仮題名『死霊魔術師と、錬金術師』 (蜜柑ブタ)
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SS1  死霊の町の死霊魔術師

お試しプロローグ?



エルリック兄弟、死霊魔術師(オリキャラ)に出会う。


 ヒュウウウっと、空しく乾いたような、風が吹き抜ける。

「ちくしょう…、駅員の奴もっとまともな地図書けよな。」

「まあまあ、兄さん。歩いてればいずれ着くはずだよ。」

 外套を被った小柄な少年エドワード・エルリックと、ゴツい鎧の大柄な人物、アルフォンス・エルリックが並んで歩く。

 乾いた風は、枯れた草の匂いだけを運び、塗装されていない道を歩くおかしな組み合わせの二人組の心に空しい気持ちをわき上がらせる。

「……なんか寂しくなってきたよ。僕。」

「言うな。」

 

 

 キィイイイン

 

 

「なんか…音がしないか?」

「えっ? そう? あっ! 兄さん、あれ! 町だよ!」

 金が鳴り響くような、微かな音を聞いたエドワードが訝しんだ時、アルフォンスが遠くに見える建物群を見つけた。

「ああ…よかったぁ、見つからなかったらどうなるかと思ったね。」

 自然と早足になりながら二人は、町に入った。

 

 キィィィイイン

 

「……気のせいじゃないな。」

「なんか、音がするよ?」

 

「そこの……お二方…。」

 

「えっ?」

 寂れた町の中に入った直後、町の出入り口の横にあった倒れた樽の上に、老婆が座っていた。

「錬金術師…かね?」

「……なんで、そう思うんだよ? 婆ちゃん。」

「…錬金術師が来るとね……、この音が必ず、聞こえるんだよ…。」

「この金が響くような音が?」

「………死霊魔術師(ネクロマンサー)に御用かね?」

 それを言われ、二人は、思わずビクッとなった。

「なんで…それを?」

「こんなところに……御用のある人間なんざ……それしかないからねぇ。」

「そうですか…。」

「…で? …その死霊魔術師ってのは、どこにいんの?」

「この町の隅っこにいるさ…。この町はちっさいから見ればすぐ分かる……。ほいじゃ…、あんたらは、とり殺されないよう気をつけるんだね。」

「とりころさ…?」

「行っちゃったね。……どうする兄さん?」

 老婆が去り、アルフォンスがエドワードに聞いた。

「…せっかくここまで来たんだ。気は乗らないが行こうぜ。」

「うん。……マスタング大佐の用事を終わらせよう。」

 

 二人は、ある用事を頼まれ、この町に来たのだ。

 

 ロイから、国家錬金術師・ルトホルトが、死霊魔術師がいるとされる、通称・死霊(しれい)の町に行ったっきり消息不明になっていることを聞き、その行方を探すよう言われたのだ。

 

 気が乗らないが、国家錬金術師・ルトホルトが、生体錬金術を専攻していたことを知って、もしかしたら関係があるかも知れないと思い、重い腰をあげて死霊の町へ向かうことにしたのだ。

 

 二人には、ある目的がある。

 

 それは、賢者の石を手に入れ、かつて母親を蘇らせようとして失敗し、代償に失ったモノを取り戻すこと。

 

 エドワードは、左足を。アルフォンスは、魂も含めて全てを。

 

 そしてアルフォンスの魂を、エドワードが右腕を代償にして蘇らせ、今の鎧に定着させたのがアルフォンスの現在の状態だ。

 

 現在、失った右腕と左足を、オートメイルというサイボーグ技術で補い、二人は、元の身体に戻るための方法を探すため、エドワードは、国家錬金術師の資格を取ることで錬金術師の最大の禁忌である人体錬成の件を隠し、二人で旅をしている。

 

 人体錬成という禁忌に触れたこともあり、生体錬金術での代償を取り戻す手も考えているため、藁にも縋る思いもあってこの町へ来たのである。

 

 

 町の隅っこと聞いて、それほど大きくない小さな町を進んでいくと……。

「うっっ、わ…。」

「これって…。いかにも?」

 他の建物から離れた場所に、ボロ屋があり、そして動物の骨があちこちに飾られた悪趣味な家があった。

「看板まで律儀にあるしな。『死霊魔術師の家』ってな。うさんくせ~。」

「とりあえず…行く? 入る?」

「……仕方ねぇな。」

 そして、二人は渋々、嫌々、死霊魔術師の家に入るべく扉を開いた。

 チリンチリンと、扉に掛けられていた鈴が鳴る。

 その瞬間、ムワッと濃いタバコのにおいがして、エドワードは、顔を歪めた。

 

「……らっしゃい…。」

 

 薄暗い家の中。

 適当に置かれた家具に隠れるように置かれたテーブルの向こうに、テーブルの上に足を乗せて、タバコを吹かしている男が一人いた。

 家具の影になっていて、顔が見えない。

「うっ、わ!」

 アルフォンスが、建物の中を見てギョッとした。

 外にも無造作にあった動物の骨が、外以上に家の中に飾られていて、剣や槍や、ナイフなどまで壁に刺さっていた。

「……ご用件は? 錬金術師。」

「!」

 名乗ってもいないし、錬金術師であることも打ち明けていないのに、いきなり言われ、二人はビックリした。

「なんで…分かった?」

「分かるさ。」

 男は、テーブルから足をどけ、椅子に座り直す。

 

 キィイイイン

 

「この音…。」

「……コイツが…町に入った錬金術師のことを教えてくれる。」

 そう言って、影から出したのは、黄金に輝く人間の頭蓋骨だった。

 テーブルに置かれると、その頭蓋骨からあの音が聞こえてきた。

 男は、まるで目覚ましでも止めるように、頭蓋骨の上に手を置く。すると音が消えた。

「それで? ……今回はどんなご用件で?」

「……ルトホルトって名前を知ってるか?」

「あ~~…、そういやそんな名前だったか。」

「知ってるのか?」

「死んだ。」

 率直に言われ、二人は、ギョッとした。

「やめろって言ったのに…、聞かなかったんだ。」

「どういうことだ?」

「………死霊魔術を調べたいって言うから、教えた。その結果…、死んだ。」

「まさか…。」

「あんたが、…殺したのか?」

「違う。」

 身構えかけるエドワードと、アルフォンスに、男は、単調な口調ですぐにそう言った。

「……デーモンに殺された。」

「でーもん? 悪魔?」

「死霊…、悪霊とも言うな。生前、恨み辛みを抱えて死んだ魂の記憶とエネルギー。そういうものを総じて、俺達は…、デーモンと呼んでいる。」

「おれたち? あんた……、死霊魔術師…なのか?」

「そう…名乗ってきた、そう…呼ばれてきた、一族の末裔だ。」

 男は、椅子から立ち上がり、影から出てきた。

 

 ボサボサの黒髪と黒い目だが、ほんのり赤みがある、奇妙な色をしている。

 結構長身で、肉付きも悪くなく、顔立ちは、かなり整っており、無精ひげがなければ、相当な男前だろう。

 ただ…、妙な迫力がある。なんと言い表せばいいのか分からないが…。

 

 

「それで? この死霊魔術師、クサナカに、何の御用かな? 若い錬金術師のお二人さん。」

 

 

 死霊魔術師・クサナカと名乗った男は、無表情でタバコを吹かしながら聞いた。

 

 




連載するかは、未定。


まず、漫画を全部買う必要がある(1巻と、ガイドブックしかない)。


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設定など

ダラダラと無駄に長い、設定です。


wikiで見た、死霊魔術師の設定なども含めます。


 

 

 

◇死霊魔術について(ウィキペディアより)

・死体などを使った占い全般のこと。

・未来や過去を知るために死者を呼び出し、また情報を得るために一時的な生命を与えることを含む。なお、この場合の死者だが、死んだ肉体を扱うもので、死者の影だけ(あるいは霊魂?)を呼び出して聞き出す技術は「影占い」(いわゆる口寄せ)としては別とされる。

・手法としては、「程ほどに鮮度の良い死体」を使うもので、呼び出した霊魂にその死体を宛がって活をいれ、仮初めの生命を与えて情報を得ようとしたのである。この場合、死体に入る霊は死者の生前のそれではなく、しばしば低級な精霊(エレメンタル)や、デーモン(死霊、悪霊の類い)であった。

・近年のフィクションでは、ネクロマンシーは「死霊魔術」、ネクロマンサーは死霊魔術師とも訳され、死体からゾンビ、スケルトンなどを作り出す魔法使いであるとされる。

 

 

 

 

◇このネタにおける死霊魔術師

・死者の声を聞く、またはその声を自分の口から発する。(口寄せ)

・ただし、死者の魂がすでにこの世から離れすぎているとできない。または、死体に残留思念が残っていなかったり、死体が混ざりすぎているなどの理由で出来ない場合がある。

・ほとんどが本物ではない伝説やフィクションでしか語られていない存在であるため、文献や口伝が無く、その技法が正確に伝わっておらず、本物の死霊魔術師の家系は基本的に自分の感覚でのみ術を行使している。

・魂と精神の理論のうち、精神の記録を再生するのが口寄せの原理。そこに魂のエネルギーを少し与えることでイタコのように死者との会話を実行する。

・操れるデーモン(死霊、悪霊など)の正体は、魂のエネルギーに簡潔な精神(攻撃命令などの簡単な指示)を与えたもの。簡潔な精神の状態によっては、低級のデーモンなどになってしまい、術者を襲ってくるため、死霊魔術師の家系でない者が不完全な死霊魔術に手を出して失敗して死亡するケース多い。

・また術者が殺人を犯したり、間接的に怨みを買って怨みを持った人間が死亡していたりすると、身体にデーモンの元となる憎しみや怨みなどの濃厚な精神の記録が残っていることとなり、それがデーモンに反映されて攻撃を受けてしまうケースもある。

・デーモンは、基本的に実体はなく、活動するためのエネルギーと触媒が無ければ攻撃してこないが、恨み辛みなどの攻撃する精神が強いとエネルギーを得た途端に直接攻撃してくるため、とり殺されるというケースもある。

・錬金術師を見分けられる。特に真理の扉を開いたことがある錬金術師は一目で分かる。

・死霊魔術は、無限のエネルギーのある世界(縦や下では無く、横か斜めの世界。いわゆるパラレルワールド)からエネルギーをこちら側(術者がいる世界)へ流して利用する術(すべ)であると定義している。例えるならば、淡水の池(こちら側の世界)に、海の水(別世界のエネルギ-)を少量持ってくるみたいな感じ。

・つまり、一は全、全は一の錬金術師の法則を無視している。

・この理論が正しければ、多くの場所で、同時に多用しすぎれば、いずれ世界の法則自体が壊れるとみられる。つまり淡水の池に海の塩分が入りすぎて生態系が壊れるように。

・真理の扉は、別世界とこちら側の世界を隔てている人間の目で見て分かりやすくなった隔たりであるとしており、真理の扉を容易に出現させることが可能で、それを開くことが出来る人間の部位、脳がある頭蓋骨を、触媒として死霊魔術を発現させるのが主。そのため操っているデーモン(デビルメイクライの骨系悪魔)は、触媒にしている頭蓋骨が弱点となる。

・頭蓋骨ならば、骨のある動物のものであるならばなんでも良く、そこにデーモン(死霊や悪魔の類)を宿らせることで攻撃を行うことも出来る。

・頭蓋骨がなくとも、死体があれば、この世に未練を残す死霊を呼び寄せ、喋らせたり、攻撃を行うなども出来る。熟練者になれば遠隔操作も可能。

・大量にデーモン(死霊や悪霊)に憑かれている人間のデーモンを操って、とり殺すこともできる。

・先祖代々に伝わる黄金の頭蓋骨を所持している。黄金の頭蓋骨は、純金では無いらしい。誰の頭蓋骨なのかは不明だが、当時の人類全ての罪を背負って死んだ聖者の頭蓋骨だとも言われている。

・黄金の頭蓋骨と、死霊魔術に使用されたことがある頭蓋骨は、錬金術師が近づくと微かに振動して響くような音を鳴らす。死霊の町を保つために常時錬金が行われているため、錬金術師が町に入るとその音が聞こえる。

・代々、別世界からエネルギーを持ってきているため、血にエネルギーが蓄積され、心臓内で結晶化が進んでおり、死霊魔術師を襲名した者は、髪や眼に赤みが出てくるという特徴がある。つまり、心臓内部に完全物質である賢者の石が入っている。そのため、遙か昔に他の錬金術師達や血塗られた儀式を行う信仰者に心臓を狙われ、血筋が絶たれたと思われたが、死霊魔術師を名乗る虚偽の者達が多かったため、本物の死霊魔術師は細々と生き残っていた。

・実際のところ当時の死霊魔術師達の心臓からは石は取れず、血液が他人より等価交換の価値が高かったため後々の世に賢者の石の存在が赤いことと形が曖昧な物として伝わることになった。

・月日を重ねた結果、死霊魔術師を襲名する者の血に石が代々と移り、下記のオリキャラの心臓内部にはかなり大きな賢者の石が入ることになった。

・このことから、密かにその存在をホムンクルス達にも狙われており、下記のオリキャラが彼の祖父が作った結界である死霊の町から出てくるのを待たれていた。

 

 

 

 

◇死霊魔術師のオリキャラ

・名前:クサナカ

・職業:死霊魔術師(ネクロマンサー)

・年齢:外見年齢・二十代後半。

・性別・男。

・その他

 通称、死霊(しれい)の町で、死霊魔術師を名乗る家系の末裔。

 町全体を死霊達とデーモンによって町に見せかけている。(つまり町民は全員死体)

 先祖代々から伝わる、黄金の頭蓋骨を持つ。その他にも様々な動物の頭蓋骨を持っており、部屋に無造作に飾っている。

 ヘビースモーカー。

 髪の色は、ほんのり赤みがかかった黒。目も黒に赤みがかかっている。(年々赤みが増している)

 常に冷静。

 若いのに、真理の扉を開いてしまったエドとアルを哀れむと同時に興味も持つ。

 自分の生死について興味が無く、必要なら死のうと思っている。(背後に憑いてる祖父の思念によりある程度は生に執着するよう導かれていた)

 最近、死霊魔術を狙うテロリストに喧嘩を売られている。

 国家錬金術師・ルトホルト殺害の容疑者になる。

 




ほぼネタバレですね。


オリキャラじゃなく、オリ主?
いや、オリキャラか、あくまで主人公は、エルリック兄弟ということで…いこうかと思ってるので。


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SS2  死霊魔術は、錬金術?

このネタでの、デーモン(死霊・悪霊など)は、デビルメイクライの、デスシザースとか、デスサイズとかそういう部類も含める。


DMC1で、デスシザースには、何度殺されたことか……。


 

 自称、死霊魔術師・クサナカと、エドワードと、アルフォンスは、対面する形でテーブルを挟んで椅子に座った。

「なるほど……、国家錬金術師がここに行ったっきり戻ってこないから、調べに来た…か。」

「あんた、さっきルトホルトが死んだって言ったよな? そのあと…どうした?」

「埋めた。」

「どこに?」

「この家の裏だ。裏は、墓場になっている。」

「なんで死んだことを届け出なかったんですか?」

「……俺は、素性を知らなかったんだ。」

「つまり、ルトホルトは、国家錬金術師って身分を隠して、あんたに死霊魔術を?」

「錬金術師だってことは、お前達のようにこのドクロが教えてくれる。ただ、国家関係だとは知らなかった。身元の確認が出来るものは、死んだときに全部剥がして保管してある。……死霊魔術を知りたがる人間達は、全部そうしてきた。」

 それを聞いて、エドワードと、アルフォンスは、引っかかった。

「人間達…? ってことは、他に死霊魔術を知りたがってきた人間がいて、そいつらも…?」

「ほとんど死んだ。だが、遺体を取りに来る人間がいなくてな。」

「それで、仕方なく埋めた…?」

「身分証明になるものは、全部個別に保管してある。…それで? 俺はこれからどうしたらいい?」

「えっ? あ…、たぶん、事情聴取は入るだろうな。それと殺した容疑者って事で牢に入るかも、だけど。」

「別に、あなたが殺したとか…、そういうことはしてないんですよね?」

「してない。教えただけだ。」

「……それで失敗した?」

「………デーモンがあの男に憑いているからやめとけとは忠告したんだが…。」

「デーモンがついてる?」

「…人殺し…。」

「!」

「特に怨みを買いながら人殺しをした人間には憑くことが多い。それが、死霊魔術に反映されて、デーモンになり、攻撃を受けた。……見つけたときには、手遅れだった。」

「その…デーモンっていったい?」

「……興味があるのか? 死霊魔術に。」

「いやその…興味があるっていうか…。」

「ただ気になっただけだつーの。」

「ふーん…、お前達、死霊魔術が贋物だとは思わないのか?」

「そこんとこだが…、なーんか、あんたの雰囲気? 迫力? っての? 否定しがたいんだよな…。どう考えても科学的じゃないってのに。」

「記憶…、魂…の情報。人体錬金術において重要視されることのひとつだったか?」

「知ってんのか?」

「何度も錬金術師達が訪れてたら、覚えた。」

「まさか…、今までここに来た錬金術師達も…人体錬金術を?」

「死んだ人間の魂を呼び寄せて、言葉を聞く、口寄せ…。これに死んだ人間の魂の再構築と、復元した肉体への帰還を見出したって言ってたな。」

「…できんのか?」

「さあな。成功したのは見たことがない。……そもそも、死霊魔術を実行して、低級デーモンに殺された連中ばかりだ。」

「ていきゅうでーもん?」

「錬金術的に言えば、魂を構築している同一のエネルギーに、簡潔な記憶の情報を与えたものだ。実体のないカラクリみたいなもんかな。与えられた情報に従い、それ通りにしか動かない。だが、記憶の情報の与え方が悪いと暴走する。ほとんどの場合、作った人間に襲いかかる。」

 その説明を聞いて、エドワードとアルフォンスは、顔を見合わせた。

 そしてクサナカに向き直り。

「……死霊魔術ってのは…、錬金術なのか?」

「…さあな。」

「けど、さっき…。」

「それは、分かりやすく説明するためのもんだ。俺達、死霊魔術師の一族は、死霊魔術の口伝も書物も持たず、ただ、自分の感覚で死霊魔術を使ってる。だから最初の頃は、教えるのが難しかったぞ。」

「感覚って……。」

 錬金術がいかに勉強が必要な分野かを知っている二人は、感覚でやっていると聞いてヒクッとなった。

 やっぱり、死霊魔術は、まやかしだと思った二人だったが、するとクサナカが立ち上がり、壁に掛けられているヤギの頭蓋骨を取った。

「これに、デーモンを宿すとこうなる。」

 すると、バチンッと音と共に紫電の光が一瞬弾けた。

 それを見た二人は驚いた。

 それは、錬金術を行使した時に発生する変成反応に似ていたからだ。

 クサナカが持っていたヤギの頭蓋骨がフワリと浮き上がり、煙のような黒いマントを纏ったような身体が形成され、マントの端から枯れ木のような細い手が生えた。

「これが、低級デーモンの一例だ。」

 クサナカがそう言って椅子に座る。

 ヤギの頭蓋骨を持ったデーモンは、ぼんやりとヤギの頭蓋骨部分を紫電の光を纏った状態でその場にボーッと浮いていた。

 エドワードとアルフォンスは、ただ言葉を失っていた。

 クサナカは、そんな二人の様子を見て、やれやれとため息を吐く。

「…今までの錬金術師達も、そんな顔してたな。コレ見ると。」

「いやいやいやいやいや!」

「どこからツッコんだらいいか!」

「で? どこから聞きたい? 俺が答えられる範囲で答える。」

「まず、なんでヤギの骨使った!?」

「デーモンに実体はない。だから、普通なら見えない。そこで、実体となる触媒に骨を選んだだけだ。」

「次! なんで浮いてる!?」

「デーモンは、質量がない。よく、幽霊には足がないって言うだろ? それだ。」

「骨を触媒にしてるなら、浮いてる理由にならない!」

「知らん。頭蓋骨だけだからじゃないか?」

「あと、さっきの変成反応…、錬金術じゃないか!?」

「分からん。」

「兄さん、兄さん!」

 するとアルフォンスがエドワードの肩を掴み、部屋の隅っこに。

「死霊魔術って…、もし錬金術なら…。」

「ああ…、そうか。可能性はあるか…。」

「それに、さっき、何か等価交換の対価を払ったように見えた?」

「!」

 アルフォンスとヒソヒソ話をしていて、エドワードは、重要なことに気づいた。

 先ほどの低級デーモンの作成の際に、錬金術なら必ず必要な等価交換の対価を支払ったように見えなかったことに。

 そして、二人は、チラッとクサナカの方を見る。

 クサナカは、先ほど作った低級デーモンに、お茶を入れさせていた。

「…飲むか?」

「クサナカさん…、ちょっといいっすか?」

「なんだ?」

「……赤い石とか持ってます?」

「ない。」

 返された言葉は、否、だ。

「…同じ事を言われる。赤い石を…、賢者の石を持っているんじゃないかと。」

「質量法則くらいは分かりますよね? あなたはそれを無視している。」

「そう言われても、分からん。俺は、なんとなく出来ることをしているだけだ。」

「え~~~?」

 そんな答えに、二人は困った。

「第一…、ボワっとか、トンっとか、ホワワ~ンとか、って感じでやってるって言っても分からねぇだろ?」

「え~~~?」

「で? どうするんだ? 俺は、国家錬金術師の殺害容疑者なんだろ? 警察機関への報告が必要なんじゃないのか?」

「確かにまあ…、国家錬金術師っちゃそうだけど、俺にしてみりゃ国家なんてどうでもいいけどさ。それに、俺にこの任務押しつけてきた大佐も、期限までは言ってなかったから。」

「そうだね。それに催促があっても、兄さんの口添えがあれば、早く釈放ってのもあるだろうし。」

「……死霊魔術の調査、研究か?」

「もちろん、タダで教えてくれって言わないぜ。そっちの言い値ででいい。」

「他の錬金術師もそう言ってきた。だが…。」

「俺達はなにがなんでも取り戻したいんだ…! そのためなら…。」

 エドワードは、外套と上着を脱ぎ捨て、オートメイルの右腕を見せた。

 アルフォンスは、兜を外し、空っぽの体を見せた。

 それを見たクサナカは、目を細めた。

 そして、やがて目をつむって、ハァ…と息を吐き。

「………勝手にしろ。責任は持たないぞ。」

「ありがとうございます!」

 

 こうして、エドワードとアルフォンスは、死霊魔術師・クサナカに死霊魔術について調査研究を依頼したのだった。

 

 




クサナカがここで作った低級デーモンは、ハサミ持ってないデスシザースみたいな感じです。


次回から、オリジナルストーリーが始まるかな?


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SS3  死霊魔術の原理(ざっくり)

ざっくりと、死霊魔術について説明する、オリキャラさん。


 

 っというわけで、死霊魔術について学ぶことにした、エドワードとアルフォンス。

 いつまでに容疑者や、国家錬金術師ルトホルトの情報を持ち帰るか言われてないため、それをついたのだ。

「でも、ま。下手に賢者の石の情報が漏れて、なんか起こる前に、大佐のところにぼかして連絡だけはしとくか。」

「けど、この町って電気通ってなさそうだよ?」

「伝書鳩ならある。」

「か~、面倒くせぇけど、紙貸してもらえます?」

「いくらでも。」

「あと、宿はどうする? クサナカさん、この町って宿ってありますか?」

「ない。……イヤじゃなけりゃ、家で泊まっていけ。たいしたもてなしははできないが…。」

「すみませんね。何から何まで…。」

「この町は…、死霊の町って言われるほど、何もない町だ。旅人に施しをするぐらい、別に俺はイヤじゃない。」

「死霊の町…。そういえば、町の出入り口でお婆さんを見たっきり、他に人の気配がないですね?」

「畑仕事とかにでも出てたんだろ。町の少しはずれが共同の農地になってるって話だ。」

「町の人とコミュニケーションはないんですか?」

 ロイ・マスタング大佐宛の手紙を書いているエドワードの傍ら、アルフォンスがクサナカに聞いた。

「好き好んで、死霊魔術なんてものに関わろうとする人間はいない。」

「…身内の方は? ずっとおひとりで?」

「10年ほど前まで爺さんがいた。死霊魔術師だった。」

「お爺さんも?」

「爺さんの話だと…、祖父母から、間を置いて、孫にしか死霊魔術の力は継承されないらしい。俺が、この町に来た頃には、とうに、俺の両親は死んでた。元々、うちの一族は、1箇所にとどまらず、根無し草で生きてたらしいが、理由は分からないが、爺さんはチビの頃の俺を連れて、この町に住み着くことにしたらしい。」

「…それは…、ちょっと不思議ですね。」

「以来、ずっとこの町で死霊魔術師として生きている。食料は、町の人間から分けて貰っていてな。ご馳走は期待するなよ。」

「あ、お構いなく。兄さんの分だけ用意してもらえれば…。」

「鳩はどこだ?」

「こっちだ。」

 クサナカは、手紙を書き終えたエドワードを、伝書鳩のある場所へ案内した。

 その途中。

「死霊魔術が、祖父母代から、孫にしか継承されないってどういうこった?」

「言葉のままだ。なぜだか知らんが、俺は、爺さんの孫だったから死霊魔術師になった。それだけだ。」

「間の子供には?」

「力は無い。」

「あんたは、死霊魔術師になりたかったの?」

「……生まれつきのものだからな。それ以外に生き方を知らない。」

「………そっか。」

 伝書鳩に手紙をくくりつけながら、エドワードは、そう言ったのだった。

 

 

 その夜。

 

 クサナカは、2階の客室に二人を案内し、夕食が出来たら呼んだ。

 固めのパンと、やたら野菜がゴロゴロ入ったシチューだけの夕食。

「育ち盛りにゃ足りないか?」

「いや、十分だよ。」

 電気が通ってないため、火を付けたランプだけの、少し暗いリビングで夕食を取っていると、エドワードが口を開いた。

「死霊魔術ってのは、どうやってデーモンの材料になるモノを?」

「そうだな……。これは、爺さんから教わった例え話だが…。例えるなら…、この世界が淡水の池だとして。」

 クサナカが、自分のシチューの器をテーブルの真ん中に移動させた。

「俺や、爺さん…、そして代々の死霊魔術師は、海から、池に。」

 クサナカがスプーンで、同じテーブルに置いてあるシチューの鍋を示した。

「水を持ってくることだってさ。」

「海から池~~?」

「でも、どうして淡水の池って例えが?」

 胡散臭そうにするエドワードとは反対に、アルフォンスが挙手して聞いた。

「パラレルワールド…。」

「はあ?」

「あり得るかも知れない世界。この世界が等価交換というあらゆるものに制限があり、その制限の中で、うまく生態系という流れが出来ているとしたら…。逆に制限がなく、無限のエネルギーから出来ている世界があっても不思議じゃない。」

「無限のエネルギーの世界? それが海?」

「そういうことだ。」

「待ってくれよ。」

 エドワードが待ったをかけた。

「その世界があるって証拠や立証は?」

「ない。けれど、存在することは確かだ。」

「その根拠は?」

「感覚で…、それを感じているって言ったら、お前達錬金術師にとっては、科学的じゃないだろうな。」

「うわ…、ざっくりだな…。」

「でも、兄さん。もしそれが事実なら、等価交換を無視して錬成ができる理由も分かるんじゃないかな?」

「だとしたら、納得がいかん。」

「っというと?」

「…なんでそんなすげぇ技術が、出回ってないんだ?」

「池と海の違いだろうな。」

「それは…。淡水か、海水かの違いですか?」

「あくまで、俺の持論と、爺さんから聞いた話だ。よーく考えてみろ、淡水の池に、塩分を大量に含んだ海水が大量に入り込むとどうなる?」

「……水質が変わって池の生態系が壊れる?」

「簡単な話…そういうことだ。」

「えっ? ってことは、死霊魔術って…。」

「あらゆる場所で多用しすぎれば、いずれ世界を濁らせ…、滅ぼす原因になるだろうな。」

「そ……!」

 エドワードとアルフォンスは、ギョッとした。

「だからこそ…、流行らなかったんだろうな。それか…、別の理由か…。」

「別の理由?」

「たぶん、世の中に出回っている死霊魔術とかいったもんは、ほとんどが贋物だろうな。もしくは、フィクションの世界の創作物か。お前達も、実際に目にするまで信じていなかっただろう?」

「ああ…。」

「……遠い太古の時代。血塗られた儀式をもって神の力や、不死の力を手に入れようとした文明も存在した。血や心臓は、神への最高の供物で、それを捧げれば何かが得られると信じられていた時代だ。なぜそんな儀式をやりまくった? その当時から、すでに等価交換による錬金術の走りがあったのかもな? けど…、普通の人間じゃ、ダメだった。」

「……まさか…。」

「何かしら特別な力を持った人間の方が、普通の人間より生け贄としての価値が高かった。もしかしたら、俺達の一族はもっとたくさんいたんだが…、そういう理由で、狩られて、数を減らして、いまや俺だけが生き残りになったって可能性もある。……そういえば、賢者の石ってのは、赤いって共通点を除けば形は曖昧らしいな。」

「ああ…、赤きティンクトゥラ、大エリクシル、哲学者の石、天上の石……、まあ上げてたらキリが無いな。完全物質だと言われているが実物を見た人間がいないからさ。」

「それなんだが……、あくまで俺の憶測だ。」

「なに?」

「なんで赤って共通点がある? もしかしたら、血や心臓を捧げていた時代…、俺達のような異端者の血と心臓に価値があったから、後の世に賢者の石が赤いが、形がハッキリしないモノとして伝わったって可能性はあるんじゃないか?」

「…じゃあなにか? まさかあんたの心臓の中に賢者の石があるって話か?」

「……。」

 すると、クサナカは、食べる手を止めて黙った。

「……まさか…?」

「仮の話だ。もし俺の心臓の中に賢者の石があると分かったら……、抉るか?」

「んな! そんなことするかよ!」

「いくら僕らが元の体を取り戻したいからって、人殺しなんて…。」

「必要なら…、死んでもいい。」

 クサナカは、そう無表情で言った。

 その言葉に、エドワードとアルフォンスは、絶句したが、次に飛び出した言葉に、驚愕することになる。

 

「真理の扉なんぞ、開けちまった若すぎるお前らの方が幸せに生きるべきだろう?」

 

 

 




あくまでここでの語りは、筆者の勝手な妄想です。

余所からエネルギーを持ってくるというのは、ダンジョン飯のキャラ、マルシルも研究していますね。たしか。


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SS4  死霊魔術師の目と、錬金術の法則の無視

前回からの続き。


なぜか、エドワードが真理の扉を開いたことを知っていたクサナカ。


そして、錬金術師の歴史と技術などを全て否定するような、クサナカの力。


 

「な…んで…?」

 エドワードは、あまりのことに震え、たどたどしい声を出すのがやっとだった。アルフォンスに至っては、完全に声も出せない状態だった。

「分かるさ。なんでか知らないが。まったく、馬鹿なことを…。」

 クサナカがヤレヤレと言った直後、立ち上がったエドワードがテーブルを挟んでクサナカに手を伸ばし、クサナカの胸ぐらを掴んでいた。

 クサナカは、表情を変えず、怒りなのか焦りなのか分からない表情をしているエドワードを見た。

「あんたに…何が分かる!?」

「さあな。知らん。」

「兄さん、落ち着いて!」

 アルフォンスが、クサナカからエドワードを引き離した。

「……なんで…分かったんだ?」

「……俺にとっては…。」

 その瞬間。世界が白くなった。

 

 宙に無数の扉らしきものが浮いている、奇妙な空間。

 

「!?」

「な…なに? これって…。なんだろう? 知ってる気がする…。」

「俺にとっては、これは、日常だ。」

 そして、フッと世界が変わり、元の場所に戻っていた。

 ぼう然としていたエドワードは、ふと気づく。

 テーブルの上。クサナカの右手の下に、いつの間にかあの黄金の頭蓋骨があったことに。

「なぜだか知らんが…、俺には、分かる。真理の扉とやらを開けたことがある錬金術師がな。」

「そう…なのか…?」

「今の、どうやって?」

「俺が見ているモノを見せただけだ。」

「クサナカさんには、あんなのが普通に見えて…?」

「常時そういうわけじゃないが、見ようと思えば見える。」

「…やっぱ異常だぜ、クサナカさん…。あんたは。」

「ここに来た錬金術師達からは、よく言われる。」

 クサナカは、そういうと、最後のパンを食べ、お茶を飲み、席を立って食器を重ねてシンクに入れた。

「じゃ、風呂入ってくるから、適当にしててくれ。」

「あ…、はい…。」

 そう言ってクサナカは、リビングから出て行った。

「アル…。」

「兄さん…。」

 クサナカの気配が遠ざかった後、二人は、テーブルに置かれたままの黄金の頭蓋骨を調べた。

「……金メッキか? 本物の頭蓋の上に劣化防止の金を塗り固めたモノか…。」

 外側から中身まで調べたが、それ以外に特徴は無い。

 なぜ、錬金術師が来ると鳴るのかは謎だ。

「ほいじゃ、次は…。」

 テーブルに黄金の頭蓋骨を置いて、二人は、コソコソと風呂場の方へ。

 脱衣所に投げ捨てられているクサナカの衣類を調べた。

「銀の装飾や…、コレ、骨で出来たアクセサリーだね。」

「なんの骨かは聞きたかねぇな。」

 しかし、お目当ての赤い石は見つからない。

 二人は、クサナカが風呂から上がる前に衣類を元の位置に戻し、クサナカと最初に接触した家の出入り口のところに向かった。

「うーむ、何度見ても、散らかってんな~~。」

「なんで家具を並べず適当に置いてるんだろうね? お世話になるんだし、片付ける?」

「んな面倒くせーことするほど縁もねぇよ。それに勝手に配置換えしたら、むしろ迷惑だろ?」

「…だね。」

「まあそれよか……。」

「うん…。」

 二人は、部屋の端でボーッと浮かんでいるヤギの頭蓋骨を触媒にした低級デーモンを見た。

「お前のこと…ちょっとばっかし調べさせてもらうぞ?」

 そう言って二人は低級デーモンに近づいた。

 

「おい。」

 

 そこにクサナカの声。

 見ると、部屋の奥へと続く扉のところで、半裸で頭にタオルを被せ、下半身はズボンのクサナカがいた。ヒゲは剃ったのか、ツルツルだ。

「調べるのはいいが、錬金術は使うなよ?」

「なんでさ?」

「命令が書き換われば、近場にいる人間が襲われる。デーモンがより完全な体を欲しがってな…。」

「そ…そうですか。」

「それと、武器になりそうな物も近くに置くな。触媒に頭になる部位を与えているデーモンだから、簡単な思考ぐらいはするぞ。見境無く武器を振り回して襲いかかってくるとかな…。例えば、そこにある大バサミとかな。」

 言われて見れば、反対側の壁に大バサミが飾ってあった。

「メッチャ武器になる物あるやんけ! 鎌も!」

 他に大鎌など、物騒な武器になりそうな物がゴロゴロと…。

「ま、死んだら、埋めてやるから安心しろ。」

「死ぬこと前提!?」

 クサナカは、そう言うとヒラヒラと手を振って去って行った。

「…調べるのは…、明日にしようよ。」

「そうだな…。」

 二人はそういうことにして、客室に行って一晩過ごした。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 翌朝。

 寝る必要が無いアルフォンスが、朝食の準備を手伝っており、朝食の準備ができたら寝ているエドワードを起こした。

 目玉焼き、ベーコン、サラダ、黒パン。

 まあ、普通な朝食だ。

「で、クサナカさん。悪いんだけど、昨日調べられなかった、あんたが作った低級デーモンっての? 調べていい?」

「構わない。自己責任だからな。」

「外で調べるってのは?」

「武器になりそうな物がないように気をつけろ。」

「じゃあ、裏で…。」

「裏庭はやめとけ。」

「なんでです?」

「……かみ殺されたいなら、別に良いけどな。」

 なんか不穏なこと言ってる。

「ここは、町外れだ。人が来ることはほとんど無い。目が気になるなら家の右側でやれ。」

「まあ、それならいいけど…。」

「じゃあ、飯食ったら、あのデーモンを外に出してやる。」

「お願いします。」

 そして、食事を終え、約束通りクサナカが、昨日作った低級デーモンの頭蓋骨に手を触れ、命令を書き換えた。

 命令を書き換えられた低級デーモンは、スイーっと滑るように宙に浮いた状態で移動し、家から出て行った。

「あとは、勝手にしろ。家の右側に行かせた。」

「ありがとうございます。」

 エドワードとアルフォンスは、お礼を言うとデーモンを追って家から出た。

 

 

 家の右側に行くと、低級デーモンが待っていたように浮いていた。

「さてと…、始めるか。」

「うん。」

 二人は、早速低級デーモンを調べることにした。

 まず、マント状の部位に触ると、スカスカと手応えがない。まるで霞みたいだ。

「…感触もなければ、手にも付着しない…。なんだこれ?」

「頭蓋の方を調べた方がいいんじゃない?」

 アルフォンスが、そう提案。

 頭蓋骨部位は、時折、パチパチと変成反応らしき、紫電を僅かに放っている。

「クサナカさんも、頭蓋に触れてデーモンを作ったし、命令を書き換えてたよね?」

「頭蓋には、見たところ錬成陣はないし…、かといって変成反応があるってことは、錬金が起こっているってことだよな。」

「錬金術の理論、完全無視だね…。」

 錬金術の三大理論というものが存在する。

 

 まず、理解。

 次に、分解。

 最後に、再構築。

 

 そして、無から有を作ることができない。

 また質量保存の法則により、原材料と同じ物質の質量しか作れず、また自然摂理の法則により、純水から鉄は作り出せないなど。

 だが…、それらの絶対的な法則を無視しているが、クサナカの死霊魔術というものだ。

 頭蓋骨を材料にすれば、骨しか作れないはずだ。あるいは、骨と同じ物質の物しか。

「な・の・に! なんだよ、コレは!!」

 エドワードは、ムガーー!と頭をかきむしって叫ぶ。

「でも、現実に存在してるんだよねぇ…。」

 アルフォンスだって信じたくない。彼もまたエドワードと同じく錬金術師なのだから。

 

「あっ、言い忘れてた。」

 

 そこにクサナカが来た。

「どうした?」

 クサナカは、ウオオオっと頭を抱えているエドワードを見てアルフォンスに聞いた。

「いえ、…やっぱり理論上あり得ないって兄さん頭がパンクしそうになってるみたいで。ところで、どうしたんです?」

「ああ…、そこのデーモンだが…。」

 その時、一瞬バチッと大きな音が鳴り、低級デーモンのマント部位と手が消え、ヤギの頭蓋骨が地面に落ちた。

「すまん。長くもつようにしてなかったから、今のでデーモンは飛散した。新しく作った方がいいか?」

「…デーモンって長くもたないんですか?」

「そもそも、そこらの生物より圧倒的に不安定だからな。あらかじめ与えた魂分だけしか存在できない。」

「ちょっと待て…。」

 頭を抱えていたエドワードが顔を上げた。

「あんた…、魂の構造を理解してんのか?」

「構造というか…、命令にエネルギーを与えて動くようにする…って方が正しいか? 頭蓋骨は、すべての神経をコントロールする司令塔である脳を詰め込んでいる。そこには、死んだ後も濃厚に動作の記憶が残っていてな。触媒にするなら頭蓋骨が一番だ。」

「けど…! さっきのデーモンは、ヤギとかなりかけ離れて…。」

「“動く”。という命令を実行できるなら、なにも忠実にその頭蓋の動物通りにする必要もない。骨に対する念も動作を円滑にする。」

「ねん?」

「お前達は、頭蓋骨に対してどういうイメージがある? 例えば、棺桶に入った骨なら…。」

「……死?」

「骨に限らず、絵やそれ以外の物でもイメージの念が集まる。フィクションに描かれる、生きた死体や、動く骨…、お化け…、そういった物のように、古来から死後の姿に対するイメージってのは、変わってないはずだ。そういったこともあるから、頭蓋骨イコール死のイメージと、そこに何か悪い物が憑いたら?って悪いイメージがくっつきやすい。俺は、そのイメージがある頭蓋骨に張り付けただけだ。簡単な動作の記憶と、動かすために必要な燃料…まあ魂?…を。それが、さっきまで動いていた低級デーモンだ。」

「…ちょっと待て。それだと、絵とかそういうもんでもデーモンは?」

「張り付けられるな。」

「その場合は?」

「絵画そのものがデーモン化するか、絵が抜け出てそこだけ真っ白になるか…。」

「……ガチお化け…?」

「博物館にある、大量の念をため込んだ古い美術品に魂の燃料を与えたら、間違いなく動くだろうな。」

「…で?」

「で?」

「どこから、その魂のエネルギーを持って来てんだ? そんな簡単に、錬成陣も無しに、対価も無しに持ってこれるもんじゃないぞ?」

「それは、昨日も言ったが…。」

「余所の世界から持って来てるんだろ? どーやって持って来てんだ?」

「……こう…、なんか穴開けて流れてきたのを受け取って? 使っただけ?」

「ざっくり! 理論もクソもねーー!」

「そう言われてもな…。」

「すみません、クサナカさん。もう一回デーモンを作ってもらえます? 作る工程をゆっくりしてもらえれば助かりますけど。」

「作る工程と言ってもな。」

 クサナカは、地面に転がっている、先ほどまで低級デーモンが宿っていたヤギの頭蓋骨を拾った。

「動く動作の記憶と、動くための魂を与える。」

 右手に持った頭蓋骨に、左手の人差し指で、頭蓋骨の眉間辺りをつつく。

 すると、バチッと紫電が弾け、再び低級デーモンが生まれた。

 クサナカが見ると、エドワードとアルフォンスが、メッチャじーーーっと、クサナカの手を見ていた。

「さっきより長持ちするようにはしたぞ。それで? 何か分かったか?」

「…うぅ…、手を合せる動作すら無しかよ…。」

「手を合せる?」

「あっ、兄さんは、手を合せることで錬成陣に必要な輪の形を作って錬金術を使えるんです。」

「ほう? ビックリ人間か?」

「誰がビックリ人間だ!」

「けど、それでも必要なんだろ? 錬金術師として必要なことが。」

「もちろんだ。理解、分解、再構築。これらができなきゃ錬金術はできねー。けど! なぁ! クサナカさん! あんたは、この錬金術師のすべてを超否定するビックリやらかしてんだよ!」

 エドワードが、怒り混じりにビシッとクサナカを指差して叫ぶ。

「……そう言われてもな。俺には、これが普通だった。」

 クサナカは、自分の手を、握ったり開いたりした。

「むしろ、教えてほしいものだ…。どうすれば、俺は“普通”になれる?」

「なっ…。」

 思わぬ言葉に、エドワードとアルフォンスは、驚いた。

「どうすれば……。いや、いいか…。それより、どうするんだ。このあと?」

「えっ? あ、ああ…、そのデーモン調べさせてくれ。」

「命令を書き換えてしまって暴走させないよう気をつけろ。俺は、家の中にいる。」

「分かりました。」

 

 その後、1日かけて低級デーモンの構造を調べたが……、エドワードとアルフォンスは、何の収穫も得られなかった。

 

 

 

 




クサナカにとって、錬金術を否定するようなあり得ないことが当たり前だった。
そんな彼は、“普通”に憧れる……。


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SS5  死霊魔術師、錬金術をしてみる

死霊魔術師、錬金術をしてみるが……?


「水35リットル。炭素20キロ。アンモニア4リットル。石灰1.5キロ。リン800グラム。塩分250グラム。硝石100グラム。イオウ80グラム。フッ素7.5グラム。鉄5グラム。ケイ素3グラム。その他少量の15元素。」

 

 翌日の朝。早朝に目覚めたエドワードとアルフォンスが、クサナカのその声を聞いて、店(家の出入り口の所)の方に向かった。

 

 家具が散乱するように置かれていた場所が綺麗に片づけられ、その中央で、クサナカがブツブツと何か呟きながら床に錬成陣を書いていた。

「なにやってんだ?」

「ちょっと…な。」

「さっきの…、人間の大人一人分の成分表ですよね?」

「ここに来た錬金術師から聞いたことだが。人間ってのは、案外安く出来てるんだな。」

 先ほどクサナカが呟いていた人間の素材は、すべて市場では、子供小遣いでも買えるほど安価で手に入る物ばかりだ。

「…実はさ。昨晩考えたよ。」

「なんだ?」

 急に言ってきたエドワードの方をクサナカが見た。

「あんたが使う死霊魔術ってのは、目に見えない情報に、目に見えないエネルギーを与える錬金術の一種。ってな。」

「…そうか。」

「だけど、ひとつだけ分からないのは…、そのエネルギーをこの世界じゃなく、余所の世界からどうやって持って来てるかだ。それさえ分かれば、等価交換の法則を無視しての錬金術が可能になる。…あらゆるな。」

「それは、遠い過去の俺の先祖がずっとやってきたことだ。そのやり方の詳細は、口伝も書物もない。だから、俺が見ていること、感じていることを伝えようもない。いったいどうやって先祖がその方法を見つけたかも…、爺さんは知らなかった。」

「相当な歴史があるってことっすか。」

「けど、それを伝えもなく感覚だけでやるってことは…、遺伝的な素質が関係しているのかな? 祖父母から、孫にしか死霊魔術が伝わらないんですよね?」

「そこも謎ではあるけどな。隔世遺伝でしか伝わらないってのも。」

「……まあ、そんなことを語っていても謎は解けんだろうな。」

「ところで、何しようとしてたんだ? それ、錬成陣だろ?」

「ちょっと思い立ってた。」

 クサナカは、そう言いながら、大袋に入った石を錬成陣の上に出した。

「例えば、コレで女の石像を作るとして…。お前達が作ればどんな感じになる?」

「それするなら、錬成陣は…。」

 アルフォンスが錬成陣を書き直す。

「じゃあ、いっきまーす。」

 そう言ってアルフォンスが構え、錬成陣に稲妻のような変成反応が起こった。

 そして、石が分解、再構築され、翼ある女神像が出来た。

「こんな感じかな。」

「今まで来た錬金術師達で一番綺麗だな。」

「えへへ。ありがとうございます。」

「んじゃ、次、俺だな。」

 そしてエドワードがパンッと両手を合せて腕の輪を作り、アルフォンスが作った石像を分解、再構築する。

 やたらゴテゴテした、戦乙女になった。

「兄さん…、相変わらずの趣味だね…。」

「いいじゃねーかよ、カッコいいだろ?」

 そんな二人を後目に、クサナカは、顎に手を当てて何か考え込んでいた。

「なるほど…。やり方は分かった。」

「えっ?」

「こう…か?」

 スッと錬成陣に触れたクサナカ。その瞬間、バチンッと大きな紫電と煙が上がった。

「うわ!」

 思わず腕で顔を庇い、煙が晴れてから見ると…。

 そこには、5倍ぐらいに巨大化した女の顔の石像があった。

「んな!?」

 エドワードとアルフォンスは、驚愕した。

「……これで成功か?」

「いやいやいやいやいや!」

「なにしたんですか!?」

「なにって、錬成? 見よう見まねだが。」

「明らかに素材の質量が超えてるって! まさか…。」

「失敗か成功か…、どっちだ?」

「せ、成功だけど……、これはあり得ないよ!」

「中身がスカスカってわけじゃなく、ぎっちりそのままで、約5倍って…。」

 エドワードとアルフォンスが、クサナカが錬成した石像を調べてますます困惑していた。

「クサナカさん! あんたまさか、余所からエネルギーを持って来て…?」

「いや、それはしてない。」

「はあ!?」

 それを聞いてますます二人は困惑した。

 クサナカは、余所の世界からエネルギーを持ってこれるのなら、錬成の際の上乗せして5倍増しにしたのなら、筋が通るが、それをしていないとクサナカは言った。

 そして、二人の脳裏にある可能性が浮かんだ。

「いや…そんな……まさか…。」

「俺の体、調べるか?」

「脱がんでいい!」

 服を脱ごうとするクサナカを、全力で止めた。

「クサナカさん…、今まで錬金術をしたことがないんですよね?」

「ああ。今回が初めてだ。」

「兄さん…。」

 どうする?っとアルフォンスが、エドワードを見る。

 エドワードは、少し考え…。

「クサナカさん。」

「ん?」

「身体…、調べさせて貰って良いですか?」

「いいぞ。好きにしろ。」

「…とは言ったものの、どっかで医療器具が必要だな。この村にあります?」

「ああ…、ちっこいが一応…。で? どうするんだ? 解剖か?」

「いきなり何言い出すんすか!? んなわけねーだろ! 血液検査!」

「けつえき~?」

「あんたが言ってただろ? その昔、血や心臓は、神への最高の供物で、それを捧げれば何かが得られると信じられていた時代があったって。俺は、そういった眉唾モンな儀式なんざ信用しないが、それが賢者の石の由来になったのなら、血中に5割増しの原因があるって考えるぜ。」

「血、イコール、賢者の石と?」

「……まあ、まずは確認だな。」

 

 その後クサナカの案内で、村で唯一の病院に。

 しわしわの老人が営む病院で、クサナカが事情を説明すると二つ返事で器具を貸してくれることになった。

 

 エドワードは、まず注射器でクサナカから血液を採取し、限られた医療器具で調べる。もちろんアルフォンスも調べる。

 

「至って、普通の血液だな…。」

「そうだね。」

 むしろ常人より健康的に見える血液だった。ヘビースモーカーにも関わらず。

「だとしたら…、あとは…。」

「血液を循環し…、循環した血液が帰るところ…。」

 

 心臓。

 

 しかし、この病院の設備では、臓器の精密検査はできそうにない。

 下手に触って何かあっても対応できないため、安全を考慮した二人は、クサナカに…。

 

「錬金術研究機関下の研究施設に行くって、できる?」

「っというと…、町から出ろってことか。」

「近場って言っても、列車でちょいと出ないといけないけど…。」

「俺は……、爺さんにこの町に連れてこられてから、1回も町からでてなくてな…。」

「えっ、そうなんですか?」

「なんか、出る気が起きなくてな。」

 妙に引っかかることをクサナカが呟いたため、二人は顔を見合わせた。

「それで? 旅支度か?」

「まあ、一応。どれくらいかかるか分からないからな。」

「分かった。」

「いいんですか?」

「いい…とは?」

「今までずっと町から出なかったんですよね? …なにか事情が……。」

「別にない。理由は分からん。」

 腕組みしたクサナカは、ただそう言った。

 エドワードとアルフォンスは、なにか腑に落ちない感じはあったが、賢者の石の可能性を優先することにした。

 

 その後、クサナカの家でクサナカが旅支度をして、準備が終わると、相変わらず人気の無い町から出発しようとして……。

 

「ちょっと待て。」

「なんすか?」

「俺は、国家錬金術師の殺害容疑者なんだろ? そこら辺はどうなる?」

「あっ…。」

 

 忘れてたと、二人は声を揃えた。

 

 なので一旦引き返し、鳩にロイ宛の手紙をくくりつけてから今度こそ出発した。

 

 

 

 




死霊の町か出てしまったクサナカ……。


彼に待つ運命とは…、そして関わったエルリック兄弟は……。


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SS6  死霊魔術師、“嫉妬”と接触する

申し訳ありませんが……、彼(彼女?)の登場は、一瞬だけです。


あっという間に退場です…!



注意!!


 

 かなり長い道のりを歩き、やっと寂れた駅のある小さな町に到着。

 クサナカは、荷物を背負った状態でキョロキョロと周りを見回した。

「あんまし目立ったことしないでくれよ?」

「分かってるが…、あの町以外の町に来たのは…物心ついてからなくてな。」

「そんな小さい頃から?」

 

 

「列車は、なんか途中で事故があったとかで三日後だってな。」

「困るぜ…。この町は、列車で食ってるようなもんなのになぁ。」

 

 

 駅に行く途中、そんな会話をしている男達がいた。

「おっちゃーん。列車来ないの?」

「ん? ああ、なんでも事故があったって話でな。」

「あれ、そっちの鎧の奴と…、ちっこいの…。」

「誰がちっこい豆粒だ!」

「そこまで言ってねぇーー!」

「なんだ? どうしたんだ?」

「兄さん…、身長のこと気にしてまして…。」

「なるほど。」

 ちっこいと言われて憤慨しているエドワードの様子に、クサナカがアルフォンスに理由を聞いたのだった。

「あんたら、死霊の町からよく無事に帰ってきたな~。」

「別になんもなかったぜ。…人気がなさ過ぎて不気味ではあったけど。」

「そっちのえらい男前のお連れさんは?」

「ああ…、この人は…。」

「死霊の…。むぐっ。」

「あ、途中で知り合って同じ所に行くから一緒に行くことになったんです。」

「へ~、そうかい。」

 クサナカが死霊の町の人間だと言いかけたので、アルフォンスが口を手で塞ぎ、別のことを言った。

 クサナカの口を塞いだまま、エドワードとアルフォンスは、その場から離れた。

「ダメですよ、クサナカさん。」

「…なんでだ?」

「ここに来る途中でここで死霊の町のことを聞いたんですけど…、あそこのことを不気味がって誰も喋ってくれなくって…。」

「運良く駅員が地図書いてくれたから来れたんだ。だから、死霊の町から来たってことは言わない方がいい。」

「…分かった。」

「あと、死霊魔術師だってこともな。」

「じゃあ、なんて言えば?」

「旅の占い師とか…? まあ、俺らの連れってことにするから、あんまし目立つことしないでくれよ?」

「分かった。ところで、列車が来ないって聞いたが、どうするんだ?」

「列車が来るまで宿で泊まるしかないだろ?」

「あれば…いいけどね。」

 ここは、列車が途中で燃料や水の補給で止まる程度のためにあるような場所だ。

 そのため、観光施設はおろか、宿も…微妙なところだ。

 

「ねえ、お兄ちゃん達。宿探してんの?」

 

 そこに女の子がやってきた。

「宿、あんのか?」

「あるよ! うち、民宿もやってのるの。」

「3人分、いけるか?」

「もちろん! じゃあ、お客様、ごあんな~い!」

 女の子はノリノリで、三人を民宿に案内した。

 そして、女の子の両親が自宅兼で経営している民宿に、列車が来るまで泊まることが決まったのだった。

 

 ところが、翌日事態は急変することになる。

 

 

 妙に外が騒がしいので、朝食中に外に出てみると、アメストリス軍人達がいた。

 その中に…。

「大佐!」

「なんだ、鋼のか。こんなところにいたのか。なら、話は早いな。」

 国家錬金術師ルトホルトの行方を捜してこいと二人に頼んだ、ロイ・マスタングその人がいたのだ。

「なんであんたがここに?」

「あんな手紙を寄越しておいてよく言うね。」

「早急の用事じゃないだろ?」

「まあそうだが…、どうにも上がうるさくてな。返信が間に合わないから、こうして直々に来てやったのだよ。ところで…、そっちのは…?」

 ロイがクサナカを見た。

「クサナカ…です。」

「…鋼の? もしや…。」

「……あーもう…。詳しいことは場所を変えて話すから…。」

「ふむ。早く終わりそうだな。」

「?」

「クサナカさん。この人が、僕らに国家錬金術師のルトホルトって人の行方を捜してこいって依頼してきた人ですよ。」

「なるほど…。」

「ロイ・マスタング。地位は大佐だ。」

 そして、三人は半ば連行されるような形で軍の仮設テントに連れて行かれた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「……なるほど、では、君は教えただけだと?」

「忠告はした。だが、聞かなかった。だから、…死んだ。」

 仮設テント内で、ロイによる尋問が行われ、その後、死霊の町に埋葬されているルトホルトの遺体が運ばれてきて、司法解剖も行われた。

 結論から言えば、クサナカによる殺人ではないことはハッキリとした。

 また、ルトホルト自身が身分や出身なども隠して死霊魔術を学ぼうとしていたため、死亡後、途方に暮れたクサナカが簡易で埋葬し、身内が来るのを待っていたことも。ルトホルトが最後に記していた途切れた日記と事情聴取の内容と照らし合わされて事実が確認された。

 それから、半日ぐらいだろうか。

 やがてテントから出てきたロイに、エドワードとアルフォンスが、詰め寄った。

「クサナカさんはどうなる?」

「そう心配するな。……結論から言わせて貰えば、まったくとは言いがたいが、一応は無罪だ。」

「よかったぁ。」

 それを聞いて、エドワードとアルフォンスは、ホッとした。

「ルトホルトは、生体錬金術…、とりわけ魂の研究について専攻していたから、死霊魔術に興味を持ったのだろうことは、日記から分かった。だが、死霊魔術というのは、どうにも科学的じゃないな。飛躍しすぎていて証拠にも出来ん。」

「俺らだって、この目で見るまで信じなかったぜ?」

「ほう? どのようなものだったんだい?」

「僕らも全部理解できたわけじゃありませんよ。」

 二人はざっくりと説明。

 ロイは、微妙な顔をしていた。錬金術の分野違えど、彼もまた国家錬金術師なのだが、クサナカが感覚だけでやっているという死霊魔術はどうにも信じられなかったのだ。

「……国家錬金術師は…、人間兵器だったか?」

 そこにテントから、クサナカが顔を出してそんなことを言った。

「…何か…見えるのかい?」

「……たくさん。」

「…自覚はしているつもりだ。自分の罪深さはな。」

「死霊魔術に手を出すなよ? お前の背後にいるデーモンの数は…、ルトホルト以上だ。」

「……言われなくても手を出したりしない。」

 クサナカの言葉に、ロイは、フッと苦笑して答えたのだった。

「んじゃ、用も済んだなら、俺ら宿に帰るから。」

「まあ、待ちたまえ。」

「なんだよ?」

「この町は、死霊の町と、そこにいる死霊魔術師についてずいぶんと恐れているようだが?」

「まさか…。」

「我々が来たときには、クサナカくんが死霊魔術師だということがバレていたようだよ。あの赤みのある髪と目は、死霊魔術師の特徴だと、ご老体達が…。」

「げっ、マジかよ…。」

「町に戻るのは得策ではないだろう。クサナカ、君も良ければ我々が鋼の達と一緒に研究施設まで連れて行っても構わないが、どうかな?」

「えっ、送ってくれんの? ゲー…、尻が痛くなる…。」

「車を手配するから待っていたまえ。」

 文句を言うエドワードを無視して、ロイは、余所へ行った。

「すんません。トイレ…。」

「あちらです。」

 近くにいる軍人にトイレの場所を聞き、クサナカがその場から離れた。

 

 用を済ませたクサナカが戻る途中……。

 

 

「死霊魔術師って…、アンタのこと?」

 

「?」

 急に後ろからポンッと肩を叩かれ、思わず振り向いて、相手と目が合った瞬間だった。

 バアン!っと、そこにいた軍人の胸の中心が破裂し、髪が長い中性的な美しい青年のようなまったく別人の姿に早変わりしたかと思ったら、胸を押えながら、相手は声にならない声を上げて倒れながら崩れていき、大量のデーモンを吐き出しながら、消滅した。

 プスプスと煙だけが地面に残り、やがて煙が消えた。

 

「クサナカさん!」

 

 そこにエドワード達が走ってきた。

「なんか、今…空に向かって…。」

「……分からない…。」

「えっ?」

「見たら……、消えた…。デーモンの塊…?」

「なにが…?」

「分からない…。」

 クサナカは、ぼう然とそう答えるしかなかった。

 

 

 




名前すら出ずに、ホムンクルス1名退場……です。


クサナカは、何もしてません。やったとしたら、相手を“見た”だけです。

実は人間を素材にした賢者の石は、このネタでは、死霊魔術師と相性が……です。


エンヴィーファンの皆様! 本当に申し訳ありません!!


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SS7  死霊魔術師は、暴食に怒られる

ひっさしぶりの更新。


なかなか書けず……。やっと書けてもこんなザマ。



暴食の人造人間退場。です。


 

 

 クサナカが、なにが起こったのか分からぬまま、自分を狙ってきたとも知らず葬ってしまった相手は消えてしまってなにも分からない。

 荒れ地を走るため、タイヤのゴツい軍用車が舗装されていない道を走る。

 国家錬金術師を二人も守りながら走るため、護衛の車も多い。

 クサナカは、表情こそほとんど変えてないが、軍用車の窓から見える景色を珍しそうに見ていた。

「君は…、死霊の町から出たことがなかったそうだな?」

 ロイが何気なく聞いた。

「…爺さんが死霊の町に連れて来たのは、俺が物心ついた頃だったな。ハッキリとは覚えてないが、いつも徒歩で当てもなく歩いてたような気がする。」

「君の一族は、流浪の民だったのかね?」

「根無し草だった…、らしい。」

 唯一の肉親であった祖父亡き後では、伝承も何もない、彼ら、本物の死霊魔術師についての詳細は分からない。

「君以外に、死霊魔術師は?」

「いない。」

「そうか…。」

 会話が続かない。

 クサナカ自身、そんな喋る方でもないし、祖父が亡くなってから人と関わることも少なかっただろうからだろう。

「ところで、鋼の。錬金術研究機関で、彼の検査をするそうだな? なにか手がかりでも掴んだのかい?」

「黙秘。」

 ロイに話を振られたが、エドワードは、すげなくそう答えた。

「アルフォンス君。」

「あの…、僕も黙秘を。」

「俺の、心臓の検査。」

「クサナカさーん!」

 さらっと目的を話してしまったクサナカに、エドワードとアルフォンスは、ギョッとした。

「なんだ、そんなことか。別に隠すこともなかろうに。私がそんなに信用ならなかったかい?」

「……余計な混乱を招くような真似はしたかなかったんだよ。」

「むっ…? それは、つまり…。」

「それ以上の追求は厳禁だぜ。」

「まあ、確かに、その存在が彼の中にあるのだとしたら、それは大変なことになるね。」

 その直後だった。

 突然、車が急ブレーキ。

「なんだ?」

「すみません。前方の護衛が…。ああっ!?」

「なんだ!?」

 前の方を走っていた護衛車が軽々と吹っ飛んでいった。

 

 

「エンヴィーを殺したのは、どいつだーーー!?」

 

 

 幼さを感じさせる声色の絶叫が聞こえた。

 左右を護衛していた車から飛び出した軍人達だが、前方に現れたスキンヘッドの巨漢に殴り飛ばされていった。その際に発砲もしていたが、当たっても意に介した様子が無かった。

「えんう゛ぃー…?」

「いかん! 何者かは分からんが、ただ事じゃない!」

「まずい! こっち来る!」

「速い! 車から飛び出せ!」

 車に乗車していた全員が横へ飛び出した直後に、巨漢が車を全身の力をすべて使って潰した。

「鋼の!」

「分かってる!」

 エドワードが両手で輪を作り、そして地面に手をついた。

 地面が陥没し、そこに巨漢が転がり落ちる。

「殺しはせんが…。」

 ロイが、錬金の印がついた手袋を嵌め、パチンッと指を鳴らした。

 その瞬間、凄まじい爆炎が巨漢を包み込み燃やした。

「まあ、これで数ヶ月は…。…?」

「危ない。」

「うぉ!?」

 ロイをクサナカが突き飛ばした直後、穴から巨漢が飛び出し、人肉が焼ける独特の悪臭と煙を吐き出しながらロイとクサナカの間の地面に着地した。

「馬鹿な…!?」

「なんだ、コイツ!?」

 焔の錬金術師という二つ名を持つロイの炎を食らってなお動けるその巨漢に、エドワード達は驚愕した。

 だが……。

「おま…え…、死霊ま……、っ!? グギィ!?」

 クサナカと目が合った瞬間、巨漢が後ろへ倒れ込み大きくもがきだした。

 そして胸が破裂するように裂け、肋骨が露出し、大量の霊魂と思われるグレー色に顔のようなモノが浮かび上がった物が吐き出され、巨漢は断末魔の叫び声のような声を上げながら、ブスブスと燃え尽きるように崩れていき、やがて煙だけを残して肉片も残らず消滅した。

 もうもうと上がる煙に、その場面を見ていた者達全員が唖然とした。

「まただ……。大量のデーモンが…。」

「また…?」

「そういえば、あそこの町の外でも…、同じことが? 今の…なんだよ? クサナカさん、なにしたんだ?」

「…なにも……。俺は…、“見た”だけだ。」

「明らかに異常だな…。“人間”だったのか?」

「えっ?」

「死に方があり得ない。普通の生き物の死に方じゃないということだ。まさか、君に見られるとそんな死に方を? いや…、それはあり得ないか。それだと我々はとうに死んでいるはずだ。」

「けど…人間じゃないとしたら、なんだよ?」

「まさか…、人造人間?」

「んな馬鹿な…。」

 アルフォンスの言葉に、エドワードがそう言うが、本人も引っかかっていた。

「鋼の……。もしかしたら、かもしれんが…、君達の目的の物は近いかも知れないぞ?」

 ロイは、そう言い、立ち上がりながら土を払い、クサナカを見つめた。

 

 

 

 

 

 

「……だから言ったのに…、馬鹿な子ね…グラトニー…。」

 荒れ地のずっと離れた丘の上から身を隠すように伏せている妖艶な女がひとり…、悲しげにそう呟いていたのだった。

 

 




グラトニー、退場。
偽りの真理の扉を持つとはいえ死霊魔術師には、無意味……。
色欲が止めてたけど、止められず……。エンヴィーの仇を討とうとして逆にやられた。


次、いつ更新できるかな……。
たぶん、研究所行きは、延期になるかも。


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SS8  死霊魔術師に迫る危機

とりあえず、書ける内に書く!
これですね。


クサナカにピンチが迫る。


 

 

 あれからどうなったかというと、謎の襲撃者のせいで引き返すことになり、三日後に修理が終わった列車で錬金術研究機関の研究所に行くことになった。

「分かっていたものの……、ここまで露骨かよ。」

 列車のおかげで保たれている小さな町に、死霊魔術師クサナカのことはすでに知られており、エドワード達がクサナカを連れて戻って来たと知った途端、町にいた人間達は一斉に建物内に逃げ込む有様だった。

「それほどに、死霊魔術師というのは、恐れられているのだろうな。クサナカ君、君は何かしたのかね?」

 小さな町中をロイとともに歩いていて、ロイがそう聞いてきた。

「別に…なにも。」

「人間というのは、目に見えない得体の知れない物を恐れる傾向がある。この町のような閉鎖的な場所だと、余計にその恐怖も強いのかもしれんな。」

「死霊の町の話題を出しだけで、ビビって誰も教えてくれなかったからな。駅員が辛うじて教えてくれたけどさ。」

「しかし、この状態では、いくら軍の名を出しても無意味そうだ。残っていた仮設テントで簡易の宿泊地をこしらえるしかないだろう。」

「……すみません。」

「いや、君はなにもしていないのなら、君の責任じゃないさ。」

 自分のせいで宿を借りることもできないことになってしまったため、クサナカが頭下げるとロイが手で制した。

「それに、三日後には列車も通る。それまでの辛抱だ。」

「……二人には、もっと悪いことした。宿代が…。」

「ああ、別にいいよ。気にしないでくれ。」

「そうですよ。」

 エドワードとアルフォンスにも謝るクサナカ。二人は、気にするなと言ったのだった。

 その後は、死霊魔術師を恐れる町の中にいても意味が無いので、軍の簡易宿泊地に移動。

 ロイが連れてきていた軍医に、クサナカの心臓を見て貰ったりもした。

「ふーむ。特に問題はありませんよ?」

「異物があるとかってのは?」

「異物があれば、心臓の機能に問題が出ますよ。ひとかけらの血液の塊でも心臓機能が止まる重大な障害になります。」

「うーん…。」

 賢者の石がクサナカの心臓内部にある可能性は、これだけでは分かりそうになかった。やはり、しっかりとした研究所設備での検査が必要そうである。

「しかし…、信じがたいな。5割増しの錬金術とは…。」

「俺らだっていまだに信じられないっつーの。」

「でも、事実なんですよ? 実際にやっちゃったんですよ?」

「ふむ…、分野は違うが、実に興味深い。そのデーモンというのものだが、今ココですることは可能かい?」

「触媒になる物があれば……。例えば、人形でもいい。泥人形でも……。」

「触媒が必要なのかい?」

「単純に、デーモンに簡易の肉体を与える必要性があるだけだ。その方が存在を確認しやすいだろう。」

「ああ、気を遣わせてしまってすまないな。」

 そこでクサナカは、すぐそこにあった泥を練って、小さな人型を作り、持って来た。

 そして、低級デーモンを宿らせる。

 バチッと紫電が放たれ、その反応を見たロイは、目を見開いた。

「これは…錬成反応か。」

「やっぱそうだよな?」

「僕らも最初は錬金術?って思いましたけど、でも錬金術に必要な手順を抜きにしてるんですよ?」

「確かに…!」

「出来た。」

 折りたたみテーブルの上に倒れた状態で置かれていた泥人形がむくりと起き上がった。その間にも小さくパチパチと紫電が放出されていた。

「驚いた……! これがデーモンか。」

「俺らが最初に見せてもらったのは、ヤギの頭蓋骨を使ったデーモンだったけど、これ人型の泥人形だけどさ、やっぱ人型に意味が?」

「人型の方がイメージしやすいだけだ。四本足でも、何本でもいいし、足抜きでもいいが、動くというイメージを定着させるには、やはり動作のイメージ繋がる部位が必要だ。」

「そもそも、デーモンのランク…というか、級の違いはなんだね? ここに今作られたのが低級だとして、中級や上級もいると?」

「強さの違い…、あと、持たせた知恵の高さや、与えた魂の質量にもよる…かな? あと触媒にした物で増幅も可能だ。」

「例えば?」

「例えば、人形だ。戦いに向くよう、作れば……、より攻撃的な魂を宿らせるには最適だ。戦闘向きに作った人形が、家にあるんだが……、見せられればよかったな。」

「あるのかよ。」

「『フェティッシュ』。爺さんがそう言ってた。あと……。」

「他にも?」

「血だな…。」

「えっ?」

「血塗れの頭蓋骨とかは、死という絶対的な終わりへの恐怖の念を集めやすいから、デーモンの攻撃性とあらゆる能力が飛躍的に上がる。」

「じゃ、じゃあ、もし僕らに見せてくれたあのデーモンが、血塗れのヤギの頭蓋骨だったら?」

「速攻でハサミでも持って襲ってきただろう。まあ、攻撃するなという命令を与えていれば問題は無いが……。」

「ふむ…、デーモンとは名前の響き通り、相当危険であるようだな。」

「うっかりすれば、逆にとり殺される。デーモンは、強ければ強いほど危険だ。」

「死霊魔術師でも、それは例外ではないと?」

「けど、爺さんがヤバかった場面は見たことがなかったな…。」

「万が一だが、デーモンに襲われた場合は?」

「触媒を物理的に破壊するか……、それでもデーモンが四散しない場合は。」

 クサナカは、ゴソゴソと鞄から黄金の頭蓋骨を出した。

「こう。」

 掌の上に乗せた状態で、テーブルの上にいる泥人形の低級デーモンに頭蓋骨を向ける。

 ほんの1、2秒ほどの時間を置いて、一瞬、バアン!と泥人形から紫電が放出され、泥人形から小さな霊魂のような物が浮かび上がり、宙で消えた。

 場がシーンっと静まりかえる。

「……今…なにを?」

 ピクリとも動かなくなり、紫電も消えた泥人形を見つめながらロイがクサナカに聞いた。

「いや、デーモンを四散させただけだが?」

「どうやって?」

「こう……、パンッて? ボオンって?」

「大佐、説明求めても無駄だって、クサナカさん、こういうのを感覚だけでやってるみたいだから。」

「その…、金色の頭蓋骨は?」

「うちの一族に代々伝わる、黄金の頭蓋骨。詳細は知らん。爺さんが死ぬ前に教えてくれなかった。」

 クサナカは、お手上げだとばかりに肩をすくめて見せた。

 ロイは、頭痛を覚えたのか額を手で押えた。

 そこへ、軍人がやってきて、ロイに緊急の連絡があると伝えたため、ロイは、あとで詳細説明をして貰うからなっと言い残してテントから出て行った。

 

 この町に唯一設置されている電話機は、駅にある。

 そこの電話機に出たロイは。

「………なんですって?」

 伝えられた内容に驚愕した。

「た、たたたたた、大変です!」

「なんだ?」

 大焦りの軍人が駆けつけてきた。

「あ、アレを!」

「なっ!?」

 空を指差した軍人の指の先を見て、ロイは、ギョッとした。

 

 そこには、黒いマントのような物を纏った赤黒い牛の頭蓋骨を持つデーモンが、くの字に腹から曲がってるクサナカを抱えて飛んでいく姿だった。

 

「…参ったな……。」

「マスタング大佐?」

「……大総統閣下からの直々の命が下った。」

「はっ?」

「大総統閣下が、これより隊を連れて、ここへ来る。それに合流し……、国家錬金術師ルトホルト殺害容疑者である、自称・死霊魔術師を生死に関わらず捕えろと。なお、それを邪魔した異分子はすべて排除せよと。」

「なっ…。」

 あまりに突然のことに部下である軍人はビックリ仰天した。

「まさか、危険を感じて逃亡? いや…、あの状態は気絶し……。」

「大佐!」

「鋼の。」

 走ってきたエドワードとアルフォンス。

「さっきクサナカさんが!」

「ああ、見ている。飛んで行った先は…、恐らく死霊の町か? 彼は逃げたのか?」

「ちげぇよ! いきなりあのデーモンが現れてクサナカさんを攫っていったんだよ!」

「追わないと…。」

「その必要は無い。」

「なんでだよ!」

「君達は、ここで待機していてもらう。大総統閣下の隊が着くまでな。」

「……はっ?」

 唖然としたエドワードとアルフォンスは、どういうことだとロイに聞いた。

 ロイは、僅かに眉間にしわを寄せ、クサナカを生死に関わらず捕えるよう命令が下ったことなどを伝えた。

 言葉を失う二人に、ロイは、はあ…とため息を吐く。

「なんでだよ……。生死に関わらずって……、殺してもいいってことじゃねぇか!」

「どうして!? 容疑は晴れたんじゃ…。」

「おそらくは、ルトホルト殺害容疑でというのは建前だ。」

「まさか……。」

「君らの想像と推理が正しければ……、そして検査の結果が実証されればの話だが、目的は、クサナカ君の心の臓だ。」

「……っざけんな。」

「鋼の…。」

「ふざけんなよ! あの人がそんなことで死んでいいわけがないだろうが! アル! 行くぞ、さっきのデーモンが飛んでった先が死霊の町なら…、まだ間に合うはずだ!」

「うん!」

「勝手は許さんぞ! 先ほども言ったが、邪魔をした者はすべて排除される! 例えお前が国家錬金術師でもだ!」

「それがどうした!」

「落ち着けと言っているんだ。ここで、元の身体に戻れず死ぬか、これより軍が回収予定の賢者の石のおこぼれを手に入れて元の身体に戻るか、よく考えろ。」

「だからって、見捨てたりなんかしねぇし、殺させない!」

「それは……、反逆の意思ありということか?」

 ロイが、錬金の印が入った手袋を嵌めた手を見せた。

「燃やすなら、燃やしてみろよ。」

 エドワードとアルフォンスが、臨戦態勢になる。

 しばし、膠着状態になったが……、やがて。

「行くなら…、急げ。」

 ロイが町の外を指差した。

「大佐……。」

「無駄かもしれんが、私が集めた無罪の証拠を提示し、止めるよう要請はしてみる。そこの君。」

「は、はい!」

 近くにいて、事の成り行きを見ていることしか出来ず固まっていた軍人がビシッと背筋を伸ばした。

「車で送ってやってくれるか? 死霊の町の手前でいい。二人降ろしたらすぐに引き返せ。」

「えっ…、あ、はい!」

「大佐…!」

「ありがとうございます!」

 そして、エドワードとアルフォンスは、手配された一台の軍用車に乗り、全速力で死霊の町へ向かったのだった。それを見送ったロイは、踵を返し、自分が連れて来ていた軍人達をまとめ、ブラッドレイ大総統の隊と合流する準備をした。

 

 

 




フェティッシュは、DMC1に登場した、人形型の悪魔。
頭蓋骨に黒マントのは、DMC1などに登場していたデスシリーズの悪魔ですね。(デスシザースとか、デスサイズとか)


どうやって死霊の町に引き返させるか悩んで、デスサイズ(雄牛の頭蓋骨のデーモン)に攫われる形にしました。

ブラッドレイ(ラース)直々に率いる隊による、クサナカの生死に関わらずの捕獲命令。
エドワードとアルフォンスは、反逆の意思を示し、クサナカを守るために急ぐ。


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SS9  死霊魔術師は、結界を発動させる

vsブラッドレイの部隊。


もっと長続きさせようと思ったけど、一話で終わらせました。


ブラッドレイ(ラース)が……。注意!!


あと、人体切断などの描写有り。注意!!


 

 約束通り死霊の町の手前で降ろしてもらったエドワードとアルフォンスは、二人を降ろした後去って行く車に目もくれず死霊の町に入った。

「クサナカさーーん!」

「たぶん、家じゃないか!?」

「待って、いたよ、あそこ!」

 濃い霞がかかった町中の舗装されていない町中の道の先に、クサナカが背中をこちらに向けてボーッと突っ立っていった。

「クサナカさん! 大変なことになった! すぐ町から逃げよう!」

「クサナカさん!」

「必要ない……。」

 駆け寄ってきた二人に、淡々とした声でクサナカが言った。

「必要ないって…、軍が来るんだぜ!? こんな小さな町なんてすぐ制圧…。」

「必要ない。」

「クサナカさん! あなたの生死を問わず捕まえろって命令が下ったんです! つまり殺されるってことですよ!?」

「だいじょうぶ。」

「だから…!」

「お前達も…、“孫”が狙いか?』

「?」

「……あんた、クサナカさん…?」

 振り返ったクサナカ(?)の顔は、なぜか影になっていて見えなかった。そして霞のようにフッと消えてしまった。

 

『結界が、発動する。お前達は、孫の家へ。』

 

「けっかい?」

「うわわ! 兄さん、周りに!」

「へっ?」

 どこからともなく聞こえるクサナカに似た声が、そう告げた後、周りの家からゾロゾロと人間達が出てきた。

 生気の無い顔。虚ろな目……、まともに見えない。

 そして何より、その手にクワやフォーク状の農具を手にしており、物騒この上ない。

「おいおい…、どうなってんだ?」

「死霊の町って…まさか…?」

 アルフォンスがなにかを察した。

 すると、背後から二人を掴む、骨の手があった。

「なっ!?」

「うわっ!」

 動物の頭蓋骨を触媒にしたデーモンだった。

 二人の首元を掴んだまま、引きずるようにクサナカの家に連れて行った。

 家に入ると、クサナカが家の中の床の上で倒れていた。

「クサナカさん!」

「う……。」

 エドワードとアルフォンスの声に、気絶していたクサナカが呻き、目を開けた。

「……爺さん?」

 頭を手で押えながら起き上がったクサナカが周りをキョロキョロと見回した。

「クサナカさん、なにが起こるんですか? この町は…、まさかだと思うけど…、住人はみんな……。」

「ああ……、そうか…。」

「クサナカさん?」

「爺さんは…、このために……。」

 二人の疑問に答えず、クサナカは座り込んだまま独り言を呟く。

 

 その時、町の出入り口からだろうか。爆発音が轟いた。

 

 その衝撃で、コロリと、黄金の頭蓋骨が床を転がり、カチッと上顎と下顎の歯が当たって鳴った。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

「これで、邪魔な霞はほぼ消えたな。ご苦労だった。」

「…っ……。」

 ロイは、痛む足を推して放った特大の炎の爆発で、死霊の町の手前を覆うように隠していた濃い霞を消し去っていた。

 あれから、ロイは、想定以上の速さで到着したブラッドレイの隊と合流したのだが、やはりというか、無実の罪については聞き入れて貰えず、それどころか、足をサーベル剣で、刺された上、こうして無理矢理連れてこられて炎の錬金術で濃すぎる霞を消し去るよう命令されたのだ。命を盾にされて。

 霞が炎の加熱により吹っ飛んでいく。やがて寂れた町が露わになると……。

 

 農具を武器として手にした虚ろな目をした老若男女の住人達が湧いて出るように出てきて、こちらに襲いかかってきた。その動きは、おおよそ人間のするそれじゃなかった。

 

「なっ…。」

「ふむ…。そう来るか…。だが想定の範囲内だ。」

 驚愕するロイに反して、ブラッドレイが冷静にそう呟いた。

 邪魔な異分子はすべて排除する。

 それは、忠実に実行され、様々な銃撃音が鳴り響く。

 だが、撃たれて倒れたかに思われた住人達はすぐに立ち上がったり、甘い甘いっと言わんばかりに半分吹っ飛ばされた頭の状態で指を振る。

「これは…、まさか!?」

「そう。この死霊の町と呼ばれる地図にない町には、生きた人間などいなかったのだよ。いや…、たった一人だけいたか。死霊魔術師……。」

 やがて前衛を越えて、1体の生きた死体がブラッドレイめがけて襲いかかろうとした。

 ロイが咄嗟に錬金術を使おうとすると、いつの間にか抜かれていたサーベル剣によって、生きた死体が切断されていた。しかし、それでも生きた死体は動き、ブラッドレイの足を攻撃しようとした。その手にサーベル剣を突き刺し地面に縫い付ける。それでも生きた死体は、ジタバタと動いていた。

「これで分かっただろう? 死霊魔術師は、これだけのことを平然とこなせるのだ。その気になれば、死者の国さえこしらえることさえできよう。」

「彼は…、そのようなことは…。」

「可能性だ。国を守るため国を揺るがす芽は断ち切るに限るのだ。こやつ等を動かす動力源は分かっている。間違いなくこの町に逃げ込んだ死霊魔術師の心臓にある賢者の石。」

「なぜ…その情報を?」

「ある情報網からの確かなものだ。全部隊! 前衛は下がり、これより、砲撃を開始する!」

「まっ…。」

「安心したまえ、完全物質の“賢者の石だけ”は、傷一つつかんのだ。回収後、国家錬金術師諸君には、その恩瑛に預かれるだろう。」

 それは、クサナカの死体が跡形もなくなってもいいということだ。賢者の石さえ無事ならば。

 ロイは、ギリッと唇をかみ、痛む足を崩し、その場にへたり込みそうになったが、左右にいた軍人に肩を貸され、後方に無理やり撤退させられた。

 ロイが下がらされ、軍用トラックに担ぎ込まれた後、凄まじい大砲の音が聞こえだした。

 

 何発か放たれた後、前線の方から悲鳴が聞こえた。

 

 ロイが身を乗り出して見ると……、そこには黒いマント状の霞のような物をひらめかせ、大鎌や巨大なハサミを手にして襲い掛かってくる赤黒い頭蓋骨を持ったデーモン達が軍人たちを襲っていた。

 ブラッドレイが上着を脱ぎ棄て、人間業じゃない身体能力で、軍人たちを襲うデーモンにサーベル剣で斬りかかる。

 あまりの素早い攻撃に、触媒にしていた頭蓋骨が破壊されていき、一体また一体とデーモンが倒されていった。

 それに続いて、前方からガシャンガシャンと音を鳴らして、炎を纏わせた車輪のようなものを手にしている黒い人形が歩いてきた。

 慌てて砲撃隊が砲撃するが、大砲による爆発をその車輪を盾にして防ぎ、口らしき部位から、凄まじい火炎を吐き出し、さらに車輪のようなソレをブーメランのように投げつけるなどの攻撃を来ない砲撃隊の大砲を破壊していった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方そのころ。

「くっそ! 容赦なさすぎだぜ! 賢者の石ごとぶっ飛ばす気かよ!?」

 爆風から身を守るため、地面の土を使い、錬成をして分厚い盾を作ったエドワードが悪態をついた。

「クサナカさん! やっぱり、逃げた方がいいぜ! 裏手の山の方にでも!」

「ダメだ。」

 エドワードの後ろの方で身をかがめていたクサナカが速攻で返した。

「なんで!?」

「この町は、爺さんが作った結界だ。ここを離れることはできない。」

「けど、このままじゃ!」

「………あの、眼帯の男か?」

「?」

「とてつもない数の……、デーモンが背後にいる。恨み……晴らしたいか? それほどに憎いか?」

「誰と会話して……?」

「なら……。」

「クサナカさん! ダメだ! 前に出たら!」

 クサナカが盾の後ろから出てしまい、エドワードとアルフォンスが止めようとしたが間に合わなかった。

 クサナカは、いつの間にか手にしていた黄金の頭蓋骨を掌に乗せた状態で、その腕を前に伸ばす。

「………その、恨み…辛み……、悲しみ、憎悪…お前たちのソレを……その男に!」

 その瞬間、凄まじい突風が、吹き荒れた。

 思わず目をつむって飛ぶ小石などから身を守ろうとしたエドワードとアルフォンスは、直後に見た。

 

 風に乗って、薄グレー色の、人の顔らしきものが多数大勢……、凄まじい放流となって風に乗りながら軍がいる方へと流れたのを。

 

 突風は、大砲の砲撃によって舞い上がった粉塵を吹き飛ばし、陣を敷いている軍の中を吹き抜けていく。

 

 そして、ブラッドレイがハッと、それに気づいたときにはすべてが遅かった。

 

 近くでブラッドレイを護衛していた軍人が見たのは、風と共にきた粉塵に顔らしきものがあり、まるでブラッドレイの全身をくまなく食らいつくさんという勢いで襲い掛かり、ブラッドレイの体から、背中からウロボロスの紋様のような黒白の何かが、無数の顔らしきものに食い破られるように散っていき、風と共にはるか彼方へ吹き抜けていくという、一瞬の光景だった。

 風が吹き抜けた後、ブラッドレイは、フラリッと後ろへ倒れてしまった。

「大総統閣下!?」

「…し…、死んでる…?」

 倒れた際に外れたブラッドレイの左目の眼帯の下の目は、白く、何も描かれてはいなかった……。

 

 ブラッドレイの突然死により、ブラッドレイが直々に指揮下に入れていた軍は、迫ってくる黒い人形・フェティッシュを前に恐怖し、統率が取れなくなり、撤退していった。

 

 

 




デーモンを使った、魂喰らい……っとでも言いましょうか。
対ラースへの必殺の攻撃方法は、ネタを考えたときからずっとこれで決めてました。
最強の目を持っていても、気配でヤバいと感じても、今まで殺してきた、買ってきた怨みの量と纏わり付かれていたデーモンの数には敵わなかった……。
クサナカなら祓うこともできたけど、それを逆手にとって恨みが向く方向を正し、攻撃の手段を与えたのが、今回の攻撃。攻撃後、ブラッドレイに憑いていたデーモン達は成仏。
なお、この攻撃方法は、怨みを買っていればいるほどの相手ほど効果が上がる。


クサナカの爺さんが死霊の町を結界としていたことや、その作った理由などは、次回に。


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SS10  先代の死霊魔術師

描写的には、銀魂の葬式の話を参考。
あの時のあの二人のリアクション最高だと思ってます。


エドワードとアルフォンスは、非科学的な物は信じないと思うけど、実際に目の前にしたら、年相応になるとか?


 

 軍による攻撃で、死霊の町はメチャクチャになった。

 そして何より聞かなければならないことがある。

「クサナカさん…、この町の人って…。」

「ああ…。全員デーモンが宿った生きる屍だったらしい。」

「らしい?」

「思い出した。やったのは、爺さんだ……。」

 中空を見上げ、クサナカは、ポツリポツリと思い出したことを語り出す。

 

 この町は、そもそもずっと昔に流行病で全滅した町であり、そのため地図上から消されていた。

 だがそこへ幼いクサナカを連れた、彼の祖父がやってきて、死霊魔術を用いて死体を集め、そこにデーモンを宿らせた。そして、町と畑を機能させ、そこに住み着いた。

 余命短い間に、クサナカを守るための結界として町全体が機能するよう様々な仕掛けと、上級デーモンの器になる人形(フェティッシュ)も用意し、クサナカを狙う者達が現れた時に備えた。

 

「ちょっと待ってくれ。」

「なんだ?」

「狙ってくる者達ってことは……、賢者の石があるってことを、あんたの爺さんは知ってたってことか?」

「知ってたかどうかは分からん。だが…、狙ってくる連中がいたことは確かだ。それが誰なのかは分からない。」

「なんだそりゃ? クサナカさん、なんも聞いてなかったのか?」

「それが、記憶が異様に曖昧でな…。頭が今、ちょっとパニック気味。」

「だいじょうぶですか? ……兄さん? どうしたの?」

 ふとアルフォンスがエドワードの方を見ると、エドワードが青ざめていた。

「兄さん? どうしたの?」

 エドワードは、青い顔で硬直したまま、スーッと右手だけ隣にいるアルフォンスに向け、バンバン!と勢いよく叩いた。

「なになに? どうしたのさ?」

「あ、あ、あ、あああああ、あれ! あれぇ!」

「えっ?」

「?」

 エドワードが左手で指差す先は、クサナカの後ろ。

 アルフォンスもソレを見つけて、固まった。

 

『おやおや~? どうやらわしを見つけたようじゃのう?』

 

「………爺さん?」

 ソレが発した声を聞いて、クサナカが振り向く。するとクサナカによく似た顔の老人がクサナカを見おろし、優しく微笑んだ。

『久しぶりじゃな。クサナカ。』

「なんで…?」

『わしゃ、ずっとお前の傍におったぞ?』

「それだったら、俺が感じてたはずだ。」

『感じないように細工しとったからじゃ。』

「あー…。」

 クサナカがなんか納得している傍ら、エドワードとアルフォンスは、開いた口と目が見開かれた状態で固まっていた。

「どうした?」

『わしを見つけたのは、あのちびっ子達じゃわい。』

 チビと言われても、エドワードは反応しなかった。それどころじゃないからだ。

「お……。」

「お?」

「おばけえええええええええええ!!」

 

 足ないし、浮いてるし、半透明だし……。錬金術脳と言える天才児兄弟とはいえ、目の前にいるクサナカの祖父の霊魂を前に、ギャーーーっ状態だった。

 

 その後、落ち着いてから、唯一無事だったクサナカの家へ。

 クサナカの祖父は、クサナカの斜め後ろでフワフワ浮いている。非現実的な光景もいいところだ。

「それで爺さん? あんたは、なんでここにいる?」

 怖々しているエドワードとアルフォンスを後目にクサナカは、日常会話でもするように淡々と祖父の霊魂に聞く。

『お前からあの時の記憶を消しておる。だから覚えてないのは仕方ないこと。』

「あの時って?」

『わしが死んだ時じゃよ。』

 こんなぶっ飛んだ会話が普通に出来るのは、二人が死霊魔術師であるからであろう。

『わしは、わしが死ぬ間際の自分の肉体と魂をデーモンに変えた。そして、ずっとお前に憑いていたんじゃよ。』

「なんで?」

『お前は、自分の生き死にに執着がないから……。』

 クサナカの祖父は、困った顔をしてそう言った。

『お前が成人する前に、自分が死ぬと分かってからわしゃ必死だったんじゃぞ? どうすれば生きる執着を持たせてやれるかって。』

 それを聞いてエドワードとアルフォンスは、少し思い当たった。

 そういえば、賢者の石が心臓にある可能性があると分かったとき、“抉るか”とクサナカは平然と言っていたのだ。

 さらに、『必要なら、死んでもいい』っとまで言っていたのだ。それは、自分の生死に興味が無いからだろう。

 そこでクサナカの祖父は、自らをデーモンに変えることで取り憑き、孫のクサナカに発見されないようにしてうまいこと死を回避させていたのだ。

「心配性だな。」

『お前は、ちっちゃい頃から心配な性格しておったから。』

 どうやら昔からクサナカは、こうだったらしい。

『ところで、そっちのちびっ子達。』

「誰がちびっ子だ!」

 落ち着いてきたエドワードがやっとちび呼ばわりされて怒った。

『ガハッハッハッハッ! 元気の良いことじゃ。いきが良い魂はこれだから良い!』

「そんな魚みたいな…。」

『まあ、そう怖がるな。っと言っても子供には刺激が強いか? 鎧のちびっ子少年。』

 そう言われてアルフォンスはビックリした。

 鎧の身になってからというもの、子供だとは言われたことがなかったからだ。

『わしもそうじゃが、クサナカにもお前さんはそう見えておるよ。精霊や魂を重要視するわしらにとって、肉体は関係ない。見た目より中身っていうじゃろ?』

「へ~。」

「で? 爺さんは、デーモンになってるわけだけど、今になってなんで…。」

 クサナカが聞くと、彼の祖父はクサナカを見た。

『強いて言うなら、きっかけじゃ。わしが自分の存在をお前から見えないよう感じないようにしすぎたせいで自分でも相手に見せる感じさせることができんかった。偶然にもそこの子達が見つけてくれたおかげでやっとこさ自分の存在を出せるようなったわけ。』

「案外うっかりだな。」

『わしじゃって人間じゃからのう。失敗することぐらいある。』

 腰に手をあて胸を張って言うクサナカの祖父。出会い頭からだが、クサナカとは全然性格は違うようだ。

『ところで!』

「は、はひぃ!?」

 いきなり話を振られ、見られてビクッとなるエドワードとアルフォンス。

『お前達は、その若さで相当な手練れの錬金術師と見たが、頼みがある。』

「な、なに?」

『……孫を…、クサナカのことを頼めるか?』

「はっ?」

『ああ、別に婿にしろとかそういうアレじゃないからのう。』

「アホか。」

 ポカンとなるエドワードとアルフォンスとは対照的に、冷静にツッコミを入れるクサナカ。祖父は、冗談じゃと、ガハハハハっと笑うだけだった。

『ま、冗談はさておき…。改めて…、賢者の石の処分を頼みたい。』

「えっ!?」

 いきなりの頼みに二人はビックリ仰天した。

『処分方法は、そちらに任せる。ただ、賢者の石を取り出し、そしてできたら破壊してほしい。その過程でお前さん達の身体を元通りにするなりしても構わん。』

「やっぱ、俺の中にあるのか?」

 あるかどうかは本人にも不確定だった賢者の石の存在が、祖父の言葉通りなら本当なのだとしたら……、ブラッドレイが軍を率いてまで回収しようとしたのも…。

「いいのかよ…?」

『もちろんじゃ。わしらには、賢者の石なんぞ、無用の長物。むしろ邪魔じゃ。先祖代々生きた過程で出来てしまった不要物じゃ。』

「け、賢者の石を、不要物扱いって…。」

『錬金術師にとっては、まさに喉から手が出るほど欲しい代物じゃろうが、人によっては何の意味も持たん。そういうものじゃ。』

「それはそうだけど…。なんでまた…。」

『賢者の石より、孫の命の方が大事じゃ。それだけじゃよ……。』

「なるほど。このままいけば、賢者の石を奪うためにクサナカさんが殺されるからか。」

『それだったら……、まだいいじゃが…。』

 クサナカの祖父は、なにか深く思うように目を閉じた。それを三人は不信に思った。

 その時、車のエンジン音が響いてきた。

 まさかまた軍がっと思ったが、どうやら車は一台だけだった。

『おや? どうやら迎えが来たようじゃな。』

「迎え? 大佐か?」

『おそらくは、そうじゃろうな。あれも錬金術師じゃて。足を怪我をしておるが…。運転手がこっちに来ようとしておる。行きなさい。』

「俺も行く。」

『そうじゃな。』

 クサナカも立ち上がったことに特に問題視せず、クサナカの祖父は、そう言ったのだった。

 

 破壊された町の出入り口に行くと、一台の軍用車があって運転席の隣の助席にロイが乗っていた。運転手の軍人が今まさにエドワードとアルフォンスを呼びに行こうとしていたのか降りていた。

 町の住人だった屍達は、物理的に破壊された時点で塵になって消えたらしく、跡形も無かった。

 

 

 




なんか不穏なことを言っている、先代死霊魔術師のクサナカの祖父。
そして、エドワードとアルフォンスに、賢者の石の破壊を頼む。(処分方法は、お任せ)


次回から、ブラッドレイが死んだことで、アメストリス国内と国外をも巻き込んだ混乱が始まる?


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SS11  死霊魔術師、東へ

死霊の町が大破したため、クサナカは、町の外へ。


ロイ、クサナカの祖父を見て、個人的な悪巧みを……?


 

 

 破壊された死霊の町から離れ、舗装されていない道を、軍用車がひた走る。

「おーい、たいさ~~? 後ろ向けよ~。」

 しかし、ロイは見ない。腕組みしてドッシリと席に座って前を見ているようだ。

「いい大人がこぇえのかよ~?」

「怖くなど無い!」

 意地悪く聞いてくるエドワードに、ロイが素早く返答。

「おいおいおーい、いやに声張り上げやがって、やっぱ怖いんだろ~?」

「怖くなどないと言っているだろう! 例え、足が無くても! 浮いてても! 半透明でも…だ!!」

「最後の方、変に間を開けてて不自然だっての。」

「汗ダラダラのようだが、暑いか?」

 クサナカが、淡々とした口調だが、特に深い意味を込めず普通に心配して聞いた。(淡々口調は癖みたいなもの)

「汗などかいてない!」

「あの…、大汗かいてますよ。マスタング大佐……。」

「黙って運転していろ!」

「は、はい!」

「僕らも最初はビックリ仰天しましたけど、現実は受け入れましょうよ。」

「私は別に現実逃避などしていない!」

『今は、そこの運転手だけに見えないよう調整しているからのう。気持ちは分かるがそろそろ現実を受け入れたまえよ、若造君。』

「ーーーーー!」

 ロイの斜め後ろからクサナカの祖父がワザと、フ~~と息を吹きかけロイのサブイボを立たせた。なにせデーモン(死霊、または悪霊の類)、温度なんぞない。

「やめていただけるか! 次やったら燃やす!」

 息を吹きかけられた耳を押えて、やっと後ろを向いたロイがクサナカの祖父にガーっと怒る。なお、運転手には見えてないため、なにが起こっているのか分かってなかったが口出しはしなかった。

『燃やせるものなら燃やしてみたまえってか? お前さんの焔が霊魂を理解し、焼き尽くせる物であるならば。』

「っ……。」

『まあ、そう警戒しなさんな。なにも呪い殺すような真似をすることはせんから。』

 クサナカの祖父は、そう言って笑うが、ロイは、それどこじゃない。

 彼とてエドワードとアルフォンスとは研究テーマが違えど錬金術師。クサナカの祖父というデーモンの存在がソコにいるという現実を受け入れたいが、現実離れした目の前のソレを頭が拒否しようとしていてグチャグチャなのだ。

 幽霊と言えば……、するとロイは、思考を切り替えた。

「そうだ、これから東方司令部に来てくれます? ぜひとも見せたい相手達がいる。」

「どういう気の変わりようだよ? なに企んでんだ?」

「別に? 私個人の遊びみたいなものだよ。」

 前を向き、クックックッとなにか悪巧みしている笑い方に、クサナカは首を傾げ、エドワードとアルフォンスは胡散臭そうにし、そしてクサナカの祖父は若いのう~っと苦笑していた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 そして、東方司令部へ。

 発展した街に来たことがないクサナカは、物珍しそうにキョロキョロと周りを見回していた。

「お疲れ様です、大佐。」

 リザ・ホークアイがまず出迎えた。

「ホークアイ中尉、今すぐ私の執務室にハボックとブレダ、ファルマン、フュリーを招集したまえ。見せたい物がある。」

「? はい。」

 一瞬ロイの思惑が分からずハテナと思ったホークアイだが、すぐに忠実な部下として顔を引き締め、ロイの執務室に先ほどあがった名前の者達を呼ぶよう手配した。

「お久しぶりです。ホークアイ中尉。」

「あら、エドワード君とアルフォンス君も…。そちらの方は?」

「クサナカだ。初めまして。」

「初めまして、私は、東方司令部所属、リザ・ホークアイ。階級は中尉です。」

「クサナカ君。ついて来てくれるかい?」

 お互い自己紹介をして頭を下げ合うクサナカとホークアイだったが、クサナカはロイに呼ばれた。

「……なにか企んでいるようだけれど、ほどほどにお願いします。」

「お見通しですか…。」

「上司ですから。」

 ロイの企みにはなんとなく気づいているらしいホークアイだった。

 エドワードとアルフォンスもついていき、そしてロイの執務室に通された。

 執務室には、すでにハボック、ブレダ、ファルマン、フュリーがいた。

「緊急招集ということでしたが、何事ですか?」

「それはな……。クサナカ君。」

 キリッと真面目顔でクサナカに、分かってるな?目線を向けてくるので、エドワードとアルフォンスは、なにをやろうとしているのか理解した。

 

 その数秒後。

 

 

 

 東方司令部に、男達のデカい悲鳴が響き渡った。

 

 

 

『ガハハハハハ! イキの良い若い魂の悲鳴はいい!!』

 ガチ幽霊(デーモン)で、その存在をもってハボック達を恐怖のどん底に突き落としてナイスなリアクションをさせたクサナカの祖父は、腹を抱えて笑っていた。あと、ロイも普段の彼からは想像も出来ない抱腹絶倒状態で腹押さえて笑っていた。

 なお、ホークアイは、目を見開いたものの、なんとなくクサナカの背後に気配的な物を感じていたらしく、そこまで驚かなかったのでロイは密かにガッカリしていたのだった。

 あと、このあと、いらんことで部下を招集して仕事を中断させるなとホークアイが静かにお怒りになり、ロイはしっかりとお仕置きは受けたのだった。(※足の怪我など関係なく)

 

 

 




クサナカは、常に淡々。
クサナカ祖父は、割とやんちゃ(?)。



なお、時間軸的には、小説版のオマケ話、ロイ達の肝試しの時系列後ですね。


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SS12  これからを考えつつ、衝撃事実発覚

久しぶりに投稿。

お待たせして申し訳ありません!

どんだけ待たせてるんだ、このド阿呆が!!(自分で自分を殴りたい)




今回は東方司令部で会話が主。

ブラッドレイ没後のことと、クサナカの今後についてと。

あと死霊魔術師という一族の謎の深まり、です。



一部、微妙に腐向けっぽい表現がありますが、そんな意図はありません。
軽いジョーク…っぽくしたかったのですが、筆者が腐女子のせいかもしれません。






それでもOKって方だけどうぞ。







いいですね?





 

 

 

「まったく、変なことを考えて…。ご自分のお歳を考えてください。」

「うぅ…。」

「マスタング大佐は、中尉に尻に敷かれているのか?」

「どーなんだろうな?」

「情けなーい。」

 ホークアイに叱られ床に正座させられているロイ(※足怪我してます)を見てクサナカが呟きエドワードとアルフォンスが冷め切った目でロイを見ながらそう言ったのだった。

「しっかし、マジで幽霊なんすか?」

 クサナカの後ろにいるクサナカの祖父の存在にハボック達は少し慣れてきたものの、まだ怖々半信半疑だ。

『わしらはデーモンとひとくくりにしているが、幽霊とも言えるのう。』

「うわ~、足無いし、浮いてるし、半透明なのに喋れるんですね…?」

「ガチの幽霊と俺ら喋ってるって前代未聞でしょ、これ。」

「『幽霊』。死んだ者が成仏できず現れたモノ。死者の霊が現れたモノ。……が、一般的な認知。」

『わしゃ自分の意思で現世に残っておる。まあ、孫が心配でという意味では未練が残っていて成仏できんかったとも言えるかもしれんが。』

「へ~、死霊魔術師って言ってましたけど、そこらの幽霊も見えるってことっすか?」

『見えとるが、見ないようにしておるよ。孫もな。』

「どうしてですか?」

『デーモンの多くはこっちが見えていると分かったら、こちらに害を与えてくるのが多くてな。もちろん聞こえていても同じじゃ。だから必要なければ極力無視しておる。』

「…そういうもんなんすね。」

「猛獣と目を合わせるのは喧嘩の合図って聞いたことあるな。」

『お前達もそうじゃろう? 嫌な目でジロジロと見られたりするのも気分が良くないことだし、逆に相手をジロジロ見ていたら相手にとって不快だから止めなさいって。それと同じじゃ。獣も似たようなものじゃが。』

「あっ、なるほど。そりゃそうですね。」

「生きた人間の方が怖いってオチっすか?」

『違うな。生きていても死んでいようと怖いもんは怖い。どっちがとかじゃないんじゃよ。』

「幽霊さんが言うとそれが真理って感じがしますね。」

 最初の大パニックが過ぎ去ると和気藹々な雰囲気になっていた。

「なんか…、あっちゅうまに打ち解けてるなー。」

「そうだねー。」

 ハボック達の順応性もあるがクサナカの祖父の性格も良かったので打ち解けやすかったのかもしれない。

 一方でクサナカ自身は興味が無いらしく、ロイの執務室の内装をのんびり眺めていた。

 

 

 

 ホークアイのお説教の後、東方司令部に入っていたブラッドレイ大総統の急死による中央からの緊急の伝達やら、国全体で執り行うための国葬の準備やら、大総統の急死について国民にどう報じるかについてロイ以上の高い階級の者達がすでに中央に緊急招集されていて、今は中央にいる大総統以下の大総統府所属の人間達が必死に頑張ってまとめ、混乱を抑えているらしい。

 東方司令部を任されているロイにもいずれ行う国葬の出席の話が追々伝えられるそうだが、大総統府は混乱の極であることがロイの友人で中央に勤務しているヒューズから愚痴混じりに聞いていた。ハッキリ言って急なブラッドレイの出撃と戦争でもするような武装した軍を率いて移動した件はすでに国内に知られており、新聞やラジオなどのメディアの操作も大変で、中央はブラッドレイの圧力で封じていた反政府勢力を警戒しており、どこから手をつけたらいいかも分からず現場は右往左往しているとか。

 ロイは、次から次に来る大量の電話や電報やらを片付けながらエドワードにも国家錬金術師として軍からもらっている地位もあるので国内にいる他の国家錬金術師も含めて国葬の参列者になるだろうということもついでに伝えた。国家錬金術師としての資格でたくさんの権利とお金をもらっているのだ、本人が不本意でも国家という大きな後ろ盾から受けていた物がデカすぎる。なので賢者の石目当てにクサナカごと殺されかけたりはしたが国葬への参列の義務については不満はあるがエドワードは反論しなかった。むしろ人体錬金という大罪を隠すためにロイの口添えとエドワードの錬金術師としての能力を売り込み、それを承認してもらったうえで国家錬金術師としての立場と権力を持つことを許して貰ったのだ、さすがにそこまでしてもらった恩を忘れて葬儀に参列しない不義理をするわけにはいかない。クサナカごと殺されかけた時、賢者の石の可能性に焦ってもいて正常で冷静な判断が若干できなかったこともあり軍の命令に背いてクサナカを助けようとすることを選んだが、ブラッドレイの死や諸々の出来事と時間が経過してさすがに頭も冷えてエドワードはブラッドレイの認可がある得た国家錬金術師として国葬への参列を決める事ができたのだった。

 

 それに。

 

「ちょうど中央に用があったし。」

「クサナカくんを連れて行くのか?」

「もちろん。」

「今行くのは薦められないぞ…。」

「そりゃ大総統が死んで大混乱してっけどさぁ。早いとこ目的は達成したいし。」

「それだ。実はまだ決定事項じゃないが、今後国家錬金術師への各種保障と権利もろもろ、研究資金の支給さえ危うくなるかもしれん。そうなれば研究所の閉鎖も視野に入れることとなる。」

「だったらなおさらだろ。閉鎖前に研究所の機材を使わせて貰えば…。」

「だから余計にだ。大総統の死の原因について大衆も軍内部も詳細を知ろうとしている。今のところクサナカくんのことは知られていないようだが、死霊の町を知るあの町の住民達は大総統が隊を率いて来た姿を目撃している。列車が止まる駅の町だ。国内と国外に広まるのも時間の問題だろう。それに…、君は目的通りにならなかった場合のことと、事が終わった後でクサナカくんのことを放逐する気か?」

「えっ?」

 ロイの言葉にエドワードはキョトンとした。

「クサナカくんの住居はあの町ごと失われている。それに死霊魔術師のことを避けているあの町から近い地理にある町の住人達が彼を受け入れると? まあ、君らに彼の衣食住を保障する責任はないが、どう考えているのか気になってな。」

「…………考えてなかった。」

「君らの人生の最大の目標が達成するかも知れないから焦る気持ちは分かる。大いに分かるが、終わったあとの責任が発生することも視野に入れなければな。君らが無理ならクサナカくんの生活保障を私の方でしてもいいんだよ?」

「はあ~!?」

 クサナカの保護と生活の保障についての部分で何やら意味ありげに悪そうな笑みを浮かべたロイに、エドワードは疑り深い顔をして声をもらした。

「なに…、考えてんだよ?」

「おや? なにを疑うのかな? 私はあくまで善意で…。」

「嘘つけ! んな、うさんくせぇ顔して、なんかよからぬこと考えてるの丸わかりだっつーの!!」

「疑り深いのは悪いことじゃないが、疑いすぎはよくないぞ、鋼の。」

「だからなに企んでんだ!? クサナカさんをどうする気だ!?」

「なにを想像しているのかな? 私が彼に何かすると?」

「女なんて引く手あまたのくせに手癖の悪さが堕ちるとこまで堕ちたかよ!?」

 悪そうな笑みを浮かべたまま意味深な返答をするロイにますます声を荒げるエドワード。

 そこへ。

 

「賑やかだな。」

 

 二人の話題に出ていたクサナカ本人が登場。

「大佐。本日の提出書類には目を通しましたか?」

「っ、…あっ。」

 クサナカと共に入室してきたホークアイがロイに聞くとロイはハッと思い出したように顔色を変えた。

「エドワード君をからかう暇があったら、目と手だけでも仕事に使ってください。」

「息抜きぐらいはさせてくれ…。」

「だからといってエドワード君をオモチャにしていい理由にはなりません。こうして会話をする時間も勿体ないので1枚でも多く書類の確認とハンコを。」

「……。」

 これ以上無駄口叩くなと言わんばかりのホークアイの鋭い視線にロイは観念し、仕事の続きを始めた。

『おー…怖いのぉ…。婆様を思い出す。』

「ソウゲンさんの奥さん?」

 アルフォンスが聞くとクサナカの祖父であるソウゲンが首を横に振った。

『いや、祖母。わしより先代の死霊魔術師じゃ。』

 クサナカの後ろにいるソウゲンが昔を懐かしむように中空を見上げた。ソウゲンより前の死霊魔術師は女性だったのだ。

「爺さんの婆さんってそんな人だった?」

 クサナカも興味が湧いたのか聞いた。

『うーん…、なんというか、いかにもっていうのかのう? 周りから魔女だの呪術師だのって見られて頼られてたのは覚えておる。』

「死霊魔術師だから?」

『それもあるじゃろうが、薬学だの心霊治療とかも独学でやっておったから自他共に認める『魔女』だった。』

「ご自分で認めているのって、なんだかすごい誇り高そうですね。」

「時代が時代なら針のむしろどころじゃないだろーに、メンタルバケモンレベルだな…。」

『女手一つで家族を養うためじゃったから…、それはもう強い人じゃった。話によると臨月間近で自然災害かなにかで未亡人になって、その時の経験で薬学を学びだして生計をたてたそう。』

「そ、そうだったんですか…。」

 なかなか重たい人生を送っていたということが分かり魔女として認知されながらもそれを宣伝に利用していたことが伺えた。家族を養うために手段を選ばなかったのだろう。

『人前では一切そんな悲壮な過去があることを感じさせないから、最後を看取る前に話を聞いたときは本当に驚いた。カッコいい人じゃった。』

「ホークアイ中尉は?」

『見た目、所作共に美しくカッコいい素敵な女性じゃな。声を掛けないでいるなんて失礼に値する。』

「ありがとうございます。」

 クサナカにホークアイについて聞かれソウゲンは自分の顎に手を当てて偽りなく、けれど軽い感じに紡がれた言葉だがホークアイをひとりの女性として素直に褒める内容にホークアイは軽く会釈し表情を和らげた。そのホークアイの反応に書類にロイがびっくりしていたのだが誰にも気づかれなかった。ソウゲンの物言いと表情や態度には下心のような下品さがほとんどない。年配だからであろうか? それともソウゲンの人柄のせいか?

 その後、本当にこれからのことを考えないといけないのでロイの仕事が一段落してから話し合いとなった。

 クサナカは一般人なので国家の中枢の内情なんて詳しく知らないし、ましてや国家錬金術師に関する法律なども詳しくは知らないのだ。しかも片田舎の住民だったから余計に情報もなかっただろう。国家錬金術師が身分を隠して死霊魔術を学ぼうとやってくる事はあったが向こうが身分を隠しているだから国家錬金術師の権限云々のあれやこれを知るはずがないのだ。だからそれらを含めてクサナカを連れ出したエルリック兄弟目的のことと、今の状況からクサナカの今後の身の振りを考えないといけないのだ。

「調べるんだろう?」

「それができないかもって話なんだって。けど、このまま死霊の町だった場所に帰せないし…、そもそもあそこ町じゃなかったわけで…。しかも全部壊され尽くしちまったし…。」

「ああ、俺の住むところのことを気にしてるのか? それなら根無し草で生活するからいい。」

「えっ、で、でも…。」

 クサナカを町から出したことでそうなったのではないかと思ってしまい罪悪感を感じていたエドワードとアルフォンスに、クサナカは心配ないという意味で住所を持たないで各地を渡り歩く生活すると言った。

「じーさん達はそんな生活してたんだろう?」

『そうじゃな。わしの親も婆さん達もずっとそうじゃったらしい。詳しくは知らんが。』

「なんで知らないんだ?」

『いや…そう言われてものう…。何年前の話を思い出せと言われても…。』

「そういえばなんで爺さんは死霊の町を作って俺を住ませていたんだ?」

 クサナカの言葉にエドワード達がハッとした。

 今の今までなぜそのことを気にしなかったのか不思議である。疫病で無人となった町に死霊魔術で死体を生きている人間に偽装してまで孫を守るための結界を作り上げ、祖父である自分が亡き後も自らをデーモンに作り替えて傍にいて守護してきたのだ。並大抵のことではないのは端から見ても明らかなことなのでよっぽどの理由がありそうだ。

「あ、でも…。」

「ああ…。」

 アルフォンスが思わずハッとして声に出すとエドワードが同じ事を考えていたから同調したように声を漏らした。

 賢者の石。

 クサナカの体内にあると推測される錬金術師が夢見る究極の物質。

 しかもそれを裏付けるようにアメストリスという国のトップであるブラッドレイが軍を率いて死霊の町を攻撃してまでクサナカを狙ったのだ。

 実際に動物の頭蓋骨や泥を触媒にしてデーモンを即席で作ったり、錬金術を行うと通常の5倍ほどの錬成の結果を出すなどの現在の理論ではあり得ない結果を平然とやってのけるのだ。明らかに普通ではない。

 5倍ほどの錬成の結果を出せることからエドワードとアルフォンスはクサナカの体内に賢者の石のヒントがあると見たから中央にある最新の技術と機器がある研究所で調べたかったのだ。

「ソウゲンさん。あんた言ったよな? 石の処分は俺らに任せるって。だったらそのための情報をくれたっていいだろ? あんたの大事なお孫さんを無事に生かすためにも。」

「爺さん…。」

 クサナカを含め、エドワート達の視線がソウゲンに集まり彼の言葉を待つ。

 ソウゲンはその視線を受けて困ったようにポリポリと頬を指でかいた。

『正直なところ…、実はわしも確信があるわけじゃないんじゃよ。』

「はああああ!?」

「ええーーー!?」

 エドワードとアルフォンスがソウゲンの言葉に思わず声を上げ、クサナカは目を丸くしていた。

「分からないのにクサナカさんの身体に石があるって言ったのか?」

『あるんじゃないかって疑いがあるからずっと狙われてた。しつこすぎるから振り切るのにあの町を作ったんじゃ。』

「誰に?」

『詳しくは知らん。』

「そこ超大事でしょーーーが!!」

「爺さん…。あんたって生きてた頃からいい加減なんだからさぁ…。」

 勢いでビシッとツッコむエドワード。思い当たる部分が他にあるらしいクサナカが感情が薄い表情だが少し呆れたようにため息を吐いた。

「…それはあの時襲いかかってきた大男とかですか?」

 ロイがソウゲンに聞いた。

 クサナカを狙ってきたらしいあの奇妙な大男。怒りまくって暴れ、その巨体と怪力で軍用車を吹っ飛ばし軍人達に重軽傷を負わせ、ロイの炎でも倒れず、しかしクサナカと目を合せた瞬間に胸部から大量のデーモンを放出しながら崩れて消滅した。

『彼奴は…、その一味みたいな? 見覚えがあるというか…。』

「ハッキリしてくれよ。」

『なにぶん、かな~~~り昔の話で、記憶が霞んでて…。』

「そんな昔!? それってクサナカさんが生まれるよりも前ってこと?」

『いや生まれておったが?』

「ん?」

 なにかおかしいことにすぐエドワード達が気づいた。

「あの失礼ですが、質問しても?」

『なんですかな?』

 ホークアイが挙手してソウゲンに質問した。

「死霊の町に籠もられたのは…、お幾つの時の話なのでしょうか?」

『………………………あー……………あーーーーーー…………。」

 ズバリ聞いたホークアイの言葉に、ソウゲンは腕組みしたりして頭を捻ったり、両手で数を数えたりして思い出そうと頑張った。

「そういえば…日数を数えるのもやめてたような気がする。」

 クサナカがポツリと呟いた。

「爺さんがそういうことを気にしないように働きかけてたんだだろ?」

『……ああ。』

 クサナカが自分の傍に浮いているソウゲンの顔を見上げて聞くと、ソウゲンは目を細めて苦笑して頷いた。

「それでもなんとなくの年数は分かる。」

 クサナカが遠い記憶を思い起こすように目を閉じた。

「ざっと……、千年以上は同じ場所にいたような気がする。」

『すまない…。』

「は?」

 クサナカが口にした年数にエドワード達が言葉を失っていたし、あまりに信憑性がないため科学者の一端である錬金術の専門家たるエドワードとアルフォンスとロイが身を乗り出したりもした。

「あ、あああ、あんたら…………、いったい何歳なんだよ、おいいいい!?」

「………………………たぶん27?」

『それはお前の今の見た目になった時の歳じゃな。』

 つまり外見年齢プラス千年以上。あくまで推測である。

「じゃ、じゃあ…ソウゲンさんも…?」

『わしは孫が若いまんまだって知って、死霊魔術師の血族がそういう体質だと初めて知ったよ。』

「爺さんは普通の人間と同じ成人の年齢の時の結婚して、子供が出来て、孫ができたから不老ってことに気づかなかった?」

『そういうこと…なんじゃろうな。いやぁ、全然知らんかった。』

「爺さんの婆さんは?」

『わしがチビの頃にあっという間に老衰で…。』

「詳しいことを聞く暇もなかった?」

『聞いておけばよかったのう。』

 苦笑するソウゲン。

 肝心なところを知らずに死霊魔術を操る特異体質程度にしか思っていなかったため、孫のクサナカを死霊の町に住まわせて世間から隠して育てて自分の死後に自分が知らなかった自分達死霊魔術師の血族の特異性を知ったという実に数奇な人生を送る男。

 そもそも死霊魔術自体が死霊魔術師がそれぞれの感覚で操る代物であるためそういう重大な異常性も知っている者と知らない者とその時その時だったのかもしれない。だからソウゲンの祖母(先代の死霊魔術師)が不老の体質のことを知らなかった可能性もあるのだ。

 

 今後のことを考えようと話し合いから飛び出した衝撃の事実が判明。

 死霊魔術師が不老だったということ。

 千年以上前からソウゲンとクサナカは生きており、何者かに狙われて死霊の町を作り、そこに身を隠していたこと。

 

 賢者の石のことを含めて死霊魔術師という存在の謎が深まったのだった。

 

 

 




クサナカの祖父、つまり先代の死霊魔術師。
名前は、ソウゲン。
外見はクサナカそっくり。若い姿。
家族思いだけどナチュラルに女たらしで、肝心なことを聞いてなかったり覚えてなかったりするのんびりしたいい加減な性格。
昔の記憶が曖昧なのは、たぶんすでに死んでいることも関係しているかも。(脳みそがないから)

クサナカの実年齢はともかく、ソウゲンが不老の体質を知らなかったのは文中でも書きましたが彼は普通の人間と同じ成人年齢ですぐに結婚して子供を授かり、その子供の成長後に次代の死霊魔術師となる孫のクサナカが生まれたから、生まれてから死期を悟るまでの期間が普通の人間と同じぐらいだったから。
そのため不老であることを指摘されなかったのもあり死後にデーモンになってから孫のクサナカの不老のことを初めて知ったのです。

クサナカも生きてきた年数を詳しく知らないのは、デーモンとして傍にいたソウゲンがそういう思考を鈍らせて死霊の町から出さないようにしていたのも影響している。


最初の頃の設定では実は長寿だったという設定はなかったのですが、執筆してて加筆して、今ではホムンクルス達より年上ということにしました。

中央に行くか行かないかは、行かせる予定ではありますが、その前にブラッドレイ没でゴタゴタさせすぎてしまったのでどう片付けてシンのキャラ達とも絡ませるかも考えたいと思っています。


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SS13  狙われる死霊魔術師

今回はオリキャラ多数。ただし名無しのモブ達。

展開は完全オリジナル。原作はホムンクルス達2人と、ブラッドレイ早期退場でとっくの昔に崩壊しています。


死霊魔術師が体内に賢者の石がある疑惑が広まっている…?疑惑事件。


なんか色々おかしいですが、とりあえず投稿しましたがあまりにも矛盾などの指摘が多いようでしたら削除して書き直します。




それでもOKって方だけどうぞ。











いいですね?








 

 

 休憩時間中のロイの執務室内がカオスになっていた。

 主に国家錬金術師の2名と錬金術師1名の苦悩から来る重苦しい空気が原因だった。

「空気が重い。」

『お前はマイペースじゃのう…。まあ、物心ついた頃からじゃが…。』

 表情は少ないがケロッとしている様子のクサナカに、ソウゲンが苦笑した。そのマイペースさゆえに千年以上も同じ場所で変わりなく過ごせたのだろう。

「最高硬度のダイヤモンドを超えそうな硬さのメンタルですな…。」

「千年以上生きてりゃ、そりゃ精神力なんて常人を軽く超えるだろーが…。マイペースっつーより、精神だけ老化して落ち着きすぎの究極形態みたいになっちまってんじゃ…?」

 眉間を指で押さえて下を向くロイ。頭を抱えて項垂れるエドワードとアルフォンス。

「でも外見は…、若いまま…。つまり全盛期を保っているということですよね?」

「そういえばそうだな。」

 顔を上げたアルフォンスが聞くと言われて気がついたとばかりにクサナカが言った。

 クサナカが自分の年齢について27歳とは言っていたがそれくらいの年齢で不老不死の体質が働き27歳の身体のまま生き続けてきた。

 今までそのことを異常だと自覚していなかったのは、他人から言われて初めて気づくことも多いというアレだ。死霊の町の住民は全員デーモンだったから指摘してくれないし、傍に憑いていたソウゲンもソウゲンでクサナカに認識できない状態になってしまっていて教えられなかったのだ。知らないでいたことが幸運だったのか、それとも不幸だったのか、それを決めるのは当の本人だけだがクサナカの今の様子だとあまり気にしていないようではある。

 短期間に意味不明、理解不能レベルの謎を抱えていることが判明した人間が目の前にいるのだ。科学者である錬金術師達、特に人体錬成を通じてそっちの学問を専攻しているエルリック兄弟は早熟の天才児であるが天才故に頭が痛くなっていた。

 絶対とされる等価交換の理論をぶっ壊すような死霊魔術を思うままに使いこなせることと、究極の物質である賢者の石を体内に内包している可能性だけでもとんでもないのに、そこに不老不死の体質。ここまで来ると賢者の石を抜きにしても様々な方面から狙われる要素が盛りだくさんに思える。特に不老不死。一番良い状態の肉体で老化せずに若いままずっと生きられるなんて生に執着し死を恐れる多くの人間達が夢見たことだから。

「それで、エドワードとアルフォンスは俺にやって欲しいことがあったはずじゃ?」

「あ…。」

「賢者の石…だったか? 俺の身体の中…。」

「脱ぐな脱ぐな!」

「その件だが、あまり薦められん状況ですよ。」

「はあ。」

 クサナカが上半身の衣服を脱ごうとするのでエドワードとアルフォンスに止められているとロイがそう言った。クサナカは服をただしながら気のない声を漏らした。

「国内…いや国家が混乱を極めている今の状況で中央に行くのは危険だということだ。しかし、このまま待っていても下手すると必要機材のある施設の閉鎖や国家錬金術師の特権諸々が廃止か無効になる可能性も低くは無い。クサナカ君の命と周囲への混乱による犠牲の発生も考えた上で行動して欲しい。」

「分かってる。すぐやってすぐ戻れば良いんだろ?」

「本当に分かってるのかい?」

「大佐も無関係じゃねーんだから共犯ってことで。」

「ふっ…。分かっているではないか。」

「?」

 エドワードの意地の悪い笑みに、ロイも悪そうな笑みを浮かべて見せた。

 クサナカは首を傾げ、アルフォンスとホークアイは顔を見合わせてからため息を吐いた。

 

 

 

 

 

 その後。

 

『こーなるとはのう? 中尉達も大変じゃろうに。』

「彼女らは理解してくれているので問題ありませんよ。」

『それで締め切り期限が近い物を早急に数回徹夜して終わらせるとは……。分別作業させた労力と労働時間を考慮してあげては?』

「分かっていますよ。言われなくとも。ボーナスは弾みます。」

 中央行きの列車の中でソウゲンとそんな会話をするロイ。

 軍服では無く私服と旅行鞄。完全に私情で中央に向かおうとしているスタイルである。

 エドワードとアルフォンスもいるのだがエドワードは不満そうな顔をしているし、アルフォンスはそんなエドワードが不機嫌で暴れないよう身構えつつオロオロし、クサナカはまったく気にせずボーッと席に座っている。

 やがて発車時刻になり列車が動き出す。

 列車の中の乗客はまばらだ。

 理由は中央が今混乱状態で潜伏していたテロリストや政府に不満を持っていたグレーゾーンの集団などがいつ暴動を起こすか分からないことと、アメストリスという軍事国家を一代で築き上げた大総統であるブラッドレイが突然没したという情報について様々な憶測や捏造などがごちゃ混ぜになった噂が出回って中央で暮らす民衆達の生活空間の空気がピリピリし暗く淀み、テロへの緊張と恐怖、これからの自分達の生活がどうなるかという不安が混沌をより濃密にしつつあった。

 そのせいか中央へ足を運ぶ人間が減り、逆に中央から離れようとする人間が増え行き帰りの列車内の人口密度に差が生じていた。だからクサナカ達が乗っている中央行きの列車には人が少ない。乗っている人間は風貌からしてどこか怪しいのでもしかしたら中央の混乱を利用してあくどい商売を企んでいるのかもしれない。しかし悪そうな見た目をしているだけで証拠にはならないので逮捕案件にはならないのだ。

「そこの設備で分かるのか?」

「精密な検査をするにはそれ相応の道具が必要だから片田舎の医療設備じゃどんな良い腕の医者でも無理無理。検査結果が出るまでの時間のこともあるから、それまで中央にとどまるけど…、だいじょうぶだよな?」

「別に…。行くところはないから。」

「ああ…。そうでしたね…。」

 改めて聞くとすごく申し訳ないことである。エドワード達がクサナカを訪ねなければ住居を失われずに済んだかもしれない。国家錬金術師という重たい権力を持つ天才がまだまだ子供の年齢であるエドワードは他人の安息を壊してしまったことへの責任を改めて重たく受け止めた。

 列車は順調に中央への道を進んでいく。途中の駅に止まりもするが問題なく終点の中央へ進んでいく。

 長い列車の旅でクサナカがウトウトしていると、エドワードが先に寝息を立ててアルフォンスにもたれかかって眠った。眠気が強いのか硬いアルフォンスの鎧の身体にもたれているにも関わらずグッスリだ。慣れているのかもしれない。

 ロイも今日のために少々無理をしたせいか腕組みしてウトウトと眠りかけていた。列車の揺れがちょうど良い感じに眠りを誘う。そうして終点までみんなで一眠りという空気になりかけた.

 その時。

 

「この列車は俺達が占拠した!!」

 

 銃火器を装備した強盗団が別の車両から荒々しく入って来た。

「帽子を被ってる奴は頭を出せ! 赤髪の奴は立て!」

「…妙な要求だな。」

 彼らが侵入する前に殺気を察知していたロイはすぐに起きて冷静に分析する。

「赤髪って…、あっ。」

 いた。赤髪。アルフォンスはクサナカの赤みが強い頭髪を見た。

 マズいっとアルフォンスとロイが思った時には、乗客の少なさもあってすぐに強盗がクサナカの頭の色に気づいて目を丸くして銃口を向けたまま駆け寄ってきた。

「コイツ…。おい! なあ、コイツじゃないか!?」

 銃の引き金に指を掛けたままクサナカをジッと見て、それから他の強盗仲間達に大声で呼びかける。

 呼ばれた強盗仲間達が慌ただしく近寄ってきてクサナカを見て彼が目的の人物だと確信したような反応をした。

 そしてクサナカに席を立つよう銃口を向けて脅してきた。

 目的が分からない。しかも乗客が少ないとはいえ一般人達が恐怖で固まっている中で下手に抵抗すれば被害が出るのは間違いない。

 そんな中でエドワードは熟睡しっぱなしだし、狙われているクサナカはクサナカでマイペースに冷静で、自分に向けられている銃口も悪意にも表情を変えない。

「……分かった。」

 クサナカは表情こそ変えないが自分が下手な抵抗をすれば他に危険が及ぶと理解しているらしく抵抗せずに両手をあげて立とうとした。

 その直後。列車が急ブレーキ。

 突然の大きな揺れによって立っていた者達は全員バランスを崩し、倒れそうになるクサナカを支えようと咄嗟に手を出したアルフォンスと強盗のひとりがいたがその強盗も遅れてきた次の大きな揺れでバランスを崩したためそのまま寝ているエドワードの身体の上に座るように倒れることになった。

 ぐぇっ、とエドワードが潰れた苦しい声をあげて目を覚ました。

「ぐぅ…、な、なん…?」

「おい、なにが起こったんだ!?」

「列車が急ブレーキをかけたんだ! 先頭車両でなにかあったのかも!?」

「はあ!? せっかく目的の奴を見つけたってのにこれじゃあ…。」

「ど…どけよ! 重てぇ!!」

「どわぁ!?」

 エドワードが耐えかねて強盗を蹴っ飛ばした。

「あっ、おい? だいじょうぶか?」

「いてて…! なにしやがるんだ! って、なんだ、ただのチビガキじゃねぇか!?」

「誰が鼻くそ豆粒チビだーーー!?」

「ぎゃーーーーー!?」

「そこまで言ってねぇーーーーーー!!」

 寝起きにチビと言われて瞬間沸騰したエドワードが強盗達に襲いかかりボコボコにした。銃火器? なにそれ美味しいの? というぐらい楽々と大柄な男達を体術で倒すエドワード。そんなエドワードの暴れっぷりをクサナカはポカンとして見ていた。

「あちゃー。」

「死なない程度なら好きに暴れてくれて構わんから存分にやりたまえ。」

「…いいのか?」

「いつものことだ。鋼のは身長のことが一番のコンプレックスなのさ。ああなっては止められん。」

『可愛いじゃないか。』

「なんで列車が止まったんだろう?」

「運転手が意図的に止めたのか…、それとも別のトラブルか…。脱線ではなさそうだが…。」

「はあ? なんで列車止まってるんだ? それよりコイツらなに?」

「君がぐーこら寝こけている間に色々あったのだ。まったく…。」

「強盗かと思ったけどなんか違うっぽい。」

「なにが?」

「この人達、クサナカさんを狙ってた。」

「はあ!? どーいうことだ、それ!?」

「それを聞き出す必要がある。手伝ってくれ。」

「わかっ…、って、この人ら…。」

「まあ一応偉い立場の身だ。これぐらい普通だろう?」

 ロイが手早くエドワードとアルフォンスに協力を求めていると同じ車両に乗っていた客達が集まってきた。その落ち着きようは普通の一般人でないことがすぐ見て取れる違和感があり、ロイの言葉で彼らがロイがによって予め用意されていた覆面の護衛であったことが明らかになった。

「外の様子、見てきます?」

「あっ、ハボック少尉。」

 見た目ガラが良く無さそうな格好で変装していたハボックが首に巻いていたマフラーを外しながらやってきた。ロイの部下である彼も護衛として同乗していたのだ。

 手持ちの拳銃を手にロイの指示を受け、他の変装護衛の一部と共に列車の外へ向かうハボック。

「さて…。」

 エドワードが錬成した縄で縛り上げた強盗達を叩き起こしてから尋問。彼らの目的を聞き出すことと彼らの仲間の人数を調べる必要があったからだ。

「それだけ?」

「は、はい! 俺らは赤髪と赤目の男がいたら捕まえてこいってしか!」

 エドワードにボコボコにされたのがよっぽど堪えたのかあっさり自供した。彼らはテロリストではなく目先の美味しい話に釣られて悪行に走ったチンピラ程度であったらしい。武器の提供も指示をした相手のことも詳しくないようだ。

「少なくともこの列車にクサナカ君が乗ることを把握している輩の差し金だな。内部犯……、とは考えたくないが…。まったく…。」

 ロイは心底面倒くさそうに肩をすくめた。

 クサナカの名前と顔を知らなくても赤い髪と赤い目という特徴がある男という情報だけでも該当する人間を捕獲しようとする輩達がすでに湧いて出ていること。ブラッドレイが急死した原因がすでに知れ渡っているということなのか、それともまだその最中で早くに情報を掴んだ輩が我先にと動いたのか。

 もし後者ならクサナカの心臓にあると思われる賢者の石を狙ったということにもなる。この理由なら賢者の石から得られる無限の富の夢が実現するから学がない者が計画性が低い犯罪を犯してでも手に入れたがるだろう。

「確かに計画性皆無だけど…。」

「単なる捨て石という可能性もなくはない。中央に着く前に移動手段を潰せばその後の移動手段は限られるのだからな。」

「大佐達が乗ってるってことも漏れてるって可能性は?」

「身内の犯行だとは考えたくは無いのだが…、頭の痛い話だ。」

 頭痛を感じたロイが面倒くさそうにこめかみを指で揉んだ。

 

 カシャッ

 パシャッパシャッ

 

「あっ?」

 すぐそこでカメラのシャッター音が聞こえた。

 慌ててそちらを見ると列車の車両の窓の隙間からカメラのレンズを向けている黒づくめの人間の手が見えた。手とカメラしか見えない理由は窓の下から腕を伸ばして撮っているからだ。ちゃんとレンズを合わせて撮れているのかは分からないがレンズの向きからして写している被写体は……。

 前後でロイやエドワードとアルフォンスに前後で挟まれるような形で窓から見える位置にいるクサナカ。しかも音に気づいてクサナカが顔と身体をそちらに向けているので……。ソレに気づいたロイとエドワード達が即動いた。

「逃がすか!」

「ハボック!」

 エドワードが手を合せて列車の一部を錬成して外への穴を作り、ロイが錬金術用の手袋を手にはめながら外に出ているハボックを呼んだ。

 外にいた人間は列車が錬成されたことで隔たりが一瞬で無くなったことに驚いていたが、すぐに手にしていたカメラを中空へ投げた。

 すると大きな鳥が飛んで来てカメラを足で掴んで逃げていった。普通の鳥ではなかった。翼の大きさもさることながら足の形状や下から見えた胴体部分にも普通の鳥にはない部分が見受けられ、キメラ(合成獣)を知る人間ならすぐにあの鳥が何者かが寄越したキメラだと分かった。

 列車の外に出ていたハボックと護衛数名がキメラを撃ち落とすべく銃撃を行うがキメラは高度を上げながら器用に銃弾を避けやがて銃弾が届かない場所まで飛び去ってしまった。ロイも鳥に向かって炎の錬金術を放ったが高熱にも耐性がある設計になっているのか爆炎の勢いを逆利用して空へ上昇するのを早めるだけだった。

 その間に取り押さえられたカメラマンの人間は黒い覆面を剥ぎ取られていて顔の半分近くが大砲のような攻撃が原因と思われる惨い怪我の痕がありその傷青のせいで強く引きつっているが勝ち誇ったようにニヤニヤと笑っていた。列車の走行中に現れた素人強盗団と違い、こちらは元兵隊だったことが伺える訓練された人間特有のプライドと冷静さと潔さに加えてこれしか道がないと覚悟を決めた狂気が加わっていて多少の拷問では口を割らなさそうだ。

 クサナカを写したカメラをそのまま持って行かれてしまったと悔しい空気が立ちこめる中、スイ~ッとあのキメラが飛び去っていた方の空から黒い何かが飛んで来た。

「あれは!」

 エドワードとアルフォンスは見覚えがあるヤギの頭蓋骨を持つデーモンだった。黒いマントのようなモヤから覗いている骨のようなガリガリの黒い手に首を皮一枚程度しか残さず切り裂かれた状態で絶命したあの鳥型のキメラが握られていた。そのキメラの死体の足にカメラが引っかかっていた。デーモンのもう片手には農作業用と思われるゴツい大バサミが握られていた。刃に血がべっとりである。

「ん。」

 クサナカがヤギの頭蓋骨のデーモンを出迎えキメラの足からカメラを取った。

『外に待機させておいて正解じゃったな。』

 列車で出発する前にすぐに使えるデーモンを何体か用意していたらしい。クサナカを写したフィルムが入っているカメラを持って飛び去っていったキメラをすぐに追跡して仕留めたということは空を移動させてクサナカを追いかける形にしていたということ。

 さっきまでニヤニヤと勝ち誇っていた元兵隊らしき男はキメラが仕留められた上にキメラに預けたカメラを奪われ、キメラを仕留めた悪魔を彷彿させるデーモンの登場に顔を真っ青にして恐怖に震えていた。

「うぇ…、血塗れハサミ持ってると余計にホラー…。」

「農作業用の大バサミですよね…。」

『いかにもって感じでいいじゃろう?』

「クサナカさんから聞いた、怖いって念をため込むためのイメージ?」

『それもあるが見た目麗しかったり可愛らしかったりしたらかっこ悪いじゃろう?』

「爺さんが作るデーモンは多腕や目玉だらけなのが多かった気がする。」

「趣味わりぃな!」

『骨の頭のデーモンはクサナカのお気に入りじゃて。よく作っておるじゃろ。』

「悪趣味孫!」

「爺さんは人形デーモンばっかだった。フェティッシュもそのひとつで作り方は知ってるが、面倒……。」

『作り方は教えたじゃろーが。』

「趣味は人それぞれ。ある物使った方が楽。」

「ただ単にめんどーなだけかよ!?」

「フェティッシュって、あの時見た炎を纏ってる黒い人形でしたっけ?」

「…………武装した軍を結構蹴散らしてましたよね…?」

 アルフォンスは死霊の町に迫ったブラッドレイが率いる軍隊が大砲をはじめとしたゴツい武装をしていたのに、炎を纏わせた車輪のような武器と炎を装備したフェティッシュ数体によって結構蹴散らされて後退するぐらいに追い詰めていたのを思い出していた。車輪を盾にして大砲を防いでいたのも見ている。

『上級デーモンの戦闘型人形じゃ。低級デーモンでもそれなりに戦える仕様じゃよ。』

「つまりデーモン用の着ぐるみってこと?」

『まあそういう感じじゃな。アレ、わしの自信作。』

 ソウゲンが自信たっぷりに腕組みして胸を張る。

「このカメラはどーしたらいい?」

「ああ、こちらで預かる。あとキメラの死体もあとで分析するために残しておくから。」

 思考を切り替えたクサナカがロイに尋ね、ロイがカメラを受け取った。それから護衛の人間に命じ、列車の積み荷から保存に使えそうな入れ物を持ってこさせて中を空にしてからキメラの死体を詰めた。列車が急停止したことはすぐに他の駅に伝わって救援に来た列車の運行関係者や列車を乗っ取った強盗団捕縛のために東部に所属する制圧部隊が駆けつけ一般人の乗客と運転手達を保護してもらい強盗団を全員捕縛、更にクサナカの写真を撮った別勢力の人間をキメラの死体と共に渡した。キメラの死体を保存する冷やしたり防腐剤もなかったため腐る前に解剖に回せそうだとロイは内心安堵した。

「デーモンを使えば腐るのを遅らせることはできた。」

「それは早く言って欲しかったな…。」

 ロイの心を読み取ったようなタイミングでクサナカがそう呟いたため、ロイはそう言ってクサナカを見た。ロイは若干恨めしげな顔をしている。

 すると少し離れた場所から悲鳴と絶叫が聞こえた。慌ててそちらを見ると大型の犬が3匹ほどいて武装している護衛の人間達と睨み合っていた。護衛の人間達は警戒心剥き出しで銃口を犬に向けている。犬の方は歯を剥き出しにして唸っていていつ飛びかかっても不思議じゃ無いほど殺気立っていった。犬達はそのモサモサの毛並みが酷く汚れていて乾いた土や泥、細かい木くずのようなゴミが絡まっていた。

「忘れてた。」

「クサナカさん?」

 クサナカが思い出したように呟くと手で犬達を手招きする。殺気立っていた犬達は護衛の人間達を無視して横を通り過ぎて素早くクサナカの前に整列した。

 するとエドワードとロイ、そしてハボックとハボックの傍にいた護衛の人間達が顔を歪めた。

「くっっっっっっっ、さっ!!」

 エドワードが思わず鼻を摘まんで仰け反って後ろに下がるほどの悪臭が犬達からしたのだ。アルフォンスは肉体が無いため嗅覚を含めた全ての五感が無く臭いは分からないがエドワード達の反応で異常をすぐに理解した。

 鼻を摘まんで後ずさるエドワード達を気にせず臭いなどどこ吹く風とばかりのクサナカは一番大きい黒い犬の頭を撫でる。

「クサナカ君…、この犬は…もしや?」

「死霊の町で墓守をさせてた番犬。」

 そういえばクサナカが住んでいた家の裏手は墓地になっていてエドワードとアルフォンスに不用意に近づくなと警告していた。つまりこの悪臭まみれの犬達が墓守をしていたため危険だという意味での警告だったのだ。

「…なんでここに?」

『町ごと墓場も無くなったからのう。どうせなら使えるモンは使い潰すまで使った方がいいじゃろう?』

「犬のデーモン…ですか。」

 単純にまだ使えるから処分するのが勿体ないというだけで死霊の町から持って来たと聞いたアルフォンスがデーモン犬を改めて観察した。

 一見すると汚れが酷い犬だが周りが鼻を摘まんで顔を歪めて距離を取るほどの悪臭がして、生き物に不可欠の呼吸をしている時の特有の身体の動きが見られない。目もよく見ると濁っていて明るい時間帯だというのに瞳孔が開ききっている。悪臭が酷いということは死体なのだろう。

 3匹とも犬種は違うが戦闘に向いた犬種であることは大きな身体と大きな口から覗く牙で十分すぎるほど分かる。クサナカが撫でている黒い犬はリーダー役なのかもしれない。墓守のデーモン犬の中では。

「もったいないのは分かったけど、この臭いだけでもなんとかならねーの? うう゛ぇ…。あきらか腐ってるだろ!」

「臭いもインパクトを与える要素。」

「インパクト与えすぎ! う、ぉうっ、ぷっ…!」

「兄さん! しっかりして!」

 クサナカの言葉に思わずツッコミを入れると同時にいっぱい息を悪臭と一緒に吸ってしまい吐きそうになるエドワードをアルフォンスが介抱する。

「それで? わざわざこのデーモンを呼び寄せたのは、何かやる気なのかい?」

「さっきの鳥の飼い主を探すのに適役かと思った。」

「なるほど…。しかし…。」

『優秀じゃぞ。このデーモンは。完全に破壊されない限り地の果てまで追いかける。それに立派な守護者(ガーディアン)としても優秀じゃ。』

 ソウゲンによると死霊の町の墓場の守りだけにとどまらず、町に侵入した不届き者を排除するのにも一役買っていたらしい。クサナカが長い年月を同じ場所で潜伏生活を送れたのはこの優秀なデーモン犬のおかげという部分もありそうだ。

 それはつまり……、外部に情報を持ち帰ろうとした全員が噛み殺されたという意味でもあるのだが…。

 それを理解したロイが口元をヒクつかせた。だが証拠も無く、そして過ぎたことなので追求はできない。行方不明者なんて年間何人いるか分からないのだから。

「どう?」

「…………利用しても?」

「どうぞ。」

「大佐…、マジで?」

「使える物は全部使う。それは私も賛同できるからね。そうだ、クサナカ君、この犬達以外にもデーモンを用意できるのかい?」

「作ればできる。」

「そうか。では、少し相談がある…。」

 そう言ってロイはクサナカの肩を掴んでエドワードとアルフォンスから離れてからコソコソ話をした。

 話が終わると戻って来てデーモン犬達の頭部にクサナカが手で触れて僅かに紫電の光が弾けた。それからクサナカはあちこちに待機させていた他のデーモンを呼び寄せデーモン犬と同様に頭部分に手で触れて紫電を弾けさせた。それが終わるとどこから出したのか黄金の髑髏を手にして左手に乗せると、頭蓋骨の頭部を右手でカスタネットでも鳴らすみたいに上顎と下顎の骨をカチカチとさせて何かのリズムを作る。

 それらの奇妙なクサナカの動きをいぶかしげにエドワード達が見ていると、ジッと動かないでいたデーモン達が突然ビクンッと跳ね上がるように動いて強い紫電を撒き散らした。

「こんなもんかな。」

『十分じゃな。』

「…なに……した?」

「ん? デーモンを少しいじった…? だけ?」

「なんで疑問形!?」

「……なんとなくでやったから説明のしようがない。」

「あー…。」

 死霊魔術が基本的に感覚だけで行使していることを思い出してエドワードは頭を押さえた。

 そうこうしていると紫電の勢いは小さくなった。

「必要ならもっと数を増やすが?」

「あまり不気味ホラーな騒ぎが広がるのはな…。できるだけ隠密に…。」

『それならだいじょうぶじゃて。犬達は特にのう。』

 デーモン犬は臭いは酷いが暗殺向きらしい。そりゃこれだけ臭ければ死体のフリして獲物が近づいたところを……できるだろう。それに犬の死体を使っているので嗅覚や聴覚も優れているのかもしれない。

「これ以上無いなら、行かせる。」

「頼む。」

「……行け。」

 ロイに確認を取ってからクサナカはデーモン達を出発させた。犬達は陸地を疾風のように走り、動物の頭蓋骨を使っている宙に浮いているタイプのデーモンは空へ舞い上がって飛んでいった。

「それから…。」

「ああ、頼むよ。」

「大佐…、何させようとしてんだよ?」

「ここからは子供にはキツイ大人の話になるから君らは待ってなさい。」

「ガキ扱いすんな!」

「まーまー、兄さん。」

 子供扱いされて憤慨するエドワードを抑えるアルフォンス。そんな二人を残してロイはクサナカを連れてどこかへ行った。

 予定が狂ったことに少しイライラしているエドワードの横でアルフォンスが立っていると、そう遠くないところからだろうか男の悲鳴が聞こえたような気がした。エドワードもそれに気づいたらしくアルフォンスと顔を見合わせた。

 その後でクサナカがハボックを含めた護衛達に守られた状態で戻ってきたが何をやってきたのかは教えてくれなかった。ただハボックが遠くを見てタバコを何本も吸いまくっていて足りなくなったらクサナカが持っていたタバコを分けてもらったはいいが市販品ではないオリジナルブレンド自作タバコに思いっきりむせて涙目になってる姿が見られたのだった。

 あとから戻って来たロイになんとなくエドワードがクサナカに何をやらせたのか聞こうとしたらロイは質問に答えず遠くを見てなが~~~~~いため息を吐いた。

 そして質問に答えず代わりに。

「…生きている人間が一番怖いというのは………『死人に口なし』が一般常識だから出る言葉でしかない…………。」

 そう呟いていたのだった。

 それを聞いてエドワードとアルフォンスは察した。

 ロイはクサナカにあの元兵隊と思われる男の尋問…いや拷問を手伝わせたのだろう。死霊魔術という単語とその単語が意味する主な説明文を思い起こせば元兵隊が何をされて、何を体験したのか……、考えない方が吉なにかもしれない……。

 ふとクサナカの方を見ると口にくわえている火の付いたタバコの煙が外だというのに人っぽい形になっていてクサナカの近くに立っている。クサナカはその煙の人と聞こえない声でやり取りをしているように見えたのは気のせいだろうか?

 クサナカはタバコを口に咥えたまま時折頷くように首を動かしながら、表情が薄いがエドワード達には聞こえない声に耳を傾けて優しく目を細めているようだった。

 それから中央へ向かうため列車が使えないためやむを得ず車での移動となり列車に乗せていた荷物を車に移している途中でクサナカの姿がないことが分かり、慌てて探しに行くと東部にある収容施設に送られるために手錠を嵌められたままトラックに乗せられようとしていたあの元兵隊らしき男に新聞紙を折って作ったと思われる造花と愛らしい鳥を渡すクサナカを見つけた。それらを見て目を見開いている男の耳元にクサナカが何か囁くと男が渡された花と鳥を勢いで握りつぶしてしまいながら大きな傷のある顔が引きつるのも構わず感情が決壊したように顔をクシャクシャにしてその場に膝から崩れ落ちて大声を上げて泣き出した。

「あ…。」

 その時、ソレを見たのはアルフォンスだけだった。

 鎧に定着された魂のみの存在だからなのかは不明だ。

 壊れたように大声を上げて泣いている元兵隊らしき男を包むように労るように抱きしめている女性と3人の子供に見える白くぼんやりした物があった。

 男の状態に驚いていた周囲が我に返って男を無理矢理立たせてトラックに乗せる頃には女性と子供達の姿は無くなっていた。

「君も中々酷いことをするのだね。」

「………ただの苦い終わりより…、ほんのりでもスッキリ甘みのある終わりが良いと思った。それだけだ。」

 少なくともあの男は生来の欲深でもなく、欲を満たすために兵隊を辞した後に悪事に手を染めたわけではないのだから。

 ただ帰るところを失い、自分の身以外の大事な物全てを失ったことを知ってヤケクソになったところを悪事の甘い言葉を吹き込まれただけ。

 死ぬ前に脳の中で霞んで消えかけている家族の声と言葉と大切な思い出を思い出したかった、それを叶えただけだから。

 そう語るクサナカを見ていたソウゲンが微笑み、撫でるように彼の頭に手を置いた。デーモンであるソウゲンの手はクサナカの髪に触れられず、赤みの強い髪が透けてしまっていた。

 

 

 




クサナカの体内にあると思われる賢者の石を確認するために中央へ向かおうとするが、列車強盗+別勢力襲撃。
でもどちらもどうやらクサナカを狙っているらしいことが判明。
強盗団は美味しい話に乗っただけのチンピラ素人集団。
写真を撮ってキメラでカメラを輸送しようとした男は元兵士。もしかしたらイシュヴァールや内乱で顔を損傷して退役したかも?

最後の方でクサナカが元兵士の亡き家族の声と思い出の再現を見せて泣かせてますが、それをする前にロイの依頼で死霊魔術を使って情報を吐き出させています。
なおあまりの恐怖体験のショックでその時の記憶は飛んでます。一応……。

犬デーモンは、映画『ペットセメタリー2』の屍犬を参考にしています。
とにかく腐った臭いしてますが、優秀なデーモン達です。
この先ちょこちょこ登場させようかと予定しています。

あとロイが同行したのは賢者の石のおこぼれ目当てと、錬金術師としての個人的な興味。研究の分野や違うけど死霊魔術師のクサナカに興味はあるし利用したいという下心あり。


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SS14  死霊魔術師の初めての都会

続き投稿。

まだまだ間が開いてしまいますが少し調子が戻って来たような気がします。



今回はセントラルシティ。
研究所は封鎖された第五研究所以外の研究所がどういうことをしているのか分からなくて……、どこのどの研究所かは記載しませんでした。
知っておられる方がおられましたらぜひメッセージなどで教えて頂けると助かります。
どの研究所かは書きませんでしたが少なくとも生体分野のための研究所であることは間違いないという感じです。

賢者の石の因縁でマルコーとも接触させたいと考えていますがどういう流れで出会ってどう絡ませるか考え中です。
少なくとも賢者の石のことで話をする予定ではあります。

あと死霊魔術でできることの本質に触れた感じで今回クサナカがやらかします。(?)


それとヒューズのキャラが色々崩壊しています。
ファンの方注意!!







それでもOKって方だけどうぞ。










いいですね?






 

 中央行きの列車は謎の強盗団の襲撃と、別勢力としてクサナカの姿をカメラに収めようとした元軍人の介入もあり列車の旅は中断されてしまった

 現場がまだ東部の管轄であったため有給を取っていたロイが巻き込まれたこともあり、休暇を潰すことになるなし崩れではあるが現場の整理や現場観察、逮捕された強盗団と元軍人とデーモンによって殺されたキメラの調査を東部司令部に引き継ぐまでのことをその場で行った。

 クサナカの動向を知っている何者かが軍の内部にいるのか、それとも別の勢力なのかはこれから調べないといけないがエドワードとアルフォンスとしては多少危険を犯してでもさっさと中央に行って用事を済ませてしまいたかった。そうでないとクサナカの心臓に本当に賢者の石があるのかも確認できないし、あったらあったでクサナカの安全の保障のためにもできることはやりたかったからだ。無いなら無いで誤情報だったということをクサナカを狙う輩達に伝えてクサナカを狙う理由を無くさせることで守れるのだから。

 先を急ぎたいと特に焦っているのはエドワード。そんなエドワードを気にしつつ自分も先を急ぎたい気持ちを抑えようと頑張っているアルフォンス。ロイはそんな二人の事情を知っている者として気持ちを汲み、変装しているロイの護衛達の一部を別ルートから移動させつつ車を手配して長距離車移動を提案した。運転手及び護衛としてついてくる人間達も車を使って同じルートを進むことになる。列車より目立たぬように中央行き列車が一部運行見合わせ状態なのを利用して中央に荷物を運ぶ商いの一団として変装してみようという考えに至る。

 そうして若干小汚い車とトラックと商人風に服装も整えて旅荷物も擬装用の商品に隠した。クサナカは特に赤みの強い髪を隠すためにカツラと帽子を身につけ、病気で顔を見せられないという理由付けのため顔に小汚いマフラーを巻かれた。人前ではできるだけ顔を見せられない事情があるように演じて欲しいと言われクサナカはそれに頷いた。

「…兄さん。正直に言うとね…、クサナカさんをセントラルに連れて行くのは早計だったんじゃないかって僕思うんだ…。」

 準備中にアルフォンスがエドワードにそう零した。エドワードはピクッと反応したが何も答えない。エドワードもアルフォンスと同じ事を思っていたが意地になってしまって口にできないのだ。

 子供であるが人体錬金術という大罪を犯し、重たい代償を払った身。その代償を取り戻すために賢者の石を求めて国家錬金術師という身分になった兄とその兄を支えるために共にいる鎧に魂が引っ付いただけの存在になってしまった弟。

 賢者の石の可能性が見つかったことは若すぎる二人を否応なしに焦らせてしまうのも無理はないのだ。

 可能性が真実であるかどうかを調べるために中央にある研究所の設備が必要である。そのためにクサナカを連れていきその身体を調べたい。それ以外にも賢者の石があるなしに関わらず早くそれをハッキリさせてクサナカを自由の身にして迷惑を掛けたことへの償いもしたいのも本音だ。

『まーそう気に病むな、子供達。』

「でも…。」

『若いうちに苦労は買ってでもしろとは言うが…、どんなに頭が良くても遊び盛りの子供がしなくていい苦労はしていいものじゃないと思うわい。才能溢れるならなおさら。』

「気にしてない。」

「俺達の気が済まないんだって。俺達が訪ねたせいで住むところも財産もなにもかもおじゃんになったんだから気にすんなって方が無理!」

「お願いですから、そんなこと言わないでください!」

 そう懇願するエドワードとアルフォンス。手を合せて頭を下げだけじゃなく、もはや土下座しそうな勢いだ。

「乗りかかった船だ。だから迷惑だとは思っていない。」

「クサナカさん…。」

『孫は楽しんでおるんじゃよ。このドタバタを。』

 ソウゲンがケラケラと笑ってそう言うものだからエドワードとアルフォンスは目を見開いてクサナカを見た。クサナカは相変わらず無表情だが祖父のソウゲンから見れば今の状況を楽しんでいてテンション高いらしい。全然そうは見えない。なにせ表情がほぼ無だから。あと口調も淡々としていて心情が読めない。

「………楽しいの?」

「ん? ああ。」

「……マイペース過ぎだろ。」

「全然楽しそーじゃないよー。」

 楽しいのかと聞いたら表情が変わらず淡々と返事されたがこれでも一応楽しいらしい。エドワードは頭痛を感じて額を押さえて項垂れ、本当に楽しんでいるのかどうかが分からなくてアルフォンスは頭を抱えていた。

 そうこうしていると準備が整い、中央を目指して車での旅が始まった。

 列車以外での移動手段は国によって整備されている。車以外にも徒歩だったり馬車などを使っても移動できるように切り開かれ舗装された道がある。安定した食料の供給や日用品、燃料をはじめとした絶対に必要な物資の運送のためにも絶対必要だったからだ。

 ブラッドレイが急死したことによる大きな混乱を避けるため中央を目指す人間が少ないからか道は混んでおらず、むしろ中央から出てきたらしい大荷物を積んだトラックや馬車、人力車まで様々だったがただごとではないことが見て取れる。

「クサナカさん? 寝てるね。」

「いくら楽しくんでても疲れは溜まるだろ。」

 偽装のための積み荷を積んだ大型車両の座席でクサナカがウトウトと寝ていた。

 走行中の揺れと睡眠の深さによって身体が揺れて懐から黄金の髑髏が転がり落ちた。

「大事なもんなのに…。」

 黄金の髑髏が先祖代々受け継いでいた物で死霊魔術を行使する時に使う道具であることは聞いて理解していたが扱いが意外と雑である。

 座席前にある空間に足を置くところに落ちた黄金の髑髏をエドワードが拾った。

 改めて黄金の髑髏を手に持ったまま観察する。

「……なんでコレが…。」

 子供ながら高い知能を持つエドワードから見ても黄金の髑髏は金メッキした人間の頭蓋骨にしか見えないし、それ以外とは思えない質感と重たさであった。

 そんな物を死霊魔術という特殊過ぎる能力を使うために使用するのだ、何か特別な素材で出来ているのではないかと疑問視せずにいられないがこうして手にしてじっくり目で見て指で触って調べても金メッキした人間の骨ということ以外に考えられない。

 そういえば死霊の町に来た際に奇妙な音が聞こえていてクサナカが住む家に来たときに錬金術師が町に入るとこの頭蓋骨が鳴ると言って音を止めていた。

 エドワードが今持っている黄金の髑髏からあんな音がするとは考えられなかった。今調べた限りではそういう構造になっていないし、そういう素材ではないからだ。音が主に鳴るであろう歯の部分を指で触ったり目でじっくり見ても特別な素材が使われていないし、あの音が鳴る仕組みがない。

 死霊魔術だけでも頭が沸騰するほどわけが分からなかったが更におかしい物が追加されてしまってエドワードはものすごい難しい顔をして唸った。

『そんなしかめっ面しとると可愛い顔が台無しじゃぞ?』

「ちょっ、可愛いってなんだよ!?」

『跳ねっ返りで、生意気で、強がりで、ちょー弟想いの可愛い可愛い子供じゃ。』

「可愛い言うな!」

『そー思うなら頑張って格好いい男になるよう努力してみ。体質の問題でなければ育ち盛りで好き嫌いはのう…。牛乳…。』

「な、なんでそれを…!?」

『教えてくれたのは孫じゃて。意味は分かるじゃろ?』

「ーーー!!」

 ソウゲンの言葉に勢いよくクサナカの方を見た。クサナカは顔を背ける。いつの間にか目を覚ましていたらしい。

「クーサーナーカーさーーん?」

「……………………まあ…………、飲まなくても死にはしないが……、飲んで運動をした方が身体作りには良い…。」

『うちの娘…、クサナカの母じゃが、あの子は牛乳好きで運動好きの活発じゃったせいかやたら背が伸びて夫になる男と出会うまで男と並んだときのバランスが悪いと嘆いておったな。』

「クサナカさんも結構背が高いですよね。遺伝ですかね?」

「高身長家族から低身長家族が生まれる可能性はゼロじゃない。」

「誰が突然変異低身長豆チビだ!!」

「うおっ。」

「兄さん兄さん、落ち着いて。兄さんがそうだって言ってないから。」

「車内で暴れないでくれ。ただでさえ大きさの割に体力とパワーが有り余ってるのだから。」

「煽らないでくださいよ大佐。」

 その後キレて暴れるエドワードを大人しくさせるために首に一発手刀を入れたクサナカはエドワードの手から黄金の髑髏を取って懐に収めた。

 

 

 

 そうして特にトラブルも無く彼らはアメストリスの中心地である、中央、セントラルシティに到着した。

「……………少し前まで賑やかだったはずなんだけどな…。」

「人口が一気に流出したうえに、一部は引きこもっているのだから仕方がないことだよ。」

「ここが……。」

『都会は初めてじゃからな。』

「あっ、そっか…。」

 ずっと電気もまともに通っていないド田舎、それに加えて本来ならすでに消滅した町を死霊魔術で死霊の町として機能させていたという環境に籠もっていたのだから人口と建物が密集した都会なんてこれが初めてなのだ。

 クサナカは表情こそ乏しいが興味深そうにキョロキョロとセントラルシティの街並みを見回した。

 

「おーい。」

 

「あっ。」

 そこへロイとエドワード達の知人がやってきた。

「ヒューズ、悪いな。こんな時に。」

「まったくだ!」

 ロイの親友でありアメストリス軍の中佐で、セントラルシティの軍部で働きセントラルシティで家族と暮らす愛妻家かつ子煩悩の男だ。

「ただでさえグッチャグチャ泥くそみその中で私用で~~~? そっちの豆兄弟連れてこんんのクソ忙しい中なに用で~~~? 来やがったんだこの野郎どもぉ?」

「すまん…。ほんと~~~~~~にすまん。用が済んだらすぐに戻るから。」

「ごめん、ヒューズ中佐! ほんとマジでごめん!! 急ぎの用事でちょっとどーしても来ちゃってごめん!!」

「すみませんすみません!! どうしてもセントラルに来ないといけなかったんです!! 本当に本当にごめんなさい!!」

 ブラッドレイ没後の混乱の影響をもろに受ける国の中心地である中央勤務の軍人であるヒューズはここ最近の多忙と色んなストレスでヤバいことを隠しきれていないヤバい顔で優しく聞いてくるものだから土下座の勢いで謝罪と共に頭を下げまくるロイとエドワードとアルフォンスであった。

「あーーーそうか…、ならちゃっちゃと済ませろやゴラァ。こっちはもう3徹と1週間以上も娘と嫁の顔どころか会話もできてねーーーんだわ、なあオイ?」

「ああ…、そうか…。とりあえず事前に連絡と予約はしたから研究所に行かせてくれ。」

「へいへい。」

「ヒューズさ~~ん…、だいじょうぶですか?」

「ハハハハハハ! これがだいじょうぶかってぇ!? こちとら最近の主食が特濃い不味コーヒーと栄養ドリンクなんだぜーー!! アハハハハハ!!」

「ひ~~~!」

『…………これは危険じゃな…。』

「……あの…。」

「アヒャハハハ! …あっ?」

 ゲラゲラ笑って目がヤバくなっているヒューズにクサナカが近寄った。

 気づいたロイとエドワードが慌てて止めようとしたが、それより早く動いたクサナカがヒューズの額に自分の右人差し指の先を付けた。

 次の瞬間、クサナカの指とヒューズの肌との間に紫電が小さく弾けた。そしてクサナカは手を下ろした。ヒューズはキョトンとした顔をしていた。

「え…あ…、クサナカさん? なにやったんだよ!?」

「疲れる前に…。」

「は?」

「ヒューズ!」

「ん…………、んあ? おお? おおおおおお!? なにこれ、なんかスッゲースッキリ爽快ーーー!?」

 ロイが慌ててヒューズの肩を掴んで揺すると、我に返ったヒューズがシャッキリした顔で肩を回したり屈伸をしたり軽快に動き回って驚いていた。

 憑き物が落ちた…という言葉が当てはまるのか、とにかくさっきまで疲労とストレスでヤバい顔色と情緒になっていたヒューズがなぜか全回復したようだ。

「今なんかしたのか、アンタ?」

「疲れる前にした。」

「はあ?」

「調子は?」

「ああ、…メチャクチャ良い! 最近のと、長いことあった慢性的なのも全部解消されたっていうか…。どんな魔法使ったんですか!?」

「戻した…? だけ?」

「なんだ、その煮え切らない微妙な答え…。」

「説明のしようがないんだ。彼の持ちネタは…。」

「は? …………あー、なるほどな…。」

「ああ。」

「大佐…。」

「安心しろよ。俺は味方だ。」

「?」

 ロイ達の様子を見てクサナカは首を傾げた。

 その後、事前に利用するための予約を入れた研究所までの送迎に用意してくれていた車中で詳しい話をした。

 ロイは信頼できる親友であるヒューズにブラッドレイ没の原因とクサナカのことを暗号という形で事前に伝えたいた。

「死霊魔術師って聞いたらおどろおどろしさ満点の胡散臭い占い詐欺か、お化け屋敷のマニアックネタにもならんネタみたいに笑って終わりだろうが、大総統が出撃前に死霊魔術師を討つってことで直々に軍を動かしたらなぁ信じないといけないだろ? そんでその問題の死霊魔術師ってのが……。」

『可愛いお嬢さんがご自宅でパパを恋しがっておるぞ。』

「あああああああああああああああ! エリシアたーーーーーん!! パパ早く早く早く直帰するからーーーーー!!」

「その話題で刺激しないでくださいソウゲン殿!」

「ふう……、まあとにかく、まさかその問題の奴がユーレイ付きで目の前に現れるとはな……。ユーレイって初めて見るがこんなフレンドリーなんて知らんかった。」

『全ての幽霊がこうではないから気をつけた方が良いぞ。』

「爺さんはあえて生前の記憶と思考を残してるから違う。」

「ソウゲンさんは悪霊ってやつじゃないもんな。」

『幽霊の良し悪しはその人間にとって損になるか得になるかの違いじゃよ。』

「普通は見えないからそこまで気にする必要なさそーだな。」

『それで良い良い。ただし何か嫌な感じがしたり悪い予感がしたらその場から離れることをお勧めするぞ。』

「あっ、やっぱそーなんですね。」

『うんうん。心得ているようで良い。』

「ん? 待てヒューズ。」

「なに? …は? はああああ!?」

「け、研究所からかアレ!?」

「うわわわ!」

 研究所を目指す途中で遠くに見えたモクモクと空へ上がる黒い煙を発見し、方角から研究所の可能性があって慌てた。

 そして。

 

「…………………………うそだろ…………。」

 

 半焼した大きな施設。火は消火され、小さな火種すらも消えて煙はもうないが焦げ臭い匂いが辺りに充満している。

 エドワードとアルフォンスは目の前の現実に打ちひしがれ両手と両膝をついて項垂れてしまっている。キノコ生えそうなほどそこだけジメっているように見える。あまりのショックで涙もちょちょぎれている。

「…出火原因は?」

「放火の可能性大だとよ。最近軍関係の所に火炎瓶とか投げ込まれることが多かったから同一犯か模倣犯かで調査中。」

「…………こうなる可能性を考えていなかったわけではないが……。」

「タイミング最悪過ぎだな。どーするよ? お前ら。」

「医療精密機器類の復旧の目処は立っていないのだろう?」

「そもそも費用が出るかすら分からん。」

「そこまでかよ!?」

「ただでさえ国家錬金術師の制度と恩恵には先の内乱でのこともあるから反発意見が多かったんだよ。そんなときに推進していた大筆頭の大総統の没だろ? 国家錬金術師っつても軍で仕事してない奴にはそこら辺のことは分からなかったことだろうさ。」

「うぅ…。」

「せっかくここまで来たのに…。」

 セントラルシティに来た目的である研究所の設備を使ってクサナカの心臓にあると思われる賢者の石の確認ができなくなりエドワード達がガックリと肩を落としていた。エドワードとアルフォンスの落ち込みようはとにかく酷い。努めて冷静にしているがロイも気落ちしていた。

 そんな中でクサナカが動いた。

 

「この場所で調べるんだろう?」

 

 淡々とした声だが確認する言葉にエドワード達がクサナカを見た。

「あ、ああ…その手はずだったんだけどできな…。」

「ついさっき燃えたなら…。」

「クサナカさん?」

『まあ見ておれ。』

 クサナカが立ち入り禁止のテープが張られた研究所の敷地へ踏み込んだため驚いたエドワード達が動く前にソウゲンが微笑んでそう言った。

 懐から黄金の髑髏を取り出したクサナカが立ち止まり右手に乗せた黄金の髑髏の頭頂部に左手の指を添える。

 少し口が開いていた髑髏が指で押されたことで上下の歯がカチッと鳴った。

 その瞬間、紫電の光が弾けた。

 髑髏から弾けた紫電はまるで伝染するように半焼して使い物にならない有様だった研究所に広がり、まるで激流のような音と共に瞬く間に燃える前の研究所の姿へと変わった。

 そのあまりの速さにエドワード達だけじゃなく、この現場にいた人間達全員が言葉を失いぼう然とした。

「…………これでできるか?」

 クサナカが振り向いてエドワード達に聞いた。

 クサナカの眼前には半焼する前の研究所がある。まるで”半焼する前の時間に戻した”かのようにその姿を戻していた。

「クサナカさん…、あんたは…。」

 何をどう言えば良いか分からずエドワードは声を震わせクサナカを凝視した。

 クサナカは特別なことは何もしてないという風に首を傾げ、その右手に黄金の髑髏を手にしたままエドワード達が動くのを待っている様子で立っていた。

 この時エドワード達は研究所の再生以外の異常にまだ気づいていなかった。むしろその異常の方が研究所という無機物の再生よりも異常だったのだが。

 研究所の敷地内には無機質な人工物以外の物も存在する。それは雑草と一括りにされる繁殖力の強い小さな草花だ。それらは自律して動くことは敵わないため研究所が焼けた際に巻き込まれて燃えたり、熱風を浴びて無惨に朽ちたりしたのだが研究所の再生と共に青々として瑞々しい姿を取り戻してそこに自生していたのだがまだそのことに気づく者はいなかった。

 

 

 




クサナカのやらかしというか、よかれと思ってやったことのぶっ飛び現象。


1.錬成陣など抜きで半焼した複雑な建造物と燃えたり水没した機材など全てを元通りに直す。
 しかも建物の内部を見たこともないし初めて来た場所なのに構造図も何も無しで迷いなく行っている。

2.火災で燃えたり炙られて命が尽きた雑草類を蘇らせている。

3.軽く流してるが疲労困憊で精神崩壊していたヒューズを全回復させて正気に戻した。



ツッコミどころというか矛盾が多いような気がしますが、この二次ネタは死霊魔術師という存在の謎を解くために敵味方が動く話にしたいと考えています。
一応最終回での展開は決めています。変更する可能性もありますが。


あとエドワードの牛乳嫌いの情報はもちろんエルリック兄弟の母情報です。
牛乳飲んで背が伸びすぎたというエピソードは、原作者様の別エッセイ漫画を見て参考にさせて頂きました。


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SS15  死霊魔術師の血液?

勢い執筆。

今回もオリジナルエピソード。
オリジナルエピソードしかないですね……。


今回は、前回のクサナカのやらかしからの……です。


エドワード達が悩んでるばっかりです。
そういう意味でキャラが違うかも知れません。

錬金術師がどうやって理論を答えを出していくかの過程は捏造です。
暗号化された機密情報を解読するために大量の資料と紙に書き出すなどしていたので、それっぽく…書きましたので間違っていた申し訳ありません。






それでもOKって方だけどうぞ。





いいですね?





 

 

 

「クサナカさん! あんたは…、あ、ああ、あああああ、あんたはぁぁぁあああああ!!」

 エドワードが小さな鉢を前に机の上で頭を抱えて叫ぶ。言いたいことはあるがうまく言葉になっていない。

 あとアルフォンスも机に突っ伏しているし、ロイは壁に手をついてどんより暗くなっている。二人ともエドワードと同じ錬金術師なのでエドワードのように言葉にならない叫び声をあげたいところだがそれ以上に頭がついていかなくて現実逃避しているのだ。

 鉢の中には土と一緒に小さな草花が植え付けられていた。これは研究所周囲に自生していた雑草類の一部だ。クサナカが研究所を復活させた後である異常性がすぐに判明してサンプルとして回収した物である。

 研究所にはたくさんの人間がいた。それは火事の時もだ。その時に怪我人が出ただけじゃなく、脱出が間に合わず内部で息絶えてしまった人間達がいた。

 その死亡した人間達の遺体を探し出して身元を確認と検死に回すために捜索がされていたのだが、そこにクサナカが研究所を蘇らせ、なんと建物ごと死んでいた人間を生き返らせたのだ。建造物周辺の草花と同じように。

 先に発見されて検死するところへ移されていた遺体が消え、蘇った研究所から生き返った状態で戻ってきていた。あまりの異常の中で生き返ってきた人間達を調べられたが、彼らは何事かと驚いていて火事のことを知らないどころか、自分達が死んで生き返ったことを全く知らないようだった。それどころか彼らが体感し認識していた時間帯にズレがあり、火事より少し前ぐらいの時間の状況で彼らの記憶がリスタートされていた。

 ヒューズはクサナカがやったことの混乱に対応するためエドワード達と別れて仕事に戻った。

 もう何がなんやら……と、頭を使う仕事をしている人間達を早死にさせてしまいそうな状況を作った当の本人は椅子に座って周りを傍観している。自分がこの混乱を起こしたことを自覚していないのか、自覚していてもどうして周りがこんな風に反応しているのか分かっていないのか、おそらく後者だ。表情に出てる感情が薄いが事の成り行きを黙って見守り彼らからの反応を待っていた。

 クサナカの後ろでソウゲンが苦笑していた。クサナカと違って大昔(千年以上前)に人の社会に出ていたソウゲンは自分達一族の異常性は知っているはずだ。だからエドワード達がこういう反応をすることは想像できていた。

 しかし二人とも世間から浮いているというかぶっ飛びすぎてて世間の常識から外れすぎている死霊魔術師という一族であることの宿命か、事の重大さを理解していない。

 元々根無し草で一箇所にとどまらずに生活していたらしいのでクサナカを守るためにソウゲンが無理矢理に死霊の町に籠もらせていたから余計におかしいことになったのか。

「大総統が没した混乱の真っ只中で…。」

 ロイも机の上に両肘を置いて頭を抱えていた。

 死亡した人間(※雑草などを含む)を火事で焼失した研究所ごと復活させやがった。死霊魔術自体がおかしいことだらけで頭がおかしくなりそうな代物なのに、それを利用してこんなことを簡単にやってのけてしまったんだからこれから起こるであろう混乱ととんでもない出来事に立ち会ってしまったショックから立ち上がれなくなっていた。

『……間違えたかの?』

「たぶん。」

「たぶんどころじゃねーーーんだよ!」

 世間知らず超マイペースな二人に絶叫するエドワード達。

「どーすんだよ!? これ!? マジでマジでどーーーすんだよ!?」

「一旦落ち着こうか…鋼の。」

「これが落ち着いて…、ブッ!?」

『騒いでも先には進めんぞ。』

「この混乱の原因に言われましても…。」

 頭がパニック状態のエドワードを落ち着かせようとクサナカが後頭部を強めに叩いて、ソウゲンが落ち着くよう声を掛けるがあまり効果は無いように思える。

 現場に居合わせていた研究所職員が気を利かせて大急ぎでコーヒーや紅茶を用意し、喉を潤して少し落ち着こうとクサナカとソウゲン以外が全員で頑張った。

 そこは科学者、探求者、強靱な理性をフル動員してなんとか現状に適応して落ち着きを取り戻していった。

「……はあ………、どこからツッコミを入れたらいいのか…?」

 研究所職員がコーヒーカップを握ったままクサナカの方を見てそう言った。

「ここの機械を使って俺の体を調べるんじゃなかったのか? そのために元に戻したのに。」

「はあ?」

「あっ! それはその…。」

「ああ、国家錬金術師からの機材使用の予約が入っていたのはあなた方だったんですね。」

「混乱しているところにすまないが、手短に迅速に目的を果たしたいので貸して貰えるかね?」

「…そうですね。今のうちならまだ上もすぐに動けないでしょうし早い内にどうぞ。」

 様々な機密を含む研究所の職員であるためアメストリスで高い地位にある国家錬金術師の行動は優先するよう教えられているのか割とすんなり許可を出した。

「ヒューズが戻るまでに終わらせるとしよう。」

「大佐、ここの機械って使ったことあんの?」

「……。」

「すみませーん! マニュアル借りていいですか?」

 研究の分野が違うためここの機械は使ったことが無かったロイ。アルフォンスが急いで他の職員に機械のマニュアルを借りに行った。

 国家錬金術師になるきっかけが人体錬成を実行したという禁忌に足突っ込んだ天才兄弟は、本当のプロの医者ではないが生体に関する研究分野に精通している錬金術師である。そのため特に人体の構造や構成物質のことには詳しく、早熟の天才であることもあり覚えたり経験すれば早い段階で医学の深い知識と技術も身につけられないこともない。

 急ぎだったとはいえ事前に予習して詰め込んできた医学系の知識を含む様々な知識と、研究所にある国一番の精密検査機器を使いクサナカの肉体を調べた。

 特に重点的に調べたのはクサナカの心臓と血液だ。

「血液細胞自体は普通の一般人と同じ……、けどなんだこの違和感…。」

 大がかりな顕微鏡で採取した血液を満遍なく調べたが血液を構成する細胞は普通の人間のそれと変わりないように見えていた。

 エドワードとアルフォンスは交互に顕微鏡でクサナカの血液を見ながら大量の図鑑や資料を参照しながら、白紙に錬金術の図形や数式などなどを彼らの頭でないと分からない形で描かれたり、罫線のある紙にガリガリと計算式、物質の成分、物質がもたらす効能などなど素人には全く分からない意味があるようなまったくの無意味にしか見えないような謎の文字列やら理論の文字列を書き続けて書き続けて紙の束が山になっていくが、中々答えに行き着けず頭を抱えて唸ったり机にゴンゴン頭をぶつけてイライラしていたり、椅子から立ってその辺をウロウロしたり頭をかきむしったり、早熟の脳みそをフルに使う。アルフォンスも魂だけの存在になっているが思考できる力をフルに使う。

 その時、ロイがコソコソと動いていた。

「何をするんだ?」

「いや、少しばかり気になったことがあったのでな。実験を。」

 そう言ってロイが手にしているのは採血したクサナカの血のごく一部が入ったアンプルのような小さな入れ物。

 研究所の敷地には爆発物になる可能性がある研究の実験を行うためのスペースがあり、焔を研究の分野としているロイはここよりも大きな規模のところを使うのだが今回は小さめの実験のために使わせて貰うことにしたのだ。

 剥き出しの地面のように見せかけて副産物で発生する可能性のある毒物を外部に漏らさない設計になっているドームのようなその実験場にロイが錬成陣を描き、中心に血液入りの入れ物を設置して距離を取り、クサナカが安全圏から見物している中でロイは錬成陣が掘られた手袋を嵌め、錬成陣向けて彼の十八番である焔の錬金術を放った。

 その瞬間発生したのは大爆発。

 研究所全体が揺れるほどの。

「な、なんだ!?」

 何かのテロか職員達が慌てる中、エドワードとアルフォンスは思考の袋小路に入っていた頭を殴られたようにひっくり返ってしまった。

「ソウゲンさん! 今のは!?」

『あの色男の大佐さんが、ちょっと……。』

「は~~~!? 大佐なにやって!?」

『アッチじゃよ。』

 ソウゲンに案内されて二人は爆発実験が行われた場所へ急行。

 そこで見たのは空気に混じった粉塵と煙と、爆発に備えたガード用の鉄板の裏に身を隠していたクサナカの姿と、想定以上の爆発で煤けて汚れた上に爆風で髪の毛も服もメチャクチャな有様になったまま棒立ちになってるロイだった。

 ロイが仕込んだ錬成陣があった部分には大穴が空いていて、爆発の激しさを物語っていた。

 

 その後ロイを救護室に運んで研究所に配属されている軍医が診察した。結果たいした怪我はなく、爆風によって浴びた煤と土汚れがほとんどだったと分かった。

「んで? なにやってたんだよ?」

「いやねぇ…、あくまでちょっとした興味で…。」

「だからなにした!?」

「俺の血を爆発させた。」

「はあ!?」

「大佐、何やってるんですか!? クサナカさんの血を火薬代わりにしたってことですか!?」

「それは少し違うな鋼の弟。私が試したのは彼の血液を等価交換の対価として焔の威力をどれくらい強く出来るかということだ。」

「火薬代わりにしたのと変わんねーじゃねーか!」

『それで結果はどうじゃった?』

「計算していた以上の結果でしたよ。今回の量の2倍だったとしたらあの実験スペースごと私もクサナカくんも爆風でバラバラに吹き飛んでいたでしょう。」

「んな…!?」

 ロイの言葉にエドワードとアルフォンスは絶句した。

「あれっぽっちの量で?」

「着火に用いた焔も控えめにしたとはいえ、もし控えめにしていなかったら……危なかった。」

『焔を扱う錬金術師として、孫の血についてどう感じたんじゃ?』

「…………彼の血液の価値が普通の人間と比較にならないほど高いのではと思いました。」

 それを聞いたエドワードとアルフォンスは、死霊の町でクサナカから聞いた例え話を思い出した。

 遠い昔、血塗られた儀式で神の力を求める時代と文化があった頃、特別な力のある人間の血を求めたのではないか。血液を循環させ、血を蓄えた心臓を求めた。

 賢者の石は伝説だ。しかしその姿については赤い色であること以外は正確に伝わっていない。

 等価交換の法則から見て価値の高い人間の血が赤かったから後の世に賢者の石の赤い色に繋がったのでは?というクサナカの憶測。

 そしてそれを裏付けるように、クサナカは5倍かそれ以上の錬成の結果を容易く成功させ、火事で焼失した大きな建造物とその中にあった精密機械の数々と、そのついでにその中で死んだ人間も草木も死ぬ前の状態に戻して蘇らせるというとてつもないことを容易くやってしまった。

 大総統ブラッドレイはクサナカの命を奪い、彼の体内にあると見ていた賢者の石を回収しようとしていた。

 だから心臓の中に賢者の石が入っているという仮定でこの研究所に来て調べることにしたのだ。

 少量の血で弱い焔が大爆発になる錬成の結果が出た。

 赤い色の石、賢者の石、赤い血液……?

 エドワードとアルフォンスは、チラリッとクサナカの赤みの強い黒髪と目の色を見た。完全な真紅というほどの鮮やかさとは言えないがかなり赤みが強い黒髪だ。いや、気のせいか初めて出会った時より赤みが増しているような?

「心臓の中…、血……、血の価値……。」

 エドワードがブツブツと冷や汗をかきながら呟く。

 そしてエドワードはある答えに行き着く。

 

 

 

 クサナカの…………、否、死霊魔術師という一族の心臓と体内で循環する血液こそが賢者の石なのではないかという答えに。

 

 

 

 エドワードがその答えを導きだし固まっているところに、研究所職員が慌ててロイのもとへ来た。

 ロイが爆発で開けた穴から、アンプルのような入れ物と中に入っている少量のクサナカの血がそのまま見つかったということを報告しに来たのだ。

 

「クサナカさん……、あんたは……。そんなことって…!」

「兄さん?」

 エドワードの考えていたことを知らないアルフォンスが訝しんだ。

 愕然としているエドワードと分からなくてオロオロしているアルフォンスは、やがてロイのもとへ運ばれてきたほぼ無傷のアンプルのような入れ物と、その中で時間経過による凝固も劣化もしていない少量のクサナカの血がアンプルの中で水の中に沈んだ油が球体のようにプルンと転がっているような形になっているのを目撃した。

 普通の血液があんな状態になるなんて…おかしい。

 

 もしも心臓と肉体に流れる血の全てが賢者の石だとしたら、祖父であるソウゲンの願いを叶えられないかもしれない。

 孫のクサナカの体内にある賢者の石を取り出して、クサナカを狙う輩から解放すること。それがソウゲンの願いだ。

 エドワードとアルフォンスは、その問題に直面して自分達があまりにも軽くその頼みを受けてしまったことを後悔した。

 

 

 

 

 




今回はクサナカが復活させた研究所の機材を使ってやっとクサナカの体を調べられた。
でも賢者の石の有無はいまいち分からず。
けれどエドワードはクサナカを含めて死霊魔術師の心臓と血液そのものが賢者の石?なのではないかという疑問を持つ。
ロイが使ったクサナカの血液はティースプーン4分の1ぐらいの少量です。
なぜ入れ物が壊れず、そして中にある血液が普通と違って固まったり変色もせず、プルンッとした状態に丸まったのか……。
イメージとしてはマルコーさんが隠し持っていた小瓶に入っていた液状の賢者の石みたいな感じです。

果たして死霊魔術師という一族の体内にあるとされる賢者の石とは?
そして死霊魔術で焼失した建造物ごと死んだ者(※草木含む)を復活させられた理由とは?


いい加減ホムンクルス側とか、シンとか、他のキャラ達を絡ませたいが中々展開が思い付かなくて……。
ホムンクルスは下手すると出落ちだし、シン勢は確実に絡むとしてもどこで登場させるか……、あとブラッドレイ没で大混乱してるホムンクルスに加担してた政府の人間達も……。

どーしよー……。大変な二次創作をやってしまったと今更ながら頭を抱えてしまう…。


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SS16  欲しがられてる割に扱われ方が雑な死霊魔術師

勢いがあるうちに。

今回もオリジナルエピソードになります。



今回はセントラルシティの下に潜んでらっしゃる原作黒幕でラスボスがちょろっと手を出そうとして……?


少し汚物などの表現がありますので苦手な方はご注意。








それでもOKって方だけどうぞ。






いいですね?



 

 

「…えっ?」

 その女性職員は思わずそう声を漏らしてしまった。

 すぐそこを歩いていた赤毛っぽい男性が消えた。

 いや正確には床の下に消えた。

 なにかのお笑いコントやドッキリみたいに床が開いてボッシュートだ。

 男が綺麗に落ちた後の床の穴はすぐに閉じた。

「えっ…?」

 自分はいったい何を見てしまったのだろう?っと突然のことすぎて固まってしまっている女性職員の後方からドタドタと足音が近づく。

「クサナカさーーん! あっ、すみません、こっちに赤毛っぽい男の人来ませんでしたか?」

 集団の先頭にいたエドワードが駆け寄りながら女性職員に聞くと、やっと我に返って顔を青くさせてオロオロと慌て始めた。

 その様子にエドワード達が訝しみ、落ち着くよう声を掛けて事情を聞いた。

「そこの床が開いてボッシュートされた~~~~!?」

 そんなコントみたいな仕掛けが真面目なこの研究所にあるなんて誰も知らなかった。

「兄さん! ここだけ他の床素材と微妙に違うよ!」

「見た目はそれっぽく細工されているのか。修繕したという理由付けをされれば深く疑われなかったのかもしれん。」

「なら…。」

「待て鋼の!」

 ロイが止めるより早く両手を合せて錬成を行ったエドワードによってボッシュート偽装床とその周りが少しだけ分解されてその下にある穴が露わになった。

「水道管でも、空気管のための穴じゃない…。滑り台式のダストボックスっぽい造りで人間ひとりは底まで滑り落ちれるな。」

 その穴は人間の男の大人が体をまっすぐにした状態で滑り落ちるには十分な大きさと造りになっていた。ウォータースライダーとも違い、ゴミ袋を滑り落とすための角度という感じでまっすぐに真下に落ちるようにはなっていない。

 どこまで続いているのかは不明だ。かなり深いようだ。

「ソウゲンさんは? ソウゲンさーーん!」

「さっき『孫がボッシュートされた!』って言ってきたのに…、まさか一緒に…?」

「可能性は高いな。彼はクサナカくんに取り憑いているそうだから。」

「…あの…、なにか聞こえませんか?」

「えっ?」

 クサナカがボッシュートされた時の目撃者になった女性職員がボソボソと聞いた。

 するとボッシュート穴の底から何かが這い出てきた。

「なっ、キメラか!?」

 サソリとネズミをかけ合わせたような見た目だが実物のそれらよりずっと大きなキメラが鋭い爪で登ってきたのだ。

 素早く出てきたキメラをエドワードが右腕のオートメイルの一部を錬成して刃にし、巨体の割に小さな頭部を半分に切り裂いた。しかしそれだけでは死にきれず、最後のあがきとばかりに鋭い手足をバタバタと振り回すキメラを背後からアルフォンスが床に押え付けて脊椎を損傷させトドメを刺した。

 ロイは武器である焔の特性上建物内で使用ができないため加勢できなかった。

「まさか……、クサナカさん!」

 ボッシュート穴から出てきた出来の悪いキメラが他にたくさんいてクサナカが落ちた先にいるとしたらと想像しエドワード達が青ざめる。

「あ、兄さん!」

「鋼の!」

 クサナカの危機にいてもたってもいられなくなったエドワードがボッシュート穴に飛び込み、その下へ滑り落ちていった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 一方、その頃。

 コントみたいな仕掛けで床の下にあった滑り台式のダストボックスっぽい管を落ちていったクサナカ。

 そこはセントラルシティの下水道らしく腐った水とカビの臭いに混じって浄化しきれていない生活排水の独特な臭いがしていて鼻を強く刺激する。

 悪臭に慣れていない常人ならそれだけで気分が悪くなったり目にも影響しているだろうが、クサナカは元自宅の裏に墓場がありそこで墓守をさせていた犬デーモンの存在で臭いには慣れっこであった。むしろ犬デーモンよりマシに感じているぐらいだったりする。

 壁の高い位置にボッシュート穴の終点があったのでそこから落ちて尻を打ったが、まあそこまではいい。

『雑な扱いじゃのう…。』

「生きていようが死んでいようがどうでもいいからだ。」

 尻をさすって座り込んでいたクサナカの気配を察知したらしい下水にいる無数のキメラ達がゾロゾロと下水道の闇から現れて近づいてきた。

 キメラ達はどれもこれも形が異なり、それぞれが異なる動物の組み合わせや割合で造られていることが伺えた。そして人間の制御を受けておらずその気性は完全に飢えた獣だ。

 腹を空かせた彼らにとって生きた人間の柔らかい肉はきっとご馳走だろう。全部のキメラではないが多くはヨダレを垂らしながらジリジリと距離を詰めてきている。

「……下水でよかった。」

『そうじゃな。生活排水は色々と…混ざって最高の材料じゃからの。デーモンの。』

 クサナカは座り込んだまま下水の水たまりに指を這わせた。

 紫電の光が大きく弾け、その紫電が流れる下水にも及んだ。

 そこへ。

「クサナカさん! 無事…、って……えっ!?」

 滑り落ちてきたエドワードが下水道の歩道部分に着地した時に見たのは……。

 

 

 

 

 セントラルシティ全体に家屋が軽く揺れるほどの地震が発生した。

 整備された道にあるマンホールが吹っ飛び、その下にある下水が噴出。たちまちアメストリスの中心地は生活排水の臭いに満ちあふれた。

 研究所の敷地内の大きな下水道への出入り口も内側から強引に破られ、いきなりのことに周囲が騒然とする中、ドロドロの下水のヘドロが生き物のように這い出てきた。

 ヘドロの怪物の体には無数の眼球のような赤い目があり、ギョロギョロとそれぞれ違う動きをしていて、大きな両腕と手で足の無い体を引きずりながら移動する。

 その巨体の背中なのか頭なのか分からない位置に、悠々とくつろぐようにあぐらをかいて座っているクサナカと、そんなクサナカに抱えられていて口から泡吹いて白目を剥いてるエドワードがいた。

 

 その後にこの大騒ぎに駆けつけたヒューズがロイ達とも合流したクサナカとエドワードと、その後ろに控えてる生活排水ヘドロデーモンを見て頭で認識した瞬間にこう叫んだ。

「風呂入ってこい!!」

 下水が一部噴出したセントラルシティの中で、今現在この場所が一番臭くて不潔な状態だったのだ。

『そりゃトイレの排水溜まりのヘドロじゃからのう。』

 ソウゲンはケラケラと笑っていた。彼は死後に自らの意思でデーモンとなったのだから悪臭なんて気にならない。むしろデーモンの触媒としてこういった汚物を利用していたこともあるから得意な方なのだ。

 それにたいしてクサナカは顎に手を当てて。

「……肥溜めの方が薄めてないからもっと良い。」

「サラッと恐ろしいこと言わないでくださいよ~!!」

 気絶しているエドワードを介抱するアルフォンス。彼に涙が出せたならきっと泣いてる。

「しかしこれでも、あの犬よりはマシなのがね…。」

 ロイは鼻をハンカチで塞ぎつつ、犬デーモンの臭いの方が臭かったという感想を呟いた。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 その一方で。

 

「……お父様…、さすがに雑すぎたのでは?」

『……。』

「下水も死霊魔術師にとってはお手頃な便利道具にしかならないのかー……。アイツに弱みってないの? お父様?」

『……。』

「お父様?」

 

 年を重ねてはいるが年寄り過ぎないぐらいのシワのある顔立ちをした男に、ウロボロスの印を持つ妖艶な女と、良いところのお坊ちゃんのような品の良い服を纏った少年が何度も話しかけても男は何も答えず、無数の奇妙な管が繋がった奇妙な椅子に座った状態でジッと動かない。

 

 二人から『お父様』と呼ばれている男は、硬い表情で腿の上に分厚い本を置いてその上に手を添えたような状態でジッとしていた。

 

 

『(………………あの魔女の子孫だというのを、失念していた……)』

 

 

 痛恨の凡ミスでだったようだ。

 『お父様』の記憶に残る、褐色の肌と赤い瞳と長すぎるほど長い癖にある黒髪の女。

 女は死霊魔術師であった。

 死霊魔術師とは名乗らず、魔女を自称し生計を立てていた。

 女は自由自在に土や泥を触媒に大きなクモのデーモンの軍団を造り上げてみせ、当時としては大軍といえる兵力を蹴散らし逃げ帰らせたのだ。

 満月を背景に、奇妙な光沢の一つ目を持つ巨大な土のクモの背に立って、平地を埋め尽くす他の土と石と泥の巨大なクモを率いるその姿は……、この世のものなのかとうっかり考えてしまうほど圧倒的過ぎた。

 

 

 

 

 

 




クサナカを下水道までボッシュートしたのは、地下にひしめいているキメラ達にクサナカを襲わせて食い殺させるか、下水道という不衛生極まりない場所で感染症を起こさせて弱らせてから回収しようとした感じ。

でもそんな雑なやり方じゃダメだった上に、下水を触媒にデーモンを造りだしてあっさり脱出。
ただしセントラルシティが下水でえらいこっちゃになるといういらないオマケ付きで……。

生活排水には動物植物…色々と混ざりに混ざった不浄そのものだからデーモンの素材にするのに最適という設定にしました。
登場した下水ヘドロデーモンは、特にトイレの排水溜まりのヘドロなので……、肥溜めに近い…かも?


最後の方で『お父様』が大昔に出会った先々代の死霊魔術について思い出していますが、彼女がソウゲンの祖母にあたる人物。
『お父様』がクセルクセス王国の一部の兵力を利用して彼女に戦いを挑んだけれど、あっさり返り討ちにあったという過去です。
『お父様』が死霊魔術師と直接面識があるということは、もちろん……。


次は……どうするか……。
犬デーモンがあれこれ活躍するのを書こうか…。
それともウィンリィやシン勢を出すか……。
それともエド達の師匠…?


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SS17  死霊魔術師の幼い霊(たま)おくり

あんまり進展していません。

なんか合間のイベントみたいな感じです。



モブの幽霊達を成仏させるためにクサナカが行動します。

アメストリスの食文化がイマイチ分からないので、和洋折衷色々とあるってことで勝手にしています。


最後の方でヘドロデーモンによる被害が地下を根城にしていた連中にも及んでいたということを書きました。







それでもOKって方だけどうぞ。







いいですね?



 

 

 

 死霊魔術師が扱うデーモンは、基本的にこの世に残りやすいものを中心に添えて使う目的に合わせて必要なものを後から加えて使いやすく整えたものである。

 それ以外のデーモンはこの世に強く残ってしまっている死者の様々な想いや美術品のような多くの注目を受けて念が溜まったものが形になったもの。

 

 現死霊魔術師クサナカ、そして先代の死霊魔術師ソウゲンはそう学んで自分で磨いてきた死霊魔術という彼らの一族にのみ扱えた特殊な技術。

 

「手段を選ぶってことを優先して欲しいんだけどな!」

「はい…。」

 ガスマスクを被っているヒューズに怒られて地面に正座させられているクサナカ。

 ガスマスクの他にも防菌防毒のスーツを纏っているのだが、同じ姿の人間が今セントラルシティ中で忙しく動き回っている。その手に消毒液やそれと同じような薬を撒くための装備から伸びるシャワーのノズルを持っていた。

 国の中心地なだけあり生活排水を浄化する設備は整備されているのだが、浄化させる前の物が無差別に表に溢れ出てしまったら話は別だ。マンホールから溢れ出た汚水と汚物のせいで下水設備が無かった中世時代ぐらい酷い有様になってしまった。

 溢れ出てしまったそれらを片付けるために原因を作った張本人のクサナカが大型ヘドロデーモンを先に下水道に行かせてから他の場所に溢れた汚水と汚物にデーモンを宿らせて小型のヘドロデーモンにして下水道へ移動させてからデーモンを解除した。おかげで汚水と汚物は早急に片付けられたが……。

「染みついた臭いがな…。」

 細かい隙間に入った汚水と汚物、そして布や紙などに染みついて乾いた分。ヘドロデーモンにできなかった物として臭いが強く残ってしまったのだった。

 感染症の可能性を危惧されてそれらの防御用の装備と消毒のための薬品を撒くことになった。

『病魔はデーモンごと下水に移したんじゃがのう…。』

 ソウゲンはそう語るが騒ぎが大きすぎるし、臭いが酷いし、水害や地震でもないのに下水が飛び出してきた異常現象によるショックとそこから発生するであろう病魔と臭いによる不安が一般人に蔓延してしまった。死霊魔術師自体が胡散臭いのもあるしなまじ家庭医学の知識も一般人にはあるのだから病魔が発生しなかったとしてもパフォーマンスとして消毒作業をしないとただでさえブラッドレイ没で大変な状況も相まって不安が爆発して大暴動になりかねないのだ。

「クサナカさーん、買ってきましたよー。」

「ありがとう。」

「ん? なんだ?」

 ひととおり説教を終えたヒューズがアルフォンスの声を聴いてそちらを見た。

 小走りで駆け寄ってきたアルフォンスは大きな買い物袋をクサナカに差し出した。

「思ったよりお店が開いてなくって…。」

「いや、十分だ。」

 立ち上がったクサナカが買い物袋の中を確認した。

 大ぶりのジャガイモとしなびかけの香草など、ブラッドレイ没によってセントラルシティが過疎化しつつあるのもあり商売をする人間と流通を行う人間さえセントラルシティから離れつつある証だろう。

「調理器具は…。」

「あ、それは兄さんが。」

「おいおい。お前らこれ以上何をする気だ?」

「えっと…。」

「お節介だ。」

「はあ?」

『言葉が足りんぞ、クサナカ。』

 これ以上騒ぎを作る気かとクサナカを睨むヒューズに誤解を生む言葉を発するクサナカを窘めるソウゲン。

「どーいうことです?」

『まあ…、百聞は一見にしかずじゃ。』

「見れば分かる。」

 胡散臭そうにジトッと見てくるヒューズにクサナカは淡々とそう言った。

 アルフォンスに買い物袋を運んで貰い、ヒューズも連れてある用意をしていたエドワードのいるところへ向かう。

「クサナカさん、これでいいか?」

「ああ、ありがとう。」

 そこに用意されていたのはキャンプ場にありそうな簡易調理場だった。

 真新しく、おそらくエドワードが錬金術で調理器具も含めてすべて錬成したのだろう。

「それで? なにを作ってあげるのかな?」

「あ、ロイ…、……それ…。」

 片膝を地面について首をこちらに向けてきたロイの声を聴き、ヒューズがそちらを見るとヒューズは目を見開いた。

 ロイの傍には白っぽいふわっとした何かがいた。

 大きさは10歳以下の子供ぐらいだろうか、熊のぬいぐるみみたいに手足はあるが衣服らしきものは身につけていない。顔のパーツとして目と口らしき部分が雪に指や棒きれで穴を空けたみたいにある。鼻は見当たらない。

 そんな白い人型が2人、ロイの前に、広い空き地の方を見れば動き回る同じような白い人型達がいた。

 あるもの達は鬼ごっこをするように走り回っていたり、ボールを投げ合って遊んでいた。

 それらの仕草から彼らが幼い子供であるということがなんとなく感じ取れた。

「イモの皮剥いて…、んで? こっからは?」

「すりおろしてくれ。すりおろしたのにデンプンを混ぜる。」

「全部擦っていいんですか?」

「半分は茹でるから残してくれ。」

「鍋が沸いたぞ。」

「さすが焔の専門家。」

「火力の調整なら任せてくれ。」

「雨の日は使えねーだろが。」

「うぐっ!」

「そうなのか?」

「そーなんですよ。大佐の錬金術は水分に弱いんですよ。」

『なるほど。しかし状況次第では大惨事にもなるのう。』

「小麦粉工場とかな。」

「粉塵爆発。」

『錬金術は派手で破壊力はあるし、容姿にも恵まれておるのに微妙なところで残念じゃな。残念なハンサム……、略して残サムじゃな。』

「ざん…さむ! ブフッ!」

「私は残念ではない!」

「ハンサムは認めるんですね…。」

「無能なのも魅力。」

「魅力ってか、マイナスポイントだろ。」

「マイナスも見方を変えれば魅力。小さいことも。」

「誰がちっさい豆だ!!」

「なにが小さいとは言っていないが? ナニが小さいと思った?」

「な、ナニって…!?」

「エドワードは…、色々とまだ発展途上だが、たぶん年齢相応なはず。平均以下は悪じゃない。」

『そうじゃなー。平均はあくまで見える範囲を集計してのものじゃ。必ずしも平均通りにはならん。』

「フッ…くくく、確かに小さいことはマイナスではないな。良かったではないか、鋼の~?」

「だーーーーーーーーーー!!」

「えっ? どういうこと? 何の話してるの?」

「おーい、お前ら、イモが柔らかくなってんぞ。」

「あっ、忘れてた。」

 茹でていたイモが柔らかくなるまで時間を持て余していた時にコントみたいなことをギャーギャーやってる間にイモが柔らかくなったのをヒューズが伝えた。

 茹で上がったイモをザルにあげ、水気を切ってからデンプンを加え、よく混ぜ合わせてこねる。

 熱した大きなフライパンにバターを溶かし、茹でイモ生地にあればチーズを中心にして丸めて平たくした物を焼く。両面がこんがりしたらできあがり。

 次に大鍋にスープの素を溶かし大きいスプーンですくったすりおろしイモの生地を鍋の汁に落として煮ていく。イモに火が通ったら味見をして薄いようなら塩を追加。器に盛ってあれば砕いた干しパセリを振って出来上がり。

「イモ団子スープとイモ餅(チーズ入り)。」

「足ります?」

『十分じゃよ。』

「あーあー、話の腰折ってすまんけど、コレどういう状況? 詳しくプリーズ。」

「ああ、すまんかった。実は…。」

 状況が分からないヒューズにロイが説明を買って出て、その間に器に盛ったスープと皿に載せたイモ餅を白い人型達に配っていくクサナカ達。白い人型達は両手でそれを受け取っている。しかも列を作って順番待ち。

 ロイが説明した内容はこうだ。

 この白い人型達は、下水道や路地裏などにしか生きる場所が無かった身寄りの無いストリートチルドレン達の幽霊で、生まれた時からの非常に辛い生活の果てに幼い内に命を落としているのだという。

 下水道に落ちたクサナカがヘドロデーモンを発生させた際に発見し、下水と汚物と一緒に地上に押し出して白い人型のような姿で一時的に存在できるようにしたのだ。

 簡単にまとめるとクサナカが哀れな子供達の魂を放っておけず、成仏させるためにエドワード達に協力を求めたのだ。不幸な死を遂げた子供の救済と聞いて断る理由はないとしてエドワード達は快く請け負った。ロイは白い子供達の中にいた女の子達に懐かれて相手をしていたそうだ。ヒューズが見た2人の白い子供が女の子でロイの容姿にときめいていたらしい。

 成仏に必要なのものとして用意したのがイモ団子スープとイモ餅なわけだが、今回は材料が限られたためほぼジャガイモオンリー料理になってしまったのだ。

 ソウゲン曰く、スープだけでもいいらしい。少ない材料で大人数に行き渡るし温まるから。

「みんな席に着いたかー?」

 社員食堂にありそうな長い机と椅子に白い人型…もとい子供の幽霊達が受け取った料理を前に座っていてクサナカの声かけに『ハーイ!』と返事をして、中には元気に手を上げたりしていた。ちなみに机と椅子もエドワードとアルフォンスが錬金術で作った。

「じゃあ、みんな仲良く『いただきます』。」

 クサナカが両手を合せてそう声を掛けると、子供達も習って『いただきます!』と元気よく叫び手を合せてからフォークとスプーンを手にして料理にがっつきだす。

 クマのぬいぐるみのそれっぽく見えた手はフォークとスプーンを握るために柔らかく変形してしっかりフォークやスプーンを握りしめることができている。だが教養のない幼い子供であるせいか握り方と使い方のマナーが悪い。だが一生懸命食べる姿に食器の使い方のマナーを口うるさくなんてできない。

 雪に指などを突っ込んでできたような口だった部位は口として大きく開いてスープの汁と具、あるいはイモ餅を囓り取って咀嚼している。

 イモ餅にはチーズを入れていたので囓ると中からとろけたチーズが伸びるのでそれに驚いた子供の幽霊が嬉しそうに笑ったり加熱したチーズすら知らない様子で首を傾げていたり、伸びるチーズで遊ぼうとしてクサナカに窘められたりとそれぞれの子供達の個性が表れていた。

 器から直接スープを飲み、スープから得られた熱さ、温かさに目らしき部位からポロリッと水滴を零す子供もいた。その自分の現象に困惑している子供にはクサナカが頭を優しく撫でて、『ゆっくり味わうと良い。誰も取らないから』と言葉をかけ、子供はコクコクと頷いてゆっくりと料理を味わった。

 料理を振る舞ってから食事が終わりに差し掛かる頃、白い姿の子供達の周囲にチラチラと小さな光のような物が散らばるように現れ、子供達の姿が少しずつ薄れてきているように見えた。

 そうなってきて子供達はそれぞれ眠たそうに目を擦ったり、あくびをし始める。

「お腹いっぱいになったか?」

 クサナカが優しい声色で子供達に聞くと、眠気が強まる中で子供達が頷く。

「……じゃあ、食後のお昼寝だ。ゆっくり…、おやすみ。」

 クサナカが取り出した黄金の髑髏がカチリッと歯を鳴らした。

 僅かな紫電と共に星の輝きのような光の粒が弾け、ウトウトと眠っていく子供達の周りを包み込むように渦巻き、そして子供達の白い姿がその光に溶けるように薄れて消えていった。

 光の粒の渦は空へ向けて細くなりながら上昇していき、やがて空中に溶けるように飛散して消えた。

 クサナカは片手に黄金の髑髏を抱えたまま光の粒を見送るように手を振った。

「……成仏できたのか?」

「逝けた。」

 エドワードが光が昇っていった空を見上げながらクサナカに聞くと、クサナカは手短にそう返事をした。

「いやはや…、君と出会ってから科学を全力否定するような出来事ばかりだな。ところで、あの子達が行く場所というのは…俗に天国なのかい?」

「生きている者が好きに呼べば良い場所。終わりと、始まりが行って出てくる場所…かな?」

「つまり輪廻転生ってやつか?」

 ヒューズが聞くとクサナカは腕組みして考えてから答えた。

「始まりがないと、終わりもない。終わりがないと、始まりすら分からない。」

『卵が先か。鶏が先か。じゃな。』

「うお…、急に哲学…!」

「でも永遠のテーマ…!」

 急なクサナカとソウゲンの的を得ているような言葉に恐れおののくようなリアクションをするエドワードとアルフォンス。

「…なあ、あの子達って、もし転生するとして…、どれくらいかかる?」

「さあ? いつ戻ってこられるかは……、何になるかも分からないしな…。」

「……そうか。」

『まー、お宅の家の子になる可能性もあるぞ?』

 ソウゲンの空気読まない言葉にしんみりしていたヒューズがものすごい勢いで吹いた。

『最近忙しすぎて家に帰れとらんらしいのう? 帰って久しぶりに家族孝行と奥方との切磋琢磨で可能性がグッと…。』

「それ確実なんすか!? 預言ですかぁぁぁ!?」

『あるいは娘さんの将来の…。』

「ゾレハナイ!!」

「ヒューズ落ち着け。血涙流して引き留めて娘を独身縛りさせる気か?」

 愛娘の将来の結婚についての話題になると血涙流して表情がえらいっこちゃになったヒューズの肩をロイが叩く。

「ダッッッデ! ダッデェェェェ!!」

『親馬鹿は辛いの~。』

「爺さんも娘いるだろ。俺の母さん。」

『うちはうち。余所は余所じゃよ。』

「放任主義だったのかよ。」

「縛りがなさ過ぎるってのも…どーなんだろ?」

 まだ家庭を持つことを考えられない子供のエルリック兄弟には分からない世界である。しかしロイはまだ独身だ。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃。

「だいじょーぶ?」

「……………んどくせぇ…、臭ぇ…。」

 ヘドロの塊から脱出した筋肉ゴリゴリの男が地面に這いつくばりながら面倒くさそうにぼやく。

 男の前には鼻をタオルで塞いだウロボロスの印を持つ妖艶な女。

『うぐ、あああああ! もう臭いーーー! くっさいーーーー! 死霊魔術師なんてことしてくれんだよーーー!?』

 地下に開かれた地下道のような穴の中に男の子の叫び声が木霊する。

 黒い影のような物がその叫び声と共にのたうっていた。

 長く続く地下道には、一面の地面にヘドロの水たまりが出来ていて、壁、天井、あちこちにこれでもかと飛び散っていた。あとそれらと一緒にヘドロに交ざる形でキメラの死体の一部が散乱もしていた。

 それらの原因はクサナカが下水道に戻した大型ヘドロデーモンだった。

 あのデーモンは下水道に配置されていた無数のキメラ達を飲み込み、死に至らせて腐らせ、ヘドロデーモンの大きさを更に大きくさせて下水道では収らないからと別の広いスペースへ移動したのだが、そこがこの地下道だったわけで……。

 穴を掘って地下道を広げていた筋肉大男を巻き込んで地下道に悪臭ヘドロを広げまくってからヘドロデーモンは自壊したのであった。自壊したのは予めクサナカが与えた命令によるもの。

 下手に不死身だったので筋肉大男は溶かされずに生き残ったが、地下道に満ちあふれた悪臭に黒い影のような物が臭いと騒いだ。無数の目玉から涙もボロボロと出ている。臭いが目に染みているのだ。

 ちなみに悪臭とヘドロの一部は、地下道どころか『お父様』と呼ばれる男のいた場所まで達しており、秘密基地を汚染されて彼らを地味に苦しめたことを誰も知らない。

 

 

 

 




子供の幽霊を一時的に実体化させた白い姿は、真っ白なフワフワで、一見すると物を持つことができなさそうだけど持とうと思えば持てるし、物を食べようと思えば食べれる意外と変幻自在。

食事を与えたのは、お供え物をする習慣とかをイメージしています。
食事後に眠くなったのはこの世に残る縛りが緩んで旅立てそうな状態になったから。
子供達はこの世に怨みがあるわけじゃなく、訳も分からず辛いばかりの環境で命を落として死後の世界への生き方も分からずその場で迷子になっていただけという感じです。時間経過で消える可能性もありますが、どれくらいかかるか不明なので見つけたクサナカが助け船を出して死後の世界へ逝くのを早めました。

最後の方はあの大型ヘドロデーモンの存在が地味に地下に根城を構えていた連中が被害を受けているというのを思いつきで書きました。
別にクサナカは狙って行かせたわけじゃないです。完全にとばっちりです。


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SS18  先代死霊魔術師の得意分野

やっと執筆できました。

今回もオリジナルエピソード。

会話が主です。
ほぼ台詞。
あと説明ばかり。


他作品のキャラクターと設定をクロスオーバーさせています。
分かる人がいるのかどうか怪しいマニアックゲームのキャラです。自分的には大好きなんですが。


ソウゲンのキャラが当初よりサイコパスに改変したりと色々と展開がおかしいかもしれません。





それでもOKって方だけどうぞ。






いいですね?





 

 

 

 

「……………なにやってんの?」

「……。」

「おーい。クサナカさん? 聞こえてる?」

「クサナカさん。」

「ん? なんだどうした?」

 アルフォンスに肩を叩かれてやっと気がついたクサナカが手を止めた。

「すっげー集中してたみたいだけど何作ってんの?」

 エドワードがクサナカが黙々と工作していた物を指差して聞いた。

 組み立てられることで形を自由にできるオモチャのブロックのように見えるが、奇妙な縞模様と見たことがない文字と図形が合わさったような模様が彫られている。

 工作の材料にした思われる灰色の粉を水分で練ったりしたことで残った乾きかけの灰色の汚れがべっとりついたまな板と小さいバケツ、削ったりするのに使用したと思われる彫刻刀がテーブルに散乱している。

「これは…。」

『ゴーレムのパーツじゃ。』

「ごーれむ?」

「えーと…、あ、あれだ! 自立して動くあれ。」

「ゴーレムのルーツは色々あるだろうが、爺さんのゴーレムは…。」

『ゴーレムというのはわしが勝手につけた呼び名じゃよ。簡単に説明するとデーモンに適した器。フェティッシュはその一例じゃ。』

「あれってゴーレムだったのか? 人形って言ってなかった?」

『人形とゴーレムはそんな違いはないかのう?』

「フェティッシュはまだ造りやすい方。」

『なんでそう面倒くさがる? 実体の無いデーモンのために最適に造っておるから即席デーモンでも簡単にパワーの増幅ができるから低級が上級ギリギリまでのにできるのに?』

「爺さんの凝り性のせいで大変なことになりかけたって自分で言ってただろ? 爺さんの婆さんにこっぴどく怒られたって。」

『………あー…。』

「なにやったんだよ、ソウゲンさん?」

 クサナカにジト目で言われてあからさまに目を泳がせるソウゲンの様子に、エドワードとアルフォンスは彼が過去に何かよからぬことをやらかしていることを察して疑問に思った。

「凝り性が祟ってとんでもない代物を造って…、あまりのとんでもなさに先々代死霊魔術師だった爺さんの婆さんがすぐ処分しろって処分させたらしい。最近色々と思い出してきたから爺さんが生きてた頃に聞いた話だ。」

「速攻で処分しろって言われるって、いったいどんなの造ったんだよ!?」

『そうじゃな、国ぐらいは軽く滅ぼせるかの? 昔だろうと現代関係なく。』

「1体でそれだけの激ヤバ物(ぶつ)なのに、そんなのを3体造った。」

「ソウゲンさん、あんたなにやってんの!? なに造ってんだよ!?」

「国を滅ぼすほどのものって!?」

『だって…、趣味の集大成というのをやってみたいじゃろ? 最高傑作に挑戦してみたいもんじゃろ?』

「それで国滅ぼすレベルをポンポン造って処分に困る上に、そもそもの使いどころ不明で困ってどーする? 爺さん作のゴーレムは歴代死霊魔術師の中で最凶最悪の危険物だっていうのに。」

「そーなのかよ!? マジでなにやってんだよソウゲンさん!?」

『でも…、だって…、自分ができる限界を試してみたくなるもんじゃろ? 単純にデーモンを造るのもじゃが、デーモンを効率的に安定して使いこなすための最高の器があれば即席で造った不安定な低級デーモンも手間を掛けずに強く出来るし…。ゴーレムに死者の魂を移してもよいし…。』

「爺さんはデーモン作りが面倒だからって、最初の手間さえ終わればエネルギー注入だけで何度も使えるって量産家電みたいにゴーレム造りに精を出したって口だろ。」

 デモデモダッテっとごにょるソウゲンにクサナカがやや呆れ気味に肩をすくめて言う。不老不死と知らずに次世代が生まれたから老衰で亡くなったとはいえ人生経験は積んでいるはずなのになんかごねる子供みたいになってる。

 エドワードとアルフォンスは思った。

 クサナカの人間性部分が多少ヤバい部分があると思っていたが、クサナカ以上にヤバかったのは祖父のソウゲンの方だったと分かった。サイコパス度で測ると趣味で激ヤバ兵器を製作するソウゲンがヤバい。しかも悪気がなさそうなのがヤバい。

「それで、クサナカさんが造ってるのって…まさか?」

 先ほどソウゲンがゴーレムのパーツと言っていたことを思いだし、嫌な予感を覚えたエドワードが再度それの正体について聞いた。

「……念には念を入れておくという意味でだ。」

「絶対よくないブツだろ!? 予防策を打っておくことを否定はしないけどさ!」

「で、爺さん、これの紋様ってこういう感じでいいの?」

『うむ、上手いぞ。』

「なあせめて今造ってるモノのことは教えてくれね!? あんたらのやること全部ヤベー気しかしねーんだから!」

 プラモデルのパーツかレゴブロックみたいな小さなパーツをソウゲンに確認しているクサナカと指南しているソウゲンに向けて叫ぶエドワード。

「何を造ってるって…、これは制御装置? みたいなもの?」

「なんで疑問形なんですか?」

 造っている本人が変な言い方をするので思わず聞き返すアルフォンス。

『せいぎょそうち…、あながち間違いじゃないぞ。』

「制御装置って…、それが必要なぐらい大がかりなゴーレムってことじゃ…。」

「そーとも言う。」

「否定しねーのな。その制御装置ってのが必要なゴーレムがさっき話してた激ヤバゴーレムってことは…。」

「……。」

『……。』

「黙るなーーーー!! 目をそらすなーーー!!」

「造っちゃダメなやつーーーー!! すでに作り始めちゃってるーー!!」

「念には念を。」

「それ免罪符にすんな! あとのこと考えろって! 制作者のソウゲンさんも造って早々処分しろって怒られてんだろ!?」

『時と場合じゃって。万が一って事があるじゃろ? うまく使えば脅迫材料にぐらいは使えるわい。』

「脅しに国を人質に使っちゃダメーーー!」

「うち1体を復活させておいて使おうと思えば使えるのは、爺さんがもう用意してるが。」

「………………は?」

 クサナカが頭を掻きながらぼやいた言葉にエドワードとアルフォンスがギギギッと音がしそうな感じでゆっくりとクサナカを見た。

「…なんて?」

「ん?」

「今、なんて言った?」

「なにを?」

「とぼけんな! 使おうと思えば使えるのをソウゲンさんが用意してるって言っただろ!」

『ああ、そういえば忘れとった。』

 ソウゲンのその一言でエドワードとアルフォンスが思わずずっこけた。

「死霊の町の結界を突破されたときの最後の砦にって、町の裏山に用意してただろ? 思い出した。」

『そーじゃったな。あー、すっかり忘れておった。』

 手を叩いてケラケラ笑うソウゲン。ガチで忘れていたようだ。

 死霊の町はブラッドレイが大軍を率いて攻撃してきたが、あのまま攻撃が止まずに進行されていたら裏山に隠されていたゴーレムが起動していたということだ。

 そのゴーレムとは……。

「そんなんだから怨まれるんだろ? 爺さんはいい加減だ。アイツらが気の毒。」

『砦将(さいしょう)は聞き分けがいいと思うんじゃが?』

「ただ単に我慢してるだけだから…。だからって忘れてほったらかしはない。本当に集大成だったのか?」

『3体とも良い子じゃよ。わしの最高傑作じゃ。』

「どうだか…。」

「…さいしょう?」

「砦将。爺さんが造った国を軽く滅ぼせる強力無比のゴーレム…、デビルゴーレムの1体だ。」

『そうそう、結界を突破されたら最後の手段でアメストリスごと滅ぼす勢いで暴れさせてその隙に逃げさせようと思ってのう。』

「そんな軽い感じでこの国を犠牲にしようと…!?」

「なんてことしてんだ!?」

『国が敵に回るならそれぐらいはせんとな。』

「爺さん…、あんたは薄情というか、思いやりが…、ハア…。』

「あ、危なかったんだ…。」」

 ケラケラと軽い調子で笑ってとんでもないことを言っているソウゲンに、クサナカは呆れてため息を吐き、エドワードとアルフォンスは青ざめて戦慄した。

 あの時クサナカがブラッドレイを死亡させることをしなければ…、アメストリスが地上から消されていたかもしれなかった。3体いるデビルゴーレムの1体である砦将の力と詳細は知らないが、危うくアメストリスが滅びそうになっていたその事実に恐怖した。

 恐怖してしまう理由は、死霊魔術師が扱うデーモンの力が不可解でそして限界を感じさせない点だ。初めて見たシザースやサイズのように動物の頭蓋骨を利用したデーモンも十分過ぎる脅威であったが、そもそも普通の人間には認識できない死の姿を認識し、自由に扱うその得体の知れ無い恐怖も叡智の探求者であるはずの錬金術師の頭を混乱させ動物としての本能によってソレに近づくことを拒否して恐怖という形になる。

 実際即席デーモンでも質量を制限せずに造れば、セントラルシティの下水道のヘドロから怪獣のような大きさのヘドロデーモンを簡単に造って操れるのだから国を滅ぼすなんて楽勝なのかもしれない。しかもあのヘドロデーモンはヘドロに含まれる毒素や病原菌を抑えた状態にしていたのだからそれをしていなかったら……?

 頭脳が早熟のエルリック兄弟はヘドロデーモンに制限を掛けなかった場合に起こされる感染症の被害を想像してしまい体が勝手に震えた。

 じゃあクサナカより先代にあたる死霊魔術師のソウゲンが集大成として製作したというデビルゴーレムの力はどれほどのものなのか?

 造った本人が国を滅ぼせると言っているのだから……。

 そして孫のクサナカを守るために予め用意しておいてアメストリスを滅ぼしてでもクサナカを守ろうとしていたことも……。

 

 賢者の石以前の問題ではないかという闇深い問題が分かり、新たな不安材料ができてしまったのだった。

 

 重い不安を抱く二人の傍ら、渦中のクサナカとソウゲンがとんでもない発言をした。

 

「確か遠隔でコマンド(命令)を書き換えられるんだった? だったら砦将を待機状態から起こしてこっちに来させられるんじゃ…。」

『問題ない。できるぞ。エネルギー充填状態も満タンで保たれるようにしておるし、起こそうと思えばいつでも起こせるからのう。』

「だからヤメローーー!! 起こすなよ! 絶対にソイツ、砦将ってのを起こすなよ!?」

「お願いですから踏みとどまってーーー!!」

 実物がどれほどのものか分からないが、デビルゴーレムに関する説明の一部ととてつもなく嫌な予感がするので止めに入るエルリック兄弟だった。

「いったい何を騒いでいるのかね?」

『おや、ロイくん。…そうだ。焔をテーマとしておるのなら…。』

「そっちのはコアがないだろ?」

「なんの話かな?」

「い、いいから! 大佐は聞くな! 関わらない方が良い!」

「なんだなんだ? 隠し事とはつれないな、鋼の? 詳しく聞かせてくれるかね? クサナカくん?」

「大佐ー!」

 ロイを追い出そうとするエルリック兄弟を避けてロイが軽い悪巧みに参加するような楽しそうな顔でクサナカとソウゲンに話を振った。

『協力して貰おうか思ったが…、アイツのコアが手元にないのでな。作り直しは今は止めるとするよ。』

「おや? なにやら興味が引かれますな。詳しく聞いても?」

「アイツだけ余所に置いていったのに…。大事にしていたって態度がまったく感じ取れない…。だから3体とも怨めしがってるのに…。」

「オイオイオイオイオイ! なんかよろしくないこと言ってないか!? 怨まれてるってなんだよ!?」

 怨まれていると聞いたら顔を合せたら絶対悪いことしか起こらないことが容易に想像できた。

「確実に爺さんに不平不満を垂れるだろう。」

「えっ、それぐらいで許してくれるの?」

「3体の中で一番自我が強いのがいて、ソイツからは末代先まで呪い殺すぐらいはされそうかもしれない。」

「そこまで怨まれるってソウゲンさんマジで何した!? ソイツだけ極端じゃね!?」

「創造されて早々に自壊…、自殺しろってコマンドを与えられたら…な…。」

「……自我意識がハッキリしているんでしたら、確かにそんなことされたら普通に怒りますね…。」

「だから再構築させて復活させるのはイマイチ賛成できない。」

「なるほど、そういう背景があったのか…。そういう話なら、復活させた瞬間に復讐されるでしょうね。」

 クサナカとエドワード達がうんうんとデビルゴーレムの復活に賛成できない意見に頷いているのをソウゲンがやや不満そうな顔をして言葉を発した。

『コマンドは絶対じゃぞ? 創造主以外には書き換えられんし、今はクサナカしかおらんからクサナカがおらなくなると自分達のコマンドを変えることすらできんから、そこのところは嫌でも理解しておるから復讐に走れんじゃろう。』

「……そういう意味でも爺さんは残酷だ。」

 デビルゴーレムは、創造主から与えられたコマンド(命令)が絶対であり、コマンドから逃れられない。ハッキリした感情や自我はあってもその絶対に縛られているためソウゲンやクサナカに逆らって報復を与えることもできないのだ。

『あの子らの感情は人間とは比べられん。それぞれのデビルゴーレムのために計算し、作り上げたあの子らだけのものじゃ。他の生き物と人間と同等に考えること自体が間違いなんじゃよ。』

「生まれて早々に死ねって言われて、なんのために自分らを造ったの?って不満を持つ程度には激オコなのは?」

『試し運転前に見つかって処分しろって婆さんが…。』

「せめて造られた意味を理解する知能と感情は与えない方が良かったと思わない辺りが…。」

『それは自力で成長できるようにだな…。ゴーレムは生き物じゃなく、あくまで人形じゃ。』

「自力で動けて、自力でコマンドを実行することに専念して、自力で自分を整備して動き続けるために物を考えて経験を積むことができる……。爺さんのやりたくないことを人形に詰め込んだ集大成というのは間違ってはないか…。」

「ソウゲン殿はクサナカくんとは違う意味で面倒くさがりなのだな。」

 それが悪い方向に作用している…っと。つまるところサイコパスだと。

 ロイはソウゲンという人間をそう分析した。

 孫のクサナカは若干常人と感性がズレているようだが見知らぬ子供達の幽霊を成仏させるために動いていたし、今もデビルゴーレム達の気持ちを気にしているので他者への思いやりがある方だ。

 いまだにデモデモダッテとごねているソウゲンは年配のはずなのに孫より年下に見える幼稚さがあり、デビルゴーレム達への扱いと孫を守るためにアメストリスを滅ぼそうともしていたことも含めて身内以外への思いやりが薄いようにも思えるため今の代の死霊魔術師がソウゲンではなくクサナカで良かったと思えてしまいロイ、そしてエルリック兄弟の2名がため息を吐いた。

 

 

 

 

 




デビルゴーレムは、ゲーム『eM』or『エンチャントアームズ』の登場キャラです。
ゲームの物語の最重要要素であり、ボスキャラ達。

このネタでは、ソウゲンが過去に製作したデーモンの器の最高傑作です。
フェティッシュ(※DMCの敵キャラ)が量産雑魚で、デビルゴーレムは量産ができない造るのが超大変な最高級品。
デビルゴーレムの人格面も原作ゲームに寄せる予定です。

死霊の町の裏山にデビルゴーレムの1体が隠されているという設定は後付けも後付けです。最初はその予定は無かったです。
この設定を考えたとき、ブラッドレイがあそこで没しなかったらアメストリスが滅んでいたかもしれないと気づいて自分で考えたのに少し焦りました。

あとクサナカが造っていた制御装置は、デビルゴーレムの稼働に必要な魔導器です。
それとロイに協力を頼もうとしたデビルゴーレムはとある国にあり、そのことも含めて死霊魔術師の一族が色んな所に影響を残しているというのを描きたいと思っています。書けるかどうか不安ですが。
そのデビルゴーレムはその国で自壊のコマンドを実行しているため再構築に必要な大事なコアがその国に残されてしまいクサナカの手元にありません。


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SS19  死霊魔術師からの嫌がらせ?

また全然話は進んでないです。

今回はホムンクルスサイドです。

過去にソウゲンとなにかあった設定です。


お父様のキャラが色々とおかしいし、ホムンクルス達が主要登場なのに活躍もほぼ無し。
一方的にやられてます。

いや、こうはならんやろ?
っというツッコミが入れられそうなやられ方です。




それでもOKって方だけどうぞ。




いいですね?




 

 

 クサナカとエドワード達はソウゲンの最高傑作である最凶最悪のデーモンの器であるデビルゴーレムのことであれこれ揉めてる頃。

 

 セントラルシティの地下では……。

 

 

『死霊魔術師どもめぇぇぇぇ!!』

「お父様ーーー気を静めてください!!」

「あの死霊魔術が錬金術に似ているのでしたら錬金術封じは可能なのでは?」

『それができたらとっくの昔にやっている!!』

「ひいぃ!? 余計なこと言ってごめんなさい!!」

 ウロボロスの印を持つ自身から切り分けた分身と言える僕達を怒気で黙らせたお父様と呼ばれている男は、フーフーと荒い呼吸をして肩で息をしていたがやがて額を手で押さえて乱暴に奇妙な装置が取り付けられている椅子に腰掛けた。

 椅子に深く座り呼吸を整えてから混乱していた頭の中を整えることにした。

『死霊魔術師の力の供給源が違う。だから命を奪う以外に力を封じることは不可能だ。』

 そう言葉を紡ぎながら椅子の傍に置いていた古い日記のような書物を手に取り、ページを開いた。

 そこには長い年月掛けて記してきた錬金術に関わる数式や理論が描かれており素人どころか並の錬金術師では読み解けないほどの高度な内容となっていた。

 その内容はお父様が長い歳月をかけて解析しようと奮闘し続けていることを物語る涙ぐましい一面であったが、いまだに求める答えには行き着いていない。

『やはりあの魔女の子孫の肉体を直接……。せめて体の一部…、もしくは血でも…。』

「お父様…。」

 お父様はジメッたオーラを放ちながらブツブツと呟き日記のような書物を握りしめていてその様に妖艶な女がハンカチを手に自分の目元を拭いていた。

 先ほど怒鳴られて竦んでいた子供が自身の胸を手で摩りながら落ち着きを取り戻し、それから彼も考え込む。お父様の力になりたい一心だったのだ。

 その時、彼らがいる空間に設置されていた電話のひとつが着信音を鳴らした。

 その電話先については子供が対応するよう命じられているため受話器を子供が取った。

「なに? つまらない用なら…。」

『お願いします! 助け…! ひぃいい!? ぎゃああああああああ…ぁ………。』

 受話器の向こうから聞こえたのは通話相手の悲痛な悲鳴と、途切れた声、そして……。

『ぉぉああ、ぁあぁぁぁぁぁああああああどごにぃぃぃいいいいぃぃるうぅぅぅ?』

「!?」

 電話を掛けてきた最初の人間とは違う不気味な声が受話器から聞こえてきて思わず耳から受話器を離すと。

『みぃぃいいいいいぃぃぃいづぅうげぇだぁぁぁぁぁぁぁぁ。』

「なっ!?」

 受話器のスピーカー部分から薄い白色のようなモヤが溢れ出てあっという間に中空で人間のミイラの上半身のような姿へと変わった。

 お化け屋敷の布オバケのように両手を垂らしたスタイルで顔が骸骨のようにやつれているのにニヤ~っと相手を馬鹿にする笑顔に歪められていて、このオバケのような存在を構成する素材が柔らかいことが分かる。

 出てきたオバケに何かが高速でぶつかり、水風船が破れたような音がしてオバケが中空でバラバラに砕けた。

『ああ、腹立たしい!! あの魔女の孫!!』

 伸ばした右手から何かを錬成して射出したことを物語っているお父様がイライラした調子で顔を歪める。

 砕けたオバケ…もとい低級デーモンの砕けた物が中空でフワフワ漂っていたが、紫電が弾けて砕けた低級デーモンの一部が膨張しあっという間に新たな低級デーモンが生まれた。砕けて散らばった数の分だけ増えることになり馬鹿にする嫌な笑顔のミイラオバケが増殖したのだ。

「お父様、下がって!」

 子供から自由自在に動く影が溢れ出てこの空間に漂う低級デーモン達に絡まり捕えていく。捕えただけで簡単に崩れるほど脆い低級デーモン達は再度砕ける。するとまた紫電が発生して砕けて増えた数だけ増殖する。

「ちょっと、増えるなよ!」

「攻撃は逆効果ね。」

 そうして倍々に増えた低級デーモン達だったが攻撃をしてこず、ニヤニヤ顔で漂っていたがお父様達が動きを止めると違う行動を始めた。

 半数が横に綺麗に並ぶのだが、まるで段々のステージに立つ歌唱団のように段を作る。半数は周囲に移動し、片腕、あるいは両腕を楽器の形に変形させた。楽器は弦楽器、管楽器、打楽器と様々で楽器を構えていつでも使える体勢になる。楽器の色と質感は腕を変形させたデーモンと同じだ。

 そして1匹が指揮棒らしき形を片手から伸ばし配置についた仲間に合図するように腕を動かした。

『まさか…!?』

 それを見たお父様が目を見開いた。

 

 そして始まるのは低級デーモン達による演奏と大合唱。

 しかも半端じゃない大音量。

 更に幼い子供向けお歌のオーケストラアレンジ、お父様達、ホムンクルスをおちょくる替え歌バージョン。

 

『あああああああああああああ!! あの魔女のまごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! またやりやがったなーーーー!! いらないパワーアップまでしてーーーーー!!』

 ホムンクルスでさえ耳を塞ぐほどの大音量の中でお父様が全身の血管浮かせて叫ぶ。

 お父様が言う魔女こと先々代死霊魔術師の孫でクサナカより前の先代の死霊魔術師だったソウゲンに過去にやられたことをいらないパワーアップさせて再びやられたという事実に怒る。

 その昔にやられた時は楽器の種類や音楽の文化が現代ほど発達していなかったからひたすらうるさいばかりだったが、楽器の種類が多彩になり、歌の音域が豊富になり、おちょくる語録も豊富になり、しかもどこから仕入れたのか分からないホムンクルス達の個々の内でしか黒歴史まで織り交ぜられて無駄にパワーアップしているのだ。

 あの頃のソウゲンはまだ小さい子供だったはず……、っと若干昔を懐かしんでしまったお父様。

「ど、どうすれば…、お父様…!」

『……。』

 両耳を手で押さえてお父様がどうす対応するのか見る二人のホムクルスだったが……。

 お父様は即席であったが強固な耳栓を錬成するとそれを自分の耳に突っ込み、そのまま地面にあぐらをかいて座り込んだ。

 大仏のように座り込んで時が経つのを待つ姿勢を取ったことで二人は悟った。

 

 このカオスな状況はただただ時間経過を待つしか対処方法がないということを。

 

 大合唱、大演奏を様々な曲と歌詞で続ける低級デーモン達だが最初は1匹だった。それが攻撃を加えたら簡単に増殖し、あっという間にこんなことに。

 過去と同じ流れでこういう感じになったのだが、その時にただひたすら待つことでしか解決できないと理解したのだ。おそらく過去の時は対処方法が分からなかったから止めるために無駄に攻撃を加えて更に増殖されて更に事態を悪化させたのだろう。

 悟ったホムンクルス達2人は顔を見合わせ、耳を塞いだまま自分達もその場に座り時が経つのを待った。

 

 そうして低級デーモン達による大合唱と大演奏と、ホムンクルス達をおちょくる替え歌などによってもたらされる死霊魔術師からの嫌がらせが終わるのをひたすら待った。

 低級デーモンは非常に脆い。そのため空気に触れただけでも構成する霊体が削れて消滅が早いのが特徴だ。

 しかしその場ですぐに製作できて自由に形と力を調整しやすい面がある。攻撃目的ではなく、楽器や歌などを命令として与えてそれらが使えるようにして合唱団とオーケストラのような編成を組ませるということも簡単だった。

 ただし低級デーモンの稼働時間は環境とエネルギー量で変動するため、雨風が入らない室内だと消滅まで時間が多少稼げたりするので、ホムンクルス達のところへ送り込まれてきた低級デーモン達が消滅したのは60時間ぐらいしてからだった。

 過去にお父様がやられた低級デーモンによる嫌がらせは、25時間で終わった。なのでパワーアップの内容には稼働時間の延長も含まれていた可能性があるとゲッソリしたお父様がブツブツ呟いていたとか?

 ちなみにこの場から逃げなかったのは逃げても低級デーモン達がどこまでも追いかけてきてしまうからだ。奴らに壁などの障害物は無意味だ。そのおかげで逃げた先によってはそこにいた人間や動物なども巻き込んで被害が無駄に広がったから。

 

 

 余談だが低級デーモンによるこの嫌がらせの前日談として、ソウゲンが空っぽのデビルゴーレムに嫌がらせ音楽団低級デーモンを入れてからホムンクルス達のところへ行かせようと企んでいて、それをクサナカが却下していた。(用意するのが面倒くさいから)

 もしも嫌がらせ音楽団低級デーモン入りデビルゴーレムを差し向けられていたら……?

 低級デーモンは空気に触れるだけで削れて維持時間が短くなるほど脆い。そのためそれを防げる丈夫な器に入れれば…?

 デビルゴーレムのことをまだ知らないホムンクルス達は知らないところで命拾いしたということなのだ。

 

 

 そして今回の嫌がらせ音楽団低級デーモンをホムンクルス達にぶつけたクサナカとソウゲンだが、それには理由がある。

 まあいわゆる妨害工作だったのだが音楽団低級デーモンが消えるまでの約60時間の間に済ませてしまおうとしたのだ。

 

 

 

 




低級デーモンの設定としては、漫画『ベルセルク』に登場する悪霊みたいな感じです。
攻撃すると水をかいたような感触。

その場ですぐ作れる。空気に触れても簡単に消滅が進むぐらい脆い。

騒音目的で調整された今回の低級デーモンはソウゲンが過去に製作したものを更にパワーアップさせたもの。
攻撃力は皆無だがうるささと追尾性だけならホムンクルスも諦めて耐えるしかないぐらいの代物。

もし空っぽのデビルゴーレムのボディにinされてたら消滅させるには壊すのしかなくなり、しかも壊すのが恐ろしく困難な代物になっていました。
けどクサナカが用意するのを拒否したため実行されず。



次回はアメストリスの上層部の連中をちょいと懲らしめるか、不死の軍団の処分について絡むか検討中。
その時にデビルゴーレムの1体を復活させる予定。


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SS20  冷気のデーモンと地下に囚われた死者の呼ぶ声

やっと執筆できました。

でも相変わらずあまりストーリーは進んでない。

前回騒音妨害を受けたホムンクルス達は未登場。
騒音妨害ができる約60時間ほどの間に何をやっていたかの一場面です。


原作で登場した胸糞悪い軍団起動前の研究所らしき場所で……?のオリ展開です。


DMC1に登場した悪魔が登場してます。




それでもOKって方だけどうぞ。





いいですね?


 

 

 ホムンクルス達がソウゲン直伝のクサナカ作の騒音音楽団低級デーモンに手を焼いている頃、この低級デーモンのエネルギーが切れて消滅するまでの60時間の間のことだ。

 

 

「ドライアイスですか?」

 

「できるだけ大量に。」

「マジでやるの…?」

 エドワードはげんなり顔で呟いた。

 別の研究所にある設備を使いたいとクサナカが頼んだ。その頼み事の理由とは先ほどの台詞だ。

 ドライアイスが欲しいという。それも大量に。

『昔は雪の山脈や流れ着く海氷を使ったりしたわい。』

 ソウゲンが昔を懐かしむようにそう言う。

 つまり極寒の冬の時期か気温の低い土地を利用して件のデビルゴーレムを作成したということだ。

「本気でやるのですか?」

『もちろんじゃ。下準備は氷以外はできておるしのう。

 ロイが何度目かの確認をしたがソウゲンは止める気が無いようだ。クサナカも渋々ではあるが準備を進めていたので止める気はないようだ。

 説明を聞く限りでは事実であれば国を軽く滅ぼせる強力過ぎる兵器で、他のデーモンを宿してもかなりの力を発揮する器だというのだから製作を止めるべきなのだが……、死霊魔術に興味引かれて仕方がない探求者である錬金術師達。

 正直、ものすごくデビルゴーレムのことが気になる。気になってしょうがない。

 クサナカが即席で作るデーモンもものすごい興味関心を向けてしまうほどのとんでも現象とブツなのだが、探究心から来る欲求に底はない。新たな要素が出れば出るほど知りたくいと思って行動せざる終えない。

「科学者の悲しき性だな…。」

「…だね。」

「これはもはや人間の欲望という原罪だ…。」

 国家錬金術師二人と、国家錬金術師の弟の錬金術師は揃って重いため息を吐いた。自分達の罪深さに十代中頃と以下の子供と三十路近い大人が。

「…液体窒素……、液体金属…。」

 研究所内に補完されている研究用の液体窒素と液体金属の存在を知ったクサナカが何か考えるように自身の顎を指で触る。

「おーい、クサナカさん? なにかやべーこと考えてねーか?」

「……。」

「黙るって事はYESと取るぞ!? なに企んでるかしょーーーじきに言ってくんない!?」

「まだ思いつきの段階であって、実現する場合の構想はまだできてない。」

「クサナカくん、ここに来たのは氷が欲しいからであって、それ以外は許可はされていないからな?」

「分かった。」

 目的は氷かドライアイスなどの冷たい物質であることを強調するロイ。さすがにこれ以上問題を起こされたくないと思ったのだろう。

 ドライアイスは氷より低温だが、それ以上の低温なのが液体窒素だ。空気中の物質である窒素を液体化させる温度はマイナス196度。最低温度がマイナス273度ぐらいなのでその冷たさの桁外れさが分かるだろう。しかもドライアイスは二酸化炭素、液体窒素も窒素であって換気の出来ていない密室で使用すれば最悪生物を窒息死させてしまう危険な物質だ。おいそれと使用する許可が下りない。

「しかし、なぜドライアイスなのですか?」

『氷は量がいるからのう。ドライアイスなら少し量を減らせるからじゃ。』

「ということは、冷たい物質であるほど良いんですか?」

『まあ昔は冷凍庫もなかったから雪山と冬の季節しか手段がなかったからの。』

「ドライアイスならこの量を用意できます。普通の氷だとすぐにご用意できませんでした。」

「やっぱりか。」

「どうやって知ったんだよ?」

「ん?」

 エドワードがなぜこの研究所に普通の氷よりドライアイスが多くあることをクサナカが知っていることを疑問に思って聞くと研究所の屋根の鉄筋から滑り落ちるように低級デーモンがスライムのようにベチャリとクサナカの肩に落ちてきて、クサナカの肩の上でエドワードの方を見てケタケタと笑った。

 いつのまに…っと言葉を失ってしまうエドワード達。どうやらそこいら中に偵察、情報収集役のデーモンを放っていたらしい。

「もしかして、隠し事できない…?」

 アルフォンスが怯えた声をつい漏らしていた。

 今更だが確かに恐ろしい。そもそも死霊魔術師が死者と会話が可能であることや降霊術も可能であるため死霊魔術師に暗殺などによる口封じなどの情報隠蔽すら無駄になるということだ。国家や軍関、研究によって編み出される様々な技術の機密である錬金術師にとってそんな秘密見放題知り放題な存在は脅威以外に他ならない。

 なんで今更そのことに気づいて今まで気にしていなかったのか分からない。彼の心臓にあると思われる賢者の石となんの原理不明のデーモンを作る技術が規格外すぎてそっちにばかり目が行っていたから?

「頭いてぇ…。」

「まったくだ…。」

「頭痛くないけどひたすら落ち込んじゃう…。」

 頭を使うことを生業にしているはずなのに気がつかなかったことに落ち込むエドワード達。

 

『ほっほー、すごいのを考えたのう! さすがわしの孫!』

「そんな手間はかけてない。」

 

「はっ?」

 エドワード達が目を離した隙にクサナカがすでに行動していた。

 クサナカの近くで腰を抜かした研究所職員。床に転がったドライアイスが入っていたはずの箱。

 クサナカの前には冷気によるモヤをまとう二本足で立つ何か。クサナカより頭一つ小さい。

 二本足だが人間ではない。ほっそりとした両腕、両足。猫背。頭部はトカゲのように細長く尖っていて長い爪も爬虫類を彷彿とさせる。鉤爪のように並んだ両手の大きな爪があり一本一本の爪の大きさはナタのように大きく無骨。ポニーテールのように後頭部から伸びる長い尾のようなものが見られる。全身が霜で覆われており、全身から冷気が放出させているところからすると体が何でできているのかは察することができる。

 先ほどクサナカがなにか企んでいる素振りを見せていたことからエドワードが声を上げた。

「やっちまったのかよ!? さっきの今で!?」

「ドライアイスだとこれが限界か…。液体窒素と液体金属なら思い付いた通りに…。」

『強度と冷たさが足りんか?』

「うん…。」

「シャレにならんもん作ろうとしてねーか!? それどういうデーモンなんだよ!?」

「『フロスト』。」

「フロスト…、霜…、結氷…、極寒の冷気そのもので構成されたデーモンか。」

 デーモンの名称を聞いたロイがそう分析した。

 フロストというデーモンは、白っぽい体をギチギチとゆっくりと動かすが表面の霜がポロポロと床に落ちた。

 動きにくそうで、なおかつ脆そうな印象がある。攻撃的な両手の爪が脅威に感じられないほどに。

 そしてその印象は当たっていたらしく一歩足を踏み出した瞬間に踏み出した方の足が太ももの根元が割れてしまいそのまま倒れてしまった。倒れて床に衝突した箇所からヒビが入り、残りの部位まで割れてしまった。全部粉々にはなっていないが身動きするのはもう無理そうだ。

 もう無理だと判断したクサナカが右手を近づけ、指先でフロストの額部位当たりをつつくと紫電の光が弾けてフロストを構成するエネルギーが飛散したようだ。

 思いつきで作成したデーモンであるフロストの試運転は課題を残した。それは後回しにしてドライアイスを保管している特殊な冷凍庫に案内してもらい、厳重な空調設備の実験場に必要なドライアイスを運んで貰った。

 二酸化炭素による窒息を防ぐための酸素ボンベとマスクを貸してもらうなど入念な準備を整えてドライアイスを大量に箱から解放して小山のようにする。それらの作業は簡単な土のゴーレムにやらせた。

 万が一の事故に備えて念のために配置された研究所職員達が興味津々な様子でずんぐりむっくりな体型のゴレーム達がドライアイスの山を作っている様子を見守っている。

 エドワード達も作業を見守っていたが、再び頭痛を感じていた。

 どこから見ても錬金術特有の錬成反応の光が目視できるのに錬成に必要なはずの手順を全く必要としないクサナカが扱う死霊魔術に頭が理解しようとして受け入れたくないという拒絶反応が起きているのだ。

 小山のように積み上げられた大量のドライアイスに棒を突き刺し何かの模様を彫っていくようにグリグリと表面を浅く掘る。

 模様の数カ所に規則的な深めの穴を空けるなどしてその作業を終えると、黄金の髑髏をどこからか取り出す。

 そして髑髏の上に手を乗せてカスタネットみたいに上下の歯を鳴らそうとした、その時クサナカが動きを止めた。

 なにかを確認するために見回るようにキョロキョロと首を回す。しかし気になるような物体も音もない。空調のファンの音が耳につくがそれはここへ入ったときから聞こえていた。

『どうした?』

「……分かった。」

『クサナカ?』

「クサナカさん?」

 ソウゲンが怪訝そうに聞くとソウゲンの言葉を無視してクサナカが実験場から足早に出て行くため驚いたエドワード達が職員に声を掛けてからその後を追った。

 しかし実験場の出入り口から出たところでクサナカの姿を見失った。

「はあ!? 一本道でどこに消えたんだよ!? またボッシュートか!?」

「あっ、兄さん、大佐、あれ!」

「むっ?」

 別の研究所であった落とし穴から下水道に落とされたことがまた起こったのかと思われたが、アルフォンスが通路の先に待ち構えている低級デーモンを見つけて指差した。

 エドワード達がこちらに気づいたのを確認した低級デーモンは宙に浮いたままコッチコッチと手招きして道案内するように先へと飛んでいった。

 ついていくとそこには壁が一部壊れていた。壊れ方が壁の内側から破壊されたような壊れ方で破片が通路の床に散らばっていた。

「これって…地下ハシゴ…。この下って?」

 緊急用のハシゴと思われる簡単で無骨な造りで、普段は使用されない部分だと分かる。

「こんな場所にハシゴなんて…、マニュアルにはありません。」

「あの落とし穴と同じか。」

 研究所職員が知らない、知らされていない仕組みがここにもあったようだ。

 ハシゴの下から先ほどの低級デーモンがニュッと顔を出し、コッチだと下を指差してハシゴの下へと消えた。

「これ、僕通れる?」

「全然無理。」

 アルフォンスの大きさでは通れない程度の狭さであった。万人向けではなく、限られた細身の技術者が出入りするための場所かも知れない。

 するとギコギコと何かを切り落とすときのギザ刃による音みたいなものが聞こえてきた。

「えっ?」

 音がする方を見ると……。

 冷気を放つゴツいナタのような爪が通路の床から突き出ていて床を切っていた。

 すごい速さで。

「なっ…、おまっ…!? なにやって!?」

「待って待って! このままじゃ…!」

 エドワード達を囲うように円形に切っていく冷気の刃が固い素材の床を切っていくのを止めようと動こうとしたが。

「あっ。」

 っという間に切り口が揃った瞬間に下へと抜ける床。

「マジでなに考えてんだよーーーーーー!!」

「同感だ。」

 一緒にいたから一緒に落ちることになったロイも叫ぶエドワードに同意した。

 地下数階分ぐらい下に落ちるがなにか柔らかい物がクッションになりダメージは少なかった。

「んだーーーー!! なにがやりたいんだよマジで…っ。」

 体を起こして文句を言おうとしたが言葉が消えた。

 エドワードが最初の見たのは……。

「これ…は…?」

 アルフォンスも言葉を失う。

 それは吊るされた白い人形のような物体。

 発育の良い大人の男性ぐらいの体格をしており、同じ見た目をしている。

 それが足から吊るされたように様々なコードを繋がれた状態で逆さまになっており、その近くには謎の液体で満たされた大きなガラスケースが幾つも並んでいた。

 機械に繋がったそれらはボコボコと泡立つ音がしており、機械の駆動音に混ざって薄暗さも相まって不気味さをより際立たせている。

 奥へ目を向けると、そこにクサナカが背中を向けて立っていた。

「クサナカさん!」

 声を掛けるがクサナカは聞こえていないように反応がない。

 クサナカはゆっくりと周りを見回すように首を動かし、長い呼吸をした。

「…………もっと早く呼んでくれれば…、はあ…、苦しくてうまく声が出せなかった…、そういうことなら仕方ない。いや、早く気づけなかったコチラが悪いから悲しむ必要は無い。」

 見えない誰かと会話している様子だった。

 

「オイ! そこにいるのは誰だ!!」

 

「なっ…。」

 そこに現れた新たな登場人物にロイが驚いた。

「待て! 部外者がどこから入って来た!? それに触るな!」

 アメストリスの軍服と勲章を身につけている男がクサナカに向かって叫んで近づいてくる。

 クサナカはそれすら聞こえていないようにガラスケースを見回し、そして目を閉じ、どこから出したか分からない黄金の髑髏を手にして上下の刃を鳴らした。

 その瞬間に弾ける紫電の光は謎の空間を強く照らし、走り抜け、ガラスケースを砕いた。

 ガラスケースの中に満たされた液体の中にあった真紅の石のような物が飛び出し、そこからとんでもない数のデーモンと思われる半透明の人間の顔が放出されその時に発生する空気の動きが衝撃波のように爆発してガラスケースどころか機械類ごと破壊しながらクサナカやエドワード達と軍将校をも巻き込んだ。

 悲鳴や絶叫を飲み込む破壊の中で視界の端に見えたクサナカの姿は青と白銀の光に包まれたように見えこの世ならざる物に思える姿をしていた。

 

 

 

 

 

 




なんで今まで気づかなかったんだ?って疑問が出るでしょうが、あの状況的にホーエンハイムのように説得とかもなにもないから声をあげることがうまくできず声が届くのに時間がかかってしまったという流れにしました。
助けてくれる存在に気づいた、助けを求めている死者の声を聞いた、だからクサナカは急行して被害を考えずに石の破壊からの成仏させるた。


冷気のデーモンとしてフロストを登場させました。
アイツ個人的に結構好きで。
倒すのも楽しかったので……。
火に極端に弱いけど魔兵としては完成度高いと鼻高々だとかって攻略本にあったような。


次回で起動前に軍団の計画を阻止されたこととかの説明とか、デビルゴーレムの1体目を登場させようと思います。


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SS21  死霊魔術師の爪痕と氷の女王

やっと執筆できました。
かなり苦戦しました。


前回、不死の軍団があった場所を起動前にクサナカが賢者の石を全て成仏させる形で破壊し、その破壊のあとの続きです。


アームストロング姉こと、オリヴィエが登場します。
あとハガレン内筋肉キャラ、豪腕も登場します。


それと前回からその存在の話題と、実際に起動させることを視野に入れて行動していたデビルゴーレムが起動します。


原作とキャラが違っています。 
ネタのために改変しています。





それでもOKって方だけどうぞ。





いいですね?






 

 

 セントラルシティに再びの地震。

 それと轟音。

 またか。今度はなんだ!?っと住民や軍人達は先に起こった下水逆流騒ぎもまだ片付いていない中でうんざりしたように混乱しつつも何が起こったのかと詳しい情報を求めたり、安全を確保しようと動く。悪いことが重なると逆に冷静になってしまうようだ。

 アメストリス軍の本部の近くが地盤沈下し、本部の一部の壁と床もひび割れて建物の一部が下に向けて傾いてしまった。

 本部のすぐ傍の地面が下から爆発するように吹っ飛び、下からは土煙と共に蒸気とも煙ともつかない物が吹き出し内部のものを地上へと押し上げた。

 砕けて破損した機械類、大小様々な大きさに割れたガラス片、水道管やガス管、薬品瓶…………、それらに包まれるようにして地上へ放り出された生きた人間が数名。

 空いてしまった穴に向けて多くの人間が集まり、放り出された人間達がすぐに保護された。

 

 

「……で? 遺言は以上か?」

 

「いや…遺言ではなく…、私どもが見たままのことを…。」

「嘘は言ってないから…。」

「ここまでの大損害を引き起こして今更嘘か?」

「嘘じゃないですーー!」

 ロイとエドワードとアルフォンスが声を揃えて慌てて叫んだ。

 正座させられているロイとエドワードとアルフォンスの前にはサーベルを握った金髪の美しい女軍人が仁王立ち。オリヴィエ・ミラ・アームストロング少将。まさに女傑という言葉が体現された人物だ。

 穴から放り出された人間達とはエドワード達のことだ。あと将校と本部に配属されている階級のある軍人が数名。エドワードとアルフォンスとロイ以外は病院に運ばれた。大怪我はしていなくて命に別状はないらしいが目を回していて意識がハッキリしていないらしい。

「それで? 此度のセントラルでの騒ぎを何度も起こしている元凶はどうした?」

「それは…、おそらくまだ…。」

 ロイが答えようとしていると別の方向から兵士達が声を上げた。

 その声のあとにその場の気温が一気に下がった。まるで冬が到来したか北の国の領土に入った時の寒さだ。

 空気が急激に冷やされたことで温かかった空気が白くなったため空気の流れが嫌でも分かり、何かが冷気と共にやってくる。

 オリヴィエと彼女の傍にいた兵士達が素早く武器を手にするが、現れた存在はまったく気にもとめていない様子だ。

 青みのある見るからに冷たそうな肌と白い髪、妖艶な美しい体を漆黒のボンテージのような独特な黒い衣装を纏った女だった。

 その顔立ちは恐ろしくなるほど美しく整っており、肉体の美しさにマッチしていてこの世のものとは思えないほどだ。

 高いヒール靴で歩を進めるたびに足下の草と地面に霜が覆う。突然の気温の低下の原因が彼女であることは明白だ。この世のものとは思えないほどの美しい姿と、凄まじい冷気を放出していることからエドワードとアルフォンスとロイはすぐに彼女が何者であるかを察した。

「クイーンオブアイス…!」

『………あら? 私を知っているの?』

 女性特有の高音だが高すぎない威圧感がたっぷりの声が青白い唇から発せられ、切れ長の金色の眼がエドワード達の方へ向けられた。

 クサナカとソウゲンから聞いていた国を滅ぼすほどの超強力なデーモンだとは聞いていたが、これほど美しい造形であることとヤバいというのを肌で感じ生物としての本能が危険信号をあげているのを感じてしまう。

『まぁ…、そんなことはどうでもいいわ。貴方達、死霊魔術師を知らない?』

「…クサナカ殿のことかな?」

 ロイがクサナカの名前を出すと、わざとらしく指で自身の唇を撫でながら小首を傾げるクイーンオブアイス。

『そんな名前だったかしら? ……私を起動させたなら死霊魔術師でしょうけど。どこにいるの?』

「あ…。」

 言いにくそうにするエドワード達にクイーンオブアイスは機嫌を悪くしたように片方の眉をつり上げた。

 すると左方向に顔を向けて右手を前に出し、人差し指をクイッとあげた。

 その瞬間にクイーンオブアイスが顔を向けている方向の本部の横の地面から凄まじい勢いで氷塊が突き出てきた。

 噴火や水道管破裂したようなすごい勢いで。

 地面とコンクリ、レンガ諸々を砕きながら突き出てきた尖った氷塊にそこにいた兵士達が逃げ惑う。下から突き出てきた勢いでめくれ上がる足下に巻き込まれて吹っ飛ばされてしまう者達もいた。

 樹木のように枝分かれしながら生えてくる氷塊の途中に人間が引っかかっていた。

「クサナカさん!」

 枝分かれした氷塊の一部に首の後ろの服が引っかかる形でぐったりしているクサナカだった。

 ポタポタと赤い液体が下へと滴り落ちており、それがクサナカの服から滴っていると分かるとエドワードが急いで両手を合せて地面を錬成し足場を作ってクサナカを救出しに行った。アルフォンスがエドワードが助け出したクサナカを下で受け止めてすぐに怪我の具合を調べた。

 背中と腰の右側に深い裂けた傷があり、そこから出血していた。

「クサナカさん! クサナカさん! 目ぇ開けてくれよ!」

「………空気が…冷たい…。あぁ…、クイーンか…。」

 薄目を開けたクサナカがぼんやりした様子で冷たい空気を感じてどこか他人事のように呟いていた。

『ちょっと、死霊魔術師。』

 クイーンオブアイスがツカツカとエドワード達の方へ歩いてくる。

 美しい顔に不機嫌の感情を浮かべていて、人間じゃないのだが確実に怒らしたらマズいと察せられて彼女を見た人間は思わず道を開けるし、青ざめて後ずさりしている。

 地面に横向きで横たえられたクサナカの顔を見下ろせる距離まで来たクイーンオブアイスは立ち止まり、目を細める。

 クサナカが眠そうにクイーンオブアイスの方に顔を向けた。

『なんで死にそうになっているの?』

「地下の崩落で。」

 上体を起こして血塗れの背中を見せるクサナカ。

 べっちょりと血で濡れていて出血は止まっていない。それなのにクサナカは痛がる素振りさえ見せない。見ている方は痛そうだと思ってしまって顔が自然と歪んでしまう。

『あらあら…。ざまぁないわね。』

「言い方…!」

「落ち着け、鋼の。」

 嘲笑してくるクイーンオブアイスの態度にエドワードが怒りを感じたがロイが手で伸ばして制す。

 話に聞いているデビルゴーレムが大国を滅ぼすのも簡単なほどの兵器であるのが事実なら、ここでクイーンオブアイスの機嫌を損ねるのは危険すぎる。ロイはそれを危惧した。

「おい。」

『?』

「ちょっ…!」

 しかしそれどころではない。ここはアメストリスの中心地。国の本部。ロイひとりでどうにかできる状況ではない。

 オリヴィエがサーベルの刃を後ろからクイーンオブアイスの首の横に当てるように置いた。

 絶体絶命! アメストリスが!(知ってるのはこの場にいる一部の人間だけ)

『…死霊魔術師? コマンドは?』

 オリヴィエや他の軍人達からの武器と敵意をまったく気にせず、クイーンオブアイスが面倒くさそうにクサナカにコマンド(命令)を求めた。

「彼らに危害を加えるな。敵じゃない。」

『そう。』

 クサナカの淡々とした言葉を聞き、クイーンオブアイスはつまらなさそうに返事をした。

 クサナカとクイーンオブアイスの様子を見ていたオリヴィエは、サーベルを鞘に戻し、他の者達にも武器を下げるよう指示した。周囲の者は武器を下ろすことに抵抗感を持っていたが上官の命令であるため渋々従った。

「メディックを連れて参りました!」

 後ろから割り込む形で大柄で筋肉質な軍人が現れた。その後ろに救護兵が追いかけてきて立ち止まりオリヴィエに敬礼した。

「豪腕か。」

「アームストロング少佐、ただいま到着しました!」

 ビシッと敬礼をする大柄で筋肉質な男はオリヴィエと同じ家の者。更に言ってしまえば血の繋がった姉弟だ。

 連れてこられた救護兵はクサナカの応急処置のためにすぐに駆け寄り、救急箱をあけて処置を開始した。

「遅い!」

「ハッ! 申し訳ありませ…、ウゴッ!?」

 鋭い目つきを更にキツく鋭くしたオリヴィエの拳が弟のアレックス・ルイ・アームストロングを襲う。体格差と性別による違いなどまったく意味を成さない圧倒的な力で大柄筋肉男が一撃で地面に沈んだ。

「さっさとこの惨状をマシになるよう直せ! 大総統閣下の国葬までに間に合わせるぞ! 鋼の小僧! お前も立て!」

「えっ!? 俺も!?」

「貴様はどこから手厚い加護を受けていると思っている!? その頭に詰っているのはおが屑か!? ナッツサイズか!?」

「さ…、サーイエッサー!」

 オリヴィエの迫力と怒声に思わず敬礼して背筋を正すエドワード。

「マスタング!」

「はい!」

「貴様は今すぐ東方に帰れ!」

「ゆ…有給中で…。」

「だから?」

「はい…すぐ帰還します…。」

 オリヴィエにギロリッと睨まれてブルッと震えたロイはそう返答することしか出来なかった。

 クサナカは一連の流れを兵士達に囲まれた状態で隙間から見ていた。

 ロイを他の部下に任せたオリヴィエは体の向きを変えてズカズカとクサナカがいる方へ向かってきた。

「貴様が件の死霊魔術師…か。」

「はい。」

 応急処置を受けて上半身に包帯を巻かれたクサナカがオリヴィエを見上げる。

「あの氷を片付けろ。早急に。」

「分かりました。クイーン。頼む。」

『……。』

 クサナカがクイーンオブアイスに目配せすると、クイーンオブアイスはすごく嫌そうな顔をしたが、コマンドに逆らえないため嫌々だが氷塊を塵にするように細かい氷の粒にして消した。

『相変わらずご機嫌斜めじゃのう? アイス。』

『!』

『わし、もう死んでおるよ。』

 クサナカの背後に現れたソウゲンの声を聞いた瞬間に容赦なく回し蹴りをソウゲンに浴びせようとしたクイーンオブアイスだったが、ソウゲンはすでに死亡しており、今ここにいるのは実体のないデーモンだ。クサナカの頭上をかすめるだけで実体のないソウゲンをすり抜けて終わる。

『残念じゃったのう?』

 ケラケラと笑うソウゲンにクイーンオブアイスが拳を握りしめてブルブルと怒りを露わにしていた。

「……爺さん…、大切に扱ってて欲しかった。」

『いやそう言われてものう…。完成してすぐ処分しろって婆ちゃんが…。」

「国を滅ぼすのもラクショーなトンデモ兵器を粘土細工感覚でポンポン3体も製造してたら、親族じゃなくてもブチギレ案件だと思う。」

『え~~?』

『………せめて実体のあるデーモンになりなさい!』

『それはできん相談じゃ。』

 全然罪悪感も欠片もない様子のソウゲンに、クイーンオブアイスがピリピリした様子で今すぐ殴らせろとばかりに白い髪を逆立てていた。

「クイーン…。せっかく起きたんだ。渡したかったものがある。」

『なにかしら? つまらないものはいらないわよ。』

 不機嫌な口調でクイーンオブアイスがクサナカにそう言葉を返すと、クサナカは黄金の髑髏を手にして、デーモンを作った。

 周囲の冷気をかき集める形でそこに現れたのは、フロストだった。

 研究所で最初に製作した試作と違い、霜による真っ白な部位と氷の透明さを持つ完璧な形だった。

 フロストはクイーンオブアイスの方へ近寄り、恭しく跪いた。

「…どう?」

『……フーーン? なかなかいいじゃない。』

 お気に召して貰えたようだ。

『創造主(ソウゲン)よりいいセンスしているわね。』

「気に入って貰えたなら良かった。」

 機嫌を良くしたクイーンオブアイスにフロストの設計図をコマンドとして刻むために黄金の髑髏を使用しながらクサナカが淡々とそう言った。

 

 

 その時、少し離れていたところから悲鳴が聞こえた。

 そちらに目を向けると、兵士達が白い人型の怪物に追いかけていた。

 ゾンビのように今に倒れそうなフラフラとした不安定な足取りで鈍いスピードだが追いかけてきている。

 額にある一つ目、奇妙な線の模様があるだけのガリガリに痩せた人間の形をしているが、白くて生殖器は見当たらない。

 クサナカは彼らを知っている。地下の天井に吊るされていた、あの……。

 彼らは攻撃するでもなくただ追いかけてきている。彼らに敵意といった感情は感じ取れない。追いかけてきているのは動いている生者に無垢な者が反射的に反応しているだけだろう。

 クサナカは目を細めて、包帯が巻かれた自分の肩を撫でるように触れた。

 魂が入っていない空っぽの死体を素材に作られたソレはあるものを浴びたことで意図しない覚醒をして勝手に動き出していた。

 

 彼らを動かす動力となっているのは、クサナカの体から流れ出た血液だった。

 

 




オリヴィエというキ掴めて折らず掴めておらず、こういう感じになってしまいました。
ブラッドレイが死んだせいでクソ忙しくてストレス溜まってます。


クイーンオブアイスのキャラクターも原作とは違うものにしました。
このネタではこういう感じで行こうかと思います。
基本は冷酷な女王様だがデビルゴーレムの中で一番感情表現が豊かという感じで。
でも基本的には人間らしい人間らしい善悪などの精神性は持ち合わせていないという。
クリエイター(創造主)である死霊魔術師には 逆らえず、コマンド(命令)には絶対従う兵器とし面が強い。

前回クサナカが製作した氷のデーモン『フロスト』は、クイーンオブアイスへのプレゼントもかねていたということにしました。
これ以降、クイーンオブアイスは自由自在にフロストを生成させて操れるようになります。


次回は、クサナカの血で動き出してしまった人形兵をどうするかという話にしたいな。


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