やはり俺の殺人観察は間違っている (名代)
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暗黒系1(プロローグ)

二年の春、俺は高校生活を振り返ってと言う作文を提出した。

しかしそれが国語の教員にとってはいい加減な内容に見えたらしく、職員室に呼び出されたと思ったら色々な過程を飛ばされ奉仕部と言う部活へと無理やり入部させられた。

部員は俺を除いて1人、同学年だが科が違い全くと言ってもいい程接点の無い女子生徒、雪ノ下 雪乃。

彼女は無理やり入部させられた俺などには全く興味を示さずに黙々と本を読んでいた。そんな彼女を顧問である平塚 静は咎めるも、そんな事は眼中に無い様で無視を貫いた。

平塚先生は頭を掻き毟り項垂れると、「しょうがない、あとは君達で何とかしてくれ私は私で仕事があって忙しいんだ」と言い残し職員室へと帰っていった。

 

 

 

 

 

その後、何とか話しかける事数分、ようやく彼女との会話に成功する。どうやらこの奉仕部は困った生徒に解決に至るまでの手助けをする部活らしい。このご時世、一体そんな部活の何処に需要があると言うのか、彼女曰く奉仕部に持ち込まれた相談事は一つもないらしい。

相談事が無い以上やる事が無いのでこうして本を読むなどをして時間を過ごし、建前でボランティア活動などをして今まで部を継続しているらしい。

「はあ」

なんて部活に入れやがったのかあの先公は…

先が見えない状況に思わず溜息が出る。入学式の前に交通事故に遭い一月程入院しクラスに馴染めなかった俺に現れたチャンスだと思ったが、どうやらこの状況はチャンスでは無く試練だったらしい。

まあ、でも良い暇つぶしにはなるだろう。彼女が俺に危害を加える事は無いだろうし俺も危害を加える気は無い、ならばこの教室で彼女同様本を読めば良いだけだ。幸い読書は嫌いじゃない、此処には持ち込まなければ誘惑が無いため勉強するにもちょうど良いだろう。

彼女との会話を終わらせ、ちょうど持ってきていた文庫本を開いた。

 

 

 

 

それからひと月の時間が経った。

これがドラマか何かであったならそれなりにイベントがある筈だが、俺達の間にはそんな浮ついた事は一切起こる事は無かった。俺は只々部室に入っては読書か勉強を繰り返し、彼女への交流を必要最低限に済ませ、帰宅するだけのお一人様生活を徹底して続けていた。

そのせいか、彼女の警戒も日に日に薄れていき、何するか分からない人から置物くらいにはクラスアップしたのだろうか、偶に話しかけてくる様になった。内容は当たり障りのない事や俺への罵倒が殆どで情報量で言ったら無いにも等しい。

そしてそんな生活もこの日を持って終了を迎えた。

「ねえ、比企谷君これを見て欲しいのだけえれども」

ある日の放課後、雪ノ下雪乃は本を読んでいる俺の元に一冊のメモ帳を差し出した。

「何だこれは?俺には只のメモ帳にしか見えないけど」

読んでいた本に栞を挟み、彼女の差し出したメモ帳を眺める。見た感じは普通の革製のカバーの掛けられたメモ帳で、少なくとも学生が使うには高い品物の様な高級感を感じる。

「ええそうよ、これがメモ帳と分かるあたり、あなたの頭にもちゃんと脳みそが入っている様ね」

彼女の十八番の一つの罵声を浴びせ満足したようで、手に持っていた手帳を俺に読めと言いたげに差し出した。

「何だこれは…ええっと」

手帳には書き手の性格なのか丁寧な字で几帳面にびっしりと細く文字が書き込まれていた。軽く眺めるが日付が入っている事からどうやら誰かの日記らしい。

「これお前の日記か?」

多分違うだろうが念の為確認する。

「違うわよ、あなた私が人に自分の日記を読ませる人だと思う?中身はちゃんと読んだのかしら、あなたの事だから読んではいないと思うけど黙って読みなさい」

1話せば2プラス罵声が飛んでくる彼女の言葉を受け止め、再び手帳に目を落とす。

内容はいたってシンプルで昨日発見されたバラバラ殺人事件の内容を犯人目線で描かれていた物だった。本来であれば誰かのイタズラだろうと吐き捨てたが、偶然にも俺はその事件を詳しく調べていたので分かる事がある。

この手帳に記されている内容には俺の知らない内容や状況が細く丁寧に記されていたのだ。内容を読めば読むほど俺の中で溜められていた事件の情報がこのメモ帳にかかれた情報と合わせられて、まるでパズルのピースが噛み合っていく様に一つに纏まっていく。もし、これが偽物なら途中の矛盾に気付き頭がこんがらがるだろう。

俺はドヤ顔で佇む彼女を無視しながら、本を読み進める。こんなに心が踊ったのはいつぶりだろうか?

入学式の前に何処かの家の飼っていたペットの犬を助ける為車に轢かれて以降、俺から物事の関心が失われ、この世界は灰色に染まった。ゲームをしても漫画、アニメを見てもかつての興奮は無く只々虚しさだけが残った。そのかわり凶悪事件や猟奇的殺人など生々しければ生々しいほど犯罪者の歪んだ何かが見えてくる様な、そんな人間性が垣間見える様な事象に興味を持つ様になった。

それからの俺はこうして何か人間の暗黒性が垣間見える事件があるたびに新聞を切り抜きスクラップ帳を作り、ニュース速報を徹底的にチェックし、偶に現場に観光ているのだ。全ての興味が失われ、その事にしか関心を得られなくなった俺の執着は妹の小町ですらドン引きする程だった。

手帳を読み進めると、記された内容は次の事件と続いていく。今度はまた違った事件が記され俺の知らない細事件の部が明かされていく。

この事件もニュースで話題になり先程の事件と合わせて連続猟奇的殺人事件と報道されている。遺体をバラバラにして、まるで何かを表現するかの様に遺体を操り作品に仕上げている。

そしてある事に気付き、手帳を読む手を止めた。

「気づいたようね、実はこの手帳を見ながらニュースを眺めるのが最近の私の楽しみだったのよ」

彼女は俺の動きが止まった事を見て何かに感づいたかの様に笑みを浮かべた。どうやら彼女と俺は根本的な部分での趣味嗜好が歪んでいる様だ。

目線を彼女から手帳へと戻す、世間で公表されているのは先程までの2件のみだが、この手帳にはまだ続きが書かれていた。つまり、まだ発見されていない事件が手付かずで残されている事になる。このページの先には俺の知らない犯人の記録が記されているのだ。

興奮のあまりてが震えるのが分かる、幸いこの教室には彼女しか居らず下校時間まではまだ時間もある。慌てずゆっくりとページをめくり、俺は未だ犯人しか触れていない領域へと踏み込んだ。

 

 

 

手帳に記されいる全ての内容を読み込み、それが達成された安堵感となぜ彼女は俺にこれを読ませたのかと言う疑問が心に残った。

「で、雪ノ下。俺にこれを読ませた理由は何だ?金か?金なら今持ち合わせがないから勘弁してくれ、それに事前に説明が無いから支払いの義務は無いと思うぜ。まあ俺の出来る範囲で協力出来る事なら付き合うが」

取り敢えず、金銭の要求の可能性を潰し彼女の要求と目的を聞く。出来れば俺の人生にマイナスになら無ければ良い事なら良いのだが。

「あら、随分と物分かりが良いのね、このメモ帳へ食いつきようから見てやはり私の目は間違って無かったわ。私の目的はたった一つよ」

ビシッと指を俺に突き出すと、彼女は小悪魔の様な笑みを浮かべながら話を続ける。どうやら彼女に俺の性質を見抜かれていた様で、内心悔しい気持ちと理解者が現れたのでないかと期待する。

「次の休みの日に、この3人目の被害者を探しに行くから貴方はそれに付き合ってちょうだい」

彼女から要求された内容は、俺には願っても無い事とだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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暗黒系2

週末の土曜日に雪ノ下とメモ帳に記された殺人現場へと向かう事になった。あの手帳に書いてある事が正しければ次の現場はS山と記されている。その山の名前を聞いた事が無い事から中々登る人が居ないのかそれとも誰かの私有地的な山なのだろうか、兎も角メジャーな山で無い事は確かだ。

あの後部活は解散となり学校を後にする。帰りながら携帯で調べる、どうやら普通に道路が通っている事から登山の様に苦労する事は無い様で何ならバスまで走っているまでである。

帰宅して早々テレビをつける。画面にはニュースが表示され第2の事件が取り上げられている。これから第3の事件現場に行くと考えると胸が高鳴ると同時にこのテレビ画面に第3の事件が先に取り上げられないか不安になる。

「あ、お兄ちゃんお帰り。帰ってたんだ」

ドタドタと階段から降りる音が聞こえた後、妹の小町が俺の居るリビングに入ってくる。今年受験なので少しやつれているが特に変わった様子は無い。

「おお小町帰ったぞ」

適当に返事を返しながらテレビ画面に目線を戻す。

「何見てんの?うえ…またそんなの見てんの…いい加減他の趣味に寝覚めたらどう?私は別に構わないけどそんなんじゃ将来のお嫁さんが可哀想だよ」

「うるせえ、ほっとけ」

小町の心配を切り捨て、新聞の記事を幾らか切り取る。日に日にコレクションが増えると言うのは実に心地がいい。

「それにしても犯人まだ捕まって無いみたいだね、そのうち小町も殺されちゃうかもね」

台所で何やらゴソゴソと音が聞こえた後、用が済んだのか俺がくつろいでいるソファーの後ろから小町が顔を出した。

「安心しろ、そうなる前にお兄ちゃんが先に殺されてやろう」

何か良くわかないフォローを彼女にかます。

もしも仮にあの手帳の持ち主が小町を殺したとして、そいつは一体どの様な飾り付けを妹に施すのだろうか。場所は?凶器は?様々な妄想が俺の頭の中で膨らんでいく。

「えー何それ?お兄ちゃんってたまに良く分からない事言うよね、私心配だよ」

お前に心配されたくは無いよ、と突っ込みたくなったがやめておいた。こんなところで喧嘩するのも無駄な気がする。

「もういいでしょ、小町見たい番組があるんだー」

ピッっと妹は俺の横に置かれたテレビのリモコンに手を伸ばすと勝手にチャンネルを回す。画面には先程とは打って変わって明るめのバラエティ番組が流れる。

「はあ」

溜息を吐きながらリビングを後にする。

部屋に着くと、先程切り取った新聞をファイルにまとめていく。これを始めて早一年、最初は漫画が多かった本棚は現在このスクラップ帖で埋め尽くされている。

こうして本棚を埋め種類を充実させていくと同時に、ふと思い出した様に過去のものを取り出し思い出に浸る。

小町も両親もあの事故を気かっけに変わってしまった俺の趣味に最初は抵抗があったらしいが、今では何も言ってくる事はない。見捨てられたのかそれとも俺が犯罪を犯さないと信頼してくれているのだろうか。

思い出したかの様に引き出しを引く。今日は金曜日、明日の準備をするのを忘れていた。しまわれていたカメラやその他小物が作動するかメンテナンスを含め取り出し作動させる。

 

 

 

 

次の日、結局カメラに保存されていた画像を繰り返し見ていたら夜が更けってしまい寝不足の状態で待ち合わせの場所まで体を引きずった。

待ち合わせ場所には、土曜日という事もあってか私服のの雪ノ下が先に到着していた。

「おう、待たせたな」

左手の時計を確認する。時計の針は待ち合わせの時間丁度の時刻を指している。朝から全力疾走してきた甲斐はあった様だ。

「はあ、全くあなたという人は…まあいいわ。それじゃあ行きましょう。手帳が此処にあるとしても、あれが他の誰かに見つからないとは限らないわ」

俺が呼吸を整えているにもかかわらずに彼女は呆れた表情を浮かべ、山を登っていった。登ったと言っても舗装された道路なので只の坂道なのだが、走った後で疲れている俺には些か辛いものがある。

「おい待てよ、少し休憩にしてもいいんじゃないか?」

慌てて彼女を追いかける。

「嫌よ、それにさっき言ったじゃない。まだある保証がない以上はこうして早く見つけないと誰かが通報してしまうもの、もしそうなったら貴方は責任が取れるの?」

あくまで彼女は足を止めるつもりが無いのか、歩く速度を緩めずに淡々と話を続ける。

「いや、責任って…まさか俺に死体を作って来いとでも言うつもりか?」

「あら、貴方にしては珍しく頭が働くのね。でも勘違いしないで頂戴、私は別に作れとは言っていないわ、ただまた新しいものを見つけて来れば良いだけの事よ」

「難易度上がってるじゃねーか」

相変わらずの暴虐て発言。どうやら彼女はプライベートでもこんな感じなのだろう。果たしてこいつの友達ができた時一体そいつはどんな性格なのだろうか?

「一つ目の目印に着いたわ、犯人は此処からこの木々の中に入っていったのよ」

彼女は手帳を取り出すと、その内容に間違いがないか念入りに確認する。

手帳には犯行までの道筋意外にも、現場の候補やターゲットの生活リズムなどもわざとらしく記されていた。多分だが犯人は俺みたいに自分の犯した犯罪を計画段階から再び確認し追想し、時折楽しんでいるのだろう、まるで昔の思い出の様に。

だが、そのおかげでこうして此処にくる事が出来た。まだ死体は確認できないが、先人の行動をなぞるみたいで心が満たされる。正直俺の内心は死体がなくても良いと思っている。出来れば犯人にはこのまま続けて頂いて、その手帳の続きをコピーでも良いので譲って欲しいくらいだ。

「此処で大丈夫か?」

森の中を突き進んでいく彼女を後ろから追いかける。草が伸びているが犯人は本当にこんな道を通ったのだろうかと不安になる。

「大丈夫よ、目印はちゃんと全てチェックできているわ…でも流石の私も少し疲れたわね、少し休憩にしましょう」

倒れている丸太に腰掛けると、再びメモ帳を開いて確認している。そして時折ふふっと笑うのだ。

「どうした?何か書いてあったか?」

不審に思い確認するが、ああ御免なさいねと前置きをし

「もしテレビに発表された3人目がこの人じゃなければ、それは私達の所為になるわね」

確かに、と俺もその考えに同意した。少なくともこの手帳を警察に届けていれば、此処にいるであろう被害者は見つかり手帳の内容を辿り犯人に行き着いた可能性もある。

「そうだな、俺たちはもう共犯みたいなもんだからな。捕まったらどうなるんだろうな」

「さあ、そんなの事は私にも分からないわよ。少なくともタダでは済まないわね、どう捕まってみるかしら?」

「とりあえずビールみたいに俺を警察に行かせようとするな、少なくともお前も共犯だからな」

これで警察に捕まったとしたならたまったもんじゃない、もし捕まるならその時は自分の手を汚した時だけにして欲しいものだ。

「さて、休憩を取れた様だしそろそろ行こうかしら」

俺をいじり倒し満足したのか彼女は手帳を閉じると、腰を上げ再び木々の先に歩き出した。

相変わらずどこかマイペースな彼女に流されつつあるなと思いながら、俺は彼女の後を追った。

 

 

 

「此処よ、見なさい」

やがて目的の場所に着いたのか、大木の前で立ち止まっている彼女に追いつく。

その場所は先程までの森林とは違い、少しだが拓けておりもし此処がゲームだったらいつかイベントが起きそうなそんな場所に女性の遺体が置かれていた。

正確には飾り付けられていたと言った方が正しい。女性の体は全裸で長座で木に寄りかからせられる様に座らされ、ある筈の首から上がなく綺麗な首の断面が見える。そのなくなった首は彼女の開かれたお腹に嵌められ、眼球はくり抜かれて両手の上に乗せられていた。開かれたお腹の中身は後ろの木に巻き付けられ、彼女の眼窩や口、あらゆる穴という穴には泥が詰め込まれていた。



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暗黒系3

死体を見つけた後、なんの躊躇いもなく彼女は写真を撮り出した。俺も負けじとカメラを取り出し邪魔にならない様に死体をフレームに収めていく。

初めて撮る実物に興奮を覚えつつシャッターを切っていく。このカメラに映されるのは実際に殺された人間の遺体で、未だ犯人以外の手が付けられていない本物だ。

「手帳を持ってて頂戴」

彼女は遺体の前で立ち竦んだと思ったら俺に手帳を持たせる。

「どうした?」

受け取り、カメラで撮れるだけ写真を収めると、彼女が辺たりの撒き散らされた遺体の持ち物を拾い集めている。流石の俺も此処まではと思ったが、彼女は何時もの平坦な表情を歪める事なくその行為を遂行していく。

「こうして彼女の物だった所持品を集めるのよ。そしてこれをどうするかは後のお楽しみよ」

一瞬悪戯をする子供の様な表情を浮かべると、拾った持ち物を鞄へと収めていった。彼女はこれらの物を一体どうするつもりなのだろうか、正直理解に苦しむ。確かにこう言った物を集めるのはやぶさかでは無いが、何かがきっかけでバレてしまったら一巻の終わりである。まあ嫌ではないが。

やる事はやれるだけ終え、名残惜しいが此処らで退散するのが良いだろう。

「で、この後どうするんだ?警察に連絡でもするのか?」

「は?しないわよそんな事、彼女は一生このまま私以外の誰かが見つけ出すまで此処で過ごしてもらう事になるわ」

先程まで興味津々だった死体には目もくれずに彼女は言い放つ。

確かに公衆電話を使って通報してもこんな辺境にある死体を見つけた時点で何かしらの疑いは掛かるだろう。そうしてしまえばこの手帳も彼女の手帳も失われてしまい、この楽しい探索会はお開きになるだろう。

「さいですか。まあ雪ノ下の好きにすればいいさこれは初めからお前の案件だからな、俺が口を挟む道理はない訳だ」

やれやれと両腕を上げ降伏のポーズを取る。どちらに転んでも俺には何もないんだから彼女に従ったほうがいいだろう。まあ通報した後に発表される、メディアによって根掘り葉掘り個人のプライバシーを踏みにじられたこの遺体の情報の発表会が気にならない訳ではないが。

「そうよ、わかっているじゃない。比企谷くんに私の指示に従う以外の選択肢など無いと言う事にようやく気づいた様ね」

フフフと平坦に笑う彼女に呆れながらも、来た道を辿って麓に下って行く。行きと違って迷う心配がない為か来た時よりも気持ち早く感じた。

しかし、疲れは余り変わらない様で途中の蕎麦屋で休憩する事になった。お互い文化部でインドア派なので体力がない事が悔やまれたが、此れはこれで普通に出掛けた思い出になるので良しとしよう。

こう言った話を家に帰った際にすると小町が安心した様な表情をするので、今回見たいな青春っぽいイベントに付き合う事は悪い気分では無い。

麓の蕎麦屋は特に繁盛はしていない様で駐車場もガラガラで、中に入ると俺達以外の客の姿は見えなかった。時間帯的にも昼食の時間は過ぎているせいも有るだろうが。

中に入ると、珍しく個室があったのでそこに案内してもらう。中に入り看板メニューなのかざる蕎麦を勧められたのでそれを注文し頂いた。

昼食を終え、彼女は先程の光景の余韻を楽しんでいる様に目を閉じて壁に寄り掛かっている。もしかして寝てない?と思ったが俺の視線に気付いたのか、余り見る物じゃ無いと咎められ代わりに先程回収した遺体の持ち物だった鞄を渡される。見ていいと言う事だろうか。

ならば遠慮せずに、と鞄を開き中身を物色する。

水口ナナミ、鞄の中の学生証に彼女の名前が書かれていた。年は俺達よりも二つ上の大学一年生で隣の県に住んでいる事が分かった。

他にも彼女の友達だろうか、大勢の人達と写ったプリクラが切らられていない状態でしまわれていた。彼女は陽キャラでリア充だったのだろう、今頃彼女の友達とかが心配していると思うと胸がスッとする。

そんなこんなで彼女が目を開き、会計を済ませた後お開きとなった。

 

 

 

 

長い旅の様な1日が終わり帰宅する。

玄関で小町に出迎えられ、麓で適当に買ったお土産を渡すと彼女は喜びながらリビングへと戻っていった。あの、もう少し俺に優しくしてくれても良いんじゃ無いですかね…

そんな事はさて置き、靴を脱いで自室へと向かう。今日撮った写真をパソコンに入れておかなくてはいけない。

カメラのデータをパソコンに移していると携帯電がなった。どうやらメールが来た様だ、俺にメールなんてするのは親か小町くらいだろう。親は何かあったら小町に優先的に連絡するので親の線は無しで、かと言って小町は下に居るのでわざわざメールなど寄越さずにこの部屋に来るだろう。

残る可能性は一つだ。

携帯を取り、送信者を確認すると画面には雪ノ下の文字が表示されていた。今日待ち合わせの際に彼女に教えたのだった。

内容は単純に一言「手帳を返して」だった。

前置きも建前もない実に彼女らしいメールに噴き出しそうになる。

オーケーと返事をすると、「それじゃあ明日駅前のファーストフード店に集合ね」と返って来てその後に「忘れてたわ」と集合時間が送られて来て彼女とにやり取りはそれきりだった。

出来ればこのまま借りパクと行きたいとこだったが、どうやらそれを彼女は許さないらしい。どうにか手元に残せないかと思ったがあの雪ノ下を出し抜ける案は思い付かなかった。

「はあ」

溜息を吐きながら手帳を取り出して、明日使うであろう今日と比べて小さ目のバックに収める。手帳の内容をパソコンで写そうとしたが明日の指定された時間が早い事もあってか、諦めて寝る事にした。仮に徹夜で打ち込んで遅刻したら、文字通りの酷い目に合うだろう。

 

 

 

 

 

 

そして迎えた日曜日。彼女の指定したファーストフード店に着き注文した飲み物に口をつけ待っていると、昨日とはまるで別人と化した雪の下が現れた。

雪の下がメタモルフォーゼした訳では無いが、彼女の服装が昨日の目立たない暗めの服装だったのに対して今回は明るく露出も多めで、まるで都会に良くいるイケイケの大学生の様だった。

「待たせたわね比企谷くん」

最初は誰だか分からなかったが、その声でようやく雪ノ下だと判断する。化粧もしているのだろうか、女性は化けると言った物だが此処までとは正直思わなかった。

俺のテーブルに着いて今まで見た事のない表情で笑う彼女を見て察する。何処かで見たような彼女の服装は昨日見た水口ナナミの物に近い物だった。

実際のものは遺体と共に切り裂かれているので着る事は出来ない筈なので、何処からか調達したのだろう。良く見ると微妙にサイズが大きいのかダボっとしているのが分かる。大方家族か友達にでも借りたのだろう、彼女に友達がいる事は考えづらいが…。

「なんだその格好は?当分その格好で過ごすつもりか」

飲み終わった紙コップを握り潰しながら彼女に問いかける。

「ええ、そう言う事になるから今日は宜しくね、比企谷くん」

前髪を気にしたり普段は見もしない携帯を弄ったり、今の彼女の様子を見るにどうやら今日の彼女は水口ナナミを仕草のレベルまで再現している様だ。まあ実際に会った事は無いのだから彼女の想像による物だろうがな。

「さあ、行きましょうか比企谷君。今日は貴方がエスコートして頂戴」

にこりと他の人が見れば可愛いであろう彼女の笑顔が今は不気味に写った。当人の印象を大幅にズレた行動をされるとこうも他人に対して拒絶感が出るのかと思い知る。

ゴミを捨て、ファーストフードを出ると彼女が自然に腕を組んできた。普段なら彼女が絶対しない行為、今俺は死んだ水口ナナミとてを組んでいるのだろう。



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暗黒系4

駅で彼女と別れ家へと戻る。

結局彼女は俺が指摘するまで手を離す事はなく、自然にそうしていた様だった。

家に着き台所で作業している小町を横目にテレビをつける。内容は日常の一部と化すくらいに放送されている猟奇的殺人の特集だった。

よくもまあ同じ内容を何回も繰り返せるなと思いながらも、つけっぱなしにされたテレビを眺める。こうしてあれから何度もニュースを眺めているが水口ナナミの情報は放送されない。

彼女は今尚あの人里離れた寂しい森林の中で飾られ続けているのだろう。

ニュースは犯人捜索の状況から遺族の内容へと切り替わり、インタビューだろうか家の玄関で泣き崩れる遺族と共に被害者の顔写真が表示される。怨恨なり殺害された人に殺される理由が無ければ被害者には大体の共通点がある事が多い。大体は大人しそうな人や抵抗しない小柄の子供などをよく見るが、水口ナナミを含めて被害者に共通するものはそう言ったものでは無く、俺の直感で言わせともらうと雰囲気だろうかどの被害者にも共通して髪型や服装が今日の雪ノ下に類似していた。

まさか考えすぎではないかと思ったが、こう言った時の不安と言うのは案外当たり易い物でテーブルに放置していた俺の携帯が振動する。

「助けて」

携帯に届いたメールに表示されたのはその言葉ただ一つだった。主語が無いのでそこは想像になるがどうやら彼女に危機が迫っている様だ。

間違いか悪戯だと面倒なので、どうしたとメールを送る。しかし食事を取りながら一時間ほど待っても彼女から返事が返ってくる事なく、その日俺の携帯が鳴る事は無かった。

 

 

 

 

起床時刻になり目覚ましが部屋に鳴り響き目が覚める。

昨日の夜のメールの後、流石に夢見が悪いので彼女の家に電話した。彼女の家の電話番号を知らないので仕方無しに電話番号を平塚先生から聞き出す、幸い何処かで飲んでいたのか高いテンションでよく分からない愚痴を一方的にに喋られた後、気分が良かったのか何の問答もなく彼女の実家の番号を喋ってくれた。

個人情報の管理がずさんだなと思いながらメモした彼女の自宅へ連絡する。雪ノ下は普段一人暮らしだが、水口ナナミの格好を真似るために一度実家にへと帰っていると言っていたので荷物もそこにある可能性が高い。

「はい雪ノ下です」

電話に出たのは大学生だろうか…そう言えば姉が居ると前言っていた事を思い出す。大人にしては若い声で喋るので多分雪ノ下姉が受話器をとり俺の相手をしてくれた。

電話の料金を気にしながら雪ノ下の安否を確認したが、どうやら彼女はまだ帰ってきて居ないらしい。それに彼女が誰かの家に外泊する事はそうそう無いらしく姉も心配していたのが電話越しの声に不安が混ざる。

「ところで君は雪乃ちゃんの彼氏かな?」

話をしているうちに気になったのだろうか、下衆な事を聞いてくる。年頃なのかどうも男女といる事でこう言った事を聞いてくる輩が多くて困る。

「違います」

「そんなに照れなくても良いのに、突然家に来て私の服を貸してくれなんて言うからビックリしたけど、それはこう言う事だったんだね」

キッパリと否定するが、姉は疑い深いのか俺の話を信じようとはしなかった。

「はあ…そう言えば彼女の私物に手帳がありませんでした?」

彼女が居ない以上あの手帳は俺の物にしても良いだろう、もし彼女がこの先帰る事が無ければ俺の指紋も付いたあの手帳は警察に届けられる事になるので厄介な事になる。間違えなくあの遺体は発見され、誘拐の容疑は俺にも掛かるだろう。そうなってしまえば家族に迷惑をかける。

「ちょっと待っててね、今見てくるから」

音声が保留の待機音へと切り替わり受話器から何処かで聞いた懐かしいメロディが流れる。

「お待たせ、ちょうど机の上に確かにあの子が使わなそうな手帳があったけどこれの事かな?」

雪ノ下姉が言った特徴は正に探していた手帳そのものだった。手帳を開いて見ていた所を犯人に見られて襲われた様では無い様だ。だとしたら犯人は単純に雪ノ下を好みで襲った事になる、であればまだ生きている可能性が少しだがありそうだ。犯人が手帳を無くしてからまだ日が浅い、肢体で芸術作品を作る以上死後硬直が始まる都合があるので鮮度は重要だ。犯人は自身の安全が確認出来るまでは手を出さないだろう。

「あ、多分それです」

「へぇ、この手帳君のなんだ、随分と渋い趣味してるんだね…えっと…」

「比企谷です、中身は読まないで下さいね。恥ずかしい内容が書いてあるので」

「あそうそう、うん?ヒキ…ヒキガヤ?…。あぁ…比企谷君ね…」

改めて名前を名乗ると何かに引っ掛かったのかしばらく無言が続くが、何処かで府に落ちたのかさっきまでの明る良い印象に戻った。

「でも恥ずかしい内容かそう言われると逆に気になるな…あ!そうか交換日記だな‼︎やっぱり付き合ってるじゃんこのこの」

「だから違いますってば、それでその手帳を申し訳ないんですけど速達で今から言う住所に送ってもらえませんか?送料はこっち持ちで構いませんので」

「それは面倒だから私は持ってきてあげるよ、比企谷君とはお話をしてみたいしね。それに明日は学校に行くでしょ、私もそこに用があるからその時に渡すよ」

はあ、何だか面倒な展開になってきた様だと内心思ったが、届くまでの手間が省けたのでよしとする事にした。

「じゃあまた明日ね比企谷君、雪乃ちゃん多分今借りている部屋に帰っただけだと思うから心配しなくてもいいよ」

雪ノ下姉はそう言い残し電話を切った。彼女なりに気を使ってくれたのか今雪ノ下はマンションにいる事になっているらしい。

それは明日来れば分かるとして明日あの雪ノ下姉と会うのか…

受話器を下ろし俺はそのまま眠りに着く。もしあのまま雪ノ下が殺されるとしたらどの様に飾り付けられるのだろうか?想像に想像を重ねて面白くなったところで意識が微睡む。仮にそれが現実となったとしても犯人の記した新しい手帳はどうやって見れば良いのだろうか?

 

 

 

 

玄関で靴を履き替え学校に向かう。あれから雪ノ下からのメールの返信は無いが果たして彼女は無事なのだろうか。

学校に向かい授業を受け放課後になる。結局雪ノ下姉は現れる事は無かったが最後の国語の終わりに平塚先生から呼び出しをくらう。

特に何かした覚えは無いので一体何があるのかと思ったが、呼び出された部屋が職員室ではなく来賓室という事で大体の察しがついた。

「やあ、君が比企谷君だね。へえ〜」

部屋に入って早々雪ノ下姉は見定める様に俺を頭から爪先まで見ると、何か納得した様によしと頷きこっちに来る様に促した。

「比企谷来たか、まあ座れ。私に用は無いが陽乃がお前に用があるみたいでな、こうして呼んだわけだ」

部屋にはテーブルを挟んで二人が対面に椅子が設置されており、雪ノ下姉の言う通りに座るにはどちらかの隣に行かなくてはならない。

「比企谷君は私の隣に座りなよ」

アタフタしているとそれを見兼ねたのか、雪ノ下姉が自分のの隣に座る様に促す。出来れば立ったまま済ませたかったがそうは行かなかないらしい。

諦めて彼女の隣に座ると、距離を詰められる。

「はいコレ、君が言っていた交換日記だよ、安心して中身は見ていないから。それで君は雪乃ちゃんとどこまで行ったのかな〜?」

雪ノ下姉が手提のバックから手帳を出して渡される。流石に此処で開くわけには行かないので外観で判断しないといけないが、癖の強いデザインだったのもあってか一目でそれだと気付く。

「何?比企谷お前雪ノ下と付き合っていたのか⁉︎」

雪ノ下姉の言葉を聞いて勘違いしたのか平塚先生が乗り出した。



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