ルパン三世 ナザリック狂想曲 (マモー)
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1話

 西暦2129年・東京・アーコロジー『サイド3』外周都市『32バンチ』

 

 

 環境汚染が進み荒廃した22世紀。

 人類は環境を完全に管理したアーコロジーとその外周都市に別れ生活していた。

 その外周都市のビルの一室から物語は始まる。

 

 薄暗く、合成食料や何かのパーツが散乱する部屋。

 その部屋に一人の男が入ってきた。

 アゴヒゲを生やしダークスーツとソフト帽の男はガスマスクを外すと不満を口にする。

 

「全く、外を出歩くのにマスクがいるたぁ。とんだ未来もあったもんだぜ」

 

 その言葉を聞き、壁にもたれた時代錯誤の侍が声を上げた。

 

「左様。拙者も今だ悪い夢ではないかと思うぞ」

 

 今度はそれを聞いた赤のジャケットの男がパソコンの画面を眺めながら答える。

 

「残~念だっけどもがな? 正真正銘、ここが俺達のいた世界の未来らしいわ。これ見そしょーゆ?」

 

「何々? 2020年9月20日の無差別テロを受け国立研究所は現時点での治療が難しいと判断した患者千人を新開発の冷凍蘇生装置の被検体に使用した。以下は患者の一覧である。お、おい! これは!?」

 

 その名簿に書かれた名前に見覚えのある物を見つける、その名前とは。

 

「どーやら俺達はモルモットにされたみてぇだぜ?」

 

『石川五エ門』

『次元大介』

『峰不二子』

 

 

『ルパン三世』

 

 

 

ルパン三世 ナザリック狂騒曲 

 

 

 

 画面から離れたスーツの俺、次元大介がソファーへとドカリと座る。

 

「確かその日はいつも通り銭形のとっつぁんに追っかけられてたと思ったが、名簿にねぇって事は死んじまったか?」

 

「とぉころがどっこい。さぁっすがはとっつぁんだぜ、昔の警察のデータベースを漁ってみたらよ? とっつぁんは奇跡的に軽傷だったんだっけどもがな? どぉやら自分から冷凍装置に入っちまったらしいわ」

 

「と言うことは銭形もこの時代に来ておるのか」

 

「まーそうなるわな。だーがよ? とっつぁんの居ねぇ世界で暴れたってワサビのねぇ寿司、気の抜けたコーラ、面白みがねぇってもんだぜ」

 

「けっ! 暴れようったってどうするつもりだルパン? ここには昔のアジトも情報網もないんだぞ? 目覚めてからのこの半年だって、なんとか昔のお宝を回収していくらか金を手に入れたからだ。いっその事ぜーんぶ綺麗さっぱり金に変えときゃもう少しマシな生活が出来たかもな?」

 

「そう言うない次元、そう気軽に売っちまえる軽ーいお宝なんてそうそう持っちゃいねぇのよ。せぇーっかくのルパンコレクションだしな。それよりコイツを見てみな?」

 

 ルパンが指し示した画面にはとある男のプロフィールが映し出されていた。

 

「帆場暎一(ほば えいいち)? 東京都出身、年齢不明、経歴不明、病歴および身体的特徴不明? 何だこりゃあ?」

 

「どうやら奴さん、自分のデータ全部を消しちまったらしい。分かってることは冷凍装置の基本プログラムを組み上げ、計画の中心に居た若き天才ってぇだけだ。それと、コレ」

 

 ルパンが取り出したのは古びた手帳だった。

 

「日記、か」

 

「大当り、流石は五エ門ちゃん冴えてるぜぇ」

 

「その日記がどうしたってんだ?」

 

「この日記には『計画の全てをあるものに隠した』とある」

 

「あるもの?」

 

 いぶかしむ次元の声にルパンはどこからともなく奇妙なヘルメットを取り出した。

 

「そこで必要なのがコイツ、電脳世界ダイブセットてわけだ」

 

「電脳世界だぁ?」

 

「さぁーっすがは未来の世界だぜ。インターネットって奴が進歩してよ、今じゃ意識ごとネットの海へダイブできるってぇわけよ」

 

「じゃあその計画って奴は広大なネットの海に眠ってるってのか!? おいルパン、今度ばかりは流石に無理だぜ。なんせインターネットって奴は無茶苦茶に広いんだからな」

 

「まぁ、待てって。探す場所はもうわかってんのよ? ジャーン! 新時代のDMMO-RPG『ユグドラシル』ー!」

 

「RPGってルパン、そりゃあただのゲームじゃねえか!」

 

「そうよ?」

 

「じゃあ何か? その計画ってのはそのゲームの中にあるってのかよ?」

 

「その通り」

 

「今回の件、拙者は降りる」

 

「五エ門と同じだ。バカバカしくてやってられねぇや。だいたいその情報も日記もどこから手に入れたもんなんだ?」

 

「不ー二子ちゃん」

 

「カァーッ! またあの女か! 百年以上眠ってても変わらねぇなルパン。あの女が関わってろくな目にあったことはないぜ? じゃあなルパン、達者でな」

 

「ままま、待ちなさいってば! この慌てん坊! いいか? この帆場ってヤツァな自分自身も装置を使ってこの時代で目を覚ましたんだ。そしてこのゲームの開発チームに潜り込みその中にデータを隠した。それもご丁寧にゲーム内からしかデータにアクセス出来ないようにしてだ」

 

「じゃあやっぱりそのゲームとやらをしなくちゃいけねえのか? 勘弁してくれ、いい歳こいてゲームなんざ」

 

「こぉれだから昭和の頭は。それにな? このデータを欲しがってる奴はそれなりに居るんだ。それこそ一億ドルの値が付く程にな」

 

「い、一億ドルだって!?」

 

「ああ、しかも帆場ご本人はゲームのリリース前に自殺しちまってこの世に居ねぇと来てる。一億ありゃあタバコや酒、白米だって手に入るんだぜ?」

 

「タバコ、酒」

 

「白米」

 

 ルパンの言葉に次元と五エ門は唸る。

 自然環境が崩壊したこの時代においてタバコも白米も酒も、すべては超が付くほどの高級品だった。

 

「そんじゃま、次の獲物は決まりってぇ事で。大泥棒ルパン様の職場復帰と参りましょうか? ぬふふふふふ」

 

 

………………。

 

 

 ところ変わって。

 サイド3内部、同警察署。

 そこに机に向かって黙々と仕事を片付ける男が居る。

 彼の名は『館 文彦(たち ふみひこ)』。同僚からは『たっち』と呼ばれ慕われている警察官だ。本人もその呼び方を気に入っているのか最近ハマっているゲームでもその名を付けて遊んでいる。

 館が帰ってからそのゲームで何をして遊ぶか考えていると警察署中に呼び出しの声が響いた。

 

『館巡査部長、館巡査部長、至急署長室に来るように!』

 

「おい館、どうした? まさか署長に呼び出されるような事でもやったのか?」

 

「いやまさか、特に何もしてないさ」

 

「どうだかなぁ。良くも悪くも真面目なお前の事だ、知らんウチに署長の尻尾を踏んづけててもおかしく無いからなぁ」

 

 館の同僚の言うとおり、現代の重役は大なり小なり後ろ暗い所を含んでいる。

 警察署署長たる身分ともなればその役職に就くためにどれほどの賄賂、恫喝、蹴り落としをして来たかは想像に難くない。

 現代において館ほど真面目で正義感の強い良いお巡りさんは少ないのである。

 

「コラァ! 篠原ぁ! 貴様くっちゃべっとらんで仕事を片付けんかぁっ!」

 

「なにをぅ!? そーゆー太田だってぜぇーんぜん進んどらんじゃないか!」

 

 同僚達の喧騒を他所に、館は仕方なく書類に向かう作業を止めて署長室へと向かった。

 

 署長室の近く迄来た時、その扉の前に誰かが立っているのが見える。

 彼はこちらに気がつくと片手を上げて声を掛けてきた。

 

「やぁ、館。すまんねー、急に呼び出して」

 

「後藤隊長、貴方も呼ばれたんですか?」

 

「いや、ほら。俺って君の直属の上司だしさぁ。なーんか厄介ごとみたいなんだわ、コレが」

 

 このオールバックで三百眼、やる気の欠片も無い無表情で水虫の男こそ、館の上司であり所属する隊の隊長である後藤喜一(ごとう きいち)警部補。

 彼は相変わらずのやる気の無い声でそう告げた。

 

「んじゃま、行くとしますか。後藤喜一警部補及び館文彦巡査部長、入室いたします」

 

「入れ」

 

 室内からの返答を受け、二人は中へと入る。

 

「「失礼します」」

 

「うむ」

 

 署長室に入るとそこには眼鏡をかけた神経質そうな男が座っていた。

 彼は福島隆浩(ふくしま たかひろ)警視。

 警視庁及び各アーコロジーの慢性的警察官不足によって特例的に警視でありながらサイド3署の署長に収まっている男である。

 

「君たちを呼んだのはコレの事だ」

 

 福島はそう言って一つの書類を差し出す。

 それを受け取った後藤は書類を流し読みして首を傾げた。

 

「広域Aランク犯罪者記号P26号、通称ルパン三世に関する捜査協力依頼? なんですこれ? しかも今時紙の書類とはねぇ」

 

「問題はそれなんだ。書類の制作年月日を見てみたまえ」

 

「えーっと、西暦2020年11月5日になってますが?」

 

「せ、西暦2020年って百年以上前じゃないですか!」

 

「依頼書には『期限を定めず、本書類を提示された警察機構は速やかに協力するべし』とある。それも当時の内閣総理大臣、国務大臣、都公安委員会委員長、警視総監、各都道府県警察本部長。極め付けは国際組織たるICPO事務総長を含める全て直筆のサイン入りでだ」

 

「インターポールまで」

 

「しかし、なぜこんな古い書類が今頃になって?」

 

 福島は絞り出すように声を発する。

 

「提示されたんだ。正式にこの権限を持つ者から協力を依頼された」

 

「権限を持つ者って、その人もう爺さんでしょう?」

 

 後藤がそう言って頭をかいた時、入り口の扉が開かれ一人の男が部屋へと入って来た。

 ドラム式のテープとフロッピーディスクを満載したカートをガラガラと押して入ってくるベージュのトレンチコートとソフト帽のその男は入って来るなり後藤と館を一瞥し非難の声をあげる。

 

「年寄り扱いはやめて欲しいもんですな。署長、こちらが私の助手ですかな?」

 

「はぁ……。後藤くん、館くん、紹介しよう。こちらがルパン三世専任捜査官の……」

 

「警視庁刑事部捜査二課、現在ICPO総務局国際協力部第一課に出向しております。ルパン三世専任捜査官の銭形であります。階級は警部、以後よろしく」

 

「「は、はぁ」」

 

「ワシはルパン逮捕に関しては世界中どの国でも捜査権を認められておるのです。その書類しかり、例え時代を越えようとこの世界にルパンある限りワシはヤツを逮捕せねばならんのです! その為にはこの過去から持って来たルパンに関する資料。データテープ全16巻、追加の資料ディスク1348枚がきっと役に立つはず。まぁ、ルパンはワシでなければ逮捕できませんがな。なんせ奴は……」

 

「銭形くん!!」

 

「は、はぇ?」

 

「ごほんっ! まず、そのデータを見る為の機材は博物館にでも行かないと手に入らないし、彼らへの説明もまだすんでおらん!」

 

「こ、これは失礼しました」

 

「とにかく! 後藤くん、君の隊から銭形警部の補佐として館巡査部長を任命する」

 

「これは困りましたなぁ。ウチの数少ない比較的まとまな人材を取られては。それにうちは警備部特殊車両二課なんですがね?」

 

「現代の警察機構において他所に割ける人材は無い。唯一白羽の矢がたったのがまともじゃ無い君の隊だっただけだ。あと君が比較しているのはあくまで君の隊内での話だろう」

 

 言外に自分がまともではないと言われ館は若干面白くないが、上司二人の話し合いは決着が付いたようだ。

 

「本日一二〇〇時をもって警視庁警備部特車二課第二小隊内にルパン三世捜査隊を編成する、また同時刻から第二小隊に銭形警部を編入、館巡査部長は警部の元に付き共にルパン逮捕の任務に当たれ」

 

「特車二課第二小隊隊長後藤警部補、任務拝命しました」

 

「お、同じく館巡査部長、任務を拝命いたしました!」

 

「館くん、ルパン逮捕のためよろしく頼む」

 

「よ、よろしくお願いします、警部」

 

 こうして未来の日本警察もルパン逮捕に動き出すのであった。

 



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2話

「はーるばるやって参りましたユグドラシルー!」

 

 ユグドラシルの世界にルパンの声が響いた、と言ってもボイスチャットではあるが。

 ユグドラシルにログインしたルパン一味の前にはリアリティ溢れる古めかしい街並みが広がっていた。

 初心者が最初にログインする『はじまりの街』その中心部である泉の前だった。

 

「コレがゲームの世界、か」

 

「よく出来てはいるがやはりゲーム」

 

「まぁ、そう言うなよ五ェ門。次元、おめぇだってアースビルん時みたいなゴーグルでゲームやるよりゃマシってもんだろぉ?」

 

「金庫室の幻覚ゴーグルか、あんなのはもうゴメンだぜ」

 

「幻覚ゴーグル?」

 

「あぁ、そう言えば五ェ門ちゃんはあん時居なかったっけかな?」

 

 ルパン、次元の言う通り二人はかつてダグラス財団の超高層ビル最上階金庫室で人間のありとあらゆる感覚器官を欺くバーチャル防衛システムによって恐ろしい体験をしていた。

 ちなみに五ェ門はその時ゴーグルを着用していないので知らなかったようだ。

 

「んで? ルパン、そのデータとやらが何処にあるか目星はついてんのか?」

 

「まぁーったく?」

 

「はぁっ!? じゃあどうすんだよ!?」

 

 次元がルパンに詰め寄るが当の本人はどこ吹く風である。

 

「そぉれをこれから見つけようってんじゃぁないの、情報収集しやすい様にわざわざドッペルゲンガーなーんて種族取ったんだからよ」

 

 ルパンの言葉通り、ゲーム上の種族はドッペルゲンガーになっている。

 通常であればレベル1のプレイヤーが選ぶことのできない種族ではあるが、そこは資金があるルパン、それなりに課金してその見た目すら本人のリアルの姿そっくりに変更済みである。

 

「ったく、ゲーム初心者のクセして最初っから課金かよ」

 

「そーゆー次元も五ェ門も課金してんじゃないの。ちゃっかりしてんだからもぅ」

 

「俺ァリボルバーが好きなんだよ。俺はコイツを裏切らねぇし、コイツも俺を裏切らない」

 

「左様、ゲームと言えど刀を持たねば修行にならん。しかし、やはり我が半身は斬鉄剣のみ。くっ……」

 

「相変わらずお固いこって」

 

 次元も五ェ門も種族こそ人間ではあるが、装備品はリボルバー拳銃と刀を課金購入済みだった。

 本人達は愛用しているコンバットマグナムや斬鉄剣でない事に若干の不満が有る様だが、あくまでゲーム、仕方ない事である。

 

 すると周りを行き交っていたプレイヤー達がルパン達を見て何やらヒソヒソと言葉を交わし出す。

 

「おいルパン。なんだか様子が変だぞ?」

 

「あーれま、どうしちまったんだ?」

 

「歓迎的な雰囲気では無さそうだ」

 

 辺りの不穏な空気に警戒するルパン達だったが、通りの向こうからやって来た鎧の一団がルパンを指差して声を張り上げた。

 

「おい! こんな所に異形種がいるぞ! やっちまえ!!」

 

「「「おーっ!」」」

 

「な、何だぁ!? 何だぁ!?」

 

 いきり立ったプレイヤー達に急に襲われるルパン達は一目散に走り出した。

 

「おいルパン! 一体全体こりゃどーゆーこった!? お前何やらかした!!」

 

「うるへーっ! 俺が知るかぁそんなもーん!!」

 

「ルパン! 状況がわからん、ここは一度別れるぞ」

 

 五ェ門の言葉にルパン達はそれぞれ違う道へと駆け込んだ。

 しかし、鎧の集団は全員そのままルパンを追いかけて行ってしまう。

 

「なーんで全員こっちに来んだよぉーっ!!」

 

「「ルパン!」」

 

「次元ー! 五ェ門ー! 情報収集頼んだぜーー!!」

 

 ルパンはそう言い残し街の外へと消えて行った。

 

 

 

……………。

 

 

 

「まぁったく、いきなりなぁーんだってんだ」

 

 はじまりの街近くの森。

 その木々の下をトボトボと歩くルパンの姿があった。

 散々と追い回され、なんとかここまで逃げて来たのだ。

 本来ならログインしたてのレベル1のプレイヤーが低レベルとはいえ自分より上のプレイヤーの集団から逃げ出すと言うのは本来不可能と言っても過言ではない、これはルパンのリアルでのステータスの高さゆえになせる事だった。

 

「そぉれにしても、一体どこだここぁ? 世紀の大泥棒が迷子たぁ、みぃっともねぇったらありゃしねぇってんだよなぁ」

 

 初めてのユグドラシル、地理もわからず走り回ったおかげであろうことか、かの大怪盗は森で絶賛迷子であった。

 ぶつぶつと文句を垂れながら森を歩くルパン。

 すると近くの茂みからボロいローブを纏った人影がこちらを見ているのに気が付いた。

 その人物も気付かれた事を理解してからおずおずと両手を上げてこちらへやって来た。

 

「あのー、すいませーん。異形種プレイの方ですよね?」

 

「なんだぁ? イカにもタコにも異形種ってヤツだっけどもがなぁ? おたくどっちらさんよぉ?」

 

「いやぁー、同じ異形種の人がいて良かった。街から飛び出してくるのが見えたんでまさかと思ったんですが」

 

 そう言って被っていたフードを下ろすとそこには真っ白な骨の顔があった。

 

「ぬわぁ!?」

 

「いや、私もプレイヤーですからね? 貴方と同じ異形種ですからね?」

 

 驚いて半歩下がるルパンにその骸骨は苦笑しながら語りかける。

 

「バッキャロー! ビぃックリさぁせやぁがってぇ、一言先に言っとけぇってんだ!」

 

「あ、えと、ごめんなさい?」

 

 かなりの剣幕で怒鳴るルパンに骸骨男も仕方なくも謝るしかない。

 

「でぇーもよ? なぁーんで俺が異形種だってわかったんだ? 見た目は金掛けて人間にしてんだっけどもがなぁ?」

 

「え? あの、見た目のスキンだけ変えても、隠匿系の魔法かスキルが無いと見ただけですぐにわかりますよ?」

 

「なんてこったい……」

 

 ガイコツのその言葉に落ち込むルパン、見た目もリアルの姿そのままにする為に課金したのだ。

 

「はは……ゲーム初心者なんですか? 私も最近初めたんですけど。あ、モモンガって言います」

 

「モモンガちゃんね。んで、なんの用よ?」

 

「いや、あの、よかったら一緒にプレイ出来ないかなーなんて、ハハ。あ、あの、お名前は?」

 

「俺か? 俺の名はルパン三世、かの怪盗アルセーヌ・ルパンの孫だ」

 

「ルパン?」

 

「おいおい、まさかお前さんルパンの名をしらねぇんじゃねっだろなぁ?」

 

「す、すみません」

 

「がっくし……」

 

「あ、あの! す、すぐに調べますから!!」

 

 そう言うや、モモンガはすぐにコンソールを開き何やら調べ始めた。

 

「あ、ありました。えーっと、ルパン三世? ……へぇー、概要見ただけでも凄い人なんですねぇ」

 

「そーでしょうとも、そーでしょうとも!」

 

 モモンガの褒め言葉に気を良くするルパンであったが。

 

「ファンなんですか?」

 

「ファっ、ファンだってぇ!?」

 

「え? いや、だってルパン三世ってもう百年以上前の人物ですし。実際、あまりの史実にアニメ化や映画化もされてますし……あ」

 

 そこまで言ってモモンガは思い当たる。

 つまりそう言う事か、と。

 つまりこの人はルパン三世のなりきりプレイヤー、つまりこれはロールプレイなのだ、と。

 

「へぇー、未来じゃ俺様映画になんてなってんの、肖像権の侵害じゃないかしら?」

 

「未来? あー、そう言う設定なんですね」

 

「なに?」

 

「いえいえ、なんでも無いですよ」

 

 ルパンがモモンガに思いっきり気を使われていた時、茂みからさっきまでルパンを追いかけていた集団が飛び出して来た。

 

「「あ」」

 

 その先頭の人物とルパンはバッチリと目があってしまう。

 

「さ、さっきの異形種!! 仲間が居たのかぁ!?」

 

「げぇっ!? とっつぁん程じゃ無いにしろしっつけーってんだよ!!」

 

「まさか異形種狩り!?」

 

「逃げるぞモモンガ!」

 

「え? ちょっ、まっ!!」

 

「逃すかぁ!!」

 

 こうしてガイコツを加えて二度目の追いかけっこが始まったのだった。

 



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3話

 ユグドラシル、始まりの街近くの森。

 たっち・みーこと館文彦はさっきまでの事を思い出していた。

 

 アーコロジー、高級居酒屋『HANAKO』。

 ちゃんとした料理自体が貴重なこの時代、この様なちゃんとした居酒屋もちょっとお高くなるのは無理も無い。

 そんな居酒屋の座敷で、顔を突き合わせる二人がいた。

 

「あの、警部? そ、それなに食べてるんですか?」

 

「うるせぇ、あんな不味い合成食料じゃ出せるチカラも出やしねぇってんだ! 日本人なら米を食え! 米を!」

 

 そう言って納豆ご飯をかき込む銭形とそれを眺める館、そして。

 

「いやー、すいませんね遅れちゃって」

 

「うわー、遊馬、私初めてこーゆーとこに入ったよ」

 

「でも本当に良いんでしょうか、僕らがご馳走になって」

 

「貴様、警部のお心遣いがわからんのか! 日夜職務に励む我々へのせっかくのお誘いだぞ! にもかかわらず進士のヤツめ、なぁーにが嫁さんが待ってるからだ、さっさと帰りおってぇ!!」

 

「よしなさい太田くん、家庭の事だもの仕方がないわ」

 

 後から座敷にやって来たのは館の仲間、特車二課第二小隊の面々である。

 上から篠原遊馬、泉野明、山崎ひろみ、太田功、熊耳武諸。

 先の太田の発言のとおり、進士幹泰は帰宅、香貫花・クランシー、空谷みどり両名は私用のため欠席、隊長の後藤も先約があるとかで欠席だ。

 

 すると銭形は遊馬の顔をジーと見つめだす。

 

「あーっと、俺の顔に何か?」

 

「……ルパーン! 逮捕だぁっ!!」

 

「いででででででっ!!??」

 

 言うや銭形は遊馬に飛び掛かり顔を引っ張り回す。

 飛び掛かられた遊馬は訳も分からず悲鳴を上げるしか出来なかった。

 

「ちょっ、ちょっと警部!? 何するんですか!?」

 

「ど、どう言う事!? あ、遊馬がルパン!?」

 

「篠原、貴様ぁ!!」

 

「んな訳あるかぁーっ! なんとかしてくれぇーっ!!」

 

「なんだ、ルパンじゃないのか」

 

 ガッカリとした様子で遊馬から手を離す銭形と若干涙目の遊馬、呆然とした居酒屋の個室。

 いきなり顔を引っ張り回された遊馬が怒るのも無理は無い。

 

「なにすんだ一体!?」

 

「い、いやぁ、すまん。一時期のルパンの声とそっくりだったもんで、つい」

 

「そんないい加減な理由で押し倒されたのかよ!?」

 

 そこに野明が疑問の声をあげる。

 

「ルパンって変装の名人って聞いてますけど、声とかも変わるんですか?」

 

「ああ、その通り。顔は勿論のこと背格好から声帯、性別まで変幻自在だ。一昔前の指紋認証、網膜認証、声帯認証なんてセキュリティは飾りにもならん! それに素顔すら不明と来てる」

 

「す、素顔すら分からないって。どうやってルパンだって見分けるんですか!?」

 

 館の疑問ももっともである。

 

「ワシはヤツとはなが〜い付き合いだからな、一目見ただけでピンと来る。まぁ、心配せんでもヤツは基本的に細部は違えどこのモンキー顔だ。この顔を見たらとりあえずとっ捕まえとけば問題無い」

 

「そんな無茶苦茶な」

 

 隊員一同席につき、銭形の出したルパンの顔写真を見つめるが、この顔を見たらとりあえず捕まえろと言うのはさすがに信じがたいものがあった。

 

「それじゃあ指名手配できないですね。なんたって顔の情報が曖昧なんですから」

 

 山崎の言葉に銭形は首を横に振る。

 

「顔が分からないから手配出来ない訳じゃあ無い。まずルパンという男は現行犯でないと逮捕出来んのだ」

 

「それは一体」

 

 熊耳は眉をひそめるが、銭形がそれに応えた。

 

「簡単な事だ。ヤツがやったと言う証拠が何にも無いんだからな。予告状を出し、多くの警察官の前に姿を晒してもなお、一切の証拠が無い」

 

「自分は納得いきません! そんな馬鹿な話が!」

 

 いきり立った太田が机を叩く。

 

「そう馬鹿な話だ。ヤツの盗みの腕のおかげでな。しかし、ワシにはルパンを追い、逮捕する権限と責務がある! この責任に掛けて漢銭形、必ずやルパンめを逮捕する。それがワシをこの時代へと送り出した者たちへの礼儀なのだ!!」

 

「警部殿! 貴方は警察官の鑑です! 是非自分に捜査をさせて下さい! 必ずルパンの土手っ腹に銃弾をぶち込んで見せます!」

 

「こらぁ! 殺しちゃいかん!」

 

「太田のバカは撃ちたいだけだろ」

 

「俺に銃を撃たせろおおおぉぉぉっ!!!」

 

 太田がお約束みたく叫んだところで食事会の始まりである。

 

「ともかく! 君たちの貴重な戦力をルパン捜査の為に引き抜く事になる。その礼と言っては何だが、今日は好きなだけ食べて英気を養うと良い。遠慮は要らんぞ! がっはっはっはっ!」

 

「んじゃま、お言葉に甘えて。すいませーん、生くださーい!」

 

「篠原ぁ! 貴様、少しは有り難みというものをだなぁ!!」

 

「まぁまぁ、太田さん。せっかく機会ですから」

 

 各々が好き勝手に喋る中、銭形が疑問を口にする。

 

「そう言えば、君ら特車二課というのはなんなんだ? ワシの時代には特車隊はあったが、二課なんて無かったが?」

 

「へぇー、警部って本当に百年前の人なんだ」

 

「まぁ、私たちの部署が出来たのは最近だからね」

 

 館は感慨深く頷く。

 それを見た遊馬が助け舟を出した。

 

「物思いにふける前に警部の質問に答えるとこだろ? 太田、出番」

 

「うぉっほん!!

 

 レイバー、それは作業用に開発されたロボットの総称である。建設・土木の分野に広く普及したがレイバーによる犯罪も急増、警視庁は特科車両二課パトロールレイバー中隊を新設してこれに対抗した。通称『パトレイバー』の誕生である」

 

「はい、お疲れさん。と、まぁ、そういう訳で我々警視庁警備部特殊車両二課パトロールレイバー中隊は日夜凶悪なレイバー犯罪から市民を守っとると言うわけですな」

 

「レイバーが出始めてまだまだ日が浅いですからね。環境汚染された外の世界のどんな地形でも活動できるロボット。まぁ、ロボットとは言え、区分的には特殊車両、早い話が作業用の重機なんですが。それにマスクは必要ですし」

 

「ほぇー、どちらにせよワシからすればアニメか漫画の世界だな」

 

「私達からしたら警部の方がアニメのキャラに見えるけどねー。古い作品だから見た事はないけど」

 

「まぁ、ルパン三世シリーズと言えば大ヒット作品ですから」

 

「なんだぁそれは?」

 

「2067年からルパン三世を主人公にした漫画が始まりまして。アニメ化、映画化、テレビスペシャルなんかもやってましたから。勿論、銭形警部も出てたようで」

 

「へぇー、ワシらがアニメや映画にねぇ」

 

 銭形が感心していると、何やら熊耳がそわそわとしているではないか。

 見かねた館が問う。

 

「どうしたんですかお武さん?」

 

「あ、あの! 銭形警部!」

 

「な、何かな!?」

 

「よ、よろしければサインを頂けませんか?」

 

「ワシが? サイン?」

 

 熊耳が銭形に突き出したのは一枚のハンカチとペンだった。

 ちなみにこの時代では木材の不足も相まってサイン色紙というのは珍しいものである。

 

「えっと、じ、実はファン、でして」

 

「ファン? ワシの?」

 

「はい」

 

 お武のこの言葉に嬉し泣きも嬉し泣き、涙溢れさせながら銭形は嬉々としてハンカチにサインを書いたのだった。

 

「ああ、いいとも、いいとも! 苦節何十年、ルパン逮捕に身を捧げたワシの人生が認められる日が来ようとは、くぅ〜! ワシャぁ嬉しくて嬉しくて! よぉーっし! さぁ、みんなじゃんじゃん食ってくれぇ!」

 

「「「「「ご馳走様でーす!」」」」」

 

「ところで館くん?」

 

「なんですか警部?」

 

「これって経費で落ちるよな?」

 

「え゛!?」

 

 

 

 こうして特車二課の面々と存分に飲み食いをした後今日の所は解散となり、館はユグドラシルにログインしていた。

 ちなみに館は経費で落ちるとはこれっぽっちも思ってはいない。

 

「大丈夫なんだろうか……」

 

 自身のこれからに多少の不安を抱えつつユグドラシルを歩くが、その時木の向こうから怒声と争う様な音が聞こえて来た。

 館、いや、たっち・みーはすぐさまその方向へと走り出していた。

 



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