・・・!)

 

 歩夢が走馬灯のように浮かんだ少年の名を心の中で呼んだ―――その時だった。

 

 

「フウゥゥンッ!!」

 

 

 突如としてワームが弾け飛び、昆虫然とした怪物の姿の代わりに立った一つの影。

 バーコードを走らせるマゼンタのボディを持つ、戦士の姿がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ギリギリセーフってところか?」

 

 どうしてか異様なまでに動きが緩慢になっている歩夢、中須、優木の三人を見やる。

 原因はたった今弾き飛ばしたワーム・・・でないのなら、その後方でこちらを睨みつけているあの青髪の女。

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《BLAST!》

 

 

 ライドブッカーを片手銃状態へと移行し、引き金を絞っては弾丸をぶっ放す。

 だが奴が少し眉を顰めたと思えば急ブレーキでもかけたかのように銃弾が減速し、事実上無力化されてしまう。

 

「・・・重加速・・・」

 

 瞬時に頭に浮かんだ言葉を口にする。

 なるほど。確かにそれなら今の攻撃。そして何より歩夢達がこうなっている事への説明が付く。

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《DRIVE!》

 

 

 最後にライダーの残った力がこの仮面ライダードライブの力だったのは幸運だった。

 奴等―――ロイミュードに対してはこのライダーの力でないと。

 

「ハアァァァァッ!」

 

「く・・・うぅぅ・・・ッ!」

 

 レースカーが如き勢いで突っこんだ俺の一撃を貰った女の輪郭が歪み、本来のロイミュードとしての姿が露わになる。

 

「こいつで・・・終いだ」

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《TURN SLASH!》

 

 

 刀身を紅く染め上げたライドブッカーの剣戟を迸らせる。

 紅の閃光がロイミュードは勿論ワームもろとも引き裂き、爆炎を吹き上がらせて奴等の身体を粉砕した。

 

「・・・・・・ったく、おい。怪我ねぇか歩夢」

 

「え・・・、つ、士君・・・・・・?」

 

 ドライブの力が消え、ディケイド以外のライダーの力を失うというこれまでと逆の状況。

 そんな俺に歩夢が向けてきたのは、微かな畏怖と、驚嘆、戸惑いの混じった瞳だった。そう言えばまだ変身したままだったか。

 

「あーその・・・、説明すると長いんだが・・・・・・、まあとにかく俺だ」

 

 ロイミュードが消えた事で重加速が解かれ、動きに枷のなくなった三人に詐欺のような言い回しで説明する。

 声と雰囲気だけで俺だと感じ取った歩夢はともかく、あと二人にはどう映ったかは怪しいが・・・、

 

「・・・・・・歩夢さん・・・、いくら何でも簡単に信じすぎじゃ・・・」

 

「そうですよ。本当にもやしだって言うなら証拠見せてください証拠―!」

 

 まあそうなるよな。

 優木と中須には怪物の一体としてみなされているようで、警戒故か歩夢より数歩引いて俺の様子を伺っている。

 証拠・・・というならやはり変身を解除するのが一番手っ取り早いのだろうが、生憎、今はそれが出来ない。

 

「・・・悪いが、それはもう少しお預けだ」

 

 敵はまだいる。しかも、ワームやロイミュードとは全く異質の気配を持った何かが。

 

「・・・・・・いるんだろ。出て来いよ」

 

 虚空に向かって煽るように言う。

 それに対する返答は、そのすぐ直後に帰ってきた。

 

「・・・困るんだよねぇ。そう好き勝手やってもらっちゃうと」

 

 ゆらり、と空間を揺らめかせるような挙動を見せる、一人の男。

 

「そもそもお前の力は消えたはずなんだけどなぁ・・・・・・ディケイド」

 

 低く身構え、警戒態勢に入る。

 ディケイドの事やその力が消えた事を知っている・・・それだけで警戒するには十分だった。

 

「・・・誰だお前」

 

「・・・? 覚えてないの・・・・・・?」

 

 町に出れば間違いなく奇抜な格好だと指を差されるであろう厨二チックなファッションと、髪飾りのように鬢の毛から下がった羽。

 まあ間違いなく一般人ではない。

 

「ま、いっか。どうせやる事は変らないし」

 

 コイツは何者か、何が目的か。そんなことは分からない。

 だが、今起きているこの事態を引き起こしたのはコイツ・・・・・・それだけは分かる。

 

「君と、君」

 

 奴の挙動に注意を注ぐ俺の眼前で動かされた指先が指し示したのは優木に中須。

 

「君達が来るのは・・・・・・こっちだよ」

 

「させ―――――ッ⁉」

 

 銃口を奴へと向けたライドブッカーの引き金に指をかけ―――それ以上動く事なく制止する。

 動きを制限する重加速とは違う、完全なる停止。しかもそれは指だけでなく全身に及び、時間を止められたかの如く身体が動かない。

 

「いくらお前でも時間を止められちゃ何も出来ないでしょ。そこで見てなよ」

 

 悠然と俺の横を通りすぎた男が同じく停止―――奴曰く時間を止められている優木と中須に接近。

 

《RYUKI・・・》

 

 手のひらに収まるほどの大きさの、黒い、懐中時計のようなデバイス。

 奴はそれに顔のような何かを浮かび上がらせ―――優木の身体へと埋め込んだ。

 

「う・・・・・・ああああ・・・・・・っ!」

 

 途端に優木の時は動き出すが、自分の身体を抱いて苦しむ姿を見れば決して喜べるものではない事が伺える。

 

 

《RYUKI・・・!》

 

 

「あああああああぁぁぁァッッッ!!!」

 

 

 瞬刻の後に発生した黒い瘴気の奔流が優木を飲み込み、膨れ上がる。

遅れて上がった慟哭がそれを払った時には既に優木の面影など無く、その姿は全くの異形の者へと変貌していた。

 

『・・・ウ・・・ァ・・・・・・』

 

 歪な形相と、どことなく龍を思わせる赤と銀の体表。それは俺の記憶の中で仮面ライダー達を殲滅した怪物に酷似している。

 

「君もだよ」

 

 

《BUILD・・・》

 

 

「んんっ・・・あ、ああああああっっ・・・・・・!」

 

 中須もまた同様のデバイスを埋め込まれ、優木に続き変貌。螺旋状に赤と青が連なる身体にトンボの複眼のような目が特徴の怪物となる。

 

「・・・さてと・・・」

 

 優木と中須を怪物へと変えた男は、一瞬、歩夢を見た後、同じデバイスを手に今度は俺に標的に定める。

 二人に用いられたものと違い、今奴の手にあるそれには何も描かれていない。つまり俺のカードと同じブランク状態という事。

 

 そうなるとつまり、奴の狙いは―――、

 

「・・・? なんだこれ・・・」

 

 はたと足を止めた男の顔が白く、遠くなってゆく。

 

 今日だけでもう三回目ともなると流石に分かった。

 これは˝アイツ˝に呼ばれ、あの世界に召喚される前兆――――――、

 

 

 

 

 

 

 

 

「間一髪だったな。今お前の力を奪われちゃお終いだ」

 

「・・・・・・またお前かよ・・・」

 

 気付けばやはりホワイトアウトした謎の空間と謎の男。本日三回目だけあって若干慣れている俺がいる。

 

「つ、士君・・・? どうなってるのコレ・・・・・・」

 

 状況を考慮した男が俺のついでに呼び寄せたのか、今度は歩夢もここにいる。

 突然こんな訳の分からない場所に連れてこられて説明も無しに放置するのは若干気の毒な気もするが・・・・・・今回は奴に話を聞くのが先だ。

 

「・・・とりあえず何が何なんだか説明してくれ。訳が分からん」

 

「・・・お前が記憶さえ失ってなきゃこうはならなかったんだけどな・・・・・・仕方ない」

 

 溜息をついた男が指を鳴らすと、途端に世界が暗転。

 宇宙を思わせる空間の中に俺達は浮かんでおり、周りには地球と思しき惑星が幾つも存在していた。

 

「・・・十八の世界に、それぞれ仮面ライダーが生まれた。それらは独立した物語。決して交わる事はない・・・・・・はずだったんだがな」

 

 言葉が途切れたのを境に空間が揺れ、同時に全ての地球が一点へと集中していく。

 

「今その物語は融合し、それが原因で世界が一つになろうとしている。もしこのまま事が進めば全ての世界は消滅する・・・・・・お前の力が消えた原因の一端もそれだ」

 

 ブランク状態となった十八枚のカードに目を落とす。

 仮面ライダーに、十八の世界と、それらの融合と消滅。覚えなどないはずなのに、何故だかすんなりと受け入れている自分がいる。

 

「ディケイド。お前は十八人のライダーの世界を旅しないといけない。それがお前が力を取り戻し、世界を救う唯一の方法だ」

 

「ちょ・・・ちょっと待ってください!」

 

 淡々と話を進める男の言葉を割って入った歩夢が遮る。

 

「さっきからライダー?とか世界がどうとかよく分からないですけど・・・・・・それより皆は⁉ かすみちゃん達はどうなったんですか⁉」

 

 悲痛な声が暗い空間に溶けてゆく。

 優木と中須は勿論の事、他の同好会メンバーの安否も定かではない。

 

 むしろあの状況ともなると―――、

 

「・・・正直、今の状態じゃ何も言えない」

 

 苦々しい表情の男から帰ってきた答えも芳しいものではなく、逆に歩夢の不安を増長させるもの。

 

「俺に分かっているのは、アイツ等が仮面ライダーと、それぞれの世界を消そうとしている事だけだ。アンタの友達が狙われた理由までは分からない」

 

「そんな・・・」

 

 歩夢が肩を落とす。

 歩夢自身まだ何が起こったのかを全く把握出来ていないというのに、友人は行方も安否も不明。それだけじゃない。家族などの事も・・・・・・そんな彼女の心境など、想像するに余りある。

 

「・・・それもその旅ってのをすればどうにかなるのか?」

 

 低く男に問う。

 コイツは先ほど言った。俺が十八の世界を旅する事がこの世界を救う唯一の方法だと。

 

 ならば他の世界を回ればこちらの世界も戻り、アイツ等は・・・、歩夢の仲間を取り戻すことが出来るのか。

 

「・・・確証はない。けど、もしお前が旅を全て終わらせ、力と記憶を取り戻すことが出来たなら・・・・・・その時は˝俺達˝が必ず救い出す」

 

 なら、迷う必要はないだろう。

 

「・・・・・・分かった。その話乗ってやる」

 

 歩夢や俺自身の記憶のためとは言え、こんな素性も知らぬような奴の話を鵜呑みにするというのも馬鹿げた事なのかもしれない。

 けれど現に奴の言った世界の崩壊は始まってしまったし、この要求を拒否したところで何も分からない俺達に出来る事などありはしない。縋る藁はこれしか残されていないのだ。

 

―――俺が世界を救ってやる・・・・・・多分

 

 それに、誰に効かせたものでもないこの宣言。

 この時、俺はその場にはいなかった誰かに約束していた気がするから。

 

「・・・決まりだな」

 

 始めて笑みを見せた男の傍らで空間が揺れ、その歪みからこの摩訶不思議な空間に不釣り合いに思えるエキセントリックなデザインのバイクが出現。色彩のベースがピンクなのはディケイドに似せたのだろうか。

 

「ピンクじゃないマゼンタだ」

 

「思考を読むんじゃねぇ。あとどうでもいいわ」

 

「どうでもよくないんだよ。・・・まあとにかく、そのマシンディケイダーはこの天才物理学者と、先輩達からの贈り物だ。各ライダーの世界に一度だけだが行けるようにしてある」

 

 自分を天才と称した発言はさておき、とにかくこれが別の世界へと渡る手段らしい。

 ・・・と、そこまでの説明を終えた直後にまた男の姿が翳み始める。

 

「・・・・・・もうこれ以上の干渉は無理か・・・。とにかくディケイド。こんな役回りを押し付けたのは悪いと思ってる。けど、これしか手段がないことも理解してくれ・・・・・・。旅を終えたら、また会おう―――・・・・・・」

 

 何故だかデジャヴを覚える言葉を最後に男の姿は完全に消え、周囲の風景が元いた町の中へと戻る。

 既に優木と中須の姿はなく、代わりにマシンディケイダーだけが荒れ果てた光景の中に鎮座していた。

 

「・・・・・・士君・・・」

 

 きゅっと歩夢が俺の服の裾を掴む。

 

「・・・・・・本当に行くの?」

 

 覗き込ませてきた顔はいつになく不安気で、今にも壊れてしまいそうな程に弱々しい。

 今俺にディケイドの力を使う理由があるのなら、それは一刻も早く歩夢の悲しみの根を取り除く事だろう。

 

「まあな。ちょっくら世界救ってくる」

 

 これは俺にしか出来ない事。そんな気がする。

 

「・・・・・・そっか・・・、じゃあ、私も行く」

 

「はぁ⁉」

 

 マシンディケイダーに跨った俺の後ろに陣取ろうとする歩夢の申し出に思わず抜けた声を上げる。

 そんな反応が気に入らなかったか、歩夢は俺に子供っぽい膨れっ面を向けて言った。

 

「士君、私がいないと全然ダメだし・・・、それにこんな事になってるのに置いて行かないでよ」

 

「あー・・・」

 

 倒壊した建物の世界の中に生きた人間の姿は見当たらない。仮に生き残っている者がいたとしても、怪物蔓延る現状ではその命も風前の灯火同然だろう。

 別の世界の旅に連れ回すか、崩壊した世界に一人残すか。そんなもの、秤に掛けるまでもない。

 

「・・・・・・仕方ないか・・・」

 

 何が待ち受けているのか分からない以上歩夢を巻き込むのは不本意だったが・・・・・・言われてみれば確かにこの世界に残していく方が危険だ。

 やむなく後部座席に乗った歩夢を受け入れ、俺はハンドルを握る。

 

「・・・・・・そう言えば士君、バイクの運転できるの?」

 

「大体分かってる。まあ大丈夫だろ」

 

「そんなアバウトな――――――きゃうッ⁉」

 

 エンジンの掛かったマシンディケイダーが歩夢の短い悲鳴を置き去りに勢いよく動き出す。

 導かれるように進む先にはカーテンサイズのオーロラ。どうやらあれに飛び込めという事らしい。

 

「・・・行くぞ」

 

「・・・・・・うん」

 

 腰に回された歩夢の腕に力が籠る。

 よりハッキリと伝わった温かさを背中で感じつつ、俺は更に速度を上げてオーロラの中へと突っ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ここが・・・」

 

 オーロラを超えた先には、俺達が元いた世界と何ら変わらない光景が広がっていた。

 目の前にはコンクリートで舗装された河川に、こちら側と対岸を結ぶ橋。その向こう側には高層ビルが聳え立つギラついた電気街が存在していた。

 

「・・・・・・つか、ここ・・・」

 

「秋葉原、だよね・・・・・・って、士君何その恰好?」

 

「あ?」

 

 歩夢に言われ、自分の服装を確認してみればあら不思議。元々俺が着用していた服の代わりに紺に近い青色をした堅苦しい制服が着こまれていた。

 

「それ・・・警官だよね・・・・・・なんで?」

 

「そんなん俺が知りた――――――ッ!」

 

 物珍しさで頭に被さっていた警帽をまじまじと眺めていたその時、何かの気配を感じ取り歩夢を抱えて橋脚の影へと転がり込む。

 

「つ、つつ士君・・・? いきなりそんな・・・・・・!」

 

「・・・ちょっと静かにしろ」

 

 顔を赤らめてじたばたする歩夢の口元を抑え、俺が感じた気配の正体を探る。

 ただ人が近づいてきたとかそんなならこんな大袈裟なことはしない。˝明らかに人間の気配ではなかった˝からこそこうして身を隠したのだ。

 

『ジャヅパゾボザ?』

 

『ボボゼクウガンビゴギググス』

 

 その正体はすぐに明らかとなった。

 獣然とした人型の怪物が二体、奇怪な言語を交わしながら何かを探している様子でこちらに迫ってくる。

 

「むううぅぅ⁉」

 

「・・・・・・グロンギ・・・」

 

 半ば怪物から逃れてこちらの世界に来たというのに、来て早々怪物に遭遇しては世話がない。おかげで歩夢もパニックだ。

 とにかくこれ以上ウチのお姫様が混乱なさる前にぱっぱと片付けるとしよう。

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《DECADE!》

 

 

 バックルにカードを差し込み変身。橋脚から飛び出しては怪物―――グロンギの行く手を塞ぐ。

 

『クウガバ?』

 

『ギジャ…ヂガグ』

 

「クウガジャベェ、ディケイドザ」

 

 自然と頭に流れてきた奴等の言葉で啖呵を切り、問答の隙も与えずに右ストレートで強襲。

 立て続けにラッシュを叩き込み、開戦数十秒でグロッキー状態へ追い込む。

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《DE・DE・DE・DECADE!!》

 

 

 ディケイドのクレストが写る金色のカードの力で所謂˝必殺技˝を発動。

 幾重もの光の束を突き破って繰り出された飛び蹴り―――ディメンションキックが炸裂し、二体のグロンギの身体は跡形もなく爆散する。

 

「・・・何が目的か聞き出してからの方がよかったか・・・・・・?」

 

「――――――どうして同じ未確認を倒した? 何なんだよお前」

 

 次から次へと今度は何だ。

 また新たな敵かと思い振り返れば、予想に反しそこにいたのは一人の少年。

 大体高校生ぐらいの見た目だが、その薄汚れ、ボロボロの身なりはコイツ自身の目つきの悪さも相まって自然と警戒心を引き立たせてくる。

 

「人に名前を聞く時はまず自分から・・・・・・ママに習わなかったのか?」

 

「うるせぇ! どうせお前も俺を・・・・・・!」

 

 尋常じゃない憎悪の籠った眼が俺に向けられ、それに呼応するように男の腰回りに巻き付いた状態で出現したのは―――形や性質こそ違えど、俺と同じベルト。

 

「なんなんだよ・・・・・・俺が何したって言うんだよ!」

 

 悲痛な叫びの後、ベルト中央の宝石に灯った淡い光が広がる。

 そうして男を包んだ光は即座に弾け、その姿を純白の鎧を纏った戦士―――仮面ライダークウガへと˝変身˝させた。

 

 

 

 




色々情報がごった返していますがとりあえず原作キャラの死亡描写は今後描く事はありませんのでご安心を………いやほんとゴメンナサイ
あともうお察しかもですがジオウ要素もたっぷり入っております

少し設定等の解説をすると、こっちの士君は訳合って高校生くらいの見た目です
中盤で出てきたウール君っぽい奴は一応オリキャラ


そして最初の世界は勿論、歴史の始まりであるあの人達です

それでは次回で


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3話 邂逅

あと一ヶ月で今年が終わるっていう事実を認めなくない作者です


 

 

 

「らああぁぁぁぁッ!!」

 

「お、おい! 何なんだいきなり⁉」

 

 状況を整理しよう。

 

 俺と歩夢は十八の世界とライダーを救い、俺達の世界も元に戻すべく他の世界へと旅に出た。

 そして訪れたこの世界で早々にグロンギと遭遇。撃破したはいいものの今度は男が変身してはいきなり殴りかかってきた。

 

 以上。

 一言で言うと訳が分からない。

 

「落ち着け! 俺はグロンギじゃない!」

 

「未確認じゃないにしろ俺を狙ってきたのは変わらないだろ!」

 

「はぁ⁉ 何言ってんだお前⁉」

 

 クワガタを連想させる見た目に、グロンギ達の言葉からしてコイツは仮面ライダークウガ。

 だがライダーカードに写されていたクウガの体色は白ではなく赤であり、頭部の角ももっと大きく立派なものだった。

 

 となるとこのクウガは幼体・・・不完全な姿なのかもしれない。

 

「お前、俺があのグロンギを倒したのは見ただろ! 俺は敵じゃない!」

 

「警察の言葉なんて信じられるか!」

 

 説得を試みるが、警察に何か因縁でもあるのか、変身前の身なりが災いして聞く耳を持とうとしない。

 特質は違えども同じライダーである以上交戦する事は好ましくないと思うが・・・・・・どうする・・・。

 

「フッ!」

 

 俺の胸を踏み台に使い、飛び上がったクウガの足に炎のような淡い光が宿る。

 そのまま流れるように空中でムーンサルトを決めた奴は勢いよく右足を突き出し、そのポーズのままに急降下。

 

「ハアァァァァッ!」

 

「ぐっ・・・!」

 

 両手をクロスし、飛び蹴りの衝撃を受け止める。

 俺のディメンションキックと同じ類の業だが威力は大した事はない。生身ならばともかくディケイドの装甲があれば受けきれるだろう。

 

「ちょ、ちょ・・・二人共!」

 

 激しくなる攻防戦の横で歩夢が上げた制止を求める声もクウガには届かない。

 怒りや憎悪、そしてその中に秘めた恐怖や不安が拳を介して伝わってくる・・・・・・そんな感じがした。

 

「とにかく一旦落ち着いて・・・・・・士君!」

 

「うるせぇ!」

 

「きゃぁうっ・・・・・・!」

 

 一度俺を止めて場を収めようとする歩夢だが、下手に近づいたせいでクウガの間合いに入り派手に突き飛ばされてしまう。

 

「お前・・・・・・何して――――――」

 

 

 

「ストォ――――――ップッッ!!!」

 

 

 

 

「「っ・・・・・・⁉」」

 

 川岸を舗装するコンクリートに反響した高い声が割って入り、初めて振り上げられていたクウガの拳が止まる。

 

「ストップストップストーップ! ユウ君どう! どう! 落ち着いてー!」

 

「え・・・・・・」

 

 堤防の上からクウガ目掛けて一直線に駆け下りてくる声の主に虚を突かれたように抜けた声を漏らす歩夢。

 だがそれも無理はない。何故なら俺ですらその人物には˝見覚え˝があったから。

 

「知らない人にいきなり・・・・・・しかも女の子にまで・・・・・・」

 

 肩辺りまで伸びた明るい茶髪をサイドアップに纏めた、快活な印象を抱かせる少女。

 それがμ’sリーダー高坂穂乃果であることは、スクールアイドルに疎い俺の目ですらも明らかだった。

 

「ごめんね? 怪我してない?」

 

 高坂に支えられて上体を起き上げた歩夢の膝では皮膚が擦れ、赤色が滲んでいる。

 それが目に入ったらしい高坂は瞳の端を僅かに釣り上げ、臆することなくクウガに吠えた。

 

「ユウ君! ダメだよちゃんと謝らないと!」

 

「・・・そんな必要ねーよ。どうせソイツ等も・・・・・・」

 

「謝らないとこれあげないよ」

 

 我が子を叱る母親のように説教する高坂がクウガに対し突き出したのはバスケット。

 少し開いた蓋の隙間から見える中身はお握り等の食料。どうやらこれをコイツに届けるつもりでここに来たらしい。

 

「・・・・・・別に、そんなのいらね――――――」

 

 ぐううぅぅぅ・・・・・・。

 受け取りを拒んだ直後に乾いた音が鳴る。

 

「・・・・・・悪かったよ」

 

 こっちの言う事は聞かないが腹の虫には素直なようで。

 変身が解かれ、顔に朱を差したクウガ―――ユウ君と呼ばれた男が不本意そうに謝罪を述べ、引っ手繰ったバスケットを手に去ってゆく。

 

「・・・なんだったんだアイツ・・・・・・」

 

「うえぇぇ⁉ け、警察の人⁉ ごごごゴメンナサイユウ君がぁ!!」

 

「・・・コイツもコイツでなんなんだ・・・・・・」

 

 クウガに続き変身を解けば、俺の警官服を見た高坂が大慌てで頭を下げてくる。何と言うか急がしい奴だ。

 

「ユウ君は悪い子じゃないんです! ただ最近ちょっと反抗期なだけで―――」

 

「あの・・・・・・大丈夫ですよ・・・? 士君に人は裁けないし何なら裁かれる方なので・・・・・・」

 

「どういう事だお前」

 

 記憶ない金ない役に立たないの三拍子である極潰しとでも言いたいのだろうか。間違ってないので何も言い返せないのだが。

 

「・・・それに関してはいい。代わりにアイツの事を教えろ」

 

 あのナルシスト気味の男が言った世界を救えという事が、具体的に各世界で何をすべきなのかという事は分からない。

 だが何をするにしろ、まずはこの世界のライダーの情報を手に入れる事が先決だろう。

 

「・・・とりあえず怪我に手当てしないとね。ウチまで来て」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい! これで大丈夫」

 

「あ、ありがとうございます・・・」

 

 歩夢の膝にぺたしとガーゼが張られる。

 通されたのは彼女の実家だという和菓子屋。音や光で洪水を起こしている電気街からは外れているとは言え、この古風な店構えは少し異色とも取れる。

 

「・・・それで? どうしてアイツは俺達に攻撃的だった?」

 

 出された団子は美味いが、俺達はお茶するためにここ来たのではない。

 クウガの俺に対する黒い感情・・・ただグロンギの仲間と勘違いしたとか警察が嫌いだとかそんな理由ではないはずだ。

 

 一体、奴の過去に何が・・・。

 

「・・・・・・ちょっと前まではもっと明るくて、優しかったんです」

 

 明かるげだった雰囲気とは相反する陰りを表情に差した高坂が語ったのは、ユウ君こと一条雄介に降りかかった不幸。

 

 三ヶ月前、突如として長野の遺跡から現れた未確認生命体―――グロンギが、同じく遺跡で発見された出土品の展示されていた博物館を襲った。

 そしてその日偶然にも、高坂や一条が校外学習でその博物館を訪れていたのだという。

 

「ユウ君、展示されてたベルトを見た時から変な声が聞こえる~とか、なんか力を感じるとか言ってて、それで・・・・・・」

 

「グロンギがそれを狙ってショーケースを壊した拍子に巻いちまった・・・・・・と」

 

 高坂が小さく頷く。

 その後は簡単に想像できる。あのベルト―――アークルの力で一条の身体はクウガへと変わった。

 

 その場にいたグロンギはクウガの力を手にした一条によって倒され、死人は出なかったという。

 

「・・・・・・でも、皆はユウ君も怪物扱いして、押っ放り出そうとした」

 

 人間とは未知なる脅威を恐れ、本能的にそれを押さえつけ、取り除こうとする。

 この世界の人類の目にはグロンギも、それを倒したクウガも同じ。等しく怪物に映った。

 

「・・・皆を守ったのに、皆ユウ君を追い出そうとするから、ユウ君、誰も信じなくなって・・・・・・」

 

 最近になり本格的に警察がクウガやグロンギの排除に動き出した事により、クウガの正体だと噂が立っている一条が観察対象に指定されているらしい。

 警官服を着ていた俺を襲ってきたのはつまりそういう事。

 

「・・・でも、穂乃果さんはそうじゃないですよね・・・⁉」

 

「当り前だよ! 私がユウ君をそんな風に見る訳ない・・・・・・けど・・・」

 

 一度は歩夢の言葉に力強く答えるも、徐々に語勢を落とした高坂の瞳が悲し気に揺れる。

 

「・・・ユウ君はどうせお前もその内手のひら返すんだろって、信じてはくれてないみたい・・・・・・」

 

 聞けば既に両親はおらず、世間の偏見のせいで拠り所もない一条にああやって食料を届けているくらいなのだ。高坂がアイツに負の感情を抱いている訳がない。

 だがそれが分からない程に一条は追い詰められているのだろう。

 

「士君・・・」

 

 歩夢の視線が俺に向く。

 ああ、お前に言われなくても分かってるよ。

 

 仮面ライダークウガを、一条雄介を救う事。それがこの世界で俺が為すべき使命らしい。

 

 

『―――かー田明神に未確認出現。付近の警察官は直ちに現場に急行せよ』

 

 

「・・・・・・っと、丁度いいな」

 

 無線機が掠れた召集令を上げ、それに応じて腰を上げる。

 どうしてこの世界で俺が˝クウガの敵˝である警察という役割を与えられたかも気になるところだ。この期に乗じて情報を集めるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・そりゃ都合よくアイツもいる訳ないよな」

 

 けたたましいサイレンの鳴り響く中、銃数人の警官から一斉に射撃を受けるグロンギを眺めそんな事をぼやく。

 このグロンギも俺が倒した奴等と同様クウガを探していたようだが、奴の下に辿り着く前に警察に見つかってしまったらしい。

 

「・・・もっとコソコソ動きゃいいもんを・・・そんなだから見つかるんだろ・・・」

 

 それともクウガ以外にも何か狙いがあるのか。

 そうなるとわざわざ人目についてこのように警察に攻撃されるリスクを犯す価値があるものという事になるが・・・、

 

「・・・・・・ま、聞いてみりゃ分かるか」

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《DECADE!》

 

 

 ディケイドライバーがカードの力を開放し、俺の身体を戦士の装甲が覆う。

 

「うらぁッ!!」

 

『グバァッ・・・⁉』

 

 軽々と警察の背後からその背中を飛び越え、銃撃に晒されているグロンギに飛び蹴りの形で突撃。着地と当時にその身体を薙ぎ払う。

 

「なんだ・・・⁉」

 

「未確認・・・・・・十号⁉」

 

 俺の乱入に際し警察達が何やら騒いでいるが気にせずやるべきことを実行。

 グロンギの胸倉を掴んでは電柱に叩きつけ、耳打ちする。

 

『バンザ、ビガラパ・・・?』

 

「なぁに、ちょっと聞きたい事があるだけだよ。・・・ゴラゲサ、クウガギガギビロロブデビグガスンザソ? ゴギゲソジョ」

 

『・・・? ビガラ・・・バゼゴセゾ・・・?』

 

「さあ? 何でだろうな」

 

 相手から情報を引き出す際の方法は三つ。

 交渉、取引・・・・・・そして拷問だ。

 

『・・・・・・ゲゲルバ』

 

「・・・・・・ゲゲル・・・?」

 

 ・・・割とあっさり吐くんだな。まだ振りかぶっただけなんだが。

 ゲゲル・・・聞き覚えのない単語だが、コイツ等が目的としている時点で良からぬ事なのは確かだろう。

 

「ゲゲルデデボパバンザ」

 

『ゲゲルパゲゲルザ。ゴゴギバスジャリゾズババヅガゲスダレンバ』

 

「・・・・・・」

 

 良からぬ・・・ってレベルのもんじゃなさそうだな。

 コイツの言ったソレがどの程度のものなのかは知らないが、未然に防いでおくことに越した事はない。

 

『バラゾガガゲスリントンゴンバゾズガギビンボソグ。ゴセグゴゴギバスジャリゾズババヅガゲスゲゲルザ』

 

「そーかい。ベラベラとありがとよ!」

 

 引き出すべき情報を全て引き出すや否やグロンギの顔面に拳を沈める。

 聞くだけ聞いて用済みというのも酷い話だが、この場において俺と奴は敵対関係。しかも奴の言うゲゲルによって引き起こされることを考慮すると生半可なことは言っていられない。

 

「とど―――」

 

 パーン、と言った乾いた音の後、トドメを刺そうとした俺の肩を衝撃が叩く。

 音源では畏怖と敵意を滲ませた警察達の顔と、その手の中の拳銃が俺に向けられた銃口から煙を上げていた。

 

「撃てェ―――ッ!!」

 

 最初の発砲に続いて上がった声を皮切りに銃撃が再開される。ただ一つ先程と違う事があるとするなら、それはその標的に俺も含まれているという事。

 

「ちっ・・・俺までグロンギ扱いかよ・・・⁉」

 

『・・・・・・ウウゥル・・・』

 

「あ、おいコラ待て!」

 

 俺の意識が警察に向いたスキを突いてグロンギが逃走を図る。

 追跡をするにも射撃が邪魔をし、間もなくその姿は視界から逃れてしまう。

 

「この・・・! ああったく!」

 

 ディケイドの装甲は拳銃射撃程度どうという事はないが、コイツ等が俺を攻撃対象として見なしている以上は居座って説得を試みるのは得策ではない。

 逃げるが勝ちとも言う、ある程度の情報は得られたのだしここは退こう。戦略的撤退。

 

「・・・これがアイツの見ている世界か・・・」

 

 クウガの、一条雄介の見る世界はずっとこれだったのだろう。

 確かにいつもこんな調子で負の感情を向けられれば、他人を信じられなくなるのも理解はできる。

 

「・・・さて、どうするかね・・・・・・」

 

 騒ぎを聞きつけたのか、野次馬に紛れこちらを覗く浮浪の少年を横目に、俺は小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・変」

 

 野次馬とはまた別、豪奢な造りの社の上から騒ぎを見下ろす二人の男女。

 そのうちの片方、眠たげな瞳をした少女が黒い懐中時計のようなもの―――アナザーウォッチを手に首を傾げた。

 

「・・・クウガの力、奪えない」

 

「この世界じゃまだ、クウガは仮面ライダーとしての力には目覚めてないのか・・・」

 

 少女に答える形で男が口を開き、同時に踵を返して騒ぎに背を向ける。

 

「帰るよ。ディケイドが力を取り戻すと困るからこの世界のクウガの力も奪いに来たけど・・・、そのクウガがあんななら必要ない」

 

「・・・わかった」

 

 続いて少女が腰を上げ、ひょこりと男の傍らにつく。

 男が指を鳴らしたその刹那には二人の姿は消え、乾いた風が社を吹き抜けた。

 

 




最初の世界、クウガ世界のヒロインはμ’sリーダー穂乃果です
やっぱり最初の世界ならこの二人がいいと思いまして

で、そのクウガですが、この世界線ではグロンギと同列の存在と見なされ迫害を受ける側
世界観が世界観なのでこういうのもありかなと。そのクウガも現時点ではマイティではなくグローイングフォームです

それでは次回で。何とか今年中にもう一話…!


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4話 追憶

ここで作者がまだスクスタをプレイできてないという告白をですね……


 

 

 

―――うくん! ユウ君!」

 

「なんだよ、これ・・・、外れねぇ・・・⁉」

 

 警報のベルがけたたましく鳴り響く中、パニックになる人々の波から外れた場所で少年―――一条雄介が一人、高坂穂乃果の眼前で苦しそうに床をのた打ち回る。

 校外学習の一環として訪れたこの博物館に人型をした謎の未確認生命体が襲撃したのはほんの数分前。瞬く間に館内は混沌の渦中と化し、同時に彼の異変も始まった。

 

「っ・・・このっ・・・ぐぅぁっ・・・!」

 

 腰に巻き付いたベルトが赤い光を灯し、雄介の身体を蝕むようにその熱を広げてゆく。

 

 外す事の出来ないこのベルトは元々この博物館に展示されていた者だが、未確認の襲来でショーウィンドウが破壊されたことで何か力でも開放したのか、突然操られるようにして未確認からベルトを奪取っした雄介がそれを自身の腰に巻き付けた。

 

 その後は見ての通り、雄介からベルトが離れず、その力にこうして悶える事となった。

 

『クウガ・・・』

 

『クウガンヂバサパゾソドグ』

 

「っ・・・!」

 

 未確認の狙いがこのベルトだったならば、必然的にそのベルトを巻いた雄介及びその隣の穂乃果も奴等の攻撃対象となる。

 歪む視界の中で接近してくる未確認を見た雄介がそれを悟るも、穂乃果は雄介を心配するあまりか気が付いていない。

 

「穂乃果ァ!」

 

 痛む身体に鞭を打ち、穂乃果を襲わんと腕を振り上げた未確認に向け拳を突き出す雄介。

 

『ゴバァッ・・・⁉』

 

「え・・・?」

 

 未確認の巨体が吹き飛び、ゴロゴロと非常用照明の光で赤く染まった床を転がる。

 だが雄介と穂乃果の驚嘆の対象はそこではなく、二人にとってはもっと衝撃的なもの。

 

「ユウ・・・君・・・?」

 

 未確認に一撃を見舞った雄介の右腕。

 白い、甲冑のようなそれは明らかに人間のものではなく、ベルトの力が雄介の身体に異変をもたらしている事を如実に語る。

 

『クウガグレザレス?』

 

「ぐ・・・、らあぁぁっ!!」

 

 状況を顧みる暇すら与えずに殴りかかってきた二体目の未確認も跳ね上がっている膂力が易々と返り討ちにする。

 

 しかし再度力を行使した影響か、腕のみでなく胴体や下半身と雄介の身体は白の光に包まれてゆき―――、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・それで、あの姿に・・・」

 

「うん・・・」

 

 警察の追っ手を振り切って和菓子屋に戻ってくると、丁度高坂が歩夢に一条雄介の歯車が狂い始めた時の事を話し終えた直後だった。

 俺が聞いた時より幾ばくか詳細に語られている気がするが、まあそこは女子同士の領域という事にしておこう。

 

「・・・聞く限りじゃ、自分で巻いたって訳じゃないんだな」

 

「あ、士君・・・」

 

 俺の帰還に反応した歩夢に簡素に会釈だけ返し、高坂と向き合う。

 

「・・・てっきり自分で巻いたとばかり思ってたが・・・まあ、自分で巻いといてあのグレ方もあれか」

 

「ごめん説明不足で・・・・・・それで、何か分かった?」

 

 高坂もまた真剣さを帯びた瞳で俺を見る。いきなり口調が砕けたのは恐らく歩夢が俺に敬語なんか使う必要はないとか吹き込んだからだろう。剥いてやろうかコイツ。

 

「詳しいことはよく分からん。けど、よく分からんことは分かった」

 

「え?」

 

「・・・何言ってるの士君・・・」

 

 俺の収穫を述べると歩夢に冷たい目を向けられる。馬鹿は死ねという目だった。

 

「この世界じゃ未確認・・・つまりグロンギに関する知識が殆どないって事だ。同じようにクウガの情報もないに等しい。だから破壊活動をするグロンギとほぼ同時に現れたってだけで敵扱いされてるんだよ」

 

「・・・じゃあそのクウガ・・・一条さんが敵じゃないって皆に訴えればいいって事?」

 

「どーだか。正直それに関しちゃもう高坂がやってるだろ」

 

「うん・・・。でも・・・」

 

 それ以上は続かなかったが、誰も聞く耳を持ってくれなかったのは俺にも歩夢にも伝わった。

 むしろ危険視されているクウガを擁護する存在として彼女も白い目で見られた事もあるくらいだろう。

 

「・・・μ’sの皆さんもそうだったんですか? 海未さんとかことりさんも・・・」

 

「・・・みゅーず・・・って、なに?」

 

「え・・・・・・?」

 

 まさかの返答に目を剥いたのは歩夢だけではなかった。歩夢からは彼女がμ’sの創設者であると聞いたが、その張本人からのこの返しは一体・・・。

 

「・・・お前、スクールアイドルやってるんじゃないのか?」

 

「スクールアイドルって・・・あの今人気だって言う? でも私はやってないし何なら部活も・・・」

 

 俺達の記憶と食い違うその言葉。

 だが彼女が嘘を言っているようには感じられず、それを示すように青い瞳は純粋な疑問の色を浮かべている。

 

「それに海未ちゃんは弓道部で、何よりアイドルなんて恥ずかしい~とか言って絶対やらないと思うし、ことりちゃんは今留学中だよ?」

 

 更に俺達の認識とは異なる事実が積み重なる。ここまで来るともう決まりと言っていいだろう。

 

「・・・そうなるとここはパラレルワールドって事か・・・」

 

「・・・どういう事?」

 

「どこかの地点で分岐して別の可能性を歩んだ世界って事だ。もしもの世界って言った方が分かりやすいか?」

 

AとBという選択肢があったとしたら、Aを選んだ場合とBを選んだ場合で未来は変わる。俺達の世界がAを選んだ場合の世界だとしたら、こっちはIFの世界、Bを選んだ場合の延長線上にある世界。

 

 つまりこの世界は何かのきっかけでクウガが誕生した世界であると同時にスクールアイドルの高坂穂乃果が、μ’sが誕生しなかった世界であるらしい。

 

「・・・・・・まるで別の世界から来たみたいな言い方だな」

 

 ・・・と、情報の整理と推測を行っていた俺の思考を妨げる声が入り口から飛ぶ。

 ついさっきも聞いたその声に振り返ってみればやはり一条雄介。歩夢に対する説明を聞いていたのか、相も変らぬ険しい顔を俺に向けている。

 

「・・・そうだって言ったらどうする?」

 

「別に。胡散臭さが増すだけだろ」

 

 こちらが本来のテンションなのか、先程初見で襲いかかってきた時に比べると幾分か落ち着いて見える。

 だが敵意というか、警戒の色は明らかであり、険しい表情を解こうとする気配は感じられない。

 

「・・・それよりユウ君、なんでここに・・・?」

 

「・・・これ返しに来ただけだよ」

 

 ほんの少し期待するような高坂に対しても同じ態度のまま、素っ気なく先程彼女から手渡されたバスケットを突き出す一条。

 殆ど迫害されているような状況にも拘わらず律儀に返しに来るとは、高坂の言う通り根は優しいのかはたまたバカなのか。

 

「・・・あと、もう俺の事は気に掛けるな」

 

「・・・え・・・?」

 

 バスケットを手渡すや早々に背を向け、馬鹿・・・じゃなくて一条は何かを抑えこんでいる

ような声音でそう言う。

 

「・・・なんで・・・? 私、ユウ君の事怖がってなんか・・・!」

 

「そういう話じゃない」

 

 そう言うのが予め分かっていたように、即座に返された言葉が高坂の声を遮る。

 

「・・・落ちてんだろ、売り上げ」

 

「・・・・・・それは・・・」

 

 返答に詰まった高坂の反応から、一条が何を言わんとしているかを悟る。

 高坂の家は和菓子屋・・・自営業の家系だ。客が来なければやっていけない。

 

 つまりは世間から疎まれている一条と高坂が関わる事は、高坂の家に直接的な損害を被る事になる。

 

「・・・周り見りゃ分かるだろ? 明らかに俺なんか気に掛けてるからだ」

 

 その元凶となっている事を理解している者からの言葉は重い。

 だがその裏に微かだが、何か、高坂に対する怯えのようなものが垣間見えた。

 

「今でさえお前が白い目で見られてんだ。これ以上続くようなら雪穂達まで・・・。そんな事お前も望んでないだろ?」

 

 筋は通っている。関わる事で何の利益も生まずむしろ害となり得る者と関わってはいけないと。

 けれど、今しがた垣間見えた一条の憂い。それが引っ掛かる。

 

 俺にはその言葉の裏には何か別の、一条の本心があるように思えた。

 

「・・・・・・だから、もう関わるな・・・」

 

 有無を言わせぬ雰囲気を纏ったまま、一条が暖簾の外側へと消えてゆく。

 高坂もその圧に押され言葉が出ず、誰もがただ黙って立ち去る背中を眺めていた。

 

「・・・? 歩夢・・・⁉」

 

 ・・・ただ一人を除いては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの!」

 

 舞い降りた夜の帳を自己主張の激しい電気街の光が切り裂く夜の一風景。

 背後からの呼びかけが自分に対するものだと悟った一条雄介は足を止め、その声の主である歩夢へと視線を向けた。

 

「・・・・・・なんだよ」

 

 剣呑な眼光に思わず萎縮する。

 だがそれでも、言葉だけは押しとどめず声として雄介と向き合う。

 

「・・・・・・穂乃果さん、本気であなたのこと心配してるんです。・・・だから、少しでも向き合ってあげてください!」

 

 士が出払っている間、雄介の事を語る穂乃果の哀愁を感じ取ったからこそ言える。

 穂乃果の雄介に対する想いは揺るがないもの。それがこんな事で断ち切られていいはずがない。

 

「・・・それで何になるんだよ」

 

「え・・・?」

 

 返答は至って簡素で、それでいてこちらの言葉を詰まらせるもの。

 

「・・・向き合って何になるんだ。そんなことしたところで何も良くならねーし、むしろ余計に悪化するだろ」

 

「・・・でも・・・! 他に何かあるかもしれないし・・・私達に出来る事なら・・・!」

 

「・・・じゃあなんだ? お前がアイツん家の損害賄えるのか?」

 

「・・・それは・・・・・・」

 

 一介の高校生である歩夢にそんな事は不可能だし、そもそもそれでは根本的に何も解決しない。

 クウガへの・・・雄介への偏見をなくさない限り、この状況は何も変わらないから。

 

「分かったなら適当なこと言うな。・・・昼間に怪我させたことは謝るよ。けど、これ以上俺に関わろうとするな。・・・・・・穂乃果にもそう言っといてくれ」

 

 雄介はそう言い残すと跨ったバイクのエンジンを切り、人気のない、閑散とした夜の暗闇へと消えてゆく。

 士と穂乃果が遅れて店から出てきたのは、その直後だった。

 

「・・・珍しいな。お前が会ったばっかの奴にあんな事言うの」

 

「・・・うん」

 

 こくりと頷いた歩夢は、同情するように雄介の消えていった方を見つめる穂乃果に視線を流す。

 

「・・・私も、同じだから・・・」

 

「・・・?」

 

 儚げに呟いた彼女の言葉の真意を、士はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぅっ・・・あッ・・・・・・!」

 

 闇に溶ける、か細い悲鳴。

 

『・・・ヂパバガグバジョ。ギンゲギバスゲゲルンスススゾジャヅスボドビバス』

 

『パバデデス』

 

 ゴキ、と何かが砕ける音がし、同時に悲鳴が止む。

 時を同じくして遠方からの波動を感知し、二体の怪物は嗤った。

 

『ボセゼガドパパンビン・・・』

 

『ゴゴギバスジャリンズババヅパヂバギ・・・』

 

 どさり。

 そんな音と共に怪物が去った後には、赤と白の装束を身に纏った、既に動かぬものとなった女性の亡骸だけが残されていた。

 

 

 




今回はちょっと控えめに。次回からクウガ編畳みかけます

言及がありましたがクウガの世界では穂乃果はスクールアイドルを始めておらず、何ならμ’sも結成されておりません。
アニメでμ’sが生まれなかったらどうなるのかを想像して書いたのでことりちゃんも留学で海外です。

雄介はクウガ本編と違い望まぬ形でアークルを巻いてしまい、クウガとなってしまった感じですね。
そしてそんな雄介が穂乃果をも拒絶する本当の理由は…

あとこの時空の歩夢はμ’sとAqoursを先輩として見ているので各メンバーに対し敬語で接してます

それでは次回で。よいお年を


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5話 恐怖

ラブライブフェスお疲れ様です
自分はセンター試験FINALに参戦してたので行けませんでしたが(血涙)


 

 

 その日の秋葉原は朝から騒がしかった。

 鳴り響くサイレンや大勢の警察官が町を占拠し、普段の活気などない、緊張感に満たされた息苦しい空気。

 

 事の発端は昨日の夜、秋葉の外れに位置する神社で働いていた若い巫女が、首の骨をへし折られた状態で息絶えているのが確認されたためだ。

 

『―――近隣の皆様、未確認を目撃した場合は決して近づかず、我々への通報をお願いします。繰り返します―――』

 

 今回で三度目となる未確認による殺人事件によって秋葉原一体に警戒態勢が敷かれ、召集された警察官がアリの子一匹ならぬグロンギ一体通さぬ包囲網を展開している。

 

 そんな事態の中この世界において警察官という役割を与えられた俺はというと―――、

 

「流血はない・・・・・・頸椎をへし折られての即死・・・・・・てとこか?」

 

「ちょ・・・君・・・・・・」

 

 件の神社へと赴き、周りの警官やお偉い刑事さんに好奇の視線で見られながら死体観察中である。

 

 別に空気を読まず好き勝手やっている訳ではない。きちんと考えがある上での行動だ。

 これは俺の推測だが、恐らく一連の殺人事件は昨日交戦したグロンギの言った˝ゲゲル˝とやらに関係している。

 

 で、現在それらの事件の共通点を探しているところなのだが―――、

 

「捜査の邪魔だ! 自分の持ち位置に戻れ!」

 

 先程からこの小太りのおっさんが喧しい。班長だかなんだか知らないが邪魔はやめて欲しいもんだ。

 

「君どこの部署の人間だ! 現場検証は我々の仕事、巡査は見周りと警備を言い渡されているだろ!」

 

 そう指摘され、胸元のポケットに潜り込んでいた警察手帳を開いて見やる。

 俺の顔写真と氏名の横に記されていたのは、確かに巡査の二文字。

 

「俺巡査なのか・・・」

 

「今知ったみたいな顔すんな!」

 

 そう言われても事実今知ったのだから仕方ない。

 あまり好き勝手動いて周りに目を付けられても困る。最低限入手したかった情報は手に入ったのだし、ここは大人しく引き下がるとしよう。

 

「・・・・・・で、俺の持ち場どこっすか? 班長」

 

「警部だ!」

 

 

 

 

 

 

 

『クウガ・・・ギベ』

 

『ゴゴギバスジャリンズババヅビビガラパジャラザ』

 

「・・・ぐっ・・・!」

 

 何やら朝から騒がしいと思えば、いきなり未確認の襲来。

 体内に潜んだアークルの力を探知でもできるのか、コイツ等だけは変身前の状態でも雄介をクウガだと把握している。

 

 それが故に、厄介だ。

 

「だ・・・らぁ!」

 

『グバッ・・・!』

 

 クウガにさえならなければ危害を加えては来ない周りの人間と違い、コイツ等はいつどこで襲ってくるかも分からない。

 しかも今のように街中で出現された時には周囲の人目のせいで対抗策である変身が封じられてしまい、生身での対処を強いられてしまう。

 

「うえぇぇ・・・! ままぁ・・・!」

 

 騒ぎの中ではぐれたのか、未確認の出現に逃げ惑う人々の中に幼女が一人母親へ助けを求めて泣いている。

 自分には関係ない。そう言い聞かすも、何か後味の悪いものが胸の中で蟠ってしまう。

 

『リリザパシザ』

 

「ッ・・・!」

 

 雄介に襲い掛かっていた内の一体が幼女に向けて手を振り翳すのが見えた。

 

「クッソ・・・!」

 

 別に自分を怪物扱いし、排除しようとする汚い大人共がどうなろうがどうでもいい。むしろ同じ理不尽を味わって自分に詫びろとすら思う。

 けれどこんな小さな子までもが理不尽を前に屈するのは、納得が出来なかった。

 

「変身!」

 

 雄介の意志に呼応したアークルが光り輝き、その姿をクウガへと変える。

 

「だあぁぁらぁッ!」

 

『ゴガァッ・・・⁉』

 

 いつもとは違う赤い光が腕輪に灯る。

 だが雄介はそんな事意にも介さず、ただ全力で幼女に襲い掛からんとしたグロンギを殴り飛ばした。

 

「大じょ―――」

 

「うちの子に近づかないで!」

 

迫ってくる別の未確認から守るべく伸ばしたその手を焦燥が滲む声が制止した。

見ればこの幼女の母親なのか、血相を変えた女性がクウガを睨み付けながらこちらに駆け寄ってくる。

 

「こんな小さな子にまでなにする気よこの化け物!」

 

「ママー、この人―――」

 

「ごめんね・・・怖かったよね・・・!」

 

クウガから奪い返すように娘を抱き上げた母親は、何か言いたげな彼女の声を聞こうともせずに走り去っていってしまう。

そして今のヒステリックな叫びが逃げ惑っていた周りの人間にも届いたのか、未確認への恐怖を発散するかのようにクウガへと攻撃の視線が向けられる。

 

「・・・・・・」

 

続けて上がった罵詈雑言の嵐が、一瞬芽生えかけていた何かを摘み取った。

 

結局こうなるのか。

危害を加えてないとか、誰かを助けようとしたとかは関係ない。

 

少しでも自分達と違っていて、少しでも理解できない存在なら、こうやって排除しようとする。

 

これが人間と、それらが生み出した社会の弱さであり……醜さだ。

 

『ダダバグビショブグバブバダダバ』

 

『バサゴボゾリゾゴシ…ボソギデジャス』

 

強く握り締められた拳が黒いオーラを纏い始めたことに気づかないまま、動かないのを好機と見た未確認がクウガを始末しようとその距離を詰める。

だがその考えが甘いとでも言うようにカウンターが如く拳は振り上げられ―――、

 

『アガァ・・・ッ!?』

 

『グウゥ・・・・・・ッ!?』

 

―――クウガの一撃が到達する前に迸った剣戟によって未確認の身体が爆散する。

 

「・・・・・・巡査の仕事は見回りと発見した場合の牽制とか言うは話だ。別にサボってることにはならんよな」

 

晴れた爆炎の向こうから姿を見せるマゼンタの戦士。

確かディケイドとかいった、別の世界からきたとか抜かすおかしな奴だったか。

 

「お前なんで・・・」

 

「なぁに、お前があんまりにも惨めで見ちゃおれんくてな」

 

「んだと・・・!」

 

ただでさえ気が立っていて事もあってか、減らず口を叩くディケイドに殴りかからん勢いで胸元に手を伸ばす。

だが当の本人にやり合うつもりはないらしく、その手を軽く掴んで見せると顔を寄せてきては言った。

 

「・・・一旦退くぞ。ここじゃ人が多い」

 

未確認十号とされているディケイドの出現で周囲の人々には更なる敵意や混乱が沸き起こっている。

加えてパトカーのサイレンが徐々に大きくなってくる以上、確かに長居するのは得策ではない。

 

「分かったんなら来い!」

 

「あっ・・・・・・おい・・・!」

 

味方、だとは思ってないが、少なくとも敵ではない。なぜかそんな気がする。

そんな奴に無理矢理首根っこを掴まれ、引き摺られるまま群衆とは逆方向へと走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ようやく振り切れたか…」

 

人目につかない、コンクリートの灰色が広がる川岸。

先日一条とエンカウントしたアーチの足元でようやく追っ手から解放された俺達は軽く息をついた。

 

「・・・・・・どうして助けた? 警察のお前が…」

 

理解ができない。一条の目はそう言っている。

まあ確かにそう思うのは当然だろう。未確認十号でありながら警察に身を置き、招待がバレぬよう静かに振舞うどころか頻繁に変身して他の未確認と交戦している。俺が一条の立場でも同じ事を思うだろう。

 

だが、そうしないのは、俺には別に使命があるから。

 

「俺はこの世界を救わないといけない。そのためにはお前の力が必要だからな。死んでもらっちゃ困るんだよ」

 

「・・・またそれかよ・・・。頭大丈夫かお前」

 

信じにくいのは認めるが頭を心配される筋合いはない。

 

「それに俺は都合のいいヒーローになるつもりなんかねーよ。・・・あんな奴等のために戦うわけないだろ」

 

「・・・俺もそんなご大層なもんになったつもりはない。俺はただ、自分の大切なもの守ってるだけだ。・・・それくらいお前にもあるだろ」

 

一瞬戸惑ったように眉を顰めた一条の脳裏には誰の顔が浮かんでいるのか。

それが彼女であってほしいと願いつつ、俺は次の言葉を継いだ。

 

「今グロンギどもが企んでるゲゲルとやらを止めないと多分だがこの世界は終わっちまう。そうでなくともゲゲルの中心であるここにいる人間が無事でいる保障はないだろうな・・・・・・・・・お前、高坂がそうなっちまってもいいのか?」

 

 俺の見立てでは、今一条が信用を置いているのは高坂ただ一人だ。

 周りの人間、社会そのものがグロンギやクウガを敵視し、排斥する風潮の中一条に寄り添おうとする高坂をコイツが悪く思うはずがない。

 

「・・・けど、俺がいたらアイツに・・・」

 

 だがどうして一条はそれを受け入れようとしないのか。それは至って単純だ。

 

「違うな。お前はただ怖がってるだけだ」

 

「あ・・・?」

 

俺の指摘に、一条の声音が幾分か低くなる。

図星か。そう捉えた俺は更に言葉を連ねた。

 

「周囲に恐怖されるような怪物に変身し続けることで高坂に拒絶されるが……孤独になるのが怖くてたまらないんだろ」

 

「・・・・・・」

 

俯き、黙り込む一条。

これは一条にも無自覚だったそれを浮き彫りにする反面、過敏になってるこいつを余計に刺激しかねない。一か八かの賭けだが…、

 

「・・・・・・お前に何が分かるんだよ…」

 

どうにもこの世界での俺は引きが悪いらしい。

頑なに何かを譲ろうとしない人間がその根底にある弱みを突かれた時にするものといえば・・・・・・逆上だろう。

 

「虐げられる怖さが・・・裏切られる怖さが・・・・・・なんの不安もなしに生きてそうなお前なんかに分かってたまるか!!」

 

彼にとって忌むべきアークルの力が一条をクウガへと変える。

心に秘めた弱さ故に他者を受け入れず、己の殻に閉じ篭るこの世界の仮面ライダーはその純白の拳を俺へと向けた。

 

「・・・っ! わかんねぇ奴だなお前は!」

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《DECADE!》

 

 

ドライバーの力で俺もディケイドへと変身し、クウガの・・・一条雄介の拳をその感情ごと受けとめる。

 

「誰がいつこんな力が欲しいって言ったんだよ・・・・・・! 誰が戦いたいって言ったんだよ!!」

 

幼体故か、やはり繰り出される攻撃自体は大した威力ではない。

だが一条の感情が乗るその拳は、威力以上に重く感じた。

 

「ええ!? またぁ!?」

 

「ちょ・・・、士君!? 何とかするんじゃなかったの!?」

 

コンクリート舗装の堤防から顔を覗かせた歩夢と高坂が大慌てで殴り合う二人の仮面ライダーを止めに駆け下りてくる。

大方この警戒態勢で攻撃対象となる一条を案じて普段こいつが隠れてるここまで探しに来たところビンゴを引いたわけだろう。俺と違って引き運いいなコイツ等。

 

「普通じゃないのが何なんだよ・・・! 未確認と同時に現れたってのがなんなんだよ! 俺は化け物なんかじゃねぇ!!」

 

二人の存在は気にもかけず、一条はなおもクウガとしての力をもって俺に殴りかかることをやめない。

 

「自分達と違うってだけで人を化け物扱いして抹消しようとしやがるテメェ等のほうがよっぽど化け物じゃねぇか!!」

 

怒号や、一撃一撃に込められた、世間への怒り。

確かにこれは脅威となりうる未知の存在を受け入れられず、自分達の平穏のためにそれらを抑圧し、排除しようとする人間の心理が引き起こしたものだ。

 

だが―――、

 

「違う! お前はただ向き合う努力を怠っただけだ!」

 

一条の怒りを、恐怖を、悲しみを全てその身で受け止めた上で、切り返しの頭突きと共に真っ向から否定する。

 

「状況を変えようともせず全部を周りのせいにしてるような奴が・・・・・・悲劇のヒロイン面してんじゃねぇ!!」

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《DE・DE・DE・DECADE!》

 

 

初めて会ったあの瞬間にコイツがやってきたように、胸元を蹴りつけた勢いを利用して飛翔。

バク中の後体勢を整えると、出現したカードの束を突き破るように飛び蹴りの形で突撃。防御すら許さぬ勢いで突っ込んだ俺のディメンションキックがクウガを地面に叩きつけた。

 

「ぐ・・・ぁ・・・・・・」

 

「ユウ君・・・!」

 

変身が解除された一条に駆け寄る高坂。

その瞳に恐怖や侮蔑の感情は一切なく、むしろ心配や不安といったもの。そんなことは彼女のことをよく知らない俺や歩夢でも分かっていることだ。

 

ただ、一条が目を逸らし続けていただけの話。

 

「世界の全てを信じろだなんて抜かすつもりはねぇ・・・・・・けど、せめてお前を信じてくれた奴くらいは信じてやれ」

 

ゆっくりと歩み寄り、手を差し伸べる。

かつて記憶も身寄りも、何もかも失っていた俺に、歩夢がそうしてくれたように。

 

「少なくとも俺達はお前を信じる。・・・・・・お前の味方だ、雄介」

 

一条の・・・いや、雄介の瞳が迷いに揺れる。

クウガになってしまったことでそれまで親しくしていた友人も軒並み離れていったという話は高坂から聞いている。恐らくそのことも雄介が高坂を拒んでいたのも一因しているのだろう。

 

「ユウ君」

 

高坂が作った、雄介に対して絶やそうとしなかった笑顔。

それに勇気づけられるように、雄介は何物も掴もうとしなかったその手を開き―――、

 

 

―――――ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・!

 

 

「うわわわぁ!?」

 

「なんだ・・・?」

 

刹那に揺れた地面がそれを阻んだ。

 

「地震・・・?」

 

「いや・・・・・・何か違う」

 

地面そのものが生きて動いているかのような気持ちの悪い揺れ。

ただの地震じゃない。俺の勘が鋭くそう告げる。

 

「ッ――――――!?」

 

そして早くもその予感は的中し、遠くで上がった悲鳴に続いて地下深くへと繋がる周囲のマンホールから黒い瘴気が溢れだし、辺りを包み始める。

 

「ちぃっ……!」

 

「あ…! 士君!?」

 

咄嗟に飛び出し、悲鳴が上がった教会と思しき建物に入り遅かったことを悟る。

怯える人々の視線の先ではグロンギと、聖職者らしき女性が異形の足元で息絶えており、その現場はこれまでグロンギが起こしてきた殺人の跡と酷似していた。

 

つまり、これが意味する事とは―――、

 

『ゲゲルパゲギボグギダ』

 

「なんだと…?」

 

掴みかかった俺に対し抵抗する様子もなく、グロンギは常人には理解しえない言語で高々と宣言する。

 

『ゴゴギバスジャリン…ズババヅザ!』

 

「クソッ…!」

 

ライドブッカーで切り捨てられても嬉々としたままのグロンギが爆散。

しかしコイツを倒したところで肝心のゲゲルが成功してしまっては意味がない。

 

日本の都で神に仕えるリントの女……つまり巫女などの神職に携わる女性を一滴の血も流すことなく四人殺害する。それが奴等の言うゲゲルの条件。

それが果たされた今、その大いなる闇とやらがとんでもなくヤバいことを引き起こす訳で…。

 

「士君!」

 

そしてそれを裏付けるように鬼気迫った表情で駆け込んできた歩夢に連れられた俺が見た光景は―――、

 

「なっ…!?」

 

教会に入って出てくるまでの短い間に集まってきたとは思えない数のグロンギの群れに愕然とする。

どうして警察の警戒態勢もあるのにも関わらずこんなことになったのか。その答えはすぐに分かった。

 

「…人間が…、グロンギに…?」

 

地震と同時に発生し、辺りを包んだ黒い瘴気。

それが触れた人間をグロンギへと変え、世界を奴らのものへと塗り替えている。

 

『壮観だな。我等を追い遣ったリント共が奴等にとって忌むべき我等と同じ姿になり果てる様は』

 

「・・・・・・お前が大いなる闇ってやつか?」

 

教会の屋根から混沌渦巻く地上を見下ろす、人々を蝕む黒い瘴気の発生源。

人型をした狼のような外見に、野性味溢れる盛り上がった肉体。加えて人間の言葉を話す知能から明らかに他の雑魚共とは違う風格を感じる。

 

『・・・・・・貴様はリントともクウガとも取れんな・・・、なぜ我々の邪魔をする』

 

「俺は世界の破壊者って奴らしくてね、お前達も破壊したくなっただけだよッ!」

 

ガンモードに移行したライドブッカーの引き金を絞り、奴に向かって発砲。

だが確かに命中したそれは微塵のダメージも与えず、奴自身痒いとも思ってなさそうに鼻を鳴らしている。

 

『面白い・・・・・・ならば』

 

 ふわりと浮かび上がった奴の身体が屋根から離れ、地面へと降り立つ。

 やがて己の放つ瘴気で文字通りあたりの空気を変えて見せ、大いなる闇―――ン・ガミオ・ゼダは言い放った。

 

『我を・・・・・・破壊してみろ!』

 

 

 

 




明けましておめでとうございます。新年初投稿です
月並みですが今年もよろしくお願いします

それで本編、雄介が穂乃果を遠ざけていたのは彼女にまで拒絶されたくなかったから
何もかもから逃げ続けてるが故にまだクウガとして覚醒出来ずグローイングフォームのまま。果たして覚醒できるのやら…

ところでン・ガミオ・ゼダってこんな喋り方だっけもう記憶がないぜ
調べ次第直すかもです

それでは次回で。クウガ編最終回です


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6話 覚醒

クウガ編ラスト


「がっ・・・あ・・・!」

 

『その程度か? 破壊者』

 

切り下ろしたライドブッカーが軽々と弾かれ、その余波で腕はおろか身体ごと吹き飛ばされる。

ン・ガミオ・ゼダ・・・・・・グロンギ共から大いなる闇と称される王というだけあって流石に強い。

 

《ATTACK RIDE》

 

《SLASH!》

 

『ぬぅ・・・!』

 

並のグロンギならば一撃で仕留められる剣戟すらも身動ぎ程度で留まってしまう。

この耐久力や腕一本で俺を吹き飛ばすような馬鹿力だけでも厄介だというのに、加えて奴は自身の身体から放つ瘴気で死へと至らしめた人間をグロンギへと変えてしまうという能力がある。

 

今コイツを倒さなければ…この世界の破滅は免れないだろう。

 

 

―――――ディケイド。お前は十八人のライダーの世界を旅しないといけない。それがお前が力を取り戻し、世界を救う唯一の方法だ

 

 

あの時のアイツの言葉が何を意味していたかなんて知りやしない。

けれど十八の世界を救わない限り俺達の世界も壊れたままであり、歩夢も心から笑えない。

 

だからコイツを倒し、この世界を救う。

改めて固めた決意を胸に、俺は再度グロンギの王へとその刃を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――状況を変えようともせず全部を周りのせいにしてるような奴が・・・・・・悲劇のヒロイン面してんじゃねぇ!!

 

―――――世界の全てを信じろだなんて抜かすつもりはねぇ・・・・・・けど、せめてお前を信じてくれた奴くらいは信じてやれ

 

初めは胡散臭くて怪しい奴だと思っていた。

正直別の世界から来たとか言っているくらいだしまだその印象は拭い切れていないが、それでも―――、

 

―――――少なくとも俺達はお前を信じる。・・・・・・お前の味方だ、雄介

 

少なくとも、ただの怪しい奴じゃない。そう思ってしまう。

 

「・・・・・・何なんだよ・・・」

 

こんな状況だというのにアイツの声が頭から離れない。

何度も同じような言葉を聞いてきた。それに期待を抱く度に裏切られてきた。

 

それなのにディケイド―――士の言葉に、また俺は誰かを信じようとしている。

いや・・・ひょっとしたらもう―――、

 

「・・・大丈夫かな・・・士君・・・」

 

その士に俺達と一緒にあの煙から離れるように言われた上原歩夢…とやらがか細く呟く。

思えばあの時、上原には穂乃果が俺を心配しているのが分かった訳。それは恐らく、彼女もまた誰かを心配していたから。

 

「・・・・・・」

 

その横の穂乃果に目線をやる。

俺がコイツに対してどんだけ酷い仕打ちをしたかなんて理解している。

 

どんなに異端と称され、どんなに周りに疎まれても、穂乃果だけは俺を見捨てようだなんてしなかった。

 

 そんなコイツを俺は・・・拒絶し続けたんだ。

 穂乃果の優しさに甘えて、向き合う事を拒み続けてきた。

 

「・・・・・・なあ、穂乃果」

 

「・・・?」

 

今がそんなことをしている状況じゃないのは分かっている。

けど、これを伝えられれば俺は……前に進める気がした。

 

「・・・俺さ―――」

 

「わあぁぁぁっ!?」

 

お約束かよ。そうツッコみたくなるレベルのタイミングの悪さで驚嘆の声が上がり、思わずその主である上原を咎めるように目を向ける。

だがその先で俺の目に映ったのは、お約束とか言ってる場合ではないような光景で―――、

 

「・・・なに・・・この数・・・・・・」

 

「さっきのところよりずっと多いよぉ!?」

 

百体はゆうに超えている未確認の群れがうじゃうじゃと街を練り歩いている。

その足元に漂う黒い瘴気はあのオオカミのような未確認から発せられ、人々をそれまでそいつ等が恐れていた怪物へと変貌させるもの・・・・・・つまり。

 

あの人数が一気に未確認・・・・・・いや、グロンギ化した。

信じたくはないがつまりそういうことだ。

 

「ちぃ・・・!」

 

こちらの存在に気が付き大挙として押し寄せてくる奴等を迎撃しようと腰元に手をかざす。

だが一向に俺の身体が変化する様子はなく、それどころか俺の運命を狂わせたあのベルトすらも浮かび上がってこない。

 

「嘘だろ・・・・・・こんな時に・・・!」

 

そういえばディケイドのキックを喰らった際に変身が解けたが、もしやその時の体力の消耗が原因なのか。

どちらにしろ、今は戦ってここを切り抜けることは出来ない。

 

「ユウ君こっち! 歩夢ちゃんも!」

 

「は・・・はい!」

 

穂乃果に手を引かれ路地へと走る。

秋葉原の電気街の外れは迷路のように入り組んでいる場所が多く、そこを上手く使って振り切ろう。きっと穂乃果はそう考えているのだろうが・・・、

 

「・・・そんな・・・」

 

逃げた先でもグロンギが溢れているのを見て穂乃果が絶句する。

 

この街は人がやたらに多い。

電気街一帯を霧が包んでいるとなると、ほぼ間違いなくどこへ行ってもグロンギはいる。つまり八方塞がりだ。

 

「・・・・・・っ・・・! ユウく――ケホッ…!」

 

「穂乃果・・・!」

 

咽るように起こった咳を皮切りに穂乃果の顔色が悪くなり、それが途方もなく怖くなっているのを感じた。

これだけ街の中を走ってきた以上、あの霧を吸っていてもおかしくない……一瞬の間にそんな想像を何度も浮かび上がらせては否定する。

 

「・・・大丈夫…大丈夫だから・・・・・・」

 

「・・・穂乃果・・・・・・クソッ・・・!」

 

頭に過った最悪の結果が自然と身体を動かし、穂乃果を抱えて走り出させる。

どうすればいいかなんて分からなかった。けど、どうにかしてないといられなかった。

 

「どけ! どけって言ってんだろ!」

 

後方から追いかけてくる上原を気遣う余裕もなく眼前のグロンギを蹴り飛ばしては前へと進む。

 

どうしてこんなにも必死になっているのか。何故こんなにも怖いのか。

それが自分以外の誰かにもたらされたものだと分かっていると、猶更俺を足搔かせた。

 

『グアァ!』

 

「うっ―――ぐ・・・・・・ッ!」

 

だがやはりこの数相手に突破を試みるのは無謀だったか。

捌き切れなかったグロンギの攻撃が背中を捉え、確かな痛みと共に地面を転がる。

 

「ほの・・・・・・か・・・!」

 

今の拍子に抱えていたはずの穂乃果が俺の腕の中から抜け、少し離れた場所で横たわっている。

また穂乃果を抱えて逃げるのが早いか、それともグロンギが穂乃果に群がるのが早いか。そんなことは火を見るよりも明らかだった。

 

「・・・なんでだよ・・・!」

 

これだけ力を求めた時はないというのに、それでもあの忌々しいベルトは―――アークルは答えてくれない。

 

答えろよ・・・・・・変身させろよ・・・!

今まであんだけ人のこと苦しめておいて・・・こんな時に力も貸してくれねぇのかよ!!

 

『ウアァゥ!』

 

「穂乃果さん!!」

 

これでいいのか?

アイツは・・・穂乃果はあんだけ俺に寄り添おうとしてくれたのに……こんな終わり方でいいのか?

 

そもそも俺が穂乃果を遠ざけてた理由はなんだ?

どうして俺は穂乃果を身近に思っていながらもアイツを拒絶していた?

 

拒まれても穂乃果は俺の近くにいようとしてくれた…寄り添い続けようとしてくれた。

そんなアイツとの最後がこんなのでいいのか――――?

 

「・・・・・・いいわけ・・・・・・ねぇだろ!!」

 

ああ、そういえばあの時もそうだったか。

穂乃果を守りたくて、無我夢中で庇ったあの時と。

 

――――

 

ゴッ。

そんな重い打撃音の後、滴った血が地面を叩く。

 

「ユウ・・・君・・・?」

 

「・・・そうだよ・・・・・・怖かったんだよ…」

 

グラついた視界に驚嘆と不安に満ちた穂乃果の顔が映った。

こいつに外傷がないということは当然、地面に広がる赤は俺から流れた血だ。

 

「・・・お前にまで拒絶されるのが怖くて・・・・・・一人になるのが怖くて・・・・・・・・・だから自分から適当な理由をつけてお前を遠ざけてた・・・・・・自分勝手で、お前の優しさに甘えてたんだ・・・!」

 

士の指摘は何一つ間違っちゃいなかった。

ただ俺が認めたくなかっただけ。認めたらこいつが離れて行ってしまうように思えて首を振りたくなかったんだ。

 

そんなはずはない。分かっていたのに、それを信じきれない弱さがあったから。

 

「・・・でも、お前を失う方がもっと怖かった」

 

両親がいなくなってから、こいつが大きな支えだった。

だから拒絶されるかもと思った時は自分でも制御できなくなるほど過敏になっていたし、そうならないために必死になっていた。いなくなられるなんて以ての外だ。

 

「・・・多分な、拒絶されようがされまいが関係なかったと思う・・・。俺は―――」

 

「・・・拒絶なんかしないよ」

 

それ以上を言うのはここじゃないと、呻き声の中でも穂乃果の声が鮮明に耳を打つ。

 

「・・・・・・私だってそうだよ。ユウ君が遠くに行っちゃいそうで、それが怖かったから一緒にいようとしたんだもん」

 

その言葉が真実かどうか。疑ってはいないが、仮にそれが事実と違っていてもどうでもよかった。

 

「・・・どんな風になったって、ユウ君はユウ君だよ。…ずっと信じてる」

 

この言葉聞ければ、十分だったから。

それだけで、俺は戦える。

 

「・・・まだお前が俺を信じてくれるなら・・・・・・俺もお前を信じる」

 

今日の力が尽きたなら、明日の力をひり出せばいい。

俺は俺を信じてくれたこいつを・・・守り抜く。

 

「だから見ててくれ・・・俺の――――――

 

 

 

 

 

―――――――――変身ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっ・・・はぁ・・・・・・!」

 

 一方的・・・とまではいかずとも、終始押されっぱなしのまま変身が解除された俺が地面を転がる。

 やはりガミオは今の状態の俺で勝てるような相手じゃない。

 

『完全な力を出した貴様とやり合えないのは惜しいが・・・・・・そろそろ時間でな』

 

 奴の持つ理性に反した野性的な咆哮が轟く。

 狼が群れの仲間に呼びかける際の遠吠えに似ているそれは、やがて周辺から奴がグロンギ化させたであろう人々の群れを呼び寄せ、俺へと差し向けた。

 

『さらばだ。名もなき破壊者よ』

 

「ぬ・・・あぁぁ・・・!?」

 

さながらホラー映画のゾンビが如く大群を成したグロンギ共が俺の肉を貪らんと言わんばかりに押し寄せ、圧迫する。

四方八方全方位から押し潰すように掛かる圧に身動きが取れず、ディケイドへの再変身も叶わない。

 

ここまでか。

抵抗こそ続けながらも果てかけた、その時だった。

 

「ハアァァァァッ!!」

 

どこからともなくエンジン音が唸りを上げたと思った次の瞬間、突っ込んできたバイクに跨った深紅の戦士によって俺に群がっていたグロンギが一掃される。

 

「・・・俺にあんだけ偉そうな事言って自分はこのザマかよ。仕方ねぇから助けてやろうか?」

 

「お前・・・」

 

逞しく伸びた二又の角に、象徴的な赤い肉体。

それは不完全な形態などではない、戦う意味をその身に宿した仮面ライダークウガ真の姿―――マイティフォーム。

 

「・・・反抗期は終わりか? そりゃあもうご立派に更生したんだろうな未確認四号さんよ」

 

「うるせぇ。・・・俺はただ俺を信じてくれた奴を信じることにしただけだ」

 

すっと、先程自分がされたことを返すようにクウガの手が俺に差し伸べられる。

 

「・・・・・・だから、一応お前のことも信じてやるよ・・・・・・士」

 

「・・・そーかい。ならせいぜい足引っ張らないようにするんだな。雄介」

 

「言っとけ。ほら、ぱっぱと片付けるぞ」

 

ようやく通じることのできた雄介の手を取り、立ち上がる。

俺達二人の視線が向く先にはグロンギの群れと、その大将であるン・ガミオ・ゼダ。その猛獣が如き眼光もまた純粋な疑念を持って俺達を捉えていた。

 

『・・・貴様等は何故戦う。何故リント共に虐げられながらもそのリント側に立ち抗おうとする』

 

「・・・・・・別に人間の為に戦ってるつもりなんざさらさらねーよ」

 

「ああ。俺もこいつも、ただ自分の大切なもん守ってるだけだ」

 

大義がどうとか正義のためだとか。自分の内に秘めてる信条こそあれど、それだけで戦える奴なんてそうはない。

結局いつも誰かの為に戦ってるって奴は、自分の守りたいものを守ってるだけだ。

 

「俺達が守ってるだけじゃない。俺達もその大切な何かに支えられている。互いが互いを必要としている。だから戦うんだ」

 

俺も雄介もそう。自分に寄り添って支えてくれた存在がいたからこそ今こうして戦う覚悟を決めている。

 

「教えてやるよグロンギの王。壊して圧するだけのお前等と守るものがある俺達の差……格の違いってやつをな」

 

『・・・・・・何者だ、貴様』

 

何者、か。

そう問われれば答えは一つしかあるまい。

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えとけ!」

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《DECADE!》

 

 

何故か懐かしさすらも覚える返しと共に変身。クウガと並んで立ち塞がるグロンギ共を正面から突破し、ガミオの胸部へと強襲する。

 

「テメェを倒せばこの霧も消える・・・・・・アイツも助かる!」

 

『ヌ・・・・・・グゥオ・・・・・・!』

 

クウガの力はグロンギに対抗すべく古代の人間が生み出した力。先日倒したグロンギがそう言っているのを聞いた。

高坂への想いで真の力に目覚めた雄介の拳は、着実にガミオへとダメージを与えている。

 

「超変身!」

 

秘石が雄介に戦い方を教えているのか、はたまた雄介の意思が秘石と同調しているのか。

どちらにせ雄介の想いに呼応したアークルが青く煌めき、クウガの姿を変える。

 

「だあぁぁらぁッ!!」

 

『ガ・・・ァッ・・・・・・!』

 

引っこ抜かれた道路標識がリーチのある槍へと変化し、巨人が如く力任せにぶん回されるままにガミオを殴りつける。

反撃に移ったガミオの攻撃も体捌きの軽やかさで回避し、切り返しの一撃で今度は強烈なアッパーを叩き込んで見せた。

 

《ATTACK RIDE》

 

《SLASH!》

 

「フウゥンッ!」

 

当然俺だってただ見ているだけじゃない。

ガミオがクウガに翻弄されている隙を突き、防御の開けた懐に強烈な斬撃を炸裂させる。

 

『・・・恐ろしい力だな・・・・・・その力を恐れ、リント共はこれからもお前達を排除しようとするだろうよ』

 

クウガの覚醒によって形勢こそ逆転したが、その頑強さ故かガミオはまだまだ健在でいる。

その余裕の表れなのか、人知を超えた力を行使する俺達に対し˝誰かを守ろうと強くなるほど人々から恐れられる˝という皮肉を突き付けてくる。

 

「・・・・・・確かにそうかもな」

 

「・・・・・・」

 

その言葉を肯定した俺にガミオが嗤い、クウガの攻撃の手が止む。

 

「・・・けどな、届く奴には届くもんだと思うぜ?」

 

『何を・・・』

 

俺は知っている。

死の霧から逃れ、慄きながらも俺達の戦いを見ていた人間の中に、俺達仮面ライダーへの恐れを抱いていない者がいることを。

 

 

「がんばれぇぇぇ――――――ッ!!!!」

 

 

「『ッ・・・!」』

 

群衆の中から飛んだ、この世界では初めてであろう仮面ライダーへの˝応援˝の声。

 

「あの子は・・・・・・」

 

その声を張り上げた少女は、クウガと目が合うと嬉しそうにその手を振る。

助けてもらった。母親にそう話す彼女の声は俺の耳には届いていたから。

 

「言っただろ? 届く奴には届いてるってな」

 

「・・・・・・」

 

少女に続き、徐々に応援の声が上がり始める。

これが民衆のクウガに対する信頼の証なのかは分からない。ただ自分達に仇を成す存在としてこの場だけの特別扱いという可能性だってある。

 

「・・・・・・人のこと散々化け物扱いしといて、いざ自分達が危なくなったらこれかよ・・・・・・都合よすぎるだろ・・・」

 

だが、クウガへの意識が変わり始めたという事実に変わりはない。

こいつにはそれだけで十分だろうから。

 

「・・・・・・でもまあ、悪い気はしねぇな」

 

刹那、熱が滾るのを感じた。

空の器に零れていたものが戻ってくるような、そんな熱を。

 

「・・・・・・!」

 

その正体は、力が失われていたクウガのライダーカード。

鼓動するように光を放つそれ等を手に取ってみれば、それぞれに失われていた色と力が浮かび上がる。

 

「つーわけだグロンギの王。残念ながらこいつは自分で信頼を勝ち取ることにしたらしいぜ」

 

《FINAL FOAM RIDE》

 

 

《KU・KU・KU・KUUGA!》

 

 

「ちょっとくすぐったいぞ」

 

「え―――おうわぁ!?」

 

復活したカードの力をドライバーで開放すれば、途端にクウガの背中に裂け目が生じる。

そして手を突っ込んだその裂け目を一気に広げれば脱皮する昆虫のように中身が現れ、巨大なクワガタムシのような姿―――クウガゴウラムへと変貌。

 

「なんじゃこりゃぁぁぁッ!?」

 

「うるせぇ。いいから行くぞ!」

 

サーフィンでもするようにその背中へと飛び乗り、発進したクウガゴウラムがガミオへと突撃。

巨大な大顎でガッチリと奴を挟み込み拘束した奴をそのまま上空へと運び去る。

 

『きさ・・・まぁぁ・・・!」

 

「遅くなって悪いな。・・・・・・それじゃ約束通り、お前を破壊させてもらう!」

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《KU・KU・KU・KUUGA!》

 

 

『グッ・・・・・・オオぁアァァァァ・・・・・・!!』

 

真下へ放り投げると同時にこちらも奴目掛けて急降下。

破壊者のキックと古代戦士の大顎がその身を貫き、断末魔と共にン・ガミオ・ゼダを粉砕した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果ッ!!」

 

これにて一件落着、とは残念ながらいかず。

ガミオが倒されたことで他のグロンギも死滅ないしは散り散りとなり、平穏は戻ってきたが・・・こちらの事態はまだ収まってはいなかった。

 

「なんでだよ・・・アイツは倒したはずだろ…?」

 

あの瘴気を吸ってしまったという高坂の容体が治らない。

それどころか新たな体調不良を訴え、現在病院にて診断の結果を待っている次第だ。

 

「・・・ごめんユウ君・・・私・・・・・・」

 

「いいよしゃべるな・・・安静にしとけ・・・」

 

そういうが、本当にあの霧が原因なら安静にしたところで結果は見えている。

だからこそ、焦りと不安が蔓延するこの場に診断結果をもって現れた医者に雄介が飛びつくのも訳がなかった。

 

「先生・・・コイツは・・・穂乃果はどうなんです!?」

 

「落ち着いてください一条さん。ここは病院です」

 

「落ち着いてられるかよ! 死んじまうかもってのに!」

 

「いや人間死にはしませんよこれくらいで」

 

「・・・へ?」

 

「あ?」

 

「え?」

 

「ふぇ?」

 

あっさり告げられ、全員仲良く思考停止。

 

「急性胃炎・・・・・・ま、要するに食べ過ぎです。一日もすれば元気になりますよ」

 

「・・・え、じゃああの霧のせいじゃ・・・・・・」

 

「若干吸い込んでしまったようですがこの程度なら問題ないですね。せいぜい咽たり気分が悪くなる程度です」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

一斉に高坂の方を向き、どういうことだと目で訴える俺達。

すると高坂は何か思い出したように頬を掻き、全力で目を泳がせながら細々と答えた。

 

「えぇ・・・っと、そのぉ・・・・・・ほら、昨日歩夢ちゃん私の家に泊まっていったでしょ? それでお母さん張り切っちゃっていつもよりご飯とかおやつとか豪華だったから・・・・・・その・・・・・・ついつい・・・」

 

「「「・・・・・・・・・」」」

 

なんという、壮絶なオチ。

ここまでくるともはや無事でよかったというよりも怒りが勝るというかなんというか。

 

まあとりあえず、やっちまえ雄介。

 

 

 

「穂乃果ァァァァァァァッ!!!」

 

 

 

「ごめんなさぁぁ―――――いっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・行くのか?」

 

「ああ。次の世界を回らないとなんでな」

 

「・・・それマジだったんだな・・・」

 

「まぁな。・・・・・・それにもう大丈夫だろ」

 

 人々から恐れられ、親しい者すらも拒絶するクウガを前へ進めるよう手助けする。それがクウガの世界での俺の役割。

 

 コイツ等はもう大丈夫だ。自分達の道は自分達で切り開いてゆける。

 

「・悪かったな。世話になったよ色々」

 

「気にすんな。どうせ俺等の世界を救うためだ」

 

「・・・そうか」

 

 この世界のライダーを救い、その力を取り戻した以上、俺達は次の世界へと向かわなければならない。

 雄介や高坂達とはここでお別れだ。

 

「・・・また会えるか?」

 

「さあな。正直分からん」

 

「ええぇぇっ!? あ、そうだ歩夢ちゃんなら連絡先交換しよう連絡先!」

 

「別世界なのに通じる訳ないだろ」

 

 それでも一応交換するまで待ってやり、ちょっとウザったいくらいに別れを惜しむ高坂を何とかなだめてバイクに跨った。

 

「じゃあな。もう大事なモン見失うんじゃねーぞ」

 

「分かってるよ。・・・そっちも頑張れよ」

 

 出発のエンジンが切られ、次なる旅立ちまでのカウントダウンが始まる。

 向かう先は例のオーロラカーテン。今度はそんな世界が待ち受けているのやら。

 

「歩夢ちゃーん! また遊びに来てねー!」

 

「はい! 絶対!」

 

 そんな保証はないと言ったばかりなのにどうしてまたコイツ等は。

 ともかくまあそんな調子で最後まで喧しい高坂の声と、少し寂しそうにも見える雄介の視線を背中に受け、俺達はオーロラの向こうへと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 満月が暗い闇夜に浮かぶ。

 飛び込んだ次なる世界で俺達が最初に見たもの、それは瞬刻前までのクウガの世界とは対照的な夜の世界だった。

 

「・・・なんか不気味だね・・・」

 

 歩夢の言う通り、ここはどこか異質だと肌で感じる。

 見上げた先で聳え立つ摩天楼は秋葉原のそれを彷彿とさせるが、どことなくなにか・・・それが生きているかのような感覚を覚える。

 

「まあとにかくこの世界のライダーから探さないとな。でなきゃなにも―――ッ!」

 

「うひゃぁっ!?」

 

 接近する気配を感じ、咄嗟に下げた頭の真上を生き物らしき何かが通過。

 まだ暗闇に適応しきっていない視界で辛うじて確認できたのは、何か人ではない二体の生物が戦っているという事ぐらいだ。

 

『ウェイク! アーップ!』

 

 妙にハイテンションな声に続き汽笛の音が上がり、周囲の闇が一層濃くなる。

 その刹那、月光の下で一体の蝙蝠が宙を舞った。

 

「ハアァァァァァァッ!!!」

 

 雄叫びの共に飛び蹴りの形になったシルエットが地上へと落下。凄まじい衝撃音を起こして地面を揺らす。

 そこでようやく明瞭になり始めた俺達の目が映したのは、釣り上がった複眼と、至る所に鎖を巻いたマッシヴな赤い鎧を纏った―――仮面ライダーの姿だった。

 

 

 

 

「・・・・・・キバの・・・世界・・・」

 

 

 




書き終わってから気付きましたがガミオちょっと原点と違いますね…すみません
まあそれはともかくクウガ覚醒。あの名台詞をパロったことに関しては目をお瞑りください
まあとにかく穂乃果への想いが雄介をそうさせたって事で(雑)

一応説明入れておくとクウガの事を応援した女の子は前回雄介が助けようとした子です

そして次の世界はキバ
キバ編のヒロインは誰なのかお楽しみに…!

それでは次回で!ウェイクアップ!


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7話 ロンリーキング・血塗りの過去

部屋整理してたらバースドライバー発掘して地味にテンション上がりました
今回からキバ編(昼ドラ)です


 

 

 

「・・・キバの・・・世界・・・・・・」

 

クウガの世界を後にし、暗い闇夜の世界を訪れた俺達を最初に待ち受けていたのは、この世界の怪人―――ファンガイアと戦う仮面ライダーキバ。

 

月光に照らされ雄々しく、それでいて美しく照り映えるその姿はヒロイックなドラキュラのような印象を与え、今し方倒したファンガイアから浮き出たエネルギー体の光も相まって神秘的にも覚えた。

 

『――――――ッ!!!』

 

「え・・・なに・・・?」

 

高い咆哮の後、怪しげな雰囲気を纏っていた摩天楼の中腹がだるま落としのそれのように分離。

その正体は城の形状をした胴体から頭や手足を生やす竜のような生物であり、キバの元まで舞い降りると浮遊していた発光体を一飲みにする。

 

「・・・あのビル生きてやがったのか・・・・・・どおりで・・・」

 

「ッ・・・! 誰だ!?」

 

食事を終え、また何事もなかったようにビルへと戻った竜もどき―――キャッスルドランを眺める俺達にキバの警戒の声が飛ぶ。

 

「・・・そこにいるのは分かってんだ。出てこい」

 

「あーはいはいわかったわかった。落ち着けよキバさんよ」

 

「ッッ!!」

 

「うおぉっ!?」

 

要求どおり姿を見せた俺にいきなり飛び掛かってきたキバ。

辛うじて回避はしたものの奴の攻撃態勢はまだ続いており、俺に対する敵意は明らかだった。

 

「どうしてその名前を・・・・・・やっぱりファンガイアか!」

 

「あぁったく・・・・・・めんどくせぇな!」

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《DECADE!》

 

 

俺をファンガイアと誤解しているのか、とにかくやらなければやられる以上こちらも変身して応戦するしかない。

ディケイドライバーがカードの力を開放。瞬時にマゼンタの戦士へと姿を変えた俺とキバの拳が衝突する。

 

「離れてろ歩夢」

 

「う、うん…」

 

いきなりの戦闘は予想外だが、キバの変身者の人となりや力量を見定めるにはうってつけの機会ではある。

それに―――、

 

「まあ、丁度いい。新しい力を試してやる」

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《KUUGA!》

 

 

キバの基本形態―――キバフォームは恐らくディケイドのような武器を主体とした戦いではなく肉弾戦を得意とするタイプの形態だ。

だったら、同じ戦闘スタイルのクウガマイティフォームの方が奴の力量を測りやすい。

 

「姿が変わった・・・?」

 

「フウゥン!」

 

 体色や形状のみならず全くの別ライダーになった事へのリアクションごと殴り飛ばすように拳を殺到させる。

 浅いとは言え虚は付いたものの、そこはやはりそれなりの場数は踏んでいそうな戦士。身体を捻ってそれをいなして見せると、逆に裏拳でカウンター。

 

「ハアァッ!」

 

 バックステップを取って距離を取る俺にキバの蹴りが伸びる。

 だが逆に俺はそれを利用し、伸ばされた奴の足を起点にしたターンで懐に潜り込んでは雄介のそれのように強烈な正拳突きを叩き込んだ。

 

「ぐッ・・・・・・なら・・・!」

 

『ガルルセイバー!』

 

 笛状のアイテムを自身の蝙蝠のようなベルトに加えさせたキバ目掛け、再び姿を見せたキャッスルドランが何かが放出。

 その何か、狼を模したような刀剣を左手に握ったキバの姿が、蒼く染まる。

 

「グゥアァァァ!」

 

 途端に猛る肉食獣のような動きに変化したキバの荒々しい剣戟が肩や胴体を刻む。

 流石に武器を持たれると素手のマイティフォームでは戦いにくい・・・・・・なら、

 

《FOAM RIDE》

 

 

《KUUGA TITAN!》

 

 目には目を歯には歯を剣には剣を。

 紫のクウガ―――タイタンフォームへと姿を変え、迫る剣線を紙一重で回避。

 

「生憎、剣術は得意分野でね!」

 

 幸いここは工事現場だ。

 クウガの能力―――触れたものを武器へと変える力は存分に発揮できる。

 

「オォォラッ!」

 

 俺の手に握られた鉄パイプが変形したタイタンソードがキバのガルルセイバーと衝突する度に火花を散らす。

 

「お前、あそこで何をしてた。答えろ」

 

「何もかもねぇ。ただの通りすがりだ!」

 

 キバのガルルセイバーが軽量型の片手剣なのに対し、こちらのタイタンソードは重量型の両手剣。

 速度では勝るが重い分威力はこちらの方が上だ。一度刃を合わせる状態になれば力押しが―――、

 

「ぐおおぉぉッ・・・!?」

 

 共に振り下ろされた剣と剣が交わったその刹那、片手剣のそれとは思えない力で大きく跳ね飛ばされる。

 辛うじて後方に飛びのき威力を受け流しきるも、またあの威力で斬り掛かられるようでは小回りの利かないこちらの分が悪い。

 

 なら―――、

 

《FOAM RIDE》

 

 

《KUUGA PEGASUS!》

 

 

 挿入した別のカードでペガサスフォームのクウガへとチェンジ。ライドブッカーをペガサスボウガンへと変形させ、距離を取りつつキバを射抜く。

 

「また姿が・・・・・・」

 

「オラお返しだ!」

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《BLAST PEGASUS!》

 

 

 これまでの牽制の攻撃から数段威力の上がった弾丸を放出。あの膂力を誇るガルルセイバーであろうと接近戦に持ち込めなければ意味はあるまい。

 

「ち・・・・・・そっちが銃なら!」

 

『バッシャーマグナム!』

 

 汽笛と共に飛来した奇怪な形状をした銃を右手に取ったキバの姿が蒼からペガサスフォーム同様の緑色へと移行。

 ペガサスボウガンにバッシャーマグナム。互いに銃を持ったとなれば起こることは一つ。

 

「これでもまだ俺がファンガイアに見えるのか?」

 

「ああ、ファンガイアには見えない。だからこそ危険なんだ。お前みたいなのは見たことがない!」

 

「危険なのはどっちだ話も聞かず襲ってきやがって!」

 

廃材や重機の陰に隠れつつ、さながら映画のワンシーンのような銃撃戦を繰り広げる。

ガルルセイバー同様、奴のバッシャーマグナムは軽量型でありペガサスボウガンに比べ連射性能で優っている。だが一発一発の威力となるとこちらの得物の方が上だ。

 

「フッ!」

 

「ぐっ・・・!」

 

バッシャーマグナムが障害物ごと俺を打ち抜けないのに対し、ペガサスボウガンの弾丸は障害物を貫いてキバに届く。

加えペガサスフォームの力により研ぎ澄まされた感覚は、例え目視してなかろうとキバの居場所を含め辺りを把握できる。

 

「もう一発いくぞ!」

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《BLAST PEGASUS!》

 

 

土煙の中だろうが関係ない。正確無比な弾丸がキバへと迫り―――、

 

『ドッガハンマー!』

 

―――轟轟と振り回された巨大な大槌に粉砕される。

 

見れば今度のキバの姿は紫。片腕や体色が変わるだけだったガルルフォームやバッシャーフォームと異なり、今度は上半身全体を甲冑のような鎧が覆っている。

そして最も目を引くのは手をそのまま武器にしたかのような、奴の身の丈ほどあるハンマー。

 

「オオォォォォッ!!」

 

相当重量のあるであろうそれをキバは軽々と持ち上げ、重さなど得物の苦でないかのように猛然と俺へと迫る。

その加速に乗ったドッガハンマーが猛烈な圧をもって振り下ろされ、すんでで回避したものの地面にクレーターを作るほどの衝撃波によって吹き飛ばされてしまう。

 

「とんでもねぇな・・・」

 

銃弾ですら軽々と弾かれる以上ペガサスフォームでの戦闘を続行するのは危険だ。

あの破壊力を秘めた武器に対抗できるとすれば―――、

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《KUUGA DRAGON!》

 

 

青のクウガ―――ドラゴンフォームへとチェンジ。

先程タイタンソードとして用いた鉄パイプを今度はドラゴンロッドへと変化させ、ドッガハンマーの柄、あの破壊力が直接作用しない部分目がけて振り抜く。

 

「ハアァ!」

 

しかも二つの前例と違い今度はこちらの方が機動性に優れている。

いくらドッガハンマーの重量をものともしない奴の怪力でも、こちらのドラゴンロッドと同じように扱うのは不可能だ。よって今、この瞬間における形勢は俺にある。

 

「こんの・・・・・・こうなったら!」

 

『ウェイク! アーップ!』

 

ドラゴンロッドを用いた連撃を無理矢理振り払ったキバが再度キバフォームへと戻り、深紅の汽笛を自身のベルトに噛ませる。

その直後に高々と跳躍して見せたそれは先程ファンガイアに止めを刺したキックだということはすぐに察知した。

 

「そっちがその気なら相手になってやる」

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《KU・KU・KU・KUUGA!》

 

 

こちらもマイティフォームへと戻り、灼熱の闘気を右足に宿し跳躍。

クウガのマイティキックに、キバのダークネスムーンブレイク。両者の必殺技が空中で激突し、生じた衝撃波が辺りを疾走する。

 

「ぐぁ・・・・・・!」

 

だが流石に上空からの一撃となった向こう側の方に分はあったようで、キバにダメージを与えつつも激しく地面に打ち付けられた俺の姿がディケイドへと戻る。

 

「手こずらせやがって・・・・・・これで―――」

 

『待て渡』

 

「・・・・・・キバット?」

 

なおも戦闘を続行しようとするキバを制止したのは、奴のベルトに一部かと思われていた一匹の蝙蝠。

逆さにぶら下がっていたベルトから分離すると、キバットと呼ばれたそいつは本物の蝙蝠のように飛び回ってはキバの説得を試みる。

 

『コイツはファンガイアや他の種族の差し金とかじゃない・・・・・・多分お前と同じだ』

 

「同じ・・・、コイツが・・・・・・?」

 

キバの釣り上がった双眸が俺に向く。

心なしかキバットの一言で若干の棘が抜けたようにも見え、襲い掛かってきた時と比べれば大分温和とも感じる。

 

『・・・それに向こうで隠れてる嬢ちゃんは正真正銘の人間だ。心配ねーよ』

 

「・・・・・・お前がそういうなら・・・」

 

警戒の糸が完全に解れたのか、変身を解いたキバの変身者が俺に手を伸ばす。

 

「誤解して悪い。最近ちょっとファンガイアや他の種族が活発化しててな・・・・・・気が立ってた」

 

「…・・・まあ分かればいい」

 

俺も変身を解いてその手を取り、立ち上がって改めてその男の顔を見る。

今回は大分友好的なこの世界のライダーは大体雄介と同じ高校生くらいの見た目であり、どことなく涼やかな印象を覚えた。

 

「俺は羽島渡。渡でいい」

 

「俺も士でいい。そんで向こうのは上原歩夢。・・・お前がこの世界のライダーか、キバ」

 

「それなんだが・・・・・・なんでお前その名を―――ッ!」

 

今度は何か。そう思った次の瞬間。

何かの気配を察知したように身構えたキバ―――及び渡の目線の先で、闇の中から声が上がった。

 

「キバァ―――! どこだァ―――ッ!!」

 

「・・・・・・イクサか…」

 

キバを求める、紛れもなく人間の声に苦虫を嚙み潰したような表情になる渡。

怒気・・・そして敵意か。少なくとも良からぬものではない感情をその声からは感じる。

 

「・・・・・・話は後だな。とりあえず場所を変えよう」

 

見つかると面倒だ。最後にそう呟いた渡に続き、急ぎ歩夢を連れてそそくさと先の戦いで荒れに荒れた工事現場から撤退する。

その背後ではなおも、キバに向けられた怒声が暗闇の中で反響していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・随分と広いな」

 

「ちょっと訳ありでな・・・・・・まあ通れよ」

 

渡に導かれるままに辿り着いたのは現代日本ではまず見ないような西洋建築の古風な屋敷だった。

戸を開くと最初に目に映ったのは外見に違わぬクラシックな玄関であり、特別調度品のようなものこそないものの渡一人で住むには少し豪華すぎる気がしないでもない。

 

「他に誰かいるのか?」

 

「・・・同居人なら一人・・・・・・」

 

「渡―! おっかえりー!」

 

噂をすれば何とやら。

何故か苦々しく答えた直後、待ってましたと言わんばかりに飛び出してきた少女が思いっきり渡へと抱き着く。

 

・・・・・・バスローブ一枚という、青少年には少々刺激が強い格好で。

 

「今日もファンガイア倒してきて疲れたでしょ渡ー。あたしがたーっぷり癒してあげるよー!」

 

「音羽・・・! 離れろ・・・!」

 

すぐ横に俺達がいることにも気づかず、その女は恥ずかしげもなく露出度全開で自分の身体を押し倒した渡に押し付けている。

風呂上りか何かなのか、程よく湿った銀髪や肢体、そして自己主張の激しい豊満な双丘は彼女の格好も相まって艶やかさを増徴させて―――、

 

「つつつ士君は見ちゃダメぇ!!」

 

などと冷静に分析していたら顔を真っ赤にした歩夢に思いっきり目を押さえつけられる。

そこでようやく音羽とか言うその女は俺達の存在に気付いたのか、醜態を晒したのにも関わらず特に恥じる様子もなくそれどころか不機嫌そうにこちらに顔を向ける。俺には見えないが。

 

「む・・・・・・渡に何か用? 生憎渡の下半身事情ならあたしで間に合ってますけど」

 

「お前で間に合わせた記憶もない。・・・いいから離れろ。そして服を着ろ」

 

「ぶー。邪魔者はんたーい」

 

と文句を垂れつつも部外者に裸体を晒すつもりはないのか、素直に変態女が引き下がってゆく。

 

「・・・悪いな。見苦しいものを…」

 

「お前も大変だな・・・・・・あれが同居人か?」

 

「・・・誠に遺憾ながらな。コイツは―――」

 

「羽島音羽でーす! 渡の妻だよ!」

 

「―――登音羽。境遇が似ててな、世にあぶれた者同士ここで身を潜めてる」

 

「当たり前のように無視決め込まないで!?」

 

コイツなかなかやるな。

音速で着衣を済ませてきた登の妄言を見事なまでにスルーして見せ、渡は淡々と話を進める。

 

「世にあぶれたってどういう・・・」

 

「ちょっとー? 誰の許可得て渡に話しかけてるの?」

 

「情緒不安定かコイツ・・・」

 

渡に対する求愛行動といい歩夢に対する明らかな敵意と言い野生動物か何かなのかこの女は。

 

「アイツだけでも邪魔だってのにこんな子まで・・・」

 

「落ち着けそんなんじゃない。てか士といる時点で察しろ」

 

「やーごめんね誤解してたー」

 

「変わり身早!?」

 

恋敵でなくなれば他はどうでもいいのか、コークスクリューが如し勢いで手のひらを返した登が人懐っこい笑みで歩夢の手を取る。

かなり個性の強い奴等の集まりだった虹ヶ咲にもこの手のタイプはいなかったので歩夢も対応に困っているように見えた。

 

「それで? 世にあぶれてるってのはどういうこった」

 

「それについてはちゃんと答えるが・・・・・・先にこっちの質問に答えてくれ。どうしてお前はキバの事を知っていた」

 

「え・・・・・・?」

 

クウガの世界同様、この世界でも仮面ライダーの存在は一般に認知されているものではないのか。

渡のみならず歩夢を振り回していた登もその手を止めて俺の答えを待っている。

 

「・・・ちょっと長くなるぞ」

 

 どうせ隠すようなものでもないし、それでこの世界とキバの情報を得られるなら安いもんだ。

 そこで話した。俺の力や記憶の話、俺達や他のライダーの世界が崩壊の危機にある事、俺はそれを防ぐためにそれぞれの世界を回っている事。話せる限りの全てを。

 

『なるほど。そういう事だったか』

 

 話を終え若干空気が重くなったこの場で最初に口を開いたのは渡でも登でもなくキバットだった。

 

「どういうことだ?」

 

『この二人のライフエナジーが他の人間と異質なのが気になってたんだよ。けど別の世界から来たってんなら納得だな』

 

 ライフエナジーというのは生命が持つ魂やエネルギーのようなもので、この世界ではファンガイア等の魔族の他人間でさえこれを摂取して生きている。

 そのライフエナジーの質や循環に明確な違いがあるのがこの世界の人間ではない証拠だ。それがキバットの主張だった。

 

「・・・まあ、とりあえず。俺が飛ばされたって事はこの世界にも何かしらの危機が迫ってるって事だが・・・・・・何か心当たりは?」

 

「はい! はい! 渡があたしと合体してくれない!」

 

「それはお前の中だけの危機にしておけ」

 

『・・・・・・いや、言い方がアレなだけであながち間違ってる訳でもないんだよなぁ・・・・・・これが・・・』

 

「・・・・・・はぁ?」

 

 まさかの告白に歩夢と揃って渡の方を見やる。

 

「・・・それに関しては俺達があぶれ者な訳・・・・・・出自に関係するんだけどな・・・」

 

『そこからは俺から説明しよう』

 

渡の言葉を継いだ、キバットとはまた別の蝙蝠。

明るい体色のキバットとは違い、赤と黒の、血を連想させるそれはまるでキバットの対を成すような存在にも思えた。

 

『父ちゃん・・・・・・珍しいじゃねぇか俺達以外の前に出てくるなんて』

 

『・・・渡や音羽と同じような気配を感じたものでな。話す価値はあるだろう』

 

やたら似ているなと思ったがなるほど親子らしい。

キバットの父―――後にキバットバットⅡ世と名乗ったその蝙蝠は、雰囲気や声音の威厳に似合わぬパタパタとした羽ばたきで音羽の頭へと降り立つ。

 

『渡と音羽。此奴等は人間とファンガイアの間に生まれた混血児なのだ・・・・・・故にどちら側にも属することが出来ず、あぶれ者としてここに潜んでいる』

 

「・・・人とファンガイアの・・・・・・ハーフ・・・・・・?」

 

『出来るんだよ。現にマーマン族は人間に自分の子を宿して繁殖することもあるしな』

 

信じられないといった顔をする歩夢にキバットが補足を入れる。

この世界の人間は特殊な能力を持たない代わりに万能性を備えており、故に全ての種族との交配が可能・・・・・・続けてキバットはそう語った。

 

「・・・人間と交配する種族がいるんならある程度理解があってもいいと思うけどな」

 

『もちろんそれが出来れば一番なんだがな・・・』

 

『・・・だがファンガイアの掟はそれを許さなかった』

 

人間の社会に法律という規則があるように、ファンガイアの社会にもファンガイアの規則がある。

この世界の魔族で最強の力を持つファンガイア。故にその掟も厳しく、自分達よりも弱い種族・・・即ち人間との恋愛は固く禁じられているらしい。

 

つまりその掟を破った者達の間に生まれた渡と登は、ファンガイアにとっては存在してはいけない禁断の混血児ということになる。

 

「・・・お前等の出自は大体分かった。だがそれがどうしてこの世界の危機と関係がある」

 

『・・・代々、ファンガイアはその代で最も強い力を持つキング、ないしはクイーンいう存在が治めるものなのだが・・・・・・今はそれが不在でな』

 

「え・・・・・・どうして・・・・・・」

 

「・・・あたしが殺したから」

 

それまで黙っていた登の一言に歩夢の表情が凍り付く。

衝撃のカミングアウトを放った登からはあの耀げな雰囲気が消え、その瞳の奥には到底俺達には触れることなど出来ないだろう闇が渦巻いていた。

 

『・・・・・・出自の話に戻ろう。既に言った通り、この二人は人間とファンガイアの混血児。…しかもキングとクイーンの子と言う禁断中の禁断の存在だ』

 

「ファンガイアの王が掟を破ったってことか・・・・・・?」

 

「・・・ん? てことは二人は兄妹・・・?」

 

ふと歩夢がそんなことを口にする。

だがそんな純朴な疑問もコイツ等にとっては爆弾も同義だったのか、更に重くなった空気が圧し掛かってくる。

 

「・・・名義上はな。けど俺達に血の繋がりはない」

 

「・・・渡はキングが人間との間に作った子供。そしてあたしはクイーンと人間の間に生まれたの」

 

『・・・・・・そしてそれが悲劇を生んだ。音羽が自分以外の者、しかもよりによって人間との間に生まれた子供だと知ったキングは激怒し・・・・・・クイーンと音羽を殺そうとした』

 

Ⅱ世によると渡の父―――先代キングは支配欲が強く、自分の意にそぐわない者や気に入らない者は躊躇わず始末する奴だったらしい。

代々ファンガイアの統治はキングの独裁が主だったらしいが、渡の父の代は特にそれが顕著だったのが伺える。

 

「ひどい・・・・・・自分だってクイーンさんのこと裏切ってたのに・・・・・・」

 

『そういうもんなんだよ、ファンガイアってのは。で、怒り狂ったキングによってクイーンは殺され、あわや音羽も・・・って思われたその時だったよ』

 

『・・・・・・死が迫った極限状態により音羽はファンガイアの血に目覚め、クイーンの一族に代々伝わる暗黒の鎧の装着資格を得たことで逆にキングを殺した』

 

愛憎に塗れた大人の・・・しかも肉親の争いに巻き込まれ、結果として登はその手を血に染めた。

そしてそれは同時に、登が渡から父を奪ったということにもなる。

 

『キングとクイーンが死んだことでファンガイアの秩序は崩壊。その結果押さえつけていた奴がいなくなったことで自分がキングになろうとする奴や好き勝手やってる奴が溢れてこのザマだ』

 

つまり再び無法者のファンガイア共を統括する存在が必要ということだが、これがかなり厄介なことになってるそうな。

ファンガイアの王のシステムは人間の作った王朝と似ており、先代キングの血族か下剋上を起こしキングを倒した者が王位に就く慣習らしい。

 

つまりそれに従えば現在王座に就く資格を得ているのは先代キングの子である渡かキングを殺した登ということになるが・・・・・・、

 

『知っての通り、いくら暗黒の鎧があるとは言え音羽はキングの血を引いていない上に人間との混血児・・・・・・当然認めないファンガイアも多くいる』

 

『渡もキングの血を引いちゃいるが全てのファンガイアを統率できる程の力はまだない。コイツが音羽の暗黒の鎧と対を成す黄金の鎧・・・つまりキバの真の力を開放できてればな・・・』

 

「・・・・・・だから渡と登がくっつけば王位の正当性とファンガイア共を押さえつける力が同時に手に入る・・・・・・晴れてキングとクイーンの誕生ってことか」

 

「そういうこと。あたしはいつでもウェルカムなんだけど、渡がね・・・・・・」

 

キバット親子に登、そして俺と歩夢の視線が渡へと向く。

血筋や王位がどうとかという以前に、ファンガイアとのハーフだが渡も立派に意思を持った一人の人間。きっと誰も無理強いなどはしていないのだろうが、渡自身がそれをどう受け止めているのか・・・。

 

「・・・・・・今日はもう遅いな。部屋の空きがあるから泊まってけよ」

 

別世界から来た俺達を気遣う素振りを見せ、王位の重荷や、また別の何かから逃げるように渡が奥へと消えていく。

 

・・・・・・どうやら、この世界も一筋縄ではいかないらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・やっぱ同じ部屋っておかしいだろ・・・」

 

「まあまあ、泊めてもらえただけでありがたいよ」

 

翌朝。

警察寮があったクウガの世界と違いこちらでは泊まる場所もなかったため、お言葉に甘え通された部屋で一晩を明かした。

 

どういう訳か同じ部屋に通されたのが引っかかるが・・・・・・まあ確かに贅沢は言ってられないだろう。

 

「・・・ねえ、士君がウチに来たばかりだった頃覚えてる? あの時も―――」

 

「悪い忘れた」

 

「そんなぁ!?」

 

まあ実際は覚えているのだがこっぱずかしいしそれより優先すべきことがある。

渡がファンガイアの王になるのを受け入れない理由。昨晩の様子からしてキングとしての重荷やこんな形で登と婚約をすることに対する抵抗以外にも何かがある。

 

とはいえまだ渡に関する情報が少ない。とりあえず今日はアイツの事を調べると―――、

 

『おい・・・嘘だろ・・・。コイツ等一晩同じ部屋にいてイチャつきすらしなかったぞ・・・・・・』

 

「何呑気に鑑賞してやがるエロ蝙蝠」

 

何を期待していたのか、部屋の隅からこちらを観察してやがったキバット。同じ部屋にしてやろうとか言いだしたのも恐らくコイツだろう。

 

「あれ・・・? お客さんかな・・・」

 

俺が逃げ損ねたキバットの羽をつまんでぶん回していると、窓の外を眺めていた歩夢が訪問客の存在を告げる。

渡や登曰くたまに来る新聞業者などは居留守を使って無視をしているらしいが、歩夢の反応からしてその類ではないようだ。

 

そう思い、俺もその様子を伺おうと窓枠まで移動する。

 

『お? アイツは…』

 

「・・・あの人って・・・」

 

見覚えがあるように声を上げる歩夢とキバット。俺だけが誰か分からない。

というか、歩夢が見覚えのある人物と言えば・・・、

 

「そうだアイツ・・・」

 

そこでようやく思い当たる記憶を弾き出す。

間違いなく美人と見なされるであろう釣り目が特徴の整った顔立ちに、バレッタで纏められた長く繊細なワインレッドの髪。

 

確か歩夢達虹ヶ咲の連中の憧れであるスクールアイドルグループ―――Aqoursのメンバー・・・・・・

 

 

 

「・・・桜内梨子・・・・・・」

 

 




はい。色々と情報量が多く影が薄くなっていますがキバ編のヒロインは桜内さんです・・・コラそこ音羽とどっちがヒロインか分からないとか言わない

でまあその音羽とキバ編のライダー渡君はそれぞれファンガイアの王と女王の子供
本編で語った通り結構過去は重いです

なんでⅡ世が息子と仲良くくらしてるかは大体キバ本編でⅡ世がキングを裏切った時と同じ事が起こったと考えてください。この世界でのキバット一族はクイーンの家系に使えていた事になるので。喋り方に違和感覚えてても気にするな掴みにくいんだよ


それでは次回で


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8話 交錯・恋のジレンマ

Aqours5周年記念発表会の現地決まってヒャホホホホイしてます


 

 

 

次の世界を訪れた俺達の前に現れたのは仮面ライダーキバ―――羽島渡。

出会いがしらこそ勘違いで一悶着あったものの無事に和解し、渡達の血塗られた過去や宿命を聞いた俺は今この世界での成すべきことを探している。

 

そんな折に現れたのは俺達の世界ではスクールアイドルグループAqoursとして活動していた少女―――桜内梨子だった。

 

「あ、わた―――・・・あれ?」

 

開いた戸に笑顔を向けた桜内だったが、そこから顔を出した俺と歩夢に対し首を傾げる。

 

「・・・え? あの、すみませんここ・・・」

 

「あ、はい・・・羽島さんの家ですよ。今私達ちょっとご厄介になってて・・・」

 

家を間違えたのか或いは引っ越してしまったのかと不安になっている桜内。そして高坂の時と同じく元の世界では雲の上の存在である彼女に対し緊張気味の歩夢。

互いにどこか引けて話し合うその姿は実にじれったい。付き合いたてのカップルかコイツ等。

 

『よぉ梨子。あいっ変わらず綺麗な顔してんな』

 

「おはよキバットちゃん。おだてても今日は何もでないよ?」

 

 キバットとは面識があるのか、歩夢と比べると幾分か砕けた態度で接している。

 となるとやはり、関係性があるのは渡か。

 

『それで? 今日はどうしたってんだよ』

 

「ああうん。それがね―――」

 

『大変なんですよせんぱーい!』

 

 一人と一匹の会話に割って入る軽々しいというか、どことなくテンションが高めな声。当然歩夢じゃない。

 

『どうしましょう先輩! このままじゃ渡さん達が危ないし姉御が根暗に戻っちゃいますよー!』

 

『・・・一旦落ち着けタツロット』

 

「それより根暗って何よ」

 

 キバットがタツロットと呼んだ謎の生き物。

 一見手のひらより一回り大きいくらいの龍・・・と言った印象だが背中のルーレットのような器官は如何にも非生物的で異質に映る。

 

「・・・この世界にもか・・・」

 

ギャースカ騒ぐ珍生物共はさておき、引っ掛かるのはまた別の事。

恐らくここもクウガの世界と同じくパラレルワールドの一つ。俺達の世界と同じ人物が存在するのは当たり前のことなのだが、こうも偶然ライダーの近くに居るというのが重なるのだろうか。

 

「・・・それで・・・、渡・・・いる?」

 

「ああはい。今呼んできま―――」

 

「桜内さんじゃないか!」

 

『うげぇ!? 来たぁ!? ほら先輩隠れて!』

 

そんな俺の思索や渡の元へと向かおうとした歩夢を邪魔するかの如く第三者の声が割って入る。

そしてそれから逃れるかのようにタツロットがキバットを伴って大急ぎで物陰へと隠れるため、一体どんな奴が来るのだと視線を流してみれば―――、

 

「・・・名護・・・さん・・・」

 

「やあ桜内さん。偶然だねこんなところで」

 

桜内が名護と呼んだこの男。大体二十代くらいだろうか。

容姿は悪くないし、体格や身長も理想的なそれだろう。ただ何故かものすごく残念な匂いがする。現に桜内が少し嫌そうな顔になったことに気が付かず食事に誘っている。やっぱ残念な奴だ。

 

・・・というかコイツの声、どこかで・・・・・・、

 

「・・・この二人は?」

 

俺と歩夢の存在に気がつきナンパを止める名護。赤の他人に醜態を晒したのにも関わらず素面のままでいるのがある意味すごい。

 

「・・・あ、えぇと上原歩夢です。こっちは士君」

 

「そうか。俺は名護健介だ。よろしく」

 

そうだ思い出した。コイツ昨日の・・・、

となるとこの状況、少し不味いのではないのだろうか。

 

「それで・・・三人ともどうしてここに?」

 

とか思った傍からこれである。

桜内もそれを理解してのあの顔だったのか、証拠に今も答え難そうに頬を掻く。

 

だがここには一人、確実にそれを理解していない奴が居て―――、

 

「私達はここに泊めてもらってて・・・・・・梨子さんも羽島さんに用があったんですよね?」

 

「なに・・・?」

 

危険な地雷をピンポイントで踏み抜く女上原歩夢。しかもこれで無自覚だから恐ろしい。

そして懸念していた通りに名護の顔付きが険しいものとなり・・・、

 

「・・・・・・君達、この家には近づくのはやめたほうがいい」

 

「・・・え? なんで・・・・・・」

 

「ファンガイア・・・・・・それも飛び切り危険なのが潜んでいるとの情報だ。・・・上原君、この家の住人はどのような奴だった」

 

「あ、えぇと・・・・・・」

 

名護は言動こそ残念な奴だが恐らく仕事はできる。色々と察したらしい歩夢の誤魔化しも見破られているだろう。

 

「・・・君達、さては奴等と繋がってるな」

 

それまでと一転。面の皮でも剥いだように敵意を帯びた名護が歩夢の腕を掴みあげる。

先程の顔と今の顔、どちらが本性なのかは定かではないが。少なくとも今のコイツは危険だ。キバットとタツロットが退避したのもこれが理由か。

 

「・・・お前、何があったかは知らねぇけど少し無理矢理が過ぎるんじゃねぇか」

 

「うるさい! いいから俺に―――ッ!?」

 

制止も聞かないため、仕方なく一旦殴り飛ばして黙らせようとしたその時。

突如として名護の真上からバケツを引っくり返したような水が降りかかり飛沫を上げる。

 

「朝っぱらから人ん家の前でぎゃーぎゃーうるさい。発情期なの?」

 

「音羽さん!?」

 

訂正。本当にバケツを引っくり返していらっしゃった。

実行犯はこれまた昨日とは一変して不機嫌そうな登音羽。今最も出てきてはいけない奴が今最も刺激してはいけない奴に水をぶっ掛けたのだった。

 

「・・・お兄さん青空の会の人でしょ。穏健派のファンガイアですら始末するって言う殺戮集団が何の用?」

 

「・・・人聞きが悪いな。俺達は人々の安全のために戦っているだけだ・・・・・・人ともファンガイアともなれないお前に何がわかる」

 

「へぇ・・・・・・やっぱり知られてるんだ」

 

「青空の会の情報網を侮るな。お前だけでなくキバもここにいるのはわかっているんだ」

 

キバの名が出た瞬間に目の色が変わった登と睨み合う名護がどこからか取り出したベルトを自身に巻きつける。

やはりそうだ。コイツは昨日渡が言っていたイクサの変身者。隠れ家を調べ上げてまで強力なファンガイアの血を引く渡と登を消しに来たらしい。

 

「なんかやる気でいるけど・・・・・・渡に手ぇ出す気なら、絶滅するよ?」

 

「やってみろ。逆にお前達を絶滅させてやる」

 

《レ・デ・ィ》

 

ナックルダスターのようなデバイス―――イクサナックルを自身の手のひらに押し付けた名護を見て本気だと悟ったのか、鋭く、それでいて愉しそうに剣呑な光が登の瞳に宿る。

 

「・・・行くよバッちゃん」

 

『その呼び方は止めろと言ったはずだぞ全く・・・・・・ガブッ!』

 

飛来したⅡ世が右手に噛み付き、流し込まれた魔皇力が登の頬に浮かび上がらせたステンドクラスのような文様。

そしてそれに呼応するように瘴気が集約し、華奢な腰元に血のように紅いベルトが生成される。

 

「「変身」」

 

その声と共に両者のバックル部分にそれぞれイクサナックルとキバットバットⅡ世が合着。

 

《フィ・ス・ト・オ・ン》

 

電子的なベルトの音声と共に名護が仮面ライダーイクサとしての装甲を纏う。

キバの鎧を獣のようなそれとするならば、イクサの鎧は白い甲冑のようなもので西洋風の騎士を髣髴とさせる。

 

『人の身で音羽に歯向かうとは・・・・・・愚かなものよ』

 

イクサの白に対し、こちらは黒。

登の変身したキバと対を成す暗黒の鎧―――仮面ライダーダークキバは鎧というより魔王そのものといった風格であり、装着者の面影が全くない程の覇気を放っているようにも見えた。

 

「「ッ!!」」

 

体色も風格も正反対な二人の仮面ライダーが同時に飛び出し、衝突した剣と拳が火花を散らす。

武器の装備があるイクサに対し、その身一つのダークキバ。一見イクサが有利に見えるが―――、

 

「がぁっ・・・あぁぁ・・・・・・ッ!」

 

一瞬熱戦を演じていたように見えたイクサが弾丸の如し勢いで吹き飛んでゆく。

 

「あ、ごっめーん。ちょっと本気出しちゃった」

 

 高揚し若干上擦った声でダークキバが愉悦の笑いを漏らす。

 考えてみれば登はファンガイアの王であるはずのキングを殺して生き延びているのだ。弱いはずがないどころか、恐らくその強さは最強クラス。

 

 まだ戦い始めて十秒ほどしか経っていないが、既に確信があった。

 

 名護では、登に勝てない。

 

「手加減するからさ、ちょっとでも楽しませてよね」

 

「舐める・・・なぁッ!」

 

 怒号と共に斬り掛かるイクサだが、完全に遊ばれている。

 一応言っておくが決して名護が弱い訳ではないのだ。戦闘における一挙一動は無駄がなく洗練されたものだし、イクサの力を使いこなしていると言っていい。

 

 ただそれ以上にダークキバの力が、そして登の強さが圧倒的過ぎる。

 

「おい・・・、なんか騒がしいけど何が・・・」

 

爆音や衝撃音という閑静な住宅街を脅かす公害レベルの騒音を耳にした渡が顔を出し、その直後に絶句する。

それもそうだろう。朝っぱらから魔王とキルマシーンが自宅前で殴り合ってたら誰だってこうなる。俺なら見なかったことにして二度寝する。

 

「渡!」

 

「・・・ッ、梨子・・・」

 

しばし頭の痛そうに額に手を当てる渡だったが、桜内が駆け寄ろうとすると彼女を避けるように距離をとる。

その視線が向く先は、桜内の手の甲にある傷。

 

そこから目を離さない…いや、離せないでいる渡からは、強い自責の念と戒めのようなものを感じた。

 

「・・・どうしたんだよ。今日はまた」

 

「・・・名護さんがキバの隠れ家を突きとめたって言ってたの聞いたから、心配で・・・」

 

昨夜の様子からして渡が何か問題を抱えていることは察していたが、この反応からするに恐らく桜内絡みと見て間違いない。

 

・・・のだろうが、すぐそばでドンチャンやってる馬鹿二名のせいで正直それどころじゃなかった。

 

「あははっ! はいどーんッ!」

 

「がはっ・・・!」

 

依然戦況はダークキバの圧倒的優勢。執念で何度も起き上がっては切り掛かるイクサを心底面白そうにいなしては叩き伏せる。

壊れない程度に虐めて遊ぼう。今の登からはそんな残酷な無邪気さが表れていた。

 

「張り合いないなー。よくそんなんで過激派のファンガイア達も殺せたね。アイツ等それなりに強いはずなんだけどなぁ」

 

「うるさい・・・! 俺は―――」

 

「ま、いいや。今日のところはこれで終わりにしてあげるよ。・・・・・・ちょっとやることも出来ちゃったし」

 

ちらりと渡と桜内の方を見た登が一転して冷ややかな声を出し、腰に備わったホルダーから赤黒い笛―――フエッスルを手に取る。

 

『ウェイクアップ! ワン!』

 

キバットのそれと同じようにフエッスルを噛んだⅡ世が低めの汽笛を吹き鳴らすと共に世界が赤黒く染まり、空には沈んだばかりのはずの月が浮かび煌々と紅い光を放つ。

血塗られた夜の帳が舞い降りた、とでも言うべきなのだろうか。ともかく今ここに現出した世界は他の誰でもない、ダークキバが支配する世界だ。

 

「ちょっとおねんねしててねー」

 

「ぐべらぁッ!?」

 

高く飛び上がったダークキバが急降下を始め、その右腕に鮮血のようなオーラを纏う。

そしてその勢いのまま繰り出されたパンチは隕石が如し勢いで炸裂し、イクサの装甲ごと吹き飛んだ名護がこてりと頭を落とした。果たしてただのおねんねで済んだやら。

 

『・・・終わったんすか?』

 

『・・・・・・相変わらず半端ねーな音羽。殺してないよな・・・』

 

「手加減はしたよ。・・・それより」

 

名護のノックアウトを確認したキバットとタツロットへの返答もほどほどに登が魔王から少女の姿に戻る。

 名護をボコっていた時の高揚っぷりはどこへ消えたのか。今はむしろ不機嫌にも見える様子で声を飛ばした。

 

「そこの二人と・・・・・・あと一応梨子も。話があるからついて来て。渡はそいつ見てて」

 

 本人にその意図があったのか定かではないが、有無を言わせぬその迫力に今しがた無双を見せたダークキバが重なる。

 逆らっても勝てる気がしないし、そもそもなんの話をするのかは大体想像がつく。

 

 となれば断る理由はない。そう判断し、俺はその背を追って再び屋敷へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・渡はね、梨子の事が好きなの」

 

「へ・・・?」

 

できるだけ渡から遠ざかりたかったのか、屋敷の一番奥の部屋へと俺達を通した登。

随分と物々しい表情でいたためにどんな話を切り出されるんだと身構えていれば開口一番にこれだ。

 

「・・・・・・生憎お前の恋愛相談に乗る気はねーぞ。ドロドロした愛憎劇に巻き込まれるのは御免だ」

 

「だったら梨子までここに呼ばないよ」

 

そう言う登が梨子に向ける視線は恋敵に対する嫉妬ではないが、何かそれ以上に物悲しい何かを感じさせるもの。

まあ薄々感づいてはいたが、やはりこの渡の好意が自分に向いていると知って顔を真っ赤にしている少女がこの世界を救うカギになるらしい。

 

「渡がキングになるのを拒むのは、人間としての自分を保っていたいから。人間として梨子と一緒にいたいと思ってるからなの。・・・でも梨子といる限り、渡は人間でいられない」

 

「・・・どういうことですか・・・?」

 

「それは・・・・・・梨子に聞くのがいいんじゃない?」

 

全員の視線が向いた先で、桜内は悲し気に自身の手の甲にある傷をさすった。

最近できた傷跡じゃないのは見ればわかる。恐らくその昔に負った大きな怪我の後が消えずに残っているのだろう。

 

「・・・その傷、渡につけられたんでしょ?」

 

「羽島さんが・・・?」

 

信じ難いといった様子の歩夢だが、桜内は首肯してそれを肯定する。

初対面の時こそ俺をファンガイアと勘違いし襲い掛かってきた渡だが、あれは様々な要因が重なって起きた事。平常時の渡が人間を傷つけるとは確かに思い難い。

 

「・・・渡とは小さい頃からの幼馴染で、その時はまだファンガイアの血を引いてることも知らなかったの」

 

キングの、所謂不倫によって生まれた渡は、クイーンの子である登と違いその存在を秘匿とするために母親の手だけで育てられた・・・という話は昨夜キバットから聞いた。

自分がファンガイアの子とは知らずに人間として育ち、その間に出会った桜内に好意を募らせていったらしい。

 

「知ったのは中学生の時・・・・・・渡が私を襲ったのが切っ掛けで―――」

 

その時の渡の様子を桜内は語る。

 それは渡であり渡ではない、必死の声も届かず、ただただ桜内を求める獣。

 

 そして―――、

 

「・・・その時の怪我で、私はピアノのコンクールに出れなくなって・・・・・・渡が私の事を避けるようになったのはそれから」

 

 そういえば桜内梨子はコンクールで賞を取るほどのピアノの腕があると歩夢が言っていた記憶がある。それはこの世界でも変わらないらしい。

 しかし焦点を当てるべきはそこではない。

 

 コンクールに選ばれるという事は、桜内はそれなりに将来を期待されていたピアニストだったはずだ。

そんな彼女に怪我を負わせコンクールを辞退させたということは、極端に言えば可能性の芽を潰した、という事になる。

 

 渡が梨子を避けるのは、そこに負い目を感じているかららしい。

 

「・・・でも、そんな怪我するなんて何があったんですか・・・」

 

「・・・覚えてないの。首に歯を立てられた辺りから記憶が曖昧で・・・・・・」

 

『・・・まあ、多分思い出さねぇ方が幸せだと思うぜ・・・』

 

「お前は何か知ってそうだな蝙蝠もどき」

 

 桜内の話から推測するに、渡か彼女にしたのは何か疚しい行為ではなく吸血―――ライフエナジーの吸収だ。

 

 元々吸血衝動自体はどのファンガイアにもある本能だ。ファンガイアの血を引いている渡にもあるのは当然なのだが・・・・・・疑問なのは何故その時になって桜内に対し抑えが利かなくなる程の吸血衝動に駆られたか、という事。

 

『・・・単純だよ。梨子の事を好きだと思ってたから渡はああなったんだ』

 

 その旨を問うた俺にキバットがそう返す。

 

『・・・恋愛感情が重なったせいで眠っていた吸血衝動を呼び起こしちまったみて―だな』

 

そこは流石中学男子というところだろうか。

ファンガイアがどうかは知らないが、人間の男ならば丁度そういう感情が芽生え始める時期だ。

 

「その負い目と誰かを傷付けるのが怖くて渡が人と・・・特に梨子と関わるのを避けるようになったのはその頃らしいよ・・・・・・あたしが渡に会ったのはその後だから詳しくは知らないけど」

 

 桜内が好きだからこそ人間として彼女といたい。けれど桜内といる限りファンガイアとしての血が目覚め人間ではいられなくなってしまう。

 

 この世界の仮面ライダーを苛むのは、そんな人を愛してしまったからこそのジレンマらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ!」

 

 日を遮る狭く暗い路地で、何かが砕ける硬質な音が上がる。

 割れた植木鉢を蹴り飛ばしたその男は息を荒げ、当たり散らすように地団駄を踏む。

 

「なんで・・・なんであんな奴等と・・・!」

 

 あの男といた彼女は、見た事がないような笑顔をしていた。

 アイツは彼女を無下に扱っているのに。自分の方が、彼女の事を思っているのに。

 

「僕の方が相応しいのに・・・!」

 

「・・・アイツの事、嫌い?」

 

 闇の中から男の行く手を阻むように現れたのは、薄水色の髪を持った少女だった。

 いや、少女というよりは幼女と言った方が正しいか。季節外れに思える薄手のコートを着込み、眠たげな瞳でこちらを見つめている。

 

「誰だお前・・・!」

 

「・・・アイツが嫌いなら、いい知らせがある」

 

 その手には黒い懐中時計のようなものが握られており、表面に浮かぶ紋様は時そのものが歪んだかのような錯覚を抱かせる。

 

「・・・あなたが、キバになる」

 

《KIBA・・・!》

 

 幼女が上部のボタンを押せば、回る時計の針によって描かれた顔のような模様に塗り替わる。

 そしてそれを―――男の身体へと埋め込んだ。

 

《KIBA・・・!》

 

「う・・・ああああぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・ッッ!?」

 

 発生した黒い瘴気が男を包み込み、その姿を変える。

 

『・・・ア、アア・・・・・・!』

 

 偽りの王が、その双眸を歪みのままに瞬かせた。

 

 

 




キャラ出し過ぎて洪水起こしてる希ガス。まあ何とか纏めますよ
この世界のライダー、つまり渡は恋故に人間でありたがってますが恋する限り人間でいられなくなる可能性を孕んだ子です。自分で書いといてアレですが解決するのかこれ

そしてこの世界での敵はなんと……

一部から描けとの要望があった音羽のビジュアルはこちらとなります

【挿絵表示】



それでは次回で! イクサもちゃんといい所作るよ


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9話 アナザ-・嫉妬の果て

パソコン死んだ上に5周年発表会中止になって嘆いてます
コロナウイルスは絶版だ。


「―――ッ・・・!」

 

 空の器が満たされてゆく感覚の後に飛んでいた意識が引き戻され、胡乱な意識のまま周囲を見回したあの日。

 

 あの日が、俺という存在の過ちを決定付けた日だ。

 

「・・・梨子・・・? 梨子ッ!!」

 

 自身の膝に圧し掛かる重みを感じ、下げた視線の先で少女が横たわっている。

 暴れたのか、はたまた何かに抵抗したのか、髪や服装は乱れ、ピアニストにとって生命とも言える手は思わず目を逸らしてしまうような傷とそれによる紅に染められていた。

 

 意識の飛ぶ寸前の記憶も曖昧なまま呼びかければ程なく彼女は閉じた眼を開いたが―――、

 

「・・・渡・・・・・・?」

 

 その時の彼女は、明らかに様子が違った。

 穏やかであるもハッキリとした意思を感じる立ち振る舞いや声は見る影もない。とろんと緩んだ瞳に紅潮した顔は彼女の乱れた恰好も相まって煽情的に感じる。

 

「あは・・・、わたるぅ・・・・・・♡」

 

「梨子・・・・・・?」

 

 俺を視界に定めるや否や、抱きつくようにその身体を寄せてくる梨子。

 発展途上ながらも˝女性˝として成長しつつある彼女の身が柔らかさと共に密着し、それに呼び覚まされるように湧き上がってくる熱さが俺に悟らせる。

 

 そうだ。

 

 

 細く可憐なワインレッドの髪に隠れたうなじにぽつんと佇む二つの赤い点。

 それが歯を立てられた跡。つまり―――、

 

(俺が―――・・・!?)

 

 いつの日か亡くなった母に言われたことがあった。

 

 貴方の愛は愛する人を歪めてしまう。

 父のような過ちは、犯してほしくない、と。

 

「ッ・・・・・・」

 

 もし。

 もし母の言葉が、今目の前で起こっているこの事を示唆していたならば―――、

 

「渡・・・! わたる・・・!」

 

 違う。こんなのは梨子じゃない。

 

 

 

 俺が、梨子を歪めたんだ―――――・・・・・・、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 嫌な事を思い出す。

 思えばあの日が自分の出生―――生まれ落ちた罪を悟った日だったか。

 

 ずっと父親がいないのを疑問に思っていた。

 母親が自分を人と接触させたがらないのを疑問に思っていた。

 どうしてそれらの話をする時、母親が悲しそうな顔をするのか疑問に思っていた。

 

 その全てが繋がったのがあの日だ。

 

 全ては自分が、羽島渡が人とファンガイアの間に生まれた存在だから。

 

「・・・しみったれた顔してんなオイ」

 

 寂れた音と共に扉が開かれ、先程音羽に連行されていった仮面ライダーディケイド―――士が顔を出す。

 

「昔の事でも思い出してたのか?」

 

 被さった埃を払って椅子に座り込んだ士の言葉に、音羽によって過去が語られたことを理解する。恐らく梨子にも知れてしまったのだろう。

 

「・・・聞いたんなら話は早いだろ。俺はアイツとはいられない・・・いちゃいけないんだ」

 

「ピアニストとしての未来を奪ったからか? だったら心配すんな。とっくに治って復帰してるって話だ。気にする事ぁねぇだろ」

 

「・・・・・・それだけならまだよかったのかもな」

 

 勿論それで済む話でもないが、言った通りそれだけだったならば渡は梨子を避けるようにはなっていない。

 その裏にはもっと―――、

 

「・・・・・・キバットが何か言ってなかったか?」

 

「・・・襲われた後の記憶がないってのをはぐらかしてたが、そのことか?」

 

「・・・アイツなりの気遣いか・・・」

 

 呆れ気味に溜息を吐くが正直に言うと有難かった。自分とキバット以外・・・特に梨子には知られたくなかった事だ。

 だが士には話すべき―――そんな気がした。

 

「・・・俺の父親、先代キングのヴァンプスファンガイアには他のファンガイアにはない能力・・・ライフエナジーを擦った相手を自分に惚れさせる力があったんだよ」

 

 俗にいう催淫能力とか言うやつだ。しかもヴァンプスファンガイアのそれは尋常ではない程の効力があり、一度その力を行使すれば自身が解除するまで永遠に相手を掌握することが出来る。

 ファンガイアの王にまで登りつめたのにもその力が一役買っているらしい。

 

「母さんがファンガイアの子を身籠ったのもその力にやられたからだ・・・・・・そして俺が生まれた」

 

「・・・・・・なるほどな、大体分かった」

 

 士も気を遣ったのか、苦悶の顔で自白する渡を制する。

 

「・・・お前はそのヴァンプスファンガイアとやらの息子・・・・・・親父の催淫能力まで受け継いじまったってことだろ」

 

 代わりに述べた士に対して首肯する。

 父から受け継いでしまった催淫能力。そしてファンガイアとしての衝動が引き起こした梨子への吸血行動。

 

 そこから導き出される結論は士にも想像に難くないだろう。

 

「・・・俺が梨子を歪ませたんだ」

 

 あの日あの場所あの瞬間の梨子は梨子であって梨子でなかった。

 ピアニストとしての将来を奪われるかもしれない傷を気にも留めずに渡へ身を摺り寄せる痴態。自分がああさせたんだ。

 

「惚れた女の気ぃ引けてんだ。悪い気はしねぇんじゃないのか」

 

「そうじゃないんだよ!」

 

 冷やかし気味に言った士の言葉を強く否定する。

 確かに自分は梨子が好きだ。ずっと傍にいたいしなんなら自分のものにしたい。

 

けれど梨子といる限り渡が人間でいられないのと同時に、渡といる限り梨子も本当の桜内梨子ではいられなくなるかもしれない。

 

「・・・俺が近くにいると俺の好きな梨子がどんどん壊れてく。・・・それが怖いんだよ。俺がファンガイアになること以上に、梨子が梨子じゃなくなるのが」

 

 誰にも、キバットや音羽にすらも語っていない心情を吐露する。

 惚れた幼馴染一人のために人間である事も、ファンガイアであることも選ぶことも出来ない。覚えるのはいつもそんな情けなさばかりだ。

 

「・・・・・・だから逃げ続けてんのか? 人間とファンガイア、両方の自分から」

 

「・・・じゃあどうすりゃいいんだよ」

 

 優柔不断だと言うのならそれも間違ってはないないのかもしれない。実際迷いのあまり何者にもなれていないのは事実なのだから。

 

 人間としての道、そしてファンガイアとしての道。どちらを選んだにせよ耐え難い苦悩や後悔は付き纏ってだろう。

 

 そんな葛藤に答えたのは、意外な声だった。

 

「・・・・・・だったらその両方を選ばなければいいだけの話だ」

 

 第三の声が会話に割って入り、視線を流せば先程音羽に昏倒させられた名護がダウン復帰を遂げているのを確認。

 イクサの鎧越しとは言えダークキバの攻撃を受けてよくこれ程早く回復した・・・・・・という驚きもあるが、それ以上に別の違和感を覚える。

 

「・・・聞いてやがったのかテメェ」

 

「お前達が勝手にベラベラと話してくれたからな。・・・・・・おかげで調子が狂った」

 

 そう言うと名護は身体を起き上げ、一瞬だけ渡の方を振り返った事以外は特に何事もないかのようにこの場から立ち去ろうとする。

 

「・・・お前、キバを倒しに来たんじゃなかったのか? 目の前にいるぞ」

 

 渡の抱いた疑問と同じ事を士が口にし、名護が歩み始めていたその足を止める。

 名護はファンガイアを撲滅する組織の一員であり、ここに来たのもキバを滅するためだ。ダークキバである音羽の正体を看破していた以上、渡の事も知らないはずがないのだが・・・・・・、

 

「・・・ずっと思っていた。ファンガイアなど血も通っていないような情の欠片もない野蛮な存在だとな。今だってその事に変わりはない」

 

 梨子に聞いた話だが、名護は過去に家族を殺された恨みからファンガイアの撲滅に身を捧げているらしい。

 しかしそんな彼が今渡に向けるのは、敵意や憎悪とは違った感情―――、

 

「・・・・・・だが、今のお前はそうとは思えん」

 

「ッーーーー!!!」

 

そう言い残し、名護が部屋を去ろうとしたその瞬間、重なった高い悲鳴が空気を揺らす。

 

「なんだ…?」

 

身構えた名護より速く、外へと飛び出した渡と士が見たものはーーー、

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

 

悲鳴を聞きつけ、咄嗟に飛び出した俺達が目にしたもの。それはこの屋敷を取り囲うように発生した大量のファンガイアの群れだった。

 

「渡……?いきなり何のつもり……?」

 

そしてそれとは別に意識を引くのはダークキバに変身した登が対峙する一際異彩を放つファンガイアらしき怪物。

 

赤を基調としたステンドグラスのような紋様はファンガイアと同じだが、人形をした蝙蝠のような風貌、何より漂う気配がそうではないと物語っている。

 

一言で言い表すならばファンガイア化したキバ……だろうか。

 

「渡!渡ってば!!」

 

不可解なことは続く。

ファンガイアの群れを捌きながら登が呼び掛ける先はそのキバ擬き。登のみならず歩夢と桜内までもがあの怪物がキバであるかのような反応を示している。

 

「なぜキバが……!?」

 

名護さえも御多分に漏れずキバ擬きと本物のキバである渡を交互に見回している。

どういうことか、あれを仮面ライダーキバではないと認識できているのは俺と渡だけらしい。

 

「渡……?」

 

『桜内さん……あぁ…!』

 

「っ…! キバット!!」

 

桜内の存在を認知した途端に彼女へと向かい始めたキバ擬きにさすがにマズイと感じたか、渡が呆けていた蝙蝠擬きを呼び寄せ自身の手に噛みつかせる。

 

『ガブッ!』

 

「変身!」

 

キバの鎧を纏った渡が一直線にキバ擬きへと突撃。そのマッシブな身体から繰り出されるタックルが赤い怪物を撥ね飛ばす。

 

「え…、渡…?」

 

「うそぉ!? 渡が二人!?」

 

本物のキバが現れてもなお見分けがつかないのか、驚きの声と共に困惑した顔を浮かべる女子三人。

そんな彼女達の視線を受けながらも、渡は桜内を襲わんとした奴に対して低く問うた。

 

「なんだお前……!」

 

『キバ……、ウアァァァァッ!!!!』

 

「ッ……!?」

 

桜内に対し何か反応を見せたと思えば、今度はキバに対し何やら憤慨するように襲い掛かるその偽物。

その怒号に呼応するかのように群れていたファンガイア共までもがキバへと突進を開始する。

 

「「くっ……!」」

 

《KAREN RIDE》

 

《レ・デ・ィ》

 

それを見て俺と名護がベルトを巻くのは同時だった。

 

《DECADE!》

 

《フ・ィ・ス・ト・オ・ン》

 

あの偽者は渡に任せるとし、俺達がやるべきは群がる雑魚の処理。

問題はあのバーサーカー名護が素直に動いてくれるかだが……、

 

「む……貴様も俺達と同じ力を……」

 

「……おいおい、ここでやりあうのは勘弁だぞ」

 

「お前もファンガイアなのか?」

 

「寝言は寝てから言えアホ。いいから手伝え!」

 

「お前が手伝うんだ!」

 

一応杞憂で終わってくれたのか、キバを襲うことなくファンガイアへと斬り掛かる名護。

とりあえず仲間割れのような事態にはならず一安心。その後に続いて俺もライドブッカ-を握り直す。

 

「ハアッ!」

 

『ガァ…!』

 

煌めいた剣閃がファンガイアの体表を切り裂き火花を上げる。

背後ではイクサがイクサカリバ-。ダークキバに至ってはその拳のみでものの一撃のもとに敵を粉砕していくのが伺えた。

 

「何か変…、コイツ等生気を感じない……」

 

そう最初に口にしたのは最もファンガイアに近い存在である登だった。

彼女の言葉の通り、このファンガイア達はただ突っ込んで来るだけの木偶に等しい。

大挙として押し寄せてくる分厄介でこそあるものの一体一体があまりにも大したことがないためにこの人数ならばなにも苦ではないのだ。

 

規格外の登とファンガイアキラーの名護がいることを加味しても、手応えが無さすぎるのだ。

 

「まさかコイツ等あれに操られて……」

 

「があぁっ……!!」

 

その原因として考えられる対象に視線を飛ばしたその瞬間、弾き飛ばされたキバが俺達の足元まで転がってくる。

 

『何でお前なんかに……! 桜内さんには僕が…!』

 

「お前なに言って……」

 

『ドッガハンマー!』

 

フエッスルの汽笛で召喚した巨大なハンマーを掴み、装甲を纏うと共に得物をぶん回しては偽物へと殴り掛かる。

 

「はああぁぁッ!!」

 

地面を抉るような一撃が繰り返しに打ち込まれ、この度に衝撃音が空気を揺らす。

そして遂にその攻撃が奴へと到達しようとしたその時ーーー、

 

『フゥッ!』

 

「ッ……!? 何……?」

 

突如ドッガハンマーがキバの手を離れ、掲げられた偽者の手の中へと吸い寄せられるように収まる。

そしてそのまま、ドッガフォームの解除されたキバへと振り下ろされーーー、

 

「がッあぁぁぁ……!!」

 

ドッガハンマーの重量に軽々とキバを撥ね飛ばす力が加わり、轟音と共に赤い蝙蝠が地面に打ち付けられる。

 

「くそっ…!」

 

『バッシャ-マグナム!』

 

『フフ……』

 

昨晩俺がやったように距離を取ったキバが銃を手に牽制を試みるが、またもその得物は偽者の手へと渡る。

 

「渡ッ……!」

 

動揺と奪われたバッシャ-マグナムから撃ち出される気砲の雨に翻弄される渡を見かねたか、相手取っていた雑魚をまとめて粉砕した登がその攻撃対象をキバ擬きへと変更。その腕に闇を纏わせる。

 

「何のつもりかは知らないけど、渡の真似するなんていい度胸じゃん…………絶滅するよ?」

 

釣り上がった双眸が狂気すら孕んだ光を放ち、湧き上がる殺意を全てぶつけるかのようにダークキバが奴へと肉薄。

 

「ハアァァァッ!!」

 

『ゴッ……バァッ……!?』

 

腕に収束されていた闇のエネルギーは瞬く間に膨れ上がり、ボディブローの炸裂と同時に奴を巻き込んでは爆ぜる。

しかもどういうことか。霧散し切らなかったエネルギーは奴の背後でキバの紋章を形取ったと思えば、トランポリンのようにその身体を跳ね返した。

 

『ウェイクアップ! ワン!』

 

蹴り飛ばす度に紋章によって奴の身体は跳ね返り、再び一撃をもらって弾け飛ぶ。

そしてもはや気の毒にすらなる程にダークキバのコンボが叩き込まれた後、一際大きく蹴り上げられたキバ擬きが闇の世界へと誘われる。

 

「ラアァァァァァァァッ!!!!」

 

『ウアァァ…………ッ!!』

 

落下する奴に無慈悲な正拳突きがめり込んだ瞬間に勝負が決した。

爆発を起こして落下した後にその身体から障気が巻き起こり、やがて霧散し姿を現したのはーーー、

 

「ぐっ……うぅ……!?」

 

「人間……?」

 

「え……」

 

渡に登、名護の視線はそのキバ擬きの正体である若い男へと向くが、俺と歩夢が意識を持っていかれたのは別のものだった。

男の傍らに転がった、黒い懐中時計のようなもの。

それは俺達の世界で、優木せつ菜と中須かすみを怪物へと変えたーーー、

 

「……やられたの?」

 

かつん。

ファンガイア共の呻き声が満たすこの世界の中でも、その音はハッキリと耳を打った。

 

「…お前……」

 

場の空気を変える雰囲気を伴って現れた淡い空色の髪を持つその少女。

あの時計を確認した時点でもしやとは想っていたが、彼女の服装や髪飾りは優木と中須を連れ去った男のそれと一致する。

 

「あの野郎の仲間か…?」

 

「あの野郎……、ラルクのこと?」

 

俺の問いに眠たげな瞳で答える少女。

アイツのような明確な悪意こそ感じないものの、その得体の知れない気配に油断はならなかった。

 

「……仲間かは知らないけど、私もアイツもタイムジャッカーなのは同じ」

 

「タイムジャッカー……?」

 

「……そう。私はタイムジャッカーのフィル」

 

フィルと名乗った彼女はすぐに俺達への興味をなくしたかのように身体の向きを変え、男の傍に歩み寄っては懐中時計ーーーアナザ-ウォッチを拾い上げる。

 

「もう一回……あの力を……!」

 

「……当然」

 

懇願する男に対し起伏の乏しい笑顔を作ると、ウォッチを起動するように上部ボタンを押す。

 

「……今はあなたが…、キバだから…」

 

『KIBA……!』

 

「う…………アアアァァァァッ……!!』

 

フィルがそれを男の身体に埋め込めば、瞬く間に男は怪物へと変貌する。

しかもそいつは、たった今登が撃破したばかりのキバ擬きだったのだ。

 

「え…、何で……!?」

 

「ぐっ……!」

 

《イ・ク・サ・カ・リ・バ-・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ》

 

倒したばかりの敵の復活に戸惑いを見せる登に代わり、今度は名護がイクサカリバ-で奴を襲撃。

だが爆破した直後には再びフィルによってウォッチが埋め込まれ、キバ擬きは復活してしまう。

 

「……無駄。あなたたちにアナザ-ライダーは倒せない」

 

「アナザ-…ライダー……?」

 

フィルの口にした単語に首を傾げる。

それがキバ擬きや虹ヶ咲のメンバーが変貌させられた怪物の総称であることは容易に想像できる。

 

となると差詰め、奴はアナザ-キバとでも称したところか。

 

「大体わかった。……要はキバの偽物ってことだろ」

 

「……偽物なんかじゃない。今から本物になる……そいつを消して」

 

「はぁ……?」

 

一切表情を変えずに放たれたフィルの一言に対しての返しがずすんと空気を重くする。

声の主は言わずもがな登音羽。本物を消す……つまり奴等の目的は渡だ。そうなればこの女が黙っている訳がない。

 

『ウェイクアップ! スリー!』

 

Ⅱ世に三度フエッスルを噛ませ、現出した深淵の闇は先程アナザ-キバに叩き込んだものとはエネルギーの質が違った。

ダークキバから放たれる障気に触れた歩夢と桜内は途端に顔色を悪くし、ふらつきだしたことからその闇の濃度が伺える。

 

「なんでアンタがここでこんなことしてるかは知らないけど……、判決なんか下す必要もない…………死ね!!」

 

吹き荒れた怒号の直後、激しい衝撃波を伴った黒閃がフィルへと迫る。

直撃すれば致命傷どころか肉体すら消し飛びかねないその攻撃を前に、フィルはただ手を翳しーーー、

 

「……邪魔」

 

カチ。

そんな擬音が聞こえたかのような錯覚を覚えた。

 

「え…」

 

ダークキバの一撃は静止していた。

フィルに到達する寸前、まるでそのまま凍りついたかの如く。

 

「ッ……!」

 

そして遅れて気付く。

攻撃だけじゃない。登や渡、俺といった、この場のフィルとアナザ-キバを除く全てのものが停止していることに。

 

そうだ。これは出発の日にも見た時を止める力。

となるとやはり、コイツはあの男と同じ……、

 

「……あなたはいらない」

 

くるりと反された手のひらの動きに準じ、推進力を奪われた黒閃がその進行方向を反転させる。

直後に再び時間は動き出し、一閃が向かった先はーーー、

 

「あぅっ……あぁぁぁぁぁぁぁッ……!?」

 

「音羽……!!」

 

ダークキバの一撃がダークキバを貫き、変身前の少女としての姿に戻った登が地を舐める。

 

「この……!」

 

「……あなた達ももういい」

 

キバが低姿勢のまま地面を蹴るも、フィルによってまたしても時間が止められてしまう。

 

「……早く倒して。手間が省ける」

 

『わかってる……キバァァァァッ!!』

 

猛るアナザ-キバが奪い取ったドッガハンマーを振り回し、動けないキバやイクサ、俺までもを重い衝撃をもって殴り飛ばす。

立て続けに俺達を変身解除に追い込み、いよいよトドメを刺そうとーーー、

 

『あぁ……!』

 

「え…」

 

アナザ-キバが足を向けた先はーーーなんと桜内梨子。

渡への言葉で薄々勘づいてはいたが、やはり狙いは桜内だったか。

 

「……あとは好きにしていい」

 

奴にアナザ-ライダーの力を与えた際にその目的も知ったのか、一人澄まし顔のフィルが一瞬のうちに消え去る。

 

「梨子ッ……!!」

 

手の施しようのない敵がいなくなった事に対する安心感などは微塵もなかった。

一ミリも緩むことのない空気のまま、必死の形相で起き上がった渡がアナザ-キバを押さえようと立ちはだかる。

 

「梨子! 早く逃げろ!!」

 

『邪魔を……するなァ!!!』

 

だが変身していない渡の力などアナザ-キバの前では赤子同然。軽々と撥ね飛ばされ塀に身体を打ち付ける。

 

「渡……!」

 

『ぁあ……桜内さん……桜内さん…!』

 

足を止めてしまった桜内に一歩、また一歩とアナザ-キバが迫る。

 

『僕が…僕こそ君に…!』

 

「ッ……来ないで…!」

 

自身を拒絶した桜内にショックを受けたように硬直するアナザ-キバ。

だがそれも一瞬の話で、渡の方へと駆け寄ろうとした彼女を見て戦慄き始める。

 

『ハ、ハハ……、………アァァァァァァァァァァァァ!!!』

 

「きゃあぁぁぁっ!!??」

 

激昂に狂ったアナザ-キバが怒号と共に桜内へと掴みかかる。

悲鳴をあげ、抵抗を試みる桜内は意図も容易く押さえ込まれーーー、

 

「いや……離しーーーぅあッ……!?」

 

「梨子ーーーーッッ!!!!」

 

アナザ-キバの吸血牙が首筋に突き立てられ、痙攣する桜内の身体がビクビクと震える。

異変はーーーこの直後だった。

 

「梨子……?」

 

通常、ライフエナジーを吸い尽くされた人間はその色を失いやがて死に至る。

吸血牙の離れた桜内にその様子は見られないが、代わりにどうしてか、その目の光が失われ虚ろな状態でいた。

 

『ふふ…………あはははははッッ!!』

 

コロコロと情緒の変わるアナザ-キバが次にあげたのは愉悦と勝利に震える笑い声。

 

『これで……桜内さんは僕のモノだ…!』

 

「なに…?」

 

アナザ-キバの言葉の意味を理解したのはそのすぐ後。

あれだけ抵抗を見せていた吸血をされた瞬間に一変、自らアナザ-キバへと向かい、身を寄せたのだ。

 

「まさか……!?」

 

「渡の能力を……?」

 

説明をつかせるとしたらそれだろう。

そもそもな話として、アナザ-キバは仮面ライダーキバの能力をコピーもしくはそれ以上の力で獲得している節があった。

 

そこから推察できるのはーーーアナザ-キバが渡の催淫能力までもを得たということ。

 

『行こうか……僕等だけの場所に』

 

意味深に渡を見下ろした後、桜内を抱き上げたアナザ-キバが飛び去ってゆく。

 

「梨子……」

 

登は重体。俺達もすぐには立ち上がれる状態ではなく、挙げ句桜内まで拐われた。

寂れた色の空の下、渡の掠れた声だけが残された。

 

 




前書きで言ったようにパソコン死んでスマホで執筆してるんですが進みませんダレカタスケテー

まあそれはさておき内容。アナザ-キバに渡のR18一歩手前な能力がコピーされたせいでR18一歩手前な展開に……ドウシテコウナッタ

それはそうと新キャラのタイムジャッカ-フィルちゃん。色々あってロリになったの。気になったらTwitter遡ってみてください。
ビジュアルは友人に頼んだら身に余るイラスト来ちゃったんで考えさせてください……

それでは次回で


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10話 エンペラー・王の資格

家のWi-Fiがイカれて投稿するのも一苦労です()


 

 

 色鮮やかなステンドグラスから差す陽光が壇上を照らす。

 古びた埃臭さが少々不快な障りで鼻腔を擽るが、今はそんな事些末な問題でしかなかった。

 

 今の自分には彼女がいる。

 ここが・・・自分達の城だ。

 

『はあ・・・! やっと二人きりに慣れたね・・・・・・桜内さん・・・!』

 

 支配欲の対象であった彼女の全てを楽しむように長いワインレッドの髪に触れ、その触り心地や香りを堪能するアナザーキバ。

 見知らぬ、しかも人外の者に好き勝手身体を弄られているのにも関わらず、当の桜内梨子はそれを受け入れるかのように虚ろな目を怪物に向けていた。

 

「・・・一応、まだ私もいる」

 

 自分にキバを倒し、梨子を自分のものにする事を可能にした力を与えた少女が表情には出さずとも明らかに引いている様子でこちらを見ているが、そんなものはお構いなしにアナザーキバは愛撫を続ける。

 

 そしてもうそれを見るのに嫌気がさしたか、何か言いたげだったはずの少女は踵を返し、アナザーキバに気付かれる事のないままその姿を消した。

 

「・・・気持ち悪いから、帰る。もう好きにやるといい」

 

 

 

 

 

 

 

 

『どーするんすかせんぱーい! 姉御攫われちゃいましたよー!?』

 

『だあぁ・・・! ちょっと黙ってろタツロット・・・! 今はあのキバ擬きをだな・・・』

 

『姉御の事だって重要でしょうよ! 渡さんあのままにしてていいんすか!?』

 

『その為にまずあのニセモノの正体暴こうって言ってんだろうが!』

 

 ぎゃーすか騒ぐ珍生物二匹の騒ぎ声は殆ど耳には入って来なかった。

 重い沈黙と、拭い切れない敗北感。この場を満たすのはそれだけだ。

 

「・・・結局、奴は何だったんだ」

 

 その沈黙を打ち破ったのは名護だった。

 アナザーキバという共通の敵を得たからか、今は一時的に毛嫌いしていた登や渡との協力関係・・・という感じになっているらしい。

 

「・・・アナザーライダーだよ」

 

 続けて俺が声を発する。

 アナザーライダー。最初あのタイムジャッカーが口にした時は思い出せないままでいたが、どうしてか今になって蘇った。

 

「アナザーライダー・・・?」

 

「名前の通りライダーのニセモノって事だ」

 

 あのフィルとか言うのが持っていた時計―――アナザーウォッチを起動する事でその世界と時間軸に存在するライダーの力を奪い、それを誰かに埋め込むことでそいつをその世界のライダーとする。

 

「・・・まああれだ。この世界は所謂キバの世界。だからキバの力を奪う事であのアナザーキバが誕生した訳だ」

 

 しかもアナザーライダーは本質はニセモノであり本物という事。先程の登や名護のようにアナザーキバが本物のキバに見えてしまうなどと言ったのはまだ序の口だ。

アナザーライダーはその誕生から時間が経つにつれて本物のライダーの力と歴史を侵食し、やがては完全にその全てを奪い本物として君臨する。

 

 つまり早急にアナザーキバを倒さなければ本物の仮面ライダーキバが消滅する事となる。

 

「でもどうやって倒すの!? アイツ何回ぶっ飛ばしても復活するし・・・」

 

 俺がそこまで説明すると声を上げたのは登だった。

 確かにそうだ。ダークキバやイクサによって倒されたはずの奴はその度に復活した。同じ方法で何度倒そうと無限に復活してくるだろう。

 

 だが倒す方法がない訳じゃない。

 

「・・・アイツが復活する時、あの女がアナザーウォッチを埋め込み直してただろ? あれを壊せばいい」

 

 アナザーウォッチはアナザーライダーの力の源。つまりそれを断てばアナザーライダーは存在を保てなくなる。

 

「アナザーウォッチを壊せるのは元になったライダーの力だけ・・・・・・つまりこの世界だと―――」

 

 俺に続き、その場にいる全員の視線が一点に向く。

 

「・・・・・・渡、お前だけだ」

 

 自身の怪我に包帯を巻く渡の手が止まる。

 そして硬直のまま渡が答える事はなく、その様子に疑念と微かな憤怒を抱いたらしい歩夢が詰め寄る。

 

「迷う理由なんてあるんですか? 早くいかないと梨子さんが・・・・・・!」

 

「・・・アイツを倒したらそこで渡が王位を継ぐのが確定するの」

 

 そう、答えたのは登だった。

 

「・・・どういうことだ?」

 

「・・・・・・そういえばアンタは知らないんだっけ、ファンガイアの王位継承事情」

 

「・・・お前が先代ぶっ殺したせいで王がいなくなったって話だろ。今更どうしたんだよ」

 

 デリカシー皆無発言の主である俺に歩夢からのグーパンが飛んだのを尻目に、登が静かに続ける。

 

「アイツも王位継承候補の一人なの。・・・まあてか、他にあたしと渡しかいないんだけどね」

 

先日登は俺達に言った。ファンガイアの王を継承できるのは渡のような王の血筋の者であるか、登のような王を倒した者であるかのどちらかだと。

聞く話の状況からするに後者が二人以上いたとは考えにくい。となると―――、

 

「・・・アイツ・・・・・・ブラッドファンガイアも先代の一族だから、渡と同じで王位を継げるの。渡と違って純血のファンガイアだから他の奴等からの支持もあったんだけど、行方くらませてたから継がせるに継がせられなくてね。その事もあってずっと王位の継承があやふやにされてたの」

 

「・・・で、そいつが戻ってきちまったと」

 

「そ。なんで消えたのかずっと疑問だったけど、戻ってきたってことはそういうことでしょ。・・・あそこまで梨子に惚れこんでたのは予想外だったけど」

 

 つまり端的に纏めると、桜内を攫ったアナザーキバの正体はもう一人の王位継承候補者で、桜内を助けるために奴を倒せば自動的に王の候補が渡しかいなくなる。晴れて渡はキングに、登はクイーンとなる訳だ。

 

 だがそれは、渡が最も望まない道の一つでもある。

 

「・・・なるほどな。だったら話は早い。早くあのニセモノを倒しに行くぞ」

 

「・・・お前話聞いてたのか・・・・・・?」

 

 状況を把握した直後、迷うことなく腰を上げた名護に渡が怪訝の目を向ける。

 だが名護は至って真剣な面持ちであり、その行動に異を唱える者は渡を除いてこの場にはいなかった。

 

「王位がどうとかお前が人間でいたいとか、そんなゴチャゴチャした事情は俺には分からん。だが・・・・・・」

 

 渡が俺に吐露した心境を狸寝入りで盗み聞きしていた故か、渡を見る目は既に怒りや憎悪から寄り添うような情を含んだものへと変わっていた。

 

「・・・・・・お前のような奴が王なら、人とファンガイアでも手を取り合えるかもな・・・・・・そう思っただけだ」

 

 だからお前を王にする。そう語る背中を渡に向け、奴の元へと向かうらしい名護が外へと消えてゆく。

 

「・・・何なんだアイツ・・・意味わからん・・・」

 

「そう? あたしは・・・何となくわかるかな」

 

 続けて登が至る所に包帯が巻かれた身体を擦りながら、静かな口調で名護に賛同するように前に出た。

 呉越同舟、とかいうやつか。この場においては名護も登も、そして俺達の考えは同じらしい。

 

「ねえ渡。何で私が渡の事好きになったか、分かる?」

 

 前の言葉と文脈の繋がりが見えないその問いに渡が首を捻る。

 だが登にとってはそうするのが最も適した手段だったのだろう。

 

「・・・渡だったからだよ。同じ境遇だったからとか、キバだったからとか関係ない。渡だったから私は好きになったの。・・・・・・きっとさ、梨子も同じなんじゃない?」

 

 動物同然の求愛行為よりもこうして好きを直接口にする方が恥ずかしいのか、頬に朱を差す登。

 だがその口調はむしろハッキリ言の葉を紡いでおり、彼女の伝えたい事は前々から固まっていたのを伺わせた。

 

「人間だろうとファンガイアだろうと関係ない。渡は渡だよ」

 

 そう言い残し、登もまた名護の後を追うようにしてアナザーキバの元へと向かう。

 最後にちらりと俺の方を見てきたのは後は任せたという事だろう。

 

「・・・まあ、大体そういうこった」

 

 渡が誰にも吐露していなかった心境を俺に打ち明けたのだ。だったら俺も俺なりのやり方でコイツを前に進ませるべきだろう。

 この世界のためとか関係なく、一人の˝友˝として。

 

「桜内を好きになったのはお前が人間だからか? その好きになったアイツを傷付けたくないって思ったのはお前がファンガイアだからか? ・・・・・・違うだろ。お前がお前だったから。他の何者でもねぇ羽島渡だったからだ」

 

 きっとそれは周りも同じ。登や桜内がコイツに惚れたのも、名護が感化されたのも、渡が渡だったから。

 人間だとかファンガイアだとかは関係ない。渡が渡だったから惹かれたのだ。

 

 それに気が付いていないのは、もうコイツだけだ。

 

「・・・・・・人間だのファンガイアだの言う前に、お前がお前であることを忘れるな。そういうことだ」

 

 けどそれは誰かに教えられるのではなくコイツ自身で気付くべきこと。

 だから俺達に出来るのはせいぜいその手助けだ。

 

「先に行ってるぜ。・・・・・・待ってるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・なんなんだよ揃いも揃って・・・」

 

 士達までもが去った部屋の静けさに渡が絞り出すように零した声が溶け込んでゆく。

 

「・・・・・・それじゃダメなんだよ・・・。それじゃ結局梨子が・・・・・・」

 

『そうですかねぇ・・・?』

 

 俯くばかりの渡に掛かる気の抜けるような声。

 目線を横にずらせばタツロット。元は渡の血筋の件族だったはずなのに何故か桜内に付き従っているドラン族。

 

『姉御、たまにボクに言うんすよ。自分が渡さんを変えちゃったって、苦しめてるって』

 

「え・・・?」

 

 渡が声を漏らす。

 知り得なかった・・・いや、知ろうともせずに避けていた彼女の感情に。

 

「なんでアイツが気に病んでんだよ・・・・・・あれは俺が・・・・・・!」

 

『確かに渡さんが起こした事だし、向き合わなきゃいけないなのかもしれませんけど、姉御は渡さん一人に背負わせたくないって、一緒に向き合いたいって言ってました』

 

「・・・・・・なんで・・・」

 

『渡さんと同じっすよ。姉御も渡さんには渡さんのままでいて欲しい。姉御が好きな渡さんのままでいて欲しいんですよ』

 

 それが桜内の願いであり、選んだ道だとタツロットが続ける。

 

「・・・怖くないのかよ・・・・・・また襲われるかもしれないんだぞ!? あの時以上のことになるかもしれないんだぞ!?」

 

『・・・んなこたぁ梨子にはどうでもいいんじゃないのか?』

 

 葛藤する渡にさらりと告げたのは、最も長く渡に寄り添ってきた相棒だった。

 

『お前が梨子を好きだからこそアイツから離れたなら、梨子はお前が好きだからこそ一緒に向き合う事にしたんだよ。・・・でもお前がしたのは逃げだ。このままウジウジ逃げてても何も変わんねぇんだぞ』

 

 一句一句が刺さる。

 その指摘は何も間違っちゃいなかった。・・・・・・きっとこの現状も逃げた結果だ。

 

『何を選ぼうが苦しむことに変わりはねぇんだ・・・・・・だったら自分の心に従え』

 

 この生まれが故にこれまで苦しんできたし、それはきっとこの先も付き纏ってくるだろう。

 犯した罪だって、それから逃げ続けてきた過去だって消える事はない。

 

『その上で聞くぞ。お前は、人間でもファンガイアでもない羽島渡自身はどう思ってんだ。何がしたい』

 

 けど、もし許されるなら。

 それでも彼女が自分と向き合ってくれるというのなら。そんな彼女と手を取り合う事が許されるのなら。

 

「・・・・・・なあ、キバット」

 

『・・・なんだ?』

 

「・・・王になれば、ファンガイアの掟ってのは変えられるのか?」

 

 沸き立つ感情のままに漏れ出た問いかけ。

 その確かな欲混じりの問いにキバットはにんまりと口角を吊り上げ、いつものような陽気な声で答えた。

 

『・・・いくら王でもそう簡単にはいかねぇだろうな。・・・けど、出来ねぇ事じゃねぇ』

 

 それが聞ければ十分だった。

 

 正直迷いや恐怖が消えた訳じゃない。今やろうとしていることが正解なのかすらも分かりやしない。

 

 けど行動しなければ何も変わらない。相棒がそう背中を押してくれたから。

 

―――――・・・・・・だったらその両方を選ばなければいいだけの話だ

 

 ずっと、人間かファンガイアかのどちらかを選ばなければならないと思っていた。

 

―――――同じ境遇だったからとか、キバだったからとか関係ない。渡だったから私は好きになったの

 

 ずっと、この生まれ以外に価値などないと思っていた。

 

―――――・・・・・・人間だのファンガイアだの言う前に、お前がお前であることを忘れるな

 

 けれど、それだけじゃないと気付かせてくれる仲間がいたから。

 

「……不甲斐ないままだし、多分この先もずっとそうだとは思うけどさ・・・・・・俺に力を貸してくれ」

 

『・・・上等だ。男なら愛する女のために王座くらいものにしてやろうぜ!』

 

 支えてくれる仲間が、愛した人が前に進む力をくれたから。

 もうそれから逃げたりしない。そんな決意が、渡をその者達の下へと駆り立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《SLASH!》

 

「・・・式場たぁ、また悪趣味なモンだな・・・」

 

 斬撃音、打撃音、そして怪物の悲鳴が上がる度に煌びやかに装飾の施されていたであろう協会が破壊されてゆく。

 そんな阿鼻叫喚の中、純白の衣に身を包んだ桜内はなおも虚ろな目を虚空に向けていた。

 

『なんで・・・・・・なんでまだ僕を見てはくれないんだ・・・!』

 

「キバキバと固執しといて結局渡の力盗まないと何もできない奴なんか誰が好きになると思ってるの?」

 

『・・・黙れ・・・!』

 

 周囲のファンガイアを粉砕しつつ挑発を入れる登に苛立ちと自尊心からアナザーキバが怒号を撒き散らす。

 キバから奪ったドッガハンマーを掴み取ると共に床を蹴り、怒りのままにダークキバへと殴りかかった。

 

『キングを倒した程度で調子に乗るな・・・! ファンガイアの血を穢した忌み子のくせに・・・王の僕を馬鹿にするなァ・・・!』

 

「ほう・・・貴様如きが王を名乗るか」

 

『ガッ・・・アァァ・・・!?』

 

 得物を振り上げたアナザーキバの背後からイクサが斬り掛かり、短い悲鳴と火花が上がる。

 

「笑わせるな。王とは誰かのために悩み苦しめる者・・・アイツのような者だ。己の都合でしか考えられず、剰えはその為に彼女を縛る貴様に王の刺客などない!」

 

『うるさい・・・・・・うるさいうるさい!!』

 

 またも自分を・・・しかも人間である名護に否定され、またもアナザーキバが憤慨を見せる。

 だが欠けてゆく冷静さとは裏腹にその力は増大してゆき、ドッガハンマーの一振りの下に二人のライダーを薙ぎ払う。

 

「・・・コイツ強くなってる・・・」

 

「・・既にそれだけの力をキバから奪っているということか・・・!」

 

「・・・・・・どけッ!」

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《DE・DE・DE・DECADE!》

 

 

 距離を取ったダークキバとイクサの間を縫うように連なったカードの列が伸び、それらを突き破りながら猛進する俺のディメンションキックがアナザーキバへと肉薄。

 だが奴はまたもドッガハンマーの一撃でそれを跳ね除け、直後に放った飛び蹴りで逆に俺を吹き飛ばす。

 

『僕が・・・僕が王なんだ・・・! この力がその証拠だ!』

 

「・・・盗んだ力のくせによく言うぜ。中身のない力のハリボテに隠れて虚勢張るのがそんなに楽しいか」

 

『黙れェェッ!!』

 

 盗んだ力とは言え強力なことに変わりはない。激昂のままに撃ち出されたバッシャーマグナムの銃弾がキバ以上の威力で土手っ腹を打ち抜く。

 想像以上の痛みに体勢を崩すが、意地で踏ん張りライドブッカーの引き金を絞る。

 

 その狙う先は―――、

 

『なにを・・・?』

 

「教えてやるよハリボテの王・・・・・・真の王の姿ってやつを」

 

 罰当たりにも教会の扉を錠ごと打ち抜く。

 俺達は裏口からの奇襲だったが、アイツは正面切って突っ込んでくるはず。そう確信があった。

 

「・・・・・・そうだろ、渡」

 

 直後に留め金の破壊された扉が蹴り開かれ、差し込んだ光を背負って駆け込んでくる少年が一人。

 その顔にこれまで映っていた憂いはなく、彼をその場に立たせる程の揺るがぬ覚悟が窺い知れた。

 

「・・・遅いぞ。それでも王となる者か」

 

「・・・・・・ま、主役は遅れてくるっていうもんね。けど、お膳立てした分はきっちり決めてよ、渡!」

 

 俺のみならず、名護も登も信じ切っていた面持ちを見せ、驚く者はこの場にはいなかった。

 ただ一人、アナザーキバを除いて。

 

『キバ・・・・・・ああぁぁぁッ!!』

 

 焦燥や苛立ちに飲み込まれた偽りの王がヒステリックな声を散らす。

 だが渡は奴を意に介す様子を見せず、ただ一点、彼をここまで駆り立てたであろう少女を見つめた。

 

「・・・・・・キバット」

 

『任せとけ・・・・・・ガブッ!』

 

 迫るアナザーキバと衝突する本物の仮面ライダーキバ。

 アナザーライダーの性質上力ではアナザーキバが上回っているはずなのに、何故だかキバが押しているように見える。そう思わせる程の何かがあった。

 

『なんで僕の邪魔ばかりするんだよ・・・! なんで僕にないものばっかりお前が手に入れるんだよ! 王座も桜内さんも、お前さえいなければ僕のものだったのに!!』

 

 登によれば、アイツ―――ブラッドファンガイアは本来王位を継ぐはずの予定だったらしい。

 だが登にキングが殺され、その後にキングの血を継ぐ渡の存在が明るみになり、今はうやむやになっているそうな。

 

 そこは多少なり同情しない事もないが・・・・・・奴が王になり得ることはないだろう。

 

『・・・足りねぇよ、お前じゃ。王の器ってやつがな』

 

『キバット族の分際で偉そうに言うなァァァッ!』

 

「おっと? それはあたし達全員思ってる事なんだけどなぁ~?」

 

 鬱憤を晴らすように突き刺さったダークキバの蹴りにアナザーキバの状態が逸れる。

 続けイクサの振るった長剣が胴を切り裂き、仮面の下から名護が言い放った。

 

「人間だのファンガイアだのと種族で優劣を決め、気に入った女ですら束縛し支配しようとする貴様と、誰であろうと分け隔てなく接し苦しめる羽島・・・・・・どちらが王かなど考えるまでもない」

 

「あっれー? ちょっと前までファンガイアは殺すとか言ってなかったかなー?」

 

「憎悪が消えた訳ではないぞ限界女。皆殺しにするのと信頼に足る王に統治させるか、どちらが合理的か考えたまでだ。・・・・・・なんなら貴様だけここで倒してもいいんだぞ?」

 

「お? 何? また恥かきたいの?」

 

「・・・いいだろう。その舐め腐った態度叩き直して―――」

 

『僕を無視するなァ!?』

 

 時と場合を考えずにまた衝突しかけた登と名護にアナザーキバが怒声を浴びせかける。

 大きく上下する肩は自尊心を逆撫でされ余裕がなくなっているようにも見えた。

 

『大体! そいつは力や衝動の制御が出来ないだろ! そんな奴が王だなんて誰も認めない!』

 

 自ら己の器の小ささを示すようにアナザーキバが渡へ吠える。

 だが奴の目論見に反し渡が狼狽える様子を見せる事はなかった。

 

「梨子・・・・・・ごめん」

 

 小さく呟いた渡の声に、虚ろなまま俺達に反応を見せなかった桜内が初めてその方を向く。

 渡の声が、渡だからこそ届き得た。つまりはそういう事。

 

「・・・・・・自分勝手だったんだよな、俺。傷付けるとか歪ませたくないだの言って、結局全部俺のエゴ・・・俺の好きなお前じゃなくなるのが嫌だっただけだ。自分の都合しか考えてなかった。・・・・・・お前の気持ちも考えないで・・・・・・ごめん」

 

 アナザーキバを倒せばすぐにでも催眠は解けるだろうが、まず渡が選んだのは語り掛ける事だった。

 それが渡なりの謝意。自分の過ちを受け止め、前に進むことなのだろう。

 

「・・・・・・だからもう逃げない。こんな事言うのは都合がいいのは分かってる・・・・・・けど、お前が許してくれるなら・・・まだ俺に寄り添ってくれるなら・・・・・・・・・・・・俺はお前と一緒に歩きたい」

 

 その上で己の望みを語る。

 封じ込めていた自分を曝け出し、本当の意味で桜内と向き合うために。

 

「これがその為の試練だってんならいくらでも乗り越えてやる・・・・・・それが王だろうとな」

 

『その意気っすよ! 渡さーん!』

 

 覚悟を固めた渡の下へ場違いな陽気な声で飛来するタツロット。

 しかし声の雰囲気とは裏腹に弾丸が如き勢いでキバへと迫り―――、

 

『テンション、フォルテッシモ!!』

 

 直後、キバの鎧の至る所に巻き付いていた鎖が砕ける。

 肩や右足と、鎖により封じ込められていた鎧が開花するように解放され、やがてヘルズゲートより放出された黄金の蝙蝠の群れがキバの全身を包む。

 

『タツロット・・・・・・お前・・・!』

 

『へへ・・・・・・ドラマチックにいきましょう!』

 

 眩い光の収束と共に紅蓮の炎がキバの背後で広がり、真紅のマントとなりてはためく。

 陽炎の中にその姿を見せたのは、荘厳なる皇帝だった。

 

 

 黄金のキバ―――――エンペラーフォーム。

 

 

『な・・・あぁ・・・・・・!?』

 

「ッッ!!」

 

 ダークキバ―――暗黒の鎧と対を成す存在へ覚醒を遂げた渡を前に狼狽えるアナザーキバキバへ一直線に突っ込む黄金の影。

 それは前の苦戦の影など微塵も見せぬ勢いのまま炸裂し、偽りの王を一撃で吹き飛ばす。

 

「ハアァァァァァァァァァッッ!!!」

 

『グ・・・アアァァァァァァァ・・・・・・!?』

 

 いつの間にか握られていた黄金の剣―――ザンバットソードが煌き、次の瞬間にはアナザーキバの胴を深々と掻っ捌く。

 覚悟が呼び寄せた力か、寸刻前の猛威が嘘のようにものの二発で奴を圧倒していた。

 

『認めない・・・僕はお前が王だなんて認めない・・・・・・人間にもファンガイアにもなり切れない出来損ないがァっ!!』

 

「・・・・・・関係ねぇよ」

 

 アナザーライダーとしての力でザンバットソードを奪おうと試みるも、王たる資格のない奴はその剣に触れることすらも叶わない。

 嫉妬も、歪んだ愛も、空虚な力も、その全てを否定するように皇帝の剣は奴を切り裂いた。

 

「人間だとかファンガイアだとか関係ない。俺は俺だ・・・・・・俺として生きる。だからアイツの助けが必要なんだよ!!」

 

 前に踏み出したもののまだ未熟。王に相応しいのかと言われればまだ足りないものだって多くあるのかもしれない。

 けれどその決意は、黄金の鎧を目覚めさせるまでの覚悟は、きっとそういう事だろうから。

 

「梨子ッ!!」

 

 そしてその感情は伝播する。

 名護の考えを改めさせたように、登に背中を押させたように、アナザーキバの劣情と歪な愛が生み出した鳥籠へと囚われた彼女へと――――――届く。

 

「わ・・・たる・・・・・・」

 

 もう離さないと、手を伸ばした渡が抱き留めた桜内の瞳に光が宿る。

 

「・・・おそいよ・・・・・・バカ・・・」

 

「・・・ごめん・・・・・・・・・ありがとう」

 

 感情や思考が都合よく歪められようと、支配されていようと、一途な想いはそれを超えて届くものだ。

 一言で表すなら愛の力、とかいうやつだろう。

 

『・・・なんで・・・なんで何もかもアイツが選ばれて僕は駄目なんだよ!?』

 

「分かんねぇのか? ・・・まあ、お前に分かるわきゃねーわな」

 

 渡は自分の成すべき事を成した。だったら次は俺の番だ。

 この世界の仮面ライダーはもう前へと進める。後はあのニセモノを駆逐するのみ。

 

「お前は前に進もうとすることをしなかった。境遇を、不運を言い訳に悲観し続けて、進むことを諦めた」

 

 キバの隣に並び立ち、またもヒステリックに喚くアナザーキバ自身に否を突き付ける。

 コイツが恵まれていなかった事は認めてやろう。だがこんな奴に王の資格などありやしない。

 

「だが渡は違う。自分の弱さも境遇も全て受け入れて前に進んだ。人間もファンガイアも関係ない、自分自身でいるために進むことを選んだ。愛した人のために自分自身と戦える!」

 

 進む力も、愛する者すらも持ち得なかった奴は、渡から奪う事でその両方を手に入れた。だがそれは一時の空夢、虚しい幻に過ぎない。

 上っ面の力だけじゃ何も出来やしない。信じられる仲間、信じてくれる友がいるからこそ、俺達は進み続けることが出来る。

 

「それが王だ・・・・・・・・・王の資格だ!!」

 

『うるさいうるさいうるさいッ!! なんなんだよお前はッ!!??』

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」

 

 刹那、ライドブッカーから飛び出した三枚のカードが手に収まり、熱を帯びては失われていた色と力を取り戻す。

 

『まだだ・・・・・・この力があればまだぼくはァ!!!』

 

 己の敗北を突き付けられてもなおアナザーキバは抗い、手にした力を離すまいと天井を突き破っては逃走を試みる。

 しかし、奴の不幸はまだまだ続くらしい。

 

 よりによって、˝このカード˝が力を取り戻したタイミングで俺達に背を向けてしまったのだから。

 

《FINAL FOAM RIDE》

 

 

《KI・KI・KI・KIBA!!》

 

 

 

「ちょっとくすぐったいぞ」

 

「は? おいなに―――おおぉ!?」

 

 解放されたカードの力がキバをタツロットと分離させ、キバフォームに戻した上で背中に裂け目を生じさせる。

 その中へと手を突っ込んだ俺が裂けめを広げればキバの鎧が変形してゆき、やがては胴の部分をキバットに差し替えたような巨大な弓が俺の手に握られる。

 

「打ち抜くぜ・・・・・・アイツの歪んだ野望事な!」

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《KI・KI・KI・KIBA!!》

 

 

『キバって、いくぜ―――ッ!!』

 

 スロットルを引く事でキバの右足を模した矢先が展開され、溜め込んだ力の解放と共に紅い線がアナザーキバへと一直線に伸びる。

 

『がふあっッ・・・!?』

 

 その狙いは寸分違う事なくニセモノの身体を打ち抜いて撃墜させるが、これでは終わらない。

 奴の落下する先には既に―――地獄が待ち構えているから。

 

「女王の判決だよ・・・・・・・・・・・・とりあえず死ねッ!!」

 

「その命、天に還すといい!」

 

「・・・キバット」

 

「・・・コイツで終いだ」

 

 

『ウェイクアップ! ツー!』

 

《イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ》

 

『ウェイク! アーップッ!』

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《DE・DE・DE・DECADE!!》

 

 

『グッ・・・・・・アアアァァァァァァァァァァァッッッ!!!』

 

 偽りの王に突き刺さる四人のライダーの必殺技。

四色の槍は奴のみならず、力の根源たるアナザーウォッチごとその身体を爆散させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王を名乗ったニセモノも消え、立ち止まり続けていた渡も前へと進んだ・・・・・・のだが、既に新たな問題はその片鱗を見せ始めていた。

 

「ちょっと音羽ちゃん? いくらなんでもベタベタし過ぎなんじゃないかなぁ?」

 

「いやいや~、これくらいのスキンシップは妻として当然でしょ~」

 

「いつから妻になったのよ! いいから離れて!」

 

「梨子も一緒に可愛がってもらえばいいじゃ~ん。・・・まあその貧相なお胸じゃあたしには勝てないだろうけど(*´艸`)」

 

「なんっ・・・!? ・・・やってやろうじゃないのよ!!」

 

「・・・お前等な・・・・・・!」

 

 ようやく渡と桜内が互いの手を取り合えたと思ったのも束の間、ファンガイアの王になるのなら一夫多妻制も適用されて然るべきだと主張する登のせいで余計にややこしい状況に。

 現在暴走特急登と意外と嫉妬気質だった桜内によるドロドロの修羅場が繰り広げられている最中である。ていうか道のど真ん中で何をやってるんだコイツ等は。

 

「あはは・・・、大丈夫かなこれ・・・・・・」

 

「泥沼、って観点だけなら前より酷くなってるかもな」

 

「・・・一時の気の迷いとはいえ、俺はこんなのを王に祭り上げていたのか・・・・・・」

 

「・・・そこに関しちゃ大丈夫だろ。もうアイツは前に進めるさ。お前みたいな仲間もいるしな」

 

 まあ最も、アイツの場合王云々よりもまず手前の三角関係をどうにかしないといけないのだろうが。

ともかくこの世界での俺の役割は終わった。次の世界へ旅立つ時だ。

 

「・・・さて、そろそろ行くぞ歩夢」

 

「えぇ? あれほっといて大丈夫なの?」

 

「もうアイツ等の問題を俺等が手助けする必要はねーよ。例え修羅場だろうとな・・・・・・渡!!」

 

 マシンディケイダーに跨り、次の目的地へと繋がるオーロラが出現した去り際、女子二人に揉まれる渡を見やる。

 

「見せてみろよ。お前って言う王が作る世界が、どんなもんなのか」

 

「っ・・・・・・。まあ、正直まだよく分かんねぇけど・・・・・・やってやるよ。俺として!」

 

 その言葉を背にエンジンを切る。

 もうコイツ等は、この世界は大丈夫だろう。その確信が機体を進ませ、オーロラは次の世界へと俺達を誘った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・今度はまた随分と田舎に来たもんだな」

 

 青い空、青い海。

 真夏を連想させるその光景に、これまで建造物の立ち並ぶ都会にいた俺達は少し拍子抜けた感覚を覚えた。

 

「秋葉原・・・・・・な訳ねーよな。こりゃライダーの前にまず地理を―――」

 

「士君、あれって・・・・・・」

 

 後部座席から服の裾を引っ張った歩夢が指さす先は何の変哲もない電柱。

 その中腹辺り、丁度俺達の目線と合うような位置に張り紙が一枚。

 

「・・・コイツ等・・・!」

 

 バイクから降り、歩み寄っては印刷された文字を読む。

 探し人、と表記された真下の写真には長い青髪をポニーテールに纏めた少女と、艶のある黒髪の少女が映し出されており――――――、

 

「・・・松浦果南に黒澤ダイヤ・・・・・・?」

 

「知ってるの!?」

 

 その二人の少女の名を口にした俺に掛かる、期待と不安が入り混じった高い声。

 振り返った先から派手過ぎず地味過ぎずの金髪に、同じ色の瞳と色白の肌という日本人離れした容姿の少女が慌てた様子で俺達の下へ駆け寄ってくる。

 

 状況が全く飲み込めていない俺と歩夢の手を取ったその少女―――小原鞠莉は今にも泣き出しそうな瞳を俺達に向けた。

 

 

 




エンペラーフォームを出して今後のハードルをあげる男
キバは最終形態の登場早かったし多少は……ね?
まあともかくこれでキバ編完結となります
桜内さんの出番が少なかったのが反省点ですかね……

そして次の世界のヒロインはAqoursの小原鞠莉さん。果たしてどのライダーの世界なのやら……

それでは次回で!


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11話 謎は鏡の向こう側

早くコロナにファイナルベントぶちかましたい(切実)


 

 

 キバの世界を後にし、次に訪れた世界で俺達が出会ったのはAqoursの小原鞠莉。

 歩夢や他の同好会連中からの話ではハーフだからこその陽気な人物・・・・・・と聞いていたが、目の前の彼女は見るからに影を背負っている。

 

「・・・それで、二人のこと何か知らない? なんでもいいの!」

 

 そんな小原は俺達を見つけ次第自室へと招き、陽気さなどは微塵も連想させない表情で問い詰めてくる。

 なんでも一ヶ月ほど前から黒澤ダイヤと松浦果南が行方不明になっているとか。

 

「いや・・・、知ってるといっても私達は名前くらいしか」

 

「・・・・・・それかまあ、スクールアイドルくらいか? つってもこっちじゃな・・・」

 

 ここは別の世界。どうせ高坂や桜内と同じパターンだろうと思っていた。

 だからこそ次の小原の返しは意外なものだった。

 

「スクールアイドル・・・・・・? Aqoursのこと・・・・・・?」

 

 Aqours。確かにそう口にする小原。

 もしかするとこちらでもスクールアイドル活動をしているかもしれないが、ここは元いた世界とは違う場所。何かズレがあるはずだ。

 

「・・・・・・でもよく知ってるね、もう二年前の事なのに・・・」

 

 すぐ明らかとなるそのズレ。

 生憎俺はスクールアイドルに関してはさっぱりなので隣の歩夢にさっと目配せ。丸投げする。

 

「えっと・・・・・・確か一年生の時にもダイヤさん果南さんと活動してて、今のAqoursの前進になったってかすみちゃんが・・・・・・」

 

 こっちでもしてたのかよ。

 でもまあ恐らく、この世界ではそこで止まっているのだろう。

 

「詳しいのね・・・でも今も、ってどういう事? 私達は二年前で・・・・・・」

 

 止まっている理由は定かではないが、言っている途中で声が小さく窄んでいく小原を見れば大体察しは付く。

 

「悪い、今言った事は忘れてくれ。・・・・・・とりあえずもう少し詳しく教えろ。心当たりがあるかもだしな」

 

 まずは情報収集。これは俺の勘だが、恐らくこの事件はこの世界のライダーに関係している。少しでも紐解いてゆけばライダーに辿り着けるかもしれない。

 

 一件の解決にまで繋がるかは分からないが、とにかく出来ることを進めていくだけだ。

 

「・・・詳しくといってもね、私もほとんど分かってないの。二人共、急にいなくなっちゃったから・・・」

 

 二人共自らいなくなったという線もあるが、それだとライダーに繋がる可能性が消えるのでここでは考えない事とする。

 状況だけ聞くならばライダー本人というよりはそれぞれの世界の怪物の仕業であると考えるのが妥当か。

 

「・・・でもダイヤがいなくなった時、近所の人が悲鳴を聞いたって。駆け付けたらもう鞄しか残ってなかったそうだけど・・・」

 

「・・・悲鳴」

 

 俺の脳裏に駆け巡るものがあった。

 そう言えば俺達の世界で崩壊が始まった時、黒澤も、松浦も、そして小原も怪物共に殺されていた。

 

 確か黒澤と松浦を殺ったのはそれぞれ魔化魍とスマッシュだったが、仮に奴等の仕業だとしても遺体がないのが矛盾する。

 

 となると・・・・・・、

 

「・・・なあ、その鞄があった場所の近くに鏡はなかったか?」

 

「・・・そういえばカーブミラーのすぐ近くだったけど、それがなにか・・・・・・?」

 

「・・・・・・なるほど」

 

 決まりだ。

 そもそも小原と会った時点で気付くべきだったのかもしれない。俺達の世界で小原を襲った怪物と、彼女が死んだ時に失われたカードの力・・・・・・それは、

 

「・・・・・・なんか知ってそうな顔だな、お前」

 

 推理を纏め終えた俺に掛かる、少なくとも歩夢や小原のものではない声。

 振り返れば一人の男がいた。敵意という程のものではないが、警戒心のようなものを俺に向けている。

 

「ちょっと、真司? 邪魔しないでよ」

 

「お前は簡単に人を信じ過ぎなんだよ鞠莉・・・・・・大体、これに関しちゃ情報持ってる奴の方が怪しいだろ」

 

 小原が˝真司˝と呼んだその男は厳格な表情を崩すことなく俺と歩夢の方を交互に向き、その一挙一動を探るように視線を凝らしている。

 今までのパターンからすると、ひょっとしてコイツが・・・・・・、

 

「そもそも地元の人達ですら分からない事だらけなのに、明らかにこの辺の人間じゃない奴から何が知ってるってんだよ」

 

 ただ正論を口にしているだけのように思えるが、それ以上に俺達を小原から遠ざけたいという意図を感じる。

 どれ。俺の予想通りなら・・・の話だが、少し鎌をかけてみる事にする。

 

「・・・・・・まあそりゃ、˝ミラーモンスター˝の存在なんざその辺の奴が知ってる訳ねぇよな」

 

「っ・・・!」

 

 奴の目の色が変わる。ビンゴか。

 

「・・・なんでお前が・・・・・・」

 

 ただ少し予想外だったのは、奴が確かな怒りを見せた事。

 ゆらりと前に踏み出したと思えば、伸ばした腕で俺に掴みかかり―――、

 

「・・・・・・ちょっと来い」

 

「真司・・・? 何する気!?」

 

「お前は引っ込んでろ」

 

 突然の事に唖然とする歩夢と小原を置き去りにし、俺を掴んだままどこかへと進んでいく。

 やがて二人の目の届かないガラス張りの壁の前へと移動すると、長方形のケースのような物体を手にして言った。

 

「答えろ。なんでお前がミラーモンスターの存在を知ってる」

 

 ドスの利いた声が刺さる。それはコイツがそうである証拠。

 

「・・・どうもこうも、この目で見たとしかな」

 

「なに・・・?」

 

「嘘じゃねぇよ。・・・・・・信じるかどうかはお前に任せるが、小原が食われる瞬間、ハッキリとこの目でな」

 

「ふざけんじゃねぇ!!」

 

 踏み鳴らされた床が音を上げる。

 完全に血が昇ったか、その敵意は完全なものと化していた。

 

「・・・決定だ。お前が黒澤と松浦を・・・・・・」

 

 鏡に向かって掲げられた、龍の顔のような紋様が刻まれたケース。

 すると鏡にのみ銀色のベルトが映し出され、それは鏡面から離れると実体化して主の腰へと巻き付く。

 

「変身!」

 

 バックル部分に差し込まれたケースが光を放ち、奴の姿を変える。

 赤と銀のボディに、ケースの紋様と同様所々に目立つ龍のような形状の装甲。

 

 この世界のライダー・・・・・・仮面ライダー龍騎。

 

「・・・龍騎の世界か・・・・・・!」

 

「やっぱり知ってやがったか・・・・・・早くお前も変身しろ!」

 

 どうもコイツと戦わなければいけない流れらしい。どうしてこう毎度毎度。

 

「まあそう焦んなよ、別に逃げやしねぇさ」

 

 ともかく戦わない事には先に進めないのならば仕方ない。この世界のライダーを知る、という意味でも決して無駄ではないはずだ。

 

「・・・なんだ・・・・・・そのデッキは・・・」

 

 ディケイドライバーを装着した俺に龍騎が訝し気な視線を向ける。

 それを軽く受け流すと、俺はライダーカードを差し込んだバックルを回転させた。

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《DECADE!》

 

 

 幾多のカードが放出され、やがて俺に集約。

 マゼンタ色の戦士―――仮面ライダーディケイドへと姿を変え、準備はできたと言わんばかりに龍騎を見やる。

 

「何だお前・・・・・・ライダー・・・なのか・・・・・・?」

 

「ごちゃごちゃした話はいい。やるならさっさと掛かってこい!」

 

 啖呵を切り、鏡の方へと飛ぶ。

 この世界において戦いの舞台はこっちの世界ではない。鏡の向こう側―――ミラーワールド。

 

「っしゃぁッ!!」

 

 現実世界と変わらぬ風景。だた一つ違うのは、それらが反転している事。

 流石鏡の世界だと感心する―――そんな暇もなく殴りかかってきた龍騎の拳を片手で流す。

 

「いきなりだなお前。もうちょっと余韻ってモンをだな」

 

「何抜かしてやがる!」

 

《SWORD VENT》

 

 右腕の龍の頭部を模した召喚機―――ドラグバイザーに挿入されたアドベントカードが一本の剣を呼び寄せ、龍騎の手に握られる。

 柳葉刀に似た刀身は如何にも切れ味抜群と言った見た目。当たり前だが直撃は避けるのが無難だろう。

 

 早速だがここは―――、

 

《FOAM RIDE》

 

 

《KIBA GARULU!》

 

 

 全身を覆うように鎖が巻き付き、狼の遠吠えと共に弾ける。

 青いキバ―――ガルルフォーム。

 

「ハァッ!」

 

 目には目を歯には歯を。剣には剣を。

 ガルルセイバーを振り下ろし、龍騎の剣―――ドラグセイバーと衝突。

 

 キバの世界において渡のガルルセイバーの膂力は半端なものではなかった。例え鍔迫り合いの形だろうと押し負ける訳が―――、

 

「らあぁぁッ!」

 

「んなッ・・・!?」

 

 そんな予想に反し押し負けたのは俺の方。

 一瞬龍騎のパワーがとんでもないのかと頭を過るが、そう言えばとフォームチェンジしてからどうも力が入らない事に気が付く。

 

 渡と俺でガルルフォーム使用時の違い・・・それは―――、

 

「まさかコレ、夜じゃねぇと力が出ないとかじゃないだろうな!?」

 

 渡が俺を圧倒したあの時は満月の夜だったが、今はその正反対の真っ昼間。

 よくよく考えてみればガルルフォームは狼の力。昼と夜で発揮できる力に差があるのは当然といえば当然だ。

 

「チッ・・・!」

 

《FOAM RIDE》

 

 

《KIBA BASSHAA!》

 

 

 キバの鎧を緑色に染め上げるバッシャーフォーム。

 野性味溢れるバックステップで一気に距離を取り、引き金を絞ったバッシャーマグナムで龍騎を牽制する。

 

「また姿が・・・?」

 

《STRIKE VENT》

 

 厚い弾幕に思うように身動きの取れない龍騎が更なるアドベントカードを挿入。

 天から舞い降りた龍頭の手甲―――ドラグクロ―が右腕に宿り、放出された火焔が銃弾ごと俺を燃やす。

 

 だが―――、

 

《FOAM RIDE》

 

 

《KIBA DOGGA!》

 

 

「だあぁぁらッ!!」

 

「がはぁぁぁッ・・・・・・!?」

 

 紅の世界から飛び出した大槌が龍騎を派手に殴り飛ばす。

 龍の力なだけあって相当な熱量だったが、紫のキバ―――ドッガフォームの鎧ならば防ぎきれる。

 

「フンッ! ハアァッ!」

 

「がっ・・・あぁ・・・!」

 

 多彩な攻撃を用いてくる龍騎でもこちらの手数には敵わないか、連続で振るわれるドッガハンマーが次々と命中し火花を噴き上げる。

 

「・・・なんなんだお前・・・・・・本当にライダーなのかよ?」

 

「まーたそれか・・・・・・通りすがりの仮面ライダーだ!!」

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《KIBA!》

 

 

 ドラグセイバーを弾き飛ばしたところでようやく基本形態―――キバフォームへチェンジ。

 武器さえなければ、接近戦においてもっとも有利なこの形態の出番だ。

 

「お前みたいなライダー聞いた事もねぇぞ!」

 

《ADVENT》

 

 ただ一つ誤算だったのは、奴にまだ手数が・・・・・・それも俺の予想を上回る切り札が眠っていた事。

 咆哮が轟いた直後、どこからともなく現れた巨大な赤龍が龍騎の懐へ潜り込んだ俺を真横から掻っ攫った。

 

「・・・そういや、お前等はミラーモンスターと契約して戦ってるんだっけか・・・」

 

 現れた龍はドラグレッダー。仮面ライダー龍騎の契約モンスターだ。

 奴と契約してるからこそなのか、龍騎の姿は所々ドラグレッダーと酷似している・・・・・・と、そんな感想を述べてる場合ではない。

 

 

《FINAL VENT》

 

 

 既に奴等は勝負を決めに来ている。ドラグレッダーを召喚したのもそういう事だろう。

 だが幸いこちらもキバフォーム。向かい打つ準備は出来ている。

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《KI・KI・KI・KIBA!》

 

 

 約熱の龍炎を纏ったドラゴンライダーキックと、夜の常闇を宿したダークネスムーンブレイクが衝突。凄まじい衝撃波が鏡の世界を疾走する。

 本来ならばどちらもただでは済まなかっただろうが、直前で力点をずらした俺の起点により両者とも変身が解除される事もなく地面へと落下した。

 

「・・・お前、まさかモンスターと契約してないのか・・・・・・?」

 

 起き上がりつつそう口にする龍騎。当たり前だがコイツの世界ではそれが普通。いつだって異端なのは俺だけだ。

 

「・・・まあ、な。俺は―――」

 

「・・・見慣れねぇ顔がいるな・・・・・・」

 

 そろそろ明かす頃だろうと口を動かした俺の声を遮る声。ついさっきも同じ事があったのでデジャヴ感が凄い。

 

「・・・王蛇・・・・・・!」

 

 龍騎が˝王蛇˝と呼んだ、蛇を装甲にしてそのまま纏ったかのような紫色の戦士。

 奴もまたこの世界の仮面ライダーであることは明白だった。

 

「お前、まだ犯人捜しなんてしてんのか」

 

「・・・犯人捜し・・・?」

 

「・・・知らねぇのか? そいつはそいつの女のお友達をやった犯人を捜し続けてるんだよ。あんなんただの事故だってどいつも言ってるのによぉ」

 

 今更何をしたって帰ってくる訳でもないのに無駄な事を。そう続けた王蛇に龍騎が微かな怒気を帯びる。

 

「・・・そんな事より、遊ぼうぜェ・・・!」

 

《SWORD VENT》

 

 警鐘を鳴らし続けていた警戒の音が一際大きく響く。

 金色の硬鞭を握った王蛇が高笑いと共に地面を蹴り、俺と龍騎、どちらにも見境なく斬り掛かってくる。

 

「っ・・・・・・?」

 

 咄嗟に飛びのき攻撃は回避するも、身体から砂のような粒子が舞い上がっている事に気が付く。

 

「・・・もう時間か・・・・・・おいお前、さっさと退くぞ!」

 

 同じ現象の起こっている龍騎が慌てた様子で俺に声を飛ばし、ストライクベントで王蛇を牽制した後に全速力で駆けだす。

 その先は―――先程俺達がミラーワールドに侵入する際に介した鏡だった。

 

「チッ・・・・・・逃げるのかよ」

 

「急げッ!」

 

 鬼気迫る声に自然と身体が従い、龍騎と共に現実世界へと帰還。同時に変身が解かれる。

 鏡の向こう側では見るからに不機嫌そうな王蛇が立ち去っていくのが見えた。

 

「・・・・・・なんだったんだよアイツは・・・」

 

「仮面ライダー王蛇・・・・・・俺達ライダーの中でも特に危ない奴だよ」

 

 口ぶりから察するに龍騎と王蛇以外にも複数人ライダーが存在するらしい。

 あれ以上の危険人物がいないというのは少し安心だった。

 

「・・・お前は俺達とは違うみたいだな。疑って悪かった」

 

 敵意が抜け、幾分か表情の柔らかくなった彼が頭を下げる。以外に素直らしい。

 

「そういや名前も教えてなかったな。仮面ライダー龍騎の本場真司、よろしく」

 

「・・・仮面ライダーディケイドだ。士でいい」

 

「じゃあ俺も真司でいい。・・・・・・それより士、お前その力はどこで・・・・・・」

 

「さあな、俺にも分からん。・・・てかさっきの話は何だ。犯人がどうのこうのっての。ミラーモンスターの仕業じゃないのか?」

 

 王蛇は言っていた。真司が黒澤と松浦を襲った犯人を捜していると。

 だが俺の推測だと彼女達を襲ったのは契約者のいない野良のミラーモンスター。俺達の世界で小原が食われた時と同様、捕食行為の餌食になったと思っていたが。

 

「・・・そのミラーモンスターを使って二人を襲った奴がいるって事だ。カーブミラーはモンスターが狩りを出来るような大きさじゃない・・・・・・人間が介入してるならともかくな」

 

 コイツかなり調べているらしい。

 だとするなら、もう恐らくあの結論にも―――、

 

「・・・あの蛇野郎の言ってた事、お前も気付いてんだろ」

 

「あぁ・・・。生身の人間じゃミラーモンスターには太刀打ちできないし、もし逃れられたとしてもミラーワールドから出れずに消滅するのを待つだけ・・・・・・」

 

 

 二人の無事を信じ続けている小原鞠莉には言えない事実がここにはあった。

 

 

「・・・・・・二人はもう、死んでる」

 

 

 




と、いう訳で今回から龍騎編スタートです。まあ分かってた人も多いでしょうが……
ここまで来たら世界を回る流れは大体お察しでしょう

キバクウガは若干本編も踏襲しましたが今回はリマジの世界の色が強くなりそうですかね…………コラそこ王蛇がモロ浅倉なことに突っ込まない

そしてこっちの世界でもおっ死ぬお二人さんェ……


それでは次回でまた


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12話 真実を映し出せ

大学の授業用に新調したパソコンが使い勝手良すぎて震えてます


 

 

 

『ア˝ア˝ァァァァッ!!』

 

 瘴気が人影に集約し、膨れ上がる。

 ˝幾度目かの˝誕生を果たした異形の者は、その思考に唯一残された怒気を纏って目の前の男へと突撃してゆく。

 

「・・・・・・そろそろか」

 

『グッ・・・オオォォォッ・・・・・・!?』

 

 だが男に焦る様子はなく、逆に発生させた衝撃波で自ら怪物へと変貌させたそれを薙ぎ払う。

 衝突音と共に地面へ打ち付けられた怪物が元の姿へと戻り、転げ落ちた黒い円形の物体がアスファルトを叩いた。

 

「・・・何回やるのさ、それ」

 

「・・・そろそろ、飽きた」

 

 青年と少女が漏らした不満の声に男がゴキゴキと首を鳴らす。

 秘めたる感情を全ては伺わせないまま、拾い上げたアナザーウォッチを枷から解放されたばかりの˝彼女˝へと向け―――、

 

「まあ見ていろ。・・・・・・この世界には面白い場所もあるようだからな」

 

「・・・・・・や、ぁ・・・!」

 

 ボロボロに乱れた髪や衣服を引き摺り、少女は衰弱し切った身体を必死に動かして抵抗を試みる。

 だがそれが何かを成す事はなく、非情にも男の手によって彼女の身体へとウォッチが埋め込まれた。

 

『ア・・・・・・ウアアアァァァァァァァァァッッ!!!』

 

 水平線から差す黄昏の陽が沈み切ると同時に、全てを侵食するように少女を包み込んだ瘴気の中から再度怪物が生まれる。

 

 長い夜はまだ、始まったばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・本場さんが・・・・・・仮面ライダー・・・?」

 

「あぁ。仮面ライダーの内の一人・・・だけどな」

 

 王蛇の襲撃後、一旦歩夢達の元に戻った俺は小原には聞かれぬよう小声でそう耳打ちする。

 一応、コイツともその情報は共有しておいた方がいい。

 

「・・・でも、またなんだ。前の世界でも穂乃果さんと梨子さん、仮面ライダーと一緒にいたよね?」

 

「・・・多分、そこが何か俺達の世界と関係あるんだろうな」

 

 これまでも・・・いや、恐らくこの先も仮面ライダーの傍には彼女達がいるのだろう。

 俺達の世界でμ‘sやAqoursである少女達が別の世界では仮面ライダーを支える者・・・・・・偶然とは考えにくい。

 

 なにか、何か繋がりが―――、

 

「なんなのそれ・・・・・・二人のことは諦めろって言うのッ!?」

 

 答えを模索する俺の傍らで上がったヒステリックな声に思わず顔を顰めた。

 痴話喧嘩か。一瞬そんな呑気な事を考えるが、どうやらそんな甘いものではないようで。

 

「そうじゃない。誰もそんなこと言ってないだろ」

 

「じゃあなんで事件にはもう関わるななんて言うのよ!」

 

 火花を散らしているのは真司と小原。といっても後者が一方的に燃え上がっているようにも見えるが。

 歩夢に耳打ちした俺とは別に小原に話す事があると言っていた真司だったが、どうやら地雷を踏んだらしい。

 

「二人の事は俺が突き止めるから、お前はこれ以上深く関わろうとするな。これはお前が踏み込んでいい領域じゃないんだよ」

 

「その領域って何・・・? 真司は何を知ってるの?」

 

「それは・・・・・・」

 

 答えられずに真司が黙り込む。当然だった。

 ミラーワールドは表立って知られてはいけない世界。それは例えライダーの傍にいる彼女であってもだ。

 

 更にそれを話してしまえば彼女は、最も非情な現実を知ってしまうから。

 

「・・・ねぇ真司、なんか最近変だよ? ・・・・・・何か隠してる?」

 

 だがそれを知らない小原は真司を問い詰めるばかりだ。彼女のための行動なのに、伝えられない、それが故に理解されず、彼を苦しめる。

 

「・・・別に何も」

 

「・・・それでバレないと思ってるの?」

 

「ホントに何でもねぇよ! いいからお前は引っ込んで―――」

 

「いい加減にしてよッ!!」

 

 怒声に続いて響いた乾いた音。

 小原が手を出したことを理解するのにそう時間はかからなかった。

 

「・・・・・・関係ない関係ないって、ずっとそれじゃない・・・!」

 

 龍騎となってからずっと、真司が自分の行動を小原に隠し続けていたのは想像に難くない。

 彼女にそれがどう映ったのかは知る由もないが、少なからず・・・・・・、

 

「・・・・・・馬鹿」

 

 何かに耐えきれなくなったように小原が走り去ってゆく。

 地面を叩く音すらも遠くへと消えた後、残されたのは重い静寂だけだった。

 

「お嬢様どちらに!?」

 

「・・・・・・悪い歩夢。お前も行ってくれ」

 

「・・・う、うん。わかった・・・」

 

 数刻遅れて後を追って行った使用人に続かせ、歩夢を小原の元へ送る。この場合の適任はコイツだろうから。

 

「・・・派手に引っ叩かれたもんだな」

 

「・・・いいんだよ・・・・・・悪いのは俺だから」

 

 赤くなった頬を抑えてそう呟く真司。

 一概にどちらが悪いとは言い切れない。真司は小原を想っての事だし、小原の方も黒澤や松浦の事で気持ちがごちゃごちゃになっているだけ。

 

「…それより、ちょっと付き合え」

 

「あ?」

 

 俺たち二人になるタイミングを見計らっていたかのようにデッキを取り出した真司が龍騎へと姿を変える。

 

「……俺の集めた情報が正しいなら、この後―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鞠莉さん……!」

 

 鞠莉の後を追って絢爛な装飾の施された通路を駆ける。なんでも彼女の部屋はホテルの一室なのだとか。

 そんな場所をドタバタと騒がしく走るのはモラル的にどうかとは思うが、この際四の五の言っていられない。

 

「あの馬鹿……こっちの気も知らないで……」

 

「真司さんにも理由があるんですよ……だからそんな風に―――」

 

「理由って何? 何か知ってるの?」

 

「それは……」

 

 ようやく立ち止まってくれるも、今度は追っていたはずの歩夢が問い詰められる側に立ってしまう。

 鞠莉はミラーワールドの存在や真司が仮面ライダーであることを知らない。そして真司自身もそれを知られたがってないと思っているのだし口籠ることしか出来なかった。

 

「ふふ……sorry.歩夢にこんなこと言っても仕方ないよね」

 

 その剣幕に狼狽えていると、歩夢の反応を面白がるように鞠莉が笑った。

 元の世界でスクールアイドルとしての彼女を見た時から思ってはいたが、こう間近でその笑みを見るとやはり美人だと思い知らされる。

 

「なんか変な空気になっちゃったね、tea timeとでもいきましょうか!」

 

「え……でも真司さんは……?」

 

「Don‘t worry! ほっとけばいいのよあんな奴! それより歩夢の話が聞きたいなー」

 

 自身の気を紛らわすためか、歩夢への気遣いか、英語交じりの独特な口調と勢いで振り回してくる。

 Aqoursとしての彼女を知っている分、やはりこちらの方が彼女らしく思えた。

 

「ね、ね、歩夢もスクールアイドルなの?」

 

 自室に招かれ、その装飾や今まで見たこともないような銘柄の紅茶に委縮していると興味津々といった様子の鞠莉に詰め寄られる。

 

「…え、あ、はい……虹ヶ咲学園って学校で……」

 

「虹ヶ咲のスクールアイドル…………あれ、調べても出てこない…」

 

 しまった、と自身の失敗を呪った。

 つい何気なく口にしてしまったがこの世界の虹ヶ咲にスクールアイドル同好会が存在していない可能性を失念していた。

 

 鞠莉の反応を伺うにこの世界は同好会はおろか虹ヶ咲すら存在しているか怪しい……さてどう誤魔化したものか……、

 

「えっと、実は―――」

 

* * *

 

「へー……、それじゃあ歩夢は別の世界から来たってこと?」

 

「はい……」

 

 何とか誤魔化そうとしたのだが……結果から言うとあっけなくバレた。

 以前士に嘘が下手だと指摘されたことがあったがまさかここまでだったとは。

 

「疑わないんですか?」

 

「まあちょっと信じ難くはあるけどね。けど歩夢嘘つくの下手そうだし」

 

 初対面の彼女にすらこう言われる始末である。この短時間で指摘されているのだから相当なのだろう。

 

「別の世界にもスクールアイドルがあるんだ……なんか嬉しい」

 

 こちらの世界にも鞠莉達Aqoursがいて、果南とダイヤも一緒に人気のスクールアイドルとしてステージで踊っている……とは言えなかった。

 士は最悪の可能性も考えておけと言っていた。仮にそれがなかったとしても今の彼女にそれを言うのは酷だろう。

 

「歩夢はどうしてスクールアイドルを始めたの?」

 

 過去の自分を重ねるようにそう問うてくる鞠莉。その瞳を見れば、彼女も自分と同じなのだろうと悟った。

 

「……誘われたんです、あの子に」

 

 思い出に浸りながら語る。世界を渡り歩いているせいか、さほど昔の話でもないのに随分と懐かしく感じた。

 

「ふーん……あの子って、あの不愛想なboyのこと? 失礼かもだけどそんなタイプには見えないんだけど……」

 

「ああいや、士君じゃなくて、ずっと一緒にいる幼馴染の子がスクールアイドルに魅了されちゃって……」

 

「へぇ……なんか、ダイヤと果南が私を誘ってきた時に似てるな……」

 

 ノスタルジックな反面、もの悲しい哀愁の目が揺れた。

 

「あ……ごめんなさい……」

 

「気にしなくていいのに、歩夢は優しいのね」

 

 一度その姿を見ていると、本心からのそれであるかもしれない笑みも気丈に振舞っているように見えてしまう。

 そんな歩夢を気遣ってか、鞠莉は変わらぬ笑顔で続けた。

 

「どうしてもって言うなら、もっと色々話して? その幼馴染の子の話も聞きたいな」

 

 傷ついているのは確かなはずなのにそれを見せようとしない姿がとある誰かと重なった。きっと鞠莉も同じなんだ。

 だったらやることは何度もそれを掘り返そうとすることじゃない。少しでもその痛みを軽くすることだ。

 

 幼馴染との思い出を語るだけでそれが務まるのなら、喜んで話そう。

 

「あの子は―――」

 

 そう思いいざ話そうとし―――直後に言葉が続かなくなる。

 

「…あれ……?」

 

 何度も記憶の中にあるそれを取り出そうと試みるも手応えがない。まるで元から存在しなかったかのように。

 

「歩夢……?」

 

「う…あっ……!?」

 

 心配げに顔を覗き込んできた鞠莉に何とかこたえようとするが、直後に走った頭痛がそれを阻む。

 それどころか痛みはどんどん激しさを増し、頭が割れんばかりに何度も何度も襲い掛かってくる。

 

 ―――――歩夢!

 

 知っているはずなのに知らない声と顔がホワイトアウトしていく頭の中に浮かんだ。

 いや、知らないはずがないんだ。だって˝彼女˝が自分の――――――……、

 

 

 

 

 

 

「歩夢……? 歩夢!」

 

 突然頭を押さえながら倒れこんだ歩夢の身体を起き上げて何度も呼びかけるが返事はない。理由はわからないが気を失ってしまったらしい。

 

「誰か来て! 歩夢が……!」

 

「お嬢様? どうかいたしましたか?」

 

 とにかく救急だと助けを呼べばすぐに使用人の男が部屋に駆け込んでくる。

 

「わかんない……急に倒れて…………とにかく救急車―――」

 

「おっと……これは…………」

 

ダイヤと果南がいなくなったあの日のことがフラッシュバックし少しパニックになるが、それでもやるべきことだけは見失わずに使用人にそう要求する。

 そうして何とか冷静に努めようとするが―――瞬刻の後にすぐ思考は停止することになった。

 

「……実に、好都合ですねぇ」

 

 この声が遠く聞こえた。主は間違いなく目の前の使用人だ。

 

「これでそのお嬢さんまでは殺さすに済みますね……余計な殺生は流儀に反するので」

 

 言葉一つ一つが狂気を持って背筋に悪寒を齎してくる。

 理解が出来ないまま狼狽えていれば、次に紡がれた言葉がさらなる衝撃を与えてきた。

 

「それとも、お嬢様はその子も殺した方が絶望してくれますかねぇ……」

 

「あなた……何言って…」

 

 ようやく絞り出せた声はか細く震え、男はその様子が愉悦だというように嗤った。

 

「一人になるのを待っていましたよ鞠莉お嬢様……いや、小原の令嬢…!」

 

 キイィィ……と共鳴音が鳴り響いたと思えば、刹那に地震のような揺れに襲われた。

 

「ぇ……」

 

 顔を上げまたも言葉を失う。

 割れた窓ガラスや滅茶苦茶に荒らされた家具や装飾ももはや気にならない。それ以上の衝撃が目の前にいるのだから。

 

『グウゥゥゥゥゥ……』

 

 人型の鮫……とでもいうべきか。これまで目にしたことも、まして想像したこともないような怪物が眼前で唸りをあげている。

 

「なに……なんなの……」

 

「それだよ……ずっとその顔が見たかったァ!!」

 

 驚愕と恐怖の時間は終わらない。

 怯える鞠莉を見て心底愉快そうに笑う男がデッキケースのようなものを取り出せば、突然腰に巻き付いたベルトのバックル部分にそれを嵌め込む。

 瞬時に男も目の前を怪物を鎧として纏ったかのような姿になり、手元で一枚のカードを弄びながらこちらへ歩み寄ってくる。

 

「お前は僕と同じ……いや、それ以上の苦しみを与えて殺してやる。よくもこの僕にあんな屈辱を味合わせて……!」

 

《SWORD VENT》

 

 言っていることの意味も分からないままに男の手に怪物と同じ剣が握られ、鞠莉に向けられる。

 

「そうだな…まず死なない程度に四肢を一本ずつ刈り取るとしようか!」

 

 振り上げられた剣が光を浴びて鈍色に輝く。

 次の瞬間にはそれが自分の血潮で赤く染め上がっているのを想像し、否応なしに死を悟らされる。

 

「っ……!」

 

 何もわからぬままに迫った死に思わず目を瞑る。

 ごちゃごちゃになった思考の中で真司に詫びた。もしかしたら彼が言っていたのはこのことだったのかもしれない。

 

 言い分も聞かずに彼を責め、挙句これか。

 せめて一言、何か真司に―――、

 

 

《STRIKE VENT》

 

 

 轟音が轟くが一向にその時は来なかった。むしろなぜか男の悲鳴のような声さえ聞こえる。

 

「え……?」

 

 微かな熱と煙の舞う中、銀色の甲冑を纏った戦士が佇んでいる。

 今自分を襲った男のそれと同質のものだということはすぐに分かった。けれどどうしてか、不思議と恐怖はなく、むしろその背中には安心感すら覚える。

 

「……真司……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさかアンタだとは思わなかったよ……鎌田さん」

 

 自らの火焔で薙ぎ払った青色の仮面ライダーを見下ろす龍騎。

 仮面の下に隠れたその表情は定かではないが、きっと、悲しげなものなのだろう。

 

「…! 歩夢っ!?」

 

 龍騎が謎のライダーに詰め寄る一方、横たわる歩夢を目にした俺がその身体を抱き上げる。

 外傷こそないがその表情は苦悶に歪んでいた。少なからず何かあったことに間違いはないだろう。

 

「テメェ何を……!」

 

「…その女は僕が何かする前に勝手に倒れたよ」

 

 その理由と思われる者を睨む俺にやれやれといった様子でため息をつく、真司が鎌田と呼んだそのライダー。

 

「上原に用はなくても鞠莉には大アリって感じだが?」

 

「……やはりお前には勘づかれてたか、本場真司」

 

 この場でライダーに変身していること、そしてミラーモンスターを呼び出していること……考えるまでもなくクロだろう。

 

「鞠莉が狙いなら俺と別れた一人の瞬間に狙うと思ったしな。睨んでおいて正解だったよ」

 

 真司の提案はミラーワールドから小原やその周囲の動向を見張ることだった。

 先程のような喧嘩別れの後ならば絶好のタイミングに成りうる。真司の推測通りだ。

 

「…なあ、なんでコイツを狙うんだよ。アンタにとっちゃ恩人みたいなモンだろ……俺と同じで」

 

「恩人……だと……?」

 

 鎌田の声が低くなる。

 もう何度かこのパターンを経験している俺にはわかる。これは逆上する前触れだ。

 

「誰もかれもそう言いやがる……誰が助けろなんて言った、誰がこんな辱めを受けたいと願った!?」

 

「辱め……?」

 

 想像通り鎌田が地団太を踏む。

 だが真司にも小原にもその訳が理解出来ていないようで、その反応を見るとさらに鎌田の怒気が増した。

 

「…やっぱりライダーになって正解だったよ……お前からも全てを奪わないと気が済まない」

 

「……だからアイツ等を殺したのか」

 

 それを押しのけるように真司が低く返す。

 その声にも鎌田同様怒気を孕んでおり、今にも爆発しかねない危うさを秘めていた。

 

「ああ…………いい悲鳴だったよ」

 

 追い続けた真相がここで終結した。

 つまりはコイツが、一連の事件の犯人。

 

「そうかよ……それが聞けりゃ十分だ」

 

「待って真司……今のどういう……」

 

「アアァァァっ!!」

 

 何かを悟った小原が問うより早く、弾丸のように突進した龍騎によって鎌田がミラーワールドへと押し込まれる。

 

「まってよ…、じゃあ、ダイヤと果南は……」

 

「…チッ……」

 

 悪態と共に舌を打つ。

 歩夢のことは気掛かりだが、今はこの残されたモンスターの対処が最優先か。

 

「色々ほっぽって行きやがってあの野郎…!」

 

 恨み言を綴りつつ、歩夢と小原を守るように奴を鏡の世界へと押し込んだ。

 

 

 

 

「…やれやれ……」

 

 その様子を眺めていたある男の存在には、気が付くことなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《SWORD VENT》

 

「オオォォォォッッ!!」

 

二人のライダーの剣が衝突し、甲高い音が鏡の世界に響く。

条件は五分五分……だが僅かに鍔迫り合いで勝るのは鎌田の変身する戦士―――仮面ライダーアビスだった。

 

「お前がいなければ全部上手くいってたんだ……! 僕の邪魔をしやがってッ!!」

 

「ぐおぉぉ……?」

 

 膂力が増したアビスの袈裟切りに跳ね飛ばされる。

 力量の差なのか、はたまた契約モンスターのスペック差か、アビスは殆どの能力で龍騎を上回っていた。

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《BLAST》

 

 

 追撃をかけようとするアビスを銃撃で縫い付ける。

 俺が相手取っているモンスターは図体こそデカいが動きはそうでもない。これならば十分龍騎を援護しながら戦える。

 

《STRIKE VENT》

 

 俺が牽制したその隙、龍騎が起き上がりざまにアドベントカードを挿入し、装備したドラグクローから火球を放る。

 

「甘い」

 

《STRIKE VENT》

 

 だがアビスもまたストライクベントを発動し、鮫の頭部のような前腕甲から打ち出した水流により火球が消化される。

 同時に沸き上がった水蒸気により視界が白く染まるが、龍騎は臆することなくその中に突っ込んだ。

 

「だぁらッ!!」

 

「がふッ……!?」

 

 白い世界の中でアビスを捉えた龍騎の飛び蹴りが火を噴く。

 一か八かで飛び込んだが一度攻撃がヒットすればこちらのものだ。位置さえ把握できれば姿が見えてなかろうと関係ない。

 

 ここが最大のチャンスだ。

 

《FINAL VENT》

 

 白煙の晴れるギリギリにアッパーで殴り上げ、同時にドラグレッダーを呼び出す。空中ならば回避はできないという魂胆だろう。

 空中のアビスを追うように自身も飛び上がり、ドラグレッダーの火炎放射に乗って繰り出したトドメの一撃がフィナーレを告げる―――はずだった。

 

「「がああぁぁ・・・!!」」

 

「なあぁぁぁッ・・・・・・!?」

 

 突然吹き飛んできた二体の仮面ライダーが龍騎と激突し、ドラグレッダーも巻き込んで地面を転がる。当然ファイナルベントも中断。

 

「なん…だ……?」

 

 龍騎が首だけ上げ、戦慄する。

 

「暇だったから骨のない奴で我慢してたが・・・・・・祭りの場所はここか?」

 

 台風が一歩また一歩と近づく。

 仮面ライダー王蛇。荒くれ者・・・・・・と表現するのも生温い、ミラーワールドの狩人。

 

「・・・昨日の新顔もいるな・・・・・・丁度いい、遊ぼうぜェ!」

 

 ただ純粋に殺し合いを楽しむ奴に目的もクソも関係ない。

 金色のベノサーベル片手に、五人のライダーを手当たり次第に攻撃してゆく。

 

「なんでこんな・・・・・・僕はただ女の子を愛でたかっただけなのに・・・・・・!」

 

「・・・お前はさっさと死んでくれ。ホントに」

 

 共に王蛇の攻撃に晒される仮面ライダーシザースに辛辣に当たった後、軽快な動きで距離を取った仮面ライダーインペラーが龍騎の傍らによる。

 羚羊のような見た目からして、契約モンスターはそこら中に蔓延ってるギガゼールなどか。

 

「・・・この分だと、アイツがお前の言ってた犯人か?」

 

 真司曰く、このミラーワールドで戦うライダーは皆自分の願いを叶えるために戦っているそうだ。

 そんなライダーの中でも一際異端である龍騎及び真司の行動は他のライダーたちにも知られていることらしい。

 

「・・・あのなぁ、今更犯人を突き止めたところでその子らは帰ってこないし、お前の彼女泣かすだけ。勝ち残って願いを叶える方がよっぽど現実的だろ」

 

 真司にはインペラーの言葉が酷く刺さるように見えた。

 けれど真司には他人の命を奪ってまで願いを叶えるつもりはない。ライダーの力を得たのも、犯行がライダーによるものと知ったからこそだ。

 

「・・・っと、呑気に話してる場合じゃないか」

 

《SPIN VENT》

 

今度はこちらに狙いを定めた王蛇の攻撃を羊の角を直立させたような武器で受け流すと、やり合う気はないかのようにまた距離を取る。

 そうなれば必然的に次の攻撃対象になるのは俺達だ。

 

「・・・とりあえず、今は生き残ることだけ考えろ」

 

「・・・・・・分かってるよ」

 

《FOAM RIDE》

 

 

《KUUGA DRAGON!》

 

 

 素早くクウガドラゴンフォームにチェンジし、ライドブッカーを変移させたドラゴンロッドでベノサーベルを弾き返す。

 

「・・・姿が・・・・・・、ぐはぁッ・・・!」

 

 御多分に漏れず動揺してくれた王蛇の腹に遠心力を利かせた一発をお見舞い。更にそれでは留まらず連撃で畳みかける。

 ミラーライダー達とは質が違う俺は存在そのものがアドバンテージのようなものだ。そうそうな事がない限り手段が読まれる事はない。

 

 おまけにこちらは二人体制。基本単独で戦う奴等とは勝手が違う。

 

《STRIKE VENT》

 

 追撃の業火が王蛇を攻め立てる。

 奇襲が嵌ったに過ぎないが、それでも王蛇相手に善戦する俺達に傍目でそれを眺めていたライダー達がどよめき立った。

 

「面白れぇ・・・・・・面白いぞォッ!!」

 

 歓喜の声を上げた王蛇がアドレナリンに酔いしれるようベノサーベルを振り回す。

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《DECADE!》

 

 

 そんな王蛇の斬撃を防いだカードの渦が俺に集約。本来の仮面ライダーディケイドの姿に戻る。

 その即座にライドブッカーをソードモードに移行しては、龍騎と共にカードとの衝突で上体の開けた王蛇の懐へと一刀を叩き込んだ。

 

『アアアァァァァッッ!!』

 

 だがこのまま一気に押し切る―――ともいかず。

 猛然と突っ込んできた何者かが俺達と王蛇の間に割って入り、その全員を纏めて薙ぎ払ったのだ。

 

「お前・・・・・・」

 

 今度もまたライダーの乱入者・・・・・・という訳ではなかった。

 人型ではあるがそれはモンスターに近く、龍をそのまま人型にしたかのような赤と銀の装甲が目を引く。

 

 当然その異質な存在に誰もが目を引かれたのだが・・・・・・ソイツに最も反応したのは俺だった。

 

 何故なら目の前の奴を俺は、一度目にしていたから。

 

 

 

 

「・・・・・・優木・・・?」

 

 




ディケイド本編通り一連の事件の犯人はアビスさんです。その動機等は次の話でまた
アナザーライダーの正体やその変身者も次で明かしますが歩夢の異変に関してはもう少し先になりそうです

それでは次回でー


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13話 死中の活路

2日連続投稿です誉めてください(なおかつては普通だった模様)
今回は伏線張りつつほぼバトルですね

独自設定をいいことに作者の趣味でファイナルベント連発しますが許してください()


 俺達の世界が崩壊してゆく景色の中、人ならざるものに変貌させられた少女が二人いた。

 中須に優木、目の前のコイツはその後者―――優木せつ菜がタイムジャッカーによって強制的に変身させられたアナザーライダーに他ならない。

 

「・・・・・・モンスターなのか・・・?」

 

 形状からしてコイツはアナザー龍騎・・・・・・のはずなのだが、アナザーキバの時と違い他の連中はコイツを龍騎として認識していない。

 奴との相違点を挙げればコイツは俺達の世界で生み出されたアナザーライダー。つまり―――、

 

「・・・・・・こことは別の世界の龍騎の力・・・・・・?」

 

「・・・ほう、勘がいいな」

 

 波立つかのように空間が揺れる。

 不意に現れた男がタイムジャッカーであることはすぐに理解出来たが、その力は他の二人とは明らかに異質。

 

 何と言うか、俺に近い、何か。

 

「それとも・・・・・・記憶が戻ったか? 門矢士」

 

「かど・・・や・・・・・・?」

 

 厳格で、かつ邪悪さを秘めた男が口にしたその名。

 知らないはずなのに、覚えていないはずなのに、その名前は酷く記憶を刺激した。

 

 いや、けど今はそれ以上に・・・・・・、

 

「・・・なんで生身のままミラーワールドに・・・・・・」

 

 俺達のようにライダーに変身しているでもなく、男は全くの生身。

 普通なら一分と経たずに身体が消滅するはずなのに、男は消えるどころか苦しんでいる気配もない。

 

「貴様等には関係のないことだ。それよりも――――」

 

「・・・・・・イライラするんだよ」

 

 男が続けるより、速く。

 地を這う蛇のように疾走する王蛇が一直線に男へと迫った。

 

「俺の祭りに水を差しやがってよォ・・・・・・あぁ!?」

 

 

《FINAL VENT》

 

 

 盛大に土埃を上げて出現した王蛇の契約モンスター―――ベノスネーカーの放出した毒液の奔流に乗り、両足を咢のように上下させたベノクラッシュが男を粉砕せんと毒牙を光らせる。

 

 しかし奴もタイムジャッカーならば、当然あの能力も―――、

 

「無駄だ」

 

 瞬間、世界が凍り付く。

 やはりかと悟った時には既に俺も奴等の持つ時間停止能力の餌食となり、この場にいる全ての者の動きが停止した。

 

 ただ一人、その能力を行使した男を除いて。

 

「改めて言おう・・・・・・貴様等の意見など求めん。ただ戦っていればそれでいい」

 

 自らが停止させた世界の中で男は王蛇に歩み寄り、静止したままのベノクラッシュの矛先を別方向へと向ける。

 直後に時は再始動し―――ある者を散らせた。

 

「あああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!???」

 

 標的を変えられた毒蛇の牙が、不運にも犠牲者となったシザースを爆散させる。

 衝撃で装甲と共にバックルに填められたデッキも砕け散り、ミラーワールドにおける敗北を告げた。

 

「ま、まだ誰も愛でてない・・・・・・ああぁぁぁッ・・・・・・!」

 

 当然仮面ライダーとしての姿も維持できなくなり、人としての姿に戻った変身者の身体が数秒と持たずに消滅する。

 

「・・・・・・王たるこの俺に楯突いたのだ、それ相応の罰を与えなければな」

 

 男の暴虐は続く。

 独立した意思を持っていたアナザーキバと違いこちらは傀儡状態なのか、アナザー龍騎は男に従うように王蛇へと斬り掛かった。

 

「チッ・・・」

 

「ッ・・・!? お前なに―――あぁぁぁッ!?」

 

 だがアナザー龍騎の斬撃が王蛇を捉えることはなく、奴が盾にしたインペラーを切り裂く。

 

「ぐあぁッ・・・! おま、えぇ・・・・・・!」

 

「・・・近くにいたお前が悪い」

 

 他のライダーと比べ薄いインペラーの装甲が剥がれていく。

 破壊音と悲鳴が交互に上がり、それらが止んだ頃には既に新たな犠牲者の身体は粒子となって掻き消えていた。

 

「優木ッ・・・・・・!」

 

 矢も楯もたまらず動いた。

 今ここで彼女を救わなければ更に悪い事態を招く。確証はないが確信があった。

 

「う・・・おぉぉぉ・・・・・・!」

 

 男の命令か、はたまたその理性に唯一残された闘争本能がそうさせるのか、武器を構えた俺に斬り掛かるアナザー龍騎。

 

「オイ優木ッ! 聞こえてんだろッ!」

 

 聴覚には聞こえていても意識までには届いてないのか、俺の呼びかけになど耳も貸さずに嵐の如き剣線で切り刻んでくる。

 アナザーキバのように倒せば元の姿に戻るのだろうが、ここはミラーワールド。

 

 アナザーライダーだってライダーであることに変わりはないのだ。ここで倒すような事があればきっと、彼女の身体は消滅するだろう。

 

『ウ・・・アアァァァァッッ!!』

 

「ぐうぅ・・・・・・!」

 

 応戦はするものの攻めに転じられない俺は攻撃本能しか残っていない奴にとってはサンドバックのようなもの。波のように押しては返す攻撃に跳ね飛ばされる。

 

「どうした? いくらお前と言えどお友達は攻撃できないか?」

 

「テメェ・・・・・・」

 

 悪態付くが手がないのも事実。

 かといってこのまま甚振られ続けるのも―――、

 

 

 

 

 

 

「「「ッ・・・!?」」」」

 

 重力が増したかのような何かが圧し掛かった。

 何者かの足音が一歩また一歩と近づいてくる度にそれは重圧を増して俺達を押し潰さんとする。

 

「・・・・・・戦え」

 

 短く、アナザー龍騎含むその場のライダー全てにそう告げる金色の影。

 それも確かにライダーのはずなのに、纏う全てが他のライダーを上回っている。さながら神と邂逅したような錯覚すら覚える。

 

 そして感覚で分かった。コイツが、この世界における最強―――仮面ライダーオーディン。

 

「「ッッ……!?」」

 

 腕を一振り。その動きだけで俺と龍騎、そしてアビスの身体が浮かび上がり、戦うことを促すように王蛇に叩きつけられる。

 この状況下においても王蛇の闘争心は盛んなまま、何よりあの男によって楽しみを妨害された故か、オーディンの行動を吉と取るようにアビスへの攻撃を開始した。

 

『ア゛ア゛ア゛アァァァッ……?』

 

 その一方でオーディンの刃はアナザー龍騎へと向く。

 この世界における戦いに紛れ込んだ異物を排除せんとしているのか、攻撃に一切の容赦はなく、確実に命を奪おうとするものだった。

 

「優木……!」

 

 地面を蹴り飛ばし、両者の間に入り込んではオーディンの一振りを受け止める。

 

「邪魔をするな…!」

 

「なん―――があぁっ……!?」

 

 スペックに差はあるがカードの力で埋められる範囲だ。

 だがアタックライドのカードで奴を押し返そうとした刹那、背後から襲い掛かった衝撃により弾き飛ばされてしまう。

 

『ガアアァァァッ!!』

 

 やはり理性は残されていないのか、盾となっていた俺を薙ぎ払ったアナザー龍騎は怒気のままにオーディンへと切り掛かる。

 しかし所詮は思考能力のない獣。この世界での頂点である奴には到底敵わない。

 

《FINAL VENT》

 

 オーディンの召喚機であるゴルトバイザーが終焉を宣告する。

 契約モンスターである黄金の鳳凰―――ゴルトフェニックスが舞い降り、そのままオーディンの背後へ接着。眩い光を放っては猛烈な圧と共に飛翔。

 

 そして瞬刻に迸った光の奔流が、アナザー龍騎を飲み込んだ。

 

「優木ッッ!!」

 

 肉体を綻ばせるアナザー龍騎が少女の姿へと戻り、黒いウォッチが地面に転がる。

 咄嗟に飛び出した俺が抱えた彼女はやはり、あの騒動の中でアナザーライダーへと変えられた優木せつ菜だった。

 

「つか…さ……さん……?」

 

 恐れていた通り、シザースやインペラー同様ミラーワールド内で敗北した彼女の身体が光の粒子となって消えてゆく。

 元の世界ではやかましいとすら思っていた笑顔や快活さは既に見る影もなく、ボロボロの身なりも相まってただ死を待つだけの身に思えた。

 

「…もう限界か。惰弱な」

 

 音もなく歩み寄ってきた男によってアナザーウォッチが拾い上げられる。

 

「だがその女にはまだ利用価値がある……返してもらうぞ」

 

 男が手を翳して見せると、俺達の世界を襲ったそれと全く同じオーロラカーテンが出現。そのまま俺を撥ね退けて優木を飲み込んでは霧散していく。

 

「何が目的だお前……アイツを襲う理由はなんだ!?」

 

「その女事体に興味はない。俺が欲しいのはそいつの中にある˝欠片˝だ」

 

 そう言うと男も自ら生み出したオーロラの中に消えてゆく―――その寸前、

 

「ぐああぁぁぁッ……!?」

 

 王蛇によって吹き飛ばされたアビスが男の足元に転がる。

 その装甲には紫電が走り、ひび割れは今にも砕け散りそうな予感を孕んでいた。

 

「待って……嫌だ…! 僕はまだ……!」

 

「…丁度いいな」

 

《RYUKI……!》

 

 消滅は必至。そう思われたがそこに男の黒い意志が入り込む。

 今しがた優木から回収したアナザーウォッチを起動させると、そのままアビスの身体へ向け―――、

 

「うっ……あああぁぁぁぁぁッッ……!」

 

 アビスの装甲をすり抜けるようにアナザーウォッチが埋め込まれ、発生した瘴気がその姿をアナザー龍騎へと変貌させる。

 

『ア、 アァ……、これは……?』

 

「力だ。全てがお前の思うようになるな……」

 

 囁くように言い残し、今度こそ男が消える。

 残ったのは俺に龍騎に王蛇、オーディン。そしてたった今誕生した新たなアナザー龍騎で―――、

 

『力…………これなら!』

 

 噛み締めるように自身の身体を眺めた後、咆哮を上げたアナザー龍騎がオーディンへと迫ってゆく。

 

『お前のカードをよこせ……! アレがあれば!』

 

 龍騎同様に左腕に備わった手甲から火炎が放たれ奴を包む。

 炎自体は翼の一振りで簡単に振り払われるが、袈裟懸けに振り下ろされた長剣までには反応が追い付かずその身体にヒット。上体を仰け反らせ数歩後退する。

 

「馬鹿な……?」

 

優木の時と違い理性がある故か、それともまた別のわけか、今度のアナザー龍騎は明らかに強くなっている。

 加えアナザーライダーは力を奪ったライダーを弱体化させる性質を持つ。スペック差こそあれど全員が同じシステムで変身しているこの世界のライダーには、例えオーディンであっても同じ作用が働くのだろう。

 

『ウアアァァァッ!!』

 

 それを知ってか知らずか、反撃も許さないようなアナザー龍騎の猛攻が続く。

 何故いきなりオーディンに標的を定めたのかは不明だが、その姿には鬼気迫るものがある。

 

「っ…! そうか!」

 

 最初にそれを悟ったのは龍騎。同時に焦るように飛び出してはオーディンへの攻撃へと加勢する。

 

「渡すかよ……お前にだけは!」

 

 真司にもオーディンを攻撃する理由が出来た……そう取れる行動。

 彼が向かったのならばきっと俺も加勢すべきなのだろうが、まだ一人気の抜けない奴がいる。

 

「今度はお前か……兄ちゃん」

 

 戦闘狂の王蛇。コイツを突破しない限りは真司の加勢に向かえない。

 早々に迫ってきたベノサーベルの一振りをバックステップで回避し、ライドブッカーの銃口を向ける。

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《BLAST!》

 

 

 威力の増した銃弾を連続でぶっ放す。

 数発は弾かれてしまうだろうが一発でも当たればそれでいい。一瞬でも怯ませられればこちらのペースに持っていける。

 

『シャアァァァッ!!』

 

「なぐっ……!?」

 

 が、真下から飛び上がってきたベノスネーカーにより弾丸は悉く防がれ、逆にその巨体によって跳ね上げられる。

 しまった。先程のファイナルベントで召喚されていたことを失念していた。

 

「ぐ……!」

 

《FOAM RIDE》

 

 

《KIBA GARULU!》

 

 

 空中で姿を変え、噛みつかんと咢を広げるベノスネーカーの頭部に飛び乗っては狼が如し動きでその背中を駆ける。

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《HOWLING SLASH!》

 

 

 自重を落下の勢いに相乗させ、その上で回転を加えた一撃が王蛇の袈裟を切り裂く。

 

「クハハ……! いいぜぇ……もっと楽しませろ!」

 

 並みの相手ならば一撃で葬れる技だが、やはりコイツともなると仕留めきれないか。

 正直このまま戦っていても埒が明かない。ともなれば、

 

《FINAL VENT》

 

 こうなれば一か八かだ。王蛇の挙動に注意を払いつつ、龍騎達の乱戦にも視線を向ける。

 

「ハアアアァァァッッ!!!」

 

 牙を剥くベノクラッシュをギリギリまで引き込み、寸でのタイミングでドライバーにカードを差し込んだ。

 

《FOAM RIDE》

 

 

《KIBA DOGGA!》

 

 

 重量のあるドッガハンマーを地面に突き立て、それを軸にポールダンスの要領で身体を回転。回し蹴りで王蛇のから強襲する。

 

「うおぉッ……!?」

 

 軌道が曲がり、推進方向の変わったベノクラッシュが砕いたのは―――、

 

「―――ッ!?」

 

 毒液の双牙が幾度となく砕いたのはオーディン。

 死角から襲い掛かったその一撃をモロに受け、手放したゴルトバイザーと共に弾け飛ぶ。

 

「真司ッ!」

 

「ッ……!」

 

 俺の声を受け真司も飛ぶ。

 召喚機であるゴルトバイザーを失った以上、奴は殆どの防御手段を失っている。決めるなら今だ。

 

《FINAL VENT》

 

 ドラグレッダーが再度龍騎の周囲を舞い、吐き出した炎に乗ってドラゴンライダーキックが放たれる。

 

「ぬっ……ぐ、ああああぁぁぁぁ……!!」

 

 着弾と共に爆発を起こしたそれは装甲もろともオーディンをぶち砕き、龍騎の勝利を決定付けた。

 

「士ッ!」

 

 今度は真司が俺を呼んだ。

 それに応えた俺も飛び上がると龍騎は滞空したまま今の爆発で舞い散ったオーディンのカードを一枚手に取り、ドラグバイザーに差し込んだ。

 

 

《TIME VENT》

 

 

 

 




原作キャラリョナリストのラブライバーとは私のことだ
まあまだせつ菜ちゃん死んでないのでセーフ(じゃない)

ボス格と思われるタイムジャッカーが口にした門矢士の名前ですが、この士君は厳密には門矢士ではないんです……まあ詳細は後々
そしてお気づきかもしれませんがそのボスジャッカーさんは皆さんがよく知るあの人だったりします

ファイナルベント何回も使ってる件については突っ込まないでくれると嬉しいです!!!(説明放棄)

それでは次回で


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14話 新しい未来

授業と課題でどったんばったんしてます

今回龍騎編ラストです


 

 

 

「―――ってぇぇ……!」

 

 龍騎が何かしらのアドベントカードを使ったと思えば、次の瞬間にはミラーワールドから表の世界へと叩き出される。

 照り付ける日差しにそれを反射する青い海。先程まで俺達がいた内浦と何ら変わりのないように見えるが……。

 

「…一応上手くいったみたいだな」

 

「そうだな。もう少し雑さが抑えられてりゃもっとな。何かは知らねえけど」

 

「……見ろ」

 

 変身を解除した真司が指さす先には至って普通の女子高生が二人。下校途中なのか、会話に花を咲かせながら笑い合うその光景はまさに青春の一ページと言ったところか。

 

「長袖着る時期にしちゃあ遅くないか? もう夏だぞ」

 

「……こっちだとまだ春先なんだよ」

 

 続き、首を傾げる俺の前で真司は一枚のカードを取り出して見せる。

 今にも砂の粒子となって消えそうなその一枚に抱えていた文字は、˝TIME VENT˝。

 

「このカードには時間を超える力がある。それを使って過去の世界に飛んできたんだよ」

 

 TIMEの文字が指す通り、そのカードを使えば過去の世界に飛べる。

 元々は支配者たる仮面ライダーオーディン専用のカードだが、奴を撃破した際に舞い散ったカードの中からこれを見つけたと真司は語る。

 

「…咄嗟にしちゃあ随分と機転が利くもんだな」

 

「まあな。実は少し前からこのカードの存在は耳にしてたんだよ、噂程度だけどな」

 

 自嘲気味に笑う真司の手の中から、タイムベントのカードが完全に消失する。

 

「そんな夢みたいなカードがあるっつっても噂は噂だからな。これで黒澤と松浦を助けられりゃ一番いいんだろうけど、存在するかもわからないものに希望を掛けても仕方なかったし」

 

 聞けば二年前のすれ違いをきっかけに、小原達三人のAqoursはバラバラになったままだという。

 けれど小原だけは諦めずにまた三人でスクールアイドルを始めようとしていた……今回の事件はその矢先に起こったらしい。

 

「そりゃあさ、二人が死んだことは事実だし、ちゃんとそれを受け入れて進んでいくべきだったのかもしれないけどさ。……それでもやっぱり、いざこうしてアイツ等を助けられるかもって思ったら、欲が出ちまった」

 

 もしタイムベントのカードがなかったら。その場合真司がどう決断していたかは分からない。

 けれど実際にそのカードによって過去に飛んだ今、真司が選ぶことは―――、

 

「……俺はまた、楽しそうにスクールアイドルをやってる鞠莉が見たい」

 

 小さく漏れた、彼の願い。

 例え正しい選択でなくたって、それでも変わらない願望。

 

「…いいんじゃねーのか、別に。それで咎める奴ぁいねーだろ」

 

 確かに真司の言った通り、二人の死は受け入れるべき事実だったのかもしれない。

 けど少なからず、間違った選択ではない。それだけは言えた。

 

「…俺の両親、小原グループの……まあつまり鞠莉の親父さんの展開してた事業の工事中に事故で死んじまってな」

 

 不意に、真司が語りだす。

 

「それ以来鞠莉も親父さんもやたらと俺のこと気にかけてきてな。誰が悪い訳でもねーのにさ…」

 

 過去に失った者だからこそ知る痛みがある。

 それを表すかのような真司の語りには、心なしか重みが感じられた。

 

「でもそれに救われた。鞠莉が傍にいてくれたから、俺は前向いて生きてこられたんだ。……だからさ、鞠莉には笑っていて欲しいんだよ」

 

 まあ、聞く人間からすれば馬鹿馬鹿しいことこの上ないのかもしれない。綺麗事だなどと抜かす者だっているだろう。けど理解できなくはなかった。

 

 俺も一人、たかだか女一人のために世界を救おうとしている馬鹿を知っているから。

 

「…だったら話は早いだろ? せっかく過去に飛べたんだ。ぱっぱと片づけるぞ」

 

 再びドライバーを巻き付けた俺に真司も続く。

 真相暴きの探偵パートはここで一区切り。ここからはクライマックス、救うための戦いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……地味だな」

 

「仕方ねぇだろ。向こうもミラーワールドから襲ってくるんだからよ」

 

 滞在時間の限界が来た俺が外で待機していた龍騎と入れ替わる。

 作戦は至ってシンプル。ミラーモンスターが襲ってくるまで松浦を見張り続けることだ。

 

「今時刑事でもこんな張り込みしねーだろ。古いわ」

 

「お前さっきまでのやる気どこ行った……?」

 

 タイムベントで飛んだ日付は丁度松浦果南が消えた日。

 見つかった所持品の場所から割り出した襲撃ポイントまであと十数メートル。そしてその瞬間は急に訪れた。

 

「…いきなりだなっ……!」

 

《FOAM RIDE》

 

 

《KUUGA PEGASUS!》

 

 

「あらよっと!」

 

 ガラス同士を擦り合わせたような共鳴音が響いた刹那、瞬時に緑のクウガへと姿を変えた俺の腕から音もなく風の銃弾が撃ち出される。

 それは周囲の者……今まさに鏡面より飛び出さんとしていた怪物にすら気付かれることなく、風圧の弾がミラーワールドへと吸い込まれる。

 

 あとは向こう次第だが……、

 

『ッ―――!!!』

 

 ライダーのみが見え得る鏡の向こうの世界は現実世界でそこに対応する場所の鏡に映る。

 今でならすぐ目の前。松浦が引き摺り込まれたと思しき鏡には、龍騎によって蹴り払われる巨大な鮫の姿が映った。

 

「成功か?」

 

「ああ、おかげさまでな」

 

 再び飛び込んだミラーワールドの中で龍騎と並ぶ。

 眼前に構えるのは二体の魚類型のミラーモンスターに、その奥で肩を震わせる水色のライダー……アビス。

 

「……何なんだお前等…! どうして邪魔をする!」

 

「アンタを倒すためだよ……鎌田さん!!」

 

 言い切るより早く、二体の獣の間を突っ切った龍騎の剣がアビスへと切り掛かる。

 咄嗟に腕で防御を試みたアビスだったが、不意を突かれたためか防御力を生かしきれずに後方へと吹き飛んだ。

 

「その声は小原のとこの……お前もライダーだったのか?」

 

『そうだ。僕の復讐を邪魔をするために未来からきた……ね』

 

「「っ……!?」」

 

 同じ声が続く。

 だかそれは同一人物から発された声ではなく、後者の方は前者にない威圧感や気味悪さを秘めたもの。

 

「お前ッ……!?」

 

 ここには……いや、この時間には存在しないはずの奴がいた。

 アナザー龍騎。俺達のいた時間、つまりこの地点から見た未来で誕生した、鎌田の新たなる姿。

 

「なんでお前が……? まさかお前もタイムベントに……!?」

 

『ギリギリ間に合ってよかったよ……過去が変わっちゃ僕が困っちゃうからねぇ……!』

 

 問答を遮る怒号が上がり、龍騎がアビスにしたようにアナザー龍騎が龍騎へと激しい太刀を浴びせる。

 何か別な手段で過去に来たとは考えにくい。となると、真司の推測通り俺達と一緒にタイムベントで飛んできたと考えるのが妥当か。

 

「…つ、次から次へと何なんだよ……!?」

 

『……君が知る必要はないよ』

 

 アナザー龍騎が次の標的として狙い定めたのは、なんと過去の自分自身であるアビス。

 タイムパラドックスなどを気にもかけず、一切の躊躇もなく装甲ごとその身体を貫く。

 

「あ…ああぁぁぁぁ……ッ!?」

 

「お前何を……?」

 

 まもなく光の粒子となったアビスがアナザー龍騎へと吸収される。

 過去と未来の鎌田が一つになった……とでもいうべきなのか、ともかくコイツは自分自身を取り込んだのだ。

 

「自分を食った……?」

 

「っ…! また来るぞ!」

 

《FOAM RIDE》

 

 

《KIBA DOGGA!》

 

 

 咄嗟に重量のあるドッガフォームで抑え込みにかかる……が、奴はいともたやすく俺を払いのける。

 己を食らったことでパワーアップしたのか、前よりも明らかに増しているその膂力はライダー二人掛かりでも抑えることが出来ない。

 

《STRIKE VENT》

 

『アアアァァァッッ……!』

 

 強化されたのは力だけでなく速度もか。

 距離と取って撒き散らした爆炎の壁も難なく突き破られ、歪な青龍刀の一閃が俺達を薙ぎ払った。

 

『最高の力だ…! これでまたアイツ等を……いや、今度はあのガキの目の前で殺してやる……!』

 

「…鞠莉に何の恨みがある! 生きるアテもなかったアンタを助けたのは鞠莉だろ!!」

 

『黙れェッ!!』

 

 激昂のままに偽物の龍騎が本物の龍騎を蹴り上げる。

 

『助けただと…? 僕から何もかも奪ったのは小原家だろ! アイツ等がホテル事業に参入さえしなければ僕はこんな無様なことにはなってなかったんだッ!』

 

 真司の話では、鎌田も以前は小原家のようなホテルグループの御曹司だったらしい。

 だが小原家との競合に負けグループは一気に衰退。その後しばらくは小原家の傘下に入って細々としていたらしいが……、

 

『どんな屈辱だったと思ってる!? 全て奪っていった挙句面倒を見るだと!? どれだけ僕を辱めれば気が済むんだッ!!』

 

「がはっ……!」

 

 横暴な呪詛を孕み、より力を込めて降り抜かれた足が龍騎を捉えた。

 もはや形容する言葉も見つからないほど高慢な自己本位を掲げ、鎌田はなおも吠える。

 

『だから僕もアイツ等から何もかも奪ってやるって決めたんだ。そのために使用人になってあの家に潜り込んだ。けどそれをお前らがぁッ!!』

 

 自分に不都合な世界、それを生み出すもの全てを糾弾するように奴は叫ぶ。

 怨嗟の火を噴き、俺達を蹴り飛ばし、何度も、何度も。

 

『今度こそ邪魔はさせない……! まずは僕の苦しみなんて何も知らずに何不自由なく生きてるあのガキから―――』

 

「……ざっけんじゃねぇッ!!」

 

 別の叫びが上がった。

 這いつくばりながらも、地を舐めながらも、それでも決して折れることのない信念を秘めた男の叫びが。

 

「過去のことしか見てないアンタに……鞠莉の未来を奪う権利なんざ…ねぇ……!」

 

『アァ……?』

 

「鞠莉も、アイツ等だってそうだ。どんだけ苦しんでても前向こうとしてんだ、進もうとしてんだ…!」

 

 事件に至る前までに真司や小原がどんな心境でいたのかは知らない。けれど、ずっと近くで彼女を見続けていたコイツが言うのなら、間違いはないのだろう。

 

「それをテメェは一度踏み躙った……二度もアイツを泣かせはしねぇッ!!」

 

 大切な者のための怒りが拳に乗り、アナザー龍騎を殴り飛ばす。

 立ち上がる意味も、命を張る理由もコイツにはある。それが本物(龍騎)偽物(アナザー龍騎)の、本質的な差。

 

「真司ッ!」

 

 そんな男気見せられていつまでも転がっている訳にもいかない。

 立ち上がり様にドッガハンマーをぶん回し、殴り飛ばした龍騎をもんどりかえって転がる奴へと肉薄させる。

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《DECADE!》

 

 

 再びアナザー龍騎を捉えた拳に続き、握り直したライドブッカーで更なる追撃。刹那に爆ぜた炸裂音がその身を切り裂いた。

 

『ガアァァァ……! こんな…、こんな馬鹿共に……!』

 

「ああそうだ。確かに馬鹿だな」

 

 狂ったように刀を振り回す奴に短く返す。

 

「自分一人で傷ついても、気付かれなくても、嫌われても、たった一人の女のために身を投げ出せる馬鹿だよコイツは」

 

 口では言うが、そう簡単にできることではない。狂気的なまでの信念と決意があって初めて成せるものだ。

 

 だからこそ、それを人は強さと呼ぶのだろう。

 

「けどそんな馬鹿だから何が大切なのかが見えている。だから前を向けるんだ。……過去しか見えずに止まったまま生きてるお前とは違うんだよ!」

 

『黙れ…黙れェ! 大体誰なんだよお前はァッ!!』

 

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」

 

 ライドブッカーから飛び出した三枚のカードが舞う。

 内の一枚、竜のクレストが刻まれた金色のカードを選び取り、ドライバーへと叩き込んだ。

 

《FINAL FOAM RIDE》

 

 

《RYU・RYU・RYU・RYUKI!》

 

 

「ちょっとくすぐったいぞ」

 

「は? なに―――どおぉぉっ!?」

 

 龍騎の背中に裂け目が生じ、同時に手にはドラグセイバー、方にはドラグシールドとアドベントカードによる装備を強制的に展開。

 そして俺がその裂け目を広げれば、大凡関節を無視するような変形の後に龍―――契約モンスターであるドラグレッダーの姿となる。

 

「おい!? なんだよこれ!?」

 

「細かいことは気にすんな。行くぞ!」

 

 飛び出した俺に先行しリュウキドラグレッダーが蛇行しながらアナザー龍騎へと接近。吐き出した火球の群れを殺到させる。

 

『くそっ……!』

 

 咄嗟に奴が盾にしたのは二体いる奴の契約モンスターの融合体であるアビソドン。どうやら過去の自分を吸収したことでその契約もコイツへと移ったらしい。

 だがその抵抗ももはや無意味に等しい。灼熱の火焔によりアビソドンは瞬く間に爆散し、生じた爆炎ごと切り裂くように繰り出されたテールアッパーが奴を天へとカチ上げる。

 

「コイツで終いだ」

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《RYU・RYU・RYU・RYUKI!》

 

 

 リュウキドラグレッダーの火焔に乗り、叩き込んだ片足がアナザー龍騎を貫く。

 二人の戦士が降り立つと共に偽物の身体は弾け、断末魔をも掻き消す爆音が鏡の世界に轟いた。

 

 

 

 

 

 

「…やったぜ、鞠莉……」

 

 微かに残った奴の肉片が粒子となって風に消える中、ここにはいない少女に向かって真司が呟く。

 彼女達の未来を奪わんとする障害は退けた。これで一先ず、あの二人が死ぬのを避けられたと言っていいだろう。

 

「……感慨に耽るなら後にしとけ。未来守っても俺達が消えたら意味ないぞ」

 

 そろそろミラーワールドに滞在できる時間も限界だ。身体が消滅を始める前に外の世界、しいては元の時間に戻らなければいけない。

 

 真司の戦いはここで終わったかもしれないが、俺の戦いはまだ終わっていないのだ。

 

「…ん? ちょっと待て、どうやって元の時代に帰るんだ?」

 

「は? またタイムベント使えば……」

 

 とまで言いかけて、ようやく真司の言っている意味を理解する。

 俺達をこの時間へと運んできたタイムベントのカードは一回限りの使用回数。いわば片道切符なのだ。

 

 まあつまり、今の俺達には時間を超える手段が存在しないことになる。

 

「どうすんだこれ!? このまま数か月過ごせってか?」

 

「……いや待て、まだこの時代のオーディンは倒されてないからまたカード奪って……!」

 

 数か月は過去に遡ってきたため、歩夢達と合流するには少なからずそれと同じ時間を過ごさなくてはいけなくなる。

 流石にそこまで悠長に身構えてはいられないため遂に強盗まがいな思想に至るが―――、

 

「……全く、世話が焼ける」

 

 不意に耳を撫でたその声。

 俺はこの声を知っている。そう認識する前に伸びてきた灰色の布が俺達の周囲で渦を巻き、気付けばここではない別な場所へと誘っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、果南さん達を助けられたってこと?」

 

「ああ、一応な」

 

 真司と共に小原の元へ戻った直後に詰め寄ってきた歩夢に起こった一連の流れを説明する。

 

 ……あの時何が起こったのかは全く分からない。何かストールのようなものに囲われたと思った次の瞬間には元いた時間に帰ってきていた。

 アレは一体何だったのか、そしてあの時感じたデジャヴは一体……、閉ざされた記憶の蓋の下で、俺は何を知っているのか。謎ばかりが深まってゆく。

 

「…そっか。もう、急に鞠莉さんが明るくなったからびっくりしちゃった」

 

 無事歴史が書き換わったのはこの目で確認した。真司や小原の描いていたような未来に辿り着けるかどうかはまだわからないが、そこは彼等次第だろう。

 

 しかし直接介入した俺や真司はともかく、この時間に残っていた歩夢にも改変前の記憶があるのはどういうことなのか。

 他の世界からやってきた故なのか。そう思うと優木の一件を知られていなかったのは幸いだったろう。

 

「士」

 

 ともあれこの世界での役目は終わった。また旅の続きだ。

 最後に顔を見せた真司を横目にマシンディケイダーに跨り、そのエンジンを切る。

 

「いつか見に来いよ。鞠莉達のステージ」

 

「……そーだな。こっちの世界のアイツ等がどの程度かは興味あるな」

 

「なんだよそれ……またな」

 

「ああ」

 

 動きだした景色が真司を置き去りにして流れていく。

 どこか遠くから聞こえる三人の声が、次なる世界へと俺達を進ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ひっでぇな」

 

 荒れ果てた町が目の前に広がる。

 瓦解した建物に所々で広がる赤黒いシミ。何か大きな厄災でも通り過ぎたのかと思わせるその光景は、閑散としているはずなのに混沌を想像させた。

 

「士君、その恰好……」

 

「あぁ……?」

 

 歩夢に指摘され自身の服装を確認する。

 黒一色で統一された、機動性を重視したような無駄のないデザインはどこか軍服を思わせる。

 

「ここ、どんな世界なんだろう……」

 

「さあな。少なくともまともな場所じゃないのは確か―――ッ!?」

 

 改めて周囲を見回した瞬間、少し離れた場所で爆音と悲鳴が上がる。

 咄嗟にそちらへと向かってみればそこには子供を含む数人の人間と、それらへ今にも襲い掛からんとする怪物の姿があった。

 

「…士君」

 

「分かってる!」

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《DECADE!》

 

 

 どうしてこういつも、新しい世界を訪れた途端に何かが起こるのか。

 内心そう愚痴りつつ変身を遂げた俺はすぐさま怪物へと突進。ライドブッカー片手に切り掛かって見せる。

 

『ガアアぁッ……!? 貴様……何故俺を攻撃する!?』

 

「さあな、自分の胸に聞いてみろ!」

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《SLASH!》

 

 

 すれ違い様に一閃。

 その直後に爆散したのを見届けつつ、俺は振り返って襲われていた連中の安否を問うた。

 

「おい、だいじょ―――」

 

「ひいぃぃ……!?」

 

 が、俺の顔を見るなり蜘蛛の子を散らしたように喚き逃げ去ってゆく。

 その瞳には恐怖以外にも怪訝が映されており、どうやら何故俺が自分達を守ったのか理解できない……と言った感じらしい。

 

『貴様何を!』

 

『我々への反逆か!?』

 

「へーへー今度はなんだって……」

 

 新手の接近を察知し振り返るも、その中に立つ数人の男が俺の意識を射止めた。

 

「せっかくライダーに成れたのに、反逆なんてね」

 

「全く理解が出来ないな」

 

 ダイヤにクローバー、そしてスペード。

 それぞれトランプのマークに模したクレストの刻まれたベルトを巻いた三人の男達は、いずれも―――、

 

『―――やれ』

 

「「「……変身」」」

 

 

《TURN UP》

 

《TURN UP》

 

《OPEN UP》

 

 

 怪物―――アンデットの命令で男達が前へと出で、それぞれが光のゲートを潜って対応する戦士へと変身する。

 ブレイド、ギャレン、レンゲル。いずれも正真正銘の仮面ライダーだが、この世界においては人類の敵…ということらしい。

 

「ブレイドの……世界……!」

 

 




龍騎編これにて閉幕です
クウガキバと初っ端から最終的に覚醒する展開を続けてしまったので行けるかという感じでしたがまあ何とかなりました
あの二人が死なない未来にするかどうかは迷ったんですが、まあ、この話くらいは救いがあってもいいかなって。どうせこの後も似たような話ありますし(不穏)


そして次の世界はブレイド……ですが何か不穏な気配だとラウズカードが告げてますね

それでは次回で。


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15話 戦う者たち

別で書いてた小説の方がようやっと完結したのでこっちの連載を再開しますよっと
クウガ、キバ、龍騎と続きブレイドの世界です。作者自身ブレイドの記憶がかなり曖昧なので設定を食い違うところがあるかもしれませんがご了承ください


前置きはこの辺にしといて
予告も無しに5か月更新サボって申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ(土下座)


 

 

「はあぁぁぁッ!!」

 

「ったくどの世界でも襲ってきやがって……いい加減飽きてきたぞ」

 

三人の仮面ライダーから押し寄せる攻撃をいなしつつ、コイツ等に命令を下した怪人を見やる。

アンデット―――各動植物の先祖とされる不死身の生命体と記憶にある。

 

本来そのアンデットに対抗する立場として仮面ライダーが存在するはずなのだが、この世界はちょいと訳が違うらしい。

 

「せっかくライダーになれたってのに、よりにもよって反逆だなんて馬鹿な真似をする」

 

「俺はあのガキ助けただけだ。それの何が悪い」

 

剣や拳と共に言葉を交わし情報を得んとする。

まだこの世界についてわからないことが多い。一先ずはやられることの無いよう立ち振る舞いつつできる限りの情報を引き出したい。

 

「……それが反逆なんだよ」

 

《BULLET》

 

《FIRE》

 

 

《FIRE BULLEET》

 

 

ギャレンの銃に二枚のカードがスキャンされ、その銃口から噴き出す火炎の弾丸。

至近距離で炸裂したそれは俺の身体を吹き飛ばし、数十メートル先の廃墟に突っ込んでしまう。

 

「ここは俺達で対処します」

 

「先にジョーカー様のところへお戻りください」

 

『フン……生かす必要はない。始末しておけ』

 

「「はっ」」

 

偉そうに踏ん反り返るアンデッド達へ一礼した後、その命令通り俺を抹殺せんと再び三人のライダーとの距離が縮まってゆく。

 

「……」

 

横目で歩夢を見やった。

念のため隠れておくように言っておいた彼女にそのままにしていろと視線で訴えた後、ライドブッカーから一枚のカードを引き抜きバックルへ差し込む。

 

《KAMEN RIDE》

 

 

《RYUKI!》

 

 

分裂した三つの鏡面に映る影が集約し、俺の纏う装甲が龍を模したものへと変わる。

仮面ライダー龍騎―――不死の生物から力を借りる奴等を相手取るならば鏡の世界の怪物から力を借りるこのライダーだ。

 

「姿が……!?」

 

「その反応も飽きてんだよッ!」

 

ドラグセイバーへと変換されたライドブッカーを薙ぎ、レンゲルを牽制。

すかさず次のカードを差し込み次の手へ移る。

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《STRIKE VENT!》

 

 

右腕にドラグセイバー、左腕にドラグクローを装備し、龍炎を撒き散らしながら間合いに入った敵に切り掛かる。

そんな予測できない俺の攻撃を警戒してかギャレンとレンゲルは距離を取って様子を伺っているが、ブレイドだけはただ一人勇猛に突撃を繰り返してくる。

 

「へえ……お前はちったぁ骨があるみたいじゃねーの」

 

「うるさい黙れ。反逆者は潰す」

 

「わりぃ今の取り消す。やっぱ小物だわ」

 

絵に描いたようなテンプレキャラ。まさしく組織に忠実な犬といったところか。

これならまだその後ろで介入できずにいる二人の方が人間味がある。

 

「まあいいさ大体わかった……俺ぁこの世界でお前を教育すればいいってこったな」

 

「なに訳の分からねぇこと抜かしてやがる!」

 

斬り下ろされたブレイドの得物―――ブレイラウザーをドラグクローの咢で噛みつき受け止める。

なるほど重い。その刀身の長さや厚みは伊達ではないらしい……だが。

 

「60点ってとこか。まだ甘々、使いこなせちゃいねぇな」

 

ブレイラウザーに喰らい付いたまま赤龍の腕甲が火を噴きブレイドを飲み込む。

その武器自体は重量もあり中々強力なものだがその攻撃は一辺倒だ。手数で遥かに勝る俺には怖くもない。

 

「いちいち癪に障る野郎だな……!」

 

《THUNDER》

 

《SLASH》

 

 

《LIGHTNING SLASH》

 

 

二枚のカードが描く軌跡が熱波を切り裂き、刹那に迸った雷撃がブレイラウザーの剣閃と重なる。

格段に威力の増したそれはドラグクローはおろかドラグセイバーの防御すらも打ち破り、立て続けの第二撃が俺の懐を捉えた。

 

「甘々だと…? 俺は選ばれたんだ。反逆者のお前なんかと一緒にするな!」

 

《KICK》

 

《THUNDER》

 

浮かび上がったカードの文様がその力と共にブレイドへ宿る。

満ちてゆくエネルギーを開放するように逆手に持ったブレイラウザーが地面へ突き刺された―――その瞬間、

 

 

《LIGHTNING BLAST》

 

 

爆発的に高まった脚力がブレイドを跳躍させ、突貫する稲妻の蹴りが得物を無くした俺に迫ってくるのが見えた。

直前に見たライトニングスラッシュの比ではない威力なのは明らかだ。当然喰らえばタダでは済まないだろう。

 

 だが―――、

 

「……だから甘いっつったんだよ」

 

奴の攻撃パターンは極めて単調。とにかく攻撃の威力や重さで押し、相手取る者が無防備になったその瞬間に勝負を付けようと大技を叩き込む。こうなることは容易に想像できた。

 

だから一枚、残しておいたんだ。

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《ADVENT!》

 

 

密かに抜き取っておいたカードがディケイドライバーに差し込まれた瞬間、鏡面から牙を剥いた龍―――ドラグレッダーの紅炎が突進と共に真横からブレイドを跳ね飛ばす。

 

「そんな様で俺に勝とうなんざ……二万年早い」

 

《FINAL ATTACK RIDE》

 

 

《RYU・RYU・RYU・RYUKI!》

 

 

お手本だ。そう言わんばかりに飛び上がった俺の背後でドラグレッダーの炎が膨れ上がる。

瞬刻の後に吐き出された獄炎は俺を乗せて爆ぜ、生じたエネルギーは突き出された右足に集約しブレイドへ突き刺さった。

 

「がっ……ああぁ……ッ!!??」

 

ドラゴンライダーキック。単純な破壊力だけ見れば現状の俺の手数で一、二を争う必殺技だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()アイツが喰らってタダで済むはずはない。

 

そんな俺の予想が現実になるようにブレイドの身体は吹っ飛んでゆき、瓦礫を生み出しながら廃屋へと突っ込むのが確認できた。

 

「…朔也さん」

 

「あぁ」

 

が、ここでブレイドがやられている間すらも傍観を決め込んでいたギャレンとレンゲルが動く。

足元に炸裂した弾丸の雨によって粉塵が舞い上がり、格段に悪くなった視界の外からクローバーの装飾の施された杖が迫っていた。

 

「おいおい……お仲間がやられた瞬間ハッスルか。ひょっとしてアイツのこと嫌いか?」

 

「さあ? どうだろうね」

 

《BLIZZARD》

 

《SCREW》

 

 

《BLIZZARD GALE》

 

 

その長杖を回避し斬撃を叩き込もうとした俺に迫る掌からの吹雪。

背後のドラグレッダーが吐いた火炎と相殺し被弾こそ避けられたものの、生じた水蒸気により辺りの視界は劣悪なものと化してしまう。

 

「ちっ……!」

 

ブレイドと違いこの両者からは熟練のそれを感じる。捉えきれこそしないが煙幕の奥で移動する気配からは一切の迷いもない。

これがコイツ等の戦法なんだ。

 

《UPPER》

 

《FIRE》

 

「しまっ―――!?」

 

上昇する熱量を察知し防御態勢に入るも時すでに遅し。

既に眼前にまで迫っていたギャレンの拳が振り抜かれ―――、

 

 

《FIRE UPPER》

 

 

「ッ……!?」

 

()()()()()()()()()()()に地面のアスファルトを砕く。

外した……とは考えにくい。この煙幕の中でも俺を捕捉できている連中がこんな至近距離での攻撃を外すとは思えない。

 

「……何のつもりだ」

 

そうなると、これは()()()外した攻撃。

その真意を問うように煙幕へと問いを投げかければ、間もなく抑え込まれた声音が返ってくる。

 

「お前、変身と基本的な戦闘に使うカードは何枚だ」

 

「はぁ?」

 

「時間が無い。いいから答えろ」

 

奴等の行動の意味を明かそうとした問いが余計に謎を深める。

何故いきなりそんなことを聞いてくるかは謎だが、その声に敵意が混じっていないのを確認すると一先ず正直に答える。

 

「五枚ってとこか……?」

 

「だったら残りのカードを渡せ。早く!」

 

 

「どういうつもりだ!?」

 

 

そう言うが否やライドブッカーからカードを抜き取ろうとする二人のライダーにその後ろから上がった声が刺さる。

 

その方を見やればブレイド。しばらくは動けなくなる程度の攻撃を打ち込んだつもりでいたが、なるほどあの重い得物を振り回せる分身体は頑丈らしい。

 

「お前等そいつを逃がそうとしてるのか……? 反逆者は皆殺しにするんじゃなかったのかよ!!」

 

「ちっ…、面倒なことになった」

 

状況は全く飲み込めないのだが、とりあえずギャレンとレンゲルに関しては味方……という認識でいいのだろうか。

俺を庇うようにブレイドの前に立ちはだかっているのは確かだが、それでも色々と理解が追い付かない。

 

「少し行ったところに僕達の仲間がいるシェルターがあります。詳しい話はそこで」

 

「…知らん顔だが反撃の芽であることに変わりはない。失う訳にはいかないからな」

 

 ジリジリとブレイドが迫ってくる中、刺すような緊張感を醸しながら俺に退避を促してくる。

 まだコイツ等からこの世界の情報を引き出しきれてないが……ここは致し方なしか。

 

「行けッ!」

 

「よくわかんねぇが……退くぞ歩夢!」

 

「う、うん……!」

 

投げ返されたライドブッカーを受け止め、歩夢の手を引いては走る。

その後ろで上がった新たな戦火が、より大きな災いの到来を予感させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朔也! 睦月! お前等ホントに裏切ったのか!?」

 

「裏切りも何も……!」

 

「最初からアンデットの味方などするつもりはない!」

 

唐突に訪れた瞬間に困惑しながらも大剣を振るう。

仲間だと思っていた。信頼してるつもりでいた……けどそれも裏切り、コイツ等は間違った道を選んだんだ。

 

「騙していたのは悪いと思ってるさ。だが、お前に言ったところで賛同などするはずがないからな」

 

「当たり前だ! 誰が()()()()の味方なんてするか!」

 

コイツ等は裏切った。自分達の、アンデットの敵なんだ。

そんな迷いや寂寥を断ち切るように幾度となく剣閃を描いた。

 

「この世はアンデッドが支配している……非力な人間はそれに従うのが当たり前だろ!」

 

「悲しい奴だな……お前は」

 

その仮面の裏で、哀れみに満ちた目が瞬いた気がした。

何故だかそれがとんでもなく屈辱的で、感情のままに振り抜かんとしたブレイラウザーは、横から入った長杖に受け止められてしまう。

 

「…あなたも、人間のはずなんですがね」

 

《RUSH》

 

《BLIZZARD》

 

《POIZON》

 

レンゲルがスキャンした三枚のカード。大技を発動するための手順だ。

次の瞬間には発動しているであろうそれを回避すべく足に力を籠めるが、先程の戦闘であのライダーにもらったダメージが思うように動くことを許してくれない。

 

「人類の自由のためだ……許せ」

 

《DROP》

 

《FIRE》

 

《GEMINI》

 

吹き付けた冷気にライダーとしての装甲が凍り付き、身動きの取れなくなった瞬間。

極零の毒槍と爆炎の一蹴。その両者が炸裂した。

 

 

《BLIZZARD VENOM》

 

 

《BARNING DIVIDE》

 

 

衝撃音と、それに伴う激痛が全身を駆け抜ける。

敗北した。その事実を認識した時には既に、意識は闇の中にあった。

 

 

***

 

 

「ぅ……!」

 

覚醒した意識と視界が最初に認識したのは見知らぬ天井だった。

直後にこうなった経緯を思い出すと咄嗟に身体を起き上げ―――すぐに痛みに顔を顰めることとなる。

 

「ああ、ダメやんそんな勢いよく起き上がったら!」

 

「……?」

 

耳朶に触れた声が自分に向けられたものだということと共に、自身の身体に包帯や湿布と言った処置が施されていることに気が付く。

 

「その傷じゃまだ痛むやろうけど、とりあえず元気そうでよかったわ」

 

ツーサイドのお下げに纏めた紫色の長髪を揺らし、おっとりとした印象を抱かせる少女がこちらに駆け寄ってくる。

傷を処置したのも彼女なのか、その独特な口調からは自分を介護したものと思われる節が伺えた。

 

「心配したんよ~。傷だらけで倒れてるし、アンデッドにでも襲われたりしたん?」

 

「ッ…! お前も反ぎゃ―――」

 

「ああごめん。まず名乗らないと何もわからんよね」

 

射殺すような敵意を向けるも、一切意に介す様子もない。

話が通じない……というよりはとことんマイペースと言った彼女は、こちらの毒気を抜くような邪気のない笑みで言った。

 

「ウチは希……東條希っていうんよ」

 

 




原典のブレイドと違いこの世界ではアンデッドが支配者として君臨し、仮面ライダーはその手駒……といった立ち位置になっております
ディバイド版のブレイド世界を基礎としているのでねじれこんにゃく(統制者)やバトルファイトも存在しません

そんな世界でもギャレンやレンゲルは人類のために動いておりましたが肝心のブレイドがあんな感じになっており……
そんな彼に対しこの世界のヒロインである希はどう接していくのやら

久々に書いているのでもう少しペースが安定しない期間が続くと思われますがお付き合い頂ければ
それでは次回で


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16話 揺れ動く熱

ペースが安定しないどころか前回以上に間を開ける男
最早待たれてすらいないかもしれませんがただ今復帰いたしました。今度こそちゃんと更新守ります()


 

 

 

「……シェルターってのはここか?」

 

「なんか廃屋みたいだね……」

 

「ま、アンデットが支配してる世界だ。虐げられてる人間が隠れる場所ともなりゃうってつけだろうよ」

 

ギャレンにレンゲル。乱戦の最中奴等に示されたポイントまで赴いてみれば、そこは倒壊した商業施設……その跡地だろうか。

 

荒涼とした殺風景の中に鎮座しているもののここに至るまでに鼻腔を突き刺していた硝煙の臭いはない。すなわちここはアンデット達の侵攻から逃れて久しいということだ。

 

「来たな」

 

だが確かに居座る違和感。

その正体に思考を巡らせていた掛かった声はすぐ直前に耳にしたもの。

 

「よう……丁度ご説明頂きたかったところだ。反逆者様方」

 

「それはあなたもでしょう?」

 

「詳しい話は中でする。とにかく着いてきてくれ、奴等に勘付かれたくない」

 

ブレイドから俺達を二人。その目的が何かまではまだ定かではないが、現状頼れる筋がここしかないのが事実。まああまり心配はしていないが一先ずその後に続く。

 

「改めて聞いておくがお前は何者だ? 見たところアンデットの力で戦っている訳でもなさそうだが」

 

「ただの通りすがりの仮面ライダーだ。一応味方だが……生憎お前等の事情は何も知らんからイチから説明してくれ」

 

「はぁ…? じゃああなた達どうやって今まで……」

 

「まあいいさ。どちらにせ俺達のことは話すつもりでいた」

 

互いに探りを入れつつ進めた足が厳重に閉ざされた鋼鉄製の戸の前で止まる。

地下に鎮座するこの場に至るまでにもいくつかバリケードと思しき個所を通過してきたが、恐らくその最終ラインと思しきそれは軍の基地を連想させた。

 

「……ここが俺達の砦だ」

 

重低音と共に開かれた戸の向こうに待ち構えていたのは地下都市……とでもいうべきものか。

だがそこに栄えた様子は一切なく、スラム街を思わせる簡素な住居や市場が並ぶ荒れ果てたものだった。

 

「ひっでぇな……」

 

「ちょっと、士君…!」

 

「見たままの感想でいいですよ……酷いのは事実ですから」

 

黒い隊服を着た俺が足を踏み入れたことで周囲の連中に警戒と恐怖の色が伝播するが、先導してきた二人の説明により間もなくそれも薄れてゆく。

 

目に付くのは武装した戦闘要員と思われる連中ばかりだが、彼等が守らんとする背奥にはその他の人々の姿も確認できた。

 

そして総じて、その顔には生気がない。

 

「自己紹介が遅れたな。俺は枸橘朔也(からたち さくや)

 

南城睦月(なんじょう むつき)です。朔也さんがギャレンで、僕が―――」

 

「レンゲルだろ。……俺は士でいい。こっちは上原歩夢だ」

 

創作の世界だとこういうのをディストピアだとかポストアポカリプスとか言うのだったか。

自己紹介は軽く流す程度で十分だ。とにかく今は情報が欲しい。

 

「……で、なんでまたこんなひっでぇ状況になってる訳だ?」

 

「お前達もさっき見たばかりだろ……アンデットどものせいだ」

 

説明を乞えば苦々しい朔也の返答。

そこから綴られたのは、この世界の人類に降りかかった不幸の歴史だった。

 

「文明の跡はちらほら散見できるが……この世界も元々は人類が栄えてたと思っていいのか?」

 

「ええ。まあ、それもアンデット共が復活したせいでこの様ですが」

 

「睦月の言った通り、アンデットは太古の戦争において封印されていたはずの存在だった。そしてその封印が解かれたのが二年前のことだ」

 

朔也曰く、その大戦においてアンデットを封印したものが太古の人類が生み出したオーパーツ˝ラウズカード˝。

 

戦争の勃発、そしてその終結に至るまでの経緯は全て伝記によって後世に伝えられていたらしいが……時代の経過と共にその伝説も風化。いつしか桃太郎のような作り話とされていたそうな。

 

そして約二年前に古代遺跡にてラウズカードが発掘されるが、もはや伝説のことなど忘れ去った科学者達の解析中にアンデットの封印が解かれてしまい今に至る……つまりはそう言うことらしい。

 

「で、お前達仮面ライダーがアンデット側に着いてた理由は?」

 

「正確にはついてるフリ……ですけどね」

 

「単純なことだ。このライダーシステムを牛耳ってるのがアンデット共だからな、この力を得るには一度奴等の軍門に下る必要があった」

 

復活したアンデットの進撃が続く中、人類も対抗策としてラウズカードを分析しライダーシステムを開発したはいいものの、実用段階に至る前に襲撃を受け奴等の手に落ちたという。

 

そして今はアンデットの傘下となった人間、その中でも選ばれた者が行使する力。要するにこの世界の仮面ライダーはアンデットの手下となっている訳だ。

 

「大体わかった。それでお前等は手下になったフリをしてライダーシステムを手に入れてた訳か」

 

「理解が早くて助かる」

 

「と言っても、僕等みたいな反逆派はほんの一部で、殆どは本当にアンデットに寝返った奴等ばかりですけど」

 

「あぁ…、さっきのブレイドとかまさにそんなだったもんな」

 

仮面ライダーブレイド。この世界の救う鍵を握るライダーであり、俺が使命を果たすべき相手。

 

だが奴は如何にもアンデットに迎合しその思想に染まっているといった様子だった。あんなのをこれから口説かなければならないと思うと頭が痛い。

 

「いや、アイツは……一真はかなり特殊でな……」

 

「あれを引き込もうと思ってるなら諦めた方がいいですよ。人類側の都合とか考えるような人じゃないですから」

 

「……どういうことだ」

 

口振りから察するにブレイド、ギャレン、レンゲルの三人以外にもライダーは存在するようだが、まだそれらと遭遇していない俺には判断を下す材料がない。

 

しかしこの二人は自ら敵陣に忍び込んだ奴等だ。当然他のライダーとも接しているだろうし、俺には知り得ない情報も掴んでいるはずだ。

 

「……一真さんは出自を含めた何もかもが謎なんです」

 

そう思ったのも束の間のこと。

示された解は想像の真逆を行き、組み立てつつあった方程式を崩壊させる。

 

「他のライダーについては殆ど調べが済んでいるが、一真だけは欠片の情報も掴めん。アンデット復活以前の戸籍データにも目を通したがアイツの名前はなかった」

 

「…あり得るのかそんなこと」

 

実際元の世界で戸籍上に名前がなかった俺が言うのもなんだが、この世界にも同程度に文明が進んでいたのならば出生から青年と呼べる段階に至るまでの間に一切戸籍に関わることが無かったなどあり得るのだろうか。

 

「記憶喪失……ってことはないんですか? 士君とかそうだったから……」

 

「ああ、恐らくそうだろうと踏んでいる。まあ実際記憶喪失ともまた違うんだろうが……」

 

「あの人、自分のことアンデットに育てられた選ばれし人間とか言ってましたからね……」

 

歩夢への返答から察するにブレイド―――一真は記憶に何かしらの改竄を受けている……ということなのだろうか。

実際、一真の発言と史実を照らし合わせると少なからず彼は二歳児以下になると考えればもう確定したようなものだろう。

 

なるほど。この世界のライダーもまた毛色が違う……苦労することに変わりはなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだお前……ここはどこだ!?」

 

「だから希って言ったやん? いきなりで混乱してるのかもだけど、しばらくは安静にしてないと」

 

視界に映る何もかもが見慣れぬものだった。

その中でもこの少女―――東條希と名乗った彼女の存在は一際異質だ。如何に敵意や警戒心を向けようと、返ってくるのはその全てを中和するような和顔愛語ばかり。

 

「そんでここは東地区のシェルターやね。あんまり外から人を入れちゃダメって言われてるけど、流石にあんな状態で倒れてたら見逃す訳にもいかんしね」

 

一真とは対照的に希の向ける笑みには敵意はおろか警戒の色すらも伺えない。

もしや一真が仮面ライダーであると知らないのか。そうなると時折仮面ライダーやアンデットと交戦する反乱軍の者ではないらしい。

 

「で、どうしてあんなところに転がってたの?」

 

だがアンデットの統治に抵抗する者であることに変わりはない。

 

彼女の言葉から推測するにここは逃げ隠れた人類が身を隠しているシェルターの一つだろう。これまではその場所の特定に手こずることも多々あったが、このシェルターを制圧すれば芋づる式に別のシェルターの場所も判明するかもしれない。

 

そうなれば早急に制圧、ないしは本拠地に戻って報告だ…………そう思い腰元に手を伸ばすが、本来あるべきはずの感覚に触れることなく空を切る。

 

「え……」

 

ライダーへと変身するためのアイテム―――ブレイバックルがない。

咄嗟に周囲を見回すもそれらしきものは見当たらず、希がくすねたとも考えずらい。

 

となると真っ先に思い浮かぶのは、あの裏切り者達の顔だった。

 

「アイツ等…!」

 

朔也に睦月。ライダーでありながら人類の味方をしていた裏切り者。

先の戦闘で奴等に敗れた後バックルを奪われた……そう考えれば合点がいく。

 

「こーら、無視しない」

 

どうすべきか。焦りと憤りが渦巻く頭で答えを模索するが、それすらも許されることなく頬を挟む手のひらに阻まれてしまう。

 

「さっきも言ったけど、結構傷酷いからおとなしくしてた方がいいよ。でもじっとしてるのも暇だろうし、ちょっとウチとお話しようよ。ね?」

 

なんなんだこの女は。

探りを入れているかのような強引さだが、特別何か裏があるようにも思えない。

 

本当にただ自分と話すことだけが目的ならますます訳がわからなくなる。それをして何になるのだろうか。

 

「それで、なんであんなところで倒れてたの?」

 

気付けば完全に彼女のペース。ライダーとして選ばれた自分がこんな少女に振り回されているとは情けない話だ。

だが逆に考えればこれは好機か。話の中で自分の状況だけでなく、人類側の情報も何か掴めるかもしれない。

 

「……想像してる通りでいい」

 

ならばと、お望み通り会話とやらに興じてみる。

嘘で塗り固めてこそいるが、それでも対話に応じた一真に彼女は目を細めて笑った。

 

「まあ多分そんなだろうと思ってたよ。このご時世であんなことになってるなんてアンデット絡み以外あり得んし……でも無事だったなんて運いいんやね」

 

「……まあな」

 

嘘だけどな。と心の中でほくそ笑みつつ受け答える。

やはり何か裏があるようには思えない。底こそ伺えないが、彼女の笑顔はそこまでも透き通っている。

 

その純粋さが、どことなく眩しく思えた。

 

「……すげぇよな、アンデットは」

 

「え…?」

 

それがどうにも嫌で、早くも目的から逸れたことを口にしてしまう。

 

「だってそうだろ。力も知能もずっと上……俺ら人間じゃ到底敵いやしない、高等な存在だ」

 

選ばれた人間なはずなのに、コイツなんかよりもずっと上にいるはずなのに、心の奥で彼女に負けていると思っている自分がいる。

 

「そんな奴等に抗ったって無駄なんじゃないのか? 抵抗なんかやめて、大人しく支配された方がきっと……」

 

その言葉が自分自身の主張であることに変わりはない。

けれど今それを口に出した理由は啓蒙でなく、もっと矮小な訳。

 

少しでいい。少しでも彼女に、自分達アンデット側への畏怖を見せて欲しかった。

 

「……そうかなぁ」

 

だが、希が見せたのはまた別な顔。

 

「そんなの、つまんなそうやん?」

 

たった一言。

正論を並び立てて諭すでも、感情に任せ捲し立てるでもない。ただただ一言で期待は崩れさり、同時に敗北感が吹き抜ける。

 

「頭おかしいのか……? アンデットの傘下に入れば命は保証される。いつ奪われるかもわからない明日から逃れられるんだぞ?」

 

「明日がわからないからこそ、今日っていう日を全力で生きれるんよ」

 

アンデットの世界しか知らない一真と、人の世界で生きてきた希。文字通り、見ている世界が違うのは明白だ。

だがここで敗北を認めるのは即ち、アンデットがどこか一つでも人間に劣っていると認めるのと同義だ。それだけは許容することができない………はずだった。

 

「………」

 

反論に詰まる傍ら、今一度彼女の言葉を噛み砕いてみる。

つまらなそう、全力。この状況下においてもそう言えるのは自分の抱える生に楽しみを見出しているからこそだろう。

 

そんな彼女に反し自分はこの˝生˝を……楽しいなどと思ったことがあっただろうか。

 

「ていうか君、やたらアンデットの肩を持つけど、もしかして………」

 

思案に耽る最中、こちらを覗き込む希に悪寒が走る。

途端に冷静になる思考が己の失策を呪う。溜飲を下げるために口を滑らせすぎたか。

 

繰り返すがここは人間側の陣地。希が反乱軍の者でないにしても、不穏な気を感じ取れば奴等に報せが飛ぶことは容易に想像がつく。

 

「……ま、いっか。それよりもっとお話し聞かせてよ。ウチ、君に興味湧いちゃった」

 

場合によっては……と身構えるが、やはりそんな懸念すらも彼女は超えてきて。

 

なんなんだ。

何がしたいんだコイツは。

 

詮索の意思がある訳でも、敵意を感じる訳でもない。ただただ一真に対する興味のまま接してきている。それはこれまでに触れたことのなかったものだ。

 

そして、その熱に心地よさを感じている自分も確かにいて。

 

「……語るほどねーぞ」

 

だからそれを知るために、少しだけ。

少しだけ、こうしてどこにも属さない人間として生に触れて見るのも、悪くはない気がした。

 

 




間が空き過ぎて最早作者自身何の話をしていたのか忘れていたレベルですがまだ読み返せば何とかなるのでセーフの精神。

士達はこの世界の成り立ちや謎に包まれた一真の出自に触れ、一真自身は希に振り回されながらも何か感じるものがあるようで……。

とりあえず集中していた作品の方は完結しましたので今度こそライダー側に復帰することを誓います()
それでは次回で


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17話 迷いの生命

絶賛リハビリ中ですがCSMディケイドライバーver2が出たので気合の投稿。買ってはいませんが

別作品の完結により完全にスイッチが切れていたことや暫く1次をやっていた関係でまーーたサボっておりました本当にすみません何とかします(n回目)


 

 

「ふーん……兵刃(やいば)一真君って言うんやね」

 

希と談笑を始め、体感で半刻ほどが過ぎたあたりだろうか。

一頻りの会話を終えた彼女は、最後に一真の名を反芻しながらやはり柔らかな笑みを作る。

 

「ありがとうね。久々にいっぱい人と話して楽しかったよ」

 

「いやいや、お前に限ってそんな……」

 

気付けば談笑に浸っていた身体は何の疑念も抱くことなくその言葉への返答を形作るが、間もなく的を逸れたことを理解する。

見回せば避難を強いられた人々の数はそれなりに確認できる。だがその誰もが生気の薄れた表情を張り付けており、希のような気色を持つ者は見受けられなかった。

 

「……やっぱり皆、追い詰められてるんよ」

 

口には出さず目線だけで問えば、その意図を悟ったように彼女は答えた。

アンデットの襲撃により強いられた過酷な生活。それにより落とされた影を背負う人々の姿は、敢えて言うならば死んでいるかのようで。

 

それがどうにも、自分自身と重なっているように思えてならなかった。

 

「……なあ」

 

一頻り交わした会話を思い起こしつつ希に問う。

周囲の人々を影とするならば、彼女は光だろう。その輝きは偏に、語られた˝生˝によって紡がれるものなのだろうか。

 

明日も約束されぬ日々の中で自分の信じる生を貫く希と、庇護された生を掲げ命令されるままに従うだけの一真。優劣を抜きにしても、どちらがより生命らしいと問われればその差は明確だろう。

 

「…お前にとっての楽しいって、全力で生きるって、なんだ?」

 

だからこそその真意を触れたかった。

 

アンデット側に着く方が生存を前提とした判断として優れている。その考えに変わりはない。……故にそれを知りたい。

 

生きることとは、一体何なのか。

 

「そうだなぁ……」

 

一瞬考える素振りを見せるも、彼女の中では既にその答えは形作られているようで。

次の瞬間には、待ち望んだ回答が提示され―――、

 

 

 

 

 

「ッ……!?」

 

突如身奥を貫くような衝撃が空間を揺らす。

震源は付近ではない。ガヤガヤと騒々しさを増してゆく方へと目をやれば黒を伴った土煙と、僅かに差す陽光が視認できた。

 

「なに……?」

 

「お、おい……!」

 

血相を変えて駆け出した希の後を追えば、間もなく震源地を思しき場所へと辿り着く。

 

「なっ……!」

 

そこで見たものは幸か不幸か。

 

悍ましい言語や呼吸音を掻き鳴らしながら蠢く黒の群れ。それは支配者であるアンデット―――その集団に他ならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こーれはまた大所帯でおいでなすって………」

 

突然の爆発から十数秒程度だろうか。

巻きで情報を飲み込んだ俺は先んじてバックルへとカードを差し込み、迎撃の姿勢を取っては奴等と向かいあう。

 

「着けられてきたか……?」

 

「いや、あの人数での備考なんていくらアンデットでも不可能です」

 

「その話は後でいい……それよりも今は」

 

枸橘と南城もそれぞれライダーへと姿を変えるが、続々と突入してくるアンデットの部隊が動じる気配はない。

 

仮面ライダーすらも支配下に置いている。そんな驕りもあるのだろうが、それ以上に大きいのは目に見えて違う風格を醸す三体の怪物。

 

「カテゴリーK……」

 

アンデットはそれぞれの持つ能力によって格付けされ、それらが秀でた個体は上級アンデットなどと呼ばれ、この世界おいては幹部格に収まっている。

 

特にその中でも特筆した能力を持つアンデットに与えられるのが˝K˝のカテゴリー。つまりは最上位個体……それが同時に三体だ。

 

『フン……やはり造反を企てていたか。ギャレン、レンゲル』

 

「へぇ……流石、上位個体様は人間のお言葉も流暢なこった!」

 

挨拶代わりにとライドブッカーの引き金を絞るが、防御動作もなく弾丸を受け止めた奴等にダメージの色は伺えない。

下級個体ならばこれだけで致命傷に持っていけただろうが……そこは流石にKの称号を冠しているだけあると賞すべきか。

 

『全く。これしきのことに俺達が出向く必要があったか?』

 

『そう言うな。ジョーカー様のご命令だ』

 

『ま、あんまり周りをちょこまかされるのも目障りだったし、丁度いいんじゃない? 裏切り者も炙り出せたことだしさ』

 

「……バレた以上は仕方がないな」

 

充満する緊張感。それは直後に爆発する。

 

「迎撃だ!」

 

枸橘の号令と共に砲撃の音が鳴り響く。やはり人類の重要拠点だけあってそれなりの防衛システムは備わっているらしい。

 

だが―――、

 

『……温いなぁ』

 

カテゴリーKの内一体―――コーカサスビートルアンデットは左腕の盾で難なく受け止めて見せる。

直後、ひゅ、と風と切るような音がしたと思えば、途端に瓦解した天井が崩落。砦に瓦礫が雪崩れ込む。

 

「ぐっ……退避ッ!」

 

レンゲルの発動した突風に運ばれ他の戦闘員は難を逃れるが、人類を守る防衛設備は既に瓦礫の下だ。最早使い物にはなるまい。

そうなれば最早、人類の希望は俺達仮面ライダーの他に存在しない訳であり―――、

 

「ようはコイツ等を倒せばいいだけだ。シンプルでいいじゃねぇか!」

 

「ッ…! おい!」

 

他の連中はたじろいでいるようだが、戦うという選択肢の他ない俺は即座に奴等へと切り掛かる。

その様を見て枸橘達も現状を飲み込んだのか、孕んだ闘気と共にそれぞれカテゴリーKへと突撃してゆくのを横目に確認した。

 

『…何者だ。貴様のようなライダーは知らん』

 

「誰も何も、ただの通りすがりだよ!」

 

俺の相手はパラドキサアンデット……見た目からしてカマキリの始祖か。幾度となく振るわれる刃はライドブッカーと衝突し高音を響かせる。

 

『フン………どうせ貴様も反逆者と言う事実は変わらん。反乱の目は潰し、我等アンデットが世界を統率するのだ!』

 

「やっすい台詞なこった……悪役としちゃ二流だな!」

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《SLASH!》

 

 

居合の合間を突いたキックが届き、その奇怪な肉体を後方へと運ぶ。

刹那に生じた隙を見逃さずにカードを挿入。紫電を纏ったライドブッカーを構え奴へと突貫する。

 

『本当に二流かどうか、その足りない脳でもう一度考えてみることだな』

 

「ッ……!?」

 

迫る俺の一撃を前にパラドキサアンデットは左腕を横に薙ぐのみ。奴の間合いにも入らぬうちに見せた挙動は悪足掻きのようにも思えたが、その答えは直後に吹き飛んだ俺の身体が証明することとなる。

 

『……まさか、もう忘れたとは言うまいな』

 

「…そうか、さっきのはテメェが……」

 

その原因を遅れて理解する。

見えない真空の刃……俗に言う鎌鼬が奴の能力。恐らく直前に起きた天井の崩落もそれが故だろう。

 

『来ないのならばこちらから行くぞ!』

 

「チッ……」

 

予備動作自体は存在するとは言え、得物自体は不可視の刃。対処は困難を極める。

 

クウガ―――ペガサスフォームの力があれば回避は容易だろうが、現在手元にあるのはディケイドと龍騎のカードのみ。偽装のためとはいえカードを手放したのがここで響いてくるとは……。

 

《ATTACK RIDE》

 

 

《BLAST!》

 

 

ならばと一度距離を取り強化された弾丸をぶっ放すが、それも迫る鎌鼬を相殺するだけに終わる。

手数の多さがディケイドの強みだが、この状況に限ってはそれも過去のこと。使える手で攻撃を凌ぐので手一杯なのが現実だった。

 

「どうやってこの場所を見つけた!」

 

それでも反撃の機会を疑う傍らでギラファアンデットと対峙する枸橘の声が耳朶に触れる。

 

『我々を超える高エネルギー反応を感知してな。それを探り、あわよくば回収して来いとのジョーカー様の命令でな』

 

「なに……!?」

 

ギラファの能力は障壁か。ギャレンの放った銃弾を反射してはシェルターの倒壊を加速させてゆく。

 

「どういうことだ……? ここにそんなものはないぞ!」

 

『どうだかな……反逆者の言葉など聞く道理はない』

 

「ぐッ……!」

 

高エネルギー反応。奴等が何を指してそう言うのかは定かではないが、少なからず枸橘の言葉に嘘がないのは確かだ。

ならば要因は何かと思考を巡らせるが、眼前に迫った白刃はその余裕すらも与えてくれはしない。

 

『どうせ見つかっちゃうんだから、早めに吐いちゃうのが身のためだよ』

 

コーカサスに跳ね飛ばされたレンゲルの身体が俺やギャレンを巻き込み防護壁に衝突。衝撃によって露わになった鉄筋がその破壊力を物語っている。

当たり前だが一体一体の能力が下級個体の比にならない。手数も限られる現状では押し切られるのも時間の問題だろう。

 

『……あの女子(おなご)か』

 

そして事態は想像にしない展開へと遷移する。

何かを感じ取ったように眼光を散らしたパラドキサアンデットが視界に定めたのは―――、

 

「え……」

 

「歩夢ッ……!」

 

歩夢へと魔の手を伸ばした奴を渾身のタックルで跳ね飛ばす。

だが今の状況で上級アンデットを三体も相手取るのは不可能であり、次の瞬間には変身が解かれ人としての身体を地面へと転がした。

 

『人間がアンデットより高い生命エネルギーを持ってるとかあり得るの?』

 

『さあな。だが捕えている科学者共に調べさせればわかることだ』

 

俺の不能を確認すると、今度こそパラドキサの腕が歩夢を捉える。

何故歩夢が……。懸念は尽きないが、今はそれを探っている暇はないのは明白だ。

 

「こんの―――」

 

『はいはい邪魔』

 

掴み掛かるも、ライダーとしての装甲の無い生身の肉体ではアンデットには太刀打ちのしようもない。軽々と薙ぎ払われ地を舐める。

 

『諦めないよね人間も。けど、あんまりしつこいとコイツみたいに―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《KAMEN RIDE》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《IXA!》

 

 

 

《GREASE!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再度の突撃も虚しく跳ね飛ばされたその刹那。

突如飛来した光弾が俺への凶刃を生生だと思えば、それは二つの像を成し、顕現する。

 

「おいおい、レディの扱いがなってねぇなカブトムシ。手本を見せてやるよ」

 

「…無関係のガキ巻き込むのはルール違反じゃねぇのかよ、ゴラ」

 

「名護……?」

 

現れたのは二人のライダー。その片割れである仮面ライダーイクサは過去に訪れた世界で共に戦った者……だが何かが違う。

 

「待ってろお嬢さん、今行くぜ!」

 

「心火を燃やして……ぶっ潰す」

 

唐突な事態は誰に状況を悟らせぬまま次なる舞台へ移る。

何かに突き動かされるように二人のライダーはアンデットへと接近し、片やナックルダスター、方やバンカーか、各々の握る得物を振り翳す。

 

『次から次へと……何なんだコイツ等は』

 

『さあね。…けど気に食わないのは確かかな!』

 

アンデット共もそれらを敵とみなしたのか、応戦する形で前へと出るギラファとコーカサス。

俺と同様、本来この世界に存在しないライダー達であるが故か、先程よりも幾分か慎重に様子を伺っているようにも思えた。

 

「今度はクワガタか。せいぜい俺を引き立ててくれ」

 

だがそんなことは一切関係ないと言わんばかりにイクサは拳を打ち出す。

 

そのスタイルはやはり俺の知るイクサとは違った。構える武器は長剣ではなく、変身にも用いる拳型のアイテムをひたすらに叩き込んでいる。口調も相まってか、受ける印象は真反対と言っていいだろう。

 

「足りねぇなァッ!」

 

イクサのそれを傲慢や驕りと称するのなら、こちらは闘気と野生か。

金色のソルジャー―――仮面ライダーグリス。˝型˝を大きく逸した荒々しさには一種の享楽すらも感じる。

 

膂力か、はたまた属性が故か、コーカサスの防御を容易く打ち破るような猛攻が恐ろしいまでの速度で叩き込まれてゆく。

 

「やるじゃないか、全身金ピカシャチホコ」

 

「いちいち癪に障る野郎だな……さっさと決めんぞ」

 

「おっと、彼女を助け出すのは俺の役目だ」

 

「勝手にしやがれ」

 

瞬く間に二体の上級アンデットを退けると、同時にパラドキサへと突撃。

先んじて一撃を加えたグリスと入れ替わる形でイクサが肉薄。当てがった手甲が目視でもわかるほどの電流を流し込み、脱力した一瞬の隙に歩夢を救出。前線から離脱する。

 

《スクラップフィニッシュ!》

 

「デェェァラッ!」

 

直後に迸ったのは黒の渦、とでも称するべきか。

グリスの両肩から噴出されたオイルのような液状物質が推進力を生み、ミサイルの如く突き刺さった飛び蹴りがパラドキサを薙ぎ払って見せた。

 

『全くもう……イライラさせるなぁ』

 

『流石に想定外だ。ここは一度退くぞ』

 

使命は果たした。雄々しい背中でそう語りつつ、歩夢を連れ戻したライダー達は光へと還ってゆく。

これにより俺達側の抑止力は再び失われた訳だが、彼等の出現が唐突であったが故か、援軍を警戒するアンデット共にも自重が伺い取れた。

 

『フンッ!』

 

統率を取るパラドキサが鎌鼬を生み、先例と同様に天井の一部を崩壊させる。

 

『…ただ退くってのも任されたみたいで気に食わないなぁ』

 

『ならば良い手がある』

 

降り注ぐ瓦礫片により舞い上がる土煙は撤退する不死者達の姿を包み隠す。

悪化する視界の外までは把握することは出来ないが、連続して上がった悲鳴や怒号から何かよからぬ方向へと事が運ばれようとしているのだけは容易に想像できた。

 

『何人か預からせて貰うよ。君達で言う人質…かな? どうすべきかは……まあ、自分達で考えなよ』

 

最後に残された不穏な声と共に、奴等の姿は文字通り煙に巻いて消えてゆく。

明瞭になる視界の中、被害状況の確認を急ぐ周囲に交じって映ったのもまた、本来、この場所にはいない者。

 

「お前……」

 

自身に注がれる視線すら意に介すこともなく、彼はただ茫然と立ち尽くす。

人よりも優れた存在を自称した少年―――兵刃一真に浮かぶのは、誰よりも人間らしい、明らかな焦りの色だった。

 




ドタバタ感もブレイドの味だと思います(言い訳)

アンデットの襲来により人類は砦が暴かれたのみならず人質まで取られる始末
そんな渦中、˝生きること˝の意義で揺れ動く一真の選択は……

歩夢の謎や他世界のライダーが登場した訳にも注目ですね(いうて後者はバレバレでしょうが)

流石にそろそろそれなりのペースに戻さないと人権を無くす懸念があるので今月中にはブレイド編を終えることをここに誓います()

それでは次回で


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