RIDER TIME:仮面ライダーミライ (大島海峡)
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イントロダクションという名の嘘企画
・仮面ライダーシノビ
平成ライダーが終了して三年。
長い時を経てをおいてとうとう仮面ライダーが復活!
環境破壊が進みエネルギー問題に悩まされる世界。
政府は忍者法を制定。自然エネルギーを生み出す忍術の習得を義務付け、世の中は忍者社会となった……
正義感はあったが力もなく忍術も未熟な青年、神蔵蓮太郎は落ちこぼれサラリーマンとして、妹の紅芭とともに日々を過ごしていた。
しかしある日偶然拾った掛け軸に封印されていたガマノ師匠より伝説の忍者、仮面ライダーシノビの力を授けられる。
だがそれは、紅芭の出生の秘密にまつわる悪の忍者軍団『虹の蛇』とその裏に潜む大いなる闇との戦いの始まりだった。
「影となりて力なき者を守る! 誤った使い方をした者たちからな!」
2019年に先行放送された異色作が満を持して放映開始。
令和初の仮面ライダーが、夜の闇より舞い忍ぶ!
・仮面ライダークイズ
「救えよ世界、答えよ正解」
2040年。悪化の一途をたどる政情に辟易していた人々は、いつからか逃避するようにテレビ番組やLIVE配信に没頭するようになっていた。
特に人気だったのは国営放送のクイズ番組『FPQ(ファッションパッションクエスチョン)』だった。
その若きチャンピオン、堂安主水は番組の賞金を病に倒れた母親の治療費に充てていた。
だが、ある日『リドラー』を名乗るテロリスト集団が番組に挑戦状を叩きつける。
クイズにかこつけて怪人を発生させる彼らに対抗すべく、政府は主水にクイズドライバーを渡し、仮面ライダークイズとなって戦うことを要請する。
ライダー初の知能戦! 史上初のバラエティライダー! ここにブロードキャスト!
・仮面ライダーキカイ
仮面ライダー110周年記念作品のテーマは原点回帰……
2121年、機械の力に依存し過ぎた人々はヒューノイズの反乱を招く。
地球の大半が支配され、生き残った人類は前世紀までその文明を衰退させ、追い詰められていった。
親を失ったマルコたち少年たちはある時、ガレージの中で眠る一体のヒューノイズを発見し、起動させてしまう。
だが目覚めた彼は変身とともに、少年たちの追手を撃破する。
「人間、それとも機械?」
そう尋ねるマルコに、真紀那レントと名乗った彼はぎこちなく笑いかける。
「機械さ」
果たして彼は、人と機械を結ぶ架け橋となるのか。そこに秘められた熱いハートは、冷たい鉄の時代を溶かすことができるのか……。
・仮面ライダーギンガ
ついに舞台は宇宙へ!
2XXX年、地球での生存が絶望的となった人類は、新天地を求めて各惑星に脱出し、それぞれに自治国家を形成した。
それから千年。
それぞれの惑星人たちは環境に適応すべく遺伝子情報を書き換え、独自に進化をくり返していたが、一方地球は環境が回復し、次第に人間が戻りつつあった。
そんな地球に、一つの隕石が落下した。
ちょうどその真下にいた流浪の運び屋、来海磊星は、宇宙を滅ぼすといわれるエネルギー体、仮面ライダーギンガと融合する。
だがそれは、宇宙規模で渦巻く謀略と闘争の始まりでしかなかった。
惑星国家はそれぞれの生存を賭け、力を封じた各星のエレメントをめぐり、熾烈な戦いを始めていく……
無数の惑星、一つの太陽……
初の宇宙ロケを敢行したことで知られる話題の期待作、ここに誕生!
最後の仮面ライダーにして最大の挑戦作が、今幕を開ける。
というわけで例年どおりの嘘企画と言う名のプロット。
本作を作るにあたって多少は各ミライダーのバックストーリーを考えたほうが良いかなと言うことで、初期のころに書いていたもののリメイクです。
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プロローグ:それと呼ばれた仔
それは、大いなる流れの間隙に生まれ出でた。
偶発的に生じた存在ではあった。命と呼べるかどうかさえ分からない。その段階では、自我があるかどうかさえ曖昧で、どう定義づけていけば良いのかさえ判然としなかった。
だが、生まれたモノとしての義務を果たすべく、それは蠢動し始めた。
蚕のように這いながら、廃棄された周囲の事物を、現象を飲み込んで肥大化しながら、前進を続ける。
だがそれを挟み込む大いなる流れは、その誕生を拒絶する。
増大していく存在を阻むように、波濤がせめぎ合い、それを削っていく。それこそ、生まれたばかりの身体がふたつに引き裂かれてしまうほどに。
それでもそれは、前進を止めることをしない。
引き戻すべき過去などないことを、それは知っていた。先に待ち受けるものが何物か、結末は知らない。
だが0の地点で立ち止まっているよりはよっぽど良いと思った。
遡上する鯉のように、産道をくぐる嬰児のように。
大きく躍動をつけて、ただ混沌の闇と力の渦の狭間で、変化を求めてあがく。
そしてその一念に感応するかのように、あるいはまったく別の外的要因によるもか。
奇跡は訪れた。
差し込んだのは一条の光明。輝きや、太陽というものを認知できないそれは、だがそこに運命を感じ取って、拓けた道を進んで追いすがった。
やがて光は一瞬の収縮のあとで拡散した。それを覆い包んだ。抗しがたい力強さでもって、それに肉付けし、意味を名づけ、名をつけ、記憶を植え付けた。
――『彼』を祝う者は、誰もいない。
この世に産み落とされるとしても、きっとその仔を知れば誰もがその生誕を呪うことだろう。
それでもその瞬間、たしかに彼は風を感じた。ぬくもりを感じた。力と勇気でもって踏み出せば、言葉にし尽せないほどの多くを得ることを学んだ。
そして最後に、彼は自由を知った。
「この本によれば」
語り部は自身の本を紐解く。
常盤ソウゴには時の支配者オーマジオウとなる未来が待っていた。
その前に立ちはだかったのは、タイムジャッカーのスウォルツ。彼は自身の野望のために、アナザージオウⅡ、加古川飛流を扇動し時間を書き換えた。
なんとか彼を倒した我々だったが、その隙を突かれて門矢士はディケイドの力を奪われてしまう。
ついに野心を剥き出しにしたスウォルツの計画はおそらく最終段階に入りつつあった。
時間を巡る熾烈な争い。世界の終末まであと数ページ。
これはその直前に挟まれた、空白の一ページです……。
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episode1:ニンジャ、再臨『2019』(1)
常盤ソウゴは仮面ライダーである。
五十年後に世界を破滅に導く最低最悪の魔王となると告げられ、その時が刻一刻と迫りつつあった彼だが、今はまだ、目の前の今この一瞬と、それにつながる未来に最高最善たらんとする正義の仮面ライダー、ジオウであった。
だがその彼の誓いとは裏腹に、異変は起こった。
ディケイドの力を奪ったスウォルツはあれ以降姿を見せず、いまだ目立った行動に出ていないが、怪人出現を緊急速報で知った彼は、朝食もそこそこに家である時計屋『クジゴジ堂』を飛び出した。
――ここまでともに苦難や葛藤を乗り越えてきた、かけがえのない仲間たちとともに。
現場は、一流商社『今生カンパニー』だった。
緑化運動でも意識しているのか。多くの緑に囲まれた高層ビルにあることで知られているが、今はそれも、予期せぬ厄災によって煉獄と化していた。
正面玄関で腰を抜か青年がいた。見目こそ秀麗ではあるが情けなく、もうひとりの青年に脚にすがりついている。
「逃げろ、イッチーッ!」
「で、でも……っ!」
「いいからっ!」
青年は異形の怪物を前にしてもひるまず、木切れを武器に対峙していた。
逃れようとする人垣に逆らい、破壊の跡を乗り越えてたどり着いたソウゴたちが居合わせたのは、まさに彼らに凶刃が迫っていた瞬間だった。
ソウゴはしばし言葉を失った。
覚えがある。加害者にも、被害者にも。
肋骨を思わせる濃い紫の外殻。頭蓋を想起させる、歯を浮き彫りにさせたマスク。そのバイザーの奥底で不気味に沈む瞳は、幽鬼のそれだった。
しかし大きく歪もうとも、その根本は、
鋭く研がれた鉤爪を振り上げるその怪人は、その名は、
「アナザーライダー……! でもあれって!?」
「あぁ、アナザーシノビだ……それと」
主の代わりに答えたのは、ウォズだった。
ゲイツとツクヨミの姿はない。同様の怪人出現の報は街の内外で多発しており、彼らも対応と実態の調査に追われていた。
ウォズは手を鋭く突き出した。その腕と意思を介して彼の外套が反応し、膨張しながら伸びあがると遠方の青年ふたりを飲み込んで、自分たちの足下へと転移させる。
復活したアナザーシノビの刃を警戒してのことではなかった。いや、そちらも十分に脅威ではあったが、それ以上に異質な気配が、蜂の群体の形となって彼らの頭上に迫りつつあったからだ。
羽音とともにアナザーシノビの傍らに集結した蜂は、やがて終結とともにひとつの人型へと統合されていった。
形状こそ隣のアナザーライダーと酷似していたが、本来のシノビにドクロをねじ込んだようなモノがアナザーシノビであるならば、こちらは枯れ葉とスズメバチをイメージとして混合させたかのような、生物的な嫌悪感を催す怪人だった。
筋繊維が剥きだしになったかのような股に刻まれたアルファベットには、『HATTARI』という文字。
「『ハッタリ』……?」
これもまた、ソウゴを当惑させた要素のひとつだった。アナザーライダーの姿を、ソウゴは改変された世界で最初に見たもの……加古川飛流の銅像で記憶したはずだった。だがそこに、こんな形状のアナザーライダーはいなかったはずだ。
その上腕には、シノビと同様に本来の年代が記されているはずだろう。だがそこにあったのは漢数字の代わりに『――――』という、空白を意味する直線だった。
「どうやら込み入った状況ではありそうだが、今は考える暇はなさそうだ。我が魔王」
彼らはソウゴたちをゆっくりと顧みる。
移動した青年たちを狙ってか、それとも彼らを排除するのにソウゴたちは障害となると判断したのか。
機械的に駆けだしたアナザーライダーたちを前に、ソウゴは従者の助言を容れた。
それぞれのドライバーを腰回りにセットすると、慣れた調子で自分たちの時間を内包したライドウォッチをセットする。
背後に展開したのは、刻まれる時。
突き出した腕はそれに従う針のよう。
ベルトのバックルを回し、あるいは展開したウォッチを読み取らせ、戦士たちは気勢をあげる。
「変身!」
「変身」
〈カメンライダー! ジオウ!〉
〈フューチャータイム! スゴイ! ジダイ! ミライ! 仮面ライダー、ウォズ、ウォズ!〉
簡素にして異形の時の王、ジオウ。白い従者となったウォズ。
彼らはそれぞれに拳や武器を構えて、二手に分かれた。
ジオウは白目を剥いて倒れた青年と、彼を介抱するもうひとり……神蔵蓮太郎を助け起こした。
「大丈夫?」
夢の中とは言え、かつて自分を助けてくれた恩人。
この世界で、一度は悪の誘惑に負けつつも誇りを見せてそれを跳ね除けた知人。
その彼に、ソウゴは親しげに声をかけた。
ところが蓮太郎が返したのは、戸惑いの眼差しだった。
「……誰?」
という、誰何の問いかけだった。
ソウゴは軽い落胆を覚えつつ、理解も納得もしていた。
アナザーライダーを倒し、歴史が修正されれば、それにまつわる事象はなかったことになる。
つまり、仮面ライダーシノビとしての時間を喪い、代わりにアナザーシノビとなった彼には、ソウゴ相対した記憶がないのだと。
「ここは俺たちに任せて、逃げて」
すでに何度も経験したことだと、おのれのうちで疼く何かに言い聞かせ、ソウゴは彼らを促し逃がす。
彼らを追わんとする異形にして未知のアナザーライダー、ハッタリの前に立ちふさがり、対峙する。少し離れたあたりでは、ウォズがアナザーシノビと対していた。
こうなったのは偶発的によるものではない。対抗手段であるシノビのウォッチを持つウォズが、アナザーシノビを受け持つのは当然の流れだった。
暗黙のうちにそれを受け入れたソウゴは、ジカンギレードをその手の内に転送した。
次の瞬間、アナザーハッタリよりくり出された針の一突きを、殺気を、その峰をもって受け止め、刃を返してその胴体の甲冑へと叩きつけた。
剣刃がその胴に沈むことはないが、衝撃はダイレクトにその中核へ伝達しているはずだった。猛獣のような呻きが、喉元より牙の生えた口端からこぼれ落ちる。
「まだまだ!」
意気軒昂。後退の気配を見せるアナザーハッタリにさらなる追撃を加えるべく、円形の時計を手の中で回した。
ライドウォッチ。
彼らの力の象徴であり、それぞれの世界と時代を駆け抜けた仮面ライダーたちの歴史が集約されたデバイスである。
〈鎧武〉
距離をとったアナザーハッタリ、今度は針を射出し、知ってか知らずか、その変身を妨害しようとした。
だが、ジオウの頭に展開した別の、2013年の仮面ライダー……鎧武の頭部がはめ込まれ、回転し、展開しながらその射撃を跳ね除ける。
〈アーマータイム! ソイヤッ! ガイム!〉
鎧武のマスク部分がジオウの胸部まで下がり、文字通り、ジオウの王道を佐ける
距離を詰める。その愛刀、大橙丸Zとジカンギレードとの二刀流による連技を叩き込む。
アナザーライダーは火花の尾を引きながら、バク宙によってそれをやり過ごそうと回避に専念していた。ソウゴは、逃すことなく一気に畳み掛けるべくさらに追った。
だが、ハッタリの姿は空中で分解した。無数の蜂となってソウゴを取り巻き、攻守は逆転する。嵐のように、機関銃のようにソウゴを攻め立てた。
二刀を振りかざしても、蜂はその間を、上下の隙を、難なくかい潜ってジオウに食らいつく。
装甲を頼みに、多少のダメージを覚悟で強引にその群体を突っ切ったジオウは、地面に転がった。
「じゃあ、虫には虫で対抗しようかっ」
すでにその手に、別のウォッチを握りしめて。
〈カブト〉
ジクウドライバーの左に赤いウォッチをセットすると、太陽の光からカブトムシの形をしたメカが現れた。黒煙を突っ切って天を舞い、ジオウを追った蜂の先鋒を挫いて、彼と一体化して装甲と化す。
〈アーマータイム!〉
パージした破片がまた別の形……三本のカブトムシの角へと成形され、頭部と両肩に取り付いた。
〈Chenge Beetle! カブト!〉
ベルトのディスプレイに表示されたのは、2006。
その時を司る力と速さを得たジオウは、
「クロック・速くなれー!」
口に出して念じながら、ベルトの右端を叩いた。
目にも留まらぬ速度をもって敵の群体を翻弄し、叩き落としながら逃さず、一箇所へと集めて閉じ込めて、じわじわとその間隔を狭めていく。
「おおっ! これは!」
アナザーシノビ相手取っていたウォズは、その技に、姿に、興奮しながら両手を広げた。
「祝え! 全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来をしろしめす時の王者、その名も仮面ライダージオウ、カブトアーマー! 天の道を行き、総てを司る速さをも継承した瞬間である!」
その祝詞を、余人とは違う時間の流れの中で受けたソウゴは、「あぁ」と納得し、一瞬その足を止めた。
「そう言えば、今まで祝ってなかったね。これ」
顔を見合わせた主従の背後から、二体の凶手が迫っていた。しかしそれを、彼らは難なく受け流した。
「ではこちらも、そろそろ本気でいくとしよう」
〈シノビ! アクション!〉
ウォズは自身が相手取るアナザーライダーと、対になるウォッチをベルトのそれと換装した。
〈誰じゃ!? 俺じゃ!? ニンジャ! フューチャーリングシノビ! シノビ!!〉
半分に割れた2022年のライダーのマスクから投影された手裏剣の装甲が、紫のマフラーが、ウォズに貼りついた。
〈カマシスギ!〉
手の内に、ジカンデスピアがカマモードへと形を変えながら転送される。
そのリーチをもって、自分たちに迫るアナザーシノビを牽制する。
戦局は、終末へと向かっていた。
ジオウは怪蜂の群れの、数の優位を神速によって打ち崩した。アナザーハッタリは怪人としての実体となって地を転がり、
〈フィニッシュタイム!〉
完全に起き上がる前にジオウのボディーブローが見舞われた。
〈カブト!〉
それでもアナザーハッタリは決死の反撃に出る。針でもって突きかかる。だが、それを手の甲でいなしながら、ソウゴは的確に隙を見つけ、強烈なカウンターを入れていく。いなす。押し込む。追い詰める。
その合間に、手順に従ってベルトとウォッチを動作させながら。
〈クロック! タイムブレーク!〉
針を寸毫の距離感ですり抜けて、握り固めた拳でハッタリの背を叩く。
ジオウの背後へと押し出された怪人は、素早く身を切り返して逆襲する。だがすでに、ジクウドライバーのシークエンスは完了していた。
『キック』という文字の羅列が虚空に浮かび上がる。放物線を描いて並び、標的を定める。その軌道に従って、ソウゴは身体を大きくひねって足を切り込ませた。
ただし右から左にではなく下から上へ。回し蹴りではなくムーンサルトキックで。
「せいりゃあ!」
何かが違う、と違和感を指摘できる者はこの場にいるはずもなく、エネルギーを吸収したその爪先に蹴り上げられたアナザーハッタリは、空中で内部から膨れ上がって爆散した。
そしてアナザーシノビとの戦いも、終幕の時を迎えていた。
〈フィニッシュタイム!〉
ウォズはベルトのミライドウォッチを読み取りらせた。エネルギーを溜めて、アナザーシノビが潜む影へとそれを沈み込ませた。
まるでモグラでも巣穴からかき出すように、その鎌刃は敵を引きずり出し、中空へと放り出した。
風を帯びて高速で駆け回り、影を自在に往来する魔忍であったとしても足場のない白日に浮き上らされては、もはやなすすべはなかった。
〈忍法、時間縛りの術!〉
自身の間合いに落ちてきた敵に向けて乱切りに刃を叩きつける。
最後に大振りに横一文字で胴を払われたアナザーシノビは、爆発四散。影さえも残さず消滅した。
事態がある程度沈静化された後、ソウゴは地面に転がるアナザーライダーのウォッチの残骸を見下ろしていた。
タイムジャッカー達が対象に埋め込むものと規格は同じだった。加古川が使役していたものと同様に変身者はおらず、触れようとした瞬間に、泡のようなものがそれにまとわりつき、やがて泡沫ごとに消滅した。
これも、今まで見たことのない反応だった。
そもそも、アナザーライダーは同じライダーの力でなければ倒せない。基本的には。
対応していたシノビはまだしも、あのハッタリというライダーは聞いたこともない。だからソウゴもカブトウォッチで消耗させた後でジオウⅡの一撃で屠るつもりだったのだが、その工程が必要なかった。
楽に撃破できるならそれに越したことはないが、それでも妙な手応えのなさが逆に不安を煽った。
「我が魔王」
周辺の警戒に当たっていたウォズが、変身したままに駆け寄ってきた。
「あのアナザーライダーたちを操っていた者は周囲にはいなかった。タイムジャッカーが、今さらこんな無軌道な襲撃をするとも思えない。そもそも」
「シノビたちの時間軸は、消滅している。アナザーが作れるわけがない」
ソウゴは、自身が潰した可能性をあえて明言した。
ウォズは、肯定も否定もせず、マスクの奥底に表情を隠していた。
そのウォズの姿に、異変が生じた。
突然彼のベルトから、シノビのミライドウォッチが弾け飛んだ。
火花を散らし、コンクリートに落下しながら、その力や色や図柄が、霧のように抜け落ちていく。ウォズの変身は強制的に解除され、ウォッチは無機質な機構を剥き出しにしたブランク体へと形状を逆行させた。
ソウゴとウォズは、互いに顔を見合わせた。
アナザーライダーのこと、そして今力を喪失させたウォッチのこと。いずれも原因はわからないが、はっきりしていることもある。
その両者が無関係ではないということ。
そしてこれが、一過性のものではない、誰も予想し得なかった異常な現象であるということだった。
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episode1:ニンジャ、再臨『2019』(2)
多分完全に復元できないと思いますが、作品全体のネタバレですので、何らかの方法で再変換する場合はご注意ください。
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■■■
■■
■
――来海ライセ、は
――仮面ライダーである。
『2019年』、彼は正義のため、人々の自由と平和のため、戦い続けてきた。
今日も彼は、異変を聞きつけて愛機を駆って、現場へと急いでいた。
渋谷に、隕石が降り注ぐ。
その衝撃でスカイタワーの先端が崩落し、地表へと落下した。
塔の中から、その根元の商店から、逃げ遅れた人々が這い出て、思い思いの方向へと散っている。
もっとも、彼らが逃げ惑っているのは事故の衝撃のためではなかった。
その隕石の破砕した跡地から現れた、成人ほどの大きさと自由のきく手足を持つ緑や白のサナギのような生物。それが人々を襲い始めたからだった。
そしてその浸食は収まることを知らず、ついには近隣のショッピング街にまで広がっていた。
そのフレンチレストランは、外観のセンスの良さや山海の味を存分に活かした良心的な価格の料理、何よりソムリエとして確かな資質を持つ店長により厳選され、管理されたワインはそれらに買い物帰りの主婦や、ゲストを歓待する会社員、デート帰りの恋人たちなど、幅広く支持されていた。
その人々の安らぎの場も、この一時で地獄へと変わった。
殺到する妖蟲たちを前のして客はテーブルの下を這うように、あるいは厨房を構わず突っ切って裏口から逃げていた。
最後まで居残ったのは、その店長だった。
騒動に巻き込まれてテーブルから落とされようとしていたワインのボトルを掴んで別のテーブルへと戻し、空いたその手で今度は白い虫の爪を掴んで握りしめた。捻り上げ、蹴り飛ばした。
「店長……!? 早く逃げてください!」
「僕のことはいい! 君は早くお客様を安全な場所へっ」
彼の身を案じつつ物陰に隠れていたギャルソンに、普段は決して出さない強い語気で指示を飛ばす。そうして渾身の力でカーペットを踏みしめながら、数体の怪物を巻き込みながら、真正面から外へと向けて押し返す。
店先まで引き下がらせた彼らを、最大限の力で弾き飛ばすと、空いた両腕で掌底を打ち出し、そのうちの一体を撃破した。
体勢を立て直すべく後退した彼らを隙間から、その首魁と思しき、異形の怪人たちが現れた。
隣接するフルーツパーラーの壁を破壊しながら現れたのは、枯れ木に取り憑かれた落武者と言った様相の刀を持った者。
スカイタワーの陰から姿を見せたのは、ベルトのバックル幼虫を貼り付かせた、赤いカブトムシ。
それぞれの部位には
〈GAIM〉
〈KABUTO〉
と記されていた。
そのうちの後者、『カブト』という怪人が自身の右腰を叩いた次の瞬間、その姿が消えた。
いや、そう見えた。
その彼の、超人的な動体視力をもってしても捉えきれない高速で動くその怪物は、店長のすぐ横で足を止めた。
体勢を立て直すよりも速く、ボディーブローが脇腹を襲う。
吹き飛んだ店長はオープンテラスのテーブルチェアを破壊しながら落下した。ダメージによって完全に立ち直れ切れていない彼の前に、『ガイム』が大剣を大きく振りかぶった。
その時、その間一髪のタイミング。
ホンダのVFR800Fが、駆動音を響かせながら、その合間に割り込んだ。
『ガイム』の斬撃を後輪で受け流しながら、膝をするほどに車体を傾け、足をつけて止めた。
ヘルメットを脱いで放って、青年、来海ライセは好青年然としたその素顔を外気に晒した。
「大丈夫?」
見知った調子でライセは彼へと手を差し伸ばす。予期せぬ来援にしばし面食らったような彼だったが、つかみ返すその時点では、一切の迷いも見せなかった。
店主を助け起こした青年は、肩から腰にかけて巻いていたバックパックを解いて、中から奇妙な形状のベルトを取り出した。左右にソケットのついた、黒いバックル。それを腹の前に来るように一息に回すと、その手にひとりでに、デバイスが転送されてきた。
手裏剣のような、風車の形状。紫と銀の特殊合金を組み合わせてできたそれを持ち上げた瞬間、
〈出番か?〉
……などという声が、頭の中に響いてきた。
軽い頭痛にも似たわずらわしさに顔をわずかにしかめつつ、それをバックルへと組み合わせた。
「変身!」
鳴り響く和風なテイストのシークエンス音を打ち切るように、帆船の操舵手のように、両手でつかんで手裏剣を回す。
〈誰じゃ? 俺じゃ? 忍者! シノビ! 見参!〉
背後で組み上がった巨大なガマのロボットが吐き出したパーツが、ライセの身体を覆っていく。
最後に煙となって消えたそのガマが残したマフラーが首に巻かれ、煙が薄らいだ時には仮面の忍者が、仮面ライダーシノビに扮した来海ライセが立っていた。
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episode1:ニンジャ、再臨『2019』(3)
戦いに及ばんと踏み出しかけたライセの足が、内なる声によって立ち止まる。
「え? なに? ……はぁ? いやでもさぁ……」
その声はある指示を宿主に命じ、ライセはそれに意義を見出せずに困惑をみせた。このやりとりもすでに一度や二度のことではなかったが、今もって慣れない。
だが、シノビの力を引き出すには、その基となった彼との同調は不可欠だ。不本意ながら、ライセはその意向に従うことにした。咳払いし、拳を固めて翻し、声を張り上げた。
「忍と書いて、刃の心! ……仮面ライダー、シノビ!」
印字を結んで腰を屈める。
だが、タイミングを逸した名乗り口上ほど格好のつかないものはなく、得られたのは周囲の当惑だけと気恥ずかしさだけだった。
こうなることは分かっていた。だがシノビたるにはやらざるを得なかった。姿勢を戻したライセは、爪先で軽く地面をこすりながら、額の鉢金を指で叩く。
そうやって精神の均衡を取り戻した彼は、あらためて怪人たちに戦いを挑んだ。
〈忍POW! 斬り捨て!〉
ベルトから引き抜いた忍者刀を順手に持ち替え、並み居る怪物たちを斬り伏せる。包囲を切り抜けた先、すぐ眼前に、歪曲した大刀が迫っていた。
「……アナザーライダーか!」
おそらくは字面から察するに、『アナザーガイム』。その太刀筋を紙一重の間合いでくぐり抜けて回避したライセは、返す刀を後転して躱した。
〈ブレイブ忍POW!〉
ライセが吐いた呼気が、紫炎となってアナザーライダーの周囲を焼き巻いた。中身はどうあれ、外面は樹皮にも似ているので、火が有効のはずだ。
着想としては安直だったが、功を奏した。アナザーガイムは悶絶の悲鳴をあげた。
さらなる痛撃を与えようとしたシノビの足を、忍としての感覚が押しとどめた。
とっさに刃を翻して防御したところに、あの高速で動く紅の影……アナザーカブトが立ちふさがった。明確な自我を持たない彼らに仲間意識など存在するべくもないが、確実に生じる隙を狙っていた。
光速で動くそれに、ライセは応戦した。
シノビも速攻に長けたライダーではある。敵の挙動を、かろうじて捉え、かつしのぐことはできた。
だが、まず速さの質というものが違う。さらには物量も違う。正攻法で仕掛けても勝ち目はないのは明白だった。
〈だったら、ここは技に富んだボ……いやいやオレ様の出番だな!〉
また、別の青年の声が聞こえた。
手中に熱とかたちを感じたライセは、わずかながらに抵抗感を覚えた。だが、考える方針は、そのデバイスに宿る『彼』の意思と合致していた。
その手に精製されたのは、オレンジの手裏剣。
シノビのプレートを取り外し、それに換装する。
〈踏んだり! 蹴ったり! ハッタリ! 仮面ライダーハッターリ!〉
見栄を切るようにベルトが、新たに力を借りたライダーの名を高らかに叫ぶ。
背後に現れた蜂型のロボット。その腹から射出された鎧が、あらたにシノビの身体に纏われた。
稲妻の模様のアンダースーツ。自身の腰のそれに似た前立てとたなびくオレンジの鉢巻きに、その奥に隠された青いバイザー。
仮面ライダーハッタリ。
仮面ライダーシノビの相棒……ではなく、自称そのライバルらしい。
カブトのミドルキックが飛ぶ。
木の葉が舞う。蜂が躍る。その蹴りは空振りに終わり、背後で実体化したハッタリは、自身の直刀をその空いたその背へと叩きつけた。
空中にその身を躍らせた彼はそのままアナザーガイムの薙ぎの一閃をかわし、手で印字を組み結ぶ。
〈カチコチ忍POW!〉
その手から発せられた氷霧は、そのままアナザーガイムの足下を凍てつかせ、自由を奪う。
スペックとしてはシノビと同等以上ではあるものの、その持ちうる特性はどちらかと言えば直接的な攻撃性に乏しいのがこのハッタリである。
だが反面、牽制や陽動といった、名の通りの『ハッタリ』的な手段のバラエティに富んでいるといえた。
――もっとも、本人はそういう意味合いでつけた名ではないとはいうが。
〈オレ様の氷は絶対零度の氷点下! 手も足も出まいっ!〉
〈いやそれ、悪役のセリフだから……〉
二、三の言いたいことはあるものの、両者の性能は十分に信頼に足る。
こうして、このふたりの忍者の形態を使い分けることで、相手の特異性に対応する条件はそろった。
あとは数だが……その問題もすでにクリアされかけていた。
呼び出された有象無象の複製品は物の数ではなく、それを除けば……ここからは同数で、対応できる。
――自分には、
「
ライセは、自身の店の前に、逃げずにたたずむ男の名を呼んだ。
彼の本当の姿を、前を開いた白いスーツの下に巻かれた、銀のドライバーを目撃する人間は逃散してとうにおらず、準備を終えた彼はワインボトルのようなものを手にして前へと進み出た。
「……今、僕のヴィンテージが芳醇の時を迎える……!」
口上を、唱える。
静かに、穏やかに、だが勇ましく、恥じることなく。
広げた掌を握りしめたボトルを使って自身の象徴たるGの一文字を描き、そしてボトルをオープナーにも似たバックルへと装填した。
中から抽出されたエネルギーリキッドが彼の……吾郎の身体を全身を包み込む。英雄としての武装を、形作っていく。
仮面ライダーG。
ライセの
――よく、知る、戦友の姿が現れた瞬間だった。
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episode1:ニンジャ、再臨『2019』(4)
ふたりの仮面ライダーは、一騎当千の味方をえた思いで、というよりもそのもので、あらためて互いに背を併せて無数の敵へと挑みかかった。
鋼の一閃が、銀の二閃が、敵の陣形をかき乱し、すり減らし、突き崩していく。俯瞰すればそれは、まるでミキサーのようでもあっただろうか。
乱戦ではあったとしても、その主役は四体。敵味方二体に分かれたアナザーライダーと、仮面ライダー。アナザーガイムをGが受け持ち、その戦いに援けを出せないよう、アナザーカブトとライセは互いにけん制し合っていた。
光速で動くカブトを、ハッタリの俊足と早業と技巧でとで相手から引き離していく。
そうしていくうちに、事態は好転しつつあった。
刃での交錯、斬り合い、競り合い。三度の打ち合いの末、それらをことごとく制したのは、Gだった。剣技ではおそらく専門分野であろうガイムのほうが勝っていた。だがGの知性と、自身を律する理性と、そして逃げ遅れた人々を守らんとする彼の信念がその悪性を跳ね除けた。
「人々が芳醇な未来へのリアージュのため! 君を剪定する!」
樹木然とした敵の風体と、そして自身の職業柄になぞらえた言い回しとともに、仮面ライダーは強く敵を押してそのガードを崩した。
ソムリエナイフを模した剣は一度腰回りまで大きく退くと、そこから一気に突き出した。
神速の刺突は胸部の縅から入ってアナザーガイムの肉体を突き破り、一気に背にまで達してその切っ先を貫通させた。
苦悶とも怒号ともとれる断末魔とともに、ガイムは爆散した。その核たるアナザーウォッチは、地面に転がると同時に亀裂が入って破壊され、泡となって消えた。
いつもと、同じ要領で。
さすが吾郎。さすが仮面ライダーG。
さすがに速度で勝る相手と戦っている際に、声をかける余裕などないが、その決着を見届けたライセは胸中で惜しみなく賛辞を送った。今度はこちらもケリをつける番だと、奮い立った。
だが、その一瞬の思考の隙を突かれたのか。
一瞬止まったその背を、降って涌いてきたアナザーカブトのキックが強打した。
雷光を帯びたその一撃はライセの肉体をはるか先の鉄柱まで押しやり、それが中折れするほどの衝撃で、轟音とともに叩きつけられた。
砂埃の幕を我が身で引き裂き、トドメを刺すべくカブトは駆けた。
クロックアップによる移動は、十秒はかかる間合いを瞬時に縮めた。その加速は、ただの踵落としをギロチンの刃へと変貌させた。
だが刈り落とすはずだった忍の身体は、両断されたはずの彼の身体は、空中で分解すると同時にハッタリのマフラーや頭巾の巻かれただけの丸太になって、ポンと空気の抜けるような音とともに、煙となって消滅した。
〈セイバイ忍POW!〉
思考の隙が生じたのはアナザーカブトの方。無防備に背をさらしたのも、彼の方。すでにオレンジの衣を脱ぎ捨ててふたたび紫の装束をまとったシノビは、準備を終えていた。
アナザーカブトが足元から自身の鳩尾めがけてくり出された蹴り上げに気づいた時にはもう遅い。直撃をくらって空中へと放り出された彼を、飛び上がったシノビの分身たちが追った。
まるでスズメバチを集団で押し込めて蒸し殺すというミツバチのように群がる彼は、
「吾郎さん!」
と同輩の名を呼び、ふたたび一体化したシノビはアナザーカブトを肉体を地へと蹴り落とした。
すでに落ちる先では、仮面ライダーGが待ち構えていた。
ボトルの口を押し込み誉、自身の名を表す胸のエネルギー供給ラインが燦然と赤熱を帯びて輝く。
「スワリングライダーキック!」
風を抱くようにいてその身を旋回させると、Gは地を叩いて飛翔した。
天へと向けて突き出した足裏から紅の螺旋が射出され、空中のアナザーカブトに対する楔となる。
それに束縛されたアナザーカブトは、もはや腰を叩いてクロックアップすることができなかった。よしんばできたとしても、周囲の届く場所に、彼が踏み込む足場など存在しなかった。
人々の営みを侵食する悪しき虫は、正義の一矢と化したGのキックをまともにその外皮に受けて、その力を流しきれずに、ウォッチもろとも破壊された。
騒動が、一応の収束を見せつつあった。
その中で、ライダーたちはそれぞれに変身を解き、互いに素顔をあらためて見せ合った。
ライセは吾郎に、手を差し出した。今度は救済のためではなく、共闘への感謝の証として。
「ありがとう。吾郎さんのおかげでふだんより楽に戦えたよ」
そう礼を言われた仮面ライダーGこと吾郎は、わずかに困惑の様子を見せた。
だが、ゆるやかに首を振り、屈託ない笑顔でそれに応じた。
「こちらこそ、感謝するよ。君がいてくれたから、僕も大切な人々を守ることができた」
と、手を握り返し、あらためて彼らは友情を確かめ合った。
「どうかな? 大したお礼はできないけど、ロマネコンティでも」
「遠慮しとくよ」
そう言って店からワインを持ち出そうとする彼に、はにかみながらライセは断った。
「そもそも、俺未成年だし」
それを聞いた吾郎は少し残念そうに苦笑し「それじゃあ」とあらためて指を立てて代案を提示した。
「今年のワインを、君の成人まで寝かせておこう。それで、君がちゃんと大人になった時に、ボトルを開ける。……それならどうかな?」
それであれば問題はない。理由もなく、戦友の好意を無下にできるはずなどない。
ライセはそこでようやく快諾した。
その約定こそが、再会のあいさつだった。それ以上の言葉は不要だった。
ふたりの戦士は、手を離すと同時にきびすを返した。
それぞれの戦いを続けるために。それぞれの日常へと戻るために。
――だが。
――しかし。
一度でも来海ライセが顧みていれば、その後の流れや、彼の命運はまた違った未来を迎えていたのかもしれない。
だが結果としてライセはそのまま来たバイクを立て直してその場を去った。
あとには、何も残らなかった。
その異常さに、疾走するライダーと、その源となる人格たちは気づくべくもなかった。
痕跡として残されたのは、横転したテーブルの下に転がった、一本のワインボトル。
『彼』の異形となった象徴であると同時に、愛する人々を守るための力は、今その手を離れて、カラカラと物悲しい音を立てていた。
やがてそれも磁気嵐を帯びた泡に飲み込まれていった。
彼の建てた店の名前も、外観も内装も、別のチェーン店のものへと差し変わっていた。
――仮面ライダーGこと吾郎の存在した痕跡は、その時刻をもって完全に消滅した。
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episode1:ニンジャ、再臨『2019』(5)
来海ライセは夢を見る。自身の内面を視る。
もちろん現実の彼は、バイクの操縦をして100キロ近い速度を出しながら車道を駆けている。その中で眠りにつけば、周囲を巻き込んで大惨事的な事故を起こすことは疑いもない。
だがハンドルを握る少年の意識は、常人以上に鋭敏ではっきりとしている。それと同時並行で、別の思考のもと、別の世界を観ているというだけだ。SFでいうところの二重思考や多重人格とは、また違うが。
その夢の下地にあるのは、虚無だった。
木漏れ日ほどの光さえ差し込むことのない暗黒の世界。手探りでそこを歩き回る彼は、やがていくつもの岐路に分かれた中心点にいたった。
そも足場や、自分自身の肉体が実在するのかさえ定かではないこの空間で、その点と線は燦然とした輝きで結ばれていた。
重い鉄の扉。
まるでクイズショーのように○×の二択に枝分かれした扉。
ブラックホールのように渦巻く奥に広がる無数の星の道。
等々。
その道のうち、少年は一筋を選んだ。前を妨げる襖戸を、引いて開いた。
「お……よぉ、どうした」
その中に広がっていたのは、その戸のイメージと合致する、広い間取りの古民家だった。
ほの暗い床の間の中で、どういう原理で輝いているのか、コンセントのない照明スタンドだけが唯一の光源だった。その灯りを頼りに盆栽の手入れをしていた彼が、侵入者に気づいて振り返った。
――もっとも、『侵入者』というのであれば、ライセからしてみれば彼の方こそがそうなのだが。
まるで邪気というものがない屈託のない笑みに、いつも苦言を呈そうとした口が濁る。
だが今日こそは一言言ってやらなければ気が済まない。いつも、この空間に来られるわけではない。たまたま彼ら仮面ライダーと波長が会った時、こうして道と扉がつながるのだから。
「いつまで俺の中にいるんだよ」
言う時はストレートに、伝える。その程度で傷ついたり怒ったりするような繊細さがあれば、そもそも人の心の内に長居などできない。
「そう言うなよ。お前だって、俺たちの力がまだ必要なんだろ?」
大して申し訳なさそうに、返す。
「記憶を取り戻すまでの辛抱だって」
――そう、彼は、この神蔵蓮太郎という人物は、断片的な記憶喪失だという。
名前は憶えている。
自分が仮面ライダーシノビで、2022年にその力を手に入れ、闇の忍者集団である『虹の蛇』という組織と人知れず暗闘していたという。
だが平時彼がどうしていたのか。表向きはどういう職業だったのか。友人関係や家族構成は?
そして、何故、どうやって自分たちが来海ライセの心象世界に来たのか?
それらが、すっぱりと抜け落ちているというのだ。
「ここも多分、俺の記憶をベースに作られているとは思うんだが」
とは彼の弁。自信なさげに言葉を濁すのは、その確たる記憶も自信もないからだろう。
「それより、ぼ……俺様も文句があるんだがなっ!」
と言って踊り込んできた、仮面ライダーハッタリこと
自身がライダーの力を手に入れ、かつシノビの敵手であったことも、一時的な共闘関係を結んだ記憶も存在するが、誰からその力を与えられたのかはわからない。
その素顔は王子然とした爽やかな風貌だったが、それに反してせわしない挙動が多い。パニック映画だとすれば、まず一、二に犠牲になるタイプである。
「なんでハッタリの力でトドメを刺さない!? そこのシノビなんかより、断然使い物になるぞ」
「役に立つのは認めるけど、パワーがなさすぎるんだよ……」
「そこをカバーするのがお前の仕事だろ、そいつのと違ってゴールドヒョウタンだぞ!? そのポテンシャルは、ハッタリじゃなくてマジだぞ」
「ハッタリだろうとマジだろうと、使い方は俺が考えるの!」
「なにぃ!」
ヒートアップしていく両者を「まぁまぁ」と蓮太郎がなだめる。
だが双方から「黙ってろ」とにらまれれば、さしもの仮面ライダーシノビも「はい……」と消え入るような声とともに前で手を合わせてすごすごと着席した。
「だいたい、シノビと一緒にいなきゃいけないこと自体は気に食わないってのに」
そうこぼした勇道だったが、一瞬ぐっと苦いものを飲み込むようにその美貌をひどくしかめた。
「どうかしたか? ハッタリ」と蓮太郎が問えば、
「――なんで俺様は、シノビとこうもいがみ合ってたんだ。というか僕はどうして、こいつが僕のことを覚えてないことに、こんなに……っ!」
せっかくセットした髪をガシガシとくしけずり、
「あぁ……もう腹が立つ!!」
と、青年は苛立ちをむき出しにしてきびすを返した。
荒々しく襖を閉めた勇道。おそらくは僕という一人称が本来の口調なのだろう。やたら自信家なのはそれこそ
「……ま、悪く思うな」
その彼のかすかな渋面を、勇道に対する悪感情と捉えたのか。
蓮太郎は、ライバルであるはずの彼をフォローした。
「あいつもきっと、今の状況にいっぱいいっぱいなんだよ」
「知ったような言い方をするんだな」
「案外、プライベートでは仲良くやってたのかもしれないな。俺たち」
トゲを含んだライセの言いざまに飄々と受け答え、ふたたび盆栽の世話に戻った。
だがライセもまた部屋を去ろうとしたとき、ハサミが止まった。
「そういえば、俺のほうもお前に聞きたいことがあったんだった」
だから波長が合ったのかもしれない、と蓮太郎は推論づけた。
「なに?」
眉をひそめたライセが尋ねると、視線は向けずに蓮太郎は尋ねた。
「さっきのライダー……Gだっけ? 俺たちはわからなかったけど、知り合いなのか?」
「あぁ、あんたたちと合う前からね」
少なくとも個性的を通り過ぎて過干渉な『後輩』よりはよっぽど、信頼に足る大人だとライセは思っていた。
ところが問うた側の蓮太郎の反応は、ふぅんとひとつ相槌を打っただけの、淡白なものだった。
「出会う
最後に誰にともなくそうつぶやいただけで、あとはふたたび手を動かし始め、それ以上何かを問うことも答えることもしなかった。
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episode1:ニンジャ、再臨『2019』(6)
未来の王は、河をつなぐ大橋を闊歩していた。
紫の衣の裾をなびかせ、その一歩は磁気嵐のような力のほとばしりを、周囲に散らしていた。
背を向けた街では騒動が起こっているが、彼にはそれとかかずらう気はなかった。
彼は新たな力……妹の王族としての才能と世界の破壊者としての能力。
両者の力を手に入れた時点で、その目的の大半は成功していると言って良かった。
ゆえに彼個人としては雑多な物事に拘うことなく自身の覇道に邁進していけば良いのだが……どうやら、その雑多な有象無象は見逃してはくれないらしい。
「ほう……?」
未来の時の王は、スウォルツは、橋の半ばまで来て初めて足を止めて振り返った。
そこには、自分の生み出したものではない、異形の怪人の姿があった。
擦り切れた黒いアンダースーツの上には、錆びついた銀食器を思わせる装甲、フジツボのへばりついたワインボトルが挿入されたベルト。剥き出しの歯や目。
そのボトルのラベルに書かれているであろう出生の年代は定かではないが、元となったライダーの名前はアルファベットを探るまでもなかった。オープナーを突き立てた心臓を模した胸部装甲に
『G』
と施されていた。
理由も原因も正体もわからず。だがその敵意は、殺意は、スウォルツ個人へと向けられていた。
一体ではない。群体だ。
その背後に、カブトの時間軸の怪物……宇宙生命体ワームのサナギ体をぞろぞろと控えさせていた。
みずからが見限ったタイムジャッカー、ウールとオーラの仕業かとも思ったが、スウォルツでさえ認知していないアナザーライダーをもう終わったような連中が擁立できるとも思えない。
「面白い。何者か知らんが、この力を試すにはちょうどいい」
謎は謎のままに飲みくだし、スウォルツはその手にウォッチを握りしめて、そして他者にしたのと同じように、それを自身の肉体へと埋め込んだ。
〈DECADE〉
新たに奪取した彼の力が、その長躯を変容させていく。
王と呼ぶにふさわしい異形かつ堂々体格に、武将の直垂を思わせる腰回り、あらゆる並行世界を渡る旅人の姿は、覇者の装束へとその意匠を誂えられていた。
これこそが、アナザーディケイド。
この姿を手に入れたことが、彼がおのれの世界を救済するための事業に王手をかけたことを証明していた。
「行け」
片腕をかざすと、灰色のオーロラの隔壁が生じた。その波の合間より、別の仮面ライダーが現れた。
線路を想わせるシルバーのライン。本人の凶暴性と暴食性をそのまま形としたかのような、ワニの口を模した肩口やマスク、あるいは剣などが鈍く銅色に煌めく。
そのありようは、到底正義や人々の自由を掲げる戦士の姿ではない。
仮面ライダー牙王。
かつて電王の強敵であったダークライダーは、常盤ソウゴの知人を媒介に創世されたアナザーワールド、電王に勝利したIfの可能性より招聘された。
「面白ェ。喰いでがありそうだ」
元来何者にも従属することがない凶漢だが、自分が望む以外の時間を消滅させるというスウォルツの究極的な目的と彼の生き方が合致していた。いや、この場合は目の前の『食欲』を優先させたと言った方が正しいか。
牙王は命ぜられるよりも先に自身からワームの群れへと突っ込んだ。
重低音とともに踏み込んだ彼の一斬が、その隊列を切り崩していく。そこに躊躇や退却の気配はない。ただ衝動のままに突き進む。
回避らしい回避もせず。
防御らしい防御もせず。
ただあるのは前進、攻撃、力押し。
だが何者も彼を傷つけることは出来ず、ワーム達はただ狩られるのを待つ獲物の群れに過ぎなかった。
擬態して動揺を誘うにしても、そもこの男においては面を突き合わせて狼狽えるような相手も精神性も持ち合わせてはいなかった。
やがて、ワームの幼体たちは数で勝りながらも、後退を始めた。だが、後方より崩れるまで退路は確保されない。
〈Full charge〉
弄ぶのも飽きたと言わんばかりに、自身のバックルにマスターパスを読み取らせ、用の済んだそれを投げ捨てる。
ただでさえ巨大な剣が、さらに光で膨れ上がる。自身の側に向けた鋸刃が、怪獣の背びれのごとくに輝きを見せる。
撃ち出された渾身の一薙が、空気の壁を焼き切りながら、ワームたちを一掃……いや併呑していく。
爆炎の数珠を繋がれていくその中心点で、牙王は冷ややかに肩に刃を負った。
一方で実質上の一騎打ちになっていたスウォルツとアナザーGだったが、こちらも決着がつけられようとしていた。
否。
それは対等な闘争にもなってはいなかった。
同じアナザーライダーではあるものの、そもそもの格が違う。
自身の心臓部から引き抜いた螺旋を描く刃を自身の武器としたアナザーGだったが、袈裟懸けに斬りかかった。
だがアナザーディケイドは回避などせず、手足の指先一本さえ動かすことがなかった。
正面からそれを受けきったスウォルツは、力任せに拳で殴りつけた。
あまりの衝撃に手放された剣を投棄そて、アナザーディケイドは腰を沈め、エネルギーを右脚へと集中させた。
重ねたカード状に凝縮されたエネルギーが、叩きつけられた足裏からアナザーGへと流し込まれる。
橋向の彼方へと吹き飛ばされたアナザーライダーは、そのまま地に足をつけることさえも許されないままに爆散した。
「――ふん、他愛もない」
軌道に沿って黒く焦げ付いた橋を眺めながら、アナザーディケイドは鼻で嗤った。
正体不明の敵ではあったが、あの程度ならアナザーディケイド……そして遠からずわが物となるオーマジオウの力をもってすればどうということはない。
「ご苦労。お前の『世界』に戻るがいい」
牙王に形ばかりの労いを見せ、その脇を通り過ぎようとする。
「――いいや」
だがその背で、ガシャリと重い鋼の音が響いた。
牙王の剣が、地面に落下した音だった。
その音の方向へと振り返れば、その身体はしゅうしゅうと音を立てて、泡の中に飲み込まれていく最中にあった。
「どうやら喰われたのは、俺
その像は、泡の中で薄らいでいく。
まるで胃の中で消化される内容物のように、そのかたちが、曖昧なものへとなっていく。
たち、という言葉を耳にした瞬間にしてようやく、スウォルツもまた自身の指先に異変や違和感を覚え始めていた。
「な、なんだこれは!?」
自身の手足がなくなっていく合間にスウォルツは狼狽し、対して牙王は泰然と構えていた。
「まぁ無理もねぇか。何しろこいつは……」
妙な悟ったような調子で彼は、消える間際まで言葉を紡いでいた。それでも、消える際は一切の抵抗も見せなかった。
一方で抗っていたのは、スウォルツだった。
「ば、バカな……っ!」
時を止めようにも、原因も解決方法も見つからないのにどうしようというのか。それは無意味な延命に過ぎなかった。
痛みはなかった。だがそれは恐怖でしかなかった。自覚もないままにおのれがなかったものとされていくという現象は。
まるでどこか深淵へと、抗いようのない力で引き込まれていくような感覚は。
「こんな、こんなことがあっていいはずが……っ!?」
まさか、自分が。
ここまで入念にして柔軟に計画を積み重ねてきていた自分が。
未来で時を司る王となり、すべての世界を破壊し、自身の時間軸の救世主たらんとしてきたこのスウォルツが。
こんなところで
消える
はずが……
自身の敗北と失態を認められないままに、スウォルツは怒号とともに消滅した。
――ことの一部始終を、橋の見える公園より、トイカメラのファインダーと、そのシャッターを押した男は見守っていた。
自身の力を奪った小憎たらしい相手ではあるものの、彼は目に見えるようにはその見苦しさを嗤ったりはしなかった。
あの男が奪ったのはすべてではない。多少の予防策は前もってしていたのはあるが、そもそも彼の存在そのものが漂流者であり、旅人であり、カメラマンであり、観測者であり、そして破壊者だった。
ゆえに、その言動は仮面ライダーであったころより何も変わらない。
「だいたいわかった」
とだけ、淡々と独語しただけだった。
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episode1:ニンジャ、再臨『2019』(6)
「我が魔王、ここは二手に分かれよう」
並走していてウォズが立ち止まり、そう提案してきた。
立て続けに起こる騒動に奔走されているなかでの、突然の献策だった。
「私はあちこちで起こっていちる『小火』を潰して回る。我が魔王は、分散しているゲイツ君やツクヨミ君との合流を急いでくれ」
「それは良いけど……大丈夫なの、ウォズ?」
シノビのウォッチが突如として力を喪ったのは、ついさっきのことだ。
異変は街のみならず、今まさにウォズ自身にも起こっていた。
「心配はない。いざとなれば、ギンガの力がある」
主が気がねしないようにという配慮だろう。まだ稼働しているウォッチを披露して涼やかに笑っている。だがその表情には、一抹の陰がにじみ出ていた。
とはいえ、ソウゴには彼を留める明確な理由や確信があるわけではないし、時が惜しい。
状況は足下に寄せる漣のように、原因もはっきりしないままに彼らの生活や日常を侵していた。
「……気をつけて」
万感の思いを込めてただ一言だけ残す。
そして彼らは別々の道へと駆け出した。
ソウゴがたどり着いたのは、河をつなぐ一本の橋だった。
ゲイツとそれをサポートするツクヨミと最終的に連絡をとったのは、彼らがこのあたりにいた頃合いのはずだった。
ふたたびそこで連絡をとろうとしたソウゴは、その橋に戦闘の痕跡が残っていたことに気づいた。
真っ黒に焦げ付いて奔る、一筋の軌道。その周囲の欄干は、熱で融けてねじくれていた。
ここでいったい何が起こったのか、何者かが戦闘し、ひょっとして人知れず消えた誰かがいるのか。
――ひょっとしたらそれは……
そう思いかけて、首を振る。これは後ろ向きな発想だ。それも、こういう現状でしてはいけない類の。
だが押し込めた心労が災いしたのか。刹那的に、ソウゴの前頭葉に、針を刺しこまれたような激しい痛みが襲いかかった。
膝が屈さずとも、俯いてしまう。
目線の位置を戻したのは、頭痛が引いた時だった。
まだ痛みが尾を引いているのか。
心なしか目の前の世界は、色褪せて、輪郭も曖昧だった。
向こう岸に見える世界は、変わらないままではあったが、言い知れない違和感のようなものが、ソウゴの直感の奥底でくすぶっていた。
だがそれも、怪異が目に見える形で押し寄せてきた瞬間に消し飛んだ。
気がつけば毒々しく肉感的な外皮に覆われた生物が三体、短い腕を伸ばしながらソウゴへとにじり寄ってきていた。
「ワーム……」
これも異変の一端か。
地獄兄弟がこの地球に呼び寄せようとしていた外来種が、ふたたびソウゴのそば近くに姿を現した。
そして彼らの節々が、赤熱を帯び始めていた。脱皮の兆候だった。
成虫となれば、その一体一体が高速に移動する強敵と化す。
それを阻止すべく、ジクウドライバーを取り出そうとしたソウゴだったが、両者の間に、色を孕んだ風が舞い降りた。
身を翻す。地に足をつける。と同時に、銀の閃きが左手の敵を斬り裂き、返す一太刀が右手より仕掛けたワームを返り討ちにする。そして後ろ回し蹴りが、鮮やかに左右を含めた三体を刈り取った。
緑の炎を盛らせながら、ワームたちが爆散した。
突如として現れたその仮面ライダーは、いともたやすく、敵を駆逐し、ソウゴを救った。
あの夢の中と、同じように。
「シノビ……!?」
彼の名を、呼ぶ。
だがそれはあり得ないことだった。何しろ、神蔵蓮太郎はライダーであったどころか、アナザーライダーであった時点の記憶すら無くしている。
となればコレは一体、誰だ?
「大丈夫か」
取り済ましたように作った声も、蓮太郎のものではない。
腰のデバイスを抜き取ると変身が解除され、素顔があらわになった。
だがやはりそれは、見覚えのない、年格好はソウゴとかなり近い青年だった。
視線が合った瞬間、ソウゴにあったのは戸惑いだった。
だが対する青年は、共学に目を剥いていた。
そしておずおずと遠慮がちに、
「お前……ソウゴ……常盤ソウゴだよな?」
と、彼の名を呼んだ。
「そう、だけど……」
ソウゴは怪訝さを隠しきれないままに頷いた。
青年たちは、互いに当惑を向け合いながら、しばし時は止まったように固まっていた。
――何か、異常なことが起こっている。
道中さんざん感じていたことを、ソウゴは改めて強く反復した。
next episode:キカイ・リブート『2019」
ソウゴとライセ。
ついに出会いを果たしたふたりの仮面ライダーだったが、やがてライセの側より表情をほころばせた。
彼が言うには、自分もまたあのバス事故の生き残りで、ソウゴや飛流と違ってすぐに親戚に引き取られ、街を離れていたのだという。
言いしれない違和感をぬぐいきれないソウゴだったが、
「あの過去をそれぞれ乗り越えられたからこそ、俺たちはまた出会えた」
という言葉に心動かされる。
だが再会を喜ぶ間もなく、異変は劇的に、かつ確実悪化の一途をたどっていった。
そしてついにソウゴの周囲にも影響が起こり始め……!
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episode2:キカイ・リブート『2019」(1)
ふたりの青年は、互いの感情の色、ベクトルなどを探るように、黙りこくったまま見合っていた。
果たして彼は何者か。自分の言い当てた名は、本当に当たっていたのか。
そんな思考の応酬を無言のうちに、おそらく互いにしていただろう。
「やっぱそうか! 久しぶりだなぁ!」
その均衡と緊張を打ち崩したのは、ソウゴではなくその名を呼んだ少年の方だった。
「あれ以来か、元気してた!? 今何してるんだ?」
表情を華やがせ、目を輝かせる彼は、矢継ぎ早にそう問いを重ねソウゴの手を取りその肩を遠慮なく叩いた。
「ちょっ……ちょっと待ってよ!」
ソウゴはその手を振り解いた。ボディランゲージは嫌いではないが、この積極性は流石に面食らう。
「盛り上がってるところ悪いんだけどさ……誰だっけ?」
気を悪くしただろうかと気に病みながらも、あえてソウゴは疑問を口にした。
だが、落ち着きを取り戻しこそすれ、彼がショックを受けた様子はなかった。むしろ、申し訳なさそうにはにかんだ。
「ごめん……まぁ普通そうだよな。顔を合わせたのだって一、二度だろうし」
そう言って距離を置いて、青年はあらためて自らの素性を告げた。
「俺は、来海ライセ。……お前も遭ったあのバス事故の、生き残りだ」
屈託なく笑うそのライセに、ソウゴはますます困惑を深めた。
バス事故、という単語にソウゴの記憶中枢は過剰に反応した。
その時の場面場面が、切り取られた形で脳裏に蘇る。
現れた黒服の男。自身を庇おうとして時を止められた両親。街を破壊する巨大なメカ。
夢と思っていたもの。被害者である加古川飛流との接触によって思い出したもの。過去に渡ったツクヨミから後になって伝えられた真実。
その渦中に、目の前の青年もいたという。
「……あの時見たものが本当だったのか夢だったのか。今でもわからないけど、気がついたら俺は、病院のベッドにいた」
橋の欄干を背もたれに、ライセはソウゴへと振り返った。
「一番最初に目覚めたのが、俺だった。親はとうとう見つからなかったけど、お前や加古川が生きてたことは、俺にとってけっこう救いだったんだぜ?」
「ごめん……俺、あの頃の記憶が色々あって曖昧だから」
「謝らなくて良いって。そもそも、俺が親戚に引き取られるのは、ソウゴたちの目が覚める前だった。覚えてなくて無理もない」
そう前置きして、橋の外にライセは目を向けた。
湾岸部が一望できるその橋は、景観の良い地帯で夏にもなれば打ち上がる花火を見物に多くの人間が立ち止まる。
だがシーズンよりも少し早い現状、彼が望んでいるのは果てのない水平線だった。
「ソウゴ」
ライセは『旧友』のファーストネームを、親しげに呼んだ。
「俺たちにとってあの事故は辛い記憶だったけど、でもその悲しみを乗り越えたからこそ、今こうしてお前と再会できたし、お前以外にも多くの仲間と出会えた。だから、すべてが悪いとは言い切れないんだ」
ソウゴの脳裏を、灰色がかった過去を、別の記憶が色彩豊かに塗り替えていく。
迎えにきてくれた叔父。時に自分の夢を嗤い、時に気味悪がられながらも受け入れてくれたクラスメイトたち。
かつて仮面ライダーと呼ばれた男たちとの出会い。
そして、ある日時の空から訪れた、同居人たち。
今目の目にいる、新たな同胞との出会い。
「うん、俺も」
それらをあらためて噛みしめながら、ソウゴは強く共感してうなずいた。
「そう悪いことばかりじゃ、なかった気がする」
ライセは微笑み返した。
だがそれも束の間のことで、彼はふと眉をひそませて尋ねた。
「そう言えばお前、シノビの名前を呼んだよな。あれはいったい……」
つい聞き流されていると思っていたソウゴの独語だったが、しっかりと彼の耳には届いていたようだった。
噤むソウゴだったが、突如その彼を、ライセ突き飛ばした。
ソウゴが真相を明かす前に、またライセが凶行の動機を語るよりも早く、怪人が彼らの間隙に割り込んできた。
爬虫類的な皮殻。ギリシャ文字のようなものを含んだ刻印に、笑うかのような細めた目を赤い半透明のカバーが覆う。
そして彼らの足下からは、似たり寄ったりの造形の怪物たちが、思い思いの衣服の切れ端をまとった様相で無尽蔵に這い出てきた。その群体のありようは蝗害さえ想わせる。唯一違う点は、大元と思しき個体にあるはずの年号が、代わりに四筋の斜線になっていて表記されていない。
「アナザーアギト!」
ライセはソウゴも知るその厄災の名を呼んだ。
「最近街に現れた怪人だ! 襲われるとあんな風に同類になってしまうから、下がってろ、ソウゴ! ……変身!」
〈誰じゃ? 俺じゃ? 忍者! シノビ! 見参!〉
ソウゴもよく知る変身シークエンスで、ガマ型のロボットが吐き出したパーツをまとい、ライセはシノビへと再度変身した。
忍者刀で切り裂き、ソウゴのために突破口を開こうとしているライセの側で、ソウゴもまた、自身のドライバーとウォッチを取り出した。
「変身っ!」
〈カメンライダージオウ!〉
変身とともに飛躍したソウゴは、ジカンギレードの刃を閃かせた。シノビの背後に迫っていた二体を斬り払い、その安全を確保し、背中合わせの陣形を組む。
「……ソウゴ、お前っ!?」
ライセは、背越しにジオウとなったソウゴを顧みた。
「さっきの質問だけど! 答えは、
銃撃モードに切り替えたジオウは、連射によって前線の敵を退けた。
状況が状況だけに、すべての経緯を今ここで話すことはできない。それでも、この異形の姿はこの異常事態において何にも勝る雄弁であったことだろう。
叔父にも明かしていない、もうひとつの自分の形。
その姿を見せずに危機を感化することは、ソウゴの正義感が許さなかった。
それ以上に、背を預ける青年との邂逅に、彼と同様運命めいたものを感じていた。
だから彼には、時の王としての
「……どうやらっ! まだまだ色々と話さなきゃいけないことがあるようだな」
「お互いにね」
そして多少の困惑を向けながらも、ライセは旧友の姿を受け入れた。
だが、ソウゴたちが敵を磨耗させるよりも早く、アナザーアギトはその減少を埋め合わせていく。いや、勝りつつあった。
「ここは一旦分かれて敵を分散させよう!」
「わかった……で、どこで落ち合う?」
ソウゴの提案に、ライセが乗った。
「追手を振り切ったらクジゴジ堂って時計屋に! 俺の仲間もきっとそこにいるから」
「わかった!」
首肯した直後、シノビはテニスボール程度の白玉を地面へと叩きつけた。
着弾とともに、それが白煙を吹き出し、戦場を覆い尽くす。
その中に紛れて、ふたりの仮面ライダーは橋の東西に分離した。
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episode2:キカイ・リブート『2019」(2)
白煙が充満した橋を抜けると、そこには見慣れた街の光景が広がっていた。
明るさを取り戻した陽光に、ソウゴは思わずマスクの下で顔をしかめてしまった。
あれほど無尽蔵に湧いていた追手の姿などどこにもなく、変身したままぽつねんとたたずむ自分こそがなんだか異物じみていて、ソウゴは居心地が悪かった。
いや、まだ状況は続いていた。
アナザーアギトの姿は一体たりともなかったが、代わりに足下を、何かが通り過ぎていった。
甲虫とも、枯木の破片とも見えるそれは多脚を蠢かして這いずり、街灯の柱にしがみ付いた。その口から触手を伸ばして絡めとると、自身を基点として無機物を有機的かつ人間の要素を含んだ怪物へと変貌させた。
胸部に掘り抜かれた文字は、〈KIKAI〉。
幾たびもソウゴたちの前に現れた怪人、いや木人。
アナザーキカイが、そこにいた。
だが、悪夢はそれで終わらない。
その彼の背後に、森があった。
無論、市街地にそんな往来を妨げる森林などあってはならない。本来であれば。
それは、アナザーキカイの集合体だった。
アナザーキカイの核とも言える寄生生物が数え切れないほどに増殖し、その木々の間這いずり回り、同じく鉄柱だろうと逃げ遅れた人だろうと構わず取り憑き、自分たちの同胞として群の中に取り込んでいく。
生物災害とも言うべき地獄が、ソウゴの視界の先で膨れ上がりつつあった。
そしてジオウをも取り込むべく殺到した。
激突。拳を振るうソウゴはやはり、妙な手応えのなさを覚えていた。殴った感触で分かるが、あくまで実物だ。
何より彼らには行動があっても思考がない。戦うにしても、ただ怪人とはそうあるべきだと言う理由が前提にあって、それに準じて行動しているような気がした。
ただ、いたずらに戦い、そして増えていく。まるで偶発的に生まれたウイルスのように。
とは言え、看過できる数ではない。現にジオウは押されつつあり、包囲は狭められつつあった。その物量に応対するには、多様な変化が求められていた。
右のキカイにフックを見舞い、他とは違う形状のウォッチを取り出す。
次いで正面から襲いかかった彼を、蹴り倒し、それをジクウドライバーへとセットする余地を作る。
すなわち、世界を渡り自分と同じくあらゆるライダーの力を使いこなすあのイレギュラーの力を。
〈ディディディディケイド!〉
カードが乱舞する。押し寄せる敵をものともせずはじき返し、ジオウに取り付き、別の姿へと変貌させていく。
〈アーマータイム! ディケイディケイ! ディケイド!〉
バーコードと名前が胸に浮かび上がり、シンプルかつスリムなボディが、より重装甲になる。文字通りの『仮面』が顔に張り付き、そこに基本となる仮面ライダーディケイドの顔が表示された。
だが、変化はそれだけには収まらない。
別の紫のウォッチを、ジオウはさらにその右側のソケットへとセットした。
〈ファイナルフォームタイム! ヒヒヒヒビキ!〉
ディケイドヘッドギアMのプレート、いわゆるディメンションフェイスは響鬼の、ライダー中でもとりわけ異形の容貌となり、アンダースーツ内の素粒子シックスエレメントが配列を変化させて彼の肉体を再現していく。
響鬼
夏、厳しい鍛錬の末に手に入れるボディを手に入れたジオウは、専用武器ライドヘイセイバーを手にして敢然と怪異の群れへと立ち向かっていった。
響鬼のもっとも得意とする炎の音撃打、灼熱真紅の型。その力をもって一斬、二斬とアナザーキカイを焼き払っていく。
その動作の間隙を狙って押し寄せる彼らを、今度は平面なマスクから火炎を吹き出して一掃する。
木には、火。その弱点を突いて流れはジオウに傾きつつあったが、アナザーキカイの数は一向に減ることがない。時間とともにいずれ彼らはその勢いを取り戻すだろう。
そう考えるソウゴと、他のアナザーキカイを飛び越えた一体が、冷気を帯びた右脚を突き出した。
フルメタルジエンド。本物の仮面ライダーキカイの必殺技を模した一撃はしかし、明確に軌道上にいたはずのジオウには当たらなかった。
〈ファイナルフォームタイム! ファファファファイズ!〉
〈Start Up〉
漆黒の風と赤い二筋の閃光が、魔の森の合間を駆け巡る。
仮面ライダーファイズの第二の力、アクセルフォーム。
カブトと同様に神速の世界を駆け抜けるライダーの形態を、ディケイドより継承した能力を介して用いた。飛び蹴りを不発に終わらせたアナザーキカイも、その他多くの同型も。包囲の中核から、ライドヘイセイバーの斬撃がジグザグと直線的に機動し、打ち破っていく。
〈Hey! ドライブ! ドライブ! デュアルタイムブレイク!〉
一度足を止めたジオウは、剣の把手の針を回していく。
ツタを伸ばしたキカイの腕を一振りを跳んで回避し、地に足をつけるよりも速く、本体と異なる力を得た刀身を一閃させる。
その刃からさまざまな色、形のタイヤが射出される。
敵を押しのけ爆散させ、誘爆し、そしてソウゴが進むべき道を切り拓く。
この時点でソウゴは、ジオウ単独で継戦することの無理を悟っていた。
ゲイツやツクヨミ、あるいはウォズやこの能力の本来の主たる門矢士なら何が起こっているのか掴んでいるのではないか。
――そしてライセ。
なにはともあれ、一刻も早く事態の打開方法を諮らなければならない。
ソウゴは、敵陣の穿たれた穴から一路、クジゴジ堂へ全速で急いだ。
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episode2:キカイ・リブート『2019」(3)
ライセはソウゴと離れ離れになってから、ほどなく敵の追手を振り切ることに成功していた。
もとより敵に理性らしい理性はなく、群れることでかえって隙が生まれていた。
シノビの機動性をもってすれば、その合間を縫ってやり過ごすことは容易だった。
「ここか……」
ソウゴが指定した落ち合う先は、こじんまりとまとまった、住居と一体となったタイプの店舗だった。
まるでキャンプ場のコテージのような……悪く言えば物置小屋のようなたたずまいで、時計屋だとは一見しても分かりづらい。客の出入りが多いとも思えず、入るのに少し勇気が要って、二の足を踏む。
〈常盤ソウゴ、仮面ライダージオウ〉
まるで英単語の復唱のように、ライセの中の神蔵蓮太郎が呟いた。
「どうかしたのか?」
そしてライセは自身の内に向けて問いかけた。
〈いやぁ、その名前……どこかで聞いたことあるような……ないような?〉
蓮太郎はそう言って唸り出した。
そんな歯切れの悪い言葉を聞かされても、悩むのは本人だけでなくライセの側もである。
同時に、ソウゴに再会した時の疑問を思い返す。
たしかに、妙ではあった。
蓮太郎の弁を借りれば、シノビが誕生するのは今から三年後、2022年であるはずだ。それをなぜ現段階で、常盤ソウゴが知り得たのか。
「……まぁ、本人から聞けばいいだけの話か」
店の前にバイクを停めたライセは、出入り口とおぼしき前に佇んだ。
しかし休業中の張り紙が心細げに戸口に貼られていて、来客を拒んでいた。
無理もない、とライセは思った。
ここのところのアナザーライダーのたびたびの襲撃、商売よりも我が身の安全を大事と思うことは自然なことだった。
だが、納得だけで話は進まない。
店先で待つか、それとも店員でも見つけて中で待たせてもらうか。
そう悩んでいたところに、ひょっこり痩せっぽちで眼鏡をかけた、初老から壮年の中間ぐらいの男性が、店の裏から顔を覗かせた。
どことなく疲れてやつれた様子で、両手には段ボール箱。
口が締め切らないそこからは、人形やおもちゃがあふれていた。
「あぁ、ごめんなさい……見てのとおり、しばらくお休みしてるんですよ。今日のところは……」
柔和だが覇気のない様子でそう断ろうとする彼は、おそらく口上からして店主なのだろう。
追い返されるよりも早く、ライセは用向きを伝えた。
「あの、実は……常盤ソウゴ君は、いますか」
この場所が実は集合地点ではなかった……ということではなかったことが、ソウゴの名を出された店主の、変じた顔色でわかった。
「ちょ、ちょっと待ってて……!」
言葉を詰まらせながら店の勝手口へと消えた彼を、少しばかりその性急さを訝りながらただ待っていた。
だが次の瞬間、あらぬ方向から力が加わり、腕を引かれ、そのまま家屋の壁へと突き倒された。
有無を言わさず物陰へと彼を引きこんだのは、ライセと同じほどの年頃の若者だった。
黒く刈り上げた短髪、精悍な顔つきは、店主とは対照的だが、彼と同じように憔悴の陰があった。
「貴様……何者だ?」
だが、それをものともしない語気の強さと若々しさで、青年は烈しく彼を問い詰めた。
「クォーツァーか? 何度来ても返り討ちにしてやる……っ!」
「クォ……っ? 違うよ! 俺は、ソウゴの友達だ」
「なに?」
ソウゴの名をふたたび出したとき、友だと名乗った時、男の表情と声色が変わった。
ただしそれは明らかにポジティブな方向にではなく、低く、険しく、冷たいもの。血走った眼とライセの視線がかち合った瞬間、ライセは青年に思い切り殴りつけられた。
固い地面に倒れ伏すライセのデイバッグから、彼のドライバーがこぼれ落ちた。
一瞬青年の目がそこへと向けられたが、興味より相手への怒りがそれに勝ったようだ。一瞥呼べるほどのものの時間にさえならず、起き上がりかけたライセを睨みつけていた。
「なに、すんだよ……っ!」
「帰れ!」
「そうはいかない! 俺はソウゴと約束したんだっ、ここで待ち合わせをするって……!」
さらに言葉を重ねようとしたライセの襟を、青年の腕が絞り上げた。
掠れた甲高い声で、抵抗する彼を遮った。
「そんなヤツはここにはいない!! どこにもな……っ!」
ともすれば相手を殺しかねないほどの眼力に、さしものライセもたじろいだ。
かといって大人しく退くわけにもいかず、そのまま膠着が続いていた。
「ちょっとちょっと! 喧嘩!? ダメだよゲイツ君……ソウゴ君のお友達なんだから」
戻ってきた店主がそう口を挟んで彼らを嗜めた。
にも関わらず青年は睨みつけていたが、やがて鼻を鳴らし、突き飛ばすように、ライセを解放し、立ち去った。
「あぁー……ごめんね、彼ちょっと色々あってさ。気が立っちゃってるんだよね」
申し訳なさげな様子で青年をフォローしながら、店主はライセについた土埃を払ってくれた。気弱げな彼だが、そこには最大限の気遣いのようなものを感じた。どこまでも善良な人間なのだとは会ってすぐの相手だが感じ取っていた。
「ソウゴ君のお友達……なんだよね」
「はい。ちょっと彼に会いたくて、戻ってきては、いないんですか?」
「うん。……ちょっと今、遠いところに出かけててね?」
「はぁ、そうなんですか」
言い回しは妙に引っかかるが、あれからまだ戻っていないということなのだろう。あいまいにうなずくライセに、硬い感触が押し付けられた。
それは、先ほど箱の端に引っかかっていたおもちゃの一体。ロボットのブリキ人形だった。
「これ」
切羽詰まったように、店主は切り出した。
「受け取ってもらえないかな? ソウゴ君のものなんだけど、もう使わないし……かと言って捨てるのも……ちょっと辛くて」
「え? いやでも」
「だったらせめてお友達に持っていて欲しくてさ。……どうしても要らないなら、処分してくれても良いから! ……ごめん!」
そう言い切るや、店主は眼鏡のツルを持ち上げて、目頭を押さえながら身を翻して店の奥へと引っ込んだ。
「……なんなんだよ」
訳もわからず独り敷地内に取り残されたライセは、呆然と呟きながらロボットを見た。
幼い頃のソウゴの持ち物らしいそれは、当時流行したとも思えないレトロなタイプの意匠で、その背にはマジックで決して消えないよう、そして本人の気持ちがダイレクトに伝わる強い筆跡で、
〈WILL BE THE KING〉
と書かれていた。
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episode2:キカイ・リブート『2019」(4)
来海ライセは『クジゴジ堂』から少し離れた位置にある河川敷で、どうすることもできずにいた。
この道をソウゴが通りすがるのに淡く期待を寄せながら、もらったロボットを手持ち無沙汰に弄ぶ。
彼の将来の夢が王になることだとは知らなかったが、まさか今も同じ夢を抱いているとも思えない。察するにこれは相当前のもので、自分は体良く不用品を押しつけられただけじゃないか、とも考えた。
せめて連絡先でも先に交換しておくべきだったか。
そう後悔してももう遅い。
どこへ行けば良いのかも分からず、どうすべきかも分からない。
そんな宙ぶらりんの状態でしばらくは佇んでいたが、
「一旦家に帰ろうかな」
独りごちる。
アナザーライダーは何体かを撃破した後、乱戦の最中どこかに霧散した。
〈帰る……か〉
その独語を、蓮太郎が拾った。
記憶や肉体のない彼らであっても、やはりその帰りを待つ家族や友人がいるのだろう。そんな彼らを内部に収めてのこの呟きは、無神経だったか。
そう軽く悔いたライセに、蓮太郎は問うた。
〈なぁ、お前の家って〉
否、問おうとした。
その前に、対岸でスリップ音が空気の壁を破り、彼らの耳をつんざいた。
見れば川向こうでは、クリーニング店のロゴが入ったバンが、蛇行していた。決してそれは不注意による事故などではなかった。
その屋根には骸骨のような怪物と、鬼のような妖怪が取り憑いていた。その重みと姿によって、運転手は平衡感覚と判断力を失ったのだ。
バンが横転する。火花を散らしてガードレールに衝突したそれから、怪物たちは……〈FAIZ〉と〈HIBIKI〉と肉体に示したアナザーライダーたちは、飛び降りた。直後、数こそ多くはないが悲鳴があがった。
行く宛こそないが、今やるべきことは分かった。
安らぐ暇もない我が身の境遇を嘆きながら、彼は人形を上着のポケットに無理やり押し込み、自身のベルトとオレンジの手裏剣を取り出した。
「変身!」
〈踏んだり、蹴ったり、ハッタリ!〉
仮面ライダーハッタリ。
プレートが名乗り向上をあげると同時に、ガードレールを飛び越えたライセの身体を、巨大な鉄蜂が印字とともに放出したアーマーが包み込む。
倍増し跳躍力をもって河川を一気に飛び越えたライセは、そのまま暴れんとしていた怪物たちを忍者刀で斬り払った。
不意打ち程度では倒せない。それでも、注意を自分に集中させることには成功した。武器を傾けたままに身体をスライドさせ、まるで地の利を確保するかのように見せかける。それに釣られたアナザーライダー達は、並行線を描くようにライセを追った。
彼らを引きずるようにして人の逃げるスペースと時間とを確保した後、安全な場所であらためてライセは彼らと切り結んだ。
青黒い地肌を、ギチギチと音が鳴りそうなほどにいきりたたせた『アナザーヒビキ』は刑罰に用いるような棍棒を両手に携え振りかざす。何かの罪を咎めるかのように、あるいは羊飼いのように、ライセを追い立てていく。
ハッタリに扮したライセは、直接的に攻撃的を受けることはしなかった。
真っ当にやり合えば、得物が折れるのは確実にこちらだ。だから威力を殺し刃の背を滑らせ、返す刀でカウンターを狙っていく。
深追いはしない。アナザーファイズを相手取らなければならなかった。
普段は個対集団という状況が多い彼はその経験則と直感に従い、自身の死角となる背に忍者刀を回した。
噴出口のような不気味な隆起のついた拳と、白刃が衝突する。
浮き上がった拳の下に潜らせた刃が、肋骨のような意匠の合間をすり抜けて敵の身体にダイレクトに刻まれる。
追い討ちもしない。油断もしない。たとえどれほど優勢であったにせよ。
〈カチコチ忍POW!〉
身を翻したライセは、指先で結んだ印から冷気を吹きかけた。視線を変えたその先で鉄棒を振り抜かんとしていたアナザーヒビキは、その体勢のままに、まるで仏師の彫りぬいた像のように凍結した。
相手の特性を知り得ないままに手探りの遭遇戦となるのはいつものことだが、緒戦はこちらの優位に傾きつつあった。もちろんシノビやハッタリの、敏捷性と引き換えの防御性能を思えば、一撃を喰らうことさえ許されない状況には違いないが、気は楽と言えた。
たしかにこの一瞬、彼は安堵していた。万難を排する注意力に、わずかな綻びはあった。
だが果たして、それを油断と呼ぶことはできるのか。不注意だと咎める者が、あるだろうか。
残されたアナザーファイズの視線が、わずかに自身から逸れたことに、ライセは一瞬遅れた。
イバラか毛細血管のような装飾の奥底の暗く淀んだ眼差しは横転したバンを見ていた。
元からそこに入っていたのか。それともそれが邪魔して逃げ遅れていたのか。
少年が、隠れていた。いや、背丈の都合そう見えるだけで、実際は全身を硬直させて立ち竦んでいただけだろう。
アナザーファイズは、それに反応した。
狼のように飛び上がり、両脚を少年へ向けて突き出した。
「危ないっ!」
身体はとっさに動いていた。
その軌道上に割り込んだライセは、少年を逃すべくその肩を押した。
アナザーファイズの全身に血煙のようなものが立ち上った。やがてそれはその足先に円錐形のようなエネルギーへと変化した。
それがポインタのようにハッタリの前の虚空へと突き立つと、それこそ影縫いの術でもかけられたかのように、総身が痺れた。指先を動かすことさえ至難で、印を結ぶこともプレートを操作することもできない。よって逃れる術を失った。
どうやら事前に火熱をもって全身を鎧っていたらしい。ハッタリ自慢の氷遁の術は、アナザーヒビキによって容易く溶かし尽くされた。
金剛力士の化身のようなそれは、牙を剥き、武器を携え、身動きのできない相手へと迫った。
――力が、要る。
いかなる縛も破るだけの力が。
あらゆる悪意を跳ね除ける守りが。
業火を鎮め止めるだけの冷気が。
今ままならない肉体に、速さは不要だ。
〈子どもは、未来につながる宝物だ〉
そう願うライセの内で、声が響く。
今まで開くことがなかった、あの虚無の空間中、もっとも分厚い鋼の扉が、持ち上がる。
〈そして、いつかの誰かの、
焚かれたスチームは扉が開くごとにその量を増していく。
やや芝居がかったセリフを恥ずかしげもなく朴訥に言い回し、時代がかったジャケットやジーンズをまとった彼は、その中から現れた。
〈それを守ったお前の勇気を見せてもらった。……お前も、オレのBFFだ。『力』を、貸そう〉
その宣言に呼応して、現実のライセに変化が起こった。
スーツの奥、上着の中を貫通し、例のロボットが虚空へと投げ出され、それは光に包まれ二つに分かたれ、まったく別の形状へと変化した。
スパナと、スクリュードライバー。
工具を模したイグニッションキーは、交差して一対のデバイスとなりながら、ハッタリのプレートの代わりにベルトのバックルへと収まった。
〈デカイ! ハカイ! ゴーカイ!〉
紫電を帯びたアーマーが、ハッタリの忍装束を上書きしていく。
中空にいくつもの工具が出現し、火花を散らしながら黄金色のアーマーを固定していく。
金色の装甲を手に入れたライセは、脚の先、腹の底からパワーがみなぎってくるのを感じていた。
その力に突き動かされ、ライセは雄叫びをあげる。
強引にポインタを弾き飛ばし、もう一方の腕でアナザーファイズをなぎ倒す。
次いで迫るアナザーヒビキが、腰を沈めて打ち出した一突きによって端まで飛ばす。
〈仮面ライダーキカイ!〉
蒸気を吹き出す。真紅の瞳が意志を宿して光を放つ。
正拳を繰り出して屹立する新たな姿は、力は、
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episode2:キカイ・リブート『2019」(5)
――ライセの内側で、何かを示唆する声がする。
(あのさ、シノビの時も思ったけど……それ必要?)
『不可欠だ』
『それが、俺たちの流儀だ』
『そうそう! ぼ……俺様もそう思う!!》
『え? お前なんかあったっけ?』
『あるよ! ハッタリじゃなくてマ……』
異なる声よりの、賛意。多少のノイズはあったものの、承諾するほかなさそうだった。
拘束より解放されたライセは、マスクの奥で浅く呼気を漏らす。
下手に敵に向かうよりもよほど勇を絞り、彼はヤケっぱちの大音声を張り上げた。
「鋼のボディに熱いハート! 仮面ライダー……キカイ!」
〈あぁ、コマンドを確認した。これより来海ライセとの共闘を開始する〉
名乗り口上に同調するかのように、さらに動力が引き出されていくのを実感する。
体勢を整えたアナザーライダーたちは、左右から挟撃を仕掛けてきた。
アナザーファイズの拳撃が、アナザーヒビキの鉄撃が、仮面ライダーキカイの装甲と衝突する。音こそ強烈だったが、ライセへの直接的なダメージは、皆無だった。
骸骨を殴る。鬼を蹴る。
つんのめった彼らを、シノビたちのような速攻と急追は出来ずとも、確実に追い詰めていく。
その間にも、アナザーファイズたちの攻撃は続く。
蹴る。殴る。火を噴く。だがそのいずれも有効打とはなりえない。ライセは標的をアナザーファイズ一体に絞り、間合いを確実に詰めていく。
苦境に至り、アナザーファイズもまた小手先の攻撃の無為を本能的に悟ったようだった。
伸びきった腕を掴まれ、ライセに力任せに投げ飛ばされた後で、拳を握り固める。彼の手足を駆け巡る赤黒い光のラインが怪しく輝き、蠢動する光はその握り拳へと一極化していく。
そしてエネルギーを充溢させた拳を、キカイの頭部めがけて撃ち出した。
対するライセも、中に響く提言に従い、ベルトのデバイスをスワイプした。
〈アルティメタルフィニッシュ〉
抑揚のない声が響く。
全身に闘志の熱が立ち上る反面、持ち上げた拳には凍気が帯びた。
その表層には霜が降りて、拳に触れた水蒸気が氷霧と化してさらさらと擦れ合って音を立てた。
コンクリートに足跡を作りながら、踏み込む。
二つの拳圧が、それぞれに質の違う異音によって風を啼かせた。
ファイズの毒素が、耳元をかすめた。キカイの一撃が、アナザーファイズの真芯を捉えてえぐる。
急激な温度変化はやがてアナザーライダーのラインを逆流するかのように全身に回っていく。やがて氷像となった彼は、明らかにバランスを欠いた姿勢のまま、大きく傾いていく。
ライセが何を加えるまでもなく、そのまま地面に激突した。
全身と、腹蔵していたウォッチ。それらを余すことなく崩壊させた。
〈フルメタルジエンド!〉
ふたたびベルトをなぞりあげる。冷気は流動していく。拳から、右脚へと、余剰分を吸い上げて。
そして温度差を爆発力に換えて、彼は真上に高く飛び上がった。浮き上がった足裏を、特攻したアナザーヒビキの棍棒が素通りしていく。
標的を見失った鬼は立ち止まり、左右に目を配る。
その無防備にさらされた頭頂へ向けて、くり出す。
脛部のコンデンサーを逆噴射に利用し、氷と風とを従えた鋼の蹴技を。
破砕音とともに、アナザーライダーを正中を穿ち抜く。
そしてベルトの宣言どおりに、鬼の調伏をもってして、この騒動に終幕を下ろした。
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episode2:キカイ・リブート『2019」(6)
来海ライセは、存在の内部に今まで三人の人間を内包していた。
すなわち自分自身。
すなわち仮面ライダーシノビ、神蔵蓮太郎。
すなわち仮面ライダーハッタリ、今生勇道。
そして今、ここにもうひとり……いや一機が加わり、異様な空間の中でもとりわけ異質な存在感を放っていた。
彼らが要るのは閉ざされていた鋼鉄の扉の内部。
その男の力から近未来的な光景を予想していたが、意外にもそこはノスタルジックな、それこそ郊外で半分老後の趣味のように個人的に開いてい駄菓子屋のような店の軒先だった。
そしてそこに仁王立ちしているのは、どことなく古風ゆかしい、硬派な風情を持った男だった。
彼を目前に、青年は三者三様、怪訝そうな顔を並べていた。
「人間、だよな?」
「いや、
ほとんど独語のようなライセの問いかけに、青年の形をしたその存在はさんざん聞いた解答をした。
仮面ライダーキカイ、
ぎこちなくはにかむ彼は、ヒューマノイズという、正真正銘のロボットだと己を紹介した。
「いやいや機械って」
笑い飛ばしたのは勇道だ。
2121年という途方もない未来から来たというのも眉唾物だが、何より目の前の人物が機械の身体を持っていたということ自体が、そもそもの疑念らしい。
本人は軽く小突くつもりだったのだろう。だが彼の予想を超える硬度を持っていたらしいその身体は、惚れ惚れするほど見事な、言い換えれば殴った本人を思えばかなり痛ましい金属音を奏でた。
「いっっったぁ……!?」
事故的に、不可抗力のダメージを拳骨に受けた彼は、自身の手を抱くようにして悶絶していた。
「おお……大丈夫かハッタリ……ていつまでも生身で呼ぶのも変だな。勇道」
蓮太郎が美貌に涙を浮かべる彼を雑に気遣った。
(というか、実体もないのに人との違いはあるのか?)
それ以上はややこしそうなので、考えるのをやめ、ライセはあらためてレントと向き直った。
「もう一度確認をするけど、あんたは2121年からここに来た」
「そうだ」
「けど、ここに来るまでの記憶は無くしている」
その問いにも、レントは表情乏しく首を上下させた。
どうやってここにたどり着いたのか。何故同胞を裏切って戦っていたのか。
――何を守っていたのか。
それが彼の
蓮太郎や、勇道と同じく、仮面ライダーであったことに関わる
「もっともこいつは、データの『破損』というよりも『欠落』に近い」
「欠落? 誰かに抜かれたとか?」
「あるいは逆に」
言いかけたところで、過剰に痛がる勇道の嘆き声に遮られた。
ライセは咳ばらいをした。
「だが、書き替え不可能な領域に、ある言葉が残っていた。おそらくはシステム基幹に関わるパスワードだ」
「それは?」
普通なら誰かのマシンのパスワードを聞き出すなど、マナー違反も良い所だ。それがマシン自身に尋ねるのなら、なおさらのこと。
だがこの場合、遠慮している時ではなかったし、相手もさほど難色を示さなかった。
「『WILL BE THE BFF』」
そして目を細めて彼は続けた。
「ソウゴが、思い出させてくれた言葉だ」
驚きに、息を呑む。
あのオモチャに書かれていたのと、酷似した字面。
ただの偶然と思いかけていた矢先にライセが浮かべていた人物の名が、挙がる。
「ソウゴって、まさか常盤ソウゴか!? なんであんたが……?」
レントは首を右に向け、左へ向ける。
答えられない。言えない。憶えていない。ジェスチャーは、明確にその意を示していた。
(どういうことだ!? なんで、百年も先のライダーから、ソウゴの名が出る)
いや、それだけではない。勇道はともかく、シノビ……蓮太郎もその名についさっきまで反応したではないか。
果たして、あの再会でさえ本当に偶然のものなのか。
わからないながらも、自分がどこか深淵に引きずられてしまうのではないか。そんな予感と不安とがライセにはあった。
「見てよこれ! こんなに腫れてるし、骨にヒビ入ってるって!!」
「いや大丈夫、なんともなってないから。ていか俺たち生身じゃないし」
――いや、確実にわかっていることは、ひとつある。
「煩い! せまっ苦しい!!」
人の心の中でさんざん騒ぎまくるシノビ一行を、ライセは一喝した。
彼らはキョトンとした顔を見合わせながら、手足を止めた。
「あのさ今、けっこう大事なハナシの最中なんだけどさぁ!」
「なんだよ、このぐらいは大したことないだろ? そこまで目くじら立てなくても」
「そうそう、それこそ『心が狭い』ってやつだな」
「おっ、勇道けっこう上手いじゃん」
「へへっ、だろ?」
あははは、と頓狂に笑い合う。
シノビとハッタリ、宿敵同士と聞いていたふたりだったが、皮肉にもその因縁の原因さえも抜け落ちてしまったせいで、蓮太郎の予感どおり、すっかり意気投合してしまったようだった。
そしてそんな彼らの能天気な様子にライセは呆れ、頭を痛ませながらもどこかで救われているような気がした。
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episode2:キカイ・リブート『2019」(7)
ソウゴはアナザーキカイの軍勢、いや群体を切り抜けることに成功した。
とはいえ、無傷で突破できたわけではない。
追いすがる彼らを幾度となく振り払い、そして自身の『民』をできるかぎり救いながらの戦いは、熾烈を極めた。
いずれ時を統べる王といえど、今はまだその力は十全とはいえなかった。
――いや、むしろ喪いつつある。
使用したウォッチのうち、いくつかはシノビのウォッチ同様に、突如としてその機能を止め、ブランクに戻った。まるで内包されていた力が、時間が、どこか別の場所へと引きずり込まれるように。
負傷した肉体を引きずり、転がり込むように『クジゴジ堂』へとたどり着く。
こんな異常時においてもこの店は、この家は……まるで時から切り離されたように平穏そのもので通常営業だ。そのことに安堵さえ覚える。
「ど、どうしたのソウゴ君! 誰かとケンカでもしたの!?」
店番をしていた叔父の順一郎が、服も肌も裂傷だらけのソウゴの姿を認めるなり、慌てて駆け寄った。
「え、ええと……あ、そうだまず救急箱救急箱!! どこにしまったっけかなぁ?」
玄関先にへたり込むソウゴを担いで店の中に座らせると、おたおたとした様子のままに店の中を引っ掻き回す。そんな叔父を、ソウゴは押し留めるように手を突き出した。
「叔父さん。誰か、ここに来た?」
「え? 誰かって、誰?」
息を整える間もなく尋ねるも、その反応は薄い。救急箱を探すことに気を取られているというのもあるだろうが、来客をないがしろにできる人でもない。
つまりライセは、まだここへは来ていないのか。
――何か、ズレている。間違っている。
まるで時計の午前と午後とを勘違いするように。のぼりゆく旭と、沈みゆく夕陽を誤認するように。
上手く言葉にはできないが、ずっと付きまとっていた違和感が、ここに来て再燃した。
それも踏まえて、何が起こっているのか確かめなくては。
断片的でも良い。微細でも良い。とにかく情報を寄せ集めて皆と話し合って整理して、それから彼と、来海ライセを名乗ったあの少年と、もう一度話をしなくてはならない。
……会わなくては、いけない。
「じゃあ、ゲイツとツクヨミは?」
「あぁはいはい、ちょっと待っててね」
気軽に二つ返事。順一郎は箱を抱えたまま奥間の居住スペースへ行こうとして……その足を、止めた。
「叔父さん?」
ソウゴは怪訝そうにその背を覗きこんだ。
すると叔父はソウゴに振り返った。苦しげに。悩ましげに。
そして箱を適当な畳の上に置くと、彼はひどく言いにくそうに口を開いた。
「あーと……そう、だね。いやぁ、やっぱり僕も歳なのかなぁ。ほら、この間もお客さんの注文を取り違えちゃったことあったし。あぁいや最終的にはどうにかなったんだけどさ。やっぱもうちょっとしっかりしないとダメなのかなぁ、なんて。ははははは……」
叔父はもごもごと言い訳めいたことを続けていた。愛想笑いを張り付かせていた。
「――何が言いたいの?」
そんな彼の様子に、ざわざわとソウゴの胸で何かがうごめく。
直感が、報せようとしている。
知らずその語調は、剣呑な問い返しとなってしまっていた。
順一郎はそんな彼に、申し訳なさそうに尋ねた。
「ごめん、そのゲイツとツクヨミって…………なに?」
next episode:Who Wants to Be a destroyer?『2068』
ゲイツが消えた。
ツクヨミも消えた。
そして見えざる魔手はとうとうウォズにまで……
決して見たくはなかったアナザーライダーたち。それに抗するソウゴは、終わりが見えず迷走しつつ、ある仮説へとたどり着く。
そしてライセはソウゴの影を追う。
そんな青年たちの前に、ある男たちが現れる。
仮面ライダーの力を取り戻した男。
かつて仮面ライダーだった男。
彼らが導いたのは、一つの世界。一つの可能性。一つの時代。一人の男。一つの結末。
そして……すべての真実。
残酷な二択、知れ切った問い。
それらを前に、青年は慟哭とともに答えに向かって踏み出す。
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(1)
駆けるその足は、もっと速く動かせるはずだった。いや、急がなくてはならないはずだった。
だが、友をこの数時間のうちに二人喪い、しかもその事跡がなかったことにされたということが、ソウゴの心に重くのしかかかっていた。
もしかしたらウォズも……と仄かに感じる不安が、足を遅れさせていた。
〈サーチホーク! サガシタカ、サガシタカ、サガシタカ!〉
自身のサポートガジェットに先導されるままに、道を急ぐ。その先に、良く見たローブ姿を認めた瞬間、全身を一時的な安堵が包んだ。
自身の周囲にまとわりつくタカウォッチロイドを少し煩わしげに指で追い払いながら、ウォズは主人へと振り返り、そして一礼した。
「ウォズ、ゲイツたちが……!」
「あぁ、状況はなんとなく把握しているよ、我が魔王」
合流するなり切り出したソウゴを、ウォズは制した。
普段は冷淡、薄情とさえとれるこの落ち着きぶりが、今この事態を迎えては無条件に頼もしい。
いくらか落ち着きを取り戻したソウゴに、顔を持ち上げ、歴史の語り手は本を取り出してみせた。
王にも決して中身を見せなかった『逢魔降臨暦』。そのページを開いて。
無造作に選んだと思われるそのページには、何物も、一字さえも記されてはいなかった。その異変が彼のプライドをいたく傷つけるのか、平静さを装いつつも悔しさが口端に滲み出ていた。
「君のことだ。薄々は勘付いているとは思うが、この世界において私の立ち位置というのは少々特殊でね……その私をして、
何を今更、と言いたくなるような自己紹介とともに彼は嘆息する。
だが、と白紙の本を閉じて、空いた手で遥か先を示した。
「問題の源流は、分かっている」
指先にあるのは、件の大橋。もはや制御不能となったアナザーキカイたちの群れの向こう側。ライセと『再会』をしたあの地点だった。
「あそこを起点として、周囲に無作為にアナザーライダーが発生しているようだ。そしてゲイツ君とツクヨミ君も、あの場所に向かっていたのを最後に消息を絶った」
ソウゴの表情に、心に、驚きはない。
簡単な計算式の答え合わせでもするように、当然として受け入れていた。
そんな主君の様子に「おや」と眉を持ち上げ、ウォズは多少機嫌を改めた。
「さすがは我が魔王だ。その表情から察するに、私よりもこの一件の核心に気付いていると」
だが、とウォズは彼を突き飛ばした。
ソウゴの眼前を、鎌のような湾曲した刃が通過した。
無論、ウォズのものではない。彼はむしろ、自身の戴く王を救わんと非礼を承知で彼を庇い、そして自身で襲撃してきたアナザーライダーに組みついたのだった。
「アナザーライダー……!? でもこいつは!?」
「もうひとつ、君に伝えておかなければならないことがある。こいつらについてだ……!」
生身でソウゴが凶刃から逃れる時間を稼ぎながら、ウォズは続けた。
「分かったことは大きく分けて三つ。こいつらに宿主は存在しない。自然発生したものだ。第二に、すべてこの時間軸にはいないはずのライダーのアナザーだということ! そして最後に……これが重要なのは、こいつらが接触したものそれ自体に……時空の歪みが発生し、最悪の場合消滅するということだっ!」
力に押し負けたウォズが、鎌の柄に胴を叩かれて地を転がる。
乱れたマフラーを整えながら、ウォズは苦り切った表情をそのアナザーライダーへと向けた。
「なるほど思えばコレも、本来ならこの時間軸にはいなかったな……っ」
煤けた白いアンダースーツに、竜の逆鱗を思わせる突起が無数に逆立つ。その正中線を奔る溝には、錆びた歯車が乱雑に押し込まれている。
くすんでヒビ割れたダークグリーンのバイザーの奥底に、殺意と叛意に満ちた真紅の眼と牙が閃く。
「あまりいい気分ではないね、歪められた『自分』を見るというのは」
そのバイザーの片隅には歪んだ三字で、
WOZ
と刻まれていた。
それに抗するべく、ウォズは自身のライドウォッチを手にした。
もうひとりの自分から奪った、ライダーの力。そしてドライバー。
だがそれと戦う事が何を意味するのか。ウォズ自身が説明をしたはずだった。
ソウゴが制止の声をかける間もなく、マフラーに巻き取られた。
「それでも誰かが街への流入を食い止めねばなるまい。君は、君のすべきことをしてくれ」
声が聞こえた。直後、視界が開けた。ソウゴの先に、遠くにあったはずの橋が見えた。
小さく剣戟の音が尾を引くようにして鳴る。
一度その方向を顧みたソウゴだったが、すぐに強く地を踏みしめ、そして駆け出した。
友のため、民のため、そして臣のため。
一刻でも躊躇う猶予などあろうはずもなかった。
孤独も、抱いた怖れも二の次に、彼は強く走り始めた。
ウォズという男は、自他ともに認める謎の多い男だった。
高揚の裏で冷徹に打算し、饒舌の中に真意を隠し、主人に盲従しているかのように見えて、必要が生じれば平然と欺く。
そしてそこには、常盤ソウゴにも、そしてその未来の姿であるオーマジオウにも伝えてはいない本当の思惑がある。
もはや彼自身でさえ、本心がどの方角を向いているのか分からなくてなっているフシがある。
だがそんな曖昧な彼でも、信じられるものはある。
それは謎は謎のままに呑み込んで、自分に迷いなく信を置くソウゴの度量、そして当事者でさえ知覚し得ない本質を射抜く慧眼だ。
先を読み取り、現在を変革し、過去のライダーを統べる力以上に、それは時として彼の武器となりうるだろう。
そして今、世界はウォズの手に余るほどに混沌としていた。
この状況は誰にとっても望まれたものではない。
だから今この時ばかりは、誰の気兼ねなく、何を隠すこともなく本心から、ウォズは動く。
「変身!」
〈スゴイ! ジダイ! ミライ! 仮面ライダーウォズ! ウォズ!〉
変身する。
その矢先、拳を覆うスムースハンドからシュウシュウと音が立つ。
本ばかりではなく、自分自身も無へと還ろうとしていた。
それを握り隠して無理やりに抑え込み、彼は自身の半身に挑む。
王を佐け、人々を、世界を守るために。
結果、自分が消滅することになろうと、それが最善の道だと信じて。
たとえそれが掠奪した力と姿であったにしても。
たとえ今まで一度も正義や自由など頭をかすめたことがなかったとしても。
今この瞬間だけは、ウォズという男は、異議の挟まれる余地のないほどに『仮面ライダー』だった。
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(2)
群生するアナザーキカイたちが、背後に回ったソウゴの気配を察知した。
気づいたのが、一体……そこからまた一株、一匹……反応は波及し、そして全員がその方角を向くのに時間はかからなかった。
ソウゴはさらに走りを速めた。
その足下に追いすがるツタを振り払い、一路、橋の中央へ――『境界』へ。
気遣いなのか純粋な見落としか。
ウォズの提唱したこのアナザーライダーたちのルールには、矛盾がある。
ひとつ、アナザーが出現するのはこの世界に存在しないアナザーライダーだという点。だがソウゴは目撃している。今と同様に、アナザーアギトが世を侵略するさまを。
ひとつ、そのアナザーライダーに接触したものは時の在り方を歪められて消滅するということ。
であれば、もっとも接敵していたであろう自分……常盤ソウゴが真っ先に消滅していないと筋が通らないではないか。
それは自分が特殊だから? 時の王者であるからか。
――否。
答えは数メートル先に迫っていた。
たどり、着く。
柔らかく、鈍く、重いものが、半身に触れた。
まるで海面にゆっくりと沈められていくような感触。直後に起こる激しい頭痛は、全身が拒絶反応を示しているためか。
思わず痛みに目をぎゅっと瞑る。
痛みが和らぐと同じくして、開けた視界はわずかにくすんでいた。
ゾンビ映画のクライマックスのように、あれほど殺到していたアナザーキカイたちが、跡形もなく消えていた。
ふぅ、と息をつく。ソウゴの立てた憶測が、答えに変化しつつあった。
「――まぁ、安心してもいられないよね」
ソウゴは軽く嘆いて顔を持ち上げた。
『こちら側』も、世界の崩壊が迫っているのは同じことなのだ。だからアナザーライダーはこちらでも増殖を続けていた。
現に今、彼の目の前には新たなアナザーライダーが現れていた。
ゴーグルの中に、鋭く見せる眼光。毒蛇を想起させる蓬髪。
自然界ではありえないようなピンク色のアンダースーツに、カビを思わせる斑点がびっしりとこびりつく。人工物と天然の細菌とが融合したかのようなおぞましい姿は、一度見れば忘れない。というよりも、胸に表示されている。
「アナザーエグゼイド」
ソウゴは険しい表情でその名を告げた。
その呼び名に反応したのか、獣のように低く唸りながら、両手を広げるようにして迫った。
ソウゴはジクウドライバーを取り出し、迎撃の構えをとった。
だが、アナザーエグゼイドの爪が迫るよりも先に、ソウゴが変身するよりも速く。
間に男が立った。
彼は長い脚を持ち上げて、すくい上げるように腰をひねってアナザーライダーを蹴り上げた。
その男は端正な顔立ちでありながらどこかふてくされたようにアゴを突き出し、横顔だけソウゴに向けた。見知った顔だ。うんざりするほどの馴染みさえある。
「
あいさつをするような仲でもないが、ソウゴは困惑していた。
この男の奇行はいつものことだが、今回は特に怪しさ満点の様子……いや服装をしていた。
愛用と思われるトイカメラはそのままに、カラーのついた厚手の紺色の上下。そこに白と青の横縞のシャツ、いわゆるマリンボーダーを身につけ、白いキャップ帽のツバを指でつまんで持ち上げた。
「なに、その恰好……水兵さん?」
趣味なのか、彼なりのルールがそこにはあるのか。たしかついこの前会った時はレジスタンス風のミリタリーファッションの仮装をしていたが。
「違う。船乗りだ」
ふてぶてしい顔つきのまま、彼は低い声で答えた。あるいは本人にとっても予期しえない、不本意な恰好であるのかもしれない。
「まぁ、何が違うかと聞かれても俺も知らんがな」
身もふたもないぼやきめいた一言とともに、彼は一枚のカードを取り出した。
――自分の時間とともに失われたはずの、腰のケースの中から。
『自分』が映ったその一枚を裏返すと、ファインダーを模したバックルへと押し込んだ。
「変身」
片手でスライド式のカバーを閉じると、内包するライダーたちを象徴する十八の紋章が彼を取り巻いた。
いくつもの像が長身のシルエットと重なって、その姿をマゼンタに彩り、バーコード状の装飾がマスクに突き立つ。
――おそらく、彼よりも強いライダーは探せば数多くいるだろう。単純なスペックで言えば、それこそ今まで出会ったライダーたちの中でも、いくらでも。
〈KAMEN RIDE〉
だがその特異性は唯一無二のもの。
ジオウと同じく彼ら歴代のライダーの力を内包した、異形中の異形。
あらゆる意味、あらゆる視点から鑑みても、型にあてはまらない『規格外』。
それゆえに、スウォルツに狙われた。
加古川飛流を扇動して時空を変動させ、士自身の仲間を指嗾して同士討ちさせ、能力は奪われたはずだった。
〈DECADE!〉
仮面ライダーディケイド。
その力は今ふたたび士の元に戻り、そしてソウゴの前に現れた。
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(3)
――もうこの男の身にどんな奇跡が起ころうとも、この男の手からどんな不可思議な現象が巻き起ころうとも、もう驚かないとひそかに決めていた矢先だった。
だが目の前で起こった仮面ライダーの復活は、その決意の範疇を軽く超えるものだった。
言葉を喪ったソウゴに背を向けたまま、門矢士は、仮面ライダーディケイドは取り戻した自身のスーツ。その掌を裏返したり表返したりして、感触を確かめているようだった。
どういうこと、と視線を投げ続けて問うソウゴに、ようやくディケイドは答えた。
「スウォルツが消えたことによって、どうやら一時的にだが俺の力が戻ったようだ」
ちらりと緑の目でソウゴを見返し、いわくありげに「
まるで飾らず、常と変わらない彼の所作を、アナザーライダーは隙と捉えたようだった。だが士は突き出されたパンチをなんなく掌だけでいなすと、後ろ蹴りで吹き飛ばす。反撃の爪撃を、彼は腰のライドブッカーを引き抜いて押しとどめる。
「スウォルツが……!?」
「そのまま消えてくれた方が世界のためだが、状況はそこまで逼迫しているということだ」
みずからの力を奪った相手の消滅を淡々と告げながら、戦闘それ自体も片手間に、かつ器用にこなしていく。
アナザーエグゼイドにそれを余裕と感じたり屈辱を覚えたりする感情があるだどうかは分からない。だが、大きく唸った彼の全身から、泥状のものがあふれ出た。それはやがてオレンジ頭の奇怪な生物となり、思い思いに手にした雑多な武器を、ディケイドへと向けた。
ソウゴもまた、士を援護すべくウォッチを両手につかんだ。
自身のウォッチと、ピンクのウォッチ。それでドライバーを挟み込むようにしてセットする。
「この世界は、相反する要素を抱えて混乱している。いわば……バグを起こしていると言っていい」
ディケイドもそう言って、一枚のカードを腰から抜き取った。
目の前にいるアナザーライダーの元となったライダーのイラストは、ただでさえ異質なコミックチックな目が、ぼんやりと浮かび上がってなおさら独特の眼力となっていた。
「変身!」
〈カメンライダー、ジオウ! アーマータイム! レベルアーップ! エグゼイド!〉
〈KAMEN RIDE EX-AID! マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクションX!〉
ジオウは目前に現れポーズをとったアーマーを、走りながら纏う。
ディケイドは現れたゲームウインドウが迫りくるのを受け入れ、
ドクターライダー、エグゼイドの力を借りていながら、姿をかえたふたりの姿は大きく違っている。
とりわけ異なっているのは、手にした武器だ。
ジオウの両手がハンマーと一体化しているのに対し、ディケイドは自身のライドブッカーはそのままに、ただベルトを除く姿だけがエグゼイドと瓜二つに変貌していた。
それをどこから継承してきたのか。自分の知るエグゼイドの住む世界を巡ってきたのだろうか。
尋ねたところでこのひねくれ者は答えないはずだ。
正体も思惑も分からないライダーで、相手もこちらに合わせる気は毛頭なさそうではあったが、いざ戦闘に入ると不思議と呼吸が合う。
ウォズのように暗黙のうちに互いの思惑を読むのとも、ゲイツのように示し合わさずとも呼吸が合うのとも違う。
ただ、それぞれが好き放題に動けば、その先に相手がいる。共闘こそ少ないものの、ディケイドとはそういう間柄だった。
そして今はソウゴが雑魚を、士がアナザーエグゼイドを受け持つ形となった。
両腕の鈍器で力任せに怪人たちをなぎ倒していくジオウエグゼイドアーマーに対し、ディケイドたちは思い思いに立方体のブロックを虚空に展開し、それを足場に渡り合うという奇妙な『空中戦』を繰り広げていた。
彼曰く、取り戻した力は半分だけだという。
だがそのハンデをものともしない鮮やかな斬撃が、宙に閃く。
一振、一斬、一閃。
本来のエグゼイドがどういうファイトスタイルなのか。過去で、現代で二度程度しかその姿を見ていないソウゴには知るべくもない。
だが、能力や特異性はともかく単純なスペックを十全に使いこなすディケイドの剣技は、間断なくその偽者を斬り立てていく。
捨て鉢気味の特攻をライドブッカーの刀身で流し、翻った切っ先はその胴を捉えた。
いくつかのブロックと橋を支える鉄骨に激突しながら、アナザーエグゼイドは地表に落下した。
「これでゲームオーバーだ」
それを追う形で地に舞い立った世界の破壊者は、無慈悲に宣告する。
剣の峰を撫でつける。かと思いきや思い切り投げつけた。投擲された剣は起き上がりざまアナザーエグゼイドに弾かれた。
空けた手に、ライダークレストが黄金に煌くカードを握りしめる。開けたベルトに押し込むと、デフォルトされたエグゼイドの顔がファインダーの前に浮かび上がった。
〈FINAL ATTACK RIDE EーEーEーEX-AID!〉
サイケデリックな閃光が、その右脚部を覆い包む。
それに合わせた訳ではないが、ジオウもまた自身の『時計』のツマミを押して回す。
〈フィニッシュタイム! エグゼイド! クリティカル! タイムブレーク!〉
前のめりに飛び上がったディケイドのキックが、アナザーエグゼイドの胸のパネルを穿ち抜く。
膝を軸に地面を滑るディケイドの背後で、まともにそのエネルギーを受けた怪人は、爆発四散した。
そしてジオウの文字列が、残敵を十把一絡げに拘束する。拳を突き出すようにしてその軌道上を滑空するエグゼイドアーマーは、世界を蝕む毒素を一気に掃討し尽くしたのだった。
ソウゴは呼吸を整え身を起こした。
だが振り返った先には、段幕を下ろしたかのようなグレーのオーロラがかかり、その奥に、通常フォームに戻ったディケイドが身を埋めようとしている最中だった。
「ちょっと!?」
たとえ世界の破壊者、正体不明の読めないライダーであったとしても、ウォズさえも自分の下を離れた今となっては心強い味方ではある。
「俺には先に行くところがある。そっちはお前がなんとかしろ」
引き留めようとしたソウゴに、相変わらずのマイペースな調子で答える。
「そっちってどっちさ?」
抗議めいた口調で当然の問いかけをする。
「……お前はもう知ってるはずだろ」
ディケイドは幕の奥底で緑の眼差しを光らせながら、嗤うように言った。
「この世界がどこから歪んだのか。そして……この世界において、何が『異物』なのかを。それを辿れ。下準備はしてやった」
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(4)
自身の内側から湧き上がる衝動めいたものに突き動かされるようにして、ソウゴがたどり着いたのは、ある立体駐車場の屋上だった。
先の冬頃に謎の爆発および周辺道路の破壊が行われたというその場所は、通路はともかく現場それ自体はまだ封鎖されていた。
ソウゴは逸る心を抑えて、その禁を破ったのだった。
といっても、その場所に来ていたのはなにも彼だけではなかった。
誰かが、頻繁に通っている形跡があった。
無人のものさびしい光景に、白々とかすむ空の下に、一束の献花が供えられていた。
きっといつでも、何日も、何度も何百回も、そうやって。
あの時の雪のような、真っ白花を贈っていたのだろう。
まるで許しを乞うような、あるいは巡礼のような心境で、重い足取りで。
傷ついた身体と、決して癒えない心を引きずるようにしながら。
そのことを、その彼の姿を想像するだけで、胸が締め付けられるようだった。
「――やっぱり、
それでも、一つの残酷な答えに、ソウゴはたどり着いた。
足音がして、ソウゴは振り返った。
誰何の声をあげるまでもなく、息を弾ませてやってきた青年は、
「ソウゴ!」
と親しげに彼の名を呼ぶ。
彼は、来海ライセは、階下より姿を見せた。
「良かった、無事だったか……」
と自分のことのように喜びながら駆け寄ってくる。
「けどどこ行ってたんだよ? 心配してたんだぞ!」
「ごめん……でもどうやってここまで来たの?」
「なんか船乗りというかカメラ持った男にここに行けば会えるって聞いて」
なるほど、と内心で返す。
門矢士の言っていた『下準備』とはこういうことだったのかと。
「お前に言われた場所に行ったけど来ないし、なんか変な奴には門前払い食らうしっ」
彼も彼で相当な苦労をしたようだと、必死の形相と身振り手振りから察せられる。そして何よりこの世界のことを考えれば、彼と自分の行き違いの理由も見えてくる気がした。
「うん、俺もさ……話しておかなきゃいけないことができたんだ」
ライセを宥めるような目と口調で、ソウゴは言った。
だが、相対した青年の顔つきは、ますます険しいものとなった。
「ソウゴ後ろっ!」
示されるまでもなく、ソウゴは頭を伏せた。
頭上を、光の弾丸が通り過ぎる。段階を置かず襲った蹴りをかわし、地面を前転する。
ライセに助け起こされたソウゴの目が剥いた。口が軽く開き、喉が枯れる。その先に、一体のアナザーライダーが降り立っていた。
アナザーライダーは、多少悪意めいて虚飾されていたとしても、その多くは原型の特徴を持っている。そしてオリジナルの個体名と年代を、どこか体の部位に持っている。
だが、これは。
こればかりは。
たとえ覚悟はしていたとしても、見たくはなかった。
赤くくすんだ胴回りに、兵士の身に付けるようなベストを胸にかけ、どこか荒廃した
閉じることなく口から曝された歯から、低い呻き声が漏れる。肉感的に張り付く血色の皮膚が、半透明の金マスクの中にビッタリと強淫に押し付けられている。
レンズの割れたベルトはとうに時間を示し、追いかけることを止めていた。
剥かれた白目の片隅にある小さな文字列は、ふつうなら見逃せるはずだった。
それでもソウゴの視線は、意識は、それを捉えてしまった。
「
その名を、震えた声で呟く。
「またアナザーライダーか……! いくぞソウゴ! ……ソウゴ?」
頭が痛む。心臓が痛む。
耐えがたい苦痛によってソウゴはその場に蹲った。
ゲイツが歴史から消え、その代替物としてアナザー化した存在がねじ込まれた。
その衝撃が己の心身を蝕んでいるのか、と思った。
だが、違う。
手にノイズが奔る。砂嵐が混じる。泡沫が指先を覆っていく。
何処かへと引きずり込まれる底知れない感覚が、全身を包む。
(俺も……無事じゃいられないってことか!)
一瞬で消滅しないところを見ると、耐性があることは確かだが完全な抗体というわけでもなかったようだ。その由来不明の体質を過信していた、おのれを呪う。
「おい、どうしたソウゴ!」
ライセが助け起こそうとすると、ますます痛みはひどくなる。まるで自分に起ころうとしていることを、細胞の全てが無理やりに抗って引き留めているような、そんな感覚。
いっそ抵抗をやめてしまえば楽になれるのではないか……そんなことさえ、一瞬思ってしまう。
(いや、そうもいかない)
立ち上がらなければ。進み続けなければ。目を開け続けなければ。声をあげなければ。
現におろおろと惑うライセの隙を、アナザーゲイツが突かんとしていて……そのことを、伝え、なければ……
轟音と共に、ソウゴらと敵の間に巨影が割り込んできたのは、まさにその瞬間だった。
その二足歩行の巨大ロボットを、ソウゴは知っていた。知ってはいるものの、その形状は彼の知るそれ……タイムマジーンとは、多少精巧さにおいて劣る。
派手さとは無縁の、黒く質感が剥き出しのボディに、せめてもの洒落っけで両肩に赤と青、相互非対称のペイントが施されているだけだった。
その
そして拳を振り上げ、それへ向けて叩きつけた。
アナザーゲイツは後ずさった。それが敵対行動と捉えられる前に、そのタイムマジーンは二度、三度とぎこちないがパワフルな挙動で拳を振り回し、地面を穿ちながら敵を隅へと追いやっていく。
そして伸びた腕が、逃げ場をなくしたアナザーライダーを掴み上げた。腰を捻り、最大限に遠心力を活かした全力のスイング。それはソウゴ達の敵を、屋外の彼方へと飛ばしていった。
「乗れ!!」
タイムマジーンのハッチが開き、男が身を乗り出した。鋭く声をあげた。
その顔の輪郭が、逆光の中で動く。声音と合わさって、ソウゴの知る『彼』の面影と結びついた。
どのみち選択肢はない。アナザーライダーの常人離れした脚力は、せっかく稼いだ時と距離とをすぐに無いものとしてしまうだろう。
まごつくライセを促して、ソウゴは男の勧めに従い、その機内へと我が身を投げ入れた。
招き入れられたコクピット内部も、自分の愛機と比較してやや見劣りする構造となっていた。コンソールパネルは煩雑で配線類が整理し切れておらず、モニターの画質も粗く不鮮明だ。
ソウゴのものでさえ、ふたり入るのがやっとなのだ。
そこにスタイルの良い男が三人ともなれば、だいぶ窮屈だった。
だが、決して老朽化が原因なわけではない。使われている機材はすべて、新品同然のものだと状態を見れば瞭然だった。
おそらくはこれこそが、
ビークルモードに変形したマシンは浮上し、上空に開けた次元トンネルを通過した。
大いに揺れる機内ではあったが、目を白黒させるライセと違い、勝手の知れたソウゴは平静さを取り戻していた。
時間移動の恩恵でもあるのか。痛みもノイズも、嘘のように消えていた。
その上であらためて、ソウゴは前で操縦桿を握る男の背を見た。
「ありがと、お陰で助かった」
親しみを込めて、礼を言う。
「礼を言われるまでもない。俺もただの使いっ走りだ」
どこか不遜さを感じさせる、切って捨てるような物言いに、ソウゴは懐かしさとともに苦笑をこぼす。
門矢士ほどでないにせよ、自分の実力と知性に絶対の自信を持つ彼に、あらためてソウゴはあらためて問うた。
「久しぶり、でいいんだよね……
自分がいくつも夢現の中で関わりを持った未来のライダー。
その中で明確に面識があったのは確かだったが、力を奪われた彼の中で、記憶や時間がどうなっているのか。果たして彼は自分たちと一時共闘した青年のままなのか。そこが不安ではあった。
「あぁ……ただし、お前が思っているよりも、ずっとな」
時間の奔流の中で操縦が安定した後、そう答えて男はソウゴたちへ振り返った。
その顔は、ソウゴの知る仮面ライダークイズ、
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(5)
時間と距離の感覚さえ曖昧になりそうな、その異質な回廊。
それはライセは妙な安心感を与えていた。郷愁めいたものさえ感じさせる。
その中で、あらためてソウゴは、かいつまんでではあるものの自身の境遇を説明してくれた。
仮面ライダージオウ。タイムジャッカー。時を巡る戦いに、オーマジオウという回避しなければならない最低最悪の未来。
今の今まで平和のためと謳いつつ街中を駆けまわるのがせいぜいであったライセからしてみれば、途方もない話ではあった。だが、自分の想像のスケールを遥かに超える乗り物と周囲を取り巻く空間を見れば、否定などできようはずもなかった。
「けど、主水はどうして記憶を失ってないの?」
「……」
「あ、待った! …………そうか! 主水は自分の時代で力を奪われたわけじゃない! だからライダーじゃなくなっても記憶が維持出来てるんだ!」
「正解! ノーヒントでクリアするとは、お前もちょっとは考えられるようになったか」
そして未来人相手に和やかに歓談するソウゴを見れば、なおのこと。
仮面ライダークイズ、堂安主水。
彼は本来なら2040年の仮面ライダーだという。いや、だったという。
その力はある男に奪われ、今はただのクイズ名人でしかない。そう彼はソウゴに語った。
自分も未来のライダーの力を頼りとしている。そこ胸中に、彼の人格をも内包している。だが生身の未来のライダーと出会ったのは、これが初めてだった。
その主水と、蚊帳の外にいるライセとの目が合った。
一瞬彼の目つきは、鋭いものへと変化した。
「そうか、お前が……」
そして妙に感じ入ったように呟くと、再び操縦へと集中し始めた。
「俺のことを知ってるのか?」
その背に問う。
彼は黙したまま、操縦桿を握っていた。それをライセは、肯定と取った。
「ソウゴのことはまだ分かる。その歴史をめぐる戦いとかで出会う機会があったんだろ? けど、どうして未来のライダーが俺を知ってるんだ?」
蓮太郎やレントのように。そう言いかけて、ライセは喉の奥に押し込んだ。そもそも自分の状況をどうやって説明しろというのだ。下手な時間移動よりもよっぽど厄介だ。そもそもみずからの内で起こっている現象がなんなのか、彼自身にさえ分からないことなのだから。
(今まで深く考えたことはなかったけど……そもそも)
いったい、あれは、なんなのだ?
いったい、いつから、自分は……
「その問題は」
主水の声が、どこか遠い。
「俺やお前が出すべきものじゃない。ある男が向けたものだ」
「じゃあ、誰が? というかそもそも、これはどこに向かってるの?」
かすかな頭痛に苦しむライセに代わって、ソウゴが尋ねる。
「……聞くまでもなく、もうすぐ着くさ」
主水は直接的に答えることはしなかった。ただ、彼の手元のパネルは、ある年号を座標として示していた。
2068
その四文字の数字の並びを見た瞬間、ソウゴの顔色が変わった。
『2068年』。
ソウゴにとって因縁の深い時代。
そこへと降り立った瞬間、硬く大理石の感触が足裏に跳ね返ってきた。
現代の設計思想ではとうてい理解のできないような、ドーム状の建造物が立ち並び、通路は広く長く舗装されている。ライセはその光景を見てまた絶句していた。
「すごい……ここが50年後の世界なのか?」
「いや、違う」
「え?」
ソウゴは即座に否定した。
すでに何度となく、その年を見せつけられてきた。その彼にとっても、目の前に広がる光景は未知の領域でしかなかった。
ソウゴの知る50年後。
最低最悪の未来。
その世界では人口の半分が消滅し、生き残った人々は、自分たちをその窮状に追いやった張本人をその影におびえて暮らし、また別の一派は彼を憎み、反抗し続けてきた。
そんな緑や救いなど一切ない、荒涼とした大地。
砂嵐が太陽の輝きを遮り、暗く冷たい世界。
それを統べる魔王オーマジオウの玉座でさえも、みずからを祀る像以外何も持たない、不毛なもののはずだった。
だからこんな建造物は、道は、白々とした太陽は、ありえないのだ。
自分たちの奮闘によって未来が変わった? いや、それもきっと違う。
ソウゴはあらためて、最後に降り立った主水を顧みた。
「――そうだ」
正答を得たであろうソウゴの眼差しに対し、クイズチャンプは軽くうなずいてみせた。
その主水の視線が前へ向けて切られた。視線の先には、通路の奥の広場には、一体の像が建てられていた。自分のよく知る友の、精悍な表情。変身のポーズ。礎に嵌め込まれたプレートには、
『明光院ゲイツ 初変身の像』
と刻まれていた。
――『気がする』では片づけられない、明確な答えがその像にはあった。
自分の中ではとうに覚悟していた事実が、あらためて友人を介して突きつけられた。
「ここはお前の知る2068年じゃない。ソウゴ、お前がオーマの日に殺されたことによって分岐した時間軸だ」
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(6)
「別の2068年って」
ライセは冗談だと笑い飛ばそうとしたようだった。だが、彼の許容量をはるかに超える事態は、表向きに一笑することさえ許してはくれなかったらしい。ライセは咳払いのあと、すぐに表情と語調を改めた。
「パラレルワールド……ってことか? つまりは、このソウゴは俺と知ってるソウゴじゃないってこと?」
短い時間、得られた情報はこの場にいる誰よりも圧倒的に少ないはずなのに、ライセの憶測は的を射ていた。
「どうかな」
ソウゴは苦笑を返した。
「こっちの俺も、この俺も、あんまり大差ないと思う」
――そう、分岐点は、きっとちょっとしたものだった。
あの時、あの雪の日。
ツクヨミが真実を伝えることに遅れていたら、一触即発の雰囲気に水を差してくれなかったら……?
こうなっていたかもしれない。その可能性は何度も悪夢のように頭の中をめぐった。
問題は、そこではない。
ソウゴのことでもない。
「俺の知ってるライセと、今の君はだいぶ状況が違ってるけど」
常につきまとっていた違和感。自分の知識とは違う現実。
ソウゴは、そこにこそ……眼前の来海ライセにこそ、注目した。
「君と会う前、つい最近まで飛流と敵だったんだ。でも会うまで、事故のことはずっと記憶の中に閉じ込めてた。だからなんで恨まれてるのか、分かってなかった。だから事故のことをちゃんと見直そうと思って、色々調べてたんだ」
主に、他の被害者のこと。生存した子どもたちのこと。
王に選定されなかった2000年生まれの彼らが、その後どうなったのか。
帰ってきた者もいる。だが、そうでなかった者もいた。
「ライセ……君は、あの事故の後に帰って来なかったんだ」
この世界は、風さえも吹かない。
気候、交通、ライフライン。それらが徹底的に管理されている様子で、人通りはまったくない。オーマジオウの世界とはまた違った意味で、物寂しい空間だった。
だからこそ、その静謐な世界でライセの息遣いはよく聞こえた。
「そう、なのか……」
彼は少なからず衝撃を受けたようだったが、取り乱すことはしなかった。
ソウゴだってこの時間軸ではすでに死んだ身だ。それに現に自分はこうして生きている。それでいいじゃないか。
そう自身に言い聞かせているのかもしれない。
その時、今まで黙っていた主水が、横合いから口を挟んだ。
「……ソウゴお前、それを本気で言ってるのか?」
咎めるような口調とともに、主水が青年たちを交互に睨む。
元々人付き合いは得意なようには見えない。母親のため、世界のため、難問に孤独に戦ってきたであろう男だ。
だがこの場所、愛想がないというよりかは……敵意に近いものを、彼からは感じた。
「少し推理すればおかしいってわかることだろ。そいつが死んだかどうかっていう話は、
「それでも」
ソウゴは彼の言葉を遮って言った。少年じみたはにかみとともに、ライセの背を叩く。
「彼は俺の友だちだ。たとえどんな世界だろうと、どんな風に生きていたとしても。今の俺に分かるのはそれだけだよ、主水。これは俺たちが答えられることじゃない……でしょ?」
ソウゴ。感極まったように、ライセが呼ぶ。
対する主水は、下手をすれば親子ほどに歳の離れてしまった相手に、露骨にため息を向けた。
「人が好いのも相変わらずか」
そうぼやきながらも、ライセの前に立ち、そして少しだけ目元の険を解いた。緊張した面持ちで見返すライセをしばらく無言で見下ろした後、みずからの首に指をかける。
そして自身のペンダントをそこから取り外し、ライセの鼻先に突きつけた。
「やるよ、俺にはもう必要のないものだしな」
ライセは知るべくもないが、クエスチョンマークをあしらったそれがただのアクセサリーではないことを、ソウゴは知っていた。
仮面ライダークイズのドライバーを展開するのに必要な、コマンドキー。
たしかに彼の言葉のとおり、力を喪った今、それはもはや無用の物には違いない。それでも、彼がライダーであったことを証明する大切なものであったはずだ。
それを、彼が今知り合ったばかりの青年に託すという。
驚くソウゴ、漫然とそれを受け取るライセ。そして手渡した次の瞬間、主水と、彼の周囲の空間に歪みが生じた。
泡沫とともに指先や足先が溶けていく。清められた空気と同化し、無へと還っていく。
「主水!?」
ソウゴは思わず声を張る。主水は諦観と苦笑がない混ぜになったような面持ちで、みずからに起こった異常を受け入れているようだった。
「俺がここまで無事でいられたのは、そいつに最後のクイズの力を渡すことが『確定事項』だったからだ。そのタスクが終われば、当然
「俺に……って、どういうことだよ!? なんなんだよっ、俺の身に起こってることはっ! クイズの力……? どうして俺にそんな大事なものを譲る!?」
事態がまるで飲み込めないでいるライセに、主水うなずいた。
「過去にこだわる気はないが、借りがあってな。この先で待ってる奴と、そのソウゴに。……そのソウゴが信じてるんだ。だったら俺も、お前に賭けることにするさ」
胴回りまで消滅しているにも関わらず、主水は取り乱すことなく言ってのける。
「そう言えば、ずっと言い損ねていた」
そしてあらためて、前時代の戦友へとあらためて目を向けた。
父親のことに囚われて余裕がなかった頃と比べれば、はるかに優しい眼差しで、彼は笑った。
「ありがとう、お前たちのおかげで、俺は家族に向き合えた。――俺たちの未来を、頼む」
それが、叡智でもって世界を救ってきた英雄の、最後の言葉となった。
堂安主水は消えた。跡形も残さず消えた。
残され、そして遺されたライセは、ソウゴを顧みた。まるで身に余る宝物を押し付けられた子供のような、得る喜び持て余す困惑が勝ったような気弱さを、双眸にたたえて。
そんな彼を見て、かえってソウゴはこの状況が切羽詰まったものだと痛感した。長く悲しみに沈む余地などないことをあらためて知り、静かに気を奮い立たせた。
「行こう」
ソウゴは新たな友の肩をそっと押し、共に進むように促した。
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(7)
どこへ行けば『彼』と逢えるのかは、一目して瞭然だった。
像の向こう側。その道の先に、一際大きいドームが見えた。
真っ白な丸みを帯びたそれは、スポーツや集会場というよりかは巨大な鳥の卵殻を想起させる。
遠目から見ても徹底的に清められ、そこに住う者……というよりもそれを設計した人間の、潔癖さと自己顕示欲のようなものが感じられた。
地平線にあったかのように見えたそこへとたどり着くのに、足を動かし続けていればさほど時間はかからなかった。
あるいは未来的な技術で物理的な距離というものはもはや意味がないのかもしれない。そんなことをチラリとソウゴは思ったが、妄想だけにとどめた。足を止めた。
その建造物の、否『宮殿』の階段。それを登り切った先にあった玄関口に、白い男が立っていた。
「やぁやぁ、これは珍しい客もあったものだ」
自身の従者と非常に似ている、顔、背格好、声、言葉遣い。
だがそれを見たソウゴの表情は、暗かった。
「まさかの過去の遺物、敗北者の魔王様のお出ましだ」
自分の知る青年であれば決して向けない、酷薄な嘲笑。
紳士然とはしているが、彼と決定的に違うのは、自分こそが歴史の創造者であという自負に満ちているのと、それに伴った他者への蔑みが滲み出ている。
「白ウォズ……」
消滅したはずの、別の世界のウォズがそこには立っていた。
未来の可能性を賭けて争った敵同士だった。
だがそれでも最後には分かり合えた。アナザーブレイドを撃破するため、力を貸してくれた。
だがそれは、ソウゴの時間軸の話だ。
この世界がそれ以前、ゲイツがあの戦いで勝ちを収め、白ウォズの念願が叶った日であるのなら、最後まで自分と彼とは仇敵同士のはずだった。
それを知るからこそ、ソウゴは名を呼んだきり押し黙り、相手の反応を待った。
「自分の敗北の歴史を知り、塗り替えにでも来たのかい? だが招かれざる客は……ここで退場してもらおう」
そう言って白ウォズは、小脇に挟んでいたノートパッドを開いて操作した。
モニターから飛び出て物質化したのは、もうひとりの自分に奪われたビヨンドライバー。
それを掲げ持ち、ソウゴを睨む。ソウゴもまた、再戦を覚悟してドライバーを構えて対峙する。彼の敵対の意思を見て、ライセもジクウドライバーによく似たバックル掴み取った。
一触即発。どちらかが変身すれば相手も応じ、激闘が始まる。
「なんてね」
……かに思えたが、意外にも白ウォズは軽く笑いながら敵意の矛を収めた。
拍子抜けしたソウゴに、彼は言った。
「時間軸の変動の影響か。わたしにも覚えのない奇妙な記憶があってね」
「それは?」
「君を認めた記憶」
白ウォズは、はっきりとそう返して複雑そうに目元を歪めた。
「忌々しいが、受け入れざるを得ない。……君の知ってる、いや本当の歴史のわたしは、君にトリニティの力を与えて消滅したというわけだね」
ソウゴが無言でうなずくと、白ウォズは目線を外すようにして身を翻した。
「ともあれ、今は争っている場合じゃない。ついてきたまえ、君をこの時代に招いたのは、我が救世主の思し召しでもある」
ドームの中には、玉座はなかった。王宮もなく、調度品もなく兵士もおらず、警備システムや監視カメラもない。美女や富とも無縁で、権威や権勢を誇示するものはなにもない。
だがその中身を、時から切り離された光景を目の当たりにした瞬間、ソウゴは嗚咽や慟哭にも似た呻き声を漏らした。
そこには、彼もよく知る一軒の店が、一帯の区画が、トリミングされて残されていた。
温かな夕陽に照らし出されるのがよく似合う、こぢんまりとした時計屋。
自分たちの、家。
――『クジゴジ堂』が。
中に足を踏み入れても、違和感というものが何もなかった。
売れ残ったままの壁時計。修理に出されたまま、依頼人が現れず飾られたままになっていた電化製品。昔ふざけてつけた柱の細かな傷。今にも叔父の作るご飯の匂いが漂ってきそうな台所。
だがそこは、時が止まっていた。居なければいない人々の姿が、ないままに。
胸が痛かった。
ソウゴの豊かな感受性は、すぐに思い至ってしまった。
何を想って『彼』がこの場所を残し続けたのか。どんな50年を送ってきたのかが、こちらが辛くなるぐらいに感じ取れた。
『彼』は、王座につかず、かつて借り受けた自分の部屋にかけられた階段に腰を下ろしていた。
めっきり白くなった髪。痩せこけた頬や肩。指先や顎に残ったままの古傷の痕。顔の精悍さはそのままに、ぼんやりとソウゴを見つめ返す眼差しからは、自分の知る覇気や闘志の焔が抜け落ちていた。
不撓不屈の革命の戦士でもない。
大道を成し、平和な世界を築いた王でもない。
孤独な老人の姿が、そこにはあった。
「――ゲイツ」
この世界に来て初めて、ソウゴは彼の名を呼んだ。
「来たか……ジオウ」
枯れ果て、疲れ切った調子の声で、友はソウゴにむけて目を細めた
「何があったの……?」
「それはこの異常事態のことか? それとも年老いた俺のことか?」
自嘲気味に口元を歪めて、ゲイツは問い返した。
ソウゴは答えられなかった。どちらを訊きたかったのか、自分でも判らなかった。
ゲイツはこの時代の人間であるはずだ。役目を終えれば『未来』へと帰り、ひとりの青年として、新たな人生を謳歌していなければならないはずだ。そうでなければあまりに報われない。
これでは、まるで。
「そうだ」
ソウゴの黙考を読み抜き、ゲイツは答えた。
「俺は、あの時代に残った。この家に残った。それがあの時交わした、お前との約束だった。そしてこの場所を守り続けるために、戦い続けた」
言った。たしかに言った。
でもそれは、こんな未来のためではなかった。
残された叔父が悲しみが少しでも癒せるのであれば、仲間を喪ったゲイツの、もうひとつの故郷となるのであれば。そう想って託した願いのはずだった。
彼自身を、ここまで磨耗させる呪いでは、なかった。
「タイムジャッカー、クォー……いや、他にも多くの悪意が、あの時代を狙った。俺はそいつらすべてと戦った。だが平成ライダーたちの歴史は修復されることはなく、その過程で多くを喪い、あるひとつの大きな思い違いを知った」
「思い違い?」
ゲイツは口を閉ざした。言うかどうかの逡巡を見せた。だが首を振って答えた。
「それは、お前自身が見極めるべき真実だ。……お前は生まれながらの王だ。誰が何と言おうともな」
奇妙な言い回しとともに再び黙った。
「久闊を叙すのもけっこうだが、そろそろ本題に入って欲しいんだがね」
彼に代わるようにして、白ウォズが間に割り込んできた。
「では、あらためて確認しておくとしよう。我々の、ふたつに分かたれた世界に今、何が起こっているのか」
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(8)
「まずは今起こっている事象について話しておこう」
そう言った白ウォズは、みずからの本を開いた。
何も描かれていないページからレーザーのようなものが照射され、それが虚空に二つの球体を形作った。
やがてその二つは互いの間隔を詰めながら接近していき、やがて一点が密着し、そして重複した。
その図は受験勉強の時に頭を痛ませた、数学の図形問題によく出てきた姿だった。「この重なった部分の体積を求めなさい」とか、そういう類の。
「我々の世界の関係というのはただの並行世界ではない。本来であればどちらかの世界が確定した場合、もう一方は存在できなくなるものだ。すでにその選定が終わったはずなのに、並立し、一部を共有してしまっている」
「えっとつまり? 消えたはずのゲイツたちの世界と、俺たちの世界が、衝突しちゃってるってこと?」
「俺たちに言わせれば、お前たちの世界の方が消えたはずの可能性なんだがな」
咎めるようにゲイツが返した。
委縮しながら、ソウゴは「ごめん」と頭を下げた。
不用意な発言だったと自分でも思った。
ゲイツたちの側からしてみれば、とうに切り捨てたはずの過去が降って涌いてきたわけだから、その困惑はそれほどか、想像するに余りある。
若い頃であればそれで許さずひと悶着を起こしただろうが、彼はただその後は、大儀そうに息をひとつこぼしただけだった。
「魔王、君がそれ以外につかんでいることは?」
白ウォズが尋ねた。
「各地に倒したはずのアナザーライダーが現れた。ウォズは……黒ウォズはそのアナザーライダーが接触した人間は消えていくって」
「なるほど? まぁこちらの世界を認識していなければ、その程度の解釈で止まるのも無理はないか」
白ウォズの吊り上がった口端には、もうひとりの自身への嘲笑と優越感が滲み出ていた。
「違うの?」
「あのアナザーライダーは互いの世界が干渉し合った結果生じたアレルギー反応のようなものだ。まぁ歪みの顕れではあるから接すれば当然周囲の時空は不安定になるが……本質はそこにはないよ」
「つまり、干渉ってほう?」
白ウォズはうなずき、揶揄の類は捨てて進行役に徹した。
「言わば反作用さ。どちらか世界で力を行使すれば、もう一方の世界で対応する存在が不安定になる。たとえば、その『来海ライセ』がシノビの力を使えば、そのアナザーライダーが君の世界に現れ、歪な形でそれを再現しようとする。逆に君がライドウォッチを使えば、それに対応するアナザーライダーがこちらの世界で出現する。わたしの記憶の混濁も、おそらくは君のウォズに異変が生じた結果だろう。そして魔王、君はこの時間軸においてすでに死んでいる。そしてそれこそが我々の世界を隔てる絶対的な分岐点だ。だから変動が少なく、影響を受けにくい」
「……なんか、分かったような……気がする?」
「本当か?」
ゲイツが疑わしげな目をソウゴへ向けた。
実際その全てを理解できた自信はない。それでも、良いものも悪いものも、色々と腑に落ちた心地ではあった。
「ということは、俺にも影響が出ないのも同じ理由か。俺がソウゴの時間では死んでるから」
ライセが尋ねると、露骨に白ウォズは嗤った。
だがそれは彼の無知や誤りを小馬鹿にしたものというようには見えなかった。より根本的な点……彼がそう発言したこと自体を、何かの冗談と捉えているかのような。
だがそのことを追及する前に、ゲイツが代わりに続けた。
「先ほどもウォズが言ったが、この世界はすでに一部を共有している。だが世界が融合し始めるとそれは一部では済まなくなる」
「互いの席を奪い合って食い合い、それによってまた互いに引っ張り合う。果てに待つのは」
白ウォズが、適当な机に本を下ろし、影絵のように両手を獣に見立てて噛み合わせる。
それを打ち鳴らし、バアンと擬音を声にして大きく腕を広げた。
「対消滅だ。共倒れになって、すべては無に返るだろう」
その言動の軽さとは裏腹に、ぞっとしない結末を彼は語る。
「……いったいどうしてそんなことに」
すでに起こってしまったこととは承知で、ライセはそれでも聞かざるをえなかったようだ。そんな彼に返ってきたのは、冷ややかな失笑だけで、無視して話は続いた。
「実は我々はこうした時間犯罪やアクシデントに対する予防策を用意していてね」
「予防策?」
「当然だろう。我々は歴史を書き換えることによって勝利を得た。ならば不心得な輩なその真似をしないとも限らない」
自身のデバイスを再び操作しながら得意げに言う白ウォズを、ゲイツはことさらに剣呑な目つきで睨んでいた。
「タイムジャッカーのように根本そのものを書き換えられては、他のライダー同様我々の力も盤石ではなくなる。そこで、いくら時間を改竄されようとも我が救世主ゲイツリバイブの力、そしてその源流であるシノビ、クイズ、キカイの歴史だけは確保する。そのためのシステムを作ろうとしていた」
デバイスから放射されたプロジェクタを舞うような手つきで操作する。
そして映し出されたのは、その機構の設計図とも言うべき立体映像だった。
それを見た瞬間、ライセとソウゴの顔色が大きく変わった。あまりに見覚えのある姿に、衝撃を隠しきれずにいた。
「名を、ミライドライバー計画という」
彼らの頭上に現れたのは、ジクウドライバーに似た形状を持つ……否、ライセの持つドライバーそのものだった。
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(9)
「ミライ……ドライバー?」
ライセは自身の用いているベルトの名称を初めて知ったようだった。
問題はなぜここでそれが出てくるのか。そもそもどこに由来する装置であるのか、そして今の状況とどうかかわりを持っているか、ということだ。
「ドライバーといっても、これは本来誰かを変身させるためのものじゃない。強いて言うのであれば、観測装置であり、情報端末であり……固定器具でもある」
白ウォズはどこか誇らしげに言い、その後をゲイツが継いだ。
「この形状、そして色。お前は何度となく見たはずだろう」
映し出されたホログラムは半透明ではあるものの、ジクウドライバーよりも暗い色のメタリックな質感であることぐらいは分かる。
そしてソウゴはライセの持ち物以外にその形状のドライバーを三度、いや四度見たことがあった。
シノビ、クイズ、キカイ、ギンガ……
そのいずれもが、時代も隔て技術体系もバラバラであるにも関わらず、すべてのベルトの基本の素体が同じ形状をしていた。
「でもそれって」
「――そう、元々は彼らの未来を生み出したのが他ならない君だからだ。君自身の体験をもとに未来に形作られたライダーだからこそ、ジクウドライバーがベースとなっている。だがあくまでそれは起点に過ぎない。そこから各ライダーに至る現実的な
「どういうこと?」
「わたしが、このベルトを製造した。ある組織とともにね」
「組織?」
「財団Xという」
決して老いのためとは言い切れない、苦み走った表情でゲイツが答えた。
なお眼光の鋭さは保ちつつ、自身の従者を睨む。
「あの時代のあらゆるオーバーテクノロジーを取り入れんとしていた、死の商人だ。ダブルやオーズと敵対していた組織でもある。この男は俺に無断でその組織と接触していて、そしてこちらのお前から回収したドライバーを資料として開発に取り掛かっていた」
曲がりなりにもライダーの力を使って戦っていた者が、その敵だった悪の組織と手を組む。
あらゆる理由があろうともとうてい許される行為ではないが、ここは過ぎた話として飲むよりほかなかった。
さほど悪びれた様子もなく、白ウォズは語を継いだ。
「そして出来上がったこのドライバーは極めて汎用性の高いOSを持っている。それこそ、百年先の未来でさえ通用するほどにね。そしてその書き込み不可能な
「プログラム?」
薄気味悪そうな様子で、ライセは反芻した。
「なに、簡単で無害なものだよ。いわばタイムマシンさ。ただし、データ専用のね」
ますます得意げな様子を強めて、白ウォズは言う。
「各未来で収得されたデータは、過去をさかのぼってこのミライドライバーへと転送される」
「じゃあ、俺がシノビやキカイになれたのは、そのためか」
「財団の連中にはそう吹き込んでやった。『このベルトは未来の技術を先んじて収斂させられる』とね。だが、わたしの最終的な目的は別にあった」
「目的?」
白ウォズは唇を歪めたまま映像を落とした。
代わりに現れたのは、線で結ばれたいくつものポイント。その節々には年号と思われる四桁の数字がそれぞれ割り振られていた。
「事象の『確定』だ」
確定。たしか主水も消える間際に同じワードを口にしていた。
自分の力をライセに渡すことが、確定事項であったと。だからこそ、自分はここまで無事だったのだと。
「このミライドライバーに各未来のライダーが収得されるということはだ。つまりこれから先、そのライダーが我々の時間軸に誕生することが約束されるということだ。たとえば、明光院ゲイツという青年はオーマジオウによって支配された2068年から2018年へと行き、若き魔王の命を狙った。だが彼がそうして時を遡ったという事実こそが――あぁなんということか。皮肉にもオーマジオウが誕生する未来をある程度確定させる、過去と未来をつなぐ『線』となっているんだよ」
過剰なフリと抑揚をつけ、解説する白ウォズに、ソウゴとライセは絶句した。衝撃の度合いで言えば、ソウゴの方が強かったに違いない。
「おや? ひょっとしてそこまではまだ知らなかったのかい? そうさ、君が最高最善たろうと努力しようとも、我が救世主が君の時間軸にもいる限り、結局先に待つゴールは」
「やめろ、ウォズ」
嗜虐的にソウゴのうつむく顔をのぞき込む白ウォズを、ゲイツが止めた。
声には、旧友を嘲られたことへの怒りが隠しきれないでいた。
「――失敬。たしかに話が脱線していた。つまりはそれと同じさ」
白ウォズの頭上で、星がまたたくように光のラインが消える。かと思えばふたたび蛇行し、直線になったり曲線になったり、枝分かれしたり一つにふたたたびまとまったり。
ありとあらゆるパターンで動いて見せる。だが最後は、2022から始まる
「ミライドライバーにシノビたちの力が集約されている以上、どれだけそこに至る経緯を操作されようとも彼らの力は、ゲイツリバイブは、かの救世主が常盤ソウゴを討ち果たしたという事実は決して揺らぐことはない! まさに盤石の……と思っていたのだけれどもね」
まとめに入りかけて、急に彼の語気が弱まった。露骨に落胆の様子を見せ、そして少し恨めし気な眼差しは自身の主に対して投げかけられた。
「俺が止めた」
ゲイツが硬質な声で、その視線の理由を答弁した。そして自身もライセを冷たく見定めた。
「そいつが妙なベルトを持って現れた時、こいつの暗躍を察した。だから先んじて動いて、計画を潰し、その馬鹿をこの時代まで追い返した」
「おぉ、さっすがゲイツ」
ソウゴはいくらか暗澹たる気分を改めた。
いくら世界が違おうとも、時間が経とうとも、意固地なまでな正義感は変わらなかった。そのことを知って、安堵した。
「茶化すな」
とゲイツは言ったが、心なしかその声音は明るかった。
「……それよりも、今の話でおかしいとは思わなかったのか?」
真剣味を帯びた問い方に、青年たちは顔を見合わせた。
あまりに雑多な情報の数々に呑まれるかたちとなった彼らは、そこにまで思考が及んでいなかった。
だが指摘されてみると、たしかに不自然だとは思った。この時代にたどり着くまでに抱いていた感触に近い。根本的な見誤り、すれ違い。矛盾が大きすぎるがための、見落とし。
だがそれが何かはすぐには答えられなかったソウゴたちに、ゲイツは痺れを切らして明示した。
「良いか? ミライドライバー計画は結局失敗したんだ。再開発もしなかった。……にも関わらず、今も、俺が計画を潰す
まっすぐに、ひとりの青年を凝視しながら。
意図が分からず立ち尽くす彼に、見つめ返されながら、老人は当然であったはずのその疑問をあらためて問いかけた。
「――なぜそいつは、
人工的に演出された斜陽が、ソウゴの、ゲイツの、そして白ウォズの足下に黒く影を伸ばしていく。
そのうちのひとつ、白ウォズの影が、大きく前へと進み出た。
「存在しないはずの世界、存在しないはずのライダー、存在しないはずのドライバー、そして、存在しないはずの……」
ゲイツとソウゴの前を横切ってもうひとりの青年の背後に回り込んで、立つ。肩をつかむ。ただでさえ長身なウォズに、唐突に背後から絡まれたのだ。その衝撃やどれほどか。上半身をすくませる彼の顔の横で、白ウォズは語る。
「その原因たる存在に、いや現象に一つ、心当たりがある」
彼らの頭上で線が消える。点も消える。そして時間が消え、虚空と静寂が訪れた。
「それは、
真実を知る話し合いは、最終段階へとその足を踏み入れようとしていた。
……今まで意図的なものも含めて無視されてきた、来海ライセを視界の中心に置いて。
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(10)
「『無』って……虚無とかの、あの無?」
「そうだ。その『無』だ」
その会話は自分のそば近くで交わされているはずなのに、どこか遠く上滑りしていく。
「魔王、君の世界で最近何かしらの時間改変がされなかったかい?」
「……あった。アナザージオウⅡの能力で」
「おそらくはそれが大元となったのだろう。あれは、時間改変によって生じた波。その隙間を埋めるために生じる
白ウォズという男はペンタブでもってパッドに何かしらを書き込み、そしてその帖を音を立てて閉じた。
「入り込んだそれは、この世からはじき出されたもの、生まれ出でなかった可能性。そういったものを取り込み、核としてひとつの仮想世界を形成して現実を塗り替える」
「そんな大それたものが存在していたなんて……」
ソウゴの軽い驚きに、白ウォズは笑い声を転がした。
「そもそもそれ自体は、他愛ない代物でね。所詮、一瞬の混沌状態が生み出したものに過ぎないから、時間とともに世界が正常な状態を取り戻せば、形成された空間ごと消滅する。たとえその世界でどんなことが起ころうとも、誰かの見たバカげた夢で終わることだろう」
どれほど凍てつくような雪が降ろうと、春陽に溶けるように。
どれほど強く浜に書き入れた砂絵が、波にさらわれれば消えるように。
それはどうあっても、
「だが、今回は取り込んだものが悪かった」
白ウォズは語る。
ソウゴはついさっきまで、宙に浮かんでいた映像を思い出した。
ベルトの設計図。そして、固定された時間軸。
「……まさか」
「ご名答。『無』は、ミライドライバーを取り込んだのさ」
ご名答、と言うものの、解答を先回りして従者は造り出した者として、自嘲する。
「未来を固定させるドライバーと、存在しない『無』。相反する属性の両者が合わさった時、『無』は自己矛盾を引き起こした。そしてガン細胞が健全な細胞を侵していくように、一過性のものとはならずに本当に世界を無限に汚染していった」
ゲイツという老人も苦い顔をしていた。
それも無理のないことだろう。白ウォズの言ったことが本当であれば、善意とはいえミライドライバーを『無かったこと』にしてしまった彼自身にも、責任が生じてしまうのだから。
「それがこのいびつな状況の元凶さ。いや、あるいは『無』が確固たる自我を手に入れ、この状況を利用して自身の目的たるすべてを虚無へと還す手段としたか……たとえばその亡びを加速させるために、同じくあり得ない可能性の中から自身のアバターを生み出し、それにドライバーを持たせて世界を動き回らせるとか」
そして、ライセの伏せた頭の上で彼らは言う。
今まで説明のために先送りにしていた問題は、彼らの追及した真実は、憎むべき敵の正体は、
「君はどう思う? 『来海ライセ』――我々は、君の話を今しているんだがね?」
――
「……俺が、『無』だって?」
ライセは笑い飛ばした。否、しようとした。
舌がへばりついて、息が詰まる。苦しみ、せき込みながら上ずった声を張り上げた。
「冗談じゃない! 俺はこの世界にこうして生きている人間だ! たとえソウゴとは世界が違っても、こいつと一緒にいた過去は変わらないんだ!! そうだろ、ソウゴッ!?」
すがるように同意を求めた。ソウゴの肩をつかみ、揺さぶる。
何かに突き動かされるように必死なライセに対して、友は顔を伏せたままに何も答えなかった。
「まだ気づかないのかい? それとも、必死に目を背けているのか。あるいは君の本体がそれについて言及するのを拒絶しているのかな?」
「……なにがだ」
あくまでも挑発的な白ウォズに、ライセは低い声で問い返し、顧みた。
「そもそもそれが、矛盾しているだろう。君がそこの魔王と出会ったのは、十年前。つまりこの二つの世界が分岐する前のことだ。……つまり例外なく、どちらの世界においても来海ライセという少年は死んでいる」
声が漏れる。見落としていた。いや、堂安主水が同じことを指摘しかけたまま消滅したときに、無意識のうちに自分の中から抜け落としていた。
そんなはずはないと心が慟哭をあげる。軋んで痛む。
――そうだ。なにも自分の記憶はソウゴとのものだけではない。
ほかにも多くのライダーたちとの出会いがあった。ここに至るまでに多くの戦いがあった。
そのうちのどれが一つでも思い出せれば、それが自分がここまで生きてきた証となるはずではないか。簡単なことではないか。
そうだ
せめて
どれか
ひとつ
……
「あ、れ……」
声が、枯れる。頭が真っ白になる。いや、元からその頭の中には、何も存在などしていなかった。
自我と思考能力が確保できるだけの最低限の記憶の設定され、あたかもそれが、『彼』の一生が断続的に続いていたのだと錯覚させるための、まがいものだと。
痛ませることさえできない頭を押さえつけながら、ライセは、いや来海ライセの『IF』を模しただけの人形は、その場にうずくまった。
「ライセ……」
痛ましげにソウゴが偽りの名を呼ぶ。
「さて、以上の点を踏まえたうえでこの問題をどう解決すべきかという点だが」
だがそんなふたりの様子は些末なものと言いたげな、無頓着で横柄な態度で、白ウォズは切り出した。
瞬間、ライセは嫌な予感をおぼえた。
なぜ自分を元凶であったとしたならば、タイムマシンを連れてきた理由はただひとつしかない。
それは……
「君やそのドライバーを破壊するつもりなら、とっくにやっているよ」
後ずさりしたライセを脇目に見つつ、白ウォズは筋の通った鼻を鳴らした。
「だが、君は所詮ただの端末に過ぎない。ドライバーを破壊すればあるいは歴史が修正されるかもしれないが、迂闊にそういう強硬手段に出れば、両方ともの時間がよりねじれる算段のほうが高い」
「ではどうしろと言うんだ?」
ゲイツが白いものの混じる眉をしかめてみせた。
「俺も、この先は聞かされていないぞ」
言葉を重ねて問いかける主人と世界の崩壊を前にしていながら、白ウォズは一定の冷静さと余裕を保ったままに言った。
「本来の計画に立ち返る」
「本来の、計画?」
「すなわちミライドライバーの、完成だ」
得意げに言い放ちつつ、彼は自身のノート型デバイスをふたたび開帳してみせた。
「すでに先ほど、そのお膳立ては済んでいてね」
その真っ白な画面には、中央でただ一文、荘厳な書体で記されていただけだった。
『仮面ライダーギンガ、この地に降り立つ』
――と。
その直後、クジゴジ堂を地震じみた衝撃が、そしてそれを内包した宮殿を、突風と熱が襲った。
そして店から飛び出した当事者たちは、風圧で剥がれ落ちた外壁の向こう側から、こちらめがけて禍々しい妖星が落下したのを、間近で目の当たりにしたのだった。
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(11)
淡い失恋の感傷が、隕石のごとき殻と、その中に封じ込められた存在を鮮明にソウゴの中に刻み込んでいた。
ドームの真っ只中に落下したそれは、本物の白日を浴びて封印を解いていく。
小規模な爆破とともに自らを包み込んでいた物質を突き破って現れたのは、一体の仮面ライダーだった。
――いや、ライダーの定義を疑いたくなるような規格外の存在。エネルギーの結晶だとスウォルツは言っていた。
星の光輝をちりばめたスーツ、マント。
流星を思わせる肩のガードに、ハットのような鍔付きのメット。その下には宝石を粗く削り抜いたかのような、いびつな黄色の眼差し。
〈我が名は仮面ライダーギンガ〉
それをもって周囲を睥睨したその怪人は、無機質でありながらどこか威圧感に満ちた声でソウゴも知るその名を名乗った。
〈世界が分かたれようとも銀河はひとつ。そしてその宇宙を統べる方はただひとつ。……すべてのものは滅びゆく!〉
そしてかつてと同じような言い回しとともに、両の腕に引力にも似た強烈な力を漲らせる。
すなわち白ウォズに招かれたこの世界のギンガもまた同様に、滅びの意思を体現して周囲を破壊して回るのだろう。
「何もわざわざここに呼びつけなくても良かったんじゃないのか」
安息の地を荒らされたことに怒りを滲ませなら、ゲイツは言った。ただし戦意の眼差しは、眼前の侵入者へと向けられていた。
「良い機会だからね。君にはいい加減こんな過去に閉じこもっていないで、統治者として振る舞って欲しいのさ」
そして白ウォズは、悪びれずに正論で返し、彼の主人と並び立った。
それぞれに手に、ウォッチのドライバーを握り締めて。
「ジオウ……」
ゲイツは視線を一度外した。ソウゴに申し訳なさそうに声をかけた。
何を頼まんとしていたのかはすぐに分かった。そしてためらいもなく、かつての友達の横にその身を置いた。
〈ジオウ〉
垂直に立てたジクウドライバーに自身のウォッチをセットし、腰に巻く。
それを懐かしげに見届けたゲイツは、自身のウォッチを手に取った。
この50年で、アップグレードでもしたのだろうか。ゲイツのライドウォッチはカバーは黒曜に、本体は赤く、色は反転していた。
〈ゲイツ!〉
〈ゲイツリバイブ! 剛烈!〉
そして自身の最強のウォッチを一対として、ドライバーを挟み込んだ。
〈ウォズ!〉
その音声を皮切りに、三者三様の時計がその背に浮かび上がる。
「変身っ!」
「変身!」
「変身」
曲げた腕で時計を回す。突き出した両腕を回し、時計を翻す。そして時計を畳む。
〈カメンライダー、ジオウ!〉
〈リ・バ・イ・ブ・剛烈!〉
〈スゴイ! ジダイ! ミライ! 仮面ライダーウォズ! ウォズ!〉
いつもどおりの変身。
だが異色の取り合わせの、同時変身でもあった。
外目にはソウゴの世界とほとんど変化はないが、ただひとり、中心に立つゲイツは違う。
軍人然としていた胸部の重装甲は黒く変化し、代わりにその節目をつなぐラインは、赤く染まっていた。
「行くぞ」
低く呟くように言うや、同じく黒一色に染まったパワードノコを手にゲイツはギンガへと飛びかかる。
世界を守るべく老いて傷ついたその身を推すゲイツを手助けすべく、ソウゴもまたジカンギレードを握りしめた。その脇を、白ウォズがすり抜けていく。
ソウゴは一度立ち止まって、背後を顧みた。
廃人のように膝を落として項垂れるライセは、それこそ意志のない人形のように見える。唇が何かを発せたげにうごめいているが、それは決して自身の気持ちを表すことのできるものではなかっただろう。
だが今は、叱咤できる状態も余裕もない。ソウゴは異世界の戦友たちとギンガへふたたび挑みかかる。
それはライセを守るための戦いでもあるのだから。
ソウゴたちが、未知のライダーと戦っている。
今のライセには、それがどこか遠い光景のように、思えてしまった。
「違う……違う……おれ、は……」
繰り言のように床に落としていくつぶやきを、誰が拾うこともない……
『身を守らないと、世界よりもお前が死ぬぞ。……まっとうに死ねるかどうかは知らないがな』
――かのように思えたが、内より返ってくる声があった。
○と×を奥に控えた二つの道。自分の内にあるその分岐路に、ひとりの男が立っている。
堂安主水。消えたはずの男。
会った時よりも一回り若返った彼は、ライセの虚無の空間で帽子を目深にかぶり直しながら、冷ややかにさえ聞こえる声で言った。
そして彼の示唆のとおり、ライダーたちを激戦を繰り広げるギンガの、桁外れの力の余波は、流れ弾となってライセの膝周りを穿った。
反射的に浮き上がらせた腰に、いつの間にか諸悪の根源たるミライドライバーと、見慣れないクエスチョンマークを左右に散らしたバックル。そして手には空いた中央部分に装填するであろうデバイスが握られていて、同じ『?』のシンボルマークとなって展開した。
『これがお前の知りたかった答えだ。そしてお前が考えなければいけない問題だ』
その力に、声に、あるいは自分と接続する別の何者かに突き動かされるかのように、よろめきながらもライセは身を起こした。
うるさいほどに鳴り響くシークエンス音が、時間制限付きのゲームのように彼の精神をさらに追い立てていく。
「変身……!」
締め付けられるような喉の奥から、食いしばった歯の隙間から、そう唱えたライセは、コマンドキーたるそのシンボルをバックルの中央に叩き入れた。
〈ファッション! パッション! クエスチョン! クイズ!〉
背の後ろで分かたれた二つのパネルから○と×が飛び、ライセの胸には取り付いて選択を迫る。
その姿は少なくとも戦っている三人よりかはシンプルな意匠だった。
黒を基調としたスーツに、体の左右にはベルトと同じ赤と青のクエスチョン。目立っているのはせいぜい頭部から突き出た同様のマークといったところか。
そのライダー、クイズの力の基たる主水が、自分に向けて指を突きつけ、口を動かす。
促してくる文言こそ、今のライセにとって残酷なものだった。
だが、あえて認めて追従しない限り、立つ力さえ抜けてしまいそうだった。
「救えよ、世界……!」
震える腕で、自分の中の彼のモーションを模倣する。手をマスクや虚空へ捧げる。
「答えよ、正解……っ!」
すべてが過ちだった彼に主水はそれを言わせ、間違えるなと使命を貸す。
――問題。
ではその世界を救うために、『無』たる来海ライセはどうするべきなのか?
「…………アァァァァァッ!!」
その答えが見出せないままに、自暴自棄となったライセは最前線に加わり、声を灼けつかせるかのごとく絞り出しながら、ギンガへと肉薄した。
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(12)
ライセの蛮行的な突入により、敵味方双方に軽い動揺が起こった。
仮面ライダークイズが現れた。そのうえで、真一文字にギンガへと切ってかかった。ソウゴがそれがライセだと気がつくのに数秒の間と数歩の後退を必要とした。
獣のごとき咆哮もあげて、彼はギンガに拳を振る。がむしゃらに攻め立てる彼に、主水の知性や意思を感じない。
これが、ミライドライバーの特性。
ソウゴのように継承する側と託す側、互いの了承をもって力やを願いを受け継ぐのではない。
一方的にその力や姿や時間を収奪し、かつ我がものとして固定する。
それがこのドライバーだった。
その事実をあらためて実感ながらも、それでもライセを捨て置くわけにはいかなかった。
ギンガの力の桁外れさの手強さは、身を以て知っている。クイズがいかに未来のライダーと言っても、単独で勝利を収められることはまずできない。
今でこそ乱入してきたライセを推し量るようにあえて防勢に回ってはいるが、彼の現有戦力に見切りをつけて取るに足らぬ者として排斥にかかるのも時間の問題だ。
「ライセ、落ち着いて!」
「うるさいっ!」
肩に置かれたソウゴの手を振り払い、ライセはなお無謀な突撃をくり返す。
その暴走ぶりに呆然とする。一方ですべてを否定された彼の気持ちも分かるからこそ、ソウゴは立ち尽くした。
「奴に構ってる暇はない。俺たちも行くぞ」
ゲイツがそう言って素通りした。
あえてそう口にして叱咤するあたり、彼なりの気遣いなのだろう。
主人の後に続いた白ウォズに追従するかたちで、ソウゴも戦闘に復帰した。
案の定、クイズが弾き飛ばされて、次鋒のゲイツがギンガに重い足取りで肉薄する。
ジカンジャックローを振りかざして牽制し、空いた左拳をギンガの身体に突き入れんとする。
ギンガの片手が、迎撃した。受け止めつつ、マントの裾を翻し、裏拳でジャックローを弾き飛ばす。
ギンガの拳が、風を切って星の粒子を帯びて、ゲイツのマスクに迫った。
武器を手放したリバイブハンドが、それを覆い込むようにして防ぎ止めた。
ぎちぎちと、ゲイツリバイブに用いられているスムースグラフェニウムに過剰な負荷がかかる音が聞こえた。
そのまま額を打ち合わせ、ふたりのライダーは接戦を繰り広げていた。
単身で、単純なスペックでギンガに拮抗できるほど、ゲイツリバイブの機能は底上げされているといって良い。
だが、それだけではまだ足りない、とソウゴは理屈抜きで直感した。
ギンガとリバイブの接触面。そこから光がほとばしる。宇宙を飲み込む闇の渦。妖星の輝き。それらが集約されたエネルギー。それはゲイツ渾身の怪力と耐久性を瞬く間に上回り、その重装甲を浮き上がらせ、弾き飛ばした。
だが、それも織り込み済みだ。その死角を縫う形で、白ウォズがジカンデスピアーを突き出した。
だが難なくそれをいなす。掌底を腹部に叩きつける。次いで振り抜いたソウゴのジカンギレードも、速射されたエネルギー弾が吹き飛ばし、はためいたマントの奥から突出した直線的な蹴りが、ジオウのスーツに見舞われる。
〈ストライク・ザ・プラネットナイン!〉
本人の声音かベルトの音声か。
区別のつかない読み上げとともに、手から離れた宇宙の力場は、分散して雨あられのようにドーム内に降り注ぐ。
榴弾の威力を数段倍化させたような火力が断続的に四人のライダーを襲った。
ソウゴやウォズ、ライセなどは壁の奥にまで吹き飛ばされ、ゲイツリバイブも膝を屈した。
「相変わらず、大雑把に強いなぁ……!」
近くに倒れていたライセを助け起こしながら、ソウゴは愚痴めいたことをこぼす。
「お前が呼んだんだろう。何か策はないのか?」
ゲイツもまた反対側で白ウォズの腕を引いて姿勢を立て直させながら、ゲイツが問い質す。
「さて、わたしもそこを君にアテとしているわけだがね。魔王」
自身の足で立った白ウォズは、逆にソウゴへと問い返す。
「え? 俺?」
「君の口ぶりからすると、そちらの世界にもギンガが来たんだろう。そのうえで、ここにいる。どうやって乗り越えたんだい?」
それは、と言いかけてソウゴは口ごもる。
秘するつもりはない。ただ、現状においてそれが不可能だからだ。
あの時は、トリニティの力もギンガの無敵のガードの前には通用せず、一度目は敗退した。
誰にとっても不都合なアクシデントにおいて、アナザーキバ、タイムジャッカー、敵味方の垣根を越えた総力戦で、かつ物量さで強引に押し切って打倒しえたのだ。
その数を今、そろえることは不可能だった。
あるいはグランドジオウなら、という思いもあるが、すでに時間の消滅はライドウォッチにも影響していくつかは消滅していた。揃っていなければあの姿に変わることはできない。
ライセという要素があるにしても、今の彼は、恃むことができない。
つまりは、正攻法で勝つことは難しい。
――正攻法、ならば。
ならば搦め手から仕掛けるほかないだろう。
「……数秒」
「ん?」
「数秒、俺が自由に動ける時間を作ってくれるのなら」
ソウゴはギンガを挟んで向かいにいる、一時の仲間たちにそう頼んだ。
「わかった」
一片の詳細も聞かず、ゲイツが動いた。自身の砂時計を回す。
〈スピードタイム! リバイ・リバイ・リバイ!リバイ・リバイ・リバイ!リバ・イ・ブ・疾風!〉
ゲイツの装甲が裏返る。
重装甲は翼に。体系自体は速度を重要視したスリムなシルエットに。
ただしソウゴの知るその姿とカラーリングは反転し、黒を基調としたボディに青いエネルギーラインが駆け巡っていた。
ゲイツリバイブ・疾風。
未来予測をも超える速さを手に入れたゲイツは、大きく飛翔した。
〈こざかしい〉
低い嘲りとともに、ギンガはエネルギー弾を連射し、撃墜せんとした。
だがゲイツはドームの天井やその先の空を縦横に駆け巡り、それを回避していく。
その機動力はもはや、ジオウの目でさえ捕捉できず、ただ風を切る音だけが響き渡る。
「時を支配する魔王が、『時間を作ってくれ』、ね」
皮肉気味にそうつぶやいた白ウォズだったが、その依頼に沿うべく別のウォッチを握りしめていた。
〈キカイ、アクション! デカイ! ハカイ! ゴーカイ! フューリャーリングキカイ、キカイ!〉
ライセも持つ未来のライダーの力。それをウォズもあえて用い、キカイのパーツを受け継ぐフォーム、フューチャリングキカイへと変形する。
その背から飛び出た雷光が方々に飛び散り、工具類の形をとる。ドームの内壁へと吸い込まれていく。
もとよりそういう機能が存在していたのか、あるいはキカイの特性によるものか。
壁から機関銃のようなものが形成され、ギンガへ向けて掃射する。
だがギンガの足下から展開したエネルギーフィールドがそれをことごとく跳ね除けていく。だが完璧な防壁は、だからこそ奴自体の動きを封じた。
ソウゴもまた、自分の仲間とよく似た彼らの作ってくれた時間に応えるべく、ライドウォッチを取り出し、回し、押す。
ただし、ジオウⅡのものではない。
黄色にカバーに黒い本体。
〈キバ!〉
今となってはソウゴがほとんど所持している歴代ライダーのウォッチ。そのうちでも中期の年代に位置する、『王』の時間。
それをベルトにセットし起動させる。
〈アーマータイム! ガブッ! キバ!〉
どこかギンガの声と似た擬音を合間に挟み、ジクウドライバーから無数のコウモリが飛び出した。
それらが寄り集まって黄色い巨大な一匹、コウモリによく似た何かとなると分離し、ジオウの両肩へと取り付いた。目はピンクより黄色へ変色し、『キバ』の二字を刻む。胸には鎖で巻かれたような印と、血を想わせる赤い胸部装甲。
「さぁ……ふんばっていこうか!」
時が惜しい。味方が危うい。
前口上もそこそこに、探り合いや小手先技での競り合いもなしに、ドライバーのベルトを押して回す。
〈フィニッシュタイム! キバ!〉
シークエンスに入るに当たり、前へと押し出した右脚甲が展開し、翼と爪を広げる。
すると、周囲がにわかに陰り始めた。
太陽を暗雲が覆い込み、夜の帳が降りて闇が訪れる。満月が上る。
ギンガの動きが次第に鈍重になって、力の圧が弱まっていく。
しおれる花のように、錆びる鉄のように変色し、停止していく。
そう、狙ったのはギンガそのものではない。
この無尽蔵の力を絶えず供給し続ける大元……太陽光だ。
白い方ではない。自分のウォズが、事が終わった後に教えてくれた情報、そして自分とは別の『王』のライダーの特性だ。
「みんな、今だっ!」
時の王の号令一下、各ライダーはそれぞれの方向から乾坤一擲の技を投入すべく準備を始めた。
〈ビヨンドザタイム! フルメタルブレイク!〉
先鋒を司ったのは仮面ライダーウォズだった。
黄金色の歯車が組み上がるように軌道を描き、それに乗じる形で加速した蹴りは、満足に動けないギンガを直撃した。
〈フィニッシュタイム! 百烈! タイムバースト!〉
空を駆けていたゲイツが、飛翔したソウゴと入れ違いになる形で、地評へ向かって急降下する。
最大加速で突入し、幾重もの空気の壁を突破して、自身を正義と信念の一矢、一筋の青い流星と化した特攻は、ギンガに痛撃を与える。
〈ウェイクアップ、タイムブレーク!〉
そしてソウゴもまた、天地逆さまとなって月に自身のシルエットを投影する。
月光の祝福と加護を受けた時の王は、大きく横に旋回しながらギンガへと迫った。
その胸部に、脚の翼が激突する。
勢いのまま、ギンガを壁まで突き飛ばす。ギンガの背がめり込んだ壁に『キバ』の文字が刻まれた。
……どういう理屈かは分からないが、時の王としての力の一端に是非を問うのも無粋というものだろう。
ライダー三人の、出来る限りの最大戦力を投じたのだ。
本来であるならば、そこで爆発四散していてもふしぎではなかった。
だがこの規格外のライダーは、スパークを放出してダメージを露呈させつつも、なおもその形状を保っていた。それどころか再起の兆候さえ見せていた。
まだ、一手足りない。
最後にキックを放ったソウゴは、身をもってそう直感した。
あと、一押しがいる。
すべての力と手段を各々が出し尽くした今、それを決するのはただひとりしかいない。
――たとえそれが、傷心のただなかいる人物であったとしても、彼自身の未来を切り拓くために、やってもらわなければならない。
「ライセッ」
仮面ライダークイズに扮する彼に、ソウゴは鋭く促した。
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episode3:Who Wants to Be a destroyer?『2068』(13)
――遠く鈍く、ソウゴの声が聞こえる。
――近く強く、内部より強く問いがなる。
目の前の敵を討て。
お前は、何者だ?
言われるまでもない。世界を守るため、宇宙より来訪したその破壊者を打倒する。
否、すべての元凶はお前自身ではないのか? 自分を処さずして、何がヒーローだ?
偽りの心臓が速く鳴り打つ。
ただ機能として存在するばかりの呼吸が、荒くなっていく。
自然と手はコマンドキーを握りしめている。手中のそれが『?』から『!』へと形を変え、ライセはほぼ忘我したままにそれをベルトの中央へと納めた
〈ファイナルクイズフラッシュ!〉
敵を、討て。
敵は、お前ではないか?
人々のために戦い続けろ。
何を馬鹿な。そもそもお前は人ではないではないか?
「違うッ!」
内なる糾弾に対し、ライセは拒絶を返した。
「俺は人間だ……俺は人間だ俺は人間だ俺は人間だ! 俺は、俺は……っ!」
そうくり返す彼とギンガの間に、二枚のパネルが用意されている。
この来海ライセは、自身が称するとおりに人間か?
○か? ×か?
「うあああああああ!!」
声を絞り上げてライセは飛んだ。
人間だ、人間だ、人間だ。
――腑に落ちる。
人間だ。人間だ。人間だ。
――欠落した記憶。真っ白な始まり。いつの間にか手に入れていた力。思い出せないライダーたちとの出会い。共闘したはずの仮面ライダーGの、
人間だ、人間だ、人間だ!
――いまいち実感できない生。ソウゴたちの指摘した時間と自分という存在の食い違い。そうした矛盾に行き当たった時、いつの間にかそこから外れている自分の意識。
人間だ。
人間だ。
人間だ……
――嗚呼けれども真実の光を帯びて突き出したその脚は、クイズとしての特性が向かう先は
×
と刻まれた、その一択に迷いなく向けられていた。
刹那、ギンガがふたたび動き出した。
ライセへ向けて残った力を放出し、そして声を発する。
〈貴様は無の者だ。ならば、私と同じはずだ!〉
正答を経て最大限に強化されたライセの脚力は、そんな追及に必殺の一撃をもって答えた。
悲痛な慟哭とともに少しずつ、錐で穴を穿つようにして宇宙のエナジーを押しのけ、接近していく。だが近づくにつれ、当然ギンガの力の放出量は増していく。流しきれず、その身を焼いていく。
だが、すべての災厄の元となっているのなら、いっそもろともに滅びれば良い。
そんな思いが、最後の一押しとなってギンガを貫いた。
溜め込んでいた力が流し込まれた衝撃によって暴発した。
そしてライセをも飲み込む熱は周囲を焼き尽くし、ドームを吹き飛ばした。
そして、新世界の王宮は、救世主のしがみついていた過去は、わずかな残骸のみをこびりつかせて消滅した。
自分たち自身を守っていたライダーたちは変身こそ解けたものの重症というほどではなく、次第に収縮していく爆発の起点。その一点を彼らは注視した。
そこにライセは、倒れ伏していた。
クイズへの『擬態』は同じように解除され、ただ存在しない青年の形をとりながらもその腕は、ギンガのエネルギーに飲み込まれて消し炭さえ残らず、肩から先までかけて焼き切れていた。
痛みもない。血も流れない。
残された肩の断面を、恐る恐る覗き見る。
そこには、血も肉も骨も神経組織もない。
ただ風船のように、あるいはヒーロー物のビニール人形のように虚無の空洞だけが広がっていた。
やがてその内側から泡がこぼれ落ちたかと思えば、瞬く間に腕の形をとった。上着までも、何事もなかったかのように再生した。
「ああぁ……ああぁぁぁあぁあ……」
ライセは呻く。起き上がろうとして崩れ落ち、そのまま立ち上がることもできず、生えそろった五指を開いて、それらをわななかせながら呼気を漏らす。
クイズでも他人からの受け売りの情報でもない。
今目の前で起きた、常人ではありえない現象。あってはならない身体の構造。自分で終わらせることさえできない、肉体。
それらこそが、彼が人間であることを否定する何よりの証だった。
「あぁぁぁぁ……ああああああああああああああっっ!!」
ライセは頭を抱え、髪をかきむしってガレキに顔を埋めた。
獣のような慟哭を、その苦悶を、受け止められるものなどそこに、いやどこにもいるはずなく、彼の絶叫はただ、異界の風に流されていくばかりだった。
next episode:そして来る星海0000
ギンガを討ち、その力を得ることでミライドライバー計画を完遂させる。
そう語る白ウォズの狙いは、自分たちの時間軸の固定にこそあった。
すなわちそれはソウゴたちの世界の消滅を意味していた。
だがソウゴは騙されたことに怒りを覚えるよりも先にライセを気遣い、手を差し伸べた。
仲間や世界を消そうとしているすべての元凶は自分のはず、なのに何故接してくれるのかと問う彼に対し、ソウゴはある答えを示す。
絶望的な戦いに挑みに行った友のため、ライセもまた、みずからの内にいる仲間たちの正体を知り、そしてひとつの決断を下す。
だが彼らの前に、ひとりの男が立ちはだかった。
彼は、もうひとつの海、もうひとつの銀河。
圧倒的な力と意志の強さは、未来のライダーとライセは追い詰められていく……
それぞれの絶望に抗うべく、ふたりの仮面ライダーの最終決戦が始まろうとしていた。
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episode4:そして来る星海0000(1)
ギンガの破壊された地点から、光の柱が立ち上っている。
それは天と地点とを結ぶ回廊とも、あるいはこの星の情報を、人知れぬ未開の領域へと向けて送る交信手段のようでもあった。
白ウォズは変身を解くと、恐れも見せずにそこへと接近し、手を光の中へと埋めた。
すると柱は細まっていく。内部を駆け巡る奔流は次第にその勢力を弱め、ほぐされた糸のようにたわんで消滅した。
白ウォズに、いや彼の手にあったブランクのウォッチに、ギンガの力と時とが吸収されたのだ。
ギンガミライドウォッチ。
ソウゴのウォズも手に入れた、最強の力の結晶。
それは今、もうひとりのウォズの手に渡った。
「それで、ここからどうするの?」
不安げに問い質すソウゴの前を横切り、白ウォズはライセの前に立った。
悲痛な慟哭は時間とともにナリをひそめていたが、代わりにすすり泣く声が、埋めた顔から漏れ聞こえる。
そんな彼を冷ややかに見下ろしながら白ウォズは口を開いた。
「さっきも言った通りにこいつはアバターに過ぎず、見ての通りに、そもそも破壊は不可能だ。存在しないものを潰せはしない。そこで」
いったん言葉を区切った白ウォズは、いきなりライセの髪を引っ掴んだ。
そして強引に引き立たせると、無防備にさらされた腹部に、あろうことか、ギンガのウォッチを、ライセへと拳ごと突き込んだ。
ライセが呼気を一気に押し出した。突き放され、地面に転がされた彼は、突如としてねじ込まれた異物感にえづき、呼吸を荒げて身悶えた。
そんな彼自身には興味が失せたように背を向けて、白ウォズは再び説明した。
「仮面ライダーギンガは特定の時間軸を持たず、見切りをつけた世界や時代を破壊しに来る厄介者でね。だがそれゆえにそれらの領域を超越する力を持っていて、それは我々にとっても有用だった。だからミライドライバー計画の最終段階として組み込もうと構想されていた」
ソウゴはライセに駆け寄って介抱した。
幸いにして、いや体質ゆえか。目立った外傷はなかった。
「よって、今ギンガを取り込んだことでまがりなりにだが、本来の計画の完遂となったわけだ。これでバグを起こしていたドライバーは正常な状態となる」
「なると、どうなる」
ソウゴは白ウォズを軽く睨みながら問いかけた。
すると美青年然とした男はニヤリと両の口端を吊り上げて答えた。
「いやぁ、ご協力感謝するよ魔王。おかげで
この世界は。前提を、彼はことさらに強調した。
そのことに嫌な予感を覚えたソウゴは、低い声で尋ねた。
「じゃあ、俺たちの世界はどうなるんだ?」
と。
白ウォズはせせら笑ったままに答えた。
「さぁ? ただこのまま消滅現象そのものは止まるとも思えない。いずれは跡形もなく消え去る運命だろうね」
「……騙したのか!?」
ソウゴは白ウォズに掴みかかった。
その手を邪険に払いながら、青年は冷たく返した。
「わたしは君の時間軸を救えるなんて一言も言っていないだろう? だがこれで共倒れになることは回避できる」
それに、言葉を継ぎ足す。
「以前君は言ったじゃないか『自分の未来を、最後まで諦めるな』と。……今がその時だよ、魔王。わたしは今度こそ、自分の未来をつないでみせる」
逆に肩に置かれた手に、尋常ではない力が込もる。確固たる信念の火が、細められた双眸に宿る。
それでも、やはり許されることではないだろうと思った。少なくとも、ゲイツがこんな騙し討ち同然の策を是とするはずがない。
そう思って、ソウゴはゲイツを顧みた。
だが、首を向けたままに、彼は固まった。そんな彼の様子を見てその視線を追っていた白ウォズもまた、つい今し方の勝利の優越を失い、血の気を引かせていた。
彼らの視線の先には、吐血して膝を落とす、痩せ枯れた老人の姿があった。
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episode4:そして来る星海0000(2)
「ゲイツ!?」
「我が救世主!」
ソウゴの白ウォズは、諍いも忘れ、共通すべき敬愛すべき同胞へと駆け寄った。
白い地面を喀血で汚しながら、ゲイツは彼らを手で制して起き上がった。
――忘れていた。
ソウゴたちの時間軸では、ゲイツが強靭な精神力によって克服した、リバイブの反動。
自分自身の時間を凝縮することで高速化や剛腕を手にする一方で、肉体への負担は多大なものとなる。
この時間軸のゲイツとて、おそらくは同様に乗り越えたはずだ。
だが、老いて衰えた肉体を、精神がカバーできるのにも限度はあるはずだ。
その限界と限度を超えて、何度も、これまで幾度とない危機に向かうたびに、体を酷使してきたはずだ。
ソウゴとの約束を、自分たちの家を守るために。この世界を、守るために。
唯一となってしまった仮面ライダーとして。
――そうして死守してきた時間が間違っていると、自分たちの世界こそが正史であると、ソウゴがどうして非難できるだろうか。
「ひとつだけ断っておくが、俺は事前に聞かされてはいなかった。主水やお前たちの世界を犠牲にするなんてことはな」
口にこびりついた血をぬぐい、ゲイツは言った。
鋭く臣下を睨みつけ、よろめきながら我が身を支えていた。
「――すまなかった。お前にとっては、徒労で終わってしまったようだな」
ソウゴにはそうはっきりと詫びて、なお逡巡を見せた。そして弱々しいはにかみとともに、彼は続けた。
「それでも……俺はせめて一目、お前に会っておきたかった。たとえ世界の危機を理由にかこつけてもな。笑ってくれ」
「笑わないよ」
ソウゴは友のために機嫌を改めて、笑って見せた。
その曇りのない表情を、ゲイツはまぶしそうに眼をすがめていた。
「さぁ、もう行け。
ゲイツがそう見送ろうとしたところで、ソウゴはその言葉によって認識の齟齬を感じた。だが、今までの流れを客観的に振り返って、少なくとも自分の中でそれは解消された。
「違うよ。ゲイツ」
なんとなしに、言ったつもりだった。
「この俺は、君とは戦わなかった。みんな揃って、今を生き抜いているんだ」
その答えを、特に考えもなく、ただそういう可能性もあり得るのだと、示しただけだった。
「なん……だと……っ!?」
だがゲイツの受けた衝撃は、ソウゴの思っていた以上だった。
彼を支えていた力が全身から抜け落ちた。この闘士が、今度こそ本当に、力なく膝を折って屈した。
そして気づく。ゲイツを支えながら、激しく後悔する。
「そんな、そんな可能性があったのか……!? じゃあ今まで俺がしてきたことは、なんだったんだ……?」
何気なく放った言葉は、彼のここまでの働きを全否定するものであったのだと。
「お前を死なせてしまった。ツクヨミも、黒い方のウォズも消えた……そして、最後には主水も」
あり得る可能性は、彼にとっては切り捨てた側の選択肢、取り返しのつかないものだったということに。
「……つくづく、道化だな、俺は」
血の跡を残す唇を震わせて、かすれた声でゲイツは自嘲する。
泣きたそうになりながらも、泣けない。そんな涙は、彼の中でとうに枯れ果てているように。
「あのさ、ゲイツ」
ソウゴはそんな彼の、全盛期より細まった肩を手で挟み込むようにして、正面に立った。
「たしかに、俺はあの時君と手を取る選択を取った常盤ソウゴだ。……けどさ、その後もずっと苦しい状況は続いてて、多くのライダーの力が失われたり、仲違いしたり……みんなに忘れられたり」
今となってはすべて過ぎたことの話ではあるが、それでもまだ癒えない心の傷が残っている。
「そしてきっと、もっと辛いこと、悲しいことがあるかもしれない。いや、きっとある気がする」
何を言っている。そう弱って枯れた眼差しで問いかけるゲイツに、ソウゴは「それでも」と身を押し出し、はにかんだ。
「俺は自分の選択を後悔しないし、王様になる道を諦めたりもしない。だってまだ先のことなんて、分かんないでしょ」
そうだ。
たとえ最低最悪の魔王になることが確定事項だと誰かが言ったとしても、今更この道を他の誰かに譲る気はない。たしかに自分は未来を見てきた。荒廃した大地に君臨する、覇者としての自分を見た。何度も戦った。それでもやはり、どうしても、『彼』が自分の進む先にいるとは思えなかった。
目の前にいるゲイツだって、そうだ。
「昔選んだ道が良かったかどうかとか、どっちの歴史が正しいかとか、そんなの関係ない。だからゲイツもさ、自分が間違ってたとか思わないで、今を生きてよ。……まだ、俺たちの未来は、決まってないんだから!」
ゲイツは俯いた。震えた呼気を地に向けるように俯き、唇を噛みしめる。
だが、死にかけていたその眼光がふたたび往年の漲りを取り戻した。
半死人が息を吹き返すように、深く海に潜っていたダイバーが海面に顔を持ち上げるように、息を弾ませ、肩を揺らす。
「――まったく、お前と言う奴は……!」
ソウゴを押し戻し、みずからの脚で立つ。
ふたたび顔を上げた時、その表情は、苦く笑いながらも、どこか晴れ晴れしいものだった。
「相変わらず、どこまでも優しく甘い男だ」
「そうかな」
「だからこそ、残酷でもあるがな」
照れるソウゴに軽く憎まれ口の苦言を呈するあたり、やはりゲイツだと思った。
「持って行け」
あの雪の日のように、ふたりして笑い合った後、旧友は一つのライドウォッチを、押し付けるように差し出した。
それは、他ならぬ仮面ライダーゲイツのライドウォッチ。黒と赤とが反転しながらも、それでも革命の戦士としての彼を象徴する力の結晶だった。
良いの? と目で問う。当惑する。だが構わず、躊躇せず、彼はそれをソウゴに握らせた。
「俺にはもう必要のないものだが、お前なら、せめて何かの役には立たせられるだろう。……今度こそ、行け。お前も今を必死に戦い、お前の未来をつなげ」
それは、ただの力の継承ではない。今のゲイツが友へと送ってやれる、最大限のエールであったのだろう。
「――わかった。これは、預かっておく」
結局打開策は見つからなかった。けれども、もはやそこに不安はなかった。この時代に招かれて、決して無駄ではなかったと思った。
放心状態のライセを伴い、常盤ソウゴは廃墟と化した宮殿を出た。
遠ざかって、姿が見えなくなるその最後の一瞬まで目に焼き付けるように、ゲイツはそれを見送っていた。
そして、完全に気配が消えたあとも、眼差しはまっすぐ、彼のいた場所へと留め置かれたままだった。
その状態のままに、ゲイツは居並ぶウォズに尋ねた。
「――お前、ウソをついたな?」
と。
「ウソ? 君と魔王が和解する可能性があることかい? それとも力を手放した主水が消滅することをかい? どちらにせよ、この時間軸の存続には必要なこと」
「違う」
ゲイツは首を振って臣の言葉を遮った。
もう腐れ縁と呼べるほどの長い付き合いである。
あれほどいがみ合っていた黒い方よりもずっと、共に過ごした年月は長くなっていた。
となれば、ある程度彼の思惑の察しはつく。
「この時間軸は、もう消滅する。そうだろう?」
ウォズは、張り付いた笑みを退かせた。
それは果たして、ゲイツの言葉が核心を突いていたことを証するものだった。
いくら彼の未来ノートであったとしても、ギンガを呼ぶにはそれなりの理由が要る。
つまり、この世界には先がない。そう見切りをつけたからこそ、アレが降りて来たのだ。
そもそも、だ。
「来海ライセが『無』から生じた存在しない人間だとするならば、この世界だって同じく弾かれた可能性から『無』が拾い上げたに過ぎない。だから、事態が鎮静化すれば、俺たちは消える。ミライドライバーとは関係なくな」
ウォズは黙りこくっていた。何故そんな虚言をあえてソウゴに誇って見せたのか。自分たちが消えることを承知でミライドライバーをこ完成させた本当の理由はなんなのか。簡単に説明できるような事柄ではないのだろう。
動機としてはおそらく、この男が黒い方以上に素直で純良な性格ではないことが起因するのだが。
だが、その善良ならざる男は、それ以上あがくことをしなかった。ただ従者として、黙して救世主に侍り続けた。
「良いのか? お前だけなら、どうとでも逃れられるかもしれんぞ」
「多くの犠牲の果てに実現した、この理想の世界を捨ててかい?」
ウォズはそう問いかけてようやく口を開いた。
それ以上は、語ることも翻意することもしない様子だった。
ゲイツは鼻白んで、従者を脇目に見た。
「どうだろうな、お前のことだ。案外すぐ復活するような気もするがな」
「だとしても、それはこのわたしではないよ」
そうだろうな。適当な調子で相槌を打ち、ゲイツは一歩先に出る。みずからの殻でもあった王宮を出た。
隕石が突っ切ってきたことにより、白く覆っていた雲は切れて、青空と太陽が広がっていた。
久々に、本物の太陽や、色というものを拝んだ気がした。
「それで、君はどうする?」
従者は問う。
対する主人は天を仰ぎながら、眼を細めた。
ゲイツはしばらく答えずにいた。
救世主としての座を喪った時、男はただひとりの人間に戻った。
だが空っぽだと思わない。それが『無』だとは思えない。
すべての積み重ねがあって、自分は今、この未来に、こんな晴れやかな気持ちで立っている。
「前を向いて生きてみる。最後の一瞬までな」
そして彼は、自分の足でふたたび歩き始めた。
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episode4:そして来る星海0000(3)
ライセを伴って王宮を後にしたソウゴだったが、現状として対策案はまだ見つかっていない。というかそもそも、どうやって現代に帰るかという算段さえ立っていないのだ。
かと言って、格好をつけて出て行った場所にまたトンボ帰りするというのも、締まりの悪い話だ。
「うーん、主水のマシンって残ってるのかな……というか、俺にとっては型落ちだから、あったとしても乗れるかどうかもわかんないけどさ。ライセはどう思う? ……ライセ?」
俯きがちに、手足を引きずるように、見えない鎖に繋がれたように後ろを歩いていたライセが足を止めたのは、ソウゴが顧みた瞬間だった。
「……なんで」
垂れた髪の下で重く唇を動かして、極小の声量で呟いていた彼へと、ソウゴは反転して歩み寄った。
そして、彼の感情は突如として暴発した。
「なんで、俺を責めない!?」
ソウゴの襟首を掴んで捻り上げ、悲痛な声とともに睨みつけた。
「俺がすべての元凶だっ! 世界を破滅させて、お前の仲間も消した!! なのに、なんでお前は、何もしない!? そんな笑っていられる!? 魔王の力でも何でも使って俺を消せば良いだろっ!、なのに、なんで……お前は……そんな、笑っていられる!? なんで……そんなに……優しいんだ」
ライセはソウゴの服を掴んだままに、膝から崩れ落ちた。
たしかに、普通に考えてみれば、ライセこと『無』が事の元凶ではあるだろう。そして、ソウゴの立場からしてみれば、あくまで不滅かつ端末でしかないと言えども、目に見える恨みをぶつけられる対象なのだろう。
だがそれは、彼の目指す王道ではない。
そもそも、恨みなどあろうはずもない。
「……ライセ、覚えてる?」
そっとその肩を支えて立たせ、ソウゴはそう尋ねた。
「俺と最初に会った時、言ってくれたよね」
「……何を?」
何を自分は言ったのか。あるいは今ソウゴが何を言わんとしているのか。
そのどちらかを、あるいはどちらとも問わんとしていたライセに先んじて、ソウゴは答えた。
「『俺たちにとってあのバス事故は辛いことだったけど、すべて悪いことじゃなかった』って」
「けどそれは、偽物の記憶だ。俺はお前の知る来海ライセじゃない」
その事実をライセが認め、重く冷たく突きつけたとしても、ソウゴの笑みと気持ちは揺るがなかった。
一度ライセから身を離す。一歩前に出て進み出て、その背を見せつつ歩き出す。
「俺にも仲間が出来たけどさ、やっぱみんなに暗いところは見せたくないし、あと飛流とはまぁ……色々あってそういうことが話せなくて、だから」
珍しく歯切れ悪くソウゴは言葉と理屈を紡いでいく。
だが、この感情はきっと理屈ではないし、説明のつかないものだ。
だからいっそ割り切って、ソウゴは満面の笑みで身を翻し、自分の率直な気持ちをぶつけた。
「嬉しかったんだよね! あの事故のこと、乗り越えられるって言ってくれる誰かがいてくれてっ!」
たとえそれが本当のことでなかったにせよ、たとえ彼自身が自分の知るライセでなくとも。
たしかに常盤ソウゴは今、目の前にいる友の言葉に救われたのだ。
「それで十分だよ。君を信じるのには」
屈託ない笑顔を称えたままにソウゴは言い切った。
目を見開いてその言葉を聞いていたライセは、ぐっと唇を噛めしめ、何か内面的なものが突き出るのをこらえるように顔を伏せた。
ソウゴはふたたび歩き出した。
「おい……どこへ行く? どうするつもりだ?」
ライセは心もとなさげに、問いを重ねる。
――この絶望的な状況下で。
本当ならそう続けたかったつもりだ。
「うーん、わかんないけど、なんかいけそうな気がするんだよね。ほら、良いアイデアがパッと思いつくかもしれないし」
一応は考えるそぶりをしながらも、ソウゴはまっすぐに、自分の直感を伝えた
それは捨て鉢にになったわけでもない、虚勢でもない。おのれの内の中にある確かな手ごたえだった。
「さっきゲイツにも言ったけど、未来はまだ決まってない」
きっと、この状況は好転する。なんとかなる。
いや、なんとかするのだ。
他でもなく、王様であるソウゴ自身が。
「それを決めるのは、今この瞬間を生きる俺たちだよ、ライセ。だから君もここから先を、自分自身で決めて未来を選んで進んでいくんだ」
「自分なんて、俺にはない。どこへ行けばいいのかさえ、わからない」
「そうかな? 本当に何もなかったら、怒りもしないしそんな風に悲しまないよ」
「だからそれは、あくまで来海ライセの感情を真似ただけで、俺は」
「そういう難しい話は、せめて一歩踏み出してからじゃない?」
ソウゴは歩みを止めない。
ライセは足を留めたままだったが、あえてそれを待つこともしなかった。
「俺は先に行く。自分の夢見た未来にたどり着くために。……だからライセ、君の答えがちゃんと見定められたら、その時にまた会おうっ」
自分の目に、たしかに映る王道。
光り輝くその一本道を、彼はひたすらに進んでいく。
後ろで見守る友のためを、導くためにも。
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episode4:そして来る星海0000(4)
ソウゴがもときた道を辿ってゆくと、例のゲイツ像の奥、そこにはまだ主水のタイムマジーンが残っていた。
「問題は俺に使えるかだけど」
コクピットで背後から見る限りでは、操作はさほど差がなかったように思える。仮面ライダービルドこそ
そしてその機体に接近しようとした矢先、その直感がソウゴの足を止めさせた。
操作できるかどうかではない。もっと原始的な、生存本能めいたものが、彼にそれを乗ることを躊躇わせたのだ。
そして逡巡する暇もなく、その予感は現実のものになった。
機体の上空が、裂傷のように、赤く引き裂かれた。
その亀裂の奥から、メカと獅子を強引に混ぜ合わせたような、禍々しい巨影が降り立ち、主水の形見を跡形もなく踏み付けにして粉砕し、爆散させた。
血の色と錆びた金色によってカラーリングされたその頭部には、アナザーライダーのウォッチが埋め込まれていた。それが誰の所有物なのか、一目瞭然で、やがてそれは、開かれたコクピットから吐き出されるようにして飛び降りた。
「アナザーゲイツ……! ここまで追ってきたのか!?」
白ウォズの理屈に当てはめるのなら、これらのアナザーライダーはただの『現象』に過ぎない。よってソウゴの独語じみた問いかけに答えるどころか、理解さえしていまい。
だが、それでも彼がここにいて、なお敵意を剥くことが、何よりの肯定だった。
まるで、仮面ライダーゲイツとはオーマジオウの敵対者であると、盲目的に体現するかのように。
アナザーゲイツが地を蹴って迫る。
「くっ」
それと戦うことは、無意味な足止めどころかその行為自体がソウゴらには有毒でしかない。それでも、こうも執拗に追いすがられては、戦うしかないだろう。
(ジオウⅡ!〉
ソウゴはジクウドライバーを腰に巻く。
現有する最大戦力たる、そのウォッチをスライドして二つに分けて、挟み込むようにしてベルトの両脇にセットする。
「変身!」
〈カメンライダー……ジオウ、Ⅱ!〉
二つの時計が、合わせ鏡のように、左右対称の動きでソウゴの背で針を回す。曲げて突き出した腕で持ってバックルを操作したソウゴを、ハウリングする強化されたジオウへと変身させる。
仮面ライダージオウⅡ。
自身と光と闇を受け入れたソウゴの決意が創り上げた、王道の第二段階。貴公子然としたその姿と、愛剣サイキョーギレードをもって、アナザーゲイツを迎え撃たんとした。
刹那、額の針が回った。
ソウゴの脳裏に、数秒後の世界が映し出される。
それこそがジオウⅡ最大の特性。いわゆる未来視の力。
それ自体が特異ではあったが、今回の予知はとりわけ奇妙だ。
男が、ソウゴの背後で銃を構えていてトリガーを弾こうとしていた。
この世界にはいないはずの男。いや、それどころか本来は、自分たちの世界の住人でさえない。
ソウゴは咄嗟にその場に踏みとどまって、頭を伏せた。
その頭上すれすれを、弾丸が通過した。アナザーゲイツの革命戦士然とした、胸部装甲に火花を散らした。
ジオウⅡの能力を知ったうえでか、それとも諸共にと思っていたのか、判断がつきかねた。
「……何でここに」
ソウゴは振り返って白いコートのその男に問わんとしたが、その無意味さを悟った。
手段にしても理由にしても、尋ねるだけ無駄というものだ。
――それこそ、門矢士同様に。
「沈没船よろしく、お宝を抱えたまま沈まれても困るんでね。手伝ってあげるからありがたく思いたまえ」
背から撃ったという後ろめたさを微塵も感じさせないどころか、恩着せがましい物言いとともに、その男、
ウォズは、門矢士の仲間と彼を紹介したが、先の戦いではスウォルツの側に味方してグランドジオウのウォッチを奪い、かと思えば返し、と思いきやディケイドと戦ってその力が奪われるきっかけを作った。
士も大概読みにくい性格をしているが、この海東大樹は目的意識や仲間意識や倫理観といったものがかなり希薄、あるいは独特で、それ以上に扱いに困る人物だった。
〈KAMENRIDE〉
その彼は、銃身を伸ばすようにして開いた装填口に、カードを挿し込むと、天へと向かって撃ち放つ。
「変身!」
〈DIEND!〉
引き金を指で押し込むと同時に発せられたのは、銃弾ではなかった。
彼のライダーとしての素体。それがプリズムのような虚像が彼を基点として交錯し、収束し、実体化して頭上に回りながら展開したパネルと組み合わさって、ライダー、ディエンドの
ディエンドは銃口を切り返して連射。アナザーゲイツをけん制しつつ、空いた手を虚空にかざす。
ディケイドと同様に世界の境界を越えて渡る力のある彼は、例の灰色のオーロラを生み出し、そこをくぐるようソウゴに示唆した。
「ほら、行った。せめて僕がお宝を取りに行くまでの間、保たせておいてくれよ」
その不遜な言いぐさは彼なりの照れ隠し……なのではなく、掛け値なしの本心なのだろう。
だがタイムマジーンが大破した今、その気まぐれに従うよりほかなかった。
オーロラを抜けようとした手前で、ふと尋ねたいことがあって、ソウゴはアナザーライダーと戦う彼を顧みた。
「ねぇ、聞きたかったんだけどさ。……あんたの言うお宝って、なに?」
「お宝はお宝さ」
片手間にアナザーゲイツの猛攻をいなしながら、海東は答えた。いや、答えにさえなってはいないが、あるいは自分自身でもこれといった定義はないのかもしれない。
「じゃあ、何のためにそれを集めてるの?」
答えはない。戦闘に集中している、という体で黙殺した。
そんな彼に、ソウゴは重ねるようにして推論をぶつけた。
「お宝ってさ、人に見せたがるものじゃん。ひょっとしてあんた、門矢士に自慢したいんじゃないの?」
ともすれば執着していた宝物さえ、次の瞬間には興味を喪って未練なく手放す。そんな複雑怪奇な男が、唯一変わらず執着しているものが、ディケイドこと士だった。
だとすれば似ている、とソウゴは思った。
ずっと王となることを言い訳にして、自身の本心を打ち明けなかった、かつての自分自身と。
「あのさ、俺も言われたんだけど、もっと自分に素直にな」
「やめてくれないか、そういうソレっぽいこと言うの」
ソウゴの好意をピシャリと跳ね除けるように、海東は言った。
性格同様に複雑な構造のマスクからは、表情を読み取ることはできない。だがその攻防に一瞬の乱れが生じ、不意を突かれたディエンドはアナザーゲイツの、ねじくれて先端を尖らせた弓から吐き出された光弾を浴びて転がり、片膝をついた。
だがその時には彼は、一枚のカードを指に挟んでいた。
ソウゴにも見えるように翻したそのカードには、ソウゴもよく知るライダーのバストアップ姿が描かれていた。
〈KAMEN RIDE GEIZ!〉
カードを装填すると、ディエンドはふたたび銃口からプリズムを撃ち出した。
消えたはずの友の姿が、虚像としてのゲイツが現れ、どこか機械的な気を吐くと同時にジカンザックスを手に攻めかかり、みずからのアナザーと武器を打ち合い、肉薄した。
ソウゴは驚き、そして呆れた。
あえて彼の虚像を喚び出した理由はおそらくは嫌がらせ、意趣返しといったところか。だがまさか、ゲイツの影法師までも自身の力として手に入れていたとは。
これでこの空間にはこの偽ゲイツと、アナザーゲイツ、そして別の時間軸のゲイツがいることになる。
「まるでゲイツのバーゲンセールだ」
ソウゴは思わず呟き、言った後で苦い顔を作った。
冗談のつもりで言ったわけではなかったが、もしそうだとしたら笑えないにもほどがある。
「あっちの世界は任せて」
ソウゴはあえて虚像のゲイツにそう言った。だがそれをを介して、自分たちのゲイツと、この世界に残すもうひとりの友へと向けた言葉だった。
そしてソウゴは、自分が目指すそれとは異なる『2068年』に背を向け、心の内で別れを告げた。
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episode4:そして来る星海0000(5)
来海ライセは、現とともに夢を見る。
……いや、今となってはどちらが夢でどちらが現実なのか。或いは自分にとってはどちらも紛い物なのか。
今、ライセの意識は知らぬ未来に在ると同時に、みずからの内に広がる虚無の世界で青年たちと向き合ってもいた。
「分かったんだ。彼が来たことで、俺たちが何なのか、そしてどうしてここに来たのか」
彼ら四人の代表として、蓮太郎が口を重く開いた。その視線に先には、少し外れたところにいる堂安主水の姿があった。
「俺たちは、記憶が抜け落ちていた訳じゃない。逆だったんだ」
「つまり俺たちこそが、記憶だった。ミライドライバーによって収拾されたライダー達の戦闘データ。そこに混じる、彼ら自身の記録が形を成したもの。それが、俺たちだ」
レントが言いにくそうにしているところを引き継いだ。
主水は腕組みしながら、あとの説明を付け足した。
「俺は自分の知恵で戦うライダー。つまりは、戦いの大部分は俺自身の記憶で、だからこそ記憶の大部分をこちら側へと持ってこられたってわけだ」
もはや、何も言われてもライセの心が動くことはなかった。だが、死んだような、凪の海のような彼の内で唯一浮き上がっていた小石のようなものが、砕ける音を彼は確かに聞いた。
「ちょっと待てよ、つまり僕たちはコピーされた偽者ってことか!?」
「偽者じゃない、一部だよ」
「同じことだろ!?」
勇道が一般人的な意識をもって喚き立てるおかげで、どこか冷静になれている部分もあった。
「別にどうでも良いよ、もうなんだって」
そう言って、彼らの前をライセは横切った。
「なんでも良いって、こっちは良くなんてないぞっ、おい!」
憤慨する好敵手を蓮太郎は背後からそっと押さえつけて、場の空気を濁すことを防いだ。その上で、彼は尋ねた。
「それで、お前はこれからどうするんだ?」
本当は、ひとりでも行くつもりだった。打ち明ける必要も感じなかった。
それでもあえて、ライセは渦巻く星屑の前で立ち止まって答えた。
「ギンガの力を、モノにする」
たしかにギンガの存在が、自分の中でなお息づいているのを感じていた。
だが、ウォズという男にウォッチをねじ込まれてからずっと、異物感が拭えないでいる。おそらくは非正規的な方法で手に入れた力であるからだろう。このままでは他のライダーのように、十全に力を発揮できる感触がない。
あの、世界を食い尽くすような膨大なエネルギーを扱えるようになれば、あるいは現状を打破できると考えていた。あるいは、元凶たる『
それが本当に効果のあることかは分からない。だが今のライセにはそれしかなかった。
自分がめちゃくちゃにしてしまったこの世界に対する贖罪。それが、今の自分が赦されている唯一の存在意義だと、信じていた。
「あんたらが偽物か本物かなんて関係ない。短い間だったけれど、今まで俺と一緒に戦ってくれた。あんた達は、俺の」
言いかけたことを、言いたかったことを、彼は口を一時閉じて飲み込んだ。
そのうえで、彼らにいぶかしまれないように別の方向へと逸らして言った。
「――俺の、被害者だ」
軽い吐息めいたものが、誰かの口から漏れた。
「頼む資格がないことはわかっている。それでも、どうか最後まで力を貸してほしい」
顧みて、頭を下げる。
最初は当惑を見せていた四人ではあったが、すぐに精悍な戦士の貌となって、強くうなずいたのはその肉体同様に強固な精神性を持つ男、真紀那レントだった。
「俺たちは仮面ライダーだ。元々、世界と子どもたちの未来を守ることに身を捧げることに、ためらいはないな」
そう言って、ギンガの座すであろう空間へとつながる星の門へ、ライセの脇をすり抜けて進んでいく。
続いたのは意外にも、今生勇道だった。
「ええぃ、こうなりゃヤケだっ!」
と、声を上ずらせて眉目秀麗な顔を両手ではたきややぎこちない歩き方で流星群の中へと吸い込まれていく。
となれば、残っていたのは二人だった。彼らも世界の危機を前に足をすくませるような人間ではない。きっと賛同のうえ、門へと向かってくれる。
「お前は、それで良いのか?」
……そう、ライセは思っていたのだが。
堂安主水は、彼の前に立っていた。
「今の俺には、いや俺たちには何もない。だがそれでも、俺は親父の生きている世界を、今この時をマトモにしたい。だから自分が消えてもウォズに協力した。だがお前が目指すものは、一体なんだ? 誰にとっての何になりたいんだ?」
老いた彼同様、すべてを見通すかのような澄んで理知的な眼差しを注ぎ、神妙な調子で尋ねる。
「そんなこと……何もない俺に答えられるわけないだろ」
対するライセが返せるものは、冷たく乾いた笑いでしかなかった。
「……そうだな。今のお前に出題したところで、どうしようもないか」
そっけなく言い放った主水は、何事もなかったかのようにギンガの待つ空間へと足を踏み入れた。
勝手に入り込んで勝手に尋ねておいて、勝手に納得して議題だけを残して勝手に先に行く。
元の人格も大概に一方的だったが、どうやらそれは歳は関係なく元々の性分らしい。釈然としないライセの肩を、横に並んだ蓮太郎が、軽いタッチで叩いた。
「最後まで見届けるつもりなんだよ。俺も、あいつらも。だから色々と気を揉んじゃうんだ」
咎めることもせず、ライセが拒んだ問いかけを追及することもせず、ただいつものように、少し緊張感に欠ける明るい調子で言って笑いかける。
「じゃあ、行こうか」
と蓮太郎に促されるままに、ライセは自分の中に眠る規格外の存在を目覚めさせるべく、その空間へと足を踏み入れた。
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episode4:そして来る星海0000(6)
星の渦をくぐった先に広がっていたのは、まるでどこかの惑星の採掘場のような、荒涼とした山肌に囲まれた窪地だった。
その岩盤に埋もれるようにして、かの仮面ライダー、ギンガは眠っていた。
朽ちたような色合いと、枯れ枝に絡め取られた、見るも無残な姿となって。
その手前まで五人は進み出たあたりで、
「……で、どうするんだコレ?」
端的に言って、尻込みをしていた。
チームきっての知恵者である主水にすがるような目を向けるも、「俺が知るか」と言下に切り捨てる。
不意だったのか故意だったのか、蓮太郎は勇道を後ろから押し出し、勇道は仰天して慌てて引き下がった。
それと入れ替わるように、恐怖心の薄いレントが不用意に触れようとして、あわてて他の三人に取り押さえられた。
「いや、起動させるんだろ?」
「そりゃそうなんだろうけど! こっちにも心の準備ってもんがあるでしょ!?」
「起こしたら起こしたで、どうやってコンタクト取るんだよこのエイリアン」
「エイリアンじゃなくて、エネルギーだよ」
「じゃあなおさら無理だろ!」
出自も時代も違う人間の、様々な声が入り乱れて、愚にもつかないコントじみたやりとりをライセの目の前で、内部で繰り広げる。
(わずらわしい、わずらわしい、わずらわしい)
こだまするその声が、ライセをさらに苦しめるとも知らず。
果てなく『無』である自分の心が、窮屈に感じるほどに。
コピーされただけの、ないはずの心が動くように感じてしまう。それがたまらなく……嫌だった。
素直に諦めさせて欲しいと、思う。
「無理だな、『それ』じゃギンガの力は引き継げない」
背後からかかった声に、一同は驚いて振り向いた。
ライセでも、まして他の四人でもない、第六の男の声。
マゼンタ色のシャツにスーツ、その前にトイカメラを提げた男が、異物でありながらごく当たり前のように、ライセ達のような特異な存在しかいないはずの空間に居合わせいた。
「力の継承には意志が要る。それはもうただの出がらしだ」
唖然とする四人をレンズに収めてパシャリと一枚。軽めのシャッター音とともに写し取る。
「あ、あんたは……!?」
ライセは問いかけて思い起こす。
ソウゴのいたビルまで自分を誘導した男。恰好が違っていたから一瞬わからなかったが、その傲岸不遜な物言いとふてぶてしい表情は見忘れようがない。
「通りすがりの仮面ライダーだ。別に覚えなくていいぞ」
ライセの問いかけを受けて一応名乗っているつもり、なのだろうか。
仮面ライダーの一人であること以外は一切謎に包まれたその男は、
「ひとつの時代の節目、その歴史を総括するライダーが決まって現れ、力の使いどころを問われてきた」
と、人差し指を天へと立てながら、彼らを追い越し、手で後ろへと追いやってギンガへと近づいた。
「ある者はすべてを破壊し、ある者は自分の大切な者のために生と死とをひっくり返そうとし、そして今もうひとり……は聞くまでもないが、お前はどうするつもりだ? 来海ライセ。自分より先の時代を統べるライダー。本能に従いすべてを無に帰すのか? それとも……」
ライセに高く伸びた背と、涼やかな横顔を向けながら問いかける。
問い、またも問いだ。いったいこの仮面ライダーたちは、空っぽの自分に何を求めているというのか。
「それを、『あいつ』も知りたいそうだ」
答えを待たずして、男はギンガへと歩いていく。否、その間に生じた灰色の障壁が打つ浪の中へと消えていく。
「だから、
その彼と入れ替わるように、何者かの影が、この荒地へと侵入した。
次の瞬間、暴風が生じた。熱波が、ライセたちの恃みとしていたギンガの残骸を消し飛ばし、そして彼ら自身を数メートル先へと吹き飛ばした。
巻き上がった砂塵の芯に立っていたのは、ひとりの男だった。
銀色と濃紫で紡がれた、材質不明のロングジャケット、分厚いブーツ。それらは経年と積み重ねによって擦り切れていて、彼が経験した途方のない旅路を、初見のライセ達にも強く物語っていた。
ばさばさと黒い蓬髪をかき乱し、そのうえで、跡形もなく穿たれたギンガの痕跡を鼻で嗤い、そのうえで上半身をねじるようにしてライセ達を顧みた。
「てめぇか。俺たちを飲み食らおうってのは」
乱暴な口調だが双眸は無垢な少年のような光をたたえ、引力めいた強さを感じさせる。
「な、なんだあんたは……!?」
思わずそれに呑まれそうになりながら、ライセは尋ねた。
その問いを待っていた、といわんばかりに、若さと少壮の狭間にいるその男は唇を歪め、そして開いて答えた。
「来海、
自分と同じ響きを持つ、その名前を。
「もう一つの名は」
唖然として凍りつく彼らの前で、彼は円形のプレートを腰から引き抜いた。
それを押すと、放出された光がさながらプラネタリウムのように無数の星々や、巨大な太陽となって天に広がった。
それぞれが放射する煌めきは乱反射し、集合離散を繰り返しながら、男の腰回りに落ちてきて、それが黒いベルトをデザインし、かつ物質化した。
「変身」
手にしたプレートを一度大きく突き出して頭上を周回させ、流星のような軌道を描いて腰のバックルに重ね合わせる。
〈ギンギンギラギラギャラクシー! 宇宙の彼方のファンタジー!〉
惑星群が落ちてくる。太陽を中心に渦を巻きながら、磊星と名乗った男のもとへ。
男がそれに飲み込まれた。いや、逆にそれを取り込んだ。
その衝突の余波がライセたちに直視を許さない。思わず一瞬目を瞑った彼らの目蓋を、熱と光が炙る。
それが引いて目を開けた時、すでにその力は、姿は磊星の支配するものとなっていた。
宝石質の目、妖星閃く紫のスーツ。アンテナのような触覚。
マントやいくつかの装飾、ハットの鍔のような円盤こそないものの紛れもなくその形状は……
「燃える太陽、無数の惑星。遥かな宇宙は俺の庭」
口上とともに手を大仰に動かし、そして彼は改めてそのライダーの名を、そして自身のもう一つの名を、ハウリングの効いた得意げな声調で挙げた。
「仮面ライダーギンガ、ここに創世」
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episode4:そして来る星海0000(7)
「ライセ、あいつは」
「あぁ」
蓮太郎が言いかけたことを、ライセは先回りして頷いた。
信じがたいことではあるが、おそらくは、並行世界……ソウゴの世界でもゲイツが勝利した世界でもない、もうひとつの世界からやってきた仮面ライダーギンガ。
その力を手に入れ、正当に自身のものとした、来海磊星という人物が、今目の前にいる存在なのだろう。
ソウゴの友人が死ななかった可能性の姿なのか、あるいはまったくの別人なのかはともかくとして。
そのギンガに変身した彼の姿が、にわかに消えた。
刹那、激しい痛みがライセの腹部を直撃した。
転がる身体。大きくブレる視界。その前で、ギンガが一度突き出した拳をゆっくりと引き戻している最中だった。
「い、いきなり何を……?」
「おいおいおい、ちょっと撫でただけだろ。」
よろめきながら立ち上がるライセにギンガはうぞぶいた。
「――もっとも、この程度でヘバるような軟弱モンに、俺の力はやれねぇがな」
なおふてぶてしく言いつのりながら、みずからの『贋作』へと磊星が歩を進めていく。
その間に、蓮太郎たちが駆け寄り、立ちはだかった。
「……お前ら、自分が何してるかわかってんのか?」
帽子を上から押さえつけるような仕草をしながら、磊星は四人のライダーたちに追及した。
「そもそも、そいつを殺すための力がこのギンガって話なんだろ? だったらこのままこの俺が倒したところで問題ないじゃねぇか」
粗野なようでいて、彼は物事の要点を掴んでいた。そのうえで正論をまっすぐぶつけてきた。
そうだ、とライセはまだ言葉を発せられずとも肯定する。
だが自身の存在に対して揺らぐ彼と、ギンガの間に立つ四人のライダーが、納得して退く様子はなかった。
「違う……俺たちはそんなことのためにお前の力を使うんじゃない」
「はっ、じゃあなんだってんだ」
「決まってるだろ!」
嗤うギンガに啖呵を切って、蓮太郎は銀色に光る瓢箪を取り出した。
「ライセの心も救い、世界も救う……そんな正しい力の使い方をするためだ!」
蓋を開けて溢れ出た流動体が彼の腰で輪を作る。ベルトを形成する。
他の三人もまた、各々の手段でベルトを自身の腰へと転送していく。
ミライドライバーをベースとする黒鉄の変身アイテムに、今までライセが用いてきたデバイスを当てていく。
回す。嵌め込む。スライドさせる。
〈誰じゃ!? 俺じゃ! 忍者! シノビ、見参!〉
〈踏んだり! 蹴ったり! ハッタリ! 仮面ライダーハッタリ!〉
〈ファッション! パッション! クエスチョン! クイズ!〉
〈デカイ! ハカイ! ゴーカイ! 仮面ライダーキカイ!〉
虫のマシンからアーマーのパーツが射出される。
その合間を紫電がすり抜け、○×のパネルに反射される。
それぞれのアクション、各々に手足を舞わせ、別々の音曲を奏でる。
だが異口から放つのは、
「変身!」
という、決意を込めた同じ音。
仮面の戦士の姿となった彼らは、四人並び立つ。
だがその列に、ライセはいない。
その力がない。資格がない。自分が一方的に収奪してきた能力と姿は、今彼らの元に戻り、彼に残されたガワは、来海ライセの写し身のみ。ただ立ち尽くし、傍観するよりほかなかった。
「悪いが、ライセは消させない。その力を貸してもらう、そのためにアンタに認めてもらわなくちゃいけないというのなら……俺たちが相手になる」
彼らの総代として進み出たシノビが、強く宣言する。
ギンガは肩をすくめるようにして笑った。
「面白ェ。そこの腑抜けをただ潰すよりよっぽど楽しそうだ」
「はっ! そんな強がっても、外で戦った奴よりもグレードダウンしてるのが外見でバレバレだってーの!」
挑発にあえて乗る形で果敢に先陣を切った……もとい無謀な独断専行に奔ったのは、ハッタリだった。
逆手に構えた刀で斬りかかった彼を、ギンガはその場から一歩も動くことなく微妙な重心移動と手による捌きでいなし、つんのめった勇道に強烈なカウンターパンチを見舞った。
その一撃は、音だけで、ハッタリの悲鳴だけで強烈さを他者に伝えるのに十分過ぎた。
シノビは足下に転がるように押し戻されたハッタリを介抱しながら声を飛ばす。
「油断するな、初手から一気に畳みかけるぞ」
シノビは印を結び、我が身を立て直したハッタリもまた、同じように技巧の指捌きでそれに倣った。
「火遁の術!」
「水遁の術!」
〈ストロング忍Pow!〉
シノビたちの口元と手の合間から吐き出された炎が、水流が、ギンガへと当てられる。
一対多。だがそれを、磊星が卑怯だと非難する様子はない。
彼自身が、ライセやライダーたちが、そして一度当たってみた勇道が、感じていたことだ。
ギンガこそが、ここにいる誰よりも最強の存在なのだと。
それ以外が結託して総攻めをかけて、ようやく抗し得るのだと。
現に、自然エネルギーを利用した彼らの忍術が、ギンガに通用している気配はない。
だがそれも計算のうちだ。彼らの合体攻撃は左右にクイズとキカイが展開するための牽制であると同時に、彼ら自身の布石でもあった。
「今だっ、蓮太郎!」
勇道が水攻めを続行しながら鋭く指示した。
「はっ!」
〈メガトン忍Pow!〉
気炎一声。
蓮太郎は刃を大きく旋回させて竜巻を引き起こした。
だがその嵐の中でも、ギンガは悠然と構えている。
それで良かった。忍者たちが変化を起こしたかったのは、彼自身ではなくその周囲だったのだから。
炎熱と衝突したハッタリの水流は、蒸発した。それが風によって巻き上げられ、塵と一体化すると色をつけて天へと登っていく。
やがて現れたのは、空にかかる大きな雲だった。それこそ、この空間にも存在する太陽を覆い込むほどに。
火と水、そして風。
三位一体の合成忍術をあえて称するならば、さながら雲遁の術といったところか。
陽光を失えば、ギンガは弱体化する。
その事前知識を得ていたからこそ、あえて示し合わさずとも四人はその作戦を遂行出来た。
〈ファイナルクイズフラッシュ!〉
〈フルメタルジエンド!〉
タイミングを合わせて、キカイとクイズが必中必殺の体勢に入る。
だが、ギンガは直立をしたままだ。
やはり太陽光を遮られて移動能力さえ奪われたのか。そう思うのは容易だったが、妙な胸騒ぎをライセは覚えた。
「……そんな太陽を消せば、どうとでもなる? そんな風にはなるかよ」
そしてその予感は彼が制止するよりも早く現実のものとなった。
ギンガの胸のキューブが燦然と閃く。光の宝珠が生み出され、その眩さに直近にいたシノビ達が目を背けた。
だがライセにはそれが不思議と見て取れた。ギンガに起こった変化が。
その光の球……小型化された太陽は円盤状に平たく変形し、ギンガの頭へと収まった。さながらハットのように装着されると一度、一際大きな光輝を放った後に全身のスーツの下地とともに朱色に変色した。
迸る熱波が、地面を焦がし、チチ、と鳥のさえずるような異音が立った。
〈灼熱バーニング! 激熱ファイティング! ヘイヨー! タイヨウ! ギンガタイヨウ!〉
本人の豪放な性格に見合った派手な意匠に派手な音声。
揺らめく炎のごとき帽子の鍔を摘みながら、来海磊星は得意げに言い捨てた。
「何故なら、この俺自身が太陽だからなァ」
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episode4:そして来る星海0000(8)
ギンガの姿が赤く塗り変わった。
力が変わった。その質が、方向性が、在り方が、基とする要素が変わった。
それはライセのみならずその場にいたライダー全員が察しえたことで、示し合わさずとも彼らは総攻撃を一瞬見合わせた。迂闊な攻勢がどのような結果を生むか、分からなくなったからだ。
だがそのその時間的な空白は、そのギンガ……タイヨウにとっては好餌だった。
彼はおもむろに右腕を持ち上げた。指をキカイに立てて向けた。
攻撃か、と身構えるレントだったが、あくまでそれは意志表示でしかなかった。
――まずは、お前を、叩きのめす。
というたぐいの。
ギンガが靴底で地を叩いた。それだけで、トン級の爆薬でも刺激したのかというぐらい爆ぜ、地がめくれた。
その爆発を推進力に換えて、ギンガは一瞬にしてレントの懐に潜り込んだ。
強打。強打。強打。
さきほどの、余裕のある手捌き、剛を制する柔拳とカウンターに主体を置いたスタイルから一転、爆炎をまとった剛腕は重量感を持つキカイの機体さえも浮かび上がらせ、そしてふたたび地に着く前に何発も熱拳を叩きつけていく。
一度大きくしならせた最後の一撃が、レントを果てまで吹き飛ばした。
一瞬にして耐久力を奪われたキカイは、再起をみずからに促しながらも激しくスパークを迸らせていた。
彼を救援するべく三方より駆け付けるライダーら。その中心点で、ギンガが自身のバックルにタッチした。
〈ダイナマイトサンシャイン!〉
ことさらに陽気な音声とともに、彼は大地を足蹴にする。
その爪先が触れた先から、土も石も朱色のマグマとなって融けていく。その融解は留まることを知らず、さらがら蛇のようにしなり、円弧の軌道を描きながらキカイの足下まで迫った。
冷気で懸命にガードをしようとするレントの抵抗もまるで通じず、溶岩の中に脚部が沈む。冷えて固まり、動けなくなる。思い切り疾走し、並べた両足でキカイに宇宙の熱を取り入れたキックをレントへと直撃させた。
太陽を模したエナジープラネットで包みこまれたレントは、機械の肉体と強固な精神を持つはずの彼が、断末魔をあげ、そして大きな爆発の起点となった。
その安否も定かならないままに挑んだのは、堂安主水だった。
咄嗟の判断ゆえか。いち早く必殺技のシークエンス解除して次に備えていた彼が、不意打ち気味に攻撃を仕掛けたのだ。
だがくり出された正拳をこともなげにいなし、ギンガは彼と組み合った。
力比べでは押し負けそうになりつつ、主水は自身の得意分野……すなわちクイズ勝負に持ち込むべく、問いを発した。
「……問題ッ! 地球から冥王星までの距離は……」
「四十八億キロメートルだ。ちなみに到達した探査機は『ニューホライズン』、2015年7月14日」
「なっ……! こいつ、まさかバカじゃない……!?」
……否。発しようとして、出鼻を挫かれた。
磊星が事もなげに提示したキーワードの中に、正解があったのか。
先読みされて答えられたクイズは、その続きを言えず愕然とした。
「サービス問題を出してくれたお礼だ。……
ギンガはふたたびバックルを押した。中からはじき出された八色の光球、
〈水金地火木土天海! 宇宙にゃこんなにあるんかい! ワクワク! ワクセイ! ギンガワクセイ!〉
ギンガの周囲で高速で回転するそれが、一反の外套を織り成す。肩にそれがマントとして打ち掛けられると同時に帽子は火の粉を散らして消えて、アンダースーツは星が瞬く群青の色に。
体勢を素早く立て直した主水だったが、ギンガのフォームチェンジと追撃の方が速かった。
蜂のように迫る膝が、クイズの脇腹を鋭く突いた。
起き上がりかけたその身体を抑えつけ、悶絶させながら、空いたその手で三度目、バックルを押す。
〈ストライクザプラネットナイン!〉
必殺にして万端の準備が整った彼は、主水を宙へと向けて蹴り上げた。
引力のまま落下するかと思ったその身体が、何かに縫い付けられたかのように固着する。
クイズの眼前では八つの惑星が直列に並んでいて、ギンガとの中間を埋めていた。
宇宙のエナジーを軸足のバネとして飛び上がったギンガが、天体を模したその球体をくぐり抜けていく。
一星をくぐり抜けるごとに、そこに内包されたエレメントを飲み食らっていく。力を増し、速度の高め、神秘的な輝きを放ちながら、身動きのとれないクイズの身体をキックで穿ち抜いて散華させた。
――それぞれに、出自も時代もバラバラ。得意とする領分も違う。
それでも万全を期して、暗黙であるものの十分な連携のうえにギンガを取り囲んだ。
だが異空の果てより飛来した仮面ライダーは、その攻勢をものともせず正面から打ち破った。包囲のうちの二角が潰された。
もはや組織的な対抗、いや抵抗さえも難しい。
音もなく、浮遊感とともに地に舞い降りたギンガに、散発的な攻撃は直視せずとも跳ね除けられていく。適当な感じで残る忍者たちを太刀筋をさばきながら、ライセを見つめ、そして近づきつつあった。
「どうした、変身しないのか? お友達に守られてばっかか?」
そう揶揄しながら知れ切った答えを待たず、マントのかかった肩をすくめて見せる。
「まぁ、出来ねぇよな。お前空っぽだもんな」
「……お前に、何がわかる?」
「分かるさ」
かじりつくように飛んできたハッタリを片足のみで叩きつぶし、何事もなかったかのように踏み越えて、なおもギンガは進撃を止めない。
「俺は宇宙を旅して今まであらゆる星系、あらゆる人種、あらゆる生物の『仮面ライダー』を見てきた。そしてスケールの差、文明の違い、そう言ったものは数あれど、ただひとつ共通して言えることがある」
ギンガは一度足を止めた。いや、これ以上進む必要もなかった。
おのれの射程距離に、いや手を伸ばせば触れられる位置に、すでに彼は居た。
「それは、『仮面』も自分の貌のうち、ってことだ」
他と比べればシンプルな部類に入るマスク。それをツルリと撫で上げながら、磊星は言った。
「仮面ライダーとしての姿ってのは、力ってのは、それを求めるだけの何かがあったから手に入れるもんだ。たとえそうでなくたって、使い続ける意義があるから俺たちは仮面をかぶっている」
乱暴にうそぶくギンガだが、妙な説得力を持っていた。そして、ライセにも覚えがあるから共感する。
『忍と書いて刃の心、仮面ライダーシノビ!』
――自分が身に着けたものに対する、想い。
『救えよ世界、答えよ正解』
――誰かのために自分はそうあらねばならないという、覚悟。
『鋼のボディに熱いハート! 仮面ライダーキカイ!』
――世界がどう歪もうとも自分だけは変わらないという、意志。
『燃える太陽、無数の惑星。遥かな宇宙は俺の庭』
そして、果てなく拡大する野望や自我でさえ、自分がその力に見合ったライダーたらんとする、気宇だ。
「一目見てわかったよ。あぁこいつには、そういうモンが何もねぇんだなって」
指摘されて、俯く。
悔しいが、否定する材料さえ一片も今の自分には残されていない。
「だがそれで良い」
ギンガは声を転がすようにして笑いながら、意外にも肯定した。
「無から有が生み出されることがあるのか? ブラックホールの先に広がるものは本当に無だけなのか? 俺はそこんところに興味がある。だからここに来た。だからそうして何もできず悔しいと思ってんなら、根性見せて何者かに成ってみせろよ」
人の気も知らず、自身の願望ばかりを押し付けてくる。
だが、促されたところで、煽られたところで、沸いてくるのは悔しさを上回る虚無感だけだ。見え透いた挑発ではあるものの、磊星の言葉はライセにとっては真理だった。
自分には何もない。この姿も、力も記憶も思考も上っ面だけの借り物で、それが引きはがされた今となっては、動くことさえままならないただの木偶だ。大人しく、消えることだけが、自分の願いだ。
「そうか」
磊星は沈黙を、自身の願いに対する否定と受け取ったようだ。
だが怒りはない。徒労と考えているフシもない。
「じゃあ、死ね」
ただ彼の言葉には、ライセの脳天へ向けて振り下ろされた必殺拳には、足を引きつって死ぬのを待つ虫を見下ろすかのような、無常な響きがあった。
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episode4:そして来る星海0000(9)
鉄の音が聞こえる。刃が、枯れた目のその先で紅の火熱を散らし、ライセの向く先を照らして示す。
シノビの逆手に構えた刀が、下から支えるようにしてギンガの拳を受け止めていた。
本来は力で競り合うライダーではない。前線に躍り出て、真っ向から強敵の攻勢を受け止められる特性はない。
それでも彼は、神蔵蓮太郎は。
刀と呼ぶには尺度も厚みも欠けたたった一筋の鉄に渾身を注ぎ、魔人の拳圧を受け止めた。
「蓮太郎……」
名を呼ぼうとする。今まで一度も、呼んでいなかった、彼の名を。
「ライセ、こいつの言うことは……間違ってるッ!」
そう強く断言するや刀を翻し、ギンガの胴を狙う。
だがその太刀筋は難なくかわされる。それでもライセから彼を引き離すという蓮太郎の目論見は成功したことになる。
「ほう? 何をどう間違えたってんだ」
〈ストライクザプラネットナイン!〉
ギンガワクセイが再度ベルトを叩く。
シノビもまた、メンキョカイデンプレートを回転させた。
〈フィニッシュ忍Pow!〉
そして蓮太郎はみずからを紫の光弾として射出した。
だがそれはギンガを打ち破るためではなかった。それだけの力はない。そう判断したであろう彼は、攻撃ではなく、回避のためにそれを用いた。
星の列が、不規則な弾道を描いて紫の旋風を追う。
「こいつはっ、お前に何もないと言った。けどそれは違うぞ! ライセッ」
磊星の問いかけは無視し、あくまで蓮太郎はライセに向けて言葉と誠を尽くす。
「たしかにお前は力も姿も記憶もっ、誰かからの借り物かもしれない!」
逃げるシノビに追うギンガ。その速度はすでに佳境に達し、姿はすでに肉眼ではハッキリと捉えることはできなくなっていた。
「――けど、ここまで歩んできたのは、お前自身だろっ!」
それでも振り絞られた彼の言霊は、ライセの耳に、心に届く。
「本物の俺たちや来海ライセ、常盤ソウゴに較べれば、一瞬のことだったのかもしれないっ! とるに足らない一歩だったのかもしれない! けどそれでも、その一瞬はお前の必死に生きた証だ、その一歩は、俺たちの旅だ!」
砂砂利の上を滑るようにして後退したシノビは、そう喝破する。
その彼に対し、星の陣列は直線的な追尾を止めた。分散する。点での突撃を止め、自分たちが降り注いで面による爆撃に転ずる。
爆熱に、シノビの全身が飲み込まれる。
爆風が爆風を吹き飛ばし、互いに対消滅するかたちで炎が消えた。そこにはシノビの影も形も残らなかった。
灰塵となって消し飛んだ。
――否、ひとひらの木の葉が、足を止めたギンガとライセの合間を、爆風に煽られ舞い踊った。
〈カチコチ忍Pow!〉
霜が地を奔る。凍結がギンガの脚を縫い付ける。
その氷遁の術を繰り出したハッタリの許に、奇術でもって敵の攻勢をすり抜けたシノビが降り立つ。
「たとえ存在がハッタリだって構うもんか! 自分自身で、マジにしちまえっ!」
ハッタリがいつになく勇ましくうそぶく。
その名の通り、勇ましく、自身の信じる正道を往く。
しかし、そんな彼を哂い、ギンガは自身の脚力を恃みに強引に氷を引きちぎろうとした。
その背に、さらに冷気が吹きかけられた。凍結はさらにその膝にまで達し、拘束を破らんとしたギンガの動きをさらに鈍磨させることになった。
「子どもを助けたお前を動かしたのは、肉体を持たない俺たちや本物の来海ライセじゃなく、お前自身の心だったはずだ! だから、俺はお前を信じることにした!」
起き上がったキカイが、ギンガを挟んで向こうにいた。
立つのもやっとという体で、それでもなお、突き出した掌から冷気の波動を放出し続ける。
「しゃらくせぇっ」
気炎の一吼とともに、ギンガは星弾をキカイへ向けて飛ばした。
「問題ッ」
そこに、青と赤を両側に備えた人影が、割り込んだ。
「堂安主水は来海ライセを信じる。○か、×か?」
主水は、そんな問いかけとともに
「なにっ……ぐわっ!?」
攻撃が×を通過する。不正解と判断され、ギンガの身体を稲妻が打った。
「とまぁ、そんな具合だ」
クイズのスーツは傷のついていないところはないほどの、文字通りの満身創痍の体だった。それでもクールな佇まいを崩さず、腰に手を当てたまま。
「お前はたとえ絶望的な真実を突きつけられても、それから目を背けずに受け入れた。俺たちのこともな。……まぁ、格好はつかないしみっともないったらありゃしないが……だからこそ俺たちもお前を認める。その傷も涙も隠したいのなら、それこそお前自身の『仮面』をつければ良い」
変形したシンボルをベルトに再セットし、クイズは飛び上がった。
シノビが、ハッタリが、キカイが、それに続いた。
〈セイバイ忍Pow!〉
〈ファンタスティック忍Pow!〉
〈ファイナルクイズフラッシュ!〉
〈フルメタルジエンド!〉
「だからライセ……俺たちは、お前の心を救うっ!」
異口同音。一心同体の彼らはそうライセに檄を飛ばし、己を飛翔させる。
今度こそ、四方から一挙して、必殺のキックを、それぞれの渾身のエネルギーを注いで叩きつける。ギンガ唯一自由の利く両手を伸ばし、その掌から障壁を展開する。
だが一層、もう一層と彼らはその一撃に賭けて突き破っていく。
やがてギンガの出力にも限界が来たのか、最後の一枚も穿ち抜いた。
そしてギンガに直撃を喰らわせる……
「『ギンガファイナリー』」
――そうなる、はずだった。
ギンガを呑み込む妖星の輝きが、最後の反撃も跳ね除けた。
そればかりか、翻されたマントから迸る棒大な熱量が四人のライダーを瞬く間に飲みくらい、一瞬にして、今度こそ確実に蒸発させた。
紫色のスーツ。惑星の環にも似た銀色の帽子。星の外套をまとっている。
現実世界で見たギンガとまったく同じ姿が、彼らの視線を釘付けにした。
だが、あきらかに全身に内包された力の度合いが、質が違う。
ギンガファイナリーと、磊星は新たに名乗った。
おそらくそれこそが、真の力。最終フォーム。その呼称のとおり、宇宙の終焉を告げる者。
おそらく今までは狼が恐れ知らずの子犬に吠え立てられて困惑しながら戯れていただけだ。
それを本気にさせた結果、つい剥いた牙は子犬たちをズタズタに引き裂いた。そんな様相だった。
「キバった結果が、これかよ」
自身でも大人気なさ、味の悪さでも感じていたのか。磊星は締まらない口調で首を傾け、息をつく。
そしておもむろに、残敵たるライセを消滅させるべく、掌を突き出す。
〈ギガスティックギンガ!〉
そこに、原始的な闇と光が交錯しながら色を生む。綾を成す。
それは小規模ながらも一つの銀河だった。触れればまず、いかな『無』と言えども消滅は免れまい。
何かを言い残すことも、思い残すことも許さない速さで、ギンガはその力を光線として打ち出した。
だがその光より速く、動く影があった。
ライセの前に滑り込み、刃閃かせた。
〈ビクトリー忍術!〉
シノビ。神蔵蓮太郎。
光輝を帯びた一閃が、自然を応用したなけなしの力が、風が、宇宙の暴流を押し留める。
だがそうしている間にも、手にした忍者刀が軋む。歪が生じ、亀裂広がっていく。
もはや数秒と持つまい。
「あぁ、そう言えばあの磊星は、ひとつ正しいことを言ってたよ」
それなのに。
語りかける口調は平常と変わらず。エネルギーの余波をまともに浴びせ、剥がれ落ていくスーツから、マスクから垣間見えた表情は穏やかで、すぐ自分も他の彼らと同様に消えると知りながら、絶望とは無縁の明るい様子だった。
「ライセ、俺たちは、被害者でも犠牲者でもない」
そう言い切って、大きく顧みて、蓮太郎は照れくさそうに微笑んでみせた。
「俺たちは、お前の友達だ」
それが、最後の
その表情のままに、破滅的な宇宙の力を一身に負って、別れを告げる余地もなく消し飛んだ。
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episode4:そして来る星海0000(10)
そして誰もいなくなった。
唯一残ったのは、最強の宇宙の覇者のみ。数的不利をねじ伏せた勝者に対する玉座や称賛など用意されていようはずもなく、朽ちた荒野が広がるのみだった。
「……やりすぎたか」
磊星のぼやきに答える者はない。むなしく響くだけだった。
だが言葉ではなく、その呆れに手でもって応える者がいた。
「ぁん?」
至近でベルトを掴んで放さない。
脚で地を踏みしめ、唇を噛み、不動の覚悟でもって、彼の力を得んと欲する。
無礼に対する怒りはなかった。代わりに「それもそうか」という奇妙な納得はあった。
何しろ、自分と同じ名を持つこの若者が滅んでいないからこそ、虚無の荒野はなお存在する。
――来海ライセは、まだ偽りの生にしがみついていた。
「ようやく届いたってわけか」
彼らを犠牲にその手が銀河に。
喪って初めて、彼らの想いが心に。
「だが今更どうだってんだ? そもそも、空っぽのお前がどうしてこいつを求める? すでに死んだ者たちの
「――それでも、俺の
言い切った。
いまだその眼底に迷いはくすぶっている。先のことなど定まっていない動揺を見せる。
それでも青年は声を振り絞って全力で答えた。真正面から斬り込んで、ぶつかってきた。
言の葉には、たしかに魂の重みを感じさせた。
「たしかに俺はニセモノだッ、言葉だって記憶だって、別の誰かから譲り受けた! だけど、それでもっ」
来海ライセは受け入れた。自分がまがいものだと。
だが目をそらしたまま諦めるのではなく、過ちを正しく認めてそれでも前進しようという意志を、掴んだままの手から感じ取る。
「俺自身が何も持ってなくても、彼らの見られなかった未来を創ることはできる! その意志を、明日へつなぎたいっ!」
それはライセが腰に巻いたベルトのハードウェアがギンガに反応したためか。あるいは芽生えた意志に感応してか。
磊星とライセの接触面が光芒を放つ。宇宙の力が彼の、もうひとりのライセの手をつたい、ベルトのバックルへと流入していく。その形を、まったく別の性質のものへと変容させていく。
「これは……ッ!?」
磊星は驚愕を隠さず声にした。
「それがっ、俺がただひとつ持てるもの……未来に託す
――それはまさしく、虚無より有が、偽より真が、暗黒より光が、誕生した瞬間であった。
その奇跡を目の当たりにして、肌身で体感し、ギンガはライセと額を突き合わせるようにして快笑した。
「面白ェ! だったらやってみせろ!!」
その高揚に応じてかは推し量るべくもないが、ますます輝度は極まっていく。
その美しさたるや、彼が巡り、喰らってきた星々にも負けないほどのものだった。
彼の心とやらの求めに応じ、その身を変えていく。
シノビでもハッタリでもクイズでもキカイでも、ましてやギンガでもない、独自の姿へと。
その願いが仮面を造る。そのために、友人たちから受け継いだ言葉を今解き放つ。
「変身ッ!」
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episode4:そして来る星海0000(11)
衝突した力が、収斂する。相克した光輝が、姿を変じた青年のもとへと吸い込まれていく。
やがてそれも泡となって消えて、来海ライセの姿に戻った。
掌を裏返し、表返し、自身の
ただ、今まで感じていた所在ない、足下のおぼつかないような感覚はすっかり気配を潜め、あるべきところに、あるべきものが当てはまった、という理由もわからない安定感を噛みしめていた。
来海磊星もまた、ギンガの変身を解いていた。
一度彼と力を巡って衝突したが、ダメージらしいダメージを受けてた様子はそれほど見せていない。
手で袖口を払うような所作で余裕をアピールし、圧倒的な強者の風を見せつけてくれる。
だがその彼が、おもむろに自身のベルトからバックル部分を剥がし、何を思ったか突然ライセへ向けて放り投げた。
「やるよ。面白いモンを見せてくれた礼だ」
あえて多くを語らずぞんざいに、ゲームソフトの貸し借りよりも軽い調子で、今まで行使してきた最強の力をライセへと譲り渡した。
その真意はあえて問うまい。今はともかく、不安定だったミライドライバーの力がようやく最終段階をクリアした。そしておそらく、世界を救うだけのエネルギーを手に入れた。
――そして、自分の在り様を見定めてようやく、それを利用して崩壊を止める手立てが見つかった。
そのことを、今は、喜ぼう。
喜ばなければいけない。そのはず、なのに。
漏れてくるのは喜悦ではなく嗚咽。
浮かぶのは歓喜ではなく慙愧の涙。
心を開き、眼を開くまで、いったいどれほどのものを喪ったのか。
彼らの大切さが、身近から消えて初めてわかった。
仮にもさっきまでの敵の前だと言うのに、こらえきれずにのけぞり、むき出しになった喉を震わせて、ライセは慟哭した。
「蓮太郎ー……っ! 勇道っ、レント、主水ーッ!」
「呼んだ?」
「っておわあああっ!?」
悲痛な嘆きは素っ頓狂な絶叫に転じた。涙も思わず引っ込んだ。
ごく普通に出てきた。
ぞろぞろと虫のように。
先の戦いで散ったと思われた仮面ライダーたちが。
「ど、どうして……」
「どうしても何も、データだからな。お前と一体化した」
自分の命の定義にはまるで頓着していない様子で、レントが応じた。
どれだけ痛めつけられて身を張っても変わることのない、一秒後には磊星さえ巻き込んでいつもの漫才でも始めかねない様子の四人に、ライセは頭を痛めた。
「まったく、こっちはもう会えないかと思って泣きそうだったってのに」
そう嘆いてみせると、奇妙な沈黙が数秒の時をかけて流れた。
「いや、それは間違いじゃないんだ」
その合間にも、答えた蓮太郎の輪郭が曖昧になりつつあった。
彼だけではない。勇道も主水もレントも、そして磊星でさえも。
皆手足の先から、泡に呑まれて消えていく。
それに対する恐怖を表情にも言葉にもせず、ただ静かに受け入れていた。
「……なんだよ、結局……結局消えるのかよっ!」
せっかく分かり合えたと思ったのに。助けられたことへの感謝も伝えていないのに。
一度受けた喪失感からまだ立ち直りきれずにいるのに、そのうえでまた全員が消えるという。
「しょうがないさ」
主水が言った。
「お前は自分の答えを見つけたんだ。俺たちの進む方向とは違う、お前自身の道を。だから、俺たちの援けなんてもう必要ない。そうお前自身が判断したんだ」
「いや、そもそも本来の俺たち全員が、別々の世界、別々の時代で、別々の道を生きてきたはずだ」
レントが言葉を継ぐ。
「それが、今回はたまたま交差しただけのことなんだ。だから、その時が過ぎれば分かれる」
その隣で、メタリックな音のする肩に消えゆく手を置きながら、勇道が複雑そうに笑う。
「まぁ、こんなハチャメチャな連中と組むことなんて一度あるかどうかだけどな。……僕ら、世界が変わったとしてもまた会えるかな? 蓮太郎」
そう心細げに尋ねる『相棒』に、蓮太郎は微笑み返す。
だが、安易な肯定はせず、ただライセに向けて細めた目を向けた。
「それは、がんばり次第ってところだな。俺たちと……ライセのな」
え、とライセは重い声で聞き返す。
自分の道と彼らの道は分かたれたと、今言われたばかりではないのか。
思わず抜けた調子になってしまったその声に、磊星が呆れたように反応した。
「なんだお前、わかんねぇのかよ」
力を奪われ、今消滅に巻き込まれかけているというのに、戦っていた時と変わらず傲然としている。
その度量だけで言えば、宇宙を丸呑みにする王者そのものだ。
「別れるつったって、またいつかつながることだってあるだろ」
「でも、俺は」
ライセは、すべてを無に帰す一方で、時間軸を固定する。相反する要素をもったミライドライバーを核としている。
そのいずれをとっても、一度解き放たれ、分かたれた時間がふたたび結集する可能性は、きわめて低い。
そんな自分がこの先何をしたって、ふたたび時間が交差するだろうか。
「まぁだその程度の認識でしかないのか。半可者め」
馬鹿にしたように磊星は鼻で嗤った。
「いいか、未来ってのは何も見えないってことじゃないし、過去の誰かによって固定されていいもんでもない。そんなもん、クソつまらんだろ」
そのくせ瞳だけは星の光を宿して強くきらめきを放っている。まるで天体に夢を馳せる少年のごとくに。
「未来ってのはな。今を生きる人間の選択によって無限に広がっていく海だ。当然そこには暗礁がある。底なしの闇へ引き込む渦がある。だがそれだけじゃない。ワクワクするような可能性が、秘められてるんだ」
「無限の、海……」
「そしてその中から一つの未来を選ぶことは、それ以外の可能性を消し去るってことじゃない」
そして話は、ふたたび蓮太郎へと戻っていく。彼らの姿は、すでに上半身しか見えなくなっていた。
「ライセ、俺たちもそれぞれの時代を、瞬間瞬間を必死に生きて、戦っていく。俺たちの未来を、俺たち自身の力で切り開く。だからお前も、今この一瞬を必死に生きて、お前の望む未来を、照らせ」
「たとえその未来をお前自身が見ることができなかったとしても、きっとその先の誰かが、お前が照らした未来を進む」
そう静かに言って、主水は、眼を細めた。
きっと彼は、うすうす感づいている。
これから、ライセのしようとしていることに。
崩壊は彼らのみに留まらず、ライセの内部世界全体にまで及んでいた。
きっともう、模倣するだけの空疎な虚構世界はもう要らない。ここも世界のひとつだが、彼らが去ればここはもっと無意味な場所と化す。そう判断した無意識が、そう判断したのだろうとライセは自己分析した。
「さぁ、だからもう行け」
蓮太郎に促されたライセは、彼らに背を向けて走り出した。
その消滅が見たくなかっただけではない。自分が挑むべき現実に、今に、そしてそこからつながる未来を見据えるために、彼は踏み出した。
そしてその成就を信じるからこそ、彼らは多くの激励をライセには与えなかった。
手向ける言葉は、ただ一言。彼の新たな力、戦士としての姿、仮面。
その名は――
last episode:仮面ライダーミライ
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last episode:仮面ライダーミライ(1)
2019年。橋の手前。ふたつの世界の境界。
地に墜ちた『逢魔降臨暦』が、泡に沈んで融けていく。
その痕跡を踏みにじり、際限なく増殖するアナザーライダー、それらに追随する怪人たちが、世界を埋め尽くしていく。
――かくして、その世界に残された人類は、もはや生存さえも諦めていた。せめて自分たちの終焉が苦痛のないものであることを、祈るのがせいぜいか。
ただその世界で唯一の仮面ライダーが、唯一の諦めていない者が、追いすがる怪異の群れの中を突っ切って噴水広場に躍り出た。
〈アーマータイム! Turn Up! ブレイド!〉
他でもない。仮面ライダージオウこと、常盤ソウゴである。
銀と青の騎士鎧をまとった彼はジカンギレードを手に、世界の絶望に抗う。
すべてが虚無に呑まれかけた状況下で、友を信じ、勇を奮い、剣を振るう。
巨大な古生物を思わせる上半身を持つ、同じく角を一本立てた怪物がその行く手を遮った。
アナザーブレイドであった。奇しくもかち合った両者は数号の剣戟を交わし、競り合った。だが振りの速さ、判断力と小回りの利きによって、そのアナザーライダーの攻撃を牽制した。
そして最後、大上段からの振り下ろしが正面から襲いかかった、ソウゴはそれを受け止め、かつ勢いを殺してしのぎ切った。
ソウゴは、ベルトを、そこに取り付けられた二つのウォッチのボタン操作とともに回転させた。
〈フィニッシュタイム! ブレイド! ライトニング、タイムブレーク!〉
ブレイドアーマーの両肩に円弧を描くようにして取り付けられたカード。それらが稲妻を帯びて飛散した。
それがアナザーブレイドと、その後続のローチたちを弾き飛ばして、そして直線の軌道を作り、怪物たちを縫い付けた。
一度大きく腰を沈めて捻り、力を溜め刃を退かせていたソウゴの身体は、射放たれた弓のように敵めがけて突っ込み、重ねられたカードもろともアナザーブレイドほかを串刺しにした。
紫電とともに爆発四散したアナザーライダーだったが、刹那、ソウゴの身体を、重力が倍化したかのような脱力感が襲った。
ジオウのスーツを鎧っていたブレイドの力が泡沫とともに消え、そしてベルトに取り付けられていたウォッチもまたブランクと化して地面に落下した。
――ふたつの世界は、同調している。融合しつつある。
よってどちらかの何者かに変化があれば、対になる存在にも影響を及ぼす。
片方の世界で何かが消えれば、もう片方の近似した何かが、それと紐づけされているがごとく、併せて虚無の深淵へと引きずり込まれる。
『無』によって書き加えられた世界の法則は、ソウゴの手元からレジェンドたちから継承した力のほぼすべてを、想いを無慈悲に奪い去ってしまっていた。
それでも使わずにはいられない。無尽蔵に現れて世界を食い尽くしつつあるアナザーライダーたちを、止めないわけにはいかない。
声が聞こえた。
ソウゴ自身の内から。心の臓のあたりから。地を響かせるような、そして格の違いを相手に直接刻み付けるような、強く低く、威厳に満ちた美しい声。
――王の、声。
『若き日の
声は語る。
王の名は、オーマジオウ。いつか来る、常盤ソウゴの姿。
ジオウであってジオウを超えた黄金の覇王。
ジオウであってジオウであることを捨てた黒き魔王。
『形こそ違えど、それこそが私の見た光景だ。仲間もなく、民はあてもなく救いを求め、あるいは諦め、そして地にて抗い続けるのは己のみ。だがその孤高の道こそが我が王道である。最高最善の王へと続く道程である』
「……」
『それでもなお、お前は消滅した仲間とともに己が望む王道を進むというのか?』
抗弁を許さない、圧倒的な独善に満ちた響き。だがどことなくそこには、案じるがごとき響きを感じるのは錯覚だろうか。
その未来の自分でさえ、時の乱流の前に像が多重にぶれつつあった。書き換えられようとしていた。
だがオーマジオウは、50年後の時の魔王は、その威厳を保ったままに泰然と、無人の領土に君臨し続けていた。
「……最近、なんとなく思うんだけどさ。あんたって実は、ゲイツたちの言うような極悪人じゃないのかも」
『……』
もしかしたら、自ら号するとおり、世界を救った最高最善の王のかたちなのかもしれない。
ひょっとしたら、この響く声自体、追い詰められた自分の空想でしかないのかもしれない。
そう思いながらも、膝につきそうになる我が身を叱咤しながらも、ソウゴは重ねて強く言い放つ。
「でも俺は
それに、とソウゴは体勢を立て直した反動とともに、腕に一個のウォッチを取り出した。
「俺はまだ、全部の力を喪ったわけじゃない……!」
それは、黒を基調としたライドウォッチ。ある意味においては、ブレイドのそれと対になる存在。
〈カリス!〉
ウォッチを回し、鳴らし、空いたベルトのソケットへと装填し、不死者の力を、鎧を呼び起こす。
カマキリのように天を向いた触覚。胸のプレートに刻まれたのは、その慈愛に満ちた持ち主の気高さを示すかのような、無骨に角張っているものの、大きく広いハート。両肩に、左右に分離した弓弦がしなる。
〈アーマータイム! Change! カリス!〉
黒い鎧によって我が身を上書きしたソウゴの両目に、ライダーの名を、そして血液の色を模した瞳が明滅した。
この亜種的なアーマーチェンジは、ただ単純にアナザーライダーたちを駆逐するためだけに使うのではない。
世界が崩壊する運命にも、自身が孤独な勝利者になる宿命にも、屈することなく挑み続けるための力だ。
同じく苦境と絶望を乗り越えて、来てくれるであろう、友のためにも。
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last episode:仮面ライダーミライ(2)
仮面ライダージオウ、カリスアーマー。
その異形の黒鎧をまとった姿を見れば、戦端において消滅したウォズはなんと反応し、祝福しただろうか。このフォームと
その答えが出ないままに、ジオウは新たな力をもって敵陣へと殴り込んだ。
鋭く研ぎすました手刀を左右に旋回すれば、そこに疾風の力が宿り、リーチを伸ばしつつ敵の反抗の軌道を逸らす。
腕力それ自体にも勢いがついて、敵に触れた瞬間爪を立て振りかざせば、どのような装甲でも切り裂いた。
感じる力のままに我が身に念じ、高々と飛翔する。空中で翻し、腰のバックルを回す。
〈フィニッシュタイム! カリス! スピニング! タイムブレーク!〉
パージした肩の双弓が、左右一対の鎌となってソウゴの右手に収まった。
それを地上へと投げつけると、黒い旋風となって敵の一角を切り崩し、掃討していく。
その空いたポケットに降り立ったソウゴを、第二波が歓迎する。
赤と黒の異形の騎士。
アナザー龍騎。
アナザーリュウガ。
相通じる意匠を持つ双竜は、その手に嵌め込まれた竜の
〈クローズ!〉
だがソウゴの方もまた、次なる一手を打つ。
ウォッチを起動させると、龍騎士の甲冑がジオウと怪人たちの間に展開された。
拳を打ち鳴らすポーズをとったアーマーだったが、火球が直撃して飛散した。
――否、破壊されたわけではない。
散ったパーツは駆け出した素体に戻ったジオウのスーツを覆い込む。
青い装甲を熱く燃やす炎の紋様。
肩には二つに割れた横向きの飛龍と、ふたつの青いボトル。
〈アーマータイム! Wake Up Burning! クローズ!〉
ジオウ・クローズアーマー。
今この王道を踏み出すことのきっかけとなった仮面ライダーたちの、片割れ。
その男、万丈龍我の愚直な闘魂を宿すがごとく挑みかかったソウゴの眼前に、接近戦に切り替えたアナザー龍騎が、そしてアナザーアギトが立ちはだかる。
その両者を腕で抱き込むようにして肉弾戦に持ち込んだソウゴは、蒼炎を孕んだ掌底をもって敵を弾き飛ばしていく。
〈フィニッシュタイム! クローズ! ドラゴニック! タイムブレーク!〉
紅蓮を帯びた、のっぺりとした蛇とも竜ともつかないエネルギー体が、腰を沈めたジオウの脚部に
低く飛び上がったソウゴは、その炎脚をもってアナザー龍騎を、そのくり出した曲刀ごと刈り取った。
着地と同時に腰をひねり、背後に迫っていたアナザーアギトを蹴り穿つ。
だがアナザーリュウガは、その余波余熱を、自身の前に展開した鏡片の中に吸い取っていく。
倍化してリターンしてきたその蒼炎が、ジオウの全身を包み込んだかに見えた。
〈アーマータイム! レベルアーップ! ゲンム!〉
だがすでにソウゴがまとっていたのは別の強化装甲だった。
なぜかアナザーオーズこと
しかしそのジオウゲンムアーマーが現れたのは、大火の中からではなかった。
アナザーリュウガの頭上、紫紺の土管が前触れもなく伸びて、そこをくぐり抜けてソウゴはキックを見舞った。
当たる。ダメージが通る。
アナザーリュウガの厄介な点は二つ。一つには反射能力。与えたダメージが即時返ってくるという特性を、この妙な転移能力でしのぎ切る。
もう一つには、基となったライダー自体がすでに消滅した時間軸のライダーであるということ。ゆえに打倒できるのはジオウⅡ以降のフォームとなるわけだが……そのアナザーライダーのルールはこれらには適用されないことは初戦で判明している。
〈フィニッシュタイム! クリティカル! タイムブレーク!〉
着地したソウゴの眼前に、数秒前の自分の胸像、そのキックが迫りくる。
だがそれに対抗するべく伸びた土管の口が、それを飲み込んだ。反対に打ち出された写し身の弾丸が、またもリュウガに打撃を加える。
鏡像が再度生まれ、またそれが土管に呑まれる。
転写、転移、転写、転移、転写、転移……
際限のないループがアナザーリュウガにダメージを蓄積し、やがて爆散にまで至らしめることに成功した。
だが、それでも破滅は止まらない。
雲霞のごとく、物量がひたすらにソウゴを追い詰めていく。
「だったら、これだ!」
〈ナイト! アーマータイム! アドベント、ナイト!〉
蝙蝠の甲高い鳴き声が、どこからともなく聴こえてくる。
風の流れが変わる。ソウゴがその流れに飛び込むと、外殻と螺旋がその身を包み、旋風の力を得る
〈フィニッシュタイム! ナイト! ファイナル! タイムブレーク!〉
完全に取り囲まれる前に、ソウゴを抱く風圧は錐のように鋭く力を増して、敵中を一気に突っ切る。
その軌道上にあってハンマーを振りかざそうとしていたアナザーキバを難なく貫通したが、そこでエネルギーが急速に失われつつあった。
勢い余って横転したジオウの身体から、蝙蝠を意識したデザインのナイトのアーマーが泡となって消滅する。
その反動のように、歪んだ闇の騎士が虚空から浮かぶように像を揺らめかせて現れた。
その『アナザーナイト』だけではない。
アナザークローズ、ゲンム、カリス。
人面人骨を無理やりパーツとして当てはめたかのようなおどろおどろしいサブライダーたちが、虚より浮上して、代わりに自分の力が失われていくのを感じる。
ジオウとして集めるべき枠組みから外れたウォッチであれば、あるいは力は吸収されないのかと思っていたが、そう甘くはいかないらしい。
そもそも、何をどう倒せば良いというのか。
これは企図せず矛盾を孕んでしまった世界が引き起こした誤作動。善悪を超えた滅びの現象だ。
力を行使してもそれに応じて敵は力を増していき、討つべき悪の親玉というものなど存在しない。
――解決するすべなど、どこにも、ない。
その無情なまでの現実を目の当たりにして、心を折らないまでも、膝をつきそうになる。
「これまで、なのか……!?」
思わず独語がこぼれた、その直後だった。
光の波が足元を満たす。
それをゆったりとした足取りでかき分けて、ソウゴの背の向こう側から『彼』が現れた。
――還ってきた。
時を超え、世界の壁を越え、暗い深海の向こう側から。
泡のように淡く、音もなく、柔らかく。
「ごめん。待たせた、ソウゴ」
借り物ではない信念の強さを、確固たる軸のようなものの存在を感じさせる目。
その双眸を細めて、彼は……来海ライセは微笑んでソウゴを守るべく彼の前に立った。
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last episode:仮面ライダーミライ(3)
ライセ。
ソウゴは、自分の近くに現れた彼の名を呼ぶ。
偽りの名。それでも、彼の名前。
優しげに微笑み返した青年は、友へと向けて手を差し伸べた。
もはやそこには自暴自棄になった時の動揺はなく、静かに、だがしっかりと己を見定め、覚悟を決めた男の姿があった。
何があったのか、何を悟ったのか、何を得たのか、何を想ったのか。
細めた瞳を見れば、その手を掴めば、語る必要はなかった。
「ありがとう、ソウゴ」
ソウゴを引き上げたライセはおもむろに礼を告げた。
「本当は知りもしなかった俺のことを、友達って言ってくれて」
ミライドライバーを背の後ろから取り出す。腰に巻く。
「だから、それで十分だ。今、俺の
自身の胸に手を当て、噛みしめるようにライセは呟いた。
それに意気に呼応するかのように、そのベルトのバックルが、奥底の隙間より輝き始めた。
振動する。亀裂が入る。黄金の光とともに束帯はその意匠を一変させ、バックルは粉砕され、内臓されていた基盤が露わになる。散った破片が空中で離散集合をくり返し、球体となってふたたびベルトの前方へと取り付いた。黄金のビスが、フレームが、それを繋ぎ止めていた。
その様相は天球儀。あるいはプラネタリウム。あるいは灯台の明かり。
球体の表層にはいくつものレンズが光り、内臓された色が星光のごとくまたたく。
ライセは戦意とともに前方を睨んだ。
警戒して立ち止まるアナザーライダーたち。いや、その奥に控えた、姿を持たない何者かを。
そして右手をベルトに滑らせて、その中央の天球を回転させた。
レンズから無数の光が放射されて、それが空いっぱいに『窓』を照らし出して浮上させる。
『窓』の奥には、戦士たちがいた。
異なる世界が広がっていた。異なる時代が開かれていた。異なる物語がつづられていた。
シノビ、クイズ、キカイ、そして自分の知らない形状をしたギンガ。
それ以外にも、大勢の、未だ知らないライダーたちが、人類やその自由を守るべく、それぞれの脅威と争っていた。
黄色い水上バイクで敵を翻弄する青いライダー。赤い槍にもたれかかる上下三色のライダー。
ベルトを巻いた黒コートの紳士が見下ろす中、同じ形状のドライバーで変身して無数の機械生命体と戦うドライブに似た黒いライダー。
巨大な眼玉のマシンの支配する世界、今のソウゴたちと同じように孤独に奮闘し、それでも希望と可能性を信じて前に突き進む白いゴースト。
青いデンライナーに乗り、大剣を担ぐ新たな電王。
他にも何人もの仮面ライダーたちが勝敗を、生死を、興亡をくり消して星のように瞬いて消える。消えて再び蘇る。あるいは意志が引き継がれていく。
それらに言葉に尽くせない想いを馳せるように、築き上げたライセの手が空をなぞる。
息を吸う。左手が風を切るようにしてスライドし、球を逆回転させた。魂魄を燃やすような音声が轟く。
「変身ッ!」
万感の思いをその二字に込める。
天上に広がっていた無限の可能性が、光帯となり、鎧となってライセの一身に収束していく。
〈Over hollow me, Follow your future! MIRAI the KAMENRIDER!〉
すべての光の脈を飲み込んだライセの姿は、まるで円筒のようでもあり、それこそ灯台のような直線的なフォルムだった。
首元を詰襟のようなアーマーと赤いマフラーが防護し、頭の左半分を三角帽子を斜めがけにかぶったかのような異形の兜が覆い、その反対側で丸みを帯びた目が黄色く輝く。
「示せ未来、広がれ可能性……照らせ未来!」
突き伸ばした拳を広げ、口上とともに彼は告げる。
「仮面ライダーミライ!」
残酷な真実、欺瞞に満ちた虚な自分。
それらの苦しみを乗り越えてようやく手に入れた、己自身の本当の名を。
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last episode:仮面ライダーミライ(4)
――仮面ライダーミライ。
本来はベルトの仕様にないはずの、どの時間軸にも存在してはいなかったライダー。
その誕生は世界の流れを一変させた。
だがそれは、ソウゴ個人の所感や比喩ではなかった。
実際に、風向きが不自然にうねりを作って変化していく。
地が揺れ、見えない芋虫のようなものが、あるいは透明な波が、彼らの足下をすり抜けていくのが肌身で感じられた。
その流れに、黒いパーツが、禍々しい紫色がつく。
形が作られていく。
「簡単な話だったんだ、ソウゴ」
ライセは、ミライは、その流れの行き着く先を静かに見届けながら言った。
「この並列する世界では対になる存在は互いの影響を受ける。破壊すれば消滅し、消滅すればその反存在が発生し……影響の及ぼし方はさまざまだけど、それは俺
複数形を強調して彼は言った。だがそれはソウゴをカウントしていないかのようだった。その眼差しは、意識は、自分自身と、今まで目に見えなかった何者かに向けられているかのようだった。
「『無』は誕生した衝撃で世界をふたつに分けた。けど、自分自身も分断されてしまった。アバターである『来海ライセ』と、滅びの現象として表出したものへと」
そう説明を続ける最中にも、『それ』はソウゴもよく知る平べったい円形のものへと急速に変わりつつあった。
「けど、『
――それは、一個のアナザーウォッチだった。
〈MIRAI〉
核となって不気味な音声を鳴らし、闇の霧が周囲の領域を閉ざしていく。
その中に囚われた怪人たちやアナザーライダー、過去の遺物を食らってリソースとして、骨格を作り肉を作る。
「対となる現象としての『
それは、自身の手足を、信じられないという調子で、窪んだ眼で見下ろしていた。
幽霊船の船長という塩梅のその怪物は、基本的なフォルムをミライと同じくしながらも決定的に違っていた。
襟首に『----』と表記された、すりきれた外套。ほつれて白く濁ったマフラー。その腰回りには勲章のように手裏剣のようなものやスパナ、クエスチョンマークなどが取り付き、地球を俯瞰したような円い図形はバックルに。
帽子の角度はさらにえぐいものとなり、さながらカタカナの『ム』という文字を歪めたようにも見える。もう半分のマスクはライダーとしてのものではなく、ドクロを模したものであり、大きな裂傷が目元に入っていた。
だが、その眼の奥底は虚無。空である。
みずからの半身であり、歪められた虚像を見せられながらも、仮面ライダーミライは至極冷静に締めくくった。
「――
望まずして肉体を得たことに、『無』は少なからず動揺していたようだった。
だが、その空洞を以てライセを睨み返した。
「そして俺たちはこの世界に打ち込まれた楔だ。そのどちらもが消えれば……俺たちの『母体』は世界に対するアプローチを喪い、世界は元に戻る……!」
「なるほど、お前の狙いは我々自身の対消滅か。世界がそうなる前に」
その怪人、アナザーミライは鼻で嗤うようにして言った。
対消滅。剣呑な言葉を耳にして、ソウゴは進み出た。
しかしライセは後ろ手でソウゴを遮った。
どことなくそのライセのものを似せ、かつ低くした音調でアナザーミライは続けた。
「それが意味することをわかっているのか? 創造主に刃向かうのか」
対してライセは、マスクの奥で笑ったようだ。
「それが、仮面ライダーってもんだろ」
ライセの軽口を無視して、アナザーミライは地を蹴る。
ライセもまた、拳を突き出して飛び上がった。
質量を持たせたすべての元凶へ。
もうひとりの自分自身へ。
この世で唯一無二の、他でもなく自分が立ち向かわなければならない敵へ。
そして、来海ライセは挑みかかる。
――仮面ライダーとしての、最初で最後の戦いへと。
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last episode:仮面ライダーミライ(5)
あらためて書き上げたのでその時のことはどうか忘れてください。
ふたつの未来は、撃ち出した拳を重ねるようにして組み合った。
ライトのように黄色に輝く眼。仮面の奥の虚ろな窪。それが互いを障害と見なし視線を交わす。
示し合わすように、鏡のごとく、彼らの腰が大きく捻られた。
互いの回し蹴りが頭を超え脇下をくぐり抜け、そのポジションを入れ替える。
だがライセの攻めはまだ続く。
極限まで姿勢を低めて水面蹴り、それをかわすアナザーミライを側頭部目がけて、跳ね上がった爪先が飛んだ。
避けられた。だが終わらない。軸足を切り替え、跳躍。独楽のように、あるいは灯台の、海路を照らし出すライトのように、光輝を帯びたその踵がアナザーミライの頭部を打った。
つんのめるアナザーミライだったが、反射的に伸ばした脚が、ミライの胴部を衝き、吹き飛ばした。
開いた間合いを埋めるように、アナザーライダーたちがなだれ込んでくる。
ライセはためらわずにその群魔の中に、飛翔とともに我が身を踊り込ませた。
右を蹴る。
左を蹴る。
そして正中を蹴り穿つ。
宙で三体のアナザーライダーを蹴って昏倒させたミライは、空いたスペースに降り立って正拳を二発、放つ。アナザーダブルの攻撃をその肉体ごと防ぎ止め、ふたたび回転蹴りでアナザーオーズの爪を弾く。
ロケットで右腕に武装して飛びかかったアナザーフォーゼを対空の構えでもって蹴り防ぐ。
だが、そのフォーゼが放ったランチャーの乱射がライセの身体を爆炎で包む。
〈Follow your ゴーカイ!〉
その爆炎を突きつけて、スパナが空へと向かって投げられる。
それが再び炎に沈んだ瞬間、内側から冷気が放出された。またたく間に鎮火した先にいたのは、両の脚に氷霧をまとわせた仮面ライダーミライの屹立した姿だった。
ロケットを旋回させて無理やりな機動をもって差し迫るアナザーフォーゼを、爪先をにじり寄せてライセは待ち構える。
「『キカイデハカイダー』……!」
ソウゴも知る必殺技めいた言葉をつぶやいたライセは、飛び蹴りによってフォーゼを迎え撃つ。
直撃を食らったアナザーライダーは大きくバランスを崩して失速し、地面に落下と同時に周囲を巻き込んで、文字通り破壊された。
「はっ……結局潰された未来にすがるしかない、出来損ないの仮面ライダーが!」
敵中の奥で嘲りが聞こえる。
だがライセはそれを無視する、行動をもってそれを否定すべく、自身のバックルに指をかけて回転させた。
〈Follow your Rising!〉
ベルトのレンズが、虚空に光を照射する。
そこに浮かび上がったのは、まるでタイトルロゴのように誇張された
〈仮面ライダー
という文字。ソウゴの知らない、ライダーの名。
それが光となってライセの手中に落ちると、黄色い鍵、あるいはPCの基盤のようなアイテムへと変わる。
それをまるで慣れたような操作で顔の横で掲げると、
〈Jump!〉
という音声とともにボタンを押して展開させる。
するとその鍵が、別の物体へと拡張される。
アタッシュケースを想起させる、独特の武装。その側面をもってアナザーオーズの爪撃を防ぎ、
〈Bladerise!〉
先端から展開した剣刃をそれへと叩き込む。
その手元には、突如虚より浮いて現れた、赤い鍵が装填された。
〈Tigers ability! Chargerise! Full charge!〉
アナザーオーズが飛蝗めいた跳躍力を発揮して、ライセの頭上を狙う。
ライセは剣に炎を纏わせ、十字を切るように上下左右に大きく振り抜いた。
フ
レ
イ
ミ
ン
グ
カ バ ン ダ イ ナ ミ ッ ク
獣の咆哮が爆炎に轟く。
その放熱の余波がアナザーミライの足下をも焦がす。
「やれっ!」
低く呻きながらアナザーミライが第二波、アナザー電王とアナザーゴーストを投入する。
ライセは天球を二度回転させた。
〈Follow your 覚悟! Follow your Strike!〉
空中に映し出されたタイトルロゴが光となり、眼球となり、カードとなる。眼球のアイテム側面のボタンを押し、
〈Strike form〉
カードを、自身のベルトに読み取らせる。
それらが、二振りの大剣へ換わった。
青鬼めいた顔のついたものと、鍔元に眼玉の刻印のついた幅広の刃肉を持つもの。
それらを掲げてライセは新たなアナザーライダーたちを迎え撃った。
10・9・8……
カウントを刻むように異なる力のライダー二刀流でもってアナザー電王の投げは成った双鎌を弾き返し、肉薄して寄生されたカタツムリにも似たその角を突く。
7・6・5……
背後に忍び寄ったアナザーゴーストの気配を察知し、すばやくその胴を払いながら足を擦るようにしてスライドする。
4・3……
アナザーダブルとともになお追いすがるゴーストを移動しながらいなす。
2・1……
挟み込むように左右に分かれたアナザー電王とアナザーゴーストが、猛攻を仕掛ける。
だが、その目線の先から、ミライの姿は霧、あるいは幽霊のようにかき消えた。
「カウント……0ッ!」
刹那。眼の紋を虚空に描いて現れたミライは、彼らの頭上から大上段で斬りかかり、袈裟懸けに振り抜いた。
破壊したアナザー電王たちから生じた爆風を返す刃で振り払い、視界を開ける。
だがその先には、顔がひしゃげた事故車のような
――ソウゴの見るところ、おそらくはアナザードライブ。それは何種類もの攻撃的な形状をしたタイヤを連射し、ライセとその一帯をふたたび光と熱とで制圧した。
――だが、
「『パーフェクト・ウェポン』……!」
ドーム状に展開されたエナジーフィールドが、ミライを護っていた。
〈Follow your NEXT!〉
その中で両手の剣を解放したライセの手に、黄色と黒のミニカーが握られていた。
それを手首の上を走らせるような所作をすると、
〈NEXT!〉
という音声とともに、彼の腕を離れたアイテム目がけ蒼雷が降り注ぐ。
中から創出されたのは、青いラインが奔る漆黒の
だが、アナザーミライがそのフロントに触れた瞬間、それは泡のように霧散した。
「無意味無意味無意味、このような吹けば飛ぶ幻を積み重ねたところで……!」
その穴が埋められるより先に、防壁を解除したライセは前進した。
翡翠色の暴風を伴って、アナザーダブルがその進路に先回りする。
〈LUNA! TRIGGER!〉
ステンドグラス、あるいは地上絵のようなドライバーに触れた四面の悪魔の体色が一瞬、黄色と青色に二分される。
手に生じた悪魔じみた造詣の銃から発せられた光弾は執拗にライセの身柄を集中して狙い、その進退いずれもを妨げる。
そのライセは、ベルトをふたたび回転させた。
〈Follow your ACCEL!〉
天頂に『仮面ライダートリプルA』の
その輝きがライセの伸ばした手に集約される。上下三色、赤い端子を持つメモリへと変化したそれのボタンを押す。
〈ARMS ACCEL!〉
野太い音声システムとともに、それはボウガンとも銃火器を掛け合わせたかのような兵器へと変わる。
〈ACCEL! MAXIMUMDRIVE!〉
その銃把を両手でしっかりと握り、引き金を絞ると、迎え撃たんとしたアナザーダブルの連射ごと、無数の弾丸ごとその
解放された風が地表を薙ぐ。
それを受けて、アナザーミライが後ずさった。
「なんだ……ッ、その仮面ライダーの力は!? そんなライダーのいる未来など、存在するわけがないないッ!」
「
どこか咎めるようなアナザーミライの怒号に、ライセは静かに答えた。
「未来は、誰かに定められるものじゃない。今そこに生きる人間が創り出すものだ。可能性がどこまでも増えて広がっていくから、人々はそこに希望を見出す。過去を乗り越えて、今を進める」
そして来海ライセは一歩、また一歩と強く踏み出していく。
無数に映し出されるこれから先のライダーたちの光景、そのまたたく希望の星々と背越しにつながりながら。
「俺はその
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last episode:仮面ライダーミライ(6)
ジオウは消えた仲間たちの姿を枉げた怪人たちと、もつれ合いながら激闘を繰り広げていた。
すなわちアナザーウォズ、アナザーゲイツと。
だが、ソウゴもよく知る彼らの力を模倣したその手ごわさは群を抜いていた。
防ぐ間もなく、休む間もなく、その鎌刃が、斧がジオウを苛む。
力を奪われ、素体で抗戦せざるを得ない常盤ソウゴを苛む。
だが時間とともに不安定になりつつこの場でジオウⅡなど用いれば、アナザージオウⅡが再現されかねない。ヘタを打てば、自分の存在さえも危ぶまれる。
ジレンマに苦しめられるソウゴだったが、
「ジオウ!」
〈Follow your ミライ!〉
敵の向こう側から、声がした。天に光柱が立ち上る。
その中から突き出たものが風を切り、何かがジオウの手に投げ落とされた。
それは、一個のライドウォッチ。
白い基本部分に薄緑を施し、中央のディスプレイには見慣れたライダーのマスク。文字通りの『ライダー』の四字がモニター代わりになっているもの。
だが本物の『彼』がメインフォームへの変身につかうものとは形状が異なり、ジクウドライバー仕様となっていた。
「これって……ウォズのライドウォッチ!?」
「
ライセの声が遠くから快活に聞こえる。
その意味は分かるような分からないようなという心地だが、スイッチを押す手が自然と馴染む。
「それじゃ、ありがたく使わせてもらおうかっ!」
〈ウォズ!〉
敵の挟撃をかがんでかわし、我が身を転がせながら、その過程でベルトにウォッチを送り込み、そして回した。
〈アーマータイム! カメンライダーウォズ!〉
本来のウォズの変身音に合わせて、変身音が高らかに謳う。
本人のあの独特な意匠にも似たマフラーが首元に纏わり、カラーリングもウォズのそれへと調整される。
その魔性と知性が受け継がれたかのような、自信の高揚感が流れ込む。
そして、少し道が外れたあたりでライセの姿を認めた瞬間、
「祝えっ!」
その衝動に身を任せてソウゴは叫んだ。
「時空を超え、ありとあらゆる未来の可能性を照らす仮面ライダー、ミライ! まさに生誕の瞬間であるっ!」
ソウゴはそう強く祝う。
その誕生が何者にも望まれたものでなかろうとも、その存在が世界に拒絶されようとも、新たにできた友のため。
「なんだそれ?」
「へへっ、一度言ってみたかったんだよねー」
「まぁ、なんだか妙な気分だけど……そっちは頼んだぞっ!」
そう悪態をつきつつもまんざらでもない様子で、ライセはアナザーミライと接戦を繰り広げていた。
ソウゴもまた、因縁深いアナザーライダーと対した。
〈ジカンデスピア!〉
その柄を回しながら現れた槍を構え、大振りにないで敵を牽制する。扱い方は、トリニティとなった際に習得済みだった。
翡翠の穂先で鎌刃と打ち合い、金属音を鳴らす。
二歩、三歩と突きによって後退していくアナザーウォズ。石突にあたる部位でその足を払い、転ばせる。穂先を翻し、アナザーゲイツに叩きつけ、そしてふたたびアナザーウォズへと向き直る。
慌てて上体を起こしたが、もう遅い。ソウゴのくり出した神速の突きは、その歯車だらけの胴部を貫く。その勢いを借りて、ソウゴは虚から生まれたその肉体を浮き上がらせ、そして空けた左手でタッチパネルをスワイプした。
〈爆裂DEランス!〉
トリガーを引くと同時に槍が光輝を帯びる。幾何学的な模様を軌道に描き、そして近未来のエネルギーを過剰に流し込まれたアナザーウォズの耐久力が限界を迎え、その肉体から穂先が外れると同時に爆散した。
残るはアナザーゲイツである。
時空を超えてまで自分を狙ってきた相手。
ソウゴは戦術的に優位かどうかはともかくとして、選ぶウォッチは決めていた。
ウォッチを外して基本フォームに立ち返ったジオウは、すでに手の中にあるウォッチを見下ろし、語り掛けた。
「一緒に戦おう……ゲイツ!」
それは、もうひとりの明光院ゲイツから借り受けた彼のウォッチ。
本来のライドウォッチとは逆向きに投じると、ジオウの背に、アナログとデジタル、二種類の時計が組み合わさって回り始めた。
ソウゴは彼がそうするように、拳で叩いてベルトのロックを解除。両手を前へと突きのばしてからダイナミックに円を描かせる。
そしてドライバーを掴むと、一気に回した。
〈アーマータイム! カメンライダーゲイツ!〉
――彼の道が、誤っていたとは言わない。
だがその道を選んでしまったがために孤独となってしまった救世主。静止していたその時が今、ふたたび動き始めた。
ウォッチを模した防護が両肩に形成され、赤い装甲が総身を包む。
両手にはジカンザックスとジカンジャックロー。
獣のように唸るアナザーゲイツと相対すると、その体色が青く変色する。
奇しくも互いに、抽出したゲイツの力は、リバイブの特性までも内包しておたようだった。
眼にも留まらぬ速さを得て、直線的かつ不規則な動きで、それは天地を駆け巡る。
だがジオウ ゲイツアーマーもまた、それに相当するスピードでもって応酬した。
傍から見ればそれは、濃淡二種類の青色の風が、互いに絡み合いながら嵐となる様に見えただろう。
床、ビルの壁を余すところなく、重力に反逆しながら駆け巡り、その暴風の軌跡に触れた窓ガラスは、一拍子遅れて破損した。
そしてその速攻勝負を制したのは、ジオウだった。
最後の交錯のあと、つめモードとなったジカンジャックローによる痛撃を脇腹に喰らい、殺し切れない勢いのままに横転し、壁に激突した。
だがその主を保護すべく、アナザーゲイツのタイムマジーンが時空を切り裂き落下して、巨躯を以て立ち塞がった。
〈Oh! No!〉
〈パワードのこ!〉
ソウゴは手の内で武器を組み換える。弓を斧に、爪を鋸へ。
そのうえで、ジカンザックスにウォズのウォッチを、ザックローにゲイツのウォッチを装填する。
〈ウォズ! ザックリカッティング!〉
〈ジカンジャック! ゲイツ! のこ切斬!〉
ソウゴは吼えた。双肩に渾身の力を込めて振り抜いた。今もなおつながる仲間たちとの絆。それを確かに感じ取り、受け止め、継承しながら。
刃からほとばしる緑の放物線が、赤の軌道が、歪められた時空転移装置を左右から挟み込むかたちで粉砕する。
そして武器を収納したあと、ふたたびベルトに戻したゲイツウォッチをスイッチを、自身のウォッチと合わせて押し、そして時計を回す。
〈フィニッシュタイム! タイムバースト! タイムブレーク!〉
起き上がったアナザーゲイツが、狂気的な咆哮を放つ。その闘気が赤く分厚く膨れ上がる。
並みの攻めでは、ほとばしるその熱が跳ね除けてしまうだろう。
――だが、行ける。気がする、のではなく必ず行く。
自分とゲイツなら、それができる。
そのためのヴィジョンが、幾重にも重なるアナザーゲイツの像となって浮かび上がる。
『キック』と『きっく』が並びたち、飛び上がったソウゴの路を作る。敵の熱波を突き抜ける。
自身の像に重なるように、アナザーゲイツが迎え撃たんと爪を立てるようにして迫る。
そしてそのポーズと位置が合致した瞬間、ジオウのライダーキックがアナザーライダーを撃ち抜いた。
貫通したソウゴは膝で地面を削りながら、勢いを制して起き上がる。
その背で友の反存在は膝をついた。そして、時間差で電光をほとばしらせ、アナザーウォッチを吐き出して自壊させながら、大きく崩れ落ちて爆滅した。
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last episode:仮面ライダーミライ(7)
〈Follow your ウェイクアップ!〉
オレンジ色のコウモリに手の甲を噛ませると、ライセは右脚を旋回させてアナザーナイトの胴をえぐり抜いた。両翼を思わせる閃光が誘爆を起こし、跡形もなく吹き飛ばす。
ミミズの怪物を思わせる口のついた円筒から、アナザーゲンムが吐き出される。
ライセの背から襲いかかる。
〈Follow your パーフェクトノックアウト!〉
だがその死角でライセはガシャットギアデュアルを左右に一度ずつ半回転させた。
ガシャットもろとも光がその手を包み込み、バグヴァイザーⅡが形成される。
チェーンソーモードに切り替わったそれごと、黒く燃える炎が包み込む。
悪の拳さえもひとつの未来として受け入れる。そこに闇のパズルが組み合わさる。
反転。
畳みかけるような炎の斬撃が、ピースのようなエネルギーが畳みかけられる。
近接の間合いに入ったゲンムを、ふたたび土管に入り込む暇を与えず。
そして一方的な攻勢の後に腰を溜めてくり出された刺突がその身体を再生させずに破壊し、敗北、そして死というデータを流し込む。
アナザークローズが、アナザーカリスが迫る。
肋骨のような外殻に覆われた邪竜と、両肩に頭蓋を埋め込んだかのような毒蟲が。
〈Follow your NEO!〉
〈Follow your サメクジラオオカミウオ!〉
対するライセは、薬品アンプルのような筒と三色のメダルを取り出した。
それが光に融けるとともに、一本の朱槍へと伸びた。
ライセはその穂先を敵へと向けることなく、地面のタイルへと突き立てた。
その接触面から、汲み上げられたかのように海水が溢れ出る。瞬く間に彼らの足下を満たし、そこに融けた毒素めいたものが、彼らを悶えさせた。
古の海魔のごとき触手が、そのまま彼らを射貫く。
そして人外の存在は一網打尽に殲滅された。
――だが。
オレンジ色の刃光も、黒炎も、毒水も。
ことごとくアナザーミライのかざした掌の前には無力化される。泡となって散っていく。
「無駄、無意味、無力、無価値、無明!」
みずから対存在に突撃しながら、虚無の亡霊は高々に吼える。
「お前が先取りしたモノらを視ろ! 枝分かれした有象無象の悲喜劇を! 誰かの思惑ひとつでなかったことになり、矛盾し、二転三転する! そんな未来に、意味などあるものか……未来の、世界の本質とは、『無』だ!」
――それはきっと、アナザーミライ、『無』の言葉であり、ライセの感情によぎったものの一端でもあり……そしてこの世界に抱く、人々の負の想念でもあったことだろう。
先行きの見えないことへの漠然とした不安。いくら努力しても突き当たる現実の壁。それを乗り越えた先にさらに道が長く続いていた絶望。それでも乗り越えようとしたものを嘲笑うかのような、理不尽な世界の裏切り。それへの怒り。そう言ったものが、おそらくはこの『無』という間隙を生み出したのだ。
それでも、今のライセは、
「――違う」
思っている。信じている。
「たしかに未来は人間の意志によって変わる。でもそれは、その今を必死に生きて掴んだ、それぞれの結果だ! それは可能性が狭まっていくことじゃない。そしてその未来が望まれたものじゃなかったとしても、その道のすべてが無駄になることは決してない! いずれ別の誰かが照らされたその可能性を進む。世界の残酷さを乗り越えて、奇跡だって起こせる!」
互いの拳を打ち合わせたまま、競り合う。
やがて意志力に応じて倍化したミライの力は、その拮抗を打ち崩し、一撃のもとにアナザーミライを押し返した。
「『無』から、ひとりの人間を、仮面ライダーを生み出せるほどの奇跡を!」
気を焔と化して吐く。
ドライバーのバックルを五度回し、その力と輝度を高めていく。
「――俺に命と心を与えてくれたのは、不完全でも断片でも、お前が言うところの無くなってしまう未来であっても……瞬間瞬間を必死に生きた、仲間たちだっ!」
〈Follow your 忍者! ハッタリ! クエスチョン! ゴーカイ! ギャラクシー! Full sail!〉
逆の手でバックルを反転させると、五条の輝きが天へと向けて分散され、虚空で一極化しながらアナザーミライとミライを繋ぎつつ、果てまで伸びていく。
ライセは飛ぶ。その軌跡を、五人の名が標となって照らす。
仮面ライダーシノビ
仮面ライダーハッタリ
仮面ライダークイズ
仮面ライダーキカイ
海面ライダーギンガ
それを万全の構えで待ち受けていたアナザーミライだったが、その目の前に、ロゴの中から、五つの影が現れた。
仮面ライダーシノビが分身しながら四方八方で忍者刀で斬りつける。
消えると同時にハッタリがその立ち位置に入れ替わる。身振り手振りであがくアナザーミライをおちょくるがごとく消えては斬撃を与え、背後に現れては前へと蹴り出す。
その先に、クイズが○×パネルを展開させて待ち受けていた。
その上のボードに記されていたのはごく単純な計算式だったが、宙を転がるアナザーミライに選択の余地などない。
不正解たる『×』に突っ込んだそれを、雷撃が襲って落下させる。
追撃を加えたのは、キカイであった。
きしむような、それでいて徐々に何かを迫り上げるような稼働音とともに剛腕を振り、文字通りの鉄拳を見舞って吹っ飛ばす。
冷気によってダイアモンドダストが、さらにその身体から自由を奪う。
その軌道上に、ギンガがいた。
小手先だけの技能や特殊な能力など要らなかった。ただその拳が、星々の煌めきを伴って渦を巻かせ、銀河を創出させる。
その
敵の運命を決定させるべく。
そして彼自身の命運を定めるべく。おのれの信念の先を拓くべく。
来海ライセとして選んで照らした未来へ向けて、彼は飛ぶ。
そして未来のライダーたちの残影もまた、飛び上がって彼の像へと重なっていく。
紫の疾風が、舞い散る木の葉が、赤と青のネオンが、氷霧が、星々の光芒が、最後の一撃に華を添える。
「セァァァァァァッ!」
充溢した気と彼らへの想いを光速に換えて、戦士の蹴撃は、もうひとりの自身へと叩き込まれた。
核となっていたアナザーウォッチを打ち砕く。その実感を噛みしめて、ライセは地面を滑る。
アナザーミライが遠く断末魔を轟かせながら、両の手足を伸ばし、背をのけぞらせる。
爆発が起こり、残るアナザーライダーや怪人たちを呑み込み、すべては無へと還っていく。
――刹那、まるで、吊り橋の片方が外れ、もう一方も谷底に引きずり込まれるような、抗しがたい力が、理が、彼を襲った。
自分の中の時計が、緩やかに針を止めていくのを、ライセは静かに受け入れながら立ち上がった。
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last episode:仮面ライダーミライ(8)
――肌身に伝わる感覚としては、アナザージオウⅡを倒した時に似ていた。
世界が正常化していく。
歪められていた時間は修正され、健全となった法則のもとに、正しい運行を再開させるべくレールが敷かれ直されていく。
「ライセ」
変身を解いたソウゴは、彼に声をかけるべく駆け寄った。
だが彼はまだ、仮面ライダーミライの姿のままで……そうして顔を隠したままに、足下から泡沫とともに消えていきつつあった。
やはり、という予想と、やりきれない悲哀が、ソウゴの心に同居していた。
「種明かしをするとさ」
ライセは柔らかな口調で、そしてどことなく面映ゆげに言った。
「俺は完成したからこの姿になったんじゃない。むしろ
もし物理的にベルトごと、あるいはライセごと破壊しようとしても、『無』の産物であるがゆえに、あるいはその固定の力ゆえに、それは不可能であった。
だから彼は、それの存在を認めつつ、その本来の目的や仕様を無理やり歪めたのだという。
だがそれが意味するところは、このバグの根幹を取り除くと同時に、際限なく未来の分岐を観測し、収集するということだ。
結果、彼の核となっていたドライバーは本来のデータを許容量を超え、暴発のうえに消滅する。彼の仮面ライダーとしての姿は、そのエラーの発露だったのだ。
そして先に語った通り、実体と現象、その両方が消滅すれば、『無』はこの世界への取っ掛かりを喪い、ただの一過性の儚い夢として虚無の海へ沈んでいく。
胃の腑にカミソリでもねじ込まれるような、身をねじ切られるほどの苦痛であったはずだ。絶えず、死への恐怖がまとわりついていたはずだ。
そして自身の消滅こそが、避けようのない世界の正常化の最終条件だった。
「でも、間に合って良かった」
嗚呼、だがそれでも彼は、来海ライセは、その苦痛も死も悲観せずに受け止めて、静かに虚ろへと融けていく。
それを見届けながら、ソウゴは尋ねた。
「辛い?」
同じ立場にいれば誰であっても返答に窮するであろうその問いに、友は迷わず首を振った。
「俺は、お前や、そして俺の中にいた蓮太郎たちのおかげで、やりたいことをなりたかったものを最後の最後になって見つけられた。そして、それを成し遂げることができた。――だから、これで良いんだ」
塵は塵に。虚無は虚無に。現に浮かび出た泡沫の夢は、弾けて醒める。
世界が揺れる。ビルが飴細工のように歪み、風が樹木の葉やソウゴたちの足下をなぞり上げる。
組み直されていく世界を見回すソウゴに、「だいじょうぶ」とライセは言い添えた。
「言っただろ。最後に俺が消えれば、世界は元に戻る。お前の本当の友達も……そしてお前が抱える問題も敵も帰ってくるけど、まぁお前なら、どんな道をたどったって良い王様になれるって信じてるよ」
そう言って、ミライの身体は、肩のすぐ先まで虚空へと崩れていく。
ベルトも消滅し、そしてソウゴが持っていたゲイツとウォズ、ふたつの特異なウォッチも、あるべき時代、その世界と運命をともにするべく還っていった。
「それじゃ、もうそろそろ、俺は俺のあるべきところへ行くよ」
もう掲げたり、握り返せる手はないものの、青年は気軽に別れを告げる。
「またいつか!」
――そしてソウゴは、そんな彼に笑って言葉をかけた。
少し驚いたように、背を向けて消えようとしていたミライが身体を向き直した。
「未来は、まだ決まってないから未来なんでしょ? だったら、ライセがいていい未来も、きっとどこかにあるはずだ。だからぜったいに俺はそこへたどり着いてみせる! 最高最善の魔王になって!」
誓いの言葉を、けっこう無理がある道理を、ソウゴは一方的に友へと宣う。
それでも、言葉には力がある。想いを重ねれば重ねるほどに、強くなっていく。
絵空事だと笑われようとも、自分が王様になりたいと願うのと同じように、きっとこの誓いも現実になる、未来へと繋がる灯火となる。
ミライが融けていく。剥がれ落ちていく仮面の中にあったのは、虚ろな空洞などではない。
友の、来海ライセの、満面の笑みがあった。
「『またいつか』……良い言葉だな!」
その言葉を最後に、彼は、その最後に流した一筋の涙とともに泡となって消える。
世界がやり直されるまで、あと数秒。
そのわずかな間、彼は独りぼっちになる。
「――いつの日か、絶対に」
強く、噛みしめるように、時の王者となる宿命を負った青年は呟いた。
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エピローグ:そして、よびごえが聞こえる
男は、そしてシャッターを切った。
ぱちりとはじける泡のような、軽い音。
この写真もなかったことになるかもしれないが、彼の記憶の中にこの旅路は刻まれる。
「同じように夢と消えた戦いの終わり、始まりの男は言った」
戦いの中心地から少し離れたガードレールのあたり、そこにもたれかかりながら再生する世界を見ながら、不遜げに。
「自分たちの戦いは、光を浴びることのない戦いだと。だが、影、闇から生まれた者だからこそ、光を目指す」
ひとりの青年が消えたあたりへとレンズ越しにではなく、ちゃんと自身の肉眼を向けた世界の旅人は、彼にしては珍しい、素直な笑顔を手向けた。
「良い船出をな、仮面ライダーミライ」
………………
…………
……
常盤ソウゴが目覚めると、そこには『今朝』と同じ一日の始まりが待っていた。
だが、アナザーシノビたちの襲撃の報せはない。
激戦の狭間に生じた、慈しむべき日常が、そこにはあった。
まるで重大な不具合を起こしたネットゲームが、その間のデータを消してロールバックするように。
重い頭と心を引きずりながらも私室から下りたソウゴに
「おはよう、ソウゴ君」
と順一郎がいつものようにのほほんと笑いながら、朝の挨拶をかけてくれる。
その叔父の用意した朝食をテーブルにてきぱきと並べる、ふたりの姿があった。
「さすが王様になろうってやつだ。他人を働かせて自分は爆睡とはいいご身分だな」
「おはよう、ソウゴ」
ネックウォーマーのようなものがついた、近未来的な黒服をトレードマークとする短髪の青年、ゲイツが皮肉を言う。
女神然とした白い服の娘、ツクヨミが、ほろ苦く笑って相棒の毒舌を聞き流し、
少し面食らったソウゴだったが、彼らがそうしていてくれることこそが、自分の時間に戻って来れたことへの何よりの証左だった。
「ツクヨミ~! お帰りー! ゲイツ、ちゃんと若いじゃん~!」
そして感極まって飛びついて、ふたりを両腕で抱きしめる。
「はぁ!? あの、ちょっとまだ寝ぼけてんの!?」
「なんだ突然気色悪い!? 若いってなんだ若いって! 俺は老人かっ」
左右の腕の中で頓狂な声を発するふたりに、はしゃぐソウゴの身体は強引に離される。
叔父は相変わらず「いつもながらよくわかんないなぁ」などとぼやきながら、かつソウゴたちの都合に合わせる調子で適当に流して、三人に食卓につくよう促す。
すでにテーブルに着座している青年がいた。
まるで本の装丁を確かめるかのように一ページ一ページ、熟読していた彼……黒い方のウォズは、ソウゴの登場に気づくと、いわくありげな目線を返し、そしていつものようにミステリアスに微笑むのだった。
「私はすべて覚えているよ」と、暗に語りつつ。
――そんな従者のみを伴って、ソウゴはかつての通学路、住宅街に挟まれた急勾配にやってきた。
ソウゴとウォズとの、出会いの場所。
コンクリートの階段に腰掛けながら、ひそかに自分が救った街が、世界を見下ろす。
アナザーライダーたちに破壊された街並みも、『無』に呑まれたすべての事物も、あっけないほどに元通りだった。
――だがこの世界には、『彼』はいない。
「当たり前だけど、みんなライセのこととか世界の崩壊なんて覚えてないみたいだ」
「だろうね」
自身の王のそばに侍りながら、にべなくウォズは答えた。
「そのミライというライダーは、本人の認めたとおり、本来は存在しない、してはいけないイレギュラーなライダーだ。当然、この世界の
そう言ってウォズは、自身の歴史書からページを指でつまみ上げて破いた。
さながら乱丁のように差し挟まれた、白紙の一ページ。それはウォズの指先から離れると、ひらひらと風に舞って彼方へ流されていく。
彼の言葉は、穏やかながら冷淡だった。そしてそれは、きっと現実的でそういう結果となる公算が高いものなのだろう。
事実、ソウゴの心の一片に「あれは夢だったのではないか」という錯覚が芽生えつつあった。
それでもソウゴは、首を振る。
「それでも、彼の照らしてくれた先に、きっと誰かの路がある。その人が彼のことを覚えてくれていたなら、きっとまた」
続きは言わず視線を持ち上げる。
気の遠くなるような長い一日を経験した。その濃密な時間を、彼とともに駆け抜けた。
その想いを抱いて仰いだ天は、きれい過ぎて泣きたくなるような、果てのない夏空だった。
「――俺も、ずっと覚えてる」
それを、屈託ない笑みを包んで、時の王者は改めて宣告する。
「何度でも誓うよ、ライセ。仮面ライダーミライ」
世界の理不尽さにさえ挑み、打ち崩すような強さを言霊に込めて。
「俺は王様になる。そしてまたいつか……みんなと一緒に、君の待つ
たとえ今は遠く離れていたとしても。
共に重ねたこの胸の痛みが消えない限り、自分の時間と彼の時間はつながっている。
だから常盤ソウゴは駆け抜ける。
最後の一秒までも、最大の加速で。
――語り部は本を紐解き、口を開く。
かくして、魔王となる宿命を間近に控えた常盤ソウゴは、より一層の覚悟を重ねてその道に踏み出すことになる。
『無』であったはずとモノとの出会いが、彼の王道をより輝かしいものにしたというのなら、あながち彼の語るところの『無』より心が誕生する奇跡というのも、あながち否定しきれない。
あるいは本当に……いや。
さて、このすぐ後に、彼は時空の果てより降り立ったひとつの形の『未来』と出会うことになるわけですが……
そして語り部は「おっと」とわざとらしく本を閉ざして、悪戯っぽく
「――果たしてこれは、皆さんにとっては過去の物語でしょうか? それとも未来の話でしょうか?」
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後日談
そのフレンチレストランは、小規模ながらも外観のセンスの良さや山海の味を存分に活かした良心的な価格の料理、何よりソムリエとして確かな資質を持つ店長により厳選され、管理されたワインはそれらに買い物帰りの主婦や、ゲストを歓待する会社員、デート帰りの恋人たちなど、幅広く支持されていた。
「――ありがとうございました!」
その店のオーナーシェフ――といっても従業員は彼女と店長と合わせてふたりしかいないが――旧姓
中ではすでに、彼女の夫兼店長が食器を片づけていて「お疲れ様」と優しくねぎらいの言葉をかけてくれた。
「吾郎こそ……ここまでほとんどひとりでやってきたんだもの。大変だったんじゃない?」
「そんなことはないよ。いろいろあったけど、ようやく一人前に店なんて出せるようになったんだ。その間のことを考えれば、大したことじゃないさ」
彼の言うように、さほどの気負いも感じさせることなくサラリと言ってのける。
その優しさが彼の何よりの美点であると同時に、ずるいところでもある。
これではこちらも労いようもなくなってしまうではないか。
苦笑していた恵理ではあったが、ふと思いついたことがあって店の裏のワインセラーに小走りに向かった。
数こそ少ないが幅広いニーズに応えられるように効率よくボトルが購入されている。そのうちの一本、他と少し間を取ったスペースに置かれていたをこっそりと抜き取って、吾郎のもとへと戻る。
すると彼は、銘柄を見た瞬間目を丸くさせた。
「ねぇ、今夜はこれ開けちゃわない? ちょっとまだ若いけど、適当にまかない作って」
「これは駄目だっ!」
誘い文句は遮られた。手からはそのボトルがもぎ取られ、抗弁も物理的な抵抗もできないままに恵理は立ち尽くした。
ふだんは決して怒るところなど見せない彼にしては、いつにない狼狽ぶりだった。
「……ごめんなさい。でも、それって誰かの予約だったりするの?」
彼からの愛情を疑ったことなど一度もない。まさか他の女性への贈り物であろうはずもないが、純然たる興味から、探るような調子で彼女は尋ねた。
正直に言って、慌てる程希少なワインというわけではない。比較的求めやすいリーズナブルな価格の白。しかも、先に言った通りかなり若い、それこそ今年のワインだ。
だからこそ問題はなかろうと恵理もそれを選んだわけだが。
「いや、うぅん……でも、これは……」
夫は言いよどむ。
だがそれは何かの真意を押し隠すというよりかは、彼自身覚えがない、といった苦しげな調子だった。
「――確かには、憶えてないんだけどさ」
持ち前の誠実さがそうさせるのだろう。彼自身よく話と気持ちを整理をつけないままに、しどろもどろになりながら吾郎は続けた。
「いつだったか、
まるで『彼』とやらが映り込んでいたかのように、吾郎はそのボトルに目を落とす。
慈しみとともに微笑みかける彼に応えるように、ボトルは淡く輝く。
その時を静かに待つように、波がたゆたう。
その真新しい白ワインのラベルには、2019という年号。
そして暗闇を進む船をあまねく照らす、灯台のイラストが描かれていた。
RIDER TIME:仮面ライダーミライ
完
後書き
原案の方
「ジオウのミライダーの能力をすべて使えるライダーを主人公にしてください! その力に人格が入っていて会話できるように! 黒幕は『無』もしくは財団X! そして相棒は仮面ライダーGでお願いします!」
ぼく
「はい、分かりました!」
(主人公=『無』=すべての元凶。中にいるのはミライダー本人ではなくデータ。Gは冒頭で消滅)
で、こうなりました。
本作の終わりに際してあらためてご挨拶いたします。
リクエストを受けてこちらを書かせて頂いた大島と申します。
前述のとおり、おそらく原案の方はスカッとした活劇を期待されていたのでしょうが、何故か、かくも重苦しいストーリーになってしまいました。
いやまぁ、さすがにGの辺りは未来をテーマに設定している以上、盛り込むことが難しかったので泣く泣く申し出たうえで却下させていただき、そのうえでそこ名残としてシーンを挟ませていただきましたが。
一応ではありますが、最低限のお約束は果たせたのではないでしょうか。
残念ながら、いつの間にか原案の方は退会されてしまったので、感想をお聞きすることは叶いませんが。
……ひょっとしてこんなモン書いたからでしょうか……?
とまれ、そうして書き始めた作品ではありましたが、紆余曲折ありながらも皆様より個別にいただきましたアドバイス等のおかげでなんとか形になって完結させることができました。
ご助言頂いた方、資料を提供をお送り頂いた方、誤字をご指摘頂いた方、ご感想ご声援を下さった方々、何よりここまでお付き合いいただいた読者様、皆々様にこの場をお借りして、厚く御礼申し上げます。
さて、今後の活動についてですが、オリジナルの方で構想中の短編をUPして、あとはノープランです。また気が向くことやリクエスト等があれば、二次創作に戻るかと思います。
あらためて、ここまでお読みくださいまして、ありがとうございました!
それではまたどこぞでお会いいたしましょう!
大島海峡
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