神を見たければ青天にキスをしろ~クソゲープレイヤー、神に挑まんとす~ (雨 唐衣)
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序:その日、落ちた

 ミーティアスが舞う。

 空を舞う。

 何段も、何段も、重力を置き去りにして、舞い上がる。

 止まらない。

 無限に続く空へと衝撃が舞い上げていく。

 ランゾウの手足が、刃が、打ち込まれ続けて終わらない。

 言葉が出ない。

 間断のない音が続いて。

 誰かがジュースを落とした音が響いて。

 息が出来なかった。

 

 

『ありえない』

 

 

 解説者の声が、断末魔のように掠れて響いた。

 

『ありえない』

 

 悲鳴だった。

 

『何だあのコンボは……』

 

 音が続く、空へ。

 

『……なんで……途切れない……なんで!?』

 

 顔を覆う、仕事も投げ捨ててマイクを放り捨てて、見ていた彼は叫んだ。

 

『なんだあの(トリック)は!?』

 

 

 ――GAME BRAKE――

 

 人々は後に、青天(せいてん)と呼んだ。

  

 

 

 

 

 

 シルヴィア・ゴールドバーグが敗北した。

 世界最強のプロゲーマーが負けた。

 しかもゼロダメージで完封負けだった。

 これを聞いた時、俺はこう返した。

 

「嘘乙」

 

 

 

鉛筆騎士王:嘘じゃないんだよなぁ、これが

 

サンラク:いやいやいやいやありえないだろ。なに? 初白星で集中切れちゃった総受けなの?

 

鉛筆騎士王:間抜けな奴でしたね。でもガチだよ、三日前のアメリカフレンドカップ知ってるかい?

 

サンラク:GH:C(ギャラクシア・ヒーローズ:カオス)のだろ? カッツォが顔出しするから出れねえっていってたじゃん

 

鉛筆騎士王:そう、GCCほどじゃないがアメリカ最大級のゲーマーの祭典さ。

     

鉛筆騎士王:実質世界最強を決める大会だよ

 

鉛筆騎士王:どっかの「顔隠し(ノーフェイス)」とかドイツの「神様」に目を瞑ればね

 

サンラク:黒星叩きつけた日本人プロゲーマーは?

 

鉛筆騎士王:敗率100%

 

サンラク:昔は六割だったし(震え)

 

鉛筆騎士王:そろそろ五割切るかもね

 

鉛筆騎士王:で、そこで事件、いや事故があったわけさ。テレビ見てない?

 

サンラク:すまない、ちょっとライオットブラッドの毒抜きに大型ムツゴロウさんしてたから

 

鉛筆騎士王:アイドルかー

 

サンラク:どこから始める?

 

鉛筆騎士王:テラフォーミングからかな

 

鉛筆騎士王:ま、見てないのは分かった。でね

 

鉛筆騎士王:不法侵入(ハッキング)されたんだよ

 

サンラク:マ?

 

鉛筆騎士王:シルヴィア・ゴールドバーグとアメリア・サリヴァンの対決中に。あ、準決勝でね

 

サンラク:全米一位(シルヴィア)二位(アメリア)が揃ってるとか、逆ブロックは二位でも三位扱い過ぎる

 

鉛筆騎士王:で、アメリア君が瞬殺された

 

サンラク:アメリアダイーン!

 

鉛筆騎士王:不法侵入してきたランゾウにボコされたのさ。笑えるぐらいにね

 

サンラク:ランゾウって、確かサムライだっけ

 

サンラク:二刀流、瞬間移動と飛びあがり超必の地味な奴

 

サンラク:ミーティア最強からランゾウがトップ入りか

 

サンラク:いやねーわ

 

鉛筆騎士王:解説乙 まあ本当にないね、アメリア君瞬殺して、シルヴィア君が特に気にせず挑みかかったわけだけど

 

鉛筆騎士王:それでハメ殺されたのさ

 

サンラク:ハメ?

 

鉛筆騎士王:ああ

 

鉛筆騎士王:チートさ

 

 

 

 

 

 

 

 

『チートです』

 

 公式会見のニュースで、ギャラクシアレーベルの代表者とGH:Cの製作プロデューサーが並んで断言した。

 

『空ビヨンドと名乗るプレイヤーは、違法手段を用いていました』

 

『使用していたヒーローランゲツのパワーや動ける速度こそ弄られていませんでしたが、動きは機械そのもの』

 

『人間にプレイ出来る反射速度ではありません』

 

『なによりも、今や<青天(せいてん)>と呼ばれている(トリック)ですが……人間がプレイ出来る領域を遥かに逸脱しています』

 

『<青天>はシステム上不可能ではありません』

 

『ですが、製作陣営としては実現可能なコンボとしては一切想定していませんし、期待したこともありません』

 

『過去現在一度として』

 

『青天はあり得ない技なのです』

 

『憧れるものではありません、卑劣な手段によって生み出された夢幻』

 

『今後未来に至っても決して夢見ることはないでしょう』

 

『どうやってセキュリティをかいくぐったのか依然調査中ですが、これはいたずら。恥ずべきことです』

 

『空ビヨンドは』

 

『CPUです』

 

 

 ――全米最強を決める大会で行われた悪質なハッカー事件。

 ニュースやネットではそう囁かれた。

 

 

 

 

 

 

 

サンラク:チートでCPUか

 

鉛筆騎士王:だよ

 

鉛筆騎士王:私も見たけどさ、機械過ぎて露骨なぐらいだったよ

 

鉛筆騎士王:人間じゃない、逆に珍しいぐらい露骨な愉快犯さ

 

サンラク:いや

 

鉛筆騎士王:なに?

 

サンラク:これ

 

サンラク:人間じゃね?

 

鉛筆騎士王:は

 

鉛筆騎士王:なんで?

 

サンラク:なんとなく

 

サンラク:人間な気がするんだよな いや人間だったらリアルウェザエモンだけど

 

鉛筆騎士王:ん、んーサンラク君だからねぇ

 

サンラク:なんで?

 

鉛筆騎士王:同類のカンだろ?

 

サンラク:げせない

 

鉛筆騎士王:げせろ

 

サンラク:ところでさ

 

鉛筆騎士王:うん

 

サンラク:こなくね?

 

鉛筆騎士王:うん?

 

サンラク:カッツォ遅くねえか?

 

 

 

 その日、オイカッツォから連絡はなかった。

 そして、それからもなかった。

 

 

 あいつからの連絡が絶えた。

 

 

 

 

 

 




シルヴィアさん、アンジェリカされちゃった…


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【炎上】【着火】

 

 音が弾ける。

 英雄(ヒーロー)が駆ける、悪役(ヴィラン)に向かって。

 

「な」

 

 千切れ飛ぶ。

 風の塊に押し潰された雲のように。

 嵐乱とした一撃に、手足が千切れ飛ぶ。

 ポリゴンが血飛沫めいて噴き出す――残虐描写への対策。

 

「ん」

 

 砕け散るテレビ型クラッキングマシン。

 砂塵のように噴き出す高密度水晶、火花に飲まれて、最後の一瞬まで叫びを上げた。

 

「でぇええええええええええええええええ!!」

 

 

 ――GAME BRAKE――

 

 

 爆散。

 Ms.プレイ・ディスプレイは爆発四散した。

 その全ての力を発揮する電気機器開発工場の中でのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 シャングリラ・フロンティア、前日比88%以下。

 それが現状のどことなく過疎った光景の理由だった。

 

「88%っていうと、12%?」

 

「そ、高々十分の一っていってもシャンフロだと実質数百万以上のユーザーの消失さ」

 

 オイカッツォから連絡が途絶えて一週間。

 ペンシルゴンから変装を指示され、性別まで切り替えて訪れた初めに来た覚えのない初めの街。

 そこに映る光景は驚くほど過疎化していた。

 

「ついでに、幕末のほうは37%ほどいなくなったらしい」

 

「マぁあジでぇええ!!!!!!!!!!???」

 

「そこのほうが驚くのかぁー。おかげで京極君が獲物を求めて中毒状態だとか」

 

「もう帰ってこれないな」

 

「帰ったんだよ、魂の故郷にさ」

 

「そうだな」

 

 しばし手を合わせて冥福を祈る。

 

「ライトユーザーはともかく、中間層(ミドル)から廃人(ヘビー)共にはあまり影響はないよ。こちらの調べたところだと精々二十人に一人ぐらいかな」

 

「いや結構影響あるだろ」

 

 二十人に一人って統計だろ。

 あとどこから仕入れた。

 

「親切な魔法少女さんが、友達がいなくなったっていってね。ああ、Zooは一人も欠けてないらしいよ。見習いたい結束力だね」

 

GH:C(アソコ)にモフれるもんはねえもんな」

 

 いや宇宙ゴリラ(ゼルセルグス)とかいるけど。

 

「ああ、そうだ。カッツォ君の安否が確認出来たよ」

 

「お」

 

「夏目君情報だけどね。なんでもスポンサーからきつく絞られてたらしいよ」

 

 夏目嬢。

 こんな外道に縄付けられてるとか人生詰んでるな。

 

「絞られたってなにしたのさ、五割切りで首も切られそうだとか?」

 

「試合すっぽかしたんだって」

 

「は?」

 

 オイカッツが?

 

「連絡遮断で、一晩中GH:CとPCを往復して引きこもってたらしい。部屋の扉ぶちやぶって、確保したってさ」

 

「確保っておい」

 

 なにがあったんだ。

 ライオットブラッドの合法堕ちでもしたんか。

 

「それがね」

 

 ペンシルゴンが首を振り――

 

 

 

 

 

 

 ――「統天」の再来か? 空ビヨンドの真偽に迫る!

 

 ――青天はチート? 再現不可能。誰も出来ない。

 

 ――インタビュー。GH:C有名プレイヤーたちが検証。システム上出来る方法が発見出来ず。

 

 ――公式の欺瞞? 青天コンボの条件不可能、公式は何も言わず。

 

 ――GH:C衰退の噂? Justice Versusの再現か……!

 

 

 ざっと調べるだけでもネット中の掲示板がお祭り騒ぎだった。

 普通なら公式が出来ないと断言して、チートだと判明している以上、冷や水でもかけられたように鎮静するもんだが。

 

「……いやがるもんなぁ」

 

 空ビヨンドについて検索して、出てきた動画。

 イヤー、グワー、爆発四散する頭モニタの女子――Ms.プレイ・ディスプレイ。

 それが空ビヨンドに瞬殺されていた。

 GH:Cのネット対戦に奴は出没していた。

 出現は稀だが、ランキング上位のプレイヤーに対戦を申し込み、ぶちのめす辻斬りをしている。

 そして、対戦が終わった途端ログインから落ちる。

 CPUの介入だの、ハッカーだの嫌がらせだの色々言われているが、未だにそれを止められていない。

 管理企業への文句やお祭り騒ぎで炎上しっぱなしだ。

 

「俺もやりてえな」

 

 とはいえ方法がさっぱりわからん。

 顔隠し(ノーフェイス)のネームで入ると有象無象が挑んでくるだろうし、有名になり過ぎたせいでパチモンもめちゃくちゃいるからあっちから挑んでくる確率は低い。ノースキンだの、ノウフェイスだのならわかるが、NO_FUCKはやめろ。OK_FUCKとかいう名前でプリズナー同士でぐちょぐちょに電話ボックスがぶつかりあう地獄絵図になってたぞ。凹凸合体してたし。

 

「ん、電話か」

 

 しばらく思案していたところに、着信が入った。

 

 

「カッツォ?」

 

 

 オイカッツォからだった。

 

 

『サンラク、手を貸してほしい』

 

 

 

 

 ペンドラゴンは首を振り――

 

「青天さ」

 

 

 

 

 

『探してる奴がいるんだ』

 

 

 

 

――「青天に取り憑かれたらしい」――

 

 

 

『空ビヨンド』

 

 

――「空ビヨンドに」――

 

 

 

『俺はあいつにあってみたいんだ』

 

 

 

――「恋でもしたみたいに」――

 

 

 

 

『戦いたいんだ』

 

 

 その声は燃え上がるように熱く、熱帯びていた。

 聞いたこともない声だった。

 

 

 




統天
プレイヤー「Master Sky」が考案した開幕から相手の体力十割を奪う複合必殺技「統天」のことである。
実に三百五十二ものモーションによって構築され、その規格外の緻密さやジャスティス・バーサスの全てを組み上げエフェクトにまで妥協なく作り上げられた光景は「芸術」とまで讃えられた。

掴み技を起点として自身諸共に敵を空高くへ吹き飛ばす「昇天」
落ちていく最中に実に七十八種類ものモーションをバグを絡めて連結した二十連撃空中殺法「墜天」
上記二つのトリックで稼いだゲージを使って体力を削り切るデフォルト必殺技「荒天」などなど存在する
(シャンフロWikiより)


だが GH:Cにおいてこれらに類似するバグ技は発見されていない


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【解明】【闇夜】

 

 笑い声が響く。

 

「無駄だ!」

 

 蹴り転がされ、視界が回転し、間断なく衝撃がジェットコースターのように震わせながらも、歯を剥き出しに笑う。

 

「通じ」

 

 殴られる。

 歯が折れるような錯覚、脳幹が揺るがされる、体幹が削られて吹き飛ばされる。

 だがそれでも、その恐怖を超えて、彼には自信があった。希望が見えていた。

 

「ン!!」

 

 超細胞(フルバースト)

 全身から緑色のオーラ――蒸発した自らの血煙を巻き散らしながら、ゼノセルグスは自らの超必殺技を発動していた。

 一ラウンドをひたすらにNPCの虐殺に費やし、ゲージを溜め抜いたなりふり構わない戦略によって。

 

(奴の青天(せいてん)は所詮十割の体力を削り切るのみ、いつまでも続かん!)

 

 赤く塗り上げられた塔の壁をバスケットボールのように殴り上げられながらも、彼は確信している。

 

(バグかエフェクトの続きか! あと何秒もつ!?)

 

 空を舞う、無機質にしか見えないランゾウの顔に怯えながらも、コンボが途切れた刹那に向けて神経を研ぎ澄ませる。

 

(あと十二秒、十一秒、まだもつか!)

 

 これは所詮ゲーム、リアルではない。

 痛みなど畏れるものではない、恐ろしくもない、故に笑う。

 

(ほぉら、あと九秒もあるぞ、八秒もあるぞ!)

 

 勝利へと微笑む。

 残り体力八割、青天らしきコンボの始動から奇跡的に割り込ませて発動した超必に決めた。

 

(マテリアルスープレックスで奴を空から叩き落とし、その伝説を大地に沈めてやる!!)

 

 嗤う、嗤う、恐怖に耐えた先の甘美なる勝利の美酒へと酔いしれて。

 

 

【殺してやろう】

 

 

 それから()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ――GAME BRAKE――

 

 

 

 青天は終わらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで魔法の呪文が必要なしゃれた喫茶店に来たのだ。

 

「ソイラテショートアイスシナモンロールアタタメデ」

 

「えっと、抹茶ラテ、トール、ホットで」

 

 なんでリアルでゲーム呪文唱えないといけないんだろうな!!

 

「なんでお前キョドってるの、恥ずかしいんだけど」

 

「うるせえトイレの妖精、トイレの位置は確認したか」

 

「いつまでそれ引っ張るんだよ」

 

「あのお客様、トイレはあちらにございますので。どうぞご自由にご利用下さい」

 

「」

 

 オイカッツォの心が死んだ。

 奴の荒んだ心には人の善意は劇薬だったのだ。

 

「で、明らかにとんぼ帰りな格好してどうした。仕事サボって大目玉喰らったんじゃないのか?」

 

 休日の昼間、賑わう店の中で運よく四人掛けのテーブル席が空いていたので腰掛ける。

 オイカッツォの恰好は旅行鞄に私服、つばの深い変装用の帽子と帰国したばかりだとわかった。

 

「何で知ってる?」

 

「外道情報。夏目嬢が心配してたぞ」

 

「なんで鉛筆頼るかなぁ」

 

「彼女は地獄に行ってしまうだろうな」

 

「せめてブルースでも貰えばよかったのに」

 

 あいつの家って十字路にあるのか? ありそうだ。

 

「話を戻すが」

 

「ああ」

 

「サンラク、お前に手伝ってほしいことがある」

 

「空ビヨンド」

 

 探しだろ。

 そう続けようとして、一瞬声が途切れた。

 

「? どうした」

 

「あーいや、空ビヨンド探しだろ」

 

(おいおい、マジか。今洒落になってない目してたぞ)

 

 それなりに長い付き合いになるが、オイカッツォのあんな顔を見た記憶がない。

 下手すればシルヴィアとの闘いの時よりも熱い目つき。あるいは殺意めいた目。

 

 

 

――「青天に取り憑かれたらしい」――

――「空ビヨンドに」――

――「恋でもしたみたいに」――

 

 

 ガチかもしれねえ。

 

「で、探すのはいいけどよ。なんか方法考えてるのか、悠長にネット対戦で探すつもりか?」

 

「……サンラクは驚かねえんだな。あいつCPUだと思ってないのか?」

 

「いんや、あれ人間くさくね? ちなみにペンシルゴンはCPUだと言ってたぜ」

 

「あいつはそう思うよなー。で、まあこれをみてくれ」

 

 実はお前とペンシル説得する材料だったんだけどなぁ、といいながら鞄から取り出したノーパソを机の上に広げる。

 

「ちょっと横座れ」

 

「おいおい俺と掛け算はやめろよ。やべ、想像したら鳥肌立ってきた」

 

「そういうのやめてくれない?」

 

 自爆ダメージ受けながら、オイカッツォの横に座る。正確に言うと壁側の椅子にだ。

 

「これは一応社外秘の情報だからな」

 

 タタンと使い慣れたタッチでオイカッツォが一つの動画、それも速度編集された動画を見せる。

 

「シルヴィアと空ビヨンドの試合じゃねえか」

 

 俺も繰り返し見たハッキングされた仕合の動画。

 それもスロー再生されたものだ。

 

「これなら俺も結構見直したが、なんかあったっけ?」

 

「……シルヴィアのミーティアは一ミリもゲージを削れずに敗北した」

 

 元不敗の流星(シルヴィア・ゴールドバーグ)が完封負けした。

 ……何度聞いても冗談みたいな話だ。

 下手をしなくてもズタボロのシルバージャンパーが、ケイオスキューブを掴み取った時よりも衝撃的で、「おいおい四月馬鹿(エイプリル・フール)はまだ先だぜ。時差ぼけかい?」 などと笑ってしまうような話だ。

 

「だが別に棒立ちで負けたわけじゃない。技を応酬し、攻防をした」

 

「それでノーダメなのがあり得ねえとしか思えねえ」

 

「ああ、で、ここだ」

 

 早送りにしていた動画が停止する。

 それはミーティアの足首が狩られて、転倒した次の()()()()()()()()()()()

 

「ここでランゲツが中段から突き殺すところだった」

 

「だが、それをアイツ避けたんだよな」

 

 獣じみた反応としか思えない。

 顎から串刺しになる完璧な一撃を、首を曲げて、自由落下よりも早く地面を殴り飛ばして、それを避けた。

 そこからの反撃も、空ビヨンドのランゲツは鮮やかに避けたんだが。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…………は?」

 

「ここだけだ、ここだけが遅れている。これがCPUでもチートでもない証拠だ」

 

 確信した声だった。

 同時に思う。

 

(ここだけってお前どんだけ検証したんだ)

 

 オイカッツオ、魚臣慧は事前に勉強し、シミュレーションを繰り返し、万全の備えで挑む言わば秀才型だ。

 だからといって検証勢みたいなことに熱意を向けるタイプじゃない。

 必要なことをするのであって、全てのデータを知り尽くしたいというタイプじゃない。

 だがそれがここまでする。

 

(取り憑かれてやがる)

 

 夢中になれるクソゲーを発見した俺のような顔をしている。

 

「ようこそ、男の世界(ネクスト・ワールド)へ」

 

「キモい」

 

 ガン否定だった。

 

「しかし、一挙動だけ遅いってのは確かにCPUだとありえねえな」

 

 ああいうのは決められたルーチンで動いている。具体的には常に同じ反応速度か、あるいはワザと設定された遅くなる挙動だ。

 こんな攻防の中で一つだけ、しかもこんなスロー再生でしかわからないような動きで遅くなる理由がない。

 

「……サンラク」

 

「なんだよ」

 

「お前笑ってるぞ」

 

「お前もな」

 

 火が入る。なんとなくそうじゃないかと思っていたことが、確信へと変わった瞬間は、まるで火花が散ったようだ。

 か細く何処に繋がってるかわからない渡り糸が、どこかへと繋がっていると確信出来る。

 踏み外さなければどこかへといけるという希望。

 

「で、この情報を電脳大隊(サイバー・バタリオン)に叩きつけて来た。空ビヨンドはCPUでもチートでもない、人間だってな」

 

「それで」

 

「ネット回線からして空ビヨンドがいるのはこの日本だ。溜め込んできた有給全部叩きつけて、許可をもぎ取ってきた」

 

 ドロリと熱が溢れ出し、眼球が溶け落ちるかのような顔で、女顔のオイカッツォが。

 

「奴を見つけ出し、表舞台へと引っ張り出す」

 

 鬼女のような顔をしている。

 

 

 

「生ける伝説、空ビヨンドは今世界をもっとも沸かせているチーター。だがそれが人間だったら?」

 

「それを表舞台で戦わせられたら?」

 

「どれだけ稼げる?」

 

「どれだけ動員を、知名度を上げられる?」

 

電脳大隊(サイバー・バタリオン)はそれを期待している」

 

 言葉が軽い。

 薄っぺらい。

 並べられる言葉の軽さと、表情の重さがまるでちぐはぐで。

 

 

()()()()()()()()()()

 

 

 その言葉に、俺はあいつの肩を叩いた。

 

「OK、戦友(フレンド)。その言葉ノッたぜ」

 

 本気の言葉にはノる。

 外道(ペンシルゴン)だったら鮮やかに避けるだろうが、俺はそれに乗ってこそ楽しいと思っている。

 

 

 

 

 

 

「で、手は考えてあるのか。人探しだけなら探偵の仕事だぜ」

 

「ああ、手は考えている。ていうか頼んだ」

 

「誰に?」

 

「ペンシルゴンに」

 

「お前地獄に落ちるぞ」

 

ビートルズ(イエスタディ)が歌えれば後悔はしないさ……いやちょっと後悔してる」

 

 回らない寿司ぐらいで済むと祈れ。

 

 




統天の元ネタが青天だったことが判明
読まれているぅううううう!


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【接触】【推測】

 

 雨が降り注いでいた。

 灰色の工場、誰もいない静けさ、雨音だけが純粋に反響する。音の洪水の中の静寂。

 単調なリズム。

 早い、遅い、早い、早い、早い、遅い、早い、早い、遅い、遅い、早い、早い、早い、遅い、早い、早い、遅い。

 遅い、早い、早い、早い、遅い、早い、早い、早い、早い、遅い、早い、早い、早い、遅い、早い、早い、遅い、遅い。

 遅い、遅い、早い、遅い、遅い、早い、早い、早い、早い、遅い、早い、早い、早い、遅い、早い、早い、遅い、遅い。

 音を見る。

 手を揺らす。

 指を揺らす。

 目を閉じる、静かに音を聞く。

 雨の雫を叩く。

 指の腹で払う。左右に払う。

 雨に濡れながら、足で影を踏む。

 暇潰し。

 退屈。

 其は慣れていたはずの退屈に飽きていた。

 だから。

 空を見上げて。

 

 

「やぁ、お話しできるかい?」

 

 

 平穏を壊す爆弾魔(クロックファイア)の出現に、目も向けずに待ち構えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり私がいないと駄目だねぇ」

 

「「ぐぬぬ」」

 

「一週間近くあれこれやってたみたいだけどなんか成果出ましたか~~?」

 

「ぐぬぬ」」

 

 というわけでやってきた天音 永遠(ホーム十字路)である。

 お暇なのですね、カリスマアイドルさん。

 ちなみに街頭歩いて野郎と性別カツオが戯れていると騒がれる可能性があるのでカラオケボックスに来ていたりする。

 

「で、一週間ほど時間あったわけだけどそっちこそなんか成果あったのか?」

 

「わりとね。ていうか君たちこそ何してたのさ、まさか呑気にネット対戦とか、市外のゲームセンターつっこんで探してたりしてたんじゃないだろうね?」

 

 ハハハ、まさかー。

 あとちょっと青天の出し方とか一緒になって検証してたり、ランゾウの使い心地とか試してたぐらいだぞ!

 

「そんなんだからユニーク自発出来ないんだよ」

 

「まて、サンラクの奴も今回は同じだぞ!」

 

「そっちは運命力がエラったされてないから」

 

「お、そうだな」

 

「あと脳もちょっと」

 

「お、そうだな」

 

「天丼やめてくれる??? あとカッツォ、お前俺に頼んでる立場なの忘れんなよ」

 

「まあ、そこはおいといて、だ。二人とも、ちょっとそこ広げてくれる」

 

 俺とカッツォがカラオケテーブルの上を片付けると、ペンドラゴンがバックから取り出したファイルケースを見せる。

 綺麗にA4用紙で印刷された文章と画像こみだ。

 無駄にこういうところは几帳面だな。

 

「これは?」

 

「この三枚は、ネットで見つけた<空ビヨンド>を探してる協力者募集型サイトの情報と使えそうな情報。

 でこっちの一枚は<空ビヨンド>が今日まで倒したプレイヤーのリストと使ってたキャラ。

 で、この最後の七枚が一日単位でリストアップしたGH:C(ギャラクシア・ヒーローズ:カオス)()()()()()()()()()()

 

 首をかしげる。

 

「サイトと、プレイヤーリストは分かるが」

 

「なんで中間層リスト?」

 

「まあそこはあとで説明するとして、まずは順番に意図を説明しよう」

 

 ふふんと音が聞こえるように息を吐いて、俺たちに見えるように最初の三枚を置くペンドラゴン。

 

「当たり前だけど、空ビヨンドを探してるのは私たちだけじゃない。全世界で彼or彼女(フーアーユー?)は捜索されている」

 

「……だろうな」

 

「ぶっちゃけ、サンラク君とカッツォ君の意見と動画なければ浅はかなチーターだと思ってたんだけどね。わざわざ探そうとする正義漢が多いとは思わなかった」

 

 と肩をすくめる。

 

「実際あんな反応速度で動ける奴は滅多にいないし」

 

違法改造(チーター)や、サヴァン症候群ならないわけじゃないが……」

 

「あんな機械じみた正確無比な精度の動きが出来る奴は見かけたことがねえしな」

 

 人間にあそこまでの反応が可能か不可能かと言われれば、否よりで可能と答える。

 サヴァン症候群、一種の発達障害や自閉症患者などが発現する特化し切った才能の持ち主の人種はいる。

 それっぽいのは俺の記憶にも数回記憶あるが、どれも複雑怪奇な対戦ゲーで破綻なく走り切れるような奴はいなかった。

 どこぞのレイドボスはよくわからん、レイドボスだし。

 シルヴィア? あれはただのバグだろ。

 

「はいはい、考察は中止。話戻すよ」

 

「「あーい」」

 

「でね」

 

「「ズルズルズル」」

 

「計ったようにジュース飲みだすんじゃない!」

 

 なんだよ、鉛筆劇場を盛り上げようと思ったのに。

 なー?

 ――ファイルで殴られた。

 

「まあいい、ここ興味ないってのは理解した。で、次、<空ビヨンド>がここまで倒した奴だけど」

 

「――ランキング上位でかつ、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そう、割と露骨だけどね。稀に出てくる空ビヨンドは、殆んどの場合GH:Cの上位にランキングした奴、それも一キャラずつ違う奴を使ってるところに参戦してる」

 

「複数人対戦のバトルロイヤルのところで、一人で全員虐殺もだろ。レアポップ隠しボスかなんかかあいつ」

 

「おかげでGH:Cの公式スレは大炎上だねえ。在野のも含めればライオットブラッドを注ぎこんだ暴動みたいになってるよ」

 

「そのうち(三角頭巾)被った宗教始まらねえだろうな」

 

「ガドリングドラム化不可避」

 

「そこに会社を立てよう」

 

「やめろよ、日本支部もうあるんだから」

 

「まあ結果、もう隠しキャラも含めたキャラ全滅してるわけなんだけどねぇ。シルバージャケットと、アムドラヴァは三日で刈られたわけだけど」

 

 チラッとわかってる風に見るのはやめてやれ。

 

「ちくせう」

 

「まあさすがに野良でぶつかりにはこなかったわ」

 

 意気揚々とオイカッツォはシルバージャケットorアムドラヴァでネットでおらあ! してたが、シルバージャケットとアムドラヴァは他の上位ランカーがぶっとばされたよ。

 俺? カースドプリズナーはもう全米二位がやられたからまるできませんでした、まる。

 そもサンラクの名前では全然やりこんでなかったしなー。クソゲーが俺を離してくれなかったんだ。

 いやマウント取って、攻略にのめり込んでたわ。

 

「くそ、やはり"K"の名前を使えば!」

 

「プロゲーマーが同じ名前で出没すんなし」

 

「そも騙り扱いされるし」

 

「「あとアルファベット一文字って既に使われてるんじゃね???」」

 

「」

 

「さてオイカッツォくんがオイオイ泣き出したところで、最後の解説をしよう。サンラク君」

 

「おー?」

 

「君はどんなゲームでも練習もせずに最強プレイヤーになれるかい?」

 

「出来ねえ」

 

 経験も熟達も関係ねえクイズ系とか推理ゲーの類ならともかく、どんなゲームでも経験とやりこみは強さに比例する。

 あとはどれだけ効率化出来るか、自分のポテンシャルを引き出すか、誤魔化すかだ。

 あとはそうだな、初見殺しの類は反射神経の問題になる。あるいは理不尽慣れだな。

 

「その通り。最初から上手い奴はいるけど、最初から最強はどんな奴でもありえない。だから空ビヨンドも最低限腕を落とさないためにGH:Cはやり込んでるはず」

 

 ペンシルゴンが最後に出した七枚のプリントを指で叩く。

 

「でも、<空ビヨンド>はログイン頻度が低すぎて時間が足りない、だから違うアカウントでやってる。で、特徴的なのがあった」

 

「これのどれかってことか?」

 

「そ、完全にランダムっぽいとか、オリジナリティ溢れる名前は外して。適当に元ネタがありそうなのとか、あとはあっぱぱっと付けられる奴をリストアップした、でね」

 

 そこにあったのはマーカーが引いてあるざっと数十以上のプレイヤー名。

 

「これを君たちには検証してもらいます」

 

「ゑ?」

 

 いやまて、これ一枚に付きざっと数十以上あるんだが??

 

 

 

「この中に<空ビヨンド>がいる」

 

 

 

 

「多分ね」

 

「多分かよ」

 

 

 ややがっくりするような言葉を聞きながら、俺とオイカッツォはそれぞれ担当するリストを手に取った。

 ざっと見る、適当に作ったような名前に、どこかで聞いたような名前。

 そんで。

 

(本当にさくっときめてんな)

 

 ラテン語だろうか、一文字だけのプレイヤーもいる。

 

「多分ランゾウは使ってないだろうから、それ以外のありえそうなキャラを検討しといてね」

 

「お、ペンシルも参加するのか?」

 

「そりゃあね、ああ、それともしも見つけたら私を最初に呼ぶこと。特にサンラク君、君が突撃は禁止ね。確信が出来てもまずさっさと負けろ、カッツォ君も以下同文」

 

「八百長命令?!」

 

「セットかよ!」

 

「君たち、そのまま殴り合っていやあ強かったぜで終わらせない自信ある?」

 

「「……」」

 

 豚を見るような目だった。

 

「ところで一週間君たちは何をしてたの? 本当にネットで対戦とかだけしてただったら君たちの株価が小豆相場ぐらい下がるんだけど」

 

「せめてガドリングドラム社ぐらいにしてくれ」

 

「アメリカにヒーローが現れるまで下がりそうにないじゃん」

 

「うーん否定出来ねえな」

 

「で、ちょっと検証をな」

 

「検証?」

 

 

 

 

「そ、青天(せいてん)の検証。()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 




サン・カツオ「ペンシルゴ~ん、たすけてよぉ~」
ペンシルゴン「君たちは本当に馬鹿だなぁ~」


未来のネコ型ロボットぐらい便利なペンシルゴン
サンラクは放っておいてもそのうち発見し、激闘を繰り広げて
翌日、ベンチで冷たくなっているオイカッツォが発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った。


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【提言】【模索】

 轟音が轟く。

 瓦礫が砕け、壁が壊れて、放物線を描いて人が飛ぶ。

 何も出来なかった。

 何も出来ずに爆弾魔は視界の端から端へと至るぐらいに吹き飛ばされて、めりこんでいた。

 

「あはははは、うん、これ無理だね!」

 

 侮っていたつもりはなかった。

 油断していたつもりはなく。

 正面から堂々と不意打ちをするつもりで、幾重にも爆弾を仕掛けて、躍り出たつもりだった。

 わりかし完璧なつもりの布陣だった。

 だがそれら全てが起爆するよりも早く、()()()()()()() 

 

「ちょっとーこんな強いの見たことないんですけど」

 

 粉塵の先に見上げる銀色の輝きを見る。

 降り注ぐ雨の下。

 魔王のように。

 声一つなくポケットに手を突っ込んだジャンパーのヒーロー。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 シルバージャンパーがそこにいた。

 無傷で。

 勝ち目がない。

 具体的にはヴィランのゲージが残り一割、ヒーローのゲージが十割。

 逆の数字ならヒーローが逆転するかもしれないが、現実とヴィランだと逆転はない。

 悪党が追い詰められればそのまま死ぬのだ。

 無慈悲なり。

 ああどうして世界は外道に厳しいのか、不公平じゃないだろうか。

 だから。

 

「一つ話があるんだ」

 

 瞬きをして点火。 

 ヒーローは爆炎に呑み込まれて。

 

 

 そして、爆弾魔は爆発四散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

青天(せいてん)の発生条件?」

 

「そうだ、多分だけどなぁー」

 

「うん、多分だけどな」

 

「多分ってなんだよ、ちゃんと検証したの?」

 

「しました、ありがとうカッツォクラウンさん」

 

「殺すぞ、リカースティールさん」

 

 そこには胸倉を掴み合って友情を確認する微笑ましい光景が!

 

「はいはい、つまり<空ビヨンド>探しもせずにゲームやり込んでたアホ二人がいたと。で、発生条件って?」

 

「そうだな、まず青天のことを整理しよう」

 

 先ほどペンシルゴンが置いたファイルを横にずらし、オイカッツォが持ち込んだノートパソコンを置く。

 

「青天と呼ばれているギミックには二つ特徴な点がある。一つ、一発でゲージ十割を削り切る無限コンボ」

 

「はい、壁バスケバスケ。クソゲー確定だね」

 

「そこらへんの攻防も極めると奥深くてなぁ楽しいんだぞ?」

 

「スルメみたいに噛み締めないと分かり合えない領域は一般には理解されないから、で、二つ目は?」

 

「空まで運ばれるコンボだ」

 

 ノートパソコンの動画には、シルヴィアが操るミーティアスがお空への旅へと運ばれ(運送され)ているところだった。

 計測にして1分35秒、ダメージエフェクトが連打している限りゲージがゼロになってもゲームセットにされない仕様だが。

 そこにあったのはビルよりも高く、螺旋を描く青空の威容があった。

 

「――この光景から、この(トリック)は青天と呼ばれた」

 

「どう考えてもJustice Versusの統天(マスタースカイ)からだな、知名度高くね? 一昔前のレトロゲーだぞ」

 

「お前が二千万再生超過したせいだぞ」

 

「全ては顔隠し(ノーフェイス)がやったことです、記憶にございません」

 

「政治家かてめえ!」

 

 HAHAHA。

 ちょっと前に大統領(プレジデント)をやってただけだよ! ゲームの中だけどな! プレジデントジョーク!

 

「で?」

 

「ア、ハイ。この二つが青天のキモだと思う所存でありまして」

 

「とりあえず十割削りコンボとあの空へと飛ばすコンボなんだが、どちらも無理だった」

 

「あの星天(Aster-Sky)は?」

 

「完全再現は無理だったんだよ」

 

 ミーティアスの完全上位互換であるプリズンブレイカーの機動力。

 それでですら、ビルの壁面を使い、落下しながらの墜天(スカイフォール)荒天(スカイストライク)の二重接続でやっと。

 そして削れるのが確定で決めても1・2割、最後のフィニッシュをいれてようやく有効打だ

 開幕十割なんてどうやっても出来なかった。不可能だと悟った。

 だがそれが現実に破られている。

 

「だが、プリズンブレイカーですら出来なかったこれを機動力の低いランゾウでやった。そこにギミックの種があると思った」

 

「シャンフロエンジンの物理エンジンならまだ俺たちでもわかってないギミックがあるかもしれないからな」

 

 見栄えのいい感じに飛んだり跳ねたり、ぽーんって漫画みたいに吹き飛ぶからな。

 特にGH:Cは原作世界観のイメージ再現優先で、ド派手に吹っ飛んだり、車とかオブジェクトの壊れ方が漫画チックに優先されている。

 文字通り原作世界観の中で大暴れって奴だ。

 

「だけど、それは出来なかったと」

 

「ああ。シルヴィアにも頼んで、ミーティアスあの時の動きを再現してもらって同じようにランゾウでやってみたりもしたんだがな」

 

 ちなみに途中でキレて、殴り返されて逆にオイカッツォの使うランゾウが〆られたらしい。

 うん、シルヴィアとか検証勢じゃないもんな絶対。

 

「シルヴィアも協力してるんだ」

 

「ああ、リベンジする気満々だからな」

 

「うーん、激強メンタル」

 

 だろうな。

 ちなみにこの集会にいないのは仕事が忙しいからしい。

 休暇中の全米一位とはいえ入ってる大会もあるし、<空ビヨンド>での敗北でごたごたしてる。まあ不正行為で負けただけだから同情的な目が多いらしいが。

 

「むしろ見つけたら混ぜなかったら殺すってマジ顔でいわれました、はい」

 

「おら、ワクワクしてんぞとか言ってなかった?」

 

「戦闘種族みたいな顔してたよ……」

 

 瀕死から蘇る度に強くなる類だな、絶対地球人じゃないだろ。

 

「で、しょうがないから色んなキャラ使ってな。似たようなエフェクトまでもちこめねえかってぶっ続けでやってまして」

 

「閃け! 戦士の魂よ! とかいいながら、こいつがライオットブラッドをミックス・アクセルで決めまして」

 

「我、天啓に開眼せり!!」

 

 くわっ!

 

「完全に行き詰った奴がドラッグに手を出した流れだよ、で?」

 

 スルーされた。

 

「なんか妖精神拳で出来た」

 

「は???」

 

「なんかやりやがった」

 

「は???」

 

「結論から言おう。十割削りと空まで運び込まれるエフェクトは複合必殺技だ」

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

「日本語でおk」

 

「GH:Cに限らず、対戦ゲームには幾つかハメ防止がある。バウンドしての床ダメージの無効化とか、明らかに連射された数より低くなる被弾数とか、スタン時間の制限とかな」

 

「まあね」

 

「で、一番特徴的なのが無敵状態だ。一方的な展開を防ぐために喰らい過ぎるとノーダメになる、じゃないと合法パウダー喰らったら殴りハメられるからな」

 

「妖精の粉は不思議な粉、何故か少し浮かびやすくなるから壁に追い詰めないとふっとぶんだよなぁ」

 

 パッと見だと違いが判らんが、「ティンクルパウダー☆」でスタンさせると、ノースタン状態で殴るよりもノックバックの発生と距離が増幅される。

 前後不覚で足元がお留守になるという設定のせいかもしれないがおかげで下から突き上げるように殴ると、ノックバックで死んでる射程距離がより悪化してしまい、コンボを繋げなくなる。

 なので連綿と受け継がれた妖精神拳使いの老師(センセイ)たちは「貴様は跳べ、俺は舞う!」 という信念を基に妖精よりも全てが下等生物だという意気込みで大地に叩きつけるのだ。

 邪妖精神拳はあえて逆を行き、それで建物から叩き落としたり、空中に浮かせた状態から絡みつくように関節技や、ティンクル☆ワンドを打撃ではなく拘束具に挟み込んで、一方的な昇天絶頂(ヘブン)までもちこむという。

 王道の打撃妖精神拳か、邪道の関節妖精神拳か、未だに光明面(ライトサイド)暗黒面(ダークサイド)の戦いは終わらない。

 全てはTQCの導きのままに……

 

「頭と一緒にお空に逝くのかぁ」

 

「君たちはピーターパンぐらい知らないのかい?」

 

 知ってる知ってる。気に入った子供が成長する前に殺すんだろ?

 

「うーん原典版しか知らない奴」

 

「そんでパウダー決めながら、ひたすらカッツォを突き上げたんだが」

 

「掘ったと」

 

「やめてくれない?」

 

「俺のドリルは天を貫くドリルだ!」

 

「合体しねえよ!!」

 

「なんかその拍子に、繋がらないはずのダメージが二回ほど通った」

 

「は?」

 

 無制限のコンボ練習用の練習モードでの対戦で、青天の高度検証にオイカッツォの使うミーティアスを殴り上げてた時である。

 統天完全再現してやんよぉおお!!

 と ビル壁に沿うように殴り上げてて、一回うっかり無敵時間を忘れて弱パンチを連続でぶち込んだのだが。

 

「ノックバックもしないはずの一撃で、上に上がったんだわ」

 

「無敵時間がキレてたんじゃなくて?」

 

「いや、それはない。俺もミーティアスでどう飛ぶか確認してて、その瞬間だけガチで衝撃入ってびっくりしたからな」

 

 で、そこから運ぶのが当然失敗したんだが。

 打合せして同じ動きをして、同じコンボをキメてみて。

 

「徹夜でかなぁ、多分100? いや200ぐらい? やってみて」

 

「1回だけ通ったのが7回、2回通ったのが3回、3発通ったのが一回だけだ」

 

「3発って連続で通った回数? バグってこと」

 

「ああ。で、それから一応録画してた奴で解析したんだが」

 

 オイカッツォがノートパソコンを操作して、再現が上手くいった動画を見せる。

 動画ツールの機能で時間を表示出来る。

 そこには俺とオイカッツォの二体がひたすら同じ動きをして、空へと運ぶのがあったんだが。

 

「――ここだ、ここだけ()()()()()()()()()

 

「コンボの始動と一緒に、たまたま拍子があったんだと思ったんだけどな。一発目と二発目が、まったく同じ拍子(リズム)だ」

 

 ペンシルゴンが無言で画面を見ている。

 その右上に数字。

 

「間隔は? 一秒じゃないね、刹那(0.1秒)程度ならもっと知れ渡ってる」

 

「推測だがおそらく0.001秒ぐらいか」

 

「あるいはもっとシビアかもしれん、気が遠くなるぐらい短い時間だけどよ」

 

 息を飲み、言う。

 

「GH:Cにはそれが出来る隙があった」

 

「それが出来ればあとは簡単だ。物理エンジンで相手への追撃が可能なアクションを織り交ぜる、空中で行う二段蹴り、何故か滞空する昇竜拳、ダメージ判定さえ入れば追撃出来るのがコンボゲーの常識だ、だから」

 

「だから――」

 

 

 

 

 

『チートです』

 

『空ビヨンドと名乗るプレイヤーは、違法手段を用いていました』

 

『使用していたヒーローランゾウのパワーや動ける速度こそ弄られていませんでしたが、動きは機械そのもの』

 

『人間にプレイ出来る反射速度ではありません』

 

『なによりも、今や<青天>と呼ばれている(トリック)ですが……人間がプレイ出来る領域を遥かに逸脱しています』

 

『<青天>はシステム上不可能ではありません』

 

『ですが、製作陣営としては実現可能なコンボとしては一切想定していませんし、期待したこともありません』

 

『過去現在一度として』

 

『青天はあり得ない技なのです』

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 だから運営はシステム上不可能ではないが、ありえない技と言ったのだ。

 間違いなく人間が出来る技じゃない。

 あの統天(Master-Sky)ならどうだろうか?

 イヤ無理だろう、Justice Versusの全機能をフルに使ってあの(トリック)だったのだ。

 誰にも出来ない技ではあるが、それと空ビヨンドは別物だ。

 だが何故だろうか。

 検証すればするほど、何故か……

 

「本当に統天みたいだな、こいつ」

 

「都市伝説再びって? まったく世界は広いね」

 

 何故か印象がダブる。

 違うゲームで、違うものなのに、何故かそれを知っているものだと似た感覚を覚えるのだ。

 青天と呼ばれたのもそのせいかもしれない。

 だからだろうか。

 

「ん?」

 

 ペンシルゴンとオイカッツォが食っちゃべりながら、どの技で繋げてるのか議論している中、携帯端末を見た。

 メッセージ――登録している動画のマイリストに新着。

 

「は?」

 

「どうしたサンラク」

 

「新作だ」

 

「なんの?」

 

 

()()()()()()()()()稿()()()()()

 

 

 

「「はぁあ!!?」」

 

 二人が、いや、俺も含めてノートパソコンに手を付ける。

 

「おい慌てんな俺の!」「君のものは」「俺のもの!」「ジャイアニズム!?」「いいからけちけちすんなよ、社会人」「お前もだろ!」「俺は学生だから甘えます!」「てめえらぁあ!!」

 

 奪い合うように、だが最後にはオイカッツォに蹴散らされて、俺の携帯端末から見たURLをタイピングする。

 そして現れた動画は――

 

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………は?」

 

 ステージ、空中浮遊都市群。

 そして、そこに描かれていたトリックムービーは。

 

 

青天(セイテン)?」

 

 

 十割を削るものではなく、ただの魅せるだけのトリックだったが、それは確かに青天だった。

 そして投稿者のコメントには。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 「ゲームしようぜ」

 

 

 

 

 

 

 

.

 




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これは変わる世界、変わった先の世界
世界は伝説へと加速していく


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【雑談】第三者たちの困惑【スターレイン】

皆大好き掲示板回
日刊ランキング入りありがとうございます!



 

【青天】GH:C雑談スレ 163【エラッタしろよ】

 

78:ただの名無しティア―

 

 まーた再現失敗かぁ、これ本当に出来んの?

 

 

79:ただの名無しティア―

 

 無理だろ、なんでチートだって認めねえかなぁ

 

 

80:ただの名無しティア―

 

 公式の発表なんて信じない(キリッ

 そういうのいるよねー。

 

 

81:ただの名無しティア―

 

 それよりシルヴィアの敗北どうなってんだよ、

 最近負けこんで、こんで、いやねえな

 

 

82:ただの名無しティア―

 

 アメリアも負けたし

 

 

83:ただの名無しティア―

 

 カツオロイドさんが勝った以外に、チーターにしか負けてないあのバグキャラよ

 あ、伝説は例外として

 

 

84:ただの名無しティア―

 

 伝説はなぁ

 

 

85:ただの名無しティア―

 

 伝説だし

 

 

86:ただの名無しティア―

 

 ぐっとガッツポーズしたら相手が死んだ

 

 

87:ただの名無しティア―

 

 あいつ勝てる奴いるの?

 

 

88:ただの名無しティア―

 

 シルヴィアならいけると思ってたんだがなぁ、まあ、うん

 

 

89:ただの名無しティア―

 

 勝率90%切れませんでしたね……GHシリーズ90.78%ってなんだよ(真顔)

 

 

90:ただの名無しティア―

 

 無理だよ神様だもん

 ああ、革命家またこねえかな

 

 

91:ただの名無しティア―

 

 どこいったんだろうなー

 

 

92:ただの名無しティア―

 

 J・V全盛期だったなぁ、救急車鳴り響いてたんだっけ

 失神した奴ら続出で

 

 

93:ただの名無しティア―

 

 なにそれ?

 

 

94:ただの名無しティア―

 ふっ

 伝説の時代も、もはや過去か

 

 

95:ただの名無しティア―

 

 おーい、なんかスタレスレで情報入ったぞ

 

 

96:ただの名無しティア―

 

 なにがあった、三行で

 

 

97:ただの名無しティア―

 

 日本で

 エキシビジョン

 再び?

 

 

98:ただの名無しティア―

 

 ただのぶつぎりじゃねえか!!

 

 

 

 

 

 

【スターレイン】スターレインについて語るスレ12 【流星伝説】

 

 

125:ただの一般モブ

 

 だからあれはノーカンだっていってんだろ!

 公式戦歴に入ってねえよ!

 

 

126:ただの一般モブ

 

 負けは負けだろ、シルヴィアは終わコンだって!

 

 

127:ただの一般モブ

 

 確かに胸は

 

 

128:ただの一般モブ

 

 ああ >>127 が通りすがりのミースティスにひき肉に!

 

 

129:ただの一般モブ

 

 きたねえ花火だぜ

 

 

130:ただの一般モブ

 

 アメリア―!!

 

 

131:ただの一般モブ

 

 なんでや、アメリア関係ないやろ!

 

 

132:ただの一般モブ

 

 あとその叫びだとシルヴィアが死んでそう

 ルーカスかもしれんけど

 

 

133:ただの一般モブ

 

 ていうかフレンドカップ再開いつよ

 あの実質決勝戦トラブルで終わってから、一位もぎとった若野牛(コルトパイソン)の奴息してないんだけど

 

 

134:ただの一般モブ

 

 名前上がるのは空ビヨンドばっかりだしなぁ

 

 

135:ただの一般モブ

 

 え? いたっけッて感じ

 

 

136:ただの一般モブ

 

 かなしいなぁ

 

 

137:ただの一般モブ

 

 一位と二位がこの間の日本で飛び入り参加してたって、マ?

 

 

138:ただの一般モブ

 

 マジマジ

 

 

139:ただの一般モブ

 

 ノーネームきゅんちゃんprprしたい

 

 

140:ただの一般モブ

 

 その舐めてるの騎士服だぞ

 

 

141:ただの一般モブ

 

 あの無機物な仮面が最高だろおおん!!?

 そこから嫌がるような声が震えて響くと最高過ぎる

 

 

142:ただの一般モブ

 

 変態だー!

 

 

143:ただの一般モブ

 

 変態だー!

 

 

144:ただの一般モブ

 

(深くうなずく)

 

 

145:ただの一般モブ

 

 え?

 

 

146:ただの一般モブ

 

 いやでもあれ絶対美人だと思うんだ

 カボチャは知らん

 

 

147:ただの一般モブ

 

 なんであいつ地方番組にも出てるんだろうな

 ノーネームさんも出せよ、参考にするんだ

 

 

148:ただの一般モブ

 

 ロールプレイキルがまたはかどっちゃうのか

 

 

149:ただの一般モブ

 

 おい、ここ電脳大隊スレじゃねえぞ

 

 

150:ただの一般モブ

 

 そうだ、ここはスターレイン

 

 

151:ただの一般モブ

 

 シルヴィアちゃんのこれからの活躍を応援するスレだぞ!

 

 

152:ただの一般モブ

 

 ええ、ルーカスの尻を褒めるスレではないのか!?

 

 

153:ただの一般モブ

 

 そういうのは専用のスレでどうぞ

 

 

154:ただの一般モブ

 

 Kの野郎、きっと毎晩絞られてるんだろうなぁ

 フレンドカップで実況してたけど、あんな声で叫ぶんだぁ(ねっとり

 

 

155:ただの一般モブ

 

 血が流れてそう

 日本で熱愛報道されてたけど、マジ?

 

 

156:ただの一般モブ

 

 マジマジ、まったくブロンドボインだったら〇ねといいたくなるが

 シルヴィアはなぁ~(轟音

 

 

157:ただの一般モブ

 

 ああ >>156 が通りすがりのミースティスにひき肉に!

 

 

158:ただの一般モブ

 

 何度目だよ

 

 

159:ただの一般モブ

 

 人は何度でも過ちを繰り返す 歴史ってやつさ

 

 

160:ただの一般モブ

 

 だけどそれでも僕は!

 

 

161:ただの一般モブ

 

 うぉおおおおおお!

 

 

162:ただの一般モブ

 

 思考入力になってからぶっ飛んだ発言が多すぎる件について

 

 

163:ただの一般モブ

 

 おかげでガンガンスレが進むわ

 

 

164:ただの一般モブ

 

 しかし、会見でリベンジ発言したけどマジかね

 空ビヨ CPUだろ?

 

 

165:ただの一般モブ

 

 あんなの人間が出来るわけねえのに、勝てねえよなぁ

 

 

166:ただの一般モブ

 

 シルヴィアがデビューする前に同じこといってたわ

 あとドイツ伝説

 

 

167:ただの一般モブ

 

 人間やめましたってのもたまにいるからなぁ

 おお

 

 

168:ただの一般モブ

 

 なんかニュースきたぞ

 

 

169:ただの一般モブ

 

 は?

 

 

170:ただの一般モブ

 

 は?

 

 

171:ただの一般モブ

 

 え

 

 

172:ただの一般モブ

 

 ちょとまて、これがち?!

 

 

173:ただの一般モブ

 

 嘘だろ! ダイナスカルスレでも来てるぞ!

 

 

174:ただの一般モブ

 

 ええ!? マジかよ、電脳大隊のHPでも乗ってるぞ!?

 日本でエキシビジョン開催!?

 

 

175:ただの一般モブ

 

 はぁ!? アメリアとシルヴィアに、魚臣 慧!?

 日米最強トップスリーじゃねえか!?

 

 

176:ただの一般モブ

 

 ドリームマッチ過ぎるだろ!?

 なにがおこってんの? で、ゲスト三名って、え?

 

 

177:ただの一般モブ

 

 フカシ、じゃねえよな。

 

 

178:ただの一般モブ

 

 これ名前明記されてねえけど

 

 

179:ただの一般モブ

 

 この仮面付けた見慣れないランゾウは

 

 

180:ただの一般モブ

 

 はぁああああああああ!?

 

 

181:ただの一般モブ

 

 空ビヨンド!?!

 

 

182:ただの一般モブ

 

 はぁああああああああ!?

 

 

183:ただの一般モブ

 

 どういう祭りだよ!!!!!!!!!!!?

 

 

 

184:ただの一般モブ

 

 夢の続きが見れそうだな

 

 




ゆっくりと神は微笑んだ
楽し気に手を組んでいる


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【約束】【忘却】

 

 

鉛筆騎士王:えーというわけで約束取り付けましたなう

 

サンラク:いやいやいやいや

 

オイカッツォ:いやいやいやいや

 

オイカッツォ:どうやったの? なにやったの? あとそのHNどれだ、教えろ

 

鉛筆騎士王:教えたら君たち突撃するでしょ?

 

鉛筆騎士王:しないって約束できる?

 

鉛筆騎士王:する?

 

鉛筆騎士王:不自然な間で明白なんだよなぁ

 

オイカッツォ:しないよ、だから教えてくださいお願いします

 

サンラク:こんなに低姿勢の鰹初めてだわ

 

鉛筆騎士王:どうしょうかな~

 

オイカッツォ:たのむよぉおおおお!

 

鉛筆騎士王:といっても多分無駄だと思うよ、今GH:Cのダイレクトメール送ったけど使われてないアカウントになってるし

 

鉛筆騎士王:こりゃあ消したねぇ

 

オイカッツォ:おおおおおおおおおおおおおおおい!!

 

サンラク:うーん外道相手には正し過ぎる対処

 

サンラク:ていうかその約束って守られるんの?

 

鉛筆騎士王:うーん、多分?

 

サンラク:多分ってうおーい

 

鉛筆騎士王:一応色々と煽ったり、脅したけどねー、どれも今一っていうか。

 

サンラク:なにしたんだ

 

鉛筆騎士王:とりあえずくそ長いハッキングの罪状とか? 消してもアカウント取った時点でどの回線のとかわかるし、運営にメールすれば一発だからねー。

 

鉛筆騎士王:例の試合の時みたいに不法介入してたわけじゃなさそうだから、そっち探るとアウトでしょ

 

サンラク:うーん外道……でいいのか?

 

オイカッツォ:逮捕されると困るんだけど、で、それで呑んだのか?

 

鉛筆騎士王:まさか

 

鉛筆騎士王:全然興味なさそうで困ったよ、好きにすればだって

 

オイカッツォ:ええ

 

鉛筆騎士王:まあこちらもそんなチクリ魔みたいなみみっちいことはしたくなかったし、つまらないじゃん?

 

サンラク:まあな

 

オイカッツォ:で、約束取り付けたってどうしたんだ?

 

オイカッツォ:聞いた感じだと説得が通じるような相手に聞こえなかったんだが

 

鉛筆騎士王:カッツォ君とサンラクくん

 

オイカッツォ:うん?

 

サンラク:うん?

 

鉛筆騎士王:君たち売ったから。

 

サンラク:まて

 

オイカッツォ:どういう意味だ

 

鉛筆騎士王:彼が乗ってくれた条件がね。シルヴィアとアメリアより強い奴がいるだから。

 

鉛筆騎士王:それと戦わせてあげる。

 

鉛筆騎士王:二人とも勝ってるでしょ? だから嘘じゃないじゃん。

 

サンラク:それはつまり……

 

鉛筆騎士王:サードアップ、ノーフェイス♪

 

サンラク:またかああああああああああ!

 

オイカッツォ:……おい、ペンドラゴンなにした?

 

サンラク:いや、今俺らを売っただろ?

 

オイカッツォ:そっちじゃねえ。シルヴィアから連絡入ってんだけど

 

オイカッツォ:なんかスターレインとの交渉終わったって言われたんだが? あとダイナスカルからも来たとか、電脳大隊から連絡入ってるんだが??

 

サンラク:なんですと?

 

鉛筆騎士王:テヘペロ

 

サンラク:なにした? いやいい、いうな! なんかコワイ!

 

鉛筆騎士王:いやさ、夏目氏通して交渉したんだよ

 

鉛筆騎士王:電脳大隊に直接ね♪ これ売れるんじゃないですかねーって

 

サンラク:なにしてくれてますの?

 

オイカッツォ:やってくれましたなぁ、ペンシルゴンさん……感謝の首絞めが今俺の首にかかってるよ

 

鉛筆騎士王:クビ免れたんだね、よかったね

 

オイカッツォ:もげそう

 

オイカッツォ:Thank you very much, powerful enemies!

 

オイカッツォ:今の俺じゃねえから!!

 

サンラク:奪われとる

 

鉛筆騎士王:合鍵持たれてるよねこれ

 

オイカッツォ:ちょっと追い出してくる

 

オイカッツォ:しばま

 

サンラク:うーんリア充ですわね、ペンドラゴンさん

 

鉛筆騎士王:ええまったくですわ、サンラクさん

 

鉛筆騎士王:ここらへんだけ夏目氏にスクショ送っていいかな?

 

サンラク:やめれ

 

鉛筆騎士王:えー

 

サンラク:空ビヨンドとの対戦前に、カツオのタタキとか見たくないんだよなぁ~

 

鉛筆騎士王:お寿司食べたい

 

サンラク:肉喰え肉

 

鉛筆騎士王:両方食べられる店結構あるよね

 

サンラク:しかし

 

鉛筆騎士王:ん?

 

サンラク:よく話聞いてくれたな? 普通、そんな勧誘ガン無視して凹られるだろ、どうやったんだ?

 

鉛筆騎士王:ああボコボコにされたよ。録画してるけど見る?

 

鉛筆騎士王:いやあ笑えるぐらいくそ強くてさぁ、あのシルバージャンパー

 

鉛筆騎士王:出来るだけパターン出そうとしたけど、まあ後で見せるけどさ。カッツォ君より強いと思うよ。

 

サンラク:シルヴィアとやり合った時より?

 

鉛筆騎士王:人間じゃないね。パッと見てもウェザエモン。

 

鉛筆騎士王:サンラクくん、君がやり合ってたアレと同じぐらいかな。

 

サンラク:へぇ

 

サンラク:上等、楽しみになってきたぜ

 

鉛筆騎士王:それと不思議なことがあってね

 

サンラク:不思議なこと?

 

鉛筆騎士王:うん、アレが聞いてくれたきっかけなんだけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『でかしたシルヴィア! 愛してるぜぇ!』

 

『そう、でも私は応えられないわ。ケイがいるもの』

 

『相変わらずの恋ボケか、仲は進展したのかい?』

 

『ええ、クリスマスに貰ったわ。彼はサンタクロースだったみたい』

 

『はいはい、ご馳走様。それで間違いないんだな?』

 

『そうよ、十日後。日本でガドリングドラム主催のトレード・ショーがあるわ。それのエキシビジョンカップであれが来る。それに呼ばれたのが私たち(全米トップツー) ゲーマーの間でもライオットブラッドは大人気だし、貴方も飲んでるんでしょう?』

 

『お前は全然使ってないけどな。それでまあ私たちは客寄せパンダか』

 

『不満? ならこなくてもいいけど、その分私が楽しむわ』

 

『冗談。見たぜ、ジャックも来るんだろう? リストを見たぜ、ケイもとは驚きだぜ』

 

『ええ。どうやら六人がかりの特別ルールを用意してるみたい、運営も本気ね』

 

『新ステージも急ピッチで作ってるらしいな、そっちに情報は入ってるか?』

 

『駄目ね、スターレインにすら伝わってきていない。完全にぶっつけ本番で挑むことになりそうよ』

 

『<青天の霹靂(スカイ・インパクト)> 本来なら犯罪者だろう空ビヨンドも許容して、今の炎上騒ぎをチャンスに変えるつもりだろうさ、無茶をする』

 

『見ればわかるだろうけど、その名前では登録されてないわよ? 事実証明が出来ないもの』

 

『どんな奴なんだろうな。賭けようぜ、私は両目が赤く光る2メートルの巨体だ、多分肩にショットガンとか担いでる』

 

『じゃあ私は黒いスーツにサングラスつけた男ね。エスコートにたくさん同じ顔のエージェンドがいるわ』

 

『ははは、そいつは楽しだな。しかし、ノーフェイスまで入ってるとは思わなかったが』

 

『仕掛け人は彼女よ。随分と意気込んでるみたい』

 

『ヒュー。姑息な立ち回りのキャットガールだったと思ったが、蝙蝠を見たピエロだったか』

 

『階段で踊る姿が似合いそう、貴方がエスコートしてあげたら?』

 

『悪いな。お前のジョークはつまらないといってぶん殴っちまうだろうさ』

 

『ピッタリじゃない? ま、いいわ。いつごろこちらに来るの? ダイナスカルには交渉が通ったみたいだけど』

 

『今どこにいると思う? もう日本行きの飛行機待ちさ、数時間後にはあの首絞められそうなサブウェイに出ると思うと頭痛がしてくる』

 

『タクシー』

 

『頭』

 

『強情ね。ところでジャンボタクシーって知ってる?』

 

『ダンボ?』

 

『それ呼べば普通のタクシーより大きくて頭つかえないわよ、お金あるんだから呼びなさいよ』

 

『マジかよ』

 

『……貴方わりとドジっ子よね』

 

『うるさい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 静寂。

 音はない。雨の音だけ。

 

 ――じゃあ、詳しい条件はメールで送るんでよろしく。

 

 そういってクロックファイアは砕け散った。

 誰もいない。

 誰もいない。

 ステージが解体され、終了の了承(エンター)を押すまでの短時間。

 静寂。

 音はない。雨の音だけ。

 呼吸。

 目を閉じる。

 息を吸う。

 理解出来ない。

 何故聞いたのか。

 何故かわからない。

 ただ。

 ただ理由もわからずに。

 ただゲームが楽しいだけだから。

 だから。

 

 ――    しようぜ。

 

 

 その言葉に。

 空を見上げた。

 空は雨が降っていて。

 空は見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

鉛筆騎士王:()()()()()()()、そういったら動きが止まったんだ。

 

鉛筆騎士王:なんでだろうね?

 

 

 

 

 




GH:C製作会社「どでかいインパクトで押し返すんだよ!」
GH:C製作会社「だから新しいルールバトルいれるんご」
GH:C製作会社「なので頑張れAIさん!」
サーバー付属AI「ウィーンウィーン、ガチャガチャポン、出きたぞ。デザインよろ」
GH:C製作「じゃ、デザイナーよろ」

デザイナー「んほぉおおおおお!!(悲鳴)」

???「あ、こういうステージやってほしいんだけど」
サーバー付属AI「ウィーンウィーン、ステージデザインよろ」

デザイナー「はわわわわわあ(発狂」

苦労するのは何時だって下の人間です


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【夢の続きが始まる】

 五日間に渡り国際空港の利用者数は一万人を超過した。

 都心部のホテルは連日キャンセル待ちが相次ぎ。

 飛行機のチケット代金はシーズン期を逃してもなお右肩上がりで上昇した。

 周囲のコンビニなどには急遽呼び出されたバイトが運び込まれる荷物を運び切り、片言の英語で訪問者を相手し続けた。

 ガトリングドラム社のトレード・ショー。

 その入場チケットが売り切れるまで五分も必要が無く。

 転売屋が250倍の値段で売り払ったという話は都市伝説として語り継がれている。

 放送契約を取り付けたチャンネルサイトは膨大な数の優先契約の申し込み(グレードアップ)登録に忙殺されて、その日のためにサーバーを増設したというのは噂でもない真実だと誰もが知っていた。

 そして。

 その日、トレード・ショーの会場に向かう人々の誰もがライオットブラッドを腰に吊るしていた。

 離島から泳いで辿り着いた、海水を滴らせる水着姿の男もいたかもしれない。

 人種を問わない多くの人間が会場の周りに集まり。

 期待と興奮に気温が上昇していた。

 ざわめくように言う。

 

 ――シルヴィア・ゴールドバーグ。我らが輝き続ける流星(リアルミーティアス)

 ――アメリア・サリヴァン。ダイナスカルの猛禽(リアルカースドプリズン)

 ――魚臣 慧。流星を落とした星墜とし(スターブレイカー)

 ――顔隠し(ノーフェイス)。リアルカースドプリズン、統天の再来者(スタースカイ)

 ――名前隠し(ノーネーム)。ロールプレイキルの革命者(レボリューショナー)

 

 そして。

 仮面をつけたランゾウ。

 名前不明、ゲストの最後に乗せられたそれに誰もがその名前を告げた。

 

『空ビヨンド』

 

 幻想でしかない青天の存在、それの名を期待するように呟いた。

 この日、奇跡を見られるかもしれないと。

 

 

 

 

 

「う~~ん、偉いことになったなぁ」

 

 まさかの三度目の傭兵出撃で、さらに空ビヨンドとの試合。

 またシルヴィアとかアメリアとやりあうことになるとはなぁ。

 家からさて出かけるかと思ったら、謎めいた黒塗りのリムジン(ガトリングドラム社のロゴつき)に迎えに来られて、恐ろしいほど快適な送迎……輸送……拉致? されてやってきたらここである。

 顔隠し前控室というネームプレートの書かれた部屋と、その中央にあったギンギンに中が冷え切った全種類ライオットブラッドと、もってきた記憶のない磨き抜かれたライオットブラッドカスタムのジャックヘルメットから逃げたわけではないのだ!

 そう決して逃げたわけじゃない。

 万全の態勢で挑むためにしばらくライオットブラッド抜きをした体が求めそうだったから逃げたわけではないのだ。

 まだ試合まで少し時間がある、最低三十分前に準備と儀式をするにしても時間があるのだ。

 

「しかも新ステージと新規ルールだからなぁ」

 

 一切合切の情報伏せ。

 参加するプレイヤーにまで今日の朝になるまで伝えられなかった新ギミックルール。

 変則多対戦モード:ロシアン・ツヴァイ。

 そして、シティモード:コウトリナ。

 どちらも新規のもので概要しか伝えられてないから打ち合わせしても、ぶっつけ本番だ。

 

(コウトリナってなんだよ?)

 

 コウノトリのことじゃねえよなって思いつつ首をひねる。

 説明された画像と映像見る限り、ただのシティモードと大差なかったが……

 まあとにかく突貫で作られたステージなのは間違いないらしい。

 ――運営曰く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「まあやるだけやるしかねえか」

 

 しかし迷うな。

 既視感を感じる地図アプリ片手だが、とりあえず軽めにカフェインをいれてエンジンを温めなければ焼き付きを起こす。

 そう思って自販機でも探してうろうろしてるんだが、忙しく警備員とか誘導スタッフらしい人間が駆け抜けていっていて歩きにくい。

 と、あったあった。

 丁度廊下の隅で自販機とベンチのセットを発見。

 

「ふぅ」

 

 缶コーヒーを買って座り込む。

 あー体にカフェインが染みる。一応最低限の仮眠は取ったが、昨日はシャンフロにまた戻って、それからクソゲニウム接種にエンジンの始動速度を上げるためにVR剣道教室・極も久しぶりに挑み直した。

 

「小細工は上々、あとは仕上げをごらんあれってな」

 

 などとにやついて言ってみたが、まあぶっちゃけ本番だな!

 高度な柔軟性を維持してうんぬんかんぬん。

 

「横失礼するぞ」

 

「あ、はい」

 

 声をかけられ、どさっと見知らぬ男に横に座られた。

 

(ん、救護スタッフか?)

 

 首からかけたネームプレートに救護スタッフという文字、そして羽織っている白衣。

 この手の大会に関しては、まあ二度しか顔を出したことはないんだが、大規模な会場ならこういうのもいるんだろう。

 実際合法堕ちとか医者呼んだ方がいい……のか?

 

「あの、ここ禁煙なんですけど」

 

 白衣の男がいきなり煙草を取り出して吸い出したのに、思わずツッコむ。

 

「ああ? 大丈夫だ、これ電子タバコだから」

 

 といって男が見せたのは機械っぽい筒。

 

「入れてあるカートリッジもニコチンはねえよ。口元が寂しいから吸ってるだけだ」

 

 そう言って深々と吸って吐く煙からは確かに、煙草っぽい臭いはしないが。

 俺別に好きなわけじゃないんだけどな。

 

「長生きする予定はなかったんだけどなぁ、予定変更だわ。まったく」

 

「予定変更?」

 

「ああ。ちょっと生きないといけない理由が出来てな」

 

 スン。と鼻を鳴らされた。

 

「お前、もしかして参加する奴か」

 

「え」

 

 思わずギョっとした。

 確かにそうだが、今別に迷彩服も、目立つアイコンも部屋に置きっぱなしだ。

 さすがに常時コスプレしてられる度胸は、外道(ペンシルゴン)と違ってない。

 あいつなんか青いジャージマフラーに、スパッツと帽子被ってたけど。

 

「臭いに覚えがある」

 

 エスパーみたいなこと言われた。

 

「そうだけど」

 

「そっか」

 

 

 

「最高の瞬間へようこそ、楽しんでいけ」

 

 

 

 なんて言われて肩を叩かれて、そいつは去っていった。

 イベントNPCかなんかで?

 

 

 

 

 

 

 

『空ビヨンドはまだか?』

 

『まだ来てないみたいね。でも時間はあるのだからそんなタップ鳴らすのやめたら?』

 

『そういうお前こそ、随分と念入りなウォームアップじゃねえか。あたしとの対戦でも見た覚えがないぜ?』

 

『そう?』

 

『そうさ』

 

『しょうがないじゃない、ワクワクしてるんだから。貴女もそうでしょう?』

 

『まあな。Leo Queenの奴には悪いが、この機会には幸運を感じてるぜ』

 

『フフ。決まった時にはキツイメールが届いたわ、イギリスでこそ開くべきだって同意求められてもねぇ? 世界ランク三位の貴女は?』

 

『精々<赤い狼>と戯れてろって私は返した』

 

『最近パキスタンに夢中だから寂しいんじゃない?』

 

『かもな。まったく黒いやつといい、ジャックといい、世の中飽きさせないぜ』

 

『そうね』

 

『ん、誰だ? まだ時間じゃ……』

 

『……どうして』

 

 

 

()()()()()()()()()

 

 

 

 

『悪い冗談だわ』

 

『隠しボスを倒しにきたら、ラスボスかよ。なぁ』

 

 

 

 

『『世界一位』』

 

 

 国際公式勝率90%以上。

 その生涯の半ば以上を勝利で積み上げた存在。

 人の最高峰でも、まだ伝説()には届いていない。

 

 

 伝説を超えた者は今だ一人しか――

 

 




その日、辻斬・狂想曲:オンラインの参加ログイン率は18%を切っていた。
情弱の京ティメットは獲物を探して、無人の荒野を彷徨っていた
勇者はそれを発見した
レイドボスと遭遇した
たった二人のイクサが始まった


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ツァラトゥストラと神々の対比について

 勇者は挑む。
 数えられるほどに数を減らした亡霊たちの廃残の幕末で。
 魔王(レイドボス)は笑う。
 数え切れないほどに戦い、これからも数え切れないほどの対決を望む夢の時間に。
 勇者の挑戦は物語としてログに流れ続ける。
 そして。
 究極なるものは絶妙に情けなく死んでいた。


 

 それは冷たく無機質なコンクリートに覆われた部屋だった。

 白く抜けるような牢獄、あるいは天国。

 無駄のない無駄過ぎる室内の中央に鎮座しているのは外見だけは旧時代のコンピューターだった。

 そして、その前にこの世全ての悪意を煮詰めたような顔つきで座るジャージ姿の女性。

 

「おかしい」

 

 呟く。

 

「おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい」

 

 呟く。

 

「おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい」

 

 本来ならば神の如き脳髄の中で渦巻く悪意と激情が唇から零れ落ちていた。

 その数倍、数十、数百、万倍にも至る臓腑を焼く呪い。

 激情がつま先から脊髄を駆け抜けて、身を焦がすほどの怒りとなって、手を振り上げる。

 ぺちん。

 ぺちんと、力の限り床を叩いた。

 ぺちんと。手が痛い。

 

「~~~~~~~~!」

 

 この怒りを表現出来ない不自由なる世界に、ジャージの女はぺちぺちと怒りを噴き出した。

 

「もうやめろ、継久理(つくり)。(いろいろな意味で)見てられねえわ」

 

 携帯端末片手に無様を発揮し続ける継久理と呼んだ女性に、声をかけたのは白衣の女。

 

「先月当社比……ログイン率47%、ついに半分を切りやがった」

 

「なんでよ!? 私の世界、有象無象の砂粒共が働かないなんて……。アブラムシ!? あんた本当に何もしてないのね?!」

 

「してねえよ。散々それは論議しただろうが」

 

 シャングリラ・フロンティア。

 この世界に現れた文字通りレベルが違うVRMMO。

 神ゲーと称されるに相応しいクオリティと今だ底知れぬ世界を創造し、運営しているのはたった三人の人間。

 シャングリラ・フロンティアという「世界」を作り上げた天才、継久理 創世(つくり つくよ)

 シャングリラ・フロンティアを「ゲーム」として調整した天才、天地 律(あまち りつ)

 今はこの場にいない世話役の男を含めて、この三名こそがシャングリラ・フロンティアという存在を維持する「運営」だった。

 彼女たちが眉間に皺を寄せて口論しているのは一つの異変。

 今月に入って右肩下がりに低下している()()()()()()()()()()()

 MMOである限り、ログインするプレイヤー数とはすなわち人口そのもの、世界を開拓(フロンティア)するための労働力であるといってもいい。

 それが1~3%程度ならば世間のイベントなり、飛沫を上げる波のようなものとして気にも留めなかっただろう。

 だがそれが今月に入り90%を切り、今週に入っては70%前後。

 あまりの惨状に、普段は目を向けることすらもなかった二人でさえ気づいた。

 

「昨日から今日にかけては69%から20%以上もログアウト、今も減ってやがる」

 

「なんでよ!」

 

「わかんねえよ! アタシがしりてえぐらいだ!」

 

 ゲームの進行はイレギュラーが現れつつも進んでいた。

 計画も進み、世界は加速していた。そのはずだった。

 だがまるで何の前触れもなく訪れた隕石か大地震の如く、シャングリラ・フロンティアは危機を迎えている。

 停滞。

 そして廃棄というこれまでに膨大な捧げたリソースの何もかもが無駄になりえるかもしれない危機感がある。

 この危機に、最後の男は二人の間の仲介を半ば中断し、外に行っているのだ。

 何が原因なのか。

 シャングリラ・フロンティアに致命的なバグがあった? ありえない。

 シャングリラ・フロンティアに見切られるような要素があった? ありえない。

 有象無象の凡弱共が、この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「猿共が……!」

 

「虫とは言わない辺り多少マシにしてるんだな」

 

 自分を超える勢いで地団駄を高速ステップする奴を見るとマシに見える。

 その言葉を実感しつつ、文房具用ハサミで切ったばかりのざく切りにした前髪を掻き上げて天地が思想に入る。

 何が原因だ。

 シャングリラ・フロンティアはゲームとしての形を調整している。

 何も考えてない雑魚に屠られるほど温い仕様にはしていないが、だからといって一切の勝ち目がないほどには仕上げていない。

 だからあのゲームを破綻させようと生意気に上がりイキった奴以外には問題はない、はずだ。

 自分の得られる情報の中で答えが見つからずに、二人の天才が唸る中で扉が開いた。

 

「継久理、天地、戻ったぞ! 喧嘩してないな?!」

 

木兎夜枝(つくよぎ)!! 原因わかったの!?」

 

 出会い頭に苛立ちの声をぶつけられたスーツ姿の男が顔を当然のように顔を顰める。

 木兎夜枝 境(つくよぎ さかい)――名字は旧姓だが、継久理と天地。水と油、塩と砂糖、タケノコとキノコというべき天敵同士の仲介を担当し、社会性を宇宙に放り捨てている二人の世話を胃薬を代償にしている男である。

 

「ああ。ログイン率だが、おそらく明日には復活する見込みだ」

 

「明日? どういうことよ」

 

「<青天の霹靂(スカイ・インパクト)>だ」

 

「?」

 

「?」

 

「少しはニュースぐらい見ろよ、今日の夕方から関係するイベントが始まる」

 

 木兎夜枝が携帯端末を取り出して、そこから呼び出した情報を読み取る。

 

「既にチャンネル視聴者数が三千万を超えている」

 

 まだ始まっていないのにだ、と続けて木兎夜枝が収集した情報が二人に伝えられていく。

 それに伴い加速度的に二人の顔色が変わっていく。

 

「くだらねえ、そんなことでかよ」

 

 天地は胸をなでおろし、被害者のような顔で……波及する社会の影響で無駄な仕事をさせられたのだとうんざりした顔になっていた。

 そして、僅かに目線を上げて。

 

「木兎夜枝」

 

「なんだい、天地」

 

「「伝説」は動いてねえだろうな、アイツが来るなら山ほど対策がいる。すぐにいえ」

 

「あの「神様」なら何の関係もない。空ビヨンドとやらが匹敵するなら……いや、ありえないな。聞き込んだが、チートやツールを作ったCPUで間違いないと聞いている」

 

「米国の程度ならザルだからな」

 

 その程度の介入を許すなんて浅はかだと天地は笑う。

 木兎夜枝は激しく胃を抑えながら、胃薬と共に言ってはならない言葉を飲み込んだ。

 中央に鎮座するコンピューターを見つめて、部屋中の重さが増すかのように不機嫌さを増した継久理を刺激しないように。

 神様。

 伝説。

 シャングリラ・フロンティアにおける話題においてはワールドクリエイティブ・アドミニストレーターである継久理が前者であり、後者は彼女が受け継ぎ紡ぎ上げた神話のことである。

 だがそれでなければ。

 その二つの単語で結び付けられる存在が、この世界にはいる。

 

 ――神は死んだ、とドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェは言った。

 絶対的な視点は存在せず、神秘を解き明かしたこの世界においてもはや神はいない。

 神を知るものが語り継いだ物語を紡ぎ上げ、電脳の中に神話として復活させたものがいるとしても。

 世界は公平だ。

 個人を愛さずに、神はこの世にはいない、ただ見守り続けている。

 

 

 

 だがそれでも。

 そうだというのに。

 神はいた。

 ――野球界におけるベーブ・ルース。

 ――ボクシング界におけるモハメド・アリ。

 その世界に疎くても聞いたことがある名前というものがある。

 その世界で神様と呼ばれる者の名前。

 このゲームの中にもそれがいた。

 電脳の中に君臨し、現代において存在する数多の英雄の如き綺羅星たちでさえも届き得ない絶対者。

 この世の律が乱れ狂わせる者。

 皮肉にもドイツにおいて現れたもの。

 数万単位の敗北者を生み出し、その90%以上を勝利に彩り、未だなお誰一人としてその記録を超えたものはいない。

 

 チェーロ・ヴァイゾン。

 

 eスポーツ世界において 伝説にして神様。

 未だなお現役であり続ける現れ出でる新星の悉くを蹴散らし、届き得ない空の果てに座するもの。

 理屈不要の絶対者。

 革命の夜を超えて世界のeスポーツプレイヤーのレベルを革新させた片割れ。

 ()()()()()()

 未だなお熱く語られるそれに、この世界に現れた次元違いのゲーム。

 シャングリラ・フロンティアへの参戦を、一人のインタビュアーが話題に出したことがある。

 世界最高のゲームに、世界最高のプレイヤーはプレイしますか? と。

 彼は人差し指を上げて、いつもと同じように返した。

 

「興味ないね」

 

 この言葉を忘れないものがいる。

 至上なる神話の物語を否定した神を気取る男として、継久理 創世は憎むのだ。

 シャングリラ・フロンティアは世界最高の歴史上最高のゲーム(世界)だ。

 誰にも超えられないし、超えさせない。

 これ以外の全ては凡愚でしかない、劣化品であり、下の世界である。

 だからこそ。

 対戦ゲーム、人と人が争い、決して崩れない、魅了し切れない世界に居続ける伝説によって

 そのシェアが奪い切れない。

 

 

 人は神に挑み続ける。

 それこそが人の本能であり、人は憧れを止められないのだから。




彼は人生において百回は聞かれたこの質問に、
いつも同じ答えを返した。

「貴方のような偉大なプレイヤーになるために何が必要ですか?」
「人殺しを楽しむセンスさ!」

 ()は人を、ゲームを楽しんでいる。


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【目を開け世界】

「あー、あー、皆さん見えてますか?」

 

 華やかな女性が華麗なステップと共に空へと手を広げる。

 その掌の先から七色の――過去に発売されたライオッドブラッドのイメージカラーの虹が螺旋を描くように煌めき、目で追いながら伸ばした掌の先から投影されたポップな文字が浮かび上がる。

 

「どうも! 皆さんガトリングドラムのトレード・ショーにようこそ! 本日エキシビジョンマッチのパーソナリティを務めさせてもらう笹原八花(エイト)でーす! いやあ凄いですねえ、この東京幕張会場にも完全ARマシンがあるんですよ! しかも最新式!」

 

 今絶賛運命力高く売り出し中のアイドル笹原エイトが小気味よく指を鳴らすと、その周囲を踊るように文字群が浮かび上がり、その後ろからは完全投影型モニターにガトリングドラム社のシンボルマークが浮かび上がる。

 

「いやぁ、まさかあのガトリングドラム社直々のご指定で仕事が入るとは……これ本当にドッキリじゃないですよね?」

 

『※ガチです Byディレクター』

 

「ですよねー!! 何がどうして名前が売れたんでしょう?! そして、今日試飲として渡されたライオットブラッド・スマートレディとか飲んでみたんですが、なんか元気沸いてきました! 凄いですね!!! 絶対に三本以上飲んだらいけないってマネージャーから監視されたんですけど、不思議です!」

 

『※用法容量はお守りください Byガトリングド・ラム』

 

『ライオットブラッドは合法安全』 『実際安全』 『検査も問題なし』 『実際安全』 『ガトリングド・ラム社はホワイト企業です』 『ライオットブラッドは元気が出る』 『実際スゴイ』 『一日四本迄ダイジョウブ!』 『カラダニキヲツケテネ!』 『エイトチャンカワイイヤッター!』 『聖女ちゃんを崇めよ』 『合法面の力は素晴らしいゾ』 『ギマン!!』『ライオットブラッドを崇めよ』 『エナドリとの絆を信じるのだ』 『ライオットブラッド・元気・ライオットブラッドだ』 『シュバ剣落ちない』 『グググ、夜の力は増している』 『世界は監視されている』 『実際安全である』 『五本以上の摂取は禁じられています』

 

 同時に沸き上がる大量のコメント群。

 スタジオ周囲にて見守る観客たちは何故か既に開けていたライオットブラッドをグイッと一口飲んだ。

 同時に缶を置いた。

 

「…………」

 

 スタジオ周囲にて見守る観客たちは何故か既に開けていたライオットブラッドをグイッと一口飲んだ。

 同時に缶を置いた。

 

「…………」

 

 スタジオ周囲にて見守る観客たちは何故か既に開けていたライオットブラッドをグイッと一口飲んだ。

 同時に膝を打った。

 

『※進めてください Byディレクター』

 

「アッハイ。えーと、このように視聴者さんたちからのコメントもリアルタイムで見れるんですね! スゴイ! 実際スゴイ」

 

 気を取り直すように咳ばらいをし、スタジオを埋め尽くさんとばかりコメント類をエイトは手のムーブで押し流す。

 

「それでは本日のエキシビジョンマッチにおいて解説を行う方を紹介します、まずはプロゲーミングチーム「若野牛(コルトパイソン)」より浅間 絢斗さんにお越し頂いております!!」

 

「どうも。今日は……緊張しています」

 

「GGC以来ですね、絢斗さん。どうかしましたか?」

 

「いえ……普段なら格ゲーをメインにはしてないと言いたかったり、そもフレンドカップで二位入ったのに何も言われないとか色々いうところなんですが……それら全て置いておきます」

 

「といいますと?」

 

「今日は奇跡のような時間が始まる、そう確信しています。自分が出来る限りの解説をさせてもらいます」

 

「な、なるほど……凄い意気込みですね。では続いては」

 

「Hei! こちらアメリカ実況担当フジイラです! 今日はよろしくおねがいするぜ!」

 

「解説のセラちゃんでーす♪」

 

「おっと先に言われちゃいましたが本日は解説及び実況は豪華ダブルセット! 日本語と英語の同時実況となります、フジイラさん、セラさん、お二人とも日本語お上手ですね?」

 

「もちろん! 今Eスポーツ業界でHotな日本とならば猛勉強で覚えたぜ!」

 

「試合が始まったら英語オンリーになりますので、ステイツのみなさんはこっちの実況にセッティングよろしく~♪」

 

「うぅ、もうこの時点で濃い人たちしかいません。この可愛さだけが取り柄のワタクシで大丈夫なのか……いえ、負けません! アイドル舐めるなー! というわけで解説モニターかもーん!」

 

 エイトチャンーガンバエー、めいたコメントに力づけられながらも彼女が進行を進めていく。

 

「本日行われるゲームモード及びステージはどちらも本邦初公開! ゲームモード≪ロシアン・ツヴァイ≫ そして、シティモードは「コウトリナ」!」

 

 エイトの後ろに展開されるモニターには巨大なシティ。

 一見するとありふれたシティモードの一角にしか見えない。

 

「……コウトリナ? 聞いたことがない単語だが、一見すると変哲もない街だな」

 

「はい、ですがこのシティにはとんでもないギミックが隠されているのです!」

 

「というと?」

 

「私も知りません!」

 

 配信動画コメント欄に大量に流れるツッコミのコメントに、目を通しながらもあざとくエイトは舌を出してウインクする。

 

「つまり、始まってからのお楽しみということです!」

 

「なるほど、ぶっつけ本番って奴ですね!」

 

「あらあら、波乱の展開が期待出来そう」

 

「ロシアンツヴァイの解説ですが、これはプレイヤーと共に解説したほうがわかりやすいでしょう。えーそれではどうぞ! 本日のエキシビジョンマッチのために態々来てくださった六名です!」

 

 スタジアムの後ろにARビジョンによって隠されていた扉が開き、現実のギミックである煙とエフェクト映像の両方によって彩られた入場が始まる。

 

「シルヴィア・ゴールドバーグ。我らが輝き続ける流星(リアルミーティアス)!!」

 

 最初に入場したのは米国最強にして世界ランキング二位、伝説にもっとも近い最強。

 その顔に緊張の一つもなく、肉食獣を思わせる笑みを浮かべた少女の体躯をした女性。

 

「アメリア・サリヴァン。ダイナスカルの猛禽(リアルカースドプリズン)!!」

 

 その相対する入り口から歩み出るのは対等の如く威厳を放つ全米二位。

 男にも負けない程の長身でありながらも女性らしさを損なっていない猛禽類の如き美しさ。

 

「魚臣 慧。流星を落とした星墜とし(スターブレイカー)!!」

 

 そして、全米一位と二位。

 その二人の位置に挟まされた三番目の入場口から現れたのは、日本最強とされるプロゲーマー。

 普段のにこやかな微笑みはなく、その瞳は燃えるような熱意を帯びていた。

 

「そして、顔隠し(ノーフェイス)。リアルカースドプリズン、統天の再来者(スタースカイ)!!」

 

 パチンと指を鳴らし、振り向けられた手の先から現れたのは――

 

 

 

 

 

 つまり俺である。

 うーん、なんだろう規模としてはGGCのほうが出かかったはずなのに、感じるプレッシャーが増してやがる。

 ていうか目で見える配信動画コメント欄が会場埋め尽くさんばかりの勢いだ。

 

「俺、参上……というべきか!」

 

「頭に角生やしてからドーゾ」

 

 一般人なりの誤魔化しボケに対して厳しいオイカッツォ。

 おのれそこは相槌を打って会話をもたせるところだろ。

 

「どーも、ユーガッタのチャンネル8以来ですね。今日は……新調ですか?」

 

 どことなくビビりがちな態度で声をかけてくるエイト嬢。

 いやわかる、わかるよ。

 

 目からピカピカして、ライオットブラッドのカラーにカスタマイズされたカボチャ頭だからな!

 

「そのジャックヘルメット……ついに合法落ちしたか」

 

「まだしてねえよ!」

 

「えっ」

 

 する予定もございません、多分きっと!

 ただちょっとライオットブラッドにエッチな雰囲気を感じてるぐらいです、大丈夫。

 

「Oh、ライオットブラッドのミラーですね。私はとても貴方に感心しています」

 

「ヘイ、顔隠し(ノーフェイス)! リアルではおヒサ! 元気してた?」

 

「元気元気、ライオットブラッド・元気・ライオットブラッドなぐらい元気」

 

「もうだめじゃないかなぁ」

 

「大丈夫だって、まだお茶漬けの作り方は憶えている」

 

「お湯をかけて混ぜるだけのことも危ういのか……いやまて、お前その腰につけてるのは」

 

「リ ボ ル ブ ラ ン タ ン であるがなにか?」

 

 オイカッツォとアメリアが何故か全力で距離を取った。げせない。

 他の連中は全然平気そうな顔をしているというのに、ほら観客の連中だってようこそという意味の万歳合唱をしているじゃないか。

 いやまてライオットブラッドをまるでアイドル応援のサイリウムのように掲げるのはどういうことなんだろうか。

 やはり闘争、否、暗闇の先にある真実。カフェインは暗闇の中を歩く一握りの勇気、人類賛歌とはすなわち未知に挑む決意と決断そしてカフェインだ。

 おーいよしよしよし、カワイイなぁ。この缶ころめ、すぐに飲んでやるからなぁ。

 

「誰か! ノーフェイスがやばい、ちょっとカメラ止めて!」

 

「おいやばい! 手がいやらしい! 生物に触るような動きで缶撫でてる、ヤバイ!」

 

 

 

 

 

 

【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】

 

                 しばしおまちください。

 

【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】

 

 

 

                 ▲ガトリングド・ラム▲

 

 

 

【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】

 

      ライオットブラッドに世界を変える力はないが、その手助けをすることは出来る

      ……一歩踏み出せない貴方にこそ、届けたい。

      ライオットブラッドシリーズ、好評発売中。

      最新シリーズ! 即効イグニッション、リボルブランタン!!

 

【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】【破城槌】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッ!?

 

「………………今なにがあった?」

 

「なんか通りすがりの導師が、ナントカしてくれたぞ」

 

「なんとか?」

 

「そうとしかいいようがない」

 

「???」

 

 あと深淵を覗き見る時、深淵もまた覗いてるのだとかとか言われた。

 なんだろうか。

 いやしかし、妙に頭が落ち着いている。

 まるで溺れかけていた水面から顔を出して、ようやく深呼吸が出来たような……

 あれ? 俺なんでライオットブラッドなんて撫でまわしてんだ?

 

「まあいいか。じゃあ試合も、ってあれ? まだ揃ってないのか」

 

「あ、あの……ノーフェイスさん、大丈夫ですか?」

 

「? 大丈夫だけど」

 

「目からビームとか出ません?」

 

 何言ってんだろうこの人。

 リアルで目からビームなんか出るわけないだろ。

 ゲームでなら当然出るが。

 

「そ、そうだよね。変な発光を放って、口からスモーク噴き出してたけどただのヘルメットの仕込み仕込み……うんうん」

 

 人生に悩みでもあるんだろうか。

 アイドルといっても苦労はしてるんだろうな。

 

「えーそれでは、おまたせしました! 五人目の選ばれしプレイヤー! 名前隠し(ノーネーム)。ロールプレイキルの革命者(レボリューショナー)です!」

 

 バーンという効果音が聞こえそうなほど派手な動きで向けた先から煙が吹き出し、登場エフェクトが乱舞する。

 

「……ん?」

 

「あれ?」

 

 誰も出てこない。

 名前隠し(ノーネーム)こと天音 永遠(ペンシルゴン)がいない。

 

「スタッフさん? これ演出です、聞いてないんですけど……え? 違う? ちょっとー! 放送トラブルは勘弁なんですけど」

 

 ざわつく会場。

 やばい。

 

「おい、カッ……魚臣! なんか聞いてるか?」

 

「いや俺も聞いてないぞ」

 

 だよなー。

 ていうか空ビヨンドらしい奴もまだ来てないし、なにがあった?

 

「――お呼びかな?」

 

 パッと会場の端にスポットライトが点灯する。

 会場に並ぶ観客たちの壁の向こう、そこには片手を上げた青いジャージの上着に短パン、サンバイザー付きの帽子を被った女が……って。

 

「ヒーローは遅れてくるものさ。名前隠し(ノーネーム)、ここにいるよ」

 

 嘘つけ、お前ヴィランだろ。

 

「スタッフぅう! サプライズとかドッキリはやめてくださいよ、降り込み済みなら……え? 進めてって、あ、はい。もぉー! えー、あ、これで五人のプレイヤーが揃いました! ノーネームさん、待っちゃいましたよ!」

 

「ははは、ごめんごめん。ちょっと銀河の危機があってね」

 

「銀河の危機ならしょうがないですねー、おろ? そちらの方は?」

 

 モーゼの如く観客の間をすり抜けてやってきたペンシルゴンの後ろには、大きい眼鏡と赤い大きなマフラーを付けた学生服の女がいた。

 誰だ?

 

「あーえっとね。最後のゲストだよ」

 

「……最後のゲストっていいますと」

 

「エントリーネームはそうだね、仮名だけど」

 

 

 

 

                  「空ビヨンドで、よろしく」

 

 

 

 

 




導師「あの祭器(ジャックヘルム)によってシンクロ率が高まっている、平時と同じつもりで乗ったが故に外れかけたのだ……」

ブレインアイ「ライオットブラッド飲めば解決するよ」

しぇふ「閃いた! カボチャをライオットブラッドで煮込んでパンプキンケーキにしよう!」

バーテンダー「絶対おいちい!」

ドリンクバー「おーい冷房効き過ぎだろ、さすがに海パン一丁だと寒い」


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【これからもっと熱くなる】

サンラクは激怒した。
必ずやかの邪智暴虐で悪逆無道且つ人倫に悖る騎士王を殺さねばと激怒した。
サンラクに女心はわからぬ。だがクソゲーには人一倍敏感であった。


 

 

 

 

 

 背筋が震えるほどの静寂が満ちた。

 空ビヨンドでよろしく。

 名前隠し《ノーネーム》がいった言葉は会場全員の人間に沈黙、いや、困惑していた。

 

「え、マジで?」 「冗談?」 「いやこの流れで冗談はないだろ」 「え、でもあれ女じゃあ」 「いやまて判断には早い落ち着け」

 

 困惑がさざ波のように広がって、会場の誰もが顔を合わせてる。

 そして、空ビヨンドと呼ばれた学生服で少女は薄い伊達眼鏡とマフラーで顔を隠している。

 

「……えーと」

 

 どやっとした顔を浮かべる外道と、大体似たような体格の空ビヨンド(仮)を見比べて。

 

「空ビヨンド?」

 

「そうだよ、かっこかりかっことじで」

 

「お前には聞いてないんだけど」

 

 ドヤる外道、沈黙する謎マフラー少女。

 どういう組み合わせ?

 

「えっと……ゆあねーむそらびよんど?? おぅけーい?」

 

「うわ、なにその片言英語っぽいの」

 

「うるせえ!」

 

「まいねーむいずそらびよんど」

 

「返ってきた!?」

 

 いやでもマジか。マジで? 空ビヨンド?!

 

(同い年っていうか学生にしか見えねえぞ、いや恰好だけではなく)

 

 コクンと頷いて返してくる空ビヨンド(確定)。

 

「どこから拾ってきたんだ、ノーネーム。まさか道端に落ちてたわけじゃないよな??」

 

「いや、関係者用入り口から拾ってきた」

 

「ホワイ?」

 

「だってねえ。なーんか遅いなって思って、様子見に行ったらコンビニ店員の服着てた関係者が捕まってたんだもん」

 

「は???」

 

「……バイトで忙しかった、抜け出るのもギリギリ。忙しい」

 

 モゴモゴとマフラー顔隠しさんがおっしゃっていらっしゃる。

 

「ゲームだけして生きていけるわけじゃないからね、しょうがないね。働かないと」

 

「おい、プロゲーマー三人見て言うのやめてくれないか?」

 

「そうです、これは立派な仕事です」

 

「はぁー、本当に空ビヨンドなんだぁー、うわぁーすごいわ」

 

 

 

「えー! 皆様たい・へん・おまたせしました!」

 

 

 俺たちの、いや、会場全員の注目を集めるようにエイト嬢が声を張り上げる。

 

「選ばれし五人のプレイヤー! そして、六番目! 知られざるシックスマン!」

 

 女だぞ。

 

「彼女こそが最後のサプライズゲスト! ゲストネームは「空ビヨンド」! 謎に包まれたゲストは一体どのよ――!? ちょ、ちょっとなんですかこのコメント!? スゴイ数なんですけど!? ストップストップ!」

 

 視界全てを埋め尽くさんばかりの長文コメントから単語コメントまでARビジョンで周りを埋め尽くすのに対して、バタバタと煙を払うように手を振るエイト嬢。

 

「それでは! ルールの説明をさせていただきます! ちゃんと聞かないとメーですからね! ビジョンオープン!」

 

 バッと大仰に手を振った途端、背後に浮かび上がる大型モニタ。

 それぞれの名前の横に、二人ずつキャラクターの名前と姿が映っている。

 事前に選出した持ちキャラだ。

 

「今回初出の新ゲームルール! 「ロシアン・ツヴァイ」! これはGH:C初の全六人による多人数バトルロイヤルモードです! 各々のプレイヤーはキャラを二体選んで、最後まで生き残ったプレイヤーが勝利です!」

 

「対戦ゲームだったGHシリーズですが、初めての専用ゲームモードによる多人数型バトルロイヤルですね。今まではNPCエネミーなどによる疑似的なバトルロイヤルを行っていましたが、GH:CになってNPCによる潜伏作戦の振り、ヒロイック・ヴィランゲージなどの稼ぎ方などもあって積極的な戦法が王道だとされている今の風潮にあった面白い試みだと思います」

 

「ふふふ、さらにもう一つ実はスゴイギミックがあるんですね」

 

「へえ、それはどんなんだい?」

 

「対戦進んだらが始まったら分かると思います!」

 

「つまり待ってろってことだな、楽しみだぜぇ!」

 

 ここまでは既に俺たちも聞かされている。

 問題は――

 

「それでは各々の選んだキャラクターを紹介させていただきます!

 シルヴィア・ゴールドバーグ! 使用キャラクター「ミーティアス」・「ダスト」!

 アメリア・サリヴァン! 使用キャラクター「カースドプリズン」・「ゼノセルグス 」!

 魚臣 慧! 使用キャラクター「シルバージャンパー」・「ダスト」!

 顔隠し《ノーフェイス》! 「ティンクルピクシー」・「カースドプリズン」!

 名前隠し《ノーネーム》! 使用キャラクター「クロックファイア」・「Ms.プレイ・ディスプレイ」!

 そして空ビヨンド! 使用キャラクターは「シルバージャンパー」・「ランゾウ」です!!」

 

 シルヴィアのダストは意外だった。

 正直ミーティアス専門のイメージが強過ぎて他のキャラでの動きはまあクッソ強いんだろうな以外は思いつかない。

 アメリア、空ビヨンドはまあいい。大体わかってた。

 カッツォのアムドラヴァではなくダスト、そんでシルバージャンパーというのはわりと予想外だった。

 シルヴィアと被ったのはまあそういうこともあるだろう、多分。

 だがしかし。

 だがしかしだ。

 

「あーうん」

 

 選出キャラを見た瞬間、外道(ペンシルゴン)を見たのは俺だけではなかった。

 

「殺さないと」

 

「おいおい殺すわ」

 

「貴方の生存続行はお勧めできません」

 

 カッツォとアメリアも真顔で見ていた。

 ベストマッチなクロックファイアだけではなく、害悪過ぎるMs.プレイ・ディスプレイとか……

 一秒でも早く殺さないと俺は決意した。

 

「やだなぁ、なんでそんな怖い目で見てるの君たち~」

 

 片足上げて、両手をビーカプースタイルに構える、きゃる~んみたいなポーズ取る外道(ノーネーム)

 その態度に騙されるのは天音 永遠のファンだけだぞ。

 間違いなくやべえことを企んでいる、間違いない。

 そもなんで二体もキャラ使えるようにしやがった。情報戦と爆弾魔の組み合わせはテロリストにはベストマッチ過ぎるだろ。

 

「制限時間は通常通り三十分、1ラウンドでの一本勝負となっています。それから」

 

 エイト嬢が開始前の解説をしているのを見ながら、

 腰に備え付けたライオッドブラッドリボルブランタンを取り出す。

 ミックス・アクセル・ジョイントには一定の波がある。

 記憶も朧だったが、さっきまでと比べて今はいい波が来ている。

 もう少しで成功する乱数テーブルに着席出来る。

 

「ねぇ」

 

「うん?」

 

 その時だった。

 マフラーで顔を隠していた空ビヨンドが近づいていた。

 

「一番強いのはどっち?」

 

「あ?」

 

「ミーティアスを倒した奴がいるって聞いてきた。殺気に覚えがないから顔を知らない」

 

 なんか新人類みたいなことを言われた。

 ん、いやさっき同じようなことを言われたような……

 

「ケイよ」

 

「貴女は?」

 

「貴女に負けたミーティアス。シルヴィア・ゴールドバーク、よろしく」

 

「アメリア・サリヴァン。ついでに貴女にコテンパンに倒されたカースドプリズンです、よろしくお願いします」

 

 首をかしげつつ、左右の両手を掴まれて握手されている。

 背丈が高いのと元気がいいので左右に揺れている。

 

「今度は勝つわ」

 

「覚悟してやがってください」

 

「……ぁあ」

 

 揺れながら何か頷いている空ビヨンド。

 

「あと私に勝ったのはこっち、ケイよ」

 

「ケイ?」

 

「魚臣 慧だ」

 

「…………」

 

「えっと」

 

「…………」

 

「空ビヨンドで、いいんだよ、な……?」

 

 眼鏡とマフラー越しの沈黙。でもなんか凝視されてんなあ。

 カッツォの奴緊張してる、はじめてみたわ。

 やめろ外道、後ろで動画撮影するのは。あとでデータ送ってもらうか。

 

「………………ねぇ」

 

 空ビヨンドがマフラーと眼鏡を外す。

 

「――」

 

 会場がざわめいた。

 その隠していた顔の下にあったのは。

 

 

 

「今、どこにいるの?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「?」

 

「……」

 

「幕張会場なんだけど」

 

 カッツォがそういって。

 空ビヨンドは何故か溜息をはいた。

 

「えっと、なにか俺しちゃった?」

 

「単純過ぎる。0点」

 

「ボケがなかった。失格」

 

「貴方には渋さが足りないと私は思います」

 

「ケイのそういうところがダメなんじゃないかなって私思うわ」

 

「なんで全方位フルボッコなんだよ!?」

 

 それは君がカッツォだからだよ。

 

 

 

「それでは皆様、各々のシステムにスタンバイをお願いします!」

 

 

 

 と、呼ばれた。

 空ビヨンドはさっさと顔を背けて、システムへと向かっていく。

 カッツォはなんか複雑そうな顔をして、気を取り直していくようだった。

 

「何が悪かったんだろう?」

 

「知らん」

 

「受け」

 

「なんでや」

 

「ユニークが自発出来ないこと?」

 

「畜生!!」

 

 などと捨て台詞を吐くカッツォ。あの調子ならまあ大丈夫だろう。

 それぞれ割り振られたVRシステムに行く前に、俺も一度深呼吸して、ライオットブラッドを取り出す。

 

「いくぞ」

 

 カフェインと共に在らんことを。

 カシャコン、カシャコン……ヴォン。

 

 

 さあゲームをやろうか。

 

 

 




「ヘイ、Sili! 今どこにいるの?」

今の社会では個人情報で登録されている。
赤の他人の呼びかけには端末は応えない。


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【混色】

 光を
 与えられた自分の醜い色を知る
 どうしたって求めていた色は混ざり合い消えていく
 それでも足は止められない
 それでも求めあうことはやめられない
 いつか見た私だけの光を目指して


 

 

 目を開く。

 一秒もかけずに周囲の状況を目視、上下左右を確認し、見えるビルの位置から自分の位置を割り出す。

 

「悪くないね」

 

 思考を言葉に出して、思考を整理しながら踏み出す。

 予定通りに動ける。

 作戦開始まであと何秒? そうだね。

 

「197秒もあれば辿り着ける」

 

 グラグラと揺れる首の上の飾り物(ディスプレイ)を揺らしながら、^q^と笑った。

 

 

 

 

 ――思ったんですが。

 ――なんだい?

 ――今回はバトルロイヤルですね。

 ――ああ、誰も味方はいない。

 ――企業に所属していない顔隠し(ノーフェイス)名前隠し(ノーネーム)、そして<空ビヨンド>以外は全員違う企業だ。

 ――じゃあ、それじゃあ。

 

 

 

 目を開く。

 感じるものはなく、周囲を見る。

 溜息。

 思うがままに歩き出す。

 誰を倒せばいいなんて考えない。

 指示してくれる人もいない。

 だから。

 歩いて、前を見上げた。

 

 

 

 

 ――<空ビヨンド>がまず狙われるんじゃないでしょうか?

 ――ふむ?

 ――私は詳しく知りませんが、大会を荒らして、シルヴィアさんとアメリアさんを倒したんですよね。それじゃあまずはあいつを倒してから、みたいに五人がかりで襲い掛かるなんてなるんじゃあ。

 ――ああ、それは大丈夫。

 ――絢斗さん?

 

 

 

 目を開く。

 即座に伏せながら周囲を確認し、素早く物陰に隠れる。

 今回のモードはいつにない多数バトルロワイヤル。

 一定距離ごとに離れた出現位置は保証されているが、出てくる場所はビルの上でも路地裏でも決まっていない。

 ビルの上にいて、その視線上に自分が映っている。あるいはその逆もありえる。

 乱数の神様はたまにそういうことやる。

 そんなことを考えながら飛び上がる。

 どういうチャートで倒していくか、ある程度考えてはいるが、基本は当たってから選ぶ。

 優先事項はペンシルゴン>シルヴィア>空ビヨンド、後はノリ。

 ビル影から飛び出した。

 

 

 

 

 ――ベーブ・ルースに出会った少年は何をすると思う?

 ――?

 ――サインをねだるか、握手を求めるか、ツーショット写真を撮るか、それは人それぞれだろう。

 ――無視するのも、夢だと思うのも、飛び上がって喜ぶのも自由だ。

 ――だけど。

 

 

 

 NPCモブたちがこちらを見ていた。

 すぐさまに上を見上げた。

 俺の上を見た。

 迷わずにジャンプを駆使して跳び退る。

 轟音。

 激しい粉塵を巻き上げながら、片手、片足を地面に突き刺した……おいおい。

 

「そのポーズはヒーローにしか許されないぜ」

 

「だったら華麗に取ってみな、ヒーロー」

 

「生憎今は通りすがりのプリティな妖精(ティンキー)ちゃんだぜ、正義の心にでも目覚めたかよ宇宙ゴリラ(ゼルセルグス)

 

 いきなりの宇宙ゴリラ。

 だがお互いにゲージは溜まっていない。妖精神拳の餌食にしてくれるわ!!

 

 

 

 ――だけど、彼らは、俺たちは。

 

 

 

 銃声が響いた。

 

「「!?」」

 

 高々と狼煙のように上がった銃声の先を見る。

 見上げた先に白と黒の人影があった。

 白い覆面に白いコートを羽織った人影。

 黒い覆面に黒いコートを羽織った人影。

 それは共に同じ背丈をしていて。

 それは共に同じポーズをしていて。

 それは共に二丁の拳銃を――黒――白――を構えていた。

 鏡映しのようにこちらを見つめ返して。

 共に同じく銃を携えていた。

 ただ違うのは白一色か、黒一色か。

 

「《《ダークヒーロー・ダスト」》 しかも」

 

色違いの指定エディットか(ホワイト&ブラック)!」

 

 このバトルロイヤルでダストを選択してるのはたった二人!

 だがそのお互いの手に握られているのは。

 

善なる(ジャスティス)!?」

 

悪なる(ギルティ)?!」

 

 

 

 ――誰よりも一目散に、こう叫ぶでしょう。

 

 

 二人のダストが、両手に善と善の、悪と悪の銃を身に着けていた。

 

 

 

 ――「俺と勝負しろ! ってね」

 

 

 

「神様に挑むのは俺だけでいい」

 

「ケーキは独り占め」

 

「「今日の私たちはどっちつかず(モノトーン)」」

 

 掟破りのダブルダストが参戦する。

 一人のヒーローと、一人のヴィランと、二人のどっちつかずの乱戦が始まった。

 

 

 

――神様が目の前にいたら挑まずにいられない、それが最高を目指す人のサガなのさ

 

 

 

 

 

 

 

 




「まずは()()()()!」



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【喧噪について】


 みんな~~!
 コウトリナ攻略はじめるよ~~!
 ^q^ まずは準備からねー


 

 

 その光景に観客と、イスから解説が立ち上がった。

 

「ダブルダストだとぉ!?」

 

「な、なんですかそれ? 強いんですか?」

 

「いえ、強いか弱いかといえば――わかりません」

 

「ええ?!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 若野牛(コルトパイソン)の浅間 絢斗が椅子に座り直す。

 何故立ち上がったかというとノリだ。

 

「未検証?」

 

「ええ、見てください。あの白と黒のダストは、両手に同じ色の銃を装備していますね?」

 

「そうですね、ってあれ? そういえばダストって」

 

 過去に実況した記憶を探るようにエイトが声を洩らす。

 

「ダークヒーロー・ダストの最大の特徴はヴィランでありヒーローであるということ。そしてその手に持つ武器は例外的にヒーローとヴィラン両方に通じる、善と悪の弾丸を放つ銃を持っている。だから」

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

「そうです。だから同じ銃を持っているということはすなわち」

 

 映像の中の二人のダストが、威勢よく飛び上がり、それぞれがティンクルとゼルセルグスへと挑みかかる。

 すなわち「ヒーロー」と「ヴィラン」に。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「ふぅははははは! 悪の弾丸はどっちの手かなぁ! 右かなー?! 左かなー!? 正解は両方でした! 死ねや特攻ダメ!」

 

 などとわけのわからんことを叫んで黒いほうのダストが襲ってきた!

 もちろんその手には真っ黒な罪の弾丸が二丁だ! 畜生!!

 

「らめえええ!! 相性負けしてるのに妖精鴨打ちなんてオーストラリアの条約違反だぞぉ!」

 

 全力で遮蔽物に隠れて、羽を使って避ける!

 

「妖精はイギリスだから大丈夫!」

 

 が、畜生! あの野郎、壁を蹴りながら追ってくる、器用な真似を!

 

「おのれスペース条約も結んでない田舎惑星が!!」

 

「地球に従え、宇宙生物!」

 

「魂を重力に縛られた下等生物が!!」

 

 脊髄反射で応答しながら、全力疾走で路地裏から抜ける道筋を探す。

 この狭い道でダブルガンマンスタイルのダストとやりあうのは圧倒的に無茶だ。

 合法パウダーでスタンぶちかますにしても、中距離から悪の弾丸を撃たれれば足が止まる。武装アクションは停止出来ない。

 ――ティンクルピクシーは軽い。

 リーチも短く、背も低い、ティンクル☆ワンドがなければ打撃を打ち込むのすら苦労する。

 だがそれ以上にネックになるのが軽さ、体重差によるノックバック補正だ。

 ボクシングや柔道の階級が重量で分かれているように、格闘ゲームにおいてもこの重量さというのは存在している。

 重い奴からのパンチや蹴りは軽い奴にはよく吹き飛ばせるし、逆はまったく吹き飛ばない。荒れ狂うシャークネードの台風圏域で、ビルのガラス窓を突き破って対戦相手を突き落とした経験は誰にだってあるはずだ。

 人種種族出身惑星世界も多種多様なGH:Cにおいてティンクルピクシーは軽量級、ダストは精々中量級に分類される。

 殴ってもそこまで吹き飛ぶわけじゃないが、重量級と比べれば十二分に通じるから接近さえ出来ればやりやすいほうだ。

 しかしティンクルは小柄な分、特攻入る悪の弾丸を撃ち込まれると怯んで吹き飛びやすい。前にやりあってそれを知っている、ていうか結局ハメ殺したけど初検証した奴があいつだ!

 

「ドーモ、リカースティールさん。本日は妙に逃げるんですね、お礼をしたいんですが!!」

 

 Bang! Bang! Bang!

 銃弾がビルの扉を打つ、車を撃ち抜く、映画のようにエンジンを撃ち抜かれて爆発四散する。

 

「てめええええええ! カッツォクラウン! 卑怯だぞ!? シルヴィアと組みやがったな!」

 

 いつまでも恨みを忘れない心の狭い奴が撃っている弾丸のエフェクトではっきりした。

 あのもう片方、白いダストがもっている悪の弾丸銃と、黒いダストの持っている善の弾丸銃を交換している。

 結果何が出来るか?

 ヒーロー行為で弾丸とゲージを補充出来ない代わりに、悪行行為で幾らでも補充可能なヴィラン・ダストの誕生だ!

 

「おっとその名前はNGだ! 俺は通りすがりのブラックダスト! 趣味は麻薬をまき散らす小生意気な妖精(笑)を蜂の巣にすることだぜ!」

 

「なんだその残虐非道な趣味は!?」

 

「これも正義のため、悪く思え!」

 

 純度100%のヴィランがなんかいってる。

 銃声、銃声、銃弾が飛び込んでくる。

 口喧嘩しながらも細かくステップを踏んで、そこらへんにいるだろうNPC(肉盾)を探すがどいつも逃げ出している。

 町中ならもっと群れてろよ!!

 

(チッ、銃声響かせたのは通行人を散らすためか!)

 

 顔を前に向けたまま、視線だけを周囲に飛ばして状況を確認。

 ダストが居ってくる、三角跳び。ビル壁にある窓や、パイプを足場にして高さを変えながら、銃口を向け続けている。

 真っすぐに追ってこない――残留して残しているパウダーにつっこまないよう警戒してやがる。やりにくい。

 懐にさえ飛び込めれば、妖精神拳(TQC)で巻き込み殺してやるものを!

 

「おい、そこの妖精!! 鉛筆外道はどこだ!? 教えてやれば見逃してやってもいいぜ!」

 

「ハッハッハ!! 生憎だが、知らねえな!」

 

「本当か?!」

 

「俺が庇うと思う???」

 

「お、そうだな」

 

 お互いにマジレスだった。

 っていうこの言い分だとあいつもまだ見つけてねえのか?

 

「ち、使えない奴め」

 

「お前が言うな!」

 

「だがいいのか、ブラックダスト! 俺なんかに撃ち続けて!?」

 

 そこらへんにあった自動販売機の影に飛び込みながら、大声を上げる。

 

「あん?」

 

「ヒーローを倒すことで得られるヴィラニックゲージは多くない、すぐに弾切れになるんじゃないのか?!」

 

 ダストは使いたい弾丸の種別を考えなければ容易に飛び道具の補充が可能な特徴を持っている。

 悪行をすれば悪の弾丸が、善行をすれば善の弾丸が。

 通常のヒーロー・ヴィランが縛られる行動方針に縛られず、幅広い選択肢があり、それが故に使い手によってダストのプレイスタイルがガラっと変わるのだが。

 

カッツォのダスト(ブラックダスト)は両手の銃を交互に撃っていた。つまり片方の銃で連射は避けている、弾を節約している)

 

 豊富な弾数があるのだと思い込ませたいのだ。

 陳腐な手だが、注意深く観察していなかったら気付かなかっただろう。

 その証拠に、牽制のためでも撃ってこない。節約したいのだ。

 

「生憎その心配は――!」

 

 Bang!

 響き渡る銃声と同時に、後ろから轟音が轟いた。

 

 

「いらないぜ!」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「シルヴィアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 振り注ぐ白いダストの弾丸を、ガードで耐えながらそう叫んだ。

 ゲージがガード越しに目に見える幅で削られる。

 重みのあるガードアクション続けながらダッシュ、逃げれば撃たれ続けるだけだ。

 それを後ろもみずに跳ねながら、シルヴィア独特の三角蹴りを駆使しながら跳んで、跳ねて、塀や自動販売機を足場に距離を広げてて、視線を切るように物陰に飛び込んでいく。

 それに対して軽い障害物を掴み、あるいは粉砕し、瓦礫の弾としてぶちまけながら追う。

 

(善なる弾丸! それも両方か)

 

 (ゼノセルグス)は左右の弾丸からのダメージ量が同じものだと確認した。

 二人のダスト。同じ色の拳銃を両手に。わざわざカラー指定した使い分け。

 ――グルだ。

 

(あの二人、組んで掃討をすると決めていた)

 

 何のために?

 ――考えるまでもない。

 

(<空ビヨンド>との闘いを独り占めするつもりだ!!)

 

 エキシビジョンマッチでの賞金だとか、総合勝率だとか、ただ勝つためだけの戦法だとか、そういうことが頭の片隅によぎるが、真っ先に思いついた発想がそれだった。

 間違いなく答えもそれだ。

 そう気づいた瞬間、沸騰したように頭に血が上るのを感じた。

 

「させるか!」

 

 何時になく頭に熱が入っている、それは自覚しつつもやめられない。

 空ビヨンドに味合わされた屈辱もあるし、それはシルヴィアも同じことだろう。

 だがそれでも、今度こそ、尋常に勝負を。油断せずに戦いを。

 

 ――望まないゲーマーがいるものか。

 

(? 追撃してこない)

 

 物陰に飛び込んで、銃撃にて追い込んでくると思っていた白いダストの姿が見えない。

 そこらへんにあったドアの扉をぶち破り、ゼノセルグスの腕力に任せて円を描くように壁を破って姿が見当たらなかった。

 

「ティンキー狙いか?」

 

 シルヴィアらしくない動きだ。

 目の前に獲物がいたらまず撲殺するだろうに、いや、ダストだから射殺か。

 ケイの指示か。ゲーム前にどんなブックを読み合わせたのか。

 ゼノセルグスでは足が遅い。なりふり構わず逃げられたら()()()()()()()()()()()()

 Bang!

 銃声が聞こえて、そちらの方に目を向けて――狙いを理解する。

 白いダストが既にNPCも逃げ出したビルのガラス扉をぶち破って不法侵入していた。

 どこに?

 車がずらっと並んでいる、愛すべき故郷であれば自動車泥棒が横行しそうな店構え。

 ディーラーだ。

 数秒とかけずに乗り込んだオープンカーが飛び出して、先ほどからけたたましい防犯サイレンを鳴り響かせている場所へと飛び出していった。

 

「合流する気か」

 

 移動手段を手に入れるのが狙いだったか。

 だが、私の前でそれをしたのはミスだったな。

 

 そうして、私はジッとその先を……()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「ギャー人殺しぃ!!」

 

 反射的に叫びながら飛びのいた一瞬前まで自分がいた場所を、白いオープンカーがドリフトしながら駆け抜ける。

 

「Hey! ドライブしない?」

 

「Wow! 素敵だぜ、ハニー!」

 

 ヒラリと黒いコートを閃かせて黒いダストが乗り込む。

 間髪入れずに激しくタイヤをスピンさせながらオープンカーが飛び出していった。

 

「足を手にいれやがったか!」

 

 ゲームでなら幾らでも操縦した経験があるが、シルヴィアもその口か。

 見事なドライビングテクニックで道路をかっ飛ばしていく、このままステージを疾走してマップを調べ尽くしていくつもりだ。

 ――<空ビヨンド>と先に戦うために。

 プロゲーマーのあいつらがあんななりふり構わないやり方で強引に進める。

 異常としかいいようがない、が。

 

「負けたくねえ! こう、意地めいたもので!!」

 

 何か乗り物はないか!

 そこらへんのお兄さん、ちょっとバイク貸してくれない? ああ、こらまてや!! 一目散に逃げるんじゃねえ!! 自転車も! おいこら! なんでやべえ奴を見つかったって顔で逃げやがる!

 おらぁ! 乗り物寄こせ!! スケボーでもいいぞ!!

 

 

『Hey、そこのジャンキー!』

 

「ティン☆キー?」

 

『なんだその鳴き声、気持ちワルイわ』

 

 この愛くるしい声になんて文句を言うんだ。

 野太い機械っぽい声に振り向くと、そこには緑色の大型トラックが喋っていた。

 

『今なら無料でワイルドスピード体験させられるぜ?』

 

「エリア88以外は勘弁な!」

 

 跳躍し、トラックの上へと華麗に舞い乗る。

 間を置かずにトラックが緑色の排気ガスを噴き出して、加速する。

 

 

「合体には合体で、協力プレイには協力だ。見せ付けてやろうぜ、俺たちの絆って奴を!」

 

『ねえよ、んなもん』

 

 

 宇宙ゴリラトラックが、妖精を乗せて走り出した。

 




「あれ? これレースゲーだっけ?」

「GH:Cが実質クライムアクションだったってのはノーネームが証明した」

「奴がカメラに写ってないのがコワイ」

「あ、なんか空ビヨンドが栗きんとんのアイスを食べる幼女に道案内してる」


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