Cane zafferano (夢見大福)
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プロローグと電撃告白
突然だが、私は人のオーラを視ることができる。
え、何? 中二病ですかこのやろー。そしてこれがそう言ったときの普通の反応だと思う。多分。
多分、というのもこの事を人に言ったことがないから分からないのだ。理由は簡単、先程の想像と全く同じことを言われるのが目に見えているからである。まぁ私だって誰かにそんなことを言われても信じないし、当然の反応な訳だが。
さて、ありえない、という前提で話を進めるが、先程言った通り、私には人のオーラを視ることができる。
オーラ、といっても炎みたいな見た目をしていて、それがまるで体から噴き出しているように視えるのだ。分かりやすく言えばスポ根漫画で、うおおおっ! と燃えてる人の後ろにあるやつみたいなイメージだ。それを初めて視認した時に漫画で見たオーラに似ていたから適当にオーラと呼んでいるだけで、正式名称は知らないが。
そもそも正式名称とかあるんだろうか。私以外に視える人に会ったことがないため、他に視える人がいるかどうかも怪しいところなのだ。
また、炎の色は、オレンジ、赤、青、黄、緑、紫、インディゴの七種類あり、どういう基準で別れているのかは分からないが、人によって違う。ただ、オレンジの人はごく稀で、あまり視たことはない。どのくらい珍しいかというと、だいたい在籍数800人ほどの学校で1人いれば多い方だ。
「はよ、桃瀬。今日も早いのな!」
「……おはようございます。山本君こそ毎朝早いですよね」
開いているだけで先程からページを捲っていない本から視線を上げ、教室に入ってきた彼に挨拶を返した。考え事をしていたせいで少し返事が遅れてしまったが、彼は気にしていないようで爽やかに笑っていて安心する。
「ハハッ、朝練があっからな。桃瀬は今日も本読んでのか? すげぇな」
「すごくなんてないですよ。ただ、朝の静かな教室は本を読むには最適なんです」
「オレなんて字を読んでるだけで眠くなってきちまうからなー。……あっ、そろそろ行かねーと」
また後でなー、と手を振り駆け出した彼に手を振り返すと、再び教室に静寂が訪れる。
彼の名前は山本武。運動神経抜群なクラスの人気者で、野球部に所属している。また、一年生ながらレギュラーをつとめているらしい。爽やかな笑顔がイケメンと評判で、確かファンクラブもあったはずだ。
そんな彼と私がそれなりに仲がいいのは、ただ単に席が隣だからである。“桃瀬”と“山本”だからね。最初は初めての中学校の新しいクラスで少し緊張していたものの、彼のフレンドリーな性格のおかげで随分心に余裕ができたものだ。ぼっちだけど。
彼のオーラの色は青。爽やかな彼にピッタリだと思う。
……さて、オーラの話に戻ると、オーラは人によって大きさが異なるという特徴がある。大抵の人は体から僅かにはみでる程度だが、ちょうどいい例で言うと先程の彼、山本君は体より2、3周りほど大きい。流石というべきかこれはかなり大きい方で、ほとんど視たことがないレベルに珍しい。
オーラが大きい理由は分からないが、経験則で私は学力や容姿、身体能力などが関係していると思っていたのだけど……最近、失礼な話だがそれらが関係しているとは思えない人物を見つけてしまったため、なんとも言えない。
このオーラだが、記憶にある幼少期から既に視えていたため、恐らく生まれたときから視えていたのだと思う。
どうして、何のためにこんな訳の分からないものが視えているのか。真剣に考えたこともあったが、当然答えなんて出るはずもなく、最近では諦めている。
要は慣れだ。役に立つわけでもないが別に熱いとかそういう訳じゃないから困るでもないし、大人になったら視えなくなるかもしれないし。10年位前から同じことを願っている気がするのは気のせいだ。
そう、困る訳じゃないのだ。でも、他人と大きく異なっている自分自身が不気味で、気持ち悪い。
なんでもそのせいにするのは良くないと分かってはいるが、少なからずコンプレックスとなってしまっていることも確かだ。
……そこまで考えたところで視線を上げると、後1分ほどでHRが始まる時間だったので本をしまい、一時間目の授業の準備をする。
しかし、今日はやけに騒がしい気がする。何かあったのだろうか。友人がいないから噂話等には疎いのだ。
朝練を終え既に席に戻っていた山本君に聞こうかと思ったが、彼はクラスメイトと話していて話しかけづらい。
クラス中が騒ぐほどの噂となるとつい気になってしまう。どうしたものかと考えていると、不意にわっ、と更に教室が騒がしくなった。
「パンツ男のおでましだー!」
「ヘンターイ」
「電撃告白!」
……ふむふむ、成る程。大体分かった。
どうやらこの騒ぎの原因は、ほぼ全裸の沢田君が学校のアイドル、笹川京子ちゃんに告白したことらしい。
……って、えっ、ちょっ。裸で告白って、沢田君マジかー。まさか最初からそのつもりだった訳じゃないだろうし、どうしてそうなったのかめちゃくちゃ気になるんだが。
私の中の沢田君のイメージがガラガラと音をたてて崩れていくのを感じる中、居たたまれなくなったのか教室から出ていった沢田君が先輩に捕まり、体育館へ連行された。
剣道部の持田先輩という人に決闘を申し込まれたらしい。いや誰だよ。
京子ちゃんに彼氏がいるとなれば流石に私の耳にも噂が届くだろうし、まだ教室に残っている彼女の発言からみても、その人は彼女の彼氏面をしている、思い込みが激しいやつと見て間違いないだろう。
なんてはた迷惑な。モテるっていうのも大変なんだな、と他人事のように思っていると、いつのまにやら教室には私以外誰もいなくなっていた。どうやら皆決闘を見に行ったらしい。
……えっ、HRは?
誰もいなくなった教室で、チャイムの音がやけに大きく聞こえた。
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