この素晴らしい世界にパー子を! (Tver)
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プロローグ
死後の世界にて


「田中舞さん、あなたは不幸にも先程、お亡くなりになられました」

 

「は、はい?」

 

私は突然、目の前の青い瞳に青い髪をした女の子にそんなことを告げられ、素っ頓狂に、そんな返事をしてしまった。

新手の誘拐か何かだろうか。誘拐にしては、別に縛られてもないし…。

なぜこのようなところにいるのだろうか。

こうなる前の記憶がどうしても思い出せない、と私が困惑していると、目の前の女の子は話を続けた。

 

「私は日本において若くして亡くなった人を案内する、女神アクア。戸惑うのも無理はありません。しかしながらあなたの人生は既に幕を閉じてしまったのです」

 

その女の子は女神を名乗った。

女神アクアと。

女神だなんて、普通であればそんなことを自称する人など信じられる訳もないのだが……。

自分が死んだということ、それに加え目の前にいる女神。

にわかには信じがたいのだが…。

冷静に周りを見渡して、ここがただっ広い空間に椅子が2つだけ置いてあるという通常ではありえない状況を目の当たりにし、とりあえず自分の死因を聞いて、何か思い出そうと試みた。

 

「あ、あのー、私はどうやってしんだのでしょうか?」

 

「あなたの死因?あなたは、道で転んで死んだのよ?」

 

「は、はいぃ!??」

 

またもや素っ頓狂な返事をしてしまった私だったが、転んで死んだと言われれば、このような反応にもなる。

そんなバカみたいな死に方が………死に方が……あった気もする……ような……。

あっ!……私は全てを思い出した。

 

───それはとても寒い日だった。前日に降った雨の水溜まりに氷が張るほど、寒い日だった。

私は大学に行くために早朝に家を出て、駅に向かって歩いていた。

そして氷が張っている水溜まりを見て、私は思った。

のったら割れちゃうかな?と。

それはとても軽い気持ち、好奇心だった。

その好奇心には抗えず、私は水溜まりに脚をのばす。

だが、その氷は割れるどころか、とても固くて……、体重をかけた瞬間………。

 

「あなたは氷の張った水溜まりで脚を滑らせ、後頭部を殴打。

それが致命傷となって、死んでしまったの。プークスクスクス!

私あなたみたいな間抜けな死に方久しぶりにみたわ!」

 

なんだろうこの女神様。絶対に仲良くなれない気がする。

どうも最初は猫を被っていたらしい。

猫かぶりには疲れたみたく、その後は素のままで説明してきた。

 

───どうも私にはこの後3つの選択肢があるらしい。

1つ目が、天国という名の地獄でほのぼの暮らす。

2つ目が、赤ちゃんからやり直す。

そして3つ目が…

 

「あなたみたいに若くして亡くなった人に、何か一つ特別な能力か武器を持たせて、その世界に転生してもらっているの!」

 

そう3つ目は、チートを貰って、強くてニューゲームである。

私は迷わず、3つ目を選んだのであった。

 

「そうでしょう、そうでしょう!異世界転生なんて憧れるものよね!

そうと決まったなら、カタログを持ってくるから1つ好きなのを選んでくださいな」

 

「カタログは大丈夫です。もう貰うものは決めました………。その世界は魔法が使えるんですよね?でしたら、あらゆる魔法を使えるようにして下さい!」

 

なぜこんなに早く決めれたかと言うと、恥ずかしながら異世界転生したらなどという厨二病くさいことを、以前考えたことがあったのだ。

まぁその時もすぐ考えついたのだが…

何を隠そう、私の幼い時の夢は魔法少女になる!!!という可愛らしいもので……。

まさか本当に叶うとは…

 

女神様は私の願いを聞くと、少し唸り声をあげて悩んでいたが、ぽんっと手を打った。

なにか思いついたようだが、昭和くさいな。

 

「そうね、じゃあ、あなたには膨大な魔力を差し上げましょう。それも女神の私にひけをとらないような、膨大な魔力を!あなたは知力も高そうだし、魔力さえあれば、アークウィザードになってあらゆる魔法を使えるようになるわ!」

 

「分かりました。それでお願いします!」

 

そう返事すると、私の周りに魔法陣のようなものが浮かび上がった。

 

「さぁ、勇者よ!願わくば、数多の勇者候補の中からあなたが魔王を討ち倒すことを祈っています。魔王を倒した暁には、何でも1つ願いを叶えましょう!」

 

女神様が決めゼリフのように、そう言うと私の体は、淡い光に包まれてゆっくりと浮かび上がり……。

次第にその淡い光は赤く点滅しだす。

それはまさに警告を表しているかのように………。

 

「あ、あれ?魔法陣の反応がおかしいんですけど。今までこんなことなかったんですけど!これってもしかして、例の頭がパーになる前兆…かしら…?」

 

そのような不穏な声が聞こえてきた。

 

「ちょ、頭がパーっ…」

 

そこまで言いかけて、私の意識は真っ白になった。



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第一章
しがないギルドのウェイトレス


私の名前はタナカマイ、

アクセルという街で、しがないギルドのウェイトレスをしている。

 

私は自分について、何も知らない。

2週間ほど前のある日、ギルドの前にぼーっと立っている所を保護された。

なんでも、記憶喪失らしい。

名前についても、覚えていなかったが、冒険者カードなるものを作成すれば、名前だけでも分かるかもしれないということになり、ギルドのご厚意で、冒険者カードを作ってもらった。

そして、そこに記載されていたのが、「タナカマイ」という名前だった。

 

とりあえずこのままでは、行くあてもないということで、またしてもギルドのご厚意で、しばらく雇ってもらい、宿も提供してくれることになった。

とても優しい。

 

私はギルドのご厚意に報いるため、今日も今日とてウェイトレスをしっかりとこなす。

さぁ、ドアが開かれ、新しくやってきたお客を案内しようと、ドアの方へ振り返ると…

 

「あぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

と、指をさされ、大声で叫ばれた。

そこには、指をさしながらこちらに向かってくる青い瞳に青い髪をした女の子と、驚いた表情をしている奇妙な…だけども少し懐かしさを感じる服装をした男の子がいた。

 

指を指した女の子はというと、私に近づいてくるなり、何も言わず、私の顔をじろじろと見ていた。

すごく困る。

 

「おい、アクア。いきなりどうしたんだよ」

 

私の様子を察してか、男の子がその女の子を引き剥がしてくれた。

ただ、引き剥がされても尚、女の子は私の顔を見ていた。

男の子はそんな女の子を不思議に思いつつも、私の方に振り返り、申し訳なさそうに、

 

「す、すいません、俺の連れがいきなり。俺達、冒険者になるために来たんですけど、受付ってどこですかね?」

 

2人は冒険者になるために来たらしく、私が受付の場所を教えると、男の子が未だに私の顔を訝しげに覗いている女の子を引っ張っていってしまった。

離れていく際に女の子が、『多分あの娘よねぇ…』と呟いたのが、聞こえてきたが、誰かと間違えているのだろうか。

それとも、もしかしたら、記憶喪失前の私のことを知っているのかもしれない。

ならば今度見かけた時は、私の方から話しかけてみるのもいいかもしれなぁ、と思いつつ仕事に戻るのであった。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「あのー、仕事終わりに少し時間ありませんかね?」

 

先程の少年が、無事に冒険者登録を終えたと思ったら、私のところに来て突然そんなことを言い出した。

まぁ無事と言っても、お金がなかったらしく、プリーストのおじさんに恵んでもらっていたが………。

 

そんな文無しで私のことを誘っているのだろうか。

ここは冒険者ギルド。

たった2週間ほどしか働いてはいないが、男性冒険者からお酒の席に誘われることはしばしば。

ひとまず、断っておこう。

 

「ナンパですか?そういうのは困るのですよね。それにナンパするなら、せめてお金を貯めてからにしてもらわないと…」

 

「ち、ちがうわ!……あのですね、何やら俺の連れがあなたと話したいみたいで…」

 

どうやら私の誤解だったらしい。

それにとても動揺しているので、そんな誘いをしたことがないような、うぶな男の子なのだろう。

……まぁそれはおいておいて、連れと言うのはあの女の子のことだろうか。

それであれば、私の方からも話しかけようと思っていたので、都合がいい。

 

「連れというのは青髪の女の子のことですよね?そういうことでしたら、大丈夫ですよ。私も聞きたいことがあるので。夕方頃には、仕事も終わると思うので、それくらいにでも、ギルドで待っていますね」

 

そう言うと少年は、『じゃあ、夕方頃に!』と言い残して、ギルドを後にした。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

日はすっかり沈み、ギルドでは依頼を終えて帰ってきた冒険者達が、それぞれ酒盛りをしていた。

私はというと、そんな冒険者相手に仕事をしている、同僚ウェイトレスを眺めていた。

忙しそうだなぁ。

予定通りに夕方頃に仕事を終えた私は、約束通りギルドで待っていたのだが、かれこれ2時間ほどになる。

暇だなぁ、天井のシミの数でも数えようかなぁと思い、天井を見上げていたところ、後ろから声をかけられた。

 

「お待たせしてすみません!ちょっとバイト先で色々ありまして……」

 

声をかけてきたのは、あの男の子だった。

急いできたのか、はぁはぁと息を荒らげていた。

 

「全然待ってないので、大丈夫ですよ?……そう言えば、連れの女の子の姿が見えないようだけど……?」

 

「あ、あのー、結構待ってましたよね?その、目が笑ってないんですけど………って、アクアのやつまだ来てないのか。急げって言ったのに!」

 

そう言うと男の子は、辺りを見渡し、扉付近で見つけたのか、そちらに手を振ってこちらに呼び寄せた。

 

「おい、遅いぞアクア。どれだけ待たせてると思ってるんだ」

 

「うるさいわよ、ヒキニート。そもそもカズマがせっかく見つけたバイトをクビになったから遅れたんじゃない!」

 

「しょうがねぇだろ!秋刀魚を畑から取ってこいだなんて言われたら、やってられるわけないだろうが!お前だって色々とやらかしてたじゃねぇか!」

 

なんだか、喧嘩が始まり、お互いが顔を突合せ、歯をギリギリしながら睨み合っていたので、終わるまで2人を眺めていることにした。

すると、視線に気づいたのか、2人が申し訳なさそうにこちらに会釈しながら、私の目の前の席に座った。

 

3人が顔を見合わせ、つかの間の沈黙。

その沈黙を破ったのは男の子だった。

 

「………そ、そう言えば、自己紹介もまだでしたね。俺の名前はサトウカズマ。そしてこっちが…」

 

「私は水の女神アクアよ!………あなたは本当に私のこと覚えてないの?」

 

「カズマとアクアですね。私の名前はタナカマイ。その私、記憶喪失で何も覚えてないんです。アクアは私のことを知っているのですか?」

 

そう言うと、カズマは私の名前に驚いたように見え、アクアはというと、唸りながら何かを考えているようで、『やっぱりあの時に…』などと呟いていた。

 

「お、おいっ、タナカマイって…それより記憶喪失だって!?アクア一体どうなってるんだよ。」

 

「私も何か知ってるなら教えて欲しいです」

 

「あのね、怒らないで聞いて欲しいんだけど、カズマが思ってる通りマイは日本からの転生者よ。ただ…、カズマにも話したけど、脳に負荷をかけて、こっちの世界の言語とかを習得させるって言ったじゃない?それでね、マイを送る時の魔法陣が今までに見たことがない反応をみせてね、えっとー、その、多分だけど…、運悪く送る時に失敗して…パーに…なって記憶を…無くしちゃったの…かも…?」

 

アクアの言っている話が全く理解出来ないのは、私だけなのだろうか。

ニホン?テンセイシャ?どういうことなのだろう。

カズマはどうだろうと、彼を見てみると、ワナワナ震えていた。

 

「ほんとにパーになるのかよ!お前よくもその危険性をサラッと説明しやがって!俺までパーになってたらどうしてくれるつもりだったんだよ!」

 

「脳に負荷をかけるんだから仕方ないじゃない!それに今まではこんなことはなかったの!長く案内をしてたけど、マイが初めてだったの!何も知らないのにいきなり怒ってきたこと謝って!ほら早く謝って!」

 

どうやらカズマはアクアの言っていたことを理解していたらしく、また、2人は喧嘩を始めてしまった。

なのでまた、しばらく眺めていると、私の視線に気づいたのか、大人しく喧嘩をやめたようだ。

 

「あの、私にはアクアの話がよく理解出来なかったのですが、一体どういうことなのですか?」

 

私の疑問に答えてくれたのは、カズマであった。

 

「まぁ記憶喪失になってちゃ、何言ってるか分からないよな。とりあえず、マイさんが記憶を無くした全責任はこいつにあります。」

 

と言って、アクアに向けて指を指したのであった。

アクアは、先程の勢いは全くなく、少しシュンとしていた。

 

アクアに責任があるのは、間違いないようだが、どうすべきか。

記憶を戻して貰えるわけでもないしなぁ…

と、考えていた時にふと思いついたことを2人に述べた。

 

「じゃあ、慰謝料ください。」

 

2人はぎょっとこっちを向き、顔をだんだんと蒼白にしていったのだった。

 

 

───あの後、3人で話し合い、3人でパーティを組むということに落ちついた。

というのも、慰謝料を払うにしても、2人はお金を全く持たずにこの街に来たらしく、ほとんど無一文らしい。

暫くは日雇いのバイトでお金を貯め、装備品を揃えてから、依頼をこなすつもりらしい。

それでどうせなら、一緒に冒険者をやらないかと。

私としてもいつまでも、ギルドのご厚意に甘えるのはいかがなものかと思っていたので、その案に賛成した。

それに、慰謝料として、アクアの報酬の一部を私の報酬に上乗せしてくれるとのことだった。

 

こうして私の冒険者への道が始まったのであった…。



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爆裂娘との出会い

私は今、平原に立っていた。

 

アクアァァァー!!マイサーン!!!タスケテェェーー!!

 

そう初クエストである。今回のクエストはジャイアントトードという、その名の通り巨大カエルの討伐である。

 

タベラレルゥゥゥ!!!

 

ギルドでウェイトレスをしていた時に、ジャイアントトードを使った料理を運んだことも多々あったが、まさかこんなに大きいとは…。

 

「アクア様ぁぁぁぁ!!!」

 

ギルドでは美味しく頂かれているジャイアントトードなのだが…

 

只今カズマがジャアントトードに美味しく頂かれようとしていた。

 

 

助けを求められている気もしたが、アクアは何もせず、カズマに色々と言っているだけなので、とりあえず私も傍観しておこう…と思っていた。

………のだが、今までカズマを追いかけていたカエルが、こっちに向かってきている。

アクアは気づいてないのか、相変わらず何か喋っているが、もしかしたらこれも何かの作戦なのかと思い、この場はアクアに任せこっそりその場を離れることにした。

近づくジャイアントトード。

それに全く動じないアクア。

そしてその距離がほんの数メートルとなり……

 

 

 

アクアが食べられた。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

只今アクアが泣いている。

 

アクアを食べている間、動きを止めていたカエルをカズマが仕留めたのだ。

アクアといえば、助かったもののカエルの粘液まみれで、少し生臭い。

心配だが、近寄りたくないので、少し離れたまま声をかけた。

 

「アクア大丈夫?」

 

「マイ、あなたカエルが近づいて来ていたのに気づいて、1人だけ離れていったでしょ。どうして教えてくれなかったのよ!」

 

1人逃げた私を怒っているのか、泣きながら文句を言われてしまった。

 

「てっきり気づいてて、作戦のためにわざとそうしているのかなって……。まさかあんな巨体が迫ってきているのを気づかないなんて…」

 

追い打ちをかけてしまったのか、それを聞いたアクアは更に泣いてしまった。

 

「かじゅまさーん、マイがいじめるぅ!」

 

「いや今のはマイさんが正しいだろ」

 

アクアは更に泣いてしまった。

 

そんなアクアを一応は宥めるように、カズマが今日のところは撤退することを提案した。

確かに今日の所は諦めた方がいいのかもしれない。

というのも、3人の装備は、私とカズマがそれぞれ持っているショートソードの2本だけである。

アクアに至っては、何も装備していない。

今日の所は撤退して、装備を整えるなり、仲間を増やすなりして、明日再度挑むのがいいと思い、賛成しようとしたら、それはアクアによって遮られた。

 

「私はもう汚されてしまったの。さらにこのまま逃げ帰ろうものなら、私のかわいい信者たちに示しがつかないわ!」

 

そう言い残すと、遠くに見えるカエルめがけて、走っていってしまった。

『ゴッドブローーー!!』と叫びながら、走っているところを見ると、恐らく拳で倒そうとしているみたいだ。

なるほど、カエルは拳でも倒せるのかと納得した私は、まだ何もしてないのをここで挽回しようと思い、アクアに続いて、別のカエルにめがけて走り出した。

 

「おい!アクアーー!!ってマイさんも!?」

 

後ろでカズマが何やら叫んでいる気はしたが、気にせずに、私は神じゃないし、ゴッドブローじゃなくて、何ブローなのかなー、等と考えながら走り続けた。

 

カエルを間近にし、とりあえずブローでいっかと思い、『ブロォォー』と叫びながらカエルの腹に拳を打ち付けた。

 

静寂。

 

……あれぇぇ。

何かおかしいと思い、先に走り出したアクアの方を見ると…

そこには、アクアはおらず、カエルの口から2本の脚がはみ出ていた。

 

この時私は初めて絶望というものを体験し、刹那、私の視界は暗闇に包まれたのであった…。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「あれね、3人じゃ無理だわ。仲間を募集しましょ」

 

と語るのはアクア。

あの後、カエルに食べられた私とアクアは、またしてもカズマに助けてもらい、ギルドに帰ってきていた。

今私たちは、食事をしながら、明日以降について話し合っている。

 

「仲間っていったって、駆け出しでろくな装備もない俺らを相手にしてくれるやつなんているのかよ」

 

カズマは手元のカエル肉を不満げな様子で見つめながら、そう言った。

口に合わなかったのだろうか。

こんなに美味しいのに……。

………いや、そういえば先程食べられそうになったのだ。

それを思い出すと私も少し顔をしかめてしまった。

 

「それよりもさ、マイさんは本当に何もチートアイテムとか能力とかないのか?日本からの転生者なら、何かしらあるはずだろ?」

 

「ちーと?とかのことは、よく分からないけど、私にはそんな特別な能力は何も無いよ?」

 

度々、カズマにはこの質問をされるのだが、心当たりが無いものはない。

アイテムと言われても、私がギルドに保護された時に、何か持っていたという話も聞いたことがないし、職業もただの冒険者だ。

あれ?でもそう言えば、冒険者カードを作った時に何か言われたような…

 

「おいアクア、まさかとは思うんだが、チート能力すら送る時にパーになったとか言わないよな?」

 

「そんなことはないはずよ。ちゃんと神々からの恩恵は受け取っているはずだわ」

 

「そもそも、渡した本人が、それを覚えてないってどういうことなんだよ」

 

「覚えてないに決まってるでしょ。普通送った人のことなんて忘れちゃうに決まってるじゃない。マイだけは、あんなことがあったもんだから、かろうじて顔は覚えていたんだけど」

 

カズマの深いため息が聞こえる。

そんな中、私は冒険者カードを作成した時に何を言われたのか思い出すために、カードを眺めていた。

そこには軒並み低いステータス。ただ一つだけ明らかに数値が…

 

「あのー、もしかしたらこれのことかな………?」

 

そう言って私は2人に冒険者カードを差し出した。

2人は前のめりになってそのカードを覗き込む。

 

「これって言ったって、ただのカードじゃぁ…って幸運のステータス低っ!」

 

「あらほんとね。私より低いわね」

 

2人は見当違いの所を見ていたので、私は見て欲しいところを指さした。

その指先に2人の視線が集まり…

 

「「なっ!!」」

 

2人の声がハモった。

 

「なんだよこの魔力量!アクア並みじゃねぇか!」

 

「あぁ!思い出したわ!そういえば私並みの魔力を授けることにしたのよ!」

 

私が思った通り、これがその私の特別な力らしい。

 

「これってそんなにすごいの?私他に比較する人がいなくて……」

 

「すごいにきまってるでしょ。なんたって私並みの魔力なのよ?」

 

「あぁ。これは凄いよ。これだけの魔力があれば、凄腕のアークウィザードにだって………あれ?なんで最弱職の冒険者なんてしてるんだ?」

 

「なんでも私は、知力が足りなくて、ウィザード系にはなれないらしいの」

 

そう言って私は知力のステータスを指さした。

その視線の先を見つめて、カズマは『あぁ…これは…』と呟いたのが聞こえた。

 

「そう言えばアクアも知力が低くて、アークウィザード以外ならって言われてたな。以外ならってな!」

 

「何よ、冒険者にしかなれなかったカズマさん。冒険者にしかね!」

 

そうやっていがみ合う2人は、私はまた、ただただ眺めるのであった。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

今私はまた、天井のシミの数を数えようとしていた。

 

というのも、あの後、私の特別な能力には頼ることは出来ないと分かり、当初アクアが提案した通り仲間を募集するということになった。

そのためにまず、ギルドの掲示板に貼る募集案内を作成しようと思ったのだが、そこで張り紙は私に任せて欲しいと、アクアが名乗りを上げた。

私とカズマは、そこまで言うならとアクアに任せたのだが、その時カズマがアクアに訝しげな視線を向けていたのを私は見逃さなかった。

 

そして話は今に戻る。時刻は昼過ぎ。

あの時、私はカズマが何を怪しんでいたのか分からなかったが、どうやらカズマの懸念はあたってしまったらしい。

募集を始めて、もう半日近く経つ。

周りで私達同様に募集していたパーティーは、もう既にいなくなっていた。

 

途中でどうもおかしいと思ったカズマが、募集案内を見に行ったところ、ため息をついて帰ってきたので私も見に行くと、そこには詐欺まがいな誘い文句と、それに加え最後に一文、

 

 

上級職のみ募集

 

 

の字があった。

 

なるほど、カズマはこれを見てため息をついたのか。

どうやら、アクアは自分がアークプリーストなので、どんな条件でもすぐに人が集まると思ったらしい。

新しい仲間はやってくるのだろうか…。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「───いいかげん募集の条件かえよーぜー」

 

遅めの昼食を摂り、テーブルを囲んでいた私達だったが、カズマが今日何度目かのこの提案を呟いた。

それでも譲ろうとしないアクア。

もうこのパーティーを抜けてしまった方がいいのではないかと、そんな考えが頭をよぎった時、

 

「募集の張り紙見させて貰いました。」

 

私の思考を遮ったのは、いかにも魔法使いといった格好をした女の子の言葉だった。

その女の子は何やら、この邂逅はなんたらかんたらと、難しい言葉を羅列していたかと思うと、突然羽織っていたマントを翻し、

 

「我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法”爆裂魔法"を操る者!」

 

と名乗りをあげた。

 

「………冷やかしに来たのか?」

 

「ち、ちがうわい!」

 

呆れた表情でカズマが言い放った言葉に、すぐさま否定していた。

なんだろう、ちょっとかわいい。

 

 

その後色々あって、カズマに付けていた眼帯をペシーン!とされた彼女であったが、アクア曰く、紅魔族という種族の女の子らしい。

めぐみんというのも、本名だそうだ。

そのめぐみんといえば、今はカエル肉を頬張っていた。

頬張りながら私を見つめていた。

 

「どうかしたの?」

 

「このパーティーには既に、アークウィザードがいたのですね。アークプリーストと冒険者しかいないと、思っていたのですが」

 

「アークウィザードなんて、俺らのパーティにはいないぞ?」

 

めぐみんの言葉に首を傾げていた私の代わりに答えたのは、カズマだった。

 

「そんな!確かにこの人からは紅魔族にも引けを取らない魔力を感じるのです!」

 

私は言葉で説明するより冒険者カードを見せた方が早いと思い、めぐみんにそれを見せた。

 

「な!冒険者!?でも確かに魔力が…な、なんですかこの魔力量は!どうしてこのような魔力を持ちながら、冒険者なんて…」

 

と言っためぐみんの視線があるステータスに留まると、『あっ』と呟き、何か納得したようで、目を伏せたまま、私にカードを返した。

 

「でもあれだけの魔力量、私が教えれば、爆裂魔法も…」

 

カードを返す際にめぐみんが、何か呟いていたが、それを聞き取ることはできなかった。

ただ、めぐみんもまた、私が爆裂魔法ってどんな魔法だろうと、魔法という言葉に惹かれ、爆裂魔法に興味を持っていたことは、知る由もなかった…。

 

魔法という言葉には、えも言われぬ魅力がある…。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

私達はまた、昨日の平原に来ていた。

めぐみんを加えて、カエルに対してリベンジマッチである。

 

今日も今日とて、アクアがカエルに向けて、走り出していた。

だが、今日は騙されない。

あれは、身を呈した囮作戦である。

私はもうカエルの粘液まみれになるのは嫌だったのだが、アクアの献身ぶりには驚かされる。

 

そして予想通りアクアはカエルに突っ込み、無事に口の中に収まり、カエルの足止めに成功したようだ。

…………今のアクアの状態を見ると、カエルに食べられた時の嫌な感触が思い出されて、少し身震いする。

 

そんなアクアの勇姿を見守っていると、後ろから何かめぐみんが呟いているのが聞こえてきた。

内容が全く理解出来ず、何を呟いているのだろうと、めぐみんの方に振り返る。

そこでふと、空気が変化に気づく。

そしてすぐにその空気の変化は、めぐみんを中心に起こっているのだと理解した。

めぐみんが口にしていたのは、詠唱らしく、めぐみんが言葉を重ねる度に、その変化は大きくなり……、不意にめぐみんが詠唱をやめる。

 

………いや、やめたのではなく、どうやら詠唱が終わり、魔法の準備が整ったようだ。

めぐみんの周りには静電気がバチバチとしており、魔法について全く知らない私ですら、強力な魔法であることを理解出来る。

カズマにも目を向けると、彼も魔法の凄さを理解し驚いていた。

私もカズマ同様に驚いてもいたが、それ以上に初めて見る魔法に対して興奮していた!

 

「見ていてください!これが最強の攻撃魔法です!!…………『エクスプロージョン』っっっっ!!!!」

 

刹那、平原に爆音が轟き、爆炎が立ちのぼる。

私はあまりにも爆発による衝撃が強すぎて、地面に伏せ衝撃をやり過ごすのがやっとであった。

肌を熱風が駆け巡るのを感じる。

 

───やがて、爆風が止み、爆炎が晴れて辺りが落ち着きを取り戻す。

そこで私はやっと顔を上げて爆裂魔法の強力さを思い知った。

私が見たのは、土が抉れ出来上がった巨大なクレーター。

そこにはカエルがいた形跡は、何も残っていなかったのだ。

 

それは豪快でかつ、圧倒的な威力。

まさに最強の攻撃魔法であった。

 

 

 

……………かっこいい!

なんてかっこいいのだろうか!

私も爆裂魔法を撃ってみたい!

 

私はその衝動を抑えることは出来ず、咄嗟に冒険者カードを取り出した。

そして私は見つけてしまう。

習得可能なスキル一覧に、爆裂魔法の名前があることを。

 

一瞬どうして一覧に、爆裂魔法があるのだろうかと、思いもしたが、それよりも爆裂魔法が使えるという興奮が勝ってしまう。

 

「──新手か!?めぐみん一度下がって………、ってどうして倒れているんだ?」

 

「爆裂魔法の威力は絶大……そして消費魔力も絶大。なので、一度撃つと身動き一つ取れません。……新手が出てくるとか予想外です。すみませんが背負って──」

 

そして私は一心不乱に冒険者カードを操作する。

………そんな私には、先程の爆裂魔法の衝撃で、後方から新手のカエルが近づいているなど、気づけるはずもなく。

すぐ傍で、魔力を消費しきり、倒れていためぐみんが食べられたことにも気づかず。

 

「よし、できた!」

 

その言葉と同時に私は先程めぐみんが口にしていた、詠唱を思い出す。

 

「めぐみん!今助けるぞ!マイさん援護…………ってマイさん!?あんた一体何を!?」

 

正直詠唱は、あまり覚えていなかったが、曖昧な部分にはそれらしい言葉を埋める。

すると、私の周辺の空気が少しずつ変化しているのを感じた。

案外、魔法の詠唱というのは、そこまで重要では無いのかな………、そんなことを考えていると不意にあることに気づく。

 

 

そう言えば標的決めてなかった。

 

 

その時、カズマの声が耳に届く。

 

「マイさん後ろ!!」

 

私はその言葉を聞いて、反射的に後ろを振り返る。

そこには大きく開かれたカエルの口が、間近まで迫っており………

 

次の瞬間には、私の視界は暗闇と化していた。

同時にもう体験したくないと思っていた感覚が全身を覆い、パニックに陥る。

だが、パニックになったのも一瞬だった。

なぜなら、練り上げた魔力が暴走し───

 

 

 

ボンっとなって、私の意識が刈り取られたからだ。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

「カエルの中って、少し暖かいんですね」

 

その思い出したくもないが、2度も体験したその感覚を語るのは、カズマの背中に背負われている、粘液まみれとなっためぐみんである。

その後ろには、粘液まみれで泣きじゃくっているアクア、そして、少し煤けながらも、同じく粘液まみれな私が続いていた。

 

「あれな、緊急時以外は爆裂魔法は禁止な。もっと使い勝手のいい魔法を使ってくれ」

 

「使えません」

 

静寂

 

その静寂を破ったのはカズマだ。

 

「………今なんて?」

 

「爆裂魔法以外の魔法は使えないと言ったのです」

 

その言葉を聞くなり、カズマがめぐみんを見る目が、文字通り荷物を見るような目になった。

 

 

───その後、捨てる捨てないと一悶着あったのだが、無事にめぐみんはパーティに残ることが出来るようだ。

よかったよかった。

また、魔法について色々聞いてみようと考えていると、カズマに声をかけられる。

 

「めぐみんは兎も角、マイさんはもう爆裂魔法は使わないでくれよ。そもそもいつの間に爆裂魔法なんて覚えたんだよ」

 

「めぐみんの魔法をみて、使いたくなっちゃって……。冒険者カード見たら習得可能だったからつい………」

 

「な!?確かにマイさんの魔力量はとてつもないものですが、そんな簡単に究極魔法である爆裂魔法を習得できるはずが!それにスキルポイントはどうしたのですか?」

 

「私もどうして習得出来たのか、分からないのだけど……もしかしたらめぐみんが詠唱しているところを近くで見ていたからかな?スキルポイントは、まだ1つも使ってなかったから、沢山余ってるの」

 

そう言って私は、冒険者カードを取り出した。

そこには、爆裂魔法を習得したにも関わらず、まだスキルポイントには余裕があった。

 

「「なっ!?」」

 

私の冒険者カードをみた、カズマとめぐみんの声がハモる。

 

「アークウィザードの私ですら、ために貯めたスキルポイントを使って習得したというのに…」

 

「俺なんて、レベル4になってようやく4ポイント貯まったのに…、レベル1でこのスキルポイント…」

 

「私も最初からそれぐらいあったわよ?」

 

最後にアクアが放った言葉は、それぞれブツブツと呟いていた、カズマとめぐみんの耳には届いていなかった…。



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憧れのクルセイダー

カエル討伐を終えた翌朝。

 

めぐみんをパーティに加えた私達は、ギルドに集まっていた。

カズマとめぐみんは朝食を摂りながら、何やら話してる。

私はというと………

 

「「花鳥風月〜」」

 

アクアにスキルを教えて貰っていた。

 

「さすがマイだわ!このスキルをもうマスターしたみたいね」

 

「教えてくれてありがとう、アクア。いつ使うのかは分からないけど、面白いスキルね!」

 

アクアは満足気にうなづいていたが、そんな私たちをカズマとめぐみんは、ジト目で眺めていた。

 

「おい、アクア。これ以上マイさんに使えないスキルを教えるのはやめてくれ」

 

そう言ったカズマの視線が一瞬、めぐみんに向けられていた。

めぐみんもどうやら、そのことに気づいていたらしい。

 

「爆裂魔法に文句があるのなら、聞こうじゃないか!」

 

そう言い放ち、いきり立っためぐみんを、面倒くさそうに宥めているカズマ。

そんな2人を見ていると、視界に綺麗な金髪の女騎士の姿が視界に入った。

その姿には見覚えがあった。

ギルドでウェイトレスをしている時に、何度か見かけ、凛々しくかっこいいなぁと思っていた人だ。

 

その人が、カズマ達めがけて、歩いている。

そして、カズマの近くで歩みを止めたと思うと、何やらカズマに話しかけている。

カズマはあの人と知り合いなのだろうか。

知り合いならいつの間に知り合ったのだろうか。

もし知り合いなら、後で紹介してもらえないかな等と考えていると、先程めぐみんに先を越され、カズマに文句を言いそびれたアクアが私に愚痴を言ってきた。

 

「カズマったら、私のスキルを使えないだなんて、ほんと失礼ね。その点マイはいい子ね。もっと私のスキルを教えてあげるわ!」

 

「ほんとに?ありがとう!」

 

アクアのスキルは使いどころが分からないが、教えてくれるということなので、とりあえず教えてもらうことにしたのであった。

 

「じゃあ、まずは、手を使わないで机の上のコップを動かすやつね!まずは机の上にコップをおいて───」

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

アクアに使いどころは分からないが、面白いスキルを2つ3つ教えてもらったところで、めぐみんがやってきた。

だが、一緒にいたはずのカズマの姿がみえない。

 

「カズマはどうしたの?」

 

「カズマなら、クリスという盗賊職の人にスキルを教えてもらうと言って、外にいきましたよ。ところで、2人は何をしていたのですか?」

 

「アクアにスキルを教えてもらってたの」

 

そう言うと私はおもむろに、机の上にコップを置き、先程教えてもらった、手を使わずにコップを動かすスキルを見せてあげた。

アクアは満足そうに頷いているので、上手くできているようだ。

よし!と思い、めぐみんにドヤ顔を向けると、

 

「宴会芸スキルじゃないですか」

 

と呆れた顔で言われてしまった。

 

「そんなことより!」

 

そう言いながら、めぐみんが、紅い瞳を輝かせながら近付いてくる。

 

「マイさんは爆裂魔法の詠唱を覚えましょう!私が教えて差し上げます!そして爆裂魔法を使いこなし、私と一緒に爆裂道を歩もうじゃありませんか!」

 

「ほんと!?教えてくれるの!?」

 

私としても、魔法というものを早くものにしたかったので、願ったり叶ったりである。

後半の爆裂道というのは、よく分からないが…

 

「いいですよ!いいですとも!まずは詠唱を覚えましょう!上手く扱うためには、やはり杖も必要ですね。それにスキルポイントもまだ余っているようですし、それをどんどん爆裂魔法につぎ込んで───」

 

何やら今後の方針についても考えてくれているようだが、その場ではとりあえず詠唱を教えてもらうことにしたのであった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

めぐみんの瞳がいつにも増して紅く輝いている。

 

私は今、めぐみんの対面に座り、彼女が爆裂魔法について熱く語っているのを、笑顔で頷きながら聞いていた。

めぐみんは、爆裂魔法の詠唱について一通り私に教えた後、そのままの勢いで、爆裂魔法がいかに強力かを語り始めたのだった。

 

開口一番が、『爆裂魔法は詠唱なんて二の次で、一番大事なのは、かっこよさです!』と、先程教えてもらった詠唱は一体なんだったんだ、と思うようなことを言われ、そのことについて私が言うよりも早く、矢継ぎ早に、大量の雑魚モンスターめがけて放つ爆裂魔法の素晴らしさ等を語り始め、今に至る。

アクアも最初のうちは、一緒に聞いていたが、ふとアクアを見ると、めぐみんには見えない位置で船を漕いでいた。

 

「どうです!マイさん!爆裂魔法の素晴らしさについて理解できましたか!?」

 

アクアに意識を向けていたうちに、話が終わってしまったようだ。

私はとりあえず、先程と同様に笑顔で頷いてあげると、めぐみんは満足そうな顔をしていた。

 

正直、めぐみんには悪いが、話が長かったので、最初の詠唱よりかっこよさが大事という部分しか頭には残っていなかった…。

かっこよさが大事かぁ…とそんなことを考えると、入口付近にカズマ達の姿が見えた。

 

「カズマが戻ってきたみたいですね」

 

めぐみんも気づいたようで、アクアを起こしつつ、私達3人はカズマを出迎えに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

カズマを出迎え向かった私達であったが、どうやら様子がおかしい。

 

あの女騎士の人は、少し頬を紅潮させ、めぐみんが言っていたと思われるクリスという盗賊職の人は…泣いていた。

 

「ちょっとカズマ、その人どうしちゃったのよ?」

 

私と同様に異変に気づいたアクアが、カズマに尋ねた。

カズマは少しバツが悪そうにして、答えるのを一瞬躊躇っていると、あの女騎士の人が代わりに教えてくれた。

 

女騎士の人の話、そして泣いていたクリスの話を聞き、要約すると、カズマがパンツ泥棒の変態鬼畜野郎になった、ということだ。

カズマの第一印象が大人しめな男の子だっただけに、豹変っぷりに少し驚いたが、まぁつい魔が差しただけなのかもしれないと思い、自分の中でカズマに変態の烙印は押さないでおいてあげた。

 

「それでカズマは、盗賊職のスキルを習得できたのですか?」

 

めぐみんがそう言ったのを聞くと、確かに本来の目的は達成したのか私も気になり、カズマに視線を向けると、

 

「もちろんだ!みせてやるよ。………『スティール』!!」

 

そんなカズマの声が聞こえ、一瞬視界が光に包まれた。

そして視界が戻り、カズマの手元を見た瞬間、先程押すのをやめた、変態の烙印をカズマに押しつけた。

この日からカズマを見る目が変わったのは、言うまでもない。

 

「こんな幼げな少女の下着を、公衆の面前で盗むだなんて!」

 

そう言って、パンツを盗まれ少し涙ぐんでいためぐみんを庇うように、へんt……カズマの目の前に立ちふさがったのは、あの女騎士だった。

 

私はそんな女騎士の行動に感動していた。迷わずあの変態の前に立ちふさがるなんて、すごくかっこいい!

あー私もあんな風にかっこよくなりたいなぁと物思いに耽っていた私には、その後のカズマと女騎士のやり取りは聞こえていなかった。

 

「ねぇカズマ、この人って昨日私達がいない間に面接に来たって人?」

 

そう言えば、そんな人がいたと言っていたが、まさかこの人が私達のパーティに入ってくれるのだろうか!と、私は人知れず興奮していたのであった。

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

「この方、クルセイダーではないですか!」

 

例の女騎士、ダクネスが私達のパーティに入りたいということで、とりあえず机を囲んで話し合うことになった。

話し合うにあたり、ダクネスの冒険者カードを見せてもらっていたのだ。

 

ダクネスは、先程めぐみんがいったように、上級職であるクルセイダーという職業らしい。

そんなダクネスが、パーティに入ることを反対する人などいるはずもなく、みんなが加入に賛成しようとしていた時、おもむろにカズマが話を始めた。

 

「ダクネス、君にどうしても話しておかないといけないことがある」

 

そう切り出したカズマの話は、寝耳に水であった。

なんと真剣に魔王の討伐を考えているということだ。

アクアを見ると、うんうんと頷いていたので、2人の間では周知の事実だったようだ。

 

2人と1番付き合いの長い私ですら、パーティを抜けた方がいいのではないかと考えてしまうような内容の話。

だとすれば、今から入ろうとするダクネスは、このままパーティの参加を断念するのではないだろうか…

 

「のぞむところだ」

 

そんな私の思考を、ダクネスの一言が遮った。

なんて頼もしく、かっこいい一言だろうか。

私がダクネスの言葉に感動していると、カズマもその決意を感じ取ったのか、次はめぐみんに話を振る。

 

めぐみんは、上級職のアークウィザードではあるが、パーティでは最年少のまだまだ子供である。

さすがにめぐみんはパーティを抜けてしまうのかな…というのは、私の杞憂に終わった。

なんとめぐみんは、魔王の話を聞くと、パーティを抜けようとするどころか、逆に魔王討伐に意欲を示し、むしろやる気になったのだ。

私はなんとも頼もしいパーティメンバーに恵まれたのだろうか。

 

「最後に、マイさんはどうする?魔王討伐だなんて無理しなくていいんだぞ?」

 

カズマが最後に話を振ったのは、私である。

最初に振られていれば、おそらく回答に躊躇ったであろうが、私は既に2人の頼もしい回答を聞いている。

私は真っ直ぐカズマをみつめ、こう言い放った。

 

「こんな頼もしいクルセイダーとアークウィザードがいるようなパーティ、抜けるわけがないよ!」

 

その言葉を聞き、めぐみん、ダクネス、そして私はお互いに見つめ合い、目を輝かせながら、頷きあった。

 

そんな3人とは対称的な2人。

 

「カズマカズマ、話聞いてたら私、なんだか腰が引けてきちゃったんですけど…」

 

アクアはカズマだけに聞こえるように、そう呟いた。

それを聞いたカズマはため息をついた。

目を輝かせていた3人とは違い、カズマとアクアの目は曇っていたのだった。

 

 

一方その頃私は、このパーティーなら、どんな敵でも渡り合える気がする!などとフラグじみたことを考えており…

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!────』

 

そんな放送が聞こえてきたのは、そのすぐ後だった。

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

『緊急クエスト!緊急クエスト!冒険者各員は至急正門前まで!』

 

 

「一体なんなんだ!」

 

突然の放送を聞き、カズマが動揺したように声をあげる。

私も一体何事かと思い、周りをキョロキョロと見渡す。

 

しかしそこには、カズマのように慌てていた冒険者はおらず、みな訳知り顔で準備を始めていた。

時々、「キャベツか!」「キャベツだな!」などといった声が聞こえてきた気もするが、キャベツ…何か秘密の合言葉なのだろうか…。

そんなことを考えつつ、周りの冒険者達の後を追いかけて、正門まで辿り着いた。

私と同様に、未だに状況を掴めていないカズマが、めぐみんやダクネスに何事かと問いかける。

 

「キャベツよ、キャベツ」

 

「………はぁ?」

 

カズマの問に答えたのはアクア。

キャベツという言葉に首を傾げるカズマ。

そして、またしてもキャベツ。

 

「キャベツというのは、何か合言葉のようなものなの?」

 

私がアクアにそう聞くと、今度は私がアクアに「合言葉?」と言いたげな顔で首を傾げられた。

少しして何か理解したような顔になると、私に説明を始めた。

 

「そういえばマイも知らなかっ「なんじゃこりやぁぁぁ!」」

 

アクアの声を遮ったのは、カズマの叫び。

その声に驚き、前方を見ると、巨大な緑色の塊…いや…緑色の何かの群れ…キャベツ…の群れ…が、目に入った…。

 

呆然とする私とカズマにアクアが説明してくれた。

なんでもキャベツは飛ぶものらしい。

確かにギルドでウェイトレスをしている頃、調理されようとしている野菜が不自然に動いているように見えたことが何度もあった。

しかし私は、野菜は動くはずのないものという、固定概念が何故かあったため、目の疲れだと思っていたのだ。

 

眼前に広がるキャベツの群れ。

キャベツと闘う冒険者。

 

なんとも言えぬ、この光景の違和感に耐えつつ、私は自分の出来ることをした。

アクアに見習い、花鳥風月で周りのサポートをしつつ、後方まで通り抜けてきたキャベツをショートソードを使って倒し、収穫する。

私に出来ることといえば、このようなものだ。

しかし、私の頼もしい仲間たちは、もっと活躍しているだろう。

私もみんなと肩を並べられるように頑張らないと!等と考えていると、カズマの声が聞こえてきた。

 

「ダクネス!」

 

カズマの視線の先では、キャベツによって倒されてしまった冒険者を庇い、キャベツからの猛攻撃に耐えているダクネス。

そんなダクネスの姿を見て、とてもかっこいいと思った。

自分の身を犠牲にして、他人を守っている姿は、なんとかっこいいことだろうか。

 

そんなことを考えつつ、ダクネスの勇姿を眺めていると、背後の空気が変わった。

その感覚には覚えがある。

そう、昨日平原で感じたあの…!

後ろを振り返るとやはりそこには、爆裂魔法を放とうとしているめぐみんの姿があった。

 

そこで私はふと思った。そうだ私にも爆裂魔法がある、と。

これでキャベツを一掃出来れば、皆と肩を並べられるのではないか、と。

そして私はめぐみんに続き、爆裂魔法を放つために、詠唱を…。

と、そこで私はふと思い出した。朝のめぐみんの話を。

爆裂魔法は詠唱よりもかっこよさという話を。

 

どうすればかっこよくなれるか。

私はつい先程、かっこいい仲間の姿を見ている。

私の考えがまとまり、そして行動に移すまでにさほど時間はかからなかった。

私は後方から前方に向けて、走り抜けた。

そして、倒れている冒険者を庇うように前に立った。

おそらく私が色々と考えているうち放たれた、めぐみんの爆裂魔法の爆風に巻き込まれたのだろう、その冒険者は少し煤けていた。

 

「嬢ちゃんあぶねぇぞ!」

 

そんな声が後ろで倒れている冒険者から聞こえた。

しかし私はそんな声を無視し、詠唱を始めた。

詠唱を唱え、爆裂魔法を練り上げる…練り上げる…練り上げる…

あ、やべ、詠唱の続き忘れた。

そんな一瞬の隙をつかれ、キャベツの体当たりをもろにくらい…

庇っていた冒険者も巻き添えにしつつ…

 

 

 

ボンッとなった。

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

キャベツの収穫を無事に終え、私達は採れたてキャベツの料理を食べていた。

キャベツの野菜炒めを食べるカズマの顔が少し不満そうなので、あまり野菜は好きではないのかもしれない。

そんなことを考えていると、みんなが今日の活躍について、お互いに称えていた。

確かにみんな素晴らしい活躍だったと言えるだろう。

私はというと、爆裂魔法に失敗し、煤けていただけだった。

少し落ち込んでいる私に気づいたのか、みんなが声をかけてくれる。

 

「マイは、前衛に出るなら、もう少し筋肉をつけないとな。今度よかったら一緒に筋トレでもするか?」

 

「筋トレする前に使えるスキルを覚えろよ」

 

「爆裂魔法、途中まではいい感じだったのですがね。やはりまだ詠唱をしっかり覚えていなかったみたいですね。ただし!倒れている冒険者を庇う姿はとてもかっこよかったです!」

 

「まず、爆裂魔法を使おうとするなよ」

 

「私と一緒に花鳥風月で周りの冒険者のサポートをする姿は、さながらプリーストのようだったわ!」

 

「そもそも宴会芸でサポートってなんなんだよ」

 

至らない私をみんな励まし、褒めてくれる。

なんと素晴らしいパーティメンバーだろうか!

 

その日私達、5人のパーティが結成したのであった。

 

 

 

 

 

 



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デュラハンの悲劇

「「『クリエイトウォーター』」」

 

そう唱えたカズマの手のひらからは水が飛び出し、コップの中を水で満たした。

その隣で私は同じ魔法を唱え、人差し指から水が飛び出し、カズマと同様にコップを水で満たす。

私はドヤ顔でカズマを見ながら、その水を飲み干した。

一方カズマは、悔しそうな表情を浮かべつつ、同じく水を飲み干す。

 

先程唱えた魔法は初級魔法。

カズマが新たなスキルの1つとして、覚える際に、魔法と聞いて私も一緒に教わったのだ。

そしてカズマが悔しがっている原因は、彼が手のひらから出した水の量を、私が指先1つで真似して見せたからだ。

これはひとえに魔力量の差によるものだ。

私が魔法覚えた際に、試しに先程の魔法を使ったら、辺りが水浸しになり、少し悲惨なことになってしまった。

 

そんなこんなで、私が少し大人気ないことをしていると、ダクネスが歩いてきた。

 

「2人ともどうだろうか、この鎧」

 

そういったダクネスの鎧は、以前より輝いてるように見えた。

どうやらキャベツ狩りの報酬金で新調したようだ。

 

「とっても綺麗ね!」

 

「成金みたいだけど」

 

「なっ成金っ!!」

 

私の後ろでぼそっと皮肉っぽく呟いたカズマの声が聞こえたみたいで、ダクネスがその言葉に反応していたが、怒ってはいなさそうなので大丈夫だろう。

 

私はあまり嫌味なことは言ってはいけないよ、と注意しようとカズマのいる方へ振り向くと、当の本人は何かを眺め、ため息ををついていた。

その視線の先に目を向けると、そこには、杖に頬擦りするめぐみんの姿が。

 

「魔力溢れるマナタイト製の杖のこの色、艶!」

 

「おい誰かそこの変態をどうにかしてくれよ」

 

どうやらめぐみんも、キャベツ狩りの報酬金で杖を新調したようだ。

だが確かに、杖に頬擦りする今のめぐみんには近づきたくない。

 

「なんですってぇ!!」

 

杖にご執心だっためぐみんまでもが、それを辞めて声がした方を見るほど、先程の声がギルドに響いた。

どうやらアクアが受付の人と揉めているようだ。

なんでも、アクアがキャベツだと思って捕まえた分のほとんどがレタスだったらしく、捕まえた量に見合わない報酬金で駄々を捏ねているみたいだ。

 

しばらくして、諦めたのかこちらに向かってきた。

 

「カーズーマーさん、今回の報酬はおいくらかしら?」

 

「100万ちょい」

 

「「「「ひゃっ!?」」」」

 

カズマの報酬金に驚いた4人の声がハモった。

そしてカズマの報酬金について聞いたアクアは、何やらすり寄っていった。

そんな様子を眺めてるとめぐみんに声をかけられた。

 

「マイさんは、今回の報酬どうだったのですか?もし良かったらその報酬金で杖でも買いに行きましょう!」

 

「それがね?私キャベツ狩りの時、爆裂魔法に失敗して途中から気を失ってたじゃない?それに加えて、気を失う前に捕まえたキャベツもほとんどがレタスで………結局3万ほど………しか……」

 

その言葉を聞いためぐみんとダクネスは、苦笑いをしながら無言で私の肩に手をおいたのであった。

 

「その、マイさんがよければ、私が以前使っていた杖を差し上げますよ?」

 

「ほ、ほんとに!?」

 

めぐみんの申し出に飛びつくように、返事した私は少しめぐみんに驚かれてしまった。

だが、魔法に憧れている私としては、杖はかねてより欲しかったので、こんな反応をしてしまうのも仕方ないとしか言いようがない。

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

翌日。

私達はクエストを受けるために、ギルドに集まっていた。

集まるとすぐに、1人今までと違う格好をした人がいることに気づく。

そうカズマである。

カズマは出会ってからずっと、奇妙な格好をしていたのだが、どうやらキャベツ狩りの報酬金で服を新調したようだ。

 

「カズマが普通の冒険者のように見えるのです」

 

めぐみんが言った言葉が、ここの場にいるみんなの総意であった。

カズマ曰く、初級魔法も覚えたので、片手剣と合わせて、魔法戦士のように戦うらしい。

カズマも色々と考えているんだなぁと思っていると、今度はみんなの視線が私に集まる。

 

「剣に杖って、なんかまとまりがねぇな」

 

その言葉にみんなが頷いている。

どうやら、私の装備に言いたいことがあるみたいだ。

今の私は、剣を腰に差し、杖を手に持っている状態だ。

 

「いやぁ、めぐみんに杖をもらったんだけど、今まで装備してた剣を手放すこともできなくって…。それに腰に剣がないと、もう落ち着かない…みたいな?」

 

みんなが、フーンといったような顔をしていたので、とりあえずは納得してもらえたみたいだ。

 

カズマと私のちょっとした新装備披露を終え、私達は今日受けるクエスト選びを始めた。

クエストを選ぶに当たり皆がそれぞれに受けたいクエスト内容を口にする。

 

ダクネス曰く、一撃が重くて強いモンスターの討伐クエスト。

めぐみん曰く、大量のモンスターの討伐クエスト。

アクア曰く、高額報酬のクエスト。

 

三者三様に、希望を述べるが、その希望を満たすのは、全て高難易度クエストだろう。

そんなクエストを自ら望むあたり、さすがこのパーティと言えるのではないか。

 

私はというと、とりあえずみんなと楽しくできるクエストと答えておいた。

そんなことを言うと、私だけ意識が低いなと思われたのか、カズマにジト目で見られてしまった。

その目が私以外の3人にも向けられていた気もしたが、おそらく気のせいだろう。

その後カズマが少し考え、提案した。

 

「じゃあ、ジャイアントトードの討伐クエストなんてどうだ?」

 

カ、カエル!?

 

「なんでも、繁殖期に入ったらしく、街の近くまで…」

 

「カエルはだめ!」

「カエルはやめましょ!」

「カエルはいや!」

 

カズマの提案に、ダクネス以外の3人が揃って却下する。

全員カエル被捕食経験者だ。

 

3人の慌てぶりを疑問に思うダクネス。

そんなダクネスに向けてカズマが説明する。

 

「あぁ、こいつらみんな以前カエルに食べられて粘液まみれ…」

 

「ね、粘液…まみれっっ!!!」

 

「お前今興奮しただろ?」

 

「してない。」

 

カズマとダクネスが何やら喋っていたが、カエルに食べられた時の記憶がフラッシュバックしている最中だったので、話を聞く余裕などなかった。

 

カエル被捕食経験者の3人が、過去の経験の記憶から抜け出したところで、話し合いでは、決まらないと思った私達は、掲示板に張り出されているクエストを見ることにした。

 

掲示板に着くやいなやダクネスが、ある1つの依頼書を手に取る。

 

「おいカズマ、これなんかどうだ?ブラックファングの討伐!」

 

「却下だ、却下」

 

そう言い放ったカズマは、掲示板を見渡した。

 

「おい、なんだよこれ。高難易度のクエストしか残ってねぇーじゃねぇか」

 

確かに見るからにクエストの数が少なく、残っているのはどれもこれも高難易度クエスト。

そのため、クエスト選びが難航していると、私達の様子に気づいた受付のお姉さんがやってきて、現在の状況を説明してくれた。

 

「申し訳ありません、現在、魔王軍の幹部らしきものが、街の近くに住み着きまして………」

 

お姉さんが説明するには、どうやらその魔王軍の幹部らしきもののせいで、弱いモンスターは怯えて身を潜めてるらしい。

だから軒並み高難易度クエストなのか。

 

現状としては、こんな駆け出しの街に魔王軍の幹部クラスを討伐できる冒険者はいないので、王都からの騎士団派遣を待つしかないようだ。

それを聞いた私達は、王都からの騎士団が到着するまでは、クエストを受けるのをやめることにし、その間は自由行動となった。

 

そんな訳で、何して過ごそうかと考えているとめぐみんに声をかけられた。

 

「マイさん、もしやることがないのでしたら、この期間を利用して、私と魔法の訓練でもしませんか?」

 

そんな提案は、私にとって願ったり叶ったりなものなので、即快諾した。

 

「それでは早速明日からはじめましょう!」

 

次の日から、私とめぐみんの日課が始まった。

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

現在は昼過ぎ。

私とカズマ、そしてめぐみんは、今、アクセルから少し離れた小道を歩いている。

めぐみんに誘われた、魔法の訓練を行うためである。

どうしてカズマがいるのかと言うと、ギルドで手持ち無沙汰にしていた、カズマを見つけためぐみんが、声をかけたそうだ。

 

私達以外のアクアはバイト、ダクネスは実家に帰って筋トレをするみたいで、ダクネスからは、別れ際に筋トレのメニューを教えてもらった。

 

「このメニューに耐えれれば、立派な前衛になれるぞ」

 

と、サムズアップされたので、笑顔でサムズアップをし返した。

キャベツ狩りの時に、ダクネスの真似をして前衛に出たことを覚えていたらしい。

あの時はかっこよさを求めるあまり、危険を顧みない行動に出ただけだったのだが、せっかくダクネスに教わったメニューなので、しっかりこなそうとも思う。

しかし、当のメニューは、聞いてるそばから筋肉痛を起こしそうなレベルのもので、正直やり遂げれるか怪しい。

あんなメニューをこなすダクネスは、どんな身体しているのだろうか…。

 

ふとそんなことを考えつつ、歩いていると、前を歩いていた2人が何やら話していた。

 

「なぁ今更なんだが、魔法の訓練なら2人でしてくればいいだろ?」

 

ついてきたはいいものの、こんなにアクセルから離れたところまで、来るとは思っていなかったのか、不満な様子でカズマが文句を言う。

 

「そしたら、魔法で2人とも動けなくなった時に、誰が運んでくれるんです?」

 

さも当然のようにそう答えためぐみんに、カズマはゲッとした様子になる。

正直私も、爆裂魔法を放った後に、自分で歩けはするものの、めぐみんを背負って来た道を帰る自信はないので、カズマがいてくれないと困る。

 

「じゃあもう、この辺でパパっと撃って、さっさと帰ろうぜ」

 

「ダメなのです。もう少し離れて撃たないと、また守衛さんに怒られてしまうのです」

 

そう言えば以前、ウェイトレスをしている時に、地震のような地響きがしたことがあったが、あれはめぐみんの爆裂魔法によるものだったのか。

めぐみんの話を聞き、1人後ろで納得している私に対し、カズマはめぐみんにただ、呆れた目を向けていたが、カズマも守衛さんに迷惑をかけるのが嫌だったのか、諦めて歩き続けた。

 

しばらく歩くと、あるものを見つけた。

 

「あれは廃城でしょうか」

 

そこには、既に誰も住んでいないような廃れた、お城があった。

少し薄気味悪い。

 

「あれにしましょう!ここなら誰にも迷惑をかけませんし!」

 

「大丈夫だよね?あの中に誰かいたりしないよね?」

 

「まぁこんな所にある城なんて、もう誰も使ってないんじゃないか?」

 

カズマの言葉を聞き、それでも本当に大丈夫かなと、疑っていた私に関係なく、めぐみんは爆裂魔法の準備をしていた。

 

空気が変わる感覚。

そして聞こえてくる、爆裂魔法の詠唱…詠唱…。

あれ?なんだか以前教わったのと違わない?

私がそんな疑問を思っているのなど、知りもしないめぐみんは、詠唱を終え、廃城に向けて爆裂魔法を撃ち放った。

 

「『エクスプロージョン』っっっっ!!!!」

 

爆裂魔法を放っためぐみんは、その場に倒れ込んだ。

 

「さぁマイさん、私に続くのです!」

 

「う、うん!」

 

そんなめぐみんの言葉に反応して、私はめぐみんに貰った杖を構え、詠唱を始める…のはよかったのだが、先程聞いためぐみんの詠唱を思い出し、また途中で詠唱を忘れてしまった。

どうしても先程の詠唱が気になり、詠唱の途中だったにも関わらず、先程の詠唱は何だったのか聞くためにめぐみんに声をかけようとした瞬間、手元で何か暴れ出すような感覚があり、次の瞬間には───

 

 

 

ボンッとなっていた…。

 

 

目を開けると、そこには私を覗き込む顔が1つ。

 

「なぁマイさん、あんた爆裂魔法使うのやめといた方がいいんじゃないのか?」

 

私の顔を覗き込んでいたカズマが、私が目を覚ましたと同時にそんなことを言ってきた。

どうやら、爆裂魔法に失敗した私は少し気を失っていたらしく、そんな私を木陰の下まで運んでくれたようだ。

 

私は周りを見渡すためにとりあえず上体を起こす。

すると木の隙間から、あの廃城が見えたので、あれから移動はしてないみたいだ。

 

「おや?気がついたのですか?」

 

それは、私と一緒に木陰の下で横になっていためぐみんの言葉だ。

 

「今回はどうして失敗してしまったのですか?詠唱を教えてからしばらく経つので、もう覚えたと思っていたのですが」

 

「ねぇめぐみん、どうしてさっきはいつもと違う詠唱をしていたの?その事が気になって、詠唱に集中できなくて………」

 

「そんなことを気にしていたのですか。私ぐらいの爆裂魔法使いになると、詠唱内容なんてただのおまけみたいなものです。なので、私好みにアレンジを加えただけです」

 

なんて無茶苦茶な。

もしかするとめぐみんはあまり、師と考えない方がいいのではないだろうか………。

 

「マイさんも起きたことだし、いい加減そろそろ帰るぞ」

 

私とめぐみんの話を、黙って聞いていたカズマだったが、早く帰りたいみたいだ。

 

「待って!次こそ成功させるから!」

 

そんなカズマの言葉に異を唱え、杖を手に持ち、廃城が見える位置まで移動する。

後ろからカズマがとめようと、声をかけてきているが、無視して、詠唱に集中する。

 

爆裂魔法。

今まで何度か撃とうと試みるも、悉く失敗してきた。

せっかくこんな遠くまで来たので、今回こそはちゃんと放ちたい。

 

そんな願いを込めて、初めて詠唱を全て言い終えた私は、あの魔法を唱える。

 

「『エクスプロージョン』っっ!!!」

 

私が放った爆裂魔法は、めぐみんの威力には遠く及ばないが、廃城に直撃した。

そして私は、めぐみんがこの魔法に拘る理由が少しわかった気がしたのであった。

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

それから私達3人は毎日、廃城まで足を運び、爆裂魔法を打ち込んだ。

 

時には早朝からでかけ、時にはお弁当を持っていき、そして雨の日でさえ、構わず爆裂魔法を放ちに行った。

 

私は日に日に爆裂魔法の精度を上げていき、そして日に日に身体の動きがぎこちなくなっていった。

 

ある日カズマに、どうしてそんな動きをしているのかと聞かれ、私は「筋肉痛で…。」と答えた。

カズマはそんな私の回答を聞き、爆裂魔法を撃つと筋肉痛になるのか?みたいなことを呟きながら、それ以上は聞かなかった。

 

そして、しばらくの間、私とめぐみんの爆裂魔法を身近で観察していたカズマは、どんどん爆裂魔法に詳しくなっていった。

カズマの爆裂魔法への理解度に感心しためぐみんが、カズマに爆裂魔法の習得を奨めるぐらいだ。

爆裂魔法持ちが3人もいるパーティが出来たら最強じゃないだろうか、と思った私も、カズマに習得を奨めておいた。

そんなカズマは、私達の爆裂魔法を採点してくれる。

めぐみんは大抵90点を超え、そんなめぐみんに対し私の最高は50点といったところだ。

 

そんなこんなで、毎日楽しく爆裂魔法を放っていた私達だったが…

 

ついにその日が来た。

 

「マイさん、あなたの爆裂魔法で決めちゃってください!」

 

「ええ!わかったわ!」

 

そんなめぐみんの言葉を聞き、いつも以上に魔力を注ぎ、詠唱をする。

そして過去最大の威力が出そうな爆裂魔法の準備ができると、

 

「『エクスプロージョン』っっっ!!!」

 

それを私は、いつも通り廃城に向けて放ち、それを受けた廃城は…

 

完全に崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

私達パーティは、久しぶりにギルドに集まった。

集まったかと思うと、早速アクアが泣いていた。

 

「回復魔法だけはいいじゃないーー。私の存在意義を奪わないでー!」

 

どうやら、カズマがアクアの取り柄でもある、回復魔法を教わろうとしたのが原因らしい。

 

「あのアクア、私も回復魔法教えて欲しいんだけど…」

 

回復魔法だなんて、ざ・魔法みたいなものは、是非とも覚えたい。

だが、私の言葉を聞いたアクアは、さらに泣いてしまった。

 

「うぁーーん!マイまで私をいじめるぅぅーー!」

 

「マイさんは、たまに天然なところがありますからね。悪意の無い言葉は、一番心に刺さるものですよ」

 

「そうだな、私もそういった類の言葉責めは苦手だ」

 

めぐみんとダクネスの言うことを聞き、少し反省する。

確かに泣いているアクアに言うことじゃなかったかもしれない。

………あれっ?

今アクアが一瞬泣いていないように見えたが……恐らく気のせいだろう。

 

「緊急!緊急!───」

 

受付のお姉さんの声がギルドに響いたのは、そのすぐ後だった。

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

デュラハン。

アンデットで、首を切り落とされ無念の死を遂げた、騎士の成れの果ての姿である。

 

受付のお姉さんの指示を聞き、すぐに準備を整え、正門に向かった私達が見たのは、そんなデュラハンであった。

 

「なんだよあいつ、めちゃめちゃ強そう…じゃないか…?」

 

そんな自信なさげな声を上げたのはカズマ。

なぜそんな自信なさ気な声だったか、それはデュラハンの姿を見れば分かる。

 

そのデュラハンは、同じく首無しの馬に跨り、威風堂々とした風格があるのだが…、いかんせんその装備がボロボロなのだ。

ここに来る前に、激戦を終えてきたようにボロボロであった。

 

「私はつい先日、この付近の城に越してきた魔王軍の幹部のものだが………ま、毎日、毎日!俺の城に、ば、爆裂魔法を撃ち込み、せっかくの拠点を破壊した、お、お、大馬鹿者は誰だぁ!!!」

 

魔王軍の幹部が、ボロボロだったのは、私達のせいみたいだ…。

 

魔王軍の幹部の発言を聞いた冒険者達は、爆裂魔法という言葉で、視線を爆裂娘に向ける。

すぐに下手人がバレたようだ。

その視線に気づいためぐみんは、気まづかったのか、その視線から逃げるようにそっぽを向く…そっぽを向いためぐみんと目が合う。

 

その瞬間、周りの冒険者の視線が私に集まるのを感じた。

謀ったな!めぐみん!と思いつつ、私も共犯であり、なんならトドメをさした本人だったのを思い出し、気まづくなった私も誰がに擦り付けようと、顔を上げ、その視線の先にいたのは…ダクネスだった。

 

「な!?私は何も…でも、このたくさんの人に見られるのも…いい!」

 

私達を庇ってか、そんな目立つことを言って注目を集めてくれた。

ダクネスがみんなの注目を集めてくれている中、先程まで震えていためぐみんが、意を決したように震えをとめ、前へ歩き出し、デュラハンと相対した。

 

「ねぇカズマ、今のボロボロなデュラハンなら、もしかしたら倒せるんじゃない?」

 

私はめぐみんと相対する、ボロボロなデュラハンを見て、ふと思ったことをカズマに告げる。

 

「いやいや、ここは駆け出しの街だぞ?デュラハンみたいな強力なアンデット…おいアクア、お前ならあいつを…ってアクアはどこいった?」

 

「アクアならめぐみんに呼ばれてあっちに」

 

カズマが何か思いついた時には、既にアクアはその場におらず、そのアクアの後を追って、ダクネスまでもが走り出していた。

ダクネスがめぐみん達に追いつくと同時に、デュラハンから禍々しい気配を感じ、次の瞬間には、デュラハンが放った呪いがダクネスに直撃していた。

 

「ダクネス!」

 

そう叫んだカズマも、めぐみん達の方へ走り出し、私もそれについて行き、ダクネスへ駆け寄る。

 

「ダクネス大丈夫!?」

 

一見すると、特に何も異変はない。

 

「それは死の宣告。そいつは1週間後に死ぬだろう」

 

「それを解いて欲しくば、私にお前の言うことを聞けと言うのか!屈しない、私は決して屈しないぞ!」

 

「ふぁ!?」

 

デュラハンがダクネスに、死の宣告をした理由は、どうやらそれを脅しにダクネスにいかがわしいことをしようとしていたためであった。

そのことをダクネスに看破されたデュラハンは、冒険者達から冷たい視線を向けられる。

 

「その呪いを解いて欲しいのなら、城跡まで来て、私のところまで辿り着くのだな!」

 

デュラハンは、冒険者達の冷たい視線に耐えかねたのか、そう言い残して去っていった。

 

残される私達。

死の宣告をうけたダクネスは、突然の余命宣告にどこか気を落としている。

そんなダクネスの姿をみた、めぐみんはおもむろに歩き出す。

 

「ちょっとデュラハンに爆裂魔法を撃ち込んで、ダクネスの呪いを解きに行ってきます」

 

「私もついて行くよ!一緒に城を破壊した仲でしょ?」

 

「俺も毎日ついていきながら、魔王軍の幹部が住んでいることに気づかなかった責任があるからな」

 

ダクネスの呪いを解くために、3人の有志が集まった。

 

「ダクネス、お前の呪いを絶対に…」

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』ー!!」

 

意を決したカズマの言葉を遮ったのは、アクアの放った魔法だった。

その魔法を受けたダクネスは、淡い光に包まれ、微かに感じられていた邪悪なオーラが完全に消え去った。

 

ダクネスにかけられた呪いが解呪されたことに気づいた冒険者達は、魔王軍の幹部の襲撃をなんの被害もなく、やり過ごせたということで歓喜に包まれていた。

 

「どう?どう?すごいでしょ?たまには私もアークプリーストとして役にたつでしょ?」

 

解呪した張本人であるアクアは、ドヤ顔でカズマに話しかける。

当のカズマは、せっかく有志でデュラハン討伐に向かおうとしていたところで出鼻をくじかれ、どこかバツの悪そうな顔をしていた。

 

私も出鼻をくじかれた1人だが、そんなことよりも…

 

「アクア!さっきの魔法は何!?私にも教えて!!」

 

アクアの放った魔法に興味を惹かれていたのであった。

 

 

 

 

 

 



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魔剣の勇者

私達は今、歩き慣れた廃城への道のりを歩いている。

以前と違うのは、私達について来ているのが、カズマではなく、アクアということだ。

なぜこのようなことになっているかと言うと、話は数時間前に遡る。

 

デュラハンが街に来た日から2日程経っていた。

私達は、未だにデュラハンが、街の近くにいるせいで、いいクエストがなく、ギルドで時間をつぶしていた。

私は今度こそ天井のシミを数えてやる!と思って天井を見上げていると、後ろから声をかけられた。

 

「天井なんてみて、何をしているのですか?」

 

声をかけてきたのは、めぐみん。

私はさすがにシミの数を数えようとしていたなどと言えず、苦笑いをして回答を濁した。

 

「まぁいいです。そんなことよりも、また私と魔法の訓練に行きませんか?もちろん標的はあの廃城の城跡です!」

 

「そんなわざわざ魔王軍の幹部に喧嘩を売りに行かなくても…。まぁ確かにダクネスを呪い殺そうとした仕返しはしたいかな。でも、カズマに話せば絶対に止められるよ?」

 

「その点は大丈夫です。今回はカズマには、黙って行くつもりですから」

 

どうやらカズマに話せば、止められると考えたのはめぐみんも同じらしい。

だがしかし、カズマについてきて貰わないのであれば、帰り道どうするつもりなのだろうか。

 

「私を背負ってくれる人には、心当たりがあります。なので、マイさんは先に行って正門辺りで待っていて下さい」

 

めぐみんには何やら考えがあるみたいなので、私はそれに了承すると、先に正門で待っていた。

そこにめぐみんが連れて来たのが、アクアだったのである。

 

そして時間は今に戻る。

 

「あのデュラハンのせいで、ろくなクエストがなくて腹が立っていたのよね!」

 

アクアはあのデュラハンに、相当ご立腹らしい。

おそらくそれをめぐみんは聞きつけたのだろう。

 

「でも、動けなくなっためぐみんを背負って帰らないといけないけど、アクア大丈夫なの?」

 

私は男のカズマでさえ、アクセルの街につく頃には少し疲れた様子だったので、華奢なアクアに務まるのか心配だった。

 

「前はカズマが背負ってたんでしょ?なら、問題ないわ!あんなヒキニートより、私の方が筋力のステータスは上だもの!」

 

そんなことを少し腕まくりをして、ドヤ顔で喋っていたアクア。

それなら大丈夫だろう。

 

無駄話もしつつ、しばらく歩いていると、いつも爆裂魔法を放っていた場所に到着した。

そこから廃城跡を見ると…

なんと少し城が再建築されていた。

 

どうやら私達が壊した後から少しずつ直していたのだろう。

もしかすると、最初に私達が爆裂魔法を放っていた時から、破壊された所を修復していたのかもしれない。

だから、毎日爆裂魔法を放ってもなかなか壊れなかったのか。

 

「あのデュラハン、生意気にも拠点を建て直しているのね!めぐみん!マイ!盛大に撃ち込んでやりなさい!後ろにはこの私がついているわ!」

 

「アクア、私に任せて下さい!あんなちっぽけなもの、私の爆裂魔法で再び木っ端微塵にしてくれます!───『エクスプロージョン』っっっ!!!!」

 

そう告げためぐみんは、既に詠唱を終えていたようで、一瞬で空気が変わったかと思うと、次の瞬間には、再建築中の城を爆炎が飲み込んだ。

 

『あぁぁぁ!!せっかく建て直した俺の城がぁぁぁぁ!!』

 

廃城の方から、そんな叫びが聞こえてきた。

 

「いい気味ね!マイもやっちゃいなさい!」

 

私はアクアの声に応えるように、爆裂魔法の詠唱を始めた。

そして詠唱を終え、爆裂魔法を放とうとした時だった。

 

「ね、ねぇ、何か聞こえるんですけど。ものすごい足音みたいなのが、聞こえるんですけど!」

 

「あ、あれです!大量のアンデットがこっちに向かってきています!」

 

既にアクアに背負われていためぐみんが、前方を指差す。

そこには大量のアンデットの集団が、こちらに目掛けて走っていた。

 

「ま、マイさん!あいつらに爆裂魔法を食らわせるのです!」

 

「分かったわ!」

 

めぐみんに言われ、標的を変える。

そして放つ。

 

「『エクスプロージョン』っっっ!!」

 

私が放った爆裂魔法は、アンデット集団の真ん中に着弾した。

だが、全てのアンデットを葬ることは出来ず、爆裂魔法を逃れた残りが、再び追いかけてくる。

 

「マイ!ずらかるわよ!」

 

そう言ったアクアは、既に少し先に行っており、私は慌ててその後をおった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、まさかアンデットがあそこまで追いかけて来るとはねぇ」

 

「アクアの魔法がなければ、多分追いつかれてたね」

 

私達は追いかけて来たアンデット達をやっとの思いで振り切り、もうすぐでアクセルという所まで戻ってきていた。

 

「まさか追っ手を放ってくるとは思っていませんでした。明日以降何か手を考えないといけませんね」

 

「え?明日以降もまだ続けるの!?」

 

私はてっきり今日ので、復讐を果たし終わるものだと思っていた。

 

「当たり前じゃないですか!あのデュラハンは私達がせっかく破壊した廃城を建て直していたのですよ?あのまま放置すれば、いつか必ず再建させるでしょう。そ、それにですね、あの廃城への爆裂魔法を覚えて以来、他の標的じゃあ満足出来なくなってしまって……」

 

「そ、そんなことを言われてもなぁ」

 

以前であれば、追っ手もなく、ゆっくりと帰れていたのだが、今回は追っ手がいる。

もし追いつかれれば、どうなることか…。

 

「2人とも安心しなさい。この私がついている限り、アンデットなんか何体来ようが問題にならないわ!」

 

そんな私の不安を打ち消したのはアクアだった。

確かに今日もアクアのおかげで何とかなったし、アークプリーストのアクアがいれば何とかなるかな。

 

そんなこんなで、明日以降も廃城へ向かうことになった私達。

ただ、無策で向かうのは危険なので、最低限の作戦は決めることにした。

 

作戦は至ってシンプル。

まず1つ目は、いつも違った時間に行くというもの。

決まった時間に行き、待ち伏せでもされたら、たまったもんじゃない。

そして2つ目は、廃城前に着いたら、私とめぐみんが同時に詠唱を始め、まずめぐみんが、廃城に向かって放ち、そして私が、追っ手が見えた瞬間に追っ手に向かって放つというものだ。

これで追っ手と最大の距離をとって逃げることが出来る。

 

こんなシンプルなものではあったが、私達の作戦は上手くいった。

初日ほど、アンデット達に追いかけ回されることは無くなった。

 

だが、上手くいったのは最初の数日だけだったのだ。

少しアンデットを侮っていた。

ある日、私達はいつも通り廃城が見える場所に向かっていた。

すると、いつもの場所に辿り着く少し手前で、アンデット集団に奇襲を受けたのだ。

 

「『ターンアンデット』!!『ターンアンデット』!!なんでこいつらここで待ってんのよー!」

 

「こんなに近いと爆裂魔法を撃てません。早く逃げましょう!」

 

「アクアアクア、私にもその魔法教えてくれたら、楽に逃げれると思うんだけど!」

 

私達はアンデット集団から逃げるために、ひたすら走っていた。

アクアは走りながら、たまに振り返り魔法を放つ。

めぐみんは爆裂魔法を撃っていないので、自分で走っており、そのめぐみんの隣を走っている私は、こんな状況でも魔法を覚えたかった。

 

「マイ、あなたまだそんなことを言っているの?私がいるんだから、マイは覚えなくていいでしょ!『ターンアンデット』!!」

 

最初に見た時から、教えて欲しいと頼んでいるのだが、頑なに断られる。

回復魔法も知りたいのになぁ、どうしたものか。

走りながら考えていた私は、ふとあることを思いつく。

あれが使えるかもしれない。

 

「ねぇ、アクア。最近賠償金はどうなってるの?アクアの報酬の一部を貰えるってことだったけど、ほとんどくれたことないよね?もしアクアがいいなら、その魔法と回復魔法の2つを賠償の代わりにしてもいいんだよ!」

 

この状況で、そんなことを言われると思っていかなったのか、アクアは唖然としていた。

横からめぐみんが『賠償金?』と呟く声が聞こえる。

また帰ったら訳を教えてあげよう。

 

それよりも今はアクアだ。

再びアクアの方へ振り返ると、相当悩んでいたようだが、決心したみたいだ。

 

「分かったわ、マイ。その2つを教えてあげる。だからお金はチャラにしてよね!じゃあよーく詠唱を聞いておくのよ!!───『ターンアンデット』!!」

 

私はすぐさま、冒険者カードを確認し、魔法を習得した。

 

「ありがとう、アクア!『ターンアンデット』!」

 

その後、私とアクアが『ターンアンデット』を放ちながら逃げることで、無事アクセルの街に辿り着いたのであった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

「もう無理限界。クエストを受けましょう!あのデュラハンのせいで、ろくなクエストがないけど、もうお金がないの!」

 

そんな切実なことを言う、アクア。

奇襲を受けてからも、撃つ場所を変えたりしながら、爆裂魔法を撃ちに行っていたが、腹いせは出来ても、お金がないみたいだ。

 

カズマに泣きつくアクアに、それを眺めるめぐみんとダクネス。

今日私達は、久々にギルドに集まっていたのだ。

 

「俺の金もいつかは尽きる。よさそうなクエスト探してこいよ」

 

「分かったわ!」

 

アクアの懇願に折れたらしく、カズマがクエストを受けることを許可した。

でも、今のアクアに選ばせたら、難易度そっちのけで、とりあえず高額報酬のクエストを選んできそうだ。

 

「アクア大丈夫ですかね。まともなクエストを選んでくれるといいのですが」

 

私の心配はみんなも同じだったらしく、めぐみんの発言に頷いていた。

流石にアクア1人に選ばせるのはまずいという結論になり、カズマが見に行くことになった。

 

カズマが行ってすぐ後に、カズマの怒る声が聞こえたので、私達の心配は的中していたようだ。

一体どんなクエストを選ぼうとしていたのか。

 

その後しばらくして、カズマとアクアが戻ってきたので、どうやらクエスト選びは終わったようだ。

私達はそれぞれ準備をする。

一足先に準備を終えたカズマは、ギルドに檻を借りに行くと言って、先に行ってしまった。

檻を使うクエストということは、モンスターの捕獲クエストらしい。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

私達は現在、湖に来ている。

そして湖に檻を置き、モンスターが入ってくるのを待っている…訳ではなく、その檻の中には、既にアクアが入っていた。

 

カズマが檻を持って来たと思ったら、おもむろにその檻にアクアが入っていった時は、また何か芸でも見せてくれるのかと思ったのだが、アクアの嫌そうな顔を見て、芸ではないことを悟った。

 

今回のクエストは、湖の浄化。

浄化魔法を使えば、アクア1人でもクエストを達成できるのだが、浄化を嫌がったモンスターに襲われるのを危惧したらしい。

それをカズマに相談した結果がこれだ。

 

檻の中で浄化を行うことで、モンスターに襲われることなく安全にクエストを達成できるということだ。

 

「アクアー!浄化の調子はどうだー?」

 

「浄化は順調よー!」

 

今のところカズマの考えた作戦は上手くいっているようだ。

 

「ずっと水に浸かってると体冷えるだろー?トイレ行かなくても大丈夫かー?」

 

「アークプリーストはトイレいかないしー!」

 

「大丈夫なようですね。ちなみに、紅魔族もトイレには行きません」

 

「く、くるせいだーもと、といれ…」

 

「え?このパーティでトイレ行くの私とカズマだけなの?私もレベル上げて、アークプリーストかクルセイダーになろうかな」

 

「ダクネスは無理するな。マイさんはこのアホどもの話を真に受けないでくれ。こいつらには、日帰りでは行けないクエストを受けて、本当にトイレに行かないのか試してやる」

 

私は久しぶりにカズマのゲスさを目の当たりにした。

だが、それよりも私以外もちゃんとトイレに行っていることを知って少し安心していた。

 

「しかし、このまま何も起こらなければいいのですが」

 

「ここまで何もなければもう大丈夫なんじゃない?」

 

「おまえらっ!フラグみたいなことを!」

 

私とめぐみんの会話が気に入らなかったらしく、何故かカズマが怒っていた。

そもそもフラグって?と思い聞こうとしたその時、

 

「カズマぁぁ!カズマさぁぁぁん!」

 

アクアの叫び声が響いた。

もう何も起こらないと思われた矢先、湖の中央から、何やら影が複数近づいてくる。

そいつらがアクアの檻まで辿り着いたと思うと、檻に噛み付いた。

ブルータルアリゲーター。ワニ型のモンスターの登場である。

 

ワニ達がアクアの檻をぐるっと囲み、檻に噛み付いていた。

一方中にいるアクアは、泣き叫びながらも、リタイアすることなく、浄化魔法を唱えまくっていた。

 

「あの檻の中、楽しそうだな」

 

「…………お前、行くなよ?」

 

「でも何とかして助けてあげたいよね」

 

「そ、そうだ!クルセイダーである私は、仲間を助ける義務がある!それでは、いってくりゅ!」

 

「おまえっ!ダクネスとまれ!!マイさんのせいで、ダクネスが暴走しちゃったじゃねぇか!」

 

どうやら私の呟きが、ダクネスのクルセイダー魂に火をつけてしまったらしい。

 

「あーもう、どうしたらいいんだよ!あれだけアクアとダクネスが近かったら、爆裂魔法も撃てないし。……………おい、撃つなよ?」

 

ふとカズマが、めぐみんに釘を刺すと、めぐみんはビクッとしていたので、どうやら撃とうとしていたらしい。

 

「カズマ、私に任せて!つい最近、この状況に打って付けの魔法を覚えたの」

 

そう私はつい先日、新しい魔法を覚えたのだ。

その日は、アクアに回復魔法を教えて貰い、それを試したくギルドでウロウロしていた。

そこで、クエストで怪我をしたらしい魔法使い職の女の人を見かけ、回復魔法をかけてみたのだ。

本職程の効果はなかったものの、数回回復魔法をかけると、その怪我が綺麗に治っていた。

すると、その魔法使いの女の人がお礼をしたいと言い出したのだ。

私は魔法を試したかっただけなので、お礼を断っていたのだが、どうしてもということなので、何か魔法を教えて貰うことにした。

 

それを今から使おうとしている。

ワニは水棲生物。要するにみずタイプ。

みずタイプには、これだと相場が決まっている。

 

「カズマ、みずタイプには、でんきタイプの技が''こうかばつぐん''なのよ!」

 

「あんたそれってポケっ!って今電撃系の魔法を使ったら!」

 

何やらカズマが言っているが、私には聞こえていなかった。

 

「───くらえ!『ライトニング』!」

 

私が教えて貰ったのは、中級魔法の『ライトニング』。

私はその魔法を手前にいたワニにくらわせた…くらわせると、その電撃は水を伝って周りのワニ達にも、ダメージを与え、そして…

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!!!」」

 

水に浸かっていた、アクアとダクネスも巻き込んでしまった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

私達は現在ギルドに帰ってきていた。

あの後電撃をくらったワニ達は慌てて逃げて行ったのだが、ダクネスは電撃をくらっても尚ピンピンしていた。

そんなダクネスは、私を責めるどころか、『またあの電撃をくらわせてくれないか?』と、そんなことを言ってくれた。

おそらくわざとではないとは言え、仲間に魔法を当ててしまった私に気を使ってそのようなことを言ってくれているのだろう。

 

もう1人電撃をくらったアクアといえば、檻の中で気絶していた。

流石に気絶した状態で浄化は無理だろうと、檻の中から出してあげようとすると、カズマにとめられたのだった。

カズマ曰く、『あいつなら気絶しててもなんとか浄化するだろ』らしい。

 

正直、気絶させてしまった手前、そのまま放置するのは忍びなかったが、カズマの言葉に従うことにした。

すると、気絶したままにも関わらず、湖はみるみる浄化され、数時間後には、綺麗な湖となっていた。

 

ただ、浄化を終わっても尚、アクアは目を覚まさなかったので、檻に入れたまま帰ることにしたのであった。

檻を返した際に、ギルドの職員に変な目で見られたのは、言うまでもない。

アクアには今回の報酬にあわせて、私の貯金も少し加えておこうと、密かに考えていた。

 

そして今やっとアクアが目を覚まして、私達と一緒に座っているのだが、少し困った状態になっていた…。

 

「女神様ぁぁぁ!?」

 

アクアの対処に困っていた私達の目の前に、突然、アクアのことを女神様と呼ぶ青年が現れた。

 

「女神様、一体こんな所で、なにをしているのですか!」

 

その青年は周りの私達を無視し、アクアに近付くと、肩をゆさゆさしながらそんなことを言っていた。

その様子をみて耐えかねたダクネスが、その青年を止めに入る。

 

こんな状況にも関わらずアクアは、ボーッとしていた。

そう、気絶していたアクアだったが、目覚めると少しパーになっていたのだ。

詳しくは、目覚めてもボーッしており、時折、『ワニ怖い、ビリビリ怖い』と呟くだけになってしまった。

 

ちゃんと元に戻るかなぁと心配しながら、アクアを見ていると、カズマが何やら耳打ちしていた。

すると直後、

 

「そうよ、私は女神よ!」

 

と言って、突然立ち上がった。

良かった元に戻ったようだ。

ただ、「あれ、今まで何してたんだっけ?」と呟く声が聞こえたので、少し記憶障害があるようだ。

まぁそのままの方が幸せかもしれない。

 

 

そこからの展開は、その青年が少し可哀想に思えるものだった。

元に戻ったとは言え、未だ現状を掴めていないアクアに代わり、カズマが何やら青年と話していた。

 

そして、話し終えたかと思うと、私とカズマに怒りだした。

どうやら私が気絶させたことも話してしまったらしい。

 

その後、アクアだけではなく、めぐみんとダクネスにも目を向けるその青年。そしてその青年は、3人をパーティに勧誘しだした。

だが、私が心配するまでもなく、めぐみんとダクネスはそれを断り、アクアもよく分かっていなかったが、とりあえず断っていた。

 

そんなこんなで、その青年と話を終え、アクアも元に戻ったので、食事を済ませようとしたら、青年が突然、カズマに決闘を申し込んだ。

それもアクアをかけて。

 

渋々ながらその決闘を受けたカズマ。

ギルド内で、暴れるわけにもいかず、一行はギルドの外に行き、2人はそこで対峙していた。

 

流石に最弱職であるカズマには、分が悪いのでは無いかと、心配していたのだが、それは杞憂だった。

決闘が開始するやいなや、カズマお得意のクリエイトアースとウィンドブレスの目隠しコンボをくらわせ、ショートソードで斬りかかり、体勢を崩したところを、スティールで青年が持っていた剣を奪い、それで1発KO。

 

決闘に勝ったカズマは、青年の剣を持ったまま、ギルドに帰ろうとし、私達もそれについて行こうと思うと、2人の少女にそれを阻まれた。

 

「卑怯者!そんな不意打ちなんて卑怯よ!」

 

「そうよ!そうよ!それにその魔剣はキョウヤにしか扱えないんだから返しなさいよね!」

 

どうやら青年、キョウヤが持っていたのは魔剣らしく、それが彼にしか扱えないと聞いたカズマは少し落ち込んでいた。

そんなカズマだったが、難癖をつける2人を、変態鬼畜野郎カズマとなって追っ払い、私達を先にギルドに返して、カズマは1人魔剣を持ってどこかにいってしまった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

翌日。

私達はギルドに集まり、特にやることも無くのんびりと過ごしていた。

 

アクアはというと、とてもご機嫌だ。

昨日、決闘から帰ってきた辺りで、その日にあったことを思い出し、少し騒ぎ出していたが、先に貰っていた報酬を渡すと、落ち着きを取り戻し、満足した様子になっていた。

そのタイミングで私も、アクアを気絶させたことを謝り、報酬に私の貯金を加えておいたことを伝えると、怒るどころから、とても嬉しそうだったので、とりあえず許してもらえたようだ。

 

一方、そんな幸せそうな顔をしていたアクアに対して、カズマは、何やらボーッとしていた。その手には大きく膨らました財布が握られている。

一体どこであんな大金稼いだのだろう。

 

「探したぞ、サトウカズマ!」

 

そんな大声がし、入口の方に視線を向けると、そこには昨日の青年が。

私はその青年を見て、昨日のことを思い出し、全てを悟った。

 

「君の噂は聞かせてもらったよ。鬼畜のカズマだってね。」

 

「おい!その話誰が広めてるのか詳しく!」

 

「アクア様、こんなやつよりも先に僕が魔王を倒してみせます。ですので、是非僕のパーティへ…」

 

「えっと、あんた誰?」

 

「ぼ、僕ですよ!御剣響夜です!」

 

性懲りも無く、アクアを誘うミツルギと名乗る昨日の青年だったが、アクアは彼のことを覚えていなかったらしい。

昨日も彼がいた時は、記憶を思い出すために、ほとんど上の空だったので、覚えていないのも仕方がないが、どうやらそれ以前にあっていたことすら覚えていなかったようだ。

 

打ちひしがれるミツルギを放置し、アクアはシュワシュワを注文しに行く。

そして少し気を持ち直したミツルギは、今度カズマに向けて頭を下げる。

 

「こんなことを言うのは、身勝手なのだが、あの魔剣は返して貰えないだろうか?あれは、アクア様から貰った大事な魔剣で…」

 

そこまで言うと、いつの間にか隣に来ていためぐみんに、肩をたたかれ、顔を上げる。

 

「まず、カズマがその魔剣を持っていない件について。」

 

それを聞き、カズマを見たミツルギの顔が青ざめていく。

 

「さ、サトウカズマ?僕の魔剣は…?」

 

「……売った。」

 

カズマは先程から持っていた、パンパンに膨れた財布を見せつけながらそう言うと、それを見たミツルギは、「ちくしょぉぉ!」と叫びながらギルドから出ていったのであった。

 

「一体なんだったのだ?それよりもさっきからアクアのことを女神、女神とどういうことだ?」

 

ダクネスが走り去っていく、ミツルギを見ながら、そんなことをカズマに聞いていた。

 

確かに昨日からアクアのことを女神女神と。

あれ?アクアが女神?

なにか引っかかるものがある。

もしかしたら失った記憶に何か関係のあることなのかもしれない。

私が必死に思い出そうとし、何か思い出せそうな気がした時、

 

「そういう夢を見たのか。」

 

という声が聞こえた。

どうやらアクアが女神になったという夢を見ただけだそうだ。

それなら失った記憶とは何も関係ないだろうと思い、思い出すのをやめた。

 

そして水を一口飲んだ時、ギルド中にその放送が響いた。

 

『緊急!緊急!全ての冒険者は、装備を整え至急正門まで!…特にサトウカズマさんとその一行は急ぎ正門まで!』

 

嫌な予感しかしない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「この素晴らしい世界にパー子を!」を読んで頂きありがとうございます。
いつもなるべく早く続きを書こうとしていたのですが、今週末に用事があり、それの準備などで、忙しいので、次の話は、少し先になると思います。
シナリオは何となく思い浮かべているので、時間が出来次第、また投稿しようと思います!
今後ともよろしくおねがいします。


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デュラハンとの決着

気付いたら書き終えたので、投稿します!





『緊急!緊急!冒険者各員は至急正門まで!…特にサトウカズマさんとその一行は早急に正門まで!』

 

そんな放送がギルドに流れ、ワイワイとしていたギルドの空気が変わった。

私達はと言うと…

 

「なぁ、今俺の名前が呼ばれた気がしたんだけど、気のせいだよな?俺じゃなくて同姓同名の別のやつだよな?サトウカズマだなんてありふれた名前だもんな」

 

「何馬鹿なことを言っている。サトウカズマなんて珍しい名前、お前以外にいるわけないだろ。早く準備をして正門に向かうんだ。私は宿に装備を取りに行ってからすぐそちらに向かう」

 

カズマが自分の名前を呼ばれたことを認めようとしていなかった。

そんなカズマにダクネスが現実を突きつけ、嫌がるカズマをめぐみんが引っ張って行った。

 

「私ものすごく嫌な予感がするの。だから私はここでみんなが帰ってくるのを待っていてもいいかしら?」

 

私はアクアを引きずりながら、めぐみんの後を追った。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

正門に着くとそこには、ものすごく殺気を放ったデュラハンがいた。

ものすごく殺気を放っているのだが…、その姿は先日よりも更にボロボロだった。

ボロボロな理由に凄く心当たりがあるので、私はすっと顔をふせた。

 

「なんだあのデュラハン。前来た時よりも更にボロボロになってないか?

もう爆裂魔法も撃ち込みに行ってないのに」

 

カズマの独り言が聞こえたのか、デュラハンがピクっと反応したように見えた。あーバレそうだなぁ。

 

「撃ち込みに行っていない?何を白々しいことを。そこの頭のおかしい紅魔の娘が相も変わらず毎日、爆裂魔法を撃ち込みに来てるわ!」

 

それを聞くと同時にめぐみんは顔をふせ、カズマはそんなめぐみんを見るやいなや、頬をつねっていた。

いつ私に飛び火してくるか分からないので、存在感を消すことにしよう。

カズマの事だ、めぐみんが1人では行けないことに直ぐに気付くだろう。

私の考えは的中したようで、直ぐにアクアも頬をつねられていた。

アクアは自分の言い訳で、手一杯のようだ。

この調子なら、私のことは有耶無耶に出来そうだ。

 

「しかし前から思っていたのだが、その紅魔の娘が1日に2発も爆裂魔法を撃てるとは思えん。ともすると、毎日この俺に喧嘩を売るような爆裂魔法使いが、この街にはもう1人いるのか」

 

デュラハンの言葉を聞いたカズマが、アクアから手を離し、おもむろにこちらを向く。

 

「ま、マイさん…。やっぱりあんたも一緒にいってたのかぁ!」

 

あのデュラハン絶対に[ピー]してやる!

カズマにつねられながら、そう思ったのは当然のことだろう。

 

「ち、違うの!私は嫌だったんだけど、あの2人がどうしてもって!」

 

「あんた年上の癖に、アクアはともかく、年下のめぐみんに罪をなすり付けて心が痛まないのか…?」

 

カズマの頬つねりより、最後の言葉の方が地味に痛かった。

 

「聞け、愚か者ども。我が名はベルディア。正直そのようなことはどうでもいい。俺は別のことに怒っている。いや確かに、貴様らがいつ来てもいいように、再建築した城を散々、爆裂魔法で破壊されたことも怒っているが!それよりも、何故貴様らは城に来んのだ!貴様らを庇って死んだ、あの騎士の鏡のようなクルセイダーの仇を取ろうと思わんのか!」

 

デュラハンのベルディアのその言葉で辺りはしんと静まり返った。

冒険者達は一体何を言っているのだろうか?というような表情で頭に?を浮かべ、それを見たベルディアも同じく頭に?を浮かべている。

やがてその静寂を破るかのように足音が聞こえ、冒険者達は左右に避けて道を開ける。

そこには1人のクルセイダーがいた。

 

「いやぁ、騎士の鏡のようだなんて…」

 

褒められて照れくさいのか、少し顔を赤らめているダクネス。

そしてそれを見たベルディアは…

 

「あっれぇぇぇぇっ!?」

 

驚きを隠せないでいた。

 

「なになに?自分が帰ったあの後、直ぐに呪いが解かれたことも知らずに、呑気に城で待ち構えていたの?プークスクス!」

 

「俺がその気になれば、この街を滅ぼすことぐらい容易いことなのだぞ!」

 

「アンデットの癖に生意気なのよ!」

 

そう言ったアクアはベルディアに手を向け、魔法を放とうとする。

 

「駆け出し冒険者の魔法など効くはずも『ターンアンデット!』ぎやぁぁぁぁぁ!!」

 

セリフの途中で魔法をくらったベルディアは、悲鳴をあげ、跨っていた首無し馬も消し去られ、地面にのたうち回っていた。

 

「カズマおかしいわ。私の魔法が全然効いてないの。」

 

「いや、ぎゃぁぁ!って言ってたから相当効いてると思うぞ?」

 

アクアの疑問も尤もだ。アクアほどのアークプリーストの一撃をくらって、消し去られないなんて、流石は魔王軍幹部といったところか。

 

「ほ、ほんとにここは駆け出しの冒険者が集まる街なのか?魔王様の加護があるこの俺にダメージを与えるアークプリーストに、爆裂魔法使いが2人も…」

 

どうやら消し去るには至らないものの、アクアの魔法は相当のダメージだったようだ。

ベルディアは片膝を着き、身体から黒い煙をプスプスとあげながら何か呟いていた。

すると、何か決心したように立ち上がり、私達を見据えた。

 

「この俺はこれでも生前は真っ当な騎士でもあった。だから本来は弱者をいたぶる様な真似はしたくないのだが…、仕方があるまい。いでよ!アンデットナイトよ!この街のものを皆殺しにするのだ!」

 

そう告げたベルディアの前には、次々とアンデットが召喚され、アンデット集団が…

 

「『ターンアンデット』!『ターンアンデット』!『ターンアンデット』!!」

 

「召喚された瞬間に次から次へと、アンデット達を消し去っていくような乱暴なプリーストがアクアの他にも!ってマイさん!?」

 

「あははは、アンデット集団を見ると無意識のうちに魔法を…、『ターンアンデット』!」

 

アクアにこの魔法を教えて貰って以来、爆裂魔法を放った私達を追いかけに来たアンデット集団にアクアよりも先にこの魔法を撃ち込んでいた。

そんなこともあり、アンデットを見ると魔法を放つのが癖になっていたのだ。

 

「それにしても、マイさんが消し去ったというのもあるが、配下のアンデットの数が少なくないか?あ、最後の1体がマイさんに浄化された…。あー!きっとあいつアンデット達に人望がないんだぜ!」

 

「ち、ちがうわ!毎日爆裂魔法を放つ貴様らを捕まえようと、配下達に追わせていたのだが、日に日にその数が次々と減って…、さっきのが最後に残った───」

 

「『セイクリッド・ターンアンデット』!」

 

不意に魔法を放つアクア。それをくらいのたうち回るベルディア。

このまま爆裂魔法でも撃てば倒せるんじゃないだろうか…と思ったのはめぐみんも同じらしい。

 

「アクアやマイさんばっかりずるいです!私にも魔法を撃たせて下さい!」

 

「えっちょ…」

 

アクアの魔法をくらったばかりのベルディアは、直ぐに動けることは出来ず、ただ自分に向けられているめぐみんの杖を見ていることしか出来なかった。

 

「『エクスプロージョン』っっっ!!!!!」

 

ベルディアを爆炎が呑み込む。

その一撃は、少し離れた所にいた冒険者の数人が爆風で吹き飛ばされてしまう程の威力。

爆炎が晴れたそこには、倒れためぐみんと、同じく倒れたベルディアが。

だがしかし、爆裂魔法をくらっても尚、ベルディアは動こうとしていた。

 

「こ、この俺にここまでのダメージを与えるとは…、だがそれも…!なっ!」

 

「追い討ち、『エクスプロージョン』っっ!!!」

 

ベルディアが何か言おうとしていたが、お構い無しに、私も爆裂魔法を撃ち込んだ。

めぐみん程ではないにしろ、それなりに効果はあるはずだ。

爆炎が晴れるとそこには、剣を杖替わりに立ち上がろうとしている、黒焦げのベルディアの姿が。

これだけの魔法をくらってまだ立ち上がるみたいだ。

そんなベルディアの姿を見て、勝機と思ったのか、数人の冒険者がベルディアに駆けだす。

 

「俺達も黙って見てないで、加勢するぞ!」

 

「囲んで死角から攻撃すれば、今の奴なら俺達でも相手になるはずだ!」

 

そんな冒険者達をベルディアが見据える。

 

「ほぅ、俺も舐められたものだ。駆け出しの街ということで油断し、数発魔法をくらってしまったが、本来貴様らなどに後れを取る俺様ではないわ!」

 

そう言い放つと、持っていた頭を頭上に放り投げ、冒険者達に剣を構える。

 

「ダメだ!行くなぁ!」

 

いつの間にかめぐみんを回収し、背中に背負っていたカズマが何か危険を察知したのか、そう叫んだ。

だが、冒険者達には聞こえておらず、彼らはベルディアを囲み、1人が背後から仕掛けた。

背後からの不意打ち、いくらベルディアとはいえ、ボロボロな今では、反応できないかに思われた。

だがしかし、背後からの攻撃を難なくいなすと、次々斬りかかって来る冒険者達を返り討ちにしてみせた。

一瞬のうちにそこに立っているのは、ベルディアだけとなったのだ。

 

「次は貴様らか」

 

デュラハンの目には、目の前にいるめぐみんと彼女を背負っているカズマが映っている。

 

「仲間には手を出させん!」

 

そう言って、カズマ達とデュラハンの間に割って入ったのはダクネス。

デュラハンもダクネスを見据える。

 

「ほう、次は貴様か。聖騎士が相手など是非もない!」

 

「よくも彼らを…勝負だベルディア!」

 

ダクネスは先程、ベルディアに切り殺された冒険者達を一瞥し、ベルディアに斬り掛かる。

ベルディアもそれに受けて応える。

 

「ダクネス!ダメだ、お前の剣じゃ…!」

 

カズマの心配も尤もだ。

ダクネスの両手剣もそれなりのものであるが、ベルディアのそれは、ダクネスのそれの2倍以上もある大剣だ。

1度受け止められたとしても、その後何度もつか…。

 

「くそっ、なんか手はないのか…!マイさん!クリエイトウォーターであいつを足止めできないか!?マイさんのクリエイトウォーターならそれくらいの威力はでるだろ?」

 

「分かった!やってみるよ」

 

カズマには何か考えがあるようだ。

私はそれを信じ、位置を取る。

位置はダクネスの真後ろ。

 

「ダクネス!なんとか間合いを取って、横に避けるんだ!」

 

「なっ!今丁度いい所なのだ!このデュラハンが、これからどのような攻め手で私をいたぶってくるのか…っ!何か策があるのなら構わん!私に気にせず実行するのだ!」

 

「今そんなことを言ってる場合か!」

 

「私の攻撃を受けつつ、呑気に作戦会議か。私も舐められたものだな!」

 

その声と同時にベルディアの勢いが増し、それを受けているダクネスの足が地面にめり込み、辺りにヒビが入る。

流石にマズいと思ったのかダクネスは、その攻撃をなんとか跳ね返すと、カズマの指示通り横に避ける。

私はそのタイミングを見逃さなかった。

 

「『クリエイトウォーター』!」

 

ダクネスが横に避ける寸前で魔法を放ち、私の放った水は、ダクネスの肩を掠めた。

突然目の前に水が現れたベルディアは、反応できるはずもなく、正面からそれを受け止める。

私は足止めという責務を果たすため、絶えず魔力を注ぎ込み、水を出し続ける。

するとめぐみんを後方に降ろしてきたカズマが戻ってくる。

 

「ま、マイさん。それ本当にクリエイトウォーターなのか?」

 

カズマの疑問も尤もである。私自身驚いている。

それは覚えたての頃の比ではない威力になっており、あの大男のベルディアをゆうに飲み込む量の水を常に放ち続けていた。

これはクリエイトウォーターというより、ウォーターキャノンといったところか。

 

「多分最近、大量のアンデット倒してレベルが結構上がったからだと思う………」

 

「ほんとそういう所はチートだよなぁ。まぁ足止めには十分だ!もう止めていいぞ!」

 

「もうちょっと出せるけど、このまま続けてたら窒息とかしないかな?」

 

「バカか!アンデットが窒息なんかする訳ないだろ!」

 

「あっそれもそうか」

 

私はカズマの言うことに納得すると、水を放出するのをやめた。

ダメージはないだろうが、十分に足止めの役割は果たした。

後はカズマに任せよう。

 

「まずはフリー…ってあれ?」

 

カズマが驚くのも無理はない。

ダメージはないかと思われたベルディアは、両膝と両手を着いていた。

 

「なんか知らないけど、めちゃくちゃ弱ってるぞこいつ。ならこのまま直接、スティール!!」

 

「ふっ、いくら弱っていようが冒険者ごときのスティールなど、成功するはず…も…、あ…あの…」

 

「武器でも盗めればと思ったんだけど…」

 

カズマは自分の手元をみると、顔が悪魔のそれのようになる。

 

今まで私達の前方にいるデュラハンから聞こえていた声が、途中からはカズマの手元から聞こえた。

そうカズマが盗んだのは、武器ではなく、ベルディアの頭だった。

何たる豪運。

そんなカズマは、ベルディアの頭を掲げ、冒険者達に駆け寄る。

 

「みんなー!サッカーしようぜ!」

 

サッカーとは、手を使わずにボールを蹴るものらしく、ベルディアの頭が次々と冒険者達に蹴られていく。

それを見ていたダクネスが冒険者達に声をかける。

 

「それだけ弱れば十分だろう。ひとおもいに逝かせてやれ」

 

「アクアー!」

 

「任されたわ!」

 

それを聞いたカズマは、アクアに声をかける。

アクアも意味を理解し、どこからともなく杖を取り出すと、ベルディアの体に杖を向けた。

 

「『セイクリッド・ターンアンデット』!」

 

「ぎやぁぁぁぁぁ!」

 

アクアの魔法をくらったベルディアは、本当に最後の断末魔をあげ、今まで消えなかった体が、きれいさっぱりなくなり、浄化された。

 

こうして魔王軍幹部のデュラハンのベルディアへの腹いせ、もとい討伐は幕を閉じた。

 

ちなみに、ベルディアに斬り殺された冒険者達をアクアが蘇生し、その者達のために祈りを捧げていたダクネスが、恥ずかしい思いをしたのは、また別の話である。

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

デュラハンのベルディアを討伐した翌日、ギルドは昼間というのに大変盛り上がっていた。

 

「今日ぐらいいいじゃありませんか!」

 

「ダメだ。子供の頃から飲むとパーになると聞くぞ」

 

シュワシュワなるお酒を飲もうとするめぐみんに、それを諌めるダクネス。

デュラハン討伐の報酬は、参加していた全冒険者に配られ、私達も例に漏れず、大金を手に入れていた。

 

「ダクネスは堅いわねぇ。身体が硬いと頭も堅くなっちゃうのかしら」

 

「あはは、私もめぐみんにはまだ早いと思うし、私もまだネロイドでいいかなぁ」

 

ダクネスにそんな冗談を言っていたアクアは、すでに出来上がっている。

酔っ払っているアクアの相手は少し嫌だなぁと思っていると扉が開いた。

入ってきた人を見ると、すかさずめぐみんが駆け寄る。

私も酔っ払いを預けるために、そちらへ向かう。

 

「カズマぁ。ダクネスが酷いのです。私にはまだ早いといって飲ませてくれないのです!」

 

いきなり声をかけられたカズマは少し驚いている。

そんなカズマに向けて、アクアを解き放つ。

後ろから押されて、転けそうになったアクアだったが、なんとか耐えると、千鳥足で目の前にいたカズマのもとに寄り、肩に手をかける。

 

「カズマ遅いじゃないのー。もう皆始めてるわよ」

 

シラフのカズマは、酔っ払ったアクアを見ると、なんとも言えない表情をし、直ぐにアクアがやってきた方向に目を向け、私と目が合った。

私は直ぐに目を逸らし、吹けもしない口笛を吹く。

カズマが凄く睨んでいる気がするが、気にしないでおこう。

 

「サトウカズマさん、お待ちしておりました」

 

私を窮地から救ってくれたのは、受付のお姉さんだった。

 

「カズマさんのパーティには、特別報酬がございます。魔王軍幹部デュラハンのベルディアの懸賞金3億エリスです!」

 

3億!?

私達は5人パーティだから、一人あたり…いくらだ?

とりあえず相当な額になるだろう!

 

「集合」

 

カズマは、報酬の額を聞くと、そう言ってパーティメンバーを集めた。

 

「デュラハンにトドメを刺したのは私だから、配分は9:1よね!」

 

「配分は均等にだ!それよりも、こんな大金手に入れたからには、危ない冒険者稼業なんてやめて、安全な暮らしをする!」

 

「それは困るぞ!」

 

「それは困ります!」

 

「困りません!」

 

そんなことを話し合う私達を遠巻きに、見ている受付のお姉さん。

まだ何か伝えることがあるみたいだ。

 

「まだ何かあるのですか?」

 

「ええっと、はい、その………」

 

私が尋ねると、バツが悪そうな様子で近づいて来た。

それに気付いた皆も、お姉さんの方へ向く。

そして、1枚の紙をカズマに手渡した。

 

「なになに?小切手かしら?」

 

小切手ならあんなバツの悪そうにするだろうか。

嫌な予感がする。

 

「その、デュラハンが拠点にしていた廃城をですね、自分の別邸だと主張する貴族の方がいらっしゃいまして…。確かに記録を遡ると、最後に所有していた貴族の末裔の方で…。いくら魔王軍幹部が住み着いていたとは言え、全壊させるのは道理ではないということで、全額とは言わないが、再建費用の一部負担を要求されまして…」

 

「報酬が3億。そして城の再建費用が3億5千万か。これではまだまだ冒険者をする他ないみたいだな」

 

「さぁ更なる強敵を倒しにいきましょう!」

 

「城の破壊には関わってないから、私は払わなくていいかしら…?」

 

「(全壊させたの私だけど…)、皆で頑張って返済しましょ!」

 

「………おかしいだろぉぉぉぉ!」

 

 

借金5千万、私達のパーティは5人。

なので借金は一人あたり、1千万!

借金の額に驚くより、計算できたことが少し嬉しい私だった。

 

 

 

 



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仲間の死

ちょっとR18表現があります。




 

息を吐くと、自分の息が白くなる。

デュラハンのベルディアを討伐してから、季節は過ぎ、今は冬を迎えようとしていた。

 

私はいつも通り冒険者ギルドに向かっていた。

歩いていると、すれ違う街の人が、皆厚着をして暖かそうだ。

 

私はついつい羨望の眼差しをすれ違う人に向けてしまっていた。

その様子は周りから見ればとても怪しいのか、私の視線に気づいた人達は、顔を伏せ足早に歩き去っていく。

 

しばらくそんなことを続けていると、後ろから声をかけられた。

 

「そんな周りをキョロキョロと見て、不審者になってますよ」

 

「目はさながら、追い剥ぎのようになっているぞ」

 

私がいかに不審者だったかを教えてくれたのは、めぐみんとダクネスだった。

 

「街の人が暖かそうな格好をしてたからついね…。そう言えば2人はまだ、衣替えしてないんだね」

 

街の人は皆、厚着をしていたが、2人の格好は相変わらずだった。

 

「私はこの格好が魔法使いの正装みたいなものですから、特に変えるつもりはありませんよ?」

 

「私もめぐみんと同じようなものだな。それにこの肌に刺さるような寒さもまた……っ!」

 

どうやら2人も今までと同じような格好を続けるようなので、私ももう少しこの格好で頑張ってみよう。

まぁ頑張るも何も、私は何も持たずにこの街に来て、ろくに服も持っておらず、今は借金まみれで買う余裕すらないのだが…。

 

その後もしばらく服装について話していると、私達は目的地に着いた。

ギルドの扉を開けると、そこには朝にも関わらず飲んだくれて、騒いでいる冒険者達の姿が。

今朝から飲んでいるのか、それとも昨晩から夜通しなのか…。

そんな冒険者達の中でも、少し違った騒ぎ方をしている2人の元へ歩み寄る。

 

「──借金は私のせいじゃないじゃない!あれは2人にノコノコついときながら、城を破壊させたカズマさんのせいでしょ!」

 

「あの時は誰のものでもないただの廃城だと思ってたんだよ!それを言うならわざわざデュラハンが建て直していたのを破壊させたのはお前じゃないか!」

 

2人の口喧嘩もだいぶ見慣れたものだ。そう言えば出会った時から口喧嘩していたような…。

とりあえず今回も眺めて…いや、喧嘩の原因にかなり関係があるので、今回は止めに入るとしよう。

 

「2人とも朝から喧嘩しないで落ち着いて…?」

 

「あ、マイ!私は悪くないわよね?ね?城を直接破壊したのは、めぐみんよね?」

 

「確かに城を破壊したのは私ですが、アクアもノリノリだったじゃないですか」

 

「それみたことか!」

 

「そう言うカズマも、城に放った私達の爆裂魔法を見て、点数を付けたりして楽しんでいたではないですか」

 

「まぁまぁ皆落ち着くんだ。それよりも今日のクエストは決まったのか?」

 

ダクネスの言葉で、一先ず矛を納めたカズマが答えた。

 

「クエストならまだ探してねぇよ。まぁこんな様子だからな」

 

そう言ったカズマの視線の先には、私達が入ってきた時に見た冒険者達の姿があった。

そう、つい先日大物賞金首のデュラハンのベルディアを倒したこの街の冒険者達は、すこぶる懐が温まっていた。

そんな冒険者達が、この寒くなってきた時期にクエストを受けるはずもなく…。

彼らを見ているとこっちまで、ぬくぬくとしていたくなるのだが、私達はそうする訳にもいかず…。

 

私は城にトドメを刺した罪悪感から、クエスト選びという雑務ぐらい私がしようと思い、皆には席で待っていてもらった。

 

そんな私だったが、あるクエスト…マンティコアとグリフォンの討伐クエストに手を伸ばしたところで、後ろから近づいていたカズマに、頭を叩かれたのは言うまでもない。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

私達は現在雪山を歩いている。

あの後結局、皆でクエスト選びをすることになり、最終的に決まったのが、雪精の討伐。

雪精というのは、その名の通り雪の精霊で1匹倒すと、春の到来が半日早くなると言われているらしい。

雪精自体はさほど強くもないにも関わらず、1匹討伐当たり10万エリスというとても美味しいクエストだ。

 

そう言えばクエスト選びの時に、めぐみんが何か言いかけていたような気がしたが、なんだったんだろうか。

だが、今はそんなことよりも、めぐみんに言いたいことがある。

 

「ねぇめぐみん、つい今朝、普段の格好が正装だから変えるつもりはないっていってなかった?私それを信じて、普段の格好のままでめちゃくちゃ寒いんだけど」

 

今目の前にいるめぐみんは、いつものようなローブととんがり帽ではなく、何やらモコモコして暖かそうだ。

 

「こんな雪山のクエストはノーカンです。それに私はてっきりマイさんの薄着はダクネスのドMが移ったのかと思っていたので、安心しました」

 

「どえむ…?」

 

「おいめぐみん、あまりマイさんに余計な言葉を教えるんじゃないぞ。ただでさえお前達の影響を受けて悪い方向にいっているのに…。それよりもだ、アクアお前の格好どうにかならんのか?」

 

結局ダクネスがどえむという意味が分からず終いだが、どういう意味なのだろうか。

当のダクネスを見ると、普段のような鎧姿では無いものの、皆のように厚着もしていない。

薄着をすることが、どえむということなのだろうか。

ただやはりダクネスは、この寒さで薄着というのに、その寒さを楽しんでいるというか…平気な様子だ。

ダクネスのようになるには、やはりもっと筋トレすべきか…とそんなことを考えていると、何やらアクアが、雪精を捕まえて冷蔵庫にするとか何とか言っていた。

私はてっきり、何食わぬ顔でアクアが網を持っていたので、雪精には有効的な武器か何かと思っていたのだが、捕まえるつもりだったのか。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

「どりやぁぁぁぁ!」

 

カズマがショートソードを振り回し、フワフワ飛んでいる雪精を追いかけている。

隣ではめぐみんとアクアが、それぞれ杖と網を振り回している。

 

私は、カズマに習ってショートソードを振り回していた。

しかし、雪精はフワフワと浮いているため、剣を振り回す風圧でヒラヒラと避けてしまい、なかなか斬ることができない。

私はどうしたものかと考えていると、ふと雪は熱に弱いと思いつき、ショートソードを収め、杖を構え魔法を唱える。

 

「ティンダー!」

 

そう唱えると、杖の先から火が…というより炎が放たれ、雪精を燃やす。

 

「何その炎!?」

 

「今ティンダーと聞こえたのですが!?」

 

「あぁ、雪精達がぁぁ!」

 

「ってマイ!あまり離れるな!」

 

後ろで皆が何やら叫んでいるが、私はいとも簡単に雪精達を燃やせるものだから、楽しくなって眼前に見える雪精を次から次へと燃やしていた。

 

──何匹倒した頃だろうか、眼前に見える雪精を倒しきって私はふと我に返った。

冒険者カードをみると、そこには32匹の文字が浮かんでいた。

320万エリス…、私はつい頬が緩んでしまった。

この喜びを皆にも分かち会おうと、振り向くと…そこには皆はおらず、林に続く私の足跡だけがあった。

 

夢中になりすぎて、どうやら皆から離れてしまったらしい。

まぁこの足跡を戻れば、皆と合流できるだろう…できるよね?

途中で足跡が、降る雪で埋もれたりしていないだろうか。

少し不安になり早く戻ろうとすると、突然少し離れた林の向こう側で、轟音が響き、爆炎がたちのぼる。

めぐみんの爆裂魔法だ。

このまま真っ直ぐ進めば皆と合流出来そうだと、安心した所でふと周りの景色に目がいく。

 

道中は雪山に登ることに必死で、登ってからは雪精を倒すことに夢中になり、周りを見る余裕がなかったが、今改めているとなんと荘厳な景色なのだろうか。

 

辺り一面雪景色で、私の足跡しかない。

見るだけで寒くなりそうだが、さっきまで火の魔法を使って歩いていたので、身体は少し暖まっている。

また、ティンダーを使って身体を暖めながら戻ろうかと考えていると、足元を取られ転けてしまった。

 

滑ったような感覚だったので、立ち上がり転けた辺りを軽く踏んでみると、そこは今までと違い少し硬くなっていた。

来た時、ティンダーを使って歩いていたので、その熱で溶けた雪が再び寒さで凍ってしまったのか。

 

転けたところがフワフワの雪の上で良かったが、転けた先が硬かったらまた頭を…また…?

私はどうして"また”だなんて思ったのか…。

私の今の記憶では転んだことはない。

もしかすると、記憶がなくなる前に転んだことがあったのだろうか。

それになんだか、冬の寒さを感じてからたまに、後頭部に頭痛がする。

丁度頭を打ったような痛みで…、とそこまで考えたところで、酷い頭痛が私を襲った。

このまま1人でいるのはまずいと思い、急いで皆と合流しようと、頭を抑えながら、帰り道を急いだ。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

しばらく歩いていると、頭痛も治まり、林も抜けて、めぐみんの爆裂魔法跡が見えてきた。

まだ遠いが、人影も見えてきた…見えてきたが、2人しか見えない。

背格好からして、アクアとダクネスか。

めぐみんは爆裂魔法を撃って倒れているとして、カズマはどうしたのだろうか。

 

そう思いつつ近づいていくと、少し異変に気づく。

爆裂魔法跡の他に、雪の白を変色させているところがある。

その色はとても真っ赤で…その上に誰か倒れている。

いや、誰かというより、誰かの体…胴体がそこにある。

本来くっついてあるべきの首から上が、少し離れたところに転がっていた…。

 

困惑。

いや、認めたくないだけ。

何が起こったのか、冒険者をやっている以上認めなければならない事実。

カズマが死んでしまった。

私が離れていた間に、彼らでも手に余るほどの強敵と出くわしたのか、犠牲がカズマだけだったということを喜ぶべきか、私が離れずにいれば結果は変わったのか。

 

色々な思いが私の頭を過ぎる中、だいぶ近づいた私は皆の様子が認識できた。

ダクネスは呆然と立ち尽くし、先端が折れた剣を握りしめている。

めぐみんは倒れたまま、泣きじゃくっている。

アクアはおもむろにカズマに近づき、腰を下ろした。

プリーストとして弔いでもするのだろうか。

 

私はアクアに近づき、声をかけた。

 

「アクア…、そのカズマは…」

 

なんと言えばいいのか分からず言葉を詰まらせていると、

 

「マイじゃない!もーどこに行ってたのよー。まぁそんなことより、ちょっとグロいけどカズマさんの生首持ってくれる?」

 

「へ?」

 

思いの外あっけらかんとしていたアクアの様子に気を取られ、素っ頓狂な返事をしてしまった。

当のアクアは、カズマの胴体を両手で持ち上げると、少し離れたところにそれを下ろした。

私はアクアが何をしているのか分からず、ただ呆然としていると、めぐみんとダクネスも同じようで、ただアクアを見つめていた。

 

「マイー、早くしてちょうだい。カズマさんを蘇生できないでしょ?」

 

「「「蘇生!?」」」

 

私は蘇生という言葉を聞き、とりあえずカズマの首を手に取り、アクアに手渡す。

もちろん、出来るだけ手元は見ないようにした。

カズマの首を受け取ったアクアはというと、カズマの首を元あった場所に置き、少し鼻歌まじりに、回復魔法を唱える。

するとみるみると首が繋がったのだ。

その様子を見ると直ぐに、ダクネスがめぐみんを抱え、駆け寄った。

 

「アクア!カズマを蘇生できるのか!?」

 

「もちろんよ!私にかかればこんなもん、ちょちょいのちょいよ」

 

アクアは得意げな顔でそう言うと、カズマに手をかざし魔法を唱える。

 

「リザレクション」

 

そう唱えたアクアの手元が淡く光り、その光を浴びたカズマは少し血色が良くなったように見える。

それでもまだカズマは目覚めず、何やらアクアがカズマに向けて話しかけていた。

その内容はカズマが無事に生き返るか半信半疑の状態だったので、ほとんど頭に入ってこなかった。

アクアが少し怒鳴っていた気もするが、そんなことはどうだっていい。

 

カズマが生き返るよう必死に祈っていると、カズマの目がおもむろに開く。

それを見ためぐみんとダクネスは、泣いてカズマに抱きついた。

私はというと、カズマが無事に生き返り、安心してその場に座り込んでしまった。

 

その後、カズマが放った第一声が「女神チェーンジ!」という言葉で、それを聞いたアクアが怒り、一悶着ありもしたが、とりあえず雪精討伐はこれで断念し、アクセルに帰ることにしたのであった。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

あのあと、私達は特に問題もなくアクセルの街に戻り、ギルドでクエストの報酬を受け取った。

あの時、ダクネスの剣を折り、カズマの首を刎ねたのは、冬将軍という雪精達の長にして、2億エリスもの懸賞金がかかっている、超危険なモンスターだったらしい。

雪精討伐という、美味しいクエストの裏にはこんな危険なモンスターが隠れていたようだ。

私は知らなかったのだが、冬の間は弱いモンスターは隠れ、活動しているのは強いモンスターだらけということで、冒険者達もあまりクエストを受けないらしい。

 

まぁ今回、私を含めたくさん雪精を討伐したので、今日くらいはパーッとお金を使ってもいいだろう。

そう思ったのは皆も同じらしく、たくさんの料理を注文していた。

私もそれに便乗させてもらった。

カズマは死んでしまったのが、ショックだったのか終始ボーッとしていたが、たくさんの料理をみたら元気も出るだろう。

 

─そう思っていたのだが、料理が出てきた頃にアクアに声をかけられ、我に返ったカズマは、怒ってしまった。

 

「お前ら!どれだけ注文してんだよ!今回の報酬は冬を越すための資金なんだよ!」

 

「今日は私がカズマを蘇生させてあげたんだからこれぐらいいいでしょー。それにマイがたくさん倒してくれたおかげでこれぐらい食べても全く問題ないわよ」

 

カズマがこちらに視線を向けてきたので、片手でカエル肉を食べつつ、冒険者カードをカズマに見せた。

 

「さ、30!?」

 

「雪精燃やすのに夢中になってたら、こんなに倒してた」

 

32という数字に驚きつつも納得したのか、カズマも料理を食べ始めたのであった。

 

ちなみに、アクアが捕まえたと言って自慢し、危うくカズマに討伐されそうになった雪精。

少し透けていたように見えたのは、私の錯覚だったのだろうか…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フッハハハハー!冒頭のR18宣言を見て、エロを想像した諸君、残念!グロ表現の方でした!…汝らの悪感情──
と、まぁ早くバニルさんも登場させたいですね。
まぁ多分R18と聞いて、エロを想像した人は皆無だと思いますが…


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アンデッドの店主

 

 

 

俺の名前は、佐藤和真。

日本に暮らす、ごく普通の高校生だった。

そんなある日、不意なことで非業の死を遂げた俺だったが、死後の世界で女神に導かれ、この異世界で新たな人生をスタートさせたのだ!

 

そして俺は今、4人の仲間と共に冒険をしている。

俺を死後の世界で導いてくれた可憐な女神。

どんな敵も最強の攻撃魔法で屠るアークウィザード。

あらゆる攻撃を耐え凌ぐクルセイダー。

そして、俺と同じく日本から転生してきた、高い魔力を誇る美人冒険者。

 

そして遂に俺達は、先日魔王軍幹部デュラハンのベルディアを討伐したのだ!…したのだ…。

 

──したはずだったのだが、討伐で得た報酬は、どこぞの貴族がいちゃもんをつけてきたことによって、借金に変わり、俺達の暮らしは更に困窮していた。

 

俺の想像していた異世界生活と違う!

元々ジャージ1つでこっちの世界に来た時点で、ハードモードだったのだ。

先日なんて、冬将軍という何処ぞの日本人のせいで生まれたモンスターに首チョンパされるし…。

 

そう言えば天界で会ったエリス様は、優しかったなぁ。

あぁ、どうかエリス様、私をお救い下さい…。

 

──あれ、そう言えば俺のジャージどこいった?

何か嫌な予感がする、確かアクアが外にいたはず…。

 

「マイー、火を貰ってもいいかしら?焚き火が消えそうなの」

 

「いいけど、それ燃やしていいの?」

 

「いいのいいの、どうせ薪の代わりぐらいにしかならないから」

 

「てめぇ、何してんだぁ!」

 

俺の嫌な予感は的中し、危うく俺の唯一の日本の思い出が灰になるところだった。

 

「ちょっと何してくれるのよ!もう薪もなくて、燃やすものがないのよ!」

 

「お前の羽衣があるだろ?俺のジャージよりよっぽどよく燃えそうじゃねーか!」

 

「この羽衣は私の大切な女神の神器なのよ?燃やせるわけないじゃない!」

 

これが可憐な女神ことアクア。

確かに見てくれは女神なのだが…、こいつを放っておくといつの間にかトラブルを抱え、借金を作り出すただの駄女神だ。

こんなやつより、エリス様の方がよっぽど女神である。

 

「アクア落ち着いて、私のティンダーで暖めてあげるから」

 

「ちょ!?マイ!熱い熱い!」

 

そしてこの初級魔法と言いつつ、手から火炎放射器並の炎を出しているのが、俺と同じく日本からの転生者であるマイだ。

本名田中舞。日本からの転生者特有のチートとして、高い魔力を持っている…持っているのだが、こちらに送られて来る際に、どうやら頭がパーになったらしく、日本での記憶と知力を失ってしまった。

マイも同じく見てくれは、綺麗な長い黒髪で美人なのだが、どうも知力が低いせいで、仲間の悪い部分に影響を受けてしまっている。

 

その仲間というのが、先程のアクアに加え、最強の攻撃魔法を操るアークウィザードこと、1日1発撃てば動けなくなりただの荷物と化すめぐみん、そして高い防御力を誇るクルセイダーこと、不器用で攻撃が全く当たらない上にドMの性癖持ちのダクネスというメンツだ。

 

こんな仲間と一緒にいるから、アクアからは宴会芸、めぐみんからは爆裂魔法と要らないものばかり吸収している。

そして最近は、ダクネスに影響を受けて、筋トレをしているそうだ。これだけならいいのだが、性癖まで影響を受けたらどうしようかと、内心ヒヤヒヤしている。

 

「そう言えば、なんでマイさんがここにいるんだ?」

 

「ちょっと引っ張らないで!」

 

俺はふと疑問に思い、アクアの羽衣を引っ張りながらそう聞いた。

マイは普段宿に泊まっていて、俺達が泊まっている馬小屋に来ることは滅多にない。

 

「あれ?言ってなかったっけ。少し前から私も馬小屋に泊まってるのよ?」

 

「えぇ!?そうなの!?」

 

「だって私のせいでできた借金みたいなものでしょ?少しでもお金を節約したくて…」

 

「じゃあ私がマイの泊まってた宿にいっていいかしら?」

 

羽衣も守るために俺から少し距離をとったアクアが何か言っている。

 

「お前それじゃあ、マイさんの苦労が水の泡じゃねぇか!」

 

「私は女神なのよ?女神な私はもっと優遇されてしかるべきだと思うの」

 

マイは少し頭がパーになってて呆れることもあるけど、根はいい人なんだなぁ、としみじみと思ったのであった。

まぁ隣に根からダメな、自称女神がいるから余計である。

 

「それよりもアクアー、そろそろ出掛けるぞ」

 

「えぇ私寒いから出掛けたくないんですけどー」

 

「神器って言ったっけ、その羽衣。売れば大層高い値がつくんだろうなー」

 

「カズマさーん、今日はどこにいくのかしら?」

 

俺の脅しにあっさりと態度を変える駄女神。

 

「これからどこかに行くの?」

 

「あぁ、ちょっと魔道具店に行ってみようかなって」

 

「魔道具店?」

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

俺達のパーティはバランスが悪い。

もっと攻撃が出来るスキルが欲しい。

まぁマイの初級魔法があれば、どうにかなる気もするが、彼女を侮ってはいけない。

いつ誰に感化されて何をしでかすか分かったもんじゃない。

キャベツ狩りの時なんて、一番前に出て爆裂魔法を放とうとしていたしな。

ある意味このパーティの中で、一番扱いが難しいかもしれない。

 

「カズマ、魔道具店で何を買うの?」

 

そう聞くのは俺の隣を歩いている、件のマイだ。

特にすることも無いということで、一緒についてきている。

そして今俺達は、マイが言う通り、魔道具店に向かっていた。

ただ今回の目的は買い物ではなく、その店の店主さんに用事があるのだ。

 

「ちょっと有効的な攻撃手段が欲しくてな」

 

「ねぇカズマさーん、魔道具店ならもっと近いところがあると思うんですけどー」

 

「うだうだ言ってないでついてこいよ。じゃないと、…剥ぐぞ?」

 

俺は後ろを歩くアクアに振り返り、手をかざしてそう言うと、アクアは何事も無かったかのように、黙ってついてくるようになった。

正直アクアは連れてきたくなかったのだが、今回会う相手が相手なので、念の為の保険である。

 

「カズマって時々、すっごく悪い顔をするよね」

 

隣でマイが何か言っているが、これは必要な措置なので仕方がない。

そう思いマイに弁解しようとそちらを向くと、マイが俺の後ろを見て苦笑いを浮かべている。

…そちらを見ても、アクアがただついてきているだけ。

 

なんだったのだろうかと思いつつも、再び視線をマイに戻すと、後頭部を抑えて、顔を歪めていた。

 

「どうしたんだマイさん、慣れない馬小屋で首でも寝違えたのか?それならアクアに回復魔法でもかけてもらったらどうだ?」

 

「寝違えたとかじゃなくてね、冬になってから時々痛くなっちゃって。自分で回復魔法かけてみたこともあるから、怪我じゃないと思うんだけど。この前の雪精討伐の時から痛みが増しちゃってね…」

 

「そ、そうだったのか…」

 

雪精討伐の話を聞き、冬将軍のことを思い出した俺は、バツが悪くなり気の抜けた返事をしてしまった。

 

気まづくなったので、前に向き直り歩を進めた。

──ふいに家の窓ガラスに目が向く。

するとそこには、俺達の姿が反射して映っていた…。

アクアが俺を挑発している姿もバッチリと映っていた。

マイが苦笑いしていた理由はこれか。

……帰ったら羽衣売り飛ばしてやろう。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

「よし着いたぞ」

 

「こんな所に魔道具店なんてあったんだ」

 

マイが疑問に思うのも無理はない。

ここは大通りから少し外れた、あまり人通りのない所にその店はあった。

この店の名前は、ウィズ魔道具店。

 

「アクア。先に言っておくが、店では絶対に暴れるなよ?」

 

「あんた私のことチンピラかなんかと勘違いしている訳?私は女神なのよ?そんな──」

 

アクアが何やら喚いているが、俺は気にせず店の扉を開ける。

 

「いらっしゃい…あぁぁぁぁ!」

 

「あああぁぁぁぁ!あんたリッチーね!リッチーがこんな所で店なんか構えていたのね!」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!」

 

こいつはつい先程の俺の言葉を忘れたのだろうか。

俺は店主さんに掴みかかっているアクアに、おもむろに近づくと、ショートソードの柄の部分で、頭を小突いた。

 

「いてっ」

 

「暴れるなっていっただろ。よおウィズ、久しぶり」

 

「あぁ!あの墓場で会った!」

 

後ろでずっとウィズの顔を見ていたマイだったが、今の今まで思い出せないでいたらしい…。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

彼女の名前はウィズ。

この魔道具店の店主にして、アンデッド達の王リッチーである。

 

どうして俺達がウィズと知り合ったかというと…

──そうあれは俺達がまだパーティを組んで間もない頃…と、この話をすると長くなるので、また別の機会にするとしよう。

 

簡潔に話すと、ウィズはリッチーではあるのだが、墓地で迷える魂を天に帰してあげるというとても優しい人なのだ。

色々あって、俺達がその仕事を引き受け、とりあえずは見逃すということになったのだが…。

 

女神であるアクアは、アンデッドであるウィズの存在をどうにも受け入れられないらしい。

 

「この店は客にお茶もださないのかしら?」

 

魔道具店なのだからお茶がでないのは、当たり前だと思うのだが、そんなことを、嫁をいびる小姑のような態度で言い放つ。

ウィズはというと、謝りながらお茶の準備に向かった。

本来、アンデッドの王であるリッチーは、とても強いのだが…、これに関してはさすが女神といったところか。

ウィズも逆らえば、簡単に浄化されると本能で感じとっているのだろう。

 

「そういえばカズマは、ウィズに用事があったの?」

 

「そうだった!なぁウィズ。スキルポイントも余ってるから、何かリッチーのスキルを教えてくれないか?」

 

言い終わると同時に俺の顔は紅茶まみれになった。

 

「アクア!何すんだよ!」

 

「あんた女神の従者たるものが、アンデッドのスキルなんて覚えて良い訳がないでしょ!」

 

「いつ誰がお前なんかの従者になったんだよ!」

 

俺とアクアは机を挟んでいがみ合う。

そんな中マイは、我関せずとばかりに、呑気に紅茶を啜っていた。

マイは喧嘩を見ると、止めるでもなく、乗っかるでもなく、ただただ傍観を決め込むようにしているらしい。

 

「カズマいい?リッチーって言うのはね、ジメジメした所に住んでるナメクジの親戚みたいなものよ?そんなリッチーのスキルなんて覚えたら、あんたまでナメクジの親戚になるわよ」

 

「ひ、ひどい…!」

 

「ならない。というか、リッチーのスキルなんて滅多に教えて貰えないだろ?強力なスキルを教えて貰えたらいい戦力アップになると思うんだが…」

 

俺はそう言うと、アクアの腕に首をロックされているウィズに目を向けた。

 

「あの、私は教えてもいいのですが…、その、先程女神の従者って…」

 

それを聞いたアクアは、ウィズを解放し、ドヤ顔を決めた。

そして、アクアが口を開く寸前で、ここに来て初めてマイが口を出した。

 

「という夢を見たらしいの」

 

「ちがうわよ!」

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

あの後、マイに余計なことを言われ混乱していたウィズに、アクアが自分の正体を明かした。

中々女神だとは信じて貰えないアクアだが、ウィズはアクアが女神だと信じたらしい。

まぁその際、自分のことを"頭のおかしい信者達の元締めの女神”と言わたアクアが、少し涙目になったのはまた別の話である。

 

今はマイがアクアを慰めつつ、商品を見ていた。

そんな2人が棚においてあったポーションを手に取った。

 

「あ、それは衝撃を与えると爆発するポーションでして、扱いには気をつけて下さいね?あ、そっちはフタを開けると爆発するポーションで…あっそれも温めると爆発する─」

 

「この店には、そんな危ない商品しかないのか!」

 

爆発するポーションのオンパレードで思わずつっこんでしまった。

当のアクアとマイもおっかなくて、商品を手に取るのはやめたらしい。

 

「違うんです、たまたまそこの棚が爆発するポーションの棚でして…、他の棚は安全ですから!」

 

それを聞いた2人だったが、もうポーションは怖いのか、魔道具を見ていた。

 

「そう言えば、あのベルディアさんを倒されたみたいですね。あの人は幹部の中でも剣の腕は相当なはずだったのに、すごいですね!」

 

ウィズはそんな世間話を始めた。

ただ何か言い方が引っかかる。

その言い方だとまるで…。

 

「何かベルディアと知り合いみたいな言い方だけど…」

 

「あぁ。私、魔王軍の8人の幹部のひとりですから」

 

魔王軍!?幹部のひとり!?

そんな爆弾発言をさも世間話かのように、笑顔で告げるウィズ。

 

「確保ー!!」

 

「ま、待って待ってアクア様!話を聞いて下さいー!」

 

どうやら少し離れていたアクアにも聞こえていたらしく、即座にウィズに対してマウントをとっていた。

アクアと一緒にいたマイはというと…

 

「ま、魔王軍の幹部…。ここは私が爆裂魔法を放って、自爆覚悟で─」

 

「っておい!やめろ!落ち着け!」

 

そう、一度落ち着こう。

本当に悪い奴なら、そんなことをここで暴露しないだろう。

とりあえずウィズの言う通り話を聞かないと。

 

「やったわねカズマ!これで借金はチャラよ、チャラ。むしろお釣りがくるんじゃないかしら?」

 

ウィズにマウントをとりながらそんなことを言うアクア。

アクアの下では、ウィズがバタバタしている。

 

「アクアも落ち着けよ。とりあえず話ぐらい聞いてやれよ。何か事情があるかもしれないだろ?」

 

俺はそう言うと、屈んでウィズに話しかけた。

 

「それで、ウィズ。冒険者という立場上、魔王軍の幹部は見逃せないんだけど…」

 

「違うんです!魔王さんから魔王城の結界の管理だけ頼まれまして…、もちろん今まで人に危害を加えたこともありません!それに私を倒したところで賞金もかかっていません!」

 

ウィズの言い分を聞いた俺とアクアは顔を見合わせた。

マイはというと、未だウィズを警戒しているようでブルブルしながら杖を構えていた。

 

嘘は言ってなさそうだし、見逃してもいいかなと思ったので、今まさにウィズを浄化しようとしていたアクアを、ウィズから引き剥がしたのであった。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

ウィズをとりあえず浄化しようとするアクアと、ウィズに対してずっとビクビクしていたマイを落ち着かせて、俺達はウィズから話を聴いた。

 

「つまり、その8人の幹部を全員倒せば魔王城への道が開かれるみたいなやつか?」

 

俺の問いにウィズは、必死に首を縦に振って答えた。

 

「じゃあこのリッチーがいる限り人類は魔王城に攻め込めないのね。なら浄化しましょ」

 

まだウィズを浄化することを諦めていないアクアを何とか説得し、この場を治める。

 

──これでやっとリッチーのスキルを教えて貰える。

アクアがいるせいで、全然話が進まなくて余計に時間がかかってしまった。

 

「マイさんもスキルポイント余ってるなら、一緒に教えて貰ったらどうだ?」

 

「私はいいかな。正直スキルポイントもあまり余ってなくて…」

 

「カズマ、マイまで悪の道に引きずり込むのはやめてちょうだい」

 

「そんな悪の道みたいな物騒なものじゃありませんからね?ではとりあえずカズマさんにリッチーのスキルをお教えしますね。これも以前見逃して頂いた恩返しに…」

 

そこまで言うとウィズは、言葉を詰まらせた。

 

「どうしたんだよ、ウィズ」

 

「いえ、その、リッチーのスキルは相手がいないと発動しないものばかりでして…」

 

なるほど、誰かが実際にリッチーのスキルを受けないといけない訳か。

ウィズがいくら温厚とは言え、使うのはリッチーのスキル。

ここはアクアに受けてもらうべきか。

いや、アクアだとまた話がややこしくなりそうだから、マイにお願いするとしよう。

 

「マイさんお願いできるか?」

 

「わ、私!?」

 

マイはまだ、ウィズにビビっているみたいだ。

 

「マイ、安心しなさい。この私がついている限り、あのリッチーが少しでも変なことをしようとしたらすぐ退治してあげるわ。それでリッチー、どんなスキルを使うつもりなのなしら?」

 

「絶対に害はないようにしますから安心して下さいね?スキルは、ドレインタッチなんてどうでしょうか?相手の魔力や体力を奪い取ったり、逆に分け与えたりできるスキルです」

 

「なるほど。使い方によったら、俺達のパーティの火力不足を補ったりできるかもな」

 

俺はドレインタッチを教えて貰うことにした。

マイがスキルを受けるためにウィズに近づく。

 

「ウィズ、し、信じてるよ?」

 

「そんなに心配なさらないで下さい?ほんのちょぴっとしか吸いませんから」

 

そう言うとウィズはマイの手を両手で優しく包んだ。

 

「ドレインタッチ!」

 

「わぁ、確かにほんの少し魔力がなくなった気がする」

 

「あんた本当にドレインタッチしか使ってないでしょうね?この私の曇りなき眼はごまかせないわよ?」

 

アクアがウィズを疑いの目で観察し、マイは魔力が吸われた感覚を思い出すかのように自分の手を見つめていた。

そして俺は、冒険者カードを取り出し、取得可能なスキル欄を確認し、ドレインタッチを習得した。

 

丁度その時に店のドアが開いた。

 

「ウィズさんは、いらっしゃいますか?」

 

そこには、初老を迎えながらも紳士風な男性が、被っていた帽子を手に取り、立っていた。

 

「あ、貴方は不動産屋の…」

 

「不動産屋?」

 

「はい、この方は街で不動産業を営んでいらっしゃる人でして…」

 

「ははは、そんな大層なものではありませんよ。この度は高名な魔法使いであらせられるウィズさんに直接依頼をするために来た次第です」

 

その不動産屋のおじさんが持ってきた依頼とは、とある物件に住み着いた悪霊の退治だそうだ。

何度祓っても、再び悪霊がやってくるそうで、困った不動産屋が頼ったのがウィズだったのだ。

 

ただ、そこに俺達…というかアクアがいた訳で…。

悪霊退治なら私でしょ!と言わんばかりにウィズから依頼を横取りしてしまった。

当のウィズも、「アクア様の方が適任ですからお願いしますね」と言って譲ってくれたのだ。

 

またこの不動産屋のおじさんも太っ腹で、もし悪霊退治が出来たのなら、タダでその物件に住んでいいと言ってくれた。

なんでも、俺達に住んでもらうことで、悪霊が住んでいるという評判を無くしてもらいたいとのことらしい。

馬小屋生活に限界を感じていた俺は、即座に快諾したのだった。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

「ここかぁ」

 

不動産屋のおじさんに書いてもらった地図を頼りに、依頼の物件に辿り着いた俺達だったが、そこには立派な屋敷があった。

 

「なんでも昔貴族が住んでいた別荘らしいですね」

 

「除霊の報酬にここに住んで良いだなんて、なかなか太っ腹な大家だな」

 

そう呟いたのは、めぐみんとダクネスだ。

依頼を受けた俺達は一度ギルドに行き、この2人にも声をかけたのだ。

俺達5人で住むことにしたので、それぞれの手元には、自分の私物を包んだ風呂敷が握られている。

 

「悪くないわね、ええ悪くないわ!この私が住むのに相応しい屋敷ね!」

 

「5人で住むにはちょっと大きい気もするけどね」

 

「でもアクア、そもそもここにいる悪霊を祓えるのか?大家さんが言うには祓っても祓ってもまたやって来るらしいぞ」

 

「この私を誰だと思ってるの?私は女神にしてアークプリースト、言ってみれば対アンデッドのエキスパートよ!」

 

確かにアンデッド相手なら、アクアが後れを取ることもないか。

当のアクアは、両手を前に突き出し、霊視紛いのことを始めていた。

 

「みえる、みえるわ。この屋敷には貴族が遊び半分で手を出したメイドとの子供、その隠し子が幽閉されていたようね。彼女の名前は、アンナ・フィランテ・エステロイド──」

 

どうしてそんな細部まで分かるんだと心の中でつっこみながら、俺達は霊視を続けるアクアを置いて、屋敷の玄関に向かった。

 

「あれ?マイさんは?」

 

ふと気が付き、俺がそう言うとめぐみんとダクネスが、揃って同じ方向を指さす。

そこには、アクアの霊視結果を頷きながら楽しそうに聴いているマイの姿があった…。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

その後俺達は屋敷の掃除をして、部屋割りを決め、悪霊が動き出す夜まで各自自由として、俺は自室のベットで横になっていた。

掃除がほとんど終わった頃になっても、まだ霊視を続けていたアクアと、それをずっと聴いていたマイには軽く呆れてしまったが、そんなことはどうでもよく、俺はこの世界で初めての自分の部屋とベットで寝れることのありがたみを噛み締めていた。

 

馬小屋生活から一転、屋敷暮しである。

これはウィズに感謝しないとな。

悪霊の方はアクアに任せていたら、今夜のうちには何とかなっているだろう。

 

そんなことを考えていると、久しぶりのベットだからか、抗い難い眠気に襲われる。

俺はその眠気に身を委ねたのだった。

 

 

──トイレ行きたい。

眠りから目が覚めた俺が思ったことだ。

どれくらいねていたのだろうか。

寝る前は窓から夕日が差し込んでいたが、既に日は落ち、外は真っ暗なようだ。

 

俺は寝返りを打ち…、直ぐに反対に寝返った。

えっと、何あれ…、あんなもの部屋にあったっけ。

いやないわぁ、あんなもの無かった!こわっ!

 

俺が見たのは、椅子の上に座ってこちらを見つめていた人形。

ホラーとしてはベタ過ぎるが、正直かなり怖い。

 

どうしようかと悩んでいると、辺りに気配を感じた…。

俺は恐る恐る目を開き、状況を確認すると…

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 

ベットから飛び出し、一目散に部屋から逃げだした。

男として情けないとも思うが、自分の周りが人形で囲まれていたら仕方があるまい。

俺は人形から逃げ、アクアの部屋を目指した。

アクアなら悪霊達を退治してくれるはずだ!

 

俺は全力疾走で走り、アクアの部屋に着いた。

そしてドアノブに手をかけ、ドアを開く。

 

しかし、そこにいたのは、アクアではなく、暗闇に浮かぶ2つの紅い瞳で…

 

「きゃぁぁぁ!」

 

「ふわぁぁぁぁ!!ってめぐみん?」

 

そこいたのは、アクアではなくめぐみんだった。

 

「もう少しで漏れるところだったぞ」

 

「それはこっちのセリフです!」

 

実際は少しちびったのは内緒だが、めぐみんに事情を聴くと、どうやら俺と同じらしい。

人形に追われ、アクアに助けを求めて来たみたいだ。

それとあと、トイレに行きたいらしい。

 

あ、そう言えば俺もトイレ行きたい。

まぁ人形がうろつく中、トイレまで行くのは至難の業。

背に腹は変えられないだろう。

 

「ちょっとベランダから失礼するから、めぐみんは反対向いててくれ」

 

そう言うと、めぐみんに服を引っ張られ、阻止される。

 

「何1人だけ、済ませようとしてるんですか。私達は仲間でしょう?トイレだろうがなんだろうが、いく時は一緒です」

 

そんなことを今まで見たことがないくらい、朗らかな表情で言うめぐみん。

 

「って何邪魔してくれてるんだよ!お前紅魔族はトイレに行かないとかいってたじゃないか!」

 

「なんのことかさっぱりですね!1人でスッキリなんかさせませんからね!」

 

めぐみんはがっしりと俺にしがみつき、俺はそれを引き剥がそうと躍起になる。

こいつアークウィザードのくせに、なんでこんなに腕力があるんだ!

 

だが、しばらく取っ組みあっていると、ふとめぐみんの力が弱まった。

めぐみんを見ると、俺の後ろを見て青ざめていた。

俺は嫌な予感を感じつつも、後ろを振り返る。

そこには、窓一面に人形が張り付いていて…

 

「「ぎゃぁぁぁぁ!」」

 

一目散に部屋から飛び出したのだった。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

何が楽しくて、トイレの前で歌っているのだろうか。

 

アクアの部屋から逃げ出した俺達は、何とかトイレに辿り着いた。

そして先に用を済ませた俺は、めぐみんのトイレを待っていたのだが…、めぐみんたっての希望で歌を歌っている。

 

「それは一体何の歌ですか?」

 

「これはな、落ちこぼれの少年を助ける青だぬきの歌だよ」

 

トイレの中からは、「青だぬき?」と呟く声が聞こえたが、俺の歌を聴く暇があったら早く済ませて欲しい。

こうしてる間にも、人形達が…こっちみてるじゃねぇか!

 

「おいめぐみん、早くしろ!まずい状況なんだ!」

 

「そんな急かさない出ください。カズマは先に済ませたでしょ?」

 

「そうじゃなくて!人形が!」

 

めぐみんが早くしてくれないと、あの人形達がこっちに来てしまう!

めぐみんを置いて逃げようかという考えが、一瞬頭を過ぎり、人形と反対の方を見ると…

 

「やばい!まじでやばい!本当にやばい!」

 

「そんなにドンドン扉を叩かないでください」

 

こんな時に呑気なことを言いやがって!

俺が人形と反対の方でみたのは、日本のホラーでよくみるあいつ。

白い服装をして、長い黒髪で顔が見えなくなってるあいつ!

なんでこんなとこに出てくるんだよ!

 

「アクア!助けて!」

 

「カズマ!どうしたのです!また人形がいるのですか!」

 

霊に挟まれた俺は、為す術なく、アクアに助けを求めるしかできなかった。

だんだん近寄ってくる、人形と日本式の幽霊。

あ、もうダメだ、と思ったその時。

 

「ターンアンデット!」

 

そんな絶望する俺の目の前を浄化魔法が過ぎる。

そしてその浄化魔法が当たった人形達は動かなくなった。

 

俺はその魔法の出処をみると、それは例のあいつが放ったもので…

なんで霊が浄化魔法を?

でも、さっきの声聞き覚えがあるな。

俺は恐る恐る、そいつに尋ねる。

 

「ま、マイさん?」

 

「あっ、カズマ」

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

翌日、俺とアクアは、ギルドにきていた。

アクアとダクネスのおかげで、悪霊は全て祓われ、その報告のためだ。

 

俺が日本のホラーにでてくるあいつだと勘違いしたマイには、あの後事情を聞いた。

どうやら、マイの部屋にも人形が現れたらしく、それを祓ったら、トイレに行きたくなったそうだ。

寝起きで冷静に対処出来るマイの精神には少し引いた。

またあの白い服装は、あれが1番安かったからだそうだ。

 

今後もあの格好で屋敷に居られると、夜が怖いので早めに新しい服を買ってもらうとしよう。

正直先に済ませてなかったら、漏らしていただろう。

 

 

「屋敷に住み着いていた悪霊を退治されたそうで、ギルドから臨時報酬がありますよ」

 

昨日のことを報告したところ、ギルドのお姉さんにそう伝えられた。

この報酬で、マイに服を買おう。

 

「でもどうしてあの屋敷に悪霊が住み着くんですかね?」

 

「それがですね、あの屋敷の近くに共同墓地があるじゃないですか。そこに──」

 

この後、俺はアクアに説教をし、臨時報酬は受け取らなかったのだが、その理由は語らないでおこう…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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過去の記憶

遅くなってしまいました。
あとこの話と、次話に、少しだけ、ほんの少しだけアニメより先の要素が含まれています。





暖炉の薪がパチパチと燃える音がする。

カズマはその暖炉の前にあるソファでくつろぎ、めぐみんとダクネスはボードゲームをしている。

私は2人の勝負を眺めていた。

 

既に何戦目だろうか。

やはりアークウィザードというのは伊達ではなく、めぐみんが連勝している。

この対戦もめぐみんが優勢のようだ。

 

「ふふ、これでどうでしょうか」

 

めぐみんが決め顔でアークプリーストを前のマスに進めた。

 

丁度その時、リビングの扉が開いた。

アクアが風呂から上がったらしい。

リビングに入ってきたアクアは、私達には目もくれずカズマの元へ歩み寄って、何やら話しかけていた。

 

「あぁ!ダクネスそれはずるいです!」

 

私はそんなめぐみんの声を聞き、視線をボードゲームに戻す。

すると先程進めたアークプリーストが、ダクネスのソードマスターに取られていた。

そのソードマスターは更に、めぐみんのアークウィザードを射程に捉えている。

 

「この勝負でようやく私が勝てそうだな」

 

「そう簡単にはいきませんよ?ここはテレポートを使いましょうか」

 

「な!?ずるいぞ!」

 

「ルールですから」

 

そう言うとめぐみんは、アークウィザードを盤面の真ん中辺りにテレポートさせ、逆にソードマスターを射程に捉える。

次にダクネスが、逃げの一手を打ったところで、また扉が開く音がした。

どうやらカズマが、自分の部屋に行ったらしい。

今までカズマがいたソファにアクアが寝転んでいた。

 

「エクスプロージョン!」

 

「ふぎゃあ」

 

その声を聞き、ボードに視線を戻した時には既に、めぐみんが盤面を引っくり返した後だった。

 

「今回も私の勝ちですね」

 

「くっ、クルセイダーを捨ててもめぐみんには勝てないのか…」

 

「ねぇ、盤面を引っくり返すのはありなの?」

 

「もちろん公式ルールですとも」

 

ルールとは一体なんだったのだろうか。

 

「悔しいが、私はそろそろ寝るとしよう。2人もあまり夜更かしするのではないぞ」

 

めぐみんが散らかした駒を全て拾い上げたダクネスは、そう言うと部屋から出ていった。

 

「ダクネスは寝てしまいましたか。マイさんはどうします?私達の対戦を見てルールが分かってきたなら、一度私と勝負してみますか?もちろん手はぬいてあげますよ?」

 

そんなことを挑発するような顔で言うめぐみんに対して、私はその挑発にのることにした。

 

 

 

───のることにしたのだが、結果は惨憺たるもので、勝負にすらなっていなかった。

 

「マイさんは、攻め方が愚直すぎて読みやすいですね」

 

「めぐみんに勝とうと思うなら、私にみたいに賢く攻めなきゃね」

 

いつの間にか観戦していたアクアが、そんなことを言う。

これだけ強いめぐみんに勝てるなんて、さすがアクアというところか。

 

「アクアは何やら卑怯な手を考えては、毎度私に返り討ちにあってるじゃないですか」

 

やはりアクアをもってしても、めぐみんには勝てないらしい。

めぐみんに勝つにはもっとルールを覚えてからじゃないと厳しそうだ。

 

その後しばらく、ボードゲームについて語っていたが、そろそろ寝ようということで、私達3人はそれぞれ自室に戻っていった。

 

私は1人、寝る前にトイレに行こうと思い、廊下を歩いていた。

明かりは月明かりだけで、とても暗い。

 

既に時間は深夜で、こんな暗い夜には、いつぞやの人形のゴーストでも出そうだと考えてしまう。

まぁ私の場合、ターンアンデットで退治出来てしまうので、全く怖くはないのだが。

 

そんなことを考えつつ、もうすぐトイレというところで、前方に歩く人影が見えた。

まさかゴーストか!?と思いもしたが、今はアクアが結界を張っているので有り得ないなと、屋敷の誰かだろうと推察する。

 

よく見るとそれは、カズマのようだ。

こんな真夜中に廊下を歩いているなんて、カズマもトイレだろうか。

そこでふと、引っ越してきた日のことを思い出し、悪戯心が芽生えた。

私は、髪で顔を隠しゆっくりと近づいて、後ろから肩を叩く。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!」

 

振り向いたカズマは、私を見て気絶してしまった。

まさかそこまで驚くとは…。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

翌日、私は街を歩き、服屋を探していた。

というのも、昨日目を覚ましたカズマに、部屋着は白い服以外で、前髪はピンで留めてくれと、怒られたからだ。

これだけ怒られては、さすがに悪戯でしたと明かすことも出来ず、素直にそれに従うことにしたのだった。

まぁ確かに、前髪が少し邪魔だったので、ピンを買うのはいいのだが、部屋着は安くて丈夫で、気に入っていたので少し残念だ。

 

また安くていい物を置いている店を探そうとブラブラしていると、同じく街をブラブラしているように見えるカズマを見つけた。

暇をしているのなら、カズマ自身に納得いく部屋着を探してもらうか、と思いカズマを追いかけることにした。

 

少し近づいたところで、カズマが狭い路地に入った。

私は駆け足でその路地まで行き、その先を見る。

しかしそこに居たのは、少し先にいるカズマより先に路地に入ったであろう2人組しかいなかった。

その2人組には、何だが見覚えがあるので、おそらくアクセルの冒険者だろう。

その2人組も路地で角を曲がり見えなくなった。

この路地は日陰で少し暗いものの、隠れるような場所も2人組が曲がったところ以外に道もなかった。

一体カズマはどこに消えたのだろうか。

 

私はしばらく路地を見ていたが、屋敷に帰ったらカズマに直接聞こうと思い、服を探すために再び街をブラブラすることにした。

カズマに選んでもらえれば、また服を変えろと言われることは確実にないだろうと思っていただけに、カズマを見失ったのは少し残念だった。

 

今度はどんな服を買おうか。

まぁ借金のせいで安物しか買えないが…。

私はふと通りにあった服屋に目を向ける。

ショーウィンドウには、ヒラヒラとした飾り付けがなされた、可愛らしい服がある。

こんな服を着るのは可愛らしい人で私には似合わないなと思い、ショーウィンドウの目の前に立って服を眺めていた人に視線を向けた。

一体どんな可愛らしい人が…とても見覚えのある背中だった。

 

「ダクネスはこんな感じの服が好きなんだね。似合うと思うよ!」

 

私はショーウィンドウを眺めていたダクネスに近づき、声をかけた。

 

「な!?マイ!ち、違うのだ!こ、これはその……、あれだ……、い、いとこが……そう!いとこが着れば似合うだろうなと思ってだな!」

 

「そうだったんだ、ダクネスも似合うと思うのになー」

 

そう言いつつダクネスの顔を覗き込むと、何故か真っ赤になっていた。

 

「わ、私のような無愛想な女には…その…にあわない…というか…、そ、それよりも!マイはどうしてこんな所にいるのだ!」

 

「私?私は部屋着を探しててね。あの白い服はやめてくれってカズマに言われちゃって」

 

「あーそういえば、白い服に長い黒髪だとカズマの故郷の幽霊に似ているだとか何とか言っていたな」

 

「そうらしいんだよね。良かったらダクネスも一緒に服を探す?えっと…ここのお店は少し高くて無理だけど、私何軒か安いお店知っているから案内するよ」

 

「そうだな、夕方まで特に用事もないし、私も付き合うとしよう」

 

そんなこんなで、ダクネスと一緒に服を探すことになった。

先程の店から立ち去る際に、ダクネスが一度振り返ってショーウィンドウを少し残念そうな表情で見ていた。

やっぱりいとこのためだけじゃなくて、ダクネス自身も欲しかったのだろうか。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

「本当にその服でよかったのか?」

 

「むしろこれが良かったの!肌触りもいいし、丈夫だし、何より安い!それにこれだけ真っ赤ならカズマには何も言われないはず」

 

「まぁ確かに何も言わないだろうが…」

 

私達は人通りの少ない通りにある、小さな服屋から出てきて話していた。

そこで見つけたこの真っ赤な服を見つけて、即決したのだった。

 

「ダクネスは何も買わなくてよかったの?」

 

「あぁ、私は服を見れただけで満足だ」

 

ダクネスには、この服を見つけるまで2軒程付き合ってもらったが、結局何も買わなかった。

度々、可愛らしい服を見つけると、少し眺めていたので、やはりそのような服が好きなのだろう。

ダクネスの意外な一面が見れた日だった。

帰ったらアクアやめぐみんにも教えてあげようか、等と考えているとダクネスが立ち止まった。

 

「どうかしたの?」

 

「ウィズ魔道具店…、ここがあのリッチーが営んでいる魔道具店か。そう言えば、マイは先日、カズマやアクアと来たのだったな。私も一度入ってみたいのだが、いいだろうか?」

 

ウィズ、リッチーでありながら、魔王軍の幹部といういかにも凶悪そうだが、その実情はただ魔王城の結界の維持を行ってるだけのなんちゃって幹部で、人を傷つけたこともない善良な魔道具店の店主。

最初はウィズに対して怯えもしていたが、ウィズがいかに穏やかな性格か分かったので、今となっては何も怯えることはない……、正直ちょっとだけまだ怯えてはいるが。

 

「今日はダクネスに付き合ってもらったし、もちろんいいよ」

 

その答えを聞くとダクネスは、「じゃあ入ってみるか」と言ってドアを開けた。

 

「いらっしゃいませ。あ、ダクネスさんにマイさんじゃないですか」

 

「やぁウィズ、久しぶりだな」

 

「私は先日ぶりだね」

 

店に入るととてもアンデットで魔王軍の幹部とは思えない、朗らかな笑顔で迎えてくれた。

 

「今日はお2人なんですね。ゆっくりご覧になって下さいね」

 

「ほぅ、魔道具店だけあって様々なポーションが置いてあるのだな」

 

「ポーションはやめておいた方が…」

 

私は先日来た時、手に取るポーションがどれも爆発するポーションだったことを思い出し、ダクネスをとめようとする。

 

「マイさん、安心して下さい。爆発するポーションは奥にしまったので、今あるのはどれも安全なポーションですよ」

 

私はそれを聞いて安心し、ポーションを手に取った。

隣で、爆発という単語にダクネスが反応していたが、流石のダクネスも爆発するポーションはおっかないのだろうか。

 

「こ、この、獣型モンスターに群がられるポーションというのは、例えば獣のように飢えた男からも襲われるのだろうか!?」

 

「いえ、それはその名の通り獣型モンスターを惹き付けるもので、それを振りかけると、絶え間なく獣型モンスターに襲われるというものでして…」

 

どれも安全なポーションと聞いたのは、聞き間違いだったのだろうか。

そのポーションのどこが安全なのか教えて欲しい。

ダクネスもそのポーションの危険性に驚いたのか、口をパクパクさせている。

 

「も、もらおう!」

 

「「え?」」

 

ウィズと声がハモった。

いや、ウィズは売れると驚くようなものを仕入れないで欲しい。

 

「ほんとに買うの?」

 

「もちろんだ!こんな楽し……いや、危険なポーションが他の人の手に渡っては危ないからな!」

 

流石はダクネス、他の人のことを考え、敢えて買うとは。

 

「マイは何か買わないのか?」

 

特に買いたいものがあった訳では無いので、悩んでしまう。

今日はお目当ての服を買えたし……、あ、そう言えばヘアピンも、付けろって言われたんだっけか。

ただここは魔道具店。

雑貨屋ではないので恐らくないだろうが、とりあえず聞いてみよう。

 

「ねぇ、ウィズ。このお店にヘアピンなんて売ってるかな?」

 

「ヘアピンですか……、あ!そう言えば1ついいのがありますよ!えっと確かこの辺に……あった!」

 

ウィズが渡してくれたのは、ごく普通のヘアピンにみえる。

 

「これも魔道具なの?」

 

「もちろんです!そのヘアピンは、一度留めるとどんなに動いてもズレないという優れものなんです!」

 

「ほぅそれはすごいな」

 

「確かに!これ買います!」

 

「ありがとうございます!あ、ただそのヘアピン…付けるとズレないのですが、取ることも出来ないものでして………」

 

私はそのヘアピンを元あった場所にそっと戻した。

店内になんとも言い難い空気が流れたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

ウィズのお店を後にした私達は屋敷への帰路についていた。

ダクネスは途中で用事があるとの事で、私だけ先に屋敷に帰ってきた。

 

「ただいまー」

 

「あ、マイじゃない。もうどこに行ってたのよー。皆外出しちゃうから、私がめぐみんの日課に付き合うはめになったんですけどー」

 

帰宅した私を出迎えたのは、何やら文句を言っているアクアだった。

ただ文句を言いつつも、身体はソファで横になったままであるが。

 

「今日の爆裂魔法も最高でした」

 

アクアの不機嫌の原因であるめぐみんは、机に突っ伏しているが、顔はツヤツヤしている。

 

「今日はマイが夕食の当番だったわよね?今日は疲れたからがっつり食べれるものを所望するわ」

 

あ、忘れてた。

 

「………どうして何も返事をしてくれないのかしら?」

 

「マイさんの顔を見れば理由が分かると思いますよ」

 

「……もしかして忘れてたの?私もうお腹ペコペコなんですけどー」

 

「ご、ごめんなさい!今すぐ食材を買ってくるから!」

 

そう言って私は慌てて部屋を出ようとする。

 

「マイさん!財布、財布!」

 

めぐみんのその言葉を聞き、慌てて踵を返す。

財布を取り、再び部屋を出ようとすると、扉がひとりでに開き、反対側から人が入ってきた。

 

「みんな喜んでくれ。私の父が引越し祝いを贈ってきてくれたぞ」

 

部屋に入ってきたのはダクネス。

私はダクネスの後ろに、山のように積まれた箱が目に付いた。

 

「これは!?高級なお酒の匂いがするわ!」

 

「高級食材の匂いもするのです!」

 

そんな匂いがするだろうかと、頭に疑問符を浮かべている私をよそに、アクアとめぐみんは、ダクネスのお父さんからの贈り物に群がっていた。

 

「これは高級シュワシュワね!」

 

「こっちは霜降り赤蟹です!」

 

「みんな喜んでくれたようでよかった。今日はこれで蟹パーティでもしよう!」

 

これは夕食の準備を忘れたのは結果オーライということにしておこう。

 

「マイは今すぐ、鍋の具材を買ってきて!」

 

結果オーライという訳には行かないようだった…。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

蟹鍋に蟹のフライ、蟹の刺身に炙り焼き。

まさに蟹づくし。

 

「カズマ遅いわねー。もう先に食べちゃいましょうか!」

 

「そうですね。こんな時間まで帰ってこないカズマが悪いのです」

 

「私としては、皆に食べて欲しいのだが、これだけあればカズマの分も十分だろう」

 

私はそんな皆の言葉を、刺身を口に入れた直後に聞き、咀嚼せずに止まっていた。

あ、皆カズマ待つつもりだったんだ…。

そんな私を少し冷たい視線で見る皆だったが、直ぐに少し笑い各々好きな物を食べ始めた。

 

「はわわわわ、まさか人生で霜降り赤蟹を食べれるなんて!」

 

「このシュワシュワも中々の逸品ね!」

 

皆が食事を始めたのを見て私も咀嚼を始める……、な!?

一口噛むだけで、口の中に芳醇な蟹の風味が広がる!

私は気づくと既に2個目の刺身を口に運んでいた。

 

「これはおいしい!」

 

「皆の口にあってよかった」

 

こんな美味しいものが、口に合わないはずがない。

私が3つ目の刺身を口に運んだところで、扉が開く。

 

「帰ったぞー、ってどうしたんだよこの料理!?」

 

私達の普段の食事に比べ豪勢な今日の食卓を見て、カズマは驚きの声を上げた。

 

「カズマ遅かったわねー。もう始めちゃってるわよ!」

 

「霜降り赤蟹ですよ!」

 

「うちの実家が、引越し祝いに贈ってくれたんだ」

 

「へぇー」と言いながら、カズマは席に着いた。

私は口の中の刺身を飲み込んでカズマに話しかける。

 

「カズマも早く食べないと……」

 

私が声を掛け、カズマの方を見ると既に彼の両手には蟹の脚が握られていた。

カズマの皿には既に、いくつかの身を食べられた蟹の脚の殻があり、物凄い勢いでたべているみたいだ。

これは人の心配をしている場合では無さそうだ。

 

「カズマ、火をちょうだい。私が今から美味しいお酒の飲み方を教えてあげるわ」

 

「はいよ、ティンダー」

 

カズマに火を貰ったアクアは、その七輪の上に蟹味噌が少し残った甲羅を置き、そこへお酒を流し込んだ。

そのまま少し温め、それを甲羅のまま、ぐびっと…。

 

ごくり。

それを見ていた私をはじめとしたみんなが、そう唾を飲む音がした。

普段あまり酒を飲まない私だが、これは飲んでみたい。

 

早速カズマがアクアの真似をしようと酒を持っていたので、次に酒を渡して貰おう。

と、思ったのだが、カズマの動きがそこで止まっている。

どうかしたのだろうか。

あ、そう言えば今日どこに行っていたのかまだ聞いてなかったな。

 

「ねえカズマ、今日のお昼どこに行っていたの?」

 

「へ?べ、別にどこにも?いってないけど?」

 

「路地に入っていくところをみたんだけど…、人違いだったのかな」

 

「あ、あぁ!そうだった!その先に隠れ家的な酒場があってな。そこで男友達とのんでたんだよ!」

 

「そうだったんだ」

 

少し釈然としない気もするが、酒場に入ったから見失ったのだろうと納得した。

 

「少し早いけど、俺はそろそろ寝るとするよ。あとは皆で楽しんでくれ」

 

どこかいつもより朗らかな笑顔でそう言うと、カズマは結局酒を飲まずに自室に向かってしまった。

 

「カズマのくせに付き合い悪いわねー」

 

「まぁ昼間も飲んだらしいし、仕方ないんじゃない?」

 

「それにしてはお酒の匂いがしなかったのよねぇ。まぁいいわ!カズマも寝たことだしこれからは女子会よ!」

 

「おお!女子会か。なんだかいい響きだな」

 

「せっかくの女子会ですし、私も飲んでいいですよね!?」

 

「私のとっておきの芸を披露してあげるわ。機動要塞デストロイヤー!」

 

「「おぉ!」」

 

アクアが見せてくれた芸は、なんだかウネウネとしていてたまに聞く、デストロイヤーが何なのか更に分からなくなったのだが、ダクネスとめぐみんはそれを見て興奮していた。

 

その後もアクアが芸をみせてくれたり、めぐみんも少しだけなら飲んでいいことになったりと、楽しい時間を過ごしていた。

今はダクネスが、酔っているめぐみんなら勝てるのではないかと、ボードゲームを挑み、それをアクアと私が遠目から眺めていた。

 

「ねぇデストロイヤーってなんなの?」

 

「そう言えばマイは、カズマと一緒で何も知らない転生者だったわね」

 

またこの話だ。

テンセイシャがなんだとか、出会った時も言っていた。

なんでもカズマは私と同郷で、アクアは記憶を失う前の私を知っているとか。

なんだかんだその話を詳しく聞く機会がなかったので、この際聞いてみるのもいいかもしれない。

 

「アクアは記憶を失う前の私を知ってるのよね?」

 

「んーちょっと違う…というか、私が知っているのは、マイ達が暮らしていた日本のことで、マイ本人のことは…」

 

「ことは?」

 

「死んだ時のことと、その後に少しあっただけなのよね」

 

「へ?」

 

アクアから聞いた話はまさに寝耳に水。

私はニホンという、こことは別の世界で暮らしていて、そこで一度死んでしまい、この世界に転生してきたとかなんとか。

アクアに会ったのは死後の世界で、女神として私を導くためだとかなんだとか…

あれ、アクアが女神なのは夢の話だったんじゃ…

頭がこんがらがってきた。

 

「そう言えば私の死んだ時のことをしってるって…」

 

「ええ、知ってるわよ」

 

「私はどうやって死んだの?」

 

あれこの質問なんだか覚えが……

丁度こうアクアと向かい合って話していて…

 

「マイの死因?それはね──」

 

「「転んで死んだ」のよ」

 

「え?思い出したの?」

 

「いや、そういう訳じゃないんだけど…」

 

急に頭が痛くなってきた。

でも何か思い出せそうな、そんな気がする。

今はひとりになりたい。

 

「アクア話してくれてありがとう。私は先に寝るね」

 

そう言い残し、部屋を後にする。

後ろでは、「エクスプロージョン!」という声と共に、ボードがひっくり返された音がした。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

夢。

私はそう理解するのに時間はかからなかった。

意識がふわふわとし、暗闇に立っている。

 

後ろから女性の泣く声がする。

振り返ると私は、とても静かで薄暗い部屋にいた。

そこには、台の上に横たわり頭まで布をかけられた人と、それにすがりながら、泣いている女性。

私はその女性に見覚えがある……、あるのだが思い出せない。

それになんだか、この光景を見ていると私まで悲しい気持ちになってくる。

 

一筋の涙が頬を伝う。

それを拭おうとし、目を擦ると、私は別の場所にいた。

今度はとても明るく騒がしい。

先程の部屋とは段違いに広く、たくさんの机が並んでいる。

 

周りにはたくさんの人がいてそれぞれ話していた。

不意に後ろから声をかけられる。

 

「舞ー、今週提出のレポートもう書いたー?」

 

その声に振り返りその顔をみる。

そこには私と同年代であろう女の子がおり、その顔はすごく懐かしく、親しみのある顔で……、だがそれが誰か思い出せない。

私がその人の顔をじっと眺めていると、部屋全体に響くほどのベルが鳴る。

そのベルがやむと、部屋前方の扉が開く。

そこから入ってきたのは──

 

「くせ者よ!皆であえであえ!」

 

アクアが入ってきた。

ん?何かがおかしい。

 

そう思ったところで夢が崩れ、再び暗闇に、そして意識が覚醒していく。

 

「皆この屋敷にくせものよ!」

 

私は自室のベットで起き上がる。

これは夢ではなさそうだ。

アクアの声で目覚めてしまったらしい。

ただ、先程見ていた夢は本当に夢だったのか。

夢というにはリアルで、現実味があり、精巧だった。

 

ただ、部屋やそこにある物、そして服など、全てがこのアクセルのものとはかけ離れていた。

あれがアクアの言う、ニホンというところなのか…。

 

そこまで考えていると、窓の割れる音がした。

そう言えばくせ者がなんだとか言っていたな。

みんなの事だから特に心配もないだろうと思いつつ、廊下に出る。

 

そこでみたのは、ボロボロになったカズマと、外に向けて塩を撒くアクアの姿だった。

 

 

 

□□□□□□□

 

 

 

私は今アクセルの街を出て、草原を歩いていた。

現在の季節はまだ冬だが、春も近づいており、少し肌寒いといった気温だ。

 

昨日の騒ぎは、どうやらサキュバスが忍び込んで、カズマの精気を吸おうとしていたらしい。

ただ当のカズマがサキュバスに操られ、サキュバスを庇おうとしたので、皆にフルボッコにされたそうだ。

あの時聞いた窓の割れる音は、サキュバスが逃げ出した時の音だったらしい。

 

私は寝起きだったこともあり、それを聞いてまた直ぐに寝たのだったが、あの夢の続きは見れなかった。

ただ、あの夢を見てから何か思い出せそうで、1人になるために早朝からアクセルの街をでて、草原を歩いていたのだ。

 

1人でいる時にモンスターに襲われたくなかったので、比較的にモンスターの少ない、穀倉地帯を目指して歩いていた。

 

あの時見た泣いていた女性は、声をかけてくれた女の子は一体誰だったのだろうか。

 

昨日見た夢のことを思い出していると、前から大荷物を抱えた男性が慌てた様子で走ってきた。

モンスターにでも襲われたのだろうか?

 

「どうかしたのですか?」

 

そう聞く私に目もくれず、すれ違いざまに男は私に告げた。

 

「あんたも早く逃げた方がいい!デストロイヤーがくるぞー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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アクセルの危機

「あんたも早く逃げた方がいい!デストロイヤーがくるぞ!」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

私の言葉はその男性には届かず、そう言い残した彼は、そのまま走り去ってしまった。

先程の男性の焦りようは尋常なものではなかった。

 

デストロイヤー。

以前、依頼の中に進路調査クエストがあり、そこで初めて名前を聞いた。

つい昨日もアクアが指芸で、デストロイヤーの真似をしてくれた。

 

結局どのようなものか知らないが、よく聞くそのデストロイヤーと言うやつが近づいているらしい。

名前的に確かに物騒だが、そんなに慌てて逃げるようなものなのか。

以前めぐみんが、子供たちに妙に人気があると言ってた気がするのだが…。

 

男性が走り去ったあと、そこには私だけが取り残されていた。

自然の音だけがその場に響いている。

その音に耳を傾けると、様々な動物が鳴く声が聞こえる。

空にはたくさんの鳥が羽ばたいている。

 

人だけではなく、動物たちも逃げ出しているようだ。

それ程までに危険なものなのだろう。

モンスターが少ない所とは言え、モンスターに全く遭遇しないのも、人や動物だけではなく、モンスターも逃げ出しているのかもしれない。

 

私も冒険者の端くれ。

危険度を理解したからと言って、そのまま逃げる訳にはいかない。

更にこの先は穀倉地帯である。

先程の男性のように、既に皆逃げ出しているとは思うが、何も知らずに、取り残されている人がいる可能性もある。

私はそう思うと、男性が逃げてきた方に進むことを決めた。

 

1人になって昨日の夢について考えるために、わざわざ早朝から出かけたのだが、この分だと考えるのはデストロイヤーをどうにかしてからになりそうだ。

 

 

 

 

□□□□□□□

 

 

 

 

しばらく進むとそこには、一面の穀倉地帯が広がっていた。

私はその広さにも驚いていたが、別の要素でも驚いていた。

それは、1人どころかまだたくさんの人がそこに残っていたのだ。

荷車を引く者、穀物を収穫しようとする者、農耕具を荷車に積み込む者。

各々が作業をしている。

まさか危険が迫ってることを知らないのではないか…。

 

だが私はそんな人達の姿を見て気づくことがあった。

それは皆が皆、とても慌ただしい様子だったのだ。

彼らは危険が迫っていることを知っている。

知ってて尚、作業をしているのだ。

まるでここには何も残らないと考えているように…。

 

私はしばらくどうしたものかと考えていると、荷車を引いたおじさんが近くを通りかかった。

私はそのおじさんに声をかける。

 

「あのー、デストロイヤーが来るって聞いたんですけど、皆さん早く逃げなくて大丈夫なんですか?」

 

「あん?何言ってんだ。大丈夫じゃないに決まってんだろ。それでも少しでも多くのものを持ち出すために皆躍起になってんじゃねーか」

 

やはり皆、危険を承知で作業をしていたらしい。

だがなぜそこまで危険を冒すのか。

デストロイヤーが危険なのであれば、ここに留まらず、早く逃げた方がいい。

穀倉地帯も多少荒らされることになるかもしれないが、それは仕方がないことだ。

危険が去った後に、立て直すなりするのではだめなのだろうか。

 

「デストロイヤーが過ぎ去ってから戻ってくるのでは、だめなのですか?」

 

「あれが過ぎた後に戻ってきても、もうここは更地になって何も残ってないさ。デストロイヤーが過ぎたあとは草すら残らないってよく言う話じゃねぇか」

 

な!?

こんな広い穀倉地帯が更地に!?

デストロイヤーとは、そんな危険なものなのか。

私は驚きを隠せなかった。

 

「デストロイヤーって一体なんなのですか…?」

 

「あんたその身なり、冒険者だろ?そんなことも知らないのか?デストロイヤーって言うのはな───」

 

開いた口が塞がらない。

そのおじさんに聞いた私はまさにそんな状態だった。

デストロイヤー。

正式名称、機動要塞デストロイヤー。

古代魔導王国によって生み出された、歩く要塞。

デストロイヤーが過ぎ去ったあとは草も残らないという、まさに歩く災害。

そんなものがここに迫っているらしい。

皆が慌てて、荷造りをする訳だ。

 

「私にも何か手伝えることはありませんか!?」

 

「そんな線の細い女にはできることはねぇぞ」

 

「私これでも筋トレしているので!」

 

私はそういいつつ力こぶをみせつけた。

それはあまり力持ちには見えないが、冒険者カードのステータスでは筋力はかなり上がっているので、そこらの一般人よりかは力はあるはずだ。

私の自信満々の様子を見て、諦めたかのようにいくつか手伝いをさせてくれた。

 

こんな所でダクネスから教えてもらった筋トレの成果を発揮できるとは思っていなかった。

帰ったらダクネスにお礼と、なにかプレゼント…そうだ可愛い服でも贈ってあげよう。

そんなことを考えつつ、私は皆に混ざり、収穫した穀物を運んだり、農耕具を運んだりと作業を行う。

 

冒険者である私が加わることでいくらか作業が捗ったように思える。

だが、それでも尚作業に終わりは見えない。

そうこれだけ頑張っても穀倉地帯はあまりにも広い。

普段であれば数日かけて収穫作業を行うであろう広さをたった数時間で終われるわけがないのだ。

それに加え、農耕具や備蓄分も運ぶとなるとまだまだなのだ。

 

「冒険者のねーちゃん!こっちの荷物も頼むわ!」

 

私は呼ばれた方に行き、荷物を運ぶ手伝いをする。

作業量を嘆いている場合ではない。

少しでも多くのものを持ち運べるように私は手伝いに徹するのだ。

そう決心した時だった、その声が響いたのは。

 

「デストロイヤーが来たぞー!」

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

俺達は今ギルドに集まっていた。

見知った顔もたくさんいるが、誰もが暗い表情をしている。

 

その原因はデストロイヤー。

通ったあとは、草も残らないと言われているデストロイヤーがこの街に向かっているそうだ。

 

屋敷でデストロイヤー警報を聞いた俺は、逃げる準備を進めるアクアを引きずりながら、ギルドに来たのであった。

本当はこんなに危険なことはしたくないのだが、やっとの思いで手に入れた屋敷を更地に変えられては困るのだ!

……そう息巻いて来たはずだったのだが、その時の俺を殴ってやりたい。

 

ギルドに来て、デストロイヤーの説明を受けた俺の第一感想は、

「無理ゲー」だった。

 

対抗策なし。

 

魔法を撃てば、魔法障壁に阻まれる。

物理的干渉、例えば落とし穴等も効果なし。

 

「デストロイヤーは現在、街の北西の方角から接近しています。およそ1時間程でこの街に到達するかと…」

 

デストロイヤーを魔道具で監視している、ギルド職員からの言葉を受け皆の顔が更に暗くなる。

 

「こんな時だと言うのに、マイさんは一体どこに行ったのでしょうか…」

 

そう言葉を漏らすのはめぐみんだ。

そう唯一俺たちの仲間でマイだけが、ここに来ていない。

 

「早朝出かけた姿を見かけたのだが、街の外まで行ってしまってるのだろうか?」

 

「きっとデストロイヤー警報を聞いて、街から逃げたのよ!私達も一緒に逃げましょ!今からならまだ間に合うわ!」

 

俺はそう言ってギルドから出ようとするアクアの首根っこを捕まえた。

 

「お前はいつまでも逃げることばっか考えずに、何か対抗策を考えろよ」

 

俺のその言葉を聞いたアクアは「そんなこと言ったってぇ」と、既に諦めムードだ。

もともとアクアには期待していないので、それは構わないのだが…

本当にマイは一体どこに行ったのか。

 

ただ今はマイのことよりも、デストロイヤーだ。

何か策はないかと、頭を巡らせていると、

 

「えぇぇ!?」

 

デストロイヤーを監視していた職員の人が驚きの声を上げた。

その声はギルド中に響いており、冒険者達は何事かとざわめくき、そのギルド職員に視線を向けた。

その視線に気づいた職員の人は、おもむろに説明し始めた。

 

「その、デストロイヤーを監視していたのですが……、誰かが爆裂魔法でデストロイヤーを攻撃したみたいで…」

 

爆裂魔法!?

その言葉を聞いた冒険者達は口々に爆裂魔法と呟く。

そして視線をある人物へむける。

 

「わ、私は何もしてませんよ!?」

 

視線を向けられためぐみんは、何もしていないと訴える。

確かにめぐみんは何もしていない。

そうなるとこの街で爆裂魔法を使えるのは……、リッチーであるウィズか?

そう考えついたのとほぼ同時にその声は聞こえた。

 

「遅れてすみません、ウィズ魔道具店店主のウィズです。冒険者の資格を持っているので一応来たのですが…」

 

ビンボウテンシュサンガキタゾ!

ビンボウテンシュサンガキタ!

カテル!!

 

何やら可哀想な言われようだが、ここにウィズがいるということは、ウィズでもないのか。

となると……

 

「恐らく先程の爆裂魔法はマイによるものだな」

 

俺と同じ考えに至ったダクネスがそう呟く。

何故そこにいるのかは分からないが、この街で爆裂魔法なんてものを使えるのは、あとはマイだけだ。

 

「さっきの爆裂魔法はデストロイヤーに効いたのか!?」

 

そんな質問を誰かがする。

それを聞いたギルド職員の顔は暗い。

 

「いえ、やはり魔法障壁に阻まれて、デストロイヤーには全く…」

 

ウィズが来て明るくなった雰囲気が、また暗くなる。

 

「それで、その爆裂魔法を放った冒険者は無事に逃げれたのか?」

 

マイの安否を気にしたダクネスが質問する。

 

「その……、爆裂魔法が放たれた直後魔道具が壊されまして……、確かには確認は出来てはいないのですが、一瞬その冒険者の方を担いで逃げる人が見えたのでおそらく、無事だと思われます…」

 

とりあえずは一安心だろうか。

ただ、爆裂魔法でさえも効かないという事実を突きつけられることになり、やはり空気は重い。

 

倒すには、魔法障壁が一番問題か…。

魔法障壁、言わば結界みたいなもの……

結界か、そう言えば以前話した覚えがある。

そうあれは…、ウィズが魔王軍幹部だと明かした時。

その時に──

 

「アクア!お前の魔法でデストロイヤーの結界破れないのか?」

 

「うーん、いけるかもしれないけど…」

 

「破れるんですか!?」

 

俺達の話を聞いていた、受付のお姉さんが話に割って入る。

 

「いけるかもしれないってだけで……!」

 

アクアは確約こそしなかったが、一番の問題が解決出来そうということもあり、空気が明るくなる。

結界を破ることができるなら───

 

「その後はめぐみんと、それにウィズ、頼めるか?」

 

こうしてデストロイヤー撃破に向けて俺達は動き始めた。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

私は今、最初に話しかけたおじさんに担がれていた。

担がれながら、顔を上げるとそこではデストロイヤーが穀倉地帯を蹂躙していた。

作物は容赦なく踏まれ、潰され、更地へと変わっていく。

 

私一人の力では全く歯が立たなかった。

とても無力だった。

 

デストロイヤーが来たという報せを受けた私は、皆が作業を放棄して逃げ出す中、1人作業を続けていた。

私1人が足掻いたところで、どうともならないことは理解していた。

でも諦めることが出来なかった。

 

「おい!あんたも逃げろ!あんたは十分俺達を助けてくれた。これ以上は危険だ!」

 

おじさんの制止を無視してまで作業を続けた。

何故そこまでしたのか自分でも分からない。

昨日まで何の関わりもなかった場所に、人達。

ここに来なければ、被害があったことに対しても、悲惨なことだと思うぐらいにとどまっただろう。

 

だが、私は知ってしまった。

ここの場所とここを大切にしている人達。

危険を冒してまで、作業を行っていた人達。

私はそれが一方的に失われるのが嫌だった。

 

そんなことを考えているうちにも、デストロイヤーは近づいてきて、地震のような地鳴りはだんだん大きくなる。

最初は遠くで動いている何かぐらいにしか認識できなかったのも、今となってはその形を認識できる。

8本の脚を持ったクモ型の要塞だ。

 

あいつを倒せれば…、いや倒さずとも進路を変えるだけでも出来ればこの場所は守れる。

私にそんなことが出来るだろうか。

私が出来ることと言えば───

 

そこで私はあることを思いついた。

あれならば、あのデストロイヤーでさえ、あるいは…。

 

そこからの私の行動は早かった。

近くに置いてあった、念の為に持ってきた杖をとり、デストロイヤーに向かって走る。

走りながら詠唱を始めた。

 

後ろからおじさんの止める声が聞こえるが、構わず走る。

久々の詠唱だと言うのに、以前行っていためぐみんとの特訓のおかげか、スラスラと唱えられた。

 

私が使おうとしているのは、人類最大の攻撃魔法である爆裂魔法。

めぐみん程ではないものの、この魔法であればあのデストロイヤーであっても、どうにか出来るかもしれない。

 

詠唱を終え、立ち止まるとデストロイヤーは既に射程に入っていた。

私は少し息を整え、持っていた杖をデストロイヤーに向けて構える。

精一杯魔力を込め、完成させた魔法。

これが今私が出来る唯一のことだ!

 

 

 

「エクスプロージョン!!!」

 

 

 

轟音が響き、爆炎があがる。

私の放った爆裂魔法は、デストロイヤーに直撃……しなかった。

いや、外した訳ではなく、当たる直前、何か……結界のようなものに阻まれてしまったのだ。

 

絶望。

これがデストロイヤーか。

爆裂魔法を受けたデストロイヤーは、止まるどころかさらに勢いを増し、こちらに向かってくる。

このままここにいるとデストロイヤーに潰されてしまうが、私の渾身の魔法が全く効かなかったことがショックで私は動けずにいた。

 

そんな私の体が浮いた。

否、担がれた。

 

こうして今に至る。

 

「あんたはよくやったよ。あんな魔法が使えるだなんてな!」

 

私を担ぎながら、何も出来なかった私を励ましてくれている。

皆と一緒に逃げずに私の様子を伺ってくれていたようだ。

 

「すみません、私じゃあいつを…」

 

「いいってことさ。もとよりデストロイヤーが来た時点でこうなる運命だったのさ」

 

気丈に振舞っているが、やはりおじさんも悔しいのか、どこか声色が暗く感じる。

しばらく移動したところで、私は降ろされた。

その時には既にデストロイヤーは遠くに見える程になり、穀倉地帯はほとんどが更地と化していた。

 

「更地になっちゃいましたね」

 

「あぁ、また1からだ」

 

会話が続かない。

否、会話するほどの気力も残っていなかった。

 

「そういや、あんた名前はなんて言うんだ?」

 

「私はタナカマイ、アクセルで冒険者をしています」

 

「ははっ、まだまだ駆け出しじゃねーか。………今アクセルって言ったか?」

 

おじさんの様子が変わった。

 

「あんた早く戻った方がいい!やつが向かった先はまさにそのアクセルだ!」

 

な!?

私は驚きのあまり声も出なかった。

あんな恐ろしいものがアクセルに向かっている!

アクセルが、アクセルにいるカズマ達が危ない!

 

私はいてもたってもいられなくなり、おじさんに別れを告げると一目散にアクセルへの道を急いだ。

走って到底追いつけるものでは無いが、ただ走る。

確かにデストロイヤーが残した爪痕はアクセルへと、真っ直ぐ向かっていた。

私の焦燥感は高まるばかりだが、走ってアクセルに向かうことしか出来なかった……。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

どれくらい走り続けただろうか。

とっくに体力の限界はきていたが、それでも走り続け、ようやくアクセルの街が見えてきた。

 

更地になっていなかったことに対する安心感があったのも束の間、私の目はデストロイヤーの姿も捉えた。

胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

 

だが直ぐに異変に気づいた。

デストロイヤーが動いていない……、というか脚が破壊され、胴の部分が地面に突っ伏している!

 

まさかあのデストロイヤーを倒してしまうとは。

一体どうやったのか。

ただそれよりも、アクセルが守られたことに対する喜びで、今までの疲れが吹っ飛んだかのように身体が軽くなった。

とりあえず早く皆に会いたい。

 

私は最後の気力を振り絞り、アクセルに向けて走る。

倒されたデストロイヤーの近くまで来たところで、門の辺りに人がいるのが見えた。

恐らくデストロイヤーを倒した冒険者達だろう。

あそこにカズマ達もいるはずだ。

横目に見えたデストロイヤーが、少し赤くなっている気もしたが、構わずその冒険者達を目指して走った。

 

もう少し走ったところで、その冒険者達の先頭にいるのが、カズマとめぐみんだと気づく。

カズマがこっちに手を振っている。

皆無事だったことが嬉しくて、私も走りながら手を振り返した。

 

刹那。

身体が浮く感覚。

否、吹き飛ばされ、全身に痛みが襲う。

そしてすぐに私の意識は暗闇に落ちた。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

「ドレインタッチ!」

 

そう言うと、俺の左手からアクアの魔力が吸われ、俺の身体を通り、右手からめぐみんに魔力が注ぎ込まれる。

 

「あんまり吸いすぎないでよね?」

 

少し不安そうなアクアだが、めぐみんが、「もうちょい、もうちょいいけます」と言うのでまだ止めるわけにはいかない。

……これ魔力送りすぎたから爆発とかしないだろうな?

 

俺達はデストロイヤー戦の最終局面にいた。

作戦通り、デストロイヤーの進撃を止め、その後爆発しそうなコロナタイトをランダムテレポートで、どこかへおいやった。

世界は広いし、人のいない場所で人知れず爆発したことだろう。

ただ、これで終わりではなく、最後にデストロイヤーに籠った熱が爆発しそうだとかなんだとか。

 

そこで既に爆裂魔法を放っためぐみんに、アクアの魔力を送り、再度めぐみんに爆裂魔法を撃ってもらうことで、デストロイヤーの爆発を相殺させようという作戦だ。

 

魔力の注入も終わり、めぐみんが杖を構える。

デストロイヤーともこれでお別れだ。

 

そう思い、デストロイヤーに視線を向ける。

デストロイヤーは既に真っ赤になり、今にも爆発しそうだ。

ふと、デストロイヤーの傍に人かげのようなものが見えた。

それはだんだんとこちらに近づいており、すぐに走っている人……マイだと気づいた。

 

そんな所にいたら、爆発に巻き込まれてしまう!

俺はジェスチャーでそこから離れるように伝える。

だがそれを見たマイは、呑気にも手を振っていた。

 

まずい!

 

「めぐみんちょっ「エクスプロージョン!!!」」

 

俺の制止虚しく、マイに気づいてなかっためぐみんはデストロイヤーに向けて爆裂魔法を放った。

その爆裂魔法のおかげで、デストロイヤーは破壊され、爆発の危険は無くなったのだが……、俺の目には吹き飛ばされたマイがハッキリと見えていた。

あれはやばそうだ。

 

「おいアクア!ついてこい!」

 

「えぇ、私疲れたんですけどー。というか早く打ち上げを──」

 

俺はグダグダ言うアクアを引っ張って、マイが飛ばされたであろうところへ向かって走ったのであった。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

「マイー、王都から騎士が来てるらしいわよ!」

 

「デストロイヤーの討伐報酬かな?」

 

「きっとそうに違いないわ!私達もギルドにいきましょう!玄関で待ってるからー」

 

そう言い残すとアクアは部屋から出ていった。

私は座っていた椅子から立ち上がると、少しストレッチをして背筋を伸ばし、出かける準備を始めた。

 

少し爆発の時に打った背中が痛い気もするので、自分で回復魔法でもかけておくか。

そう、私はデストロイヤーの爆発に巻き込まれた。

だがこうして生きている。

というのも、爆発に巻き込まれたところを見ていたカズマが、急いでアクアを連れて私の元に来てくれたので、瀕死の重傷を負いつつも、一命を取り留めたのであった。

カズマとアクアには感謝しかない。

 

先日アクアには、お酒を奢ってあげたので、今度はカズマにも何かお礼をしなくては。

そう思いつつ、準備を終え、部屋から出ると、丁度カズマも部屋から出てきたようだ。

 

「マイさん、身体の方はもう大丈夫そうなのか?」

 

「少し背中が痛む気がするけど、概ね大丈夫だよ」

 

「それならよかったが、ほんと爆発に巻き込まれたのを見た時は肝を冷やしたぜ」

 

「ははは、その節はどうも。また今度お礼として何かあげるよ」

 

そんな話をしつつ、玄関に向かうと、既にアクアだけじゃなく、めぐみんとダクネスも待っていた。

 

「それじゃギルドにレッッゴー!」

 

意気揚々とギルドに向かった私達であったが、ギルドに着くとすぐに私達はデストロイヤーの討伐報酬などではなく、勘違いしていたことを気付かされたのであった……。

 

 

 




これにて、アニメ1期分、第一章の終わりです。
今日は投稿を始めて丁度1ヶ月と言うことで何かと区切りがいいかと。

駄作ではありますが、感想、お気に入り、評価などなど、よろしくお願いします!(切実)


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第二章
無罪の冒険者


第2章開幕です。
第2章からは、アニメ、原作から独自路線が増える見込みであります。






「……帰りたい。もう日本に帰りたい……」

 

冬の終わり、だがまだ雪の降る寒い夜、そんな俺の言葉が牢屋に虚しく響く。

どうして俺はこんなとこにいるのだろう。

せっかく屋敷を手に入れたと思ったら、デストロイヤーがやって来て。

屋敷を守るために頑張ったと思ったら、牢屋にぶち込まれて。

どこで間違えたのか考えつつ、俺は牢屋の隅で縮こまっていた。

 

 

国家転覆罪

 

 

それが俺にかけられた容疑だ。

なんでもランダムテレポートで飛ばしたコロナタイトが、アルダープという領主の屋敷を吹き飛ばしたらしい。

俺の幸運値は一体どこに行ったのか。

死人が出なかったという所は不幸中の幸いではあるが…。

と言ってもそんなものは悪運だ。

きっと何かが俺の幸運を……そうだ!アクアに違いない!アクアがあの場にいたから俺の幸運は相殺されてしまったんだ。

そうに違いない……、そういうことにしておこう。

 

それにしてもアクア達もギルドの連中も冷たすぎる!

最初こそ、俺を庇ってくれていたが、国家転覆罪は主犯以外にも適応されると聞いた途端、手のひらを返したように、俺を裏切りやがって。

でも1番酷かったのは、マイだ。

ギルドに入って、剣呑な雰囲気を感じ取った瞬間、我関せずといった様子で、俺達のパーティーから1歩身を引いていたのを俺は見逃さなかった。

更に国家転覆罪と聞いた時には、潜伏スキルを使っていたかのように存在感を消して、最初から庇いすらしてくれなかった。

………してくれなかったのだが。

 

「なんでマイさんも牢屋に入ってるんだ?」

 

「はは、どうしてかな?ちょっと領主が宿泊している宿の近くで、爆裂魔法を続けて2発撃ち込んだだけなのにどうしてかな?」

 

「あんたそれ、まじもんのテロだから!俺よりよっぽど国家転覆しようとしてるから!というか、爆裂魔法を2発だなんてほんとチートだよな」

 

「威力をすごく抑えたからね。それでもフラフラになっちゃって、呆気なく下手人として取り押さえられちゃった」

 

マイは俺とは対面の位置で、膝を抱えながら嘲笑じみた表情で話す。

 

「俺のためにそこまで抗議してくれるなら、ギルドで庇ってくれたってよかったのに」

 

「え?違うよ?」

 

「違うの!?」

 

俺はてっきり、俺の不当逮捕に対する抗議で、そのような愚行を行ったとばかり思っていたので、マイの返事には面をくらってしまった。

 

「じゃあどうしてそんなことをしたんだよ」

 

「あーそうか、カズマは捕まった後だったから聞いてなかったのか。どうしてこんなことをしたかと言うとね、そうそれはカズマが捕まった後のことだよ───」

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

「確保ーーー!!!」

 

カズマが逃げ出し、ギルドの扉から出ていったと同時に、検察官のセナが命令を下す。

すると、両脇に控えていた騎士が勢いよく走り出した。

重そうな鎧を着てどうしてそんなに速く動けるのか聞きたいほど、それはもう速かった。

そんな騎士から逃げれるはずもなく、カズマはギルドを出て、数メートルのところで、呆気なく取り押さえられていた。

 

「カズマ、あなたのことは一生忘れません」

 

「お務めを終えたら、温かく迎えに行ってあげましょ」

 

「おい、そんな冷たいことを言ってやるな。これは明らかな不当逮捕だ。何か私にしてやれることがあればいいのだが」

 

死んだ人に祈りを捧げるかのようなポーズをとるめぐみんに、『お酒を飲みましょ!』といつも通り空気の読めていないアクア。

ただ1人ダクネスだけが、カズマを案じているようだ。

 

周りの冒険者はというと、カズマを裏切ったことを悔いている………様子もなく、既にアクアにつられて酒を飲み始めている者もいた。

次第に剣呑だったギルドの雰囲気も解れていく。

そろそろ私もみんなの輪に入るかと思った時、あることに気づいた。

カズマを捕まえ、目的を果たしたはずのセナがまだそこにおり、辺りを鋭い眼光で見渡している。

何も悪いことをした記憶がないのに、何か嫌な予感がする。

 

「タナカマイ、タナカマイはいるかー!?」

 

セナの声がギルドに響き、解れていた空気が再び張り詰める。

私の嫌な予感は当たってしまったようだ。

何とか他人のフリをしてこの場をやり過ごせないだろうか。

 

「今度はマイに何か用があるわけ?」

 

皆の動きが止まっている中、アクアだけが果敢にもセナに食いかかる。

私を守るために……という訳ではなく、酒の邪魔をされたからといったところか。

 

「そうだ。タナカマイはどこにいる?」

 

「あんたカズマさんに続いて、マイまで捕まえる気?そう簡単にうちのマイは渡さないわよ!」

 

アクア!

私は不覚にもアクアに感動してしまった。

ただ、片手にジョッキを持っていなかったら、もっとかっこよかっただろう。

 

だが、そんな感動も直ぐに裏切られてしまう。

 

「マイ!あなたのことはこの私が守ってあげるからね!」

 

アクアはそんなことを言いながら、私めがけてサムズアップしていた。

直ぐにセナの鋭い眼光が私に向けられる。

私は苦し紛れに、さらに私の後ろを振り向いてみたが、そこは壁だった。

 

私が前に視線を戻せずにいると、両肩に手を置かれた。

そっと振り向くと、顔はそっぽを向いていたが、めぐみんとダクネスだった。

こいつら、まだ誤魔化せたかもしれないのに、トドメを刺したな!

 

「貴様がタナカマイだな」

 

「……は、はい」

 

言い逃れられるわけもなく、私はそう返事する他なかった。

 

『あれ?どうしてばれちゃったの?』といいつつ、周りをキョロキョロとしているアクアには、今度部屋に隠してあるお酒の中身を安物にすり替えるとしよう。

 

といっても、カズマみたいに捕まえられてしまってはそれも叶わないが。

さて、どうして私が検察官に探されなければならないのだろうか。

身に覚えが無さすぎて、逆に怖い。

 

「私が一体何をしたのでしょうか……?」

 

「貴様には今、20億の賠償請求がなされている」

 

「に、20億!?」

 

「ま、マイさん!あなた一体何をしたのですか!?20億ですよ!20億!」

 

私は隣にいためぐみんに、胸ぐらを掴まれて揺さぶられていた。

ただ、20億という途方もない金額に対する衝撃で、思考回路が停止している私には、揺さぶられていることしか出来なかった。

 

「検察官殿、20億というのは、さすがに何かの間違いではないのか?そもそもマイが一体何をしでかしたというのだ」

 

思考回路停止している私に代わって、ダクネスが言い返してくれた。

そう何度も言っているが、何も身に覚えがないのだ。

 

「20億という数字に間違いはない。タナカマイ、貴様は先日、デストロイヤーがこの街に襲来した際、穀倉地帯にいた、それに間違いはないな?」

 

穀倉地帯。

偶然とはいえ、デストロイヤーが来た際、そこに居たのは間違いではない。

今でも穀倉地帯を守れなかったことは悔やまれるが、それが一体何だと言うのだろうか。

 

「はい、間違いはありません」

 

「貴様はその際、デストロイヤーめがけて爆裂魔法を放った。間違いないな?」

 

「は、はい……」

 

それが一体何だと言うのか。

周りの人も検察官が言わんとしてる事が分かっていない様子だ。

 

「貴様は現在、デストロイヤーに対して、不用意に攻撃を行い、穀倉地帯の被害拡大の原因として、穀倉地帯に携わっていた者達から訴えられている」

 

そんな馬鹿な。

こんな馬鹿な話があっていいのだろうか。

私はただ、あの場所を守りたくて、ただそれだけだったというのに。

 

だが、その後なんと抗議しても受け入れてもらえることはなく、私は絶望のあまり、膝から崩れ落ちたのであった。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

「───っていうことがあったんだよ」

 

「……ど、どんまい」

 

俺はマイの話を聞き、返せた言葉はその一言だった。

俺も大概、事件やトラブルに巻き込まれやすいが、マイも大変だな。

あれ?でも待てよ。

 

「どうして、20億の賠償請求で領主への嫌がらせに繋がるんだ?」

 

「あー、それはね。ダクネスが教えてくれたんだよ。普通こういった領地の問題は領主が責任を負うはずだって」

 

「………それだけ聞いて領主に脅迫まがいな嫌がらせをしたのか?」

 

「………最初はどうして私に賠償請求がされるのか聞こうと思っただけだったんだよ?でも、取り次いで貰えず、会うことも出来なかったから……」

 

「からなんだよ!それだけで爆裂魔法を撃ったのか!?あんたはアイツらと違って、1人でいれば何も問題を起こさなかったのに、とうとうそこまで毒されたのか!」

 

マイは反省しているのか、特に何も言い返さず、顔を膝に埋めていた。

前々から影響を受けていたが、めぐみんの短気さが移ってしまったようだ。

借金に加え、さらなる問題児を抱えるというお先真っ暗な展開に頭を抱える。

そもそも国家転覆罪をどうにかしないといけないのだが…。

 

その時だった。

地面が震え、爆音が響く。

真夜中だったということもあり、署員も慌てふためいてる様子が聞こえてくる。

 

「カズマ…、カズマ…こっちよこっち」

 

そんな署員が慌てる音に紛れて、俺を呼ぶ声が聞こえる。

どうやらそれは、唯一ある窓から聞こえてくるようだ。

少し高い位置にあるその窓に目を向けると、

 

「アクアじゃないか」

 

「カズマ逃げるわよ!今めぐみんが爆裂魔法を撃ってくれたおかげで、署員は慌ててそっちに向かったわ」

 

そう言うとアクアは何かをこちらに向けて投げ入れる。

それを拾い上げると、それは1本の針金で…

 

「それで牢屋の鍵を開けて、カズマのスキルを使ってそこから逃げ出すの。それからは屋敷に向かって、急いで夜逃げの準備よ」

 

これでピッキングをしろと?

そんなこと簡単にできるのかと思いもしたが、それよりも気になることがある。

 

「逃げたりしたらそれこそ立場がまずくならないか?」

 

そう俺はまだ疑いの段階である。

だが、逃げでもしたら罪を認めるようなものだ。

 

「あんた国家転覆罪ってのは、最悪死刑らしいわよ?」

 

「……まじかよ」

 

さすがに無罪の罪で殺されたら、たまったものじゃない。

 

「それにカズマは知らないだろうけど、マイも大変なことになってるのよ。詳しくは後で話すけど、そのマイが昼間からどこかに行っちゃったのよ。あの娘どんくさい所もあるから、心配なのよね」

 

アクアにどんくさいと言われるなんて、俺なら耐えれないが、俺の正面にいるマイは、現にこうして捕まっているので、何も言えないのだろう。

 

「……マイさんならここにいるぞ」

 

俺の言葉に少し えっ? と驚いたアクアは、牢屋を覗き込み、牢屋の月明かりの当たらない、暗がりにいたマイを見つけた。

 

「ほんとマイじゃない。どこに行ったと思ったらこんな所にいたのね。でも流石ね。私達の作戦を見越して牢屋に先回りして中から手引きしてくれるのね!」

 

全く見当違いなことを言うアクアに対して、本当のことは恥ずかしく言えないのか、マイはそれを正すことなく、力なく片手をアクアに振り返しただけだった。

 

「じゃあ私は正面で待ってるから、逃げ出したら私のところまで来てね」

 

そう言うとアクアが立ち去る足音が聞こえる。

俺は先程アクアに貰った針金を手に、牢屋の入口に向かおうとすると、マイが入口の方を指さしていた。

そちらに視線をむけると………

 

ダイヤル式じゃねぇか。

 

俺はアクアが、覗いていた窓からその針金を投げ捨てた。

そして、布を被り寝ることにした。

横になる前にマイの方をチラッと見たが、既に布を被って寝ていた……。

 

 

………今更だが、同じパーティとはいえ、同じ牢に男と女を入れるとか、流石にまずくないか?

そんなことを考えたら、急にドキドキして眠れなくなってしまった。

なにこれ、なんかまずい。

俺はこれ以上このことについて考えるのは、良くないと思い、そこで寝息をたてて寝ているのはアクアだと思い眠ることにした………。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

カズマの裁判当日。

カズマの手に手錠がはめられ、牢屋から出される。

 

私はというと、最初は迷惑行為ということで、すぐに出れるはずだったのだが、どうやら領主が私もカズマと同様に、魔王軍の手先に違いないと騒ぎ出したらしく、未だ拘留中だ。

 

カズマはカズマで、取り調べの際に、嘘を見抜く魔道具によって、魔王軍との関係があると判断されたらしく、といっても関係があるのはウィズなのだが、とてもピンチらしい。

 

「じゃあいってくるよ」

 

裁判に緊張して眠れなかったのか、目の下にクマを作りながらも、力なく笑い、私にそう告げる。

そして牢屋を出ようとして、

 

「カズマ!」

 

私はカズマを呼び止め、彼の元に駆け寄る。

そして、手錠がはめられた手を取り、両手で包み込み、下を向き祈るように、

 

「頑張ってね」

 

と伝える。

 

手を放し、顔を上げ、カズマの顔を見ると驚いた表情をしつつも、少し照れくさいのか、顔を少し赤らめていた。

そして一言、「お、おう」と言い、牢屋から出て、連れて行かれた。

 

そんなカズマの姿を見送った後、私はそのままその場に立ったまま、聞き耳をたてる。

とても静かだ。

ここ数日と比べて。

 

おそらくカズマの裁判に少なくない署員が駆り出さられたのであろう。

私は捕まってから考えていたことを、再び思案し、そして決意する。

 

このまま捕まって裁判にかけられるのも、20億の借金を抱えさせられるのも、真っ平御免である。

 

私は先程、カズマの手を取り祈った時に確認した、ダイヤルの番号を合わせる。

すると小さく カチッ と音がして、錠が開いた。

それを確認すると、私はよくカズマが使うスキルの1つ、「潜伏」を使う。

日中なので、あまり効果は無いかもしれないが、使わないよりマシだ。

そして錠を外し、扉を開け………

 

 

私は脱獄した。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

マイが脱獄した。

 

その報せを聞いたのは、俺の裁判が丁度終わった時だった。

危うく、領主によって強引に死刑にされそうになったところ、ダクネスが口利きをしてくれたおかげで、潔白を証明する時間をもらうことが出来、ホット一息ついた所での報せだったため、なんとも言えない雰囲気になる。

 

「マイさんが脱獄するなんて……」

 

「くっ!……どうして私達に相談してくれなかったのだ」

 

めぐみんとダクネスは、アクアからマイが俺と同じ牢屋にいることを聞いていたみたいだが、この報せには動揺を隠せないようだ。

 

でも一体どうやって脱獄したのだろうか。

窓には鉄格子がはめられ、とてもじゃないが出られない。

なので出るとしたら、牢屋の出入口からとなるが、鍵はダイヤル式で番号を見ない限りは……見ない限り……

あっ!

 

俺はふと、俺が牢屋から出る時のことを思い出した。

あの時マイは、出入口の近くにいた俺に近づき、手を取り下を向いて祈っていた。

だが、あれは祈っているフリで本来の目的は、ダイヤルの番号を確認するためだったのか!

上手いこと利用されたみたいだ。

あの時の胸のときめきを返して欲しい。

 

 

屋敷への帰り道、俺の死刑回避で本来であれば、明るいムードで帰れたのであろうが、その空気は重い。

誰もが口を閉じ、静かに歩いていたのだが、いつも通り空気を読めないアクアが呟いた。

 

「マイがこのままいなくなっちゃったら、マイの借金はどうなるのかしら?」

 

……………俺達はさらに空気が重くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 



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仮面の悪魔

マイが牢屋を脱走してから数日。

どうやらマイは、上手く逃げているらしく、その足取りは一向に掴めていないそうだ。

俺はてっきり直ぐに捕まるとばかり思っていたので、少し驚いている。

 

……驚きつつも、日が経つにつれて、先日アクアが呟いた、『このままマイがいなくなると、マイの借金はどうなるのかしら』という言葉が、頭の中で反芻する。

ただでさえ多額の借金を背負っているのに、これ以上は無理だ。

このままだと、見てくれは良い3人のうちの誰かを身売りに……等という考えが頭をよぎるが、そんなことをするほど、俺、佐藤和真は冷徹な人間ではない。

………冷徹な人間ではないが、念の為に頭の隅っこには置いておこう。

 

兎も角、マイが未だ逃げていることを安心しているような、不安なような気持ちな俺達だが、こんな俺達にもここ数日色んなことがあった。

 

例えばめぐみんが使い魔と称してペットを屋敷に連れてきたり。

ちょむすけ、というなんとも可哀想な名前をつけられた漆黒の毛皮を持つその猫は……、背中に羽が生えてたり、口から炎を出すが、とても人懐っこく、俺の荒んだ心を癒してくれる。

………ただ、アクアのことはどうやら毛嫌いしているらしく、引っ掻いたりと全く懐かないのだが。

おそらくちょむすけは、心の綺麗な人が分かるのだろう。

 

他には、めぐみんの自称ライバルであるゆんゆんにピンチを救われたり。

ゆんゆんは、めぐみんと同級生とは思えない程のスタイルの持ち主で、更には上級魔法を操る、本物の紅魔族だ。

うちのなんちゃって紅魔族も、ゆんゆんのことを見習って欲し………い……、なんだか悪寒がするので、これ以上言うのは辞めておこう。

 

そういえば、なんちゃっ………めぐみんとは、ゆんゆんと会った日に、一緒にお風呂に入ったりもしたっけか。

今更ながらもう少し見ておくべきだったと後悔している。

………断っておくが、俺は断じてロリコンなどでは無い。

ロリコンではないが、男なら当然の感情である。

そういえば、あの時タオルの隙間から見えた模様みたいなのは一体……。

まぁその後、アクアに一緒風呂に入っていたことがバレて、しばらくロリニートと呼ばれたことは、忘れよう……。

 

つい先日は、ダクネスのお見合い騒動があった。

というのも裁判の時、俺を助けるために、領主のおっさんに対してダクネスが『なんでも言うことを1つ聞く』と提示したのだが、それに対して領主のおっさんが提案したのが、領主の息子、バルターとのお見合いである。

まぁこのお見合いも無事破談に………いや、惜しくも破談と言うべきか。

あのバルターってやつ、あの領主の息子とは思えない程の好青年で、ほんとに良い奴だったなぁ。

本当にダクネスを貰ってくれればよかったのに。

ダクネスとしては、全く好みではなかったようだが……。

…………あいつの性癖は、最早手遅れだろう。

 

………と、そんなことを考えているうち、だいぶ出来上がったな。

 

「ねぇカズマさん、これってひょっとしなくてもあれよね?」

 

俺の作業を隣で黙って見ていたアクアが、何か言っているが、そうあれである。

日本のことも知っているアクアは、俺が何を作っていたのか分かったのだろう。

 

「先程からずっと作業に集中していたので、何も言いませんでしたが、途中何かよからぬ事を、考えてはいなかったですか?」

 

俺の後ろからそんな言葉とともに、振り向かなくても分かる鋭い視線を感じた。

 

「……べ、別に考えてねぇーよ?」

 

俺は振り返らずにそう答える。

……別に振り返るのが怖かった訳では無い。

……訳では無い。

未だ後ろから鋭い視線を感じていると、

 

「これは一体何に使うものなのだ?」

 

本人はそのつもりはないだろうが、ダクネスの質問はまさに助け舟だった。

俺は立ち上がり答える。

 

「それは歩きながら説明するよ。みんなウィズの店に行くぞ」

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

俺達の借金は物凄い金額である。

それはもう、物凄いのだ。

どのくらい物凄いかというと、おそらく一国の国家予算並の金額にのぼっている。

もちろんそんな金額持ち合わせている訳が無いので、稼がねばならないのだが、アクセルで冒険者稼業なんかやっているだけでは、一生かかっても返せないだろう。

それはもう不死者のリッチーとかにならない限りは……。

 

もちろんそんなことはできないので、俺はかねてから画策していたことを実行に移すことにした。

そしてその手始めが、先程屋敷で作っていたのこの 「ライター」 である。

そう俺が始めようとしているのは、商売だ。

素人の俺がそんなことをして、上手くいくかは分からないが、冒険者登録する時に、冒険者になるより商人を勧められたぐらいなのだから、きっと上手くいくはずだ。

 

そして俺には成功させる自信があった。

この世界には魔法というものがある代わりに、道具はほとんど発展していない。

例えばこのライター。

この世界には『ティンダー』という火の魔法があるので、それを覚えていればとても便利なのだが、この魔法を使えない人は未だに火打ち石を使って火を起こしているそうな。

俺はそう言った発展していないところを、日本の知識を活かして道具を作り、金を稼ごうと考えたのだ。

 

ただ、店も何も持っていない俺がいきなり商売することも出来ないので、まずはこのライターをウィズの店に置いてもらうことにしたのだ。

 

そのために俺達は、いくつか作ったライターを手にウィズの店に向かっていた。

向かっているのだが……

 

「………いい加減、俺の真後ろを歩いて睨みつけるのは辞めてくれないか?」

 

俺は屋敷を出てから、ずっと俺の真後ろを歩いていためぐみんに文句を言う。

 

「私はただ、カズマの後ろを歩いているだけですよ?睨まれていると思うのは、何かカズマにやましい気持ちがあるからじゃないですか?」

 

「………悪かったって。ただ、ゆんゆんのことを思い出して、めぐみんと比べてただけだよ」

 

「………ゆんゆんと私を比べて、どうして私に対してやましい気持ちが生まれたのか聞こうじゃないか!」

 

俺は掴みかかってきためぐみんを、片手で頭を抑えつつ、宥める。

しばらくすれば落ち着くだろう。

だが俺のそんな考えとは裏腹に、めぐみんの勢いは直ぐになくなった。

その視線の先には、先程からライターをカチカチとさせてる、ダクネスの手元があった。

 

なるほど、めぐみんもライターが気になるようだ。

俺はいくつかあるライターから、1つ手に取るとそれをめぐみんに渡した。

 

めぐみんはそれを受け取り、早速カチカチとさせると、火が出る度に『おぉ』と感嘆の声をあげていた。

 

「カズマの作ったこの魔道具は、とても便利ですね。これがあれば旅がとても楽になりますよ」

 

まぁ魔道具ではないのだが。

 

「あぁ、カズマにはたまに驚かされるが、一体どうやってこんなものを思いつくのだ?それにしてもこの火はどれくらい熱いのだろうか。この火を私の肌に近づけたら……………んんっ!」

 

後半は何を言っているのか分からないが、褒められて悪い気持ちはしない。

 

「カズマさんったら、少し褒めらただけで顔がニマニマしちゃってるけど、2人にこれはカズマの国にあったものを真似ただけだって教えていいかしら?まぁでもカチカチするのは楽しそうね。私にも1つもらえるかしら?」

 

「だめだ」

 

「どうしてよー!」

 

「お前俺がこれを作ってる間、ずっとゴロゴロしてただけじゃねぇか!めぐみんやダクネスは色々と手伝ってくれたんだぞ!欲しければウィズの店に置いたやつを買うんだな!」

 

「1つぐらい別にいいじゃない!このケチ!クズ!ロリコン!」

 

「ロリコンはやめてもらおうか!?」

 

俺はライターの入った籠をダクネスに押し付けると、アクアに掴みかかる。

アクアはそれに対抗するように俺に掴みかかる。

この駄女神は今日こそは折檻してやる!

そしてアクアと掴み合いの喧嘩をしていると、ふと、アクア越しに黒髪長髪の女の人が目に入る。

一瞬マイかと思ったが、直ぐにそれは人違いだと気づいたが、その時には既にアクアへの怒りは削がれていた。

様子が変わった俺を不思議に思ったか、アクアも俺の視線の先に振り返り、俺が何を見たのか理解したらしい。

俺とアクアはお互いに矛を収める。

 

「マイさんは一体どこに行ってしまったのでしょうか……」

 

めぐみんが俺達皆が思っていることを口にする。

本当にどこに行ってしまったのか。

少しでも俺達を頼ってくれたらいいものを。

俺はそんなに気持ちとは裏腹に、

 

「そのうちひょっこり帰ってくるさ」

 

少し突き放したことを言い、俺のその言葉を最後に、ウィズの店につくまでは誰も口を開かなかった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「いらっしゃいませー」

 

お店の扉を開けると、そんな明るい声が俺達を迎えてくれた。

 

「よぉ、ウィズ」

 

俺が店に入り、店内の様子を伺うと、いつも通り他の客はいないようだ。

 

「あら、皆さん!今お茶をいれ…ます……ね?」

 

「どうかしたのか?」

 

ここは魔道具店なので、お茶は出さなくていいといつも思うのだが、今日はそんなウィズの言葉の歯切れが悪かった。

 

「いえ、今日はマイさんはご一緒じゃないのかなと思いまして…」

 

「「「あぁ……」」」

 

皆の声がハモり、少し空気が重くなる。

………いや、アクアだけは既に席に座り、お茶が出るのを待っていたが、どうやらウィズは、マイの現状を知らないらしい。

 

「マイさんは今、逃亡中の身なんだ…」

 

「えぇぇ!?」

 

ウィズはとても驚いた様子だ。

まぁ確かに急にそんなことを聞いたら、普通は驚くだろう。

 

「つい先日、お店にお越しになったばっかりなのに……一体何があったのですか?」

 

「…………なんだって!?」

 

ウィズの言葉に驚きのあまり皆の動きが止まる。

マイが捕まる前にウィズの店に行ったという話を聞いていないので、おそらく、マイがこの店に来たのは脱獄した後ということだ。

思わぬ所でマイの足取りを掴んでしまった。

そして皆の動きが止まる中、1人動く影が。

 

「とりゃぁぁ!」

 

それは今まで席に座っていたアクアだった。

アクアはウィズに掴みかかると、直ぐにマウントをとっていた……。

なんかデジャブだ。

 

「アクア様!やめてください!私消えちゃう!」

 

「おいアクアなんでいきなり掴みかかったりなんかしてるんだよ」

 

俺はどうせ下らない理由だと思いつつ、とりあえず聞いてやることにした。

 

「きっとこのリッチーが、うちのマイを悪の道に引きずりこんだのよ!そうに違いないわ!さぁ白状しなさいリッチー!」

 

それは案の定突拍子もないことだった。

そもそもまだ逃げているだけで、マイが悪の道に行ってしまった訳でもないのだが。

そんなアクアに対して、ウィズは頑張って潔白を証明していた。

 

「誤解です!私はそんなことはしていませんー!私はただ『テレポート』の魔法を教えて欲しいとのことだったので、教えただけです!」

 

「な!?『テレポート』をマイさんが覚えたのですか!?『テレポート』といえば、使えるだけで職には困らないと言う程使える人が少ない高等な魔法なのですが……」

 

「えぇ、1度教えただけで直ぐに習得されていましたよ」

 

「なるほど、どうりで足取りが掴めない訳だ。既に『テレポート』でアクセルから離れたのであろう。ウィズ、『テレポート』を教える際にどこかに連れて行ったりはしなかったか?」

 

「あぁ、はい。私が登録していた王都に一度連れていきました…」

 

「ほら!言ったじゃない!このリッチーがマイの逃亡を手助けしたのよ!」

 

「いや、逆に捕まらずに逃げれてるのはウィズのおかげということではないか?ただ、逃げて欲しくはないのだが……」

 

ダクネスの言う通りだろう。

アクアもダクネスの言い分を理解したのか、しぶしぶウィズを解放する。

ただここまで手際よく逃げるだなんて、マイはそんなに頭の回る人だっただろうか。

俺はマイの手際の良さに少し違和感を覚えつつも、ここに来た本来の目的を思い出す。

 

「そうだ、ウィズ。これこの前話していたやつなんだが。店に置いてもらってもいいか?」

 

「えぇ、もちろん!」

 

その言葉を聞き俺は、ライターの入った籠を店の一角に置かせてもらう。

これで本来の目的は達成した。

あとはこれが売れてくれるのを祈るばかりである。

 

その後俺達は、ウィズに出してもらったお茶を飲みつつ、商品を少し見て、……なかなか酷いものばかりだったが、屋敷への帰路についたのだった。

 

 

 

 

 

□□□□□□□

 

 

 

暗いし寒いし、少し薄気味悪いが、隠れ家としては申し分ないだろう。

私はとある部屋の中で、王都で買った毛布にくるまりながら、座っていた。

王都の物価の高さには驚かされたが、買って正解だった。

これがなかったかと思うと……、考えるだけで寒くなるのでこれ以上は辞めておこう。

 

───あの日、私は脱獄に成功した。

私の睨んだ通り、多くの署員が、カズマに同行したらしく、警備は手薄だった。

私はそんなざる警備を、易々と掻い潜って脱獄を果たすと、アクセルのある場所、ある人に一目散に会いに行く。

高名な魔法使いである彼女であれば、私の教えて欲しい魔法を知っているだろうと考えたのだ。

そうウィズである。

 

ウィズの店に着いた私は、はやる気持ちを抑え、いつも通りを装い、扉を開ける。

 

「あら、マイさん。いらっしゃいませ。今日はお1人なんですね」

 

「そうなの。たまには1人で来るのもいいかなって」

 

「もちろん歓迎しますよ。あ、今お茶を出しますね」

 

とても魔王軍の幹部にしてリッチーには見えないな、と思いつつ、出されたお茶を飲みながらウィズと世間話をする。

そして世間話をしながら、今ふと思ったかのように、ウィズに聞く。

 

「そういえば、ウィズって『テレポート』とかって覚えてるの?あれがあれば直ぐに移動ができて楽そうだね」

 

「もちろん覚えてますよ?なんならお教えしましょうか?」

 

「ほんとに!?」

 

さすがはウィズである。

なんだか少し騙しているようで、後ろめたいが、ここはウィズの好意に甘えておこう。

 

「えぇ、もちろん。まぁお客さんもあまり来ないので、少しの間であればお店を開けていても大丈夫だと思いますし……」

 

「………なんか買えたらいいんだけど、今あまりお金持ってなくて…」

 

いつか必ず沢山買ってあげようと心に決める。

 

「いえいえ、そんな構いませんよ!今準備してきますね」

 

その後私はウィズに、『テレポート』で王都まで連れてきてもらい、無事に私も『テレポート』を覚えた。

そして直ぐにアクセルへと帰ったのだが、ウィズがアクセルの門の外をテレポート先に登録してくれていて大変助かった。

 

というのも、王都で必要なものを揃えた後に、再びアクセルに戻ってくるつもりだったのだ。

ただその際に、アクセルでの登録先が街の中だと、用があるのはアクセルの街の外なため、門をくぐる必要があったのだ。

そして私はてっきりウィズは、お店の近くをテレポート先として登録していると思っていた。

なので、逃亡の身でありながら、門をくぐるという危険な行為を覚悟していたので、これは嬉しい誤算だった。

 

ということで私はアクセルの門の外をテレポート先に登録すると、アクセルの街に帰るウィズに別れを告げ、直ぐに王都に覚えたての『テレポート』で向かったのだった。

 

 

───逃げている途中は兎に角必死で、あまり考える余裕もなかったが、改めてこう落ち着くと、カズマ達には少し申し訳なくなる。

私が逃げたことで、何か厄介に巻き込まれてなければいいのだが……。

 

まぁ既にしてしまったことを悔やんでも仕方がない。

それに私は1人になる必要があったのだ。

捕まっていなくても、どの道姿をくらませていただろう。

 

それもこれも、あの領主、アルダープの悪事を暴くために。

私は牢屋でカズマと話していた時、1つ彼に嘘をついた。

特段隠すようなことでもなく、ただ、話す必要が無いと思っただけなのだが。

 

私はダクネスの話を聞いて、直ぐに領主が泊まっている宿に向かったと話したが、実はその前にある所に寄っていた。

 

それはデストロイヤーによって蹂躙されてしまった穀倉地帯。

私はどうしても、穀倉地帯の人が私に対して賠償請求をしたということに納得がいかず、直接話を聞くこうと考えたのだった。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

穀倉地帯………だった場所につき、辺りを見渡す。

当時は落ち着いて見渡す程余裕もなかったので、改めて見るととても悲惨なものだ。

 

以前の面影はどこにもなく、ただ荒れた大地が広がるのみ。

デストロイヤーが通った後は草も残らない、というのは本当だったらしい。

 

だが、荒野と成り果てたにも関わらず、多くの人が作業を行っている。

鍬で土を耕す人。

荒れた土地に栄養のある土を振りまいている人。

 

皆が皆、この土地の復興に取り組んでいるようだ。

私もこんな状況でなければ、手伝いたいのは山々なのだが、今はやることがある。

 

そしてしばらく辺りを見渡していると、荷車の近くで休んでいる人に目がいく。

あの人は……!

 

「おじさん!私の事覚えてますか?」

 

そう私が見つけたのは、あの時、デストロイヤーの前でただ呆然と立ち尽くしていた私を助けてくれたおじさんだった。

 

「お前さんは……あの時の冒険者の嬢ちゃんか!あぁ覚えているとも」

 

私は私の事を覚えてくれていたおじさんの横に座り、話をした。

あの後アクセルの街は守られたこと。

そして私の仲間が、街を守るのに活躍したことなど。

 

おじさんは私の話を笑いながら聞いてくれていたが、やはりどこか元気がないように見える。

おそらく日々の復興作業で疲れているのだろう。

だが、私はここに来た本来の目的を果たせねばならない。

そのために私は意を決して、おじさんに質問をする。

 

「おじさんはこの土地の人達が、私に対して賠償請求をしているのは知ってますか?その、普通は領主の人が責任を負うって聞いたのですが、どうして私なのか、もし知っていれば教えて欲しくて……」

 

私がそう質問すると、少しおじさんの雰囲気が変わったように感じた。

 

「あぁ、知っているさ。俺もその1人だからな。だが、仕方がないんだよ。最初はもちろん領主様にお願いしたさ。復興資金を恵んでくれと。だけど領主様は聞いてくれなかった。代わりにこう言ったんだ。『デストロイヤーを刺激した馬鹿な冒険者に請求するんだな』って。だからあんたに請求するしかなかったんだ」

 

おじさんはそう告げると、作業に戻ると言って荷車を引いて、行ってしまったのだった。

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

私はおじさんの話を聞いた後、ずっと何かが引っかかっていた。

そんな馬鹿な話があるのかと。

そして直ぐに、やはり何かおかしいと感じた。

そう、普通であればこんな話は通じるはずがない。

普通であれば。

 

あの領主は、何かおかしい。

これは以前ギルドのお姉さんに聞いた話なのだが、私達が最初に多額の借金を背負う原因になった、デュラハンの住み着いていた廃城の修繕費だが、あれの所有権を主張したのも、どうやらあの領主らしい。

だがギルドのお姉さんはこうも言っていた。

『確かに遡れば、最後に所有していた貴族の末裔なのですが、あまりにも昔で普通であればこんなのは認められないんですけどね……』と。

 

更にはカズマの件もある。

普通は、デュラハンを討伐し、デストロイヤーから街を守ったカズマに、魔王軍の手先などという疑いをかけるだろうか。

まぁこれに関しては屋敷を破壊されたという恨みもあるのだろうけど………。

 

それにしてもあの領主の周りでは、普通ではない事が起きすぎている。

きっと何かあるに違いないと、確信した私はその真相を暴いてやると心に決めた。

 

ただ、最初の手が真正面から領主を訪ねるというのは、愚策だったなぁ。

その後の脅迫………もとい抗議はもっとまずかった。

そのせいで捕まり、脱獄なんてするはめになったのだが……。

 

今度はもっとマシな方法を考えよう……、とその方法を考えている時だった。

 

この部屋の唯一の出入口である、隠し扉が開かれた。

私は、この部屋には誰も来るまいと、たかを括っていたので、驚きのあまり思考が停止する。

そしてそこに立っていたのは、

 

「うむ、主がいないようだったので、もうここでいいかなと思い、ここまで来てみたのだが……、よもや先客がいようとは…」

 

手で顎を触りながら、こちらの様子を伺う、タキシードに仮面姿という、いかにも怪しい男だった。

 

 

 

 




ゆんゆん回とダクネスお見合い回は、都合上割愛です。
あと、キールダンジョンは、デストロイヤー前に潜っていたことにしています。


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ダンジョンの最深部

「サトウカズマー!サトウカズマはいるかー!!??」

 

それは俺達が、ウィズの店から帰ってきて、ゆっくりしようと丁度一息ついた時だった。

最近聞き慣れたその声と共に、屋敷にセナが入ってくる。

 

「今度は一体何なんだよ。またカエル討伐か?この前充分倒しただろ?」

 

屋敷にやってきたセナの様子は少し鬼気迫るものがあったが、どうせ前回と同様にカエルとか、そういったことだろう。

……というのも、俺の裁判が終わったすぐ後に、今回と同じようにセナが屋敷に怒鳴り込んできたことがあった。

その時は、俺を逃がすためにめぐみんが真夜中に放った爆裂魔法の影響で、冬眠から出てきたカエルの討伐をやらされたのだ。

だからどうせ、またそのようなことだろうと、俺はタカを括っていた。

だが、俺の予想は裏切られる。

 

「貴様、自分の仲間であるタナカマイが現在逃亡中というのに、随分と落ち着いているな。そうでなくても、保護観察処分の貴様の立場は危ういというのに。……それよりもだ!貴様ダンジョンで一体何をした!?」

 

「……ダンジョン?」

 

セナの口からダンジョンという思いがけない単語が飛び出し、頭に疑問符が浮かぶ。

俺達が関わったダンジョンと言えば、あのリッチーがいたキールダンジョンぐらいなのだが……。

 

「そうだ、ダンジョンだ!現在アクセル近郊にあるキールダンジョンに、新種のモンスターが現れるという異変が起きているのだ」

 

どうやらキールダンジョンのことらしいが、新種のモンスター?

 

「………それが俺らとどういう関係があるんだ?」

 

「聞いた話によると、あのダンジョンに潜ったのは、貴様らが最後だそうだ。その時に何かしでかしたのではないのか!?」

 

「………それだけで俺らのことを疑ったのかよ!理不尽にも程があるだろ!前回のカエルは確かに爆裂魔法が原因だったかもしれないが、今回は全く関係ないぞ!?」

 

俺の言葉に、傍らで俺とセナの話を聞いていた皆が、コクコクと頷く。

いつも何かと、しでかすこいつらだが、今回ばかりは関係がないようだ。

………本当にないんだよな?

俺の心配とは裏腹に、皆の様子を見て、俺達は関係ないようだと判断したセナは少し態度を和らげる。

 

「……どうやら本当に関係はないようですね。きっとあなた達が何かしでかしたと思っていたのですが……。しかしこうなると誰かを調査のために雇わないといけませんね………」

 

セナはそんなことを言いつつ、1人で思案する素振りを見せながら、チラチラとこちらを伺っている。

……おい、まさか!?

 

「その調査を俺達でやれってか!?」

 

「まさか検察官殿が、疑いを掛けた相手に、調査協力を依頼するだなんてことはありませんよね?」

 

俺と同じくセナの意図を理解しためぐみんが、追い討ちをかける。

めぐみんの言う通りだ。

それは都合が良すぎるというものだ。

 

「……あなた達は分かっているのですか?現在サトウさんだけではなく、逃亡中のタナカマイにも魔王軍関係者との疑いがかけられているのですよ?領主殿の要請で近々タナカマイには、懸賞金もかけられる予定です。そのような中で、検察官である私に恩を売っておいて損はないと思うのですが?」

 

まさかの切り返しにぐうの音も出ない……。

セナがこんなことを言い出すとは。

それにマイに懸賞金がかけられるだなんて………。

 

俺達はしぶしぶ、調査依頼を受けることに。

俺達が依頼を受けると聞いたセナは、満足そうに『それでは私は、ギルドでも人を集めて参ります』と言い残し、屋敷をあとにした。

 

……ギルドで人集めるなら俺達いらないのでは、と思った時にはセナの姿は見えなくなっていた。

 

マイが逃亡なんてするから、厄介なことに巻き込まれてしまった。

見つけた時には、ものすんごい目にあわせてやろう。

一体どんな目にあわせてやろうか……。

 

………それよりも今は、とりあえずダンジョンの異変を何とかせねば。

新種のモンスターか。

俺は先程の不安を思い出す。

セナは俺達には関係ないと判断したようだが、念の為再確認しておこう。

俺はそれぞれ準備をしている皆の方に振り返る。

 

「一応確認しておくが、今回の件、本当に心当たりはないんだよな?」

 

「爆裂魔法絡みでなければ、心当たりはないですね」

 

「私も2人とは違って普段から問題は起こさないようにしている。なので心当たりはないな」

 

めぐみんとダクネスは、どうやら大丈夫のようだ。

元よりこの2人はあまり心配していなかった。

本命は………

 

「私も関係ないわよ?………あんたその目私のこと疑ってたでしょ!」

 

どうやら今回に限ってはアクアも関係がないらしい。

俺は何の根拠もなく、アクアを疑ってしまったことを心の中で謝罪を、

 

「あのダンジョンに関しちゃむしろ、私のおかげでモンスターは寄り付かないはずよ?」

 

謝罪をしようとしたが、俺はアクアの言葉を聞き、両肩を掴んだ。

 

「おい、今なんつった!?」

 

「急にどうしたのよ?だからね、あのリッチーを浄化するために使った魔法陣があったでしょ?あれは本気も本気。今も効果を発揮して、モンスターを寄せ付けないようにしているのよ!」

 

そんなことを自慢気に述べるアクア。

だが、それを聞いた俺は、

 

「この馬鹿がぁぁぁ!!!」

 

怒りのあまり、そう絶叫しながら、アクアの頭をひっぱたいていた。

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

「───今回は私、悪くないはずなのに……」

 

アクアは泣きながらそう言うと、俺に叩かれた頭を抑えていた。

自分でヒールをかけていたので、もう痛くも無いはずだが……。

俺への抗議のつもりだろうか?

 

「お前は何か余計なことをしないと気が済まないのか?確かに今回の件とは関係無いかもしれないが、そこにお前の魔法陣があること自体が問題なんだよ」

 

そう、アクアが作った魔法陣があるということが問題なのだ。

それが原因かどうかは関係ない。

それがあるということだけで、何かしらのいちゃもんをつけられる可能性があるのだ。

 

俺達は証拠隠滅のため、手早く準備をすると、直ぐにキールダンジョンへと向かっていた。

理想としては、セナがギルドから冒険者を連れてくる前に、ダンジョンへと潜ってしまいたいのだが……。

 

俺達がダンジョン前に到着すると、そこには既にセナ達が到着していた。

厄介なことになってしまった。

 

「サトウさん!遅かったですね。依頼を受けながら来ないのかと思いましたよ」

 

「依頼を投げ出す訳がないじゃないですか。街を危険から守るのが冒険者の役目ですからね」

 

「…………とりあえずご協力感謝します」

 

俺の本音が疑われているようだが、今はそれどころじゃない。

どうにかして魔法陣を消さねば……と、考えているとダンジョンの入口から出てくる珍妙なモンスターに気づいた。

 

あれが新種のモンスターか。

それは一言で言うと、仮面人形。

仮面をつけた膝の高さほどのサイズの人形が、二足歩行でダンジョンから次々と出てきていた。

あれをどうにかしつつ、魔法陣を消しに……消しに……あっ。

俺はそこでふと思いついた。

別に消しに行かなくてもいいし、あいつらがダンジョンから出てこれなくすれば良いのではと。

よしこれで行こう。

 

「おい、めぐみん。魔法の準備だ」

 

「サトウさん、一体何を?」

 

「いや、あいつらが出てきて困っているなら、入口を塞いでしまって、出てこれなくしようかと」

 

「ちょっと待ってください!ちゃんとダンジョンに潜って原因究明をお願いします!」

 

どうやら俺の作戦ではダメらしい。

ならば直接潜って消すしかないのか……。

俺は準備をさせためぐみんに、ステイの合図を送ろうとめぐみんを見ると、俺達の会話を聞いていたのか、既にしょんぼりとしていた。

………していたが、時折入口と杖を交互に見ている。

 

「撃つなよ?」

 

「……………………もちろん撃ちませんよ?」

 

「おいその間はなんだ!?絶対に撃つなよ!?」

 

俺がめぐみんを制止している傍らで、アクアが仮面人形に向けて石を投げようとしていた。

 

「あの人形、なんだか生理的に受け付けないんですけど」

 

俺はめぐみんを宥めつつ、アクアがまた何かやからさないか、心配になって視線を向ける。

すると、アクアに気づいた仮面人形が、アクアに近づいて………脚にしがみついた。

しがみつかれたアクアはというと、

 

「……甘えてるのかしら?見てるとなんだかムカムカする人形だけど、ちょっと可愛らしく………ってこれなんだかだんだん、熱くなってきたんですけど!すごくまずい気がするっ───」

 

そこでその仮面人形は爆発した。

 

「あのモンスターは、ああやって人に取り付き、自爆する習性を持っています」

 

「なるほど、確かに厄介だ」

 

俺はセナの説明に相槌を打っていた。

 

「どうしてそんなに冷静なのよ!」

 

爆発を受けたアクアはというと、少し煤けていたが、無事なようだ。

俺がアクアの様子を確認していると、隣にいたセナが懐から札を取り出して俺に渡してきた。

 

「サトウさん、これは強力な封印が込められた札です。これをモンスターが湧き出ていると思われる魔法陣に貼って、それを封印して下さい」

 

俺はその札を受け取ったが……。

アクアは知力こそパーだが、他のステータスは優秀だ。

そんなアクアが、あれだけの衝撃を受けた爆発をどう対処すべきか……。

俺がそんなことを悩んでいると、不意にダクネスが、仮面人形達の前に出る。

 

「おい、そんなことしたらっ──」

 

俺の制止虚しく、前に出たダクネスに仮面人形が飛びつき、自爆する。

………自爆したのだが、その爆発を受けたダクネスはピンピンしていた。

 

「うん、これなら大丈夫だ。私が露払いとして前に出よう」

 

さすがはダクネスさんといったところか。

普段はド変態クルセイダーだが、こういう時には役に立つ。

 

「私はダンジョンの外で待機していますね。ダンジョンでは足手まといになりますし」

 

確かにめぐみんは、地上待機がいいだろう。

……となると、

 

「私もここで待ってるわね」

 

「おい、お前は一緒に行くんだよ!」

 

目を向けるやいなや、そんなことを言い出したアクア。

 

「……嫌。ダンジョンは嫌なの。どうせまたダンジョンの奥でおいてけぼりに……」

 

目の焦点があってない程に動揺するアクア。

どうやら以前のダンジョン探索がトラウマになってしまったらしい。

まぁそれもこいつが悪かったのだが。

 

アクアがダメということになると………

 

「……ダンジョンでカズマと2人きり…。モンスターよりカズマの方が怖いのだが……!」

 

怖いと言いつつ、少し頬を赤らめているこいつにも、ダンジョンでトラウマを植え付けてやろうか。

 

 

……とりあえず人選が決まった俺達は早速ダンジョンに潜ることに。

俺とダクネス以外には、セナが連れてきた冒険者が数名ついてくるようだ。

アクアの魔法陣を消すためには、どうにかしてついてくる冒険者達を撒きたいのだが………と、後ろの冒険者達を気にしていると、前方から、

 

「───当たる!当たるぞ!こいつら私の剣でも当たるぞ!」

 

そんな言葉が聞こえて、そちらを見ると、ダクネスが嬉々として、仮面人形を斬っては、爆発させ、斬っては、爆発させを繰り返し、1人突っ走っていた。

俺はそんなダクネスについて行く。

すると、だんだん後続の冒険者との距離が開き……、横からはどんどんと仮面人形が飛び出し、後続の冒険者達を襲っていた。

 

「よし!ダクネス!そのまま進め!」

 

これをチャンスとばかりに、俺はダクネスに前進を指示し、突っ走るダクネスの後ろを追いかけ、後続の冒険者達を撒くことに成功したのであった。

 

それにしても、仮面人形を斬りまくるダクネスはとても嬉々としていて………。

そんなにモンスターが斬れることが嬉しいなら、両手剣スキルを取れよ………。

 

俺は切実にそう思った。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

ダンジョンの最深部。

俺達はその手前まで辿り着き、後はこの角を曲がれば、あのリッチーがいた部屋なのだが……。

 

「どう考えてもあいつがあのモンスターの主だろ」

 

そこにいたのは、ダンジョンには適さないタキシード姿であぐらを組み、仮面人形と同じ仮面を付けて座っている怪しげな男。

そいつは足元の土を捏ねては、あのはた迷惑な仮面人形を作っていた。

あの仮面男をどうにかしないと、部屋に辿り着けないのだが………と、考え込む俺をよそに、ダクネスが1人その男の前に飛び出す。

 

「貴様そこで何をしている。その人形を作っているということは、貴様がこの騒ぎの元凶ということでいいのだな?」

 

勝手に飛び出しやがって!

俺も仕方がなしに、ダクネスの後を追い、大剣を構えるダクネスの後ろで、身構えた。

 

仮面男はというと、ダクネスの声を聞き、ようやく俺達の存在に気づいたのか、こちらを値踏みするような視線で少し観察した後、ゆっくりと立ち上がった。

座っていて分からなかったが、そいつはかなりの大柄で、ただなら雰囲気をまとっている。

そいつは仮面の目の部分を赤く光らせ、俺達を見つめると、不敵な笑みをうかべた。

 

「……うむ、よもやここまで辿り着くとは。我がダンジョンへようこそ冒険者よ!いかにも、我輩こそが諸悪の根源にして元凶、魔王軍の幹部にして、悪魔達を率いる地獄の公爵!この世の全てを見通す大悪魔……バニルである」

 

やばそうなやつが出てきた!

 

「おい、ダクネス逃げるぞ!」

 

こんな大物、2人では無理だと判断した俺は、踵を返し、逃げようとする。

だがダクネスは、

 

「何を言っている!女神エリス様に仕える私が、魔王軍の幹部、ましてや悪魔と聞いて引き下がれるか!」

 

こいつ!こういう時に限って頑固なところを見せやがって!

俺は逃げ出そうと踏み出した脚を踏み止め、バニルと対峙する。

バニルは特に武器も持たずに、ただ仁王立ちしているだけだが、全く隙が見えない。

本当にこんな大物、俺達だけでどうにかできるのか!?

俺が焦りを募らせる中、そいつは口を開いた。

 

「まぁ待て。落ち着くが良い。魔王軍の幹部と言っても、城の結界を維持するだけの……………ほう」

 

何かを言いかけたバニルはそこで言葉を止めると、俺達のことを今まで以上に観察する。

こいつは一体何なのだと困惑していると、突然、

 

「フハハハハッ!フハハハハハハ!そうか!そうか貴様らがあの愚痴娘の言っていた『スティール』を使う度に異性の下着ばかりを剥ぎ取る変態小僧に、腹筋が割れ始めたことを気にしている筋肉娘だな!」

 

そんなことを突然言い出し………

 

「っておい!それ誰から聞いたんだよ!間違ってないけど、誰から聞いたんだ!」

 

「べ、べ、べ、別に、ふ、腹筋、腹筋なんか割れてないぞ!」

 

「いやはや、せっかく見つけたダンジョンに、迷惑な魔法陣と喧しい娘がいた時は難儀もしたものだが………久しぶりに城の外を出歩くというのもいいものだな!それに変態小僧と筋肉娘がここにいるということは、この奥の部屋にある迷惑な魔法陣を張ったプリーストも地上にきているのだな!どれどれ少し拝見……」

 

なんだか急にテンションのあがり出したバニルは、そう言うと少し黙り、仮面の奥に見える、その赤い瞳で俺のことを凝視する。

それよりも、さっきの発言。

こいつ、アクアのことを知ってるのか!?

 

「……見える……見えるぞ!この迷惑な魔法陣を張ったプリーストが、ダンジョンの入口で茶を飲んでくつろいでいる姿が見えるわ!」

 

「あのバカ!俺達がこんな目にあってる時に!」

 

戻ったらアクアには、もう一度ダンジョンに潜らせてトラウマを思い出させてやる!

だがそれよりも、やはりこいつアクアのことを知っている!?

一体どうして……。

 

「フハハハハッ!我輩は先にも言った通り、見通す悪魔。汝らのことを見通すなど非常に容易い。そして我ら悪魔族にとって、悪感情を生み出す汝ら人間はまさしくご飯製造機。そんな汝ら人間は殺さぬが鉄則の我輩であるが……それはあくまで“人間”の話…………。こんなはた迷惑な魔法陣を作った忌々しいプリーストに、キツイの一発食らわしてくれるわ!さぁそこをどいてもらおうか冒険者よ!」

 

こいつ今、“人間”を強調したよな……。

ということはつまり、アクアの正体まで分かって………!?

 

「ダクネス!来るぞ!」

 

「ここは私に任せろ!お前は私の後ろに──」

 

「ダクネス!!」

 

ダクネスの言葉はそこで、バニルの手刀によって遮られる。

今までダクネスが立っていた場所にバニルが立っており、ダクネスはバニルの手刀で気絶させられ、地面に倒れてしまっている。

 

あのダクネスが一撃で倒されるだなんて。

それに動きが全く見えなかった。

これはとてつもなくやばい!

 

俺は剣を構えつつ、反対の手を身体の後ろに隠し、効かないだろうとは思いながらも、静かに『クリエイトアース』を唱え、手の中に土を準備する。

バニルは俺に視線を合わせたまま、ゆっくりと1歩近付き…………そして小さく両手を上げる。

それはまるで戦意がないことを示しているようで……

 

「まぁ落ち着くが良い、異界の地より来たりし小僧よ。ここはひとつ、我輩と取引をしようではないか」

 

バニルは今までで一番口元をニヤリと歪めながら、そんなことを俺に告げたのであった。

 

 

 

 

 




いつも読んで頂き、ありがとうございます。
また、お気に入り、誤字報告等もありがとうございます。

余談ですが、今このすば総選挙してますね。
筆者は、アクシズ教となって、毎日アクア様の50ptのボタンをポチポチ押しています。
皆さんは誰に投票してるのでしょうか?
結果が楽しみですね。
以上余談でした。


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逃亡犯との再会

「冒険者サトウカズマ殿!ここに貴殿の活躍を表彰するともに、あらぬ嫌疑をかけてしまったことに対して、深く謝罪を───」

 

セナの声がギルドに響く。

俺はセナの目の前で、その言葉を受けていた。

そう俺は………

 

「──機動要塞デストロイヤー及び、魔王軍幹部バニルの討伐報酬から、借金を差し引いた残り───」

 

あのバニルを討伐し、

 

「金4000万エリスを与えます!」

 

借金生活からの脱却に成功したのだ!

 

 

俺にかけられた魔王軍との関係者ではないかという嫌疑は、バニル討伐に貢献したことにより見事に晴れた。

長く苦しかった、借金生活。

理不尽にも処刑されそうになったこともあった………。

そんな生活とも今日でおさらばなのだ!

 

だが、俺は素直に喜べないでいた。

何とも皮肉な話ではないだろうか…………

 

魔王軍関係者ではないかという嫌疑を、魔王軍幹部との取引の結果、晴らすことが出来たのだから。

 

そう俺はあの時、バニルとの取引に応じたのであった────

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「───取引だと!?」

 

「だからそう身構えるでない、小心者の小僧よ。汝が想像しているような魂と引き換えにするような取引ではない。先にも言ったが我輩は人間は殺さぬを鉄則としておるのでな。我輩も小僧もハッピーで!ウィンウィン!な取引であるぞ?」

 

とても胡散臭い。

ただ、現実的に考えて、この状況で取引に応じる以外の手立てはあるだろうか。

ダクネスの意識があれば、取引なぞ言語道断と斬りかかっていただろうが………

 

俺は佐藤和真。

冷静な判断ができる男だ。

 

「………とりあえず話をきこうじゃねぇか」

 

俺のその言葉を聞くと、その悪魔は不敵な笑みをうかべ、

 

「フハハハハッ!フハハハハハハ!汝であればそう答えると分かっておったぞ。なーに、取引は単純。ある条件をのむのであれば、我輩を討伐させてくれようではないか!」

 

「はぁ!?」

 

こいつ今なんつった!?

自分を討伐させてくれるだって!?

それは俺にとっては願ってもないことだが………

 

「その自分の命と引き換えにする条件ってのは、一体何なんだよ……」

 

魔王軍幹部でもあるこいつを討伐させてくれる代わりとなる条件。

一体どんな要求が待ち受けているのか。

 

「小僧も知っておるのであろう?アクセルの街で働けば働くほど赤字を生み出す、世にも奇妙な魔道具店のことを」

 

働けば働くほど赤字を生み出す魔道具店………

そんな店といえば、ウィズの店しか……

あっ!そう言えばウィズも魔王軍の幹部だった。

おそらくウィズとバニルは知り合いなのだろうが、今それがどんな関係があるんだ?

 

「その店に小僧が持ちうる限りの知識を提供する。ただそれだけでいいのだ!」

 

「それってつまり……」

 

俺の持ちうる限りの知識………つまりライターとか、俺が日本で見てきた知識のことか!

見通す悪魔には、俺が異世界から来たということまで、何でもお見通しのようだ。

ただそれを全て提供かぁ。

この知識をもって一財産築くつもりだったのだが……

俺がそんなことを悩んでいると、

 

「何も無償で提供しろと言っているのではない。ただ、通常よりも格安で提供してもらうだけだ。この状況を打破できるのだぞ?悪くはなかろう?まぁそもそも貴様に選択肢なぞないのだがな。フハハハハハハ!」

 

確かにバニルの言う通り、俺にはこの取引に応じなければ、こいつを倒す手立てはないだろう。

そう倒す手立ては。

逆に言えば、この条件をのめさえすれば、バニルを討伐できるのだが………

 

「……それを承諾したとして、お前がすんなり討伐される保証はあるのか?それに、この取引にお前のメリットを全く感じないんだが……」

 

「その点は安心するが良いぞ、小僧よ。我ら悪魔族は契約には特にうるさくてな。取引に応じるのであれば…………、まぁ多少暴れるつもりだが………、必ず履行することを約束しようではないか!その代わり、汝が契約を破った場合は………」

 

バニルの鋭い眼光が俺を射抜く。

け、契約を破ったら、俺は一体どうされるんだ!?

俺の恐怖とはよそに、バニルは小さく笑うと、

 

「我輩のメリットについては、言わずともいずれ知ることになるであろう。さぁキリキリと決めるが良い、冒険者よ!」

 

もとより俺に選択肢はない。

俺はこの取引に応じることに。

終始掴みどころの分からない悪魔だったが、この取引は吉と出るか凶と出るか。

俺の答えを聞いたバニルは、今日一の高笑いをしていた。

 

そこでふと俺は、元々の目的を思い出した。

 

「バニル、済まないがちょっと待っててくれないか?奥の部屋にある魔法陣を一応消しておきたいからさ」

 

「ほぅ……我輩としてもその魔法陣を消してくれるのは大変ありがたいが………ふむふむ、この見通す悪魔が予言しよう。汝、30を数えてからその部屋に入れば、必ず我輩に感謝することになるだろう!」

 

そんなことをバニルが言ってきた。

30を数えてから、この部屋に入る……?

俺は騙されているのかと思いつつも、律儀に30を数えてから部屋に入ることにした────

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「────48、49、50!」

 

ダクネスに教えてもらった筋トレ。

最初こそ苦痛だったが、今となっては習慣となってしまった。

特に今はこんな何も無い部屋にいるものだから、筋トレがさらに捗ってしまう。

 

筋トレを一通り終えた私は、少し汗ばんでいたので、服を脱ぎ、首筋に『フリーズ』の初級魔法を優しくかける。

こういう時に、初級魔法はとても便利だ。

 

それは突然だった。

バニルの時を合わせると2回目。

隠し部屋である、その部屋の扉が開かれたのだ。

またバニルだろうか、そう思いつつ、入口に目を向けると………

 

「あ、カズマ」

 

「あ、マイさん」

 

恐らくカズマにとっても予想外だったのであろう、驚きのあまり、時が止まったかのようにお互いが見つめあったまま静止する。

だが、直ぐにカズマの視線が、私の目から少し下におりたことに気づく。

それに合わせて私も視線を下に下ろすと………

下にはズボンを履いていたが、上は先程脱いだばかりなのでもちろん、下着姿のままで…………

 

私は顔が熱くなるのを感じた。

それは恥ずかしさからなのか、怒りからなのか、それとも両方なのか。

おそらく私の顔は真っ赤になっていただろう。

カズマはそれに、気づいているのか気づいていないか、分からないが、まるで旧友に再会したかのように、片手を軽く挙げ、朗らかな表情で、

 

「やぁマイさん。一体こんなところで何をしているんだい?」

 

と、ふざけたことを口にして………

 

「───ら、ら、ら、らら『ライトニング』!!!!」

 

私は以前仲間を傷つけたことによって、封印していたその魔法を躊躇なくカズマに向けて放った。

だが、私が魔法を放つとほぼ同時に、カズマはその場にそれは綺麗な土下座をきめることによって、その魔法を華麗に回避したのであった。

 

私は外したことに対して舌打ちをし、一瞬カズマがビクッと震えた気がしたが………、そんなことは気にせずに、改めて土下座をしているカズマ目掛けて手をかざし、もう一度魔法を放とうとしたその時、

 

「フハハハハハハハハハハ!汝の羞恥の悪感情大変美味である!」

 

そんなふざけた声が部屋の外から聞こえてきた。

私はその瞬間に怒りの対象を変えた。

 

「バニル!カズマがここに来たのは、あんたの差し金でしょ!何度も言ってるけど、目的を果たすまではこの部屋を譲る気はないからね!」

 

「おっと、勘違いはやめてもらおうか、おしゃべり娘よ。その小僧は自分の意思でその部屋に入ったのだぞ。まぁ少々、部屋に入るタイミングはアドバイスしてやったがな!フハハハハハハ!…………それよりもだ、早く服を着ないでいいのか?先程からそこの小僧がチラチラとみておるぞ?」

 

「えっ!?」

 

私は直ぐにカズマの方に視線を向けるが、カズマは、地面に頭をつけ、綺麗な土下座をしたままだった。

…………少し癪ではあるが、バニルの言う通り服を着ることに。

 

「カズマ、もう服を着たから顔をあげていいよ。というか、どうしてここにいるのか教えてよ?」

 

その言葉を聞いたカズマは、恐る恐る顔を上げ、私の顔を見る。

そしてもう怒っていないと判断したのか、少しホッとした様子で、ただ姿勢は正座のまま、ことの経緯を教えてくれた。

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「──────ってことで、ここまで来た訳だ」

 

俺は手短に、経緯を説明した。

マイは静かに聞いていたが、俺の説明を聞いてだいたいは理解してくれたようだ。

正直チラチラと先程の光景を思い出し、説明どころではなかったのだが………

まじバニルさん、あざす!

とまぁそんなことを考えているだなんて、マイは思いも知らないだろうが……というか、そんなことを考えているだなんてバレたら、今度こそさっきの魔法を当てられてしまう。

………あれはまじで死ねるやつだ。

 

とりあえず俺からの説明は終わった。

そうなると今度はこちらの番だ。

 

「マイさんはどうしてこんな所にいたんだよ。てっきりもっと遠くへ逃げてるとばかり……」

 

俺が質問すると、マイは少し困ったような表情をうかべると、押し黙ってしまった。

逃げたことと言い、何か言い難い理由でもあるのだろうか?

俺がじっと回答を待っていると、マイはおもむろに口を開く。

 

「…………借金を抱えるのが嫌でね。思わず逃げ出して……、ここなら安全だろうって」

 

おそらく嘘だろう。

そもそも借金が嫌で逃げ出すなら、こんなアクセルの近場に潜伏するのではなく、俺がさっき言ったように、さっさと遠くへ逃げてしまえばいいのだ。

ただ、マイが嘘をつくだなんて………

俺のマイの印象は、良くも悪くも素直。

そんなマイが嘘をつくほどの理由があるのか。

 

「…………その、言いたくないなら言う必要もないし、無理にも聞かない。ただ俺達は仲間だ、そんな俺達のことを少しは信用してくれてもいいんだぞ?」

 

俺のその言葉を聞いたマイは、少し目を見開き、驚いたようだったが、再び黙り込んでしまう。

 

沈黙が流れ、えも言わぬ空気が漂う。

そんな空気を破ったのはあいつだった。

 

「なんとも気まずい空気になっているようだが……いつまで我輩を待たせるつもりだ?」

 

その言葉を聞いて俺は本来の目的を思い出す。

さっさとこの魔法陣を消さないと……………

 

「もしかしてだけど、マイさんはこの魔法陣が今も効果を発揮していることを知ってて、ここに来たのか?」

 

「え?…そうだよ。以前アクアが自慢気に話しているのを思い出してね」

 

なるほど。

普通であれば、ダンジョンなんて危険なところに潜伏するだなんて、正気の沙汰に思えないが、この魔法陣のことを知っていたなら納得出来る。

それにここは隠し部屋になっていて、見つけたのも俺達だけだ。

ってことはつまり………

 

「じゃあこの魔法陣消すって言ったら……困る感じ?」

 

「え!?消すの!?困る困る!すごく困る!」

 

ですよねー。

念の為に消したいのだが……、マイがいるなら、後始末はマイに任せるか。

それに今回の騒動であるバニルをどうにか出来れば、ダンジョンの調査は行われないだろうし。

 

俺は魔法陣はそのままに、ダンジョンを後にすることにした。

 

「じゃあ俺はそろそろ地上に戻るとするよ。あいつと決着もつけないといけないからな」

 

「バニルと戦うの!?………相当強いよ?」

 

「俺を誰だと思ってるんだよ。ベルディアやデストロイヤーを葬った佐藤和真だぞ?」

 

………まぁ今回は半分八百長みたいなもんだし。

 

そして俺は最後に

 

「どうしようもなくなったら、いつでも屋敷に戻ってこいよ。……………き、気が向いたら助けてやるからさ」

 

決してツンデレになったわけでも、自分の言葉が照れくさかった訳ではない。

…………決してそんな訳ではない。

 

俺はそれだけ言い残すと、少し早足でその部屋を出た。

部屋を出ると、隠し扉が閉まり、そこはただの壁になる。

俺は扉が閉まる直前、部屋の中から『ありがとう』という声が聞こえてきたのを聞き逃さなかった。

 

「『いつでも屋敷に戻ってこいよ』と、何やら格好つけていたようだが………おおっと!羞恥の悪感情、大変美味である。フハハハハハハ!」

 

こ、こいつ!!

さっさと地上へ行って、こいつを倒してしまおう。

俺はそう心に決意する。

 

「我輩とて、メンツがあるのでな、そう簡単にやられるつもりはないが………そうだな。流石の我輩でも爆裂魔法なんてものを食らえばひとたまりもないであろうな」

 

そんな独り言のような事を言うバニル。

暗に爆裂魔法で倒せと言っているのであろうか。

そうであれば、めぐみんに特大のを準備させるとしよう。

 

「さぁ小僧よ!そこの脳筋クルセイダーを背負ってさっさと逃げるがよい!フハハハハハハ!」

 

「そうさせてもらうよ」

 

俺はバニルの言う通りに、ダクネスを担いで逃げようと……って重っ!!

ダクネス重っ!

こいつ……一体どれだけ筋肉があればこんなに重くなれるんだ!?

 

俺はアクアに身体強化魔法をかけて貰っていたおかげで、かろうじてダクネスを担ぐことが出来、なんとか地上まで戻ったのであった。

 

その後の展開は何とも………壮絶だった。

まぁ主にアクアとバニルだけだが。

 

俺はダクネスを担ぎながら、何とか逃げてきた体を装い、直ぐに魔王軍幹部のバニルがやってくると、地上にいる冒険者達に伝えた。

 

すると、直後にバニルがダンジョンから出てきて、戦闘に突入した訳だが………。

冒険者達の先頭に立っていたのが、アクアだったのだ。

どうやら、女神として悪魔であるバニルは、相容れない存在らしく、いつも以上に張り切って、対魔魔法を連発していた。

 

一方、バニルはというと………、バニルはバニルで女神を敵対視しているようで、アクアの対魔魔法を華麗に躱しては、何やら物騒な光線を放っていた。

 

「『セイクリッド・エクソシズム』!!『セイクリッド・エクソシズム』!!」

 

「フハハハハッ!フハハハハハハハハ!そんな攻撃当たらんわ!必殺!『バニル式殺人光線』!!!」

 

「『リフレクト』!!!」

 

「あっぶ!?」

 

白熱したこの女神と大悪魔の戦いは、誰もが固唾を呑んで見守るしかなかった…………と思われたのだが、俺がダクネスを他の冒険者に預けて、めぐみんのところへ向かうと、こいつは既に爆裂魔法の準備を整えていやがった。

 

「ふふふっ!こんな素晴らしい戦いを黙って見ていられようか!いやない!紅魔族として……あのカッコイイ仮面をつけた悪魔に爆裂魔法をくらわせて、いいところは頂きます!」

 

今回に限っては準備をする手間を省けたからいいものの。

こいつのこの性格はもう少しどうにかならないかね………。

 

とその時だった。

バニルが、アクアから離れて距離をとる。

それは丁度、遠巻きに見ていた他の冒険者達とも離れた場所だった。

 

そしてその時は訪れる。

 

「フハハハハハハハハハハ!どうした水の女神と同じ名をしたプリーストよ。貴様の魔法では、どれだけ攻撃しようが我輩は倒せぬぞ?我輩を倒したくば、爆裂魔法でも使える魔法使いを連れてくるのだな」

 

「あんたなんて私の対魔魔法で十分よ!人間の悪感情がないと生きていけない寄生虫みたいな分際で、生意気なのよ!次こそそのへんてこな仮面に………ってめぐみん?いきなり出てきてどうしたの?今私のいいところなんですけど!あの悪魔は私が───『エクスプロージョン』ッッッ!!」

 

めぐみんの爆裂魔法はバニルに直撃し、バニルがいたところを中心に、大きな爆炎がたちのぼる。

めぐみんは、冒険者達の方に振り向いたかと思うと、マントを翻し、

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法使いにして、魔王軍幹部バニルを葬りし者!」

 

それだけ言い残すと、地面にバタリと倒れた。

 

こうして爆裂魔法によりバニルは討伐され、この戦いに幕が降りたのであった。

 

爆裂魔法を放ち、地面に倒れているめぐみんを、見せ場をとられたアクアが泣きながら揺さぶっているという、なんても閉まらない終わり方だったが…………。

 

 

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

 

 

 

そして後日。

俺は今、バニルとの契約を果たしに、ウィズの店に向かっていた。

 

バニルを討伐させてもらう代わりに、俺の知識をウィズの店に格安で提供する。

今日はその事をウィズに説明しに行くのだ。

正直、惜しい気もするが、バニル討伐によって俺の疑いも晴れ、報酬も貰えたので、まぁ良しとしよう。

 

…………ってちょっと待てよ。

これ今からウィズに説明しに行く訳だが、もしウィズに断られたらどうするんだ?

その場合、俺は契約を破ったらことになるのか!?

そうしたら俺は一体…………!?

 

そんなことを考えていると、どうしても付いてくると言ってきかなかった、ダクネスが口を開く。

 

「…………おいカズマ、お前あの悪魔と何の取引をしたのだ?」

 

「………え?」

 

どうしてダクネスが、取引のことを?

まさか……

 

「……ダクネス、お前途中から気がついていたのか?……ん?となると……、俺が担いで運んでた時も起きて……!お前意識があったら自分で走れよな!めっちゃくちゃ重たかったんだからな!」

 

「お、お、お前というやつは!こちらがせっかく殊勝な態度で聞いてやっていると言うのに!それに言い直せ!鎧が重たいと言い直すのだ!………

もういい!そこになおれ!そして魔王軍幹部でもある悪魔と一体どんな取引をしたのか白状するのだ!事と次第によっては、再びあの検察官の元に突き出してやる!」

 

「はぁ?そんなやましいもんじゃねぇよ。ただ俺の知識と引き替えに討伐させてもらっただけだよ。詳しい話はウィズの店でするから、黙ってついて………途中から気がついていたってことは、あそこにマイさんがいたのも!?」

 

俺はマイがあのダンジョンにいたことを、仲間に話すか迷っており、まだ話していなかったのだ。

マイに助けを求められた訳でもないし……、それにあいつらに話したら何か余計なことをしそうだし。

 

マイの名前を聞いた、ダクネスはというと、抜きかけていた剣を収め、先程の勢いは無くなっていた。

 

「………あぁもちろん知っている。なぁカズマ、バニルとの取引といい、マイのことといい、どうして私達に黙っているのだ?………そんなに私達のことが信用ならないか?」

 

「………別にそういうわけじゃねぇよ」

 

ダクネスは知ってか知らずか、俺がマイに言ったことと、似たようなことを言ってきた。

とても悲しげな表情で。

 

…………そんな表情で言われたら、余計なことをしそうだったから黙っていただなんて絶対に言えない。

 

 

その後俺達は特に会話もなく、ウィズの店に到着した。

俺はウィズに何と説明したら良いものかと考えつつ、店の扉を開けた。

扉を開けるといつも通りウィズが、

 

「ヘイ!らっしゃい!おや、最近体重が増えてきたことを気にして、鎧の軽量化を考えている娘に、そこの娘を担ぐ際、少しでも感触を味わおうと無駄に多く揺らしていた小僧ではないか!おおっと、汝らの悪感情、美味である!フハハハハハハ!」

 

「お、お、お前突然何言い出して!?ってお前も、蹲りながらチラチラこっち見てくるんじゃねぇ!」

 

扉を開けると、そこにいたのはバニルだった。

遅れて、店の奥からウィズが出てくる。

 

「あら、カズマさん!聞きましたよ、よかったですね。バニルさんを倒して疑いが晴れたそうで、おめでとうございます!」

 

さも当然かのように、目の前にバニルがいるのにも関わらず、そんなことを言うウィズ。

 

「いや、それはいいんだが、どうしてこいつ爆裂魔法をくらってこんなピンピンしてんの?無傷ってどういうことだよ」

 

ウィズに話しかけていた俺に対して、横からバニルがその質問に答えてきた。

 

「我輩とて、あんな魔法をくらえば無傷で済むわけがあるまい?よく仮面を見るがよい」

 

そう言いながら自らの額を指差すバニル。

その指先に視線をむけると、そこにはⅡの文字が。

 

「爆裂魔法で残機が一人減ったので、二代目バニルという事だ」

 

「なめんな!」

 

こいつは配管工か何かか、といきりたっていると、ウィズに宥められる。

 

「カズマさん落ち着いてください。バニルさんは以前より魔王軍の幹部を辞めたがっていたんですよ。そして一度滅んだので、今は魔王城の結界の維持にも関わっていません。とても無害だと思いますよ?」

 

そんなことを言われてもなぁ。

滅んでも残機が減るだけで、蘇るだなんてチートだろ。

何やらエプロンをつけて、ここで働く気満々のようだし。

 

…………ん?ちょっと待てよ。

元々魔王軍の幹部を辞めたがっていて、一度滅んだことによって、関係がなくなって………

滅んだとしても、蘇ることができ………

これからウィズの店で働くつもりで………

俺との契約は、確か俺の知識を、ウィズではなく、ウィズの“店”に提供するってことだったから、つまり。

 

「ようやく我輩のメリットに気がついた小僧よ。さぁ我輩との契約を果たしてもらおうか!フハハハハハハハハ!」

 

このチート悪魔、完全に俺のことを利用しやがった!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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